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(13)
ひふみ神示 1_上つ巻 第13帖 元の人三人、その下に七人、その下に七七、四十九人、合して五十九の身魂あれば、この仕組は成就するのざ、この五十九の身魂は神が守ってゐるから、世の元の神かかりて大手柄をさすから、神の申すやう何事も、身魂みがいて呉れよ、これが世の元の神の数ぞ、これだけの身魂が力合はしてよき世の礎となるのざ。この身魂はいづれも落ちぶれてゐるから、たづねて来てもわからんから、よく気をつけて、どんなに落ちぶれている臣民でも、たづねて来た人は、親切にしてかへせよ。何事も時節が来たぞ。六月の二十一日、ひつくのか三。
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(59)
ひふみ神示 2_下つ巻 第17帖 学や知恵では外国にかなうまいがな、神たよれば神の力出るぞ、善いこと言へば善くなるし、わるきこと思へばわるくなる道理分らんか。今の臣民口先ばかり、こんなことでは神の民とは申されんぞ。天明は神示書かす役ぞ。神の心取り次ぐ役ざが、慢心すると誰かれの別なく、代へ身魂使ふぞ。因縁のある身魂はこの神示見れば心勇んで来るぞ。一人で七人づつ道伝へて呉れよ、その御用が先づ初めの御用ぞ。この神示通り伝へて呉れればよいのぞ、自分ごころで説くと間違ふぞ。神示通りに知らして呉れよ。我を張ってはならぬぞ、我がなくてもならぬぞ、この道六ヶしいなれど縁ある人は勇んで出来るぞ。七月の二十一日、一二の
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(75)
ひふみ神示 2_下つ巻 第33帖 親となり子となり夫婦となり、兄弟となりて、生きかわり死にかわりして御用に使ってゐるのぞ、臣民同士、世界の民、みな同胞と申すのは喩へでないぞ、血がつながりてゐるまことの同胞ぞ、はらから喧嘩も時によりけりぞ、あまり分らぬと神も堪忍袋の緒切れるぞ、何んな事あるか知れんぞ、この道の信者は神が引き寄せると申せば役員ふところ手で居るが、そんなことでこの道開けると思ふか。一人が七人の人に知らせ、その七人が済んだら、次の御用にかからすぞ、一聞いたら十知る人でないと、この御用つとまらんぞ、うらおもて、よく気つけよ、因縁の身魂はどんなに苦しくとも勇んで出来る世の元からのお道ぞ。七人に知らしたら役員ぞ、神が命ずるのでない、自分から役員になるのぞと申してあろがな、役員は神のぢきぢきの使ひぞ、神柱ぞ。肉体男なら魂は女ぞ、この道十りに来る悪魔あるから気つけ置くぞ。八月の三日、ひつ九のか三。
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(226)
ひふみ神示 7_日の出の巻 第13帖 此れまでの仕組や信仰は方便のものでありたぞ。今度は正味の信仰であるぞ、神に真直に向ふのざぞ。日向と申してあろがな。真上に真すぐに神を戴いて呉れよ、斜めに神戴いても光は戴けるのであるが、横からでもお光は戴けるのであるが、道は真すぐに、神は真上に戴くのが神国のまことの御道であるぞ。方便の世は済みたと申してあろがな、理屈は悪ざと申して聞かしてあろが、今度は何うしても失敗こと出来んのざぞ。神の経綸には狂ひ無いなれど、臣民愈々苦しまなならんのざぞ、泥海に臣民のたうち廻らなならんのざぞ、神も泥海にのたうつのざぞ、甲斐ある御苦労なら幾らでも苦労甲斐あるなれど、泥海のたうちは臣民には堪られんから早う掃除して神の申す事真すぐに肚に入れて呉れよ。斜めや横から戴くと光だけ影がさすのざぞ、影させば闇となるのざぞ、大きいものには大きい影がさすと臣民申して、止むを得ぬ事の様に思ふてゐるが、それはまことの神の道知らぬからぞ、影さしてはならんのざぞ、影はあるが、それは影でない様な影であるぞ、悪でない悪なると知らせてあろが。真上に真すぐに神に向へば影はあれど、影無いのざぞ、闇ではないのざぞ。此の道理会得るであろがな、神の真道は影無いのざぞ、幾ら大きな樹でも真上に真すぐに光戴けば影無いのざぞ、失敗無いのざぞ、それで洗濯せよ掃除せよと申してゐるのぞ、神の真道会得りたか。天にあるもの地にも必ずあるのざぞ、天地合せ鏡と聞かしてあろがな、天に太陽様ある様に地にも太陽様あるのざぞ、天にお月様ある様に地にもお月様あるのざぞ。天にお星様ある様に地にもお星様あるのざぞ。天からい吹けば地からもい吹くのざぞ、天に悪神あれば地にも悪神あるのざぞ。足元気つけと申してあろがな。今の臣民上許り見て頭ばかりに登ってゐるから分らなくなるのざぞ、地に足つけよと申してあろが、地拝めと、地にまつろへと申してあろが、地の神様忘れてゐるぞ。下と申しても位の低い神様のことでないぞ、地の神様ぞ、地にも天照皇太神様、天照大神様、月読大神様、須佐鳴之大神様あるのざぞ、知らしてあること、神示克く読んで下されよ、国土の事、国土のまことの神を無いものにしてゐるから世が治まらんのざぞ。神々祀れと申してあろがな、改心第一と申してあろがな、七人に伝へと申してあろがな、吾れ善しはちょんぞ。十二月十四日、ひつくのかみ。
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(421)
ひふみ神示 19_まつりの巻 第17帖 集団のアは神示ぢゃ、ヤとワとは左と右ぢゃ、教左と教右じゃ、はその補ぢゃ、教左補、教右補ぢゃ、ヤの補はぢゃ、ワの補はぢゃ、ア、ヤ、ワ、、が元ぢゃ、その下に七人七人ぢゃ、正と副ぢゃ、その下に四十九人ぢゃ、判りたか、集団弥栄々々。皆御苦労ながら二の御用手引き合って、天晴れやりて下されよ、集団つくってよいぞ。強くふみ出せよ、くどい様なれど百十はそのままぢゃぞ。今度の御用は一つの分れの御用ぢゃぞ、神示よく読むのぢゃぞ、身魂のしょうらい段々判りて来るぞ、万民ミタマまつりの御用からかかりて呉れよ、うつし世のそれの御用、結構ひらけ輝くぞ。八月二十八日、一二
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(436)
ひふみ神示 20_梅の巻 第9帖 肉体がこの世では大切であるから肉体を傷つけたら苦しめたら、その守護神は、それだけのめぐり負ふのざぞ、霊々と申して肉体苦しめてはならんぞ、今の人民とっておきの誠の智ないから、持ってゐる智を皆出して了ふから、上面許り飾りて立派に見せようとしてゐるから、いざと云ふ時には間に合はんのぢゃ、上面しか見えんから、誠の事判らんから、神の云ふ事判らんのも道理ぢゃなあ。建直しの仕組立派に出来てゐるから心配いたすでないぞ、建替延ばしに延ばしてゐる神の心判らんから、余り延ばしては丸つぶれに、悪のわなに落ちるから艮めの一厘のふたあけるから、目開けておれん事になるぞ、早う知らせる人民には知らしてやれよ、先づ七人に知らせと申してあろがな。十一月十六日、ひつ九の
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(482)
ひふみ神示 22_青葉の巻 第13帖 同じ名の神二つあると申してあろ、同じ悪にも亦二つあるのぢゃ、この事神界の火水ぞ、この事判ると仕組段々とけて来るのざぞ、鍵ざぞ。七人に伝へよ、と申してあろ、始めの七人大切ざぞ、今度はしくじられんのざぞ、神の仕組間違ひないなれど、人民しくじると、しくじった人民可哀想なから、くどう申しつけてあるのざぞ、よう分けて聞きとりて折角のエニシと時を外すでないぞ、世界中の事ざから、いくらでも代へ身魂代りの集団つくりてあるのざぞ。尊い身魂と、尊い血統、忘れるでないぞ。型は気の毒ながらこの中から。八月四日一二
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(908)
ひふみ神示 37_五葉之巻 第6帖 仕事はいくらでもあるではないか、七つの仕事があるぞ、七人のかへミタマあると知らせてあろうがな、高く昇らねば遠くは見えん、目の先ばかり見ているから行きつまるのぢゃ、道には落し穴もあるぞ、心得て、仕事に仕へまつれよ。岩戸はひらかれてゐるのに何してゐるのぞ、光がさしてゐるのに何故背を向けてゐるのぞ、十の仕事して八しか報酬ないことあるぞ、この場合二は神にあづけてあると思へよ、神の帳面あやまりなし、利子がついて返って来るぞ、まことのおかげはおそいと申してあろうがな。
9

(1441)
霊界物語 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 14 闇の谷底 第一四章闇の谷底〔四〇七〕 淤縢山津見一行は、照山峠を東に向つて下つて行く。智利の国の里近くなつた時、一行の足はぴたりと止まり、どうしても一歩も進む事が出来ない。 珍山彦『ヤア、足が歩けないやうになつちまつた。どうだ、皆さまは』 一同『イヤ、吾々も同じ事だ。合点の行かぬ事もあるものだ』 駒山彦『何でもこれは向ふに悪い奴が沢山居て、吾々を待ち討ちしようとして居るのに違ひないワ。そこで神様が吾々の足を縛つて、軽々しく進むでない。胸に手をあて、よく後前を考へて見よ、との暗示を与へられたのだらう』 一行七人は途上に立つたまま、石地蔵のやうに固まつて仕舞つた。傍の老樹鬱蒼たる森林の中より、 声『淤縢山津見、駒山彦、照彦』 と破鐘のやうな声が響いて来る。その声と共に三人の身体は、何物にか惹きつけらるるが如き心地して、思はず知らず声する方に向つて、自然に足が進み、遂に三人の姿は見えなくなりたり。 後に珍山彦、松、竹、梅の四人は、何時の間にか足も自由になり、路傍の清き芝生の上に端坐して、 珍山彦『サア皆さま、繊弱き女の身で、まだ三五教の教理も知らずに、宣伝使となつて、悪魔の蔓る此の世の中を教導すると云ふ事は、一通りの苦労では行くものではない、さうして、斯うどやどやと七人も列んで宣伝に歩くと云ふことは、一寸見れば華々しく立派に見えるが、それは皆仇花だ。誠の道の宣伝は一人々々に限る。これから姉妹三人は、この珍山彦が及ばずながら実地の教訓を施して上げますから、今の間に吾々四人は、三人の宣伝使に離れてハラの港からアタルへ着き、それから常世の国に廻つて、実物教育を受け、黄泉島を宣伝致しませう。サアサアお出でなさいませ』 と先に立つて行く。三人は引かるるやうに珍山彦の後を追ふ。珍山彦は言しづかに、 珍山彦『皆さま、淤縢山津見や駒山彦や照彦のことはすつかり忘れて仕舞ふのだ。人間は背水の陣を張つて、九死に一生の困難に遭はねば、真実の誠の道は開けるものではない。苦労の花の咲いたのは盛りが長い、これから吾々と共に概略仕事が出来たら、姉妹三人手分けして、ちりちりばらばらになつて神業に奉仕するのだ。仮令一人になつても神様が守つて下さるから、師匠や兄弟を力にしたり、杖につくやうな事では、到底神界の奉仕は完全に出来るものでない。サア行きませう』 とハラを指して進み行く。 淤縢山津見ほか二人は、怪しき声に惹きつけられ、不知不識の間に谷川を遡つて、数里の山奥に迷ひ入る。 折しも十五夜の月は東天に輝き渡れども、峨々たる高山と高山との深き谷間は、月影もささず、夜は追々と更け行くばかり、寂しさ刻々に迫り、三人は此処に云ひ合したる如く一度に腰を下し、谷川の傍に端坐しぬ。三人の身体は又もや強直して、びくとも出来なくなり、自由の利くは首のみ、鬱蒼とした樫の木の上から俄に 声『ウヽ』 と大なる唸り声聞え来る。 淤縢山津見『ヤア二人の方、私は身体が一寸も動かない、貴方は如何ですか』 駒山彦『へヽヽ変だ。こんな変梃な事はないワ』 照彦は雷のやうな声を出して、 照彦『此方は月照彦の命であるぞよ』 駒山彦『何、月照彦だ。馬鹿言へ、そんな狂言をすな。貴様は三人の娘さまにつきてる彦だが、今は薩張離れてる彦ぢやないか。こんな闇い山奥へ踏み迷うて、馬鹿な真似をすると、駒山が承知をしないぞ。そんな気楽な事かい』 照彦『アハヽヽヽ、阿呆らしいワイ。三五教の宣伝使と豪さうに言つて、そこら辺を大きな声を張りあげて歩き廻る馬鹿宣伝使、どうぢや、一寸先は真の暗の、此谷底に捨てられて、アフンと致したか。顎が外れたか。あまり呆れてものが言はれぬ。開いた口がすぼまらぬぞよ。アハヽヽ憐れなものぢや、身魂の性来の現はれに魂を洗へよ、尻を洗へよ、足を洗へよ、明かな神の教はありながら、歩み方が違ひはせぬか』 照彦『アヽ、此奴は悪魔の神懸り[※校定版では「神憑り」]になりよつた。あられもない事を口走りよつて、ほんにほんに憐れな者だな。これこれ淤縢山さま、貴方もぢつとして居ずに、此場合あつぱれ審神をして照彦に憑依して居る悪魔を現はしてやつて下さいな』 淤縢山津見『イヤ、吾々も、俄に足腰たたぬ不自由の身、あまりのことであふんと致して、荒膽をとられて了つた。アヽ耻づかしい事だワイ』 照彦『イヒヽヽヽ、可愍しいものだ。異国の果で威張つた報いで、いまはの際にいろいろと悔んだところで、如何ともする事は出来まい。かやうな処を数多の国人に見られたならば、宣伝使の威厳は全く地に墜ちるぞ。神が意見致さうと思つて、いろいろ雑多に苦労を致し、湯津石村の此谷底に誘ひ来りしは神の慈悲。宣伝使は只一人で天下を布教宣伝すべきものだ。それに何ぞや、物見遊山のやうに、ぞろぞろと幾人もつらつて宣伝に歩く屁古垂者、以後は必ず慎しめよ。神の言葉に違背するな。いいか、返答如何に』 駒山彦『いかにも、蛸にも、蟹にも、足は四人前、もういい加減に下つて下さい、お鎮まりを願ひます。天狗か何だか知らないが、こんな谷底へ放り込まれて意見も何も聞かれるものか、こら照彦の副守護神よ、何時までも愚図々々致して居ると、霊縛をかけてやらうか』 照彦『ウフヽヽヽ、うしろを振り向いてよく考へて見よ。うろうろと此山奥に踏み迷ひ来りしは、全く汝の身魂の暗きがため、動きの取れぬ汝の体、うかうか致すと足許から火が燃えて来るぞよ。艮の金神の教を何と心得て居る。牛の糞のやうな身魂を致して、天下の宣伝使とは片腹痛い、有為転変は世の習ひ、牛の糞でも天下を取る、煎豆にも花が咲くと、万一の僥倖を夢みて迂路つき廻る宣伝使、後指を指されて居るのも気がつかず、得意になつて濁つた言霊の宣伝歌を歌ふ狼狽へもの、此上もなき迂濶、迂愚、迂散な奴ども』 駒山彦『うつかりしとると、どんな目に遭はされるか分つたものぢやない。これこれ淤縢山、俯いてばかり居らずに、貴方も天下の宣伝使ぢやないか、何とかして照彦の憑霊を縛つて下さいな』 淤縢山津見『煩くても仕方がない。これも神様の試みだ。気を落ち付けて聞いて居れば大に得るところがある。私は却つてこれが嬉しい』 照彦『エヘヽヽヽヽ』 駒山彦『ヤア、又エヘヽヽヽだ。豪い事になつて来た。もう好い加減にお鎮まりを願ひませうか、遠慮会釈もなしに、吾々の小言ばかり言つて、得体の知れぬ神憑りぢやなあ』 照彦『エヘヽヽヽ閻魔様とは此方の事ぢやぞ、これから些と、豪い目に遭はしてやらう。遠近を股にかけて、遠慮会釈もなしに囀り居る駒山彦の宣伝使、一つや二つの山坂を越えて、えらいの、苦しいのと、耻も知らずに、よくもほざいたなあ、口ばかり偉さうに申す宣伝使』 駒山彦『エヘヽヽヽえぐい事ばかり言ふ得体の分らぬ副守護神だ。もう結構です、これで御遠慮申しませう。好加減にやめて下さい。縁起の悪い、此暗の晩に谷底に坐らせられて、怺まつたものぢやありやしない、馬鹿々々しい、照彦の奴、もう好加減に鎮まつたらどうぢや』 照彦『オホヽヽヽ、臆病者の二人の宣伝使。淤縢山津見、何をオドオドと恐れて居るのか。奥山の谷より深い、道を分け行く三五教の宣伝使、負うた子に教へられ、浅瀬を渡るおろか者の、狼心の鬼と悪魔の容物となつたお化の宣伝使。お気の毒でも、蠅毒でも、猫入らずでも、汝の心の鬼は容易に往生致さぬぞよ。恐るべきは人の心の持方一つ、往生際の悪い守護神は、神は綱を切つて仕舞はうか』 駒山彦『モヽヽヽおいて呉れ、大きな声で俺達を脅かしよつて、そんな事で怖ぢつく俺ぢやないワイ。をかしな声を出しよつて、人の欠点ばかりほじくる奴は、鬼か大蛇か狼の守護神だ。俺の神力を見せてやらうか、おつ魂消て尾を捲きよるな。俺が奥の手を出して見せたら、遉の鬼の守護神も尾をまいて落ちるだらう』 照彦『オホヽヽヽ面白い面白い』 (大正一一・二・一四旧一・一八加藤明子録)
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(1442)
霊界物語 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 15 団子理屈 第一五章団子理屈〔四〇八〕 三五の月は昇れども、山と山との谷間は、黒白も分かぬ真の暗、空せまく地狭き谷底に、三人の宣伝使は端坐し、首ばかり動かし居る折柄、何処ともなく虎狼の唸るやうな声、木霊を響かせ聞え来る。 声『ウーオー』 駒山彦『イヤー虎か狼か、どえらい声が聞えて来た。淤縢山津見さま、神言でも上げませうか』 淤縢山津見『ヤー、仕方がない、神言を奏上しませう』 照彦『カヽヽ神を松魚節に致す宣伝使、かなはぬ時の神頼み、「神言でも」とは何だ。それでも宣伝使か、でも宣伝使。稜威輝くてるの国、珍はてるてるはる山曇る、オツトドツコイ淤縢山くもる、駒山彦は雨降らす、雨は雨だが涙の雨だ。かなしさうな其面つき、仮令からだは八つ裂になつても、神のためなら、チツトもかまはないと言ふ覚悟がなくて、誠の道が開けるか、カラ魂のさかしら魂、神の心も推量して呉れても宜からう。少しの艱難辛苦に遭うても、尻を捲つて雲をかすみと逃げ行く宣伝使、からすのやうな黒い魂で誠の神をかついで、勝手なねつを吹き歩くがとう虫奴が。かてて加へて蟹が行く横さの道を歩みながら、吾程誠の者はない、誠一つが世の宝、誠をつくせ、真心になれと、かたる計りの宣伝使。 からすのやうに喧ましい蚊々虎さまの素性も知らず、軽い男と侮つて、汗かき、耻かき、頭かき、かばちの高い、カラ威張りの上手な神の使ひ、カラと日本の戦があるとは、汝らが御魂の立替へ立直し、今までのカラ魂を、オツ放り出して、水晶の生粋の日本魂に立替へいと申すことだ。喧しいばかりが宣伝使でないぞ。改心いたせばよし、どこまでも分らねば、神はモウ一限りに致すぞよ。何程気の長い神でも、愛想が尽きて、欠伸が出るぞよ』 駒山彦『カヽヽ叶はぬ叶はぬ、勘忍して下さいな。是から改心致しますから、モウ吾々の事に構ひ立てはして下さるなよ。かいて走るやうな掴まへ処のない意見を聞かされて、アヽ好い面の皮だ』 照彦『キヽヽ貴様は余程しぶとい奴、此方の申すことが気に入らぬか。奇怪千万な駄法螺を吹き廻つて、良い気になつて気楽さうに、宣伝歌を歌ひ、気まぐれ半分に、天下を廻る狼狽者、気抜け面して、気が利かぬも程がある。鬼門の金神現はれて善と悪とを立別る。鬼畜のやうな、気違ひ魂の宣伝使は、世の切り替にキツパリと取払ひ、根から葉から切つて了ふぞよ。貴様の気に入らぬは尤もだ。ひどい気強い鬼神のやうな言葉と思ふであらうが、よく気を付けて味はうて見よ。きくらげのやうな耳では神の誠の言葉は聞き取れまい。気が気でならぬ神の胸、いつまでも諾かねば諾くやうに致して諾かして見せうぞよ。汚ない心をさつぱり放かして、誠の神心になり、万事に対して機転を利かし、心配り、気配りの出来ぬやうな事では、気の利いた御用は到底勤まらぬぞよ。きなきな思はず気に入らいでも、歯に衣を着せぬ神の言葉、是から気張つて気分を改め、気不性な心を立直し、気随気儘をさらりと放かし、神と君とに誠を尽し、気六ツかしさうな面をやはらげ、心を決めて荒胆を練り、キヤキヤ思はずキユウキユウ苦しまず、心を清め身を浄め、誠の神に従へば気楽に道が拡まるぞよ。キチリキチリと箱さした様に行くぞよ。神を笠に着るなよ。抜刀や刃物の中に立つて居る様な心持になつて、油断を致すな。窮まりもなき神の恩、万の罪咎も神の光りに消え失せて、身魂は穏かに改まり、さうした上で始めて三五教の宣伝使だ。どうだ、分つたか』 駒山彦『キヽヽ気が付きました。気張つて気張つて是から早く改心を致します。此気味の悪い谷底で、奇妙奇天烈な目に逢うて気を揉まされて、何たるマア気の利かぬ事だらう。神の気勘に叶うた積で、気張つて気張つて心配り気配りして、此処まで勤めて来たのに、思ひがけなき気遣ひをさされた。サア、もうキリキリと決りをつけて、来た道へ帰らうかい。淤縢山津見さまも何だ、一体気の小さい、おどおどとして顫うて居るぢやないか。ナント膽玉の弱い男だな。こんな所に長居をすると、猿の小便ぢやないが、先のことが気にかかるワ』 淤縢山津見『きまりの悪い、不気味な態でキツウ膏を搾られました。際どいとこまで素破抜かれて、アー俺も気が気ぢやないワ。ドウデ吾々は神様の気に入るやうな宣伝はできては居らぬからなア』 照彦『クヽヽ苦労なしの、心の暗い暗雲の宣伝使』 駒山彦『モシモシ、クヽ暗がりにそんな下らぬ事を、モヽモウ是位で止めて下さい』 照彦『苦しいか、苦面が悪いか、臭い物に蓋をしたやうに隠し立てしても、何程クスネようと思うても、四十八癖のあらむ限りは改めてやるぞ。下らぬ理屈を口から出放題、グヅグヅグデグデとクドイ理屈を捏並べ、一つ違へばクナクナ腰になつて、一寸した事でも苦にするなり、委しき事も知らずに、喰ひ違つた御託を並べ立て、九分九厘で覆るの覆らぬの、一厘の仕組をくまなく悟つたの、汲み取つたのと、そりや何の囈語、汲めども尽きぬ神の教、大空の雲を掴むやうな掴まへ所のない、駄法螺を吹いたその酬い、悔し残念をコバリコバリ、今までの取違ひを悔ひ改め、クヨクヨ思はずに神の光を顕はし、闇黒の世を照し、また来る春の梅の花、開く時を呉々も待つがよいぞよ。クレンと返る神の仕組、苦労の花の開く神の道、委しいことが知りたくば、悔い改めて神心になれ。噛んでくくめるやうに知らして置くぞよ』 駒山彦『クヽヽクドクドしいお説教、モヽ分りました分りました、結構で御座います。決して決してモウ此上は取違ひは致しませぬ。何卒これで止めて下さいませ、さうして吾々三人の身体を自由になるやうにして下さい』 照彦『ケヽヽ結構々々とは何が結構だ。毛筋の横巾も違はぬ神の教だ。決心が第一だ。道を汚してはならぬから、神が気もない中から気を付けるのだ。怪体な心を取直し、ケチケチ致さず、神心になつて居らぬと、獣の身魂に欺されて、尻の毛まで一本もないやうにしられるぞよ。嶮しき山を上り下りしながら、毛を吹いて疵を求めるやうな其行り方、従者を連れたり、女を伴れたり、そんな事で神の教が拡まるか、毛虫よりも劣つた宣伝使』 駒山彦『ケヽヽ怪体なことを言ふ神だな。淤縢山さま、如何しよう。耳が痛くつて、面白くもない、コンナ目に遇はされやうと思うたら、宣伝に廻つて来るぢやなかつたに、アヽ何と宣伝使は辛いものぢやなア。毛色の変つた照彦のやうな男が来るものだから、コンな怪体な谷底で、眉毛を読れ、鼻毛を抜かれ、尻の毛まで抜かれるやうな、怪しからぬ目に遇うて、谷底へ蹴落されて、けがしたよりも余程つまらぬ目に遇ふのか。お前さまは頭が坊主だから、けがなくてよからうが、駒山彦は二進も三進もならぬ目に遇うて、困り切つてゐるワイ』 照彦『コヽヽ駒山彦、何を言ふか、乞食芝居のやうに、男女七人連にてゴテゴテと、此処彼処ゴロツキ廻る宣伝使、神は勘忍袋が破れるぞよ。此世の鬼を往生さして、神、仏事、人民を悦ばす神の心、耐へ忍びのない心の定まらぬ、破れ宣伝使が何になるか。梢に来て鳴く鶯でも、春夏秋冬はよく知つて居るに、応へたか、此方の云ふ事が分つたか。コツコツと角張つたもの言ひをしたり、ゴテゴテと小理屈を捏ねたり、事に触れ物に接し、下らぬ理屈を捏ね廻し、人の好まぬ事を無理に勧め、怖がられて強い物には媚び諂ひ、後先真暗の神を困らす駒山彦の宣伝使、米喰ふ虫の製糞器、菰を被つた乞食のやうに、一寸の苦労に弱音を吹き、泣き声をしぼり、モウこいつあ叶はぬ、宣伝はコリコリだと弱気を出したり、怖い顔して威張つて歩く狼狽者の得手勝手なねつを吹くお取次ぎとは、おどましいぞよ。鬼も大蛇も狼も恐れて、尾を振つて跣足で逃げる、イヤ逃げぬ、心の小こい腰の弱い困り者の駒山彦の宣伝使』 駒山彦『サヽヽ囀るない、サツパリ分らぬ事を喋り散らしよつて、態が悪いワイ。逆捻に俺の方からちつと囀つてやらうか、余り喋ると逆トンボリを打たねばならぬぞよ。先にある事を世界に知らす、三五教の悟りのよい流石は宣伝使だ』 照彦『サヽヽ騒がしいワイ』 駒山彦『アヽヽ五月蝿いなア、サツパリ油を搾つて了ひよつた。さてもさても残念なことぢや』 照彦『サアサアサア是からだ。賽の河原で石を積む、積んでは崩す積んでは崩す気の毒な尻の結べぬ宣伝使。月は御空に冴え渡れども、心は暗き谷の底、足許は真暗がりで谷底へ逆トンボリを打たねばならぬぞよ。神の申すことを逆様に取るとはソリヤ何の事、先へ先へと知らす神の教、先の知れぬ宣伝使が、神を審神するといふ探女のやうな、御魂の暗い奴、酒と女に魂を腐らし、やうやう改心致して俄宣伝使になつたとて、サヽそれが何豪い。差添の種ぢやと威張つて居るが、何も彼も差出の神か、イヤ狸だ。流石の其方も神の申す今の言葉、指一本指す事は出来まい。早速開いた口は閉まろまいぞよ、沙汰の限りぢや。サタン悪魔の虜となつても、サツチもない事を触れ歩き、偖も偖も悟りの悪い二人の宣伝使、蚕のサナギのやうに、一寸の事にもプリンプリン尾を振り頭を振り、盲目滅法の審神を致し、本守護神だ、正副守護神だと騒ぎ廻り、日本御魂の両刃の剣はサツパリ錆刀。探り審神者の向ふ見ず、様々の曲津に欺かれ、えらい目にあはされながら、まだ目が醒めぬか。之でも未だ未だ我を張るか。偖もさもしい心だのう。塞ります黄泉彦神の曲の使を信じ、よくもよくも呆けたものだ。今からさらりと我を折りて、慢心心を洗ひ去り、各自に吾身を省みて、猿の尻笑ひを致すでないぞ。耻を曝されて頭を掻くより、褌でもしつかりとかけ。騒ぐな、囀るな、冴えた心の望の月、サアサア淤縢山津見、駒山彦、神の申す事がチツトは腹に入つたか』 駒山彦『シヽヽヽしぶいワイ。うかうか聞いてをれば面白くもない、こんな谷底でアイウエオ、カキクケコの言霊の練習をしよつて、余り馬鹿にするない。言霊なら俺も天下の宣伝使ぢや、負けはせぬぞ。言ふ事はどんな立派な事を言つても、行ひは照彦ぢやで、さう註文通りには行くものぢやない。スカ屁を放つた様な事を吐しよつて、せんぐりせんぐりと、ソヽヽそろそろと棚おろしをしやがつて、チヽちつとも応へぬのぢや。ツヽ詰らぬ事を、テヽヽ手柄さうに、トヽヽ呆けやがつて、ナヽヽ何を吐しやがるのだ。ニヽヽ憎つたらしい、ヌヽヽ抜けたやうな声で、ネヽヽ根も葉もないやうな事を、ノヽヽ述べ立て、ハヽヽ腹が承知せぬワイ。ヒヽヽ昼ならよいがコンナ暗の夜に、フヽヽ悪戯た事を、ヘヽヽ屁のやうに、ホヽヽ吐きよつて、マヽヽ曲津神奴が、ミヽヽみみず奴が、ムヽヽ虫ケラ奴が、メヽヽ盲目奴が、モヽヽ百舌の親方奴が、ヤヽヽ八ケ間しい、ややこしい、イヽヽ嫌な事をユヽヽ云ひよつて、エヽヽ得体の知れぬ、ヨヽヽ黄泉神奴が、ラヽヽ埒もない、リヽヽ理屈を捏ねよつて、ルヽヽ類を以て曲津を集めよつて、レヽヽ連発する、ロヽヽ碌でなしの世迷言、ワヽヽ分りもせぬ、イヽヽいやらしい、イケ好かない事を、ウヽヽ呻り立て、エヽヽエー、モー恐ろしい処か、をかしいワイ。お化の大蛇の神憑奴が』 照彦『シヽヽ』 駒山彦『またシーやつてけつかる。縛つてやらうか、虱の守護神奴が』 照彦『シヽヽ思案して見よ、虱の親方、人の血を吸ふ毛虫の駒山彦、執念深い宣伝使、修羅の巷に踏み迷ひ、後先見ずの困つた駒山彦。叱られる事が苦しいか、叱る神も随分苦しいぞ。シカと正念を据ゑてシツカリ聞け。敷島の大和の国の神の教に、シヽヽ如くものはないぞ。醜の曲津に誑らかされ、汝が仕態は何事ぞ。獅子、狼の様な心をもつて、世界の人間が助けられるか、至粋至純の水晶の心になれ。下の者を大切に致せよ。しち難かしい説教を致すな。シツカリと胸に手をあて考へて見よ。一度は死なねばならぬ人の身、死んでも生き通しの霊魂を研けよ。屡々神は諭せども、あまり分らぬから神も痺をきらして居るぞよ。しぶといと言うてもあんまりだ。終ひには往生致さねばならぬぞよ。シミジミと神の教を考へて見よ。腹帯をシツカリ締めて掛れよ。霜を踏み雪を分けて世人を救ふ宣伝使、知らぬ事を知つた顔して、白々しい嘘言を吐くな。尻から剥げるやうな法螺を吹くな。知ると言ふ事は神より外にないぞよ。天地の事は如何な事でも説き明すとは、何のシレ言、困つた代物ぢや。嗄れ声を振り立てて神言を奏上したとて、天地の神は感動致さぬぞよ。身魂を研けよ、身魂さへ研けたなら、円満清朗な声音が湧いて来るぞよ。強ひて嫌なものに勧めるな。因縁なきものは時節が来ねば耳へ入らぬ。修身斉家、治国平天下の大道だと偉さうに申して居れど、吾身一つが治まらぬ、仕様もない宣伝使、何が苦しうてシホシホと憔悴れて居るか。荒魂の勇みを振り起して、モツト勇気を出さぬかい』 駒山彦『シヽヽシツカリ致します。奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の、声聞く時は哀れなりけり、だ。えらい鹿に出会してしかられたものだい』 淤縢山津見『ヤア、拙者は脚が起つた、身体が自由になつた、大分に魂が研けたと見えるワイ。いやもう何れの神様か存じませぬが、よくもまあ結構な教訓を垂れさせられました。屹度之から心を入れ替へて、御神慮のある処を謹しんで遵奉致します』 駒山彦『ヤア淤縢山さま、脚が起ちましたか、アヽそれは結構だ。吾々はまだビクとも致しませぬ、胴が据つたものですな』 淤縢山津見『貴方は最前から聞いて居れば一々神様に口答へをなさる、貴方は発根からまだ改心は出来て居ない。改心さへ出来たならば吾々の様に、神様は脚を起たして下さいませう。何卒早く屁理屈を止めて改心して下さい』 駒山彦『カヽヽ改心と言つたて、照彦の様な奴さまに憑つて来る様な守護神の言ふ事が、如何して聞かれるものか、神霊は正邪賢愚に応じて憑依されるものだ。大抵此肉体を標準としたら、神の高下は分るでせう』 照彦『スヽヽ直様、淤縢山津見は脚が起つたをきりとして、カルの国に進んで行け。道伴れは決してならぬ』 淤縢山津見『仰せに従ひ改心の上、直様参ります。今まではえらい考へ違ひを致して居りました』 照彦『一時も早く、片時も速に此場を立去れ』 駒山彦『アヽ淤縢山さま、それはあまり得手勝手だ。自分は脚が起つてよからうが、吾々の様な脚の起たぬ者を見捨てて行つても、神の道に叶ひませうか。朋友の難儀を見捨てて何処へ行くのです。神の道は、親切が一等だと聞きました。それでは道が違ひませう』 照彦『駒山彦の小理屈は聞くに及ばぬ、早く起つて行け。駒山彦の改心が出来るまで、此方が膏を搾つてやらうかい』 淤縢山津見は徐々と此場を立ち去らむとする時、三五の明月は山頂に昇り、細き谷間を皎々と照せり。淤縢山津見は此月光に力を得、宣伝歌を歌ひながら谷道を伝ひて、もと来し道を下り行く。 (大正一一・二・一四旧一・一八森良仁録)
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(1458)
霊界物語 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 31 七人の女 第三一章七人の女〔四二四〕 海の内外の分ちなく神の御稜威は照り渡る 常世の浪を隔てたる北と南の大陸の 荒ぶる浪も高砂や間の国の神の森 花咲き匂ふ春山の郷の司の春山彦 心の花も麗しく梅か桜か桃の花 野山も笑ふ春姫のあやどる野辺の若緑 栄えさかえて五月空暗も晴れ行く夏姫の 心の空に照る月は光眩く澄み渡り 秋月姫の真心は紅葉の錦織る如く 東の海を分け昇る月の姿も西の空 空つく山の頂に光も深雪のきらきらと 輝きわたる深雪姫冷酷無惨の世の中に 春の花咲き夏山の緑滴る夫婦が情 神の教もたちばなや非時薫る橘姫 親子五人の真心はいづの身魂の世を救ふ 神の心と知られけりミロクの御代を松代姫 常世の空を晴らさむと春夏秋の露霜を 凌ぐ心の竹笹や風に揉まるるなよ草の 撓むばかりの竹野姫霜の剣や雪の衣 冷たき風に揉まれつつ心の色の永久に 万の花に魁けて咲も匂へる梅ケ香姫の 真心こそは香ばしき花の蕾ぞ麗しき 神の守りの顕著く大江山に現はれし 鬼武彦の御従神神の御稜威も高倉や 空照り渡る白狐の旭月日も共に変身の その働きぞ健気なれ。 鬼武彦は立ち上り、座敷の中央にどつかと坐し、 鬼武彦『さしもに清き癸の、亥の月今日の十六夜の月は早西山に傾きたれば、四更を告ぐる鶏鳴に、東の空は陽気立ち、光もつよき旭狐の空高倉と昇るらむ。月日の駒の関もなく、大江山を出でしより、東や西や北南、世界隈なく世を照らす、日出神の御指揮、常世の国に渡り来て、千変万化に身を窶し、神の経綸に仕へたる、吾は卑しき白狐神、数多の眷属引き連れて、神の大道を守る折、心驕れる鷹取別の、曲の企みを覆へさむと、朝な夕なに心を砕き、旭、高倉、月日と共に、三五教を守護せし、鬼をも摧ぐ鬼武彦が、心を察したまはれかし。八岐の大蛇に呪はれし、大国彦の曲業は、比類まれなる悪逆無道、鷹取別や遠山別、中依別の三柱神は、姫の命を捕へむと、四方八方に眼を配り、醜女探女を数限りもなく配り備ふるその危さ、手段をもつて鷹取別が臣下となり、竹山彦と佯はつて甘く執り入り、常世神王の覚も目出度く、今日の務を仰せつけられしは、天の恵の普き兆、善を助け悪を亡す、誠の神の経綸、ハヽア嬉しやうれしや勿体なや。さはさりながら御一同の方々、必ず共に御油断あるな、一つ叶へばまた一つ、欲に限りなき、体主霊従の邪神の魂胆、隙行く駒のいつかまた、隙を狙つて、三人の月雪花の御娘御を、奪ひ帰るもはかられず、只何事も神直日、大直日の神の御恵みによつて、降り来る大難を、尊き神の神言にはらひ退け、朝な夕な神に心を任せたまへ、暁告ぐる鶏の声、時後れては一大事、吾はこれよりこの場を立去り、鷹取別の館に参らむ。いづれもさらば』 と云ふかと見れば姿は消えて、何処へ行きしか白煙、夢幻となりにけり。 合点の行かぬこの場の有様、春山彦を始めとし、花にも擬ふ七人は、茫然として暫し言葉もなかりしが、春山彦は立ち上り、天を拝し地を拝し、 春山彦『あゝ有難や尊やな、親子夫婦が真心を、神も照覧ましませしか』 と、涙と共に宣伝歌、いと淑やかに歌ひ始むる。七人の女も口を揃へて、 一同『神が表に現はれて善と悪とを立別る この世を造りし神直日心も広き大直日 ただ何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ 世の曲事は宣り直せ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるともたとへ大地は沈むとも 誠の神は世を救ふ誠の神は世を救ふ』 と歌ひながら拍手する声は天地も揺ぐばかりなり。松代姫は立ち上り、 松代姫『天と地とは睦び合ひ四方の民草神風に 靡き伏す世を松代姫ミロクの神の現はれて 親子五人のいつ御魂松竹梅のみつ御魂 三五の月も空高く輝き渡る麻柱の 神の教を伝へむと高砂島を後に見て 常世の国の空寒くカルの都に差しかかる 神の使の宣伝使冷たき風に曝されて 間の国にさしかかる雨か涙か松の露 露のこの身を神国に捧げて間の国境 来る折しも鷹取別の猛き力に小雀の かよわき女の一人旅尾羽打枯らす手弱女を 捕へ行かむとする時に空を焦して降り来る 唐紅の火柱に打たれて逃ぐる曲津見の 消え行く後に唯一人疲れしこの身を横たへて 心私かに宣伝歌歌ふ折しも春山彦の 神の命に救はれて堅磐常磐の巌窟に 来りて見れば懐かしき竹野の姫のすくすくと 笑顔に迎へし嬉しさよ世人の心冷え渡る 中にも目出度き夏姫の日に夜に厚き御仁慈 神の恵のいや深く神の御稜威はいや高く 輝く月雪花の御子春山彦や夏姫の 御恩はいつか忘るべき心はいつか忘るべき 嗚呼有難や麻柱の教を立てし皇神の 御稜威は千代に栄ゆべし功は四方に開くべし』 と感謝の歌を詠みて、元の座に復しける。 屋外には、天空を轟き渡る天の磐船、鳥船の音、天地を圧し、木枯の風は唸りを立てて雨戸を叩くぞ淋しけれ。 (大正一一・二・一七旧一・二一加藤明子録)
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(1463)
霊界物語 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 36 偽神憑 第三六章偽神憑〔四二九〕 馬を乗り捨て、春山彦と共に悠々とこの場に現れたる戸山津見神の照彦は、一同の顔を見て大に驚き、 照彦『オーこれはしたり、松、竹、梅の御姉妹、思はぬ処でお目に懸りました。御姉妹否御主人様、日に夜に心にかかる旅の空、何処の空に坐しますやと、明け暮れ空を仰いで雲の行方を眺め、心を煩はして居りました』 と落つる涙を袖に拭ふ。 松、竹、梅の三人は、 松、竹、梅『そなたは照彦……いやいや戸山津見神殿、ようまあ御無事でゐて下さいました。これといふのも吾らを守り給ふ三五教の神の御恵み』 と嬉し涙に暮れ居たる。 駒山彦『イヤア照彦、アヽではない戸山津見神殿、この夏は智利の山奥にて、いかいお世話になりました。イヤもうその時の苦しさ、友達甲斐もない男だと、駒山彦も一度は恨んで見たが、思ひかへせば何事も神様の御引き合せ、併しながら、もう何卒神懸りにならないやうに気をつけて下さい』 照彦はワザと神懸りの真似をして、 照彦『アヽヽ』 駒山彦『イヤー、また始まつた。この美しい七人の女神様の前で、吾々の恥を素破抜かれては堪まつたものでない。あゝどうか今日は皆さまに免じてお鎮まりを願ひます』 照彦『アヽヽ三五教の宣伝使、荒野に彷徨ひ唯一人、涙に咽ぶ腑甲斐なさ。イヽヽいぢけたイモリのベタベタと、井戸の底を潜るやうに、枉津に懼れて生命からがら此処まで出て来た誰やらの宣伝使。ウヽヽ珍山彦に棄されて、動きの取れぬ谷の底、憂しや悲しや、蹇への、身はままならぬ百日百夜、泣いて暮すか杜鵑。エヽヽえらい元気ではしやいで、後先見ずに進み行く、向ふの見えぬ誰やらの宣伝使。オヽヽ可笑しかつたぞ、面白かつたぞ。恐ろしさうな顔をして、暗い谷間に残された、愚者の何処やらの宣伝使』 駒山彦『また言霊か、言霊の妙を得たるこの駒山彦には敵ふまい。よし此方にも覚悟がある。アフンと致して泡を吹いたる、阿呆面のどこやらの宣伝使。三人の姫を見失ひ、開いた口が閉まらなんだ、顎の達者な何処やらの宣伝使、哀れなりける次第なりだ。イヽヽいらざる理屈を拗ね廻し、そこら中の人間に、茨のやうに忌み嫌はれる意地悪のいかさま宣伝使。ウヽヽ狼狽へ廻り、姫の跡を血眼になつて騒ぎ廻り、夢にさへも囈言を喋くり、嘘は言うたか言はぬか知らぬが、霜にうたれ頭を打ち、夢か現か三太郎か、馬に乗せられ生命からがらここまで出て来た何処やらの宣伝使。エヽヽヽエグイ責苦にあはされて、腰を抜かし、人の前では豪さうに法螺を吹く、オヽヽ大馬鹿者の臆病者、オケオケ、もうそんな馬鹿な神懸りは、誰も聴手がないやうになるぞよ』 照彦は、 照彦『カヽヽ』 と始め出す。 駒山彦『イヤー、また神懸りが始まつたのか。こいつが神懸りになりよると、執拗いの執拗うないのつて、腐り鰯が網にひつ着いたやうに、容易に放れて呉れぬので困つて了ふ』 照彦『カヽヽ烏を鷺と言ひくるめ、恥かき歩く何処やらの宣伝使。一つ言うては頭掻き、遣り込められては恥をかく。かけ替へのない一つの頭を粗末に使ふ粕宣伝使。頑固一方の、神鰹節のガツト虫。キヽヽ北へ北へと進んで来たが、きつい嵐に吹き捲られ、際どい処で生命を助けられ、消ゆるばかりの思ひをいたし、きつい戒め食うた何処やらの宣伝使。クヽヽ黒い顔して燻つて、四十八癖を列べられ、谷底でくたばつた心の弱い、ケヽヽ毛色の変つた、怪態な、吝な、コヽヽ菎蒻腰。コソコソと二人の男に逃げられて、困り入つたる駒山彦の宣伝使』 駒山彦『照彦の奴、どこまでも俺を馬鹿にするのか。これほどの多勢の前で悪言暴語を列べるか、善言美詞の神の教、守らぬ奴は枉津の容れ物。カヽヽ勘弁ならぬぞ、覚悟はよいか。売り言葉に買ひ言葉だ。まだこの上に勝手な熱を吹きよるなら、俺も沢山言分があるぞ。キヽヽキリキリチヤツトこの方の申すことを諾かばよし、聞き入れなくば聞くやうにして聞かしてやる。貴様のやうな奇態な面をして、気違ひのやうな事を言つて、人に傷をつけ、奇的滅法界な枉津の神懸りを致し、人の気に入らぬ事ばかり囀り、それで気分がよいと思ふか。気味の悪い手つきをさらしよつて、智利山の谷底で何を吐いた。クヽヽ苦労が足らぬから、もつと苦労を致せと言うたぢやないか。二本の足を持ちながら、苦労が辛さに馬に乗るとは何のこと。ケヽヽ家来の身を持ちながら、主人を見放し、コヽヽ小賢しくコセコセ小理屈を申す何処やらの宣伝使。言ふなら言へ、なんぼ言つてもこたへぬ此方、今までの駒山彦とはわけが違ふぞよ』 照彦『サヽヽ騒ぐな囀るな、酒を食うて酔うたよな、逆理屈は聞く耳持たぬ、さてもさても騒がしい奴だ。シヽヽ醜女探女に追ひかけられて、スヽヽスウスウ息をはづませながら、スタスタ逃げゆくそこらの宣伝使。雪隠で饅頭食つたよに、ソヽヽ素知らぬ顔した臭い臭い宣伝使』 駒山彦『オイ、照彦、言霊の練習をやるのか、言霊ならまた後でゆつくりと聞かう。もういい加減にサヽヽさらりと止めたらどうだ。余りさし出るとシヽヽ尻尾を出して遣らうか、しぶとい奴だ。スヽヽ酸いも甘いも弁へ知つた駒山彦を、セヽヽ攻めやうと思つても、ソヽヽそうはゆかぬぞ。その手は食はぬ秋鼠だ』 照彦『タヽヽ叩くな叩くな、顎を叩くな。高い鼻を捻折つて改心さして遣らうか。チヽヽ力も神徳もない癖に、ツヽヽ次へ次へと理屈を申すつまらぬ奴、月夜に釜をぬかれたやうな詰らぬ顔して、テヽヽ天地の間を股にかけ、途中に踏ん迷うて栃麺棒をふる、トヽヽ呆け面の何処やらの宣伝使。トコトンまで剥いてやらうか』 駒山彦『タカの知れた宣伝使の言葉。チヽヽ一寸も取り柄のない、ツヽヽ詰らぬ事を、テヽヽ手柄顔に喋くり散らして、仕舞の果にや、トヽヽトンブリ返りを打ちよるな、トツクリと自分の心に相談して見よ』 照彦『ナヽヽ怠惰な事を言ふな、其辺中をウラル彦の手下に追はれてニヽヽ逃げ廻し、ヌヽヽ脱つた面して、ネヽヽ猫を冠つて野良鼠のやうに、のさばり歩く宣伝使』 駒山彦『駒山彦だぞ、ソリヤ、ナヽ何吐かす』 と顔色を変へ立上がらむとする。不思議や何時の間にか身体強直して、首から下は又もやビクともせなくなつてゐる。 照彦『オイ駒山彦の宣伝使、イヤ羽山津見、一つ立つてはね廻つたらどうだ』 駒山彦『オイ、また霊縛をかけよつたなア。此奴は降参々々、どうしてもお前には、この宣伝使も兜を脱がねばならぬワイ。改めて戸山津見神どの、今までの御無礼、平に御宥し下さいませ。アヽヽ怪体の悪いことだ。無理往生をさせられて堪つたものぢやないワ』 照彦はウンと一声。羽山津見は立ち上り、 照彦『アヽこれで鬼に鉄棒、おまけに羽の生えたやうなものだ。サアこれから常世の国へ行つて、鷹取別の羽をむしつて、跳ねてはねて跳ね廻つて、羽山津見にならうかい』 一同は声を上げて思はず、 一同『ワハヽヽヽ、オホヽヽヽ』 と笑ひ伏す。 春山彦『なんと神憑り[※初版・愛世版では「神憑り」、校定版では「神懸り」。]と云ふものは妙なものですな、戸山津見の神さま、神憑り[※初版・愛世版では「神憑り」、校定版では「神懸り」。]の時にはどんな御気分になつて居られますか』 駒山彦『イヤ、春山彦さま、嘘ですよ。この男はいつもよく喋舌る癖があるのですからなア。あんな事が神憑り[※初版・愛世版では「神憑り」、校定版では「神懸り」。]であつて堪りますか、アハヽヽヽ』 春山彦『それでも貴方、霊縛とやらかけられて、身動きも出来なかつたぢやありませぬか』 駒山彦『いや、一寸足が痺れたので立てなかつたのです。この場の興を添へるため、滑稽を演じてお目にかけたのですよ』 照彦『アハヽヽ、そらさうだ。お前もよく霊縛にかかつた様な真似を上手にしたねー。アハヽヽヽ』 夏姫『なんと貴方がたは気楽なお方ですこと、今宵貴方を常世の国に連れ帰ると、鷹取別の家来の中依別が駕籠を持つて来るのですから、それまでに何とか用意をしなくてはなりませぬが……』 照彦『イヤ、御心配下さいますな。吾々には、神様のお護りがあります。確信が御座いますから』 と話す折りしも、又もや門外騒がしく、人馬の足音近寄り来る。春山彦は、 春山彦『どうやら捕手が来た様子、どうぞ御一同、奥の岩窟にお這入りを願ひます』 駒山彦『吾々は敵を見て旗を捲くは本意でござらぬ。捕手の来るを幸ひ、常世の国に連れ行かれ、跳ねてはねて跳ね廻り、一泡吹かせてやりませうかい』 春山彦『左様でもございませうが、吾々の願ひごと、どうぞ素直にお聞き下さいますやうに』 駒山彦『イヤー主人の頼みとあれば仕方がない。サア、松竹梅の三人さま、暫く奥で休息いたしませうかい。ヤー戸山津見神殿、常世の国へ潔く行つて来い。吾々は後からお手伝ひに行くからな』 と言ひ残し、裏口さして悠々と出でて行く。 早くも中依別の配下は門口の閾をまたげ、 中依別『ただ今中依別の神、宣伝使を召捕りに参りました。どうぞお渡し下さいませ』 春山彦『大切の罪人、よく検めて受取られよ』 中依別は静に、 中依別『ヤア、宣伝使殿、気の毒ながらこの駕籠にお召し下さい』 照彦は悠然として表に現はれ、 照彦『オー、汝は悪逆無道の鷹取別の家来、中依別と申す者か、イヤー面白い面白い。吾こそは三五教の宣伝使、常世の国に打渡り、汝の如き悪神を片端から言向け和し、誠の神の御教へに救ひやらむと此処まで来たのだ。ヤー出迎へ大儀だ。早くこれへ駕籠を持て。大切に舁げよ。途中に落しなど致すに於ては神罰立処だ。気を注けて大切に送り申せ』 中依別『汝罪人の身を以て、中依別に対し大胆不敵な広言、吠面かわくな』 戸山津見は、莞爾としながら、駕籠の中に姿を隠したり。 中依別『ヤー春山彦、天晴れあつぱれ褒美にはこれを遣はす』 と懐より数多の宝を取り出し、玄関に投げつけ、葦毛の駒にヒラリと跨り、数多の人を指揮しながら、中依別は悠々としてこの家を後に帰り行く。[※中依別に捕まった照彦(白狐が化けた偽者)が常世城に護送されて来るシーンは第10巻第5章「狐々怪々」にある。] 照彦『アハヽヽヽ、狐にまた抓まれよつたな』 (大正一一・二・一七旧一・二一東尾吉雄録)
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霊界物語 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 37 凱歌 第三七章凱歌〔四三〇〕 朝日は空に照彦の、神の命の宣伝使、戸山津見と改めて、情も深き春山彦の、館に着くや、一息つく間もあらず、中依別の捕手の駕籠に乗せられて、怯めず臆せず、宣伝歌を歌ひながら、数多の人に送られつ、駕籠にぶらぶら揺られ行く。後に照彦は、窓の戸押し開き、大口開いて高笑ひ。 照彦『ワアハヽヽヽヽヽ、よくも化されよつたなア。それにつけても雄々しきは、鬼武彦が白狐の働き、アヽ面白し面白し。ヤアヤア駒山彦、松、竹、梅の宣伝使殿、春山彦御一家の方々、これへお越し遊ばされよ』 と声高々と呼ばはれば、心轟く駒山彦、千騎一騎の胸も春山彦夫婦、親子は一時にこの場に現はれ、松代姫は言葉しとやかに、 (駒山彦?)『ヤア、そなたは照彦殿、何うしてマア無事に免れましたか。斯う云ふ間にも心が急く。またもや鷹取別の手下の者共、そなたの所在を探ね、引返し来るも計り難し。早くこの場を落ち行けよ』 照彦『ワアハヽヽヽヽヽ、何さ何さ、たとへ鷹取別、鬼神を挫く勇ありとも、吾また神変不思議の神術を以て、幾百万の曲津見を、千変万化に駆け悩まし、言向和し麻柱の、神の教に帰順せしめむは案の内、必ず心配あらせられな。吾は今まで照彦となつて、ヱルサレムの桃上彦命が僕となり、日に夜に汝ら三人を守護り居たるは、天教山に現れませる木の花姫の御心にて神政成就の先駆をなし、黄泉比良坂の戦闘を治め、常世国に塞がれる八重棚雲を吹き払ひ、隈なく照らす月照彦の神の再来、照彦とは仮の名、今は尊き天の数歌、一、二、三、四、五、六、七、八、九、十。十の名に負ふ戸山津見の神、如何なる曲霊の来るとも、吾身のこの世に在らむ限りは、案じ煩ひ給ふ事勿れ』 と初めて明かす身の素性。春山彦を始めとし、松竹梅や雪月花、駒山彦や夏姫も、思はず顔を看守つて、何の辞もなかりける。またも聞ゆる人馬の物音、はて訝かしやと、窓押し開けて眺むれば、黄昏の暗を照して、こなたに向かつて進み来る高張提燈旗差物、遠山別が紋所、白地に葵の著く、風に揺られて瞬きゐる。 春山彦『あの旗印は擬ふ方なき遠山別、この場の秘密を窺ひ知つて、又もや捕手を向けたるならむ。ヤア、方々、片時も早く裏庭を越え、巌室に忍ばせ給へ。春山彦の神力に依て、如何なる敵をも引受け申さむ。早く早く』 と急き立つれば、 『アイ』 と答へて七人の女達、裏庭指して出でて行く。 照彦、駒山彦は突つ立ち上り、 照彦『ヤア、面白し面白し、曲津の張本遠山別、たとへ幾百万の軍勢を引連れ攻め来るとも、この照彦が言霊の、伊吹の狭霧に吹き散らし、言向和すは目のあたり。春山彦殿、必ず懸念ひなされますな』 春山彦『実に有難き戸山津見[※照彦のこと]の御仰せ。さりながら、吾らも間の郷の司神、女々しくも、助太刀を受け、敵を悩まし、卑怯未練と笑はれむより、吾は心を神に任せ奉り、生命の続く限り、吾言霊の有らむ限り言向和し、それも叶はぬその時は、この細腕の動く限り、剣の目釘の続くだけ、縦横無尽に斬り捲り、潔く討死仕らむ。貴神は暫く控へさせ給へ』 照彦『ヤア、勇ましし勇ましし、照彦は奥庭に身をしのび、貴神が働き見物仕らむ。羽山津見[※駒山彦のこと]来れ』 と徐々と裏口開けて出でて行く。門の戸打破り、乱れ入り来る遠山別、家来の面々引連れて、遠慮会釈もなく座敷に駆け上り、 遠山別『ヤア、春山彦、松竹梅の宣伝使を鷹取別に送られしは天晴あつぱれ、さりながら、汝には、月、雪、花の三人の娘ありと聞く。万々一替玉にあらずやとの鷹取別の御疑ひ、照山彦、竹山彦の証言もあれど、念のため、汝が娘三人を一度常世へ伴れ帰り、真偽を糺せよとの思召、君命拒むに由なく、遠山別、使者として罷り越したり、速かに三人の娘を渡されよ[※遠山別が偽常世神王(広国別)に、月雪花の三姉妹を捕まえて来いと命じられるシーンは第10巻第5章「狐々怪々」にある。]』 と言葉鋭く居丈高、肩臂怒らし睨み入る。春山彦は、ハツと胸を衝きながら、決心の色を浮べ、 春山彦『天にも地にも掛替なき三人の娘なれど、誰あらう鷹取別の御仰せ、否むに由なし、謹しんで御旨を奉戴し、娘をお渡し申さむ。暫く待たれよ』 と語る折しも、月雪花の三人は、美々しきみなりの扮装にてこの場に現はれ、三人一度に両手をつき、 月、雪、花『これはこれは遠山別様、この見苦しき荒屋へ、よくこそ入来せられました。妾は仰せに従ひ、唯今より参りますれば、何分宜敷く御願ひ申します。アヽ、父母様、妾は往つて参ります。人間は老少不定、これが長のお別れにならうも知れませぬ、随分無事で、夫婦仲よく暮して下されませ』 と、三人一度に声を曇らせ泣き沈む。 遠山別『ヤア、天晴々々、さても美しいものだ。春山彦殿、遠山別が良きに計らはむ。そなたは好い子を有たれたものだ。この娘を常世神王の小間使に奉らば、汝夫婦が身の出世、お祝ひ申す。アハヽヽヽ、ヤア、家来の者ども、この三人の娘を一時も早く駕籠にお乗せ申せ』 家来『ホーイ』 と答へて家来の大勢、三挺の駕籠を担ぎ来り、三人の娘を乗せて後白浪と帰り行く。[※遠山別が月雪花の宣伝使を連れて常世城に帰城するシーンは第10巻第8章「善悪不可解」にある。] 春山彦は娘の駕籠を、月に透かして打眺め打ながめ、青息吐息つく折しも、照彦を先頭に妻の夏姫、松竹梅の宣伝使、月雪花のわが娘、駒山彦も諸共に、一度にこの場に現はれ来るぞ不思議なる。 春山彦『ヤア、そなたは秋月姫、深雪姫、橘姫か、どうして此処へ帰り来りしぞ。警護厳しき駕籠の中、ハテ合点がいかぬ』 と両手を組み、頭を垂れて思案顔。 照彦『ヤア、春山彦殿、千変万化の白狐が働き、最早この上は大丈夫、心を落付けられよ』 と、言はれて驚く春山彦。 春山彦『アヽ、有難や、又もや鬼武彦の御身代り』 と、両手を合せ、神前に向つて手を拍ち声も静かに神言を宣る。神の仕組の引合せ、三男七女の水晶の御魂も揃ふ十曜の神紋、一、二、三、四、五、六、七、八、九、十と、天の数歌うたひながら、男女五人の宣伝使、親子五人は一斉に、心いそいそ宣伝歌を歌ふ。 一同『厳の御魂や瑞御魂十曜の紋の現はれて 常世の国はまだおろか高砂島や筑紫島 豊葦原の瑞穂国島の八十島八十国に 三五の月の御教を残る隈なく宣べ伝へ 天地の神の神業に仕へ奉らむ吾らの天職 あゝ面白し潔し間の国を立出でて 青葉も茂る目の国や常世の国の常世城 ロッキー山に蟠まる八岐大蛇や醜神を 言向和し千早振る神の御国に復し見む かへす常磐の松の世を五六七の神の現はれて 千代も八千代も万代も天津日嗣の動ぎなく 月日の如く明けく輝き渡る神の国 輝き渡る神の稜威厳の御魂の大御神 瑞の御魂の大御神月日を添へて十柱の 十曜の神旗勇ましく天津御風に靡かせつ 曲の砦に攻め寄せむこの世を造りし神直日 心も広き大直日直日に見直し聞き直し 七十五声の言霊に天地四方の民草を 靡かせ救ふ勇ましさ日は照る光る月は盈つ 三五の月は中空に輝き渡り天地を 支へ保てるその如く太き功を三ツ星や 北極星を基として数多の星の廻転るごと 百の御魂を言向け照しオリオン星座に現はれし 救ひの神に復命申さむためのこの首途 曲津の猛ぶ黄泉島黄泉軍を足曳の 山の尾の上に蹴り散らし河の瀬毎に吹き払ひ 払ひ清むる神の国千秋万歳万々歳 堅磐常磐の松の世の神の功ぞ尊けれ』 斯く歌ひ終り、宣伝使は月雪花の三人を伴ひ、春山彦夫婦に別れを告げて、声も涼しく宣伝歌を歌ひながら、メキシコ指して進み行く。 (大正一一・二・一七旧一・二一河津雄録) (昭和一〇・三・三〇王仁校正)
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霊界物語 11_戌_コーカス山の大気津姫退治 20 醜の窟 第二〇章醜の窟〔四八七〕 梅ケ香姫は立上り、 梅ケ香姫『四方の山野を見渡せば雪の衣に包まれて 見るも清けき銀世界世界の曲や塵芥 蔽ひかくしてしらじらと表面の光る今の世は 何処も彼処もゆき詰る青きは海の浪ばかり 青木ケ原に現れませる神伊邪諾の大神や 木花姫の御教を照し行くなる宣伝使 乗りの友船人多く皆口々に囁きの 言の葉風に煽られて心も曇る胸の闇 闇夜を照す朝日子の日の出神の命もて 曲津の猛ぶコーカスの大気津姫のあれませる 雪積む山に向ひたる竹野の姫は如何にして 岩窟の中に捕はれし嗚呼我々は千早振 神の光を身に受けて黒白も分ぬ岩窟の 憂に曇る姉の君救ひまつらで置くべきか コーカス山の山颪何かあらむや神の道 踏み分け進む我一行時は来れり時は今 天の窟戸押し分けてコーカス山に集まれる 百の魔神を言向けむ言向和す皇神の 広き心の神直日恵の露も大直日 曲の身魂をスクスクに直日に見直し聞直し 宣り直させん宣伝使千変万化の神界の 神の御業を畏みて言霊清き琵琶の湖 渡りて進む五人連心竹野の姫の神 神を力に神嘉言讃美へて待てよ今暫し 暫し隠るる星影も雲たち退けば花の空 月は盈つとも虧くるとも虧けてはならぬ姉妹の 月雪花の桃の実は意富加牟豆美と顕はれて 黄泉戦に勲を建てたる如く今一度 天照神の御前に岩戸開きの神業を つかへまつらむそれ迄は虎狼や獅子熊の 醜の刃をかい潜り清き命を保つべく 守らせ玉へ金の神神須佐之男大御神 国治立の大御神三五教を守ります 百の神達八十の神松竹梅の行末を 厚く守れよ克く守れ下国民の血を絞り 膏を抜きて唯一人奢りを尽す大気津姫の 神の命と現はれしウラルの姫に附き纏ふ 八岐大蛇や醜狐醜の鬼神八十曲津 神の御息に悉く服ろへまつる今や時 アヽ時さまよ八さまよ牛馬鹿虎鴨さまよ 勇み進んでコーカスの山吹きまくる醜の風 皆一息に吹き払ひ祓ひ清むる神の国 神と国との御為に力を合せ身を尽し 鑿や鉋をふり捨てて神の道のみ歩みつつ 神の御魂の惟神霊の幸を受けよかし 進めよ進めいざ進め進めよ進めいざ進め』 と歌ひ了りぬ。 時公『八さま鴨さまどうだ。最前から随分噪いで居た大工さまの牛、馬、鹿、虎の四つ足、オツトドツコイ四人さまは、どうやら時さまの宣伝歌で帰順したらしいぞ。これも時の力と云ふものだ。貴様はいつも俺を、時々脱線する男だから時さまだナンテ、冷かしよつたがどうだ、時々功名を現はすたふとき尊とき時さまだぞ』 八公『何を偉さうに時めきやがる。たふときも尊ときも同じ事ちやないか。貴様クス野ケ原で梅ケ香姫のお洒落にかかつた時と、一つ目小僧に出逢つた時の状態は何だい。知らぬかと思つて法螺を吹いても、チヤンと此八さんは天眼通力で調べてあるのだ。八耳の八さまと云へば俺の事だ。この八さまにはどんな奴でも尾を捲くのだぞ』 時公『八はやつだが、負惜みの強い奴、悪い奴、法螺を吹く奴、困つた奴』 八公『コラコラ時さま、そらまだ八だない四つだ、八が四ツより無いぢやないか』 時公『八つ、四つと貴様の身魂が四つ足だからそれで合して八ツになるのだ。分らぬ奴だなア』 鴨公『アハヽヽヽ、コイツ気味が良い。胸がスツとした。何でもかでも、八かましうする奴だから、村の者が愛想を尽かして、厄介者扱ひにしとる位だから、コイツ余程酷い奴だ』 牛公『オイ、八さま、ギユウ牛云はされて居るな』 馬公『馬鹿野郎、状態見やがれ』 鹿公『シカられ通しにして居やがる』 虎公『トラれてばつかり居やがる、揚げ足と油を』 時公『時にとつての御愛嬌だ』 かく雑談に耽る折しも船は岸に着いた。船客一同は船を見捨てて思ひ思ひに雪の道を進み行く。松代姫の一行五人に牛、馬、鹿、虎を加へて九人連れ、宣伝歌を歌ひ乍らコーカス山目蒐け、人の往来の足跡をたよりに、谷間を指して進み行くのであつた。 満山一面の大雪にて、彼方の谷にも此方の谷にも雪の重さにポンポンと樹木の折れる音頻々と聞えて居る。 鴨公『ヤア、モーそろそろ日が暮る時分だ。そこら一面雪で明くなりやがつて、昼だと思つて居る間に、夜になつて仕舞ふのは雪の道だ。何処ぞこの辺に猪小屋でもあつたら一服して、都合がよければ一泊やらうかい』 八公『さうだ、俺も最前から宿屋を探して居るのだが、是から一里許り奥へ行けば、何百軒とも知れぬ、立派な家が建つて居るのだから、そこ迄無理に行く事にしよう』 時公『ヤア、待て待て、其処まで行つたら最早敵の縄張りだ。それ迄に一夜を明し、草臥を休めて、明日の元気を養ふのだ』 牛公『私は何時もこの辺を往来する者です。山の勝手は能く知つて居ますが、此谷は少しく右へ下りると岩窟がある。其処で一夜を明す事にしませうか』 時公『どうです松代姫さま』 松代姫『ハイ、宜敷からう、今晩は久し振で岩窟に逗留さして貰ひませうか』 と衆議一決して、牛公の案内につれ、小さい谷を目あてに進み行く。牛公の云つた通り二三十人は気楽に寝られる、立派な岩窟があつた。ここに一行は蓑を敷き、携へ持てる無花果を食つて、逗留する事になつた。 梅ケ香姫『アヽ都合のよい岩窟ですなア。此岩窟を見るにつけ、想ひ出すのは姉様の事、姉様が押し込められて居る岩窟と云つたら、こンなものでせうか』 牛公『滅相もない。コンナ結構な処ですか、この山奥には七穴と云つて、七ツの岩穴がある。さうしてその穴の中は、こンな平坦な座敷の様な処ぢやない。私も一ぺん這入つて見た事があるが、穴の中は真暗がりで、底が深くて、なんでも竜宮迄続いて居ると云ふ事で、あんな処へ入れられようものなら、ゆつくり腰を掛る事も出来やしない。両方が岩壁になつて居る。そこへ岩の尖に足を掛けて、細い穴を股を拡げて踏ン張るのだ。一寸居眠りでもしたが最後、底なき穴へ落込んで仕舞ふのだ』 時公『そんな穴が七つもあるのか』 牛公『さうです。此間も何ンでも淤縢山津見とか云ふ強い奴が出て来て、大気津姫を帰順さすとか云つて登つて来たところ、大勢の者が寄つてたかつて攻めかけたら、奴さま其穴の中へ隠れよつた。そこで大勢の者が寄つてたかつて岩蓋をピシヤーンとしめて、外から鍵を掛けた。それつきり百日許りになるのに何の音沙汰も無い。大方穴の底へ落つこつて死んで仕舞つたやらうとの噂だ。それから暫くすると、背のスラリと高い竹野姫とか云ふ小ン便使が、小ン便歌を歌つてやつて来た。そいつは日が暮て泊るところがないものだから、自分から穴の中へコソコソとはいつて行きよつた。馬鹿な奴もありや有るもんだなア』 馬公『オイオイ、さう口穢く云ふな。御姉妹が居られるぞ』 牛公『アヽさうだつたなア。その竹野姫と云ふ小ン便使様が、雪が降つてお困りと見えて、穴の中へコツソリとお這入遊ばした。さうすると大気津姫様の手下の悪神様が、「サア御出なさつた」と待ち構へて居らつしやつて、外からピシヤリと戸を御しめ遊ばした。竹野姫さまは中から金切声を立ててキヤーキヤー御ぬかし遊ばした。外からは悪神様が「サア斯うなつたら百年目だ、底無き穴へ落つこちて、クタバリ遊ばすか、飢ゑて御死に遊ばすか、二つに一つだ。是で吾々の御心配もとれて、マアマア御安心だ」と仰有つて………』 馬公『コラコラ、叮嚀に云ふもよいが、余り叮嚀過ぎるぢやないか。竹野姫様の事を御叮嚀に御話してもよいが、悪神の方は好い加減に区別せぬかい』 牛公『そンな融通の利く位ならカチ割り大工をやつたり、ウラル教の目付役をしとるものかい』 時公『牛さん随分現金な男だなア』 牛公『長い物には捲かれ、強いものには従ひ、甘い汁は吸へ、苦い汁は擲かせと云ふ世の中、人間は時世時節に従ふのが徳だからなア』 時公『お前等は今初めて聞いたが、ウラル教の目付役だと云つたね』 牛公『イーエ、ソラ違ひます。ホンの一寸口が滑つたのでモー牛上ました』 時公『イヤ、さうだなからう』 牛公『左様々々、さうだなからう』 松代姫『皆さま、モウ寝ませうか、サア、是から神言を奏上して、宣伝歌を一同揃つて上げませう』 時公『それは宜敷からう。併し今日は私に考へがありますから、籤引をして一に当つた者から、発声する事にさして下さい』 松代姫『時さまの御随意に……』 時公『サアサア、これから籤引だ。御婦人方は免除だ。男七人が籤引だ。一番長い奴を引いた者が発声するのだ』 と云ひながら草蓑の端を千切つて長短をこしらへ、 時公『サア、引いたり引いたり』 と六人の前へ突き出した。六人は争つて是を引いた。 時公『ヤア、牛公が一番長いのを引いたぞ。サア牛公、お前から宣伝歌の発声だ。アレ丈け船の中でも教へてあるなり、途々聞かしてあるから云へるだらう』 牛公『ハイハイ、確に云へます。一遍聞いたら忘れぬと云ふ地獄耳だから、何でもかでも皆覚えて居る。ソンナラ皆様今日は私が導師だ。後から附いて来るのだよ』 と云ひ乍ら牛公は宣伝歌を歌ひ始めた。 牛公『神が表に現はれて膳と茶碗を立て別ける この世で甘いは燗酒ぢや心持よき大御酒ぢや 唯何事も人の世は酒と女が一ツちよい 呑めよ騒げや一寸先や闇よ闇の後には月が出る』 一同『アハヽヽヽヽ』 鴨公『コラ牛公、貴様は矢張ウラル教だ。一寸先や闇だなんて吐きやがつて、宣り直せ。膳と椀とを立て分けるとは何だ。法螺事ばつかり云ひやがつて』 牛公『定つた事よ、大気津姫の家来だもの、食ふ事と、呑む事と、着る事より外には何もないのだ。その癖食つたり呑んだりする口から出るのだもの、食ふ事や飲む事を云ふのは当り前だ。サア、鴨とやら、もう一口云ふなら云つて見い。徳利の口ぢや、一口にやられるぞ。土瓶の口ぢや、二口と云ふなら云つて見い』 時公『エー、仕様のない奴だ。こんな処で洒落どころか、仕様がない、発起人の俺が導師になつて、宣伝歌を唱へるから、お前達や随いて来るのだ』 と云ひつつ宣伝歌を歌ひ始めた。一同は其あとに随いて歌つて居る。この時幾百人とも知れぬ足音が岩窟の外に聞えて来た。牛公は岩戸の隙間より一寸覗いて、 牛公『ヤア、御出た、御出た、是れ丈味方があれば何程時公が強うても大丈夫だ』 と口走つた。時公は、 時公『これは大変』 と牛公に当て身を喰はした。牛はウンとその場で倒れた。足音は次第々々に遠ざかり行くのであつた。 (大正一一・三・三旧二・五岩田久太郎録)
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霊界物語 13_子_フサの国・半ダース宣伝使 07 布留野原 第七章布留野原〔五三三〕 誠の神の言霊に雲霧開く日の出別 珎の御言の宣伝使天教山を立出でて 遠き海原うち渡りいよいよここにフサの海 タルの港に上陸し心も漸つとシヅの森 木蔭に憩ふ折柄に闇に聞ゆる人の声 眠覚ませば岩彦が部下に仕ふる宣伝使 一二三四五つ六つむつみ合うたる其仲も 時に浪風立騒ぎ黒白も分ぬ暗まぎれ 闘ふ間に日の出別神の真道を言別けて 漸く一同シヅの森岩に等しき岩彦の 固き心をなごめつつ一度に開く梅ケ香の 神の教に服従はせ音に名高きフル野原 さやる魔神を言向けて亀の齢の何時までも 動かぬ神代を築かむと心の駒に鞭ちて 雀の群に翔け下る鷹の勢勇ましく 草生ひ茂る広野原タルの大河右に見て 北へ北へと進み行く。 一行七人は脚に任せてフル野ケ原を奥深く進み入る。又もや真黒の暗の帳はおろされて、四辺暗澹たる光景となりて来たりぬ。東北の風はヒユーヒユーと草野を撫でて吹き来り小雨さへ混り居る。 鷹彦『昨夜は、シヅの森で、乱痴気騒ぎをおつぱじめ、日の出別の宣伝使の居中調停の効果によりて、まづ平和克復の曙光を認め、今日は天地にかはる大変動、三五教を仇敵の如く見做して居た、ウラル教のヘボ宣伝使は、今日は同行七人の三五教、変れば替るものだワイ。サア今晩は、このフル野ケ原の草を衾に、平和の夢を結ばうぢやないか。モシモシ日の出別の宣伝使様、此フル野ケ原は、一時雨が降つては、また一時晴れるといふ芸当を繰返すのですから漫然安眠も出来ますまいが、蓑笠を被つて、一夜を明かす事に致しませうか』 日の出別『アヽそれも宜からう。先づ今晩はゆつくりと足を伸ばして寝ませう』 岩彦『それは有難い、併し乍らこのフル野ケ原は、妖怪変化の隠顕出没常ならざる、魔窟ケ原であるから、あまり安眠も出来ますまい。併しコンパスを休養させる為に、横に立てつて、空の黒雲と睨みつこでも致しませうか』 梅彦『アヽモウ草臥れた。タルの河の河縁を伝うて来たお蔭で、草鞋に泥埃の寄生虫が群生して、十足ぶりの重みを感じた。アーア疲労れた時に休む程楽なものはない。可愛い子には旅をさせとやら、本当に、風吹き荒ぶ埃道を、目的場所もなしにテクツク位苦しい事はない。其苦しみを癒やす為に、足を伸ばして休む時の楽しさ、少々小雨が降つた位はナンの苦にもなるものでないわ』 亀彦『わしも一つ島から長い間、船に揺られて、サツパリ足の魂が、どつかへ移住したと見えて、ナンダか、他人の足の様な心持がして仕方がない。マアゆつくりと今夜は此処で休息さして貰はう』 日の出別『サアサア皆の者、休眠まうぢやないか』 と言ひ乍ら、日の出別は雑草の上にコロリと横たはり、鼾声雷の如く、忽ち華胥の国に遊楽するものの如くなりけり。 鷹彦『アア、何と罪のない豪胆な宣伝使だらう。昨日まで極力反対して居た吾々を側に置いて、何の懸念もなく、率先して他念もなく寝に就く。其度量の大きいのには、吾々も舌を巻かねばならぬ。人間は斯うなくてはならない、猜疑心や、嫉妬心や、疑惑があると、つひ他人の事が気になつて、安心の出来ぬものだ。疑心暗鬼を生ずと言つて、人は自分の心で自分を苦めるのだ。ウラル教は六人連で旅をしても、夜中に何が襲来するか知れないと云つて、交代で一人宛、其傍に哨兵を立たせて置く。之れを思へば、実に三五教は淡泊なものだ。博愛の教だ。……オイ貴様達も安心して寝たがよからう』 駒彦『ソラさうだ、昨日の敵は今日の味方、鬼の囁き、虎の嘯きと聞えしは、松吹く風となりにけりだ。サアサア皆一同に心のキルクを抜いて、今日は一蓮托生、枕を並べて討死……オツトドツコイ打揃ひ寝に就かうぢやないか』 岩彦『サアお前達は皆寝め、この岩彦は日の出別の宣伝使の保護の任にあたらねばならぬ。是が俺の真心だから……』 鷹彦『真心とは真赤な詐りだらう。マ心のマは悪魔の魔だらう。貴様はまだ安心が出来ないと見えて、熟睡して居る間に、日の出別命に喉笛でもかかれはせぬかといふ猜疑心があるのだよ』 岩彦『ナニ決して決して、さうではないよ。此フル野ケ原には、沢山の大蛇が居るといふ事だ。人の匂がすれば嗅ぎつけて、何時やつて来るか知れぬ。それだから拙者が保護の任に当るのだよ』 鷹彦『ナニソンナ心配は要らぬ。早く寝んだがよからうぞ』 梅彦『オイオイ、大変だ大変だ』 鷹彦『何が大変だ』 梅彦『日の出別の宣伝使のお姿が見えぬぢやないか』 此一言に『アツ』と言ひ乍ら、附近を見れば影もない。 岩彦『それ見ろ、やつぱりフル野ケ原は妖怪窟だ。日の出別の宣伝使を、大蛇の奴、忍術を使つて、そつと呑んで仕舞よつたのだらうも知れぬぞ』 鷹彦『ナーニ、ソンナ事があるものか。あの方は神様の化身だから、変幻出没自由自在だ。吾々の様な罪悪の凝結とは違つて、浄化して御座るのだから、透つて見えないのだらう』 此時何とも知れぬ血腥き、湿潤ある、蒸暑い風がサツと吹いて来た。 音彦『ヤア此風はナンダ、怪体な調子だぞ。どうしてもフル野ケ原式だ』 鷹彦『恐怖心に駆られて、全身細かく、ブルブルブル野ケ原の野宿といふ体裁だ。アハヽヽヽ、臆病風がソロソロ吹き出したワイ』 音彦『向うから悪魔の奴、魔風を吹かしよるから、此方も負けぬ気になつて、言霊の一二三四五六七八九十百千万億病風だ』 鷹彦『何を洒落るのだ、それそれ又雨だ』 音彦『あめが下に住居する吾々が、雨が怖くて此世に居れるか。雨より恐いは、アーメニヤのウラル彦様だ。吾々が斯うして、飛行宣伝中に宙返をうつたと云ふことが聞えたら、それこそ大変だ。到底旧のアーメニヤの城内に、格納して貰ふ事は最大難事だよ』 鷹彦『まだ貴様は、アーメニヤが恋しいのか』 音彦『ナーニ、アーメニヤが恋しいのぢやない、肝腎の力に思うた日の出別神様が、雲煙となつて磨滅して了つたものだから、心細くなつて来たのだ。それで今度はアーメニヤの盤古神王のお咎が恐ろしくなつて来たのだ。俺だつて日の出別の宣伝使にしやツついてさへ居れば、心が大丈夫だが、コンナ魔窟に放擲されて、チツトは愚痴も出ようまいものでもなからうぢやないか』 亀彦『さうぢや、同感々々、誰だつて人の心は九合八合だ。今此処で捨てられたら、それこそ一升の恨だ。オイオイ一斗の者、一石も早く在処を探ねて見ようぢやないか。桝々斗り知られぬ宣伝使の変幻出没、こりやマア、どうしたら宜からうかな』 此時ボンヤリとした、薄暗い、生茂る茅の中から、ズズ黒い大きな顔がヌツと現はれて、 化物『キエーヘヽヽヽ、キヤーハヽヽヽ、キヨーホヽヽヽ、キューヽヽヽヽ』 音彦『音高し音高し、静かにめされ化物殿』 化物『キヤーヽヽヽヽ、キユーヽヽヽヽ』 音彦『オイオイ皆の奴、呪文を唱へるのだ。向うがキユーキユーだから、此方は窮々如律令だ。サア言うたり言うたり』 一同声を揃へて、 一同『窮々如律令、窮々如律令』 化物『ワハヽヽヽ、苦しいか、恐ろしいか、キユーキユー言つてゐよるナア。キヤヽヽヽヽ、キヤハヽヽヽヽキヨホヽヽヽ』 岩彦『ナーンダ、脱線だらけの鵺的言霊を陳列しよつて、……ソンナものは何時迄置いといても、売約済の札は付かんぞ。モツト舶来の精巧無比、天下一品といふ言霊を陳列せぬかい』 化物『ウーン、ウンウン』 梅彦『ナアーンダ、屈みよつたな』 岩彦『どうだ、俺の言霊には、化チヤン往生しただらう。それだから此方が、ウラル教の宣伝使長に選ばれたのだ。ウラル彦の眼力は実に天晴れなものだらう』 音彦『あまり吹くない。何時だつて尻の約りが合うた事が、一度でもあるかい。貴様の言霊で化物が閉息したと思へば当が違うぞ。あの声を聞いたか、ウンウンウンといつただらう、萱ん穂の中で、団尻を引捲つて、ウンと瓦斯や残滓物を放出して、それから第二の作戦計画にかからうと云ふ手段だよ』 岩彦『何程ウンウン言つたつて、運は天に在りだ、一つ是から運比べをやるのだ』 と言ひ乍ら、岩彦は尻ひきまくり、化物の屈んだ方に向つて、 岩彦『ヤア、折悪しくウンの持合せがない、仕方がないワ、此方の臀肉を喰へ、お尻が呆れるワ』 と三つ四つ叩いて見せる。 音、梅『アハヽヽヽ、こいつあ面白い、洒落てけつかるワイ』 草原より再び化物はニユーツと首を出し、 化物『ヤア岩彦、有難い、お前の尻を是から頂戴する。そこ動くな』 岩彦『ヤア、バババケ公、嘘だ嘘だ、一寸愛想に行つて見たのだ。お前はウンウンと言つて糞をこいたが、俺は嘘をこいたのだ。コンナ事を、真面目に聞く不風流な奴があるかい。お前もよつぽど原始的な化チヤンだナア』 化物『オ……オ……俺は原始的だから、お前の様な風流の持合せはないワイ。何事も神の道は正直が一番だ。お前も苟くも天下の宣伝使、滅多に戯談や嘘偽を云ふ筈はあるまい。言行一致だ。サアサア宣言を履行して貰はうかい』 鷹彦『アハヽヽヽ、此化州、あぢな事を言ひよる。オイオイ化州、コンナ岩公の様な分らずやに相手になるな、見逃せ見逃せ』 化物『それでも岩公の奴、確に尻をまくつて、喰へと言つたのだ。お前たちの耳にも新なる所、斯く的確な意思表示をやつた以上は、何処までも強制執行をやるのだ』 岩彦『執行とはナンダ、執拗ぢやないか、良い加減に砕けぬかい』 化物『砕ける砕ける、お前の骨が、木葉微塵に砕けるぞ。当つて砕けと云ふことがあるぢやないか、お前も立派な一人前の男だらう。当つて砕けたらどうだい』 岩彦『イヤ俺は一人前ぢやない、四人前だ』 化物『四人前なら猶更の事だ、余人はいざ知らず、汝一人に限つて絶対的に実行をするのだ。そこ動くな』 岩彦『動けと云つたつて、動くものかい。岩サンは其名の如く、恬として動からざる事、磐石の如しだ』 化物『さうだらう、腰を抜かしよつて、減らず口を叩くない』 鷹彦『アーア、此睡たいのに、気楽な化奴がやつて来よつて、種々の余興をやるものだから可笑しくつて、碌に眠る事も出来やしないワ』 岩彦『オイオイ鷹彦、何が余興だ。俺の身にも一つなつて見い』 鷹彦『アハヽヽヽ、貴様あまり頑固だつたから、一寸神様に釘を打たれて居るのだ。ナアモシ、化神さま……』 化物『さうだ、鷹彦の仰有る通、俺の聞く通りだ。一分一厘間違のない話だ』 岩彦『オイ鷹彦、岩いでもよい事を言ふな、貴様は化の奴に共鳴しよつて、本当に怪しからぬ奴ぢや』 鷹彦『アハヽヽヽ、貴様又昨夜の様に夢でも見とるのぢやないか』 岩彦『さうかなア、夢なら結構だが……ヤアどうしても夢の様に思はれぬぞ。起きてはテクテクと曠野を渉り、寝てはコンナ恐ろしい夢を見せられては堪つたものぢやないワ』 化物『ヤア岩チヤン、永々お邪魔を致しました。夢でもない、現でもない、本当のフル野ケ原の化チヤンだ。ユメユメ疑ふこと勿れ、アリヨース』 と云つた限り、『ブスツ』と屁の様な怪しき音と共に消えて了つた。 音彦『ヤアヤア怪つ体な事があつたものだ。今の出よつたお化は、ナンデも雪隠のお化と見える。糞を垂れる終局の果てには鼬の最期屁ぢやないが、ブスツと音をさせて屁古垂れよつた』 岩彦『ワハヽヽヽ、妙なものだ。俺の腰もモウ大丈夫だ。オイどうだ、貴様、俺が腰を抜かしたと本当に思うて居つたのだらう、ソンナ弱い事で宣伝使が勤まるかい。キヤハヽヽヽ、キユフヽヽヽ、キヨホヽヽヽ』 鷹彦『オイオイ岩公、ソンナ言霊を使うと、第二の妖怪変化のお見舞だぞ』 岩彦『ようかいも神界もあつたものかい。吾輩の勢力範囲内に立入つて、何をようかい(容喙)するのぢや、権利侵害罪で起訴するぞ』 鷹彦『起訴するとは、奇想天外だ、天涯万里の雨がフル野ケ原、どうで碌な事はないからマアマア楽んで、ゆつくりと夜を日に継いで旅行するのだなア』 此時何処ともなく、化物の声にて、 化物『神が表に現はれて善と悪とを立別ける 化物此処に現はれて嘘と糞とを立別ける 嘘で固めた岩公の岩より固い頑固者 荒肝取られて腰打つて骨を一々刻まれた 様な苦しい思ひして涙をソツと押隠し 泰平楽の減らず口此行先の荒屋に 又もや俺が待受けてどつと脂を搾つてやろか アハヽヽヽ、オホヽヽヽ、イヒヽヽヽ』 岩彦『エヽ、五月蝿い、又しても又しても。併し今度の笑方は正式だ、最前の様な、キューキューキューと吐かしよると気持が悪い……オイ化チヤン、笑ふなら、今の流儀だよ』 再び中空より、化物の声、 化物『岩に松さへ生えるぢやないか、喰つて喰はれぬ事はない。アハヽヽヽ、ウフヽヽヽ、マハヽヽヽ、イヒヽヽヽ』 鷹彦『オイ岩公、喜べ、あの笑声は何と思ふ、アーウマイ、アウマイと笑つただらう、巧妙いこと吐かしよるナア』 岩彦『アーア、ウン……ウン、マーマ、イーイ、イーワイ』 (大正一一・三・一七旧二・一九松村真澄録)
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霊界物語 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) 04 馬詈 第四章馬詈〔五五四〕 日の出別神は、サル山峠の頂上に憩へる五人の宣伝使と六公の一行を率つれ、コシカ峠の谷底に蹄の音も勇ましく、轡を連らねて現はれたり。 茲に音彦、弥次彦、与太彦の三人は、谷底の真砂の上に枕を並べて気絶して居る。一同の宣伝使は交る交る河水を掬ひ口にふくんで三人の面部に濺ぎかけた。音彦はウンと一声起き上がり、 音『オイ此処は何処だつたかなア、三途の川を渡つて天の八衢に進んだ積りだに、この川は何時出来たのか、また三途の川が此処へ転宅をしたのではあるまいか』 岩『これこれ音彦サン、あなた気絶して居たのですよ。ここはコシカ峠の谷底です、チト確りして下さい』 音『ウンさうだつたかなア、すつての事で幽界旅行地獄探険をやるところでした。ようまア助けに来て下さいました。未だ未だ現界にご用があると見えますなア』 岩『あるともあるとも、今斯様なところに国替して耐るものか、確りして下さい。之から遥々フサの都に到着してコーカス山に進まねばならぬ。途中に斃られては吾々は幸先が悪いですからなア』 音彦は目を擦りながら、 音『ハア日の出別の神様その他御一同、妙な処でお目に掛りました。イヤお助けに預りました』 岩『音彦サンは、やつとの事で蘇生をして下さつたが、二人の方はまだ魂がへしが出来て居ない。皆さま一斉に魂呼びを致しませう』 一同は声を揃へて一二三四五六七八九十百千万を四五回繰返せば、弥次彦、与太彦はムクムクと動き出したり。 音『ヨー弥次彦サン、気を付けたり。与太彦サン目を開けたり』 弥『銅木像奴が、また手を換へ品を換へ瞞さうと云つたつて、その手に乗るものかい。これ源五郎のサツク奴、三途川の鬼婆の代理を勤めたこの弥次サンだぞ。好い加減に改心せぬかい』 岩『これこれ弥次サン、確りせぬか』 (岩)『これこれ与太サン、確りせぬか』 与『何吐しよるのだ。源五郎のお化奴が』 音『オイオイ、弥次彦、与太彦の両人、此処は冥土ぢやないぞ、コシカ峠の谷底だよ』 弥『ヘン、馬鹿にするない、コシカ峠は疾の昔に空中滑走をやつて首尾よく帰幽したのだ。それから三途の川を渡つて天の八衢の銅木像を今遁走させた処だ。如何に亡者になつたとて、娑婆へ舞ひ戻る奴があるかい、俺は刹那心だ。一足も後戻りは、嫌ひだよ』 音『アヽ困つたものだなア、やつぱり亡者気分で居ると見える。コレコレ弥次サン、与太サン死んで居るのぢやないよ、生て帰つたのだよ』 弥『馬鹿を云ふな、死んだ者が二度死ぬ前例があるかい。生き返るも跳ねかへるもあるものかい、お前の修羅の妄執をサラリと捨てて、十万億土の旅をするのだ。顕幽境を異にしたこの幽界で幾何娑婆が恋しうても一旦往くところ迄往かねばならぬのだ。今は中有だ。やがて生有が来るであらう、それまでは幽界の規則を遵奉して神妙に旅行するのだ、ノウ与太公』 与『エヽ弥次サン、些と変ぢやないか、何だか娑婆臭くなつて来たやうだよ。日の出別の神様もお見えになつて居る。沢山の宣伝使も御列席だ。好い加減に目を醒まさぬかい』 弥『馬鹿云ふな、日の出別の一行は俺等よりも先に幽界旅行だ。銅木像の化の奴が日天様に頭を打ちよつて遁走した後へ現はれて来られたぢやないか』 岩『彼奴は一つ水の吹きやうが足らぬ、いつその事、身体ぐち此川へドブヅケ茄子とやつたらどうだらう』 与太彦は泣き声を出して、 与『モシモシ宣伝使様、折角助かつたものを、ソンナ事をして貰つたら土左衛門になります。それだけは何卒許してやつて下さいませ。アーア弥次彦はなぜコンナに分らぬのだらうか、可愛さ余つて憎らしうなつて来たワイ』 と与太彦は力限り鼻を捻上げる。 弥『アイタヽヽ、冥土へ来ても未だ改心をせずに俺の鼻を捻ぢよつて、貴様きつと地獄の鼻責に遇はされるぞよ』 一同『アハヽヽヽ』 弥『何だ、人が鼻を摘まれて苦しんで居るのに、敬神の道を伝ふる宣伝使たるものが、可笑しさうに笑ふと云ふ事があるものか。冥土の道連に貴様の命も奪つてやるのだけれど既に死んだ奴だから奪る命もなく、エヽ残念な事だ。鬼にでも遇つたら全部告発してやるからさう思へ』 与『エヽ仕方の無い奴だナア。此奴甦りそこねよつて、身魂の転宅をやらかし発狂しよつたな』 と拳骨を固めて横面をポカンと撲る。その勢に弥次彦はヒヨロヒヨロとひよろつき、石に躓きばたりと倒けた。 弥『アイタヽヽ、やつぱり痛い事が分る哩、さうすると未だ娑婆に居つたのかいなア。ヤア日の出別さま、鷹サン、岩サン、梅サン、駒サンに音サン、与太彦に、もう一匹のお方』 音『アーア、お前はそれだから困るのだ。性念がつくと直他のお方を捉へて一匹だなんて口の悪い男だナア』 弥『ヤア矢張本当だ。コシカ峠の谷底だつたワイ』 一同『気が付いた、気が付いた。サア祝に祝詞の奏上だ』 と一同は真裸となつて川に飛び込み、御禊を修し天津祝詞を奏上する。 日『オー思はぬ時間を費やした。コーカス山の神務が忙しい。吾々はお先に失敬する、皆様悠り後から来て下さい』 と云ひながら馬の手綱を掻い繰り空中目蒐けて鈴の音、轡の音勇ましく、シヤンコシヤンコと空中指して昇り行く。 岩『ヨー遉は日の出別の神さま、天馬空を行くと云ふ離れ業は、吾々の如き力の無い宣伝使では到底望まれない。皆サンこれからフサの都に急ぎませう。弥次彦、与太彦、モ一人のお方、悠り後から来て下さい』 六人の宣伝使は轡を並べて駆け出さむとする。弥次彦は馬の轡をぐつと握り、 弥『マア待つた待つた、二人の裸人はどうして下さるのだ』 岩『みな一枚づつ脱いで借して上げませうか』 一同『宜敷からう』 と上着を一枚づつ脱ぎ、 一同『三人様、後から悠り来て下さい。貴方は二本足、吾々は四本足に乗つて居るのだから、到底追つけない。フサの都で待つて居ます』 と駿馬に鞭ち雲を霞とかけ去りにける。 弥『アア世の中は妙なものだワイ、三途川の鬼婆が、裸体の吾々を捉へて衣服が無ければ親譲りの皮衣を出しよらぬかと吐しよつたに、遉は三五教の宣伝使、立派な着物を脱ぎ捨てて惜し気もなく二人に与へて往つてしまつた。オイ与太、羽織ばかり貰つたところで、仕方が無いぢやないか、帯もなし、袴もなし、生憎針も糸も持つて居ないから、仕立直すわけにも行かず、アヽこれだから独身生活は困ると云ふのだ。青瓢箪のやうな嬶はあつても、高取村まで帰らねばお目に懸る訳にも行かず、電話でもあつたら掛けて呼び寄せるのだけれど、仕方がないなア』 与『良い事がある、羽織を倒まにして袖に両足を突込めば立派な袴が出来る。さうして上に羽織を着るのだ、もう一枚の羽織を前後にして着さへすれば好い、何と妙案だらう』 弥『妙案々々、しかし帯は如何するのだい』 与『帯は其辺の蔓をむしつて臨時代用だ。これを着て久し振り女房の家へ帰り、門口に立つて、女房喜べ、背中がお腹になつたぞよ、とかますのだ。そこで女房の奴、一つ逃れて又一つ』 弥『オイオイソンナ滑稽を云つて居る場合ぢやないぞ、ソンナ事は五十万年後未来の十九世紀とか云ふ時の、ガラクタ人間の近松とか出雲とか何とか云ふ坊主上りが作る文句だ。今は天孫降臨前の原始時代だ。未来の夢を見る奴があるかい』 与、六『ウフヽヽヽ』 弥『お前は何処から降つて来たのだ、何といふ男だい』 六『ハイ、私は六といふ男でございます』 弥『何うせろくでも無い奴だと思つて居つた。ろくろくに挨拶もしよらぬと何だい、その六ケしい顔は』 六『どうぞ以後お見知り置かれまして、お六つまじう末長く御交際を願ひます』 与『アハヽ此奴は面白い、三人世の元だ、いよいよ之からコシカ峠の四十八坂を跋渉し、ウラル教の奴輩を片端から言向け和し、フサの都に凱旋をするのだ。何時迄もコンナ谷底に呆け顔してウヨウヨして居るのも気が利かない。さあさあ馬丁、馬の用意だ』 六『馬ア何処に居りますか』 弥『何、膝栗毛だ。心の駒に鞭打つて敵の牙城に突撃を試むるのだ。一二三四、全隊進めツ』 与『オイオイ弥次公、四とは何だ、三人より居ないぢやないか』 弥『馬鹿云ふな、守護神がついとるぞ、サア詔直して今度は一人二人で勘定だ。俺が一つ標本を出してやらう、俺が、一人二人三人四人五匹六匹七人八匹九匹十人十一匹十二匹、と斯う云ふのだよ』 与『怪体な勘定だな、何故ソンナ人と匹とを混合するのだい』 弥『極つたことよ、人間が三人に守護神が三人、四つ足が六匹だ、貴様等の守護神は一匹二匹で沢山だよ』 与『馬鹿にしよる、エヽ仕方がない、一匹でも連が多い方が道中は賑やかだ、オイ六人六匹突喊々々』 と馬鹿口を叩きながら絶壁を、木の株を力に坂道まで漸く辿り着いた。 弥『アヽ此処だ此処だ、ウラル教の奴、数百人をもつて吾々を囲みよつた所だ。弥次サン与太サンの古戦場だ。亡魂が此辺に迷ふて居るかも知れぬ。記念碑でも建ててやらうかい』 与『アハヽヽ、好く洒落る奴だナア』 六『之から先には四十八坂と云ふ大変な峻い坂がありますぜ、まア悠りと此処で休息して行きませう、大分に長途の旅で疲れましたからなア』 弥『馬鹿にするない、長途の旅か一寸の旅か知らないが、今此処の谷川から漸く此処まで登つて来たばかりぢやないか』 六『私は宣伝使のお伴をしてサル山峠の頂上から七八里の道をテクツて来ました、足が草臥れて居ます、一寸一服さして下さいな』 弥『何だ、八里や十里歩いたつてそれ程苦しいか、俺たちは今十万億土の旅をして来たところだ。それでも俺のコンパスはコンナものだい。アハヽヽヽ』 かく雑談に耽る折しも、数千頭の野馬群をなして此方に向つて駆け来る。 六『ヤア有難いものだ。天の与へた野馬に乗つて往く事にせう、鞍もなし裸馬に乗るのは野馬なものだが、仕方がないワ、もしも野馬と一緒にこの渓谷に辷り落ちて又もや弥次サンや、与太サンのやうに冥土の旅をするやうになつたら後世の人間が此処は六道の辻の六公の終焉地だ。野馬の落ちた処や、野馬渓だと記念碑でも建てて名所にするかも知れぬぞ。オイ、野馬公の奴、六サンの仰せだ、馬匹点検だ、全隊止まれ。ヤアこの野良馬奴、吾輩の言霊を馬耳東風と聞き流しよるナ、余り馬鹿にするない』 馬『モシモシ三人の足弱サン、私に御用ですか、賃金は幾何出します』 六『ヨー此奴、勘定の高い奴だナ、ウラル教だな。世が曇つて来ると馬までが化けよつて人語を使ふやうになつて来る哩、もう世の終りだ』 馬『馬でも物を言ひますとも、狐でも狸でも物を云つてるぢやないか』 弥『何処に狐や狸が物を云つてるかい』 馬『お前サンの腹の中から副守護神とか云つて喋つて居るよ。狐が物言ふのに馬が物云はれぬと云ふ規則があるか、お前も聞いて居るだらう「馬が物云ふた鈴鹿の坂で、お三女郎なら乗せうと云た」この馬サンも女なら乗せたいのだけれど、ソンナ欠杭の化け物見たやうな唐変木を乗せるのは些と背が痛い。しかしお三の変りに狐三匹乗せてやらうか、お前のやうな奴は、世間から「狐を馬に乗せたやうな奴」だと云はれて居るから名実相伴ふ、言行一致三五教の教理の実現だ。どうだ、この馬サンのヒンヒン、ヒントは外れはせまい』 六『馬いこと吐しよる、馬鹿々々しいが、今日は弥次彦、与太彦サンの御命日オツトどつこい再生日だから、お慈悲で乗つてやらうかい、貴様もこれで後の世には人間に生れて来られるワ、宣伝使を乗せた御利益と云ふものは偉いものだぞ』 馬『人間を乗せるのなら有難いけれど、狐や狸の容器を乗せるかと思へば情なくなつて来た。ヒンヒンヒン、貧ほど辛いものがあらうか、四百四病の病より、辛いのは狐狸に使はれる事だ。アヽ慈善的に四十八坂を渡つて野馬渓の実現でもやつて、末代名を残さうかな』 弥『こりや怪しからぬ、迂濶乗れたものぢやないぞ』 馬『人には添ふて見い、馬には乗つて見いだ、サア早く乗らぬかい、貴様は毎時真つ暗な処へ嬶アの目をちよろまかして、金を盗んで、行灯部屋に放り込まれ、終には馬をつれて帰る代物だよ。馬に送つて貰ふのは、一寸願つたり叶つたりだ、ヒンヒンヒン』 三人『エヽ八釜しい哩、それほど頼めば乗つてやらう』 と、数十の馬を目蒐けて飛びついた。 弥『ヤア此奴は宛が違つた、睾丸のある奴だ。同じ乗るのなら牝の方に乗り換へてやらうか、身の過失はのり直せだ』 馬『ドツコイ、さうは行かぬぞ、乗りかけた船ぢやない馬だ。もうかうなつては此方の者だ、鷲掴の源五郎のやうに、急阪になつたら前足を上げてデングリ返つて背で腹を潰してやるのだ。ヤア面白いおもしろい』 与『俺のは牝だ、此奴は些と温順しいらしいぞ』 六『俺のも牝ぢや』 弥『ヤイ八釜敷いわい、馬がヒンヒン吐してビン棒籤を抽いて困つて居るのに、貴様迄が同じにヒンヒンと吐すな、ヒンの悪い』 数多の馬声を揃へて、 馬『ヒンヒンヒン、ヒンヒンヒン』 (大正一一・三・二三旧二・二五加藤明子録)
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霊界物語 15_寅_顕恩郷/スサノオの経綸/高姫登場 03 十六花 第三章十六花〔五七〇〕 太玉命は路傍の岩に腰打掛け、天津祝詞を声低に奏上しつつあつた。百鳥の声は遠近の林に聞え始めた。東の空はほんのりとして暁の色刻々さえて来た。数多の魔神の声は森の彼方にザワザワと聞え来る。油断ならじとキツト身構する折しもあれ、馬の蹄の音いと高く、岩彦、梅彦、音彦、亀彦、駒彦、鷹彦は矢を射る如く此場に馳来り、太玉命に向つて、 岩彦『ヤア貴下は太玉命の宣伝使、私等はフサの都に於て、日の出別神の命に依り、貴下と共に顕恩郷を言向和さむと、エデン河の濁流を渡り、漸く此処に走せ参じたり、一行の人々は如何なりしか』 太玉命『ヤア思ひも寄らぬ貴下等の御入来、いよいよこれより敵の牙城に唯一人進撃せむとする場合で御座る。斯の如き曲神の砦を言向け和すは吾一人にて充分なり。折角の御出馬なれど、貴下は速かにフサの都に引返し、夫々の神業に就かせられたし』 岩彦『それはあまり無謀の極と申すもの、吾々は折角山川を渡り漸く此処に立向ひ、目前に敵を見ながら空しく駒の頭を立て直すは、男子の本分にあらず。願はくは吾等を此神戦に参加させ給へ』 梅彦以下五人の宣伝使は、口を揃へて従軍せむことを強要した。 太玉命『然らば是非に及ばぬ、御苦労乍ら御加勢を願ふ』 岩彦一行六人『早速の御承知、有難し辱なし』 と一行六人は、太玉命の後に従いて、山深く進み入る。この場の光景は絵巻物を見る如くであつた。 進むこと一里半許り、此処には深き谷川が横たはつて居る。その幅殆ど十間許り、ピタツと行詰つた。七人の宣伝使は暫く此処に駒を繋ぎ、少憩し、如何にして此渓谷を対岸に渡らむかと協議を凝らしつつありき。谷の向側には、オベリスクの如うな帽子を被つた半鐘泥棒的ジヤイアントが七八人、巨眼を開き、大口開けてカラカラと打笑ひ、 巨人『ワハヽヽヽハア、どうぢや、何程肝の太玉の命でも、この谷川を渡ることは出来まい此川底を熟視せよ』 と指す。見れば川底には、空地なき程、二尺許りの鋭利なる鎗の穂先が、幾百千ともなく、土筆の生えてる様に直立して居る。此川に落ちるが最後、如何なる肉体も芋刺となつて亡びねばならぬシーンを現はして居る。太玉命はカラカラとうち笑ひ、 太玉命『これしきの谷川を恐れて、三五教の宣伝が出来ようか、美事渡つて見せうぞ』 と云ふより早く一同に目配せした。一同は心得たりと馬に跨り、太玉命は岩彦の背後に飛乗り、忽ち四五丁許り元来りし道に引返し、又もや馬首を転じ鞭をうちつつ、幅三間許りの谷合を勢に任せて一足飛に飛び越えた。巨大の男は驚き慌て、雲を霞と逃帰る。又もや続いて梅彦、鷹彦、亀彦、その他一同矢庭に駒に鞭つて、難なく此谷川を打渡り、後振返り見れば豈図らむや、谷川らしきものは一つもなく、草茫々と生え茂る平野であつた。 太玉命『アハヽヽヽ、又瞞しをつた、各方能く気を付けねばなりませぬぞ、此前途は仮令如何なる渓谷ありとも平気で渉ることに致しませうかい。神変不可思議の妖術を使ふ悪魔の巣窟ですから、最前も吾妻の松代姫、及び娘照妙姫と変じ、吾精神を鈍らさむと致せし魔神の計略、飽く迄も誑かられない様に気を付けて参りませう』 と先に立つて進み行く。一同は馬を傍の樹木に繋ぎ、山と山との渓道を、宣伝歌を歌ひ乍ら山深く進むのであつた。行く事数里にして、荘厳なる城壁の前にピタリと突当つた。朱欄碧瓦の宏壮なる大門は建てられ、方尖塔の如き冠を被りたる四五のジヤイアント門を堅く守つて居る。太玉命一行は忽ち門前に立現はれ、 太玉命一行『吾れこそは三五教の宣伝使、当国には八岐大蛇、金狐、悪鬼の邪霊に憑依されたる鬼雲彦夫妻立籠り、不公平極まる神政を布き、この顕恩郷をして殆ど地獄の境地と変ぜしめたるは、天恵を無視する大罪なれば、吾は是より鬼雲彦を善道に帰順せしめむため、大神の命を奉じて宣伝に向うたり。速かに此門扉を開けよ』 と言葉厳しく詰り寄る。門番は面喰ひながら、 門番『暫くお待ち下さいませ、あなた方のエデン河を御渡りありしより城内は上を下への大混雑、如何にして貴下等を満足せしめむやと、鬼雲彦の大将に於かせられても千辛万苦の御有様、やがて開門のシグナルの鐘が響き亘りますれば、それ迄ゆるゆる此処に御休息願ひたし。必ず必ず敵対申す者は一柱も居りませぬ。御安心下さいませ』 音彦『ヤア其方は何ぢや彼ぢやと暇取らせ、其間に戦闘の準備を整へ、吾々を鏖殺せむとするの計略ならむ。ソンナヨタリスクは聞く耳持たぬ、速に此門開けよ』 門番『これ程申上げてもお疑晴れずば、御自由に御這入り下さいませ』 と云ふより早く、潜り門を開いて、門内に姿を隠して了つた。 鷹彦『一つ吾々が還元の芸当をやつて、城内隈なく偵察をやつて見ませう』 と忽ち霊鷹と変じ、中空に舞上り、顕恩城の内外を隈なく偵察し、もとの大門に現はれ来り、中より閂を外し、門扉を左右に開いた。 鷹彦『サアサア是から吾々一同が活動のステージだ。轡を並べて七人がスパークを散らして、奮戦するの時や迫つた、ヤア面白し面白し、太玉命続かせ給へ』 と先に立つて進み行く。数多の敵は左右に、蟻の集ふが如く整列して、七人が通行を敵対もせず、歓迎もせぬと云ふ態度にて見まもつて居る。 岩彦『ヤア各方、あれ丈沢山の敵が吾々に抵抗も致さず、各自手槍を携へ乍ら目送しつつあるは、合点の行かぬ次第で御座る。余り軽々しく進み過ぎて、四方八方より取囲まれなば、如何とも出来ない様な破目に陥るかも知れませぬぞ、これは一つ考へねばなりますまい』 太玉命『ナニ躊躇逡巡は三五教の大禁物、生死も、勝敗も、皆神の手に握られあれば、運を天に任せ、行く所迄行つて見ませう』 と太玉命は先に立つて進み行く。鬼雲彦の御殿の前に近付く折しも、瀟洒たる白木の門をサラリと開いて悠々現はれ来る十数人の窈窕嬋研たる美人、スノーの如き繊手を揉み乍ら、 美人『これはこれは三五教の宣伝使様の御一行様、能うマア遥々お越し下さいました。鬼雲彦の御大将の御命令に依りて、妾一同はお迎へに参りました。訳の分らぬ者共が種々と御無礼を働きましたでせう、何事も足らはぬスレーブの為す業と、広き厚き大御心に見直し聞直し下さいまして、ゆるゆると奥殿にて御休息の上、尊き御話をお聞かせ下さいませ、御大将も定めて御満足の事と存じます』 と言葉スガスガしく、満面に笑を湛へて慇懃に挨拶する。太玉命以下の宣伝使は、張合抜けたる如き心地し乍ら、美人一行の後に伴いて、奥殿に悠々と進み入るのであつた。 宣伝使の一行は、顕恩城の奥殿に深く進み入つた。山海の珍味は整然として並べられてあつた。美人の中の最年長者と見ゆる、眼涼しく、背の高き愛子姫は溢るる許りの愛嬌を湛へ、 愛子姫『これはこれは宣伝使様、能うこそ遠路の所入らせられました。顕恩郷の名産、桃の果実を始め、種々の珍らしき物を以て馳走を拵へました、お腹が空いたで御座いませう、どうぞ御遠慮なくお召あがり下さいませ。果実の酒も沢山御座いますれば御遠慮なく……サアお酌をさして頂きませう』 と云ふより早く、杯を太玉命に献した。 太玉命『ヤア思ひがけなき山野河海の珍味、御芳志の段恐れ入りました。それに就いても当城の御大将鬼雲彦に面会の上、戴きませう』 愛子姫『御大将は只今御出席になります、それまでに御寛りと御酒を飲つてお待ち下さいませ』 岩彦、大口を開けて、 岩彦『アハヽヽヽ、どこ迄も脱かりのない悪神の計略、太玉命の御大将、迂濶り酒でも口に入れるものなら、それこそ大変だ。七転八倒、苦悶の結果、敢なき最期を遂げにけりだ。ナア梅彦サン、あなたはどう思ひますか』 梅彦『吾々は五里霧中に彷徨の為体だ、夢に牡丹餅、食つた牡丹餅はダイナマイトの御馳走か、何が何んだか、サツパリ不得要領だ。ナア鷹彦サン、あなたはどう思ふか』 鷹彦『先づ十六人の別嬪さまから、毒味をして頂きませう。其上でなくば到底安心が出来ない、ナア愛子姫さまとやら、さう願ひませうか』 愛子姫『オホヽヽヽ、御心配下さいますな、然らば妾がお先へ失礼致します』 と盃に酒を注いで、グツト飲んだ。 岩彦『妙々、これや心配は要らぬらしいぞ、ナア音サン、駒サン………百味の飲食を心持よく頂きませうか』 音彦、駒彦は頭を左右に打振り、黙然として俯むくのみであつた。奥の襖を引開けて悠々として現はれ来る鬼雲彦夫婦、目鼻が無かつたら、万金丹計量か、砂つ原の夕立か、山葵卸の様な不景気な面付に、所々色の変つたアドラスの様な、膨れ面をニユツと出しドス声になつて、 鬼雲彦夫婦『これはこれは三五教の宣伝使様、当城は御聞及の通、霊主体従を本義と致すバラモン教の教を立つる屈強の場所、三五教は予て聞く霊主体従の正教にして、ウラル教の如き体主霊従の邪教にあらず、バラモン教は茲に鑑る所あり、ウラル教を改造して、真正の霊主体従教を樹立せしもの、是れ全く天の時節の到来せるもの、謂はば三五教とバラモン教は切つても断れぬ、教理に於て、真のシスター教であります。どうぞ以後は互に胸襟を開いて、相提携されむ事を懇願致します』 と御面相にも似合はぬ、御叮嚀な挨拶をするのであつた。太玉命はこれに答へて、 太玉命『何分宜しく、今後はシスター教として提携致したい。夫れに就いては互に長を採り短を補ひ、正を取り偽を削り、神聖なる大神の御心に叶ふべき教理を立てたきもので御座います。吾々一行、当城に参る途中に於て、妖怪変化の数多出没するは何故ぞ。バラモン教は斯の如き妖術を以て世人を誑惑し、信仰の道に引き入れむとするや、其意の在る所承はりたし』 と稍語気を強めて詰問的に出た。鬼雲彦、事もなげに打笑ひ、 鬼雲彦『アハヽヽヽ、左様で御座いましたか、諺にも云ふ、正法に不思議無し、不思議有るは正法にあらず。此メソポタミヤは世界の天国楽土と聞えたれば、甘味多き果物に悪虫の簇生するが如く、天下の悪神此地に蝟集して、妖邪を行ふならむ、決して決して霊主体従のバラモン教の主意にあらず。正邪を混淆し、善悪を一視されては、聊か迷惑の至りで御座います。又中には教理を能く体得せざる者多く、或パートに依りては羊頭を掲げて狗肉を鬻る宣伝使の絶無を保証し難し。何教と雖も、創立の際は総て、ハーモニーを欠くもの、何卒時節の力を待つてバラモン教の真価を御覧下さい。創立間もなき吾教、到底ノーマルに適つた教理は、容易に完成し難いのは三五教の創立当初に於けると同様でありませう、アハヽヽヽ』 と腮をしやくり、稍空を向いて嘲笑的に笑ふのであつた。鬼雲姫は言葉優しく、 鬼雲姫『これはこれは三五教の宣伝使様、能くこそ御訪問下さいました。教の話になりますと自然堅苦しくなつて、お座が白けます、お話はゆつくりと後に承はることに致しませう。心許りの馳走、何卒御遠慮なくお食り下さいませ、決して毒などは入つては居りませぬから…………』 岩彦『これはこれは思ひがけなき御饗応、吾々の如き乞食宣伝使は、見た事も御座らぬ山野河海の珍味、有難く頂戴致しませう』 鬼雲彦は、愛子姫、幾代姫に向ひ、 鬼雲彦『ヤア愛子姫、幾代姫の両人、遠来の珍客を犒う為、汝等二人はアルマの役を勤め、舞曲を演じて御目に掛けよ』 愛子姫、幾代姫『アイ』 と答へて、両女は白扇を開き、春野の花に蝶の狂ふが如く、身も軽々しく長袖を翻して、前後左右に踊り狂ふた。顕恩城の上役、数十人は此場に現はれ、酒に酔ひて、或は舞ひ、或は歌ひ、遂には無礼講と変じ、赤裸になつて踊り狂ふ。七人の宣伝使は心許さず、表面酒に酔ひ潰れたる態を装ひ、他愛もなく腮の紐を解いて、或は笑ひ、或は歌ひ、余念なき体を装うて居た。不思議や数十人の顕恩城の上役の面々は、忽ち黒血を吐き、目を剥き、鼻水を垂らし、さしもに広き殿内を、呻吟の声と諸共に、のたうち廻り、顔色或は青く、或は黒く、赤く、苦悶の息を嵐の如く吹き立てた。十六人の美人は、てんでに襷を十文字にあやどりて、人々の介抱に従事した。七人の宣伝使もお附合に、苦悶の体を装ひ、縦横無尽に、 七人の宣伝使『苦しい苦しい』 と言ひ乍ら、跳廻るのであつた。此態を見て鬼雲彦夫妻は高笑ひ、 鬼雲彦夫婦『アハヽヽヽ、汝太玉命、吾計略にかかり、能くも斃ばつたな、口汚き宣伝使、毒と知らずに調子に乗つて、命を棄つる愚さよ。吁、さり乍ら味方の強者を数多殺すは残念なれど、斯の如き豪傑を倒すには、多少の犠牲は免れざる所、……ヤアヤア数多の家来共、汝等は毒酒に酔ひ今生命を棄つると雖も、バラモン教の神力に依つて、栄光と歓喜とに充てる天国に救はれ、永遠にバラモンの守り神となるべきステーヂなれば心残さず帰幽致せ、……ヤア三五教の宣伝使、予が身変不思議の神術には恐れ入つたか、最早叶はぬ全身に廻つた毒酒の勢、ワツハヽヽヽヽ苛しい者だなア』 此時愛子姫、幾代姫、五十子姫、梅子姫は、鬼雲彦に向ひ、柳眉を逆立て、懐剣を抜き放ち、四方より詰めかけながら、 愛子姫たち四人『ヤア汝こそは悪逆無道の鬼雲彦、前生に於ては竜宮城に仕へ、神国別の部下とならむとして、花森彦命に妨げられ、是非なく鬼城山の棒振彦が砦に参加し、神罰を蒙つて帰幽したる悪魔の再来、復び鬼雲彦と現はれて、この顕恩郷に城砦を構へ、天下を紊さむとする悪魔の帳本、思ひ知つたか、妾十六人の手弱女は、神素盞嗚の大神の密使として、汝が身辺に仕へ、時機を待ちつつありしを悟らざりしか、城内の豪の者は残らず、汝の計略の毒酒に酔ひて、最早命旦夕に迫る。七人の宣伝使には、清酒を与へ、元気益々旺盛となり、一騎当千のヒーロー豪傑、最早斯くなる上は遁るるに由なし、汝速に前非を悔いて三五教に従へよ……返答如何に』 と前後左右より、鬼雲彦夫婦に向つて詰めかけた。残り十二人の美人は、又もや手に手に懐剣スラリと引抜き、 十二人『サアサアサア鬼雲彦夫婦、返答如何に』 と詰めかくる。鬼雲彦は此は叶はじと、夫婦手に手を執り、高殿より眼下の掘を目がけて、ザンブと許り飛込んだ。パツと立ち上る水煙、見るも恐ろしき二匹の大蛇となつて雲を起し、雨を呼び、風に乗じ、東方波斯の天を目がけて、蜒々として空中を泳ぐが如く姿を隠した。 太玉命一行は、十六人の女神に向ひ、 一行『ハテ心得ぬ貴下等の振舞、これには深き様子のある事ならむ、逐一物語られたし』 と叮嚀に頭を下げ、両手をついて挨拶するを、愛子姫は言葉淑やかに、 愛子姫『妾はコーカス山に現れませる、神素盞嗚尊の娘、愛子姫、幾代姫、五十子姫、梅子姫、英子姫、菊子姫、君子姫、末子姫の八人姉妹にて侯、これなる八人の乙女は妾の侍女にして、浅子姫、岩子姫、今子姫、宇豆姫、悦子姫、岸子姫、清子姫、捨子姫と申す者、バラモン教の勢力旺盛にして、天下の人民を苦しめ、邪教を開き生成化育の惟神の大道を毀損する事、日に月に甚しきを以て、吾父素盞嗚大神は、妾八人の姉妹に命じ、各身を窶し、或は彼が部下に捕へられ、或は顕恩郷に踏迷ひたる如き装ひをなして此城内に運び入れられ、悪魔退治の時機を待ちつつありしに、天の時到りて太玉命は、父の命を奉じ当城に現はれ給ひしも、全く吾父の水も漏らさぬ御経綸、又八人の侍女は、今迄鬼雲彦の側近く仕へたるバラモン教の信徒なりしが、妾達が昼夜の感化に依りて、衷心より三五教の教を奉ずるに至りし者、最早変心するの虞なし。太玉命の宣伝使よ、彼等八人の侍女を妾の如く愛し給ひて、神業に参加せしめられよ』 と淀みなく述べ立つる。太玉命は首を傾け、感歎の声をもらし、 太玉命『吁、宏遠なるかな、大神の御経綸、吾等人心小智の窺知すべき所にあらず。大神は最愛の御娘子を顕恩郷に乗込ましめ置き乍ら、吾れに向つて一言も漏らし給はず、顕恩郷に進めと云ふ御託宣、今に及んで大神の御神慮は釈然として解けたり。吁、何事も人智を棄て、神の命のまにまに従ふべしとは此事なるか、アヽ有難し、辱なし』 とコーカス山の方に向つて、落涙し乍ら手を合せ神言を奏上しける。六人の宣伝使を始め、十六人の女性は、コーカス山に向つて両手を合し、太玉命と共に天津祝詞を奏上した。忽ち何処ともなく、馥郁たる芳香四辺を包み、百千の音楽嚠喨として響き渡り、紫の雲天空より此場に下り来り、容色端麗なる女神の姿、中空に忽然として現はれ、 女神『われは妙音菩薩なり、汝が行手を守らむ、益々勇気を励まし神業に参加せよ。また、安彦、国彦、道彦を始め、田加彦、百舌彦の五人は、一旦エデン河の濁流に溺れて帰幽せりと雖も、未だ宿世の因縁尽きず、イヅの河辺に於て、汝等に邂逅せば彼も亦再び神業に参加するを得む。一時も早く、太玉命は本城に留まり、愛子姫浅子姫は太玉命の身辺を保護し、其他の宣伝使と女人はエデン河を渡りて、イヅ河に向へ、ゆめゆめ疑ふ事勿れ』 と云ふかと見れば、姿は掻き消す如く、百千の音楽は天に向つて追々と消えて行く。一同は声する方に向つて恭敬礼拝し、感謝の意を表したりける。 (大正一一・四・一旧三・五松村真澄録)
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霊界物語 15_寅_顕恩郷/スサノオの経綸/高姫登場 04 神の栄光 第四章神の栄光〔五七一〕 鬼雲彦夫妻は、美酒に強か酔ひ潰れ、苦悶の体にて堀に飛び込み、八頭八尾の大蛇の正体を現はし、風雲を捲き起し雲に乗つてフサの国の天空を指して姿を隠した。後に残りし勇将猛卒は、知らず識らず毒酒に酔ひ瀕死の状態に陥り、呻吟苦悶の声目も当てられぬ惨状なりければ、太玉命は之を憐み、直に天に向つて解毒恢復の祈願を籠め、懐中より太玉串を取出して、左右左に打ち振れば、不思議や神徳忽ち現はれ、残らず元気恢復して命を始め七人の前に集まり来り、感謝の涙に咽びながら、助命の大恩に、心の底より悔改め、合掌恭敬到らざるなく、欣喜雀躍手を拍ち足をあげ、面白き歌を謡ひ、躍り狂うて、宣伝使の一行を犒ひける。 愛子姫は立ち上り、感謝の歌を謡ふ。 愛子姫『恵も深き顕恩の里に現れます珍の御子 三五教の宣伝使心も広き太玉の 神の命の現はれて元の神代に造らむと 岩より固き誠心の御稜威は開く梅の花 音に名高き麻柱の教の花は万代の 亀の齢と諸共に栄え栄えて春駒の 勇むが如き神の国教の花も鷹彦の 神の恵の愛子姫千代に栄えよ幾代姫 心いそいそ五十子姫香り床しき梅子姫 闇夜を照す英子姫救ひの道を菊子姫 民を治むる君子姫ミロクの御代の末子姫 神の恵も浅からぬ心涼しき浅子姫 岩より固き岩子姫救ひの神は今子姫 教へ尊き宇豆姫の栄え嬉しき悦子姫 彼方に渡す岸子姫心の色も清子姫 百の罪咎捨子姫十まり六の瑞霊 神素盞嗚の大神の勅畏み顕恩の 園に巣くへる曲津見を言向け和はし神国を 常磐堅磐に立てむとて心を尽し身を尽し 晨夕と送るうち神の恵の隈もなく 輝き渡り今此処に救ひの道の宣伝使 太玉命の現れましてメソポタミヤの秀妻国 いと平けく安らけく知ろし召す世は来りけり あな有難や尊やな朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも大地は沈む事あるも 顕恩郷は永久に南天王の古に 返りて御代は末永く花も開けよ実も結べ 稲麦豆粟黍稗も豊に穣れ神の国 羊も山羊も牛馬も浜の真砂の数多く 殖えよ栄えよ永久に常磐の松のいつまでも 色は褪せざれ変らざれ神が表に現はれて 善と悪とを立て分ける此世を造りし神直日 心も広き大直日直霊の御魂現はれて 顕恩郷に塞がれる怪しき雲を吹き払ひ 月日は空に澄み渡り夜毎閃く星の影 常磐堅磐に健くあれあゝ惟神惟神 御霊幸倍在しませよ神の御霊の幸倍て ためしも夏の木草まで色麗しく賑しく 栄ゆる御代に愛子姫幾代変らぬ五十鈴の 川の流れは永久に濁らであれよ五十子姫 三千世界の梅の花開き匂へる梅子姫 栄え久しき英子姫十六弁の花匂ふ 菊子の姫や君子姫末子の姫に至るまで 神の生みます宇豆姫の御稜威喜ぶ悦子姫 尊き御代も岸子姫エデンの河に身の罪を 洗ひ清めて清子姫安彦国彦道彦の 果敢なく命を捨子姫助くるすべも荒波の 底に潜りて今此処に現はれ来る今子姫 深き流れも忽ちに神の恵に浅子姫 心も固き誠心の千代も動かぬ岩子姫 巌の上に松さへも生ふるためしもある御代は エデンの河に沈みたる三五教の宣伝使 嬉しき顔を三柱の時こそあらめ片時も いと速むやけく皇神の恵の光に照されて 百舌彦田加彦諸共に救はせ給へ天津神 国津神達八百万万の願をかけまくも 畏き神の引き合せ遇うて嬉しき五柱 いづの霊や瑞霊三五の月の照るまでに 救はせたまへ顕恩郷遍く渡る峰の上 谷底までも尋ねつつ神の教に麻柱の 誠の御子を救へかし誠の御子を救へかし 畏き神の御前に遥に拝み奉る 遥に祈り奉る』 と、祈願を籠めて声も涼しく歌ひ舞ひ納めけり。太玉神はツト立つて感謝の歌を歌ひ初めたり。 太玉命『コーカス山に現れませる瑞霊の大神の 勅畏み琵琶の海渡りて四方を宣伝し 稜威の言霊遠近に響き渡らせ進み来る 吾言霊の勢に四方の草木も靡き伏し エデンの園に蟠まる八岐大蛇や醜神の 醜の砦を言向けて松代の姫が生みませる 光愛たき照妙姫の貴の命を花園の 主宰の神と任けつつも吾は進んでエデン河 河の傍をつたひ来る安彦国彦道彦の 三の御魂の宣伝使引き連れ急ぐ渡場に 漸々此処に月の空濁流漲るエデン河 如何はせむと思ふうち川の関所を守り居る 田加彦鳶彦百舌彦が砦を兼ねし川館 先づ道彦を遣はして事の実否を窺へば 鋭利な槍を扱きつつ道彦目蒐けて突きかかる 神の恵を身に浴びし珍の御子なる道彦は 攻め来る槍の切尖を右や左に引きはづし 挑み戦ふ上段下段火花を散らして戦へば 耐り兼ねてか一人は忽ち川へ鳶彦の 猫に追はれた小鼠の跡を掻き消す水の中 漸々岸に泳ぎつき数多の手下を引き連れて 岸辺をさして迫り来る吾等一行は勇み立ち 用意の船に身を任せ棹を横たへ中流に 進む折しも流れ来る征矢に当りて百舌彦は 忽ち河中に転倒し後白浪と消えて行く 泡立つ浪の田加彦もまたもやザンブと河中に 身を躍らして消え失せぬ棹を取られし渡し船 操るよしも浪の上嗚呼如何にせむ船体は 忽ち岩に衝突し木葉微塵に成り果てて 御伴に仕へし宣伝使姿も三つの魂は 河の藻屑となり果てぬ吾はやうやう川縁に 神に守られ這ひ上り群がる敵の諸声を 目当に独りとぼとぼと進む折しも前方に 怪しの男の此処彼処現はれ来り槍の穂を 揃へて一度に攻め来る何の容赦も荒男 太玉串の神力に恐れやしけむ雲霞 煙となつて消え失せぬ忽ち月は大空の 雲の帳を押し分けて四辺を照す嬉しさに 勇気を鼓して進み行く山河幾つ打ち渡り 進む折しも忽ちに電光石火雷の 轟き渡る折からに現はれ出でし神人は 厳霊の大神の第四の御子と現れませる 活津彦根の大御神吾は魔神と怪しみて 争ふ折しも大神は吾等が不明を笑ひつつ 天空目蒐けて帰ります又もや怪しき物蔭に 眼をみはりつつ窺へば松代の姫や照妙姫の 貴の命は可憐らしく高手や小手に縛られて 口には堅き猿轡合点行かずと玉串を 取るより早く打ち振れば魔神は神威に恐れけむ 又もや泡と消え失せぬ路傍の厳に腰を掛け 息を安らふ折柄に駒の蹄の戞々と 音勇ましく進み来る又もや曲津の奸計と 心を配る折からに思ひがけなき梅彦や 音彦駒彦六人の三五教の宣伝使 心も勇み栄えつつ轡を並べて山奥に 進む折しも八千尋のつと行き当る谷の川 川幅広く橋もなく行き悩みたる折柄に 運命天に任せつつ一鞭あてて飛び越ゆる 此処に佇む荒男此勢に辟易し 山奥指して逃げ帰る後振り返り眺むれば 谷と見えしは薄原又もや魔神の計略に かかりて心痛めしか嗚呼恥かしも恥かしも 眼暗みし宣伝使確と腹帯締め直し 心の駒に鞭打ちて息せき切つて二里三里 要心堅固の大門にピタリと当つた七人は 暫し思案に暮れけるが茲に鷹彦宣伝使 早速の早業霊鷹と変じて中空翔廻り 敵状残らず視察して再び此処に舞ひ下り さしもに固き大門を苦もなく左右に押し開く 吾等一行七人は勇気を起して前進し 城砦目蒐けて近よれば魔神の軍勢は進み行く 道の左右に堵列して袖手傍観その様は 心得難きシーンなり又もや来る十六の 天女に擬ふ姫神は吾等の一行を慇懃に 奥殿指して誘ひ行く怪しみながら来て見れば 山野河海の珍肴は処狭きまで並べられ 木実の酒も沢々に供へ足らはす此場面 鬼雲彦の大統領忽ち此場に現はれて 表裏の合ぬ神の宣りいと賢しげに述べ立つる 如何はしけむ城内の勇将猛卒忽ちに 顔色変じ黒血吐き悶え苦しむ訝かしさ 吾も毒酒に酔ひしれて苦しきさまを装ひつ 七転八倒するうちに鬼雲彦の統領は 仕済ましたりと出で来る神の賜ひし玉串を そつと取り出し左右左と魔神に向つて打振れば 鬼雲彦や妻神は黒雲起し風に乗り 雨に紛れて逃げて行く四四十六の花の春 未ださきやらぬ乙女子の蕾の唇開きつつ 一伍一什の物語聞いて胸をば撫で下し 神の恵を嬉しみて善言美辞の神嘉言 唱ふる折しも大空に微妙の音楽鳴り渡り 芳香四辺を包むよと思ふ間もなく現はれし 妙音菩薩の御姿天地に響く言霊の その勲功ぞ尊けれその勲功ぞ畏けれ』 と歌ひ終つて元の座につきぬ。 茲に太玉命は愛子姫、浅子姫を留めて侍女となし、顕恩郷の無事平穏に復するまで蹕を留むるる事となつた。城内の勇将猛卒も太玉命の神力に服し、忠実に三五教を奉じ茲にメソポタミヤの楽土は、エデンの花園と相俟つて、再び元の天国を形成る事となりにける。 バラモン教を守護する邪神を始め、其の宣伝使は遠くペルシヤに渡り、印度に向つて教線を拡充する事となり、岩彦、梅彦、音彦、駒彦、鷹彦の宣伝使を始め、幾代姫、五十子姫、梅子姫、英子姫、菊子姫その他一同の女性は、顕恩郷を去つて四方に、三五教の宣伝使となつて出発する事となりにける。 (大正一一・四・一旧三・五加藤明子録)
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霊界物語 15_寅_顕恩郷/スサノオの経綸/高姫登場 16 水上の影 第一六章水上の影〔五八三〕 三男三女は神歌を謡ひ乍ら、潔く前進する。又もやトンと行当つた岩壁、 高国別『ヤア又しても岸壁だ、如何に一切万事行詰りの世の中だと云つても、此処まで行詰りの風が吹いて来て居るのか。吾々は誠の神力を以て此岩戸を開き、行詰りの世を開かねばなるまい。先づ先づ休息の上、ゆつくりと相談致しませう』 亀彦『臨時議会の開会はどうでせう』 梅彦『アハヽヽヽ、議会と聞けば、醜の岩窟を連想せずには居られない。歴史は繰返すとかや、一つゆるりと秘密会でも開催しませう』 と頃合の岩の上に腰打掛けた。三人の女性も同じく腰打かけ、 三女『アーア、有難い有難い、マア此処でゆつくりと休まして戴きませう』 高国別『エー、あなた方御一同はどうして此岩窟にお這入りになりましたか』 亀彦『吾々は神素盞嗚の大神が地教山を越え此西蔵の秘密郷にお出で遊ばしたと聞き、取る物も取り敢ず、お後を慕つて進み来る折しも、小さき雑草の丘の前に突当り、五人は息を休むる折しもあれ、何処よりともなく一人の女神現はれ来り、「此地底の岩窟には、活津彦根命御探険あれば、汝等は急ぎお跡を慕へ」との一言を残し、その儘姿は消えさせ給うた。傍を見れば暗き穴、ハテ訝かしやと覗き居る際、地盤はガタリと陥落し、七八間も地中に落込んだと思へば、此岩窟、……それより吾々一同はこの岩窟内を神歌を謡ひつつ、探り来る折しも、道に当つた古井戸、フト見れば何か怪しの物影、合点行かぬと思ふ折、井戸の底より貴下の声、……と云ふ様な来歴で御座いましたよ』 高国別『アヽそれは結構でございました。実は吾々が彼の井戸に陥りし刹那、失心致したと見え、広大なる原野を通過し、高山の頂きに登りつめ、五人の男女に巡り会ひしと思へば、ハツト気が付き、空を仰ぐ途端に、貴下ら一行のお姿………イヤもう実に不思議千万な事で御座います』 梅彦『吾々は昨夜の夢に、貴下にお目にかかりましたが、本日只今この岩窟内に斯うして休息して居る有様が、ありありと目に附きました。実に現幽一致、此世と云ふ所は不思議な所ですな』 俄に何処ともなく、阿鼻叫喚の声、響きわたる。高国別はツト立ち上り、 高国別『ヤア皆さま、何か此岩窟内には変事が起つて居ますよ。サアサア早く早く探険と出かけませうかい』 と云ひつつ、岩壁を力に任せてグツと押した。岩の戸はパツと開いた。見れば数十人の老若男女、何れも高手小手に縛しめられ、中央に朱の如き赤き面した鬼神四五人、鉄棒を提げ、足の先にてポンポンと男女を蹴り苦しめて居る。 高国別『ヤア各方、此処は冥土の地獄の様だ。ヤア何れも方、飛込んで救うてやりませう』 と身を躍らして先に立つた。五人はあとに引つ添ひ、声を揃へて言霊を奏上する。鬼の姿は追々に影うすく、遂には煙の如くなつて消え失せたり。数多の老若男女の姿を見れば、高手小手に縛められ居たりと見えしは、幻なりしか、各自に双手を合せ、岩窟の前に端坐して、 一同『神素盞嗚の大神、一時も早く地上に現はれ給ひて、吾等を救ひ給へ』 と一生懸命、側目もふらず拝んで居るのであつた。六人の姿を見るより、一同の老若男女は、此方に向き直り、合掌し乍ら、 一同『ヤア有難し有難し、勿体なし、あなた様は神素盞嗚の大神の御眷属様ならむ』 と嬉し涙に咽ぶ。 高国別『ヤア最前より様子を聞けば、汝等一同の者、神素盞嗚の大神の御出現を祈り居る有様、汝の至誠は天に通じ、只今カナンの家に尊は御逗留遊ばすぞ。一時も早く此岩窟を立出で、仁慈の大神の尊顔を拝せよ』 と宣示したれば、一同は此言葉を聞いて大に喜び、 一同『ヤア大神の御再臨、有難し辱なし』 と嬉し腰を脱かし、のたくり廻り、歓ぎ喜ぶ。高国別は一同に向ひ、天の数歌を称ふれば、今迄痩衰へたる数十人の老若男女は、俄に肉付き、顔色麗しく、元気恢復し、忽ちムクムクと立ち上り、手を拍つて、前後左右に踊り狂ひ、大神の再臨を心の底より感謝する。而て一同はイソイソとして、大麻を持てる男を先頭にゾロゾロと帰り行く。後見送つて高国別は、 高国別『アヽ可愛らしい者だ。これ丈の善男善女が心を一つにして、信仰を励むのを見れば、何とも彼とも知れぬ良い心持ちがする。尊に於かせられても、嘸御満足に思召すであらう。嗚呼、惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 高国別一行は、奥へ奥へと進み行く。日は西山に没せしと見え、岩窟の中は俄に暗くなつて来た。六人は探り探り進み行くにぞ、傍に怪しき呻声が聞えゐる。耳ざとくも、愛子姫は其声を聞き、 愛子姫『もしもし皆さま、何だか怪しき声が聞えるではありませぬか』 亀彦『ヤアそれは、あなたの神経でせう。岩窟の中は音響のこもるものですから、大方最前の祝詞の声が内耳深く潜伏し、反響運動を開始して居るのでせう』 愛子姫『イエイエ祝詞の声ではありませぬ、苦悶を訴ふる、しかも女の声、悪神の巣窟たる此岩窟、如何なる惨事の行はれ居るやも図られませぬ。皆さま一同に立止まり、耳を澄ませて聞いて下さい。世界を救ふ神の使の吾々、苦悶の声を聞き逃し、ムザムザと通過も出来かねます』 亀彦『ヤア如何にも苦しさうな声だ。もしもし高国別様、暗さは暗し、余り軽々しく進むよりも、一つ此声を探り当てませうか』 高国別『ホンに如何にも妙な声が致しますな』 と言ひつつ、傍の岩壁をグツと押した途端に、不思議や、岩の戸は案外に軽くパツと開いた。能く能く見れば、白き影、岩窟内に横たはり苦しさうに唸つて居る。 亀彦『ヤア怪しいぞ怪しいぞ、此暗がりに、何だか削りたての材木の様な者が唸つて居る。これは大方、白蛇であらう』 梅彦『白蛇にしては、太さの割に余りに丈が短いではありませぬか』 亀彦『白蛇の奴、どつかで半身切られて来て、九死一生苦悶の態と云ふ場面だらう。……オイオイ白蛇の先生、どうしたどうした』 白き影『アーア恨めしやなア、妾は姫君様の御後を慕ひ、此処まで来るは来たものの、ウラナイ教の曲津神、蠑螈別が計略にかかり、手足を縛られ、岩窟の中へ押込まれ、逃れ出づる方策もなし、アヽ何とせう、恨めしやなア』 亀彦『ヨウ大蛇だと思へば、何だか分らぬ事をほざいて居るワ。もしもし高国別様、一寸調べて下さいな』 高国別『イヤあなた御苦労乍ら一寸探つて見て下さい、どうやら人間らしう御座いますよ』 亀彦『滅相な、あた嫌らしい、此暗がりに、コンナ白い者が、どうしてなぶられませうか……オイ梅サン、お前は平素より大胆な男だ。一つ此処らで侠気を出して、幾代姫様に英雄振をお目にかけたらどうだ』 梅彦『イヤ吾々も吾々だが、亀彦サンも亀彦サンだ。菊子姫様に英雄振をお見せになつたらどうでせう、余り厚かましう致すのも御無礼で御座る。あなたには先取権が御座る、どうぞ御遠慮なく、とつくりと、頭から足の先までお調べなさいませ。菊子姫様の手前も御座いまするぞ』 亀彦『アーア、偉い所へ尻平を持つて来られたものだ。ナニ、材木が動いて居るのだと思へば良い、……コラコラ材木、その方は何者だ』 白き影『アヽ恨めしや』 亀彦『ナヽ何だ、ウラナイ教か、幽霊か、何だか知らぬが、材木の幽霊は昔から聞いた事はないワイ。素盞嗚の大神が御退隠遊ばしてより、山川草木に至る迄、言問うと云ふ事だが、やつぱりこの材木も其選に漏れないと見えて、何だか言問ひをやつてゐる、……コラ材木、起きぬか起きぬか』 梅彦は、白き影を目当に、スウツと撫でまわし、 梅彦『ヤアこれは人間だ、しかも肌の柔かき美人と見える、高手小手に縛められて居る。おほかた悪神の奴に虐げられて、此岩窟に幽閉されたのであらう』 と言ひ乍ら、スラスラと縛を解いた。白き影はスツクと立ちあがり、懐剣逆手に持つより早く、 白き影『ヤア、ウラナイ教の悪神、蠑螈別の手下の者共、モウ斯うなる上は、妾が死物狂ひ覚悟を致せ』 と六人のほのかな影を目当に短刀をピカつかせ乍ら、前後左右に暴れ狂ふ。 亀彦『ヤア待つた待つた、吾々は三五教の宣伝使だよ』 白き影『ナニツ、三五教の宣伝使とは、まつかな偽り、浅子姫が死物狂ひの車輪の働き、思ひ知れよ』 と飛鳥の如くに飛び廻る。 高国別『ヤア汝浅子姫とは、顕恩郷に現はれたる愛子姫の腰元ならずや。吾は愛子姫の夫高国別なるぞ』 浅子姫『執念深き悪魔の計略、其手に乗つて堪らうか、浅子姫が手練の早業、思ひ知れよ』 と又もや短刀を暗に閃かし暴狂ふ。愛子姫は、 愛子姫『そなたは浅子姫に非ずや、先づ先づ静まりなさい、愛子姫に間違御座らぬ』 浅子姫『ヤアさう仰有るお声は、正しく愛子姫様』 愛子姫『そなたは擬ふ方なき浅子姫の声、夜目にもそれと知らるる其方の姿、嬉しや嬉しや、思はぬ所で会ひました』 浅子姫は稍落着きたる声にてハアハアと息をはづませ乍ら、 浅子姫『そ、そ、そう仰有るあなたは擬ふ方なき愛子姫様、お懐しう御座います』 とワツと許りに其場に泣き伏しぬ。此時何処よりともなく、一道の光明サツと輝き渡り、一同の顔は昼の如く明かになり来たりぬ。 浅子姫『これはこれは何れも様、不思議な所でお目にかかりました、能うマア危き所をお助け下さいました。是れと云ふも、全く木花姫の御守護の厚き所』 と合掌し、後は一言も得言はず、嬉し涙に掻き曇るのみ。勇みを附けんと高国別は、浅子姫の背中を、平手に三つ四つ打ち乍ら、 高国別『浅子姫殿、しつかりなさいませ。是には深き様子有らむ。吾々も此先に於て、大に覚悟せなくてはなりませぬ。あなたを斯くの如く岩窟に押込めし以上は、当岩窟には数多の悪神の巣窟あらむ、此処に立到られし仔細を詳さに物語られよ』 と声を励まして問ひかくれば、浅子姫はハツと心を取直し、 浅子姫『是れには深き仔細が御座いまする、一先づ妾が物語お聞き下さいませ。天の太玉命、顕恩郷に現はれ給ひ、バラモン教の大棟梁鬼雲彦を神退ひにやらひ給ひ、妾は愛子姫様と共に、顕恩城を守護しまつる折しも、天照大神様、天の岩戸に隠れ給ひしより、太玉命は急遽、天教山に登らせ給ひ、その不在中、愛子姫様と妾は城内を守る折しも咫尺暗澹として昼夜を弁ぜず、荒振神は五月蝿の如く群がり起り、鬼雲彦は又もや現はれ来りて、暗に紛れて暴威を逞しうし、妾主従は生命も危き所、闇に紛れて城内を逃れ出で、エデンの河を生命からがら打渡り、何の目的も時の途、進み行く折しも、暗を照して現はれ来たる日の出神にめぐり会ひ、愛子姫様、菊子姫様、幾代姫様は、神素盞嗚尊の御後を慕ひ、西蔵に難を遁れさせ給ひしと聞くより、妾は岸子姫、岩子姫と共に、夜を日に継いで、山野を渉り、大河を越え、漸くラサフの都に来て見れば、姫君様に奇の岩窟にて面会を得させむと、木花姫の夢のお告げ、妾三人は勇み進んで、小高き丘の入口より、岩窟に進み来る折しも、ウラナイ教の曲神蠑螈別、幾十ともなく数多の邪神を引き連れ、妾三人を前後左右に取囲み、後手に縛り上げ、此岩窟に押込めたり。嗚呼、岸子姫、岩子姫は、如何なりしぞ、心許なや』 と又もや涙の袖を絞る。 高国別『これにて略様子は判然致しました。……ヤア一同の方々、岸子姫、岩子姫の身の上心許なく御座れば、急ぎ在処を尋ね、救ひ出さねばなりますまい』 一同『然らば進みませう』 と、一同は四辺に耳を欹て、目を配り乍ら、急ぎもせず、遅れもせずと云ふ足許にて、奥深く進み行く。隧道は俄に前方低く、板を立てたる如き急坂になつて来た。一行七人は、一足一足力を入れ乍ら、アブト式然と、坂路の隧道を下つて行く。行く事七八丁と覚しき所に、比較的広き水溜りがある。薄暗がりに透かし見れば、何だか水面に人の首の様なものが漂うて居る。亀彦は目ざとくもこれに目を注ぎ、 亀彦『ヤア此奴ア又、変挺だ。岩窟の中に池があると思へば、円い顔の様な物が浮いて居る、鴛鴦にしては少しく大きいやうだ。ヤア目鼻が付いて居る。悪神の奴、酒に喰ひ酔つて、瓢箪に目鼻をつけ、此池に放り込みよつたのではあるまいか。瓢箪ばかりが浮物か、俺の心も浮いて来た。サアサア浮いたり浮いたりだ、アハヽヽヽヽ』 梅彦『亀サン、あれを能く御覧なさい、女の首ですよ。ナンダか、つぶやいて居るぢやありませぬか』 幾代姫『ヤア彼の顔は、岩子姫、岸子姫ではなからうか』 亀彦『エー何を仰有います、鴨かナンゾの様に、女が首ばつかりになつて、池の中に浮いて居ると云ふ事がありませうか。あなたは視神経の作用が、どうか変調を来して居るのでせう。腐り縄を見て蛇と思つて驚いたり、木の欠杭を見て化物と思ふ事が往々有るものです。マアマア気を附けてください、変視、幻視、妄視の精神作用でせう、コンナ所に棲息する者は、キツト河童か、鰐か、まかり間違へば人魚ですよ。人魚と云ふ奴は、能く人間に似て居るものだ、それで、人の形をした翫弄具を人形サンと云ふのだ。アハヽヽヽヽ』 池の中より女の首、苦しき声を絞り乍ら、 岩子姫、岸子姫『ヤア、あなたは幾代姫様、菊子姫様、愛子姫様では御座いませぬか。夜目にはしかと分りませぬが、お姿が能く似て居ります。妾は悪神に捉へられ、手足を縛られ、重き石錨をつけられて苦んで居ります、岩子姫、岸子姫の両人で御座います。どうぞお助けくださいませ』 亀彦『ヤア金毛九尾の同類奴、馬鹿にするない、何程化たつて、モウ駄目だ。手を替へ品を換へ、結局の果には池の中に姿を現はし、吾等を水中に引込まむとの水も洩らさぬ………否水責めの汝の計略、其手に乗つて堪らうかい』 岩子姫『イエイエ、決して決して妖怪変化では御座いませぬ、どうぞお助け下さいませ』 亀彦『もしもし高国別様、どうでせう、彼奴は本物でせうか。偽物の能く流行する時節ですから、ウツカリと油断はなりませぬぜ、………コラコラ化の奴、新意匠をこらし、レツテルを替へて、厄雑物を突付けても其手には乗らぬぞ、意匠登録法違反で告発をしてやらうか』 高国別『アハヽヽヽ、何は兎もあれ、亀彦サン、高国別の厳命だ、あなた真裸となつて救うて来て下さい。高国別が神に代つて命令を致します』 亀彦『滅相な、どうしてどうして、是ばつかりは真つ平御免、アーメン素麺、トコロテン、ステテコテンのテンテコテン、テンデ話になりませぬワイ、テンと合点がゆきませぬ、是ればつかりは平に御断り申す。斯く申すは決して亀彦の肉体では御座らぬ。亀彦が守護神の申す事で御座る』 梅彦『アハヽヽヽ、巧い事を言ひよるワイ、融通の利く副守護神だ、斯うなると副守先生も重宝なものだなア』 亀彦『亀彦の守護神が、神素盞嗚の大神の命に依つて、梅彦に厳命する………梅彦、速かに真裸となり、水中にザンブと許り飛込んで、二人の妖怪を救ひ来れ。万々一、彼にして大蛇の変化なれば、汝は一呑みに蛇腹に葬られむ。然る時は、汝が霊を引抜き、至美至楽の天国に救ひ、百味の飲食を与へ遣はす、ゆめゆめ疑ふ事勿れ』 梅彦『ウンウンウン』 亀彦『コラコラ、偽神懸は厳禁するぞ、亀サンの審神を暗まさうと思つても、天眼通、天耳通、宿命通、自他心通、感通、漏尽通の六大神通力を具備せる、古今無双の審神者のティーチヤーに向つて、誤魔化しは利かぬぞ、速かに飛込め』 池中に浮かべる二つの首は、苦痛を忘れて、思はず、『ホヽヽヽヽ』と笑ひ出せば、 亀彦『それ見たか、俺の天眼通はコンナものだ。此寒いのに池の中に投り込まれ、人間なら、何気楽さうに笑ふものか、とうとう化物の正体を現はしよつた。アツハヽヽヽ』 幾代姫『亀彦様、梅彦様、あなたは分らぬお方ですな、………アーアコンナ方を二世の夫に持つたと思へば恥かしいワ』 亀彦『コレコレ嬶左衛門殿、何と御意召さる。親子は一世、夫婦は二世で御座るぞ』 二女『夫婦二世と云ふ掟を幸ひ、あなたの様な、臆病神との契を解き、第二の夫を持ちませう。ネー愛子姫様、決して天則違反では御座いますまい』 亀彦、梅彦、両手を拡げて、 亀彦、梅彦『アヽ待つた待つた、如何に女権拡張の世の中ぢやとて、姫御前の有られもない其暴言、これだから、新しい女を女房に持つのは困ると言ふのだ。エー仕方がない、俺も男だ………サア梅サン………ヤア亀サン………一イ二ウ三ツだ』 と云ふより早く、真裸となり、ザンブと飛込んだ。 亀彦、梅彦『ヤア比較的浅い池だワイ………オイオイ二つの生首、かぶりついちや不可よ、俺一人ではない、俺には彼の通り立派な奥方がお二人も随いて御座るのだ。一度死んだから二度とは死なないから、吾々は生命位は何ともないが、後に残つた菊子姫、幾代姫の悲歎の程が思い遣られる……コラコラ助けてやるから生命の恩人だと思つて、かぶり付いてはならぬぞ』 と言ひつつ、コワゴワ頭髪をグツと握り締めた。 岩子姫『アイタタ、痛う御座んす、どうぞ、妾の腰の辺を探つて見て下さい』 亀彦『女の分際としてあられもない事を言ふな、立派な奥様が大きな目を剥いて監督をして御座るぞ、腰のあたりを触つて堪るものかい』 岸子姫『イエイエ、腰の辺りに、可なり大きい紐で大きい石が縛りつけて御座います。三つも四つも、重い石に繋がれて居ます、どうぞ其綱を切つて助けて下さい』 亀彦『アーア、偉い事になつて来たワイ、神が綱を掛たら放さぬぞよ、アハヽヽヽ』 岩子姫『冗談仰有らずに、どうぞ真面目にほどいて下さい』 二人は水中に手を下し、腰のあたりを探つて見て、 亀彦、梅彦『ヤア甚い事を行つて居る……やつぱり鱗でもなければ、羽でもない、人間の肌だ』 と云ひ乍ら、ほどかむとすれど、綱は膨れてどうする事も出来ぬ。 亀彦、梅彦『アーア仕方がない』 と再び岸に這ひ上り、双刃の剣を口に啣へ、バサバサと飛込み、プツツと綱を切り、二人を肩にひつ担ぎ乍ら上つて来た。高国別および三人の女性は、 四人『アーア結構結構、好い所で助かつたものだ』 浅子姫『岩子さま、岸子さま、あなたは酷い目に会ひましたな、妾も御主人様に救はれました……アヽ結構結構、これと云ふも、大神様の全く御守護で御座いませう』 と浅子姫は、今更の如く嬉し涙に暮れて水面に向つて合掌しゐたりける。 (大正一一・四・三旧三・七松村真澄録) (昭和一〇・三・二三於花蓮港支部王仁校正)
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(1666)
霊界物語 16_卯_丹波物語1 大江山/冠島沓島/丹波村 06 石槍の雨 第六章石槍の雨〔五九六〕 大空碧く澄み渡り山河清くさやかにて 静かに流るる和知の川枝も鳴らさぬ音無瀬の 川の流れは緩やかに幾千丈の青絹を 流すが如くゆらゆらと水瀬も深き由良の川 神代も廻り北の風真帆を膨らせ登り来る 深き恵を河守駅や河の中央に立ち岩の 関所を越えて漸うに足許早き長谷の川 水の落合右左左手に向ひ舵をとり 上る河路も長砂や幾多の村の瀬を越えて 此処は聖地と白瀬橋下を潜つて上り来る 臥竜の松の川水に枝を浸して魚躍り 月は梢に澄み渡る向方に見ゆるは稲山か 丹波の富士と聞えたる弥仙の山は雲表に 聳えて立てる雄々しさよ敵も無ければ味方郷 味方平に船留めて四方の国形眺むれば 青垣山を繞らせる下津岩根の竜宮館 此処は名におふ小亜細亜地上の高天と聞えたる 昔の聖地ヱルサレム橄欖山や由良の 景色に勝る聖地なり。 神素盞嗚大神、国武彦命其他三人は、桶伏山の蓮華台上に登らせ給ひ、天神地祇八百万の神を神集へに集へ給へば、命の清き言霊に先を争ひ寄り来る百の神等、処狭きまで集まりて、皇大神の出でましを、祝ひ寿ぐ有様は、蓮花の一時に、開き初めたる如くなり。 神素盞嗚大神は、国武彦命に何事か、密に依さし給ひ、ミロク神政の暁迄三十五万年の其後に再会を約し、忽ち来る丹頂の鶴にヒラリと跨り、中空高く東を指して飛び去り給ふ。国武彦命は亀彦を始め、英子姫、悦子姫に何事か囁き乍ら万司に向ひ厳格なる神示を与へ、茲に別れて只一柱、四王の峰の彼方に雄々しき姿を隠したまひける。 後に残されし一男二女の宣伝使は二神の依さしの神言を心の底に秘め置きて、又もや此処を立ち出でて、大江の山を目蒐けて、いそいそ進み行く。嗟此の山上の五柱は、如何なる神策を提議されしぞ。神界の秘密容易に窺知すべからず、月は盈つとも虧くるとも、仮令大地は沈むとも誠の力は世を救ふ、誠の神が出現し再びミロクの御代となり、世界悉く其堵に安むじて、天地の神の恵みを寿ぎ、喜び、勇む尊き神代の来るまで、云うてはならぬ神の道、言ふに言はれぬ此仕組、坊子頭か、禿頭、頭かくして尻尾の先を些し許り述べて置く。もとより物語する王仁も、筆執る人も聞く人も、何だか拍子の抜けたやうな心いぶせき物語、今は包みてかく言ふになむ。 秋山彦の門前に数多の魔人を引連れて、現はれ出でたる鬼彦は、第一着に秋山彦の口に石を捻込み、猿轡を箝ませ、高手小手に縛め置き、尚も進みて奥殿深く、神素盞嗚の大神を始め、国武彦、紅葉姫、英子姫、亀彦諸共、高手小手に踏ン縛り、勝鬨あげて悠々と大江山の本城を指して勇み帰り行く。 千歳の老松生茂れる山道を、網代の駕籠を舁つぎながら、川を飛び越え岩間を伝ひ、やつと出て来た魔窟ケ原、一同網代の駕籠を下ろし周囲の岩に腰打ち掛け、息を休めながら雑談に耽る。 甲(熊鷹)『オイ鬼虎、貴様は竜灯松の根本に於て、さしも強敵なる二人の女にちやつちや、もちやくにせられ、鬼雲彦の御大将に目から火の出るやうなお目玉を頂戴致して真青になり、縮上つて居よつたが、何うだい、今日は大きな顔をして帰れるだらう、帰つたら一つ奢らにやなるまいぞ』 鬼虎『オヽさうだ、熊鷹、貴様らも同じ事だ、あの時の態つたら見られたものぢやなかつたよ。何分此方様の御命令通り服従せないものだから、ハーモニイ的行動を欠いだ為めに思はぬ失敗を演じたのだ。それにしても慎むべきは酒ではないか、あの時に吾々は酒さへ飲みて居なかつたら、アンナ失敗は演じなかつたのだよ』 熊鷹『ナニ、決して失敗でもない、二人の女を取り逃がした為に却て素盞嗚尊の所在が分り、禍転じて幸となつたやうなものだ。何事も世の中は人間万事塞翁が馬の糞だ、併し今日は鬼彦の指揮宜しきを得たる為に、かういう効果を齎したのだ、何事も戦ひは上下一致ノーマル的の活動でなくては駄目だワイ、何程ジヤンジヤヒエールが沢山揃つて居たところで総ての行動に統一を欠いだならば失敗は目前だ。総て何事も大将の注意周到なる指揮命令と、吾々が大将に対する忠実至誠のベストを尽すにあるのだ、サテ鬼彦の御大将、今日の御成功お祝ひ申す、之で鬼雲彦の御大将も御安心貴方も安心皆の者も安心、共に吾々も御安心だ、アハヽヽヽ』 此時頭上の松の茂みよりポトリポトリと石の団子が雨の如く降り来り、鬼彦始め、鬼虎、熊鷹其他一同の体に向つて叩きつけるやうに落ち来たり。一同はアイタヽ、コイタヽ、イヽイタイと逃げようとすれども、石雨の槍襖に隔てられ、些しも身動きならず頭部面部に団瘤を幾つとなく拵へけり。石熊は頭上を仰ぐ途端に鼻柱にパチツと当つた拳骨大の石に鼻をへしやがれ、血をたらたらと流し、目をしかめ、ウンと其場に倒れたり。網代駕籠の中に囚はれたる神々は、金城鉄壁極めて安全無事、此光景を眺めて思はず一度に高笑ひ、アハヽヽヽ、オヽホヽヽヽ。 石の雨はピタリとやみぬ。神素盞嗚尊を始め、一同七人はヌツと此場に現はれたりと見れば猿轡も縛の縄も何時の間にか解かれ居たりける。 悦子姫『オー皆様気の毒な事が出来ましたナア。此峻嶮の難路を吾々を駕籠に乗せて、命辛々汗水垂らして送つて来て呉れました博愛無限な人足を、頭部面部の嫌ひなく、支店を開業して団子販売営業を盛に奨励致して居ります。何うか皆さま腹も減いたでせう、あの出店の団瘤を一つ宛買つてやつて下さい、アハヽヽヽ』 亀彦『吾々も大変腹が減きました。支店の売品では面白くない、一層の事本店の背から上の目鼻の附いた団瘤を捩ちぎつて頂戴致しませうか。アハヽヽヽ』 一同『ホヽヽヽヽ』 鬼虎は顔を顰めながら、 鬼虎『ヤイヤイ皆の奴確りせぬかい、石の雨が降つたつてさう屁古垂れるものぢやない。俺は除外例だが、貴様達は早く元気をつけて此奴を踏ン縛つて仕舞はねば、ドンナ事が出来致すも分らぬぞ。エイ、何奴も此奴も腰抜けばかりだナア、鬼掴の奴、敵と味方と感違ひを仕よつて、味方の頭上に石弾を降らしよつたのだ。敵の石弾に打たれたと云ふのならまだしもだが、味方の石弾に打たれてこの谷川の露と消えるかと思へば、俺ア死ンでも死なれぬ哩。アヽヽ何うやら息が切れさうだ、オイ貴様達、俺の女房を呼ンで来て呉れ、最後の際に唯一目会うて死にたい顔見たい、そればつかりが黄泉の迷ひだ。アンアンアン』 熊鷹『ヤイヤイ何奴も此奴も確りせぬかい、何ぢや、地獄から火を取りに来たやうな真青な顔をしよつて、ソンナ弱い事でこの役目が勤まらうか、確りせぬかい、アイタヽヽ、矢張り俺も苦しい哩、苦しい時の鬼頼みだ、南無鬼雲彦大明神様、吾等が精忠無比の真心を憐れみ給ひ、一時も早く痛みを止め、其反対に素盞嗚一派の奴の頭の上に鋼鉾の雨でも降らして滅ぼし給へ。それも矢張貴方の為ぢや、一挙両得自分が助かりや家来も助かる、コンナ好い事が何処にあるものか、エヽナンボ頼みても聞き分けのないバラモン教の大神様だワイ』 此時又もや鋭利なる切尖の付いた矢は雨の如く降り来り、鬼彦以下の魔神の身体に遠慮会釈もなく突き立ちにける。 熊鷹(か?)『アヽまたか、大神様は感違をなされたか、敵はあの通り無事、味方には激しき征矢の集注、好く間違へば間違ふものだなア、アイタヽヽヽ耐らぬ真実に此度は息が切れるぞ、仕方が無い死ンだら最後地獄の鬼となつて此奴共の来るのを待ち受け、返報がへしをしてこます、ヤイ素盞嗚尊、其他の奴等覚えて居れ、貴様が死ンだら目が潰れるやうに、口が利けぬやうに、びくとも動けぬやうにしてやるぞや』 亀彦『アハヽヽヽ、吐くな吐くな、目が潰れる口が利けぬ、体が動かぬやうにしてやらうとは好くも言へたものだワイ、天下一品の珍言妙語だ、モシモシ英子姫さま、悦子姫さま、舞でも舞うたらどうでせう、コンナ面白い光景は滅多に、大江山でなくては見られませぬよ』 英子姫、悦子姫『ホヽヽヽヽ』 秋山彦は両手を組み、声も涼しく一二三四と天の数歌を唱ふるや、一同の魔神の創所は忽ち拭ふが如くに癒え来たり、彼方にも此方にも喜びの声、充ち充ちにける。 『アヽ助かつた』 『妙だ』 『不思議だ』 『怪体の事があるものだワイ』 と囁き始めたり。秋山彦は一同に向ひ声も涼しく宣伝歌を謡ふ。 秋山彦『朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 鬼雲彦は強くとも大江の山は深くとも 数多の部下はあるとても虱の如き弱虫の 人の生血を朝夕に漁りて喰ふ奴ばかり 沢山絞つて蓄へた身体の中の生血をば 吐き出すための神の業頭を砕く石の雨 血を絞り出す征矢の先潮の如く流れ出でぬ 吾は此世を救ふてふ人子の司三五の 神の教のまめ人ぞ鬼や悪魔となり果てし 汝が身魂を谷川の清き流れに禊して 天津御神のたまひたるもとの身魂に立て直し 今迄犯せし罪咎を直日に見直し聞き直し 百千万の過ちを直日の御霊に宣り直す 神素盞嗚の大神の恵も深き御教 胆に銘じて忘れなよ石熊、熊鷹、鬼虎よ 心猛しき鬼彦も此処で心を取り直せ 如何なる敵も敵とせず救ひ助くる神の道 誠の力は身を救ふ救ひの神に従ふか 曲津の神に心服ふか善と悪との国境 栄え久しき天国の神の御魂となり変はり 誠一つの三五の教にかへれ百人よ 元は天地の分霊善もなければ悪もない 善悪邪正を超越し生れ赤子の気になりて 天地の法則に従へば鬼や大蛇の荒ぶなる 魔窟ケ原も忽ちにメソポタミヤの顕恩郷 栄えの花は永久に木の実は熟し味もよく 心を砕いて世の人を苦しめ悩め吾身亦 苦しむ事は要らぬものサア諸人よ諸人よ 心の底より改めて真の道に帰るなら 神は救の御手を延べ栄に充てる永久の 高天に救ひ玉ふべし応は如何にサア如何に 心を定めて返り言声も涼しく宣れよかし 神は汝の身に添ひて厚く守らせ給ふらむ あゝ惟神々々霊幸倍坐世よ』 と謡ひ終れば、鬼彦始め一同は大地にはたと身を伏せて、感謝の涙に咽びつつ山岳も揺ぐばかりに声を放つて泣き叫びける。 (大正一一・四・一四旧三・一八加藤明子録)