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書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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霊界物語 | 46_酉_小北山の宗教改革2 | 07 妻難 | 第七章妻難〔一二一七〕 お覚は歌ふ。 お覚『高姫司の開きたる北山村の本山を 蠑螈別や魔我彦の司に従ひ喜久さまと これの聖地に来て見れば思ひもよらぬ神憑 思ひがけなや吾魂は古き昔の因縁で 木曽義姫の守護神尊き神の御裔と 聞いたる時の驚きは何に譬へむものもなく 其驚きと嬉しさの雲に包まれゐたりけり 尊き神の命令は反くに由なく喜久さまと 三年を越えし今日迄も身を慎みて褥さへ 別にいく夜の淋しさを涙と共にしのびつつ これも昔の神代から世を持ちあらした天罰が 酬うて来たのに違ひないかうして身魂の借銭を つぐなひ下さる事ならばこんな結構な事はない 限りもしれぬ罪悪を直日に見直し聞き直し 百目の質に編笠を一介出してすますよな ボロイ尊い話ぢやとここまで教をよく守り 神に仕へて参りました其おかげやら今日は又 結構な事が分り出し半信半疑の雲はれて げに爽快な魂とスツパリ生れ変りました これもヤツパリ小北山鎮まりいます曲神の 一つはおかげに違ひない吾身に憑つた神様は 木曽義姫といふ事ぢやどこの狐か知らねども ようマア人の肉体をうまく使うたものだなア これぢやに依つて人間は注意をせなくちやならないと 三五教の神様が赤子の口にそら豆を かみくくめるやう親切に諭して下さる御仁愛 其お言葉をいつとなく忘れて了ひウラナイの 教司の高姫が水も漏らさぬ弁舌に 迷うた為に肝腎の尊き親を袖にして 訳の分らぬ神様に迷うて来たのが情ない 大きな顔して家の外どうしてこれが歩けよか とは云ふもののこれも亦仁慈無限の神様の お試しならむと見直せば見直されない事もない あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 此神山に天地の誠の神の降りまし 世人を普く善道に教へ導き吾身魂 救ひ給ひて天国の栄えを与へ給へかし 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも星は天より下るとも 山さけ海はあするとも三五教の神徳に 眼を覚した上からは如何なる事の来るとも 決して邪教にや迷はない曇つた眼は今あけて 真如の光明ありありと心の海に照り出した 仁慈無限の神様よ天の誠の五六七様 何卒々々吾々が汚い心を憐れみて 誠一つの三五の教を完全に委曲かに さとらせ給へ惟神珍の御前に願ぎまつる』 お福はまた歌ふ。 お福『さだ子の姫の肉宮と鈴野の姫をかね給ふ 内事司のお寅さま吾家に現はれ来りまし ウラナイ教の信仰をお勧めなさつた時もあれ 不思議や妾の身体は地震の如く震動し 胸苦しくもなつて来た此奴ア不思議とわれながら 怪しみ疑ふ時もあれ腹の底からウンウンと 唸り出したる玉ゴロが漸く喉へ上りつめ 口を切らうとした時は後にも先にもないやうな 苦しい思ひを致しましたお寅さまが吾家へ来るや否 不思議な事が出来たのは偉い神徳ある人だ 只のお方ぢやあらうまい尊き神の御化身と 信じて拝む折もあれ息は追々楽になり 旭の豊栄昇り姫これからお前は因縁で 俺が肉体かる程に小北の山へ罷り出で 信仰せよとおごそかに自分の口から宣り伝ふ かうなる上は夫婦とも疑ふ余地もあらざれば お寅婆さまの云ふままに屋財家財を抛つて これの館に転住し吾身に持てる財産は 櫛笄に至るまで売代なして神様の お宮の御用に立てましたそれから私は何となく 心驕りて知らぬ間に旭の豊栄昇り姫 霊肉一致の神柱何たる結構な体よと 夫婦が朝夕会ふ毎に一人笑壺に入つてゐた 然るに何ぞ計らむや皆さまのお話聞くにつけ 愛想もコソもつきました何程神の仕組でも 私をこんな目に会はすとは余りヒドイ神様ぢや 私はこれからスツパリと思ひ切ります神いぢり 御幣をかついで笑はれてどうして此世が渡れませう コレコレもうし竹さまえお前は五六七成就の 神のお宮ぢやなかつたかまるで狐につままれた やうな思ひがすぢやないか思ふ所か正真正銘の 坂照山のド狐が騙してゐたのに違ひない コレコレもうし竹さまえ思ひ切るのは今だらう グヅグヅしてると松姫や松彦さまに又しても 眉毛をよまれ尻の毛を一本もないまで抜かれますぞや あゝ怖ろしや怖ろしや神を表に標榜し 正しき此世の人間を騙して食はうとする奴は 虎狼の眷属だ長居は恐れ逸早く ここをば立つて帰りませう竹さまそれが不承知なら 私は勝手に帰にますよコレコレもうし春さまえ お前と私と平常から互に心が解け合うて しつぽり話をしたぢやないか私が信仰やめたなら お前もやめると云ふただろサアサア早く帰りませう トチ呆け爺の竹さまはまだまだお目がさめませぬ サアサア早う』と言ひながら春公さまの手を取つて 太い女がひんにぎりトントントンと広前を 夜叉の如くに駆け出し坂道さして帰りゆく 竹公驚き立上りお福の後を追駆けて 竹公『旭の豊栄昇り姫暫く待つた一寸待つた お前に言ひたい事がある短気は損気ぢや待てしばし 待てと申さば待つがよい之には深いわけがある』 声を限りに叫びつつ坂道指して追うてゆく。 お福は半狂乱の如くになり、河鹿川の川べりにある笠松の麓の堺の神政松の神木としるしてある千引岩の傍に走りより、 お福『コリヤ、神政松の神木、よう今迄おれを騙したなア。此普請は俺が蠑螈別に騙されて拵へたのだ。モウ今日から信仰をやめた上は、叩き潰さうと何うしようと私の勝手だ、エヽ怪体の悪い』 と力一杯押せども引けども、数十人を以て引張つた此巨岩、ビクとも致さばこそ、泰然自若、平気な顔でお福の繰言を冷笑してゐる。お福は十六柱の神になぞらへて植ゑておいた十六本の小松をグイグイと引抜きながら、 お福『エヽ神政松もへつたくれもあつたものか、アタいまいましい、奴狐め、騙しやがつた』 と言ひながら、握つては川へ流し、握つては川へ流し猛り狂ひ、 お福『コリヤ神政木、元の金にならぬか、性念があるなら、せめて一寸なと動いて見せよ。コラよう動かぬか、ド甲斐性なし奴、貴様は神だと申すが、まるで躄のやうな奴だ』 と云ひながら、あたりの石を拾つて、千引の岩にバラバラと打ちかけてゐる。そこへ春公、竹公は走り来り、 竹公『コリヤコリヤお福、マア気をしづめたら何うだ。サウお前のやうに一徹に怒つてくれると話が出来ぬぢやないか』 お福『エヽエ腰抜男が何を言つてるのだい、笑ふ門には福来る、お前の名はお福さまだから、三年先になれば一粒万倍にして福を返して下さると、蠑螈別や魔我彦が言ひやがつて、人の金を残らず巻上げよつた。丸三年になつた時、今日は万倍にしてくれるかと思つて待つてゐたら、一文も、どこからもくれやせぬ。それでも神政成就に近付いたら、百万倍にして返してくれるだろと待つてゐたのだ。最前から聞いてみれば、坂照山のド狐に騙されて居つたと云ふぢやないか、阿呆らしい、どうしてあんな処に居れるものか、今まで大勢の信者に旭の豊栄昇り姫様といつて崇められてゐたのに、大勢の前でスツパぬかれて、どうして此お福の顔が立ちますか。お前さまは気のきかぬ頓馬だから、私が人に顔が会はされないやうにして了つたのだ。此儘泣寝入りをしては世間へ会はす顔がないから、仮令何時までかかつても、此岩をひつくり返し潰さねば承知をせないのだよ。竹さま、春さま、何だ、ヒヨツトコ面して、何青い顔してるのだい、さうだから意気地なしと言はれるのだ』 竹公『貴様がせうもない神憑をするものだから俺までが巻き込まれたのだ。罪は貴様にあるのだ、俺に不足をいふ筋は一つもあるまい』 お福『それだから頓馬といふのよ。何程嬶が勧めても、夫は夫の権利があるぢやないか、なぜ其時に一言気をつけてくれないのだ。お前も一緒に賛成をするものだから、此お福も怪しいとは思うては居つたが、竹さまが男の身で居ながら一番に賛成したものだから、ヤツパリ私の守護神は結構な神様だと思うて賛成したのだ。それがサツパリ当が外れて、世間へ顔出しが出来ぬ事になつて了つたぢやないか。本当にいまいましい、アンアンアン、返せ戻せ、私の出した金を』 竹公『俺だつて、怪しいとは思つて居つたが、お前が一寸も怪しまないものだから、ヤツパリ本真かと思つたのだ。つまりどちらの魂も間が抜けとつたのだから、責任は両方にある。マア俺の云ふ事を聞いて、マ一遍大広間まで出て来てくれ、結構な話を聞かして貰つてやるから……』 お福『ヘン、責任は二人にあるなんて、何とマア卑怯な男だ事、女は蔭者、表には立ちませぬぞや。家長権の執行者はお前ぢやないか、何と云つてもお前が悪いのだよ。馬鹿野郎の頓痴気野郎だよ』 竹公はムツとして、つかみつく、茲に夫婦は組んづ組まれつ、互に髪をつかみ合ひ、キヤアキヤア犬の噛み合ひのやうに云ひ出した。春公は中に割つて入り、 春公『マアマア待つて下さい、五六七成就の大神様、旭の豊栄昇り姫の大神様、神様の生宮が人間なみに喧嘩するといふ事がありますか、みつともないぢや厶いませぬか。これから五六七神政成就して旭の豊栄昇りに栄える松の神代が出て来うとしてゐるのに、肝腎の神柱がそんな事で如何なりますか。どうぞ三千世界を助けると思うて、春公に免じてお鎮まりを願ひます』 お福『何、春さま、お前はヤツパリわたしを旭の豊栄昇り姫と思つてゐるのかい』 春公『ヘーヘー、誰が何と云つても私は飽くまで信じます。そして竹さまは何処迄も五六七成就の大神様です、こんな事が違うてなりますものか。私はお寅婆アさまにタク、テク、お菊さまの云ふ事が気に喰はないのです。ドタマをカチ割つてやろと、腕が鳴り肉が躍つて仕方がなかつたのに、神様の前だと思つて涙を呑み辛抱してゐたのだ。誰が何と云つても、五六七成就の大神様、旭の豊栄昇り姫の大神様に間違はありませぬ』 春公の言に二人はケロリと喧嘩を忘れ、ニコニコしながら、 お福『ソラさうでせうねえ、そんな事があつてたまりますものか。コレ竹さま、春公さまが証明してくれるのだから安心しなさい。これから二人が小北山を背負つて立たねばなりませぬで、三千世界の為ですからね』 竹公『ウーン、さうだな、大変だな、これから』 お福は腹立紛れに引きむしつて川へ流した松の事を思ひ出し、忽ち大地に平伏し、拍手をうつて涙声、 お福『栄えの神政松、ミロク神代の御神木様、十六本の柱神様、真にすまない事を致しました。どうぞ許して下さいませ、其代りにすぐ十六本の松を植ゑてお返し申します、あゝ惟神霊幸倍坐世』 春公『竹さまの胸の村雲晴るさまは 松の根元でキン言をふく』 竹公『アハヽヽヽお目出度う』 お福『神様、真にすみませぬ、有難う厶います、それなら之から、マ一度大広間へやらして頂きませう』 (大正一一・一二・一五旧一〇・二七松村真澄録) |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 05 鞘当 | 第五章鞘当〔一二五九〕 ランチ将軍は慌しく奥の吾居間に帰つて見ると、清照姫、初稚姫及び片彦将軍がニコニコとして、火鉢を真中に三つ巴形となつて喋々喃々と笑ひ声を洩らして居る。ランチ将軍は之を見てやけて耐らず、忽ち一刀を引き抜き、片彦将軍をめがけて梨割にする所だが、遉二人の女にはしたない男と思はれてはとの考へから、腹立をグツと圧へ、態と素知らぬ顔して其場に進み入つた。されど其唇と云ひ手と云ひ足の先迄激しき震動を感じて居た。怒りの頂上に達した時は全身が激しく動くものである。片彦はランチ将軍の入り来りしを見て、眥を下げ、 片彦『ヤア是は是は将軍殿、何処におはせられた。いやもう二人のナイスに手を引かれ、甘酒にもりつぶされ、いかい酩酊を致して厶る、御無礼の段は平にお赦し下さいませ』 ランチ『別に尖めも致さぬが、苟くも将軍の身をもつて、即ち三軍を指揮する尊き職権を有しながら、作法を弁へず、拙者の不在中に女に現をぬかし、何の態で厶る。些とおたしなみなさい』 片彦『ヤアお説一応御尤も、拙者も部下に対して模範を示さねばならない重要の地位に立てるもの、女なんかに心を蕩かすやうな柔弱なものでは厶らぬ。併し此等両人、某に熱烈なる恋愛を注ぎ申すにより、無下に捨つるも男の情ならじと、迷惑ながら女に導かれ此処に参つた処で厶る。イヤ如何に固造のかた彦も、女の魔力には敵し得ず、骨も節もゆるみ、さつぱりガタ彦となつて了ひました。先程迄は此ナイス、貴方に熱烈なる愛を捧げて居たやうですが、もはや此通り、屋外に冷たき雪が降つて居りますれば、貴下に対する両人の恋情も冷やかになつたと見えますわい。どうかして此中の一人を貴方の御用をさせたいと思ひますが、どうしたものか、両人共首を左右に振り、ランチキ将軍のお世話にならうとも又お世話をしようとも申しませぬ、イヤもう此片彦もかたがたもつて迷惑でも何でも厶らぬ。アハヽヽヽ』 清照『モシ、ランチ将軍様、どこへ往つてゐやしたの、妾、どんなに探ねて居たか知れませぬよ』 ランチは此声に生返つたやうな心持になり、顔の色まで勇ましく、頓に元気づき、 ランチ『ヤア清照姫殿、誠に済みませなんだ、実は軍務上の件につき調査すべき事があり、暫く席を外して居りました』 清照姫『将軍様、そりや嘘でせう。妾がイヤになつたものだから、何処かへ隠れて居やしやつたのでせう、妾残念ですわ、アンアンアン、オンオンオン』 ランチ『エヘヽヽヽ、オイ片彦殿、如何で厶る、可愛いもので厶らうがな』 片彦『コレコレ清照姫殿、貴女は又変心をしましたか』 清照姫『ランチ将軍さまが、あの大きな目をむいて私に電波、イヤ電信を送つて下さつたから、どうしても返信(変心)をすべき義務があるぢやありませぬか、ホヽヽヽヽ』 片彦『アヽどうも仕方がない。どうせ片彦が二人の美女を左右に侍らせ、ナイスを一人で独占して居ても仕方がない。清照姫が変心したのも天の配剤だらう、イヤ清照姫、拙者は寛大なる勇猛心を発揮して、ランチ将軍にお任せ申す。唯今限り片彦の事は思ひ切り、ランチ将軍に貞節を尽したがよからう』 清照姫『オホヽヽヽ、あの片彦さまの虫のよい事、自惚もよい加減にして置かんせいなア。思ひもかけぬものに思ひ切れとは、マア何と云ふ自惚者だらう。好かぬたらしい。男と云ふものは、ほんとに自惚の強いものだよ』 片彦『ランチ殿、嘸御満足で厶らうのう、エーン、エーン、拙者は大に譲歩致して、年の若い初稚姫で満足致す、どうか拙者の雅量を認めて下さい』 ランチ『何なりと勝手に仰有い、両人共拙者の女で厶るぞ。ヘン馬鹿々々しい、拙者が黙言つて居るかと思つてよい気になり、図々しいにも程がある』 片彦『仰せられなランチ殿、拙者が何う致したのでもない、女の方から秋波を送り、女に頼まれて約束致せし迄の事、其女を拙者が貴下にお任せしようと云ふのだから、吾々は感謝をこそ受くべけれ、そのやうな、榎で鼻をこすつたやうな御挨拶は承はりたくない、コレ初稚姫殿、こんな分らない将軍の所に居らうよりも、私の居間に参りませう、貴女は永久に愛します』 初稚姫『エヽすかぬたらしい、私がいつ貴方を好きました。私は姉さまが好きな人が好きなのです、御免下さいませ』 片彦『何だか外の陽気が変つたと思へば、初稚姫様の鼻息までが変つて来たわい、ハヽ、ウン、分つた、恥かしいのだな、人前を作つて居るのだな。ウンウンヨシヨシ可愛いものだな』 と口の奥で呟いて居る。初稚姫は鋭敏な耳に此声を聞き知り、 初稚姫『モシ、片彦さま、「可愛いものだ」などと云うて下さいますな、妾、胸が悪くなりました』 ランチ『アハヽヽヽ、片彦殿、如何で厶る、色は年増が艮刺すと云ふ事を御存じかな。アハヽヽヽ』 片彦『チヨツ、エーエイ』 ランチ『片彦殿、チヨツ、エーエイとは御無礼では厶らぬか、上官の命令だ、この場を退却めされ』 片彦は鶴の一声、已むを得ず、 片彦『ヘーエ』 と嫌さうな返事をしながら二人の女に心を残し、次の間に飛び出し、襖の外から上下の歯を喰ひ締めたまま唇をパツと開き、 片彦『イーン』 と云ひながら、拳骨で二つ三つ空を打ち、 片彦『チヨツ、上官の命令だなんて、チヨツ、馬鹿にして居る、併し仕方がない、俺も上燗で一杯やる事にしよう、お民でも相手にして』 と云ひながら、すごすごと帰り往く。 ランチは片彦を室外に突き出し、二人の美人の中央に色男気取りで胡床をかき、目を細くしながら、 ランチ『これは清照姫殿、其方は此ランチの眼をよけて、いつの間にか片彦と以心伝心とやらをやつて居たのぢやないか』 清照姫『ハイ別に左様な事はありませぬ。併しながら貴方も好きですが、片彦さまの抱持さるる思想が気に入りましたから、それで私は片彦さまは何うでも宜敷いが、新しい思想だと思つて、其思想に惚れ込んで居ます。貴方が、私の思想と同じ思想をもつて下さらば、此位嬉しい事はありませぬ。実は貴方に対しては肉体美を愛し、片彦さまに対しては其思想を愛して居るのですよ』 ランチ『片彦の新思想とはどんな思想だ、俺だつて思想については、先繰り新しい書物をあさつて居るから、片彦には負けない積りだ、一体どんな事を云うて居るのだな』 清照姫『ハイ、片彦さまの思想はどうかと存じまして探つて見ました所、本当に惚れ惚れするやうな思想で厶いますよ。かいつまんで申せば、軍備不必要論者です、武備撤廃論者ですよ、そして平和な耽美生活を送りたいと云ふ、ほんとに新しい思想ですよ』 ランチ『片彦身軍籍にありながら左様な事を申したかな、それは中々もつて不都合千万……ぢやない、吾意を得たる、マヽヽヽ思想だ。ウン、さうして武術の事については、何う云うて居たな』 清照姫『武術家は臆病者だと云つて居られました。臆病者なるが故に世の中が恐ろしくなり、疑心暗鬼を生じ、敵なきに敵を作り、何人か自分を害するものはなきかと、心中戦々兢々として安らかならず、常に自己保護の迷夢に襲はれ、武術を練り、柔術などを稽古するのだと云うて居られました。ほんとに世の中に愛善の徳さへあれば、虎狼でも悦服して、決して其人に敵するものではありませぬ。況して人間に於てをやです、私はこの思想が大に気に入りました。心に邪悪分子を含んで居るものは、徒に人を怖がり人を恐るるものです。かかる人間が身を護るために剣術柔術を学ぶものです。地獄界に籍を有し、八衢に彷徨うて居るものが武術を志すものです、低脳児や殺人狂の徒が喜んで人命を奪ひ財産を奪ひ、或は人の国土を奪ひ或は人の子女を辱かしめ、悪逆無道の限を尽して英雄豪傑と誇り、其驕慢券とも云ふべき窘笑を、胸にブラブラ下げて居るのは、本当に時代後れだと片彦さまが仰有いましたよ』 ランチ『それだと云うて、世界に国家として存在する以上は軍備は必要だ。仮令ミロクの世となつても軍備の撤廃は出来ない、さう新思想にかぶれて仕舞つては駄目だ。一方に偏せず片寄らず、其中庸を往くのが最も安全の道だらうよ』 初稚姫『姉さま、ランチ将軍さまのお言葉は、本当に間然する所ありませぬが、併しながら三五教の治国別さまとやらを、深い陥穽へ突つ込み遊ばしたと云ふ事をチラリと聞きましたが、それを聞くと、本当にゾツと致しますね』 清照姫『さう、さうなの、アヽいやらしい、何とランチさまも甚い事をなさいます、私それを聞いて俄にこの人がどことはなしに嫌になつて来ましたよ。矢張片彦さまがお優しくて、仰有る事が新しうて、胸の琴線に触れるやうですわ』 ランチは慌てて、 ランチ『イヤイヤ決して私がしたのではない、片彦の計らひで致したのだ。彼奴は偽善者だから、其方達の前でそんな事を云うて居るのだ。彼奴は武断派の隊長、軍国主義の張本だ。併しながらあの治国別及び竜公と云ふ奴は、どうしても許す事の出来ない奴だ。これを許さうものなら、バラモン軍は根底より破壊せられなくてはならない、大黒主の大棟梁様に申訳ない、又竜公とやら、吾軍の秘書役を勤めながら敵に裏返つたのだから、陥穽に陥つて斃るのも自業自得だ、仮令愛する汝のためなればとて、是ばかりは赦す事は出来ない』 清照姫『妾この館に左様の人が九死一生の苦みをしてゐらしやるかと思へば、恐ろしくて仕方が厶いませぬ。どうか何処かへ雪見にでも連れて往つて下さいな』 ランチ『アハヽヽヽ、遉は女だな。気の弱い事を云ふものだ。併し其弱いのが女の特色だ、女の可愛い所なのだ。さらば、これより早速雪見の宴を催すため、入口の風景の佳き物見へ往つて、酒汲み交しながら楽しむ事と致さう』 清照姫『ハイ、早速の御承知、有難う厶ります。サア初稚姫さま、将軍の後について、少し遠うは厶いますが、物見櫓までお供を致しませう』 ランチ『この積雪に、女の足では行歩になやむだらう。幸ひ駕籠があるから、従卒に舁がしてやる』 初稚姫『姉さま、さう願ひませうかな』 清照姫『此丈の雪の中、どうせ駕籠で送つて貰はねば、とても歩けませぬわ』 ランチはポンポンと手を拍つた。次の間に控へて居た二人の副官は慌しく出で来り、 二人の副官『将軍様、何か御用で厶いますか』 ランチ『ウン、今日は稀なる大雪だ。四方は一面の銀世界、雪見の宴を催すから、お前達も供をせい。そして駕籠を五六挺持つて来いと云うて呉れ』 二人の副官は、 二人の副官『ハイ』 と云つたきり早々に此場を立つて出でて往く。 ランチは、アーク、タール、エキス、蠑螈別等の所在を従卒に命じ探さしめ、雪見に伴ひ往かむとしたが、折柄の積雪に埋もつて居たため発見する事が出来なかつた。此時お民は片彦将軍の居間に招かれて、いろいろと片彦の意味ありげな話に、膝をモヂモヂさせながら苦しさうに時を移して居た。ランチ将軍は四人の姿の見えざるに、どこか雪見でもする積りで郊外に往つたのだらうと思ひ、二人の副官と二人の美人を伴ひ、五人連れ駕籠に揺られながら物見櫓をさして進み往く。地上二尺許りの積雪に、駕籠舁の足音はザク、ザク、ザクと馬丁が押切りにて馬糧を切るやうな音をさせ、綺麗な雪道にスバル星を数多印しながら、漸くにして物見櫓に安着した。此処に炭火を拵へ、酒の燗をなし、雪見の酒宴を催す事となつた。 一方片彦はランチ将軍が二人の女を伴ひ、物見櫓に雪見の宴を張つて居ると云ふ事を、従卒の内報によつて聞き知り、大方蠑螈別其他も同伴せしならむと、二挺の駕籠を命じ、お民と共に宙を飛んで物見櫓をさして進み往く。 (大正一二・一・一二旧一一・一一・二六加藤明子録) |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 10 天国の富 | 第一〇章天国の富〔一二六四〕 現界即ち自然界の万物と霊界の万物との間には、惟神の順序によりて相応なるものがある。又人間の万事と天界の万物との間に動かすべからざる理法があり、又其連結によつて相応なるものがある。そして人間は又天人の有する所を総て有すると共に、其有せざる所をも亦有するものである。人間はその内分より見て霊界に居るものであるが、それと同時に、外分より見て、人間は自然界に居るのである。人の自然的即ち外的記憶に属するものを外分と称し、想念と、これよりする想像とに関する一切の事物を云ふのである。約言すれば、人間の知識や学問等より来る悦楽及び快感の総て世間的趣味を帯ぶるもの、又肉体の感官に属する諸々の快感及び感覚、言語、動作を合せて之を人間の外分となすのである。是等の外分は何れも大神より来る神的即ち霊的内流が止まる所の終極点に於ける事物である。何故なれば、神的内流なるものは決して中途に止まるものでなく、必ずや其窮極の所まで進行するからである。この神的順序の窮極する所は所謂万物の霊長、神の生宮、天地経綸の主宰者、天人の養成所たるべき人間なのである。故に人間は総て神様の根底となり、基礎となるべき事を知るべきである。又神格の内流が通過する中間は高天原にして、其窮極する所は即ち人間に存する。故に、又この連結中に入らないものは何物も存在する事を得ないのである。故に天界と人類と和合し連結するや、両々相倚りて継続存在するものなる事を明め得るのである。故に天界を離れたる人間は鍵のなき鎖の如く、又人類を離れたる天界は基礎なき家の如くにして、双方相和合せなくてはならないものである。 斯の如き尊き人間が、其内分を神に背けて、高天原との連絡を断絶し、却て之を自然界と自己とに向けて、自己を愛し、世間を愛し、其外分のみに向ひたるにより、従つて人間は其身を退けて再び高天原の根底となり、基礎となるを得ざらしめたるによつて、大神は是非なく、茲に予言者なる媒介天人を設けて之を地上に下し、其神人をもつて天界の根底及び基礎となし、又之によつて天界と人間とを和合せしめ、地上をして天国同様の国土となさしめ給ふべく、甚深なる経綸を行はせたまうたのである。この御経綸が完成した暁を称して、松の代、ミロクの世、又は天国の世と云ふのである。そして厳の御霊、瑞の御霊の経緯の予言者の手を通じ口を通じて聖言を伝達し、完全なる天地合体の国土を完成せしめむとしたまうたのである。大本開祖の神諭に『天も地も一つに丸めて、神国の世に致すぞよ。三千世界一度に開く梅の花、須弥仙山に腰を掛け艮の金神守るぞよ。この大本は天地の大橋、世界の人民は此橋を渡りて来ねば、誠のお蔭は分らぬぞよ』と平易簡明に示されて居るのである。されど現代の人間は却てかかる平易簡明なる聖言には耳を藉さず、不可解なる難書を漁り、是を半可通的に誤解して其知識を誇らむとするのは実に浅ましいものである。 治国別は竜公と共に言霊別命の化相身なる五三公に案内され、珍彦の館を後にして中間天国の各団体を訪問する事となつた。五三公は得も云はれぬ麗しき樹木の秩序よく間隔を隔てて点綴せる、金砂銀砂の布きつめたる如き平坦路をいそいそとして進んで往く。道の両方には、天国の狭田、長田、高田、窪田が展開し、得も云はれぬ涼風にそよぐ稲葉の音はサヤサヤと心地よく耳に響いて来る。天人の男女は得も云はれぬ麗しき面貌をしながら、瑪瑙の如く透き通つた脛を現はし、水田に入つて草取をしながら勇ましき声に草取歌を歌つて居る。太陽は余り高からず頭上に輝きたれども、自然界の如く焦げつくやうな暑さもなく、実に入り心地のよい温泉に入つたやうな陽気である。さうして此天国には決して冬がない、永久に草木繁茂し、落葉樹の如きは少しも見当らない。田面は金銀色の水にて満たされ、稲葉は青く風に翻る度毎に金銀の波を打たせ、何とも筆舌の尽し難き光景である。五三公は途中に立ち止まり、二人を顧みて微笑みながら、得も云はれぬ喜びの色を湛へて、 五三公『治国別様、御覧なさいませ、天国にも矢張り農工商の事業が営まれて居ます。さうしてあの通り各人は一団となつて其業を楽しみ、歓喜の生活を送つて居ります。実に見るも愉快な光景ぢやありませぬか』 治国別『成程、実に各人己を忘れ一斉に業を楽しむ光景は、到底現界に於て夢想だも出来ない有様で厶いますな。さうして矢張彼の天人共は各自に土地を所有して居るので厶いますか』 五三公『イエイエ、土地は全部団体の公有です。地上の世界の如く大地主、自作農又は小作農などの忌はしき制度は厶いませぬ、皆一切平等に何事も御神業と喜んで額に汗をし、神様のために活動して居るのです。さうして事業に趣味が出来て、誰一人不服を称ふる者もなく、甲の心は乙の心、乙の心は甲の心、各人皆心を合せ、何事も皆御神業と信じ、あの通り愉快に立ち働いて居るのです』 治国別『さうすれば天国に於ては貧富の区別はなく、所謂社会主義的制度が行はれて居るのですか』 五三公『天国にも貧富の区別があります。同じ団体の中にも富者も貧者もあります。併しながら、貧富と事業とは別個のものです』 治国別『働きによつて其報酬を得るに非ざれば、貧富の区別がつく筈がないぢやありませぬか。同じやうに働き、同じ物を分配して生活を続ける天人に、どうして又貧富の区別がつくのでせうか』 五三公『現界に於ては、総て体主霊従が法則のやうになつて居ます。それ故優れたもの、よく働くものが多く報酬を得るのは自然界のやり方です。天国に於ては総てが神様のものであり、総ての事業は神様にさして頂くと云ふ考へを何れの天人も持つて居ります。それ故天国に於ては貧富の区別があつても、貧者は決して富者を恨みませぬ。何人も神様のお蔭によつて働かして頂くのだ、神様の御神格によつて生かして頂くのだと、日々感謝の生活を送らして頂くのですから、貧富などを天人は念頭に置きませぬ。そして、貧富は皆神様の賜ふ所で、天人が各自の努力によつて獲得したものではありませぬ。何れも現実界にある時に尽した善徳の如何によりて、天国へ来ても矢張り貧富が惟神的につくのです。貧者は富者を見て之を模範とし、善徳を積む事のみを考へて居ります。天国に於ける貧富は一厘一毛の錯誤もなく、不公平もありませぬ。其徳相応に神から授けらるるものです』 治国別『天国の富者とは、現界に於て如何なる事を致したもので厶いませうか』 五三公『天国団体の最も富めるものは、現界にある中によく神を理解し、愛のために愛をなし、善のために善をなし、真の為に真を行ひ、自利心を捨て、さうして神の国の建設の為に心を尽し身を尽し、忠実なる神の下僕となり、且又現界に於て充分に活動をし、其余財を教会の為に捧げ、神の栄と道の拡張にのみ心身を傾注したる善徳者が所謂天国の富者であります。約り現界に於て宝を天国の庫に積んで置いた人達であります。さうして中位の富者は、自分の知己や朋友の危難を救ひ、又社会公共の救済の為に財を散じ、隠徳を積んだ人間が、天国に来つて大神様より相応の財産を賜はり安楽に生活を続けて居るのです。そして天国で頂いた財産は総て神様から賜はつたものですから、地上の世界の如く自由に之を他の天人に施す事は出来ませぬ。ただ其財産を以て神様の祭典の費用に当てたり、公休日に天人の団体を吾家に招き、自費を投じて馳走を拵へ大勢と共に楽しむので厶います、それ故に天国の富者は衆人尊敬の的となつて居ります』 治国別『成程、実に平和なものですな、本当に理想的に社会が造られてありますなア』 竜公はしやしやり出で、 竜公『モシ五三公さま、もしも私が天国へ霊肉脱離の後、上る事を得ましたならば、定めて貧乏人でせうな』 五三公『アヽさうでせう、唯今直に天国の住民となられるやうな事があれば、貴方はやはり第三天国の極貧者でせう。併し再び現界に帰り、無形の宝と云ふ善の宝を十分お積みになれば、天国の宝となり、名誉と光栄の生涯を永遠に送る事が出来ませう』 竜公『それでは聖言に、貧しきものは幸なるかな、富めるものの天国に到るは針の穴を駱駝の通ふよりも難し、と云ふぢやありませぬか』 五三公『貧しきものは常に心驕らず、神の教に頼り、神の救ひを求め、尊き聖言が比較的耳に入り易う厶いますが、地上に於て何不自由なく財産のあるものは、知らず知らずに神の恩寵を忘れ、自己愛に流れ易いものですから、其財産が汚穢となり暗黒となり或は鬼となつて地獄へ落し行くものです。若しも富者にして神の為に尽し、又社会のために隠徳を積むならば、天国に上り得るの便利は貧者よりも多いかも知れませぬが、世の中はようしたもので富者の天国に来るものは、聖言に示されたる如く稀なものです。其財産を悪用して人の利益を壟断し、或は邪悪を遂行し、淫欲に耽り、身心を汚し損ひ、遂に霊的不具者となつて大抵地獄に落つるものです。仮令天国に上り得るにしても、天国に於ける極貧者です』 竜公『治国別さまが、今天国の住民となられましたら何んなものでせう、相当の富者になられませうかなア』 五三『ハヽヽヽヽ』 と笑つて答へず。 竜公『ヤア先生も怪しいぞ、矢張これから天国の宝をお積にならねばなりますまい』 五三『サア是から霊陽山の名所に御案内致しませう』 と早くも歩を起した。二人は後に従ひ、麗しき原野を縫うて、樹木点綴せる天国街道を歓喜に満たされながら進んで往く。五三公は霊陽山の麓に辿りついた。 五三公『此処が第二天国の有名なる公園地で厶います。今日は公休日で厶いませぬから、余り天人の姿も見えませぬが、これ御覧なさいませ、あの山の景色と云ひ、岩石の配置、樹木の色、花の香、到底地上の世界では見られない景色で厶いませう』 治国『ハイ、何だかぼんやりとして、私の目には入りませぬ』 五三公『被面布をお被りなさい、さうすればハツキリと分るでせう』 治国別『ハイ』 と答へて治国別は直に被面布を被つた。竜公も同じく被面布に面を包んだ。 治国『何故、吾々の目には被面布がなくては、此麗しき景色が目に入らないのでせうか』 五三公『失礼ながら、天国の智慧に疎きものは此樹木花卉が目に入らないのです。総て神の智慧に居るものの前には、各種各様の樹木花卉にて満ちたる楽園の現はれるものです。是等の樹木は最も麗しき配列をなし、枝々交叉して得も云はれぬ装ひをなし、薫香を送るものです。総て天国は想念の国土でありますから、貴方に神的智慧が満つれば、直ちに天国の花園が眼前に展開致します。園亭あり、行門あり、行径あり、行く道の美麗なる事、言語の尽す所ではありませぬ。故に神の智慧に居るものは、斯の如き楽園の中を漫歩しながら、思ひ思ひに花を摘み花鬘を作りなどして、楽しく嬉しく暮し得るものです』 治国別『成程、此楽園には被面布を透して眺めますれば、種々雑多の樹木、花卉の吾々地上に嘗て見ざるものが沢山ございますな』 五三公『是等の麗しき樹木は正しき神の知識に居るものの愛の徳如何によりて花を開き実を結ぶものです。厳の御霊の神諭にも「一度に開く梅の花、開いて散りて実を結び、スの種を養ふ」とあるでせう。開く梅の花とは、智慧と証覚とに相応する情態の謂であります。斯くなる時は、天国の園亭や楽園に実を結ぶ樹木及び花卉は神の供へ物として、又天人各自の歓喜の種として各自の徳によつて現前するものです。高天原には斯の如き楽園のある事は聞いては居りますが、唯是を実際に知る者は、唯神よりする愛善の徳に居る者及び自然界の光と其偽りとによつて自己の胸中にある所の天界の光を亡ぼさなかつた者に限つて居ります。故に高天原に対して目未だ見えざるもの、耳未だ聞えざるものは、現に其場に近づき居ると雖も、此光景を見る事も亦斯の如き麗しき音楽の声を聞く事も出来ませぬ』 治国別『種々の御教諭、いや有難う厶いました。これで吾々も大変に神様の御恵を頂き、どうやら被面布を取つてもこの花園の光景が見えるやうになつて参りました。嗚呼神様、言霊別命様の御化身なる五三公様の口を通して、天国の福音をお示し下さつた其御恵を有難く感謝致します。アヽ惟神霊幸倍坐世』 (大正一二・一・一三旧一一・一一・二七加藤明子録) |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 12 西王母 | 第一二章西王母〔一二六六〕 高天原の総統神即ち大主宰神は大国常立尊である。又の御名は天之御中主大神と称へ奉り、其霊徳の完全に発揮し給ふ御状態を称して天照皇大神と称へ奉るのである。そして此大神様は厳霊と申し奉る。厳と云ふ意義は至厳至貴至尊にして過去、現在、未来に一貫し、無限絶対無始無終に坐ます神の意義である。さうして愛と信との源泉と現れます至聖至高の御神格である。さうして或時には瑞霊と現はれ現界、幽界、神界の三方面に出没して一切万有に永遠の生命を与へ歓喜悦楽を下し給ふ神様である。瑞と云ふ意義は水々しと云ふ事であつて至善至美至愛至真に坐まし且円満具足の大光明と云ふ事になる。又霊力体の三大元に関聯して守護し給ふ故に三の御魂と称へ奉り、或は現界、幽界(地獄界)、神界の三界を守り給ふが故に三の御魂とも称へ奉るのである。要するに神は宇宙に只一柱坐ますのみなれども、其御神格の情動によつて万神と化現し給ふものである。さうして厳霊は経の御霊と申し上げ神格の本体とならせ給ひ、瑞霊は実地の活動力に在しまして御神格の目的即ち用を為し給ふべく現はれ給うたのである。故に言霊学上之を豊国主尊と申し奉り又神素盞嗚尊とも称へ奉るのである。さうして厳霊は高天原の太陽と現はれ給ひ、瑞霊は高天原の月と現はれ給ふ。故にミロクの大神を月の大神と申上ぐるのである。ミロクと云ふ意味は至仁至愛の意である。さうして其仁愛と信真によつて、宇宙の改造に直接当らせ給ふ故に、弥勒と漢字に書いて弥々革むる力とあるのを見ても、此神の御神業の如何なるかを知る事を得らるるのである。善悪不二、正邪一如と云ふ如きも、自然界の法則を基礎としては到底其真相は分るものでない。善悪不二、正邪一如の言葉は自然界の人間が云ふべき資格はない、只神の大慈大悲の御目より見給ひて仰せられる言葉であつて、神は善悪正邪の区別に依つて其大愛に厚き薄きの区別なき意味を善悪不二、正邪一如と仰せらるるのである。併しながら自然界の事物に就ても亦善悪混淆し美醜互に交はつて一切の万物が成育し、一切の順序が成立つのである。故に人は霊主体従と云つて自然界に身を置くとも、凡て何事も神を先にし、愛の善と信の智を主として世に立たねばならないのである。然るに霊的事物の何たるを見る事の出来ない様になつた現代人は、如何しても不可見の霊界を徹底的に信じ得ず、稍霊的観念を有するものと雖も、要するに暗中模索の域を脱する事が出来ない。それ故に人は何うしても体を重んじ、霊を軽んじ物質的欲念に駆られ易く地獄に落ち易きものである。かかる現界の不備欠点を補はむが為に大神は自ら地に降り其神格に依つて精霊を充し、予言者に向つて地上の蒼生に天界の福音を宣伝し給ふに至つたのである。凡て人間が現実界に生れて来たのは、云はば天人の胞衣の如きものである。さうして又天人の養成器となり苗代となり又霊子の温鳥となり、天人の苗を育つる農夫ともなり得ると共に、人間は天人其ものであり又在天国の天人は人間が善徳の発達したものである。さうして天人は愛善と信真に依つて永遠の生命を保持し得るものである。故に人間は現界の生を終へ天国に復活し、現界人と相似せる生涯を永遠に送り、天国の円満をして益々円満ならしむべく活動せしむる為に、大神の目的に依つて造りなされたものである。故に高天原に於ける天国及び霊国の天人は一人として人間より来らないものはない。大神様を除く外、一個の天人たりとも天国に於て生れたものはないのである。必ず神格の内流は終極点たる人間の肉体に来り、此処に留まつて其霊性を発達せしめ、而して後天国へ復活し、茲に初めて天国各団体を構成するに至るものである。故に人は天地経綸の司宰者と云ひ、又天地の花と云ひ、神の生宮と称ふる所以である。愚昧なる古今の宗教家や伝教者は概ね此理を弁へず、天人と云へば、元より天国に在つて特別の神の恩恵に依つて天国に生れたるものの如く考へ、又地獄にある悪鬼どもは元より地獄に発生せしものの如く考へ、其地獄の邪鬼が人間の堕落したる霊魂を制御し或は苦しむるものとのみ考へてゐたのである。之は大なる誤解であつて、数多の人間を迷はす事、実に大なりと云ふべしである。茲に於て神は時機を考へ、弥勒を世に降し、全天界の一切を其腹中に胎蔵せしめ、之を地上の万民に諭し、天国の福音を完全に詳細に示させ給ふ仁慈の御代が到来したのである。されど大神は予言者の想念中に入り給ひ、其記憶を基礎として伝へ給ふが故に、日本人の肉体に降り給ふ時は即ち日本の言葉を以て現はし給ふものである。科学的頭脳に魅せられたる現代の学者又は小賢しき人間は「神は全智全能なるべきものだ。然るに何故に各国の民に分り易く、地上到る所の言語を用ひて示し給はざるや」と云つて批判を試み、神の遣はしたる予言者の言を以て怪乱狂妄と罵り、或は無学者の言とか或は不徹底の言説とか何とかケチをつけたがる盲が多いのは、神の予言者も大に迷惑を感ずる所である。 高天原と天界は至大なる一形式を備へたる一個人である。さうして高天原に構成されたる天国の各団体は之に次げる所の大なる形式を備へたる一個人の様なものである。さうして天人は又其至小なる一個人である。人間も亦天界の模型であり、小天地である事は屡述べた所である。神は此一個人なる高天原の頭脳となつて其中に住し給ひ、万有一切を統御し給ふ故に、又地獄界も統御し給ふは自然の道理である。人間も亦其形体中に天国の小団体たる諸官能を備へ種々の機関を蔵し、而して天国地獄を包含してゐるものである。 扨て高天原の如き極めて円満具足せる形式を有するものには、各分体に全般の面影があり又全般に各分体の面影がある。其理由は高天原は一個の結社の様なものであつて、其一切の所有を衆と共に相分ち、衆は又一切の其所有を結社より受領して生涯を送る故である。かくの如く天界の天人は一切の天的事物の受領者なるによつて、彼は又一個の天界の極めて小なるものとなすのである。現界の人間と雖も、其身の中に高天原の善を摂受する限り、天人の如き受領者ともなり、一個の天界ともなり、又一個の天人ともなるのである。 治国別、竜公両人は言霊別命の案内によつて第一天国の或個所に漸く着いた。此処には得も云はれぬ荘厳を極めた宮殿が立つてゐる。これは日の大神の永久に鎮まります都率天の天国紫微宮であつて、神道家の所謂日の若宮である。智慧と証覚と愛の善と信の真に充されたる数多の天人は此宮殿の前の広庭に列をなし、言霊別一行の上り来るを歓喜の情を以て迎へて居たのである。言霊別命は遥か此方より此光景を指さし、 言霊別『治国別様、あの前に金色燦然として輝いてゐるのは、エルサレムで厶ります。さうしてあの通り巨大なる石垣を以て造り固められ、数百キユーピツトの城壁を囲らしてあるのを御覧なさいませ』 治国別『ハイ、有難う厶ります、如何したものか吾々は円満の度が欠けて居りまするために、エルサレムは何処だか、石垣は何処にあるか、城壁の高さも分りませぬ。只私の目に映ずるのは赫灼たる光と天人の姿が幽かに見ゆるばかりです。さうしてエルサレムとか仰有りましたが、それは小亜細亜の土耳古にある聖地では厶りませぬか』 言霊別『エルサレムの宮とは大神様の御教を伝ふる聖場の意味であります。又高き処の意味であつて即ち最高天界の中心を云ふのです。石垣と申すのは即ち虚偽と罪悪との襲来を防ぐ為の神真其ものであります。度と申すのは性相其ものであつて、聖言に云ふ、人とは凡ての真と善徳とを悉く具有するものの謂であります。即ち人間の内分に天界を有するものを人と云ひ、天界を有せないものを人獣と云ふのです。ここには決して人なる天人はあつても現界の如き人獣は居りませぬ。然し私が今人獣と云つたのは霊的方面から云つたのです。凡て神の坐します聖場及び其御教を伝ふる聖場を指して貴の都と云ひ、或はエルサレムの宮と云ふのです』 治国別『さう致しますと、現界に於けるウブスナ山の斎苑館を始め、黄金山、霊鷲山、綾の聖地及び天教山、地教山、万寿山其他の聖地は凡て天国であり、エルサレムの宮と云ふのですか』 言霊別『さうです、実に神格によつて円満なる団体の作られたものは凡てエルサレムとも云ひ、地上に於ては地の高天原と称ふべきものです。地上の世界は要するに高天原の移写ですから、地上にある中に高天原の団体に籍をおいておかなくては、霊相応の道理順序に背いては、死後天国の生涯を送る事は出来ませぬ。サア之より最奥天国の中心点、大神の御舎に御案内致しませう』 と先に立つて歩み出した。二人は足の裏がこそばゆい様な気分に打たれ、いと恥かし気に従ひ行く。路傍に堵列せる数多の天人は『ウオーウオー』と手を拍つて叫び、愛善の意の表示をなしてゐる。二人は言霊別命の背後に従ひ、被面布を冠りながら心落ち着き、静々と日の若宮の表門を潜り入る。 言霊別命は二人を門内に待たせ置き悠々として奥深く入り給うた。二人は門内に佇み園内に繁茂せる果樹の美しきを眺めやり、舌うちしながら頭を傾け『アーア』と驚きに打たれ吐息を洩らしてゐる。暫くすると庭園の一方より目も眩むばかりの光を放ち悠々と入り来り給ふ妙齢の天女があつた。二人は思はずハツと大地に踞み敬礼を表した。此女神は西王母と云つて伊邪那美尊の御分身、坤の金神であつた。西王母と云ふも同身異名である。女神は二人の手をとりながら言霊別命の奥殿より帰り来る間、庭園を巡覧させむと桃畑に導き給うた。二人は恐る恐る手を曳かれながら芳しき桃樹の園に導かれ行く。此処には三千株の桃の樹が行儀よく繁茂してゐる。さうして前園、中園、後園と区劃され、前園には一千株の桃樹があつて美はしき花が咲き且一方には美はしき実を結んだのも尠なくはない。此前園の桃園は花も小さく又其実も小さい。さうして三千年に一度花咲き熟して、之を食ふものは最高天国の天人の列に加へらるるものである。さうして此桃の実は余程神の御心に叶つたものでなければ与へられないものである。西王母は二人に一々此桃の実の説明をしながら中園に足を踏み入れた。ここにも亦一千株の桃の樹があり、美はしき八重の花が咲き充ち又甘さうな実がなつて居る。之は六千年に一度花咲き実り、之を食ふものは天地と共に長生し、如何なる場合にも不老不死の生命を続けると云ふ美はしき果物である。西王母は又もや詳細に桃畑の因縁を説き諭し、終つて後園に足を入れ給うた。此処にも亦一千株の桃樹が行儀よく立ち並び、大いなる花が咲き匂ひ、実も非常に大きなのが枝も折れむばかりに実つてゐる。此桃の樹は九千年に一度花咲き実り、之を食ふものは天地日月と共に生命を等しうすると云ふ重宝至極な神果である。西王母は此因縁を最も詳細に治国別に諭し給うた。然し此桃の密意については容易に発表を許されない、然しながら桃は三月三日に地上に於ては花咲き、五月五日に完全に熟するものなる事は、此物語に於て示されたる所である。之によつて此桃に如何なる御経綸のあるかは略推知し得らるるであらう。西王母は一度地上に降臨して黄錦の御衣を着し、数多のエンゼルと共に之を地上の神権者に献げ給ふ時機ある事は、現在流行する謡曲によつても略推知さるるであらう。 却説、西王母は桃園の案内を終り、二人の手を引きながら元の門口に送り来り、 西王母『治国別殿、竜公殿、之にてお別れ申す』 と云ふより早く桃園内に神姿を隠し給うた。二人は其後姿を伏し拝み、王母が説明によつて神界経綸の深遠微妙なる密意を悟り、思はず合掌して感涙に咽びつつあつた。 かかる所へ紫微宮の黄金の中門を開いて現はれ来る美はしき天女、五色の光輝に充ちた羽衣を着しながら出で来る其荘厳さ、天国の天人は何れも美はしく円満の相を具備すれども、未だ嘗て斯の如き円満なる妙相を備へたる神人を見るのは二人とも天国巡覧以来初めてであつた。 因に羽衣とは決して謡曲にある如き中空を翔ける空想的のものでない。最も美はしき袖は手より数尺長く、裾は一二丈も後に垂れてゐる神衣の事である。 扨て十二人の天女は、無言の儘二人を指し招き、前に六人、後に六人、二人を守りながら黄金の中門を潜つて迎へ入れるのであつた。此時今まで聞いた事もない様な微妙な音楽四方より起り、芳香馥郁として薫じ、二人は吾身の何処にあるやも忘るるばかり歓喜に充されながら、微の声にて天津祝詞を奏上しつつ欣々として進み入る。 (大正一二・一・一三旧一一・一一・二七北村隆光録) |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 17 甦生 | 第一七章甦生〔一二七一〕 ランチ将軍、片彦、ガリヤ、ケースの四人は罪人橋の傍に佇み、肌を断る許りの寒風に曝されながら、幽かに聞ゆる宣伝歌の声をせめてもの力として、慄ひながら待つて居た。四方を見れば、今まで吾身辺を包みたる冥官は一人も居らず、又我利我利亡者の姿は残らず消え失せたれども、再び潜り来りし小孔は塞がりて分らず、此橋を向ふへ渡らむか、実に危険にして百中の百まで顛落しさうな光景である。宣伝歌の声は追々高くなつた。それに次いで、ワイワイと喚く数百人の声、前後左右より響き来る。四人は心も心ならず、如何なり往くならむと、絶望の淵に沈んで居た。かかる所へ忽然として現はれ給うたのは容貌端麗なる一人の女神、二人の侍女を伴ひながら、四人の前に鳩の如く下り給ひ、女神は優しき声にて、 女神『貴方は大自在天様の教を奉ずるランチ将軍の一行ぢや厶いませぬか』 四人は蘇生の思ひをしながら、俄に嬉し気に声まで元気よく、 四人『ハイ、仰せの如く、ランチ将軍主従で厶います。誠に罪悪のため斯様な所へ落され、二進も三進もなりませぬ。今日迄の罪悪はすつかり悔い改めまして、生れ赤児の心に立ち帰りますれば、どうぞ此の急場をお救ひ下さいませ』 女神『それは嘸お困りでせう。貴方が誓つて体主霊従の行ひを改むるとならばお助け申しませう。妾は都率天に坐ます日の大神のお傍に仕ふるもの、妾が申す事御合点が参りましたらキツと救うて上げませう、実の所は貴方等の危難を大神様が御照覧遊ばし「一時も早く彼が前に往き、誠を説き明し救ひやれ、時後れなば一大事」との仰せに、取るものも取り敢ず、都率天を下り此処に来ました。あれお聞きなさいませ。あの宣伝歌は、貴方等を救ふための宣伝歌の声で厶います』 片彦『ハイ、有難う厶います。歌は聞えますが、其歌がボンヤリとして少しも意味が分りませぬ』 女神『あの歌は、三五教の宣伝使が、貴方等を救ふべく神への祈り歌で厶います、サア篤りとお聞きなされ』 と懐中より大幣を取り出し左右左に打ち振れば、不思議や四人の耳はパツと開けて、歌の意味は益々明瞭になつて来た。四人は両手を合せ、大地に跪いて其歌を一語も洩らさじと聞き入つた。其歌、 (紫姫)『高天原の最奥の日の若宮に現れませる 至仁至愛の大神は八岐大蛇や醜狐 曲鬼共に取りつかれ善の道をば取り違へ 智慧証覚をくらまして体主霊従の小欲に 浮身を窶すバラモンの大黒主の部下となり ミロクの神の化身たる神素盞嗚の大神の 常磐堅磐に現れませる産土山の霊国の 貴の館を屠らむと大黒主の命をうけ ランチ将軍、片彦が数多の部下を引率れて 浮木の森に陣営を構へて作戦計画の 真最中に入り来る治国別の宣伝使 忽ち悪心勃発し神の尊き御使を 千尋の暗き穴の底落し入れたる曲業は 忽ち其身に報い来て眼はくらみ変化神 此上なき美人と過りて互に修羅を燃やしつつ 反間苦肉の策を立て互に命を奪ひ合ひ 忽ち精霊肉体を離れて地獄に踏み迷ひ 進退茲に谷まれる其窮状を臠はし 妾に向つて詔らすやう汝紫姫の神 二人の天女と諸共に根底の国に降臨し 彼等四人が心底を調べたる上真心の 聊かなりと照るあらば誠の道を説き聞かせ 再び娑婆に追ひかへし遷善改過の其実を あげさせよやと厳かに詔らせたまひし神勅を 慎み畏み今茲に降り来りしものなるぞ 軍の君よ汝は今吾言霊を聞き分けて 尊き神の愛に触れ再び現世に立ち帰り 大神業に奉仕する赤心あらば吾は今 汝を安きに救ふべしあゝ惟神々々 尊き神の勅もて汝等四人に詔り伝ふ』 と言葉淑かに聞え来る。よくよく見れば宣伝歌の声は外には非ず、女神の口から歌はれて居たのである。されど神格に満ちたる天人は、現代人の如く口を用ひたまはず、一種の語字を用ひ四辺より語を発し、其意を述べ給ふにより、四人の亡者の気づかなかつたのも道理である。 ランチ将軍は漸くにして力を得、歌をもつてエンゼルに答へた。 ランチ『高天原の最奥の日の若宮に現れませる 尊き神の勅もて天降りましたる紫の 姫の命の御前に慎み敬ひ願ぎ申す 吾はバラモン大御神大国彦を祭りたる 大雲山の聖場に朝な夕なに身を清め 難行苦行の功をへて漸く道の奥処をば 悟りて茲に神柱大黒主に選まれて 教司となり居たり時しもあれやウラル教 三五教の神柱数多の軍を引率れて 空照り渡る月の国ハルナの都に攻め来る 噂は強く聞えけり茲に大黒主の神 大に怒らせ給ひつつ善か悪かは知らねども 軍を起し産土の館を指して進むべく 鬼春別に依さしまし数多の兵士任けたまふ 鬼春別の部下なりし吾等は命に従ひて 浮木の森に来る折怪しき女に村肝の 心を汚し同僚を恋の敵と恨みつつ 悪逆無道の行動を敢てなしたる悔しさよ 斯くなる上は吾とても如何でか悪を尽さむや 唯今限り悪を悔い誠の道に立ち帰り 皇大神の御教に厚く服ひ仕ふべし 尊き神の御使よ此有様を憫れみて 何卒救はせたまへかしもし許されて現界に 再び帰り得るなれば神素盞嗚の大神に 刃向ひまつりし罪咎を償ふ為に一身を 捧げて誠の大道に進み奉らむ吾心 尊き神の御使の御前に心固めつつ 委曲に願ひ奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 一旦誓ひし吾魂は皇大神の御為に 仮令命は捨つるとものどには捨てじ一歩も 顧みせざる誠心を清くみすかし給ひつつ 愍み給へ紫の姫の命の御前に 慎み敬ひ願ぎ申す』 と細き声にて詔り上げた。片彦も亦歌をもつて罪を謝した。 片彦『ここたくの罪や汚れになづみたる わが身魂をば清めて救へ。 惟神誠の道に踏み迷ひ 根底の国に落ちにけるかな。 何事も神の御為世のためと 知らず知らずに曲になりぬる。 ここたくの罪を許して現世に 救はせ給へと乞ひのみ奉る』 ガリヤ『吾も亦汚き欲に包まれて 黒白も分ぬ暗に落ちぬる。 いと深き神の恵に包まれて 根底の国を去るぞ嬉しき。 皇神の此御恵を如何にして 報はぬものと危ぶまれぬる。 さりながら元は尊き大神の 身魂なりせば清く帰らむ』 ケース『身の欲に心曇りて根の国の 川辺に迷ふ吾ぞ果敢なき。 如何にして此苦しみを逃れむと 千々に心を痛めたりしよ。 有難き神の恵の霑ひて 紫姫は降りましけり』 ランチ『有難し勿体なしと申すより 外に言の葉なかりけるかも。 大神の恵の露は根の国や 底の国まで霑ひにけり』 紫姫『村肝の心の闇の晴れし身は 安く帰らむ顕御国へ。 さりながら再び現世に帰りなば 曲の仕業は夢にな思ひそ。 皆さま、結構で厶いました。どうやら現世へお帰り遊ばす道が開けたやうです。妾も大慶に存じます。併しながら此国の守護神様は金勝要大神様、一度お許しを蒙らねばなりませぬ。お願ひを致して参ります』 と云ふより早く、麗しき雲を起し、罪人橋の上を北へ北へと其神姿を隠し給うた。四人は互に顔を見合せ、ホツと息をつきながら、 ランチ『あゝ片彦殿、真に済まない事を致しました。悪魔に取りつかれ、俄にあのやうな悪心を起し、こんな所へ閉ぢ込まれるとは、どうも恥かしい事で厶る。どうか現界へ帰るとも、今迄の恨は川へ流し、層一層御親交を願ひます』 と心の底より片彦に詫びた。片彦は之に答へて、さも嬉し気に云ふやう、 片彦『将軍様、勿体ない事を仰せられますな。皆私が悪いので厶います。数多の軍勢を指揮する身分で居ながら、陣中の規律を紊し、女に心を奪はれ、遂には思はぬ葛藤を起しました其罪は、私が大部分負担すべきものです。何卒今までの罪をお許し下さいまして、従前よりも層一層の御親交を願ひます』 と心の底より打ち解けて云つた。 ガリヤ、ケースの両人は両将軍の物語を聞き、身を縮め、感歎の息を洩らして居る。斯かる所へ治国別、松彦、竜公、万公、アク、タク、テクの一行、宙を飛んで走り来り、四人の前に整列し、 治国『片彦さま、貴方の改心が国魂の神、金勝要大神様に通じました。拙者は要の神の命により、貴方を現界に救ふべくお迎へに参りました』 片彦『ハイ、有難う厶います』 と落涙に及ぶ。松彦はランチ将軍に向ひ、 松彦『将軍殿、貴方の悔悟のお願が大地の金神金勝要神様の御前に達しました。拙者は神命に依り、貴方を現界へお送り申しませう、次にガリヤ、ケースの両人も同様現界へお帰りなさい』 三人は、 三人『ハイ有難う』 と頭を下げる途端、ザワザワと聞ゆる人声に目を醒ませば、浮木の森の物見櫓の下座敷に四人は横たはり、数多の人々に介抱されて居た。さうしてお民はお寅に救はれて居た。ランチ将軍、片彦は枕許をよく見れば、豈図らむや、今夢ともなしに罪人橋の麓にて救はれたる治国別、松彦を初め、竜公、万公、アク、タク、テクの面々であつた。彼等四人は治国別、松彦の一隊に死体を河中より救ひ上げられ、宣伝歌を聞かされ、且つ天津祝詞と天の数歌の功力に救はれ蘇へつたのであつた。又お民は蠑螈別の声にハツと気がつき四辺を見れば、其枕許には蠑螈別、エキス、アーク、タール、お寅婆アさまの面々が親切に介抱をして居た。是よりランチ将軍を初め幽冥旅行の面々は心の底より前非を悔い、初めて神素盞嗚大神の御前に両手を合せ、反逆の罪を陳謝し、遂に三五の道に帰順する事となつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・一・一四旧一一・一一・二八加藤明子録) |
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霊界物語 | 49_子_祠の森の物語1(高姫と妖幻坊) | 03 地鎮祭 | 第三章地鎮祭〔一二七七〕 今を去る事三十五万年の昔、波斯の国ウブスナ山脈の頂上に地上の天国を建設し、神素盞嗚大神はここに神臨し玉ひて、三五教を開かせ玉ひ、数多の宣伝使を養成して地上の国土に群棲する数多の人間に愛善の徳と信真の光を与へ、地上に天国を建設し玉はむとし、八岐大蛇や醜狐、邪鬼の身魂を清め天地の間には一点の虚偽もなく、罪悪もなきミロクの世を開かむと尊き御身を地上に降し、肉体的活動を続け玉ひしこそ、実に尊さの限りである。此時印度の国ハルナの都に八岐大蛇の悪霊に其身魂を占領されたるバラモン教の神司大黒主は数多の宣伝使を従へ、右手に剣を持ち左手にコーランを携へて、大自在天大国彦命の教を普く天下に宣伝し無理無体に剣を以て其道に帰順せしめむとなしつつあつた。さうしてバラモン教の信条は生を軽んじ、死を重んじ、現肉体を苦しめ損ひ破り出血なさしめて之を修行の蘊奥となす所の暗迷非道の邪教である。数多の人間は此教に苦しめられ、阿鼻叫喚の声、山野に満ち其惨状聞くに堪へざれば、至仁至愛の大神は其神格の一部を地上に降し神素盞嗚尊と現はれて中有界や地獄界に迷へる精霊及び人間を救ふべく、此処に地上の霊国、天国を築かせ玉ふたのである。之に加ふるにコーカス山を始め土耳古のエルサレム、及び自転倒島の綾の聖地や天教山や其外各地の霊山に霊国を開き、宣伝使を降して之が任に当らしめ給うた。玉国別は大神の命を奉じ宣伝使として道公、伊太公、純公の三人の従者を従へ、ウブスナ山の聖場を後にして河鹿峠の峻坂を越え、懐谷に暴風を防ぐ折しも山猿の群に襲はれて目を傷つけ漸く祠の森に辿り着き、ここに治国別の宣伝使一行と出会し、眼病の平癒するまで特別の使命によつて大神の御舎を建設する事となつた。祠の森には杉、桧、松其他立派の用材が惟神的に立並んでゐた。此河鹿峠は常に風烈しく、且つ山一面の岩石にて大木は育たず、僅に二三尺ばかりの痩せこけた古木が岩石の間を点綴するに過ぎない。然るに此河鹿山の一部なる祠の森は谷と谷との懐に当り、あまり烈風の害もなく地味亦比較的肥たれば、斯くも樹木の繁茂して相当に広き森林をなしてゐたのである。 国照姫の神勅により、愈大神の神殿を建設する事となり、玉国別総監督の許に五十子姫、今子姫、道公、純公、伊太公及びバラモンの軍人なりしイル、イク、サール、ヨル、テル、ハル及び晴公、珍彦、静子、楓等昼夜の別なく忌鋤忌斧を以て木を伐り倒し、土ひき均し、地盤を固めて愈神殿建築の準備に着手する事となつた。此時浮木の森の陣営にありしランチ将軍、片彦将軍以下は何れも三五教に帰順し、数多の軍卒は四方八方に散乱し此辺りは漸く平和に帰したれば、其国人は是全く三五の神の恵みと打喜び其神恩に報ずるためとて祠の森の神殿建設に対し金額を献じ、或は献労をなすもの四方より集まり来り、実に淋しき此谷間は鍬の音、忌鋤、忌斧の音、並びに石搗歌や人の歓び声にて充され、猪、猿等の獣は遠く逃げ去りて影をも留めなくなつた。 道公は土木の主任者となり工事監督の任に当つた。然し玉国別が総監督たる事は前述の通りである。石搗の歌は盛に木精に響き来る。その歌、 (石搗歌)『高天原に現れませる皇大神の御言もて 神素盞嗚の大神はウブスナ山の聖場に 斎苑の館を建て玉ひ普く世人を救はむと 珍の教を遠近に開かせ玉ふぞ有難き 玉国別の宣伝使神の御言を蒙りて 寒けき冬の初空を沐雨櫛風厭ひなく 河鹿峠に来て見れば聞きしにまさる荒い風 一歩さへも進み得ず懐谷に身を寄せて 風の過ぐるを待つ間に思ひもかけぬ山猿に 右の眼を破られて苦しみ玉ふ悲しさよ 尊き神の御使が斯かる艱みに会ひますは 全く神の戒めか但は何かのお仕組か 互に顔を見合せて神の心を量りかね 中有に迷ふ折もあれ治国別の宣伝使 現はれまして宣らすやう玉国別の宣伝使 貴方は神のお仕組で艱みに遭はせ玉ひなむ 心を安けく平らけく思召されと宣りつつも 慰め玉ふ時もあれ五十子の姫や今子姫 遥々ここに来りまし国照姫の神懸 伝へ玉ひし言の葉は祠の森に皇神の 瑞の御舎仕へまし高天原に宮柱 太しく建てて世の人を普く救ひ曲神の 進路を防ぎまつれよと其神言を畏みて 上津岩根に搗固め下津岩根に搗こらし 石切り開き土均し信徒どもが寄り合ひて 暑さ寒さも打忘れ身もたなしらに仕へ行く 此有様は天国の天人どもも歓ぎつつ 業を喜ぶ如くなり神世の元に還りなば 天は高しと云ふけれど天は極めて近くなる 天地和合のミロクの世神人共に楽しみて 常世の春を迎へなむ早く身魂を研けよと 宣らせ玉ひし三五の厳の霊の御神勅 今目のあたりに現はれて実にも尊き限りなり アヽ諸人よ諸人よ此世に人と生れ来て 尊き神の神業に汗をたらして仕ふるは これに過ぎたる功徳なし生きては地上の神となり 死しては清き天界の珍の団体に加はりて 至喜と至楽の生涯を楽しむ身魂となりぬべし 思へば思へば有難や此地の上に住むものは 数限りなくあるとても神の形に作られて 神に代りて神業を勤むる人と生れたる 吾等は実にも万物の霊長なりと喜びて 誠の神をよく愛し善の徳をば蓄積し 皇大神の神格を充して下りましませる 神素盞嗚大神を救ひの神と慕ひつつ 誠一つを尽すべし打てよ打て打てよく打てよ 下津岩根の底までも竜宮の釜の割れる迄 地獄の橋の落ちるまで喜び勇む鬨の声 高天原の天国の各団体によく響き 百の天人喜びて此石搗を完全に 仕へまつらむ其為めに処狭きまで降りまし 天地神人和合して此神業に仕へつつ 神の心に叶はなむあゝ惟神々々 御魂幸ひましませよ』 と音頭をとり、ドンドンと広き敷地を四方より搗き始めたり。 (石搗歌)『河鹿山から祠の森を見ればヨイトシヨヨイトシヨ 皇大神の御舎をドツコイシヨドツコイシヨ ヨイトサヨイトサ誠の人が集まつて 汗を流して御用するヨイトセヨイトセ ハーア、ヨーイトセーヨーイヤナー 大黒主の神さまはヨイトセヨイトセ 印度の都に坐しましてバラモン教の大棟梁 ヨイトサ、ヨイトセヨイトサ、ヨイトシヨ 鬼雲姫の奥さまを愛憎もなしに追ひ出して ドツコイシヨドツコイシヨ天女の様な石生能姫 其外数多のナイスをばヨイトシヨ、ヨイトセ 朝から晩まで侍らせて飲めよ歌へと散財し ウントコシヨ、ドツコイシヨ人の難儀は、うわの空 七千余国の月の国ヨイトセヨイトセ 阿鼻叫喚の声に充ち修羅の巷となつて来た ヨイトセヨイトセ此様な事が十年も 続いたならば世の中はヤツトコセーヤツトコセー サツパリ暗になるだらう如何したらよからうかと思ふたら ア、ウントコシヨ、ドツコイシヨ天道さまは吾々を 決して見捨て玉はないドツコイシヨドツコイシヨ イソの館に天国の姿を写して神柱 ウントコシヨ、ドツコイシヨ救ひの神と現れませる 神素盞嗚の大神のヤツトコセ、ドツコイセ 仁慈無限の神心に遣はし玉ふ宣伝使 ヨイトサ、ヨイトサ天地に塞がる村雲も 之にてサツパリ晴れるだろドツコイシヨドツコイシヨ バラモン教に仕へたる吾等は神の恵みにて ドツコイシヨドツコイシヨ三五教に助けられ 祠の森の御普請にヤツトコセーヤツトコセー 使うて頂く嬉しさよ使うて貰ふた楽しさよ ア、ドツコイシヨドツコイシヨヨイトセーヨイトセー ヨイヤサーヨイヤサー打てよ打て打てドンドン打てよ 地獄の釜の割れるまで竜宮の城が揺ぐまで ドツコイシヨドツコイシヨヨイトセーヨイトセー』 と一生懸命にバラモン派の連中が躍起となつて骨身を惜しまず石搗に活動した。漸くにして三日三夜を経て基礎工事は全く完結を告げた。 之より一同は石搗の祝として、四方の人々より神恩の感謝を兼ね、祝として奉りたる酒やパン其外珍しき果物を処狭き迄敷き並べ祝宴を開き神恩を感謝したりける。 (大正一二・一・一六旧一一・一一・三〇北村隆光録) |
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霊界物語 | 49_子_祠の森の物語1(高姫と妖幻坊) | 06 梅の初花 | 第六章梅の初花〔一二八〇〕 初稚姫はハルナの都に蟠る大黒主の身魂を救ひ、天下の害を除かむため神素盞嗚大神の命を奉じ、供をもつれず只一人征途に上らむとし、百日有余を杢助の宅に奥深く潜みて神の教をよく調べ聖言を耽読し愈父に別れを告げ征途に上るべくイソの館の八島主に暇乞ひのため面会を乞ふた。此初稚姫は照国別、玉国別、治国別及び黄金姫、清照姫等と同時に出征の途に上る筈であつたが、神素盞嗚大神の命令黙し難く、ここに一百有余日自宅に於て修業を命ぜらるる事となつたのである。 初稚姫は、イソの館の奥の神殿に進み、神素盞嗚尊の大前に伺候し、八島主神に挨拶すべく訪問した。八島主は喜んで出で迎へ初稚姫を居間に招じて悪魔征討に対し初稚姫が採らむとする其大略を聞きとり莞爾として打喜び且つ云ふやう、 八島『初稚姫様、貴女は愈数千里を隔てたるハルナの都にお出遊ばすに就いては、最早年頃、独身者では何かの都合が悪いでせう。どうか今の間に夫たるべき人をきめておかなくては、途中に困る事が出来るでせう』 初稚『妾は年が若う厶りますれば夫なぞは持つ気はありませぬ、又理想の夫が見当りませぬから』 八島『人間が地上の世界にある間は如何しても独身生活は出来ませぬ。又理想の夫を得様等と何程思つても、さううまく貴女の気に入りさうな事はありませぬ。夫たり妻たるものは各其欠点を辛抱し合ふてここに初めて円満な家庭を作り、大神の神業に参加し得るのです。理想の夫を求めむとし又理想の妻を得むとする欲望は到底現界では望み得られませぬ。何事も神様の命に従つて夫婦睦じく暮すより道はありませぬ。理想の夫又は妻等は到底天国でなければ自然界に左右せらるる肉体人は到底駄目です。然し乍ら、三五教の御教がスツパリと天下に行き渡り人間の心が理想的に改良さるる様になつた暁は地上にも亦天国の型が其儘に映り人間は理想の婚姻をする事が出来るでせう』 初稚『然ば妾は地上にミロクの世が来る迄待つ事に致しませう。高天原の天人と天人との間に於ける神聖なる婚姻の状態は如何なもので厶りませうか』 八島『ここ五年や十年に到底理想の世界の出現は難かしいでせう。八岐大蛇の亡ぶ迄は到底地上に天国は完全に来ませぬ。高天原の婚姻に就て一言お話しすれば、天人と天女との婚姻あるは猶地上の世界に男女両性の婚姻が行はれてゐるやうなものであります。そして高天原に於けると地上の世界に於けるとはその婚姻に相違の点もあり一致の点もあります。そもそも、 一、高天原の婚姻なるものは智性と意志との二つのものを和合して一心となすの謂であり、智性と意志の二つのものが合一して、動作するものを一心といひます。夫は智性妻は意志と呼ばるる部分を代表するものであります。 一、此和合は元より内分的に起るものであつて、之が霊身に属する時、之を知覚し感覚して愛なるものを生ずる。この愛を婚姻の愛といふのであります。智性と意志両者の和合して一心となる所に婚姻の愛なるものが発生するのである。故に天人は男女一体にして一双の夫婦は二個の天人でなく一個の天人となすのであります』 初稚『夫婦の間に以上御話の如き親和のあるのは男子女子創造の真因より来たるものでせうか』 八島『男子の生るるや自ら智的であるから凡ての思索は智性よりするものです。之に反して女子の生るるや自ら情的であるから、其思索も又意志より来るものであります。男女の性行より見るも形体より見るも明かな事実です。性情から見る時は男子の行動は凡て理性的で女子は情動的であります。その形態の上から見ても男子の面は女子の如く優美で柔軟でない。男子は身体剛健なれども女子は柔嫩なものであります。故に男女間に於ける智性と意志や情動と想念との間にも亦これに似たる区別があります。真と善、信と愛との間にも区別がある。如何とならば信と真とは智性に属し、善と愛とは意志に属するからであります』 初稚『天国に於て青年、成人、処女、婦人の区別がありますか』 八島『霊的意義より言ふ時は、真を全得すべき智を表はして青年成人となし、善に対する情動を表はして処女、婦人といふのである。又この善と真とに対する情動より見て聖場、又は教場を婦人と呼んだり、処女と呼び、変性女子の身魂と呼ぶこともあるのです』 初稚『男子は智性のみ活動し、女子は意志のみ活動するものとの御説は、妾には少しも合点が行きませぬ。女子だつて智性をも有つてゐる様に思はれますが……』 八島『男女の区別なく智性も意志も保有してゐるのです。唯々男子は智性を主とし女子は意志を主とするのみです。人の性格を定むるは、其主とする所如何に由らなければ成らない。併し高天原に於ける婚姻には偏重する所がない。即ち妻の意志は夫の意志であり、夫の智性は妻の智性である。男女互に他の思ふ所を思ひ、志す所を志すが故に、両者の想念と意志とは互に感応し相和合して一体となるのです。この和合は実際上の和合だから夫の智性は妻の意志に入り、妻の意志は夫の智性に入るものです。そしてこの和合は殊に相互間に於てその面を見る時に於て生ずるものである。高天原には、想念と情動の交通あるが上に殊に夫婦の間には相愛深き故、この交通は更に濃厚密接の度が強いからであります。是を見ても高天原の天人等の婚姻状態は如何にして成立するか。この愛を喚起する所の男女両心の和合とは如何なるものかが明かになつたでありませう。天国のこの愛なるものは相互に自己の有する一切を挙げて他に与へむと願ふ心なることは明かであります』 初稚『男子の智性と女子の意志との和合して一心一体となり、天国の婚姻が神聖に行はれる状態は明瞭に覚る事を得ました。併し智性は何物を摂受し、意志は何ものを天国に於て摂受し得るものなるか今一度御明示を願ひます』 八島『神聖なる婚姻をなせる男女の間に此の如き和合一致のある限り彼等天人男女は婚姻の愛に居り又之と同時に智慧と証覚と幸福と歓喜とに居るものであります。一切の智慧と証覚と幸福と歓喜の来るべき源泉なる神善の神真とは主として婚姻の愛の中に流入するものなるが故であります。故に婚姻の愛なるものは神格が流入する所の平面そのものである。蓋し同時に真と善との婚姻だからであります。真と善との和合は智性と意志との和合の如くであつて、智は神真を摂受し、これに由つて其智性を成就し、意は神善を摂受し之に由つて其意性を成就するのであります』 初稚『智性と意志との和合と、真と善との和合に如何なる区別がありますか』 八島『畢竟同一であります。真と善との和合は天人を成就し、又智慧と証覚と幸福と歓喜とを成就するものです。如何となれば天人の天人たるは如何なる程度まで彼の善は真と和合し、彼の真は善と和合したかに在るのです。要するに彼の愛は信と和合し彼の信は愛と和合した程度の如何に由つて婚姻の行はるるものであります』 初稚『善と真との和合の原因は何れより来たるものですか』 八島『太元神が高天原及び地の世界にある万物に対して有し給へる神愛より発するのです。この神愛より神善を出し、そして此神善は天人と神的諸真に居る人々とが享くるものである。善を享くる唯一無二の器は、真より外に無いのだから、真に居らないものは何事も太元神及び高天原より享くることは出来ないのです。故に人間にある所の諸々の真にして善と和合した限り、太元神及び天界と和合するのです。婚姻の愛の原頭なるものは茲にあります。故にこの愛なるものは神格の流るる平面そのものです。又高天原に於て善と真との和合せし状態を、天的婚姻と云ふのであります』 初稚『高天原の夫婦は二個一体即ち一天人の形式の様に承はりましたが、尚今一度詳細な説明を願ひます』 八島『天人または地上の人間の中に和合した善と真とは一にして二にあらず。何故なれば善は真よりし真は善よりするからである。この和合は人その志す所を思ひ、その思ふ所を志す時に成り立つ所の和合の如くにして、この時彼の想念と意志とは一となつて即ち一心を成すに至る。何んとなれば想念は意志の欲する所に従つて象づくり之を形式の上に現はし、而して意志は之に歓喜の情を附与するからであります。高天原に於て男女両者の婚姻せるを一個の天人と呼びなし、両個の天人とせないのは之が為であります』 初稚『元始に人を造り給ひしものは之を男女に造れり。此故に人父母を離れて其妻に合ふ。二人のもの一体となるなり。されば二つにはあらず一体なり。神の合せ給へるものは人之を離すべからず。此言は人皆受け納るること能はず、唯賦けられたるもののみ之を為し得べし……と聖言[※この「聖言」とは新約聖書の言葉のようである。マタイによる福音書第19章第4節から第11節を要約したものか?次は口語訳聖書からの引用。「『創造者は初めから人を男と女とに造られ、そして言われた、それゆえに、人は父母を離れ、その妻と結ばれ、ふたりの者は一体となるべきである』彼らはもはや、ふたりではなく一体である。だから、神が合わせられたものを、人は離してはならない」(第4~6節)、「その言葉を受けいれることができるのはすべての人ではなく、ただそれを授けられている人々だけである」(第11章)]に記されたるは天人の居る天界の婚姻ですか』 八島『天界に於ける天人の婚姻であつて是れ善と真との婚姻、神の結び給ふた婚姻は人が離すことは出来ない。要するに善を真から離すことは出来ぬといふ意義であります。是に由つて真の婚姻は何れの処から創まるかを見ることが出来るのです。即ち先づ婚姻を結ぶものの心裡が成り立ち之から伝はつて肉体に下り、此処に知覚ありて之を感じて愛となるのです。凡て肉体の感ずる所、知覚する所は、皆其源泉を人の霊的原力に汲むものなるが故であります』 初稚『いろいろと御理解を仰ぎまして有難う厶います。然し乍ら、それを承はらば尚々私は地上に於て婚姻をする事が気が向かない様です。併し乍ら父にも申して置きましたものですが、ハルナの都の御用が済んでから貴方様方の御世話に預つて、それ相当の夫と婚姻する事を誓つておきます。決して妾は独身主義でやり通さうとは申しませぬ。何と云つても年も若く前途も長いのですから、独立独歩の活動が致し度う厶ります』 八島『さう仰有れば強つて申しませぬ。実の所白状致しますが素盞嗚大神より貴女の御精神を試して見よとの仰せで厶りました故、斯様の事を申上げました。其御決心ならばキツとハルナの都の邪神を言向和す事が出来るでせう。夫がお在りになるとすれば実際の活動は出来ませぬからな。八人乙女の方々でも夫を持たれた方は家庭の主婦として自由自在の活動が出来ない様なものです。まだ独身でゐらつしやる英子姫様悦子姫様等はあの通りの大活動を試みられて居られますからな。それもやはり独身のお蔭ですよ。時に初稚姫さま、杢助さまは貴女の出立を何故お送りにならないのですか』 初稚『父は左様な女々しいものでは御座りませぬ。妾が「父上さま、之より御用のため遥々ハルナの都へ参りますから何卒御壮健で」と申しましたら父は直ちに声を荒らげ「決して杢助の事は気にかけちやならない。お前はお前の御用があるのだ」と云つたきり門口へ見送りもして呉れませなんだのです。実に親の愛と云ふものは深いもので厶ります。妾も父の雄々しき心根に対しても飽迄大神様のため、世人のために、活動を致さねばなりませぬ』 八島『成程、此親にして此子あり、イヤもう感じ入りました。素盞嗚大神様が貴女親子の御精神をお聞きになりましたら嘸御満足に思召すで御座りませう。何卒仕合せよく征途にお上り下さいませ』 初稚姫『惟神神の恵みに助けられ ハルナの都に進む嬉しさ。 八島主神の命よ吾父を 守らせ玉へ朝な夕なに』 八島主『親思ひ子思ふ心ぞ世にも尊けれ 神に任せし心ぞ尚も尊き。 初稚姫イソの館を出でませば 神は汝をば守りますらむ』 初稚姫『八十曲津如何に伊猛り狂ふとも 誠の剣に斬り屠らなむ。 大神の依さし玉ひし言霊を 力と頼み行くぞ嬉しき』 八島主『いざさらば之にてお別れ申すべし 初稚……………八島主君安くましませ』 と歌ひ終り此処に両神人は袂を分つ事となりぬ。初稚姫は春とは云へどまだ寒き風に衣の袖を煽られ乍ら、ウブスナ山の咲き初めし梅の花の薫りに名残を惜しみつつ、此聖場を只一人草鞋脚絆に身を固め扮装も軽き蓑笠、金剛杖を突き乍ら踏みもならはぬ長途の旅に上るべく勇み進み行く。 (大正一二・一・一六旧一一・一一・三〇北村隆光録) |
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霊界物語 | 49_子_祠の森の物語1(高姫と妖幻坊) | 17 五身玉 | 第一七章五身玉〔一二九一〕 イル、イク、サールは、やさしき楓姫に酌をさせ乍ら四辺を憚りチビリチビリと飲んでゐたがソロソロ酔ひがまはるにつれて脱線し四辺構はず唄ひ出した。 イル『おい、イク、サール、如何だ。かう黙つてクビリクビリとやつてゐた処で酒が沈んで仕方がないぢやないか。チツト歌でも唄つたら如何だい。エーイ』 イク『宜からう宜からう一つ唄はうかな。 日の出の神の義理天上イソの宮から降つて来て 朝から晩までコテコテと白い粉をば顔に塗り 一寸眺めれや雪婆かヨイトセーヨイトセー もとの木阿弥杢助がブラリブラリとやつて来て 何だか俺は知らないが目出度い事が出来たさうだ お寅婆さまや魔我彦やヨルの兄貴に扮装して ヤ、ドツコイシヨドツコイシヨうまく眼を晦ました おかげでお酒やお肴がこれ程沢山戴ける ア、ヨイトセーヨイトセー。 アハヽヽヽヽ、エヘヽヽヽヽ、うまいうまい、こんな事なら毎日でもあつて欲しいものだ。僅か蓑笠着て一丁ばかり行つて酒を飲み、又帰つて此処で楓姫の白い手で……イヒヽヽヽヽ、ぼろいぢやないか』 サール『ナヽヽヽ何がぼろいのだい、エーン。これ位な味なくもない酒を飲まされて、見た事もない様な生肴をつきつけやがつて、アタ甘い、それが何結構なのだ。糞面白くもない。俺や、モウ自棄だ。之から義理天上日の出神の処へ行つて一つ管を巻いて来てやるのだい』 イル『こりやこりやさう八釜しう云ふない。ハル、テルの哥兄が気を揉むぢやないか』 サール『ナヽヽヽ何ぢや、木をもむ、そんな事があつて堪らうかい。木をもむ奴あ三目錐だ。俺は鉋だぞ。親の脛を削り、腕を削り又高姫の肴を削り、削つて削つて削りまはす鉋だ。それだからかんながら霊幸倍坐世と云ふのだ。エヘヽヽヽヽあゝ酔ふた酔ふた。楓さま、おい何だ。イルの方に妙な視線を向けてゐるぢやないか。チツと俺の方にも向けたら如何だい』 楓『ホヽヽヽヽ、あまりイルさまは男前のいい、何処ともなしに虫の好く方ですから、一生懸命に視線を向けてイルさまですよ』 イク『おい、楓姫さま、このイクには如何だい。思召しは厶りますかな』 楓『イクら仰有つて下さつてもイク地のないイクさまの方へは私の視線がイク道理が厶りませぬわ。ホヽヽヽヽ、お気に障ましたらイクへにもお詫致します』 イク『こりや、あまり馬鹿にすない。イクら女だつて、酒の上だつて、あまりの暴言吐くと此拳骨が貴様の頭の上にポカンとイクさまだぞ』 楓『山田の案山子の様なスタイルで、オヽヽヽ可笑し、これイクさま、弥之助人形の踊一つ、して御覧。貴方ならよく似合ふに違ひないわ。丁度渋紙に顔かいた様なスタイルだからね』 イル『アハヽヽヽヽ、面白い面白い』 イク『ヘン、馬鹿にしやがる。楓、覚えてゐやがれ。月夜の晩ばかりでないぞ。暗の晩に首筋がヒヤリとしたら俺だからな』 楓『何とマア気障な男だ事。あゝ臭さ、臭い臭い。息のかからぬ処に行つて下さい。お前の口はまるで鰯のドーケン壺を交ぜかへした様だわ』 サール『これ、楓さま、此面はお気に入りますかな』 とニユツと前に出す。楓は頬辺をピシヤツと叩き、 楓『エーエ、好かぬたらしい男だ事。お前はサールの人真似だよ。悪戯た事をなサールと、此楓だつて量見はしませぬぞえ』 サール『ヤー、こいつは恐れ入つた。如何したら姫さまのお気に入るのですかな』 楓『さうだね。私の好きな男は酒を飲まない、さうして色の白い、年の若い、頭の毛の黒い、目のパツチリした、口許のしまつた鼻のツンモリとした男が好きだよ』 サール『さうすると、その条件に合格したのは此サールかな。只欠点は酒を飲むだけの事だ。これ楓姫さま、そんなら今日限り酒は一吸も飲まぬ様にする。そしたらお気に入るだらうね』 楓『エー、好かぬたらしい。誰がお前の様なスカンペイに秋波を送るものがありますか。冗談もいい加減にしなさい』 と小さい柔かい手で頬辺をピシヤピシヤと殴る。サールは頗る御機嫌で相好を崩し涎を垂らし乍ら、 サール『エツヘヽヽヽ、姫さまのおやさしい手でピシヤピシヤとおいでやしたのだな。憎くて一つも叩かれやうかと云つて、俺にはホの字とレの字だな。おい、イク、イル、羨るい事はないか』 イク『ハヽヽヽ、馬鹿だな。子供上りの女に玩弄にされやがつて、何の態だ。それだから高姫の風来者に放り出されるのだ』 サール『放り出されたのは俺ばかりぢやない。貴様等両人も同様ぢやないか』 イル『何、一寸芝居したのだ。何も貴様、よう考へて見よ。高姫や杢助に命令を受けたのぢやない。俺等は此宮を創立遊ばした玉国別御夫婦から任命されたものだ。云はば高姫如きは風来者だ。彼奴は屹度イソの館を放り出されて来たに違ひないぞ。それでヨルや魔我彦がイソの館へ行くのを頻りにとめやがるのだ』 サール『さう聞けばさうだ。高姫に何も遠慮会釈があるものか。俺等は祠の森の常置品だ。之から高姫を揶揄つてやつたら如何だい、面白いぞ』 イル『うん、そりや宜からう。それよりも土堤ぎり、此処で大声張り上げて唄つて見ようぢやないか。さうすりやビツクリして高ちやんがやつて来るかも知れぬぞ』 かかる処へハル、テルの両人は走り来り、 ハル『おいおい、チツト静にしてくれぬか。奥へ聞えるぢやないか。それだから貴様等に酒を飲ますと困ると云ふのだ。なあテル公、困つたものぢやないか』 テル『うん、本当に仕方のない代物だな。コリヤコリヤ三人の奴、もつと静かにせぬか』 サール『イヤー、魔法使のハルに、テル、ヤー、先程は御苦労で厶りました。お蔭さまで此通りお寅婆さまも、魔我彦さまもヨルも、夜中も、昼も今日も明日も明後日もお酒を頂きまして結構な睾丸の皺伸しをさして頂きました』 ハル『睾丸の皺伸しはいいが、さう大きな声を出しちや困るぢやないか』 サール『声の大きいのは俺の持前だよ。臍下丹田から副守が発動して責めるのだからな。おい、ハル、テルの哥兄、よう考へて見よ。俺等は別に高姫に遠慮する必要がないぢやないか。珍彦様や静子様、楓さまは申すに及ばず、吾々六人はバラモン組とは云へ今は三五教の立派な信者だ。否祠の森の役員だ。誰に遠慮会釈が要るものか。高姫と杢助を、同盟してオツ放り出してやらうぢやないか』 ハル『成る程、そりや、さうだ。さア之から一杯機嫌で高姫の居間へ乗り込み、一談判やらうかな』 一同『賛成賛成』 とヒヨロヒヨロし乍ら、長い廊下を伝ふてドヤドヤと高姫の部屋へ転げ込んだ。高姫は今やフツと気がついて火鉢に凭れて煙草をくゆらしてゐる処であつた。四辺を見れば杢助の姿は何処へ行つたか影も形もない。高姫は心の中で、 高姫『アーア、何だか怪体の奴が出て来たので、杢助さまも私に恥かしいと見えて、森の散歩でもやつて厶るのかな。大きな図体をしても気の弱い男だな。然し義理天上の生宮にはもつて来いだ。あまり男がテキハキすると日の出の神の勤めが仕難うて仕方がない。神様もうまく配剤をして下さるものだ。あゝ有難い有難い、此生宮も何だか肩幅が広くなつた様な気がしますわい』 と独言つつ笑壺に入つてゐる。五人の泥酔者は襖をガラリと開け、居間に雪崩れ込み、捻鉢巻をし乍ら毛の生えた尻を引きまくり、 五人『祠の森に、デツカンシヨデカイお尻据えよつて デツカンシヨデツカンシヨ日の出の神とは何の事 元をただせば居候ぢやないか魔法使と騙まされて それを誠と思ひつめ喜んでゐる様な盲神 デツカンシヨデツカンシヨサアサア之から出て貰はう 俺等五人は祠の森の神の任さしの常置品 挺でも棒でも動かないデツカンシヨデツカンシヨ さアさア杢助、高姫さま早くトツトとお帰りよ お前に頼んで来てくれと云つたぢやあろまい、御勝手に お出たのだから御勝手にお帰りなさるが宜しかろ ア、デツカンシヨデツカンシヨお寅婆さまや魔我彦や ヨルの三人今頃は河鹿峠を鼻唄で ア、ウントコドツコイドツコイシヨ三五教の宣伝歌 歌ふて渡つて厶るだろやがて四五日経つたなら 八島の主の神さまの屹度使が見えるだろ 其時やアフンと高姫が肝玉潰すに違ひない 思へば思へば気の毒だこれこれもうし高チヤンよ お前の足許明い中杢助親爺と手を曳いて ここをば立つて下さんせ之が吾等のお願ひだ 之程優しう頼むのに四の五の吐して出て行かな 俺も男だ腕まかせ直接行動に出まするぞ さアさア早く返答を聞かしてくれよ義理天上 贋の日の出神さまよアハヽヽヽ、アハヽヽヽ ホンに心地のよい事だ高姫夫婦を放り出した あとは珍彦静子さま天女のやうな楓さま 智慧も器量も優れたるイル、イク、サール、ハル、テルの 五人の男が頑張つて祠の森の神徳を 四方八方に輝かし大神さまのお恵みを 世界のものに施してミロク成就の神業に 立派に仕へて見せませうアハヽヽヽ、アハヽヽヽ。 おい、高姫、如何だい。もういい加減に尻をからげたら宜かりさうなものだな。ヨルがもし帰つたら化けが現はれるのだから、其前にトツトと帰んだ方がお前の身のためだぞ』 高姫は目に角を立て煙管をグツと握り、 高姫『こりや、五人の耄碌共、何処へ行つて、けつかつたのだ。日の出神の義理天上を何と心得てる。仮令イソの館の八島の主が何と申さうとも、彼奴は人間だ。誠の生神は日の出神様だぞや。大国治立之命の片腕とおなり遊ばす日の出神の生宮を粗末に申すと、神は堪忍袋が切れるぞや。そしてイル、イク、サール、お前は一旦暇を出したのぢやないか。盆すぎの仏の様に、ド甲斐性のない、又、帰つたのか。一旦放り出した以上は帰んでくれ帰んでくれ、日の出神が一秒時間だつて置かぬと云つたら置きはせぬぞや』 イク『アハヽヽヽ、吐したりな吐したりな。こりや高姫、此方を誰方と心得てる。イルイクサールの神、又の名はハルテル彦の命だぞ。五つの身魂が一つになつて守護致す、五身魂の神を何と心得てる。グヅグヅ致して居ると目から火の出神としてやらうか。さアさア早く帰んで貰はう、祓ひ給へ清め給へ』 高姫『何とまア、もとのバラモンのガラクタだけあつて、分らぬ男だこと。そんなら暫らく放り出すのだけは猶予して上げようぞ。その代り徹頭徹尾高姫の云ふ事を聞くのだよ』 イク『ヘーン、うまい事仰有いますわい。イルイクサールの神又の御名はハルテル彦神さまに対し、家来扱をすると云ふ事があるか。チツと階級と云ふ事を考へて貰ひたいものだ』 高姫『おい五人の役員さま、父死して牆に鬩ぐ兄弟、相親しむと云ふ事があるぢやないか。肝腎の玉国別さまが留守なのだから日の出神の云ふ事を聞いて、私は教の親となり、お前等は兄弟となつて仲よく御神業に奉仕したら如何だい』 ハル『ヤー、高姫さま、お前さまの方から、さう柔かく出りや此方も文句はないのだ。其代りお神酒のお下りを何程飲つても、滅多に干渉はせぬだらうな』 高姫『アヽ仕方がない。暫らくはお前らに任して置かう。其代り日の出神の仰有る事は何事も聞くのだよ』 五人一同に、 五人『イルイクサールの神、又の御名はハルテル彦命、義理天上贋日の出神の申す事確に聞き済みありたぞよ、アハヽヽヽヽ』 高姫『ウフヽヽヽヽ、エー仕様もない』 (大正一二・一・一九旧一一・一二・三北村隆光録) |
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霊界物語 | 50_丑_祠の森の物語2 | 03 高魔腹 | 第三章高魔腹〔一二九七〕 初稚姫は祠の森の神殿に参拝し、長途の遠征を守らせ給へと祈願をこらし、再び高姫の居間へ引返した。高姫は遠く従うて神殿近く進み、初稚姫の後姿を打眺め、何処ともなしに其神格の完備せるに打驚き舌をまいた。そして高姫は其神格に感じ、心の底より初稚姫を神の如く尊敬した。併し乍ら何処ともなく恐怖心に駆られ、且其神格の偉大なるに稍嫉妬の念を兆したのである。今まで初稚姫の大神格に圧倒され、暫し高姫の身体内に潜みて沈黙を守つて居た金毛九尾の悪狐は、高姫が少しく嫉妬心の兆したのを幸ひ、其虚に入り忽ち囁いて云ふ。 悪狐『吾は汝の略知る如く、神代に於て常世姫命に憑依し罪悪の限りを尽した金毛九尾白面の悪狐である。併しながら時節来りてミロクの大神、地上に降臨し給ひし上は、吾等は何時迄も悪を続ける訳には行かぬ。吾は悪の張本人なれば世の中一切の悪神の企みは皆知つてゐる。悪に強ければ善にも強い。吾は金毛九尾白面の悪狐だ。そして汝は常世姫命の身魂の再来だ。もう斯うなる上は一切万事を打ち明けて、悪の企みを瑞の御霊の大神にお知らせ申さねばならぬ。就いてはあの初稚姫は稚桜姫命の再来なれば、到底汝等の匹敵すべき神人ではない。寧ろ吾よりトコトン改心を致すべければ、汝も彼の初稚姫を師と仰ぎ、共に神業に参加すべし』 と甘く高姫を誑惑してしまつた。高姫は兇霊の言を深く信じて初稚姫に対する態度を一変した。初稚姫は神殿の拝礼を終り、階段を下りながら心私かに思ふやう、 初稚姫『彼高姫には金毛九尾の悪狐の霊憑依せり。而して彼悪霊は形体を有するものなれば、吾真相を現はさば忽ち彼が肉体を亡ぼすか、但は遁走して又もや相応の肉体に住居を構へ世を惑乱するに至らむ。如かず吾は和光同塵の態度を極力維持し、彼の悪霊を高姫の肉体に長く残留せしめ、彼が根本より改心すれば重畳なれども、万一改心せずとも高姫の肉体中に秘め置かば、彼精霊は外に出づる虞なし。要するに高姫の肉体は天下を乱す悪霊をつなぐ処の牢獄と見ればいい。もとより徹底的兇霊なれば、神の光明に照されなば、兇霊は忽ち自暴自棄となり、益々神業の妨害をなすべし。如かず、神慮に背くかは知らざれども、暫く吾は猫を被つて彼と交際し、何時とはなしに高姫と精霊とを天国に救ひやらむ』 と決心し、大神に念じながら素知らぬ顔にて高姫の居間に帰つて来た。精霊は高姫の口舌を使用して、いとやさしげに言葉を飾つて云ふやう、 高姫(悪狐)『変性男子の御身魂初稚姫様、よくも御降臨下さいました。私は三五教の宣伝使、御存じの高姫で厶ります。大神様の御都合により悪神の張本金毛九尾の悪狐が私の肉体に潜み入り、私の真心に感化されて漸く改心を致しまして、今迄の悪をスツクリ白状致しました。就いては凡ての悪神の企みは何も彼も存じて居ると申して居りますから、私が守護神と共に此祠の森に大門を造り、凡ての人民の因縁をよく調べ改心をさせた上、斎苑の館へ送る考へで厶ります。何卒此事をお許し下さいます様に、変性男子の御霊様、お願ひ申します。そして一方には変性男子の系統なる義理天上日出神が、厳の御霊の御命令によりまして世界中を調べに歩き、世の初まりの根本の根本の成り立ちから、人民の大先祖の因縁、大黒主の身魂は如何なる因縁があるか、竜宮の乙姫のお働きは如何なるものかと云ふ事を知らしたいので厶ります。今の三五教には宣伝使は沢山厶りますが、皆智慧、学で神界の事を考へようと致すので厶りますから何も分りませぬ。貴女は変性男子の生粋の大和魂の善の神様で厶りますから、何も彼も三千世界の事は御存じで厶りますが、外の守護神や宣伝使や信者はサツパリ駄目で厶ります。それ故此処に大門を拵へ、私が一々因縁をあらため、斎苑の館へ参拝さす御役にして下さいませぬか』 と兇霊はうまく高姫に化けて虫のよい事を頼みかけた。初稚姫は彼が奸計を残らず看破した。されど前述の如く初稚姫は此悪霊を審判する事を避けられたのである。 初稚姫『貴女は信心堅固にして霊界によくお通じ遊ばした方と見えますな。妾は賤しき杢助の娘と生れ、まだ年も若く、社会的の経験さへも積んでゐない愚者で厶りますから、到底霊界の消息等は分りませぬ。就いては貴女に対し左様の事をお許し申すなどとは以ての外の事で厶ります。何れ神様が貴女の御神力をお認め遊ばしたならば、屹度瑞の御霊の大神様からお許しが厶りませう。妾には左様な権限は少しも厶りませぬから、左様な事を仰有らない様にお願ひ致します。何卒至らぬ妾、神徳高き貴女様より御教授を御願ひ致したいもので厶ります』 と一切の光明を包み、普通人の如くなつて了つた。高姫はニタリと打笑ひ、 高姫『アー、さうだらうさうだらう、それが正直の処だ。まだ年も若い癖に宣伝使に歩かすとは、瑞の御霊様も余程物好きな珍らし物喰ひだな。どれどれ此高姫がここで根本の根本の因縁を説いて聞かしますから十分修行をなさいませ。それでなければ、訳も分らずに宣伝に歩いたり、大黒主を言向和すなどとは、以ての外の無謀のやり方で厶りますからな』 初稚姫『何分、至らぬ妾、老練な貴女様の御薫陶をお願ひしたいもので厶ります』 高姫『ハイ、よしよし、お前は水晶魂だ。本当に素直な可愛い娘だな。これから此小母さまの云ふ事を聞くのだよ。否小母さまではない、絶つてもきれぬ母子だから、そのつもりでつき合つて下さいねー』 初稚姫は心に打笑ひながら故意と空惚けて、 初稚姫『小母様、今貴女は妾ときつてもきれぬ母子だと仰有いましたが、それは身魂の母子で厶りますか。チツとも愚鈍の妾には合点が参りませぬワ』 高姫『身魂の母子は申すに及ばぬ、お前さまは杢助さまの大切の娘だらう。其杢助さまは此度神様の因縁によつて常世姫命の改心した善の折の生粋の肉宮の此高姫の夫とおなり遊ばしたのだよ。杢助様だつて、此高姫だつて、よい年をしてから若いものか何ぞの様に夫婦になつたり、そんな見つともない事はしたくはない。胸に焼鉄をあてる様に思うてゐるのだが、これも神様のため、万民を救ふため、千座の置戸を負うて御神業に参加してるのだよ。訳の分らぬ人民がいろいろと申すであらうなれど、人民の申す事に心を悩まして居りたらミロク神政の御用が勤まりませぬ。訳知らぬ人民は、杢助、高姫の結婚を何となつと申して笑へば笑へ、誹らば誹れ、神のお仕組一厘の秘密が如何して一寸先も見えない人民に分るものか、と云ふ磐石の如き決心を以てここに夫婦の約束を結んだのだから、初稚さま、貴女もそのお積りで、私を母と思つて下さいや。私も貴女を大切の大切の御子と致して敬ひますから、母となり子となるのも昔の昔のさる昔、も一つ昔のまだ昔の天地開闢の初めから大神様より定められた因縁ぢやによつて、何卒その覚悟でゐて下され。何事にも素直なお賢いお前さまだから、此高姫の生宮の申す事、よく呑込めたでせうなア』 初稚姫は杢助の本物でなく、獅子と虎との中間動物なる兇霊に騙されてゐる事はよく看破して居た。されど故意と空惚けて、 初稚姫『高姫さま、私の父が何時そんな事を貴女と約束致しましたのですか、私今が初耳ですわ。まアまアまア不思議な御縁で厶りますこと。さうしてお父さまは何処へ行かれましたの』 高姫『一寸此森の中へ散歩にお出でになつたと見えます。杢助様は森の散歩が大変にお好きだと見えましてね。お前さまが此処へ訪ねて来られた事をお聞きになつたら、嘸喜ばれるでせう』 初稚姫『はて、妙な事だわ。妾のお父さまは斎苑の館の総務を勤めて居らつしやるのだから、ここへお越し遊ばす道理はありませぬがな』 高姫『これ初ちやま、お前の、さう疑ふのも尤もだ。実の処は杢助さまは、あの我の強い東野別の東助さまと云ふ副教主との間に事務上の衝突が起り、それがために斎苑の館を追ひ出されなさつたのですよ。東助の野郎、正直一途の英雄豪傑、三羽烏の御一人なる杢助さまを追ひ出すとは以ての外の悪人ぢやありませぬか。あの東助はやがて今迄目の上の瘤の様に困つてゐた杢助さまを首尾よく追ひ出し、斎苑の館の全権を掌握し、終には八島主の教主さまをおつ放り出し、自分が其後釜にすわると云ふ野心を抱いてをるのですよ。それでお前と私が此処で一肌脱いで、斎苑の館へ参る信者を小口から虱殺しに調べ、斎苑の館へやらぬ様にせねばなりませぬ。私がここで杢助さまと大門開きをしたのは、杢助さまや八島主の教主がお困りになつた時、お助け申すやうにチヤンと仕組をしてゐるのだから、お前さまも何処へも行かず、此処に居つて親子三人御用を致さうぢやありませぬか』 初稚姫『それは又不思議な事を承はります。東助様はそんなお方ぢやない様に思ひますがな』 高姫『それが善の仮面を被つてゐる悪魔ですよ。屹度悪人は悪相を以て現はれるものぢやありませぬ。所在虚偽と偽善を以て人民を詐り、虚栄的権威に甘んじてゐるものですよ。これ初稚さま、油断してはなりませぬぞや。此高姫は海千川千山千の修業をした善にも強い、悪にも強い、そして悪の企みは何も彼も看破してゐるのだから、一分一厘間違ひはありませぬよ』 初稚姫『あの東助さまは小母さまの若い時のお馴染だつたさうですな。そんなに悪口を云ふものぢやありませぬよ。父の杢助に比ぶれば、幾層倍人格が上だか知れぬぢやありませぬか』 高姫『ヤツパリ子供だな。然し子供は正直ぢや。何と云つても水晶魂だから心に罪がないので、表面から良く見える人を信用なさるのだ。そこが本当に尊い処だよ。然し高姫の云ふ事はチツとも違ひませぬぞや』 初稚姫『さうで厶りますかな。一遍父に会つてみたいものですがな。もし小母さま、長上をお使ひ申して真に済みませぬが、一度お父さまに会ひたう厶りますから、探して来て下さいませ』 高姫『アアさうだろさうだろ、無理もない。親子の情と云ふものは本当に尊いものだな。吾身を捨てる藪はあつても吾子を捨てる藪はないと云ふ事だが、杢助さまも何も彼も天眼通で知つて居りながら、こんな可愛い娘が来て居るのに、そしらぬ顔して森に散歩してゐなさるとは本当に水臭い方だな。子の心、親知らずだ。然し初稚さま、此高姫は斯う見えても本当にやさしいものですよ。杢助さまに比べて幾百倍も可愛がつてやりますから、何卒私を本当の母だと思つて下さいや』 初稚姫『ハイ、御親切有難う厶ります』 と俯向いて見せた。 高姫『これ初稚さま、一寸待つてゐて下さい。お父さまのあとを探して今直に屹度連れて参りますから』 と云ひながら羽ばたきしつつ欣々として森林の方に行く。高姫は森の茂みに隠れて後ふり返り舌をニユツと出し、いやらしい笑みを漏しながら独言、 高姫『何と云つてもヤツパリ子供だな。然しながらあの娘は何処ともなしに気高い処もあり、中々シヤンとした事を云ふ。あれをうまくチヨロまかし自分の子として置けば、三五教は吾手に握つた様なものだ。何と都合のいい事になつたものだな。これから一つでも、うまい物があつたら、あの娘に呉れてやり、そして十分懐かして置かねばならぬ。然し都合のいい事には杢助さまが私の夫だから、切つても切れぬ仲だ。ああ有難う厶ります、八岐の大蛇様、金毛九尾の大神様』 と口の中から囁いた。高姫は此声に驚いて目を怒らし、臍の辺を握り拳でトントンと打ちながら、 高姫『こりや、金毛九尾の悪狐奴、何と云ふ事を申すのだ。左様な事を申すと、もう此高姫は肉体を借さぬぞや。杢助さまや初稚姫の傍で、そんな事でも云うて見よれ。此高姫は立場がないぢやないか。改心致したと云うたぢやないか』 腹の中から、 (高姫に憑依している悪狐)『ここは誰も居ないから一寸云つて見たのだから、さう怒るものぢやない。メツタに人の居る処で正体は現はさぬから安心しておくれ』 高姫『よし、屹度守るか、うつかりした事を申すと常世姫の生宮が承知しませぬぞや。これから八岐大蛇や金毛九尾はスツカリ改心致して、あとへ日出神の義理天上が這入つてゐると何処までも主張するのだよ。よいか、分つたか。馬鹿な守護神だな』 腹の中から、 (高姫に憑依している悪狐)『何とまア、我の強い、向ふ息のきつい肉体だな、アハハハハ』 (大正一二・一・二〇旧一一・一二・四北村隆光録) |
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霊界物語 | 51_寅_浮木の森の曲輪城 | 10 女異呆醜 | 第一〇章女異呆醜〔一三二五〕 妖幻坊の曲神が曲輪の玉を使用して 夢幻の楼閣映出し名利と恋に心魂を 蘯かし狂ふ高姫をうまく誤魔化し萱草の 茫々茂る森林に誘ひ来りいろいろと 塵や芥や糞尿を至善至美なる宮殿や 其他百の珍品と眼くらませ狸穴に 引き入れ茲に曲神は天地を救ふ生神の 誠の道を攪乱し天の下をば悉く 暗と泥との魔界とし暴威を振ひ永久に 楽しまむとて心力のあらむ限りを尽すこそ 実にも忌々しき次第なり高宮姫に仕へたる 高子の素性は幻相坊宮子の素性は幻魔坊 妖幻坊の両腕と頼みきつたる妖怪ぞ 高姫心の誇りより曲の手管に乗せられて 浮び方なき魔の中に陥りながら欣然と 天下に無比の出世をなせしものぞと勇み立ち 日の出神の義理天上金毛九尾醜神も 亦高姫と同様に妖幻坊に欺かれ 悪魔の機関と使はれて喜び居るこそ憐れなれ 寒と熱とに冒されて一度は失神したれども 暫くありて甦り四辺を見れば高、宮の 二人の侍女はイソイソと高姫司の介抱して 薬を煎じ湯を沸し一心不乱に真心を 尽して仕へ居たりけり之を眺めて高姫は 怒りもならず顔色を和らげ二人に打向ひ 高姫『ほんにお前は如意宝珠潮満玉や潮干の 尊き玉の御化身か真に畏れ入りました 貴女の様なお身魂を何程日の出神ぢやとて お使ひ申すは何となく勿体ない様な気が致す 何卒貴女は高姫に構はず宝座に現はれて 金剛不壊の神力を完全に委曲に現はして 尊き神の御教を世に輝かしウラナイの 道を照らさせ給へかしお願ひ申す』と手を合し 頼めば二人は首を振り(高子、宮子)『いえいえ私は本城の 高宮彦の御命令天にも地にも代へ難き 高宮姫の側近く仕へ侍れと厳かな 命令受けて居りまする不束なれど吾々を 何卒お使ひ下されて日の出神の神業の 万分一に御使ひ遊ばし給へ』と手を合し 願ふ姿ぞ殊勝なれ高姫ますます図に乗つて 高姫『高子よ、宮子よ、汝は又如何した身魂の因縁か 変性男子の御系統常世の姫の御再来 日の出神の義理天上かからせ給ふ生宮の 高宮姫の側近く仕へ奉ると云ふ事は 之に越したる幸福は又と世界にあるまいぞ 之から先は神妙に高宮姫の云ふ事を 一つも背かず聞くがよい高宮彦は如意宝珠 持たせ給へば神力が斯くも立派に現はれて 清く輝きましませどあの宝玉を手放せば 人民界に籍を置き普通の人より勝れたる 智勇兼備の勇将ださはさりながら人間は 到底神には叶ふまい此高姫は人間と 姿を現じ居るなれど高天原の最奥の も一つ奥のまだ奥の天極紫微宮の其奥の 御殿にまします月の神日の大神の御子とます 日の出神の義理天上もう此上はないと云ふ 尊き身魂の肉の宮神人感合した上は 高宮姫は義理天上日の出神は私ぢやぞえ 曇り果てたる暗の世を日の出の守護にしよと思や ヤツパリ日の出神様が御用を致さにやなるまいぞ 五六七の神世と云ふ事は日の出の御代と云ふ事だ 厳の御霊や瑞御霊ミロクの神と云つたとて 日の出神の又の名だお前は年が若い故 こんな事をば云つたとて分らないのは無理はない さはさりながら如意宝珠金剛不壊の身魂なら 一旦私の腹中に這入つて生れた生魂よ さすればお前は吾娘変化の法で世に出でて ここに母子の廻り会ひほんに嬉しい事だなア ほんにお前も嬉しかろ之から三人村肝の 心を協せ手を曳いて瑞の御霊の三女神 高宮彦の神業を助けまつりて芳名を 幾万劫の末までも輝き渡す吾心 諾ひませよ高、宮の二人の御子よ惟神 神に誓ひて常世姫日の出神の生宮が 完全に委曲に教へおくああ惟神々々 御霊幸はひましませよ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 高宮彦や高宮の姫の命のある限り 金剛不壊の如意宝珠握つた上は天地を 一つに丸めて義理天上日の出の御代と立直し 五六七神政の太柱常磐堅磐に立並べ 世の大本の生神と称へらるるは目のあたり ああ有難し有難しこの世を造り給ひたる 厳の霊の大御神梵天帝釈自在天 大国彦の大御神盤古神王塩長の 彦の命や常世彦ウラルの彦の御前に 畏み畏み願ぎ奉るああ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と一生懸命に狸穴の中に寝言の様に歌つてゐる。高子は高宮姫の歌に答へて、綾の袖を胡蝶の如く、しなやかに振りながら、自ら歌ひ自ら舞うて高姫の心を慰めた。 高子『金剛不壊の如意宝珠其半分の分霊 世界の火熱を守護する高皇産霊の大神の 其分身が現はれてここに高子の姫となり 三千世界を救う為心を尽し身を尽し 獅子奮迅の活動を遊ばし給ふ常世姫 其肉宮の御為に近く仕へて神業を 完成せむと勇み立ち高宮彦の父神と 御身を守護し奉る日の出神の義理天上 かからせ給ふ生宮よ何卒々々吾々を 生みの御子とみそなはし弥永久に何時までも 御目をかけさせ給へかし朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 三五教の神司勢猛く攻め来とも 吾身の汝に従ひて守らむ限り百千の 猛き獣も曲津見も又三五の強敵も 何か恐れむ敷島の大和魂の如意宝珠 心平に安らかに思召されよ母の君 勇み喜び御前に真心こめて永久の 誓ひを結び奉るああ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ舞ひ終る。高姫は笑壺に入り、顔の紐をほどいて前途の光明を夢みつつあつた。宮子は又歌ふ。 宮子『日の出神の生宮と現はれませる神司 愈一陽来復の花咲く春の廻り来て 高宮城の司神高宮彦の妃となりて 三千世界の万霊を救はせ給ふ母となり 現はれますぞ尊けれ吾は水をば守護する 如意の宝珠の片割れぞ宮子の姫と現はれて 高宮姫の側近く仕へまつりし嬉しさよ 瑞の御霊の元の霊神皇産霊の大神の 玉の雫になり出でし此世を洗ふ瑞霊 厳と瑞とが相並び高宮城に現はれて 二人の御身を守護せば三千世界は永久に 無事泰平に治まりて枝もならさぬ神の御代 五六七の神世は忽ちに此地の上に顕現し 日の出神の神徳が輝き渡るは目のあたり 喜び仰ぎ奉るああ惟神々々 水の霊の宮子姫真心こめて母君の 御前に誓ひ奉る』 と歌ひ終り、淑かに座に着いた。高姫は、 高姫『何とまア結構な事が重なれば重なるものだな。もしや夢ではあるまいか』 と頬を抓つて見たり、眉毛に唾をつけて見たり、臍の辺りを突いたり押したりしながら、腹中のお客さまに向ひ、 高姫『おい、義理天上殿、金毛九尾殿、其他の眷属共、此高姫の出世を知つて居るか。お前達は如何考へる。もしも高姫が夢を見てゐるのなら、夢とハツキリと云うて呉れ。あまり結構過ぎて本当にならないから』 腹の中から大声で、 (義理天上と称する霊)『義理天上日の出神、今日のお喜び謹んでお祝ひ申す。高宮姫の肉体、御苦労で厶る。オツホホホホ、先づは目出度い、お目出度い。のう金毛九尾、結構ではないか』 (金毛九尾と称する霊)『成程々々、之にて願望成就致すであらう。いや大蛇殿、蟇殿、其他の連中、お喜び召され、アツハハハハ』 腹中より、 (その他の霊)『アツハハハハ、イツヒヒヒヒ、クツハハハハ、クツハハハハ、チツヒヒヒヒ』 とガラクタ霊が勝手に喜び笑ふ声が一つになつて井堰を切つた様な勢で高姫の口へ流れ出づるのであつた。 高子『お母さま、何、心配してゐられますの。何だか、云つて居らつしやつたぢやありませぬか』 高姫『あ、お前は子供だからまだ分るまいが、私は今義理天上さまや上義姫様、旭の豊栄昇姫さま、リントウビテン大臣さま等と御相談を申して居たのだよ』 高子『何とまア、お母さまは八人芸の様な重宝なお方ですね。なア宮子さま、私も貴女も、こんなお母さまを持ち、高宮彦のお父さまを持つて居るのだから、三千世界に恐いものはありませぬわネ』 宮子『さうですとも、それに違ひありませぬわ』 高姫『オツホホホホ、何とまア優しい子だな、肉体の人間から生れた子だと、私もチツとばかり悋気が起ろまいものでもないが、何といつても、私の腹にあつた如意宝珠から化けて出た子だから安心なものだ。なア高さま、宮さま、お前二人の名をよせるとお父さまの名にもなり、お母さまの名にもなるね』 高子『ホホホホホ、嬉しいわ』 宮子『エヘヘヘヘヘ、本当に有難いね』 斯く三人は打解けて立派な居間の中で、歌つたり舞うたり、美はしき果実を味はひながら一日を暮した。其実、萱野原の狸穴である事は前述の通りである。 (大正一二・一・二六旧一一・一二・一〇北村隆光録) |
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霊界物語 | 52_卯_小北山の文助の改心物語 | 17 飴屋 | 第一七章飴屋〔一三五三〕 霊主体従とは、人間の内分が神に向つて開け、唯神を愛し、神を理解し、善徳を積み、真の智慧を輝かし、信の真徳に居り、外的の事物に些しも拘泥せざる状態を云ふのである。斯の如き人は所謂地上の天人にして、生きながら天国に籍を置いて居る者で、この精霊を称して本守護神と云ふのである。至粋、至純、至美、至善、至愛、至真の徳に居るものでなくては、此境遇に居る事は出来ぬ。 又体主霊従とは、人間はどうしても霊界と現界との中間に介在するものである以上は、一方に天国を開き一方に地獄を開いて居るものだ。故に人間はどうしても善悪混交美醜互に交はつて世の中の神業に奉仕せなくてはならない。併しこれは、普通一般の善にも非ず悪にも非ざる人間の事である。人間は肉体を基礎とし、又終極点とするが故に、外的方面より見て体主霊従と云ふのであるが、併しながら、之を主観的に云へば霊的五分、体的五分、即ち、霊五体五たるべきものである。若し霊を軽んじ体を重んずるに至らば、茲に、体五霊五となるのである。同じ体五分霊五分と雖も、其所主の愛が外的なると、内的なるとに依つて、霊五体五となり、又体五霊五となるのである。故に霊五体五の人間は、天国に向つて内分が開け、体五霊五の人間は、地獄に向つて其内分が開けて居るものである。 一般に体主霊従と云へば、霊学の説明上悪となつて居るが、併し体主霊従とは、生ながら中有界に迷つて居る人間の境遇を云ふのである。人間は最善を尽し、唯一つの悪をなさなくても其心性情動の如何に依りて、或は善となり或は悪となるものである。故に人間は、どうしても霊五体五より下る事は出来ない。これを下れば忽ち地獄界に堕ちねばならぬのである。何程善を尽したと思つて居ても、其愛が神的なると自然的なるとに依つて、天国地獄が分るるのであるから、体主霊従的人間が、現世に於て一つでも悪事をなしたならば、どうしても是は体五霊五所か体六霊四、体七霊三となりて、忽ち地獄道へ落ちねばならぬのである。 信者の中には善悪不二とか、正邪一如とか云ふ聖言を楯に取つて、自分の勝手のよいやうに解釈して居る人もあるやうだが、是は神が善悪不二と云はるるのは中有界に迷へる人間に対して云はれるのであり、且神は善悪に拘はらず慈愛の心をもつて臨ませらるる見地から仰せらるる言葉である。決して人間の云為すべき言葉ではない。どうしても人間が肉体を保つて現世にある間は、絶対的の善を為す事は出来ない。併しながら其内的生涯に於て天国に籍を置く事を得るならば、最早これを霊主体従の人と云ふ事が出来るのである。 中有界の八衢は善悪正邪の審判所であつて、今日の人間の大部分はこの中有界と地獄界に籍を置いて居るものである。されども人間が霊肉脱離の関門を越えて霊界に行つた時は、其外分の情態は時を経るに従つて除却さるるが故に、其内分のみ存在し、茲に霊的生涯を営む事となる。此時は肉体に附ける総ての悪は払拭され、其純潔なる霊は天国の団体に、霊相応に和合し得るものである。併しながら余り利己心の強い精霊は、死後に至るまで其執着を残し、容易に駆除されないが故に、外分のみ開け、且又外分が時を追うて脱離すると共に其内底の悪は忽ち暴露され、妖怪変化の如き浅ましき面貌となつて地獄界に堕ち往くものである。 文助は漸くにして八衢の関所に着いた。白、赤二人の守衛に比較的叮嚀に導かれ、門の傍のロハ台の上に腰打かけ、息を休めて居た。半町ばかり手前に当つて騒がしい音が聞えて来た。 『トンチントントンチンチントントン チントン、チントン、チンチントン 夕日が赤い横町に 飴屋のお爺さん鉦ならす 大きい子供に小さな子供 一銭出しては飴お呉れ 二銭出しては飴お呉れ お爺サン両手が巧に動く 金魚が一つ兎が一つ も一つ目には日がくれた 飴屋のお爺さん鉦ならす』 と子供が沢山に群がつて飴屋の後から跟いて来る。飴屋は妙な身振をしながら、 『トンチントントン、チンチントントン チントンチントン、チンチントン』 と囃し立て、八衢の関所の前にやつて来た。さうして其処に荷を下ろし、おもちやの喇叭を頻りに吹き立てて沢山の子供を集め出した。子供は四方八方から集まつて来て、お酒に酔つた赤い銭や、白粉をつけた白い銀貨を出して、先を争うて『飴呉れ飴呉れ』と押しかける。飴屋は指の先を巧に動かして、兎や、鶏、達磨なぞを瞬く間に捻つては拵へ、麦藁でぷつと吹いて量を高うし、寄つて来る子供に金と引きかへに渡して居る。さうして子供の所望によつて又もや歌ひだした。 『トンチントントンチンチントントン チントンチントンチンチントン 飴の中からお多やんエ、お多やんが嫌なら金時だ 金時嫌なら達磨さま 兎でも餅つく、お猿でも 十五のお月さんの餅つきに よう似た飴屋のお爺さんよ こりやこりや其処らの子供達 飴が欲しけりや幾何でもやらう しかしお金と引きかへぢや 地獄の沙汰でも金次第 お金が無ければ甘い汁 どうしてもかうしても吸はりやせぬ お母の乳よりお砂糖より もつと甘いのは此飴ぢや あめが下には他人と云ふ事は 無いものぞやと三五教の 神様が云はしやつたけれど 何程あめの下ぢやとて 金が無ければ他人ぢやぞ 金が敵の世の中だ このお爺さんが今打つ鉦は ミロク三会の明けの鐘 金の無い奴ア近寄るな トンチントントン、チンチントントン チントン、チントン、チンチントン』 と一生懸命に子供を相手に暴儲けをやつて居る。 白、赤の守衛は通行人の身許調べに忙殺されて居る所へ、沢山の子供を集め、鉦や太鼓で騒ぎ出したので大に面喰ひ、白の守衛は傍に寄つて、 白の守衛『これこれお爺さん、場所を考へないか。こんな関所の前で、さうやかましく云つて呉れては、俺達の邪魔になるぢやないか。ちと気を利かして、彼方の方へ行つてやつたらどうだ』 飴屋『構うて下さるな。私は行商と云つて道路を歩いて商ひをするものだ。これでも政府へ税金を納めて居るものだ。何処で商売をしようと構うて下さるな。子供の沢山よつて居る所で、子供相手の商売をやつて居るのだ。私の商売の邪魔をするのなら、損害賠償で訴へませうか』 白の守衛『現界でなればお前の勝手だらうが、此処は冥途の八衢の関所だから、お前もやがて調べてやる時が来るのだ。まア暫く彼方の方へ往つて居て呉れ』 飴屋『何と云つても此処は動かないのだ。ヘン冥途の八衢なんぞと馬鹿にしなさんな。最前から声が枯れる程歌つて子供を集め、商売繁昌の真最中だ。お前の勝手がよければ此方の勝手が悪い、私の商売が邪魔になるのなら、なぜ高い税金を取るのだ』 と呶鳴りつけ、尚トンチントントン、チンチントントンと鉦を叩き歌を歌つて、子供の機嫌を取つて居る。 赤の守衛は、余り頑強の飴屋の態度にグツト目を剥き、 赤の守衛『これ飴屋、これ程事を分けて申すのに、其方は聞かぬのか』 飴屋『そんな日の丸のやうな赤い顔をして睨んだ所が、此亜米利加屋さまはビクとも致しませぬわいな、ヤンキイモンキイ云はずに、黙言つて引込んで居なさい。 トンチントントン、チンチントントン 飴の中からお多やんと金太さんが飛んで出たよ』 と又もや踊り狂ふ。赤は白の守衛に向ひ、 赤の守衛『困つたものですな、どうしませうかなア』 白の守衛『暫くほつといてやりませうかい、訳の分らぬ爺をつかまへて叱つて見た所で何にもなりますまい。やがて商売が無くなつたら帰るでせうし、子供だつて有るだけの金をつかへば飴屋に用はありませぬからなア』 赤『デモ、かう喧しくては仕方がないぢやありませぬか、どうしてもこいつは追払はにやなりますまい。こりやこりや飴屋、此処に居る事は許さないから、どこかへ行つて商売をして来るがよからう、喧しくて事務の邪魔になるからな』 飴屋『ヘン甘い事仰有りますワイ。飴屋の太鼓位が何喧しいのだ。今日の世の中は労働争議とか普選問題とか、小作争議だとか外交問題だとか云つて、あれだけ喧しう騒ぎ立てて居るのに、其声が聞えないのか。飴屋位が喧しいとはチと聞えないぢやないか。これ位の事が耳に障るやうで、どうして役人がつとまるか。役人の耳は何億と云ふ人民の号泣の声がちつとも聞えないやうに塞がつて居るのだ。それでなくては今日の世に処して、大人物とは云はれないぞ。仮令木端役員と雖も勤まるものぢやない。庚申さまの眷族になつて、見ざる、聞かざる、言はざるを守つて居るのが一番賢いやりかただ。喧しう云ふと何時までも門番をさされて苦しんで居らねばならぬぞ、ほんとに仕方のない奴だ。 トンチントントンチントントン チンチントン 八衢街道のまん中で 白と赤との守衛に出会うた 飴の味をば知らないと見えて 苦い顔して睨みよる ほんに因果な生れつき チンチントントンチントントン』 と又もや喧しく囃立て踊り狂ふ。赤は大に怒り、矢庭に飴屋の腕を後に廻し、手早く引つ括つて門内に姿を隠した。 文助は五里霧中に彷徨した心地で、今渉つて来た山路や沼、萱野ケ原の事や、両親に会うた事など思ひ出し、夢か現か将た現界か幽界かと、頻りに首を捻つて居た。 (大正一二・二・九旧一一・一二・二四加藤明子録) |
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霊界物語 | 53_辰_ビクの国1(ヒルナ姫とカルナ姫) | 07 比翼 | 第七章比翼〔一三七〇〕 左守の司キユービツトの館に於ては、右守の司の妹カルナ姫と其伜ハルナとの神前結婚式が厳粛に円満に挙行された。宣伝使兼内事の司タルマンは仲介人の事とて祭主を勤める事となつた。婚姻の儀式も首尾よく済んで一同は祝宴に移つた。此の結婚によつて左守、右守両家の年来の確執は一掃さるる事であらうと、城内一般の注意を惹いた。タルマンは結婚式を祝するため、歌ひ初めたり。 タルマン『ああ有難し有難しイドムの神のはからひで 海より深き恋仲の縁を結び終せたる 大御恵ぞ尊けれかくも目出度き婚姻は 君の命は云ふも更国民共に歓ぎ合ひ 怪しき卑しき村雲を心の底より払拭し さらたまりての交際を親しく結ぶ今日の宵 皇大神のはからひで世界に又と二人ない 揃ひも揃うたよい夫婦誰憚らず今日よりは 力の限り身の限り妻は夫を夫は妻を 手厚くもてなし家の中整へ親によく仕へ 長きミロクの末迄もニコニコニコと睦び合ひ 抜き差しならぬ鎹のネンネを生んで睦じく 長閑なホームを作りませ春の陽気も満ち満ちて 日もいと永くなりぬれば夫婦は手に手を取り交し メソポタミヤの顕恩郷秀妻の国へ新婚の ままの旅行をなされませ見れば見る程美はしき 娘盛りのカルナ姫目出度き今日の宴会をば 百歳千歳変りなく八千代の春の玉椿 抱き抱かれいつ迄も愉快に暮せハルナさま 縁の糸は大神のよさしのままに絶ゆるなく 側目もふらず道の為め息を合せて勤めかし 現世幽世隔てなく歓ぎ親しみ神の為 王家のために励むべしああ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 と四十五音の言霊歌を以て、両人の結婚を祝した。左守司のキユービツトは嬉しさに堪へず、手を拍つて歌ひ出したり。 左守『神が表に現れまして恵の露を下しまし 老先短き左守をば救はせたまふ嬉しさよ ビクの御国に隠れなき神徳高きビクトリヤ 君の命のはからひで誉も高き右守の司 ベルツの君の御妹カルナの姫を子に持ちて 伜と共に睦じく春の花咲くホームをば 作らむ事の楽しさよこれも全くウラル教 神の柱と現れませる盤古神王は云ふもさら 刹帝利様やヒルナ姫タルマン様の御恵み 父祖の代より縺れたる両家の暗闘も今よりは 速河の瀬に流し捨て君の御為め国の為め 大臣の道をばよく尽し国民迄も平けく いと安らけく知召す君のみわざを麻柱て 万世不易の国家をば守らむ事の嬉しさよ 伜ハルナを始めとし淑徳高きカルナ姫 幾久しくも吾家に留まりまして神業に 参加せられよキユービツトが心を籠めて頼み入る 朝日は照るとも曇るとも月は満つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも星は空より落つるとも 思ひ合うたる此夫婦仮令如何なる事あるも 決して変る事非じカルナの姫よ今日よりは 卑しき吾を父として守らせ給へ左守の司 赤き心の其儘を茲に[※初版では「茲に」。校定版は「ここに」。愛善世界社版では「慈に」だが誤字。]現はし頼み入る ああ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 カルナ姫は又歌ふ。 カルナ姫『神徳尊き左守の司珍の御子と現れませる 名望高きハルナさま尊き神の御恵に よりて愈結婚の式を挙げさせ給ひたる 今宵の空の明けさ月は御空に皎々と 輝き渡り諸々の星は一面煌めきて 天の河原は北南輪廓正しく流れ居る 七夕姫の神さへも年に一度の逢瀬ぞと 聞きしに勝る妾こそ夜と昼との区別なく 夫婦互に顔合せ清き月日を送る身の 其幸は天国の天津乙女や天人の 日毎夜毎の楽しみも吾には如かじと思ふなり ああ惟神々々刹帝利様やヒルナ姫 タルマン司の御恵で嬉しき今宵の首尾を見る 此喜びは何時迄も孫子の世迄も忘るまじ 左守の父よ兄上よいざこれよりは両家とも 所在障壁撤回し互に心を合しあひ 君の御為国のためいや永久に赤心を 尽させ給へ惟神神の御前に願ぎまつる』 と歌ひ終り舞ひ終り元の座についた。拍手の声は雨霰と響き渡りける。 (大正一二・二・一二旧一一・一二・二七於竜宮館加藤明子録) |
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霊界物語 | 53_辰_ビクの国1(ヒルナ姫とカルナ姫) | 14 女の力 | 第一四章女の力〔一三七七〕 久米彦将軍は、不性不精ながらもカルナ姫を吾事務室に引入れ、葡萄酒を出して互につぎ交し、軍旅の憂さを慰めて居る。総て陣中は女の影無きをもつて、如何なるお多福と雖も、女と云へば軍人は喉を鳴らし、唯一の慰安として尊重するものである。久米彦はヒルナ姫と見較べてこのカルナがどこともなく劣つて居るやうに思ひ、何だか鬼春別に負を取つたやうな心持がして、女の争奪に抜剣迄して大騒ぎをやつて居たが、事務室に帰つて来て二人差向ひ、互に意見を語り合つて見ると、贔屓か知らねども別にヒルナ姫と何処が一つ劣つたやうにも見えない、否却て優みがあり品格が備はり、どこともなく優れて居るやうに思はれて来た。久米彦は現になつて穴のあく程カルナの優しき顔を凝視め笑壺に入つて居る。 カルナ姫『もし将軍様、不思議な御縁で貴方のお傍にお仕へするようになりましたのは、全く神様のお引き合せで厶いませうねえ』 久米彦『ウン、さうだなア、お前のやうな愛らしいナイスとこんな関係になるとは、遉の俺も夢にも思はなかつたよ。実にお前は平和の女神だ、唯一の慰安者だ。否々唯一の救世主だ。益良雄の心を生かし輝かし、英雄をして益々英雄ならしむるものは、矢張女性の力だ』 カルナ姫『何と云つても女は気の弱いもので厶います。どうしても男には隷属すべきものですなア。何程恋愛神聖論をまくし立てて居つても、男の力にはやつぱり女は一歩を譲らなくてはなりませぬわ。併し乍ら女は男子に服従すべきものだと云つても程度の問題で厶いまして、理想の合はない男に添ふのは生涯の不幸で厶いますからな、どうかして自分の意志とピツタリ合つた男と添ひたいものと、現代の女は挙つて希望致して居ります』 久米彦『如何にも其方の云ふ通りだ。男のデヴアイン・イドムは女のデヴアイン・ラブに和合し、女の聖愛は男の聖智と和合した夫婦でなければ、真の夫婦とは云へないものだ』 カルナ姫『左様で厶います。意志投合した夫婦位世の中に愉快なものは厶いませぬなア。時に将軍様は戦争がお好きで厶いますか』 久米彦『イヤ戦争の如き殺伐なものは心の底から好かないのだ』 カルナ姫『それならお尋ね致しますが、将軍様は何故心にない軍人におなり遊ばしたので厶います。其点が妾には些とも合点が参りませぬわ』 久米彦『イヤ実は拙者もバラモン教の宣伝将軍で、神の仁慈の教を説くものだ。此度大黒主様の命令によつて、止むを得ず出陣致したのだ。実に軍人なんぞはつまらないものだよ』 カルナ姫『貴方は今宣伝使だつたと仰せられましたねえ』 久米彦『ウン其通りだ』 カルナ姫『それなら貴方は人を助けるのをもつて唯一の天職と遊ばすのでせうねえ』 久米彦『それや其通りだ。斯うして戦争を致すのも決して民を苦しむるためではない、天国浄土を地上に建設せむためだ』 カルナ姫『それでも貴方の率ゆる軍隊は民家を焼き人を殺戮し、ビクトリヤ城迄も滅し、王様を虜となさつたではありませぬか。ミロクの世を建設する所か、妾の浅き考へより見れば貴方は破壊者としか見えませぬがなア』 久米彦『アハハハ、建設のための破壊だ。破壊のための破壊ではない。そこをよく考へねば英雄の心事は分らないよ』 カルナ姫『貴方のお言葉が果して真ならば、ビクトリヤ城を一旦破壊されたる上は又建設なさるのでせうなア』 久米彦『尤もだ、直様建設を試み、国民を塗炭の苦しみより救ひ、至治泰平の世を来たす考へだ』 カルナ姫『そんなら貴方は、ビクトリヤ城の刹帝利や従臣などを捕虜になさつたさうですが、戦ひが治まつた以上は屹度解放なさるでせうなア』 久米彦『勿論の事だ。併し乍ら刹帝利其他の従臣を生かして置けば、又もや何時復讐戦を致すやら知れないから、気の毒乍ら王を遠島に送るか、末代牢獄に放り込むか致さねばなるまい、これも天下万民の為だ』 カルナ姫はハツと驚いたやうな振りをしてウンと仰向けに倒れて仕舞つた。久米彦は驚いて抱き起し顔に水を注いだり、耳許に口をよせて、オーイオーイと呼びかけて居る。カルナ姫は故意と息の止まつて居るやうな振を装ひ、暫くして目を開き四辺をキヨロキヨロ見廻し乍ら、 カルナ姫『アア偉い夢を見て居りました。貴方は久米彦将軍様、ようマア無事で居て下さいました。妾は本当に怖い夢を見たのですよ』 久米彦はこの言葉が何だか気にかかり、言葉急はしくカルナに向ひ、 久米彦『ああカルナ姫、お前は気絶して居たのだよ。まアまア結構々々、併し乍ら怖い夢を見たとはどんな夢だつた、一つ聞かして呉れないか』 カルナ姫『ハイ、申上げ度きは山々なれど、夢の事で厶いますから、お気を悪くしてはなりませぬから、これ計りは申上げますまい』 久米彦『これカルナ姫、さうじらすものではない。何でも構はないから云つて見よ』 カルナ姫『キツトお気にさへて下さいますなや、夢で厶いますからな』 久米彦『エエどうしてどうして夢なんかを気にさへるやうな馬鹿があるか、早く云つて見よ』 カルナ姫『そんなら申上げます、妾が気絶致しましてから随分時間が経つたでせうなア』 久米彦『何、今お前が卒倒したので直様、水をかけて介抱したのだ。先づ二分か三分間位のものだよ』 カルナ姫『そんな道理は厶いますまい、妾は少くとも、五六時間はかかつたやうに思ひます』 久米彦『それやお前、気絶してお前の精霊が霊界に行つたのだらう。霊界は想念の世界だから、延長の作用によつて五六時間だつたと思うたのだらう。実際は二三分間だ。サア早う云つて見やれ』 カルナ姫『妾は何処ともなく雑草の原野を唯一人トボトボ参りました。さうすると天の八衢と云ふ関所が厶いまして、そこには白い顔をした守衛と、赤い顔をした守衛とが厳然として目を光らして居りました。そこへ不思議な事には鬼春別様、貴方様の御両人が軍服厳めしくお越しになり、八衢の門を潜らうとなさつた時に、赤の守衛は「暫く待て」と呼止めました。さうすると両将軍は立ち止まり、「拙者はバラモン軍の統率者、鬼春別将軍だ、久米彦将軍だ」と、夫は夫は偉い元気で仰せになりました。さうする中に牛頭馬頭の沢山の冥官が現はれ来り、貴方方を高手小手に縛め一々罪悪の調を致しました。妾は其傍で慄ひ慄ひ聞いて居ると、先づ貴方様から訊問が始まりました。貴方も随分女を弄びなさいましたなア。さうして斎苑の館へ進軍なさつた事や、ビクトリヤ王を軍隊を向けて捕虜となし苦めたことや、数多の従臣を縛り上げ苦しめた事や、民家を焼き、且つ人を殺しなさつた事が調べ上げられましたよ。貴方は一々「其通りで厶います」と、大地に頭を下げ詫び入つて居られました。怖ろしい顔をした冥官は、節だらけの鞭をもつて頭部、面部、臀部の嫌ひなく、打ち据ゑます、貴方は、悲鳴をあげて叫んで居られます。それはそれは何とも云はれない惨酷い目に遇はされて居ましたよ。それから衡にかけられ、愈地獄行と定つた時の貴方の失望したお顔、私は見るも御気の毒に存じました。さうすると白の守衛が仲に入つて、「この男は今迄罪悪を犯して来たけれど、肉体はまだ現界に居るのだから、今地獄に堕す訳には往かぬ。命数つきて霊界に来るまで待つがよい」との事で厶いました。そこで貴方は非常に冥官に向つてお詫なさいました。そして其条件は「ビクトリヤ王をお助け申し、其他の従臣を解放し、刹帝利様を元の王位に据ゑ、自分はビクトリヤ王の忠良なる臣下として仕へますから」と仰有いましたら、冥官は忽ち顔を柔げ、「汝果して改心致すならば、今度来る時地獄往きを赦して、花咲き実る天国に遣はす程に、もしこの約に背いたならば剣の地獄に落すぞよ」と、夫は夫は厳しい云ひ渡しで厶いました。私は身も世もあられぬ思ひで慄ひ戦いて居ると、どこともなしに貴方の声が遠い遠い方から聞えて来たと思つたら目が醒めました。やつぱり夢で厶いました。何と不思議な夢では厶いませぬか』 久米彦『何と不思議な事を云ふぢやないか、自分の精霊は何時の間にか八衢に往つて居たと見える。いやそれが事実かも知れない、困つた事ぢやなア』 カルナ姫『どうぞ気にして下さいますな、夢の事で厶いますからな、併しあんな事が本当なら最愛の夫の身の上、悲しい事で厶います』 と目に袖を当て差俯向いて泣き出した。久米彦は双手を組み深い息を洩らし思案に暮れて居る。カルナは心中に仕済ましたりと喜びながら左あらぬ態に、 カルナ姫『もし将軍様、貴方は大層お顔の色が悪くなつたぢや厶いませぬか、妾の夢の中で見たお顔とそつくりで厶います。仕様もない夢の事を申上まして、御気分を悪くしてどうも相済みませぬ。お許し下さいませ』 と又もや泣声になる。 久米彦『イヤ俺も些と考へなくちやならぬ。お前の夢はきつと正夢だ。あまり勢に乗じて、部下の奴が余り乱暴をやり過ぎたと見える。併し部下の罪悪は将軍の責任だ。罪は将軍が負はねばならぬ。困つた事ぢやなア』 カルナはどこ迄も気を引くつもりで、 カルナ姫『もし将軍様、貴方は堂々たる三軍の指揮者、かやうな夢問題に御心配なさるには及びますまい、将軍は職責として或場合には民家を焼き、人を殺し、城を屠るのは止むを得ないぢや厶いませぬか。こんな事に心配しておいでなさつては、将軍として役目が勤まりますまい』 久米彦『お前は夢を見てから俄に鼻息が荒くなつたぢやないか、妙だなア。俺はお前の話を聞いて俄に未来が怖ろしくなつた。これや一つ考へねばなるまい、併し乍ら吾頭の上には鬼春別将軍が控へて居る。何程久米彦が善に立ちかへり、刹帝利を助けむと致しても、上官が首を横に振つたが最後、到底駄目だ。ああ引くに引かれぬ板挟みとなつた。どうしたら此解決がつくだらうかなア』 と又もや思案に沈む。 カルナ姫『貴方さう御心配には及ばぬぢや厶いませぬか、御決心さへ定まればその位の事は何でも厶いますまい。鬼春別様は妾の主人を妻に持つて居られますから、妾よりヒルナ様に申上げ、ヒルナ様より将軍様に申上げるようにすれば、比較的この問題は解決が早いでせう。それより外方法は厶いますまいなア』 と心配さうに故意と首を傾ける。 久米彦『遉はカルナ姫だ。よい所に気がついた。そんならこの問題は其方に一任する事にしようかなア。併し乍ら拙者は鬼春別将軍と何処ともなしに意志が疎隔して居る最中だから、何程ヒルナ様の諫言と雖も容易に聞くまい。ああ心配な事が出来て来たものだなア』 カルナは久米彦の顔を見て、稍嬉し気に打笑ひ、 カルナ姫『アア貴方のお顔は俄に輝いて来ました。何とまアよいお顔だこと、やつぱり貴方の霊に光が顕れて来たので厶いますなア。人間の顔は心の索引だと云ひますから、心に悪心あれば悪相を生じ、善心あれば、善美の相を現ずるものだと聞きましたが、今貴方のお顔の変相によつて、的確に聖哲の言葉を認識致しました。ああ益々麗しきお顔になられますよ。ああどうして妾はかかる尊い美しい夫に添うたのだらうか、盤古神王様、大自在天様、有難う存じます。何卒妾等夫婦を貴神の鎮まります高天原に、霊肉共にお助け下さいまして、現世も未来も、久米彦様と睦じく暮せますやう偏にお願ひ申上げます』 と誠しやかに祈願する。久米彦将軍はすつかりカルナ姫の容色と弁舌に巻込まれ、最早何事もカルナ姫の言とあれば、利害得失を考へず、正邪の区別も弁へず、喜んで聴従するやうになつて来た。実に女の魔力と云ふものは怖るべきものである。武骨一片のバラモンの名将軍も、美人の一瞥に会つては実に一耐りもなく参つて仕舞うたのである。ああ男子たるものは心を潜めて、女に注意せなくてはならぬものである。女は俗に魔物と云ふ、金城鉄壁をただ片頬の靨に覆へし、柳の眉、鈴の眼に田畑を呑み、家倉を跳ね飛ばし、男の命を取り、さしもに威儀堂々たる将軍を初め、数千の軍隊の必死の努力も、容易にメチヤメチヤに壊すものである。世の青年諸氏よ、敬愛なる大本の信徒よ、此物語を読んでよく顧み、虚偽的恋愛に身心を蘯かし、一生を誤る事なきやう注意されむ事を望む次第である。ああ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・二・一三旧一一・一二・二八於教主殿加藤明子録) |
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霊界物語 | 54_巳_ビクの国の物語2(後継者問題) | 09 花祝 | 第九章花祝〔一三九五〕 婚姻の当事者たる王子アールは金扇を披いて立ち上り自ら謡ひ自ら舞ふ。 アール(謡曲)『高天原に八百万神集ります、神伊邪那岐尊神伊邪那美尊、筑紫の日向の立花の青木ケ原に、あもりまして天の御柱国の御柱見立てたまひ、左右りの廻り合ひ、廻り廻りてあな愛乙女をと、宣らせたまひし古事の、今目の当り廻り来て、今日の喜び千秋万歳楽。首陀の家に生れたる、心やさしきハンナを娶り、妹と背の盃を取り交し、天と地との御息を合せ、ビクの御国は云ふも更なり、国主と現はれ出でしビクトリヤの王家を、千代万代に守らむと、授けたまひし妹の命、目出度茲に相生の、松の緑の色深く、栄え果てなき珍の御国、下国民も穏かに、聖の君の御代を仰ぎつつ、日々の生業歓ぎ楽しみ、山川は清くさやけく、野は穀物実のり、人の心は穏かに、澄みきりすみきる、今宵の空、恵の露を永久に、降らさせ給ふミロク神、月の顔せ、望の夜の、弥つぎつぎに変りなく、天の河原のいつ迄も、乾く事なく時あつて、甘露を地上に降らし給ひ、五穀木の実は云ふも更、総ての物に慈愛の露を、恵ませたまふ深き尊き御恵、戴く吾こそ楽しけれ、戴く吾こそ楽しけれ、日は照るとも曇るとも、月は盈つとも虧くるとも、仮令大地は沈むとも、誠をもつて盟ひたる、妹背の道は永久に、変らざらまし、動かざらまし、ああ惟神々々、今日の寿千秋万歳楽と、喜び祝ひ奉る。いざこれよりは父の御後を継ぎ奉り、アールの君と現はれて、ハンナの姫と諸共に、左守右守を力とし、柱となして神つ代より、伝はり来りしビクトリヤの家を、神を敬ひ拝み奉り、麻柱の清き教によりて、祖先の家を守り国民を撫で慈しみ、ミロクの御代の礎を、固めむための今日の御式、芽出度く祝ひ納むる、目出度く祝ひ納むる』 と謡ひ終り座についた。拍手の声は急霰の如く、広き殿中に響いた。ハンナ姫は中啓を披き、長袖淑かに自ら歌ひ自ら舞ふ。 ハンナ『嗚呼有難し有難しサアフの家に生れたる 吾は賤しきハンナ姫尊き神の引き合せ 雲井の空に輝き給ふビクの御国の国主の御子 アールの君に見出されパインの林の木下蔭 籠や熊手を携へて枯れて松葉の二人連れ 掻き集めたる数々を籠におしこみ居る折もあれ 天の八重雲掻きわけて降りましたる一人の珍の御子 一目見るより勿体なくも卑しき乙女の手を曳いて いと懇に労はりつ音に名高きビクトリヤ城に 還らせたまふ畏さよ妾は心も戦きて 如何になり行くものなるかと案じ煩ひ居たりしが 結ぶの神の引き合せ蠑螈は化して竜となり 九五の位にあれませる吾が背の君の妻となり 今日はいよいよ結婚の式を挙げさせ給ひけり ああ有難し有難し総て女と云ふものは 氏なくして玉の輿と里の翁に聞きし事も 佯ならず今ははや吾身の上に降りかかり 繊弱き女の身をもつて重き位にのぼせられ もしや冥加に尽きはせざるかと静けき心はなけれども 君の心の深き情に絆されて否みも得せず身の程も 弁へ知らぬ女よと世の人々の譏をも 心にかけず謹みて君が御旨に従ひ奉りぬ ああ吾君よ吾君よ足らはぬ妾をいつ迄も 愍みまして永久に御傍に仕へさしてたべ 左守の司よ右守さま内事司のタルマンの君 愚かなる身を憐れみたまひいや永久に足らはぬ事は気をつけて 家内の事は云ふも更国の祭の要をば 教へてたべや惟神神の御前に願ぎ奉る ことに尊き三五の教の道に仕へます 治国別の宣伝使松彦竜彦万公の 珍の司も諸共に吾背の君を導きて 国の祭を過たず神の教を背かずに 誠一つを経となし仁慈の教を緯として いや永久に国民を守らせ給へ惟神 神素盞嗚の大神の珍の御前に謹みて 畏み畏み願ぎ奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも星は空より落つるとも ハンナの姫の赤心は仮令死すとも変らまじ 恵ませ給へ大御神父の命や母命 あが背の君よ諸共にいや永久に吾ために 教を垂れさせ給へかし偏に願ひ奉る 千秋万歳万々歳』 と歌ひ舞ひ納めた。ハルナは立ち上り自ら歌ひ自ら舞ふ。 ハルナ『神の造りて治めます神代は云ふも更なれど このビク国も神の国如何に上下の人々の 心は乱れ果つればとて誠の道にかはりのあるべきや 古き道徳打ち破り相思の男女が赤心を 捧げて盟ふ結婚は千代も八千代も永久に 変る事なき天国のその有様にさも似たり 天の下をばよく治め民の心を治めむと 祈り祈らせ給ふ聖の君はまづ第一に結婚の 道を改め上下の差別を取りて雲井の空も 八重葎茂り栄ゆる地の上も一つに治め世界桝かけひきならし 運否なき世の手本を示し給ふにつけて今宵の結婚 一つはお家のため一つは国のため 実にも目出たき次第なり此結婚を恙なく 結び給ひし上からは天が下には曲もなく 曇りも非ず国民は君の恵を悦びて 赤き心を捧げつつ誠を尽し君の社稷を永久に 守り仕へむ惟神神にかなひし吾君の 尊き御業ぞ有難き左守の家に生れたる ハルナの司謹みて今日の慶事を心より 喜び祝ぎ奉るアールの君よハンナの君よ いや永久にいつ迄も御国の柱となりまして 家の子達を恵みつつビクの御国に生茂る 天の益人一人も残さず恵の露を下しまし 黄金時代を現出し世界稀なる聖の君と 世に謳はれて王者の模範を示させ給へ 偏に願ひ奉るああ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 (大正一二・二・二一旧一・六於竜宮館加藤明子録) |
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霊界物語 | 54_巳_ビクの国の物語2(後継者問題) | 10 万亀柱 | 第一〇章万亀柱〔一三九六〕 カルナ姫は又歌ふ。 カルナ『朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも誠一つは世を救ふ 誠の神の御教を四方に伝ふる宣伝使 治国別の神司産土山の聖地より 珍の御伴を従へて下らせ給ひ天地の 清き教を宣らせつつ若君様の御結婚 とりなし給ひし有難さ天と地との息合せ 生れ出でたる人々は所謂神の子神の宮 生きては此世の神となり死しては護国の神となり 豊葦原の瑞穂国生ひ立ち栄ゆる人草を あつく守りて皇神の依さしのままに赤心を 尽すは人の務めぞと教へ給ひし有難さ 妾夫婦は謹みて神の御為国の為め 蒼生を守るため尊き神の御前に 朝な夕なに身を清め天の下をば平けく いと安らけく守りませ偏に願ひ奉ると 宣る言霊も空しからず若君様の御結婚 いよいよ無事に調ひて御国の栄えを松の花 緑の色もいや濃ゆく栄え栄えていつ迄も 果しも知らぬ喜びは全く神の御恵み 謹み感謝し奉るああ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 松彦は又歌ふ。 松彦『此処は名に負ふビクの国堅城鉄壁を繞らし 四方を見晴らす宮城百の国民見おろして 御空に高く輝ける月日の如く光をなげ 恵の雨を降らし国人を厚く守らせたまふ 音に名高き刹帝利万代不易のビクトリヤ王が家 いや益々も天地とむた永久に長からむ事を 神の御前に祈り奉る一度は黒雲に包まれて 音に名高き名城も遂に危く見えけるが 尊き神の御守りに醜の曲津は滅び失せ 今は全く風塵も留めぬ御代の目出度さよ 其目出度さにまた一つ喜びを重ね給ひたる アールの君の御結婚いとさやさやに運びまし 玉の緒琴の音も清く響き渡れる勇ましさ 此極みなき喜びは外へはやらじと心をこめて 松彦司が惟神神に祈りをかけまくも 畏き君の御前に祝ぎ仕へ奉る ビクトリヤの神殿が築き上りし暁は アールの君よハンナ姫手に手を取つて朝夕に かかさず詣で天が下四方の国民恙なく 君が政治を喜びて仕へまつるべく 祈らせたまへ治国別の師の君に 吾は従ひ近き中恋しき都を後にして 神の御為道のため聖地をさして進むべし ああ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 と歌ひ終り座についた。竜彦は又歌ふ。 竜彦『吾師の君に従ひて祠の森を離れつつ 曲神の猛ぶ山口の昼さへ暗き森を越え 野中の森や小北山後に眺めてすたすたと 浮木の森に来て見れば思ひも寄らぬ曲神の 深く企みし陥穽師の君様と諸共に 千尋の底へ転落し霊は忽ち身を脱けて 精霊界に彷徨ひつ尊き神の御指図に 霊国天国巡覧し又もや下りて八衢の 司の神とあれませる伊吹戸主にいろいろと 尊き道を教へられ再び此世に生き還り バラモン教のゼネラルと現はれ給ふ片彦や ランチの君を言向けて三五教の神力を 現はせまつり吾々は吾師の君と諸共に 荒野ケ原を打ち渡りライオン河を横ぎりて ビクトル山の麓まで進みて来る折もあれ 俄に聞ゆる鬨の声只事ならじと進みより よくよく見ればバラモンの鬼春別や久米彦が 一斉射撃の真最中見逃し往くも三五の 神の司の吾として如何ならむと思ひつつ 吾師の君と諸共に厳の言霊打ち出せば 豈図らむやバラモンの率ゆる軍に非ずして 右守の司の反逆と覚りし時の憎らしさ 吾等師弟は一斉に心を揃へ口揃へ 一目散に太祝詞涼しく宣りて言霊を 連続的に打ち出せば雲霞の如き大軍も 雲を霞と逃げ去りぬ斯かる所へヒルナ姫 カルナの姫の女武者神に守られかつかつと 栗毛の駒に跨りて反逆人の右守をば 縛して帰り給ひたる忠勇義烈の働きは 末代迄の鑑ぞと褒めそやさぬは無かりけり 刹帝利様の御前に吾等師弟は導かれ いろいろ雑多の待遇しに厚意を感謝し奉り 三五教の御教を完全に委曲に相伝へ 皇大神の御舎をビクトル山の頂上に 岩切り砕き土を掘り上つ岩根に搗きこらし 底つ岩根に搗き固め大宮柱太知りて 今は漸く九分通り竣工したるぞ嬉しけれ これに先立ち刹帝利ビクトリヤ王の御子とます 五男一女の行衛をば神の御告を蒙りて 照国岳の谷間に進みて迎へ奉り 長子の君と生れませる心やさしきアールさま 今日は目出たき結婚の式を挙げさせ給ひつつ 百の司は云ふも更吾々師弟も招かれて 目出度き席に列ねられ神の恵の大神酒を 与へられたる嬉しさよ元より酒豪の竜彦は 何より彼より酒が好きとは云ふものの三五の 教の道に仕ふ身は先づ第一に大酒を 謹まなくてはなりませぬ然るに今日は何となく 嬉し嬉しが重なりて廻る盃数重ね 思はず知らず酔ひつぶれいかい失礼したでせう 唯何事も神直日大直日にと見直して 許させたまへ刹帝利其外百の司達 御前に慎み詫びまつるああ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 万公は其尾についてヘベレケに酔うた儘、足もよろよろ謡ひ舞ふ。 万公(謡曲調)『ああ目出度し目出度しお目出たし、朝日は照るとも曇るとも、此結婚が恙なく、千秋万歳楽と、祝ひ納むる其上は、仮令天地は変るとも、何か恐れむ神の御恵み、ビクの国主の御威勢、空飛つ鳥も羽翼をゆるめて地に墜ち、草木も感じて自然の音楽を奏し、河の流れは鼓を打ち、君が幾世を祝すらむ。又三五の皇大神に仕へたる、吾師の君を初めとし、三人の伴人の中に於て、さる者ありと聞えたる、万世祝ふ亀の齢の万公が、此喜びを万世に、伝へむものと勇み立ち、手足も儘ならぬ程、酔ひつぶれたる重たき身を起し、命限りに祝ぎ奉る。鶴は千年の齢を保ち、亀は万年の寿命をつづく、鶴と亀との命は愚か、幾億万年の末迄も、ビクの御国は永久に、ビクトリヤ王家は、天地の続かむ限り、限りも知らず栄えませ。それにつけてもアールの君、新に迎へ給ひし后の宮のハンナ姫、いと睦まじくどこ迄も、陰と陽との息を合せ、天が下に妹と背の、清き鑑を示させ給へ。日は照る日は照る月は輝く、星は御空に永久に、光も褪せず月の国の大海原の底深く、契らせ給へ惟神、神の御前に謹みて、亀の齢の万公が、今日の寿末長ふ、幾千代迄も、祝ひ奉る』 と泥酔者に似ず、いと真面目に祝ひ納め元の座に着きぬ。此外、数多の司人の祝の歌はあれど、あまり管々しければ省略するなり。 アールの王子は理想の妻、ハンナを娶りしより、国の政治日に月に開けて国民悦服し、ビクトル山の神殿に祭りたる国治立尊、日の大神、月の大神、神素盞嗚大神を朝な夕なに国民一般が信仰をなし、各其業を楽しみ、ミロクの聖代を地上に現出する事となりぬ。ああ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・二・二一旧一・六於竜宮館加藤明子録) |
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霊界物語 | 54_巳_ビクの国の物語2(後継者問題) | 18 真信 | 第一八章真信〔一四〇四〕 緑葉滴る初夏の候山野の木々は自然のカブオットをなし 風は自然の和琴を弾ず見渡す限り原野には 首陀や耕奴の三々伍々列を正して 命の苗を植ゑつける其光景は天国を 地上に移せしごとくなりビクトル山の頂上より 瞳をはなてば麗はしき譬方なきフリイスの 棚引くごとく見えにけりミンシンガーは何と見る 天の描ける大画帖画中の人は何人か 牛を追ひゆくパストラルカンタビールナ歌うたひ 或は交るプレストの其対照の面白さ 百日百夜の丹精も漸く茲に現はれて ビクトル山の勝地をば卜して建てる御舎も いと荘厳な神まつり其の祝詞は天地に 響き渡りて霊国や天国界の天人が 奏でたまへるロンドの床しさ 走法又は軽快調クラブイコードを中空に 並べて奏づるアダヂオスメロデイー、モーティフ マヂヨワ、アビニシモフアンセット、トンブルノ 生言霊も順序よくフレーズの限りを尽し リズム正しく天地の神の心を慰むる 其光景を目の当り霊に目覚めし人の耳に いと涼やかに聞えくる治国別を祭主とし ビクの国王の刹帝利ヒルナの姫やアールの君 其外百の司達席を正して遷宮の 式に列せる勇ましさ開闢以来の盛況と 褒め称へぬはなかりけり。 ビクトル山の頂上に檜皮葺の立派な社殿が落成し大国常立尊を初め奉り、天照皇大御神、神伊邪那岐大神、神伊邪那美大神、神素盞嗚大神、豊国姫大神、稚桜姫大神、木花姫大神、日の出神を初め、盤古神王を別殿に祭り、荘厳なる祭典の式は無事終了された。刹帝利のビクトリヤ王は国家無事に治まり、王家安泰の曙光を認めかつ神殿の落成した事を感謝すべく、神殿に向つて恭しく祝歌を奏上した。 刹帝(謡曲調)『久方の天津御空に永久に 鎮まり居ます天地の元津御祖の神と現れませる 大国常立の大御神豊国主の大御神 天津日の御国を統べさせ給ふ 神伊邪那岐の大御神月の御国を統べたまふ 神伊邪那美の大御神厳の御霊と現れませる 国治立の大御神瑞の御霊と現れませる 神素盞嗚の大御神大地球の御魂と現れませる 金勝要の大御神海の底ひの限りなく 統べ守ります大海津見の神天教山に現れませる 木花姫の大御神日の出神を初めとし 三五教を守ります百の司の神柱 常世の国に現れませる盤古神王塩長彦の命 其外百の神達の大前に天地と共に限りなき 神の授けしビクの国国王に仕へまつりたる 御国を守る刹帝利ビクトリヤの神の僕 尊き清き大前に謹み敬い天地の 高き恵を悦びて海河山野種々の 美味しものをば奉り厚き恵の千重の一重にも 報い奉らむとして今日の御祭り仕へ奉る 天津神達八百万国津神等八百万 吾心根を憐みてビクの御国は云ふも更 吾等が命を永久に守らせ給へ国民の 一日も早く穏かに神の恵に浸りつつ 家富み栄え生業を歓ぎ楽しむ御代となし 月日と共に永久に茂り栄ゆべく 守らせ給へ惟神神の御前に願ぎまつる 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令此世は変るとも皇大神の御恵 治国別の宣伝使松彦竜彦神司 ビクの御国を救ひましし其勲功はいつの世か 忘れ奉らむ惟神神の御前に赤心を 謹み畏み誓ひおくビクの御国は今迄は ウラルの神の御教を柱となして世を治め 蒼生を慈み仕へまつりてありけるが ミロクの御代の魁と現はれませる素盞嗚の 尊き神の御教に目覚めし上はビクトリヤ城の 百の司を初めとし国民挙りて神恩を 慕ひ奉りて永久に珍の教を守るべし 治国別の神司御前に謹み再生の 御恩を感謝し奉るああ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 ヒルナ姫は白装束に紫色のスカートを穿ち銀扇を披らいて、アッコムパニメントを並ばせ乍ら翼琴を弾じさせ、自ら祝歌を歌ふ。 ヒルナ姫『ビクトル山に千木高く大宮柱太しりて 鎮まり居ます皇神の珍の御前に謹みて 感謝の言葉奉る抑々ビクの国柄は 遠き神代の昔より月日と共に伝はりて 君と臣との差別をば正しく守りし神の国 雲井の空も地の上も睦び親しみ親と子の 如くに治まり来りしが天津御空の日は流れ 月ゆき星は移ろひて醜の魔風は吹き荒び 四方の山辺の木々の枝冷たき風に叩かれて 羽衣脱ぎし如くなるいと浅猿しき国柄と 忽ち乱れ淋れけり御国の柱と現れませる 吾が背の君の刹帝利深く心を悩ませつ 常世の国に現れませし塩長彦の大神に 朝な夕なに祈りつつ天が下をば平けく いと安らけく治めむと祈り給ひし丹精も 水泡と消えて曲津神八岐大蛇や醜鬼の 荒びすさめる世となりぬライオン川は滔々と 水永久に流るれど絶えなむ許りの刹帝利家 既倒に之を挽回し救ひて君の神慮をば 慰め安んじ奉らむと女の繊弱き心より 悪逆無道の曲神にあらぬ秋波を送りつつ 吾身の血潮を濁したる其過を悔い奉り 御仁慈深き三五の神の御前に宣り直し 聞き直されて元のごと治まるアーチ・ダッチェス 実に有難き限りなりかくも尊き神恩に 報いまつらむ赤心の印とここに大宮を 刹帝利様に願ひ上げ治国別の神人に やつと許され珍の宮仕へ終りし嬉しさよ ああ惟神々々皇大神は永久に ビクの御国は云ふも更吾君様や百司 四方の国民恙なく此麗しき現世に 命を存らへ日々の身の生業を励みつつ 国の栄えを松の代の常磐堅磐の聖代と 進ませ給へ惟神御前に謹み願ぎまつる』 と歌ひ終つて座についた。 (大正一二・二・二三旧一・八於竜宮館加藤明子録) |
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霊界物語 | 54_巳_ビクの国の物語2(後継者問題) | 19 流調 | 第一九章流調〔一四〇五〕 治国別は謡ふ。 治国別(謡曲調)『久方の天の八重雲掻きわけて名さへ目出度きフサの国 ビクトル山の頂上の上つ岩根を搗きこらし 下つ岩根に搗固め礎固く敷き並べ 金銀瑪瑙瑠璃硨磲琥珀や玻璃に擬ふべき ライオン川の清き真砂を上つ岩根に敷き詰めて 大峡小峡の幹を切り本と末とは山口の 皇大神に献り置きて神の御稜威も三つ栗の 中つ幹を忌斧忌鋤もて心を籠めて削りたて 飛弾の工の業もあざやかに御代の光を現はす真木柱 つきたて木組も細やかに 天の御蔭日の御蔭と大屋根をしつらへ 桧の皮のいと厚く葺きつめ給ひしこの社 高天原の天国の皇大神の御舎を 天津風時津風吹き捲るまにまに茲に現世の 国の守りと定めつつ霊国にありては月の大神と現はれまし 天国にありては日の大神と現れませる大国常立の大神の 珍の御舎つかへまつり国王の君を初めとし后の宮や 世継の御子左守右守の宮司をはじめ 百の司も悦びて今日の御祭祝ぎ奉り 天津御空の極みなく底つ岩根の果てもなく 澄み渡りたる大空や紫の浪漂ふ大海原の如くいや高く いや深き大御恵を喜びて治国別を初めとし 三五教の神司今日の喜び永久に 神の賜ひし村肝の心に銘じ忘れまじ ああ斯る目出度き聖代に扇の御代の末広く 国の要と現れませる神に等しき聖の君 五風十雨の序よく山河は清くさやけく 百の種物はよく実り万民鼓腹撃壤の 至幸至楽の境涯を全く神と国王の御徳と 仰ぎ奉らむ今日の御典の尊さよ朝日は照るとも曇るとも 大空渡る月影は或は盈ち或は虧くるとも 金砂銀砂を布きつめし天の河原の星の数 浜の真砂の数多き蒼生の身の上を 恵ませ給へ皇大神ミロクの御代を来たさむと 朝な夕なに仕へたる闇夜も清く治国別の 神の使常磐の松の松彦や 世は永久に竜彦の司の悦びは云ふも更 亀の齢の万公が今日の盛典を心より 歓ぎ喜び祝ぎ奉るああ惟神々々 御霊の恩頼を祈り奉る御霊の恩頼を祈り奉る』 と謡ひ終り元の座についた。タルマンは前ウラル教の宣伝使たりしが、此度治国別の弟子となり、三五教の御教や儀式を教へられ、宮司となつて長く仕へ、王家を初め国家の安泰を祈るべき職掌となつた。タルマンは宮司として祝意を表すべく立ち上り謡ひ始めた。 タルマン(謡曲調)『赤玉は緒冴へ光れど白玉の君がよそひし尊くもあるかな 抑もビクの国は天地開闢の初めより ビクトリヤ家の遠つ御祖国の国王と現はれまして 上は神を崇め奉り下万民を慈み 五日の風や十日の雨もほどほどに与へられ 御国は栄え民はとみ天国浄土の有様を いや永久に伝へたる珍の御国も時ありて 曲の醜風吹き荒び千代の住所と定めたる ビクトリヤの城も既に傾かむとする所へ 天の八重雲掻きわけて天降りましたる神司 此世の闇をすくすくに治国別の神人を 初め三人の神司下り給ひし尊さよ タルマン司は云ふも更国王の君も后の宮も 左守右守の宮司も迷ひの雲を吹き払ひ 御空に輝く日月の光に擬ふ三五の 教の道に照らされて誠の道をよく悟り 愛善の徳に住し信真の光を浴び ビクトル山の下つ岩根に大宮柱太しき建てて 皇大神を斎ひまつり天下泰平国土成就 万民安堵の祈願を凝らし賤しき身をも顧みず 吾師の君や国王の君の任けのまにまに おほけなくも此玉の宮の神司と仕へ奉り 朝な夕なに身を清め汚れを避けて只管に 誠を尽すタルマンが心を諾ひ給へかし 天津御空の日影は或は照り或は雲り 月は盈ち或は虧くる夜ありとも誠一つの三五の 神の教を力としライオン川の水永久に 絶ゆる事なく涸るる事なき赤心のあらむ限りは 骨を砕き身を粉にし神の御為君の為め 御国の為に尽すべしああ畏くも此世をば 統べ守り給ふ大国常立の大神を初め奉り 天地八百万の大神従ひ給ふ百神達の御前に 謹み敬ひ願ぎ奉るああ惟神々々 御霊幸倍ましませよ御霊幸倍ましませよ』 松彦は又歌ふ。 松彦『千代万代も色かへぬ常磐の松の松彦が いや永久のビクの国いや永久にいつ迄も 栄えませよと大神の御前にひれ伏し朝夕に 赤心籠めて祈りしが皇大神は速に 吾等が願を聞召し百日百夜の其中に かく麗しき御舎を造らせ給ひし嬉しさよ 抑ビクの神国は神の守りのいや厚く 恵み給ひし国なればビクトル山の岩のごと いや永久に動くまじ斯かる目出度き神国の 国王の君は三五の教を悟り給ひてゆ いよいよ国は盤石の礎清く固まりて 松の緑の青々と果てしも知らず栄ゆべし 抑此国は四方の山見渡す限り松林 木々の木の間にちらちらと見ゆるは樫の大木か 但しは樟の霊木か千代に八千代にかたらかに 命も長く朽もせず枯るるためしもなき霊樹 これに因みてビクの国ビクとも動かぬ瑞祥と 遥に四方を打ちながめ心に浮かみし其儘を 茲に写して惟神神の宮居の御祭りを 祝ぎつかへ奉るああ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 左守は老躯を起して嬉しげに歌ふ。 左守『ああ有難し有難し神の恵は目の当り 傾きかけしビクの城立直します神の息 三五教を守ります厳の御霊や瑞御霊 皇大神は云ふも更斎苑の館を後にして 天降りましたる神司治国別の一行が 鳩の如くに下りまし吾大君を初めとし 百の司や国人の難みを救ひ給ひたる 大御恵はいつの世かいかで忘れむ大空の 限りも知らぬ星のかげ忽ちおつる事あるも 浜の真砂の尽くるとも誠の神の御恵は いや永久に忘れまじ抑国を治むるは まづ第一に天地の尊き神を寿ぎ奉り 神の教に従ひて下国民に相臨み 国の司と現れませる模範を示し詳細に 民の心をやはらげて世を永久に治むべき 誠の道を悟りけり左守の司も今迄は 霊の光暗くして心を政治に焦ちつつ 現世に心傾けて元つ御祖の神様を 次になしたる愚さよ知らず知らずに神の前 幾多の罪を重ねたる吾をも懲めたまはずに 広き心に見直して許させ給ふのみならず 左守の司の職掌を元の如くにおほせられ いと重大な任務をば任けさせ給ひし有難さ お礼の言葉は尽されずいざこれよりはキユービツトも 心を研き身を清め先づ第一に大神を 祈り奉りて君の為めいと麗しき政治 助けまつらむ吾心諾ひ給へ惟神 御前に謹み願ぎまつる』 と歌ひ座についた。右守のエクスは又歌ふ。 エクス『ビクの御国の刹帝利ビクトリヤ王の重臣と 仕へまつりし右守司エクスは茲に謹みて 皇大神の御高恩治国別の御恵 畏み畏み赤心を捧げて感謝し奉る 此世を造りし神直日心も広き大直日 ただ何事も人の世は直日に見直せ聞直せ 身の過ちは宣り直せかくも尊き御教を 授けられたる上からは孫子の代に至るまで 畏れ慎み三五の誠の教を遵奉し 右守の司の職掌を一心不乱に相守り 神と君との御為に心の限り尽すべし ああ惟神々々一度は醜の魔軍の バラモン軍に囲まれて社稷危く見えけるが 仁慈無限の大神は仁徳高き吾君の 其窮状を憐みて救はせ給ひし有難さ 唯何事も世の中は神の御旨に従ひて 如何なる小さき事とても決して我意を主張せず 神のまにまに行へばキタリキタリと恙なく 箱さすやうに行くものと初めて覚りし神の道 ああ惟神々々皇大神よ永久に 此聖代を守りまし御国を栄え給へかし ああ惟神々々神の御前に願ぎまつる』 と歌ひ終り悠然として座についた。 (大正一二・二・二三旧一・八於竜宮館加藤明子録) |
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霊界物語 | 55_午_ビクの国の物語3(玉木の里) | 17 万巌 | 第一七章万巌〔一四二五〕 玉置の村のテームスは治国別の教を聞いて今迄の貪欲心や執着心を弊履を捨つるが如くに脱却し、広き邸を開放し村人の共有とし、且つ山林田畑を村内に提供して共有となし、茲に一団となつて新しき村を経営する事となつた。先づ大神の神殿を造営すべく村人は今迄テームスの持ち山たりし遠近の山に分け入つて木を切り板を挽き、日夜赤心を尽し、漸くにして一ケ月を経たる後仮宮を造営し、大神を鎮座する事となつた。治国別は村人に教を伝ふべく、又この神館の完成する迄神勅に依つて待つ事とした。数百人の老若男女は悦び勇みて社前に集まり、この盛大なる盛典に列した。治国別は祭主となり、神殿に向つて祝詞くづしの宣伝歌を奏上した。 治国別『久方の天津御空の高天原に、鎮まり居ます大国常立の大神、神伊邪那岐の大神伊邪那美の大神、厳の御霊の大神瑞の御霊の大神を初め奉り、天津神国津神八百万の神達の御前に、三五教の神司治国別の命、清き尊き珍の御前に慎み敬ひ、畏み畏みも申さく、高天原の月の御国を知し召す、瑞の御霊の大御神、日の神国を知し召す、厳の御霊の大神は、現身の世の曇り汚れ罪過を、科戸の風に吹き払ひ、速川の瀬に流し捨て、清き麗しきミロクの御代に立直さむと、神素盞嗚の大御神に、千座の置戸を負はせたまひ、産土山の聖場に、斎苑の館を立て給ひ、千代の住所と定めつつ、神の御言を畏みて、遠近の国々に珍の教を完全に、開かせ給ふ有難さ、百の司を初めとし、四方の国人達は、皇大御神の大御恵を、喜び仰ぎ奉り、早風の如く潮の打寄する事の如く、神の御前に伊寄り集ひて、神の賜ひし村肝の心を錬り鍛へ、百の罪汚れ過を、払ひ清めて天地の、神の柱と生れ出でたる人の身の務めを、完全に委曲に尽し終へむと、励しみ仕ふる勇ましさ、掛巻も畏き皇大神の領有ぎ給ふ、豊葦原の千五百秋の瑞穂の国は、生言霊の幸はふ御国、生言霊の助くる御国、生言霊の生ける御国にましませば、天の下に生きとし生ける民草は、日に夜に心を研き身を謹み、神の賜ひし珍の言霊を祝り上げ奉り、仮にも人を罵らず、譏らず嫉まず憎みなく、睦び親しみ兄弟の如く、現世に生永らへて、日々の生業を楽しみ仕へ奉り、神の依さしの大御業に、仕へ奉るべき者にしあれば、三五教の御教を、夢にも忘るる事なく、朝な夕なに省みて、神の御国の幸ひを、完全に委曲に受けさせ給へと、皇大神の大前に、謹み敬ひ願ぎ奉る、下つ岩根に千木高く、仕へまつりし此宮の、いとも広くいとも清けきが如く、いや永久に、いづの玉置の村人は、テームスの村司を親と崇め、各自の生業を、いそしみ勤めて大神の、御前に勲功を奉り、家内は睦び親しみて、恵良々々に歓ぎ賑ひ、茂り栄えしめ給へ、ああ惟神々々、御霊幸倍ましませよ』 斯かる所へ村の若い衆と見えて赤鉢巻を締め乍ら、鐘や太鼓を叩きつつ、千引の岩を車に載せ、神の御前に奉らむと、大綱を老若男女が握り乍ら汗をタラタラ流しつつ、歌を唄つて進み来る其勇ましさ。(以下()内はワキ) 『(エンヤラヤー、エンヤラヤア)三五教の神司 治国別の宣伝使(ヨーイヨーイ、エンヤラヤア) 天津御空の雲別けて玉置の村に下りまし (ヨーイトセー、ヨーイトセー)(エンヤラヤーのエンヤラヤー) 欲に抜目のない爺テームスさまを説きつけて (ヨーイヨーイエンヤラヤ)も一つそこらで(エンヤラヤア) (ヨーイヨーイヨーイトナ)皆さま揃うてモ一つぢや 昔の昔の先祖から欲をかはいて溜めおいた 山も田地もすつかりと(ヨーイヨーイ、エンヤラヤ) 玉置の村へ放り出して上下なしに安楽な 生活をせよと云はしやつた時節は待たねばならぬもの (ヨーイヨーイ、エンヤラヤア)皆さま揃うてモ一つぢや (ヨーイヨーイ、ヨーイトセ)広き邸を開放して 尊き神の宮を建て老若男女が睦び合ひ 今日は目出度い宮遷し(ヨーイヨーイエンヤラヤ) (ヨーイトセ、ヨーイトセ)皆さまそこらで一気張り (ヨーイヨーイヨーイヤナ)これから玉置の村人は 今度新にお出ました万公さまの若主人に 心の底から服従し上下揃うて神様の 御用を励み日々の野良の仕事や山仕事 喜び勇んで務めませう(ヨーイヨーイエンヤラヤ) (エンヤラヤーのエンヤラヤー)皆さまここらで一気張り 千引の岩は重くとも大勢が心を一つにし 力限りに曳くならば何程甚い阪だとて 神の守りに安々と苧殻を曳くよに上るだらう (ヨーイヨーイエンヤラヤ)(エンヤラヤーのエンヤラヤー) 抑々玉置の村人は昔の昔の神世から この神村を住所としウラルの神の御教を 守り来りし人ばかり(ヨーイヨーイエンヤラヤ) (エンヤラヤーのエンヤラヤー)ウラルの神さまどうしてか 幾何信心したとても些ともお蔭を下さらぬ テームスさまが唯一人お蔭を横取許りして 吾等一同の汗膏絞つて楽に日を暮し 栄耀栄華にやつて居た(ヨーイヨーイエンヤラヤ) (エンヤラヤーのエンヤラヤー)それをば黙つて見て厶る ウラルの彦の神さまは此頃盲になつたのか 但は聾になつたのか村の難儀を知らぬ顔 (ヨーイヨーイエンヤラヤ)(エンヤラヤーのエンヤラヤー) 皆さま揃うて一気張り(ヨーイヨーイエンヤラヤア) 此度救ひの神様が天の河原に棹さして 治国別と名を変へて玉置の村に下りまし 吾等一同を救はむと仁慈無限の御教を 宣らせ給ひし嬉しさよ(ヨーイヨーイエンヤラヤ) (エンヤラヤーのエンヤラヤア)これから玉置の村人は 飢に苦しむ人も無く凍えて死ぬる人もなし 上下運否のないやうにミロクの御代が築かれて 喜び勇んで暮すだらう(ヨーイヨーイエンヤラヤ) (エンヤラヤーのエンヤラヤー)此神殿に祭りたる 救ひの神は厳御霊瑞の御霊の神柱 柱も清く棟高く御殿も宏く風景は 勝れて絶佳の御場所よ(ヨーイヨーイエンヤラヤ) (エンヤラヤーのエンヤラヤー)捻鉢巻の若い衆よ 早階段に近付いたもう一気張り一気張り お声を揃へてヨーイヤナ(ヨーイヨーイエンヤラヤ) (エンヤラヤーのエンヤラヤー)』 と唄ひ乍ら方形の大岩石を社の傍に据ゑたり。これは村人が……此岩石の腐る迄は心を堅く変へませぬ、何処迄も御神の為に尽します……と云ふ赤心の供へ物である。 万公は村人と同じく捻鉢巻をし、運んで来た石を適当の場所に据ゑむとして二三人の部下と共に槌を振り上げ、大地をドンドンと固め、杭を打つて石のにえ込まないやうと勤めて居る。相方が交互に歌を唄ひ乍ら拍子をとつて居る。 万公『神と神との引き合せ(ドーン、ドーン、ドンドンドン) 玉置の村の里庄なるテームスさまの若主人 万公司も現はれて今日の目出度いお祭りを 力限りに祝ひませう(ドーンドーン、ドンドンドン) 打てよ打て打て確り打てよ地獄の釜の割れる迄 今打つ槌は神の槌槌が土うつ面白さ (ドーンドーン、ドンドンドン)玉置の村の皆さまが キールの谷から千引岩毛綱に括つて引き来り 尊きお宮の御前に信と真との光をば 現はし給うた目出度さよ(ドーンドーン、ドンドンドン) 大神様の御利益でテームス館は云ふも更 此村人は永久に尊き此世を楽しんで 堅磐常磐に玉の緒の命を保ち心安く 家も豊に栄えませう(ドーンドーン、ドンドンドン) これから村中心をば一つに合して田を作り 山には木苗を植付けて(ドーンドーン、ドンドンドン) 共有財産沢山と造つて子孫の末迄も (ドーンドーン、ドンドンドン)宝を残し身を治め 心を清めて神様の尊き教に心従し 此世を安く頼もしく(ドーンドーン、ドンドンドン) 千引の岩の御霊もて悪魔を払ひいつ迄も ビクとも動かぬ鉄石の信仰励もぢやないかいな (ドーンドーン、ドンドンドン)どうやら準備が出来たよだ 皆さまモ一つ頼むぞや(ヨーイヨーイエンヤラヤ) (エンヤラヤーのエンヤラヤア)力の強い若い衆は 挺をば四五本持つて来て千引の岩を此上に 何卒据ゑて下されよ万公別が頼みます (ヨーイヨーイエンヤラヤ)(エンヤラヤーのエンヤラヤア) 朝日は照るとも曇るとも轟き渡る滝の水 洗ひ晒した此身体神の御前に奉り 舎身供養を励みませうああ惟神々々 (ヨーイヨーイエンヤラヤ)(エンヤラヤーのエンヤラヤー) 神の御心畏みて村人心を一つにし 今日の祭を恙なく済ませた事の嬉しさよ 玉置の村は万世に玉置の宮と諸共に 栄え尽きせぬ事だらう喜び祝へ諸人よ (ヨーイヨーイエンヤラヤ)(エンヤラヤーのエンヤラヤア)』 (大正一二・三・四旧一・一七於竜宮館加藤明子録) |
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霊界物語 | 56_未_テルモン山の神館1 | 08 愛米 | 第八章愛米〔一四三八〕 『死んでから語呂つき出した法螺の貝 声高姫の賤が伏家に』 『内外にうなり出したる法螺の貝 おどろきケリナ、ベル、シャル、ヘル』 『法螺の音を聞いて高姫立上り 胸轟かす茅屋の戸口』 『法螺の音は近くに聞え又遠く 聞えぬわいなと神を恨めつ』 『あの声は矢張り夢か幻か 高姫司の法螺吹の音か』 と口々に歌ひ乍ら、四人は顔見合はして、不審の雲に包まれてゐる。高姫は法螺の声が再止まつたので、又元の座に引返し来り、 高姫『あああ皆々、待たしました。併し乍らシャルは妾の知己だ。之から大事にして妾の片腕に使うて上げますぞや。四人の方はモウ、トツトと帰つて貰ひませう。結構な日出神の御託宣を、ツベコベと小理窟許りひねるやうなお方は、到底助けやうが有りませぬ。第一霊魂の位置に天地の相違があるのだから、此高姫の愛が徹底しないと見えます、誠に気の毒なものだ。之も自業自得と諦めて帰つて貰ひませう。エーエ汚らはしい、今聞えた法螺貝の様に腹の中は空洞のクセに、大きな法螺を吹く許りで、仕方のないカラ霊魂だ。サアサア、此館は斯う見えても矢張り高姫の御殿だ。お前は小さい燻ぼつた茅屋と思つてゐるだらうが、之でも活眼を開いて能く見れば、金殿玉楼、精霊の曇が除れぬと、こんな立派な御殿が、お前には茅屋に見えませうがな、心次第に何事も映るのだから気の毒なものだよ。イツヒヒヒヒヒ』 ベル『何とマア、自我心の強い婆アだなア。妙なインクリネーションを持つてゐるスフヰンクスだ。どつか精神上に大変なラシャナリストがあると見えるワイ。オイ、ヘル、ケリナ、モウ帰らうぢやないか。何時迄居つた所で面白くも何ともない、諄々と口角泡を飛ばし、仰有つて下さつても、心に誠がないのだから、サツパリ無味乾燥で、ドライアスダストの様だ。サア、シャルの馬鹿者丈跡に残して出立々々、一、二、三』 高姫『エー、ツベコベとベルの如うに囀る男だなア。併し乍らここへ来た以上は帰ねと云つたものの、中々、実の所帰なす気はないぞや。帰にたけりや帰なしてやるが、お前の肝玉を抉り出し、結構な結構な霊と入れ替へた上で解放してやる。此処に出刃も用意してあるから、暫時待つたがよからう、動かうと云つたつて、ビクとも出来ぬやうに、曲輪の法が使うてあるから動いてみなさい。お前たちは余程よい野呂作だから、知らぬ間に霊縛をかけておいたのだよ。イツヒヒヒヒ』 ベル『ナアニッ、チヨン猪口才な、汝等に肝を渡してたまるかい。取るなら取つてみよ』 高姫『取らいでかい。何でも彼でもスツカリ取上げ婆アさまだよ』 ヘル『コレ、もし、高姫さま、私は堪へて呉れるでせうな。実の所はベルよりもお前さまの方がどこともなしに神さまらしい所がある様に思ひます、同じ物を取るにも肝玉を取るとは振つてゐる。私は其一言にサツパリ共鳴して了ひました』 高姫『ウン、お前は此ベルからみれば、チツと許りホロましな人足だ。併し乍ら底津岩根の大神様の生宮に対し、共鳴するなんて、何と云ふ傲慢不遜の言ひ方だい、チツとは言霊を謹みなさい』 ヘル『何分バラモン軍に居つて少し許り青表紙をかぢつたものだから、比較的スピリットが発達してゐるものだから、お前さまのメデヲカチックなお話が直接ハートに納まりませぬ。それが為に煩悶苦悩してゐるのですよ』 高姫『スピリットだの、ハートだの、メデヲカチックだのと、そんな怪ツ体な四足語を使つたつて分りませぬぞや。此高姫は神さまだから、鳥獣の様な声は耳に通りませぬ哩。なぜハツキリとしたスパルタ語で申上げぬのかい』 ヘル『何分霊魂の性来が悪いものだから、満足な言霊が出ませぬワ。マア堪えて貰ひませうかい』 ベル『コリヤ、ヘルの大将、汝は俺に反対的態度を取る積か。ヨーシ、それならそれで俺にも考へがある』 ヘル『考へがあるとは何うすると言ふのだい』 ベル『当家の主人高姫を第一着手として、バラモン教とやり、其次に高姫のパラドックスに共鳴する汝をバラモンとやり、ケリナをうまく懐柔して、ヘヘヘ、あとは推量せい。それ以上云ふのも野暮だし、聞くのも野暮だから……』 ヘル『アハハハハ、ケリナが嘸喜んで跟いて行く事だらう、本当に馬鹿だなア』 高姫『エー、喧しい、サア是からこつちの計画通り実行だ。オイ、ヘル、シャル、お前は表口と裏口に立番をしてゐなさい。そしてケリナは女の事でもあり、反対すると云つた所で、余り大きな事は能うせうまいから、ここに見て居るがよい、サア、ベル、覚悟はよいか』 と云ひ乍ら、懐中から赤錆になつた出刃をニユツと突き出した。 ベルはビク共騒がず、 ベル『アハハハハハ、そら何だ。蟷螂が斧をふり上げたやうな格好しやがつて、そんな威喝を喰ふベルぢやないぞ。之でも元はバラモン軍のサアジャント様だ。斬合殺し合はお手の物だ。自ら綯うた縄に自ら縛られるやうなものだぞ』 高姫は何と思つたか、出刃をパタリと投付けた。ベルは魔法にかかつて腰から下がビク共動かなくなつてゐた。併し乍ら手や口は自由自在に動くので、自分の前に落ちた出刃を手早く拾ひ、逆手に握り、最早大丈夫と高姫を睨め付け乍ら、 ベル『アハハハハ、面白い面白い、ベルの言霊に辟易して慄ひ戦き、出刃を落しよつたな。エヘヘヘヘ、最早大丈夫だ。サア槍でも鉄砲でも持つて来い、之から高姫館の道場破りだ。コリヤ、ヘル、シャル、汝も序にバラしてやらう、有難う思へ』 高姫『イヒヒヒヒ、何程出刃を振り上げて、山蟹のやうなスタイルで目玉を飛出し、頑張つて居つても駄目だ。こつちには二間の大身槍がある。遠い所からグサリと突いて肝をぬいてやるのだ。オホホホホ。テモさてもいぢらしいものだな。神に反いた天罰と云ふものはこんなものだ。今にみせしめの為に此高姫が成敗を致すから、ヘル、シャル、ケリナも之を見て改心なされや』 ヘル『ハイ、改心は致します、何卒命許りは助けて下さいませ。どんな事でも致しますから』 高姫『ウン、よしよし、それに間違ひなくば、命丈は許してやる。其代り高姫が尻を拭けと云つても拭くのだよ』 ヘル『ヘーエ、宜しあす。……何とか云つて、此場を遁れなくちや仕方がないからな』 と小声で呟く。ベルは依然として出刃を振上げたまま、高姫の兇手を防がむと身構へしてゐる。高姫はツと立つて、何処からか大身槍をひつさげ来り、ベルの胸を目蒐けて只一突につき殺さうと構へてゐる。ベルは出刃をふりかざし、息をこらして待つてゐる。忽ちブーブーと法螺の貝が間近に聞えて来た。高姫は此声に身体動揺し、自ら槍を其場にパタリと落した。そして見る見る真青の顔になつて了つた。シャルは高姫の槍を拾ひ、手早く裏口へ持出し、草の中へ隠して了つた。ベルは依然として出刃をふりかざした儘、固まつてゐる。此時門口をがらりと開け、 (求道居士)『御免下さい、拙者は求道居士と云ふ修験者で厶る。四人の男女がお世話になつてゐると承はり、迎ひに参りました』 高姫は轟く胸を抑へ、ワザと素知らぬ顔をして手を膝の上に揉み、 高姫『これはこれは、どこの修験者か知りませぬが、マアよい所へ来て下さつた。併し乍ら四人の者が世話になつてると、今仰有つたが、能く査べて下さいませ。どうにもかうにもならない悪党が一人交つてゐます。彼奴は泥坊とみえまして、此婆一人の館へ出刃をふり翳して踊り込み、金を出せ、衣類を出せと申して、此婆アの命を取らうと致しました。それ故、あの通り魔法……オツトドツコイ霊法に依つて封じておきました。お前もチツと、修験者なれば言うて聞かしてやつて下さい。神は人民を一人だつて苦めたい事は厶いませぬからな。日出神の義理天上も、こんな没分暁漢に係つては誠に迷惑を致します、オホホホホホ』 と自分の事を棚に上げ、且ベルを脅喝した其非事をあばかれない先に、うまく予防線を張つてゐる。求道居士は「何は兎もあれ御免を蒙りませう」と一間に通り、見れば四人とも腰部以下はビクとも動かないやうに霊縛されてゐた。求道居士は忽ち、呪文を称へ、天の数歌を奏上し、四人の霊縛を解いた。高姫は目を丸くし舌を巻いて、家の小隅につツ立つた儘、慄ふてゐる。 求道『お前はベル、ヘル、シャルの三人ぢやないか。北の森でゼネラル様から沢山のお金を戴き、一時も早く国許へ帰つて正業に就くと言つたクセに、まだ斯様な所にうろついて泥坊をやつてゐたのか、困つた代物だなア』 ベル『ハイ、申訳が厶いませぬ、キツト今後は慎みます、何卒今日は見逃して下さいませ』 ヘル『カーネル様、此通りで厶います』 と掌を合す。シャルは黙つて頭を下げたなり、稍微笑を帯び、高姫の片腕になつたと云ふ誇りを鼻の先にブラつかしてゐる。 求道『お前達三人は此処を何処だと思ふてゐるのだ』 ベル『ハイ、どことも思ふてをりませぬ、此処だと思ふて居ります』 求道『此処は分つてゐる。現界か幽界かどちらと考へて居るか』 ベル『そんな事が分る位なら、こんな所へ踏ん迷うては参りませぬ、実際は何処で厶いますか』 求道『困つた奴だなア、ここは冥土の八衢だ。此高姫といふ婆アさまは、精霊界の兇鬼になつてゐるのだ。サア帰らう、何時迄もこんな所に居つては約まらないぢやないか』 三人は何うしても幽界と思ふ事が出来なかつた。 ヘル『モシ、カーネル様、ここが幽界なれば、貴方もヤツパリ肉体は亡くなり、冥土の旅をしてゐるのですか』 求道『イヤ俺は現界にゐるのだ。お前こそ幾ど幽界へ来てゐるのだよ。マ一度現界へ出て心を取直し、誠の人間になつて、更めて霊界へ来るのだ。此儘霊界へ行かうものなら、どうで地獄へ行かねばならぬから助けに来たのだ』 『ヘーエ』と云つたきり、三人は求道の顔を訝かし気に見守つてゐる。高姫はソロソロと恐怖心が除かれたと見え、求道の前にドツカと坐り、 高姫『ホツホホホホ、お前もヤツパリ気違だな、最前から聞いて居れば此処は幽界ぢやと云つたが、それがテンで間違つて居るぢやないか』 求道『現界なれば太陽も上り、月も輝き、夜になれば星もきらめく筈だが、昼夜の区別もなく、こんなうす暗い世の中を、お前さまは現界と思ふてゐるのか、よく考へて御覧なさい』 高姫『ホホホホ、何とマア分らぬ盲だこと、余り人民の精神が曇り切つて居るので、邪気濛々と立上り、日月星辰の影も見えない所まで曇つてゐるのだよ。それだから系統の霊、義理天上の生宮が底津岩根の大ミロクさまの神柱として、此世を光明世界に致さうと苦労を致して居るのぢやぞえ。お前も修験者と見えるが、何を修行してゐるのだい。一時も早く此生宮の申す事を聞いて、神様の御用を勤め上げ、天晴功名手柄を現はして、死しては神に斎られ、生きては世界の太柱となり、名を末代に残す御用を致したら何うだい。斯う見えても此高姫は天地一切の事は心の鑑に映つてゐるのだから、申す事にチツとも間違ひはありませぬぞや』 求道『ああ困つた女だなア、自分が冥土へ来て八衢に彷徨ひ乍ら、まだ目が醒めぬと見えるワイ。自愛心の強い女だなア、どうかして救ふてやる工夫はあるまいか、惟神霊幸はひませ惟神霊幸はひませ』 高姫『ホホホホ、何とまア没分暁漢許りが揃ふたものだこと、これでは神さまの御心がおいとしいワイの。人間は神の分霊だ。それにも関らず現界か幽界か見当のつかぬ所迄、霊を曇らし、どうして之が元に返るであらうか、何程結構な神様が目の前に現はれて居つても、心の眼の晦んだ者は仕方がないワイ。ああ何処の修験者か知らぬが、此奴も助けてやらねばなるまい。又一つ苦労が増えて来た。コレ、シャル、お前も私の弟子になつたのだから、チツと加勢をしておくれ、何程結構な教をしても器が小さいと這入らぬとみえる、お前位な程度で丁度可い所だ。サア、高姫の代理権を、此修験者に対して委任する、確りやりなされや』 シャル『モシ、カーネルさま、ウラナイ教の高姫先生の仰有る事を、よツく気を落付けて聞いて下さいませ。神様の信仰は理窟があつては駄目です。総て無条件でなくては信仰は出来るものぢや厶いませぬ』 求道『泥坊の改心が出来た上、真人間になつてから何なと教を聞かしてくれ、それ迄は何うも聞く訳には行かぬからなア。……コレ高姫さま、お前さまは此求道居士に旗を巻いたとみえるなア。それでは生宮とは申されますまい』 高姫は此言葉を聞くや否や、非常な侮辱を与へられたやうに感じ、眉を逆立て、又もや求道が前に詰めよつて鼻息荒く、 高姫『コレ修チヤン、お前は物の分らぬ人だな。人間は天地の花、ミクロコスモスノぢやぞえ。何事も宇宙一切腹に呑み込んで居らなくてはならぬ筈の人間が、サツパリ精霊を曇らして、癲狂痴呆となり、日月の光も見られぬ所迄堕落し、憐な状態に陥つて居るのだから、せめて神の道に目醒めた者が、此惨状を救はねばなりますまい。お前も修験者だと云つて法螺を吹き廻つて厶るが、底津岩根の大ミロク様の一厘の仕組が分つて居りますかい。人間は何うしても神に次いでの者だから天晴功名手柄を現はして、天下国家の為、お道の為に千騎一騎の大活動をなし、芳名を天下に輝かし、名を末代に伝へるべき者だ。それが出来ぬやうな事では人間とは申しませぬぞや。チツと胸に手を当てて考へてみなさい』 求道『人間は只神様の御道具になれば可いのだ。世間愛や自愛の心を払拭し、何事も惟神のまにまに活動するのが、人間と生れた所以だ。お前さまの云ふ事は何処とはなしに、ファラシーがあるやうだ』 高姫『お前は義理天上の生宮に対し、自愛心だの、世間愛だのと訳の分らぬ屁理窟をツベコベ仰有るが、よく考へて御覧なさい。人間は此世に神様の御余光を戴いて生存する限りは自愛心がなくては、一日だつて生存する事が出来ますまい。人には肉体維持の責任がありますよ。一日でも結構な月日を送らして戴き、神様の生宮として、千騎一騎の活動をせなくては、済まぬぢやありませぬか。どうしても人間は天地経綸の司宰者ですよ。何故自愛心や世間愛が、それ程お前は、怪悪なものの様に、又兇鬼の所作の様に云ふのですか。本当にお前の言ふ事は人間界には通用せない。屁理窟だ』 求道『人間が世に在る時は自愛に就ては毫も顧慮する所がない。只其外分に現はれた矜高の情、所謂自愛なる者が、何人と雖も、之を外面から明瞭と伺ひ得らるるが故に、只之を以て、自愛の念としてゐるものだ。そして又自愛の念が右の如く判然と表に現はれる事がなければ、世間の人間は之を生命の火と信じ、此念に駆られて種々の職業を求め、又諸多の用を成就するものと信じてゐる者だ。併し乍ら人間が若し其中に於て、名誉と光栄とを求める事が出来なければ、忽ち心が萎靡し了るものと思つてゐる。故にかかる自愛心の深い人間は他人に仍つて、又は他人の心の中にて尊重せられ、賞讃される事がなければ、誰人か能く値あり用ある行為をなし、自ら衆に秀れむとするものがあらうか。そして人間をして斯の如く働かしむるのは其光栄と尊貴とを熱望する心、所謂自愛に仍るものではないかと云つてゐる者許りだ。かくて世間には専ら地獄に行はれる愛と、人をして地獄を作らしむる者は愛我の自体なる事を知らない者が多いのだ。お前さまの仰有る事は要するに、今言つた様な考へより一歩も外へ出づる事が出来ないのだから、ヤツパリお前さまの仰有る事は何うしても神の言葉とは聞えませぬよ。第一神の教を奉ずる者は申すに及ばず、人間と生れた以上はどうしても愛我の心を放擲しなくては天下救済の神業は勤まりますまい。自愛心のある間は、如何に善事を行ふとも、それはヤツパリ偽善ですよ。此求道も名利の巷に奔走し、バラモン教のカーネルとして尊貴と名誉を夢みて居つた者ですが、三五教の教を悟ると共に、自愛や世間愛に離れ、斯うして神の為に働かして頂いて居ります。高姫さまも神の為に尽して、出世をせうとか、或は出世をさしてやらうとか、思つたり仰有る間は真正の信仰とは申せますまい。又真の愛と云ふ事も出来ますまい。能く胸に手を当てて貴女の心の鏡をマ一度覗いて御覧なさい』 高姫『ホホホホ、何とまア、ツベコベと理窟は甘いものですな。何程国の為、世の為だと云つても、自分を棄てて国家のため世人の為に尽す者は、実際の所はありますまい、又有り得可らざる事でせう。此高姫の明かな心の鏡には嘘偽りは一つも映りませぬぞや。愛我心がいけないと、お前さんは今言つたが、自分の体は決して自分の物でない、皆神様の御体ぢやありませぬか。三五教の教にも神を愛する如く人を愛し、吾身を敬愛すべしと出て居るでせう。吾身を愛するのは所謂神様を愛するのだ。此心が神愛ともなり、自愛ともなり愛我心ともなるのだ。それをお前は只一口に愛我心が悪いと仰有るが、今日の世の中を能く考へて御覧なさい。日々の往復文書にも……気候不順だから随分御自愛専一に祈ります……と書くぢやありませぬか、天下国家のために最善を尽し、社会の為に努力して芳ばしき名を万世に伝ふるのは、人間としては最上至善の行ひで厶いませう。お前だつて、修験者に歩いてゐるのはヤハリ愛我の為だらう。口では立派な事を言つても、言心行一致は中々出来ませぬぞや。体が資本だと言ふ事がある。如何なる善事をなすにも、肉体がなくては出来ますまい、さすれば其肉体をどこ迄も可愛がらねばなりますまい』 求道『私の愛我と言ふのは自分のみよからむ事を希求する意思を指すのである。愛我心の強い人間は、他人のよくなる事を願ふのは只自分に利益をもたらす時にのみ限つてゐる。故に自愛を以て主としてゐる者は或はチヤーチ或は国家、又は如何なる人類の団体に対しても、之が為に利福を願ふ事もなく、又自分の名誉、尊貴、光栄の為に非ざれば、他に向つて決して仁恵を施す事をせない。若し之等愛我的人間が他の為に用を遂ぐるに当つて、其中に以上述べた如き自利と相反するものがあつた時は直ちに失望し、自暴自棄して……ああ吾々は之丈努力しても、果して何の益があるだらうか、何が故に吾々は此様な事をなす可き義務があるか。又果して吾が為に何等の利得を生ずるであらうか……と云つて、放棄し、自己利益以外には何事もなさない。夫れ故に愛我の念を深く持する者は神様のチヤーチを愛せず、国家社会を真に愛せず、又御用を愛する事なく、只自己のみを愛するものである。例ば自分の主張する教を無条件に聴従する者の多からむことを願ひ、自分を尊敬する人間のみを集め、少しにても反抗的態度を執る者に対し、目をつり上げ、顔色を変じて憤怒の情を現はす如きは、自愛の最甚だしいもので厶いませう。斯の如き態度を執る人は、何れも生き乍ら地獄に籍を置いてゐる妖怪的人物です。高姫さまは生宮と仰有る以上は、決して自分を尊貴しない者を威喝したり、自分の頤使に盲従しない者を憎悪したり嘲罵するやうな地獄的行為はなさいますまいと信じて居ります。愛我心の強い人間は其所主の愛より起来する歓喜悦楽は、即ち其人間の生涯をなす所以のものだから、斯の如き者の生涯は所謂自愛の生涯です。自愛の生涯とは即ち其人間の我執の念から発生てくる生涯である。故に其自体から見る時は、我執、愛我の念慮は決して善と云ふ事は出来ぬものだ。自分に盲従し、隷属する者のみを愛する者を、又特に自分の子孫や朋友知己に限り愛せむとする者は、結局自愛の心です。自分と行動を一にする朋友知己や意中の人のみを偏愛し、自分と行動を共にせざる者及自分の意志に合はざる者を愛せないのも自愛であつて、真の神愛ではありますまい。自分の党派を愛し、自分の部下のみを愛する事、殆ど自己の如くなし、歓喜するのは、自分をその中に包有してゐるが故である。自愛心の人間が所有と称する物の中には、総て彼等を賞揚し尊敬し阿諛する者をも含んで居るのだ。之が所謂地獄愛だ。高天原に於ける真の愛に比ぶれば、実に天地霄壌の差異がある、自愛と世間愛とは所謂地獄の愛であつて、高天原の愛は天国の愛である。天国に於ては用の為に用を愛し、善の為に善を愛して聖団の為、国家の為、同胞の為に其身を空しうして、実践躬行するものです。之を称して神を愛し、隣人を愛すると云ふのである。貴女は決してさう云ふ様な自愛心をお持ちになつて居らうとは的確には信じませぬが、世の中に沢山現はれてゐる神柱とか、生宮とか、予言者とか称へらるる人間の中には、随分自愛心の強い偽善家が多いものです。真の神の生宮、五六七の太柱たるプロパガンデストならば、一切の御用も一切の善も皆神より来り、そして其中に自分が所愛の対象たるべき隣人あるが故である。され共自分が為の故に、此等の事を愛するは、之をして己に服従せしめむが為、即ち之を僕婢とし、或は部下として愛するものである。故に世間に沢山ある贋神柱は何れも愛我のみに住するが故に、自分のエビスコーバルしてゐるチヤーチの為とか、国家同胞の為に服事せむ事を願ひ、そして自分は傲然として尊貴を誇り、之に服事することを願はないものです。神の生宮、太柱などを真向に振かざし、教会、国家、同胞等の上に卓立し、之をして己が脚下に居らしめむと焦慮するものです。それ故人間は愛我心の除れない限りは、自ら高天原の天国に遠離するものだ。何故ならば高天原の愛から遠ざかるからである』 高姫『そら、そうです共、世の末になりますと、贋予言者、贋救ひ主、種々雑多のスフヰンクスが現はれて、世界の愚な人間を魔道に引入れようと致すものです。盲聾に等しき人間は至粋至純なる五六七神政の太柱、義理天上日出神の生宮を認識する明なく、玉石混淆して正邪の判別を、ようつけないのだから、実に此生宮も迷惑致します。誠の者は目薬程もないと、神さまが仰有いますが能うしたものです。此高姫はお前の眼力で御覧になれば分るでせうが、自我のやうに見えても決して自愛や地獄愛を喜ぶ者ぢや厶いませぬ。余り宏遠な教理を初めから没分暁漢に諭すと、却つて取違ひを致すに仍つて、最前もあの様に自我心を主張したのだが、お前さまの様に比較的分つた人なら、先づ上根の部だ、今迄言うたのは小乗部だ。之からお前の人格を認め、紳士的態度で大乗部で説いて上げませう。コレ、其処に居る四人の連中、之から第一霊国の教を説くのだから、下根の精霊には頭が痛み胸が苦しうなるかも知れないが、そこを辛抱して聞くのだよ。そすりや結構な御神徳が戴けますぞや。底津岩根の大弥勒様の御用を致してゐる此高姫は、言ふ迄もなく高天原の愛善の徳に居るのだから、用の為に用を愛し、善の為に善を愛して、心の底から之を行ふ事を唯一の楽みとなし、聖団のため、国家社会同胞の為に日夜これを実践躬行してゐるのだ。それだから五六七大神が自分の至粋至純の行ひを御覧遊ばし、神様の方から、生宮としてお降り遊ばしたのだ。併し乍ら余り霊の光明が烈しいので、下根の人間にはチツと懸隔が遠すぎて、正体を現さうものなら、忽ち栃麺棒を振り、逃げて帰るに仍つて、精霊相応に変化て、説法をしてゐるのだよ。神様は霊相応と仰有るのだから、豚に真珠を与へるやうな馬鹿な事は出来ませぬからなア。高姫が所主の愛は即ち弥勒大神の所主の愛だ。お前等の様に吾れよしの精神で、用を行ひ、善をした所が、ヤツパリ駄目だ。それは或一方に何か条件を求めてゐるのだから、真の愛は無条件でなくては駄目ですよ。之を自愛心と申しますぞや。自愛心の者は自ら大神の御神格より遠く離れ、従つて高天原の神国から離れて了ふものだ。自分の方から求める所の愛は我執の念に導かれて居るのだ。其我執の念といふのが、所謂悪といふのだ。悪は又一名地獄といひますぞや。三五教の変性女子の霊は世間悪の映像だと、同教幹部のお歴々が主張してゐるだらうがな、つまり悪といふのは自愛と世間愛に失する者を言ふのだよ。お前も之から此修験者の仰有る事を門口として霊を研き、奥の奥のドン奥を究めて天晴御用の為の御用をしなさい。及ばず乍ら、此高姫が力一杯、教へて上げるから……、併し乍ら教へて貰うてからの改心は駄目だぞえ、心の底から此高姫を生宮と尊敬し、且深く信じ、大神に接する態度を以て仕へなくてはお神徳を取外しますよ』 と舌鋒を甘く四人の方へ向け、俄に求道の深遠なる教理を自分の物となし、得々として受売をやつてゐる。実に当意即妙、酢でも蒟蒻でも行かぬ妖婆である。 ベル『オイ高姫さま、求道居士の……俺の先生がお出でになつてから、俄に心気一転したぢやないか、随分模倣に妙を得てゐる婆アさまだなア』 高姫『そら何を言ふのだ、頑愚度し難き代物だな。人見て法を説けと云つて、お前の様なガラクタには又それ相応の教をするのだ、耳が痛からう。此高姫は求道さまに教へてゐるのだ。お前達が彼此云ふ資格はない、スツ込んでゐなさい』 ベル『ヘン、馬鹿にしてるわい、イヒヒヒヒ』 高姫『コレ求道さま、お前は法螺貝を吹く丈、どこ共なしに気の利いてる所がある。高姫の云ふ事も耳へ入るだらう。サ、之から底津岩根の大弥勒様のお言葉を取次いで上げるから、疑はずに聞きなされや。第一世の中に何が悪いと云つても、自愛心即ち愛我の念慮位卑しいものは厶いませぬぞや。己を愛すること、神を愛するに勝り、世間を愛する事高天原を愛するに優る様な行り方は駄目ですよ。何事も神第一と致さねば、人間は神の生宮と申す事は出来ませぬぞや。人間が善を為すに当つて、其中に仮令毛筋の横巾でも、自愛の心を混じてゐたならば、忽ち我執の念に陥り、諸悪の地獄に突入致しますぞや。何故なれば斯様な人間は、此時善を離れて自分に向うて居れ共、自分を離れて善に向ふ事がないからだ。さういふ人間が如何なる善をする共、其善の中には自我愛の面影のみを止め、神格の面影をチツとも止めてゐないものだ。それだから此高姫が天の命令を受けて、苦集滅道を説き、道法礼節を開示してゐるのだから、耳の穴を宜く掃除して真面目に聞きなさいや。天地の間は皆不思議なものだ。到底人間の細工や知恵で解決がつくものでない。只神を能く信じ能く愛しさへすれば、それで結構だよ。求道さま、どうです、高姫の霊の因縁は之でチツと分りましたかな』 求道は『アハハハハハ』と笑つたきり、矢庭に法螺を口に当て、ブウブウと吹立てた。それと同時に高姫の館は次第に影うすくなり、遂に陽炎の如く消滅したりける。 ベル、ヘル、ケリナの三人はフツと気がつき四辺を見れば、エルシナ川の川縁に一人の山伏に救ひ上げられてゐた。そしてシャルは何程人工呼吸を施したり、種々と魂返しをやつてみたが駄目であつた。流石悪党のベルも此時現界に甦つたのは、兇党界の高姫に籠絡されず精神を取られなかつたからである。シャルはベルに比ぶれば稍善人であるが、現界に未だ数十年の生命が残つてゐるにも拘らず、蘇生せなかつたのは、彼れの精霊が既に高姫の教に信従し、固着して了つたからである。又求道居士は只一人法螺貝を吹き乍ら、宣伝の為此川辺にふと現はれ来り、朝早くから四人の死体を認めて身を跳らし淵に飛び込み、救ひ上げ、魂返しの神業を修したのである。之より求道居士はベル、ヘルを従へ、ケリナを送つてテルモン山の小国別が館に進み行く事となつた。ベルは中途にヘルと争論を起し、一時姿を山林に隠したのである。 (大正一二・三・一六旧一・二九於竜宮館松村真澄録) |
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霊界物語 | 57_申_テルモン山の神館2 | 09 婆娑 | 第九章婆娑〔一四五九〕 霜に打たれて茶滓のやうになつた椋の葉は、凩に吹かれてハラハラと小鳥の群立つやうに四辺に飛び散つて居る。木の葉の羽衣を脱いだ栗の梢には成育悪しき虫の綴つた毬栗が二つ三つ蜘蛛の巣と共に中空に慄つて居る。鴉は皺嗄声を出して岩窟の麓の屑屋葺の屋根にとまつて悲しげに鳴き立てる。どこともなしにボーンボーンと諸行無常を告ぐる梵鐘が聞えて来る。鬼哭耿々として寂寥身に迫り、歯の根も合はぬガタガタ慄ひ、破れ障子の隙間から耳を射すやうな凩がピウピウと矢のやうに這入つて来る。黒ずんだ破れ畳は歩く度毎に足にもつれつき、幾度となく人を転ばして笑つて居る。霜柱は覚束なげに一本橋を真白けに染め、川水は直濁に濁り、岩を噛んでは吠猛つて居る。高姫はシャルと共に裏の岩山から小柴の朽ちた、半水を含んだ枯枝を拾ひ来り、縁の欠けた囲爐裏に燻べ、耳の欠けた四角い湯釜を天釣に釣り下げ、真黒けの竹の柄杓で汲んでは飲み、汲んでは飲み、燻つた顔をつき合せ乍ら目玉計りをキヨロづかせ、又煽り乍ら、何かブツブツ不機嫌な顔をして囁いて居る。 高姫『これシャル、お前も此処へ来てから大分日日が立つたやうだが、もう些と此生宮の精神が分りさうなものぢやないか。朝から晩迄灰猫のやうに囲炉裏の傍にヘバリついて、湯ばかり餓鬼の様にガブガブ呑んで居ないで、些と外へ出て活動しては如何だい。第一霊国の天人の身魂日の出神の生宮に亡者引をさして、お前は灰猫爺の様に燻つて居ても、社会の為貢献する事が出来ないぢやないか。些と活動して貰はなくては、どうしてウラナイ教のお道が開けますかい。お前サンも見掛によらぬどたふしものだなア』 シャル『そりや何をおつシャールのだ、よう考へて御覧なさい。斯う俄に陽気が悪くなり夜とも昼とも分らぬやうな世の中にどうして活動が出来ますか。外はビユウビユウと凩が吹き、霜柱が立つて鴉さへも怖さうに啼いて居るぢやありませぬか。日の出神の生宮なら些と日輪様でも昇つて貰つて陽気が暖かくなるやうにして下さい。どれ程活動しようと思うても体が縮こまつて、寒うて淋しうて何だか怖ろしうて手も足も出せないぢやありませぬか。日の出神様も好い加減なものですよ。これ程毎日日日頼むのに日一日と寒くなる計り、こんな薄着でどうして日が越せませうか』 高姫『エエ訳の分らぬトマ助だなア。いつも云ふ通り苦労の塊の花が咲く御教だ。寒い目をするのも飢い目をするのも苦い目をするのも皆神様のお恵だよ。現世は仮の世と云うて、限りがある。どうせ一度は死なねばなりませぬよ。死んでから、エターナルに無上の歓喜を摂受し、天国の住民として暮さうと思へば、五十年や百年寒い目をしたつて飢い目をしたつて易いものだ。肉体を苦しめて、霊を鍛へ上げ、立派な立派な神の生宮となるのだよ。此高姫の事を考へて御覧なさい。何程日の出神の生宮と云うたつて、肉体が有る限り矢張りお前サンと同じやうに寒い時には寒い、飢い時には飢いのだ。結構な火と水とを戴いて喉が乾けば水を頂き寒ければ火を戴いて暖まる、何と云ふ勿体ない事を云ふのだえ。火と水とお土との御恩を忘れては人間は此世に立つてゆけないと何時も云ふぢやありませぬか。扨も扨も覚えの悪い健忘症だなア、苦しいのが結構だよ。苦しみの後には屹度楽しみが来る、寒い冬の後には春が来る、何程冬を春にしようとしても、それは天地のお規則だから、人間が左右する事は出来ませぬぞや』 シャル『何程、火の御恩と仰有つても、こう日月の光もなく、四面暗澹として闇が砕けたやうに、空から落ちて来ては根つから火も暖かうないぢやありませぬか。此処の火は、何だか水の中に屁を放つたやうに力がありませぬわ。何程焚いても焚いても体が暖まる所へはゆかず、煙たい計りで、焚物迄が腹を立てて、ブツブツ小言を云ひ、シユンシユンと涙迄澪して居るぢありませぬか。こんな火にあたつたところで燈明の火で尻を炙つて居るやうなものです。此頃の火は老耄たのでせうか、テント勢力がありませぬわ』 高姫『コレ、何と云ふ勿体ない事を云ふのだい。お燈明で尻を炙つたやうだなどとは怪体の事を云ふぢやないか。お前さまは霊が悪いから、精霊が籍を八寒地獄に置いて居るから、それで寒いのだよ。妾のやうに御神徳を頂きなさい。精霊は地獄、肉体は八衢に彷徨うて居るやうな事で、どうして神の生宮と云へますか』 シャル『何だか知りませぬが、高姫さまの仰有る事は些とも腹に這入りませぬがなア』 高姫『定つた事だよ、そこら中泥坊に歩いて居たやうな悪党者だから、一旦染み込んだ灰汁は容易に落ちはせぬワイ。誠水晶の塊の日本魂の結構な結構な生宮さまの身魂と、蛆虫の生いた糞まぶれの身魂とはどうしてもバツが合はないのは当然だ。何を云うても最奥第一霊国と最下層地獄に霊を置いて居る者との応対だから、妾が云ふ事が分らぬのも無理はないが、併しこう永らく妾の傍に居るのだから、も少しは身魂が研けさうなものだが矢張身魂が我羅苦多だから骨の折れる事だよ。毎日日日お前一人にかかつて言霊の原料が無くなるほど説き諭して居るのに、鵜の毛の露程も改心が出来てゐないぢやないか、盲聾と云ふものは、どうにもかうにも料理の仕様が無いものぢやなア。天人の霊にこの高姫が一言云うて分る事を、地獄霊のお前には数百万言を費さねばならぬのだから、本当に厄介者を引張込んだものだ。是でも神様は至仁至愛だからトコトン改心させねばならぬ。お前さへ改心して呉れたなら、世界中一遍に改心すると底津岩根の大神様が仰有るのだから何卒日の出神が手を合して頼むから、聞いて下さい。神も人一人改心させようと思へば骨が折れるぞよ。チト神の心も察して下されよ。日の出神の生宮の申した事は一分一厘毛筋の横巾程も間違ひは厶らぬぞよ』 シャル『高姫さま貴女の仰有る事は、一から十迄間違ひだらけぢやありませぬか。一つだつて貴女の仰有つた事が的中した事が無いぢやありませぬか。よう其れ程間違つた事を云うて置いて、自分から愛想が尽きない事ですな。……明日は日輪さまを出してやらう、若しこれが間違つたら日の出神は此世に居らぬぞよ……と啖呵を切つて置きながら、其日になるとザアザアと雨が降り、そこらが真黒けになつたぢやありませぬか。其時になつてお前さまは何んな顔をなさるかと考へて居れば……アア日の出神様御苦労様で厶います。日輪様がお上りなさらないのも御無理は厶いませぬ。此高姫の傍には身魂の曇つたものがシヤツついて居るから、仕様が厶いませぬ……とか何とか甘い理窟をつけて澄まし込んで厶るのだから、私も愛想が尽きました。よう考へて御覧なさい、仮令私が極悪人であらうとも一人の為にお日様が出なかつたり、空が曇つたりするやうな道理がありますか、万一私に曇りがある為に天地が曇るのなら私の一挙一動は天地に感動して居るやうなもの、そんな偉い者ぢやありますまい。お前さまは私の悪口を云ひ乍ら私を天地稀なる比類無き英雄豪傑にして下さつたやうなものだ。其処辺の点がどうしても私には合点がゆかないのですよ』 高姫『エエ何をつべこべと下らぬ理窟を云ふのだえ。お前は因縁の悪い身魂だからバラモン教からは追出され小盗人からは除ね出され、しよう事なしにこの高姫の尻に喰ひついて居るのぢやないか。お前のやうな我羅苦多が天地を動かすやうな力はありさうな事はない。併し乍ら神様がお前を世界悪の映象として三五教の変性女子のやうに型に出して厶るのだから、世界の悪身魂がお前に写り、お前の悪身魂が世界に写るのだ。それだからお前さへ改心して呉れたら世界中が改心致すと云ふのだよ。この日の出神は天も構へば地も構ふ、又八衢も構ふ大ミロク様の太柱だから、零落れて居ると思うて侮りて居ると、スコタンを喰ふ事が出来ますぞや。先を見て居て下され、先になりてから、……アア高姫さまは立派なお方だつた、こんな事なら、口答も致さず、も些と許り大事に敬うて居たらよかつた……と地団駄踏んでも後の祭り、何程其処になりて……改心致しますから助けて下され……と云つても日の出神は知りませぬぞや。さうだから今の間に柔順しう致して素直になさるがお主のお得だ。此世でさへも切替があるのに何をグヅグヅして厶るのだ。早く心の切替をなさらぬかいナ』 シャル『高姫さま本当ですかいな。そんな事云つて大法螺を吹くのぢやありませぬか、口から法螺を吹き、尻から喇叭を吹くのは当世の流行ものですからなア』 高姫『それはお前の悪が水晶の鏡の此生宮に写つて居るのだよ。……人の事だと思うて居ると皆吾事だぞよ……と変性男子のお筆に出て居るぢやありませぬか、犬が魚を銜へて一本橋の上を渡ると、水の底にも亦一匹の犬が居て魚を銜へ倒に立てつて歩いて居るのを見て……此奴怪しからぬ奴だ、足を天にし背中を地にして歩いて居る。一つ叱つてやれ……と、ワンと云うた途端に口に銜へて居た魚がバツサリと水の中へ落ちたと云ふ話があるだらう。恰度お前さまは橋の上の犬だ。水晶の水鏡、即ち高姫の霊にお前の醜い霊が写つて何事も逆様に取られるのだぞよ。蟇蛙の膏を取る時には四方八方ガラスを立てた箱に入れて置くと、四方八方に自分の醜い姿が写るので、自分の敵と思ひ、彼方へ突き当り、此方に飛びつき、終の果にはすつかり疲れて膏を出してカンピンタンになつて死ぬものだ。この高姫が悪く見えるのは約りお前さまの霊が悪いのだ。 立ち向ふ人の姿は鏡なり 己が心を写してや見む。 と云ふ道歌を考へて御覧なさい、皆人が悪く見えるのは自分が悪いからぢやぞえ。ても扨ても犬蛙人種と云ふものは仕方のないものだなア』 シャル『高姫さま、善言美辞の教だと何時も仰有るが、随分悪言暴語を放出なさるぢやありませぬか。それでは神の資格はゼロですよ』 高姫『それは又何と云ふ分らぬ事を云ふのだえ、最前からあれ程鏡の喩を引いて説明してやつたぢやないか。エエ鈍な身魂は困つたものだなア。高姫が悪言暴語するのはお前さまの霊が写つて居るのだ。いやお前さまのためだ。此高姫は半鐘のやうなものだ。柔かく打てば柔かく響く、強く打てば強く響く、高く打てば高く響く、低く打てば低い音が出るのだ。お前さまが下らぬ口を叩くからこんな言葉が出るのだよ。お前さまがモ些と素直になり、長上を敬ひ、もつと柔しき言葉を使へば柔しくなるのだ、……此神は従つて来れば誠に柔しき神であるなれど、敵対心で神の前に来て見よれ、鬼か蛇の相好になるぞや……』 シャル『モシ高姫さま、それや現界の理窟ぢやありませぬか、至仁至愛の大ミロク様なら、悪人が来れば尚可愛がり、善人が来れば又可愛がり、決して憎悪の念をお持ちなさらないのが神様でせう。己に敵する者に対して鬼畜の相を現はし、己に従ふ者には柔和の相を現はすと云ふのなら、お前さまを尊敬することが出来ませぬわ。何んな悪い者でも此方が親切にしてやれば喜んで従ひ、キツト恩返しをするものです。己に従ふものを愛し、敵するものを憎むのなら、それは自愛であつて、八衢人足や、地獄界の邪気のする業でせう。神様は決して憤慨したり憎悪したりなさるものぢやありませぬぞ。神様がもし憎悪の念を起したりなさるとすれば、神自体が既に亡ぶぢやありませぬか』 高姫『エエ、第一霊国の天人の申す事がお前等に分るものか、モ些と修業なされ。器が大きくなつたら此高姫の申す事が明白分るだらう。夫よりも早く四辻に出て旅人を引張つて来なさい。こう毎日日日結構な光陰を空費して居ては、天地の神様に勿体ない、一人でも改心さしてウラナイ教の信者を拵へねば、天地の神様に済まない。お前も此世に生れて来た甲斐があるまい。サア、トツトと四辻迄行つて来なさい』 シャル『高姫さま貴女も一緒に来て下さらぬか。又文治別とか云ふエンゼルがやつて来たら困りますからなア』 高姫『エエ何と云ふ気の弱い事を云ふのだい。文治別なんて、あんな者が千人や万人束に結うて来た所が、こたへるやうな生宮ぢやありませぬぞや』 シャル『ハハハハハ、どこ迄も我執の念の強い人ですなア。山を越え、谷を越え荊棘掻をしながら、のたくつて逃げたぢやありませぬか。なぜ夫程偉いお方なら、あのエンゼルを此処にじつとして居て凹ませてやらぬのですか』 高姫『エエ分らぬ男だなア。国治立尊様さへも謙譲の徳を守り悪神に世を譲つて艮へ退却なさつたぢやないか、そこが神様の尊い所だよ。此生宮も変性男子の系統ぢやから、謙譲の徳を守つてエンゼルに花を持たせて逃げてやつたのだよ。救世主の仁慈無限の精神が小盗人上りのお前に分らうか。「物言へば唇寒し秋の風」と、可惜口に風を引かすより、ここは一つ沈黙を守らう。サア早く四辻に行つて来なさい』 シャル『エ仕方がありませぬ、そんなら暫く行つて参ります。アア寒い事だなア。こんな事なら高姫さまの傍に居るのぢやなかつたに。今更ベル、ヘルの仲間に逆転すると云うても寄せても呉れまい。毎日日日亡者引をやつては撥ね飛ばされ、云ひ負されて耐つたものぢやないわ』 とブツブツ小言を云ひ乍ら、霜柱の置いた一本橋を怖さうに跨げながら出でて行く。 (大正一二・三・二五旧二・九於皆生温泉浜屋加藤明子録) |