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霊界物語 68_未_タラハン国の国政改革2 12 妻狼の囁 第一二章妻狼の囁〔一七三六〕 若葉はそよぐ初夏の風山時鳥四方八方の 密樹の蔭にひそみつつ悲しき声を張上げて 神の造りしタラハンの国の行末歎つなり 李杏も梅の実も色づき初めて遠近の 田の面に数多の首陀たちが生命の苗を植つける 其有様を眺むれば降る五月雨に蓑笠を おのもおのもにつけ乍ら三々伍々と隊をなし 田の面に唄ふ勇ましさ一年三百五十日 たつた一度の植付の好シーズンのめぐり来て 人の心もせいぜいと希望に充てる折もあれ タラハン市街の大火災忽ち暴徒蜂起して 特権階級富有者共の大邸宅に火を放ち 婦女をば姦し金銭を不逞の首陀団掠奪し 諸種の主義者は一時に手に唾して立上り 吾等が日頃の鬱憤を晴らすは今や此時と 警戒厳しき警察を向方に廻して戦ひし 其勢は枯野をば燃えゆく焔の如くなり 茲に軍隊出動し漸く一時は暴徒も 鎮圧したれど何時か又大騒動が起らむと 期待されたるタラハンの城下の人心恟々と 安き心もなかりけり左守右守の神司 吾権勢の忽ちにおち行く虞ありとなし 所在手段をめぐらして軍隊警察召集し 水も洩らさぬ用心に流石不平の連中も 一時は影をひそめけりカラピン王は重病に 苦み玉ひて国政を見玉ふ術も更になく 太子の君は騒動に紛れて影を隠しまし 左守の司のガンヂーは心許りは焦て共 よる年波に力落ち勇気は頓に阻喪して 単に無用の長物と誹れ乍ら気がつかず 萎れ切つたる両腕をウンと叩いて雄健びし 敦圉く様は螳螂が斧を揮うて立てる如 其スタイルの可笑しさよ心汚きサクレンス 此有様を見るよりも国家の前途は風前の 灯火の如しと吾妻のサクラン姫と頭をば 傾け前後の策略をめぐらしゐるこそうたてけれ。 サクレンス『サクラン姫よ、世の中が追々と、斯う物騒になつて来ては、俺もウツカリはして居れない。今迄とは世の中が、何も彼も一変し、吾々如き特権階級や資本階級の滅亡する時期が迫つて来たやうだ。此儘に放任しておけば、タラハンの国家は言ふに及ばず、王家も吾々階級も遠からぬ内に地獄の憂目を見る様な事が出来はせまいかと案じて寝られないのだ。お前は一体、今日の世態を何う成行くと考へてるか』 サクラン『仰の通り、世はだんだんと行詰つて参りました。経済界、政治界、宗教界は申すに及ばず、実業方面に於ても一切万事行詰り、実に惨めな状態となりました。併し乍ら窮すれば通ずとか申しまして、禍の極端に達した時は、キツト幸の芽を吹くもので厶います。去る五日の大火災にも、城内の茶寮は焼け落ちて、所在国宝は全部灰燼に帰し、左守の邸宅迄、あんな惨めな事になりました。それにも拘らず、右守の邸宅は一部分暴徒に破壊された計りで此通り安全に残りましたのも右守家に、対し盤古神王様が、大なる使命のある事を暗示されたものと考へられます。斯様に混乱状態に陥つた社会では、弱いと見られたならば忽ち叩き潰され、亡ぼされて了ふものです。それ故此際は国家の為に満身の力を発揮し、空前絶後の大計画を遂行して、国民上下の胆を奪ひ、右守の威力を現はし、威圧と権威とを示して、国民の驕慢心を抑へ付けねばなりますまい』 サクレ『お前のいふ事も一応尤もの様だが、人心極端に悪化し、吾々の階級を殲滅せむと国民が殆んど一致して時期を待つて居ると云ふ時代に際し、なまじひに小刀細工を施してみた所が、却て万民の怒りを買ひ、滅亡を早める様なものだ。ぢやと云つて此難関を打ぬけ、民心を収攬し、太平無事に国家を復興する事は難事中の難事だ。如何なる聖人賢人と雖、此際かかる世態に対し、メスを揮ふ余地はあるまい。あゝ困つた事だワイ。大王殿下は御重病、何時お国替遊ばすやら計り知られぬ今日の有様、太子の君はお行衛は分らず、左守司は老齢激務に堪へず、又彼が悴のアリナは踪跡を晦まし、タラハン国はすべての重鎮を失はむとしてゐる。要のぬけた扇の如く到底収拾す可らざる内情となつてゐる。今後亦去る五日の如き騒乱が勃発せうものなら、夫こそ王家を始め貴族階級の断滅期だ。何とかして此頽勢を挽回する事は出来よまいかなア』 サクラ『私の意見としては此際思ひ切つて大鉈を揮ひ、大改革を断行せねば、到底駄目で厶いませう。老朽ちて将に倒れむとする老木も根元より幹を切り放たば、新しき芽を吹き、其為再び生命を持続する事が出来るものです。吾夫様、此際貴方は大勇猛心を発揮し、国体を根本的に改革遊ばす御所存は厶いませぬか』 サクレ『イヤ、俺にも考案はない事はないが、さりとて余りの叛逆だからなア』 サクラ『ホヽヽヽ、叛逆無道の世の中を立替立直すのが何故に叛逆で御座いますか、能く考へて御覧なさいませ。大王様はあの通り、太子殿下は御行衛分らず、左守の老衰、斯の如く国家の重鎮に大損傷を来した上は、最早タラハン国に於ける最大権力者は右守家を措いて外にはないぢやありませぬか。民心を新にする為、思ひ切つて王女バンナ姫様を表に立て、弟のエールを王位に就かせ、国民上下の人心を収攬し、貴方は国務総監となつて、無限絶大なる権威を揮ひ、政治の改革を断行なさるより外に、国家を救ふ道は厶いますまい』 サクレ『成程、俺も其事は今迄に幾度か考へてみた事もあるが余りの陰謀で、女房の其方にも言ひ兼ねてゐたのだ。お前が其心なら、俺は強力なる味方を得たも同然、思ひ切つて断行を試みやう。併し乍ら、ここ暫くは秘密を厳守せなくてはならうまい。万々一此計画が夫婦以外に洩れ散るやうな事があれば、それこそ右守家の一大事だ』 サクラ『凡て大業を成さむと思へば、秘密を守るのが肝心で厶います。暫く人心の治まつた潮時を考へ、公々然と天下に向つて国政改革を標榜し、エールを王位に上せ、バンナ姫を王妃と成す事を発表遊ばせば、茲に始めて維新改革の謀主として貴方を国民が欣慕憧憬する様になるで厶いませう。それより外に適当な方法手段は厶いますまい』 サクレ『それに就ては、第一気に懸るのは太子の君だ。折角エールとバンナ王女を立て、国家の改造を標榜してゐる最中へ、ヒヨツコリ太子が帰つて来て、異議を唱へ給ふやうな事が有れば、吾々の折角の計画も水泡に帰するのみならず、右守を叛逆者として大罪に問はるるかも知れぬ。夫故俺の思ふには、まづ太子の身の上から片付けて掛らねば成るまい』 サクラ『成程、それが先決問題で厶います。併し幸ひに太子様を巧く片付けた所で、左守の悴アリナが此の世に在る限りは、再び折角の計画を覆へさるる虞が御座います。之も序に何とか致さねばなりますまい』 サクレ『ウン、それもさうだ。併し乍ら此両人を処置するに付いては、石で臨むか、真綿で臨むか、何れかの方法を取らねば成るまい、どちらが能からうかなア』 サクラ『天下混乱の際、生温い方法手段では駄目で御座いますよ。疾風迅雷耳を掩ふに暇なき早業を以てキツパリと、幹を切り根を絶ち葉を枯らし、新生面を開かねば腐敗し切つたる現代を救ふ事は到底出来ますまい。但し其方法手段は……斯様々々』 とサクレンスの耳に口をよせ、奸侫邪智のサクラン姫は何事か右守に教唆した。サクレンスは幾度となくうなづき乍ら、 サクレ『ウンウン可からう。中々お前も隅にはおけぬ悪人だ。悪にかけては抜目のない逸物だ、ハヽヽヽ』 と小声に笑ふ。 サクランは目を怒らせ口を尖らせ乍ら、サクレンスの膝を叩いて小声になり、 サクラ『国家の大改革を断行し、国民塗炭の苦みを救ひ、国家万年の策を立つるのがそれ程悪で厶いますか。どうも腑におちぬ事を仰有るぢや厶いませぬか。勝てば官軍負くれば賊子、兎角世の中は勢力が最後の勝利を占めますよ。一切万事躊躇逡巡せず、ドンドンとやつて下さい。妾は貴方の為、いな国家の為に内々奮闘努力を致しませう』 サクレ『ヤ、頼母しい。お前は見かけによらぬ偉女夫だ。此夫にして此妻ありだ。俺も始めてお前の心の底が解り、安心をしたよ』 サクラ『二十年も夫婦となつてゐ乍ら、まだ妾の本心が解らなかつたのですか。お側に近く寝食を共にする妻の心が、二十年目に始めて解る様な事で、能くマア今日迄右守の職掌が勤まつて来たものですなア。本当に之こそ天下の奇蹟ですワ』 サクレ『オイ、サクラン姫、馬鹿にするない。政治家は政治家としての方法があるのだ。天下国家を憂慮する余り、小さい家庭などの事に気を付けてゐられうか』 サクラ『家庭も治まらず、二十年も添うた妻の心が解らぬやうな事で、何うして大政治家が勤まりませう。まして多数国民の心を収攬する事が出来ませうか』 サクレ『ヤ、さう追撃するものでない。今の大政治家を見よ。一家を治める事は知らいでも、堂々として政治の枢機に参与してゐるぢやないか。左守だつて、決して家庭は円満でない。又左守の心と彼が悴アリナの心とは正反対だ、犬と猿との間柄だ。それさへあるに国家の元老、最大権力者として左守は立派に今日迄地位を保つて来たではないか』 サクラ『自分の地位を保ち得たのみで大政治家とは云へませぬよ。今日の国家の不安状態に陥つたのは、輔弼の重臣たる左守様に本当の技倆が欠けてゐる為ではありませぬか。現代の政治家は何れも皆袞竜の袖に隠れて、僅かに其地位を保ち、国民を威圧して居るのです。虎の威を借る狐の輩です。貴方だつて、ヤツパリさうでしよう。真裸にして市井の巷へ放り出してみたならば、履物直しにもなれないぢやありませぬか』 サクレ『馬鹿云ふな、俺だつて曲人官位にはなれるよ』 サクラ『自惚も可い加減になさいませ。貴方は大王殿下のお引立てがなく裸一貫の男として、自分の運命を開拓遊ばす勇者とすれば、精々小学校のヘボ教員かポリス位が関の山で厶いませう。それだから国民が貴方を称して死人官だと云つてゐるのですよ』 サクレ『エー、モウそんな小言は聞たくない。主人を馬鹿にしてゐるぢやないか』 サクラ『ホヽヽヽ、馬鹿にしたくても、貴方は本当の馬鹿になれない方だから困りますワ。世の中の才子だとか智者だとか言はれる人は何時も失敗許りするものです。それに引替へ馬鹿とならば、何事にかけても無頓着で如何なる難関に出会つても、少しも恐れず又後悔する事もなく、物に慌てて事に驚き気をもんで、無駄骨折に損をせない。そして禍を化して自然に幸になす態の馬鹿になつて頂きたいものです』 サクレ『あゝあ、何が何だか訳が分らなくなつて来たワイ。さうすると俺もまだ馬鹿の修業が足らぬのかなア。オイ、何だか胸騒ぎがしてならない。一杯つけてくれ、熱燗でグツとやるから』 サクラ『お酒をおあがり遊ばすのも結構で厶いますが、大事の前の小時、茲少時はお窘みなさるが宜しからう。貴方はお酒をおあがり遊ばすと、精神錯乱して、どんな秘密でも人の前に喋り立てるといふ、つまらぬ癖がおありなさるから、此大望が成就する迄は盤古神王様の前にお酒を断つて下さい』 サクレ『ヤ、此奴ア耐らぬ。飯よりも女房よりも国家よりも大切な酒を断つて、おまけに暗雲飛乗りの危い芸当を此老人にやらさうとするのは、随分ひどいぢやないか』 サクラ『少時の御辛抱で厶います。夜も深更に及びました。サア寝みませう』 と手を取つて奥の一間に導き行く。二人は之より夜を徹して細々と寝物語の幕をつづけた。果して何の秘事が画策されたであらうか。 (大正一四・一・七新一・三〇於月光閣松村真澄録)
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(3050)
霊界物語 69_申_南米ウヅの国の国政改革 19 老水 第一九章老水〔一七六四〕 秋山別、モリスの両老は、先に高倉城の世子国愛別の脱出を気附かざりし責任を負ひ、惜くてならぬ地位を表面上、責任を負うて辞任すると云つて、辞表を提出し、楓別命より……それには及ばぬ。今後は気をつけて、国家に忠勤を励めよ……との、優握なる箴言を辱なうし、やつと胸を撫で下ろし、恋々たる元の地位に居据り、之で天下太平とタカをくくつてゐた所、又もや妹君清香姫の思想が何となく異様に感ぜられたので心配でならず、過を再びせば、今度こそは切腹してでも申開きをせなならないと両老は、夜半にも拘らず、姫の身辺に注意を払つてゐた。にも拘らず、月夜に釜をぬかれた様な驚きに会ふて、心も心ならず、こんなことを他の役人に悟られては、自分の地位が危い、幸ひ夜明けには少しく間があるのだから、今夜の内に姫の所在を尋ね、ソツと城中へ迎へ入れておかむものと、杖を力に転けつ輾びつ、裏門口より馬場の木立を縫うて、ウントコドツコイドツコイと蛙が跳たやうなスタイルで、息もせきせき追つかけて行く。 秋山別は足拍子を取り乍ら歌ふ。 『ハアハアウントコドツコイシヨ高倉城の重臣と 世間の奴から敬はれ最大権威を掌握し 大老の地位にすわりつつ国愛別の若君に スツパぬかれて、ドツコイシヨ禿げた頭を台なしに めしやがれ鼻をねぢられてどうして大老の顔が立つ 是非がないので表向進退伺辞職願 ソツとコハゴハ出してみたら仁慈無限の国司様 決してそれには及ばぬとお下げ下さつた嬉しさよ ヤツと胸をば撫で下ろしお務め大事と朝晩に 心を配り薬罐に湯気を立てつつ見守れば しばしは無事に過ぎたれど隙間を狙ふ魔の神が 又もや館に現はれて大事の大事の姫様を 甘言以て唆のかし引ぱり出したに違ない まだ夜があけるに間もあれば一生懸命御行方を 捜しあてずにおくものかオイオイモリスしつかりせい 今日が命の瀬戸際だウントコドツコイ、ハアハアハア 喉がひつつき息つまるよい年してからこんな苦労 なさねばならぬ二人の身ホンに因果な生れつき ウントコドツコイドツコイシヨ四方八方に気をつけて 人間らしい影みれば取つつかまへて査べあげ 否応いはさず連れ帰りソツと二人が脂をば 取つておかねば此後の懲戒にならないドツコイシヨ 老眼鏡が曇り出し一寸先も分らない 眼鏡をとれば尚見えぬ進退ここに谷まつた ウントコドツコイドツコイシヨアイタヽタツタ木の株に 足をつまづき脛むいたウンウンウンウンあゝ痛や 腰の骨迄ギクギクと下らぬ小言をいひ出した アイタヽタツタアイタツタ』 モリスは倒れてゐる秋山別を抱き起し、介抱しておつては姫の行方を見失ふ。それだと云つて、みすみす友達をすてて行く訳にもゆかず、一間程前へ走つてみたり、後へ戻つたり、幾度も進退をしてゐる。 秋山『オイ、モリス殿何をして厶る。第一線が破るれば、第二線が活動するは兵法の奥義では厶らぬか。拙者に構はず、トツトと出陣なされ。間髪を入れざる此場合、早くお出でなされ。此秋山は殿となつて、そこらの木蔭や叢を捜しつつ行くで厶らう、サア早く早く』 とせき立てられ、 モリス『成る程、あとは貴殿にお任せ申すウントコドツコイドツコイシヨ 昔の罪がめぐり来て又もや女で苦労する 己れの恋では無けれ共悪い奴めが飛んで来て こいこいこいと姫様をつれ出しやがつたに違ない ウントコドツコイドツコイシヨグヅグヅしてゐちや夜があける 早く所在を捜し出しとつつかまへて元の鞘 をさめておかねば吾々の大きな顔は丸潰れ 皺腹切らねばならうまいすまじきものは宮仕へ ウントコドツコイドツコイシヨ臍の緒切つて八十年 これだけ辛い事あろか秋山別の腰抜は 芝生に倒れてウンウンと脛腰立たぬ浅ましさ とは云ふものの俺だとて最早呼吸がつづかない オーイオーイ姫様よオーイオーイ春子姫 そこらに居るなら俺達の心を推量した上で あつさり姿を現はせよオーイオーイお姫さま 決して叱りはせぬ程に一号二号三号四号 五号(合)の写真気にくはにや一升でも二升でも捜します オーイオーイお姫さま雀百迄牡鳥を 忘れぬためしも厶ります何程頑固なモリスでも 恋には経験持つてゐる貴女の決して不利益な 話はせない村肝の心を安んじ吾前に あつさり現はれ下さんせ高倉城の大騒動 ヒルの国家の大問題恋しき父と母上を 見捨てて出るとは不孝ぞや序に私も不幸ぞや フコウ峠の麓迄かからぬ内に姫様を どうしてもこしても捉まへて皺面立てねばおくものか ウントコドツコイ、アイタヽヽ俺も秋州の二の舞だ 木株につまづき向脛を尖つた石ですりむいた ウンウンウンウンアイタヽヽアイタヽタツタ、アイタツタ』 と云つたきり、其場に息も細つて倒れて了つた。 春子姫は少し横側の灌木の茂みに、姫に追ひつき、息を休めてゐたが、此態を見て気の毒がり、小声で、 『姫様、今倒れてゐるのはモリスぢやありませぬか。あゝしておけば、縡れて了ひませう、介抱して助けてやりませうか』 清香『あ、助けてやらねばならず、助けてやれば妾の目的が立たず、どうしたら可からうかな。みすみす老臣を見殺しにして迄、逃げ去る訳にもゆかず、困つた事が出来たものだ。春子、其方、そろそろモリスの介抱をしてやつて下さい。余り早く呼び生けると、妾が逃げる間がないから、そこは時を計つて縡れない様に、そろそろ急いで助けてやつて下さい。其間に妾は逃げのびますからね』 春子『成る程よい御考へで厶います。私がモリス其他の役人が何程参りましても、一歩も之から南へ行かぬやうに、喰ひとめますから御安心なさいませ』 清香『何分頼みます、左様なら……』 と金剛杖を力に走り出した。夜はガラリと明けて小鳥の声四方八方より聞えて来る。春子は、 『姫様、キツト後から参ります』 と声をかけた。清香姫は二三回うなづき乍ら、密林の中に姿を隠した。春子はモリスの側に立寄り見れば、体をピコピコ動かせ、幽かな息をしてゐる。忽ち水筒の水を口に含ませ、背を三つ四つ叩いて、三五の大神を念じ、『一二三四五六七八九十百千万』と天の数歌を奏上した。五分間程経た後、モリスは『ウーン』と一声唸つて、頭をソツと擡げ、老眼を開いて、 『あゝ秋山別か、能う助けてくれた。何分年がよつて、足が脆いものだから、此通りむごい目に会うたのだ。あゝ目が眩む、まア暫く此処で息を休めねばなるまい。清香姫様は、こんな無謀な事はなさる筈はないが、侍女の春子の奴、彼奴が張本人だらう。オイ秋山、姫様に小言いふ訳にいかぬから、以後の懲戒に、春子の奴を牢屋へでもブチこんで辛い目をさしてやらねばなるまいぞ、ウンウンウン』 春子は之を聞くより、モリスの懐からタヲルを取出し、目からかけて、頭をグツと縛り、モリスの命は大丈夫と、一生懸命に姫の後を尋ねて走り出した。 秋山別は足をチガチガさせ乍ら漸くにしてモリスの側迄やつて来た。 秋山『ヤア貴殿はモリス殿では厶らぬか。テも偖も大怪我をなさつたとみえる。其鉢巻は何で厶る』 モリス『此鉢巻は貴殿がさしてくれたのでは厶らぬか。一命すでに危き所、お助け下され、誠に感謝に堪へませぬ。持つべき者は同僚なりけりだ。お蔭で足の痛みも余程軽減致した』 秋山『決して、拙者は貴殿を助けたのではない。漸うの事、此処迄辿りついた所で厶る。察する所、貴殿は何人かに救はれたので厶らう』 といひ乍ら鉢巻を外す。 モ『何だか柔かい手だと思つてをつた。さうすると、拙者を助けてくれたのは貴殿では厶らぬか。何はともあれ命拾ひをして結構で厶る』 秋山『斯う夜が明けて了へば、捜索の仕方もなし、大老ともあらう者が、供もつれずに、ウロついて居つては却て疑ひの種、何とか善後策を講じようでは厶らぬか』 モ『左様で厶る、職務上捨おく訳にはいかず、だと申して、斯う日の照るのに、吾々が姫の捜索もなりますまい。兎も角間道よりソツと吾家へ帰る事に致しませう。秋山別殿、拙者と変り、貴殿は感慨無量で厶らうのう。貴殿の御賢息、菊彦殿の掌中の玉を逃がしたも同様で厶れば、御愁傷の程、察し申す。最早吾々両人は之限り城中へ出入せない覚悟をきめれば可いでは厶らぬか。老先短い吾々、何時までも骨董品だ、床の置物だと、機械扱をされて、頑張つておつても詰り申さぬでないか。吾々両人が退職さへすれば、政治の方針は悪化するかも知れないが、マア兎も角人気が一変してそれが却てお国の為になるかも知れませぬぞ、秋山殿如何で厶る』 秋山『一度ならず、二度迄も大失敗を重ね、大老として、どうして之が国司に顔が合はされうぞ。又衆生に対しても言ひ訳が厶らぬ。貴殿のお言葉の通り、各自館に帰り辞表を呈出致し、責任を明かにするで厶らう。皺つ腹を切つて切腹すれば腹は痛し、惜い命がなくなる道理、何程顕要の職務だといつても、命には替へられ申さぬ。アツハヽヽヽ』 モ『早速の御賛成、モリス満足で厶る。然し乍ら斯う足が痛んでは、どうする事も出来申さぬ。一町許り後へ返せば、そこに谷水が流れてゐる。其水でも呑んで息をつぎ、ボツボツ帰館致すで厶らう。秋山殿、気の毒乍ら、拙者の手を取つて下され。どうも苦しうてなり申さぬ』 秋山『老いぬれば人の譏りもしげくなりて 足腰立たぬ今日の苦しさ』 モ『身体はよし老ゆる共精霊は いと美はしく若やぎ栄ゆ』 秋山『脛腰も立たぬ身乍ら何を云ふ 清麗の水でも呑んで息せよ』 モ『そらさうだ何程元気に云ふたとて 争はれない年の阪路』 秋山『海老腰に、なつてピンピンはねたとて 買うてくれねば店曝しかな。 又しても清香の姫に逃げられて 二人はここに泡を吹くかな』 かく口ずさみ乍ら、漸くにして一町許り引返し、谷川から流れてくる清水の溜の側へと着いた。 モ『老の身の霊うるほす清水かな。 此清水人の命を救ふらむ』 秋山『われも亦清水むすばむ夏の朝。 汗となり力ともなる清水かな。 年寄りの皺迄伸びる清水かな。 此の上は帰りて何も岩清水』 モ『水臭い姫に逃げられ清水呑む。 春子姫吾を救ふて逃げて行く』 秋山『サア早く家に帰らむ二人連れ』 かく口ずさみ乍ら両老は杖を力に城の馬場の間道から、力なげにトボトボと帰つて行く。 (大正一三・一・二五旧一二・一二・二〇伊予於山口氏邸、松村真澄録)
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霊界物語 71_戌_玄真坊と千種の高姫 08 夢遊怪 第八章無遊怪〔一七九七〕 オーラ山に立籠り、星下しの芸当を演じ、三千人の小盗児を集め印度七千余国を吾手に握らむと雲を掴む如うな泡沫に等しく、天に輝く星を竿竹でガラチ落す如うな空想を描いて、不格好に出来上つた鼻つ柱をピコつかせてゐた玄真坊は三五教の梅公別に踏み込まれ、最愛の妻ヨリコには愛想をつかされ、兄弟分と頼むシーゴーには絶交され、折角の策戦計画も愈画餅に帰し、僅三百の悪党輩を引具し、第二の作戦計画を遂行せむと、閂の女が又しても男を好く如うに彼方此方とウロつき廻り、遂にはスガの港のダリヤ姫に現を抜かし、数多の部下に別れタニグク山のシヤカンナが岩窟に天晴救世主と化込んで罷越し、シヤカンナには荒肝を挫がれ、ダリヤには御丁寧に顔に落書までされ、其上後足で砂をふりかけ、ドロンと消えられた悔しさに、シヤカンナの部下の応援を頼み、自分はコブライと共に山阪を駆めぐり、玉清別が館にダリヤ姫の忍びゐる事をつきとめ、執念深くも姫を奪取せむと蛇が蛙を狙ふ如うに、鎖された門の前にコブライと共に夜警の役を勤めてゐた。そこへ玉清別の悴に身を現じた神の子の言霊に打ちまくられ、ダリヤ姫は既に已に玉清別の館を逃げ出したりと信じ、ハル山峠の麓迄やつて来たが、同じシヤカンナの部下であつたコオロと出会し、バルギーを叩き伸ばし、此処に三人は手を携へて、ダリヤの事は兎も角も鉢巻締直し、一奮発をやつて天下の耳目を驚かすやうな大事業を遂行し、天晴れ英雄豪傑ともてはやされなば、ダリヤの如き美人は求めず共雨の降る如く寄つて来るだらうと独り合点し、不細工な目鼻を一所へ集中させ、出歯をむき出し、禿茶瓶から湯気を立ててニタリと笑ふた其御面相は、平素苦虫をかんだやうな難かしい男も思はず吹き出さずには居られない如うなスタイルであつた。 玄真坊はコブライ、コオロの両人を後前に従へ、ハル山峠の頂上に辿りつき、東南の方を瞰下すれば、タラハン城は甍高く壁白く夕陽に輝いて、何ともなく壮大な気分が浮いて来た。玄真坊は頂上の右側なる大岩の上にドツカと団尻を卸し、夏の夕の蟇の蚊を吸ふ如うな調子で口をパクパク開閉し、腮をしやくり乍ら独言、 『ヤア見渡す限りの連山は樹木繁茂し、土地肥たる原野は際限もなく展開し、タラハン城市は何となく殷盛を極めた様な光景が目に映つてゐる。大丈夫たる者当に此世に於て永住し、天下に覇をなすべきである。シヤカンナも、かのタラハン城の左守として時めいて居つた奴、あれ位な男が左守になれる位なら、吾法力と才智を以て臨めばタラハン城を吾手に入れる位は何の手間ヒマが要るものか、オヽさうぢやさうぢや、これから一つ頭の改造をなし、大計画に取かかつてやらう。就いては棟梁の臣がなくては叶ふまい、何とかして好い家来が持ちたいものだが、三千の部下を引つれた此玄真坊も今日の所では実にみじめなザマだ。栄枯盛衰常ならざるが人生の経路とはいひ乍ら、泥棒の小頭をやつてゐたコブライや小盗児のコオロ両人が左守右守では到底駄目だ。吁何とかして、せめてはシヤカンナの部下を糾合し、又オーラ山からひつぱり出した三百の部下を集めて、種々の訓練を施し、天下を取つてみねば、自分の肚の虫が治まらない。ダリヤ姫も捨て難いが、タラハン城も捨て難い、ナアニ精神一到何事か成らざらむやだ』 と岩上に突つ立上り、東南の空をハツタと見下した其眼光、どこともなく物凄く見えた。コブライは此様子を見て、吹き出し乍ら、 『ウツフヽヽ、もし玄真坊さま、何だか知りませぬが、大変な雄猛びで御座いますな、丸切り枯木に花が咲く様な御計画の如うに、一寸盗み聞を致しましたが、一体どんな御計画ですか、タラハン城なんか到底駄目でせう。あの城内には綺羅星の如き名智の勇将が林の如く並んで居りますれば、何程玄真坊さまが天来の救世主でも、一寸挺には合ひますまい。空想に耽るも結構だが、ここは一つ相応の理といふ事を御考へにならないと、御身の破滅を招くかも知れませぬよ。私は忠実なる臣下として、貴方の将来の為に御忠告を申上げます』 玄『ナアニ、盗人の分際として英雄の心事が分るものか、先づ細工は粒々、俺のする事を見てをれ』 コブ『盗人の分際と仰有いますが、貴方だつて盗人の親分ぢやありませぬか。殊勝らしく数珠を爪ぐり、金剛杖をつき、救世主と化込んで御座るが、心の中はヤハリ虎狼に等しい大泥棒、斯う云ふと、チツタお気に障るか知りませぬが、貴方の御面相には凶兆が現はれてゐますよ。匹夫の言にも亦真理ありで、吾々の云ふ事もチツとは耳を傾けて聞いて貰ひたいものですな』 玄『ソリヤお前の云ふ事も聞かねばなろまい、然し乍ら俺だとて一足飛にヒマラヤ山の上まで上らうと云ふのぢやない。之から順を逐ふて味方を増し、力を養ひ、其上に於ていよいよ実行に取り掛る積りだ。何と云つても三千人の部下を統率して来た腕に覚のある玄真坊だからのう』 コブ『成程、ソラさうでせう、貴方の御器量はコブライと雖も、毛頭疑は致しませぬ。然し乍ら何をやるにも金が先立つぢやありませぬか、其金は何れどつかに隠してあるのでせうなア』 玄『ソリヤ秘してある共、あのタラハン城を見よ、町の所々に白い蔵の壁が見えるだろ、あれは残らず俺の財産がしまひ込んであるのだ』 コブ『アハヽヽ何程財産がしまひこんであつても、自分が所有主でない限り、公然とひつぱり出して使ふ訳には行きますまい、如何なさる御考へですか』 玄『そこが天帝の化身、天来の救世主だ。此地の上にありと所在財産は皆神の造つた物、手段を以て取り出し使ふ積だ』 コブ『あ、さうすると、貴方も矢張り、天来の救世主の仮面を脱ぎ、元の泥棒の親方と還元なさる御計画とみえますな』 玄『千変万化変現出没極まりなきが、大英雄の本領だ。キリストも云つたでないか…人は神と金とに仕ふる事能はず…と、大宗教の法主が不渡手形を発行したり、貴族院議員が詐欺広告をやつて貧乏人の金を絞つたりする世の中だ。何と云つても金が元だ。汝も俺の目的が達したなれば、キツと重く用ゐてやる、それ迄は何んな事でも俺のいふ事は、善にまれ悪にもあれ服従するのだ。第一お前の肚さへ定まれば、此玄真坊は神算鬼謀のあらむ限りを尽し、大望を起してみようと思ふのだ』 コブ『成程、此奴ア面白からう。然しながら貴下が天下を取つた時や、此コブライは、キツと左守か右守にして下さるでせうなア』 玄『ウーン、又其時や其時の風が吹くだらう』 コブ『其時の風の吹き様によつては、どんな運命に陥入れられるかも知れませぬな。そんな頼りないお約束は出来ませぬワ』 玄『今から取らぬ狸の皮算用を行つて居るよりも、先づ実行力が肝腎だ。実行さへすれば、お前が嫌だと云つても、俺の方から頼んで左守になつて貰ふワ、論功行賞は成功した後の事だ。サ、之から一つ、俺も数珠を投捨て、金剛杖をへし折、天晴れ泥棒の張本石川五右衛門の再来となつて、大活動をしてみよう』 といひ乍ら、数珠をズタズタにむしつて、岩上にブチつけ、百八煩悩にかたどつた、百と八つの菩提樹の玉は雨霰と四方に飛散り、金剛杖は三つにへし折られ、恨めし相な面をして大岩の麓に倒れてゐる。 玄真坊は流石に数珠に幾分の執着が残つたか、飛ちる数珠の玉を眺め乍ら、 『南無百八煩悩数珠大菩薩、南無大救世主遍照金剛杖如来、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏』 と手向けの言葉を残し、岩上を降つて、峠の余り広くない赤土の道へ出た。コオロは旅の疲れで、コロリと横たはり雷の如き鼾をかいてゐた。玄真坊は之を眺めて、 『オイ、コブライ、コオロといふ奴、気楽な奴ぢやないか、こんな所に何時追手が来るかも知れないのに、雷のやうな鼾をかいて寝てゐやがる。一つ揺り起してみたらどうだ』 コブ『玄真坊さま、此コオロといふ奴、何が何だか分りませぬぜ。ワザとに狸の空寝入りをして、貴下と私の計画を残らず聞取りタラハン城へでも行つた時にや、恐れ乍らと内通をする奴かも分りませぬ。どうも此奴のそぶりが変だと思つて、始終注意を怠らなかつたのですが、こんな所で鼾をかくとは益々怪しいぢやありませぬか、災を未然に防ぐは智者のなすべき所、二葉で禍根を刈り取るが将来の安全策と心得ます。斧鉞を用ゐても手に合はない如うになつてからは、最早如何ともすることが出来ますまい』 玄『さう深案じをするものでない、此面で何が出来るものか、マア心配をするな、俺に任しておけ』 コブ『ヘーン、さうですかいな、そんなら私の提案をどうぞ此コオロに話さないやうにして下さいや』 玄『ウンよしよし、いらざる事を喋つて、同僚間に内訌を起させる如うな拙劣な事はやらないよ、マ、安心したが可いワ』 コオロは「ウーンー」と手足を伸ばし、ワザと三つ四つビリビリとふるひ、アーアーと欠伸をつづけて後、目をこすり、どん栗眼をギロリとむき出し、 『アーアーよう寝たよう寝た、たうとう華胥の国の国王殿下になりかけてゐたのに、惜い夢が醒めたものだ。……命にも替へて惜けくあるものは、みはてぬ夢のさむるなりけり……だ。ヤ、玄真坊さま、ア、コブライの哥兄、えらい失礼をしたな』 玄『よく寝たものだな、併しお前は華胥の国の国王になつた夢をみたといふが、そら可い辻占だ、其夢を俺が買つてやらう』 コオ『ハイ、有難う御座います、然し乍らこんな夢を金銭で売る訳には行きませぬ。所はハル山峠の頂上、常磐堅磐の岩の根で見た夢ですから、キツト之は実現するでせう、絶対に売る事は出来ませぬ』 玄『何と云つても夢ぢやないか、元がかかつてゐるのぢやなし、百両やるから売つてくれ』 コオ『…………』 コブ『モシ、玄真さま、そんなバカなこた、おいたら如何ですか、折角の計画が夢になつちや約りませぬがな。無形の夢を有形の宝で買はうとは、チツと貴方も頭が悪いですな』 玄『バカを云ふな、夢は無といふ、無は無なり、無より有を生ず、有にして無なり、無にして有なり、之れ即ち言霊学上アの言霊活用だ。アは天なり父なり、大宇宙なり、大権威なり、どうしても此睡眠中に見た霊夢を俺の手に入れねば、目的が成就せない。こらキツと神さまがコオロにお見せなさつたのだろ。お前と俺とがタラハン国を占領し、国王にならうと迄計画を立ててゐる、其足許で見た夢だから、現幽一致だ、こんな瑞祥は又とあるまい。それだから、コオロが売らないと云へば、其夢を此玄真が取つて了ふのだ。元より人の物を奪るのは俺の商売だから、アハヽヽ』 コブ『何程泥棒が商売だと云つても、人の夢迄ふんだくるとは、余り念が入りすぎるぢやありませぬか』 玄『水も洩らさぬ仕組といふぢやないか、念には念を入れ、細より微に入つて、注意をめぐらすのが、正に智者のなすべき所だ。至大無外、至小無内の活用が即ち神たる者の資格だ』 コブ『貴方は今、数珠を捨て、金剛杖をヘシ折り泥棒に還元し、天帝の化身を廃業なさつたぢやありませぬか。最早只今となつては、神様呼ばはりは通用致しませぬよ』 玄『アハヽヽ、神にもいろいろある、俺は正神界は辞職したが、之から邪神界の神となるのだ。泥棒にも神さまがあるよ、俺は之から泥棒の神だ、ボロンスの神だ』 コブ『ヘー、フンさうすると貴方は天国浄土の死後の安住はお望みにならないのですか』 玄『オイ、泥棒の分際として、或は人の国を占領するといふ豺狼の心を抱持し乍ら、天国浄土もあつたものかい、霊肉共に地獄の覇者となつて活動するのだ。極楽浄土へ行つて百味の飲食を与へられ、蓮の台に安逸な生活を送り無聊に苦しむよりも、地獄の巷に駆入つて、命を的の車輪の活動の方が何程楽しいか知れやしないワ。極楽なんか俺たちの性に合はない所だ』 コブ『ウン成程…チギル秋茄子…地獄御尤もだ。そんなら私も玄真坊の悪鬼羅刹が乾児となつて修羅の巷に突入し、獅子奮迅、暴虎憑河の勢を以て、タラハン城を根底から、メチヤメチヤに覆へし、お目にかけて御覧に入れませう、イツヒヽヽヽ』 玄『オイ、コオロ、どうしても俺に売つてくれないか』 コオ『ハイ、売りませう。其代り私に一つの註文があります。金は要りませぬ、私に命令権を与へて下さい』 玄『よし、与へてやる。其代り夢は確に此方へ受取つたぞ』 コオロは横を向いて一寸舌を出し、素知らぬ面して、 コオ『ヤ、有り難い、サ、之から玄真坊だらうが、コブライだらうが、俺の命令に服従するのだ』 といひ、肩を聳かし、俄に元気づく。 玄『ハヽヽ仕方のない代物だな』 コブ『ヘン、こんな奴の命令を聞いて堪るかい、チヤンチヤラ可笑しい、臍茶の至りだ。併し玄真さま、こんな山の上に何時迄居つても、食物もなし、何処の人家を襲ふて腹を拵へようぢやありませぬか。日も西山に傾いたし、此麓の里迄はまだ三里も御座いますよ、サ、参りませう』 とコブライは勝手覚えし山路を、先に立ち、三人急阪を降り行く。 (大正一五・一・三一旧一四・一二・一八於月光閣松村真澄録)
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霊界物語 71_戌_玄真坊と千種の高姫 20 困客 第二〇章困客〔一八〇九〕 『瑞魂の大神が勅命を畏みフサの国 ウブスナ山の霊場ゆ月の神国に蟠まる 大黒主の悪身魂言向和し天国の 神園に救ひ助けむと照国別の宣伝使 一行四人は河鹿山烈しき風に吹かれつつ 祠の森や山口や怪しの森を乗り越えて 彼方此方と駆けめぐり神の誠の御教を 国人達に宣り伝へ病めるを癒し貧しきを 救ひ助けて今此所に百の神業仕へつつ トルマン国の危難をば救ひて此所迄来りけり あゝ惟神々々神の身魂の幸ひて 吾等が使命を詳細に遂げさせ玉へと願ぎ奉る 大日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くる共 仮令大地は沈むとも曲津の神は猛ぶとも 誠の神の御力吾身に浴びし其上は 如何なる曲も恐れむや進めや進めいざ進め 吾等は神の子神の宮虎狼や獅子熊や 鬼や大蛇の曲神が如何程猛り狂ふとも 何か恐れむ敷島の大和男子の宣伝使 勝利の都に至る迄いつかな怯ぬ雄心の 大和心を振り起し進みて行かむ大野原 地獄は忽ち天国と吾言霊に宣り直し 上は王侯貴人より下旃陀羅に至るまで 神の救ひの手を伸べて一蓮托生救ひ上げ 瑞の霊の神力を現はしまつる吾使命 遂げさせ玉へ惟神皇大神の御前に 畏み畏み願ぎ奉る三千世界の梅の花 一度に開く神の国開いて散りて実を結ぶ 日の大神や月の神大地を守らす荒金の 司とゐます瑞魂神素盞嗚の大神の 深き恵は忘れまじ尊き勲功は忘れまじ 進めよ進めいざ進め悪魔の砦に立向ひ 摂受の剣を抜き持ちて言向和すは案の内 アヽ勇ましや勇ましや神の使命を身に受けし 名さへ尊き宣伝使到る所に敵はなし バラモン教やウラル教如何程刃向ひ来るとも 皇大神の賜ひてし厳言霊の光にて 暗夜を照らし神徳を月の御国に輝かし 照らさにやおかぬ吾使命守らせ玉へと願ぎ奉る アヽ惟神々々霊幸ひましませよ』 斯く歌ひ乍ら入江の村近き田圃道まで、やつて来たのは照国別、照公、梅公別の三人であつた。 照公『モシ、先生、モウ日も暮れ近くなりましたが今晩は入江の村で宿をとり、緩り休息を致しまして、明日は船でスガの港へ行かうぢやありませぬか』 照国別『成程、大分に疲れたやうだ、先づ此所で一服しよう。モウあの村へは遠くはあるまいから』 梅公別『先生、今晩は是非入江村で泊りませう。浜屋と云ふ景色よい宿屋が御座いますから是非そこへ泊つて、明日スガの港に着く事に致しませう。スガの港にはアリスと云ふ薬屋の長者がありまして、その息子には、イルク、娘にはダリヤ姫と云ふ熱心な三五教の信者が居ります。キツト待つて居るに違ひありませぬから』 照国『さうだ、梅公別さまは一度お泊りになつた事があるさうだから、心安くてよからう』 照『四方八方の景色を遠く見渡せば コバルト色に遠山かすめり』 照国『薄墨にぼかしたやうな山影は スガの里なる高山ならむ』 梅『夏草の生ひ茂りたる広野原 進み行く身の楽しくもある哉。 今日の日も早や暮れむとす草枕 旅の疲れを宿に癒さむ』 三人が休んでゐる後の草の中から何だか、ウンウンと呻り声が聞えて来る。梅公別は耳敏くも之を聞き、ツカツカと叢の中の呻き声を尋ねて近づき見れば、醜い賤しい面をした坊主が一人半死半生の態で倒れて居る。梅公別は直様天の数歌を奏上するや、倒れ人はムクムクと起き上り、 『何方か知りませぬが、よくまア助けて下さいました。拙僧はバラモン教の修験者で天真坊と申します』 梅公別は、どこか見覚えのある顔だなア……とよくよく念入りに調べて見ると、オーラ山に立籠つて大望を企んでゐた妖僧の玄真坊なる事を知り、 『やアお前は玄真坊ぢやないか、オーラ山で改心をすると云ひ乍ら、再び悪に復つて三百の手下を引率れ、各地に押入強盗をやつて居ると云ふ噂であつたが、天罰は恐ろしいものだ。何人に、お前は虐げられて、こんな所へ倒れて居たのだ。察する処持前のデレ根性を起し、女に一物を締つけられ、息の根の止まつたのを幸ひ、かやうな淋しき原野に遺棄されたのだらう、扨も扨も憐れな代物だな』 玄『これはこれは恐れ入りました。私はお察しの通り、女に睾丸を締めつけられ、三万両の金をぼつたくられ、かやうな所へ、ほかされたもので御座います。只今限り悪事は止めまする。さうして女等には、キツト今後目をくれませぬから、何卒私をお荷物持にでも構ひませぬ、お伴に連れて行つて下さいませぬか』 梅『やア、俺にはお師匠様がある。俺一人の一量見では如何する事も出来ぬ。先づお師匠様の御意見を聞いた上の事にしよう』 照国別は最前から二人の問答を聞き終り様子を知つて居るので、梅公別の言葉も待たず、 『ヤ、玄真坊とやら、最早や日の暮にも近いから、緩りと宿屋にでも行つて話を承はらう。之から吾々は入江村の浜屋旅館に一泊するつもりだ。お前も一緒に行かうぢやないか』 玄『へ、何と仰有います、浜屋旅館にお泊りで御座いますか。あの家はお客があまり沢山で、どさくつてゐますから、少し景色は悪う御座いますが、玉屋と云ふ立派な宿屋がありますから、其処へお泊りになつては如何で御座いませう。私もお伴をさせて頂きますから』 梅『ヤ、一旦浜屋旅館と相談が定つた上は是非とも浜屋へ行かう。吾々の精霊は已に浜屋に納まつて居るのだから』 玄『そら、さうで御座いませうが、ならう事なら待遇も良し、夜具も上等なり、家も新しう御座いますから、玉屋になさつたら如何で御座いませうかな』 梅『ハヽヽヽヽ、此男は十日許り浜屋旅館に泊つてゐたのだらう。越後獅子に小ぴどくこみ割られ、捕手にフン込まれた鬼門の場所だから、浜屋は厭だらう。ヤ、それは無理もない。然し吾々がついてゐる以上は大丈夫だ。ソツと後から跟いて来い。お前の身柄は引受けてやるから、その代り今迄のやうな心では一日だつて安心に世を暮す事は出来ぬぞ。心の底から悔い改めるか、どうぢや』 玄『ハイ、生れ赤子になつてお仕へ致します。何卒お助け下さいませ』 梅『ウン、ヨシ、先生、今斯様に申してゐますが、然し乍ら此奴の悪事は芝を被らねば直らない奴で御座いますが、私も何とかして、改心をさして遣り度う御座いますから、お伴をさせて下さいませ。梅公別が無調法のないやうに引き受けますから』 照国『兎も角、二三日間連れて見よう。如何してもいかなけりや、突放す迄の事だ。さア日も暮れかかつた、急いで行かう』 と又もや声も涼しく宣伝歌を歌ひ乍ら入江村の浜屋をさして進み行く。 浜屋の表口にさしかかると客引の女が、二三人門口に立つて、 女『もしお客さま、どちらにお出で御座います。明日の船の都合も宜しう御座いますから此方にお泊り下さいませ。十分丁寧に、待遇も致しますから。さうして、加減のいい潮湯も沸いてゐますから、何卒当家でお泊りを願ひます』 梅『ヤ、お前がさう云はなくても、此方の方からお世話になりたいと思つて来たのだ。一行四人だ、よい居間があるかな』 女『ハイ、裏に離棟が御座いまして、そのお座敷からはハルの海の鏡が居乍らに見えまする。何なら二三日御逗留下さいますれば、真帆片帆の行き交ふ景色は、まるで胡蝶が春の野辺に飛び交ふやうで御座います』 梅『もし先生、さアお這入り下さい』 照国『そんなら御免蒙らうか』 と先に立つて縄暖簾をくぐる。玄真坊はビクビク慄ひ乍ら、照国別の後になり小さくなつて跟いて行く。次に照公、梅公別は亭主や下女に愛嬌を振り撒き乍ら、奥の離棟に進み行く。 先づ入浴を済ませ夕食を終り、四人は浴衣がけになつて、団扇片手に罪のない話に耽つて居ると、表の二階の間に、なまめかしい声が聞えて来る。梅公別は不思議さうに首を傾け聞いてゐる。 照『これ梅公別さま、何思案をして居るのだい。ありや何処の女が客とふざけて居るのだい』 梅『いや、どうも合点の行かぬ声だ。千草の高姫ぢやあるまいかな』 照『ヘン、馬鹿を云ふない、千草の高姫が、こんな所へ泊るものか。彼奴は屹度何処かの王城へ忍び入り、又もや刹帝利の后に化け込んでゐやがるだらう』 梅『ヤ、どうも怪しいぞ。一つ照公、お前調べて見てくれぬか』 玄真坊は小さい声で、 玄『モシお三人さま、あの声は千草の高姫に間違ひ御座いませぬ。私の睾丸を締めつけ、三万両の金をぼつたくつた大悪人で御座います。何卒彼奴をとつちめ、三万両を取り返して下さい。さうすりや一万両宛、お前さま等に進上致しまする』 梅『馬鹿を云ふな、吾々は金なんか必要はない。況して左守の館でぼつたくつた金ぢやないか』 玄『ハイ、お察しの通りで御座います』 梅『どうやら千草の高姫の相客は人間ぢやないらしいぞ。先生、之から私が正体を見届けて来ます。何卒暫く此処に待つて居て下さいや』 照国『人さまの居間へ飛び込んで調べると云ふ失礼な事はないぢやないか、そんな事せずとも自然に分つて来るよ』 斯く話す時しも二階の障子をサツと開けて離れ座敷を覗いたのは千草の高姫であつた、梅公の顔と高姫の顔はピツタリと合つた。千草の高姫は梅公の顔をパツと見るより、恋しいやら怖ろしいやら、顔を真蒼にしてピリピリと慄ふた。妖幻坊の杢助は高姫の様子の只ならぬに不審を起し、 『オイ、高チヤン、お前は様子が変ぢやないか、何をオヂオヂして居るのだ』 千『杢助さま、あれ御覧なさいませ、三五教の照国別、照公、梅公別の三宣伝使が離棟の居間に泊つて居ます。そして玄真坊が横にゐますのを見れば、三万両の金を取り返す為に、息をふきかへして来たものと思はれます』 杢『やアそりや大変だ、三五教の奴と聞けば俺もチツト虫が好かない、何とかしてお前と二人、此所を逃げ出さうぢやないか』 千『杢助さま、貴方も気の弱い事を仰有いますな、斎苑の館で彼奴等を家来扱をして居つたぢやありませぬか。一つ貴方の大きな声で、呶鳴つて下されば照国別等と云ふへぼ宣伝使は、一たまりもなく逃げ出すぢやありませぬか』 杢『ウン、それもさうだが、今荒立てては事が面倒になる。俺にも一つの考へがあるからのう』 千『智謀絶倫と聞えた貴方の事ですから、滅多に如才はありますまい。それで何も彼も貴方にお任せ致して置きます』 杢『ウン、今夜の処置は俺に任しておけ。俺に計略があるから、さア千草の高姫、此方へおじや』 と云ひ乍ら二階の段梯子をトントントンと下り、表へ出て番頭に小判を一枚握らせ、 杢『一寸月を賞して半時ばかり経てば帰つて来るから、表戸開けて置いてくれよ』 と、巧く誤魔化し高姫と共に浜辺に駆け出し、一艘の舟を盗んで[※第72巻第2章では高砂丸という客船に乗り込んだことになっている。]一生懸命にハルの湖の波を分けてスガの港へ向け漕いで行く。 照国別の一行は一夜を此所に明かし、あくる日の朝早くより一艘の船を誂へ、之亦スガの港をさして進み行く事となつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一五・二・一旧一四・一二・一九於月光閣北村隆光録) (昭和一〇・六・二四王仁校正)
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霊界物語 72_亥_スガの港(宗教問答所) 01 老の高砂 第一章老の高砂〔一八一〇〕 神の力のこもりたる如意の宝珠に村肝の 心の綱を奪はれて自転倒島を初めとし 世界隈なく駆けめぐり揚句のはては外国魂の よるべ渚の捨小舟琵琶の湖水に浮びたる 弁天さまの床下の三角石を暗の夜の 目標となして爪先の血のにじむ迄掻きまはし 断念したる玉探し産みおとしたる一人子の 所在をさがす折もあれ淡路の洲本の東助は 昔なじみの恋人と知るや忽ち恋雲に 全身くまなく包まれて又も狂態演出し 綾の聖地を追放されおためごかしに再度の 山の麓に建てられし生田の森の神館 司となりて暫くはいとまめやかに大神に 仕へ侍りし折もあれ夜寒の冬も早やあけて 若葉のめぐむ春となり再び起る婆勇み 恋の焔を消しかねて大海原を打渡り 見なれぬ山野を数越えて五月六月草枕 旅の疲れも漸くに甦生りたる斎苑館 ウブスナ山にかけ上り総務を勤むる東別 司に面会せむものと富楼那の弁の舌の先 泣きつ口説きつ詰寄れどビクとも動かぬ千引岩 鉄石心の東助を生捕る由もないじやくり 恥を忍びてテクテクと阿修羅の姿凄じく にらみつけたる斎苑館後足あげて砂をけり 肩肱怒らせ尻を振り己見てゐよ東助よ 思ひこんだる女丈夫の矢竹の心は此通り 岩に矢の立つ例あり千引の岩にも松茂る 挺子でも棒でも動かない恋の意地をば立てぬいて 居並ぶ数多の役員に泡を吹かせにやおかないと 風吹き荒ぶ阪道を徳利コブラをぶらつかせ 尻切れ草履を足にかけ鼻息荒く口ゆがめ 眼を怒らせ空中を二つの肩にしやくりつつ 地団駄踏んで上り行くあゝ惟神々々 御霊幸ひましまして思ひつめたる恋の意地 遂げさせ玉へと祈りつつ祠の森に来て見れば 思ひがけなき神の宮千木高知りて聳り立つ 荘厳無比の神徳に呆れて高姫言葉なく しばし佇み居たりしがヤンチヤ婆の高姫は 金毛九尾と還元し図々しくも受付に 大手をふりつつ進みより声厳かに掛合へば 祠の森に仕へてゆまだ日も経たぬ神司 斎苑の館の御使と信じて奥へ通しける 高姫ここに尻を据ゑ斎苑の館へ往来する 信徒等を引止めて虱殺しに吾道へ 堕落とさせむと企みつ教主の席にすましこみ 奥殿深く鎮まりぬ少時あつて受付に 訪ふ真人のメモアルはトの字のついた司ぞと 聞いて高姫膝を打ちウブスナ山の聖場に 於いてトの字のつく人は東助さまに違ひない 人目の関を恥らいて吾身を素気なく扱ひつ 心はさうぢやない(内)証の妻に会はむと河鹿山 けはしき阪を昇降し昔馴染みの高姫を 慕うて厶つたに違ひないあゝ有難い有難い 女の髪の毛一筋で大象さへも引くと云ふ 諺さへも有るものを年はとつても肉付の 人に勝れた此体吾肉体の曲線美 全身つつむ芳香を忘られ難く捨て難く 慕うて来るやもめ鳥東助さまも恋の道 少しは話せる人だなアこりや面白い面白い 人目少なき此館思ふ存分口説き立て 昔の欠点をさらけ出し顔を紅葉に染めてやらう とは云ふものの妾だとて年はとつても恋衣 着せられや顔が赤くなる赤き誠の心もて 互に親切尽し合ひ老木の枝も花盛り 小鳥は歌ひ蝶は舞ふ喜楽蜻蛉の悠々と 羽を拡げて翔つ如く天下に羽翼を伸ばしつつ 斎苑の館に鼻あかし若しあはよくばウラナイの 道を再開せむものと雄猛びするぞ凄じき 受付イルの案内で入り来る男はあら不思議 東助ならぬ時置師いつも吾身の邪魔ひろぐ 杢助総務の姿には流石の高姫ギヨツとして 倒れむばかりに驚けど副守の加勢に励まされ 膝立て直し襟正し太いお尻をチント据ゑ 団栗眼を細くしてあらむ限りの媚呈し 前歯の抜けた口許を無理にすぼめたスタイルは 棚の鼠の餅かじるその口許にさも似たり 高姫心に思ふやう吾目の敵杢助も 木石ならぬ肉の宮少しは情を知るであらう 一程二金三器量恋の規則と聞くからは 天下に比類なき程のよき高姫がこの笑凹 鬼でも蛇でも吸ひ込んで捕虜にせられぬ筈はない さうぢやさうぢやと胸の裡合点々々と首肯いて 『これこれまうし時置師杢助司の総務さま ようマアお出まし下さつた三羽烏の一人と 名を轟かすお前こそ東別に比ぶれば 幾層倍の英傑ぞ何しに御座つたその訳を つぶさに知らして下され』としなだれかかる嫌らしさ 杢助総務に変装した大雲山の大妖魅 妖幻坊は面を上げ鼻動めかし鷹揚に 赤き口をば開きつつダミ声絞りケラケラと 館も揺ぐ高笑ひ 『これこれ高チヤン生宮さま日出神の肉の宮 お前の強い恋の意地側に見る目も羨ましと 後を慕うて来たわいな東助さまには済まないが 人の前とは云ひ乍ら一旦捨てた恋の花 拾うて見るも人助け恋の奥の手と勇み立ち 一つ相談せむものときつい山阪乗り越えて 出て来た可愛い男ぞや』と祠の森の聖場で 交渉談判開始して 『二世や三世はまだ愚か五百生迄契をば ここで確り結び昆布寝てはするめの老夫婦 二人の誉も高砂やお前の持つた浦舟に 真帆や片帆をかかげつつ浪の淡路の島影に 漂ひ舟を割りし如玉の御舟を漕ぎ出して 心も安く住の江の月と花との夫婦仲 面白可笑しく暮さうか』云へば高姫喉鳴らし 好い鴨鳥を捉へたチンチンカモカモ酒祝ひ 杢助さまの銚子からさす玉の露ドツサリと 玉の盃に満たしつつ夜舟遊びをせむものと 契りも深き秋茄子種なし話に夜を明かす かかる処へ宣伝使初稚姫が現はれて 高姫さまの醜態を見て見ぬふりをなし乍ら 駒を停めて稍暫し祠の森の曲津見を 払はむものとスマートに旨を含ませ床下に 忍ばせおきて妖幻坊高姫司を神の在す 高天の原に救はむと心も千々に砕かせつ とどまり玉ふ折もあれ妖幻坊は逸早く 高姫引連れ雲霞何処ともなく逃げ失せぬ あゝ惟神々々神の恵みに照されて 醜の高姫行衛をば完全に委曲に明し行く 神の出口の瑞月が日本三景の一と聞く 風光明媚老松の白砂の浜にそそり建つ 天の橋立背に負ひなかや旅宿の別館に 口述台の舟に乗り心も清くいさぎよく 妖幻坊や高姫の恋と欲とに迷ひたる その経緯を詳細に伝へ行くこそ床しけれ あゝ惟神々々御霊幸へましませよ。 (大正一五・六・二九旧五・二〇於天之橋立掬翠荘北村隆光録)
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霊界物語 72_亥_スガの港(宗教問答所) 11 問答所 第一一章問答所〔一八二〇〕 スガの宮の広い境内の片隈に問答所と云ふ建物を新築し、ヨリコ姫、花香、ダリヤ姫の三人が昼夜出勤して居た。さうして表の大看板に「宗教一切の問答所」と筆太に書き記し、其傍に細字にて、 「如何なる宣伝使、修験者と雖もお相手仕るべく候。万々一妾が説き伏せられし暁はスガの宮の宮仕を辞し妾に勝ちし御方に役目をお譲り可申候也、無冠の女帝ヨリコ姫」 と書き記しておきたりける。 大胆至極のヨリコ姫猪喰た犬の何処までも 人をば何とも思はないその心根は歴々と 大看板に現はれぬ五月雨の空低うして 山時鳥啼き亘り若葉も老いし夕間暮 異様の服装身にまとひ錫杖ついた修験者 網笠目深にかぶりつつ問答所の玄関に 立塞りて声高く頼まう頼まうと訪へば 花香の姫は立出でていと叮嚀に敬礼し 『見れば貴方は修験者何れの方かは知らねども ヨリコの女帝がお待兼定めて問答せむために お運びなさつたに違ひない先頭一のお前様 シツカリおやりなさいませ妾は側に侍べりて 高論卓説一々に拝聴さして貰ひませう それが妾の第一の大修業となるのです 早くお上りなされよ』と盥に清水を汲み来り 草鞋とくとく脚絆まで脱がせて足を洗ひやり 庭下駄渡せば修験者案に相違の面持で ニツコと笑ひ庭下駄を足に引掛け悠々と 境内隈なく経めぐりつ如何なる事の質問を 出してやらうかと首ひねり時を移すぞ抜目なき ヨリコの姫は窓開けて今訪ひ来りし修験者の 変姿怪態打眺め思はず知らずホヽヽヽと 笑ひこけては起き上り覗きゐるこそあどけなき 修験者心に思ふやう「大胆不敵の女奴が 大看板を掲げつつ人を煙に巻いてゐる どんな奴かは知らねども吾足洗うた女奴は チヨイと渋皮むけてゐるどことはなしに香しき 匂ひが鼻にプンと来た何うしても斯しても彼奴をば 俺の女房にせにやおかぬさはさり乍ら今晩の 問答にもしや負けたなら赤恥かいて男さげ スゴスゴ帰らにやならうまい宝の山に入り乍ら 手ぶらで帰るも気がきかぬ何とか工夫をめぐらして ヨリコの姫とか云ふ奴を木端微塵に説きくだき 往生させてキユーバーが威勢をあつぱれ輝かし 三五教の聖場をうまうま占領した上で スコブッツエン宗の本山に立替すればそれでよい トルマン国では下手を打ち千草の姫には生き別れ 男を下げた其揚句青竹払ひを喰はされし 風の神でも追ふやうに田吾作杢兵衛おかめ等に おつ払らはれし無念さよあつぱれ此処で旗をあげ 会稽の恥を雪がねば大黒主の御前に 出でて言訳立たうまい大足別の将軍も 定めて怒つて居るだらう何か一つの手柄をば やつて見せねば救世主教祖の光も暗雲だ」 などと自己愛利己主義の勝手な事を考へつ 襟をば正し目をすゑて玄関さして帰り来る そのスタイルの可笑しさにヨリコの姫は窓の内 又もや笑ひこけ乍ら一室に入りて顔貌 鏡に向つて髪の風繕ひをへて白妙の 衣を長く身にまとひ問答席に立出でて 四辺眩く坐しゐたり花香の姫の案内に ついて出て来る修験者ヨリコを一目見るよりも 眼は眩み胸おどり舌の自由を失ひて 宣る言霊も口籠り体内地震は時じくに 勃発したるあさましさ斯くてはならじと修験者 吾と心を取直し臍下丹田に胆玉を グツと据付けやや反り身ヨリコの女帝を睨めつけて 軽く目礼施しつ不恰好に出来た口許を パツと開いて『某はハルナの都に名も高き 大黒主の片腕と世に聞えたるキユーバーぞや 抑大黒主の神様は七千余国の月の国 片手に握る聖雄ぞ普天の下や率土の浜 之皆大黒主のものその領分に住む汝 女帝と名のるは何故ぞ事と品とによつたなら スコブッツエン宗の法力で汝を厳しく捕縛して ハルナの都へ送らうか如何なる悪魔の化身かは 探りかぬれど汝こそこの世を誑る探女なり 天人天女に擬ふなる美貌を楯に世の中の 有情男子の肝をぬき己れ女帝となりすまし 七千余国の月の国掌握せむとの下企み それと覚つた修験者返答聞かむ』と詰めよれば ヨリコの姫は高笑ひ 『ホヽヽヽホツホ、ホヽヽヽヽ何処の坊主か知らねども キユーバーと云ふ名は聞いて居る見ると聞くとは大違ひ ようマアそんな面をして世界が渡れて来たものだ これを思へば世の中はホントに広いものですな お前の様な醜面も下品な姿も世の人は 盲千人の例にもれず教祖様よ救世主 などと喜び渇仰するその心根がいぢらしい スコブッツエン宗と云ふ宗旨女の乳房をえぐり出し 要塞地帯迄くりぬいて神の御前に奉る 蒙迷頑固の偽宗教其方の顔を一目見て 宗旨の全豹分りましたとるにも足らぬお前さまと 問答したとて是非はない一時も早く尻からげ 尻尾を股に挟みつつ逃げて帰るがためだらう グヅグヅしてると野狐の尾尾が現はれまするぞや スガの宮にや鼻の利く沢山な犬が居りますぞ ホヽヽヽヽ、ホヽヽヽあまり可笑しうて腸が 撚れますぞや』と嘲弄へばキユーバーは団栗眼に角をたて 肩を四角に聳やかし鼻息荒く腕まくり 握り拳を固めつつ力限りに卓を打ち コツプの水を踊らせつ一口飲んで息をつぎ ヨリコの顔をいやらしく下からグツと睨め上げて 『ホンに素敵な女郎だなア俺も諸国を遍歴し 沢山な女に会うたれどお前のやうな奴転婆を 一度も見付けた事はないそれだけ度胸があるならば 神さま等に仕へずとオーラ山へでも飛んで行て ホントのヨリコに面会しお弟子になつて泥棒の 飯焚なりとするがよいホンニ呆れてもの言へぬ 愛想もこそも月の国七千余国のその中に 之程きつい女郎あらうかハツハヽヽヽヽ』と苦笑ひ すればヨリコはキツとなり 『玄真坊やシーゴーの三千人の泥棒の 大頭目を此の腮でしやくつて使うたヨリコとは 此姐さまで御座るぞや驚く勿れ驚くな オーラの山を解散し悪魔の道を廃業して 水さへ清きハルの湖吹き来る風に魂を 清めすましてスガの山神の誠の取次と 忽ち変るヨリコ姫如何なる悪人なればとて 神に貰うた魂は至善至美なる増鏡 研けば光る人の魂あまり軽蔑なさいますな』 初めて明かす其素性聞くよりキユーバーは仰天し 呆れて椅子からドツと落ち尻餅ついて腰痛め アイタヽタツタアヽ痛い薬よ、水よ、繃帯と ワザとに駄々をこねまわし何とかなして此美人 住まへる宿に一夜の伽をなさむと企むこそ 大胆不敵の曲者ぞヨリコの姫はキユーバーが 心の底まで探知してそしらぬ顔を粧ひつつ 煙草をスパスパ輪に吹きつ 『これこれ花香よ、ダリヤさま此処に一人の行倒れ 売僧坊主が居りまする蓆の破れでも持つて来て 頭から尻までよく包み雪隠の側へ持ち行きて 其処に寝かして置きなされスコブッツエン宗の小便使 天下を騙詐る糞坊主雪隠の側が性に合ふ ホヽヽホツホ、ホヽヽヽ』笑ひ残し悠々と 扇に片頬あほぎつつ吾居間さして入りにけり キユーバー此態見るよりも剛腹立ちて堪り得ず ムツクと起きて胸倉を掴み懲しめやらむとは 思ひ焦れど肝腎の腰の蝶番脱骨し 無念をのんで両眼を剥き出し乍ら時ならぬ 涙の雨に浸りける夜はシンシンと更け渡り 夜半を報ずる太皷の音七五三と聞え来る 花香、ダリヤの両人は渋々夜具をとり出し キユーバーの上に被せつつ各自寝室に入りにける あゝ惟神々々神の仕組ぞ面白き。 (大正一五・六・三〇旧五・二一於天之橋立なかや旅館北村隆光録)
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霊界物語 73_子_太元顕津男の神の物語1 06 言幸比女の神 第六章言幸比女の神〔一八三七〕 言霊の天照り幸はひ生くるてふ、貴の御名をおはせたる言幸比女の神は、音吐朗々として言霊の幸を歌ひたまひぬ。 『大虚空一点のヽあらはれて スの言霊は生れ出でたり 澄みきりしスの言霊は生ひ立ちて 天之峯火夫の神とならせり 峯火夫の神の功のなかりせば 紫微天界は生れざるべし 久方の天之峯火夫の神は天界の 万有諸神が主神に坐します 主の神の力によりて宇迦須美の 神の御霊は生れましけり ウの神の功は下りて大津瑞穂 神と生れます言霊なりけり ウの神は上に開きて天津瑞穂 アの言霊と生れたまひぬ 主の神は七十五声を生みまして 天の世界を開きましけり 天に満ち天に輝き透き徹り 鳴り鳴りやまぬ主の神の功 惟神厳の言霊鳴り鳴りて 世の輝きは生れましけり 栄えゆく生言霊の幸ひて サの言霊は現れにけり タタの力鳴り響きつつ輝きて タの言霊はなり出でにけり 鳴り鳴りて鳴りやまざるの力もて ナの言霊は生れ出でにけり 四方八方に極まりもなく神業の 永遠に開くるハの言霊よ まるまると固りをさまる功績は マの言霊の御稜威なりけり ヤアヤアと勢強き言霊の 言葉はヤ声に生れ出でけり めぐりめぐり果しも知らぬ神力は ラの言霊ゆ生れ出でけり 若返り若返りつつ澄みきらふ言霊は ワの功ゆなり出づるなり 火と水をあやなしこれの天界に 命を与ふるイの言霊よ スの水火の澄みきらひたる功に キの言霊は生れ出でたり 一切にしめりを与ふる活動は シの言霊の功なりけり 一さいの命を救ふ原動力は チの言霊の恵みなりけり 左右上と下との結び合ひは ニの言霊の功なりけり 生き生きて生きの果てなき神力を 照して果てなきヒの言霊よ 万有の元素となれる言霊は ミの神声の功なりけり 右左上と下との定まりは ヤ行イ声の言霊なりけり 一さいの呼吸の作用は尽く リの言霊の功なりける 霊の呼吸体的の呼吸を組み合し 世を固むるはヰの言霊よ 主の神の初声にあれし言霊は 宇迦須美の神のウ声なりけり 水と火を組み合せつつ万有に 幸はひたまふはクの言霊よ 一さいの真中にまして万物の 根本にますスの言霊よ つみ重ね重ねつつ雲となり 狭霧となりしツの言霊よ 次ぎ次ぎに果しも知らず列なるは ツの言霊の功績なりけり 大宇宙間隙あればぬひてゆくは ヌの言霊の功なりけり 火と水を自由自在に活動かすは フの言霊の活用なりけり むしわかし結び連ぬる活動は ムの言霊の活用なりけり 穏かに強き弱きを引きならす 功はユ声の言霊なるも 一切万事取り定むるは惟神 ルの言霊の功績なるも ワ行ウの生言霊は生み生みて 生みの果しを守らす神なり 内に集り空に開くる活動は ア行エ声の言霊なりけり 消えて又世に現るる活動を ケの言霊と称へ奉るも 内に迫り外面に起る活動を セの言霊と言ふぞ畏き 起り立ち強く勇みて外に出で 活動く力をテの言霊と言ふ をさまりきり外に現れ廻るてふ 生言霊はネ声なりけり 退きて又もや動き進むなる 活用力をヘの言霊と言ふ 内分に精力を含み女子を含む 活用力はメ声なりけり 弥果に栄えしきりに集ひくる 活動はエ声の言霊なりけり より極まり億兆一切の焦点と 活用く神霊はレ声なりけり 楽しみ栄え幸ひ進む活用は ヱの言霊の功なりけり 起し助け大成大気の活用は オの言霊の功なりけり 一切の真言となりて天津誠の 活動力はコ声なりけり 退き下り外に添ひつく活用は ソの言霊の功なりけり 結び定め八咫にはしる活用は トの言霊の功績なりけり 延び延びて天賦の儘なる活用は ノの言霊の功なりけり 照りこみて上に現れ目に見ゆる 活動力をホ声と言ふなり 散り乱れ下に活用く言霊は モ声の活動力を生むなり 寄り結び又離れ散る活用は ヨの言霊の功なりけり 狭く入り近くあつまり広く指す 活用力はロ声なりけり 結び結び一つに集る活用は ヲの言霊の功なりけり アカサタナハマヤラワより一々に とき示したる言幸比女の神 紫微宮に天津まことの神々を まつりて嬉し永久の神国に 果しなき此神国に生れ合ひて 今日の祭に逢ふぞ嬉しき 宮柱太しくたちて此神国を 知召すかも三柱の神 三柱の神の功に百神は 生の命の果を知らずも 生き生きて生きの果なき天界を 造りたまひし主の神畏し 久方の高天原と定まりて 永久の命を楽しむ百神 左守右守相並ばして天界の 礎かためたまふ尊さ 広々と果しも知らぬ天界に 澄みきりすみきる心楽しも』 (昭和八・一〇・六旧八・一七於天恩郷千歳庵加藤明子謹録)
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霊界物語 73_子_太元顕津男の神の物語1 20 廻り逢ひ 第二〇章廻り逢ひ〔一八五一〕 太元顕津男の神は、高日の宮の八尋殿に、天之御柱、国之御柱をみたて給ひて、右り左りの神業を行はせ給ひ、如衣比女の神を呼ばひて、婚ぎの神業をなし給ふ。 大御母の神は祝して、 『天なるや 主の大神の依さします 御霊も清き神司 東の宮に在しまして 神国を治め世を教へ 日に夜に貴の神言を 宣らせ給へど百神の 心一つに片よりて 神旨にかなふものもなく 朝な夕なに神業の 後れむ事をなげかしし 顕津男の神今ここに 国の司と現れまして 神の依さしの如衣比女と 婚ぎの業を遂げ給ふ 今日の良き日の佳き辰に 主の大神を初めとし 天翔り在す百の神 国翔ります八十の神 歓ぎ集ひて大神宣 寿ぎ給ふ目出度さよ 駒は嘶き麒麟は謡ひ 鳳凰天より舞ひ降り 迦陵頻伽は声清く 常世の春を歌ふなり 高照山に紫の 雲棚引きて四方の国 諸の草木はゆたかなる 粧ひなして花開き 貴のつぶら実満ち満ちて 斎場に生ふる稲種は 日々に茂りて遠久の 足穂八十穂と栄えつつ 天津神国の神の代を 寿ぎ奉る今日こそは この天界の初めより 今に例しもあら尊 今日の婚ぎの神業は 紫微天界の礎ぞ 太元顕津男の神の 貴の神業いや広に いや高々に天津日の 輝く如く照れよかし 西より昇る瑞御霊 月の御神の面の如 清しく涼しく生れまして これの国原隈もなく しめりをあたへ百木草 恵みの露に生かせ給へ ああ惟神々々 神寿ぎ仕へ奉る 天津日は照る月は満つ 霊地の上は五穀 所狭きまで実りつつ 四方の神々世を歌ひ 歓ぎ楽しむ神代こそ 岐美の出でましあればこそ 千代に八千代に栄えつつ 香りも清き白梅の 花の香四方に薫じつつ 栄ゆる神代こそ畏けれ 栄ゆる神代こそ畏けれ』 顕津男の神は大御母の神の寿ぎ言に対し、感謝の御歌を謡ひ給ふ。 『わが心知らせる岐美に導かれ 永久の住家に今日を来つるも 主の神の任けのまにまに八尋殿に 婚ぎの道を開ける嬉しさ 大御母神の神言のなかりせば 今日の喜びあらざらましを 大御母神の神言を今日よりは まことの母と仕へ奉らむ 久方の天津神国ことごとく 生言霊にわれは照らさむ 言霊の天照る国の真秀良場に 太しく立ちしこれの宮かも 高照山貴の清所に来りてゆ 心の空も晴れ渡りける 高照の山高けれど大御母 神の心に及ばざるらむ』 如衣比女の神は謡ひ給ふ。 『天晴れ天晴れ国晴れ心晴れにけり 高照山の春にあひつつ 大御母神の神言の計らひに 春の心は燃え立ちにけり 燃え立ちし春の心をつぎつぎに 生かして国魂生まむとぞ思ふ 顕津男の神の神言に御子なくば いかで神業の成りとぐべきやは 主の神の御樋代となりし吾なれば いかなる業もいとはざるべし 愛恋の吾背の岐美と手を引きて この神国を固めたく思ふ 大御母神と在します大神に 子とし仕へむ今日の生日ゆ』 大御母の神は莞爾として御歌詠まし給はく、 『二柱八尋の御殿にましまして 国魂生ますと思へば尊し 今日よりは宮の司と吾なりて 岐美の神業をたすけ奉らむ』 眼知男の神は祝歌を謡ひ給ふ。 『天をぬく高照山を紫の 雲はいよいよ深くなりつつ 高照の山も勇むか殊更に 今日は光もしるく見ゆめり 高照の山の常磐木みどりして 今日の良き日を寿ぎ顔なり 朝夕にこれの清所に仕へ奉る 眼知男の神はうれしも 今日よりは此の宮居に在しまして 神国の柱みたて給はれ 二柱ここに現れます上は この神国におそるるものなし』 明晴の神は、婚ぎの席に列り給ひて、御歌よまし給はく、 『東の空より西に照り渡る 天津陽光は清らけく 西より東に澄み渡る 月の光は清々し 月の御霊と生れませる 太元顕津男の神は 神の依さしの神業を 仕へ奉ると今ここに 八尋の御殿に現れまして 如衣の比女と婚ぎまし 天の御柱めぐり合ひ 国の御柱立て給ひ 国生み神生みものを生み この神国を照らさむと 現れますぞ尊けれ われは明晴神司 四方にふさがる雲霧も 生言霊に明らけく はらし奉りて大前に 朝な夕なを仕へつつ 今日の良き日の佳き辰に 逢ふも嬉しや惟神 いや永久に玉の緒の 千代も八千代も変りなく 輝きたまへ二柱 御前に畏み寿ぎ奉る』 如衣比女の神は、返し歌詠まし給ふ。その御歌、 『明晴の 神の神言よ汝こそは 雄々しき神よ男の神よ 吾はかよわき比女神の 身にしあれ共国思ひ 神いつくしむ真心は 神に誓ひて忘れまじ これの宮居にある限り 朝夕を恙なく 神業に仕へ奉るべく 守らせ給へ明晴の 神の神言の真心に ゆだね奉らむ惟神 神かけ誓ひ奉るなり。 立迷ふ雲の帳は深く共 伊吹き祓はむ女の言霊に 天も地も一度に開く今日こそは 主の大神の光なりける 皇神の神言畏し国津神の 心は愛しと国を照らさむ』 ここに近見男の神は、寿ぎ歌うたひ給はく、 『神国に永久の花咲く時近み 吾嬉しさにたへず歌ふも 高地秀の宮を守らす神司 これの清所に高照山はも 高照の山も今日より輝きを まして国原さやけくなるらむ 二柱神の神言の生れましを 国津神達いさみてあらむを 吾も亦嬉しさあまり言霊の 助けによりて神代寿ぎぬ』 (昭和八・一〇・一三旧八・二四於水明閣谷前清子謹録)
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霊界物語 73_子_太元顕津男の神の物語1 31 夕暮の館 第三一章夕暮の館〔一八六二〕 太元顕津男の神は河守比女の神の心厚き計らひにて、六頭の白き駿馬を与へられ、さしもに広き日向河の激流を彼方の岸にやすやす渡りをへ、河守比女の神に導かれ、広き大野の末に遠く霞める河守比女の神館に漸くつきて、駒をひらりと飛び下りつつ奥庭深く進み給ふ。 この館は四方に青芝垣を廻らし、常磐木の松は蜿蜒として、梢を竜蛇の如く庭にたれ、楠の大樹は昼も猶小暗きまでに天を封じて、庭のあちこちに聳り立ち、折から吹き来る科戸の風に泰平の春をうたふ、梢のそよぎも床しく見えける。 ここに顕津男の神は、あまり館の清しさにやや驚き給ひつつ御歌よませ給ふ。 『常磐木の松の青垣めぐらせる これの館は何か床しも あちこちに空を封じて聳りたつ 楠の木群の葉末光れる 百鳥は楠の梢に巣ぐひつつ 言霊御歌うたひゐるかも 庭の面に苔青々と蒸しにつつ 露を宿せるさま素晴らしき 思ひきや大野の末にかくの如 清しき館のいみじくたつとは 河守比女神の館と思へども 床しき人の籠らふがに見ゆ』 大物主の神はうたひ給ふ。 『広々と果てしも知らぬ青垣の 中に建たせるこの館はも 空清く土また清き野の果に 澄みきらひたるこれの館よ 百鳥は時じく春をうたひつつ 神代の前途を寿ぐがに思ふ ちよちよと囀る小鳥の声冴えて 楠の木群はそよぎつ光りつ』 真澄の神はうたひ給ふ。 『われは今此処に来りて村肝の 心真澄の神となりぬる 庭の面に白砂敷きて水を打ち 箒目正しき館清しも 純白の砂を敷きたる清庭に 白馬の嘶き聞くは清しも 日向河水瀬をわけて現れましし 比女神も駒も瑞の御霊か』 近見男の神は又うたひ給ふ。 『天国も早近見男の神われは 岐美に従ひ清所に来つるも 久方の高日の宮に比ぶべき この清庭はみづみづしもよ 清庭のもなかに湧ける真清水は 月日を写す鏡なるらむ 真清水をたたへし池の底照りて 真鯉緋鯉の遊ぶ館はや』 照男の神は又うたひ給ふ。 『瑞御霊神の御供に仕へつつ 広河渡りここに来つるも 吹く風に松の梢はそよぎつつ 春の香散らす芳しき館よ 大空を封じて立てる楠の木の この太幹の世に珍しも この楠の太りしを見てこの館の 古きを思ふ神の館かも 何神のおはしますかは知らねども 知らず知らずに謹しみのわく この館に住ませる河守比女神は 楠の精よりあれましにけむ』 かく謡ひ給ふ折しも、河守比女の神は再び表に現れ来り、 『掛巻も綾に畏き瑞御霊 とく吾館に休ませ給へ この館は外はすぶすぶ中見れば ほらほら広き住居なるぞや 六柱の神の住居に叶ひたる わが館永く留まりませよ』 顕津男の神はうたひ給ふ。 『比女神の厚き心にほだされて 神生みの旅を立寄りにけり いざさらば比女の言葉に従ひて 御殿を深く進み入るべし 大物主の神の神言よ比女神の 心そむかず早や入りませよ 大空も真澄の神よわれと共に 奥に進まむこれの館を 近見男の神も諸共進みませ これの館はほらほら広しも 常磐木の梢の露も照男神 われに従ひとく進みませ』 かく謡ひて、顕津男の神は長き廊下を伝ひながら、かけ離れたる清しき館に進み入り給ふ。五柱の神は、この館の侍女の神に導かれて別殿に息を休め給ふ。 ここに河守比女の神は顕津男の神を正座に直し、満面に笑みをたたへ給ひて、御歌詠ませ給ふ。 『久方の天の高日の大宮ゆ 下り給ひし岐美ぞ尊き 天地の永き月日を待ちわびし 比女神ありと岐美は知らずや 皇神の深き経綸にこの館は 建てられにける吾家にあらねど この館の主は正しく世司の 比女神います清所なるぞや』 顕津男の神はこの御歌に驚き給ひ、 『世司の比女はわが妻何故に これの館にひそみゐますか 八十比女の一つ柱と主の神の 給ひし比女よ疾く出でまさめ』 かく歌ひ給へば、次の間より比女神の御歌清しく聞え来たる。その御歌、 『岐美待ちてけながくなりぬ吾は今 花の蕾の開かむとすも 御顔もまだしら梅の花なれば 早く手折らせ比古遅の神よ 主の神の神言畏み今日までも 岐美を待ちにし心の苦しさ』 と謡ひ終り、しとやかに此の間に現れ給ふ女神は、艶麗譬ふるに物無く、宛然梅花の露に綻ぶ如き容姿なりける。 顕津男の神は今迄の退嬰心を放棄し比女神の前に近づき寄り、その手を固く握りて、二度三度左り右りにさゆらせ給へば、世司比女の神はパツと面に赤き血潮を漲らせ、稍俯きておはしける。 ここに河守比女の神は、 『二柱みあひますなるこの蓆 われはとくとく退きまつらむ 主の神の依さし給ひし神業よ ためらひ給ふな神のまにまに』 と謡ひつつ、廊下を伝ひて五柱の神の休らへる居間へと退き給ふ。 あとに二柱の神は、互に言霊の水火を凝り固め、左り右りの神業を行ひ給へば、忽ち、御腹ふくらみて呼吸も苦しげになり給ひけるぞ目出たけれ。 これより顕津男の神は御子の生れますまで比女に止められて、ここに国津神を招き、百の教を垂れ給ひける。 五柱の神はこのさまを垣間見ながら、満面に笑みを湛へ、天を拝し、地に伏し、歓び給ひて先づ大物主の神は御歌うたひ給ふ。 『主の神の恵の露の固まりて 瑞の御霊の水火となりぬる 世司の神の御水火は凝り凝りて 貴の神の子宿し給はむ あら尊とこれの館に世司の 比女神ますとは知らざりにけり』 真澄の神はうたひ給ふ。 『此処に来て神の経綸を悟りけり 八十比女神の忍びます館 八十比女の中の一つとあれませる 世司比女は細女なるも』 近見男の神はうたひ給ふ。 『比女神の貴の姿は見るからに 心清しくなりにけらしな 瑞御霊これの細女賢女を 御樋代として御子を生まさむ 生れませる御子は必ず国魂の 神にしあれば雄々しくあらむ』 明晴の神はうたひ給ふ。 『天も地も茲に漸くあけはるの 神の神言も寿ぎまつらむ 今となり主の大神の御心を たしに悟りぬこの館に来て こんもりと青芝垣をめぐらせる これの館は婚ぎによろしも 二柱天の御柱めぐりあひ ウとアの言霊ひらき給はむ』 照男の神は又うたひ給ふ。 『久方の空に月日も照男神 今日は御供の神と仕へつ 常磐木の松の梢の色深く 千代万代を祈りこそすれ 常磐木の松葉は枯れて落つるとも 双葉は必ず離れぬものを 何時までもこれの館に留りて 御子の数々生ませと祈る わが祈る生言霊を主の神よ うまらにつばらに聞召しませ』 斯く五柱の神々は今日のみあひを祝しつつ、香具の木の実を机代に置き足らはして、語りあひつつ食ませ給ふ。 折しもあれ、高照山の山頂を明るく染めながら、円満清朗の月は、めでたきこれの館をのぞかせ給ひぬ。 (昭和八・一〇・一七旧八・二八於水明閣林弥生謹録)
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霊界物語 74_丑_太元顕津男の神の物語2 06 真鶴山霊 第六章真鶴山霊〔一八七四〕 主の神の生言霊に紫微の宮領有ぎ給ふ天界は 𪫧怜に委曲にひらけつれど広大無辺の神の国 そのはしばしに至りてはまだ国土稚く苗草の 地稚くしてたわたわに浮脂の如漂ひつ 国土の形を為さざれば瑞の御霊とあれませる 太元顕津男の神はア声の水火より生れまして 紫微天界をひらきつつ国土を固め神を生み 𪫧怜に委曲にひらくべく夜を日についで出で給ふ 道の隈手にさやりたる四方の神等言向けて 山河渡り野路を越え葭と葦との茂りたる 西南方の稚き国土真鶴山の方面を さして出で立ち給ひしが百神等の計らひに 今日は漸く真鶴の山の尾上に着き給ふ 生言霊を宣りませば四方を包みし狭霧の幕も もえたつ湯気も次ぎ次ぎに薄らぎにつつ久方の 天津月日は明けく澄みきり給ひて葦原を 照らさせ給ふ世となりぬ太元顕津男の神は 真鶴山の頂上に百神等を率ゐまし 厳の言霊宣り給ふ。 その御歌にいふ。 『久方の紫微天界も国土稚く 浮脂の如漂へるかも 漂へる国土をひらきて神を生み 主の大神の神旨に叶はむ 見渡せば目路の限りは霧たちぬ 神々生かさむ術もなき国土 言霊の御稜威によりて我は今 稚き国原固めむとぞおもふ マモムメミ生言霊の活用に この国原は生れむとする いや広き国土はあれども国土稚く 漂ひ形まだ定まらず 真鶴の山は地上に聳ゆれど ぬかるみの如やはらかなるも。 いろはにほへどちりぬるを わがよたれぞつねならむ うゐのおくやまけふこえて あさきゆめみしゑひもせす 一二三四五六七八九十 百千万の生言霊の神光に 御空は晴れよあらがねの 地は乾けよ固まれよ 百の草木もすくすくと 生ひたち茂り花ひらき 貴のつぶら実なりなりて 神々等の玉の緒の 生命の糧となれよかし 紫微天界の南の 果に来りて我は今 国土生み神生み惟神 生言霊の神光を 天地四方に照らさむと ももの悩みを忍びつつ 夜を日についで漸くに 真鶴山の稚国土に 百神率ゐ勇ましく 来りけるかも今日の日は 天の世ひらけし始めより ためしもあらぬ目出度き日 御空の月は冴えにつつ 星は真砂の数の如 輝き給ひて花と咲き 実とあらはれて天界の 栄を祝ふ如くなり ああ惟神々々 生言霊の御水火こそ 神国を造り神を生む 神の御稜威の神業なる 神の御稜威の神業なる』 斯く歌ひ給ひ『ウーアーオー』と生言霊を宣り上げ給へば、真鶴山の稚国土は、次第々々に盛れ上がり、ふくれ上がり、固まりにつつ、真先に生ひ出でたるは、常磐樹の稚松、白梅の茎、筍等なりき。 圓屋比古の神はこの瑞祥を見て感歎おくあたはず、御歌うたひ給ふ。 『天晴れ天晴れ瑞御霊の言霊に この天地は晴れ渡りける 常磐樹の松と白梅筍は 真鶴山を包みて生えけり 真鶴の山にし立てば見の限り 雲霧はれて輝き初めたり 天渡る月の恵の露浴みて これの国原百樹栄えむ 真鶴の山をめぐりし広沼も 乾きて底まで真白くなりぬ 沼のあとは次第々々にふくれあがり 百の草木は生ひ出でにつつ わが立てる真鶴山は次々に ふくれふくれて高くなりぬる 次々にふくれ拡ごり真鶴の 山は間もなく国土となるらむ』 産玉の神は御歌うたひ給ふ。 『わが生みし真鶴山も瑞御霊 生く言霊に固まりしはや 固まりし真鶴山はマモムメミ 水火の凝りつつふくれあがりぬ 瑞御霊宣らせ給ひしマモムメミの 言霊著く国土固まれり マモムメミ瑞の言霊に生代比女 神の神言の姿ほの見ゆ 生代比女の神よ出でませ真鶴の 神山に瑞の御霊たたせる 真鶴の山は御水火に固まれど 守らす女神無きぞ淋しき』 斯く歌ひ給ふ声の下より、大地をわけて、次第々々に現れ給ふ比女神あり、容色端麗にして玉の如し。 顕津男の神はこの態を見て、喜びに堪へず御歌うたひ給ふ。 『真鶴の山の御魂と生れましし 生代の比女の姿愛しも 言霊の水火に生れます生代比女 この国原を永久に守らへ』 生代比女の神は覚束なき言霊にて御歌うたひ給ふ。 『真鶴の山かき分けて吾は今 岐美の光にあひにけらしな 言霊の水火に生れし吾なれば 永久に神山を守りまつらむ』 顕津男の神は歌ひ給ふ。 『健気なる生代の比女の言霊や 我たしたしに諾ひまつらむ』 生代比女の神は御歌うたひ給ふ。 『ありがたし瑞の御霊の神宣 万代までも忘れざらまし 産玉の神の神言の御水火より 呼びさまされし生代比女神よ』 圓屋比古の神は歌ひ給ふ。 『言霊の奇しき御稜威になり出でし 汝生代比女神はうるはし 美しく優しく雄々しく生れませる 生代の比女は女の鏡かも 瑞御霊と産玉神のいさをしに 生れます比女神容姿麗し いや広き紫微天界にかくの如 清しき女神おはさじと思ふ 真鶴の山は次第に拡ごりて 国土の柱となるぞ目出度き』 国中比古の神は御歌うたひ給ふ。 『いや先に吾は来りて瑞御霊 迎へまつると言霊宣り待ちぬ 有難し瑞の御霊の出でましに この国原は固まりにけり この上は国中比古と仕へつつ これの聖所を永久に守らむ 主の神のウ声になりし吾なれば 永久に固めむ貴の国原』 多々久美の神は御歌うたひ給ふ。 『雲霧は瑞の御霊の言霊に 晴れ渡りたり天晴れ天晴れ 天晴れ天晴れ国土晴れ狭霧晴れにけり 今日よりはれて永久に守らな』 美波志比古の神は御歌うたひ給ふ。 『主の神のウ声になりし美波志比古 今日より守らむ天の浮橋 この国土はまだ稚ければ瑞御霊 浮橋かけて渡しまつらむ ワヲウヱヰ生言霊に地固め 百の草木の生ひたち守らむ 葭と葦茂れる国土を拓きつつ 吾は美波志と神に仕へむ』 魂機張の神は御歌うたひ給ふ。 『諸々の生命保たせ魂機張の 神は仕へむ世のことごとに たまきはる生命の糧をもろもろに くまり与へて神国をひらかむ 神々の生命を守りもろもろの 水火を助けて神代に仕へむ 顕津男の神の御供に仕へつつ 今日真鶴の山に登りぬ たまきはる生命を永久に守りつつ 岐美の神業を吾は守らむ 天地の百神等が玉の緒の 生命を守る神とならばや 主の神のウ声の言霊幸ひて 吾は生れにし生命の神なり 産玉の神にいそひて神生みの 神業仕へむ世のことごとを』 (昭和八・一〇・二一旧九・三於水明閣林弥生謹録)
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霊界物語 74_丑_太元顕津男の神の物語2 26 総神登丘 第二六章総神登丘〔一八九四〕 顕津男の神、玉野比女の神等は、本津真言の神の化身に驚き給ひしが、又もや力充男の神の天の高鋒の神の天降りませる化身に驚きを新しくし給ひ、わが霊線のいたく曇りたるを恥ぢらひながら、玉の宮居の聖所にうづくまりつつ、御歌詠ませ給ふ。 顕津男の神の御歌。 『天晴れ天晴れ真鶴国を固めむと 二柱神天降りましぬる わが霊は曇らひにけるか二柱の 化身をしらですましゐたりき 毛筋程の隙間もあらぬ天界の 神の神業ぞ畏かりける 地稚きこの国原を固めむと 主の大神の天降りませしよ 有難し辱なしと申すより わが言の葉は出でざりにける 月も日も清く照らへる玉野丘に われ面はゆくなりにけるかも かくの如曇れる霊を持ち乍ら 国土生みの業をおぼつかなみ思ふ 主の神の功によりて真鶴の 国土固めばや霊を清めて かくまでも尊き神の経綸とは 悟らざりけり愚なる我は 今よりはわが霊線を練り直し 勇み進まむ国土生み神生みに 果てしなきこの国原を詳細に 固めむ業の難きをおもふ 畏しや本津真言の大神は 主の大神にましましにける 高鋒の神は聖所に天降りまして わが霊線を照らさせ給ひぬ 久方の御空は清く輝けり 仰げばわが霊恥づかしきかも 遠見男の神を見捨てて玉野丘に 登りし我の霊は曇れり 神々を丘の麓に残し置きし わが過をいま悔ゆるかも 今よりは心を清め身を清め 麓の神を導き来らむ』 玉野比女の神の御歌。 『本津真言の神の言葉を諾ひて 吾は百神を残し置きしはや 瑞御霊神の罪にはあらざらめ 本津真言の神の御心 二柱天津高空ゆ降りまして これの聖所を照らさせ給ひぬ 常磐樹の松にかかれる月光も 昼なりながら清しかりけり 天渡る日光も清く月光も 冴えにさえたり今日のいく日は 二柱神の神言を畏みて われ百神と国土造らばや 迦陵頻伽ときじくうたひ聖所の 鶴は神代を寿ぐ今日かも 白梅の薫り床しくそよ風に 送られ清し玉の宮居は 白梅は玉の宮居を封じつつ 松の樹蔭に神代を薫れり 草の蔭に虫の声々さえさえて 常世の春を迎はしむるも この丘に瑞の御霊の生れまして 輝き給ふ国土生み嬉しも』 生代比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『生代比女いくよの末も常磐樹の 松に誓ひて世を守るべし 底深き玉野湖水の心をば 岐美に捧げて御子を守らむ 真鶴の山は雲間に聳ゆれど 岐美の功に及ばざるらむ 瑞御霊生言霊に生り出でし 真鶴山に生れし吾はも 吾こそは瑞の御霊の言霊の 水火に生れし比女神なるぞや 国魂の御子を詳細に生み了へて 又真鶴の神となるべし 白砂を踏みさくみつつ白駒に 跨りて来し玉野森清し 玉野丘黄金の真砂踏みしめて 尊き神の御声聞きたり 主の神の深き恵にうるほひて 吾貴の御子孕みたるかも 目路の限り白雲霞む真鶴の 国をひろらに拓きませ岐美よ わが魂は真鶴山に鎮りて この神国を永遠に守らむ 吾は今気体なれども御子生まば 又霊体となりて仕へむ 御子生むと吾は気体の身と変じ 岐美を恋ひつつ仕へ来しはや 吾恋は幾万年の後までも 天地とともに亡びざるべし 愛善の紫微天界に生くる身も 恋故心の曇りこそすれ 恋故に心は光り恋故に 心曇るぞ浅ましの世や』 待合比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『神々の生言霊を清らかに 聞く今日の日は楽しかりける 久方の天津御空の神の声を 居ながらに聞きし幸をおもふも 智慧証覚足らはぬ吾も天津神の 神言ほのかに聞きし嬉しさ 三柱の女男の神等に従ひて われ永久に守り仕へむ』 かく御歌うたひ給ふ折しも、御空を封じて、幾千万とも限りなく、真鶴は玉野丘の空高く、左より右りに幾度となくめぐりめぐり、清しき声を張り上げて、神代の創立を寿ぎ乍ら、庭も狭きまで聖所の上に下り来つ、各も各も頭をもたげて、天津高宮を拝する如く見えにける。 玉野丘の麓には、遠見男の神を初め、圓屋比古の神等九柱は、己が魂線の曇りたるを悔い給ひて、玉の泉に身を清め、言霊の水火を磨き澄ませつつ、瑞の御霊の招き給ふ時を待ち給ひ、各も各もに御歌詠ませ給ひぬ。 遠見男の神の御歌。 『梅薫る玉野の丘に登りましし 岐美の音信聞かまほしけれ わが魂は曇りにくもり言霊は 濁りて神丘に登るよしなし 恥づかしきことの限りよ玉野丘の 麓に吾は捨てられにけむ 遠の旅御供に仕へて今となり 吾恥づかしき憂目に逢ひぬる 繋ぎ置きし駒にも心恥づかしく なりにけらしな言霊濁りて 玉泉に御魂ひたして洗へども 智慧の光の暗きをおそるる 真鶴は常磐の松の梢高く 長閑にうたふ玉野森はや 真鶴の翼ありせば吾も亦 この玉野丘に登らむものを 南方の国を治らせとわが岐美の よさしの言葉如何に仕へむ 生代比女神を魔神と思ひしに これの神丘に登りましける いぶかしも生代比女神のすたすたと 振り向きもせず登らせにける 生代比女の曇れる魂に比ぶれば なほわが魂の濁り深きか いや広き紫微天界の中にして 吾恥づかしく心をののく 世をおもふ清けき胸の高鳴りに もだへて夜半を泣きつ戦きつ 国土生みの御供に仕ふる道なくば 野辺吹く風となりて亡びむか 歎くとも詮術もなきわが身かな 瑞の御霊に遠ざかりつつ』 圓屋比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『遠見男の神よなげかせ給ふまじ 神の試練とわれは喜ぶ いと清く正しく広く真鶴の 国の司とならむ汝が身ぞ 汝こそは瑞の御霊のよさしたる この国原の司なるぞや 真鶴の国を𪫧怜に生み了へて 汝は永遠に鎮まるべき身よ 主の神の天降りましたる丘なれば 今しばらくを待つべかりける 主の神の御許あれば吾は直に この神丘に登らむと思ふ』 宇礼志穂の神は御歌詠ませ給ふ。 『とにもあれかくもあれかし玉野森に わが来しことを嬉しみおもふ 徳未だ全からぬを主の神を 拝まむ事の恐しとおもふ 月も日も御空に清く輝ける この神森にいねし嬉しさ 歓びの光に充つる玉野森を 吾嬉しみて魂をどるかも 嬉しさの極みなるかも玉野森の これの聖所に来りし幸よ』 美波志比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『瑞御霊神に別れて一夜を 月に照らされ心ときめきぬ やがて今主の大神の言霊に みはしかからむ玉野の丘に みはしなき山に登らむ術もなし 今しばらくを待たせよ百神 国土造る神の神業よ安々と この神丘に登り得べきや』 産玉の神は御歌詠ませ給ふ。 『やがて御子生れます日まで産玉の 神吾ここにひかへまつらな 真鶴の声高々と聞ゆなり 主の大神の帰りますにや 迦陵頻伽白梅の梢になきたつる 声は神代を寿ぐなるらむ 白梅の薫り床しきこの森は 主の大神の天降らす聖所か 月も日も松の繁みに閉ざされて 砂に描ける樹洩陽のかげ わが力未だ足らねば森かげに ひそみて待てとの神慮なるらめ』 魂機張の神は御歌詠ませ給ふ。 『たまきはる生命の神と現れて われは守らむ御子の生命を ここに来て心清しくなりにけり この神丘に登り得ねども この森は紫微天界の写しかも 見ることごとは輝きにけり』 結比合の神は御歌詠ませ給ふ。 『二夜の禊終りて吾は今 結び合せの神業に仕へむ 天と地と神と神とを睦じく 結び合せて神代を守らむ いや広く常磐樹繁る玉野森に 梅の香清し神います苑は 玉野比女神の鎮まるこの丘の 輝き強しわが目まばゆく この上は主の大神の御心に 任せまつりて時を待つべし 何事も神の心のままなれば われ一言も言挙げはせじ』 美味素の神は御歌詠ませ給ふ。 『美味素の高天原より下ります 主の大神の功尊き 主の神の霊の光に包まれて 夜も明るき玉野森はや 月光は御空に高く冴えにつつ 松を透して吾等を照らせり 白梅の花のよそほひ見るにつけ 玉野の比女の偲ばれにける』 真言厳の神は御歌詠ませ給ふ。 『はろばろと岐美に仕へて吾は今 玉野の森の月に照らさる 真鶴の国土を造ると言霊の 水火清めたり玉の泉に 主の神の天降り給ふと聞く丘に 真鶴の声高く聞ゆる 主の神の生言霊を畏みて 此処に来つるも国土造るとて 常磐樹の松苔むして天津空 閉せる森に歓びあれかし』 かく神々は述懐を歌ひ給ひ、時を待たせる折もあれ、太元顕津男の神は、玉野比女の神、生代比女の神、待合比古の神、其他数多の神々を従へて、悠々と丘を下り、諸神に敬意を表し給ひ、再び丘の上に一柱も残らず導き給ひ、いよいよここに国土生みの神業に、諸神力を合せて、従事し給ふ事とはなりぬ。ああ惟神霊幸倍坐世。 (昭和八・一〇・三一旧九・一三於水明閣林弥生謹録)
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霊界物語 75_寅_太元顕津男の神の物語3 04 千条の滝 第四章千条の滝〔一八九八〕 瑞の御霊顕津男の神並に真言厳の神の生言霊に、真鶴の広き国原は天地震動して前後左右に揺り動き、暴風雨頻に臻り、遂に玉野丘を中心とする一帯の地は、いや次々にふくれ上り拡ごりて、驚天動地の光景を現じたれば、神々は言霊の威力に感歎措く能はず、各自生言霊の御歌を詠みて、国土造りの神業を寿ぎ給ひぬ。 玉野比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『主の神の神言畏み此処に来て この神業を初めて見るも ときじくの香具の木の実に生り出でし 吾は主の神の分霊なるかも 二柱天津高宮ゆ降りまし この神業を助け給ふか 久方の天は轟きあらがねの 地は揺りて国土固まりぬ 久方の空に閃めく稲妻の はやきは神の神業なるらむ 雷のとどろき強し曲神は 恐れ戦き消え失せにけむ 罪穢れ過ち洗ふと玉泉 滝と流れて世を生かすなり 神生みの業に後れし吾にして 国土生みの場に立つぞ嬉しき 月読の御霊と現れし顕津男の 神の功のたふときろかも 玉泉清くあふれて玉藻山の 尾の上ゆ高く落ちたぎちつつ 落ちたぎつ滝の響に言霊の 水火籠らひて世を生かすなり 年月を玉野宮居に仕へつつ かかる目出度き神業を拝むも 真鶴の国の栄えを目のあたり 吾は玉藻の山に見るかな 久方の天に伸びたつ玉藻山の 生ける姿は神にぞありける 天地の総てのものは主の神の 清けき水火の固まりなるかも 万世の礎固め給はむと 現れ出でますか瑞の御霊は 厳御霊宣らせ給へるまさごとを 普く神に宣りて生かさむ いきいきて生きの果なき天界に 生きて栄えむ身の楽しさよ 真言厳の神の尊き言霊に 玉野の湖水も乾きたるかな もうもうと湯気立ち昇り玉野湖は 底ひの水も次にかわける 真鶴の国の柱となりませる 顕津男神の姿いさましも』 生代比女の神は寿ぎ歌詠ませ給ふ。 『真鶴の山の御魂と生れたる わが神生みの神業を畏む 天も地も澄みきらふ中にそそりたつ 玉藻の山に御子を生まむか 厳御霊瑞の御霊の水火凝りて 御子わが腹に宿らせ給ふか 真言厳の神の言霊幸ひて 四方の国原いや拡ごりぬ 言霊の水火の力を目のあたり 見つつ尊き神世をおもふ 天界に気体のかろき身をもちて 御子生む神業の難きをおもへり さりながら主の大神の言霊の 功を見つつわが胸やすけし 安々と御子の生れます日を待ちて この神国につくさむと思ふ 目路の限り湯気むらむらと立ち昇るは 水火のいきの燃ゆるなるらむ 見渡せば四方の国原に湯気立ちぬ 国土生みの神業あざやかにして 立昇る湯気に御空の月も日も うすら霞めり真鶴の国は 玉野森の聖所は膨れ拡ごりて 御空に高く聳えたるかも 玉藻山の名を負ひまししこの峰に われ謹みて玉の御子生まむ 玉の御子の生れますよき日を楽しみて 朝夕宣らむ生言霊を 朝夕を玉藻の滝に禊して 国魂神を育みまつらむ 時を追ひてわが腹膨れ拡ごりぬ 真鶴の国の生れしに似て 玉野比女の清き心にほだされて われ怯気なく聖所に立つも』 美波志比古の神は寿ぎ歌詠ませ給ふ。 『ときじくに科戸の風は天地の 塵を払ひて清しき国原よ 地の上の百の汚れを悉く 水分の神は洗ひ給ふも 科戸辺の神と水分の神まして 真鶴の国は罪穢れなし 雷鳴神は天に轟き天地の 曲を払ひて新しき国原 永久の闇と曇を照すべく かがやき走る稲妻あはれ 瑞御霊国土生み神生みの神業終へて 鎮まりゐませこの神国に 永遠にこの神国に鎮まりて 𪫧怜に委曲にひらかせ給へ 主の神の聖所と現れし玉藻山は 幾千代までも動かざるべし』 産玉の神は寿ぎ歌詠ませ給ふ。 『玉泉に瑞の御霊は禊して 今日の神業を興させ給ひぬ 玉泉の面にうつりし月かげを 見る心地すも岐美の面は 雄々しくてやさしくいます瑞御霊の 生言霊はわれを泣かしむ 味ひの良き言霊を宣らす岐美の 功は遂に国土生ましける 真言厳の神の御霊は久方の 天之道立神の御樋代よ 道立の神の御樋代と悟りけり 宣り給ひたる言霊の光に 主の神のよさし給ひし玉藻山に 厳と瑞との霊生れましぬ 道立の神の御樋代と吾知らず 居たりし事を恥づかしみ思ふ 生代比女の御腹の御子を安らかに 生ませまつらむ産玉われは 生代比女神よ安けくおはしませ 産玉神は御子をまもらむ 大なる神業に仕ふる吾ならず 貴御子守ると生れし神はや 玉泉の汀に立たせる生代比女の 神のすがたは光なりける 真鶴の山より生れし神なれば 生きの生命の永かれと祈る 生れまさむ御子の生命を永久に われは守らむ真言をこめて 此処に来てわが神業の一端を 仕へむことの嬉しかりけり』 魂機張の神は寿ぎ歌詠ませ給ふ。 『天清く地明らけくなり出づる この目出度さを如何に称へむ 真鶴の国土生みはなり生代比女の 神は国魂神を孕ます 真鶴の国土は𪫧怜に生みをへて 国魂神を生ますたふとさ たまきはる御子の生命を永久に 守ると吾は現れにけり 見るからに気高くなりし玉藻山の 常磐の松は色まさりつつ 玉野森のあなたこなたに湧き出でし 泉は残らず滝となりける 万丈の高きゆ落つる玉藻滝の 外に千条の滝現れにけり 神々は朝な夕なに謹みて 禊なすらむ千条の滝に 言霊の幸ひ助くる神世なり 如何で禊を怠るべきかは 朝夕に心清めて禊する 神の常磐の生命守らむ 主の神のよさしに吾は魂機張 生命の神となり出でしはや 久方の天にも地にも神々にも 木草にも皆生命あれかし わが魂線を総てのものに分配りて 永久の生命を守らむと思ふ 八十日日はあれども今日のいく日こそ 真鶴国の創始なりけり 玉藻山尾の上に立ちてをちこちの 国形見れば湯気立ちのぼるも むらむらと湯気立ち昇る国原を はらし固めむ水火の生命に』 宇礼志穂の神は寿ぎ歌詠ませ給ふ。 『嬉しさの限りなるかも玉藻山 天津御空にそそり立ちぬる そそり立つ玉藻の山にひかされて 玉野湖水は山となりけり 天地に例も知らぬ目出度さを 眺めて嬉し涙にくるるも 喜びの満ち足らひたる神国に 何を歎かむ宇礼志穂の神 空見れば嬉したのもし地見れば わが魂線はよみがへるなり 愛善のこの神国に喜びの 魂線配りて総てを生かさむ 天も地も嬉し嬉しの神の国に 生れし神の幸をおもふも 歎かひの心起れば主の神の 生言霊によりてはらはせよ 歎くべき何物もなき神国は 嬉し嬉しの花ぞ匂へる 白梅の花の薫りにあこがれて 神世をうたふも迦陵頻伽は 鳳凰も玉藻の山に下り来て 世を祝すべく翼うつなり 真鶴はこれの神山により集ひ 神世をうたへる声の清しも 神世よりかかる目出度きためしあるを 吾は嬉しみ待ちゐたりける 喜びの極みなるかな真鶴の 国の栄えと御子孕ませり 何事も喜び勇め喜びの 満ち足らひたる神国なりせば 天地の真言の水火に育てられて われは生命の嬉しさをおもふ 顕津男の神の尊き瑞御霊 潤ひに生くる真鶴の国よ 月読の露の雫のしたたりて 玉の泉は湧き出でにけむ 玉泉溢れ溢れて滝となり この国原を清めたまはむ 天も地も喜びに満つる神の国 常世にませとわが祈るなり』 美味素の神は寿ぎ歌詠ませ給ふ。 『言霊の水火幸ひて真鶴の 国は𪫧怜に生れましける 国原に味ひなくば如何にせむ 百の木草も生ひたつ術なし 神々の心に味はひなかりせば 貴の神業如何でなるべき 美味素の神と現れ天地の 総てのものの味を守らむ 玉泉湧きたつ水も味なくば すべての生命を守る術なし 主の神のよさしのままに美味素 神は永遠にあぢはひ守らむ 言霊の水火の濁れば天地の 味はひ消ゆるも是非なかるらむ 言霊の味はひありて天地の すべてのものは生き栄ゆなり』 結比合の神は寿ぎ歌詠ませ給ふ。 『厳と瑞の生言霊を結び合せ 玉藻の山は固まりにけり 厳と瑞と結び合せの水火をもて 笑み栄えゆかむ真鶴の国は 山と河を結び合せて真清水を いや永久にわかせ生かさむ 真清水の露の味はひなかりせば 百の木の実もみのらざるべし 吾は今この神国に天降りして 岐美の神業をたすけむと思ふ 玉野比女生代の比女の御心の 味幸ひて国土は栄ゆも なりなりてなりの果てなき言霊に この天地はめぐり栄ゆく 大空に轟き渡りし雷も 音やはらぎて御空はれたり 見渡せば目路の限りは真鶴の つばさかがよふ神の国はも 白梅は玉藻の山の尾の上まで 咲き満ちにつつ辺りに匂へり 白梅の清き薫りに包まれて 国形を見る今日の楽しさ』 待合比古の神は寿ぎ歌詠ませ給ふ。 『瑞御霊来まさむよき日待合せ 今日の目出度きよき日にあふも 玉野丘の聖所は厳の言霊に 雲井の空まで飛び上りつる 鳳凰は翼を並べ真鶴は この国土生みを寿ぎてなくも 幾年を待合せたる吾にして 清く生り出し国形見るも 月も日も御空に高く輝きて 玉藻の山をてらし給へり 今日よりは玉藻の滝に禊して 瑞の御霊の神業を守らむ』 かく神々は真鶴の国のいやひろに、いや遠に膨れ上り拡ごりしを喜び寿ぎ、歌をうたひをへて、頂上なる玉野大宮に感謝の神言を宣らせ給ひしぞ目出度けれ。 (昭和八・一一・三旧九・一六於水明閣林弥生謹録)
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霊界物語 75_寅_太元顕津男の神の物語3 16 鶴の訣別(五) 第一六章鶴の訣別(五)〔一九一〇〕 ここに顕津男の神は、その神業の成れるを機会に、諸神におくられて玉藻山をしづしづ下り給ひければ、玉野比女の神は淋しさに堪へかねて、玉野宮の大前に蹲まりつつ神言を奏上し終りて、静に御歌詠ませ給ふ。 『顕津男の神は国土生み御子生みの 神業終りて帰りましける 神の世を固めむとして出でましし 瑞の御霊の後姿なつかしも 冴え渡る月日の光も何処となく 淋しかりける岐美のなければ 高地秀の山より下りし瑞御霊 その御姿は雄々しかりける 南の国土を固めむと出でましし 岐美は今なし白梅は散る 春の陽は静に更けて夏草の 萌ゆる玉藻の山の淋しさ 圓屋比古の神は三笠の山の根に 帰らせ給ひていよよ淋しも 八洲国ことごとめぐり神生ます 岐美はやさしも又つれなしも わが岐美と名乗る言葉も口ごもり ただ一言の名乗りさへせず いすくはし神の姿の目に浮きて いよよ恋ふしく淋しくなりぬ 岐美の姿玉藻の山に現れしより 早も百日を過ぎにけらしな 白梅の花にも似たる粧ひを 持たせる岐美は懐かしきかも 主の神の誓ひは重しさりながら 気永く待ちて年さびにける 西東南や北とめぐらして 神生みのわざ仕へますはも 日を重ね月をけみしてわが岐美は 四方の国々めぐりますかも 右り左契りなけれどわが岐美の 御姿思へば恋ふしかりける 水火と水火合せて御子をたしたしに 生まむ術なきわが身を悲しむ いろいろに花は匂へど白梅の 薫り床しも主の種宿せば 梅は散り桜は散りて夏の日も いや深み草深くなりぬる 奇びなる縁の綱にからまれて 背とし名のれど水火あはざりき 主の神はわれをたすけむ司神 天降らせ給ふと聞くぞ嬉しき 独りのみ只独りのみ清庭に 神世を祈れどうら淋しもよ 月と日と二つ並べる世の中に われは淋しもひとり住まひて 奴婆玉の闇は迫りぬわが心 岐美に別れしそのたまゆらに 再びは会はむ術なきわが心に 別れし今日のつれなさおもふ 結比合の神はあれども年さびし われには何の甲斐なかりけり 豊なる岐美のよそほひ見送りて ふたたび涙あらたなりける 浮雲の流るる見つつ思ふかな わが行く道のはかなかる世を 玉野丘は瑞の御霊の言霊に ふくれ上りつ淋しさまさる 景色よき玉藻の山の眺めさへ 今日はうれたく思はるるかな 背の岐美は今やいづくぞ大野原 醜草わけて鞭うたすらむ 天地にひとりの岐美を慕ひつつ 長の訣別を生きて見るかも 虫の音もいとど悲しく聞ゆなり わが目の涙かわき果てずて 隔てなき岐美の心を悟りつも かすかにうらみ抱きけるはや 愚なるわが魂線をたしなめて 笑顔に迎へし時のくるしさ 生代比女の神は国魂神の御子 安々生ませ給ひけるはや 生代比女若しなかりせば真鶴の 国魂神は生れざるべし 生代比女神の功を喜びつ 何かうらめし心の湧くも 恐ろしきものは恋かも心かも よしとあしとの差別なければ わが心乱れけむかも生代比女の 貴の功をうらやましみおもふ 背の岐美と水火を合せて生みませる 千代鶴姫の命めぐしも わが腹に宿らす御子にあらねども わが子となりし国魂神はや 国魂の御子の生ひたつあしたまで 生代の比女は育くみ給はむ 生代比女国魂神の乳母神と なりて仕へむさまのめぐしも 常磐樹の松の心を持ちながら ややともすれば色褪せにつつ 長閑なる春の心も恋ゆゑに 曇ると思へば恥づかしのわれよ 愛しさと恋ふしさまさり背の岐美の 御前にふるふ言の葉うたてき 百千々に砕く心を語らはむ 暇もあらに別れけるはや 主の神にいらへむ言葉なきままに われは許しぬ恋の仇神を 起きて見つ寝て思ひつつ御子のなき われを悲しむ玉藻の山に』 斯く歌ひ給ふ折しも、玉藻山の常磐の松の梢を前後左右にさゆらせつつ、雲路を別けて玉野宮居の清庭に、二柱の神悠然として天降りまし、玉野比女の神の御側近く立たせ給ひつつ御歌詠ませ給ふ。 『われこそは主の大神の神言もて ここに降りし魂結の神 中津柱神は天降りぬ主の神の 神言畏み汝たすけむと』 玉野比女の神は、且つ喜び且つ驚きつつ、謹みて二柱の神に向ひ御歌詠ませ給ふ。 『朝夕のわが願ぎ言の叶ひしか 尊き神の現れませしはや 中津柱神の天降りしと聞くからに わが魂線はよみがへりつつ 魂結の神のこの地に天降りまさば わが神業も易く成るべし 背の岐美の旅に立たせる淋しさに われは神前に繰言宣りぬ 二柱神の神言の耳に入らば 吾は消えなむ思ひするかも さすがにも女神なるかもかへらざる ことをくどくど繰返しつつ 今更にわが身恥づかしくなりにけり 神に仕ふる身ながらにして』 ここに魂結の神は御歌詠ませ給ふ。 『真鶴の国漸くになりたれば 汝たすけむとわれは天降りぬ 玉野比女心安けくおはしませ 汝の真心天にかよへり 主の神は汝が真心をさとりまし 神業たすくとわれを降せり 真鶴の国は広けし遠見男の 神一人して如何で治め得む 今日よりは玉野宮居の清庭に 仕へて汝を補けまつらむ 有難き神世となりけり主の神の 折々天降らす玉藻の神山』 中津柱の神は御歌詠ませ給ふ。 『真鶴の広国原の中津柱 神と現れわれ天降りけり 主の神の厳の言霊畏みて われ治めむと降りけるはや 顕津男の神のまことの願ぎ言を 主の大神は許し給ひぬ 顕津男の神の御水火の正しさに われ紫微宮ゆ天降りたり 新しく造り固めし真鶴の 国土の木草の稚々しもよ 主の神の神言守りて気永くも 待たせる玉野の比女のかしこさ 国魂の神生れませり生代比女の 御子には非ず汝が御子なり 汝が腹ゆ生れます御子と諾なひて めぐしみ給へ国魂の御子を 今日よりは真鶴国を経巡りて 汝が神業をあななひまつらむ 遠見男の神は総ての司ぞや 玉野宮居の司は汝ぞや 永久に玉野宮居に仕へまして 国魂神を守らせたまへ 三笠山真鶴山と経巡りて 国土のはしばしひらき守らむ 真鶴の国原詳細に固まらば われは帰らむ天津高宮へ 顕津男の神に代りてわれは今 国土固めむと降りつるはや 多々久美の神はあちこち経巡りて 何時か姿をかくしましける 多々久美の神の功に真鶴の 国土すみずみまでひらかれて行く。 アカサタナ ハマヤラワ ガザダバパ いく言霊の幸ひて 真鶴国は生れましぬ 国魂神は健かに 生れましける千代八千代 栄ゆる神世は真鶴の 千歳の齢と諸共に 月日と共に動かざれ 国の宮居の清庭は 雲井の上にいや高く そそり立ちつつ主の神の 光を四方に照らすなり われは主の神神言もて 中津柱と現れつ 魂結の神と諸共に これの聖所を永遠に 守り守りて主の神の 栄を委曲に開くべし 幾億万の年月を 隔ててやうやう皇国 大やまと国固むべき 今日の神業の尊さよ 今日の神業の畏さよ ああ惟神々々 言霊御稜威尊けれ』 (昭和八・一一・二七旧一〇・一〇於水明閣林弥生謹録)
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霊界物語 75_寅_太元顕津男の神の物語3 20 岸辺の出迎(一) 第二〇章岸辺の出迎(一)〔一九一四〕 スウヤトゴルは、聖なる山の義である。ここに天地の邪気凝り固まりて、十二頭の大蛇神となりけるが、忽ち姿を変じ、スウヤトゴルの連峰となりて、日南河の西北方に高く聳え、邪気を日夜発生して、紫微天界の一部を曇らせ、数多の神々をなやませて居たのである。スウヤトゴルは偽名にして、その実は大曲津見の神、八十曲津見の神の悪霊が割拠してゐるのである。 顕津男の神は、西方の国土を拓かむとして、先づ第一に悪神の化身なるスウヤトゴルを帰順せしめむと、日南河を北岸に打ち渡り給へば、ここに照男の神は内津豊日の神、大道知男の神、宇志波岐の神、臼造男の神、内容居の神、初産霊の神、愛見男の神の七柱を従へて出で迎へ給ひ、別れて程経し挨拶を述べ終り、その御健在を祝しつつ御歌詠ませ給ふ。 照男の神の御歌。 『気永くも待ちわびにける顕津男の 神は来ませりわが守る国土に 西方の国土は曲神塞がりて 日に夜に邪気を吹きまくるなり 如何にしてこの曲神ををさめむと 心を千々に砕きけるはや 顕津男の神の出でます今日よりは 西方の国土の月日冴ゆらむ 時じくに黒雲起し雨降らせ 風吹き荒ぶスウヤトゴルの山 スウヤトゴルの山は時じく黒煙 吐きて四方八方に邪気を散らすも 草も木も木の実も五穀さへも この邪気のため伊竦みにけり 育つべきものも育たず日に月に しをれ行くかなスウヤトゴルの雲に 言霊の光の岐美にめぐり会ひて わが雄心の高鳴りやまずも 高照の山より落つる日南河の 水も濁りぬ曲津見の邪気に 神々の生命を奪ひ草や木の 生ひたちまでも虐げしはや この上は言霊の水火の光にて スウヤトゴルを退けたまはれ』 顕津男の神は御歌詠ませ給ふ。 『月も日も照男の神の功績に 西方の国土は明るからむを 我は今真鶴の国土を造りをへて 日南の河を渡りつるかも 西方の国土の有様知らねども 汝の案内に進まむとぞおもふ 照男神心安かれ主の神の 生言霊を受けし我あれば 如何ならむ醜の曲津見猛ぶとも われには諸の備へありせば 日南河渡りしばかりの我なれば 西方国の状はわからず』 照男の神は再び御歌もて答へ給ふ。 『力なきわれ恥づかしも言霊の 水火の濁れば曲津見は猛ぶ スウヤトゴルの清き神山に身を変じ 大曲津見は国土を乱しつ 朝夕に曲津見の吹く水火の色は 黒雲となりて四方を包めり われは今七柱の神従へて 岐美がみゆきを迎へまつりぬ 七柱神の神言はウの声の 生言霊ゆ生れし神ぞや 主の神の神言畏みウ声より 七柱の神は生れましにけり 七柱神を率ゐてわれは今 岐美がみゆきを迎へまつりぬ』 ここに七柱の神の一柱、内津豊日の神は御歌もて寿ぎ給ふ。 『久方の高地秀の山ゆ下りましし 岐美を初めて拝みけるはや 言霊の光の岐美に今あひて 心明るくなりにけらしな 国土を生み御子を生まさむ瑞御霊の 神業たふとみ待ち迎へゐし 月も日も照男の神の御供して 日南の河に立ち向ひける 日南河水は俄に清みけり 岐美の御水火の光にふれて 瑞御霊現れませしたまゆらに わが魂線はひろごりにけり かくの如尊き光の神ますとは 夢に現に思はざりしを われこそは内津豊日の神なるよ 守らせ給へ言霊の水火に 今日よりは岐美の御尾前を守りつつ 国土生みの業に仕へまつらむ 美波志比古の神は先つ日現れまして スウヤトゴルに登りましける 美波志比古神の便りは絶えにけり 大曲津見にとらはれ給ひしか ともかくも神の心に任せつつ 吉日良辰待たむと思ふも』 大道知男の神は御歌詠ませ給ふ。 『われは今照男の神の御供して 光の岐美を迎へけるかな 月も日も照男の神の功績に 大曲津見の禍少なき さりながらこの稚き国土広き空 一柱神の如何に堪ふべき 国津神は岐美の出でまし待ちにつつ 空を仰ぎて歎きゐしはや 畏くも光の岐美の出でましに 河水さへも澄みきらひたり 曲津見は山河と化り巌と化りて 神々等を惑はせてをり スウヤトゴル山の姿は清けれど 表面を飾る曲津のたくみよ 美しき山の姿となりながら 日に夜に邪気を吐き散らすなり 西方の国土はよしあし茂らひて 神の住むべき所少なき スウヤトゴルの山の裾野に住む神は 何時も魔神の餌食となれり 折々は八十曲津見は河中の 巌となりて堰き止めにけり 瑞御霊光の岐美の言霊に 曲津見の巌は砕かれしはや 曲津見の醜の猛びの強ければ 野辺の木草もことごとしなへり 今日よりは岐美の御尾前に仕へつつ 西方の国土の邪気を払はむ ありがたく尊くおもふ西方の 国土に天降りし瑞の御霊を 駿馬の嘶きにさへも四方八方を ふたぎし雲は散り初めにけり 永久の光に満てる岐美ゆゑに 醜の黒雲散り初めにけり 今日よりは天津御空の日も月も 光さやけく照らしますらむ』 宇志波岐の神は御歌詠ませ給ふ。 『吾こそは稚国原を宇志波岐の 神なりながら力足らずも 待ち待ちし光の神のいでましに 山河一度に晴れ渡りつつ 久方の天津高宮あとにして 光の岐美は此処に来ませり 常闇の西方の国土を照らさむと 出でます岐美の姿雄々しも ヒーローの神いまさずば西方の 国の曲津見は帰順はざるべし 八雲立つ出雲八重雲重なりて 月日もたしに拝めざる国土 月と日の光をさへぎる曲津見の 水火かたまりて黒雲となりぬ 次々に湧き立つ雲の天に満ちて この国原の水火をそこなふ 主の神のウ声に生れ出でしわれも 力足らずてもてあましつつ』 かく四柱神は、顕津男の神の御降臨を喜び給ひて、寿ぎ歌を詠ませつつ、天に向ひて合掌礼拝久しくし給ふぞ畏けれ。 折しもあれや、天地も割るるばかりの雷鳴轟き、稲妻走り、大雨沛然として臻り、みるみる日南河は濁流漲り、岸を呑み、河底の巨巌を鞠の如くに下流に流し初めにける。 (昭和八・一一・二九旧一〇・一二於水明閣林弥生謹録)
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霊界物語 75_寅_太元顕津男の神の物語3 21 岸辺の出迎(二) 第二一章岸辺の出迎(二)〔一九一五〕 顕津男の神はこの光景を打ち眺め、莞爾として愉快げに御歌詠ませ給ふ。 『風も吹け雨も降れ降れ雷も 轟けわれは楽しみて見む 雷は天にとどろき稲妻は 闇を裂きつつひた走るかも 日南河濁水みなぎり河底の 巌は下手にころがり落つるも 曲津見は力の限りを現して われ威嚇さむと雄猛るらしも 曲神よ力の限りをわが為に 猛びて見せよ地割るるまで かくのごと児戯に等しき雄猛びを 何か恐れむ光のわれは 面白き雄猛び見るもスウヤトゴルの 山よりおろす雨風いかづち 言霊の幸はふ国土よ曲津見の 雄猛び強くもわれは恐れじ』 茲に臼造男の神は、瑞の御霊の不退転の態度にいたく驚きつつ、御歌詠ませ給ふ。 『曲神の雄猛び強き河の辺に 立たせる岐美の大らかなるも 岐美こそは紫微天界の中にして 国土生みませるヒーローの神よ スウヤトゴルの山の曲津見今ここに 力の限り雄猛びけるかも 国津神はこの雄猛びになやめども 光の岐美は動きたまはず 河水はいやつぎつぎに澄みきらひ 河底までもすきとほりけり 日南河水の底ひの小魚のかげ 見えわくるまで澄みきらひたり 曲津見の神の雄猛びも束の間の 河水濁せしばかりなりけり もろもろの鳴物入りの曲津見の 業も忽ち消え失せにける 瑞御霊光の岐美の現れましし 西方の国土はいよよ栄えむ 西方の国の司の照男神も 大曲津見になやみ給ひぬ 山となり巌となりて曲津見は 西方の国土を曇らせ行くなり 朝夕を雲に包まれ西方の 稚き国原は月日だもなし 今日よりは光の岐美の現れませば 御空の月日も輝き給はむ 上と下の臼を造りて神々の 食物の種磨くわれなり 左より右にめぐりて五穀の 荒皮をはぎ神にまゐらす 天の狭田長田に生ひし稲種も 実らずなりぬ曲津見の水火に 今日よりは天地清くひらけなむ 光の神の出でましぬれば』 内容居の神は御歌詠ませ給ふ。 『われは今照男の神の御供して 瑞の御霊を迎へむと来し 幾万里山野を越えて出でましし 光の岐美を雄々しく思ふ 国土を生み国魂神を生ましつつ 万里の旅に立たす岐美はも 西方の国土は曲津見はびこりて 草木も萌えず稲種みのらず 神々のなげきの声は西方の 国土の天地をとざしてやまず 曲津見は十二の頭を持ちながら 時折風雨をおこして荒ぶも 曲津見の荒ぶ度毎神々は 邪気に打たれて倒るる悲しさ 朝夕に禊の神事をいそしみて われは漸く生命保てり えんえんと天に冲する黒雲は みな曲津見の水火なりにけり 愛善の国にもかかる曲津見の 潜みゐるとは知らざりにけり 力なき吾にはあれど村肝の 心をきよめ言霊きよめむ 駿馬の嘶きさへも清々し 光の岐美の出でませしより 日並べて曇り重なる西方の 国土の行末案じつつゐし かくのごと光の神の現れまさば 西方の国土に望みわきけり』 初産霊の神は御歌詠ませ給ふ。 『言霊の光の岐美の現れますと 聞きしゆわれはいさみ迎へぬ 真鶴の国土を固めて瑞御霊 今西方の国土に来ますも 嬉しさの限りなるかも悩みてし 国土を救ふと神現れませる 生れませる神悉く亡びゆく 西方の国土を悲しみしはや 曲津見の大蛇の邪気に襲はれて 神も草木も萎れつ亡びつ 亡びなき天津神国の中ながら 醜の猛びは防ぐよしなし ヒーローの神現れましぬ光り満てる 神現れましぬ目出度き今日を 月も日も御空の雲に包まれて 今日まで乱れし西方の国土 スウヤトゴルの清き山脈の頂上ゆ 折々放つ邪気はうれたき 高照の山より落つる日南河の 清瀬にたちてわれ禊せむ 一日だも禊の神事を怠らば 曲津見忽ちわれを襲ふも 国津神は朝夕日南の河波に 禊をはげみて息つきて居し 今日よりは西方の国土の大空に 月日も清く照り渡るらむ 仰ぎ見れば雲のはざまゆ天津陽の 光はさしけり河のおもてに 天津陽の輝く日こそなかりけり 岐美河岸に立たせし日までは 国津神は御空に輝く天津陽の 光を始めて拝みけるかも 西方の国土に集る曲津見の 水火重なりて黒雲となりぬ 黒雲を晴らさむよしもなかりけり 生言霊の力足らねば』 愛見男の神は御歌詠ませ給ふ。 『待ち待ちて今日のよき日にあひにけり この河岸に岐美を迎へて スウヤトゴルの山の姿は麗しく はき出す水火は天を包めり 万丈の黒煙はきて大空の 月日を包みし雲の憎かり 今日よりは曲津見の邪気つぎつぎに 散りて御空は清くなるべし 朝夕を禊の神事に仕へつつ 岐美の出でまし久しく待ち居し』 かかる所へ、美波志比古の神は駒に鞭うち、しづしづと此場に現れ給ひ、顕津男の神に黙礼しつつ、御歌詠ませ給ふ。 『わが岐美の旅に先立ち出でて来し われは神業をあやまりしはや 御供に仕ふべき身を知らず識らず 心傲りて先き立ちしかも 何事もおもひにまかせず苦しみぬ 岐美より先に出でにし罪かも みゆきある道の隈手をみはしかくると 出でにし吾は夢となりける 美波志比古の神にはあれど瑞御霊 御許しなくば何事も成らず 今となりてわが愚しき心根を つくづく思へば恥づかしきかな 瑞御霊ゆるさせ給へ今日よりは 神言のままに動きまつらむ 曲津見の神の輩下に捕へられ われは今日まで苦しみにけり 瑞御霊ここに渡らせし功績に 曲津の神はわれを許せり 曲津見の神はいろいろ手向ひの わざととのへて岐美を待ち居り 心して進ませ給へ曲津見は 光の岐美を亡ぼさむとすも 八尋殿数多並べて曲津見は 岐美屠らむと待ちかまへ居るも 曲津見の喉下に入りて漸くに 虎口を遁れ帰り来しはや 表むき曲津の神に使はれつ 暫しの間をたすかりて居し』 ここに美波志比古の神は、わが身の職掌を尊重するあまり、瑞の御霊のみゆきに先き立ち、渡り難き難所にみはしを架け渡し、御便宜を計らむとして先に立ち出で給ひしが、瑞の御霊の御許しなかりし為に、一切万事齟齬を生じ、一も取らず二も取らず、遂には曲津見の神の謀計の罠に陥りて、生命さへも危くなりけるが、早速の頓智に曲津見の神に媚びへつらひ、今まで虎口を遁れ居たりしぞ嘆てかりける。 (昭和八・一一・二九旧一〇・一二於水明閣白石恵子謹録)
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霊界物語 75_寅_太元顕津男の神の物語3 22 清浄潔白 第二二章清浄潔白〔一九一六〕 円満にして霊肉の合致したる顕津男の神は、礼儀に富み、慈愛に富み、風雅の道に富み給へば、到る処物に接し事に感じて、御歌詠ませ給へり。顕津男の神は今や日南河を渡り、悪魔のはびこれる西方の国土を造り固めむとして神心を悩ませ給ひ、高地秀の宮にまします八柱の比女神や、八十比女神の身の上を追懐し、しばし悲歎の涙にくれ給ひつつ、御歌詠ませ給ふ。 『若草の妻をやもめに生れし子を 父なしとするわが旅淋しき 空閨に泣く妻の身をおもひやり 我は日に夜に血を吐くおもひすも 国魂の御子を生めども永久に あひみることのかなはぬ父なり 斯くの如苦しき神業に仕ふるも 世のため道のためなればなり スウヤトゴルの峰は遥かの野の奥に よこたはりつつ邪気を吐くなり 今よりは心の駒を立て直し スウヤトゴルの曲津言向けむ 国土生みと御子生みの神業に仕へ来て わが身はいたく疲れたりけり この疲れ休めむとする暇もなく また立ち向ふ曲津のすみかへ 巌となり山河となりて曲神は わが行く先きにさやらむとすも 澄み渡る日南の河に禊して いざや進まむ曲津の在所に』 茲に顕津男の神は、日南河の流れに下り立ちて禊の神事を修し給へば、八柱の神々も吾後れじと速瀬に飛び込み、浮きつ沈みつ天津祝詞を奏上しながら、禊の神事を修し給ひける。 顕津男の神はじめ八柱神は、漸く岸辺に立ち上り『わが心地清々しくなりし』と宣らせ給ひて心静に御歌詠ませ給ふ。 顕津男の神の御歌。 『高照の山より落つる河水に 心すがしく禊せしはや 気魂にかかれる罪や穢れまで 洗ひおとしぬ速河の瀬に 水底をかい潜りつつ気魂の 汚れを全くはらひし清しさ 村肝の心清しも真清水の 流れに禊をはりしわれは 水底も明るきまでに光りたり わが気魂の清らかにして かくの如光りかがやく気魂を 八十比女の前に見せたくぞ思ふ 我ながら驚きにけり何時の間にか わが気魂は光となれる 身も霊も光り輝き水底の 魚族までも歓ぎつどひ来 我こそは生言霊の幸ひて 光の神となりにけらしな 眺むればわが身は骨まで透き徹り まさしく瑞の御霊となりぬ 水晶の如くに骨まで透き徹る わが身は少しの曇りだになき 斯の如光となりし我なれば 伊行かむ道に夜はなからむ 天伝ふ月の光もかくまでに 光らざるべし照れるわが身よ 四方山の百花千花にいや増して 美しきかなわが気魂は』 美波志比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『わが岐美の後に従ひ速河の 瀬々の流れに禊せしはや わが魂は大曲津見の水火うけて 墨の如くに穢れゐたりき 河水の色変るまで気魂の 垢ながれける禊の神事に 斯の如わが気魂は清まりぬ いざや進まむ曲の征途に 村肝の心くもれば忽ちに 曲津見の罠に落さるるなり 肝向ふ心くもりて美波志比古 われは曲津見にをかされにけり 斯くの如光らす岐美を知らずして 先行きしわれの愚さを悔ゆ 日南河に御橋かけむと進み来て 曲津見の巣に迷ひ入りけり 雄健びの禊の神事にわが神魂 真清水のごと清まりにけり』 内津豊日の神は御歌詠ませ給ふ。 『瑞御霊迎へ奉ると此処に来て 禊の神事に仕へけるかも 身も魂も清しくなりぬ今よりは 岐美に仕へて雄健びせむとす 曲津見の御空をふさぐ世の中に 光の神は現れましにけり 顕津男の神の御霊の御光に わが気魂は清まりにけり 気魂も神魂も神の御光に けがれなきまでに照り渡りつつ 内津豊日の神の御名まで負ひながら 心のくもり晴れざりにけり わが岐美に従ひ流れに禊して はじめて内津豊日となりぬる 曲津見の所得顔にすさび居る 西方の国土今日より生れむ 非時に黒雲湧き立つ西方の 国土照らさばや禊を重ねて スウヤトゴル峰の曲津見は荒ぶとも 今はおそれじ岐美ましませば 国津神ゑらぎ栄えむ水晶の 神の光に照らされにつつ 草も木も月日の御光あびずして 如何で繁らむ地稚き国土は 高照の峰より落つる日南河に 今日をはじめと禊せしはや 主の神のウ声に生れし吾ながら 禊のたふとささとらざりけり 朝夕に禊の神事に仕へつつ 西方の国土を生かさむと思ふ』 大道知男の神は御歌詠ませ給ふ。 『大道を知男の神の吾にして 禊の神事を怠りしかも 惟神神のひらきし大道は 禊の神事ぞ要なりける 禊してわが身わが魂清まりぬ 醜の曲津見もはやをかさじ 国土を生み御子を生ますと出で給ふ 瑞の御霊は光なりしはや 仰ぎ見るさへもまぶしくなりにけり 瑞の御霊の光の神を 斯くの如光りかがやく生神の 現れましし上は何をなげかむ 日に夜に嘆きつづけし西方の 国津神等よみがへるべし 吾もまた朝な夕なに大道を さとしつつなほ禊知らざりき 天界にいともたふとき神業は 禊のわざにしくものはなし 西方の国土の御空を包みたる 雲も禊の神事に散るべし 斯くの如禊の神事の尊さを 吾は今まで覚らざりけり 気魂も神魂も清くなりにけり 速河の瀬に禊せしより』 宇志波岐の神は御歌詠ませ給ふ。 『このあたり吾はうしはぎゐたりしが 曲津見のため曇らされつつ 惟神禊の神事知らずして 治めむとせし吾の愚さよ 禊して生言霊を宣る身には 醜の曲津見もをかす術なし 今日よりは国津神等に惟神 禊の神事を教へ伝へむ 近山は早くも緑となりにけり 岐美が禊の光の徳に 曲津見は青山となり沼となり 巌となりてひそみ居るかも 久方の天津高宮ゆ降りましし 光の神はここにいますも くもりたる心抱きて瑞御霊の 光の前にあるは苦しき 山に野に百花千花匂へども 曲のすさびに色あせにつつ 虫の音も次第々々に細りけり 曲津見の水火に苦しめられつつ 今日よりは鳥の鳴く音も虫の音も 風のひびきも澄み渡るらむ 迦陵頻伽非時歌へど西方の 国土には亡びの響きなりけり 今日よりは迦陵頻伽の歌ふ声も 冴えに冴えつつよみがへるべし 天渡る月日のかげの見えわかぬ 西方の国土は風の冷ゆるも ひえびえと吹く山風にあふられて 百の草木はなかばしをれつ 今日よりは草の片葉に至るまで 岐美の光によみがへるべし 月読の恵の露も今日よりは 豊にくだらむ草木の上にも』 臼造男の神は御歌詠ませ給ふ。 『禊すと水底くぐり身重さに おぼれむとして苦しみしはや つぎつぎに禊の力あらはれて わが身は軽く澄みきらひたる 河水を濁して流るる気魂の 垢の深さにあきれたりしよ 斯くならば蚤や虱のすみどころ 消えてあとなき水晶の気魂よ 水晶の如くわが魂わが身まで 照り輝けり禊終りて』 内容居の神は御歌詠ませ給ふ。 『滔々と流るる水に内容居 神の神魂は清まりにけり 曲津見の水火に曇りし西方の 国土に生れて吾くもりけり 河底の砂利まで光る日南河の 流れは清しも瑞の御霊か 仰ぎ見る瑞の御霊の顔は 月の面にまして光らすも 月読の神の御霊と現れましし わが岐美なれば光らすもうべよ 日南河向つ岸辺は真鶴の 岐美の生ませし光の国土なる 今日よりはおのもおのもが禊して 西方の国土を照らさむとおもふ 千引巌これより北の大野原に あちこち立てるも曲津見なるべし わが来る道にさやりし千引巌は 八十曲津見の化身なりしよ わが魂はくもらひければ曲津見の 化身の巌を知らず来つるも かへりみれば千引の巌ケ根わが行かむ 道の行手をのみふさぎたる わが岐美の教へ給ひし禊の神事に わが魂線を輝かしゆかむ 禊して岸にのぼれば気魂も 神魂も軽さ強さを覚ゆる 愛善のこの天界に生れ来て 禊せざれば忽ち曇らむ 神にある吾なりながら惟神 禊の神事をなほざりにせしよ 日南河の清き流れは国津神に 禊をせよと教ふるものを 愚なる吾なりにけり朝夕に この清流に居向ひながらも 天も地も一度にひらく心地かな 禊をはりしそのたまゆらは 醜雲の四方に立ちたつ西方の 国土はこれより月日照るらむ』 初産霊の神は御歌詠ませ給ふ。 『わが心よみがへりたり気魂も 軽くなりたり禊の神事に 禊する神事を初めて覚りけり 百の罪とが洗ふ神事と 罪けがれ洗ひ清めて吾は今 はじめて産霊の神業を知る 禊すと水底くぐれば大魚小魚 わが気魂をつつきめぐりぬ 気魂の垢をつつくと大魚小魚 わが身辺を取り巻きにけり 苦しさをこらへ忍びて水底に 神魂の罪を魚にとらせり わが肌は真白くなりぬ魚族の 垢は餌食となりて失せぬる 河底も明るきまでに瑞御霊 光り給ひて禊ましける かくのごと光の神も惟神 禊の神事に仕へますはや 曇りたるわが身は非時禊して せめて神魂の垢洗はばや 光なきわが身なれども朝夕の 禊に神魂冴ゆるなるらむ』 愛見男の神は御歌詠ませ給ふ。 『日南河水の底ひをくぐりつつ 禊の神事ををさめけるかな 天界の総ての穢れを洗ひ去る 禊の神事ぞ尊かりける ウの声の生言霊に生れし吾も いつの間かは曇らひにける 磨かずば忽ち曇る神魂よと 吾は覚りぬ禊に仕へて わが眼清しくなりぬ山も河も 今は雄々しく色冴えにけり わが耳はさとくなりけり虫の音も 禊終りて清しく聞ゆる わが鼻も透き徹りけむ百花の 薫り清しくなりにけるかも 言霊の水火も清けくなりにけり 禊の神事の貴の功に 天も地も清しくなりぬ気魂と 神魂の垢の洗はれしより いざさらば光の岐美に従ひて 曲津見のすみかをさして進まむ 神々を言向け和し光明に 満ち足らひたる国土造らばや 大空を包みし八重の黒雲も 散りて失せなむ岐美の光に 西方の国土はこれより輝きて 曲津見の魂もまつろひぬべし』 斯く神々は各自禊終り、其の功を讃美し乍ら、顕津男の神の御後に従ひ、柏木の森を目当に、スウヤトゴルの曲津見を征服すべく、意気揚々と轡を並べて立ち出で給ふ。 (昭和八・一一・三〇旧一〇・一三於水明閣内崎照代謹録)
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霊界物語 76_卯_世界の神話/朝香比女の神の物語 インドネシヤ創造説 インドネシヤ創造説 太初には、茫々たる海があるだけでした。海原の中に一つの大きな岩があつて、絶えず波に洗はれてゐましたが、その岩から一羽の鶴が生れました。岩は鶴を産むときに汗を流しました。そしてその汗からルミム・ウットといふ女神が生れました。 鶴が女神に対つて、 『二握の砂を取つて撒きちらしてごらん』 と言ひました。ルミム・ウットはすぐ二握の砂を取つて、海原に撒きちらしますと、見る見るそれが大きくなつて世界が出来ました。 世界が出来上ると、女神は高い山に登つて、その頂に突立つて、吹き来る西風に体を曝してゐました。そのうちに身重になつて、一人の男の子を産みました。 男の子が大きくなると、ルミム・ウットが妻を娶るやうに勧めました。男はその言葉に従つてあちらこちらを探し廻りましたが、どうしても女を見つけることが出来ませんでした。ルミム・ウットは気の毒に思つて、自分の背丈と同じ長さの杖を息子に与へて、 『この杖よりも背の低い女を探すがいい。そんな女を探したら、それがお前の妻となるべき運命を持つた女ですよ』 と教へました。そして二人は別れて、世界を一めぐりすることになりました。母は右に廻り、子は左に廻つた。子は左に廻つて、永い間歩き続けてゐるうちに、たうとう世界を一巡りしてしまつて、二人がぱつたり出会ひました。二人は余り永い間別れてゐたので、お互に見知りませんでした。男はすぐに杖と女との高さを比べて見ましたが、杖は男が気のつかぬうちにだんだんと伸びてゐましたので、女の背丈よりずつと高かつたのでした。 『これだこれだ、この女こそお母さんに教はつた通りの女だ』 と思つて、たうとうルミム・ウットを自分の妻にしてしまひました。 ルミム・ウットは沢山の子供を産みました。そしてそれがみんな神さまとなりました。(ミナハツサ島) また一説に、太初には、茫々たる海と、それに覆ひかぶさつてゐる天空があるだけでした。 ある時、天空から一つの大きな岩が海の中に墜ちて来ました。そして月日がたつにつれて、赤裸々な岩の面に粘土が積み重なると、そこに沢山の虫が生れました。 虫どもは、絶えず岩の面をかぢりつづけますので、小さい砂土がだんだんと岩を覆ふやうになりました。と、天空に輝く太陽から、木でこしらへた刀の柄が落ちて来て、砂土の中に根をおろして、大きな樹となりました。暫くすると、今度は月から葡萄の蔓が落ちて来て、樹にまつはりつきました。 かうして樹と葡萄とが抱き合つて、一人の男の子と、一人の女の子とを産みました。そしてその二人が結婚して、カヤン族の祖先となりました。(中央ボルネオのカヤン族) 神々の誕生についての一説には、世界の初めに、一匹の蜘蛛が天から降りて来て、巣を造りました。と、小さい石が一つ蜘蛛の巣にひつかかりましたが、それが段々大きくなつて、天が下一ぱいに広がる大地となりました。 暫くすると、天空から地衣が墜ちて来て、岩の上に根をおろし、地衣の間から虫が生れて、頻りに糞をひり、その糞から岩の上の土壌が出来ました。 暫くすると、また天から一本の樹が墜ちて来て、土壌の中に根をおろしました。それから今度は一匹の蟹が大地に降りて来て、鋭い鋏脚でやたらに地面をかきむしり掘り返しました。かうして沢山の山や谷が出来ました。 一本の葡萄の蔓が樹に抱きつきました。さうしてゐると、一人の男と一人の女とが、天からこの樹の上に降りて来て、男は刀の柄を、女は紡錘を地面に落しました。と、刀の柄と紡錘とが夫婦となつて、一人の子供を産みましたが、その子供は体と頭とを持つてゐるだけで手も足もありませんでした。 この怪物がひとりでに、二人の子を産みました。一人は男で、一人は女でした。男女は結婚して沢山の子を産み、その子がまた沢山の子を産む。かうしてゐるうちにだんだんと形態が完全になつて来ました。それがいろんな神様でありました。(中央ボルネオ) 蛇の頭の上の大地 世界の初めには、天空と海とがあるだけでした。海の中に一匹の大きな蛇が泳ぎ廻つてゐました。その蛇は、光り輝く石をはめた黄金の冠を頭にしてゐました。 ある時天空にゐる一人の神が、下界を見おろしますと、海の中に光り輝くものが動いてゐます。何だらうと眼をこらすと、それは蛇の頭になつてゐる黄金の冠でした。神は、 『あの上に大地をこしらへることにしよう』 と言つて、一握の地を天空から投げ落しました。土はうまく蛇の頭に落ちかかつて、一つの島となりましたが、月日がたつにつれて、だんだんと大きくなつて、たうとう大地となりました。(東南ボルネオ) また一説に、空には七つの世界があります。そしてそのうちで最も高いところにある世界に神々のうちで最も偉大なムラ・ディアディが、二羽の鳥を召使として住んでゐました。 ムラ・ディアディは、七つの世界の一つに大きな樹を生やして、その枝で天を支へることにしました。それから一羽の牝鶏をこしらへて、それを大きな樹にとまらせると、やがて三つの卵を産みました。 暫らくすると、三つの卵から三人の女の子が生れました。そこでムラ・ディアディは、三人の男を造つて、女たちと結婚させることにしました。これ等の男女の間に大勢の子が生れて、それがまたお互に夫婦になることになりましたが、一人の女だけは、どうしても結婚しようとしませんでした。かの女の夫となるべき男は、蜥蜴のやうな顔をして、カメレオンのやうな皮膚をしてゐました。だから女はそれを嫌つて、 『わたしは結婚なんか決してしない。糸を紡ぐ方がいくらいいかも知れぬ』 と言つて、朝から晩まで糸を紡いでゐました。と、ある日かの女が紡錘を取り落しました。紡錘は天上界から遥か下の方に広がつてゐる海に墜ちました。女は天上界からだらりと垂れてゐる糸を伝つて海の面に降りて来ました。 海の中には、一匹の大きな蛇が浮んでゐました。女はそれを見ると、天を仰いで、 『ムラ・ディアディさま、土を少しばかり下さいな』 と叫びました。天界にゐるムラ・ディアディはこれを聞くと、召使の鳥を一羽呼び出して、 『これを下界の女に持つて行つておくれ』 と言つて、一握の土を渡しました。鳥がその土を女のところに持つて来ますと、女はそれを蛇の頭にふりまきました。と、土は見る見る大きくなつて、たうとう大地となりました。 蛇は、自分の頭の上に大地が出来たので、重くて苦しくてたまりません。彼は力まかせに首を振りました。大地は忽ち蛇の頭から転げ落ちて、海の中に沈んでしまひました。ムラ・ディアディはこれを見ると、すぐに八つの太陽を造つてかんかん照りつけさせました。激しい太陽の熱に、海の水がどんどん乾いて、やがて大地が水の上に現れて来ました。女は蛇の体に刀を突き刺して、一つの島にしかと縛りつけました。 『かうして置けば、二度と大地をこはすことはなからう』 女はかう言つて喜んでゐますと、天界にゐるムラ・ディアディが、 『かうなると、あの児も一人では置けぬ』 と言つて、嫌はれた男を吹筒と一しよに筵に包んで、空から投げおろしました。 大地に落ちて来た男は、腹が空いたので吹矢を飛ばして、一羽の鳩を射ましたが、狙がそれて中りませんでした。しかし男はうまく吹矢に縋りついて、女の住んでゐる村に飛んで行きました。女は今は拒みかねて、彼と結婚をしました。それが人間の祖先であります。(スマトラ島のトバ・バタク族) また、神々のうちで最も偉大なバタラ・グルの妻が、お産をしようとしてゐる時、 『鹿の肉が食べたい。早く持つて来て頂戴』 と言ひ出しました。バタラ・グルはすぐに一人の召使をやつて、鹿を射とめさせることにしました。しかし召使はどうしても鹿を狩り出すことが出来ないで、空しく帰つて来ました。バタラ・グルは更に大鴉をやりましたが、これも駄目でした。しかし獲物をあさり廻つてゐるうちに、深い穴を見つけました。試しに棒を投げ込んで見ましたが、いつまでたつても、底に届いたらしい響がかへつて来ませんでした。 『とても深い穴らしい。一つ底を探つて見よう』 大鴉はかう思つて、穴の中に舞ひ込みました。そして真暗いところをいつまでもいつまでも舞ひ降つて居ると、到頭漫々たる海原に出ました。大鴉はひどく疲れましたが、幸ひ自分が投げおろした棒が、波に漂つてゐましたので、その上にとまつて休んでゐました。 バタラ・グルは待ち遠しくなつて、五六人の召使と一しよに、大鴉を探しに出かけました。すると深い穴が見つかりましたので、一握りの砂と七本の樹と鑿と山羊と蜂とを携へて、穴の中に舞ひ降りました。海の面に降りつくと、先づ光を呼んで、あたりを包んでゐる闇を追ひ退けました。それから七本の樹で筏を造るために、山羊と蜂とに樹を支へさせて、自ら鑿を揮ひました。筏が出来上ると、持つて来た一握りの土をその上にまきました。土は見る間に広がつて大地となりました。(スマトラ島のハイリ・バタク族) 以上古今東西各国の、天地開闢宇宙創造の説は、我皇典の所伝の外は、何れも荒唐無稽にして、歯牙にかくるに足らざるを知るべし。即ち宇宙創造は夢中想像にして天地開闢は、癲痴怪百なり。我説示する天祥地瑞の宇宙創造説や天地開闢説に比して、天地霄壤の差異あるを玩味すべきなり。 昭和八年十二月五日旧十月十八日於水明閣口述者識
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霊界物語 77_辰_田族比女の神の物語(万里の島) 23 歓声満天(二) 第二三章歓声満天(二)〔一九五五〕 田族比女の神は再び高殿にのぼらせ給ひ、歓喜のあまり雀躍せる数万の生物に対して御歌詠ませ給ふ。 『主の神の水火に生れし万里の島に 御樋代神となりて臨みぬ 今日までは荒ぶる神の世なりけり 鶴の守れる国土にしあれば 大空を自由にかけりめぐるとも 生言霊の力なき鶴なり 今日よりは真鶴国土の名物と 守り育てむ松の梢に この島に生きとし生ける物皆を 今日より吾は領有ぎ守らむ 鳥獣木草のはしに至るまで 永久に守らむ厳の力に この島は紫微天界の愛児なり 造り固めて神に報いむ この島を造り固めて永久の 松の緑のよき国土とせむ 諸々の歓ぎ喜ぶさま見つつ この稚国土の栄えを祝ふ 足引の山の尾包みし雲霧も 隈なく晴れし今日ぞ清しき 黒雲の影は隈なく空に消えて あした夕べを紫雲棚引け 海を出で海に入るてふ日月の 光さやけく神国を生かさむ 永久の命保ちて此島は 地震もあるな嵐も吹くな 諸々のいより集ひて動くさまは 打ち寄す波の秀に見ゆるかな 御樋代の神と仕へて此の島に 天降りし吾は国土の親なり 生みの子のいやつぎつぎに栄えませと 万里の島根の生ひ立ち祈るも 瑞御霊天降り給ひて国魂の 御子生ますまで吾は動かじ この丘に瑞の御霊の御舎を つくりて天の時を待たなむ 平けく安らけくあれ永久に 吾司る万里の島根は 天地と共に栄えて遠永に この生島の命あれかし 若返り若返りつつ幾千代も 生きて守らむ万里の島根を 万世に動かぬ国魂神の裔は この生島を司るらむ 吾宣りし生言霊は幾代経るも 動かざるべし主神の依さしなれば』 輪守比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『吾はしもワ声の言霊に生り出でし 地上を開く輪守比古はや 荒金の地のことごと生かせつつ 森羅万象の命を守らむ この島は紫微天界の中心なるか 大海原の波に浮べる 波の音風のうなりも新しく 響かひ来るも今日のよき日は この島の生きとし生ける数の限り いより集へる聖所めでたし 天も地も新たに開けし此よき日に 堅磐常磐の礎固めばや 御樋代の神は今日より万里の島の 真言の親と仰ぎまつらむ もろもろの百姓よ御樋代神は 吾等が真言の親と崇めよ』 霊山比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『この島を開き初めたる百蛙 百の鼠の功は尊き 主の神の水火に生れし百蛙 鼠は神国を守る神はや 御樋代の神現れませる今日よりは 安けく生きよ蛙よ鼠よ 馬も牛も山を下りて広野原に 安き命を保ちつ働け 国津神数多この国土に植ゑ移し 鼠蛙を守り神とせむ 国津神を知食さむと主の神は 御樋代神を天降らせ給ひぬ 国魂の神を生まむと御樋代の 神はこの土に天降りましける 吾公の御供に仕へて霊山比古の 神もこの土に降り来つるよ 万里ケ島のすべての生物を安らかに 守り育つと吾公天降らせり 百蛙百の鼠よ今日よりは まこと捧げて公に仕へよ』 若春比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『濛々と雲霧たちて曲津見の 猛り狂ひし島は晴れたり 吾公の生言霊の御光に 照らされ曲津見は亡び失せけり 春夏秋冬とつぎつぎ天地は めぐりて神国の栄えはてなき 青雲の棚引く極み白雲の 向伏す限りは公の国土なり この国土に命を保つものみなは 公の恵みに浴せざるなし』 保宗比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『めでたさの限りなるかも天地の 水火清まりて曲津は失せぬる 国津神の姿見えねど鳥獣 蛙の声は地上に満ちたり 八十日日はあれども今日の生ける日は 天の足日よ世の創めなるよ 貴身と小身親子の道を永久に 定むる今日の言祝ぎ尊し 高殿は天の浮橋よ浮橋に 立たせて千代の固めを宣らす公 右左上と下との差別をたてて 正しく清く国土開くべし 高き低きの差別なければ神の国は また乱るべし曲津わき出でで』 直道比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『鳥の尾のいやながながと包みたる 雲霧はれて新国土生れぬ 新しき国土のはじめの言祝ぎの 庭にかためむ貴身小身の道 貴身大身小身田身の道を明らかに たてて拓かむ万里の島根を 今日よりは万里の島根を改めて 万里の神国と永久に讃へむ 万里の海に浮べる百の島々は この新国土の御子なりにけり 国魂の神生れまししあかつきは 万世変らぬ貴身と仕へむ』 正道比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『天地の神の心を心とし 貴身小身親子の正道開かむ 貴身大身小身と田身とのことごとは 主の大神を親とし仕へよ 田族比女神は吾等が親にして 万世動かぬ貴身にましける 吾公の御稜威は天地に輝きて 万里の神国に荒ぶる神なし 牛馬は田畑を耕し蛙鼠は 穀物らの命を守れ 永久に蛙は田を守り鼠等は 木草を守りて安らかに住めよ』 雲川比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『ありがたき神世となりけり万世に 動かぬ貴身と親あれませり 貴身と讃へ親と尊み師とたのみ 永久に生きなむ生きの命を 水清く風澄みきりて日月の 光明るき万里の神国よ 限りなき広き荒野をまつぶさに 開きて命の神苑となさばや うごなはるすべての生物の祝ふ声 この新しき国原に満てり もろもろの言祝ぐ声は牛頭ケ峰 白馬ケ岳に高き木霊す』 かく神々は、各自祝歌をうたひ高殿を下らせ給ひければ、あらゆる生物は心安らけく何の憚りもなく各自が得手々々をつくして、踊り狂ひ歌ひさへづり、その歓声は天地も震ぐばかりなりけり。 (昭和八・一二・一七旧一一・一於大阪分院蒼雲閣白石恵子謹録)
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霊界物語 78_巳_朝香比女の神の物語(葦原新国) 03 グロスの島 第三章グロスの島〔一九五九〕 紫微天界は未だ国土稚く、国形も完全には端々に到りては定まらざりければ、あちこちの稚国原には妖邪の気凝り固まりて種々の動植物を生み、特に異様の動物数多棲息して妖邪の気を四方に飛散せしめ、森羅万象の発育を妨ぐるも是非なき次第なりける。 ここに主の大神は完全無欠の神の国を開設し給はむとして、天之道立の神、太元顕津男の神の二柱に霊界現界の神業を委任し給ひければ、天之道立の神は惟神の大道を宣布し、日夜倦ませ給はず、顕津男の神は国土を治むべき司神を造らむとして、国土のあちこちを経廻り給ひ、主の神の生ませ配り置き給ひし御樋代神と見合ひまして、国魂神生みの神業にいそしみ給ふ神定めとはなりける。 邪神の中には数箇の頭をもてる竜あり、大蛇あり、又翼の生えし虎あり、狼、熊等ありて島の中に棲息し、水陸両方面を兼ねて棲まへるなどありて、容易に正しき神の日々の経綸を許さざりける。故に主の大神はこの妖魔を根底的に言向けやはし、征服し、全滅せしめむとして英雄的素質を持たせる神々を紫微天界の四方に派遣し給へるなりける。 御樋代の神は総て女神にましませども、いづれも優美なる容姿に似ず、勇猛剛直にして神代の英雄神のみを選まし給ひければ、その御行動の雄々しくましますことは自然の道理におはしましけるぞ畏けれ。 万里の島根を永久に基礎を固むる御樋代の 八柱神と生れませる朝香比女神は雄々しくも 長の旅路に立ち給ひ百の艱みをしのびつつ あなたこなたの国形を𪫧怜に委曲に固めつつ 狭野の島ケ根生み終へて天中比古を司とし いよいよ進んで万里の島この稚国土を固めむと 御樋代神に迎へられ万里ケ丘なる聖所に 生言霊をとり交し国土の宝と燧石 田族の比女に贈らせつ七日七夜の逗留を 漸く終へて御来矢の浜より舟に乗らせつつ 永久の別れを惜しみまし万里の海原静々と 波路を分けて進みますああ惟神々々 神の言霊幸はひて朝香の比女の恙なく 瑞の御霊の現れませる雲霧深き西方の 国土に出でます物語𪫧怜に委曲に落ちもなく 述べさせ給へと瑞月が蒼雲閣に端坐して 生言霊の幸はひを大本皇大神の 御前に畏み願ぎ奉るうすき冬陽の輝ける 蒼雲閣の清庭に吾立ち居れば大空を 轟かせつつ三台の飛行機来りて舞ひ狂ひ 非常時日本の光景をしみじみ吾に思はせり ああ惟神々々わが述べてゆく物語 生言霊の幸はひて非常時日本を救ふべき よすがとなれば道の為御国の為の幸はひと 謹み敬ひ述べてゆく吾言霊に幸あれよ 吾言霊に生命あれ。 朝香比女の神の乗らせ給へる磐楠舟は、大小の島々を右に左に縫ひながら日の黄昏るる頃、曲神の集まると聞えたるグロスの島に近より給へば、名にし負ふ曲神の島は俄に黒烟を四方に吐き散らし、海面を闇に包みて御舟さへ見えずなりにける。 このグロスの島には、ゴロスと言ふ猛悪なる大蛇の神棲息して、数多の醜神を使役し、隙あらば総ての島々を侵さむとしつつ待ちかまへ居たるに、今ぞ御樋代神の御舟、この島に近づきければ、グロスの島の曲津神グロノス、ゴロスの二巨頭は、あらゆる曲神を呼び集め、必死となりて御舟の近づくを妨害せむと伊猛り狂ひける。 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『二百浬吾渡り来て黄昏れつ グロスの島に近づきしはや 此島にグロノス、ゴロスの曲津神 潜むと聞きて舟よせにける 曲津見はここを先途と黒烟を 吐き散らしつつ四方を包めり 言霊の水火の光りと鋭敏鳴出の 神のたまひし燧石にかためむ 曲神の勢如何に猛くとも 火をもて焼かば容易に滅びむ 曲神は如何に勢強くとも 真言の力なきものぞかし 黄昏の闇に戦ふ不便さに 波にうかびて朝を待たばや』 初頭比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『比女神の神言畏し曲神は 朝日を待ちて滅すぞよき 天界にさやる曲津の種をたやし 安き神国と定め奉らむ 黄昏の闇は海原悉く 包めど吾には火をもてりけり 御舟に真火を照らして明方を 静に待たむ魔の島近く 面白き海路の旅よ曲神の 百のいたづら見つつ進むも』 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『狭野の島の魔神もここに集まりて 行手にさやると伊猛るならむ 黒雲の幕に包めど吾舟は 真火の光りに安かりにけり 明け方を待ちていよいよ魔の島を 焼き滅すと思へば楽しき 曲神よ吾上陸に先き立ちて 服従ひ来れしからば許さむ 比女神に汝等が生命乞ひうけて 真言の道に救ひ助けむ 一夜の生命と思へば曲神の 身こそあはれになりにけるかな』 グロスの島より湧き立つ黒雲は、次第々々に雲の峰の湧く如くふくれ上り、拡ごり、四辺の海面を真の闇と包み、青白き火団は御舟の周囲を螢合戦の如く飛び交ひ狂ひめぐり、凄惨の気闇と共に漂ひにける。 朝香比女の神は少しも驚き給はず、平然として曲神の種々の業を御覧しながら、御歌詠ませ給ふ。 『面白き曲神なるかも闇の海に 青白き火となりて飛べるも 曲神の火は青白く光りなし 鬼火か陰火か熱からぬかな 火の玉と見れども光らず熱からず 海月の如くただよへるかも 明日さらばグロノス、ゴロスを言向けて この魔の島を清めむと思ふ 八潮路の長き旅路に疲れはてて 曲津のすさびを見るは楽しき 百千万の火団となりて猛り狂ふ 状面白く舟の上に見つ 吾が舟は波に浮べど動かざり 生言霊の錨につなげば』 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『炎々と御空の月をかくしつつ 魔の島ケ根ゆ黒雲立ちたつ 曲神は黒雲起しおく深く しのびつ怖ぢつ狂ふなるらむ 曲神の数多集へるグロスの島を 今日珍しく黄昏れて見つ 黄昏の海にうつらぬ火の玉は 正しく陰火のしるしなりけり 真火なれば波の底まで輝かむを 青白きのみ光りだになし 言霊の生ける光に照らされて グロノス、ゴロスも滅び失すべし 御樋代の神の出でましに魔の島は 清きすがしき国土と生れむ』 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『吾こそは御供に仕ふる天晴の 比女神なるよ御空晴らさむ 一二三四五六七八九十 百千万の神集ひませ 大空の月を照らして魔の島の 曲津見の頭を現はさむかも』 斯く歌ひ給ふや、魔の島の上空を包みし黒雲は次第々々に科戸の風に吹き散らされて、天空明く清く円満清朗の月影は浮ばせ給ひ、波の底深く輝き給ひける。 ここにグロノス、ゴロスの曲津神は夜の明くるまでに御舟の神等を滅しくれむと死力を尽し一百有余旬の竜蛇の姿を現し、数頭の頭には各自太刀の如き角をかざしながら、頻りに御舟に向つて火焔を吹く光景はもの凄きまでに見えにける。 朝香比女の神は平然として微笑みながら御歌詠ませ給ふ。 『勇ましやグロノス、ゴロスの雄猛びは 吾行く旅をなぐさめにける 火を吐けど角はふれども眼は光れど 吾には何の艱み覚えず 力限り雄猛び狂ふ曲神の 心思へばあはれなるかも 兎も角も暁まではこの舟に 吾休らはむ心安けく』 初頭比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『一夜の生命と思へば曲神も 最後の荒びあはれなるかな 常闇をうすら照らして曲神は あまたの口より焔を吐くも 光にぶき松明と思へば面白し 月は御空に輝き給へど 月読の光りますますさやかにて 魔の島ケ根の雲はあせたり ところどころ魔神の吐き出す黒雲は 次第々々にうすらぎしはや 斯くの如浅き奸計の曲神の 雄猛び見れば雄心わくも 明日さればこの島ケ根を悉く 焼き清むべし曲神退け』 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『海中に永久に浮べる魔の島の 雲は晴れけり月の光りに 月冴ゆる万里の海原に浮びたる グロスの島は全く現れけり この島も思ひしよりは広くして あまたの曲神騒ぎ廻れり この島も主の大神の生みませる 生島なれば清め奉らむ 日並べて神の神業に仕へつつ 又も楽しき明日を迎へつ』 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『黒雲は島のあちこちに太く高く 立てども明日は跡形もなけむ 黒雲を時じく起して天地の 水火を濁せる曲神の島かも この島の曲神ことごと言向けて 稚き国原生むは楽しも この島に御樋代神の籠らすと 聞きしは夢か黒雲立ちたつ 御樋代の神も悪魔の雄猛びに 暫し御姿をかくし給ふか』 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『天も地も生言霊の御光りに 照らして稚き国土を生まばや 天晴比女神の御供に仕へつつ この島ケ根の雲を晴らさむ』 各神々はグロスの島に向つて明日の征途を楽しみながら御歌詠ませつつ、一目も眠らせ給はず磐楠舟の上に安坐して、種々のことを面白可笑しく語り合ひつつ夜の明方を静に待たせ給ひけるぞ畏けれ。 (昭和八・一二・二〇旧一一・四於大阪分院蒼雲閣谷前清子謹録)
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霊界物語 78_巳_朝香比女の神の物語(葦原新国) 11 初対面 第一一章初対面〔一九六七〕 朝香比女の神は、中野河の忽ち大地と変じたる新しき地を踏みわたらむとし給ふ折もあれ、この島の守り神とかねてより天降りましし八十比女神の一柱なる葦原比女の神は、三男二女の従神を従へ、朝香比女の神を迎へ奉るべく、漸くにしてこれの河岸に着かせ給ひ、 『八十柱御樋代神と選まれし 吾は葦原比女の神なり 醜神の醜の曲業うちはらひ 光の公は天降りましぬる 天晴れ天晴れ光の神の御功に グロスの島は明け放れたり 二十年の昔妾は此の島に 天降りて国土を拓かむとせし さりながら曲津見の猛び強ければ 中野の河の外に出でざりき よしあしのむた茂りたる大野原を 拓き給ひし光の公はも いや尊き光の神の御功を 伏し拝みつつ涙しにけり 高地秀の宮ゆ天降りし朝香比女の 光に四方の雲霧晴れたる グロノスやゴロスの曲津見は河を越えて 鷹巣の山にかくろひにけり 今日よりは光の神の功績に グロノス、ゴロスの曲津言向けむ』 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『八十柱御樋代神にあはむとて 吾は荒野をわけて来つるも 顕津男の神の出でまし日長くも 待たせ給ひし公の雄々しさ 吾もまた顕津男の神に見合はむと はろばろ此処に進み来つるも グロノスの島を今日より改めて 葦原の国と名乗らせ給へ 目路の限り陽炎もゆる春の野に 御樋代神とあひにけるかも はろばろと吾たづね来し比女神は いとまめやかにおはしましける』 真以比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『葦原比女神に仕へて二十年を この国原にいきつきしはや 力なき吾にしあれば曲津見を よそに見るより他なかりけり 久方のよき日めぐりて朝香比女の 貴の光を拝み奉るも 真火をもて荒野を焼かせ給ひたる その功績に曲津は逃げたり 曲神は暫し姿をかくせども 時経て再び猛び来らむ 公こそは光の神にましまさば 国土の宝と燧石をたまはれ』 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『真以比古神の言の葉を諾ひて 国土の宝と燧石を贈らむ 光強き夜光の玉も何かあらむ 生きたる真火の力に及ばず』 真以比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『有難し光の神の神宣 吾は頸にうけて忘れじ 朝香比女神の賜ひし燧石は 曲津を征伐の宝なるかも 萱草の生ひ茂りたる鷹巣の山に 真火を放ちて曲津を退はむ かくならば葦原の国土は永久に 安く栄えむ神のまにまに』 初頭比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『わが公に仕へ奉りて中野河に 生言霊の奇瑞見しかな 御樋代の神にあはむと焼野原を 夜を日につぎて駈り来しはや 千早振る神の依さしの御樋代神は 八十比女ながらも光らせ給へる 八柱の御樋代神に仕へつつ 八十柱比女にあひにけるかも』 成山比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『はろばろと来ませる公を犒らはむ 術もなきかな荒野の中にて ともかくも葦原の宮居に急ぎませ 真言の限り仕へまつらむ 漸くに春の陽気の漂へる 大野に立ちて楽しき吾なり 真鶴は天津御空に列をなし 輪を描きつつ公を迎ふも 百鳥の声もさやけくなりにけり 光の神の出でまししより 今日よりは此の葦原の国中に 醜の黒雲立たじと思ふ 今日までは狭霧立ちこめ黒雲は 御空覆ひて冬心地せり 血腥き風の覆ひし大野原も 春日かをりて梅の香ただよふ 迦陵頻伽終日うたへど今日までは しめりがちなる醜の草原』 栄春比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代神の出でましただに迎へむと 葦原比女の神いそがせり 村肝の心あせれど黒雲の 闇深ければなやみてしはや 朝香比女神の放たせ給ひたる 真火の力に野は開けたり よしあしの風に煽られ燃えさかる さまをし見れば火の海なりけり 疾風に焼け過ぎにける大野原は ただ一塵も止めざりける 葦原の宮居に進む道遠み 黄昏せまるを淋しむ吾なり 願はくはこれの荒野の松かげに 今宵一夜を宿らせ給へ 明日されば駒の轡を並べつつ 貴の聖所に導き奉らむ』 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『神々の厚き心に動かされ 吾は進むも葦原の宮居へ さりながら今宵は松の下かげに わが公と共に雨宿りせむ』 八栄比女神は御歌詠ませ給ふ。 『天津日は海の彼方に傾きて 御空に白き昼月のかげ 昼月の淡き真下に一つ星の かげは伊添ひて輝けるかも 月舟の右上方にやや薄き 星一つあり何のしるしか つくづくと思へば嬉し顕津男の 神の出でまし近づきにけむ 月の下に輝き給ふ一つ星は 朝香の比女の御姿なるらむ 月の上に薄く光れる星かげは 葦原比女の御魂なるべし 夕されば天津日光はなけれども 冴え渡るらむ月舟のかげも』 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『国土稚く浮脂なす島ケ根を 永久に固むと吾渡り来し 顕津男の神にあはむと出でたたす 朝香の比女の御供仕へつ 曲神の伊猛り狂ひしグロス島も 今日はめでたし葦原の国土よ よしあしの生ひ茂りたる荒野原 辿りつ分けつ吾は来にけり 比女神の身ながら曲津と戦ひつ 吾は雄心湧き立ちにけり 五千方里ありと聞ゆる葦原の 島根に御樋代神と語るも 村肝の心勇みてわが胸の 高鳴り止まず腕はふるへり』 霊生比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『朝夕に御樋代神に仕へ来つ 今日如す楽しき日はあらざりき 御樋代の光の神の現れましに 吾魂線はうなり出でけり 鋭敏鳴出の神の宣らせる言霊に 吾葦原の曲津は失せぬる 時じくに御空包みし黒雲の 跡形もなく晴れにけらしな 主の神の依さしのままに二十年を 仕へて功なき吾を恥づる 御樋代の神は雄々しくましませど 御供の神の力足らざり 二柱御樋代神の天降りましし 此葦原の国土は永久なれ 常世ゆく闇は漸く晴れにけり 光の神の貴の功に』 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『御供に仕へ奉りて今日のごと 勇ましき戦吾見ざりけり グロノスとゴロスの曲津見言霊に うたれし時のさまのあはれさ 主の神の賜ひし厳の言霊と 燧石しあれば曲津はひそまむ いざさらば彼方の森に進むべし 一夜の雨の宿り求めて』 茲に十二柱の女男の神々は、野中のこんもりとした常磐樹の森かげさして、黄昏の野路を急ぎ進ませ給ひける。 (昭和八・一二・二一旧一一・五於大阪分院蒼雲閣白石恵子謹録)