| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
|---|
|
81 (1350) |
霊界物語 | 07_午_日の出神のアフリカ物語 | 25 建日別 | 第二五章建日別〔三二五〕 大海原を撫で渡る科戸の風の吹き廻し 常世の波の重波の寄せ来る儘に思ひきや 筑紫島なる亜弗利加の広き陸地に着きにけり 暗世を照らす天津日の光を浴びて照妙の 衣を捨てて蓑笠の身装も脚もいと軽く 崎嶇たる山を登り来るここに一条の急潭は 怪しき巌と相打ちて激怒突喊飛ぶ沫の 万斛の咳咤を注いで怪岩の面を打てば 巌はその奇しき醜き面を背けて水は狂奔する 奇絶壮絶勝景の谷間の小径に差懸る 春とはいへど蒸暑き日に亜弗利加の山の奥[※この山は第34巻第1章の黒姫のセリフの中で「筑紫峠」と呼ばれている。] 暫時木蔭に佇みてこの光景を三柱の 名さへ芽出度き宣伝使飛瀑の声と相俟つて 壮快極まる宣伝歌天地の塵を払拭し 山野を清むる如くなり。 三柱の宣伝使は、この谷川の奇勝を眺め、日の出神は、 日の出神『あゝ実に天下の絶景だ。吾々も宣伝使となつて、天下を横行濶歩して来たが、未だ嘗て見ざる壮快な景色である。山といひ、谷川といひ、実に吾々の心境を洗ふやうな心持がするね』 祝姫『左様でござります。長い間波の上の生活を続けて、少々勿体ないこと乍ら飽き気味になつてゐましたが、世界はよくしたものですな。かう云ふやうな天下の奇勝を見ることの出来るのも、全く神様の御引合はせ。旅は憂いもの、辛いものと申せども、宣伝使でなくては到底かう云ふ絶景を見ることは出来ない。吾々は神様に感謝を捧げねばなりますまい』 面那芸『あゝ時に何だか谷底に流れの音か、猛獣の呻き声か、人の叫び声か、はつきり分りませぬが妙な響がするではありませぬか』 日の出神は、衝と立つて耳を澄しながら、 日の出神『はー、如何にも何だか合点のゆかぬ唸鳴り声ですな。何は兎もあれ、私はその声を目標に調べて来ませう。貴使は此処に暫く待つてゐて下さい』 二柱は口を揃へて、 祝姫、面那芸『いや、吾々も御伴いたしませう』 日出神『然らば私が一歩先に参ります。貴下は見え隠れに跟いて来て下さい。万一の事があれば合図を致しますから、こちらが合図をするまで、出て来てはなりませぬぞ』 と云ひながら、日の出神は谷深く声を捜ねて進み行く。 行くこと二三町斗り、此処には見上ぐるばかりの大岩石が谷間に屹立し、五六尺もある大なる巌窟が、彼方にも此方にも、天然に穿たれあり。髪の毛の赤い、顔の炭ほど黒いやや赤銅色を帯びた数多の男が、幅の分厚い唇を鳥の嘴のやうに突出した奴数十人安座をかいて、一人の色の蒼白い少しく眼の悪い男を中に置いて何か頻に揶揄つてゐる。日の出神は、木蔭に身を忍ばせこの様子を聞き入つた。 甲『やい、貴様は三五教の宣伝使とか、何とか吐かしよつて、この島に案内も無く肩の凝るやうな歌を歌つて参り、俺らの一族を滅茶々々にしよるのか。此処を何と心得てをる。勿体なくも常世の国の常世神王様の御領分だぞ。それに貴様は大きな面を提よつて、この世が変るの、善と悪とを立別けるのと、大きな喇叭を吹きよつて何のことだい。もうこれ限り宣伝使を止めて、俺らの奴隷になればよし。ならなならぬで是から成敗をしてやる。返答せい』 一人の男は、少しも屈せず四辺に響く声を張上げて、 男(小島別)『神が表に現はれて善と悪とを立別る』 乙、丙『こら、しぶとい奴だ。未だ吐かすのか。おい、皆の奴、石塊を持つて来い。此奴の口を塞いでやらうぢやないか』 丁『おい、宣伝使、此処は畏れ多くも常世国に現はれました伊弉冊命様が、常世神王といふ偉い神様を御使ひになつて、その御家来の荒熊別といふ力の強い御威勢の高い神様が、御守り遊ばす結構な国だぞ。此処の人間は毎日々々、神様の御蔭で、一つも働かず無花果の実を食つたり、橘や、橙その他の結構なものを頂いて、梨の実の酒を醸つて「呑めよ騒げよ一寸先や暗よ、暗の後には月が出る」と日々勇ンで暮す天国だ。それに何ぞや、七六ケ敷い劫託を列べよつて、立替るも立別るもあつたものかい。さあ、これから皆寄つて此奴を荒料理して食つて了つてやらうかい』 甲『やい、そんな無茶をするない。此奴は剛情我慢の奴だが、併しあの細い目から恐ろしい光を出して居るぞ。何でも天から降つて来た神さまの化物かも知れやしない。うつかり手出をしたら、罰が当るぞよ』 乙『気の弱いことを言ふな。吾々は伊弉諾神様の立派な氏子だ。天から降つたか、地から湧いたか知らぬが、こンなものの一疋位にびくびくするない』 一人の男、声を張上げて、 小島別『神がこの世に現はれて善と悪とを立別ける 天地四方の国々や島の八十島八洲国 教を開く宣伝使神の恵みも大島や 小島の別の神司眼は少し悪けれど 汝の眼に映らない心の眼は日月の 光に擬ふ小島別わけも知らずに言さやぐ 醜の曲津の集まれる虎狼や鬼大蛇 熊襲の国の山の奥山路を別けて進み来る われは汝の助け神世は常暗の熊襲国 残る隈なく照らさむと綾の高天を立出でて 心のたけの建日別神の命と現はれて この国魂と天津日の神の命のよさしなり 神の命のよさしなり荒ぶる神よ醜人よ 善と悪とを立別る誠の神の神勅』 と歌ひ始むるや、一同は耳を塞ぎ、目を閉ぢ、 一同『やあ、こいつは堪らぬ』 と大地にかぶりつく。この時またもや、森林の中より宣伝歌が聞えきたりぬ。 (大正一一・二・一旧一・五外山豊二録) |
|
82 (1365) |
霊界物語 | 07_午_日の出神のアフリカ物語 | 40 三人奇遇 | 第四〇章三人奇遇〔三四〇〕 熊公に連れられて、四人の宣伝使は宏大なる構への館に導かれ、種々の馳走は堆高く並べられぬ。数多の侍女は盛装を凝らして果物の酒を取り出し、四人の宣伝使を饗応したり。而して一行は宣伝歌を盛に歌ひ始むる。数多の侍女は松の小枝を手に手に携へて、歌に連れて淑やかに舞ふ。日の出神一行は長途の疲れをここに慰め元気は頓に回復したりけり。 日出神『貴下は熊公と仰せになつたが、初めてお目にかかつた時より、凡人ならじと睨ンでおきましたが、果して我が推量に違はず此国の大酋長なりしか、重ね重ねのお心遣ひ感謝の至りに堪へませぬ。我々は神伊弉諾大神の落胤にして、日の出神と申すもの、世の大立替に際し撞の大神は天の浮橋に立ち、それより天教山に降り玉ひて八百万の国魂の神を生ませ玉ひ、我々をして国魂神を間配らせ玉ふのであります。この後はどうか私の指揮に従つて貰ひたい』 と厳かに云ひ渡したり。 熊公『承知いたしました。私は熊公とは仮の名、国治立命の落胤、高照彦と申すもの、大神の御退隠後は八十熊別と名を変へてこの亜弗利加の原野に都を造り、時を待ちつつあつたものであります。時節の到来か神の御引き合せにて貴き日の出神様との今日の対面』 と云ひながら嬉し涙をボロボロと流しける。日の出神はこの物語を聞いて感に打たれ独語、 日の出神『あゝ神様は何処までも注意周到なものだナア。水も漏さぬ神の御仕組、何処の果に如何なる尊き神様が隠してあるか、分つたものでない』 と俯むいて首を傾け、暫くは物をも云はず溜息を吐く。 日の出神は三人の宣伝使に向つて、 日の出神『皆の衆、今の命のお言葉を聞きましたか。世の中にはどンな偉い神様が落ちてござるか分りませぬ。皆さまも是からは、どンな落魄た神でも人間でも侮る事は出来ませぬよ。あゝ今日は何たる結構な日であるか、高照彦といふ立派な神様がこの世界に隠してあるといふ事は、天教山の木花姫より承はつて居りました。何とかしてその御方に一度お目に懸り度と忘れた暇とては無かつたのです。今日は嬉しくも、斯も貴き御方に出遇ひ、何とはなしに心強くなりました』 末座に控へたる豊日別は立上り、扇を披いて松葉を左手に持ちながら、席上に立つて自ら歌ひ且つ舞ひ始めたり。 豊日別『久方の天津空より天降ります神伊弉諾の大神の 珍のかくしの御子とます光も清き日本の 日出る神の宣伝使我は輝く肥の国の 守の神と現はれて虎転別と名告れども その源をたづぬれば神素盞嗚の大神の 隠し給ひし珍の御子豊国別の神なるぞ 豊国別の神なるぞ世の荒浪に隔てられ 醜の曲霊に取り憑かれ身を持ち崩し虎転別の 虎狼や獅子熊に劣らぬばかり荒れ果し 心の空の村曇り曇りを晴らす日の神の 御胤と現れし宣伝使日の出神に救はれて 豊の御国の主宰神任けのまにまに出で来る 心の空ぞ涼しけれ』 と歌によそへてわが素性を明しける。日の出神も高照彦神も此奇遇に神恩の深きを感謝し、直に神籬を立て国治立大神、豊国姫大神、伊弉諾大神、撞の御柱大神を鎮祭し、天津祝詞を奏上し、一同歓びを尽して宴会を閉ぢたりにける。 此より日の出神は澄世姫命[※筑紫島の国魂が「澄世姫」と書かれているのはここだけ。他の箇所ではみな「純世姫」になっている。]の神霊を国魂として鎮祭し、豊日別をして豊の国の守護職となし、日の出神、高照彦神、外二人の宣伝使は筑紫を指して足に任せて勇み進み行く。 この島は身一つに面四つあり、豊国、肥国、熊襲国、筑紫国と区別され居るなり。しかしてこの四つの国を総称して又筑紫の洲といふなり。 (大正一一・二・二旧一・六加藤明子録) |
|
83 (1384) |
霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 04 烏の妻 | 第四章烏の妻〔三五四〕 波は高砂日は照り渡る智利の都に月は澄む と、船頭は節面白く海風に声をさらしながら唄ひはじめたり。日の出神は船中の人々に対して、天地の神の高徳を諄々と説き始めたる折しも、俄に一天掻き曇り、颶風吹き荒み、波は山岳のごとく立ちはじめ、今まで元気張つてゐた猿世彦、駒山彦は、蒼白な顔になり、片隅にブルブルと慄へゐる。数多の船客は、何れも船底にかぢりつき我が命は風前の燈火かと不安の念に駆られて、口々に何事をか祈り始めけり。 船中は俄に人声ピタリと止り、ただ小さき祈願の声のするのみなりき。波の音はますます高く、時々潮を船に浴せて猛り狂ふ。この時日の出神は、声を張り上げて大音声に呼ばはりたまふ。 『高天原を知ろし食す天の御柱大神の 神勅畏み天の下四方の国々隈もなく 神の教を宣べ伝ふ闇夜を照らす宣伝使 日の出神の鹿島立ち神の御ため国のため 世人を救ふそのために潮の八百路の八塩路の 潮を分けつつ進み行く吾は尊き神の御子 瑞の教を謹みて聴く諸人の真心を 憫みたまへ天津神救はせたまへ国津神 科戸の神や水分の正しき神は何事ぞ 波路も高く竜神の底の藻屑と鳴門灘 渦巻わたる海原も御国を思ふ真心の 道に通ひし宣伝使吾が言霊は天地に 充てる誠の神の声大海原を知ろし食す 海原彦や豊玉姫の神の命は今いづく 神に祀れる玉依姫の神の命はいま何処 雨風繁く波高くこの諸人を脅かす 大綿津見の枉神を伊吹きに祓へ吹き祓へ 伊吹き祓ふの力無く吾が言霊の聞えずば 吾はこれより天地の神に代りて三五の 言挙げなさむ綿津神科戸の彦や科戸姫 疾く凪ぎ渡れ静まれよとく凪ぎ渡れ静まれよ』 と、清き言霊を風に向つて述べ立てたまへば、さしも猛烈なりし暴風も、車軸を流す大雨も、忽然として静まり、天津御空は黒雲の上衣を脱ぎて、紺碧の肌を現はし、日は晃々として中天に輝き、海の諸鳥は悠々として翼をひろげ、頭上に高く喜ばしき声を張り上げて、口々に叫びはじめけり。紺碧の海面は、あたかも鏡のごとく凪ぎ渡り、地獄を出でて天国の春に逢うたるごとき心地せられ、船中の諸人は、ほとんど蘇生したる面色にて、日の出神の身辺に寄り集まり、その神徳を感謝し、なほも進みて教理を拝聴することとなりぬ。船中の人々は日の出神の神徳に感じ、心の底より信仰の念を起し、なほも進みてその教理を聴聞したりける。 ここに清彦は、今までの凡ての罪悪を悔い改め、日の出神の弟子となり、高砂島に宣伝を試むる事となりぬ。猿世彦、駒山彦は、清彦の後を追ひて、何事か諜し合せ、高砂島に上陸したりけり。 またもや船中に雑談の花は咲き出でにけり。 甲(民)『やれやれ恐ろしい事だつたのう。すんでの事で竜宮行きをする所だつたが、渡る浮世に鬼は無い、天道は人を殺さずとはよく言つたものだ。日の出神様がこの船に乗つて居られなかつたら、吾々は鱶の餌食になつて了つたかも知れない。若しもソンナ事があつたら、俺は死ぬのは天命だと思つて諦めるが、国に残つた妻や子が、どうして月日を送るだらう。女房が「あゝ恋しい民さまは」と云つて泣くかも知れぬ』 乙『コンナ処でのろけるない。貴様が死んだつて泣く者があるか。村中の悪者が無くなつたと云つて、餅でも搗いて祝ふ者もあらうし、貴様の嬶は、鹿公と入魂だから、邪魔が払はれた、目の上の瘤が取れたと云うて、餅でも搗いて祝ふかも知れぬよ。泣く者と云つたら烏か、柿の木に蝉がとまつて啼く位だ。アツハツハヽヽ』 民『馬鹿にするない、死んで喜ぶ奴が広い世界に有つて堪るか。天にも地にも、一人の夫一人の女房だ。俺が国許を出立する時、女房が俺の袂に縋りついて、ドウゾ一日も早う帰つて来て頂戴ネ、あなたのお顔が見えねば夜も明けぬ、日も暮れぬ、毎日高砂の空を眺めて待つて居ます、エヘン、あの優しい顔で泣きよつたぞ。そこを貴様に見せてやりたかつたワイ』 乙『馬鹿にするない。あの優しい嬶も有つたものかい、頭の禿げた神楽鼻の、鰐口の団栗目の、天下一品珍無類の御面相の別嬪を、烏だつて顧みるものは有りやしないよ』 丙『左様も言はれぬぞ。何時やらも野良へ出て働いて居る時に、側の森に烏が来よつて、カカア、カカアと呼んで居たよ』 民『ソンナ話は止めにして神様を拝まぬかい。また波でも立つたら、今度はもう助かりつこは無いぞ』 丁『此間も、面那芸の宣使さまとかが船に乗つて、筑紫の島から天教山へ行かれる途中に海が荒れて船は暗礁にぶつつかり、メキメキと壊れて了つた。そして客は残らず死んで了つたと云ふことだよ』 民『その面那芸の宣使はどう成つたのだ。ソンナ時には此処に御座る日の出神様の様に、何故神徳をよう現さなかつたのだらう。面那芸の司とは噂に聞く宣伝使でないか』 乙『さう、宣伝使だ。併し神徳が無いから、危急存亡の場合に人を救ふ様な事は、薩張りようセンデン使だよ。それで自分も一緒にぶくぶくと脆くも沈んで了つて、あゝあゝ苦しい辛い難儀な事に成つたと泡を吹いた。そこでつらなぎの司ぢや。誰も彼も皆辛い難儀な目に逢つて、つらなぎのかみに成つて了つたのだ。最前のやうに、清彦さまの様な説教をする宣伝使もあるし、若しも日の出神が此の船に乗つて居られ無かつたら清彦の宣伝使が、また面那芸の司の様な運命に成つたかも知れぬ。さうすれば俺らも皆面那芸のめに逢うとるのだ。日の出神様の御神徳を忘れてはならぬぞ、あゝ有難い、有難い』 と口々に私語てゐる。日の出神はこの雑談中に、面那芸の司の乗れる船の沈没した事を聞いて胸を躍らせ、その顔には、颯と不安の色漂ひにける。 (大正一一・二・六旧一・一〇東尾吉雄録) |
|
84 (1388) |
霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 08 改心祈願 | 第八章改心祈願〔三五八〕 漁夫は猿世彦の言霊に依つて、蛸の意外なる収獲を得、今迄軽侮の念を以て遇して居た猿世彦に対し、尊信畏敬の態度を以て望むことになり、アリナの滝に草庵を結び猿世彦の住家となし、尊敬の念を払ひ三五教の教理に悦服したり。されど俄宣伝使の猿世彦は未だ三五教の教理には徹底してをらず、只神を祈ることのみは一生懸命なりき。夫故平然として彼が説く所の教理は矛盾脱線に満ち居たれども、誠の神は彼が熱心に感じて神徳を授けられたるなり。 この村は無智朴訥なる漁夫のみなれば、余り高遠なる教理を説くの必要も無く、また漁夫どもは神を祈りて豊な漁を与へて貰ふ事のみを信仰の基礎として居たり。然し掃溜にも金玉あり、雀原にも鶴の降りて遊ぶが如く、此村の酋長に照彦と云ふ立派な男ありけり。彼は猿世彦の熱誠なる祈祷の効力に感じ、歌を作つて之を讃美したりける。 朝日眩ゆき智利の国御空の月も智利の国 猿世の頭も照の国昼は日照の神となり 夜は月照彦となり吾らを照らす宣伝使 かかる尊き救ひ宣使又とアリナの滝の如 其名は四方に響くなり其名は四方に響くなり。 と村人に歌はせたり。猿世彦は得意満面に溢れ、天晴れ宣伝使となりすまし、法外れの教理を説きゐたり。然れど朴訥なる村人は誠の神の尊き教と堅く信じ、涙を流して悦び、信仰を怠らざりける。 アリナの滝より数町奥に不思議なる巌窟あり。巌窟の中には直径一丈ばかりの円き池あり、清鮮の水を湛へ、村人は之を鏡の池と命名け居たり。猿世彦は村人をあまた随へ、この鏡の池に禊を成さむと進み行きぬ。まづ酋長の照彦に鏡の池の水を掬つて洗礼を施し、次々に之を手に掬ひ、老若男女に向ひ一々洗礼を施し、この巌窟の鏡の池に向つて祈願を籠めにける。 『嗚呼天地を御造り遊ばした国治立の大神様、太陽の如く月の如く鏡の如く、円く清らかなる此鏡の池の水晶の御水の如く、酋長を始めその他の老若男女の身魂を清く研かせ玉うて、此水の千代に万代に涸ざる如く、清き信仰を何処までも繋がせ玉ひて、神様の御膝下に救はれます様に、又この尊き、清き御水を鏡として、吾々はじめ各自のものが何時までも心を濁しませぬやうに、御守り下さいますやう御願ひ致します。私は今日まで鬼城山に立籠り、木常姫と共々に大神様の御神業を力限り、根限り妨害致しました其罪は、天よりも高く、千尋の海よりもまだ深いもので御座います。然るに貴方様は大慈大悲の大御心を以て、吾々の如き大罪人に対し満腔の涙を御注ぎ下さいまして、畏れ多くも天教山の猛火の中に御身を投じ玉うたことを承はりました。其事を聞きましてから私は、昔の悪事を思ひだし、起つても坐ても居れぬやうな心持になりました。嗚呼一日も早く改心したいと思ひますと、私の腹の中から悪魔が「馬鹿々々、何をソンナ弱い事を思ふか」と叱りますので、ついウロウロと魂が迷ひ、心ならぬ月日を送つて居りました。偶私は常世の国を逃出して、筑紫の島を彼方此方と彷徨ふ内、日の出神と云ふ立派な宣伝使が、智利の都へ御出で遊ばしたと聞いて、朝日丸に乗つて此処へ渡ります其船の中に、有難くも日の出神様が乗つて居られ、いろいろ結構な御話を聞かして下さいました。之も全く貴方様の御引合せと有難く感謝を致します。此の清き鏡の池の水は、円満なる大神様の大御心でありませう。この滾々として湧き出づる清き水は、大神様の吾らを憐れみ玉ふ涙の集まりでありませう。此水の清きは、大神様の血潮でありませう。願はくば永遠に吾らの魂を、此鏡の池の円満なるが如く、清麗なるが如く守らせ玉はむ事を、村人と共に御願ひ致します。惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世』 と真心を籠めて祈願したり。数多の人々も異口同音に、惟神霊幸倍坐世を唱へて神徳を讃美したりけり。 (大正一一・二・六旧一・一〇森良仁録) |
|
85 (1398) |
霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 18 巴留の関守 | 第一八章巴留の関守〔三六八〕 激潭飛沫囂々と音騒がしき千仭の谷間に、身を躍らして飛び入り、重傷に悩む荒熊を助け起して吾背に負ひ、漸く此処に駆上つて来た淤縢山津見は、荒熊を大地に下して神言を奏上し鎮魂を施し、頭部の傷所に向つて息を吹きかけたるに、不思議や荒熊の負傷は拭ふが如く癒え、苦痛も全く止まりて元の身体に復したり。荒熊は大地に両手をつき高恩を涙と共に感謝し、且つ無礼を陳謝したりける。 蚊々虎『オイ荒さま、ドツコイ黒坊の熊さま、三五教の御神徳とはコンナものだい。耳の穴を浚つてとつくりと聞かう。エヘン、蚊々虎様の』 と云ひつつ指の先で鼻を押さへながら、 蚊々虎『この大きな鼻の穴からフンと伊吹をやつたが最後、貴様は蠑螈が泥に酔つたやうに大きな口を開けよつて、アヽアーと虚空を掴んで仰向けに顛覆返つたが最後、この深い深い谷底へスツテンドウと顛覆返つて頭を打ち割つて、「アイタツタツタ、コイタツタツタ、アーア今日は如何なる悪日かと、処もあらうにコンナ深い深い谷底へ取つて放られ、此処で死ぬのか、後で女房は嘸やさぞ、悔むであらう。死ぬるこの身は厭はねど、昨日に変る今日の空、定め無き世と云ひながら、さてもさてもあまりだわ、不運が重なれば重なるものか、と云つて女房が泣くであらう」などと下らぬ事を、河鹿のやうに、谷水に漬つて吐きよつた其処へ、天道は人を殺さず、三五教の俺らの先生様の醜国別オツトドツコイ淤縢山津見様が悠然として現はれたまひ、摂取不捨、大慈大悲の大御心をもつてお助け遊ばしたのだよ。何と有難いか、勿体ないか、エーン改心を致せ、慢心は大怪我の基だぞよ。慢心するとその通り、谷底に落ちて酷い目に遇つてアフンと致さねばならぬぞよと、三五教の神様は仰有るのだ。その実地正真を此方がして見せてやつたのだぞ。改心ほど結構なものは無いぞよ。エヘン』 淤縢山津見『コラ、コラ蚊々虎、黙らぬか。何といふ法螺を吹く、神様の教を聞きかじりよつて、仕方のない奴だ。黙つて俺の云ふ事を聴いて居れ』 蚊々虎『ヘン、大勢のところで耻を掻かさいでも、ちつとは俺に花を持たして呉れてもよささうなものだなあ』 と小声にて呟く。荒熊は宣伝使の顔をじつと見上げ、 荒熊『ヨウヨウ、貴下は醜国別様では無かつたか』 淤縢山津見『ヤヽさういふお前は高彦ではなかつたか。これはこれは妙な処で遇うたものだ。一体お前はコンナ処へどうして来たのだ。常世会議の時には随分偉い元気で弥次りよつたが、かうなつた訳を聞かして呉れないか』 荒熊(高彦)『ハイ、ハイ、委細包まず申上げますが、併しながら、貴下は大自在天様の宰相醜国別様、一旦幽界とやら遠い国へお出になつたと云ふ事だのに、どうしてまあ此処へお越しになつたのか、ユヽ幽霊ぢや無からうかナア』 淤縢山津見『幽霊でも何でもない』 実は斯様々々でと、有し来歴を詳細に物語り、高彦の経歴談を熱心に聴き入りぬ。高彦は両眼に涙を湛へながら、 高彦(荒熊)『私は貴下が宰相として大自在天にお仕へ遊ばした頃は、貴下のお加護で相当な立派な役を与へられ、肩で風を切つて歩いたものでございますが、貴下の御帰幽後は鷹取別の天下となり、悪者のために讒言されて常世神王様の勘気を蒙り、常世国を叩き払ひにされて妻子眷属は離散し、私は何処へ取つく島もなく、寄る辺渚の捨小舟、漸く巴留の国に押し流され、夜に紛れてこの国に上り、労働者となつて働人の仲間に紛れ込み、些し力のあるを幸に今は僅に五人頭となつて、この巴留の国の関守となり、面白からぬ月日を送つて居ります。この巴留の国には常世神王の勢力侮り難く今また伊弉冊命様が何処からかお出になつて、ロッキー山にお鎮まりなされ、常世神王の勢力ますます旺盛となり、この巴留の国は鷹取別の御領地で、それはそれは大変厳しい制度を布かれ、他国の者は一人もこの国へ這入れない事になつて居ます。万一これから先へ貴下がお越しなさるやうな事があれば、私は関守としての役が勤まらず、鷹取別の面前に引き出され、裁きを受けねばなりませぬ。その時私の顔を見知つてゐる鷹取別はヤア貴様は高彦ではないか、と睨まれやうものなら、又もやこの国を叩き払ひにされて辛い目に遇はねばならぬ。折角命を助けて貰つて、その御恩も返さず、これから元へ帰つて下さいと申上げるは恩を仇にかへす道理、ぢやと申して行つて貰へば今申す通りの破目に遇はねばならず、貴下がお出になるならば、この関守の荒熊の首を刎ねて行つて下さい』 と滝の如き涙を垂らして大地に泣き伏しける。蚊々虎は笑ひ出し、 蚊々虎『ウワハヽ弱い奴ぢや。何だい、高の知れた鷹取別、彼奴がそれほど恐ろしいのか。俺の鼻息で貴様を吹き飛ばしたやうに、鷹取別もまた吹き飛ばしてやるワイ。エヽ心配するな、蚊々虎に従いて来い、俺が貴様を巴留の国の王様に為てやるのだ。面白い面白い』 淤縢山津見『オイ蚊々虎、貴様は口が過ぎる。この国の守護神が、其辺一面に聞いてをるぞ』 折から吹き来る夏の風、この場の囁きを乗せて巴留の都へ送り行く。 (大正一一・二・八旧一・一二加藤明子録) |
|
86 (1404) |
霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 24 盲目審神 | 第二四章盲目審神〔三七四〕 闇山津見の奥殿の広き一間は、夕食の用意調へられ、一応主客の慇懃なる挨拶も終りて各自晩餐の席に着きぬ。 夕食も茲に相済み、淤縢山津見は二人と共に神床に向つて天津祝詞を奏上する。 闇山津見は一行に向ひ慇懃にその労を謝し、且つ、 闇山津見『折り入つて宣伝使にお訊ね申し度き事があります。何卒御教示を願ひます』 と云ふ。 淤縢山津見『何事か知りませぬが、神様に伺つて見ませう』 蚊々虎『宇宙万有一切の事を説き明す宣伝使、大は宇宙より小は虱の腹の中まで』 淤縢山津見『コラコラ蚊々虎、お黙りなさい』 闇山津見『私は高天原に坐ましたる伊弉冊命が、黄泉の国へお出ましになつたと云ふ事を承はつて居ました。然るに此ごろ常世のロッキー山に伊弉冊命が現はれ給うたと云ふ事を巴留国の棟梁鷹取別より承はりました。二人の伊弉冊命がおありなさるとすれば、どちらが真実で御座いませうか。吾々はその去就に迷ひ、どうとかしてその真偽を究め度きものと、日夜祈願をして居りました。然るに昨夜の夢に「明日は三五教の宣伝使がこの国へ来るから、五月姫を迎ひに遣はせ」とのお告げでありました。それ故今日は吾娘を町端れの国魂の森に群衆に紛れて入り込ませ、宣伝使のお出を待たせて居りましたところ、夢のお告げの通り、三五教の宣伝使に、お目に懸つたのも、全く御神示の動かぬところと深く信じます。この事について何卒御教示を願ひます』 淤縢山津見『サア確かに吾々は竜宮城より伊弉冊命様のお供を致して参りましたが、途中で別れました。伊弉冊命様には日の出神と云ふ立派な生神と、面那芸司がお伴致して居る筈であります。ロッキー山に、これから行くと仰せになりましたから、それが真実の伊弉冊命様でありませう』 蚊々虎の身体は俄に振動を始め、遂には口を切り、 蚊々虎『オヽヽ淤縢山津見、汝の申す事は違ふぞ違ふぞ。伊弉冊命様は、テヽヽ矢張り云はれぬ、云はれぬ。ロッキー山に現はれたのは、常世神王の妻大国姫の化け神だぞよ』 淤縢山津見『汝は何れの曲津神ぞ、現に吾々は伊弉冊大神のお伴をして海上に別れたのだ。その時のお言葉に、これよりロッキー山に立籠ると仰せになつた。其方は吾を偽る邪神であらう』 蚊々虎は手を振り揚げながら首を左右に振り、 蚊々虎『違ふ違ふ、サツパリ違ふ。ロッキー山の伊弉冊命は、大国姫だ。もつと確かり審神を致せ。此方を何れの神と思うて居るか。盲人の審神者、モーちつと霊眼を開いて、我が正体を見届けよ』 淤縢山津見『如何に巧に述べ立つるとも、この審神者の眼を暗ます事は出来まい。外の事ならいざ知らず、伊弉冊大神の御事に就いては此方確に見届けてある。偽りを云ふな、退れ退れ』 蚊々虎『断じて退らぬ。汝の霊眼の開くるまで』 淤縢山津見は一生懸命に両手を組み、霊縛を加へむとす。蚊々虎は大口開けて、 蚊々虎『ウワハヽヽー小癪な、やり居るワイ。ウワハヽヽー余り可笑うて腹の皮が捻れるワイ。ウワハヽヽー』 淤縢山津見『闇山津見様、この神懸りは当にはなりませぬ。大変な大曲津が憑ついて居ます。あの通り笑ひ転けて、吾々を嘲弄いたす強太い悪神。コンナ奴の云ふ事は信じなくても宜しい。吾々は生た証拠人、伊弉冊大神は、この常世の国のロッキー山に確に居られます』 蚊々虎は又もや大口開けて、 蚊々虎『アハヽヽ、あかぬ、あかぬ、淤縢山津見の盲の審神者イヽヽ如何に霊縛を加へても、ウヽヽ動かぬ動かぬ。煩いか倦厭したか。エエヽ偉さうに審神者面を提げて何の態、俺の正体が分らぬか。可笑しいぞ可笑しいぞ、ウワハヽヽ。カヽヽ可哀さうなものだ。キヽヽ気張つて気張つて汗泥になつて、両手を組んで、ウンウンと霊縛は何の態だ。クヽヽ苦労が足らぬぞ。コンナ審神者が苦しいやうな事で、どうして宣伝使がつとまるか。ケヽヽ怪しからぬ奴だ、見当は取れまい、権幕ばかりが強うても神には叶ふまいがな。コヽヽこれでもまだ我を張るか、困りはせぬか。サヽヽ審神者のなんのと、好くもほざいたものだ、サツパリ霊眼の利かぬ探り審神者だ、シヽヽ知らぬ事は知らぬと云へ、強太い奴だ。神の申す事を敵対うて、この神は邪神だの、当にならぬのとは、それや何の囈言だ。スヽヽ隅から隅まで気のつく審神者でないと、霊界の事は澄み切るやうには分らぬぞ。セヽヽ宣伝使面を提げて、盲審神者が俺を審神するなぞとは片腹痛い。ソヽヽそんな事で世界の人間が導かれるか』 淤縢山津見『タヽヽ頼みます、もう分りました。怺へて下さい、併し貴神はお考へ違ひではありませぬか。現に私は伊弉冊大神様のお伴して御口づからロッキー山に行くと云ふ事を承はつたものですから、この事計りはどうしても真実に出来ませぬ』 蚊々虎『何ほど云うても訳の分らぬ宣伝使、神はこれからタヽヽ立ち去るぞよ』 言葉終ると共に蚊々虎の肉体は、座敷に仰向様に打倒れたり。淤縢山津見は再び鎮魂を施し、神言を奏上し、而して淤縢山津見は、ロッキー山に伊弉冊神の隠れ居ます事を確に信じ闇山津見に固く、相違ない事を告げけり。闇山津見は厚く感謝してその夜は三五教の話に夜を明したり。 附言 伊弉冊命の火の神を生みまして、黄泉国に至りましたるその御神慮は、黄泉国より葦原の瑞穂の国に向つて、荒び疎び来る曲津神達を黄泉国に封じて、地上に現はれ来らざるやう牽制的の御神策に出でさせられたるなり。それより黄泉神は海の竜宮に居所を変じ、再び葦原の瑞穂の国を攪乱せむとする形勢見えしより、又もや海の竜宮に伊弉冊大神は到らせたまひ、茲に牽制的経綸を行はせ給ひつつありける。乙米姫命を身代りとなして黄泉神を竜宮に封じ置き、自らは日の出神に迎へられて、ロッキー山に立籠るべく言挙げしたまひ、窃に日の出神、面那芸司とともに伊弉諾の大神の在ます天教山に帰りたまひぬ。されど世の神々も人々も、この水も漏らさぬ御経綸を夢にも知るものは無かりける。ロッキー山に現はれたる伊弉冊命はその実常世神王の妻大国姫に金狐の悪霊憑依して、神名を騙り、常世神王大国彦には八岐の大蛇の悪霊憑依し、表面は、日の出神と偽称しつつ、種々の作戦計画を進め、遂に黄泉比良坂の戦ひを起したるなり。故に黄泉比良坂に於て伊弉冊命の向ひ立たして事戸を渡したまうたる故事は、真の月界の守り神なる伊弉冊大神にあらず大国姫の化身なりしなり。 (大正一一・二・八旧一・一二加藤明子録) |
|
87 (1411) |
霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 31 谷間の温泉 | 第三一章谷間の温泉〔三八一〕 三人の宣伝使は、声を知辺に崎嶇たる谷道を、流れに沿うて登り来たり、見れば湯煙濛々と立ち昇り、天然の温泉が湧き居る。蚊々虎は一人真裸になつて、倒れてゐる男の前に双手を組み、神言を奏上し、鎮魂を施しゐたり。 駒山彦は之を見て、 駒山彦『ヤア、蚊々虎さま、そら何だ』 蚊々虎は鎮魂を了り、 蚊々虎『ヤア、何でもない。此処に一人の人間が倒れて居るのだ。身体を探つて見れば、まだ血の循つて居るせいか、この湯のせいか知らぬがそこら中温い。どうぞして助けたいものだと、一生懸命鎮魂してるのだが、俺らの力では此奴ばかりはいかぬ。淤縢山津見の宣伝使に、一つ鎮魂をやつて貰ひたいと思つて呼んだのだよ。モシモシ先生、一つこの男に鎮魂を施してくださいな』 淤縢山津見は、 淤縢山津見『やつて見ませうかな』 と云ひながら、天の数歌を歌ひ了つて双手を組み、ウンと一声、鎮魂の息を掛た。裸体になつて倒れて居た男は、ムクムクと起上り、目を擦りながら、四人の宣伝使が前に在るに気がつき、 男(正鹿山津見)『ヤア、何れの方か存じませぬが、一命をお救ひ下さいまして有難う存じます』 と顔を上ぐる途端に、蚊々虎は、 蚊々虎『ヨー、貴方は秘露の都で御目に懸つた、正鹿山津見の宣伝使では御座らぬか』 正鹿山津見『アア貴方は蚊々虎殿か。ヨーヨー、淤縢山津見殿、思はぬ処で御目に懸りました。是も全く三五教の神様の御引合せ、有難う存じます』 淤縢山津見『貴方はどうして、斯る山奥に御越しになつたのですか、是には何か深き仔細がありませう』 正鹿山津見『ハイ、私は秘露の都で、日の出神様や貴方らと袂を分ち、それより巴留の国を宣伝せむと、この珍山峠を越え、鷹取別の城下に宣伝歌を歌つて参りました。所が俄に数百の駱駝隊が現はれて、前後左右より取囲み、槍の切尖にて所構はず突刺され、失神したと思へば、沙漠の中に葬られて居た。私は砂を掻き分けて這ひ上り、夜陰に紛れて巴留の都を逃げ出し、この峠に差しかかる折りしも、傷所はますます痛み、最早一歩も進むことが出来なくなり、喉の渇きを谷水に医さむと、細谷川の清水を汲んで見れば、何とも知れぬ芳き香と味がある。さうして此水は谷水に似ず実に温かい。是は薬の水ではあるまいかと、手に掬つて傷所に塗つて見た所が、忽ち其傷は癒えました。されど身体の疲労はどことなく苦しく、それに堪へかね、この谷川を遡れば屹度良い温泉があらう、其処へ行つて身の養生を致さむと、漸く此温泉を尋ね当ました。それより日夜この温泉に身を浸し、数多の槍傷はすつかり癒えましたが、あまり浴湯が過ぎたと見えて逆上し、知覚精神を喪失してこの場に倒れて居た処、尊き神の御引合せ、貴方方に巡り合ひ、命を助けて貰ひました。コンナ有難い事はありませぬ』 と両眼に涙を湛へながら、両手を合せて感謝の意を表したり。 淤縢山津見は、 淤縢山津見『何事も神様の御引き合せ、吾々は神様の綱に操られて、貴方を救ふべく遣はされたものでありませう。吾々は感謝の言葉を受けては、実に勿体ない気がする。天地の大神に早く感謝をして下さい。吾々も共に神言を奏上いたしませう』 と淤縢山津見の言葉に従ひ、一同はこの温泉の周囲に端坐して神言を奏上したりける。 (大正一一・二・九旧一・一三土井靖都録) (第二六章~第三一章昭和一〇・三・三於天恩郷透明殿王仁校正) |
|
88 (1417) |
霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 37 珍山彦 | 第三七章珍山彦〔三八七〕 大蛇の背に乗りたる宣伝使一行は、一瀉千里の勢で山麓に下り行きたり。 駒山彦は得意顔にて、 駒山彦『ヤア、馬には乗つて見い、人には添うて見い、大蛇には跨つて見いだな。杏よりも桃が易い。割りとは楽に来たよ。コンナ事なら、これから大蛇に遇うても一寸も怖くは無い。この行く先々に、山へかかれば的さんがやつて来て呉れると、本当に重宝だね』 蚊々虎は、 蚊々虎『大蛇どの、もうよろし、ここでオロチて下さい』 見れば五人の宣伝使は、広き芝生の上に下され居たり。そして大蛇は影も形も見えなく成り居たりける。 駒山彦『なんだ、夢だつたらうかな。現に今、大蛇に乗つた積りだつたのに、此の様な芝生の上に坐つて居るとは、一体全体駒山には訳が分らぬわい』 蚊々虎『神変不可思議の神業だ。三五の教には、ドンナ結構なお方が落魄れて御座るかも知れぬから、必ず侮ることは成らぬとあるだらう。この蚊々虎さまは此様に粗末に見えても立派な神様だぞ。化けて御座るのだよ。それだから大蛇で有らうが、何であらうが、宇宙一切のものは、この蚊々虎さまの一言で自由自在になるのだ。風雨雷霆を叱咤し、天地を震動させるのも、吾々が鼻息一つで自由自在だぞ』 駒山彦『また始まつた。オイ、もう吹くのは止めて呉れぬか。お前の二百十日には駒山彦だよ』 淤縢山津見はアフンとして、 淤縢山津見『合点の往かぬは蚊々虎の神力だ。ヒヨツとしたら、此奴はお化けかも判らないぞ』 正鹿山津見『お化けでも何でも宜いぢやありませぬか。あの様な大きな大蛇を自由自在に使ふなんて吾々は到底、目から火を出して気張つた処で、石亀の地団太だ。物には成らない、偉い方ですね。正鹿も感心しましたよ』 五月姫も、 五月姫『ほんたうに感服しましたわ』 駒山彦はシヤシヤリ出で、 駒山彦『「妾、ほんたうに感服しましたわ」と、仰有りますワイ。蚊々虎さま、お目出度う』 淤縢山津見も、 淤縢山津見『今日まで蚊々虎々々々と言つて居たが、こりや何うしても宣り直さなくちやいけない。何とか名をあげませうかな』 正鹿山津見も呆れて、 正鹿山津見『さうだなあ、大蛇を使つた神力に依つて大蛇彦と命名たら何うだらう』 蚊々虎『大蛇彦は御免だ。珍山彦だ。珍山彦と言つて貰ひたいね』 淤縢山津見も、 淤縢山津見『ヤア、それは本当にいい名だ。それなら是れから、珍山彦様と申上げるのだねー』 蚊々虎『尤も、尤も。蚊々虎を改名しますよ』 五月姫『ホヽヽヽヽ、なんとはんなりとしたいいお名ですこと、妾、蚊々虎さまより、珍山彦様の方が気持が宜しいわ』 駒山彦は口を尖らして、 駒山彦『ホヽヽヽヽ、「なんといい名だこと、妾、蚊々虎さまより、駒山彦が好きだわ」とおいでたな、とは言はぬ「珍山彦様の方が好きだわ」ヘン、馬鹿にしてらあ』 正鹿山津見は、 正鹿山津見『御一同様、話は途々伺ひませう。はるか東方に当つて小高き森がありませう。そこに田螺をぶちあけた様に小さき家が沢山に並んで居ませうがな。彼の辺が珍の都です。サアもう一息だ。私の宅まで御足労になつて、悠々と休息いたしませうかい。都近くなつた祝ひに、此処で一つ神言を奏上し、宣伝歌を歌ひながら参りませう』 と一同は芝生の上に端坐し神言を奏上し終つて、宣伝歌を歌ひつつ都を指して進み行く。 正鹿山津見は唄ふ。 正鹿山津見『巴留の都を後にして汗水垂らす夏の山 涼しき風に煽られて心は秋の如くなり 樹々の梢の紅葉の色にも勝る村肝の 身魂も清き宣伝使珍山峠を乗り越えて 千引の岩に夜を明し仰ぐも高き天雲山の 峠を越えて五柱大蛇の船に乗せられて 漸うここに月の空月照彦の鎮まりし この高砂の神島は神の選みしうづの国 花の都も近づきて心の駒は勇むなり 神が表に現はれて善と悪とを立別る この世を造りし神直日心も広き大直日 大野ケ原を右左眺めて通る心地よさ 向ふに見ゆる白壁は珍の都のわが住家 ただ何ごとも人の世は直日に見直せ聞き直せ 蚊々虎さまの名前さへ珍山彦と宣り直し 天津御神の貴の御子大御宝と現はれて 世界を開く宣伝使淤縢山津見や五月姫 勇む心の駒山彦や夏の真盛り正鹿山 津見の命の五人連れ誠の神に救はれて 漸う都へ着きにけりやうやう都へ着きにけり 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも たとへ大地は沈むとも誠の神の教へたる 三五教は世を救ふ救ひの神と現はれし 厳の御魂の五柱瑞の御魂の月の影 尽きぬは神の御恵ぞ尽きぬは神の御恵ぞ』 と節面白く歌ひながら、漸く一行の宣伝使は正鹿山津見の館に着きにける。 駒山彦は、 駒山彦『ヤア、宣伝使の住居にしては贅沢な構へだね』 珍山彦(蚊々虎)『決つたことだよ。珍一国の守護職だもの、当然だ』 門内よりは、数多の下僕蒼惶しく走り来り、 下僕『これはこれは御主人様、ようこそお帰り下さいました。皆の者が、もう今日はお帰りか明日はお帰りかと、首を伸ばしてお待ち申して居りました。サアサアお疲労れでせう、早くお休み下さいませ。ヤア、これはこれは、何れの方か知りませぬが、よく送つて来て下さいました。何卒悠くりと湯でも飲つて、寛いで下さいますやうに』 正鹿山津見は、 正鹿山津見『オー、国彦か、よくまあ留守を仕て呉れた。御苦労であつたな。イヤ、御一同様、見苦しき荒屋で御座いますが、どうぞ御遠慮なくお上り下さいませ』 淤縢山津見も、 淤縢山津見『仰せに従ひ遠慮なく休まして貰ひませう』 と、正鹿山津見の後に随いて、奥の間にドツカと安坐したり。 国彦は恭しく湯を沸かして持ち来り、 国彦『ヤー、御一同様、山道と云ひ、この頃の暑さと云ひ、嘸お疲労でせう。承はれば、主人も偉いお世話になられたさうで御座います。よくまあ生命を助けてあげて下さいました。今お湯がすぐに沸きますから、どうぞ悠くりと湯浴でもして、お寛ぎ下さいませ』 と、挨拶を終つて、部屋の方へ姿を消す。 四人の宣伝使は打ち解けて、岩上に一夜を明かし、悪戯をされた事やら、大蛇に出会した時の感想を語り、面白可笑しくさざめき居たり。 襖を開けて、正鹿山津見は、 正鹿山津見『どうやらお湯が沸きました様です。皆さま何うでせう。一緒に這入りませうか』 珍山彦『そら面白からう、一緒に願はうかい』 正鹿山津見『どうかこちらへ』 と、先に立つて行く。一同は浴槽の側に衣服を脱ぎ捨て、バサバサと一度に飛び込みぬ。 珍山彦は、 珍山彦(蚊々虎)『ヤアヤア、湯に入つた気分はまた格別だね。湯々自適とはこのことだ。ゆはぬはゆふにいや勝る。ゆうて見ようかゆはずにおこか。ゆはな矢張り虫がゆふ』 駒山彦『そら貴様何をゆふのだ。湯快さうに自分一人はしやいで』 珍山彦(蚊々虎)『それでも湯快だよ。湯ぐらゐ結構なものは無いぢやないか。お前は何とゆふことをゆふのだ』 と珍山彦、駒山彦の二人は湯の中で揶揄ひながら、やや暫し汗を流して、一同と共に湯を上り、元の間に引き返し見れば、山野河海の珍味佳肴が並べられてゐたり。一同はその厚意を感謝しながら、漸く夕餉を済ませける。 正鹿山津見を中心に、国魂の神を祀れる神前に向つて、天津祝詞を奏上し、宣伝歌を歌ひ了つて楽しみ話に耽り、その夜は疲労れはて、何れもよく熟睡し、明る日の八つ時に各自目を醒まし、又もや四方山の話に耽り居たり。 (大正一一・二・一〇旧一・一四東尾吉雄録) |
|
89 (1418) |
霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 38 華燭の典 | 第三八章華燭の典〔三八八〕 一同は国魂の神前に神言を奏上し、讃美歌を唱へ終つて休息してゐた。正鹿山津見は襖を押開け入り来り、 正鹿山津見『御飯が出来ました。どうぞ御上り下さいませ。何分長らく留守に致して置きましたのと、家内がないので不行届き、不都合だらけですけれど』 と挨拶を述べ、この場を立ち去りぬ。 珍山彦(蚊々虎)『皆の方々、今承はれば正鹿山津見様は女房が無いと云ふ事だ。一国の守護職として宣伝使を兼ねられた急がしい身体、肝腎の女房が無いとは気の毒でないか。一つ珍山彦が奥様を御世話しようと思ふが如何でせうな』 駒山彦は膝をのり出し、 駒山彦『それは結構だな。適当の候補者の見込みがあるのかい』 珍山彦(蚊々虎)『あらいでか、確にあるのだ。吾々の御世話したいのは、女宣伝使の五月姫だよ。ナア五月さま、貴方は珍山峠の麓の岩の上で、正鹿山津見さまは誠に男らしい、立派な御顔付きの方だと云うて居ましたね、御異存はありますまい』 五月姫は黙つて袖に顔を隠す。駒山彦は言葉せはしく、 駒山彦『そらいかぬ。お人が違ふではないかな。貴様はあれ丈け惚れてゐたではないか。俺は貴様の奥さまに世話したいと思つてゐたのだ。ソンナ遠慮は要らぬ。遠い所からくすぐるやうに謎かけをせずに、「五月姫殿、珍山彦の女房になつて下さい」と、男らしくキツパリと切り出したら如何だい。奥歯に物の詰つたやうな事を言ひよつて、何処までも図々しう白ばくれる男だな』 珍山彦(蚊々虎)『このはなさまは故あつて女房は持ぬのだ。それ丈は怺へて呉れ。余り俺が洒落るものだから、本当にし居つて痛うない腹を探られて迷惑だよ。さうぢやと云つて、此の可愛らしい五月姫が嫌ひだと云ふのでは無い。好きの好きの大好きだが、女房を持れぬ因縁があるのだよ』 駒山彦『オイ蚊々虎、ドツコイ珍山彦、その因縁を聞かうかい』 珍山彦(蚊々虎)『お前に聞かせるやうな、因縁なら何に隠さう。こればかりは怺へて呉れ。俺は未だ未だ重大なる任務があるのだから』 淤縢山津見は、 淤縢山津見『ヤア珍山さま、貴方の事は何うしても吾々は合点が往かない。丸切り天空を翔る蛟竜の如く、千変万化捕捉すべからずだ。もう何事も言ひませぬ。貴方の御意見に任して五月姫さまを、此家の主人の奥様に推薦したいものですな』 珍山彦は、 珍山彦(蚊々虎)『どうか貴方も御同意ならば、正鹿山津見さまに一つ掛合つて見て下さいな』 淤縢山津見は『よろしい』といつて其の場を立ち一室に行つた。 五月姫は顔を赤らめて俯向いてゐる。駒山彦は、 駒山彦『これこれ五月さま、女にとつて一生の一大事、俯向いてばかり居つては事が分らぬ、珍山さまにするか、正鹿山津見さまにするか、右か左か返答しなさい。御意見あらば吾々に、隔ても何もない仲だ、キツパリ云つて下さい。万々一両人の御方が気に入らねば、外に候補者も無いことはありませぬよ。コーと云ふ頭字のついた人を御世話致しませうか』 珍山彦は駒山彦の顔を眺めて、 珍山彦(蚊々虎)『ウフヽヽヽ』 五月姫は漸くに面を上げて、 五月姫『ハイハイ、正鹿山津見さまさへ御異存無くば』 珍山彦は手を拍つて、 珍山彦(蚊々虎)『お出でたお出でた、願望成就、時到れりだ。ヤア、さすがは五月姫殿、天晴れ天晴れ、よう目が利いた。夫れでこそ天下の宣伝使だ。思ひ立つたを吉日に、今日婚礼の式を挙げませう』 駒山彦は、 駒山彦『コラコラ、珍山彦、一方が承知したつて、一方が何う云ふか判りはしない、鮑の片想ひかも知れないのに、よく周章てる奴だな』 珍山彦『なに大丈夫だよ。猫に鰹節だ、狐に鼠の油揚だ、二つ返事で喰ひつき遊ばす事は、請合ひの西瓜だ、中まで真赤だ。コレコレ五月姫さま、貴方も今までは押しも押されもせぬ一人前の女だ、男も女も同じ権利だつた、言はば男女同権。しかし今日から結婚したが最後、夫に随はねばならぬ。夫唱婦従の天則を守り、主人によう仕へ、家の中を治めて行くのが貴女の役だよ。男女同権でも、夫婦同権でないから、それを忘れぬやうに良妻賢母の鑑を出して、三五教の光を天下に現はすのだ。広い世の中に夫となり妻となるのも深い深い因縁だ、神様の御引合せだから、決して気儘を出してはいけませぬぞ。私が珍山峠で御話ししたやうに、どうぞこの花婿を大切にして蓮の台に末永う、必ず祝姫の二の舞を踏まぬやうにして下さい。頼みます』 五月姫は涙をボロボロと零しながら、 五月姫『ハイ、何から何まで、貴方の御親切は孫子の時代は愚か、五六七の世まで決して忘れは致しませぬ。貴方の御教訓は必ず固く守ります。御安心して下さいませ』 駒山彦『ナント珍山、貴様は変な男だねー。ホンニ合点のゆかぬ男だ。コンナ別嬪を人にやるなどと、ナントした変人だらう。が併し感心だ。この駒山だつたら迚も其処まで身魂が研けて居らぬからなー』 斯く話す折しも、正鹿山津見は淤縢山津見に伴はれ、[※御校正本・愛世版では「淤縢山津見は正鹿山津見を伴ひ」だが、校定版・八幡版では「正鹿山津見は淤縢山津見に伴はれ」に修正されている。後に続く「御一同様~」のセリフは正鹿山津見のセリフであるため、御校正本は主語が間違っている。そのため霊界物語ネットでは校定版に準拠して文章を修正した。]この場に現はれ叮嚀に辞儀をしながら、 正鹿山津見『御一同様、いろいろと御世話になつた上、今度は結構な御世話を下さいまして有難う。御恩の返し様は、もう御座りませぬ』 と感謝の意を漏した。 珍山彦は、 珍山彦(蚊々虎)『あゝ結構々々、それで安心して吾々も宣伝に参ります。どうぞ幾久しく夫婦仲好くして此の神国を永遠に治めて下さい。一朝事ある時は、夫婦諸共神界の御用に立つて下さい』 と日ごろ快活な男に似ず、声を曇らして嬉し涙を零し居たり。 淤縢山津見は、 淤縢山津見『ヤア、斯く話が纏まつた上は、善事は急げだ。早く神前結婚の用意にかかりませうか』 茲に一同は家の子郎党と共に、盛大なる結婚の式を挙げける。一同は直会の宴にうつり、各手を拍ち歌を歌ひ、感興湧くが如き折しも、番頭の国彦は襖を開いて、 国彦『御主人様に申上げます。只今ヱルサレムの聖地から松代姫、竹野姫、梅香姫の三人の御嬢様が、「御父様の住家は此処か」と云つて、一人の供を伴れて御出でになりました。如何が取計らひませうか』 正鹿山津見は驚きながら、 正鹿山津見『あゝ嬉しいことが重なるものだな』 一同手を拍つて、ウローウロー。 附言 正鹿山津見は、聖地ヱルサレムの天使長であつた桃上彦命である。兄広宗彦命、行成彦命の神政を奪ひ、体主霊従の限りを尽し、地の高天原は為に混乱紛糾の極に陥り、その妻は病死し、自分は常世彦、常世姫のために、或一時の失敗より追放され、三人の娘を後に残して住み慣れし都を後に、一つ島に進む折しも、暴風に逢ひ船は忽ち顛覆し、琴平別の亀に救はれ竜宮城にいたり、門番となり果てし折しも、日の出神に救はれ、この珍の都の守護職となれるなり。 この事を三人の娘は、神夢に感じて遥々此処に尋ね来たり。黄泉比良坂の坂の上に於て、黄泉軍を待ち討ち給ひし伊弉諾命の三個の桃の実は、即ち桃上彦命の三人の娘の活動を示されたるなり。 (大正一一・二・一〇旧一・一四外山豊二録) |
|
90 (1429) |
霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 02 エデンの渡 | 第二章エデンの渡〔三九五〕 松、竹、梅の三人の美人はエデンの渡し場に漸く辿り着きぬ。松代姫は五人の男に向ひ、豊な頬に紅の潮を漲らし、潤ひのある涼しき眼に緑の黒髪の乱れを繕ひながら、 松代姫『もし、貴方等はこのお里の方で御座いますか。何卒妾を向ふ岸へ渡して下さいませぬか』 甲『ヤ、天の川を下つて御出でなさつた棚機姫様で御座いますか。ハイハイ喜んでお供いたしませう。天の川のやうに深い事もありませぬ、又高いこともありませぬから、滅多に天へ落ちる筈はありませぬ、サアサ、天の棚機姫様御一同、私の宅へおいで下さいませ』 松代姫『イヤ、妾は天から来たのでは御座いませぬ。聖地エルサレムから一人の父を探ねて、ウヅの国へ参るもので御座います』 乙『アヽお前さまは矢張りさうすると人の子だなア。あまり美しいので天女の天降りか、棚機さまだらうかと、今も今とて五人の者が噂を致して居りました。アヽ一寸見れば年は二八か二九からぬ、十九か二十の花盛り、真実に惜しいものだね。そして今貴女は一人の父を探ねると仰有つたが、其お父さまと云ふのは何方様の事ですかい』 松代姫『ハイ、妾の父は聖地ヱルサレムの元の天使長でありました桃上彦命で御座います』 丙『ヤア何だい、極悪無道の桃上彦命の娘かい、何とまあ烏が鶴を生んだのか、鳶が鷹を生んだと云ふのか、世の中は変なものだなア。吾々の妹も桃上彦命の家来の奴に誘拐されて今に行衛も知れず、如何なつた事かと、毎日日日妹の在処を心にかけて忘れた遑はないのだ。思へば敵の端だ、ヤアもう今日は妙な心持になつて来た、何程綺麗な女でも敵の娘と聞けば、エー面黒くもない』 と黒い腕をヌツと出し、握り拳を三人の娘の前につき出しながら、 丙『ヤイ、貴様は神様だと思つて、チツトは俺等も面喰つて居た処だ。それに、そつちから吾と吾手に桃上彦の娘と名乗つた以上は、ヨモヤそれに相違はあるまい。サアかうなる以上は五人の荒くれ男に三人の孱弱い女だ。ジタバタしたつて、もうあかぬ。潔く俺らの女房となるか。嫌ぢやなどと貴様の白い首を横にでも振つて見よれ、この鉄拳が貴様の頭上にポカンと御見舞だぞ。サア返答はどうだ』 乙『ヤイヤイ、見れば見るほど美しい、惜しいものだ。いづれ貴様らも一篇は夫を持たねばなるまい、ドンナ男に添ふのも因縁だ。俺らの女房になる気はないか。ヤイ何、嫌と云ふのか、素直に首を縦に振つてアイと云はつしやい。お姫さま、之程恐く見えても矢張り男と女だ。女にかけたら涙脆いものだよ。一黒、二赤、三白といつて、黒い奴は味がよいものだ。どうだ、如何だい、返答聞かう』 松代姫『オホヽヽヽ、皆さま、こんな不束な女に対してお嬲りなさるのですか。冗談も良い加減にして下さいな。妾の父は貴方の仰有る通り悪い者で御座いましたか知りませぬが、妾には何の罪咎もない。幸ひ女の身の姉妹三人、旅は道伴れ世は情、世界に鬼はないと聞きました。何卒妾にそんな事仰有らずにこの河を渡して下さいませ』 丙『何卒妾にソンナ事仰有らずに渡して下さいませ、ソリヤ、何吐しよるのだ。此渡しを渡して下さいませ、なんて、此方が石のやうに硬く出れば綿のやうに柔かく出よつて、イヤモウ優しい面をして酢でも菎蒻でもゆく奴ではないワイ。オイ皆のもの、掛合ふも面倒臭い。此奴ら三人の奴をこの船に乗せて、河の真中に連れて退引きさせぬ談判をやるのだ。兎に角、船に乗せた上は此方のものだ。河の真中に船をとめてゆつくりと談判をやるに限る。女の一心、岩をも徹すと云ふが、男の一心は一口、半句もいはいでも徹すのだ。河の中へ伴れて行けば、変り易きは女の心、乗りかけた船だ、アヽア仕方がない、それなら貴方等の仰有る通りに致します。此エデンの河の様に、深くふかくかはいがつて下さいと仰有るのは目のあたりだ。淵瀬と変る人の行末、昨日や今日の飛鳥川、明日をも知れぬ生命だ、一寸さきは暗の世だ。たとへ一息の間でもコンナ綺麗な女と添ふ事が出来たら一生の光栄だ。イヤ三人のお方、船に乗つて下さい、乗せませう。その代りに、吾々ものせて貰はなならぬからな、宜しいかな。親切を尽して助け助けられ、世の中はまはり持ちだ。浮世の船に棹さして激しき河の瀬を渡るも何かの因縁だらう。此処は三途の川ぢやない、花は麗しく果物豊かな顕恩郷だ、イヤ貴女等も顕恩郷の花となつて睦じく暮すのだよ。さうなれば妹の仇も何も此エデンの河へサツパリ流れ勘定だ。流れ川で尻を洗つたやうにすつかり打ち解けて、清い清い水も洩らさぬ顕恩郷の恵みを楽しむのだな。売言葉に買ひ言葉、魚心あれば水心あり、斯う見えても真実に優しい男だよ。人には添うてみい、馬には跨つて見い、船には乗つて見いだ。さあ早く乗つたり乗つたり』 竹野姫はためらいながら、 竹野姫『姉さま、妹、如何致しませう。妾恐ろしいワ』 梅ケ香姫『姉さま、やめませうか、もう帰りませう、生れてからコンナ恐い目に遇つた事はありませぬ。アヽ誰ぞ助けに来て呉れるものはありますまいかね』 と梅ケ香姫は憂ひを浮べて涙を袖に拭ふ。 甲『さあ早く乗らぬかい、何を愚図々々してるのだ。乗せて呉れえと頼んだぢやないか。吾々は色々と評議をして、到頭お前たちを乗せてやることになつたのだ。人の親切を無にして乗らぬと云ふのか。この場になつて乗るの乗らぬのと、そんな馬鹿なことがあつたものかい、乗らぬなら乗らぬで宜い、男の一心いはいでも徹す、フン縛つてでも乗せてやるのだ』 と云ひながら五人の男は、今や三人の美人に向つて乱暴に及ばむとする。此時浅黄の被布に襷を綾取つた男、息せききつて此場に現はれ、 男(照彦)『ヤアヤア、待つた待つた、待てと申さば待つが宜からうぞ』 甲『ナヽヽ、ナヽヽ何邪魔をするのだ、唐変木奴が。九分九厘と云ふ処へやつて来よつて、待つも待たぬもあつたものかい、邪魔をひろぐと生命がないぞ』 一人の男はカラカラと打笑ひ、 男(照彦)『吾こそは地教の山に鎮まる大天狗だ。愚図々々吐すと、腕をむしり股を引裂き、エデンの河に投込んでやらうか』 一同は、 一同『何、その広言は後にせよ』 と、各自に拳骨を固めて四方より打つてかかるを、一人の男は縦横無尽に五人の間を駆廻り、襟髪とつてドツとばかりエデンの流れに向つて投げつけ、また来る奴を首筋掴んで、以前の如くドツとばかりに投り込む早業。残る三人は捻鉢巻をしながら又もや武者振りつくを、 男(照彦)『エイ面倒』 と足をあげてポンと蹴る途端に、ヨロヨロヨロとよろめき大地に大の字に倒れ伏す。残る二人は雲を霞と韋駄天走り……。松、竹、梅の三人は地獄で仏に会うたる心地して、一人の男の前に現はれ両手をつき、 松代姫『何処の方かは知りませぬが、危き処をお助け下さいまして……』 と云はむとすれば、男は大地に平伏して、 男(照彦)『イヤ勿体ない、お姫様、私は照彦で御座います。一足の事で大変で御座いました。九分九厘で神様がお助け下さつたのでせう。私も今日に限つて思はぬ力が出ました。これ全く国治立大神の御神徳の然らしむるところ、此処で一同揃うて神様に御礼を致しませう』 松代姫『アヽ、汝は照彦、ようまア、いい処へ来て呉れました。妾ら姉妹はお前に黙つて来て済まなかつたが、お前に旅の苦労をさすのが可愛さうだと思つて、姉妹三人牒し合せ、此処まで来るは来たものの、虎、狼、獅子、大蛇の荒び猛ぶ山の尾踏み越え、心淋しき折柄に、此渡し場にヤツト一息する間もなく、又もや荒くれ男の無理難題、進退谷まつた其の刹那、お前に会うたのは全く神様のお引合せ、何卒、父上の国まで送つて下さらぬか』 照彦は、 照彦『ハイ』 と答へて平伏する。二人の妹は嬉しさうに、 竹野姫、梅ケ香姫『アヽ、照彦、能う来て下さつた。サアサ一同、お祝詞を奏上げませう』 茲に四人の主従は路傍の芝生に端坐し、拍手をうつて天津祝詞を奏上し、神恩を感謝しぬ。 (大正一一・二・一二旧一・一六北村隆光録) |
|
91 (1449) |
霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 22 晩夏の風 | 第二二章晩夏の風〔四一五〕 珍山彦や松代姫の一行は埠頭に立ち、群集に向つて宣伝歌を歌ふ。熊公、虎公も後に整列して共に歌ふ。六人の歌ふ声は、アタルの港を科戸の風の塵を払ふ如き光景なりき。 六人『天と地とを造らしし尊き神の貴の子と 生れ出でたる民草は百姓と讃へられ 天と地との神々のこの世を開く神業を 喜び仕へ奉るべき主宰と生れ出づるなり 嗚呼諸人よ諸人よ天と地とに漲れる 裏と表との息を吸ひ生ける御神と現はれし その尊さに顧みて清く身魂を研き上げ 村雲四方に塞がれる暗きこの世を照らし行く 光りとなれよ和田の原潮の八百路のいと広く 光りも清き潮となり世人を清め朽ち果てし 身魂の腐りを締め固めすべてのものの味はひと なりて尽せよ神の子よ神が表に現はれて 千尋の海を乗り越えて潮照りわたる天津日の 光の如く世を照らせこの世を造りし神直日 心も広き大直日神の御稜威に照らされて 身の罪科も消えて行く人の命は朝露の 消ゆるが如く哀れなる果敢なきものと言騒ぐ ウラルの神の宣伝歌飲めよ騒げよ明日の日は 雨か嵐か雷電か一寸先は暗の夜と 醜の教に村肝の心を曇らせ身を破り 根底の国へ落ちて行く遁れぬ罪の種播くな ただ何事も人の世は直日に見直し聞直す 尊き神の御前に祈れよ祈れただ禱れ 祈りの道は天津国栄の門戸を開くなる 神の誠の鍵なるぞ祈れよ祈れただ祈れ 五六七の神は御恵みの御手を伸ばして待ち給ふ 厳の御魂の御力瑞の御魂の御名により この世を造りし国治立の神の命に真心を 捧げて祈れ夜も昼も心一つに祈れよや 誠の神の御眼隠れし処をみそなはす 花の祈りは効果なし隠れて祈れ誠の身 神と人とは睦び合ひ親しみ合ひていと清く 神を敬ひ敬はれ天地の御子と生れたる その本分をば尽すべし尽せよ尽せ神の為め 世人の為めや身の為めに誠をこめて天地に 祈れや祈れよく祈れ祈る心は神心 神に等しき心ぞや神に通へる心ぞや』 珍山彦のくの字に曲つた腰は、何時しか純直になつて、容貌、声音共に若々しく見ゆるぞ不思議なれ。珍山彦の二つの眼は何となく麗しく輝き始めたり。一行はアタルの港を後にして夏木の茂る市中を通り抜け、宣伝歌を歌ひながら、緑樹滴る美はしき玉山の麓に辿り着き、青芝の上に腰打ち掛けて息を休めて居る。虎公、熊公の二人は恐る恐るこの場に現はれ、大地にひれ伏し以前の罪を泣き詫ぶるに、松代姫は気も軽々しく、満面に溢るるばかり笑を湛へて、 松代姫『アヽ虎公様とやら、ようまあ改心して下さいました。今日は妾が宣伝使の初陣、貴方の御改心が出来なかつたならば、妾は最早宣伝使にはなれなかつたのです。嗚呼有難や、野立彦命、野立姫命、木の花姫命、日の出神様』 と合掌し、且つ感謝の祝詞を奏上し嬉し泣きに泣く。 珍山彦『オー感心々々、虎公さま、貴方は最早悪人ではありませぬ。悔い改めと祈りによつて、勝れた尊き神の御柱です。貴方も斯くして神の御恵みに救はれた以上は、御神徳の取り込みは許しませぬ。これから宣伝使となつてあらゆる艱難辛苦と戦ひ、世の人を三五教の教に救ひ、黄泉比良坂の御神業に奉仕して下さい』 虎公『私は改心致してから未だ時日が経ちませぬ、さうして三五教の教理の蘊奥は存じて居りませぬ。宣伝使となれとのお言葉は、吾々の如きものに取つては実に無上の光栄ですが、かやうな事で何うして尊き三五教の宣伝が出来ませうか。せめて二月三月あなた方のお供を許して頂き、色々の教理を体得したその上にて、宣伝使にお使ひ下さいますやうお願ひいたします』 珍山彦『イヤ神の道は入り易く、歩み易く、平地を歩く様なものだ。ただ心から誠を祈り悔い改めるのみだ。今までの罪悪、日々の行為を人の前に悔い改めて、神の救ひを蒙つたその来歴を教ゆれば、どんな身魂の曇つた人間でも、忽ち神の尊き事を覚つて神の道に従ひ、それに引換へ自分の事を棚に上げ、自慢話を列べ立てたりして、人の罪を審いたり罵つたりしてはなりませぬ。神に仕へる身は羊の如くおとなしく柔かく、湯の如き温情を以て総ての人に臨むのが、即ち宣伝使の第一の任務である。腹を立てな、偽るな、飾るな、誠の心を以て日々の己が身魂を顧み、恥づる、悔ゆる、畏る、覚るの御規則を忘れぬやうにすれば、それが立派な神の道の宣伝使である。六ケ敷い小理屈は言ふに及ばぬ、ただ祈ればよいのである。貴方は是より吾らと袂を別ち、カルとヒルとの国境に聳え立つ高照山の谷間に到つて禊をなし、その上カルの国を宣伝なされ、吾らは是にて御別れ申す』 と珍山彦は三人の娘と共に宣伝歌を歌ひながら北へ北へと進み行く。虎公、熊公二人はその影の隠るるまで両手を合はせて伏し拝み、神恩の厚きに感じてや、わつとばかりにその場に泣き伏しにけり。 青葉を渡る晩夏の風は、口笛を吹きながら二人の頭上を撫でつつ通ふ。 (大正一一・二・一五旧一・一九大賀亀太郎録) |
|
92 (1454) |
霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 27 月光照梅 | 第二七章月光照梅〔四二〇〕 夜を日についでひるの国虎伏す野辺や獅子大蛇 曲津の声に送られて大川小川を打渡り やつれ果てたる蓑笠の身装も軽きカルの国 花の蕾の梅ケ香姫の君の命はただ一人 女心の淋し気に神を力に誠を杖に 草鞋脚絆のいでたちは実に勇ましの限りなり 梅ケ香薫る春の日も何時しか過ぎて新緑の 滴る山野は冬の空嵐の風に吹かれつつ 秋の紅葉も散りはててふみも習はぬ常世国を 行き疲れたる雪の道太平洋の波高く 大西洋に包まれし高砂島と常世国 陸地と陸地、海と海つなぐはざまの地峡国 梅ケ香姫はやうやうにはざまの森に着きにけり。 木枯の風は雪さへ交へて、獅子の吼るやうに唸り立つてゐる。太平洋の波を照らして、十六夜の月は海面に姿を現はしたり。梅ケ香姫は只一人、浪を分けて昇る月影に向つて、 梅ケ香姫『あゝ今日は十六夜のお月さま、何時見ても美はしい御顔。妾も同じ十六歳の女の一人旅、変れば変る世の中ぢやなア。想ひ廻せば、時は弥生の三月三日、花の都と聞えたる聖地ヱルサレムを主従四人立出でて、踏みも習はぬ旅枕、千万の艱みを凌ぎしのぎて遠き海原を渡り、神の恵みの有難くも恋しき父に廻り会ひ、親子の対面、やれやれと喜ぶ間もなく妾姉妹は、神様のため、世人のために尊き宣伝使となつて、又もや山坂を越え荒海を渡り、あらゆる艱難と戦ひ、ここに力と頼む主従四人は、珍山彦の神の誡めに依つて東西南北に袂を別ち、四鳥の悲しみ、釣魚の涙、乾く間もなき五月の空、珍の都を後にして、便りも夏の荒野を渉り、秋も何時しか暮果てて、はやくも冬の初めとなつたるか。神のため、世のためとは言ひながら、さてもさても淋しいこと、神様を力に誠を杖に、やうやう此処まで来るは来たものの、もう一歩も進まれぬ。疲労れ果てたるこの身体、あゝ何とせむ』 と袖に涙を拭ふ折しも、前方より二三の老若この場に現はれ、 甲『オイオイあのはざまの森蔭を見よ、出たぞ出たぞ』 乙『何が出たのだ』 甲『出たの出んのつて、それ霊ぢや霊ぢや』 乙『霊とはなんだい』 甲『今夜のやうな風の吹く晩には、得てして出る奴ぢや。蒼白い痩せた面をして眼をギロツと剥いて、髪をさんばらに垂らしてお出る御方だ。霊は霊ぢやが、霊の上に幽がつくのだよ。それ見い、木枯がヒユウヒユウと呻つてゐる。オツツケ其処らからドロドロだ』 丙『何を威嚇しよるのだ。幽霊も何もあつたものか。何ぢや貴様達は、ビリビリ慄ひよつて、声まで怪しいぢやないか』 甲『慄ふとるのぢやないワイ。何だか身体が細かく動いとるのぢや』 丙『何は兎もあれ、何だか独語を言つてゐるやうだ。そつと行つて偵察をして見やうかい』 甲『貴様、先へ行け』 丙『ハハア恐いのだな。気の弱い奴ぢや、そんな事で吾々の探偵が勤まるか。鷹取別の神さまより、三五教の女宣伝使がはざまの国を渡つて常世の国へ行くと云ふことだから、女宣伝使を見つけたらふん縛つて連れて来いと云つて、吾々は結構なお手当を頂いて夜昼かうして廻つて居るのぢやないか。若も彼んな奴が、その中の一人ででもあつて見よ、吾々は結構な御褒美をドツサリ頂戴して、親子が一生遊んで暮さるるのだ。恐い処へ行かねば熟柿は食へぬぞ、虎穴に入らずむば虎児を獲ずだ。一つ肝玉を出して、貴様から先へ偵察をして来い』 甲『アヽそれもさうだが、何だか気味が悪いな。ヤーそれなら三人手を繋いで、一緒に行かうかい。宣伝使と云ふ事が判れば、別に恐い事も何ともありやしないワ。一人の女に三人の男だ。磐石を以て卵を破るよりも易い仕事だ。併しながら幽の字と霊の字であつたら貴様はどうするか』 乙『幽霊でも何でも三人居れば大丈夫だ。しつかり手を繋いで行つて見ようかい』 と甲乙丙は、梅ケ香姫の休息する森蔭に現はれ来り、 甲『ヤイ、その方は何者ぢや。生あるものか、生なきものか、ユヽヽヽ幽霊か、バヽヽ化物か』 乙『セヽヽヽ宣伝使か、宣伝使なれば鷹取別の神様に……』 丙『シツ、何を云ふのだ。馬鹿な奴だな。モシモシお女中、一寸物をお訊ね致します。貴女は吾々の信ずる尊き有難き三五教の宣伝使で御座いませう。何卒ハツキリと御名告り下さいませ』 木枯の風はヒユウヒユウと吹き捲つてゐる。浪の音はドンドンと響いて来た。梅ケ香姫は雪のやうな白き、細き手をぬつと前に出し、 梅ケ香姫『あゝ怨めしやな、妾は嶮しき山坂を越え……』 甲乙丙『ヤア、這奴はたまらぬ。矢張り霊ぢや霊ぢや、霊の上に幽の附く代物だよ。遁げろい遁げろい』 と尻をひつからげ雲を霞と遁げ去つたり。梅ケ香姫は、悄然として独言。 梅ケ香姫『水も洩らさぬ悪神の仕組、鷹取別は妾姉妹の行方を探ね苦しめむと企つると聞く。繊弱き女の一人旅、アヽせめて照彦でも居て呉れたならば、こんな時には力になつて呉れるであらうに、アー、イヤイヤ師匠を杖につくな、人を力にするな。神は汝と倶にありとの三五教の教、アヽ迷ひぬるか、女心のあさましさよ。たとへ如何なる強き敵の現はれ来るとも、誠一つの言霊の力に、百千万の曲津見を言向け和さねばならぬ神の使だ。アヽ神様許して下さいませ』 と大地に平伏し、木の間洩る月に向つて、声低に感謝の祝詞を奏上する折しも、最前現はれし三人の中の一人、丙は突然としてこの場に現はれ、 丙(春山彦)『ヤア貴女は三五教の宣伝使、昔はヱルサレムの天使長桃上彦命の御娘と承はつて居りました。ここは鷹取別の神の警戒激しく、貴女様三人の御姉妹を召捕るべく四方八方に探女を遣はし、蜘蛛の巣の如き警戒網を張つて居ります。私も実はその役人の一人、今三人連れで様子を窺へば、まさしく宣伝使の一人と悟つた故、二人の同役を威喝して、まき散らして私は忍んで参りました。私の家は実にむさ苦しい荒屋で御座いまするが、暫らく警戒の弛むまで、わが家にお忍び下さいますれば有難う御座います。この国はウラル彦の教の盛んな所で、三五教のアの字を言つても、酷い成敗に遇はねばならぬ危い所でございます。私も元はウラル教を信じて居りましたが、貴女様一行がてるの国からアタルの港へお渡りになるその船の中に於て、三五教の尊き教理を知り、心私かに信仰致して居りますもの、私の妻も熱心なる三五教の信者でございます。かういふ処に長居は恐れ、又もや探偵の眼にとまれば一大事、どうぞ一時も早く、私の家へ御越し下さいませぬか』 梅ケ香姫『アヽ世界に鬼はない、御親切は有難う御座います。併しながら何事も惟神に任したこの身、たとへ鷹取別の前に曳き出され、嬲殺しに遇はうとも、苟くも宣伝使たる身を以て、人の情にほだされて、たとへ三日でも五日でも空しく月日が過されませうか。神を力に誠を杖に、飽くまでも宣伝歌を唱へて行く処まで参ります。また貴方様に捕へられて、鷹取別の面前に曳出さるるとも、これも何かの神様のお仕組、御親切は有難うございますが、貴方の家へ忍び隠るることだけは許して下さいませ』 丙(春山彦)『イヤ如何にも感じ入りたるお言葉、理義明白なる仰せには、返す言葉もございませぬ。併しながら、袖振り合ふも多生の縁、これも何かの神様のお引合せでございませう。アヽ然らば私の家へ隠れ忍ぶと云ふ事はなさらずに、何卒一晩私の家へ御出で下さいまして、女房に尊き三五教の教を聴かしてやつて下さいますれば有難うございます』 梅ケ香姫『アヽ然らば不束ながら神様の教を伝へさして頂きませう』 丙(春山彦)『早速の御承知、有難う御座います』 と先に立つて行く。又もや後の方に当つて、騒がしき人声聞え来る。 見れば、鷹取別の紋の入つた提燈の光が木蔭に揺らぎつつ、足早に此方に向ひ来たる模様なり。 (大正一一・二・一六旧一・二〇外山豊二録) |
|
93 (1457) |
霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 30 救の神 | 第三〇章救の神〔四二三〕 春山彦、夏姫を始め、松、竹、梅の宣伝使、並に月、雪、花の姉妹はこの場の不思議に合点ゆかず、夢かとばかり驚喜の念に駆られゐる。夏姫は漸くに口を開き、 夏姫『実に尊き有難き神様の御恵、誠と誠が天地に通じて、神様の尊きお救ひに預かつたので御座いませう。日頃信ずる野立彦、野立姫、木花姫の御身代り、思へば思へば有難し、勿体なし三五教の御教』 春山彦『オー、女房、解つたか。娘でさへも、父の心を酌み取つて、宣伝使様のお身代りに立たうと言ふ健気な心を有つて居るに、汝はまた何とした未練な心であつたか。夫が女房に手を合はして、どうぞ娘を身代りに立てて呉れと頼んだ時、其方は一言の返辞もせなかつたであらう。腹を痛めて藁の上から育て上げた、天にも地にも懸がへのない三人の娘を、身代りに立てるのであるから、そなたが一遍に、ウンと言はぬのも強ち無理ではない。お前は信仰が徹底してゐないのだ。信仰の力は山をも動かすとかや。斯くのごとき結構な霊験の現はれたるも、まつたく松、竹、梅の宣伝使様の御神徳と御盛運の強いのは申すに及ばず、吾々親子の天地に通じた真心を皇大神は憐み給ひ、救うて下さつたのであらう。アヽ、有難や忝けなや』 と又もや嬉し涙をしぼる。 松、竹、梅の宣伝使、月、雪、花の三人の娘は、夫婦二人を労はりながら、改めて宣伝歌を歌ひ神言を奏上する折しも、門戸を叩く者あり。春山彦は僕にも言付けず、自ら起つて表門に駆け行き、戸を開くや否や、ヌツと入り来る一人の男、見れば今三人の宣伝使を伴れ帰つた竹山彦なるにぞ、春山彦はハツと驚き、一つ免れてまた一つ、折角助かつて、ヤレ嬉しやと思ふ間もなく、竹山彦のあとへ引返して、これに来りしは、途中に於て身代りを悟り、再び来りしならむ。吾家に入れては一大事と、物をも言はず猿臂を延して首筋をグツと掴み、大地へ撃ち倒し、一刀の柄に手をかけて、頭上より真ツ二つにせむと、真向に振り翳すを、竹山彦は大地に倒れながら悠々迫らず、 竹山彦『春山彦、心を落着けられよ。これには深い仔細がある。吾が申す事を一通り聞いて疑ひを晴されよ』 と起き直つて、門口の閾を跨げようとする。跨げさしては大変と、春山彦は、 春山彦『主人の許しなくして、たとへ荒屋なりとも、勝手気儘に吾家の閾を跨ぐるとは無礼千万、思ひ知れよ』 とまたもや斬つてかかるを、竹山彦はヒラリと体を躱したまま、ツカツカと座敷へ進み入る。夏姫を始め六人の娘は、竹山彦の再び現はれしに驚き、夢に夢見る心地し、呆然として顔を凝視ゐる。春山彦は、両刃の剣を抜き翳し、座敷に上り、 春山彦『ヤア、悪逆無道の鷹取別に組する悪魔の張本竹山彦、この春山彦が正義の刃喰つて見よ』 と、又もや斬り付くるを、竹山彦は利腕を確乎と握り、 竹山彦『アハヽヽヽ、春山彦、心を落着けられよ。吾こそは、大江山に現はれたる鬼武彦の化身にして、竹山彦とは仮の名、松、竹、梅の三人の宣伝使を救はむがために、竹山彦命と偽つて、悪神鷹取別の部下となり、今日あるを前知して、吾部下の白狐、高倉、旭、月日の眷属神を使ひ、身代りを立てたは狐の七化、もうかうなる上は大磐石、何方も御安心なされよ』 と一部始終を物語れば、春山彦夫婦を始め六人の娘は、一度に思はず手を拍つて神徳を讃美し、鬼武彦に向ひて感謝の意を表しける。 これより、松、竹、梅の三人は、鬼武彦に護られて目の国に渡り、追々進んでロッキー山に登り、再び船に乗り黄泉島に無事安着し、黄泉比良坂の神業に参加しぬ。 (大正一一・二・一六旧一・二〇河津雄録) |
|
94 (1458) |
霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 31 七人の女 | 第三一章七人の女〔四二四〕 海の内外の分ちなく神の御稜威は照り渡る 常世の浪を隔てたる北と南の大陸の 荒ぶる浪も高砂や間の国の神の森 花咲き匂ふ春山の郷の司の春山彦 心の花も麗しく梅か桜か桃の花 野山も笑ふ春姫のあやどる野辺の若緑 栄えさかえて五月空暗も晴れ行く夏姫の 心の空に照る月は光眩く澄み渡り 秋月姫の真心は紅葉の錦織る如く 東の海を分け昇る月の姿も西の空 空つく山の頂に光も深雪のきらきらと 輝きわたる深雪姫冷酷無惨の世の中に 春の花咲き夏山の緑滴る夫婦が情 神の教もたちばなや非時薫る橘姫 親子五人の真心はいづの身魂の世を救ふ 神の心と知られけりミロクの御代を松代姫 常世の空を晴らさむと春夏秋の露霜を 凌ぐ心の竹笹や風に揉まるるなよ草の 撓むばかりの竹野姫霜の剣や雪の衣 冷たき風に揉まれつつ心の色の永久に 万の花に魁けて咲も匂へる梅ケ香姫の 真心こそは香ばしき花の蕾ぞ麗しき 神の守りの顕著く大江山に現はれし 鬼武彦の御従神神の御稜威も高倉や 空照り渡る白狐の旭月日も共に変身の その働きぞ健気なれ。 鬼武彦は立ち上り、座敷の中央にどつかと坐し、 鬼武彦『さしもに清き癸の、亥の月今日の十六夜の月は早西山に傾きたれば、四更を告ぐる鶏鳴に、東の空は陽気立ち、光もつよき旭狐の空高倉と昇るらむ。月日の駒の関もなく、大江山を出でしより、東や西や北南、世界隈なく世を照らす、日出神の御指揮、常世の国に渡り来て、千変万化に身を窶し、神の経綸に仕へたる、吾は卑しき白狐神、数多の眷属引き連れて、神の大道を守る折、心驕れる鷹取別の、曲の企みを覆へさむと、朝な夕なに心を砕き、旭、高倉、月日と共に、三五教を守護せし、鬼をも摧ぐ鬼武彦が、心を察したまはれかし。八岐の大蛇に呪はれし、大国彦の曲業は、比類まれなる悪逆無道、鷹取別や遠山別、中依別の三柱神は、姫の命を捕へむと、四方八方に眼を配り、醜女探女を数限りもなく配り備ふるその危さ、手段をもつて鷹取別が臣下となり、竹山彦と佯はつて甘く執り入り、常世神王の覚も目出度く、今日の務を仰せつけられしは、天の恵の普き兆、善を助け悪を亡す、誠の神の経綸、ハヽア嬉しやうれしや勿体なや。さはさりながら御一同の方々、必ず共に御油断あるな、一つ叶へばまた一つ、欲に限りなき、体主霊従の邪神の魂胆、隙行く駒のいつかまた、隙を狙つて、三人の月雪花の御娘御を、奪ひ帰るもはかられず、只何事も神直日、大直日の神の御恵みによつて、降り来る大難を、尊き神の神言にはらひ退け、朝な夕な神に心を任せたまへ、暁告ぐる鶏の声、時後れては一大事、吾はこれよりこの場を立去り、鷹取別の館に参らむ。いづれもさらば』 と云ふかと見れば姿は消えて、何処へ行きしか白煙、夢幻となりにけり。 合点の行かぬこの場の有様、春山彦を始めとし、花にも擬ふ七人は、茫然として暫し言葉もなかりしが、春山彦は立ち上り、天を拝し地を拝し、 春山彦『あゝ有難や尊やな、親子夫婦が真心を、神も照覧ましませしか』 と、涙と共に宣伝歌、いと淑やかに歌ひ始むる。七人の女も口を揃へて、 一同『神が表に現はれて善と悪とを立別る この世を造りし神直日心も広き大直日 ただ何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ 世の曲事は宣り直せ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるともたとへ大地は沈むとも 誠の神は世を救ふ誠の神は世を救ふ』 と歌ひながら拍手する声は天地も揺ぐばかりなり。松代姫は立ち上り、 松代姫『天と地とは睦び合ひ四方の民草神風に 靡き伏す世を松代姫ミロクの神の現はれて 親子五人のいつ御魂松竹梅のみつ御魂 三五の月も空高く輝き渡る麻柱の 神の教を伝へむと高砂島を後に見て 常世の国の空寒くカルの都に差しかかる 神の使の宣伝使冷たき風に曝されて 間の国にさしかかる雨か涙か松の露 露のこの身を神国に捧げて間の国境 来る折しも鷹取別の猛き力に小雀の かよわき女の一人旅尾羽打枯らす手弱女を 捕へ行かむとする時に空を焦して降り来る 唐紅の火柱に打たれて逃ぐる曲津見の 消え行く後に唯一人疲れしこの身を横たへて 心私かに宣伝歌歌ふ折しも春山彦の 神の命に救はれて堅磐常磐の巌窟に 来りて見れば懐かしき竹野の姫のすくすくと 笑顔に迎へし嬉しさよ世人の心冷え渡る 中にも目出度き夏姫の日に夜に厚き御仁慈 神の恵のいや深く神の御稜威はいや高く 輝く月雪花の御子春山彦や夏姫の 御恩はいつか忘るべき心はいつか忘るべき 嗚呼有難や麻柱の教を立てし皇神の 御稜威は千代に栄ゆべし功は四方に開くべし』 と感謝の歌を詠みて、元の座に復しける。 屋外には、天空を轟き渡る天の磐船、鳥船の音、天地を圧し、木枯の風は唸りを立てて雨戸を叩くぞ淋しけれ。 (大正一一・二・一七旧一・二一加藤明子録) |
|
95 (1459) |
霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 32 一絃琴 | 第三二章一絃琴〔四二五〕 空に轟く磐船の響きは何時か消え失せて 冬樹を渡る木枯の声も寂しく聞ゆなる 冬の初めとなりぬれど春めき渡る春山彦の 神の屋敷に神寿の言霊清き一絃琴 天地に通ずる一条のその声清き琴糸の 捌の音色もサヤサヤに五臓六腑を洗ふなり 折りから門前に佇む男片手を耳にあてながら 木枯荒ぶ初冬の峰の嵐か松風か 訪ぬる人の琴の音か心の駒山彦の神 とどめて聴くも縁の端心に通ふ琴の音は 常磐の松の松代姫思ひの竹野著く 戸外に響く床しさよ一度に開く梅ケ香姫の 貴の命の御すさび何処とはなしに潤ひの 声をしるべに独言。 駒山彦『合点のゆかぬこの館の様子、梅ケ香姫の日頃奏でさせ給ふ一絃琴のその音色、様子ありげな春山彦のこの館、進み入つて事の実否を探らむと、心の駒は逸れども、人目の垣に隔てられ、何とせむ方冬の日の、心短き門番に怒鳴りつけられ、追つ払はれなば如何にせむ。虫が知らすか何となく、立ち去り兼ねしこの門口、神の誠の教を以て叩かば開く胸の裡、叩いて見むか待て暫し、ここは春山の郷の司、ウラル彦の教を奉ずる曲神の住所、言向け和すは易けれど、大事の前の一小事、くだらぬ事に暇をとり大切なる吾が使命を仕損じなば、天地の神に対し奉り、何と言訳あるべきぞ。嗚呼恨めしやウラル彦、開けて入らうか、開けずに居らうか、開けて口惜しき玉手箱』 魂の御柱搗き固め、心の駒に鞭うちて、思ひきつたる大音声。 駒山彦『三五教の宣伝使駒山彦とは吾事なり。悪逆無道の鷹取別が魔神に組する春山彦、この門開け』 と右手に拳を固めつつ、割れむ許りに門の扉を打叩く。声に驚き松代姫は、何となく聞き覚えある門の声、 松代姫『竹野姫、梅ケ香姫、そなたは御苦労ながら門口に出で、いかなる人か、調べて給も』 竹野姫、梅ケ香姫『ハイ』 と答へて両人は徐々と起つて門の口。 竹野姫『何方なれば門戸を叩きたまふぞ。何となく床しき、聞き覚えのある御声、名告らせたまへ』 と声かくれば、駒山彦は門外より、 駒山彦『ヤアさう聞く声は竹野姫殿、梅ケ香姫殿、吾こそは智利の国にて別れたる駒山彦の宣伝使にて候。三五教の宣伝使たる身を以て、而も御二方様、悪逆無道の鷹取別が幕下の春山彦、ウラル教を奉ずる曲神の館に忍ばせ給ふは何故ぞ。これには深き様子もあらむ、委細包まず述べられたし』 竹野姫『これには深き仔細のござれば、先づまづお這入り下さいませ』 と門の閂をとり外し、左右に開いて現はれ出で、駒山彦の手をとつて奥へ奥へと進み行く。二人の娘は手を支へ、 竹野姫、梅ケ香姫『アヽこれはこれは駒山彦の宣伝使様、魔神の猛る荒野原、さぞお困りでございませう。先づまづお這入り下さいませ』 と門の戸ガラリと押し開く。駒山彦は、 駒山彦『然らば御免』 と言ひつつズツと座敷に通れば、思ひがけなき松代姫、春山彦が家内の各々、皇大神の御前に山野河海の供物を献じ、神を慰むる真最中、駒山彦は不審の面色にて、 駒山彦『思ひ掛なき松代姫殿、この家の御主人春山彦殿、貴下はウラル教を奉じ鷹取別に媚び諛ふ春山の、郷の司と聞きしに拘はらず、神前恭しく三五教の奉ずる皇大神を祀り、神慮を慰め居給ふこの場の光景、合点ゆかず、包み隠さず委細物語られたし』 と迫るにぞ、松代姫は、 松代姫『貴神は駒山彦殿、一別以来何の消息もなく、雨、風、霜の憂き節に、心にかかる汝が身の上、ようマア無事に居て下さいました。妾姉妹三人は、実に愧かしき事ながら、鷹取別の計略にかかり、一命すでに危き処、情も深き春山彦の夫婦の神に助けられ、今やこの場を立ち去らむとするきはどい処、貴神にお目に懸つたのも測り知られぬ神様の御思召、どうぞ御夫婦に、妾に代つて厚く御礼申して下さい』 駒山彦『久振りの対面と云ひ、春山彦の帰順と云ひ、案に相違の神様の御引き合はせ。アヽこれは御夫婦様、よくもよくも御親切に御世話下さいました、有難う存じます』 と、遉剛毅の駒山彦も嬉し涙の袖をしぼる。 春山彦は初めて口を開き、 春山彦『神の造りしこの国は、恵みの花のパラダイス、何処の空にも神柱、太敷く立てて守ります、その御柱と選ばれし、春山彦が親子夫婦の嬉しさ。御礼は却つて恐れ入る、幾久しくも変りなく、吾らの心を護らせ給へ、四柱の宣伝使殿』 妻夏姫を始めとし月、雪、花の三人は紅葉の如き手を合はせ、嬉し涙にかきくれて駒山彦の英姿をば伏拝むこそ殊勝なれ。嬉し涙に掻曇る、心の空を霽さむと、駒山彦は衝立ち上り、 駒山彦『雪に輝く高白の山に攻め来る御軍の 言霊別の司をば撃つて捨てむと常世彦 常世の姫の仰せにて数多の神軍引率し 攻むる折しも大空を轟き来る磐船や 鳥船よりは投げ下す激しき弾に砕かれて 何かは堪らむ玉の緒の生命消えなむ折柄に この世を救ふ皇神の情の網に掬はれて 惜き生命をながらへつ三笠の丸の船中に 光り輝く朝日子の日の出神に助けられ この世を救ふ宣伝使羽山津見の神となり 深山の奥に捨てられて心も闇き谷底の 百日百夜の苦しみを凌ぎて此処に村肝の 心も智利の国を越え足に任せて秘露の国 夜の旅路を重ねつつ千座の罪もカルの空 北へ北へと進み来るハザマの森を乗り越えて 松竹梅の宣伝使如何ならむと煩ひつ 縁の糸に操られ冬とは言へど春山の 館に立ちて門内の様子窺ふ折柄に 耳に馴染の一絃琴その言霊も澄み渡り 琴の音色も清々と縋る思ひの門の口 佇む折柄竹野姫梅ケ香姫の御姿 思ひもかけぬ今日の日の神の許しのこの対面 春山彦よ夏姫よ月雪花の三娘よ 栄え久しき松の代を松竹梅の永久に 教も開く神の前嬉しし嬉し喜ばし 御恵み深き野立彦野立の姫や木の花姫の 神の命の御高恩遥に感謝し奉る』 と始め終りの物語、勇みに勇む駒山彦のその顔、他所の見る目も勇ましき。 (大正一一・二・一七旧一・二一北村隆光録) |
|
96 (1460) |
霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 33 栗毛の駒 | 第三三章栗毛の駒〔四二六〕 夫、娘や諸人の、信仰強き真心に、恥ぢ入り言葉も夏姫は、あからむ顔に紅の、袖に涙を拭ひつつ、 夏姫『あゝあさましの吾心神の造りし神直日 心も広き大直日教の道に真心を 朝な夕なに籠め給ふ春山彦の夫神や 月雪花の可憐し子の神の大道に身を委ね 心を尽くし麻柱の誠捧ぐる心根の その健気さに引換へて母と生れし夏姫の 心の空は紫陽花の色も褪せたる恥かしさ 日に夜に祈る神言の清き尊き御教を 臨終の際に忘れ果て女心のはしたなく 思ひ切られぬ愛惜心絆の糸に繋がれて 解くに解かれぬ心の迷ひ言ふに言はれぬ縺れ髪 奇しき御稜威の隈もなく照らさせ給ふ神の前 あゝ恥かしや面目なや神の御為め国の為め 世人のためになるならばたとへ夫婦は生別れ 可憐しき娘の玉の緒の絶えなむ憂きを見るとても 千引の岩の永久に揺がぬ身魂となさしめ給へ 弱き女の心根を笑はせ給はず諸人よ 春山彦よ月雪花の吾娘拙き母と笑うては下さるな 焼野の雉子夜の鶴子の可愛さに絆されて 歩み迷ひし心の闇あゝ恥かしや恥かしや 松竹梅の宣伝使見下げ果てたる夏姫と 笑はせ給はず幾千代も吾身の魂を照させ給へ』 と、慚愧の涙一時に、滝津瀬のごと降る雨の、袖ふり当てて泣き沈む。 この場の憂を晴らさむと、御稜威も開く梅ケ香の、姫の命の宣伝使、声淑かに、 梅ケ香姫『あゝ勿体なや夏姫様生みの母にも弥勝る 厚き尊き御志何時の世にかは忘れませうぞ 春待ち兼ねて咲き匂ふ花の蕾の梅ケ香姫 げにあたたかき春山彦の神の命の御情 木枯そよぐ冬の宵妾を助け労りて 心も堅き岩屋戸に姉妹三人助けられ 何の不足も夏姫の命の厚き御待遇し 神の恵みも高砂の尾の上の松に木枯の 当りて冷たき人の世に五六七の神の松心 堅磐常磐に松代姫心も清き秋月の 姫の命の志繊弱き竹野姉君を 助けむ為めに雪より清き神心愛の女神の深雪姫 親子団居の睦まじき六つの花散る初冬の 空に彷徨ひ道の辺に橘姫のそれならで 旅に労れし梅ケ香姫天教山にあれませる 木の花姫の御恵み黄金山に現はれし 埴安彦や埴安姫の命の生魂かからせ給ふ 春山彦の御情五十六億七千万年 五六七の御代の果てしなく御夫婦親子の御情 どうしてどうして忘れませう真心深き夏姫様 何卒妾に心を配らせ給はず三五教を守ります 神の御教に従ひて玉の緒の御命を 堅磐常磐に保たせ給ひ親子夫婦は睦まじく 日に夜に感謝の暮しを続かせ給へ妾は繊弱き宣伝使なれど 山海の御恩を報ずるため朝な夕なに御無事を祈り奉らむ 心も安くましませや』 と声も優しく述べ立つる。斯かる処へ、門前騒がしく村人の声、 村人『申し上げます、只今間の森に強力無双の三五教の宣伝使現はれ、盛んに宣伝歌を歌ひ始めました。吾々村人は前後左右より十重二十重に取り巻いて生捕り呉れむと思へども、眼光鋭く何となく、威勢に打たれて進み寄ることが出来ませぬ。何卒々々春山彦の命様、御出馬あつて彼の宣伝使を召し捕り給へ』 と門口より呼ばはるにぞ、春山彦を始め一同は思はず顔を見合せ、暫時思案に暮れけるが、春山彦は立ち上り、表に聞ゆる大音声にて、 春山彦『常世神王の御家来、鷹取別の治し召す、間の国に参来り、三五教の宣伝歌うたふとは心憎き宣伝使、今打ち取らむ。者共先へ帰つて弓矢の用意いたせ、ヤア家来共、駒の用意』 と呼ばはりたり。数多の村人はこの声にやつと胸撫で下し、間の森に一目散に走り行く。春山彦は一同に向ひ、 春山彦『何事も、吾々が胸中に御座いますれば、何れも様は御安心の上、ゆつくり休息遊ばされよ』 と言ひ捨て、栗毛の駒に跨り、手綱かいくり、しとしとしとと表を指して進み行く。 (大正一一・二・一七旧一・二一大賀亀太郎録) |
|
97 (1467) |
霊界物語 | 10_酉_黄泉比良坂の戦い | 序歌 | 序歌 神体詩 (一) 我日の本は神の国天地の神の守護厚く 国運隆々天津日の御空に昇ります如く 開国茲に五十年宇内列強の班に伍し 日清日露の大戦に遭遇したるも日の御子の 神勇不撓の御英断天地神明の御稜威に 敵を排除し帰順はせ国家の進運日に月に 皇威国勢弥振ふ聖の御代の尊さよ。 (二) 斯の神国の民草は無限の神助皇恩を 感謝しまつり責任の重大なるを覚悟して 兵力平和の戦ひに優勝ならむ事を期し 猶又思想新旧の霊的戦争に打勝ちて 天壌無窮の神国を赤誠籠めて守るべし 皇祖皇宗の御神勅大本神の御神諭を 遵守し奉り人格を高めて更に神格も 進め神威を顕彰し神洲国土を平安に 守りて子孫に至るまで常世の暗の世界をば 修理固成る天職と神の御子たる使命をば 直霊の御魂に反省し赤誠籠めて祈るべし。 (三) 豊栄昇る旭日影東の空に輝きて 万邦光りを仰ぐなる日出づる国の日の本は 神の初めて造らしし珍の神国美し国 神代よりして青雲の棚引く極み白雲の 墜居向伏し塩沫の致り留まる其の限り 狭けき国は弥広く嶮しき国は平けく 遠けき国は八十綱を打懸け結び引寄せて 我皇室の御稜威を仰ぎ敬まひ大君の 仁慈に靡き服ひて赤子の慈母を慕ふ如 八十島国の果までも漏れ遺つるなく安国と 知食します御天職発揮し給ふ尊さよ 東洋文明を代表し西洋文明を調和して 更に世界の文明を醇化し美化し人類の 真の平和を促進し人道完美の瑞祥を 図るは神国の神民の天職使命と覚悟して 神の教を克く守り国の光を輝かせ。 |
|
98 (1502) |
霊界物語 | 10_酉_黄泉比良坂の戦い | 32 土竜 | 第三二章土竜〔四六二〕 海月なす漂ふ国を真細さに固め成したる伊邪那岐の 皇大神は日の国の元津御座に帰りまし 神伊邪那美の大神は月の御国に帰りまし 速須佐之男の大神は大海原の主宰神と定め給ひて 伊都能売の神の霊の木之花姫日の出神に現界、幽界、神の界を 守らせ給ひ天地は良く治まりて日月は 清く照り渡り風爽かに雨の順序も程々に 栄えミロクの御代となり天津神等八百万 国津神等八百万百の民草千万の 草木獣に至るまで恵みの露に潤ひて 歓ぎ喜ぶ其声は高天原に鳴り響く 芽出度き神世となりにけり黄泉軍の戦争に 八十の曲津は消え失せて此世を造りし神直日 心も広き大直日直日に見直し聞き直し 互に睦み親しみて天の下には争闘も 疾病も老も死も無くて治まりけるも束の間の 隙行く駒の此処彼処荒振る神の曲津見は 八岐大蛇や醜の鬼醜の狐の曲業の おこり来りて千早振る神の御国を撹き乱し 世人の心漸くにあらぬ方にと傾きて 乱れ騒ぐぞ由々しけれ恵みも深き皇神の 誠の光に照らされて常世の国の自在天 大国彦や大国姫の命は畏くも魂の真柱樹て直し 任のまにまに黄泉国常世の国に留まりて 四方の神人守れども常世の彦や常世姫 神の末裔なるウラル彦ウラルの姫は懲りずまに 盤古神王と詐りてウラルの山の麓なる アーメニヤの野に都を構へ探女醜女と諸々の 八十の曲津を引寄せて又もや此世を乱し行くこそ是非なけれ。 闇を照す東雲別の宣伝使、東彦は石凝姥神となつて、アルタイ山の麓の原野に進み行く。ここには可なり大きな川が流れて居る。之を宇智川と謂ふ。此川を渡るもの、百人の中ほとんど九十九人まで生命をとらるるので、一名死の川又は魔の川と称へて居る。石凝姥神はアーメニヤに宣伝を試みむとし、アルタイ山を越え、クスの原野を渉り、アカシの湖、ビワの海を渡つてコーカス山の南麓を通り、アーメニヤに行かむと行を急ぎける。 石凝姥神は漸う此魔の川の辺に着いた。橋も無ければ舟も無い。加ふるに濁流が漲つて居る。偶上流より巨大なる材木が続々として流れ来り、川に横たはり、自然に浮橋が出来た。この時四五の男は川辺に立ち此光景を眺めて話に耽り居たり。 甲『此川は何時も泥水が流れ通しで、向ふへ渡らうと思へば誰も彼も川の真中で皆生命をとられて仕舞ふのだが、今日は又珍らしい材木が沢山に流れて来よつて、自然の橋が出来たがどうだらう。吾々も三年前にあの橋が出来て、こちらに良い果物があるのを幸ひに漸う渡つたと思へば橋は流れて仕舞ひ、帰る事は出来なくなつて、もう一生川向ふの吾家には帰る事はあるまいと覚悟して居たのに、今日は又如何した事か、橋が架かつた。此機を幸ひに帰らうぢやないか』 乙『まア待て、一つ思案せなくてはならぬ。大切な、一つより無い生命だ。魔の川の藻屑になつても困るからのう』 丙『何、構ふものかい。恋しい女房や兄弟が心配して待つてゐるから、運を天に任して一つ渡つて見ようかい』 丁『何でも此水上にウラル彦の家来の悪神が居つて、三五教の宣伝使とやらが此川を渡らぬ様に魔神が守護して居ると云ふ事だよ。吾々はウラル教でもなければ、三五教でもない。いろいろの神さまが現はれて、両方から喧嘩をなさるものだから、吾々の迷惑此の上なしだよ』 甲『オー、其三五教で想ひ起したが、ウラル彦の神とやらが、三五教の宣伝使が来たら、引攫へてアルタイ山の砦まで引立てて来い。さうすれば此川に橋を架けてやる。そして沢山の褒美を与るとの事だから、こんな処へ三五教の宣伝使が来よつたら、それこそ引捉まへて一つ手柄をしようぢやないか』 乙『そんな都合の良い事があれば結構だが、吾々の様な賓頭盧型では、到底思ひも寄らぬ事だ。三年も斯うして川を隔てて、棚機さまでさへも年に一度の逢瀬はあるに、永い間川を隔てて互に顔を見乍ら、侭ならぬ憂目に遭うて居る様な不運な者だから、そんな事はまア孫の代位には会ふかも知れぬよ』 斯く語り合ふ処へ何気なく石凝姥神は、三五教の宣伝歌を歌ひ乍ら進み来る。一同は此声に耳をすませ頸を傾け、 甲『オー、噂をすれば影とやら、呼ぶより誹れとは此事だ。三五教の宣伝使の歌らしい。オイオイ皆の奴、此川辺の砂の中へ体躯をスツカリ匿して首だけ出して、様子を考へて見ようかい』 一同は灰の様な軽い柔かい砂の中へ、首から下をスツカリ隠して仕舞ひ、俯伏になつて宣伝歌を聞いて居る。石凝姥神は何気なく此川辺に進み来り、川の面を見れば、沢山の材木が横倒れになつて自然の橋を架けてゐる。 石凝姥神『ホー、神様の御恵と言ふものは結構なものだナア。実は此宇智川は死の川とか魔の川とか謂つて到底渡る事が出来ない。此川を首尾克く渡るものは百人に一人より無いと云ふ事を聞いて居たが、今日は又、何と云ふ都合の好い事だらう。之も全く三五教の神の御守護だ。アヽ之を思へば前途の光明は赫々として輝き渡る様な思ひがするワイ。何は兎もあれ広大無辺の神恩を感謝する為めに、此処で一つ神言を奏上し、宣伝歌を潔く歌つて渡る事にしよう』 と独語ち乍ら神言を奏上し始むる。 日は西山に傾いて川水に光を投げて居る。祝詞の声始まると共に、附近の川辺から呻き声聞え来る不思議さ。 石凝姥神は不図声する方を眺むれば、四五の黒い円いものが何だかウンウンと呻いてゐる。 石凝姥神『ホー、此奴はウラル彦の部下の魔神の所作だナア。大方悪魔が化けてゐるのだらう。何だ西瓜畑の様に……黒い、円いものがウンウンと呻き出したぞ。どれ一つ正体を見届けてやらうか』 と膝を没する柔かき砂原に足を向け、黒い円い塊を掴んで見れば、土人の首である。見れば眼をギヨロギヨロさせ口を開けて、 土人の一人『アヽヽア、お前は三五教の宣伝使か、此川は魔の川と謂つて渡るものは皆生命が無くなるのだ。三五教がある為めに此土地の人民はどれだけ苦労するか知れやしない。之から吾々が寄つてたかつて、お前を引捉まへてアルタイ山の魔神の砦に連れて行くから覚悟をせい。斯う橋が架つた様に見えても此橋は化物だ。吾々も向ふ岸に帰りたいのだが土産が無ければ渡る事は出来ぬ。オイ皆の者、出て此奴を引捉まへて呉れ。俺の頭の毛を引掴へよつて離さうとしよらぬので如何する事も出来やしない』 此声に四人の頭は俄に砂よりムツクと姿を現し、前後左右より石凝姥を取り囲む。 一同『ヤア、待ちに待つたる三五教の宣伝使、さア尋常に手を廻せ』 石凝姥神『貴様等は一体何だ、砂の中に住居を致す人間か。オチヨボ虫かベンベコ虫の様な奴だなア。斯んな馬鹿な態をすな。此方は三五教の宣伝使だ。此川を渡つてアーメニヤに進み、ウラル彦の悪神を平げてお前等の難儀を救うてやるのだ。心配致すな』 一同『板すなも糞もあるものかい、砂の中を自由自在に潜る此方だ。弱い奴は引捉まへてウラル彦の神に奉り御褒美を頂戴致す積りだが、万々一お前が手に負へぬ剛の者なら、俺等は砂の中を潜つて隠れるから、如何する事も出来やせぬぞ』 石凝姥神『何だ、貴様は土竜か、火鼠か、蚯蚓の様な奴だな。砂を潜る、それは面白い。一遍その芸当を旅の慰めに見せて呉れないか。素直に砂くぐりを致せ。やり損なひはすな』 一同『洒落やがるない。貴様こそ素直に手を廻せ、取り損なひを致して後で、後悔すな』 と言ひ乍ら砂を掴んで石凝姥神の両眼めがけて一生懸命に投げつける。石凝姥神は目を閉ぎ乍ら思はず一人の男を手放した。五人は一度に立ち上り、 五人『さア、斯うなつてはもう大丈夫だ。早く此方の申す通りに致さぬか』 石凝姥『一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、百、千、万』 五人『ヤア、こいつは堪まらぬ。頭が痛い、目が眩む、潜れ、潜れ』 と土竜の様に砂をムクムクさせ乍ら全身を隠して走り行くのが浪の様に見えて居る。石凝姥は砂を両手に握つて団子を拵へ息をふつかけると、忽ち凝結して石の玉となりける。その玉を砂の浪を目がけて、ポンポンと投げつくれば、一同の土人は堪まり兼ねてか、砂まぶれの体躯をヌツと現はし、両手を合せ、 五人『カヽヽヽ勘忍々々』 と砂上に平伏して謝り入る。 石凝姥神『オイ、土竜、許してやるから俺の前へ出て来い。何を怕ぢ怕ぢとして居るか。少しも恐い事はないぞ』 五人『ハイ、本当に、タヽヽヽ助けて貰へますか』 石凝姥神『仮りにも三五教の宣伝使たるもの、嘘偽りは少しも申さぬ。素直に此方の前に集まり来れ。良い事を聞かして与らう』 土人は恐る恐る前に集まり来り、俯伏せになり半泣きになつて居る。石凝姥は又もや宣伝歌を声爽かに歌ひ始めたり。 石凝姥神『吾は石凝姥の神ウラルの神の曲津見を 言向け和し三五の神の教に救はむと 東雲の空別け昇る東の彦の宣伝使 心も固き石凝姥神の命と現はれて 数多悪魔もアルタイの山の砦を清めむと 夜を日に次いで道の為め世人を救ふ真心に 宇智の川辺に来て見れば瓜の畑を見る如く 円い頭の此処彼処これ枉神の曲業と 川辺に下り立ち髪の毛を一寸握つて眺むれば 烏の様な黒い顔美事、目鼻も口耳も 眉毛も額も出来てゐる頭ばかりの人間が 如何して此処に住まうかと思案にくるる折柄に 土竜の様にムクムクと砂もち上げて現はれし 黒さも黒し鍋墨の様な体躯は化物か 大馬鹿者か知らねども三五教の宣伝使 召捕り呉れむと四方より吾に向つて攻め来る その有様の可笑しさに天の数歌宣りつれば 頭を抑へ目を顰め堪へ兼ねたる体たらく 吾行く道は三五の教なれどもお前等は 穴有り教か忽ちに土竜の様に穴あけて 砂に波をば立たせゐるあな面白や面白や 一つ嚇して見ようとて砂を握つて固めおき 神の御息を吹き掛けて石凝姥の玉となし 前後左右に投げやればこりや堪まらぬと各自が 生命惜しさに我を折つて素直に吾に従ひし 心の神の助け神もう之からは慎みて 決して馬鹿な真似はすな素直に心を改めよ 素直に心を改めよ』 と滑稽交りに宣伝歌を歌ひければ、五人は一斉に顔を上げ、 五人『アヽヽア、有難う御座います。もう之からスツカリと改心を致します。すなと仰有つた事はすなほに廃めまする。オイオイ皆の奴、これから素直になれよ』 石凝姥『貴様もよく洒落る奴だな、さア之から此橋を渡るのだ。お前達も俺に跟いて来い。俺が宣伝歌を歌ふ後から一緒に歌ふのだ。さうすれば無事安全に渡れるから』 甲『可愛い嬶に久し振りに御面会が叶ひますかなア』 乙『又嬶の事を言ひよるワ。渡つた上の事だ。一寸先は暗の世だよ』 石凝姥『貴様はウラル教だな』 乙『滅相な、ウラメシ教です。もう之から私も三五教になります。然し私の女房だけはあなない教にして貰つては困ります』 丙『三五教でも心配するな。矢つ張り、あな有難やアルタイ山だ』 としやれながら、石凝姥神の後に跟いて浮木の橋を西に向つて漸く渡り終りぬ。 (大正一一・二・二七旧二・一北村隆光録) |
|
99 (1506) |
霊界物語 | 10_酉_黄泉比良坂の戦い | 36 意想外 | 第三六章意想外〔四六六〕 アルタイ山の蛇掴一度に開く梅ケ香姫の 神の命の言霊に吹き散らされて曲津見は 御空も高く駆け上り西南指してアーメニヤ 雲を霞と逃げ去りし後に二人の宣伝使 胸ドキドキと時公の供を引連れ帰り来る 鉄谷村の鉄彦が館の前になりければ 今の今まで悄気返り弱り入つたる時公は 肩を怒らし肘を張り俺の武勇は此通り 鉄谷村の人々よ昔取つたる杵柄の 猪喰た犬の時野川時世時節で是非もなく 鉄彦さまの門番と身を下しては居たけれど 愈めぐる時津風吹いて吹いて吹きまはし 流石に強き蛇掴片手に掴んでビシヤビシヤと 岩に投付け引つ千切り上と下との彼奴が顎 右と左の手を掛けてウンと一声きばつたら 鰻を断つたその如く左右に別れてメリメリメリ 時の天下に従へと言ふ諺を知つてるか サアサア是から時さまが時の天下ぢや殿様ぢや 迚も敵はぬ鉄谷の村の頭の鉄彦も 俺に叶はぬ鉄姫よ必ず是から此方に 背いちやならぬぞ時野川時の天下は俺がする 時の代官日の奉行時にとつての儲け物 モウ是からはアルタイの山の魔神の蛇掴 此時さまのある限り再び出て来る例ない ためしもあらぬ豪傑の此腕前をよつく見よ 御代は安らか平かに時公さまが治め行く 「ドツコイシヨウノドツコイシヨ」「ウントコドツコイ、ドツコイシヨ」 「ヨイトコヨイトコ、ヨイトコサ」「ヨイトサノ、ヨーイトサ」 と手を振り、足を六方に踏みながら、饒舌り散らし、鉄彦が門口ガラリと開けて入り来る。 村人は今日も酋長の館に詰めかけて、アルタイ山の様子如何にと待居たる折柄なれば、此法螺を聞いて半信半疑の念に駆られ、喜ぶ者、顔を顰める者、ポカンとする者など沢山に現はれたる。鉄彦夫婦は娘清姫と共に慌しく宣伝使の前に現はれ、 鉄彦『ヤア、御苦労で御座いました。様子は如何で御座いませう。吾々始め一統の者、御身の上如何にと、首を長くし、顔色を変へて待つて居ました。はやく様子を聞かして下さいませ』 と三人一度に両手をついて頼み入つた。石凝姥はニツコと笑ひ、 石凝姥神『ヤア、先づ先づ御安心下さいませ、此通り梅ケ香姫も無事に帰つて参りました』 親子三人『ヤア、これは梅ケ香姫さま、結構で御座いましたナ。これと申すも貴女様の御親切が天地の神様に通じたので御座いませう。オー時公、お前は何だか偉う元気張つて唄つて居たなア。早く様子を聴かして呉れよ』 時公『只今の時公は、昨日迄の時公とは、ヘン一寸違ひますよ。其積りで聴いて貰ひませう。何時までも人間は金槌の川流れ、頭が上らぬといふ理屈はない。此時公の手柄話、よつく承はりなさい……オイオイ、時野川の言霊をよつく聞けよ。中々以て素適滅法界な……』 鉄彦『オイ時公、前置は好い加減にして、早く本当のことを言はぬか』 時公『ヤア、お気の毒な事が出来ました』 鉄彦『エツ』 時公『折角三五教の宣伝使が清姫様のお身代りになつてやらうとの仁慈無限のお志、吾々始め一同の者は誠に以て感謝の至りに堪へませぬ。併しながら蛇掴の奴、岩窟の中からやつて来て、唐櫃の廻りをフンフンと嗅ぎまはり「ヤア此奴は香が違ふ、酸いぞ酸いぞ、酸いも甘いも知り抜いた此蛇掴に、身代りを立てて誤魔化さうとは不都合千万な鉄彦奴、モウ了簡ならぬ。是から此方が出張して、鉄彦親子は申すに及ばず、村中の奴を老若男女の区別なく片つ端から皆喰つて了ふ」と云つて、ドエライ声で呶鳴りよつた其勢の凄じさ。何とも彼とも云ふに云はれぬ、大抵の者なら皆腰を抜かして、到底この時公の様に帰つて来ることは出来ないのですが、そこは流石は時公だ。鬼をも掴んで喰ふやうな蛇掴の前に、何の怖るる色もなく悠然として現はれ給ひ「ヤイ、蛇掴とやら、其方に申渡す仔細がある。貴様は蛇の代りに結構な人間様を喰ふ奴だ。モウ是からは人間を喰ふ様な事を致すと了簡ならぬぞ」と拳骨を固めて、ポンと擲る積りぢやつたが、擲るのだけは止めておいた。「モウ人間を喰ふ事は罷りならぬ」と言つた処、蛇掴の奴四つの目を細くしよつて「ヘイヘイ時公さまの御威勢には恐れ入りました。モウ是が人間の喰ひをさめ、一人だけは許して下さい」と頼みやがる。そこで此方も「ヨシ分つた、割と融通のきく奴だ。サア此処へ清姫を伴れて来た、これを喰つて満足せよ」と云つた処、蛇掴の奴「此奴は酸い贋物だ、本当の清姫をよこせ」とほざきやがる。「ヤアそれも尤もだ」と云つて請合つて帰つて来たのだ。サア清姫さま、気の毒ながら今晩ぜひ御苦労にならねばなりませぬワイ』 鉄彦『エヽ、それは大変な事ぢや。主人が門番に手を下げて頼むのだから、マ一度お前蛇掴に会つて談判をして来て呉れまいか』 時公『なかなか以て……抜かりのない時公は「オイ蛇掴、モウ人間の一つイヤ一人くらゐ喰つても喰はいでも、同じ事ぢやないか、モウ是で諦めて了へ」と千言万語を尽して云うて聞かした処「モウ是が喰ひをさめだから、是非喰はして貰ひたい。蛇掴の肉体は改心したから喰ひたくないが、腹の中の副守護神が喰ひたいと申すに依つて、女子の代りに時公を……ヤ違ふ違ふ……梅ケ香姫の代りに、清姫と鉄彦、鉄姫を邪魔臭いから一緒に喰はして呉れ」と云ひよつたのだ。ナア鉄彦さま、貴方は此村を守る御方、今迄は吾々が集つて働いて、酋長さまと敬つて養つて上げたのだから、今夜は其勘定をなさるのだ。たつた三人の命を棄てて此村は愚か、国中の者が助かると思へば安い生命だ、御苦労さま……』 鉄彦、鉄姫、清姫は一度にワツと泣き伏す。時公は、 時公『ワツハヽヽヽ、オツホヽヽヽ』 村の者『オイ時公、何が可笑しい。貴様不届きな奴だ。こんな悲しい時に可笑しいのか、貴様を村中集つてたかつて成敗してやらう。覚悟せい』 時公『ヤア、騒ぐな騒ぐな、皆嘘だ』 村の者『嘘とは何だ、冗談も時に依る』 時公『ヤア時公が言つたのぢやない、副守護神が云つたのだよ。みんな嘘だ嘘だ』 石凝姥『アハヽヽヽヽ』 梅ケ香姫『ホヽヽヽヽ』 石凝姥は声を張上げて、 石凝姥神『山路険しきアルタイの岩窟の前に送られし 梅ケ香姫の唐櫃を巌の上に据ゑ置きて 村人達は帰り行く梅ケ香姫は唐櫃の 中に潜みて宣伝歌歌ふ其声中天に 轟き渡り曲神は幾百千の火となりて 見まもり居たる折柄に忽ち来る一つ火の 玉は此場に現はれて唐櫃の上を右左 前や後に舞ひ狂ひ声も涼しき梅ケ香姫の 神の命の言霊に恐れて逃げ行くアーメニヤ 跡形もなき暗の空吾は木蔭に身を忍び 此光景を窺へば臆病風に襲はれし 胸もドキドキ時公が腰を抜かして啜り泣く 彼を伴ひ唐櫃の前に致りて蔽蓋を 開くや忽ち暗の夜を透かして立てる白姿 髪振り乱す梅ケ香姫の神の姿に仰天し 狼狽へ騒ぐ面白さ吾は此場の可笑しさに 魔神となつて声を変へ嚇して見れば時公は 訳も分らぬくどき言女房が悔む助けてと ほざく男の涙声腹を抱へる可笑しさを こらへて漸う今此処に帰りて見れば時公は 俄に肩で風を切り大きな法螺を吹きかけて 煙に巻いた減らず口あゝ鉄彦よ鉄姫よ 心も清き清姫よ御心安く平けく 思召されよ三五の神の教に救はれし 鉄谷村はまだ愚四方の国々民草の 憂ひはここに払はれぬ歓び勇め諸人よ 喜び祝へ神の恩』 この歌に鉄彦始め一同はヤツト胸を撫で下し、三五教の神徳に感じ、かつ二人の宣伝使が義侠心を深く謝し、茲に村内集まつて賑々しく祝の酒宴開きたり。 やがて鉄彦の座敷を開放して大祝宴が開かれ、鉄彦は立つて感謝の意を表するため歌をうたふ。 鉄彦『此世を救ふ三五の神の誠の宣伝使 世人を救ふ赤心の岩より堅き神司 石凝姥や梅ケ香姫の神の命のアルタイ山の 峰より高く海よりも深き恵に助けられ 一人の娘清姫の生命ばかりか国々の 人の禍悉く払ひ給ひし大御稜威 汝が命は久方の天の河原に棹して 下り給ひし神ならめあゝ有難や有難や 深き恵みに報いむと心ばかりの此莚 酒は甕瓶たかしりて百の木の実は横山の 如く御前に奉り心の丈を今此処に 受けさせ給へ宣伝使果実の酒はさわさわに あかにの穂にときこし召せあゝ諸人よ諸人よ 救ひの神は三五の誠の道の二柱 天と地とになぞらへて日に夜に仕へ奉れ 日に夜に崇め奉れあゝ尊しや神の恩 あゝ尊しや君が恩たとへ天地は変るとも 栄え五六七の末迄も娘を救ひ給ひたる 此御恵は忘れまじさはさりながら、あゝわれは 三年の前に清姫が姉と生れし照姫を 魔神の為に呪はれて損はれたる悲しさよ 三年の前に二柱ここに現はれましまさば あゝ照姫も清姫の如くに無事に救はれむ 返す返すも恐ろしく返す返すも悲しけれ 石凝姥の神様よ梅ケ香姫の神様よ かへらぬ事を繰返し愚な親とおもほすな 此世の中に何よりも吾子に勝る宝なし あゝさりながらさりながらそれに勝りて尊きは 神の教ぞ御道ぞあゝ是よりは三五の 道の教を宝とし四方の民草導かむ あゝ村人よ村人よ神に斉しき宣伝使 唯一言も洩らさずに御教を聴けよ、いざ聞けよ 聞いて忘れな何時迄も聴いて行へ何処迄も 心を治め魂研き月日の如く明かに 照して御神を讃めたたへ誠の御神を讃めよかし 祈れよ祈れ唯祈れ此世を救ふ三五の 神の御前によく祈れ』 と二人の宣伝使に向ひ、涙と共に感謝する。これより鉄彦は神恩に報ゆるため、梅ケ香姫の従者となつて、アーメニヤに進み行くこととなりける。 (大正一一・二・二七旧二・一松村真澄録) |
|
100 (1508) |
霊界物語 | 10_酉_黄泉比良坂の戦い | 附録 第三回高熊山参拝紀行歌(三) | 附録第三回高熊山参拝紀行歌(三) 王仁作 高熊山参拝者名簿(三) (大正十一年四月十三日旧三月十七日) (七) 神が表に現はれて鈴木ケ原も山奥も(鈴木すう) 澄ますうれしき松の御代河合と思召す神心(河合一男) 一男聞いては十を知る誠の安保と成り変り(安保米太郎) 神の教を村肝の心に深く登米太郎(斎田のぶ) 朝夕斎く田のもしさその身のぶじも泉山(泉山貞夫) 魂の貞め夫嬉しみて教祖の出西神の島(西島躬幸) 神の躬幸も和田の原荒浪よせつ博々と(原せつ) 漕ぎ行く雄島女島潟波に浮べる神山の(同博子) 磯端清き上り口恒き心の彦姫が(山口恒彦) 社の前に平伏し難を岡して漸くに(平岡基良) 参詣したる大基の教を守る良き信徒(大野徳松) 恵みも大野徳松氏尾形太郎作いさぎよく(尾形太郎作) 赤き心は秋山の紅葉の色の義之が(秋山義之) 新たに掘り出す黄金の玉の在所を菊の月(新堀菊次) 次第々々西げり行く草村わけて昻りたる(西村昻三) 三日月空に輝きて常世の暗を明し行く 神の御稜威ぞ畏こけれ。 (八) 西洋も大和も押並べて醜の村雲空を掩ひ(西村雛子) 親に離れし雛子鳥高天に上るよしもなく(上滝美祐) 佐久那垂りにと落滝津速川の瀬に美はしく(柳生宣子) 身魂を洗ひ大神の祐柳生の宣伝使(小原茂樹) 小原の中に茂る樹の花も吉井の健康に(吉井康素) 匂ふも清し太素の同じ教の道のため(同ため) 前むも知らに退くも知らずに田依る稲の国(前田稲子) 天津日嗣の日の御子のみこと畏こき佐伯の庄(佐伯史夫) 稗田の阿礼が国史夫語り岡れしその如く(岡文雄) 空澄み渡る瑞月が神代の文雄伝へむと 高天野原の神業をやすく楽しく述べ立つる(高野やす) 何の淀みも荒川の流るる如く物語る(荒川保史) 浦保国の神の史魂の力を丸めつつ(力丸金吉) 金鉄溶かす勇猛心吉凶禍福の外に立ち(同あさを) 尊き神の御教をあさを考へ無田口を(田口改治) たたく信者を改めて誠一つに治め行く 市場の如く喧ましくさわぎ廻りし人々に(市場義堅) 真義を堅く説きさとす神の救ひの方船は(船越英一) 万のものに超越し英でて尊き一の教 誠の紙の大本は老も若きも押並べて(紙本鉄蔵) 堅き心は金鉄蔵世界に名高き島国の(名島鶴子) 千歳の松に鶴巣ぐひ恵みの風も福井氏(福井重内) 慶び重ねて内外の国の民草勇み立ち 篠と乱れし国原も隆き稜威を仰ぎつつ(篠原隆) 君の蔦歳祝ふなり。 (九) 四四十六の菊の花薫り床しき玉の池(菊池正英) 教正しく英でたる大本神野おん恵み(大野只次郎) 只には聞くないち次郎き神の守りの限りなく(神守) 栄え目出度植木村いと綿密に竜宮の(木村密) 池に漂ふ松の島神の懿徳も世に秀で(松島懿秀) 斎祀の司藤原の子孫の家に相生れ(斎藤相造) 天地造化の大神に仕へて誌す筆の文字(文字蔦之介) 蔦なきすさびも皇神之深き介にはつれじと(同はつ) 四方の草村山の上照らす神の世近づきて(村山政光) 神政成就の光明を海の中外の島々に(中島りう) りうりう昇る朝日子の姿も清く中天の(中村新吉) 村雲四方に吹き分けて新らしく見ゆる景色吉さ 眺めも吉田の春の色治まる御代の姿かな(吉田春治) 左を近く見渡せば曽我部の野辺に咲き充てる(左近英吉) 木々の英吉く薫る数多幾多の青野原(多幾光太郎) 天津日影に光太郎家庭もさきくえらえらに(同きくえ) 楽しむ人の笑ひ声関藤めあえぬ神軍の(関藤軍治) 道を治むる大八島金竜海の波次郎く(大島金次郎) 心地もよしや稲田原飛び交ふ幾多の小雀も(同よし) チウチウ忠と三郎なり鳴子も古瀬の田の面に(稲田幾三郎) 黄金の波も平けく野辺も川瀬も恙なく(古瀬金平) 長閑に栄ゆる神の則稜威高熊と響くなり(野瀬長則) (一〇) 万の災湧き充ちて板けり狂ふ曲神を(板橋次郎) 誠の道に救はむと高天原の大橋を 世に著次郎く架け渡し吉とあしとを田て別くる(吉田秀男) 秀妻の国の御教変性男子と生れませる 原つ御魂を谷の底深く封次郎枉神も(原谷次郎松) 松の神代の近づきて神の心も石の上(石津末太郎) 遠津御神の御末太郎伊都の御たまや瑞御魂(同たま) 深山の奥に名西おふ国常立の大神の(奥西はる) 厳の教をはるばると山の尾の上西き拡め(上西信助) 信入悟入の諸人を神の大道に助けゆく 清水湧き出る宮垣内丑寅大神未申(清水寅吉) 皇大神に神吉辞宣るも涼しき神の庭(同敏夫) 敏夫かさねて開け行く小さき人の信仰も(小高もと) 高天原の神国に悦び昇るもとぞかし 秋津島根の田庭国まつの教は遠近に(島田まつの) 酒へて雲井の空たかく峯を照らして生れ出る(酒井峯生) 初日の如くいす細し加々見の光り麗はしく(細見睦順) 睦び帰順神の道開い田所は彰かに(田所彰) 御座の湯川いや高く天に貫く松魚木は(湯川貫一) 真一文字に輝きて棟木の上も屋根下も(木下さわ) 揃うて清き尊さわ神の心と仰がれぬ 松の神代の末永く教の友と吉く睦び(松永友吉) 高木稜威を輝さむと金鉄とかす男心は(高木鉄男) 神代の種と知られける (一一) 神代も廻り北沢の千歳を祝ふ大日本(北沢祝大) 真金の神の幸ひ雄貴賤上下の区別なく(真金幸雄) 仰ぎ三島の光り佐平常夜の晴を松の月(三島佐平) 村雲散りて真澄空竜宮館の神苑に(松村真澄) 処狭き迄植込みし芝生の花も今盛り(植芝盛隆) 隆く輝く池中野男島に斎きし岩の神(中野岩太) 雨と風との太御神玉の井の上に御姿を(井上留五郎) 清く涼しく留たまひ日五郎信ずる信徒の 額を照らし守りつつ大御田柄の造りたる(額田保) 保食神の御神徳戴く心中野嬉しさよ(中野作郎) 作りも豊かに郎らかに稔りて神の大前に 横山の如献り尽きぬ英二四の神の綱(横山英二) 曳かれて返さぬ桑の弓高天原に住之江の(桑原住之江) 心地も殊に淑子姫稲次々に美はしく(同淑子) 実る御玖仁の豊の国野山も崎はひ増々に(稲次玖仁豊) 造化の神の御神業開くも楽し鈴木原(山崎増造・鈴木伊助) 伊照りかかやく御神助は天津御空を渡辺の(渡辺しづ) 月日の恵のしづくなり同じ教の道の子が(同道子) 晴西村雲打ながめ皇大神の神徳に(西村徳治) 治まる御代を仰ぎつつ藤の高山久方の(藤井健弘) 雲井の空に端然と勇壮健々根も弘く(上原芳登志) 上る雲霧原ひつつ景色も芳登志聳ゆなり(依田善五郎) 誠の道に依田かる善一筋の神五郎母(同たき) 聞くも目出たき神の前田は満作の稲の波(前田満稲) 風おだやかに吹き渡り田辺も林もいと清く(田辺林三郎) よりて三郎君が御代花の都も渋谷も(渋谷武一郎) 尚武慈愛の一郎に心かたむけ前みゆく(前田よしや) 大御田柄の幸よしやあやの高天をいそいそと(同あや) 足に任せて立ながら進み兼太郎信徒が(足立兼太郎) 互に心合ふ田中清き教の交りは(田中清右衛門) この右衛門なき楽みぞ清水湧き出る宮垣内(清水床栄) 瑞の御霊の床しくも栄えて桃も桜井の(桜井信太郎) 神の教を信じ太郎人の心は玉の井の(井上ちよの) 上にも匂ふちよの春道を佐藤りて神六合雄(佐藤六合雄) 守る常磐の木下蔭愛は隣人のみならず(木下愛憐) 海の内外の限りなく大小無数の国々に(小原稜威夫) 高天原の神等の御稜威夫ひらく物語(江本立吉) おし江の本の立ちも吉く彼岸に渡す大橋の(橋本亮輔) 本亮かに輔けゆく五十鈴の川の水木よく(鈴木政吉) 神政吉しく治まりて豊葦原の中津国(中倉さだ) 御倉の棚もさだまりて浦安国も発達し(安達政史) 天壌無窮の神政史語るも嬉し高熊の 山に現れます大神の御前に感謝し奉る。 (一二) 小幡の宮の広庭に立ち並びたる木々昻(宮木昻) 中条の東流れたる小川の水はいと清く(中条清吉) 汲み取る人は身心も吉く洗はれて仕合も(仕合新太郎) 日々に新たに充ち太郎高き恵みを沢々に(高沢たか) 受けし瑞白たか熊の岡に登りて大基の(岡基道) 道を開きし物語中和大中条分けて(中条武雄) 学びし武雄小まごまと八島の国に拡めむと(小島修岳) 修養したる神の岳津々む樹草も村々藤(津村藤太郎) 生ひ茂り太郎賑はしさ正義に敏き大丈夫が(同敏夫) 御前に菅る村社祝詞の声もなつかしく(菅村なつ) 安全無事の境界に到達せむは貞かなり(安達貞子) 男子と女子の志豆機を織田由来は志賀の湖(織田志賀子) 黄金橋の本清く神の救ひを公に(橋本公子) 普ねく伊由吉渡さむと神楽ケ岡の皇神の(吉岡善雄) 善一筋の大道雄高熊山のいや高く 開きたまふぞ尊とけれ。 |