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書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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霊界物語 | 74_丑_太元顕津男の神の物語2 | 07 相聞の闇 | 第七章相聞の闇〔一八七五〕 顕津男の神並びに百神等は、真鶴山の頂に立ち生言霊をうち揃へ、東北東の空に向ひまし、七十五声の言霊を声も清しく宣り給へば、真鶴山は次第々々に真北の方に伸び広ごりぬ。それより百神等は、北北東東北東の方、東南南東南の方、南西西南西の方、西北北西と、生言霊を七日七夜の間、倦まず怠らず力限り宣上げ給へば、真鶴山は四方八方に伸び広ごり、膨れ上がりて目路もとどかぬ許りとなりぬ。真鶴山の膨張によりて、東西南北万里の原野は次第々々に水気去りて地固まりぬれば、茲に目出度く真鶴国は𪫧怜に委曲に生り出でにける。 この荒原につづきたる山を包みし広沼は 西南方の一処にいより集ひて水深く 沼広らかに澄めりけり沼の廻りに常磐樹の 松は俄に伸び立ちて時じく匂ふ白梅の 汀みぎはをかざりつつ光を放つ兄の花の 目出度き姿は清沼の水底までもうつろひて 鏡の如くなりにけり。 顕津男の神このさまを見そなはして、御歌詠ませ給ふ。 『主の神のたまひし七十五声の 生言霊に国土ひろごりぬ 弥先きに真北の空に打ち向ひ 宣る言霊に国土生れけり 次ぎ次ぎに百神等と水火合せ 宣る言霊に地は広ごりぬ わが目路のとどかぬ限り湿り地は 土固まりてよき国土となりぬ 今更に生言霊の功績を 悟れば尊し水火生きにける 水火生きて生きの限りは主の神の 神業に仕へむ百神と共に 天界はうましき国土よ美しの 神の御国よこころ清しき 見渡せば原野の限り紫の 花は匂へり風は薫れり 科戸辺の風ほどほどに吹き出でで 梅の香は四方を包めり 七十余五つの声の言霊に 紫微天界は開け行くかも』 遠見男の神は御歌うたひ給ふ。 『瑞御霊神の御供に仕へ来て 今日の目出度き幸に逢ふかな 言霊は水火の生命の基かも 天地百の身魂を生ませば 稚かりしこの国原も言霊の 水火幸ひて固まりにけり 美し国よにぎはしき国貴の国 瑞の御霊の守らす国土は たまちはふ神の御水火に生り出でし 真鶴の国は美しきかも 朝日子の光も清く月読の 光もさやけき美しの国 水清く風又清しき真鶴の 国に生れます生代比女の神よ 生代比女神は真鶴山の水火 幸ひまして生れましにけむ 美しき紫微天界の美し国 真鶴山は生代の比女神 生代比女国中比古ともろともに 守りますらむ真鶴の国を』 国中比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『顕津男の神の力に固まりし 真鶴山の姿気高き 真鶴の山はつぎつぎ広ごりて 国の柱と高く立たすも この山は国の御柱世の要 四方の神々集ひ来ませよ』 生代比女の神は御歌うたひ給ふ。 『いく年か地にひそみて吾待ちし 真鶴山は世に出でにけり 主の神の神言畏み気永くも 岐美の出でまし待ちゐたりける 神国の貴の神業に仕へむと 待つ甲斐ありて岐美は来ませる』 顕津男の神は歌ひ給ふ。 『汝こそはうづの細女賢女よ さはあれ八十比女神におはさず 八十比女に見合ひて我は神生みの 神業に仕ふる司なるぞや 主の神の御許しのなき生代比女に 見合はむすべも我なかりけり 神生みの業を許させ給ふべし 主の大神の依さしならねば 徒に細女なりとて見合ふべき 我には八十比女神の待てれば』 生代比女の神は歌ひ給ふ。 『情なや瑞の御霊の御言葉 聞けば悲しも死なまく思ふ 瑞御霊生言霊をよろこびて 吾は地より現れしはや 真鶴の山の尾上に現れて かかるなげきは思はざりしよ 歎けども千引の岩の瑞御霊 わが言霊に動き給はず』 斯く歌ひ給ひて生代比女の神は、雲を霞と御姿をかくし給ひし間もあらず、黒煙濛々として山麓より立ちのぼるすさまじさ。忽ちにして頂上は咫尺も弁ぜぬ黒雲に包まれにける。ここに多々久美の神は濃雲を払はむとして、御歌詠ませ給ふ。 『多々久美の神の言霊聞し召せ 科戸比古神科戸比女神 タータータータタの力にこの山の 雲をはらせよ科戸辺の神 生代比女恨みの水火の固まりて 黒雲となり山を包めるか 恐しきものは恋かも心かも 生代の比女は鬼となりしか 言霊をいや高らかに宣りつれど なほ黒雲の湧くぞうれたき』 多々久美の神の生言霊も何の効なく、科戸の風さへ吹き来らず、百神等は山上に佇立して、各も各も天津祝詞を奏上し、天地開明を待たせ給ふ。 ここに顕津男の神は、儼然として御歌詠ませ給ふ。 『生代比女神のやさしき心根を くみ取り得ざる我にはあらず さり乍ら主の大神の御依さしに あらねば如何にせむすべもなき 村肝の心やはらげ黒雲を はらさせ給へ神のまにまに 我も亦木石ならぬ身にしあれば 汝細女をいかで厭はむ 愛らしく雄々しく懐かしく思へども せむ術もなき我をあはれみ給へ 汝が姿見つつ吾胸もえぬれど 瑞の御霊にけしてしのびつ』 斯く歌ひ給ふや、黒雲の中より生代比女の神の声ありて、 『恨めしの岐美の言霊よ吾は今 沼の主となりてしのばむ 国土造り御子生み給ふ神業を 吾は恨みて永久にさやらむ 八十比女神玉野比女神玉野湖の 森にしのびてみゆき待たせり 玉野比女の吾は御姿やぶりつつ 岐美が心をいためむと思ふ 真鶴山包める雲はわが恋の 燃ゆる思ひぞ永久に晴れまじ 岐美恋ふるわが真心を退けて 玉野の比女に見合す岐美かも どこ迄も岐美恋ほしければ吾は今 玉野の比女に恨み返さな 玉野比女玉の顔忽ちに 醜女となりてなげかせ給はむ』 と歌ひ終り給ふや、忽ち悪竜となりて黒雲の幕を破り、ピカリピカリと光を投げつつ、玉野湖水をさして矢の如く駆け出で給ふぞうたてけれ。圓屋比古の神はこの態を見て怒らせ給ひ、 『生代比女神は曲神にうつられて 瑞の御霊にさやらむとすも 圓屋比古神の生命のある限り 言霊征矢もてきためてやみむ 明らけき真鶴山を曇らせて 湖にひそみし醜神あはれ』 国中比古の神は歌ひ給ふ。 『真鶴山神のかためし国中に 曲神すさぶとは思はざりしよ いざさらば生言霊の御光に 射干玉の闇はらし照らさむ 道ならぬ道をたどると生代比女の 神の心をあはれと思ふ』 美波志比古の神は御歌うたひ給ふ。 『あはれなる生代比女神の恋衣 破れつくらふ術もなきかな 瑞御霊比女の心を和むべく 生言霊を宣らせ給へよ よしあしの茂れるこれの国原は 未だよしあしの固まらぬ神代 よしあしのけぢめも暫し忘れまし 生代の比女と見合ひましませ 生代比女怒りを和むる神柱は 岐美をしおきて他にあらじな』 ここに顕津男の神は、生代比女の神の情にほだされて、張りつめし心もやはらぎ、御歌うたひ給ふ。 『よしあしはよしやともあれ斯くもあれ 生代の比女の神に合はなむ 生代比女神よ鎮まりましまして 心をはらせ雲を晴らさね 御依さしに我はそむくと思へども 公が情を捨つるすべなし』 斯く歌ひ給へば、今迄四辺を包みたる烏羽玉の黒き叢雲は、拭ふが如く晴れ渡り、青雲の空忽ち現れ、白梅の芳香四辺に香り、忽ち天国の状態となりしこそ不思議なれ。 (昭和八・一〇・二一旧九・三於水明閣谷前清子謹録) |
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霊界物語 | 75_寅_太元顕津男の神の物語3 | 19 日南河 | 第一九章日南河〔一九一三〕 ロシヤの俚言に、お伽噺は作り事にして、伝説は実際あつた事なりと言つてゐるのは、要するに伝説の確実性を言つたものである。わが唱ふる物語は、お伽噺でもなく、伝説でもなく、伝奇物語でもなく、確実なる言霊学上より見たる史詩である。伝説とは後世の人々の口に伝はり、其の事実が次第々々に誇張され、又は濃厚の度を重ねて面白く出来上つてゐるが、この『霊界物語』は何人にも伝はつたものでなく、只単に天地に充満せる水火の水火の妙用原理にもとづき、宇宙創造の状態より、諸般の事象に就いて説示したるものである。 この物語を著すに就いては、日夜神界の枢機に参じ、宇宙万有発生の歴史的事実に到るまで開示したるものなれば、現代学者の耳目には怪しく思はるるは当然である。 未だ見ざる、聞かざる、伝はらざる幽玄微妙の宇宙の物語にして、有史以前の事象なれば、何人も善悪の批判を加ふる余地はなかるべし。万々一この物語に対して、批判を加ふる者あらば、そは迂愚の骨頂にして、論議すべき価値なきものである。 惟神的道徳上の義務に服し、天界に奉仕し、自己を制して自己以外に寛大なる神人は、其実際に於て精神上の自由を有し、一切万事公共の為、何一つ成らざるはなきものである。之に反し、惟神的道徳上の義務を省みず、自己の欲望にのみ執着し、自己に寛大に、他に対して残忍である所の神人は、其の実運命の手に縛られてゐるのである。 天之峯火夫の神の、皇神として君臨し給ふ紫微天界は、未だ霊と言霊の世界にして、形あるものは気体の凝れるもののみなれば、一に意志想念の世界と称しても他なき事である。故に善良なる意志想念は、善良なる神人の姿を現じ、醜悪なる意志想念は、最も醜悪なる形を現ずるも、自然の理である。八岐の大蛇神あり、十二の頭を持つ鬼神あり、半鬼あり、大山を懐に包みて提げ歩く如き巨大なる神あり、山の姿を為し、河の形を為し、岩石の形を現ずる神等数多あるも、意志想念の現ずる姿なのである。我説くところの物語も、種々の神、動物の現るる事あれども、決して怪しむに足らずと知るべし。 顕津男の神は、七日七夜の旅を重ねて、濁流滔々と漲る、幅広き水底深き日南河の南岸に着かせ給ひけるが、この時早くも天津日の神は三十度の位置に昇らせ給ひ、晃々と輝き渡りて、日南河の速瀬の波を、金銀色に彩らせ給ひける。 顕津男の神は、日南河の岸辺に駒を下り立ち、激流を眺めて御歌詠ませ給ふ。 『日並べて荒野が原を渡り来つ 日南の河の岸辺に着きぬ 滔々と流るる水の波頭に かがやく太陽の黄金色はも 日南河黄金白銀紫の 波を交へて永遠に流るる 目路はるか彼方の岸に霞めるは 大蛇のすめるスウヤトゴルの山 スウヤトゴルの山に立ちたつ黒雲は 曲神の水火か天をにごせる 駿馬は嘶き勇めど日南河 流れを渡る術もなきかな さりながらわが言霊に光あれば この河水も暫しは引かむ 日並べて昼夜の旅をつづけつつ 諸神も亦つかれけるかな 駿馬の脚を休めて今暫し 河水引かむ時を待たむか 足引の山はあなたに霞みをり 燃ゆるが如く雲立ち昇る 真鶴の国の広原渡り越えて 今や進まむ西方の国土へ 河中に波せき止めて聳え立てる 巌は曲の化身なるらむ いざさらばわが言霊に払はばや 醜の大蛇の化身の巌。 一二三四五六七八九十 百千万千万の 生言霊の神々は ここに天降りて醜神の 御魂をきため給へかし 国土を生み御子生みの旅にさやりゐる この曲神は主の神の 神業にそむく醜大蛇 守らせ給へ神々よ 瑞の御霊の言霊に 真心こめて願ぎ奉る ああ惟神々々 御霊の幸を給へかし』 斯く歌ひ給へば、激流をせき止めて、峙ちし千引の巨巌は、忽ち水中に沈むよと見る間に、巨大なる蛇体となりて、北側の岸辺にかけ上り、忽ち暴風雨を起し、黒雲に乗り、一目散に逃げゆきぬ。 この巨巌の怪物退きしより、河水は次第々々にその量を減じ、時ならずして向つ岸辺に渡り得る所まで引きたれば、ここに顕津男の神はひらりと駒に跨り、河に向つて御歌詠ませ給ふ。 『主の神の生言霊の助けにて わが宣る水火は輝きしはや 曲神は千引の巌と身を変じ わが行く道にさやりゐしかも わが目路のとどかぬ迄にいや広き 河の流れもあせにけらしな 言霊の水火の光の尊さを 今更ながら悟らひしはや この先は曲津のすさぶ醜の国土よ 心そそぎてわれは進まむ 四柱の神勇ましくわが後を 守りて此処に送り来ませり 四柱の神よこれより帰りませ 真鶴国土を開かむために いざさらば別れて行かむ西方の 国土は真近に迫りけらしな』 ここに宇礼志穂の神は、顕津男の神の乗らせる神馬の轡に手をかけ乍ら、御歌詠ませ給ふ。 『ヒーローの岐美とは知れど斯くまでも 光りますとは思はざりしよ 吾は今岐美に別れむ苦しさに 空にしられぬ雨ぞ降るなり いざさらばまめにおはして国土生みの 神業𪫧怜に仕へませ岐美よ いや広き日南の河の河水も 岐美の言葉にあせにけらしな』 魂機張の神は、別れの御歌詠ませ給ふ。 『八十日日を岐美に仕へて今此処に 別るる思へばさみしかりけり 恙なく道の隈手を渡り来て 光の岐美に別れむとすも 真鶴の翼そろへて送りける この河岸は国の境よ わが岐美の生言霊に醜神の 巌は砕けて河あせにける 斯くの如水火の光を満たせます 岐美の行く先き思はるるかな 果しなき思ひ抱きて玉藻山 真鶴山に吾等は帰らむ 遠見男の神に仕へて今日よりは 神国守らむ安く思ぼせよ』 結比合の神は御歌詠ませ給ふ。 『はろばろと岐美を送りて今此処に 別ると思へば何か悲しき 愛善の国に悲しみなけれども 今は涙の止めどなきかも 嬉しさに又悲しさに迸る わが目の涙いぶかしきかも スウヤトゴル山にひそめる曲神を 言向和すと出でます岐美はも 山も河も巌もことごと醜神の 化身なりせば心し行きませ この河は高照山の溪々ゆ 流ると思へば尊かりけり 日南河見るにつけても思ふかな 如衣の比女神神去りし日を』 美味素の神の御歌。 『高照の山より落つる日南河の 水はあせけり生言霊に 河底の岩むら見えて水浅み 大き小さき魚族はねをり 魚族も神の水火より生れたる 御魂なりせばおろそかならじ いざさらば岐美に別れむ真鶴の 国治むべく後にかへさむ さりながら向つ岸辺に着かすまで われは佇み見とどけ奉らむ』 顕津男の神は諸神に答へて御歌詠ませ給ふ。 『種々の悩みしのぎてわが旅を 送りし功うれしみ思ふ 玉野比女生代比女神その外の 神につたへよわが河越を』 ここに顕津男の神は諸神に別れを告げ、馬背に鞭を加へ、水あせし河底を悠々として、またたく間に彼方の岸に上らせ給ひければ、四柱神は安堵の胸を撫で下し、ひらりと駒に跨り、元来し道をたどりたどり、両聖地をさして急がせ給ひける。 (昭和八・一一・二九旧一〇・一二於水明閣谷前清子謹録) |
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霊界物語 | 75_寅_太元顕津男の神の物語3 | 22 清浄潔白 | 第二二章清浄潔白〔一九一六〕 円満にして霊肉の合致したる顕津男の神は、礼儀に富み、慈愛に富み、風雅の道に富み給へば、到る処物に接し事に感じて、御歌詠ませ給へり。顕津男の神は今や日南河を渡り、悪魔のはびこれる西方の国土を造り固めむとして神心を悩ませ給ひ、高地秀の宮にまします八柱の比女神や、八十比女神の身の上を追懐し、しばし悲歎の涙にくれ給ひつつ、御歌詠ませ給ふ。 『若草の妻をやもめに生れし子を 父なしとするわが旅淋しき 空閨に泣く妻の身をおもひやり 我は日に夜に血を吐くおもひすも 国魂の御子を生めども永久に あひみることのかなはぬ父なり 斯くの如苦しき神業に仕ふるも 世のため道のためなればなり スウヤトゴルの峰は遥かの野の奥に よこたはりつつ邪気を吐くなり 今よりは心の駒を立て直し スウヤトゴルの曲津言向けむ 国土生みと御子生みの神業に仕へ来て わが身はいたく疲れたりけり この疲れ休めむとする暇もなく また立ち向ふ曲津のすみかへ 巌となり山河となりて曲神は わが行く先きにさやらむとすも 澄み渡る日南の河に禊して いざや進まむ曲津の在所に』 茲に顕津男の神は、日南河の流れに下り立ちて禊の神事を修し給へば、八柱の神々も吾後れじと速瀬に飛び込み、浮きつ沈みつ天津祝詞を奏上しながら、禊の神事を修し給ひける。 顕津男の神はじめ八柱神は、漸く岸辺に立ち上り『わが心地清々しくなりし』と宣らせ給ひて心静に御歌詠ませ給ふ。 顕津男の神の御歌。 『高照の山より落つる河水に 心すがしく禊せしはや 気魂にかかれる罪や穢れまで 洗ひおとしぬ速河の瀬に 水底をかい潜りつつ気魂の 汚れを全くはらひし清しさ 村肝の心清しも真清水の 流れに禊をはりしわれは 水底も明るきまでに光りたり わが気魂の清らかにして かくの如光りかがやく気魂を 八十比女の前に見せたくぞ思ふ 我ながら驚きにけり何時の間にか わが気魂は光となれる 身も霊も光り輝き水底の 魚族までも歓ぎつどひ来 我こそは生言霊の幸ひて 光の神となりにけらしな 眺むればわが身は骨まで透き徹り まさしく瑞の御霊となりぬ 水晶の如くに骨まで透き徹る わが身は少しの曇りだになき 斯の如光となりし我なれば 伊行かむ道に夜はなからむ 天伝ふ月の光もかくまでに 光らざるべし照れるわが身よ 四方山の百花千花にいや増して 美しきかなわが気魂は』 美波志比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『わが岐美の後に従ひ速河の 瀬々の流れに禊せしはや わが魂は大曲津見の水火うけて 墨の如くに穢れゐたりき 河水の色変るまで気魂の 垢ながれける禊の神事に 斯の如わが気魂は清まりぬ いざや進まむ曲の征途に 村肝の心くもれば忽ちに 曲津見の罠に落さるるなり 肝向ふ心くもりて美波志比古 われは曲津見にをかされにけり 斯くの如光らす岐美を知らずして 先行きしわれの愚さを悔ゆ 日南河に御橋かけむと進み来て 曲津見の巣に迷ひ入りけり 雄健びの禊の神事にわが神魂 真清水のごと清まりにけり』 内津豊日の神は御歌詠ませ給ふ。 『瑞御霊迎へ奉ると此処に来て 禊の神事に仕へけるかも 身も魂も清しくなりぬ今よりは 岐美に仕へて雄健びせむとす 曲津見の御空をふさぐ世の中に 光の神は現れましにけり 顕津男の神の御霊の御光に わが気魂は清まりにけり 気魂も神魂も神の御光に けがれなきまでに照り渡りつつ 内津豊日の神の御名まで負ひながら 心のくもり晴れざりにけり わが岐美に従ひ流れに禊して はじめて内津豊日となりぬる 曲津見の所得顔にすさび居る 西方の国土今日より生れむ 非時に黒雲湧き立つ西方の 国土照らさばや禊を重ねて スウヤトゴル峰の曲津見は荒ぶとも 今はおそれじ岐美ましませば 国津神ゑらぎ栄えむ水晶の 神の光に照らされにつつ 草も木も月日の御光あびずして 如何で繁らむ地稚き国土は 高照の峰より落つる日南河に 今日をはじめと禊せしはや 主の神のウ声に生れし吾ながら 禊のたふとささとらざりけり 朝夕に禊の神事に仕へつつ 西方の国土を生かさむと思ふ』 大道知男の神は御歌詠ませ給ふ。 『大道を知男の神の吾にして 禊の神事を怠りしかも 惟神神のひらきし大道は 禊の神事ぞ要なりける 禊してわが身わが魂清まりぬ 醜の曲津見もはやをかさじ 国土を生み御子を生ますと出で給ふ 瑞の御霊は光なりしはや 仰ぎ見るさへもまぶしくなりにけり 瑞の御霊の光の神を 斯くの如光りかがやく生神の 現れましし上は何をなげかむ 日に夜に嘆きつづけし西方の 国津神等よみがへるべし 吾もまた朝な夕なに大道を さとしつつなほ禊知らざりき 天界にいともたふとき神業は 禊のわざにしくものはなし 西方の国土の御空を包みたる 雲も禊の神事に散るべし 斯くの如禊の神事の尊さを 吾は今まで覚らざりけり 気魂も神魂も清くなりにけり 速河の瀬に禊せしより』 宇志波岐の神は御歌詠ませ給ふ。 『このあたり吾はうしはぎゐたりしが 曲津見のため曇らされつつ 惟神禊の神事知らずして 治めむとせし吾の愚さよ 禊して生言霊を宣る身には 醜の曲津見もをかす術なし 今日よりは国津神等に惟神 禊の神事を教へ伝へむ 近山は早くも緑となりにけり 岐美が禊の光の徳に 曲津見は青山となり沼となり 巌となりてひそみ居るかも 久方の天津高宮ゆ降りましし 光の神はここにいますも くもりたる心抱きて瑞御霊の 光の前にあるは苦しき 山に野に百花千花匂へども 曲のすさびに色あせにつつ 虫の音も次第々々に細りけり 曲津見の水火に苦しめられつつ 今日よりは鳥の鳴く音も虫の音も 風のひびきも澄み渡るらむ 迦陵頻伽非時歌へど西方の 国土には亡びの響きなりけり 今日よりは迦陵頻伽の歌ふ声も 冴えに冴えつつよみがへるべし 天渡る月日のかげの見えわかぬ 西方の国土は風の冷ゆるも ひえびえと吹く山風にあふられて 百の草木はなかばしをれつ 今日よりは草の片葉に至るまで 岐美の光によみがへるべし 月読の恵の露も今日よりは 豊にくだらむ草木の上にも』 臼造男の神は御歌詠ませ給ふ。 『禊すと水底くぐり身重さに おぼれむとして苦しみしはや つぎつぎに禊の力あらはれて わが身は軽く澄みきらひたる 河水を濁して流るる気魂の 垢の深さにあきれたりしよ 斯くならば蚤や虱のすみどころ 消えてあとなき水晶の気魂よ 水晶の如くわが魂わが身まで 照り輝けり禊終りて』 内容居の神は御歌詠ませ給ふ。 『滔々と流るる水に内容居 神の神魂は清まりにけり 曲津見の水火に曇りし西方の 国土に生れて吾くもりけり 河底の砂利まで光る日南河の 流れは清しも瑞の御霊か 仰ぎ見る瑞の御霊の顔は 月の面にまして光らすも 月読の神の御霊と現れましし わが岐美なれば光らすもうべよ 日南河向つ岸辺は真鶴の 岐美の生ませし光の国土なる 今日よりはおのもおのもが禊して 西方の国土を照らさむとおもふ 千引巌これより北の大野原に あちこち立てるも曲津見なるべし わが来る道にさやりし千引巌は 八十曲津見の化身なりしよ わが魂はくもらひければ曲津見の 化身の巌を知らず来つるも かへりみれば千引の巌ケ根わが行かむ 道の行手をのみふさぎたる わが岐美の教へ給ひし禊の神事に わが魂線を輝かしゆかむ 禊して岸にのぼれば気魂も 神魂も軽さ強さを覚ゆる 愛善のこの天界に生れ来て 禊せざれば忽ち曇らむ 神にある吾なりながら惟神 禊の神事をなほざりにせしよ 日南河の清き流れは国津神に 禊をせよと教ふるものを 愚なる吾なりにけり朝夕に この清流に居向ひながらも 天も地も一度にひらく心地かな 禊をはりしそのたまゆらは 醜雲の四方に立ちたつ西方の 国土はこれより月日照るらむ』 初産霊の神は御歌詠ませ給ふ。 『わが心よみがへりたり気魂も 軽くなりたり禊の神事に 禊する神事を初めて覚りけり 百の罪とが洗ふ神事と 罪けがれ洗ひ清めて吾は今 はじめて産霊の神業を知る 禊すと水底くぐれば大魚小魚 わが気魂をつつきめぐりぬ 気魂の垢をつつくと大魚小魚 わが身辺を取り巻きにけり 苦しさをこらへ忍びて水底に 神魂の罪を魚にとらせり わが肌は真白くなりぬ魚族の 垢は餌食となりて失せぬる 河底も明るきまでに瑞御霊 光り給ひて禊ましける かくのごと光の神も惟神 禊の神事に仕へますはや 曇りたるわが身は非時禊して せめて神魂の垢洗はばや 光なきわが身なれども朝夕の 禊に神魂冴ゆるなるらむ』 愛見男の神は御歌詠ませ給ふ。 『日南河水の底ひをくぐりつつ 禊の神事ををさめけるかな 天界の総ての穢れを洗ひ去る 禊の神事ぞ尊かりける ウの声の生言霊に生れし吾も いつの間かは曇らひにける 磨かずば忽ち曇る神魂よと 吾は覚りぬ禊に仕へて わが眼清しくなりぬ山も河も 今は雄々しく色冴えにけり わが耳はさとくなりけり虫の音も 禊終りて清しく聞ゆる わが鼻も透き徹りけむ百花の 薫り清しくなりにけるかも 言霊の水火も清けくなりにけり 禊の神事の貴の功に 天も地も清しくなりぬ気魂と 神魂の垢の洗はれしより いざさらば光の岐美に従ひて 曲津見のすみかをさして進まむ 神々を言向け和し光明に 満ち足らひたる国土造らばや 大空を包みし八重の黒雲も 散りて失せなむ岐美の光に 西方の国土はこれより輝きて 曲津見の魂もまつろひぬべし』 斯く神々は各自禊終り、其の功を讃美し乍ら、顕津男の神の御後に従ひ、柏木の森を目当に、スウヤトゴルの曲津見を征服すべく、意気揚々と轡を並べて立ち出で給ふ。 (昭和八・一一・三〇旧一〇・一三於水明閣内崎照代謹録) |
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霊界物語 | 76_卯_世界の神話/朝香比女の神の物語 | 04 怪しの巌山 | 第四章怪しの巌山〔一九二一〕 八十曲津見の神は、鋭敏鳴出の神の生言霊にうたれて、雲霧となり、西吹く風にあふられて、一度は東の御空遥かに逃げ失せたれども、ここに再び陣容を立て直し、飽くまでも神の神業にさやらむと、古綿をちぎりたる如く、雲を次々吐き出だし、幾千丈とも限りなく重り合せて、遂には天を貫く大巨巌となり、蜿蜒数百里にまたがる巌骨の山を築き上げ、その前面に千尋の深き溪川をつくりて、一歩も進ましめざらむとし、力を尽すこそ忌々しけれ。 ここに、高野比女の神一行は、駒の轡を並べて、夜を日についで進ませ給ふ折しもあれ、前途に横はる思ひがけなき巌山に、行手を遮られ、暫し思案にくれ給ひけるが、ここに鋭敏鳴出の神は、曲津見の醜の雄猛びものものしやと宣りつつ、かたへの千引巌を、頭上高くさし上げながら、「うん」と一声、深溪川の巌ケ根に向つて打ちつけ給へば、巌と巌とは相摩して、迸り出でたる火の光に、曲津神は驚きて、さしもに堅き巌山も、どよめきそめつ梢後方に退きにける。 紫微天界に於ける、火の生れ出でしは、鋭敏鳴出の神の巌投げによりて始まれるなり。曲津見の神は激しく飛び出でし火の光に、驚きて肝を冷し、今までの勇気はどこへやら、数百里にまたがる巌山も、次第々々に影うすらぎ、遂には白雲となりて、御空遠く消え失せたるぞ不思議なれ。 高野比女の神はこの態を見て、感嘆のあまり御歌詠ませ給ふ。 『鋭敏鳴出の神の功に生れ出でし 火は曲神を追ひ散らしける 巌骨の山と変じて曲神は わが行先をさへぎりしはや 千引巌の摩擦によりて現はれし 炎はすべてを焼きつくすらむ 天界に始めて見たる火の光 四方を照らして曲をやらへり 巌ケ根ゆ火の出づること悟りけり 鋭敏鳴出の神の神業によりて』 鋭敏鳴出の神は御歌詠ませ給ふ。 『曲神は巌骨の山と変じつつ 行手にさやれど何か恐れむ 巌と巌の軋りて生れし火の神の 功たふとくわれをろがみぬ 谷底に散りたる火花に怖ぢ恐れ ときはの巌山も崩れ初めたり 堅磐常磐の巌の山と見ゆれども 雲と雲とのかたまりなるも アオウエイ生言霊を宣りあげて この巌山を雲と散らさむ』 かく歌ひつつ、鋭敏鳴出の神は、声も朗かに御歌詠ませ給ふ。 『アオウエイ天津真言の言霊に 巌骨山は跡なく消えむ カコクケキ輝き渡る大空の 天津日光に亡びよ曲津見 サソスセシ さやりたる醜の曲津見の曲業も 生言霊の水火に消えなむ タトツテチ たつくもの重り合ひて巌となりし 曲津の山をば崩してや見む ナノヌネニ ながながと広野の中に尾をひきし この巌山もいまに消えなむ ハホフヘヒ空吹く風の功績に 雲と散るべしこの巌山も マモムメミ 曲津見の醜の猛びの深くとも われには言霊剣ありけり ヤヨユエイ 八十曲津見力の限りさやるとも 如何で悩まむ神なるわれは ワヲウヱヰ わくらはに力あつめて生り出でし 曲の巌山いまに砕かむ 一二三四五六七八九十 百千万の神守らせたまへ』 斯く歌ひ給ふや、蜿蜒として幾百里にわたりたる巌骨の山も、次第々々に煙となりて砕けつつ、風のまにまに散り行くぞ愉快なれ。 天津女雄の神はこの態を見て、御歌詠ませ給ふ。 『天晴れ天晴れ鋭敏鳴出の神の功績に 醜の巌山早や崩れたり 曲神の奸計の深溪川さへも 底あせにつつかくろひにけり 天地の中に生れて主の神の 恵みを知らぬ曲津神はも 火の神の在処を始めて悟りけり 巌と巌との中にいますを 曲神の醜のとりでを亡ぼさむ ためには強き力の火なるよ あらがねの地にも火にも神ますと われは始めて悟らひしはや 曲神は火の御光に怖ぢ恐れ 雲の彼方に影をかくせり かくのごと力の限りを集めたる 曲の仕組の山は崩れぬ 言霊の水火に生れし天界に 尊きものは言霊なるかも 何一つ武器は持たねど言霊の 水火の剣に守られ行かむ 真心をつくしの宮居より降り来し われ面白きことを見たりき 駿馬は勇みすすみて天界の この清しさに嘶き止まずも』 梅咲比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『面白き旅に立つかも行先に 曲の構へし砦を破りつ 主の神の御稜威は高しわが岐美の 功は広しと思へば楽し 曲神の心つくしの巌山も 生言霊に跡なく亡びぬ 曲神は偽りごとをたくみつつ さやらむとする心浅ましも 天津真言の生言霊の幸はひに 生りし森羅万象は永久に亡びじ』 香具比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代神とわれは選まれ東の 宮居に仕へておもふ事なし 今までの心の雲り晴れにつつ わが背の岐美を尊くぞ思ふ 恋しさの心は消えて背の岐美を 敬ふわれとなりにけらしな 鋭敏鳴出の神の功の尊さを 悟りてわれは心はづかし 力なき女神の身もて神業に 仕ふる日々の重さを思ふ さりながら辞まむ術もなかりけり 神の依さしの尊かりせば わが心曇らひにつつ背の岐美の 神業にさやりし事を悔ゆるも 言霊の水火も清めずひたすらに 岐美を慕ひし愚かさを恥づ』 寿々子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『ここに来て神の奇しき神業を 近く眺めつおどろきしはや 何事も生言霊の幸はひに 生り出づるよしを悟らひにけり やすやすと神に仕へて朝夕を 過せしわれは愚かなりける 朝夕の禊の神事をおこたりし われは御子生み叶はざりしよ 今日よりは瀬見の小川に禊して 生言霊を清め澄まさむ 鋭敏鳴出の神の言霊清ければ 流石の曲津見も逃げ失せにけり』 朝香比女の神は御歌うたひ給ふ。 『御樋代の神とはいへど言霊の 濁りにそひます神はあらまじ わが岐美を恨みし事の今更に はづかしきかも水火の曇れば 曇りたる水火もて少しも曇りなき 水火にあはすと思ひし愚かさ 吾のみか八柱比女神も悉く 生言霊は濁らひますらむ 御子生みの神業に離れし過も みな言霊の濁ればなりけり 今日よりは心の奥より清め澄まし 神の依さしの神業につくさむ 御樋代の神と任けられいたづらに この年月を暮すべきやは 言霊の清くありせば曲神の 千引の巌も崩れこそすれ 朝な夕な瀬見の小川に禊して 慎しみ敬ひ神業に仕へむ 曲神の強き猛びも恐れずに 進み行かむか言霊剣もて』 宇都子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『宇都子比女われは御樋代神として 今日が日までも待ちあぐみたり 真心をつくしの宮居に詣でつつ 主の大神の光りにうたれつ 主の神の依さしの神業成らずして あだに月日を過す苦しさ 鋭敏鳴出の神の言霊清ければ 御空の月日も澄み渡りつつ 曲神は雲霧となり雨となりて わが行先にさやりこそすれ 万世の末の末まで生き生きて 神業に仕へむ若返りつつ 若返り若返りつつ神業に 仕へむとして言霊磨くも』 狭別比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『いざさらば進み行かなむ曲津見は 影だにもなく逃げ失せにけり うづ高く積みて造りし巌山も 跡なく消えて春風わたる 言霊の旅を重ねてをりをりに 曲津の奸計をめづらしみ見つ 言霊に消えて跡なき巌山の あとに匂へる百花千花よ 言霊の水火の濁れば雲となり 曲津見となりて世を塞ぐなり 百神の曇れる水火の固まりて 八十曲津見は生れ出でにけむ 斯の如悟りしわれは今日の日を さかひとなして言霊みがかむ わが神魂清まりぬれば自ら 生言霊も澄みきらふらむ 天界の旅をつづけて今更に 生言霊のたふとさを知る 洗へども磨けどおちぬ魂線の 曇りを如何に払はむかと思ふ 神を愛し神を信じつ朝夕に 魂洗ふよりほかに道なし』 花子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『われもまた御樋代神と仕へつつ 高地秀の宮居に年をふりけり 高地秀の宮居の聖所に朝夕を 曇りし心に仕へ来しはも 愛善の真言の光におはす神は われをきためず許しましぬる 今日よりは心の駒を立て直し 小さき事にかかはらざるべし 大らかにいます岐美ゆゑ大らかに 仕へて神業に勉むべきなり 村肝の心の闇は晴れにけり 主の大神の御旨さとりて 何事も神の御心と知りながら をりをり小さき心のわくも 妬み嫉み今まで続けし八柱の 御樋代神を愚かしみおもふ 御樋代の神の中にもすぐれたる きたなき心持ちしわれなり 花のごと清くあれよと主の神は 花子と名づけ給ひしものを 花も実もなき言霊を宣りにつつ わが背の岐美を悩ませしはや わが罪の深さ重さを悟りつつ 神の御前に詫びつつ泣くなり』 小夜子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『夜も昼も神の恵みに抱かれて 天界に住むわれはたのしも 楽しかるこの天界に生れあひて かこち過せしことを今悔ゆ 言霊の幸はひたすくる天界に われは亡びの道を歩みし 知らず識らず亡びの道を辿りけり 妬ましき心いやかさなりて 御樋代神かたみに妬み嫉みつつ 高地秀の宮居を曇らせしはや 清らけき心の玉をかがやかし かたみに仕へむ神の御前に 主の神の七十五声の言霊に 国津神たち数多生れにき 国津神の上に立てよと主の神の 依さし給ひしわれ等なりける 国津神の心におとる魂線を もちて仕へむことの難きも 真心のあらむ限りを照らしつつ 世のため神のためにつくさむ いざさらば百神駒に召しませよ 東の宮居は遥かなりせば』 高野比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『鋭敏鳴出の神はわが行く先に立ちて 進ませたまへこの広原を 天津女雄の神は後方を守りつつ 進ませたまへ東の宮居へ』 斯く歌ひ給へば、鋭敏鳴出の神は、高野比女の神其他一同に黙礼しながら、ひらりと駒に跨り、いざや道案内せむと、馬背に鞭うち蹄の音も勇ましく、鈴の音を四辺に響かせながら、春風わたる青野ケ原を進ませ給へば、一行は轡を並べてしづしづと御心も朗かに進み出で給ふ。 (昭和八・一二・五旧一〇・一八於水明閣白石恵子謹録) |
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霊界物語 | 76_卯_世界の神話/朝香比女の神の物語 | 07 外苑の逍遥 | 第七章外苑の逍遥〔一九二四〕 長途の旅に疲れたる百神等は、各自春の日の夢を結ばせ給ひ、高地秀の宮居の広庭は水を打ちたる如く静まりて、小鳥の春を囀り交す声のみぞ聞ゆ。 胎別男の神は駒の疲れを休ませむとして、限りも無き広き外苑の若草萌ゆる清庭に、駒を放ちて遊ばせ給ひつつありける。 春風は徐ろに吹き花の香を四辺に送り、四方はおぼろに靄立ちこめて、げに長閑なる晩春の景色なりける。 朝香比女の神は長途の疲れもいとひ給はず、この長閑なる春日を眠るは惜ししと、花の蕾のほぐれたる清庭に立ち出で給ひ、心静に御歌詠ませ給ふ。 『梓弓春の女神は夏山の みどりの園にうつらせ給ひぬ 吹く風も長閑なりけり晩春の 野辺の景色は湯の沸ける如し 百千草所せきまで萌え出づる 野辺の遊びは心地よろしも 露おびし若草の上を踏みて行く 素足の裏のさも心地よき 紫の花はほぐれて池水に 咲くも床しき庭のあやめよ やがて今あやめの花は紫と 日々に匂ひて夏深むらむ 池水の底に泳げる大魚小魚 鰭の動きのすみやかなるも 背の岐美はいづくの果てにお在すらむと 朝な夕なを思ひわづらふ 爛漫と咲きほこりたる桜木の 花もつれなく散る世なりけり 白梅は早や散り果てて若葉萌ゆる 梢につぶら実のぞきゐるかも 天津日は霞の空にほのぼのと 光やはらげて昇りましける 駿馬の嘶き強く草むしる 愛ぐしき姿に夏は来むかふ 山も野もみどりの衣着飾りて 夏の粧ひものものしけれ われもまた御樋代神の一柱 ただいたづらに時を待つべき 天地の森羅万象はうつり行く この天界に黙しあるべき いたづらに岐美を恋ひつつ歳を経し わがおろかさを今更悔ゆるも 御樋代神は御子生みのみにあらずとは 知れど如何でか忍ばるべしやは 岐美を恋ふる心の駒ははやり立ちて 女神の胸は高鳴り止まずも 草の露素足に踏みて行く庭の 果てにも霞む晩春の色 躊躇の弱き心を立直し 勇み進まむわが背の岐美許に 吾行かば背の岐美怒らせ給ふらむ 言霊照して和らげて見むかも 鋭敏鳴出の神の出でましし大宮居は 弥栄えなむわれ居らずとも 百神に議らば心ず止められむ 吾はひそかに旅立たむかも 天津日の西にかたむく夕暮を 駒に跨り御空をたづねむ』 朝香比女の神はひそひそと述懐歌をうたひ乍ら、芝生を逍遥し給ひけるが、胎別男の神は耳ざとくも朝香比女の神の御歌を聞き給ひ、驚きて大宮居に馳せ帰り、七柱の御樋代神始め鋭敏鳴出の神、天津女雄の神に事の由を詳細に告げ給へば、各自驚き給ひて夢を破らせつつ、朝香比女の神の出立を止めむと、夏草萌ゆる外苑に立出で給へば、朝香比女の神は吾乗らむ駒の背に鞍を置かせ給ひ、片御手に手綱を取り、左の御足を駒の鐙に半ばかけむとし給ふ折なりければ、高野比女の神は驚き給ひて馳せより、駒の轡を堅く握らせ給ひて御歌詠ませ給ふ。 『春さりて夏来むかへる清庭に 何故汝は駒に召さすか 駿馬に跨りいゆく旅衣も 早や夏の日となりにけらしな 草枕旅に立たすは春と秋の 花と紅葉の頃なるべきを』 朝香比女の神は右手に手綱を取りながら答の御歌詠ませ給ふ。 『背の岐美の御上思へば恋ふしさの 心つのりて得堪へずなりぬ 八十筋に乱れ初めにしわが心 つかねむ由もなかりけるかな 大道に違ひ奉ると知りつつも 吾進まばや背の岐美許に 駿馬のはやる心を止めます 公の言の葉恨めしきかな いか程にとどめ給ふもわが心 はや旅立ちを定めたりける なまじひに止め給ひそわが駒は 旅に立たむと足掻き止まずも』 高野比女の神は儼然として御歌詠ませ給ふ。 『主の神の汝は依さしの御樋代よ 許しなくして旅に立たすか 天界は主の大神の御樋代よ いかで許さむ独断心を』 朝香比女の神は答の御歌詠ませ給ふ。 『主の神の道に背くと知りながら 恋ふしさつのりて死なまく苦し 日に夜に苦しみもがきし吾魂は 消なば消ぬべく死なば死ぬべし 矢も楯もたまらぬまでの恋ふしさに 胸の高鳴り苦しく止まずも 今となりて恋ふしき心をひるがへす 力なきわれを許させ給へ』 鋭敏鳴出の神はこの様を見て驚きながら、御歌詠ませ給ふ。 『主の神に御樋代神とまけられし 公にあらずや省みましませ 草枕女神の一人旅立ちは 危ふかりけむ時を待たせよ いか程に心はやらせ給ふとも この稚国土は進む道なし』 朝香比女の神は決然として歌ひ給ふ。 『よしやよし万里の荒野を渉るとも 吾は恐れじ言霊剣もてれば 言霊の貴の剣をふりかざし さやらむ曲津を斬りはふり行かむ 高地秀の宮居は尊し背の岐美は 一入なつかし黙しあるべきや 吾一人これの宮居にあらずとも 鋭敏鳴出の神ひかへますなり 遠くはかり深く思ひて吾は今 御子生みの旅に立たむとすなり 主の神の依さしの神業遂ぐるまで 吾は帰らじ許させ給へ 御樋代の比女神等よわが願ひ 𪫧怜に委曲に聞きて許さへ わが心千引の巌より重くして 如何なる力も動かし得ざらむ』 梅咲比女の神はしとやかに御歌詠ませ給ふ。 『背の岐美を思はす心のあさからぬ 朝香の比女の真言を悲しむ 吾とても日々に恋ふしく思へども 御許しなければせむ術もなし あらためて神の許しの下るまでは 朝香の比女よ暫く待ちませ いたづらにわが思ひねをつき通し 後にて悔います公を悲しむ 御樋代の神と仕へてわれとても 心苦しくけ長く待ちぬる 汝が心吾は知らぬにあらねども 神の許しのなきを恐るる 兎も角も高地秀の宮居に帰りませ 汝が心のはやりいませば 落ちつきて身の行く末を語らひつ 静かに静かにおこなはせませ』 朝香比女の神は御歌もて答へ給ふ。 『ありがたし梅咲比女の神宣 心に刻みて忘れざるべし さりながら生命消ぬまでこがれてし 岐美はわが身に捨て難きかも 百神はいかにわが身をはかゆとも 恐れず行かむ駒に鞭うちて 御樋代の神等宮居の司等 わが旅立ちを詳細に許せよ いざさらば駒に跨り出で行かむ すこやかにませ御樋代神等』 と言ひつつ、再び駒に跨らむとし給ふにぞ、寿々子比女の神は駒の轡をきびしく手握り給ひて、御歌詠ませ給ふ。 『吾とても岐美を恋ひつつ朝夕を 歎きて暮らす神魂なりけり さりながら主の大神の許しなくて これの聖所をはなるべしやは 汝が神の清き心のそこひまで 吾は悟れりとどむるも悲し 止めあへぬ涙かくして夜昼を なげきし吾はかくもやつれし さりながら神の依さしの重ければ 忍びて待ちぬ長の月日を この度は思ひ止まり給へかし 牡丹の花も開き初むれば 爛漫と咲き匂ひたる桜花も 夜嵐に散る世を思ひませ 愛善の紫微天界も永久に 花も梢のものならざらむ』 宇都子比女の神は、駿馬の前にしとやかに立たせ給ひつつ、朝香比女の神の旅立ちを止めむとして御歌詠ませ給ふ。 『春さりて夏はやうやく来向へる 野に若草は萌えさかりける 夏草の萌ゆる聖所を後にして 旅立たす公の心あやしも 願はくば暫しを待たせ主の神の やがて許しの下る日来らむ 何事も己が心のままにならば 吾も黙して止まらざるべし 汝が神の切なる心は悟れども 天界のために吾はとどめむ 大宮居に朝な夕なを仕へます 汝の勤めを汚し給ふな 言霊の御樋代神とつつしみて 高地秀の宮居に暫し仕へませ 吾とても同じ思ひに泣きながら 忍びて宮居に仕へゐるなり』 狭別比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『朝香比女神の神言の出で立ちを とどめむとする吾は苦しも 苦しさを忍びてとどむるわが言葉 うべなひ給へ朝香の比女神よ 高地秀の峰の桜は散り果てて 野は常夏の色をそめたり 高地秀の春のはじめの桜花も はや散りにけり御樋代神の身に 春過ぎし花なき木草の如何にして 花なる岐美と水火の合ふべき 夏草は所せきまで萌え出でぬ 汝が神すでに歳古りにける 歳古りし御樋代神は言霊の もとゐとなりて天界を守れよ 吾も亦歳ふりし身よ言霊の 御樋代神となりて仕へむ 高地秀の宮居の名花を散らすかと 思へば惜しし公の旅立ち』 花子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『花子比女花の姿はあせにけり 朝香の比女も斯くやましけむ あさからぬ朝香の比女の志 とどめむとして涙あふれつ 顕津男の神の御後を訪ねむと 思ほす公の心かなしも 顕津男の神は国土生み神生みの 神業忙しく顧みたまはじ 遥々と遠の山野をのり越えて 無情に泣かす公を悲しむ 村肝の心の駒を立て直し 止まり給へ高地秀の宮居に』 小夜子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『小夜更けし身ながら光の顕津男の 神の御後を訪はす術なさ 春さりて夏の夕べを旅立たす 公を悲しとおもひて泣くも』 朝香比女の神は、決心の色を面に浮べて御歌詠ませ給ふ。 『神々のあつき心は悟れども 心の駒の足掻き止まずも わが神魂愛ぐしと思し給はれば 許させ給へ今日の旅立ちを よしやよし曲神道にさやるとも 生言霊になびけ進まむ 言霊の幸に生れしわれにして 言霊の水火輝かざらめや 駿馬のはやる心を貫ぬきて 吾は進まむ背の岐美許に』 天津女雄の神は憮然として歌ひ給ふ。 『朝香比女の強き心は悟れども 今暫くを待たせたまはれ 比女神の矢竹心をおさへむと 百神等の真心かなしも 百神のやさしき心をよそにして 旅立たむとする公ぞつれなき』 朝香比女の神は矢も楯もたまらず、決然として鞭を右手に手握り、左手に手綱をささげながら御歌詠ませ給ふ。 『いざさらば百神等よ大宮居に 朝な夕なを仕へましませ 百神等の御旨にそむくと思へども かたき心をわれ如何にせむ』 と言挙げしつつ一鞭あててまつしぐらに夕闇の幕分けつつ一目散に駆け出で給ふぞ是非なけれ。 (昭和八・一二・六旧一〇・一九於水明閣谷前清子謹録) |
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霊界物語 | 76_卯_世界の神話/朝香比女の神の物語 | 14 磐楠舟 | 第一四章磐楠舟〔一九三一〕 高地秀山の聖場に御樋代神と仕へたる 八柱比女の神司中にも別けて面勝の 神とまします朝香比女は雄心押さゆる由もなく 桜の花の散り敷ける春の夕の唯一人 白馬に跨りしとしとと踏みも習はぬ大野原 道なき道を別けながら狭葦の河瀬の曲神を 生言霊を打ち出し真火の功に追ひ払ひ 再び荒野をわたりまし栄城の山の聖場に 着かせ給ひて百神のあつき待遇喜びつ 暫し御足を留めつつ又もや駒に鞭うちて 太元顕津男の神の御許に進み行かばやと 未だ地稚くもうもうと霧立ち昇る大野原 一人雄々しく出で給ふ。 夕暮近くなりし頃、前方に横はる大沼あり、駒は左右の耳を前方に傾け、俄に蹄を止め、何程鞭うち給へども一歩も進まざる怪しさに、兎も角も旅の疲れを休らへ様子を見むと、萱草茂る芝生に下り立ち給ひける。 要するに総て馬は鋭敏なる動物にして、前方に敵ある時は耳を前方に傾け進まむとせず、又馬自身の気分良き時得意なる時は、耳を真直に空に向つて欹て、又騎手に対し不満を抱き或ひは振り落さむと思ふ時は、左右の耳を後方に傾くるものなり。故に馬に乗るものは第一に耳の動作に注意すべきものとす。 朝香比女の神は萱の生にどつかと尻を落付け、暫し双手を組み考へ給ひけるが、白駒は一脚一脚後退り止まず、果ては前脚を上げて直立し、驚きの声を放ちて凶事を報ずるが如く見えける。 『わが駒の驚く見れば行く先に 曲津見は罠を造り待つらむか 前方に左右の耳をかたむけて 歩みたゆとふ駒のあやしも 果しなき大野の末に黄昏れて わが駿馬は居竦みさやぐも 濛々と夕の霧のふかみつつ 咫尺弁ぜぬ怪しき野辺なり 斯くならば夜の明くる迄草の生に 駒をやすめてわれは待たなむ 進み進み退く事を知らぬ吾も 駒おどろけばせむすべなけれ 夕烏声も悲しくきこゆなり 霧ふかしくて影は見えねど 陰々と邪気迫り来てわが水火も 今は苦しくなりにけらしな 顕津男の神の神言は日並べて 斯かる艱みに逢はせ給はむ 面勝の神と言はれし吾にして 如何で曲津にためらふべしやは 今こそは燧を打ちて真火照らし 八十の曲津をしりぞけむかな』 斯く歌ひながら燧を取出し、かちりかちりと打ち出し給へば、火花は四辺に散りて原野に落ち、若草の根に重りたる去年のかたみの枯草に忽ち火移り、見る見る吹き来る風に煽られて、火は前方に延び広まり、沼の岸辺に到りて燃え止まりける。四辺を包みし深霧は俄に四方に散り失せ、空晴々と青雲の生地を現はし、六日の月は鋭き光を地上に投げければ、目路の限り一点のさやるものなく、沼の面はきらきらと月光浮ぶ夜とはなりける。八十曲津見の神は狭葦の河瀬の真夜中を、朝香比女の神の真火の功に退はれ傷きたれば、暫し影を潜め居たりしが、火傷も漸く癒えければ第二の作戦計画を思ひ立ち、駒諸共に沼の中に迷ひ入らしめ、仇を報いむと待ち居たりしなり。駿馬は早くも前方間近く斯かる難所のあるを知りて、危難を恐れためらひしものと思はる。 茲に朝香比女の神は心落付き給ひ再び駒に跨りて、広く長く展開したる沼の岸辺に駈け寄り給ひ、波間に浮べる爽けき月光を眺めながら、御歌詠ませ給ふ。 『曲津見の醜のたくみも霧となり 煙となりて逃げ去りにけり 大野原わが打ち出でし火に焼かれ あとかたもなく清められたり 曲津見は此の荒野に影ひそめ われ傷ふと待ち構へ居しか 駿馬の敏き耳と眼に看破られて 八十曲津見の罠はやぶれし 有難し神の賜ひしこの真火は わが行く道の守りなるかも 幾万の曲津見来り襲ふとも われには真火の剣ありける きらきらと水の面に冴ゆる月光は わが背の岐美の御霊なるかも 千万里遠きにいます背の岐美の 影を間近く此処に見るかな 上下にかがやきわたる月光は わが背の岐美と思へば嬉しも 此沼を見つつすべなし吾行かむ 西方の国土をさへぎるこの水 兎に角に今宵は沼の月光に いむかひながら夜を明すべし』 朝香比女の神は駒の背よりひらりと下り給へば、不思議なるかな、小石一つなき汀に長方形の巌横はりありければ、格好の坐席なりと腰打ち下し憩ひ給ひつつ、御歌詠ませ給ふ。 『主の神の恵なるらむ汀辺に わがやすむべき巌はありけり 此巌に吾身の疲れやすめつつ 月を拝みて夜を明かさばや 虫の音は焼き払はれし草の根に ひそみて鳴くかこゑの悲しき 波の面を右と左に飛び交ひて 土鳥啼くなり月にはえつつ いつの間にかわが駿馬も巌の上に 蹲りつつ水火をやすめり 此巌未だ稚ければ舟にして この広沼をわれは渡らむ』 斯く歌はせ給ひながら、比女神は細き柔かき左右の御手もて、巌の中をゑぐり舟の形となし給ふ。恰も陶器師が柔かき粘土を以て皿、茶碗などを練るが如く、またたく間に舟の形を造り、 『一二三四五六七八九十 百千万千万の神 集まり来りて守り給はれ ハホフヘヒ舟に成れ成れ此の巌 今わが造りしこれの巌舟 水の面に浮ぶるまでも軽くなれ 軽くなれなれ木舟の如くに』 斯く宣らせ給ふや、流石の巌舟も忽ち木舟と変じ、自らするすると滑りて汀辺にぽかりと浮きければ、比女神は駒諸共に舟中に飛び入り給ひ、 『天晴れ天晴れ生言霊の幸はひて 巌は真木の舟となりける 艪も楫もなけれど吾は言霊に これの御舟をあやつり渡らむ 大空の月は益々冴えにつつ わが乗る舟は波すべるなり 水底にうつろふ月を眺めつつ 波のおもてを風なでて行く 天と地の中空わたる心地かな 上と下とに月をながめて 千万の御空の星は水底の 金砂銀砂となりてかがよふ 曲神の醜の奸計の千引巌も われをたすくる舟となりしよ 駒よ駒汝は賢しく雄々しけれ 曲津の奸計をわれに知らせし 如何程に沼は広くも言霊の 力に暁岸辺につかむ やすやすと御舟の中に月を見つ 旅の疲れをやしなはむかな 西北の風に送られわが舟は 艪楫なけれどいやすすむなり 高地秀の山は雲間に聳え立ち 今宵の月に照らされにつつ 仰ぎ見ればはろけかりけり高地秀の 山出でしより久しからぬに 栄城山尾の上ほのぼの見えにけり 月のしたびに尾根晴れにつつ 大空に月は照れども遠々し 高照山はすがた見えなく 眼に一つさやるものなき大野原 この広沼の月はさやけし わが行かむ道を遮る曲津あらば 生言霊に追ひ退け行かむ 天と地の広きが中を駈り行く われは一人の旅なりにけり 駿馬のたすけによりて果しなき 大野をわたる吾はさびしも 淋しさの心の駒に鞭うちて 勇み進まむ果なき国原を わが舟は彼方の岸に近づきて 御空の奥はしののめにけり 岸辺近くなりて清しき鵲の 鳴く音は高く聞え来にけり やがて今朝日昇らば百鳥の 声もすがしく世をうたふらむ』 漸くにして御舟は、広き沼の果なる岸辺に横はりければ、朝香比女の神は駒諸共舟を乗り捨て、 『わが舟は千引の巌と体を変じ これの岸辺に永久にあれかし 一二三四五六七八九十 百千万舟よ舟 元の如く巌となれなれ 堅磐常磐の千引の巌となれなれ』 斯く宣らせ給ふや、御舟は忽ち元の如く大巨巌となりて汀辺に屹立せり。此の巌を御舟巌と名付け給ひける。 東雲の空は次第々々に明らみにつつ、新しき天津日は煌々と雲押し分け昇らせ給ひ、沼の面を隈なく照らさせ給ふ。 (昭和八・一二・八旧一〇・二一於水明閣森良仁謹録) |
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霊界物語 | 77_辰_田族比女の神の物語(万里の島) | 15 笹原の邂逅 | 第一五章笹原の邂逅〔一九四七〕 霊山比古の神は、小笹の芝生に曲津見の計略も難なく逃れて一夜を明し給ひけるが、漸く東の空を照して昇らせ給ふ天津日の光に、蘇生の息を吐き給ひける。 折しも保宗比古の神、直道比古の神、正道比古の神、雲川比古の神の四柱は、この場に悠々と駒の手綱をかいくりながら現はれ来り、駒をひらりと飛び下り、保宗比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『霊山比古の神は事無くおはせしか 夜半を進みし醜の常闇に 吾こそは道の行手を塞がれて 咫尺弁ぜず途中に宿りし 東雲の空を力に立ち出でて 駒を急がせここに来つるも』 霊山比古の神は答の御歌詠ませ給ふ。 『待ち待ちし四柱比古の姿見つ わが魂線は蘇りたり 常闇の小笹ケ原に夜をこめて 醜の曲津と言問ひしはや 醜女探女も夜光の玉を照らしつつ 吾を魔窟に誘はむとせし 三柱の比女神の姿と体を変へて やさしく吾を誘ひしはや 竜神は眼を光らし吾前に 夜光の玉と偽りにける いかにして進まむ由もなかりけり 咫尺弁ぜぬ黒雲の幕に 青臭き息に囲まれ玉の緒の 生きの生命を危ぶみにけり これよりは部署を定めて各も各も 魔棲ケ谷に進まむと思ふ』 保宗比古の神は驚きながら御歌詠ませ給ふ。 『吾も亦とある小さき森蔭に やすらひにつつ夜光の玉見し 三柱の比女神吾にも現はれて 夜光の玉に誘ひにけり 如何にしても怪しきものと思ひしゆ 吾言霊に逐ひやりにけり 三柱の比女神等の面ざしに 似たれど少しは怪しと思へり 兎にもあれ角にもあれや夜の明くるを 待たむと心定めたりしよ』 直道比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『吾も亦醜の曲津の化身なる 三柱比女の神に逢ひける 曲津見の猛び忌々しければ吾許に 来れと彼等は誘ひにけり よく見れば二つの耳は動きたれば 正しく曲神の化身と悟りき 言霊の水火をこらして曲神を 伊吹き払へば消え失せにけり 色々と手段を持ちて曲神は 吾等が征途を防がむとすも』 正道比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『吾前に三柱比女は見えねども 夜光の玉の地に落ちゐたるよ 吾伊行くあたりの闇を射照らして 夜光の玉はかがやきにけり 怪しみて吾手にふれず鞭もちて 打てば夜光の玉は動けり 闇の夜を照らす真玉と見えけるは 正しく竜の眼なりけむ 大いなる騒ぎの音を立てながら 夜光の玉は千々に砕けぬ 竜神の眼は砕け破れつつ 独眼竜となりて逃げしか』 雲川比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『荒野ケ原に吾も漸く黄昏れて やさしき女に出会ひけるかも 先に立たす比古神等は悉く 滅び給へば進ますなと宣りし 怪しかる女神は秋波をよせにつつ 吾駒の首に飛びつきにけり 駒に鞭あつれば忽ちをどり上り 女神を捨てて駆け去りにけり ここに来て始めて知りぬ比古神の 事なく在せしを雄々しき姿に いざさらば天津日の光昇りませば 部署を定めて征途に上らむ 曲神の醜の奸計はこまやかに 手筈極めて待ちあぐむらむ 兎も角も今日の首途に先立ちて この笹原に神言宣らむか』 霊山比古の神其他の諸神は、雲川比古の神の提言に賛意を表し、天地も割るる許りの言霊をはり上げて、貴の神言を宣らせ給ひぬ。霊山比古の神は小笹ケ原を流るる細谷川の清水に禊し給へば、四柱の神も吾後れじと健びの禊を修し給ひ、各自首途の御歌詠ませ給ふ。 霊山比古の神の御歌。 『天晴れ天晴れ細谷川に禊して 吾言霊は清まりしはや 斯く迄も禊の神事の畏さを 悟らざりしよ愚かなる吾は みそぎして吾気体も魂線も 清めし上は恐るる事なし 吾魂は冴えに冴えつつ鳴り出づる 生言霊の力満ちぬる 玉の緒の生きの生命もさやさやに 清まりにつつ光を増しけり 奴婆玉の闇より黒き曲神の 魂を照らして勝鬨あげむか はてしなき生言霊の力もて 進まむ今日の出で立ち楽しも 曲神の醜の砦も近づきぬ いざや進まむ言霊照らして 八十曲津谷間に深くひそむとも 現はしくれむ言霊の光に 鷲の棲みしこの森林の谷間を 安く開きて吾は進まむ』 保宗比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『禊して吾身はあかくなりにけり いざや進まむ魔棲ケ谷に 万里の島に永久にさやりし曲神の 滅ぶる時は今や来にけり 雲を起し霧を湧かしてすさびたる 曲神滅ぶと思へば楽し 千引巌あまた並べて構へゐる 醜の砦も何か恐れむ 黒雲の中にかくれて邪気を吐く 八十の曲津の終りなるかも 主の神のたまひし厳の言霊を 今日の禊に清めて進まむ 月も日も包みかくして荒びたる 魔棲ケ谷の砦を放らむ』 直道比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『白馬ケ岳の頂までも黒雲を 起して曲津は待ち構へ居り 白馬ケ岳百谷千谷に黒雲を 湧かせて曲津は吾等を遮れり アオウエイの生言霊に荒び狂ふ 竜も大蛇も生命をたたむか おとなしく服従ひ来れば吾も亦 愛のこころを起して救はむ 御樋代の神の天降りし万里の島を 清むも吾等が務なりける 田族比女神は泉の森蔭に 吾戦を守りますらむ 溪川をおつる滝津瀬高けれど 水は残らず赤濁りたり 溪川の流れを見れば曲津見の こもれる水火の濁りなりけり この水の流るる所浸みる所 木草は育たず穀物実らず 曲神の醜の砦を打ち破り 清き清水の滝津瀬とせむ さりながらこの一筋の細谷川は 禊の為に澄みきらひたり 主の神の禊せよとて造らしし 小川と思へば尊かりける』 正道比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『両肩に重荷を負ひし心地して 神の神言をかしこみ進むも 夕されば曲津の荒び強からむ 真昼の間によく戦はむ 昨夜の如曲津の化身現はれて 吾等を迷はす事の憎ければ 曲神は真昼を恐れ真夜中を 吾世となして猛び狂ふも 夕されば戦休み時じくに 生言霊を宣りて明さむ』 雲川比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『雲霧となりて天地を塞ぎたる 曲津見今や滅びむとすも 五男三女の雄々しき神の行く道に いかなる曲津もさやる術なけむ 兎も角も醜の曲津と戦はむ 陽のある間ぞ勝利なるべし ほしいままに伊猛り狂ふ真夜中に 曲津を攻むるは益なかるべし 曲津見は真昼の光を恐れつつ 雲霧となりて地を包むなり』 斯く御歌詠ませ給ふ折しも、三柱の比女神は駒の轡を並べてこの場に悠々と現はれ給ひ、山跡比女の神は馬上より御歌詠ませ給ふ。 『五柱の比古神ここに在せしか 昨夜の闇を案じつつ来し 吾こそは御樋代神の計らひに 後れて征途に上り来しはや 曲神は吾等三柱比女神の 姿まねぶと思ひて後れしよ 御樋代の神の言葉に従へば 曲津は吾等に身を変へしと聞く』 霊山比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代神の水ももらさぬ御計らひに われは驚き畏むばかりよ 山跡比女神の宣らせる言の葉の 畏さ吾身に迫るものあり 曲津見は三柱比女の神と化し 吾誘ふと計らひしはや さりながら吾魂線はささやきぬ 曲神の化身よ心許すなと 吾魂の囁き言葉に従ひて 曲の奸計の罠をのがれし』 千貝比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『五柱比古神等に後れ来しも 曲の奸計を思ひてなりけり 田族比女神の神言のさとき目に 吾も今更驚きにけり 吾来る道はほのぼの明るみて 月のかかれる野辺なりにけり 小笹原芝生に五柱神ますと 宣らせ給ひぬ御樋代の神は 御言葉の如く五柱比古神は 小笹ケ原に待ち給ひける 斯くの如神の守りの強ければ 醜の曲神も何か恐れむ』 湯結比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『三柱の比女神夜の大野ケ原を ほのかな月に照らされて来し 吾来る大野ケ原に夜は明けて 駒の歩みも早くなりける 言霊の天照り助くる神の世に 醜の曲神のいかで栄えむ いざさらば諸神等と言霊の 水火を合せて進みに進まむ』 霊山比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『斯くの如五男三女の神柱 集ひし上は急ぎ進まむ さりながら神々等は各も各も 部署を定めて攻め上らむかな』 ここに五男三女の神は各の部署を定め、遥か彼方の空に巍峨として峙つ魔棲ケ谷さして進み給ふ事とはなりぬ。 (昭和八・一二・一五旧一〇・二八於大阪分院蒼雲閣谷前清子謹録) |
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霊界物語 | 77_辰_田族比女の神の物語(万里の島) | 16 妖術破滅 | 第一六章妖術破滅〔一九四八〕 一行の先頭にたち、醜の曲津に対し征服戦主将と任けられたる霊山比古の神は、思ふところありてか、三柱比女神の言霊戦の部署を、広原の片方にこんもりと立てる楠の樹の根元と定め、如何なる事ありともアオウエイの言霊の聞ゆる迄は、一歩も此処を動き給はず、吾等が戦闘を援くべく生言霊の光を放ち、ひかへさせ給へと、かく命じ置き、霊山比古の神は深谷川の右側を、保宗比古の神は左側を、直道比古の神は第二の谷間の右側を、正道比古の神は第二の谷川の左側を、雲川比古の神は最左翼を、各自言霊を間断なく宣り上げつつ登らせ給ふこととはなりける。 ここに曲津神等は、五柱の神の激しき鋭き清き赤き照り渡る言霊の水火の力に怖ぢ恐れ、登山を防がむとして八十の曲津見を駆り集め、何れも巨大なる千引の巌と化せしめ、神々の登らす道の前途に、折り重なりて遮りたれば、一歩も進みたまふこと能はざるに至りたり。されど神々は何れも神世に於ける無双の英雄神におはしましければ、かかる曲津神の全力をつくしての防禦も何のものかはと、強行的に生言霊を宣り上げながら各自に進ませ給ふぞ雄々しかりける。 ここに霊山比古の神は、駒を小笹ケ原の楠の樹蔭に遊ばせ置き、右側の谷間を強行的に攀ぢ登らせ乍ら、心静かに言霊歌を詠ませ給ふ。 『白馬ケ岳はさかしとも 魔棲ケ谷は深くとも 千引の巌はさやるとも 山気は怪しく濁るとも 主の大神のヲの声に なり出でここに霊山比古の神と 御名を賜ひし吾なれば 如何でひるまむ魔の山も 霊の神山と浄めつつ 万里の島根の雲霧を 生言霊に伊吹き払ひ 雲霧隈なく晴らしつつ 国土にわざ為す太刀膚の 大蛇を始め肝向ふ 心きたなき大蛇の輩を 言向け和しならざれば わが言霊の剣もて 百段千段に斬り放り 国土の災をば永久に 除きまつらむ惟神 神は吾等と倶にあり 吾はもとより主の神の ヲ声の言霊御子なれや 永久に鎮まる主の神の 貴の宮居なり生の宮居よ かくも尊き言霊の 水火を保ちて世に出でし われは真言の主の神の 貴の御樋代御手代よ ああ勇ましき今日の旅 魔神は如何にさやるとも 大蛇の荒びしげくとも 百津石村の千引巌 吾等が行手を囲むとも 何かあらむや言霊の 貴の剣をぬきかざし 力限りに進むべし ああ面白や面白や 天地開けし初めより かかるためしはあら尊 万里の島根を永久に うら安国と定むべく 魔神の征途に向ふこそ 実に勇ましき次第なり ああ惟神々々 生言霊に幸あれや』 かく御歌詠ませ給ひつつさしもに嶮しき荊蕀の道を 深谷川に添ひ乍らただ一柱悠々と 進ませ給へば曲津見の群は見上ぐるばかりの巨石となり 幾百千とも限りなく道の前途を塞ぎつつ 崩れかからむと揺ぎ出すその光景の凄じさ 霊山比古の神は曲津見のいたづらならむと恐れげも なく巌をば飛び越えて登らせ給へば百千々の 千引の巌は各も各も綿の如くにゆるぎ出し 事の意外にあきれたるその活劇のをかしさに 霊山比古の神は其の中の最も巨大なる巌の上に 突つ立ち給ひつつ化身の巌を悉く タトツテチ、カコクケキと生言霊を宣り上げて 真言の巌と為し給へばさすがの邪鬼も動き得ず かすかに呻吟の声たてて進退不動となりにける。 『曲津見の醜の奸計の浅はかさ われを奸計らひ謀られけるも 曲津神は数の限りを集めつつ 巌となりてわれにさやれり さやりたる曲津見の神の化け巌を わが言霊に真巌と固めし かくならば曲津神等も動くべき 力なからむああ面白し 曲津神の奸計は深く見ゆれども 生言霊に容易く亡ぶる 亡ぶべき運命を持てる曲津見の 雄猛びこそは憐れなりけり わが立ちしこれの巌も曲津見の 中に勝れし輩なりける 東側の谷間の悪魔ことごとを 率ゐし曲津を足下にふまへるも 曲津神は身動きならぬ常巌と なりてかすかにうめきゐるかも』 かく歌はせ給ふ折しも、百千の巌は谷間に向つて百雷の落つるが如き大音響をたて、佐久那太理に落ちくだち始めたり。 霊山比古の神は、この光景を面白しと大巌の上に立ちて瞰下し給ふ折しもあれ、三柱比女の神は静かに登り来まし、千引の巌に圧せられ泣き叫び給ふ声、天地も割るるばかり聞えける。ここに霊山比古の神は三柱比女神を救はむと、巨巌の上より飛び下り給はむとせしが、俄に心付き給ひて、待てしばし、三柱の比女神は楠の大樹の下蔭に言霊照して鎮まりいませば、この谷間を登り来まさむ理由なし。曲津神は一計を案じ、吾目をくらまし、三柱比女神と見せかけわが救ひゆく谷道に、上より巨巌となりし悪魔は落ち来て、わが気魂を砕かむ奸計なるべしと思召すより、平然として三柱の神の悲鳴を瞰下し給ひつつ御歌詠ませ給ふ。 『三柱比女の神にはあらで醜神の 醜の奸計よ面白きかな 如何程に泣き叫ぶとも曲津神の 醜の奸計よ比女は無事なり 比女神をわれ救はむと下りなば これの巌はわれを打つべし 永久にこの巌ケ根を地深く 埋めて千代のこらしめとせむ』 ここに霊山比古の神は、大巌の上に四股踏みならし給へば、未だ地稚きこの谷川辺は、一足踏ます毎に巨巌は土中に一尺余りも、め入り込みて遂には其の表面を地上に現はすばかりとなりにける。 ここに霊山比古の神は、この巌を憩所とし、暫し水火を休めて、作戦計画に時を移し給ふ。折しもあれ、 『霊山比古神の功の尊さを 見むとてわれは天翔り来つ 清水湧く泉の森を立ち出でて われいや先に此処に来つるも かくの如功のしるき汝なれば いざや進まむ竜の巌窟へ われこそは御樋代神の田族比女よ ゆめ疑ふな霊山比古の神』 霊山比古の神は御歌もて応へ給ふ。 『御樋代の神と白すは偽りなるよ わが眼は清しわが魂明し 曲津見は御樋代神と身を変じ われ亡ぼすと奸計み居るも わが敏き眼迷はさむとする曲津神の 奸計の罠の浅はかなるも 真汝は御樋代神にあるならば わが言霊に応へまつれよ カコクケキ輝き渡る主の神の 水火の力に曲津を照らさむ 汝こそは魔棲ケ谷にたてこもる 竜に仕ふる魔神なるべし』 かく歌ひ給へば、御樋代神に変装したる邪神は、何の応へもなく、言句つまり、身体震ひ戦き、次第々々に姿細り、煙の如く消え失せにける。 『面白し曲津の神の奸計は 今や煙となりて消えぬる 百千々の巌と変り三柱の 比女神と化りさやぐ曲津かも 曲津見は再び御樋代神となり われ悩ますと現はれしはや 言霊の水火の力に敵しかねて 煙と失せけり曲津見の神は 白馬ケ岳百谷千谷に潜みたる 曲津はしきりに黒雲吐くかも 曲津神もここを先途と戦ふか 百谷千谷に黒雲たちたつ 巌となりてころげ落ちたる曲津神の 猛びの音は天にとどけり いざさらば生言霊の剣もて 曲津の砦に直に向はむ 見渡せば千峡八百峡ことごとく あやめもわかぬ黒雲包みぬ わが立てるこの巌ケ根の四方八方は 雲霧晴れてそよ風渡るも 三柱の比女神もしも登りませば われは魔神にあやまたれけむ 三柱の神は何処までも動かじと 誓ひ給へばわれ憚らじ 三柱の神の悩みと見せかけて われを奸計らふ曲津ぞ浅まし 御樋代の田族の比女の神柱と なりて曲津は欺かむとせり 田族比女神は泉の清森に いまして光を送らせ給ふも 曲津神の奸計は深く見ゆれども 為す業見れば浅はかなるも 曲津見の一部は巌と固まりて わが魂線はしばし休らふ 今よりは向つ谷辺に渡らひて 保宗比古の神業たすけむ』 (昭和八・一二・一五旧一〇・二八於大阪分院蒼雲閣林弥生謹録) |
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霊界物語 | 77_辰_田族比女の神の物語(万里の島) | 17 剣槍の雨 | 第一七章剣槍の雨〔一九四九〕 『主の言霊に生り出でし 紫微天界の中にして 万里の海に浮びたる 万里の島根は地稚く 国内未だに定まらず 雲霧四方に塞がりて 時じく邪鬼は跳梁し 森羅万象の生命を 損ひ破る忌々しさに 御樋代神と生れませる 田族の比女の神柱 此土の司とましまして 森羅万象を守らむと 万里ケ丘なる聖所に 仮の御舎建て給ひ 十柱神を従へて 朝な夕なに太祝詞 宣らせ給へど如何せむ 国土の初めに生れたる 邪気のかたまり太刀膚の 醜の竜神大蛇等は 吾物顔に跳梁し 万里の島根は常闇の 淋しき世界となりにけり 田族の比女の神司 この惨状を除かむと いよいよ十柱神々を 従へ泉の森林に 其の本営を定めまし 白馬ケ岳の南側の 魔棲ケ谷に立て籠る 醜の曲津に言霊の 征矢を放ちつ照らさせつ 吾等八柱神司 いよいよ魔棲ケ谷の奥深く 進ませ給ふ今日こそは 天地開けしはじめより 例もあらぬ神業ぞ ああ惟神々々 主の大神の言霊の 水火の幸ひいちじるく 八十の曲津を悉く 言向け和せ此の国土の 雲霧も隈なく掃蕩し 心安国の心安く 生きとし生けるものみなの 生命を永久に守るべく 吾言霊に極みなき 生命と光を賜へかし 谷の流れは淙々と 木霊に響き山風は 吾等の前途に吹き荒ぶ 八十の曲津は今日の日の 言霊戦に辟易し 周章狼狽せし結果 いろいろ雑多に身を変じ あらゆる詐術を施して 必死となりて防ぐなる 此の首途の面白さ 曲津の奸計の深くとも 魔棲ケ谷は暗くとも 谷の流れは濁るとも 道の難所は多くとも 如何で恐れむ言霊の 水火の力にいや進み 曲津の砦に立ち向ひ 生言霊の光もて 根本的に顛覆し 此の世の害を除くべし 吾等は神の子神の宮 生言霊の水火かりて 現はれ出でしものならば 進まむ道に仇をなす 曲津はことごと消え失せむ ああ面白や勇ましや 神の依さしの今日の旅 守らせ給へと主の神の 御前に慎しみ願ぎ奉る 御前に慎しみ願ぎ奉る』 斯く歌ひつつ、保宗比古の神は谷間を伝うて登らせ給ふ折もあれ、霊山比古の神の神力に、巌と固まりし曲津の化身なる石村は、雨霰と谷底に向つて矢を射る如く急転直下し来り、前後左右に落下するさま、百雷の一時に轟く如く、百狼の一時に吠え猛るが如く、川底の石と石と相打ちて迸る火光は、恰も電光の閃けるが如くにして、其凄惨のさま、形容すべからざるに到りける。岩飛礫の雨の中に悲鳴をあげて号泣する女神あり。保宗比古の神は、声する方に眼を注がせ給へば、豈計らむや、御樋代神にまします田族比女の神は、巨巌に圧せられ九死一生の苦難に遇ひ給ふにぞありける。 保宗比古の神は、素破一大事、身命を賭しても御樋代神の御身を救ひ奉らむと、今や谷間に向つて飛び込まむとし給ひし刹那、何神の声とも知らず、空より一口「待て」との大喝一声耳に響きければ、保宗比古の神は、はつと気が付き、御樋代神は泉の森の本営におはしまして、一歩も進ませ給はざれば、かかる谷間におはす筈なし、全く醜神の吾等を苦しめむとする奸計なるべしと思ほすより、俄に勇気百倍し、谷底に雨霰と時じく落ちくだつ巌の雨を打ち見やりつつ、平然として御歌詠ませ給ふ。 『面白し魔棲ケ谷の曲津見の 力限りの演劇なるかも 千引巌の降るよと見しは曲神の 醜の輩の断末魔なる 霊山比古神の宣らせる言霊に 曲津は石となりて落ちしよ 斯くならば此の谷沿ひ曲津見の その大方は潰えたるらし 三柱の比女神たちの宣り給ふ 生言霊かあたり明るし 耳すませ滝津瀬の音を窺へば 三柱神の御声響けり 百条の谷の流れを集めたる この大谷の水は濁れり 谷底ゆ湧き立つ霧は膨れ膨れ 竜の形となりて昇り来 面白く姿を変ふる谷の間の 霧は次第に薄らぎゆくも』 斯く御歌詠ませ給ふ折しも、空俄に黒雲襲ひ来り、咫尺を弁ぜず常闇となり、雷轟き電光走り、驟雨沛然として臻り、白馬下しの風は、さしもに重き千引の巌を木の葉の如く吹き散らし、槍の雨、剣の雨、間断なく保宗比古の神の身辺に向つて殊更しげく降り注ぎ、その危険到底言語のつくし得べからざるに迫りける。曲津神は此処を先途と全力を尽して保宗比古の神の征途を扼し、且つ滅亡せしめむと、必死の力をここに集注せしなり。 保宗比古の神は、曲神の猛烈なる邪気に囲繞されて、呼吸つまり胸苦しく、頭は痛み出し手足の働き全く止まり、生言霊に使用すべき天の瓊矛なる舌は、硬ばりて如何ともするに由なく進退ここにきはまりて唯曲津見の為すがままに任せ死を待つより外何の手段もなかりける。 かかる所へ泉の森の彼方より、巨大なる火光轟々と大音響をたて、天地を震動させながら、保宗比古の神の頭上高く光りて、前後左右に舞ひ狂ひければ、谷間の邪気は跡形もなく消え失せ、巌の雨も槍剣の暴雨も影をかくし、天地寂然として太陽の光隈なく伊照らし給ひければ、ここに始めて保宗比古の神の生言霊は活動の自由を得、身心忽ち爽快となりて、幾千億の敵にも屈せざる大勇猛心に蘇へり給ひけるぞ畏けれ。 『面白き曲津の神のすさびかな 醜言霊のわざをぎ始めし 剣槍巌の雨を降らせつつ 吾身の周囲を驚かせける 吾もまた醜の曲津に囲まれて 身動きならず苦しみしはや 曲津見も侮り難き力もちて 神のいくさをなやませしはや 時じくに生言霊を唱ふべき 道忘れをり心あせりて 吾神魂進退ここにきはまりしを 助けたまひぬ御樋代の神は 知らず識らず心驕りて曲津見の 醜の奸計におちいりにけり 今更に吾魂線の緩みたる こと悔ゆれども詮なし恥づかし 今よりは心の駒を引きしめて 時じく宣らむ貴の神言を 曲津見の影はあとなく消え失せて 谷間を渡る風の音清しき 淙々と落ちて流るる滝津瀬の 水音さへも冴え渡りける 曲津見は第一戦に敗北し 魔棲ケ谷の奥に隠れしか 飽くまでも追撃戦を継続し 神の依さしの神業を遂げむ 向ふ岸の巌の上に言霊の 光を放ちて霊山比古は立たすも 霊山比古神の祈りに御樋代神は 光となりて出でましにけむ 霊山比古神の著けき神力に 比べて吾は小さきものなり 知らず識らず曲神をきたむと吾心 驕りしものか憂き目に遇ひしよ 第一の曲津の作戦かくのごと 激しきものとは思はざりしよ 次々に醜の曲津は全力を 尽して吾等に迫り来るらむ 寡をもちて衆に対する此の神業 なみなみならぬ言霊戦なり 霊山比古神の姿はつぎつぎに 小さく見えつ高のぼりませり 吾もまた生言霊の光にて これの谷間をのぼり進まばや 谷の間を深く包みし黒雲の 影消え去りて輝く日の光』 保宗比古の神はかく述懐歌をうたひながら、岩根木根踏みさくみつつ神言を不断的に宣りあげて、魔棲ケ谷の森林さしてのぼらせ給ひける。 (昭和八・一二・一六旧一〇・二九於大阪分院蒼雲閣白石恵子謹録) |
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霊界物語 | 77_辰_田族比女の神の物語(万里の島) | 18 国津女神 | 第一八章国津女神〔一九五〇〕 『永久に動かぬ万里ケ丘 下津岩根に立たせます 御樋代神の大御前 仕へ奉りて荒野原 駒に跨りとうとうと 泉の森に立ち向ひ ここにやうやく黄昏れて 月下の清水に禊しつ 一夜の露の雨宿り 魔棲ケ谷の曲神を 征服すべく事謀り 御樋代神はこの森を 大本営と定めまし 輪守の比古神左守とし 若春比古を右守とし 五男三女の吾々は 白馬ケ岳の曲津見を 征服せむと勇み立ち 駒の手綱を引きしぼり 馬背に鞭を当てながら 果しも知らぬ萱野原 一目散に馳せ渡り 小笹ケ原の楠の森 此処に一行相会し いよいよ作戦計略を 定めて各一条の 道をたどりて攻めのぼる 今日の生日は御空晴れ 吹き来る風もさはやかに 谷間を落つる滝津瀬の 音淙々と聞ゆなり 吾はヰ声の言霊に 鳴り出で茲に神となり 御樋代神に従ひて 万里の島根に仇をなす 八十曲津見の禍を 残る隈なく払はむと 生言霊の力もて 岩石崎嶇たる近道を 岩の根木の根踏みさくみ 登り行くこそ楽しけれ 今まで晴れし大空は 忽ち黒雲ふさがりて 天日光を失ひつ 谷間に湧き立つ深霧は ふくれ拡ごり次ぎ次ぎに あやしき形をあらはして 煙の如く燃え上り わが行く道をさへぎりぬ ああ惟神々々 生言霊の御光に 醜の曲津見の曲業を 退け散らし元の如 清くさやけき天津日の 光を照らさせ給へかし わが身辺を包みたる 雲と霧とにひそみたる 曲津見の邪気はものすごく 吾に迫りて息さへも 全く苦しくなりにけり ああ惟神々々 わが言霊に命あれよ 生言霊に幸あれよ』 斯く歌はせたまひつつ、谷川の難路を攀ぢのぼりたまふ折しもあれ、前後左右より飛び出したる凄じき猪の群は、直道比古の神の前後左右を取り巻き、鳥のごとく頭上を飛び交ひ、鋭利なる爪をとがらせ、比古神の両眼を掻きやぶらむと迫り来るにぞ、今はこれまでなりと、直道比古の神は臍下丹田に息をこらし、芝生の上に端坐しながら、天に向つて両手をあはせ、 『一二三四五六七八 九十百千万の神よ 集まりましまして 曲津見の征途に立ち向ふ わが行く道にさやりたる 曲津見の群をことごとく 追ひそけ給へ惟神 主の大神の御前に 赤き清けき村肝の 心照らして願ぎ奉る ああ惟神言霊の 水火の力に光あれ』 斯く歌はせ給ふや、四辺を包みし雲霧は次第々々にうすらぎて、天津日の光はほのぼのと谷間を照らし給ひければ、直道比古の神は神徳の宏大なるに感泣しつつ、道の傍の巌の上に端坐して息を休め、且つ御歌詠ませ給ふ。 『わが行手閉ぢふさぎたる雲霧も 宣る言霊に散り失せにけり 曲神はわが行く先にさやりつつ 力かぎりに刃向ひ来るも 醜草を薙ぎて放りて進みゆかむ 言霊剣ふりかざしつつ 万里の島の曲津見悉集まりし 魔棲ケ谷は清めでおくべき 醜神を斬りて放りて万里の島の あらゆるものの水火を守らむ 濁りたる水火に包まれ森羅万象は 生気褪せつつ萎びゐるかも 雨となり雲霧となり巌となりて 曲津見は前途をさへぎらむとすも 霊山比古保宗比古の二柱 神の功を知りたくぞ思ふ 谷べりの荊蕀分けて進み行く 道の隈手を守らせたまへ 仰ぎみれば魔棲ケ谷の空高み 醜の黒雲しきりに湧き立つ 百千谷飛び越え草むら分け登る わが行く道に恙あらすな 御樋代の神の御稜威に守られて 曲津のすみかを吾登り行くも 尾の上吹く風の響もさやさやに わが踏む山路の草はなびけり 雲霧となりてさやりし曲津見は 魔棲ケ谷に逃げ去りにけむ 曲津神の醜の奸計のあさければ またもや破れむ生言霊に 五柱の神の打ち出す言霊に 千万の曲津は遂に滅びむ 御樋代神三柱比女神遠くより 生言霊の光照らせり 御樋代の神の御稜威の尊さを 初めて知りぬおろかしき吾は 遠くおもひ深く計りて御樋代の 神は泉の森にいますか 清水湧く泉の森は主の神の 水火の凝りたる御舎ならむ 夕されば曲津は猛ばむ天津日の ある間に進まむ魔棲ケ谷に』 斯く歌ひ給ふ折しも、大いなる巌の蔭より、朱に染みたる布を抱へながら、両眼を腫らせ、泣き沈みつつ降り来る女神あり。この女神は直道比古の神の御前に近み来り、両手を合せ、うづくまり、嗚咽涕泣し、何事か訴ふるものの如く、全身に波を打たせゐる。 直道比古の神は、こは様子あらむと女神の背を撫でさすり、言葉淑かに、 『何神におはしますかは知らねども 名乗らせ給へ汝がありかを 邪神棲むこの高山に如何にして 一人いますかいぶかしみ思ふ』 女神『吾こそは白馬ケ岳の峡に住む 尾上と申す国津神なり 時じくに醜の曲津に攻められて 吾は一人を苦しみつづくる 天津神曲津の征途にのぼりますと 聞くより吾は迎へ奉りぬ 朝夕を涙に暮らす国津神の 淋しき境遇を助けたまはれ 御樋代の神に仕へし汝が神の 力にすがると迎へ来つるも わが庵は千引の巌の片蔭よ いざや暫しを休ませたまへ いざさらばわが住む庵に導かむ 続かせ給へ天津大神』 斯く歌もて答へつつ静々と前に立ち、立居物腰も淑かに進むにぞ、直道比古の神は怪しき者御参なれと思召しつつ、さあらぬ体にて女神の後に従ひ、千引の巌蔭のささやかなる萱もて葺きたる庵の前に近づき、内にも入らず佇ませ給ひける。 比女神は庵の内より、細き悲しき声を張り上げて、 『直道比古神の神言よみにくけれど わが家に入りて休ませ給へ 願ひたきことの山々ありぬれば 入らせ給へよ庵の内に 父も母もわが同胞もことごとく ほろびてかなしき一人住居よ 曲津の棲む魔棲ケ谷は道遠し しばしを休らひ出で立ちまさね 雄々しかる神の助けに吾もまた 邪神の棲処を知らせ奉らむ 兎も角も曲津の奸計のことごとを さとりし吾をうべなひ給はれ』 女神は小さき庵の内より細き優しき声を張り上げて、頻りに比古神を庵の内に入らせ給へと勧めたりけれども、直道比古の神は頭脳明敏にして容易に迷ひ給はず、万一この庵に吾入りなば、千引の巌は忽ちわが頭上に倒れ来り、身体を木端微塵に打ち砕くべき邪神の計略ならむと一歩も動き給はず、御歌詠ませ給ふ。 『くさぐさの甘き言葉に誘ふも 吾は迷はず曲津見の罠には 汝こそは大蛇の化身よ巌ケ根に 永久にひそみて禍なせし神よ いざさらば汝が正体をあらはして 神の力を照らして見むかも 一二三四五六七八九十 百千万千万の神よ 生言霊の光り照らさせ給へ 惟神御霊幸倍おはしませ』 と大音声に呼ばはり給へば、以前の女神は忽ちものすごき長大身と還元し、黒雲を起し、魔棲ケ谷の方面さして一瀉千里の勢をもつて逃げ出すこそ恐ろしき。 『醜神は奸計の裏を看破られ 生言霊に逃げ失せにけり 比女神となりてわが身をあざむきし 大蛇の奸計は破れけるかも 千引巌そよ吹く風にもゆらゆらと 動き出せり邪神の化身か 邪神ならばわが言霊に吹き散れよ 一二三四五六七八九十』 百千万と皆まで宣らせ給はぬに、さしもに高き広き大いなる千引の巌ケ根は、枯木の倒れる如く谷間に向つて顛落し、百雷の落つるが如き声たてて百千万の破片となり、脆くも溪流に落ち入りにける。 『曲津見の醜の奸計のあさはかさ 千引の巌も千々に砕けつ 大空の雲もやうやく吹き散りて この山道に陽はかをるなり 百千花道の左右に咲き満ちて 吹きくる水火も芳ばしきかな 澄みきらふ水火をくまなく呼吸して 吾気魂はよみがへりたり 今よりは天津祝詞を奏上し 邪神の砦を粉砕せむかな』 (昭和八・一二・一六旧一〇・二九於大阪分院蒼雲閣内崎照代謹録) |
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霊界物語 | 77_辰_田族比女の神の物語(万里の島) | 20 女神の復命 | 第二〇章女神の復命〔一九五二〕 御樋代の神は、曲津の征途に遣はせし五男三女の神々等の成功を祈りつつ夜も眠り給はず、侍神なる輪守比古の神、若春比古の神と共に、西南の空に向つて生言霊を間断なく宣り上げ給ひつつ、いよいよ神々の無事曲津見を掃蕩し給ひたることを覚らせ給ひ、喜びの余り月照り耀ふ泉の森の清庭に立ちて、御声さはやかに言祝の御歌詠ませ給ふ。其大御歌、 『白馬ケ岳魔棲ケ谷に向ひたる 諸神の軍勝ち了せたるよ 谷々の巌を渡り百千々の 艱みを越えて勝ちし神はや 今日よりは此稚国土も心安く 弥栄えまさむ神の御稜威に 主の神の貴の恵の言霊に 万里の島根は治まりしはや 曲津見は非時濁れる水火を吐きて 黒雲起しさやりけるかも 未だ稚き地の面より湧き立つる 霧の艱みも今日より晴れむ 楠の葉の葉末の露に輝ける 月の光の神々しさよ 天渡る月の光は一入に 冴え渡りたり青澄める空に 真砂みな黄金白銀色なして 月の光に耀ひはゆるも いや広き八千方里の島ケ根も 蘇へるべし曲津見亡びて 主の神の依さしの神業吾も亦 仕へ奉りし嬉しさに居り 非時に雲湧き立ちし魔棲ケ谷も 今日より晴れむ水火清らかに 牛も馬も兎鼠も百蛙も 生きの生命を安く保たむ 此国土は地肥えたれば穀物も 豊にたゆたに稔りこそすれ 国津神を此国原に移し植ゑて 弥永久の栄え見むかな 常磐樹の松に巣ぐへる真鶴の 声も今日より冴え渡るらむ 大空をはばたきなして隼の 群がり舞へる月夜は清しも 円々と盈ち足らひたる月光の さやかなる夜を曲津は亡びし 三柱の比女神等の健気さよ 御空翔りて仇に向へり』 輪守比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『月冴ゆる庭にし立てばそよそよと 梅花を撫で来し風の香るも 白梅は月下の露に綻びて 奇しき香りを公に捧ぐる 吾公の功著けく魔棲ケ谷の 戦を居ながら助けたまひぬ 吾公の生言霊の水火照らひ 光となりて御空翔りし 公が放つ光の玉にあてられて 醜の曲津は亡びたりけむ 斯くなれば万里の島根は固まらむ 生きとし生けるもの等勇みて 黒雲の立ち塞ぎたる稚国原も 永遠の月日を仰ぐ嬉しさ 御側近く仕へ奉れる吾にして 公の尊き功知らざりき 御側近く長き月日を仕へつつ 御稜威の高きに驚きしはや 斯の如尊き神とは知らずして あだに仕へしことの恥づかし 吾公よ許し給はれ輪守比古の 暗き心を見直し給ひて 大空の月は冴えつつ吾公の 貴の光を愛でさせ給へり 月見れば笑ませる如し地見れば 百花千花輝きつよし 天地の中に光の公まして 稚国原を固め給ひぬ』 若春比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『御側に近く侍らふ吾にして 著き功の公を知らざり 言霊の生きの生命は大いなる 火光となりて飛び去りしはや 吾宣りし生言霊の螢火に 比べて強き赤き公なり やがて今三柱比女神帰りまさば 戦の状況委曲に聞かむ 束の間も早く聞きたし魔棲ケ谷の 雄々しき猛き戦の状況を 梢吹く風の響も澄みきりて 公の功を称へ顔なる 滾々と果しも知らず湧き出づる 泉に似たり公が力は 真清水に影を浮ぶる月読の それにも似たる公の光よ』 斯く歌はせ給ふ折しもあれ、三柱の比女神は中空を響動しながら鷲馬に跨り、泉の森の樹立稀なる清庭に悠々と降らせ給ひて、 『駒よ駒よ翼収めて元の如 白馬となれなれ公の御前ぞ』 山跡比女の神の御歌に、鷲馬は忽ち元の白駒と変じ、月下の清庭に高く嘶きにける。今帰り給ひし三柱の比女神は、駒に水飼ひ終り、柔かき芝生の萌え出づる清庭に駒を飼ひ放ち置き、御樋代神の御前に進み出で給ひ、先づ山跡比女の神より御歌以て戦の状況を復命白し給ふ。その御歌、 『漸くに公の御稜威に照らされて 曲神の砦を打ち払ひけり 駒並めて進まむ道に曲津見は 種々の罠を造りて待てりき 霊山比古神の計らひ畏みて 小笹ケ原の森に待ち居し 霊山比古貴の言霊聞きしより 中空翔り戦に向へり 吾公の言霊の光なかりせば 此戦は勝たざりにけむ 非時に貴の言霊宣りにつつ 鷲馬に跨り戦ひしはや 吾公の御前に今日は復命 白すと思へば心勇みぬ 五柱比古神はやがて帰りまさむ 今日の戦の勝に勇みて』 千貝比女の神は御歌以て復命白し給ふ。 『御樋代神貴の言霊畏みて 力なき吾も戦ひに立ちけり 千万の曲神悉く言霊の 水火の力に亡び失せけり 今日よりは魔棲ケ谷も雲晴れて 生きとし生けるものを生かさむ 谷々の水は暫く血の川と なりて流れむ曲の血潮に 明日よりは此谷川は真清水と 澄みきらひつつ永遠に流れむ 真清水となりて国原ひたしつつ 百の草木を養ひまつらむ』 湯結比女の神は復命白しの御歌詠ませ給ふ。 『いや果に吾等三柱比女神は 曲の戦に進みたりしよ 小笹原楠の森蔭に時待ちて 御空を高く吾進みけり 三柱の比女神鷲馬に跨りて 空より言霊打ち下しけり 曲津見は雲霧となり巌となり 荒風となり防ぎ戦へり 折々は氷雨を降らし千引巌を 霰の如くに降りそそぎけり 色々と手を替へ品を替へながら 曲神はここを先途と戦ふ やうやくに神の恵の御光に 守られ曲津を亡ぼせしはや』 比女神は各自戦状を復命し給ひければ、田族比女の神は満面笑を湛へて嬉し気に、御歌詠ませ給ふ。 『健気なる三柱比女の神業を 吾は遥かに見つつありしよ 優しかる比女神ながら魔軍に 向ひし姿の雄々しかりける 曲神の深き奸計を打ち破り 汝比女神は能くも戦ひしよ 今日よりは万里の島根にさやるべき 醜神もなく月日晴れつつ 八百万神の集へる此森に 吾屯して手配せしはや 神々の向はむ戦に幸あれと 夜もすがら吾は言霊宣りつつ 主の神の依さし給ひし言霊の 光に曲津は苦もなく亡びぬ 草も木も喜びの色を湛へつつ 月下の露にきらめき渡れり 千早振る神世も聞かぬ今の如 目出度き神業はまたとあるまじ 太刀膚の竜も大蛇も八十の曲津も 汝等が進みし軍に亡びし 主の神も嘉し給はむ三柱の 比女神等の雄健び覧はして 久方の空行く月も澄みきらひ 汝が功を照らし給へり』 輪守比古の神は三女神に対し、感謝の御歌詠ませ給ふ。 『比女神の優しき身ながら恐ろしき 曲津の征途に上らししはや 吾も亦この清森に神言を 非時宣りて公を守りし 五柱比古神の功は言ふもがな 雄々しき比女神の功尊し 千早振る神の造りし万里の島の 礎なるよ公の功は 天地を永遠に包みし黒雲も 隈なく晴れて月日は照らへり 天津日の光地上に刺さざれば 森羅万象は栄えざるなり』 若春比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『三柱の比女神事なく曲神を 斬り放りつつ帰りませしはや 白梅の花は匂へり桜木の 梢の蕾もふくらみて祝ふ 白梅の香るが如き艶姿を 照らして汝は戦に臨みましぬ 十重二十重黒雲包みし大野原を 公は雄々しく進み給ひし 吾公の御側に侍りて比女神の 戦の状況隈なく見しはや いざさらば此清庭に安々と 憩はせ給へ疲れ給はむ 霊幸はふ神の御稜威に照らされて 今日は清しき便り聞くかも』 斯く神々は各自御歌詠ませつつ、月下に映ゆる楠の大樹の下蔭に狭筵を敷き、心も清々しく朗かに憩はせ給ひける。 (昭和八・一二・一六旧一〇・二九於大阪分院蒼雲閣森良仁謹録) |
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霊界物語 | 77_辰_田族比女の神の物語(万里の島) | 21 泉の森出発 | 第二一章泉の森出発〔一九五三〕 田族比女の神始め二男三女の神等は、魔棲ケ谷の曲神の跡もなく全滅したるを喜び給ひて、月照りかがよふ泉の森の真砂を踏みしめ乍ら心朗かに各自御歌詠ませ給ふ。 田族比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『千早振る神の御水火の澄みきらひ 万里の島根も蘇へりたり 時じくに雲の包みし大空も 晴れて清しき万里の島ケ根 主の神の依さし給へる御樋代の 神の神業も成り初めにけり かくならば恋しきものは顕津男の 神の神言の御姿なりけり 長年を待ちつ暮せど背の岐美は 万里の外にいますがつれなき 国津神を万里の島根に植ゑ移し 国魂神を生まむとぞ思ふ 八十柱の御樋代神と選まれて 吾はさみしく月日を送るも 高地秀の宮を立ち出で遥々と この稚国土に来りて久しも 年さびむ事をおそれつ今日迄も 岐美の出でまし待ち佗びしはや 仰ぎ見る御空の月のさやけさに 恙あらせぬ岐美を思ふも 天渡る月の面を仰ぎつつ 夜な夜な恋ふる淋しき吾なり ややややに万里の島根は固まりぬ いざこれよりは国魂生まむか 国魂の神を生まむと思へども 背の岐美まさねばせむ術もなき この島の永久の司と定まりし 鶴もゑらぎて御空に立ち舞ふ はてしなき思ひ抱きて岐美を待つ 吾魂線は御空の白雲 折々は思ひ悩みて吐息しつ わが気魂も細りけるかな さらさらと梢に風は流れつつ 露照る月はきらめき渡る』 輪守比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代の神に仕へて吾は今 泉の森の月下に遊ぶも いやさゆる月の下びに夜もすがら 歌うたひつつ眠らえぬ吾よ 嬉しさと楽しさ一度に迫り来て 春の短夜さへも眠り得ず 白梅の月にかがよふあで姿は 御樋代神の粧ひに似し 未だ春は若くあれども桜木の 梢の蕾はほぐれ初めつつ』 若春比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『小夜更けて月の下びに歌詠みつ 踊りつ舞ひつ楽しき吾なり 真清水の泉に浮ぶ月光を 砕きて過ぎぬ春の夜風は 余りにも月の光りのさやかなれば 楠の樹蔭は一入暗きも 紫の花匂ひつつ池の辺に あやめはここだ咲き出でにけり 真白なる花を交へて池の辺の 菖蒲は春の夜を匂ひつつ 所どころ水鏡照る湧き水を ふさぎてあやめは咲き出でにけり 曲神の影は地上に消え失せて 月のみひとりさやかなるかも』 山跡比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『曲神の征途の戦をさまりて 泉の森の聖所に遊ぶも 村肝の心も魂も清々し 泉の森に公と遊びて 心安の国土のしるしか真砂照る 泉の森に月は冴えつつ』 千貝比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『草も木も若返りたる心地かな 空に澄みきる月の下びに 仰ぎ見れば幾億万の星の砂 俯してし見れば真砂に星照る 星と星月と月との中空に 雲の如くにうけるこの森 常磐樹の梢の濡葉にきらめきて 千々に照らせる今宵の月光 新しく蘇へりたる心地すも 曲神征途の戦終りて 吾駒も疲れたるらむ草の生に 身を横たへて安く眠れり はてしなき荒野を渡り進みてし 駒の功を照らす月光 小夜更けて森の傍のこもり枝に かすむが如くふくろふの鳴くも これの世に吾生れ来て始めての 清しき思ひに満たされにける』 湯結比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『鷲馬の背に跨りて御空はろか 渡りし思へば怖気立つかも 村肝の心威猛り曲神の 醜の砦に空よりのぞみし 心安き神世にありせば斯くの如 放れし危ふき業はなさじを 玉の緒の生命の限り吾公に 真言捧げて仕へ奉らむ 月冴ゆる泉の森に夜もすがら 御樋代神と楽しく遊ぶも 東雲の空は漸く明るみて 紫の雲ただよひにけり 五柱比古神やがて駿馬の 轡並べて帰り来まさむ』 斯く歌はせ給ふ折しも、東の空はからりと明け放れ、百鳥の声は樹々の梢に囀り、朝露はさし昇る天津日に照らされて七色の光りを放ち、その美しさ譬ふるにものなかりける。 かかる所へ霊山比古の神を先頭に保宗比古の神、直道比古の神、正道比古の神、雲川比古の神の五柱は、勇気を満面に充たせつつ、この度の戦に大本営と定まりし泉の森の聖所に無事帰陣し給ひける。霊山比古の神は御樋代神の側近く進みより、恭しく拝跪しながら凱旋報告の御歌を詠ませ給ふ。 『天晴れ天晴れ尊きろかも吾公の 水火の光りに曲津は滅びし 千万の曲津の奸計をふみ越えて 神の力に勝鬨あげしよ 曲津見は千引の巌と身を変へて 吾登りゆく道を塞ぎし 三柱の比女神となりて曲津見は 吾を詳に謀らむとせり 曲津見の化身の巌を踏み固め 暫しの憩所と吾なしにけり 御樋代の神と曲津は変じつつ 吾を屡々ためらはしける 村肝の心の玉をとぎすまし 吾ためらはず戦ひにけり 三柱の比女神等の放れ業に もろくも曲津は滅び失せぬる 七宝をとり散らしつつ曲津見は 雲井の空に消え失せにけり 心地よく曲津の軍を滅ぼして 御前に復命するぞ嬉しき 五柱の比古神いづれも曲津見に 悩まされつつ戦ひましける なかなかに侮り難き曲津見の 禍のがれしも公の功績 かなはじと思ひて神言宣りつれば 光りとなりて助けし吾公 遥かなる泉の森の空照らし 吾戦を助け給ひぬ 年古く曲津の棲まひし魔棲ケ谷は 堅磐常磐の巌城なりける 曲神の砦をことごと言霊の 水火に退ひし心の清しさ』 保宗比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『千万の悩みしのびて曲津見を 討ち滅ぼして帰りし嬉しさ 御樋代の神と変じて曲津見は 吾魂線を迷はせにけり 曲津見は女神と変じて吾行手に いより集ひて謀らひにけり 何事も公の言葉に従ひし 功は曲津に欺かれざりしよ』 直道比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『遥々と大野を渡り醜神の 百の奸計を踏みにじりつつ 曲津見の浅き奸計の可笑しさに 吹き出すばかり思はれにける 太刀膚の竜神大蛇数限り 百谷千谷に潜みて戦ふ 溪々ゆのこる隈なく黒雲を 吐き出でにつつ吾等を悩めし 曲神の水火の黒雲は十重二十重 包みて行く手を閉したりけり 千万の曲津の砦に立ち向ひ 神の恵に事なく勝ちしよ ありがたき尊きものは言霊の 水火の光りと深く悟りぬ』 正道比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『公がます泉の森に帰り来て 朝の空に復命せむ 天津日は豊栄昇り四方八方の 草木諸々蘇へりたり 何となく心勇まし曲神を 跡なく討ちて帰りし朝は 種々の醜の奸計に悩まされ 漸く曲津をきため帰りぬ 海を抜く八万尺の白馬ケ岳に 登りて見はらす国土は遥けし 曲津見の滅びし後の清しさに 四方の国形望み見しはや 牛頭ケ峯の頂いよいよ高くして 白馬ケ岳と丈をくらべつ 空に飛ぶ鷹も烏も百鳥も はろかに吾より下空にありき 魔棲ケ谷の丘に登りて見渡せば 万里の海原波かがやけり ここに来て心漸く和みけり 御樋代神の御前に仕へて』 雲川比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『吾は今申上ぐべき事もなし 四柱神の復命ありせば 勇ましき曲津を征途の戦して 吾天地の心を悟りぬ 天地の心を永久に抱きつつ 稚国原を拓かむと思ふ 限りなきこの広き国土を如何にして 造りまさむかと公を思ひぬ 曲津見は雲井の奥に消えし上は 総てのものはゆたに栄えむ 天津日は豊栄昇り吾公の 功を清く照らさせ給へり いざさらば万里ケ丘なる吾公の 聖所をさして急ぎ帰らむ』 斯く雲川比古の神の提言的御歌に、田族比女の神を始め一行十一柱の神々は、朝日照る大野ケ原を駒の嘶き勇ましく、万里ケ丘さして一目散に帰らせ給ひけるぞ目出度けれ。 (昭和八・一二・一六旧一〇・二九於大阪分院蒼雲閣谷前清子謹録) |
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霊界物語 | 78_巳_朝香比女の神の物語(葦原新国) | 04 焼野の行進 | 第四章焼野の行進〔一九六〇〕 東の空は漸く東雲めて、海面を飛交ふ鴎の声は彼方此方よりものやさしく響き来り、グロスの島ケ根はカラリと明けて鷹巣の山は屹然と島の東方に聳えたち、天津日は悠然として紅の幕を別けながら昇らせ給ひ、昨夜の物凄き光景はあとなく消え失せ、真鶴の声、鵲の声、冴えに冴えつつ、朝香比女の神の一行を迎へまつるものの如し。 朝香比女の神は御舟を千引巌の碁列せる浜辺に静々と寄せ給ひ、駒諸共に御舟を出でて陸地に一行出でさせ給ひ、初頭比古の神は御舟を浜辺の片方にかたく結びつけ、起立比古の神外二柱の女神と共に陸に上らせ給ひつつ、萱草、葦の莽々と道のなきまで生ひ茂りたる原野を御覧しつつ初頭比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『荒れ果てし島にもあるか萱草の 生ひ茂りたる野は限りなし よしあしの道を塞ぎて茂りたる 島根は曲津の潜むも宜なり 駒の脚いるる隙さへなきまでに 生ひ茂りたるよしあし原よ わが公に畏れ多けれどいや先に 駒をうたせて道別けせむかな』 朝香比女の神は馬上に跨り、御歌詠ませ給ふ。 『見はるかす島のことごと醜草に 包まれけるかも曲津の棲処は 曲神はこの草原に潜みゐつ 百の災起すなるらむ 見の限り雲立ち昇り霧湧きて 風さへ冷ゆるあらき国原よ この国土を拓かむとして葦原比女 神は早くも渡らせ給へる 葦原比女神の神言のみあらかに 進み語らむ時の待たるる グロノスやゴロスの潜むこの島は 鳥の鳴く音も悲しげに聞ゆ 真鶴は翼揃へて鷹巣山の 尾根をよぎりつ近づき来るも この島も真鶴数多棲みけるか 翼の音の近づき来るも』 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代の神に仕へて今日も亦 御樋代神に会ふぞ目出度き 目路の限り生ひ茂りたる草の生に 真火を放ちて曲津を焼かばや この島にありとしあらゆる曲津見を 焼き滅すと思へば楽しき 曲神の眼を醒す真火の光りは 又と世になき宝なるかも』 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『曲神といへどももとは主の神の 水火より出でし神なりにけり 鋭敏鳴出の神のたまひしこの真火は 曲津を清むる剣なるかも 比女神の生言霊にグロスの島の 曲神はいつかかげをかくしぬ ひろびろと限りも知らぬグロス島の 雑草の野に風さやぐなり』 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『黒雲の覆ひし昨夜に引替へて 御空晴れつつ日光清しも 曲津見は天津日の光に驚きて 草葉のかげに身をひそめけむ いろいろに言霊宣りてさとせども 曲津の耳は木耳なりしよ かくならばこの生島を拓く為に 真火の荒びも是非なかるらむ 雲をぬく鷹巣の山の山麓に 御樋代神はおはしますらむ 御樋代の神のまします清宮居は 広き流れにかこまると聞く この野辺に火を放つとも御樋代の 神の宮居は恙無からむ』 朝香比女の神は再び御歌詠ませ給ふ。 『科戸辺の風は出でたりいざさらば 真火を放てよこの草の野に』 『吾公の神言畏みいざさらば 真火を放たむ初頭比古われは』 かく御歌もて応へ給ひつつ初頭比古の神は、朝香比女の神の御手よりうやうやしく燧石を受取り、荒金の如き石もて燧石を、神言を奏上しつつカチリカチリと打ち出で給へば、真火は辺りに飛散し忽ち幾年ともなく積れる萱草の茂れる根もとの枯草に真火は移りける。折しもあれ、海面よりはげしく吹き来る風に吹きまくられ、見る見る四方八方にひろごり、紅蓮の舌は四辺かまはず、木も草も生物もあとを絶てよとばかり舐めまはりける。 幾千里に亘る大原野は、見る見る黒焦げとなりて彼方此方に竜神、大蛇、猛獣等の焼け亡びたる姿、天日に曝され、無残の光景をとどめけるにぞ、御樋代神は四柱の神に命じて各自その遺骸を土中に埋めさせ給ひつつ、数多の月日を費し給ひけるぞ畏けれ。 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『あはれなる醜の魔神は亡びたり その遺骸をわれ葬りつ グロノスやゴロスの曲津の司等は 未だ滅びず逃げ失せにける 曲津見は鷹巣の山の空指して 雲を起して逃げ去りしはや かくの如焼き浄めたる大野原は 国魂神を移すによろしも 国魂の神をこの土に移し植ゑて グロスの島を拓かむと思ふ よしあしの群がり生ひしこの島は 土自ら肥えにけらしな 曲神の棲処はことごと焼かれたり いざこれよりは神国をひらかむ』 初頭比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代の神の姿の雄々しさよ 燃ゆる火の如輝きましつつ わが公は光の神にましませば 常世の闇も晴れ渡るなり 御空飛ぶ百鳥千鳥も驚きて いづくの果てか姿かくしぬ 目路の果てに白煙たつはまさしくや 野火の燃えたつしるしなるらむ 風のあし如何に速けく走るとも 燃えつつ進む真火はおくれむ 上べのみは燃え尽せども草の根は 未だ燃えつつ煙たちたつ』 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『御供に仕へまつりて今日の如 雄々しき楽しき日はあらざりき 燃えさかる野火の勢ながめつつ 公の力の功をおもふ 何よりも尊きものと悟りけり 公が持たせるこれの燧石は 万里の島も公の賜ひし燧石にて 魔神の潜む棲処は絶えむ ここに来て真火の力の功績を さとりけるかな起立比古われは 数十里の野辺はみるみる焼け失せぬ 風の力と真火の功に』 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『黒雲の包みしグロスの島ケ根も 晴れ渡りつつ月日かがよふ 昼月の光冴えにつつ大空に 吾等が振舞ひを見つつ笑ませり わが駒の脚下広くなりにけり 百草千草焼きはらはれて 大野原にすくすくたてる太幹の 松と楠とは蒼く残れり 火にさへもひるまぬ常磐樹の心こそ 朝香の比女の操に似たるも』 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『曲神の醜の棲処は悉く 真火の力に払はれにけり 海ゆ吹く潮の風の強くして 見る見る荒野は浄まりしはや 今日よりは如何に曲津見荒ぶとも 恐れざるべし真火の功に 火を吹きて吾等をおどせしグロノスや ゴロスの曲津はいづらへ行きけむ グロノスとゴロスの曲津見罰めずば この国原は安からざるべし 葦原比女神のみあらかを今よりは 勇み進みて探ねゆくべし いざさらば御前に立ちて仕ふべし 天晴比女の神はうたひつ 果てしも知らぬ大野原 真火の力に悉く 焼き払はれし面白さ 科戸の風にたすけられ 真火は忽ち四方八方に ふくれ拡ごりゴウゴウと 火焔の舌を吐きながら 総てのものを焼き尽す その勢の凄じさ 馬背に跨り眺むれば 火の海原の如くなり ああ惟神々々 御樋代神の御尾前に 仕へて進む焼野原 駒の蹄もカツカツと 果てしも知らに進みゆく この稚国土の稚野原 未だあちこちに煙たち 靄の如くに棚引けり 常磐の松や楠は 彼方此方の原頭に 緑の梢かざしつつ グロスの島の瑞兆を 寿ぐ如く見えにけり 鷹巣の山に雲湧きて 峰の百樹は青々と 緑に映ゆる目出度さよ 御樋代神と天降ります 葦原比女の神司 五柱の神従へて 鷹巣の山の山麓に 広き流れをめぐらしつ 朝香の比女の出でましを 喜び迎へ待たすらむ 駒の歩みは速くとも この高原の末遠く 鷹巣の山の麓まで 進むは容易にあらざらむ この駿馬に大いなる 翼のあらば大空を 鷹の如くに天翔り 進まむものを如何にせむ 焼野ケ原をチヨクチヨクと 吾等は気ながく進むべし ああ惟神々々 公の御行に幸あれよ 公の御行に光あれ』 かく歌はせつつ、大野ケ原を五柱の神は吹き来る風に御髪を梳りつつ意気揚々と、葦原ケ丘の聖所を指して進ませ給ひける。 (昭和八・一二・二〇旧一一・四於大阪分院蒼雲閣林弥生謹録) |
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霊界物語 | 78_巳_朝香比女の神の物語(葦原新国) | 21 怪体の島 | 第二一章怪体の島〔一九七七〕 朝香比女の神は、葦原比女の神一行に常磐の浜辺まで送られ、互に名残りを惜しみつつ、朝日の照らふ万里の海原を順風に乗じ、南へ南へと舟を進ませ給ふ折しもあれ、晴れ渡りたる大空の彼方に屹立したる鷹巣の山の頂より、黒煙濛々と噴火の如くに噴き出して天に冲し、次第々々に膨れ拡ごり、万里の海原さして押し寄せ来る状、もの凄きばかりなりける。黒雲はグロノス、ゴロスの竜蛇神の形を現はし、真つ先に海原さして進み来る如く見えにける。 朝香比女の神は此光景を打仰ぎながら、 『鷹巣山尾根に黒雲涌き立ちて 大空高く拡ごれるがに見ゆ 鷹巣山に立つ黒雲は醜神の 吾に仇せむ下心かも 澄みきらふ御空の蒼を醜神の 醜の黒雲ぬりつぶさむとす よしやよし万里の海原包むとも 吾言霊に伊吹き払はむ 曲神は棲処焼かれて鷹巣山に 忍びて雲となりて荒ぶも 吾舟は魔神の黒雲に包まれて 行手も見えずなりにけらしな 主の神の御水火に生れし吾にして 如何でひるまむ曲津の荒びに 曲津神荒べば荒べ千万の 災来るも吾はひるまじ』 初頭比古の神は此光景を見て御歌詠ませ給ふ。 『グロノスもゴロスも力のありたけを 尽して御舟にさやらむとすも 大空の蒼海原をぬりつぶし 万里の海まで雲に包める よしやよし黒雲如何に包むとも 海原分けていや進み行かむ 曲神の醜の水火にや海風は 吹き乱れつつ御舟ゆするも』 斯く歌ひ給ふ折しも、海上俄に旋風起り、雲は大なる輪を描きて前後左右に舞ひ狂ひ、磐楠舟は荒浪に翻弄され、一進一退如何ともすべからざる羽目に陥りぬ。朝香比女の神は平然として微笑しながら此光景を静に見給ひつつ、心中に深き成算あるものの如くに在し坐しける。 起立比古の神は咫尺弁ぜぬ暴風の海原を眺めながら、儼然として御歌詠ませ給ふ。 『曲神はあらむ限りの暴力を ふるひて御舟を顛覆さむとす 風も吹け浪も立て立て雲も起きよ 如何で恐れむ神なる吾は 面白く風の海原に御舟は 浮きつ沈みつ上りつ下りつ 荒浪は鬣振ひ御舟の 舷きびしく噛みつき来るも 主の神と朝香の比女に任せたる 吾身は天に任すのみなる グロノスやゴロスも力の種つきて やがて亡ばむ思へば悲しも 葦原の国土永遠に治むべく 此曲津見を罰めで止まむや』 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『奴婆玉の闇の海原に荒浪の 立ちたつ今日の旅は勇まし 曲津見の荒ぶ限りを荒ばせて 吾面白く眺めむと思ふ 荒風の響も高き浪の音も 何か恐れむ神なる吾は グロノスもゴロスもここを玉の緒の 命かぎりに荒ぶと見えたり 荒ぶだけ荒ばせ狂はせ疲らせて さて其の後に言霊宣らむか』 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『久方の天を晴らしの吾なれば 御空の黒雲直に払はむ 一二三四五六七八九十 百千万八千万の 神よ集まりましまして 今日の御舟にさやりたる 醜の黒雲払はせ給へ ああ惟神々々 吾等となふる言霊に 命あれかし光あれかし』 朝香比女の神は再び御歌詠ませ給ふ。 『面白き醜の猛びを見るものか 万里の海原過ぎ行く度に 曲神もやがて疲れむ斯くの如 黒雲吐けば力尽きなむ 黒雲を起し荒風吹かせつつ 吾旅立を脅かさむとするも 斯くの如き醜の災何かあらむ 暫く待ちて吾は罰めむ』 斯く神々は各自御歌詠ませつつ、闇の海の暴風怒濤に舟を翻弄されながら、神色自若として少しも恐れず、暫しを望見し落着き居給ひける。 斯かる処へ百雷の一時に轟く如きウーウーウーの唸り声響き渡り、忽ちにして荒風は鉾先を緩め、浪和らぎ渡り、四辺を包みし魔神の黒雲は次第々々に薄らぎつつ四辺に飛び散り、遂には跡形も止めず、浪平かに天津日は晃々と輝き給ふ平静なる天地と変りけるぞ不思議なれ。 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『ひそやかにわが祈りたる言霊に 鋭敏鳴出の神は現れましにけり 鋭敏鳴出の神の言霊に破られて 曲津見の奸計は消え失せにけり 荒風を起し荒浪振はせし 曲津は亡びむ憐れなるかも 主の神の厚き守りと鋭敏鳴出の 神の功に曲津は逃げたり 黒雲は次第々々に薄らぎて 其影さへも見えずなりけり 千重の浪照らして御空ゆ日の神は わが行く舟を守らせ給ふ 曲神は勢強く見ぬれども 真言の神には脆きものかな 葦原比女神の神言は曲津見に 襲はれ給はむ思へば愛しき さりながら鋭敏鳴出の神わが魂の いつかひあれば国土安からむ 海原は春の陽気の漂よひて 水面に跳る魚鱗は光れり』 初頭比古の神は莞爾として御歌詠ませ給ふ。 『神々の稜威の守りに曲津見は 見るも哀れに亡び失せける 葦原の鷹巣の山の谷深く 潜める曲の悪戯可笑しも 黒雲の形はさながらグロノスと ゴロスの走る姿なりける 斯の如御空は晴れて浪凪ぎて 公の御舟の安さ嬉しさ 目路遠く水の面に浮ぶ島影は しかと見えねど巌山なるらし 主の神と鋭敏鳴出の神わが公の 御稜威に安き磐楠舟かも』 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『面白き曲津の芝居の一幕を 今日の浪路の旅に見しかな 一時は如何ならむかと村肝の 吾は心を悩ませにける 強き言言ひつつありしが村肝の 心の奥は慄ひ居たりき 鋭敏鳴出の神の言霊なかりせば 未だ黒雲はさやり居にけむ 上下に公の召します御舟を 翻弄したる曲浪凪ぎしよ 斯くならば最早安けし西方の 曲津の国土にひたに進まむ』 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『朝香比女神は驚きましまさず 微笑みいませし雄々しさ健気さ 海原を闇に包みて御舟を 浪に弄りし曲津見の悪戯よ 如何ならむ曲津の災重ぬとも 神の御稜威にひたに進まむ 鷹巣山に忍びてグロノス、ゴロスの曲津は 黒雲となりて御舟艱めぬ』 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『久方の天晴れ渡り月も日も 水面に浮びて湯気立つ海なり 御舟は吹く春風にすくすくと 進みましけり万里の海原を 朝香比女神に仕へて種々の 曲津の悪戯面白く見し 闇の海に荒風も浪も駿馬は 恐れず静かに嘶きて居し 吾は今無心の駒の幸はひを つくづく覚りぬ荒浪の海に 幾度も御舟あやふき浪の上を 無心の駒は嘶き歓ぎつ 海路走るその苦しさに引替へて 駒は御舟を喜びけるにや 漸くに島影近くなりにけり 魔神よ永遠に潜めるらしも』 舟は漸くにして海路に横はる巨大なる巌島に近づきぬ。よくよく見れば、赤黒さまざまの大蛇幾筋となく巌より首をさし出で、長大なる身体をうねらせながら、大口を開き火焔の舌を吐き、御舟に向つて襲はむとする勢を全力を尽し見せ居たりければ、朝香比女の神はこの状を御覧して、心穏ひに微笑みつつ御歌詠ませ給ふ。 『此処も亦魔神の巣ぐふ巌島の 醜の大蛇はさやらむとすも 醜神は如何にさやぐも猛ぶとも 神なる吾は恐るべきやも 曲神を言向けまたは罰めつつ 神のまにまに進む吾なり 千丈の巌の上より長々と 大口開けて大蛇は火を吹けり 千百の大蛇が一度に吐き出す 炎は青く真火にはあらず 吾伊行く道にさやらむ曲津見は 生言霊に放りて行かむ 草木一つ無き巌山に真火を避けて ここを先途と曲津見潜める さりながら生言霊の御功に この巌山を火の島とせむ。 いろはにほへとちりぬるを わかよたれそつねならむ うゐのおくやまけふこえて あさきゆめみしゑひもせす きやうの浪路の旅立ちに さやらむ曲津は悉く 生言霊の御功に 伊吹き払ひて追ひそけつ 神の依さしの神業に 仕へ奉らむ惟神 神の御前に生言霊を 捧げて祈り奉る もしも曲神吾言霊に 従はずしてさやりなば この巌島は悉く 真火を起して灼熱の 炎に残らず焼き尽し 曲津の在処を絶すべし カコクケキ カの言霊に真火出でて さしもに堅き巌山も 火の海とならむ惟神 曲津見心を改めて 弥永久に此島の 守りの神となれよかし ああ惟神々々 生言霊に光あれ 吾言霊に命あれよ。 海中に聳り立ちたる巌島に 潜む大蛇を焼きて進まむ 巌島はカの言霊の輝きに 残らず火となれ炎となれよ』 斯く歌ひ給ふや、千尋の海底より御空に高く屹立したる周囲約三里の巌島も、忽ち一面に火焔に包まれ、海水は熱湯の如く煮えくり返り、湯気と煙は四辺を包みて其壮観譬ふるに物なく、大蛇は或は焼かれ或は傷き或は命からがら雲を吐き出し、辛うじて是に乗じ、鷹巣の山の空を指して逃げ行きにける。巌島は瞬く間に根底より焼き尽され、海水は熱湯の如く沸騰し湯気立ち昇りぬ。此光景を見て初頭比古の神は感激に堪へず、御歌詠ませ給ふ。 『今更に吾驚きぬ御樋代神の 生言霊に島は滅びぬ 八千尋の底の巌根も火となりて 焼滅しにけり公の御稜威に いつまでもグロノス、ゴロスの執拗さ 思へば吾は憐れを催す 永遠に動かぬ巌根も吾公の 生言霊にかなはざりしよ 巌ケ根は残らず火となり湯気となり 煙となりし時の見事さ 面白き公の神業伏し拝み この天地の不思議を悟りぬ 吾公の功績見れば初頭比古 吾は小さき神にぞありける 曲津見は巌の山と変じつつ 公の海路の旅にさやりし 心地よく曲の化身の巌島は 生言霊に滅びぬるかな カコクケキ生言霊の幸はひに 堅磐常磐の巌も焼けたり』 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『尊さに吾は言葉も口籠り あきれ慄くばかりなりけり 今更に生言霊の尊さを 思ひけるかな海路の旅に 炎々と巌島焼ゆる状見つつ 今更の如驚き止まずも 巌の上に千万の大蛇垂れかかり 大口開けて炎を吐きける 斯の如き曲津の猛びも平然と 公は微笑み御覧しける 曲津見は四度破れて同輩を 数多失ひ逃げ去りにける いや広に神の御稜威の幸はひて この天地は拓け行くらむ』 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『今更に朝香の比女の吾公の いみじき功を驚きにけり 斯の如光と功の吾公に 仕へて進まむ思へば嬉しき 心弱き女神の吾も魂太り いみじき力を賜はりにける』 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『跡形もなく滅びたる曲津見の 化身の巌の跡に湯気立つ 曲津見は万里の海原に浪を立て 雲を起して雄猛びにける 曲津見の雄猛び煙となりにけり 御樋代神の生言霊に 浪路はるけき万里の海原安々と 公に仕へて渡らふ楽しさ カコクケキ生言霊の御光は 千引の巌ケ根さへも焼きたり 巌島の燃ゆる火影はあかあかと 海底までも輝きしはや』 斯く各自御歌詠ませつつ、順風に乗り舟の舳を東南に向け進ませ給ふ。 (昭和八・一二・二五旧一一・九於大阪分院蒼雲閣森良仁謹録) |
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霊界物語 | 79_午_葭原の国土の竜神族の物語 | 12 樹下の夢 | 第一二章樹下の夢〔一九九三〕 艶男は徒然を慰めむと神苑を立ち出で、庭伝ひに百津桂樹の繁れる森かげを、彼方此方と逍遥しながら、七乙女のかなしき声などを思ひ出で、ひそかに歌ふ。 『なげけとや神は言ふらむあひながら あはれぬ恋に胸はをどるも 七乙女力かぎりに村肝の 心のたけをあかしけるかも わが心いづらにゆきしよ乙女子の かなしき言葉をよそに聞きつつ いまとなり乙女の赤き真心を 思ひてかなしくなりにけらしな 桂樹の梢にさへづる小鳥さへ おのもおのもに恋をかたれり 虫の音も心しづめて聞くときは みな愛しさの声なりにけり 世の中に恋てふものは玉の緒の 生命をぬすむ鬼なりにけり 憂さつらさ七人乙女におもはれて わがかへすべき術さへもなし 術もなき心いだきて桂樹の 森にさまよふ淋しき吾なり とつおひつ思案にくるる夕まぐれ 笑ふが如き梟の声 島根吹く風の響もかなしげに わが耳にひびくと思へば淋し 斯の如朝な夕なをなやみつつ 楽しき吾は何の心ぞも 吾ながらわが心根をときかねて 恋の山路をゆきつもどりつ 人なくば心あくまで泣かむかと 思ひしことも幾度なりしか 乙女見れば恋ふしかなしも神苑見れば 清しきかもよ竜神の島 只一人繁樹の森をさすらひつ 乙女恋ふしく袖ぬらすなり 大竜身彦の命の御恵みに 吾は寝殿に一人寝ぬるも 真夜中の夢にあらはれ七乙女 いやつぎつぎにかなしきこと宣る 一度は水上山にかへらむと 思ふも詮なし今日のわれには 麗子は王となりて吾一人 つれなき夜半をかこつのみなる 七乙女美しけれど麗子の 花の姿にしかじとおもふ 人の身の姿ならねばこの島の 愛ぐし乙女もためらはれける 国津神の御子と生れて竜神の 乙女にあふとおもへば口惜しき 美しき乙女ながらもどことなく 磯の香りのあるはさびしき 見る花と眺めてここに過ぎむかと 思へど乙女はうべなはぬらし いぶかしやああいぶかしやこの島に 住むは人の面竜のからだよ 鱗一面袴の如く見えにつつ 肩より上は人の姿よ。 わづかに左右の手を振りて 長き袴を着けながら 右往左往に行き通ふ このありさまを見るにつけ 両手両足持つ吾は いやおそろしくいやらしく もの言ふさへも不思議なれ 人間世界にかけはなれ 竜の島根に永久に 生ひ立ち来りし乙女子の 清きやさしき瑞姿 近寄り来れば藻の香り 鱗のかをり吾鼻に さやりていとどもの憂けれ 吾は竜宮の島ケ根に 千代も八千代も存らへて 国土をひらくと誓ひてし この言の葉のかなしさよ 今となりてはただ吾は 故郷にかへらむ心のみ 朝な夕なにむれおきつ うら悲しくもなりにけり ああ如何せむ千秋の うらみもはるるときや何時 厳の御霊や瑞御霊 わが願ぎごとを聞し召せ 一日も早く片時も いとすむやけく救ひませ 波の上に浮くこの島に 珍の乙女に囲まれて 身動きならぬ苦しさを あはれみ給へ厳御霊 瑞の御霊の御前に 生命捧げて願ぎ奉る。 果てしなき悩みにしづむわが魂を 救はせ給へ元の御国へ 厳御霊瑞の御霊の御心に 任せて吾はよき日待つべし 美しき乙女はあれど身体の みにくさ臭さ鼻もちならずも 抱きしめて肌にふれなばおそろしく わが魂は戦くならむ 美しき花なりながら道の辺に 刺もつ薊の乙女なりける 如何にしてこれの島根を遁れむと 朝な夕なになやむ苦しさ われなくばこの島ケ根にただ一人 麗子姫はなげくなるらむ 麗子の憂き目おもひてただ吾は この島ケ根に止まりてをるも』 かかるところへ、七人乙女の中にも最も射向ふ神と聞えたる燕子花は、忍び足にあらはれ来り、百津桂樹に身を支へながら、 『艶男の君の行方をもとめつつ 桂の森に吾は来つるも 何故に君は樹蔭にさまよふか 心もとなく吾かなしもよ わが宣りし赤き言葉を怒らして 逃げ給ひしか情なの君よ 玉の緒の生命をかけし君なれば 草を分けても探さでおくべき この森のすみずみまでも探ねつつ 漸くここに君に会ひぬる わが胸は恋に燃えつつ大空の 月日もくらくなりにけらしな 雲低う小暗く包むこの森は 君恋ひ渡るわが心かも よしやよし君は水底を潜るとも 生命にかけて追ひしき行かむ 斯くならば最早詮なしわが思ひ はらして一夜をやすませ給へ』 艶男はハツと思つたが、何くはぬ顔にて、 『いとこやの君にますとは知らざりき この桂樹の森の下かげ よくもまた探ね来しよなわが恋ふる 君をしみればよみがへるかも 果てしなき思ひ抱きて知らず知らず 吾は樹蔭にさまよひてゐし』 燕子花は歌ふ。 『空言を宣らす君よと思へども 御面見れば嬉しかりけり 竜の島伊吹の山にこもるとも いねむと思ふわれならなくに 和田の原うたかたの湖行く舟も たよりとするは風の力よ 君恋ひて桂樹のかげに立寄れば 尾花の末もわれを招かず 無き名さへ立つ世なりせば艶男の 君よ恐れず吾恋許せよ 小波の静かに立つや鏡湖の そこの心を君は汲まずや よそながら君のみあとを慕ひつつ もゆる心のままにわれ来つ 天地の神を祈りつ吾恋の 色褪せざれと君にまみえし 思ふこと遂ぐるは正しく天地の 神の心の恋にぞありける 幾夜われ滝津瀬の音を聴きながら 君は如何にと眠らざりしよ 君をおきて仇し心をわれ持てば 鏡の湖のそこひ乾かむ いたづきの身とはいつはり身体も 御魂も鏡の如く光れる 曇りなき身体もちていたづくと 宣らす言葉の恨めしきかな 生命まで君に捧げし乙女子を 憐れみ給ふ心まさずや 君はいま遠く波の秀ふみながら 御国にかへらす心ならずや よしやよしこの島ケ根をさかるとも 必ず吾を伴ひ給はれ 竜神のいやしき身体もちながら 君を恋ふるははづかしきかも 恥かしき思ひを捨てて恋ふしさと かなしさ故に君につき添ふ 百津桂繁れる森は人目なし いやいねませよ草の褥に 草枕旅に立たせる君ならば 露の枕もいとひ給はじ この森の木の根を枕になよ草を 褥となして天国にあそばむ』 艶男は、燕子花の猛烈なる恋愛心と、押しの強きその振舞ひに征服され、遂に草枕の夢を結ぶこととはなりぬ。これより燕子花は七乙女の目も怖ぢず、公然と艶男の寝殿に朝夕起臥し、夫の歓心を購ふべく、心の限り身の限り、まめまめしく仕へける。艶男は朝庭に立ち出で、剣の池に面を濯ぎながら、昨日のことなど思ひ出で、述懐を歌ふ。 『ああ恥かしや情なや 千引の岩と固まりし 大和男の子の魂を うち砕かれてなよ草の 生ふるがままに任せたり 女の強き魂は 巌も射ぬく桑の弓 弥猛心のとどくまで 貫き通す燕子花 姫の命の射向ひに 吾はもろくも破れけり 天地の神も許しませ 竜神乙女と言ひながら 獣の姿にさまよへる 島の乙女と嫁ぎたる わが身の罪ぞおそろしき ああ詮もなし詮もなし 斯くまで弱き心かと 吾とわが身をせめれども 最早破れの弓の的 貫く術も波の上 浮きつ沈みつ人の世を ここに捨つるかあさましや これを思へば麗子の 姫もさぞかし苦しからむ 国の王と言ひながら 半ば獣の夫をもつ 如何に憂き世を過すらむ 吾は神の子人の子よ 獣に近き乙女子と 枕並ぶる恥かしさ 憐れみ給へ厳御霊 瑞の御霊の御前に 心恥ぢらひ宣り奉る ああ惟神々々 わが言霊に力あれ わが言霊に光あれ。 わが宣らむ生言霊の幸はひに 乙女を全き人とせよかし わが肌に添へる乙女の優姿 神の子となれ人の子となれ 紫に匂へる妻の燕子花 まことの人と現れさせ給へ 一二三四五六七八九十 百千万の神、憐れみ給へ、救はせ給へ』 斯く七日七夜間断なく艶男が宣れる言霊に、不思議や燕子花の全体忽ち人身と変じ、荒々しき太刀膚の影もなく、全身餅の如く膚細やかに全く人身と生れ変りける。 艶男は歌ふ。 『ありがたし生言霊の幸はひに 乙女は玉の膚となりぬる 栲綱の白きたたむき淡雪の 若やぐ膚となりにけるかも』 燕子花は歌ふ。 『わが君の恵みの露に清められ わが太刀膚は失せにけらしな 斯くならば最早恥づべきこともなし 君に仕へて御子生まむかも ありがたし穢れし吾の身体は 神の恵みに人となりぬる』 (昭和九・七・一八旧六・七於関東別院南風閣内崎照代謹録) |
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霊界物語 | 81_申_伊佐子の島の物語 | 13 思ひの掛川 | 第一三章思ひの掛川〔二〇四〇〕 木田山城の奥殿には、エームス王只一人黙然として恋に悩みながら、微な声にて述懐を歌ひつつありぬ。 『この世に生れて二十年 父と母との膝下に 貴の御子よと育まれ 朝な夕なに諸々の 司や側女にかしづかれ 楽しき春秋おくり来て ここに二十年の春を迎へ もののあはれを知り初めて 悩みの淵に沈みつつ あらぬ恋路にとらはれて 朝な夕なの苦しみを 語らふ術も泣くばかり わが身は恋にとらはれて 日に夜に身体細りつつ 玉の生命も朦朧と 行方知らずの思ひなり ああ如何にせむわが恋ふる 姫はまさしく敵国の アヅミの王の娘とかや わが父の力は如何に勝るとも 情は如何に深くとも この恋のみは如何にして 成りとげ得べき由もなし 玉の緒の生命消えむと思ふまで 朝な夕なにこがれたる 生命をかけての恋人は げに悲しもよ敵国の アヅミの王の愛娘と 思へば如何にこがるとも わが思ひねのとどくべき 斯くなる上はわが父の イドムの国を亡ぼせし 礼なき業もにくらしく 且つ恨めしく思はるる 生命をかけて焦れたる 姫の恨を如何にして はらはむ由も夏の夜の 空をふさげる五月闇 鳴く時鳥声かれて 血を吐く思ひのわが身なり 朝月、夕月二柱 心づくしも今となりて 何の答も夏の夜の 短き心を如何にして われはつながむ百鳥の 清きなく音も百花の 香りも吾には醜の声 醜の小草の花なれや 見るもの聞くもの悉く 悲しみの種憂の種 歎きの種と泣くばかり 斯くなる上はわが生命 生きて詮なし木田川の 水の藻屑になり果てて 水底深くひそみつつ 恋の悩みを流さむか ああ悲しけれわが恋路 ああ恨めしもわが父の 礼なき振舞ひ今となりて 吾を恋路に泣かしむるか 果敢なき浮世のありさまや 情なきこの世のたよりかな。 わが恋ふる人は敵ゆゑ真心を うたがひかへりて恨みかへせり 恋人はわが敵国の王の御子と 聞けばきく程悲しかりけり かなはざる恋と思へどわが力 もちて靡けむ心ならずも 心なき花の香愛づる不甲斐なさ 思へば恋はかなしかりけり わが恋を許さぬ娘の真心を 思へばふかく憎まれもせず われは今恋の悪魔にとらはれて 行く手も見えず闇にさまよふ 手折るべき花にあらずと思へども 思ひかへせぬ術なき吾なり よしや身は川の藻屑となるとても この恋心永久に失せざらむ 朝月の生言霊も夕月の 情言葉も聞かぬ姫かな 腰元のアララギうまくとりこみて 姫の心を動かさむかな』 斯く歌ふ折しも、朝月、夕月は恭しくも御前に進み来りて歌ふ。 朝月『いろいろと言霊戦射向へど 千引の巌の動くともせず チンリウの姫の心は大岩の 装ひなしてびくとも動かず 村肝の心つくしてかけ合へど よろしき便なく由もなき わが王に会はさむ顔もなきままに 悩みて居りぬ夕月と共に』 夕月は歌ふ。 『若王の清き心を照らさむと 思ひしことも夢となりける 御父を恨む心の深くして チンリウ姫は少しも動かず わが力最早尽きたりこの上は 手玉を替へてのぞまむと思ふ』 エームス王は歌ふ。 『さまざまと汝等二人が働きを 吾よみすれど心さみしき この上は侍女のアララギ呼び出し 先づは言向け和すべきかな 利を以てさそへば侍女のアララギは 必ず靡かむ如何に思ふぞ』 朝月は手を拍つて歌ふ。 『若王の御言かしこみアララギを 招きて姫の心をさそはむ』 夕月は歌ふ。 『アララギの心動かば必ずや チンリウ姫もまつろひ来らむ』 斯くて朝月、夕月は獄吏に命じ、アララギを縛りたるまま、王の前に引き来らしめければ、万事に抜目なきアララギは、斯くやと早合点しつつエームス王の前に引出され、平然として控へ居る。朝月は先づアララギに向ひて歌ふ。 『チンリウの姫に仕ふる汝は乳母の アララギなるかいざ言問はむ 苦しかる獄舎につながれうごかぬ姫は 汝を力にたのむなるらむ さまざまの責苦にあふより安らけく 位と栄えをほりせざるにや 汝が心一つによりてチンリウ姫 センリウ姫も花と栄ゆべきを チンリウの姫を殺すも永遠に 花と活かすも汝の力よ アララギよ心しづめて答へせよ 汝が生死の境なるぞや わが王の厚き心をなみすれば 三人の生命は危ふかるべし』 アララギは怖気もなく満面に笑みを湛へつつ歌ふ。 『及ばざる吾なりながら姫君に 王の心を伝へ奉らむ 二十年を仕へ来りし姫なれば わが言霊をうべなひ給はむ さりながら姫は御父御母を 恨ませ給へば受け合ひがたし 言霊のあらむ限りを打ち出して 姫の心を動かして見む』 朝月は面をやはらげながら、 『アララギの言葉よろしも若王の 御為誠をつくし給はれ 若王の心にかなひ奉りなば 汝も御国の花と栄えむ 永遠の生命保ちてこの城に 花と匂ひつ清く栄えよ』 エームス王は歌ふ。 『さかしかる汝アララギを力とし 姫のよろしき便を待たむ わが思ひ汝が力になるならば 吾は報いむ位を与へて』 アララギは歌ふ。 『ありがたし若王様の御宣言 生命捨ててもかなはせ奉らむ』 これよりアララギは、王の御前をさがり、朝月、夕月の従神に送られ、チンリウ姫が押し込められて居る獄舎に帰り来り、チンリウ姫の心を動かすべく、言葉をつくして歌ふ。 『チンリウ姫よ聞し召せ われは御前に引き出され さも恐ろしきくさぐさの 王の御言を目のあたり 宣り聞かされて驚きぬ 吾等三人は今宵限り 夕べの露と消ゆる身よ 水責め火責めは未だ愚か あらゆる責苦にあはされて 嬲り殺しにあふところ わが言霊を善用し エームス王の御心 和め奉ると百千々に 心を砕きし甲斐ありて 姫君様の返辞 一つによりて生死の 別るるきはとなりにけり チンリウ姫の御君よ 生命ありての物種よ 如何なる恨みはおはすとも 生命なければ報ゆべき 術は絶対なかるべし ここは暫く御心を 和め給ひてエームスの 王の心にまつろひて 惜しき生命を保ちませ アララギ吾も姫君と 同じ心に恨めども 何とせむ術なきままに 恐れ多くも姫様を エームス王の妃の君に 奉らむと誓ひけり 許させ給へ姫君よ 恋しき御父御母に 会はせ奉るとアララギが 真心こめての仕組なり 必ず悪しく思すまじ 忠義一途に固まりし このアララギの真心を 完全に委曲に聞し召し エームス王の恋心 満たさせ給へ惟神 神の仕組と思ふ故 真心こめて願ぎ奉る 若しも諾ひ給はずば アヅミの王の御娘 尊き御身は忽ちに 重き生命を奪はれて 仇をかへさむ由もなく 恨みの鬼となり下り 千代に八千代に浮ぶ瀬は 泣くなく歎きに沈むらむ まげて吾等が願ひをば 許させ給へと願ぎ奉る。 姫君の心知らずにあらねども 生命のためにすすめ奉るも 姫君の生命を無事にささへつつ 御親の恨みはらさむと思ふ』 チンリウ姫はわづかに歌ふ。 『情なき乳母アララギの言葉かな 敵にわが身を任すべきやは 武士の娘と生れし吾なれば よしや死すとも惜しまざるべし アララギの礼なき言葉聞くにつけ わが魂は死せむとするも 玉の緒の生命惜しみて父母の 仇にまつらふ不孝はなさじ 千万の甘き言葉も吾身には 濁れる曲のささやきなりける』 センリウ女は歌ふ。 『姫君の言葉うべよと思へども ここ暫くを忍ばせ給へ 姫君の心一つにつながりし 吾等が生命あはれみ給へ 姫君の答の如何は三人の 玉の生命にかかはるものぞや わが母と吾等が生命諸共に 救はせ給へチンリウの姫君』 チンリウ姫は歌ふ。 『恨めしき仇なりながら汝等母子の 生命思へばためらひ心湧く 如何にせむ行きもかへりもならぬ身の 吾は死すより苦しかりけり アララギやセンリウ姫を殺すかと 思へばかなしき生命のわが身よ わが心かなはずまでも今暫し エームス王の御言にかなはむ』 斯く歌ひ終るや、朝月、夕月は物蔭より現はれ来り、声もさはやかに歌ふ。 朝月の歌。 『あはれあはれ姫の心の大きさに 木田山城は甦りたり エームスの王はさぞかし御心の 清きを聞きて歓ぎ給はむ 吾もまたチンリウ姫の御言葉 聞きて生命の栄えを思ふ』 夕月は歌ふ。 『ありがたし心つくしの海の面に 冴えたる月は浮ばせ給へり チンリウ姫雄々しき心聞くにつけ 吾はかげより男泣きせり ありがたき御代の栄えのためしかな エームス王に妃迎へて いざさらば王の御前にまつぶさに 姫の真心伝へ奉らむ アララギよチンリウ姫よセンリウよ 心安かれやがて迎へむ』 アララギは歌ふ。 『ありがたしチンリウ姫の真心に われ等が生命救はれしはや エームスの王の御前にわが宣りし 生言霊を伝へ給へよ』 朝月は歌ふ。 『アララギの心づくしの功績を うまらに王に伝へ奉らむ よき便り待たせ給へよ吾は今 王の御前にかへりごとせむ』 斯くしてエームス王の恋は漸く曙光見えたれば、王は直ちにチンリウ姫以下を牢獄より開放し、立派なる衣裳に着替へさせ、王の宮殿に参入せしむることとはなりぬ。 (昭和九・八・一四旧七・五於水明閣内崎照代謹録) |