| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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霊界物語 | 76_卯_世界の神話/朝香比女の神の物語 | 06 報告祭 | 第六章報告祭〔一九二三〕 春の陽気は漂ひて、桜花爛漫と咲き乱れ、庭の面に一弁二弁と静に桜の花弁の散りこぼれたる真昼頃、高地秀の宮居の清庭に駒の轡を並べて、高野比女の神一行は御面輝かせ、目出度く此所に帰り給ひければ、胎別男の神は比女神の姿を見るより打喜び、恭しく出で迎へて長途の旅の労を犒ふべく、別殿に歓迎の馳走の準備に忙しく諸神を督して、忠実々々しく立ち働き給ひける。 茲に高野比女の神一行は、大宮居の大前に禊祓ひを終り、感謝の祭典を行ひ太祝詞を宣らせ給ふ。 海河山野の種々の美味物を八足の机代に置き足はし、十柱の神は式場に列座し其他の神々は末座に拝跪して、今日の目出度き祭典に列し給ひつつ、天を拝し地を拝し歓ばせ給ふ。 高野比女の神は御前に拍手して、 『掛巻も畏き紫微天界の真秀良場なる高地秀山の下津岩根に、宮柱太敷立て高天原に千木高知りて、堅磐常磐に鎮まりいます主の大神の大前に、御樋代の神高野比女等、慎み敬ひ畏み畏みも白さく。抑此の天界は主の大神の広き厚き大御恵と、赤き直き正しき生言霊の御稜威に依りて、鳴り出で給ひし国土にしあれば、海と陸との別ちなく山と河との差別なく、広き厚き恩頼を蒙りて、弥遠永に立栄ゆるものにしあれば、一日片時も主の大神の御恵に離れては、世に立つべからざる事の由を、深く悟り広く究めて、弥益々に其畏さに戦慄き恐れ敬ひ奉らむとして、過ぎつる吉月の吉日を選み、万里の道を遥々と駒の背に跨り、岩根木根踏み佐久美て天津高宮に、草枕旅の宿りを重ねつつ詣で奉り、大御神の御口自から清き赤き貴き大神宣を承り、唯一言も洩らさじ忘れじと心の駒の手綱引締め、頸に受けて束の間も忘るる事なく、村肝の心に抱き胸に秘め、大御恵を忝けなみつつありしが、畏れ多くも主の大御神より高地秀の宮居の宮司として、此度新に鋭敏鳴出の神、其添柱として天津女雄の神を授け給ひぬ。天晴れ天晴れ今日よりは高地秀の宮居は弥生の花の咲き満つるが如く、秋の楓の紅に染むるが如く、弥美はしく弥清しく栄えまさむ事を、思ひ量りて嬉しみに堪へず、各自の御樋代神等は玉の泉に禊を修め、感謝言の神嘉言を宣り終へて、再び駒に跨りつ十柱の神等は果しも知らぬ大野原の駒の嘶き勇ましく、夜を日に次ぎて帰らむ道に、さやりたる八十曲津見の曲業も、主の大御神の深き厚き御守りに、喪なく事なく今日の吉日の吉時に、主の大御神を祭りたる此の宮居に帰りける、其嬉しさの千重の一重だも報い奉らむとして、海河山野の種々の美味物を百取の机代に横山の如く置き足はして奉る状を、𪫧怜に委曲に聞食相諾ひ給ひて、此の宮居に仕へ奉る司神等は大御心に違ひ奉らず逆ひ奉らず、大御神の授け給ひし真言の光を照らし仕へ、罪穢過なく𪫧怜に委曲に仕へしめ給へと畏み畏みも願ぎ奉る。 言別けて白さく、高地秀の宮居を真中として、四方を廻れる稚国土原の、国津神等は各自に日々の業務を励しみ勤めて緩ぶ事なく、怠る事なく、此の天界を弥益に拓かせ栄えしめ給ひて、紫微天界の真秀良場たる貴き御名を落さじと、励み励み活動かしめ給へと、鹿児自物膝折伏せ、宇自物頸根突貫きて畏み畏みも願ぎ奉らくと白す。惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 高野比女の神は大前の祝詞を終り、しづしづと御前を下り諸神と共に、直会の席に着かせ給ひ、合掌久しうしつつ御歌詠ませ給ふ。 『足引の山鳥の尾の長旅も 神の恵にやすくをはれり 遥々と筑紫の宮居に駒並べて 詣で来つるも惟神われ等は 主の神の厚き恵しなかりせば 此の旅立ちは難かりしものを 広々と果しも知らぬ地稚き 国原を行く危き旅なりし 曲津神は到る処にさやらむと 手組脛引きて待構へたりき 斯の如危き旅も恙なく 今日を御前に帰り来しはや 十柱の賑はしき旅も斯の如 苦しきものをと背の岐美を思ふ 背の岐美の旅の艱みを今更に 悟りけるかな愚かしき吾も 何事も神の心の儘にして 生るべきものと悟らひにけり 主の神は宮居の司と鋭敏鳴出の 神を聖所に降したまひぬ 鋭敏鳴出の神の司の添柱と 降り来ませる天津女雄の神 高地秀の峰に春の気漂ひて 今をさかりと桜咲くなり 桜木の梢にうたふ鶯の 声長閑なる東の宮居はも 草枕長の旅より帰り見れば この清庭に春はふかめり 御木も草も瑞気立ちつつ若やぎて 天界の春を言祝ぎ顔なる』 鋭敏鳴出の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代神御供に仕へ漸くに 此の聖所にわれ来つるかも 東の宮居に仕へて思ふかな これの聖所はまた世になしと 高地秀の山は隈なく桜木の 花咲き満ちて長閑なりけり 此処に来て始めて知りぬ天界の 春の景色のさわやかなるを 西の宮居の松の神苑に比ぶれば 華美なるも東の宮居は 西の宮居は心静かに落付けど 東の宮居は心ときめく ときめける心抱きて高地秀の 宮居に仕へつ国土固めばや 御樋代の比女神等の心にも 似て晴れ晴れし桜の盛りは 非時に花は散らざれ萎れざれ 生きたる神の庭に咲く花は』 折もあれ桜の花弁は、ひらひらと直会の席に列なり給ふ朝香比女の神の持たせる御盃の上に、一弁落ち来り浮びたれば、朝香比女の神はほほ笑みつつ御歌詠ませ給ふ。 『背の岐美の清き心の一弁か わが盃に浮ける桜は 背の岐美の心と思へば捨てられじ 花もろともにいただかむかな』 斯く歌ひながら花弁の浮ける神酒をぐつと飲み下し給ひ、 『背の岐美の深き心の花弁と 神酒諸共に飲み干しにけり 御樋代の神と選まれ背の岐美の 水火と思ひて飲みし花酒よ 斯くならば吾は御樋代神として 岐美の在所をたづね行くべし』 梅咲比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『梅の花ははや散り果てて桜花 また散り初めぬ神の御前に 移り行く世の有様をまつぶさに 梅と桜の花に見しはや 白梅のつぼめる朝を立ち出でて 桜花散る春を帰れり 今日よりは心改めて大宮居に 朝な夕なを真言捧げむ 言霊に森羅万象は生るてふ 由を悟りし吾は畏し 終日を神の御前に太祝詞 言霊捧げて仕へまつらな 朝夕の祝詞は愚か夜も昼も かたみに宣るべき祝詞なりけり 言霊の稜威に栄ゆる森羅万象は 又言霊ぞ力なりける』 香具比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『非時の香具の木の実も言霊の 尊き水火に生り出でしはや 吾も亦香具の木の実ゆ生れたる 神にしあらば言霊たふとし 言霊の声を聞かずば片時も 苦しさ覚ゆる吾体なりけり 言霊の水火に空気を造り出し 百の生命を生み出だすなり 正しかる神魂の水火は天界を拓き 曇れる水火は天界を傷ふ 村肝の心曇りて濁りたる 言霊の水火は鳴り出づるなり 主の神を常磐に祀りし高地秀の 宮居は清しも言霊澄めば 吹き渡る梢の風も爽かに 言霊清く鳴り響くなり 庭の面を流るる瀬見の川水も 澄みきり澄みきり透き徹りつつ 常磐木の松の木の間に咲き満つる 桜の眺めは殊更目出度き』 寿々子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『はろばろと遠の旅路を重ね来て 目出度く今日は感謝言宣る 言霊の水火に生り出でし天界に 澄める言霊の吾生命かも 言霊の活用なくば束の間も 生きて栄えぬ天界なりけり わがもてる意志想念も悉く 生言霊の光なるらむ 正しかる生言霊の光る天界は 言葉のはしも慎むべきなり 顕津男の神の拓きし高地秀の 山の姿は生き通しなり 高地秀の山を朝夕眺めつつ 吾背の岐美と仕へ奉るも 長旅に見え得ざりし高地秀の 山の一しほ恋しき吾なり 此の宮居は吾背の岐美の築きたる 貴の宮居ぞ殊更うるはし 朝夕にこれの神山を力とし 吾背の岐美となして生くるも 草枕旅を重ねて背の岐美の 艱みを深く悟りつつ泣くも』 宇都子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『今日よりは鋭敏鳴出の神現れまして 宮居の司と仕へますかも 天津女雄の神も出でまして大宮居の 日々の仕へも革まるべし 御樋代神旅なるあとは胎別男の 神の司の依さしなりけり 胎別男の神よ今日より鋭敏鳴出の 神の司の神業補けよ 御樋代の八柱神は聖殿に 終日集ひて言霊宣るべし 言霊の水火止まれば天界の 森羅万象は枯れ萎むなり 御樋代の神は御子生みのみならず 生言霊の樋代なりしよ 顕津男の神の御樋代と任けられしも 生言霊を補くるためなりき 樋代とは生代の意ぞ国魂の 神生むのみの司にあらずも 今日までは吾勤めさへ知らずして 岐美をのみ恋ひしことの恥かしき』 狭別比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『宇都子比女神の言霊聞くにつけ 吾も悟りぬ御樋代の司を 雲霧を別けて昇らす天津日も 主の言霊ゆ生り出でましける 月も日も星も悉言霊の 水火と思へば尊きろかも 草も木も鳥も獣も言霊の 水火に育つる天界なりけり 桜花咲くも散らすも吹く風も 皆言霊の水火なりにけり 吾身又生言霊の幸はひに 生れて言霊に仕へ奉る身よ 言霊の水火の幸はひ無かりせば この天界は直に亡びむ 遥々と旅を重ねて曲もなく 帰りしわれも言霊の幸なり 斯の如尊き稜威の言霊を 忘れて祝詞を怠るべしやは 気魂の濁らば心濁るべし 心濁らば言霊汚れむ 身を清め心清めて仕へなば 生言霊は自と光るべし 神々の要の勤は朝夕の 禊の神事にまさるものなし 主なき宮居は頓に淋しけれ 生言霊の祝詞なければ 胎別男の神の宣らする言霊の 祝詞は弱くうすら濁りぬ 御樋代神いまさぬ宮居の淋しさは 主の神坐さぬ如くなりけり』 花子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『高地秀山今を盛りと咲き匂ふ 桜もしばしの命なるかも 惜しめども花は梢に止まらず そよ吹く風にも散り初めにつつ 夜嵐の花散らすかと吾はただ 生言霊に支へて居るも 束の間も花散らざれと支へつる 吾言霊も怪しくなりぬ 夜嵐は吹かねど梢の桜花 時の来つればこぼれ落ちつつ 落ち散りし庭の花弁眺めつつ 踏むさへ惜しく思はるるかも 移り行く世の有様を高地秀の 宮居の桜に悟らひしはや 花は散れど梢に若葉もえ立ちて 眼あたらしく夏をさかえむ 桜花散りたる庭に紅く白く 匂へる牡丹のあでやかなるも さりながら又夏更けて丹牡丹の 花は一弁々々くづれむ 丹牡丹の蕾ほぐれて咲き初めし 日より三日経て又散る世なるも 清庭の白梅の花散り果てて 跡に青々つぶら実生れり 白梅は開きて散りて実を結び 移り行く世の態を教ゆも』 小夜子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『はろばろと遠の旅路を重ねつつ 今大前に復命せり 今日よりは神魂を清むと朝夕の 禊の神事怠らざるべし 禊して吉き言霊に天界を 照らすは御樋代神の勤めよ 朝夕は言ふも更なり暇あらば 禊て貴の言霊宣らばや 言霊の天照り助け生くる国土に 怠るべしやは生言霊を 言霊の水火澄みきらひて天地は 弥遠永に栄えますべし 月も日も生言霊に照り渡る 曇るは曲津の水火にこそあれ』 斯の如く十柱の神々は、下向の報告祭を大宮に奏上し終りて、直会の式に列し給ひ、此度の旅行にて学び得たる言霊の真理を告白しながら、各自の居間に就かせ安々と今日の一日を休らはせ給ひける。折しもあれ、ぼやぼやと吹き来る春風に満庭の桜は雪の如く夕立の如く、算を乱して清庭の面に散り敷きければ、庭は一面の花筵となりて、名残惜しげに数多の胡蝶来りて、低く舞ひ遊び戯れ居たりける。 (昭和八・一二・六旧一〇・一九於水明閣森良仁謹録) |
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霊界物語 | 76_卯_世界の神話/朝香比女の神の物語 | 08 善言美霊 | 第八章善言美霊〔一九二五〕 ここに朝香比女の神は、顕津男の神を慕はせ給ふ心の駒の狂ひたちて足掻き止まねば、御樋代神等、宮司神等の心を籠め力を尽しての諫めも、空吹く風と聞き流し、白馬に鞭うち、黄昏の空を東南指して駆け出で給ふぞ雄々しけれ。後に残れる御樋代神等は慨然として歎かせ給ひつつ、高地秀の宮居の聖殿に心静かに帰らせ給ひて、朝香比女の神の旅の無事を祈らむと、種々の美味物を奉り、大御前に祈りの祝詞を奏上し給ひぬ。 先づ例の如く祭典の用意整ひたれば、鋭敏鳴出の神は宮居の司の務として、御自ら高御座の大前にひれ伏し、御声爽かに太祝詞白し給ふ。 『掛巻くも綾に畏き高地秀山の下津岩根に大宮柱太しき建て、高天原に千木高知りて、堅磐常磐に此の聖所を領有ぎ鎮まりいます主の大神の大御前に、斎主鋭敏鳴出の神、謹み敬ひ畏み畏みも白さく。如何なる神の経綸なるかも、如何なる神の計らひなるかも、御樋代比女神と神の依さしに朝な夕なを仕へましし、其が中の一柱とます朝香の比女神は、百神等の諫め止むる言霊をも聞かせ給はず、駿馬に鞭うち給ひて常闇の夕の空を、太元顕津男の神の御許に詣で仕へむと、心雄々しく出でましぬ。かれかくなりし上は、吾等が真心もちて止めまつらむ由もなければ、惟神神に任せて、比女神の旅路を安らけく平けく渡らせ給へと祈るより外に詮術無かりければ、ここに神々相議りて、今日の御祭仕へまつると、海河山野種々の美味物を、八足の机代に横山なす置き足らはして、奉る状を、平けく安らけく穏に聞し召しまして、朝香比女の神が伊行き給ふ道の隈手も恙なく聖所に進ませ給へかし。過ち犯さむ事しあらば、神直日大直日に見直し聞直し宣り直しまして、比女の神言の出立に恙あらせじと、夜の守り日の守りに守り幸へ給へと、鹿児自物膝折り伏せ宇自物頸根突貫きて畏み畏みも祈願奉らくと白す。一二三四五六七八九十百千万、惟神霊幸倍坐世、惟神御霊幸はへましませよ』 高野比女の神は御祭の庭に立たせ給ひて、御歌詠ませ給ふ。 『高地秀の貴の宮居に永久に ます大神に願ぎごと白さむ 朝香比女神は夕べを立ち出でぬ つつがあらすな道の隈手も 朝香比女は面勝神よ射向ふ神 わが言霊も聞かず出でましぬ 思ひ立ちし事を貫く朝香比女の こころの駒は止め得ざりき かくならば詮術もなし主の神の あつき恵みにすがらむと思ふ 曲津神の伊猛り狂ふ荒野原を 進ます比女の身をあやぶみぬ 危ふかる旅の枕を重ねむと 朝香の比女は雄々しく出でませり かくまでも其の心ばせを立て通す 朝香の比女は面勝神なり 御樋代神われは司と任けられて 詫びごと宣らむ言の葉も出ず わが心おろそかにして朝香比女の こころを今まで悟らざりしよ 悟らざりしわが過ちを神直日 大直日神宣り直しませ』 鋭敏鳴出の神は御歌詠ませ給ふ。 『朝香比女神の雄々しき心ばせを われは気付かず眠らひにけり 予てよりかくと定めし朝香比女の こころの駒は止め得ざりき 朝香比女神の神言はまさしくや 射向ふ神なり面勝神なる 果てしなき荒野を一人出で立たす 雄々しき比女をまもらせたまへ 曲津神は姿をいろいろ変へにつつ 比女の行方にさやらむとすも 曲津見の猛びは如何に強くとも 喪なく事なくすすませたまへ 八百万神ましませど朝香比女の 雄々しき心は誰も持たなくに』 梅咲比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『東南の荒野は山も高くして 初夏ながら春の気漂はむ 白梅の花はあちこちに匂ひつつ 比女神の旅を慰むなるらむ 白梅の匂へる山路を踏みわけて 白毛の駒に鞭うたすらむ 主の神の厚き恵みに朝香比女の 神はやすやす進ませ給はむ 言霊の幸はひたすくる天界に さやらむ曲津は必ず亡びむ さりながら朝香の比女の草枕 旅の苦しさわれにせまるも 朝夕を神の御前に祈らばや 朝香の比女に恙なかれと 四方八方に白梅薫る春の野を 心豊に立ち出でますらむ』 香具比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『非時に香具の木の実の香りたる 紫微天界はにぎはしきかも 桜花散り敷く庭の夕ぐれを 朝香の比女は一人立たせる 神々の誠をこめての言霊も 聞かさず立ちし比女神天晴れ 比女神の後姿見送りてわれはただ 故知らぬ涙ほとばしりぬる 今日を限り長の別れにならむかと おもへば悲しくなみだぐまるも 大野原駒に鞭うち一人ゆかす 雄々しき比女の心いたまし 背の岐美をおもふあまりの旅立ちと おもへばわれも悲しくなりぬ 神思ひ岐美を慕ひて胸の火の 炎消さむと出でませしはや 燃ゆる火も溢るる水もいとひなく 恋路のためには命惜しまさず 玉の緒の命捧げし岐美ゆゑに かくもありけむ朝香比女神は よしやよし曲津見のさやり繁くとも つらぬき通せ公の真心を』 寿々子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『朝香比女道の隈手も恙なかれと こころ清めて祈りけらしな 駿馬に鞭をうたせて出で立ちし 比女の姿は雄々しかりける 岐美おもふ心の征矢を通さむと 駒にまたがり駆け出で給ひぬ 春さりて夏来りける大野原を 進ます公のすがた偲ばゆ 昆虫の災もなく高津神の さまたげもなく進み給はれ 一度は止めまつれど如何にせむ かくなるうへはただに祈らむ 比女神の進ます道は安くあれ 高津鳥等のわざはひもなく 山を越え野を越え溪川渡りつつ 出で行く公の雄々しきろかも かくならば後に残りしわれわれも 比女神の旅を祈るのみなる』 宇都子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『高地秀の宮居の聖所を後にして 山河わたり比女神出でましぬ 数千里の旅の枕をかさねつつ 一人出でます比女神天晴れ 百神の神言の止めも聞かずして 雄々しも比女は出でましにける』 狭別比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『幾十日筑紫の宮居の旅をへて 間もなく比女神又旅に立てり 気魂も神魂も強き比女神の こころの駒を止むる術なし 幾千里荒野をわたり旅立たす 朝香の比女は雄々しき神なり 徒に月日送らむ苦しさに 朝香の比女は立ち出でにけむ 主の神の御許しもなくただ一人 立たせる朝香比女の神はも 朝香比女神の神言のとりしわざは かへりて神に叶ふなるらむ 主の神の御旨に叶はぬわざなれば 朝香の比女の駒は走らじ 黄昏の闇を駆け出しし雄々しかる すがたに神旨をわれはうたがふ 村肝の心照らして言霊の 水火清まらばすべてはならむも 朝香比女神はかならず顕津男の 神と御水火を合はせますらむ 西方の国土稚ければ御樋代の 神まさぬ世を悟らしにけむ 西方の国土の御樋代神となり 国魂神を生ます旅かも 西方の国土は黒雲立ちこめて 大曲津見の棲めるとぞ聞く 曲津見のほしいままなる振舞を たださむとして出でましにけむ 朝香比女神は面勝神なれば 大曲津見もただになびかむ かくの如雄々しき神はあらざりき 御樋代神は数多ませども』 花子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『高地秀の峰の桜は早や散りて 青葉の園となりにけらしな 野に山に若葉若草萌え立ちて 夏の御空は来むかひにけり 青葉萌ゆる山河渡り駒の背に 乗りて出でます朝香比女はも 朝香比女神はかならず曲津見の 猛びにくるしみ給ふなるらむ 朝香比女旅の悩みをおもひつつ 腮辺につたふわがなみだかな 西方の国土は黒雲立ちこめて スウヤトゴルの曲津は火を吐く 非時に黒雲むらむら立ち上り 御空をつつむ西方小暗き 月も日も星もかげなき西方の 国土造るべく出でましにけむ 朝香比女神の雄々しき心ばせを われは朝夕悟り居しはや かくの如思ひきりたる草枕 旅にたたすをうべよと思へり 今とならば止めむよしもなきままに 恙なかれと祈るのみなる 朝香比女功を太しく建てまさば 御樋代神のほまれなるかも 八柱の御樋代比女神の中にして 雄々しき神の出でますは嬉し』 小夜子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『丹牡丹の花はくづれて庭池の 菖蒲の紫匂ひ初めたり 大庭の瀬見の小川にかげうつす 菖蒲の花のつやつやしかも 菖蒲咲くころの聖所を後にして 朝香の比女は旅立たしける 朝香比女は燃ゆる心の苦しさに 菖蒲も目にはうつらざりけむ 庭の面に咲ける菖蒲や燕子花 何れをそれと別ち兼ねつつ 朝香比女の今日の旅立ちよしあしの あやめもわかずわれは黙さむ 何事も主の大神の御心に 任すは真のつとめなるらむ 如何ならむ太しき功たつるとも 御神の御許しなきは仇なり 主の神の生言霊に依らずして われは進まむ雄心起らず 徒に長き月日を送りしと 思ふは心のひがみなりしよ 朝夕に神に仕へて祝詞宣るは 御樋代神のつとめなりける 地稚きこの天界を固めむと 御樋代神を生ましし神はや 御子生みの神業はさておき言霊の 御樋代として生れ出でしならむ かくならば朝な夕なに世の為に 御樋代神は言霊宣らばや 一日だも生言霊をおこたらば 乱るる世なりと悟らひにけり』 天津女雄の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代の比女神等に従ひて 珍しき事を見聞きするかも 真心を筑紫の宮居あとにして 高地秀の宮居に仕へつるかも 朝香比女神の旅立ち送りつつ 雄々しき姿に見とれけるかな かくの如雄々しき神にいますとは 愚かしきわれは悟らざりしよ この上は朝な夕なを大宮居に 祈りて比女の幸を守らむ 西方の国魂神を生ますべく 雄々しく一人出でましにけむ 今となりて悔むも詮なし真心を 持ちて祈らむ神の御前に』 かくの如く、神々は大宮居の前に比女神の無事を祈りつつ各自述懐歌をうたひて、静かに定めの居間に就かせ給ひける。 (昭和八・一二・六旧一〇・一九於水明閣林弥生謹録) |
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霊界物語 | 76_卯_世界の神話/朝香比女の神の物語 | 09 闇の河畔 | 第九章闇の河畔〔一九二六〕 別れて程経し背の岐美の太元顕津男の神を 恋ふる心の矢も楯もたまらぬままに朝香比女 神の神言は唯一騎高地秀山を後にして 白馬の背に鞭うちつ桜の花の風に散る 夕べの空をしとしとと諸神の諫言もきかずして 進ませ給ふ旅の空道の隈手にさやりたる 八十曲津見を悉く生言霊に打ち払ひ 駒の蹄に踏み躙り初心を貫徹せむものと 勇み進むで出で給ふ。 闇の幕はますます深く大地一面を包み、悽惨の気四方に漂ふ。 朝香比女の神は、とある河畔に着き給ひ、闇の流れに駒を水飼ひながら、声もひそかに歌はせ給ふ。 『天晴れ天晴れ わが背の岐美は今いづこ たづねいゆくも夏の夜の 月空になく星かげは 御空の雲に包まれて あやめもわかぬ真の闇 河の流れはしろじろと 北より南に光りつつ せせらぎの音ひそひそと 囁く聞けば淋しもよ 果てしも知らぬ大野原 心は闇にあらねども 岐美を慕ひし真心の つもりつもりて常闇と なりにけるかも今日の旅 𪫧怜に委曲に照らしませ 高地秀山の聖場に 長き年月仕へたる われは朝香比女神よ 主の大御神心あらば この河やすやす渡しませ 千里の駒は嘶けど 深き浅きもしらなみの 越す術もなき闇の河 守らせ給へ惟神 神の恵みを乞ひ奉る。 常闇の河畔にたちて思ふかな 恋にくもれる心の闇を 一条の闇を縫ひつつしろじろと 流るる水瀬はわれに似たるも 星かげもなき闇の野を馳せて行く 駒の蹄の音を力に かくならば駒の嘶き力にて 進まむほかはなかりけらしな 天界に闇と夜とのなかりせば わが旅立ちも安けからむを 小夜更けて眠らむとすれど眠られぬ 心の駒のはやりたつれば 広々と果てしも知らぬ荒野原を 辿るも岐美を恋ふるが為なり 闇よ闇早く去れかし朝津日よ はや昇れかしわれを守りて すいすいと闇を縫ひゆく螢火の 燃ゆるおもひを消さむ術なし 螢火も瑞の御霊を慕へるか 岸の小草にかすかに光れり 初夏の夜は更けにけりわが袖を 吹く風さへも涙にしめりつ 万斛の涙流るる闇の夜の 河瀬にたちて燃ゆる螢火 如何にしてこの闇の河を渡らむと 思へば悲しはてなきおもひに』 かく御歌詠ませ給ふ折しもあれ、八十曲津見は青白き大火団となりて、河下より長き尾を引きながら、闇の空に波を打たせつつ進み来る。 朝香比女の神は、曲津見の神御座むなれと、両手を組み合せ水も漏らさぬ身構へしながら、 『一二三四五六七八九十 百千万千万の神 曲津の怪し火退け給へ』 と祈り給へど、火団は何の頓着もなく、朝香比女の神の傍近く進み来り、四辺を真昼の如く照らしながら、忽ち目一つ口八つの怪物となり、比女神に向つてその口よりは各自巨大なる蜂を吐き出し、比女神の身辺目がけて噛みつかむとするにぞ、駒は驚きて前後左右に跳ねまはり、忽ち河中にざんぶと飛びこみ、水底深く沈みける。朝香比女の神は気丈の女神、 『御樋代の神と仕へしわれなるぞ さまたげするな八十の曲津見 主の神の御水火に生りし天界に 何をさやるか退け曲津見 われこそは朝香の比女神言霊の 水火足らひたる面勝神ぞや』 かく御歌詠ませ給へども、怪物は容易に去らず、益々無数の蜂を吐き出し、比女神の全身を襲はむとするにぞ、比女神はここに一計を案じ、懐より燧と石を取り出し、曲津見に向つてかちりかちりと打ち給へば、忽ち迸り出づる真火の光りに驚きにけむ、怪物の姿は煙と消えてあとかたもなく、かすかに野を吹く風、せせらぎの音聞ゆるのみ。 この光景を見て朝香比女の神は、勇気日頃に百倍し、燧を懐に納め、両手を合せ、天に向つて感謝の御歌詠ませ給ふ。 『主の神の恵み畏し曲津見は 真火の力に消え失せにけり 曲神の醜の猛びをやらひましし 主の大神の御稜威を感謝す わが駒は河の底より現はれぬ 醜の曲津の消え失せしより 水底を潜りてかしこき駿馬は 蜂のなやみを免れしはや 幾千万の蜂となりたる曲津見の 拙き業は真火に亡びぬ 東の空はやうやくしののめぬ 新しき日は昇りますらむ 新しき日光を浴びて曲津見の 伊猛り狂ふ野路を進まむ 常闇の真夜を曲津見に襲はるも 岐美を恋ふるが為なりにけり 背の岐美にあはむ日あらば幾万の 曲津見の妨げわれは恐れじ 玉の緒の命捧げし背の岐美の 為には如何なるなやみも恐れじ 岐美恋ふる心は炎と燃えたちぬ 河の流れの底あするまで』 かく御歌うたひ給ふ折しも、鵲の声かすかに響き、高照山の谷間より、天津日の神は悠々と昇らせ給ひける。 『暁を告ぐる鵲の声清く 響きわたれり狭葦の河畔に 闇の幕大野の奥にしりぞきて 天津日かげは昇らせ給へり かくならばわれは恐れじ底深く 碧める河も安く渡らむ』 かく歌ひつつ駒の背にひらりと跨り、駒の腹帯をゆるめ、鬣をしつかと掴み、駒諸共に水底深き激流を、流れ渡りに彼方の岸にやうやうにして着き給ひける。 すべて深き流れを駒にて渡る時は、腹帯をゆるめ、駒を水中に飛び込ませ、鬣を片手に握り、駒も騎手も共に水中に浮き、泳ぎ渡るを以て、水馬の法となすものなり。 朝香比女の神は水馬の法を深く覚り給ひければ、かくの如き方法をもちて、無事彼岸に着かせ給ひけるなり。 『われも駒も無事に狭葦河渡りけり 水馬のわざの今あらはれて 玉鞍も手綱も鞭も濡れにけり 暫し休らひ日に干さむかも 罪のなき獣なるかもやすやすと 岸辺の草をむしりゐるとは 駿馬の食ふべき餌は満ち満ちぬ 草もて命つなぐ身なれば われもまた主の大神の水火吸ひて 長き命を保ちけるはや 玉の緒の命の糧は言霊の 清けき水火の幸はひなりける あけぬれば八十の曲津の影もなく 虫の音清く冴えわたるなり 鵲はあしたをうたひ真鶴は 天界を祝言ぐ狭葦河のほとりよ 名も知らぬ草にいろいろ花咲きて 狭葦の河瀬の水かをるなり 高地秀の山の尾の上に雲わきぬ 宮居の神たち如何ますらむ わが立ちし後の宮居に百神は 伊寄り集ひて言議りますらむ 西方の国土は遥けしわが駒は 万里の駒とおもへど淋しき 曲神の雄猛び狂ふ荒野原を 一人進むも岐美恋へばなり 大空はただ一片の雲もなく わが旅立ちをあかして澄めり 駒の鞍漸く乾きはてぬれば 手綱握りてまたも進まむ』 ここに朝香比女の神は、再び駒の背に跨り、青草萌ゆる大野ケ原を、あてどもなく東南さして進ませ給ひける。 (昭和八・一二・七旧一〇・二〇於水明閣白石恵子謹録) |
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霊界物語 | 76_卯_世界の神話/朝香比女の神の物語 | 12 山上の祈り | 第一二章山上の祈り〔一九二九〕 朝香比女の神は栄城山の中腹に、神々の心により新しく建てられたる八尋の殿に旅の疲れを休めむと、初夏の一夜を明し給ひけるが、暁を告ぐる山烏の声に眼を醒まさせ給ひ、静に床を跳ね起き給ひて、髪のほつれをととのへ、白き薄き衣を纒ひ給ひつつ、居間の窓を押し開き給へば、栄城の山の朝風は颯々として芳ばしく吹き入り、展開せる大野の原に棚引く霧は、陽光に映じて得も言はれぬばかりの美しき眺めなりける。伽陵頻迦は木の間に囀り、真鶴は松の茂みに暁を歌ふ。 『見渡せば遠の大野に霞立ちて そよ吹く風も初夏を匂へり 栄城山松吹く風の音も冴えて 梢にうたふ真鶴愛ぐしも 白梅の花はなけれど鶯の 声のさえたる栄城山はも 長旅の疲れやすみて吾は今 八尋の殿に国土見するかも 常磐樹の松の下びに咲き匂ふ つつじの花の目出度くもあるか 石南花の花桃色に咲きにけり 小さき鳥の来りてあそべる 背の岐美の御後したひて吾は今 栄城の山に安居するかも 百神のあつき心にほだされて 栄城の山に一夜いねけり その昔わが背の岐美の神言を 宣らせたまひし御山恋しも 東の空に高照山霞み 西にそびゆる高地秀の山 高照山高地秀の山の中にして 清しく立てる栄城の山はも 栄城山これの聖所に岐美まさば 吾はこの天界に思ひなけむを ままならぬ浮世なるかな背の岐美は 万里の外の旅に立たせり 翼あらば高照山を飛び越えて 光明の岐美が許に行かむを 駿馬の脚は如何程速くとも 万里の道ははろけかりけり 御樋代の神と生れて斯くの如 苦しき吾とは思はざりけり わが思ひ淡く清しくあるなれば かかる悩みもあらざらましを 谷水の冷たき心持ちてわれ この天界に住み度くおもふ さり乍ら如何なしけむわが思ひ 炎となりて胸を焦がしつ わが胸の炎を消すは瑞御霊 水の力に及ぶものなし 岐美を思ふあつき心に焦がされて はづかしきことを忘れけるかな』 斯く一人歌はせ給ふ折しもあれ、小夜更の神は紫、紅のつつじ及び石南花の花を捧げ乍ら、静々比女神の御殿に入り来り、比女神に捧げむとして御歌詠ませ給ふ。 『栄城山松の木蔭に匂ひたる 生命の花を公にまゐらす 小夜更けて公に誓ひし丹つつじや 桃色石南花みそなはしませ』 朝香比女の神は小夜更の神の奉るつつじ、石南花の花を莞爾として受取り乍ら、わが唇に花の台をあてさせ給ひ、御歌詠ませ給ふ。 『芳ばしき紅の花よ紫よ 桃色の花よ口づけて見む この花は香り妙なり背の岐美の 水火のまにまに匂ひつるかも 紅のつつじの花の心もて いつかは岐美に見えまつらむ 石南花の花美はしく桃色に 香り初めたり吾にあらねど 桃色の花の姿を見るにつけ 岐美のつれなき心をおもふ 背の岐美をうらむらさきの花つつじ 手折りし小夜更神の心は』 斯く問はせ給へば、小夜更の神は畏みながら御歌詠ませ給ふ。 『桃色の石南花の花たてまつり 比女の心をそこなひしはや 石南花の花美はしと心なく 奉りたるあやまち許せよ 紫の花は目出度きしるしぞや やがては岐美に逢はむと思ひて いろいろの花の心を比女許に 供へて旅を慰めむと思ひしよ』 朝香比女の神は莞爾として、御歌詠ませ給ふ。 『故もなきわが言の葉に汝が神の 心悩ませしことを悔ゆるも 只吾を慰むる為の花なりしを 深く思ひてあやまちしはや 紅の花の唇朝夕に 吸ふ蝶々のうらめしきかも いつの日か紅の唇まつぶさに 吸はむと思へば心はろけし』 斯く歌ひ給ふ折しも、機造男の神は恭しくこの場に現れ給ひ、 『朝津日は昇り給へりいざさらば 尾の上の宮居に導きまつらむ 長旅に疲れましぬと思ひつつ 朝の居間をおどろかせつる 紫の雲は東の大空に いや棚引きつ陽は昇りたり 久方の御空雲なく晴れにけり 栄城の山のいただき清しく』 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『長旅の疲れを岐美が真心に 休らひにけり一夜ねむりて 眺めよき八尋の殿に導かれ 朝の景色にとけ入りにけり 常磐樹の松の下びに咲き匂ふ つつじの花にこころ休めり いざさらば導き給へ背の岐美の 祈りたまひし聖所をさして』 ここに機造男の神は諸神と共に、朝香比女の神を前後左右に守りつつ、頂上の宮居の大前さして上らせ給ひける。 朝香比女の神は宮居の聖所に立たせ給ひ、感慨無量の面持にて、四方の国形を覧しながら大前に拝跪して、神言を御声さわやかに宣らせ給ふ。 『掛巻も綾に尊き 栄城山の上津岩根に 宮柱太しく建てて鎮まりいます 主の大神の大前に 朝香比女の神謹み敬ひ 祈願奉らく そもそもこれの大宮居は 顕津男の神御自ら 大峡小峡の木を伐りて 百神等を率ゐまし 開き給ひし宮居にしあれば 吾は一入尊しも いやなつかしもこの宮居に 鎮まりいます主の神の 深き恵みをかかぶりて 吾背の岐美の出でませる 西方の国土に恙なく 進ませ給へと願ぎ奉る 八十曲津神は猛るとも 醜の醜女はさやるとも 荒野に風はすさぶとも 大蛇は道にさやるとも 神の御水火に生れませる 天の駿馬に鞭うちて 安らに平に岐美許に 進ませ給ひて詳細に 御子生みの神業をねもごろに 仕へ終へしめ給へかし 栄城の山の松ケ枝は 千代のみどりの色深く 真鶴の声は弥清く 伽陵頻迦の音も冴えて 御空はいよいよ明けく 国土の上まで澄みきらひ 四方にふさがる雲霧は あとなく消えてすくすくと 神の依さしの神業に 仕へ奉らせ給へかしと 栄城の山の山の上に 畏み畏み願ぎ奉る。 見渡せば栄城の山は雲の上に そびえ立ちつつ常磐樹茂れり 見の限り四方は霞めり高地秀の 山はいづくぞ黒雲ふさがる 雲の奥空のあなたに高地秀の 神山は高くそびえ立つらむ 栄城山の頂上に立ちて打ち仰ぐ 御空の碧の深くもあるかな ここに来てわが背の岐美の功績を 一入深くさとらひにけり 皇神の厚き恵をかかぶりて 又もや明日は旅に立つべし』 機造男の神は御歌詠ませ給ふ。 『顕津男の神の造りしこの宮居は むらさきの雲いつも包めり 比女神の登らせし今日は殊更に 御空あかるく雲晴れにけり 日並べてこの神山におはしませ 朝な夕なにつかへまつらむ 見渡せば四方の国原未だ稚く 湯気もやもやと立ち昇りつつ』 散花男の神は御歌詠ませ給ふ。 『久方の御空は晴れぬ山晴れぬ この神山の今日のさやけさ 御樋代の比女神ここに現れまして 神山の雲霧とほざかりけり 非時に春をうたへる鶯の 声に栄城の山は生きたり 家鶏鳥は宮居の面に時をうたひ 田鶴は千歳を寿ぎて鳴くかも 風薫るこの神山のいただきに 立たせる比女の光さやけし』 中割男の神は御歌詠ませ給ふ。 『この宮居に吾は仕へて年月を 経ぬれど晴れし吉き日なかりき 今日の如晴れわたりたる神山に 国形を見るたのしさを思ふ 永久に栄城の山は晴れよかし 御樋代神ののぼりし日より 栄城山溪間に棲める曲津見も 今日より雲は起さざるらむ 比女神の生言霊のひびかひに 八十の曲津見あとなく消えなむ 国土造り国魂神を生まします 御樋代神の出でまし天晴れ 吾も亦比女神の御供に仕へむと 思へどいかに思召すらむ』 朝香比女の神の御歌。 『神々の厚き情に守られて 栄城の山の尾の上にのぼりぬ 栄城山今日を限りに栄えかし 常磐の松の色ふかみつつ 栄城山廻らす野辺はかたらかに いやかたまりて国の秀見ゆるも あちこちと国魂神の家見えつ 果てなき栄えを思はしむるも』 小夜更の神は御歌詠ませ給ふ。 『晴れ渡る今日の吉き日に大宮居に 比女を守りてわれは詣でし 高地秀の山は雲間にかくれつつ 栄城の山は陽炎もゆるも 陽炎のもえ立つ尾根に佇みつ 大野の夏を見るはたのしき 山も野も緑のころも着飾りて 夏の女神をむかへゐるかも 栄城山尾の上を渡る夏風は 爽かにして涼しくもあるか』 親幸男の神は御歌詠ませ給ふ。 『はろばろと来ませる比女神導きて 晴れたる栄城の尾根にのぼりつ 大宮居の聖所に立ちて比女神の 生言霊をわれ聞きしはや 言霊の水火より生れし天地に 言霊宣らで生くるべきやは いざさらば神山を下り八尋殿に 休ませ給へ御樋代比女の神よ』 神々は尾の上の大宮居の聖所に立ちて、各自御歌詠ませつつ、岩の根木の根踏みさくみ乍ら、右に左りに折れつ曲りつ、九十九折の坂道を比女神の御憩所なる八尋殿さして下らせ給ひける。 (昭和八・一二・七旧一〇・二〇於水明閣谷前清子謹録) |
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霊界物語 | 77_辰_田族比女の神の物語(万里の島) | 01 天馬行空 | 第一章天馬行空〔一九三三〕 高地秀山の聖場に八柱神と仕へたる 朝香の比女は唯一騎諸神等の諫言を 耳にもかけず雄々しくも曲津の猛る大野原 果しもしらに縹渺と雲霧わけて種々の 艱みの坂を越えながら由緒の深き栄城山 尾の上に登り顕津男の神の遺跡を追懐し 主の大神の大宮に神言宣らせやうやうに 栄城の山に仕へたる諸神等に暇乞ひ 又もや独り大野原駒に鞭うち出でたまふ 日も黄昏になりし時八十の曲津見驚きて 比女の前途をさやらむと曲の力のありたけを 尽して広き沼となり横はれるぞ忌はしき 朝香の比女はこれを見て天津祝詞を奏上し 生言霊を発射して沼と変りし曲津見を 永遠無窮に封じこめ曲の化身の大巌を 忽ち舟と変ぜしめ駒諸共に悠々と 月照りかがよふ夜の湖彼方の岸に着きたまひ 再び御舟は巌となり名さへ目出度き御舟巌 南の岸辺にそばだてり頃しもあれや東の 空はやうやく東雲めて遠く聞ゆる家鶏の声 国津神等の住む家の近づきけりと勇み立ち 沼を変じて湖となし真賀の湖水と名づけつつ 岸辺を鞭うち進みます雄姿水面にさかさまに 駒諸共に写らひて其雅なる御姿は 名画もかくやと思はれぬ朝香の比女は勇み立ち 大野の奥に霞みたる丘の麓に駒打たせ 急ぎたまへば狭野の里ここに住まへる諸々の 国津神等諸共に天津空より比女神の 降らせたまふと喜びて誠の限りを尽しつつ いと懇に迎へけり朝香の比女は駿馬の 背より下らせたまひつつ国津神等に生活の 道伝へまし火を切りてすべてのものを焼きて食ふ 火食の道を伝へまし国津神等の酋長なる 狭野彦一人を伴ひて再び広き荒野原 雲霧わけて出でませば前途を擁して横はる 東の河の河岸に黄昏るる頃やすやすと 辿りたまへば新月の光は空にきらりきらり 輝きわたり比女神の前途を守らせたまふなり ああ惟神々々恩頼こそ畏けれ。 八十曲津見は、真賀の湖水の計略に破れ、部下の曲津見は、朝香比女の神の生言霊に封じ込められて、大部分魚貝と身を変じ、永遠に湖底の住所を与へられ、国津神等の日常の食物と定められければ、八十曲津見は憤慨の極、無念骨髄に徹し、如何にもして比女神の前途に遮り、災禍を加へむと千思万慮の結果、高地秀山の峰より落つる東河の岸辺より、無数の大蛇となりて比女神を艱ましまつるべく、手具脛ひいて待ち居たるなりけり。 東河の激流は折から輝く新月の光に照らされて数多の星を流せしごとく、浪頭はキララキララと光り輝き渡る美しき流れなり。 比女神はつらつら透かし見給へば、東河の水面一帯に大蛇横はり、浪頭に星の輝くよと見えしは何れも大蛇の鱗なりける。鱗の一枚々々に月光輝き得も言はれぬ美しき光の流れなりけり。狭野彦は大蛇の横はり鱗の光れりとは夢にも知らず、さも美しき流れやと歎美しながら歌を詠む。 『美しき東の河の流れかな 浪のまにまに月かがよへり 比女神の御共に仕へまつりてゆ かく美しき夜河を見るも たうたうと流るる東の大河の 夜の眺めはまたと世になし 駿馬の背に跨りてこの流れ 渡ると思へば心清しも』 「いざさらば、狭野彦瀬踏みを致さむ」と駒に鞭うち出で立たむとするを、朝香比女の神は厳しく止めて、御歌もて知らせ給ふ。 『狭野彦の眼は広き河浪の 月にさゆると見ゆるなるらむ 河浪と見ゆるは何れも曲津見の 変化の蛇の鱗なるぞや 数限りなき蛇の鱗に大空の 月のかがやく光と知らずや 此河に駒を入るれば忽ちに 大蛇の餌食となりて亡びむ 一二三四五六七八九十 百千万千万の 神等ここに出でまして 八十の曲津の曲業を 科戸の風に吹き散らし 追ひやらひませ惟神 朝香の比女が誠心を 捧げて祈り奉る』 かく歌はせ給ふや、四方八方より、ウーウーウーとウ声の言霊響き渡り、大河の面を群がり塞ぎたる幾千万の大蛇は次第々々に姿を細め、見る見る影も形も消えうせて、青みだちたる水滔々と月に照らされ深く広く流れゐる。狭野彦は驚きて、 『朝香比女神の神言の珍しき 智慧に大蛇は看破られける かくのごと尊き神とは知らずして 御供に仕へし吾恥づかしも 曲津見は数万の大蛇と身を変じ 禍せむと待ち居たるはや 吾は今この河岸に黄昏れて 八十の曲津の曲業を見し 曲神の八十のたくみは賢しくも 真言の神には叶はざりける 大河の流れと見しは曲津見の 大蛇に化けし姿なりける かくならば吾は恐れじ朝香比女の 神にしたがひ河渡るとも 駿馬の勢如何に強くとも 御稜威ならではこの河渡れじ』 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『高地秀の峰より落つる東河の 水瀬は強く駒は進まず 神力はいかに強くも東の この大河は駒なやむなり 吾は今生言霊の光にて 大空かけり河渡らむと思ふ』 狭野彦は歌ふ。 『如何にして御空をかけり渡りますか 吾国津神は詮術なしも 公こそは天津神なり大空を 渡らせたまふはさぞ安からむ 国津神狭野彦われは肉体の 重きを如何に空渡るべき』 『朝香比女神の御尾前守りつつ しのびしのびて御供につかへぬ 今宣りしウ声の清き言霊は 鋭敏鳴出の神のすさびなりしよ』 と空中に御声聞えて間もあらず、霧の中より白馬に跨り、朝香比女の神の御前に悠々と下り給ひし神あり。よくよく見れば御言霊にたがはず、高地秀の宮の神司と任けられし英雄神鋭敏鳴出の神の雄姿なりける。 朝香比女の神は一目見るより、 『汝こそは高地秀の宮の神司 われを守りし功をよろこぶ 狭葦河の曲津のなやみを言向けし 著き功は汝が神守りけむ 曲神の醜の奸計は破れけり 鋭敏鳴出汝の生言霊に いざさらば此広河を向つ岸に 進みて月の下びをすすまむ』 鋭敏鳴出の神は御歌詠ませ給ふ。 『朝香比女神の神言の危さを 悟りて吾は追ひしきにけり 主の神の神言畏み御尾前を かくれて吾は守り居しはや 西方の国土は遥けしこの前に 曲津の砦は許々多ありつつ 曲神の醜の砦を悉く はふり行きませ西方の国土へ いざさらば吾は姿を隠すべし 道の隈手もやすくましませ』 かく歌ひ給ふと見るや、鋭敏鳴出の神の御姿は、忽ち煙となりて消え失せにける。 狭野彦は驚きて、 『天界は怪しき事の重なれる 国土と思へど驚きにけり 久方の天津神等の活動を 見つつ吾魂ゆるぎ初めけり』 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『狭野彦の驚きうべなり国津神の 夢にも知らぬ神業の国土は 国土を生み国魂神を生みてゆく 神の神業はことさら怪しき 国津神の眼ゆ見れば吾も亦 怪しき神の群にぞありける』 かく歌ひ終り、 『吾乗れる駒よ狭野彦の駒よ 翼生せよ大なる翼を 生えよ生えよ大なる翼 此駿馬の天馬となりて 空をゆくまで』 と幾度も繰り返したまひ、 『タトツテチ、ハホフヘヒ』 と声爽やかに宣らせたまへば、不思議やこの駒は大なる翼を生しける。 比女神は狭野彦と共に駒に跨り給へば、天馬は巨大なる翼を空中に摶ちながら、見も届かぬ広河の激流を遥か眼下に眺めつつ、月の光は翼をキラキラと光らし、得も言はれぬ愉快さに満されて、向つ岸辺に難なく着かせ給ひける。狭野彦は驚歎措く能はず、 『吾駒は翼生せて鳥となり 御空を翔けて河わたりせり 比女神の生言霊の功績に わが乗る駒は鳥となりけり 比女神の駒は天馬となりかはり 御空に清くかがやきたまひし 天国の旅なる吾の楽しさを 語り伝へむ国津神等に 鋭敏鳴出の神現れまして河の瀬に 満つる大蛇を退けたまへり 比女神の影につき添ふ鋭敏鳴出の 神の功の尊きろかも』 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『鋭敏鳴出の神の功に守られて 吾つつがなく此処に来しはや 吾駒に翼生ひしも鋭敏鳴出の 神のかくれし功なりける 鋭敏鳴出の神の功を今更に われは悟りて恥づかしみ思ふ 今よりは主の大神の神宣 力と頼みて荒野を進まむ 国津神狭野彦伴ひ吾伊行く 旅の行手を案じつつ居る 天津神は御空をゆけど国津神は 荒金の地ふみゆく身なれば 吾駒の翼はいつか消え失せて 野辺の草葉に嘶き初めたり 狭野彦の駒も翼をひそめつつ 息をやすめて草はみて居り 東の河は漸く渡りぬれど わが行くさきに海原横たふ この海は魔の大海とたたへられ 八十曲津見の群がれると聞く 吾伊行く道の曲津見悉く 言向け和して岐美許進まむ 初夏の風は吹けどもどことなく この国原はうすら寒きも』 狭野彦は歌ふ。 『どこまでも比女神の御供に仕へむと 心の駒の勇みたつかも いかならむ曲津見の禍さやるとも 吾は恐れじ比女神の功に』 かく狭野彦は、朝香比女の神の神徳を讃美しながら、駒に跨り御後より果しなく霞立ち籠むる稚国原を進み行く。 (昭和八・一二・一二旧一〇・二五於大阪分院蒼雲閣加藤明子謹録) |
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霊界物語 | 77_辰_田族比女の神の物語(万里の島) | 13 五男三女神 | 第一三章五男三女神〔一九四五〕 宇宙の創造、天地開闢と大神業に奉仕したまふ天界の正神は、至粋至純なる清鮮の水火を呼吸して、其の生命を永遠無窮に保持し、無限の力徳を発揮し給ふに反し、濁りと汚れと曇りより発生したる邪神は、常に混濁の空気を呼吸して其の生命を保持し、あらゆる醜悪なる行為をなして、日夜を楽しむの霊性を持つものなれば、邪神のある処必ず邪気充満し、黒雲漲りて森羅万象の発育に大害を与へ、主の神が修理固成の神業に極力反抗し妨害せむとするものなり。併しながら邪神自身としては、最も真正にして至当の所行と感じ居るが故に、極力其の悪業を改め、生成化育の善道に従はむとはせざるなり。 茲に主の大神の清澄無垢にして、至粋至純なる言霊の水火より生り出でたる万里の島ケ根も遂には邪気発生して、さも恐ろしき太刀膚の竜となり、或は猛悪なる大蛇と化して非時に雲霧を起し、邪気を吐き、天地を混濁せしめ、日月星辰の光を遮り、万物の発育を妨げ、神人禽獣等の生命を脅かし且つ短縮せしめて能事了れりとなし、会心の笑を漏らし居るこそ忌々しく、到底善言美詞の言霊をもつて完全に済度し得べからざる難物なり。故に未だ地稚く国土定まらざりし紫微天界の頭初に当りては、生言霊の武器をもつて言向け和す事容易ならざれば、神々は数億万年後の世界の為に、所有悪神邪気の霊を根本的に絶滅せしめむと千辛万苦に堪へ、其為に全能力を傾注し、活動し給ひたるなり。 実に吾人がこの清明なる天地に安らかに生を保ち得るも、四季の順序調へるこれの地上に諸々の山水の明媚なる風光を観賞し、生命の日月を拝し得るも、皆太初の神々等の舎身的御活動の賜にして、その厚恩は海よりも深く又スメールの山よりも高く、到底吾人の言語をもつて言ひ現はし称へ了る事は不可能と知るべし。吾人にして宇宙創造の神業と天地開闢の神々の御苦心を幾分にても察知し奉る時は、この鴻恩の大なるに嗚咽感泣し、現代に処して如何なる不遇の地位にあるとも、唯一言の怨み言をのべ又は神命を軽んずる無道の罪を犯す事、夢寐にもあらざるべきなり。 主の大神の直系にして且つ太初に特に全力を注ぎて修理固成したまへる紫微天界の終結たる我地球、特に豊葦原の中津神国尊厳無比にして、其皇統は主の大神より流れ出で、永遠無窮に森羅万象に対し無限の恩恵を賜ふ事を思へば、吾人は敬神尊皇報国の至誠を昼夜間断なく尽しまつり捧げまつりて、忠孝、仁義、友愛等の神授固有の精神を弥益々に発揮せざるべからざるの天職天命ある事を知るべし。 茲に万里の島の御樋代神として天降り給ひし田族比女の神は、如何にもして、これの島ケ根を主の大御神の依さしのままに清浄無垢、至喜至楽、至善至美、至清至潔なる天国浄土に拓かむとして、あらむ限りの神力と神策を発揮し給ひけれども、未だ白馬ケ岳の南側にあたる万谷千谷の奥処には曲神の邪気凝り固まりて、時々雲霧を起し、万里ケ島の天地を咫尺弁ぜざるまでに包みて、動植物の発育を妨害したりければ、御樋代神は止むを得ず、大勇猛心を発揮し、白馬ケ岳の悪魔を徹底的に掃蕩せむと思召し、十柱の従神を従へ、千里の荒野を駒の背に踏み破りつつ、辛うじて楠の大木の生ひ繁りたる目路も届かぬ限りの泉の森の聖所につかせ給ひ、月下に一夜を安息し、夜の明くるを待ちて弥々、魔棲ケ谷の悪霊を掃蕩すべく、部署を定めて出で立たせ給ひ、御身自らは泉の森を策戦上より本営と定め、輪守比古の神、若春比古の神を御側に守らせおき、霊山比古の神、保宗比古の神、直道比古の神、正道比古の神、雲川比古の神、山跡比女の神、千貝比女の神、湯結比女の神の五男神三女神をして先陣を勤めしめ給ひける。 『東の空を茜に染めなして 天津日の神昇りましぬる 木々の葉におく白露も七色の 光放ちてよみがへりたり 久方の天の岩窟の開けたる 心地するかも昇る朝日に いざさらば醜の曲神の潜むてふ 魔棲ケ谷に進ませ神等 輪守比古若春比古の二柱は 吾にいそひて此地にありませ 曲神の醜の奸計の深ければ 泉の森に控へ守らむ 五男神三柱女神は主の神の 水火を御楯に疾く進むべし 曲神は千万軍を整へて 十重に二十重に固め居るなり 束の間も生言霊の太祝詞 絶やさずつづけて静に進めよ』 霊山比古の神は答の御歌詠ませ給ふ。 『有難し御樋代神に選まれて けふの先頭に吾は立つなり 曲神の奸計は如何に深くとも いかで恐れむ神の御為め 雲霧も隈なく晴れし今朝の春を 進みて行かむわれぞ楽しき 朝風はそよろに梢を渡りつつ 今朝は殊更水火澄みにけり 泉の森清き清水に身を清め 出で立つ神魂にはむかふ曲なし 天津日に春のみゆきの消ゆるごと 滅び失すべし曲の砦は いざさらば御樋代神よ二柱よ わがゆく軍を守らせたまへ』 と言ふより早く、霊山比古の神は只一騎駒に鞭うち、南方の原野の中央を魔棲ケ谷の方面目蒐けて駈け出で給ふ。 保宗比古の神は今や出陣せむとして、御歌詠ませ給ふ。 『霊山比古神は先頭に駈け出でぬ 吾後れめや曲津の征途に 田族比女神の神言に従ひて いざや進まむ魔棲ケ谷へ 大空の隈なく晴れし今日の日は 心の駒の頻りに勇むも 曲神の日に夜に吐ける黒雲の 水火を払ひて国土を清めむ 幾万の魔神の群を言霊の 水火に払ふと思へば勇まし 万里の島にさやる雲霧吹き払ひ いや若春の国土造らばや 吾駒の足掻せはしも醜神を 踏み躙らむと駒も勇むか 此島の開け初めしゆはじめての 曲を譴責めの戦楽しも 千万の奸計の罠をしつらへて 曲津は待つらむ吾行く道に 何事も主の大神の御心に 違はじものと慎み進まむ 曲神といへども元は主の神の 水火と思へば憎まむ道なし 善き道に帰順ふならば醜神も 吾は助けむ神のまにまに』 かく御歌詠ませつつ、 『田族比女の大神、二柱の大神、いざさらば、吾行手を守らせ給へ』 と言ひ残し、馬背に一鞭あてて大野ケ原の中央を一直線に南へ南へと進ませ給ひける。 直道比古の神は出立にのぞみ御歌詠ませ給ふ。 『御樋代神田族比女の神にもの申す 神言畏み征途に上らむ 仰ぎ見れば魔棲ケ谷の谷間より 又も黒雲湧きひろごるも 曲神は再び天地を常闇に 包まむとするか心憎しも 漸くに蘇りたる生物を 損はむとする醜の雲霧 魂線の光をてらし言霊の 水火を固めて曲津を払はむ 天地を隈なく照らしたまひたる 日光を今や黒雲包めり 天津日の光を永久に万有に 照らさむために吾は進むも 天地の正しき道を踏みわけて 進まむ吾に曲津さやるべきや 曲神は横さの道を彼方此方に 開きて神世を乱さむとせり 一すぢの生言霊の正道に 横さの道を蹴破り進まむ 霊山比古の神は先頭に立ちたまひ 早くも御姿見えずなりけり 吾も亦曲津の征途に後れじと 駒に鞭うちいそぎ進まむ』 かく歌ひながら、駒に一鞭あて一目散に駈け出し給ひぬ。 正道比古の神は出立にのぞみ御歌詠ませ給ふ。 『三柱の神は早くも出でましぬ 吾も進まむ曲津の征途に 次ぎ次ぎに御空は曇り天津日の 光をかくしぬ曲津の黒雲 雨さへもまじりて雲は大空を いや次ぎ次ぎに包まひにけり 曲神の元つ棲処に押し寄せて 湧き立つ雲の根を断たむかな 雨嵐黒雲いかに荒ぶとも 吾は恐れじ言霊の武器あり 曲神の勢いかに猛くとも 正しき道の光に及ばじ 心長くしのびしのびて正道を 踏みわけ進まむ曲津滅ぶまで いざさらば御樋代神よ二柱よ これの聖所に吾等を照らせよ』 と言ひつつ、又もや駒の背に一鞭あてて駈け出し給ふ。 雲川比古の神は御樋代神に一礼し、ひらりと駒に跨りながら、 『いざさらば雲川比古は五柱の 殿軍として征途に上らむ』 と言ひつつ一目散に駈け出し給ふ。 山跡比女の神、千貝比女の神、湯結比女の神は御樋代神の前に並立し、手拍子足拍子を揃へて首途の祝歌を歌ひ給ふ。 『白馬ケ岳は高くとも 魔棲ケ谷は深くとも 醜の曲津は数限り なく集ふとも言霊の 清き水火もて打払ひ 斬り放りつつ万里の島の 天地の雲霧吹き清め 森羅万象悉く 月日の恵の露うけて 千代も八千代も永久の 生命を保ち弥栄え 五穀は稔り果実は 虫の害なくよく育ち 春の山野の百花は 艶を競ひて咲き匂ひ 百鳥歌ひ虫の音は 清くすがしくさえざえて 万里ケ島根は永久の 天国浄土と生るべし 治めたまはむ御心の 雄々しき今日の出でましよ 御供の神と選まれて 吾等三柱比女神は 白馬の背に跨りつ 泉の森を立ち出でて 遠き荒野を打ちわたり 魔棲ケ谷の醜神の 醜の荒びを言向けむ ああ惟神々々 天晴れ国土晴れ草も木も 生きとし生けるもの皆は 心晴れ晴れ勇めよ勇め 生きよ生き生き永久までも 尽きぬ生命を保ちつつ 主の大神の守らせる 万里ケ島根の禍を 払ひ清むる旅立ぞ ああ頼もしき次第なり 御樋代神よいざさらば 吾等が行手を守りませ 泉の森の聖所に 永久の光をなげたまひ 行手を明したまはれよ 偏に祈り奉る ああ惟神々々 生言霊のスの水火に 勇み進まむいざさらば』 と歌ひ終り舞ひ納めて、三女神は一斉に白馬の背に跨り、悠々として征途に上らせ給ひける。 (昭和八・一二・一五旧一〇・二八於大阪分院蒼雲閣加藤明子謹録) |
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霊界物語 | 77_辰_田族比女の神の物語(万里の島) | 21 泉の森出発 | 第二一章泉の森出発〔一九五三〕 田族比女の神始め二男三女の神等は、魔棲ケ谷の曲神の跡もなく全滅したるを喜び給ひて、月照りかがよふ泉の森の真砂を踏みしめ乍ら心朗かに各自御歌詠ませ給ふ。 田族比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『千早振る神の御水火の澄みきらひ 万里の島根も蘇へりたり 時じくに雲の包みし大空も 晴れて清しき万里の島ケ根 主の神の依さし給へる御樋代の 神の神業も成り初めにけり かくならば恋しきものは顕津男の 神の神言の御姿なりけり 長年を待ちつ暮せど背の岐美は 万里の外にいますがつれなき 国津神を万里の島根に植ゑ移し 国魂神を生まむとぞ思ふ 八十柱の御樋代神と選まれて 吾はさみしく月日を送るも 高地秀の宮を立ち出で遥々と この稚国土に来りて久しも 年さびむ事をおそれつ今日迄も 岐美の出でまし待ち佗びしはや 仰ぎ見る御空の月のさやけさに 恙あらせぬ岐美を思ふも 天渡る月の面を仰ぎつつ 夜な夜な恋ふる淋しき吾なり ややややに万里の島根は固まりぬ いざこれよりは国魂生まむか 国魂の神を生まむと思へども 背の岐美まさねばせむ術もなき この島の永久の司と定まりし 鶴もゑらぎて御空に立ち舞ふ はてしなき思ひ抱きて岐美を待つ 吾魂線は御空の白雲 折々は思ひ悩みて吐息しつ わが気魂も細りけるかな さらさらと梢に風は流れつつ 露照る月はきらめき渡る』 輪守比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代の神に仕へて吾は今 泉の森の月下に遊ぶも いやさゆる月の下びに夜もすがら 歌うたひつつ眠らえぬ吾よ 嬉しさと楽しさ一度に迫り来て 春の短夜さへも眠り得ず 白梅の月にかがよふあで姿は 御樋代神の粧ひに似し 未だ春は若くあれども桜木の 梢の蕾はほぐれ初めつつ』 若春比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『小夜更けて月の下びに歌詠みつ 踊りつ舞ひつ楽しき吾なり 真清水の泉に浮ぶ月光を 砕きて過ぎぬ春の夜風は 余りにも月の光りのさやかなれば 楠の樹蔭は一入暗きも 紫の花匂ひつつ池の辺に あやめはここだ咲き出でにけり 真白なる花を交へて池の辺の 菖蒲は春の夜を匂ひつつ 所どころ水鏡照る湧き水を ふさぎてあやめは咲き出でにけり 曲神の影は地上に消え失せて 月のみひとりさやかなるかも』 山跡比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『曲神の征途の戦をさまりて 泉の森の聖所に遊ぶも 村肝の心も魂も清々し 泉の森に公と遊びて 心安の国土のしるしか真砂照る 泉の森に月は冴えつつ』 千貝比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『草も木も若返りたる心地かな 空に澄みきる月の下びに 仰ぎ見れば幾億万の星の砂 俯してし見れば真砂に星照る 星と星月と月との中空に 雲の如くにうけるこの森 常磐樹の梢の濡葉にきらめきて 千々に照らせる今宵の月光 新しく蘇へりたる心地すも 曲神征途の戦終りて 吾駒も疲れたるらむ草の生に 身を横たへて安く眠れり はてしなき荒野を渡り進みてし 駒の功を照らす月光 小夜更けて森の傍のこもり枝に かすむが如くふくろふの鳴くも これの世に吾生れ来て始めての 清しき思ひに満たされにける』 湯結比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『鷲馬の背に跨りて御空はろか 渡りし思へば怖気立つかも 村肝の心威猛り曲神の 醜の砦に空よりのぞみし 心安き神世にありせば斯くの如 放れし危ふき業はなさじを 玉の緒の生命の限り吾公に 真言捧げて仕へ奉らむ 月冴ゆる泉の森に夜もすがら 御樋代神と楽しく遊ぶも 東雲の空は漸く明るみて 紫の雲ただよひにけり 五柱比古神やがて駿馬の 轡並べて帰り来まさむ』 斯く歌はせ給ふ折しも、東の空はからりと明け放れ、百鳥の声は樹々の梢に囀り、朝露はさし昇る天津日に照らされて七色の光りを放ち、その美しさ譬ふるにものなかりける。 かかる所へ霊山比古の神を先頭に保宗比古の神、直道比古の神、正道比古の神、雲川比古の神の五柱は、勇気を満面に充たせつつ、この度の戦に大本営と定まりし泉の森の聖所に無事帰陣し給ひける。霊山比古の神は御樋代神の側近く進みより、恭しく拝跪しながら凱旋報告の御歌を詠ませ給ふ。 『天晴れ天晴れ尊きろかも吾公の 水火の光りに曲津は滅びし 千万の曲津の奸計をふみ越えて 神の力に勝鬨あげしよ 曲津見は千引の巌と身を変へて 吾登りゆく道を塞ぎし 三柱の比女神となりて曲津見は 吾を詳に謀らむとせり 曲津見の化身の巌を踏み固め 暫しの憩所と吾なしにけり 御樋代の神と曲津は変じつつ 吾を屡々ためらはしける 村肝の心の玉をとぎすまし 吾ためらはず戦ひにけり 三柱の比女神等の放れ業に もろくも曲津は滅び失せぬる 七宝をとり散らしつつ曲津見は 雲井の空に消え失せにけり 心地よく曲津の軍を滅ぼして 御前に復命するぞ嬉しき 五柱の比古神いづれも曲津見に 悩まされつつ戦ひましける なかなかに侮り難き曲津見の 禍のがれしも公の功績 かなはじと思ひて神言宣りつれば 光りとなりて助けし吾公 遥かなる泉の森の空照らし 吾戦を助け給ひぬ 年古く曲津の棲まひし魔棲ケ谷は 堅磐常磐の巌城なりける 曲神の砦をことごと言霊の 水火に退ひし心の清しさ』 保宗比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『千万の悩みしのびて曲津見を 討ち滅ぼして帰りし嬉しさ 御樋代の神と変じて曲津見は 吾魂線を迷はせにけり 曲津見は女神と変じて吾行手に いより集ひて謀らひにけり 何事も公の言葉に従ひし 功は曲津に欺かれざりしよ』 直道比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『遥々と大野を渡り醜神の 百の奸計を踏みにじりつつ 曲津見の浅き奸計の可笑しさに 吹き出すばかり思はれにける 太刀膚の竜神大蛇数限り 百谷千谷に潜みて戦ふ 溪々ゆのこる隈なく黒雲を 吐き出でにつつ吾等を悩めし 曲神の水火の黒雲は十重二十重 包みて行く手を閉したりけり 千万の曲津の砦に立ち向ひ 神の恵に事なく勝ちしよ ありがたき尊きものは言霊の 水火の光りと深く悟りぬ』 正道比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『公がます泉の森に帰り来て 朝の空に復命せむ 天津日は豊栄昇り四方八方の 草木諸々蘇へりたり 何となく心勇まし曲神を 跡なく討ちて帰りし朝は 種々の醜の奸計に悩まされ 漸く曲津をきため帰りぬ 海を抜く八万尺の白馬ケ岳に 登りて見はらす国土は遥けし 曲津見の滅びし後の清しさに 四方の国形望み見しはや 牛頭ケ峯の頂いよいよ高くして 白馬ケ岳と丈をくらべつ 空に飛ぶ鷹も烏も百鳥も はろかに吾より下空にありき 魔棲ケ谷の丘に登りて見渡せば 万里の海原波かがやけり ここに来て心漸く和みけり 御樋代神の御前に仕へて』 雲川比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『吾は今申上ぐべき事もなし 四柱神の復命ありせば 勇ましき曲津を征途の戦して 吾天地の心を悟りぬ 天地の心を永久に抱きつつ 稚国原を拓かむと思ふ 限りなきこの広き国土を如何にして 造りまさむかと公を思ひぬ 曲津見は雲井の奥に消えし上は 総てのものはゆたに栄えむ 天津日は豊栄昇り吾公の 功を清く照らさせ給へり いざさらば万里ケ丘なる吾公の 聖所をさして急ぎ帰らむ』 斯く雲川比古の神の提言的御歌に、田族比女の神を始め一行十一柱の神々は、朝日照る大野ケ原を駒の嘶き勇ましく、万里ケ丘さして一目散に帰らせ給ひけるぞ目出度けれ。 (昭和八・一二・一六旧一〇・二九於大阪分院蒼雲閣谷前清子謹録) |
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霊界物語 | 77_辰_田族比女の神の物語(万里の島) | 23 歓声満天(二) | 第二三章歓声満天(二)〔一九五五〕 田族比女の神は再び高殿にのぼらせ給ひ、歓喜のあまり雀躍せる数万の生物に対して御歌詠ませ給ふ。 『主の神の水火に生れし万里の島に 御樋代神となりて臨みぬ 今日までは荒ぶる神の世なりけり 鶴の守れる国土にしあれば 大空を自由にかけりめぐるとも 生言霊の力なき鶴なり 今日よりは真鶴国土の名物と 守り育てむ松の梢に この島に生きとし生ける物皆を 今日より吾は領有ぎ守らむ 鳥獣木草のはしに至るまで 永久に守らむ厳の力に この島は紫微天界の愛児なり 造り固めて神に報いむ この島を造り固めて永久の 松の緑のよき国土とせむ 諸々の歓ぎ喜ぶさま見つつ この稚国土の栄えを祝ふ 足引の山の尾包みし雲霧も 隈なく晴れし今日ぞ清しき 黒雲の影は隈なく空に消えて あした夕べを紫雲棚引け 海を出で海に入るてふ日月の 光さやけく神国を生かさむ 永久の命保ちて此島は 地震もあるな嵐も吹くな 諸々のいより集ひて動くさまは 打ち寄す波の秀に見ゆるかな 御樋代の神と仕へて此の島に 天降りし吾は国土の親なり 生みの子のいやつぎつぎに栄えませと 万里の島根の生ひ立ち祈るも 瑞御霊天降り給ひて国魂の 御子生ますまで吾は動かじ この丘に瑞の御霊の御舎を つくりて天の時を待たなむ 平けく安らけくあれ永久に 吾司る万里の島根は 天地と共に栄えて遠永に この生島の命あれかし 若返り若返りつつ幾千代も 生きて守らむ万里の島根を 万世に動かぬ国魂神の裔は この生島を司るらむ 吾宣りし生言霊は幾代経るも 動かざるべし主神の依さしなれば』 輪守比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『吾はしもワ声の言霊に生り出でし 地上を開く輪守比古はや 荒金の地のことごと生かせつつ 森羅万象の命を守らむ この島は紫微天界の中心なるか 大海原の波に浮べる 波の音風のうなりも新しく 響かひ来るも今日のよき日は この島の生きとし生ける数の限り いより集へる聖所めでたし 天も地も新たに開けし此よき日に 堅磐常磐の礎固めばや 御樋代の神は今日より万里の島の 真言の親と仰ぎまつらむ もろもろの百姓よ御樋代神は 吾等が真言の親と崇めよ』 霊山比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『この島を開き初めたる百蛙 百の鼠の功は尊き 主の神の水火に生れし百蛙 鼠は神国を守る神はや 御樋代の神現れませる今日よりは 安けく生きよ蛙よ鼠よ 馬も牛も山を下りて広野原に 安き命を保ちつ働け 国津神数多この国土に植ゑ移し 鼠蛙を守り神とせむ 国津神を知食さむと主の神は 御樋代神を天降らせ給ひぬ 国魂の神を生まむと御樋代の 神はこの土に天降りましける 吾公の御供に仕へて霊山比古の 神もこの土に降り来つるよ 万里ケ島のすべての生物を安らかに 守り育つと吾公天降らせり 百蛙百の鼠よ今日よりは まこと捧げて公に仕へよ』 若春比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『濛々と雲霧たちて曲津見の 猛り狂ひし島は晴れたり 吾公の生言霊の御光に 照らされ曲津見は亡び失せけり 春夏秋冬とつぎつぎ天地は めぐりて神国の栄えはてなき 青雲の棚引く極み白雲の 向伏す限りは公の国土なり この国土に命を保つものみなは 公の恵みに浴せざるなし』 保宗比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『めでたさの限りなるかも天地の 水火清まりて曲津は失せぬる 国津神の姿見えねど鳥獣 蛙の声は地上に満ちたり 八十日日はあれども今日の生ける日は 天の足日よ世の創めなるよ 貴身と小身親子の道を永久に 定むる今日の言祝ぎ尊し 高殿は天の浮橋よ浮橋に 立たせて千代の固めを宣らす公 右左上と下との差別をたてて 正しく清く国土開くべし 高き低きの差別なければ神の国は また乱るべし曲津わき出でで』 直道比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『鳥の尾のいやながながと包みたる 雲霧はれて新国土生れぬ 新しき国土のはじめの言祝ぎの 庭にかためむ貴身小身の道 貴身大身小身田身の道を明らかに たてて拓かむ万里の島根を 今日よりは万里の島根を改めて 万里の神国と永久に讃へむ 万里の海に浮べる百の島々は この新国土の御子なりにけり 国魂の神生れまししあかつきは 万世変らぬ貴身と仕へむ』 正道比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『天地の神の心を心とし 貴身小身親子の正道開かむ 貴身大身小身と田身とのことごとは 主の大神を親とし仕へよ 田族比女神は吾等が親にして 万世動かぬ貴身にましける 吾公の御稜威は天地に輝きて 万里の神国に荒ぶる神なし 牛馬は田畑を耕し蛙鼠は 穀物らの命を守れ 永久に蛙は田を守り鼠等は 木草を守りて安らかに住めよ』 雲川比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『ありがたき神世となりけり万世に 動かぬ貴身と親あれませり 貴身と讃へ親と尊み師とたのみ 永久に生きなむ生きの命を 水清く風澄みきりて日月の 光明るき万里の神国よ 限りなき広き荒野をまつぶさに 開きて命の神苑となさばや うごなはるすべての生物の祝ふ声 この新しき国原に満てり もろもろの言祝ぐ声は牛頭ケ峰 白馬ケ岳に高き木霊す』 かく神々は、各自祝歌をうたひ高殿を下らせ給ひければ、あらゆる生物は心安らけく何の憚りもなく各自が得手々々をつくして、踊り狂ひ歌ひさへづり、その歓声は天地も震ぐばかりなりけり。 (昭和八・一二・一七旧一一・一於大阪分院蒼雲閣白石恵子謹録) |
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霊界物語 | 77_辰_田族比女の神の物語(万里の島) | 24 会者定離 | 第二四章会者定離〔一九五六〕 万里ケ島の天地を塞ぎたる邪神の潜みし雲霧はくまなく晴れて、日月は清く光を地上に投げ万物蘇生の思ひして、茲に新しく国名を万里の神国と称へ、総ての基礎を万世に固め給ひ、生きとし生けるものを悉く万里ケ島の聖所に集めて、寿ぎの宴を開き給ひしが、七日七夜の後、総ての生きとし生けるものは各自常住の地に帰り、水を打ちたる如く、御樋代神の御舎は静寂に帰したり。 かかる所に西に聳ゆる白馬ケ岳の背後にあたれる夕暮の空は、一種異様の光に満ちぬれば、田族比女の神は高殿に立ちて、この様を覧はし、尊き御樋代神の降臨なりとして、直に輪守比古の神、若春比古の神をして御樋代神を迎へ奉るべく、黄昏の月下を鞭うたせ給ひける。 茲に二柱の神は神言のまにまに、白馬ケ岳の西に当る御来矢の浜辺に馳けつけ給へば、常磐の森に憩はせ給ふ五柱の天津神等に出会ひまし、恭しく言葉を交し[※第6章からの続き]、万里ケ丘の聖所に神々を導きつつ、翌日の黄昏頃やうやくに復命申し給ひける。輪守比古の神は八柱の尊き御樋代神一行を導き、無事に帰りたることを田族比女の神の大前に奏上し給ひぬ。 『わが公の神言畏み二柱は 御来矢の浜に急ぎ着きけり 御来矢の浜辺に着けば森蔭に 朝香比女の神休らひ給ひぬ 恐る恐る吾御前に跪きて 公の真言を宣り伝へける 御樋代神朝香の比女は頷きて 諸神を従へ此処に来ませり』 田族比女の神はこれに答へて御歌詠ませ給ふ。 『久方の高地秀山より降りましし 御樋代神をよくも迎へ来しよ 兎も角もこれの高殿に導けよ 吾も階段を下りて迎へむ』 茲に輪守比古の神、若春比古の神の二柱は「オー」と一声畏まりつつ、御庭に待たせ給へる朝香比女の神一行の前に言葉も恭しく、 『いざさらば御樋代神の朝香比女 進ませ給へこれの高殿へ 四柱の神も後よりつづきませ 吾も御後に従ひまつらむ』 朝香比女の神は軽く目礼しながら、静々と高殿さして進みたまふ。茲に田族比女の神は高殿の階段を降りて恭しく朝香比女の神の一行を待たせ給ひけるが、比女の御姿目前に迫りけるより、 『あらたふと御樋代神の天降りましし 尊さに吾は迎へ奉るも いざさらばこの高殿に案内せむ のぼらせ給へ五柱の神』 茲に朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『音に聞く田族の比女の御樋代は 汝なりしかも愛しと思ふ』 斯く歌ひ終り、悠然として田族比女の神の後より、朝香比女の神は高殿さしてのぼらせ給ひける。朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『所々に御樋代神は八十柱 いますと聞きしを今日会ひにけり 地稚き国土を固むる御樋代神の 苦しき神業を思ひやらるる 国土は未だ定まらずして曲津見の 猛る国原拓くは苦しき 諸々の艱みに堪へて万里ケ島を 拓き給ひし公の功を思ふ 吾は今西方の国土に進まむと その道すがらを立ち寄りしはや この島に八十比女神のましますと かねて聞きしゆ立ち寄りて見し まめやかに在せる公の御姿に 吾は嬉しさ堪へやらぬかも 永久の命保ちて若々しく 国魂神を生ませ給はれ』 田族比女の神は感激に堪へず、御歌もて答へ給ふ。 『ありがたし尊し朝香比女の神の 優しき言葉に蘇りける 八柱神尊き比女の御自ら 吾を訪はせし今日の畏さ 顕津男の神の出でまし待ちまちて 今はやうやく年さびにけり 眺めよきこの高殿に安らかに 光放ちて在しましませ』 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『吾もまた同じ思ひの御樋代よ 背の岐美に会ふと求ぎて来れり 背の岐美は西方あたり曲津見の 百の軍と戦ひ給はむ 一水火の契なれども主の神の 依さしなりせば忘れ難く思ふ』 田族比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『愛くしき朝香の比女の言の葉に 吾はおもはず涙しにけり 背の岐美を恋ふる心の苦しさを 味はひ給ふ女神いとしも』 茲に二柱の御樋代神は百年の知己の如く、互に心の底より解け合ひ、同情の涙にくれ給ひつつ思はず知らず日を重ね給ひける。田族比女の神は、白馬ケ岳の魔棲ケ谷にて神々の戦利品として持ち帰りたる数多のダイヤモンドを取出し、朝香比女の神に奉りければ、実に珍しき物よと賞め讃へながら、田族比女の神の奉るままに、こころよく受け取らせ給ひぬ。田族比女の神の奉りたる宝石は、最も光り眩く、最も大いなるダイヤモンドにして稀なる珍しき物なりける。 朝香比女の神は其の謝礼として、懐中より燧石を取出し、火を切り出で四辺の枯芝を集めて火を燃し給ひければ、田族比女の神を始めとし十柱の神々は初めて真火の燃ゆるを見給ひしこととて、何れも感嘆の声を放ち給ひけるが、朝香比女の神は宝石の謝礼として手づからのこの燧石を田族比女の神に贈り給ひける。 田族比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『あら尊明るき熱き火は燃えぬ 闇夜を照らす神なるよ真火は この国土に真火の功のある限り 曲津見の神は荒ばざるべし 曲神の潜む山野を焼き払ひ 清むるによき真火なりにける 朝香比女の神の給ひし燧石は 万里の神国の貴の宝よ 石打ちて真火出づるとは今日の日まで 愚しき吾はさとらざりけり この宝賜ひし上は万里の国土の 総ての曲津を焼き滅ぼさむ』 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『鋭敏鳴出の神の賜ひし燧石なれば 国土の鎮めと公に贈るも この燧石一つありせば稚国土も 忽ち固らに栄えゆくべし 穀物その外すべての食物を 真火にてあぶれば味はひよろしも 真清水も真火の力に湯となりて 神に捧ぐる代となるべし』 田族比女の神は又もや御歌詠ませ給ふ。 『朝香比女神に捧げし宝石は 光あれども熱からず燃えず 命なき光を公に奉り 命ある光を賜はりしはや』 茲に二柱の神はダイヤモンド、燧石の贈答終り、再び寛ぎて歓談に耽けらせ給ふ。 初頭比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『波の秀を渡りて万里の神国に 求ぎて来つるも公を守りて 珍しく輝く玉を見たりけり この新国土に着きし間もなく』 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『高山と高山の中に斯くの如 聖所のあるは珍しきかな 御樋代神と御樋代神の出会ひませる この神国は永久に栄えむ』 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『わが公に従ひ奉りて万里の国土に 夜光の玉を拝みけるかも 夜光の玉は美しかれども命なし 燧石の真火の真言にしかざり』 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『諸々の曲津をやらひし燧石を 贈らせ給ひしわが公畏し 貴宝数多あれども真火出づる 燧石にまさる宝なきかな』 輪守比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『朝香比女神の賜ひし燧石こそ この新国土の生ける宝よ 宝石の光は如何に輝くも 邪神の持ちし宝なりける』 霊山比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『畏しや天降りましたる八柱の 比女神の言葉直に聞く吾は 顕津男の神に出会ふと数万里の 海山渡らす比女ぞ雄々しき』 若春比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『やうやくに雲霧晴れし万里の国土に 二柱の御樋代神天降らせり わが公は尊しされど八柱の 比女の功はひとしほ高し』 保宗比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『珍しや御樋代神は二柱まで この神国に天降り給ひぬ 西方の国土に出でます朝香比女の 神の心を雄々しとおもふ』 直道比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『一柱の瑞の御霊を恋ひ恋ひて ねたみ給はぬ御樋代神等よ 惟神神の依さしの御樋代なれば 清くすがしく在しましけるよ』 山跡比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代の二柱神の御面は 月日の如くかがよひませり 拝むもまばゆきばかり御樋代の 神のおもざし輝き強し』 千貝比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『はろばろと瑞の御霊を慕ひまして 出でます朝香比女の神雄々しも 雲霧をいぶきわたりて海原の 波の秀ふみて来ませし公はも』 湯結比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『ためしなき雄々しき御樋代神等の 赤き心に照らされしはや 帰りまさむ日は近づきぬ美しき 神に別るとおもへばかなしも』 正道比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代神これの神国に賜ひたる 燧石は千代の宝と仰がむ 斯くの如尊き生ける力あらば 万里の神国におそるるものなし』 雲川比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『新しく国土は生れぬ新しき 真火輝きぬ神の恵に 身を清め心清めて燧石の 神霊を永久に斎かむとおもふ』 斯く神々は各自御歌詠ませつつ、朝香比女の神の訪問や、燧石を国宝として賜ひしことなどの嬉しさに国土の前途を祝し給ひけるが、御樋代神の朝香比女の神は長らくこの国土に留まるを得ず、以前の四柱の神を従へまし諸神に別れを告げ、御来矢の浜辺より磐楠舟に乗り万里の海原を東南の空さして静かに静かに進ませ給ひける。 (昭和八・一二・一七旧一一・一於大阪分院蒼雲閣内崎照代謹録) |
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霊界物語 | 78_巳_朝香比女の神の物語(葦原新国) | 02 波上の追懐 | 第二章波上の追懐〔一九五八〕 朝香比女の神の乗らせる磐楠舟は、薄霞棚引く初夏の海原を悠々として辿り行くを、御影の隠るるまで、田族比女の神の一行は名残惜しみつつ見送らせ給ひ、御歌詠ませ給ふ。 『天晴れ天晴れ光の神は出でましぬ 浪の秀隈なく照らし給ひつ 懐かしき光の神に永久に 訣別ると思へば悲しき吾かも 美はしき優しき雄々しき比女神の 御舟を送る悲しき吾なり 手をあげて訣別を惜しみ給ひつる 比女の優しき心ばせかも 顕津男の神の天降らせ給ひてし 思ひするかな比女の出でましは 顕津男の神に訣別るる身のつらさ 思ひ浮べて悲しき吾なり 此広き神国の親と選まれて 吾は悲しき今日に逢ひける 今よりは心の駒を立直し 比女の心に報ひ奉らむ 八潮路の潮の八百路の八潮路を 踏み分け出でます功尊き 永久に此島ケ根に宮居建てて 比女の御心安んじ奉らむ 片時も早く御舎仕へ奉り 比女の御魂を斎き奉らな 御姿はよし見えずとも神社に 御魂祀りて御功偲ばむ 刻々に遠ざかり行く御舟の 御影は吾を泣かしめにけり 万斛の涙湛へて御来矢の 浜辺に御舟を送り奉るも 主の神の定めと思へど今一度 会はまくほしき公なりにけり 八潮路の浪の秀の旅安かれと 神言宣りて御神に祈らむ』 輪守比古の神は海原を打見やりつつ御歌詠ませ給ふ。 『天晴れ天晴れ御舟は遠くなりにけり 吾は悲しさ弥まさりつつ 幾千代も公の御姿わが胸に 輝きまして忘れざるべし 今日の日は浪平かに天津日は うららに照れり御舟幸あれ 振返り振返りつつ出でませる 神の姿の優しくもあるか 高地秀の峰より天降りし神なれば 一入尊く御在ましける 御姿に再び見えむ術なしと 思へば今日の訣別惜しまる 果しなき大海原の浪別けて 進ます公の幸かれと思ふ』 霊山比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『御訣別余り惜しさに悲しさに われ言霊を参らせざりける 万里の島の光を賜ひし比女神の 出でまし送りて何か淋しき 朝香比女神の珍しき出でましに 稚国原はよみがへりたり 浪路遥かに御舟小さくなりにつつ 吾眼界を離れむとすも』 保宗比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『白馬ケ岳清き姿は弥永に 公の御行を送りまつらむ 吾眼小さくあれば公が行く 御舟は早くも見えずなりけり 白馬ケ岳の峰羨ましも比女神の 御行を永久に送りまつれば 御来矢の浜辺に立ちて送り奉る 御舟は早くも目路を離りぬ 永久に留まりたまへと祈りてし 光の公は帰りましける 此上は御樋代神に真心を 尽して国土に仕へまつらむ 此国土の宝と比女の賜ひたる 燧石の光に世をまもらばや』 直道比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『此国土に光となりて天降りましし 神は情なく帰りましける 会ふ事の嬉しきものを今日はしも 悲しき訣別に御舟送るも 永久に忘れぬ公となりにけり 此稚国土に光を賜へば 朝夕に火の若宮に仕へつつ 公の功を讃へ奉らむ 心清く優しくまして雄々しかる 比女は真言の神なりにけり』 正道比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『舷に打寄す浪の響さへ いや次々に遠ざかりける 輝ける白き優しき御面は 浪の秀高く隠れましけり 天津日の浪に沈ます思ひかな 光の神は目路を離れり 永遠に仕へ奉ると思ひてし 朝香の比女は此国土になし 田族比女神の神言に畏みて 吾は朝夕仕へまつらむ 白馬ケ岳の醜の曲津も比女神の 功に驚き逃げ失せにけむ 牛頭ケ峰白馬ケ岳の頂を 振返りつつ御覧すらむ 白馬ケ岳の麓に小さき吾ありと 偲ばせ給へ朝香比女の神』 雲川比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『今となりて惜しみ奉るも詮なけれ 只真心を捧げ御魂に仕へむ 御舟の影さへ見えず歎かひの 涙しげしげまさり行くかも 此島の森羅万象おしなべて 公に名残を惜しみつつ泣かむ 百草の花も萎れて今日の日の 浜辺の訣別惜しむがに見ゆ 御空行く陽光も薄ら曇らひつ 今日の訣別を惜しませ給へる』 山跡比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『天も地も照らして隈なき比女神の 御姿今は見えずなりける せめてもの記念と賜ひし燧石は 万里の神国の光なるかも 宝石の光は如何に貴くとも 国土を救はむ代にはならず 奉るものもなければ止むを得ず 卑しき宝を奉りける 心よく受けさせ給ひし比女神の 優しき心を忝なみ思ふ 如何にせむ光の神は帰りましぬ 万里の海原の浪踏み別けて 永久に公の功を畏みて 火の若宮に仕へまつらむ』 千貝比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『国土稚き万里の島根に吾ありて 今日の悲しき訣別に遇ふも 懐かしく優しく雄々しき比女神に 吾魂線はいつかひにけり 吾魂は公の御身にいつかひて 海原遠く守り行くらむ 御功の尊くませば比女神の 霊衣は広く四方を照らせり 真心の尊さ始めて覚りけり 御身に溢るる貴の光に 天も地も公の宣らする言霊に 従ひまつると思へば畏し』 湯結比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『今日よりは比女の賜ひし燧石の 功に清き湯をむすぶべし 朝夕に火の若宮に仕ふべく 御湯をむすびて禊せむかな みはるかす大海原は広らかに 御舟の影も見えずなりける いざさらば田族比女の神の吾公よ 万里の聖所に帰りまさずや いつまでも浪の秀見つつ偲ぶとも 詮なきものを早や帰りませ』 茲に田族比女の神一行は、目路を離りし御舟に諦めの心を定め、雄々しくも駿馬の背に跨り蹄の音も勇ましく、其日の黄昏るる頃、無事万里の丘の聖所に帰り着き給ひ、時を移さず夜を日に継いで火の若宮の工事にかからせ給ひけるが、旬日ならずして神の幸ひ弥厚く、荘厳なる若宮は築かれにける。 茲に湯結比女の神は朝夕火の若宮に仕へまし、主の神を始め火の神と称へまつりし朝香比女の神の生魂に白湯を沸かして笹葉に浸し、左右左に打振り朝々の身魂を清め御湯を御前に奉りて忠実に仕へ給ひける。是より今の世に到るまで何れの神社にも御巫なるものありて、御湯を沸かせ、神明に奉る事とはなりたるなり。 朝香比女の神は御来矢の浜を立出で給ひ、御舟の中より田族比女の神の一行に訣別を惜しみつつ、振返り振返り御手を挙げさせ給ひ御歌詠ませ給ふ。 『天晴れ天晴れ御樋代神の現れませる 万里の島根に訣別れむとすも 神々の優しき心に絆されて 思はず月日を重ねけるかも 永久に住みたく思へど主の神の 依さしに背く術なき吾なり 雄心の大和心を振り起し 惜しき訣別を告げにけるかな いつまでも訣別るる機会のなかるらむ 雄々しき健き心持たずば 神々の心知らぬにあらねども 神業思ひて吾は訣別れし 神々は浜辺に立ちて吾舟を 心優しく見送り給へる 万世の末の末まで忘れまじ 真言輝く神々の心は 百年の親しき友に会へる如 隔てなかりし神々を思ふ 吾舟は浪路遥けくなりにける 島の神々安くましませ 真鶴の声も悲しく聞えけり 万里の新国土去らむと思へば』 初頭比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『二柱比女神等の神宣 聞くにつけても涙ぐまるる 斯の如優しき清き神々の 生言霊を聞かざりにけり 比女神は斯くあるべきを大方の 心は嫉み妬みに満つるも 御樋代の神と神との言問ひの 其優しさに涙ぐまれつ 御来矢の浜辺にはろばろ見送りし 神の優しき心ばせを思ふ 地稚き国土を拓かす苦しさを 思へば吾は心畏む 真心の限りを尽し愛善の 道に進ます百神天晴れ 吾舟は浪の秀遠く離りつつ 浜辺に立たす神見えまさず 次々に舟遠ざかり行く海原に 益々近く親しき神々よ 神々の御姿見えなくなりにけり 白馬ケ岳の峰は光りつ 白馬ケ岳聳立つ国土におはします 神々等の御姿なつかし』 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『広き稚き国土は吾目路離りつつ 白馬ケ岳の峰のみ光れる 万里の海に浮べる万里の生島は 永遠に栄えよ天地と共に 刻々に遠ざかり行く島ケ根を 懐かしみつつ吾は行くなり 果しなき此海原の中にして 万里の島根は恋しき国土なり』 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代の神に仕へて万里ケ島の 聖所に清く吾は遊びぬ 草も木も百鳥千鳥も稚国土の 春をうたひて長閑なりけり 雲霧も隈なく晴れて天津日の 御影清しき万里の国土はや 御樋代の神御自ら御来矢の 浜辺に公を見送りたまひし 吾舟は浪の鼓を打ちながら 比女に訣別を告げにけらしな 比女神の優しき姿目に浮きて 忘れぬ君となりにけらしな 顕津男の神に見合ひす其日まで 若く優しくいませと祈るも』 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『天も地も晴れ渡りたる海原を 公に訣別れて行くは淋しも 比女神を始め十柱神等の 優しき心仰がるるかな 優しくて雄々しくいます神々は 醜の曲神を退ひ給ひし 漸くに御来矢の浜も遠くなりて 白馬ケ岳はひとりかがよふ 吾舟は太平の浪を辿りつつ 公を守りていや進むなり 海原を包みし霧も晴れ渡り 楽しき今日の舟の旅かも』 (昭和八・一二・二〇旧一一・四於大阪分院蒼雲閣森良仁謹録) |
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霊界物語 | 78_巳_朝香比女の神の物語(葦原新国) | 17 天任地命 | 第一七章天任地命〔一九七三〕 茲に葦原の国土の守り神と生れませる葦原比女の神は、天体に現はれし月星の奇現象に三千年の天地の時到れることを、鋭敏なる頭脳より証覚し給ひ、大勇猛心を発揮して、天津神等を一柱も残さず地に降し、また地に潜みたる神魂の清き国津神を抜擢して、天津神の位置につらね、国土の政治一切を統括せしめ給ふ大英断に、朝香比女の神は感激し給ひ、諸神に向つて宣示的御歌を詠ませ給ふ。その御歌、 『天地の開けし時ゆためしなき 今日の動きの大いなるかも 天地も一度に動く心地かな 国土の司の昇り降りは 荒金の地を拓きて御日光は 天津御空に昇りましける 天渡る星は御空の高きより 降りて地にひそむ夜半なり 葦原比女神の神言の英断を 主の大神も嘉しますらむ 二十年の曇り汚れも今日よりは 隈なく晴れて月日は照らむ 神々の水火の曇りの強ければ 天津御空に黒雲立つも 新しき国土の生れし今日よりは 葦原の国土はゆたに栄えむ』 葦原比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『御光の神の現れます忍ケ丘に 国土の司を定めけるかな 国津神を天津神とし天津神を 国津神とし稚国土生まむ 国津神を言向け和すと此丘に 神を祈りて千代を祝はむ』 かく宣り終へ給ひて、国津神もろもろに命じ、忍ケ丘の聖所に主の大神の斎壇を造らせ、祝詞の声も恭しく、天津神、国津神、十柱神の神任式の祭典を盛大に行はせ給ひける。 野槌比古の神は葦原比女の神の御前に、恐る畏る進み出で、歌もて答へ給ふ。 『葦原の国土の守りと天降ります 御樋代神の御前畏し 卑しかる吾国津神選まれて 今日より仕へむ御側近くを 天も地も醜の黒雲ふさがりし この国原は明け放れたり 真心の限りをつくし主の神を 朝夕斎きて公に仕へむ 荒金の地をはひ出で久方の 御空に昇るわれ畏しも 卑しけれど御言葉なりせば慎みて 仕へ奉らむ国土の柱と 四柱の国津神たちもろともに 御前を近く清めて仕へむ』 高比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代の神の依さしの言霊を 畏み奉り今日より仕へむ 天津神国津神等のなやみをも 真言の力に払ひ奉らむ われは野に久しくありて天津神の 日々に務むる神業に疎し われはただ真心もちて朝夕に 百の神たちの為につくさむ 葦原の国土は稚しもはしばしは まだ曲津見の雄猛び強し 今日よりは清けき明き心もて 公と国土とに神魂捧げむ』 照比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『思ひきや天津御神の位置に入りて 公に親しく仕へ奉るとは 駿馬の使にわれは驚きて 急ぎ御前にかしこみ来るも 主の神の生ませ給ひし葦原の 国土を生かして永久に守らむ 御樋代神の例もあらぬ英断に 吾は畏み馳せまゐりけり 天津神の務むるわざは知らねども 神任のままに仕へ奉らむ 朝夕に禊の神事を修めつつ 此稚国土の為に尽さむ 月も日も神庭に清く照比古の 神は功を永久に立てむ これの世を忍ケ丘に年さびて 世を歎きましし野槌の神はや 吾もまた忍ケ丘に往来して 野槌の神の教うけをり 曇りはて乱れはてたる国原を 治めむとして道を求ぎける 野槌比古神の教は天地の 神の真言の教なりけり 国津神の水火安かれと朝夕に 神を祈りし野槌の神なり 野槌比古神の教に従ひて 永き年月を神斎きけり 今日となりて野槌の神の畏さを 悟りけらしな愚なる身も 畏けれど御樋代神の御前に 仕へて神国を安く生かさむ』 清比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代の神の真言に召されつつ 忍ケ丘にわが来つるかも 吾もまた野槌の神の御教を 朝な夕なに守りてしはや 久方の御空曇らひ水火汚れ 苦しき神世となりにけらしな 天の時漸く来りて御光の 神の力に神世晴れにける 葦原比女神の御心なやめてし 国津神等の罪を許せよ 国津神の穢き水火の固まりて 天津御神に及びけるかも 荒金の地の司と降りましし 天津神等をいとしく思ふも 吾もまた望む位置にはあらねども 公の言葉に背く由なし 貴身と小身の道を正して天地の 神の御心なごめ奉らむ 今日よりは野槌の神に従ひて 此稚国土の為に尽さむ たまきはる命のはつる夕べまで 吾は尽さむ神国の為に 貴身と小身田身の真道明らかに 明して御前に真心尽さむ』 晴比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『かかる日のありとは予て知りながら 今日のよき日に驚きけるかも 愛善の紫微天界に生き生きて すべてのものを助け守らむ 鳥獣魚虫螻蛄にいたるまで 神の恵に浸し守らむ 新しき国土の司と任けられて 吾魂線の戦き止まずも 主の神の水火の力を身に浴びて 葦原の国土に力を尽さむ 御樋代神の御稜威畏み葦原の 国土の隈々拓き進まむ 足引の鷹巣の山の雲をぬく 高き功を立てむと思ふ 曲津見はかげを潜めむ忍ケ丘の 今日の喜び耳にしつれば 御光の神は現れまし葦原比女の 神は光らす目出度き神世かな 年長く国土のなやみを歎ちてし わがおもひねは晴れ渡りける 主の神の生ませ給ひし貴の島を 汚す曲津見を憎みつ年経つ 久方の天の時こそ迫り来て 吾世に出でし今宵ぞ嬉しき 力なく光なけれど吾はただ 野槌の神に添ひて仕へむ 主の神の御水火に現れます御樋代神を 吾公として仰ぐ今日かも 葦原の国土の守りの司神と 光らせ給へ万世までも』 かく各自神任式の挨拶や抱負を、御歌もて国土の大神柱なる葦原比女の神の御前に、言挙げし、英気をその面に充し給ひけるぞ畏けれ。 茲に御樋代の神は、天津神の神任式を目出度く終らせ給ひ、ついで国津神の任所を定め給はむとして、宣示的御歌を詠ませ給ふ。 『真以比古神の神言は西の国土の 司となりて神を治めよ 葦原の西の国辺は国津神 数多住むとふとく出で立たせよ』 真以比古の神は感激しながら御歌もて答へ奉る。 『御樋代神の恵かしこし謹みて 西国土拓くと勇み進まむ 今日よりは西の国土なる国津神の 司となりて貴身に仕へむ』 葦原比女の神は成山比古の神に向ひ、宣示的御歌詠ませ給ふ。 『成山比古神は南の国原に 進みて国土の長と仕へよ 南の国土に住まへる国津神を 朝な夕なに労り守れ』 成山比古の神は畏る畏る御歌詠ませ給ふ。 『汚れたる神魂の吾も捨てまさぬ 貴身の言葉に涙しにけり 力なき吾なりながら御心に 背かじものと朝夕仕へむ』 葦原比女の神は霊生比古の神に向ひ、宣示的御歌詠ませ給ふ。 『霊生比古神は東の国原に 司となりて進み行きませ 鷹巣山の東に当る国土なれば 曲津の猛びを心して行け』 霊生比古の神は感謝しながら御歌奉る。 『許々多久の罪も汚れも許しまし 東の国主に任け給ひけるはや 国主てふ尊きわざを任けられて 忝なさに袖しぼるなり』 葦原比女の神は栄春比女の神に向ひて、宣示的御歌を与へ給ふ。 『栄春比女神はこれより北の国土の 司となりて永久に栄えよ 北の国土はまだ稚ければ国津神も 数多住まなく曲津見多し 曲津見に心して行け栄春比女よ 汝が功を吾守るべし』 栄春比女の神は嗚咽涕泣しながら神恩を忝なみ、御歌を奉る。 『吾もまた穢き弱き神なるを 恵の貴身は捨て給はぬを よしやよし魂の命は失するとも 貴身の恵に報はで置くべき 北の国土を春の弥生の花の如 𪫧怜に委曲に拓き奉らむ いざさらば北の神国に進むべし まめやかにませよ御樋代の神』 葦原比女の神は八栄比女の神に向ひて、御歌を与へ給ふ。 『八栄比女は野槌の神の後をつぎ 忍ケ丘の国津神守らへ 葦原の国土の真秀良場よ忍ケ丘は 光の神の天降らしし丘よ』 八栄比女の神は嬉しさに堪へず、歌もて答へ奉る。 『吾貴身の厚き心に包まれて 忍ケ丘の涙忍びぬ 御光の神の天降りし此聖所の 司となりし吾幸思ふ 今日よりは心の限り身の限り 貴身の依さしに報い奉らむ』 茲に朝香比女の神一行の神々の立会のもとに、葦原比女の神の英断的神任式は無事終了をつげ、天津神は国津神となり、国津神は天津神と任けられて、いよいよ葦原の国土の新生命は輝き初めにけるぞ畏けれ。 (昭和八・一二・二二旧一一・六於大阪分院蒼雲閣白石恵子謹録) |
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霊界物語 | 78_巳_朝香比女の神の物語(葦原新国) | 18 神嘉言 | 第一八章神嘉言〔一九七四〕 妖邪の気鬱積して黒雲天地を塞ぎ、殆ど亡国に瀕したるグロスの島は、天の時到りて、高地秀の宮居より天降りませる八柱御樋代神の一柱なる朝香比女の神の御降臨によりて、天地清まり、国内一点の風塵も止めざるに至りたれば、茲にグロスの島国を葦原新国と改称し、国津神を抜擢して葦原比女の神の国津柱の御側近く神業を司らしめ給ふ事とはなりぬ。茲に新しく蘇りたる葦原の国土はグロノス、ゴロスの曲津神、生言霊の御光と真火の功に逃げ失せければ、国土の中心なる忍ケ丘に宮居を移し給ひ、八尋殿を急ぎ見建て給ひて、国津神の上に臨ませ給ふ事とはなりぬ。十曜の神旗は春風に翩翻として翻り、日月の光は殊更に美はしく天に輝き地に照らひ、四方八方より国津神を初めとし禽獣虫魚の生きとし生けるものの限り、忍ケ丘の聖場に集まり来りて、新しき国土の成立を寿ぎ祝ひ奉る事とはなりぬ。 茲に葦原比女の神は新に言依さし給へる天津神等を率ゐて、忍ケ丘に宮柱太しき立て主の大神を斎き祭り給ひ、大御前に潔斎して国の初めの神嘉言を奏し給ひける。其神嘉言に言ふ。 『掛巻も綾に畏き忍ケ丘の下津岩根に大宮柱太しき立て、高天原に千木高知りて、国の鎮めと鎮まりたまふ主の大神の大御前に、葦原の国の国津柱と仕へまつる葦原比女の神、謹み敬ひ畏み畏みも白す、抑々これの神国は、未だ地稚く、国形定まらず、曲津見の醜の悪しき水火は天地に塞がり、雲霧深く、天日の光は地に届かず、総ての木草を初め、五穀等豊に稔らず、国津神等の生の命を危からしめ、これの稚国土は二葉にして枯果てむとしけるが故に、如何にもして神の依さしの美国を造り固めばやと、朝な夕なに心を砕き血潮をしぼり天を仰ぎ地に俯して歎かひける折もあれ、高地秀山の貴の聖所に宮柱清しく立てて仕へませる朝香の比女神の端なくもこの稚国土に天降りまし、生言霊の御光と真火の功に曲津見の醜の棲処を焼き尽しまし、今は全く風塵治まりて、曲津見の影も朝の御霧夕の御霧を朝風夕風の吹き払ふ如く散らせ失ひ給ひければ、国土の東に偏在れる桜ケ丘の宮居を国土の真秀良場なるこれの聖所に移し、主の大神の神霊を永久に斎きまつりて、国の御旗を定め政所を移して国土生み、神生みの神業に心清しく真言の水火を凝らして仕へまつらむと思ふが故に、朝香比女の神の天降り給ひしを機会に、今日の佳辰の吉時に新しき国土の生れの御祭りを取行ひ、天津神八百万の神等の神霊を招ぎ奉りて、この国の山野に生ふる種々の美味物を百足の机代に置き足はして供へまつる有様を、平らけく安らけく聞召し相諾ひたまひて、これの新国土を千代に八千代に動くことなく変る事なく、五十橿八桑枝のごとく茂栄に栄えしめ給ひ夜の守り日の守りに守り幸へ給へと、恐こみ恐こみも祈願奉らくと白す。 天晴れ天晴れ豊葦原と栄えます 神の御国は生れけるはや 主の神の大宮柱太知りて 仕へまつらむ今日ぞ目出度き 群雲の天地を塞ぎし島ケ根も 隈なく晴れて月日はかがよふ 二十年の長き月日を包みてし 醜の黒雲晴れ渡りけり 光ある国津神等を選りあげて 国の守の神と依さしぬ 主の神の恵は永久に葦原の 新しき国土を光らさせたまへ 天津神国津神等は各も各も 任けのまにまにならはせたまへ 久方の天の岩戸は開けたり 常世の闇も明け渡りつつ 桜ケ丘の宮居をこの地に新しく 移して治めむこの新国土を 葦原の国土の中央の忍ケ丘は 大政所にふさはしきかな 忍ケ丘を常磐ケ丘と改めて 神世のまつり開かむと思ふ 万世に神の賜ひし燧石を 伝へて日継の印と定めむ もろもろの国津神等も生物も 今日のよき日を蘇るかな 歓びの声は天地に響かひて 動ぐがごとし葦原の国土は 万世も動がぬ国土の礎を 立てし功に天地は動げり 歓びの声に天地は動ぎつつ 動がぬ国土の基礎固まりぬ 朝香比女神の神言の功績に 葦原国土は稚く生れし』 朝香比女の神は寿ぎの御歌詠ませ給ふ。 『葦原の国土の礎固まりて 御空の月日も冴え渡りける 天清く地又浄く生れたる この新国土は永久に栄えよ 遥々と荒野を渉り海越えて 国土の固めの吉日にあふかな 過を直日に見直し聞き直し 罪なる神も許したまひぬ 天津神もゆるされここに国津神と なりて永久に蘇りませり 国津神の清き神魂を選り抜きて 依さしたまへる神の畏さ 新しき国土の生れをことほぎて 生言霊を奉りける』 かく歌はせ給ふ折しも天津御空より十曜の神旗を振翳し、数多の従神をしたがへて紫の雲に乗り此場に天降り給ひしは、主の大神の御使ひ神なる鋭敏鳴出の神の雄姿に在しましける。 朝香比女の神はこの光景に驚きたまひ、合掌敬拝しつつ御歌詠ませ給ふ。 『掛巻くも畏き鋭敏鳴出の神は 今日の吉日に天降りましける 鋭敏鳴出の神の功に草枕 吾行く旅は安けかりけり 曲津見の伊猛り狂ひしこの島も 公の功に清まりにける 曲津見の伊猛る国を進みゆく 吾道の辺を守らせたまへ 鋭敏鳴出の神の助けのなかりせば 吾旅立ちに光あらまじを』 鋭敏鳴出の神は大宮の前に降らせ給ひ、恭しく拍手しながら、 『掛巻くもこれの新宮におはします 主の大神にのりごと申さむ 久方の雲路をわけて神宣 畏み吾はここに来つるも 願はくは千代に八千代に葦原の 国土を守りて栄あらせよ 朝香比女神の出立ち守らひつ 目出度く今日を現はれにける 葦原比女神の神言に新しき 国土の生れをことほぎまつるも 地稚く国土稚けれど鋭敏鳴出の 神は非時守りまつらむ 心安くこの稚国土を開きませ 吾は力を添へて守らむ』 葦原比女の神は驚喜しながら御歌詠ませ給ふ。 『思ひきやこの新国土に鋭敏鳴出の 尊き神の天降りますとは 力なき吾にありせば昼夜を 守らせたまへ鋭敏鳴出の神 天地の雲霧晴れて新しく 神の御稜威に国土は生れし 朝香比女鋭敏鳴出の神の二柱を 斎きまつりて永久に仕へむ 二柱の神よ御魂を永遠に この新国土に止めたまはれ 国津神百千万の生けるもの 今日の吉日に蘇りつつ』 野槌比古の神は祝歌をうたひ給ふ。 『掛まくも綾に尊き神々の 光に生れし葦原の国土よ 葦原の国土稚けれど主の神の 恵みに生きていよよ栄えむ 朝香比女鋭敏鳴出の神の功績に 醜の黒雲晴れ渡りける 桜ケ丘の宮居をここに移しまして 神国を知らさす今日ぞ目出度き 国津神もろもろここに集まりて 国土の基礎を寿ぎ祝ふ 吾公に選まれわれは今日の日ゆ 天津御神となりて仕へむ 許々多久の国の罪穢れ吹き払ひ 仕へまつらむ千代に八千代に 果しなきこの新国土を今日よりは 国津神等と共に開かむ 天地の水火を清めて今日よりは 生国原と神世を開かむ 長年の雲霧ここに晴れ渡り 公に親しく仕へまつるも』 高比古の神は祝歌を詠ませ給ふ。 『村肝の心を清め身を浄め つつしみ敬ひ神国に仕へむ 朝夕に生言霊を宣りあげて 国土の栄を吾は祈らむ 惟神禊の神事を怠らず 天地の水火を清め澄まさむ 葦原比女神の畏き神宣に 常磐ケ丘となりし聖所よ 常磐ケ丘の常磐の宮居に朝な夕な 生言霊を宣りて仕へむ 天界は愛と善との国故に 生言霊を怠るべけむや 朝香比女の神鋭敏鳴出の神の守ります 葦原比女の神世は安けれ 主の神の御水火に生れし神司 葦原比女の神は光よ 葦原比女の神の光をつつみたる 醜雲晴れし今日の目出度さ 葦原やいや永久に弥長に 栄えましませ神のまにまに』 照比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『三柱の大神等の御功に 葦原の国土今生れたり グロスの島は跡なく消えて葦原の 国土新しく生れましける 新しき国津柱の比女神に つかへて真言を捧げまつらむ 野にありて国津神等ををさめつつ 今日の吉日を待ち佗びしはや 葦原比女の神の御目に見出され 天津神位に仕へまつるも 国津神の心濁りて大空に 醜の黒雲立ち塞ぎける 天津神国津神等は隔てなく 親しみあひて国土開かばや 天津神と国津神等の心より 御空に黒雲湧き立ちしかも 天津神と国津神等は村肝の 心をてらして国土は栄えむ』 清比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『新しく生れましにける新国土の 千代の栄を寿ぎまつる もろもろの国津神等は勇みたち 国土の生れをことほぎまつれり 御功は鷹巣の山の頂を 光らして昇る朝日に等しも 月も日も清く輝く新国土の この真秀良場に神嘉言宣る 喜びの心は凝りて歌となり 言霊となりて鳴り出でにけり』 晴比古の神は祝歌をうたひ給ふ。 『久方の空に月日も晴比古の 吾は祝はむ新しき国土を 新しく神の御稜威に生れたる 国土の栄は久しかるらむ 天地と共に果なき葦原の 国土の礎定めし今日かも 樛の木のいやつぎつぎに葦原の 国土の国魂知しめすらむ やがて今顕津男の神天降りまして 国魂神を授けたまはむ』 茲に天津神々は葦原の国土の新に蘇りたる祝辞や、桜ケ丘の宮居を忍ケ丘の中心地に移し給ひし大神業を謳歌しながら各自言祝ぎたまひ、新国土の前途を祈らせ給ひける。又新に国津神の司に任命されたる五柱の神及び国津神等の祝ぎ歌は数限りなくあれども、余り長ければ茲に省略しおく事とせり。 (昭和八・一二・二三旧一一・七加藤明子謹録) 本章を口述し初むる折しも 皇太子殿下御誕生遊ばさる との号外来り、我国民の魂を蘇らせ歓喜せしめたるぞ畏けれ。 |
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霊界物語 | 78_巳_朝香比女の神の物語(葦原新国) | 21 怪体の島 | 第二一章怪体の島〔一九七七〕 朝香比女の神は、葦原比女の神一行に常磐の浜辺まで送られ、互に名残りを惜しみつつ、朝日の照らふ万里の海原を順風に乗じ、南へ南へと舟を進ませ給ふ折しもあれ、晴れ渡りたる大空の彼方に屹立したる鷹巣の山の頂より、黒煙濛々と噴火の如くに噴き出して天に冲し、次第々々に膨れ拡ごり、万里の海原さして押し寄せ来る状、もの凄きばかりなりける。黒雲はグロノス、ゴロスの竜蛇神の形を現はし、真つ先に海原さして進み来る如く見えにける。 朝香比女の神は此光景を打仰ぎながら、 『鷹巣山尾根に黒雲涌き立ちて 大空高く拡ごれるがに見ゆ 鷹巣山に立つ黒雲は醜神の 吾に仇せむ下心かも 澄みきらふ御空の蒼を醜神の 醜の黒雲ぬりつぶさむとす よしやよし万里の海原包むとも 吾言霊に伊吹き払はむ 曲神は棲処焼かれて鷹巣山に 忍びて雲となりて荒ぶも 吾舟は魔神の黒雲に包まれて 行手も見えずなりにけらしな 主の神の御水火に生れし吾にして 如何でひるまむ曲津の荒びに 曲津神荒べば荒べ千万の 災来るも吾はひるまじ』 初頭比古の神は此光景を見て御歌詠ませ給ふ。 『グロノスもゴロスも力のありたけを 尽して御舟にさやらむとすも 大空の蒼海原をぬりつぶし 万里の海まで雲に包める よしやよし黒雲如何に包むとも 海原分けていや進み行かむ 曲神の醜の水火にや海風は 吹き乱れつつ御舟ゆするも』 斯く歌ひ給ふ折しも、海上俄に旋風起り、雲は大なる輪を描きて前後左右に舞ひ狂ひ、磐楠舟は荒浪に翻弄され、一進一退如何ともすべからざる羽目に陥りぬ。朝香比女の神は平然として微笑しながら此光景を静に見給ひつつ、心中に深き成算あるものの如くに在し坐しける。 起立比古の神は咫尺弁ぜぬ暴風の海原を眺めながら、儼然として御歌詠ませ給ふ。 『曲神はあらむ限りの暴力を ふるひて御舟を顛覆さむとす 風も吹け浪も立て立て雲も起きよ 如何で恐れむ神なる吾は 面白く風の海原に御舟は 浮きつ沈みつ上りつ下りつ 荒浪は鬣振ひ御舟の 舷きびしく噛みつき来るも 主の神と朝香の比女に任せたる 吾身は天に任すのみなる グロノスやゴロスも力の種つきて やがて亡ばむ思へば悲しも 葦原の国土永遠に治むべく 此曲津見を罰めで止まむや』 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『奴婆玉の闇の海原に荒浪の 立ちたつ今日の旅は勇まし 曲津見の荒ぶ限りを荒ばせて 吾面白く眺めむと思ふ 荒風の響も高き浪の音も 何か恐れむ神なる吾は グロノスもゴロスもここを玉の緒の 命かぎりに荒ぶと見えたり 荒ぶだけ荒ばせ狂はせ疲らせて さて其の後に言霊宣らむか』 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『久方の天を晴らしの吾なれば 御空の黒雲直に払はむ 一二三四五六七八九十 百千万八千万の 神よ集まりましまして 今日の御舟にさやりたる 醜の黒雲払はせ給へ ああ惟神々々 吾等となふる言霊に 命あれかし光あれかし』 朝香比女の神は再び御歌詠ませ給ふ。 『面白き醜の猛びを見るものか 万里の海原過ぎ行く度に 曲神もやがて疲れむ斯くの如 黒雲吐けば力尽きなむ 黒雲を起し荒風吹かせつつ 吾旅立を脅かさむとするも 斯くの如き醜の災何かあらむ 暫く待ちて吾は罰めむ』 斯く神々は各自御歌詠ませつつ、闇の海の暴風怒濤に舟を翻弄されながら、神色自若として少しも恐れず、暫しを望見し落着き居給ひける。 斯かる処へ百雷の一時に轟く如きウーウーウーの唸り声響き渡り、忽ちにして荒風は鉾先を緩め、浪和らぎ渡り、四辺を包みし魔神の黒雲は次第々々に薄らぎつつ四辺に飛び散り、遂には跡形も止めず、浪平かに天津日は晃々と輝き給ふ平静なる天地と変りけるぞ不思議なれ。 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『ひそやかにわが祈りたる言霊に 鋭敏鳴出の神は現れましにけり 鋭敏鳴出の神の言霊に破られて 曲津見の奸計は消え失せにけり 荒風を起し荒浪振はせし 曲津は亡びむ憐れなるかも 主の神の厚き守りと鋭敏鳴出の 神の功に曲津は逃げたり 黒雲は次第々々に薄らぎて 其影さへも見えずなりけり 千重の浪照らして御空ゆ日の神は わが行く舟を守らせ給ふ 曲神は勢強く見ぬれども 真言の神には脆きものかな 葦原比女神の神言は曲津見に 襲はれ給はむ思へば愛しき さりながら鋭敏鳴出の神わが魂の いつかひあれば国土安からむ 海原は春の陽気の漂よひて 水面に跳る魚鱗は光れり』 初頭比古の神は莞爾として御歌詠ませ給ふ。 『神々の稜威の守りに曲津見は 見るも哀れに亡び失せける 葦原の鷹巣の山の谷深く 潜める曲の悪戯可笑しも 黒雲の形はさながらグロノスと ゴロスの走る姿なりける 斯の如御空は晴れて浪凪ぎて 公の御舟の安さ嬉しさ 目路遠く水の面に浮ぶ島影は しかと見えねど巌山なるらし 主の神と鋭敏鳴出の神わが公の 御稜威に安き磐楠舟かも』 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『面白き曲津の芝居の一幕を 今日の浪路の旅に見しかな 一時は如何ならむかと村肝の 吾は心を悩ませにける 強き言言ひつつありしが村肝の 心の奥は慄ひ居たりき 鋭敏鳴出の神の言霊なかりせば 未だ黒雲はさやり居にけむ 上下に公の召します御舟を 翻弄したる曲浪凪ぎしよ 斯くならば最早安けし西方の 曲津の国土にひたに進まむ』 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『朝香比女神は驚きましまさず 微笑みいませし雄々しさ健気さ 海原を闇に包みて御舟を 浪に弄りし曲津見の悪戯よ 如何ならむ曲津の災重ぬとも 神の御稜威にひたに進まむ 鷹巣山に忍びてグロノス、ゴロスの曲津は 黒雲となりて御舟艱めぬ』 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『久方の天晴れ渡り月も日も 水面に浮びて湯気立つ海なり 御舟は吹く春風にすくすくと 進みましけり万里の海原を 朝香比女神に仕へて種々の 曲津の悪戯面白く見し 闇の海に荒風も浪も駿馬は 恐れず静かに嘶きて居し 吾は今無心の駒の幸はひを つくづく覚りぬ荒浪の海に 幾度も御舟あやふき浪の上を 無心の駒は嘶き歓ぎつ 海路走るその苦しさに引替へて 駒は御舟を喜びけるにや 漸くに島影近くなりにけり 魔神よ永遠に潜めるらしも』 舟は漸くにして海路に横はる巨大なる巌島に近づきぬ。よくよく見れば、赤黒さまざまの大蛇幾筋となく巌より首をさし出で、長大なる身体をうねらせながら、大口を開き火焔の舌を吐き、御舟に向つて襲はむとする勢を全力を尽し見せ居たりければ、朝香比女の神はこの状を御覧して、心穏ひに微笑みつつ御歌詠ませ給ふ。 『此処も亦魔神の巣ぐふ巌島の 醜の大蛇はさやらむとすも 醜神は如何にさやぐも猛ぶとも 神なる吾は恐るべきやも 曲神を言向けまたは罰めつつ 神のまにまに進む吾なり 千丈の巌の上より長々と 大口開けて大蛇は火を吹けり 千百の大蛇が一度に吐き出す 炎は青く真火にはあらず 吾伊行く道にさやらむ曲津見は 生言霊に放りて行かむ 草木一つ無き巌山に真火を避けて ここを先途と曲津見潜める さりながら生言霊の御功に この巌山を火の島とせむ。 いろはにほへとちりぬるを わかよたれそつねならむ うゐのおくやまけふこえて あさきゆめみしゑひもせす きやうの浪路の旅立ちに さやらむ曲津は悉く 生言霊の御功に 伊吹き払ひて追ひそけつ 神の依さしの神業に 仕へ奉らむ惟神 神の御前に生言霊を 捧げて祈り奉る もしも曲神吾言霊に 従はずしてさやりなば この巌島は悉く 真火を起して灼熱の 炎に残らず焼き尽し 曲津の在処を絶すべし カコクケキ カの言霊に真火出でて さしもに堅き巌山も 火の海とならむ惟神 曲津見心を改めて 弥永久に此島の 守りの神となれよかし ああ惟神々々 生言霊に光あれ 吾言霊に命あれよ。 海中に聳り立ちたる巌島に 潜む大蛇を焼きて進まむ 巌島はカの言霊の輝きに 残らず火となれ炎となれよ』 斯く歌ひ給ふや、千尋の海底より御空に高く屹立したる周囲約三里の巌島も、忽ち一面に火焔に包まれ、海水は熱湯の如く煮えくり返り、湯気と煙は四辺を包みて其壮観譬ふるに物なく、大蛇は或は焼かれ或は傷き或は命からがら雲を吐き出し、辛うじて是に乗じ、鷹巣の山の空を指して逃げ行きにける。巌島は瞬く間に根底より焼き尽され、海水は熱湯の如く沸騰し湯気立ち昇りぬ。此光景を見て初頭比古の神は感激に堪へず、御歌詠ませ給ふ。 『今更に吾驚きぬ御樋代神の 生言霊に島は滅びぬ 八千尋の底の巌根も火となりて 焼滅しにけり公の御稜威に いつまでもグロノス、ゴロスの執拗さ 思へば吾は憐れを催す 永遠に動かぬ巌根も吾公の 生言霊にかなはざりしよ 巌ケ根は残らず火となり湯気となり 煙となりし時の見事さ 面白き公の神業伏し拝み この天地の不思議を悟りぬ 吾公の功績見れば初頭比古 吾は小さき神にぞありける 曲津見は巌の山と変じつつ 公の海路の旅にさやりし 心地よく曲の化身の巌島は 生言霊に滅びぬるかな カコクケキ生言霊の幸はひに 堅磐常磐の巌も焼けたり』 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『尊さに吾は言葉も口籠り あきれ慄くばかりなりけり 今更に生言霊の尊さを 思ひけるかな海路の旅に 炎々と巌島焼ゆる状見つつ 今更の如驚き止まずも 巌の上に千万の大蛇垂れかかり 大口開けて炎を吐きける 斯の如き曲津の猛びも平然と 公は微笑み御覧しける 曲津見は四度破れて同輩を 数多失ひ逃げ去りにける いや広に神の御稜威の幸はひて この天地は拓け行くらむ』 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『今更に朝香の比女の吾公の いみじき功を驚きにけり 斯の如光と功の吾公に 仕へて進まむ思へば嬉しき 心弱き女神の吾も魂太り いみじき力を賜はりにける』 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『跡形もなく滅びたる曲津見の 化身の巌の跡に湯気立つ 曲津見は万里の海原に浪を立て 雲を起して雄猛びにける 曲津見の雄猛び煙となりにけり 御樋代神の生言霊に 浪路はるけき万里の海原安々と 公に仕へて渡らふ楽しさ カコクケキ生言霊の御光は 千引の巌ケ根さへも焼きたり 巌島の燃ゆる火影はあかあかと 海底までも輝きしはや』 斯く各自御歌詠ませつつ、順風に乗り舟の舳を東南に向け進ませ給ふ。 (昭和八・一二・二五旧一一・九於大阪分院蒼雲閣森良仁謹録) |
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霊界物語 | 79_午_葭原の国土の竜神族の物語 | 01 湖中の怪 | 第一章湖中の怪〔一九八二〕 天之峯火夫の神、大宇宙の高天原に生れましてより、幾千年の星霜を経たれども、天未だ備はらず、地又稚くして、水母なす漂へる島々の中にも、別けて美しく地固まりし天恵の島あり。この島を葭の島と言ひ又葭原の国土とも言ふ。此島国は葦原の国土に比して約十倍の広袤を有し、万里の海の中に漂ふ生島なり。 この島の中央に屹立せる高山を伊吹の山と称し、その麓をめぐる幾百里の湖水を玉耶湖と言ふ。この湖水は水清くして湖底の砂礫鏡を透して見る如く、清麗の気自ら漂ふ。 伊吹の山には、桔梗、女郎花、撫子、萩、山吹、椿などの花樹繁茂し、春夏秋冬の分ちなく艶を競ひて咲き乱れ、芳香風に薫じ、さながら地上の天国を現出せるものの如し。数多の竜神と称する種族、この山を中心として湖面に出没し、或は山に登りて安逸なる生活を楽しみつつありき。さりながら、竜神族はいづれも人面竜身にして、未だ人間としての形体そなはらざりければ竜神族の王は、如何にもして国津神のごとく人体をそなへたきものと、日夜焦慮しつつありける。 この湖水の上流に当りて、水上山といふ饅頭形の大丘陵ありて、国津神はこの丘陵を中心に安逸なる生活を送りつつありき。この里の酋長を国津神の祖と称し、その名を山神彦と言ひ、妻の名を川神姫と称へられける。 山神彦、川神姫の夫婦が中に、眉目形すぐれて雄々しくやさしき、男女二柱の御子ありき。兄をあでやか(艶男)と言ひ、妹をうららか(麗子)と言ふ。二人の兄妹は互に睦び親しみて、影の身体に従ふが如く、いづれの土地に到るも離れたることなかりける。 大空に一点の雲もなく、月は皎々として東の野辺の草より昇らせ給ひ、星は黄金白銀の光りを御空一面にまたたかせ、えも言はれぬ眺めなりける。 麗子はこの大自然の風光に憧れ、只一人吾を忘れて水上川の岸辺を下り行けば、清しき水面にうつる月の光り、星のまたたき、川水を銀色に輝かせつつ流るる状態のいとも床しくいとも目出度きに憧れながら、月下の川辺に立ちて歌ふ。 『あなさやけおけ 天之岩戸も開け放れ 御空の雲霧かげもなし 東の御空を見れば十四夜の 月は昇れり葭原の 国土の草木をいてらして 輝く野辺の露見れば さながら星の光かも 水上川を眺むれば 水は澄みきり澄みきらひ 静に流るる月の光 真砂にまがふ星の光 ああ天国か楽園か この光景を吾一人 見るは惜しけれ父のみの 父も来ませよ母そはの 母も来ましてこの眺め 心ゆくまでみそなはせ 兄の君なる艶男も 吾後追ひて来りませ ああこの清水川水よ 生きの生命の輝きか 汀に香るあやめ草 月の光に照らされて 濃き紫のやさ姿 あざやかなるかも吾兄の 君の粧ひそのままよ 吾足下を眺むれば やさしき清き撫子や 黄色に照らふ女郎花 仙人掌の花あかあかと 吾立つ川辺に香るなり ああ兄の君よ艶男よ』 斯く歌ふ折しも、川底を真昼の如く輝かしながら、ぬつと首から上を水面に現し、歌ふ男がある。よくよく見れば麗子が歌中の人物、艶男の兄であつた。 麗子は余りの不思議さと嬉しさとに、川中に裳裾からげて飛び入らむとしたが、片足をさし入れた刹那、脛もきれるばかりの冷たさに驚き、元の岸辺に馳せ上り、茫然として男の顔を眺めゐたりき。これはその実麗子が兄ではなく、此湖底に潜む竜神族の王であつた。 竜神の王は如何にもして国津神をとらへ、これと嫁ぎて人面竜体を脱し、国津神同様の子を産まむことを思索してゐたのである。然しながら、水中にある竜体は底の藻草をもつて包まれたれば、さながら青き着物を着たる如く麗子の目に見えてゐる。 麗子は日頃恋ひ慕ふ艶男と思ひつめ、嬉しさと愛しさとの声をしぼりて歌ふ。 『天晴れ天晴れ 御空は清し月清し 星の光はさやかなり かかる畏き天空を そのままうつし浮べたる 玉耶の湖の清しさよ その清しさの真中に 高くそびゆる伊吹山 いぶきの狭霧早や晴れて 天もあざやか地もうらら 吾恋ひまつる兄の君は この湖に何時の間に 遊び給ふやいぶかしし 如何に清けく澄めるとも この湖の水底は 吾足さへもきるるかと 思ふばかりの冷たさに 吾は震ひをののきぬ 如何にして汝は何時迄この水に 浸り給ふかいぶかしや はや上りませ陸の上に 如何に水面は清くとも 花咲き満つる陸の眺めに 如何でしかめやうららなる 地上に早く上りませ 懐しの君恋しき君よ早や来ませ いとしき乙女ここに在り 愛しき乙女ここに在り はや上らせよ兄の君よ』 と力限りに歌ひながら艶男の上陸をうながしてゐる。水中の男はこれに答へて、 『なつかしの麗子の君よ妹よ 汝と吾とはとこしへに この葭原の国中に 玉の緒の生命ながらへて 百年千年八千年も 生きて栄えて果てしなく 伊吹の山の主となり この地の上に天国を 建てむと思ふ真心に 汝に先き立ち今ここに 吾は来つるよこの水は 心のままに変るぞや 冷たき心持つならば この川水は冷ゆるらむ あつき心を持つならば これの湖水はあつからむ 熱くもあらず冷たくも なくて楽しく今吾は 汝を迎へむ竜の都へ 心はげまし水中に 飛び入りませよ麗子の君よ』 斯く歌ひながら麗子の入水をうながしてゐる。麗子は恋しき兄の、言葉を尽しての招きに心はをどり、忽ち水中に飛び込まむかと思ひしが待てしばし、腑に落ちぬ事あり。常に水中をきらはせ給ふ兄の君が、かかる冷たき水中に全身を没し、顔のみを上げて安々と言葉をかけさせ給ふはただ事ならじ。或は竜神の化身ならむかと、うつぶして思案にくれてゐる。水中の男は艶男の声そつくりにて、 『天晴れ天晴れ 御空は晴れて月あかし 玉耶の湖水は底ひまで 澄みきらひつつ大空の 月をうつせり千万の 星を流せり汝が眼には 天津御国の荘厳を うつして清しき玉耶湖の 水はゆるやかにして香りあり 何をためらひ給ふぞや 妹背の契り今ここに 汝と結ばむ厳御霊 瑞の御霊の仲立に 清く清しき夫婦仲 いざや来らせ給へかし』 麗子は磯辺に立ちて歌ふ。 『兄の君の仰せはよしと思へども 家にのこせしちちのみの 父の許しのなき身とや ははそはの母の心もまだわかぬ 今日の吾等の如何にして 嫁ぎの道をつとむべき 如何に恋しき君なればとて 父と母との許しなく たとへ御許しありとても この広き葭原の国土に せまき水面に嫁ぐべき 何はともあれ垂乳根の 家に帰りて定むべし 陸地に上らせ給へかし』 斯く互に、水中に飛び込めよ、上陸せよ、と兄妹が水陸両方面からかけ合つてゐる。 斯かる所へ一天にはかにかき曇り、闇の塊は四辺に落下し、咫尺暗澹、波狂ひ立ちて優しき乙女の心は、狂はむばかりなりにける。忽ち暗中より一塊の火光現るよと見る間に、艶男と見えし男は人面竜身と変じ、乙女の体をひつ抱へ、水上高く捧げながら湖中に浮ぶ伊吹山の方面さして逃げ去りにける。 竜神の化身に乙女はとらへられ 行き方知れずなりにけらしな (昭和九・七・一六旧六・五於関東別院南風閣谷前清子謹録) |
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霊界物語 | 79_午_葭原の国土の竜神族の物語 | 03 離れ島 | 第三章離れ島〔一九八四〕 麗子は人面竜身の湖中の怪物にさらはれ、黒雲の中を暫し何処ともなく、一瀉千里的の速力にて運ばれつつ、とある紫壁蒼瓦の門前におろされ、ふと辺りを見れば湖水すれすれに浮べる竜神の都の表門前なりける。 数多の人面竜身の竜神族は、「ウオーウオー」と叫びながら、身体に藻の衣を纒ひ、顔面のみを出して幾百千ともなく、門の両側に端坐し迎へ居たり。 竜神の王は声もさはやかに歌ふ。 『あはれあはれ 百年千年相待ちし 国津御祖の愛娘 麗子姫を今此処に 迎へまつりぬ今日よりは 竜の都の王となりて われ等が一族悉に 人面竜身のこの姿を 人の姿に生み直し 竜神族を悉く 国津神等のみすがたに よみがへらせて天地の 恵を湖の中までも 照らさせ給へ麗子の姫よ ウオーウオー あなさやけおけ 竜の都の鉄門は今や 天と地との一時に 開けし如くさやさやに 開け初めけりあな尊 あなさやけおけ あな面白の出でましよ』 と、各自くさぐさの音楽を奏で、歓迎の意を表し、竜神族は一斉に立ち上り、陸に湖に出没して踊り狂ふその声、天地も崩るるばかりに思はれける。 麗子はあまりの変りたる光景に、稍暫し不審の念晴れやらず、艶男の恋しき兄の事は忘れられず、父母の安否を気遣ひながら黙然と俯いて居る。 竜神の王は莞爾として、麗子の手をそつと握り、 『いぶかしくおぼしめすらむ此島は 竜神族の棲める都よ 君なくば竜神族はいつまでも このあさましき姿保たむ 頭のみ人と生れて身体は このあさましき竜の姿よ』 ここに麗子は最早詮なしと決心の臍をかため、人面竜身のあはれなる此族と嫁ぎ、人間の子孫を生み了せむものと、雄々しくも艶男に対する恋心を断ち切らむとしたが、どうやら心の底に一片の名残が残つて居た。 『思ひきや艶男の君にあらずして 竜の都の君なりしはや かくならば何を嘆かむ今日よりは 竜の都の君に仕へむ 垂乳根の父と母とはさぞやさぞ わがなきあとを嘆かせ給はむ わが思ふ心の中の生命なる 君もさぞかし嘆かせ給はむ さりながら竜神族のもろもろを 助くる神業と思ひて慰む 水の中にかかる都のある事を 悟らざりしよ今の今まで 夢なれば早く醒めかしわれは今 見しらぬ国土に誘はれ来つ 千万の竜神族に迎へられ 夢路を辿る心地するかも 竜神の王よもろもろ族たち われは今日より国土の君ぞや 親を捨て恋を捨てたるわれにして 如何でひるまむ此島国に わが言葉諾ふ力なかりせば われは黄泉に旅だちなさむ 賤しけれど国の御祖の御子なるぞ 汝竜神を如何で恐れむ』 竜神の王は、麗子の直立せる前に跪きて、 『有難しうららの君の御言明 幾代経るとも違はざるべし あさましき姿を持てる竜神の 救ひの神は天降りましけり 百年の願叶ひてわれは今 救ひの神にあひにけるかも 今までは湖の悪魔と国津神に 貶すまれつつ禍なしけり 今日よりは本津心に改めて 天地の神業に仕へまつらむ 伊吹山に続く竜宮島ケ根は われらが永久の住処なるぞや 汝が君は今日より竜宮の弟姫と あらはれましてわれらを守らせ 竜宮の弟姫これにある限り 此の島ケ根は安けかるべし』 麗子は歌ふ。 『大空は高く涯なし湖底は 深く広しも神の御稜威に もろもろの魚族残らずわが徳に まつろひ来れ安く守らむ 国津神の御子と生れて此島の 君となりしは神の心か 此島に見る月光も水上山に 見るも等しき光ならずや 月も日も隈なく照らせ竜宮の 島根の君はここにありけり 夜されば御空に月は輝きて 此の島ケ根を安く照らさむ 朝されば天津日光は煌々と 湖の底ひも明し給はれ 月も冴えよ星も瞬け湖底の 真砂も照れよ魚族も生きよ みぐるしき竜神族の身体を 百年の後に人となさばや われは今竜神の君と嫁ぎつつ 全き御子を生まむと思ふ 此島にわれ天降りてゆ木も草も 俄に光増しにけらしな』 かかる所へ、遥か向ふの方より竜神たちは、金、銀、瑪瑙、瑠璃、硨磲、珊瑚、水晶等にて飾りたてたる神輿を担ぎ来り、弟姫の立たせる前にどつかとおろし平伏する。 竜神の王は此輿を指し弟姫に向ひ、 『いざ御駕籠召しませ百年千年経て つくりし輿よ君のみために 一度も用ひし事のなき神輿 君に捧げむわれの真心 百年も千年も心用ひつつ 所有宝につくりし輿はや 此輿は君ならずして地の上に 召すべき神はあらじと思ふ』 麗子は意外の意外に、驚異の眼をみはりながら、 『思ひきやかかる島根にかくの如 うるはしき宝の輿のありとは 竜神の心をこめし輿なれば われもいなまじ乗りてや進まむ』 竜神の王は大いに喜び歌ふ。 『有難し弟姫神の御言明 聞くは吾身の生命なりけり 生命にもかへて作りし此神輿 早く召しませ弟姫の神 百神もさぞ喜ばむ百千年の 心づくしも今報はれて』 ここに麗子姫は、夢に夢見る心地して、神輿の鉄門を開き、さつと立ち入り、直立不動の姿勢をとれども、さりとて頭の天井につかふる憂ひもなく、最も高く広き神輿なりければ、長柄の棒を担ぐ竜神族は、幾百人とも数へ切れぬ多人数なりける。 竜神の王は神輿の前に立ち、幣帛を振りながら先頭をなし、遥か彼方の御殿をさして進み行く。 竜神等は、「ウオーウオー」と一斉に声を揃へ、天地を揺がさむばかりの勢にて、粛々と行列正しく前進する。 行くこと約二十町ばかり、ここに七宝を以て飾られたる大楼門が巍然として建つて居る。白衣をつけし竜神たちは、左右に鉄門をぱつと開いた。神輿は粛々として門内に潜り入る。迦陵頻伽の声、彼方此方の木々の梢ゆ伝はり来り、その荘厳さ言語のつくすべきにあらず、神輿は大竜殿の玄関に恭しくおろされた。 竜神の王は歌ふ。 『これこそはわが住む館よとこたちよ いざ進みませ奥の殿まで 百年の匠になりし大殿は 汝が出でまし待ちて居たるも 漸くに建ち上りたる大殿よ 先づ汝が命住みて治めよ』 麗子は神輿の戸を開き、清楚たる姿にて、悠々清庭に立ち出で、竜神の王のしりへについて奥殿深く進み入る。 これより麗子は、竜宮の弟姫と称へられ、竜神の王に大竜身彦の命と名を与へ、此島の司として輝き渡る事となりける。 麗子は思はず知らず竜神に 招かれ島の司となりける 此島に跡をたれつつ竜宮の 弟姫神と仰がれにける 此神のいさをしなくば海中の 魚族永久に栄えざるべし。 (昭和九・七・一六旧六・五於関東別院南風閣白石恵子謹録) |
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霊界物語 | 79_午_葭原の国土の竜神族の物語 | 08 相聞(二) | 第八章相聞(二)〔一九八九〕 艶男は女神等の恋の鋭鋒をさけて、鏡の湖畔なる百津桂木の樹蔭に太き息をもらしつつありしが、忽然として辺の叢よりあらはれたる白衣、紅袴の乙女は、右手に白萩の花の満開せるを持ち、左手に玉水盃を捧げながら、艶男の側近く進み寄り、満面笑みを湛へて、玉水盃の水を艶男の前に差し置き、 『珍しき艶男の君よ御水召せよ 今日の暑さは咽喉のかわけば わらはこそは露にうるほふしら萩の 花はづかしき乙女なりけり そよと吹く風にも靡く白萩の かよわき姿を愛で給はずや 白萩の花は清しも鏡湖の 底まで透ける真清水に似て 白萩の香りを添へて玉水盃に 御水奉る今日の嬉しさ 真清水を掬ばせながら白萩の 花の香りを愛でさせ給へ 夏冬のけぢめもしらに白萩は 伊吹の山に淋しく匂ふも』 艶男はこれに答へて、 『ありがたし乙女の君の志 われいただかむ桂木の蔭に 湖の水は清しも白萩の 花は床しも乙女の姿か 百千花咲き匂へども吾にして 手折らむ力なきぞかなしき』 白萩は歌ふ。 『汝が心いづらにあるか白萩の 花はづかしき吾にもあるかな さりながら手折らせ給へ白萩の 花におく露こぼるるまでも 汝が君の情の露にうるほひて 吾は生くべき白萩の花よ この島に百花千花匂へども ただ一本の白萩のわれ 風吹かば露やこぼれむ花散らむ 早く手折らへ一本の白萩』 艶男は歌ふ。 『白萩の花美しと見る吾は 岩の上に生ふ無花実なるよ 花のなき無花実のかげに繁りたる 草花にして実のなき吾なり』 白萩は又歌ふ。 『なやましき心の丈をしら萩の 梢もみゆく汝は山風 山風は如何にはげしく吹くとても 木蔭の白萩散らむとはせず わが持てる白萩の花に露とめて 心のあかしと君にまゐらす よしやよし露の情はあらずとも 君のみそばに細く咲くべし 人の目を漸くここにしのび草 しのびかねたるわが思ひかな』 艶男は白萩の情のこもる言葉に、ほつと当惑しながら、こともなげに鏡の湖面を眺めてゐる。白萩は水面の小波を指さしながら、 『みそなはせ鏡の湖の小波の 底の心は動かざるらむ 鏡湖の底ひもしらぬわが思ひ 写して匂ふ白萩の花よ 八千尋の底ひもしらぬ思ひねを 君は知らずやみそなはさずや 君のために玉の緒の生命消ゆるとも 悔いなき吾と思召さずや 斯くならば生命死すとも動かまじ 深き心をくみとらすまでは 伊吹山百草千草匂へども 君のよそほひに勝る花なし 玉の緒の生命をかけて恋ひ慕ふ 君は情なき薊の花かも』 艶男は歌ふ。 『さまざまの汝が言霊に打出され 吾はいらへの言葉だになし はろばろと波の秀ふみて来ながらに かかるなやみは思はざりけり 竜宮の島の乙女に囲まれて 吾は行手をふさがれにけり 足引の山より高き父母の恩 おもへば春の心起らじ 伊吹山尾根より吹き来る青嵐を 朝夕あびて戦く吾なり 竜宮の恋の嵐の強ければ わが身はかなく散らむとするも』 斯く歌ふ折しも、鏡湖の波を左右に分けて、あらはれ来る三柱の女神あり。主と思しきは前に立ち、稍年若き乙女は後辺に立ち、悠々として水面を渡りながら、艶男の憩ふ百津桂木の樹蔭に、莞爾として寄り来る。白萩はこれを見るより、忽ち大地にひれ伏し、「ウオーウオー」と叫びながら恭敬礼拝怠りなく、頭を大地につけたるまま身動きもせず、うづくまり居る。女神は樹蔭に憩ふ艶男に軽く黙礼し、紅の唇を開き、 『御祖神の御子あれますと聞きしより そこひを分けて吾は来にけり 吾こそは大海津見の神の愛娘 海津見姫とよばるる神なり 竜宮の島根は未だ稚けれど 汝が力をもちてつくれよ この島をつくり固めて御子を生み いや永久に守らせ給へ 竜宮の島根は恋の島ケ根よ 愛の花咲く神さだめ島 姫神の数多住まへるこの島に 渡りし君は助けの神ぞや 人体をうまらにつばらに備へざる 女神を救へ神のまにまに 天地の百の草木をことごとく この島ケ根に植ゑ生はしける この島は海津見の神の真秀良場よ われも折々来りてあそべる 水清き鏡の湖は海津見の 神の宮居の入口ぞかし ここに来て弱き心をもたすまじ 全き神子を生むべき島根よ 八十姫の願ひことごときき入れて この島ケ根をにぎはせ給へ』 艶男はおそるおそるこれに答ふ。 『如何にして百の女神にまみえなむ 身体の弱きひとり身吾は ゆくりなくこの島ケ根に渡り来て 百の乙女におそはれにける 男の子吾ひるまじものとおもへども ねたみ心を如何にをさめむ ねたましき心をもつは姫神の 常と知る故ためらひ居るなり』 海津見姫の神は淑やかに宣り給ふ。 『心弱きことを宣らすな汝は男の子 雄々しく清しくあるべきものを 艶男の名を負ひませる君なれば ねたみ心におそはるべしやは この島の女神はのこらず神なれば ねたむ心は露程もなし 稚き国土をつくり固むる業なれば ためらふことなく進ませ給へ』 艶男はこれに答へて、 『姫神の心はよしと思へども 吾には及ばず国津神の身よ』 海津見の神は、 『日を重ね時をけみして次々に 心雄々しく進ませ給はむ』 斯く歌ひながら姫神は静々と二人の侍女と共に、芒の穂の上を軽く渡りながら、大竜身彦の命の宮殿深く御姿をかくさせ給ひぬ。艶男と白萩は姫神を粛然として見送り、御影の見えぬ迄伸び上り伸び上り眺めて居たが、ここに艶男は不審の念にうたれつつ、諸手を組み、太き息をもらし思案にくれてゐる。白萩は白衣の袖の艶男の息のさはるところまで近寄り来り、露の滴るまなざしを涼しくひらきながら、あらゆる媚を呈し、艶男の左手を握らむとせしにぞ、艶男は青天の霹靂の如く驚き、二三十歩後方に飛び退き、呆然として白萩の面を見つめてゐる。白萩はかなしき声をはり上げながら、 『情なやわがおもふ君は白萩の 梢をもみゆく嵐なりけり 雨霰嵐は如何に強くとも たゆまざるべし白萩の吾は この島に渡り来ませる君なれば 如何でのがさじ弥猛心に 姫神の御言葉汝はきかざるや たゆまずひるまず手折らせ給へ いやしかるわが身体におぢおそれ いなみ給ふか情なき君 身体はよし竜体と生るとも 恋てふ心に変りあるべき』 艶男は決心の臍を固め、しばしの虎口を遁れむと、腕を組みながら憮然として歌ふ。 『はづかしさ恋しさあまりてただ吾は 手折らむ道をためらひにけり さりながらしばしを待たせ給へかし 吾には一つの病ありせば この病癒ゆるを待ちて白萩の 君にまみえむよき日あるべし』 白萩は満面を輝かしながら素直に歌ふ。 『村肝の心つくせし甲斐ありて 艶男の君の心うごきぬ 嬉しさにわが魂は輝きぬ 幾日まつとも吾は恨まじ 斯の如やさしき君と知らずして なやめ奉りし心はづかし いざさらば御殿に送り奉るべし 早立たせませ桂木の蔭を』 艶男の言葉の風に白萩は 心静かに打ちなびきたり 村肝の心満たねど艶男は 白萩と共に御殿にかへれり。 (昭和九・七・一七旧六・六於関東別院南風閣内崎照代謹録) |
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霊界物語 | 79_午_葭原の国土の竜神族の物語 | 10 祝賀の宴(二) | 第一〇章祝賀の宴(二)〔一九九一〕 ここに大竜殿の侍女神たる女神たちは、こもごも立ちて祝歌をうたふ。 白萩の歌。 『永久に淋しき島根と思ひきや 花咲き匂ふ御代は来れり 伊吹山斜面に匂ふ白萩も 今日は恵の露を浴び居り 山風に吹きたたかれて悩みてし われ白萩も匂ひ初めたり 竜神の群に加はるわれにして 国津御神のやさ姿見し 言霊の貴の功を悟りけり この島ケ根に光添ふれば』 桔梗は歌ふ。 『桔梗の花も漸く咲き初めぬ 国津御神の貴の伊吹に 桔梗の花は淋しく匂ひつつ 今日が日までも風にもまれし 今日よりは伊吹山吹く風の音も いとさやさやに響き渡らむ 紫の花をかざして島ケ根に 君待つことの久しかりしよ 開けゆく島の行末思ひつつ わが雄心はわきたちにけり そよと吹く風にもゆるる身ながらに 今日は雄々しく心ときめく 艶男の君の面ざし伏し拝み 露の生命を惜しまじと思ふ 島ケ根にわれは久しく生ひたちて 今日の喜びにあふは嬉しき』 山吹は歌ふ。 『竜神の島根に生ふる山吹の 花は笑へり梢は踊れり 山吹の黄色き花も喜びの 宴の酒に面ほてりける 清々し艶男の君の御姿は 伊吹の山を出づる月かも 竜宮の王と現れし弟姫神の 貴の姿を見ればさやけし 久方の天津国より降りたる 女神と仰ぎ仕へまつらむ 何となく心楽しくなりにけり 麗子の君天降りましてゆ 天津日はあざやかに照り百花は うららかに咲く島根となりぬ 池の面にしだれて匂ふ山吹の 花も真直に匂ふ今日かな 水鏡見つつ思ふも山吹の 花の姿も今日はさやけし 打ち仰ぐ鏡の湖の水門あけて あはれ姫神現れましにけり 姫神は湖の底よりあれませし 今日のめでたき日がらに生くるも』 撫子は歌ふ。 『竜神の永遠に住みてしこの島に 若撫子のゑらぐ日は来ぬ 撫子のか弱き身にも天地の 恵みの露にうるほふ今日かな 皇神の清き御手もて撫子の わが身嬉しき今日なりにけり 永久に今日の喜び続けかしと 撫子われは天に祈るも 山風に吹きまくられてなやみてし 撫子われは蘇りける 魚族も勇み喜びこのにはに 伊寄り集ひて祝ぎごと宣るも 愛らしき魚族たちも撫子も 今日は勇みてあぎとひ拝む』 女郎花は歌ふ。 『女郎花ばかり住まへるこの島に 男の子艶男渡り来ませり 野に匂ふ女郎花なれど天津風 吹きのよろしき今日は楽しも 伊吹山尾根に麓に咲き匂ふ 花も喜び歓ぐ今日かな 天津風吹きのよろしき今日の日に 心清しく祝ぎ言宣るも なよ草のわれにあれども彦神の 水火のかかれば雄々しくならむ 雄々しかる艶男の君の御姿 見つつふるへり伊吹の裾野に 花のかげうつして清き鏡湖の 底より出でし姫神あはれ 水上山館にいませし美し神 尊き神は来りましけり 水上の山に栄えし君と聞けば われ一入に懐かしきかも 山風に吹きあふられてなよ草の 花恥かしきわれなりにけり 思はずも嬉しさ余りて恋心 歌ひしわれは恥かしきかな』 椿は歌ふ。 『百津桂処せきまで生ひたてる 島根も今日よりひらけ初めたり 桂木の椿の花も今日よりは 紅まして永久に栄えむ 紅の花咲く椿の梢まで 恵みの露に輝く今日かな 永久の御代の固めと大殿に 祝ぎ言宣らす神はかしこし 竜神も常世の春にあひ初めて 開き初めたり心の花の香 玉椿の八千代までもと祈るかな 君の嫁ぎの華やかなるを 足引の山より湖より現れましし 神の御姿雄々しかりける 八千代までと契る言葉の玉椿 栄え果てなくおはしましませ この島に国津神たち渡りまして 今日の喜びひらかせ給へり 神津代の竜神たちも聞かざりし 喜びごとを聞くは嬉しき 雄々しくてやさしくいます弟姫の 神にならひてわれも尽さむ』 白菊は歌ふ。 『昔よりかかる例もしらぎくの 花かむばしき御代となりぬる 白菊の花にもまして床しかる 国津神等のかをる島ケ根 あでやかに匂へる花の君なれば 竜神たちのゑらぐもうべなり うららかに笑み栄えたる花の君を 慕ひまつりて百神集へり 大竜身彦の喜び如何ばかり われはしら菊はかりかねつつ 曲玉の池の真清水掬む朝に わが見染めてし艶男の君よ 艶男の君のかむばせ伏し拝み 白菊われは露にうるほふ 水底に写り給ひし艶男の 君の姿にあこがれしはや 水清き泉に写りし君が面は 白菊の艶も及ばざりしよ 祝ぎ言を宣るべき蓆にたちながら 恥かしきかも恋歌となりぬ 湖原に浮べる島の清庭に 清しき君を見染めてしかな』 山菊は歌ふ。 『山菊の名を負ふわれは一入に 水上の山の御子にあこがる 今日の日の喜びなくば山菊も 君にまみゆる幸はあらまじ 麗子の姫の嫁ぎを寿ぐか 天津日光はうららかに照るも 昔より例もあらぬ喜びに あふぞ嬉しき山菊のわれ 伊吹山尾根吹く風に靡きてし われは果敢なく露にくづれつ 山風に吹きまくられしわが身なれど 雄々しく清しく今日より生きむ』 石竹は歌ふ。 『なよ草のわれは女神の身なれども 花の心は雄々しかりける ありがたき御代は来れりなよ草の われにも恵みの露を賜へり 竜神の島の道辺に生ひ茂る 花のかげにも月日は照らふ 月と日の恵みの露を浴びながら われははつかに花と匂へり 今日よりは尊き神の出でましに 竜の島根は栄えゆくらむ 草の根にひそみてすだく虫の音も 等しく清く今日は聞ゆる 波の上に清く浮べるこの島を 心安国と開く今日かも 麗しき御子の出でまし寿ぎて 今日の宴のにぎはひにける なよ草のわれも雄々しく勇ましく 今日のよき日をうたふ楽しさ 神々の歌の言葉にひかされて 思はず知らず踊りけるかな 山も野も大湖原も清らけく 澄みきらひたる今日のよき日よ 魚族も今日のよき日を寿ぎて 湖の底より浮び出にけり 大魚小魚波の面にあぎとひて 御代の栄えを祝ふ今日かな 竜神の数の限りを呼び集へ 宴の蓆に招かす君はも 一柱も洩れおつるなく大殿に 伊寄り集ひて御代を寿ぐ』 雛罌粟は歌ふ。 『雛罌粟の吾はか弱き女神なり いざたち舞はむ今日の宴に 雛罌粟の花にも似たる弱きわれの 心をたたす今日の喜び 喜びは外へはやらじ雛罌粟の 弱き力のあらむ限りは 波たてど嵐は吹けど今日よりは 何か怖れむ雛罌粟われは 弟姫の神現れますと聞きしより 今日のよき日を待ちわびにける 艶男の君は来ませり弟姫の 神輝けり竜の島根に』 菖蒲は歌ふ。 『深霧に包まれあやめも分かぬ島も 月日照らひて安国となりぬ 汀辺に紫匂ふあやめ草も 今日は恵みの露に親しむ 潺々と流るる水に影写す あやめの花は咲き初めにけり 時じくに匂ふあやめの紫も 今日のよき日に色優るらむ 果てしなき御代の幸はひ思ふより わが魂は飛びたちにけり』 燕子花は歌ふ。 『水清き川辺に匂ふ燕子花 捧げまつらむ今日のよき日に 水清きこの島ケ根は永久に 喜び満てよ幸あれよ 海津見の姫の現れます今日こそは 天地ひらく心地こそすれ 天地の神の恵みの幸はひに 今日は嬉しき宴にあふかな 言霊の伊照り助くる国ながら 今日始めての御声聞きたり 万代の礎固く築きまして 永久にましませ弟姫の神 艶男の君の言霊轟きて 湖の底までゆるぎ初めたり 果てしなき神の恵みに抱かれて われは住みなむこの島ケ根に』 桜木は歌ふ。 『桜木の花麗しく咲きぬべし 言霊宣らす神のいませば 山の端にうららに匂ふ桜木の 花を手折りて君に捧げむ 大竜身彦の御代をば寿ぎて 朝陽にかをる山桜花 夜嵐に果敢なく散らむ桜花も 神の恵みに千代を保たむ 名にし負ふ大和心の桜花 かざりて君の御前を祝はむ』 この外、竜神たちの百の祝ぎ歌数多あれども、余りくだくだしければ、はぶくこととはなしぬ。 (昭和九・七・一七旧六・六於関東別院南風閣林弥生謹録) |
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霊界物語 | 79_午_葭原の国土の竜神族の物語 | 11 瀑下の乙女 | 第一一章瀑下の乙女〔一九九二〕 大竜身彦の命は、水上山の聖場より、はろばろ波の秀を踏み渡り来りし御祖の神の御子艶男を優遇せむと、種々焦慮の結果、竜宮島第一の景勝地たる鏡湖の下方、琴滝を庭園に取り入れ、大峡小峡の木材を伐り集め、碧瓦赤壁の寝殿を造り、此処に住まはす事となりぬ。琴滝は鏡湖の水を集めて、ここに千丈の広布を掛けし如く、昼夜間断なく琴の音を響かせ、その荘厳雄大なること言語に絶するばかりなりける。 艶男は朝な夕な此寝殿に、天津祝詞や生言霊を奏上して、竜の島根の開発を祈りつつありけるが、数多の女神たちは、その円満清朗なる声にあこがれ、その端麗なる容姿に恋慕して、この寝殿の広庭に集り来り、言霊の練習をかたはら励みつつ、天国の楽しみに浸りける。この滝の落つる清泉を剣の池と称ふ。 朝な夕なに宣り上ぐる言霊の力によりて、地の面に散在する巨巌は、忽ち瑪瑙と変じ、滝のしぶきに漏れし面を日光映じて、得も言はれぬ光沢を放ちたり。 艶男は欄干に立ちて歌ふ。 『鏡の湖の真清水を 此処にうつして落ちたぎつ この琴滝のいさましさ 天の河原の落つるかと 思ふばかりの光景ぞ われは朝夕この滝の 珍の水音聞きながら 心清しく洗ふなり 神の賜ひし言霊の 水火を清めて鳴り渡る これの住処のさわやかさ 天にも地にもかくの如 清く楽しき清どころ 他にはあらじと夜な夜なを 眠らず起き居て見つ聞きつ 常世の春を歓ぐなり 泉の面を眺むれば 大魚や小魚は群がりて 夜は波間にあぎとひつ 天地の恵を仰ぐなり ああ天国か楽園か 竜宮の島根かしら滝の 漲り落つる水音は 天地の神の御声かも ああ面白やたのもしや 百年千年をながらへて これの清所に永久の 生きの生命を楽しまむ 一二三四五六七八九十百千万 千万神たち守らせ給へ』 斯かる折しも鶏鳴暁を告げて、翼の白き鵲は、剣の池のほとりに群れ来り、清殿の屋上にカーカーと啼き狂ふ。 湖の白鳥は、何時の間にか剣の池に集り来り、艶男が言霊を聞かむとするものの如く見えにける。 ほのぼのと明けはなれたる庭の面をよく見れば、竜宮城に仕へたる数多の乙女の中に、眉目形優れたる七乙女が、池の面に向ひて合掌し、何事かしきりに祈り居る。 艶男は欄干に立ちて此の光景を眺めながら、 『烏羽玉の夜は明けにけりわが庭の 池の面清く乙女立たせり よく見れば七人乙女の優姿 何を祈るか聞かまほしけれ』 此の七乙女は、白萩、白菊、女郎花、燕子花、菖蒲、撫子、藤袴と言へる侍女神なりける。 白萩は歌ふ。 『うるはしき君の御声にひかれつつ 思はず知らず此処に来つるも 御姿を見るにつけても魂勇み 生きの生命の栄えこそすれ 滝津瀬の音にまぎれぬ言霊の 君の力の大いなるかな 夜な夜なを夢に現に汝が面 わが目に浮きて眠らえぬかな せめてもの思ひ晴らすとわれは今 剣の池の清水掬ぶも 此水は生命の清水真清水よ 汝が目にふれし生命の水よ 此処に来て恋てふものを悟りけり われも女神の数にしあれば 朝夕に宣らす言霊響かひて わが胸先は高鳴りにけり』 艶男は歌ふ。 『いたづきに悩むわれなり真心の 君に報ゆる術なきを恥づ』 白萩は歌ふ。 『いたづきの身におはすとも何かあらむ 君の言霊にわが心満てり』 白菊は歌ふ。 『いたづきておはすかわれはしら菊の 恋しきままに朝を来にけり わが心剣の池の真清水と 澄みきらひつつ君をおもふも 恋しさの綱にひかれて朝まだき 君の住まへる側近く来つ 御声を聞くにつけても勇ましく わが魂は蘇るなり 白妙の衣まとひし汝が君の 御装ひはめでたかりける 時じくに言霊放つ琴滝の それにも増して清き君はも わが願よし叶はずも君許に ありて御声を聞かば嬉しき 白菊は山野に匂へば艶人の 御手に手折らるよすがさへなし 野に匂ふ白菊の花も御恵の つゆにしあへばうなだれにつつ 一度の露の情を浴びむとて 滝の麓にわれは来つるも 白菊の花は優しと思召せ 情のつゆによみがへる身よ』 艶男は歌ふ。 『いとこやの乙女の姿たしたしに われは眺めつ心ときめく 優しかる七乙女らの御姿 さやけかりけり麗しかりけり 此島に渡り来てよりめづらしき ものを見る哉まなかひ清く 珍しきものの中にもとりわけて 愛らしきかな七乙女たち 水中の月に等しきわれなれば 汝が優しきかげを見るのみ』 女郎花は歌ふ。 『剣池底の真砂もたしたしに 見ゆる清しき君にもあるかな あこがれの心おさへて夜な夜なを われは涙に袖を濡らせり 滝津瀬のしぶきを浴びてわが袖は 涙と共に濡れにけらしな 一夜さのつゆの情をたまへかし 伊吹の裾野に咲く女郎花よ 巌を噛む滝津瀬の音高ければ わが言の葉も消えむとぞする 悲しさをうたふ心を打消して 落ちたぎつかも琴滝の音 如何にしておもひの丈を語らむと 思ふも詮なし高き滝の音に 剣池の泉を隔てて欄干に 立たす君なりわれ如何にせむ 池水の深き心を悟れかし 木石ならぬ君にあらずや 君おもふ心の糸のもつれあひて とく術もなき小田巻の吾』 艶男は歌ふ。 『乙女らの悲しき心悟れども われ国津神許させ給へ 千早振る神に誓ひてわれは今 汝をめぐしと言挙げおくなり さりながら夜の契は許せかし 神に仕ふるわれは艶男』 燕子花は歌ふ。 『千万の生言霊を宣らすとも われはひるまじ寝ずばやまじ 玉の緒のよしや生命は亡するとも 一夜の枕かはさで止むべき 七乙女悲しき心をよそにして 君は捨つるかわれらが真心を 世の中に情を知らぬ男の子なれば 鬼よ魍魎よ魂なし男の子よ どこまでも此真心の届かねば 鬼となりても君悩まさむ 悩ましの心与へし君なれば まことの鬼の姿とぞ思ふ 君よ君如何に怒らせ給ふとも われは恐れじ飽くまで恨みむ 恨みわび玉の生命は捨つるとも わが魂は暫しも離れじ 君なくばわれは悩まし朝宵を 玉の生命は亡せむとぞする 悩ましさ苦しさ故に朝まだき 御声聞かむと迷ひ来つるも 君が手に打ち叩かれて罷るとも われは恨みじ嘆かじと思ふ いたづきの身なりと宣らす言の葉を われは諾ふ弱き女にあらず 玉の緒の生命をかけて恋したる 君の生命はわがものなるよ あこがれて只いたづらに亡ぶよりも 汝が生命をとりて笑まむか かくならば最早厭はじ人の目も 神の怒りもものの数かは 鬼となり雷となり魔となりて 君の生命を奪はむと思ふ』 艶男は燕子花の猛烈なる恋に稍辟易しながら、悄然として歌ふ。 『思ひきや此島ケ根にかくの如 強き乙女の雄猛び聞くとは 見も知らぬ島に渡りて思はざる 人に思はれ苦しとおもふ 如何程に情の言葉宣らすとも わが心根をかへじと思ふ わが生命奪はるるとも恨みまじ 情のこもる刃と思へば』 かく歌ひながら、艶男は早や燕子花の猛烈なる恋愛に、到底反抗するの勇気なく、彼が意に従ふべしとの覚悟を極めて居たりけるが、そしらぬ体をよそほひて、 『天地の神に願をかけし後 われは応へむ暫しを待たれよ』 燕子花は歌ふ。 『御言葉に間違ひなくばわれとても 心安めて時を待たなむ』 菖蒲は歌ふ。 『乙女等の赤き心のかたまりて 真砂は赤く染まりけるかな 赤玉の光さやけき君故に 御池の鯉も赤く染まれり 次々に赤くなりゆく魚族の 色に見えたりわれらが真心 池の辺に匂ふ菖蒲の紫を 君に捧げむ受けさせ給へ 水底に一本生ひし白珊瑚も いやつぎつぎに赤く染まりぬ 珍しき赤き珊瑚の梢には 黄金白銀真珠の花咲く 水の面に枝をさし出し珊瑚樹は 見る見るうちに空に伸び行く 艶男の君の心のあらはれか 乙女の心か皆赤くなりぬ 汀辺の瑪瑙の巌もつぎつぎに 色は変りてわが面うつせり 昔よりかかる例もあら滝の 落ちこむ庭のめづらしき哉 及ばざる恋と思へどわが心 あやめも分かずなりにけりしな 只一人君に語らふ力なく 七人乙女さそひて来れり 恥かしさ恋しさ故にわれはただ 言挙げもせず黙し居たりき かくなればわれは恐れじ只君の めぐしと宣らす御声聞きたし 御姿見るにつけてもわが胸の 高鳴り止まず苦しき朝なり』 撫子は歌ふ。 『伊吹山尾根に麓に咲き匂ふ 撫子今日は汀辺に匂ふ 八尋殿の欄干に立たす御姿 見れば清しも白萩に似て 生命までかけて恋せし乙女子の 優しき心を君は捨つるや よしやよし君に焦れて罷るとも われは悔まじ恨まじと思ふ 力なく淋しくふるふ撫子の 君が御目にとまらぬ悲しさ 七乙女ここに揃ひて恋語る 悲しき心を君は知らずや 世の中に情を知らぬ益良男は 鬼の化身か悪魔の化身か 乙女らのいやなき心聞し召して 怒らせ給ふな真心の声よ』 藤袴は歌ふ。 『七乙女いやつぎつぎに真心を 述ぶれど君は木耳の耳か 見るかげもなき草花の藤袴 君にまみえむことの恥かしも 花の香はあまり見えねど藤袴 底の心を汲ませ給はれ 朝夕を峯の狭霧に包まれて うなかぶしつつわれは泣くなり かくまでも真心の丈を繰り返し 繰り返せども音なしの君 うちつけに恋の征矢をば放ちつつ 血に泣く乙女はほととぎすかも』 艶男は歌ふ。 『七乙女朝な夕なに集ひ来て 宣る言霊はかなしかりけり 天の下に男の子と生れしわれなれば ひとりは許せ天地の神 乙女らの真心聞きてわれは唯 泣くより他に術なかりけり』 剣の池の金砂銀砂は、艶男の言霊によりて真誠の金銀と変化し、水底に一本生ひし白珊瑚は乙女の赤き心に染まりしか、次第々々に色を増して赤珊瑚と変じ、滝のしぶきは珊瑚の梢にとどまりて、真珠、瑪瑙、黄金、白銀と咲き匂ひ、天地瑞祥の気は四辺に充満し、孔雀、鳳凰、迦陵頻伽の泰平をうたふ声四辺より響き来れる。 ああ惟神霊幸倍坐世。 (昭和九・七・一八旧六・七於関東別院南風閣白石恵子謹録) |
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霊界物語 | 79_午_葭原の国土の竜神族の物語 | 12 樹下の夢 | 第一二章樹下の夢〔一九九三〕 艶男は徒然を慰めむと神苑を立ち出で、庭伝ひに百津桂樹の繁れる森かげを、彼方此方と逍遥しながら、七乙女のかなしき声などを思ひ出で、ひそかに歌ふ。 『なげけとや神は言ふらむあひながら あはれぬ恋に胸はをどるも 七乙女力かぎりに村肝の 心のたけをあかしけるかも わが心いづらにゆきしよ乙女子の かなしき言葉をよそに聞きつつ いまとなり乙女の赤き真心を 思ひてかなしくなりにけらしな 桂樹の梢にさへづる小鳥さへ おのもおのもに恋をかたれり 虫の音も心しづめて聞くときは みな愛しさの声なりにけり 世の中に恋てふものは玉の緒の 生命をぬすむ鬼なりにけり 憂さつらさ七人乙女におもはれて わがかへすべき術さへもなし 術もなき心いだきて桂樹の 森にさまよふ淋しき吾なり とつおひつ思案にくるる夕まぐれ 笑ふが如き梟の声 島根吹く風の響もかなしげに わが耳にひびくと思へば淋し 斯の如朝な夕なをなやみつつ 楽しき吾は何の心ぞも 吾ながらわが心根をときかねて 恋の山路をゆきつもどりつ 人なくば心あくまで泣かむかと 思ひしことも幾度なりしか 乙女見れば恋ふしかなしも神苑見れば 清しきかもよ竜神の島 只一人繁樹の森をさすらひつ 乙女恋ふしく袖ぬらすなり 大竜身彦の命の御恵みに 吾は寝殿に一人寝ぬるも 真夜中の夢にあらはれ七乙女 いやつぎつぎにかなしきこと宣る 一度は水上山にかへらむと 思ふも詮なし今日のわれには 麗子は王となりて吾一人 つれなき夜半をかこつのみなる 七乙女美しけれど麗子の 花の姿にしかじとおもふ 人の身の姿ならねばこの島の 愛ぐし乙女もためらはれける 国津神の御子と生れて竜神の 乙女にあふとおもへば口惜しき 美しき乙女ながらもどことなく 磯の香りのあるはさびしき 見る花と眺めてここに過ぎむかと 思へど乙女はうべなはぬらし いぶかしやああいぶかしやこの島に 住むは人の面竜のからだよ 鱗一面袴の如く見えにつつ 肩より上は人の姿よ。 わづかに左右の手を振りて 長き袴を着けながら 右往左往に行き通ふ このありさまを見るにつけ 両手両足持つ吾は いやおそろしくいやらしく もの言ふさへも不思議なれ 人間世界にかけはなれ 竜の島根に永久に 生ひ立ち来りし乙女子の 清きやさしき瑞姿 近寄り来れば藻の香り 鱗のかをり吾鼻に さやりていとどもの憂けれ 吾は竜宮の島ケ根に 千代も八千代も存らへて 国土をひらくと誓ひてし この言の葉のかなしさよ 今となりてはただ吾は 故郷にかへらむ心のみ 朝な夕なにむれおきつ うら悲しくもなりにけり ああ如何せむ千秋の うらみもはるるときや何時 厳の御霊や瑞御霊 わが願ぎごとを聞し召せ 一日も早く片時も いとすむやけく救ひませ 波の上に浮くこの島に 珍の乙女に囲まれて 身動きならぬ苦しさを あはれみ給へ厳御霊 瑞の御霊の御前に 生命捧げて願ぎ奉る。 果てしなき悩みにしづむわが魂を 救はせ給へ元の御国へ 厳御霊瑞の御霊の御心に 任せて吾はよき日待つべし 美しき乙女はあれど身体の みにくさ臭さ鼻もちならずも 抱きしめて肌にふれなばおそろしく わが魂は戦くならむ 美しき花なりながら道の辺に 刺もつ薊の乙女なりける 如何にしてこれの島根を遁れむと 朝な夕なになやむ苦しさ われなくばこの島ケ根にただ一人 麗子姫はなげくなるらむ 麗子の憂き目おもひてただ吾は この島ケ根に止まりてをるも』 かかるところへ、七人乙女の中にも最も射向ふ神と聞えたる燕子花は、忍び足にあらはれ来り、百津桂樹に身を支へながら、 『艶男の君の行方をもとめつつ 桂の森に吾は来つるも 何故に君は樹蔭にさまよふか 心もとなく吾かなしもよ わが宣りし赤き言葉を怒らして 逃げ給ひしか情なの君よ 玉の緒の生命をかけし君なれば 草を分けても探さでおくべき この森のすみずみまでも探ねつつ 漸くここに君に会ひぬる わが胸は恋に燃えつつ大空の 月日もくらくなりにけらしな 雲低う小暗く包むこの森は 君恋ひ渡るわが心かも よしやよし君は水底を潜るとも 生命にかけて追ひしき行かむ 斯くならば最早詮なしわが思ひ はらして一夜をやすませ給へ』 艶男はハツと思つたが、何くはぬ顔にて、 『いとこやの君にますとは知らざりき この桂樹の森の下かげ よくもまた探ね来しよなわが恋ふる 君をしみればよみがへるかも 果てしなき思ひ抱きて知らず知らず 吾は樹蔭にさまよひてゐし』 燕子花は歌ふ。 『空言を宣らす君よと思へども 御面見れば嬉しかりけり 竜の島伊吹の山にこもるとも いねむと思ふわれならなくに 和田の原うたかたの湖行く舟も たよりとするは風の力よ 君恋ひて桂樹のかげに立寄れば 尾花の末もわれを招かず 無き名さへ立つ世なりせば艶男の 君よ恐れず吾恋許せよ 小波の静かに立つや鏡湖の そこの心を君は汲まずや よそながら君のみあとを慕ひつつ もゆる心のままにわれ来つ 天地の神を祈りつ吾恋の 色褪せざれと君にまみえし 思ふこと遂ぐるは正しく天地の 神の心の恋にぞありける 幾夜われ滝津瀬の音を聴きながら 君は如何にと眠らざりしよ 君をおきて仇し心をわれ持てば 鏡の湖のそこひ乾かむ いたづきの身とはいつはり身体も 御魂も鏡の如く光れる 曇りなき身体もちていたづくと 宣らす言葉の恨めしきかな 生命まで君に捧げし乙女子を 憐れみ給ふ心まさずや 君はいま遠く波の秀ふみながら 御国にかへらす心ならずや よしやよしこの島ケ根をさかるとも 必ず吾を伴ひ給はれ 竜神のいやしき身体もちながら 君を恋ふるははづかしきかも 恥かしき思ひを捨てて恋ふしさと かなしさ故に君につき添ふ 百津桂繁れる森は人目なし いやいねませよ草の褥に 草枕旅に立たせる君ならば 露の枕もいとひ給はじ この森の木の根を枕になよ草を 褥となして天国にあそばむ』 艶男は、燕子花の猛烈なる恋愛心と、押しの強きその振舞ひに征服され、遂に草枕の夢を結ぶこととはなりぬ。これより燕子花は七乙女の目も怖ぢず、公然と艶男の寝殿に朝夕起臥し、夫の歓心を購ふべく、心の限り身の限り、まめまめしく仕へける。艶男は朝庭に立ち出で、剣の池に面を濯ぎながら、昨日のことなど思ひ出で、述懐を歌ふ。 『ああ恥かしや情なや 千引の岩と固まりし 大和男の子の魂を うち砕かれてなよ草の 生ふるがままに任せたり 女の強き魂は 巌も射ぬく桑の弓 弥猛心のとどくまで 貫き通す燕子花 姫の命の射向ひに 吾はもろくも破れけり 天地の神も許しませ 竜神乙女と言ひながら 獣の姿にさまよへる 島の乙女と嫁ぎたる わが身の罪ぞおそろしき ああ詮もなし詮もなし 斯くまで弱き心かと 吾とわが身をせめれども 最早破れの弓の的 貫く術も波の上 浮きつ沈みつ人の世を ここに捨つるかあさましや これを思へば麗子の 姫もさぞかし苦しからむ 国の王と言ひながら 半ば獣の夫をもつ 如何に憂き世を過すらむ 吾は神の子人の子よ 獣に近き乙女子と 枕並ぶる恥かしさ 憐れみ給へ厳御霊 瑞の御霊の御前に 心恥ぢらひ宣り奉る ああ惟神々々 わが言霊に力あれ わが言霊に光あれ。 わが宣らむ生言霊の幸はひに 乙女を全き人とせよかし わが肌に添へる乙女の優姿 神の子となれ人の子となれ 紫に匂へる妻の燕子花 まことの人と現れさせ給へ 一二三四五六七八九十 百千万の神、憐れみ給へ、救はせ給へ』 斯く七日七夜間断なく艶男が宣れる言霊に、不思議や燕子花の全体忽ち人身と変じ、荒々しき太刀膚の影もなく、全身餅の如く膚細やかに全く人身と生れ変りける。 艶男は歌ふ。 『ありがたし生言霊の幸はひに 乙女は玉の膚となりぬる 栲綱の白きたたむき淡雪の 若やぐ膚となりにけるかも』 燕子花は歌ふ。 『わが君の恵みの露に清められ わが太刀膚は失せにけらしな 斯くならば最早恥づべきこともなし 君に仕へて御子生まむかも ありがたし穢れし吾の身体は 神の恵みに人となりぬる』 (昭和九・七・一八旧六・七於関東別院南風閣内崎照代謹録) |
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霊界物語 | 79_午_葭原の国土の竜神族の物語 | 13 鰐の背 | 第一三章鰐の背〔一九九四〕 艶男は燕子花と諜し合せ、夜陰にまぎれて竜宮島を立出で、父母のいます国に帰らむと、決心を固めてゐた。 大竜身彦の命に止められむ事をおそれ、麗子の弟姫神にも告げず、郊外の散歩にことよせ、月照り渡る真夜中頃、大楼門をくぐり第一門の方へと急ぎゆく。道の側の百草千草は夜露の玉に月光輝き、得も言はれぬ風情である。艶男はその自然をながめて、 『道の辺に咲く百草の花にさへ 月の御霊は宿らせ給へり 草の上に恋を歌へる虫の音も 今宵は清く月に冴えたり 渚辺に寄する波音聞きながら 月の夜路を二人ゆくかも しのびゆく元津御国の旅立は 虫の声にも驚かされける 二人ゆく空を照して月読は 吾を守らせ給ふがに見ゆ 心安く元津御国に還らせ給へ 御空に輝く月読の神』 燕子花は歌ふ。 『竜神の島に生ひ立ちし燕子花 吾は水上の山に栄えむ 月見れば竜の玉かと疑はる 吾は夜路を君と行くなり 草の葉に置く白露に月照りて 二人の袖はぬれにけらしな 恐ろしく又楽しくも思ふかな 君に引かれて離りゆく身は この島に今日を名残の別れぞと おもへば何か悲しかりけり 夜光る玉にもまさる君故に 吾は嬉しく従ひゆくも』 斯くして第一の門に着き、鉄門を中より易々と開き、渚辺に出で、躍り狂ふ波の秀をながめて艶男は、 『翼なき身は如何にせむ白波の 竜の島根を去る由もなし 打寄する波の白帆に照る月を 玉と仰ぎて帰らまく思ふ さりながら翼もなければ鰭もなし 鳥にも魚にもなれぬかなしさ 大空の月も憐れみ給ふらむ 汀に立てる二人の姿を ゆくりなく君が情の露あびて 又も汀の露にぬれぬる 天地の神よ吾等を憐れみて 水上の山へ渡らせ給へ 渡るにも御舟なければ如何にせむ 波の上に浮くこの島ケ根を』 斯く歌ふ折しも、波を分けてぬつと現はれ来る八尋鰐あり。水面に背を現し、之に乗らせ給へと言ひたげなり。二人は天の与へと鰐の背に飛び乗れば、鰐は何事も万事承知の上とばかり、荒波の湖を游ぎながら、南へ南へと走りゆく。鰐の背に乗れる二人は交々歌ふ。 艶男『鰐の背に救はれ水上の山もとに 帰る思へば楽しかりけり 大空も湖の底ひも月照りて その中原を行く身は清し 湖底に御空うつしてまたたける 星は真砂にさも似たるかな そよと吹く風に面をなでられて こひしき君と吾帰り行くも 果てしなきこの湖原も足早き 鰐の助けにとく帰るべし この鰐は神のたまひし賜ぞ 吾おろそかに如何で思はむ 鰐よ鰐吾を助けて元津国に とく帰らせよ波を分けつつ』 燕子花は歌ふ。 『有難き神の使ひの鰐の子に 救はれ君が御国に行くかも 吾も亦元の身体を持ち居らば 鰐の如くに送らむものを 斯くならば吾は人の身湖原を 渡らむ力失せにけらしな 惟神神の恵みか大空の 月は一入冴え渡りける 白波の立ちのまにまに月読は かげをおとして輝き給ふ 水底の魚族までも見えわたる 今宵の月のさやかなるかも 竜神の追及き来るも恐るまじ みあしの早き鰐に頼れば 湖原を飛び交ふ千鳥の音も冴えて 心清しき月の湖原 天地にかかる例はあらなみの 上分け走る今日の嬉しさ』 斯く歌ふ折しも、後方に当りて千万人の鬨の声、どつとばかりに聞え来るにぞ、艶男、燕子花の二人は後振り返り手を差上げ月光に透し見れば、こはそもいかに、両人が月夜を力に逃げ去りし事発覚し、大竜身彦の命は数多の竜神等に下知を降し、二人の後を追つかけよと厳命なしければ、竜神は吾も吾もと先を争ひ、波間を浮きつ沈みつ、一瀉千里の勢にて追ひしき追ひまくるにぞありけり。 こは一大事と燕子花は声を張り上げ、人身となりしを幸ひ、天の数歌を頻に奏上する、この声天地に響き湖も割るるばかりなり。 『一二三四五六七八九十百千万 千万の神守り給へ 竜神の切先を止めさせ給へ 鰐よ鰐よ力限りに走れよ走れよ 水上山は霞の奥にぼんやりと浮く 走れよ走れよ生命限りに』 斯く歌ふや、鬨の声はぴたりと止みて、鰐の足は一入速くなりける。 『有難し吾言霊に海津見の 神の功は現れにけり 諸々の竜神等の襲ひ来る 矢先き逃れて安けき湖原 大竜身彦の命の御功を とどめて安き夜の湖原』 艶男は歌ふ。 『一輪の月は御空に輝けり 吾は一つの鰐に乗り行く 八尋鰐足はやければ竜神は 最早や追付くおそれだもなし 老いませる吾垂乳根は吾行方 探ねて日夜を歎かせ給はむ 一時も早く御顔拝まむと 思へば心いらだちにけり 水火土の神に救はれ吾生命 蘇りたる湖原はこれ ほのぼのと水上山は見え初めぬ 月夜の空にぼんやりとして 千鳥啼くこの湖原を細女と 行くは夢路を辿るが如し 夢の世に夢を見ながら細女と 鰐の背に乗り湖原渡るも 竜宮の島もよけれど水上山 吾故郷は恋しかりけり いとこやの麗子姫に立ち別れ 今燕子花を伴ひ帰るも 燕子花よ汝は面勝神なれば 言向けやはせ国津神等を』 燕子花は歌ふ。 『尊かる君の言葉をうべなひて 言向けやはさむ国津神等を 離れ島の乙女なれども君と在れば 吾は恐れじ如何なる人にも 湖風は強くなりけり波の秀は いや高々と狂ひ出しぬ 風強み波おこるとも何かあらむ 神の恵に抱かるる身は 天地の神に抱かれ吾恋ふる 夫に抱かれ安き湖原 鰐の背に易々渡る湖原の 風も恐れじ波も恐れじ 白波のしぶきにあはれ吾袖は うるほひにけり湿らひにけり 抱き合ひて泣ける夕の涙にも いやまさりつつ濡るる吾袖』 斯く歌ふ折しも、波の奥より忽然として現れし一艘の舟、此方に向つて漕ぎ来る。近より見れば豈計らむや、水火土の神にましける。 水火土の神はにこにこしながら、 『久々に帰らす君を迎へむと 吾は御舟を持ちて来れり これよりは湖の瀬強し鰐の舟 返してこれに乗りうつらせよ 垂乳根の父と母とは汝が行方 歎かせ給ひ衰へ給へり 水上の山はほんのり見ゆれども 波路は遠し吾は送らむ』 艶男は之に答へて、 『ありがたし水火土の神の御心 生命死すとも忘れざらまし 竜宮の島に渡りて求めたる 花の蕾の燕子花はこれ 竜宮の島根ゆ移すこの花を 水上の山に植ゑたく思ふ 水火土の神よ吾妻諸共に 送らせ給へ水上の山へ』 と言ひながら、鰐の背より水火土の神の御舟に移り、鰐に向つて合掌しながら、 『浪猛る大湖原を安々と 送りし君に感謝を捧げむ 天津神の御使ならめや八尋鰐の 今日の功は永久に忘れじ いざさらば別れを告げむ八尋鰐よ 汝は吾身の生命なるぞや 水上山吾故郷に帰りなば 汝を守護の神と斎かむ』 斯く歌ふや、八尋鰐は静々その全身を水に没し、後白波となりにける。これより水火土の神は波の秀を分けながら、月照る湖原を南へ南へと漕ぎ行く。 (昭和九・七・一八旧六・七於関東別院南風閣谷前清子謹録) |