| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
|---|
|
1 (27) |
ひふみ神示 | 1_上つ巻 | 第27帖 | 何もかも世の元から仕組みてあるから神の申すところへ行けよ。元の仕組は富士-二二-ぞ、次の仕組はウシトラ三十里四里、次の仕組の山に行きて開いて呉れよ、今は分るまいが、やがて結構なことになるのざから、行きて神祀りて開いて呉れよ、細かく知らしてやりたいなれど、それでは臣民の手柄なくなるから、臣民は子ざから、子に手柄さして親から御礼申すぞ。行けば何もかも善くなる様に、昔からの仕組してあるから、何事も物差しで測った様に行くぞ。天地がうなるぞ、上下引繰り返るぞ。悪の仕組にみなの臣民だまされてゐるが、もう直ぐ目さめるぞ、目さめたらたづねてござれ、この神のもとへ来てきけば、何でも分かる様に神示で知らしておくぞ。秋立ちたら淋しくなるぞ、淋しくなりたらたづねてござれ、我を張ってゐると、いつまでも分らずに苦しむばかりぞ。この神示も身魂により何んなにでも、とれるやうに書いておくから、取り違ひせんやうにして呉れ、三柱と七柱揃うたら山に行けよ。七月一日、ひつくのか三。 |
|
2 (29) |
ひふみ神示 | 1_上つ巻 | 第29帖 | この世が元の神の世になると云ふことは、何んなかみにも分って居れど、何うしたら元の世になるかといふこと分らんぞ、かみにも分らんこと人にはなほ分らんのに、自分が何でもする様に思ふてゐるが、サッパリ取り違ひぞ。やって見よれ、あちへ外れこちへ外れ、いよいよ何うもならんことになるぞ、最後のことは この神でないと分らんぞ。いよいよとなりて教へて呉れと申しても間に合はんぞ。七月一日、ひつくのか三。 |
|
3 (36) |
ひふみ神示 | 1_上つ巻 | 第36帖 | 元の神代に返すといふのは、たとへでないぞ。穴の中に住まなならんこと出来るぞ、生の物食うて暮らさなならんし、臣民取り違ひばかりしてゐるぞ、何もかも一旦は天地へお引き上げぞ、われの慾ばかり言ってゐると大変が出来るぞ。七月の九日、ひつくのか三。 |
|
4 (150) |
ひふみ神示 | 5_地つ巻 | 第13帖 | 赤い眼鏡かければ赤く見えると思うてゐるが、それは相手が白いときばかりぞ、青いものは紫にうつるぞ。今の世は色とりどり眼鏡とりどりざから見当とれんことになるのざぞ、眼鏡はづすに限るのぞ、眼鏡はづすとは洗濯することざぞ。上ばかりよくてもならず、下ばかりよくてもならんぞ。上も下も天地そろうてよくなりて世界中の臣民、けものまで安心して暮らせる新の世に致すのざぞ、取り違へするなよ。九月二十三日、一二 |
|
5 (155) |
ひふみ神示 | 5_地つ巻 | 第18帖 | われよしの政治ではならんぞ、今の政治経済はわれよしであるぞ。臣民のソロバンで政治や経済してはならんぞ、神の光のやり方でないと治まらんぞ、与へる政治がまことの政治ぞよ、臣民いさむ政治とは上下まつろひ合はす政治のことぞ、日の光あるときは、いくら曇っても闇ではないぞ、いくら曇っても悪が妨げても昼は昼ぞ、いくらあかりつけても夜は夜ぞ、神のやり方は日の光と申して、くどう気つけてあらうがな。政治ぞ、これは経済ぞと分けることは、まつりごとではないぞ。神の臣民、魂と肉体の別ないと申してあること分らぬか、神のやり方は人の身魂人のはたらき見れは直ぐ分るでないか。腹にチャンと神鎮まって居れば何事も箱さした様に動くのざぞ、いくら頭がえらいと申して胃袋は頭のいふ通りには動かんぞ、この道理分りたか、ぢゃと申して味噌も糞も一つにしてはならんのざぞ。神の政治はやさしい六ヶしいやり方ぞ、高きから低きに流れる水のやり方ぞ。神の印つけた悪来るぞ。悪の顔した神あるぞ。飛行機も船も臣民もみな同じぞ。足元に気つけて呉れよ、向ふの国はちっとも急いでは居らぬのぞ、自分で目的達せねば子の代、子で出来ねば孫の代と、気長くかかりてゐるのざぞ、神の国の今の臣民、気が短いから、しくじるのざぞ。しびれ切らすと立ち上がれんぞ、急いではならんぞ、急がねばならんぞ。神の申すこと取り違ひせぬ様にして呉れよ。よくこの神示よんで呉れよ、元の二八基光理てわいて出た現空の種は二八基と大老智と世通足となって、二八基には仁本の角、大老智は八ツ頭、八ツ尾、四通足は金母であるから気つけておくぞ。世通足はお実名に通いて分けてゐるから、守護神どの、臣民どの、だまされぬ様に致して下されよ。九月二十三日、あのひつ九のか三。 |
|
6 (221) |
ひふみ神示 | 7_日の出の巻 | 第8帖 | 一二三の食物に病無いと申してあろがな、一二三の食べ方は一二三唱-十七-へながら噛むのざぞ、四十七回噛んでから呑むのざぞ、これが一二三の食べ方頂き方ざぞ。神に供へてから此の一二三の食べ方すれば何んな病でも治るのざぞ、皆の者に広く知らしてやれよ。心の病は一二三唱へる事に依りて治り、肉体の病は四十七回噛む事に依りて治るのざぞ、心も身も分け隔て無いのであるが会得る様に申して聞かしてゐるのざぞ、取り違い致すでないぞ。日本の国は此の方の肉体と申してあろがな、何んな宝もかくしてあるのざぞ、神の御用なら、何時でも、何んなものでも与へるのざぞ、心大きく持ちてどしどしやりて呉れよ。集団作るなと申せば、ばらばらでゐるが裏には裏あると申してあろが、心配れよ。十二月七日、ひつくのかみふで。 |
|
7 (249) |
ひふみ神示 | 8_磐戸の巻 | 第13帖 | コトちがふから、精神ちがふから、ちがふことになるのざぞ、コト正しくすれば、正しきこととなるのざぞ。日本の国は元の神の血筋のまじりけのないミタマで、末代世治めるのざ。何事も末代のことであるから、末代動かん様に定めるのざから、大望であるぞ。上の臣民この儘で何とか彼んとかいける様に思ふてゐるが、其の心われよしざぞ。今度は手合して拝む許りでは駄目ざと申してあろが、今度は規則きまりたら、昔より六ヶ敷くなるのざぞ、まけられんことになるのざぞ、神魂の臣民でないと神の国には住めんことになるのざぞ。この世治めるのは地の先祖の生神の光出さねば、この世治まらんのざぞ、今度はトコトン掃除せねば、少しでもまぢり気ありたら、先になりてまた大きな間違ひとなるから、洗濯々々とくどう申してゐるのざ。神は一時は菩薩とも現はれてゐたのざが、もう菩薩では治まらんから、愈々生神の性来現はしてバタバタにらちつけるのざぞ、今の学ある者大き取り違ひいたしてゐるぞ。大国 常立 尊大神と現はれて、一時は天もかまひ、地の世界は申すに及ばず、天へも昇り降りして、 |
|
8 (744) |
ひふみ神示 | 29_秋の巻 | 第2帖 | 人民は土でつくったと申せば、総てを土でこねてつくり上げたものと思ふから、神と人民とに分れて他人行儀になるのぞ。神のよろこびで土をつくり、それを肉体のカタとし、神の歓喜を魂としてそれにうつして、神の中に人民をイキさしてゐるのであるぞ。取り違ひせんように致しくれよ。親と子と申してあろう。木の股や土から生れたのではマコトの親子ではないぞ。世界の九分九分九厘であるぞ。あるにあられん、さしも押しも出来んことがいよいよ近うなったぞ。外は外にあり、内は内にあり、外は内を悪と見、内は外を悪として考へるのであるが、それは善と悪でないぞ。内と外であるぞ。外には外のよろこび、内には内のよろこびあるぞ。二つが和して一となるぞ。一が始めぞ、元ぞ。和して動き、動いて和せよ。悪を悪と見るのが悪。 |
|
9 (771) |
ひふみ神示 | 30_冬の巻 | 第1帖 | 宇宙は霊の霊と物質とからなってゐるぞ。人間も又同様であるぞ。宇宙にあるものは皆人間にあり。人間にあるものは皆宇宙にあるぞ。人間は小宇宙と申して、神のヒナガタと申してあらう。人間には物質界を感知するために五官器があるぞ。霊界を感知するために超五官器あるぞ。神界は五官と超五官と和して知り得るのであるぞ。この点誤るなよ。霊的自分を正守護神と申し、神的自分を本守護神と申すぞ。幽界的自分が副守護神ぢゃ。本守護神は大神の歓喜であるぞ。神と霊は一つであって、幽と現、合せて三ぞ。この三は三にして一、一にして二、二にして三であるぞ。故に肉体のみの自分もなければ霊だけの自分もない。神界から真直ぐに感応する想念を正流と申す。幽界を経て又幽界より来る想念を外流と申すぞ。人間の肉体は想念の最外部、最底部をなすものであるから肉体的動きの以前に於て霊的動きが必ずあるのであるぞ。故に人間の肉体は霊のいれものと申してあるのぞ。又物質界は、霊界の移写であり衣であるから、霊界と現実界、又霊と体とは殆んど同じもの。同じ形をしてゐるのであるぞ。故に物質界と切り離された霊界はなく、霊界と切り離した交渉なき現実界はないのであるぞ。人間は霊界より動かされるが、又人間自体よりかもし出した霊波は反射的に霊界に反影するのであるぞ。人間の心の凸凹によって、一は神界に、一は幽界に反影するのであるぞ。幽界は人間の心の影が生み出したものと申してあろうがな。総ベては大宇宙の中にあり、その大宇宙である大神の中に、大神が生み給ふたのであるぞ。このことよくわきまへて下されよ。善のこと悪のこと、善悪のこと、よく判って来るのであるぞ。故に、人間の生活は霊的生活、言の生活であるぞ。肉体に食ふことあれば霊にもあり、言を食べているのが霊ぞ。霊は言ぞ。この点が最も大切なことじゃから、くどう申しておくぞ。死んでも物質界とつながりなくならん。生きてゐる時も霊界とは切れんつながりあること、とくと会得せよ。そなた達は神をまつるにも、祖先まつるにも物質のめあてつくるであろうがな。それはまだまだ未熟な事ぞ。死後に於ても、現実界に自分がある。それは丁度、生きてゐる時も半分は霊界で生活してゐるのと同じであるぞ。自分の衣は自分の外側であるぞ。自分を霊とすると、衣は体、衣着た自分を霊とすれば家は体、家にゐる自分を霊とすれば土地は体であるぞ。更に祖先は過去の自分であり、子孫は新しき自分、未来の自分であるぞ。兄弟姉妹は最も近き横の自分であるぞ。人類は横の自分、動、植、鉱物は更にその外の自分であるぞ。切りはなすこと出来ん。自分のみの自分はないぞ。縦には神とのつながり切れんぞ。限りなき霊とのつながり切れんぞ。故に、神は自分であるぞ。一切は自分であるぞ。一切がよろこびであるぞ。霊界に於ける自分は、殊に先祖との交流、交渉深いぞ。よって、自分の肉体は自分のみのものでないぞ。先祖霊と交渉深いぞ。神はもとより一切の交渉あるのであるぞ。その祖先霊は神界に属するものと幽界に属するものとあるぞ。中間に属するものもあるぞ。神界に属するものは、正流を通じ、幽界に属するものは外流を通じて自分に反応してくるぞ。正流に属する祖先は正守護神の一柱であり、外流に加はるものは、副守護神の一柱と現はれてくるのであるぞ。外流の中には、動植物霊も交ってくることあるぞ。それは己の心の中にその霊と通ずるものあるためぞ。一切が自分であるためぞ。常に一切を浄化せなならんぞ。霊は常に体を求め、体は霊を求めて御座るからぞ。霊体一致が喜びの根本であるぞ。一つの肉体に無数の霊が感応し得るのざ。それは霊なるが故にであるぞ。霊には霊の霊が感応する。又高度の霊は無限に分霊するのであるぞ。二重三重人格と申すのは、二重三重のつきものの転換によるものであり、群集心理は一時的の憑依霊であると申してあろうがな。霊が元と申してくどう知らしてあろうが。人間は現界、霊界共に住んで居り、その調和をはからねばならん。自分は自分一人でなく、タテにもヨコにも無限につながってゐるのであるから、その調和をはからねばならん。それが人間の使命の最も大切なことであるぞ。調和乱すが悪ぞ。人間のみならず、総て偏してならん。霊に偏してもならん。霊も五、体も五と申してあらう。ぢゃが主は霊であり体は従ぞ。神は主であり、人間は従であるぞ。五と五と同じであると申してあろう。差別則平等と申してあらう。取り違い禁物ぞ。神は愛と現はれ、真と現はれるのであるが、その根はよろこびであるぞ。神の子は皆よろこびぢゃ。よろこびは弥栄ぞ。ぢゃがよろこびにも正流と外流とあるぞ。間違へてならんぞ。正流の歓喜は愛の善となって現はれて、又真の信と現はれるぞ。外流のよろこびは愛の悪となって現れるぞ。何れも大神の現れであること忘れるなよ。悪抱き参らせて進むところにマコトの弥栄あるのであるぞ。神は弥栄ぞ。これでよいと申すことないのであるぞ。大完成から超大大完成に向って常に弥栄してゐるのであるぞよ。宇宙は総てに於ても、個々に於ても総てよろこびからよろこびに向って呼吸してゐるのぞ。よろこびによって創られてよろこんでゐるのであるぞ。故によろこびなくして生きないぞ。合一はないぞ。愛は愛のみではよろこびでないぞと申してあろう。真は真のみでは喜びでないと申してあろうが。愛と真と合一し、 |
|
10 (1450) |
霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 23 高照山 | 第二三章高照山〔四一六〕 ヒルとカルとの国境、高照山[※「ヒルとカルとの国境、高照山」はこれから二人が行く場所であって、これは「玉山」の間違いではないかと思われる。第22章a088では「玉山の麓」に居ると記されている。]の山口の、芝生に残されし熊公、虎公の二人は、松代姫一行の姿を影の隠るるまで見送りながら虎公は、 虎公『あゝ三五教の宣伝使一行は、吾々にお供を許されず、温かい言葉を残して、この場をいそいそと立つて行かれた。何うで、吾々のやうな罪の重い人間だから、お供は叶はぬのだらうが、あゝ残念な事をした。せめて三年前に、今のやうな心になつて居れば、立派にお伴を許して下さつたであらうに、思へば思へば、この身の罪が恨めしい』 と声を放つて泣き入る。 熊公『虎公よ。決して決してさうではないよ。俺たちをどうぞ立派な神の柱にしてやりたいと思つて、わざと捨ててお出で遊ばしたのだ。あの獅子といふ奴は、子を生んでから三日目に、谷底へ蹴り落して、上つて来る奴をまた蹴り落し蹴り落し、三遍以上あがつて来たものでないと、自分の子にせぬと云ふ事だよ。谷へ落されてくたばるやうな弱い事では、到底悪魔の世の中に生存する事は出来ない。まして悪魔の様な人間を教へ導く宣伝使だもの、お師匠さまを杖に突いたり頼りにするやうな事では、完全な御用は出来ないから、外へ出る涙を内へ流して、大慈大悲の神心から、吾々を置き去りにして往かれたのだ。人間は到底深い深い神様の御心は判るものでない。それだから三五教の宣伝歌にも、 「この世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ」 とあるのだ。見直しが肝腎だ。繊弱い吾々のやうな智慧の暗い人間は、無限絶対、無始無終の誠の神様に従つて、真心籠めて祈るより外はない。祈ればきつと神様の栄光が吾々の頭上に輝くであらう』 と涙まじりに語る折しも、弓矢を持つた四五人の荒くれ男、犬を引き連れながら坂路を下り来る。一人の男は、熊公、虎公の顔を見て、 男(鹿公)『オー、貴様はこの高砂島でも音に名高い熊公、虎公ぢやないか。貴様の名を聞くと泣く子も泣き止むと云ふ野郎だのに、今日はマアどうしたことか。貴様なんだい、ベソベソと吠面かわいて……』 虎公『ヨーこれは鹿公か。俺はな、すつかり改心したのだ。今まで悪人だと世間の者に言はれて来たが、これからはすつかりと善心に立返つて、自分の罪の懺悔をし、今までの罪亡ぼしに、神様の宣伝歌を歌つて、教へを説き廻り人を助けるのだ。あまり有難うて、今嬉し泣きに泣いて居たところだよ。お前も好い加減に殺生は止めて、三五教の教を聞いて、善人になつて呉れ。虎公が改心の門口、宣伝の初陣だ。貴様が改心して呉れたならば、この高砂島の人間は皆改心するのだ』 鹿公『フフン、何吐かしよるのだ。鬼の念仏見たよな事吐きよつて、何処を押へたらそんな音が出るのだ。この頃の暑さに、一寸心が変になりよつたな。ヘン、とろくさい、世の中は凡て優勝劣敗だ。大魚は小魚を呑み、小魚は虫を食つて互に生活する世の中だ。犬が猫を捕る、猫が鼠をとる、鼠が隠居の茶の子をとる、茶の子が隠居の機嫌とる、隠居が襦袢の虱とる、虱が頭のフケをとる、といつて世の中は廻りものだ。海猟師が魚を捕るのも山猟師が猪を獲るのも、皆社会の為だ。猟師がなければ皮を使ふ事も出来ず、魚を食ふ事も出来やしない。世の中は優勝劣敗、弱肉強食が自然の法則だよ。貴様もそんな女々しい事を言はずに、元の通り鬼虎となつて、売出したらどうだい。ここまで売り出した名を零にするのも惜しいぢやないか』 熊公『あゝ、善と悪とは違つたものだナア。善ほど辛いものはない、否結構なものはない。貴様もそんなことを言はずに、虎公のやうに改心して、神様を祈る気にならぬか』 鹿公『イヤ、俺は神様を祈つてるよ。俺の祈つてる神様はな、そんな腰の弱い、ヘナヘナした水の中で屁を放いた様な、頼りない教をする神さまとは訳が違ふのだ。いま俺はその神様に詣つて来たのだ』 虎公『お前が詣つて来た神様といふのは、そら何ういふ神様だい』 鹿公『貴様、あれ程名高いのに未だ聞かぬのか。随分遅耳だのう。ここをズツと三里ばかり奥へ這入ると、そこに高照山の深い谷がある。そこには長い滝が落ちて居つて、滝壺の右と左に大きな岩の洞穴があるのだ。さうして東の方の穴からは妙な声がするのだ。その岩に向つて、何事でも教へて貰ひに行くのだ。一ぺん貴様も行つて見よ、沢山の人が詣つて居るよ。一寸取り違ひ野郎が行くと、その岩の穴から大きな火焔の舌を出して、身体をチヤリチヤリと焼かれるのだ。貴様のやうな馬鹿な事云つて居る奴が行つたら、きつと岩の穴から出て来る火の舌に舐められて、黒焦になつて了ふだらうよ』 熊公『それは一体、何と云ふ神だい』 鹿公『何といふ神だか、エー、忘れたが、なんでも八岐の大蛇とか聞いたよ』 熊公『一体、何んな事を云ふのだい』 鹿公『委しい事は忘れて了つたが、とも角時代向きのする事を言ひ居る神さまだ。マアかい摘んで言へば、人間は一日でも立派に暮して、天から与へられた甘い物を喰つて、美しい着物を着て、酒でも飲んで元気をつけと云ふのだ。智利の国の鏡の池のやうな、水の中から屁をこいた様な、けち臭い御託宣とはわけが違ふのだ。まあ貴様ら、メソメソ泣いて居らずに一遍行つて来い。目が醒めてよからうぞ』 虎公『鹿公、お前はその教を信じて居るのか』 鹿公『信ずるも信じないもあつたものか。あんな結構な教が何処にあらうかい。さやうなら』 と五人の猟師は歩を速めて坂を下り行く。虎、熊の二人は足を速めてドンドンと谷道を伝ひ、玉川の瀑布に黄昏時に漸く辿り着き見れば、琴を立てたやうな大瀑布が、高く幾百丈ともなく懸つて微妙の音楽を奏でてゐる。東側の大巌窟の前には、沢山の参詣人が合掌して何事か口々に祈願してゐる。二人は素知らぬ顔にて諸人と共に、巌窟の前に端坐し合掌するや、巌窟は俄に大音響を立てて唸り始めたり。一同は大地に頭をピタリとつけ、畏まつてその音響を聴いてゐる。唸りは漸くにして止み、巌窟の薄暗き奥の方より、 声『アハヽヽヽ』 といやらしい笑ひ声が聞え来る。 虎、熊の二人は、顔見合して呆れゐる。巌窟の中より、 声『悪の栄える世の中に、善ぢや悪ぢやと争ふ奴輩。あくまで阿呆の恥曝し、悪をなさねば安楽に世は渡れぬぞ。飽くまで食へ、飽くまで飲め、飽くまで力を現はして、悪魔と言はれようが、力一杯わが身の為に飽くまで尽せ。イヽヽヽ生命あつての物種だ。要らざる教に従うて、善の、悪の、末が怖ろしいのと萎縮け散らしてゐるよりも、威勢よく酒でも飲んで、いつまでも生々として生命を延ばせ。ウヽヽヽ後指を指されようが後を向くな。見ぬ顔をいたして甘い物を鱈腹食ひ、美い酒は酒に浮くほど酔うて、甘い甘いと舌鼓、五月蝿い五月蝿いと肩の凝るやうな三五教の教を聴くな。この巌窟には穴がある。ウヽヽヽと唸る穴があるぞよ。あな面白き穴有り教ぢや。迂濶に聴くな。エヽヽヽ遠慮会釈もなく吾身のためには人は構うてをれぬぞ。得になることならば何処までも何処までも行け。閻魔が怖いやうな事ではこの世に居れぬぞ。地獄の閻魔を味噌漬にして食ふやうな偉い心になれ、笑ぎて暮せ酒飲んで。オヽヽヽ鬼か大蛇の心になつてこの世に居らねば、この世は優勝劣敗、弱肉強食の世の中ぢや。お互ひに気をつけて、吾身の得を図れよ。怖れな、後れな、面白くこの世を渡れ、大蛇の神を朝夕祈れ。オヽヽヽヽ面白い面白い』 虎公はこの声を聞いてむつくと立ち上り、 虎公『三五教の宣伝使、志芸山津見とは吾事なるぞ。悪魔の張本、天足の身魂、八岐の大蛇の再来、善を退け悪を勧むる無道の汝、今に正体現はして呉れむ。アハヽヽヽ、イヒヽヽヽ異端邪説を説き諭す、心の枉んだ大蛇の悪神、ま一度言ふなら言つて見よ、一寸刻みか五分試し、生命を取つて何時までも、禍の根を断つてくれむ。違背あらば返答いたせ。ウフヽヽヽ狼狽者のうつけ者、迂論な教を吐き立てて人心を動かす谷穴の土竜、浮世を乱す汝が悪計、志芸山津見の現はれし上からは容赦はならぬ。得体の知れぬ、奴拍手脱けした声をしぼり、優勝劣敗、弱肉強食の、エグイ心を嗾る奴。オホヽヽヽ大蛇の悪魔、往生いたすまで応対いたすぞ。尾をまいて降参いたせばよし、オメオメと言訳に及ばば、志芸山津見が両刃の剣を以て征伐いたす。奥山の谷底に身をひそめ、この世を乱す八岐の大蛇、返答はどうだツ』 巌窟の中より、 声『カヽヽヽ構ふな構ふな、蛙の行列、闇に烏の向ふ見ず、喧しいワイ。キヽヽヽ斬るの斬らぬのと広言吐くな。貴様のやうな腰抜けに、大蛇が斬れてたまらうか。気の利かぬ奴だなア。クヽヽヽ暗がり紛れに頭から食つてやらうか。くさい顔して苦しさうに俄宣伝使とは片腹痛い、ケヽヽヽ怪我のない間に早くこの場を去つたがよからう。見当の取れぬこの方の言葉、コヽヽヽここな腰抜け共、殺されぬ間にこの場を立去れ、こはい目に遇はぬ内に心を直して、この方の言ひ条につくか、執拗う聞かねばこの方も耐へ袋がきれるぞよ。米喰虫の製糞器奴。ワハヽヽヽ』 熊公『カヽヽ神の使の宣伝使に向つて無礼千万な、覚悟を致せ、体も骨も改心致さねば、グダグダにして遣らうか。キヽヽ気を取り直しキツパリと改心致せばよし、きかぬに於ては宣伝歌を歌はうか、クヽヽ暗い穴にすつ込んで、訳も判らぬ苦情を並べ、苦し紛れの捨てぜりふ、その手は食はぬ、熊公の身魂の光を知らざるか、ケヽヽ怪しからぬ悪逆無道の大蛇の再来、コヽヽここで会うたは優曇華の、花咲く春の熊公が手柄の現はれ口、最早かなはぬ、降参するか、返答は、コラ、どうぢや』 巌窟の中より、 声『サヽヽヽ騒がしいワイ、囀るな、酒を飲め飲め、飲んだら酔へよ、酔うたら踊れ。逆とんぶりになつて踊つて狂へ、扨も扨も酒ほど甘いものはない、酒の味を知らぬ猿智慧の熊公の世迷ごと、坂から車を下すやうに、この谷底へころげ落してやらうか。シヽヽヽ執拗い奴ぢや、しぶとい奴ぢや、しがんだ面して芝生の上に、ほつとけぼりを食はされて、吠面かわいた志芸山津見とは片腹痛い。スヽヽヽ速かに、この方の申す事を聞けばよし、すつた捩じつた理屈をこねると、簀巻に致して谷底へ投り込んでやらうか、セヽヽヽ雪隠虫奴が。宣伝使なんぞと下らぬ屁理屈を言つて廻る馬鹿人足。ソヽヽヽそれでも貴様は神の使か、底抜けの馬鹿とはその方の事だ。そのしやつ面でどうして宣伝使が勤まらうか、そこ退け、そこ退け、この方の邪魔になるワイ』 虎公『サヽヽ逆言ばかり囀る悪神、さあもう容赦はならぬ。シヽヽ志芸山津見が言霊の威力によつて、汝が身魂を縛つて呉れむ。死ぬるか生きるか、二つに一つの大峠、スヽヽヽ速かに返答いたせ。セヽヽ背中に腹は代へられよまい。宣伝使の吾々に兜を脱ぐか、降参するか、ソヽヽそれでもまだ往生いたさぬか、改心せぬか』 巌窟の中より、 声『タヽヽヽ誑け者、叩き潰して食うて了はうか、鼻高神の宣伝使、チヽヽヽちつとばかり改心が出来たと申して、この方様に意見がましい知識の足らぬ大馬鹿者、一寸は胸に手をあてて見よ。ツヽヽヽ捕へ処のない事を吐いて歩く、罪の深い両人共、掴み潰してやらうかい。強さうに言つても、貴様の胸はドキドキして居らうがな、テヽヽヽ天にも地にも俺一人が宣伝使だと言はぬばかりのその面つき、多勢の中で面を剥れてテレクサイことはないか。てるの国から遥々出て来て、扨もさても馬鹿な奴だ。トヽヽヽ虎公のトボケ面、熊公の心の暗い俄改心、迚も迚も衆生済度は六つかしからう』 熊公『ナヽヽ何を吐きよるのだ。タヽヽ他愛もないこと、立板に水を流すやうに、よくも囀る狸の親玉、誰にそんな事教へて貰ひよつたのだ。誑け者。チヽヽ一寸は貴様も考へて見よ。ツヽヽ詰らぬ理窟を並べよつて、テヽヽ手柄さうにトボケきつたことを吐しやがるな』 巌窟の中より、「ウヽヽヽワーワー」と大音響ひびき来る。 (大正一一・二・一五旧一・一九東尾吉雄録) |
|
11 (1574) |
霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 28 三柱の貴子 | 第二八章三柱の貴子〔五二四〕 神代の太古、伊邪那岐命よりお産れ遊ばした天照大御神様、この神様は日の大神様と申上げて、本部綾部に御祀りしてあります所の神様であります。このへんから申上げます。 伊邪那岐命が 『筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐ケ原に於て禊身し玉ふ時、左の御目を洗ひ給ひて成りませる神の御名は天照大御神、次に右の御目を洗ひ給ひて成りませる神の御名は月読命』 といふことが書いて御座います。目といふものは吾々肉体から申しますると、右と左と両方に持ちて居りまして物を視るといふことの上に最も大切なものであります計りか、眼は心の窓と申します位重要なもので御座います。所が一歩進んで考へて見ますと、総てこの宇宙間に形を持つて居るものは森羅万象残らず目すなはち眼目といふものがなくてはならぬ。実際凡ゆるものに眼目があると云ふ事は吾人は常に之を認め得るのであります。姿こそ人間のやうな姿ではないけれど、他の動物に於てもこの眼をもつて居ります。禽獣虫魚草木の類に至るまで此眼のないものはありませぬ。また一つの文章を読みましても、この中にも必ず眼目といふものがあります。御勅語の中にも眼があります。 『皇祖皇宗国ヲ肇ムルコト宏遠ニ徳ヲ樹ツルコト深厚ナリ、汝臣民克ク忠ニ克ク孝ニ』 これが教育勅語の眼目であります。また戊申詔書には、 『淬礪ノ誠ヲ輸サバ国運発展ノ本近ク斯ニ在リ』 これが詰り眼になつて居る。その通り初め天地をお造りになるに当つても、この宇宙を治める為にはどうしても、眼といふものが必要であるといふので、そこで伊邪那岐命は天地の主をお創めになつたのであります。すなはち伊邪那岐命は、先づ天の主をこしらへたい、この霊界の主宰者をこしらへたいと思召しになりまして左の目を洗ひ給うた、この左の目といふのは日であります。太陽神であつて上である。右の目といふのが太陰神であつて下であります。言霊の天則から申しますと左は男、右は女と、これは既に神様の御代から定まつた掟である。然るにこの左の目を洗うてお生れになつたのが日の大神、天照大御神であつて、右の目を洗うてお生れになつたのが月読命、さうすると目からお生れになつたのは、変性男子女子でありました。左の目をお洗ひになつて直ぐお生れになつたのが変性男子の天照大御神でありました。これで詰り左を宇宙霊界とし、右を地球として、天上天下の君をお生みになつた訳であります。 『次に御鼻を洗ひ給ひしときに成りませる神の御名は建速須佐之男命』 はなは初めに成るの意義で即ち初めである。物質の元であります。花が咲いて而して後から実を結びます。人間の身体が出来るにつきましても、先づ胎内に於て人間の形の出来る初めは鼻である。それから眼が出来る。絵師が人間の絵を描きましても、その輪廓を描くのに何より先に鼻を描く、鼻は真中である。鼻を先へ描いて然る後に目を描き口を描いてそこで都合好く絵が出来るのである。この初めて出来た統治の位地にお立ちになるのが須佐之男命であります。俗に何でも物の完成したことを眼鼻がついたと申します。神様も此世界をお造りになつて、さうしてそこに初めて眼鼻をおつけになつたのであります。 『此時伊邪那岐命太く歓喜して詔り給はく』 愈天地が完全に出来たから、神様は非常にお喜びになつた。これまでに神様は随分沢山な御子達をお産みになつて居りますが衝立船戸の神様から十二柱ありました。その次に三柱お生れになつてをるので都合十五柱であります。男神様は我はかやうに沢山の子を産むだが、しかし今度の様な眼鼻になる所の子は初めてである。 『吾は御子生みて、生みの果に三柱の貴子得たり』 と仰せられまして、やがて、 『其御頸珠の玉の緒母由良に取りゆらかして』 即ちむかしの勾玉と申したやうな、高貴な人が飾りとしてかけて居つた頸珠であります。丁度今で申しますと大勲位章とか、大綬章とか、一等勲章とか云ふ意味の、曲玉のやうなのを掛けて居られたかと思はれます。 そこでこの玉を自分からお取り脱しになつて天照大御神にお渡しになつた。母由良にとりゆらかしてといふことは何でも非常に喜んで物を渡すときには、自然に手や身体が揺れる。一面から云へば揺つて渡す。頂くときにも亦揺つて頂く、今は然う云ふやうなことでは御座いませぬけれども、本当に嬉しいときには然うなつて来るのであります。さて之を揺りよい音鳴りをさせながら天照大御神に賜ひまして詔給はく、 『汝が命は高天の原を知らせ』 と高天原を主宰せよと仰せになつて珠をお授けになつたのであります。 『かれ其御頸珠の名を御倉板挙之神と申す』 此の御倉板挙之神といふことは、言霊学上から見ても、神様の方で申されまする暦――此世界には恒天暦、太陽暦、太陰暦の三つの暦が常に運行循環して居るのであります。で、此御頸珠をお授けになつたといふのは、所謂御倉板挙之神、即ち恒天暦、太陽暦、太陰暦をお授けになつたのであります。 『次に月読命に詔給はく「汝が命は夜の食国を知らせ」と事依さし給ひき』 右の眼よりお生れになつた月読命に夜の主宰をせよと仰せられた。知らせといふことは、大事に守護り能く治めよといふ意味で、太陰の世界を主宰せよと仰有つた。高天原は全大宇宙である。夜の食国は昼の従である。それで月読命はどこまでも天照大御神を扶けて宇宙の経綸に当れと、斯う云ふ詔であります。 『次に建速須佐之男命に詔給はく「汝が命は海原を知らせ」と事依さし給ひき』 須佐之男命は鼻からお生れになつた方であります。海原といふのは此地球上のことであります。地球は陸が三分の一しかありませぬ、三分の二といふものは海であります。で地球を総称して大海原と申すのであります。斯うして伊邪那岐命様は深いお考へから夫々其知ろしめす所を、各々にお分けになつて、汝は高天原を、汝は夜の食国を、汝は地球上即ち大海原を知ろしめせと、御神勅になつたのであります。今日は天照大御神の三代の日子番能邇々芸命が、どうも此お国が治まらぬといふので天から大神の神勅を奉じて御降臨になつて、地球上をお治め遊ばして、さうして我皇室の御先祖となり、其後万世一系に此国をお治めになつてあるのでありますが、それより以前に於きましては、古事記によりますと須佐之男神が此国を知召されたといふことは前の大神の神勅を見ても明白な事実であります。 『故各々依し給へる御言の随に、知らしめす中に、速須佐之男命、依さし給へる国を知らさずて、八拳髯胸前に至るまで啼いさちき』 須佐之男命は大神の仰に随つて地上に降臨遊ばされた。地上を治める為めに、お降りになりましたけれども、その時この地上は乱れて居つて、神代にも丁度今日のやうな世があつたものと見えます。で今日のやうに政治であらうが、宗教であらうが、教育であらうが、何から何まで一切のものが行き詰つて了うて、もう行きも戻りも上げも下しも出来ぬ様になつて居つた。それで須佐之男命様は、この世の中を安らけく平けく治めて大神を安堵させ奉る事が出来ないから非常にお歎きになつて、『八拳髯胸前に至るまで』長く長く髯が延びて胸前の所まで下つて来るまで御心配をなすつた。人といふものは髯を拵へたり髪を整へたり、いろいろのことをして、容貌を整へなくてはならぬけれども、此国を治めようといふ事に、余り御心配を遊ばしたのでありますから、知らぬ間にこの髯が八拳に長く伸びて居つたのであります。 『泣きいさちき』 といふのは、世の中の一切悉くのものが、もうどうしても、これから進むで行くとか、開けて行くとか、どうしたらよいかといふ方法がない、手のつけやうがないといふまでに非常に行き詰つて了つた状態を、お歎きになるさまに形容したのであります。 『其泣き給ふ状は』 どういふ工合であつたかといふと、 『青山を枯山なす泣き枯らし』 今まで山などの草木が青々と生ひ繁つて居たのに、世が行き詰つた為に枯れて了うた。枯らして了うた。山がすつかり一変して枯山となつてしまうた。これは今日の状態によつく似て居るではありませぬか。今まで十年計画、百年計画といふやうな風にいろいろな事業が企てられた。何会社が立つの、或は何事業が起されたと、無茶苦茶に四五年前から本年の春までは偉い勢で、好景気を謳歌して、青々とした山の如くに有頂天になつて居りましたが、青山がいつまでも天空につかへないが如くに、なんぼ木が伸びたつて天につかへる気遣ひのないやうに、一朝行きつまれば最早さう云ふ勢はすつくり枯れて了ふ。今年の春からこの方、元も子もなくなつて、青山は枯山になつた。どうしても伸びる方法もない、火の消えたるが如き有様になつて了つたのであります。 『河海は悉に泣き乾しき』 山が枯山となつたと同じく、河も海も悉く乾いて了うて、一滴の水もなくなつたといふのであります。今日の世の中に譬へて申しますれば、郵船会社とか、商船会社とか其他いろいろの海運業も追々と仕事がなくなつて二進も三進も行かなくなつた。すると此海河の労働仕事に従事して居るものは、稼殖の途のなくなるのは勿論、稼業に離れる、職に離れるといふことになつて来ると一家は子供に至るまで、悉く泣き乾しになる。最早や食ふ道がないやうになると、もう乾干になるより仕様がない。総て海に稼いで居る者も、河に従事して居る者も、其他一切のことに従事して居る者も、みんな泣き乾しになつて了うたのである。 『是を以て悪神の音なひ、狭蠅なす皆沸き、万の物の妖悉に発りき』 神代に於ても世が行き詰つて来れば、そこにいろいろの不祥なる事件が起つて来たものと見えます。 畏くも明治天皇陛下が、 『之ヲ古今ニ通ジテ謬ラズ之ヲ中外ニ施シテ悖ラズ』[※教育勅語の一節] と仰せられましたやうに、真理といふものは何れの時代にも適応するので御座います。既に古事記の明文にある所で御座います。今日の状態を考へて見れば、丁度此岩戸開き前の状態と克く似て居る。世がどん底に行き詰つて労働しようにも仕事がない、仕事がなければ妻子眷族を養ふことが出来ない。生活といふことが出来なくなるとそこで悪神の音なひとなり、いろいろの騒動が起つて来る、人間の心が荒んで来る。衣食足つて礼節を知る、今まで善い魂を持つて居つたものも、だんだん悪い魂の力に押へられて悪化して了ふ。食ふか食はぬか、死ぬか生きるか、喰うて死ぬか食はずに死ぬか、斯う云ふ苦しい立場になりますと、人心は日増しに悪化して善くないことが往々始まる。甚だしきは警察へ行つて御厄介になつた方が楽で、養なつて呉れて安全だといふものが出来る。監獄に入れば食はして呉れる、金銭はなくても可いといふ具合に自暴自棄的に悪神の音なひが始まる。此音なひといふのは、神様の御真意に背いた所の、いろいろの論説が出て来るといふので、あちらからも此方からも異端邪説が叢り起ることであります。然うした結果が、うるさい所の五月蠅のやうにブンブンブンといろいろの事が湧いて、 『万の物の妖悉に発りき』 一切のものに災禍が起つて来る。外交の上に於きましても、内治の上に於きましても、商工業の上にも、一切万事、何も彼にも、世の中のありと凡ゆるものに向つて、みな災禍が起つて来るのであります。そこで天から伊邪那岐大神が之を御覧になつて、 『速須佐之男命に詔給はく』 仰有るのには、 『何とかも、いましは、事依させる国を治さずて泣きいさちる』 そなたは、此大海原の国を治めよと言うてあるのに、何故それを治めぬのか、世の中を斯う云ふ難局に陥らせたのか、何うして騒がしい世の中として了うたのか、と大変にお責になつたのであります。すると須佐之男命は、誠に相済まぬ事であります。兎も角これは私に力が足らぬからであります。私が悪いのでありますとお答へになつた。併し斯うなつて来ては如何なる人が出て来ても、此時節には敵はない。治まるときには治めなくても治まるが、治まらぬときに之を治めるといふ事は難かしいものであります。人盛んなれば天に勝ち、天定まつて人を制す、悪運の強い時には如何なる神もこれを何うも斯うもする事が出来ない。艮の金神様も此時節の勢には敵はぬと仰せられて、それで三千年間あの世に隠れて、今日の神政成就の時節を待つて、現在に顕はれ天の大神様の御命令を奉じて、三千世界の立替立直しをなさらうといふのであります。大神様でさへもさう仰せに成るのでありますから、況して須佐之男命が大変に行き詰つた地上を治めようとなさつてもどうして治まらう筈がありませう。然らば何故須佐之男命御一人では治まらないのであるかと申せば、それは今日文武百官がありまして、亦た政党政派が互に相争ひ、一方が斯うすれば一方が苦情を持ち出して思ふやうにならぬ如く前に申しましたやうに既にいろいろの神様達が沢山あつて、其神々様が各自に天津神の御心を取り違へて、所謂体主霊従に陥つて居られたので、一人の須佐之男命がどれ程誠の途を開かうとなすつた所で、更に耳に入れるものがない、各自に勝手な真似をなさる。丁度強情な盲と聾との寄合のやうであります。そこに千仭の谷があつても盲は顛覆へるまでは知らぬ顔をしてをる。どれ程雷が鳴つても聾は足下に落ちるまでは平気である。それに強情を張つて誰が何と注意しても聴かない。神代の人もそのやうに体主霊従で、どうしても命の命令を聴かなかつた。それで須佐之男命は、これは取りも直さず自分の責任である、自分の不徳の致す所である、到底自分の力では及ばないのであると、自らをお責めになつて、 『あは妣の国、根の堅洲国に罷らんと思ふが故に泣く』 私はもうお暇を頂いて、母の国に帰らうと仰せられたのであります。根の堅洲国と申すのは母神の伊邪那美命がおいでになつてゐる所であります。尤もこれまでの或る国学者達は根の堅洲国といふのは地下の国であると云つて居りますが、併し一番に此伊邪那美命は月読命と同じく月界に御出でになつたのでありますから、月界を根の堅洲国と言つたのであります。で須佐之男命は自分の力が足らないのである、不徳の致す所であるからして自ら身を引いて、根の堅洲の国へ行かうと仰有つて、一言も部下の神々の不心得や、其悪い行状を仰せられなかつた。如何にも男らしい潔白なお方で御座います。所が伊邪那岐命は非常に御立腹になつた。 『然らばみまし此国にはな住みそ』 其方のやうな此海原を治める力量の無いものならば、二度と此国に住むではならぬ。勝手に根の堅洲国へ行つたがよからう。一時でも居つてはならぬぞとお叱りになつたけれども、伊邪那岐命は須佐之男命の心中は疾くに克く御存知である。自分の子がどうして此国を治める事が出来ないか、どうして自分の珍の児の言ふことを万の神々が聴かぬか、腹の底では充分に御存知でありますが、それを彼此仰有らない。心の中には千万無量のお悲しみを持つて居られまするけれども、他に多くの神々に傷をつけるといふことは考へ物である。それで須佐之男命に刑罰を与へて罪人としたならば、その他の八百万の神、これに随いて居る所の神等はそれを見て皆改心するであらう、その悪かつたことを悟るであらうと思召して大神様は自分の子を罰せられたのでありまして、普通の者の出来難いことで御座います。その広大なるお情深い御心は、誠に勿体ない次第でありませぬか。此須佐之男命を罪に問うたならば、あれこそ吾々の為めに罪せられたのである、誠に済まないことであるから、吾々は悔い改めて本当の政治をしなければならぬ、改心を早く致して命の罪を赦されむ事を八百万の神々が思ふであらうと思召して伊邪那岐命は此処置をお取り遊ばしたのであるが、矢張体主霊従に陥られた八百万の神達は容易にそれがお解りにならず、あれは当然である、政治の主権をあんな者が握つて居つては国の治まらう筈がない、あれが居なくなれば又善い神様が来るに違ひない、否吾々の力で充分に世を治めようといふやうな頗る冷淡な間違つた考へを有つて居つたのであります。寔にこんな世の中を治めようとするには並大抵の事ではないので御座います。 (大正九・一〇・一五講演筆録) (大正一一・三・五再録谷村真友録) |
|
12 (1678) |
霊界物語 | 16_卯_丹波物語1 大江山/冠島沓島/丹波村 | 18 遷宅婆 | 第一八章遷宅婆〔六〇八〕 百日百夜の一同が苦辛惨憺の結果、漸く建ち上りし白木の宮殿、鎮祭式も無事に済み一同直会の宴にうつる。今日は正月十五日、雪は鵞毛と降りしきり、見渡す限り一面の銀世界、天津日の影は地上に光を投げ、玲瓏として乾坤一点の塵埃も留めず、実に美はしき天国の御園も斯くやと思はるる許りなり。 英子姫は神霊鎮祭の斎主を奉仕し悠々として階段を降り来るや、忽ち神霊に感じ神々しき姿は弥が上に威厳備はり徐に口を開いて宣り給ふやう、 英子姫に懸かった天照御神『我は天照大神の和魂なり、抑も当所は綾の聖地に次げる神聖の霊場にして天神地祇の集まり給ふ神界火水の経綸場なり、神界に於ける天の霊の川の源泉にして宇宙の邪気を洗ひ清め百の身魂を神国に救ふ至厳至聖の神域なり。又この東北に当つて大江山あり、此処は神界の芥川と称し邪霊の集合湧出する源泉なれば霊の川の霊泉を以て世界に氾濫せむとする濁悪汚穢の泥水を清むべき使命の地なり。此濁流の彼方に天の真名井ケ岳あり、此処は清濁併せ呑む天地の経綸を司る瑞の御霊の神々の集まる源泉なり。豊国姫の分霊、真名井ケ岳に天降りミロク神政の経綸に任じ給ひつつあり、されども曲神の勢力旺盛にして千変万化の妖術を以て豊国姫が経綸を妨碍せむとしつつあり。汝悦子姫、之より大江山の濁流を渡り真名井ケ岳に打向ひ百の曲霊を言向和し追ひ払ひ吹き清めよ。又亀彦、英子姫には神界に於て特別の使命あれば之より聖地に向へ、其上改めて汝に特別使命を与ふべし』 と言葉厳かに言挙げし給ひ忽ち聞ゆる微妙の音楽と共に引きとらせ給ひぬ。アヽ尊き哉皇大神の御神勅よ。 茲に亀彦、英子姫は神勅を奉じ、熊鷹、石熊両人を始め数十人の供人と共に、聖地に向ふ事となりぬ。又悦子姫、青彦は、鬼彦、鬼虎の二人に、四五の従者を伴ひ谷川に禊を修し宣伝歌を唱へ乍ら大江山の魔窟ケ原を打越え真名井ケ岳に向つて進む事になりける。 悦子姫は宮川の渓流を溯り、険しき谷間を右に跳び、左に渉り漸くにして魔窟ケ原の中央に進み入り、衣懸松の傍に立ち止まり見れば、百日前に焼け失せたる高姫の隠家は又もや蔦葛を結び、新しく同じ場所に仮小屋が建てられありたり。 悦子姫『此間妾が高姫に招かれて此松の下へ来ると、間もなく火煙濛々と立昇り、小屋の四方八方より猛烈に紅蓮の舌を吐いて瞬く内に舐尽し、高姫さま始め此青彦さまも火鼠の様に、彼の丸木橋から青淵へ目蒐けて飛び込まれた時の光景は実にお気の毒なりし。その時妾は高姫さまの水に溺れて苦しみ藻掻き居られるのを、真裸になりて救ひ上げた時、高姫さまに非常に怒られた事あり、「妾が勝手に心地よく水泳をやつて居るのに、真裸で飛ンで来て妾の手を引ン握り、ひつ張り上げるとは怪しからぬ」と反対に生命を助けて怒られた事あり、あの一本橋を見ると其時の光景が今見る様な』 と述懐を漏したり。 青彦『さうでしたな、あの時に私も亀彦さまが居なかつたら土左衛門になる処でした。真実に生命の親だと思つて心の底から感謝して居ました。それに高姫さまは私がお礼を申さうとすれば目を縦にして睨むものですから、つひお礼を申し上げず心の裡に済まぬ事ぢやと思つて居ました、真実に負惜みの強い方ですな』 鬼彦『ウラナイ教の奴は皆アンナ者だよ、向ふ意気の強い、負ず嫌ひばかりが寄つて居るから負た事や弱つた事は知らぬ奴だ、悪と云ふ事も知らず本当に片意地な教だ、負た事を知らぬものに勝負も無ければ、恥を知らぬものに恥はない、人間もああなれば強いものだ、否気楽なものだ、自分のする事は何事も皆善ときめてかかつて居るのだから身魂の立て直し様がありませぬ哩』 青彦『ヤア私も高姫の強情なには呆れて物が言はれませぬ、沓島で岩蓋をせられた時にも私は消え入る様な思ひがして、泣くにも泣かれず慄うて居ましたが、高姫は豪気なものです、反対に窮鼠却て猫を咬む様な談判をやるのですから呆れざるを得ぬぢやありませぬか、漸く田辺に着いたと思へば暗に紛れてドロンと消え失せ、間もなく月の光に発見されて鬼武彦に素首を掴まれ、提げられて長い道中を秋山彦の館まで連れ行かれ、苦しいの、苦しうないのつて、息が切れさうでしたよ、それでも減らず口を叩いて太平楽を並べると云ふ意地の悪い女だから、何処迄押し尻が強いか分つたものぢやない。如意宝珠の玉を大勢の目の前で平気の平左で自分の腹の中に呑み込みて仕舞ひ、終には煙の様に天井窓から逃出すと云ふ放れ業をやるのだから、化物だか、神様だか、魔だか、素性の知れぬ痴者だ、そして随分口先の達者な事と言つたら燕か雀の親方の様だ、人には交際つてみねば分らぬが、あの剛腹の態度と弁ちやらとに掛つたら、大抵の男女は十人が九人迄やられて仕舞ふ、本当に巧な者だ、其処へ又、も一つ弁舌の上手な黒姫と言ふのが始終後について居つて応援をするものだから、口八丁手八丁悪八丁と言ふ豪の者に作りあげて仕舞つたのだ。然しチヤンと此焼け跡に又もや新しい小屋が建つて居る、大方黒姫の奴、後追つかけて来よつて焼け跡に小屋を建てて隠れて居るのではあるまいか、何処までも執念深いのはウラナイ教の宣伝使だからな』 鬼虎『一つ調べてやりませうかい』 鬼彦『若し黒姫が居つたら貴様何うする、又舌の先でチヨロチヨロと舐られてグニヤグニヤとなりやせぬかな』 鬼虎『何、大丈夫だよ、鬼虎には鬼虎の虎の巻がある、俺の十一七番を御目に懸けてやるから悠りと見物をせい』 一同は路傍の恰好の石に腰掛けて休息し乍ら雑談に耽つて居る。鬼虎は七八間許り稍傾斜の道を下り衣懸の松の麓の藁小屋を外からソツと覗き、 鬼虎『ヤア、居るぞ居るぞ、婆が一匹、男が二匹だ、オイ婆ア、貴様は何だ、バラモン教か、ウラナイ教か、ウラル教か、返答致せ』 小屋の中より、 婆(黒姫)『エー、八釜しい哩、何処の穀潰しか知らぬが新宅の成功祝で、グツスリ酒を飲みて暖い夢を見て居た処だ、大きな声で目を覚まさしよつてチツト人情を知らぬかい。安眠妨害で告発するぞ』 鬼虎『ヤア、一寸洒落て居やがる、よう牛の様にツベコベと寝乍らねちねちと口を動かす奴だ、丸で高姫か黒姫みたいな餓鬼だ、改心せぬと又それ紅蓮の舌に舐められて、藁小屋は祝融子に見舞はれ全部烏有に帰し、頭の毛や着衣に火が延焼して一本橋から身を投げて寂滅為楽、十万億土の旅立をせにやならぬ様になるぞ』 小屋の中より、 婆(黒姫)『何処の奴か知らぬが俺は貴様の今言うた黒姫だよ、名は黒姫でも顔の色はそれ今其処らに降つてる雪の様に白い雪ン婆の様な心の綺麗なウラナイ教の宣伝使ぢや、此沢山な雫を掻き別けて寒い寒い山道をうろつく奴は余程ゆきつまつたしろ物と見える哩。今日らの日に彷徨ふ奴は家の無いもののする事ぢや、田螺でも蝸牛虫でも一つは家を持つて居る、家無しのド乞食奴が、何とか、彼とか言ひよつて人の処の家へ泊めて貰はうと思つても……さうは往かぬぞ、然し魚心あれば水心ありぢや、俺の言ふ事を聞くのなら泊めてやらぬ事は無いわ、それ程寒相に歯の根も合はぬ程、カツカツ慄ふよりも如何ぢや、俺の結構な話を聞いて暖い火にあたつて、味の良い濁酒でも鱈腹飲みた方がましだらう、世の中は馬鹿者が多いので此雪の降つてピユウピユウと顔の皮が剥ける様な風が吹くのに、下らぬ宣伝歌を涙交りに謡ひよつても誰が集まつて聞くものかい、後から後から此雪の様に冷かされる一方だ、一つ冷静に酒の燗ドツコイ考へて見たが宜からうぞ』 鬼虎『アハヽヽヽ、オイ鬼彦、一寸来い、大分に能うツベコベ吐す奴ぢや、高姫の二代目が居りよる哩。白姫とか赤姫とか吐す中年増の婆ぢや、一つ此奴を、真名井ケ岳に行く途中の先登として言向け和したら面白からうぞ』 鬼彦『ヤ、さうか、何でも婆の潜みて居さうな藁小屋ぢやと思つた。ドレドレ之から鬼彦が応援に出掛け様かい』 雪の中をザクザクと音させ乍ら小屋の側に寄り添ひソツと中を覗き、 鬼彦『ヤア、居る居る、此奴は何時やら見た事のある奴ぢや。随分八釜しい婆ぢやぞ、鈴の化物見た様な奴ぢや』 鬼虎『鈴か煤か知らぬが何でも黒い名のつくババイババイ婆宣伝使だ。オイ、婆ア、一つ貴様の得意の雄弁を振つて天下分け目の舌鋒戦でも開始したら如何だ、面白いぞ』 婆(黒姫)『オイ、音、勘、酒に喰ひ酔うて何時迄寝て居るのだ、外には貴様に合うたり叶うたりの荷担うたら棒が折れる様なヒヨツトコ男が来よつて、百舌鳥の様に囀つて居る、貴様一つ出て舌戦をやらぬかいナ』 音、勘『ムヽヽヽ、ムニヤムニヤムニヤ、アヽア、アー』(寝惚け声で) 婆(黒姫)『エー、じれつたい、欠伸許りして夜中の夢でも見てるのかい、もう午時ぢや、早く起きぬか』 音公『午時か猫時か知らぬが二人がグツスリと猫を釣つて、甘い物をドツサリ喰つた夢を見てる時に、アヽ偉い損をした、十七八の頗るのナイスが現はれて、細い白い柔かい手で目を細うして「音さま、一杯」と盃をさして呉れた最中に起されて、エーエ怪つ体の悪い、一生取り返しのならぬ大損害だ、生れてから見た事もない様なナイスにお給仕をして貰ふ時の心持と言つたら天国浄土に行つても、夢でなくては有りさうもない、アヽア、嬉しかつた嬉しかつた』 婆(黒姫)『オイ、音、何をお前は惚けて居るのだい、チツト確りしなさらぬか、戸を開けて外を見なさい、沢山の耄碌がやつて来て今此黒姫の舌鋒に刺されて、ウラナイ教に帰順せむとする準備の最中だ、サアサア勘公も起きたり起きたり』 婆はノソリノソリと小屋を立ち出で、 婆(黒姫)『ヤア誰かと思へば青彦も其処に居るのか、コレヤ、マア如何したのだ、何時の間に三五教に這入りよつたのだ、宣伝使の服が変つて居るぢやないか、サア早く脱ぎ捨ててウラナイ教の教服と更へるのだよ』 青彦『これはこれは黒姫先生、憚り乍ら今日の青彦は最早百日前の青彦とは趣が違つて居ますから、その積りで物を言つて貰ひませぬと、某聊か迷惑の至りだよ』 婆(黒姫)『オホヽヽヽ、猫の眼の玉の様に、能う変る灰猫野郎だな、そこに居る女宣伝使は此間来た悦子姫と言ふ破れ宣伝使だらう、ソンナ者に従いて歩いて何になるか、チツトお前も物の道理を考へて利害得失を弁へたが宜からうぞ、オホヽヽヽ』 勘公『皆さま、ソンナ処へ腰掛けて居らずに、トツトとお這入りなさいませ、内はホラホラ外はスウスウぢや、随分広い間がありますよ』 婆(黒姫)『コレヤ、勘公よ、能う勘考してものを言はぬかい、主人の黒姫にも応へずに僕の分際として勝手にお這入り下さいとはソレヤ何を言ふのか、アンナ者を一緒に入れたら丸で爆弾を詰めた様なものぢや、何処から破裂致すやら分つたものぢやないぞ』 勘公『爆弾でも何でも宜いぢやありませぬか、先方の爆弾をソツと此方へ占領して使ふのが妙案奇策、敵の糧を以て敵を制する六韜三略の兵法で御座る、アハヽヽヽ』 婆(黒姫)『お前の兵法は矢張屁の様な物だ、匂ひも無ければ音もこたへず、音公と同じ様な掴まへ所の無い人三化七ぢや』 音公『これこれ、黒姫のチヤアチヤアさま、音公の様な者とは、ソレヤ何を証拠に言ふのだ、チヤアチヤア吐すと量見せぬぞ、世界一目に見え透く竜宮の乙姫ぢやぞと、明けても暮れても口癖の様に自慢して居るが、現在足許に居る此音さまを誰だと思つて居るのか、明き盲目だな、三五教の宣伝使音彦司とは此方の事だぞ』 婆(黒姫)『音に名高い音彦の宣伝使と言ふのはお前の事か、オツト、ドツコイ、音に聞いた程も無い見劣りした腰抜け野郎だ、水の中でおとした屁の様な男(音公)だな、斯ンなガラクタ男が三五教の宣伝使だなぞと本当におとましい哩、生るる時に母親の腹の中で肝腎な、目に見えぬものをおとして来た様な間抜けた顔付をしよつて、宣伝使の何のつて、雪隠虫が聞いて呆れますぞえ、宣伝使ぢや無うて雪隠虫ぢやらう、オホヽヽヽ』 音彦『エー、仕方のない剛情な婆ばかりウラナイ教には寄つて居やがるな』 婆(黒姫)『きまつた事ぢや、お前も余つ程の馬鹿人足だな、今頃に瘧が落ちた様な顔しよつて、「剛情な奴ばかりウラナイ教は寄つて居やがるな」なぞとソンナ迂い気の利かぬ事でウラナイ教の間者に這入つたつて何が成功するものか、此黒姫は此奴一癖ある間抜けだと思つて、知らぬ顔で居れば良い気になりよつて何を言ふのだ、貴様の面を見い、世界一の大馬鹿者、三五教の腰抜け野郎と貴様の寝てる間に此黒姫司が墨黒々と書いて置いた、それも知らずに偉相に言ふな、鍋の尻の様な面になりよつて、お前も余つ程くろう好きぢやと見える、「心からとて吾郷離れ、知らぬ他国で苦労する」とはお前の様な馬鹿者の境遇を剔抉して余蘊なしだ、ホヽヽヽ、それに付けても青彦の奴、何の態ぢや、日蔭に育つた瓢箪の様な面をして結構なウラナイ教の神様に屁をかがしたか、かかさぬか、…………ド拍子の抜けたシヤツ面を此寒空に曝し、瑞の霊と言ふ冷たい名の付いた奴の教を有難相に聞きよつて、蒟蒻の化物の様にビリビリ慄ひ歩く地震の化物奴、チツと胸に手を当てて自身の心を考へて見よ』 青彦『大きに憚り様、何うせ青彦と黒姫は名からして色彩が違ふから反が合ませぬ哩。黒い黒い顔に石灰釜の鼬見たように、ドツサリと白粉をコテコテ塗りたて、丸で此処にある焼杭木に雪が積つた様なものだ。五十の尻を作りよつて白髪を染めたり、顔を塗つたりしたつて皺は隠れはせぬぞ、若い者の真似をして若相に見せ様と思つても雪隠の洪水で糞浮きぢや、汚いばかりぢや、良い加減に改心せぬかい』 婆(黒姫)『俺が顔に白粉をつけて居るのが何が可笑しい、何事も隅から隅まで前にも気をつけおしろいにも手を廻して抜目の無い教と言ふ印に白粉をつけて居るのだ、貴様は尾白い狐に魅まれよつてウロウロとうろついてるのだな、娑婆幽霊の死損なひ奴が』 青彦『娑婆幽霊の死損なひとは貴様の事だよ、人生は僅か五十年、五十の坂を越えよつて白粉をつけて俏した処で地獄の鬼は惚れては呉れはせぬぞ、三途川の鬼婆の姉妹と取り違へられて、冥土に行つても又大々的排斥をせらるるのは判を捺した様なものだ、本当に困つた婆だな、執着心の強い粘着の深い、着いたら離れぬと言ふ牛蝨の様な代物だ、如何ぞして結構な三五教に救うてやり度いと思つて居るのだが、もう斯うなりては駄目かな、耳は蛸になり目は木の節穴の様に硬化して仕舞ひ、口ばつかり無病健全と言ふ代物だから、如何しても見込みがつかぬ哩』 婆(黒姫)『エー、ツベコベと世迷ひ言を能う囀る男だ、初めには三五教が結構だと言つて涙を零し、洟まで垂らして有難がり、次には三五教は薩張り駄目だ、瑞の霊の不可解な行動が腑に落ちぬ、もうもう愛想がつきた、三五教のあの字を聞いても胸が悪いと言ひよつて、此黒姫の紹介でウラナイ教にヤツと拾ひ上げ、もう何うなり斯うなり一人歩きが出来る様になつたと思へば又もや変心病を出しよつて、「矢張りウラナイ教は駄目だ、先の嬶は嘘はつかぬ哩、三五教の御神力が強い」と、萍の様な心になつて、風が東から吹けば西に漂ひ、西から吹けば東の岸に漂着すると言ふ漂着者だ、ソンナ事で神様の御蔭が貰へるか、終始一貫、不変不動、岩をも射抜く梓弓、行きて帰らぬ強き信仰を以て神に仕ふるのが万物の霊長たる人間の意気だよ、能うフラフラと変る瓢六玉だ、アヽ可憐相な者だ、ヤア哀なものだなア、オホヽヽヽ』 青彦『何を言ひよるのだ、コラ黒姫、貴様だつて三五教は結構だ、広い世界にコンナ誠の教があらうかと言ひよつて、今迄信じて居たバラモン教を弊履を捨つるが如く念頭より放棄し、今又ウラナイ教の高姫の参謀になりよつたと思つて、偉相な事を言ふない。お猿の尻笑ひと言ふのは貴様の事ぢや、オヽそれそれ猿で思ひ出した、猿と言ふ奴はかく事の上手な奴ぢや、貴様は高姫の筆先だとか、何とか折れ釘の行列の様な、柿のへたの様なものを毎日、日にち写しよつて、それを唯一の武器と恃み、鬼の首を篦でかき切つた様な心持になつて、世界中の誠の信者の信仰をかき廻すと言ふ、さるとはさるとは困つた代物だよ、猿が餅搗くお亀がまぜると言ふ事がある、コラ猿婆貴様の舌端に火を吐いて言向け和した信者の持ち場を、青彦の宣伝使が之からかき廻すのだから、マアマア精出して活動するが良い哩、貴様は三五教の先走りだ、イヤ、もう御苦労のお役だ、霊魂の因縁に依つて悪の御用に廻されたと思へば寧ろお気の毒に堪へぬワイ、アヽ惟神霊幸倍坐世、叶はぬから霊幸倍坐世、アハヽヽヽ』 (大正一一・四・一六旧三・二〇北村隆光録) |
|
13 (1758) |
霊界物語 | 20_未_丹波物語5 錦の宮の発足 | 03 山河不尽 | 第三章山河不尽〔六六五〕 留公はドンドンと地響きさせ乍ら性凝りもなく芋畑の赤子を御丁寧に再び蹂躙り、 留公『エイ、此芋の野郎、俺に影響を及ぼしやがつた、芋だつて油断のならぬものだ、エヽもう斯うなる上は善いも、悪いも、恐いも、可愛いも、難かしいも、嬉しいも、悲しいもあつたものかい、三度芋の野郎、何処までも六本の指で蹂躙してやらう。アタいもいもしい』 と足に力を入れて心ゆく許り踏み砕いて居る。そこへ走つて来たのは真浦の宣伝使、此態を見て、 真浦『留さん、何をして居なさる』 留公『之はしたり、大変な所を発見されました。然し何卒もう宣伝歌丈けは許して下さい、頭の数が幾つにも分家する様な心持がしますから……』 真浦『よしよし嫌とあれば沈黙しませう、然し今お前の踏んで居るのは芋ではないか』 留公『ハイ、物価騰貴の今日、斯う沢山に赤子が殖えては、第一国民が食糧に困ります。三度芋と云つて年に三度も子を生む奴ぢや、産児制限の為めにサンガー夫人がやつて来て、今此処に大活動を開始した所ですよ。何卒大目に見て上陸を拒否せない様に願ひます、アハヽヽヽ』 真浦『そんな事しては困るぢやないか、天津御空の星の数程人を殖やし、浜の真砂の数程赤子を生まねばならぬ神様のお道ぢや、生成化育の大道を無視してその様な乱暴な事をして良いものか』 留公『私は之が国家の経済上から見ても、人類共存上の学理から考へても最も神の意志に適した良法だと確信して居ます。何卒私の演説を一つ聞いて見なさい、能く徹底して居ますよ』 真浦『演説は中止、否絶対に解散を命じます』 斯る処へ以前の男、鍬を担げ乍ら怒髪天を衝いて走り来り、 男(田吾作)『こらこら又しても大切の大切の赤子を殺すのか』 留公『オヽ、バラモン教と取換へこして迄、赤子を征伐する覚悟をきめたのだから、何と云つても中止はせない。マア之も前世の因縁だと諦めて鄭重に弔ひでもしてやるが良からう』 男は怒り心頭に達し鍬を真向に翳し留公の頭を目蒐けて打ち下ろした。留公はヒラリと体を躱した機に、鍬は外れて真浦の足の小指を斬り落した。真浦は顔を顰め落ちた指を手早く拾つて傷口にあてた。指は其儘に密着した。余り慌てたと見えて小指の先は裏表に付けて仕舞つた。之迄は真浦に対し守彦と云ふ名が付いて居たが茲に初めて真浦と云ふ名が出来たのである。 男(田吾作)『之は之は失礼な事を致しました、何卒赦して下さいませ。勿体ない、宣伝使の指を斬るなんて……私は如何して此罪を贖うたら宜しいでせう、神界に対して取返しのならん不調法を致しました』 と泣き沈む。 留公『世界を救ける生神の宣伝使様だ。指の一本や手の半本位取れたとて、そんな事で弱へる様では宣伝使ぢやない。それよりも貴様の所の赤子の生命、随分無残な事になつたものだのう』 男(田吾作)『之だけ丹精を凝らして作つた芋種を台なしにして置き乍ら、まだ業託を吐きやがるか。エーもう堪忍袋の緒がきれた、覚悟をせよ』 と又もや鍬を振り翳し留公に迫る。宣伝使は此鍬の柄を確と受止め、 真浦『マアマアお待ちなさい、短気は損気だ。芋も大切だが人の生命も大切だ』 男(田吾作)『朝から晩まで自分の産んだ子も同然に肥料を掛けたり、草を引いたり、色々と世話をして来た可愛い芋の子、それをムザムザ踏み潰されて……育ての親が如何して黙つて居れませう。芋は芋だけの精霊が宿つて居る。屹度苦しんで居るでせう。可哀相に……此赤子は誰に此無念を訴へる事が出来ませう、私が怒つてやらねば此赤子は能う浮びますまい……アヽ芋の子よ、可憐相な者だが、もう斯うなつては仕方が無い、俺が之からお前の冥福を祈つてやるから心残さずに幽冥界に旅立して安楽に暮してくれ、アンアン』 と態と男泣きに泣き立てる。 留公『アハヽヽヽ、それだから田吾作、貴様は馬鹿だと云ふのだよ、それ程可愛い芋なら大きうなつた奴を何故釜煎にしたり庖丁にかけて喰ふのだ。そんな矛盾な事を云ふからキ印だと云はれるのだ。モシ宣伝使さま、ちつと理屈が合はぬぢやありませぬか』 としたり顔に云ふ。 田吾作『それはそうだけれど……何だか可憐相で仕方が無い哩、西も東も知らぬ弱い赤子を無残にも斯んなに虐殺すると云ふ事があるものか、芋は芋としての寿命がある筈だ。秋が来て蔓が枯れた時は寿命の尽きた時だ、そこで喰ふのなら芋も得心するであらう、折角お前も生れて来て不運な奴だのう』 と又も涙含む。 留公『オイ田吾作、貴様は人の命が大切か、芋の子が大切か、何方を主とするのだ』 田吾作『きまつた事よ、貴様は芋で譬たら良い喰ひ頃だ。此世に最早用の無い代物だから別に惜しくも無ければ、国家の損失でも無い。却つて社会の塵埃掃除が出来た様なものだい』 真浦『アハヽヽヽ、随分面白い芋論を聞かして貰ひました、併し乍ら万物一切皆神様の霊が宿つてゐるのだから、貴賤老幼草木器具の区別なくそれ相当の霊魂がある。万有一切は総て神様の大切なる御霊が宿つてるから、木の葉一枚だつて粗末にしてはなりませぬぞや』 田吾作『そら見たか、留州、キ印の阿呆の云つた事でも矢張天地の真理に適つて居るのが、ちと妙ではないか』 留公は首を傾け手を組んで青芝の上に端坐し何事か頻りに考へて居る。漸くにして顔を上げ、 留公『ヤ、何事も氷解しました。田吾作どの、どうぞ怺へて呉れ、之からは決してもう斯んな事はせないから……』 田吾作『何と云つても斯うなつた以上は仕方は無い、今後は気をつけて呉れ。芋ばつかりぢやないよ、豆だつて麦だつて皆其通りだからなア』 留公『ハイ承知致しました、ちつと心得ます』 と以前に変つて丁寧に挨拶する。 真浦『アヽ之で凡ての解決がついた、芋の死骸で最早平和克復だ。サア之からバラモン教の友彦さんにお目に掛つてお話を承はりませうか』 と行かむとするを留公は引き留め、 留公『モシ、宣伝使様、一寸待つて下さい、貴方只一人でお出でになつては大変です、私等は勝手を能く覚えて居ますが、私の離座敷に宣伝使が置いてある、そこに神様も祀つてあります。然し乍ら家の周囲に広い深い溝が掘つてあつて迂濶跨げようものなら……それこそ大変……生命が無くなりますぜ』 真浦『それは本当の話か』 留公『本当ですとも、現在私の家ですもの、何間違つた事を云ひませう。軒下を貸して母屋を取られると云ふ譬の通り、初め乞食の様な態をしてやつて来た友彦の宣伝使が、今では大変な勢で私の座敷や本宅を我物顔に振舞ひ、私は丁稚役、主客顛倒も之位甚しい事はありませぬ。私は初めの頃は実に立派な宣伝使だと思つて現を抜かし、云ふが儘にして居りましたが、此頃の宣伝使の言行の一致せない事、実にお話になりませぬ。けれども私が率先して村中の者に勧め廻つたと云ふ廉があるので、今更責任上此宣伝使は喰はせ者だつたと云つて告白する訳にもゆかず、本当に困り抜いて居つた所ですが、最前松鷹彦の宅へ使に行つた時、奥の間に何百人とも知れぬ人声で宣伝歌が聞えて来た。その声の恐ろしさ、実に無限の威力が備はつて居ました。私はバラモン教は愛想がつき三五教へ入信したいので御座いますが、あの様な頭の割れる宣伝歌を謡はれては困るなり、如何したら良いでせうかなア』 真浦『宣伝歌は聞けば聞く程気分が良くなつて来るものだ。お前に憑依して居る副守護神が嫌ふのだ、それさへ体内より放逐して仕舞へば何でも無いのだ。さうしてあの小さい家に百人も居る筈がない、其実は私一人より居らなかつたのだ』 留公『イエイエそれでも沢山なお声でした。年寄の声、若い者の声、鈴の様な綺麗な女の声も聞えましたがなア』 真浦『そら、そうだらう、沢山な神様が集まつて宣伝歌を合唱遊ばす事が始終あるからだ。そりやお前の神徳の頂け口だ、天耳通の開けかけだから安心して吾々の唱ふるお道へ這入るが宜からう』 留公『そんなら私を入信させて下さいますか』 真浦『アヽ宜しい宜しい、何卒入信して下さい』 留公『之は有難い、もう斯うなる上は百人力だ。オイ田吾作、お前も仲直りをした以上は、俺と同様に此方に従つて三五教を信仰しようぢやないか』 田吾作『ウンそうだ、さうなれば此村も天下泰平だ。毎日日にち血を見る残酷な行を強圧的にさせられる心配も要らず、定めて女子供が喜ぶ事だらう』 真浦『然し私がお前の宅へ出張すれば、友彦の宣伝使が随分妙な顔をするだらうなア』 留公『そりや致しませうとも、今迄は無鳥郷の蝙蝠気取りで随分威張つて居ましたが、上には上があるから何時迄も世は持ちきりにはなりますまい、之が良い切り替へ時でせう。サアサア世の立替立直しは之からだ、天の岩戸の開け口だ』 と雀躍し乍ら先に立ち二人を伴ひ吾家を指して帰り行く。 留公は矢庭に友彦の割拠せる離座敷に躍り入り、 留公『サア友彦、今日から一寸都合があるので此家を開けて貰ひ度いのだ。俺も今迄はバラモン教のお世話係をやつて来たが、お前さんから除名されてからは何時迄も此家を貸す訳にはゆかない。之から三五教の宣伝をしようとするのだから、未練残さずトツトと帰つてお呉れ』 友彦は怪訝な顔して、 友彦『オイ留公、そりや何を云ふのだ。貴様、初めに何と云つた、……私の家はお粗末乍ら一切神様にお供へします。……と大勢の前に立派に誓つたぢやないか』 留公『そりや誓ひました、否違ひました。然し神様に上げるも上げぬもない、世界中皆神様のものだ。仮令上げると云つた所でお前に上げたのぢやない、天地の元の大神様に奉つたものだから、何卒出て呉れやがれ』 友彦『左様な不都合な事を申すと神罰は立所に当るぞ、それでも宜いか、此友彦だつて天地の大神様、殊に大国別の神様の生宮だ、神様の生宮が神様の家に居るのだ、貴様の様な四足の容器とは違ふぞ、エヽ穢らはしい、トツト出てゆけ。左様な無体な事を申すと神様は兎も角として村中の信者が承知致すまいぞ』 と信者をバツクに落日の孤城を固守せむとする。 留公『何といつても、もう駄目だよ。零落ぶれて袖に涙のかかる時、人の心の奥ぞ知らるると云つてな、除名された俺は村中の除外者になり、何処へ頼る所もなし、自暴自棄となつて田吾作の芋畑に駆込み、事の起りは此奴ぢやと芋の赤子を片端から踏み殺す最中に、一人で百人の声を出すと云ふ立派な三五教の宣伝使が其処に忽然として現はれ給ひ、此留公の頭を、膝に上つた猫でも撫でる様な調子で可愛がり、一の乾児にして下さつたのだ。サアサア早く出立致さぬと表に三五教の御大将が見張つて御座るぞ』 友彦『何、三五教の宣伝使が見張つて居るとな、大方武志の宮の神主の宅に去年の冬から潜伏して居た守彦と云ふ弱腰宣伝使だらう。バラモン教の友彦が威勢に恐れて今まで蟄伏して居た蛙の様な代物だ、そんな者が仮令千匹万匹やつて来たとて驚くものかい。万々一此場へ進んで来ようものなら、それこそ神界の御仕組の陥穽に真逆様に顛倒し生命を捨つるは目の当りだ。心配致すな、貴様も今日限り除名処分を取消すから安心せい』 留公『何を吐きやがるのだ、取消も何もあつたものかい、三五教の宣伝使は俺の詳細なる報告に依つて陥穽の箇所は全部承知して御座るのだ。さうして俺は案内役だから滅多に別条は無い、吾身の一大事が迫つて来て居るのにお前、人の疝気を頭痛に病む様な馬鹿な真似はなさいますなや。大きに御心配……有難う』 と長い舌を出し、両手を鳶が羽翼を拡げた様な風にして二三遍虚空を掻き、尻をニユツと突出して舞うて見せる。 友彦は祭壇の前に額き祈願の詞を奏上し、言霊戦を以て真浦の宣伝を撃退せむと、声張り上げて謡ひ初めたり。 友彦『常世の国を守ります大国彦の大神の 珍の御裔と現れませる大国別の大神は 仁慈無限の救世主常世の国より遥々と イホの国迄渡りまし霊主体従の御教を 開かむ為に霊幸ふ神に等しき鬼雲の 彦の命や鬼熊別や其他数多の神々を 豊葦原の中津国メソポタミヤの顕恩郷 果実豊な楽園に本拠を定めフサの国 ツキの国まで教線を拡め給ひて自転倒の 島に又もや下りまし大江の山を中心に 神の光を三岳山鬼をも拉ぐ鬼ケ城 伊吹の山まで開きまし世人を救ひ助けむと 心を尽し魂を錬り此世を乱す悪神の 神素盞嗚の枉津見が下に仕ふる悦子姫 鬼武彦や高倉や旭、月日の白狐等が 悪逆無道の振舞に時を得ずして本国へ 一先づ退却し給へど必ず捲土重来の 時こそ今に近づきてコーカス山やウブスナの 山に建つたる斎苑館黄金山はまだ愚 自転倒島の中心地世継王の山の辺傍 錦の宮を忽ちに手の掌翻す其如く 土崩瓦解は目の当り先の見えたる三五の 神の教は風前の灯火の如く日に月に 危険益々迫り行く実に憐れな其教義 それをも知らぬ守彦が天の使と名乗りつつ 図々しくもバラモンの神の使の友彦が 館を指して来るとは飛んで火に入る夏の虫 それに従ふ留公や田吾作野郎の蚯蚓きり 蛙もきれぬ分際で神徳高き友彦に 刃向ひ来るとは何事ぞ身の程知らぬも程がある 天が地となり地が天と変る此の世が来るとても 三五教に迷ふなよ霊主体従の此教義 誠一つの神界の深き経綸は三五の 浅き教ぢや分らない飯守彦の宣伝使 留公田吾作諸共に今から心を立直し バラモン教の神徳を受けて身魂を研き上げ 神世を来す神業に心を尽し身を尽し 天地に代る功績を千代万代に樹てよかし これ友彦が詐らぬ誠一つの言葉ぞや 言霊幸はふ世の中に善ぢや悪ぢやと何の事 朝日が照るとか曇るとか月が盈つとか虧くるとか 大地が泥に沈むとか世人欺くコケ嚇し そんな馬鹿げた言霊を之だけ開けた世の中の 人が如何して聞くものか馬鹿を尽すも程がある 一時も早く目を覚せ神の心は皆一つ 世界の氏子を助けむと大国別の御言もて 憂瀬に沈む民草を救はせ給ふ有難さ 一度は喰つて味はへよ喰はず嫌ひは仕様がない 苦けりや吐き出せ甘ければ遠慮は要らぬドシドシと 心ゆく迄喰ふがよい善の中にも悪がある 悪の中にも善がある三五教は表向 善と雖も内実は悪鬼悪魔の囈言ぞ バラモン教は表から眺めて見ても善である 裏から見ても亦善ぢや其内実は殊更に 善一筋で固めたる昔の元の神の道 斯んな結構な御教を調べもせずに一口に 悪の雅号で葬りて此世を潰さうと企む奴 憎さも憎い三五教一時も早く留公よ 飯守彦と云ふ奴の甘い言葉にのせられて お尻の毛迄抜かれなよ憐れみ深い友彦が 真心籠めて気をつける大国別の神様よ 彼等が心に生命を与えて再びバラモンの 神の教に救ひませあゝ惟神々々 御霊幸はひ坐ませよあゝ惟神々々 御霊幸はひ坐ませよ』 と口から出任せに汗をブルブル流し乍ら呶鳴り立てて居る。留公は此歌を聞いて躍起となり、 留公『オイ、バラモン教の御大将、随分立派な言霊だのう。雲烟模糊として捕捉すべからず、支離滅裂、聞くに堪へざる亡国の悲歌、そんな事を囀ると天地が暗くなつて仕舞ふ哩。サア之から此留公が十一七番の宣伝歌を謡つてやらう、耳を浚へて謹聴せい』 と長々と前置してエヘンと一つ咳払ひ、鷹が翼を拡げた様な手付で腰を屈め足を踏ん張り、右や左へ身体を揺ぶり乍ら奇声怪音を放つて揺ひ出した。 留公『此処は名に負ふ秘密郷四面深山に包まれて 中を流るる宇都の川流れも清く澄み渡る 武志の宮の御住家大江の山を破壊されて 逃げて出て来たバラモンの言霊濁るども彦が 鳥なき里の蝙蝠か蛇なき里の青蛙 威張散らして村人を何ぢやかんぢやとチヨロまかし 霊主体従を標榜し利己一片の強欲心 最極端に発揮して宇都山村の婆、嬶を 有難涙に咽ばせつ遂に進んで吾々も 慣用手段の口の先一寸うまうま乗つて見た さはさり乍らつくづくと胸に手を当て真夜中に 臥せりもやらず窺へば表面を包む金鍍金 愈色は剥げかけた時しもあれや三五の 誠一つの宣伝使天の使の守彦が 雲路を分けて下りまし武志の宮の御前に 現はれました雪の道雪より清い神心 松鷹彦の住む家に去年の冬から出でまして 世界の立替立直し天地百の神等を 宇都の川辺に呼び集め神徳茲に備はつて バラモン教の枉神を言向け和し如何しても 往生致さな是非はない神の定めの根の国や も一つ違うたら底の国万劫末代上れない 根底の底のまだ底の真黒暗のドン底へ 落してやらうかこりや如何ぢや此世でさへも限りがある 早く心をきり替へて瓦落多教に暇呉れて 誠の神の開きたる三五教に帰順せよ 俺も長らく友彦を師匠と仰いで来た誼 別れに際して親切に誠心で気をつける 気をつけられた其中に聞かねば後は知らぬぞよ 神の心を取り違へ留公さまの真心を 無にするならばするがよい皆お前の身の上に かかつて来ること許り俺はもう早や三五の 神の教に帰順したバラモン教に用は無い とは言ふものの人は皆同じ御神の分霊 世界同胞の誼もて一度は忠告仕る 早く改心して呉れよ決して俺に損得の 一つも関はる事ぢやないみんなお前が可愛から お前が改心するなれば宇都山村の神村も 天下泰平無事安穏五穀成就目のあたり 改心せなけりや是非も無い留の腕には骨がある 天地の神になり代り貴様の雁首引き抜こか 眼玉を抜こか舌抜こか地獄の鬼ぢやなけれども 止むに止まれぬ大和魂とめてとまらぬ留公が 思ひ詰めたる善の道道に迷うた里人を 助けにやならぬ此場合先づ第一に友彦が 改心すれば三五の神の司と手を引いて 元は一つの神の道腹を合して仲好くし お道を開く気はないか早く薫しい返事せよ 返事がなければ是非が無い芋の赤子を潰す様に 片つ端から踏みにじり鬼の餌食にしてやろか サアサア早うサア早うお返事なされよ三五の 誠一つの宣伝使言霊戦を開いたら とても敵はぬ尻に帆を掛けて走らにやなるまいぞ そんな見つとも無い事をするより早く我を折つて 改心なされ改心をすれば忽ち其日から 喜び勇んで神界の御用が屹度出来ますぞ 三五教が善なるか又悪なるか俺や知らぬ 俺の感じた動機こそ不言実行の誠のみ バラモン教は善の道善ぢや善ぢやと謡へども 言心行が一致せぬ一致を欠いだ御教は 半善半悪雑種教斯んな教が世の中に 若しも拡まるものならば世界の人は悉く みんな不具者になつて仕舞ふ生血に飢ゑたる枉神の 醜の企みと知らないかお前も天地の御徳にて 生れ出でたる神の宮悪魔の巣ふ破れ屋と なつて天地の神々に如何して言訳立つものか 早く改心してお呉れ留公さまが一生の 誠尽しのお願ぢや之程誠で頼むのに 首を左右に振るならばもう是非なしと諦めて 直接行動にとりかかる返答聞かせ友彦よ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むともお前一人は如何しても 改心させねば措かないぞあゝ惟神々々 御霊幸はひ坐しまして頑固一途の友彦が 心を照させ給へかし身魂を光らせ給へかし』 と敵やら味方やら訳の分らぬ歌を謡ひ首をすくめ、糞垂れ腰になつて、左右の手を胸の四辺にかまきりがすくんだ様な手付し、ピリピリ慄ひ乍ら左右の足を一所にキチンと合せ待つて居る。その可笑しさに友彦も、跟いて来た田吾作も、思はず声を上げて笑ひ転けたり。 (大正一一・五・一二旧四・一六北村隆光録) |
|
14 (1850) |
霊界物語 | 24_亥_豪州物語1(高姫と蜈蚣姫) | 10 土人の歓迎 | 第一〇章土人の歓迎〔七四〇〕 南洋一の竜宮島アンボイナをば後に見て 救ひの船に身を任せ進み来れる高姫や 蜈蚣の姫の一行は夜を日に継いでオセアニヤ 一つ島根に渡らむと心勇みて漕ぎ来る 時しもあれや海中にすつくと立てる岩島を 左手に眺めて進み行く俄に海風吹き荒び 浪高まりて船体を操る術も無きままに 浪を避けむと岩島の蔭に漕ぎつけ眺むれば 怪しき影の唯二つ何者ならむと立ち寄つて 素性を聞けば錫蘭島のチヤンキーモンキー両人が 顕恩城の小糸姫竜宮城[※校定版・八幡版では「竜宮洲」に修正されている。]へ送る折 俄の時化に船を破り茲に非難し居たりしを 漸く悟り高姫は日頃探ぬる神宝の 匿せし場所は此島と疑惑の眼光らせつ 二人の男を引つ捉へためつ賺しつ尋ぬれど 元より訳は白浪の中に漂ふ二人連れ 取つく島も泣き寝入り蜈蚣の姫は両人が 話を聞いて仰天し小糸の姫は世の中に もはや命は無きものと悲歎の涙に暮れながら 船底深くかぢりつくころしもあれや南洋に 其名も高き一巨島テンカオ島は海中に 大音響と諸共に苦もなく沈みし勢に 海水俄に立ち騒ぎ水量まさりて魔の島を 早一呑みに呑まむとす高姫其他の一同は 九死一生の苦しみに生きたる心地も荒浪の 肝を潰せる折柄に黄昏時の海原を 声を目当に進み来る救ひの船に助けられ やつと安心胸を撫で進む折しも玉能姫 初稚姫や田吾作の助けの船と悟りてゆ 高姫持病は再発し竹篦返しの減らず口 頤を叩くぞ憎らしきあゝ惟神々々 神の恵は何処までも悪の身魂も懇に 誠の教に導きて救ひ給ふぞ有難き 玉治別の漕ぐ船は夜に日を重ねてやうやうに ニユージランドの沓島の磯端近く着きにけり 浪打ち際に近づけば思ひもよらぬ高潮の 寄せては返す物凄さ船の操縦に悩みつつ スマートボールや貫州やチヤンキーモンキー諸共に 汗を流して櫂を漕ぎ漸く上陸したりける あゝ惟神々々御霊の幸ぞ尊けれ 神の恵ぞ畏けれ。 物珍らしげに島の土人は小山の如く現はれ来り、口々に手を打ち「ウツポー、クツタークツター」と叫びゐたり。これは「珍しき尊き神人来り給へり」と云ふ意味なり。一同は「ウツポー、クツタークツター」の諸声に送られ、禿計りの島に似合はず、樹木鬱蒼たる大森林の樹下に導かれ、珍しき果物を饗応され、神の如くに尊敬されたりける。 友彦は得意満面に溢れ、言語の通ぜざるを幸ひ、猿の如く大樹の枝にかけ登り、懐より麻を取り出し左右左に打ち振りながら、 友彦『ウツポツポーウツポツポー、テンツルトウテンツルトウ、チンプクリンノチンプクリン、プクプクリンノプクプクリン、ペンコペンコ、チヤツクチヤツク、ジヤンコジヤンコ、テンツルテンノテンツルトウ、トコトンポーリートコトンポーリー、カンカラカンノケンケラケン、高姫さまのガンガラガンノコンコロコン、蜈蚣姫のパーパーサン、コンコンチキチン、コンチキチン、小糸の姫の婿様は、トントコトンの友彦が、ウツパツパーウツパツパー、シヤンツクテンテンツクテンテン、キンプクリンノフクリンリン』 と囀り初めたり。数多の土人は一行中の最も貴き神と早合点し、随喜の涙を零し合掌しゐたり。スマートボールは又もや駆け登り、矢庭に木の枝を手折り、左右左に打ち振り、 スマートボール『ウツポツポーウツポツポー、キンライライノクタクタライ、キンプクリンノキンライライ、ウツポツポーウツポツポー』 と囀り出したり。スマートボールは自分の云うた事を自分ながら些とも解して居ない。されど土人の胸には、先に上つた友彦よりも最上位の神たる事を悟りたり。友彦は又もや、 友彦『ウツポツポー、ペンペコペン、ウツポツポ、パーパーサン、エツポツポー、エツポツポー』 と囀り出したり。是は土人の言葉に対照すると、 『二人の女は真の平和の女神だ。さうして若い方の婆アは悪党だ。色の黒い婆アは一つ島の女王の母上だ』 と云ふ意味になる。数多の土人は蜈蚣姫の前に跪き、手を拍ち嬉し涙に暮れながら恭敬の意を表し、踊り狂ひ、其次に玉能姫、初稚姫を胴上げにし「エイヤエイヤ」と声を揃へて森の木蔭を舁ぎ廻り、踊り狂ふ其可笑しさ。玉能姫、初稚姫は様子分らねど、兎も角も自分等を尊敬せしものたる事は、其態度に依つて悟る事を得たりける。 森林の最も高き所に七八丈許りの方形の岩が、地の底から湧き出たやうに現はれ居たり。其上に玉能姫、蜈蚣姫、初稚姫の三人を舁ぎ往き、種々の果物を各自に持ち来り、所狭き迄並べ立て、此岩を中心に踊り狂ひ廻つた。残りの一隊は大樹の下に移り往き、何事か一生懸命に祈願し初めたり。 玉治別は一向構つて呉れないのに稍悄気気味となり、又もや樹上に駆け登り木の枝を手折つて、前後左右に無精に打ち振り、 玉治別『ウツパツパーウツパツパー、キンライライノクタクタライ、ラーテンドウラーテンドウ』 と幾度も繰返しける。此意味は、 『吾は海底の竜神、今此島を平安無事ならしめむために現はれ来り』 と云ふ事になる。又もや土人は玉治別を一生懸命に拝み初めたり。スマートボールは、 スマートボール『パーパーチンチン、パーチンチン』 と囀りぬ。数多の群集は各尻をまくり、高姫の身辺近く取り巻き「我臀肉を喰へ」と云ふ意味にて、 土人『パーパーキントウ、キントウ、パーパーキントウ、キントウ、パースパース』 と云ひながら御丁寧に一人も残らず尻をまくりて、三間許り四つ這になり、各此場を捨てて、初稚姫等が坐せる石の宝座の方に、先を争うて進み行く。 樹下に蹲踞み、感涙に咽んで居る数十人の、残つた土人の敬虔の態度を眺めた高姫は、そろそろむかづき初め、 高姫『これこれ此処の土人さま、お前は何と思つて居るか。あの先に登つた奴は友彦と云ふ、それはそれは恐ろしい、人を騙して金を奪り、嬶盗人をやつた悪い悪い男だよ。そして後から上つた細長い猿の様な男はスマートボールと云ふ、最前行つた蜈蚣姫の乾児の中でも一番意地くねの悪い代物だ。三番目に登つた奴は神でも何でもない。自転倒島の宇都山の里に、蚯蚓切りの蛙飛ばしを商売にする、田吾作と云ふ男だ。如何に盲千人の世の中だと云うても、取違ひするにも程がある。此中で一番尊い御方は日の出神の生宮たる此高姫だよ、取り違ひをするな』 と癇癪声を張り上げながら、自分の鼻先をチヨンと押へて見せたれど土人には何の事か一つも通ぜず、歯脱け婆が気を焦つて、尻をかまされた腹立紛れに怒鳴つて居るのだ位に解され居たり。一同の土人は高姫に向ひ、両手の食指を突き出し、左右の指を交る交る鼻の前に突出し、しやくつて見せたり。高姫も何事か訳が分らず、同じやうに今度は指を外向けにして、水田の中を熊手で掘るやうに空中を掻いて見せる。其スタイルは蟷螂の怒つた時の様子に似たりける。数十人の土人は何故か一度に頭を大地につけたり。高姫は調子に乗つて幾回となく空中を掻く。樹上の友彦は又もや、 友彦『エツポツポーエツポツポー、パーパーチクリン、パーチクリン、ポコポコペンノポコポコペン、ペンポコペンポコ、チンタイタイ』 と叫べば、一同はムクムクと頭を上げ、日に焦けた真黒な腕をニウと前に出し、一斉に高姫に向つて突きかかり来る。此時玉治別は樹上より、 玉治別『エイムツエイムツ、ツウツウター』 と叫ぶ。一同は俄に腕をすくめ、力無げに又元の座に平伏し、樹上の三人に向つて合掌し、何事か声低に祈り居る。 暫くありて玉能姫は、蜈蚣姫と共に初稚姫を中に置き、後前を警固しながら数多の土人に送られて、大樹の下に引き返し来りぬ。玉治別は調子に乗つて口から出任せに、 玉治別『ダールダール、ネースネース、ツツーテクテクテレリントン、ニウジイランドテテーポーポー、ツツーポーポ、タターポーポー、エーポーポー、エーツクエーツク、エーポーポー、エーツクエーツク、エーテイテイ』 と叫ぶや否や、土人の大多数は蜘蛛の子を散らすが如く此場を立ち去りにける。玉能姫は樹上を見上げながら、 玉能姫『玉治別さま、スマートボールさま、早く下りて下さい、玉能姫は一つ島に往かねばなりますまい。サア早く早く』 と手招きするにぞ、三人は此声に応じて、ずるずると樹下に苦もなく下り来たりぬ。暫くありて土人は満艦飾を施したる立派な船を一艘と、其他に堅固なる船十数艘を率ゐ来り、中には至つて見苦しき泥船一艘を交ぜて居た。最も麗しき船に玉能姫、初稚姫、蜈蚣姫を丁寧に寄つて集つて舁ぎながら、恭しく乗せた。玉治別は我乗り来りし船に、スマートボール、友彦と三人分乗した。久助、お民は土人と共に麗しき船に乗せられた。チヤンキー、モンキー及び高姫は泥船に無理に捻込まれ、艫を漕ぎながら、数百人の土人は大船に満乗して、一つ島目蒐けて送つて行く。高姫は不平で堪らず、種々と言葉を尽して……日の出神の生宮を最も立派な船に乗せるのが至当だ、玉能姫ナンカは普通の船でよい……と身を踠いて喋り立てたが、土人には一向言葉も通じないと見えて、 土人『エツポツポーエツポツポー、パーパーチツク、パーチツク』 と云ひながら、一つ島目蒐けて進み行く。玉治別は船中にて宣伝歌を歌ひ初めたり。 玉治別『コーツーコーツーオーリンスセイセイオウオウオウセンス チーサーオーサーツウツクリンコモトヨコモト、カンツクリン ターツーテーツーテーリンスノウミスノウミスヨーリンス メースヤーツノーブクリン』 と歌ひ出しぬ。土人は此声に随喜の涙を澪し、手を拍つて合掌したり。この意味は、 『神が表に現はれて、善と悪とを立て別ける、此世を造りし神直日、心も広き大直日、唯何事も人の世は、直日に見直せ聞き直せ、身の過ちは宣り直せ』 と云ふ宣伝歌の直訳なり。玉治別は此島の神霊に感じ、俄に南洋の語を感得したるなりき。其他の一同も、残らず此島に上陸して神霊に感じ用語を悟りぬ。されど我慢にして猜疑心深き高姫には、一語も神より言葉を与へ給はざりしなり。船中は残らず南洋語で持ち切り、恰も燕の巣の如く「チーチーパーパー、キウキウ」の声に満たされ、漸くにして一つ島のタカ(テーク)の港に無事上陸したりける。 土人の中にても最も羽振の利いた酋長のカーチヤンは、二三人の供人と共に辛うじて港に上陸するや否や、黄竜姫の鎮まる王城の都を指して、蜈蚣姫一行の到着を報告すべく、一目散に島内深く姿を隠しけり。 初稚姫、玉能姫、蜈蚣姫は土人の手車に乗せられて、之を舁ぐやうな体裁で、「エツサアサアエツサアサア」と云ひながら都をさして送られて行く。玉治別は驢馬に跨がり、友彦其他を従へ悠々として土人の一隊に守られ進み行く。高姫は非常の侮辱と虐待を受けながら意気銷沈の体にて、恨めしげにとぼとぼと、どん後から随従て往く。往く事数十丁、前方より麗しき輿を舁ぎ、騎馬の兵士数十人、前後につき添ひ、威風堂々として来る真先に立てる勝れて背の高い男、馬上より、 ブランジー『我こそは黄竜姫の宰相、ブランジーと申すもの、今日は女王の御母上蜈蚣姫様御来臨と承はり、これ迄お迎ひのため罷り越したり。……サア蜈蚣姫様、この輿にお乗り下さいませ』 とすすむるにぞ、蜈蚣姫は意外の待遇に嬉しさ余つて言葉も得出さず差俯むき居る。群衆は何の容赦もなく手車の儘輿の傍に近づき、御輿の戸を開けて、蜈蚣姫を乗らしめたり。初稚姫、玉能姫は土人の手車に乗りしまま輿の後に従ひ行く。 行く事数十丁、忽ち黄竜姫の城内に一同迎へ入れられ、御輿は玄関の前に据ゑられける。此時黄竜姫はクロンバーを従へ玄関に立ち現はれ、輿より出づる蜈蚣姫の手を取り、嬉し涙を湛へながら奥深く姿を匿しけり。クロンバーは玄関に佇み、一行の姿を見やりながら、 クロンバー『ヤアお前はお節ぢやないか。お初、何ぢや偉さうに手車に乗つて……慢神するにも程がある。ヤア田吾作、スマートボールに鼻の先の赤い男、ヤア何とした今日は怪態な日だらう。高山さまも高山さまだ、なぜコンナ代物を迎へ入れたのだらう……それにつけても高姫さま、酷い事を仰有つて私を追ひ出しなさつたが、嘸や今頃は心細く思うて居なさるだらう、アヽお哀憫しい。コンナ連中に遭ふのも嫌だが、高姫さまに何うかして一目遭ひたいものだ』 と独り呟き居る。玉能姫、初稚姫はクロンバーに向ひ、 初稚姫『ヤア貴女は三五教の黒姫さまでは御座いませぬか、妾は初稚で厶います』 黒姫『ハイ、左様で御座います。世間は広いもの、自転倒島に居つて、皆さまに笑はれ譏られ、邪魔計りしられて居りましては真実の神力が出ませぬが、此広い島に渡つて来て自由自在に神力を発揮し、今では此通り立派な一国の宰相の北の方となりました。お前さまは矢張言依別命について自転倒島を宣伝に廻り、失敗の結果、又ボロイ事があらうかと思つて、南洋三界迄彷徨うて来なさつたのだな。ウンよしよし、世界に鬼は無い。改心さへ出来れば黒姫が助けて上げよう。窮鳥懐に入れば猟師も之を取らずと云ふ事がある。もうかうなつては今迄のやうに我を張らずに、お節……ハイ、……お初……ハイ……と云うて黒姫に絶対服従をなさるのが身の為めぢやぞエ。……お前は田吾作ぢやないか。矢張周章者は周章者ぢや。自転倒島ではもう相手が無くなつたかや。オホヽヽヽ、気の毒な事いのう』 玉治別は余りの侮辱にむツとしたが、堪忍袋を押へて素知らぬ顔にて笑ひ居る。ブランジーの高山彦は馬に跨がり乍ら、 高山彦『ヤアヤア数多の人々、遥々御苦労なりしよ。城の馬場に沢山の酒肴の用意もしてあらば、自由自在に飲み食ひしてお帰り下さい』 群衆はウローウローと云ひながら、雪崩を打つて城門を駆出し、広き馬場に列べられたる酒肴に舌鼓をうち、酔が廻るに連れて唄ひ舞ひ、踊り狂ひ、歓喜の声は天地も揺ぐ許りなり。 高姫は悄々として、漸く玄関に現れ来り、黒姫の姿を見るより、矢庭に飛び込み獅噛みつき、 高姫『アヽ貴女は黒姫様、お久しう御座います』 また黒姫は、 黒姫『アヽ貴女は高姫様、会ひたかつた、懐かしや』 と他所の見る目も憚らず、互に抱きつき嬉し涙に掻き曇る。 高山彦は馬を乗り捨て其場に現はれ、 高山彦『高姫さまですか、私は高山彦ですよ。ようまア来て下さいました』 と涙含み乍ら、二人の手を取り奥深く進み入る。玉治別、初稚姫、玉能姫其他の一同は裏門より密に逃れ出で、裏山の森林に姿を隠し息を休め居たりける。 (大正一一・七・三旧閏五・九加藤明子録) |
|
15 (1865) |
霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 03 交喙の恋 | 第三章鶍の恋〔七四九〕 宇豆姫『神素盞嗚大神の御言畏み顕恩の 郷に現れます梅子姫二八の春の花盛り 木の花姫の一時に匂ひそめたる唇を 開いて宣らす三五の神の大道に心より 麻柱ひ奉りバラモンの神の教を振り捨てて 梅子の姫の侍女となり貴の教の宇豆姫と 慈しまれて仕へ居る時しもあれや太玉の 神の司の宣伝使顕恩郷に現れまして 鬼雲彦を初めとし鬼熊別や其外の 拗け曲れる枉人を雲の彼方に逐ひ払ひ ここに太玉神司顕恩郷に三五の 教の射場を建て給ひ妾は各々八乙女の 神の司に従ひてエデンの園に臨まれし 五十子の姫や梅子姫今子の姫と諸共に 波斯の国原彼方此方と教を伝ふ折柄に バラモン教の宣伝使片彦釘彦其外の 枉の司に捕へられ棚無小舟に乗せられて 荒波猛る海原に押流されし恐ろしさ 吾等四人は皇神の救ひを求めて各自に 天津祝詞を宣りつれば万里の波濤も恙なく 音に名高き竜宮の黄金の島に上陸し 小糸の姫と諸共に地恩の郷に現はれて 三五教の大道に仕へまつれる折もあれ 思ひがけなき蜈蚣姫数多の供人引きつれて 此処に現はれましましぬ地恩の城は日に月に 神の恵の加はりて一度に開く兄の花の 匂ふが如く栄え行くアヽさり乍らさり乍ら 往く手に塞る恋の闇千歳の松の鶴さまが 月照る夜半に庭の面彷徨ひ遊ぶわが姿 認めて後より抱きつき心の丈を繰返し 誘ひ給ふ嬉しさに胸轟きて何となく 河瀬の鯉の一跳に昇り詰めたる吾が恋路 水泡と消えて跡もなく云ひ寄る術も泣くばかり 後に至りて吾心天を仰いで悔めども 心の中の曲者に取り挫がれて胸の火の 消ゆる術なき苦しさよ妾が心を白雪の 冷たき魔の手に捉へられ退引ならぬ言の葉に 解くる由なき冬の雪心の色も清公が 左守神を笠に着て云ひ寄り給ふ苦しさよ 情なく当りし恋人に詫びる事さへ口籠り 心の悩みを大空の月に向つて歎つ折 又もや一つの影見えて吾手を掴み木下暗 四辺憚り声ひそめ吾は清公ブランジー 左守神と選ばれし栄の身なれど何時迄も 一つ柱に三五の道を支へむ事難し 汝宇豆姫クロンバーの神の司と成りなりて 吾身と共に地恩城三五教の神徳を 天地四方に輝かし開かば如何にと執拗に 度重なりし口説ごと断る力もないじやくり 神に任せし身の上は如何なる事の来るとも 覚悟の前とは云ひながら心に添はぬ夫を持ち 長き月日を送るより一層気楽に独身者 やもめとなりて大神の教に仕へまつらむと 決心するはしたものの清公さまの矢の使ひ 引きてかやさぬ桑の弓撥き返さむ由も無く 如何がはせむと煩ひつ憂目を忍ぶ折もあれ 金銀鉄の三人はかたみに妾の前に出で 左守神の妻たれと言葉尽して説き立つる 嗚呼如何にせむ今の吾千尋の海に身を投げて 此苦しみを脱れむか神の咎めを如何にせむ 千思万慮も尽き果てて今は苦しき板挟み 恋しき人に肱鉄を喰はせて御心怒らせつ 心に合はぬ清公に日に夜に口説き責められつ 心の暗も知らぬ火の砕けて落つる吾涙 汲む人もなき地恩郷あゝ惟神々々 御霊幸倍坐まして日夜に慕ふ鶴さまに 夢になりとも吾思ひ伝へ給へよ三五の 道を守らす須勢理姫神の命の御前に 心を清めて願ぎまつる朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 鶴公さまに吾思ひ通さにや置かぬ桑の弓 女の思ふ真心は岩をも射貫くと聞くからは 通さざらめや吾が恋路恋し恋しと朝宵に 積る思ひの恋の淵浮ぶ涙は滝津瀬の 水に流してスクスクと落ち行く末は海の原 情も深き恋の海男波女波を乗り越えて 棚無船に梶を取り太平洋の彼方まで 互に手に手を取り交し真の神の御教を 開かせ給へ惟神御霊幸倍坐ませよ』 と、四辺に人無きを幸ひ、宇豆姫は述懐の歌を歌つて胸の縺れを解かむとして居る。 此処へ慌しく駆来れるスマートボールは、 スマートボール『コレハコレハ宇豆姫様、御機嫌は如何で御座います。貴女のお顔は何処となく憂愁の色が漂うて居るやうで御座います。如何なる事か存じませぬが、スマートボールの力に及ぶ事ならば、何なりと仰せ下さいませ』 と出しぬけの言葉に、宇豆姫は心の底まで見透かされたやうな驚きと、嬉しさをもつてスマートボールに向ひ、赭らむ顔に笑を湛へ、 宇豆姫『コレハコレハ何方かと思へばスマートさまで御座いましたか。御親切によく仰有つて下さいました。余り神様の御神徳の無限絶対なる御仁慈を思ひ出し、感謝の涙に暮れて居りました。貴方も相変らず御壮健で御神業に御奉仕遊ばされ、何よりも結構で御座います』 スマートボール『ハイ、有難う御座います。私が唯今参りましたのは他の事では御座いませぬ。貴女に折入つてお尋ね致したい事が御座いますので、失礼をも顧みず唯一人、男子の身を持ち乍ら女御一人の処へ参りました。貴女に取つては嘸々御迷惑にお感じなさるでせうが、決して私は不潔な心を持つて、女一人のお居間をお訪ねしたのでは御座いませぬ。何卒悪からず思召し下さいませ』 宇豆姫『スマートさま、其お心遣ひは御無用にして下さいませ。清廉潔白にして、信心堅固の誉高き貴方様、如何して左様な事を思ひませう。誰だつて貴方の行動を疑ふ者は有りませぬから、お気遣ひなさいますな。人間は平生の行ひが肝腎です。貴方の如く信用のある方なれば、何時お越し下さいましても些しも苦しうは御座いませぬ』 スマートボール『ヤア、それで安心致しました。私は御存じの通りの周章者、円滑な辞令を用ひて遠廻しに貴女の御意中を探る様な事は到底出来ませぬから、唐突乍ら、手つ取り早くお伺ひ致し度い事が有つて参りました』 宇豆姫『妾に対してお尋ねとは、それは何う云ふ事で御座いますか』 スマートボールは頭を掻き乍ら、 スマートボール『エー、実は………』 と云ひ悪さうにモジモジして居たが、斯くてはならじと腹を据ゑ、 スマートボール『宇豆姫さま………』 と改まつたやうな口調で切り出した。 宇豆姫『ハイ』 スマートボール『貴女の御存じの通り、此地恩城も三五教の大神の御神徳にて日に月に栄え、国民は其徳に悦服し、天下泰平に治まり、其上素盞嗚大神様の御娘子、梅子姫様を初め黄竜姫様の御母上まで、黄竜姫女王の神務を内助され、地恩城の組織は稍完全に定まりましたのは、お互に大慶の至りで御座います。就きましては、今迄教務に老練なる高山彦様がブランジーの職に就かせ給ひ、黒姫様はクロンバーのお役を遊ばし、夫婦息を合して陰陽合体の神務に従事されて来ましたが、御両人が当城を出立遊ばしてより、清公様が左守神としてブランジーの職を継がせられ、大変に吾々迄が喜んで居りまする。就てはクロンバーとして奥様を迎へねばなりませぬが、一寸人々の噂を聞けば、貴女様が清公さまの妻となり、クロンバーの職をお継ぎ下さるとの事、吾々は是を聞いて衷心より歓喜の涙に打たれました。併し乍ら人の噂は当にはなりませぬ。それ故失礼乍ら、直接貴女様にお目にかかつて御意中を承はらむとお尋ね致した次第で御座います。何卒御腹蔵なく私迄お漏らし下さいますまいか』 宇豆姫はさも迷惑さうな顔をしながら、 宇豆姫『左様な事、何方にお聞きなさいましたか。ほんに嫌な事で御座いますな』 スマートボール『イヤ誠に恐れ入ります。失礼な事をお尋ね致しました。併し貴女として、まさか……さう……ハツキリと、左様だと云ふ事は仰有り悪いでせう。其処は人情ですから、矢張……ヤア分りました。さうすると貴女の御精神は、クロンバーの職にお就き下さるお覚悟と拝察致します。何卒私のやうな愚者なれど、末長く可愛がつて下さいませ』 宇豆姫は周章て、 宇豆姫『モシモシ、スマートさま、滅相な事仰有いますな。妾は清公さまの妻にならうなぞとは夢にも思つた事は御座いませぬ。何卒誤解の無きやうにお願ひ致します』 スマートボール『さうすると貴女はモウ好い年頃、何処までも独身生活を遊ばすお考へですか』 宇豆姫『ハイ……イヽエ』 とモガモガする。 スマートボール『ハヽヽヽヽ、流石は乙女心の恥かしさ、ハツキリと仰有らぬワイ。三月の壬生菜と同じぢやないが、仕たし怖しと云ふ所ぢやな』 宇豆姫『オホヽヽヽ、好い加減な当て推量は止めて下さいませ。妾はまだ外に……』 スマートボール『エヽ、あなたはまだ外にと仰有つたが、其次を続けて下さいませな』 宇豆姫『厭なこと、好い加減に堪忍て下さいな』 スマートボール『イエイエ、貴女の一身上の大事は申すも更なり、本城に取つて重大な問題ですから、何卒ハツキリと私迄云つて下さいませ』 宇豆姫『妾は嫌で御座います』 スマートボール『これは迷惑、決して私は貴女に対して野心は持つて居りませぬ。又私のやうな軽薄な人間は嫌と仰有るのは当然です』 宇豆姫『さう悪く気を廻して貰つては困りますよ。決して決してスマートさま、貴方を嫌ひと云つたのぢや御座いませぬ』 スマートボール『ハテ、合点のゆかぬ。さうすると権要の地位にあるブランジーの清公様を嫌ひと仰有るのですか』 宇豆姫『ハイ、仮令天地が覆るとも、絶対に嫌で御座います』 と思ひ切つたやうに、ハツキリと云うて退けた。 スマートボール『ハテナ、実際当つて見なくては分らぬものだ。人の噂と薩張り裏表だ』 と呟く。 宇豆姫『どんな噂が立つて居りますかなア』 スマートボール『余り貴女に対して気の毒だから、もう云ひますまい』 宇豆姫『チツとも構ひませぬから云うて下さいませ。お願ひで御座います』 スマートボール『城内の噂では、貴女はあれだけ人気のある鶴公さまを蛇蝎の如く忌み嫌ひ、権要の地位にある左守神の清公さまに秋波を送り、非常に御熱心だと云ふ噂が立つて居りますよ。蓼喰ふ虫も好き好きとやら、何程地位が高くても、あれだけ大勢の者が忌み嫌ふ清公さまに電波をお送り遊ばすとは、貴女の日頃の立派なお心に照り合して、些しも合点が参らぬと思うて居りました。併し乍ら、今仰有つたお言葉が真実としますれば、何事も氷解致しました』 宇豆姫『ハイ、有難う御座います』 スマートボール『貴女は意中の人があれば、女房におなりなさるのでせうな、神の道は女としては夫を持つのが本当です。何卒私に包まず匿さず仰有つて下さいませ。どんな斡旋でも致しますから』 宇豆姫『ハイ、有り難う御座います。何うも不束な妾、何程此方から恋しい意中の人があつても、先方様にそれ丈けのお心が無ければ、到底末が遂げられませぬから、マア今の処、妾の夫になつて下さると云ふ人は御座いますまい。妾の好いと思ふ方は先方からエツパツパーとお出かけ遊ばすだらうし、先方様から妾をお望み下さる方に限つて妾の方から虫が好かず、何うも思ふやうに行かないものです。何と云つても長い一生の間暮さねばならぬ夫婦の間柄、気の合はぬお方と一生暮すのは不快で堪りませぬ。女は夫に絶対服従すべきものだと云ひますが、妾としては些しく道理に合はない様に思ひます。夫が如何なる事を云つても、妻として絶対服従を強らるるのは残酷です。夫婦は互に意見を交換し、相携へて行かねばならぬもの、然るに世間の夫婦を見ますると、女房は殆ど夫の奴隷か、玩弄物のやうな扱ひを受け、夫が何んな不始末な事を致しても、妻として是を云々する権利もなく、まさか違へば髻を掴んで打ち打擲をされ、不貞腐れ女、不柔順な妻と無理やりに醜名を着せられ実に無告の民も同様で御座いますから、妾は夫を持つならば、この間の消息をよく弁へた、物事のよく分つた方と夫婦になり、円満なホームを作り、神界の御用に面白く嬉しく、潔く奉仕する事の出来る夫を持ち度う御座います。男女同権と云つて、男子も女子も同じ神の分霊、どちらも無ければなりませぬもの、然るに夫婦となれば、最早同権ではありませぬ。夫唱婦随と云つて夫によく仕へ、何事にも服従するのが妻たるの道、併し乍ら無理解な夫に無理難題を強られ、夫の権利を振りまはされては不快で耐りませぬから、心の底より妻の境遇を憐れみ、同情心をもつて添うて下さる夫が持ち度いので御座います』 スマートボール『成る程、承はれば御尤も千万だ。吾々は未だ妻を持つた事もなし、夫婦の味は知りませぬが、女の心理状態はそんなもので御座いますかなア。ヤアもう承はつて人情の機微を窺ふ事が出来ました。併し貴女の最前のお言葉に、意中の人は先方から応じない……との意味を漏れ承はりましたが、意中の方と云ふのは何方で御座いますか』 宇豆姫『ハイ……』 と云つて俯いた儘、顔を匿す。 スマートボール『貴女、意中の人にエツパツパーをやられた時のお心持は、どんなにありましたかな。女の心も、男の心も同じ事、意中の女に撥かれた男は、層一層残念なものですよ。七尺の男子が女の為に肱鉄を喰はされ、天地の神に対して合す顔が無いと云うて、庭先の松で、首を吊らうとした立派な男がありますよ。併もその男は貴女に撥かれて……』 宇豆姫『エヽ何と仰せられます。妾に撥かれて首を吊りかけたとは、それは本当の事で御座いますか』 スマートボール『白ばくれ遊ばしてはいけませぬ。現に貴女は撥いたぢやありませぬか。撥かれた男は此の庭先の松で、プリンプリンと空中活動を開始して居た。私はフト通り合せて、驚いて命を救つた哀れな男が御座います』 宇豆姫『エヽ……』 と云つた限り、又俯く。 スマートボール『貴女は右守神鶴公さまを月照る夜半に、素気なくも蜂を払ふやうな目に遇はせ、恥を掻かせたのでせう、其男が寝ても覚めても貴女の事を思ひ詰め、此頃は貴女が清公さまの女房になられるとの噂を聞き、真実に可憐さうに、大悲観の極に落ちて居ますよ。貴女も余つ程罪な方ですな』 宇豆姫『エヽ、あの鶴公さまが、そんなに御熱心でゐらつしやるので御座いますか』 スマートボール『貴女のお嫌ひな鶴公さまが、そこ迄執着があるとお聞きになつては、聊か御迷惑でせうな』 宇豆姫『何うして何うして御勿体ない。妾はあんなお方に、仮令半時なりとも添うて見たう御座いますワ』 と真赤な顔をして、思ひ切つたやうに云ひ放ち、クレツと後を向き顔を匿した。 スマートボール『ヤア、それでやつと安心しました。流石は貴女お目がよう利きます。恋も其処迄ゆけば神聖ですよ。屹度私がお力になつて此恋を叶へさせますから、御安心下さいませ』 宇豆姫『…………』 斯かる所へ、金、銀、鉄の三人を従へ入り来つた黄竜姫は、言葉静に、 黄竜姫『宇豆姫様、……ヤア貴方はスマートボールさま、御都合の悪い所に参つたのではありますまいかな。お話が御座いますれば、暫く彼方に控へて御遠慮致しますから、御両人、お話を済ませて下さい。妾は次の間に控へてお待ち申して居ります』 此言葉を聞いた宇豆姫は容を改め、襟を正し、座を立つて下座に坐り、 宇豆姫『コレハコレハ、女王様、よくこそ被入せられました。どうぞ此方へ御着座下さいませ』 黄竜姫『左様なれば着座致しませう。時に宇豆姫様、貴女に折入つて申上げ度い事が御座いますから、……スマートボール、暫く席をお外し下さい。金、銀、鉄の三人も暫し遠慮召されや』 スマートボールは、 スマートボール『ハイ、承知致しました』 と素直に此場を立ち退いた。三人も次の間に姿を隠した。暫く両人の間には沈黙の幕が下りた。屋外には嵐の音轟々と鳴り渡り、庭園に咲き乱れたる花弁を惜気もなく散らして居る。晃々たる太陽の光は戸の隙間より細く長く線を引き、煙のやうな塵埃がモヤモヤと飛散して居るのが、キラキラと日光に輝いて不知火の如く見えて居る。 黄竜姫『モシ宇豆姫さま、御覧遊ばせ。斯の如く咲き乱れたる百の花に向うて、日天様が晃々と輝きたまふにも関はらず、雲も無きに暴風吹き荒み、落花狼藉、庭の面は一面に花蓆を敷き詰めたやうでは御座いませぬか。実に花永久に梢に止まらむとすれど嵐来つて是を散らす。樹木静ならむとすれど風止まず、子養はむとすれども親待たずとかや、世の中は或程度迄は、吾々人間の自由には成らぬもので御座いますな。夫婦の道だとて同じ事、自分の添ひ度いと思ふ夫に添へなかつたり、自分の嫌で耐らぬ男に一生を任さねばならぬ事は、まま世界にある習ひで御座います。何事も天地の間に生れた以上は、神様の大御心に任し、何う成り行くのも因縁と諦めて我を出さぬのが天地の親神様に対して、孝行と申すものでは御座いますまいか』 と遠廻しに網を張つて居る。其言葉を早くも感づいた宇豆姫は、ハツと胸を躍らせ乍ら素知らぬ顔にて、 宇豆姫『女王様の仰せの通り、世の中は人間の勝手にはならぬもので御座います』 と僅に応酬した。 黄竜姫『今改めて黄竜姫が、宇豆姫に申し渡す事が御座います』 と儼然として立ち上り、最も荘重な厳格な口調にて、 黄竜姫『此地恩城は、清公を以て左守神と神定め、ブランジーの職を授けたる事は、和女の既に知らるる所、就てはクロンバーとして和女を清公が妻に定めまする。黄竜姫の申す事、よもや違背はありますまい。サア直様御返事を承はりませう』 宇豆姫は胸に警鐘乱打の響き、地異天変突発せし狼狽へ方をジツと耐へ、さあらぬ態にて胸撫で下し、 宇豆姫『ハイ、有り難う御座います。不束な妾の如き者を、勿体無くもクロンバーの位置に据ゑ、畏れ多くも驍名隠れ無き清公様の妻にお定め下さいました仁慈無限の思召し、早速お受致しますのが本意では御座いますが、何卒暫く御猶予を下さいませ。熟考した上で御返事を致しませう』 黄竜姫『黄竜姫が心を籠めた夫婦の結婚、一時も早く良き返事をして下されや』 宇豆姫『ハイ、兎も角も熟考の上御返事を致しませう』 黄竜姫は些しく言葉を強め、 黄竜姫『もはや熟考の余地は有りますまい。神様の為め、お道の為め、身命を捧げた貴女、仮令少々お気に足らぬ所があつても、其処を耐へ忍ぶのが三五の道の教ゆる所、必ず必ずお取り違ひのないやうに……』 と退つぴきならぬ釘鎹、進退維谷まつた宇豆姫は、何の答もないじやくり、涙を呑み込む哀れさよ。 黄竜姫『一時の猶予を致しまする。其間に良く熟考をなさいませ。本末自他公私の大道を誤らないように、呉れ呉れも注意して置きます』 と又一つ千引の岩の重石をかけられ、宇豆姫は、煩悶苦悩の極に達し、慄い声になつて、 宇豆姫『黄竜姫様の御親切、有り難う存じます。暫くの御猶予をお願ひ致します』 と僅に口を切つた。黄竜姫は莞爾としてこの場を悠々と立ち去る。 後に宇豆姫唯一人、夢か現か幻か、夢ならば早く覚めよと、とつおいつ、思案に暮れて居たりしが、 宇豆姫『嗚呼矢張夢ではない。アヽ何うしようぞ。何うして是が耐へられよう。神様の御為、お道の為とは云ひながら、妾程因果なものが世に在らうか。何故に男に生れて来なかつただらう』 とワツと許り、大河に濁水氾濫し、堤防を崩潰せし如く、一度にどつと涙川、身も浮く許り泣き叫ぶ。廊下を通りかかつた右守神鶴公は、耳敏くも此声を聞きつけ、何事の変事突発せしかと慌しくドアを押開け進み入り、 鶴公『モシモシ、宇豆姫様、如何なさいました。腹が痛みますか……介抱さして下さいませ』 と親切に後に廻つて横腹の辺りを抱へた。癪を止むる男の力、恋の力と一つになつて宇豆姫は一生懸命、 宇豆姫『是がお手の握り納め』 と云はぬ許りに、日頃恋慕ふ右守神の手も砕けむ許りに力限り握り締め、涙の顔を振り上げて、鶴公の顔を打ち眺め、 宇豆姫『鶴公様、何卒お許し下さいませ。情無き女と御蔑み、御恨み遊ばしたで御座いませう。妾の心は決して貴男様を忌み嫌つて居るのでは御座いませぬ。余りの嬉しさと驚きに、御無礼の事をいつぞやの夜致しました。御無礼のお咎めも遊ばさず御親切に御介抱下さいまするお志、妾は此儘息が絶えても、最早此世に恨みは御座いませぬ』 と又もや咽び泣く其可憐らしさ。 鶴公『アヽ其お心とは夢にも知らず、情無い貴女と、今の今迄恨んで居りました。何卒お許し下さいませ。仮令貴女と偕老同穴の契は結ばずとも、其のお言葉を一言承はつた上は、私は最早何一つ恨みは御座いませぬ。アヽよく仰有つて下さいました』 と両眼に涙を浮べ目をしば叩き、声を出して男泣きに泣く。割りなき恋路の二人の男女他の見る目も哀れなり。 (大正一一・七・七旧閏五・一三加藤明子録) |
|
16 (2116) |
霊界物語 | 34_酉_黒姫のアフリカ物語1 | 21 神護 | 第二一章神護〔九六二〕 虎公は、玉公、新公、久公、八公の一行と共に火の国街道に漸く立ち現はれた。此処は樫の木の大木が太陽の光線を包んで遮つて居る、天然椅子の岩のある場所で、黒姫が手長猿に悩まされた処であつた。大蛇の三公の乾児六公は数十人の手下を引き連れ、樫の木の下に虎公の行方を求めつつ待つて居た。 虎公は道々歌を謡ひながら何気なくここ迄来て見れば、喧嘩装束で身をかためた六公の一行、棍棒匕首を携へながら谷道に立ち塞がり、 六公『オイ、虎の野郎、昨日から貴様の所在を探して居たのだ。高山峠の絶頂に往きよつたと確に知つた故、後追ひかけて往つてみれば貴様は早くも風を喰つて、卑怯未練にも姿を隠しやがつた。俺は帰つて親分に申訳が無いから、大方貴様が建日の館へ往きよつたのだと思つて此山口に待つて居たのだ。サアこうなつては最早叶ふまい。ここで綺麗薩張と、お愛の縁を切り、親分さまの女房に奉る、と約束を致せばよし、四の五の吐して聞かないと、胴と首とを二つにしてやるがどうだ。性念を据ゑて確り返答をせい。何程貴様が焦つたところで、お愛は最早親分の手に入つて居るのだから駄目だぞ。それより柔しく三公の乾児になつたらどうだ。命を取られるが好いか、乾児になるのが好いか、二つに一つの返答をしろ』 虎公『烏のおどしのやうな態をしやがつて、身の程知らずの蠅虫め。何劫託を吐きやがるのだ。貴様こそ首と胴とを二つにしてやらア、覚悟せい』 玉公『これこれ虎公さま、大事の前の小事だから、今怒つてはいけませぬ。これ見なさい。だんだん水晶玉が曇つて来ました』 虎公『ヤアもう斯うなつては破れかぶれだ。男の意地でどこ迄もやれるだけやつて見にや虫が納まらねえや。玉公、貴様は俺が今暴れ放題暴れて見るから足手纏ひになつては俺の活動の邪魔になる。オイ、新公、久公、八公も共にどつかへ逃げて了へ』 と云ひながら、虎公は其処に落ちてあつた一間許りの節だらけの、雨に曝された木片を拾ふより早く、四五十人の群に向つて振り廻しつつ暴れ込んだ。六公は此元気に肝を潰し散々ばらばらとなつて逃げ失せて仕舞つた。 虎公『アハヽヽヽ、何と弱い奴計り寄つたものだなあ。大蛇の三公もこれだけ穀潰しを抱へて居ては大抵ぢやあるまい。オイ玉公、新、久、八、もう大丈夫だ、出て来い』 この声に四人は顔一面蜘蛛の巣だらけになつて、真青の顔をしながら足もわなわな虎公の傍に寄つて来た。 新公『何と虎公さま、偉い馬力が出たものだなあ』 虎公『今日に限つて何故あれ程肝玉が据わり、力が出たのだらう。自分ながらに合点がゆかないのだ』 玉公『俺が木の茂みへ隠れて見て居たら、お前と同じ姿をした荒武者が七八十人どこからともなく現はれて、大きな材木を振り廻したものだから、六の野郎を初め、どいつもこいつもあの通り悲惨な態で逃げよつたのだ。本当に合点のゆかぬ不思議の事だつた』 虎公はこれを聞いて涙を流し大地に端坐し、拍手を打ち天津祝詞を奏上し終り、 虎公『神素盞嗚大神様、よくもお助け下さいました、有難う御座います。就きましては此様子では、お愛の身の上が案じられてなりませぬから、どうぞも一度、私をお助け下さいましたやうに、お愛の身の上をお助け下さいませ。お願ひ申します』 と感謝の涙ハラハラと、大地に頭を下げて祈つて居る。 虎公は、玉公其他の乾児と共に又もや坂道を足拍子を取り、謡ひながら吾家の方をさして走り出した。 虎公『あゝ惟神々々神が表に現はれて 善と悪とを立別ける朝な夕なに大神の 御前に額づき村肝の心を尽し身を尽し 仕へまつりし甲斐ありて大蛇の三公が乾児なる 六公の手下にウントコシヨ取り囲まれし其時に 仁慈無限の瑞御霊神素盞嗚大神が 厳のみたまをわけたまひ数多の神を現はして たつた一人の虎公に加勢をさして下さつた 実に有り難き神の恩三五教は世を救ふ 誠一つの神の道今更のごとドツコイシヨ 尊くなつて参りましたかく神徳の現はれた ウントコドツコイ其上は仮令大蛇の三公が 虎公さまの留守宅へ数多の手下を引きつれて 如何に厳しく攻むるとも決して恐るる事はない 利かぬ気者の女房が嘸今頃は素盞嗚の 神の命の神徳で寄せ来る敵を悉く 嵐に花の散る如くウントコドツコイ追ひ散らし 勝鬨あげて虎公がウントコドツコイ機嫌よく 帰つて来るのを待つためにお酒の燗をばドツコイシヨ 用意致してウントコシヨ待つて居るのに違ひない 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも誠一つの三五の 神の教に身を任せ朝な夕なに真心を 尽して此世を渡るなら勢猛き獅子熊も 虎狼も何のその況してや大蛇の三公や 手下の弱い面々が仮令幾百来るとも 片つ端から蹶り散らし改心させるは目のあたり あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 三五教の御道を此世の悪魔と謡はれし 大蛇の三公初めとし其外手下の者共の 心を照らして惟神誠の道に救ひませ 一重に願ひ奉るウントコドツコイドツコイシヨ それにつけても黒姫や房芳二人は今頃は 無事に都へドツコイシヨ着いたであらうかウントコセ 俄にそれが気にかかるあゝ惟神々々 国魂神の純世姫月照彦の神様よ どうぞ三人が行末を安く守らせたまへかし ウントコドツコイ虎公は是から吾家へ立ち帰り 家の騒動を片づけて火の国都へ立ち向ひ 黒姫さまの後追うて尊き神の御教を 聞かして貰はうドツコイシヨそれが何より楽しみだ ウントコドツコイドツコイシヨこいつはしまつた何時の間に 道取り違ひドツコイシヨ向日峠の谷道に 思はず知らず迷ひ込んだこれやマアどうした事だらう 其処は危い丸木橋渡るにや怖し渡らねば どしても吾家にや帰れないここから後へ引き返し 元来し道を取るならば吾家へ帰るは易けれど そんな事をばして居たら時間が遅れて仕様がない 向日峠を踏み越えて吾家をさして帰る方が 半時ばかり早からうあゝ惟神々々 これも何かのお仕組で此処へ迷うて来たのだらう 唯何事も人の世は直日に見直し聞き直し 身の過ちは宣り直せ三五教の御教 今更思ひ知られける広大無限の神様の 深き智慧には叶はない心拗けた吾々が どうして尊い天地の神の心が分らうか 神のまにまに任すより外に行くべき道はない 何程危き橋ぢやとてウントコドツコイ躊躇する 暇がどうしてあるものか地獄の釜のドツコイシヨ 一足飛びをするやうな荒肝放り出しウントコシヨ 渡つて見ようか玉公よ新、久、八の三人よ この虎公に続けよや一二三つ』と言ひながら 矢を射る如く丸木橋両手を拡げ身を軽め 一目散に渡り行くかかる所へ向ふより 黒姫司を初めとし妻のお愛やお梅迄 二人の男に送られて森の茂みを押しわけて 現はれ来る訝かしさあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ。 (大正一一・九・一四旧七・二三加藤明子録) |
|
17 (2126) |
霊界物語 | 35_戌_黒姫のアフリカ物語2 | 05 案外 | 第五章案外〔九六九〕 黒姫の一行九人は、漸くにして大蛇の三公が表門に立ち現れた。門番をして居た二三人の若い奴、森の中に埋めて置いた三人の男女を初め、名を聞いても恐れて居た虎公が、乾児を引きつれ宣伝使までも伴うてやつて来たのに肝を潰し、蒼白な顔をしてポカンと眺めて居る。 兼公は妙な手つきをして故意とに細い声を出し、 兼公『ホーイホーイ、源公の奴、兼公さまが帰つて来たぞよ。お愛さまもお梅さまも[※愛世版では「お愛さまもお梅さまも」だが、校定版では「お梅さま」が削除されている。ストーリー上は、お梅は生き埋めにされておらず、生き返ったというのはおかしいので「お梅さまも」を削除したか?]生還り、墓から現はれて、お前等の素首を貰ひに来たから用意をして呉れ。余り怨めしいので肉体は死んだけれど霊魂が生還り、言葉のお礼に来たのだから、三公の親分を初め与三公、徳公、高、勘の兄弟分にも早く知らして下せえよ。ヒユードロドロドロ……』 と未だ七つ下りの太陽がカンカンとして居るのに、亡者の真似をして門の前で二三遍両の手をシユウと前に出し、右に左に二三間計り進退しながら顰めた顔をして見せる。 源公外二人の乾児は驚いて、与三公、徳公等が酒に酔ひ喰うて管を捲いて居る座敷に慌しく注進する。兼公は勝手知つたる館の内、一同を導いて遠慮会釈もなく酒宴の場に乗込み来る。 与三公、徳公は弱腰を抜かし狼狽へ廻る可笑しさ、吹き出すばかり思はるるをジツと耐へ、兼公は尚も作り声、 兼公『ホーイホーイ与三の野郎。兄弟分の交誼を忘れ、俺の首へ不意に縄を引つかけ、手足を縛り、ようまあ無残にも生埋めにしよつたな。これ見よ、此通り首が長うなつたぞよー』 と云ひながら無理に首を伸ばして見せ、眼をクリクリさせ、舌を思ひ限り突き出し、両の手を怪しく前の方へぶらさげ、ビリビリ慄はせながら、 兼公『ヒユードロドロドロ……』 与三公は腰のぬけた儘両手を合せ、 与三公『ヤア兄貴許して呉れ。決して俺が殺したのぢやない。親分の云ひつけだ。俺は親分にお前の知つて居る通り、助けてやつて呉れと頼んだのだが、如何しても聞いて呉れぬものだから、止むを得ず可憐さうな事をしたのだ。何卒堪忍して呉れ。その代りきつとお前の冥福を祈つてやる』 と蒼白の顔をし、両手を合せて慄つて居る可笑しさ。虎公は吹き出し、 虎公『アハヽヽヽ、オイ与三、徳の両人、些と確りせぬか。幽霊でも何でもないのだ。正真正銘のピチピチした男の中の男一匹、武野村の虎だ。随分御親切にお愛をしてやつて呉れて、余り有難いからお礼に来たのだよ。妹のお梅まで御親切に預つてほんとにかつちけねえ。まあ悠りと気を落ちつけて、虎公の仰しやる事を聞かつしやい』 与三公『これはこれは、武野村の親分で御座いましたか。何卒今までの不都合は水に流し、命だけは助けて下せえませ』 虎公『オイ、与三に徳の両人、手前は睾丸をどうしたのか一遍見せて貰ひてえものだ』 徳公『ハイハイ、お見せ申すは易い事でげすが、余りの吃驚で何処かへ転宅してしまひました。……睾丸の奴、気が利いて居らあ。虎公さまに引張られては、同じ年に生れた親までが苦しむと思つて、体好く姿をかくしよつた。貴様と云ふ奴は余程気の利いた奴だ。若い時から皺だらけの面しよつて気の喰はぬ奴だと思つて居たが、こんな時には都合がよい。何時もしんなまくらな、ブラブラとしやがつて力も出しやがらぬが、まさかの時には間に合ふと見えるわい。金剛不壊の宝珠迄何処かへいつた。どつかへ持つて逃げよつたのかなア』 お愛『ホヽヽヽヽ』 お梅『アー可笑しい、徳のをぢさま、見つともない。そんな処早う匿してお呉れ』 徳公『ヘイ、匿すれば、かくれるものと知りながら、出るに出られぬ狸の睾丸、アハヽヽヽ』 虎公『どうだ、与三に徳、些つと安心したか』 与三公『些つと許り安心したやうです。親分、誠に済まねえが、さつぱり弱腰が抜けて仕舞つたのだから、一つ腰を揉んで下せえな』 虎公『エイ厄介な奴だなア』 と云ひながら後へ廻り、腰をグツと抱へウンと気合をかけると、 与三公『アイタヽヽ、アヽ、これでどうやら元の鞘に納まつたらしい。遉は親分だ、有難う御座いやす』 徳公『もしもし親方、徳公もどうか一つ願ひます。如何にも斯うにもなりませぬわ』 虎公『エヽ幽霊を按摩と間違へやがつたな』 徳公『滅相な、幽霊に礼云ふなんて、そんな御心配はいりませぬ。きつと礼云ふ積りで御座いますから……アヽ知らぬ間にちやんと腰が直つて居やがらア。もう斯うなつちや幽霊のやり場がなくなつて仕舞つた、アハヽヽヽ』 斯かる処へ大蛇の三公は、衣紋を整へ恭しく四五人の乾児に酒肴を運ばせ、白扇をすぼめたまま右の手を膝のあたりに斜に置き、静々と入り来り、一同の前に行儀よくきちんと坐り、 三公『これはこれは皆様、よくこそ入らせられました。三公誠に恐悦至極に存じます。貴方様御一行のお姿が門前にチラリと見えますや否や、この三公の体より小さき蛇二三匹這ひ出しました。ハテ不思議やと眺めている中、その小蛇は表門さして一生懸命逃げだす。不思議の事だと後を追つかけ眺むれば、忽ち変る三匹の大蛇、鎌首を立て向日峠の方面さして一目散にかけ去りました。昨日はお愛様お梅様其他の方々に対し、くだらぬ意恨より御無礼の事を致しましたが決してこの三公が左様の悪事を働いたのではありませぬ。私に憑依して居た大蛇の奴、吾が肉体を使ひ、あのやうな悪逆無道を致したので御座いますから、何卒三五教の信者たる貴方様、今迄の此の肉体の罪を許して下さいませ。屹度お許し下さるに間違ひないと確信致してお目通り致しました。サア何卒一献召し上り下さいませ』 虎公『これはこれは痛み入つたる御挨拶、仰せの通りで御座らう。虎公は大蛇を憎んで三公を憎まず、マアマア御安心なさいませ』 三公『皆様ようこそお越し下さいました。サア何卒、汚穢しい所では御座いますが、御緩りとお寛ぎ下さいまして、三公が寸志の御酒をお上り下さるやうにお願ひ致します』 黒姫『ハイ有難う。サアサアお愛さま。お梅さま、孫公、何をまごまごして居るのだ。サア早く上りなさい。虎公さまの乾児共、お前も一緒に上るんだよ……ヘイ御免下さいませ』 と云ひながら黒姫はズツと奥に通る。虎公外一同も黒姫の後に従ひ、奥の間に蹄鉄形にずらりと座を占めた。 大蛇の三公は黒姫以下一同に心の底より障壁を除つて、誠意を籠め酒肴を勧める。黒姫の一行も三五教の教を遵奉して居るお蔭で、今迄の恨みを流れ河で尻を洗つたやうにケロリと忘れて仕舞ひ、和気靄々として盃を酌み交し、他愛もなく吾家に帰つたやうな気分になつて、或は歌ひ或は舞ひ、三公の数百人の乾児も座敷の外の庭に蓆を敷き、再び酒の飲み直しをやり、三公館は全くのお祭り騒ぎと一変して了つた。 三公は珍客の待遇に全力を尽し、打ち解けて色々と痒い所へ手の届くやうな接待振りをやつて居る。三公の歌、 三公『熊襲の国に隠れなき醜の曲津の容器と もてはやされた無頼漢大蛇の三公と名を呼ばれ 調子に乗つてドシドシと体主霊従のありたけを 尽して来たのが恥かしい八岐の大蛇の分霊 醜の魔神に憑依され神の大道は云ふも更 人の踏むべき道さへも取り違へたる曲津神 執着心に囚へられお愛の方に懸想して 朝な夕なに村肝の心を悩ませ居たりしが 思ひは募る恋の暗黒白も分かずなり果てて 虎公さまの留守宅を狙ひすまして押し囲み お愛の方やお梅さま繊弱き女を引つ捕へ 人跡絶えし向日山林の中に連れ行きて 人のなすべき業でない悪虐無道を敢行し 勝鬨あげて吾家に帰りて見れば村肝の 心の鬼に責められて夜も碌々に寝まれず その苦しさに三五の皇大神の御前に 体を清め口嗽ぎ自が犯せし罪科を 詫ぶる折しも神殿に現はれ給ひし神姿 木花姫の御化身言葉静に宣らすやう お愛お梅を初めとし二人の男は三五の 神の司の黒姫に救ひ出されて明日の日は 必ず此処に来るべし汝は今より身を清め 心の駒を立て直し誠一つの三五の 道にかへりて今迄の悪しき行ひ立て直し 世人の鑑となれよかし虎公お愛を初めとし 黒姫司や孫公を御身其外一同が 恭しくも出で迎へ互に胸を打ちあけて 神に供へた大神酒に心の垢を洗ひ去り 互に手に手を引き合うて世人のために尽せよと 宣らせたまひし御言葉夢か現か夢ならず 現にあらぬ大神勅悪虐無道の三公も 胸の雲霧吹き散りて今は尊き神の御子 清き身魂となりにけりあゝ惟神々々 御霊幸倍ひましまして黒姫司は云ふも更 虎公さまやお愛さま其他一同の信徒と 皇大神の御道に進みて行かむ吾が心 完全に委曲に聞し召せ国魂神の純世姫 月照彦の神様に誠心籠めて三公が 慎み誓ひ奉るあゝ惟神々々 御霊幸倍ひましませよ』 と歌ひ終り、一同に恭しく一礼して下座につき敬意を表せり。 (大正一一・九・一五旧七・二四加藤明子録) |
|
18 (2139) |
霊界物語 | 35_戌_黒姫のアフリカ物語2 | 18 山下り | 第一八章山下り〔九八二〕 黒姫は四方の風景を眺めながら、 黒姫『見渡せば四方は霞みて霧の海よ 吾背の君は何処に坐すらむ。 霧の海波静かなり火の国に コバルト色の山は浮びつ。 村肝の心を荒井ケ岳に来て 四方を見晴らす今日ぞ楽しき。 眺むれば火の国山や向日山 花見ケ岳の姿のさやけさ。 麗しき霧の漂ふ火の国の 国原清く塵も留めず。 野も山も霧に霞て隠れゆく わが背の君をまぎて行くかも。 山々は霧に沈みて見えざれど 高山彦の頭見えつつ。 徳公と久公二人を伴ひて 実に面白き旅をなすかな。 旅人を泥棒なりと見違へて 徳久二人は胸をどらせり。 旅人は徳と久との姿見て 泥棒と誤り戦きにける。 今暫し心の駒に鞭うちて 進みて行かむ火の国都へ。 惟神神の教に従ひて 筑紫の島を廻るは楽しき。 神国に生れ出でたる吾なれば 夜昼神の道を進まむ。 天津日の影も霞に包まれて 風静かなる荒井ケ岳の尾』 徳公は尻馬に乗つて詠ふ。 徳公『黒姫に従ひ来れば山風も 荒井ケ岳に泥棒出でたり。 泥棒と取り違へたる久公が 肝玉取られ腰抜かしたり。 腰抜けの弱い男と道連に なつた迷惑徳公の損だ。 急坂を泡吹きながらキウキウと 久公の奴が登り行くかも。 惟神神が表に現はれて 火の神国を霧海にする。 山々は霞の帯をひきしめて わが行く姿を待ちつつぞ居る。 慢心の山の頂上に登りつめて 困りきつたる久公あはれ』 久公は負けぬ気になつて又詠ふ。 久公『トク頭病見たよな禿げた山の上に 徳公の野郎が慄ひ居るなり。 口ばかり十年先に生れたる 男が屁理屈トクトクとして言ふ。 トク心のゆくまで脂とつてやろか 不道徳なる徳公のために。 野も山も霞や霧に包まれて 春と秋との中に逍遥ふ。 春か非ず秋かと見れば秋ならず 力も夏の朝ぼらけかな。 朝霞棚曳きそめて山々は 浮きしが如く見えにけるかも。 あの様な大きな山を浮かす奴は 霧か霞か白雲の空。 浮いて居るやうに見えても花見山 根は火の国の霧にかくれつ。 この山は荒井ケ岳と唱ふれど 静かな風が吹き渡るなり。 虎公のわが親分は今いづこ 頼りも白山峠越ゆらむ。 親分がお愛の方と諸共に 胸突き坂に肝虎れ居まさむ。 三公の親分よりも虎公は 勝りて足のまめな強者。 今頃は三公親分が屁古垂れて 徳よ徳よと弱音吹くらむ。 おい徳よ早く此場を立ち去つて 弱い親方たづね行くべし。 かうなれば黒姫司の御供は 久公一人で事足りぬべし。 心から嫌な徳公と山登り 一しほ汗が深く出るなり。 屋方の村の三公が乾児の端に加へられ 朝から晩迄門を掃き褌までも洗はされ 下女のお鍋に肱鉄を朝な夕なに喰はされ 性こりもなくつけ狙ふ腰抜男が現はれて 三五教の宣伝使黒姫司の御案内 するとは実に案外ぢや荒井峠へやつて来て 俺は立派な地理学者なんぢやかんぢやと法螺を吹く 二百十日の風のよに吹き散らすのはよけれども 其処らあたりで金を借り未だに尻をふかぬ奴 深い罪科を重ねつつ身の程知らずの徳公が 高い山坂登るとは是こそ天地転倒だ 鼻ばつかりを高くしてあんまり法螺を吹く故に 仲間の奴に嫌はれて黒姫司の案内と 体よき辞令に放り出され此処迄出て来た馬鹿男 ほんに思へば気の毒な何とか助けてやりたいと 心を千々に砕けども腐りきつたる魂を 助けるよしも夏の空青葉の影に身を潜め 姿かくしてなき渡る山杜鵑は外でない 今目の前に泣いて居るこんな男と道連れに なつた俺こそ因果者黒姫司も嘸やさぞ 困つた奴の道連れと愛想を尽かして腹中を 揉んで厶るに違ひないこんな男に狙はれちや 黒姫司もやり切れぬどこぞそこらに掃溜が 目につくならば逸早く惜し気もなしにドシドシと 捨てて行かうと思へども山は霞に包まれて 何処も同じ霧の海捨て場さへなき困り者 厄介至極の至りなり「オツトドツコイ」言霊の 善言美詞の御教を忘れて居つたか待て暫し 黒姫様よ徳公よ今云うたのは俺ぢやない お前の肉体守護する副守の奴が憑依して 無礼の言霊囀つたそれにてつきり違ひない 腹を立てなよ神直日心も広き大直日 あつさり見直せ聞き直せ人は神の子神の宮 神に敵する仇はないあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも火の国都は十重二十重 霧に包まれ沈むとも否でも応でも吾々は 黒姫司のお供して送つて行かねばならないぞ 親分さまに頼まれた義理を思へば今此処で へつ込む訳にはゆかないわも一つ腕に撚りをかけ 足に油を濺ぎつつ山野を渡る膝栗毛 心の駒に鞭うつてお前と俺とは睦まじう 手を引き合うて行かうかいあゝ面白い面白い 東の空が晴れて来た今吹く風は東風 わが言霊は火の国の都に清く響くだらう 高山司も今頃は神徳無双の久公が 宣る言霊に耳澄ませ生神さまが出て来ると 酒や肴を用意して待つて厶るに違ひない これも矢張黒姫の神の司のお蔭ぞや サアサア行かうサア行かう余りの長い休息で 尻に白根が下りさうだいづれ行かねばならぬ道 進めや進めいざ進め徳公の野郎は先に行け 黒姫司は殿だ久公吾は中に立ち 中取り臣の役となりさしもに嶮しき坂道を 苦もなく下り行かうかいあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひながら立ち上る。黒姫は徳公を先に立て、壁を立てたやうな急坂を一足々々指に力を籠めて下り行く。 徳公は一足々々力を入れながら、さしも名題の急坂荒井峠の西坂を歌ひ乍ら下りゆく。 徳公『青葉を渡る夏の風霧か霞か知らねども 一間先は分らないだんだんおち込む霧の海 「ウントコドツコイ」黒姫さま足許用心なさいませ 外の峠と事変り火の国一の急坂で 一方は断崖絶壁だ一方は深い谷の底 もし踏み外した其時はかけがへのなきこの命 さつぱりジヤミにして仕舞ふ久公の奴も気をつけて 一歩々々爪先に心を配つて下りて来い もしも途中で一人でも大怪我したら「ドツコイシヨ」 「ウントコドツコイ」親方に何うして云ひ訳立つものか 黒姫司のお供してこのよな深き坂道で 命を捨てては引き合ぬおいおい此処が一の関 両手で岩をつかまへて目を塞ぎつつ足探り そつと伝うて下りて来いあゝあゝきつい難所だな 斯んな所を何として先の女が易々と 登つて来たのか「ドツコイシヨ」不思議になつて堪らない 黒姫司は老年だ心を鎮めてそろそろと 足に力を入れながら左の手にて杖を持ち 右手に岩ケ根掴みつつ静にお下りなさいませ アヽアヽ危ないもう些し下つて行けば緩やかな 安全無事の道がある其処へ行く迄「ドツコイシヨ」 どうしても心はゆるされぬもしも不調法した時は 火の国都にあれませる高山彦の神さまに 合せる顔がない程にあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして此急坂を恙なく 無事に下らせたまへかし神は吾等と倶にあり 吾等は神の子神の宮とは云ふものの「ドツコイシヨ」 矢張人の身をもつて神さま気取りにやなれないぞ 心を配り気をつけて此難関を辷り越え 一日も早く火の国の花の都へ「ウントコシヨ」 行かねばならない「ドツコイシヨ」黒姫さまは何として それ程黙つて御座るのか些とは何とか「ドツコイシヨ」 歌なと歌うて下さんせ私ばかりが噪やいで 声を涸らして居た所がオツト危ない石がある 根つから「ドツコイ」はづまない其処には鏡の岩がある 皆さま気をつけなさらぬと鏡の岩は滑らかだ 是から向ふへ一二町鏡のやうに「ドツコイシヨ」 光つて辷る坂の道此処が第二の難関だ あゝ惟神々々叶はぬか知らぬが久公が 屁古垂れよつて「ドツコイシヨ」さつぱり唖になりよつた 何程無言の業ぢやとてそれだけ湿つちや「ドツコイシヨ」 女に劣つた腰抜けと云はれた処で「ウントコシヨ」 云ひ訳する道あらうまいほんに困つた弱虫の 困つた腰抜男だな「オツトコドツコイ」待て暫し 善言美詞の「ヤツトコシヨ」言霊車が脱線し 済まない事を云ひましたあゝ惟神々々 神の心に見直して久公怒つて下さるな お前が売出す言霊を俺が買うたるばつかりだ 売つた喧嘩をどうしても買はねばならぬ男達 「ウントコドツコイドツコイシヨ」妙な所へ力瘤 入れる男と思はずに何卒見直し聞直し 「ガラガラガラガラアイタタツタ」とうとう腰の骨打つた 「アイタタタツタ」神様の罰が当つたぢやあるまいか 口は「ドツコイ」禍の門ぢやと聞いて居つたれど まさかにこんな「ウントコシヨ」事になるとは夢にだに 思はなかつた「ドツコイシヨ」も些し下れば「ドツコイシヨ」 緩勾配の道がある其処でゆつくり憩まうか あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 (大正一一・九・一七旧七・二六加藤明子録) |
|
19 (2214) |
霊界物語 | 38_丑_出口王仁三郎自叙伝2 | 10 思ひ出(一) | 第一〇章思ひ出(一)〔一〇四七〕 明治三十四年十月、大本の祭壇が、旧広前の二階にあつた頃の話である。警察署から毎日の様にやつて来て、宗教として認可を受けなければ布教を許さないと云つて頑張るのである。明治二十二年憲法の発布によつて信教の自由が許されてから、そんな筈はないと理窟を言つて見ても堂しても承知しない。仕舞には巡査を前に張番させると云つた様な訳で、信者までが嫌つて遣つて来ない様な始末だ。是では困るから思いきつて皇道会といふ法人組織に改めやうとして、静岡の長沢雄楯と云ふ人の処へ相談に行かうと考へたところが、教祖様は神様に伺はれて、仮令警察から何と云つて来ようと構はぬから、其儘に打捨てて置けと云ふお話であるが、警察の干渉は益々激しくなる一方なので、如何しても打捨てて置くといふ訳には行かなくなつて来た。そこで教祖様へは内密にして、木下(出口)慶太郎を連れて静岡へ出掛けたのである。 留守中に教祖様は此事を聞かれて、上田喜三郎(瑞月旧名)の所業は神勅に反く怪しからぬ所業だ、神代の須佐之男尊の御行跡と等しきものだと云つて、弥仙の中腹にある彦火々出見命のお社の内へ岩戸隠れをされて仕舞つた。 そんな事とは夢にも知らぬ両人は、静岡で相談をして帰り、京都府へよつて手続をしようとしたのであつたが、印形が一つ足らぬので手続が出来なくなり、止むを得ず木下に命じて印形を取りに綾部へ返し、自分は京都に滞在して布教に従事して居た。 其頃の大本の幹部は実に混沌たるものであつて、愚直な連中は迷信に陥つて仕舞ひ、野心家はそれを利用して、隙があつたら自分を排斥しやうといふ考へであつた。そして其野心家の間にも亦絶えず暗闘があつたのである。印形を取りに帰つた木下は梨の礫で一向消息がない。そして待つて居ない信者の連中がやつて来て、京都に沢山ある稲荷下げの様な交霊術者を一々訪問して、霊力を試して見やうと云ひ出した。仕方がないから片端から廻つてあるいて、沢山な稲荷下げを縛つて歩いた。 伏見の横内に青柴つゆといふ稲荷下げがゐて、伏見の人から崇拝されて居るといふ噂を聞いてやつて行つた。とても堂々とやつて行つては断られるに極つて居ると考へたから、百姓の様にして化込んだ。同行者は松井、松浦、田中徳、時田、三牧などと云ふ連中であつた。上田喜三郎といふ者が家出をして行衛が分らぬから、何処に居るか、神様に伺つて戴きたいと云ふと、勿体らしく咳払ひなどして、其人は百両の金子を持出して逐電したのであつて、巽の方角に行つたといふ。それなら一つ金縛りにして戴きたいと云ふと、縛るには七両金が要ると云ふ。それから自分が進み出で、実は病気で困つて居るのであるが、何の病気であるか伺つて頂きたいといふと、短い御幣をトントンと叩いて、是は腹中に大蛇がゐる、住宅の乾の方角に当る倉の処にゐた大蛇が腹中に這入つたのだといふ。住宅の乾には池はあるが倉はありませぬがといふと神に向つて無礼な事を言ふなと、とても御話にならぬ事を言ひ出すから、時田が化の皮を現はして、馬鹿な事を云へ、此人が上田喜三郎の本人だ、病気も何もしてゐない。吾々は新聞の種をとりに来たのであるから、今日の出来事を書面にして事実通り証明せよといつて苛め出した。横内の氏神の祭礼が十月の九日で、祭礼の翌日であつたものだから、御祭りの後の持越しか何かで、村の若者がゴロゴロ集まつて居つた。それが聞付けたからたまらない、お台様の処へ他国の奴がグズリに来て居る、やつ付けて了へ、淀川の水を飲ませてやれ……などと云つて、岡田良仙といふ坊主上りのゴロツキを呼んで来るやら、巡査が駆付けるやら、大騒ぎになつた。連れの五人は斯うなつて見ると、生命が惜しいと見えて、敵方へ付いて了つて小さくなつてゐる。今から考へると、同伴の五人が敵方へ従いたのが仕合せだつたので、群集は自分と岡田良仙とをスツカリ取り違へて了つて同伴の五人と良仙とを滅茶々々に殴り付けて、自分を良仙だと思うてどうか此方へ御出で下さいと云つて家の中へ連れて行つて了つた。自分は何時露顕するか分らず気持が悪いから、コツソリ逃げ出して巡査駐在所へ囲まつて貰つたのであつた。後になつて聞くと、此時大本では神前の大きな水壺や土器が突然破れたり神酒徳利が引繰返つたり、京都の信者の家でも神棚の上の物が落ちたり割れたりして、何事だらうと騒いだそうである。実母は天眼通で多人数で取巻かれ、真ん中に泰然と坐つて居る喜楽の姿を見たから、安心をして居つたそうだ。巡査駐在所を出る時人違の事が解つて、又騒ぎ出したが、巡査が伏見迄送つてくれるし、京都の信者は心配をして、伏見迄迎へに来てくれるし、無事に京都へ着いて西洞院西村栄次郎の家へ落付いた。是で安心と思ふと、今度は五人の連中が承知しない。自分等が敵方へ従いた事は棚へ上げて、散々殴打せられた恨を並べて、霊力があるなら何故数百人の暴行を差止めなかつたか、反対に五人の者をなぐらせたのは四つ足の悪の守護神に相違ない、早く化の皮を現はせ、なぐられた痛い所を治せ、癒されねば切腹をしろ……と云つて逼る。国家の為とあれば何時でも切腹するがここで切腹をする様な安い生命ぢやないと云ふと、腰抜め、貴様の行ひが悪いから、教祖様が岩戸隠れをされて了つた。モウ大本へ行く必要がないから、何処へでも行け……と云ふ。それなら仕方がないから他所へ行かうと云へば、他所へ行くなら謝罪せよ、三遍廻つてワンと云へ……などと理不尽な事を云ひ募る。ここは一つ辛抱をする所だと、韓信股くぐりの故事を想つて辛抱した。そして済まぬ事をした、堪へて呉れと云つて謝罪まつてやつた。丁度其時京都の侠客いろは幸太郎と云ふのが来合せて、乾児の山田重太郎を付けて送らせて呉れたので、無事に綾部へ帰る事が出来た。 帰つて見ると、荷物は引括つて片付けて了つてあつて、中村竹造や四方平蔵が、……此通り世を紊す四つ足の守護神は居る事はならぬ、出て行け……と云つて又苛める。さう斯うして居ると今度は警察署から教祖様に呼出しが来た、何事だらうと聞いて見ると、教祖様が弥仙山の神社の錠前をちぎつて籠られたのは規則違反だ、罰金を出せといふのであつた。教祖様は弥仙山の社に籠つて、静にお筆先を書いてお出でになつたのであるが、村の者が社前へ来た物音を聞いてヒヨイと顔を出して見られたのである。思ひがけぬ処から白髪の老婆が突然顔を出したのであるから、村人の驚いたのは無理もない事であつて、弥仙山の社内には狒々猿が居ると云ひふらして評判になつた。今でこそ樹木を伐つて明るくなつて居るものの、当時の弥仙山は老樹鬱蒼として昼尚暗き霊山であつた。狒々猿が居るといふ評判が高くなつて、仕舞には村中挙つて狒々退治をしやうといふ事になつた。竹槍を担ぎ出すやら、巡査が加はるやら、神主が来るやら大騒ぎになつた。一同弥仙山へ押寄せて見ると、丁度教祖様の処へ弁当を持つて行く後野市太郎が居合せたので、狒々猿ではないと云ふ事が分つた。皆が教祖様を取囲んで……なぜこんな処へ来て居るか……と云つて問ふと、教祖様は世の中が暗がりだから隠れたのだ……と云つて平然として居られる。皆が口を揃へて、綾部の天理教の馬鹿か、早く出て行けといふと、教祖様は今日はお籠もりしてから一週間目であるから、皆が出るなと云つたつて出る日ぢや、序に上杉迄送つてくれ……と云つて済まし込んで居られる。 自分が上杉へ行つて、駐在所に行くと、教祖様を訊問所へ入れやうとして居る所であつた。訊問所へは自分が這入るから、教祖様は御入れしないで置いてくれと云つて、それから訊問を受けた。何故女人禁制の場所へ女人が這入つたか……と問ふから、明治四年の布達によつて結界は解けて居るのに、女人禁制とは何事かと反対に突込んでやつたので、一言も出ない、さうすると今度は他人が管理して居る建造物内に錠を破つて這入るのは違法だと思はぬか……といふ問で、是には一寸困つたが、神社法令の中に信仰により立入るものは此限りにあらずとあるから、差支ない筈だと出鱈目を云つた。手許には神社法令がないから調べる事が出来ぬので、無事に帰らしてくれた。併し教祖は前以て神主に頼み、神主は内々で此処に籠らしてゐたのであつた。 教祖様の弥仙山籠りの騒ぎはこれで無事に済んだのであるが、済まぬのは幹部連中の腹の中だ。自分の所業は一々腑に落かねる所から、是は小松林といふ四足の悪の守護神の所業だといつて、頻りにその悪の守護神を罵るのである。それなら一層喜楽を追ひ出してくれればよいのであるが、喜楽の肉体は教祖様のお筆先に依つて、神業の為居らねばならぬ肉体になつて居るので追ひ出す事も出来ず、自分の一つの身体を二様に見て居るのであるから、たまつたものでない。とうとう六畳敷の一室に入れられて、一挙一動を監視される様になつた。自分の傍へ来る時は塩をふつてやつて来るから、お前等の肉体が汚れて居るから塩をふつて清めて近づくのかなどと云つて戯談を云つてやると真赤になつて怒つて居る。福島久子サンなどは、 久子『先生如何して改心が出来ませぬか、さういふ御心得だから、教祖様が岩戸隠れなどをされるのだ。早く改心をして下さい……』 などと熱心に云つて来る。教祖様の岩戸隠れなども、年寄の吾儘だから仕方がない……と答へて、何の斯のと面倒だから、腹が痛いと云ふと……それ見なさい、改心をしないから、腹が痛むのだといふ。 喜楽『よし腹の痛いのは改心をしない証拠か、それなら証拠を見せてやる』 と云つて鎮魂をすると、久子サンが俄かに腹痛を起して、痛い痛いといつて大苦しみに苦しむで、五日間も呻吟した。教祖さまが『早く先生に謝罪せよ』と云はれたものだから、四方平蔵が謝罪に来た。 喜楽『いや代人では無効だから本人をよこせ』 と云つてやつたので、とうとう久子サンが謝罪に来た事もあつた。さうすると幹部の連中が又やつて来て、 『先生は何といふ悪い事をする人であるか、是は如何しても悪魔だ、術を見せろ、裸になつて見せろ』 と云ふ。五月蠅いから近寄つて来る中村竹造をウンと睨んでやると、又腹痛を起して……痛い痛いと云つて苦み出した。斯う云つた様な次第で、……会長(瑞月)は悪魔だ、会長のいふ事を聞くな……と云つて、幹部の連中が切りに方々へ云ひふらして歩行いたものである。 (大正一一・一〇・一六旧八・二六松村真澄録) |
|
20 (2470) |
霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 17 甦生 | 第一七章甦生〔一二七一〕 ランチ将軍、片彦、ガリヤ、ケースの四人は罪人橋の傍に佇み、肌を断る許りの寒風に曝されながら、幽かに聞ゆる宣伝歌の声をせめてもの力として、慄ひながら待つて居た。四方を見れば、今まで吾身辺を包みたる冥官は一人も居らず、又我利我利亡者の姿は残らず消え失せたれども、再び潜り来りし小孔は塞がりて分らず、此橋を向ふへ渡らむか、実に危険にして百中の百まで顛落しさうな光景である。宣伝歌の声は追々高くなつた。それに次いで、ワイワイと喚く数百人の声、前後左右より響き来る。四人は心も心ならず、如何なり往くならむと、絶望の淵に沈んで居た。かかる所へ忽然として現はれ給うたのは容貌端麗なる一人の女神、二人の侍女を伴ひながら、四人の前に鳩の如く下り給ひ、女神は優しき声にて、 女神『貴方は大自在天様の教を奉ずるランチ将軍の一行ぢや厶いませぬか』 四人は蘇生の思ひをしながら、俄に嬉し気に声まで元気よく、 四人『ハイ、仰せの如く、ランチ将軍主従で厶います。誠に罪悪のため斯様な所へ落され、二進も三進もなりませぬ。今日迄の罪悪はすつかり悔い改めまして、生れ赤児の心に立ち帰りますれば、どうぞ此の急場をお救ひ下さいませ』 女神『それは嘸お困りでせう。貴方が誓つて体主霊従の行ひを改むるとならばお助け申しませう。妾は都率天に坐ます日の大神のお傍に仕ふるもの、妾が申す事御合点が参りましたらキツと救うて上げませう、実の所は貴方等の危難を大神様が御照覧遊ばし「一時も早く彼が前に往き、誠を説き明し救ひやれ、時後れなば一大事」との仰せに、取るものも取り敢ず、都率天を下り此処に来ました。あれお聞きなさいませ。あの宣伝歌は、貴方等を救ふための宣伝歌の声で厶います』 片彦『ハイ、有難う厶います。歌は聞えますが、其歌がボンヤリとして少しも意味が分りませぬ』 女神『あの歌は、三五教の宣伝使が、貴方等を救ふべく神への祈り歌で厶います、サア篤りとお聞きなされ』 と懐中より大幣を取り出し左右左に打ち振れば、不思議や四人の耳はパツと開けて、歌の意味は益々明瞭になつて来た。四人は両手を合せ、大地に跪いて其歌を一語も洩らさじと聞き入つた。其歌、 (紫姫)『高天原の最奥の日の若宮に現れませる 至仁至愛の大神は八岐大蛇や醜狐 曲鬼共に取りつかれ善の道をば取り違へ 智慧証覚をくらまして体主霊従の小欲に 浮身を窶すバラモンの大黒主の部下となり ミロクの神の化身たる神素盞嗚の大神の 常磐堅磐に現れませる産土山の霊国の 貴の館を屠らむと大黒主の命をうけ ランチ将軍、片彦が数多の部下を引率れて 浮木の森に陣営を構へて作戦計画の 真最中に入り来る治国別の宣伝使 忽ち悪心勃発し神の尊き御使を 千尋の暗き穴の底落し入れたる曲業は 忽ち其身に報い来て眼はくらみ変化神 此上なき美人と過りて互に修羅を燃やしつつ 反間苦肉の策を立て互に命を奪ひ合ひ 忽ち精霊肉体を離れて地獄に踏み迷ひ 進退茲に谷まれる其窮状を臠はし 妾に向つて詔らすやう汝紫姫の神 二人の天女と諸共に根底の国に降臨し 彼等四人が心底を調べたる上真心の 聊かなりと照るあらば誠の道を説き聞かせ 再び娑婆に追ひかへし遷善改過の其実を あげさせよやと厳かに詔らせたまひし神勅を 慎み畏み今茲に降り来りしものなるぞ 軍の君よ汝は今吾言霊を聞き分けて 尊き神の愛に触れ再び現世に立ち帰り 大神業に奉仕する赤心あらば吾は今 汝を安きに救ふべしあゝ惟神々々 尊き神の勅もて汝等四人に詔り伝ふ』 と言葉淑かに聞え来る。よくよく見れば宣伝歌の声は外には非ず、女神の口から歌はれて居たのである。されど神格に満ちたる天人は、現代人の如く口を用ひたまはず、一種の語字を用ひ四辺より語を発し、其意を述べ給ふにより、四人の亡者の気づかなかつたのも道理である。 ランチ将軍は漸くにして力を得、歌をもつてエンゼルに答へた。 ランチ『高天原の最奥の日の若宮に現れませる 尊き神の勅もて天降りましたる紫の 姫の命の御前に慎み敬ひ願ぎ申す 吾はバラモン大御神大国彦を祭りたる 大雲山の聖場に朝な夕なに身を清め 難行苦行の功をへて漸く道の奥処をば 悟りて茲に神柱大黒主に選まれて 教司となり居たり時しもあれやウラル教 三五教の神柱数多の軍を引率れて 空照り渡る月の国ハルナの都に攻め来る 噂は強く聞えけり茲に大黒主の神 大に怒らせ給ひつつ善か悪かは知らねども 軍を起し産土の館を指して進むべく 鬼春別に依さしまし数多の兵士任けたまふ 鬼春別の部下なりし吾等は命に従ひて 浮木の森に来る折怪しき女に村肝の 心を汚し同僚を恋の敵と恨みつつ 悪逆無道の行動を敢てなしたる悔しさよ 斯くなる上は吾とても如何でか悪を尽さむや 唯今限り悪を悔い誠の道に立ち帰り 皇大神の御教に厚く服ひ仕ふべし 尊き神の御使よ此有様を憫れみて 何卒救はせたまへかしもし許されて現界に 再び帰り得るなれば神素盞嗚の大神に 刃向ひまつりし罪咎を償ふ為に一身を 捧げて誠の大道に進み奉らむ吾心 尊き神の御使の御前に心固めつつ 委曲に願ひ奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 一旦誓ひし吾魂は皇大神の御為に 仮令命は捨つるとものどには捨てじ一歩も 顧みせざる誠心を清くみすかし給ひつつ 愍み給へ紫の姫の命の御前に 慎み敬ひ願ぎ申す』 と細き声にて詔り上げた。片彦も亦歌をもつて罪を謝した。 片彦『ここたくの罪や汚れになづみたる わが身魂をば清めて救へ。 惟神誠の道に踏み迷ひ 根底の国に落ちにけるかな。 何事も神の御為世のためと 知らず知らずに曲になりぬる。 ここたくの罪を許して現世に 救はせ給へと乞ひのみ奉る』 ガリヤ『吾も亦汚き欲に包まれて 黒白も分ぬ暗に落ちぬる。 いと深き神の恵に包まれて 根底の国を去るぞ嬉しき。 皇神の此御恵を如何にして 報はぬものと危ぶまれぬる。 さりながら元は尊き大神の 身魂なりせば清く帰らむ』 ケース『身の欲に心曇りて根の国の 川辺に迷ふ吾ぞ果敢なき。 如何にして此苦しみを逃れむと 千々に心を痛めたりしよ。 有難き神の恵の霑ひて 紫姫は降りましけり』 ランチ『有難し勿体なしと申すより 外に言の葉なかりけるかも。 大神の恵の露は根の国や 底の国まで霑ひにけり』 紫姫『村肝の心の闇の晴れし身は 安く帰らむ顕御国へ。 さりながら再び現世に帰りなば 曲の仕業は夢にな思ひそ。 皆さま、結構で厶いました。どうやら現世へお帰り遊ばす道が開けたやうです。妾も大慶に存じます。併しながら此国の守護神様は金勝要大神様、一度お許しを蒙らねばなりませぬ。お願ひを致して参ります』 と云ふより早く、麗しき雲を起し、罪人橋の上を北へ北へと其神姿を隠し給うた。四人は互に顔を見合せ、ホツと息をつきながら、 ランチ『あゝ片彦殿、真に済まない事を致しました。悪魔に取りつかれ、俄にあのやうな悪心を起し、こんな所へ閉ぢ込まれるとは、どうも恥かしい事で厶る。どうか現界へ帰るとも、今迄の恨は川へ流し、層一層御親交を願ひます』 と心の底より片彦に詫びた。片彦は之に答へて、さも嬉し気に云ふやう、 片彦『将軍様、勿体ない事を仰せられますな。皆私が悪いので厶います。数多の軍勢を指揮する身分で居ながら、陣中の規律を紊し、女に心を奪はれ、遂には思はぬ葛藤を起しました其罪は、私が大部分負担すべきものです。何卒今までの罪をお許し下さいまして、従前よりも層一層の御親交を願ひます』 と心の底より打ち解けて云つた。 ガリヤ、ケースの両人は両将軍の物語を聞き、身を縮め、感歎の息を洩らして居る。斯かる所へ治国別、松彦、竜公、万公、アク、タク、テクの一行、宙を飛んで走り来り、四人の前に整列し、 治国『片彦さま、貴方の改心が国魂の神、金勝要大神様に通じました。拙者は要の神の命により、貴方を現界に救ふべくお迎へに参りました』 片彦『ハイ、有難う厶います』 と落涙に及ぶ。松彦はランチ将軍に向ひ、 松彦『将軍殿、貴方の悔悟のお願が大地の金神金勝要神様の御前に達しました。拙者は神命に依り、貴方を現界へお送り申しませう、次にガリヤ、ケースの両人も同様現界へお帰りなさい』 三人は、 三人『ハイ有難う』 と頭を下げる途端、ザワザワと聞ゆる人声に目を醒ませば、浮木の森の物見櫓の下座敷に四人は横たはり、数多の人々に介抱されて居た。さうしてお民はお寅に救はれて居た。ランチ将軍、片彦は枕許をよく見れば、豈図らむや、今夢ともなしに罪人橋の麓にて救はれたる治国別、松彦を初め、竜公、万公、アク、タク、テクの面々であつた。彼等四人は治国別、松彦の一隊に死体を河中より救ひ上げられ、宣伝歌を聞かされ、且つ天津祝詞と天の数歌の功力に救はれ蘇へつたのであつた。又お民は蠑螈別の声にハツと気がつき四辺を見れば、其枕許には蠑螈別、エキス、アーク、タール、お寅婆アさまの面々が親切に介抱をして居た。是よりランチ将軍を初め幽冥旅行の面々は心の底より前非を悔い、初めて神素盞嗚大神の御前に両手を合せ、反逆の罪を陳謝し、遂に三五の道に帰順する事となつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・一・一四旧一一・一一・二八加藤明子録) |