| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 39 太白星の玉 | 第三九章太白星の玉〔八九〕 竜宮城の従臣鶴若は、黄金水より出たる十二の玉の中、一個の赤玉を命にかへてアルタイ山に逃れ守つてゐたが、竹熊一派の奸策に陥り、つひにこれを奪取されて無念やる方なく、つひには嘆きのあまり、精霊凝つて丹頂の鶴と変じたるは、さきに述べたところである。 丹頂の鶴は昼夜の区別なく、天空高く、東西南北に翔めぐつて声も嗄れむばかりに啼き叫んだ。その声はつひに九皐に達し、天の太白星に伝はつた。太白星の精霊生代姫命はこの声を聞き、大いに怪しみ、その啼くゆゑを尋ねられた。ここに鶴若は、 『われは、わが身の不覚不敏より大切なる黄金水の宝を敵に奪はれ、大八洲彦命に謝する辞なく、いかにもして、この玉を探し求め、もつて竜宮城に帰参を願ひ、再び神人となり、この千載一遇の神業に参加せむと欲し、昼夜の区別なく地上を翔めぐり探せども、今にその行方を知らず、悲しみにたへずして啼き叫ぶなり』 と奉答した。生代姫命は、 『そは実に気の毒のいたりなり。われは十二の白鳥を遣はし、黄金水の宝に優れる貴重なる国玉を汝に与へむ。汝が敵に奪はれたる玉は今や死海に落ち沈めり。されどこの玉はもはや汚されて神業に用ふるの資格なし。されば、われ新に十二の玉を汝に与へむ。この玉を持ちて竜宮城に帰還し、功績を挙げよ』 と言葉をはるや、忽然としてその神姿は隠れ、白気となりて太白星中に帰還された。たちまち鳩のごとき白鳥天より降るをみとめ雀躍抃舞した。されど鶴若は、わが身一つにして十二の白鳥の後を追ふはもつとも難事中の難事なり、いかがはせむと案じ煩ふをりしも、天上より声ありて、 『汝は天空もつとも高く昇り詰め、玉の行方を仔細に見届けよ』 といふ神の言葉が聞えてきた。 鶴若はその声を聞くとともに天上より引つけらるるごとき心地して、力のかぎり昇り詰めた。このとき十二の白鳥は諸方に飛散してゐたが、たちまち各地に降下するよと見る間に白き光となり、地上より天に冲して紅霓のごとく輝いた。 鶴若はその光を目あてに降つた。見れば白鳥は一個の赤玉と化してゐる。鶴若は急いでこれを腹の中に呑み込んだ。また次の白気の輝くところに行つた。今度はそれは白玉と化してゐた。これまた前のごとく口より腹に呑み込んだが、かくして順次に赤、青、黒、紫、黄等の十二色の玉をことごとく腹に呑み込んだ。鶴若は、身も重く、やむをえず低空を飛翔して、やうやく芙蓉山の中腹に帰ることをえた。 芙蓉山の中腹には種々の色彩鮮麗なる雲立ちあがつた。この光景を怪しみて、清国別は訪れて行つた。すると其処には立派なる女神が一柱現はれて、十二個の玉を産みつつあつた。清国別は怪しみて、 『貴神は何神ぞ』 と尋ねた。女神は答ふるに事実をもつてし、かつ、 『この玉を貴下は竜宮城に送り届けたまはずや』 と頼んだ。この女神は鶴野姫といふ。 清国別はここに肝胆相照らし、夫婦の約を結び、竜宮城に相携へて帰還し、この玉を奉納せむとした。 しかるに夫婦の契を結びしより、ふたりはたちまち通力を失ひ、次第に身体重く、動くことさへままならぬまでに立ちいたつた。 ふたりは神聖なる宝玉はともかく、夫婦の契によりてその身魂を涜し、通力を失ひたることを悔い、声をはなつて泣き叫ぶ。 その声はアルタイ山を守る守護神大森別の許に手にとるごとく聞えた。大森別は従臣の高山彦に命じ、芙蓉山にいたつてその声の所在を探らしめた。 高山彦は命を奉じ、ただちに芙蓉山に天羽衣をつけて、空中はるかに翔り着いた。見ればふたりは十二の玉を前に置き泣き叫んでゐる。高山彦は大いにあやしみ、 『汝、かかる美しき宝玉を持ちながら、何を悲しんで歎きたまふや』 と問ふた。ふたりは答ふるに事実をもつてし、かつ、 『貴神司はこの十二の玉を竜宮城に持ちゆき、大八洲彦命に伝献したまはずや』 と口ごもりつつ歎願した。 高山彦はこの物語を聞き、しばし頭を傾け、不審の面持にて思案の体であつた。たちまち物をも言はず、ふたたび羽衣を着し、アルタイ山めがけて中空はるかに翔り去つた。 後にふたりは絶望の念にかられ、その泣き声はますます高く天上に届くばかりであつた。ふたりのまたの名を泣沢彦、泣沢姫といふ。 高山彦はアルタイ山に帰り、大森別に委細を復命した。大森別は、 『こは看過すべからず。汝も共にきたれ』 といふより早く天の羽衣を着し、芙蓉山に向つた。さうして心よくふたりの請を入れ、十二個の玉を受取り、ただちに竜宮城にいたり、この玉を奉献した。 大八洲彦命は大いに喜び、これを千載の神国守護の御玉とせむと、シオン山に立派なる宮殿を造営し、これを安置した。 シオン山は竜宮城の東北に位し、要害堅固の霊山にして、もしこの霊山を魔軍の手に奪はれむか、地の高天原も竜宮城も衛ることのできない重要な地点である。 ここに棒振彦仮の名美山彦、高虎姫仮の名国照姫は、この霊地を奪ひ、かつ十二の宝玉をとり、ついで竜宮城および地の高天原を占領せむとして、主としてシオン山に驀進した。かくていよいよシオン山の戦闘は開始さるるのである。 (大正一〇・一一・六旧一〇・七谷口正治録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 47 天使の降臨 | 第四七章天使の降臨〔九七〕 ここに常世姫は、竜宮城に敗れ、金毛八尾の悪狐と変じ、常世城に逃げかへり、魔神八頭八尾の大蛇とともに、天下を席捲せむとし、ロッキー山、ウラル山、バイカル湖および死海にむかつて伝令をくだした。死海の水はにはかに沸騰し、天に冲するまもなく、原野を濁水に変じて悪鬼となつた。つひにウラル山はにはかに鳴動をはじめ、八頭八尾の悪竜と化し、あまたの悪竜蛇を吐きだした。 バイカル湖の水はにはかに赤色をおび、血なまぐさき雨となつて、四方八方に降りそそいだ。つぎに揚子江の上流なる西蔵、天竺の国境青雲山よりは、しきりに火焔を吐きだし、金毛九尾の悪狐となり、その口よりは数多の悪狐を吐き、各自四方に散乱した。 天足彦、胞場姫の霊より出生したる金毛九尾白面の悪狐は、ただちに天竺にくだり、ついでウラル山麓の原野に現はれた。ここに常磐城といふ魔軍の城がある。その王は八頭八尾の悪竜の一派にしてコンロン王といふ。青雲山より現はれたる金毛九尾の悪狐は、コンロン王の前に現はれ、たちまち婉麗ならびなき女性と化し、コンロン王に愛されつひにその妃となり、名をコンロン姫とつけられた。 コンロン姫はウラル山一帯を掌握せむとし、まづコンロン王を滅ぼさむとして仏頂山の魔王、鬼竜王に款を通じてゐた。コンロン王の従臣コルシカはコンロン姫の悪計を悟り、夜陰に乗じてこれを暗殺した。コンロン王は鬼竜王の悪計を知り、悪竜をして、近づき攻撃せしめた。鬼竜王は、死力をつくして戦ふた。このとき常世国ロッキー山より常世姫の魔軍は黒雲となり、風に送られて、仏頂山近く進んだ。空中よりは黒き雲塊雨のごとく地上に落下し、たちまち荒鷲と変じ、猛虎となり、獅子と化し、狼となつて諸方に散乱し、ここに驚天動地の大混乱が始まつたのである。敵味方の区別なく、世界は大混乱状態に陥り、味方の同志討は諸方に勃発した。 海上には黒竜火焔を吐きつつ互ひに相争ひ、勝敗定まらず、暴風吹き荒み、血雨滝のごとく降り、洪水おこりて山をも没せむとするにいたつた。天空には幾千万とも数かぎりなき怪鳥翼をならべて前後左右にかけめぐり、空中に衝突して、あるひは地上に、あるひは海上に落下し、火焔は濛々としてたちあがり、高き山はほとんど焼けうせ、水上は地震のために巨浪山をなし、天地もほとんど破壊せむばかりであつた。 このとき地の高天原に、国治立命現はれたまひ、大八洲彦命に命じて、天上の天則をもつて地上に宣伝せむとしたまうた。八百万の神司はこの旨を奉戴し、天の鳥船に乗り諸方に駆けめぐり、天則を芭蕉の葉に記し、世界各地に撒布せしめた。されど一柱とてこれを用ゐる者はなく、かへつてこれを嘲笑するばかりである。大八洲彦命はやむをえず、一まづ地の高天原に帰還された。 このとき天上より嚠喨たる音楽聞こえ、数多の従神をともなひ、いういうとして地の高天原めがけて降りきたる荘厳な女神があつた。女神は第一着に竜宮城に現はれ、城内にしばし光玉と化して休息し、ふたたび元の女神となり、従神とともに地の高天原なる、国治立命の宮殿に着かせたまひ、 『この度の地上の大混乱たちまち天上に影響し、天上の状態はあたかも乱麻のごとし。一時も早く大地を修理固成し、もつて天上の混乱を治められよ。吾は日の大神の神使、高照姫命なり』 と伝へられた。 国治立命は神意を畏み、すみやかに地上の混乱を治め、天界を安全ならしめ、もつて天津大神の御目にかけむと答へられた。高照姫命は大いに喜び、大神もさぞ御満足に思召すらむ。妾は急ぎ、貴神の答辞を復命したてまつらむ、と喜び勇んで天上に紫雲とともに帰りたまうた。 (大正一〇・一一・八旧一〇・九栗原七蔵録) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 34 旭日昇天 | 第三四章旭日昇天〔一三四〕 ここに大道別は、大島別の奥殿に導かれ、山野海河の珍味の饗応をふたたび受け、終日終夜うるはしき女性の舞曲を見せられ、絲竹管絃の音に精神恍惚として、鼻唄気分になりゐたりしが、不思議や八島姫の巴形の斑紋は拭ふがごとく消え去り、大道別の斑紋はおひおひ濃厚となりきたりぬ。 ここに大島別は威儀を正し、大道別にむかひ、八島姫のこの度の大難より、大道別の渓間に顛倒しほとンど絶息しゐたるを助けゐたるに、あにはからむや、その面上に巴形の斑紋あらはれ、八島姫の額の斑紋はしだいに薄らぎ消え失せたる次第を物語り、 『汝は吾が娘八島姫の身代りとなりて、荒河の宮の犠牲たるべき運命のもとにおかれたるものなり』 と吐息をつきながら涙を流して物語りけるにぞ、大道別は少しも驚く色なく、涼風面を吹くごとき平気な態度にていふ。 『そは実に面白きことを承るものかな。我はかかる犠牲的行為を心底より喜ぶ。そもそも神たるもの犠牲をたてまつらざれば、怒りて神人を苦しますべき理由あるべからず。これまつたく邪神の所為ならむ。我かつて竜神の滝において悪魔を見届けたることあり、よき研究材料なり。謹ンで貴意に応ぜむ』 と、こともなげにいひ放ち平然として酒をのみゐたりけり。大島別以下の神司らは、おほいに喜び感謝の意を表し、ただちにその準備に着手したりぬ。 いよいよ期日は迫り来れり。神司らは種々の供へ物とともに、大道別を柩に入れ納め、山深く分けいりて、黄昏ごろやうやく荒河の宮に到着し、社前に柩ならびに供へ物を安置し、一目散に逃げ帰りける。 夜は森々と更けわたり、四辺しづかにして、水さへ音なく、静かにねむる深更の丑満時となりぬ。たちまち社殿は鳴動しはじめ、数万の虎狼が一度に咆哮するごとき、凄じき音響聞え来りぬ。 大道別は何の恐るる色もなく、柩の中に安坐して、天津祝詞を幾回ともなく繰返し奏上しゐたるに、たちまち神前の扉はぎいぎいぎいと響きわたりて、眼は鏡の如く、口は耳まで引裂け、不恰好に曲める鼻は菊目石を括りつけしごとく、牙は剣のごとく、白髪背後に垂れ薄蝋色の角、額の左右に突出たる異様の怪物、金棒をひつさげて柩の前に現はれ、どんと一突き地上を突けば、その響きに柩は二三尺も地上をはなれ飛び上りける。さすがの大道別も、すこしは案に相違の面持なりける。 大道別は天津祝詞を一生懸命に、汗みどろになり声をかぎりに奏上したるに、その言霊の響きによりて、柩は自然に四方に解体したれば、大道別はスツクと立ち上りたり。怪物はその勢に辟易して二三歩後方に退きし、その隙間を見すまし、怪物の胸部を目がけて長刀を突き刺しけるに、怪物はキヤツと一声、大地にだうと倒れ伏し、もろくも息は絶にける。大道別はそのままそこに端坐して、神前の神酒神饌その他の供へ物を仁王のごとき手をもつて之をつかみ、むしやむしやと片つ端から残らず平げにける。 しばらくあつて天上より微妙の音楽聞え来たりぬ。大道別はその音楽を酒の肴のごとく思ひつつ、神前の冷酒の残りをがぶがぶと呑みはじめたる時もあれ、たちまち容色端麗にして荘厳無比なる女神は数多の侍神とともに現はれたまひ、言葉しづかに、 『妾は天の高砂の宮に鎮まる国直姫命なり。汝はこれより吾が命を遵奉し、神界経綸の大業を完成するまで、地上の各地をめぐり悪神の陰謀をさぐり、逐一これを国治立命に奏上すべし。それまでは汝は仮に道彦と名乗り、かつ聾唖となり、痴呆と変じて神業に従事せよ。汝には、高倉、旭二柱の白狐をもつてこれを保護せしめむ。使命を遂行したる上は、汝は琴平別命と名を賜ひ、竜宮の乙米姫命を娶はし、神政成就の殊勲者として四魂の神の中に加へむ。夢疑ふなかれ』 と言葉終るとともに、国直姫命以下の神司らの姿は消え失せ、東方の山の谷間よりは紫の雲を分けて天津日の神豊栄昇りに昇りたまひぬ。かたはらを見れば象のごとき怪物、血にまみれて横たはりゐたり。これぞ六面八臂の邪鬼の眷族なる大狸なりける。 それ以後荒河の宮は焼きすてられ、南高山一帯の地方の禍は、跡を絶つに至りける。玉純彦以下の神司らは、大島別の命により数多の神司を引率し、荒河の宮にいたり見れば、大道別は平然として大狸の横に安坐し、天津祝詞を奏上しゐたるにぞ、神司らはかつ驚きかつ喜び、大道別とともに南高山の城内に意気揚々として帰り来りける。大道別は神司らより親のごとく尊敬され、優待されて若干の月日をここに過したりける。 (大正一〇・一二・六旧一一・八加藤明子録) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 35 宝の埋換 | 第三五章宝の埋換〔一三五〕 大道別は道彦と改名し、南高山の城内に長くとどまり、大島別夫妻の非常なる信任を受け、南高山の八島姫を娶はせて、わが身の後継者たらしめむとし、大島別みづから道彦に向つてその旨をうち明し、しきりに勧めて止まざりにける。 また八島姫は生命の恩人なる上、道彦の英傑なるに心底より心をよせ、ぜひ道彦の妻たらむことを祈願しつつありける。道彦は親子の日々の親切にほだされて、これを素気なく辞退するに苦しみゐたりける。 あるとき大島姫は、身体にはかに震動しはじめ、両手を組みしまま上下左右に振りまはし、城内くまなく駆けめぐり、これを静止すること困難をきはめたり。大島別は大いにこれを憂慮し、地の高天原にむかつて、国治立命の救助を祈願せり。道彦はただちに姫の狂暴を取押へむとして後を追ひ、表の階段の上にて姫とともに格闘をはじめける。 その刹那、道彦は階段より顛落して頭部を負傷し、流血淋漓失神不省の態となりぬ。大島姫は初めて口をきり、 『われは南高山に年古くすむ高倉といふ白狐なり。道彦はわが頭首をうち滅ぼせしにより、その仇を報ゆるために姫の体内を借り、これを階下になげつけ、傷口より毒血を注ぎいれたれば、彼はたちまち聾唖となり、痴呆となり、かつ発狂の気味を有するにいたるは火をみるよりも明らかなり。アヽ嬉しや、喜ばしや』 と肩を前後左右にゆすり、足踏みして愉快気に哄笑するにぞ、八島姫はおほいに悲しみ、道彦を抱きおこし、別殿にかつぎこみて種々介抱に手をつくしたれども道彦の容態すこしも変らず、八島姫の言葉にたいして何の反応もなく、ただただげらげらと涎をたらして笑ふのみなりける。 大島姫はふたたび身体を前後左右に震動させながら、大島別にむかひ、 『われはもはや道彦を術中に陥れたれば、これに憑依するの必要なし。イザこれより常世城に遁げ帰らむ』 と言ふかとみれば、大島姫はバツタリ殿中にうち倒れたり。諸神司は右往左往に周章狼狽して水よ薬よと騒ぎまはりしが、やうやくにして大島姫は正気に復し、さもはづかしき面色にて大島別の前に平伏し、城中を騒がせし罪を拝謝したりける。ここに道彦は真正の聾唖にして、かつ痴呆にかかり、全快の望みなきものと一般に信ぜらるるにいたりけるぞ口惜しけれ。 道彦は白狐の高倉と旭の二柱にみちびかれ、南高山の山頂にある数多の珍宝を調査すべく上りゆく。されど痴呆と思ひつめたる神司らは、道彦の行動に毫も注意を払はざりしは、道彦にとりて非常なる幸福なりける。 道彦は、夜陰に乗じ白狐の案内にて山頂に登りみれば、常世姫の間者なる高山彦は、山頂の土を開掘し、すでに種々の珍宝を奪ひ、常世の国に帰らむとして同類とともに、あまたの荷物をこしらへゐたる最中なりき。そこへ突然道彦が現はれきたりたれど、高山彦は、痴呆にして聾唖なる道彦と思ひ、少しも懸念せず種々の宝を掘出し、かつ貴重なる宝物を道彦の背に負はせ、山を下らしめむとせり。一味の曲者はおのおの宝を背負ひ、山を下りゆかむとするこの時、高倉、旭の白狐はにはかに千仭の谷間を平地と見せかけたれば、いづれも平坦の道路と思ひ誤り、残らず谷間におちいり、岩角に傷つき、あるひは渓流に流され、ほとンど曲者の一隊は全滅しをはりしぞ愉快なれ。 高山彦も大負傷をなし、つひに滅亡せしかば、道彦は白狐に導かれ谷間に下りけるに、不思議にも、その谷間は自分のかつて顛落したりし同じ箇所なりき[※第三三章参照]。すべての宝は皆この谷底に集まりありければ、白狐の指示すままにその宝を一所にあつめ、土を掘りてこれを深く秘め蔵し、その上に千引の岩をもつて覆ひ、何くはぬ顔にて帰り来たりける。 南高山の城内には、高山彦以下のあまたの神司の姿見えざるに不審をおこし、四方八方に手配りして、その行方を探しつつありしところへ帰り来たりし道彦の衣類には、血が一面に附着しゐたれば、大島別は、道彦の衣類の血を見て、やや不審を抱きつつありけるところへ、数多の神司は高山彦の屍骸を担ぎ帰り来たりぬ。しかして数多の神司は渓流に落ちて苦しみ、ほとンど全滅せることを委細に奏上したりける。時しも高山彦の従臣なる高彦は、危難をまぬがれ帰り来り、道彦のために全部滅ぼされむとしたることを、涙とともに奏上したりける。 大島別は烈火のごとく憤り、長刀を引抜き、真向より道彦に斬りつけたるに、道彦はヒラリと体をかはし、手をうつて笑ひながら後退りしつつ、 『ここまで御座れ、甘酒のまそ』 と踊りつつ城門をにげだしたり。八島姫は血相かへて道彦の後を追ひつつ門外に出づるや、たちまち暗にまぎれて行方をくらましにける。 (大正一〇・一二・六旧一一・八外山豊二録) (第三四章~第三五章昭和一〇・一・一八於延岡市吉野家王仁校正) |
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霊界物語 | 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 | 36 言霊の響 | 第三六章言霊の響〔二三六〕 『昔の昔、其昔国治立の大神は 天地四方の神人の拗け曲れる霊魂をば 直さむために神柱四方の御国に遣はして 世の立替へを知らせむと東や西や北南 千々に其の身を窶しつつ雪の晨や雨の宵 虎棲む野辺も厭ひなく神の救ひの言の葉を 科戸の風に吹き拡め四方の国々隈もなく 行き渡りたる暁に天教山に現はれし 野立の彦の大神や木花姫の御指揮 地教の山に現はれし野立の姫の大神の 宣示を背にいそいそとめぐり車のいとはやく 変る浮世の有様を心にかくる空の月 つきせぬ願は神人の霊魂、霊魂を立直し 清き神代に救はむとわが身を風に梳り 激しき雨を浴びつつも三千世界の梅の花 一度に開く常磐樹の常磐の松の神の御代 心も清き木花の開いて散りて実を結び スの種四方に間配りし神の恵を白浪に 漂ふ神こそ憐れなり朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも假令天地は倒に 地は覆へり天となり天はかへりて地となるも 何と詮方千秋の恨を胎すな万歳に 神の恵の言の葉に眼をさませ百の神 耳を欹だて聞けよかし聞けば香ばし長月の 九月八日のこの経綸九つ花の開くてふ 今日九日の菊の花花より団子と今の世は 体主霊従の神ばかり世は常暗と鳴門灘 渦まきのぼる荒浪に浚はれ霊魂は根の国や 底の国へと落ち行きて消えぬ地獄の火に焼かれ 或は氷の刃もて無限の艱苦をなめくじり 蛙に出会うたその如く天地はかへる蛇の群 蛇に等しき舌剣を振ふは大蛇の悪神ぞ その悪神に取りつかれ素より清き大神の 霊魂と生れし神人は知らず識らずの其間に 体主霊従となり果てぬ体主霊従となり果てぬ この惨状を救はむと国治立尊もて 百の神々天教の山に集ひて諸共に 赤き心を筑紫潟誠を尽す神々の 清き心も不知火の波に漂ふ憐れさよ 暗路を照らす朝日子の神のみことの隠れます 天の岩戸はいつ開くこの世は終りに近づきて この世は終りに近づきて鬼や大蛇やまがつみや 醜女探女の時を得て荒振る世とぞなりにけり 荒振る世とぞなりにけりあゝ神人よ神人よ 神の救ひの声を聞け耳を浚へてよつく聞け 眼を洗つてよつく見よ眼を洗つてよつく見よ』 と節面白く謡ひながら異様の扮装にて、数多の神人に取囲まれ謡ふ神があつた。祝部神はこの声を聞き、何となく心勇み、祝彦、杉高彦と共に、肩を搖りながらその声目蒐けて突進した。 激しき風に吹き捲くられて、地上の一切は、見るも無残に落花狼藉、神人は烈風に遇ひし蚊の如く、蟆子のごとく中天に捲き上げられてしまつた。されど臍下丹田に心を鎮め神力を蒙りし神のみは、大地より生えたる岩石の如くびくとも動かず、悠々として烈風吹き荒ぶ広野を、風に向つて濶歩しつつ、雄々しくも宣伝歌を謠つた。その声は風の共響きに送られて地教山の高照姫神の御許に達した。真澄姫神、祝姫神の耳にはことさらに痛切に響いたのである。果して何人の宣伝歌であらうか。云はずと知れた月照彦神と祝部神の宣伝歌であつた。 高照姫神は黄金の幣を奥殿より取り出し、烈風に向つて左右左と振り払ひ給へば、風は逆転して東北より西南に向つて吹き捲つた。その時二神使はまたもや歌をよまれた。その歌は地中海の西南なる埃の宮を通行しつつある夫神の耳に音楽のごとく微妙に響いた。真澄姫神は地教山の高閣に登り言葉涼しく謡ひ始めた。 『仰けば高し久方の天津御空に澄み渡る 月照彦の大神の恋しき御声は聞えけり 雨の晨や風の宵この世を思ふ真心の 君が御声は天の下四方の国々鳴り響き 響き渡りて今ここに地教の山まで届きけり 地教の山まで届きけり嗚呼尊しや言霊の 誠の響きは鳴り渡る雄々しき声は雷か 雷ならぬ神の声その声こそは世を救ふ 神の御旨に叶ふべし神の御旨に叶ふべし 妾は茲に大神のみこと畏み日に夜に 世の神人らを救はむと思ひあまりて村肝の 心の空も掻き曇る心の空も掻き曇る 曇るこの世を清めむと心も清く身も清く 光隈なき月照彦の神の命の雄叫びに 四方の草木も靡き伏し伏して仕へむ天地の 草木の神も山川の正しき神は君が辺に い寄り集ひて統神の教へたまひし言の葉の 三千世界の梅の花曇る心の岩屋戸を 一度に開く梅の花月照彦の大神の 霊魂は照るとも曇るとも神の依さしの神業に はむかふ魔神は非ざらむあゝ勇ましき月照彦の 神の命の功績やあゝ勇ましき祝部の 神の命の宣伝よ』 と声涼しく謡ひ始めた。風は涼しき声を乗せて地中海の西南にいます二神の許に送り届けた。二神は勇気百倍して、さしも激しき烈風の中を撓まず屈せず、またもや声を張り上げて、山野河海の神人らに警告を与へつつ、ヱルサレムの聖地を指して進む。 (大正一一・一・一二旧大正一〇・一二・一五加藤明子録) (昭和一〇・三・三〇朝於吉野丸船室王仁校正) |
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霊界物語 | 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 | 37 片輪車 | 第三七章片輪車〔二三七〕 烈風吹荒む埃及の野に現はれたる宣伝使の一行は、ここに東西に袂を別つた。月照彦神は東方を指して膝栗毛の音高く、風に逆らひつつ長髪を振り乱し、つひに樹木の陰に姿を没した。祝部神は杉高彦、祝彦をともなひ、ヱルサレムをさして宣伝歌をうたひつつ道を急いだ。 さしもの烈風も強雨もカラリと晴れて、草のそよぎも止つた。遥の前方より尾羽うち枯らし痩せ衰へたる女人の一柱は、松の大木を輪切にしたる車を曳きつつ北方に向つて進み来たる。よくよく見れば車の上には足なへと見えて一柱の男子が乗つて居る。ちようど箱根山をいざり勝五郎を車に乗せて初花の曳いて来るやうな光景その侭であつた。 女人は細き声を絞りながら、何事か歌ひつつ重たげに車を徐々と曳いて来る。 『雨の降る夜も風の夜も顕恩郷を出でてより 水瀬激しきエデン河夫婦手に手を取り交し 渡るこの世の浮瀬をば浮きつ沈みつ南岸に 着くや間もなく橙園郷猿に似たる人々に 手負ひの身をば追はれつつ深山の奥に分け入りて 星をいただき月を踏み猿の千声百声に 心を痛め胸くだきやつと遁れた鬼の口 大蛇の棲処も後にして天の恵みか地の恩か 暗きわが身は白雲の他所の見る目も憐れなる 夫婦の者は山奥に飢と寒さに戦ひつ 昨日の栄華に引換へて今日は朽木の成れの果 進むも知らず退くも知らぬ深山の谷深く 落ち行くわが身を果敢なみて涙の袖を絞りつつ 夫婦互に抱き合ひ泣いて明かせし暗の夜の 草の枕も幾度ぞ石に躓き足破り 破れ被れの二人連れ夫の病は日に夜に 痛み苦しみ堪へ難き思ひに沈む春日姫 憶へば昔モスコーの八王神の最愛の 娘と生れし身の冥加山より高く八千尋の 海より深き父母の恩親を忘れて常世往く 恋路の闇に迷ひつつ鷹住別の後を追ひ 艱難辛苦の其の果は常世の国の八王神 常世の彦や常世姫夫婦の神の慈み 身に沁み渡り幾年も常世の暗にさまよひし その天罰は目のあたり一度は神の御恵みに 顕恩郷に救はれて南天王の妻となり 諸神人の崇敬一身に集めて栄華を誇りたる 月雪花の夫婦連れ天地の道を踏み外し 横さの道に迷ひたるその身の果は恐ろしや 歩みもならぬ足なへの夫の身をば助けむと 因果は巡る小車のめぐり車の埃及に はげしく野分と戦ひつ秋の木の葉の木枯に 散り行くわが身の浅ましさ霜の剣を幾度か かよわき身魂に受けながらしのぎしのぎて今ここに 着くは着けども尽きざるはわが身の因果と過去の罪 積み重ねたる罪悪の重き荷物は何時の世か 科戸の風に払はめやつらつら空をながむれば 月日は昔のそのままに天津御空に輝きて 四方の木草を照らせども照らぬはわが身の不仕合せ 元の古巣へ帰らむと心は千々に砕けども いとしき夫のこの病たとへ日の神西天に 昇りますとも竜宮の海の底ひは干くとも 行末ながく誓ひてし恋しき夫神を捨てらりよか 生きて甲斐なきわが生命いのちの瀬戸の荒海に 身を投げ島田振りかかるわが身の末ぞ恐ろしき あゝ天地に世を救ふ神はまさずや在さずや あゝ天地に世を救ふ神はまさずや在さずや』 と哀れげに謡ひつつ、こなたに向つて進みくる。 祝部神はこの女性の姿を見て、倒けむばかりに驚いた。祝部神はものをも言はず、この窶れたる女性の面影をつくづくながめ、首を傾け何事か思案に暮るるものの如くであつた。女人は堪へ兼ねたやうに祝部神の袖に縋りつき、頬やつれたる顔を腹の臍の辺りにぴつたり付けながら涙を滝のごとく流し、歔り泣きさへ聞ゆる。 祝部神は痛々しき面色にて、女人の背を幾度となく撫で擦つた。女人は漸く顔を上げ、 『耻かしき今のわが身のありさま、思はぬ所にて御目にかかり、申し上ぐる言葉もなし。妾は貴下の知らるるごとく常世城に仕へ、常世会議の席上にて八島姫と共に、月雪花と謳はれしモスコーの八王道貫彦の長女春日姫にて候。貴下は忘れもせぬ天山の八王斎代彦にましまさずや』 と問ひかけた。 漂浪神は四辺を憚りながら、春日姫の口に手をあてた。春日姫はその意を悟り、 『これは失礼なことを申し上げました。妾は長の旅の疲れに精神衰へ眼くらみ、思はぬ粗忽無礼の段許されたし』 と素知らぬ態を装うた。祝部神は改めて、 『何れの女人か知らねども、貴下の御様子を見れば、凡人ならぬ神人の御胤と見受け奉る。吾は天教山にまします木花姫命の命に依り、世界の立替へ立直しに先立ち、地上の神人に向つて、遍く救ひの福音を宣伝する枝神なり。貴下の言はるる如き尊き素性の者に非ず』 と、態ととぼけ顔をする。祝部神は車上の神人を見て、 『やあ、貴下は』 と頓狂な声を張りあげ、 『何ゆゑ車に召さるるや、合点ゆかぬ』 と眼を丸くし口を尖らせ、鼻をこすりながら問ひかけた。 車上の男子は、さめざめと涙を漂はし、両手をもつて眼を覆ひ頭を垂れた。 アヽこの結果は如何になるであらうか。 (大正一一・一・一二旧大正一〇・一二・一五外山豊二録) |
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霊界物語 | 06_巳_大洪水/国生み神生み/三五教の誕生 | 11 山中の邂逅 | 第一一章山中の邂逅〔二六一〕 樹木鬱蒼として昼なほ暗き長白山の大森林を、か弱き足を踏み占めて、トボトボ来る手弱女の、優美しき姿の宣伝使、叢わけて進みつつ、 春日姫『キヤツ』 と一声、その場に打ち仆れたり。よくよく見れば無残や、足は毒蛇に咬まれて痛み、一足も歩みならねば、岩角に腰うち掛けて、眼を閉ぢ、唇を固く結びながら、その苦痛に耐へず、呼吸も苦しき忍び泣き、呼べど叫べど四辺には、ただ一人の影も無く、痛みはますます激しく、玉の緒の生命も今に絶えなむとする折からに、はるか向うの方より、優美しき女の声として、 春姫『時鳥声は聞けども姿は見せぬ姿隠して山奥の 叢分けてただ一柱天教山の御神示を 山の尾の上や川の瀬に塞る魔神に説き諭し やうやう此処に長白の山路を深く進み来ぬ』 心も赤き春姫の、春の弥生の花の顔、遺憾なく表白して、ここに現はれ来たり。近傍の岩石に腰打掛けて苦しみ悶えつつある一柱の女人のあるに驚き、天が下一切の神人を救ふは、宣伝使の聖き貴き天職と、女人の側にかけ寄りて、背なでさすり労りつつ、介抱に余念なかりける。 女人はやや苦痛軽減したりと見え、やうやうに面を上げ、 春日姫『いづこの御方か知らねども、吾身は女の独旅、草分け進む折からに、名も恐ろしき毒蛇に咬まれて、か弱き女の身のいかんともする術もなき折からに、思ひがけなき御親切、いかなる神の御救ひか、辱なし』 と眺むれば、豈はからむや、モスコーの城中において、忠実しく仕へたる春姫の宣伝使なりける。 春日姫『ヤア汝は春姫か』 春姫『ヤア貴下は春日姫にましませしか。思はぬ処にて御拝顔、かかる草深き山中にてめぐり会ふも仁慈深き神の御引合せ、アヽ有難や、勿体なや』 と、前後を忘れ互に手に手を執り交し、嬉し涙は夕立の、雨にも擬ふ許りなりき。 かかる処に、一柱の荒々しき男現はれ来り、二人の姿を見るより早く、一目散に後振り返り振り返り、彼方の森林めがけて姿を隠したるが、漸時ありて、以前の曲男は、四五の怪しき男と共にこの場に現はれた。 甲『ヤア居る居る。素的滅法界な美しい女が、しかも両個だ』 乙『本当に本当に、黒熊の言つたやうな天女の天降りだよ。別嬪だなア、こいつは素敵だ。しかし男四人に女二人とは、チト勘定が合はぬぢやないか』 甲『そりや何を言ふのだい。自分の女房か何ぞの様に、四人に二人もあつたものかい。女さへ見ると直に眼尻を下げよつて、オイ涎を落すない』 乙は周章てて涎を手繰る。 甲『貴様のその面は何だい、杓子に眼鼻をあしらつた如うな面構へで、女が居るの居らぬのと、それこそ癪に障らア。何程女が癪気で苦みて居つたつて、御前のやうな杓子面に助けてくれと言ひはしないよ。左様なことは置け置け、薩張り杓子だ』 乙は烈火のごとく怒りて、狸の如うな眼をむき、息をはづませる。 丙『アツハヽヽヽヽ杓子狸の橡麺棒、黒い眼玉を椋鳥、鵯、阿呆鳥、阿呆にくつつける薬は無いわい』 丁『オーオー、その薬で思ひ出した。俺は今癪の薬を所持して居るのだ。これをあの女人様に献上しようか』 甲『貴様は女に甘い奴だ、なぜ左様に女と見たら涙脆いのだ。貴様のやうな仏掌薯のやうな面つきで、なんぼ女神様の歓心を買うと思つて追従たらたらやつて見ても駄目だよ。肱鉄砲の一つも喰つたら、それこそよい恥さらしの面の皮だよ』 丁『面の皮でも何でも放つとけ。俺がこの薬を飲ましたら、それこそ女人は全快してニコニコと笑ひ出し、あの優美しい唇から、雪のやうな歯を出して「何処のどなたか知らねども、この山中に苦しみ迷ふ女人の身、この御親切は、いつの世にか忘れませう。アヽ嬉しや、おなつかしや」と言つて、白い腕をヌツと出して、離しはせぬと来るのだ。そこで俺は「コレハコレハ心得ぬ貴き女人のあなた様、荒くれ男の仏掌薯のやうな吾々にむかつて、抱き附きたまふは如何の儀で御座る」とかますのだ。すると女人の奴、梅の花の朝日に匂ふやうな顔をしやがつて「いえいえ仮令御顔はつくねいもでも生命の親のあなた様、どうぞ私を可愛がつてね、千年も万年も」と出て来るのだ』 甲『馬鹿ツ』 と大喝する。 丁『馬鹿ツて何だい、美しい女の姿に見惚れよつて、顔の紐まで解き、貴様の篦作眉毛を、いやが上にも下げて、章魚のやうな禿頭を見せたとて、いかな物好きな女人でも、そんな土瓶章魚禿には一瞥もしてくれないぞ、あんまり悋気をするない、チト貴様の面相と相談したがよい、馬鹿々々しいワ』 とやり返せば、 丙『オイ黒熊、貴様は結構な獲物が有るなンて、慌しく俺らの前に飛ンで来よつて、御注進申し上げたが、一体この女人は何だと思ふ、恐ろしい宣伝使ではないか。若しも此女らの病気でも全快して見ろ、又もや頭の痛む、胸の苦しい「三千世界」とか「時鳥」とか、「照る」とか「曇る」とか吐す奴だぞ。貴様は明盲者だな、こんな被面布を被つてをる奴は俺らの敵だ。こンな奴を助けてやらうものなら、アーメニヤのウラル彦様に、どんな罰を与へられるか知れやしないぞ。いつそのこと皆寄つて集つて、叩きのばしてウラル彦様の御褒美にあづからうではないか』 一同『それが宜からう、面白い面白い』 と目配せしながら、四方より棒千切を持つて攻めかくれば、春姫は涼しき声を張り上げて、 春姫『惟神霊幸倍坐世』 と唱へ、かつ、 春姫『三千世界一度に開く梅の花』 と歌ひ出したるにぞ、一同は頭をかかへ、大地に跼蹐みける。 春姫は、右の人差指を四人の頭上めがけてさし向けたるに、指頭よりは五色の霊光放射して、四人の全身を射徹したり。 一同は、 一同『赦せ赦せ』 と声を立て、両手を合せ哀願するのみ。このとき又もや山奥より、 日の出の守『三千世界一度に開く梅の花』 と歌ふ声、木精を響かせながら、雲つくばかりの男が現はれたり。これぞ大道別のなれの果、日の出の守の宣伝使なりける。 黒熊以下の魔人は男神の出現に膽を潰して、転けつ輾びつ、蜘蛛の子を散らすがごとく逃げ去りぬ。後に三人は顔見合はせて、うれし涙に袖を絞るのみなりき。 (大正一一・一・一七旧大正一〇・一二・二〇藤松良寛録) |
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霊界物語 | 06_巳_大洪水/国生み神生み/三五教の誕生 | 12 起死回生 | 第一二章起死回生〔二六二〕 久方の天と地との大道を、解き分け進む宣伝使、世は烏羽玉の闇の世を、洽ねく照らす日の出の守、深山の奥に分け入りて、神の御旨を伝へ来る、月日も長き長白の、山分け進む神司の、雄々しき姿今ここに、三つの身魂のめぐり逢ひ、深き縁の谷の底、底ひも知らぬ皇神の、恵みの舟に棹さして、大海原や川の瀬を、渡る浮世の神柱。 ゆくりなくも、ここに一男二女の宣伝使は邂逅したりける。春日姫は苦しき息の下よりも幽な声をふり絞り、 春日姫『貴下は大恩深き南天王の日の出の守にましますか。みじめなところを御目にかけ、御耻かしく存じます』 と言葉終ると共に、息も絶え絶えに又もや打伏しにける。日の出の守は両眼に涙をたたへ、黙然として春日姫を打ち眺めつつありしが、ツと立ち上り、傍の叢を彼方こなたと逍遥しながら、二種の草の葉を求めきたり、両手の掌に揉み潰し、雫のしたたる葉薬を春日姫の疵所にあて介抱したりける。 これは各地の高山によく発生する山薊と、山芹にして、起死回生の神薬は、これを以て作らるるといふ。日本では伊吹山に今に発生し居るものなり。 見るみる春日姫は、熱さめ痛みとまり腫れは退き、たちまちにして元の身体に復し、さも愉快気に笑顔の扉開きける。ここに三人は歓喜極まつて、神恩の厚きに落涙したり。 日の出の守はおもむろに春日姫に向ひ、 日の出の守『貴女は顕恩郷の南天王として夫婦睦じく住まはせ給ふならむと思ひきや、思ひがけなき宣伝使のこの姿。変り易きは浮世の習ひとは言ひながら、何ンとして斯かる深山にさまよひ給ふぞ。また鷹住別は如何はしけむ、その消息を聞かまほし』 と訝かしげに問ひけるに、春日姫は一別以来の身の消息を、こまごまと物語り、かつ世の終末に近づけるを坐視するに忍びず、身命を神に捧げて、歩みも馴れぬ宣伝使の苦しき旅路の詳細を物語りけるに、日の出の守は言葉を改めて、 日の出の守『至仁至愛の神心を奉戴し、世を救ふべく都を出でての艱難辛苦お察し申す。さりながら、女たるものは家を治むるをもつて第一の務めとなす。汝が夫鷹住別の宣伝使として浪路はるかに出でませし後のモスコーは、年老いたる両親の御心のほども察しやらねばなりますまい。貴女はすみやかにモスコーに帰り、父母に孝養を尽し、神を祈りて、夫の帰省を心静かに待たせたまへ』 と勧むるにぞ、春姫はその語に次いで、 春姫『隙間の風にもあてられぬ貴き女性の御身の上として、案内も知らぬ海山越えて、神のためとは言ひながら、御いたはしき姫の御姿、一日も早くモスコーに帰らせたまへ。妾は今よりモスコーに汝が命を送り届け参らせむ』 と真心面に表はして、涙と共に諫めけるにぞ、春日姫は首を左右に振り、 春日姫『二司の妾をかばひたまふその御心は、何時の世にかは忘れ申さむ。されど一旦思ひ定めた宣伝使、たとへ屍を山野に曝し、虎狼の餌食となるとも、初心を枉ぐる事のいとぞ苦しければ』 と二司の諫めを拒みて動く色見えざりければ、日の出の守も春姫も、巌を射抜く春日姫の固き決心に感歎し、三人の司は相携へて長白山を下り、東、西、南の三方に宣伝歌を謡ひつつ袂を別ちたりける。 (大正一一・一・一七旧大正一〇・一二・二〇嵯峨根民蔵録) (第一一章~一二章昭和一〇・一・二八於筑紫別院王仁校正) |
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霊界物語 | 06_巳_大洪水/国生み神生み/三五教の誕生 | 21 真木柱 | 第二一章真木柱〔二七一〕 伊弉諾大神の又の御名を、天の御柱の神といひ、伊弉冊大神の又の御名を、国の御柱の神といひ、天照大神の又の御名を、撞の御柱の神といふ。 この三柱の神は、天教山の青木ケ原に出でまして、撞の御柱の神を真木柱とし、八尋殿を見立て給ひて、天津神祖の大神を祭り、月照彦神を斎主とし、足真彦、少名彦[※校正本では「少彦」]、弘子彦、高照姫、真澄姫、言霊姫、竜世姫、祝部、岩戸別その他諸々の神人たちを集へて、天津祝詞の太祝詞を詔らせ給へば、久方の天津御空も、大海原に漂ふ葦原の瑞穂の国も、清く明く澄み渡りて、祓戸四柱の神の千々の身魂の活力に復び美はしき神の御国は建てられたるなり。 ここに伊弉諾神は撞の御柱を中に置き、左より此の御柱を行き廻り給ひ、伊弉冊神は右より廻り合ひ給ひて、ここに天地を造り固めなし給ひ、国生み、島生み、神生み、人生み、山河百の草木の神を生み成し給ふ善言美詞を謡はせ給ひける。その御歌、 伊弉諾神『限り無く果てしも知らぬ大空のその大空の本津空 天津御空の果てのはて九山八海の火燃輝のアオウエイの アオウエイの五柱カサタナハマヤラワ この九つの御柱の父と母との言霊に 鳴り出る息はキシチニヒミイリヰ クスツヌフムユルウケセテネヘメエレヱ コソトノホモヨロヲこれに続いて ガゴグゲギザゾズゼジ ダドヅデヂバボブベビ パポプペピ七十五声生みなして 果てしも知らぬ天地を造り給ひし大御祖 国治立の大神の左守の神と在れませる 其の霊主体従の霊高き高皇産霊の大御神 瑞の身魂の本津神神皇産霊の大神の 御息は凝りて天の原大海原を永遠に 搗き固めたる神の代と寄し給へる高天原の 神の祖の詔畏み仕へまつりつつ 常磐堅磐につき立てし撞の御柱左より い行きて廻りさむらへば照る日の影も明らかに 月の光もさやさやに輝き渡る青木原 大海原も諸共に清く治まる神の国 清く治まる神の国好哉えー神の国 あなにやしえー神の園』 と謡ひながら、撞の御柱を左より廻り始め給ひける。 このとき撞の御柱を右よりい行き廻りて、茲に二柱神は、双方より出会給ひ、国の御柱の神は、男神の美はしき、雄々しき御姿をながめ給ひて喜びに堪へず御歌を詠ませ給ひぬ。その御歌、 『久方の天津空より天降りまし黄金の橋のその上に 月と撞との二柱二神のつまに手をひかれ 天の浮橋度会の月雪花の神祭り 斎ひ治めて伊弉諾の神の命は畏くも 撞の御柱行き廻りめぐりめぐりて今ここに 嬉しき君に相生の千代万代も動きなく 松の神代の礎を築き固めたる宮柱 うつしき神代を五六七の世仁愛三会の鐘の音も 鳴り響きたる青木原御腹の胞衣は美はしく 生ひ立ち侍り天の下山川木草もろもろの 人を生みまし鳥獣昆虫魚に至るまで 天津御空の星の如生みふやします其の稜威 見れども飽かぬ御姿の清きは真澄の鏡かな 清きは真澄の鏡かも月日と光をあらそひて 月日の神と生れませる神の御霊やあなにやし 愛ー男や、愛ー男斯る芽出度き夫神の 天をば翔り地駆けり何処の果を求むとも 求め得ざらめあら尊天の御柱夫神の 雄々しき姿あなにやし愛ー男や、おとこやと 今日の祭りに嬉しくも善言美詞ほぎ奉る 七十五声鈴の音もすべて芽出度き天の原 皇御国と鳴り響く皇御国と鳴り響く 一二三四五六七八九十百千万の神嘉言 一二三四五六七八九十百千万の神嘉言 百代も千代も変らずに百代も千代も変らずに 汝と吾とは天地の鏡とならめ永遠に 神祖とならめ永遠に』 と祝し給ひて、淡島を生ませ給ひぬ。この淡島は少名彦神、国魂神として任けられたまひぬ。されどこの島は御子の数に入らず、少名彦神は野立彦神の御跡を慕ひて、幽界の探険に発足さるる事とはなりける。 (大正一一・一・二〇旧大正一〇・一二・二三外山豊二録) (第二一章昭和一〇・二・一〇於勝浦支部王仁校正) |
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霊界物語 | 06_巳_大洪水/国生み神生み/三五教の誕生 | 22 神業無辺 | 第二二章神業無辺〔二七二〕 爰に天の御柱の神は、女神の宣言を喜び給はず、いたく怒り給ひて、歌もて其の怒りを洩らさせ給ひぬ。其御歌、 『天津御神の御言もて天の柱となり出でし 吾は高天原を知らすべき神のよさしの神司 雲井に高き朝日子の光りも清き神御魂 汝は国土知らすべき豊葦原の神つかさ 天と地とはおのづから高き低きのけじめあり 重き軽きのちがひあり天は上なり地は下よ 男子は天よ女は地よ天は下りて地は上 此逆さまの神業は本津御神の御心に いたく違へるひが事ぞ天は上なり地は下 男子は上ぞ女は下ぞ天と地とを取違ひ 上と下とを誤りていかでか清き御子生まむ いかでか清き国生まむ再び元に立帰り 天津御神にさかしらのこの罪科を詫び了へて 再び神のみことのり祈願奉り御柱を 改め廻り言霊を宣りかへしなむいざさらば いざいざさらば汝が命』 と稍不満の態にて、男神は元の処に帰り給ひけるに、女神も其理義明白なる神言にたいし、返す言葉もなく再び元の処に、唯々諾々として復帰し給ひたり。 その時成り出でましたる嶋は、前述のごとく淡嶋なりき。淡嶋は現今の太平洋の中心に出現したる嶋なるが、此天地逆転の神業によつて、其根底は弛み、遂に漂流して南端に流れ、地理家の所謂南極の不毛の嶋となりにける。 而て此の淡嶋の国魂として、言霊別命の再来なる少名彦命は手足を下すに由なく、遂に蛭子の神となりて繊弱き葦舟に乗り、常世の国に永く留まり、その半分の身魂は根の国に落ち行き、幽界の救済に奉仕されたるなり。 この因縁によりて、後世猶太の国に救世主となりて現はれ、撞の御柱の廻り合ひの過ちの因縁によりて、十字架の惨苦を嘗め、万民の贖罪主となりにける。 ここに諾冊二尊は再び天津神の御許に舞上り、大神の神勅を請ひ給ひぬ。大神は男神の宣言のごとく、天地顛倒の言霊を改め、過ちを再びせざる様厳命されたり。 ここに二神は改言改過の実を表はし、再び撞の御柱を中に置き、男神は左より、女神は右より、い行き廻りて互ひに相逢ふ時、男神先づ御歌をよませ給ひける。其御歌、 『浮世の泥を清めむと天津御神の御言もて 高天原に架け渡す黄金の橋を打ち渡り おのころ嶋におり立ちて八尋の殿をいや堅に 上つ岩根につき固め底つ岩根につきならし うましき御世を三つ栗の中に立てたる御柱は つくしの日向の立花や音に名高き高天原の あはぎが原に聳え立つ天と地との真釣り合ひ 月雪花の神まつり済ませてここに二柱 汝は右へ吾は左左は夫右は妻 めぐりめぐりて今ここに清き御国を生みの親 神伊邪那美の大神の清き姿は白梅の 一度に開く如くなり嗚呼うるはしき姫神よ 嗚呼うるはしき顔容よ汝が命のましまさば たとひ朝日は西の空月は東の大空に 現はれ出づる世ありとも夫婦が心は相生の 栄え久しき松の世を常磐堅磐に立てむこと いと安らけし平けしいざいざさらばいざさらば 天津御神の御言もて国の安国生みならし 島の八十嶋つき固め百の神達草木まで 蓬莱の春のうまし世に開くも尊き木の花の 咲耶の姫の常永に鎮まり居ます富士の峰 空行く雲もはばかりて月日もかくす此の山に 稜威も高き宮柱撞の御柱右左 めぐる浮世の浮橋はこの世を渡す救け船 救けの船の汝が命見れども飽かぬ汝が姿 阿那邇夜志愛袁登女阿那邇夜志愛袁登女 夫婦手に手をとりかはし天と地との御柱の 主宰の神を生みなさむ主宰の神を生みなさむ 浦安国の心安くみたまも光る紫の 雲のとばりを押分けて輝きわたる日の光 月の輝きさやさやにいやさやさやに又さやに 治まる両刃の剣刃の天の瓊矛の尖よりも 滴り落つる淤能碁呂の嶋こそ実にも尊けれ 嶋こそ実にも尊けれ』 と讃美の歌を唱へられたりける。 (大正一一・一・二〇旧大正一〇・一二・二三井上留五郎録) (第二二章昭和一〇・二・一二於木の本支部王仁校正) |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 序歌 | 序歌 やらはれて水の都へ下りけり 瑞の御霊の神にならひて 千早振る神の教を伝へむと善しも悪しきも難波江の 都の空をあとに見て心も清き月照彦の 神の命と諸共に花の都の鶏頭城 蒲団着て寝たる姿の東山三十六峰風も冷き山颪 春とはいへど北山に雪は真白に残りゐて 心の奥は鞍馬山一つ火輝く愛宕の嶺 折から吹き来る嵐山神の恵も高尾山 紅葉の色のわが心夜半の嵐に大足彦の 神のみたまと諸共に塞も高き底の国 根もなき荊棘に囲まれて利鎌の月は西の空 心もかたく七五三の中いつかは晴れむ綾錦 丹波の空を眺めつつ心をくばりし今日の宵 早や一年もめぐりきて月ぬ思ひも幽世の 神の御業の物語東尾見れば聖護院 神のま森も良仁や教の花も桜井の 春も近づく紀元節教の道の加藤時代 ひかれてここに北村の水さへ清く月澄める 池沢原の隈もなく思はぬ耻をかきの内 審判の廷に出でにけりあゝ思ひきや思ひきや 御国のために尽す身の審判の廷に立たむとは 神の教も白波の醜のつかさの醜言に 身はままならぬ籠の鳥空鳴きわたる吐血鳥 四匹の亀に迎へられ心も浅野の文学士 籠を出口の瑞月が高天原に帰りたる 今日の生日を思ひ出で教の御子の手をかりて 名さへ目出度き瑞祥の閣に記念と書きしるす アヽ惟神々々御霊幸はへましませよ。 大正十一年二月十二日 瑞祥閣に於て王仁 |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 05 海上の神姿 | 第五章海上の神姿〔三九八〕 数十艘の大船小船は真帆に風を孕んで、堂々と陣容を整へ進み来る。三笠丸は風に逆らひながら、櫂の音高く進み行く。向ふの大船には、気高き女神舷頭に立ちあらはれ、涼しき瞳滴るが如く、楚々たる容貌、窈窕たる姿、いづこともなく威厳に満ち東天を拝して何事か祈るものの如くなり。傍に眉秀で鼻筋通り、色飽くまで白く、筋骨たくましく、眼光炯々として人を射る大神人立ちゐたり。船中の人々は期せずして此の一神に眼を注ぐ。 (日の出神)『限りも知れぬ波の上救ひの船をひきつれて 黄泉の国におちいりし百の身魂を救ひ上げ 仰ぐも高き天教の山にまします木の花姫の 神の命の御教をあをみの原の底までも 宣べ伝へゆく宣伝使神伊邪那美の大神の 御許に仕へ奉る吾は日の出神司 醜のあつまる黄泉島黄泉軍を言向けて 世は太平の波の上皇大神に従ひて 救ひの神と顕現し善と悪とを立別る この世を造りし神直日心もひろき大直日 直日のみたまを楯となし厳のみたまや瑞みたま 並んで進む荒海の波をも怖ぢぬ荒魂 風も鎮まる和魂世人を救ふ幸魂 暗世を照す奇魂茲に揃うて伊都能売の 神の命の神業は山より高く八千尋の 海より深き仕組なり海より深き仕組なり』 と歌ふ声も風にさへぎられて、終には波の音のみ聞えけり。照彦はこの歌に耳をすませ、頭を傾け、 照彦『モシ松代姫様、今往きちがひました船の舷頭に立てる二人の神様は、恐れ多くも伊邪那美の大神様と、天下に名高き日の出神様でありませう。幽かに聞ゆる歌の心によつて、慥に頷かれます。伊邪那美の命様は、根の国、底の国へお出で遊ばし、最早や此の世に御姿を拝することの出来ないものと、私共は覚悟致してをりました。然るに思ひもかけぬ此の海原で、伊邪那美の神様にお目にかかるといふは、何とした有難い事でございませうか。あゝ実に、貴女様はお父上を探ねてお出で遊ばす船の上で、あの世へ一旦行つた神様が、再び此の世へ船に乗つて現はれ、何処かは知らぬが東を指してお出ましになつた事を思へば、お父上に御面会遊ばすのは決して絶望ではありませぬ。否お父上のみならず、母上も御無事でゐらつしやるかも分りませぬ。何と今日は目出度い事でございませう』 松代姫『あゝ、あの気高い御姿を妾は拝んだ時、何とも言へぬ崇高な感じがしました。又日の出神様とやらのお姿を拝した時は、何となくゆかしき感じがして、わが父上の所在を御存じの方のやうに思はれてなりませぬ。もしや父上は、あのお船にお乗り遊ばして御座るのではあるまいか。あゝ何となく恋しい船だ』 と少しく顔の色を曇らせながら物語る。竹野姫は、 竹野姫『お姉さま、お父さまに会はれた上に、又お母さまに会へるやうなことが御座いませうかな』 梅ケ香姫は静に、 梅ケ香姫『妾のいつもの夢に、お父さまには何時も会へますが、お母さまに会つても、何だか妙な霞に包まれてハツキリ致しませぬ。神様のお蔭で父上にはめぐり会ふ事は出来ませうが、お母さまに会ふといふ事は覚束ないでせう』 主従四人は斯くの如き話を船の片隅でひそひそとしてゐる。船中の無聊に堪へかねて、腰の瓢から酒をついで、互に盃を交す三人の若者あり。追々と酔がまはり、遂には巻舌となり、 甲『タヽヽヽヽ誰だい。この荒い海の中で、死んだお母さまに会ひたいの、会はれるのと言ひよつて、縁起の悪い。ここは何処だと思つてるのかい、太平洋の真中だぞ。三途の川でも血の池地獄でもないワ。死んだ者に、それ程会ひたきや、血の池へでも舟に乗つて渡らぬかい。クソ面白くもない。折角甘い酒がマヅくなつて了ふワ』 乙『貴様、酒飲むと、ようグツグツ管を巻きよる奴だな。何でも彼でも引つかかりをつけ人様の話を横取りしよつて、何をグツグツ喧嘩を買ひよるのだ。あのお方はな、貴様のやうな素性の卑しい雲助のやうな奴とは、テンからお顔の段が違ふのだ。なんだ、仕様もない雲助野郎が、訳の分らぬ事を言つて、寡婦の行水ぢやないが、独りゆうとるワイと心の中で笑つてゐらつしやるのかも知れぬぞ。それだから貴様と一緒に旅をするのは御免だといふのだ。酒癖の悪い奴だな。アフリカ峠を痩馬を追ふ様に、酒を飲まぬ時にはハイハイハイハイと吐かしよつて、屁ばかりたれて、本当に上げも下しもならぬ腰抜けのツマらぬ人間だが、酒を食ふと天下でも取つたやうな気になつて、何をほざくのだ、身の程知らず奴が。一体あのお方はどなたと思つてるのか。恐れ多くもヱルサレムの宮に天使長をお勤め遊ばした結構な神様の箱入娘さまだぞ』 甲『ナヽヽヽ何だ、箱入娘だ、箱入娘がものを言ふかい。馬鹿な事を吐かすな。箱入娘なら俺の所には沢山あるワ。娘ばかりか箱入息子も箱入爺さまでも箱入婆さまでも箱入牛まで、チヤーンととつといてあるのだ』 乙『それは貴様、間違つてケツかる、人形箱の事だらう』 甲『さうだ、人形だつたよ。人形がものを言うて堪るかい』 乙『やア、その人形で思ひだしたが、この海には頭が人間で体が魚で、人魚とかいふものが居るさうだぞ。そいつを漁つて料理して喰ふと、千年経つても万年経つても年が寄らぬといふことだ。一つ欲しいものだのう』 丙『やかましう言ふない。折角の酔が醒めて了ふぢやないか。人の眼の前に立ち塞がりよつてな、エーせめて俺の眼の邪魔なとすない。俺は最前からな、あの三人の三日月眉毛の花のやうな美しいお姿のお姫様のお顔を、チヨイチヨイと拝んで、それをソツと肴にして楽しんでをるのだ。そんな所に立つてガヤガヤ吐かすと、眼の邪魔になるワイ』 かく話す折しも、船底に怪しき物音聞え来る。一同は、 一同『ヤア何だ』 と驚いて一度に立上る。船頭は力なき声にて、 船頭『お客さま達、皆覚悟をおしなさい。もう駄目だから』 甲『ダヽヽヽダメだつて、ナヽヽヽ何がダメだい。ベヽヽヽ別嬪がダヽヽヽダメと言ふのかい』 船頭は大声で、 船頭『船が岩に打つかつたのだ。裸になつて飛び込め、沈没だ沈没だ』 船内一同は一時に阿鼻叫喚の声と化し去りぬ。あゝ松竹梅の手弱女一行の運命は如何。 (大正一一・二・一二旧一・一六桜井重雄録) |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 10 言葉の車 | 第一〇章言葉の車〔四〇三〕 五月姫は立つて唄ふ。 五月姫『あふげば高し天の原い行き渡らふ日の神の うづの都の守護神えにしの糸に繋がれて おしの衾の永久にかはらざらまし何時までも きよく正しき相生のくにの護りと現はれて けしき卑しき曲津見をこらしてここに神の国 さかゆる松も高砂のしま根に清く麗しく すみきる老の尉と姥せぜの流れは変るとも そろふて二人松の葉のたがひに心を合はせつつ ち代も八千代も永久につると亀との齢もて てらす高砂島の森ときは堅磐に治めませ なみ風荒き海原をにしや東や北南 ぬひ行く船の徐々とね底の国の果てまでも のどかにしらす天津神は留の国をば立ち出でて ひ照りきびしき砂原をふみわけ進む四人連れ へり譲れとの御教のほまれは四方に響くなり まさ鹿山津見神様のみのいたづきを救ひつつ むすぶ縁の温泉場めぐり会うたる妹と背の もも世の契百歳やや千代の固め睦まじく いや永久に永久にゆみづ湧き出る珍山の えにしも深き旅の空よは紫陽花の変るとも わが身に持てる真心はゐく千代までも変らまじ うづ山彦の御神にゑにしの糸を結ばれて をさまる今日の夕かな』 と、四十五清音の言霊歌を歌ふ。 駒山彦『ヤア、恐れ入りました。四十五清音の祝ひの御歌、どうか始終御静穏でゐらつしやいますやうに』 珍山彦『オイ、駒山さま、大分によう転ぶな』 駒山彦『きまつた事だ。山の頂辺から、駒を転がしたやうなものだよ。アハヽヽヽ』 珍山彦『サア駒山さま、山の頂辺から駒を転がすのだよ。一つ言霊歌を聴かして貰ひませうかな』 駒山彦『歌は御免だ、不調法だからな』 珍山彦『この目出度い場所で、御免だの、不調法だのと、是非言霊の宣り直しをやつて貰ひたいものだ。主人側の五月姫さまが言霊でお歌ひになつたのだもの、お客側の貴公がまた言霊で返歌をするのは当然だ。吾々は一度歌つたから最早満期免除だ。サアサア早く早く、言霊の駒を山の上から転がしたり転がしたり、珍山彦の所望だ』 駒山彦も、 駒山彦『こまつたな、止むに止まれぬこの場の仕儀、オツトドツコイ祝儀だ。 あふげば高し山の端をいづる月日のきらきらと うづの都を照すなりえにしは尽きぬ五月姫 おしの衾の暖かにかたみに手に手をとり交し きのふも今日も睦まじくくらせよ暮せ二人連れ けはしき山を乗り越えてここに漸く月の宵 さかづき交す目出度さよしま根に生ふる松ケ枝に すずしく澄める月影はせん秋万歳尉と姥 そろふ夫婦の友白髪たかさご島の守護神 ちよに八千代に色深くつるの巣籠る神の島 てらす朝日は清くしてとこよの闇を晴らすなり なつの半の五月空にしに出で入る月照彦は ぬば玉の世を照らしつつね底の国まで救ひゆく の山もかすみ笑ふなるはる(巴留)の栄えは桃の花 ひらく常磐の松代姫ふたりの娘御諸共に へぐりの山をあとにしてほのかに夢の跡尋ね まぎて来りし父の国みたり逢うたり今日の宵 むすぶ夫婦の新枕めでたかりける次第なり もも上彦は年長くやちよの春の玉椿 いづみのみたまの御教をゆはより堅く守りませ えにしは尽きじ月照のよは紫陽花の変るとも わかやぐ胸を素手抱きてゐきと水火とを合せつつ うつし世幽世隔てなくゑらぎ楽しめ神の世の をさまる五月の今日五日』 と歌ひ了れば、珍山彦は膝を打つて、 珍山彦『ヤア、転んだ転んだ、駒公がころんだ』 駒山彦『これで駒山は除隊ですかな』 珍山彦は、 珍山彦『ヤア、じよたいのない男だな。それよりも五月姫さま、アヽこの館の奥さまとならば、じよたいのうしよたいを保つのだよ。心の底から水晶に研いて研き上げて、華を去り実に就き、曲津の正体を出してしまふのだ』 五月姫は小さき声にて、 五月姫『ハイハイ』 とばかりうなづく。 珍山彦『サア、これから御主人公の番だ。まさか否とは言はれますまい。サアサア祝ひ歌を歌つて下さい。珍山彦の註文だ』 正鹿山津見『皆さまの立派な御歌を聴いて、恐れ入りました。私の言霊は、充分研けて居りませぬから、耳ざはりになりませうが、今日は思ひ切つて、神様の御力を借りて歌はして頂きませう。 あゝ思へば昔其の昔高天原に生れませる 心もひろき広宗彦の兄の命に助けられ 神の真釣を補ひのかみと代りし桃上彦の 神の命のなれの果心の駒の進む間に 八十の曲津に使はれて恵も深き広宗彦の 兄の命に相反き二人の兄を退けて かみのまつりを握りたる高天原の主宰神 常世の闇の深くして心は雲る常世彦 常世の姫に謀られて恋しき都や三柱の 愛しき御子を振り捨てて行方も知らぬ流浪の 身のなり果ては和田の原浪に浮べる一つ島 竜宮の島に渡らむと高砂丸に身をまかせ 常世の浪の重浪を渡る折しも吹き来る 颶風に船は打ち破られ吾は儚なき露の身の 朝日に消ゆる悲しさを闇を照らして昇り来る 日の出神の御光や琴平別の救ひ舟 背に跨り遥々と千尋の海の底の宮 乙米姫の知食す竜の宮居の金門守る 賤しき司と仕へつつ涙に沈む折からに 浪を照して出で来る日の出神に救はれて 神伊邪那美の大神や従属の神と諸共に 音に名高き竜宮を亀の背中に乗せられて 躍り浮びし淤縢山祇の神の命や和田の原 つらなぎ渡る浪の上大海原の真中に 皇大神と右左袂を別ち高砂の 朝日も智利の国を越え珍の都に辿り着き 日の出神の任けのまに名さへ目出度き宣伝使 巴留の御国を救はむと山野を渉りはるばると 吾は都に竜世姫三五の月照る真夜中に 威勢も高き鷹取別の醜の軍の戦士が 鋭き槍の錆となり沙漠の中に埋められて やうやう息を吹き返し闇に紛れて帰り往く 負傷は痛く足蹇へて一足さへもままならぬ 破目に陥る谷の底流るる水を掬ぶ時 香り床しく味もよき瑞の御魂の幸はひを 喜び谷間を攀ぢ登り温泉のいさに浴して 百の負傷は癒えたれど如何はしけむ玉の緒の 命の絶ゆる折柄に淤縢山津見や五月姫 珍山、駒山現はれて神の救ひの御手をのべ 助け給ひし嬉しさよ茲に五人の神の子は さしも嶮しき珍山の峠を越えて千引岩の 上に一夜を明しつつ天雲山をも打越えて 木の花姫の分霊大蛇の船に助けられ もとの住家に立帰り憩ふ間もなく淤縢山祇の 神の命の御執成し珍山彦の真心に 今日は妹背の新枕天津御神や国津神 百神等に永久の誓約をたてし今日の宵 清き心の玉椿八千代の春の梅の花 開いて散りて実を結ぶみろくの世までも変らまじ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 高砂島の永久に妹背の仲は睦まじく 親子夫婦は睦び合ひ花咲く御代を楽しまむ 花咲く御代を楽しまむ此世を造りし神直日 心も広き大直日ただ何事も人の世は 直日に見直し聞直し身の過は宣り直し 光眩ゆき伊都能売の神の御魂と現はれて 天地四方の国々を守る諸神諸人と 共に生代を楽しまむ共に足代を楽しまむ』 と、声もすずしく歌ひ終る。一同は手を拍つて感嘆の声を漏らすのみ。珍山彦は、 珍山彦『サアサア、これで婚礼組の歌は一通り済んだ。これから親子対面の御祝ひだ。モシモシ松代姫様、貴女のお番です。御遠慮なく親の前だ、お歌ひなさいませ』 松代姫は、 松代姫『ハイ』 と答へて立ち上りぬ。 (大正一一・二・一三旧一・一七河津雄録) |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 11 蓬莱山 | 第一一章蓬莱山〔四〇四〕 松代姫の歌。 松代姫『松は千年の色深く厳のみろくの守り神 瑞の御魂と現はれし三五教の宣伝使 三葉の彦の神魂清き尊き玉鉾の 広道別と改めて黄金山に宮柱 太知り立てて神の代を治め給ひし神業を 朝な夕なに嬉しみて天地に願ひを掛巻も 畏き神の引き合せ恋しき父に邂逅ひ 心の丈を語りあふ今日の月日を松代姫 待つ甲斐ありて今茲に松竹梅の姉妹は 恋しき父に巡り会ひ又もや母の懐に 抱かれて眠る雛鳥の吾身の上ぞ楽しけれ 吾身の上ぞ楽しけれ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも千代も八千代も変りなき 心やさしき五月姫母の命と敬ひて 心を尽し身を尽し力の限り仕ふべし あゝ垂乳根の父母よ親と現はれ子となるも 遠き神代の昔より天津御神や国津神 金勝要の大神の結び給ひし神業と 聞くも嬉しき今日の宵竜世の姫や月照彦の 神の命の守ります高砂島は幾千代も 山は繁れよ野は栄え花は匂へよ百の実は 枝もたわわに結べかし五日の風や十の日の 雨も秩序をあやまたず稲麦豆粟黍までも 豊に稔れ永久に蓬莱山も啻ならず 鶴の齢の末長く亀の寿のいつまでも 夫婦親子の契をば続かせ給へ国治立の 神の命よ豊国姫の神の命よ平けく いと安らけく聞しめせ天教山にあれませる 木の花姫の御守りは千代も八千代も変らざれ 千代も八千代も変らざれ神に任せし親と子の 心は清し惟神御霊幸はへましまして 世の大本の大御神開き給ひし三五の 言葉の花は天地と共永遠に栄えませ いや永遠に栄えませ』 と述懐歌をうたひ、しとやかに舞ひ納めたれば、竹野姫は又もや起つて、長袖ゆたかに歌ひ舞ふ。 竹野姫『あゝ有難し有難しいづの身魂のみ守りに うづの都を立ち出でてえにしも深き海の上 おさまる胸は智利の国かがやき渡る天津日の きしに昇りて山河をくもなく渡る四人連れ けしき勝れし珍の国こころも晴るる今日の空 さかえに充てる父の顔しら雪紛ふ母の面 すずしき眼月の眉せみの小川の水清く そそぎ清めし神御魂たなばた姫の織りませる ちはた百機綾錦つぼみも開く梅ケ香に てる月さへも清くしてとこよの暗も晴れてゆく なに負ふ清き高砂のにしきの機を織りなして ぬなとも母揺にとり揺らしねがひ叶ひし親と子は のどかな春に逢ふ心地はるる思ひの鏡池 ひびに教ふる言霊のふかき恵みを仰ぎつつ へに来し夢も今はただほーほけきよーの鶯の ま声とこそはなりにけれみじかき夏の一夜さに むすぶも果敢なき夢の世のめぐりて此処に親と子は もも夜の春に逢ふ心地やちよの椿優曇華も いや永遠に薫れかしゆくへも知らぬ波の上 えにしの船に乗せられてよを果敢なみつ進み来る わが身の上を憐みていづの御魂や瑞御魂 うきに悩める姉妹のゑがほも清き今日の宵 をさまる夫婦親子仲四十五文字の言霊の 花も開いて実を結ぶ結びの神の引き合せ 娘と父と母神の今日の団欒ぞ嬉しけれ 今日の団欒ぞ楽しけれ』 梅ケ香姫は又もや起つて歌ひ舞ふ。 梅ケ香姫『ひは照る光る月は冴ゆふかき恵みの父母よ みたりの娘を何時までもよは紫陽花と変るとも いつくしみませ永久にむすぶ縁の糸柳 ながながしくも親と子はやちよの春の来るまで こころ変らぬ松の世のときは堅磐に何時までも もも上彦と現はれて千々の民草守りませ よろづのものを救ひませひがしに昇る朝日影 二日の月は上弦のみいづかくして世を守る よしも悪しきも難波江のいつしか晴るる神の胸 むかしの神代廻り来てなく杜鵑声高く 八千代の春を祝ふらむこころも清き梅ケ香の とこよの春を迎へつつももの千花に魁けて ちり行く後に実を結ぶよろづ代祝ふ神の国 ひかり洽き神の国ふかき恵みに包まれて みろくの御代を松代姫よし野に開く花よりも いつも青々松緑むつびに睦ぶ神人の なさへ目出度き高砂ややま河田畑美はしく こころも直き竹野姫ときは堅磐に栄ゆべし もも上彦の知らす世は千代も八千代も限りなく よろづ代までも栄えませ万代までも栄えませ 思ひは胸に三千年の一度に開く梅の花 心のたけのすくすくと世は治まりて伏し拝む み民の心ぞ尊けれみ民の心ぞ尊けれ 常世の松代くれ竹野世のふしぶしに潔く 色も香もある桃の花梅ケ香慕ふ鶯の 声も春めき渡りつつ血を吐く思ひの杜鵑 声も静かに治まりて松吹く風となりにけり 松吹く風となりにけり緑滴る夏山の 霞をわけて天津日の輝き渡る五月姫 三月三日の桃の花五月五日の花菖蒲 桃と菖蒲の睦びあひ松竹梅の千代八千代 栄ゆる御代ぞ目出度けれ栄ゆる御代ぞ目出度けれ』 と節なだらかに、舞ひ終り座に着きぬ。珍山彦は、 珍山彦『ヤア、天晴々々、これは秀逸だ。天の数歌を三度も繰返された御手際は、三月三日の桃の花よりも、五月五日の花菖蒲よりも、美はしい、尊い目出度い歌であつた。さあさあ、これからは照彦さまの番だよ』 照彦は儼然として立上り、声高々と自ら歌ひ自ら舞ふ。 照彦『天地百の神たちのその喜びをただ一人 うけさせ給ふ桃上彦の神の命の宣伝使 地の高天原を出でまして御稜威も高き高砂の 島に現はれ正鹿山津見の命の珍都 音に名高き淤縢山祇の神の命や村肝の 心の駒山彦司御稜威輝く蚊々虎の 名もあらたまの貴の御子木の花姫の御恵に 珍山彦と宣り直し心も晴るる五月姫 鴛鴦の衾の幾千代も外へはやらぬ悦びは 御稜威も高き高砂の浜辺に繁る松代姫 世は呉竹野すくすくと梅ケ香匂ふ神の島 月日は清く照彦の神の恵ぞ尊けれ 波も静かな国彦の従属の神と諸共に 珍の御国に永久に鎮まりまして高砂や この浦船に帆を揚げて月照彦と諸共に 出潮入潮平けくいと安らけく凪ぎ渡る 大海原に浮く島の国の栄えぞめでたけれ 国の栄えぞめでたけれ』 駒山彦は、 駒山彦『妙々、天晴々々』 と感嘆の声をもらすのみ。珍山彦も手を拍つて、 珍山彦『天晴々々。天晴れ国晴れ皆晴れよ、晴れよ晴れ晴れ晴れの場所、晴れの盃親子の縁、ここに目出度く千代も八千代も、弥永久に祝ひ納むる』 (大正一一・二・一三旧一・一七東尾吉雄録) |
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霊界物語 | 10_酉_黄泉比良坂の戦い | 09 尻藍 | 第九章尻藍〔四三九〕 一時千金花の春、金勝要大神の御分霊言霊姫命の鎮まり給ふ常世国、山野は青く春姫の、百機千機織成して、緑紅白黄色、花咲き乱れ百鳥は、木々の梢に歌ひ舞ひ、天津日かげも麗かに、陽炎の野辺に立つ有様は、大海原の凪ぎたる波の如くなり。竜宮城に救はれて、日の出神と諸共に、琴平別の亀に乗り、智利の海辺にうかび上りし淤縢山津見は、朝日も智利や秘露の国、宇都山峠を踏み越えて、歩みもカルの国境、御稜威も著く高照の山を下りて、神のめぐみも高砂や、常世の国をつなぎつけ、東と西に波猛る、大海原に浮びたる、『間』の国に一人旅、心も軽き簑笠の、盲目もひらく『目』の国の、荒野ケ原を治めむと、草鞋脚絆の扮装に、夜と昼との別ちなく、恵みの露に濡れながら、草の衾に石枕、星のついたる蒲団着て、山河あれし国原を、心も清き宣伝歌、歌ひて進む雄々しさよ。三五教の宣伝使、五六七の神代を松代姫、心直ぐなる竹野姫、梅ケ香姫の夜昼を、露に濡れつつ進み来る。人足繁き十字街、川田の町の真中に、ピタリと合す顔と顔、 淤縢山津見『ヤア、貴女は珍の都の城主、正鹿山津見の御娘子におはさずや。風に香へる梅ケ香の、床しき後を尋ねつつ、此の町の入口まで、スタスタ進み来る折しも、町人の噂によれば、年は二八か二九からぬ、十九や二十の美しき女の宣伝使通過ありとの女童の囁き、まさしく御姉妹にめぐり会ふ時こそ来れりと、心の駒に鞭つて、思はず駆出す膝栗毛、イヤ去年の夏、アタルの港に上陸し、玉山の山麓にてお別れ申してより[※淤縢山津見と松竹梅の宣伝使は照山峠の麓で別れた(第9巻第14章「闇の谷底」)のであって、玉山の山麓で松竹梅の宣伝使で別れたのは虎公(志芸山津見)・熊公である(第9巻第22章「晩夏の風」)。このセリフは意味不明。]、何の便りも夏虫の、秋も追々近づきて、哀れを添ふる心の淋しさ。鬼をも挫ぐ淤縢山津見の大丈夫さへも、かくも淋しき秋の旅、紅葉は散りて啼く鹿の、しかとお行方も探すによしなく、心の色の紅葉散る、智利の山路を踏み越えて、『間』の国に来る折しも、心驕れる鷹取別が目付の者に捕へられ、常世の国に送られ給ひしと聞きたる時のわが思ひ、隙間の風にもあてられぬ花の蕾の女宣伝使、秋野にすだく虫の音の、いとど哀れを催して、男泣きにぞ泣きゐたる、折から囁く人の口、聞き耳立つる時の駒、花の姿の宣伝使、艶麗まばゆきばかりのやさ姿と、道説きあかす『目』の国の、今目のあたり御目にかかり、嬉しさ、悲しさ、御いたはしや、その御姿のやつれさせ給ふことよ。神の御為め道のためとは言ひながら、聖地ヱルサレムに於て神政を掌握し給ひし天使長、桃上彦命の御娘子の雄々しき御志、男子としての吾等、実に汗顔の至りに堪へませぬ』 と、三人の娘が応答するの暇さへ与へず、心のたけをくだくだと、賤の小田巻繰返すのみ。 松代姫『どなたかと思へば淤縢山津見の宣伝使様、珍しい所で御目にかかりました。妾姉妹三人は『間』の国の酋長春山彦に助けられ、照彦の戸山津見、駒山彦の宣伝使にめぐり会ひ、月、雪、花の三人の春山彦が娘と共に、この『目』の国に進み入り、メキシコ峠の山麓にて、あちらへ一人こちらへ三人と袂を別ち、宣伝歌を歌ひつつロッキー山に進み行かむとする所でございます。マアマア御壮健でゐらせられます。貴下に妾は異郷の空で巡り会ふことの嬉しさ、天にも上る心地がいたします。ここは路の上、彼方の森に行つて休息の上ゆるゆるお話をいたしませうか』 淤縢山津見『それも宜しからう。然らば、あの森を目当に一足参りませう』 ここに一男三女の宣伝使は、宣伝歌を歌ひながら東北指して進み行く。永き春日も早西に傾きて、四辺は霧の如き靄に包まれ、闇の帳は下されて四辺は暗く、千羽烏は空を包んでカハイカハイと啼きわたる。夕暮告ぐる鐘の音は、四人の胸を打ちて秋の夕の寂寥身に迫る。 花の姿を『目』の国の、野辺にさらすも糸桜、心も細き糸柳の、並木を縫うて進み行く。俄に前方にあたり、騒々しき物音聞ゆるにぞ、四人は思はず立ちどまり耳を傾くれば、宵闇の空を通して細き篝火瞬き出し、忽ち宣伝歌が手にとる如く聞え来る。一同は声する方に引きつけらるる如く近より見れば、数百人に取り囲まれ、何か頻りに述べ立つるものあり。 四人は窃に足音忍ばせつつ、闇に紛れて群集の中に紛れ込み、よくよく見れば一人の男、小高き巌の上に立ちて、頻りに群集に向ひ何事か説き諭しゐる。 群集の中より、眼のクルリとした鼻の左に曲つた、色黒の大男は宣伝使に向ひ、 牛雲別『ヤイ、貴様は三五教の宣伝使であらう。ここは常世神王の御領分なるぞ。ウラル教を奉じて、民心を統一する神国なるに、汝等が如き悪宣伝使、魔術を使つて常世の城を攪乱し、鷹取別の司の高き鼻をめしやげさせたる悪神を奉ずる宣伝使であらう。この方は牛雲別と申す者、汝を召し捕らむがために、常世神王の大命を奉じて、三五教の宣伝使を捜索に来たのだ。この『目』の国は、その名の如く鷹取別の幕下の鵜の目、鷹の目、目を光らす国だ。サア、その巌を下つて尋常に縛に就け。もはや叶はぬ。ヂタバタしたとても、かくの如く数十人の手下をもつて取り囲みたる以上は、汝が運命ももはや百年目、素直に降伏いたせ』 と雷の如き声を張り上げて呶鳴りゐる。巌上の宣伝使は、殆ど耳に入れざる如き鷹揚なる態度にて、 蚊々虎『アイヤ、牛雲別とやら、よつく聞けよ。吾こそは汝の言ふ如く三五教の宣伝使だ。如何に多勢を恃み吾を取り囲むとも、吾には深き神護あり。一時も早く此の世を乱すウラル教を捨てて、治国平天下の惟神の大道なるわが教を聞け。常世神王かれ何者ぞ。鷹取別かれ何者ぞ。積悪の報い、神罰立所に下つて鼻挫かれしその哀れさ。斯くの如き神の戒めを受けながら、なほ悔い改めずば、鷹取別が臣下たる汝等が鼻柱、一人も残らず粉砕し呉れむぞ。サア、わが一言は神の言葉だ。救ひの声だ。きくか、きかぬか、善悪邪正、天国地獄の分水嶺、この巌の如き堅き信仰を以てわが教に従ふか。否むに於ては吾は千変万化の神術によつて、汝等が頭上に懲戒を加へむ。汝等の中、わが言葉の身に沁みし者は名乗つて出よ』 と牛雲別の雷声に数倍せる銅鑼声して、獅子の咆ゆるが如く唸りゐる。数十人の手下は、この強き言霊に胆を挫がれ、耳を塞ぎ、思はず地上に縮み踞むぞをかしけれ。 牛雲別は、 牛雲別『エヽ面倒なり、思ひ知れよ』 と言ふより早く、巌上に羅刹の如き相好にて駆け上り、鉄拳を固め、宣伝使の面部を目がけて、骨も砕けよとばかり力を籠めて殴りつけむとする。 この時遅く、かの時早く、宣伝使は飛鳥の如くヒラリと体をかはし、牛雲別の足に手をかくるや否や、牛雲別はモンドリうつて、さしもに高き巌上より、大地にドツと許り顛落する途端に、体の重みにて柔かき土の中に頭部をグサリと刺し、臀部を天にむけ、花立の如き調子にて手足を藻掻き居る。 又もや群集の中より、 蟹雲別『吾は蟹雲別なり、わが鉄拳を喰へ』 と云ふより早く、拳骨を固めて打つてかかるを、宣伝使は、 蚊々虎『エヽ面倒なり』 と首筋掴んで、猫を提げし如く片手に撮んで、牛雲別の上に向つて吊り下したり。牛雲別の両足と、蟹雲別の両足はピタツと合うて、ここに面白き軽業が演ぜられたり。頭と頭とは天と地に、尻と尻は向ひ合して、シリ合ひとなりぬ。流石両人の乱暴なる計画も、シリ滅裂となりにける。 『神の誠の道を取違いたすと、頭を土に突込んで足を仰向けにして、のたくらねばならぬぞよ』 との神諭そのままである。 牛と蟹との両雲別は、頭を下に牛のしりの、手四つ足四つ、ドタリと倒けて四つ這ひとなり、蟹雲別の八つ足となつて大地を這ひ廻る可笑しさ、外の見る目も哀れなりける次第なり。 (大正一一・二・二一旧一・二五桜井重雄録) |
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霊界物語 | 11_戌_コーカス山の大気津姫退治 | 08 明志丸 | 第八章明志丸〔四七五〕 山川どよみ国土揺り曲神猛ぶ常暗の 雲を晴して美しき神代を建てて黄金の 世界を造り固めむと黄金山に現れませる 三五教の宣伝使東雲別や青雲の 別の命はやうやうに百の悩みを忍びつつ 神の仕組もクス野原男女六人の神司 荒野ケ原にめぐり会ひ西へ西へと北の森 一夜の露を凌ぎつつ神の教を畏みて 道も明志の湖のこなたの郷に各自に 袖を別ちて進み行く錦の木の葉散り果てて 北風寒き冬の空地は一面の銀世界 行きつ倒れつ雪の路春をも待たぬ梅ケ香の 薫ゆかしき宣伝使明志の湖の岸の辺に 独りとぼとぼ着きにける。 明志丸は数十の船客を乗せ、今や出帆せむとする時であつた。梅ケ香姫は急ぎ船中の客となつた。骨を裂く様な寒風はヒユーヒユーと笛を吹きて海面を掃き立てる。浪に揉まれて船の動揺は刻々に激しくなつて来た。大抵の船客は寒さと怖さに慄ひあがつて、船底に小さくなりてかぢりつく様にして居る。中に四五人の男は腰の飄の栓を抜いてソロソロ酒を飲み始めたり。 甲(勝公)『空は何ンだか、ドンヨリとして日天様も碌に見えず、白い雲が一面に天井を張つて居る。地は見渡す限り真白けだ、青いものといつたら、此明志の湖と貴様の顔丈だ。一つ一杯グツとやつて元気をつけたらどうだい』 乙(八公)『イヤ俺は下戸で………貴様一人飲ンだら宜からう』 甲(勝公)『オイ八公、貴様は飲ける口だから、お相手にして遣らう』 と杓を突出す。八公は杓を受取りて、瓢より注いでは飲み注いでは呑む。だんだんと酔が廻り、 八公『オイ勝公、貴様は何時にない悄気た顔しやがつて、チツト元気を出さぬかい。北の森で宣伝使に縛られやがつて、それからと云ふものは大変に顔色が悪いぞ』 勝公『喧しい云ふない。今作戦計画をやつて居る所だ。アーメニヤのウラル彦の神さまから、北の森へ宣伝使がやつて来るに違ないから、彼奴を縛つて連れて来いと云ふ命令を受けて毎日日日夜昼なしに張つて居つた処、大袈裟にも一度に六人もやつて来やがつたものだから、如何に強力な俺も、一寸面喰つたのだ。村の奴は何奴も此奴も腰抜計りでビクビクと震ひあがつて、みんな逃げて了ふなり、俺一人が何程固くなつて気張つたところで、どうにも斯うにも仕方がない、是からお断り旁村の奴の腑甲斐ない事を、ウラルの神に注進に行くのだ。オイ貴様等も弱虫の中だ』 八公『えらさうに言ふな、霊縛とかいふものをかけられやがつて、寒空に一日一夜も化石の様になつて、目ばつかりギヨロつかせて、見つともない涙をボロボロ垂して居たぢやないか、村の奴が居らぬと思つて偉さうに云つても、此処に証拠人が居るぞ、貴様が村の者の悪い事をウラル彦に言ふのなら勝手に言へ、俺は村中の総代で、斯うやつて四人が行くのだ。貴様の欠点を全部申上げるのだから、無事に帰れると思ふな』 勝公『馬鹿を云ふな、なにほど強力無双の勝ちやまでも、雑兵がガチガチ慄して居るやうな事でどうして戦闘が出来るか。オイ鴨公、貴様何だ、慌て一番先に宣伝使の前へ行きやがつて逃腰をした時の態つたら、本当に絵にもない様な姿だ。マア喧ましう言はずと厭でも応でも酒でも喰つて元気を附けて、ここで一つ和合をしたらどうだ。見直し聞直し詔直しだ』 八公『コラ勝公、貴様そンな事云ふとやられるぞ。知らぬ間に三五教に魂を取られやがつて、宣伝歌の様な事を吐くぢやないか。三五教と云ふ奴は、月が照るとか走るとか、雪が積むとか積まぬとか、海が覆るとか潮もない事をほざく教だ。伝染り易い奴だな、全然虱の子孫みた様な奴だ』 勝公『ナニ虱の子孫だ、馬鹿にするな、虱の本家本元は勝ちやまだ。一寸見い俺の頭を、一寸掴んでも一合位は養うてあるぞ。虱と云ふ奴は生れ故郷がないと云うて悔むと云ふ事だが、其生れ故郷と云ふのは勝ちやんの頭だ。何奴も此奴も虱をわかしやがつて、俺の頭にわいたと吐かさずに、うつつたうつつたと吐かすものだから、虱の奴生れ故郷がないと云つて泣きやがるのだ。虚偽の世の中と云ふのは是でも能く分る』 鴨、小さい声で、 鴨公『オイ、今あの隅くらに蓑笠を着て乗つて居る奴、どうやら宣伝使らしいぞ』 八公『さうだ水を呉れと吐かす奴だ』 鴨公『水を呉れと云つたつて、こんな塩水は飲まれたものぢやない。米の水でも一杯飲ましてやつて、どうだ退屈ざましに踊らしたら面白からう』 勝公は『ヨー』と言ひ乍ら、酔眼朦朧と女の方を見詰め、 勝公『ヤア占めた、ハア是で北の森の失敗も償へると云ふものだ。船の中だ、彼奴が上陸る時に我々が前後左右から、手を執り足を取り、後手にふん縛つて、アーメニヤへ連れて行く事にしようか。兎も角酒を呑まして酔はすが一等だ』 鴨公『そいつは駄目だぞ。三五教といふ奴は、酒は飲むな喰ふなと吐す奴だ』 八公『ソリヤ表面丈だ、酒喰はん奴が何処にあろかい、御神酒あがらぬ神はないと云つて神さまでさへも酒を飲まれるんだ。其神のお使が酒を嫌ひなんてぬかすのは、そりや偽善だ。彼奴の前で美味さうな香をさして、飲んで飲んで呑みさがしてやらう。さうすると、宣伝使が舌をチヨイチヨイ出しよつて唇を甜り出す、そこで、オイ姐さま一杯と突出すんだ』 鴨公『俺は下戸だから酒の様子は知らぬが、そんなものかいなア』 女宣伝使はムツクと立つて、宣伝歌を歌ひ始めた。 梅ケ香姫『神が表に現はれて常夜の暗を明志丸 救ひの船に乗せられて憂瀬に沈む民草を 救はむ為の此首途千尋の海の底よりも 深き恵の神の恩教へ導き北の森 堅き巌に腰かけて茲に六人の宣伝使 息を休らふ折柄にウラルの神の間者 二つの眼を光らせて窺ひ来る可笑しさよ 何れの方と眺むれば心許りの勝さまや 蛸の様なる八さまの足もヒヨロヒヨロ鴨々と おどして見たら腰抜かしかもて呉れなと減らず口 高彦さんの鎮魂に化石の様に固まつて 一夜一日を立暮し妾一同の後追うて 三五教の宣伝使取逃がしたる事由を 明志の湖の荒浪に揉まれて進む気の毒さ 酒の機嫌にまぎらして互に泡を吹く風に』 勝公『コラコラ何を吐しやがるのだ。女の癖に勝さまだの、蛸だの、鴨だのと、猪口才な三五教の教は善言美詞と吐して居るぢやないか、風引くも引かぬも抛つときやがれ、弱味に附込む風の神さまと云つたら俺の事だぞ。此間は六人も居やがつたので、見逃しておいたのだ。今日は幸ひ貴様一人だ、焚いて喰はうと、煮て喰はうと、引裂かうと俺の勝手だ。サア、モ一つほざいて見い、ほざいたが最後貴様の笠の台は鱶の餌食だ』 梅ケ香姫『ホヽヽヽヽ、勝さんとやら、末まで聞いて下さいな』 勝公『エツ、聞かぬ。此大勢の中で、勝さまが勝つたの負けたのと、恥を振舞ひやがつて男前が下がるワイ。斯うなれば意地だ、貴様に勝つたか負けたか、此処で一つ、此湖ぢやないが明志をして、俺のあかりを立てねばならぬのだ。どちらが善か悪か、明志暗しは今に分るのだ』 と言ひ乍ら、鉄拳を振上げて、梅ケ香姫に打つて掛らうとする。此時襟髪をグツト握つて二三尺ばかり猫をつまむだ様に提げた男がある。 男(時公)『アハヽヽヽ、サア勝か負か明志の湖だ。此手を離したが最後、勝は鰹の餌食だ』 勝公『マアマア、待て待て、待てと言つたら、待つたが宜からうぞ。一つよりない生命だ大切にせぬかい。俺でも神様の分霊だぞ。俺は貴様に殺されたつてビクともせぬ男だが、貴様が神のお宮の此方を損つたら、貴様に罰が当るから、殺すなら殺せ、地獄で仇討をしてやるから………』 男(時公)『減らず口を叩くない、一つ、貴様は酒を喰ひ酔つて大分に逆上て居るから、調和の取れる様に、水の中へ一遍ドブ漬茄子とやつてやらうかい』 勝公『マアマア待つて下さい、同じ天の下のおほみたからだ。四海同胞だ』 男(時公)『ここは魔海死海と言うて、ここは人の死ぬ海だ。此死海へ御註文通り死海ドボンとやつてやらう』 勝公『オイ八、鴨、何故愚図々々としてやがるのだ、此奴の足を攫へぬかい。此奴を死海ドボンだ』 鴨公『態ア見やがれ、強い方へ附くのが当世だ、貴様が強いと思うて、俺等は何時も、表向はヘイヘイハイハイ言うて居るものの、後向に舌を出してゐるのも知りやがらずに、よい気になつて村中で暴れ廻した其報いだ。天道さまは正直だ、貴様がドブンとやられたら、北の村は餅搗いて祝ふぞい』 勝公『人の難儀を見て、見殺しにするのか』 八公『見殺しも糞もあつたものかい、………もしもし、何処の何方か知りませぬが、さう何時までも提げては、お手が倦いでせうから、今の死海ドボンとやらをやつて下さい』 勝公『コラ貴様までが相槌打ちやがつて、友達甲斐のない奴だ』 男(時公)『アハヽヽヽ、弱い奴だ、そんなら一寸また後の慰みに見合しておかうかい』 勝公『あとは後、今は今、一寸先や暗の夜、暗の後には月が出る』 八公『月は月だが運のつきだ、俺も貴様に愛想がつきた』 一人の男は勝公をソロリと船の中に下してやつた。 勝公『ヤ、有難う御座いました、お蔭で生命が助かりました』 男(時公)『ヤア、暫くお預けだ』 八公『まるで狆みたいに言はれてけつかる』 男(時公)『ヤア、これはこれは梅ケ香姫様、不思議な所でお目にかかりました。皆の方はどうなさいました』 梅ケ香姫『ヤ、あなたは時さまであつたか』 (大正一一・三・一旧二・三松村真澄録) |
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霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 総説歌 | 総説歌 葦原の瑞穂の国の中津国その真秀良場や青垣の 山を四方にめぐらして流れも清き小雲川 淵瀬と変る世の中はめぐりめぐりて二十四年 地の高天原も治まりて鬼の姿もみずのえの 大蛇探女も戌の春干支もめぐりて如月の 今日の八日は三めぐりの月日の車後にして 梅が香薫る月の空高く輝く瑞月は 八重黒雲につつまれて浮世のなやみ覚りたる 神のめぐみの幸はひて心の岩戸開きつつ 明れば二月九つの日は西山に傾きて 月照る夜半の独寝の夢を破りし芙蓉山 神の使の現みたま五六七の御代を松岡の 使の神に誘はれ千歳の松の繁り合ふ 堅磐常盤の巌窟にさしこもらひて天地の 神の教を受継し名も高熊の岩の前 天津御空に月照の神はわが身を照しつつ 鎮魂や帰神審神の道も授けられ 現界、神界、幽界を産土神に伴はれ 須弥仙山に攀ぢ登り宇宙の外に身を置きて 過去と未来と現在の世の状況を悟りたる 十二の干支も三廻りのいよいよ今日は村肝の 心洗ひて霊界の奇しき尊き語り言 十二の干支に因みたる十二の巻の筆始め 松の大本神の村弥仙の山を仰ぎつつ(松村仙造) 天地造化の物語り月は外山の頂に(外山豊二) 豊二かがやき岩田かく夜も久方の太御空(岩田久太郎) 隈無く照れる谷村や藤津久子や高木氏(谷村真友・藤津久子・高木鉄男) 中野祝子や武郷氏真の友の寄り合ひて(中野祝子・同武郷) 神世に進む加藤時代新月空に明らけき(加藤新明) 梅の花咲く今日の春めぐりめぐりて北村の(北村隆光) 神の稜威は隆光る本宮山の上下に(山上郁太郎) 百花千華馥郁と咲き匂ひたる太元の 神の教の名西負ふ本宮村の真秀良場に(西村徳治) 神の御徳もいやちこに清く治まる五六七の世 松の常磐の心もて神の教を説き啓く 松雲閣の奥の間に厳の御魂の開きたる(松雲閣) 神世を経の御教言うまらに委曲に説き別くる 錦の機の緯糸の横たはりつつ緯の役 つとむる今日ぞ芽出度けれ。 大正十一壬戌年三月六日旧二月八日 於松雲閣王仁 |
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霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 08 思出の歌 | 第八章思出の歌〔五〇四〕 月日の駒の関も無く豊にめぐり如月の 上九日の今日の日は稜威も高き高熊山の 神の巌窟に誘はれ五六七の御代を松岡の 九山八海の山の御使月早西に傾きて 風も静まり水さへも子の正刻に賤の家を そつと立出で道の奥の人に知られぬ神国の 花を手折りし今日の日は二十五年の時津風 厳の御魂や瑞御魂教の光隈もなく 清く流るる小雲川常磐の松生ふ川の辺に 聳り立ちたる松雲閣いよいよ十二の物語 聖き神代の消息を音無瀬川の川の瀬に 流すが如くすくすくと滑り出でたる蓄音器 瑞の御魂の開け口梅を尋ねて鳥が啼く 東の遠き都より瑞霊輝く三光堂 松の大本常久に三五の月の御教は(松本常三郎) 円満清朗比ひ無く綾の錦の服部の(服部静夫) 静夫の大人の計ひに谷の戸開けて鶯の(谷広賢) 声も長閑に世を歌ふ広き賢き道の教 神野出口の岩の上に栄え吉しき千代の松(野口岩吉) 本の教の神直日枝も鳴らさぬ神の風(松本直枝) 海の内外に極みなく山は豊二芽含みつつ(外山豊二) 花咲く春も北村の天津御空に隆光る(北村隆光) 聖の御代を松村や弥仙の山に現はれし(松村仙造) 木の花姫の御教を造次顛沛村肝の 心に加けて藤つ代の神代を明す物語(加藤明) 藤の御山の高津神教の道を永久に(藤津久) 伝へむものと中津国野立の彦や野立姫(中野祝) 聖き教の太祝詞宣る言霊は山の上(山上郁太郎) 谷の底まで押しつつむ村雲四方に吹き払ひ(谷村真友) 真の道の教の友心の華も馥郁と 皇大神の伝へ太郎日本心の雄心は 清く空しき仇言を一人も岩田の久太郎(岩田久太郎) 宣る言霊は命毛の筆に任せて記し行く 今日の生日ぞ尊けれなんの辛の酉の年 神の御声を菊月の中の八日に神懸り 神の出口の口開き誠一つの霊界の 奇しき神代の物語二つの巻の口演を うまらに委曲に宣り了へて闇夜も秋の神祭り 事なく済みて万代の基芽出度き瑞祥の やかたに到り名も高き高熊山に百人を 伴ひ参り岩屋戸の貴の稜威を称へつつ 神の集まる宮垣内わが故郷を訪れて 産土神を伏し拝み名さへ芽出度き亀岡の 教の園に立帰り言葉の華の開け口 瑞の身魂に因みたる三つの巻をば半まで 録して帰る竜宮館黄金閣に向ひたる 教主殿に三柱の教の御子に筆とらせ 本宮山や四尾山峰の嵐に吹かれつつ 吹きも吹いたり四つの巻いつかは尽きぬ物語 五の御魂の五つの巻端緒開けて言霊の 速き車に身を任せ千代を岩井の温泉場 神の恵みも暖かに廻るこまやの三階に 五六七の居間を陣取りて五も変らぬ六まじく 六びて語る六つの巻師走三十日になりぬれば 心の駒のせくままに足並早き汽車の上 綾の高天に恙なく帰りて述ぶる七つ巻 錦水亭に横たはり四日の間に述べ終へて 壬戌の節分の祭もここに恙なく 年を重ねて瑞祥の再び館の人となり 祭すませて高熊の峰に二百と五十人 誘ひ詣で神徳の花開くなる八つの巻 九つの巻、十の巻半ならずに引返し 綾の高天の教主殿奥の一間に横たはり 漸く胸も十の巻芽出度く編みて並松の 松雲閣に立帰り七日の夕十一の 巻物語り相済みて思ひ出深き如月の 八日いよいよ十あまり二つの巻に取かかる 斯る尊き神の代のその有様の万分一 一々筆に書きとめて今日の生日を祝ひつつ 世人の為に録すなりアヽ惟神々々 御霊幸はひましませよアヽ惟神々々 御霊幸はひましませよ (大正一一・三・七旧二・九外山豊二録) |
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霊界物語 | 13_子_フサの国・半ダース宣伝使 | 02 波斯の海 | 第二章波斯の海〔五二八〕 世は常暗となり果てて山川どよみ草木枯れ 叢雲四方に塞がりて黒白も分かぬ暗の夜を 隈なく照す朝日子の日の出の別の神の御子 天教山に現れませる木花姫の御教を 曲津の猛ぶ小亜細亜噂に高きアーメニヤの 醜の魔神の巣くひたる都の空を照さむと 神の御言を畏みて天に坐す神地にます 神の教に真名井河目無堅間の船に乗り 西へ西へと印度洋浪を渡りて鶴の島 鶴の港を後にして波斯の海にぞ着きにける。 鶴の湊よりは、数十人の乗客が加はつた。黄泉島の沈没に依りて、波斯の海面は、俄に水量まさり、海辺の低地は殆ど沈没の厄に会ひたりと云ふ。 日の出丸より乗替へたる鶴山丸の船中には日の出別命を初め、ウラル教の宣伝使数名これに乗込んで居る。昼とも夜とも区別の付かぬ薄暗い海面を、船脚遅くなめくぢの如く進み行く。 甲(岩彦)『吾々は斯うやつて、ウラル教の宣伝使として竜宮の一つ島に渡り、殆ど三年になつた。併し乍ら一つ島の守護神なる飯依彦は、中々信神堅固な宣伝使であるから、吾々の折角の目的も、殆ど黄泉島のやうに水の泡と消えて了つた。アーメニヤへ帰つて、どう復命したら宜からうか、それ計りが心配になつて、乾を指して帰るのも、何とはなしに影の薄い様な気分がするではないか』 乙『吾々はウラル教の宣伝使としての力限りベストを尽したのだから、この上何と言つたつて仕方がないではないか』 甲(岩彦)『仕方がないと云つた所で、敵国に使して、君命を辱ると云ふ事は、人としてのあまり名誉でもあるまい。况んや特命を受けて、しかも吾々六人、東西南北より一つ島を包囲攻撃して、唯一人の飯依彦に、旗を捲いて、予定の退却をすると云ふ事は、あまり立派な成功でもあるまい。こりや、何とかして一つの土産を持つて帰らなくては、ウラル彦様に対して申訳がないぢやないか』 丙『オイ岩彦、お前はアーメニヤを出立する時には、どうだつたい。岩より堅い岩彦が、言霊を以て黄泉島を瞬く間に、言向和すと、傍若無人に言挙し、非常にメートルを上げて居つたぢやないか、その時に吾輩が、貴様の不成功は俺の天眼通で明かにメートルと云つたのを覚えてるだろう』 岩彦『ソンナ死んだ子の年を算る様な事を言つて、愚痴るない。過越苦労は、三五教ぢやないが、大々的禁物だ。よく考へて見よ、数百日の間、天の戸はビシヤツと閉つて、昼夜暗黒と云つてもよい位だ。日の出、日の入の区別も分らず、吾々がアーメニヤを出発した時は、朝は清鮮の気漂ひ、東天には五色の幔幕が飾られて、そこから金覆輪の太陽が現はれ、夕方になれば、瑪瑙の様な雲の連峯が西天に輝き、昼夜の区別も実に判然したものであつた。然るに一つ島に上陸した頃から、日々雲とも霧とも靄ともたとへ方なき陰鬱なものが、天地を閉塞して、時を構はず地は震ひ、悪魔は出没し、如何にウラル教の体主霊従の宣伝使でも、一歩否百歩を譲らねばならないと言ふ惨酷な世の中に、どうして完全な宣伝が出来るものか、如何に智仁勇兼備の勇将でも時節の力には到底叶はない、ナア梅彦………』 斯く話す折しも、俄に吹き来る颶風の響、虎吟じ竜躍るが如く、激浪怒濤は白き鬘を揮つて、船体に噛みつき始めた、船は上下左右に怪しき物音を立て、動揺烈しく、浪と波との山岳の谷間を、浮つ沈みつ、漂ひながら西北指して進み行く。暗の帳は下されて、黒白も分かぬ真の暗、忽ち暗中より暴風怒濤の声を圧して、宣伝歌が聞え来たりぬ。 日の出別命『神が表に現はれて善と悪とを立別ける ウラルの彦やウラル姫コーカス山に現はれて この世を欺く神の宮太敷立てて三柱の 皇大神を斎きしは昔の夢となりはてて 今は僅に美山彦国照姫の曲神を 守護の神となぞらへ常世の国に打渡り 随従の神を海原の浪に漂ふ一つ島 宝の島に出立たせ山の尾上や川の瀬を 隈なくあさりてウラル教神の教を悉く 敷き弘めむと村肝の心をつくしの甲斐もなく 黄泉の島のその如く泡と消えたる憐れさよ 高天原に現れませる神伊弉諾の大神の 神言のままに花蓮草教を開く天教山の 神の聖地を後にして日の出の御船に身を任せ 津軽海峡後にして天の真名井の波を分け やうやう茲に印度の海深き恵をかかぶりつ 名さへ芽出度き鶴の島松の神代に因みたる 鶴の港を船出していよいよここに波斯湾 進み来れる折柄に思ひもかけぬウラル彦 神の教の宣伝使岩彦梅彦あと四人 如何なる神の経綸か鶴山丸の客となり 一蓮托生波の上なみなみならぬ大神の 心の空は掻き曇るあゝ岩彦よ梅彦よ 天教山に現れませる木花姫の御教を 四方に伝ふる宣伝使日の出神の分霊 豊栄昇る朝日子の日の出の別の神司 愈フサの国指して進むもしらに退くも はや白波のこの首途天津御空を眺むれば 墨を流せる如くなり大海原を眺むれば 泥を流せる如くなるこの浪の上にめぐり合ふ 厳の霊の宣伝使岩彦梅彦初めとし 此処に会うたは優曇華の花咲く春の引合せ 皇大神の神言もて日の出の別が詳細に 詔る言霊のその呼吸に汝が霊を洗へかし 天真名井に五十鈴の言霊洗ひ都牟刈の 太刀を清めて曲津見を蹶え放らかし打きため 神の心に復りなば如何に浪風猛くとも 醜の猛びの荒くとも何か恐れむ神の国 あゝ岩彦よ梅彦よ心の雲霧吹払ひ 天の岩の戸押開き直日に見直せ聞直せ この世を紊す曲神の醜の言霊詔り直せ この天地は国の祖国治立のしろしめす 珍の御国ぞ楽園ぞ神の御国に住む人の いかで心を汚さむや瀬織津姫の大神に 汚穢も曲事も能く清め塩の八百路の八潮路の 秋津の姫に許々多久の罪や穢を可々呑みて 曇りを晴らせ天地の神の心に叶へかし あゝ惟神々々御霊幸倍坐世よ 嗚呼惟神々々御霊幸倍坐世よ』 と歌ひ終るや、さしもに猛き暴風激浪も、拭ふが如くに静まり、海面は畳の如く、魚鱗の波を浮ぶるに至りけり。 船中の人々は、この声に驚いて一言も発し得ず、日の出別命の神徳に驚嘆の目を眸るのみ。岩彦は小声にて、 岩彦『オイ梅彦、音彦、亀彦、大変ぢやないか、エライ奴が乗つて居て、吾々に非常な鉄槌を喰はしよつたぢやないか、向ふは一人、此方は宣伝使の半打も居つて、衆人環視の前でコンナ神力を見せられては、ウラル教も薩張り顔色なしだよ。ナントか一つ、復讐を行らなくては、失敗の上の失敗ぢやないか。日の出別とか云ふ三五教の宣伝使が、フサの国へでも上つたが最後、あの勢でアーメニヤの神都へ進撃されようものなら大変だぞ』 亀彦『さうだなア、コラこの儘に放任して置く訳には行かない。お前は吾々一行の中での、チャーチャー(教師先生の意)だから、何とか良い御託宣でも宣示して呉れさうなものだ』 岩彦『訳も知らずに、燕の親方のやうにチャーチャ言ふものじやないワ。マアこの先生の妙案奇策を聴聞しろ』 亀彦『ヘン、えらさうに仰有りますワイ、目玉を白黒さしてその容子は何だ。蟹の様な泡を吹いて、大苦悶のていたらく、身魂の基礎がグラついて居るから、どうして妙案奇策が出るものかい。何分に戦ひは、将を選ぶと云つて、吾々万卒が骨を枯らしても、一将功成れば未だしもだが、貴様の大将は魂に白蟻が這入つてゐるから、統率その宜しきを得ず、万卒骨を枯らし、一将功ならず、一しようの恥を曝して帰らねばならぬのだ。コンナ大将に統率されて、どうして神業の完成が望まれよう、バベルの塔ぢやないが何時までかかりても、成功する気遣ひはない。ピサの塔のやうに斜になつて、何時ピサリと倒れるか分つたものぢやない。猫に逐はれた鼠のやうな面をして、アーメニヤに帰つた所でウラル彦さまに「貴様何をして居つた」と、いきなり横つ面をピサの塔とお見舞申され、これはこれは誠にハヤ恐れ入りバベルの塔と、たう惑顔するのは目に見るやうだ。引かれ者の小唄の様な、負惜みは止めて、どうだ一層のこと、日の出別の部下となつて三五教に急転直下、沈没したらどうだらう』 岩彦『チト言霊を慎まぬか、船の上は縁起を祝ふものだ、沈没なぞと、気分の悪い事を言うな。黄泉島ぢやあるまいし………』 梅彦『さうだ、亀彦の言ふ通り、あまりウラル教の神力がないのか、大将の画策宜しきを得ないのか知らんが、コンナ馬鹿な目に会つた事はない。二つ目には時世時節ぢやと、岩彦はいはんすけれど、ソンナ事はアーメニヤヘ帰つては通用しない。どうだ、梅彦の外交的手腕を揮つて、日の出別の宣伝使に、今此処で交渉して見ようかい。交渉委員長になつて、どうしよう交渉と談判をやるのだナア』 岩彦『喧しいワイ』 梅彦『やかましからう、イヤ耳が痛からう、良い加減に言霊の停電がして欲しからう。アハヽヽヽヽ』 岩彦『鮨に糞蝿が集つたやうに、本当に五月蝿い奴だ。さう云ふ事を喋くると、ウラル教の神様が立腹して、又もや暴風雨の御襲来だ。さういふ事は、神様の忌憚に触れる、貴様の言行に対しては、飽くまで吾々は忌避的行動を取るのだ。何ほど貴様が挑戦的態度を執つても、寛仁大度の権化とも言ふべき岩彦は、岩石として応ぜないから、さう思つて幾許でも喋舌つたが宜からうよ。……ナンだその面は、最前からの時化で、半泣きになつて居るぢやないか、見つともない』 梅彦『半泣きになつて居るとは誰の事だい。貴様こそ率先して泣いて居るぢやないか。涙こそ澪して居らぬが、俺の天眼通から見れば唯々泣き面をソツト保留してる丈のものだよ、貴様に共鳴する者は、烏か、千鳥位なものだらう』 岩彦『馬鹿ツ、いはしておけば傍若無人の雑言無礼、了見せぬぞ』 亀彦『オイ梅公、行つた行つた。ヲツシヲツシ………』 岩彦『オイ、犬と間違つちや困るよ』 梅彦『犬ぢやないか、ウラル教の番犬だ』 岩彦『いぬも帰なぬもあつたものかい、吾々はアーメニヤへいぬより往く所はないのぢや』 亀彦『兎も角、ここで一つ思案せなくてはならぬ。三五教は唯一人、此方の宣伝使は半打も居るのだから、強行的態度に出でて、三五教の宣伝使を降服させるか、但は吾々が柔かに出て、ウラル教を開城するか、二つに一つの決定を与へねばなるまい』 岩彦『岩より堅い岩彦は、如何なる難局に処しても、初心を曲げない。善悪共に、初心を貫徹するが、男子の本分だ。貴様、ソンナ女々しい弱音を吹くならば、アーメニヤへ帰つて、逐一盤古神王に奏聞するから、さう覚悟をせい』 亀彦『敗軍の将は兵を語らずだ、何の顔容あつて盤古神王に大失敗の一伍一什を奏聞することが出来ようか、貴様は統率者を笠に着て、吾々五人の者を威喝するのだな、今になつて何れほど威張つたところで、アルコールの脱けた甘酒の腐つたやうなものだ、鑑定人もなければ、飲手もなし、ソンナ嚇しを喰ふ奴が、何処にあるかい、あまり馬鹿にするなよ。それそれ向ふに見えるはフサの国だ。船が着くのには、モウ間もあるまい、この船の中で、一つ交渉を始めなくては、日の出別が上陸したが最後、どうすることも出来やしない。問題を一括して、今此処で秘密会議を開いて、和戦何れにか決せねばなるまいぞ』 又もや以前の如き暴風忽然として吹き来り、鶴山丸の運命は旦夕に迫り来たる。嗚呼この結果は如何。 (大正一一・三・一六旧二・一八松村真澄録) |
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霊界物語 | 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) | 06 楽隠居 | 第六章楽隠居〔五五六〕 弥次、与太、六公の三人は、怪訝な顔して小鹿峠を登つて行く。十七八丁も来たと思ふ頃、路傍に可なり大きな巌窟のあるのに目がついた。 六『弥次サン、与太サン、非常な狭い途になつたものだナア、一方は断巌絶壁、眼下の谷川は激流飛沫を飛ばし実に物凄き光景、一瞥するも肌に粟を生ずるやうだ。そのまた狭い途に大変な巌窟が衝き立つてゐるぢやないか。彼奴はナンデも可笑しい奴だ。ウラル教の奴がこの難所に、吾々を待ち受けして居るのぢやあるまいか』 弥『ヤーホントに馬の背中のやうな細い途に、巌窟がヌツト突き出てゐよるワイ。此奴は些とをかしいぞ。一つここらから石でも抛つて瀬踏して見やうかい』 与『よかろう、一つ測量だ』 と云ひ乍ら、手頃の石を掴んで三人一度に速射砲的に、巌窟目蒐けてパチパチパチと打ちつける。巌窟の中より、 (岩窟の中より)『ヤーイ危ないわい。何をテンゴするのだい』 弥『これほど岩を以て固めた洞穴に石が当つたつて応へるものか。一寸眠りを醒してやつたのだよ。一体そこに居る奴は何者だ』 巌窟の中より『俺だ俺だ。貴様は誰だい』 弥『俺も俺だ。矢つ張り人間だ』 巌窟の中より『貴様はウラル教か、三五教か』 弥『三五教のお方だよ』 巌窟の中より『オーさうか。間違ひはないか。俺も三五教だ、ウラル教の奴に捉へられて、コンナ処へ閉ぢ込められたのだ。助けて呉れないか』 与『オイオイ弥次公、気を付けないといかないぞ。悪神の奴、ドンナ計略をやつてゐよるか分つたものぢやないワ。オイ巌窟の中の代物、貴様は本当に三五教ならば何といふ名だ、言挙げせぬかい』 巌窟の中より『貴様から名を聞かして呉れ。若もウラル教だと駄目だからのう』 与『ハー矢つ張り此奴は三五教らしいぞ。中々語気が確かりしてゐる哩。コンナ穴へ閉ぢ込められて彼れだけの元気のある奴は三五教式だ。ウラル教の奴ならきつと泣声を出しよつて、「モーシモーシ、上り下りのお客サン、何卒憐れと思召し、難儀な難儀な私の境遇を憐れみ下さいませ。モーシモーシ、通り掛りのお旦那様、難儀な盲目でございます」と機械的に乞食もどきに吐かすのだけれど、何処となく言霊に強味があるやうだ。不自由な巌窟の中に閉ぢ込められて居つてさへ、あれ丈けの元気だから、仮令ウラル教にしても少しは気骨のある奴だ。一つ外から揶揄て見やうかい』 弥『それも面白からう。オイオイ巌窟の中のご隠居サン、嘸や御退屈でございませうナ』 巌窟の中より『エー滅相な、小さい穴が前の方に開いて居りますから、時々外部を覗きますと、小鹿川の緑紅こき混ぜて、春色豊に飛沫を飛ばす川の流れ、実に天下の絶景ですよ。お前サンも年が寄つて隠居をするのならコンナ所を選んで、常磐堅磐に鎮座するのだな』 弥『此奴は面白い奴だ。オイオイご隠居サン、お前の年齢は幾つだ』 巌窟の男『俺かい、どうやら斯うやら数へ年の三十だよ』 弥『それはあまり若隠居ぢやないか。人間も三十といへば元気盛りだ。これから五十万年の未来に於て、支那に丘とか孟とか云ふ奴が現はれて、三十にして立つとか吐くぢやないか。今から隠居するのはチト勿体ないぞ。一体お前は何と云ふ男だい』 巌窟の中より『俺は元はウラル教の信者であつたが石凝姥の宣伝使がコーカス山へ往く時に、孔雀姫の館に巡り会ふて、それから改心を致し三五教になつたのだが、神様に対して一つの功もよう立てないので、ナントカ御用に立たねばならぬと、また元のウラル教へ表面復帰して捕手の役に加はつて居つたのだ。さうした所が三五教の宣伝使が二人の供を伴れて関所に迷ひ込んで来た。俺たちの同僚は血のついた出刃を以て猪を料理して居つた所、三五教の奴が来たので、いつそのこと荒料理をしてやらうかと、側の奴が吐すので俺も堪らぬやうになり、三五教の宣伝使に一寸目配せしたら、押戸を開けて一目散に遁げて了つた。サア、さうすると同僚の奴、貴様は変な奴だ。やつぱり三五教の臭味が脱けぬと見えて、何だか妙な合図をしよつた。懲戒のために無期限に此処に蟄居せよと吐しよつて、昨日から押し込められたのだ。俺は三五教の勝公といふ男だよ。早く天の岩戸を開けて俺を救ひ出して呉れないか』 弥『待て待て、今天の岩戸開きをやつてやらう。オイ与太彦、貴様は大麻を以て祓ふ役だ。俺は天津祝詞を奏上する、六公は何も供物が無いから木の葉でもむしつて御供物にするのだよ』 勝『エー洒落どころちやないワ。早く開けて呉れないか』 弥『定つたことよ。あけたらくれるのは毎日定つてゐる。あけてはくれあけてはくれ、その日その日が暮れるのだ。アハヽヽヽ』 勝『エー辛気くさい。可い加減にじらして置け』 弥『じらすとも、貴様はコンナ所に窮窟な目をして、可憐らしい奴だから此方も意地でじらしてやるのだ。アハヽヽヽ』 与『オイオイ弥次彦、ソンナ与太を云ふな。早く開けてやらぬかい』 弥『開けて悔しい玉手箱、後でコンナことだと知つたなら開けぬが優であつたものを、会ひたい見たいと明暮に、ナンテ芝居もどきに、愁歎場を見せつけられては困るからなア』 六『エー碌でもないことを云ふ人だナア。綺麗さつぱりと開放して上げなさい』 弥『アヽさうださうだ、開けて上げませう。ヤー偉い錠を下してゐやがる哩。折悪く合鍵の持合せがないから、オイ勝サンとやら、仕方がないワ。まあ悠くりと時節が来るまで御逗留遊ばせ』 勝『そこらに在る手頃の石を以て錠前を砕いて出して呉れ』 弥『コンナ立派な錠前をむざむざと潰すのは勿体ないぢやないか』 勝『勿体ないも糞もあつたものか。ウラル教の錠前だ、木葉微塵に砕いて出して呉れ』 弥『待て待て、折角出来たものを破壊するといふことは、一寸考へ物だ。過激主義のやうになつては、天道様へ申訳がない。何とか完全に原形を存して、開ける工夫があるまいかな』 六『もし此処にコンナものがある。これは屹度何かの合図でせうで』 と言ひ乍ら小指のやうな形をした巌壁の細長き巌片をグツと押した途端に、岩の戸は苦もなくパツと開いた。 弥、与『アハヽヽヽ、ナアンダ、鼻糞で的を貼つたやうなことしよつて、何処までもウラル教式だワイ。オイ勝サン、早く出ないか』 勝『この日の長いのに、さう狼狽るものぢやない。まア、悠くりと皆サンも此処へ這入りなさい。持寄り話でもして春の日長を暮しませうかい』 弥『ヨー此奴はまた法外れの呑気者だ。類を以て集まるとは、よく云つたものだナア。馬は馬連れ、牛は牛連れだ。いよいよ此処に四魂揃つたりだ。オー勝サン、どうぞ御昵懇に願ひますよ。私は弥次彦と云ふ剽軽な生れ付き、此奴は天下一品の与太だから与太彦と云ふ名がついてゐます。モー一匹の奴はあまり碌な奴ぢやないから六と云ひますよ。アハヽヽヽ』 勝『アヽよい所へ来て下さつた。御かげで密室監禁の憂目を免れました。お前サンは何処かで見たことのあるやうな顔だな』 弥、与『有るとも有るとも、彼の出刃の災難に遭はうとした時、目で知らして呉れたのはお前だつたよ。敵の中にも味方があると云つて非常に感謝して居つたのだ。その時の恩人はお前だつたか、妙なものだな。お前に助けられて又此処で助けられた俺達が、お前を助けるとは不思議なことだ。これだから人間は善いことをして人を助けねばならない。神様の実地教育を受けたのだ。あゝ有難い有難い、四人一同揃つて神言を奏上しませうか』 と巌窟前の細道を向方へ渡りやや広き道に出で、四人はコーカス山の方に向つて、恭しく祝詞を奏上した。 弥『此処はウラル教の奴等の勢力範囲ともいふべき区域だから、一つ元気を出し宣伝歌でも謳つて行きませうかい。音頭取りは私が致しませう』 一同『神が表に現はれて善と悪とを立別ける この世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直せ聞直せ 身の過ちは詔り直せ三五教の神の道 音に名高き音彦の神の司と諸共に 猿山峠を右に見て荒野ケ原を駆めぐり 見ても危き丸木橋やつと渡つて川岸に 憩む折しも傍の草のしげみを掻き分けて 現はれ出でし黒頭巾三五教の宣伝使 その他の奴輩一々に何の容赦も荒縄の 縛つてくれむと雄健びのその見幕に怖け立ち 力限りに遁げ出せば豈図らむや突き当る 途の真中に醜が住む関所の中に迷ひ込み 如何はせむと思ふ折花も実も有る勝彦が 深き情に救はれて虎口をのがれ息急きと 駆出す途端に道の辺の泥田の中に辷り込み 二人諸共泥まぶれ後より敵は襲ひ来る 何の容赦も荒肝を取られて泥田を這ひ上り 一行三人一筋の田圃の道を遁げ出せば 怪しき奴が唯一人目をばぎよろぎよろ睨み居る 此奴的切りウラル教目付の奴と全身の 力をこめて傍の泥田の中へ突き落し 後をも見ずにトントンと小鹿峠に来て見れば 思ひもかけぬ三人の鬼をも欺く荒男 前と後に数百のウラルの彦の捕手共 雲霞の如く攻め来る進退茲に谷まりて 忽ち谷間へ三人は空中滑走の曲芸を 演じて河中に着陸しウンと一声気絶して 十万億土の幽界の三途の川の渡場で 怪体な婆アに出会して何ぢや彼ぢやとかけ合ひの 其の最中に珍らしやウラルの彦の目付役 源五郎奴がやつて来て要らざる繰言吐きつつ ここにいよいよ真裸川と見えたる荒野原 トントントンと進み行く行けば程なく禿山の 麓にぴたりと行き当り行手を塞がれ是非も無く 天津祝詞を声清く奏上するや忽ちに 地から湧き出た銅木像からくり人形の曲芸を 一寸演じたご愛嬌煤を吐くやらミヅバナを 頻りに浴びせかけるやら茶色のやうな小便の 虹の雨やら針の雨こりや堪らぬと思ふ折 日の出の別の宣伝使数多の弟子をば引連れて やつて来たかと思ひきや冥土の旅は嘘の皮 流れも清き小鹿川川の真砂に横臥して 夢の中にも夢を見る怪体な幕を切り上げて 木株を力に元の道登つて見れば数百の 馬が出て来る牛が来る馬と牛との夢を見る やつと此処まで来て見れば思ひも寄らぬ巌窟に 三五教の宣伝使負ても名だけは勝サンが 三十男の楽隠居神の恵みに巡り合ひ 互に見合はす顔と顔善と善との引合せ コンナ嬉しいことあろか善と悪とを立別ける 神の教のわれわれは前途益々有望だ 進めよ進めいざ進め四魂揃つて堂々と 曲の砦に立向ひウラルの彦の目付等を 片つ端から打ちのめし勝鬨挙げて高架索山の 神の御前に復り言申すも左まで遠からじ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも たとへ大地は沈むとも三五教には離れなよ ウラルの教に迷ふなよ進めよ進めいざ進め 悪魔の軍勢の滅ぶまで曲津の神の失するまで』 と倒け徳利の様に口から出放題の宣伝歌を謳ひ乍ら、小鹿峠を勢ひよく脚踏み鳴らして進み行く。 (大正一一・三・二三旧二・二五外山豊二録) |