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書籍 内容
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(38)
ひふみ神示 1_上つ巻 第38帖 残る者の身も一度は死ぬことあるぞ、死んでからまた生き返るぞ、三分の一の臣民になるぞ、これからがいよいよの時ざぞ。日本の臣民同士が食い合ひするぞ、かなわんと云うて外国へ逃げて行く者も出来るぞ。神にシッカリと縋りて居らんと何も分らんことになるから、早く神に縋りて居れよ、神ほど結構なものはないぞ。神にも善い神と悪い神とあるぞ、雨の日は雨、風の日は風といふこと分らんか、それが天地の心ぞ、天地の心を早う悟りて下されよ。いやならいやで他に代りの身魂があるから神は頼まんぞ、いやならやめて呉れよ。無理に頼まんぞ。神のすること一つも間違ひないのぞ、よく知らせを読んで下されよ。ひつくのか三。
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(197)
ひふみ神示 6_日月の巻 第24帖 ココニ、イザナギノミコト、イザナミノミコトハ、ヌホコ、ヌホト、クミクミテ、クニウミセナトノリタマヒキ、イザナギノミコト イザナミノミコト、イキアハシタマヒテ、アウ、あうトノラセタマヒテ、クニ、ウミタマヒキ。コトの初め気付けて呉れよ。夜明けたら生命神に頂いたと申してあろがな。太陽あるうちはことごとに太陽の御用せよ。月あるうちはことごとに月の神の御用せよ。それがまことの臣民ぞ。生活心配するでないぞ。ことわけて申せば今の臣民すぐは出来ぬであろが。初めは六分国のため、四分自分の為、次は七分国のため、三分自分の為、次は八分国の為、二分自分のため、と云ふ様にして呉れよ。これはまだ自分あるのざぞ。自分なくならねばならぬのざぞ。神人一つになるのざぞ。十一月二十日、ひつ九
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(293)
ひふみ神示 11_松の巻 第2帖 神の国を、足の踏むところない迄にけがして仕舞ふてゐるが、それで神力は出ぬぞ。臣民無くなるぞ。残る臣民三分むつかしいぞ。三分と思へども、二分であるぞ。邪魔せん様に、分らん臣民見物して御座れ。ここまで知らして眼覚めん臣民なら手引いて見てゐて御座れ。見事仕上げて見せるぞ。雀ちうちう烏かうかう。六月十八日、あめのひつ九か三。
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(319)
ひふみ神示 11_松の巻 第28帖 保食の神祀らづに、いくら野山拓いたとて、物作ることは出来ないぞ。煎り豆花咲く目出度い時となってゐるのに何して御座るのぞ。いくら人民の尻叩いて野山切り拓いても食物三分むつかしいぞ。神々まつれと申してあろが、野拓く時は野の神まつれ。物作る時は保食の神まつれ。産土の神様にもお願ひしてお取次願はな何事も成就せんぞ。人民の学や智ばかりで何が出来たか。早よ改心第一ぞ。山も川も野も人民も草も木も動物虫けらも何もかも此の方の徳であるぞ。それぞれの御役あるのざぞ。学や智捨てて天にむかへ。地にむかへ、草にむかへ、生物にむかへ、木にむかへ、石もの云ふぞ。草もの云ふぞ。七月十八日、あめのひつくのかみ。
5

(345)
ひふみ神示 13_雨の巻 第11帖 日の出の神様お出ましぞ、日の出はイであるぞ、イの出であるぞ、キの出であるぞ、判りたか。めんめめんめに心改めよと申してあろがな、人民と云ふ者は人に云はれては腹の立つ事あるものぢゃ、腹立つと邪気起るからめんめめんめに改めよと、くどう申すのぢゃぞ、智や学ではどうにもならんと云ふ事よく判りておりながら、未だ智や学でやる積り、神の国の事する積りでゐるのか。判らんと申して余りでないか、何事も判った臣民口に出さずに肚に鎮めておけよ、言ふてよい時は肚の中から人民びっくりする声で申すのざ、神が申さすから心配ないぞ、それまでは気も出すなよ。二十二日の夜に実地が見せてあろうがな、一所だけ清いけがれん所残しておかな足場なく、こうなってはならんぞ、カタ出さねばならんぞ、神国、神の子は元の神の生神が守ってゐるから、愈々となりたら一寸の火水でうでくり返してやる仕組ざぞ、末代の止めの建替であるから、よう腰抜かさん様見て御座れ、長くかかりては一もとらず二もとらさず、国は潰れ、道は滅びてしもうから早う早うと気もない時から気つけてゐるのぢゃが、神の申すこと聞く臣民人民まだまだぞ。此の道難しい道でないからその儘に説いて聞かしてやれよ、難し説くと判らん様になるのぞ。平とう説いてやれよ、難しいのは理屈入るのざぞ、難しい事も臣民にはあるなれど理屈となるなよ、理屈悪ざぞ。霊術も言霊もよいなれど程々に、三分位でよいぞ、中行かな行かれんのざぞ、銭儲けて口さへすごして行けばよい様に今の臣民まだ思ってゐるが、それは四つ足の四つの悪の守護である位判りておろがな。悪とは他を退ける事であるぞ、まつりまつりとくどう申してあること未だ判らんのか、今外国よいと申してゐる臣民は外国へ行っても嫌はれるぞ、外国にも住むところ無くなるぞ、外国も日本もないのざぞ、外国とは我よしの国の事ぞ、神国は大丈夫ざが、外国や日本の国大丈夫とは申されんぞ、と事分けて申してあろがな、日月の集団作り、境界作ってもならんが入れた集団作らなならんぞ、も作らずも入らずに力出ない位判りておろがな、馬鹿正直ならんと申してあること忘れたのか、集団のつくり方知らしてあろが、盲には困る困る。人の苦労あてにして我が進んで苦労せん様な人民では神の気感に適はんから、今度は苦労のかたまりの花咲くのざ、苦の花咲くのざぞ、二二に九の花咲耶姫の神祀りて呉れと申してあろがな、永遠にしぼまん誠の花咲く世来たぞ。十二月七日、ひつくのか三。
6

(410)
ひふみ神示 19_まつりの巻 第6帖 取られたり取り返したりこねまわし、終りは神の手に甦へる。世の元のまし水湧きに湧く所、やがて奥山移さなならんぞ。神示判る臣民二三分できたなら、神愈々のとどめのさすなり。三界を貫く道ぞ誠なり、誠の道は一つなりけり。神界の誠かくれし今迄の道は誠の道でないぞや。鬼おろち草木動物虫けらも一つにゑらぐ道ぞ誠ぞ。八月十三日、一二
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(574)
ひふみ神示 24_黄金の巻 第63帖 奥山奥山と申してあろうが、ふでは奥山から出て、奥山で分けるくらいのこと、何故に分らんのじゃ。誰でもが勝手にしてならん。それぞれの順立てねば悪となるぞ。判らんのは、われよしからぢゃ。本から固めて行かねば何時までたっても小田原ぢゃ。小田原も道筋ながら、それでは世界の人民丸つぶれとなるぞ。三分残したいために三千の足場と申してあるのぢゃ。早う三千集めよ。御役御苦労。十二月七日一二十
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(585)
ひふみ神示 24_黄金の巻 第74帖 貰うた神徳に光出す人民でないと、神徳をわれよしにする人民にはおかげやらん。自分が自分で思ふやうになるまいがな。自分が自分のものでないからぞ。自分のものなら自由になると申してあらうが。道を進めば楽に行ける。道行かんで山や畠や沼に入るから苦しむのぞ。神の仕組の判る人民二三分出来たら、いよいよにかかるぞ。未だ未だ改心足らん。神せけるぞ。魂にめぐりあると何してもグラリグラリと成就せんぞ。めぐりのままが出て来るのであるぞ。心のよきもの、神にまつりて、この世の守護神と現はすぞ。理屈は判らんでも真理は掴めるぞ。信念と真念は違ふぞ。信念は自分のもの。信念超えて真念あるぞ。任せきったのが真念ぞ。迷信が迷信でなくなることあるぞ。ぢゃと申して信念がいらんのでないぞ。もう待たれんから判りた人民一日も早く奥山に参りて神の御用結構につとめあげて下されよ。世界中を天国にいたす御用の御役、つとめ上げて下されよ。人間の念力だけでは何程のことも出来はせんぞ。その念力に感応する神の力があるから人間に判らん、びっくりが出て来るのざぞ。一月三日一二十
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(795)
ひふみ神示 31_扶桑の巻 第7帖 岩[一] 隠れし 比売-秘命-のミホト[実秀答]は 焼かへ給ひて。三分の一の人民になると、早うから知らせてありたことの実地がはじまっているのであるぞ。何も彼も三分の一ぢゃ、大掃除して残った三分の一で、新しき御代の礎と致す仕組ぢゃ、三分六ヶ敷いことになっているのを、天の神にお願い申して、一人でも多く助けたさの日夜の苦心であるぞ、カンニンのカンニン、ガマンのガマンであるぞ、 九[光ノ神]の 花 咲くぞ。
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(1001)
霊界物語 01_子_霊界探検/玉の争奪戦 04 現実的苦行 第四章現実的苦行〔四〕 つぎに自分の第一に有難く感じたのは水である。一週間といふものは、水一滴口に入れることもできず、咽喉は時々刻々に渇きだし、何とも言へぬ苦痛であつた。たとへ泥水でもいい、水気のあるものが欲しい。木の葉でも噛んでみたら、少々くらゐ水は含んでをるであらうが、それも一週間は神界から飲食一切を禁止されてをるので、手近にある木の葉一枚さへも、口に入れるといふわけにはゆかない。その上時々刻々に空腹を感じ、気力は次第に衰へてくる。されど神の御許しがないので、お土の一片も口にすることはできぬ。膝は崎嶇たる巌上に静坐せることとて、是くらゐ痛くて苦しいことはない。寒風は肌身を切るやうであつた。 自分がふと空をあふぐ途端に、松の露がポトポトと雨後の風に揺られて、自分の唇辺に落ちかかつた。何心なくこれを嘗めた。ただ一滴の松葉の露のその味は、甘露とも何ともたとへられぬ美味さであつた。 これを考へてみても、結構な水を火にかけ湯に沸して、温いの熱いのと、小言を言つてゐるくらゐ勿体ないことはない。 草木の葉一枚でも、神様の御許しが無ければ、戴くことはできず、衣服は何ほど持つてをつても、神様の御許しなき以上は着ることもできず、あたかも餓鬼道の修業であつた。そのお蔭によつて水の恩を知り、衣食住の大恩を覚り、贅沢なぞは夢にも思はず、どんな苦難に逢ふも驚かず、悲しまず、いかなる反対や、熱罵嘲笑も、ただ勿体ない、有難い有難いで、平気で、社会に泰然自若、感謝のみの生活を楽むことができるやうになつたのも、全く修行の御利益である。 それについて今一つ衣食住よりも、人間にとつて尊く、有難いものは空気である。飲食物は十日や廿日くらゐ廃したところで、死ぬやうな事はめつたにないが、空気はただの二三分間でも呼吸せなかつたならば、ただちに死んでしまふより途はない。自分がこの修行中にも空気を呼吸することだけは許されたのは、神様の無限の仁慈であると思つた。 人は衣食住の大恩を知ると同時に、空気の御恩を感謝せなくてはならない。しかし以上述べたるところは、自分が高熊山における修行の、現界的すなはち肉体上における神示の修行である。霊界における神示の修行は、到底前述のごとき軽い容易なものではなかつた。幾十倍とも幾百倍ともしれぬ大苦難的修練であつた。
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(1047)
霊界物語 01_子_霊界探検/玉の争奪戦 50 死海の出現 第五〇章死海の出現〔五〇〕 鬼熊、鬼姫は竹熊との戦ひに敗れ、ウラル山およびバイカル湖の悪鬼邪霊となり、一時は其の影を潜め、ために竜宮城はやや安静になつてきた。 国常立尊は大八洲彦命および稚姫君命の功績を賞し、ここに霊国天使の神位を授けたまうた。さても竹熊は高杉別、森鷹彦の変心に恨みを呑み、いかにもしてふたりを亡ぼし仇を報ぜむと企てた。ついては第一に又もや天使大八洲彦命を滅ぼすの必要を感じたのである。 今や竹熊はエデンの城塞を回復し、中裂彦、大虎彦を部将とし、牛熊、牛姫を参謀として再び事を挙げむとし、鬼城山に割拠せる木常姫の応援軍を必要とした。木常姫は魔鬼彦、鷹姫、松山彦らの部将を督し、前後より天使大八洲彦命を攻撃せむと計画を回らしつつあつた。 大八洲彦命は猿飛彦、菊姫の密告により竹熊、木常姫の反逆的挙兵の消息を知り、竜宮城は、花照彦、花照姫、香川彦、速国彦、戸山彦、佐倉彦の部将をして城の各門を守らしめた。もはや後顧の憂ひなければ、ここに大八洲彦命は高杉別、森鷹彦、時代彦の部将とともに神命を奉じて、シオン山に向つて出発した。この用務は大神の神勅を諸天神へ報告のためであつた。諸天神は命の報告を聞き、天軍を起して竹熊、木常姫の暴逆を懲すの神策を定めたまうた。時しも天上より天使天明彦命あまたの天軍を従へ、シオン山頂の高原に下り、大八洲彦命に向ひ、 『危機一髪の場合は天軍の応援をなさむ、されど竹熊、木常姫の魔軍は決して恐るるに足らず』 とて金色の頭槌をもつて地上を打ちたまへば、シオン山の地上より瑞気顕はれ天に舞ひ上り再び大八洲彦命の前に降下した。これを頭槌の玉といふ。 かくして三個の玉を鳴り出で給ひ、「この精霊をもつて魔軍を掃蕩せよ」との言葉とともに、天明彦命は群神を率ゐて天使は天に還らせたまうた。大八洲彦命は天を拝し地に伏して、神恩の洪大無辺なるに感謝された。 竹熊、木常姫は全力を尽して前後左右より竜宮城を取り囲んだ。勇猛なる香川彦以下の神司は全力を挙げて之を撃退し、押し寄する敵の魔軍は或ひは傷つき或ひは倒れ、全軍の三分の一を失つた。時に探女あり、「天使大八洲彦命は、シオン山に在り」と密告した。竹熊、木常姫は時を移さず、黒雲を起し風を呼び、シオン山の空をめがけて驀地に攻め寄せた。 この時、大八洲彦命は天明彦命より賜はりし頭槌の玉を一つ取りだし、竹熊の魔軍にむかつて空中高く投げ打ちたまへば、その玉は爆発して数万の黄竜となり、竹熊に前後左右より迫つた。この空中の戦ひに竹熊は通力を失ひ、真贋十二個の玉とともに無惨にも地上へ墜落し、たちまち黒竜と変じ、地上に打ち倒れた。しばらくあつて竹熊は起上がり、ふたたび魔軍を起して防戦せむとする折しも、天上より金勝要神、未姫命の二柱の女神は、天の逆鉾を竹熊が頭上目がけて投げ下したまうた。一個は竹熊の頭にあたり一個は背にあたり、その場に倒れ黒血を吐き、ここに敢なき終焉を告げた。 竹熊の血は溢れて湖水となつた。これを死海といふ。竹熊の霊魂はその後死海の怨霊となつた。死海の水は苦くして、からく粘着性を帯ぶるは、天の逆鉾の精気と血のりの精の結晶である。竹熊の霊はふたたび化して棒振彦となり、天使大八洲彦命を執念深く幾度も悩ました。竹熊部下の悪霊もまた此の湖水の邪鬼となつた。そしてその怨霊は世界に拡まり、後世に至るまで、種々の祟りをなすにいたつた。その方法は淵、河、池、海などに人を誘ひ、死神となつてとり憑き溺死せしめるのである。故にこの湖水を禊身の神業をもつて清めざれば、世界に溺死人の跡は絶たぬであらう。 シオン山の後方の天より襲ひきたる最も猛烈なる木常姫の魔軍に対して、大八洲彦命は第二の頭槌の玉を空中に投げ捨てたまへば、たちまち爆裂し、木常姫の一軍は神威におそれ狼狽の極、死海の周囲に屹立せる禿山の山上に墜落し、岬角に傷つき、最後を遂げた。木常姫の霊はふたたび変じて高虎姫となり、棒振彦とともに、大八洲彦命を絶対的に悩まさむとした一切の径路は、おひおひ述ぶるところによつて判明する。 竹熊の所持せる十個の玉と、二個の偽玉は一旦死海に沈み、歳月を経ておひおひに雲気となつて舞ひ上り、世界の各地に墜落し邪気を散布し、あらゆる生物を困ましめたのである。さしもの黄金水より出でたる十個の宝玉も、竹熊の血に汚されて悪霊と変じ、諸国に散乱して種々の悪事を現出せしむる悪玉と変化したのである。この玉の散布せる地は最も国魂の悪き国土である。 天の一方より村雲押開きて天使の群、幾百千となく現はれ、地上に漸次降りくるよと見るまに、瑞月の身体はたちまち極寒を感じ、ふと眼を開けば、身は高熊山の巌窟の前に寒風に曝されてゐた。 (大正一〇・一〇・二六旧九・二六桜井重雄録)
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(1059)
霊界物語 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 07 天地の合せ鏡 第七章天地の合せ鏡〔五七〕 ここに天使稚桜姫命は、天使天道別命をして竜宮城を守らしめ、天使天真道彦命、神国別命をして地の高天原を守らしめ、滝津彦をして橄欖山を守らしめ、斎代彦をして黄金橋を守らしめ、はじめて後顧の憂ひなきをみて、稚桜姫命は金竜にまたがり、大八洲彦命は銀竜に、真澄姫は金剛に、芙蓉山より現はれいでたる木花姫命は劒破の竜馬にまたがり、あまたの従臣を率ゐて天馬空を駆けりて、高砂の島に出で行きたまひ、新高山に下らせたまふ。 天までも高く匂ふや梅の花 この高砂の神島は国治立命の厳の御魂の分霊を深く秘しおかれたる聖地であつて、神国魂の生粋の御魂を有する神々の永遠に集ひたまふ経綸地で、神政成就の暁、この聖地の神司の御魂を選抜して使用されむがための、大神の深き御神慮に出でさせられたものである。故にこの島は四方荒浪をもつて囲み、みだりに邪神悪鬼の侵入を許されない。天地の律法まつたく破れて、国治立命御隠退ののちは邪神たちまち襲来して、ほとんどその七分どほりまで体主霊従、和光同塵の邪神の経綸に全く汚されてしまつた。されど三分の残りし御魂は、今に神代のままの神国魂を抱持する厳正なる神々が、潜んで時節を待つてをらるるのである。稚桜姫命はこの中央なる新高山に到着し、あまたの正神司を集め、神界の経綸をひそかに教示しおかれた。 ここにこの島の正しき守り神、真道彦命は岩石を打ち割り、紫紺色を帯びたる透明の宝玉を持ちだし、これを恭々しく稚桜姫命に捧呈された。この玉は神政成就の暁、ある国の国魂となる宝玉である。 つぎに奇八玉命は海底に沈み日生石の玉を拾ひきたつて捧呈した。この玉は神人出生の時にさいし、安産を守る宝玉である。この玉の威徳に感じて生れいでたる神人は、すべて至粋至純の身魂を有する霊主体従の身魂である。そこで真鉄彦は谷間へ下りて水晶の宝玉を取りだし、これを稚桜姫命に捧呈した。この玉は女の不浄を清むる珍の神玉である。ここに武清彦は山腹の埴を穿ちて黄色の玉を取りいだし恭しく命に捧呈した。この玉は神人の悪病に罹れるとき、神気発射して病魔を退くる宝玉である。つぎに速吸別は頂上の巌窟の黄金の頭槌をもつて静に三回打ちたまへば、巨厳は分裂して炎となり中天に舞ひのぼつた。空中にたちまち紅色の玉と変じ、宇宙を東西南北に疾走して火焔を吐き、ついで水気を吐き、雷鳴をおこし、たちまちにして空中の妖気を一掃し、美しき紅色の玉と変じ、命の前にあまたの女性に捧持させてこれを命に献つた。この玉はある時は火を発し、ある時は水を発し、火水をもつて天地の混乱を清むるの神宝である。 稚桜姫命の一行は、馬上はるかに海上を渡りて地の高天原に帰還したまへるとき、天の八衢に鬼熊の亡霊は化して鬼猛彦となり、大蛇彦とともに命の帰還を防止し、かつその神宝を奪取せむと待ちかまへてゐた。ここに稚桜姫命は紅色の玉を用ひるは、いまこの時なりとしてこの玉を用ひむとしたまひし時、木花姫命はこれをとどめていふ。 『この玉は一度使用せば再び用をなすまじ。かかる小さき魔軍にむかつて使用するは実に残念なり。この魔軍を滅ぼすはこれにて足れり』 と懐より天の真澄の鏡をとりだして鬼猛彦の魔軍にむかつて逸早くこれを照らしたまうた。魔神はたちまち黒竜と変じ、邪鬼と化して、ウラル山目がけて遁走した。 天地の真澄の鏡照りわたり 醜の曲霊も逃げうせにけり 稚桜姫命一行は無事帰還された。さうしてこの玉を竜宮島の湖に深く秘めおかれた。さきに木花姫命より大足彦に賜はりしは国の真澄の鏡である。天地揃うて合せ鏡という神示は、この二個の神鏡の意である。また五個の神玉は海原彦命、国の御柱神二神の守護さるることとなつた。 (附言)後世女神および婦人らの簪に玉をつけ、また玉を連ねて頸飾りとなして、悪事を払ひ、幸福を求め、賢児を得むとするのはこの因縁に因るものである。 (大正一〇・一〇・二八旧九・二八桜井重雄録)
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 39 海辺の雑話 第三九章海辺の雑話〔二三九〕 西に高山を控へ東に縹渺たる万里の海を控へたる浜辺に立ち、山嶽のごとき怒濤の荒れ狂ふ光景を眺めて雑談に耽る四五の男があつた。 甲『あゝ世の中は変になつて来たではないか、あの濤を見よ。海か山か判らぬではないか。この間も宣伝使とやらが遣つてきて、海は変じて山となり、山は変じて海となると、大声に叫んで吾々の度胆を抜いた。されど「馬鹿いへ、この深い海が山になつてたまるものか」と冷笑してゐた。それにあの濤は爺の代からまだ見たこともない。この間もタコマ山の半腹まで海嘯が押し寄せると云つて、宣伝使が呶鳴つてゐたよ。この辺も今に海嘯で浚はれるかも知れない。汝らも一つ思案して、タコマ山の頂辺か、地教山へでも避難したらどうだらうね』 と首を傾けて思案顔に言つた。乙は冷笑を浮べながら、 『なに、ソンナ馬鹿なことがあつてたまるかい。この間の宣伝使といふ奴は、ありや気違ひだよ、星が降るとか、洪水が出るとか、人が三分になるとか、訳の判らぬ、舁いて走るやうな法螺ばかり吹きよつて、吾々をびつくりさせて喜んで居るのよ。この世に神もなければ、又ソンナ大変動があつてたまるものぢやない、万々一ソンナ事があれば世間並ぢやないか。この世の神人が全部死んで了つて、僅に二分や三分残つたつて淋しくて仕様がない。ソンナことを云つてくれな、それよりもこの前に来た宣伝使のいふことあ気が利いて居たよ』 丙『気が利いて居るつて、ドンナことを云つたのだい』 乙『ドンナ事をいつたつて、そりや大変な結構なことだよ。天来の福音といつたら、まあアンナことをいふのだらう』 甲『天来の福音て何か、「三千世界一度に開く梅の花」とか、「たとへ大地は沈むとも、誠の神は世を救ふ」と云ふことだらう』 乙[※ここから章末まで乙が九箇所、丙が一箇所あるが、校正本では乙と丙が入れ替わっているようだ。入れ替わっていると考えないと文脈がおかしくなる。校定版も愛世版も乙と丙を入れ替えている。霊界物語ネットも入れ替えた。]『馬鹿いふない、この天地は自然に出来たのだ。雨が降るのも風が吹くのも浪が高くなるのも海嘯も、みな時節だよ。この世は浮世といつて水の上に浮いてゐるのだ。ソンナけち臭い恐怖心を起すやうな、たとへ大地は沈むともなぞと、吾々はちつと気に喰わないよ。アンナ歌を聞くと、吾々の頭はガンガンいつて、今の彼の浪よりも業腹が立つよ。吾々の聞いた福音といふのは、ソンナけち臭い白痴おどしの腐れ文句ぢやない。古今独歩、珍無類、奇妙奇天烈の福音だ。まあコンナ大事なことはとつとこうかい。汝らに聞かしたら吃驚して癲癇でも起すと迷惑だからな』 丙『何だい、貴さまの云ふことあ一体訳が判らぬぢやないかい、偉さうに人の受売を勿体ぶつて天来の福音だなぞと、おほかた駄法螺でも吹音だらう、癲癇の泡吹音くらゐが関の山だ』 乙『だまつて聞いてゐろよ、たとへ大地が沈むとも間男の力は世を救ふのだ。弱蟲や腰抜蟲の前でコンナことを云つたら、冥加に盡て天罰が当るかも知れぬ。やつぱり却つて汝らの迷惑になるから止めておこかい』 丁『あまり勿体ぶるない、三文の大神楽で口ばつかりだよ、こいつな、この間も自分の小忰が井戸へはまりよつただ。その時に狼狽へよつて矢庭に手を合せて「お天とさま、お天とさま」と吐かしてな、吠面かわきよつて拝み仆してゐたのよ。その間にその小忰がぶくぶくと泡をふきよつて沈んでしまつたのだ。その時に自暴糞になりよつてな、この世に神も糞もあるものか。全智全能の神だつて、尻が呆れて雪隠が踊る、小便壺がお出で、お出でをすると吐かして怨んでゐたよ』 乙『要らぬことをいふない、人の欠点までコンナとこで曝け出しよつて、貴様の嬶が死んだ時どうだつたい。男らしくもない、冷たうなつて踏ん伸びて、石の様に硬うなつた奴を……こら女房、お前は儂を後に遺してなぜ先に死んだ、も一度夫といつてくれ……ナンテ死んだ奴に物をいへと吐かすやうな没暁漢だからね』 丁『馬鹿云へ、俺の嬶、神さまだ。貴様の嬶のやうな蜴の欠伸したやうな変な面付した嬶とは種が違ふだよ。死んでからでも毎晩々々おれの枕許へきて介抱する、そりやホントに親切だよ。そして天人の天降つたやうな立派な装束を着てゐるよ』 乙『一遍手水を使うて来い、そりや幻だよ、すべた嬶にうつつ三太郎になりよつて、毎日日日息のある間はお嬶大明神と崇めよつて、朝晩に屁つぴり腰をしよつて、嬶のお給仕に涎を垂らしてをつたお目出度い奴だからね』 一同転げて笑ふ。このとき海鳴ますます激しく浪は脚下まで襲うてきた。これは大変と真蒼な顔して一丁ばかり山へかけ登つた。 丁『偉さうに太平楽のへらず口ばかり並べよつたが、そのざま何だい。浪が来たつて真蒼な顔しやがつて、腰を抜かさぬ許りに山へ駆登つたそのぶざまつたらないぢやないか。見られたざまでないよ、ソンナざまして天来の福音なんて福音が聞いて呆れらあ、呆れ入谷の鬼子母神だ。それもつと早く意茶つかさずに癲癇の泡吹音とやらを、吾々御一統の前に畏み畏み奏聞仕るが後生のためだよ』 乙『その後生で思ひだした、この間もな、ウラル彦の宣伝使だと云つて五升樽を供に担がして大道を呶鳴つて来たのだ。それだ、天国の福音といふのは』 丁『何の事だい、べらべらと序文ばつかり並べよつて、おほかた酒を喰ふことだらう。まあこいつらの福音といふのは樽さへ見せたらよいのだ。口に唾一ぱい溜めよつて、蟹のやうな泡をふきよつてな、喉をぢりぢり焦げつかして、餓鬼が飲みたい水を飲まれぬ時のやうな憐れな面付をして、その宣伝使の後から跟きまはつて、犬が猪の後をつけるやうに鼻ばかりぴこつかして歩いていつたということだ。こいつ等の福音といふことは、酒の匂ひを嗅ぎつけて、よう飲みもせず、けなりさうに指をくはへて、宣伝使の臭い尻からついて歩きよつて、宣伝使が厠へでも這入つてゐるまに、樽のつめをポンと抜いて、長い舌を樽の中へ入れべそべそやつて居ると、雪隠の窓から宣伝使に見つけられて平謝りに謝つて、その代償として立派な美しいお尻を拭かしてもらつた臭い奴があるといふ評判だつた。大方こいつ等のことだらうよ。天国の福音でなくつて糞放の尻拭音だよ。馬鹿々々しい、糞が呆れらあ』 乙は拳を握り、むつとした顔付きで、 『貴様アよい頬桁だなあ』 丁『頬桁より桐下駄がよいのだ、あまり穿きちがひするなよ』 乙『穿きちがひは貴様のこつた、人の下駄で人を踏みつけやうとしよつて、泥足で三千世界泥の海なんて、泥棒の言ひ草みたいなことを吐してな、馬鹿らしい、それよりも酒の代りに泥水でも飲んだら、ちつと天来の福音が聞けるだらう。 飲めよ騒げよ一寸先や暗よ 暗のあとには月が出る ヨイトサ、ヨイトサ』 丁『酒もないのに酒を飲んだ気になりよつて、踊る奴があるものかい』 乙『ごてごていふない、早う帰つて嬶の幽霊になと会つてこい、かまふない』 とたがひに腕を捲りあげ格闘を初めたとたんに、はるか前方より三柱の宣伝使は、 『三千世界一度に開く梅の花、開いて散りて実を結ぶ』 と謡つてくる。乙は矢庭に眼を塞ぎ、顔を顰め、両手に頭を抑へながら、 『こいつはたまらぬ』 と大地にしやがんだ。 折しも暴風ますます激しく、浪は脚下へ襲うてくる。一同は先を争うて又もや山上めがけて逃げ出した。 (大正一一・一・一三旧大正一〇・一二・一六井上留五郎録)
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霊界物語 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 15 ブラジル峠 第一五章ブラジル峠〔三六五〕 春霞棚引渡る海原の浪掻き分けて立昇る 日の出神の宣伝使醜の曲津を払はむと 醜国別の体主霊従霊主体従と成り変り 禊祓ひし生魂心つくしのたちばなの 淤縢山津見と改めて従属の司も腰骨の 蚊々虎彦を伴ひつ教を巴留の国境 ブラジル山に差掛る。 春とはいへど赤道直下の酷熱地帯、木葉を身体一面に纏ひ暑熱を凌ぎ乍ら、腰の屈める蚊々虎彦に荷物を持たせ、ブラジル峠を登り行く。 蚊々虎『モシモシ一寸一服さして下さいな。汗は滝の如く、着物も何も夕立に逢うたやうにびしよ濡れになつて了つた。何処かに水でもあれば一杯飲みたいものですワ』 淤縢山津見『確かりせぬか蚊々虎、何だ、海の底に吾々は長らくの苦労艱難を嘗めて金門の番をして来たことを思へば、熱いの苦しいのと云つて居れるか。空気は十分に無し彼方此方を見ても水ばつかりで、碌に息も出来はしない。何ほど嶮しい坂だつて、汗が出ると云つても、涼しい風がちよいちよい来るじやないか。十分に汗を搾り足を疲らして、もう一歩も前進することが出来ないやうになつた所で、一服するのだ。その時の楽さと云ふものは、本当に楽の味が判るよ。竜宮の苦しい、息も碌に出来ない所から、陸へ揚げて貰つた嬉しさと云ふものは、たとへ足が棒になつても万分の一の苦労でも無いワ。貴様はまだ苦労が足りないからさう云ふ弱いことを云ふのだ。俺に随いて来い』 蚊々虎『それはあまり胴欲ぢやございませぬか。私は竜宮へ行つたことが無いから、貴下のお話は嘘か、本当か知りませぬが、水の中で苦しいのは分つて居ります。併し本当の水の中なら三分か、五分経ぬ間に息が断れて了うぢやありませぬか。それに長らく竜宮に貴下は居られたのぢやから、それを思へば貴下の御言葉は割引して聞かねばなりますまい。私はもう半時も休まずに、この山道を歩かされようものなら、身体の汁はさつぱり汗になつて出て了ひ、コンナ熱い山の中で木乃伊になつて了ひます。ソンナ殺生な事を云はずと貴下も改心なさつたぢやないか、ちつと位の情容赦は有りさうなものだナア』 と涙を溢す。 淤縢山津見『オイ蚊々虎、貴様はなんだい、男じやないか。この位なことで屁古垂れて涙を流すと云ふことがあるかい』 蚊々虎『私は決して泣きませぬ』 淤縢山津見『ソンナラ誰が泣くのだ』 蚊々虎『ハイハイ、私は立派な一人前の男です。苟くも男子たるもの如何なる艱難辛苦に逢うてもびくとも致しませぬ。私について居るお客さまが泣くのですよ』 淤縢山津見『お客さまて何だ、貴様の副守か、よう泣く奴だな。蚊々虎と云ふからには、蚊の守護神でも憑いて居るのぢやらう。今まで人の生血を吸ふやうな悪い事ばかり行つて来た報いだ。貴様の腰は何だい、くの字に曲つて了つとるぢやないか。今までの罪滅しだ。副守に構はず、本守護神の勇気を出して俺に随いて来ぬかい』 蚊々虎『貴下は今まで醜国別と云うて、随分善くないことをなさいましたなあ。私は貴下の御命令でこいつは悪いな、コンナことしたらきつと善い報いはないと思つたが、頭からがみつける様に云はれるものだから、今までは虎の威を借る狐のやうに、心にも無いことを行つてきました。言はば貴下が悪の張本人だ。私は唯機械に使はれたのみですワ』 淤縢山津見『ウン、何方にせよ使はれたのみか、使はれぬしらみか、人の生血を吸ふ蚊か、虎か、狼か、熊か、山狗かだよ』 蚊々虎『モシモシそれは余ぢやありませぬか。虎、狼とは貴下のことですよ。日の出神さまに助けて貰うて淤縢山津見とやらいふ立派な名を貰つて、偉さうにしてござるが、貴下は人を威す淤縢山津見だ。余りどつせ、ちつと昔のことも考へて見なさい。大きな口もあまり叩けますまい。此処には貴下と私とただ二人で傍に聞いてをるものも無いから遠慮なく申しますが、本当に醜の曲津と云つたら貴下のことですよ』 淤縢山津見『三五教は過ぎ越し苦労や、取越し苦労は大禁物だ。何事も神直日、大直日に見直し聞直し、宣り直す教だから、ソンナ死んだ児の年を数へるやうな、下らぬ事は止したがよからうよ。過ぎ去つたことはもう一つも云はぬがよいワ』 蚊々虎『ヘーイ、うまく仰有いますワイ。竜宮で門番をして苦かつたつて、仰有つたじやないか、それは過ぎ越し苦労ぢやないのですか』 淤縢山津見『よう理屈をいふ奴ぢやな。今までのことはさらりと川へ流すのだい。さうして心中に一点の黒雲も無く、清明無垢の精神になつて、神様の御用をするのだよ』 蚊々虎『また地金が出やしませぬかな。何ほど立派な黄金の玉でも、竹熊の持つて居るやうな鍍金玉では直に剥げると云ふことがありますよ。地金が石であれば何ほど金が塗つてあつても二つ三つ擦ると生地が現はれて来るものですからナア』 淤縢山津見『莫迦いへ、俺の身魂は中まで水晶だ。元は立派な分霊だ。雉もなかねば射たれまいといふことがある。もう生地の話しは止めて呉れ』 蚊々虎『ヘーン、うまいこと仰有りますワイ。口は重宝なものですな』 淤縢山津見『オー最早山頂に達した。オイ蚊々虎、話しをしとる間に何時の間にか、山の頂辺に来てしまつたよ。貴様が苦い苦い、もう一歩も歩けぬなどと屁古垂れよつて男らしくもない、副守か何か知らぬが、吠面かわいて見られた態ぢや無かつたぞ。もう此処まで来れば涼しい風が当つて、今までの苦労の仕忘れだ。お前の顔の黒くなつたのも、これも苦労の仕忘れになつて、白い顔になると重宝だが、これ丈は矢張り生地が鉄だから、金にはならぬよ。まあ、顔が黒いたつて心配するには及ばない。貴様の何時も得意な暗黒で、ちよいちよい何々するのには持つて来いだ。暗に烏が飛つたやうなもので、誰も見付けるものが無いからな。本当に苦労の苦労甲斐があるよ』 蚊々虎『暗黒に出るのは矢張り蚊ですもの、貴下の仰有ることが本当かも知れませぬ。間違つてゐるかも知れませぬ。しかし貴下の名はいま出世して淤縢山津見とか仰有つたが何と黒い名ですな。恐さうなおどおどとした暗の晩に烏の飛つたやうな暗ずみナンテ、あまり人のことは言はれますまい。日の出神さまも偉いワイ。それ相当な名を下さる。人を威したり、暗雲になつて訳も分らぬ明瞭せぬ墨のやうな屁理屈を列べる醜国別に淤縢山津見とは、よくも洒落たものだワイ、アハヽヽヽ』 淤縢山津見『オイ蚊々虎、主人に向つて何を言ふ。無礼であらうぞよ』 蚊々虎『ヘン、昔は昔、今は今と、日の出神が歌はれたことを貴下覚えてゐますか。昔は昔、今は今後は何だつたか忘れました。エヘン』 (大正一一・二・八旧一・一二外山豊二録)
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霊界物語 11_戌_コーカス山の大気津姫退治 02 一目お化 第二章一目お化〔四六九〕 東彦の神の宣伝使は時公を伴ひ、果てしもなきクス野ケ原を進みつつ宣伝歌を歌ひ行く。 東彦(本当は高彦)『三五教の宣伝使天津御神の神言に 八十の曲津の許々多久の醜女探女を言向けて 百八十神や八十人を神の誠の大道に 救はんものと海山を越えてやうやうクスの原 北光彦の神ならで一目の曲におどかされ 円かな夢を破られて起き出で四方を眺むれば 虎狼の叫び声枯野を渡る風の音 寒さに顫ふ其時に思ひもよらぬ時さんの 時に取つての御愛嬌大きな法螺を吹く風に 又もや眠りを醒ましつつ茲に二人は転び寝の 水も漏らさぬ三五の神の教の友となり 寂しき野辺を賑しく進み行くこそ楽しけれ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 風も荒野の狼や獅子や大蛇の千万の 曲の一度に迫るともなどか怖れむ敷島の 神の教の宣伝使神の御水火に吹き払ひ 我が言霊に追ひ散らし誠明志の湖を 渡りて又もや荒野原虎伏す野辺の膝栗毛 心の駒に鞭うちて鏡の如き琵琶の海 神の救ひの船に乗り心は堅き磐樟の 船を力にアーメニヤ曲の都に立ち向ふ 此世を造りし神直日心も広き大直日 直日の御霊伊都能売の日の出神や木の花の 神の教を杖として道奥までも恙なく 進み行くこそ楽しけれ』 時公『宣伝使様の御蔭で、人の通つた事のない様なこの曠原を、知らず識らずの間に進んで来ました。然し大分に膝栗毛が草臥れた様ですから一杯水でも飲ましてやりませうか』 東彦(本当は高彦)『マア、行かうぢやないか。一足々々アーメニヤに近寄るのだからな。日天様でも一分間も御休みにならぬのだから、休むのは勿体ない』 時公『一息々々アーメニヤに近づくのは結構だが、この間も石凝姥の宣伝使の言葉に、吾々は斯うして天下の為めに活動して居るのは、一息々々墓場に近づいて行くのだと云はれました。そんなことを聞くと人間も頼りなくて足が倦くて行く気になりませぬわ。長い月日に短い命だ。一寸一服しませうかい』 東彦(本当は高彦)『人間は一息々々墓場へ近づいて、それから墓場の向ふの国へ行くのだ。吾々の目的は墓場を越えるのだよ』 時公『墓へ近づくなぞと、ハカない浮世か、ハカある浮世か、根つから葉つからはかばかしうないわ。馬鹿々々しい様な気がします』 東彦(本当は高彦)『人生の目的はそこにあるのだ。人は生き変り死に変り、若返り若返り幽界現界に出入して、永遠無窮の命をつないで行くものだ。千年も万年も不老不死だよ。お前たちもこの世へ生れて、時さまと云うて威張り散らして居るのは僅かに四十年許りだが、お前の御本体は何万年前から生れて居るのだ』 時公『一寸待つて下さい』 と云ひながら道ばたの草の上にドツカと腰を下し、眉毛に唾をつけ、 時公『オイオイ化さま、御交際に一服せぬか。化物やアクマは吐す事が通録せぬと云ふ事だが、矢張り貴様は尻尾を出しやがつた』 東彦(本当は高彦)『お前また遽に汚なげにものを云ひ出したな』 時公『定つた事だ。化物のアクマ彦に叮嚀なことを云つて関係つて居ようものなら、どんな目に会はしやがるか分るものぢやない。そろそろ日が暮れかかつたものだから本性を現はしやがつた』 東彦(本当は高彦)『アハヽヽヽヽ』 時公は、 時公『分らぬ奴だな』 と首を傾けてゐる。 時公『人間は一度死んだら二度と死なん代りに、一度生れたら二度と生れるものか。生きたり死んだりする奴は狐か狸だ。狐の七化け狸の八化け、化の皮を現はし呉れむ』 と東彦の尻を半信半疑で一寸突いて見ながら、 時公『やつてやろか、然し本物だつたら俺に罰が当るから困るし、なんともかとも正体の分らぬ奴ぢや。俺は日の暮になると朝の元気に引換へて歩き草臥れて足が棒になつて、如何に我慢な時公さまでも一服したい様になつて来るのに、日の暮になるほど元気付きやがるのが一つの不思議だ。化物といふ奴は夜さりになつたらはしやぐ奴だ』 と鉄棒を地に突立てながら、東彦の顔をイヤらしきほど睨みつける。 東彦『ハヽア十分に目を光らして私の顔を調べて置くが宜い。夜分になつてから誤解されては困るからな』 時公は少し頭を傾け、 時公『人間が三分に化物が七分か、人三化七、夜分になると、人一化九になるのだらう。死んでは生れ、生れては死ぬなんて手品師か役者のやうな事を云ひやがつて、真面目に白状せんと時さまの腕には骨があるぞ。斯う之を見い』 と左の手をニユーと延ばし、節くれ立つたり気張つたりといふ力瘤だらけの腕を捲り、右の手にて左の腕をたたいて見せる。 東彦(本当は高彦)『アハヽヽヽ、面白いおもしろい。こんな寂しい処で結構な俳優を見せて貰つて、旅の疲れも忘れて了つた。斯う云へば又日の暮にはしやぐ化物といふか知らんが、本当に生き返つた様な気がして元気ますます旺盛だ』 時公『賢い様でも流石は曲津神だ。到頭白状しやがつた。貴様は鬼の亡者だらう。死んで居やがる証拠には、今生き返つた様な気がすると吐したではないか。サアどうぢや。もう斯うなる上は貴様の方から白状したのだから逃げ道はあるまい。執念深くこの世へ迷うて来よつて……一つ目の化物奴が』 東彦(本当は高彦)『アハヽヽヽヽ』 時公『亡者と思へば何だか其処らが、もじやもじやして気分が悪くなつて来た』 東彦(本当は高彦)『お前の目の帳をサラリと上げて、耳の蓋を取つて私の言ふ事を良く聞くのだ、見違ひ聞違ひをするな。直日に見直し聞直しといふ事がある。さうしたら、今までお前のほざいた悪言暴語も発根と善言美詞に宣り直す様になる』 時公『ヘン、馬鹿にするない。一つ目の化物ぢやあるまいし、二ツ目の兄さまだぞ。化物のやうに眼に帳を下したり、耳に蓋をして堪るか。三五教の宣伝歌をみん事聞きはつりやがつて、見直せ聞き直せなぞと莫迦にするない』 この時得も云はれぬ芳香四辺に満ち、錚々たる音楽が何処ともなく聞え来たる。 (大正一一・二・二八旧二・二藤津久子録)
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霊界物語 11_戌_コーカス山の大気津姫退治 05 大風呂敷 第五章大風呂敷〔四七二〕 東雲の空別け昇る東彦[※「東雲別」と「東彦」は石凝姥の旧名]青雲別けて中天に 光も清く高彦の[※「青雲別」は高彦の旧名]神の命の宣伝使 二八の春の梅ケ香や鉄谷村の鉄彦が 鉄門を守る時公と声も涼しき宣伝歌 謡ひ謡ひて進み行く荒野ケ原に吹く風は 八岐大蛇か曲神か醜女探女の吹く息か 息も吐かずにすたすたと勢ひ猛く進み行く あゝ面白し面白し大蛇探女や醜神の 仮令幾万来るとも天と地とを造りたる 御祖の神のたまひてし我言霊の神力に 敵するものはあらざらめ敵は千里の外でない 心の中に知らぬ間に潜むやつこそ我敵ぞ 心の鬼や曲神を伊吹祓ひて清めたる 神の御子たる我身には月日の光遍くて 玉は真澄の鏡なす鏡に勝る日本魂 珍の剣を抜き持ちて我行く道に障りたる 曲の大蛇を寸断し勝鬨あぐる束の間の はやくも来るクスの原新玉原となりにける。 高彦『サア皆さん、此処で一寸息を休めて、いよいよ戦闘準備にかかりませう。まづ先陣は強力無双の英雄豪傑、時公さまに願ふ事にしよう。我々と梅ケ香姫は本陣、東彦さまと鉄彦さまは左右の両翼となり、三角形に敵の本営に向つて進撃するのですな』 時公『モシモシ、力の強い者が先へ行つて、万々一大蛇の奴にがぶつとゆかれては終ひだ。後の控がありませぬ。総て戦ひは後の控が肝腎です』 高彦『強さうに云つても弱い男だ。随分空威張の上手な法螺吹きだな。マア兎も角、神言を奏上して、それからゆつくり作戦計画を定め、陣容を整へて旗鼓堂々と敵の牙城に進む事にしませうか』 時公『ヤア、一寸皆さん待つて下さい。私は旦那様に申上げねばならぬ、肝腎の御用を忘れて居ました。エヽ鉄彦様、貴方直ぐ帰つて下さい』 鉄彦『なンだ』 時公『何ンでもよろしいが、帰つてさへ下されば分るのです』 鉄彦『コレ、分ると云つたつて肝腎の此場合、何でもない事に駒の首を立て直すと云ふ事が出来るものか、ハツキリと云はぬかい』 時公『エヽ、実は申上げ悪い事で御座いますが、貴方が東彦の宣伝使と三人連で館をお立ち遊ばした二日目の夜半頃、風がザアザア、雨がシヤアシヤア、雨垂の雫がポトンポトンと、それはそれは淋しい真闇の、化物でも出さうな晩でした。其時に奥様が、オヽ臭いとも何とも云はずに、便所にお出になりましたところが、便所の横からニユーと出た糸柳の雨に濡れた冷たい枝が、風と一緒に奥様の顔をザラリと撫でた其途端に奥様はあらう事かあるまい事か、アツと云つたきり荒肝をおつ潰して、其の場にバタリ、スワ一大事と門番の時公までが、雨蛙の様に、胸をトキトキさせながら近寄りて見れば、こは抑如何に、呼べど叫べど何の音沙汰も梨の礫の浅間しいお姿、手も足も冷たくなつて居らつしやる。アヽどうしたらよからう、奥様もう一度ものを言うて下さい。旦那様は宣伝使に呆けてお出ましになつた留守に、貴方がこんな事におなりなされては、この時公はどうして旦那様に顔が合されませう、と涙に掻き暮れました』 鉄彦『ヤア、鉄姫は死ンだのか』 時公『ハイ、サツパリこときれて仕舞つて、何とも彼とも仰有りませぬ。もうかうなる上は旦那様の御行方を探し、立派なお葬をして上げたならば、せめてもせめてもせめても』 鉄彦『何だ、ハツキリ言はぬか。奥は真実に死んだのか』 時公『ハイ、御帰幽になりました。そこで奥様が「オイ時公、愚図々々して居る時でない。早く旦那様を呼んで来て呉れ」と仰有いました。そこでこの時公は「奥様承知致しました」シテコイナと、七分三分に尻引つからげ、襷十文字に綾どりて、後鉢巻リンと締め、大身の槍を提げ「ヤアヤア者共遠からん者は音にも聞け、近くば寄つて目にも見よ、鉄谷村に於て英雄豪傑と聞えたる我名を聞きて驚くな。知る者は知る、知らぬ者は一寸も知らぬ、女の中の男一匹、時公さまとは我事なるぞ」』 鉄彦『オイオイ時公、貴様何云ふんだ、真面目に言はぬか』 時公『ハイ、あまり嬉しくて一寸逆上ました。奥さまが一旦息が切れて冷たくなつて仕舞つた。何うしよう斯うしようと上を下へと大騒動をやつてる最中、持つべきものは子なりけりですな。彼の優しい清姫さまが、三五教の宣伝歌を謡つて神琴とやらを弾ぜられたが最後、琴の弦のやうにたちまち奥様がピンピンと跳ねかへつて息を吹き返し、殊の外の御機嫌で「オイ時公、一時も早く御主人さまを呼んで来て呉れ、女計りでは心細い、人間は老少不定だ。亦もやこんな事があつては取返しがならぬ。貴様は一時も早く後追ひかけて、事の次第を細やかに悉く申上げて、二人の宣伝使に、よく理由を言つて帰つて来い」と、殊更の御頼み、断る訳にもゆかず、一目散に追つかけて来たので御座います。若しやの事でクス野ケ原の大蛇にでも、旦那様が呑まれて仕舞ふやうな事があつたら、この時公は、どうして奥さまに断りが云はれませうか』 鉄彦『我々は神様のために決心して、アーメニヤの悪魔を天下のために言向け和すのだから、それが済む迄は、小さい一家の事にかかはつて居られない。特に尊い三五教の宣伝使のお供だ。貴様怖ければ帰つてもよいから、俺は仮令大蛇に呑まれたつて神界の御用が済む迄は、決して、決して帰らないから奥にさう言つて言伝をして呉れ』 時公『ヤア旦那様、貴方もよくことことと仰有います。別に大した事も無いのですから、いつその事大蛇を退治してから帰らして貰ひませう』 梅ケ香姫『ホヽヽヽヽヽ、又しても又しても、時さんの大風呂敷、面白いわ』 時公『アヽさうだ。この大風呂敷で大蛇の奴をぐるりと包んで棒の先にポイと引つかけて、鉄谷村に連れて帰つて、サア、これが時さまのお土産だ、皆寄つて集つて、擲らうと叩かうと、煮いて喰はうと、だいぢやないと嚇かしてやらうかな』 鉄彦『もう好い加減に洒落は止めて呉れ、千騎一騎の場合だ』 時公『千騎も詮索もいつたものか。一気呵成に突撃を試むるのですなア。サア東彦さま、高彦さま、お梅さま、私が先陣を勤めませう。千騎一騎、千仭の功を一簣に欠くやうな下手な事は致しませぬ。宣伝万歌の三五教の宣伝歌で、縦横無尽に言向け和すは案の内、案じるより産むが易い。サア行きませう』 一同は 一同『面白いなア』 と座を立つて、時公の千切れ千切れの出任せの宣伝歌に笑ひつ倒けつ、新玉原の奥へ奥へと進み入る。 (大正一一・二・二八旧二・二加藤明子録)
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霊界物語 12_亥_天の岩戸開き 28 三柱の貴子 第二八章三柱の貴子〔五二四〕 神代の太古、伊邪那岐命よりお産れ遊ばした天照大御神様、この神様は日の大神様と申上げて、本部綾部に御祀りしてあります所の神様であります。このへんから申上げます。 伊邪那岐命が 『筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐ケ原に於て禊身し玉ふ時、左の御目を洗ひ給ひて成りませる神の御名は天照大御神、次に右の御目を洗ひ給ひて成りませる神の御名は月読命』 といふことが書いて御座います。目といふものは吾々肉体から申しますると、右と左と両方に持ちて居りまして物を視るといふことの上に最も大切なものであります計りか、眼は心の窓と申します位重要なもので御座います。所が一歩進んで考へて見ますと、総てこの宇宙間に形を持つて居るものは森羅万象残らず目すなはち眼目といふものがなくてはならぬ。実際凡ゆるものに眼目があると云ふ事は吾人は常に之を認め得るのであります。姿こそ人間のやうな姿ではないけれど、他の動物に於てもこの眼をもつて居ります。禽獣虫魚草木の類に至るまで此眼のないものはありませぬ。また一つの文章を読みましても、この中にも必ず眼目といふものがあります。御勅語の中にも眼があります。 『皇祖皇宗国ヲ肇ムルコト宏遠ニ徳ヲ樹ツルコト深厚ナリ、汝臣民克ク忠ニ克ク孝ニ』 これが教育勅語の眼目であります。また戊申詔書には、 『淬礪ノ誠ヲ輸サバ国運発展ノ本近ク斯ニ在リ』 これが詰り眼になつて居る。その通り初め天地をお造りになるに当つても、この宇宙を治める為にはどうしても、眼といふものが必要であるといふので、そこで伊邪那岐命は天地の主をお創めになつたのであります。すなはち伊邪那岐命は、先づ天の主をこしらへたい、この霊界の主宰者をこしらへたいと思召しになりまして左の目を洗ひ給うた、この左の目といふのは日であります。太陽神であつて上である。右の目といふのが太陰神であつて下であります。言霊の天則から申しますと左は男、右は女と、これは既に神様の御代から定まつた掟である。然るにこの左の目を洗うてお生れになつたのが日の大神、天照大御神であつて、右の目を洗うてお生れになつたのが月読命、さうすると目からお生れになつたのは、変性男子女子でありました。左の目をお洗ひになつて直ぐお生れになつたのが変性男子の天照大御神でありました。これで詰り左を宇宙霊界とし、右を地球として、天上天下の君をお生みになつた訳であります。 『次に御鼻を洗ひ給ひしときに成りませる神の御名は建速須佐之男命』 はなは初めに成るの意義で即ち初めである。物質の元であります。花が咲いて而して後から実を結びます。人間の身体が出来るにつきましても、先づ胎内に於て人間の形の出来る初めは鼻である。それから眼が出来る。絵師が人間の絵を描きましても、その輪廓を描くのに何より先に鼻を描く、鼻は真中である。鼻を先へ描いて然る後に目を描き口を描いてそこで都合好く絵が出来るのである。この初めて出来た統治の位地にお立ちになるのが須佐之男命であります。俗に何でも物の完成したことを眼鼻がついたと申します。神様も此世界をお造りになつて、さうしてそこに初めて眼鼻をおつけになつたのであります。 『此時伊邪那岐命太く歓喜して詔り給はく』 愈天地が完全に出来たから、神様は非常にお喜びになつた。これまでに神様は随分沢山な御子達をお産みになつて居りますが衝立船戸の神様から十二柱ありました。その次に三柱お生れになつてをるので都合十五柱であります。男神様は我はかやうに沢山の子を産むだが、しかし今度の様な眼鼻になる所の子は初めてである。 『吾は御子生みて、生みの果に三柱の貴子得たり』 と仰せられまして、やがて、 『其御頸珠の玉の緒母由良に取りゆらかして』 即ちむかしの勾玉と申したやうな、高貴な人が飾りとしてかけて居つた頸珠であります。丁度今で申しますと大勲位章とか、大綬章とか、一等勲章とか云ふ意味の、曲玉のやうなのを掛けて居られたかと思はれます。 そこでこの玉を自分からお取り脱しになつて天照大御神にお渡しになつた。母由良にとりゆらかしてといふことは何でも非常に喜んで物を渡すときには、自然に手や身体が揺れる。一面から云へば揺つて渡す。頂くときにも亦揺つて頂く、今は然う云ふやうなことでは御座いませぬけれども、本当に嬉しいときには然うなつて来るのであります。さて之を揺りよい音鳴りをさせながら天照大御神に賜ひまして詔給はく、 『汝が命は高天の原を知らせ』 と高天原を主宰せよと仰せになつて珠をお授けになつたのであります。 『かれ其御頸珠の名を御倉板挙之神と申す』 此の御倉板挙之神といふことは、言霊学上から見ても、神様の方で申されまする暦――此世界には恒天暦、太陽暦、太陰暦の三つの暦が常に運行循環して居るのであります。で、此御頸珠をお授けになつたといふのは、所謂御倉板挙之神、即ち恒天暦、太陽暦、太陰暦をお授けになつたのであります。 『次に月読命に詔給はく「汝が命は夜の食国を知らせ」と事依さし給ひき』 右の眼よりお生れになつた月読命に夜の主宰をせよと仰せられた。知らせといふことは、大事に守護り能く治めよといふ意味で、太陰の世界を主宰せよと仰有つた。高天原は全大宇宙である。夜の食国は昼の従である。それで月読命はどこまでも天照大御神を扶けて宇宙の経綸に当れと、斯う云ふ詔であります。 『次に建速須佐之男命に詔給はく「汝が命は海原を知らせ」と事依さし給ひき』 須佐之男命は鼻からお生れになつた方であります。海原といふのは此地球上のことであります。地球は陸が三分の一しかありませぬ、三分の二といふものは海であります。で地球を総称して大海原と申すのであります。斯うして伊邪那岐命様は深いお考へから夫々其知ろしめす所を、各々にお分けになつて、汝は高天原を、汝は夜の食国を、汝は地球上即ち大海原を知ろしめせと、御神勅になつたのであります。今日は天照大御神の三代の日子番能邇々芸命が、どうも此お国が治まらぬといふので天から大神の神勅を奉じて御降臨になつて、地球上をお治め遊ばして、さうして我皇室の御先祖となり、其後万世一系に此国をお治めになつてあるのでありますが、それより以前に於きましては、古事記によりますと須佐之男神が此国を知召されたといふことは前の大神の神勅を見ても明白な事実であります。 『故各々依し給へる御言の随に、知らしめす中に、速須佐之男命、依さし給へる国を知らさずて、八拳髯胸前に至るまで啼いさちき』 須佐之男命は大神の仰に随つて地上に降臨遊ばされた。地上を治める為めに、お降りになりましたけれども、その時この地上は乱れて居つて、神代にも丁度今日のやうな世があつたものと見えます。で今日のやうに政治であらうが、宗教であらうが、教育であらうが、何から何まで一切のものが行き詰つて了うて、もう行きも戻りも上げも下しも出来ぬ様になつて居つた。それで須佐之男命様は、この世の中を安らけく平けく治めて大神を安堵させ奉る事が出来ないから非常にお歎きになつて、『八拳髯胸前に至るまで』長く長く髯が延びて胸前の所まで下つて来るまで御心配をなすつた。人といふものは髯を拵へたり髪を整へたり、いろいろのことをして、容貌を整へなくてはならぬけれども、此国を治めようといふ事に、余り御心配を遊ばしたのでありますから、知らぬ間にこの髯が八拳に長く伸びて居つたのであります。 『泣きいさちき』 といふのは、世の中の一切悉くのものが、もうどうしても、これから進むで行くとか、開けて行くとか、どうしたらよいかといふ方法がない、手のつけやうがないといふまでに非常に行き詰つて了つた状態を、お歎きになるさまに形容したのであります。 『其泣き給ふ状は』 どういふ工合であつたかといふと、 『青山を枯山なす泣き枯らし』 今まで山などの草木が青々と生ひ繁つて居たのに、世が行き詰つた為に枯れて了うた。枯らして了うた。山がすつかり一変して枯山となつてしまうた。これは今日の状態によつく似て居るではありませぬか。今まで十年計画、百年計画といふやうな風にいろいろな事業が企てられた。何会社が立つの、或は何事業が起されたと、無茶苦茶に四五年前から本年の春までは偉い勢で、好景気を謳歌して、青々とした山の如くに有頂天になつて居りましたが、青山がいつまでも天空につかへないが如くに、なんぼ木が伸びたつて天につかへる気遣ひのないやうに、一朝行きつまれば最早さう云ふ勢はすつくり枯れて了ふ。今年の春からこの方、元も子もなくなつて、青山は枯山になつた。どうしても伸びる方法もない、火の消えたるが如き有様になつて了つたのであります。 『河海は悉に泣き乾しき』 山が枯山となつたと同じく、河も海も悉く乾いて了うて、一滴の水もなくなつたといふのであります。今日の世の中に譬へて申しますれば、郵船会社とか、商船会社とか其他いろいろの海運業も追々と仕事がなくなつて二進も三進も行かなくなつた。すると此海河の労働仕事に従事して居るものは、稼殖の途のなくなるのは勿論、稼業に離れる、職に離れるといふことになつて来ると一家は子供に至るまで、悉く泣き乾しになる。最早や食ふ道がないやうになると、もう乾干になるより仕様がない。総て海に稼いで居る者も、河に従事して居る者も、其他一切のことに従事して居る者も、みんな泣き乾しになつて了うたのである。 『是を以て悪神の音なひ、狭蠅なす皆沸き、万の物の妖悉に発りき』 神代に於ても世が行き詰つて来れば、そこにいろいろの不祥なる事件が起つて来たものと見えます。 畏くも明治天皇陛下が、 『之ヲ古今ニ通ジテ謬ラズ之ヲ中外ニ施シテ悖ラズ』[※教育勅語の一節] と仰せられましたやうに、真理といふものは何れの時代にも適応するので御座います。既に古事記の明文にある所で御座います。今日の状態を考へて見れば、丁度此岩戸開き前の状態と克く似て居る。世がどん底に行き詰つて労働しようにも仕事がない、仕事がなければ妻子眷族を養ふことが出来ない。生活といふことが出来なくなるとそこで悪神の音なひとなり、いろいろの騒動が起つて来る、人間の心が荒んで来る。衣食足つて礼節を知る、今まで善い魂を持つて居つたものも、だんだん悪い魂の力に押へられて悪化して了ふ。食ふか食はぬか、死ぬか生きるか、喰うて死ぬか食はずに死ぬか、斯う云ふ苦しい立場になりますと、人心は日増しに悪化して善くないことが往々始まる。甚だしきは警察へ行つて御厄介になつた方が楽で、養なつて呉れて安全だといふものが出来る。監獄に入れば食はして呉れる、金銭はなくても可いといふ具合に自暴自棄的に悪神の音なひが始まる。此音なひといふのは、神様の御真意に背いた所の、いろいろの論説が出て来るといふので、あちらからも此方からも異端邪説が叢り起ることであります。然うした結果が、うるさい所の五月蠅のやうにブンブンブンといろいろの事が湧いて、 『万の物の妖悉に発りき』 一切のものに災禍が起つて来る。外交の上に於きましても、内治の上に於きましても、商工業の上にも、一切万事、何も彼にも、世の中のありと凡ゆるものに向つて、みな災禍が起つて来るのであります。そこで天から伊邪那岐大神が之を御覧になつて、 『速須佐之男命に詔給はく』 仰有るのには、 『何とかも、いましは、事依させる国を治さずて泣きいさちる』 そなたは、此大海原の国を治めよと言うてあるのに、何故それを治めぬのか、世の中を斯う云ふ難局に陥らせたのか、何うして騒がしい世の中として了うたのか、と大変にお責になつたのであります。すると須佐之男命は、誠に相済まぬ事であります。兎も角これは私に力が足らぬからであります。私が悪いのでありますとお答へになつた。併し斯うなつて来ては如何なる人が出て来ても、此時節には敵はない。治まるときには治めなくても治まるが、治まらぬときに之を治めるといふ事は難かしいものであります。人盛んなれば天に勝ち、天定まつて人を制す、悪運の強い時には如何なる神もこれを何うも斯うもする事が出来ない。艮の金神様も此時節の勢には敵はぬと仰せられて、それで三千年間あの世に隠れて、今日の神政成就の時節を待つて、現在に顕はれ天の大神様の御命令を奉じて、三千世界の立替立直しをなさらうといふのであります。大神様でさへもさう仰せに成るのでありますから、況して須佐之男命が大変に行き詰つた地上を治めようとなさつてもどうして治まらう筈がありませう。然らば何故須佐之男命御一人では治まらないのであるかと申せば、それは今日文武百官がありまして、亦た政党政派が互に相争ひ、一方が斯うすれば一方が苦情を持ち出して思ふやうにならぬ如く前に申しましたやうに既にいろいろの神様達が沢山あつて、其神々様が各自に天津神の御心を取り違へて、所謂体主霊従に陥つて居られたので、一人の須佐之男命がどれ程誠の途を開かうとなすつた所で、更に耳に入れるものがない、各自に勝手な真似をなさる。丁度強情な盲と聾との寄合のやうであります。そこに千仭の谷があつても盲は顛覆へるまでは知らぬ顔をしてをる。どれ程雷が鳴つても聾は足下に落ちるまでは平気である。それに強情を張つて誰が何と注意しても聴かない。神代の人もそのやうに体主霊従で、どうしても命の命令を聴かなかつた。それで須佐之男命は、これは取りも直さず自分の責任である、自分の不徳の致す所である、到底自分の力では及ばないのであると、自らをお責めになつて、 『あは妣の国、根の堅洲国に罷らんと思ふが故に泣く』 私はもうお暇を頂いて、母の国に帰らうと仰せられたのであります。根の堅洲国と申すのは母神の伊邪那美命がおいでになつてゐる所であります。尤もこれまでの或る国学者達は根の堅洲国といふのは地下の国であると云つて居りますが、併し一番に此伊邪那美命は月読命と同じく月界に御出でになつたのでありますから、月界を根の堅洲国と言つたのであります。で須佐之男命は自分の力が足らないのである、不徳の致す所であるからして自ら身を引いて、根の堅洲の国へ行かうと仰有つて、一言も部下の神々の不心得や、其悪い行状を仰せられなかつた。如何にも男らしい潔白なお方で御座います。所が伊邪那岐命は非常に御立腹になつた。 『然らばみまし此国にはな住みそ』 其方のやうな此海原を治める力量の無いものならば、二度と此国に住むではならぬ。勝手に根の堅洲国へ行つたがよからう。一時でも居つてはならぬぞとお叱りになつたけれども、伊邪那岐命は須佐之男命の心中は疾くに克く御存知である。自分の子がどうして此国を治める事が出来ないか、どうして自分の珍の児の言ふことを万の神々が聴かぬか、腹の底では充分に御存知でありますが、それを彼此仰有らない。心の中には千万無量のお悲しみを持つて居られまするけれども、他に多くの神々に傷をつけるといふことは考へ物である。それで須佐之男命に刑罰を与へて罪人としたならば、その他の八百万の神、これに随いて居る所の神等はそれを見て皆改心するであらう、その悪かつたことを悟るであらうと思召して大神様は自分の子を罰せられたのでありまして、普通の者の出来難いことで御座います。その広大なるお情深い御心は、誠に勿体ない次第でありませぬか。此須佐之男命を罪に問うたならば、あれこそ吾々の為めに罪せられたのである、誠に済まないことであるから、吾々は悔い改めて本当の政治をしなければならぬ、改心を早く致して命の罪を赦されむ事を八百万の神々が思ふであらうと思召して伊邪那岐命は此処置をお取り遊ばしたのであるが、矢張体主霊従に陥られた八百万の神達は容易にそれがお解りにならず、あれは当然である、政治の主権をあんな者が握つて居つては国の治まらう筈がない、あれが居なくなれば又善い神様が来るに違ひない、否吾々の力で充分に世を治めようといふやうな頗る冷淡な間違つた考へを有つて居つたのであります。寔にこんな世の中を治めようとするには並大抵の事ではないので御座います。 (大正九・一〇・一五講演筆録) (大正一一・三・五再録谷村真友録)
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霊界物語 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) 01 三途川 第一章三途川〔五五一〕 大海原に漂へる宝の島と聞えたる 竜宮海の一つ島宝の数もオセアニヤ ウラルの彦の神勅を奉じて来る六人が 信神堅固の守護神元は竜宮に仕へたる 神の力を田依彦魂を研いて飯依彦の 神の司と現はれて善言美詞の言霊に 言向和す勢はウラルの教の宣伝使 三年の苦労も水の泡何の土産もアルパニー 港を後に千万の浮島原を乗越えて 航路も長き鶴の国鶴の港を立出でて フサの海まで帰り来る時しもあれや東北の 風に煽られフサの海三五教の宣伝使 日の出の別に巡り合ひタルの港に上陸し 足さへダルの河の辺を徐々進むシヅの森 神の光に照されて茲に心を翻し 忽ち変る三五の教司に伴なはれ フル野ケ原を打渡り醜の岩窟を探険し コシの峠もいつしかにわたりて茲に猿山の 峠の麓に一同はまどろむ折しも音彦が 眠を醒して眺むれば月は木の間に輝きて 茲に五人の宣伝使影も姿も長の旅 弥次彦与太彦伴なひて寄せ来る敵に追はれつつ 荒野を渡り河を越え曲の関所を乗り越えて 泥田に落ちし裸身の足も軽げに小鹿山 四十八坂に来かかりし時こそあれや前後 数多の敵の襲来に衆寡敵せず音彦は 弥次彦与太彦諸共に千尋の谷間に飛込みて 谷間流るる速川の水の藻屑となりひびく 谷間を渡る荒風は実に凄じき許りなり。 弥『世の中は能くしたものですな。一方には断巌屹立したる山腹を控へ、一方には千仭の谷間、かてて加へて前後より数多の敵に取囲まれ、衆寡敵せず、命を的に溪川目がけて、ザンブと許り飛込みた時の心持と云つたら、何ともかとも知れぬ苦しさであつたが、エーままよ、神様に捧げた生命、一寸先は神の御手にあるのだと覚悟をきわめ、飛込み見れば、都合の好い青々とした淵、素より裸の吾々両人は、水泳には誂へ向だ。宣伝使はドツサリと、ベラベラした装束を身に纏つて居られたものだから、水中へ陥つた時には、大変なお苦みでしたな。幸ひ吾々両人が真裸になつて居つたものだから、溺死もせずに助かつたと云ふもの、斯うなると親譲りの裘で無一物の方が、千騎一騎の時には何ほど楽だか知れぬ。それだから神様が持物を軽くせいと仰有るのだ。裸で物を遺失さぬと云ふ事がある。裸くらゐ結構なものはない。ナア与太公……』 与太彦『ウンさうだなア、泥田へ落ちて赤裸になつた時には、裸で道中がなるものか、アー情ない事だ、せめて褌丈なつと欲しいものだと、執着心が離れなかつたが、斯う言ふ時には生れ赤児の赤裸が一番都合が好い。これも神様のお蔭だ。三人が三人共重い着物を着けて居つたなれば、誰も彼も助からずに、幽界とやらへ旅立をする所であつたにナア』 音公は、 音彦『ソレモさうだ、神の道に荷物は不要ぬ。併し乍ら何とかして、木の葉でも編んで着物を拵へなくちや、この先旅する訳にも行かぬ。風俗壊乱でポリス先生に科料でも取られちや見つともない。ぢやと云つて泥棒する訳にもゆかず、困つたものだ。草でも編みて、一つ着物でも作つたらどうだらう、のう弥次公』 弥次彦『ウン折角裸にして貰つたのだから、これも惟神だ。逆転は御免だ。ナーニ構うものか、面の皮の慣はせとか云つて、何ほど寒くつても、面の皮には薄着一枚着せた事はない、慣れて了へば真裸でも、寒くも暑くも何ともない、身は身で通る裸ん坊だ、裸の道中も面白いよ、音彦君』 音彦『それだと云つて、どうも不恰好だ。吾輩の衣類を分配して、一人は羽織、一人は袴、一人は着物と云ふ風にやつたらどうだらうかナア弥次公』 弥次彦『ヤアそいちア、尚々恰好が悪い、それこそ化物の行列みたやうだ。エー構はぬ、行きませうかい。与太公ドウダイ』 与太彦『日が暮れたと見えて、非常に暗くなつたぢやないか。暗い所を歩くのは、裸でも何でも構はぬ、見つとも良いも、見つとも悪いも有つたものぢやない。一つ大手を拡げてコンパスの続く限り前進せうかい』 と三人は暗の路を当途もなく足に任せて進み行く。音公は、 音彦『ヤア、俄に明くなつて来たぞ。一体此処は何処だらう、大変な大河が南北に流れて居るぢやないか、河向ふには得も言はれぬ金殿玉楼が、雲に浮いた様に見えて来出した。ナンダか気がいそいそとして、一刻も早く行きたい様な心持になつて来たワイ』 弥次、与太両人は、 弥次彦、与太彦『ホンにホンに、立派な建築物が見えますな、是を見ると勝利の都に近付いた様な心持がして来ました、………ヤア有難い有難い、進退維谷まつて、九死一生の谷間に飛込みの芸当をやつたと思へば、豈図らむや、コンナ結構な都に近付いた。是だから怖い所へ行かねば熟柿は食へぬと云ふのだ。有難い有難い、それにしても、鷹公、梅公、岩公、駒公一同は、どうして御座るであらう、猿山峠の急坂を、痩馬の尻を叩いて行軍の真最中だらうか。是だから先へ行つた者が手柄をするとも、後れた者が手柄をするとも分らぬものだ、何事も神のまにまに任すほど安心な事はないなア』 と語りつつ、三人は漸く河幅広き水底深き青々とした流れ岸に着いた。弥次は驚いて、 弥次彦『ヤアこの河は立派な河だナア。大抵の河は、通常は河原ばつかりで、横の方を帯の様に、青い水がホンの形式的に、お条目の様に流れて居るものだが、この河はまた例外だよ、河一面の流れで、しかも青味立つた清水が流れて居る。大抵の河は、河一面に水の流れる時は大雨の時で、泥々の真赤な水だが、コラまた稀代に立派な河だワイ』 与太彦は、 与太彦『河は立派だが、何時まで褒めちぎつて居た所で、橋も無ければ、舟も無いぢやないか、どうして渡つたがよからうかな。これや一つ、何とか工夫をせねばならないぞ』 弥次彦『ナニ、吾々は幸ひ真赤裸だ。水泳の妙を得とるのだから、対岸へ流れ渡りに渡れば良いのだ。斯う言ふ時には、裸一貫の無一物は、大変に都合が好いワイ、唯困るのは音彦の宣伝使様だけだ……………もしもし宣伝使様、一層の事あなたの御衣服を全部この河へ投り込んで、三人共裸になつたらどうですか、牛の子でも附合を致しますで…………』 音彦『それもさうだが、お前はまだ普通の人だ。吾々は三五教の宣伝使といふ重荷を持つて居る。この被面布も大切に致さねばならず、法服を棄てる訳には行かない。アヽこうなると、責任の地位に立つ者は辛い者だ、窮屈不便利至極だわい』 弥次彦『あなたは、宣伝使の法服だとか、被面布だとかに執着心があるから可けないのだ。保護色に包まれて居るから、自由自在の活動が出来ないのだ。裸になれば又裸で立行くものです。カメリオンの様に、青い草に交れば青くなり、赤い葉に止れば赤くなり、白い木にとまれば白くなると云ふ、変幻出没自由の活動を執るのが、宣伝使の寧ろ執るべき手段ではありますまいか。大歳の神は、宣伝使の服を脱いで俄百姓となり、農夫の服を着て農業を手伝ひ、立派に宣伝使の本分を尽されたと云ふ事ですよ。河を渡るのには裸でなくちや駄目だと弥次彦は思ふがナア』 音『さう云へばさうだが、せめてコーカス山にお参詣する迄音彦は、この服は離したくない』 弥次彦『あなたはさうすると、何時迄も此処に、河端柳ぢやないが、水の流れをクヨクヨと見て暮すと云ふ方針ですかい』 音彦『ヤア進退維谷まつた。音彦もどうしたら可からうかなア』 と双手を組み思案に暮れて居る。傍に藁を以て屋根を葺いた小さい家が目に着いた。 弥『ヤア此処に、〆て一戸、村落があるワイ、あまり小さいので、見落して居つた。先づ先づあの館へでも侵入して、ユツクリと河端会議でも開催しませうか』 と先に立つて弥次彦は、藁小屋の中に進み入る。 弥次彦『ヤアこの藁小屋の中には、ナンダか生物が居るぞ。コンコンと咳払をやつて居るワイ、もしもし宣伝使さま、これは後家婆アの隠れ家と見える、マア一服さして貰ひませうかい………』 小屋の中より皺枯れた婆の声で、 婆『誰だ誰だ、この河辺に立つて何を囁いて居るか。此処はどこぢやと思ふて居る、三途の河の縁だぞ』 と聞くより弥次彦は婆々を睨み乍ら、 弥次彦『ナニツ、三途の河の縁だと?全然冥途の旅の様だ。ソンナラ大方着物を脱がす婆ぢやないか。ヤアナンダか気分が悪いワイ。モシモシ宣伝使さま、何をグズグズして居るのだい、早く来て鎮魂をして下さいな、怪しからぬ事を云ふ老婆が居りますで……』 音彦『弥次彦お前は、何を怖さうに言ふのだ。乞食婆アだよ、放つときなさい』 婆『乞食婆とは何だ、三途河の鬼婆だぞ。サアサア娑婆の執着をスツクリ流す為に、真裸にしてやらうかい』 と藁で編みたる押戸を開けて、白髪頭をヌツと出し、渋紙面を曝して現はれて来た。 弥次彦は、 弥次彦『ヤアナント背の高い、小面憎い面をした老婆だな………オイ糞婆、貴様は良い加減に改心をせぬかい。よい年しよつて、何時までも欲の皮をひつぱると、死んだら地獄に落ちるぞ』 婆『わしはお前達の着物を脱がす役だよ。サア綺麗サツパリと脱いで行かつしやれ』 弥次彦『何を吐しよるのだ。貴様は他人の着物を脱がして、沢山に箪笥の中へ仕舞込み置いても、末の短い貴様が、死んだならば冥土とやらへ行かねばなるまい。その時に三途河の鬼婆が、みな脱がして了ふと云ふ事だぞ。あまり欲をかわくない』 婆『その三途川の鬼婆が此方さまだ。愚図々々言はずに脱がぬかい』 弥次彦『ヤア此奴ア盲婆だな、裸の俺に着物を脱げつて吐しよる、良いケレマタ婆も有れば有るものだナ。ワツハヽヽヽ』 婆『お前は先祖譲りの洋服を着とるぢやないか、兎の皮を剥いたやうに、頭からクレクレと剥いてやるのだ。弥次彦覚悟は良いか』 弥次彦『これは裘だぞツ』 婆『河の縁で脱がすのだから、裘は尚結構だよ』 弥次彦『エー洒落ない、婆の癖して………オイ与太公、宣伝使さま、チツト来て下さらぬか、思ひの外シブトい婆だから』 音彦『ヤア、弥次さま、どうやら此処は三途の河らしいぞ。小鹿峠から谷川へ飛込んだ時に、気絶した途端に、どうやら幽界の旅行と急転したらしい、どうも空気が変だ。ナア与太彦、お前はどう思ふか』 与太彦『宣伝使のお考へは違ひますまい。私も何だか、四辺の状況が娑婆とは違ふ様な気が致しますワ………』 婆『コラコラ、お前たち三人の奴は、俺を誰だと思ふて居る、俺の面を見よ』 弥次彦は顎をシヤクリ乍ら、 弥次彦『ツラツラ考ふるに、何とも早、形容の出来ない怪体な面付だナア。ひよつとしたら、宣伝使のお言葉の通り、三途川の鬼婆かも知れぬワイ』 婆『合点が行つたか、親重代の宝物たる黒い土瓶の中へ小便を垂れる様な、汚れた身魂の人足だから、此処で赤裸にして霊の洗濯を為てやるのだよ』 弥次彦『ヤア合点の行かぬ婆アだ。土瓶の事まで吐しよる、貴様はお竹の母親か』 婆『お竹の母親か、父親か、よう考へて見ろ。弥次彦のガラクタ奴』 弥次彦『黒い黒い手で握飯を握りよつて、手鼻汁をかみ、洟を落した握飯を拵へた汚い老婆に比べると、モ一つ汚穢い奴だ。俺の霊が汚いから洗濯せいと言ひよるが、マア貴様の汚い顔から洗濯せい………霊魂を洗濯せい、美しうなれと、口ばつかり他人に言ひよつて、自分の汚い事は知らぬ顔の半兵衛でけつかる。困つた者だなア、自分の尻糞は目に着かぬと見えるワイ。全然三五教の宣伝使の様な事を吐す奴だ。アハヽヽヽヽヽ』 婆『ババはババいから婆と云ふのだ。ヂヂはヂヂムサイから老爺と云ふのだよ。糞は汚い、痰は汚い、花は美しいと、開闢以来定つとるぞ。俺の様な汚い所へ落ちた者は、汚なうして居ればよいのだよ。貴様のやうに、表は立派な、三五教の宣伝使だとか、信者とか言ひよつて羊頭を掲げて狗肉を売る様な罪悪人は、何処までも洗濯をせな可かない。腹の底まで洗濯をしてやるのだ。チツト苦しうても辛抱せい。親譲りの着物を是から脱がして、この老婆が洗濯をして着替さしてやらうかい、コラ弥次彦のガラ奴』 弥次彦『ヤア、此処ア洗濯婆アだな、鬼の来ぬ間に洗濯バタバタ早く身魂を洗ふて下されよ、改心が一等だぞよ、今までの塵芥、流れ川ヘサツパリ流して、水晶の身魂になつて下されよ……といふ筆法だな。ソンナ事は三五教の教祖の教にチヤンと出て居るのだ。事新しく三途河の縁まで来て、言つて貰はいでも、遠の昔に御存じだ。大学卒業生だぞツ。骨董品の様な古い頭をしよつて、文明人種の吾々に意見をするのは、釈迦に経を説く様なものだよ』 婆『お前達は口ばつかり立派な信者だ。舌と耳とは極楽へ遣つて、その外はみな地獄行だ。舌と耳とを俺が預つて、是から高天原へ小包郵便で送つてやらう。マア裘を脱ぐより、第一着手として舌を出せ、舌と耳とを切つてやらうかい、弥次の奴』 弥次彦『エー何処までも婆は婆らしい事を吐しよるワイ。舌切雀の話の様に、舌を切つてやらうの、桃太郎の話の様に、洗濯をするのと、らしい事を言ひよるワイ、アハヽヽヽ。オイ婆、この河には随分桃が流れて来るだらう。二つや三つは貯へて居るだらうから、一つ俺に招伴させぬかい、腹が空つて聊か迷惑の態だ』 婆『お前の食ふのは此処に預つてある、サアサア是なと食つて着物を渡すのだよ』 と真つ黒けの握飯を二つ出す。 弥次彦『ヤア此奴ア、お竹の宅の柴屋で見た握飯だ。コンナ垢の着いた、鼻水だらけの握飯が仮令餓えて死んでも食はれるものかい、渇しても盗泉の水を呑まぬ俺だぞ』 婆『どうしても食はねば、貴様を此鬼婆が代りに食つて了ふがよいか………勿体ない、粒々辛苦になつた結構なお米で拵へた握飯を、黒いの汚いのとは何の事だ。たとへ鼻水が入つて居らうが、百分の一位なものだ、何ほど綺麗な人間でも、百分の八九十までは汚い分子が含蓄して居る。貴様の肉体つたら、九分九厘まで真つ黒けの鼻水握飯の様なものだぞ。俺が辛抱して食てやると言ふのだから、これが冥途の食納め、喜んで食はぬかい』 弥次彦は首を傾けて 弥次彦『オイ与太公、サツパリ訳が分らぬぢやないか、貴様の食ひ残しだ。おれや元から一つも食はないのだから、貴様が食つたらよからう』 与太彦『私はあなた様の分まで頂戴致しまして、スツカリ食べるのは、あまり礼を失すると思ひ、二つ丈残して置きました。決して汚いから残したのぢやありませぬ、此れは弥次彦の領分だと思つて遠慮したのです………もしもしお婆アさま、私は腹一杯頂戴したので、それ以上は食へなかつたのと、弥次彦に愛想に残してやつたのですから、決して決して、汚いの何のといふ、ソンナ冥加の悪い心で残したのでは御座いませぬ。これは弥次彦の食ふべきもので御座います』 弥次彦『エーエー、与太彦までが怪しからぬ議案を出しよつた。河端会議だから握り潰しといふ訳にも行くまい。三途の河へ一瀉千里の勢で、否決流会だ』 と握飯を握つて河に棄てむとするを、婆はその手をグツと握りたり。弥次彦は、 弥次彦『ヤア冷たい冷たい、氷のやうな手をしよつて………手が痺れて了ふワイ』 婆『ヤア不思議だワイ、お前の霊は、遠の昔に痺れて了ふて免疫性の無感覚だと思つたに、冷たいのが分るか、それではチート何処かにまだ息があるワイ、コンナ所へ来るのはチト早いのだけれど、修業の為に、我を折る様に、この河を渡れ、裘を剥ぐ丈は免除してやらう。随分冷たい河だぞ、この河が冷たくなくして渡れる様ならモウ駄目だ。冷たければチツトはまだ人間の息が、霊に通ふて居るのだよ』 弥次彦『オイ婆アさま、お前も随分屁理窟を言ふがそれ丈理窟が分つて居れば、この弥次彦は寒うて困つとるのを、チツトは同情するだらう。亡者の着物を毎日追剥しよつて、沢山に蓄めとるだらうが、俺に似合ふ様な着物を一枚分配して呉れぬか、どうで老若男女色々と風も違ふだらうから、俺に打つて附けた様な着物もあるだらうにのう』 婆『エヽ附上りのした男だなア、お前に着せる様な着物は一枚もありやしないよ。みな河へ脱がしては流し、脱がしては流し、今ここに五枚ある丈だ。それもみな子供の着物だ。一枚は俺が着にやならぬし、五枚の着物を貴様に一枚やれば、モウあとは四枚だよ』 弥次彦『ヤアこの婆、なかなか洒落てけつかる、風流婆アだなア』 婆『定つた事だ、何事も執着心を棄てて、風流で胸の垢を洗濯婆アだ。お前も早う身魂の洗濯をせないと云ふと、腹の中に毛虫がわいて、弥次身中の虫となつて、お前の肉体を亡ぼす様になるぞ』 弥次彦『婆さま、オツト待つた、俺は亡者じやないか、一旦亡びた者が復亡びるといふ事があるかい』 婆『顕幽一致、生死不二だよ。今の娑婆に居る奴は、肉体は生きて居るが、霊はみな死にたり、腐つたり、亡びて了つて居るのだ。併し乍ら、貴様は感心な事には、肉体は亡びたが、まだ霊に生命があるワイ』 弥次彦『定つた事だい、せいめい無垢の生粋の大和魂だもの。万劫末代朽つる事なく亡ぶ事なき霊主体従の弥次彦さまの本守護神は、永世不滅の神の分霊、万劫末代生通しだ。肉体は亡びても、吾々の霊は至極健全だ。これから三途の河を横渡りをして、心の鬼も地獄の鬼も片ツ端から言向和し、地獄を化して天国とする覚悟だ。オイ婆ア、貴様もコンナ所に弱い者苛めをして、亡者に対し剥取強盗をするよりも、早く改心を致して俺のお伴をせないかエーン』 与太彦は、 与太彦『オイ弥次彦、しやうもない事を言ふない。地獄開設以来、三途川の鬼婆と云つて、この河に備へ付の常置品だよ。ソンナ者でも閻魔の庁へ連れて行つたが最後、天則………ドツコイ地獄則違反者だ………と云つて、罪に罪を重ねる様なものだよ』 弥次彦『さうだな、出雲姫の様な美人を連れて、閻魔の庁へ出立するのは気分が良いが、斯う苔の生えた枯木の様になつた骨董品を伴れて行くのは、弥次彦もチツト迷惑だ。……オイ婆ア、お前何時までも此川辺に、コンナ事をやつとるのが面白いのかい』 婆『何が面白からう、これも仕方がないワ、木蓮尊者の母親ぢやないが、罪の塊で、因果が廻り来て、コンナ人の厭がる役を、よい年してやらされて居るのだよ。俺はモウ駄目だ、終身官だから、辞職する訳には行かぬワイ』 弥次彦『それを聞けば、何だかチツト、哀憐の心が起つて来たワイ。一層の事、一思ひにこの川へ、バサンと投げ込みてやらうか。さうすれば、地獄の苦を逃れて、お前も幸福だらうに』 婆『婆サンとやつたつて駄目だよ。善の道を破産した俺だから、到底救はれる予算が立たぬワイ』 弥次彦『アヽ三途がないなア、かはいさうな者だ。ナント詮術なきの川水、ミヅバナ垂らして握飯に固めて、ムスメのお世話になつた御主人様に、有らう事か有るまい事か、食べさそうと致し、おまけに小便茶をも勧めた天罰は覿面に廻り来つて、三途川の鬼婆とまで成り果てしか、アヽ思へば思へばいぢらしや、弥次彦同情の涙に暮にけりだ』 音彦『アハヽヽヽ、面白い面白い、弥次喜多道中は、冥土へ来てもヤツパリ、五十三次気分がするワイ、音彦はまるで大井川の川縁に着いた様な心持がするワイ』 弥次彦『大井川なら、この婆を大井に川いがつてやるのですな、アハヽヽヽ』 この時いかめしい装束をした一人の男、金剛杖をつき乍ら、トボトボと歩み来たりぬ。能く能く見れば、ウラル教の大目付、源五郎なりける。弥次彦は見るより、 弥次彦『ヤア貴様はウラル教の源五郎だナ、俺が猿山峠の麓の森林で、華胥の国に遊楽する折しも、しやうもない夢をば、与太公に見せよつて、驚かしよつた腰抜野郎だらう。馬からひつくり返つて、四足に圧搾されて、背中に腹は替へられぬぢやない、馬の背中で腹を抉られて、蛙をぶつけた様に、目をクルクルと剥きよつて死ばつた代物だらう。サア好い所へ来よつた。こちらは三人貴様は一人だ。娑婆に居つた時は此方は三人貴様の味方は五十人、五十人でさへも敗北した様な腰抜だから、到底叶ふまい。貴様の着物を一切脱ぎ取るのだ、サアサア脱いだり脱いだり』 音彦は、 音彦『オイオイ弥次、婆アサンの職権まで蹂躙すると云ふ事があるかい』 弥次彦『モシモシ、お婆アサン、此所ちよつと代理権を執行致しますから、事後承諾を願ひます』 婆『ハーイハイ、宜しき様に………お前に一任致すぞや』 弥『音彦さま、サアどうだ、是からこの弥次彦が、お婆アサンの代理だ。脱衣婆アといふ職権ができた。婆アサンの片相手は、お弥次サンに定つてるよハヽヽヽ。オイ源五郎、婆アサンのおやぢだ。娑婆に居つた時は弥次彦だが、今は三途川の鬼おやぢだ。キリキリチヤツト脱いで了ヘツ』 源五郎は、 源五郎『ヤア、仕方がない、ソンナラ脱ぎませう。一枚でこらへて下さいや』 弥次彦『エー執着心を持つな、真裸になれ』 源五郎『それでもまだ此先、十万億土も旅をせにやならぬのだから、お慈悲に一枚は残して下さいナ』 弥次彦『エツ一枚脱ぐも三枚脱ぐも、脱ぐのに違ふた事があるか、生れ赤子になるのだよ』 源五郎『ナント、お前さまはエライ権利を持つてますなア』 弥次彦『定つた事だよ、泥棒権利の執行者だ。キリキリチヤツト、裸になつたり裸になつたり』 源『アヽもう斯うなつては源五郎もサツパリ源助だ、娑婆に居る時には、立つ鳥も落す勢であつたが、可愛い女房には別れ、生命より大事と蓄めた財産は弊履の如く打棄てて、身軽になつて此処へ来たと思へば、この薄い着物まで剥がれて了ふのか、アヽ仕方がない。どうしたら宜からうかナア』 弥次彦『エー女々しいワイ、郷に入つては郷に従へだ。娑婆の理窟は冥土には通用せぬぞ。泥棒にも三分の理窟があるのだ。脱衣爺の命令は全部服従……否盲従するのだ。亡者が亡者に従ふのは所謂亡従だよ。アハヽヽヽ』 源五郎『アヽ仕方がありませぬ、脱がして戴きます』 弥次彦『貴様が脱いだ後は、俺も裸で困つて居るのだから、右から左へスツと着替へるのだ。…………オイ与太公、此奴ア、大分沢山に着て居よるから、貴様と分配して、着々歩を進めるのだよ』 源五郎『お前さまも、裸の辛い事は御存じでせう。自分の苦しみにつまされて、私を不憫とは思ひませぬか』 弥次彦『エー八釜しいワイ、暗がりの世の中だ。一々目をあけて居つたならば、一日も生活が出来るものかい。何事も人の憐れは、見ざる、聞かざる、言はざるで…………自分の一身一族を保護するのが当世だよ。まだまだ是では済まぬぞ、貴様の持物をみな脱いで了へ』 源五郎『これ丈褌まで脱いで了つたぢやありませぬか、この上何を脱ぐのですかい……』 弥次彦『定つた事だよ、親譲りの………貴様はまだ洋服を着て居る。靴も、手袋も、頭巾も、何もかも、みな脱ぐのだ。貴様は娑婆に居る時から、彼奴は鉄面皮だと言はれて居つたぢやらう。その鉄面皮を此処で脱がしてやらう。舌も千枚舌だと言ふ事だから、一枚は助けてやるが、九百九十九枚まで此処で抜き取るのだ。コレコレ婆アサン、釘抜を貸しテンかいナ』 婆『ハイハイ、おやぢ彦の言ふ事なら、何でも聞きませう。釘抜がチツト錆びて居るけれど、此奴の舌も錆びてゐるから、合ふたり、叶ふたりだ、ワハヽヽヽ』 弥次彦『ヤア気の利いた婆アだ、流石俺の女房丈あるワイ、………オイ源公、千枚舌を出せ…………口を開け…………』 源五郎『アーア仕方がない、冥途の法律に従はねばならぬか。ソンナラどうぞ、ヤンワリと抜いて下さい』 弥次彦『よしよし』 と云ひつつ、釘抜を以て源公を大地に仰向けに寝させ、右の足を頭にグツと乗せ、 弥次彦『イヨー沢山な舌だワイ………此舌は放蕩を舌、一枚……オイオイ与太公、貴様は勘定役だ。音彦は受取つて下さい。……この舌は違約を舌……オツト二枚……こいつは間女房を舌……オツト三枚……こいつは讒言を舌、オツト四枚だよ、……こいつは失敗を舌、オツト五枚だ………こいつはアフンと舌、オツト六枚………こいつはインチキを舌……道傍でウンコを舌……遠慮を舌……ドツコイ遠慮会釈もなしに乱暴を舌……強欲を舌……ウツカリ舌……スベタに現を抜か舌……姦通を舌……人を監禁舌……苦面を舌……喧嘩を舌……善悪を混同舌……散財を舌……要らぬ心配を舌……狡猾い事を舌……民衆運動を煽動舌……探偵を舌……損を舌……畜生を殺舌……掴まへ損なひを舌……而も三五教の宣伝使を……手癖の悪いことを舌……遁亡を舌……難儀を舌……物に窮迫舌……人を見殺しに舌……憎まれ口を叩いた舌だ……盗みも舌……猫婆も舌……無報酬の飲食を舌……神に反対を舌……貧乏を舌奴を圧迫舌……憤慨も舌……変改も舌……人の金で漫遊を舌……無理も舌……斤量の目盗みも舌……悶着も舌……魂の宿替も舌……それは良心の転宅だ……隠険なことも舌……嘘つきも舌……縁談の妨害も舌……欲な企みも舌……乱痴気騒ぎも舌……悋気も舌……不在の宅を狙つて○○を舌……猟師をして沢山な畜生も捕獲舌……論にも杭にもかからぬ様な議論も舌……忘八苦も舌……意地の悪い事も舌……エー閻魔さまの眼鏡に叶はぬ様な事も沢山舌……人をおど舌……霊界物語の邪魔も舌……俺もモウウンザリ舌…是でまだ六十枚だがモウ良い加減に止めに舌がよからうかアツハヽヽヽ』 音彦『随分沢山な舌ですネー、音彦感心しま舌、ワアツハヽヽヽ』 弥次彦『此奴は、何時も数多の人間を顎で使ひよつて、舌長に物を吐かす舌たか者だから、舌の根も随分強くつて、この三途川の鬼爺も、大変な苦労を舌、アーア舌抜き商売も、懲々舌わい、ワツハヽヽヽ』 婆『これはこれはおやぢ彦、偉い苦労をかけま舌、これで一寸源五郎の制敗も一部落着いた舌と云ふものだ』 源五郎『アーア辛い目に逢ふたものだ。三味線の糸ほど引締められて、撥を当てられ、お前のお好きに紫檀棹、源五郎も是で無罪放免にして貰ひませうか』 婆『まだまだ……此処はこれでよい、この河を渡つて向ふへ行つたら、今度はお前の腕を抜くのだよ』 与太彦は面白さうに、 与太彦『アヽそうかいな、痛いかいな、苦しいかいな』 弥次彦『コラ与太公、ソンナ陽気な事を言ふとる場合ぢやないぞ、改心をせぬか、緊張せぬかい、お弥次彦が舌を抜いてやらうか』 与太彦『オイ弥次彦、よい加減にコンナ殺生な商売は辞職したらどうだい』 弥次彦『八釜し云ふない、モウ少し勤めさして呉れ、……恩給年限が満つるまで……』 与『貴様はどこまでも、徹底的に欲な奴だナ、欲々の体主霊従の性来ぢやと見えるワイ。世の中で他人がよく云はぬのも当然だ』 婆『サアサア弥次彦サン永々お世話だつた。只今限り解職する、速くこの河を渡りしやれ』 弥次彦『ヤア何だ、何時の間にか河が無くなつて了つた。かわい女房に生別れと云ふ場面だナ。オイ婆ア、折角な綺麗な河を何処ヘスツ込めて了つたのだい』 婆『お前の罪が薄らいだから、河はモウ流して了つたのだよ』 弥次彦『河を流すとは妙だな、ヤツパリ現界とはすべての光景が河つて居るワイ……ヤア面白い、茫々たる原野と俄に早替り、活動写真を見とる様だ……是れは是れはお婆アサン、永らく御厄介に与りました。頭の一つもおなぐり惜いが、私も先が急きますから、これで垢の別れを致しませう。これから爺は三人の亡者を連れて、あの世の旅をする程に、おばば、後の供養をしつかり頼むぞや。極楽と言ふ立派な所へ行つて半座を分けて待つて居る、一時もはやく、第二の娑婆を振り棄てて、おやぢの側へやつて来て呉れ、万劫末代、一蓮托生、必ず忘れて呉れるなよ』 与太彦は吹き出して、 与太彦『アハヽヽヽ、何を吐しよるのだ、アンナ老婆と一蓮托生になつて堪るかい』 弥次彦『それでも袖振合ふも他生の縁よ「ヤアおやぢサン、ばばア……」と仮令半時でも縁を結んだ以上は、夫婦には違ない、夫婦の情は門外漢の窺知すべき所でない、色気の無い唐変木の容喙すべき限りにあらずだ』 音彦、与太彦、源五郎も一度にふき出し、 音、与、源『アハヽヽヽ、ウフヽヽヽ、エヘヽヽヽ』 (大正一一・三・二三旧二・二五松村真澄録)
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霊界物語 16_卯_丹波物語1 大江山/冠島沓島/丹波村 03 門番の夢 第三章門番の夢〔五九三〕 夜は深々と更け渡る水さへ音なき丑の刻 波を照して一塊の巨大な光嚠々と 呻りを立てて竜灯の松を目蒐けて走り来る。 火光は一旦松の周囲を廻転し、梢に光皎々と留まり輝きぬ。樹下に倒れた五人の男は、吃驚仰天目を覚まし、アフンと許り空を眺め鰐口開けて、天から降つた牡丹餅を頂く様な為体なり。棚からさへも牡丹餅は容易に落ちて来ないのに、木から落ちたる猿の如く、老木の下に腰を抜かし、夜の明け行くを松の下、可笑しかりける次第なり。 東の方より数十人の消魂ましき足音するに眼を転じて眺むれば、東雲近き薄明り、鬼雲彦の手下の者共、一人の男に追はれつつ、生命からがら逃げ来る。腰を抜かした五人連に、先に立ちたる四五人は、足引つかけて顛倒し、次から次へ出て来る奴は折り重なつて、相互怨みの無い様に、交際の良い社会主義、民衆運動の花咲きて、転んで土食ふ奴ばかりなり。 亀彦『ヤア其の方等は大江山に本拠を構ふる鬼雲彦の乾児の奴輩、片つ端から撫で切りに致し呉れむ、覚悟をせよ』 と両刃の剣を逆手に持ち真向上段に振り翳したり。 石熊『ヤイ、其方は肝腎の二人の娘を如何致した、コンナ処へ踏ん迷うて来る処ぢやあるまいぞ、二人の女を早く助けてやらぬか、そしたら吾々もお蔭で助かる哩、アハヽヽヽ』 亀彦『オー、さうじや、余り勢に乗じて英子姫様を念頭より遺失して仕舞つた、此奴堪らぬ。愚図々々して居れば磨滅の厄に遭ひ給ふやも図り難い、オイ敵の奴輩、木端武者能く注意して呉れた、汝の手柄に免じて今日は之にて許してやらう』 と云ふより早く踵を返し、矢を射る如くもと来し道に引き返す。 石熊『オイ、鬼虎、熊鷹の阿兄、何うだ、此方の文珠の智慧、貴様の様な天の橋立ない智慧の持主では仕方がない、斯んな時に、ちつとも間に合はぬ。当意即妙、智謀絶倫、文珠菩薩も石熊親分の無量智には尻はし居つてスタコラ、ヨイヤサと御遁走、持つべきものは知識なりけりだ、アハヽヽヽ、オホヽヽヽ、エヘヽヽヽ』 不思議なる哉、此樹下に来たものは一人も残らず一蓮托生、腰が薩張り抜けて仕舞つた。一同の魔神は叶はぬときの神頼み、悪にも三分の理屈がある、神の救ひを求めむと十能の様な大きい手を合し、 一同『阿耨多羅三藐三菩提、南無与仏有縁与仏、有縁仏法僧、縁常楽我長、朝念観世音、暮念観世音、念々従信起、念々不離心』[※仏典の『十句観音経』だと思われるが、一部語句が異なる。] と手と口とは自由権を許されて、甲乙の区別もなく平等に言霊を連続発射して居る。 話変つて英子姫は器量も愛想も悦子姫、由良の港の国司秋山彦の門前に佇み乍ら夜の明け行くを待ち居たりしが、忽ちガラリと開いた表門、門番は二人の姿を見るより顔色を変へて一散走り、彼方を指して隠れ行く。忽ち四五の荒男、十手打ち振り打ち振りつ、二人の前に塞がりて有無を言はせず手とり足とり、口には嵌ます猿轡、何と応答もなくばかり、身を藻掻けども容赦なく、竈の下の灰猫が、小鼠を喰はへて行く様に、二人を奥へ担ぎ入る。 ○ 又もや続いて一人の男、此門前に現はれて、割るる許りに戸を敲き、男(亀彦)『開け開け』と呶鳴り居る。門番は不性不性に、 門番(銀公)『アヽア今日は怪つ体な日ぢや、朝つぱらから門を開けるなり、弁才天の様な別嬪が来よつて、ヤレしてやつたりと喜ぶ間もなく館の御大将、有無を言はせず奥へ連れて行つて仕舞つた。アヽ之を思へば大将になりたいものだな。何処の唐変木か知らぬが怪つ体な声を出しよつて、腹が立つ程門を敲きよる、エー仕方がない、之も門番の職務だ。朝つぱらから酒に喰ひ酔うて呶鳴つて居よるが、まだちつと位瓢箪に残して居よるかも知れぬ、それでも奪つて埋め合せをやらうかい。オイ加米公、何を愚図々々して居るのだ、貴様も可い加減に起きぬかい、それだから夜遊びをするなと言ふのだ。夜遊びするのなら人に起こされぬ様に、起きる時分には起きて勤めるのだぞ』 門を敲く声、益々猛烈になつて来た。 銀公『オイ、加米公、早う起きて貴様開けてやれ』 亀彦、門前にて、 亀彦『ヤア、何だ、此奴は怪しいぞ、コンナ遠国に吾々の名を知つてる奴は無い筈だが、何は兎もあれ、一つ掛合うて見よう……………………亀公は門外に待つて居るのだ、勝手に開けと言うた所で、其方から開けて呉れなくちや這入れないワイ』 銀公『これや加米の奴、上役に向つて何と言ふ無礼な事を申す、俺は命令権を有つて居るのだ、貴様は開ける役だ、開けて呉れとは何だ、何の為めに結構な扶持を頂いて居るのだい』 加米公『アーン、アンアンアン、さう叱つて呉れないやい。俺は何もまだ一言も言つては居ないワ』 銀公『それでも今、加米だと言つたぢやないか、俺の耳はまだ隠居はして居らぬぞ』 加米公は、門の閂の前に進み寄り、 加米公『アヽア、銀公の大将、無茶ばかり云ひよる、もの言へば唇寒し秋の風、ものも言はぬのに言うたと云うて因縁をつけられ、本当に馬鹿らしい哩、俺の心の中を開いて見せてやり度いもんだな』 外より亀彦、 亀彦『すつた、もんだ吐さず、亀公さまの御出でだ、早く開けぬか』 銀公『貴様はまだ此銀公司に命令をするのか、「開けて見たいもんだな」ナンテ当然だ、早く門を開けてやらぬかい』 と拳骨を固めて頭を三つ四つポカポカと喰はしたり。 加米公『アイタヽ、アイタアイタアイタ、あかんもんだ。コンナ奴に三つ四つ殴られて、でけもんが出来るとは余つ程、引き合はぬもんだな』 銀公『あいたあいたと吐すがまだ門は開いて居らぬぢやないか、弱いもんだとは、それや何を吐す、御主人様が心魂を錬つて選りに選つて立派な材木で拵へになつた、コンナ綺麗な表門が何で弱いのだい』 と酒の酔ひに舌も廻らずぐぜつて居る。加米公は泣き泣き閂を外し、 加米公『さア、何処のお方か存じませぬが、愚図々々致さずとトツトと這入りやがれ』 亀彦『アハヽヽヽ、之は之は門番どの、朝早くからお邪魔を致しました、貴方は初めは非常に御丁寧で後ほどお言葉が荒くなりますなア』 加米公『きまつた事だい、先の半分は加米の本守護神だ、後から言うた奴は副守護神が言つたのだ、閂もんのかん懸りだよ』 亀彦『アハヽヽヽ、お前も矢張カメサンと言ふのだな、同じ名が門の内と外とにあつて大変に面倒臭いワ』 加米公『お前は亀さまだから千年も万年も門の外で長立ちをさして上げやうと思つたが、此頃は世界中不景気風が吹き廻つて、物価下落で俺も投売をする考へで安く開いてやつたのだ、世の中は能くも行き詰つたもんぢやなア』 亀彦『アハヽヽヽ、貴様は余つ程、能く洒落るもんだなア。問答も、もう之位で廃めて置かう、此処へ二人の女は出て来なかつたか』 加米公『ヤアお前はあの女のこれだなア』 と親指をニユツと出して見せる。 亀彦『それや何だ、指ぢやないか』 加米『何だかゆびありげな汝の顔付、ゆびにも忘れぬれこの後を何しようと思うて来たのだらう。二人の女は、とつくの昔に何々が何々して今頃は何々の何々ぢや、俺達も何々し度いと思つて居つたのに何々が来よつて何々して何々しよつたもんだから薩張駄目だよ』 亀彦『貴様の言ふ事は何が何ぢややら薩張り訳が分らぬぢやないか、も少し、はつきりと打明けて言はないか』 銀公『やい、カメカメの両人、何々が聞きたければ何々を出せ、さうしたら俺が何々に何々して何々の何々を何々してやらう。ナント言つても銀行いや銀公が肝心だ』 亀彦『益々分らぬ奴だナ、エー無理もない、門番位に尋ね様とするのが此方の不覚だ』 と奥へ進まむとする。 銀公『何、深く、さう深く進んでは無礼だぞ。暫時待つて、俺が何々に会うて何々の様子を何々して来てやらう、地獄の沙汰も何々次第だからノウ』 と手を重ねて前に突き出す。 亀彦『ハヽヽヽヽ、何処迄も物質主義だな、黄金万能主義の悪風は神聖なる自転倒島まで吹き荒むで居るか、吁、世も終りじや、尾張大根だ。形ばつかり立派でも味もしやしやりもない、水臭い世の中になつたものだ哩』 亀彦は委細構はず奥へ進み行かむとする。二人は亀彦の両足にグツと喰ひ付き、 二人『何々する迄通す事罷りならぬ』 と噛み付く。亀彦は二人の男に足を捉へられ乍ら、ノソリノソリと二人を小付けにして奥を目蒐けて進み行く。 (大正一一・四・五旧三・九北村隆光録)
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霊界物語 17_辰_丹波物語2 丹波村/鬼ケ城山 15 敵味方 第一五章敵味方〔六二六〕 二月十五日の月光を浴びて、三嶽山の頂上の平地に、一蓮托生、蓑を敷き、肱を枕に華胥の国に入る。馬公鹿公は峰吹く嵐の音に夢を破られ、一度にムツクと起上り、 鹿公『アー恐ろしい事だつた。折角紫姫様のお情に依りて、岩窟の難を免れたと思へば荒鷹、鬼鷹の両人、鬼ケ城より帰り来り、俺達二人をフン縛つて、又もや岩窟に捻込みやがつたと思へば、夢だつた。アー恐ろしい恐ろしい、夢に見ても、アンナ悪人はゾツとする』 馬公『ヤアお前も夢を見たか。俺も同様の夢を見た。何だか此処は寝心が悪い。チツト月夜でもあり、そこらをブラついて見ようかい』 鹿公『さうだなア、是れ丈の同勢があれば、まさかの時には大丈夫だ。一丁や二丁離れたつて、気遣ひはあるまい。万一荒鷹や、鬼鷹が出て来やがつた所で「オイ助けて呉れい」と一言云へば、すぐ加米彦さまが、言霊の発射とやらで助けて下さるは請合ぢや。サア行かう行かう。皆さまはマア、よう寝ンで居らつしやること。吾々の様に罪が深い者は、恐怖心に駆られて、安眠も碌に出来ないワ。起きて居れば怖い目に遭はされる、寝れば眠るで怖い夢を見る、寝ても醒めても、責られ通しだ………結構なお月様の光をたよりに、チツと其処辺を、保養がてら、ウロつかうぢやないか』 馬公『宜からう』 と、フツと立ち、二人は手をつなぎ、ブラブラと山の頂きを逍遥して居る。 馬公、鹿公『アヽ何と、佳い景色だ。山の上で風は良い加減に冷たいが、木の葉に露が溜り一々月が宿つて居る、此光景はまるで、水晶の世界に居る様だ。アーア俺達の様な不仕合せ者でも、亦コンナ愉快な光景を見る事が出来る。人間は長生したいものだなア』 と鼻唄を唄ひ、あちらこちらとウロついて居る。 加米彦は中途に目を醒まし、 加米彦『アーア皆さま打揃うて、よく寝て居らつしやるワイ。悦子姫さまの白い顔、桃色の頬べた、紫姫さまの花のやうな麗しきお姿、一方は花の顔容、一方は雪の肌、空には三五の明月、お月さまも余程気に入つたと見えて、二人のナイスの顔を、特別待遇でお照しなさると見える、いやが上にも綺麗なお顔だ事。………アヽ音彦の顔か、随分力をオト彦テなスタイルだ。片腕をくの字に曲げ、無作法に口を開けて寝て御座るワイ。今頃は五十子姫の夢でも見て居るのだらう。可愛い女房をバラモン教の奴に攫はれ、今に行衛不明、思へば思へば心中を察してやる。それでも此永の間一緒に歩いて居るが、五十子姫のイの字も口に出しよらぬ所を見ると、余程確りして居るワイ……人間の寝顔を見れば、大抵其人の精神が分るものだ。どれどれ青瓢箪彦の首実検と出かけよう………ヤア此奴は嬉しさうにホヤホヤと笑うて居る。何でも丹波村とかのお節の夢でも見て居るのだらう。ヤア益々笑ひよるぞ。幽霊と仮称せられる様な奴だから、どうで笑ひにも何処ともなしに厭味たつぷりの所がある。コンナ所を一つお節に見せてやりたいものだなア、アハヽヽヽ。ヤア此奴は丹州かな、一寸好い顔をして居やがるぞ。何でも豊国姫の神様の御命令だと云つて居たが、何処ともなしに威厳が備はつて居る。ハヽア顔の真中に妙な光が現はれて居るぞ。木の花姫の化身か、妙音菩薩の再来か、此奴ア、ウツカリ軽蔑する訳には行かぬワイ。我々一行中での大人格者と見える。……ヤア良い審神をした。明日になつたら音彦の大将に一泡吹かしてやらう。……ウン此奴は黒姫仕込みの、腰曲りの夏彦と云ふ奴だ。なんと情ない鯱つ面だなア。ヤア此奴ア批評の価値がないワイ。此処に一寸こましい面の持主がある。此奴が、何でも狐とか狸とか云ふ奴だ。ウンさうさう常彦々々、今寝て居る間に、髪と髪とを括つといてやらうかなア』 加米彦は二人の長髪をソツと掴み、端と端とで地獄結に括つて了ひ、 加米彦『サア此奴が目が覚めたら、随分滑稽だらう。これからが、音彦さまと青彦の番だ。併しあまり距離が遠いので……髪と髪とが届かぬらしい。待て待て……エー此処に綱がある。此奴で括つて置かう』 と手早く括り合し、 加米彦『ハヽヽヽ、これで紛失の憂ひなしだ。此次が悦子姫さま、紫姫さまか………ヤア此奴ア、惜いぞ。紫姫と丹州とを継ぎ合せ、最後に悦子姫と加米彦の大神さまとの継ぎ合せだ。これで二四ケ八人、二八十六本の手と足。ヤア面白い、面白い』 と手探りに、紫姫の髪をソツと掴みかかつた。紫姫はムツクと起き上りさま、加米彦の腕首掴ンで、ドツカと投げたるその勢あまつて加米彦は、傍の谷を目がけてドスーン。 加米彦『アイタヽヽヽ』 と叫び居る。 紫姫『ヤア皆さま、起きて下さいませ。又もや鬼熊別の部下の者共が現はれました。サア御用意々々』 此声に驚いて一同は撥ね起き、常彦は、 常彦『アイタヽヽヽ』 夏彦『エヽヽエタイワイエタイワイ、誰だ誰だ、人の髪の毛を引つぱりよつて……放さぬかい』 常彦『オイ夏、貴様だらう』 夏彦『馬鹿云ふな、貴様が俺の髪を引つぱつとるのだ』 青彦『ヤア俺の頭を曳く奴がある。………ヤア何だ、寝て居る間に、髪と髪とを継ぎ合しよつたな、コンナ悪戯をする奴は、大方加米公だらう。……オイ加米彦、何処へ行つた。早く出て来て、ほどかないか』 加米彦『オーイ、オイ、俺はエライ所に、後手に括られて、困つて居るワイ。誰か出て来てほどいて呉れ』 青彦『ヤア加米彦も括られよつたのかな、是れだから、油断は大敵と云ふのだ。敵地に臨みて気を許し、寝てるのが此方の不覚だ、併し人間が紛失せなくてまだしもだ』 加米彦『オーイ、青彦、皆さま、御心配下さいますな、私のは自縄自縛、自縄自解、依然として元の通り』 青彦『ナアーンだ、人を脅嚇かしよつて……どこを括られて居つたのだ』 加米彦『マアどうでも良い、一体お前達はナアンだ。頭に長い尾を附けよつて……』 丹州『加米彦さま、あなた随分悪戯をしましたネー。私が知らぬ顔をして見て居りましたよ。紫姫さまに取つて放られなさつたときの面白さ、アツハヽヽヽ』 加米彦『ヤア失敗つた。皆さま、飛ンだ失礼を演じまして、……どうぞ神直日、大直日に見直し聞直して下さいませ』 音彦『戯談にも程がある。宣伝使の神聖を害する行動だ。今日限り、素盞嗚大神の代りとなつて、汝に対し、宣伝使の職を解く。有難う思へ』 加米彦『此奴ア一寸迷惑だ。モシモシ音彦さま、鬼ケ城の征伐が済む迄、執行猶予をして下さいな』 音彦『イヤなりませぬ』 加米彦『モシモシ悦子姫さま、どうぞ仲裁して下さいませ』 悦子姫『コレ音彦さま、今後、コンナ悪戯をなさらぬ様に、能く戒めて、今度は赦して上げて下さいナ』 音彦『赦し難き其方なれど、悦子姫様のお言葉に従ひ、今度は忘れて遣はす』 加米彦『アツハヽヽヽ、何に吐しよるのだい。遣はす………が聞いて呆れるワイ、アハヽヽヽ、あまり可笑しくて、腹が痛くなつた。真面目くさつた面構へをしよつて何だい。………チツと捌けぬかい。何程五十子姫の事を思つて心配したつて、竜宮の一つ島に漂着して居る女房に遇へるでもなし、刹那心を出して、モウちつと砕けぬかい。何だか、ソンナむつかしい顔した奴が混つて居ると、道中が面白くないワ』 音彦『ナニツ、五十子姫は竜宮の一つ島に漂着して居るのか、それやお前、何時、誰に聞いたのぢや』 加米彦『ソンナ事が分らぬ様な事で、宣伝使が勤まるかい。加米彦さまの天眼通で、チヤーンと調べてあるのだ。梅子姫さまと侍女の今子姫、宇豆姫の四人連れで、今竜宮島でバラモン教と激戦の最中だ。併し心配は致すな、神様が護いて御座る』 音彦『ヤアさうだつたか、五十子姫は、ウラナイ教に、若しや擒になつて居るのではなからうかと種々と工夫をして、黒姫の荷持となり、様子を考へて居たが、どうもウラナイ教には居りさうもないので、若しや大江山の鬼雲彦が為に捕はれの身となつて居るのではなからうかと思つて居たのだ。鬼ケ城へ是から行つて、モシや五十子姫が居つたら助けてやらねばなるまい、と、此処まで勇みて来たのだ。さうすれば鬼ケ城には、五十子姫は居ないかなア』 加米彦『ハヽヽヽ、お気の毒様、明日は鬼ケ城を征服し、可愛い女房の五十子姫さまに芽出度く対面遊ばす御心中であつたのに、エライ悪い事を申しました。……お力落しさま』 悦子姫、紫姫『ホヽヽヽヽ』 音彦『何事も運命だ。人間がどれ程煩悶したつて、成る様にほか成りはせぬ。今晩はゆつくりと此処でモウ一寝入りして、明日は花々しく言霊戦を開始する事にしやう。サア皆さま休みませう。加米彦、お前は御苦労だが、今夜は不寝番だ』 加米彦、ワザと叮嚀に、大地に頭を摺つけ、両手を突き乍ら、 加米彦『これはこれは音彦の君の御仰せ、確に承知仕つて御座いまする』 一同『アハヽヽヽ、オホヽヽヽ』 又もや思ひ思ひに寝に就く。月の景色に浮かされて、鹿公、馬公の二人は思はず知らず、七八丁ばかり、一行の休息場より南に離れて了つた。此時四五人の荒男、突然木蔭より現はれ来り、バラバラと二人の周囲を取り巻き、棍棒を携へ、 男『ヤア其方は、紫姫の僕、鹿、馬の両人ではないか、どうして此処へ脱け出して来た』 鹿公『コレハコレハ荒鷹、鬼鷹の親分様、誠にお気の毒で御座いますが、岩窟を叩き破つてやうやう此処まで出て参りました』 荒鷹『貴様はどうして、あの堅固な岩窟を破つたのか』 鹿公『私は御存じの通り、身に寸鉄も持たない、どうする事も出来ませぬが、神変不思議の言霊に依りて、自然に岩戸は左右にパツと開き、平和の女神に誘はれて、此処までやつて来ましたよ』 鬼鷹『ナニ、平和の女神とは誰の事だ。紫姫の事ではないか』 馬公『紫姫も結構だが、見目も貌も悦子姫と云ふ絶世のナイスが、突然現はれ給ひ、馬さま、鹿さまの御手をとり、救ひ出させ給うたのだ。モウ斯うなる上は千人力だ、荒鷹、鬼鷹、其他の小童武者共、千疋、万疋一度に掛らうと、ビクとも致さぬ某だ、アハヽヽヽ』 荒鷹『オイ鬼鷹の大将、此奴アちつと変ぢやないか。毎日日日ベソベソと吠面かわいて慄うて居つた両人が、今日は心底から気楽さうに、大言を吐いて居る、どうしたものだらう』 鬼鷹『此奴ア、発狂したのだらう。さうでなくては、アンナ事が言へたものぢやない』 荒鷹『それにしても、肝腎の目的物たる紫姫は、どうなつただらう。鬼熊別の御大将に御約束をして来たのだ。若し紛失でもして居たら大変だがなア』 鹿公『アツハヽヽヽ、タヽヽ大変だ大変だ。大変が通り越して、天変地変だ、地震雷火の車、鬼の岩窟は忽ち明日をも待たず、木端微塵、憐れ果敢なき次第なり、ワツハヽヽヽ』 鬼鷹『ヤア益々怪しいぞ、………オイ鹿、馬の奴、紫姫の所在を有態に申せ』 鹿公『アハヽヽヽ、あの心配さうな面付、蟻か、蚯蚓か、鼬か知らぬが、貴様等の翫弄物にはお成り遊ばす紫姫ぢや御座らぬワイ。鬼熊別の大将に奉つて、御褒美に与らうと云ふ目的であらうが、細引の褌、あちらへ外れ、こちらへ外れ、お気の毒乍ら目的は成就致さぬワイ。あまり呆れて腮が外れぬ様に御注意なされませや』 鬼鷹『ヤア益々合点のゆかぬ事を申す奴だ。コラ馬、鹿、貴様は荒鷹、鬼鷹御両人様の御威勢を恐れぬか』 鹿公『コレヤ荒鷹、鬼鷹、貴様は鹿公さま馬公さま御両人の御威勢を何と思ふか、恐れ入らぬか、アツハヽヽヽ』 荒鷹『益々可怪しい奴だ。何でも此奴ア、強力な尻押しが出来たに違ない。オイ鹿、貴様の後に誰か尻を押す奴が出来たのだらう。逐一白状致せ』 鹿公『きまつた事だよ、此方には大江山の鬼雲彦を始めとし、其他数万の天下の豪傑、雲霞の如く吾々両人を救援に向ひ、三嶽の山の岩窟を滅茶苦茶に叩き潰し、五六人の留守番の奴等は谷底へ吹き散らし、是れより進みて鬼ケ城の敵に向つて攻撃の準備中だ。東方よりは又もや数多の軍勢、亀彦、英子姫のヒーロー豪傑を先頭に、数十万とも限りなく、日ならず攻め寄せる計画整うたり。モウ斯うなる上は、鬼ケ城もガタガタの滅茶々々、一時も早く引返し、此由を鬼熊別の腰抜大将に注進致すが宜からうぞ』 荒鷹『ナニツ、言はしておけば際限なき雑言無礼、首途の血祭、汝等二人の身体は、此棍棒の先に粉砕し呉れむ……ヤアヤア者共、二人に向つて打つて掛れ』 一同は二人を目あてに、棍棒打振り打つてかかるを、鹿、馬の両人は一生懸命、韋駄天走りに、悦子姫が休息場に向つて逃げ帰る。 荒鷹『ヤア卑怯未練な馬、鹿の両人、口程にもない代物、……ヤアヤア者共、汝ら四五人にて結構だ。早く追つかけ両人を生捕に致して来い』 男『畏まりました』 と五六人の男は、二人の後を追つて北へ北へと走り行く。 加米彦『ヤア騒々しき足音が聞えて来た。青彦、常彦、夏彦、起きたり起きたり』 斯く云ふ内、鹿公、馬公は此場に走り来り、 鹿公、馬公『宣伝使に申し上げます。只今荒鷹、鬼鷹の両人、四五人の乾児を引きつれ、棍棒を打振り、此場に進みて参ります。防戦の御用意なされませ』 加米彦『ヤア最早やつて来よつたか。序に鬼ケ城の鬼熊別全軍を率ゐて来て呉れれば、埒が明いて良いがなア。五人や十人邪魔臭い』 鹿公『もうし加米彦さま、随分力一杯、馬公と二人で吹いて吹いて吹き捲つてやりました。是であなたの二代目が勤まりませうなア』 加米彦『ヤア此場へ敵がやつて来ては、悦子姫さま其他の安眠妨害だ。それよりも此方から向つて、一つ奮戦だ。鹿公、馬公、サア来い来れ……』 と云ふより早く加米彦は、南を指して走り行く。忽ち南方より息せき切つて走り来る四五の物影、三人は傍の木の茂みに身を忍ばせ、様子を窺つて居る。 甲『オイ貴様さつきへ往かぬかい』 乙『先も後もあつたものかい。先へ行た者が険呑だとも、安全だとも分るものぢやない。何事も運命の儘に進めば良いのだ。ソンナ臆病風を出して、悪の御用が勤まるかい』 甲『ナニ誰が悪の御用だ。吾々は是位最善の道はないと思つて、一生懸命に活動して居るのだ。鬼熊別の大将は何時も仰有るぢやないか。世界は悪魔の世の中だ。優勝劣敗だ。さうだから世界の人間が可哀相だ、強い者を苛め、弱い者を助けてやるのが人間だ……と、何時も仰有るぢやないか。俺は鬼熊別の大将が毛筋程でも悪だと思つたら、コンナ夜夜中に山坂を駆巡り、辛い働きはせないよ。何でも、三五教とやらの、強い者勝の悪神が出て来よつて、世界の弱い人民を虐げると云ふ事だから、俺も天下の為悪人を滅亡すのが唯一の目的だ』 乙『アハヽヽヽ、貴様は割りとは馬鹿正直な奴だなア、鬼熊別はアヽ見えても、悪が七分に善が三分だ、それが貴様分らぬのか。……アーアもう一歩も前進する事が出来なくなつて了つた』 丙『さうだなア、此処まで来ると、足がピタリと止まつた。何でも最前逃げて行きよつた二人の奴、魔法を使つて俺達の足止めをしよつたのかも知れぬぞ』 木の茂みの中より、 (鹿公または馬公)『加米彦さま、世界に絶対の悪人はありませぬなア、今彼等の話を聞けば、鬼の乾児にもヤツパリ善人が混つて居るぢやありませぬか』 加米彦『そうだ、如何に悪人と云つても、元はみな神様の結構な霊が血管の中を流れて居るのだから、悪になるのは皆誤解からだ。併し悪と知りつつ悪を行る奴は滅多にないものだ。吾々も斯うして善を尽した積りでも、智徳円満豊美なる神様の御心から御覧になれば、知らず識らずの間に罪を重ねて居るか知れないよ。そうだから人間は何事も惟神に任し、己を責め、謙遜り省みなくてはならないのだ』 鹿公『ヘン……殊勝らしい事を仰有います事、あなたは随分謙遜る所か、高慢心の強いお方ぢや、法螺ばつかり吹いて吹いて吹き倒し、人を煙に巻いて、鼻を高うして得意がつてるお方ぢや有りませぬか。あなたも、よつぽど耄碌しましたなア』 加米彦『アハヽヽヽ、それだから困ると云ふのだ。お前達は表面ばつかり見て、吾々の魂を見て呉れないから困るナア』 甲『ヤア何だ、林の中から声が聞えるぢやないか』 乙『そうだ、最前から怪体な声がすると思うて居た。……オイオイ今の声の主人公は何処に居るのだ。敵でも味方でも良いワ、みな神様の目から見れば世界兄弟だ。ソンナ所に怖相に引込みて、ヒソビソ話をするよりも、公然と此場に現れて、一つ懇談会でもやつたらどうだい』 加米彦『此奴ア面白い、お前達は鬼ケ城に割拠する鬼熊別の部下の者だらう。俺は三五教の加米彦と云ふ立派な宣伝使だ。一つ宣伝歌を聞かしてやらうか』 甲『ハイハイ良い所で……ドツコイ不思議な所でお目にかかりました。どうぞ生命許りはお助け下さいませ』 乙『オイオイ何を謝罪るのだ。結構な歌を聴かしてやると仰有るのだよ』 甲『アヽさうか、おれや又、煎じて食てやらうと聞えたので、ビツクリしたのだよ』 乙『アハヽヽヽ、モシモシ宣伝使とやら云ふお方、あなたの言霊は、どうも明瞭して居ります。吾々に対し一寸も敵意を含みて居ない。ヤアもう安心致しました、どうぞ聞かして下さいませ』 鹿公『オイ鬼の部下共、俺達は鹿公ぢやぞ。あまり安心を早うすると、後で後悔をせにやならぬぞ』 乙『ナニ、お前は今逃げた鹿公ぢやなア、此処へ出て来ぬかい、一つ力比べをして、負たら従うてやる、勝つたら従はすぞよ』 鹿公『アハヽヽヽ、三五教のお筆先の様な事を云つて居やがる。勝つも負けるも時の運だ。併し乍ら勝負は最早ついて居るぢやないか。サツパリ加米彦の宣伝使の言霊に零敗して了つた。アツハヽヽヽ』 斯かる所へ荒鷹、鬼鷹の両人、ノソリノソリと現れ来り、 荒鷹、鬼鷹『オイ貴様達、コンナ所で何をして居るのだ、吾々の命令に服従せないのか』 甲『ハイ俄に強くなつて、腹の底から、何だかムクムクと動き出し、阿呆らしくなつて、あなた方の命令に服従する事が出来なくなつて来ました』 荒鷹『ソラ何を言ふのだ、貴様、臆病風に誘はれて腰を抜かし、逆上せやがつたな』 乙『モシモシ荒鷹、鬼鷹の両人さま、モウ駄目ですよ、あなたの威張るのも今日唯今限り、私もどうやら腹の底から、本守護神とやらがムクムクと頭を抬げ「ナーニ鬼鷹荒鷹の木端武者、今此場で改心致せば良し、致さぬに於ては、腕を捩折り、股から引裂いて喰つて了へ」と囁いて御座る、アツハヽヽヽ』 丙『ヤア鬼鷹、荒鷹、どうぢや、降参致したか』 丁『改心するか』 戊『往生致すか、三五教に従ふか、悪を改め善に立帰るか、返答はどうぢや。宣伝歌を聴かしてやらうか』 荒鷹『アイタヽヽヽ、此奴ア変だ、頭が鑿でカチ割られる様に痛くなつて来よつた、鬼鷹、お前はどうだ』 鬼鷹『アイタヽヽヽ、俺も何だか、痛くなつて来たやうだ。ハテ合点の行かぬ事だワイ』 林の中より、加米彦の声、 加米彦『朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも曲津の神は多くとも 三五教の神の道善と悪とを立別けて 鬼も大蛇も曲津見も誠の道に皆救ふ 世の荒風に揉まれつつ神の御子なる諸人は 右や左や前後ろ彷徨ひ惑ふ其間に 善にも進み又悪に知らず識らずに陥りて 神より受けし生御魂或は汚し又破り 破れかぶれの其果は心の鬼に責められて あらぬ方へと傾きつ誠の道を踏み外し 邪の道に勇ましく知らず識らずに進み行く 元は天帝の分霊善も無ければ悪も無い 善と悪とは人の世の其折々の捨言葉 アテにはならぬ物ぞかしあゝ荒鷹よ鬼鷹よ 汝も神の子人の子よ尊き神の子と生れ 何苦しさに鬼ケ城鬼熊別の部下となり 世人を苦しめ虐ぐる身魂を直せ今直せ 三嶽の山の頂きで吾に逢うたは神々の 篤き恵の引合せ心一つの持方で 悪ともなれば善となる善悪正邪の分水嶺 覚悟は如何にサア如何に此世を造りし神直日 心も広き大直日唯何事も人の世を 直日に見直し宣り直す神の樹てたる三五教 復れよ帰れ真心に磨けよみがけ天地の 神より受けし生魂あゝ惟神々々 御霊幸はひましまして荒鷹鬼鷹其外の 魔神の身魂を清めませ偏に願ひ奉る 偏に祈願申します』 と声も涼しく歌ひ終るや、荒鷹、鬼鷹其他一同は大地に平伏し、涙をハラハラと流し唯、 一同『有難う有難う』 と僅に感謝の意を表して居る。 斯かる所へ、悦子姫の一行は現はれ来り、 音彦『ヤア加米彦、御手柄々々、荒鷹、鬼鷹の大将も、どうやら救はれた様な塩梅ですなア』 荒鷹、鬼鷹一度に、 荒鷹、鬼鷹『これはこれは三五教の宣伝使様、私は今日、只今、神の御霊に照されて、発根と心の岩戸が開けました。最早吾々は悪より救はれました。どうぞ今日限り、あなたのお道に入れて下さいまして、お伴に御使ひ下されば有難う御座います』 音彦『ホーそれは何より重畳だ。もうし悦子姫様、如何致しませう。斯う早く改心せられては鬼ケ城の言霊戦も、何だか張合が抜けた様です、何卒あなたの指揮を願ひます』 悦子姫、儼然として立上り、 悦子姫『イヤ荒鷹、鬼鷹の両人、そなたは一先づ鬼ケ城に立帰り、妾の一行と花々しく言霊の戦を開始し、其上にて双方より和睦をする事に致しませう』 荒鷹『ナント仰せられます、最早私共はあなた方に向つて戦ふ勇気はありませぬ。ナア鬼鷹、お前もさうだらう』 鬼鷹『吾々は絶対に三五教に帰順致しました。勿体ない、どうしてあなた方に刃向ふ事ができませうか』 悦子姫『分りました。併し乍ら鬼熊別の帰順する迄は、あなたは、三五教に入信の許可を保留して置きます。今迄首領と仰いだ鬼熊別に対し親切が通りませぬ。成る事ならばあなた方より鬼熊別を、改心さして頂きたい。併し乍ら俄にあなた方の仰有る事を、大将として聞けますまいから、茲に一つの神策を案じ、一旦あなた方と立別れて、花々しく言霊戦を開始し、其結果和睦開城と云ふ段取となるのが、穏健な行方でせう。就ては今迄三岳の岩窟に捕はれて居た紫姫さま、鹿さま、馬さまを始め、丹州さまは荒鷹さま、鬼鷹さまと共に、一先ず鬼ケ城へ御帰り下さい。さうして妾の神軍に向つて言霊戦を開始なされませ。あなたの方は防禦軍、妾の方は攻撃軍で御座います。攻撃軍には、悦子姫、音彦、加米彦、青彦、夏彦、常彦を以て之に当てます、………サアサア一時も早く鬼ケ城へ御帰り遊ばせ。時を移さず妾は神軍を引率し、大攻撃に着手致します』 丹州『ヤア六韜三略の姫様の御神策、心得ました。サアサア紫姫様、鹿公、馬公、是から鬼ケ城へ乗り込み、悦子姫さまの攻撃に向つて、極力防戦を致しませう。………悦子姫様、戦場にて、改めてお目に掛りませう。此丹州が言霊の威力をお目にかける、必ずオメオメと敗走なされますな。あゝ面白し面白し、吾等は是より鬼ケ城の本城に立帰り、鬼熊別を総大将と仰ぎ、寄せ来る三五教の神軍に向つて、あらゆる神変不思議の言霊の秘術を尽し、千変万化にかけ悩まし、木端微塵に平げ呉れむ、さらば悦子姫殿』 悦子姫『さらば丹州殿、改めて戦場にてお目に掛りませう』 (大正一一・四・二三旧三・二七松村真澄録)