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101

(2026)
霊界物語 31_午_南米物語3 国依別の旅 17 新しき女 第一七章新しき女〔八八三〕 恋の暗路にふみ迷ひブラジル山の谷底迄 情欲の鬼に魅せられてモリス、秋山別の両人は 百津常磐木の山桃の大木の株に憩ひつつ 悲しき恋の叫び声山は裂け海はあせなむ世ありとも いかで忘れむ紅井姫エリナの後をどこ迄も 捜さにやおかぬと雄健びし俄に化た木の上の 天狗相手に大問答烏鷺闘はす最中に 夢にも忘れぬ恋人が不思議や爰に現はれて 恨の数々並べ立てお前は情ない男ぞや かよわき女の身を以て虎狼や獅子熊の 伊猛り叫ぶ山野原慕うて尋ね来た者を 今迄何処にうろうろと主なき花を手折りつつ 妾二人を振り棄ててこンな所迄来ると云ふ 情ない事がありませうか男心と秋山別の 空恐ろしい早変りやいのやいのと取りついて 若い男女の囁きも二人は遂に解け合うて お前の優しい心根をモチいと早く知つたなら こンな苦労はせまいもの恋に上下の隔てない さあさあお出でと手を執つて怪しき女と白雲の 山かき分けて進み行く恋の擒となり果てし 二人の男の身の上ぞ憐なりける次第なり あゝ惟神々々神の御幸を蒙りて 体主霊従の情動に経験深き瑞月や(瑞月) 浄写菩薩の両人が狩野の流れの波高く(波子) 杉の林を村肝の心静かに眺めつつ(林静) 安楽椅子に横たはり遠慮会釈も荒川の 飛沫の音もサワサワとあたりの人を敷島の 淡き煙に巻乍ら国依別の一行が 四人の男女のローマンスいと永々と述べたつる 此物語新しき歴史の様に聞ゆれど 百年千年五千年万年筆の其昔 昔の昔の其昔殆ど三十万年の 古き神代の事ぞかし二人に憑いた副守護神が 肉体かつて経験を喋つて書くと思ふたら 非常に大きな間違ぢやあゝ惟神々々 神の心に見直してすべてを善意に解釈し 此物語聞いてたべ夢か現か誠か嘘か 判断つかぬも無理はない今の世人の心では 神代の人は押し並べて皆正直な堅造で 情欲などに心をば奪はれ苦しむ人なしと 誤解してゐる眼より此物語読むならば 合点の行かぬ事であろ過去と現在未来迄 一貫したる神界の真理に変りはなきものぞ 暫くうぶの心もて只一片の神の代の 恋物語とけなさずに心をひそめて読むならば 苦集滅道の真諦を確かに悟り村肝の 心の暗の明りとも塩ともなりて諸々の 罪や穢れを清め得る清涼剤と信じつつ あらあら茲に述べておくあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 恋の擒となつた両人は、怪しき女に伴はれ、茨を分け、萱草の間を潜り、蜈蚣、大蜥蜴の群に驚かされ、蜂には刺され、虻には咬まれ、蚋には悩まされ、酷熱の太陽に曝され乍ら、果てしも知らぬ大山脈の麓を東南指して、当途もなく進み行く。 アマゾン河の支流なる、可なり広き深き、シーズン河と云ふ河堤に、四人の男女は、漸くにして辿り着きぬ。 紅井姫『秋山別さま、あなたは妾を何処迄つれて往つて下さいますの』 秋山別『あなたこそ、私を何処迄伴れて行つて下さるのですか。迷ひ迷うた恋の暗路、行手が知れる様なことなれば、決して恋とは申しませぬワ。姫様が後を向いては、手招きし、早く来い来いと、恋の手招き遊ばしたのを楽みに、何の事はなく、見失つては大変と、敏心の勇み心を振起し、生命を的に従いて来ました』 紅井姫『あなたが妾を妻にしてやらうとの御熱心には妾も感謝に堪へませぬが、男として否人間として、災多き現世に、独立独歩相当の生活を営まむとするならば自分の行くべき所、又進むべき方針がつかなくてはならぬぢやありませぬか。只女の美貌に恋着して、自分の身を忘れ、恋の荒野に彷徨ひ、一寸先の目当も付かぬ様な男子は妾は厭ですよ。女としては男らしい男、気の利いた前途の見える人ならば、どンなヒヨツトコでも、跛足でも目つかちでも、鼻曲りでも、菊目面でも構ひませぬ。甲斐性のある男を、女は好ます。女は男に一生其身を任す者ですから、女の禍福は夫の強弱、正邪勝劣、賢愚等にあります。折角ここまで、お前を伴れて来て、試して見たが、何とマア、お前さまは、交尾期の来た、犬猫の様なものだワ。エヽ汚らはしい、何卒只今限り、こンな見つともない腰抜身魂を、妾の前に曝して下さるな。エヽ好かンたらしい腰抜男だなア』 と云ひ乍ら、秋山別の頭を、白い細い手にてピシヤピシヤと打叩けば、秋山別は、 秋山別『イヤ何とお前にそれ丈の考へがあるとは、今の今迄知らなかつたよ。深窓に育つたお嬢さまだから、何一つ知りはしよまい、是から此秋山別が、いろいろと世間学を仕込ンで、立派な賢母良妻に作り上げ、円満なホームを作り、世界の花と謳はれて、幾久しく、末永う、偕老同穴の契を結ばうと思つて居たのだ。イヤもう今の言葉を聞いて、ズーンと感心した。実の所は是れから、大方針を立てて、夫婦の水火を合せ、神の生宮として、大神業に奉仕すると云ふ大抱負を持つて居る秋山別だから、姫さま、必ず必ず取越苦労はして下さるな。何も彼も、此秋山別が方寸に止めてあるから……』 紅井姫はツンとして、 紅井姫『男と云ふ者は凡て一生の方針を立てて、是なれば妻子を大丈夫に養つて行く事が出来ると云ふ様になつてから、女房を持つべきものぢやありませぬか。それに何ぞや、是から方針をきめると云ふ様な薄野呂男に、何程女が沢山ある世の中でも、一人だつて相手になる者が御座いますかい。いい加減に馬鹿を尽しておきなさいよ。妾は只今限り御免を蒙りませう。其代りお前さまが一人前の立派な男にお成りになつた暁は、何程お前が妾を嫌つても、今度は私の方から放しませぬから、そこまで御出世をして下さい。今から女に心を取られる様な腰抜野郎だつたら、駄目ですよ。第一あなたの身が立たず妾も約りませぬから、どうぞ悪く思はずに諦めて下さい』 秋山別『コレコレ姫さま、一応其お言葉は無理とは思ひませぬが、そりや又余り薄情ぢやありませぬか。貴女を慕うてこンな山奥迄ついて来た男を、今更、一度の枕も交さず、愛想づかしとは、余りで御座います。斯うなつた以上は、私も男の意地、生命にかけても、やり遂げねば置きませぬ。サア姫さま、私の恋は命懸けだ。返答なさいませ。御返答次第に依つては、此儘ではおきませぬぞ』 紅井姫『ホヽヽヽヽ、あのマア腰抜男わいのう。多寡の知れた女一人を捉まへて、脅し文句を並べしやます、其卑怯さ。何程脅喝なされても、そンな事にビリつく様な女では御座いませぬわいなア。ヘンお前さまの様な未練男に添う位なら、一層此シーズン河へ身を投げて死ンだが得策で御座ンすぞえ』 秋山別『死ぬ死ぬ云ふ奴に死ンだ例しなしだ。そンな事を云つて、姫さまは反対に此秋山別を脅喝するのですなア。油断のならぬは女だ。何時の間にこンなお転婆にお成りなさつたのかなア』 紅井姫『ホヽヽヽヽ、婦人開放に目覚めた新しい女ですよ。是でも女子大学の優等卒業生ですから、男の五人や十人、喰はへてふる位は朝飯前の仕事、今迄深窓に育つた未通娘の紅井姫だと思つてゐたのが、お前さまの不覚だ。オイ君、チトしつかりせないと、婦人同盟会を組織し、男子放逐論を主唱し、女尊男卑の社会にして了ひますよ。オツと、君も僕のハズバンドに成りたいと思ふなら、それ丈の資格を具備して来なくては駄目だよ。僕はもう、是から帰るから、君はここでゆつくりと思案し玉へ』 秋山別『何とマア、呆れたお嬢さまだなア。黙つて聞いて居れば、君だの僕だのと、女の癖に何と云ふ事を仰有るのだ。併し乍ら、さう活溌な女と聞けば、なほなほ恋しくなる。お嬢さま、イヤイヤ君、……君といつた方がお気に入るだらう……君と僕と二人相提携して、天下の経綸を堂々と遂行したら如何だね。随分面白からうよ』 紅井姫『エー好かンたらしい男だこと、お前さまの方から吹いて来る風も厭になつた。こンな時代遅れの男とは思はなかつたに、選りに選つて、古めかしい頭脳の黴の生えた骨董品、斯んな品物をウツカリ買ひ込まうものなら、それこそ一生僕の浮ぶ瀬がなくなる。オウさうだ一層の事、此シーズン河へ身を投げて寂滅為楽となり、浮き上つて川瀬を流れたら、それこそ浮む瀬があると云ふものだ。オイ君、僕は是からザンブと計り、投身するから、君は娑婆に残つて、十分の馬鹿を尽し、決して僕の後を尋ねて来ちやならないよ。アリヨース』 と云ひ乍ら、身を躍らしてザンブと計り、シーズン河の激流に飛び込み、パツと立つ水煙と共に後白波と消えにける。 秋山別は水面を眺め、アフンとして、暫し思案に暮れ居たりしが、 秋山別『あゝどうしたら良からうかな。こンな事ならヤツパリ、エリナの方を情婦に持つのだつたに、モリスの奴甘い事をしよつたナ。何時の間にやら、俺達の目を掠め、エリナを伴れて、どこかへ伏艇しよつたと見えるワイ。潜航水雷艇をどこへ伴れて行きよつたかなア。一つ俺もエリナ丸に乗り替へねば、敵艦に向つて夜襲することが出来まい。アーア、掌中の玉を取られたとは此事だ。紅井姫も可哀相に、余り暑い所を無理に歩かしたものだから、陽気のせいで精神逆上し、そこへ数十万年未来のハイカラ女の悪霊が憑依し、君だの、僕だのと、取とめもない事を云ひ、しまひの果にや、シーズン河の投身とお出かけなすつた。どうも気の毒なものだ。あゝ併し俺も斯うして、一人こンな所に溺死よけの石地蔵の様に川を眺めて立つてゐてもつまらないワ』 と呟いてゐる。そこへエリナの手を引いて、モリスはさも嬉し相にニコニコと辿り来り、 モリス『ヤア秋さま、お前はここに居つたのか。紅井姫さまにお前はモウ秋さまだと云つて、エツパツパを喰はされたのだなア、アハヽヽヽ』 エリナ『ホヽヽヽヽ』 秋山別『エヽ喧しワイ、余りハイカラ女で、到底家庭の主婦として不適任だと思つたから、俺の方から秋山風を吹かして、どうぞ是からお前の様な女は、俺に顔を合して紅井姫だと云つて、エツパツパとやつたら、紅井姫が云ふのには……君それ程僕が不信用なら、僕も君に対し、強つて添うてくれとは云はないよ、アリヨースと云つてあつたら生命を水の中にザンブと計り、シーズン河だ、さすがの俺でもチツとは憐れを催し、同情の涙にシーズンで居るのだよ、あゝゝゝとは云ふものの、如何したら姫が帰つて来るだらうかな、思へば思へばいぢらしいワイの、オンオンオン』 エリナ『君は何かい、紅井氏をどうしたと云ふのだい。僕に詳細なる顛末を差支なくば知らして呉れないか。僕大いに期する所があるのだからね』 秋山別『ヤア此奴も又伝染しよつたなア。オイ、モリス、用心せいよ。又ドンブリコと計画に取掛られるかも知れないぞ。こンな所で、舟の一艘や二艘沈めたつて、閉塞隊の御用も勤まるものでなし、丸で淵へ塩をほり込むやうな不利益だから、シツカリエリナ君を捉まへてゐ玉へ。僕は経験上、君に注意を与へておくよ』 モリス『あゝ、モリスも薩張り合点の行かぬ事になつて来たワイ』 と拍手し終つて『惟神霊幸倍坐世』を三唱し、何事か切りに暗祈黙祷を久しうして居る。 (大正一一・八・二〇旧六・二八松村真澄録) (昭和九・一二・一九王仁校正)
102

(2030)
霊界物語 31_午_南米物語3 国依別の旅 21 白毫の光 第二一章白毫の光〔八八七〕 二台の火の車は婆アの小屋の前で停車し、中より青赤の運転手、技手、鶏冠の様な、キザのある腮をしやくり乍ら、金銀色の角をニヨツと表はし、車より下りて、ツカツカと二人の前に立塞がり、 青鬼『其方は秋山別、モリスの両人であらう。サア冥府よりの迎へだ。グヅグヅして居ると時間が切れる。早く此火の車に乗れ』 と巨眼をひらき睨めつけ呶鳴り立てる。秋山別は焼糞になり、 秋山別『オウ、俺も男だ。火の車が何恐ろしいか。俺達は娑婆に於て、日々会計不如意の為に家には火が降り、尻には火がつき、火の車を日々運転して来た火宅の勇者だ。乗るのは少しも厭はぬが、併しマアよく聞け。貴様の面は何だい。海辺の銅葺の屋根の様な洒つ面をしよつて、斯様な赤い車に乗り、何をオドオドとして青ざめてゐるのだ。チツとしつかり致さぬか。コリヤ一匹の奴、貴様の面は何ぢや。仏像の前に罷り出でて、婆、嬶の目糞、鼻汁をぬりつけられ、鼻つ柱も何もすりむかれてゐやがる賓頭盧の様な真赤な面をして何の事だい。昼日中酒を喰つて酔つ払つて居るのだらう。そンな事でお役目が勤まるか。俺の顔を見て、ビリビリ震ひ、真青な顔する奴や、弁慶の様に酒に喰ひ酔うて真赤になつて居る様な運転手や車掌の乗つて居る火の車には、危険で乗れたものぢやない。マア出直して来い。明日ゆつくりと乗つてやるワ』 モリスはおどおどし乍ら、 モリス『オイ、秋公、そンな非道い事を言うない。モウ斯うなつては仕方がない。神妙にしてゐるのが得だよ。……モシモシ青さま、赤さま、秋山別の只今の御無礼は何卒許してやつて下さいませ』 青鬼『そりや許さぬ事はないが、ここは地獄の八丁目だ。お前達が娑婆に居る時から言つて来ただらう。それ、地獄の沙汰も○○○と云ふ事を……』 秋山別『ハヽヽヽヽ、矢張金次第と吐すのかな。それもさうだらう。この秋様も娑婆に居つた時汽車に乗るのに、普通の人間より二倍がけ出すと、それは都合の好い二等室に乗せてくれよつた。三倍がけ出すと、一層具合のよい一等室へ白切符を持つて乗せよつた。切符でさへも、青、赤、白と三段に区別がついて居る。お前の顔は青切符だな。ヨシヨシお前は赤切符か、さうすると、赤切符の方からきめてかからぬと、青さまに呉れてやる標準がつかないワ。此火の車は一哩幾程だイ』 青鬼『火の車の運賃は請求せない。是は冥府から差廻された特別上等の火の車だよ。さうして俺達は相当の手当を頂いて居るのだが、そこはそれ、最前云ふた通りだ』 秋山別『ヨシ、分つた。そンな事の粋の利かぬ秋様ぢやないワイ。ここでは何と言ふか知らぬが、娑婆では袖下と云ふ物だらう。お前の様な洋服では袖もなし、どこへ入れたら宜いのだ。見当がつかぬぢやないか』 青鬼『袖がなくても、ポケツトが洋服の随所に拵へてあるワイ。其ポケツトの重い、軽いに依つて、焦熱地獄のドン底へ連れて行くか、但はモツトモツト楽な神界の入口へ送つてやるか、ソリヤ分らぬ。○次第だからな』 秋山別『それならモリ公のと俺のと一緒にやるから、二人共同じ所へ助けるのだぞ。就いてはお前達、二台の火の車に四人だから、百両づつやつても四百両。此婆アさまに篏口料を渡しておかねばなるまい。さうすると五百両、一寸懐中が揉めるのだが、エヽ仕方がない。思ひ切つてエヽ二人で五百両、よく撿めて受取つたがよからう』 青鬼『コリヤコリヤ其方は怪しからぬ事を致す奴だ。賄賂を以て此方を買収せうと致す不届きな奴。之を受取るのは易いけれ共、俺も又収賄の罪に問はれ、貴様は又贈賄罪として益々罪が重くなるから、以後は心得たがよからう。但今日に限り忘れておく程に……』 秋山別『以後は謹めと仰有らなくても、最早之丈出して了へば、無一物で御座る。そンならすつかり忘れて了ふが、互に結構尻の穴だ』 青鬼『ヨシヨシ忘れて遣はす。サア早く乗れ。少しは熱いぞ。其代り窓を明け放しておいてやらう』 秋、モリの二人は脱皮婆アに向ひ、 秋山別、モリス『お婆アさま、大きに御世話になりました。お蔭で天国へ旅行致します。左様なら……』 と五人に百両づつを投渡し、二台の火の車に分乗し、ブウブウブウと音を立て、臭い屁を放り乍ら、砂煙を濠々と立たせ、一目散に北へ北へと駆けり行く。 火の車は何時の間にか驀地に逸走し、鉄の壁を以て高く囲まれたる赤き焦熱地獄の門の前に横付けとなつた。 青鬼『サア、此処が焦熱地獄だ。オイ赤、白、黒共、早く此奴等二人を引摺り落し、門内へ投込め。俺の命令だ』 秋山別『モシモシ青さま、ソリヤ約束が違うぢやありませぬか。地獄の沙汰も金次第と云ふ事をお忘れになりましたか』 青鬼『定まつた事だよ。其方がどうぞ只今限り忘れてくれと云つたぢやないか。何もかも忘れた此方、規則通り打込めば宜いのだよ』 秋山別『ソリヤ違ひませう。そンな事を仰有ると、閻魔さまに会つた時、一伍一什を申上げますぞや。さうすればお前さまも忽ち、首が飛ンで、吾々と同様に焦熱地獄へ落されますよ』 青鬼『ハヽヽヽヽヽ、馬鹿正直な奴だなア。鬼には鬼の閥があるから、外から指一本触へる事が出来るものかい。野暮な事を申すな。山猟師は熊、鹿を獲り、海漁師は魚を取り、猫は鼠を捕り、猿は蚤を取り、吾々は亡者を取るのが商売だ。仮令善からうが悪からうが、そンな事に頓着はない。何でもかでも、一人でも余計引張込みて来れば、俺達の収入が良くなるのだから、愚痴つぽい事を言はずに、いい加減に諦めたが宜からうぞ。閻魔さまに言ふなら言うてみよ、吾々と同じ穴の狐だ。キツト貴様達がお目玉を貰ふにきまつてゐるワ』 モリス『何とマア善を褒め悪を懲す、神聖な所だとモリスも思つて居たのに、丸でこんな事なら、世の中は暗がりだ。天地晦冥暗澹として咫尺を弁ぜず、天の岩戸隠れの世の中だないか』 青鬼『きまつた事だよ。それだから此処を冥府と云ふのだ。せうもない三五教なぞと、そこらを明かくし、誠とか云つて、古い道徳を振まはし、俺達役人……厄鬼共の領分を侵害致すから、何でも一寸かかりがあつたら、引張込まうと、手具脛引いて待つてゐた所だ。よくもマア引掛つて来よつた。馬鹿者だなア。サア早くキリキリと立てい』 と青赤白の鬼共は二人を引捉へ、無理に鉄門の中へ押込まうとしてゐる。押込まれては一大事と、一生懸命になつて『惟神霊幸倍坐世』を奏上する折しも、忽ち前方より一団の火光あたりを照らし、矢を射る如く、此場に現はれて大音響と共に爆発した。火の車も四つの鬼共もどこへ消え失せたか、影も形もなくなつて了つた。忽然として現はれた眉間の白毫よりダイヤモンドの如き光輝を発する神人一人、二人の脇立を連れ、二人が前に近寄り、頭を撫で、背を撫で、水を与へ、 神人(国依別)『ヤアお前は秋山別か、お前はモリスか、まだここへ来るのは早い。現界に於て働かねばならぬ寿命が残つてゐるぞ。しつかり致せ』 と拳を固めて、背中を二つ三つウンと云ふ程打据ゑられ、二人はハツと驚き、正気に復し、そこらキヨロキヨロ見まはせば、豈計らむや、シーズン河の河辺りに、三人の男に救ひ上げられ介抱されてゐた。此三人は国依別命、安彦、宗彦の一行である。 秋山別は驚いて、 秋山別『ヤアこれはこれは国依別の宣伝使様、私のような悪人を能くマアお見捨もなく御救ひ下さいました。実に有難う御座います。モウ少しの事で焦熱地獄へ落される所で御座いました』 モリス『誠に以て御無礼計り致しました。モリスの様な悪人を能くマア助けて下さいました』 国依別『決して御礼を仰有るには及びませぬ。大神様が私に此御用を仰せつけられたので御座います。どうぞ大神様へ厚く御礼を申上げて下さいませ』 二人は『ハイ有難う』と河原に行儀よく端坐し、拍手を打ち、天津祝詞を奏上し、神恩を感謝する。 是より秋山別、モリスの二人は心の底より悔ゐ改め、且つ国依別を神の如くに敬ひ、更めて弟子となり、ハルの国の大原野を渉り或は高山を踏み越え、アマゾン河の両岸にある大森林の魔神を征服すべく、宣伝歌を唄ひ乍ら、意気揚々として進み行く。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二〇旧六・二八松村真澄録)
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(2031)
霊界物語 31_午_南米物語3 国依別の旅 22 神の試 第二二章神の試〔八八八〕 国依別の一行はシーズン河を打渡り 荒野を駆けり山を越え夜を日についでアマゾンの 上流さして進み行く。 忽ち前方に屏風の如き、余り高からず、低からざる延長数百里に渡る山脈の横たはるを見る。此山は屏風ケ岳と云ひ、海抜二万五千尺、山頂の横巾は五十里に及ぶ。此山脈上より東南を広く観望すれば、アマゾン河は銀河の如くに流れ、鬱蒼たる森林は雲の如く、目に入る景勝の地点なりける。 国依別は此山に登るに就いて、左右に分れ絶頂に達したる上、作戦計画を定むる事とし、秋山別、モリスを南より登らしめ、自分は北の谷から安彦、宗彦と共に宣伝歌を唄ひ、屏風山脈の中央に帽子の如く突出せる峰を出会所と定めて登ることとせり。此山上に達するには如何しても、徒歩にて、四五日を要する丈の距離がある。 秋山別、モリスの両人は南の谷より、宣伝歌を唄ひ乍ら、標的の帽子山を目がけて進み行く。日は漸くにして山に隠れ、暗黒の幕は次第々々に濃厚に二人の身辺を包み来たるにぞ、二人は止むを得ず、坂道の傍に草を布き、横臥し、夜を明かさむとするや、俄に猛烈なる山颪吹き来り、二人の体は殆ど中天に飛ばさるる如き勢となりぬ。二人は『惟神霊幸倍坐世』を一生懸命に称へたれども、七十米の猛烈なる風力は容易に止まず、終に秋山別は風に吹き飛ばされて、暗夜の空を何処ともなく、散り失せにける。 モリスは幸ひ岩の根に喰ひつきて此難を免れける。漸くにして風は歇み、夜明けとなりて四辺を見れば、秋山別の姿無し。……大方夜前の烈風に吹き散らされて、どつかの谷底にでも落ちて居るのだらう、あの風は追風であつたからよもや西北の方へ散つて居る筈はない、キツと東南へ散つたであらう、さうすれば是から宣伝歌を高らかに唄ひ進み行かば、秋山別が吾声を聞きつけて来るだらう……などと心の中に思ひ乍ら、宣伝歌を唄ひ唄ひ山と山とに囲まれた谷道をトボトボと登り行く。 俄に聞ゆる女の叫び声、何事ならむと足を早め、声する方に近より見れば、妙齢の女、手足を縛られ、髪ふり乱し、そこに倒れ居たり。モリスは驚きて、手早く手足の縛を解き、言葉静かに、 モリス『モシモシ、どこの御女中かは存じませぬが、何者に斯様な残酷な目に会はされたのですか。是にも何か深い様子のある事で御座いませう』 女(紅井姫)『ハイ、有難う御座います。妾はシーズン河を渡り、此方へ参ります折り、四五人の荒くれ男に捉へられ、ドンドンドンドンと手足を括られた儘、ここまで担がれて、夢の如く連れて来られました。さうして今の先、妾に向ひ五人の男が交る交る無理難題を吹きかけまするので、妾は余りの悲しさ、何事にも応じませなかつた。さうした所、五人の荒男は腹を立て、鋭利な剣を引抜き、一度により集まつて、妾を嬲殺しにしてくれむと申し、今や彼等に嬲殺しにされようとする刹那、有難き宣伝歌の声が聞えて来ましたので、曲者は其声に辟易して一人も残らず、雲を霞と逃げ散つた所で御座います。あなたは何れの方かは存じませぬが、かよわき女の一人旅、行きもならず、帰りもならず、実に険呑で御座います。誠に御邪魔で御座いませうが、何卒御伴をさして下さいませぬか』 モリス『それは大変に危い事で御座いました。併し乍ら私は神様の御用に依つて、アマゾン河の上流迄参らねばならぬ者、女の方と道伴れになることは、到底出来ませぬから、是計りは平に御断り申します』 と女の顔を覗き込めば、不思議や紅井姫にてありける。 モリス『オー、貴女は紅井姫様ぢや御座いませぬか?どうしてマアこンな所に連れられて御出でなさいましたのかなア。サアどうぞ一時も早く立去り、元来し路へ御引返し下さりませ。かような所に長坐をして居れば、又候悪者が引返して来て、如何なる事を仕出かすか分りませぬ』 紅井姫『お情ないモリスさまの其御言葉、妾はあなたの内事司として、ヒルの館にお仕へ遊ばす砌より、朝夕お顔を拝し、何時とはなしに恋路に心を曇らせ、日に日に身体は痩おとろへて、重き病の身となりました。そこへ、秋山別の嫌な男、朝な夕な、妾に寄り添ひ、いろいろと妙な事を言ひかけ、大変な迷惑を致して居りました。余りあなたを思ふ恋の弱味で、恥かしくて、心にもなき情ない事を申しましたが、決して妾の心はさうでは御座りませぬ。どうぞモリスさま、今日はあなたと妾と只二人、こンな機会は又と御座りますまい。今でこそ妾の腹の底を打明けますから、どうぞ二世も三世も先の世かけて可愛がつて下さいませ』 と涙を流し、真実を面に表はして、かきくどく其しほらしさ。モリスは心の中にて非常に煩悶したるが思ひ切つて、 モリス『これはこれは姫様、あなた様は怪しからぬ事を仰せられます。如何して兄上様の御許しもなく、左様なみだらな事が勝手に出来ませうか。此儀計りは平に御許し下さりませ』 紅井姫『ホヽヽヽヽ、これモリスさま、よう、そンなことを、今になつてようマア仰有いますな。妾はあなたの心の底の底迄よく窺つて居りますよ。そンなテレ隠しは仰有らずに、一時も早くウンと云つて下さい。妾も気が気でなりませぬワ』 モリス『実は御察しの通り、寝ても醒めても、道ならぬ事とは知り乍ら、姫様の美はしき姿を一目拝むで……あゝ可愛い女だ……と思ひ込ンだが病み付きで、恋の病におち、それからと云ふものは、何を食つても味はなく、身は次第に痩衰へ、煩悶苦悩をつづけて居りましたが、或事より神様のお戒めを受けて翻然として悟り、今では、是迄のモリスとは違ひますから、此事計りは御許し下さいませ。モリス、手をついて御願ひ致します』 紅井姫『あのマア、モリスさまの白々しい御言葉、仮令天地が覆る共、一旦痩る所迄思ひつめた女、どうしてさう綺麗サツパリと思ひ切られる道理が御座いませう。余りぢらして下さりますな。恋は神聖と云ひまして、あなたと妾が夫婦になつた所で、夫がナニ罪になりませう。サア早く御返事をして下さい。又実際に嫌なら、嫌とキツパリ言つて下さい。妾も一つの覚悟が御座います』 と云ふより早く、懐剣を取出し、引抜いて、早くも喉にあてむとするを、モリスはあはてて其手を押へ、涙乍らに、 モリス『モシモシお姫様、あなたのそこ迄思ふて下さる御心は実に勿体なく有難う存じます。其御志は仮令死ンでも忘れは致しませぬ。併し乍ら今日の私は、最早神の光りに照されて、国依別様の弟子となり、アマゾン河の森林に言霊戦に参る途中で御座いますれば、何卒ここの所を聞分けて、思ひとまつて下さりませ』 と声を震はせ、泣き声になつて諫むるにぞ、紅井姫は首をふり、 紅井姫『イエイエ、何と仰有つても、女の一念晴らさねば置きませぬ。そンなら帰つてから夫婦になつてやらうと、ここで一事云つて下さい。それが出来ぬと云ふことが御座いますか』 モリス『折角乍ら、其事計りはどうぞ思ひとまつて下さいませ。モリス改めてお断わりを申します』 紅井姫『あゝ是非に及ばぬ。そンならモリス殿、妾は冥途へ参ります』 と又もや懐剣を引ぬき首に当てがはむとするを、モリスはあわてて其手を押へ、 モリス『又しても又しても、御合点の悪い御姫様、モリスの様なヒヨツトコの愚鈍者の分らずやが、如何して尊い姫君様の恋男になることが出来ませう。あなたの御志は身に代へて有難う御座いますが、どうぞこれ丈は許して下さいませ。モウ私は女に会ふことは断念して居りますから、折角の決心を何卒ゆるめて下さいますな。モリスのお願で御座います』 と手を合せ頼み入る。 紅井姫、厳然として立上り、言葉をあらためて、 紅井姫『我れこそは大江山に守護をいたす、鬼武彦が幕下旭日明神と申す者、汝の心底は最早疑ふの余地なし。いざ是よりアマゾン河に向ひ、天晴れ、言霊戦に功名手柄を現せよ。我も汝に力を添へ、守り与ふれば、如何なる事あるとも、決して恐るることなく、撓まず、屈せず、国依別の命に従つて、神界の為に活動せよ。モリス殿さらば……』 と言葉終るや、忽ち立ち昇る白煙あたりを包み、紅井姫と思ひし美女の姿は此場より霞の如く消え失せにけり。 (大正一一・八・二〇旧六・二八松村真澄録)
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霊界物語 31_午_南米物語3 国依別の旅 24 魔違 第二四章魔違〔八九〇〕 秋山別は此樹下に一夜を明かす折しも、遥の方より宣伝歌の声が聞え来るにぞ、秋山別は雀躍し、後ふり返り能く見れば、モリスは只一人何か手に采配様の者を握り、之を打ふり打ふり此方に向つて進み来る。秋山別は地獄で神に会ひし心地にて、雀躍しつつ待ちゐたりしが、近寄つて来るを、能く能く見ればモリスにあらで、夜前の化爺、体を少し小さくして、モリスの声色を使ひながら来れるなりけり。されど秋山別はモリスとのみ深く信じて少しも疑はず、飛びつく様に、 秋山別『ヤア、モリスどこへ往つて居つたのだい、随分待ち詫びたよ。夜前も夜前とて、此木の下に寝て居れば、それはそれは厭らしい化爺が出て来よつてナ、流石の俺も荒肝を潰したよ。併し俺の取つときの言霊を発射したのに驚き、小さくなつて逃げよつた時の愉快さと云つたら、有つたものぢやないワ、アハヽヽヽ』 モリスに見えた男、 男『そうか、ソリヤ愉快だつたネイ。イヤ気味が悪かつただらうネ。併し今日はお前の一番怖い者をドツサリ持つて来てやつたから、マア昨夜の返礼だ。ゆつくり楽むがよからうよ』 と云ひ乍ら、麻の様な物を左右左にプツプツプツと振りまはす。小さい玉の様な物が、幾百ともなく落つる途端に、何れも一時に爆発し、中から桃太郎が生れた様に、何百とも知れぬ紅井姫が現はれて、秋山別の前後左右に取りつき、 女『コレコレまうし秋山別さまお前は情ない人だよ。能うマア私を見捨ててこンな所迄逃げて来やしやつたは本当に憎らしいワ』 と云つて頬辺たをピシヤツと叩き、耳を引かき、そこら中をひねりまはす。又同じ姿の女、秋山別の足にしがみつき、 女『お前は本当に罪な人、私が国依別さまに、あれ丈恋して居るのに、好かぬたらしい、横恋慕をして、一も取らず二も取らずにして了つたぢやないか。エヽ恋の敵ぢや、秋山別さま!』 と云ひ乍ら、拳を一口クワツとかぶり取る。又一人の女は武者振りつき、 女『エヽ残念々々、お前故に、私はシーズン河へ身を投げたのだよ。敵を討たずにおくものか!』 と髻を掴み、無性矢鱈に引まはす其痛さ。秋山別は声を限りに悲鳴をあげ、 秋山別『痛い痛い、怺へてくれ。モウ是丈女攻めに会うてはやりきれないワ。命がなくなる、どうぞ助けてくれ!』 と泣き声になつて呼ばはつて居る。数多の女は又もや武者ぶりつき、 女『女にかけたら、命も何にも要らぬと云つたぢやないか。お前の心が生ンだ紅井姫、サア命を貰はう。妾の手にかかつて死ンだら得心でせう。コレ秋山別さま、黒い色男には生れて来ぬものぢやなア。ホヽヽヽヽ痛いか痛いか、チト痛いとても辛抱なされ。可愛い女につつかれたり、囓ぶりつかれたり、体一面抓られるのは、男として天下第一の光栄でせう。……コレコレ甲乙丙丁戊己の紅井姫さま、寄つて集つて此男を苛めてやらうぢやありませぬか。あゝ面白い面白い』 と云ひ乍ら何百人とも知れぬ女が、交る交る頭を叩き、髪をひつたくり、鼻を抓まみ、耳を引つかき、手足にかぢりつく其苦しさ。遂に秋山別は堪りかねて、其場に昏倒したりける。モリスに見えた男、大口あけて、 男『アハヽヽヽ、偉相に昨夜は俺に言霊を発射し、苦めよつた其返報がやしぢや。此奴は何にも世の中に恐いものはないが、女が一番恐いと吐しよつたので、女で仇敵討をしてやつたのだ。モウ斯うなれば、命もあろまい。ハヽヽヽヽ、好い気味だナ。サア帰らう』 と云ふや否や、再び采配を打ふれば、数多の女は夢の如くに消え失せ、怪物も亦何時とはなしに煙の如く消えにける。秋山別はホツと息をつぎ、馬鹿面をさらして、そこらをキヨロキヨロ見まはし居たりしが、又もや宣伝歌の声聞え来たるにぞ、秋山別は再び驚き立上り、よくよく見ればモリスである。『又出よつたなア』と目を怒らし、臍下丹田に息をつめ、双手を組みモリスに向つて身構へなし居たりしが、樹下に近寄り来りしモリスは此態を見て、 モリス『ヤア此処に居つたのかい。俺やモウ貴様が何処かへ散つて了つたのだと思ひ、心配して居たよ。マア無事で結構だつた。併し俺は途中に於て紅井姫の御化に出会ひ、大変に試めされて来たよ』 と聞くに、秋山別は、 秋山別『オツトドツコイ化物奴其手は喰はぬぞ』 と言ひ乍ら、身構をなし、両手を組み、モリスに向ひ、『ウーンウーン』と力限りに唸り立て、『一二三四』を一生懸命繰返す。モリスは何の事だか合点行かず、 モリス『オイ秋山別、そら何だイ、いい加減に言霊をやめたら如何だい。チツとお前に話したい事があるのだから』 秋山別『吐かすな吐かすな。言霊をいい加減に止めと吐すが、之を止めて堪るかい。益々猛烈に発射志てやるぞよ』 といひ乍ら、又もや『一二三四』を繰返した。 モリス『オイ、お前は気が違うたのぢやないか。俺が分らぬか、俺はモリスだよ』 秋山別『馬鹿にするない。又女を振り出して、俺を責ようと思つたつて、其手にや乗らないぞ。惟神霊幸倍坐世、一二三四……』 と切りに汗をたらたら流し、数歌を唱へてゐる。モリスは、 モリス『此奴烈風にあほられて、肝をつぶし発狂してゐるのに違ひない、一つ水でも頭から、ぶつ掛けてやれば気がつくだろう』 と小声に囁き乍ら、秋山別の手をグツト握り、無理矢理に谷川の流れの傍へ引張行き、片一方の手にて、頭部面部の嫌ひなく、切りに谷水をブツ掛るを、秋山別は、 秋山別『コリヤ畜生、何をしよるのだ。沢山な女責めに会はして置いて、又水責めに会す積りか。ヨシ、俺にも了見がある。今に返報がやしをしてやるぞよ。俺の兄弟分のモリスがやがて此処へやつて来るから、待つて居れ、仇を討つてやるワ』 モリス『オイ秋山別、確りせぬかい。俺はモリスだよ。トツクリと顔を見てくれ、モリスに間違ないのだから……』 と秋山別の前に黒い顔をニユツと突出して見せるを、秋山別はモリスの顔を熟視して、 秋山別『アハヽヽヽ能く化けよつたな。丸でモリスそつくりだ。夫丈化ける技両があれば、どうだ一つ改心して、俺の弟子になる気はないか』 モリス『今更めてそんな事を云はなくても良いぢやないか。兄弟同様にしてゐる仲だもの。お前が強つて弟子になれと云ふのなら、お前の気が付く迄なつてやらぬ事はない』 秋山別『モウ昨夜の様に、白髪の老爺には化てくれなよ。それから、あれ丈沢山に紅井姫を出されると、俺もお門が広すぎて、処置に困るからなア』 モリスは合点の往かぬ事を言ふ奴だと思ひ乍ら……チト逆上して居るのだらう、余り逆らつては能くなからう……と心の中に思ひ乍ら、よい加減にあしらひつつ、帽子ケ岳を目当てに登り行く事とはなりける。 (大正一一・八・二〇旧六・二八松村真澄録)
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霊界物語 31_午_南米物語3 国依別の旅 25 会合 第二五章会合〔八九一〕 国依別は安彦、宗彦両人と共に、樹木鬱蒼たる森林を越え、谷を渉り、小山を幾つか越えて、漸くに屏風山脈の最高所と聞えたる帽子ケ岳の頂上に登りつき、秋山別、モリス両人の此処に来り会するを待ちつつ、榧の木の根元に神言を奏上し乍ら待合せ居たりけり。 此時山の背後より宣伝歌の声聞え来たれり。 (言依別命)『神が表に現はれて善と悪とを立わける 此世を造り玉ひたる国治立大神は 豊国姫と諸共に豊葦原の瑞穂国 青人草を始めとし鳥獣や魚に虫 草の片葉に至るまで生たる命を与へつつ 各其処を得せしめて此世に清く美はしく 茂らせ玉ふ有難ささは去り乍らブラジルの 此神国は広くして高山三方に立ちめぐり 東に荒波狂ひ立つ大海原を控へたる 人跡稀なる国なれば酷の曲津は各自に 先を争ひ寄り来りアマゾン河を始めとし 時雨の森に集まりて牙を光らせ爪を研ぎ 時々山を乗り越えてアルゼンチンやテルの国 ヒル、カル其他の国々へ現はれ来り曲の業 青人草の安全を破りて此世を脅かす 其曲神を三五の清き御水火に言向けて 天が下には鬼もなく醜の大蛇や曲神の 影をば絶ちて千早振る神の依さしの神業に 清めむものと葦原の中津御国を後にして 荒波猛る海原を国依別と諸共に 進み進みてテルの国テル山峠を乗越えて 神素盞嗚大神の八人乙女の末子姫 鎮まりゐますウズ国の神の都に現はれて 暫し蹕を止めしが神素盞嗚大神は はるばる浪路を打わたりイソの館を後にして 珍の御霊の宇都の国現はれ来り宣たまはく 一日も早くアマゾンの河に沿ひたる森林に 汝言依別神二三の伴を引連れて 進めや進め早進め屏風の如く南北に 立ち並びたる青垣の大山脈の最高地 帽子ケ岳に国依別の教の司の一行が 来りて汝を待つならむ此神言を畏みて 数多の月日を閲しつつ山野を渡り川を越え 漸く此処に来りけりあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして国依別に巡り会ひ 力を合せ村肝の心を一つに固めつつ 神の依さしの神業に仕へ奉りてアマゾンの 時雨の森に迷ひたる鷹依姫の一行や 高姫、常彦、春彦の危難を救ひ森林に 蟠まりたる悪神を伊吹の狭霧に吹き散らし 生言霊の神力に悪魔を善に宣り直し 言向和し一日も早く神業成し遂げて 神素盞嗚大神の御前に復命させ玉へ 旭はてるとも曇るとも月はみつともかくるとも 時雨の森の悪神はいかに勢猛くとも 厳の御霊の大神が依さしの言をどこ迄も 楯に飽く迄戦はむあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 帽子ケ岳の東方を登り来る宣伝使は、此歌に現はれたる言依別命の一行にぞありける。 国依別は此宣伝歌を聞いて、大に喜び、百万の援軍を得たる如き心地して、襟を正して待ち居たり。安彦は嬉しげに、 安彦『宣伝使様、今の宣伝歌は何とも知れぬ清涼な言霊で、大変な強味のある音声では御座いませぬか。此様な高山へ三五教の宣伝使が出て来うとは夢にも思ひませぬが、誰がやつて来るのでせうかなア』 国依別『誰だかチツとも分らぬが、大方神様が御越しになるのだらう。サー行儀よくして、ここに坐つて、御迎へしたがよからうぞ』 安彦『ハイ、畏まりました。併乍ら、秋山別、モリスの両人は大変に遅いぢやありませぬか。大方一昨日の烈風に吹きまくられて、どつかへ散つて了つたのぢや御座いますまいかな。実に案じられた者です。宣伝使様は如何御考へなさいますか』 国依別『あの二人はまだ十分の改心が出来てゐないから、故意とに南の谷を登らせたのだよ。キツといろいろの神様の試練に会うて魂を研き、立派な人間になつて、ここへやつて来るから、お前達二人も余程しつかりせないと、恥しいことが出て来るよ』 宗彦『しつかりせいと仰有つても宗彦は、是以上如何したらよいのですか。あれ丈猛獣の声が聞えても、又襲来されても、レコード破りの大風が吹いてもビリともせず、一生懸命に御神力に依つて胴をすゑて来た吾々ぢや御座いませぬか』 国依別『まだどこやらに、胴のすわらない所が、国依別の目から見れば沢山あるよ。これから時雨の森へ行かねばならぬが、あれ位の事が何ともなかつたと云つて、自慢をするやうな事では、到底、ドエライ奴に出会した時には、怺へ切れないやうなことが出て来るよ。お前が胴をすゑて居つたといふのも、吾々が居つたからだよ。単独であの坂を越えて、胴が据わつてをつたなら、モウ大丈夫だが、三人の真中に立つて、やうやうここまでやつて来たお前の腕前、案じられたものだよ』 と話して居る折しも、モリスは秋山別の手を引いて漸く此処に登り来り、国依別の一行を見るや、余りの嬉しさに嗚咽涕泣久しうし、漸くに口を開いて、 モリス、秋山別『国依別様、誠に有難う御座いました。南の谷間を、汝等両人通つて行け……と仰せられた時は、何とも云へぬ淋みしさを感じ、又幾分か貴方を恨ンで居りましたが、イヤ実に結構なお神徳を頂きまして、始めて、神様や貴方の御仁慈の御心が分りました。吾々両人は未だ身魂に曇が多く、到底アマゾン河の言霊戦に参加する資格は御座りませなかつたが、どうやら、斯うやら、やツと及第点を得られた様な感じが致します。今更めて厚く感謝し奉ります』 と両人は土の上に手をついて、嬉し涙にくれてゐる。 宣伝歌の声は追々近付きしと見る間に、言依別命は先頭に、二三人の伴人と共に、国依別が端坐し待ち居たる榧の大木の側近く進み来る。 是より言依別命、国依別の両将はここを策源地となし、いよいよ時雨の森の魔神に対し、言向戦を開始することとはなりぬ。此物語は紙面の都合に依り、未の巻に口述する事とせり。 惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二〇旧六・二八松村真澄録) (昭和九・一二・一九於北陸路王仁校正)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 総説 総説 言霊学応用の大要を説示し、且つ神の平等愛は洽く禽獣虫魚に至る迄均霑し給ふ事を、具体的に現はし、三五教の教主言依別命、国依別命が琉球の玉の霊光によりて、アマゾン河および南北の大森林に入りて舎身的大活動中、霊光に照らされて、漸くその効を奏し、一行十八人アルゼンチン(ウヅ)の都へ首尾よく凱旋し、神素盞嗚尊に親しく拝顔し、国依別は尊の末女なる末子姫と結婚の約成立したる際、例の高姫が清濁二本の霊魂上の見地より、極力妨害運動を開始せる面白き顛末を述べてあります。双方ともに真心の発動にて、其間に、毫末も私心私欲の混入することなく、唯々世を思ひ神の道を思ふの余り、種々意見の相違を来したる次第は明かに現はれて居ります。惟神霊幸倍坐世。 大正十一年八月二十四日旧七月二日 於伊豆湯ケ島
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 01 万物同言 第一章万物同言〔八九二〕 国治立大神が再び地上に現はれて 至仁至愛の五六七神真善美なる神の世を 堅磐常磐に樹て給ふ其経綸の神宝と 尊重されし珍宝金剛不壊の如意宝珠 紫色の霊玉や黄金の玉を三五の 神の聖地に納めつつ時待ちたまふ折柄に 錦の宮の黒姫が保管なしたる黄金の 珍の宝を紛失し日の出神と自称する 系統の身魂高姫に追放されて黒姫は 竜宮洲なるオセアニア一つの洲に打渡り 玉の所在を探ねむと進み行くこそ憐れなれ アルプス教を開きたる鷹依姫も高姫の 嫌疑を受けて止むを得ず竜国別を伴ひて 浪路を遥に浮びつつ数多の島を捜索し 心筑紫の果て迄も駆け巡りつつ探せども 行方は更に白波の舟漕ぎ渡りやうやうに そば立つ波も高砂の旭もテルの港まで テーリスタンやカーリンス二人を加へて四人連れ 漸々此処に安着しテル国街道をスタスタと 南に向つて行進し蛸取村を乗越えて アリナの滝の其ほとり鏡の池の岩窟に 一行四人は居を構へあらぬ知識を搾り出し テルの国をば振出しに夜昼なしにヒルの国 足許さへもカルの国ブラジル国の果て迄も 鏡の池の神霊に玉と名のつく物あらば 惜しまず隠さず献り宏大無辺の神徳を 早く受けよと宣伝の其効空しからずして 鏡の池の聖場は種々様々の厄雑玉 山の如くに積まれけるさはさりながら一として 鷹依姫の求め居る黄金の玉の神宝は 容易に現はれ来らずてテー、カー二人は張詰めし 心の箍もいつしかに緩みて厭気はさしにけり あゝ惟神々々神の心に叶はぬか 一日も早く此国を後に見捨ててハルの国 清き霊地を選択しふたたび玉の収集に 着手せばやと鷹依姫の教司に献策し いろいろ雑多と村肝の心を悩ます折柄に テーナの里の酋長が家の秘蔵の金玉を 御輿に乗せて献り神の御前に三五の 心の誠を捧げける鷹依姫の一行は 忽ち玉を取出し夜に紛れてアリナ山 駆登りつつウヅの国荒野ケ原に遁走し 神の化身に散々と不言実行の懲戒を 受けていよいよ改心し一行四人は荒野原 東へ指して進み行くアルの港を船出して 百の艱みに遇ひながらゼムの港に漂着し 天祥山に立向ひモールバンドの危害をば 救ひてチンの港より岩樟船を造りあげ アマゾン河を溯り時雨の森に潜みたる 八岐大蛇や醜鬼を言向け和し三五の 神の恵を照らさむと心をきはめて進み行く。 目の届かぬ許り川幅広く、うす濁りのした水底の深き大激流、飛沫を飛ばし、何物の制圧をも恐れざる勢を以て、自由自在に奔流するアマゾン河の河口に、鷹依姫の一行は、帆に風を孕ませ漸くに安着しぬ。 此処には水陸両棲動物のモールバンドと云ふ怪獣がすべての猛獣の王として覇を利かして居る。象の体を十四五許り集めた様な太さの長き図体をなし、爬虫族の様に四本の足の先に水掻きあり、爪の長さ七八尺にして、剣の如く光り且つ尖つて居る。頭部は鰐の如く、口は非常に大きく、鹿のやうな角を生し、角の尖より何時も煙のやうなものを噴出してゐる。目は常に血走り、尻は蜥蜴の尾の如く、必要に応じ四五十間迄伸ばす事が出来る。さうして尾の先には鋭利な両刃の剣の如き凶器を持つてゐる。此モールバンドに対しては、如何なる大蛇も猛獣も恐れ戦き、森林深く姿を隠して、モールバンドの害を免れむとして居る。 又此アマゾン河には長大なる蛇数多棲息し、或時は森林に或時は水底に潜んで獣を呑み且つ人々の此地点に迷ひ来る者あらば、先を争うて出で来り呑み喰はむと待ち構へ居るなり。 又外にエルバンドと云ふ、鰐でもなく大蛇でもなく、鱗は鉄の如く固く、竜の如き髯を生じ、四本の足ある動物あり。エルバンドの頭は玉の如く丸く、其目は比較的小さい。エルバンドは其丸い頭部を必要に応じ、細く長く伸ばし、動物の血を吸ひ生き居る怪物なり。 モールバンドは猛獣を取り喰ふにも、男性的に敵をグツと睨めつけ、尻尾を打振り、尾端の剣を以て敵を叩きつけ、切り殺し、其後に自分の腹に入れて了ふ。又エルバンドは之に反し、其働きは極めて女性的で、動物の寝てゐる隙を考へ、柔かき蛸のやうな頭を、どこ迄も細く長く延長し、動物の肛門に舌の先や口の先を当てがひ、生血を搾る恐ろしき動物なり。只モールバンドにしてもエルバンドにしても、彼の最も恐るる敵は、アマゾン河の畔に棲息してゐる巨大なる鰐の群ばかりなりといふ。 鷹依姫一行は、かかる怪物の棲息するアマゾン河の河口に辿り着き、危険刻々に身に迫り来る為に、船を乗り捨て、アマゾン河の南岸に上陸し、時雨の森に向つて宣伝歌をうたひながら、竜国別、テーリスタン、カーリンスを伴ひ、樹蔭を縫ひて、西へ西へと進み行く。 宇宙の森羅万象は一として、陰陽の水火によつて形成されざる物はない。従つて神人は云ふも更なり、禽獣虫魚、山川草木に至る迄、何れも言霊の水火を有し、言語を発せざるものはないのである。中臣の祓にも『草の片葉をも言止めて云々』の文句あり、古の人は凡て禽獣草木の言語迄も能く諒解したるものなり。 又禽獣は人語を解し、人は又禽獣草木の言葉を能く解する事を得たり。されど世は追々と降り、人の心は佞け曲り、遂に罪悪の塊となり、一切の語を解する能はざる迄、不便極まる人間と堕落し了せたるなり。又同じ人間の中に於ても、国々所々言語の相違するは、第一国魂神の霊魂の関係及風土寒暑の関係に依るものなるが、之を一々聞分け其意を悟る事が出来ぬまでに人間の耳が鈍り来りぬ。幸に言霊学を体得する時は、別に英語とか仏蘭西語、露西亜語などと、せせこましい語学を研究せなくとも、其声音の色並に抑揚頓挫等にて悟り得らるる筈なり。従つて禽獣虫魚山川草木の言葉も、容易に解し得べきものなり。 例へば無生機物たる三味線を引き鳴らして、いろいろの音律を発し、浄瑠璃、唄などに合はして物を言はしむるに、聞き慣れたる耳には、其音の何を語り居るやを弁別し得るが如し。其他縦笛、横笛、笙、ひちりき、太鼓、鼓に至るまで、僅かに五音、或は七八音を以て、能く其用を達する如く、禽獣虫魚等の声音は、其数少しと雖も、我耳を清くして聞く時は、禽獣草木の声を明かに悟る事が出来得る。例へば、喇叭は僅にタチツテトの五音を以て数多の軍隊を動かし、三味線はパピプペポ、タチツテトの十音を以て一切を語り、牛はマミムメモ、馬はハヒフヘホ、猫はナニヌネノ、犬はワヰウヱヲと云ふやうに、各特定の言霊を使用し、自分の意思を完全に表示し、尚及ばざる所は、目を働かせ体の形容を以て之を補ひ、且つ声の抑揚頓挫にて、其意思を明かに表示するものなり。 日本人は円満清朗なる七十五声を完全に使用し得る高等人種である。之れ全く国魂の秀れたる所以にして、人種として又優等なる所以である。人種に依つては二十四五声或は三十声内外より言語を使用し得ざるものあり。而して其声音は拗音、濁音、鼻音、半濁音、獣畜音等が混入してゐる。されど神と同じく七十五声を使用し得る人種も今は全く心の耳塞がり、心の眼閉ぢたれば、到底神諭にある如く、一を聞いて十を悟るが如き、鋭敏なる心の耳目を欠き、百言聞いて僅に一二言を悟り得る位の程度まで耳目活用の能率が低下し、他の動物と殆ど選ぶ所なき迄に到れるなり。実に天地経綸の司宰者たる人として浩歎すべきの至りならずや。 鷹依姫、竜国別、テー、カーの四人は此森林に進み虎、熊、獅子、狼、大蛇、鷲、狐、兎、其外一切の動物の声音を聞き、能く其意を諒解し、茲に猛獣を使役して森の王となり、モールバンド、エルバンドの征服に従事する事となりぬ。併し乍ら古の人は現代の如く、余り小ざかしき円滑な辞令を用ゐず、又数万言を並べて喋々喃々する必要もなし。それ故アとウとの息にて禽獣草木と能く其意思を交換する事を得たりしなり。 併し乍ら現代人は、到底簡単なる言語にて其意思を諒解する丈の能力なし。故に此口述も現代人の耳に諒解し易からしむる為、大蛇、熊、鹿、虎、狼、狐、兎、其他の鳥類に至るまで、現代の人間の言語を以て話したる如く訳して口述せむとす。古事記にも大己貴命、気多の岬にて因幡の白兎に出会ひ、いろいろと問答し給ふ神文がある如く、鳥獣草木の声音と雖も、真の神国魂に返りなば、よく諒解し得らるるものなり。 禽獣草木は今日に至る迄、朧げながら人語を解するに、人間として禽獣草木の声音を聞く事を得ざるは、実に万物の霊長たる権威はいづこにありや。斯かる不完全なる五感を以て、いかでか、神の生宮として万有に安息を与へ、天地経綸の司宰者たる其職責を全うする事を得む。思へば思へば実に遺憾の極みなり。 口述者は外国語を学びし事なく、又横文字を一字も解し得ない。されど各国人の談話を傍に在りて、耳をすませて聞く時は、其意の何たるかを、言霊の原則上、諒解し得らるるなり。此物語も亦古代の土人の言語を所々に羅列し、或は現代の外国語を使用したる所もあり。併し今日の世界の語学は、言霊学上其原則を乱しゐる為に、現代人の言語は諒解し難き点多々あり。如何なる国の言語と雖も、今の禽獣草木の如く言霊の原則を誤らざるに於ては、世界共通的に通ずべきが言霊の妙用、宇宙の真理なり。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 04 鰐の言霊 第四章鰐の言霊〔八九五〕 鰐の頭はツカツカと四人の前に現れ来り、さも嬉しげに頭を垂れ感謝の意を表し且つ歌ふ。 鰐の頭『仰げば尊し天地の神の恵は目のあたり 天の河原に棹さしてアマゾン河の河口に 降り給ひし神の御子鰐の一族喜びて 赤き心を捧げつつ茲に現はれ参ゐ来り 祝ぎ仕へ奉るあゝ惟神々々 尊き神の御恵吾等が上に降りけり 吾等のすさむ魂も一度に開く木の花の 薫るが如く栄えけり鷹依姫の神様よ 竜国別の神様よはるばる此処に天降りまし 吾等が王と仕へたる兎の君の鎮まれる 霊地に現れ給ひしは天地の神の御恵みか 譬方なき喜びにこれの湖水を包みたる 青垣山の草木迄色美しく生々と 甦りたる如き思ひなり吾等は月の大神の 貴の御子なる兎族尊み敬ひ朝夕に 心を尽し身を尽しモールバンドやエルバンド 虎狼や獅子熊の襲ひ来れる災禍を 防ぎて守る永の年さはさりながら吾々は 神の御水火を受けながら昔の罪の消えやらず げに浅間しき此境遇如何に心を尽すとも 神の御水火の言霊を照らす事さへ白波の 中に漂ふ悲しさに月日を送る甲斐もなく これの湖辺を棲処とし十里四方の霊地をば 僅に守る計りなりさはさりながら吾々が これの湖辺に棲む間は如何なる猛き獣類も 容易に犯し得ざるべしあゝさりながらさりながら 猛獣毒蛇と生れたる彼の身魂は憐れにも 神の御子にて御子ならず優勝劣敗罪重ね 弱肉強食日に月に行ひ続け生命を 僅に保てる憐れさよあゝ惟神々々 神の御霊の幸はひて天が下なる生物は 互に愛し助け合ひ争ひ猛ぶ事もなく 神の恵を平等に受けて身魂を磨き上げ 賤しき殻を脱ぎすてて再び魂は天国の 神の御許に立帰り万の物の長として 権威のこもる言霊を自由自在に使用する 神となさしめ給へかし鷹依姫の神司 竜国別の御前に鰐族一同を代表し 清く磨きし言霊の恵の光に天地の すべての生物救ひませあゝ惟神々々 神の司の御前に誠の限りを現して 慎み敬ひ願ぎ奉る』 と唄ひ終り、堅牢なる甲を以て包まれたる長大なる身体を左右に揺りながら、満足の意を表し、数多の鰐と共に前後左右に舞ひ踊り、歓迎の意を示したり。竜国別は立上り、兎と鰐の愛らしき群に向つて、さも嬉しげに歌をうたふ。 竜国別『天地の水火をうけつぎて生れ出でたる神司 三五教の宣伝使鷹依姫の体を借り 肉の宮をば建造し生れ出でたる神司 竜国別は今此処に大空伝ひ照り渡る 月大神の宮の前貴の神徳拝しつつ 兎や鰐のともがらに稜威の言霊宣り上げて 心の丈を宣べ伝ふあゝ惟神々々 神の恵を蒙りて稜威の聖地と聞えたる 綾の高天に聳り立つ錦の宮を後にして 黄金の玉の所在をば探ねむものと高砂の 島に渡りていろいろと心の駒のはやるまに 醜の企みを立てながら再び神の御声に 眼をさまして美はしき元津身魂となりにけり 神の恵は隈もなく青人草は云ふも更 鳥獣や魚に虫草木の片葉に至るまで 恵の露を垂れ給ふ公平無私の神心 漸う悟り今茲に現はれ来る吾々は 知らず識らずに大神の仕組の糸に操られ 進み来りし者ならむ誠の神の御使と 定められたる四人連れ今は汝が親となり 兄ともなりて天地の神の恵をこまやかに 時雨の森の果てまでも隈なく広め御恵みの 雨降り注ぐ楽園と堅磐常磐に守るべし あゝ惟神々々神の御霊に生れたる 兎や鰐の一族よ必ず歎く事勿れ 吾等四人の神人がここに現れ来た上は モールバンドは云ふも更如何なる猛き獣類も 神の恵の御水火より生れ出でたる言霊に 言向け和し敵もなく争ひもなく永久に 平和の森となさしめむあゝ惟神々々 神の御水火に生れたる吾等を始め汝が群 仮令天地は変るとも尊き深き御恵みを 一日も忘れず朝夕に神の御前にひれ伏して 其神徳を称へかし神は吾等と倶にあり 神は汝らの身を守る神の恵に開かれし 天が下なる生物は仮令如何なる曲者も いかでか恐るる事あらむ心を清め身を浄め 神のまにまに真心を尽せよ尽せ諸々よ 竜国別が改めて汝等が群に宣り伝ふ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 テーリスタンは面白き歌をうたつて興を添ふ。 テーリスタン『鷹依姫や竜国別の教の司の御後に カーリンスと諸共に広袤千里の荒野原 草を分けつつ進み来てアルの港に安着し 大海原を船に乗り渡つて来る折柄に 俄に烈しき荒風に浪立ち狂ひ鷹依姫は 真逆様に海中へザンブとばかり陥りて 姿見えなくなつて来た孝心深き竜国別は 吾身を忘れて海中に飛込み姿を失ひぬ テー、カー二人は驚いて最早叶はぬ百年目 殉死なさむと意を決し一イ二ウ三ツで飛込めば 後白浪に呑まれつつ竜宮海を探険と 思うた事の的外れ亀の背中に乗せられて ゼムの港に漂着し天祥山に立向ひ モールバンドに出会し吾言霊の神力に 「オツトドツコイ」こら違うた鷹依姫の言霊に 言向け和し荒男二人の命を救ひつつ 天祥山の谷を越え果てしも知らぬ荒野原 涼しき風に送られてチンの港に安着し 船を造りてアマゾンの河口さして進み来る 音に聞えしモールバンドエルバンドの此処彼処 怪しき頭を擡げつつ吾等一行の顔を見て 何が怖いか知らねども水勢強き河の瀬に 姿を隠し失せにけるあゝ惟神々々 神の恵を蒙りて教司の神力に 恐れ戦き逃げたるか何は兎もあれアマゾンの 河の岸をば攀上り此森中に来て見れば 幾千年とも限りなき年の老いたる兎の王 数多の眷族引きつれて吾等一行を慇懃に 迎へに来たる嬉しさよ広袤千里の森林の その中心に斯の如聖き霊地のあらむとは 夢にも悟り得ざりしが豈計らむや天伝ふ 空に輝く月の神形計りの宮居をば 清けき水を繞らせる此霊場に鎮祭し 兎の王の一族が朝な夕なに真心を 捧げて祈るゆかしさよあゝ惟神々々 神の宮居と生れたる人は尚更神の道 清く守りて天地の深き恵を感謝しつ 皇大神の御心に叶へ奉らであるべきや いよいよ茲に三五の神の司と現はれて 仮令獣と云ひながら其源を尋ぬれば 何れも同じ神の御子救ひまつらでおくべきか 兎の群よ鰐の群必ず心を悩めまじ 鷹依姫の一行が現はれ来りし上からは 如何なる魔神の災も旭に露の消ゆる如 払ひ清めて禍の根を絶ち神の御恵の 露に霑ふ花園と開き守らむ惟神 神の御稜威を嬉しみてこれの聖地を能く守れ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 とうたひ終り、社の前に端坐し、神恩を感謝し、且つ一時も早く此森林の災を除き、再び綾の聖地に帰し給へと祈願なしける。惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 08 三人娘 第八章三人娘〔八九九〕 高姫は、以前の美人が二人の侍女を伴ひ悠々として此方に向つて進み来るを、百間許りこちらから嬉しげに打眺め、夢に牡丹餅でも食つた様な嬉しさうな顔をつき出してゐる。其スタイルのどことなく間の抜けた可笑しさに、吹出す許り思はるるを、ジツと怺へて春彦は女を指し、 春彦『アレ御覧なさい……一人かと思へば三人も魔性の女が耳をピラピラさせ乍らやつて来るぢやありませぬか……高姫さま、あれでも御信用になりますかなア』 高姫は最早玉と聞いて、再び心を曇らしてゐる。 高姫『コレ春さま、失礼なことを云ふものぢやありませぬよ。あれ程能う目につく耳が動いてるか動いとらぬか、能く御覧なさい。動く様に見えるのはお前の目の玉が動くから、向方の耳が動くやうに見えるのだよ』 春彦『私の目が動くのならば、誰の耳も体も一緒に動きさうなものぢやありませぬか。よくお前さま、気をつけて目をあけてミヽヽ見なさい。アフンと致してあいた口がすぼまらぬ様な事があつたら、後で何程後悔したと云つても悔んでも後の祭り、折角高い鼻がめしやげて了ひますぞや。私が今何程御意見しても歯節は立ちますまい。私の云ふ事は一々足と思うて御座るから、何と云つても、手ごたへはせぬのも道理ぢや。併し乍ら人にあの拇指は小指の意見も聞かず、時雨の森でバカを見たと、後指をさされぬやうになされませ。背中に腹は替へられませぬぞえ。後で臍をかむやうな事のないやうに、胸をさはやかにし、腹を据ゑて乳と考へなされ。股後で叱言をおつしやつても、尻まへんワ、けつ喰へ観音ですよ』 高姫『黙つて聞いて居れば、蚤か蝨の様に体中を這ひまはし、何屁理窟を垂れなさるのぢや。糞が呆れますぞえ』 春彦『アーア、腹が春彦だ。小便ぢやないが、シヽシリもせぬ癖に、エラさうに仰有つて今にアフンとなさる御方が、どこやらに一人ありさうだ。アーア又もや例の病がおこつたのかなア』 高姫『喧しい!』 と制し止むる時しもあれ、三人の女は早くも此処に近寄り来り、叮嚀に会釈しながら、 女(高子姫)『高姫様、永らく御待たせ致しました。私はあなたの御名に能く似た高子姫と申す者、此侍女は一人はお月、一人はお朝と申します。どうぞ御見知りおかれまして末永く御交際をお願致します』 春彦小声で、 春彦『それやつて来たぞ!だまされな!』 と拍子をつけて、小声で囁いてゐる。高姫は春彦をグツと睨めつけながら、俄に顔色を和げ、高子姫に向つて、 高姫『これはこれは、始めて御名を承はりました。マアマア実に御優しい御立派な御姿ですこと!』 高子姫『イエイエどうしてどうして、さう御誉め下さつては、お恥づかしう御座います。山家育ちの山時鳥、ホーホケキヨの片言まじり、何も知らない未通娘で御座りますれば、どうぞ宜しく御指導を御願致します』 春彦はそばより、 春彦『何と言つても、海千山千河千の経験を経た高姫さまですから、大丈夫ですよ、アハヽヽヽ。其三千年の劫を経た高姫さまをチヨロまかす娘さまは、ドテライ偉い変つた変な見当の取れぬ仕方のない御方で御座いませう。オツトドツコイ眉毛に唾をつけ、おけつの毛に気をつけて、高姫さまの後から従いて参りませうかい』 高姫目を怒らし、口を尖らし、歯のぬけた口から唾を吐き出しながら、 高姫『コレ春彦さま、さうズケズケと淑女に向つて、失礼な事を云ふことがありますかい。モウシ高子姫さま、斯様な動物がついて居りますので、寔に妾も頭を悩めます。どうぞお気を悪くせぬやうにして下さいませ』 春彦『ハイハイ、誠に以て失礼千万、どうぞ寒狐に見直し、大狐に宣直し、大空は高倉でも、月日をかくす、雲さへ払へば吾々の魂は朝日の豊栄昇る様な勢になつて来ます……コレ高さま、オツトドツコイ高姫さま、だまされなさるな。常世の城で八百八十八柱の八王の神や八頭、立派な御方が寄り合うて、泥田圃の大失敗も鑑が出て居りますぞや。コレコレ高倉稲荷さま、月日、旭明神さま、化けた所で此春さまが承知をしませぬぞえ。何と恐れ入りましたかなア……隠されぬ証拠と云ふのは、お前の二つの耳だ。お尻に白い尻尾が下つて居りますぞえ。こんな深い森林までだましに来るとは……(浄瑠璃文句)そりや聞えませぬ胴欲ぢや、欲に呆けた高姫さまを、高子の姫と現はれて、心曳かうとなさるのか、金剛不壊の如意宝珠、玉と云うたら目の玉を、グルグルまはす癖のある、高姫さまにありもせぬ、如意の宝珠をやらうとは、馬鹿になさるも程がある。此春彦が天眼通、一目睨んで査べたら、メツタに間違ひありませぬ、高倉稲荷の白狐さま、月日旭の明神さま、早く尻尾を出しなされ』 高姫『コレコレ又しても失礼なことを仰有るのかいなア。高倉稲荷さまや月日旭の明神さまは、此高砂島へは御座らつしやる筈はありませぬぞや。常世の国の大江山に御住ひ遊ばされ、間の国を境として、自転倒島へ御渡り遊ばす方ぢや程に、見違をするも程がある。黙つてゐなさい!』 春彦『そんなら、黙つて御手前拝見と、出かけませうかなア……ヨブさま、常さま、お前は如何考へるか、一寸否定肯定如何を聞かして下さいな』 常彦『否定も肯定もありませぬワイ。ゴテゴテ言ひなさるな』 ヨブ『何と云つても合点の往かぬ事ですワイ』 高子『何なと御疑ひ遊ばしませ。何よりも事実が証明致しますよ』 高姫『左様ならば御伴を致します……コレコレ春彦、常彦、ヨブさま、おとなしうして従いて来るのだよ。何も言つちやなりませぬぜ。人民がゴテゴテ言つたつて、神の仕組が分るものぢやありませぬ。黙つて居る方が、どれ程賢う見えるか分らぬぞえ』 とイラツクやうな声でたしなめながら、三人の後に従ひ、水のたまつたシクシク原を足の裏をひやし、 高姫『アヽ気分がよい、久しぶりでお水にありついた。これと云ふのも神様の水も漏らさぬ御仕組、瑞の御霊の御神徳だよ。足で踏むのも勿体ないけれど、ここを通らねば行くことが出来ませぬから、どうぞ神様許して下さいませや』 と肩を四角に欹て、尻をプリンプリンとふりながら、三人の後に従ひ、勇み進んでついて行く。 此処には大変に広い河が飛沫を飛ばしてゴーゴーと音を立てて流れてゐる。三人の娘は、尻をまくり、兎が飛ぶ様に高い石の頭を狙つて、向方へ瞬く間に渡つて了つた。高姫もわれ遅れじと尻ひきめくり、 高姫『コレコレ皆さま、気をつけなされ。此石はよく辷りますよ』 と後向く途端に背中に負つた石地蔵の重みで自分から辷つて激流におち込み、浮きつ沈みつ、足を上にして苦み悶え、矢を射る如くに流れ行く。 春彦『コリヤ大変』 と春彦は忽ち赤裸となり、 春彦『オイ常彦、ヨブ、俺の着物を預つてくれ!』 と云ひながら、渦まく波にザンブと飛込み、急流を泳いで、浮きつ沈みつ高姫に追つつき、漸くにして岩上に救ひ上げた。高姫は幸ひに余り水も呑まず、気も取り失つては居ない。 春彦『高姫さま、危ない事で御座いましたなア。それだから私が怪しいと云つて止めたぢやありませぬか。是からチツト吾々の云ふ事も聞いて貰はなくちやなりませぬぞや』 高姫『お前がありや、こりや、なけりや、こりや、善い事もあれば悪い事もある。サア早く行きませう』 春彦『どこへ急いで行くのですか』 高姫『きまつた事だ。早く高子姫さまの御宅へ行かねば、さぞ御待兼ねだらうから…』 春彦『ハテさて困つた事だなア。こんな目に遭つてもまだ目が醒めないのですか』 高姫『神界の御仕組が分りますかい』 と云ひながら、川ぶちの森林を、上へ上へと伝ひのぼり、最前はまつた飛石の前迄走り来り、 高姫『ヤア常彦、ヨブさま、待たせました。サア行きませう』 常彦『兎も角、御無事で御目出度う御座います』 ヨブ『マア是で私も安心しました』 高姫『コレ常さま、ヨブさま、お前等二人は、水臭い、なぜ私の危難を救はなかつたのだ。斯うなると始終口答へする春彦の方が余程為になる。まさかの時に間に合ふ者はメツタにないと、神様が仰有るが、いかにも其通りだよ』 常彦『あなたは神さまだから、メツタに水に溺れて死になさると云ふやうなことはないと思つて安心してゐたのですよ。人民が神様を助けようなんテ、そんなことが如何して出来ますか』 ヨブ『余り勿体なうて、寄りつく訳にも行きませず、吾々の為に千座の置戸を負うて下さるのだと思ひましたから、ヂツト暗祈黙祷してゐました』 高姫『生神がこんな谷川位にはまつて弱るやうな事はないが、併し乍ら、人民として案じて私を助けに来た春彦の心は、実に美はしいものだ。神は人間の真心を喜ぶのだからなア』 春彦『高姫さま、春彦でも又間に合ふ事がありませうがな』 高姫『棒千切れも、三年田の中にすてておけば肥しになる。腐れ縄にも取りえといふ比喩の通り、あんな者が斯んな手柄をすると云ふ神様のお筆先の実地正真のおかげをお前は頂いたのだ。サア神様へ御礼を申しなさい。こんな結構な御用をさして頂いてお前は余程果報者だよ。これから高姫の云ふ事を一つも背かず聞きなされや。さうでないと高姫が又お前の代りに犠牲にならねばならぬから、チツト心得て下されよ。あんな若い女の方が、何ともなしに渉れる石の飛び越えを、辷ると云ふ様な道理がない。これも全く神様がお前の罪の贖ひに、私を辷りおとし、お前を飛込ませ、惟神的にお前の禊を遊ばしたのだから、決して、高姫を助けてやつたなどと思つちやなりませぬぞや』 三人一度に顔を見合せ、目を丸くし、口を尖らせ、高姫の言に呆れてゐる。 高子姫、お月、お朝の三女は、岸の向方に停立し、白き細き手を差出し『早く来れ』と差招いてゐる。高姫は一歩々々指の先に力を入れながら糞垂れ腰になつて、怖相に向ふ岸へと渡りつき、太き息をつきながら……惟神霊幸倍坐世……と二三回繰返し、渡り来れる一行と共に、三人の女の後に従ひ、得意の鼻を蠢かしつつ心欣々従いて行く。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 12 鰐の橋 第一二章鰐の橋〔九〇三〕 春彦はヨブと共に高姫の危難を救はむと、大声に叫びながら密林の中に駆け入り、呼べど叫べど、森の木霊に吾声の反響するのみ、何の見当もつかず、已むを得ず大声に歌ひながら、森林を何処彼処となく循り始めたり。 春彦『吾等の師匠と頼みたる高姫さまが又しても 金剛不壊の如意宝珠其他の玉に魂ぬかれ アタ恥かしや森林の此正中で高倉や 月日、旭の明神に心の底を査べられ 散々脂を搾られて体は泥にまみれつつ 尚も取れない負惜みへらず口のみ言ひながら 吾等二人を振棄てて元来し路へ引返し 鷹依姫の在処をば捜さむものと出でましぬ 吾々二人は是非もなく西北指して進み行けば 道の片方の石地蔵耳が取れたり手が千切れ 頭の欠けた立ちすくみ黒い顔して道の辺に 罷り立つたる其前に暫く息を休めつつ 高姫さまの噂のみ為せる折しも石地蔵 ソロソロ立つて吾前に胡坐をかいてすわり込み 不思議や物をベラベラと喋り出したる可笑しさよ 化けた地蔵の言ふことにや高姫さまや常彦は モールバンドに取巻かれ大木の枝にかけ登り 避難してゐる最中に猅々の群奴がやつて来て 無性矢鱈にせめかけるモールバンドは木の下に 目を怒らして控へ居る進退茲に谷まりて 流石剛毅の高姫も常彦諸共抱き合ひ アヽアヽどうせう斯うせうと吐息もらして居るだらう 春彦、ヨブの両人はこんな話を耳にして 如何して見捨てておかれうか仮令大蛇の巣窟も モールバンドの棲処をも恐れず撓まず進撃し 救ひ出さねばおかれないあゝ惟神々々 皇大神の御光に高姫さまの在処をば てらして吾に見せ給へ高姫さまも是からは 心の底より改良し三五教の神柱 神の使と申しても恥かしからぬ魂となり キツト手柄を為さるだらう一時も早く胸の戸を 開いて在処を明かに春彦、ヨブの両人に 知らさせ給へ天津神国津神等国魂の 竜世の姫の御前に心清めて祈ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひながら、大樹の根元を一々巡視し、且つ空を仰ぎなどしつつ、奥へ奥へと捜し行く。 春彦、ヨブの二人は漸くにして、高姫の避難せる大樹の間近に辿りつけば、石地蔵のお化けの云つた通り、小山のやうな胴体をしたモールバンドが、森の樹立のマバラなる所を選み、目を怒らして高姫を睨めつけ、何とかして一打ちに打ちころさむと息まいてる其物凄さ。春彦は真蒼になり、ソロソロ慄ひ出し『惟神霊幸倍坐世』も天の数歌も千切れ千切れになり、一向美はしき言霊を発射することが出来なくなつて来た。 モールバンドは春彦、ヨブの間近に来りしに気付きしものと見え、小山のやうな胴体を徐ろに二人の方に向け直し、長大なる尾に撚りをかけ、今や一打ちに両人を打たむとする形勢を示して居る。二人は命カラガラ傍の大木目蒐けて漸く登りつめ、後は兎も角、暫時の避難所と常磐樹の頂上にしがみついて、誰か助けに来てくれる者はなからうかと期待して居る。樹の上にて春彦は声を慄はせながら、 春彦『コレコレ、ヨブさま、大変な事ぢや御座いませぬか。私も獅子、虎、熊、狼、大蛇位は、さうも恐れないのだが、どれ丈肝を放り出して見ても、あのモールバンド丈は如何することも出来ない。腹の底から自然に戦いて来て、自分の体がどこにあるやら、分らなくなつて来ました。お前さまは如何ですかな?』 ヨブ『私だとて同じ事ですよ。併しながら、何時迄もああしてモールバンドに狙はれて居らうものなら、何時ここを下つて逃げ帰ると云ふことも出来ず、困つたものですなア。幸に此樹に固い果物がなつて居りますが、これさへ食べて居れば、仮令十日や二十日、此樹の上に籠城したつて、別に困りもしませぬが、大風が吹いたり、大雨の時には実に困るぢやありませぬか。此頃の様に毎日日日二三回づつ大きな雨が降つて来ると、第一身体が持てませぬワイ。モウ斯うなる上からは神様におすがりして、運を天に任すより方法はないから、一つ此処で一生懸命に、モールバンドが退却する様に御祈念を致しませうかい』 春彦『ソリヤ結構です……併し、何だか、腹の底がワナワナして……声が円満に出て来ませぬ……』 と千切れ千切れに話して居る。斯かる所へ、又もや宣伝歌が聞え来る。 (安彦)『国依別の神司御供をなしてはるばると ヒルの国原立出でてブラジル峠を打ちわたり 果てしも知れぬ谷道を辿り辿りてシーズンの 川の片方に来て見れば恋の虜となりはてし 秋山別やモリスの司二人の男が激流に 浮きつ沈みつ流れ来るコリヤ大変と吾々は 国依別の命を受け衣類をすぐに脱ぎすてて ザンブと計り飛込めば流石に名に負ふシーズンの 速瀬の波に漂ひて溺れ死せむとせし所 思はぬ河中の岩石に二人の身体は引つかかり ヤツと息をば休めつつ岩の真下を眺むれば 秋山別やモリスの司二人の身体は渦巻に 巻かれて浮きつ沈みつつ人事不省の有様に 又もや身をば跳らして安彦、宗彦両人は 二人の身体をひつ抱へ弱き川瀬を選みつつ 彼方の岸に救ひ上げ介抱すればやうやうに 息吹返し両人は恋の虜の夢もさめ 国依別に従ひてアマゾン河の森林に 潜みて世間に災の霊を送る曲津見を 言向け和し世の中のなやみを払ひ清めむと 茲に五人の一行は帽子ケ岳の頂上を 目当に進み登り行く遠く彼方を見わたせば アマゾン河の急流は天津日影にてらされて 長蛇の如く光り居る南と北の森林は 緑紅こき交ぜて果てしも知らず茂り生ふ 此光景を眺めつつ言依別の神司 国依別と諸共に琉と球との神力を 遠く此方に照らしつつ吾等一行が言霊の 戦の勝を守らむと幽玄微妙の神策を 立てさせ給ふ有難さ此森林は名にし負ふ 妖怪窟と聞ゆれば八岐大蛇は云ふも更 虎狼に獅子や熊其外百の怪物が いろいろ雑多と身を変じ吾等を誑かる事あらむ あゝ惟神々々神の御霊を身に受けて 如何なる曲も恐れなく誠一つの神の道 撓まず屈せず進み行くモールバンドやエルバンド 仮令幾千来るとも吾言霊の神力に 言向け和し今よりはアマゾン河の底深く 潜みて百の災を思ひとまらせくれむぞと 言依別の御言もてやうやう此処に来りけり 高姫さまを初めとし常彦、春彦、今いづこ 果てしも知らぬ此森のいづこに彷徨ひ給ふらむ 神の御霊の幸はひて一日も早く高姫が 在処を教へ給へかし朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるともモールバンドは攻め来とも 虎狼や獅子熊の勢いかに猛くとも なにか恐れむ敷島の大和心の益良夫が 神の光りを楯となし神の恵を矛として 進みに進む森の中実に勇ましき次第なり あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひつつ、安彦を先頭に、宗彦、秋山別、モリスの四人は、神の引合せか、期せずして、高姫、春彦等が避難せる樹蔭近く進み来れり。 春彦、高姫の二組の避難者は樹上より此宣伝歌を聞き、未だ一度も聞きしことなき声なれども、必ず途中にて、言依別、国依別の教に感じ入信せし者ならむ、あゝ有難し辱なし、神の救ひの御手……と忽ち元気恢復し、拍手し終り、樹上より声高らかに、天津祝詞を奏上し始めた。春彦の祝詞の声に、はるか離れた樹の上に避難して居た高姫、常彦は、始めて春彦の所在を知り、非常に心強さを感じ、ますます元気を出して天津祝詞を力一杯、天地も震撼せよと許りに宣り上げた。 安彦、宗彦の一行は双方より聞え来る樹上の祝詞の声に、始めて高姫一行のここに居ることを悟り、歓喜斜ならず、尚も元気を出して天津祝詞を宣り始めた。モールバンドは少しも屈せず、目を怒らし、尾を振りしごき、縦横無尽に四人に向つて突進し来る。四人は忽ち傍の大木に辛うじて避難し、樹上より祝詞を頻りに奏上し、早く此怪獣の遁走して、吾等一行を救ひ給へと念じつつありぬ。 忽ち西北の空をこがして輝き来る琉、球の大火光、あたりは忽ち火の如く赤くなりぬ。これ言依別、国依別の神司が、帽子ケ岳より救援の為め発射する所の霊光なりき。モールバンドは驚いて、尾を縮め、首をすくめ、コソコソと森林を駆け出し、数十里の林を潜つて、アマゾン河に逃げ去りにけり。 安彦一行四人はヤツと胸をなでおろし、枝振のよい大木を下り来り、 安彦『高姫様々々々』 と呼ばはりながら、樹下を巡り、空を仰いで高姫の居所を捜して居る。 高姫は常彦と共にヤツと安心し乍ら下つて来た。春彦もヨブも亦一つの大木の空より此処に漸く下り来り、互に顔を見合せ、嬉し泣きに抱き合ひて泣く。 是より八人は互に手を取り、無事を祝し、且つ高姫一行は安彦一行に向ひ厚く感謝の詞を述べながら、アマゾン河の沿岸に向つて引返し、南岸の森林中に鷹依姫一行が猛獣の王として住ひ居ることを、安彦を以て国依別より伝達したれば、取る物も取り敢ず、河端に向つて進む。一行が一心をこめて奏上したる天津祝詞の声に、北の森林の猛獣共は争つて此処に集まり来り、八人の後に従ひ、これ亦アマゾン河の岸迄、幾百千とも知れず、列を作つて従ひ来る。 これより高姫は、アマゾン河の急流を眺め、一生懸命に、南岸に無事渡らせ給へ……と祈念した。忽ち川底より八尋鰐、幾千万とも限りなく現はれ重なり合うて、忽ち鰐橋を架けたり。高姫は大神の神徳と鰐の好意を一々感謝し、七人と共に南岸に辛うじて渡ることを得たり。此間何里とも分らぬ位、広き河幅なりけり。 北の森林に棲める猛獣は此処まで送り来り、此激流を眺めて稍躊躇の色ありしが、忽ち鰐橋の架りたるに力を得、一匹も残らず、南森林に打渡り、高姫一行を送りて兎の都に向ひ進み行く。 (大正一一・八・二三旧七・一松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 13 平等愛 第一三章平等愛〔九〇四〕 高姫外七人は鰐の橋を渡り、南の森林に数多の兎に迎へられ、漸くにして、青垣山を繞らせる森林の都、月の大神の鎮祭しある霊場に辿り着いた。鷹依姫は白髪の冠を頂き、凡ての猛獣を子の如くなつけ、普く獣の霊の済度に全力を尽してゐる。 高姫は久し振りに鷹依姫に面会し、固く手を握りものをも言はず、嬉しさと懐しさに涙を両頬より垂らしてゐる。ここに愈高姫一行八人と、鷹依姫の一行四人を加へ十二の身魂は、天地に向つて七日七夜の間断なき神言を奏上し、すべての猛獣を悉く言向け和し、肉体を離れたる後は必ず天国に到り、神人となつて再び此土に生れ来り、神業に参加すべき約束を与へ、所在猛獣をして歓喜の涙に酔はしめたり。 如何に猛悪なる獅子、虎、狼、熊、大蛇、豺、豹と雖も、口腹充つる時は、決して他の獣類を犯す如き暴虐はなさないものである。只飢に迫り、其肉体の保存上、止むを得ずして他の動物の生命を奪り食ふのみである。 然るに万物の霊長たる人間は、倉廩満ちても猶欲を逞しうし、他人を倒し、只単に自己の財嚢を肥し、吾子孫の為に美田を買ひ、決して他を憐み助くるの意思なき者、大多数を占めてゐる。併し乍ら、神代は社会上の組織、最も簡単にして、物々交換の制度自然に行はれ、金銭と雖も珍しき貝殻、或は椰子の実の種をいろいろの器になし、之を現今の金に代用し、又は砂金などを拾ひて通貨の代用にしてゐたのである。さうして一定の価格も定まつてゐなかつた。それ故神代の人は最も寡欲にして、如何に悪人と称せらるる者と雖も、只々情欲の為に争ふ位のものであつた。時には大宜津姫神現はれて、衣食住の贅沢始まり、貧富の区別漸く現はれたりと雖も、現代の如き大懸隔は到底起らなかつたのである。 大山祇、野槌の神などの土地山野を区劃して占領し、私有物視したる者も出で来りたれども、これ亦現代の如くせせこましき者にあらず、実に安泰なものであつた。 高姫、鷹依姫、竜国別は、茲に猛獣に対し、神に許しを受けて、律法を定め、彼等をして固く守らしめた。其律法の大要は、 一、熊は熊、虎は虎、狼は狼、獅子は獅子、蛇は蛇、兎は兎として或地点を限り、其処に部落を作り、互に他獣の住所を侵さざる事 一、各獣族は一切の肉食を廃し、木の実又は草の葉、木の芽などを常食とし、而も身体少しも痩衰へず、性質温良になり、互に呑噬の争ひをなさざる事 一、時々各獣団体より代表者を兎の都に派遣し、最善の生活上の評議をなす事 一、鰐をして、モールバンド、エルバンドの襲来に備へ、且つアマゾン河の往来の用に任ずる事 一、鰐を獅子王の次の位と尊敬し、年々、各獣、月の大神の社前に集まりて、懇談会を開き鰐を主賓となし、年中の労苦を犒ふ事 一、右の律法に違反したるものは、獅子王の命により、其肉体は取り喰はれ、其子孫永遠に獣類の身体を受得して、地上に棲息するの神罰を与へらるる事 等の数ケ条の律法を定め、獅子王を始め各獣の王をして、之を其種族一般に布告せしめた。 これより其律法を遵守し、月の大神の宮に詣でて赤誠を捧げたるものは、一定の肉体の期間を経て帰幽するや、直に其霊は天国に上り、再び人間として地上に生れ来ることとなりぬ。 又此律法に違反したる各獣は、其子孫に至る迄、依然として祖先の形体を保ち、今に尚人跡稀なる深山幽谷森林などに、苦しき生活を続けてゐるのである。あゝ尊き哉、月の大神の御仁慈よ。 国治立大神は、あらゆる神人を始め禽獣虫魚に至る迄、其霊に光を与へ、何時迄も浅ましき獣の体を継続せしむることなく、救ひの道を作り律法を守らしめて、其霊を向上せしめ給へり。故に禽獣虫魚の帰幽せし其肉体は、決して地上に遺棄することなく、直に屍化の方法に依つて天に其儘昇り得るは、人間を措いて他の動物に共通の特権である。猛獣は云ふも更なり。烏、鳶、雀、燕其外の空中をかける野鳥は、決して屍を地上に遺棄し、人の目に触るる事のなきは、皆神の恵に依りて、或期間種々の修業を積み、天上に昇り、其霊を向上せしむる故なり。只死して其体躯を残す場合は、人に鉄砲にて撃たれ、弓にて射殺され、或は小鳥の大鳥に掴み殺され、地上に落ちたる変死的動物のみ。其他自然の天寿を保ち帰幽せし禽獣虫魚は残らず神の恵によりて、屍化の方法に依り天上に昇り得る如きは、天地の神の無限の仁慈、偏頗なく禽獣虫魚に至る迄、依怙なく均霑し給ふ証拠なり。只人間に比べて、禽獣虫魚としての卑しき肉体を保ち、此世にあるは、人間に進むの行程であることを思へば、吾人は如何なる小さき動物と雖も、粗末に取扱ふ事は出来ない事を悟らねばならぬ。其精神に目覚めねば、真の神国魂となり、神心となることは到底出来ない。又人間としての資格もない。 斯く曰はば人或は云はむ、魚を捕る漁師なければ吾等尊き生命を保つ能はず、獣を捉ふる猟夫なければ日常生活の必要品に不便を感ず、無益の殺生はなさずと雖も、有益の殺生は又已むを得ざるべし。斯かる道を真に受けて遵守することとせば、社会の不便実に甚しかるべしとの反対論をなす者がキツト現はれるでありませう。併し各自にその天職が備はり、猫は鼠を捕り、鼠は人類の害をなす恙を捕り喰ひ、魚は蚊の卵孑孑を食し、蛙は稲虫を捕り、山猟師は獅子、熊を捕り、川漁師は川魚を捕り、海漁師は海魚を捕りて、其職業を守るは皆宿世の因縁にして、天より特に許されたるものである。故に山猟師の手にかかる禽獣はすでに天則を破り、神の冥罰を受くべき時機の来れるもののみ、猟師の手に掛つて斃れる事になつてゐるのである。海の魚も川魚も皆其通りである。 然るに現代の如く、遊猟と称し、職人が休暇を利用して魚を釣り、官吏その他の役人が遊猟の鑑札を与へられて、山野に猟をなすが如きは、実に天則違反の大罪と云ふべきものである。自分の心を一時慰むる為に、貴重なる禽獣虫魚の生命を断つは、鬼畜にも優る残酷なる魔心と云はなければならぬ。人には各天より定まりたる職業がある。之を一意専心に努めて、士農工商共神業に参加するを以て、人生の本分とするものである。 ペストが流行すると云つては、毒薬を盛り鼠を全滅せむと謀る人間の考へも、理論のみは立派なれども到底之を全滅する事は出来ない。又鼠が人家になき時は人間の寝息より発生する邪気、天井に凝結して小さき恙虫を発生せしめ、其虫の為に貴重の生命を縮むる様になつて了ふ。神は此害を除かしめ、人の為に必要に応じて鼠を作り給うたのである。鼠は恙虫を最も好むものである。故に其鳴声は常に『チウチウ』と云ふ。チウの霊返しは『ツ』となる。併し乍ら鼠の繁殖甚しき時は、食すべき恙少き為、止むを得ず、米櫃を齧り、いろいろと害をなすに至る。故に神は猫を作りて、鼠の繁殖を調節し給うたのである。猫の好んで食するものは鼠である。鼠の霊返しは『ニ』となる。猫の鳴声は『ニヤン』と鳴く、『ヤ』は退ふこと、『ン』は畜生自然の持前として、言語の末に響く音声である。故に『ニヤン』と云ふ声を聞く時は、鼠の『ニ』は恐れて姿を隠すに至るは言霊学上動かすべからざる真理である。人試みに引く息を以て、鼠の荒れ廻る時、『ニヤン』と一二声猫の真似をなす時、荒れ狂ひたる鼠は一時に静まり遠く逃げ去るべし。『ニヤ』の霊返しは『ナ』となる。故に猫の中に於て、言霊の清きものは『ナン』と鳴くなり。 すべて禽獣虫魚は引く息を以て音声を発し、神国人は吹く息を以て臍下丹田より嚠喨たる声音を発し、又引く息、吹く息の中間的言語を発する人種もあることを忘れてはならぬ。 又鳥の中にも、吹く息、引く息の中間的の声音を一二声発するものが、たまにはあるものである。馬は陽性の動物なれば、『ハヒフヘホ』と声音を発し、牛は陰性の動物なれば、『マミムメモ』の声音を発す。其他一切の動物、各特有の音声を有し、完全に其意思を表示することは発端に述べた通りである。 馬は陽性の獣類なれば、人其背に跨り、『ハイ』と声をかくれば、忽ち無意識に前進す。『ハ』は開き進むの言霊であり『イ』は左右の息である。即ち左右の脚を開きて進めと云ふ命令詞となる。牛は陰性の獣類なれば、人あり、後より『シイ』と言へば前進す。『シ』は水にして且つ俯むき流れ動くの意である。『イ』は前に述べた通りである。馬は頭をあげて、陽の息を示して進み、牛は頭を下げて陰の水火を示して進む。陽性の馬は『ドー』と言へば止まり、陰性の牛は『オウ』と云へば止まる。『ド』は陽的不動の意味であり、『オー』は陰的不動の言霊の意味である。 之を以て之を見れば、禽獣虫魚一切、惟神的に言霊によりて動止進退することは明白なる事実である。其他の禽獣皆然りである。 或古書にミカエル立ちて叫び給へば、山川草木、天地一切これに応ずとあるも、言霊の真意活用を悟りたる真人の末世に現はれて、天地を震撼し、風雨雷霆を叱咤し又は駆使し、山川草木を鎮定せしめ、安息を与ふる言霊の妙用を示されたものである。あゝ偉大なる哉、言霊の妙用! ○ 是より高姫、鷹依姫、竜国別、外九人は月の大神の御前に恭しく拝礼を了り、兎の王をして厚く仕へしめ、アマゾン河の畔に出でて、モールバンドを始めエルバンドの一族に向ひ、善言美詞の言霊を与へて、彼等を悦服せしめ、遂にモールバンド、エルバンドは言霊の妙用に感じ、雲を起し、忽ち竜体となつて天に昇り、風を起し、雨を呼び、地上の一切に雨露を与へ、清鮮の風を万遍なく与へて、神人万有を安住せしむる神の使となりたり。 併し乍ら、まだ悔い改めざる彼等怪獣及猛獣の一部は、今尚浅ましき肉体を子孫に伝へて、或は森林に或は幽谷に潜み、海底、河底に潜伏などして、面白からぬ光陰を送つてゐるものもあるのである。 古の怪しき獣は、今日に比ぶれば、其数に於て其種類に於て最も夥しかつた。併しながら三五教の神の仁慈と言霊の妙用によつて、追々に浄化し、人体となつて生れ来ることとなつた。故に霊の因縁性来等に於て、今日と雖も、高下勝劣の差別を来たすこととなつたのである。併しながら何れも其根本は天御中主大神、高皇産霊神、神皇産霊神の造化三神の陰陽の水火より発生したるものなれば、宇宙一切の森羅万象は皆同根にして、何れも兄弟同様である。 同じ人間の形体を備へ、同じ教育をうけ、同じ国に住み、同じ食物を食しながら、正邪賢愚の区別あるは、要するに霊の因縁性来のしからしむる所以である。 或理窟屋の中には、総ての人間は同じ天帝の分霊なれば、霊の因縁性来、系統、直系、傍系などの区別ある理由なしと論ずる人がある。斯の如き論説は、只一片の道理に堕して、幽玄微妙なる霊魂の経緯を知らざる人である。人の肉体に長短肥瘠、美醜ある如く、霊魂も亦これに倣ふは自然の道理である。要するに人間の肉体は霊魂のサツクのやうなものであるから、人間各自の形体は霊魂そのものの形体であることを悟らねばならぬ。霊魂肉体を離れ、霊界に遊ぶ時は、其脱却したる肉体と同様の形体を備へ居る事は、欧米霊学者の漸く認むる所である。 物質文明の学は泰西人に先鞭をつけられ、霊魂学の本場たる我国は亦泰西人に霊魂学迄先鞭をつけられつつあるは、天地顛倒、主客相反する惨状と云はねばならぬ。我々は数十年来霊魂学の研究につき、舌をただらし、声をからして叫んで来た。されど邦人は如何に深遠なる真理と雖も、泰西人の口より筆より出でざれば、之を信ぜざるの悪癖がある。故に如何なる高論卓説と雖も、一旦泰西諸国に輸出し、再び泰西人の手を借りて、輸入し来らざれば、信ずること能はざる盲目人種たることを、我々は大に歎く者である。此物語も亦一度泰西諸国の哲人の耳目に通じ、再び訳されて輸入し来る迄は、邦人の多数は之を信じないだらうと予想し、且つ深く歎く次第であります。惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二三旧七・一松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 21 奉答歌 第二一章奉答歌〔九一二〕 末子姫を始め、一同の神司は大神の此宣示に感謝の涙堪へ難く、只俯むいて神恩の広大無辺なるに驚喜するばかりなりき。 捨子姫は一同を代表し、大神に対し、答礼歌を謹厳なる口調にて歌ひ上げ奉る。其歌、 捨子姫『神伊弉諾大神の御鼻に生れます貴の御子 一度に開く梅の花結ぶみのりも豊やかに 其味はひも素盞嗚の澄み切り給ふ神身魂 救ひの神と現れまして天地百の罪科を 御身一つに負はせつつ八洲の国に蟠まる 八岐大蛇や醜狐探女醜女や曲鬼を 誠の道の言霊に言向け和し救はむと 尊き御身も厭はずに雪積む山を打渡り 虎伏す野辺を乗越えて大海原をはるばると 巡り給ひて人草の災払ひ病気の 神を言向け和しつつ天の鳥船空高く 雲霧分けてテルの国テル山峠を下に見て アルゼンチンの神館八人乙女の貴の御子 末子の姫の現れまして霊と肉との教もて 世人を救ひ給ひつつ月日を送る神館 厭ひ給はず天降りまし三五教の神司 教の御子は云ふも更青人草の末までも 恵の露を与へむと出でさせ給ひし尊さよ 末子の姫や捨子姫言依別の神司 国依別や高姫や鷹依姫や竜国別の 教司は神恩のいやちこなるに感歎し 感謝の詞さへ口籠る実にも嬉しき此聖場 厭はせ給はず何時迄も身魂を寛ぎ給ひつつ 高砂島の国人に瑞の御霊のうるほひを 恵ませ給へ惟神神の司を代表し 捨子の姫が畏みて御前に願ひ奉る 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも誠一つを立て通し 此世を守り恵みます神素盞嗚大神の 大御心を慎みて夢寐にも忘れず三五の 教を四方に拡充し大御恵の万一に 酬い奉らむ吾々が清き心を諾なひて ウヅの都に末永く御跡を垂れさせ給へかし あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と簡単に挨拶を述べ終る。 神素盞嗚大神は、満足げに微笑み給ひながら、末子姫、言依別命を従へ、再び奥殿深く進み入り給ふ。 安彦、宗彦、秋山別、モリス、正純彦、常彦、春彦、ヨブ、テーリスタン、カーリンス、春公などの祝歌あれども、余りくだくだしければ、省略する事となしぬ。 一同は神殿に詣で天津祝詞を声も涼しく奏上し、終つて天の数歌をうたひ上げ、神言を奏上し、神恩を今更の如く深く厚く感謝し、各々与へられたる席に着き、暖かなる一夜の夢を結ぶ事となりぬ。 茲に神素盞嗚大神は、奥殿に於て言依別命、松若彦の司と謀り、末子の姫の一身上に関する大問題につき協議を凝らし給うた。果して如何なる協議が纏まつたであらうか。あゝ惟神霊幸倍坐世。 ○ 今日は大正十一年八月二十四日旧七月二日、昨夜来の豪雨に狩野川は濁水氾濫し、水声轟々として、川辺の館に於ける口述は声低き物語、聞取り難きを慮り、新築されし臨時教主殿の奥の間に於て、筆者松村氏と共に第三十二巻の霊界物語を編むこととなつた。湯本館の二階には綾の聖地より、福島、星田両女史出張し、何事か筆を走らせ例の筆先を認めて居られる。忽ち飛電あり。二代教主、瑞月に急々相談あり、昨夜八時の急行にて来ると。瑞月は雨の館に身を横へながら人待顔に述べ立つる。惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二四旧七・二松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 24 冷氷 第二四章冷氷〔九一五〕 高姫は国依別の室を立出で、応援を求めて此目的を達せむと、鷹依姫、竜国別の一室を訪問した。 高姫『御免なさいませ……鷹依姫さま、竜国別さま、何とマア親子仲のよいこと、あなたも孝行な息子を持つて幸福ですなア。私の様な独身者は親子睦まじう、さうして御座る所を拝見致しますと、実に羨ましうなつて来ました。本当に親子の円満なのは見よいものですワイ……時にお二人さまに至急御相談したい事があつて参りました。どうぞ暫くの間御邪魔をさして下さいませ』 鷹依姫『それはマア能う来て下さいました。伜の竜国別が孝行にして呉れますので、私も全く神様のお蔭だと思ひ、朝な夕なに感謝を致して居ります。若い時には随分極道で、何べんも親を泣かせたもので御座いますが、年の薬で此様な孝行な息子になつてくれました。子が無うて泣く親は無いが、子がある為に泣く親は、世界に沢山御座いますでなア。私は神様のおかげで、子がある為に日々勇んで暮して居ります』 高姫『それは何より結構で御座います。併しお二人さま、一つ聞いて貰はねばならぬことが突発して来ました』 竜国『高姫さま、ソリヤ大方国依別さまのお目出度い話でせう。本当に結構ですなア。不断から一寸変つた偉い男だと感服してゐましたが、ヤツパリ栴檀は二葉より馨し、蛇は寸にして人を呑むとやら、ヤツパリ身魂の性来は争はれぬものですワイ。私は今迄心易い友だちとして、ワレかオレかでつき合つて来ましたが、モウ是からは態度を改めねばならなくなつて来ました。本当に人の出世は分らぬものですな……高姫さま、あなたは国依別さまの結婚について御祝をしたいから、どんな物を送つたらよからうと云ふ同情ある御相談でせう……なアお母アさま』 鷹依姫『何から何まで、耳から鼻まで、目から口までつきぬけるやうな高姫さまが御座るのだから、メツタに仰有る事に抜目はありませぬ。高姫さまの御意見に御任せしなさい』 竜国別『ハイ』 高姫『コレ竜国別さま、お前さまのお母アさまの仰有つた通り、何事も私の意見に従ふのだよ』 竜国別『ハイ、従ひますよ。何を祝うたら宜しいでせうなア』 高姫『エヽ辛気臭い、お祝ひ所の騒ぎですか。国家の興亡危機一髪の間に在り、地異天変の大騒動、何を気楽な、悠然として控へて御座るのだい。マア能う考へて御覧、女たらしの御家倒し、家潰しの国依別のやうなガラクタ身魂と、誠水晶の生粋の大和魂の末子姫様と夫婦にでもしようものなら、それこそ白米の中へ砂を混ぜたやうなものだ。どうにもかうにもママになりませぬぞや。何とかして此縁談を冷す工夫をせなくては、国家の一大事だから御相談に来ましたのぢや』 竜国別『冷す相談ですか?此暑いのに俄に方法もありませぬワ。何しろ百度以上に逆上せ上つてゐるのですからなア。併し冷さぬと腐敗の虞がありませう。あなた御苦労だが、一つ竜紋氷室へ走つて行つて、百貫目程氷を買つて来て下さいな』 高姫『コレ竜どの、氷の話ぢやありませぬぞや。お前さまは此暑さで氷の事計り思つてゐるものだから、何を云つても皆氷に聞えるのだよ』 竜国別『チツとカチワリにして、細かう云つて下さらぬと、氷解することが出来ませぬワイ』 高姫『コレコレお前さまは私がこれ程熱心に話をしよるのに、頭から冷かすのかいなア』 竜国別『高姫さま、今冷さうと云つて来たぢやないか。さうだからお前さまの意見に従つて、冷かしにかかつて居るのだよ。冷笑冷罵の言霊を一つ進上致しませうか。今朝から井戸の中へ吊り下しておいたのだから……』 高姫『エヽ訳の分らぬ男だなア。西瓜の事を誰が云つていますか!』 鷹依姫『コレコレ竜国別……勿体ない、高姫さまに向つて、さうツベコベと口答するものぢやありませぬぞえ……なア高姫さま、若い者と云ふものは、実に側に聞いて居つても、氷の側に居るやうに、ヒヤヒヤするやうな事計り申します。どうぞ冷静にお聞き下さいませ』 竜国別『高姫さま、お前さまは善言美詞の言霊を忘れましたか?国依別さまがモウ一息で成功すると云ふ間際になつて、昔のアラをさらけ出したり、反対運動をすると云ふ様な非人道的な事が御座いますか。私は左様な相談には真平御免ですよ』 高姫『私だとて国依別のアラをさらけ出すのは実に辛い、熱鉄を呑むやうな心持がするけれど、多勢の人民と一人とには替へられませぬから、止むを得ずイヤな事を云はねばならぬ因果な身の上……コレ鷹依姫さま、高姫の心の中を推量して下さいませなア』 鷹依姫『御尤もで御座います。併し乍ら神素盞嗚大神様の御所望に依り、言依別神さま、松若彦の神司のおきめ遊ばしたこと、吾々がどうかう申す権利もなければ場合でも御座いませぬ。どうなるのも皆神様の御仕組で御座いませうから、吾々としては只お目出度いと御祝ひ申すより外に道はなからうかと存じます』 高姫『エーエ、親子共、揃ひも揃うて分らぬ人だなア。是では何程変性男子の系統……オツトドツコイ、是は云ふのぢやなかつた……高姫が、シヤチになつてきばつても、此濁流はせきとめる事は出来ないかなア……アヽ惟神霊幸倍坐世。どうぞ神様、早く善と悪とを立別け下さいまして、神素盞嗚大神様の貴の御子の結構な身魂を、国依別の泥身魂が汚しませぬ様に、夜の守り日の守りに守り幸はひ下さいませ。偏に御願申上げ奉ります』 竜国別『高姫さま、今となつて、何程ジリジリ悶えをしたつて駄目ですよ。私も余り国依別さまの悪口をきかされて、腹が竜国別となつて了つた。サアサア一時も早く此処を竜国別として下さい。是から国依別さまの所へ御祝ひに行かねばなりませぬ……お母アさま、高姫さまに失礼して、親子揃うて、このお目出度い結婚の前祝に行つて来ようぢやありませぬか』 高姫『どうなつと、御勝手になさりませ。後で後悔せぬ様に一寸気を付けて置きますぞえ』 竜国別『後で後悔どころか、最早此結婚の話は前以て公開された筈だ。アハヽヽヽ』 斯かる所へカールは勢ひよく走り来り、 カール『今言依別様の御居間へ招かれて行つて来ました所、タカとか鳶とかの雌鳥がやつて来て、畏れ多い大神様の思召に依つて成立つた結構な結婚問題を冷かさうとして、百万陀羅泡を吹いて帰つたと云ふことで御座いましたよ。何れ鷹依姫様や竜国別様の御宅へもタカがケチをつけに行くだらうから、お前一つタカや鳶が出て来ても相手にならず、ぼつ返せと仰有いましたからお使に出て参りました。グヅグヅしてると、タカや鳶に油揚をさらはれ、アフンとしても後の祭りだから、一寸言依別様の御命令に依つて御知らせに参りました……オツトドツコイ、此処にタカとか高姫さまとか云ふ御本尊が御座つたのかなア……大神様、何卒神直日大直日に見直し聞直し下さいませ。アヽ惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 (大正一一・八・二四旧七・二松村真澄録)
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霊界物語 33_申_玉の御用の完了/高姫と黒姫の過去 11 波静 第一一章波静〔九二六〕 高姫は再び立つて、尊の御歌に感じ、懺悔的の歌を謡ひ、此度は自ら手を拍つて舞ひ狂ひ、心の底より打解けて見せた。其歌、 高姫『変性男子の腹をかり生れ出でたる高姫は 知らず識らずに高ぶりて八岐大蛇の曲霊に 何時の間にかは欺かれ疑心暗鬼の雲蔽ひ 心の空は烏羽玉の全く暗となりにけり 神素盞嗚大神の清き尊き御心 少しも悟らずいろいろと力限りに妨害し 其神業を遅らせし深き罪をも咎めずに 許させ玉ひし瑞御霊深き仁慈を目のあたり 拝みまつりて高姫も心の駒を立直し 初めて開く胸の暗あゝ惟神々々 神の水火より生れたる人は七転八起てふ 坂を越ゆべきものなるに神の大道にさやりたる 其罪科も悟らずにいろいろ雑多と身をいらち 心を曇らせ玉の緒の生命危き境遇に 出会ひし事も幾度か七死八生の関を経て 漸くここに着きにけり金剛不壊の如意宝珠 黄金の玉や紫の玉を初めて麻邇宝珠 あらゆる宝を吾の手に納めて功績を誇らむと いらちし事の恥かしさそれのみならず国依別の 教司の此度の慶事を手もなく覆さむと 思ひ余つて真心の梶取り外し曲津見の 醜の虜となり果てていろいろ雑多と動きたる 其行ひの恥かしさあゝ惟神々々 神の心に宣り直し見直しまして高姫が 心の罪を赦せかし言依別の神司 松若彦を初めとし鷹依姫や竜国別の 珍の命や石熊の教の司の御前に 謹み敬ひわびまつるかくも悟りし高姫は いよいよ今日より慎みて我情我慢を放擲し 尊き神の御柱と成りて仕へむ人々よ 心さかしき高姫とさげすみまさず手を引いて 神の御為世の為に功績を立てさせ玉へかし あゝ惟神々々神の御前に願ぎまつる』 と歌ひ終り元の座に着く。 国依別は立つて歌ひ舞ふ。 国依別『仰げば高し久方の神の恵をかかぶりて 松鷹彦の子と生れ天の岩戸の閉されし それの騒ぎに親と子は風に木の葉の散る如く ちりちりパツと散りみだれ暗にさまよふ幼児の 吾兄弟も白雲の遠き国路へさすらひの 悲しき身とはなりにけりあゝ惟神々々 かかる情なき兄弟も神の恵の幸はひて 恋しき父に巡り会ひ兄妹の所在をば 初めて悟る胸の内天の岩戸も一時に 開き初めたる如くなり三五教の大道に 救ひ上げられ宗彦は言依別の教主より 名さへ尊き宣伝使国依別と任けられて 主一無適の信仰を深く心に刻みつつ 東や西や北南遠き近きの隔てなく 海と陸との分ちなく神の御為世の為に 力の限り尽せしが思ひがけなき今日の空 月日は清く照りわたり星の光はキラキラと 輝きわたる尊さよ神素盞嗚大神の 珍の御子と生れませる末子の姫と今日よりは 千歳を契る妹と背の鴛鴦の衾の新枕 千代も八千代も変りなく皇大神の御恵と 三五教の神司信徒たちは言ふも更 高姫司の御恵に今日は嬉しき此宴会 天津神達国津神百神達の御守りに 笑み栄え行く高砂の島根に青き一つ松 緑の色もこまやかに五六七の御代の末子姫 幾千代までも睦まじく神の館に止まりて 教を開き国人をいと安らけく平けく 守らせ玉へ惟神畏み畏み願ぎまつる 畏み畏み願ぎまつる』 末子姫は三十一文字を以て、言霊の歌をよみ、国依別の歌に答へ、且つ其慶事を祝した。 末子姫『あら尊といく千代迄もうごきなく えにし結びしおしの衾の かけまくもきみの天降りしくになれば けはしき人のこころだになし さしのぼるしののめの空すみ渡り せこのかんばせそふる月影 たらちねのちち大神のつきの魂 てらさせ玉ふとよの神国 ながかれとにしきの宮にぬかづきて ねがふ心ぞのどかなりけり はに安のひこの教のふかくして へいわの風はほどほどにふく ます鏡みがきすましてむつまじく めをとの道をもも年もがな やくも立ついづもの神のゆはせたる えにしにあればよきもあしきも わかくさのゐもせの道のうるはしく ゑらぎゑらぎてをくるうまし世』 と四十五音の折込み歌を謡ひ、悠々として国依別と共に、父大神の後を追ひ奥殿に進み入る。これにていよいよ結婚祝賀の歌も済み、一同歓を尽して、各自の館々へ立帰るのであつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 次に捨子姫は国依別、末子姫夫婦の媒酌に依り、これより一年の後松若彦の妻となり、国依別夫婦の部下に仕へて、偉功を立てたりにける。 (大正一一・八・二七旧七・五松村真澄録)
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霊界物語 33_申_玉の御用の完了/高姫と黒姫の過去 17 感謝の涙 第一七章感謝の涙〔九三二〕 高島丸はテルの国、ハラの港より西へ西へと進んで、現今の日本国台湾島へ帰つて来た。 今日の航路より見れば全然反対の道をとり、且つ非常に迂回して居るのは、三十万年前の地球の傾斜の関係及潮流の関係に依つたものである。蒸気の力を以て自由自在に航行する現代に比ぶれば、非常に不便なものであつた。併し乍ら其速力は今日の二十浬以上を、風なき時と雖も、航行する事が出来たのである。其故は例へば二百人乗りの船ならば、船の両舷側に百本の艪櫂がついてゐて、二百人の乗客の中百人は、力限りに艪櫂を漕ぎ、稍疲労したる時は、又百人これに代り、交る交る艪櫂を漕いだものである。船頭は只船の方向を定め、水先を調べ、舵をとるのみであつた。大きな船になると、二階造りになり、下からも、上からも船を漕ぐ仕掛になつて居た。恰度舷を見ると、蜈蚣の足の様に見ゆる船の造り方であつた。それ故非常な速力で、少々の荒波位には少しも弱らなかつたのである。且又昔の人は総じて剛胆者が多く、臆病者は頭から乗船を許さなかつたのである。故に余り役に立たぬ老人や、子供の船客は皆無と云つても良い位であつた。特別の事情ある者でなければ、船に乗ることを互に戒めて許さなかつたものである。 高姫一行は漸くにして、月日を重ね自転倒島の由良の港に安着した。秋山彦は錦の宮の玉照彦、玉照姫の命に依り、高姫一行が由良の港に帰り来ることを前知し、数多の里人を集め、埠頭に一行を迎ふべく、十曜の神旗を海風に翻し乍ら、今や遅しと待ちつつあつた。 此処へ竹島丸は波を蹴つて、高姫一行を乗せて帰り来るのであつた。高姫一行は、台湾のキルの港より竹島丸に乗り替へたのである。高姫一行六人外に松彦、鶴公の二人を加へて八人は、秋山彦の迎への人数に送られて、勇ましげに秋山彦館に入り、息を休むる事となつた。其夜は何れも草臥果て、夕餉を喫したる儘、這ふが如くグタリとした体を、与へられた各自の寝間に運び、つぶれた様に寝て了つた。 言依別命より監視役を命ぜられて、従いて来た松彦は、其夜は一睡もせず、秋山彦夫婦と共に、高姫の身の上に関する事、及び麻邇宝珠の御用の件に就て、ひそかに協議を凝らし、夜の明くる頃漸くにして寝に就いた。秋山彦夫婦も亦昨夜の疲労を慰すべく、太陽の高く昇る頃まで白河夜船の夢を貪ることとなつた。 聖地よりは東助を初め、加米彦其他の面々が高姫一行を迎ふべく、由良川を下つて此処にやつて来たのである。秋山彦館は俄の客にて、下僕共は上を下へと大繁忙を極め、馳走の用意に差かかつて居る。 秋山彦は高姫、鷹依姫、竜国別の三人を一間に招き、松彦が齎せる神素盞嗚大神及び言依別命の密書の件に就て、三人に対し、意見を聞くこととなつた。 秋山彦『高姫さま、其他のお二方、永らくの間、御遠方の所、御苦労で御座いました。大神様に於かせられても、さぞ御満足の事で御座いませう。就いては麻邇の宝珠の件で御座いますが、竜宮島より迎へられた五個の中、其四つまで紛失致しました事は、実に神界経綸上大変な不都合で御座います。これに就てあなた方に今一度お世話になつて、四つの玉を発見して頂かねばならないので御座いますが、如何でせう、お世話になれるでせうか』 高姫『ハイ、私は金剛不壊の如意宝珠を初め、其他一切の玉に関し、最早何の執着もなくなりましたから、此事計りは、最早断念して居ります。此広い世の中、言依別命がどうかされたのでせうから、いくら捜しても駄目です。どうぞ玉の事だけはモウ言はないでおいて下さいませ』 秋山彦『如何なる神界の御用を致すのも、皆神様からの御命令、身魂相応の因縁がなくては出来ないので御座います。就いては、鷹依姫様、竜国別様、モウ一人の黒姫様、此四人の方が、麻邇宝珠の御用をして下さらねばならない因縁で御座いますが、生憎竜宮島より五色の麻邇宝珠が現はれ玉ふ時機到来して、惟神的に高姫様、黒姫様お二人を竜宮の一つ島へお導きになりましたなれど、あなた方は此一つ島には最早玉はない、外を捜さうと云つて、お帰りになられました。それ故止むを得ず、神界の思召に依つて、梅子姫様は紫の玉の御用、これは身魂の因縁で当然錦の宮へお持帰りにならねばならぬ御役で御座いました。それから青色の玉は高姫様、赤色の玉は黒姫様、白色の玉は鷹依姫様、黄金の玉は竜国別様が御用遊ばす、昔からの因縁にきまつて居つたのです。併し乍ら、四人の方はいろいろと神界の時節を待たずお焦りになつて、何れも方角違ひの方へ往ていらツしやつたものですから、神界のお計らひにて、黄竜姫、蜈蚣姫、友彦、テールス姫の四柱が此自転倒島まで臨時御用を遊ばしたので御座います。併し乍ら身魂の因縁だけの御用を、今度は勤めねばならないのですから、神素盞嗚大神様、言依別命様のお計らひにて、紫の玉を除く外四つの玉は言依別命様が責任を負ひ、或地点にお隠しになつてゐるので御座います。どうしても因縁だけの事を勤めねばならぬのであります。今度の御用を仕損つたら、モウ此先は末代取返しが出来ませぬから、そんな事があつては、あなた方にお気の毒だと、大慈大悲の大御心より神素盞嗚大神様が吾子の言依別命様に責任を負はせ、罪を着せ、あゝ云ふ具合にお取扱ひになつたので御座いますよ。今此処にウヅの国より、松彦の司に事依さし神素盞嗚大神様を初め、言依別命、国依別命より神書が届きました。どうぞ之を御披き下されば、玉の所在もスツカリお分りでせう。どうぞ御苦労ですが、モウ一働き御用を願ひませう』 高姫は初めて大神の大慈悲心と、言依別命及び国依別命の真心を悟り、感謝の涙に暮れて其場に泣き倒れた。鷹依姫、竜国別も声を放つて、其神恩の深きに号泣して居る。 斯かる所へ筑紫の島より黒姫の所在を尋ね、玉治別、秋彦の両人、黒姫を伴れて帰り来り、茲に四人の身魂は久しぶりに顔を見合す事となつた。 秋山彦は黒姫に重ねて前述の次第を物語り、神書を開いて読み聞かせた。黒姫、玉治別等の筑紫島に於ける活動の模様は後日に稿を改め、述ぶる事と致します。 秋山彦は神文を押戴き、静かに開いて、四人の前に読み上げた。其神文、 『此度、国治立命、国武彦命と身を下し玉ひ、また豊国姫命は国大立命となり再び変じて神素盞嗚尊となり、国武彦命は聖地四尾山に隠れ、素盞嗚尊はウブスナ山の斎苑の館に隠れて、神政成就の錦の機を織りなす神界の大準備に着手すべき身魂の因縁である。それに付いて、稚姫君命の御霊の裔なる初稚姫は金剛不壊の如意宝珠を永遠に守護し、国直姫命の御霊の裔なる玉能姫は紫の玉の守護に当り、言依別命は黄金の玉を永遠に守護し、梅子姫命は紫色の麻邇の宝珠の御用に仕へ、高姫は青色の麻邇の宝玉、黒姫は赤色の麻邇の宝玉、鷹依姫は白色の麻邇の宝玉、竜国別は黄色の麻邇の宝玉を守護すべき身魂の因縁なれば、これより四人は麻邇の宝珠を取出し、綾の聖地に向ふべし。控への身魂は何程にてもありとは云へども、成るべくは因縁の身魂に此御用を命じたく、万劫末代の神業なれば、高姫以下の改心の遅れたる為、神業の遅滞せし罪を言依別命に負はせて、高姫以下に万劫末代の麻邇の神業を命ずるものなり。……神素盞嗚尊』 と記してあつた。四人は感謝の涙にむせび乍ら、直ちに手を拍ち、神殿に感謝の祝詞を奏上した。秋山彦は黄金の鍵を持ち出でて、高姫に渡し、 秋山彦『いざ四人の方々、吾館の裏門よりひそかに由良の港に出で、沓島に渡り、麻邇宝珠の四個の玉を、各自命ぜられたる如く取出し、秘に聖地へ帰り、尊き神業に参加されたし。此事、聖地其他の神司、信徒の耳に入らば、却て四人の神徳信用に関係する事大なれば、一切秘密を守り、大神の御意志を奉戴し、今迄の罪を贖ひ、天晴れ麻邇宝珠の神司として聖地にあつて奉仕されむ事を希望致します。サア早く早く……』 と急き立てられ、四人は喜び勇んで、裏口より秘に脱け出で沓島に向つて進み行く。 此事玉治別を初め、加米彦、テー、カー、常彦、其他の神司、聖地の紫姫、黄竜姫、蜈蚣姫、友彦、テールス姫其他の神司も信徒も永遠に知る者がなかつたのである。 高姫外三人は素盞嗚尊の仁慈無限のお計らひにて、罪穢れを許され、身魂相応因縁の御用を完全に奉仕させられたのである。アヽ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二九旧七・七松村真澄録)
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霊界物語 33_申_玉の御用の完了/高姫と黒姫の過去 18 神風清 第一八章神風清〔九三三〕 秋山彦は東助、玉治別其他一同の集まる広間に現はれ、 秋山彦『皆様、御苦労で御座いました。高姫様初め黒姫、鷹依姫、竜国別の御一行は漸く惟神の御経綸に依り、私の館までお帰り下さいまして、実にこれ位喜ばしい事は御座いませぬ。就いては言依別命様が責任を負うて、聖地をお立退きになりました大事件の根源たる麻邇の宝珠の所在が、高姫様以下御一同の熱誠に依つて、判明致しましたに付いては、軈て近き内に麻邇の宝珠を持つてお帰りになることで御座いませう。皆様はどうぞ、これより聖地に帰り、歓迎の御準備を願ひます。国治立命様、豊国姫命様を初め、神々様の御仁慈は到底吾々の語り尽すべき所では御座いませぬ』 と嬉し涙に湿つた声を張上げて挨拶をするのであつた。東助、玉治別其他の一同は、秋山彦の案に相違の言葉に驚き且つ怪しみ乍ら、高姫以下の此場より何処ともなく消えたるに拍子抜したる面色にて、急ぎ聖地を指して帰り行くのであつた。 聖地の錦の宮の八尋殿には、玉照彦、玉照姫、英子姫は、紫姫と共に数多の幹部を従へ、一行の帰り来るを待ちつつあつた。東助は三人の神司の前に恭しく進み寄り、頭を下げ両手をつかへ、 東助『由良の港の秋山彦の館へ、高姫一行を迎への為参りました所、竹島丸に乗込み、高砂島より一行八人お帰りになりました。それより秋山彦館にお迎へ致し、一夜を明かし、いろいろの款待に預り、無事の帰国を祝して居る際、黒姫もお帰りになり高姫一行四人の方々は麻邇の宝珠の所在が分つたとかで、ソツトどこかへ御出でになりました。就いては近日其玉を得て聖地へお帰りになるから、早く帰つて歓迎の準備をせよとの事で御座いました。何が何だか、私には一向要領を得ませぬが、是非なく此処まで帰つて参りました。如何致せば宜しいので御座いませうか。紫姫様、どうぞあなたより三柱の神司へ宜しく言上を願ひます』 と云つた。紫姫は『ハイ』と答へて高座にのぼり、三柱の前に額づき、東助の言葉を一々言上した。英子姫、玉照彦、玉照姫の三柱の神司はニコニコし乍ら、頭を縦に振つてゐられる。其の様子がどこやらに深き確信あるものの如く見られた。三柱の神司は神前に向ひ、恭しく祝詞を奏上し終つて、一同の神司及び信徒に目礼を施し乍ら館の奥深く忍び入り給うた。 紫姫は東助に向ひ、 紫姫『只今三柱の大神司より承はりますれば、高姫様は明日四人連れにてお帰りのはずで御座いますから、どうぞ歓迎の準備を遊ばして下さいませ』 東助『ハイ委細承知仕りました』 と此場をさがり、歓迎の準備に全力を尽し、高姫の帰るを今や遅しと待ちつつあつた。 明くれば九月八日、高姫、鷹依姫、黒姫、竜国別の四人は嬉々として、麻邇の宝珠を捧じ、錦の宮の八尋殿指して帰り来り、直に神殿の前に進み、各玉を捧持して、無言の儘控へて居る。紫姫は此体を見て、直に三柱の大神司に奉告した。 茲に玉照彦、玉照姫、英子姫、紫姫は礼装を調へ、四人の前に無言の儘現はれ、玉照彦は高姫の手より青色の麻邇の宝珠を受取り、玉照姫は黒姫の手より赤色の宝珠を受取り、英子姫は鷹依姫の手より白色の宝珠を受取り、紫姫は竜国別の手より黄色の麻邇の宝珠を受取り、頭上高く捧げ乍ら悠々として錦の宮の神前に進み、案上に恭しく安置され、再び八尋殿に下り来り、高姫外三人の手を取り、殿内に導き感謝祈願の祝詞を共に奏上し、八人相伴ひて、教主殿の奥の間さして進み入り、互に歓を尽して、無事の帰国と其成功を祝し玉うたのである。 英子姫『皆様、随分御苦労で御座いましたなア。神界の御経綸は到底、人間共の量り知る所で御座いませぬ。只何事も神様の御命令に従ふより外に途は御座いませぬ』 高姫『ハイ、有難う御座います。私も余り神様の御道を大事に思ふ余り、言依別命様の行方を見て、大神様の御経綸を妨害し、再び天の岩戸をとざす悪魔の所為と思ひつめ、いろいろ雑多と誤解を致し妨害のみ致して参りました。今日となつて顧みれば実に恥かしう御座います。私の改心が遅れた計りで、皆様にいろいろの御苦労をかけ騒がしました。言依別の教主様も、私の為に大変な御艱難を遊ばし、実に申訳が御座いませぬ。大化者だとか、体主霊従の身魂だとか、世界悪の映像だとか、いろいろ雑多と云ひふらし、邪魔計り致して来ましたが、顧みれば私こそ悪神の虜となり、知らず識らずに体主霊従の行ひをなし、世界悪の根本を敢てしながら人の事計り喧しく申上げて来ました。私の迂愚迂濶、今更弁解の辞も御座いませぬ。大化者と云ふ事は、決して悪い意味では御座いませなんだ。余り人物が大き過ぎて、吾々の身魂では測量することが出来なかつた為に、訳の分らぬ教主だと思ひ、大化者だと云つて罵つたので御座いました。仁慈の深き、到底吾々凡夫の知る所ではないことを、深く深く身に沁み渡つて感じまして御座います。何程あせつても、身魂の因縁だけの事より出来るものでは御座いませぬ。どうぞ今迄の不都合をお許し下さいまして、身魂相応の御用を仰せ付け下さいますれば、有難う存じます』 英子姫『其お言葉を聞いて、妾も安心致しました。玉照彦様、玉照姫様、さぞお喜びで御座いませう。第一、国治立大神様の御化身国武彦命様、神素盞嗚大神様は貴女の御改心をお聞き遊ばして、さぞ御満足に思召すで御座いませう。貴女の御改心が出来て、身魂の御因縁が御了解になれば、三五教は上下一致して御神業に参加し、五六七神政の基礎が確実に築き上げられる事と喜びに堪へませぬ』 高姫『ハイ、何から何まで、御注意下さいまして有難う存じます』 黒姫『私は最早何にも申上げる事は御座いませぬ。只感謝より外に道は御座いませぬ。どうぞ万事宜しく、今後とても不都合なき様、御注意を願ひます』 鷹依姫『私も高姫様に聖地を追ひ出され、いろいろと艱難苦労を致しまして、一時は高姫様をお恨み申したことさへ御座いましたが、今となつて考へて見ますれば、何事も皆神様の御仕組で、曇つた魂を研いて、神界の御用に立ててやらうとの御取りなしであつたことを、今更の如く感じました。実に申上げ様もなき有難き瑞の御霊の思召し、言依別命様のお心遣ひ、お礼は口では申上げられませぬ』 と嬉し涙にかき暮れる。 竜国別『神恩の高き深き、感謝の外御座いませぬ。何卒万事不束な者、宜しくお願ひ致します』 玉照彦、玉照姫は四人に向ひ鎮魂を施し、悠々として我居間に帰り玉うた。高姫は初めて今迄の我を払拭し、青色の麻邇の宝珠の玉に対する神業に参加することを決意し、金剛不壊の如意宝珠の御用の吾身に添はざることを深く悟ることを得たのである。 ○ 茲に金剛不壊の如意宝珠の御用を勤めたる初稚姫は初めて錦の宮の八尋殿の教主となり、紫色の宝玉の御用に仕へたる玉能姫は生田の森の神館に於て、若彦(後に国玉別と名を賜ふ)と夫婦相並びて、生田の森の神館に仕ふることとなつた。 又黄金の玉の神業に奉仕したる言依別命は少名彦名神の神霊と共に斎苑の館を立出で、アーメニヤに渡り、エルサレムに現はれ、立派なる宮殿を造り、黄金の玉の威徳と琉の玉の威徳とを以て、普く神人を教化し玉ふこととなつた。 又梅子姫は父大神のまします斎苑の館に帰り、紫の麻邇の玉の威徳に依つてフサの国の斎苑館に仕へて神業に参加し、高姫は八尋殿に大神司を初め紫姫の部下となつて神妙に奉仕し、黒姫、鷹依姫、竜国別もそれぞれの身魂だけの神務に奉仕し、神政成就の基礎的活動を励む事となつたのである。 此等の神々の舎身的活動の結果、いよいよ四尾山麓に時節到来して、国常立尊と現はれ、現幽神三界の修理固成を開始し玉ふことを得るに至つたのである。これが即ち大本の教を国祖国常立尊が変性男子の身魂、出口教祖に帰懸し玉ひて神宮本宮の坪の内より現はれ玉うた原因である。又言依別命の舎身的活動に依つて黄金の玉の威霊より変性女子の身魂、高熊山の霊山を基点として現はれ、大本の教を輔助し且つ開くこととなつたのである。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二九旧七・七松村真澄録)
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霊界物語 33_申_玉の御用の完了/高姫と黒姫の過去 21 峯の雲 第二一章峯の雲〔九三六〕 高姫『今承はれば、実に黒姫さまも奇妙な運命を辿られたものですな。随分貴女も若い時は引手数多の花菖蒲、若い男に随分チヤホヤされたでせう。何処ともなしに床しい花の香が未だに備はつて居ますよ。オホヽヽヽ……然し乍らこんなお目出度い事は御座いませぬ。私も自分の子に会うた様に嬉しうなつて来ました。……高山彦さま、貴方も若い時に子でも生みつけて置きなされば、今頃はさぞ神様のお蔭で親子の対面が出来御愉快で御座いませうがな』 黒姫『ハイ、誠に恥かしい事で御座います。畏れ多い……神様から頂いた吾子を捨てたり、こんな罰当りの私でも神様はお許し下さいまして、斯んな嬉しい親子の対面をさして下さいました。随分彼方此方と気儘の事をして廻り、両親の事は左程にも思はず、夫の事や吾子の事ばかり尋ねて居りました。私の両親も最早此世に居るか居らぬか知りませぬが、私が子に恋ひ焦れる様に私の両親も嘸や嘸私の事を気にかけて居られるでせう。本当に親の心と云ふものは何処まで慈愛の深いものか分りませぬ。斯うなつて来ると両親の身の上も案じられ、又伜の玉治別が折角母親に会うて喜んで居りますが、屹度父親の所在を知りたいと思うて居るに違ひ御座いませぬ。何事も皆私の不心得から、一人の伜までに切ない思ひをさせます。あゝ玉治別、何卒許して下さい。屹度私がお前のお父さまを草を分けても探し出し、お会はせしませうから……』 玉治別『勿体ない事を云つて下さいますな。此広い世の中、何時まで探しても分りさうな事は御座いませぬ。神様が会はして下さらうと思召したら屹度会はして下さいますから……そんな事に心を悩まさず、一心に母子が揃うて神様の御用を勤めさして頂きませうか』 黒姫『左様で御座いますな。母子手を引き合うて神様の御用を致しませう』 東助は両手を組み頭を項垂れ、時々太い息を吐き、物をも言はず此光景を打看守つて居る。 高山彦は歌ひ出した。 高山彦『コーカス山に現はれし大気津姫の八王と 仕へまつりし千代彦や万代姫の其中に 生れし吾は珍の御子隙間の風にも当てられず 蝶よ花よと育まれ栄耀栄華に育ちしが 松、竹、梅の宣伝使石凝姥や高彦や 其他数多の神司コーカス山に現はれて 言霊戦を開きてゆ老たる父母は大気津姫の 神の命に従ひて逃げ行く先はアーメニヤ 館の奥に隠れましウラルの神の御教を 朝な夕なに守りつつ世人を導き給ひけり 吾には三人の兄弟がいと健やかに生ひ育ち 父の家をば嗣ぎまして暮し玉へど弟と 生れ出でたる吾こそは自由自在の身なりとて 夜な夜な館を抜け出し若き女と手を曳いて 都を後にフサの国逃げ行く折しも両人は 新井の峠を越ゆる折谷に架けたる丸木橋 危く之を踏み外し二人は千尋の谷底に 落ちて果敢なくなりにけりかかる処へ杣人が 現はれ来りて吾身をば種々雑多と介抱し 吾は危き生命を助かりたれど吾恋ふる 女のお里は影見えず深谷川の激流に 流されたるは是非もなし最早此世に永らへて 一人暮すも詮なしと柏井川に架け渡す 橋の袂に来て見れば夜目には確と分らねど お里の顔によく似たり何れの人の情にて 危き生命を免れしか不思議なことと擦り寄つて よくよく姿を眺むれば女はお里に非ずして 色香勝れし真娘心の裡の曲者に 取り挫がれて懊悩の雲はいつしか晴れ渡り 再び陽気に立ち帰り擦れつ縺れつ顔と顔 眺めて忽ち恋の糸搦まるままに傍の 林の中に立ち入りて○○○の折柄に けたたましくも出で来る人の足音耳につき パツと驚き立ち別れ雲を霞と逃げ去りぬ 吾はそれよりフサの国彼方此方と逍遥ひつ 若やお里は現世に生永らへて居はせぬか 飽まで探し求めむと雲をば掴む頼りなき 詮議に月日を送りしが今黒姫の物語 聞いて驚く胸の裡柏井川の橋の上で 会うたる女は黒姫かさすれば玉治別神 全く吾の珍の御子あゝ惟神々々 神の恵は山よりも勝れて高く海よりも いやまし深く思はれて感謝の涙は雨となり 降り注ぐなる今日の宵玉治別よ黒姫よ 高山彦は汝が父ぞ汝が昔の夫ぞや 親子の縁斯くの如月日の如く明かに なりたる上は今よりは親子心を協せつつ 錦の宮の御前に誠を捧げて朝夕に 力限りに尽くすべし昔の罪が廻り来て 色々雑多と世の中の憂目を忍び迷ひたる 夫婦の仲も皇神の恵の鞭の戒めか 今は心も打ち解けて天津御空は殊更に 弥明けく地の上は弥清らけくなりにけり 吹き来る風も今までの悲哀の音は何処へやら 千代を祝する歓ぎ声小雲の流れもサヤサヤと 吾等親子の行末を祝ふが如く聞ゆなり あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 黒姫、玉治別は高山彦の物語に二度吃驚り、……あの時の青年は高山彦様であつたか……吾父であつたか……と双方より取縋り嬉し涙にかき暮れる様、実に割なく見えて居る。 高姫『黒姫さま、目出度い事が重なれば重なるものですな。お前さまも全く今迄の罪障がとれたと見えて、神様が親子の対面をさして下さつたのですよ。そして高山彦さまは露の契と云ひ乍ら、若い時の貴方のラバーしたお方、なんとまア夢に牡丹餅を喰つた様な甘い話で御座いますなア。それにつけても此高姫はまだ神様のお許しがないと見えまして、心の中に大変な悩みを持つて居ます。あゝ如何かして一時も早く、此悩みの雲が晴れ、青天白日、今日の空の様にサラリとなり度いものです。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と涙声になつて両手を合せ祈りゐる。 黒姫『貴女も何時かのお話の序に一寸承はりましたが、妾の様に捨児をなされたさうですが、貴方の様な気丈なお方でも矢張り気にかかりますか』 高姫『親子の情といふものは誰しも同じ事です。年が寄れば寄る程子が恋ひしくなるものです。アーア、黒姫様が元の親子夫婦の対面を遊ばしたに就いて、一入昔の事が思ひ出され、吾子に一度会ひ度くなつて堪りませぬ。其時の夫は今は何処に如何して居られますやら……今日となつては其夫と出会つた処が、夫婦となる訳には行きませぬなれども、せめて……お前はあの時の妻であつたか、夫であつたか、子であつたか……と名乗り合つて見たう御座います』 と云ひ放つて泣き沈む。黒姫は確信あるものの如くニツコリと笑ひ乍ら、 黒姫『高姫さま、あまり迂濶して居つて貴女のお話を十分に記憶して居りませぬが、何でも貴女のお捨てになつたお子さまには、守刀に真珠で十の字の印を入れ柄元に「東」と「高」との印をお入れになつたぢや御座いませぬでしたかな』 高姫『ナニ、黒姫さま、そんな詳しい事を私は申上げた様な記憶はありませぬが、左様の事を申上げた事が御座いますかな』 黒姫『そのお子さまの名は金太郎とは申しませなんだか、丁度今年で私と同じ様に三十五年になるのぢや御座いませぬか』 東助の顔の色が之を聞くよりサツと変つた。高姫の顔も亦俄に変り、目は円くなり口先が尖つて来出した。 高姫『何とまあ、詳しい事を御存じで御座いますな。私はそこ迄お話した覚えは御座いませぬが、如何してまアそんな詳しい事がお分りで御座いますか。これには何か御様子のある事でせう。何卒明らさまに仰有つて下さいませ』 黒姫は歌を以てこれに答へける。 黒姫『高山彦の後を追ひ筑紫の島に立ち向ひ 建日の港を後にして筑紫ケ岳の大峠 高山峠を登り行く其頂上となりし時 傍に五人の荒男玉公、虎公面々の 人の噂を聞きつれば熊襲の国の神司 建日別の御息女建能姫の夫として 誉も高き建国別の神の命は何人の 捨てたる児とも分らずに三十五才の今年まで 父母両親の所在をば尋ね居ますと聞きしより 遥々館に立ち寄つて夫婦の神に面会し もしや吾子にあらぬかと昔の来歴物語り 種々調べ見たりしに建国別の宣らす様 吾は如何なる人の子か未だに分らぬ悲しさに 朝な夕なに三五の神に仕へて父母の 行方を尋ね求めつつ其日を送る悲しさよ 汝の命は遠近と神の教を伝へつつ 出でます身なれば父母にもしもや会はせ給ひなば 一日も早く吾許に知らさせ給へ幼名は 聞くも目出たき金太郎吾身に添へたる綾錦 守袋に名を記し守刀に真珠にて 十字の印を描き出し鍔元篤と眺むれば 「東」と「高」の印あり人の情に哺まれ 漸く成人なせしもの誠の生みの父母が 此世に居ます事ならば一目なりとも会ひたやと 嘆かせ給ふを聞くにつけ此黒姫も胸迫り 名乗り上げむかと思へどもいや待て暫し待て暫し 高姫様に面会し詳しき事を更めて 承はらずは軽々に名乗りもならずと口許へ 出かけた言葉を呑み込んで素知らぬ顔を装ひつ 此処まで帰り来りけりまさかに汝の生みませし 御子にはあるまじさり乍ら合点の往かぬは三年前 高姫様の物語朧気ながら思ひ出し 半信半疑に包まれて名乗りも得ざりしもどかしさ あゝ惟神々々神の恵の幸はひて 高姫さまが愛し子に目出度会はせ給ふべき 時こそ来れるなるべしと何とはなしに勇ましく 心の空も晴れにけり高姫さまよ黒姫が 此物語諾ひてお心当りのあるならば 人を遥々遣はして今一度調め給へかし あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 玉治別『屹度建国別命は高姫様の御子息に間違ひありますまい。如何も私はその様な気が致します。さうであつたならば、実に此上ない目出たい事で御座いますがな。私は久し振りで両親に邂逅ひ、斯んな嬉しい事は御座いませぬ。高姫様も、一度遠方なれども私が御案内致しますから、熊襲の国までお調べにお出でになつたら如何でせう』 高姫『ハイ、御親切に有難う御座います』 と言つたきり稍少時頭を垂れ吐息を洩らし居る。東助も亦顔色を変へ高姫の顔を穴のあく程見詰め居たり。 (大正一一・九・一九旧七・二八北村隆光録)
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霊界物語 34_酉_黒姫のアフリカ物語1 総説 総説 本巻は三五教の宣伝使黒姫と云ふ勇健なる婦人が孫公、房公、芳公の三人の従者を引連れ、淤能碁呂島の聖地を立出で、日本海から太平洋に出で、一年有余の日子を費やして亜弗利加の建日の港に安着し、それより小島別の旧蹟なる岩窟に立寄り、高山峠を越え、建日の館に立寄りて新教主に面会し、次に向日峠の麓の森林に於て、三人の男女の生命を救ひ、火の国の神館に進み行く面白き趣味深き修養的物語であります。文中、楽天主義の真髄が極めて簡明に説いてあります。惟神霊幸倍坐世。 大正十一年九月十四日於瑞祥閣
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霊界物語 34_酉_黒姫のアフリカ物語1 02 孫甦 第二章孫甦〔九四三〕 孫公は、笑ひ転けた途端に腰骨を岩角に強か打ち『ウン』と云つたきり人事不省になつて了つた。房公、芳公の両人は周章狼狽き、谷水を汲み来つて顔にぶつかけたり、口を無理にあけて水を飲ませなどして種々と介抱を余念なく続けて居る。されど孫公は、だんだん身体が冷却する計り、呼べど叫べど何の応答も無くなつて了つた。黒姫は冷然として孫公の倒れた体を斜眼に見て居る。 房公『これ黒姫さま、孫公がこんな目に遇つて居るのです。なぜ神様に願つて下さらぬのか。早く数歌を歌ひ上げて魂返しをして下さい。愚図々々して居ると、此方の者にはなりませぬぞや』 黒姫はニヤリと笑ひ、 黒姫『神様の戒めは、恐ろしいものですな。皆様是を見て改心なさい。長上を敬へと云ふ……お前は天の御規則を何と心得て御座る。太平洋を渡る時から、此孫公は黒姫の云ふ事を一つ一つ口答へを致し、長上を侮辱した天則違反の罪が自然に報うて来たのだから、何程頼んだとて祈つたとて、もはや駄目だよ。……これ房公、芳公、お前も随分孫公のやうに此黒姫に口答へをしたり、又悪口を云つたであらう。第二の候補者はどちらになるか知らぬでなア、オホヽヽヽ……エヽ気味のよい事だ。こんな事が無ければ阿呆らしくて神様の信仰は出来はしない。神が表に現はれて、善と悪とを立て別けると云ふ三五教の宣伝歌は、決して嘘ぢやありますまいがな。神は善を賞し悪を亡ぼしたまふと云ふ事は、いつも此黒姫の口が酢つぱくなるまで教へてあるぢやないか。それだから神様は怖いと云ふのだ。あゝ惟神霊幸倍坐世』 房公『それでも黒姫さま、あまり冷酷ぢやありませぬか。神様は神様として、若し此孫公が高山彦さまであつたら、黒姫さま、お前さまはそんなに平気な顔がして居られますか』 黒姫『高山彦さまに限つて、こんな分らぬ天則違反の行ひはなさりませぬ哩。滅多に気遣ひないから御心配下さいますな、ウフヽヽヽ』 芳公『オイ房公、黒姫には曲津神が憑依したと見える。さうでなくては肝腎の弟子が縡切れて居るのに、如何に無情冷酷な人間でもこんな態度を装ふ訳には行くまい。これから両人が両方から鎮魂責にして、黒姫の悪霊を放り出さうぢやないか』 房公『俺は孫公の介抱をする。まだ少し温みがあるから蘇生るかも知れない。お前は黒姫の曲津退治にかかつて呉れ』 と云ひながら、房公は孫公の倒れた体に向つて一生懸命に鎮魂をなし、天の数歌を謡ひ出した。芳公は両手を組み黒姫に向つて『ウンウン』と霊を送つて居る。 黒姫『オホヽヽヽ、敵は本能寺にあり、吾敵は吾心に潜むと云つて、此黒姫が悪に見えるのは所謂お前の心に悪魔が棲んで居るのだよ。そんな馬鹿な芸当をするよりも早く神様にお詫をしなさい。此黒姫の腹立の直らぬかぎりは、房公だつてお前だつて孫公の通りだよ。さてもさても憐れなものだなア。心から発根の改心でないと、何程神様を祈つたとてあきませぬぞえ。これから何事も神第一、黒姫第二とするのだよ』 芳公『高山彦さまと元の通り御夫婦になられた時はどうなります。高山彦第三ですか、或は第二ですか、それを聞かして置いて頂かむと都合が悪いですからなア』 黒姫『今からそんな事を云ふ時ぢやありませぬ。孫公があの通り冷たくなつて居るのに、お前は何とも無いのかい』 芳公『さうですなア、黒姫さまが高山彦さまを思ふ位なものでせうかい。高山彦さまが第二ですか、第三ですか、但は機会均等主義ですか』 黒姫はニヤリと笑ひ、 黒姫『極つた事よ。私のハズバンドだもの、オホヽヽヽ』 と顔を隠す。五十の坂を越えた皺苦茶婆も、ハズバンドの事を云はれると少しく恥かしくなつたと見える。 今迄打倒れて居た孫公は、房公の看病が利いたのか、但は御神力で息を吹き返したのか、俄に雷のやうな唸り声を立て出した。黒姫は真蒼な顔になつて其場にしやがんで了ふ。房公、芳公の両人は且つ驚き且つ喜び、雑草の茂る道端を右に左に周章へ廻る。孫公は益々唸り出した。さうしてツト自ら起き上り、道端の青草の上に胡坐をかき真赤な顔をしながら、への字に結んだ口を片つ方から少しづつ通草がはじけかかつたやうに上下の唇を開き初め、白い歯を一枚二枚三枚と露はし初めた。三人は目も放たず驚異の念にかられて孫公の口辺ばかりを見詰めて居ると、孫公の口は三十二枚の歯迄露出して了つて、暫くすると蟇蛙が蚊を吸ふ調子で、上下の唇をパクパクと動かした機みに上下の歯がカツンカツンと打あふ音が聞えて来た。黒姫はツト傍に寄つて、 黒姫『コレ孫公、喜びなさい、黒姫の鎮魂のお蔭で、死んで居たお前が甦つたのだよ。これからは黒姫に対しては、今迄のやうな傲慢の態度をあらためなさいや』 房公『これ黒姫さま、鎮魂したのは私ですよ。お前さまは孫公が死ぬのは天罰だ、神が表に現はれて善と悪とを立別けなさつたのだと、さんざん理屈を云つたぢやありませぬか』 黒姫『お前が鎮魂しても、此黒姫の神力がお前に憑つたのだから、孫公が神徳を頂いたのだよ。きつと此黒姫が神力によつて甦らせるだけの確信を持つて居たから、泰然自若として冷静に構へて居たのだ。覚え無くして宣伝使が勤まりますか、何事も知らず識らずに神様にさされて居るのだ。房公、お前の鎮魂で直つたと思つたら了見が違ひますぞえ。皆黒姫の余徳だから、皆慢心をしたり、黒姫より私は偉い、鎮魂がよく利くなどと思ふ事はなりませぬぞえ』 房公『まるで高姫のやうな事を云ふ婆アさまだなア。高姫と云ふ奴は人に命を助けて貰つて置き乍ら、いつも日の出神様がお前を使うて助けさしてやつたのだ、お礼を申しなさい……なんて、瀬戸の海の難船の時にも救うて呉れた玉能姫にお礼を云はせたと云ふ筆法だな。矢張り高姫仕込だけあつて、負惜みの強い事は天下一品だ、アハヽヽヽ。年が寄つて雄鳥に離れると矢張り根性が拗けると見える。高姫だつて適当なハズバンドさへあれば、あんなに拗けるのぢや無からうに、人間と云ふ者は、どうしても異性が付いて居ないと妙な心になるものだ。黒姫さまを改心させるには、どうしても高山彦さまの顔を見せてあげなければなりますまい。俺だつてお鉄の顔を見る迄は、どうしたつて心がをさまらぬからなア、アハヽヽヽ』 黒姫『あまり口が過ぎると又孫公のやうな目に遇ひますぞや』 芳公『孫公のやうな目に遇つたつて構はぬぢやないか。お前さま達がヤツサモツサ騒いで居る間に平気の平左で幽冥界の探険をなし、平気の平左で甦つたぢやないか。俺だつてあんな死にやうなら何度もして見たいわ』 黒姫『罰が当りますぞや。好い加減に心を直しなさい。改心が一等だと神様が仰有りますぞえ』 芳公『改心しきつたものが改心せよと云つたつて、改心の余地が無いぢやないか、オホヽヽヽ』 黒姫『これ芳公、お前は又私の真似をして嘲弄ふのだな』 芳公『あまり好う流行る豆腐屋で、豆腐が切れたから仕方なしにカラ買ふのだよ。オホヽヽヽ』 孫公は両手を組みそろそろ喋り出した。 孫公『アヽヽヽヽ』 黒姫『これこれ孫公、筑紫の岩窟は此処ぢや御座りませぬぞえ。小島別の昔を思ひ出し、そんな……アヽヽヽヽなぞと云うと、悪の性来が現はれてアフンとする事が出来ますぞえ、ちつと確りなさらぬかえ』 孫公『アハヽヽヽヽ、オホヽヽヽヽ、ウフヽヽヽヽ、エヘヽヽヽヽ、イヒヽヽヽヽ』 黒姫『又しても、曲津がつきよつたかな。どれどれ此黒姫が神力によつて退散さして見ませう』 と云ひつつ青草の上に端坐し、両手を組み皺枯れた声で天津祝詞を奏上し始めた。孫公は大口を開いて歌ひ出した。 孫公『アハヽヽハツハ阿呆らしい頭の光つたハズバンド 高山彦の後追うて烏のやうな黒姫が 綾の聖地を後にして荒浪猛る海原を 荒肝放り出し三人の伴を引き連れあら悲し 仮令悪魔と云はれやうが遇ひたい見たいハズバンド 亜弗利加国の果までも所在を探して尋ねあて ありし昔の物語アラサホイサを云ひ出し 飽迄初心を貫徹し愛別離苦の悲しみを 相身互に語らふて愛想尽しを云うて見たり 悋気喧嘩をして見よと悪魔の霊にあやつられ 泡を吹くとは知らずしてやつて来たのは憐なり あゝ惟神々々あかん恋路に迷ふより 諦めなされよ黒姫さま亜細亜亜弗利加欧羅巴 亜米利加国の果迄も後を慕うて見たところ 所在の知れぬハズバンドあかん目的立てるより 足の爪先明かるいうちにあきらめなさつて逸早く 蜻蛉の島に帰れかし阿呆々々と烏迄 あすこの杉で鳴いて居る相見ての後の心に比ぶれば 遇はぬ昔がましだつたあゝあゝこんな事なれば 綺麗薩張り諦めて綾の聖地におとなしく 朝な夕なに神の前仕へて居つたがよかつたに あゝあゝ何と詮方も泣く泣く帰る呆れ顔 あこがれ慕ふハズバンド頭の長い福禄寿さま 蜻蛉の島に御座るぞや蟹のやうなる泡吹いて あらぬ夫を探すより早く諦め帰ぬがよい アハヽヽハツハアハヽヽハー呆れはてたる次第なり あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 黒姫はツト傍により、 黒姫『いづれの神様のお憑りか知りませぬが、今承はれば高山彦は蜻蛉島に居る、此亜弗利加には居ないと仰有いましたが、それは本当で御座いますか。孫公に憑つた神様、どうぞ黒姫の一身上にかかつた大問題で御座いますから、好い加減の事を云はずとハツキリと云つて下さい。聞いて居ればアヽヽヽアとアア尽しで仰有つたが、そんな事云うて此黒姫をちよろまかし、アフンとさせむとする悪い企みぢやあるまいかな。飽きも飽かれもせぬ高山彦さまの行方、どうぞ明かに知らして下さい』 孫公『イヒヽヽヒツヒイヒヽヽヽいつ迄尋ねて見たとこが 命に替へたハズバンド居所分る筈はない 色々雑多とイチヤついた往とし昔を思ひ出し 色に迷ふた黒姫さまいかに心配遊ばして 色迄青うなつて来た異国の果てを探しても 居ない男は居はせぬぞ意外も意外も大意外 命に替へた高山彦さまは伊勢屋の娘の虎さまと 意茶つき廻つて酒を呑み意気揚々と今頃は 石の肴を前に据ゑ固い約束岩の判 石に証文書き並べいよいよ真の夫婦ぞと 朝から晩迄楽んで意茶つき暮す面白さ 伊勢の鮑の片思ひ何程お前が探すとも 高山彦は黒姫に唯の一度も遇うてはくれぬ あゝ惟神々々叶はぬならば逸早く 綾の聖地に立ち帰り意茶つき暮らす両人の 生首ぬいてやらしやんせウフヽヽフツフウフヽヽヽ』 黒姫『これ孫公、私を馬鹿にするのかい。本当の事を云うて下さい。これ程黒姫が一生懸命になつて尋ねて居るのに、ウフヽヽヽとは何の事だい。大方お前は此の二人の代物と腹を合せ、死真似をしたのであらう。ほんにほんに油断のならぬ代物だなア』 (大正一一・九・一二旧七・二一加藤明子録)
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霊界物語 34_酉_黒姫のアフリカ物語1 06 蜂の巣 第六章蜂の巣〔九四七〕 高山彦の後を追ひ遥々来りし黒姫は 房公、芳公を伴ひて筑紫ケ岳を登り行く 細き谷道右左水成岩の此処彼処 頭を抬げて居る中を足に力を入れ乍ら エイヤエイヤと声揃へ一歩々々登り行く ウンウンウンと呻きつつ芳公は歌を謡ひ出す。 芳公『あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 此急坂をやすやすと登らせ給へ純世姫 ウントコドツコイ息苦しハアハアハアハアスウスウスウ すべて山坂登るときや向ふを眺めちやいかないぞ 一歩々々俯向いて梯子を登る心地して 進めば何時しか絶頂にウントコドツコイ着くだらう とは云ふもののきつい坂お嬶の○に上るとは チツとは骨がある様だ足はモカモカして来だす ハアハアドツコイ、ウントコナ腰の辺りがドツコイシヨ 如何やらハアハア変梃にフウスウフウスウ、ドツコイシヨ なつて来たでは無いかいな高山彦へ登るのは 余程骨が折れるわいハアハアこれこれハアハア、ドツコイシヨ 黒姫さまよ聞きなされ高山彦と云ふ峠 中々登り難いぞやにくいといつてもお前さまは ハアハアフウフウ可愛いかろ可愛い男にドツコイシヨ ハアハアフウフウあふのだものお前は前途に楽しみが ウントコドツコイぶら下る私は汗がぶら下る こんな峠と知つたならウントコドツコイ初めから 私は来るのぢやなかつたに胸突坂の嶮しさよ 水成岩や火成岩片麻岩かは知らねども 本当に堅い石道だ皆さまドツコイ気をつけよ ウツカリ滑つて向脛をウントコドツコイ擦り剥いちや 自転倒島にドツコイシヨ残して置いた女房子に あはせる顔が無い程に房公さまも気をつけよ ウントコドツコイ、ハアハアフウ芳公さまも気をつける 黒姫さまはドツコイシヨ高山峠を登るのだ 仮令向脛ドツコイシヨ剥いたところで得心だ 現在夫の名の様な筑紫ケ岳のドツコイシヨ 高山峠をフウフウフウ這うて居るのぢや無いかいな 何程恋しいドツコイシヨ高山彦でも此様な きつい険しい心では黒姫さまも困るだらう ウントコドツコイ気をつけよそこには尖つた石がある 筑紫の国迄やつて来てドツコイ怪我しちや堪らない 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも此坂越えねばならぬのか 黒姫さまのドツコイシヨハアハアフウフウフウスウスウ 恋の犠牲に使はれて踏みも習はぬ山坂を 登り行く身の馬鹿らしさホンに思へば前の世で ウントコドツコイ汗が出る如何なる事の罪せしか 因果は廻る小車の小車ならぬ石車 沢山転がつてドツコイシヨ其処ら四辺に待つて居る ウントコドツコイ暑い事ぢや汗と脂を絞り出し 蝉にはミンミン囀られ頭はガンガン照されて ウントコドツコイあゝ偉いこんなつまらぬ事は無い あゝ惟神々々叶はぬ時の神頼み 国魂神の純世姫月照彦の神様よ 何卒助けて下さンせ弱音を吹くぢや無けれども こんだけ辛らうては堪らないどこぞ此処らの木蔭をば 求めて一服しようぢやないかウントコドツコイ黒姫さま も一つ無花果出しとくれ喉がひつつきさうになつて来た ハアハアフウフウフウスウスウこンな苦労をするのんも 元を訊せばドツコイシヨみんなお前の為めぢやぞえ 皺苦茶婆さまのドツコイシヨ分際忘れて高山の 峠に登らうとする故に俺迄迷惑するのんだ ウントコドツコイ俺のみか家のお嬶も困つてる 皇大神の御為めに御用に立つならドツコイシヨ どんな苦労も厭やせぬ思へば思へば馬鹿らしい 千里二千里三千里荒波越えてドツコイシヨ 筑紫の島まで導かれハアハアフウフウあゝ暑い 汗が滲んで目が見えぬつまらぬ事になつて来た ウントコドツコイ黒姫さま一寸一服しようぢやないか 何程あせつて見た処が二日や三日や十日では 火の国都へ行かれない叔母が死んでも食休み ドツコイシヨードツコイシヨー暑中休暇の流行る世に 休なしとは胴欲ぢや私もどうやら屁古垂れた 何卒一服さして呉れそれそれ向ふの木の枝に 甘さうな果実がなつて居るあれ見てからは堪らない もう一歩も行けませぬあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよオツト危ない石車 スツテの事で向脛を傷ひやぶる処だつた これも矢張り神様の深き尊き御守護 此処で休んで行きませう御足の達者な御方等は 何卒お先へ行つてくれ欲にも徳にも代へられぬ 生命あつての物種だ行きつきバツタリ焼糞だ ハアハアフウフウフウスウスウ如何やら呼吸がきれかけた 汗も膏も乾き果てもう一滴も出ない様に カンピンタンになりかけたウントコドツコイ休まうか』 云ひつつドスンと腰下し青葉の上に横たはる 黒姫、房公両人は渡りに舟と喜んで 木蔭に立寄り息休め流るる汗を拭ひける。 三人は汗を拭ひ乍ら、油蝉の鳴く木蔭に息を休めて居る。巨大な青蜂等が盛に襲撃する。フツと空を見上ぐれば大きな蜂の巣がぶら下つて居る。三人は『コリヤ大変!』と俄に立ち上り坂道さして逃げ出す。青蜂の群は敵の襲来と見誤つたと見え、両方の羽翼に極力馬力を掛け、ブーンと唸りを立てて三人の頭を目蒐けて襲撃する。三人は幸ひ笠を被つて居たので蜂の剣を免れ、生命辛々二三丁許り思はず知らず坂道を駆登つて了つた。其処には高い山にも似ず美しい清水がチヨロチヨロと流れて居る。 芳公『ハアハアハアフウフウフウ……あゝ有難い。こんな結構な清水が此処に湧いて居るとは心づかなかつた。丸で夢に牡丹餅を貰つた様なものだ』 と云ひながら清水を両手に掬んで甘さうに何杯も何杯も飲み乾す。房公も次いで水を飲む。 房公『あゝ有難い、助け舟に遭うた様だ。瑞の御霊の純世姫様、生命の清水を与へて頂きました。之で瑞の御霊の御恩も適切に分らして頂きました。あゝ惟神霊幸倍坐世』 芳公『黒姫さま、貴女も一杯お飲りなさつては如何ですか、随分喉が乾いたでせう』 黒姫は苦りきつた顔をし乍ら、 黒姫『お前は本末自他公私の区別を知つて居ますか。天地転倒したお前の行ひ、そんな水は仮令渇しても飲みませぬワイ』 芳公『これは又妙な事を承はります。何がそれ程お気に入らないのですか』 黒姫『長幼序あり、と云ふ事を忘れましたか。何故長者たる黒姫に先に水を勧めて其後を飲みなさらぬ。若い者が先へ飲んで其後を飲めとはチツと御無礼ではありませぬか』 房公『なアんとむつかしい婆んつだ喃。後から飲んでも前から飲んでも水の味に変りはあるまい。こんな処まで杓子定規をふりまはされて堪つたものぢやない。黒姫さま、お前さまは部下を可愛がると云ふ至仁至愛の心に背いて居ますな。そんな事を仰せられると俺達の方にも随分言ひ分がありますよ。昔シオン山に戦ひのあつた時、言霊別命の部下に国治別と云ふ大将があつた。其時数多の部下が敵軍の為めに重傷を負ひ喉が乾いて困つて居つた。国治別の大将も同じく重傷を負ひ水を飲みたがつて居たが、手近に水が無いので部下の臣卒がやつとの事で谷川に下り、帽子に水を盛つて国治別の前へ持つて来た。其時に沢山の部下の臣卒は其水を眺めて羨ましさうな顔色をして居た。国治別神はそれを見て自分の飲み度い水も飲まず、部下の臣卒に飲ましてやれといつて其場に討死をなされたと云ふ事だ。人の頭にならうと思へば其位な慈愛の心が無くては部下は育ちませぬよ。お前さまは永らく法螺を吹いて宣伝をして居るが、真味の部下が一人も出来ぬので不思議と思つて居たが、矢張精神上の大欠陥がある。そんな利己主義で宣伝が出来ますか。神は愛だとか、人を救ふのが神だとか、何程立派に口先で喋り立てても事実が伴はねば駄目ですよ。お前さまは有言不実行だからそれで吾々も嫌になつて了ふのだ。水臭いと云ふのはお前さまの事だ。水の一杯位でゴテゴテ云ふのだから堪らないわ』 芳公『オイ房公、もうそんな水臭い話はよしにせい。下らぬ水掛喧嘩になつちや瑞の御霊様に対して申訳がないからな。みず知らずの仲ぢやあるまいし、もうこんな争ひは綺麗薩張と水に流さうぢやないか』 黒姫『能うまあツベコベと揚足をとる男だなあ。妾が不用意の間に口が辷つたと云つて、それ程短兵急に攻めると云ふのはチツとお前さまも量見があまり良くはありますまい。人に叱言を言ふのなら先づ自分の身を省み、行ひを考へてからなさいませや』 と白い歯を出し頤を前にニユウと出し、二ツ三ツしやくつてみせた。 房公『あゝ、まだこれから此急坂を随分てくらねばなるまいから、喧嘩は此処等できり上げておかうかい。さア御一同発足致しませう』 (大正一一・九・一二旧七・二一北村隆光録) (昭和一〇・六・一〇王仁校正)