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(3063)
霊界物語 70_酉_トルマン国の国政改革 07 妻生 第七章妻生〔一七七四〕 軒は傾き屋根は破れ、蝶も蜻蛉も蜂も雀も雨も、屋根から降つて来る所迄茅葺の屋根が煤竹の骨を出して居る。雨戸は七分三分に尻からげたやうに風に喰ひ取られ、障子はづづ黒く棧毎に瓔珞を下げ、風吹く度に自由に舞踏をやつて居る。湿つぽい畳は、表はすつかり破れ、赤ずんだ床許りが僅に命脈を保ち足踏み入るるも身の毛のよだつやうに見苦しい。さうして何とも仮令やうのない異様な臭気が鼻を衝く。されど、高姫やキユーバーの目には此茅屋が金殿玉楼の如くに見え、異様な臭気は麝香の如くに、想念の情動によつて感じ得らるるのも妙である。牛糞の味も牡丹餅の如く感じ、馬糞の臭もお萩の如く、いと満足に喉を鳴らしてしやぶるのだから耐らない。口の欠けた燻ぼつた土瓶に籐の蔓の柄をつけ、屋根から釣るした煤だらけのてんどりに引つかけ、牛糞を焚いて茶を温め乍ら、二人は嬉々として他愛もなくふざけて居る。御霊の相応と云ふものは実に不思議なものである。 此高姫さまは、キユーバーの目には、一寸見た時には婆さまのやうに見えたが、何時の間にか、トルマン国の王妃千草姫のやうな美人に見えて来た。又高姫の目では団栗眼の烏天狗のやうな、口の尖つた不細工なキユーバーの顔が何とも知れぬ凛々しい、時置師の杢助に見えて耐らない。高姫は鼠髯のやうに皺のよつた口をつぼめ乍ら、しよなしよなと体をゆすり、 高『これ杢助さん、否高宮彦殿、ようまあ化けたものですなあ。あの四つ辻で会つた時は、左程でもない遍路だと思ふて居たに、かうさし向うて篤くりとお顔をみると、まぎれもない高宮彦様だわ。もし私は高宮姫で御座いますよ。何ですか他々しい。他人らしい其振舞は措いて下さい。何程貴方が出世して偉くなつたつてやつぱり私の夫ですよ』 キユ『お前は高宮姫と改名したのか、何でも千草姫と云ふ名だつたと思ふがな』 高『あのまあ杢チヤンの白々しい事。それ貴方とあの御殿でお約束して高宮姫と改名したぢやありませぬか。貴方だつて其時高宮彦と改名されたでせう』 キユ『ハテナ、お前はどうしても千草姫に違ひない。妙な事を云ふぢやないか。併し乍ら、名はどうでもよい。心と心さへぴつたり合うて居ればそれで十分だ』 と二人は互ひ違ひに主をかへ、嬉々として意茶つき始めた。 高『もし貴方、あれから私に別れて何処を歩いてゐらしたの。私どれ程尋ねて居たか知れませぬわ』 キユ『私はな、デカタン高原のトルマン国へ根拠を構へ、お前を一目見てから目にちらついて耐らず、何とかして会ひたい会ひたいと心を焦して居る矢先、お前がトルマン王の妃になつて居るものだから手の附やうがなく、百方手段をもつてたうとうお前に近よる事が出来、永らくの恋の暗を晴らす事を得たのだ。サアこれからお前と私と心を合せ、トルマン国を手に入れ、七千余国の月の国を蹂躙して見ようぢやないか。到底科学的文明の極点とも云ふべき現代を救ふのには、単なる説教や演説や祈祷のみにては功を奏しにくい。自ら王者の位置に立ち軍隊を片手に握り、一方には剣、一方にはコーランをもつて人心を治めなくては宗教も政治も嘘だ』 高『成程、貴方のやうな智勇兼備の神人は世界に御座いますまい。あゝ三年が間、此の山のほてらで苦労したのも貴方に会ひたい許り、いよいよ時節が来たのかなあ』 と互に辻褄の合はぬ勝手な応答をし乍ら、八味の幕を下して抱擁したまま睡りについて了つた。外に立つて居たトンボはやけて耐らず、小石を拾つて戸の破れから幾つともなくボイボイと投げ込んだ。小石は釣り下げてある土瓶の腹を割つて、二人の寝て居る足の上にパツと小便を垂れた。高姫は驚き跳起き乍ら声を震はせて、 『これや、天下の救世主が種を蒔きよるのに何をするか。何者だ、名を名乗れ』 と呶鳴り立てる。トンボは外から、 『ワハヽヽヽヽヽ石を投げたのは此トンボさまだ。これや婆々、今にこの家を叩き壊してやるからさう思へ。俺も一つは性念が有るぞ』 と又もや雨の如く両手に小石を掴んで投げ込む危ふさ。石は戸棚や水屋にぶつかつて、カチヤカチヤパチパチガランガランと瀬戸物迄が滅茶々々になる。高姫、キユーバーの二人は危くて成らず、表戸を引きあけ『コレヤー』と呶鳴る勢に、トンボは骨と皮との体を、尻をまくりながら、ドンドンドンと逃げ出す。高姫とキユーバーは追ついて素首引掴み懲して呉むと真裸の儘、トンボの後を息をはづませ、青い火の玉となつて追つかけ行く。 トンボは八衢の関所の門口に来り、慌てて黒門にどんとつきあたり、アツと云つた儘其場に倒れた。キユーバー、高姫の二人は皺枯声を張上げ乍ら、ホーイホーイ、ホイホイホイとド拍子もない声を張上げて追かけ来り、トンボの倒れて居る姿を見て痛快がり、 高『ホヽヽヽヽヽこれ杢チヤン、天罰と云ふものは怖ろしいものでは御座いませぬか、ねえ貴方。私と貴方が神代から伝はつた、青人草の種蒔の御神楽を勤めて居るのを岡焼して、石を投げ込んだトンマ野郎ぢや御座いませぬか。これやトンマ、確りせぬかい、生宮さまの御神力には畏れ入つたか』 トンボは漸く気がつき、 『お前さまは生宮さまぢやないか。こんな役所の門前迄来て人の恥をさらすものぢやありませぬぞや。何卒悪口だけは耐へて下さい。私だつてまだ末の長い人間、これからまた世に立つて一働きせなくてはなりませぬ。お役人の耳へ私の悪口が入つたら最後、何処へ行つても頭は上りませぬからねえ』 高『ヘン、これやなーにをぬかして居るのだい。自業自得ぢやないか。お前のやうなものを此世の中に頭を上げさせておこうものなら、世界は暗雲になつて了ふぢやないか。それだからお役人に聞えるやう、一入大きな声で云つたのだよ。何とまあ情なささうな顔わいのう』 ト『これや婆々、もう俺も破れかぶれだ、何なりと悪口をつけ。その代り貴様の秘密をお役人の耳に入るやう大声で素ツ破ぬいてやる』 キユ『これやこれやトンボとやら滅多な事は云ふまいぞ。貴様のやうな三文やつこなら、仮令よく云はれても悪く云はれても余り影響はない筈だ。然し乍ら吾々如き救世主の、仮令嘘にもせよ悪口を申すと、世界救済の事業の妨害になるのみならず、其罪は忽ち廻り来つて吊釣地獄に墜ちるぞや』 ト『ヘン放つといて下さい。お前さまは此婆々と炉の辺で、とんでもない種蒔行事を演じて居たぢやないか。それあの醜体を……もしもしお役人様、此奴等二人は天則違反の大罪人で御座います。何卒か御規則に照し、地獄へ打ち込んで下さい。さうしてウラナイ教とか、スコ教とか云つて悪神の教を天下に拡めようとする餓鬼畜生で御座います。私が証拠人になります。何卒此奴等二人を厳しく調べて下さい』 と力一ぱい呶鳴り立てる。 キユ『これやこれやトンボとやら、教主や生宮を罵る罪は軽けれど、教の道を罵る罪は万劫末代許されないぞ。謗法の罪の重い事を知つて居るか』 ト『ヘン偉さうに云ふない。謗法の罪なんて俺やどこでもやつた事は無いわ。貴様等両人こそ方々で悪い事をやつて来た代物だ。もしお役人様、大罪人を二人茲へ引張つて来ました。早く来て下さらないととんぼう(遁亡)致します。早く早く』 と呶鳴つて居る。赤白両人の守衛は此声に訝り乍ら、門を左右に開き外に出て見るとこの体裁、 赤『これやこれや今日は公休日だ。なぜ矢釜しく申すか。訴へ事があるなら明日出て来い、聞いてやらう』 ト『もしお役人さまに申し上げます。天下を乱す彼様な大悪人を現在目の前に眺め乍ら、公休日だから調べないなぞと、そんなナマクラな事を云うてお役人が勤まりますか。日曜迄月給は頂いて居られませう。一寸でよいからお調べ下さいませ』 赤『や、お前はバラモンのリユーチナントではないか。未だ修養も致さず、八衢に迷ふて居るのか、困つた奴だなあ』 ト『もしお役人さま、面白い事を仰有いますなあ。冥途かなんかのやうに現界に八衢が御座いますか』 赤『ここは冥途の八衢だ。其方は鬼春別将軍の一旦部下となり、軍隊解散の後、泥棒となつて四方を徘徊致し、或勇士の為に殺され、精霊となつて此所へ来て居るのだ。それが未だ気が附かぬのか』 ト『ヘン、余り馬鹿にしなさるな。些と真面目になつて下さい。私は狂者ぢや御座いませぬよ。死んだ者がこの如うにものを云ひますか。目も見えず耳も聞えず、口もたたけず、手足も動けなくなつてこそ死んだのでせう。ヘン馬鹿にして居る。こんな酒を喰つて顔色迄まつ赤にした奴の酒の肴になつて居てもつまらない。今日は帰つてやらう。その代り明日は見ておれ、貴様の上官に今日の事を一伍一什訴へるぞ。さうすると貴様は忽ち足袋屋の看板足あがり、妻子のミイラが出来るぞや、ハヽヽヽヽヽ』 と捨台詞を残し、道端の石を掴んでキユーバー、高姫目当に打かけ乍ら、入陽の影坊師見たやうな細長い骸骨を宙に浮かせ、北へ北へと逃げて行く。 赤『ヤ、そこに居るのは高姫ぢやないか。お前は時置師の杢助さまに頼まれ、三年間この八衢に放養して置いたが、未だ数十年の寿命が現界に残つて居る。到底霊界の生活は許されない。お前の宿る肉体はトルマン王の妃千草姫の肉体だ。サ一時も早く立ち去れ。又キユーバー、汝は天下無比の悪党であるが、まだ生死簿には寿命がのこつて居る。一時も早く現界へ立ち帰れ。グヅグヅ致して居ると肉体が間に合はなくなるぞ』 と厳しく言ひ渡した。二人はハツと思ふ途端に気がつけばトルマン城内、千草姫の一室に錠前を卸して倒れて居た。どことも無く騒々しい人馬の物音、矢叫びの声、大砲小銃の音手に取る如く聞え来る。是より千草姫の言行は一変し、又もや脱線だらけの行動を取る事となつた。八衢に居た高姫の精霊は己が納まるべき肉体を得て甦つたのである。 (大正一四・八・二三旧七・四於由良海岸秋田別荘加藤明子録)
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霊界物語 70_酉_トルマン国の国政改革 16 天降里 第一六章天降里〔一七八三〕 シグレ町の貧民窟の九尺二間にはレール、マークの両人が俄にテイラ、ハリス、チウイン、チンレイの新しい四人の珍客を迎へ、どことはなく大活気が漲つて来た。新来の珍客は何れも古ぼけた労働服を身に纏ひ、之が太子か、貴婦人かと見まがふ許り、服装を落して了つた。それ故七軒長屋の隣りの婆嬶連も、夢にも太子や王女の変装とは知る由もなかつた。 朝も早うから女議員が、カバンの代りに手桶をさげて、井戸端会議を燕の親方よろしく開催してゐる。 甲『これ、お梅さま、レールさま処へ此頃妙な、落ちづれものが、やつて来てゐるぢやないか。あら、大方、乗馬下しの貴婦人かも知れんが、長屋の規則を守つて、饂飩一杯づつ配りさうなものだのに、まだ挨拶にも出て来ぬぢやないかい』 乙『お竹さま、饂飩か蕎麦の一杯貰ふやうな事があつたら、それこそ大変ですよ。あとが煩さいからな』 竹『それでも、私が去年の暮に此長屋へ流れ込んで来た時、お前さま等が率先して、何かと世話をして下さつた際に、長屋の規則だから、饂飩か蕎麦を一杯づつ向ふ三軒両隣りへ配れと云ひなしたものだから、親爺のハツピを質において饂飩を一杯づつ配りましたよ』 梅『そら、さうですとも、普通の人間なら、互に仲ようして、お交際をして貰はなくちやなりませぬが、あのレールさま、ま一人のマークさまの二人はラマ本山のブラツクリストとか云ふものについて居る人物で、いつも番僧さまが如意棒をブラ下げて調べに来るぢやないか。あの人は向上会員とか、黒い主義者とか云ふぢやないか。そんな人と交際でもしようものなら、番僧さまにつけねらはれ、誰もいやがつて日傭者にも雇うて呉れませぬワ。さうすりや忽ち親子の腮が乾上つて了ふぢやありませぬか。親爺さまは毎日土方をやり、私等はマツチの箱貼をして会計を助けては居るものの、雨が三日も降りや忽ち土方も出来ず、親子が飢ゑ死せねばならぬと云ふ境遇だもの、番僧さまなんかに睨まれちや堪りませぬわな』 お竹『何とマア怖ろしい人が此路地へ這入つて来たものぢやないか。此頃はあんな人がうろつくので寺庵異持法だとか、国士団、………法とか、難かしい法律が発布され、三人寄つて話をして居つても、直に引張られるさうだから、かう五人も六人も一緒に水汲みをやるのは剣呑ですぜ』 お梅『タカが女ぢやありませぬか。本来裏長屋の嬶連が、何人寄つて雀会議をやつた処で何一つ出来やしないわ。何程盲の番僧さまだつて、女まで引張つて帰るやうな無茶な事はしますまいよ』 お竹『何、女でも仲々手に合はぬ連中さまがありますよ。今時の女性は皆、高等淫売教育とか、云ふものを受けてゐる人だから、女権拡張とか女子参政論だとか、いろいろのオキャンや、チャンピオンが現はれて、ラマ本山の頭を痛めるものだから、此頃は女でも容赦なく、番僧さま、一寸怪しいと見たら直に引張つて行くさうだよ。あの向上会員さまの中にも、どうやら高等淫売らしい、綺麗な女が三人まで、やつて来てゐるのだもの、何時番僧さまがやつて来るか知れないわ。蕎麦の御馳走所か、此方が側杖を喰はされちや堪りませぬな。サアサア帰りませう』 と五六人の婆嬶が手桶をヒツ下げて各自小さい破れ戸をくぐつて姿を隠して了つた。 チウインは共同井戸の側にある穢しい共同便所に這入つて居つたが、此女連の話を一伍一什聞き終り、そしらぬ顔をして帰り来り、 チウ『オイ、レールの兄貴、僕は妙な事を聞いて来たよ。イヤ、もう大に社会教育を得た。人間と云ふものはホンに生活上に大変な懸隔があるものだな』 レ『長屋の雀や燕が云ふ事ア大抵極つてゐますよ。私を向上会員だと云つて、いつも口を極めて悪口を云ひ、テンで怖がつて交際をせないのです。随分、悪垂れ口を叩いたでせう』 チウ『ハヽヽヽ仲々面白いわ、イヤ然し面白いと云うては済まぬ。此トルマン国には一人も貧民のないやうに、何とかして骨を折らねばなるまい』 レ『タラハン国のスダルマン太子は、アリナ、バランスと云ふ賢明な棟梁の臣下を得て、教政の改革を断行されたと云ふ話ですが、屹度よく治まるでせう。まだ今々の事ですから、その結果は分りませぬが、今日の場合あゝするより外に道は御座りますまい。トルマン国も今は改革の時期だと思ひます。どうか太子様の英断を以て一日も早く教政の改革を断行し、国民の信望をつなぎ、天下の名君と仰がれ玉ふやう、吾々は努力したいと思ひます』 チウ『ヤ、実は僕もスダルマン太子のやり口には感服してゐる。どうしても思ひきつて決行せなくちや駄目だ。兎も角、やれる丈けやりたいものだな』 レ『今度の宰相は余程分つてゐるやうですが、浄行の古手や首陀の大将や毘沙頭の古手が、いくら頭を悩まし、教政内局を組織した処で、その寿命は長くて一年半、短い奴は三月位で倒れて了ふのだから、吾々教徒はいい面の皮ですよ。今日は最早、人文発達して人民が皆自覚して居りますから、古疵物は信用しませぬ。兎も角、清浄無垢の民間から出たものでないと、大衆の信望をつなぐ事はむつかしいですな』 チウ『そらさうだ。会衆の古手や首陀頭や浄行や金持会衆が、何遍出直した所で、まるで子供が飯事をしてゐるやうなものだ。亡宗政治、骸骨政治、幽霊政治、日暮し政治、軟骨政治、章魚政治、圧搾宗政ばつかりやられて居つちや、大衆は到底息をつく事は出来まい。僕もどうかして此際、かくれたる智者仁者を探し求め、善政を布いて見たいと思ふのだ。然し乍ら、まだ自分は部屋住の事でもあり、両親の頭が古くつて時代の趨勢が分らないものだから、実は困つてゐるのだ。何とか一つ大きな目覚しが来るといいのだけれどな』 レ『太子様、必ず心配して下さるな。吾々は王室中心向上主義ですが、現代の大衆は何時でも一撃の梵鐘の響と共に起つやうになつて居ります。テイラさまや、ハリスさまの前で、こんな事を云ふのはチツト許り云ひにくいけれど、今度の戦争がなかつたなら、吾々は已に已に左守、右守の両人を斃し、宗政の改革を太子様にお願ひする処だつたのです。既に既に矢は弓の弦につがへられて居つたのです。左守、右守の浄行も戦争の為に斃れたのだから、御本人にとつては非常に光栄だつたのでせう。さうでなくつても今日まで二つの首はつながれて居ない筈ですから』 テイラ、ハリスの両人は平気な顔して笑つてゐる。 レ『もしテイラさま、ハリスさま、貴女はお父さまの事を云はれても、何ともないのですか』 テイ『ハイ、子として父の死を悲しまぬものはありませぬ。然し乍ら大衆の怨府となり、非業の最後を遂げられやうなものなら、それこそ子として堪りませぬが、危機一髪の場合になつて、王家のため国教のために戦つて死んだのですもの、全くウラルの神さまの御恵だと思つて有難う感じて居りますわ。ネー、ハリスさま、貴女だつてさうお考へでせう』 ハリ『何事も皆、因縁事ですもの、仕方がありませぬわね』 レ『イヤお二人とも、立派なお心掛、向上会の私も今日の上流に、こんな考への人があるかと思へば聊か心強くなつて来ました。オイ、マーク、トルマンの国家も心配は要らないよ、喜び給へ、此若君を頂き、此賢明な左守右守のお嬢さまが上にある以上は、国家は大磐石だ。俺等も今迄十年の間、国事と改宗に奔走した曙光が現はれたやうなものだ』 マ『本当にさうだ。僕も何だか、死から甦つたやうな晴々した爽快な気分になつて来たよ。何と云つても年若き貴婦人の身として、駒に鞭韃ち砲煙弾雨の間を、三軍を指揮して奔走された女丈夫だもの。僕等の如き痩男は姫さまの前ではサツパリ顔色なしだ、ハツハヽヽヽ』 かく話してゐる所へ如意棒の音がガラガラと聞えて来た。 レ『ヤ、又番僧がやつて来よつたな。チウインさま、どうか本名を云つちや、いけませぬよ。皆さま、そのつもりでゐて下さい。屹度人員調査にやつて来たのでせうから』 チウ『よしよし、心配するな』 番僧『レールさま、一寸戸を開けて下さい』 レールは入口の破れ戸をガラリと押開けニコニコし乍ら、 『ヤア、これはこれは、朝も早うから御苦労で御座ります。何の御用か知りませぬが、トツトと御這入り下さい。拙宅も此頃はお客が殖えまして大変賑かう御座ります。俄に六人家内となつたものですから、懐の寒いレールにとつては聊か困つて居りますわい。貴方も此頃は物価騰貴で、さぞお困りでせうな』 番『君の云ふ通り僕も大変生活難に襲はれてゐるのだ。女房の内職で、どうなりかうなり、ひだるい目はせずに暮してゐるが、随分辛いものだよ。君はこれと云ふ仕事もしてゐないやうだが、随分裕福な暮しをしてゐるらしいね。鶏が叩いてあるぢやないか。然し此四人の方は何処から来られたのだ。実は此長屋の嬶が本山へ密告して来たものだから、職務上調べぬ訳にも行かず、又君に苦い面をしられるのを知り乍ら、之も職務上やむを得ないのだから、一応取調べに来たのだ。どうか悪く思はないやうにして下さい』 レ『久し振りで郷里の友人や、私の女房や、マークの女房が尋ねて来てくれたのですよ。明日はどうして喰はうかと兵糧がつきたので頭痛鉢巻をやつてゐた所、郷里からこの通り鶏と米と酒を持つて来たものだから、久し振りで御馳走にありつかうと思つて、朝から立働いてゐた所ですよ』 番『成程、どうも田舎の人らしいね。然し乍ら田舎にしては、云ふと済まぬが、垢抜けのした方許りだな』 レ『此友人はバクシーと云つて、チツト許り財産を持つて居ります。吾々二人は国士として国家の為、身命を賭して活動してゐるものだから、妻子を養ふ事が出来ないので、此バクシーさまの家へお世話になり、下女奉公に使つて貰つて居つた所、女房が一度夫の顔が見たい顔が見たいとせがむものだから、遙々と女房を連れて、バクシー夫婦が昨日来てくれたのです。マアお前さま久し振りだ、一杯やつたらどうですか。別に貴方の職掌にも影響するやうな事はありますまい』 番『イヤ、有難う。それでは一杯頂戴しようかな。僕だつて同じトルマン国の人民だ。如意棒をブラ下げて居る丈けの違ひだ。一つ上司の機嫌を損じたが最後、忽ち丸腰になつて労働者の仲間へ入れて貰はなくちやならないのだから、今の間に君等と懇親を結んでおかなくては、忽ち自分の前途が案じられて仕方がないからな。どうかレールさま、よろしく頼みますよ』 レ『今の高級僧侶等は、何奴も此奴も皆賄賂をとつたり、御用商人と結託して、甘い汁をしこたま吸ふてゐやがる餓鬼許りだ。役僧の中でも比較的潔白なのは君等番僧仲間だ。それでも小ラマ位になると随分予算外の収入があると云ふ事だ。君等も労働者の前で如意棒を見せて威張り散らす位が役得では詰らぬぢやないか。普選が間もなく実行される世の中だ。君も吾々仲間に這入つて向上運動の牛耳をとり、会衆にでも選出されて、国政と宗政の大改革を断行し玉へ。月給の安い番僧なんかやつて居つた処で、つまらぬぢやないか。何程出世したと云つた処で、番僧の出世は小ラマが関の山だ。それも三十年位勤続せなくちや、そこ迄漕ぎつける訳にや行かないからな、ハヽヽヽ』 番『ウン、そらさうだな。会衆にでも出て、うまく立働けば伴食浄行位はなれるかもしれない。悪くした所で首陀頭の椅子位には有りつけるかも知れぬ。生活の保証さへしてくれる者があつたら、僕は今日からでも辞職して君等と一緒に活動するつもりだがな』 レ『そりや面白い、番僧の中でも、君はどつか違つた所があると向上会員の仲間からも云はれてゐるのだ。思ひきつて番僧なんか棒にふり玉へ。君の生活は、このバクシーさまが屹度保証して下さるよ。さうしてバクシーさまに附てさへ居れば、最早大磐石だ。寺庵異持法、国士団、…………法も、何も、へつたくれも、あつたものぢやない』 チウ『こいツア面白い番僧さまだ。オイ君、僕は実の所、打割つて云ふがチウイン太子だ。教政を改革せむために向上会員の仲間へ偵察に変装して来てゐるのだよ。君もどうぢや、今日限り番僧をやめて向上運動に没頭する気はないか。浄行位にや屹度僕がしてやるよ』 番『本当ですか、腹の悪い、人を嬲るのでせう。恐れ多くも太子様が、かやうな処へおいでなさる道理はありますまい』 チウ『因習に囚はれた現代人は、太子と云へばどつか特種の権威でもあるやうに誤解してゐるが、太子だつて神柱だつて白い米を食つて黄い糞を垂れる代物だ、ハツハヽヽヽ』 番『イヤ分りました、間違ひ御座りますまい。何だかどこともなしに気品の高い人と思つてゐましたが、さうすると此御婦人達は何れも雲の上に生活を遊ばす貴婦人でせう。私はテルマンと申す小本山の番僧で御座ります。どうか宜しう今後は御指導を願ひます。如何なる御用でも犬馬の労を惜みませぬ』 チウ『ハ、よしよし、これで新人物を一人見つけた。早速の穫物があつた、ハヽヽヽ』 戸の隙間から太陽の光線が五条六条黒ずんだ畳の上に落ち、煙のやうな埃がモヤモヤと輪廓を描いて浮游してゐる。豆腐屋のリンが微に聞えて来る。新聞配達のリンが一入高く響く。 (大正一四・八・二五旧七・六於由良海岸秋田別荘北村隆光録)
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(3083)
霊界物語 71_戌_玄真坊と千種の高姫 01 追劇 第一章追劇〔一七九〇〕 神の恵の豊かなる言霊開く天恩郷 其頂上に聳え立つ銀杏の大木は天を摩し 黄金の扇子をかざしつつこれの聖場は万寿苑 五六七の御代の果迄も変る事なき瑞祥閣 四方は錦の山屏風引立てまはし綾の機 経と緯とに織なして我日の本は云ふも更 大地のあらむ果までも神光照らす光照殿 いよいよ茲に落成を告げし菊月上八日 南桑田の平原を一目に瞰下す要害地 天正二年の其昔織田の右府に仕へたる 土岐の一族光秀が偉業の跡を偲びつつ 祥明館の奥の間で千年を因む松村氏 三五の光の瑞月が暗き此世を照さむと 神の御言を蒙りて何時もの通り横に臥し 褥の船に身を任せ畳の波に浮びつつ 太平洋を横断し印度の海を乗越えて 往古文明と聞えたる七千余国の月の国 タラハン城に仕へたる左守の司の隠れ処に スガの港のダリヤ姫言葉巧にそそのかし をびき出したる天真坊悪鬼羅刹に憑依され タニグク谷の山奥に其醜態をさらしたる 滑稽悲惨の物語千山万水(山河草木)子(戌)の巻の 初頭にこまごま記しゆくあゝ惟神々々 御霊幸ひましませよ。 稀代の売僧坊主奸侫邪智の曲者乍ら、どこともなく間のぬけた面構、頭は仔細らしく丸めてゐるが、元来毛のうすい性で、別にかみそりの御節介に預らなくとも済む筈のピカピカ光つた調法な頭の持主、鼻の先が妙に尖り、目は少し許り釣上り、前歯が二本厚い唇からニユツとはみ出し、何程オチヨボ口をしようとしても、此二枚の前歯丈は雰囲気外に突出して、治外法権の状態である。川瀬の乱杭宜しくといふ歯並に、茹損ひの田螺の如うな歯くそだらけの歯をむき出し、ダリヤ姫の捜索に両眼を血走らせ、谷間の坂道を息使ひ荒く、泡を吹き飛ばし乍ら、数多の小盗児連を四方八方に間配り、自分はダリヤ姫が逃げたらしいと思はるる山路を選んで、泥棒の中でもチツと許り気の利いたらしいコブライを引き具し、猪の通つた跡を洋犬が嗅ぎつけるやうな調子で、此山中に名高い立岩の麓迄やつて来た。時々毒虫に驚かされ、猛獣に肝をひしがれつつ、夕陽のおつる頃、足が棒になつたと呟き乍ら、根気尽きて路傍の草の上に、座骨の突出した貧弱な尻をドスンと卸した。 天真坊『オイ、コブライ、どうだ、一寸一服やらうぢやないか、交通機関にチツト許り油をささなくちや運転不能となりさうだ。どうも此急坂を夜昼なしに踏破したものだから、膝坊主がチツと許り抗議を申出でて、止むを得ず休養を命ずる事にしたのだ。エヽ汝は此間にそこら中を、一寸、偵察して来てくれないか、あのダリヤだつて、何程足が速いと云つても女だ、余り遠くは行くまいからのう』 コブライ『成程、そりやさうかも知れませぬな、併し乍ら吾々はもう暮六つ下つてをりますから、目の角膜院が就寝の喇叭を吹きかけました。夜分迄日当は貰つて居りませぬから、コブライも化身さまと一所に休養さして貰ひませうかい、何と云つてもタカが人間です、天帝の化身ともあらう聖者が、根気尽きて行倒れを遊ばすといふ此場合、どうしてコンパスが働きませう。そんな事いはずに休む時にや気良う休まして下はいな、こん丈広い山野を一人の女を何時迄捜したつて、さう易々と見付かるものぢやありませぬワ。斯うして一服して居ると、ダリヤさまが後からバルギーと一緒に意茶つきもつて通るかも知れませぬ。さうすりや、居乍らにして、目的の瑞宝を手に入れるも同然ですからなア』 天『エー、泥棒の癖に弱音をふく奴だな。エ、併し乍ら人間万事塞翁の牛の尻といふから、何が都合になるとも分らない。今日は特別の恩典を以て黙許しておかうかい、ウツフヽヽヽ』 コブ『天真坊さま、笑ひごつちやありませぬよ。僕は、私は真剣に弱つてるのですからな。エ、併し人間万事塞翁の牛の尻と仰有いましたね、塞翁の馬の糞とは違ひますか』 天『馬でも牛でも可いぢやないか、俺が牛の尻といふたのは、物識といふ意味だ』 コ『成程、天帝の化身さま丈あつて、何でも能く物を知つて御座るといふ謎ですな』 天『きまつた事だ、三千世界の事なら、宇宙開闢の初めから、小は微塵に至る迄、漏れなく落なく、鏡にかけたる如く知りぬいてゐる名僧知識だ、オツホン』 コ『エツヘヽヽ、それ程何もかも能く分る牛のケツ先生が、あれ程大きいダリヤ姫の行方を捜すのに、シヤカンナ頭目の部下二百人迄借用して、捜索せにやならぬとはチツと矛盾ぢやありませぬか』 天『馬鹿をいふな、恋は異なもの乙なもの、オツとどつこい、恋は曲者といふぢやないか、久米の仙人でさへも、女の白い脛をみて空中から墜落したといふ話がある。何程天帝の化身でも、女に迷ふた以上は咫尺暗澹、全く常暗となるのは当然の理だ』 コ『ヘーン、さうですかいな、妙ですな、怪体な事をいひますな、不可思議千万、奇妙頂礼、古今独歩、珍々無類、石が流れて木の葉が沈んで、天が地となり、地が天となりさうな塩梅式だ。女といふ奴ア、之を聞くと実に恐ろしい代物だワイ。さうすると天真坊さま、お前さまを盲にする丈の器量を持つてゐるダリヤ姫は、余つ程偉い者ですなア。婦人は孱弱き男子なりといふ熟語は聞いてをりますが、婦人は最強き男子なりと云ひたくなるぢやありませぬか』 天『そこらにゴロゴロしてゐる、コンマ以下の女と違ひ、何といつても天の河原に玉の舟を浮べ、天降り遊ばした棚機姫の化身だもの、そりや当然だよ』 コ『成程、それぢや一つ七夕さまをお祈りしてダリヤ姫の在処を判然と知らして頂かうぢやありませぬか。お前さまも天帝の化身で、七夕姫と夫婦ぢやと仰有つた事を覚えてゐますが、なんぼ何でも天帝の化身様が女帝の行方が分らないとは、チツと理窟に合はないやうに思ひますがな』 天『きまつた事だい、七夕姫と彦星の俺とは昔から年に一度より会はれない規則だから、分らぬのも無理はない。それを毎日日日会ふて楽まふといふのだから、チツとはこちにも無理があると云ふものだ。併し乍ら一旦思ひ込んだ事はやり通さなくちや、男子の意地が立たない、否天真坊の威厳に関する問題だ』 コ『成程、いかにも、御尤も千万、エ、万々一、ダリヤ姫が肱鉄をかました時は貴方如何するお考へですか』 天『ヘン、馬鹿いふな、そんな事があつて堪らうかい、ダリヤはぞつこん俺にラブしてゐるよ』 コ『ウツフヽヽ、それ程ラブしてゐる者が、なぜお前さまの寝てゐる間を考へ、顔に落書までして遁亡したのですか』 天『そりやお前の解釈が違ふ。ダリヤも余り長い山道を歩いて来たものだから大変にくたぶれてゐよつた。そこへメツタ矢鱈に酒を呑ましたものだから、グツタリと寝込んで了ひ、目がくらんで人間違をしよつたのだ。バルギーの奴、酢でも菎蒻でもゆかぬ悪党だから、ダリヤや俺達の寝た間に、そつと面に落書を致し、一見俺の面とみえないやうにしておき、其間にダリヤをゆすり起し、俺の声色を使ひ、甘く夜陰に紛れ、をびき出しよつたものと察する。ダリヤは今朝あたり、ハツキリ人の面がみえるやうになつてから、バルギーのしやつ面を眺めて、さぞ案に相違しびつくり仰天した事だらうよ。ダリヤに限つて、俺を見すてるやうな心は、微塵毛頭も持つてゐやう筈がない、屹度バルギーが俺に化けて、寝とぼけ眼を幸、ゴマかしよつたのだ。何と云つても、世界の女は、一度俺の面を拝んだが最後、決して忘れるものぢやない。況や甘つたるい言を一口でもかけて貰つた女は、何程蜂を払ふやうにしたつて、俺にや能う放れないのだ、エヘヽヽヽ』 と口角よりツーツーとさがる糸のやうな、ねんばりしたものを、手の甲で手繰つてゐる。 コ『イツヒヽヽヽ、此奴ア面白い、奇妙奇天烈、珍々無類だ』 日は西山に沈んで天から暗が砕けた如うにおちて来た。闇がりはゴムをふくらしたやうに四方八方へ拡がつてゆく。時鳥の声は彼方此方より競争的に聞えて来る。二人は止むを得ず、立岩の凹みに体をもたせかけ早くも鼾の幕がおりた。 シヤカンナの部下と仕へてゐた四五人の小盗児連は、之もヤツパリ、ダリヤ姫の捜索を頼まれて、彼方此方の密林をかきわけ、蜘蛛の巣だらけになつてやつて来たが、背丈にのびた道傍の草や、深い木かげに星一つ見えず、進退谷まつて、一同茲に枕を並べようと横になつた。何だか暗がりで分らないがグヅグヅグヅと雑炊でもたいてゐる如うな声がする。 甲『オイ何だか妙な音がするぢやないか。ここは立岩といつて、昔から化州の出る所だ、チツと用心せななるまいよ』 乙『成程、此奴ア厭らしい。併し時鳥があれ丈ないてゐるから、マア一寸其方へ耳を傾けてグツグツを聞かないやうにすりや可いぢやないか、俺やモウ、そこらが寒くなつて、体が細かく活動し出した。寝ても立つても居られない様だ、エーエーモツと時鳥が啼いてくれると可いのだけれどなア』 甲『ヒヨツとしたら、天真坊さまが此辺に鼾をかいて寝てゐるのぢやあるまいかな。さうでなけりや、時鳥の爺イが歯がぬけて、あんな啼様をしてゐやがるのだらう』 乙『エー、かふいふ時にや歌を唄ふに限る。一つ肝をほり出して、土手切り唄つてみようぢやないか』 甲『よからう、それが一番だ、オイ皆の奴、汝も唄はないかい』 丙『こんな所で歌でも唄ふてみよ、立岩の前に人間ありと化物が悟り、四方八方から一つ目小僧や三つ目小僧が押よせ来らば、汝どうする積だ。黙つて寝ろよ、のう丁、戊、さうぢやないか』 丁と戊とはウンともスンとも言はず、小さくなつて慄うてゐる。乙は憐れつぽいふるい声を出し乍ら、カラ元気をおつぽり出し唄ひ出した。 『夕日はおちて御空から暗はくだけておつるとも 虎狼や獅子熊や如何なる悪魔が襲ふ共 いかでか恐れむ泥棒の大頭目のシヤカンナが 乾児と現れし哥兄さまだ幽霊なりと何なりと 居るなら出て来い天真坊天帝の化身の命令で 御用に出て来た俺だぞよ何程偉い悪魔でも 此世をお造り遊ばした天帝さまには叶ふまい 一の乾児の俺達は取も直さず八百万 神の中なる一柱もしも曲津が居るならば 十里四方へ飛のけよマゴマゴ致してゐよつたら 手足をもぎ取り骨くだき肉をだんごにつき丸め 禿わし共に喰はすぞや天下無双の豪傑が 五人の中に一人をる恐れよおそれ曲津共 あゝ惟神々々神の真の太柱 天真坊の御家来に楯つく悪魔は世にあらじ さがれよさがれトツトとさがれ暗よ去れ去れ、一時も早く 月は出て来い星も出よ此世は神のゐます国 悪魔の住むべき場所でないあゝ惟神々々 御霊幸ひましませよ』 と蚊のなくやうな声で囀つてゐる。甲はドラ声を張上げ乍ら、焼糞になり唄ひ出した。 『どつこいしようどつこいしよう天帝さまの御化身は 今や何処にましますかここは名に負ふ立岩の 山中一の化物場化物退治にやつて来た 俺は英雄スカンナだ俺の云ふ事スカンなら 早く何処なと逃げなされ天真坊の生神が やがて此処をば通るだろそしたら悪魔の一族は 旭に露の消ゆる如浅ましザマをさらすだろ 何だか知らぬが此場所は自然に体が慄ひ出し 小気味の悪い暗の路あゝ惟神々々 御霊幸ひましまして天帝様の御化身が 一時も早く御光来遊ばす様に願ひます あゝ惟神々々叶はぬ時の神頼み』 天真坊は此声にふつと目をさまし、 『ハハア小泥棒の奴、ここ迄やつて来てヘコ垂れよつたとみえるワイ。何奴も此奴も仕方のない奴だな、併し乍らダリヤを甘く掴へてくれよつたかな』 と息をこらして考へてゐる。コブライも亦目をさまし、天真坊が身を起して何事か考へてゐる様子なので、暗を幸ひ、自分は三間許り立岩のうしろへ廻り、優しい女の声色を使ひ、 『天真坊さま、待兼ねました。バルギーの悪人にたばかられ、貴方と間違ひ、夜の路、来てみれば、案に相違の蛙面、こら如何せうかと思案の余り、バルギーの睾丸をしめつけ、途中に倒し、此立岩のうしろに隠れて一夜を明さむと待つて居りました。恋しい師の君様、どうぞ此処までお出で遊ばし、妾の手を引張つて下さいな。ジヤツケツいばらに体を取りまかれ、身動きが出来ませぬワ』 天真坊は此声を聞いて小躍りし乍ら、稍少時考へ込んでゐる。スカンナ外四人も亦息をこらして様子を考へてゐたが、此連中はテツキリ化物と早合点し、面をグツスリとタオルで包んで了ひ、俯いて慄ふてゐる。 コブライ『モシ天真坊さま、ダリヤで御座います、どうぞ早く来て下さいな。エー好かぬたらしい、お前さまはコブライさまぢやないか、貴方に用はありませぬよ、お前さまに助けてくれとはいひませぬ、天真坊さまに助けて欲しいのだもの』 コブライは今度は自分の地声を出し、 『コレ、ダリヤ姫様、私は決してお前さまに野心を有つては居りませぬ。天帝の化身さまは、勿体ない、自ら、かやうな茨室へお越しになる訳に行きませぬから、私がチツとは茨掻をしても構はぬ、犠牲となつてお救ひに来たのだ。エーエーさうすつ込んでは、余計に茨が引かかるぢやありませぬか……、(女声で)イエイエ何と仰有つても私は天真坊さまに来てほしいのですワ、チツと許り、怪我をなさつたつて何ですか。真に妾を愛して下さるなら、仮令火の中水の底、茨室、どこだつてかまはないと、仰有つた事があるのですもの、今こそ誠意のためし時、此茨室へ暗がりに飛込んで救ふてくれないやうな誠意のない天真坊様なら、妾の方からキツパリとお断り申しますわ。ねえ天真坊さま、キツと妾を愛して下さるでせう。アイタヽヽ、面も手も足も茨がきだらけよ、早く助けて欲しいものだワ、ねえ……。(今度はコブライの地声で)さてさて合点の悪い姫さまだ。では僕は貴方のお世話は能う致しませぬ。モシモシ天真坊さま、お手づから親切を尽して上げて下さいな』 天『いかにもダリヤ姫の声には似てゐるが、どこともなしに怪しい点がある。コリヤ化物ではあるまいかのう』 コ(女声で)『エーエー辛気臭い、天真坊さまとした事が、妾は遠い山坂をかけ巡りお腹がすき、声はかれ、疲れはててをりますから、本当のダリヤの声は出ませぬよ。どうか御推量して下さいませ、決して化物ぢや御座いませぬから』 天真坊は声のする方に向つて、二足三足進む折しも岩をふみ外し、三間許りの草茫々と生え茂る真黒の穴へ、キヤツと云つたぎり落ち込んで了つた。スカンナ外四人はいよいよ化物と早合点し、四這となつて坂路をのたりのたりと命からがらころげゆく。コブライも天真坊の声に驚いて声する方を目当に歩み出す途端、又もや踏み外し、天真坊の落ち込んだ穴へと一蓮托生、辷りこんだ途端に柔らかいぬくい物が体にさはつたので、ギヨツとし乍ら、 『イヤア助けてくれ助けてくれ』 と大声に叫ぶ。天真坊は落ちた途端に気絶してゐたので、コブライの落ち込んだのは少しも知らなかつた。少時あつて天真坊は息ふき返した。 天真坊『誰だ誰だ、俺をこんな所へつきはめやがつて』 コブライ『モシ天真坊さま、しつかりして下さい。暗の陥穽へ、貴方も私も落ち込んだのですよ、モウ斯うなりや夜の明ける迄、ここに逗留するより途がありませぬワ』 天『いかにも、さう聞けば確にそんな感じもする、併しあの時、確にダリヤ姫の声がしてゐたやうだが、惜い事をしたでないか』 コ『本当に惜い事をしましたね、確にダリヤさまに間違ありませなんだ。大変にあの方は貞操の固い方ですなア、私が助けようとしても、指一本さえさせないんですもの』 天『エヘヽヽ、そらさうだらうよ、併しダリヤは心配してゐるだらうよ。先づ先づ夜が明ける迄仕方がないな、あれ位親切な女だから、夜が明ける迄、俺達の安否を考へ乍ら、立岩のはたに待つてるに違ひないワ、あゝ惟神霊幸ひませ』 (大正一四・一一・七旧九・二一於祥明館松村真澄録)
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霊界物語 71_戌_玄真坊と千種の高姫 07 夢の道 第七章夢の道〔一七九六〕 空一面に漲つた灰色の雲は所々綻びて落ちさうな紅い雲が、所斑ら覗いてゐる。山下の破れ寺の軒には槻の大木が凩に吹かれて、一枚々々羽衣を剥がれ慄ふてゐる。白黒斑の烏が二三羽、縁起の悪相なダミ声でガアガアとほえてゐる。赤茶気になつた瓦や壁の落ちた高い塔が、あたりの全景を独占してゐる。諸行無常を告ぐる梵鐘の声は、此寺からとも見えず遠く遠く響いてゐる。霜柱の立つた半ば朽ちたる木造りの土橋をトボトボ渡る一人の男、青竹の杖をつき乍ら、腰を屈めて、「頼も頼も」と力なげに呼はつてゐる。破れ障子をサラリと引あけ、ニユツと面を出したのは、形相の凄じい尼僧であつた。尼僧は汚な相に面をしかめ乍ら、 『お前は何処の者だい、何用あつて此処へふん迷ふて来たのだ。お前さまの来る処ぢやない、とつとと帰つて下さい』 男『私はバルギーと申しまして、チツと許り名の知られた男です。お尋ねしたい者があつて此処迄やつて参りました。玄真坊といふ和尚は此寺に参つて居りませぬか』 尼『そんな方は知りませぬよ。とつとと帰つて下さい。お前さまは此処を何処だと思つてゐるか、尼許りの住んでゐるお寺で、男禁制の場処だ。男子不可入と立札が立つてゐるのに気が付かないのかい』 バル『あゝ左様で御座いましたか、つい、日の暮まぐれに、慌てたものですから、つい見当りませず、失礼な事を致しました。然し乍ら斯様に日は暮れはて、あたりに人家はなし、男禁制かは存じませぬが、どうかお庭のスミでも宜しいから、一夜の宿を願ひたいもので御座います』 尼『絶対になりませぬ。男子にものを云つてさへも仏の冥罰を被りますから、お前さまの目には何う見えるか知らぬが、此処は極楽の浄土寺といふ立派なお寺で御座いますよ、サアサア早くお皈りなさいませ』 と云ひ乍ら、ピシヤリと破れ障子をしめ、プンプンとして姿を隠した。バルギーは又もや橋を渡り、力なげに何処を当ともなく、ヒヨロリヒヨロリと歩んでゆく。半時許り北へ北へと進んだと思ふ時、後の方から「オーイオーイ」と皺枯声を張上げ乍ら、髪をサンバラに振り乱し、八十許りの黒い面した婆アが飛んで来る。バルギーはツと立止り、怪訝な面をし乍ら、 バル『私を呼んだのはお前さまかな、何用あつて呼び止められたか』 婆『私はあの薮の畔に、グレ宿をしてゐるお熊といふ婆アだ。どうか今晩は私の所へ来て泊つて下さる訳には行こまいかな』 バル『ヤア其奴ア有難い、併しお婆さま、小さいと云つても宿屋をしてる以上は、二間や三間はあるのだらうな』 婆『御心配なさるな、小さいと云つても木賃ホテルだ。お前の一人や二人は、どこの隅でも泊めて上げる』 バル『宿賃は幾らだな』 婆『幾らでも可いから、お前のやろうと思ふだけ下され、別に欲なこた言はないからな』 バル『ヤア、そんなら、宿屋がなくて困つてた所だ、泊めて頂かう』 と婆アの後について、雑草茂るシクシク原を四五丁許り従いて行くと、家のぐるりには牛馬の糞が堆く積み上げられ、臭気紛々として鼻をついて来る。 バル『婆さま、どうも臭い家だな。牛馬もゐないのに、なぜ此様に沢山牛糞や馬糞がたまつてゐるのだい』 婆『毎日泊らつしやるお客さまが、牛糞や馬糞をドツサリたれて帰るものだから、これ此通り……塵も積れば山となる……といつて、糞の山が出来たのだよ』 バル『フヽン、此奴ア妙だ、人間が牛グソをたれ馬糞をたれるとは聞き初だ。そんな人間の面が見たいものだなア』 婆『今の人間は皆獣だよ、それだから狐グソもたれる、馬糞もたれる、狸のタメ糞も裏の方に沢山放りたれてあるから、何なら御案内せうかな』 バル『イヤお婆さま、モウ結構です。兎に角雨露さへ凌がして頂けば結構だから、どうか門の戸をあけて下さいな』 婆『ヨシヨシあけて上げよう、ビツクリをしなさるなや』 と破れ戸をガタつかせ、パツと開けた。見れば牛頭馬頭の妖怪が何十とも知れず、庭一面に荒蓆を敷き、胡座をかき、人間の太腿や腕の血のたれる奴を甘相に齧つてゐる。此奴アたまらぬと、バルギーは逃げ出さうとすると、お熊は俄に真黒けの大熊となり、黒い太い爪でバルギーの頭をグツと握り、 熊『コリヤコリヤ泥棒、逃げようと云つたつて、いつかないつかな、逃がしはせぬぞ。汝も味の悪いやせつぽしだけれど、まだチツと許り血が通ふて居るやうだから、ここで一つ荒料理をして食つてやろ。あの通り沢山なお客さまが泊つて御座るけれど、まだ一人前足らぬので、あれあの通り、大きな口をパクつかせて待つてゐらつしやる、汝がよい餌食だ、イヒヽヽヽ、何とマア、バカ野郎だな、尼寺では突き出され、木賃宿へ泊つたと思へば体を食はれる、何と云ふお前は頓馬だろう、憐な代物だらう、然し乍らここにゐる牛頭馬頭のお客さまは何れも汝に金と命を奪られ、畜生道へおち込んで、行く所へも行けず飢渇に迫り、此木賃宿で虱だらけになつて逗留して御座るのだ。かうなるも皆汝が作つた罪業の報いだから、誰に不足はあらうまい』 バル『モシモシお熊さま、そんな殺生な事を云はずに、どうぞ見逃して下さいな。一生のお願ですから、キツと御恩は酬いますから』 熊『バカを云ふない、泥棒をするやうな奴に、そんな徳義心があつてたまらうかい。お前はスガの里のダリヤ姫に恋慕の心を起した揚句、彼が歓心を得むとして、杢兵衛の家へ泥棒に入り込み、家内中をふん縛り、有金を残らずひつ攫へ、門口の深井戸へ落ち込み、袋叩きに会ふて、追放された代物だらうがな。そんな奴は万古末代助ける訳には行かぬのだ。此婆がそんな事をせうものなら、悪魔の大王様よりヒドいお目玉を頂戴せなくちやならないのだ』 バル『いかにも、せぬとは申しませぬ、泥棒に入りました。併し乍ら盗つた物はすつかり返したのですから、返した後迄罰せられちや耐りませぬワ、返せば元々ぢやありませぬか』 熊『此問題は問題として、汝は之迄随分沢山な女を強姦し、人を殺し、金を盗つたであらうがな、あの牛頭馬頭のお客さまをみよ、皆覚えがあらうがな。ここは汝の作つた地獄だから観念したが可からうぞや』 牛の如うな角を生やした真黒けの毛だらけの男、のそりのそりと、お熊、バルギーの前ににじり来り、カラカラカラと大口をあけて打笑ひ、 男『コーリヤ、バルギー、俺の面を見知つてゐるか、ヨモヤ忘れは致そまいがな。二十三夜の月待の夜、俺の大事の娘を二三人の小盗人と共に奪ひ取りにふん込んだ矢先へ、俺は娘を渡さじと力限り抵抗したら、汝は牛刀を引抜いて、俺の腹をグサツとつき、苦む俺を尻目にかけ、悪口を叩いて帰つた事があらうがな。サ、可い所へ来た。これから俺が其恨をはらす為に嬲殺にした上、肉も骨も叩いて、此牛腹に葬つてやる積だ。俺も折角人間と生れて、汝の為に命を奪られ、其怨恨が重なつて、牛頭の魔王とまで成り下つたのだ、修羅の妄執をはらすのは今此時だ。イヤイヤ俺許りでない、此処にゐる連中は、どれもこれも汝の毒手にかかつた憐れな人間の成の果許りだ。ジタバタしても、モウ逃れつこはないぞ、念仏でも唱へて覚悟をしたが可からう。てもさても小気味のよい事だな、アハヽヽヽ』 と一同の牛頭馬頭の怪物は声を揃へて、天地もわれむ許りに鯨波の声をあげた。 バルギーは進退維谷まり、一生懸命にダリヤ姫から聞覚えた三五教の数歌を、細いかすつた声を絞つて、一二三四五六七八九十百千万と、やつとの事で唱へ上げた。牛頭馬頭及びお熊等、一同の妖怪は次第々々に影うすくなり、遂には跡型もなく消失せた。あたりをみれば、枯草生え茂る細路の傍に自分は着衣を泥まぶれにして倒れてゐた。バルギーは漸くにして立上り、 『ヤーア、大変な夢を見たものだ、コラ一体何処だろう、暗さは暗し、斯様なシクシク原にねる訳にも行かず、道通る者はなし、困つたものだな。エー仕方がない、コンパスの続く所まで行つてみよう。又此様な所に横はつてゐて、あんな恐しい夢を見ては仕方がない』 と呟き乍ら屠所に曳かるる羊の如くヨボヨボとコンパスの運転を始めかけた。道の傍に以前古寺で出会つた尼僧が只一人、青黒い面をニユツと枯草の中から現はし乍ら、 『モシモシ』 と呼んでゐる。バルギーはギヨツとし乍ら、 『ヤア、お前さまは最前お目にかかつた尼僧ぢやないか、こんな所に何して御座るのだい』 尼『私ですかいな、貴下よく御存じでせう、ダリヤ姫で御座いますよ』 バル『ヘーン、馬鹿にしなさんな、ダリヤさまはそんな青黒いしなびたお面ぢやありませぬわ。お前さまは大方豆狸だらう、最前の尼僧に化けてゐるのだらう』 尼『イエイエ、決して決して、私は豆狸でも何でも御座いませぬ。タニグク谷の泥棒の岩窟に玄真坊が為におびき出され、其急場を遁れむと鬼心を出して、自分の美貌を楯に、お前さまに惚たと見せかけ、吾家迄送らさうとした悪念の強い、私は副守の霊で御座います。どうぞ一言許してやると仰有つて下さい。さうでないと私は浮ばれませぬから、神様の世界はチツとの不公平も御座いませぬ、貴方を欺いた丈の罪はどうしても償はねばなりませぬので、斯様な所にウロついて居りまする』 バル『いかにも、よくよく見ればどつか似た所がある様だ。ヤ、私も貴女に対しては実に済まない無礼な事を申しました。然し乍ら許すも赦さぬもありませぬ、どうぞ安心して下さいませ』 尼『妾は貴下をウマウマと騙した上、畏れ多くも罪の身を有ち乍ら、貴下に御意見を申す積で神様の宿り玉ふお頭を三つ許り叩いたで御座いませう、其罪で頭は此通り禿テコとなり、かやうな所にウロついて居るので御座います。頭を打つべき資格なくして頭を打つたのが大変な罪となつたので御座います』 バル『何とマア、神様の規則といふ者は難しいものですな、そんなら畏れ乍ら、私に加へた無礼の罪を、更めて赦しませう』 尼『ハイ有難う御座います。どうぞ貴下のお手で此扇子を以て私の頭を三つ打つて下さい』 バル『ヤア、これはこれは御均等さまに、左様ならば仰せに従ひ御免を蒙りませう』 といひ乍ら、軽くポンポンポンと扇子の胸で三度打つた。これつきり尼僧の姿はパツと煙の如く消えて了つた。「オーイオーイ」と向方の山の端から吾名を呼とめる者がある。其声に何となく聞覚があるので、バルギーは引ずらるる如き心地し乍ら、声する方に何時とはなしに進んで行つた。忽ち天を焦して東方より一大火光が現はれ、バルギーの面前に落下し、ドンと地響うつて爆発した途端に気がつけば、自分はハル山峠の麓の草原に雁字搦に縛られて倒れてゐた事が分つた。バルギーは縛められた儘、漸くにして身を起し、草の上に胡座をかき、空ゆく雲を眺めてゐると、そこへスタスタとやつて来たのは、ダリヤ姫、玉清別、及び数人の村人であつた。 ダリ『オヤ、バルギー様、おいとしや、何者にさう縛られたので御座いますか、サアサア皆さま、早く縛めを解いて上げて下さい』 バル『ハイ有難う御座います、思はぬ奴と諍ひをやり、何分腰骨を打つて弱つてゐたものですから、脆くも敵にくくられ、気を取失つて居たやうです、ようマアー来て下さいました』 ダリ『バルギーさま、貴方は本当に義の固い方ですね、玉清別の神司に神素盞嗚大神降らせ玉ひ、ハル山峠の麓に於て、玄真坊其他の者に責られ、妾の在所を詰問され乍ら、命を的にお隠し下さつた其義侠心、神様も大変おほめ遊ばし、一時も早く助けに行けよとの御宣示、取るものも取り敢ずお助けに参りました。どうか御安心下さいませ』 バル『イヤ、これはこれは恐入りまする。御礼の申し上様も御座いませぬ。只此通りで御座います』 と落涙し乍ら合掌する。 玉清『バルギー様、貴方の男気には感心致しました。どうか私の家へ引き返し、腰の傷が癒る迄御養生なさつたら如何ですか、今に駕が参りますから』 バル『私のやうな悪人をそこ迄思ふて下さいますか、ヤ、モウ之限り悪い事は致しませぬ。天性の善人に返り、社会の為お道の為に一生を捧げる考へで御座います。何分宜しう御願申ます』 之よりバルギーは村人に担がれ、ダリヤ姫と共に玉清別の神館に病を養ひ、ダリヤ姫の手厚き介抱を受け乍ら、一ケ月許り逗留する事となつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一四・一一・七旧九・二一於祥明館松村真澄録)
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霊界物語 71_戌_玄真坊と千種の高姫 13 詰腹 第一三章詰腹〔一八〇二〕 左守の司の館の離れ座敷には、戸障子を密閉して右守、左守が何事か秘々密談に耽つて居る。 右『左守様、此間は広小路の大火によりまして大変にお気を揉ましましたが其後何のお変りもありませぬか。あの混雑にまぎれ込み、賊がお館に忍び込みなど致しまして大変御心配で御座いませう』 左『イヤ御親切に有難う御座る。ヤ、もう年は取り度ないものだ。かうして床の間の置物のやうに左守の司となつて居るが、心許り焦るのみでやくたいも無い事で御座る。谷蟆山の谷間に居つた時は何とかして再び元の左守となり、国政の改革をかうもやつて見よう、あゝもやつて見ようと十年の間心胆を砕いてゐたが、実地に当るとどうも甘く行かぬものだ。自分の心では確りして居るやうに思ふが、何とはなしに耄碌したと見えるわい』 右『左守様、何を仰有いますか、貴方の御名声は大変な人気で御座いますよ。この右守も貴方の御威光によつて歪みながらも御用を勤めさして頂いて居りますが、行き届かぬ事許りでさぞお目だるい事で御座いませう。国王殿下は未だ御若年でもあり、左守様に気張つて貰はねば到底タラハン国は支へられますまい』 左『賢明なる国王殿下と云ひ、聰明なる其方と云ひ、タラハン国の柱石はもはやビクとも致すまい。吾は老年、気許り勝つて思ふやうに体が動かない、困つたものだ。政務一切を其方に打ちまかして誠に済まないと思ふが、若い時の辛労は買ふてもせいと云ふからどうか一つ気張つて下さい。自分は床の間の置物で居るのだ』 右『何を仰有います。青二才の吾々、何が出来ますものか、皆左守様のお指揮によつて、どうなりかうなり御用が勤まつて居るので御座いますから。時に左守様、広小路の大火災の夜お館へ忍び込んだ泥棒について昨日取調べました処、大変な事を申ますので取調を中止し牢獄につないでおきましたが、又しても左守様のお名を引き合ひに出しますので陪臣の手前誠に困つて居ります。如何致せば宜敷う御座いますか』 左『此左守を引き合に出す泥棒とは一体何者で御座るかな』 右『何でも天来の救世主、天帝の化身、第一霊国の天人、天真坊だとか申して居ります。そして左守様とは兄弟分だと主張しますので、一応伺ひました上取調をせうと思ひまして、態々お伺ひ致した次第で御座います』 左守は当惑さうな顔をし乍ら、 『右守殿、大方それは発狂者で御座らう。兎も角拙者が明日取調べて見ませう。どうか誰も来ないやうにして下さい』 右『ハイ畏りまして御座います。夫からもう二人の泥棒も天真坊と同様に左守殿の御名を引き合に出し、左守の親分に会せと主張致して居ります』 左『其二人の泥棒の名は何と云ひましたかな』 右『ハイ、一人はコブライと云ひ、一人はコオロと申て居ります』 左『ハテナ、谷蟆山の岩窟に……』 と云ひかけて俄に言葉を切り、 左『長らくの間拙者も谷蟆山の奥深く世を忍んで居つたものだから様子も分らず、又如何なるものが自分の顔を見知つて吾名を騙つて居るかも知れますまい。何は兎もあれ三人の泥棒を右守殿、そつと吾館へ呼んで来て下さいますまいか、内々取調べたい事が御座るによつて……』 右『左守様の仰せとあらば、仮令掟に背いても呼んで参りませう』 左『いや白洲で調べるのが規則であれど、この左守は知らるる通りの老体、到底足が続かないから、吾館で取調べて見たいと思ふのだ。左守は一国の宰相、吾家で調べやうと、白洲で調べやうと些つとも差支へはない筈だ。かかる例は先王の時代から幾度もあつた事だから』 右『これはえらい失言を致しました。然らば明日はこれに引き立てて参りますから、篤りお調べを願ひます。左様なら』 と慇懃に挨拶を述べ己が館へ帰り行く。後に左守は脇息にもたれ、吐息をつきながら独語。 『アヽ人間の行末位果敢ないものはないなあ。臥薪甞胆十年の艱苦を凌いでヤツと目的を達成し、元の左守となつて国政を改革し、新王殿下の政治の枢機に参与する身分となつたと思へば寸善尺魔の世の中、奸侫邪智に長けたる玄真坊が泥棒となつて入り込み、右守に迄も吾古創を羅列して聞かしたであらう。アー情ない。どうして今日の地位が保たれやうか、困つた事になつたものだ。自分は心より泥棒の親分となつては居なかつたが、タラハン国を思ふ余り手段を選まなかつたのが吾身の不覚だ。そして今度の国政の改革について二百の部下は妨げにこそなれ、力になつた奴は一人もない。あゝ世の中は正義公道を踏まねば末の遂げられないものだなア』 左守は来し方行末の事など思ひ浮べて、其夜は一目も得眠らず夜を明して了つた。 烏は塒を放れて嬉しげに太平を歌ひ、雀はチユンチユンと愉快気に軒に囀つて居る。左守は之を眺めて又もや独語、 『あゝ私は何故あの烏に生れて来なかつたらう。自由自在に大空を何の憚る事もなく前後左右に翺翔する様はまるで天人のやうだ。雀は無心の声を放つて千代々々とないてゐる。それにも拘らず、神の生宮と生れた人間の吾身、何故まアこれだけ苦しみの深い事だらう』 と吐息を漏らして居る処へ、玄真坊、コブライ、コオロの三人は獄吏に護られ大手を振り乍ら裏門を潜つて左守の居間の庭先へやつて来た。左守は玄真坊の姿を見るよりアツと許りに打ち驚き卒倒せむとしたが、吾と吾手に気を取り直し、 『やア獄卒共御苦労であつた。三人の者はこの左守が預かつておく。早く帰つて呉れ』 獄卒『ハーイ』 と云ひ乍ら獄卒は逸早く此場を立ち去つた。傍に人なきを見済した玄真坊は遠慮会釈もなくツカツカと座敷に飛び上り、左守の前に胡座をかき黙然として左守の顔を睨めつけて居る。コブライ、コオロの両人も玄真坊の左右に胡座をかき、無雑作に控へて居る。 左守『ヤアお前は玄真坊ぢやないか、何処を迂路ついて居たのだ。さうしてダリヤ姫は手に入つたのか、其後の経過を話して呉れ』 玄真坊『ハヽヽヽヽ、ダリヤはどうでもよいがオイ兄貴、随分山カンが当つたものだのう。綺麗な娘を持つたおかげで、一国の宰相と迄なり上つたのだから、些つとはおごつて貰つても好かりさうなものだ。此間もタラハン市の火事と聞くより兄貴の家が険呑と思ひ、この両人と共に救援に向つたところ、訳のわからぬ雑兵どもが泥棒と間違へ牢獄にぶち込みよつたのだ。お前も俺の危難を聞かんでも無からうに、素知らぬ顔とはあまり虫がよすぎるぢやないか。そしてあの右守の青二才奴、俺に対して無礼の言をほざきよつた。どうだ兄貴、兄弟の誼で俺の云ふ事を聞いて呉れないか』 左『一体どうせいと云ふのだ』 玄『外でもない、あの右守を免職さしてその後釜にこの玄真坊を直すか、それも叶はずば、兄貴が右守となり、俺を左守に推薦するか、二つに一つの頼みを聞いて貰ひてえのだ』 左『外の事なら何でも聞いてやるが、オーラ山で泥棒をやつて居つたお前を、左守の司に推薦する事は到底叶ふまい。殿下のお許しが無いに定つて居るからのう』 玄真坊は大口あけて高笑ひ、 玄『ハヽヽヽヽ、オイ兄貴、そりや何をいふのだ。俺はオーラ山に於て三千人の泥棒の大親分だぞ、兄貴は僅かに二百人の小泥棒の親分ぢやないか、二百人の親分が左守となつて、三千人の大親分が左守になれないと云ふわけがあるか。それはチと勝手な理窟ぢやないか』 左守は「ウン」と云つたきり、黙念として頸垂る。コブライは膝をにじりよせ、 『もし親分、貴方は目的を達したらお前を重臣に使つてやらうと仰有つたな。なアコオロお前だつてさうだらう。毎日々々日課のやうに聞かされて居つたのだからのう。俺だつて泥棒をして居たい事はないが、何分親分の命令を忠実に守つてやつて来たのだから、親分が出世すりや俺達も出世するが当然ぢやないか』 コオ『ウン、そりやその通りだ。もし親分、いや左守さま、この瘠つ節を買つて下さるでせうなア』 左守『そりや確にお前達にも其の約束はしておいた筈だ。併し今日ではその約束を実行出来ないのを遺憾とする。仮令吾館へ応援に来てくれたにもせよ、護衛兵の目を忍び裏門から忍び込み、宝庫の錠前を捻切らうとして居たのだから誰の目から見ても泥棒としか認められない。今日は最早お前方を罪人と認める。心易いは常の事、タラハン国の掟は枉げる事は出来ない。三人共死罪に処すべきが掟なれ共、兄弟分や主従の誼で俺が見逃してやらう。サア一時も早く裏門から姿を隠したらよからう。此上タラハン城に迂路つけば再び捕縛せらるるであらう、さうすりやもう俺の手には及ばない』 玄『エヽ仕方がない、今日はおとなしく帰つてやらう、併し左守随分金が溜つたらう、ちと土産にくれないか、金なしには何所へ行くわけにも行かないからな』 左『そんなら仕方がない、お前が忍び込もうとしたあの庫の中の有金をすつかりやるから、それを持つて早く姿を隠してくれ。後は私が何とか始末を付けて置くから』 玄『ヤ、実の処はお察しの通り其金が欲しかつたのだ。遉は兄貴だ』 コ『ヤア遉は親方……金さへあれば名も位も何も要ぬぢやないか』 コオ『親分有難う、そんなら遠慮なしに三人分配して帰ります』 これより三人は山吹色の小判をしこたま身につけ裏門より木の葉茂れる密林を縫ふて、何処ともなく姿を隠した。後に左守は料紙を取りよせ、筆の跡も麗々しく国王、王妃両殿下を初め右守に当てたる書置を残し、自分は白装束となつて、三五の大神の祭りある神前にて腹掻き切り立派な最後を遂げた。 かかる事とは夢露知らぬ右守の司は、様子如何にと再び左守の館を訪ひ、案内もなく離棟の座敷に行つて見れば左守は紅に染つて縡れて居た。そして其処に三通の遺書が認めてあつた。アリナは取るものも取りあへず自分宛のを封押し切つて読み下せば左の通りであつた。 一、拙者事、国王殿下のお見出しに預り日頃の願望を達し、国政に参与の栄を担ひ居り候処、今日玄真坊、コブライ、コオロの無頼漢、左守たる拙者に向ひ無礼の言を吐き候も、これを咎むるの権威なく、止むを得ず金銭を与へて逃げ帰らし申候。斯の如き左守の処置は国王殿下の発布されたる法律を無視し、且蹂躙せる大罪にして、到底此儘職に留まるべき資格なく、国家の大罪人なれば、両殿下を初め、右守殿其他国民一般に対し謝罪のため、皺腹切つて相果て申候。今後は何卒々々殿下を輔け奉り、タラハン国の基礎を益々鞏固ならしむべく、奮励努力あらむ事を願ひ申候 国家の大罪人シヤカンナより 右守殿参る と認めてあつた。アリナは之を見るより驚き乍らもわざと素知らぬ顔を装ひ、城中に参内して両殿下に事の顛末を詳細に言上し、二通の遺書を捧呈した。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一五・一・三一旧一四・一二・一八於月光閣加藤明子録)
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霊界物語 71_戌_玄真坊と千種の高姫 15 紺霊 第一五章紺霊〔一八〇四〕 シヤカンナ、コブライ、コオロの三人は玄真坊の姿を見失はじと行進歌を歌ひ乍ら進んで来る。コブライは甲声を絞り乍ら、 『玄真坊の慌て者大野ケ原を吹く風に 驚きをつたか魂消たか頭を先に尻後に 突出し乍ら不細工なスタイルさらして行きよつた 彼奴のやうな慌て者生みよつた親の面が見たい 蛙のやうな面をしてトンビのやうな尖り口 物云ふ度に目と鼻と口とを一つによせる奴 もしも地獄があつたなら地獄の町の見世物に 出したらよつくはやるだろあゝ面白い面白い オーラの山に立籠りドエライ山子を企みよつて 目算ガラリと相外れダリヤの姫には目尻下げ 面を草紙に使はれて大きな恥をかき乍ら 蛙の面に水かけたやうな彼奴の無神経 呆れて物が云はれない又もや一つの大望を 企むは企んでみたもののこれ又ドエライ失敗で 火事場泥棒のやり損ね左守の館で捕へられ 冷い牢屋へブチ込まれ右守の司の訊問を シヤーツクシヤーの呑気相に煙にまいて答弁し 左守の館に引き出され又も業託相並べ お庫の金を取り出して己がポツポへ托し込み 夜昼なしに山路を走つた揚句に情なや 捕手の奴に見つけられ千尋の谷間にザンブリと 俺等と共に飛び込んで命死せしと思ひきや こんな所へやつて来た不思議も不思議こんな又 不思議が世界にあるものか玄真坊の慌て者 アレアレあこに倒れてる野壺のはたのクソ蛙 掴んで大地にぶちつけたやうなザマしてフン伸びて ビリビリ慄ふてけつからア何と因果な奴だなア 此有様を眺むればお気の毒でもあるやうだ 又々小気味がよいやうだこんな奴等を只一人 助けてみた所で仕よがないとは云ふものの俺たちも こんな淋しい街道を行くのにや人数が多い程 心が丈夫になるやうだ厭でも応でも助けよか コラコラコラコラ玄真坊早くしつかりせぬかい』と 胸と頭の嫌ひなくグチヤグチヤグチヤと踏み込めば ウンと許りに呻きつつ息ふき返し玄真坊 『アイタタタツタアイタタタ俺の頭を踏みやがつた 肋の骨を二三本どうやらコブライが折よつた 元の通りにして返せ親から貰ふた大切な 一生使ふ宝だぞアイタタタツタアイタツタ コレコレシヤカンナ左守さま私の仇を討つとおくれ どしても虫がいえぬ程にあゝ惟神々々 目玉飛び出し相だわい』 などと体も動かぬ癖に腮許りを叩いてゐる。 コブ『ハヽヽヽ、オイ玄真さま、起きたらどうだい。体も動かぬくせに毒つきやがつて何のザマだ。サア起きたり起きたり、起きな起きぬで可いワ、吾々三人は放つといて行くからのう。仇討つてくれの何のつて、馬鹿にするない』 玄『オイ、コブライ、さう怒るものぢやないワイ、とつくりと話を聞いてくれ。仇を討つてくれといふのは、此途端の立石を叩き毀してくれと云ふのだ。此奴があつた許りに、俺がこんな目に遇ふたのだもの』 コ『ナール程、此奴ア怪体な石だな。ヨーヨーヨーヨーヨーヨー、目が出て来たぞ。それ鼻だ、口だ、耳迄生えて来たぞ。此奴、化立石だな』 立石は俄に白髪の姿と変じ、 『ギヤアハヽヽヽ、コラ耄碌共、俺を誰だと心得て居るか、俺は月の国でも名高い小夜具染のお紺と云ふ鬼婆だぞ』 コブ『ナニ、小夜具染のお紺?、まるで狐みたいな奴だな。小夜具染でも椿染でも構ふものかい。そんなヒヨロヒヨロした婆アの態をしやがつて、偉相な口を叩くない。俺を何方と心得てけつかるのかい』 お紺『ギユーフツフヽヽ』 コ『コラ、お紺、ソーラ何吐してけつかるのだい。ギユフヽヽヽとは何だい。それ程牛糞が欲しけら、そこらの街道を歩いて来い、馬糞も牛糞も沢山落ちてるワイ。大方汝ド狐の化そこねだろ』 お紺『グツグツ吐すと、わいらも一緒に食つてやろか。折角玄真の野郎を食つてやらうと思へば汝達が出て来やがつて邪魔をさらすものだから、聊か困つてゐるのだ。エ、グヅグヅさらさずに早く何処へ行け。サアこれから汝等が通つた後は、此お紺が玄真坊の体を叩きにして団子に丸めて食つてやるのだ、ギヨーホツホヽヽヽ、何とはなしに甘相な臭がするワイ………のう』 玄『オイ、コブライ、シヤカンナの兄貴、コオロの乾児、メツタに俺を見捨てやせうまいの、此婆アを平らげてくれないか』 シヤ『ウーム、どしたら可かろかの。コブライ、お前は如何する考へだ?』 コブ『……………』 お紺『喧ましいワイ、泥棒許りがよりやがつて、何をゴテゴテ云ふのだ。汝の成敗さるる所は此先にある、楽んで行つたが可からうぞ。此玄真坊と云ふ奴、此お紺と云ふ女房があるにも拘らず、梅香と云ふスベタ女郎に現をぬかし、俺に空閨を守らせた無情冷酷なクソ爺だ。其恨が重なつて道端の立石となり、玄真坊の売僧が、通りやあがつたら通りやあがつたらと、寒い風に吹かれ乍ら、此所に待つてをつたのだ。サ、モウ斯うなりや最早百年目、ジタバタしても叶ふまい。小夜具染のお紺の面を見覚えて居るだろな』 と云ひ乍ら、カツカツと喉を鳴らした途端に、パツパツと火を吹き出し、玄真坊の禿頭を、紅蓮の舌で嘗め尽す。其熱さ苦さに、玄真坊は手足をジタバタさせ乍ら、蚊の鳴くやうな声を出して、 『オーイ、シヤカンナ、助けてくれ助けてくれ』 といふ声さへも次第々々に細つてゆく。シヤカンナは見るに見かねて、一生懸命に「一二三四五六七八九十百千万」と天数歌を歌ひ終るや、小夜具染のお紺の姿は煙草の煙の如くにフワリフワリと空中に揺れ乍ら消えて了つた。 不思議にも玄真坊は体の自由が利き出し、又もや一行の先に立ち、性こりもなく、頭を先に尻を後にポイポイと蝗の蹴り足宜しく細い脛をふん張り乍ら進み行く。三人は又もや玄真坊に瞬く内に二三町計り遅れて了つた。 コ『モシ、シヤカンナさま、余程玄真坊は罪な男と見えますな。あのお紺といふ奴、一遍玄真坊と結婚したに違ありませぬナ、玄真坊ぢやなくつても、あの面では私だつて厭になりますワ』 シヤ『サア結婚か、お紺か、み紺か知らぬが随分難かしい御面相だつた。斯様な妖怪が出没する以上は、ヤハリ地獄の八丁目に違なからうよ。マアボツボツ前進することにせうかい』 コ『何だかそこら中が淋しくなつたぢやありませぬか、丸切壺を被つてるやうな気分になりました。コオロ、お前は如何だ』 コオ『俺だつて、矢張淋しいワイ。然し乍らお紺でもお半でもよいから、チヨイチヨイ出てくれると退屈ざましになつて可いぢやないか。玄真坊にやチツと許り気の毒だけれどのう』 コ『サ、御両人、参りませう』 と云ひ乍ら先に立ち、 コ『思へば思へば不思議なる妖怪変化が現はれて 怪態な面を見せよつた玄真坊の慌て者 こんな街道の真中でよい恥さらしをやりよつた 彼奴もチツとは良心のかがやき亘ると相見えて 俺等三人を後に置き逃るが如くに行きよつた 思へば思へば可哀相ぢやなサアサア之から気をつけて 行かねばどんな妖怪が出現するかも知れないぞ 気をつけめされよ御両人八衢街道の不思議さは 到底現界ぢや見られないあゝ面白い怖ろしい 恐い悲しいジレツたい思へば思へば情ない あゝ惟神々々目玉が飛び出し相だワイ』 玄真坊は一生懸命に進行歌を唄つてゐる。 『あゝ恥しや恥しや昔の俺の女房が 執念深くも道端に石の柱と化けよつて 俺の通るを待伏せてどぎつい憂目に合せよつた ホンに女といふ奴は仕末に了へぬ代物だ 優しく云へばのし上るきつく叱れば吠えくさる 殺してやつたら化けて出る之は天下の通弊だ お紺の奴は俺の手で殺した覚はなけれ共 悋気の深い奴と見え執念深くも化けて出て 俺を食はふと云ひよつたても怖ろしい婆アだな あんな女にかかつたら黐桶へ両足を 突込んだよりもまだ辛い苦しい思ひをせにやならぬ 金と女と云ふ奴は吾身を亡ぼす仇敵と 今や漸く悟りけりとは云ふものの何処迄も 金と女は捨てられぬ人と生れた上からは どしても女と黄金が無ければ此世が渡れない 善悪互に相混じ美醜互に交はつて 此世の総が出来るのだ之を思へば地獄だと 云つた所で何怖い地獄の中にも極楽が キツと設けてあるだらうそれを思へば幽冥の 旅路も結局面白いドツコイドツコイドツコイシヨ アイタヽヽヽタツタアイタタツタ何だか知らぬが足許に 喰つきよつたに違ない皆の奴は何してる さつてもさてもコンパスの弱い奴等は仕様がない 俺はテクシーの自動車で一瀉千里の勢で こんな所迄やつて来た彼奴等三人の姿さへ 吾目に入らぬ遅緩しさ一筋道の此街道 外へは迷ふ筈がないあゝ待どうやじれつたや アイタヽヽヽアイタタツタ又もやこんな街道の どう真中に立石が出しやばりやがつて俺達の 頭をコンとやりよつた今度はさうは行かないぞ 一二三四五つ六つ七八九つ十百千 唱へてやつたら滅茶々々に烟となつて消えるだろ 一二三四五つ六つ七八九つ十百千 万の神の御降臨偏に仰ぎ奉る あゝ惟神々々恩頼を垂れ玉へ』 不思議や立石は煙の如く中空に消え失せて了つた。玄真坊は何だか前進するのが俄に恐ろしいやうな気がし出したので、少時路傍に佇んで三人の落伍組を待つてゐると、一行はヤツとの事で此場へ追つ付き来り、 シヤ『ヤ、迚も早いコンパスだのう、又お紺に出会つたのだろ』 玄『お察しの通り、お紺か何か知らぬが、又もや石柱が飛び出しやがつて、頭をおコンと打たしやがつた。けれ共な、お前の数歌の受売をやつた所、烟となつて、コツクリコと消えて了つたのだ。ても偖も数歌の威力といふものは偉いものだワイ………と此様に今感じた処だ』 シヤ『オイ玄真、向方に厳しい赤門が見えるぢやないか』 玄『ウンさうだ、いよいよ赤門だ。何だか小気味が悪いので、実アお前の追付くのを待つてゐたのだ』 シヤ『ハヽヽヽ、ヤツパリ偉相に云つても、心の大根は弱い所があると見えるワイ。サ、俺が先頭に立つから、お前等従いて来い』 と云ひ乍ら、シヤカンナは一行の前に立ち悠々と赤門に近づいた。冥府の規則として白赤の守衛が二人厳然と控へてゐる。 赤『コリヤコリヤ其方は何者だ』 シヤ『ハイ、私はタラハン城の左守の司シヤカンナと申す者で御座います』 赤は横に細長い帳面を繰乍ら、 赤『成程、お前さまの命数は尽きてゐる。直様天国へやつてやりたいは山々だが、チツと許り八衢に修業をして貰はねばならぬかも知れぬ、何事も伊吹戸主の御裁断を仰いだ上のことだ。サ、お通りなさい』 とシヤカンナの尻を叩けば、シヤカンナは風に木の葉の散る如く、フワフワフワと門内に翔つやうにして這入つて了つた。赤は玄真坊に向ひ、 『オイ汝は玄真坊と云ふ悪僧だらうがな。汝はどうしても地獄代物だ、然し乍ら未だ命数が残つてゐる。現界に未だ籍のある奴ア、此処の管轄区域ぢやない、サ、トツとと帰れツ』 玄『成程、随分私は悪僧で御座います。然し乍ら一つも成功した事は御座いませぬ。何れも未遂犯で御座いますから、どうぞ大目に見て下さい』 赤『エー、ゴテゴテ云ふな、帰れといつたら帰らぬか』 と二銭胴貨のやうな目玉を剥出せば、玄真坊は慄ひ戦き縮こまつて了ふ。 赤『オイ、そこなる両人、其方も矢張泥棒稼をやつてゐる奴だろ、コブライにコオロと云ふだろ』 コ『お察しの通りで御座います』 コオ『其通りで御座います』 赤『汝も仲々罪の重い奴だが、未だ現界に籍が残つてゐる。サア、一時も早く立ち帰れツ』 と赤門をピシヤツと閉め、白の守衛と共に門内に姿をかくした。三人は已を得ずトボトボと元来し道を七八丁許り引き返したと思へば、自分の耳元にやさしい女の声が、電話がかかつて来たやうな程度で聞えて来る。三人は揃ひも揃ふて一度にパツと気がつき四辺を見れば、自分はタラハン河の河下に何人かに救ひ上げられ、沢山の見物に取まかれ、一人の綺麗な女に介抱されてゐた。此女はトルマン国を抜出した妖婦千草の高姫であつた。 以上は甦つた玄真坊以下の幽界想念の幕である。 (大正一五・一・三一旧一四・一二・一八於月光閣松村真澄録)
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霊界物語 72_亥_スガの港(宗教問答所) 01 老の高砂 第一章老の高砂〔一八一〇〕 神の力のこもりたる如意の宝珠に村肝の 心の綱を奪はれて自転倒島を初めとし 世界隈なく駆けめぐり揚句のはては外国魂の よるべ渚の捨小舟琵琶の湖水に浮びたる 弁天さまの床下の三角石を暗の夜の 目標となして爪先の血のにじむ迄掻きまはし 断念したる玉探し産みおとしたる一人子の 所在をさがす折もあれ淡路の洲本の東助は 昔なじみの恋人と知るや忽ち恋雲に 全身くまなく包まれて又も狂態演出し 綾の聖地を追放されおためごかしに再度の 山の麓に建てられし生田の森の神館 司となりて暫くはいとまめやかに大神に 仕へ侍りし折もあれ夜寒の冬も早やあけて 若葉のめぐむ春となり再び起る婆勇み 恋の焔を消しかねて大海原を打渡り 見なれぬ山野を数越えて五月六月草枕 旅の疲れも漸くに甦生りたる斎苑館 ウブスナ山にかけ上り総務を勤むる東別 司に面会せむものと富楼那の弁の舌の先 泣きつ口説きつ詰寄れどビクとも動かぬ千引岩 鉄石心の東助を生捕る由もないじやくり 恥を忍びてテクテクと阿修羅の姿凄じく にらみつけたる斎苑館後足あげて砂をけり 肩肱怒らせ尻を振り己見てゐよ東助よ 思ひこんだる女丈夫の矢竹の心は此通り 岩に矢の立つ例あり千引の岩にも松茂る 挺子でも棒でも動かない恋の意地をば立てぬいて 居並ぶ数多の役員に泡を吹かせにやおかないと 風吹き荒ぶ阪道を徳利コブラをぶらつかせ 尻切れ草履を足にかけ鼻息荒く口ゆがめ 眼を怒らせ空中を二つの肩にしやくりつつ 地団駄踏んで上り行くあゝ惟神々々 御霊幸ひましまして思ひつめたる恋の意地 遂げさせ玉へと祈りつつ祠の森に来て見れば 思ひがけなき神の宮千木高知りて聳り立つ 荘厳無比の神徳に呆れて高姫言葉なく しばし佇み居たりしがヤンチヤ婆の高姫は 金毛九尾と還元し図々しくも受付に 大手をふりつつ進みより声厳かに掛合へば 祠の森に仕へてゆまだ日も経たぬ神司 斎苑の館の御使と信じて奥へ通しける 高姫ここに尻を据ゑ斎苑の館へ往来する 信徒等を引止めて虱殺しに吾道へ 堕落とさせむと企みつ教主の席にすましこみ 奥殿深く鎮まりぬ少時あつて受付に 訪ふ真人のメモアルはトの字のついた司ぞと 聞いて高姫膝を打ちウブスナ山の聖場に 於いてトの字のつく人は東助さまに違ひない 人目の関を恥らいて吾身を素気なく扱ひつ 心はさうぢやない(内)証の妻に会はむと河鹿山 けはしき阪を昇降し昔馴染みの高姫を 慕うて厶つたに違ひないあゝ有難い有難い 女の髪の毛一筋で大象さへも引くと云ふ 諺さへも有るものを年はとつても肉付の 人に勝れた此体吾肉体の曲線美 全身つつむ芳香を忘られ難く捨て難く 慕うて来るやもめ鳥東助さまも恋の道 少しは話せる人だなアこりや面白い面白い 人目少なき此館思ふ存分口説き立て 昔の欠点をさらけ出し顔を紅葉に染めてやらう とは云ふものの妾だとて年はとつても恋衣 着せられや顔が赤くなる赤き誠の心もて 互に親切尽し合ひ老木の枝も花盛り 小鳥は歌ひ蝶は舞ふ喜楽蜻蛉の悠々と 羽を拡げて翔つ如く天下に羽翼を伸ばしつつ 斎苑の館に鼻あかし若しあはよくばウラナイの 道を再開せむものと雄猛びするぞ凄じき 受付イルの案内で入り来る男はあら不思議 東助ならぬ時置師いつも吾身の邪魔ひろぐ 杢助総務の姿には流石の高姫ギヨツとして 倒れむばかりに驚けど副守の加勢に励まされ 膝立て直し襟正し太いお尻をチント据ゑ 団栗眼を細くしてあらむ限りの媚呈し 前歯の抜けた口許を無理にすぼめたスタイルは 棚の鼠の餅かじるその口許にさも似たり 高姫心に思ふやう吾目の敵杢助も 木石ならぬ肉の宮少しは情を知るであらう 一程二金三器量恋の規則と聞くからは 天下に比類なき程のよき高姫がこの笑凹 鬼でも蛇でも吸ひ込んで捕虜にせられぬ筈はない さうぢやさうぢやと胸の裡合点々々と首肯いて 『これこれまうし時置師杢助司の総務さま ようマアお出まし下さつた三羽烏の一人と 名を轟かすお前こそ東別に比ぶれば 幾層倍の英傑ぞ何しに御座つたその訳を つぶさに知らして下され』としなだれかかる嫌らしさ 杢助総務に変装した大雲山の大妖魅 妖幻坊は面を上げ鼻動めかし鷹揚に 赤き口をば開きつつダミ声絞りケラケラと 館も揺ぐ高笑ひ 『これこれ高チヤン生宮さま日出神の肉の宮 お前の強い恋の意地側に見る目も羨ましと 後を慕うて来たわいな東助さまには済まないが 人の前とは云ひ乍ら一旦捨てた恋の花 拾うて見るも人助け恋の奥の手と勇み立ち 一つ相談せむものときつい山阪乗り越えて 出て来た可愛い男ぞや』と祠の森の聖場で 交渉談判開始して 『二世や三世はまだ愚か五百生迄契をば ここで確り結び昆布寝てはするめの老夫婦 二人の誉も高砂やお前の持つた浦舟に 真帆や片帆をかかげつつ浪の淡路の島影に 漂ひ舟を割りし如玉の御舟を漕ぎ出して 心も安く住の江の月と花との夫婦仲 面白可笑しく暮さうか』云へば高姫喉鳴らし 好い鴨鳥を捉へたチンチンカモカモ酒祝ひ 杢助さまの銚子からさす玉の露ドツサリと 玉の盃に満たしつつ夜舟遊びをせむものと 契りも深き秋茄子種なし話に夜を明かす かかる処へ宣伝使初稚姫が現はれて 高姫さまの醜態を見て見ぬふりをなし乍ら 駒を停めて稍暫し祠の森の曲津見を 払はむものとスマートに旨を含ませ床下に 忍ばせおきて妖幻坊高姫司を神の在す 高天の原に救はむと心も千々に砕かせつ とどまり玉ふ折もあれ妖幻坊は逸早く 高姫引連れ雲霞何処ともなく逃げ失せぬ あゝ惟神々々神の恵みに照されて 醜の高姫行衛をば完全に委曲に明し行く 神の出口の瑞月が日本三景の一と聞く 風光明媚老松の白砂の浜にそそり建つ 天の橋立背に負ひなかや旅宿の別館に 口述台の舟に乗り心も清くいさぎよく 妖幻坊や高姫の恋と欲とに迷ひたる その経緯を詳細に伝へ行くこそ床しけれ あゝ惟神々々御霊幸へましませよ。 (大正一五・六・二九旧五・二〇於天之橋立掬翠荘北村隆光録)
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霊界物語 72_亥_スガの港(宗教問答所) 06 夜鷹姫 第六章夜鷹姫〔一八一五〕 妖幻坊、高姫の二人は太魔の島に繋いであつた小船を失敬し、四五町許り湖上を進んだ折しも、矢を射る如く一艘の小船此方を指して馳せ来るに出会した。高姫は目敏くも其船を見てハツと胸を轟かせながら顔色を紅に染めた。妖幻坊は此体を見るより稍不審を懐き、 妖『改めて千草の高姫様、いや女帝様、凄い御腕前にはこの杢助、驚愕否感激仕りました。帰命頂礼謹請再拝謹請再拝』 高『これはしたり、杢助様、妙な事を仰しやいますね、何をそれ程感激なさつたのですか。他人行儀に改まつて謹請再拝だなんて、よい加減に揶揄つておいて下さいな』 妖『忍ぶれど色に出にけり吾恋は 物や思ふと人の問ふ迄。 と云ふ百人一首の歌をお前知つて居るのだらう』 高『ヘン、馬鹿にして下さいますな、そんな歌位よう知つて居ますよ、それが一体何だと仰有るのです、怪体の事を云ふぢやありませぬか』 妖『お前は今彼処へやつて来た一艘の船の若者を見て、顔を紅葉に染めたぢやないか、お前の寝ても醒めても忘れる事の出来ない恋人に相違あるまいがな、さうだから凄いお腕前だと云つたのだ』 高『何の事かと思へば又嫉いて居るのですか、水の上で妬くのも余り気が利かぬぢやありませぬか。サ、そんな気の利かぬ事を云はないで艪を操つて下さいな』 妖『艪を操るより実はあの男の艶福家にあやかり度いのだ。トルマン城の王妃の君、千草の高姫さまに思はれた天下唯一の美男子だからなア。俺のやうな虎とも獅子とも訳の分らぬ毛の深い男と一緒に暮すよりも、縮緬のやうな肌をした若い男と同棲した方が、どの位世の中が楽しいか分らないからのう。いや醜男には生れて来たくないものだ』 高『それや何を仰有います、よい加減に妾を虐めて置いて下さいませ』 妖『本当にお前はあの男を知らぬと云ふのか』 高『絶対に知らない事は知らないと云ふより外に道はありませぬもの』 妖『日出神の生宮、底つ岩根の大ミロク様の身魂は、決して嘘は云はないでせうね』 高『勿論の事です』 妖『そんなら此処で一つお前と約束しよう、お前が知つて居るか居ないか、あの船を追つかけてあの若者に会はして見よう。もし、向の方からお前の顔を見て何とか言つたら決して知らぬとは言はさないからな、関係のない男女には言葉を交さないのがこの国の規則だ。又只一度でも関係したら、内証でも言葉をかけなければならぬ規則だから、どうだ高姫、知らぬと云ふなら調べて見ようか』 高『なんとマア嫉妬心の深い執念深い人だこと、もうそんな事は水に流して一時も早うスガの港に行かうぢやありませぬか』 妖『お前がさう云へば云ふ程私の疑が増して来る許りだ。若しお前に関係があつたとすれや如何して呉れる。サアそれから定めておこう』 高『さう疑はれちや行り切れませぬから、貴方の御勝手に調べて下さい、さうしたら屹度疑が晴れるでせう。妾の身は晴天白日ですからなア』 妖『よし、おい出た。サアこれからが化の皮の現はれ時ぢや、高姫さま、確りなさいませや』 高『何なと仰有いませ、その代りあの男と妾と関係が無かつたと云ふ事が分つたら、どうして呉れますか』 妖『ハヽヽ如何するも斯うするもない、分つたらお前も疑が晴れて結構だらうし、俺も嫉妬心がとれて大慶だ。万々一俺の云ふ事が違つたら今後どんな事でもお前の云ふ事に絶対服従を誓つておく。しかし俺が勝つたらどんな事でもお前は俺の無理難題を聞くだらうなア』 高『あもやの喧嘩で餅論ですワ』 「よし面白い」と云ひ乍ら妖幻坊は船首を廻し一艘の船を目当に追かけて行く。一艘の船は自分の現在盗つて来た船の繋いであつた場所へと横づけとなつた。妖幻坊はオーイオーイと熊谷もどきに呼はり乍ら早くも岸辺についた。梅公別は二人の姿をつくづく眺めながら、 『ヤア、誰かと思へば千草の高姫さまで御座つたか、其後は打ち絶て御無沙汰致しました。貴女のお居間でグツスリと寝さして貰ひ、いかい失礼を致しましたが、ますますお達者でお目出とう、見れば立派なお婿さまをお貰ひなさつたやうですね。私とても万更他人ではありますまい。併し女と云ふものはよう気の変るものですね。どうか私の時のやうに、気の変らないやうに、今度の婿さまを大切にして上げて下さいや。斯う云ふても私は貴女に再縁を迫るやうな事もありませぬから御安心下さいませや。さうしてお二人お揃ひで此島へ何の御用でお出ですか』 高姫『これはこれは何処の方かは知りませぬが、人違ひをなさるも程がある。成程妾は千草の高姫に間違はありませぬが、広い世界には同じ顔をした女もあり、同じ名の女もあるでせう、そんな事を云ふて貰うと夫ある妾、大変に迷惑致します』 梅公『高姫さま呆惚けちやいけませぬよ、人違ひするやうな老眼でもなし、昼夜間断なく夢にまで貴女の姿を見て探して居る私、どうして間違へる気遣ひがありませうか』 妖幻坊は面色朱を注ぎ身体一面、慄はせ乍ら高姫と梅公をグツと睨めつけ、 妖『これや、そこな青二才奴、誰に断わつて俺の大切の女房と何々しやがつたか、サ、その理を聞かせ、返答次第によつては容赦は罷りならぬぞ。これや女帝、いや阿魔奴、夜鷹、辻君、惣嫁、十銭、下等内侍、蓆敷奴が、八尺の男子を今迄馬鹿にしよつたな、サアこの裁きを確りと付けて貰ひませうかい』 高『これ杢助さま、辻君だの、十銭だの、蓆敷だの、余り情ないお言葉ぢやありませぬか、妾こそ全く知らないのですもの。此人は妾の美貌を見て精神が錯乱したのでせう、さうでなければ見ず知らずの妾を見て、こんな事を云ふ道理がありませぬもの』 妖『マアこの青二才はこの島に置いておきや逃げる気遣ひはない、その代り此の借船は預かつて置く』 と確りと自分の船尻に縛りつけ二三町許り沖へ漕ぎ出し、 『サア、夜鷹さま、斯うなつちや此方のものだ。本当の事を云ふて貰ひませうかい』 高姫は進退これ谷まり隠すにも隠されず虚実取混ぜて覚束なくも白状をする。 『前斎苑の館の救世主、神素盞嗚尊の三羽烏の御一人、第一霊国の御天人様、曲輪の術に妙を得たる天下無双の英雄豪傑、縦から見ても横から見ても、頭から見ても、尻から見ても、何処に一所穴のない吾夫様、其御慧眼には遉の千草の高姫も感嘆の舌を捲かざるを得ませぬワ』 妖『何だ、長たらしい俺の名を並べやがつて、機嫌を取らうと思つたつて其の手に乗るものか、善言美詞も時と場所によるぞ。阿婆摺れ阿魔奴、そんな追従は聞きたくない。貴様の恋人に間違ひはなからうがな、女なら女らしくあつさりと白状しろ』 高『エヽもう斯うなれや破れかぶれだ。サア私をどうなとして下さいませ、お前さまに捨てられちや、最早此世に生甲斐もありませぬから、覚悟を決めました。サア、早う殺しなさい』 と糞度胸を据ゑて、もたれかかる。 妖『それ程殺して欲しけれや、敢て遠慮はしない覚悟だが、併しお前を殺すと忽ち困るのは俺だ。お前の美貌を種に一芝居打たにやならぬからのう』 高『ホヽヽヽヽ、それやさうでせうとも、ねえ貴方、どうして此の可愛い女房に刃が当てられませう、そこが人情の美しいところ、見上げたるお志、益々好になつて来ましたワ』 妖『エヽ馬鹿に晒すない、すべた阿女奴。それよりも約束を履行して何でも俺の云ふ事を聞いて貰はうかい』 高『ハイ何なりと聞きませう、お前さまが死ねと仰有つても嫌とは云ひませぬ、(低い声)ことはないけど、マアマア何でも聞きますから仰有つて下さい』 妖『そんなら俺に誠意を現はす為め、あの男を甘くちよろまかして魔の森へ甘く放り込んでくれ。さうすれや彼奴は蟻や蜘蛛に命を奪られて仕舞ふから、俺もお前に尻を振られる心配もなし、夜の目も楽に寝られると云ふものだ。どうだ得心か…黙つて返事をせぬのは嫌と吐すのか』 高『イエイエ、決して決して嫌とは申ませぬ、夫の為になる事なら、如何な事でも命を的に決行して御覧に入れませう、サア早く船をつけて下さい』 妖幻坊は「お手並拝見」と云ひ乍ら梅公別の上陸した地点に引き返し見れば、梅公は二人の様子の唯ならぬに気を揉み、万々一大喧嘩でも湖上でおつ始めよつたら、忽ち湖中に飛び込み二人の危急を救はむと、じつと様子を見て居たのである。雲突く許りの妖幻坊は高姫と共に上陸し、 妖『其処に居る青二才奴、此方の云ふ事をよつく承はれ、吾こそは斎苑の館の総務を勤むる時置師の杢助だ。其方は照国別のヘボ宣伝使の草履持を致す木端野郎だらうがな。俺の女房と慇懃を通じたとか云ふ話だが、今日は大目に見ておくから、以後は必ず慎んだが宜からうぞ』 梅『ヤ、貴方が噂に高き時置師の神、杢助様で御座いましたか、存ぜぬ事とて偉い失礼を致しました。高姫さまと私との仲は双方共一度は恋慕致しましたが、未だ要領は得て居りませぬ。それ故赤の他人も同様ですから、余り貴方からお咎めを蒙る訳も御座いますまい』 妖『ハヽヽヽヽ、口は調法なものだのう、ゴテゴテ云ふにや及ばない、お前の良心に問うたら分るだらう。 人問はば鬼は居ぬとも答ふべし 心の問はば如何こたへむ。 と云ふ道歌を知つて居るだらう、俺も男だ、敢て追及はしない。高が青二才の一匹や二匹つかまへてゴテゴテ云ふのは時置師の沽券にも関するから、寛大の処置を取つて不問に付しておく、有難う思へ』 高『もし梅公別様、時置師の神様はあゝ仰有つても決してお前さまを憎むやうな方ぢやないから悪く思はないやうにして下さい。併しあたいに恋慕したつて駄目ですから其点は固く堅く注意しておきますよ。お前さまも宣伝使の卵ださうだから、一つ手柄初めにこの魔の森に落ち込んで苦んで居る男女の命を救けておやりなさい。さうすれや杢助さまの怒もとけ、お前さまの手柄も立つと云ふもの、どうです一つ侠気を出して決行する気はありませぬかな』 梅公別は言霊別の化身で高姫や妖幻坊の正体を感知しない筈はない。さうして魔の森に高姫に誑かされ、二人の若き男女が蟻に責められ蜘蛛の糸にまかれ苦んで居る事は、既に已に常磐丸の船中に於て透視して居るのである。夫故に梅公別は両人を救ふべく小舟を操つて一人此所に上陸したのである。梅公別は早速鎮魂の神業を魔の森に修し、強き神霊を送つて居たから蜘蛛も蟻も如何する事も出来ないのを知つて居た。それ故泰然自若として妖幻坊、高姫の船中の争を見物して居たのである。今高姫が侠気を出して二人の男女を救へと云つた心の奥底は、梅公別をあの蟻の魔の森に飛び込ましめ、喰ひ殺さしめむと企んで居る事もよく承知して居た。それ故梅公別は二つ返事で承諾し妖幻坊、高姫の目の前で泰然自若魔の森へ飛び込んで仕舞つた。妖幻坊、高姫は両手を拍つて高笑ひ、竹藪の入口に進みよつて腮を突出し尻を叩き所在罵詈嘲笑を逞うし「ゆつくりお喰れなされ」と捨台詞を残し、再び船に身を任せ、何処ともなく浮び行く。梅公別は無事に二人を救ひ出し、暫し大銀杏の根下に腰打ちかけ、種々の成行き話を二人より聞き取り乍ら三人一つの小船に身を任せ、スガの港をさして進み行く。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一五・六・二九旧五・二〇於天之橋立なかや旅館加藤明子録)
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霊界物語 72_亥_スガの港(宗教問答所) 14 新宅入 第一四章新宅入〔一八二三〕 ハルの湖水を渡る折俄に吹き来る暴風に 高砂丸は沈没し妖幻坊の杢助は 高姫背に負ひ乍ら浪の間に間に漂ひつ 漸く湖中に浮びたる竹生ひ茂る太魔の島 銀杏の浜辺に着きにけり茲に二人は種々の 良からぬ事をなし終へて浜辺の船を奪ひとり 杢助艪をば操つりつもとより慣れぬ海の上 浪のまにまにくるくると彼方や此方に流されつ 終日終夜を水の上腹を減かして彷徨ひつ やうやうスガの港迄命辛々着きにける 高姫杢助両人は湖辺に沿ひし饂飩屋に 一寸立ち寄り減腹を癒せる折しも道を往く 人の噂にスガの山三五教の大宮が 千木高知りて新しく建てられたりと聞くよりも 食指は大いに動き出し何とか工夫を廻らして 其聖場を奪はむと考へ居るこそ虫の良き 日も黄昏になりければ目抜きの場所なる中の町 タルヤ旅館に乗り込んで一夜の宿を求めつつ 二人は此処にやすやすと甘き睡りにつきにけり。 高姫、杢助は朝早くから起き出でて宿屋の様子を考へて居ると、見た割合とは広い屋敷で新しい別館が建つて居る。さうして其別館は北町の街道に面し、布教や宣伝には極めて可い家構であつた。妖幻坊は曲輪の術を使ひ、庭先の木の葉を七八枚拾つて来て何かムサムサ文言を唱へると、それが忽ち百円札に変つて仕舞つた。そつと懐中に秘め置き素知らぬ顔して高姫の前にどつかと坐し、 『オイ、千草の高チヤン、何と此処は良い家構ぢやないか。お前の得意な布教宣伝とやらを此処で行つたら面白からうよ』 高『成程、遉は杢助さまだ。よう気がつきますこと、妾も一つ三五教の奴がスガの山で立派なお宮を建て、大変に偉い勢で宣伝して居ると云ふ事だから、何だか知らぬ気色が悪くて耐らぬので、直様スガの山に乗り込んで、神司の面の皮をひん剥き、道場破りをやつてやらうかとも考へましたが、それでは余りあどけない、無理に占領したと町人にでも思はれちや後の信用に関するので如何せうかなアと今考へて居た処ですよ。併し何程結構な都合のよい家だと云つても一旦湖にはまつて真裸となり、旅費も何もなくなつて仕舞つたのだから、家を借やうもなく、仕方がないぢやありませぬか。斯うして偉さうに宿屋に泊つて居るものの、サア御勘定と云ふ時は如何せうかと思つて、さう思ひ出すと宿屋の飯も甘く喉を通らないのですもの、今晩は甘く夜抜けをしないとグヅグヅして居ると無銭飲食とか何とか云つてバラモンの役所に引張られますからなア』 『ハヽヽヽ御心配御無用だ。そんな事に抜目のある杢助だないよ。一層の事あの別館を主人に相談して買取つたらどうだらう』 高『買取ると云つたつてお金がなけれや仕様がないぢやありませぬか。せめて手附金でもあれば話も出来ますが、昨夜の宿料もないやうな事で、如何してそんなことが出来ませうか。アヽ斯うなれやお金が欲しいワイ』 妖『俺もお金が欲しいのだけれど、お札はあつてもお金は些しもないのだから、 札や手形は沢山あれど どうか(銅貨)こうか(硬貨)に苦労する とか何とか云つてな、硬貨が無けれや矢張話しても効果がないと云ふものだ。併しどうか(銅貨)してあの家を手に入れたいものだな』 高『硬貨がなくても紙幣さへあれば結構ですが、紙らしいものは鼻紙一つ無いのだもの、仕方がないワ』 杢助はニツコと笑ひ懐を三つ四つ叩き乍ら、 『オイ、高チヤン、此処に一寸手を入れて御覧。お前の大好物が目を剥いて居るよ』 高姫は訝かりながら矢庭に妖幻坊の懐に右手を挿し込むと、切れるやうな百円札が七八枚手に触つた。アツと驚き尻餅をつき、 『ヤアヤアヤアこれこれ杢チヤン、危ない事をしなさるなや。お前さまは昨夜妾の寝て居る間を考へて何処かで何々して来たのだらう、ほんたうに怖ろしい人だワ』 妖『ハヽヽ、さう驚くものぢやない、この杢助は決して泥棒なんかしないよ、曲輪の術を以て庭先の木の葉を拾ひ一寸紙幣に化かしたのだ』 高姫は曲輪の術と云へば一も二もなく信ずる癖がある。 『マアマア、偉いお方だこと、夫でこそ日出神の生宮の夫ですワ。この金さへあれば一つ主人に交渉つて、あの家を手に入れるやうにせうぢやありませぬか。裏には又離棟も建つて居ますなり、お前さまがお休みになるには大変都合がよろしいからなア』 妖『ウンさうだ。何うも別棟がないと俺はとつくり休めないからのう、どうだいお前主人に交渉つてくれないか』 高『ハイ、承知致しました』 と云ひ乍らポンポンと手を拍ち鳴らす、暫くあつて一人の下女、襖をソツと開き淑に両手をつき、 下女『お召しになりましたのは此方で御座いますか』 高『アヽさうだよ、お前は此家の下女と見えるが、下女には用がない、一寸御亭主を呼んで来て下さい、さうして序に昨夜の勘定書をね』 下女は「ハイ畏ました」と云ひ乍ら、足早に出でて行く。高姫は杢助の懐から出た紙幣を引繰かへし引繰かへし眺めたが、どうしても贋物とは見えぬ。勇気百倍して主人の来るのを今や遅しと待つて居ると、顔中にみつちやの出来た五十恰好の爺、テカテカ光つた頭をヌツと出し、 亭主『ハイ私は当家の主人で御座います、お召によりまして罷りつん出ました』 高『勘定書は幾何だな』 亭『ハイ、お二人様で一円五十銭頂戴致します』 高『そんなら、これは茶代と一緒だよ』 と云ひ乍ら百円紙幣を投げ出せば、亭主は驚いて二人の顔を見詰め乍ら、 『こんな大きなお金を頂戴致しましても剰銭が御座いませぬ、何卒小かいのでお願ひ致します』 高『イヤ剰銭が無けりや宜敷い、一円五十銭は昨夜の宿泊料、九十八円五十銭はお茶代だよ』 亭『宿屋業組合の規則で茶代を廃止して居る今日、こんな物を頂戴しましては仲間をはねられますから、どうぞお納め下さいませ』 高『アヽ茶代が悪けれや、お土産として上げて置かう、それなら好いだらう』 亭『ハイ、お土産なら幾何でも頂戴致します。有難う御座います。どうぞゆるゆるお宿り下さいませ、どうも不都合で御座いますが暫く御辛抱願ひます』 高『時に亭主殿、旦那様の思召だが、あの庭先の向ふに建つて居る別館は当家の所有物かえ』 亭『ハイ、左様で御座います。漸く建ち上り畳や襖を入れた処ですが未だ誰も入つて居りませぬ、ほんたうに新しい所です』 高『お金は幾何でも出すからあの家を使はして貰へますまいかな』 亭『ハイ、毎度御贔屓に預りまする外ならぬお客様の事ですから、お言葉通り、譲りでもお貸しでも致します』 高『同じ事なら譲つて貰ひ度いのだがな、借家は雑作するのにも一々お答をせにやならないからな』 亭『一々御尤で御座います、何ならお譲り致しませう』 高『幾何でわけて呉れますか、お金は幾何いつてもかまはぬのですから』 亭『些とお高いか知れませぬが、五百円で願ひたいものです』 高『サアそんなら五百円受け取つて下さい。さうしてこの百円は何彼とお世話にならねばならぬから、お心づけとして上げて置きませう』 亭主は実の処別館は借家人が首を吊つて死んだ為め、夜な夜な幽霊が出るとか化物が出るとか噂が高くなり家の借り手もなく、家内の者さへも気味悪がつて入らないので持余して居つた処、大枚五百円、しかも即金で買うてやらうと云ふのだから、棚から牡丹餅でも落ちて来たやうに「ハイハイ」と二つ返事で其場で売渡証を書いて仕舞つた。これより杢助、高姫は其日の中に別館に引き移りウラナイ教の大看板を掲げて、宣伝の準備に取りかかつた。 高『サア杢チヤン、気楽な自分の巣が出来たから、ゆつくり休んで下さい。そして明日からは大に活動をして大勢の信者を集め、スガの山の三五教に一泡吹かせにやなりませぬぞや』 妖『アヽ又しても明日から耳が蛸になる程第一霊国の天人、日出神の生宮、底津岩根の大ミロク、三千世界の救世主、ヘグレのヘグレのヘグレ武者ヘグレ神社の大神、リントウビテンの大神、木曽義姫の命、ジヨウドウ行成、地上丸、地上姫、耕大臣、定子姫の命、杵築姫、言上姫とか何とか云ふやくざ神さまの名を聞くのかと思へば今から頭が痛むやうだワイ』 高『これ杢チヤン、これ程妾が一生懸命になつて神様のお道を開かうとして居るのに、何時も何時も妾を嘲弄するのですか。神様の名を聞いて頭が痛いの、目が眩うのと云ふ人は罰当りですよ』 妖『さうだから、ウラナイ教はお前様にお任せ申してこの杢兵衛さまは離棟の一室に立籠り上げ股うつて休まして貰ふのだ。宣伝の邪魔をしても済まないからなア』 高『お前さまは余り人物が大き過ぎて人民に直接の布教は不適当だから昼の間は離棟でお休みなさい、そのかはり夜分になつたら御用を仰せつけて上げますからねえ、ほんとに嬉しいでせう、可愛いでせう』 妖『まるで俺を種馬と間違へて居るやうだなア。どれどれ山の神様の御機嫌のよい中に離棟に参りませう。サアこれから日出神の生宮、大ミロクさまを売り出しなさい』 と云ひ乍らドシンドシンと床板をしわらせ乍ら離棟座敷へ大きな図体を運び、中から錠まいを卸し元の怪物と還元し大鼾声をかき寝て仕舞つた。妖幻坊は人間に化けて居るのが非常に苦しいので、外から見えない一室を何時も必要として居るのである。高姫はいよいよ一陽来復春陽到れりと太いお尻を振り乍ら大道を声張上げて宣伝し初めた。尻は大きいが何と云つても千草姫の肉体、何処とはなしに気品も高く器量もよし、物さへ云はねば何処の貴夫人か、弁天様の再来かと疑はるる許りの美貌であつた。高姫の必死の宣伝は忽ち功を奏したと見え、其翌日からはワイワイと老若男女が詰めかけて鮓詰の大繁昌、スガ山の神殿よりも参詣者が幾層倍増へるやうになつて来た。 (大正一五・六・三〇旧五・二一於天之橋立なかや旅館加藤明子録)
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霊界物語 72_亥_スガの港(宗教問答所) 20 九官鳥 第二〇章九官鳥〔一八二九〕 キユーバーは、杢助に呶鳴りつけられ高姫には嘲笑され、お為ごかしに五百円で買つた北町の家を貰つた事は貰つたものの、杢助、高姫の事だから、何時変替を云うて来るかも分らない。 キユーバー『エヽ本当につまらない、高姫さまの提灯持をして町々をふれ廻り、杢助の奴は手を濡さずして結構な神館を占領し、千草姫と喋々喃々、意茶ついて居るかと思へば、ごふ腹で耐らないワ。待て待て茲が一つ辛抱のし所だ、時節を待つて杢助を叩き出し、完全に高姫を此方の物となしスガの神館の神司となつて一つ羽振を利かしてやらう』 と、伊万里焼の達磨の出来損なひのやうな面構を晒し乍ら悄々と帰つて行く。北町の神館に帰つて見ればきちんと錠が卸り、こじても捻ぢても、些とも開かない。 キユ『エヽ杢助の奴人を馬鹿にして居やがる。待て待て、ひよつとしたら隣の元の家主に鍵を預けて置きやがつたかも知れぬ』 と呟き乍ら樽屋の表へ立はだかり、 キユ『御免なさい、拙僧はウラナイ教本部の高等役員キユーバーですが、もしや杢助さまが鍵でも預けては置かなかつたでせうか、一寸お尋ね致します』 主人の久助は蛙の鳴くやうな妙な声がするので表へ来て見ると妖僧が立つて居る。 久助『ヤ、御用で御座いますかな』 キユ『別に用と云ふやうな事はありませぬが、今日からあの神館は拙僧の所有物となり居住する積りです。杢助さまが鍵でも預けて置きはしませぬかな』 久『確に預かつて居ますが、………この鍵は誰が来ても渡して呉れな………との仰せ、仮令貴方がお買ひになつても滅多にお渡し申す訳には参りませぬ』 キユ『元来この家の代金は拙者が三百円、杢助さまが三百円出して買つたのですから、当然半分は拙者の物、併し乍らお前さまも聞いて居られるだらうが、スガの宮の神館は問答の結果、杢助さまの領有となり、最早此神館は不必用となつたので、拙僧に買つて呉れぬかとのお頼みだから、残り三百円をおつ放り出し今買つて来たのですよ。怪しう思はれるのなら、余り遠くもないからスガの神館迄行つて調べて来て下さい』 久『あのお金はさうすると貴方が半分お出しなさつたのですか、ヘエー』 キウ『さうですとも、拙僧はスコブッツエン宗の教祖大黒主様の片腕とも云ふべき豪僧だ、何時もお金が懐に目を剥いて居る。杢助如きは諸国修業の遍歴者だからお金の有らう筈はなし、話に聞けば、ハルの湖で高砂丸に乗り込み、高姫が暴風雨に遇うて沈没したので、夫婦共真裸となり、命辛々スガの港に着いた位だから、一文半銭も金を持つて居る道理がないのだ。あの三百円も実は怪しいものだよ。どこかで何々して来よつたのかも知れたものぢやない』 久『アヽ左様で御座いますか。そんなら如才は御座いますまいから鍵をお渡し申ます』 と懐より取り出しキユーバーに渡した。キユーバーは機嫌を直しながら肩を四角に揺り、北町の小路を大股に跨げて帰り行く。 キユ『ヤア久し振に俺の巣が出来たワイ、ヤ巣では無い御本丸が出来たのだ。弥々今日から北町城の城主天然坊キユーバーの君様だ。斯うなると第一に必要なものは嬶村屋だ、否女帝様だ。何れこの神館へは些つとは美しい女も参つて来るだらう、四五日の間に物色して、これぞと云ふ奴を選み出し、当座の鼻ふさぎに引つ張り込んで置かう、その間に千草姫が何とかならうから』 等と独言をほざき乍ら、押入れから夜具を引つぱり出し、揚股をうつて寝て仕舞つた。 暫くすると、トントンと表戸を叩いて隣のお三がやつて来た。 お三『御免なさいませ、キユーバー様はお宅で御座いますか』 武士の子は轡の音に目を醒まし乞食の子は茶碗の音に目を醒まし キユーバーは女の声に目を醒ます寝呆けた顔を撫でながら ひびきのいつた濁声で キユ『ハイハイハイハイようお出で何用あつて御座つたか 御用の赴き聞きませう』と寝床を立つて上り口 火鉢の前に四角ばりお三の顔を睨つける お三はぎよつとしながらも揉手をなして丁寧に 鈴の鳴るよな声出して お三『これはこれは当家の主のキユーバー様お寝み中を驚かしまして 誠に申訳御座いませぬ妾は主人の言ひつけで お伺ひ申しに参りましたやがて主人が見えますから 何処へも往つては下さるな』云へばキユーバーは禿頭 縦に揺つて涎繰り キウ『てもまア綺麗な女だな俺もお前の知る通り 今日から此所の主とはなつたれど飯たく女もない始末 お前のやうな渋皮の剥けた女をいつ迄も 宿屋の下女にしておくは可惜ものよ勿体ない おほかたお前を俺の女房に貰うて呉れとの掛合に 久助さまがエチエチと媒介せうとて来るのだらう お前も俺に添うたなら今日から此方の奥様だ この家屋敷もすつかりとお前と俺の共有物 俄に蠑螈が竜となり天上したよな出世ぞや キユーバー司の救世主はお前の為には福の神 あまり憎うはあるまい』と曲つた口から吹き立てる お三は顔を赤くして お三『これこれ申しキユーバーさまそんな話ぢやありませぬ 深い様子は知らね共杢助さまが渡された お金がさつぱり夜の間に木の葉になつて仕舞うたと 親方さまの御立腹これや斯うしては居られない お役人衆に訴へてお前と杢助夫婦をば 縛つて貰ふかと御相談妾は聞くに聞き兼ねて まうしまうし御主人様御立腹遊ばすは尤もなれど 短気は損気と申ます一先づ隣のキユーバーさまに 実否を糺した其上で訴へなさるが宜からうと 申上げたら御主人はそんならお前に任すから キユーバーが居るか居らないか調べて来いとの御命令 よもや如才はありますまいが贋札などを使うたら お上の規則に照らされて臭いお飯食はにやならむ それが気の毒と思うた故主人の鋭鋒止めおいて 親切づくで来ましたよ』云へばキユーバーは驚いて キユ『そんな怪体の事あろか正真正銘の百円札 手の切れさうな新しい立派なお金ぢやなかつたか 昨夜の間に泥棒がお前の家へ飛び込んで お金をすつかりかつ攫へ木の葉とかへておいたのだらう そんな馬鹿らしい出来事が三千世界にあるものか 何は兎も角久助を連れて出て来いキユーバーが 天地の道理を説き聞せ疑念晴してやる程に アハヽヽハヽヽ訳もないしやつちもない事云うて来る』 などと嘯き取合はぬお三は止むなく立帰り 主人の前に両手つきキユーバーの言葉其儘に 委曲に談れば久助はしきりに首を振り乍ら キユーバー館をさして行くキユーバーは又もや揚股を 打つて鼻歌謡ひつつ冥想に耽る折もあれ 表戸ガラリと引開けて血相荒く入り来る 樽屋の主久助は御免なさいと慳貪な 言葉の端も荒らかに庭にすつくと立つたまま 久助『山子坊主のキユーバーさまお前はよつぽど悪党だ 杢助夫婦と腹合せ魔法を使つて木の落葉 金と見せかけ甘々と大事の大事の吾家を 横領いたした曲者よもう了見はならない程に 如何な云ひ訳なさろとも決して耳は借しませぬ バラモン役所へ訴へて私が白いかお前等の 腹が黒いかきつぱりと分けて貰はにやおきませぬ 覚悟を定めて居て下されよいま番頭をお役所へ 出頭さしておきましたやがて縄目の恥をかき 町内隈なく籐丸籠に乗せられて詐欺横領の罪人と 引き廻されて町人の笑ひの種となつた上 お前の命は風前の燈火となつて消えるだろ 南無阿弥陀仏阿弥陀仏頓生菩提惟神 目玉飛び出しましませ』と体をぷりぷりゆすりつつ 閾を蹴たてて帰り行く後にキユーバーは手を組んで キユ『自分の金でもないものを自分の金だと法螺吹いた 其天罰が報い来て杢助夫婦の罪科の 相伴せなくちやならないかほんに思へば口惜しい 昔の聖人の教にも口は禍の門とやら もうこれからは心得て決して嘘は言はうまい とは云ふものの此証りどしたらはつきり立つだらう』 などと青息吐息つき表戸ぴしやりと引きしめて 離棟の館に立籠り中から錠を卸しおき 長持開けて中に入り布団被つて慄ひ居る キユーバーの身こそ憐れなり。 (大正一五・七・一旧五・二二於天之橋立なかや別館加藤明子録)
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霊界物語 72_亥_スガの港(宗教問答所) 22 妖魅帰 第二二章妖魅帰〔一八三一〕 スガの宮の神司玉清別を初め、天人のやうな三人の美人が千草の高姫と問答の結果、放逐されたと云ふ評判が、スガの町を初め近在近郷迄電の如く俄に拡がつて了つた。それ故スガの神館は押な押なの大繁昌、立錐の余地なき迄参詣者が集まつて来た。宗教問答所の看板は矢張り以前のまま掲げられ、唯違つた所はヨリコ姫の名が千草の高姫と書き替へられた許である。智仁勇の三徳を備へたと許り町人の評判になつて居たヨリコ姫を、説き伏せるやうな千草の高姫は、どんな偉い奴かも知れないと云ふので、看板はあつても問答せうと云ふものは一人もなかつた。妖幻坊は例の如く離棟の室に固く錠を卸して昼の中は眠つて居る。 コオロ、コブライの二人は偵察隊として朝未明より入り来り玄関に立ち塞り、「頼まう頼まう」と呼はれば、悠然として現はれ来る千草の高姫は、 『玄関に頼むと声をかけゐるは 誰が命か聞かまほしさよ』 コオ『吾こそはスガのお宮に詣で来て 看板を見て問答せむと思ふ』 コブ『吾とても宗教問答所の看板を 見て腹が立ち君を訪ひけり』 高『面白し睡けさましに汝二人 吾言霊に薙ぎふせて見む』 コオ『偉さうに仰有りますな照月に 黒雲かかるためしこそあれ』 コ『如何ほどに智慧さかしとも女の身 太い男に勝ち得べきかは』 高『男てふ衣被りしこけ女 なにかはあらむ一時に来よ』 コオ『今暫し待つて御座れよ眩ひする やうな珍事が突発するぞや』 コ『何なりと吐いてござれ今暫し 汝が断末魔近くありせば』 高『見る影もなき木わつ葉が玄関に 立ちてたはごと吐くをかしさ』 コオ『高姫よ暫く待てよ汝こそは 見る影もなきやうにしてやる』 コ『偉さうに云つても一寸先見えぬ 曲津の盲哀れなるかな』 高『朝早く神の館に乗込んで 縁起の悪い口を開くなよ』 コオ『己が尻つめつて人の痛さをば 知らぬ愚者あはれなりけり』 コ『身も魂も痺れ果てたる曲津身は 刃にさすも耐へざるらむ』 高『訳もなき事をベラベラ吐くより 便所の掃除なりとせよかし』 コオ『スガ山の塵吹き払ふ大掃除 日のある中に初めて呉れむ』 コ『神々がいよいよ表に現はれて 狸の尻尾露はして見む』 高『何を云ふ狐狸の身魂奴が 誠の神の前恐れぬか』 コオ『間男か真の神か知らねども どこやら臭い糞の香ぞする』 コ『臭い筈千草の姫と云ふぢやないか 鼻高姫よ鼻を折られな』 高『吾こそは高天原より下りしゆ 名を高姫と云ふぞ尊き』 コオ『何吐す訳も知らずに偉さうに 頬桁たたく事のをかしさ』 コ『この女郎妖幻坊の妖怪に 現をぬかす馬鹿女かも』 高『やかましい玄関先でつべこべと 恥を知らぬか木わつ葉武者共。 神館訳の分らぬ奴が来て 吾魂を汚がさむとぞする』 と云ひ乍らスタスタと踵を返し奥に入る。 コオ『これや女俺が怖くて逃げるのか どこどこ迄も追つて往くぞや』 コ『面白いとうと尻尾をまきやがつた 奥の一室にふるて居るだろ』 二人は執念深くも玄関をつかつかと上り、問答席に入つて見ると高姫は怪訝な顔して問答席に控へ居しが、二人の姿を見るより、 『どこ迄も礼儀を知らぬ馬鹿男 許しも得ずに奥に入るとは』 コオ『天地の神の道をば知らずして 図々しくも聖地に居るとは。 魂消たよおつ魂消たよ千草姫 見ると聞くとは大違ひなる』 高『何なりと勝手な熱を吹くがよい 分らぬ奴は相手にはせぬ』 コオ『甘い事云うて逃げるか千草姫 どこどこ迄も調べにやおかぬ』 コ『今日の中金毛九尾の正体を 現はし呉れむあら頼もしや』 高『奴共早く帰れよ神館 汚せば神の冥罰うけむ』 コオ『甘い事云うておどすか千草姫 尻があきれる雪隠がおどる』 コ『糞婆の癖にお白粉べつたりと 化けて居やがる金毛九尾奴』 高『貴様等は館を汚しに来たのだろ 何とも云へぬ臭い香がする』 コ『知れた事道場破りをおつ初め 尻尾出すまで戦ひ止めぬ』 高『是はまた困つた奴が来たものだ 青大将奴線香立てよか』 コオ『蛇が蛙狙つた時の如く 呑んで仕舞はにや帰りやせないぞ』 コ『山鳩が豆鉄砲を食つたよな 面してふるふ高姫をかし』 高『何なりと悪口雑言つくがよい 言霊幸はふ国と知らずに』 コオ『言霊の幸ふ国と知ればこそ 悪の言霊打ちやぶるなり』 コ『言霊を打ち出しつつ高姫の 醜の肝玉うち抜きて見む』 高『笑はせる線香のやうな腕をして 打つも打たぬもあつたものかい』 コオ『なかなかに俺は容赦は線香の 煙となつて燻べてやらう』 コ『煙たげな顔して慄ふ千草姫 灸すゑられ汗をぶるぶる』 高『胡麻の蠅見たよな奴がやつて来て 酒手貰をうと息まいて居る』 コオ『汝こそは逆手使うて聖場を 奪い取つたる曲者ぞかし』 コ『逆さまになつて謝る所まで 動きはせぬぞ二人の男は』 高『此やうな訳の分らぬ代物に 問答するのは嫌になつたり』 コオ『否応を云はさず館につめかけて 荒肝取らねば帰るものかい』 コブ『それやさうぢやコオロお前の云ふ通り 膏を取つて誡めてやらう』 高『油虫朝も早から這うて来て 神の燈明消さむとぞする』 コオ『お前こそ神の燈明消す奴よ 暗い心の醜神司』 コ『此やうな訳の分らぬ妖婆をば 相手にせずにもう去のうかい』 高『これや奴たうとう往生しよつたな 高姫さまの威勢に怖ぢて』 コオ『もう帰のと思へば又も貴様から 小言云ふ故又一戦せむ』 コ『瓢箪で鯰おさへるやうな奴 いつ迄居ても果しあるまい』 高『そろそろと奴が弱音吹きかけた 智慧の袋の底も見えたり』 コオ『何吐かす智慧は幾何もあるけれど 受取る力汝にない故』 コ『相応の道理によつて馬鹿者には 馬鹿を云ふより道もなければ』 高『負け惜み強いと云つても程がある 餓鬼畜生さへ呆れて逃げむ』 斯く、くだらぬ掛合をやつて居る所へ、大勢の老若男女が捻鉢巻して歌を歌ひ乍ら、神前に奉ると称し山車を曳いて登つて来る。高姫は此光景を見て鼻動めかし、得意満面の体で表を眺めて居ると、一昨日叩き出したヨリコ姫、玉清別、花香、ダリヤ、アル、エス及イルク、其他三五教の宣伝使の一行が、美々しく衣服を着かざり、鬱金の捻鉢巻をしながら、問答所の広庭へ山車を留め、どやどやと玄関口に上り、 ヨリコ『これはこれは千草の高姫様、一昨日は妾に取つて終生忘るべからざる結構な御教訓を賜はり、翻然として蓮の花の開くが如く、天地の道理を悟らして貰ひました。汚れ果てたる身で御座いますがお礼の為、この通り山車に供物まで満載して参りました。花香もダリヤもどうか妾から宜しく申上げて呉れとの事で御座います』 高姫は傲然として、 『善哉々々、改心が何より結構ですよ。お前さまも折角此処迄聖場を造り上げおつ放り出されて、嘸残念で御座いませうが、一旦創のついた体は至粋至純な大神様の御用は出来ませぬから、お気の毒とは思へ共、これも前世の因縁でせう』 ヨ『重ね重ねの御教訓有難う御座います。一寸妙な事をお尋ね申しますが貴女はこの聖地の神司とおなり遊した以上、一点の身に曇りは御座いますまいね』 高『お尋ねにも及びますまいよ。この高姫の身に兎の毛で突いた程でも悪事欠点があつたら、此聖地に安閑と御用をして居る事は出来ませぬ。それは天地の規則ですからねえ』 ヨ『失礼な事を申上ますが、人間と云ふものは知らず識らずに罪を犯して居るものです、もし貴女に欠点を発見した時は、この聖場をお立ち退き遊すでせうね』 高『神の言葉に二言はありませぬ。どうか妾の素性に欠点があるならお調べ下さい。何時でもこの聖場を立ち退きますから』 ヨ『そのお言葉を承はつて、百万の味方を得たやうな心地がします。ホヽヽヽ、花香、ダリヤさま、玉清別さま、アルさま、エスさまイルクさま、又再び此お館に勤めてもらはねばなりますまい、オホヽヽヽヽヽ』 と飽迄大胆不敵な態度をして見せる。 照国別はつかつかと高姫の傍に寄り、 『ヤ、高姫さま、暫くお目に掛りませぬ、私は照国別の宣伝使で御座います』 高『ナニ照国別の宣伝使。ヤアお前はウラル教から脱走して来た、ヘボ宣伝使の梅彦さまぢやないか。マアマアマア、出世したものだなア。腐縄でも三年すりや役に立つ、乞食の子でも三年すりや三つになる。お前と別れてから最早十三四年にもなるだらう。まあ結構々々これから改心して神妙に御勤めなさい。此高姫が弟子に使つて上げまいものでもない』 梅公『ヤ、千草の高姫さま、トルマン城でお目にかかりました者ですよ』 高『ハイ、如何にもお前さまは梅公別とか云ふ方だつたな、いつ見ても綺麗だこと、どうかお前さまは何処へも行かずこの神館の役員となつて勤めて下さいな』 梅公『ハイ、思召は有難う御座います、何分宜しうお願ひ申します。湖上でお目にかかりました貴方の夫、杢助さまはどちらに居られますか、一寸お目にかかり度いもので御座います』 高『ハイ杢助さまは一寸お疲れて離棟の別館でお寝みになつて居られます』 梅公『実は貴女の御成功を祝し御祝を持つて参りました。この沢山の箱包は杢助様へのお土産、この葛籠は高姫さまへの土産ですから何卒受取つて下さい』 高『ヤアどうも有難う、マア何と沢山のお土産だこと。随分沢山のお金がかかつたでせうなア』 梅公『いやどう致しまして、サア、イルクさま、玉清別さま、この箱包は全部皆の方に手伝つて貰ひ、杢助さまの別館の前迄運んで置いて下さい。そして合図をしたら一斉に蓋を開けるのですよ』 『ハイ畏りました』 と村の若者十数人はイルクが監督の下に別館にエチエチ運んで仕舞つた。梅公別は、高姫の前に葛籠を置き、 『サア、高姫さま、この葛籠を開けてお目にかけませう、貴女に取つて大変な意味あるものかも知れませぬ』 と、意味ありげに笑ひながらパツと蓋を取れば太魔の島にて真裸となし、追剥をなし、蟻の巣に投り込んだフクエ、岸子の両人が白装束を着て矗くと立上つた。高姫は打ち倒れむばかり驚いたが、遉は曲者、気を取り直し、度胸を据ゑ、 『オー、何かと思へば白鷺が一番、妾の為には此上もない贈り物、今晩の酒の肴に料つて頂きませう』 梅公はきつとなり、 『これ高姫殿お呆けなさるな、此女は太魔の島の銀杏に祈願を籠むる折、貴女が銀杏姫と名乗り、追剥なさつた事があらうがな、それのみならず計略をもつて二人を蟻の森へ追込み喰ひ殺させむと計つたでせう。まだ其上此梅公迄もたばかり、蟻に殺させようとしたではありませぬか。これでも貴女は身に欠点がないと云はれませうか、サア返答承はりませう』 高姫は答ふる言句もなく忽ち顔色蒼白となり、唇迄もふるはせて居る。 ヨ『モシ高姫さま、貴方も矢張追剥強盗をなし、謀殺を企らみ、随分善からぬ事をなさいましたね、サア如何です、之でも貴女は完全無欠の身霊と仰有いますか』 梅公は合図の口笛を吹けば、如何はしけむ数十頭の猛犬現はれ出で、ワツウワツウワツウワツウと百雷の一時に轟く如き犬の声、妖幻坊の杢助は耐り兼ね、正体を現はし、何処ともなく雲を霞と消え去つて仕舞つた。高姫は進退これ谷まり、白衣をパツと脱ぐや否や、忽ち金毛九尾白面の悪狐と還元し、雲を呼び雨を起し、大高山の方を目がけ電の如く中空を駆り姿を消して仕舞つた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 因に云ふ。玉清別は元の如くスガの宮の神司を勤め、ダリヤ姫は大道場の司となり、アル、エスの両人を掃除番となし置き、ヨリコ姫、花香姫は、照国別一行と共に聖地を去つて宣伝の旅に赴く事となりける。 (大正一五・七・一旧五・二二於天之橋立なかや別館加藤明子録) (昭和一〇・六・二五王仁校正)
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霊界物語 79_午_葭原の国土の竜神族の物語 総説 総説 此至大天球の中に遍在充満する一切万有は、其物の気体たると液体たるとを問はず、何れも声音(声と音とは区別あれども、今茲に声音と連ね書くは、声にも非ず、音にも非ず、全く両者を兼ねて不二なるものの仮名なり)を発する性質を有せざるはなし。今如何なる物と雖も、微かに変動すれば、微かなる声音を伴ひ、大に変動すれば、大なる声音を伴ふは吾人が日常経験する処なり。 さて其声音とは何ぞや。通常理学者の教ふる処を以てすれば、音響なるものは一の振動にして、或物の振動は、其振動を媒介物(主として空気)に及ぼし、媒介物の振動は吾人の鼓膜に及ぼし、鼓膜の振動は聴覚神経を経て脳に達するに因ると言ふにあり。而もこれ唯単に唯物論的形而下の解釈而已。吾人は斯かる半面の解説のみにては満足すること能はず。尚進んで物の振動は、何故に種々なる音響となり、又音響なるものは如何なる機能を有し、如何なる効果を有するやを知らむと欲するなり。換言すれば、吾人の声は気管を通過する空気が声帯其他の発声機関に触れて発するなりてふ説明以外に、其発声の因たる空気の通過するは何の為なるや。吾人の思料する処は、何故に発声機関を藉りて声となり、又他より来る声と音とは、何故に吾人の聴管を通じて精神に影響するやを聞かむと欲するなり。更に之を究竟する時は、精神とは如何てふ問題に帰着するなり。 吾人は斯かる問題に対しては最早科学の説明のより以上の不可思議力、無礙自在の妙機を認めざらむと欲するも能はざるものにして、茲に全く科学の圏囲を超脱したる形而上学即ち哲学的領域に入るものなり。古来の哲学宗教が或は声音なる末流を遡りて帰納的に絶対不可思議なる本源を認め、或は無礙自在の妙機なる根底より演繹的に声音なる枝葉を説くも、畢竟ずるに之が為のみ。此無礙自在の妙機、絶対の不可思議力こそ実に所謂宇宙の本体、独一の真神、久遠の妙霊にして、一切の声音は即ち其発現なれ。 大毘盧遮那経(第二具縁真言品)に言ふ。 秘密主。此真言相非一切諸仏所作。不令他作亦不随喜。何以故。以是諸法法如是故。若諸如来出現。若諸如来不出。諸法法爾如是住。謂諸真言。真言法爾故。 同経の疏の七に曰く、 以如来身語意畢竟等故。此真言相声字皆常々故不流。無有変易。法爾如是。非造作所成。若可造作則是生法。法若有生則可破壊。四相遷流無常無我。何得名為真実語耶。是故仏不自作。不令他作。設令有能作之人亦不随喜。是故此真言相。若仏出興於世。若不出世。若已説。若現説。若未説。法住法位性相常住。是故名心定即。衆聖同即此大悲漫荼羅一切真言一一真言之相。皆法爾如是故重言之也。 又空海の声字即実相義に曰く、 名教の興りは声字に非ざれば成ぜず。声字分明にして実相顕はる。又内外の風気纔に発すれば、必ず響くを名づけて声と言ふ。響は必ず声に由る。声は即ち響の本なり。声発して虚しからず、必ず物の名を表す、号して字と言ふ。名は必ず体を招く、之を実相と名づく云々 と。是れ声は絶対実在の発現にして、万有一切も亦絶対実在の発現なれば、畢竟ずるに声物一如、絶対声物一如なりと言ふに外ならず。又新約書の約翰伝には、之を最も巧妙に言ひ現せり。云く、 太初に道あり道は神と偕に在り、道は即ち神なり、この道は太初に神と偕に在りき、万物これに由て造らる、造られたるものに一として之に由らで造られしは無し、之に生あり、此の生は人の光なり、光は暗に照り、暗は之を暁らざりき云々……。それ道肉体と成りて我儕の間に寄れり。我儕その栄を見るに、実に父の生みたまへる独子の栄にして、恩寵と真理とに充てり…… と。是れ声は即ち道、道は即ち神、神即ち万有なりと言ふに外ならず。(此点に於ては基督教も多神教の一なり)要するに是等は釈迦、基督等が認めたる声音即絶対説にして、我言霊学の声音根本説と相類似せりと雖も、其所説たる、漠然として拠る所なく、朦朧気に声音の妙機を想像したるのみにして、我言霊学の如く、絶対の真を伝へ、各声の霊機の明確にして整然たるが如きには非ざるなり。 抑此大宇宙を我国にては、之を至大天球と言ひ、大宇宙の主宰、之を天之峰火夫の神または天之御中主と言ひ、万有一切、之を神と言ひ、此活動力、之を結びといふ。(而して尚之を言霊学の上より言ふ時は、至大天球は一声にあと言ひ、天之御中主は之を一声にすといひ、す分れ発して七十五声となり、此七十五声は結びの力によりて、更に発動すれば万声となり、帰り納まれば一声のすに蔵まる)是一切法界の四大観なり。此四大は即ちあらゆる声音なり。天之御中主の発動、之を神といひ、神霊元子と言ふ。神霊元子とは、こころなり、こころとは絶対の霊機が、此処彼処と発作するの謂なり。此のこころの発作が更に現れたるもの即ちこゑなり。こゑとは即ち心の柄なり。此声広義一面に又をとと言ふ。をととは外よりをに結び当るものあるに対して、とを給び、対ふるの謂にして、緒止なり。 之を厳格に区別せば、前者は有霊機物即ち動物(広義)の心的作用による自発的声音なり、音に非ず。後者は無霊機物即ち植鉱物等の他より迫撃するを俟つて後声音を発するものにして、心的作用なき物の他発的声音なり、声に非ず。然れども動物の下等なるものは植物と区別すべからず。植物の下等なるもの亦鉱物と区別する能はずして、而も一種の声音の質を有するものなれば、其の本に遡る時は、声と音とは区別なく、其末に奔る時は人間の声と雖も、其声より心の活きなる観念を控除して考ふる時は、是れ音なり。之を要するに、声と音とは天之御中主の心が発動したる声音の程度の差によりて名づけられたるものにして、等しく広義に於ける声なり。此声音は法界一切の万有となりて形相を現じ、又幽冥に蔵れて不可思議なり。 此巻舒発蔵の活機は即ち所謂結びにして、此結びの力によりて、一切法界の生住異滅する状態を至大天球とは言ふなり。されば至大天球の組成元素は声音なり。声音無ければ至大天球なし。故に此声音は至大天球と共に存在して、如来の所作に非ず、真神の所生に非ず、如来、真神そのものなり。之を真言と言ひ、之を道と言ふ。道即ち神にして、真言即ち神也、仏也。(我国にては之を言霊と言ふ、言霊は即ち神なり、神は即ち天之御中主の心なり、此心を種々に動き結びて万有を生ず。万有は万別あり、故に万有の言霊亦万別あり) 此声音を大別すれば、則ち已に言へりしが如く、声と音とに別る。而して此声更に別あり。一は人の声にして、他は動物の声なり。人の声は明朗にして数多く、動物の声は溷濁にして数少く、又動物の下等なるものに至りては、僅に響を有するのみ。即ち霊機の減少するに従つて、声亦減少するなり。尚又同じく、人間にても外人と我日本人との音声言語を比較するに、外人の声はすべて濁音、半濁音、拗音、促音のみにて、又鼻音ンを用ふるもの頗る多く、日本人の声は直音のみにして(但し今日の人の声は此限りに非ず)清明円朗にして、各声確然たる区別あり。外人の声は数声の連続拗曲せるものなるが故に、其元声少く(悉曇五十音、英語二十四音の如し)日本人の声は一々朗明なるが故に、其元声多し。(七十五声なり)彼等は拗促音を本位として直音を出し、日本人は直音を本位として拗音を用ふるなり。(但し上古は一も拗、促音を用ひず)故に外国人が直音を出さむとするも、日本人の如く円満朗明なる能はず、又日本人が拗、促音を発せむとするも、外国人の如き曲拗促迫したる音を出す能はず、両者自ら主客の位定まりて動かすべからず。 例へば、悉曇の摩多(母音)了(ウに用ふ)エイ(エに用ふ)ウウ、ヲウ(アウヲに用ふ)の如く、また韻鏡の字母唇音濁の並「ベイ」「ヘイ」(部廻「ブキヤウ」「ホウケイ」にして、バビブベボの韻を受く)、歯音清の精「シヨウ」(子盈「イヤウ」切にしてサシスセソの韻を受く)等の如し。是等は我国の声にて呼べば、ヲウエイ、アウビヤウシヤウ等なれども、本音はヲウ、エイ、アウ、ビヤウ、シヤウ等なり。故に拗、促音を本拠とせる外人より直音を出さむとするには、必ず数音を綴り合し、不足を補ひ余れるを捨て、所謂反切の結果に非ざれば出すこと能はざるなり。況や又彼等が用ふる拗、促音を出さむとするに於てをや。即ちヲウはトウ、ツに用ふる時始めてウの如く活き(ツはタとヲウとの合なるが故に)、エイはセイ、セに用ふる時始めてヱの如く活き(セはサとエとの合なるが故に)、又並「ベイ」「ヘイ」は、バビブベボに活く字母なれども、下に附くイ、ヤウを除かざれば用を為さず。精「シヤウ」はサシスセソに活く字母なれども、下に附くイ、ヤウを除かざれば用を為さず。徳紅切東は徳のクと紅のコとを切り除かざれば、トウに成らず。戸公切紅も公のコを切り除かざれば、コウに成らざるにても瞭なり。我国の直音を本拠とするものよりすれば、毫も斯かる困難なし。尚此等の事、鈴廼屋大人の漢字三音考にも論ぜられたり。 また外国人の音は、凡て朦朧と溷濁して、譬へば曇り日の夕暮の天を瞻るが如し。故にアアと呼ぶ音のオオの如くにも聞え、又オオと呼ぶ音のウウの如くにも、ホオの如くにも聞ゆる類、分暁ならざること多く、又カキクケコとハヒフヘホとワヰウヱヲと相渉りて聞えるなど、諸の音皆皇国の音の如く分明ならず、又溷雑紆曲の音多し。東西を今の唐音にトンスヰと呼ぶが如き、トとンと雑り、スとヰと雑り、又トよりンへ曲り、スよりヰへ曲る。春秋をチユインチユウと呼ぶが如き、チとユとイとンと雑り、チとユとウと雑り、又チよりユへ曲り、イへ曲り、ンへ曲り、チよりユへ曲り、ウへ曲る。古の音も皆斯の如し。一音にして斯の如く溷雑し、二段、三段、四段にも拗れ曲るは不正の音にして、皇国の音の正しく単直なると大に異り、曲らざる音もあれども、それも皇国の正しき単音の如くには非ず。アア、イイ、ウウ、カア、キイ、クウなどのやうに皆必ず長く引きて、短く正しくは呼ぶことあはたず。短く呼べば必ず韻急促りて入声となるなり。 外国の入声は皇国の入声の如きクキツチフ等の顕はなる韻はなくして、単音の如くなれども、正しき単音には非ず。其の陶物に行きあたりたる如くに急促りて、喉内に隠々として韻を帯べり。此方にて悪鬼、一旦、鬱結、悦気、臆見、甲子、吉凶など連ね呼ぶときの悪、一、鬱、悦、臆、甲、吉等の音の如し。故に今この書(三音考)に入声の形を言ふには、仮に其音の下にツ点を施して識とす。日月の唐音をジツエツと書くが如し。これ新奇を好むにあらず、其韻を示すべき仮字なきが故なり。此点を施せるは皆急掣る韻と心得べし。さて斯の如く韻の急促るは甚だ不正の音なり。皇国の音は(い、ゐ)いかに短かく呼べども、正しく舒緩にして急促る事なし。又外国には韻をンとはぬる音殊に多し。ンは全く鼻より出づる音にして、口の音に非ず。故に余の諸々の音は口を全く閉ぢては出でざるに、此のンの音のみは、口を堅く閉ぢても出るなり。されば皇国の五十連音、是誤りなり。此の五十連音は下に言ふ悉曇の出にして、濁音、半濁音を除きたるなり。我国には之を合して七十五音なり。鈴廼屋大人も之を知らざれば斯る論あり。 この五位十行の列に入らずして縦にも横にも相通ふ音なく孤立なり。然るに外国人の音は凡て溷濁して多く鼻に触るる中に、殊に此のンの韻多きは、物言に口のみならず、鼻の声をも厠供るものにして、其の不正なること明らけし。皇国の古言には、ン声を用ふるもの一もあることなし云々。 是れ主として支那字音に関しての見解なれども、他の外国の声音も此の理に漏れず。之を要するに声音は至大天球の主宰、天之御中主の心の発はれたるものにして、一切万有が享有する霊機の程度に由つて声と音とに分れ、声は更に霊機享有の程度に由つて人の声と動物の声とに分れ、人の声は又更に霊機享有の程度に由つて、日本人の声と外人の声とに分れ、茲に声音の正不正と多少とは、明らかに霊機の正不正と多少とを示せり。 加之我国には、其声各活機ありて機能を有し、我国に有りとあらゆる言詞は、皆此声に依りて義を現はし、心を顕せるものにして、彼外国語の如く、有り来りの無意味なる符号には非ず。例へば漢字音にて風を風と呼ぶ、而もフウと言ふ音は何の意義を有するや。又金を金と呼ぶ、而もキンと言ふ音は何の意義を有するや。(但し韻鏡学者は種々理窟を附するも、僅に少数の音に止まり且つ完全ならず) [#図声と音] 其他印度語にても、又英仏語にても、斯の如く推究しゆけば、遂に捕捉する処なきに了るなり。是れ世界の語学者が最も苦心しつつある問題にして、我文部省が国語仮名遣のために焦慮惨憺するも寸効を奏せざるは、畢竟是根底無ければなり。若し此の根底だに有らば、我国音、国語は勿論、支那、印度、英、仏、独語乃至禽獣鱗介の声をも解し、又其音を聞けば草木、金、石、線、竹の種類をも分つべし。(聞き慣れ居るが故に大凡は聞き分ち得るなり) 釈迦は之が功徳を解き一切衆生語言を陀羅尼と言ひ、我国にては之を言霊と言ふなり。 言霊とは言葉の霊なり。霊とは心の枢府なり、即ち吾(小我)心の枢府はやがて天之御中主(大我)の心の枢府なり。此の心の枢府を言葉の上より観たるもの即ちわが言霊にして、此の言霊はやがて天之御中主の言霊なり。故に此の言霊を知る時はあらゆる一切の言語声音を知り、一切声音言語を知る時は、天之御中主全体即ち至大天球を知るなり。されば若し夫れ真にこれを知りて言霊を用ふれば、一声の下に全地球を燎くべく、一呼の下に全宇宙を漂はすべし。況や微々たる雷霆を駆り、風神を叱し、乃至一国土を左右し、小人類を生殺するに於てをや。如是言霊、如是大道、如是妙術は実に我国の具有なり。故に我国を言霊の幸はふ国と言ひ、言霊の助くる国と言ひ、言霊の明らけき国と言ひ、言霊の治むる国とは言ふなり。(是等は我古事記を真解するに依りて明らかなり) 抑我国が斯の如く霊機の淵叢地にして、如是大道を具有する所以のものは、至大天球成立の本然に由るものとす。猶吾人の一身を支配する精神の宿れる脳髄の如く、至大天球に於ける脳髄なればなり。彼藤田東湖が「天地正大の気粋然として神州に鍾まる」とうたへるも、朦朧気ながらにも之を想像したればなり。今一歩を降つて之を天文地文的関係より観る時は、実に我国が地球上に於ける位置、気候、水土の関係より来るものなりと謂ふべし。香川景樹も水土の関係より声音の正不正を論じて曰く、(古今集正義序) 声音は性情の符、性情は水土の霊ならむこと更に論を俟つべからず。而も濁れる中にありては、善しと能く見し西土の、芳野の花の美善きを書せるに似たるも、百千鳥侏離のこちたきを免れざれば、彼いはゆる楽んで揺せず。哀で傷らざらむ性情の正を得むことは、ほとほと希なるべし。況や黄なる泉に染紙のいたく喧擾せる響をや。猶余んの万づ国原、其音すべて単直清朗なる事能はざるは、我天津日御霊の大御照しますらむ大御光の遍き際りに疎ければ、水土自然に剛潔ならずして、彼の雑はり濁れる柔土弱水の中に涵育るが故なりと知るべし。されば其謡へるや譜節して、之を文どり、鐘鼓もこれをたすくといへども、なほ其の音清爽ならず、其調朦朧なるを、如何にせむや。独我安積香の山の井浅からず。清濁る影し見えねば、難波津の何をかわけて善や悪やをとはむ。 膂肉の空しく、内木綿の洞ろにして、天霧さはる隈しなければ、金石を仮らずと雖も咏ふを得べし。ただちに天地を感動し、神人和楽かく、何ぞ百獣の舞をうらやまむ云々。 是れ、専ら漢詩を斥けて和歌を興さむが為めに論ぜるなれども、其の水土による声音性情の関係を論ぜる大凡の意は聞ゆるなり。気候水土の関係によりて、其国人の性情風俗一切が各特異の点にあることは、吾人の日常見聞きする処にして、又是等天然の勢力が、実に偉大なる不可抗力を有するものなることは、欧洲にても、モンテスキユー、スペンサー等其他社会学者も等しく認めて論明せる処にして、今此の声音の如きも畢竟同理なりと言ふべし。我古事記に依る天体学に徴する時は、地球は至大天球の中心に位して、稍西南に傾度を有せり。(地球中心説)而して我日本は其の地球の表半球の東北方面の上部に位するが故に、恰も我国は地球面の中央の上に位置するものにして、温帯中にありて、寒暑度を失はず、土壤沃腴にして水気清澄なり。是を以て又我国を豊葦原瑞穂の国と言ふなり。 豊葦原とは、至大天球の事なり。瑞穂は満つ粋にして、ほは稲葉などの穂又は鎗の穂先など謂ひて、精鋭純粋の処を言ふものにして、満つ粋の国とは地球上に於ける粋気の充満する国の意なり。されば、其の国土に生ずる一切は、皆精鋭の気を鍾めて生れ、霊機も亦精鋭なり。斯の如く皆それ精鋭なり。故に曰く、真にこれを用ふれば震天撼地の業も亦難からずと。さて斯く精鋭なるものを用ゐむとする時は、其の用法も亦精鋭ならざるべからず。而して其の用法は実に我朝廷に於ける天津日嗣の大道妙術にして、所謂言ひ継ぎ語り継ぎつつ伝へ給へる我国具有のものなり。 然れども崇神天皇の大御心によりて、一び韜蔵せられてより以還、暫く其伝を失ひ、天下紊れて儒仏教の伝来となり、これと同時に、又外国の語声をも輸入し来りぬ。所謂支那字音及び印度悉曇是なり。爾後我国の道益々に失ひ、言霊の伝愈泯び、祭都潢成が如きすら我国上古文字無しと言ふに至り、万葉集時代には已に仮名遣ひの愆れるもの多く、源ノ順朝臣が我が国古語の失はれむことを憂ひて、和名抄を遺したれども、其の和名抄已に誤りあり。斯の如き有様なりしかば、現在今日まで使用してある五十音の此間に起るに至りしなり。是れ実に印度悉曇の転化したるものにして、其が自然の理法に違へること甚し。今や崇神天皇以来二千年を経、時運りて乾坤一転せむとし、茲に彼の秘せられたる大道は世に出でむとするに至りぬ。然れども馴致習慣の久しき人皆、彼の誤れるものを以て、大道の本然なりと信じ、却つて此を以て奇異を好める妄誕の説とせむ。 故に、今茲に之を闡明せむとするに際して、先づ現行五十音の基本なる悉曇なるもの宇宙真理の正伝に非ずして、神随の本道に非ざる所以を知悉せしめむとす。然れども亦往々にして現行五十音が果して悉曇に基づくものなるや否やを知らざるものあるべければ、又更に一歩を退いて五十音の出所を論定し、而して後本論に入らむとするなり。抑従来の片仮名、五十音図共に吉備真備が作なりと言ひ、又真言の僧徒が天竺の悉曇章によりて、邦人に固有する音のみを挙げて作りしものなりといふ等、其他異説多くして詳ならず。吾人は今之が作者の何人なるやを尋求するは、必然の要件に非ずして、五十音図そのものの根拠を求めむとするものなるが故に、作者の穿鑿は姑く之を措きて問はず、直ちに五十音の故郷に入らむとす。 さて、今之を真言僧侶の手に成れるものとせば、悉曇の出なることは、論を俟たず。而して又これを吉備真備の作なりとするも、同じく是れ悉曇に基くものなり。何者か吉備大臣が之を作りしとするも、必ずや入唐帰朝後のことに相違なくして(唐に居ること二十年、我聖武天皇の天平七年帰朝す)学び来れる漢音によりて作れるものなるべく、而して従来支那韻書なるものは、悉曇より出でたるものにして、畢竟同根の出なればなり。 張鱗之が韻鏡序に曰く、 余年二十始得此学字音。往昔相伝類曰洪韻。釈迦子之所撰也。有沙門神珙。号知韻音。甞著切韻図載玉篇(南梁高祖武帝の天同九年成る)巻末。窃意。是書作於此僧。世俗訛呼珙為洪爾。然又無処拠云々 又曰く、 梵僧伝之華僧続之云々 と。仍て支那韻書も亦悉曇より転化せるものなるを知るべし。故に何れにしても、我五十音は悉曇に根拠を有するものなることは明けし。韻鏡易解大全に曰く、 依開奩抄等。竪阿伊宇恵遠五字及横加佐太奈波末也羅和九字者在仏経中。余所三十六字(五十音中父母音を除きたるもの)弘法大師所加也云々 或は又、 作者未分明矣 と。又同頭書に曰く、 云々三十六字雖大師加之。彼土本有転声法。有反音相通規則。故専見有口授伝来非云新加之乎 と。今五十音中父母音を除きたる余りの三十六字は、空海が加へたりとするも、若くは否らずとするも、已に父母音にして彼に存し、其音字の配列順序にして両者同一なる点より考ふるときは、最早疑ふの余地なかるべし。 [#図五十音図] 悉曇には母音十二字あり、之を摩多と言ひ、父音三十五字あり、之を体文といふ。而して我国の五十音図の父母音は、皆右の中の同類音を一音に約したるものなり。即ち「」印を附したるは、其の約音を表する字にして、余の字を除去すれば、アイウエオ及びカサタナハマヤラワを残し、此の父母音交りて、他の三十六音図は、此の悉曇図を襲へるものなるは明白なり。(但し此図は之を襲用せるものなるも、声音は之を襲用せるものに非ずして、正しく我国の声なり。上古よりは多少の変化あれども、之を襲ふも其類似の声の位置を借りたるものなり、迷ふべからず。印度人の声は到底日本人の声とは同一ならざるなり)
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大本神諭 神諭一覧 明治32年旧3月(日不明) 明治三十二年旧三月 世の立替に付いて、日本の国には色々と天地から不思議を見せるから、又世界にも段々と不思議な事を為て見せるぞよ。是も皆人民を助けたさに、日本の人民への気附けで在るから、是を見て日本魂に改心致さんと、外国はまだまだ厳しき見示めを致すぞよ。世が変ると言ふ事は、何事も無しには世は変らぬから、神の大経綸が始まりたら、一旦はエライ混雑に成るなれど、整理的大神業が終結りたなら天下泰平に世を治めて、万劫末代苦舌のないやうに致して、世界の人民を安心させるぞよ。今度此の事業は、日本の国は小さうても是れ位な尊い、威権の有る国と言ふ事を世界中に見せて、末代外国を従はす御用で在るから、日本の人民余程の覚悟が無いと、日本も危ふい事が在るぞよ。また日本の身魂と外国の身魂とは、位も天職も違ふから、其の事も判明て見せるのじゃぞよ。此の因縁を判けて、世界の人民の心の洗濯を致させぬと、世は良く成らぬから、此処を聞き判けて、日本の人民よ早う身魂を日本魂に磨いて置いて下されよ。此の神の事を何ぞ悪い事でも致す様に思ふて居る人民よ、日本の国の威権が判かりて居りて悪く申すのか、本来の日本魂に立帰りて見よれ、悪く申す処は毛筋も無いので有れど、逆様により感得れんのは、身魂が暗りて居るから、外国の悪神の容器に成りて居るからで在るぞよ。夫れでは日本の国が天地の真相を開くと言ふ事は六ケ敷いぞよ。 ○ 出口直の胸の中は、晴天でも曇りたやうに見える、さえたる月夜も暗のやうな心で居るが、是れも大望の判りた人民が無い故、力に致す頼りが無いからで在れど、明けの鳥と成りて、世界中の夜が明けて来たら、変性男子、女子の気苦労で、世界の人民勇んで暮さすぞよ。夫れに付いては世の洗濯を致さねば成らんから、艮の金神現はれるに付いて、世界の人民に心丈けの神徳を授けるぞよ。今日好くても心悪しくば、先きで大きな難渋を致すぞよ。改心して信服て来た人民は、昨日の心配も今日は無くなりて、心も晴れ晴れと致すやうに仕て与るなれど、誰も欲の無い者は無いから、皆取違ひ致して、結構な御蔭を取り外すので在るぞよ。世界中の身魂の洗濯で在るから、良き身魂と悪しき身塊とを立別けて、世界の人民に改心させねば成らぬから、今迄長頭して威張りて居りたもの、審査致して見れば皆、世に落とさねば成らぬもの斗り、身魂が悪の守護で在るから、上へ行く程慢心が激烈くて、神の心が判らんからで在るなれど、中には心の良きものは御用に使ふぞよ。今迄は我れの一力で、力量さえ在りたらドンナ事でも人民の思わくに出来たなれど、モウ艮の金神の守護の世に世が変りたから、我の我では此の世は行けん事に成るから、何も皆元源へ服従うて来ねば成らん様に、規則が定まりたので在るから、今迄世に出て覇張りて居りた神は、皆我の強いもの斗り、今度此の方が身魂審判致すに付ては、我の強いものから戒めを致すから、夫れで上の守護神、下へ落ちねば成らんと申すので在るぞよ。我力で行くなら行りて見よれ、我れで無くては成らんと思ふて居りても、神の方は皆身魂が調査致して在るから、これからは我力では行けぬと、腹の底から改心致して、神国の教に服ふて来る人民は結構が出来るなれど、改心出来ん我の強い身魂はこれから、ドウ変るやら知れんぞよ。 ○ ドンナ学の在る人民が何程奮励りても、世界中の人民が集りて考へても、此の先きの世は、人民の細工では治まらんぞよ。人民の考へや利口では天地の世の持ち方が判らんから、太初から神が仕組致した此の大神業が済まねば、天下泰平には世が治まらんから、頑張らずと早う改心致して、神の申すやうに致せと申すので在るぞよ。改心さえ致して、世界の人民に此の方の威徳が判りて来たら、其処で世界は良く成るなれど、今迄の事を申して、人民の考がへや利口で行ろうと思ふても、世は段々と悪く成りて、人民が難渋を致す斗りで在るぞよ。チットも善と言ふ事が出来は致さんから、此の先きは神が表へ現はれて、世界中を神国の世に致すので在るから、中々大望な事で在るなれど、永らく仕組の致して在る事で在るから、何も皆仕組通が世界から出て来るぞよ。世界の事変は皆金神が仕組た事で在るぞよ。夫れで世界の事情は何も皆此の大本へ出て来ねば判りは致さんのじゃぞよ。善と悪との戦ひに付て、悪が九分九厘の処まで此世を持ち荒したゆえに、天地の王神様はナカナカ厳敷御気障が在るのじゃが、此の方が世界の人民を助けたさに、種々と苦労を致して、悪く言はれてもチットも気にも障へずに、天地の王神様へ御詫びを致して、十分の処を三分に許て御貰ひ申すので在るが、改心出来ずに何時迄も頑張りて居ると、此の方の堪忍袋が破れたら、ドンナ事変が在りても不足は申されまいぞよ。
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大本神諭 神諭一覧 明治32年旧7月1日 明治三十二年旧七月一日 龍門の宝を艮の金神が御預り申すぞよ。龍門には宝は何程でも貯えてあるぞよ。世の立替済みて立直しの段になりたら、間に合ふ宝であるぞよ。昔から此乱れた世が来るから、隠して在りたのじゃぞよ。神代が近よりたから、無限の金を堀出して、世界を助けるぞよ。御安心なされ。艮金神大国常立尊が、神功皇后殿と出て参る時節が近よりたぞよ。此事が天晴れ表に現はれると、世界一度に動くぞよ。モウ水も漏さぬ経綸が致して在るぞよ。明いた口が塞がらぬ、牛糞が天下を取るぞよ。珍らしい事が出来るぞよ。アンナものがコンナものに成りたと、世界の人民に改心致させる仕組であるから、チト大事業で在れども、上十いたさして、天地の大神へ御目に掛けるから、艮の金神はカラ天竺までも鼻が届くぞよ。この仕組は永らく世に落ちて居りての、艮の金神の経綸であるから神々にも御存知の無い事が在るから、人民は実地が出て来る迄にヨウ承知を致さんぞよ。是でも解て見てやるぞよ。今度の二度目の世の立替立直しは、因縁の在る身魂でないと御用には使はんぞよ。神の御役に立るのは水晶魂の選抜ばかり、神が綱をかけて御用を致さすのであるから、今迄世に出て居れた守護神は、思いが大分違ふぞよ。是も時節であるぞよ。時節には何も敵はんぞよ。上下に復るぞよ。 艮の金神大国常立命の三千年の経綸は、根本の世の立替立直しであるから、日本へ上りて居る四ツ足の、悪の霊魂を往生さして、万古末代善一つの世に致すのであるから、日の本に只の一輪咲いた誠の梅の花の仕組で、兄の花咲哉姫の霊魂の御加護で、彦火々出見の命とが、守護を遊ばす時節が参りたから、モウ大丈夫であるぞよ。梅で開いて松で治める、竹は外国の守護であるぞよ。此の経綸を間違はしたら、モウ此の先はどうしても、世は立ちては行かんから、神が執念深う気を付けて置くぞよ。明治二十八年から、三体の大神が地へ降りて御守護遊ばすと、世界は一度に夜が明けるから、三人の霊魂を神が使ふて、三人世の元と致して、珍らしき事を致さすぞよ。いろは四十八文字で、世を新つに致すぞよ。此中に居る肝心の人に、神の経綸が解りて来て、改心が出来たら世界に撤配りてある霊魂を、此大本へ引寄して、神の御用を致さすから、左程骨を折らいでも経綸は上十いたすから、何事も、神の申す様に為て居りて下されよ。今度の事は智慧や学では到底不可んから、神の申す事を素直に聞いて下さる身魂でないと、神界の御用には使はんぞよ。此の大本は外の教会のやうに、人を多勢寄せて、それで結構と申すやうな所でないから、人を引張りには行て下さるなよ。因縁ある身魂を神が引寄して、夫れ夫れに御用を申し付けるのであるぞよ。大本の経綸は病気直しで無いぞよ。神から頂いた結構な身魂を、外国の悪の霊魂に汚されて了ふて、肉体まで病魔の容器になりて、元の大神に大変な不孝を掛けて居る人民が、病神に憑れて居るのであるから、素の日本魂に捻ぢ直して、チットでも霊魂が光り出したら、病神は恐がりて迯げて了ふぞよ。此の大本は、医者や按摩の真似は為さんぞよ。取次ぎの中には、此の結構な三千世界の経綸を、取違い致して、病直しに無茶苦茶に骨を折りて、肝腎の神の教を忘れて居る取次が多数在るが、今迄は神は見て見ん振を致して来たが、モウ天から何彼の時節が参りて来たから、今迄の様な事はさしては置んから、各自に心得て下されよ。是程事を分けて申す、神の言葉を反古に致したら、止むを得ず気の毒でも、天の規則に照して戒めを致すぞよ。今の神の取次ぎは誠と云ふ事がチットも無いから、我の目的斗り致して、神を松魚節にいたして、却て神の名を汚して居る、天の罪人になりて居るぞよ。大本の取次する人民は其覚悟で居らんと、世界から出て来だすから、耻かしくなりて、大本へは早速に寄せて貰えん事が出来いたすから、永らく神が出口に気を付けさしたぞよ。モウ改心の間が無いぞよ。神はチットも困らねど、取次が可愛想なから。 艮金神が表になると、一番に芸妓娼妓を平らげるぞよ。バクチも打たさんぞよ。家の戸締りも為いでもよき様に致して、人民を穏かに致さして、喧嘩も戦争も無き結構な神世に致して、天地の神々様へ御目に掛て、末代続かす松の世といたすぞよ。
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(3509)
大本神諭 神諭一覧 明治33年旧12月11日 明治三十三年旧十二月十一日 今の世は金輪際の悪人の世、世を立替て霊主体従の世に為るぞよ。 他の教会の教祖は夫れ夫れに苦労して開いたのであるぞよ。是は世の立替が有る故に、先導に神からお出しなされたのであるぞよ。 何の布教師も神と教祖の苦労を水の泡と致して、慢心致し気延ばし半分の信心じゃぞよ。 其の信心の仕方では誠で無いぞよ。 皆布教師から改心致さぬと、今度の世の立替は、大分厳しき審判があるぞよ。 此の大謨な神の経綸を知らずに、陽気信心して居ると、チト違ふ事が出来て来るぞよ。 明の烏へ近寄りて、綾部の化物表はすぞよ。是が現はれたら其様な陽気な信心して居ると、チト気の毒な事変が出来るぞよ。 太古の神を北へ押込めて置いて、北を悪いと申したが、北が此世の太初りじゃぞよ。世を立替て、北を一番良く致すぞよ。 永らく残念でありたなれど、時節到来りて、此度は願望遂げるぞよ。 何事も、誰に由らず時節待てよ。時節到来りて、落ちて居りた神、皆勇んでお出でなさるぞよ。 神が勇めば勇む世になりて、人民も良くなるぞよ。 善くなる人民と悪くなる人民との、善し悪しが判明る世の立替じゃぞよ。 宵の明星、ぐるぐると廻りて、不思議を啓示せども、気の付く人民無いぞよ。 世界の人民、永き世に短かき生命を保って居て、我慾致して名を汚すぞよ。 此の暗黒の世に、世界を照す神人なるぞ。神の杖柱にする出口。 外国人改心致せよ。日本の国に眼を着けて、騒動起して、金銭の消費は底知れず。 日本の国は此度神が顕現れて、彼処此処に王無くするぞよ。 外国の今の不憫さ。神の規則は厳しきぞ。是は戒しめじゃぞよ。 綾部の大本は、筆先と歌で書き置くぞよ。神の規則を用ゐん人は、厳しき戒しめあるぞよ。 今迄の世とは薩張り変りて、綾部の大本から何も審査致すから、心魂に曇りある人は面晒しに来て呉れなよ。 今は判らねど、顕現たら、毫末でも曇りありたら好い面を晒されるぞよ。未発時に気を付けて置くぞよ。 金光殿の方も是迄は結構でありたが、世の立替となるから、是からは厳しくなるぞよ。 根本は此方も一とつの神じゃぞよ。 今迄は蔭から守護して、金光の布教師の所作を視て居れば、全然香具師の大将の所業、是から艮の金神が顕現るから、審査に着手るぞよ。 淘汰選択て善良き者許りに致して、神界へ御目に掛ける大本へ、他の教会の如うに思うて来ると、薩張り慮見の違ふ事が出来るぞよ。 此の大本は張面は多勢無くても、誠の人で無いと、面晒しで、御神徳貰ひ所で無い、御神徳落して、住所でも嗤われる如うな事になる、烈しき大本であるぞよ。 浮気信心やら景場信心は、間に合はんぞよ。 此の大本は永らく此に落ちて居りた神の経綸であるから、万劫末代続かせねばならぬから、此の肉体の有る神が致すのであるから、大丈夫であるぞよ。 肉体無くては、三千世界の是れからの守護は、何程結構な神様でも、霊魂ばかりありては出来んなれど、艮の金神が世界を薩張り審査てあれど、立直しがなかなか骨が折れるぞよ。 是でも、此の方経綸て有るから、松の世に立直すぞよ。 此の仕組は骨が折れたなれど、モウ出て来るばかりになりたから、是からは世界の人民を改心さして、救助たい斗りなれど、世が迫りて来たから、世界には大分気の毒あれども、仕様が無いぞよ。 神は無きものと世界の人民が思うて居るから、言うても聴かず、書いて見せても真実に致さず、実地見せてやるより、モウ致し方が無くなりたが、是も時節じゃ。神や取次を恨めては下さるなよ。 斯様な修祓があるなら何故知らせなんだと、未だ不足申す人があるぞよ。 十年知らしたら、落度あるまい。不足はなからう。
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(3512)
大本神諭 神諭一覧 明治34年旧2月24日 明治三十四年旧二月二十四日 艮の金神国武彦命と現はれて出口の手で書き置くぞよ。艮の金神が現れると、二度目の世の立替の守護に掛るから、今が大事の性念場で、世界の事を何も皆出口に書して置くぞよ。役員は皆揃ふて今迄の見苦しき心を棄てて、和合致して、世界の掃除の本の威勢を出して下されよ。此大本は実地の元源の神が集りて守護致す所であるから、見苦しい者は御用させぬ様に厳しく成るぞよ。今度世の立替に付て大本での修業は、身魂の調査改善を致すので在るから、余程何彼の事を心得て、清らかに為て貰いたいぞよ。軽い神が来たがりて、軽い神が這入りて来たら、此の中騒がしきぞよ。余程心を沈着て修業を致さんと、是迄の修業の様に思ふて居ると、慮見が違ふぞよ。世界が迫りて来るから、放縦な事では行かぬ、モチト激しい修業を致さんと、今がエライ様な事では、世の立替始めたら御用が出来んぞよ。苦労無しには神国の威勢が出んから、上は神の大将、人民では役員、皆夫れぞれ御苦労で在るぞよ。信者も誠を見習ふて、世界を日本魂に為て了はねば成らぬから、アダな事では出来ぬから、身魂を騰用ぞよ。今迄は神はドレ位なものと言ふ事が判りて居らなんだから、守護神にも人民にも、世界の元を創造へた、元の神の思ひと言ふ事を察して居るもの無かろうがな。世の立替に付いて先走りに、外の教会が造りて在るのじゃが、夫れでも此の大本の教は外に無かろうがな。一番尊とい所が、一番粗末な事に致して在るのだが、此の由来が判りて来たら、世界のものは頭をかいて、後へ退りて居らんならんぞよ。化物怖いと申す誓へは、今度の事ぞよ。此の大本の化物は、三千世界の大化物で在るから、スックリ現はれて見せたら、如何なものでも改心致すぞよ。ナガイ化物で在るから、世界に応じて現はれるぞよ。今の人民、上からは立派なが、憑いて居る守護神が悪いぞよ。ドンナ偉い人間でも、此の綾部の大橋を渡りて来んと、実地の事が解らんので、悪く言ふて居りても、頭を下げて来ねば成らん様に成るぞよ。余程神徳の在る者で無いと、綾部の大本は取り違いを致すぞよ。磨けん身魂はテンで判りかけが致さん、昔から無い事を致すので在るから、艮の金神が三千年界に落ちて仕組致した事、早速には人民からは。見当の取れん経綸で在るぞよ。人民界で何程エラウても、此の神の御道は、始の一から仕直して貰はねば成らんから、いろはの勉強は辛いから、皆我を出して、ナカナカ神徳の貰る身魂は少ないぞよ。今の人民、神界の持て余しものじゃ。助けて与ろうと思ふて、誠を言ふて与ると逆に取りて、夫れだけ身魂が余計に曇りて、我が手に苦しみを致すぞよ。艮の金神を悪神と為て、丑寅へ押込なされたが、此の方が悪で在りたか、押込めた方が悪で在りたかは今度判るぞえ。永い惜しい残念の凝りが開けば、世界には珍らしき不思議を為て見せるなれど、神の威勢は、大本の役員の行ひして下さらぬと、天晴れ出す事は六ケ敷いぞよ。朝夕の神への御礼拝から規律を付けて、行儀能く何彼にを為て[*「何彼にを為て」は底本通り。]貰ぬと、世の立替といふ様な、人民力では出来ぬ大望な事が差し来りて居るのに、勝手仕放題には為て貰へん、是から大本は何彼の事が厳しくなるぞよ。信心なき人はドシドシ取り掃ひに致して、此の中は誠一つに固めて了はねば、何時までも神の仕組が成就致さぬぞよ。此ンな大望有りては世界の人民が気の毒が出来るなり、無ければ世はヒシと行けんなり、神も苦労を致すぞよ。表面は洗えば垢も落ちるなれど、腹の中の掃除が面倒いぞよ。教を致す肝腎の人から掃除を致さな成らんぞよ。皆我が目的斗り、水晶の世に致さうとは余程無理な事なれど、夫れじゃと申して、此の儘で棄て置いたれば、十年先に成りたら、日本魂の種が無く成りて、世界は一様に難渋な事に成り、日本の国は四ツ足の良い遊び所と為りて、神が此の世の守護の出来んやうに成りて了ふから、日本の人民に早く日本魂に立帰りて下されと、急き込むので在るぞよ。九分九厘で悪神の仕組は平げねば成らぬから、夫れは此の大本より外には世界中に無いので在るから其の覚悟で皆の立寄る誠の人よ、御用を致して下されよ。此の世は強い者勝ちには致されぬ従ふ処へは従ふて来ねば、何程高い神でも覇のきいた守護神でも、是からは行けん事に世が変るぞよ。今迄世が乱れて皆の守護神がまぜこぜに天の規則が潰れて居りたから、此の変り目に不足を申す判らん守護神が八分有るなれど、ソンナ事にかかりて居りたら、此世が潰れて了ふぞよ。我欲目的ありて大本にうろついて居りたらドエライ恥晒しに成るぞよ。余程魂を磨いて、世界の大本は、男も女も胴をすえて居らんと、身ぶるいする様な事が世界からでて来るぞよ。其の時に楽に御用の出来るやうに、何彼の事を心得て居りて下され、神に不足は言へんので在るから、他では判からん結構なことの判る大本へ出て来て、陽気信心致して居りては、天地へ御無礼が出来るぞよ。世界中の身魂の審査致して洗濯を致す、地の高天原へ出て来て、今迄の様な信心では功果は無いぞよ。皆行ひを変へて下されよ。今迄は目の前の事も判らん暗雲の世で在りて、我の事が我に判らなんだから、行ひを変えいと申しても、見当が取れなんだなれど、其れは神から出口に筆先で気を付けさすから、其の通りに致さんと、神からは見放され、世界からは嘲笑れ、身の置き所も無い様に成るぞよ。世界から教られる様な事では示しが出来んぞよ。身魂さえ筆先通りに磨いて下さりたら、世界の事が見え透いて、発根と改心が出来るなれど、神さまでも他の神様御存知無き様な仕組で在るから、智慧や利口で行ろうと思ふたらスコタンに成るぞよ。機の仕組に致して在りて、今迄は縦の御用が骨が折れたなれど、この先は横の御用が繁多なるぞよ。そうなりたら物が早く判るぞよ。此の事は出来上らんと判らんなれど、心配は為て貰はいでも、欲に離れて成ろう様に為て居りたら良いのじゃ。役員は多勢無くても心を揃へて胴をすえて居りたら神が致すぞよ。けれども気ゆるしは為て貰へんぞよ。昔の剣今の菜刀、上ばかり良くても真からの光りで無いと、世は永うは続かん、皆思ひが薩張り間違ふて居るぞよ。此の大本の行は、食物を大切にまつべて、家の内をキチンと清らかに致すが一の行じゃ。ずんだらな事は神は嫌ふぞよ。
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(3537)
大本神諭 神諭一覧 明治35年旧6月16日 明治三十五年旧六月十六日 我れの我力で行ろうと思ふても、出来んやうに仕て在るから、人に言ふて貰ふての改心は、又後戻りを致すから、行ろうと思えば行りて見るも良い、恥かしき事が出来るなれど、変らぬ信心致せば後で発根の改心が出来ようぞよ。二度目の世の立替は引掛け戻しの仕組、同じ事を仕て見せるぞよ。鬼でも邪でも発根と改心為せて見せるぞよ。今度此の大本の規則を破りた守護神は、此の大本で帳を切られたら、万劫末代、世に出る事は成らん規則に定まりたので在るから、一度申し附けたら、此の先きで此の方出口の申す事を逆いて何致しても、規則破りで在るから、其の身魂は厳しき事に致すぞよ。昔の岩戸が閉まりた折より、今度の二度目の世の立替は、まだ骨が折れるぞよ。世が悪る開けで、守護神が皆悪へ覆りて居る故に、人民が此の上は無い悪く成りて居る故に、ナカナカ厳しき懲戒が無いと立て変らんぞよ。恐ろしき事に曇りたものじゃな。是でも時節が来たから、見て御座れ、大神様の御守護が在り出したなれば、是迄の守護神はメザメザだぞよ。何事もものは云ふ中に聞かんと、忍り耐りて隠忍袋が切れたら、きつき事が出来るぞよ。取り返しは出来んぞよ。 天の規則を地で致す様に変りて居るのに、余り何時迄もよう判けんと、誰に因らん、一度に分けて見せて与るぞよ。夫れでは何も知らん人民が、可愛想な事に成るから、種々と申して知らして与れば、悪く申す者斗り、夫れでもと思ふて、大神様へ御詫びを申して、其の間に気が注くで在ろうと思ふて、一年延ばせば、結構な事が在る様に思ふて、筆先は偽じゃと申して不足を申す人が在るし、悪き事が在ると、又不足を申すで在ろうが、何ありても不足を申して呉れなよ。此の上は、改心致そうより仕様は無いぞよ。艮の金神は、改心さえ出来たなれば、敵でも助ける。此の艮の金神、又敵対ふて来たなれば、鬼か蛇に成る神。是迄は夜の守護で在りたから、左程にも無かりたなれど、是からポツボツ何彼の事をはじめるぞよ。出口直には、是程大謨な御用を命せて居るのに、何も判らずに敵対ふて来るのは、守護神の思ひが、是迄の俗悪世界に跳梁て御居でる方の行り方で在るから、肉体も同じ心なのじゃ。モウその行り方の世は終結みたから、此の方の申す様に致さんと苦しむ斗り、人の苦しむのが面白いと申す様な守護神は、大本の竜宮館へは、一寸も這入る事は成らん規則に定めるぞよ。此の出口が、末代の世界の鏡で在るぞよ。何時の昔からか判らん程永い苦労を為て、今だに喉から血を吐く程気苦労を致して居るが、規則破りは、是程の艱難を致さねば、天から御許しが無いから、可愛想なからクドウ気を付けて、不調法の無い様に、身魂を磨けと申すのじゃぞよ。世を立替致すと、モウ一ツ規則が厳しく成りて、今度規則破りた身魂は、末代御許しが無い、此の明るい世界には出て来られん所へホリ込まれて了ふぞよ。コンナ厳しき規則で無いと、ままよままよの仕放題の行り方では、末代の世が神国の世に治まらんぞよ。夫れで人民の力では、此の世は持てんと申すのじゃ。改心が一等ぞよ。今度竜宮館で変性男子に定めさした規則は、末代の世の規則で在るから、チットも違はす事は出来んぞよ。此の規則で、世界中の善し悪しが判るから、此の中さえ規則通りに成りて来たら、艮の金神は自然的に表に出る神で在るぞよ。思ひが違うと、物事が天地の違いに成るから、誠の人よ、能く筆先を見て下されよ。筆先と実地とを命すから、此の中の三人の致す事に、能く目を付けて置いて下されよ。何も神が経綸で能く判る様に、実地が命して見せて在るから、モウ経綸が能く判るから、是迄は実地の経綸を申すと、邪魔致す守護神が在りたから、何も余り言はなんだなれど。是からは、実地の事を申して、楽に御用を為すぞよ。判りた守護神を竜宮館へ引き寄して、御用に使ふて、何彼の事を判けて見せば、発根と改心が出来るから、此の中に、今に判らん様な事では、大変不都合な事が在るぞよ。
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大本神諭 神諭一覧 明治35年旧7月25日 明治三十五年旧七月二十五日 日本の国が獣類の世に成りて仕舞ふて、此辺で置いては同胞相食を致すやうに成るから、明治二十五年から気が附けてありたぞよ。此世は末法の世で、末法の世はまだあるなれど、此辺で置いたら国は薩張潰れて仕舞ふから、此世が来るは見えて居る故に、此方頑張りたのでありたのぢゃ。此方は何千年、何万年の将来の事が見えるのであるぞよ。頑張りたり、斯ンな我の強い守護神を此世へ出して置いたら、皆の神が困ると一致が出来て、此方を艮へ押込なされて、此頑張るものが無く成りて楽に成りて、段々と世が悪るく成りて、さうする間にぶつじが蔓りて、外国の教に従ふて、獣の世の中となりて仕舞ふて、艮之金神が蔭から見て居れば、矢張り申してある通りの世に成りて、天の規則も用ゐずに強い者勝ちの世となりて、大神様の神力も無くなるのは、此世を持ちて居り成された神さんの世の持方が悪るき故に、大神様も御困りに成りて、神も人民でも同一事であるぞよ。この世持つのは、千年も万年も将来の見える神でないと、三千世界を構ふと云ふことは、中々覚えが無くては持てん。何のい成りと持ち放題に致すのなら誰でも善いなれど、日本丈が持てなんだであらうがな。これだけ世を持ち荒らして仕放題に致して置いて、後の束ね直しは欠張元を造らいた此方と、出口の骨折でなくば出来は致さんぞよ。
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(3546)
大本神諭 神諭一覧 明治36年旧1月1日 明治三十六年旧正月一日 艮の金神稚姫岐美命が出口の神と現はれる時節が参りたぞよ。変性男子がスックリと現はれたなれば、如何なる人も改心を致して従はねばならんことになるから、気を注けて与るのに、己自が上位じゃと申してエラそうに思ふて居ると、余り大きな間違ひで、羞しいて、猫に逐はれた鼠の様にして居らんならんから、此の出口はそういう事を見るのが嫌ひであるから、其処まで行かん中に、一般身魂に天賦使命自覚の出来るやうに気をつけて与るのじゃぞよ。人を悪く申して喜ぶやうなソンナ小さい事を思ふしぐみで無いぞよ。出口は女体で在れどもチト非凡う身魂であるから、後日で恥かしき無きやうに心得てお座れよ。変性男子の二度目の世の建替を致す御魂であるから、誤解謬悟の無きやうに致されよ。申したことの違はん御魂であるぞよ。万劫末代の経世基本と成る神諭を、エライ粗末に申して居る人が、天威地徳不判明のは道理であれども、自己の心鏡が汚濁て居ると、何結構なこと申して聞かして与りたとて、心盲心聾で何も判ろまいがな。それで気色も無い以前から口と手とで警告して与りたなれど、此の底の分らん神業の判る身魂が、守護神にも人民にも、此の世に無いと申すは、日本は神国と言ふだけで、日本神国の本来天成之使命が発揮る身魂が無いからじゃぞよ。薩張り害天真個人本位的国家経綸法に信服う様な見苦しき身魂に堕落て了ふて、非人道的不義行為を致して、イッカド自分は偉大いやうに思ふて居るが、此の艮の金神の経綸が判明りて来たなれば、羞かしうて門外へもヨウ出ぬやうな事に成りて、残念な事が出来るから、早うから気を注けて与りたなれど、何を申しても学理で出来た智慧であるから、神智徳行が無いので皆惇徳失敗のじゃぞよ。是から学理本位人智万能主義者が天地之極美極徳破壊者に信服りて居るから、科学万能を誅戮て、神掃比爾掃て了ふから、早く覚悟為されよ。茲まで致さずに治めたいと思ふて、種々と申して知らしたり訓戒たり為せたなれど、一言一句も聞き入れなき故に、モウ世運窮局に成りたから、ドウしても信従んなれば、皆身魂の罪穢を発露表示のじゃぞよ。此の変性男子の御魂が天の規則を背いて、茲まで苦労致して、此の二度目の世の建替の御用を致して、世に落ちておいでます神を世に上げて、仏事、人民、畜類、鳥類、餓鬼まで救済て与らねば、変性男子の御役は勤め上がらん、至重至大な御役で在るが、男子は今度此の御用を致すに付いて許して与りたが、是から男子と女子との因縁を表示はして、世界の人民に改心をさす大本で在るから、太元から、まだ此の世開闢以来無き事が出来るのじゃと言ふ事が、毎度筆先に書かして在ろうがな。是れから女子の因縁を筆先に出して、太昔からの因縁を説いて聞かせると、世界中が鳴り渡りて、世界の人民が、今の世は暗黒無義肉欲的競争之餓鬼世界に成りて居るのを、能く自感自得やうに出口の手で書かすから、世界治定事業は是れ位苦労致さねば貫ぬけん、人道背正義は仕放題、行り放題、気儘放題に致して、自己さえ富栄満足けら良い行り方、善と悪とを立別て、善と悪との力くらべを致すのであるから、此の大本内へ立寄る人は、此の大本は他の教会の行り方とは薩張り行り方が違ふから、此の大本は筆先を充分腹え入れんと何も判らん、昔から書物にも遺言にも無きことを、いろは四十八文字で、三千世界のこと、あることを参考書なしに書き放題に、出口直の手で、世界に出現事象とキチリと合致やうに、以前以前に書かす役、手と口とで知らせる御役が、変性男子の御役で在るぞよ。皆肉体では余程善き事を為て居るやうに思ふて居るなれど、是れは皆霊魂の性来、根本神威発揚而天地清明之世に成れば、霊魂の将来を表示して天賦至霊至魂復帰さすぞよ。
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大本神諭 神諭一覧 明治36年旧1月5日 明治三十六年旧正月五日 艮の金神稚日女君命の御魂が、出口の神と出現れる世が参りたのであるから、今度の世の立替は、人民からは見当が取れんから、毎度筆先に出して在るが、出口は病気直しのやうな小さい事をして、人を喜こばすやうな御用では無いと言ふ事は、明治二十五年から申して在るが、出口の御役は、三千世界の世を立直して、後始末を善くする御役で在るから、世界の人民の堕落性を復活す、世界が乱れて居るのを整理復元を致す御役で在るから、自己好信心やら、我が身の目的の在るやうな不義心の在る人は、薩張り思ひの違ふことに成るから、思ひ違ひの無きやうに仕て貰はんと、自分の心の間違ふて居ることは言はずに置いて、此の方出口を恨めては下さるなよ。従来の此の世に出ておいでた守護神は、皆悪に反へりて居る故に、至誠と言ふ事が無いので、是迄の祈念も誠に結構な事、此の祈念を人を指して唱げて貰ふと霊魂が浮ぶので在るから、是迄神威隠伏て居りた神は、出口直に日々祈念を戴いて、今度出口の御蔭で、昔の元の世の神の光徳の、出る時運が参りたのであるから、今後は世が上下に転動るので在るから、此の綾部の大本の神命神則通りに為て貰はんと、是れから誠の教を遂行すについて、筆先の中の結構な処を選り抜いて、世界治定神業扶翼を致さねば成らんなり、結構が判りて来る程筆先が大切に成るから、大部目算の変動う人が出来るから、夫れが出来ると可愛想なから、毎度気が注けさして在りたのじゃぞよ。此の大本の仕組は未だ見当が取れんから、申す様にして居りて、今日ひもじうな事さえ無くば良いと思ふて居りて呉れいと申しても、取越苦労を致すなれど、一度申したら違はんので在るぞよ。人民は何も神界の摂理は判らんゆえ、此の病魔神も此の世の悪神じゃぞよ。病魔神でも御祈念を唱げて貰ふと浮みて病気が退くのもあるし、余り罪科の在る守護神は神徳をヨウ頂かん、罪の深い身魂も在るから、神徳普八荒神代に成れば病魔神と言ふものは平定掃蕩て、病も媒介を致さぬやうに為るなれど、今の世の儘で置いたら、善き事は一つも出来はいたさんぞよ。光徳照六合の世に成れば、悪邪神と言ふやうな汚濁物は、日本の神国には住かんやうに、皆神放比爾逐て了ふ神政が為て在るから、此の事が天晴判明て来たら、日本は神を敬わねば不可と言ふ事が能く判りて来るなれど、今の世界の人民は、神は信じずとも良いものじゃ、自己が自己の事を為て居ると思ふて居るなれど、自己の霊魂は汚濁て守護神に力徳発輝が無く成りて居るから、世界の人民の身魂と申す者は、真暗黒面になりて居るから、此の世が薩張り乱雑たのじゃ。優勝者跋扈の世態と申すのは、本来は完全無垢な分霊分体を被分興て居りて、無責任な世の経営を致して置いて、今の神徳の宣伝者を為て居る人民は、皆神を松魚節に致してをるが、天賦至霊至徳発揮的信仰には成りて居らんぞよ。至誠至心世界守護の神に祈願を致さねば、身魂の修祓を致して、完全無垢至霊魂に致して与る世が参りたなれど、此の身魂の洗濯致すには、陽気信心やら自我的目算の在るやうな精神や慢心いたし、疑ひの在るやうな事では、綾部の大本は真正の天徳天権は不発輝からその積りで来てもらわんと、大きな間違ひが出来るぞよ。綾部の大本は真義を天地へ徹底て、至仁至変心で悪鬼でも害蛇でも悦服帰順を為して見せる、綾部が世界の大本になる、出口の入り口が龍宮館で高天原と成りて、天の規則を定める尊とい霊域に成る崇高不可侵な神廷で在るから、今では人民からは未だ見当が取れんなれど、日に増し判りて来るが、エライ目算違の人が出来るから、出口の手で日々気を注けたので在りたぞよ。改心致せと申すは、是れ迄の世は悪神の世で在りたから、世界に真善真美が発生て居らんから、世を立替て至純至清完備無欠の神世にいたすに付ては、従前のことは何も用いられんやうに変るのであるから、筆先通りに致して呉れたら良いのじゃぞよ。助善懲悪之神政厳正施行ぞよ。