| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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61 (1875) |
霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 13 握手の涙 | 第一三章握手の涙〔七五九〕 天恩豊な地恩城春秋冬も夏景色 木々の木の葉は麗しく果物豊に実りつつ 衣食の道に身をもがく難みも要らぬ一つ島 顕恩郷を立ち出でて錫蘭島に立て籠り 閨の友彦後にして大海原を渡り来る 小糸の姫の行先を鵜の目鷹の目つけ狙ひ 三十路に余る男の頃の島に渡りて彼方此方と 行方求めてバラモンの道を開きし友彦が 時の力に助けられ蜈蚣の姫に邂逅ひ 命の瀬戸の海中に堅磐常磐に浮びたる 小豆が島に名も高き国城山の岩窟に 遇ふた嬉しさ恐ろしさ洲本の庄の酋長が 捕手の者に縛られて何の言ひ訳淡路島 東助夫婦の情にて犯せし罪もうたかたの 水泡と消えて釣小舟清武鶴の三人と 馬関の関の浪を越え千引の岩に船をあて 命危ふき折からに三五教の神司 玉治別の一行に惜しき命を救はれて 蜈蚣の姫や高姫の漂着したるアンボイナ 南洋一の竜宮に上陸すればコハ如何に 小糸の姫の生の母蜈蚣の姫に再会し 何の云ひ訳荒波を乗り切り乗り切り沓島や オーストラリヤの浮島に蜈蚣の姫の一行と 命からがら上陸し小糸の姫の住ひたる 地恩の城に来て見れば情を知らぬ国人に 手も無く叩き出だされて傍の林に潜みつつ 黄竜姫の宿の夫嬉し嬉しの再会を 悦ぶ間もなく夢醒めて四辺を見れば岩の上 腰の骨さへ打ち砕き身動きならぬ悲しさに 漸く息を休めつつ三五教の神言を 赤心籠めて宣りつれば神の恵は忽ちに 身もすくすくと風荒き尾の上を伝ひてネルソンの 峰の頂上に辿り着き後振り返り眺むれば 一望千里の雲の奥地恩の城は何処ぞと 眼を見はりつつ憧憬るる時しもあれや烈風に 吹き捲くられて友彦は風にゆられて鷹鳶の 翼無き身は如何にせむジヤンナの郷に墜落し 人事不省の折柄に此地に住める郷人は 不思議と傍に立ち寄りてよくよく見れば昔より 待ち焦れたる救世主曲りながらも赤鼻に 喜び勇み雀躍りしジヤンナイ教の本山に 担ぎ帰りし面白さジヤンナイ教の神司 テールス(照子)姫に思はれてここに夫婦の新枕 月日を重ね往くうちに三五教の感化力 ジヤンナの郷にゆき渡り三五の月の御教は 朝日の昇る勢で四方に拡がり栄え行く 友彦夫婦は意を決し地恩の城に神徳の 花を開かす黄竜姫御許に到り其昔 蜈蚣の姫や小糸姫母娘の者を悩ませし 深き罪をば詫びむとてテールス姫に来し方の 事情細かに物語り漸く妻の諒解を 得たる嬉しさ夫婦連れジヤンナの郷の人々に 暫しの暇を告げながら供をも連れず入り来る 其真心ぞ雄々しけれあゝ惟神々々 神の御幸を蒙りて前非を悔いし友彦が 母娘の前に手をつきて心の曇を晴らしつつ 三五教の柱石と仕へまつりし古き世の 清き尊き物語神と神との御水火より 組み立てられし瑞御霊神の使の瑞月が 粗製濫造の蓄音器把手に撚をかけながら 不整調なるレコードの又もや廻転始めける あゝ惟神々々御霊幸倍ましまして 黄竜姫や友彦の搦みあうたるローマンス 恋の縺れの糸口をサラリサラリと淀みなく 宣らせ給へよ天津神国津御神や大八洲彦 神の命の御前に慎み敬ひ願ぎまつる。 ○ 友彦夫婦は、小糸姫に誘はれ奥殿深く進み入る。友彦の来訪を聞いて胸踊らせた蜈蚣姫、スマートボールや其他の一同は、珍らしさと忌はしさの混乱したる如き面持にて、中腰になりながら出迎ふ。黄竜姫は友彦の手を固く握り、二三回揺ぶり、 黄竜姫『ジヤンナーサール、ウツポツポ、サーチライス、友彦、テールス、テールスヘーム、タープリンスタープリンス、ケーリスタン、イジアン、ノールマン、シールンパーユエーギエル、シユライト』 と宣る。 『ジヤンナの郷に天降りました友彦の救世主よ、妻のテールス姫殿、御無事で御神業によく仕へて下さいました。妾も貴方が今迄の態度を改め、誠の道に御活動遊ばすを仄に聞き、愛慕の念に堪へず、何とかしてお便りを聞き度いものだ、又神様のお許しあれば一度会見をして今迄の御無礼を謝し、互に了解を得て御神業に参加したく思つて居りました。能くマア御遠方の処遥々お入来下さいました』 との意味であつた。(これから解り易いやう日本語を用ふ) 友彦『ハイ有難う御座います。鬼熊別様、蜈蚣姫様の御両親に対し、若気の至りとは申しながら、天にも地にも一粒種の貴方様を、悪魔の為に吾精神を魅せられ、あのやうな不都合な事を致しました私の罪を、お咎めも下されず、唯今の御親切なる打ち解けたる御挨拶、実に痛み入りました。私は過ぎ来し方の御無礼を思ひ出す度に神の光に照らされて、五体をぐたぐたに神様から斬り虐まれるやうな苦痛を感じ、寝ても覚めても居られないので、恥を忍び直接女王様に拝顔を得、心ゆく迄お詫を申上げ、且つお恨みのありたけを酬うて貰ひ、さうして自分の罪を赦され、至粋至純な元の御魂に立ち帰り、安心して御神務に奉仕したく存じまして、女房にも事情を打ち明け、態とに供人も召し連れず、昔の友彦となつてお詫びに参りました。何卒今迄の御無礼を、神直日大直日に見直し聞き直し、お赦し下さらむ事を、偏にお願ひ致します』 と涙をハラハラと流し、真心より詫び入る。黄竜姫は、 黄竜姫『ハイ有難う御座います。罪は却つて私に御座います。お慈悲深い神様に何事もお任せ致しまして、正しき清き御交際をお願ひ申上げます』 と心の底より打ち解ける其殊勝さ。友彦は一同に向ひ歌を詠んで挨拶に代へた。 友彦『沖に浮かべる一つ島地恩の城に現れませる 神威輝き天地の恵も開く梅子姫 三千世界に神徳を隈なく照らす黄竜姫 神の命を始めとし母とまします蜈蚣姫 泥にまみれし世の中をスマートボールや宇豆の姫 千歳祝ぐ松の世の梢に巣ぐふ鶴公の 右守の神の御前に神の教の友彦が 赤き心を打ち明けて居並びたまふ三五の 司の前に敬ひて言解き詫し奉る 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも誠の道は何時迄も 変るためしもあら尊と教の御子と選まれて ミロクの神の神業に仕ふる吾等の頼もしさ 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直し聞き直し 身の過ちは宣り直す神の尊き言霊の 底ひも知れぬ御恵吾人共に大前に 広大無辺の神恩を畏み感謝し奉る あゝ惟神々々御霊幸倍ましまして 地恩の城は永久に朝日の豊栄登るごと 栄え栄えて果も無く輝き渡る天津日の 御蔭蒙りネルソンの山の彼方の国人を 一人も残さず三五の神の恵に救ひ上げ 野蛮未開の魔の郷を開きて進む神の徳 東と西に分れたるネルソン山の頂きに 立たせ給ひて黄竜の姫は雄々しく此島の 救ひの神と現れませよ吾は友彦テールス姫と 力を一つに合せつつ汝が命の神業を 助けまつりて永久に国治立大神の 仁慈無限の御心に酬いまつらむ村肝の 心撓まぬ桑の弓射貫かにや止まぬ鉄石の 胸打ち明けていつ迄も固き心を誓ひ置く あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 梅子姫は総代的に立ち上つて祝歌を歌つた。 梅子姫『無限絶対無始無終仰ぐも高き大宇宙 𪫧怜に委曲に造りたる国治立大神は 仁慈無限の御心を三千世界の万有に 残る隈なく与へむと遠き神代の昔より 心を千々に配らせつ天津神達国津神 百の神達千万の青人草や海川や 草の片葉や鳥獣昆虫の末に至る迄 心を配り給ひつつ大海原に漂へる 泥の世界を清めむと清き御魂を幸はひて 高天原のエルサレム此処を聖地と定めつつ 三五教の御教を四方に開かせ給ひけり 神の最初の出現は珍の都のエルサレム 人の歴史の初まりは埃及国を元となし オリバス神を礼拝し印度の国はクリシユーナ 波斯の国ではミスラスの神を伊仕へ南米の 高砂島の国人はクエルザコールを礼拝す 神の初めのエルサレムは国治立大神を 祀ると云へど其元は清き流れのイスラエル 自転倒島に現れませる神の教も皆一つ バラモン教やウラル教ウラナイ教やジヤンナイの 教と云へど人の世の風土や人情に画されて 其名を異にするのみぞ黄竜姫も友彦も 過ぎし昔はバラモンの神に仕へし身なれども 其根本に立ち帰り此世を造りし神直日 心も広き大直日国治立や豊国姫 神の命の霊の裔埴安彦や埴安姫 貴の命と現はれて教を四方に開きます いとも尊き御恵に如何で隔てのあるべきや いよいよここに三五の神の教に天が下 四方の国々島々を残る隈なく統一し 此世を救ふキリストの神業清くミロク神 十字の架を背に負ひてノアの方舟操りつ 天教地教の山の上に世人を救ふ神の業 其神徳の一滴此処に滴り竜宮の 名に負ふ珍の一つ島メソポタミヤの顕恩郷 聖地に比すべき地恩郷青垣山を繞らして 珍の真秀良場永久に治め給へる黄竜姫 教の御子の友彦が心の底より打ち解けて 東と西を隔てたるネルソン山の青垣を 苦もなくここに打ち払ひ名詮自称の一つ島 一つ心に真実を籠めて仕ふる神の道 三千世界に隈もなく一度に開く梅子姫 心も勇み身も勇み父大神が三五の 清き御旨に叶ひつつ教の道の永久に 開け行くこそ尊けれあゝ惟神々々 御霊幸倍ましまして天は地となり地は天と 変る艱難の来るとも地恩の郷に三五の 厳の御柱弥高に瑞の御柱永久に 顕幽揃うて立つ上は如何で揺がむ国治立の 神の尊の御仰せ心清めて朝夕に 仕へまつれよ諸人よ神の恵は天地と 共永久に変らまじあゝ惟神々々 御霊の幸を賜へかし』 茲に目出度く友彦は黄竜姫と再会し、麻柱の至誠を捧げ、東西相和し相助け、友彦は黄竜姫の忠実なる部下となつて大神の大道を、全島に力の限り拡充する事となつた。いよいよ一同打ち揃ひ、神前に例の如く祝詞を奏上し、宣伝歌を歌ひ終り、十二分の歓喜に満たされて一旦各自の館に帰り、友彦夫婦は貴賓として鄭重なる待遇を受け、数日城内に滞留する事となつた。 (大正一一・七・一一旧閏五・一七加藤明子録) |
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62 (1876) |
霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 14 園遊会 | 第一四章園遊会〔七六〇〕 オーストラリヤの一つ島は、現在は殆ど夏計りなれども、此時代は僅かに春夏秋冬の区別がついて居た。日中は年中殆ど同じ暑熱であつたが、朝夕夜間の気候には自然に四季の区別を現はして居た。 我国で言へば殆ど晩夏の頃、城外の天を封じて立てる老樹の遠近に生茂る馬場に於て友彦夫婦の為に大園遊会が開かれた。四面山に包まれたる地恩郷は、平地としては全島に於ける第一の高地であつた。谷川は南北を流れ、崎嶇たる岩石、谷々に壁の如く突つ立ち、奇勝絶景並ぶものなき景勝の地である。 一つ嶋に於ける景勝の地は、第一に諏訪の湖、第二にヒルの郷のクシの滝壺の近辺に指を屈するのである。されどヒルの渓谷は区域最も狭くして、平地は殆ど無く、地恩郷に対して、其大小広狭の点に於て比べものにならない。土地高く風清く、且つ面積広く、大樹鬱蒼たる点は、全島第一と称せられて居る。 門外の広場の森林には所々に赤、白、黒、青、紅等の面白き形をしたる岩石、地中より頭をもたげ、一見して大なる花の地上より咲き出でたる如く思はる。岩石の大部分は、蓮華の花の咲き出でたる如き自然形をなし、国人は単に之を蓮華岩と云ひ、或は蓮華の馬場とも名づけて居る。 黄竜姫以下数百人の人々は、右往左往に、思ひ思ひの遊戯をなし、歌ふ、踊る、舞ふ、岩笛を吹く、石を拍つ、一絃琴、二絃琴、三絃琴の音嚠喨として響き、横笛、縦笛、磬盤などの音は最も賑しく、思はず身を天国にのぼせ、妙音菩薩の来りて楽を奏する如き感に打たれ居る。梅子姫は中央の最も高き紫色の蓮華岩に登り、面白き歌を歌つて興を添へた。 梅子姫『芙蓉山と聞えたる天教山に現れませる 木の花姫の御身魂一度に開く梅子姫 皇大神の統御げる皇御国のスの種を 四方に間配り大八洲数ある中に自転倒の 島根の国の真秀良場や青垣山を繞らせる 下津磐根の蓮華台芙蓉山の御移写 神の教に国人の心も開く蓮葉の 匂ひ出でたる地恩郷蓮華の花の此処彼処 咲き乱れたる其台神の教を麻柱ひし 貴の御子たる八乙女の開き初めたる梅子姫 三千世界の神人を招き集ふる此斎場 教の稜威も高天の原に坐します日の御神 月の御神の御恵の御水火を受けて黄竜姫 大海原の波を分け雲を起して久方の 天津御国に昇る如御稜威畏き神司 母と現れます蜈蚣姫豊葦原の中津国 メソポタミヤの顕恩郷エデンの河と諸共に 清き誉を流したるバラモン教の神司 鬼熊別の片柱天地四方の神人を 誠の道に救はむと大国別の御言もて 埃及国や波斯の国印度の国まで教線を 布かせ給ひし雄々しさよ父大神の神言もて 天の太玉神司エデンの河を打ち渡り 顕恩城に出でまして天津誠の御教を 𪫧怜に委曲に宣りつれど天運未だ循環り来ず 鬼雲彦の荒神は神の心を慮り兼ね 雲を霞と自転倒の島に渡らせ給ひつつ 率ゆる人も大江山稜威の砦を構へ立て 教の花の開く様みくにケ嶽や鬼ケ城 北と南にバラモンの教の射場を造りつつ 同じ天地の珍の子と生れ出でたる三五の 神の司に追はれまし再び波斯の本国へ 帰り給ひし痛ましさあゝさり乍らさり乍ら 此世を造りし大神の恵の露は天地の 百の神人草木まで漏れ落ちもなく霑ひて 誠の道に敵もなく味方の差別もなき世をば 小さき意地に搦まれて右や左や北南 種々雑多と名を変へて荒び居るこそ悲しけれ 転迷開悟の蓮花愈開く常磐木の 松の神代のめぐり来て敵と味方の区別なく 心合せし一つ島地恩の郷に三五の 教を開く嬉しさは高天原に手を曳いて 歓ぎ遊べる如くなりあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして一度叛きし友彦が 心の空に月は照り輝き渡る今日の宵 国治立大神や神素盞嗚大神の 此有様を詳細に眺め玉へば如何ばかり 歓ぎ給ふか白雲の包む谷間ぞ床しけれ 科戸の彦や科戸姫御霊幸はひましまして 地恩の郷や吾々が心を包む雲霧を 一日も早く吹き払ひ天国浄土の真相を 宇宙主宰の大神の御前に現はし奉るべし 神は吾等と倶にます親子兄弟睦び合ひ 此楽園に神国の春を楽しむ一同の 花も開きし蓮華台堅磐常磐の岩の上に 千代も八千代も万代も栄えませよと願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終つて、紫の蓮華岩を下り来り、芝生の上に息を休め居る。 蜈蚣姫は稍くの字に曲つた体を揺ぶり乍ら、両手を拡げて手付き面白く、廁の水浸き然として歌ひ踊り始めたり。 蜈蚣姫『豊葦原の瑞穂国根分けの国と伝はりし メソポタミヤにバラモンの足場を作り天が下 世界十字に踏みならす蜈蚣の姫の身の果は メソポタミヤを後にして波斯を越えて印度の国 大空駆ける磐船に身を任せつつ自転倒の 島に渡りて彼方此方と教を開き黄金の 玉の所在を探らむと思ひし事も水の泡 阿波の鳴門や淡路島生命の瀬戸の海越えて 小豆ケ島や南洋の竜宮島のアンボイナ 男滝女滝に身を浴し浪路も遠き太平の 洋を渡りて進み来る船脚早く沓の島 ニユージランドの玉森に一度息を休めつつ 波を辷りて此島に着くや間もなく地恩郷 神の立てたる三五の教柱の黄竜姫 来りて見れば吾娘小糸の姫の面影は 老の眼もうるみなく擬ふ方なき愛娘 教の光久方の天津御空の雲分けて 天降りましたる朝日子の日の出神の御守り 金勝要大神が御分霊なる真澄姫 天と地との神々の其懐に抱かれて 安々送る老の身の心に懸る雲もなし さはさり乍ら白雲の彼方に遠き波斯の国 夫の命は黄竜姫が少女の命の今日の様 未だ知らずにましまさむ翼なき身は如何にせむ 空漕ぎ渡る鳥船も皇大神の警告に 今は用ゆる術もなく空行く雲の吾為に 篤き心のあるならば一日も早く夫の辺に 吾等親子の喜びを一日も早く伝へかし 遠く四方を見渡せば霧に隠れし地恩郷 何の目的も梨礫鳩の使の片音信 執着心の曲鬼を伊吹祓ひに打祓ひ 速川の瀬に清めむと心に覚悟は定め乍ら 忘れ難きは恩愛の止むる由なき吾涙 梅子の姫よ友彦よテールス姫よ宇豆姫よ スマートボール鶴公よ其他並居る教子よ 神の真道に入り乍ら心もつれし吾姿 眺めて笑うて下さるな道は道なり親と子の 情は世界の始めより今に変らぬ玉椿 千代も八千代も永久に動かぬものと神直日 見直しまして何時迄も吾等親子を親子とし 堅磐常磐に道の為尽させ給へ惟神 神の御前に久方の天津祝詞の声清く 仕へ奉らむ蜈蚣姫あゝ惟神々々 神に誓ひし教子よ教を守るピユリタンよ』 と歯の抜けた口から、不整調な言霊にて歌ひ終り、蓮華岩の上に腰を打下し、ホツと息を吐いた。続いてスマートボール、宇豆姫、鶴公其他の歌は数多あれども、山鳥の尾の余り長々しければ省略す。 黄竜姫以下幹部は、園遊会を切りあげて表門を潜り、各居室に姿を隠した。貫州、武公、マール、ミユーズ其他の連中は、後に残りて酒に酔ひ、クダを巻き、解放的気分になつて、彼方に五人此方に三人と、木蔭に足を投げ出し、芝草をむしり乍ら雑談に耽つて居る。マールは口を縺れさせ乍ら、 マール『モシモシ、貫州のボールさま……蜈蚣姫さまも昔はバラモン教の立派な大将株で終局にや海洋万里の自転倒島まで玉を探しに往つたり、宣伝をされたり、三五教を目の敵の様に敵対うて御座つた癖に、自分の娘が三五教の神司、地恩城の女王さまになつたと思つて、俄に心機一転し、三五教を此上なき結構な教の様に思つて御座るのは、チツと可笑しなものですな。梅子姫さまに、最前の様に耳の痛い歌を歌はれて、何とも思筈、自分も立つて踊り狂ひ、妙な歌を歌はしやつたが、一体全体何の態だ。俺やモウ胸糞が悪くて、三五教にお仕へするのも厭になつて来た。……貫州さま、今日限りお暇を頂戴して、又元の土人の仲間へ還元しますから、どうぞ悪からず御承認を願ひます』 と巻舌になり、フーフと酒臭い息を貫州に吹き掛け乍ら、覗き込む様にして詰寄つた。 貫州『神様の道の信者にはイロイロと径路があるものだ。悪いと思へば直に改良するのが所謂惟神の道だよ。貴様の様な一本調子で、神様の信仰が出来るものか。要するに神の道は理智に依つてかたづけようと思つても駄目だ。信入も悟入も、左旋も右傾も、消極も積極も一寸見た所では大変にかけ離れて居る様だが、実際は皆一体だ。何方から入信つた所で、落着く所は天地創造の元の神様を信仰するのだ。所謂江南の橘は江北の枳殻だ。バラモン教であらうが、三五教であらうが、誠の道に二つはない。畢竟人間の考へに依つて種々の雅号を附けたり、勝手な障壁を拵へて威張る丈のものだよ。蜈蚣姫さまの……吾々は……態度に就いては大賛成だよ。貴様もそこまで理屈を言ふ様にならば、最早信仰の門口に這入つたのだ。宅の女房の名がお竹でも、お松でも別に変りはないぢやないか。お竹の名がお松にならうと、お松の名がお梅にならうと、人間其者はチツとも変りがないと同様に、神様は一株だから、よく考へて見て、其上に去就を決した方がよからうぞ。バラモン教と云ふも三五教と云ふも、但はジヤンナイ教と云ふも、ウラル教も、教を伝ふる人間の解釈に依りて、深浅広狭の区別が付くまでだ。兎も角深く広く、入り易く、愉快な教を信仰して、其日其日を安心立命して行くのが、神の教を信ずる信者の本領だ。モチツト話してやりたいが、さうヅブロクになつて居ては、折角の高論卓説も貴様の耳には這入るまい。先づ酔が醒めてから、悠りと説明するから、明日の事にしよう』 マール『何だか知らぬが、チツとばかし、気に喰はなくなつて来たのだ。そんなら明日改めて聞かして貰はうかい』 と行歩蹣跚として、目も霞、右の腕で両眼を横にツルリと撫で、鼻をツンとかみ乍らあつちやにヨツたり、こつちやへヨツたり、八人脚になつて門内へよろめき入る可笑しさ。一同は手を拍つて『ワツハヽヽヽ』と笑ひ転げる。 紺碧の空は俄にドンヨリとして来た。ネルソン山の峰を圧して、天空高く現はれ来る異様の女神七八人、瞬く間に朱欄碧瓦の神殿現はれ、数多の人々の影、手に取る如く天空に筍の生えた如く、ポツリポツリと現はれ来る。 武公は初めて此蜃気楼を眺め、『アツ』と驚き、黄竜姫に注進せむと、転けつ輾びつあつちやへヨツたり、こつちやへヨツたり、八人連れの歩みをし乍ら、奥深く姿を隠し一同は天を仰いで、蜃気楼の立派なるに打驚き、園遊会の余興だと、興がつて居る。 武公の注進に依りて、黄竜姫、梅子姫其他の最高幹部は高殿に上り、ネルソン山の頂上より此方に向つてパノラマの如く、チクチクと位置を転じ来る、諏訪の湖の蜃気楼を熟視すれば、数多の女神に手を曳かれ、左守神たりし清公其外四人連れ、何事か神勅を受け居る姿を眺めて、一同は手を拍つて驚喜し、直に天に向つて天津祝詞を奏上した。蜃気楼は益々明瞭に、且つ左右に長く展開し、湖面に浮かぶ白帆まで判然と映つて居る。黄竜姫は蜃気楼を見て言霊の歌を歌ひ始めた。 黄竜姫『アふげば高し久方のイ域の空に現はれし ウヅの宮居の蜃気楼エにある様な姫神の オホ空高く現はれてカミの御前を伏し拝み キヨき正しき太祝詞クモ井に高く詔りあげし ケ色は殊に美はしくコバルト色の山の上を サシ登りたる清公のシロき顔容珍の衣 スワの湖影清くセマり来れる地恩城 ソラ高々と現はれぬタカ天原の神の国 チ五百万の神人のツキ添ひまつる崇高さよ テニ手に玉を携へてトコ世の空を打眺め ナガき影をば和田の原ニシや東や北南 ヌりたる如き空の色ネ底の国まで照り渡る ノゾミも遂げて神人がハナの顔容月の眉 ヒダリ右りの侍女はフジの額に雪の肌 ヘグリの山のそれの如ホホベも春の花の色 マナコ涼しく眉濃くミダレ髪さへ顔に垂れ ムツび合うたる神と人メグり大足神の世の モモの花咲く弥生空ヤ千代の君を寿ほぎて イヅミも清き湖の底ユフに言はれぬ麗しさ エに見る如き光景はヨにも稀なる眺めなり ワが言霊の清ければヰづくの空も澄み渡り ウきつ沈みつ行雲のヱらぎ栄えて永久に ヲサまる御代を守れかしあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして左守神と仕へたる 心の空も清公が地恩の城を後にして 身を下したるタカ港屋根無し船に揺られつつ ヒルの港に漕ぎつけて谷間に荒ぶ曲津霊を 言向け和しセーランの山の麓を踏越えて 露の枕も数重ね一望千里の玉野原 厳しき暑熱を浴び乍ら進み進んで諏訪の海 湖辺に漸く辿りつき天津祝詞を奏上し 身禊払ひてスクスクと水児のみづの魂となり 湖中に浮び漂へる男島女島に助けられ 転迷開悟の教の花開いて散りて実を結び 天女の如く浄化して黄金の船に迎へられ 朱欄碧瓦の高殿に導かれたる有様は 今目のあたり見えにけりあゝ惟神々々 神の恵に隔てなし心の空に塞がれる 雲を払へば天津日の光は清く照り渡る 三五の月を包みたる八重棚雲も忽ちに 科戸の風に払はれて円満清朗望の月 尽きせぬ神の御恵は天垂る地垂る海に垂る 人の身魂にたり充ちて一二三四五つ六つ 七八九つ十の空百千万の神達の 守りも深き竜宮嶋妾もいかで此儘に 地恩の郷に悠々と空しく月日を過さむや いざこれよりは村肝の心を清め魂磨き 清きが上にも清くして神の集まる竜宮の 諏訪の湖へと立向ひ天火水地と結びたる 珍の宝を拝戴し自転倒島に宮柱 太しき建てて永久に鎮まり居ます大神の 御前に捧げまつりなば三五教の礎は 云ふも更なり天が下四方の国々永久に 黄金世界を造りなし貴き神の功績を 堅磐常磐に現はさむ三五教の人達よ 天に輝く蜃気楼神の姿を目のあたり 眺めし上は如何にして安きを貪る時ならむ 一日も早く片時も妾と共にネルソンの 高嶺を越えて西の空虎狼や鬼大蛇 醜の曲津の猛ぶ野を神の光を身に浴びて 安々進み行かむとす早々用意召されよ』……と 促す姫の一言に蜈蚣の姫を始めとし 神の花咲く梅子姫宇豆姫友彦伴ひて テールス姫も諸共に旅装を整へしづしづと 地恩の城を後にして身装も軽き蓑笠の 露押し分けて進み行くあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 (大正一一・七・一一旧閏五・一七松村真澄録) |
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63 (1877) |
霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 15 改心の実 | 第一五章改心の実〔七六一〕 黄竜姫、梅子姫、友彦、テールス姫、蜈蚣姫の五人は共に、地恩城を後に数百里、山路を越えて玉野原の諏訪の湖の竜宮城に進むこととなつた。後には左守、スマートボール夫婦を初め右守鶴公、貫州、武公、マール、ミユーズの幹部連をして留守師団長とし、草の蓑、竹の小笠の軽き扮装、タロの木の枝をつきながら、岩石起伏せる羊腸の小径を上りつ下りつ、谷を飛び越え谷間を伝ひ漸くにして、ジヤンナの友彦が割拠せし郷に着いた。 鬼の様な荒男、赤銅の様な顔に青い黥を、顔一面に彩りし者を先頭に、老若男女が六ケ敷い顔して黄竜姫の一行を『ウワーウワー』と鬨の声を挙げ乍ら歓迎した。昼尚暗き森林に包まれたる此郷は、一見鬼の様な人種計りであるが、至つて質朴で且つ正直で信仰心に富んで居た。曲つた鼻の赤い友彦を、天来の救世主と仰いで、尊敬した程の郷人は、天女の如き黄竜姫、梅子姫の玉を欺く清き姿を眺めて、天の河原よりネルソン山に鳥船に乗じ天降り給ひしを、ジヤンナの郷の救世主友彦夫婦が奉迎して帰りしものと固く信じ、一斉に砂糖屋の十能見た様な、大きな黒い手を拡げ、 土人『ウツポツポウツポツポ、オーレンス、サーチライス、ターレンス、チーターチーター』 と叫び乍ら歓迎の意を表した。此意味は、『神様か、天の御使か、但は吾等を救ふ光明の神か、実に立派な大救世主が、此郷に御降り遊ばした。吾々は最早絶対に悩みに遇ふこともなく、永遠無窮に天国浄土の楽みを味はうことが出来るであらう。木の実は豊に実り、鼓腹撃攘の恵みに浴することは火を睹るよりも明瞭だ。有難い、勿体ない、貴い、嬉しい。吾々郷人は力の限り心の極みを、此生神様に捧げませう』と言ふ事である。……ジヤンナの郷の救世主と仰がれたる友彦は、郷人に向ひ、 友彦『ターリスト、テールターイン、ハールエース、オーレンス、サーチライス、カーテル、ライド』 と叫ぶ。此声に一同は大地に平伏し嬉し涙を流して歓喜した。友彦は又もや、 友彦『ハールハール』 と手を挙げて叫ぶや、大勢の土人は一行を手車に乗せ、三五の神を祭りし稍広き館の中に、御輿を舁ぐ様な塩梅式で何事か分らぬ事を喋り乍ら奥深く送り行く。 黄竜姫一行は友彦の館の奥深く招かれ、色々珍らしき果物を饗応され、且つバナヽの味に舌鼓打ち乍ら、一二日此処に逗留し、郷人に対して黄竜姫、梅子姫よりバプテスマを施し、宣伝歌を教へた上、数十人の郷人に送られ、一行五人は漸くにして玉野ケ原の広場に無事安着することとなつた。 途々木の実を喰ひ、谷水を飲み、芭蕉の葉を褥となし乍ら、猛獣、大蛇の群に言霊を授け帰順悦服させつつ愈此処に金銀の砂輝く広野ケ原に辿りつく。一行は諏訪の湖の畔に建てたる小さき祠の前に端坐し、天津祝詞を奏上し、傍の椰子の樹の森に一夜を明かすこととなりぬ。 エスタン山の後方を覗いて現はれたる大太陽は、諏訪の湖水の魚鱗の波に映じ、金銀の蓆を敷き詰めたる如く、其麗しさ譬ふるにものなく、一行五人は湖水に身体を清め、七日七夜此処に禊を修し神恩を感謝せり。 早や夕陽も傾いて得も言はれぬ麗しき鳥の声、塒を求めて各密林に帰り行く。純白の翼の大鳥は暗を縫うて低く黄昏時より現はれ来り、湖面を縦横無尽に翺翔する。其数幾千万羽とも数へ難く、月無き夜半も明るき許りの光景なり。是は信天翁の祖先でアンボリーと言ふ大鳥なりける。 一行五人は椰子の樹下に身を潜め、天津祝詞を奏上し夜の明くるを待つ。夜明けに間近くなりたる時しも、頭上にバタバタと鳥の羽ばたき激しく聞え来たる。見れば両翼の長さ三丈許りのアンボリー、椰子の樹上にとまつて、一同の頭を被ふて居る、それが夜明けに間近くなつたので一時に立ち上つた音である。一同は鳥の飛び行く方面を目も放たず打看守れば、ほんのりと薄紅くうす白く大空を染めながら、際限もなき大原野を西北の空を指して、一羽も残らず飛去れり。 ○ ジヤンナの郷に三五の神を祀りし友彦が 館に一行夜を明かし一日二夜を逗留し タイヤ、ブースを初めとし数多の土人に皇神の 誠の道を説き諭し鎮魂やバプテスマ 一人も残らず施して昼なほ暗き森林の 小径を伝ひ郷人に賑々しくも送られて 漸くセムの谷間に辿り来れる折柄に 黄竜姫は皇神の珍の命の霊借りて 送り来りし郷人に厚く言葉をかけながら 東と西に別れつつ露の枕も数多く 重ねて此処に玉野原金銀輝く途の上 勇み進んで諏訪の湖の辺にやうやう安着し 祠の前に端坐して一行五人が安穏に 訪ね来りし神恩を感謝し終り清鮮の 湖水に身をば浸しつつ七日七夜の魂洗ひ 椰子樹の蔭に身を潜め夜明けを待てる折柄に 樹上に聞ゆる羽ばたきの音に驚き眺むれば 雪を欺く白翼のパツと開いた大鳥の 空を封じて数多く西北指して飛んで行く 一行五人は空中を仰ぎ見つむる折もあれ 黄金の翼に乗せられて此方に向つて飛び来る 四五の神人悠々と湖水を目蒐けて降り来る 其光景の崇高さに五人は思はず手を合せ 祝詞を唱へつ眺め居る黄金の鳥に乗せられし 男女五人の神人は波の上をばスレスレに 北に向つて進み行くこれぞ玉治別宣使 初稚姫や玉能姫久助お民の五人連 神の御言を畏みて貴の教を隈もなく 伝へ導く神の業𪫧怜に委曲に宣り了せ 玉依姫の御使の黄金色の霊鳥に 救はれ御空を翔りつつ帰り来れる生神の 通力得たる姿なり嗚呼惟神々々 神の教の尊さよ。 翼を一文字に拡げた金色の霊鳥は、神の使の八咫烏である。玉治別一行を乗せた五羽の八咫烏は、日光に照り輝きて中空にキラリキラリと光を投げながら、地上までも金光を反射させ、諏訪の湖辺に飛び来り、紺碧の波の上を辷つて際限もなき湖水を、北へ北へと進み行く。 梅子姫、黄竜姫は飛び立つばかり此姿を見て驚き且つ喜べり。一行の胸の裡は譬へがたなき崇高にして且壮快の思ひが漂うたからである。 友彦『黄竜姫様、梅子姫様、地恩城に於て園遊会の時、天空高く現はれた蜃気楼の光景、紺碧の湖水現はれ、四方を包む青山の崇高なる姿は、今此湖面を見ると寸分の差も無い様ですな、大方清公、チヤンキー、モンキー等の、女神に導かれ結構な御用を仰せつけられて居た所も、此聖地で御座いませうかなア』 黄竜姫『妾もそれに間違ひないやうな感じが致します。昔から人跡絶えしオセアニアの秘密郷、斯様な立派な湖があらうとは、夢にも知りませなんだ。何とかして神様の御力を借り、此湖水を渡つて見たいものですなア』 梅子姫『蜃気楼で拝見した時には純白な白帆が沢山に航行して居ましたが、船は一隻も見えないぢやありませぬか。大方アンボリーの飛交ふ影が船のやうに見えたのでせうかな』 友彦『サアさうかも知れませぬ。……黄竜姫様、船が無ければ渡る訳には行きませぬ。玉治別や初稚姫様の様に、黄金の鳥が迎ひに来て下さらば実に結構だが、船も無ければ鳥船もなく未だ吾々は御神慮に叶ふ所迄身魂が磨けて居ないのでせう』 黄竜姫『神様は一点の曇りなき水晶魂でなければ、肝腎の神業にはお使ひ下さいませぬ。折角此浜辺まで参つたものの、斯の如く三方は壁を立てた様な岩山、何程足の達者な者でも鳥類でない以上は越す事は出来ますまい。然しながら此処まで無事に着いたのも全く神様のお恵み、此処でもう一層徹底的の心の修業を励みませう。地恩城の女王だとか、ジヤンナの郷の救世主などと言はれて得意になつて居るのが、これが第一神様の御心に叶はないのでせう。同じ天地の恵に生れた人の子、善悪美醜の区別はあつても神様の愛には些つとも依怙贔屓はありますまい。こりやもう一つ身魂を立て直さなくては駄目でせうよ。勿体なくも神素盞嗚大神様の御娘御、梅子姫様を蔭の御守護とし、賤しき妾の身を以て地恩城の女王と呼ばれ、神司と言はれて、勿体なくも直々の御血筋の上位に立つて居たのは、恰度頭が下になり、足が上になつて居るやうな、矛盾撞着の遣り方であつた。……アヽ梅子姫様今までの御無礼を何卒お赦し下さいませ。決して貴女を押込め私が上に立つて覇張らうなどと云ふやうな、賤しい心はチツトも持つて居ませなんだ。然し乍ら名誉心に駆られ、本末自他公私の別を、不知不識の間に犯して居りました。貴女と吾々は天地霄壌の懸隔がございます。尊卑の別も弁へず甚だもつて不都合の至り、今改めてお詫を仕ります。さうして地恩城の女王たる地位を神様にお返し申し、生れ赤子の平の信者となつて御神業に奉仕し、貴女様を女王とも教主とも仰いで、忠実にお仕へ致しますから、不知不識の御無礼御気障、何卒神直日大直日に見直し聞直し下さいますように、黄竜姫が真心よりお詫仕ります』 と涙を滝の如く両眼より滴らし、悔悟の念に堪へざるものの如く涕泣嗚咽終に其場に泣き伏した。梅子姫は儼然として、 梅子姫『黄竜姫どの、貴方は結構な御神徳を頂きました。妾は神素盞嗚大神の生みの子と生れ、木の花姫の生宮として今日迄、貴方のお傍に身を下し、神業を輔佐して参りました。貴方の御言葉を今日只今迄、実の所は待つて居たのでございます』 と微笑を浮かべて曰りつれば、友彦は又もや両眼に涙を浮かべ乍ら、 友彦『私は生れついての狡猾者、到る所に悪事を働き、まぐれ当りに鼻の赤きを取得にてジヤンナの郷に持て囃され、救世主と呼ばれ乍ら好い気になり、心にも無き尊敬を受け、天来の救世主と化け済まして居た心の汚さ、イヤもう塵埃に等しき吾等の身魂、どうして肝腎要の御用にお使ひ下さいませう。……何卒々々梅子姫様、貴女様より大神様に重々の罪お赦し下さいます様お取成し願ひ上げ奉ります。又私は決して今後は、人様以上に結構な御用をさして頂かうとは夢にも思ひは致しませぬ。如何なる事にても構ひませぬから、どうぞ神様のお綱の切れぬ様に、大神様にお詫のお取次偏に希ひ上げ奉ります』 梅子姫『貴方の心の園の蓮花、転迷開悟の音を立て開き初めました。アヽいい所で改心して下さいました。これで梅子姫も父大神より命ぜられたる御用の一端が出来たと申すもの、私の方より貴方に対して感謝致します』 と嬉し涙を両眼に浮かべ、述べたつれば友彦は嬉しさ身に余り、大地にひれ伏し顔も得上げず、歓喜と悔悟の涙に咽び返つて居る。 蜈蚣姫は梅子姫の前に手をつかへて、 蜈蚣姫『梅子姫様、今迄の御無礼何卒々々お許し下さいませ。私は貴女様の御存じの通り悪逆無道の限りを尽した、鬼婆の様な悪人で御座いました。地恩城に参りまして娘の出世を見るにつけ、不知不識に高慢心が起り、且つ愛着の念に駆られ、肝腎の大神を第二に致し、且つ貴女様に対し、平素軽侮の目を以て向つて居りました心盲で御座います。地恩城に於て友彦が為め園遊会を開いた折、貴女様は紫の蓮華岩の上に立たせ給ひ、私の素性を歌つて下さつた時の私は、心の中にて非常な不満を抱きました。今思へばあの時のお言葉の中には、大神様の大慈大悲の救ひの御心……なぜ其時に私は気が附かなかつたでございませう。森羅万象に対し一切色盲の私、不調法ばかり致しまして神様に対し、又貴き貴女様に対してお詫申上げる言葉もございませぬ。どうぞ母子の者も憫み下さいまして、今迄大神様に敵対申した深い罪を、お詫下さいますようにお願ひ申します』 とワツとばかりに声をあげ泣き伏するにぞ、梅子姫は莞爾として、 梅子姫『アヽ蜈蚣姫様、貴女は今日只今初めて誠の神柱になられました、結構でございます。どうぞ此後とても妾と共に三五の大神様の御用に誠心誠意御尽力あらむことを希望致します。如何なる罪穢れ過も梅子姫が代りて千座の置き戸を負ひますれば御安心下さいませ』 蜈蚣姫は『有難うございます』と言うたきり、大地にかぶりつき有難涙に咽び入る。テールス姫は又もや梅子姫の前に両手をつき、 テールス姫『何分罪多き私、不知不識の御無礼お気障が何程ございませうとも、何卒お赦し下さる様、神界へお願ひ下さいませ』 と合掌して頼み入る。 梅子姫『貴女は此中でも最も罪軽き、身魂の清らかな神の子です。今日神界に対し差したる不調法もございませぬ。今後も今迄通り過ち無き様、神の御用に御奉仕あらむことを希望致します』 と答ふれば、テールス姫も梅子姫が慈愛の言葉に、有難涙をしぼるのみであつた。 梅子姫は湖面に向ひ合掌しながら何事か暗祈黙祷する事暫し、忽ち何処ともなく微妙の音楽聞え、西北の空を封じて、此方に向つて一瀉千里の勢にて飛び来る以前のアンボリー、幾百ともなく、翼を並べ、湖上目蒐けて飛び帰る其麗しさ、絵にも写せぬ眺めなり。 (大正一一・七・一一旧閏五・一七谷村真友録) |
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霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 余白歌 | 余白歌 惟神道の光に照らされて地獄だましひも天国に進めり〈序文(三版)〉 隔てなき神の教も人々の心の隔てに変り行くなり〈第1章(再版)〉 四方の国みな同胞と宣り給ふ聖の君は神にましける〈第1章(再版)〉 何時までも不二の高嶺に積む雪の清き心を主に捧げむ〈第4章(初版)〉 水底まで澄み渡りたる玉水の池に今宵の月は宿れり〈第4章(初版)〉 言霊の神の誠の剣もて言向和はせ醜の大蛇を〈第5章(三版)〉 真心の征矢に刃向ふ敵はなし愛と善との弓張の月〈第7章(三版)〉 五十鈴川流れも清き言霊は我ひのもとの稜威なりけり〈第8章(初版)〉 撞賢木伊都の御魂の大神は綾の高天に現れましにけり〈第8章(初版)〉 たた並はる青垣山に包まれし綾の高天は神の御舎〈第8章(初版)〉 三ツ魂五ツの魂の経綸にたちまち地上は天国と化しぬ〈第10章(三版)〉 へだてなき神の御稜威に生ひながら隔てのありと思ふ愚さ〈第12章(初版)〉 悪しとは思ふな吾に仇なすは吾を錬ふる神の慈悲なり〈第12章(初版)〉 真直なる心はやがて世に出づるまことの人の神徳なりけり〈第12章(初版)〉 照妙の綾部の里に錦織る人は真の神の御柱〈第13章(初版)〉 弓張りの月を頭にいただきて高熊山にわれ登りけり〈第13章(初版)〉 何一つ神の造らぬ物はなしこの大恩を夢な忘れそ〈第16章(再版)〉 志神の御国にあるものは必ず上らむ天国の園に〈第16章(再版)〉 厳御霊天津神国に上りまして下界の闇を照らさせ給へる〈第16章(再版)〉 根の国は地底にあらず偽と悪と醜の集まる都会の真中〈第17章(再版)〉 厭離穢土などと思ふな現世は愛善の神守る楽園〈第17章(再版)〉 親しかりし人の訪ひ来し嬉しさはわが身の地位を忘れて出迎ふ〈第18章(三版)〉 愛善の道に叶ひし身魂こそ天地の神の心に叶へり〈第18章(三版)〉 永久の生命の道をさとせども世の大方は亡びの道辿る〈第19章(三版)〉 今の世にわが大道の無かりせば天地は鬼畜の住処となるべし〈巻末(三版)〉 世を教へ人をあはれむ心ほど苦しきものはあらじと思ふ〈巻末(三版)〉 世の中の一切万事の出来事は神のよさしの経綸と知らずや〈巻末(三版)〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました] |
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霊界物語 | 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 | 02 真心の花(一) | 第二章真心の花(一)〔七六七〕 天火水地結の竜宮の麻邇の玉の無事、秋山彦館に安着せし歓喜と、感謝を兼ねたる荘厳なる祭典は無事終了し、直会の宴は盛に開かれ、いよいよ五個の神宝は聖地を指して賑々しく由良川を遡り送らるる事となつた。それに就ては一同由良の港の川口に出て御禊祓を修し、再び神前に立帰り祭典を行ひ、美はしき神輿を造り、これに納めて聖地へ、水に逆らひ、金銀色の帆に風を孕ませ上る事となつた。 茲に一同は玉の安着を祝する為、各立つて歌をうたひ舞ふ事となつた。先づ第一に秋山彦は立つて、神素盞嗚尊、国武彦命に一礼し、許可をえて、金扇を両手に拡げ、宣伝使服を身に纏ひ、悠々として座敷の中央に歌ひ舞ひ始めた。 秋山彦『年てふ年は多けれど月てふ月は多けれど 生日足日は沢なれど今日は如何なる吉日ぞや 九月八日の秋の空四方の山々紅葉して 錦織りなす佐保姫の機の仕組も目のあたり 綾の高天に宮柱太しり建てて永久に 鎮まりいます国治立の厳の命や豊国姫の 瑞の命の生御魂国武彦や言依別の 貴の命と現はれて裏と表の神界の 仕組も茲に仄見えて天火水地と結びたる 竜宮島の麻邇の玉己が館に入りましぬ あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 一度ならずも二度も三つの御霊の神柱 神素盞嗚大神の大御恵のいや深く 吾館にとまりましまして深遠無量の御経綸 心の色は紅葉姫唐紅の大和魂 輝き初めし今日の空あゝ有難し有難し 恵は深き由良の海清き流れの川口に 百の罪咎浄めつつ貴の玉筥いや清く 五つの御玉を納めたる新つの御船に身を任せ 心も涼しき神風に黄金の真帆を掲げつつ 聖地に送る尊さよ三千世界の梅の花 一度に開く常磐木の松の神世も近づきて 海の内外の極みなく瑞の御霊の御恵の 堅磐常磐に照り渡る瑞祥は思ひ知られけり あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 波斯の国より遥々と降り来ませる素盞嗚の 瑞の御霊の大御神四尾の山に奥深く 隠れて時を待ち給ふ国武彦の御前に 心の幕も秋山彦の賤の男が真心を こめて祝ぎ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 紅葉姫は又もや立上り、 紅葉姫『月日の駒はいと早く思ひ返せば満三年 辛酉の菊月の八日に吾館に出でましし 神素盞嗚大神の尊き御影を拝してゆ 心も赤き紅葉姫誠の限り身を尽し 仕へ奉りし甲斐ありて天地に充つる喜びは 又もや廻り甲子の九月八日の今日の空 嬉しき便り菊月の薫り床しき此祭典 金剛不壊の如意宝珠古き神代の昔より 波に漂ふ沓島の巌の中に秘めおける 神秘の鍵を預りし秋山彦の表口 黄金の鍵を高姫にまんまと盗み出されて 一同心を焦ちしが漸く島に馳せついて 危き所を発見し高姫さまを伴ひて 吾館に帰り来る折忽ち腹に呑み込みて 雲を霞と逃げられし其古事を思ひ出し 又もや麻邇の此宝珠無事に聖地に御安着 遊ばす迄は村肝の心を配り気をくばり 送らせ給へよ人々よ朝な夕なに高姫が 玉に心を抜かれつつ隙ゆく駒の隙あらば 又もや腹に呑み込みて如何なる事を仕出かすか 計り知られぬ一大事あゝ惟神々々 御霊幸はへましまして神素盞嗚大神が 天地を救ひ助けむと配らせ給ふ真心を よく汲み取りて仕へませ初稚姫や玉能姫 玉治別や其外の百の司の御前に 紅葉の姫が老婆心僅に披瀝し奉る あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ』 と歌ひ終り舞ひ納めた。初稚姫は又もや立ちあがつて金扇を拡げ、歌ひ且自ら舞ふ。 初稚姫『遠き神代の其昔日の大神の御水火より 生れ出でませる稚姫君の神の命は天が下 四方の国々安国といと平けく治めむと 心を尽し身を尽し神の御業に朝夕に 仕へ給ひし折もあれ八十の曲津の醜魂に 取り挫がれて妹と背の道を誤り大神の 御教に触れて底の国身魂を隠し給ひつつ 天より高く咲く花も地獄の釜のこげ起し 百の悩みを身に受けていよいよ心を立直し 時を待ちつつ時置師の神の化身の杢助が 妻のお杉が腹を借り初稚姫と現はれて 国武彦と現れませる国治立大神の 尊き神業に仕へむと心を配る幼年の 年端も行かぬ身ながらも言依別命より 尊き神業命ぜられ三千世界の神宝 金剛不壊の如意宝珠千代に八千代に永久に 動かぬ松の幹の根に隠し奉りて開け渡る 天の岩戸も五六七の世開かむ為の御経綸 深き心を白浪の高姫司や黒姫が 玉の在処を探らむと現界幽界の瀬戸の海 太平洋の荒浪を乗り越え乗り越え竜宮の 一つの島に上陸し隠せし場所を探らむと 焦ち給ふぞ悲しけれ玉治別や玉能姫 神の司と諸共に高姫さまを気遣ひて 荒浪猛る海原を見えつ隠れつ漕ぎ渡り 御身の上を守りつつ妾も同じ竜宮の 一つの島へ上陸し人跡絶えし荒野原 山を踏み越え谷渉り黄金の波を湛へたる 玉依姫の隠れ場所諏訪の湖水に辿り着き 神の御旨をあななひて三五教の御教を 彼方此方と布き拡め弘め終つて八咫烏 黄金の翼に乗せられて朝日輝き夕日照る 竜の宮居にいまします玉依姫命より 天火水地を統べ結ぶ紫色の麻邇の玉 無言の儘に拝受して梅子の姫の御前に 捧げ奉りし嬉しさよ仰げば高し天の原 雲霧分けて自転倒島の秀妻の国の中心地 外の囲ひと聞えたる由良の港の人子の司 秋山彦が御館降り来りし嬉しさよ あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 十曜の紋の十人連れ空前絶後の神業に 仕へ奉りし嬉しさを吾等一人の物とせず 高姫司や黒姫の神の使の御前に 此喜びをかき分けて手を携へて天地の 尊き道に仕へなば三五教の大空は 月日も清く明かに厳と瑞との神界の 機織り上げて綾錦輝く宮に永久に 仕へて互に歓ぎつつ教の栄えを見るならむ あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 初稚姫が真心をうまらにつばらに聞し召せ 神素盞嗚大御神国治立大神の 分の御霊の御前に畏み畏み願ぎまつる 畏み畏み祈ぎまつる』 梅子姫は立上り歌ひ舞ひ始めた。 梅子姫『父大神の神言もて顕恩城に現れませる バラモン教の神司鬼雲彦や其外の 捻け曲れる人々を誠の神の大道に 言向け和す神業に八人乙女は身をやつし エデンの河を打渡り種々雑多と気を配り あらむ限りのベストをば尽せし事も水の泡 太玉命の神司顕恩城を主宰して 教を開き給ひつつ吾等姉妹各自は 顕恩城を後にして彼方此方と三五の 道を伝ふる折柄にバラモン教の醜人に 情容赦も荒浪の寄る辺渚の捨小舟 波に漂ひ竜宮の宝の島に上陸し 小糸の姫を守立てて五十子の姫や今子姫 宇豆姫伴ひ地恩郷光を隠し黄竜姫の 貴の命を表とし影身に添ひて大神の 尊き御教を説き示し心配りし甲斐ありて 身魂も清き小糸姫バラモン教の醜道を 弊履の如く脱ぎ棄てて誠の道に服従ひし 其嬉しさは如何ばかり高山彦や黒姫も 心を尽し身を尽し三五教の御教に 尽し給へど村肝の心にかかる執着の 雲晴れやらず黄金の玉の在処に魂抜かれ 教の道を外にして朝な夕なに気を焦つ 其御心の憐れさよ時しもあれや三五の 神の教の宣伝使初稚姫や玉能姫 玉治別と諸共に浪路を分けて来ります 神の柱の高姫が地恩の城に来りまし 高山彦や黒姫を密かに誘ひ一つ島 後に見棄てて波の上南洋諸島を隈もなく 探し索めて瀬戸海の淡路の島の司神 東助館に出でまして玉の在処を疑ひつ 再度山の山麓に国依別を訪ねつつ 執着心はまだ晴れず彼方此方と彷徨ひて 玉の在処を索めますその御心ぞ可憐らしき 地恩の城を後にして黄竜姫や蜈蚣姫 テールス姫や友彦を伴ひ山の尾打渉り 深き谷間を潜り抜けネルソン山を後にして ジヤンナの郷やイールの郷玉野ケ原を踏み越えて 金砂銀砂の輝きし諏訪の湖水の手前まで 漸う進む折柄に紺青の波を湛へたる 波上を駆る金銀の八咫烏やアンボリー 取りつく島もなき折に黄竜姫を先頭に 初めて悟る神の道心の空は忽ちに 転迷開悟の花咲きて朱欄碧瓦の竜宮城 玉依姫の御館奥の一間に参入し 一行五人の五つ身魂初稚姫の一行と ものをも言はずしづしづと玉依姫の御前に 月の形の座を占めて月光輝く麻邇の玉 心も色も紫の色映え渡る初稚姫の 貴の命はしとやかに吾手に渡し給ひけり 初稚姫の真心は雪より清く紅葉の 色にも優る御姿妾は忽ち感じ入り 無言の儘に受取りて黄金の翼を拡げたる 八咫烏に助けられ漸くここに着きにけり あゝ惟神々々神の御心汲み取りて 三五教に仕へたる神の司の高姫や 高山彦や黒姫や竜国別や鷹依姫の 貴の命と諸共に玉依姫の賜はりし 麻邇の宝珠の神業に仕へまほしき吾願ひ うまらにつばらに聞し召せ三五教を守ります 国治立大御神豊国姫大神の 御前に畏み願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 と歌ひ終り、悠々として吾席に帰り給うた。 (大正一一・七・一七旧閏五・二三松村真澄録) |
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霊界物語 | 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 | 03 真心の花(二) | 第三章真心の花(二)〔七六八〕 玉治別は立上り銀扇を拡げて歌ひ舞ひ始めた。 玉治別『吾は玉治別司天と地との三五の 誠を諭す神使宇都山郷に現はれて 樵の業や野良仕事名も田吾作の賤の男が 天の真浦の宣伝使松鷹彦に三五の 誠の道を教へられ国依別と諸共に 三国ケ嶽にバラモンの教の館を構へたる 此処に在れます蜈蚣姫三五教の大道に 救はむものと老木の茂る山路を打ち渉り 岩窟の中に乗り込みてお玉の方に廻り会ひ 蜈蚣の姫の秘蔵せる黄金の玉を発見し 綾の高天原へ持ち帰り意気揚々と宣伝の 使となりて遠近を彷徨ひ歩く其中に バラモン教の其一派鷹依姫の神司 高春山に居を構へ体主霊従の御教を 四方に開くと聞きしより国依別や竜国別の 貴の命と諸共に心の駒に鞭韃ちて 進む折しも津田の湖敵の捕手に囲まれて 生命危き折柄に杢助司や初稚姫の 貴の命に助けられ高春山に立ち向ひ 廻り会うたる天の森竜国別と鬼娘 ヤツサモツサの問答も神の恵みの御光に 煙と消えて潔く神の御稜威を伏し拝み 鷹依姫の割拠せる岩窟の中に立ち入りて 高姫、黒姫両人を救ひ出して鷹依の 姫の命は忽ちにアルプス教を解散し 三五教の大道に仕へまつりて綾錦 高天原に連れ帰り黄金の玉の紛失に 思はぬ濡衣被せられ泣く泣く立つて和田の原 遥々越えて何処となく黄金の玉の在処をば 探らむ為に親と子が海の彼方に出でましぬ あゝ惟神々々神の恵みの幸はひて 一日も早く片時も疾く速けく親と子が 在処を知らせ給へよと玉治別の朝宵に 祈る心ぞ悲しけれ金剛不壊の如意宝珠 紫色の宝玉の在処探ねて高姫が 又もや神都を後にして海の内外の区別なく 探ねて廻る気の毒さ神の仕組を打ち明けて 当所も知らぬ玉探し諦めさせむと玉能姫 初稚姫と諸共に屋根無し小舟に身を任せ 遠き浪路を打ち渡り高姫一行の危難をば 救ひ守りつ竜宮島到りて見れば高姫は 高山彦や黒姫と暗に紛れて逸早く 後白浪となり果てぬあゝ惟神々々 御霊幸はへましまして高姫一行が執着の 心の雲を晴らせかし一日も早く真心に かへらせ給へと太祝詞となふる声も湿り勝ち 玉治別は是非もなく初稚姫と諸共に ネルソン山の高嶺をば西に渉りて山深み 谷底潜り種々と百の艱難に出会ひつつ 神の恵を力とし誠の道を杖として 石の枕に星の夜具猛獣哮ける大野原 夜を日に次いで進みつつ虎狼や大蛇まで 吾三五の言霊に言向け和し玉野原 一眸千里の草分けて諏訪の湖辺に辿り着き 社の前に額きて善言美詞の太祝詞 汗に穢れし身体を清き湖水に禊ぎつつ 拍手の声は中天に轟き渡る折柄に 浪を十字に引き分けて現はれ給ふ百の神 天火水地と結びつつ五づの身魂の御宝 携へ来る女神等吾等一行に立ち向ひ 竜宮海の麻邇の玉汝等五人に授けむと いと厳かに宣らせつつ身魂を研けと言ひ捨てて 後白浪と消え給ふ初稚姫や玉能姫 玉治別は伏し拝み諏訪の湖あとにして 西北指して進みつつ幾度となく皇神の 深き試錬に遇ひながらさしもに広き竜宮島 神の使の霊鳥に救はれ無事に国人を 言向け和し神業を略了へまつる折柄に 神の使の八咫烏黄金の翼拡げつつ 吾等一行五つ身魂其背に乗せて玉依姫の 貴の命の在れませる竜の宮居に送りけり あゝ惟神々々御霊の幸を蒙りて 吾等五人は皇神の教の道に尽すより 外に一つの望みなし執着心の雲晴れて 輝き渡る日月は心の空に永久に 鎮まりいます心地して不言実行の神の業 竜の館に仕へつつ時の到るを待つ間に 梅子の姫を始めとし黄竜姫や蜈蚣姫 テールス姫や友彦が黄金の舟に浮びつつ 黄金の門を潜りぬけ現はれ来ます嬉しさに 互に見合はす顔と顔嬉し涙はせきあへず 言葉を掛くる術もなく無言の儘に奥殿に 進む折柄玉依姫の神の命は悠々と 青人草を救へよと露の滴る青の玉 ものをも言はず玉治別の神の司の掌に 授け給ひし嬉しさを喜び畏み村肝の 心の魂の照るままに黄竜姫の双の手に 漸く渡し胸を撫で不言実行の一端に 仕へまつりし折柄に玉依姫は奥深く 御神姿隠し給ひけり吾等一同勇み立ち 三つの御門を潜りぬけ黄金の浪の漂へる 諏訪の湖辺に来て見れば忽ち飛び来る八咫烏 吾等を乗せて白雲の御空を高く翔上り 翼の音も勇ましく漸く当館に帰りけり あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 三五教の御教は堅磐常磐に松の世の ミロク神政の基礎と仕へまつりて天地の 百の神等百人を浦安国の心安く 守らせ給へ惟神神の命の御前に 玉治別が真心を開いて細さに願ぎまつる 神素盞嗚大神や国治立の御分魂 国武彦大神よ三五教は言ふも更 島の八十島八十の国青雲棚引く其限り 天地百の生物に平安と栄光と歓喜を 与へ給へと願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 と歌ひ終つて自席に着いた。 次に黄竜姫は立ち上り歌ひ始めた。 黄竜姫『大国彦の神霊堅磐常磐に祀りたる バラモン教は常世国大国別の神司 開き給ひし貴の道万里の波濤を乗り越えて イホの都に来りまし教の園を開く折 三五教の宣伝使夏山彦や祝姫 行平別の言霊に鬼雲彦の大棟梁 根城を抜かれ是非もなく数多の部下を引き率れて 天恵洽きエヂプトを見捨てて来る中津国 メソポタミヤの顕恩郷漸く此処に落ち付いて 堅磐常磐に根城をば固めて道を四方の国 布き弘めたる折柄に神素盞嗚大神の 肉の宮より生れませる神姿優しき八乙女が 心の色もいと清く誠の花を開かせて 教の園を作らむと忍び忍びに出で給ふ 鬼雲彦を始めとし鬼熊別や蜈蚣姫 吾足乳根はバラモンの教の道に勤しみて 心のたけを尽しつつ仕へ給へる折柄に 功績も太玉宣伝使現はれ況して言霊の 珍の剣を抜き放ち誠の鉾を振廻し 薙立て斬り立てバラモンの教の疵を正さむと 真心籠めて出で給ふその御心を白雲の 烟に巻かれて大棟梁鬼雲彦を始めとし 従ひ給ふ神司顕恩郷を後にして 波斯の御国へ出で給ふさはさりながら其以前 顕恩郷の神司幹部一同を従へて 花見の宴を開きまし饗応の酒に酔ひしれて エデンの川を渡る折御舟の傍に立ち居たる 十五の春の吾姿酔ひたる人に撥ねられて ザンブとばかりエデン川流れて底に白浪の 生命絶えむとする折に従僕の司の友彦は 身を躍らして川中を潜り潜りて漸くに 妾を抱きて救ひ上げ背に負ひつつ吾父の 館を指して帰りましぬあゝ惟神々々 神の恵みの浅からず二つなき身の生命をば 神の恵みと言ひながら助け呉れたる友彦に 心は移る恋の闇吾垂乳根の目を忍び 闇に紛れて顕恩郷をソツト脱け出で友彦と 手に手を取つて錫蘭の島深山の奥に身を潜め 一年ばかり経る中に妾が心機一転し 何の情もあら男後に残して逃げて行く 錫蘭の浜辺の里人のチヤンキー、モンキーの両人に 艪を操らせ限りなき大海原を打ち渡り 九死一生の苦みを五十子の姫や梅子姫 御供の神に助けられ長き浪路を渡りつつ 昼は終日終夜三五教の御教を 心の底の奥庭に植付けられてバラモンの 迷ひの夢も醒めにけり五十子の姫の一行に 推戴されて竜宮の黄金花咲く一つ島 地恩の郷に顕現しオーストラリヤの新女王 三五教の神司あらゆる名誉を身に負ひて 本末顛倒の境遇を知らず識らずに日を送る 心の中の浅間しさ高山彦や黒姫に 政務教務を打ち任せブランジー、クロンバー相並び 政教一致の神業を開いて国を守る折 三五教の高姫と共に来ませし蜈蚣姫 母の命に廻り会ひ嬉し涙にせきあへず 心を協せ身を尽し教は四方に輝きて 朝日の豊栄昇る如歓ぎ楽しむ折柄に 現はれ来る友彦が夫婦の神の来訪に 喜び驚き一時は心の海に荒浪の 立つ瀬なき迄狼狽し互に過去を語り合ひ ヤツと解けたる胸の裡園遊会になぞらへて 昔の交り温めつ東と西と相応じ 宝の島を治めむと心も勇む時もあれ ネルソン山の空高く現はれ出でし蜃気楼 如何なる事の天啓かよくよく仰ぎ眺むれば 紛ふ方なき諏訪の湖地恩の城に仕へたる 左守神の清公がチヤンキー、モンキー其外の 二人の供と諸共に荘厳美麗の玉の宮 玉依姫の御前に近く仕ふる有様は 手に取る如く見えにけりネルソン山の西の空 尊き神の坐しますと思ひ定めて梅子姫 蜈蚣の姫やテールスの姫の命と諸共に 友彦さまを先頭に旅の枕も数重ね 漸く来る玉野原金砂銀砂を敷きし如 漸く道を進みつつ諏訪の湖畔に建てられし 祠の前に辿り着き湖面に向つて再拝し 天津祝詞を奏上し愈此処に村肝の 心の帳も開け初め梅子の姫の御前に 知らず識らずに犯したる百の罪咎詫びぬれば 木花姫の懸らせて天火水地の大道を 諭し給へば小糸姫蜈蚣の姫や一同は 転迷開悟の蓮花一度に開く梅子姫 尊き神の御教を心の底より正覚し 感謝祈願の折柄に諏訪の湖面に浮びたる 浮島影を悠々と黄金の船に真帆を上げ 此方に向つて進み来るその気高さに驚きて 湖上を看守る折もあれ左守神の清公が 四人の供と諸共にものをも言はず手を挙げて 乗らせ給へと麾く妾一行五人連れ 直に船に打ち乗りて黄金の浪を辷りつつ 西北指して進み行く天国浄土か楽園か 青赤白黄紫の花は梢に咲き乱れ 大小無数の島嶼は彼方此方に永久に 浮べる中を心地よく勇み進んで玉依の 姫命の在れませる竜の宮居に行き見れば 月雪花の御姿に擬ふべらなる姫神の 十二の神姿立ち並び玉治別や初稚姫の 神の命や玉能姫久助お民も諸共に 吾等一行を迎へつつ奥殿深く進み入る 梅子の姫は奥の間の宝座に静に座を占めて 暗祈黙祷なし給ふ時しもあれや高御座 扉を開き悠々と現はれ給ふ貴姿 玉依姫の御神は数多の侍女を従へて 貴の玉器携へつ十曜の紋の十人連れ ものをも言はず目礼し微笑を浮べてそれぞれに 五色の玉を手づからに渡し給へば玉治の 別の命の神司青き玉をば授かりて 直に吾手に微笑みつ渡させ給ふ尊さよ 天火水地と結びたる麻邇の御玉の其一つ 授かり給ひし喜びを私せずに妾の手に 渡し給ひし功績を建てよと示す玉治別の 神の命の志玉を争ふ世の中に 執着心の影もなく月日の如く明けき 其の御身魂々々々感謝の涙せきあへず 感謝は忽ち村肝の心の海に浪起り 進みかねたる恋の海玉治別の真心は 天地の神も嘉すらむ妾は賤しき小糸姫 恵の露に潤ひて今は嬉しき宣伝使 神の司となりぬれど心汚き人の身の いかで誠を尽し得む斯る身魂も省みず 尊き玉の神業を惜しまず妾に譲りてし 清き心は又と世に何処の果を探ぬとも いかで例のあら涙漂ひ浮ぶ一つ島 夫なき身の独身者玉治別の神司よ 妾は切なき恋の闇玉の光の現はれて 照らさせ給へ妹と背の尊き道の誓言 神素盞嗚大神や国武彦大神の 尊き御前を顧みず心のたけを打ち明けて 幾重に願ひ奉る黄竜姫が授かりし 麻邇の御玉を妾のみ私なさず三五の 教司の高姫や高山彦や黒姫の 神の司も諸共に空前絶後の此度の 尊き神業に参加させ心の隔てを除き去り 三五教の御教を月日輝く地上に 照させ給へ厳魂瑞の魂の御前に 黄竜姫が真心を捧げて謹み願ぎ申す あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 神伊弉諾大御神神伊弉冊大神の 撞の御柱右左廻り給ひて千代八千代 誓ひ給ひし其如く妹背の契を結ばせて 神の教を四方の国夫婦の息を合せつつ 身もたなしらに仕ふべし許させ給へ玉治別の 神の司の宣伝使心の底を打ち明けて 完全に詳細に願ぎ奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 神の御前に誓ひたる妹背の道は永久に 変らざらまし松の世の尊き神の御心に 八千代を籠めて願ぎ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 と祝賀と喜悦と恋慕とゴツチヤにして心のたけを歌ひ終り座に着いた。玉治別は聊か当惑し直に立つて黄竜姫の歌に答ふべく、再び銀扇を開いて言葉静かに歌ひ始めた。 玉治別『神の恵に助けられ玉治別と名を負ひて 今は尊き宣伝使三五教の御教を 天地四方に開かむと山の尾渉り川を越え 潮の八百路も厭ひなく進み進みて竜宮の 一つの島に上陸し心も清き諏訪の湖 玉依姫の御神に麻邇の御玉を賜はりて 地恩の城を治めます黄竜姫の玉の手に 渡して神の功績を高き低きの隔てなく 神の御前に現はして教の道を照さむと 心を尽す玉治が清き身魂を臠し 妹背の道を結ばむと語らひ給ふ尊さよ さはさりながら玉治の別の命は其昔 宇都山郷に現はれし国依別が妹なる お勝の姫を妻となし夫婦揃ひて睦まじく 神の神業に仕ふ身ぞ黄竜姫の真心は 己玉治別として無限の感謝に充ちぬれど 皇大神の定めたる一夫一婦の御規則 破らむ由もないじやくり国に残せし若草の 妻の命の心根を思へばいとど哀れなり 宇都山郷の田吾作と蔑まれたる時も時 卑しき身をも顧みず尊き神の御裔もて 吾に仕へし貴の妻吾身に一人ある事を 完全に詳細に聞こし召し此事のみは今日限り 心に放させ給へかし汝が身を思ひ妻の身を 思ふ玉治別神清き心を汲みとりて 必ず怒らせ給ふまじあゝ惟神々々 生命二つとあるならば汝をも娶り又もとの お勝の方と睦まじく仕へむものと吾心 汲ませ給へよ黄竜姫神素盞嗚大御神 国武彦の御前に真心明かし汝が身の 思ひを此処に情なくも科戸の風に打ち払ふ 黄竜姫の神司汝が切なる心根を 仇には捨てぬ玉治別の仇に思はぬ真心を 直日に見直し聞直し弥永久に宣り直し 吾に勝りていと清き夫の命を持たせまし あゝ惟神々々神の御前に玉治が 真心明かし奉る』 と妻のお勝の宇都山郷にありて神業に奉仕し居れば、貴嬢の御心は察すれども、到底夫婦たる事を得ずとの旨を神の前に表白したのである。黄竜姫は愈恋の雲晴れて熱心に神業に奉仕する事となつた。 (大正一一・七・一七旧閏五・二三北村隆光録) |
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霊界物語 | 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 | 05 真心の花(四) | 第五章真心の花(四)〔七七〇〕 友彦宣伝使は立ち上つて銀扇を開き、自ら歌ひ自ら踊り狂うた。その歌、 友彦『バラモン教の神司鬼雲彦の副柱 鬼熊別の家の子と仕へ奉りし友彦は 花見の宴の帰りがけエデンの川を渡らむと 宴会の酒に酔ひ潰れ諸人騒ぎ立ち廻る 頃しも主の愛娘小糸の姫は過ちて ザンブとばかり川の瀬に落ち込み給ふと見るよりも 身を躍らして川中に生命を的にもぐり込み 溺れながらも救ひ上げ鬼熊別の御夫婦に 此上なきものと愛せられ抜擢されてバラモンの 珍の教の神司仕へ奉るを幸ひに 深窓に育ちし小糸姫隙間の風にもあてられぬ 一人の乙女を友彦が舌の剣にチヨロまかし 手に手を取つてエデン川流れ流れて錫蘭の 島に漸う辿りつき山奥深く身を潜め 小糸の姫を女王とし吾は僕の神となり 此世を誑かり居たりしが持つて生れた酒好の 乱暴狼藉末遂に小糸の姫に棄てられて 怨みは深き錫蘭の海土人の船に身を任せ 印度の国まで漕ぎ渡り難行苦行の数尽し 又もや流れて自転倒の敦賀の海に上陸し 夜を日についで丹波路の宇都山郷に身をひそめ 鳥なき郷の蝙蝠を気取りて茲にバラモンの 教司となりすまし郷の老若男女をば 言葉巧に説きつけて教を開く折柄に 天の真浦の宣伝使現はれ来りいと清き その言霊にまくられて雲を霞と逃げて行く 山城、大和、紀伊、和泉浪速の里に舞ひ込みて 数多の男女を誑らかし心も暗き身ながらも 神を表に標榜し明石の里の久助が 家に到りて曲事の限りを尽し磯端に 繋ぎし船を横奪し力限りに漕ぎ渡る 浪の淡路の一つ島残る隈なく遍歴し そのいやはてに東助が不在を嗅ぎつけうまうまと 館に招き入れられてお百合の方を前に置き 憑依もせない神がかりうまうまやつて九分九厘 忽ち尻尾を掴まれて進退谷まる折柄に 死んだと思うた東助が清、武、鶴の三人を 伴ひ此処に帰り来る南無三宝と気を焦ち 少時の猶予と暇どらせ廁の中に忍び入り 思案の果は跨げ穴潜りて此家を逃れ出で 沖に繋ぎし屋根無しの小舟に身をば任せつつ 生命からがら瀬戸の海力限りに漕ぎ出せば 如何なる風の吹き廻し小豆ケ島へつけられて 風凪ぎ渡るその間此の浮島をめぐらむと 脚に任せて国城の山の砦に行て見れば 思ひがけなき蜈蚣姫三五教の高姫や 明石の里の久助に出会つた時の苦しさは 此の地の底に穴あらば消えも入りたき心地して 心悩ます折柄に又もや来る東助が 捕手の男に縛られて一旦淡路の洲本まで 連れ帰られし苦しさよ地獄で仏の東助が 情の言葉にほだされてヤツと胸をば撫で下し 清、鶴、武の三人と船を操り高姫が 危き身の上守らむと南洋大小の島嶼に 後を尋ねて周航し蜈蚣の姫や初稚姫の 神の命にめぐりあひ海洋万里の浪の上 月日を重ねて漸うに一つの島に安着し タカの港を後に見て地恩の郷に行き見れば 女王と名乗る黄竜姫の神の命は小糸姫 過ぎし昔を懐ひ出し心を悩ます折柄に 地恩の城の下人に追ひまくられて城外の 林の中に放棄され百の艱難を忍びつつ 山の尾伝ひ峰越えて百里二百里何時しかに 果実に飢をしのぎつつネルソン山の頂上に 登りて息を休めつつ四辺の景色を打眺め 心を養ふ折もあれ忽ち起る山腹の 黒白もわかぬ黒雲に包まれ咫尺も弁へず 心痛むる折柄にレコード破りの烈風に 吹き捲られて中天に空中飛行を演じつつ 数多の峰の彼方なるジヤンナの郷に顛落し 息も絶えなむ其時にジヤンナイ教の人々に ヤツと生命を助けられ鼻の赤きを幸ひに 数多の人にオーレンスサーチライスと敬はれ テールス姫に思はれて茲にメシヤとなりすまし 言葉も通はぬ郷人に出任せ言葉を列べつつ 崇拝させて居たりしが妻の命に実情を 残る隈なく打明けて夫婦は茲に気を合せ 地恩の城に立ち向ひ黄竜姫に昔日の 無礼を謝せば快く昔の怨みを打忘れ 東と西と携へて竜宮島を治めむと 宣らせ給ひし嬉しさよ黄竜姫の計らひに 地恩の城の馬場にて園遊会を開かれし 時しもあれやネルソンの山の尾高く蜃気楼 現はれ来り友彦は猿田彦司と相成りて 一行五人蓑笠の軽き身装を装ひつつ ジヤンナの郷に立寄りて教の御子に送られつ 山川渡り漸々に玉野ケ原に安着し 茲に身魂を清めつつ梅子の姫に罪科を 宣り直されて潔く喜び勇む折柄に 湖を辷つて駆け来る黄金の船を眺むれば 地恩の城に現はれて左守神と仕へたる 清公さまを始めとしチヤンキー、モンキー外二人 無言の儘に船の上此方に向つて麾く 梅子の姫を始めとし一行船に飛び乗りて 真帆を孕みし浪の上風に吹かれて辷り行く 妙音菩薩の音楽や浪の鼓に送られて 玉依姫の在れませる竜の宮居の側近く 御船を横たへ十柱の教の御子は悠々と 黄金の門を潜りつつ心いそいそ進む折 初稚姫や玉能姫玉治別の一行に 思はぬ処に迎へられ又も十二の姫神に 前後左右を守られて玉依姫の常久に 鎮まりいます水館奥の広間に招ぜられ 畏み仕へ奉る折上座の玉の扉押開き 近侍の女神に五色の玉を持たせて悠々と 現はれ給ひし崇高さよ心も清き白玉の 麻邇の宝珠の其の光明石の郷の久助に 手づから授け給ひつつ無言の儘に微笑して 其の場に立たせ給ひける久助玉を頂きて 教の道の友彦が手に渡しつつ悠々と 元の座につき畏まる心穢れし友彦も 案に相違の此始末うら恥かしく思へども 神の恵の露の玉潤ふ顔に伏し拝み 侍女の賜ひし錦襴の袋に深く秘めながら 首に確と結びつけ神の恵を感謝しつ 涙に暮るる時もあれ梅子の姫は座を立ちて 悠々此場を出で給ふ十曜の紋に因みたる 神の十柱宣伝使竜の館を立ち出でて 八咫烏の背に乗り雲霧分けて浪の上 渡りて漸く秋山彦の貴の命の庭園に 降り来れる嬉しさよあゝ惟神々々 仁慈無限の大神の御霊幸はへましまして 罪科深き友彦を見捨て給はず竜宮の 麻邇の玉をば授けられ神政成就の神業に 加へ給ひし有難さこれより心取り直し 身魂を浄め夢の間も神の恵を忘れずに 真心尽して仕へなむ錦の宮に常久に 鎮まりいます天地の元の御祖の大御神 瑞の御魂の大御神力なき身を憐れみて 三千世界の神業を過ちなしにすくすくに 仕へさせませ友彦が心の限り身の限り 力の限り真心を捧げて祈り奉る あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ』 お民は又もや立ち上つて祝意を表し、歌ひ舞ふ。 お民『此世を造りし大神の五六七の神世の御仕組 三つの御玉は永久に自転倒島に納まりて 神の御稜威も弥顕著に輝く折しも竜宮の 五つの宝麻邇宝珠神の御稜威に現はれて 大和島根に恙なく寄らせ給ひし尊さよ 三と五との睦び合ひ三五の月の御教は 八洲の国に隈もなく照り渡るらむ皇神の 経綸の糸にあやつられ誠あかしの郷人と 生れ出でたる久助が妻のお民は如何にして 斯る尊き神業に仕へ得たるか尊くも 皇大神の御恵み有難涙に咽びつつ 神の仕組の永久に末ひろびろと開く世を 松の神世と仰ぎつつ明石の浜の松原に 打寄せ来る清砂の数限りなき神徳を 尊み畏み喜びて皇大神の御前に 心の限り身の限り御稜威を称へ終へ奉る あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 玉依姫の賜ひたる黄金色なす麻邇の珠 四方の国々テールス姫の神の命の厳身魂 輝き渡れ永久にあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 と歌ひ終つた。 テールス姫は立ち上り、又も祝歌をうたひ始めた。 テールス姫『大海原に漂へる黄金花咲く竜宮の 一つ島にて名も高きネルソン山の山つづき ジヤンナの郷に現はれてジヤンナイ教を開きたる テールス姫は三五の道の司の友彦に 尊き道を伝へられ鬼をも欺く郷人に 誠の道を宣り了へて地恩の城に名も高き 黄竜姫の御前に夫の命と諸共に 現はれ出でて村肝の心の底を語り合ひ 力を協せ竜宮の一つの島を治めむと 語らふ折しも中天に現はれ出でし蜃気楼 諏訪の湖水は竜宮の麻邇の宝を取りもたし 数多の女神いそいそといそしみ給ふ其姿 遥に拝み奉り梅子の姫と諸共に 一行五人打揃ひ虎狼や獅子大蛇 曲神猛ぶ山道を神の御稜威に助けられ 月日を重ねて竜宮の浪さへ清き諏訪の湖 竜の宮居に参上り四辺眩ゆき金殿に 優しき侍女に導かれ玉依姫の御前に 進みし時の嬉しさよ玉依姫のお手づから 黄金の玉を取り出しお民の方に授けられ ほほゑみ給ふ折柄にお民の方は慎みて 受取り直に吾前に持出でまして快く 渡し給ひし美はしさあゝ惟神々々 神の教を悟りたる誠の人の心根は 斯くも美はしものなるか恥しさよと思ひつつ おしいただいて錦襴の袋に納め神恩を 感謝し奉る折柄に神素盞嗚大神の 貴の御子と生れたる梅子の姫は悠々と 此場を立つて門外に歩みを運ばせ給ふより 妾も御後に引添うて黄金の海のほとりまで 帰り来れる折も折はばたき高く黄金の 翼ひろげて飛び下る八咫烏に乗せられて 自転倒島に恙無く降り来りし尊さよ あゝ惟神々々神の恵みは目の当り 仁慈無限の大神の開き給ひし三五の 教の道に身を任せ心の限り永久に 生命の限り仕ふべし神素盞嗚大御神 国武彦大御神お民の方を始めとし 此一行の神人の御前に感謝し奉り 貴の御玉の恙なく還りましたる祝言を 喜び歌ひ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 と歌ひ終つて座についた。 (大正一一・七・一七旧閏五・二三外山豊二録) |
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霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 01 高姫館 | 第一章高姫館〔七八三〕 五六七の神世の経綸地青垣山を繞らせる 霊山会場の蓮華台桶伏山の東麓に 旭を受けて小雲川清き流れを瞰下する 風景絶佳の岩が根に丸木柱に笹の屋根 厚く葺いたる神館静かに建てる冠木門 天然石を敷き並べ梅と松との庭園を 可なりに広く繞らして建てる館は四間造り 奥の離れの一棟は高姫さまが書斎の間 萩の小柴を編み立てて造り上げたる文机 天然石の硯をばお鍋が味噌を摺る様に 焼木杭をクリクリと連木の様に摺り減らし 竹の篦にて造りたる筆に墨をば染ませつつ 青く乾きし芭蕉葉に何か知らねどスラスラと 書き記し居る時もあれ門を開いて入り来る 高山彦や黒姫の姿眺めて下男 勝公安公両人は竜宮様の御入来と いと丁寧に腰屈め敬意を表せば黒姫は 高姫様は在宅か高山彦の夫婦連れ 参りましたと奥の間へ伝へてお呉れと促せば ハイハイと答へて勝公はコレコレ安公門の番 しつかり頼むと言ひ捨てていそいそ奥へ駆けて行く 暫くありて勝公は二人の前に腰屈め 高姫さまの仰せには待兼山の時鳥 お二人共に奥の間へ早くお進み下さんせ 以ての外の御機嫌と話せば黒姫羽撃きし 高山彦も教服の塵打払ひ悠々と 細き廊下を伝ひつつ奥の間さして忍び入る 高姫は別棟の書斎から廊下伝ひに袴も着けず、板縁をめきめき云はせ乍ら、稍空向き気味になつて奥の間に現はれ、木の株を切抜いた火鉢を前に据ゑ、煎餅の様な薄い座蒲団の上に四角張つて、 高姫『コレハコレハ高山彦さまに黒姫さま、お仲の良いこと。独身者の高姫の前にそんなお目出度いとこを展開して貰ひますと、堪りませぬワ。オホヽヽヽ、まあまあ御遠慮は要りませぬ。ズツと奥へ御通り下さい。………さう遠慮をして貰うと、肝心要の話も見えず、お顔も聞えず、大変に都合がよくありませぬワ』 と態とに顔が聞えぬの、話が見えぬのと、脱線振を発揮して、高山彦夫婦に対し大日の照るのに、昼日中気楽相に夫婦連れでやつて来たのは、チツト脱線ぢやないかとの意味を仄かして居る。 黒姫の顔はサツと変り、高山彦の袂をチヨイチヨイと引張り、早く気を利かして貴方はお帰りと云ふ意味を私かに示した。 高山彦『コレ黒姫、お前は何時も人の袂をチヨイチヨイ引張るが、唖でもあるまいに、何故明瞭と言はないのだ。わしはそんな、狐鼠々々と手真似や仕方で以心伝心の使分けは嫌ひだからなア』 黒姫『エー気の利かぬ……瓢六爺だなア。高姫さまが最前の御言葉、貴方は何と聞きましたか。竹生島でも仰有つた通り、夫婦ありては御用の出来ぬ御道だのに、高山さまを貰うてから、私の間が抜けたとキツパリ仰有りましたでせう』 高山彦『オホヽヽヽ、いやもう恐れ入りました。此高山彦も高姫様の御精神に、大賛成です』 黒姫目に角を立て、少しく口角より泡を滲ませ乍ら、 黒姫『それ程何々さまがお気に入りますれば、どうぞ御好きな様になさいませ。何と云つても何時も貴方の仰有る通り、色の黒い烏の嫁に、首や手足の長い鶴の婿さまは釣合ひませぬ。ヘン……此頃の空と男の心、折角御邪魔を致しましたが、私は是で御免を蒙ります。高山彦に鷹鳥姫様、高と鷹との情意投合、私も是にて断念致します。こんな厄介な爺を誰が好き好んでハズバンドにしたい者が御座いませうか。高姫さまの御紹介だと思つてお道の為、国家の為に今迄辛抱して参りました。男鰥に蛆が湧く、女鰥夫に花が咲く、ヘン…済まないが私だつて……ヘーン』 高山彦『大変な所へ鋒鋩を向けるのだなア。ここを何と心得てる』 黒姫『ヘン、仰有いますな、そんな事の分らぬ様な黒姫ですかいな。擬ふ方なき高姫さまの御館、桶伏山の朝日の直刺す景勝の地、小雲川の畔で御座んすぞえ』 高姫『オホヽヽヽ、随分御気楽なことですな。私等は春の花も仲秋の月も、楽しむ暇は無く、何だか神様の為にかうヂツとして居ても、気が焦々し、忙しくつてなりませぬワ。小心者の高姫に比べては、余裕綽々たる御夫婦仲、実にお羨ましう御座います。ホツホヽヽ』 黒姫『今日は左様な貴女の嘲罵的御話を聞きに参つたのぢや御座いませぬ。国依別が高姫さまに進上して呉れと云つて、妙な物を持つて来ました。開けて見れば大変な立派な重の内、上に一つの短冊が載つてゐる。其文面には………鮒もろこ、鯰からかぎ鯉に鱒、酒の肴に鰌ニヨロニヨロ、ふんぞくらいに砂くぐり、石食ひ魚に釜掴み、直におあがり下さらねば、直に石に変化する虞あり………と書いてありました。こら妙だと開けて見れば、不思議も不思議、上の重も中の重も下の重も残らず石ばつかり、何程国依別が悪戯好きだと云つても、まさか石を初から持つては来ますまい。貴女に怒られると大変だと思ひ、一寸私の宅に其儘預つておきました。どう致しませうかな』 高姫俄に面を膨らし、 高姫『黒姫サン』 と言葉尻をピンと撥ね、 高姫『お前さまは余程良い馬鹿ですね』 黒姫『ヘー……』 高山彦『何分にも竜宮の乙姫様が一つ島とやらへ、御旅行遊ばした不在宅のガラン洞ですからなア、アハヽヽヽ』 黒姫『情意投合のお二人様、どうなつと仰有りませ。あなたは何時もサカナ理屈を言うておイシが悪いから、意趣返しに団子理屈………オツトドツコイ団子石を国依別が態と持つて来たのでせう。そんな事の気の付かぬ様な黒姫ぢや御座りませぬ。金剛不壊の宝珠でさへも御呑み遊ばす高姫さまだから、今度はお生憎様、堅い玉がないから、これなつと御あがり遊ばして、腹の虫を御癒やしなされと云ふ、国依別の皮肉な謎ですよ』 高姫『兎も角国依別を招んで来ませうか。本人に直接承はれば一番近道だから………コレコレ安公さま、お前ちよつと御苦労だが、杢助館の隣の豚小屋の様な小さい家に、国依別が今頃は昼寝の夢でも見て居るに違ひないから、高姫さまが此間の御礼に御馳走をあげたい。就いては折入つて御頼みしたい事があるから、最大急行で御出で下さいと、呼んで来るのだよ』 安公『ハイ、さう御註文通り、国依別さまが来て呉れませうかな』 高姫『来いでかい。もし来なかつたら……系統の生宮の命令を何故聞かないか、日の出神を何と心得て御座る……と一本、槍を突つ込んでおくのだ。さうすると国依別は取るものも取り敢ず、スタスタとやつて来るよ。サア早く往つてお呉れ』 安公『アイ』 と一声後に残し、国依別の矮屋の前に走り着いた。 安公『もしもし、国の大将さま、大変だ。高姫さまの御居間で高山彦と黒姫が夫婦喧嘩をおつ始め、組んず組まれつ、乱痴気騒ぎ、イヤもう大変な事ですよ。それに就て、国依別が愚図々々吐すと、日の出神の生宮だ、系統の身魂を何と心得てる……と云うて剣突を……ドツコイ違うた。槍を一本突つ込んで帰れと仰有つた。もう邪魔臭いから何も彼も一緒に申し上げますワ』 国依別『アハヽヽヽ、夫婦喧嘩ぢやあるまい、石の問題だらう、此頃は陽気が悪いで、早く料理するか、煮しめん事にや、石に変化して了ふさうだ。山の芋が鰻になつたり、鮒が化石したり、青雲山ぢやないが、木の枝に魚が実つたり、川の瀬に兎が泳いだりする例しもあるからなア』 安公『国さま、最大急行だよ。早う来て貰はないと、高姫館は地震雷火の車、地異天変のガラガラ、ドタンバタンの幕が下りる。急行々々』 と国依別の手を取りて無理に表へ引摺り出す。 国依別『オイ安公、手を放せ。コレから往つてやらう』 と先に立ち高姫の館に行かんとする時、秋彦は後より走り寄つて、 秋彦『国依別さま、どこへ御出で遊ばす、高姫館ぢやありませぬか』 国依別『オウさうだ。これから一談判始まる所だ。お前も来ぬか、随分面白いぞ』 秋彦『有難う、サア参りませう。……オイ安公、しつかり案内せいよ。何分天地暗澹、黒姫の世の中ですから、道路の石の高姫に躓いて、鼻の高山彦を台無しにしちや堪らないからなア、アツハヽヽヽ』 と嘲笑ひ乍ら、スタスタと高姫の門前迄立向うた。秋彦は形計りの門を開いて先へ飛び込み、少しく腰を曲げ、右の手指を固めて細くし乍ら、 秋彦『コレハコレハ国依別の宣伝使様、妾が如き見窄らしき茅屋へよくこそ御入来下さいました。日の出神の生宮、心の底より光栄に存じます。又先達ては黒姫様の御手を通し、結構な結構な堅いお魚を沢山に頂戴致しまして有難う厶います。何か御返礼をしたいと思ひましても、御存じの通り貧家に暮す高姫、御礼の仕様も厶いませぬ。併し乍ら折釘のかます子に、最後屁のかます、手製の左巻き、かいちう虫の饂飩、雪隠虫の汁の子、青菜に塩の蛭の素麺、蛇の蒲焼、蛙の吸物、なめくじの胡瓜揉み、どうぞ御遠慮なく、サア奥へチヤツと行つて腹一杯おあがり下さいませ。ホツホヽヽヽ、あのマア国依別さまの御迷惑相な御顔付…』 国依別『コレコレ鹿さま……ではない……お鹿さま。いい加減に戯談仰有いませ』 秋彦『お鹿さまが申すのでは厶いませぬ。高姫さまの副守護神が此門を入るや否や神憑り[※初版・校定版では「神憑り」、愛世版では「神懸り」。]されまして、斯様な事を仰有ります。決して秋彦のお鹿が言うたとは思つて下さいますな、オホヽヽヽ』 と出歯の口を無理にオチヨボ口にしようと努むる可笑しさ。 国依別『左様ならば、遠慮なしに罷り通るツ。出歯鹿殿、案内召され』 安公『アハヽヽヽ、門芝居がお上手な事、高姫さまが御覧になつたら嘸御笑ひでせう…イヤ腮を外してひつくり返り、又もや外科医者を頼みに行かねばならない様なことが突発したら、又候……安公さま、御苦労乍ら、お前一寸外科医の山井養仙さま所へ、最大急行で頼みに往つて呉れ……なんて仰有るのは目のあたりだ、腮阿呆らしい。ワツハヽヽヽ』 国依別『汝安公とやら、今日只今より国依別が直接の家来となし、名を安彦と授くる。其積りで国依別に随いて来るがよからう』 安公『コレハコレハ思ひもよらぬ御恩命、安彦の宣伝使、確かに御恩命を拝しませぬ、アタ阿呆らしい、言依別神様から頂くのなら、結構だが、巡礼上りの胸の悪い宗彦に宣伝使を任命されて堪らうかい』 秋彦『どうでも良いぢやないか。兎も角頂戴しておけ。お前は松鷹彦になるのだよ。さうしておれはお勝になつて、此宗彦さまと巡礼に歩くのだ。少し川は届かぬけれど、あの小雲川を宇都山川と見做し、高姫館を松鷹彦の茅屋に擬し、茲で一つ面白い芝居をやるのだな』 安公『そんな事言つたつて、松鷹彦がどうするのか、ちつとも分らぬだないか』 国依別『そこは臨機応変だ。そこは……此方から言ふのに応じて答へればよいのだ。お前は霊界物語の如意宝珠の未の巻を読んで居ないから、其間の消息が分るまいが、其時は又其時の絵を書くのだ』 安公『よし、棹が無いが、茲にチツと太いけれど物干し竿がある、これでマア鷹や鴉を釣ることにしようかい。サア早く巡礼御夫婦、やつて来なさいや』 国依別『よし、ここを川辺と見做し、向ふから宣伝歌を歌ひつつやつて来るから、お前は太公望気取りで竿を垂れて居るのだ』 と云ひ乍ら国依別、秋彦は門を出て一二丁後返りをなし、出鱈目の歌を歌ひ乍ら進んで来る。 安公は庭先の飛石を川の瀬と見做し、物干し竿の先に藤蔓を糸の代りに付け、太公望気取りで魚釣りの真似をして居る。そこへ勝公が飛んで来て、 勝公『オイ安、貴様何して居るのだ。最前から高姫さまが大変に御待兼だ、まだ使に行かぬのか』 安公『喧しく云ふない、無声霊話をかけて招んであるのだ。俺は武志の宮の松鷹彦だぞ。まあグヅグヅして居るより見てをれ、かうして居れば国依別や秋彦が引つかかつて来るのだよ。俺が此竿を振るや否や、妙な宣伝歌を歌つてツルツルツルと引摺られて来るのだ』 勝公『そんな馬鹿な事があるものか。是から高姫様に注進するぞ』 と云ひすてて、屋内に隠れた。国依別はどこで寄せて来たか、蓑笠を被り、俄作りの金剛杖を突き、 国依別『嬶が表に現はれて善ぢや悪ぢやと立騒ぐ 此世の困つた娑婆塞ぎ乞食心の高姫が 只玉々と朝夕に心を焦つ気の毒さ われは宗彦バラモンの神の教の修験者 殺生するのは善くないと高姫さまが言うた故 小雲の川におり立つて生物擁護の実行と 無心無霊の団子石魚と見做して釣り上げる 手間暇要らぬ漁りは経済上の大便利 刃物も要らねば煮る世話も一寸も要らぬ石の魚 さざれ石さへ年経れば巌となりて苔が蒸す 瓢箪からも駒が出る団子石とて馬鹿にはならぬ 如意の宝珠や紫の玉に変るか分らない サア是からは是からは宇都の河原の川辺に 松鷹彦の庵を訪ひ一つ談判してやらう 秋公来れ早来れオツと違うた妻お勝 教の道の兄弟が夫婦気取で面白く 高姫川の川堤やつて来たのは安公が 芝居気取の太公望もうしもうしお爺さま お前は古い年をして水なき川に竿を垂れ 何を釣るのか気が知れぬ諸行無常や是生滅法 高姫さまの目的は寂滅為楽となるであろ 黒姫さまや高山の女大黒福禄寿面 欲の川原に竿たれて金剛不壊の玉の魚 釣らむとするも辛からう欲につられて高姫が 南洋三界駆け巡り黒くなつたる面の皮 つらつら思ひ廻らせば燻り返つた釣られ鯛 睨み合うたる二人仲恵比須でさへも尾を巻いて 跣足でサツサと逃げて行くあゝ気の毒や気の毒や 安公までが国さまの言葉に釣られて欲の川 物干竿に綱をつけ宗彦お勝の巡礼が 茲に来るを待暮すあゝ惟神々々 叶はん事が出来て来た高姫さまが腹を立て コレコレ国よ国公よ日の出神の生宮を 馬鹿にするのも程がある何程呑み込みよい妾も 歯節の立たぬ団子石団子理屈を捏ねやうと 二重三重に封をして持つて来たのが憎らしい 此因縁を聞かうかと面ふくらして飛びかかり 胸倉とつて一騒ぎおつ始まるに違ない スワ一大事と言ふ時に逃げる用意をしておかう 秋公横門開けておけまさか厠の股げ穴 脱け出す訳にも行かうまい太公望の安公よ もう釣竿は流すのだ是から釣るのは高姫ぢや もうしもうし高山の福禄寿爺と黒さまは 当家におゐで遊ばすか一寸お尋ね致します』 此声聞いて勝公は戸口をガラリ引あけて 勝公『賤しき巡礼の二人連国依別や秋彦に よう似た声を出しやがつて瞞しに来てもそりやあかぬ スツカリ駄目だと諦めて早く帰つて下さんせ 巡礼なぞのノソノソと出て来る場所ではない程に 高姫さまが見付けたら長い柄杓に水汲んで 頭の上からザブザブと熱吹きかけるに違ない 犬ぢやなけれど尾を振つて一時も早くイヌがよい ワンワンワンといがみ合ひ喧嘩をされては堪らない 巡礼に化けた国さまや秋さま二人の宣伝使 危険区域を逸早く逃れてお帰り下さんせ 奥に高姫黒姫が額の静脈血を充たし 青筋立てて控へ居る』早く早くと手を拡げ つき出す様な真似をする。 高姫は門口の怪しき声に、黒姫、高山彦を奥の間に残し、自ら茲に現はれ、 高姫『勝公さま、お前今何を言つて居たの、どこに私が青筋を立てて居ますか』 勝公『イイエ滅相もない、そんな事は申した覚えはテンで厶いませぬ。今そんな男が一寸やつて来ましたので、高姫さまのお目にかけたら、嘸お笑ひ遊ばすだらうと云つて居たので厶います……それ、そこに乞食巡礼が二人立つて居ませうがなア。一人は宗彦、一人はお勝、もう一人は松鷹彦、欲の川で竿をたれ、鷹とか鴉とかつるとか言つて居ました。……ヘーまあ、何で厶います、ザツと此通りで』 とモヂモヂして頭を掻く。 高姫『お前は国依別さま、秋彦の両人でせう。大それた悪戯をなさつて、此高姫に合す顔がなくなり、蓑笠を被つて元の宗彦時代に立返り、心の底から改心を致しました、と云ふ証拠でやつて来たのだらう。そんな芸当は世界の見え透く日の出神の前では通用致しませぬぞえ。サアサア早く正体を現はして這入つて下さい』 国依別『幽霊の正体見たり枯尾花。 たそがれて山低う見る薄かな』 高姫『俄に風流人めいた事を言つて、誤魔化さうと思つてもあきませぬぞや。サアサアとつとと這入つて下さい。お前さまに尋ねたい因縁があるのだから……』 国依別『因縁の玉を集むる此館……因縁つける高姫大根…… 旅役者大根と聞いて顔しかめ。 大根役者どこやらとなく魂が脱け。 玉おちのラムネぶつぶつ泡を吹き。 今抜いたラムネの泡や高姫……オツト高く飛び。 黒姫の様な葡萄酒萩の茶屋。 高山も低う見ゆるや萩の花。 如意宝珠空に輝く秋の月。 秋彦の空高くして馬は肥え』 高姫『コレコレ、国さま、何を愚図々々言つて居るのだ。這入れと云つたら、這入りなさい』 国依別『這入れよと言はれて躊躇ふ熱い風呂。 風呂吹を喰はぬ役者の子供哉。 大根の役者の芝居チヨボ葱』 高姫『エー、辛気臭い。気が咎めて閾が高いのだな』 国依別『高姫の敷居の欲に股が裂け。 股裂けた五つの玉は不在の間に。 黒姫は酒より男好きと言ひ。 高山に黒雲起り日は隠れ。 東天に日の出の光暗は晴れ。 堂々と国依別は進み入り』 と言ひ乍ら秋彦を伴ひ、高姫に先立つて奥の間に進み入る。 高姫、黒姫、高山彦、国依別、秋彦の五つの頭は火鉢を中に置いて、五弁の梅の花の開いた様に行儀よく並んだ。 国依別『明月や高山頭に照り渡り。 高山を透かして見れば星低し』 高姫『国依別さま、此間は御心を籠められた沢山な魚を頂戴致しまして、有難う御座います。これには何か御意趣のあることで御座いませう。サア其因縁から包まず隠さず聞かして下され』 国依別『和知川に洗ひ曝した石の玉、我は尊き人に捧げつ。 身魂相応堅くなつたる石の玉。 石よりも堅い決心感じ入り。 激流に揉まれて石は円くなり。 瀬を早み岩に堰かれて石の魚』 高姫『エーもどかしい。そんなむつかしい事を言つて分りますかいな。救世軍のブース大将が言つた事を知つて居ますか。例へば一軒の家でも一番小さい三つ児か、無学な下女に分る言葉でなければ名語ぢやありませぬぞ。俳人気取りで何を駄句るのだ。お前さまチツト此頃はどうかしとりますねえ。小雲川で一つ顔を冷し目を醒まして来なさい』 国依別『底までも澄みきりにけり秋の水。 秋の水腐つて居れどいと清し。 清らかな水には棲まぬ鮒もろこ。 濁江の深きに魚は潜むともなど川蝉の取らでおくべき』 高姫『おきなさんせ、大石内蔵之助の真似をしたり、何も知らぬと言へば調子に乗つて、人の歌まで自分が作つた様な顔をしようと思つて……本当にお前は歌泥坊だ』 国依別『床の下深きに玉は隠すとも など高姫の取らでおくべき。アツハヽヽヽ』 高姫『コレ国さま、どこまでも人を馬鹿にするのかい』 国依別『馬鹿野郎夜這の晨狼狽しゆき詰りては胸も高姫。………動悸は玉の置所。 竜宮へおと姫したかと気を焦ち世界隈なく探す馬鹿者』 高姫『コレ黒姫さま、国さまに是丈馬鹿にされてお前さま何ともありませぬか。チツト日頃の弁舌をお使なさつたらどうですかい』 黒姫『何だか人間らしうないので、話の仕様がありませぬもの』 国依別『人間を超越したり神司。 黒雲に包まれ星は影潜め。 高山に黒雲懸り雨は降り。 涙川忽ち濁る玉の雨』 黒姫『コレ高山さま、今国さまがどうやらお前さまや妾の事を、俳句とやらで罵倒して居るやうだ。お前さまも立派な男だないか、何とか一つ言霊で遣り返し、国を遣り込めて了ふ丈の甲斐性は無いのかい』 高山彦『苦にするな国依別けて大切な げほう頭は如意宝珠……光は玉の如くなりけり』 黒姫『高山さま、自分の事を言つてるのだないか。国さまに対して言ふのだよ。エーエ、鈍な男に緞子の羽織、女房も随分気の揉める事だなア。そんなら妾が代つて言ひませう。聞いて居なされ、斯う云ふのだよ。…… 黒姫の黒い眼で睨んだら 神の国依別もなく散る 桜の花は神風に 吹かれてバラバラバラモン信者 聞いてもムネ彦悪くなる 負てもお勝の尻を追ひ 肥桶担ぎの玉治別に 玉を取られし気の毒さ 泣面に蜂 止まつて咬んだ如くなりけり』 国依別『アハヽヽヽ、ウフヽヽヽ、此奴ア面白い。始めて聞いた名歌だ。柿本人麿も丸跣足だ。与謝野晶子の所へ持つて往つたら、屹度秀逸点を呉れるだらう。イヒヽヽヽ、エヘヽヽヽ、オホヽヽヽ…… 黒姫の歌にお臍が宿替へし。 脇の下キユウキユウキユウと鼠鳴き。 名歌の徳床板迄が動き出し。 睾玉の皺まで伸ばす此名歌』 高姫『黒姫さま、こんな男にかかつちや、口八丁手八丁の高姫だつて、三舎を避けねばなりませぬワ。もうそんな歌などで話しちや駄目ですよ。……コレ国さま、お前さまは何の為にあの様な物を、私に贈つたのだ。失礼ぢやありませぬか。何程物喰のよい豚だつて石は喰ひませぬよ』 国依別『豚よりも物喰ひのよき人もあり。 如意宝珠玉さへ噛る狂女哉。 今の世は砂利さへ喰ふ人もあり。 嫁入の祝ひに据ゑる石肴二世を固めの標なるらむ。 マアざつと斯う云ふ精神で、貴方の堅固な精神をお祝ひ申し、お賞め申した国依別の真心。 岩さへも射貫く女の心哉。 と云ふ様なものですワイ。悪気を廻して貰つちや、折角の国依別の志が水泡に帰しまする。魚だつて……魚が水に棲めば、此石だつて綺麗な流水にすみきつて、神世の昔から永久に川底に納まりきつて居つた石肴ですよ。別に喰つて下されと云つて贈つたのぢやありませぬ。お目にかけると云つたのだから、食へる食へぬはお前さまの御勝手、そんな問題は些いと的外れでせう』 高姫『流石はドハイカラの仕込み丈あつて、巧いものだワイ。オホヽヽヽ。コレコレ黒姫さま、高山彦さま、お前も随分鉈理屈が上手だが、国さまにかけちや側へも寄れますまい。言霊の幸はふ世の中だ。チツト是から言霊の練習をなされませ』 斯かる所へ夏彦、常彦両人は、言依別の目を忍び系統の高姫に御機嫌伺ひの為、太平柿を風呂敷に包み、やつて来た。勝公は直に奥の間に進み入り、 勝公『もしもし高姫さま、夏彦、常彦の両人が御機嫌伺ひだと云つて今見えました。如何致しませう』 高姫したり顔に、嫌らしく笑ひ乍ら、国依別、秋彦に目を注ぎ、 高姫『勝公さま、どうぞ御両人様、ズツと奥へ御通り下さい、と丁寧に御迎へ申してお出で………アーアやつぱり身魂の良い者は分るワイ。 落魄れて袖に涙のかかる時人の心の奥ぞ知らるる だ。妾が聖地へ帰つてから今日で三日目だ。それに言依別を始め、杢助迄が不心得千万な、系統のお帰りを邪魔者扱に致して、馬鹿にして居る………エー、今に見ておぢやれよ、アフンと致さして見せるぞよと、日の出さまが仰有るので、先づ神様にお任せして辛抱して居るのだ。人間と云ふ者は薄情なものだ。冷酷無惨の浮世とは云ひ乍ら、人情薄きこと紙の如しだ』 国依別『此国さまは人情厚きこと神の如しでせう』 高姫『さうでせうとも、偶の挨拶に団子石を贈つて来る様な、無情……オツトドツコイ親切なお方ですからな』 国依別『イヤその御礼には及びませぬ。沢山なもので厶いますから……』 斯る所へ勝公に導かれ、夏彦、常彦は目をギヨロつかせ乍ら、此場に恐る恐る現はれ来り、国依別や秋彦の其場に端坐せるを見て、聊か手持無沙汰な顔付にて、ドギマギして居る可笑しさ。夏、常両人、丁寧に高姫の前に手をつかへ、 両人『是は是は高姫様、御遠方の所永らく御苦労様で厶いました』 高姫『イヤもう御挨拶痛み入ります。何分身魂が研けぬもので厶いますから、不調法計り致して居ります』 両人『滅相もない、貴方は決して無駄では厶いませぬ。神様の御筆にも、人民から見れば何でもないやうだが、神の方からは大きな御用が出来て居るぞよ……と現はれて居りますから、屹度結構な御用が出来てをるに違ひありませぬ。兎角神界のことは人民では分りませぬから、形の上で彼此申すのは、申す人が分らぬので御座いませう』 高姫『ハイ、有難う』 と涙含む。 両人『是は是は高山彦様、黒姫様、つい申し遅れました。あなたも永らく神界の為に御苦労様で厶いました。直様御伺ひ致すのが本意で厶いますけれど、二三日前から杢助さまに………エー、一寸…何で厶いますので………つい遅れまして厶います。マア御無事で御両所共御帰り下さいまして、聖地は益々御神徳が上がるであらうと、一同影から御喜び申してをる様な次第で厶います』 高山彦『ヤア常彦さま、夏彦さま、あなたも御無事で御目出度う』 黒姫『ヨウ親切に此婆アを訪ねて下さいました。年がよると腰が屈む、目汁鼻汁……イヤもう醜くるしいもので、誰もふりかへつて呉れるものは御座いませぬワイ。力と頼むは大神様と、日の出神様、竜宮の乙姫様計りで厶います。人情紙の如き軽薄な世の中に、ようマア御訪ね下さいました。あなたも御無事で結構で厶いますなア』 両人『ハイ、有難う。……ヤア国依別さま、秋彦さま、あなたは何時御越しになりましたか』 国依別『………』 秋彦『つい、最前参りました。お三方が久し振で御帰りになつたので、我々も何となく心勇み、御祝ひ旁お訪ねしたのですよ』 国依別『来客に其場を外す悧巧かな。 心から除けて見たきは襖かな。 石よりも堅き心の集ひかな。 鐘一つ年は二つに分かれけり』 と口吟み、一同に、 国依別『御密談の御邪魔になりませうから、我々両人は御遠慮致します』 との意を示し、目礼し乍らスタスタと帰つて行く。門をくぐり出た両人、互に顔を見合せ乍ら、ニタリと笑ひ、 国依別『高姫も大分に我が折れたねえ。あれなればもう気遣ひあるまいね』 秋彦『さうでせう。黒姫も、高山彦も余程変つて来ましたよ。何時もなら、あんな石でも贈らうものなら、忽ち低気圧が襲来して雷鳴轟きわたり、地異天変の勃発するところですが、矢張苦労はせんならぬものですなア』 国依別『アヽ是で杢助さまに対し、相当の報告が出来るワイ。神様の御経綸は到底我々には分るものでない。それにつけても貧乏籤を引いたのは此国依別だ。いつとても揶揄役を仰せ付けられて居るのだから、堪つたものぢやない』 秋彦『身魂の因縁で善の御用をするものと、悪の御用をするものとあるのだから、御苦労な…あなたも御役ですな』 国依別『三千世界改造の大神劇の登場役者だから、仕方がない。併し乍ら悪役ばつかりは御免蒙りたいワ』 秋彦『末になりたら、皆一所に集まつて互に打解け合ひ、あゝ斯うであつたか、さうだつたかと云つて、力一杯神様に使はれて、こんなことを思つて居つたのかと、笑ひの止まらぬ仕組ださうですから、さう気投げをしたものぢやありますまいで、常彦や夏彦が忠義顔して、高姫の前で味噌を摺つて居るのも、あれも何かの御仕組の一端でせう。一寸聞くとムカツキますがなア。よく考へて見ると、どんな仕組がしてあるか分りませぬからなア』 国依別『そらさうだ。マア細工は流々仕上げを御覧うじと仰有るのだから、改造鉄道の終点迄行かねば分らぬなア。ヤアもう何時の間にか、国依別館の門前まで来て了つた』 秋彦『ハヽヽヽヽ、何処に門があるのですかい』 国依別『有つても無うても、有ると思へばある、無いと思へば無いのだ。俺の居宅は九尺二間の豚小屋の様に、お前の眼では見えるだらうが、国依別の天空海濶なる霊眼を以て見る時は、錦の宮の八尋殿同様に広く見えるのだからな。これ丈広い世界も心の持様一つで、我七尺の体を置く所もない様に見えたり、又こんな小さい居宅が宇宙大に見えたりするのだから、色即是空、空即是色だ。娑婆即寂光浄土の真諦はこんな小さい家の中に居つて、魂を研くとよく了解が出来るよ。アハヽヽヽ』 秋彦『そんなものですかいな。私の眼には如何しても八尋殿と同じ様には見えませぬワイ。裏口出た所に厠が附着いたり、小便壺が有つたり、その横に井戸が在つたり、走りに竈、何だか醜くるしい様な気分がするぢやありませぬか。一寸聞くと、あんたの御言葉は痩我慢を言つてるやうに聞えますで。何程無形的に広いと云つても、現実が斯う矮小醜陋では、余り大きなことも云へますまい。これから国依別さま、私になら何を言つてもよろしいが、人の前でそんなことを仰有ると、皆が取違して、国依別は負惜みの強い奴だ、減らず口を叩く奴だと却て軽蔑しますよ』 国依別『形ある宝は錆び、腐り、焼け、亡び、流れ壊るる虞がある。起きて半畳寝て一畳だ。広い館に住んで居れば、あつたら光陰を掃除三昧に空費し、肝腎の神業の妨害になるだないか。小さいのは結構だ、何かに都合が好い。第一経済上から云つても得策だからなア』 秋彦『あなた掃除をなさつた事があるんですか。雪隠の虫が竈の前に這うて居るぢやありませんか』 国依別『……ここ暫し家の美醜は忘れけり神大切に思ふ計りに…… と云ふ様なものだな』 秋彦『ヘーエあなたも余程高姫化しましたねえ。弁舌滔々風塵を捲く。実に揶揄役のあなたは、高姫さまに接するの度が多いから余程の経験が積んだと見えますワイ。都合の悪い時には、発句か川柳か、鵺式の言葉を使つて駄句り続け、腰折歌を並べ随分側から聞いてると苦さうでしたよ』 国依別『苦中楽あり、楽中苦ありだ。それも見やうによるのだよ。一葉目を蔽へば、大空一度に隠れ、一葉を掃へば、大空我目に映ずと云つて、凡て物は見方に依るのだ、見方が大切だ』 秋彦『味方計り大切だと云つて愛する訳には行きますまい。神様は敵する者を愛せよと仰有るぢやありませぬか』 国依別『それだから高姫さまに対し、私は何時も適対ふのではない、適当の処置を取つて居るのだ。ヤツパリ見方によつては味方に見えるだらう』 秋彦『何程贔屓目に見ても、あなたが高姫さまに対して為さることは、余り同情のある遣り方とは見えませぬぜ。何時も高姫さまの鼻をめしやげたり、手古摺らしては痛快がつてるぢやありませぬか』 国依別『……心なき人は何とも言はば言へ世をも怨みじ人も恨みじ…… 燕雀何ぞ鴻鵠の志[※「鴻鵠」は一般には「こうこく」と読むが、ここでは「こうこう」とフリガナが付いている。誤字か?]を知らんやだ。紫蘭満路に咲く、芳香何ぞ没暁漢の知る所ならんやだ。アハヽヽヽ』 (大正一一・七・二二旧閏五・二八松村真澄録) |
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霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 05 玉調べ | 第五章玉調べ〔七八七〕 仰げば高し久方の高天原の若宮を 地上に写し奉り大宮柱太知りて 高天原に千木高く仕へ奉りし珍館 錦の宮に連なりし稜威も広き八尋殿 英子の姫を始めとし梅子の姫や五十子姫 初稚姫や玉能姫音彦亀彦始めとし 杢助総務其外の役員信者は粛々と 八尋の殿に寄り来り早くも殿の内外に 溢るるばかりなりにけり。 かたの如く祭りも無事に終了した。上段の間には杢助の総務を始めとし、英子姫、五十子姫、梅子姫、初稚姫、玉能姫、お玉の方、最高座には玉照彦、玉照姫扣へられ、亀彦、音彦、国依別の幹部連、秋彦、夏彦、常彦を始め、英子姫と相並んで黄竜姫、蜈蚣姫、テールス姫末端に扣へ、友彦は幹部の上席に顔を並べて居た。群集を分けて意気揚々と登り来る高姫、黒姫、高山彦の三人は、今日玉調べの神務奉仕の役として、盛装を凝らし、英子姫よりも一段と上座に着いた。 杢助『私は素より鈍魂劣器至愚至痴なる身魂の持主で御座いまして、総務なぞをお勤め申す柄ではありませぬが、神命黙し難く心ならずも拝命致し、皆様のお助けに依つて御用の一端を勤めさして頂いて居りますは、是れも全く皆様の御同情のお蔭と厚く感謝致します。就ては私も少しく思ふ所あつて、神界の為めに、もう一働き致したう御座いまするので、後任者を推薦致して置きました。教主様は今日は急病でお引籠もりで御座いますから、御意見を伺ふ事は出来ませぬが、私の後任者として淡路島の東助様を、御苦労に預りたいと思うて、内々伺ひは出して御座います。就きましては、今日は実にお目出度い日柄で御座いまして、竜宮島より、お聞及びの通り、五色の麻邇宝珠納まり、言依別命様が兎も角御主管なされて居られましたが、今日、高姫、黒姫のお取調を願ひ、信者一同に拝観をさせよと、教主のお言葉で御座いますから、其お心算で、ゆつくりと御拝観を願ひます。再び拝観する事は出来ぬので御座いますから、此際充分御神徳を戴かれる様に、一寸一言申上げて置きます』 一同は雨霰のごとく拍手する。杢助は初稚姫、玉能姫、五十子姫、梅子姫を伴ひ、社殿の奥深く進み、黄金の鍵をもつて傍の宝座を開き、各一個の柳筥を、頭上高く差し上げながら、静々と八尋殿の高座に現はれ、五個の柳筥は、段上に行儀好く据ゑられた。 高姫は段上にスツクと立ち、一同を見廻し乍ら、 高姫『皆さま、今日は誠に結構なお日柄で御座います。今迄は瑞の御霊の三種の神宝此処に納まり、今日又厳の御霊の五色の神宝無事に納まり、皆様が拝観の光栄に浴さるる空前絶後の第一吉祥日で御座います。神様は引掛け戻しのお経綸をなさいますから、肝腎の厳の御霊の経を後に出し、瑞の緯を先に出したり、変幻出没究極す可らざる事を遊ばすのは、皆様御承知の事で御座いませう。今日迄三つの御玉を私共南洋あたりまで、捜索に行つたと申すのは、決して左様な緯役の玉を求めに行つたのではありませぬ。玉には随分モンスターの憑依するものでありますから、此高姫等は三つのお宝を探す様に見せて、其方に総ての精神を転じさせ、其時に日の出神、竜宮の乙姫の礎になるお方様が、一つ島に人のよう往かない如うな秘密郷の諏訪の湖に深く秘し、さうして仕組を遊ばして御座る事は、最初から我々両人の熟知する所、否仕組んで居る所で御座います。今日初稚姫、玉能姫、黄竜姫、梅子姫、蜈蚣姫其他五人の神司に、此御用をさせたのも日の出神の仁慈無限のお取計らひと、竜宮の乙姫様の御慈悲ですよ。それが分らぬ様では、三五教の五六七神政の仕組は到底、分るものではありませぬ。幸ひに賢明なる英子姫、稍改心の出来た言依別命の神務奉仕の至誠が現はれて、竜宮の麻邇の宝珠が聖地へ納まる事が出来る様になり、夫を受取り且つ調べるお役は特に此高姫、黒姫両人が致すべきもので御座います。依つて只今より御玉の改めを致しますから、皆さま、謹んで拝観なさるが宜しい。三つの御玉はどうならうとも私は知りませぬ。今度の五つの御玉こそ肝腎要な大望な御神業大事のお宝、就ては玉治別や其他の半研けの身魂が取扱つたのですから、少しは穢れて居ないかと心配を致して居るので御座います。身魂相応に玉の光が現はれるのですから、実に恐いもので御座いますよ。サアサ是れから、お民が預つてテールス姫に手渡した、黄色の玉を函から出して調べる事と致しませう。……黒姫さま、御苦労ながら一寸これへお越し下さい。さうしてお民さま、テールス姫さま、貴女は直接の関係者、此処にお扣へなされ』 『ハイ』と答へて両人は高姫の傍に立寄る。高姫は口をへの字に結び、柳筥の桂馬結びの紐を解き、恭しく玉函を捧げ、八雲琴の調子に合して体躯を揺り、手拍子を取りながら、機械人形の如うに柳筥の蓋を、シヤツチンシヤツチンと取つて見た。黄色の玉が出るかと思ひきや、中より団子石がゴロリと出た。よくよく見れば何か文字が記してある。高姫は眉を顰め光線にすかし見て「高姫、黒姫の身魂は此通り、改心致さねば元の黄金色の玉にはならないぞ」と記されてあつた。高姫は顔色烈火の如く、声を震はせ、 高姫『コレお民さま、テールス姫さま、お前さま達は偉さうな面をして、海洋万里の一つ島まで何しに往つて居つたのだ。アタ阿呆らしい。コンナ玉なら小雲川には邪魔になるほどあるぢやありませぬか』 お民『ハイ、何んな玉で御座います』 高姫『何んな玉もこんな玉もありますかい。お前の身魂の感化に依つて、折角の玉もこんな事になつて仕舞つた。……コレ、ジヤンナの土人の阿婆摺女テールス姫とやら、何の態だ、これは……阿呆らしい、早く改心なされ』 テールス姫『ハイハイ改心を致します。どうしてマアこんな玉になつちやつたのだらう、いやな事』 黒姫『それだから瑞の御霊は憑り易いと言ふのだ』 玉治別『瑞の御霊は憑り易いと仰有つたが、これは五の御玉ぢやありませぬか』 黒姫『何れも憑り易い身魂だ』 玉治別『そんなら貴女の身魂が憑つたのでせう。どれどれ、私が調べて見ませう』 高姫『お構ひなさんな。お前さまの如うな瓢六玉が見ようものなら、ただの玉になつて終ひます』 群集はワイワイと騒ぎ出した。 国依別は段上に立つて、 国依別『皆さま、お騒ぎなさるな。今日の玉調べは高姫さま、黒姫さまの身魂調べも同様ですから、決してテールス姫やお民さまの身魂が黒いのではありませぬ。最前も高姫さまが仰有つた通り、何と云うても御両人が、自分でお仕組なさつたのですから心配は要りませぬ。皆見る人の心々に写りますから……如意宝珠、又見る人の随意々々替はるから麻邇の宝珠といふのです。之が本物に違ひありませぬ。どうぞお騒ぎなさらない様に願ひます。一度高姫さまのメンタルテストをやる必要がありますからなア』 高姫『コレ国さま、お前さま、ゴテゴテ言ふ資格がありますか』 国依別『ありますとも、そんなら何故私に生田の森で、玉の所在を知らせ知らせと云つたのですか』 高姫『お前さまの言ふ事は、チツトより信用が出来ぬ。ブラツクリストに登録されて居る注意人物だ。お黙りなさい』 国依別『高姫署のブラツクリストに記されて居る私でも、チツト位信用が出来るのですか。私は又大いに信用が出来ぬと仰有ると思つたに……それはさうとして次の白色の玉を早く調べて見せて下さい』 高姫『八釜しう云ひなさるな。お前さまがツベコベ嘴を容れると、又玉が変化するかも知れませぬぞ。エヽ穢はしい。其方に往つて下さい。……サア今度は久助さま、友彦さま、お前さま達の責任だ。早く此処へお入来なさい』 両人は「ハイ」と云ひながら高姫の左右に寄り添うた。高姫は又もや以前の如く、恭しく柳筥を開いて見た。中には前同様の団子石に同様な事が書いてある。高姫はへの字に結んだ口をポカンと開けて暫し見詰めて居た。群集は又もやワイワイ騒ぎ出した。国依別は又もや段上に押し上り、 国依別『皆さま、お騒ぎなさいますな。コリヤこれも屹度以前の通り団子石ですよ。丸で狐につままれた如うですが、これも心の随意々々変化する玉ですから、驚くに及びませぬ。小人玉を抱いて罪ありと云うて、どんな立派な玉でも小人物が扱うと、其罪が直に憑つて団子石になるのですから、団子石だと言うて力を落してはなりませぬぞ。これでも身魂の磨けたお方が見れば本真物になります』 黒姫『コレコレ国さま、いらぬ事を仰有るお前こそ小人だ。お前の様な小人が居るものだから、此通り玉が変化する。私が竜宮で久助に渡した時は、こんなものぢや無かつた。久助と友彦の慢心の身魂が憑つてこんなに変化したのですよ。大勢の前に、此様身魂ですと曝されて、誠に誠にお気の毒様ですけれどもお諦めなされ』 友彦は大いに怒り目をつり上げながら、黒姫の頸筋をグツと握り締め、 友彦『コラ黒姫、失敬な事を言ふか、大勢の前で人の身魂の悪口を云うと言う事があるものか』 爪の延びた手で頸筋をグツと喰ひ入る程掴み押へつける。黒姫は「キーキー」と言ひ乍ら其場に蹲踞む。側に居た高山彦は友彦の襟髪をグツと取り、段上から突き落さうとした途端に、友彦は体をパツとかはした。高山彦は二つ三つ空中廻転をして、群集の中に唸りを立てて落ちて来た。「サア大変」と大勢は寄つて掛つて介抱をし乍ら、痛さに唸く高山彦を担いで、黒姫館にドヤドヤと送つて行く。 国依別『黒姫さま、誠にお気の毒な事で御座いました。貴女も嘸お腹が立ちませう。又高山彦も思はぬ御災難で誠に御心配でせう。然し乍ら此処は神様の前、滅多な事は御座いませぬから御安心なさいませ』 黒姫『何から何まで、何時もお構い下さいまして、……ヘン……お有難う御座いますワイなア』 と肩と首をカタカタと揺つて居る、其容態の憎らしさ。 杢助『友彦殿、今日は職権を以て退場を命じます』 友彦『仕方がありませぬ。御命令に従ひ自宅へ控へ命を待ちまする。立腹の余り、ツイツイ粗怱を致しました』 と帰り行く。後見送りて黒姫は肩の中に首を耳の辺りまで石亀の如に突込んで仕舞ひ、頤を出したり引込めたり、舌を唇でチヨツと噛んで、何とは無しに嘲弄気分を表はして居た。 高姫『杢助さま、どうも怪しからぬぢやありませぬか。折角の如意宝珠の玉をこんな事にして仕舞うとは、一体全体訳が分らぬぢやありませぬかい。此責任は誰にありますか。……久助さま、お民さま、テールス姫さま、こんな不調法をして置いて、よう安閑として居れますな。此高姫が三人に対し退場を命じます。よもや杢助さま、是に向つて違背は有りますまいな』 杢助『何事も責任は私に有りますから、三人のお方はどうぞ此処に動かずに居て下さい』 三人一度に「ハイ」と俯向く。 高姫『エヽそんなら時の天下に従へだ、もう何も言ひますまい。是から青玉だ。……サア玉治別、黄竜姫様、此処にお出でなさい。さうして久助さま、元の座にお帰りめされツ』 と稍甲声を張り上げながら、又もや例の如く調査し、恭しく玉筥の蓋を取つて見た。高姫の顔は又もや口が尖り出した。舌を中凹に巻いて二三分ばかり唇の外に出し、首を右の方に傾げて目を白黒させ、両手を開いて乳の辺りで行儀好く、扇を拡げた様にパツとさせ、腰を二つ三つ振つて居る。玉治別は是れを眺めて、 玉治別『これ高姫、黒姫、矢張お前さまお二人は改心が足らぬ。海洋万里の竜宮の一つ島の、秘密郷の諏訪の湖水から聖地高天原迄、万里の天空を八咫烏に乗せられ捧持して帰つた結構な玉を、黒鷹の身魂が憑つて斯んなに変化さしよつたのだ。玉治別承知致しませぬぞツ』 と今度は反対に高姫に喰つて掛る。 高姫『へー甘い事を仰有いますワイ。肝腎要の水晶玉の高姫が覗いて、玉が変化する道理が何処に有りますか。お前さまがあんまり慢心して御用した御用したと、法螺を吹くものだから斯んな事になつたのだ。……コレ小糸どん、此醜態は何だいな。これで立派に御用が勤まつたのですかい。本当に呆れてものが言へませぬワイ。これ小糸どん、どうして下さる。結構な玉に悪身魂を憑して、お前さまは神界のお邪魔を致す曲者だよ。童女の癖に大の男をアフンとさせる様な悪党者だから、玉の御用が出来さうな道理がない。妾は初めから、お前が玉の御用をしたと聞いた時、フフーと惟神的に鼻から息が出ました。日の出神が腹の中から笑うて御座つたのだ』 黄竜姫は屹となり、『高姫さま』と声に力を入れ、 黄竜姫『ソレは余りの御言葉ではありませぬか。貴女の御身魂さへ本当にお研けになれば、本当の玉がお手に入るのですよ。屹度、神様がお隠しになつたのだが、御自分の心から御立替遊ばせ。さうすれば、本当の麻邇の宝珠がお手にお入り遊ばすのでせう』 高姫『何と云つても立派な御弁舌、高姫も二の句が次げませぬ。オホヽヽヽ』 と肩を揺り又も腮をしやくる。 玉治別『モシモシ黄竜姫さま、斯様な没分暁漢のお婆アさま連に相手になつて居つても詰りませぬから、もう止めて置きませう』 黄竜姫はニタリと笑ひながら、 黄竜姫『ハイ、さう致しませう』 と元の座に帰る。 高姫『アノマアお仲の好い事ワイの。ホヽヽヽヽ、若い男と女には監視を付けて置かにや険難だワイ』 杢助は苦虫を噛み潰した如うな顔をして、厳然として無言の儘扣へて居る。 高姫『コレ杢助さま、お前も偉さうに総務面をして御座つたが、今日は目算ガラリと外れただらう。アノマア恐い顔ワイなア』 杢助『アハヽヽヽ、何だか知らぬが面白い事で御座るワイ。アハヽヽヽ』 高姫『コレ黒姫さま、確りなさらぬかいな。一向元気が無いぢやないか。お前の竜宮の乙姫が玉の持主ぢやないか。此奴等に三つまで此様な事にしられて、それを平気でようまア、居られますな』 黒姫『ハイ何分心配が御座いますので』 高姫『ウン、さうだともさうだとも、高山彦さまがエライお怪我をなさつたから、御心配になるのも御無理と申しませぬが、もう暫らくだ、辛抱して下さい。さうしたら無事解放して上げます。……コレコレお節、お前の持つて帰つた赤玉を是から調べるのだから、蜈蚣姫さまも此処へ御出でなさい。お前さまも随分魔谷ケ岳で私に対して弓を引いたり、国城山で悪口を言ひました。先へ申して置きますよ。若し此赤玉が団子石になつて居つたら、どうなさいますか』 蜈蚣姫『何事も惟神に委した私、どうすると云ふ訳に行きませぬ。神様の御処置を願う迄です。乍併高姫さまの指図は断じて受けませぬ。左様御心得を願ひます』 と一つ釘を刺す。高姫は又も口をへの字に結び桂馬結びの紐を解き、 高姫『サアお節、地獄の釜の一足飛だ。お前が長らくの苦労も花が咲くか、水の泡になつて了うか、禍福吉凶幸禍の瀬戸の海ぢやぞい。瀬戸の海で思ひ出したが、ようも馬鹿にして下さつた。助けてやつたなぞと決して思つては居ますまいな。エー何をメソメソと吠えて居るのだ。善い後は悪い、悪い後は善いと云う事があるから、何月も月夜計りは有りませぬぞ。チツとばかし都合が悪いと言つて顔を顰める様では、どうして立派に玉能姫と言はれますか』 と口汚く罵り乍ら、柳筥の蓋をパツと開けた。 高姫『黒姫さま、一寸御覧、何だか此玉は黒いぢやありませぬか』 黒姫は一寸覗き込む。 黒姫『ホンニホンニ、蜈蚣姫さまの如うに黒い玉だなア。コリヤ大方蜈蚣の身魂が憑つて、赤い筈の玉が黒くなつたのだらう』 玉能姫『黒姫さまも随分お白くありませぬから、どちらのがお憑り遊ばしたか分りますまい。オホヽヽヽ』 高姫『又しても又しても碌でもない、コリヤ消炭玉だ。道理で、ちと軽いと思つて居つた。アカ阿呆らしい。モウ玉調べは御免蒙りませうかい』 とプリンプリン怒つて居る。 杢助『御苦労ですがモウ一つ紫の玉をお調べを願ひます』 高姫『エー杢助さま、又かいなア』 と煩さ相に言ひ乍ら、万一の望みを最後の紫の玉に嘱して居た。国依別は一同に向ひ、 国依別『モシモシ皆さま、モウ一つになりました。何を言つても手品上手の高姫さまで御座いますから、水を火にしたり火を水にしたり、石を玉にして呑んだり吐いたり、終ひには天を地にしたりなさいます。天一の手品よりはお上手ですから、其お心算で確りとお目にとめられます様に願ひまアす。東西々々』 高姫はクワツと怒り、 高姫『神聖なる八尋殿に於て何と言ふ事を言ふのか。此処は寄席では有りませぬぞい。尊き尊き神様のお鎮まり遊ばす錦の宮の八尋殿では有りませぬか』 国依別『八尋殿だからといつて、手品が悪い道理が有りますか。現にお前さま手品をして居る途中です。そんな事を言うと自縄自縛に落ちますぞ。二十世紀頃の三五教の五六七殿でさへも劇場を拵へてやつて居るぢやありませぬか。訳の分らぬ事を言ふものぢや有りませぬ』 高姫『それだから瑞の御霊の遣り方は、乱れた遣り方だと神様が仰有るのだよ。アアモウ此玉は調べるのが嫌になつた。又初稚姫や梅子姫さまに恥をかかすのが気の毒だから、こりやもう開けない事にして置かう』 杢助『此玉は是非調べて頂きたい。神様は我子、他人の子の隔ては無いと仰有るのだから、神素盞嗚尊の御娘御の梅子姫様と、杢助の娘の初稚姫、依估贔屓したと言はれてはなりませぬから、どうぞ此場でお調べを願ひませう』 高姫『エーエー仕方がないなア。本当にイヤになつちまつた。そんなら、マアマも一苦労致しませう。……梅子姫さま、お初さま、サア早く此処へ来るのだよ』 と稍自棄気味になり言葉せはしく呼び立てる。言下に梅子姫、初稚姫は莞爾として高姫の側に寄り添うた。高姫は又もや柳筥の蓋をチヤツと開いた。忽ち四方に輝くダイヤモンドの如き紫の光り、流石の高姫もアツと驚いて二足三足後に寄つた。黒姫は飛び上つて喜び、思はず手をうつた。一同の拍手する声、雨霰の如く場の外遠く響いた。 高姫『お初、イヤ初稚姫さま、梅子姫さま、お手柄お手柄。矢張りお前等は身魂が綺麗だと見えますワイ。……杢助さま、お前さま中々好い子を持つたものぢや。ヤレヤレ是で一つ安心、後の四つは四足魂に汚されて了うた。瑞の御魂のやうに憑る麻邇の珠だから、田吾作、久助、お民、友彦、黄竜姫、蜈蚣姫、テールス姫、お節も是から、百日百夜小雲川で水行をなさい。さうすれば元の玉に還元するだらう。嫌といつても此高姫が行をさせて元の光りを出さねば措くものかい』 七人はアフンとして頭を掻いて居る。其処へ走つて来たのは佐田彦、波留彦両人であつた。 佐田彦『杢助さまに申上げます。今朝より言依別命様は御病気と仰有つて、御引籠りになつておいでなさいましたが、余りお静かですから、ソツと障子を開けて中へ這入つて見れば、萩の机の上に斯様な書き置きがして御座いました』 と手に渡す。杢助開いてこれを見れば、 『此度青、赤、黄、白の四個の宝玉を始め三個の玉、三つ四つ併せて都合七個、言依別命都合あつて、或地点に隠し置いたり、必ず必ず玉能姫、玉治別、黄竜姫其他此玉に関係者の与り知る所に非ず。然し乍ら杢助は願ひの如く総務の職を免じて、淡路の東助を以て総務となす。言依別は何時聖地に帰るか、其時期は未定なり。必ず我後を追ひ来る勿れ』 と書いてあつた。杢助は黙然として涙をハラハラと流し、千万無量の感に打たるるものの如くであつた。 (大正一一・七・二三旧閏五・二九谷村真友録) |
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霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 13 竜の解脱 | 第一三章竜の解脱〔七九五〕 大海中に浮びたる誉も高き琉球の 玉の潜みし神の島三千世界の梅の花 一度に開く時来り綾の聖地に宮柱 太敷立てて千木高く鎮まりゐます厳御霊 瑞の御霊の神勅を玉照神の二柱 完全に詳細に受け給ひ瑞の御霊の御裔なる 言依別に言依さし潮満玉や潮干の 珍の宝を索めんと教主自ら国依別の 教の司を引き率れて浪路を遥に乗り渡り 漸う此処に来て見れば我より前に紀の国の 若彦始め常楠が又もや神の御勅宣 正しく受けて逸早く来り居ませる尊さよ 天を封じて立ち並ぶ欅の楠の森林に 勝れて太き槻の幹天然自然の洞穴に 若彦、常楠両人は木俣の神と現はれて 島人等を大神の稜威に言向け和しつつ 時の来るを待つ間に言霊清き言依別の 瑞の命の大教主国依別と諸共に 来りましたる嬉しさに若彦、常楠勇み立ち ハーリス山の山奥に心も勇む膝栗毛 鞭撻ち進む谷の奥湖水の前に着きにける 四辺は闇に包まれて礫の雨は降りしきり 物凄じき折もあれ闇の帳を引き開けて 波上を歩み進み来る怪しの影を眺むれば 髭蓬々と胸に垂れ雪を欺く白髪は 長く背後に垂れ下り眼は鏡の如光り 朱を濺ぎし顔の色耳迄裂けた鰐口に 黄金の色の牙を剥き四五寸許り金色の 角を額に立て乍らガラガラ声を張りあげて 怪しき舌をニヨツと出し言依別の一行に 向つて叱言を言ひ掛ける叱言の条は竜神の 守ると聞えし太平柿国依別が畏くも 盗んで食つたが罪なりと執着心の鬼神が 力限りに罵倒して琉と球との宝玉を 渡さじものと縄を張る魔神の張りし鉄条網 手も無く切つて呉れんずと磊落不覊の神司 国依別が言霊の打ち出す誠の砲撃に 流石の魔神も辟易しおひおひ姿を縮小し 豆の如くになり果てて遂にあえなく消えにける。 『あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 金剛不壊の如意宝珠国依別が丹田に 秘め隠したる言霊の力に刃向ふ楯はなし 我は正義の鉾とりて天地の神の大道を 高天原の神の国豊葦原の瑞穂国 大海原の底までも照らし渡さにや置くべきか 国依別の言霊は筑紫の日向の橘の 小戸の青木ケ原と鳴る神伊邪那岐大神が 珍の伊吹になりませる祓戸四柱大御神 瀬織津姫や伊吹戸主珍の大神始めとし 速秋津姫神速佐須良姫神 此処に四柱宣伝使此神等の生宮と なりて現はれ来りけり大竜別や大竜姫の 珍の命の竜神よ是の天地は言霊の 助くる国ぞ生ける国幸はひゐます国なるぞ 天の岩戸の開け放れ根底の国も明かに 澄み照り渡る今の世に潮満珠や潮干の 二つの珠を何時までも抱きて何の益かある 此世を救ふ瑞御霊神の任しの両人に 惜まず隠さず矗々と汝が姿を現はして はや献れ惟神神は我等と倶にあり 仮令千尋の水底に何時迄包み隠すとも 三五教の我々が此処に現はれ来し上は 只一時も一息も躊躇ひ給ふ事勿れ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ 一、二、三、四、五、六七、八、九、十たらり 百、千、万の神人を浦安国の心安く 堅磐常磐に守らんと神の任しの此旅路 諾なひ給へ逸早く』早く早くと宣りつれば 今迄包みし黒雲は四辺隈なく晴れ渡り 浪を照らして一団の火光は徐々両人が 佇む前に近づきて忽ち変る二柱 尊き女神と相現じ満面笑を含みつつ 言依別や国依別の二人の前に手を束ね 地より湧き出る玉手箱各一個を両の手に 捧げて二人に献り綾羅の袖を翻し 忽ち起る紫の雲に乗じて久方の 大空高く天の原日の稚宮に登り行く 執着心の深かりし大竜別や大竜姫の 珍の命の両神も愈茲に三千年の 三寒三熱苦行を終へ神の恵みに救はれて 茲に尊き天津神皇大神の御右に 坐まして清き神国の常世の春に会ひ給ふ 実にも尊き物語語るも嬉し今日の宵 陰暦六月第二日松雲閣に横臥して 団扇片手に拍子とりさも諄々と述べて置く 筆執る人は北村氏神の稜威も隆光る 三五教の御教の栞となれば望外の 喜びなりと記し置くあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 国依別の言霊に竜若彦と称する怪物は忽ち雲散霧消し、再び現はれ来る大竜別、大竜姫は各手に琉、球の玉を納めたる玉手箱を、言依別、国依別の手に恭しく捧げ三千年の三寒三熱の苦行を茲に終了し、一切の執着を去つて、悠々として紫の雲に乗り、天津日の稚宮に上り、大神の右に座し、天の水分神となつて降雨を調節し給ふ大神と成らせ給うたのである。 清き正しき言霊は一名金剛不壊の如意宝珠とも言ふ。此天地は言霊の幸はひ助け、生き働く国である。宇宙間に於て最も貴重なる宝は声あつて形なく、無にして有、有にして無、活殺自由自在の活用ある七十五声の言霊のみである。之を霊的に称ふる時は即ち金剛不壊の如意宝珠となる。天照大御神の御神勅に「言向け和せ、宣り直せ」とあり、之は神典古事記に明かに示されてある。天の下四方の国を治め給ふは五百津美須麻琉の玉にして、此玉の活働く時は天ケ下に饑饉もなく、病災も無く戦争も無し又風難、水難、火難を始め、地異天変の虞なく、宇宙一切平安無事に治まるものである。 又、今此処に言依別、国依別の二柱の竜神より受取りたる琉、球の二宝は、風雨水火を調節し、一切の万有を摂受し或は折伏し、よく摂取不捨の神業を完成する神器である。 ここに言依別命を始め、一同は湖水に向つて天津祝詞を奏上し、天の数歌を歌ひ上げ宣伝歌を歌ひ乍ら、心地よげに元来し道を下りつつ、槻の洞穴に一先づ帰る事となつた。 言依別の一行は竜の湖水を後にして 千畳岩の碁列せる奇勝絶景縫ひ乍ら 足に任せて降り行く登りに引き替へ下り坂 思うたよりも速かに何時の間にかは竜神の 守り居たると伝へたる太平柿の辺まで 帰り来れば常楠はフト立ち留り一行を 顧み乍ら『教主さま国依別神さまが 大蛇の群に襲はれて太平柿の頂上より 身を躍らして青淵にザンブと許り飛び下り 仮死状態となり果てて渦に巻かれて流れたる 改心記念の霊場ぞ負ぬ気強い国依別の 神の司は反対に竜若彦に逆理屈 いとも立派に喰はして凹ませ給ひし健気さよ あゝ惟神々々斯うなる上は常楠も 神の心が分らない善悪正邪の標準を 如何して分けたら宜からうかお裁き頼む』と宣りつれば 言依別は打ち笑ひ『国依別の言霊は 天地の道理に適ひたり善に堕すれば悪となり 悪の極みは善となる善悪同体此真理 胸に手を当てつらつらと直日に見直し聞直し 人の小さき智慧もちて善悪正邪の標準が 分らう道理のあるべきや此世を造りし大神の 心に適ひし事ならば何れも自然の道となり 其御心に適はねば即ち悪の道となる 人の身として同胞を裁く権利は寸毫も 与へられない人の身は只何事も神の手に 任せ奉るに如くはない』いと細やかに説きつれば 国依別や若彦も常楠翁も勇み立ち 心欣々一行は黄昏過ぐる宵の口 楠と槻との森林に極めて広き天然の ホテルにこそは帰りけりあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 (大正一一・七・二五旧六・二北村隆光録) |
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71 (1922) |
霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 15 情意投合 | 第一五章情意投合〔七九七〕 虻、蜂の両人は生田の森に立寄り、駒彦に面会して、言依別の教主が国依別と共に高砂の島に神務を帯び、急遽聖地を立ちて出発せられ、瀬戸の海を、西南指して行かれたりと云ふ消息を、例の高姫が聞きつけ、春彦、常彦の一行三人、言依別の後を追ひしと聞きしより、茲に虻、蜂の二人は、取る物も取敢ず、一隻の軽舟に身を任せ、高姫が教主に対し、如何なる妨害を加ふるやも計り難しと、一生懸命に高姫の後を探ねて漕ぎ出し、児島半島の沿岸に差かかる時、暗礁に乗り上げたる一隻の船を見付け、何人ならんと星の光に透かし見れば、比沼の真奈井の宝座に仕へ居たる、清子姫、照子姫の二人であつた。 茲に二人を我舟に救ひ上げ、半破れし其舟を見棄て、荒波を勢よく漕ぎつけて、漸く琉球の那覇の港に安着し、一行四人は何者にか引かるる様な心地して、其日の夕べ頃常楠、若彦両人が一時の住居となしたる槻の木の洞窟の前に辿りついた。 虻公は既に言依別命より清彦と云ふ名を賜り、蜂公は照彦と云ふ名を賜つて、准宣伝使の職に就いて居たのである。二人は思ひ掛なく言依別命に抜擢されたのを、此上なく打喜び、其師恩に酬いん為、言依別命に対しては、如何なる苦労も、仮令身命を抛つても惜まざるの決心をきめて居たのであつた。 当の目的物たる高姫一行を、海上にて見失ひたれ共、照子姫、清子姫の遭難を救ひたるは、全く神の御摂理として稍満足の体であつた。 此照子姫、清子姫は其祖先は行成彦命であつて、四代目の孫に当つて居る。神勅を受けて、比沼真奈井に豊国姫出現に先立つて現はれ、比治山に草庵を結び、時を待つて居たのである。そこへウラナイ教の黒姫に出会し、いろいろとウラナイ教の教理を説き聞かされ、半之れを信じ、半之を疑ひ、何程黒姫が弁舌を以て説きつくる共、清子姫、照子姫は魔窟ケ原の黒姫が館には一回も足をむけず、又高姫などにも会はなかつた。只黒姫の言葉を反駁もせず、善悪を取捨して表面服従して居たのみであつた。此二女の黒姫に対する態度は、其時の勢上已むを得ず、之れ以上最善の態度を執ることが出来なかつたのである。 時に豊国姫命の神勅、此二人に降り、諏訪の湖の玉依姫より麻邇宝珠を受取り、梅子姫其他一行が、由良の港の秋山彦が館に帰り来り、神素盞嗚大神、国武彦命の出でますと聞きて、二人は旅装を整へ、由良の港の秋山彦の館に出で来りし頃は、最早麻邇宝珠は聖地に送られ、神素盞嗚大神、国武彦命の御行方も分らなくなつた後の祭りであつたから、二人は時を移さず、陸路聖地に向ひ、錦の宮の玉照彦、玉照姫の神司に謁し、琉球の島に渡るべく、再び聖地を立ちて、玉照彦命の出現地なる高熊山に立籠もり、三週間の改めて修業をなし、木花姫の神教を蒙りて、意気揚々と山坂を越え、生田の森に立寄り、それより兵庫の港を船出して、琉球に向はんとし、神の仕組か、思はずも児島半島の手前に於て暗礁に乗りあげ、危険極まる所へ、三五教の新宣伝使、清彦、照彦の舟に助けられ、漸く那覇港に四人連れ安着し、槻の洞穴の前迄進んで来たのである。 四人の男女は小さき船にて長途の航海をなす間、何時とはなしに意気投合し、互に意中の人を心に深く定めて居た。清子姫は清彦に、照子姫は照彦に望みを嘱して居た。然るに清彦は又照子姫に、照彦は清子姫に望みを嘱し、将来夫婦となつて神業に参加し度く思つて居たのである。清彦は四十四五才、照彦は四十二三才の元気盛り、清子姫は二十五才、照子姫は二十三才になつて居た。年齢に於て二十年許り違つて居る。されど神徳を蒙りて誠の道を悟りたる清彦、照彦は、全身爽快の気分漲り、血色もよく比較的若く見え、夫婦として一見余り不釣合の様にも見えなかつたのである。 四人は一夜を此処に明かさんと、洞穴の奥深く進んだ。サヤサヤした葦莚の畳、土間に敷きつめられ、食器など行儀よく並べられてあつた。 清彦『あゝこれは何人の住家か知らぬが、穴居人種の多い此島に、木株のこんな天然の館があるとは、大したものだ。何でもこれは此辺りの酋長の住家か分らないぞ。斯様な所にうつかりと安眠して居る所へ、沢山の眷族を連れ、帰り来つて立腹でもしようものなら、どんな事が突発するか知れたものだない。入口は一方、グヅグヅして居ると、徳利攻めに会うて苦しまねばならぬ。コリヤ一人宛、互に入口に立番をし、もしも怪しき奴がやつて来たら合図をすると云ふ事にしようかなア』 照彦『それもさうだ。併し乍ら先づ路々むしつて来た此の苺を夕食に済ませ、其上の事にしても余り遅くはあるまい。そろそろそこらが暗くなつて来たようだ』 と懐より火燧を取出し、そこらに積み重ねたる肥松の割木に火をつけ明りを点じ、夕食を喫し、家へ帰つた様な気分になつて、四人は奥の方に安坐し、種々と感想談に耽つて居た。 清彦『こうして我々男女四人、此島に渡つた以上は、何れも独身生活は不便なものだ。恰度諾冊二尊が自転倒島に天降り玉うた様なものだ。此大木を撞の御柱と定めて、……あなにやしえー乙女……とか…えー男…とか云つて、惟神の神業を始めたら如何でせう。……照彦さま、私は媒酌人となつて、清子姫様と結婚の式をあげられたらどうです。ナア清子姫さま、あなたも以時迄も独身で斯様な蛮地に暮す訳にも参りますまい』 清子姫『ハイ、有難う御座います。併し乍ら少し考へさして頂きたう御座います』 清彦『清子さま、あなたは照彦さまがお気に入らぬのですか』 清子姫『イーエ、勿体ない、左様な訳では御座いませぬ』 と涙ぐまし気に俯むく。 照彦『コレコレ清彦、御親切は有難いが、モウ結婚の事は言つて呉れな。清子さまは此照彦がお気に召さぬのだよ。無理押しに決行した所で、うまの合はぬ夫婦はキツと後日破鏡の歎きに会はねばならぬから、此話は止めて貰はう。就いては照子姫さまを、お前の奥さまに御世話したいと思ふのだが、どうだ』 清彦『それは実に有難い、併し乍ら照子姫さまの御意見を承はりたい。其上でなくば、何とも返答する事が出来ないワ』 照子姫『照彦さまの御親切は有難う御座いますが、妾は何だか……どこが如何といふ事はありませぬが、清彦さまは虫が好きませぬワ。妾の意中の人は露骨に言ひますが、照彦さまで御座います。あなたならばどこまでも、偕老同穴の契を結んで頂きたう御座います』 照彦『コレハコレハ大変な迷惑で御座る。実の所は此照彦、清子姫様と夫婦の約束が結びたいのです。それに清子さまは何とか、かんとか仰有つて、私を御嫌ひ遊ばす様な形勢です』 清子姫は『ホヽヽヽヽ』と袖で顔をかくし、 清子姫『妾も本当は清彦さまと夫婦になつて、神界の御用が致したう御座います。照彦さまと夫婦になるのは、何だか身魂が合はない様な気分が致します』 清彦『互に目的物が斯う複雑になつて居ては仕方がない。ハテ困つたな。此方が好だと言へば向ふが嫌ひだと云ふ、此方が嫌ひだといへば一方が好だと云ふ。此奴アどうやら人間力で決める事は出来ないワイ。言依別命様でも御座つたならば、判断をして定めて貰ふのだけれど、斯様な結構な洞穴館に、誰も居らぬことを思へば、言依別の神様は、琉、球の宝玉を手に入れ、早くも出発された後と見える。ハテ……困つたなア』 四人は互に顔を見合せ、青息吐息の真最中、洞穴の入口に二三人の声が聞えて来た。清彦は耳敏くも之を聞付け、 清彦『ヤアあの声はどうやら、高姫の声らしいぞ。一寸査べて来るから、三人仲よく待つて居て下さい』 と早くも洞穴の入口に立つた。 外には高姫、春彦、常彦と共に怖相に洞穴を覗いて居る。月明かりに三人の顔はハツキリと見えた。されど高姫の方からは、清彦の姿は少しも見えない。清彦は傍の小石を拾ひ、左右の手に持つて中よりカチカチと打つて見せた。 高姫『大変な大きな洞空であるが、何か此中に獣でも棲まつてゐるやうな気配が致しますぞ。……常彦、一寸お前、中へ這入つて調べて来て下さらぬか』 清彦中より『カチカチカチ』、 常彦『ハハー、ここはカチカチ山の古狸が住居して居る洞穴と見えますワイ。……オイ春彦、お前、斥候となつて一つ探険して来たら如何だ』 春彦『お前に命令が下つたのだ。狸の巣窟へキ常彦が這入るのは当然だよ。マア君子は危きに近よらずだ。命令も受けないことを、危険を冒して失敗しては、それこそ犬に喰はれた様なものだ』 高姫『春彦、お前も一緒に探険に這入つて来るのだよ』 春彦『たかが知れた此洞窟、さう二人も這入る必要はありますまい』 高姫『アヽさうだらう。そんなら一人で良いから、春彦さま、お前豪胆者だから這入つて下さい』 春彦頭をかき乍ら、 春彦『ヘー……ハイ』 とモジモジして居る。『カチカチカチカチウー』と唸り声が聞えて来る。 春彦『モシモシ高姫さま、此奴ア一人では如何しても往きませぬワ。あの声を聞いて御覧、数十匹の猛獣がキツと潜んで居ますよ。グヅグヅして居ると、一も取らず二も取らず虻蜂取らずになつて了ひますぜ』 高姫『其虻蜂で思ひ出したが、彼奴は何でも言依別命から、清彦、照彦と云ふ名を頂き宣伝使になり、飽迄も我々に反抗的態度を執ると云つて居たさうだが、今どこに如何して居るだらう。言依別命が此琉球へ渡り、琉と球との宝玉を手に入れ、自分の隠した七個の玉と共に、高砂島へ持ち渡つて、高砂島の国王となる計画だと聞いて居る。自転倒島では此高姫の日の出神の生宮が、目の上の瘤となつて思はしく目的が立たぬので、高姫の居ない地点で野心を遂行すると云ふ考へで、大切な宝玉を盗み出し、自転倒島を立去つたのだから、仮令言依別、天を翔けり地を潜るとも、草を分けても探し出し、宝玉を取返し、さうして彼が面皮を剥いて、心の底より改心さしてやらねば、我々の系統としての役目が済まぬ。アヽ年が寄つてから、又しても又しても海洋万里の波を渡り、苦労を致さねばならぬのか。これも全く言依別の肉体に悪の守護神の憑依してゐるからだ。……アヽ惟神霊幸倍坐世。一時も早く言依別の副守護神を退却させ、誠の大和魂に立返つて、日の出神の命令を聞く様にして下さいませ』 と半泣声になり、鼻を啜つて両手を合せ、一生懸命に祈願して居る。清彦は此態を見て俄に可笑しくなり「プーツプーツ」吹き出し、終ひには大声をあげて、 清彦『ワツハヽヽヽ』 と笑ひ転けた。 高姫『誰だ。日の出神の生宮が神界の為、一生懸命御祈願を申し上げてるのに、ウフヽアハヽヽヽと笑ふ奴は……よもや狸ぢやあるまい。何者だ。サアこうなる上は高姫承知致さぬ。此入口を青松葉でくすべてでも往生さしてやらねば措かぬ。……コレ常彦さま、春彦さま、そこらの、青いものを持つて来なさい。コラ大変な劫経た古狸が居るのだ。四つ足が劫経ると人語を使ふやうになるからなア』 清彦俄に女の声を出し、 清彦『コレハコレハ高姫様、常彦、春彦の御両人様、遠方の所遥々と能くこそ御越し下さいました。ここは琉球王の仮館、木の丸殿と云ふ所で御座います。王様は……言依別神様とやらが、自転倒島から遥々御越しになり、琉と球との宝玉を御受取り遊ばし、台湾に一寸立寄り、それから南米の高砂島へ御越しになりました不在中で御座います。妾は虻……オツトドツコイ、危い猛獣毒蛇の沢山に棲息する此島に留守を守つて居る大蛇姫と云ふ、夫は夫は厭らしい女で御座います。サア御遠慮は要りませぬ。此洞穴には沢山な古狸や大蛇が住居を致し、今日の所綺麗な男が二人、綺麗な女が二人、四魂揃うて守護を致してをります。併し乍ら何れも本当の人間では御座いませぬ。皆化物で御座いますから、其お心算で御這入りを願ひます。メツタにあなた方を塩をつけて頭から咬んだり、蛇が蛙を呑むやうにキユウキユウと呑み込むやうな事は御座りませぬ。如意宝珠の玉でも呑み込むと云ふ不可思議力を備へた貴女、早く御這入り下さいませ』 高姫『這入れなら這入つてもあげませう。併し一遍外へ姿をあらはし、案内をなさらぬか』 清彦『外へ出るが最後、虻公の正体が現はれますワイ。アツハヽヽヽ』 高姫『最前から何だか可笑しいと思つて居つた。お前は淡路の東助の門番をして居つた泥坊上りの虻公ぢやないか。如何して又斯んな所へやつて来たのだ。お前はドハイカラの教主から、清彦と云ふ名を貰うたぢやないか。自転倒島では最早泥坊が出来ないと思うて、こんな所まで海賊を働き漂着して来たのだらう。サアお前一人ではあるまい、大方蜂も来て居るだらう。其他の同類は残らず此処へ引張つて来なさい。天地根本の誠の道を説いて聞かせ、大和魂をねりなをして助けて上げよう。事と品によつたら此高姫が家来にしてやらぬ事もない』 清彦『今お前さまに這入られると、実は困つた事があるのだ。今日は情意投合……オツトドツコイ情約履行をしようと云ふ肝腎要な吉日だ。お前さまのやうなお婆アさまは我々壮年者の心理は分るまい。あゝエライ所へエライ奴が来たものだ。月に村雲花に嵐、美人の前に皺苦茶婆ア……』 と小声に呟いた。高姫は此言葉の一端を耳に入れ、 高姫『ナニ、美人に皺苦茶婆アと言つたなア。コリヤ何でも秘密の伏在する此洞穴、モウ斯うなる以上は強行的に押入り、隅から隅まで調べてやらねばなるまい。ヒヨツとしたら天火水地の宝玉も隠してあるか分らない。…常彦、春彦、妾に続け』 と言ひ乍ら、清彦が「待つた待つた」と大手を拡げて遮るのも聞かず、むりやりに飛び込んで了つた。 奥には肥松の明りが瞬いて居る。三人の顔はハツキリと輪廓まで現はれて居る。 高姫『コレハコレハ皆さま、御楽しみの最中、御邪魔を致しまして申訳のない事で御座いました。花を欺く美男子と美人、そこへ白髪交りの歯脱婆アが参りまして、嘸、折角の興がさめた事で御座いませう。此洞穴に似合はぬ……お前さまは美しい方だが、此島の方か、但は、虻、蜂の両人に拐かされてこんな所へ押込められたのか、様子がありさうに思はれる。サア包まずかくさず仰有つて下さい。日の出神の生宮が此場へ現はれた以上は、虻、蜂の両人位何と云つても駄目ですよ』 清子姫、照子姫両人は行儀よく両手をつき、 両女『ハイ有難う御座います。聖地に於て御高名著しき、あなた様が高姫様で御座いましたか。妾は比沼の真奈井の宝座に仕へて居りました清子姫、照子姫の両人で御座います』 高姫『かねがね黒姫さまから承はつて居つた、比治山の隠家に厶つた淑女はお前さまの事であつたか。如何して又かやうな所へお越し遊ばしたのだ。大方虻、蜂両人の小盗人に拐はかされて、斯んな所へ来なさつたのだらう。グヅグヅして居ると此奴ア○○をしかねまい代物です。最前も小声に情約履行の間際だとか何とか吐いて居ました。サア、妾が来た以上は最早大丈夫、高姫と一緒に此琉球の島を探険し、結構な宝玉の所在を求め、言依別の後を追うて、其七つの宝玉を手に入れて聖地に帰り、大神様の御神業をお助けしようではありませぬか』 二人は顔赭らめて、無言の儘俯いて居る。清彦は高姫の胸倉をグツととり、 清彦『コラ婆ア、小盗人とは聞捨ならぬ。三五教の宣伝使清彦、照彦の両人だ』 高姫『ヘン、馬鹿にするない。お前達が胸倉を取つて威喝した所で、そんな事にビクとも致す高姫ぢやありませぬぞ。虻、蜂の小泥坊が恐ろしくて、こんな所まで活動に来られますかい。今は宣伝使でも、昔はヤツパリ泥坊をやつて居たぢやないか』 清彦『昔は昔、今は今だ。改心すれば其日から真人間にしてやらうと神様が仰有るぢやないか。俺が泥坊なら高姫は大泥坊だ』 高姫『オイ常彦、春彦、何をグヅグヅして居るのか、高姫が此通り胸倉を取られて居るのに平気で見て居ると云ふ事がありますか』 常彦『左様で厶います。あなたも余り我が強いから、神様が清彦さまの手を借つて身魂研きをなさるのだと思つて、ジツとして御神徳を頂いて居ります。……なア春彦さま、キツと善が勝つと神さまが仰有いますから、今善悪の立別けが始まるのですで……高姫さま、シツカリやりなさい。……清彦さま、何方も負けて下さるなや』 照彦はムツクと立上り、行司気取りになつて、そこにあつた芭蕉の葉の端をむしり唐団扇の様な形にして、右の手に捧げ、 照彦『東西……東は高姫山に、西イ清彦川……何れも一番勝負、アハヽヽヽ』 と笑つて居る。高姫は金切声を出して、爪を立て、一生懸命に掻きむしらうとする。強力な清彦に両方の手首をグツと握られ、如何ともすること能はず、目計り白黒させ前歯のぬけた口から、臭い息と唾とを盛に吐き出して、清彦の顔に注いでゐる。清彦も堪りかねて両方の手をパツと放した。照彦は中に割つて入り、 照彦『御見物の方々、此勝負は照彦が来年迄お預かりと致します』 高姫『清子姫さま、照子姫さま、お前さまは、斯んな乱暴な男を何と思うてゐられますか』 清子姫『ハイ、御二人共申分のない、立派なお方で御座います。中にも清彦さまはどこともなしに虫の好く御方ですよ。なア照子姫さま』 照子姫『あなたの御言葉の通り、御二人とも本当に立派な方ですワ。妾は何だか照彦さまの方が、中でもモ一つ立派な方だと思ひます、ホヽヽヽヽ』 と俯むく。 高姫『清彦が妾の胸倉を取つたのも道理、二人の男に二人の女、好いた同志が今晩こそは、此離れ島で何々しようと思うてる所へ、此婆アがやつて来たものだから腹が立つたでせう。御無理もありませぬ。併し乍ら縁と云ふものは汚いものぢやな。行成彦命の系統をうけた御両人さまが、人もあらうにこんなお方の女房にならうとは、イヤモウ理外の理、高姫感じ入りました。併し言依別命さまは此処へ来られたか、御存じでせうな』 清子姫、照子姫一時に、 両女『ハイ、おいでになつた相で御座います』 清彦『おいでになるはなつたが、竜の腮の二つの玉を手に入れ、意気揚々として、遠の昔台湾島へ行き、それから南米の高砂島へ渡られたといふことだ。我々もその琉と球との二つの玉を手に入れる為にやつて来たのだが、一足遅れた為に、後の祭り、せめても腹いせに男女四人が、撞の御柱を巡り合ひ、美斗能麻具波比をなせと宣り玉ひ、此島の守り神とならうと思つて居る所ですよ』 高姫『何とお前は男にも似合はぬ、チツポけな肝玉だな。此広い世界に斯んな島を一つ治めて満足してゐる様な事では、到底三千世界の御用は出来ませぬぞや。併し乍ら身魂相応な御用だから、何程烏に孔雀になれと言つたつてなれる気遣ひはなし、仕方がないなア』 と揚げ面し、冷笑を浮べて居る。 照彦『高姫さま、余り見下げて下さいますな。私だつて琉と球との玉を手に入れ、言依別さまの隠された七つの玉を、仮令半分でも探し出し、そして、高砂島は申すに及ばず、筑紫の島から世界中の覇権を握る位な考へは持つて居るのだが、肝腎な琉と球との宝玉を言依別に取られて了つたのだから、後を付け狙うと云つても見当がつかぬだないか。それだから百日百夜水行でもして、二夫婦の者が玉の所を探しに行かうといふ考へだ。百日の水行をすれば世界が見えすくと三五教の神様が仰有るのだから、玉の所在はもとより、言依別の行方も分るのだ。あなたは日の出神の生宮なら、猶更分るでせう』 高姫『きまつた事だよ。分かればこそ、ここ迄従いて来たのだ……サア言依別命、余り遠くは行くまい。グヅグヅしてると又面倒だ。……常彦さま、春彦さま、早く参りませう。なる事ならば、照子姫さま、清子姫さま、あなた丈は私のお供なさいませぬか。虻、蜂両人の女房になるのは一つ考へ物ですで』 清彦『エー又婆アの癖に構ひやがる。サア早く出て行け』 高姫『出て行けと言はなくても、こんな所にグヅグヅしてをれるか。……サア常彦、春彦、早く早く』 とせき立てて、立ち去らうとする。 常彦『モシモシ高姫さま、何程急いだつて、なる様により成りませぬで。今夜はここで宿めて貰つて、明日の朝ゆつくり行きませうか……ナア春彦、お前も大分に草臥れただらう』 春彦『草臥れたと云つた所で、船の中に浮いて居るのだ。目的が立つてから、何程ゆつくり休まうとままだ。サア行かう』 と厭さうにしてる常彦の手を取り、引摺るやうにして、高姫と共に此洞穴を脱け出し、路々祝詞を奏上し乍ら、苺や石松の茂る珊瑚岩の碁列せる浜辺を指して一目散に駆つけ、乗り来し船に身に任せ、一生懸命南を指して大海原を漕ぎ出した。 (大正一一・七・二七旧六・四松村真澄録) |
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霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 17 沼の女神 | 第一七章沼の女神〔七九九〕 言依別命、国依別は高砂島へ、若彦は自転倒島へ、照子姫、清子姫は言依別の後を慕うて立去つた後の清彦、照彦は[※「後を慕うて立去つた後の清彦、照彦は」は初版、校定版、愛世版いずれも同じ。だが文章がおかしい。おそらく「後を慕うて立去つた。(彼らが立去つた)後の清彦、照彦は」という意味ではないか?]、父の常楠と共に此離れ島に残され、恰も遠島に流されし如き淋しみを感じた。これより親子三人の交際は益々親密を加へ、よく父子兄弟の順序行はれ、数多の土人の益々崇敬の的となつて居た。 此島に琉球沼と云ふ至つて広き藺の密生した沼がある。或夜清彦の夢に……清子姫照子姫の二人、沼の対岸に現はれ、白き細き手をさし延べて清彦に向ひ、 清子姫、照子姫『琉球へおじやるなら、草鞋穿いておじやれ、琉球は石原、小石原』 と歌つて踊りしと夢見て目が醒めた。 土人のエムとセムとの従者に向つて清彦は、 清彦『此島に琉球沼と云ふ広大無辺な清泉を湛へた沼があるか』 と尋ねて見た。エム、セムの二人は言下に首を縦にふり乍ら、 エム『有ります有ります、確に立派な沼があつて、藺が周辺に密生し、比較的浅く、さうして外の沼とは違つて、水底は小砂利を以て敷つめた様な気分の良い沼です。その中央に珊瑚礁で作られた立派な岩があり、其岩には大きな穴が明いて居る。其穴を這入ると中は千畳敷で、時々立派な美人が其穴より二人現はれ、金扇を拡げて踊り狂ひ舞ふとの事です』 セム『此里の者は伝説に聞く計り、恐れて近寄つた者はありませぬ』 清彦『お前知つて居るなら、そこまで案内をして呉れないか』 エム『御案内は致しますが、うつかり沼の中へでも這入つて貰つたら大変です』 清彦『照彦、お前も行かうぢやないか。清子姫、照子姫と寸分違はぬ美人が扇を拡げて我々兄弟両人を待つて居るぞよ』 照彦『兄貴、それは夢だないか。余り清さま照さまに精神を取られて居るものだから、そんな夢を見たのだよ。キツと大蛇の御化にきまつてゐる。私はマア止めておかうか』 清彦『ハテ気の弱い。兎も角経験の為に行つて見たら如何だ。別に外に忙しい用があると云ふのではない。物は経験ぢやないか。将来此島の覇王とならうと思へば、隅々までも探険しておく必要があるだらう。……お父さま、如何でせう。我々兄弟、エムとセムを案内者として一度探険に行つて来たいと思ひますが……』 常楠『何を言つても、ここは世界の秘密国だ。御苦労だが一つ調べて貰ひたい。……エム、セムの両人、お前御苦労だが、二人の案内をしてやつて呉れ』 エム、セムの二人は一も二もなく承諾をした。茲に四人は常楠と共に天津祝詞を奏上し、成功を祈願し終つて、草鞋脚絆の軽装にて、一本の杖を携へ、芭蕉の葉で編んだ一文字笠を頭に頂き乍ら、一天雲なき青空を草を分けて、琉球沼の畔に辿り着いた。里程は殆ど今の十里位である。湖辺に着いた頃は太陽は既にセークス山の頂きに没し、山の影は湖面を蔽ふ頃であつた。 清彦は沼の畔に立つて、湖面を眺め歌つて見た。 清彦『神の教に清められ魂を研いた清彦や 身魂も四方に照り渡る照彦宣伝使 琉球の沼に永久に鎮まりゐます心も清き清子姫 身魂もてれる照子姫清と清との清い仲 照と照との明い仲エムとセムとの案内にて お前に会はんとこがれこがれて出て来たやさしい男 セークス山に日が隠れ早烏羽玉の夜は近づいた 清い清い朝日の如く明き明き天津日の 照り輝く如く実に麗しき男と男 夢の中なる女を尋ね夢に夢見る心地して 此処まで訪ねて来た男沼の女神よ心あらば 男の切ない思ひを汲めよ夢の中とは言ひ乍ら お前は私を清い心で呼んだでないか 白きただむき淡雪の若やる胸を素だたき たたきまながり真玉手玉手互にさしまき腿長に 水火を合して此島の守りの神とならうでないか 夢の中なる清子姫照子の姫よ遥々と 訪ね来れる清彦や照彦の真心を 仇に思ふな沼の主』 と歌つた。 照彦は清彦の歌の終るを待ち兼ねた様に、 照彦『かくれたかくれた日輪様はセークス山の頂きに 沼を包んだ涼しい影に我等が心も涼しくなつた 心は照る照る身魂は清く小石の並んだ沼の底 小魚の躍りもよく見える踊るは小魚のみでない 照彦心も勇み立ち思はず手足が踊り出す 照れよ照れ照れ心の光清い身魂に宿つた神の 分の霊魂の清彦兄貴兄弟二人が姉妹を 訪ねて来たのも外でない昨夜兄貴が見た夢の 沼の女に会ひたさに木の丸殿を立出でて エムとセムとに送られて草野を分けてやつて来た 男心を汲み取つて早く姿を現はせよ 沼に泛んだ珊瑚礁エムとセムとの話を聞けば 黄金の扇打ひろげ天女の様な乙女子が 何時も現はれますと聞く私等二人は琉球の 国の頭に任けられて此処に現はれ照りわたる 月日の光を身に受けて二人と二人の心を合せ 北と南の夫婦島千代の契を結ばうと お前にこがれて来た男仇に返すな沼の主』 と歌ひ終つて、四人は美はしき砂の布きつめた様な浅き沼を、小さき雑魚を驚かせ乍らバサバサと、時ならぬ波を立てて進んで行く。 遥彼方に黒ずんで浮いて居る珊瑚礁の影、日は漸く地平線下に没し、そろそろ暗の帳は下されて来た。涼しき風は一行の面を撫で、水深は最早太腿の所まで浸された。忽ち島はポーツと明くなつた。四人は何となく心勇み明りを目当に進んで行く。 忽ち現はれた八尋鰐、此処よりは水深俄に増して到底前進する事が出来ない。ハタと当惑して居る矢先、八尋鰐は橋の様になつて其前に横たはつた。幾十とも知れぬ鰐は珊瑚礁を基点として、長き橋を架けた様に単縦陣を作り、四人の男に此上を渡れ……と言はぬ許りの意思を示した。 清彦外三人は神言を奏上し乍ら、鰐の背を覚束なげに踏みこえ踏みこえ、漸くにしてポツと明い珊瑚礁に辿り着いた。振りかへり見れば今迄現はれた八尋鰐の姿は水泡の如く消え果て、後には波静かに魚鱗の如く漂うて居た。 清彦は珊瑚礁に安着した祝ひに、心も何となくいそいそし乍ら、又も歌ひ踊つて居た。 清彦『ここは琉球の中心地点夢の中なる恋妻の 堅磐常磐に隠れたる高砂島か珍島か 珍の女神の御玉の住処琉球へおじやるなら 草鞋穿いておじやれ琉球は石原小石原 唄つて聞かした二人のナイス今はいづくに身をかくす はるばる訪ねて来た男出迎へせぬとは無礼ぞや 私も男の端ではないか竜の化身か天女の果か 但は清子照子の幻像か真偽の程は我々の 恋に迷うた眼にはハツキリ分らない 夢に踊つたお前の姿白い肌や白い腿 太い乳房をブラブラと見せたる時の心持 俺はどうしても忘られぬ恋の暗路に迷うた男 琉球の沼で兄弟が恋の虜とならうとは 夢にも思はぬ清彦が赤き心を知るならば 夢を破つて現実の清子の姫や照子姫 早く姿を現はせよお前に会ひたさ顔見たさ 千代も八千代も添ひたさに父の前にて言挙げし 弟までも誘うてやつて来たのは阿呆らしい 清姫、照姫心あらば夢の姿を現実に 早く現はせ自転倒の神の島をば後にして 遥々訪ねて来た男児島半島の磯端近く 波に揉まれて暗礁に船を乗りあげ玉の緒の 消ゆる命を助けた俺達兄弟瑞の宝座に仕へて居つた お前二人を女房にしようと兄弟二人が目星をつけて 互に恋を争ひつ其煩さに烏羽玉の 暗に紛れて逃げ出したお前は清さま照さまだらう 言依別の後追うて万里の波濤を横ぎりつ 高砂島へ渡り越したと思うたお前やはり琉球が恋しうて 五月蠅い二人を振棄て水で囲んだ此沼の 珊瑚礁をば宝座とし千代に八千代に永久に 此岩窟に身を潜め恋を葬るお前の心 とは言ふものの魂はヤツパリ我々兄弟を 忘れかねてか昨夜の夢に黄金の扇子を打ひろげ 心も清き清彦を笑を湛へて招いたぢやないか 神の結んだ尊い夫出迎へせぬとは没義道だ 恋に上下の隔てはなかろ三国一の婿が来た 早く鉄門を押しあけて二人の男を迎へ入れ お前の初恋うまうまと叶へてやらう又私の 初恋ならぬ二度目の恋路国に残した妻子はあれど 何時の間にやら人の妻行方も知らぬ妻子の身の上 かうなる上はよもや天則違反に問はれはすまい 何の躊躇も要るものか』 と歌ひ終つた。此時岩窟の中より、岩の戸を取外して現はれ出でた、ダラダラ筋の被衣をつけた四人の男、四人の前に目礼し、無言の儘差し招き、うす暗い岩窟を先に立つて下つて行く。四人は後に従ひ、細き岩窟を稍腰を屈めて、右に左に上りつ下りつ、パツと明るい広場に辿り着いた。 迎への男は手真似で、ここに暫く休息せよと示した。四人は恰好の岩の突起に腰を打ちかけ、暫く息を休むることとなつた。迎への男は其儘どこともなく姿を隠した。嚠喨たる音楽の音四辺より響き来る。 暫くあつて二人の美人桃色の顔容に纓絡の付いたる冠を戴き、玉串を両手に捧げ、悠々として此場に現はれ来り、一人は稍丸顔に少しく身体太り、一人は少しく年若く顔は細型に体もそれに応じて稍細く、三十二相の具備したる観自在天の如き容色端麗にして、其崇高き事譬ふる物なき許りであつた。清彦、照彦は余りの美はしさと荘厳さと、どこともなく犯す可らざる威厳の備はるあるに、稍怖気づき、呆然として其姿を看守るのみであつた。先に立つた女神は清子姫である。花の如き唇を淑やかに開いて清彦に向ひ、歌つて言ふ。 清子姫『妾は聖地エルサレム神の都に仕へたる 天使の長と現れませる広宗彦が四代の孫 身魂も清き清子姫汝が父の常楠は 国彦、国姫が三代目の曾孫元を糾せば古より 切つても切れぬ神の綱恋の懸橋永久に 落ちず流れず清彦が妻となるべき清子姫 お前は身魂の因縁を顧みずして照子姫に 思ひをかけし恋男モウ斯うなる上は 定まる縁と諦めて清子姫の夫となり 夫婦仲よく此島にいや永久に住居して 国の司とならうでないか槻の洞にて出会うた女 姿も顔も少しも変らぬ清子姫最早お前の怪しの夢は 醒めたであらうあなにやし好男 あなにやし好乙女よと八千代を契る玉椿 幾千代迄も添ひ遂げて神の御旨に叶へまつれよ 我恋ふる清彦の司これぞ全く言依別の 教主の定め玉ひし二人の縁 よもや否応ありますまいぞ色好き応答を松虫の 泣いて暮した我心仇には棄てな三五の 神の司の清彦よ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 神の結んだ此縁お前が心の怪しき曲者に 破られさうな事はない』 『サアサアおじや』……と手を執れば、清彦は案に相違の面持にて、清子の姫をよつく凝視め、俄に姫が恋しくなり、手を引かれ乍ら歌ひ出した。 清彦『神の結んだ二人のえにし深い仕組は知らずして 汚れ果てたる身魂を持ち乍らお前は好ぢや嫌ひぢやと 小言を云うた恥かしさ照子の姫に弥まさる 今のお前の姿を眺め頓に恋しくなつて来た ホンニお前は美しい実に愛らしい妹ぢやぞえ 夢に牡丹餅、地獄で仏何に譬ん今日の喜悦 夢の中なるナイスに出会ひ未だ夢見る心地して 胸の鼓動はドキドキとまだ治まらぬ清彦が 心の切なさ嬉しさよ是も夢ではあるまいか 夢なら夢でも是非はないいついつまでも此儘に 夢は醒めざれ夢に夢見る浮世の夢は 天国浄土のパラダイス芙蓉の山に永久に 鎮まりゐます木花咲耶姫神の恵の露にぬれ 此儘此処で我と汝と夫婦の契いや永く 相生の松の色深く褪せずにあれや惟神 御霊幸はひましまして心清彦、清子姫 幾久しくも夢の浮世の夢は覚めざれ』 と歌ひつつ奥深く導かれ行く。音楽の声頻りに響き来り、得も言はれぬ芳香四辺を包む。 照子姫は莞爾として照彦に向ひ、 照子姫『アヽ好男好男心の色も照彦が 離久の暗を吹き払ひ神の結びし妹と背の えにしを契る今日の生日の足日こそ神の都のエルサレム 源遠く広宗彦の珍の血筋と生れたる 照子の姫は今茲に汝の来るを待受けて 心も清き藺草をば刈り干し来り香も高き 藺草の畳織りなして今迄待ちし恋の淵 心に浮ぶ日月は沼の清水の面清く 照子の姫の真心をいとも詳さに現はしぬ 離久の夢も今さめて神の結びし我夫に 巡り会ひしも古の深きえにしの循り来て 汝と再び添臥しの夢路を辿る新枕 身魂の筋を白浪の淵に沈んだお前の心 照子の姫を余所にして心も清き清子姫 秋波を送り玉ひたる心の空の情なさよ 恨み歎つぢやなけれども尽きぬえにしに搦まれて 結ぶの神の結びてし二人の仲は此沼の いと浅からぬ契合ひ久遠の夢は今爰に 漸く晴れてたらちねの神の身魂のいそいそと 歓ぎ玉へる今日の日よ千代も八千代も永久に 汝は我身の背となりていつくしみませ吾れも亦 汝をこよなき夫となして神の依さしの神業に 仕へ奉らむあが願ひ汝が心の岩の戸を 開いて語れ胸の奥あゝ惟神々々 御霊幸はひましまして此岩窟のいや堅く 弥永久に変りなく天の御柱つき固め 国の御柱永遠に固く契らん夫婦仲 あゝ照彦よ照彦よ天津御空に月は照る 日は照る曇る世の中に二人の仲は永久に 心に浮ぶ日月は互に照彦、照子姫 月日は照る照る常世は曇る愛と愛との互の胸に 神の情の雨が降る』 と言ひ終つて、照彦の手を取り奥深く導き入る。照彦は手を曳かれ乍ら、此やさしき美はしき女神の後に従ひ、精神恍惚として、前後も弁へず、只々感謝喜悦の涙に咽び乍ら歌ひ出した。 照彦『琉球の沼の水清く塵をも止めぬ清子姫 心の色も清彦が水火を合せて神業に 仕へ奉るぞ目出度けれ汝の心も照子姫 引かれて進む照彦は初めて晴れた恋の暗 二人の妻に手を引かれ黄金の橋を渡るよな 涼しき心地の二人の男の子雲井の空に弥高く 神の救ひの舟として金銀銅の三橋を 昔の神の渡りたる清き思ひに充たされて 天教山に降るごと日頃恋ひたる我思ひ ここに愈撞の御柱巡り合ひあなにやし好男 あなにやし好乙女をと千代の契の礎固めたる 清けき神の行ひを繰返す如き心地して 引かれ行く身ぞ楽しけれ月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも三五の月の御教は 堅磐常磐に照れよかし我等二人の其仲は 三五の月の何時迄も天津御空にいと円く 琉球の沼に影映し天に輝く照彦や 沼に映りし照子姫天と地とは永久に 照る照る光る花は咲く弥永久に桃の実の 落ちずにあれや夫婦仲神の結びし此えにし 幾億万年末までも二人は手に手を取りかはし 天津御空の星の如浜の真砂の数多く 御子を生め生め永久に人子の司となりなりて 此浮島の守り神あゝ惟神々々 御霊幸はひましまして二人の夢は何時迄も 醒めずにあれや永久に神の御前に願ぎまつる』 と歌ひ終つた。忽ち奥の間の隔ての戸を引開けて中より現はれた、清彦、清子姫の二人、顔色麗しく笑を湛へて、清子姫は照子姫の手を取り、清彦は照彦の手を取り、琉球畳を布きつめた、岩窟に似合はぬ美はしき居間に導いた。バナナ、いちご、柿、木茄子、林檎其外種々の美はしき果物、沼の特産物たる赤貝の肉、石茸なぞ数多並べられ、ここに二夫婦は芽出度く夫婦の契を結ぶ事となつた。 是より清彦、清子姫の二人は此沼を中心として、さしもに広き琉の島の守り神となり、子孫永遠に栄へて、神の如くに敬はれ、数多の土人は其徳に悦服し、世は太平に治まつたのである。次に照彦は照子姫と共に、南の島に渡り、同じく此島の守り神となつて子孫繁栄し、土人に神の如く、親の如く尊敬された。 南の島を一名球の島と云ふ。今の八重山群島は球の島の一部が残つて居るのである。照彦夫婦は時々球の島より、遠く海路を渡り、台湾島の北部にまで、其勢力を拡充して居た。 (大正一一・七・二八旧六・五松村真澄録) |
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73 (1932) |
霊界物語 | 28_卯_台湾物語(日楯と月鉾) | 04 淡渓の流 | 第四章淡渓の流〔八〇四〕 真道彦命はホーロケースの軍勢に包囲攻撃され、言霊を発射したれども、何故か少しも効力現はれず、遂にはホーロの鋭き槍先に胸を刺されて、アワヤ亡びむとする時しもあれ、木花姫の化身に救はれ、館を棄てて、二三の従者と共に、新高山の峰続き、アーリス山の渓谷に逃れ、谷間の凹所に草庵を結び、あたりの果物などを食しつつ神を祈り、時の到るを待ちつつあつた。 頃しもあれや、絶壁の谷の傍に当つて、阿鼻叫喚の声切りに聞え来る。何事ならむと仰ぎ見れば、二人の男女谷を指し、『アレヨアレヨ』と、狂気の如く叫び廻つて居る。飛沫を飛ばす大激流に籐にて編みたる籠一個、浮きつ沈みつ流れ下るを見、直に真道彦命は三人の従者に命じ、『彼の籠を拾ひ来れよ』と命じた。され共滝の如き激流、近よるべくも非ず、一生懸命に拍手し乍ら言霊を奏上した。 籠は不思議にも渦巻にまかれて、真道彦が足下の淵にキリキリと舞ひ寄つた。直に三人の従者は籠を拾ひ上げ、庵の前に担ぎ来り、中を改め見れば、容色端麗にして品格高き一人の美女、高手小手に縛られ、気絶して居た。四人は驚き、直に籠より引出し、水を吐かせ縛を解き、いろいろと手を尽して漸く蘇生せしむる事を得た。 向ふの河岸に立てる二人の男女は、両手をあげて歓呼し、或は両手を合せ此方に向つて感謝の意を表して居る。 蘇生せし美人は余りの疲労に、言葉も発し得ず、僅に目を開き、口をモガモガさせ乍ら、何か言はむとするものの如くであつた。斯くする事半日許り、日は漸く新高山の峰に没し、四面暗黒に閉された。四人は代る代る祝詞を奏上し、漸く暁の烏の声、彼方此方の谷の木の間に聞え始めた。 此時何処より渡り来りけむ、二人の男女此場に現はれ、女の手を取り、 (キールスタン、ユリコ姫)『ヤーチン姫様、よくマア無事で居て下さりました。キールスタン、ユリコ姫で御座います』 此声にヤーチン姫はハツと気が付き、 ヤーチン姫『アヽ嬉しや、両人よくマア来て下さつた。何れの方かは知りませぬが、危き所をお助け下さつた。どうぞ両人より宜しく御礼を申して下さい』 両人は真道彦命に向つて、大地に両手をつき、 両人『有難う御座います』 と云つた限りあとは嬉し涙にかき暮れて、無言の儘俯むいて居る。 真道彦『世の中は相身互、御礼を言はれては却て吾々の親切が無になります。マアマアゆるりと御休み下さいませ』 と奥の一間に三人を引入れ、あたりの木々の果物を取り来りて饗応し、種々の物語に時を移した。 谷の彼方にはサアルボース、ホーロケースの部下の者共、ヤーチン姫の最後を見届けむと右往左往にさざめき乍ら、渓流の面を見つめて居た。庵の中より真道彦命は此体を覗き見て、三人に警戒を与へ、暗に乗じて谷間を流に添うて遡り、アーリス山を渉り、漸くにして玉藻の湖水の畔に着いた。 日楯、月鉾の二人は再び聖地を恢復し、教勢旭日昇天の如く天下に輝きたれ共、吾父の行方の不明なるに心を痛め、湖水の畔に来つて御禊を修し、祈願をこむる時であつた。数百の取次信徒は此処に集まり、共に感謝祈願の詞を奏上し居る際であつた。真道彦命はヤーチン姫、ユリコ姫、キールスタン其外三人の従者と共に此処に帰り来り、数多の人々の祈りの声を聞いて、暗を幸ひ、木蔭に身を潜め、様子を伺ひつつあつた。 真道彦命は聖地の大変より、深くアーリス山の渓谷に身を隠し、世を忍び居たりし事とて、玉藻山の霊地は再び三五教に取返され、吾子の日楯、月鉾の二人が三五教を開き居る事を夢にも知らなかつた。それ故今此多人数の祈りの声を聞いて、若しやホーロケースの一派にはあらざるかと、深く心を痛めつつあつたのである。 日楯は御禊を終り、衆人の中に立ち、宣伝歌を謡ひ始めたり。 日楯『神が表に現はれて善と悪とを立分ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直せ聞直せ 身の過ちは宣り直せ必ず人を恨むなと 三五教の御教さはさり乍らさり乍ら 吾等兄弟両人は三五教の神司 国治立大神の清き教を宣べ伝ふ 誠の道の宣伝使真道の彦の生みませる 三五教の取次ぞ仮令天地が変る共 親と現れます吾が恋ふる真道の彦の御行方 此儘見捨てておかれやうか定めなき世と言ひ乍ら 何処の空にましますぞバラモン教の神司 ホーロケースや其外の魔神の為に捉はれて 百千万の苦みを受けさせ玉ふに非ざるか 思へば思へばあぢきなき吾身の上よ身の果てよ 父が此世にましまさば一日も早く片時も 皇大神の恵にて一目なりとも会はせかし せめては空行く雁の便りもがなと朝夕に 祈る吾等が真心を汲ませ玉へよ天津神 国津神達八百万高砂島を守ります 竜世の姫の御前に心を清め身を浄め 慎み敬ひ祈ぎまつる。朝日は照るとも曇るとも 月は盈つ共虧くる共高砂島は沈むとも 誠の心は世を救ふ神の宣らせし太祝詞 確かに証兆あるならば吾願言を聞こしめせ 玉藻の山は日に月に神の光も輝きて 旭の豊栄登るごと栄えませ共あが父の 居まさぬ事の淋しさよ風吹く度に父の身を 思ひ悩ませ雨の宵霧の晨に大前に あが国人の安全を祈る傍父の身の 恙なかれと祈るこそ日楯、月鉾両人が 尽きせぬ願ときこし召せ神は吾等と倶にあり 神は汝と倶にありとは言ふものの情なや 日に夜に研きし吾魂も父を慕ひし恩愛の 涙に心曇り果て生死の程も弁へぬ 暗き身魂ぞ悲しけれアヽ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と兄弟は互に手を取り、足を揃へて踊りつ、舞ひつ、祈りを捧げて居る。 此歌を聞いて、真道彦命は始めて吾子の消息を知り、且つ三五教の様子を略悟り、欣喜雀躍の余り此場に立出で、二人の吾子に飛びつかんかと許り気をいらだてた。され共、傍にヤーチン姫其他の人々のあるに心を奪はれ、轟く胸をヂツと怺へて、心静かに成行を見守つて居た。 (大正一一・八・六旧六・一四松村真澄録) |
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74 (1939) |
霊界物語 | 28_卯_台湾物語(日楯と月鉾) | 11 木茄子 | 第一一章木茄子〔八一一〕 日楯、月鉾、ユリコ姫の三人は、人目を避けて峰伝ひに、アーリス山より須安の山脈を渡り、石の枕に青雲の夜具を被ぶり、幾夜を明かし乍ら、漸くにしてテルナの渓谷に辿り着いた。時しも日は山に隠れ、黄昏間近くなつて来た。茲一日二日の山中の旅行は、峰の尾の上のみを伝つて居たので、思はしき木の実もなく、食料に窮し、空腹に苦み、歩行も自由ならず、喉は渇き水は無く、弱り切つて居た。 此時遥の谷間に黄昏の暗を縫うて、一塊の火光が瞬いて居る。三人は其火光に力を得、疲れた足を引ずり乍ら進んで行く。火光を中心に数多の厭らしき面構の毛武者男幾十人となく赤裸の儘、何事か大声に笑ひさざめいて居た。 三人は木蔭に身を横たへ、暫し谷水に喉をうるほし、息を休めて居る折柄、サツと吹き来る谷風に揺られて三人の頭に障つたものがある。月鉾は思はず手を頭上にあげた途端に手に触つたのは、水の滴るような木茄子であつた。三人は天の与へと喜び勇んで矢庭に木茄子をむしり、腹を拵へた。長途の疲れに腹は太り、俄に眠気を催し、三人共其場に他愛もなく熟睡して了つた。 今日はテルナの里のバラモン教の大祭日にして、数多の里人集まり、夜祭りをなさむと、種々準備の相談をして居る最中であつた。今日の祭典に奉らむと、此里に只一本よりなき木茄子を、今迄一個もむしり取らず、大切に保存して居た。それを三人の者に残らずむしり取つて喰はれて了つたのである。愈祭典の時刻となり、四五の里人は白衣を着し、大麻を打振り、バラモン教の神歌を称へ乍ら、大切なる木茄子をむしり取り、供物にせむと来て見れば、大切なる木茄子は何者にか盗み取られ、一個も枝に留まつて居ない。一同は驚き乍ら、あたりを透かし見れば、雷の如き鼾をかいて三人の男女が傍に寝て居る。 里人は忽ち大騒ぎをなし、松明を点じ来り、よくよく見れば、一人の男木茄子を片手に持ち、半分許りかぢつた儘、熟睡してゐる。 甲『オイオイ皆の連中、大変な奴が出て来やがつて、神饌用の木茄子を、皆取つて食ひ、腹をふくらせ、平気でグウグウ寝てゐやがるぢやないか、怪しからぬ奴だ。……オイ誰か一時も早く此由を、テルナの酋長様に報告して来い。さうせなくては俺達が取つて食た様に疑はれ、酋長よりどんなお目玉を食ふか分らないぞ』 其中の一人は『オイ』と答へて、韋駄天走りに、群集の集まる斎場に向つて酋長に報告すべく走り去つた。 甲は杖の先にて三人の頭をコンコンと打ち乍ら、 甲『コラツ、大それた大盗人奴、早く起きぬか』 と呶鳴りつけた。三人は驚いて起きあがり四辺を見れば、松明を持つた四五人の男、傍には白衣を着けた男と共に、鬼の様な顔に団栗眼を剥き出し、唇をビリビリ震はせ乍ら睨みつけてゐる。 日楯『何人ならば……吾々三人の頭を、失礼千万にも…杖の先にて打叩くとは何事ぞ』 と言はせも果てず、甲は毛だらけの腕を伸ばし、日楯の首筋をグツと握つた。日楯は首の千切れる様な痛さに顔色青ざめ、唇まで紫色にして苦んで居る。大の男は声を荒らげ、 大男『其方共は大方三五教の宣伝使であらう。今日はバラモン大神の大祭日、里人が大切に致して今日の祭典の供物にせうと守つて居た、木茄子を残らず取り食ひ、此聖場に於て不行儀千万にも寝さらばひ、大胆不敵の其方等の振舞、待つて居れ、今に酋長様が此場に御越しになるから、何分の御沙汰があるであらう』 と云ひ了つて、日楯の首を握つた手を放した。日楯は余りの痛さに物をも言はず、其儘大地に獅噛ついて苦痛を怺へてゐた。月鉾は一同に向ひ丁寧に両手をつき、 月鉾『吾々三人は決して三五教の宣伝使では御座いませぬ。バラモン教の聖場を巡拝致す巡礼で御座います。馴ぬ途とて山奥にふみ迷ひ、空腹に苦みつつありし所、谷間に当つて一点の火光を認め、それを便りに此処まで出て参り、休息致して居る際、フト木茄子が頭に触り、左様な大切な物とは知らず、別に盗むと云ふ心もなく、頂戴致しました。誠に申訳のない事で御座います。どうぞ酋長様に宜しく御執成しを願ひます』 甲『今日はバラモン教の大祭日で、人間の犠牲を献らねばならぬ大切な日である。され共人命を損するは如何にも残酷だと、酋長様が大神に御願遊ばし、此谷間に一本よりない木茄子を、人間の代りとして大神様に献りますから、人身御供丈は御許し下されと御願ひになり、それから此果物は神様の御物として、里人は指をもさへず、大切に夜廻りをつけて守つて居たのだ。それを汝等三人ムザムザと取食うた以上は、仕方がない、其方の腹中にはまだ幾分か残つて居るであらう。直に腹をかき切つて木茄子をゑぐり出し、汝の体を贄として神に献り、神の怒りを解かねばならぬ。皆の者共、其覚悟を致したがよからうぞ』 月鉾『それは又大変な事で御座いますなア。併し神は人を助くるが神の心、人間の命を取り、或は贄を献らせて喜ぶ様な神は誠の神ではありますまい。吾々は及ばず乍ら其神に向つて、一つ訓戒を与へて見ませう』 甲『ナニ、馬鹿な事を申すか。神様に対して、人間が訓戒を与へるなどとは、不届き千万な申条、左様な事を申すと、神の怒りにふれて、此テルナの里は果実稔らず、暴風雨大洪水の為に苦しまねばならぬ。いよいよ以て差赦し難き痴者』 と言ひ乍ら、力に任せて杖を振上げ、三人の背骨の折れる程敲きつけた。 暫くあつて、テルナの里の酋長ゼームスは四五の従者に鋭利なる青竜刀を持たせ乍ら、此場に現はれ来り、三人の姿を見て、声も荒らかに云ふ。 ゼームス『其方は大切なる果物を取喰ひし大罪人、此儘にては差赦し難し。汝等三人、これより神の贄とし、神の怒りを和らげなくてはならぬ。サア覚悟を致せよ』 と言ひ渡した。ユリコ姫は両手を合せ、ゼームスの前ににじり寄り、悲しさうな顔をあげて涙を流し、 ユリコ姫『何卒、知らず知らずの不都合なれば、どうぞ此度は御見逃しを願ひます』 と頼んだ。ゼームスはユリコ姫の顔を一目見るより、忽ち顔色をやはらげ、 ゼームス『赦し難き罪人なれ共、汝は吾妻となる事を承諾するに於ては、汝の生命丈は助けてやらう。どうぢや…有難いか』 と稍砕けた相好し乍ら、ユリコ姫の顔を覗き込んだ。 ユリコ姫『どうぞ、妾のみならず、二人の男も生命許りは助けて下さいませ。それさへ御承諾下さらば、如何なるあなたの要求にも応じまする』 酋長(ゼームス)『イヤ、さうはならぬ。如何しても一人丈は生命を取つて、贄に致さねばならぬ。此中に汝の夫があるであらう。其方に免じて、夫だけは助けてやらう』 日楯『ゼームスとやら、吾々は仮令木の実を知らず知らず取喰ひたればとて、汝等如きに命を取らるる理由が何処にある。生命取るなら勝手に取つて見よ』 ゼームス大口をあけて、 ゼームス『アハヽヽヽ』 と高笑ひし乍ら、 ゼームス『汝、いかに神力あればとて、僅に二人や三人、此大勢の中に囲まれ乍ら、如何ともする事は能ふまじ。神妙に其方は覚悟をきはめて贄となれ』 ユリコ姫『もしもし酋長様、あれは妾の夫で御座います。さうしてモウ一人は吾夫の弟で御座います。妾は如何なる事でも承はりませう。其代りどうぞ二人の命を御助け下さいませ』 ゼームス『あゝ仕方がない。可愛い其方の申す事、無下に断る訳にも行こまい。然らば生命丈は助けてやらう。バラモン教の、今日は大祭日、両人共烈火の中を渡り、剣の橋を越え、釘の足駄を履き、赤裸となつて茨の叢を潜れ。これがバラモン教の第一の神に対する謝罪の途である。生命を取らるる事を思へば易い事である。吾々は斯様な行は年中行事として、別に辛しとも思つて居ない。其方も巡礼ならば、これ位の修業は堪へられるであらう』 両人一度に、 日楯、月鉾『承知致しました。生命さへ助けて頂けるならば、どんな行でも…喜んで致しませう』 ゼームス『最早祭典の時期も迫つた。サア早く此方へ来れ。さうして裸、跣足の儘、烈火の中を渡り、神の怒りを解くがよからう』 と三人の前後を大勢に警固させ乍ら、斎場に導いた。 斎場に到り見れば、数多の果物小山の如く神前に飾られ、前方の広庭には山の如き枯柴を積み、これに火を放てば炎々として燃えあがる其凄じさ。二人は大勢の者に投げ込まれて、火中に止むを得ず飛び込んだ。一生懸命に天の数歌を唱へつつ、猛火の中を少しも火傷もせず、幾度となく巡つて元の所に帰つて来た。一同は其神力に肝を潰し、二人の顔を眺めてゐる。 ユリコ姫は酋長の俄妻として美々しき衣裳を与へられ、酋長と相並んで斎壇に立つた。忽ち何処よりともなく、一塊の火光飛び来つて此場に爆発し、ゼームスの身体は、中空に捲きあげられて了つた。一同はこれに肝を潰し、右往左往に逃げ惑ひ、或は腰を抜かし、顔の色さへ紫色になつて半死半生の態に呻吟して居るものもあつた。 ユリコ姫は美々しき衣裳を矢庭に脱ぎ捨て直ちに火中に投じ、日楯、月鉾と共に三人祭壇の前に立ち、感謝祈願の祝詞を奏上し、宣伝歌を歌ひ始めたり。 ユリコ姫『朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈む共誠の力は世を救ふ 神が表に現はれて善と悪とを立別る 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直せ聞直せ 身の過ちは宣り直せ天が下なる民草は 何れも貴き神の御子力の弱き人の身は いなで過ちあらざらめ誠を知らぬバラモンの 神の司のゼームスやそれに従ふ者共の 暗き心のいぢらしさ尊き人の命を取り 神の御前に贄を献るとは何の事 果して神が贄を望むとすればバラモンの 大国彦は曲津神かかる怪しき御教を 高砂島に布き拡め国魂神の竜世姫 外所になしたる天罰は忽ち其身に酬い来て 猛火の中を打渡り茨の叢に投げ込まれ 剣を渡り釘の下駄穿ちて神の御前に 重き罪をば詫乍ら楽しき此世を苦みて 暮す世人の憐れさよあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして仁慈無限の三五の 神の教の拡まりて怪しき教を逸早く 海の彼方に追払ひ至治太平の神の代を 築かせ玉へ天津神国津神達八百万 竜世の姫の御前に三五教の神司 天に輝く日月の名を負ひ玉ひし吾夫の 日楯の神や月鉾の尊き教に国人を 一人も残さず服従はせ暗黒無道の世の中を 天国浄土と化せしめよあゝ惟神々々 御霊の幸を賜へかし』 と祈り終つた。何時の間にやら、中天に捲き上げられたる酋長のゼームスは、礼服を着飾り、四五の従者と共に、珍らしき果物を持ち来り、三人の前に恭しく捧げ、 ゼームス『私は最前のゼームスと申す此里の酋長で御座います。尊きあなた方等に対し、御無礼な事を申上げました。勿体なくも生神様に対し、吾々如き賤しき者の女房になれとか、火渡りをせよとか、いろいろの難題を申上げました無礼の罪、何卒御赦し下さいませ。これも全くバラモン教の掟を遵奉致しての言葉で御座いました。只済まなかつたのは尊き女神様に対し、女房になれと申上げた事のみは、バラモン教の方から申しても大なる罪悪で御座います。其為、大自在天様の御怒りに触れ、天より戒めの大火弾を投げつけられ、私は其途端に中空に捲あげられ、最早命は無きものと覚悟致して居りましたが、国魂神竜世姫様とやらの、厚き御守りに依つて大切なる生命を救はれ、且ついろいろの訓戒をうけました。それ故取る物も取敢ず、あなた様に御詫を申上げむと参りました。どうぞ此杖にて、私の身体を所かまはず、腹のいえる迄打据ゑ下さいますれば、罪の一部は贖へられるものと心得ます。どうぞ宜しく御願ひ致します』 と熱涙を流し、真心より頼み入るのであつた。逃げ散つた数多の里人は、追々と集まり来り、何れも一つの負傷もなきに、不審の思ひをし乍ら、酋長の此態を見て、一同は三人に向ひ手を合し、神の如く尊敬の意を表し、合掌して拝み倒して居る。 三人は三五教の教理を諄々と説き諭し酋長以下数十人に守られて数日の後、漸くキールの港に着いた。 (大正一一・八・八旧六・一六松村真澄録) (昭和一〇・六・八王仁校正) |
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霊界物語 | 28_卯_台湾物語(日楯と月鉾) | 15 願望成就 | 第一五章願望成就〔八一五〕 日楯は祝意を表する為、マリヤス姫に傚つて自ら歌ひ且つ自ら舞ひ始めた。 日楯『遠き神代の昔より尊き神の選みてし 高砂島の中心地雲に聳えた新高の 山の巽の神聖地日月潭の湖を 控へて清き玉藻山遠津御祖の真道彦命は 代毎々々に神定の此処に鎮まりましまして 尊き神の御教を四方の民草残りなく 教へ導き玉ひつつ父の命の御代になり 醜の教のバラモン教此神島に渡り来て 体主霊従の振舞を世人の頭に浸み込ませ 日に夜に曇る人心山河どよみ草木枯れ 四方の人々泣き叫び争ひ絶ゆる隙もなく 修羅の巷となり果てぬ父の命は今の世の 有様見るに忍びかね心を尽し身を尽し 誠の道を世の人に朝な夕なにこまごまと 諭し玉へど如何にせむ時の力は容赦なく 悪人栄え蔓りて善はますます凋落し 神の威徳も完全に現はれ玉はず今は早 御国の為に尽したる其真心が仇となり カールス王に疑はれ往来絶えたる岩窟上の 暗き牢獄に呻吟し果敢なき浮世を歎ちつつ 暮し玉へる悲しさに吾等兄弟両人は 烏羽玉の世を旭の豊栄昇るごと 照し清めて国民を塗炭の苦より救ひ出し 父の命の寃罪をすすぎまつりて孝養を 尽さむものと国魂神竜世の姫の神勅を いと厳かに被りてアーリス山を打渡り 須安の山の峰伝ひふみも慣らはぬ長の旅 千里の波を乗切りて弟月鉾、ユリコ姫 茲に三人は琉球の南の島に安着し サワラの都に進み入り三五教の神司 国王を兼ねたる照彦王や照子の姫に面会し 神政成就の神策をいと細やかに教へられ 大谷川を打渡り向陽山の岩窟に 進み進みて常楠の神の司の仙人に 玉や鏡を授けられ二男三女の五つ身魂 心も勇み身も軽く再び船を操りて 此神島に到着しやうやう此処に帰りけり あゝ惟神々々御霊の幸を蒙りて 吾等兄弟始めとしユリコの姫や八千代姫 曇る此世も照代姫奇き功績を現はして 父の命の永久に鎮まりゐませし霊場に 帰り来れる嬉しさは何に譬へむ物もなし あゝ尊しや神の恩仰ぐも畏き神の徳 いよいよ吾等は大神の大御守りを力とし 泰安城に立向ひ玉と鏡を手に持ちて 言霊戦を押開き魔神を残らず言向けて カールス王やヤーチン姫の珍の命を始めとし 恋しき父の生命をば救ひ奉らむ時は来ぬ 思へば嬉し神の恩仰げば高し神の徳 あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終つて座に着いた。月鉾は又もや立上り自ら歌ひ自ら舞ひ始めた。 月鉾『時世時節といひ乍ら父は牢獄に捕へられ 三五教の聖地なる玉藻の山に立向ひ 千代の住家と定めたる数多の神の取次も 父の命の遭難に心の生地を露はして 神に反いて逃げ帰り阿諛諂佞の限りを尽し カールス王に取入りて自己の利益や栄達を 謀る魔神と還りけり月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも二つなき身の生命をば 神の為には捧げむと口先計り華やかに 囀りゐたる百鳥の尻より糞を引つかけて 素知らぬ顔の曲業に無念の涙やるせなく 朝な夕なに国魂神の珍の御前にひれ伏して 祈る折りしも竜世姫いと厳かに現はれて 吾等二人に打向ひ汝はこれより琉球の 南の島に打渡りサワラの都の照彦王に 一日も早く面会し至治太平の神策を 授かり帰れと詳細と宣らせ玉ひし嬉しさに 兄の日楯やユリコ姫暗に紛れて聖地をば 密に立出で蓑笠の軽き扮装トボトボと 山路を伝ひてアーリスの峠にかかり路端の 巌に腰を打掛けて息を休むる折柄に 思掛けなきテーリン姫が蛇が蛙を狙ひし如く 執念深くも後追ひて大胆至極の一人旅 ヤツサモツサと恨み言百万ダラリと並べられ 困り切つたる最中に現はれ出でしマリヤス姫の 珍の命の御計らひ金剛杖を打ふりて 吾身体を滅多打木石ならぬ月鉾も 腹は切りに立騒ぎ悔し涙は雨の如 降り来れ共如何にせむ大事を抱へし今の身は 堪忍するより道なしと諦め居たる折柄に テーリン姫は忽ちにマリヤス姫の御腕に 力限りに噛りつき争ふ隙を窺ひて 吾等三人は逸早く暗に紛れて身をかくし 山の尾渉り谷を越えいろいろ雑多の苦みを 嘗めてやうやうキル港船を求めて波の上 琉球島に安着し竜世の姫の命の如 照彦夫婦や常楠の尊き神にめぐり会ひ 五つの宝を授かりて漸く茲に帰り来ぬ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 今日の生日の喜びは煎りたる豆に生花の 咲き匂ひたる思ひなり天津御神や国津神 国魂神の御恵未だ吾々兄弟を 見放し玉はぬ嬉しさよさらば是れより五つ身魂 水火を合せて泰安の都に進み言霊の 伊吹の征矢を放しつつ群がる魔神を言向けて 国治立大神の仕組ませ玉ひし五六七の世 堅磐常磐の松の世を千代万代に動ぎなく 建設せむは案の中マリヤス姫の計らひに テーリン姫はアーリスの山の尾の上の争ひを 漸く茲に納得し今迄時節を待居たる 其心根の健気さよさはさり乍らテーリン姫 妹背の契を今ここで結び了へむは易けれど 泰安城の一戦無事に凱旋する迄は 暫く待つて賜へかしあゝ惟神々々 竜世の姫の御前に固く御誓ひ奉る 必ず共にテーリン姫心を悩ます事勿れ』 と歌ひ了つた。テーリン姫は直に立上り、銀扇を拡げて、自ら歌ひ自ら舞うた。 テーリン姫『男心と秋の空猫の目玉と諸共に 変り易いと聞くからは如何なる固き御言葉も 妾は心安からず添はねばならぬ身魂なら 今でも将来でも同じこと美味い物なら先に食へ 世の諺もあるものを何れの人に気兼して 左様の事を仰有るか聞えませぬぞえ月鉾さま そんな気休め妾に云うて結構な玉を手に入れた 為にお前の心が変り田舎じみたるテーリン姫を 一生一代の女房に持つよりは泰安城に到りなば 桃や菫や桜花選り取り見取りのよい女房 勝手気儘に娶らむと先を見越してのお前の言葉 妾はどしても腑におちぬどうせ添うなら今の内 大事を抱へたお前の身の上無理に枕を交せとは 妾も野暮な女でない限り分らぬ事は云ひませぬ マリヤス姫の御前で二世も三世も夫婦ぞと キツパリ言うて下さんせお前の兄の日楯さま ユリコの姫と手を曳いて仲よう暮して厶るでないか お前は妾を邪魔者扱になさつて一人琉球の 島へお出でたばつかりに夫婦の中に只一つ 白い玉よりありはせぬお前の兄の日楯さま 夫婦揃うて神業にお勤めなさつた其おかげ 玉と鏡の夫婦事これでも分るでありませう あの時お前が此妾を御用に伴れて行つたなら 妾も結構な神業に加はり珍の御鏡を 貰うて帰つたに違ひない今度お前が泰安城へ 言霊戦に行くならば日楯夫婦と同じ様に 妾と結婚相済まし夫婦の水火を合せつつ 神の御用に立たうでないかこれ程妾が言わけて 言うても聞かぬお前ならヤツパリ今のお言葉は 嘘と言はれても仕方があるまい早く返答承はりませう あゝ惟神々々国魂神の竜世姫様 何卒々々今ここで夫婦の契を結ばせ玉へ テーリン姫が真心を捧げて祈り奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ了つた。月鉾は当惑顔を隠し、 月鉾『あゝテーリン姫様、あなたの御心はよく分りました。私もこれから千騎一騎の活動を致さねばなりませぬ。女房があつては、其為心を惹かれ、思ふ様の活動が出来ませぬから、どうぞ凱旋の後まで待つて下さい。キツト約束を履行致しませう。……マリヤス姫様、さう致しましたら、如何で厶いませうかな』 マリヤス姫『ヘイ……』 と言つた限り、黙然として俯むいてゐる。 テーリン姫『女房があつては気を惹かれて十分の働きが出来ぬとは、これは又妙な事を仰有いますな。女房があつて働きが出来ないのなら、世界の男は残らず未結婚で居る筈ぢやありませぬか。日楯さまでさへも、夫婦揃うて立派に御神業を御勤め遊ばしたぢやありませぬか。瓢箪鯰式に何とか彼んとか云つて、一時逃れに日を延ばし、妾を姥桜にして了ふ貴方の御考へでせう。何と仰有つても、妾は貴方の後を慕ひ戦場に向ひます。貴方と一緒に参り、チツとでも御邪魔になる様な事がありましたら、妾も女の端くれ、潔う喉を掻き切つて死んで見せませう』 月鉾『そんな事をさせともないから、凱旋の後まで待つて呉れと云ふのだ』 テーリン姫『それ程妾をヤクザの女とお見下げ遊ばして御座るのですか。妾だつてユリコ姫様のなさる事位は立派に勤めてお目にかけます。……コレコレ、マリヤス姫様、貴女は、アーリス山で妾に仰有つたぢや御座いませぬか。どうぞ早く結婚の取持をして下さいませ。此期に及んで躊躇なさるのはヤツパリ末になつて月鉾さまと情意投合なさるお考へでせう』 と妙な所へ鉾を向けて駄々を捏ね出した。マリヤス姫は是非なく思ひ切つた様に、 マリヤス姫『月鉾さま、是非此場で結婚の式を挙げて下さい。万一お聞き下さらねば、妾はテーリン姫様の疑惑を解く為、ここで自刃して相果てまする』 と早くも懐剣をスラリと引抜き決心の心を現はし、唇をビリビリ震はせ、顔色青ざめて、唯事ならぬ気配を示してゐる。 月鉾『ハイ、貴女の御意に従ひます。……テーリン姫様、そんなら今日から天下晴れての夫婦仲、どうぞ末長う御世話を頼みます』 テーリン姫飛び立つ許りに打喜び、 テーリン姫『マリヤス姫様、有難う、……月鉾さま、お前は立派な男、流石は真道彦様の御胤、私の観察は違はなかつた』 と狂気の如く喜び、直に神前に駆上つて、感謝の祝詞を奏上するのであつた。 マリヤス姫の媒酌にて芽出度く、月鉾、テーリン姫の結婚は行はれた。これより、マリヤス姫を首領とし、日、月夫婦を始め、八千代姫、照代姫の二男五女は、愈準備を整へ、泰安城へカールス王、ヤーチン姫、真道彦命其他を救ふべく出陣する事となつた。 (大正一一・八・九旧六・一七松村真澄録) |
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霊界物語 | 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 | 02 懸橋御殿 | 第二章懸橋御殿〔八二四〕 竜国別、テーリスタン、カーリンスの三人は、黄金の玉献上といふ旗印を、木の間にチラとすかし見て、胸を躍らせ、俄に心も緊張し、謹厳振を装うて、祈願に余念なきものの如く、素知らぬ顔にて一生懸命に祈つて居る。そこへ御輿を担がせ、数多の村人を伴ひ、ヒルの国のテーナの酋長アールは盛装を整へ、細路を漸くにして、アリナの滝を横にながめ、この岩窟の前に辿り着き、三人の祈願の姿を見て感じ入り、自分もソツと、御輿を傍の美はしき岩の上に据ゑさせ、一生懸命になつて鏡の池に打向ひ、拝跪合掌してゐる。一同は無言の儘、テーナの酋長の背後に堵列し、跪いて鏡の池を隔てて岩窟内を拝みゐる。 岩窟の中より、奴拍子の抜けた声で、 月照彦(正体は鷹依姫)『月照彦命、此処に在り。黄金の玉を遥々と持参致したる身魂の美はしき信者、一時も早く其処に居る神司に手渡し致せ、汝の名は月照彦神より国玉依別命と名を賜ふ』 酋長のアールはハツと平伏し、 アール『恐れ乍ら、月照彦大神様、私はヒルの国のテーナの里の酋長、アールと申す賤しき神の僕で御座います。此の度神界の御経綸上いろいろの玉を、神様よりお集めになると云ふことを承はり、家の重宝として大切に保護致したる黄金の玉を、女房のアルナ姫と謀り、只今此処に持参致しまして御座います。どうぞ御調べの上、御受納め下さいますれば、私を始め妻のアルナも恐悦至極に存ずることで御座いませう』 岩穴の中より、 月照彦(正体は鷹依姫)『国玉依別命、神は時節参りて、声を人民の前に発する様になりたれ共、吾姿を現はすことは、神界の規則として相成らざれば、そこに控へ居る竜国別の審神者、月照彦神が代理として受取らしめむ、左様心得たがよからうぞ』 アール、アルナの夫婦はハツと許りに有難涙をこぼし、 アール、アルナ『実に有難き神の御言葉、斯様な嬉しい事は御座いませぬ。……竜国別の神司様、どうぞ此の宝玉をよく検めて御受取りを願ひ奉ります』 竜国別は、漸くにして重たさうに口を開き、 竜国別『其方は噂に高きテーナの郷の酋長であつたか。其方は神界に因縁深き身魂であるから、斯の如く結構な御用が勤めあがつたのであるぞよ。有難く思へ。……あいや、テー、カーの両人、酋長アルナの献上つた黄金の宝玉を早く実検めて、此方が前に差出せよ』 テー、カー両人は小声にて、 テーリスタン、カーリンス『何ぢや、馬鹿々々しい。竜国別の奴、俄に荘重らしい言霊を使ひよつて、まるで俺達を奴扱ひにしやがる。怪しからぬ奴だ。これが果して吾々の捜してゐる黄金の宝玉なれば結構だが、モシヤ鍍金玉でもあつたら、吾々両人の者は愈馬鹿の上塗りをせなならぬがなア』 と呟き乍ら輿の前に進み寄る。アルナは恭しく輿の戸を開き、玉筥を取出し、テー、カーの二人の前に差出した。テー、カー両人は左右より其玉筥を手に取り、頭上高く捧げ、蟹の様になつて、四つの足をそろりそろりと運び出した。余り頭上の玉筥に心を奪られ、足許に気が付かず、岩角にガンと躓いた途端に、二人は玉筥と共に、鏡の池にドブンと音立てて落ち込んで了つた。竜国別を始め、酋長夫婦、其他一同は総立ちとなり『アツ』と叫んで、池の面を眺めてゐる。幸ひ玉筥は、二人の落ち込んだ機みに撥られて、岩窟の中に都合よく飛び込みにけり。 岩窟内の鷹依姫は吾足許に勢よく飛込んで来た玉筥に心を奪はれ、外に酋長其他の人々の居るのも忘れ、玉筥を引抱へ、ツカツカと岩窟内を走り出で、竜国別の前に持来り、 鷹依姫『コレコレ竜国別、よく検めて御覧なさい。全くこれは本物に相違ありませぬぞよ』 竜国別『お母アさま、こんな所へ出られちや困るぢやありませぬか。モウ暫く幸抱して居つて下さらぬと化が現はれますよ』 鷹依姫『モウ現はれたつて良いぢやないか。斯うして此方の手に入つた以上は、誰が何と云つても構はぬぢやないか』 斯くする内テー、カーの両人は体中、青藻を被つて這ひ上り来り、 テーリスタン、カーリンス『アーア、玉のおかげで、ドテライ目に会ひ、肝玉を潰し、面目玉をなくして了つた』 酋長は鷹依姫の姿を見て、神様の御意に叶ひしと見え、大神様は婆の姿と変じ、此処に生神となつて出現し玉ひしものと深く信じ、有難涙をこぼし、恐る恐る拍手を打ち、 アール『コレはコレは月照彦神様、よくも御神体を現はして、私如き身魂の曇つた者の前に現はれ下さいました。どうぞ此玉をお納め下さいますれば、夫婦の者の喜び、里人の喜びは此上御座いませぬ』 鷹依姫はヤツと安心したものの如く、俄に荘重な口調にて、 鷹依姫『其方、国玉依別命、神は汝の至誠を満足に思ふぞよ。併し乍ら汝に言ひ渡したき事あれ共、まだ身魂の垢取れざれば、四五丁下つて、アリナの滝に一日一夜、夫婦共身魂を浄め、又従ひ来れる者共、残らず赤裸となつて御禊をなし、更めて吾前に登り来れ。大切なる使命を汝に仰せ付けるぞよ』 アール、アルナの夫婦を始め、供人一同は、此言葉に、 アール、アルナ、供人一同『ハイ畏まりました』 と恐る恐る後しざりし乍ら、岩窟の前を退きアリナの滝に一昼夜の御禊をなすべく、降つて行く。 蜩の声は谷間の木々にけたたましく聞えて来た。 鷹依姫は一同をうまくアリナの滝に向はせおき、猫の様に喉を鳴らし、玉筥に飛付き、中を開いて見れば、金色燦然たる黄金の玉、されど、黒姫が保管せし玉に比べては、稍小さき感じがした。されどこれも心の故であらうと、無理に得心し、手早く元の如く蓋を閉ぢ、 鷹依姫『サア此玉さへ手に入れば、吾々の願望は成就したのだ。併し乍らテーナの郷の酋長に対し、何か一つの神徳を渡しておかねば済むまい。何とか良い工夫はあるまいかな』 竜国別『お母アさま、そんなら斯う致しませう。此玉筥の中の黄金の玉は錦の此袋に納め吾々が持帰ることと致し、後へ此処にある沢山の玉の中、最も優れたるものに、月照彦神様の御霊をうつし……『テーナの酋長アールを以て国玉依別命と名を賜ひ、アルナを以て玉竜姫命と名を賜ふ。汝はこれより此庵に永住し、月照彦神の神司となり、普く万民を救へよ。此汝が献りし黄金の玉は万劫末代開く可からず。万一此玉筥を開く時は神霊忽ち現はれ、汝等夫婦の身に大災厄来り、高砂島は、地震洪水の厄に遭ひ、海底に沈没するの虞あり、必ず必ず神の言葉を反く勿れ。月照彦神は此黄金の玉に御霊をうつし、三人の眷属を引連れ、雲に乗つて天上に帰るべし』……(とスラスラと玉筥のぐるりに烏羽玉の実の汁もて書き記し)……サア斯うしておけば、酋長も結構なお蔭を戴き、御神徳が世界に輝くであらう』 これから[※御校正本も「これから」になっている。「それから」の誤りか?]此鏡の池にお暇乞の為に天津祝詞を奏上し、後をよく御願ひ申し、 『国玉依別命、玉竜姫命に宏大無辺なる御神徳をお授け下され、遂には高砂島の生神となつて、人望を一身に集むる様御守護下さいませ』 と一生懸命に祈願し、一行四人は闇に紛れて、雲を霞と、山を越え、夜を日に継いで、漸く宇都の国の櫟が原と云ふ平原に辿り着きけり。 アール、アルナの酋長夫婦は月照彦の神示と確信し、一昼夜の御禊を終り、恭しく鏡の池の前に来て見れば、庵の中は藻抜けの殻、神様の声もなければ、三人の男の姿も見えぬ。……ハテ不思議……と庵の中を隈なく捜し見れば、美はしき石を積み重ね、其上に自分の持来りし玉筥がキチンと載つて居る。よくよく見れば以前の文句が書き記してある。酋長夫婦は送り来りし御輿を鏡の池の向ふ側、岩窟の入口に安置し、玉筥を再び其中に納め、書置きの文句を堅く信じ、自分は国玉依別命、妻は玉竜姫命となり済まし、御輿の前に朝夕祈願を凝らし、夜は庵に入りて、夫婦はここを住処とし、普く四方より参り来る人々の為に福徳円満、寿命長久、病気平癒などの祈願を凝らし居たりける。 テー、カー二人の宣伝は大に功を奏したと見え、日々絡繹として、玉の形したる石塊を携へ、或はいろいろの木の実を持来りて神前に供し、国玉依別命夫婦の祈願を依頼し、相当の御神徳を蒙つて帰る者、日に月に殖えて来た。遂には余り多数の参詣者にて、身を容るる所なく、余り広からざる鏡の池のあたりは、身動きならぬ計りの雑閙を来すこととなり、止むを得ず、数多の信者協議の上、谷から谷へ橋を渡し、宏大なる八尋殿を造り、ここに改めて玉筥を奉斎し、夫婦は神主として神前に仕へ、国、玉、依、竜、別などの人々を幹部とし、三五の神の教を日夜宣伝することとなりぬ。此八尋殿は谷の上を塞いで橋の如く造られたるを以て、懸橋の御殿と称へられける。 国玉依別夫婦は、毎夜丑満の頃に、神殿に怪しき物音の聞ゆるに不審を起し、十五の月の照り輝く夜、幹部にも知らさず、夫婦只二人、神前に端坐して、怪しき物音の正体を調べむと待構へてゐた。神殿の床下より怪しき煙ポーツと立昇り、朦朧として蛸の様な禿頭の不細工な一柱の神、腰をくの字に曲げて、煙の中より現はれ、輿のぐるりを幾回となく、クルクルと廻つてゐる、其怪しさ、厭らしさ。玉竜姫は肝を潰し『キヤツ』と悲鳴をあげて其場に倒れた。国玉依別は流石気丈の男子とて、怪しき影に向ひ、言葉厳かに、 国玉依別『吾こそは月照彦神の命を奉じ、御神霊を玉筥に納め、朝夕此八尋殿を作りて奉仕する神司なるぞ。汝何者なるか、吾々の許しもなく、神聖なる神殿に夜な夜な現はれ来り、御神宝の辺りに附纏ふ曲者、名を名乗れ、返答次第に依つては容赦は致さぬぞ』 とキツとなつて身構へした。怪しき影は追々濃厚の度を増し、そこに倒れたる玉竜姫の傍に足音も立てず寄添ひ、細き手を伸べて、二三回胸のあたりを撫でさすれば、姫は忽ち正気づき、両手を合せて怪物に向ひ、恐れ気もなく感謝の意を表し居たりける。 国玉依別は合点行かず、黙然として怪物の姿を眺めて居た。怪物は涼しき、細き声にて、 怪物『吾れこそはアリナの滝の水上、鏡の池の岩窟に三五の教を宣伝し居たる狭依彦の神の霊体である。吾れ帰幽後は、一人として吾霊魂を祭る者なく、御供一つ供へ呉るる者もなし。然るに一年以前、三五教の宣伝使鷹依姫、竜国別は二人の供人を引連れ、鏡の池の岩窟に来り、玉集めをなし、遂に汝が家の重宝黄金の玉を奪ひ取り帰りたり。吾れは此事を汝に知らさむが為に夜な夜な出現するものなり。其玉筥の中は瑪瑙の玉と摺替へおき、黄金の玉を引さらへて、四人の者は今や宇都の国の櫟が原に出で、草原をあちらこちらとさまよひつつあり。汝は其玉を取返す所存なきか』 国玉依『何れの神様かと思へば、昔鏡の池の神として有名なる狭依彦様で御座いましたか。御親切は有難う御座いまするが、何事も因縁づくと諦めて居りますれば、仮令黄金の玉が瑪瑙の玉に変ればとて、少しも苦しうは御座いませぬ。月照彦の御神霊の懸らせ玉ふ以上は、仮令団子石の玉にても、私に取つては、それの方が何程重宝だか知れませぬ。黄金の玉などには少しも執着はかけませぬ』 狭依彦『実に感じ入つたる其方の心掛け、それでこそ三五教の神の教は天下に拡まり、万民を救う事が出来るであらう。狭依彦も汝夫婦が尊き、清き真心に感じ、これより此神前に幽仕して、汝が神業を助けむ。ゆめゆめ疑ふ事勿れ』 と又もやパツと立上る煙の中に、怪しき姿を消しにける。これより夫婦は狭依彦の霊を祀るべく鏡の池の傍に宮を造り、朝夕に種々の供物を献じ、崇敬怠らざりき。月照彦神の霊力と狭依彦の守護と、国魂神の威徳に依つて、懸橋の御殿の奥深く斎き奉れる神壇は日に月に神徳輝き、遂には高砂島全部に国玉依別夫婦の盛名は隈なく喧伝さるるに至りける。 鰯の頭も信心からとやら、黄金の玉は掏り替られ、似ても似つかぬ瑪瑙の玉も神の神霊の力と、信仰の誠に依つて無限絶大なる光輝を放つに至りしを見れば、形体上の宝の、余り尊重すべき物にあらざるを悟り得らるるなるべし。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・一一旧六・一九松村真澄録) ○ 因に曰ふ。竜国別一行が遥々海洋万里の浪を渡りて、玉の所在を尋ねむとしたるは、実は鷹依姫の帰神を盲信したるが故なり。帰神に迷信したるもの程、憐れむべきは無かるべし。然り乍ら又一方には、是によりて海外の布教宣伝を為し得たるは神慮と云ふべき也。[※「因に曰ふ」からの文章は王仁三郎が校正の際に付け加えたものである。校定版・八幡版では「帰神」ではなく「神憑」に直されている。] |
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77 (1958) |
霊界物語 | 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 | 03 白楊樹 | 第三章白楊樹〔八二五〕 三五教の宣伝使鷹依姫を始めとし 竜国別やテー、カーの一行四人は蛸取村の 山奥深く進み入りアリナの滝の上流に 神代の昔月照彦の神の命の現れませる 鏡の池の岩窟に身を潜めつつ黄金の 玉の所在を探らむと鷹依姫を岩窟の 中に隠して神となし竜国別は池の辺に 庵を結び朝夕に天津祝詞を奏上し 審神者の職を勤めつつテーリスタンやカーリンス 二人の男を西東北や南の国々へ 言宣れ神と身をやつしアリナの滝の上流に 月照彦の現はれて何れの人に限りなく 玉と名のつく物あらば到りて神に献ずれば 大三災の風水火小三災の饑病戦 赦し玉ひて其人に無限無量の寿を与へ 五穀果物成就し無限の福徳授かると 善い事づくめをふれまはし欲に目のなき国人は 玉に善く似た円石や瑪瑙の玉やしやこ翡翠 珊瑚珠玉を持出して遠き山野を打渡り 鏡の池の傍に供へて帰る可笑しさよ 竜国別は一々に目を光らして眺むれど 一つも碌な奴はない偶黄色の玉見れば 表面飾る金鍍金ガラクタ玉は山の如 積み重なりて数多く日を重ぬれど三五の 錦の宮に納まりし黄金の玉は影もなし テー、カー二人はそろそろと小言八百言ひ並べ 『鏡の池を後にして何処の果にか宿替し 又更めて一芝居打たうぢやないか』と両人に 言挙げすれば鷹依姫や竜国別は『待て暫し モウ一息の辛抱だ堪へ忍びは幸福の 母となるぞ』と両人をチヨロまかしつつ待つ間に テーナの里の酋長が黄金の玉を持出でて 玉の輿に乗せ乍ら数多の人数を引連れて アリナの滝や鏡池神の御前に捧げむと 風に旗をば靡かせつ進み来るぞ勇ましき。 虚実の程は知らねども擬ふ方なき黄金の 玉に喉をば鳴らせつつテーナの里の酋長に 国玉依別と名を与へ暫くアリナの滝の辺に 御禊の業を命じおき瑪瑙の玉と掏り替へて 夜陰に紛れて谷川を遡りつつアリナ山 峰打渉り宇都の国櫟が原に四人連れ 萱生茂る大野原やうやう辿りつきにけり。 竜国別、テーリスタン、カーリンスの三人は、代る代る黄金の玉を錦の袋に納め、肩に担いでアリナ山の急坂を登り降りし乍ら、汗をタラタラ漸く茲に辿り着きぬ。どうしたものか、此玉は一歩々々重量を増し、後から何者か引張る様な心地し、余程頭を前に傾けて居らぬと、玉の重みに引きつけられて、仰向けに転倒する様な気分になつた。漸くにして生命カラガラ此処までやつて来て、最早大丈夫と白楊樹の蔭に足を伸ばして一休する事と為しぬ。 身の丈五尺計りの大蜥蜴は幾百ともなく萱野ケ原を前後左右に駆巡り、雀の様な熊蜂、虻は汗臭い臭をかいで寄り来り、油蝉の様な金色の糞蠅、咫尺も弁ぜざる程群集し来り、ブンブンと唸りを立てる、其煩ささ。四人は萱の穂を束ねて大麻に代へ、右の手にて虻、蜂、金蠅などを払ひ乍ら、日の暮れたるに是非なく、玉を抱えて、四人は草の上に横たはり、草臥果てて、舁いて放られても分らぬ迄に熟睡し居たりけり。 折柄吹き来るレコード破りの夜嵐に、萱草はザワザワと音を立て、白楊樹は風を含んで弓の如く、大地を撫で、虻、蜂、蠅などは、何処へか吹き散らされて、一匹も居なくなつて了つた。白楊樹は弓の如く風に吹かれて地を撫でた途端に、四人の体の上に襲ひ来たりぬ。 テーリスタンは寝惚けた儘、玉の袋を首に結びつけ乍ら、白楊樹の枝を、夢現になつて力限りに抱えた。さしもの暴風もピタリと止んで、天に冲する白楊樹は元の如く直立して了つた。よくよく見ればテーリスタンは、白楊樹の梢に、何時の間にか上られてゐた。『アツ』と驚く途端に足ふみ外し、唸りを立てて三人が寝てゐる側近く、図転倒と落下し来り、ウンと一声目の黒玉をどつかへ隠して了つて、白玉計りグルリと剥き、大の字となつて、手足をピリピリと震はして居る。玉を包んだ錦の袋は、白楊樹の空に引つかかつてブラつきゐたり。 三人は驚いてテーリスタンの側に駆寄り『水よ水よ』と叫び乍ら、あたりを見れ共、水溜りはどこにも無い。月は淡雲を押分けて、漸く下界に光を投げた。あたりを見れば地を赤く染めて苺の実がそこら一面に熟してゐる。竜国別は手早く二三個をむしり取り、歯をくひしばつて倒れてゐるテーリスタンの口を無理にこじあけ、苺を潰して、其汁を口中に入れた。テーリスタンは漸くにして息を吹き返し、顔をしかめて、腰のあたりを切りに撫で廻しゐる。 カー『おいテー、貴様一体如何したのだ。こんな所でフンのびたり、心細い事をやつて呉れな。ヤアそして貴様の首にかけて居つた玉袋は何処へやつたのだい』 テー『どこへやつたのか、根つから覚えない。何でも俺は天狗にさらはれて、高い所へあげられた夢を見たが、ヤツパリ元の所だつた。大方夢の中の天狗が取つて帰にやがつたかも知れやしないぞ。何と云つても結構な黄金の玉だから、天狗迄が欲しがると見える。小人玉を抱いて罪ありとは此事だなア。あゝ腰が痛い、玉所の騒ぎかい。何とかして呉れぬと、息がつまりさうだ。アイタタアイタタ』 と顔をしかめて居る。鷹依姫はビツクリして顔色を変へ、 鷹依『コレ、テーさま、今迄苦労艱難して手に入れた黄金の玉を、お前如何したのだ。サア早く返して下さい。あの玉を紛失でもしたら、承知しませぬぞや』 テー『そんな事云つたつて、無い袖はふれぬぢやありませぬか。何れどつかにアリナの滝でせう。甘い事を云つて酋長の家の宝を何々して来たものだから、神罰は覿面、何々がやつて来て何々したのかも知れませぬぜ。お前さまも余り大きな声で小言を云ふ資格はありますまい。仮令泥棒に盗られた所で元々ぢやないか。泥棒の上前をはねられたと思へば済む事だ。あゝこれで改心をして権謀術数的の行方は今日限り断念なされませ。心の玉さへ光れば、黄金の玉の三つや四つ無くなつたつて、物の数でもありませぬ。酋長の奴の性念玉が憑りうつつてると見えて、アリナの山を渉る時にも随分後から引張られる様で、重たくて、苦しくて仕方がなかつた。此広い高砂島を、あんな重たい物を持つて歩かされようものなら、それこそ吾々は息ついて了ひますワ。黄金の玉を紛失したとてさう悲観したものでもありませぬ。つまり神様から大難を小難に祭りかへて、罪業をとつて頂いたと思へば、こんな結構な事はありませぬ。サアサア皆様、大神様に感謝祈願の祝詞を奏上して下さい』 鷹依姫『これテーさま、何と云ふ勝手な事を仰有るのだ。お前もチツとは責任観念を持つたら如何だい。折角長の海山を越え、苦労艱難をしてヤツと手に入れた三千世界の御神宝を、ムザムザと紛失しておいて、ようマアそんな勝手な事が云へたものだ。如何しても斯うしても、其玉を再び発見する迄は、テーさま、お前は仮令十年でも百年でも、ここを動く事はなりませぬぞえ』 テー『あゝ困つたなア。お月様は何程照つても、肝腎の月照彦神様は如何して御座るのか。キツパリとあの玉はどこに隠れて居るとか、誰人が盗つたとか、知らして下さりさうなものだ。アヽ鷹依姫さまにボヤかれる、腰の骨は歪んで痛い苦い。この様な蜥蜴原に脛腰の立たぬ様な目に遭はされて如何なるものか。神様も余り聞えませぬワイ、アンアンアン』 とソロソロ泣き出したり。 鷹依『これテー、何程泣いたつて、玉は返つては来ませぬぞえ。チトしつかりして、胸に手を当て考へて見なさい。お前はまだ本当に目が醒めぬのだらう』 テー『マアさうセチセチ言はずに、チツと計り猶予を与へて下さい。玉の行方は何処ぞと、沈思黙考せなくては、短兵急に吐血の起つた様に請求されても、早速に開いた口がすぼまりませぬワイ』 鷹依『お前所か、こつちの方から、余りの事で、阿呆らしさが偉大うて、開いた口が、それこそすぼまりませぬワイナ』 カーリンス空を仰ぎ見て、 カー『ヤア、月夜でハツキリは分らぬが、あのポプラの梢に、何だかピカピカと光つて、ブラ下つて居る物が見えるぢやないか。あれはテツキリ玉の這入つた錦の袋の様だぞ』 竜国別は白楊樹の空を眺めて、 竜国『ヤア如何にも、あれは錦の袋だ。おいテー、お前は御苦労にも、あの様な高い木の梢へ袋を括りつけ、盗まれぬ様にと気を利かした迄はよかつたが、足ふみ外し、真逆様に墜落して腰を打ち、目を眩かして居よつたのだなア。アハヽヽヽ。サアこれから御苦労だが、テーさまに登つておろして来て貰はうかい。あこ迄括りつけに往た丈のお前だから、木登りはよく得手て居ると見える。サア早う下ろして来てくれ』 テー、天空を仰ぎ見て、 テー『ヤア如何にも不思議だ。何時の間にかあんな所へ、誰が持つて登りよつたのだらう。私は生れ付き、木登りは拙劣だから、到底あんな所へあがれる気遣はないのだ。大方天狗の奴悪戯しよつたのであらう。あんな所へあがるのは、到底天狗でなくては出来るものではありませぬワイ……なア竜国別さま、あなた鎮魂して天狗を呼集め、あの袋を茲へ持つて来る様にして下さいなア』 竜国『お母アさま、如何でせう。合点の往かぬ事ぢやありませぬか。テーは御存じの通り、身の重たい男で、あの様な所へ、能うあがり相な事はありませぬ。コリヤ矢張天狗の悪戯に間違ありませぬよ』 鷹依『此辺には野天狗が沢山に居るから、油断をする事は出来ませぬ。これは何とかして、神様に御願申し下ろして頂かねば吾々は何時になつても此処を離れる事は出来ませぬ。……コレ、カー、お前はチツとばかり身が軽さうだ。神様の為、世界の為の御宝だから、取りにあがつても滅多に無調法はありますまい。私がこれから大神様に一生懸命願をこめるから、お前御苦労だが、一寸登つて来て呉れまいかなア』 カー『さうですな、マア一寸試に登れるか登れぬか、調べて見ませう』 と、一抱もある白楊樹の根元に立寄り、木の幹に一寸手をかけ『キヤツ』と悲鳴をあげて、其場にカーリンスは打倒れ人事不省に陥りにける。 (大正一一・八・一一旧六・一九松村真澄録) |
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霊界物語 | 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 | 09 俄狂言 | 第九章俄狂言〔八三一〕 神が表に現はれて善と悪とを立別ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直し聞直し 過ちあれば宣り直す三五教の神の道 神の恵の大八洲彦命の又の御名 月照彦の神霊は随時随所に現はれて 三五教の神司信徒等は云ふも更 四方の民草悉く恵の露にうるほひつ 心の雲を吹き払ひ晴れ渡りたる大空に 天の御柱つき固め掃き浄めたる村肝の 心の土に惟神国の御柱つき固め 千代に八千代に神人の身魂を永遠に助けむと 現はれますぞ尊けれ。皇大神の御恵みも アリナの滝の上流に誠を映す鏡池 堅磐常磐の岩窟に神の御言を蒙りて 夜なきヒルの神の国テーナの里の酋長の 誠アールやアルナ姫桃上彦の昔より 三五教の御教を今に伝へて奉じたる 尊き血筋の酋長は家の宝と大切に 親の代より守り居る黄金の玉を取出し 鏡の池に納めむと数多の里人引率し 遠き山坂打渉り心も清き白旗に 玉献上と書き記し珍の御輿を新造し 黄金の玉を納めつつ縦笛横笛吹き鳴らし 天然自然の石の鉦磬盤法螺貝鳴らし立て 谷を飛び越え川渡り山鳥の尾のしだり尾の 長々しくもヒルの国テルの国をば跋渉し 漸く此処に安着し鷹依姫や竜国別の 神の司の目の前に恭しくも捧げつつ 誠か嘘か知らね共鷹依姫の神懸り 仰せの儘を畏みて正直一途の酋長は 国玉依別、玉竜姫の神の命と夫婦連 御名を賜はり千丈の滝の麓に御禊して 一日一夜を明かしつつアリナの滝を後にして 鏡の池に往て見れば豈図らむや鷹依姫の 神の命を始めとし三人の司は雲と消え 行方も白木の玉筥に種々様々神の旨 書きしるしたる嬉しさにアール、アルナの両人は 草の庵を永久の住家と定め池の辺に 朝な夕なに神言を声高らかに宣りつつも 四方の国より詣で来る善男善女を三五の 誠の道に導きつ神の御稜威も日に月に 輝き渡り身を容るる所なき迄諸人の 姿埋まる谷の底是非なく茲に信徒は 大峡小峡の木を伐りて山と山とに架け渡し 八尋の殿を築きあげ黄金の玉を奉斎し 国玉依別、玉竜姫の神の司は勇み立ち 懸橋御殿に現はれて教を開く折柄に 玉に心を奪られたる三五教の高姫が 自転倒嶋を後にして太平洋を打渡り テルの湊に安着し常彦、春彦伴ひて 金剛不壊の如意宝珠其他の玉の所在をば アリナの滝を目当とし現はれ来り村肝の 心の善悪映すてふ鏡の池の前に立ち 相も変らぬ減らず口傍若無人に罵れば 数千年の沈黙を破つて鳴りだす池の面 ブクブクブクと泡だしてウンウンウンと唸り声 月照彦の神霊と名乗らせ玉ひて五十韻 珍の言霊並べつつ高姫一同を訓戒し 身魂を救ひ助けむと計り玉ひし尊さよ 自負心強き高姫は持つて生れた能弁に 負ず劣らず五十韻アオウエイよりワヲウヱヰ 只一言も洩らさずに一々神に口答へ 月照彦とは詐りぞドン亀、鼈、蟹神と 頭ごなしにけなしつつ言葉の鉾を常彦や 春彦の上に相転じ生宮気取りで諄々と 脱線だらけの託宣をまくし立つれば池中の 声は益々高くなり大地の震動恐ろしく 流石頑固の高姫も色青ざめて慴伏し 歯をかみしめて黒血をば吐きつつ爰に平伏し 次第々々に息の根は細りて遂に玉の緒の 生命の糸も細り行く。あゝ惟神々々 善悪邪正を明かに心に映す鏡池 底ひも知れぬ神界の深き心ぞ尊とけれ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ。 懸橋御殿の神前に朝な夕なに奉仕する三五教の神司、テーナの里の酋長アール、アルナの夫婦は、月照彦神より、国玉依別命、玉竜姫命と名を賜ひ、朝な夕なに真心を籠めて、教を伝へつつありしが、茲に三五教の高姫が鏡の池に現はれて、堆く供へ奉れる諸々の玉を持帰らむとするを、鏡の池及び狭依彦の宮に仕へたる国と玉との神主は驚いて、懸橋御殿に急報し、教主夫婦と諸共に此場に現はれ、高姫一行に向ひ、来意を尋ぬる折しも、傲慢不遜の高姫は、鏡の池の神霊が威力に打たれて打倒れ、殆ど人事不省となりければ、国、玉、竜、別などの神司と共に、常彦、春彦を伴ひ、懸橋御殿に担ぎ入れ、水よ薬よと介抱をなし、天津祝詞を奏上し、一二三四五六七八九十の神示の反魂歌を奏上し、漸くにして高姫は正気に復り、稍安心の胸を撫で下ろしたり。 因に云ふ。アール、アルナの夫婦は其実、鷹依姫、竜国別の故意を以て、月照彦の神示と偽り、国玉依別、玉竜姫の名を与へたれ共、やはり惟神の摂理に依つて神より斯の如く行はしめられたるものにして、決して鷹依姫、竜国別の悪戯にあらず、全く神意に依りて、両人は夫婦に神命[※校定版・八幡版では「神名」に直している。]を与へた事と、神界より見れば確かになつて居るのである。 高姫はキヨロキヨロと四辺を見まはし、木の香かをれる新しき殿内に吾身のある事を訝かり、首を切りに振り乍ら、元来の負惜み強き性質とて……ここは何処ぞ……と問ひ尋ぬる事を恥の様に思ひ、荐りに考へ込んで居る。常彦、春彦は高姫の左右に寄り添ひ、 常彦、春彦『モシ高姫さま、お気が付きましたか。余り貴女は自我を立通しなさるものだから、とうとう池の神様に戒められ、人事不省に陥り、殆ど息の根も絶えむとする所、御親切にも、此御殿の主人、国玉依別様、玉竜姫様の御介抱と御祈念に依り、生命を助けてお貰ひなされたのですから、サア早く神様と、お二人に御礼を申しなさいませ』 高姫『妾がいつ……人事不省などと、汚らはしい、死にかけました。そんな屁泥い高姫ぢや御座いませぬぞえ。お前は神界の事が分らぬから、日の出神の生宮が、池の底の神の正体を審神する為、肉の宮を一寸立出で、幽界探険に往て居つたのですよ。それだから、心の盲と云ふのですよ。ヘン……阿呆らしい。神の生宮は万劫末代生き通し、アタ汚らはしい、人事不省に陥つたなどと、お前等と同じように人間扱ひをして貰ふと、チツと困りますぞえ。コレコレお前は国依別、玉治別、竜国別と云つたぢやないか。何時の間にやらこんな所へ魁してやつて来て、世間をごまかさうと思つて、国と玉とが一つになつて国玉依別だとか、玉竜姫だのと、そんなカラクリをしたつて駄目です。キツとそんな名前がついてる以上は、此館に国、玉、竜の宣伝使が潜んでるに違ない。又言依別も隠れて居るだらう。モウ斯うなつたら百年目だ。サア女の一心岩でも通す。金剛不壊の如意宝珠其他の神宝を撿めて、自転倒嶋の聖地へ持つて帰らねばおきませぬぞえ。コレコレ国玉依別とやら、お前は国や玉や竜の、蔭から糸を引く操り人形だらう。そんなこたア、チヤンと、此高姫の黒い眼で睨んだら一分一厘間違ひはありませぬぞや。ここに三五教の神館を、お前さま等が寄つて集つて建てたやうに思つて居るが、国治立命の御指図で、日の出神が片腕となり、竜宮さまの御手伝ひで出来上つたのですよ。日の出神の生宮だからチヤンと分つてる。ここの神司はそれが分つて居ますかな』 常彦『ナント徹底的にどしぶとい婆だなア、これ丈お世話になつておき乍らヨーモヨーモ、こんな憎たれ口が叩けたものだ。喃春彦、穴でもあつたらモグリ込みたいやうな気がするぢやないか』 春彦『開いた口がすぼまりませぬワイ』 と云つた限り、余りの事に呆れ果ててポカンとしてゐる。 常彦『イヤもうし、国玉依別御夫婦様、かくの通りの没分暁漢で御座いますから、自転倒嶋の聖地に於ても、皆の者が腫物にさはるやうに取扱つて居るので御座います。吾々だつてこんな腫物に従いて来たい事は御座いませぬが、気違を一人おつ放しておきますと、どんな事を致すやら分りませぬ。虎を野に放つやうな危険で御座いますから、吾々両人は世界の為に犠牲となつて、精神病者看護人の積りで、はるばるとやつて参りました。何れ癲狂院代物ですから、必ず必ず御心にさえて下さいますな。何卒神直日大直日に見直し聞直し下さいまして、高姫の無礼をお赦し下さいませ』 と気の毒さうに述べ立てる。国玉依別は、 国玉依別『実にお気の毒ですなア。決して決して気にはかけて居りませぬ。あなた方こそ、本当に御苦労お察し申します』 高姫『コレ常、天教山より現れませる日の出神の生宮を、天教山代物とは何だい。余り無礼ぢやないか。宣り直しなさい』 常彦『癲狂院に現れませる、鼻高姫命か、天教山に現はれませる木の花姫神のお使、日の出神の生宮様か、但は二世か三代か、男か女か、凡夫の吾々にはテンと判断が付きませぬワイ。アハヽヽヽ』 高姫『アヽさうだらうさうだらう。テンと判断がつかぬと云ふのは道理ぢや。偽らざるお前の告白だ。此日の出神の正体が、お前達に分るやうな事なら、此高姫も万里の波を越えて、こんな所迄来は致しませぬわいな。お前のやうな没分暁漢が世界にウヨウヨして居るから、実地の行ひを見せて改心させる為に神の御用で来て居るのだぞえ。サアこれから肝腎要の言依別の盗み出した宝玉を受取つて帰りませう。お前もここ迄従いて来たのだから、玉のお供位はさしてあげるぞえ。有難く思ひなさい。……コレコレ茲の宮番夫婦、早く玉を渡す手続を一刻も早くしなされや。グヅグヅしてゐなさると、神界の規則に照し、根の国底の国の制敗に会はさねばなりませぬぞえ』 国玉依別は藪から棒の高姫の言葉に何が何やら合点行かず、 国玉依別『ヘー』 と云つたきり、穴のあく程、高姫の顔を打守つて居る。国、玉、竜、別、依の幹部を始め、常彦、春彦迄が高姫の顔をジツと打眺め舌を巻き居たりける。 (大正一一・八・一二旧六・二〇松村真澄録) (昭和一〇・六・八王仁校正) |
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79 (1974) |
霊界物語 | 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 | 19 生霊の頼 | 第一九章生霊の頼〔八四一〕 名に負ふ大瀑布の前に一行六人は、霧雨を冒して進み寄り、高姫は背の石像をおろし、滝の傍に木の葉や笹で箒を拵へ、掃き清め、滝壺に曬された小砂利を各自に手にすくひ、其跡に布き並べ、石像を安置して、あたりの木の実をむしり、之れを供へ、且つ槲の枝を玉串として、一々供へ、天津祝詞を奏上し終つて、滝壺に身を躍らせ、禊を修した。禊の業も漸く終り、再び石像の前に端坐して、幽斎の修業に差かかつた。 マールの依頼によつて、彼を神主となし、美はしき小砂の上に坐せしめ、高姫は自ら審神者の役を奉仕した。 ブラジル国に名も高き雲を圧してそそり立つ 天祥山より落ちかかる幾千丈の白滝に 高姫一行六人は心を清め身を浄め 禊払へば清涼の空気はあたりに充ちわたり 常世の春の梅の花四辺に薫る心地して 幽斎修業を始めける高姫司を審神者とし マールを砂庭に端坐させいよいよ神人感合の 行事に仕へ奉りける。マールは身体震動し 両手を組んだ其儘に右に左に振りまはし 両手を上げ下げなし乍らウンウンウンと唸り出す 獅子狼か野天狗か金毛九尾か曲鬼か 但野狐野狸か姿勢の悪い神憑り 此奴はチツと怪しいと団栗眼を剥き乍ら 歯並の悪い口あけて高姫さまがする審神 マールの体は中天に高くあがりて落ち来る 此有様に常彦はこれこそ的切り曲神の 憑依したるに違ない言向け和し神界の 誠の道を諭さむと高姫司の側に立ち 双手を組んで鎮魂の姿勢を執りつつ神主の 体に向つて霊かける漸う漸うマールは鎮静し 汗をタラタラ流しつつ口をへの字に相結び 口を切らむと焦せれ共容易に出でぬ言霊に ワアワアワア私はアヽヽ三五の 神の教の宣伝使タヽヽヽ鷹依の 姫の命やタタタ竜国別やテヽヽ テーリスタンやカヽヽカーリンスの一行と クヽヽヽ黒姫が黄金の玉を紛失し タヽヽヽ高姫にメヽヽヽ目を剥かれ スヽヽヽ住み慣れし綾の聖地を後にして 大海原を打渡り玉の在処を探らむと クヽヽヽ黒姫や高山彦の夫婦連れ ワヽヽヽ和田中の竜宮島に行かしやつた 鷹依姫は三人の神の司と諸共に タヽヽヽ高砂の秘密の島に打渡り 黄金の玉を探らむとテルの街道を南進し アヽヽヽ足痛め漸く茲にターターター 蛸取村に安着し昔の昔の其昔 日の出神に従ひて三五教の御教を 開き玉ひしサヽヽ狭依の彦の旧蹟地 アリナの滝に身を打たれ鏡の池の傍に 庵を結びタヽヽ鷹依姫は岩窟に タヽヽヽ竹筒を携へ乍ら忍び入り 月照彦と瞞着しタヽヽヽ竹筒を ハヽヽヽ歯の脱けた口に喰はへてフーフーと 竹筒通して作り声月照彦大神が 再び茲に現はれて高砂島の人々よ 福徳寿命が欲しければ玉を供へに来るがよい 必ず広き神徳を渡してやらうとテー、カーの 言触れ神を遣はして旭もテルやヒルの国 花咲き匂ふハルの国出で行く足もカルの国 宇都の国まで跋渉し鏡の池にダヽヽ 大事の玉を供へたらキツと御神徳が有るぞやと あちらこちらと宣伝し其効空しからずして 数多の玉は集り来り眼光らし一々に 尋ねまはれど肝腎の黄金の玉は現はれぬ コヽヽヽこんな事何時迄やつて居つたとて 肝腎要の黄金の珍の神宝はデヽヽ 出て来ないとテ、カがブツブツ小言を称へ出す 竜国別の神司二人を宥めて待て暫し これ丈沢山いろいろの玉がやうやう寄つて来る 肝腎要の瑞宝はキツと一番後押へ モウ暫くの辛抱と宥めすかしつ待つ間に 木の間にひらめく白旗にオヽヽヽ黄金の 玉献上と記しつつ大勢の人数に送られて 御輿をかつぎ登り来る之を眺めたタヽヽ 鷹依姫は雀躍し岩窟内に忍び込み 様子如何にと窺へばテーナの里の酋長が 玉の御輿をかつぎ込み池の畔の石の上に 按置し乍らタヽヽ竜国別に打向ひ 私が宅の重宝で先祖代々伝はりし 黄金の玉を神様に献らむと夫婦連れ はるばる詣でマヽヽ参りましたカヽヽ 神主様よ一時も早く検め宝玉を 受取り神にオヽヽ御供へなさつて下されと 聞いたる時の嬉しさよテー、カー二人は宝玉を 入れたる筥を手に捧げ余りの事の嬉しさに 心は空に足許は真暗がりの岩角に 躓き倒れてドンブリと鏡の池に墜落し ソヽヽヽ其機みタヽヽヽ玉筥は 鷹依姫が隠れたる岩窟内の足許に 折よく飛んで来た故に月照彦神さまに 化けてゐたのを胴忘れ思はず外に飛び出せば 竜国別は肝潰しコレコレまうしお母アさま 今出られては仕様がないサツパリ化が現はれる 肝腎要の性念場ヘヽヽヽ拙劣なこと してお呉れたと口の中囁く胸の苦しさよ 正直一途の酋長は幸ひタヽヽヽ鷹依の 姫の姿を生神と一も二もなく信頼し 玉を渡して呉れた故カヽヽヽヽ神様に 対して誠に済まないが生神様の気取りにて 酋長夫婦に打向ひお前の身魂は清けれど モ少し垢が残つてる一日一夜滝水に 体を浄めて来るがよいさうしておいて酋長が アリナの滝へ往た後で瑪瑙の玉を取出し 黄金の玉とすりかへて悪い事とは知り乍ら 三千世界の人々を助ける為の御神宝 タヽヽヽ大功は小々々々小瑾を 顧みずと云ふ事もあるではないかと一行が 黄金の玉を引掴み錦の袋に納めつつ アリナの峰を打渡りアルゼンチンの大原野 ポプラ繁れる木の蔭に一夜を明かし待つ中に レコード破りの風が吹きテーリスタンも宝玉も 中空高く舞ひ上り玉は梢にブラ下がり テーリスタンは逆様に唸りを立てて落来り 人事不省の為態カヽヽヽカーリンス 竜国別も木の下に進み寄るよと見る中に ウンと一声顛倒し人事不省となりにける 鷹依姫は唯一人三人の男の介抱を 致せば漸く息を吹く草の庵を結びつつ ポプラの幹を包みたる蜈蚣や蛇の厭らしき 影消ゆる迄根比べ自然に玉の落つる迄 待つて居ろかと言ひ乍ら草の庵に立入りて 一夜を明かす折柄にケラケラケラと笑ひ声 妖怪変化と驚いて三人の男は泡を吹き 慄ひ居るこそ可笑しけれ鷹依姫は立出でて 怪しき声に打向ひ談判すれば此は如何に 尊き神の現はれて執着心をサヽヽ サツパリ放かせと諭さるる鷹依姫も我を折つて 生れ赤児と成り変り罪亡ぼしに四方の国 誠の道を開かむと櫟ケ原の草を分け 苺に喉をうるほせつ玉の湖水の傍に 繁れる椰子樹の雨宿り神に任せし此体 何時か如何なる災の迫り来るやも計られず 記念の為に一行の姿を刻みおかうかと 竜国別が心をばこめて作りし石の像 後に残してアル湊四人は此処に船に乗り 北へ北へと進む折吾れは誤り海中に 陥り水底フヽヽヽ深く沈みてありけるが 竜国別は吾母の危難を救ひ助けむと 身を躍らして飛込みぬ続いてテー、カー両人も 吾等親子を助けむと飛込みたるぞ健気なれ 大道別の分霊琴平別の亀の背に 四人は無事に助けられ波に泛びてやうやうに ゼムの湊に送られて茲に四人は天祥の 山にかかれる大滝に心の垢を浄めむと 進みよる折マール、ボール二人の男が怪獣に 悩まされむとする所天津祝詞を奏上し 危き所を救ひやりそれより山河伝ひつつ チンの湊に安着し船を造りて真帆をあげ アマゾン川を溯り広袤千里の玉の森 モールバンドを言霊の力に言向け和さむと 四人はやうやう森の中探り探りて奥深く 今は迷ひの最中ぞタヽヽヽ高姫よ 一時も早く玉の森現はれまして吾々が コヽヽヽ此度の神業を助け玉へかし あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて マールの身魂に神懸り鷹依姫の生霊 ここに現はれ願ぎまつるウンウンウンと飛びあがり 跳ねまはりつつ元の如マールは正気に復しけり。 これより高姫はマール、ボールに暇を告げ、天祥山の麓を巡り、夜を日に継いでチンの湊に出で、それより船を求めて鷹依姫の迷ひ苦む玉の森に四人を救ひ出すべく進み行く。惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・一三旧六・二一松村真澄録) |
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80 (1983) |
霊界物語 | 30_巳_南米物語2 末子姫と言依別命の旅 | 04 懐旧の歌 | 第四章懐旧の歌〔八四六〕 末子姫は新にバラモン教の石熊の帰順を許し、捨子姫、カールの四人連れ、漸くにしてテル山峠の頂上に辿り着いた。 石熊『サア此処が有名なテル山峠の頂上で御座います。黄泉比良坂の大戦以前に、珍の都の正鹿山津見の神様の御娘、松竹梅の宣伝使が始めて宣伝の初陣に此処を、蚊々虎と云ふ天教山の木の花姫の神様の化神に導かれて、お通り遊ばし、松竹梅の宣伝使は遥々と珍の都を振返り、両親に訣別の歌を歌はれた所です[※第9巻第13章「訣別の歌」参照]。随分連山重畳として四方に拡がり、大西洋の波は霞の如く棚引き、何とも云へぬ絶景の地点で御座います。茲で一つ汗を入れて、ボツボツ降る事に致しませうか』 末子『何とも云へぬ涼しい風が御座いますなア。勿体ない事乍ら、此処で少時休息して参る事に致しませう。どうせ二日や三日歩いたつて珍の都へは容易に行けませぬから……』 捨子『つい目の下に見えて居るようですが、随分里程があると見えますなア』 カール『モシ、末子姫様、松竹梅の宣伝使がここで懐郷の念に駆られて訣別の歌をよまれた旧蹟ですから、貴女も一つテルの国を別れるに臨み、得意の御言霊を以てお歌ひ下さつては如何でせう』 末子『オホヽヽヽ、お恥かしい事ですが、左様な結構な宣伝使の御歌ひになつた由緒ある地点と聞けば、歌はずには居られますまい。……捨子姫さま、あなたも一つ御歌ひになつたら如何でせう』 捨子『先づ貴女から先にお口を切つて下さいませ。私も驥尾に附して蛇足を添へますから……』 末子姫は山上の涼しき風に吹かれつつ、声調ゆるやかに歌ひ始めたり。 末子姫『神の都のエルサレム天使の長と現れませる 桃上彦の大神は松竹梅の三柱の いたいけ盛の娘子を珍の館に残しおき 聖地の混乱後にして見るもいぶせき船に乗り 命からがら和田の原漕ぎ出で玉ふ折柄に 尊き神の御恵に一度は竜宮の金門守り 乙米姫に助けられ悲しき月日を送る折 天教山に現れませる神伊邪諾大神の 珍の御子と現れませる日の出神に助けられ 琴平別の亀に乗り淤縢山津見と諸共に 此高砂に安着し珍の都に出でまして 三五教を広めまし珍山峠を乗越えて 心の空もハルの国鷹取別の守りたる ハルの城下に出でまして数多の敵に取巻かれ 所構はず突き刺され沙漠の中に埋められ 命カラガラハルの国逃げ出でまして珍山の 谷間に湧き出る温泉に病を養ひゐます折 淤縢山津見や蚊々虎の神の司に巡り会ひ 駒山彦や五月姫一行五人は天雲の 山の尾の上を打渉り大蛇の船に乗せられて やうやうウヅの都まで帰らせ玉ひて五月姫 珍山彦の媒酌に鴛鴦の衾の契をば 結び玉ひし芽出たさよ五月五日の夕間暮 聖地を後に三人の松竹梅の愛娘 訪ね来りて親と子の嬉しき対面遊ばせし 珍の都は白雲の彼方に幽かに見えにけり 茲に三人の姉妹は神の教を伝へむと 草鞋脚絆に身をかため父の命や母命 二人に暇を告げ乍ら三人の司に伴はれ 此れの峠に登りまし父と母とに訣別の 名残を惜しみ玉ひたる心の色もテル山の 昔思へばなつかしや妾も同じ八乙女の か弱き身にて斎苑館鎮まりゐます父上の 膝元離れて遥々とメソポタミヤの顕恩郷 それより進んで波斯の国教を開く折柄に バラモン教の人々に捉まへられて和田の原 便り渚の捨小舟八人乙女はちりぢりに 神の仕組か白波の上漕ぎ渡る悲しさよ 神の恵の幸はひて汐の八百路も恙なく 魔神を払ふハラ港テルの国をばスタスタと 東を指して進み来るテル山峠の山麓に 三五教の神司罪もカールの神人に 思ひ掛けなく巡り合ひ乾の滝に立寄りて 其壮大を賞めゐたる時しもあれや滝の上に さも凄じき目を見はり大口開けて睨み居る 醜の大蛇に魅せられて巌の片方に石熊の 神の司が直立し苦み玉ふ憐れさよ 直日に見直し聞き直す神の御前に村肝の 心を捧げて願ぎ奉る吾言霊は天地に 忽ち通ひて石熊の神の宮居は自由自在 大蛇は直に解脱して雲を霞と消え失せぬ 心も固き石熊が赤き心を推し測り 神の大道を共々に伝へ行かむと宣伝歌 歌ひて漸く山頂に登りて後を眺むれば 山河草木麗しく神の恵の充ち足らひ 天国浄土の有様を隈なく現し玉ひける あゝ惟神々々神の恵の著じるく 教の花のいと清く吾等は茲にやすやすと 珍とテルとの国境四方を見おろす雲の上に 立ちしは神の御恵みぞさは去り乍ら吾父の 神の尊は今何処あが姉妹の五十子姫 愛子の姫を始めとし五人の姉は如何にして 此世を過ぐさせ玉ふらむ行方も知らぬ波の上 雲の彼方を打眺め朝な夕なにあが父や 姉の命の消息を思ひ煩ふあが心 いつしか晴れむ常暗の帳は開けて天津空 月日も清くテル山の山の尾の上の風清く 心楽き松の世の親子姉妹一時に 嬉しき顔を五六七の世神のまにまに高砂の 此神島に身を忍び神の教に仕へなむ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と述懐の歌を歌ひ、恰好な腰掛岩の上に身を托し、汗を拭ふ。捨子姫は風に面を吹かれつつ、さも愉快げに四方を見晴らし乍ら、体を東西南北に回転しつつ、歌ひ始めたり。 捨子姫『東や西や北南四方の国型眺むれば 大海原に浮びたる高砂島の名に恥ぢず 太平松や楠堅木槻の大木は青々と 見わたす限り山々に茂り合ひたる麗しさ 天国浄土も目のあたり眺めて暮す心地して 旅のうさをも打忘れ神素盞嗚大神の 珍の御子と現れませる姿優しき末子姫 主人の君と仰ぎつつ何れの里か白雲の 空を眺めて海の上やうやうここに渡り来て 月日も清くテル山の尾の上に登りて眺むれば 吹来る風も芳ばしく木々の梢は花盛り 味よき木実は限りなく枝もたわわに充ち足らひ 飢ゆる事なく吾々は喉も乾かず楽みて 常世の春に会ふ心地天地を造り玉ひたる 元つ御祖の大神の開き玉ひし三五の 教の司と任けられて何処を果てとも長の旅 進み来るぞ楽けれあゝ惟神々々 神の御霊の幸はひて世人の為に玉の緒の 生命を捨子の神司末子の姫の側近く 仕へ奉りて永久に太き功績を立てまつり 神の御子と生れたるあが天職をまつぶさに 尽させ玉へ天津神国津神たち八百万 殊に尊き国治立の厳の尊や豊国姫の 瑞の尊の御前に誠をこめて願ぎまつる あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 天教山に現れませる天照します大神の 珍の御前に逸早く八岐大蛇を言向けて 神素盞嗚大神が一日も早く功績を 高天原に参上ぼり大蛇の呑みたる村雲の 剣を手早く大神の御前に奉らせ玉へかし 瑞の御霊の大神の八人乙女の末の子と 現れ出でませる末子姫かしづき奉る捨子姫 新に仕へし石熊の神の司や三五の 道を歩めるカール迄厚く守らせ玉ひつつ 五六七の御世の神政に清く使はせ玉へかし 神は吾等と倶にます吾等は神の子神の宮 雲井の上に千木高く仕へまつりて宮柱 太しく立てて大神の御前に清く復り言 詳さに申させ玉へかし旭は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも高砂島は沈むとも 曲津は猛く攻め来とも神に仕へし吾身魂 五六七の御世の末迄も変らざらまし神の前 慎み誓ひ奉るさはさり乍らコーカスの 山にゐませし素盞嗚の神の尊は今何処 日の出別や言依別の神の命は如何にして 道に尽させ玉ふらむ五十子の姫や愛子姫 英子の姫は今何処別れて程経し吾々は 音づる由も波の上清く泛べる高砂の テル山峠の頂上に後振返り振返り 哀別離苦の感深しあゝ皇神よ皇神よ 御霊のふゆを幸はひて一日も早く大神に 吾等を会はせ玉へかし女心の一筋に 遥に拝み奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましせよ』 と歌ひ終り、これより末子姫を先頭に一行四人はテル山峠を東に降り行く。 (大正一一・八・一四旧六・二二松村真澄録) (昭和一〇・六・九王仁校正) |