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霊界物語 51_寅_浮木の森の曲輪城 02 怪獣策 第二章怪獣策〔一三一七〕 初、徳の両人は種々と馳走を拵へ、酒を沢山に燗して二人の前に恭しく並べた。 初『私は此お館の新役員で厶います。魔我彦様にお引立に預りまして、つい此間から幹部に選定されました。今迄はウラル教の信徒で厶いましたが、余り此お館にお祀りしてある神様の御威勢が高いので、ついお参りする気になり、信者として四五日籠つてる中、抜擢されまして、今では魔我彦様の御用を聞いて居ります。炊事なんかするやうな地位では厶いませぬが、今日は特別を以て、文助様の御命令により、料理法の粋を尽して拵へて参りました。どうでお口には合ひますまいが、何卒一つ召上つて下さいますやう御願ひ致します。たまたまのお越し故、可成山海の珍味を以て献立がしたいので厶いますが、余り俄かのお出で材料が欠乏致し不都合で厶います』 高姫『ヤ、お前は魔我彦の家来かな、成程、下り眉毛の、一寸面白い顔だな。之から此高姫が此処の教主だから、其積りで居つて下さい。そしてここの信者は幾ら程あるかな』 初『ヘーお初にお目にかかつて、顔の批評までして頂きまして、イヤもう感服致しました。まだ新任早々の事で、ハツキリは分りませぬが、トツ百ばかり、あるとか、ないとか言ふことで厶います。魔我彦さまも、この調子なら、今にパツ百人ほど殖えるだらうと申して居りました。貴女は噂に……イ……高き、ダカ姫さまで厶いますかな。どうもよくお出で下さいました。そして立派な男様は貴女様の御主人でゐらせられますか、どうも御夫婦打揃ひ、御出張下さいました段、やつがれ身にとりまして、恐悦至極に存じ奉りまする』 高姫『何と面白い男だなア、ヤ御馳走さま、これからお腹もすいたなり、一寸くたぶれたからゆつくりと頂きませう』 初『私で宜しう厶いますれば、一寸お酌をさして頂きませうかな。私も余り、飲めぬ口でも厶いませぬから……』 高姫『ヤ、結構で厶います、何れ用があつたら、此鈴をふりますから来て下さい』 初『承知致しました、それぢやお菊さまにお給仕をして貰ひませう』 お菊『コレ初さま、厭だよ、誰がこんな小父さまや小母さまのお給仕するものかい。私がお給仕するのは万さまだよ。イヒヒヒ、すみませぬなア、お構ひさま』 妖幻『オイお菊とやら、此杢助に一つ注いではくれまいか。お前の若い手で注いで貰ふのは、余り気持が悪うはない。高姫さまといふ天下一の別嬪さまがついて厶るのだから可いやうなものの、又変つたのも、此方の気が変つていいかも知れない』 お菊『いやですよ、之からお千代さまと遊んで来なならぬワ、待合の酌婦ぢやあるまいし……御夫婦さま仲よう、シンネコでお楽しみ……御免よ』 と逃げるやうにして、腮を三つ四つしやくりながら、肩をあげ首をすくめ、両手を前へパツと開き揃へ、 お菊『イツヒヒヒ』 と胴までしやくつて、飛出して了つた。後に二人はイチヤイチヤ言ひながら、酒を汲みかはし始めた。 高姫『コレ杢助さま、松姫だつて、文助だつて、中々さう易々と服従するものぢやありませぬよ。口先では立派な事言つて居つても、心の底は容易に帰順致しませぬよ。あのお菊だつて、中々手に合はぬぢやありませぬか、此奴は一つ、何とか工夫をせなくちやなりませぬよ』 妖幻坊の杢助『兎も角、あの初と徳とを此処へ呼んで、酒でも飲ませ、腸までよく調べて、其上でこちらの味方を拵へておかねば、駄目だと思ふ。何程お前が義理天上だと云つても、杢助だと云つても、松姫の外、俺の顔を知つた者はないのだからな』 高姫『ソリヤさうですな、それなら一つ、初と徳を呼んで酒を飲ましてやりませうかい』 妖幻坊の杢助『ウン、それが可い、就いては、あのお菊も此処へよせて、酌をさせるがよからう。さうでなくちや、彼奴、一すぢ縄ではいかぬ奴だから、甘く手の中へ丸めておく必要があらうぞ』 高姫『貴方は又、お菊に秋波を送つてゐるのですか、エーエ油断のならぬ男だなア、それだから義理天上さまが、お前を目放しするなと仰有るのだ。本当に気のもめる男だな。私の好く人、又人が好く……といふ事がある。こんないい男を夫に持つと、此高姫も気のもめる事だワイ』 妖幻坊の杢助『まるで監視付だなア、高等要視察人みたいなものだ。あああ、こんな事なら、今までの通り、独身生活をして居つたらよかつたに、娘の初稚姫にだつて、何だか恥しくつて、顔さへ合されもせないワ。娘どころか犬にさへ恥しいやうだ。それだから、俺はあの犬は嫌といふのだ』 高姫『お前さまは、二つ目にはいぬいぬと仰有るが、何程いぬと云つても、綱をかけたら帰なしはせぬぞや。いぬなら帰んでみなさい。仮令十万億土の底までも探し求めて、お前さまの胸倉をグツと取り、恨をはらしますぞや』 妖幻坊の杢助『あああ、怖い事だなア。それなら今後はおとなしう御用を承はりませう。義理天上様、金毛九尾様、今日限り改悪致しますから、お許しを願ひます、エヘヘヘヘ』 高姫『何なつと、いつてゐらつしやい、どうでこんな婆アはお菊には比べものになりませぬから』 妖幻坊の杢助『それなら、女王様の御命令を遵奉し、ドツと改悪致して、お菊は入れない事にし、初公と徳公を、ここへ呼んで、ドツサリ酒を飲まさうぢやないか』 次の間から、 初、徳『ヘー、初も徳もここに居ります。お相手を致しませう』 とまだ呼びもせぬ先から、喉がグーグーいつて仕方がないので、襖をあけて、ヌツと顔を出した。 高姫『コレ、初さま、徳さま、お前は最前から私達の話を聞いて居つたのだなア』 初『ヘー、大命一下、時刻を移さず、御用に立たむと、次の間に手具脛引いて控へて居りました。イヤもうドツサリと結構なお二人様の情話を聞かして頂き、有難いこつて厶りました。あれだけ結構な話を聞かして頂いた以上は、一杯や二杯奢つて下さつても損はいきますまい。のう徳公、本当に羨ましいぢやないか』 妖幻『ハハハハ、どうも気の利いた男だ、お前達二人は小北山に似合はぬ立派な者だ。こんな立派な役員が、吾々の来るに先立ち、おいてあるとは、全く神様のお仕組だ。オイ、初公さま、徳公さま、俺の盃を一杯うけてくれ』 初『イヤ、これはこれは御勿体ない、お手づから頂きまして、実に光栄です、なア徳よ』 徳『ウン有難いなア、こんな事が毎日あると尚結構だがなア』 妖幻『朝顔形の盃はないかなア』 徳『ヘー、朝顔形の盃も沢山厶いましたが、前の教主様が、高姫さまの唇に似てると仰有つたので、お寅さまと云ふ内証のレコが、悋気して皆破つて了はれたさうで、今では一つも厶いませぬ』 妖幻坊の杢助『フフフフフ、さうすると、此盃は敗残の兵ばかりだな。打ちもらされし郎党ばかりか、ヤヤ面白い面白い、サ、徳公、一杯行かう』 徳『ヤ、これはこれは誠に以て有難く頂戴いたします。酒といふものは百薬の長とかいつて、いいものですな、かう青々とした春の野を眺めて、一杯やる心持と云つたら本当に譬へやうがありませぬワ、どうぞ之から貴方等御両人の指揮命令を遵奉致しますから、可愛がつて下さいや』 妖幻坊の杢助『ウン、よしよし、併し蠑螈別と此杢助とは、どちらがお前は偉大なと思ふ』 初『ソリヤきまつて居ります。背い恰好と云ひ男振と云ひ、天地の違ひで厶りますワ』 妖幻坊の杢助『どちらが天で、どちらが地だ』 初『そこがサ、テーンと、イー私には分らぬ所です。併し、チーとばかり劣つて居りますなア』 妖幻坊の杢助『どちらが劣つて居るのだ』 初『杢助様、言はいでも分つてるぢやありませぬか。劣つた方が劣つてるのですもの、高姫さまの前だから、何方へ団扇をあげて可いだやら、マア言はぬが花ですなア、夫婦喧嘩をたきつけるやうな事があつては誠にすみませぬから……』 妖幻坊の杢助『ハハハハ、其奴ア面白い、マア言はぬが宜からう』 高姫『コレ初、構はないから言つておくれ、私だつて何時までも、蠑螈別さまの事など思つてはゐやしないよ。あの方は大広木正宗さまの生宮だつたが、今はサツパリ三五教へ沈没したのだから、最早普通の人格者としても認めてゐないよ。何卒蠑螈別さまのこた、言はぬよにして下さい』 初『モシ、高姫さま、ここはウラナイ教ぢやありませぬよ、松彦さまがお出でになつてから、ユラリ彦さまや義理天上さま、ヘグレ神社其外、サーパリ、ガラクタ神をおつ放り出し、残らず三五教の神様と祀り替へてあるのですから、蠑螈別さまが三五教へお入りになつたのが悪い筈はないぢやありませぬか、さうすると今は貴女は三五教ぢやないのですか』 高姫『コレ初さま、お前も野暮な事をいふものぢやない、神の奥には奥があり、表には裏があるのだ。此高姫だつて、表面は三五教になつてるけれど、矢張りウラナイ教だよ。世の中は一通りや二通りでいくものでないから、お前も其精神で居つて下さい。これからお前等二人を杢助さまの両腕として出世をさして上げるから、さうすりや文助さまを頤でつかふやうになるよ、今に受付の命令をハイハイと聞いてるやうぢや詮らぬぢやないか』 初『イヤ、分りました。のう徳公、貴様も賛成だらう』 徳『ウーン、お前が賛成すりや、賛成しない訳にも行かぬワ、併しながら松姫さまは何うだろ、こんな事を御承知なさるだらうかなア』 初『ソリヤ高姫さまの腕にあるのだ、俺達や、只御両人の頤使に従つて居れば可いぢやないか』 お菊は外から、窓へ顔をあて、四人の酒を飲んでゐるのを見て、あどけない声でうたつてゐる。 お菊『天に口あり壁に耳企んだ企んだ陰謀を お菊はソツと両人の腹の中まで推知して 一寸其処まで出て来ると甘くゴマかし戸の外で スツカリ様子を窺へば耳をペロペロ動かして 尖つた口をしながらも高姫さまと意茶ついた 揚句のはてが小北山此神殿をウマウマと 占領せむとの企みごと初公、徳公両人を うまく抱込み酒飲ましさうして之から松姫の 目を晦まして義理天上日の出神の生宮と 居据り泥棒をする積り何程高姫偉いとて どうしてどうして松姫の鏡のやうな魂を 曇らすことが出来ようかそんな悪事を企むより 早く改悪するがよい改心するにも程がある オツトドツコイこりや違うたさはさりながら高姫は 善をば悪と取違へ悪をば善と確信し 改心慢心ゴチヤまぜになさつて厶るお方故 私も一寸其流儀臨時に使用しましたよ コレコレもうし杢さまえ蠑螈別の思ひ者 朝顔猪口の高さまえ何程お前等両人が 初と徳とを抱込んでうまい事をばしようとしても 忽ち陰謀露顕して逃げていなねばならぬぞや 松姫さまがお前等の詐り言を真に受けて 聞かれたとこが此お菊中々承知は致さない 侠客娘と名を取つた浮木の森のチヤキチヤキだ オホホホホホホオホホホホ窓から中を眺むれば あのマア詮らぬ顔ワイナイヒヒヒヒヒヒイヒヒヒヒ 杢ちやま、高ちやま左様ならゆつくり陰謀お企みよ あとからあとから此お菊叩きつぶしてゆく程に 何だか知らぬが杢さまの姿が時々変り出し 耳の動くはまだおろか口までチヨイチヨイ尖り出し 鼻より高うなつてゐる私が一寸首ひねり 考へました結末は虎と獅子との混血児 金毛九尾と御夫婦になつてここまで小北山 貴の聖場を占領し朝から晩まで酒のんで 威張り散らさむ計劃か但はここに網を張り 斎苑の館へ往来する数多の信者を引捉へ 堕落さした上ウラナイの醜の教に引込んで 此世の中を泥海に濁らし汚すつもりだろ 何程弁解したとてもお菊がここにある限り お前の企みは駄目だぞえああ面白い面白い 面白うなつて来ましたよ妖幻坊の杢助や 金毛九尾の義理天上鼻高姫の運の尽 松姫さまの神力とお千代の方の神懸 さとき眼に睨まれて尻尾を出しスタスタと 忽ち此場を駆出すは鏡にかけて見るやうだ 悪魔がそんな扮装をして大日の照るのに吾々を 化かそとしても反対に化けが現はれ舌かんで 旭に打たれて消えるだろそれ故お前杢助は 祠の森にゐた時ゆ日輪様の照る所へ 一度も出たこたないぢやないかたまたま外へ出た時は 日蔭の深き森の中初稚姫の伴ひし スマートさまにやらはれてビリビリ慄うてゐただらう お菊はチツとも知らないが何だか知らぬが腹の中 グルグルグルと玉ころが喉元迄もつきつめて 妙な事をば云ひますぞこれこれ高姫、杢さまよ 初公、徳公両人よ胸に手をあて思案して 臍をかむよな事をすな誠の日の出の義理天上 お菊の体をかりまして四人の獣に気をつける ああ惟神々々目玉飛び出しましませよ アハハハハハハアハハハハオホホホホホホオホホホホ』 と歌ひ了り、一生懸命に青葉の芽ぐむ森林の中へ脱兎の如く身を隠して了つた。 妖幻『オイ高姫、ありや気違ひぢやないか。困つた、此処にはモノが居るぢやないか。あんな事を言はしておきや、数多の信者を迷はすかも知れない。何とかして、窘めてやらねばなるまいぞ』 高姫『本当に、仕方のない奴ですワ、松姫さまも、なぜあんな気違ひを置いとくのだらうなア。コレ初公さま、いつも、あのお菊はあんな事を言ふのかい』 初『ヘー、随分誰にでもヅケヅケといふ女ですよ。併しながら今日みたいな悪口云つたこた、まだ聞きませぬな、あの女の云ふ事は、比較的正確だとの定評があります』 高姫『定評があると云ふからには、お前達は吾々夫婦を怪しいものと観察してゐるのかい』 初『ヘー、別に……怪しいとは思ひませぬ。只貴方等両人の仲は、ヘヘヘヘ、チと怪しくないかと直覚致しました、違ひますかな』 高姫『杢助さまと夫婦になつたのが、何が怪しいのだ。神と神との許し給うた結構な生宮だぞえ。神だとて夫婦がなければ、陰陽の水火が合はないから、天地造化の神業が成功せないぢやないか』 初『ヤ、さうキツパリと承はりますれば、今後は其考へでお仕へ致します。さうすると杢助様は貴女の旦那で厶いますか。よくお似合ひました夫婦で厶います。ヘヘヘヘ、イヤもうお目出度う、それでは今日は御婚礼の御披露の酒とも申すべきものですな、ドツサリ頂戴致しませう。誠に御馳走さまで』 徳『オイ、初ウ、さう御礼を言ふに及ばぬぢやないか、お酒も御馳走の材料も、皆小北山の物でしたのなり、料理も俺達二人がしたのだ。そして新夫婦に、こちらから振舞つてゐるのだから、御馳走さまも何もあつたものかい、先方の方から礼を云つたら可いのだ』 高姫『コレ、徳とやら、お前の云ふ事は一応理窟があるやうだが、それは神界の事の解らぬ八衢人間の云ふ理窟だぞえ。現界の理窟は霊界には通じませぬぞや。かうして御馳走が出来るやうになつたのも、皆天上から日の出神様が御光を投げ与へ、雨露を降らして下さるお蔭で、五穀、さわもの、菜園物一切が出来てるぢやないか、其生神様にお給仕さして頂くお前は誠に結構だ。神の方から御礼申すといふ理窟がどこにあるものかい。チツとお前も神界の勉強をしなさい、さうすりや、そんな小言は云はないやうになつて了ひますよ』 徳『ヘー、何とマア都合の好い教理で厶いますこと』 高姫『コレ、お前は義理天上の云ふ事が、どうしても腹へ入らぬのかなア』 徳『ヘー、さう俄かに入りにくう厶います。何分お酒や御飯で格納庫が充実してゐますから、今の所では余地が厶いませぬ』 高姫『何とマア盲ばかりだなア、そら其筈だ、霊国の天人の霊と、八衢人間の霊とだから無理もない、お前さまもチツと之から日の出神様の筆先を読みなさい。さうすれば三千世界の事が見えすくやうになるだらう、コレ初さまえ、お前はチツと賢さうな顔してるが、高姫のいふ事が分つたかなア』 初『ハイ、仰せの通り、此お土の上に出来たものは皆神様のお力で厶います。何程立派な人間でも、菜の葉一枚生み出すことは出来ませぬ、仰せ御尤もだと考へます』 高姫『成程、お前は偉いわい、之から杢助様の片腕にして上げるから、どうだ嬉しうないか、結構だらうがな。何といつても三五教の三羽烏の一人、時置師神様だぞえ』 初『ハイ、身に余る光栄で厶います。オイ、徳、貴様も改心して、結構だといはぬかい……否改悪して、貴女の仰有る通りだ、と、心はどうでもいい、いつておかぬかい。社交の下手な奴だなア』 徳『それなら高姫さまの御説に、ドツと改悪して賛成致します。何卒宜しう御願ひ申します』 高姫『心からの改心でなければ駄目だぞえ。ウツフフフフ、コレ杢助さま、人民を改心さすのは高姫に限りませうがな』 妖幻坊は俄に体が震ひ出した。窓の外を一寸覗いて見ると、猛犬が矢の如く階段を登つて、松姫館の方へ姿を隠した。高姫はアツと一声、ドスンと腰を下し、目を白黒してゐる。妖幻坊も亦冷汗をズツポリかき、ガタガタと震ひ戦くこと益々甚しい。 (窓外白雪皚々たり大正一二・一・二五旧一一・一二・九松村真澄録)
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霊界物語 52_卯_小北山の文助の改心物語 24 応対盗 第二四章応対盗〔一三六〇〕 十五六人の精霊は忽ち高姫の周囲に集まり来つて、ワイワイと喚いてゐる。高姫は漸くにして立上り、道端の方形の石に腰打ち掛け、十数人の人を前におきながら、脱線だらけの宣伝を始めかけた。 高姫『コレコレ皆さま、高姫が大道演説を致しますから、よつくお聞きなされ。此世の中は素盞嗚尊の悪神の為に、天の岩戸はピツタリとしまつて、悪魔は天下に横行し、魑魅魍魎充満する暗黒世界ではありませぬか。此世を此儘にしておいたならば、結構な此お土の上は、忽ち餓鬼道、畜生道、修羅道、地獄道に陥りますぞや。お前さま等は、営々兀々として、私利私欲のために日夜奔走し、欲にからまれ、疲れ切つて顔色憔悴し、殆ど餓鬼のやうで厶いますぞ。此世からなる地獄道の苦しみを致しながら、こんな結構な世はないと申して喜んで厶る其憐れさ。至仁至愛の大神様は此惨状をみるに忍びず、時節参りて、永らく艮の隅に押し込められて厶つた艮の金神大国常立尊様が稚姫君命の霊の憑りた変性男子の肉宮をかつて、三千世界の立替立直しを遊ばすやうになりましたぞや。それに就いては、世に落ちて厶つた八百万の神様を世にあげて、それぞれお名をつけ、祭つて上げねば神国にはなりませぬ。今度のお役にお立ち遊ばすのは、永らく竜宮の海の底にお住ひなされた乙姫殿が第一番に改心を遊ばして、義理天上の日の出神と引添うて、外国での御用を遊ばすなり、金勝要神は大地の金神様で、余り我が強うて、汚い所へ押し込まれ、雪隠の神とまで成り下り、今度世に上げて貰うても、ヤツパリ我が強いので、御大望の邪魔になるばかりで、どうにもかうにも仕方がないので、系統の霊を世に落して義理天上の生宮となし、大将軍様の憑つた肉体を夫と遊ばして、三千世界の御用にお使ひなされたなれど、此大将軍様の肉宮はチツとも間に合はぬによつて、三五教の三羽烏と聞えたる時置師神様を、此肉宮の夫と致し、立替立直しの御用を遊ばす仕組で厶るぞや。それに就いては大広木正宗殿の霊も御用に使うて、結構な五六七の世をお立て遊ばすのだから、此高姫は三千世界の救主、皆さま耳をさらへて、よつく聞きなされ。八岐大蛇も金毛九尾の悪神も、グツと肚へ締め込んで改心をさせるのが、日の出神の生宮だ。世界の人民は皆盲だから、此結構な肉宮の申すことが耳には入らうまいがな。改心するなら、今の中ぢやぞえ。後の改心は間に合はぬぞや。此中で誠の分りた人民があるなれば、手を挙げてごらんなさい。喜んで此方の眷属と致して結構な御用に使ふぞや』 群集の中よりヌツと顔を出したのは、お年であつた。お年は高姫の前に進み寄り、其手をグツと握り、 お年『モシ高姫様、父が生前に御世話になりまして有難う厶ります』 高姫『お前は誰だか知らぬが、これだけ沢山居る中に、此生宮の言ふことが分らぬ盲ばかりだとみえて、手を挙げと言うても、一人も手を挙げる餓鬼やありませぬワイ。それに又お前は奇篤なことだ。一体誰の娘だい』 お年『ハイ、文助の娘で厶います』 高姫『ナニ、文助の娘に……そんな大きな女があるものか、此奴ア不思議だなア……ハハア、分つた、あの爺、素知らぬ顔をして居つて、秘密で女を拵へ、こんな子を生んどきよつたのだな。何とマア油断のならぬ男だわい、オホホホホ』 お年『イエイエ、私は三つの年に現界を離れて、此処へ来た者で厶います。お蔭で此様に立派に成人致しました』 高姫『ハハア、妙な事を云ふ女だな。お前キ印ぢやないかい。どこともなしに文助によく似てゐるやうだが、おとし子なれば、こんな子があるだらうが、三つの時に死んだものが、此世に生きてる筈がない……ハテナア』 お年『高姫様、此処は冥土の八衢で厶いますよ。決して現界ぢや厶いませぬ。かうして沢山の人が此処に集まつてゐるのも、皆現界と幽界の精霊ばかりですワ』 高姫『一寸待つておくれ、一つ考へ直さねばなるまい。さう聞くと何だか、そこらの様子が違ふやうだ。お前が三つの年に霊界へ来て、こんなに成人したとは、テモ偖も不思議なことだ、ウーン』 と舌をかみ、首を傾けて思案にくれてゐる。白い色の守衛は、大勢の者を一々手招きした。先づ第一に招かれて近寄つたのは、八十ばかりの杖をついた老爺である。 白の守衛『其方は何と云ふ名だ』 爺(敬助)『ハイ私は敬助と申します』 白の守衛『どつか具合が悪いか、チツと顔色が悪いぢやないか』 敬助『何だか、停車場のやうな所へ行つて居つたと思へば、私の胸に行当つたものがある。其際に、ハツと思つたと思へば、いつの間にか斯様な所へやつて来ました』 白の守衛『年齢は幾つだ』 敬助『ハイ六十歳で厶います』 白の守衛『余り頭が白いので、八十ばかりに見えた。お前は余程ハラの悪い男だなア、ヱルサレムの宮を部下の奴に命じて叩き潰したのは其方だらう』 敬助『イエ滅相な、決して私ぢやありませぬ。片山君が命令を致しましたので、其命令を聞かねば、到底、泥棒会社の社長が勤まりませぬので、止むを得ず部下に命令を致しました。決して主犯では厶いませぬ』 白の守衛『さうするとお前は従犯だな。ヨシヨシ、此奴ア容易に俺の手には合はぬ。伊吹戸主神様に、厳格なる審判を御願ひするであらう、サ、此門を通れ』 と白の守衛は門内へつき入れて了つた。白髪の爺はヒヨロヒヨロしながら、屠所の羊の様に歩み行く。後には細長い六十位な男が白に審判を受けてゐる。 白の守衛『其方は何者だ、ネームを名乗れ』 爺(片山狂介)『ハイ私は片山狂介と申します』 白の守衛『成程、随分軍閥でバリついたものだな。お前の為に幾万の精霊を幽界へ送つたか分らぬ、幽界にては大変に名高い男だ。これも此処で審判く訳には行かぬ。サア、奥へ行けツ』 と又もや門内へ押込んだ。次にやつて来た爺は鉄の杖をついてゐる。 白の守衛『其方は高田悪次郎ではないか』 高田悪次郎『ハイ、私は表善裏悪の張本人、世界一の富豪にならうと思うて、随分活動致しました。併しながら不慮の災難によつて、かやうな所へ迷ひ込み、誠に面目次第も厶いませぬ』 白の守衛『其杖は鉄ぢやないか、左様な物を、なぜこんな所まで持つて来るか』 高田悪次郎『これは鬼に鉄棒と申しまして、現界に居る時から、鬼の役を勤めて居りました。此鉄棒を以て、凡ての銀行会社を叩き壊し、皆一つに集めて巨万の富を積んだ唯一の武器で厶いますから、こればかりはどこ迄も放すことは出来ませぬ』 白の守衛『此鉄棒はこちらに預かる。サア、キリキリ渡して行け』 高田悪次郎『滅相もない、命より大切な鉄棒、どうしてこれが渡されませうかい』 白の守衛『お前が之を持つてゐると、伊吹戸主の審判に会うた時は、キツと地獄の底へ堕ちるぞよ。それで此処で渡して行けと云ふのだ。さうすると八衢の世界へおいて貰ふやうになるかも知れぬから』 高田悪次郎『滅相もないこと仰有いませ。そんな甘いことを云つて、泥棒しようと思うても其手には乗りませぬぞ。此鉄棒は斯うみえても二億円の価値があるのです。此鉄の棒から生み出した二億円、言はば此棒は二億円の手形のやうなものだ。何時地獄へやられても、これさへあれば大丈夫だ。地獄の沙汰も金次第、如何なる鬼も閻魔も之にて忽ちやつつけて了ひ、地獄界の王者となる重宝な宝だ。何と云つても之ばかりは渡しませぬから諦めて下さい』 かかる所へ、赤面の守衛がやつて来た。 赤の守衛『ヤア、お前は高田悪次郎ぢやな。よい所へ出てうせた。サア、奥へ来い、其鉄棒は門内へ一歩も持込むことは罷りならぬぞ』 高田悪次郎『ハハハハハ、冥土の八衢か何か知らぬが、体のよい泥棒が徘徊するとこだワイ。之は高田が唯一の武器だ。誰が何と申しても放しは致さぬ、放せるなら放してみい。如何なる権力も神力も金の前には屈服致さねばなるまいぞ』 赤の守衛『馬鹿者だなア。霊界に於て、物質上の宝がいるものか。金が覇を利かすのは、暗黒なる現界に於てのみだ』 高田悪次郎『それでも、地獄の沙汰も金次第といふぢやありませぬか』 赤の守衛『金を以て左右致すのは、所謂地獄の行り方だ』 高田悪次郎『それ御覧、何れ私のやうな者は天国へ行ける気遣ひはない。生前より地獄行と覚悟はしてゐたのだ。それだから、地獄へ行けば金の必要がある、何と云つても之は放しませぬワイ』 赤の守衛『さうすると、貴様は天国よりも地獄が可いのだな』 高田悪次郎『さうですとも、地獄の方が人間も沢山居るだらうし、金さへあれば覇が利くのだから、どうか地獄へやつて貰ひたいものです。何程地獄だつて、二億円の金さへあれば何でも出来ますからな』 赤の守衛『さう云ふ不心得な奴に、金を持たして地獄へやる事は罷り成らぬ。ここにおいて行け』 高田悪次郎『何と云つても、此奴ばかりは放しませぬよ』 赤の守衛『然らば、此方の力で放してみせう』 「ウン」と一声霊縛をかけるや否や、高田の手は痺れて、鉄の棒はガラリと地上に落ちた。忽ち高田の手を後へ廻し、 赤の守衛『此応対盗人奴』 と言ひながら、サル括りにし、ポンと尻をけつて門内へ投げ込んだ。高姫は群衆の中から伸び上つて、ニコニコしながら此光景を眺めてゐた。 (大正一二・二・一〇旧一一・一二・二五松村真澄録)
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霊界物語 57_申_テルモン山の神館2 06 強印 第六章強印〔一四五六〕 テルモン山の館より十七八丁奥の谷間に大蛇の岩窟と云ふ深い穴がある。そこには三千彦を無理無体に押し込め、二人の門番が厳重にワックスの命令によつて守つて居た。 甲『オイ、何でも此中に突込んである魔法使は大それた事をしやがつたさうだな。如意宝珠の玉を盗み出し、そしてワックス様が匿して居つた等と讒言をし、デビス姫様の夫となり、此館を占領しようとしたドテライ悪人だと云ふ事だが魔法使だから何時此鉄の門を破つて出るか分らぬ。出たが最後、どんな目に会はすか知れないぞ。何程日当を沢山貰つても斯んな剣呑な商売は御免被りたいものだな』 乙『何、心配するな。魔法使と云ふものは或程度迄は法が利くだらうが、もう種が無くなつて皆に捉まへられ、斯んな処へ突込まれよつたのだから、もう大丈夫だ。滅多に出る気遣ひはないわ。斯うして十日も二十日も番して居れば饑ゑて死んで了ふ、さうすりや大丈夫だよ。俺等は日給さへ貰へば宜いのだからな』 甲『然し、此奴が死んで化けて出やがつたら、それこそ大変だぞ。何とかして断り云ふ訳には行くまいかな』 乙『そんな事、いくものかい。何時もワックスの旦那に難儀な時に無心を云つて助けて貰つてるのだから、斯んな時に御恩報じをするのだ。宮町中の難儀になる処を、ワックスさまのお蔭で此奴の盗んで居つた如意宝珠の玉も分り、俺等の生命まで助けて貰つたのだから、此奴が斃る所迄俺等は根比べをやらねばならぬのだ。余り心配するな。心配すると頭の毛が白うなるぞ』 斯く話して居る処へ遥か上の方の森林から頭の割れるやうな宣伝歌が聞えて来た。 三千彦『神が表に現はれて善と悪とを立別ける 三五教の宣伝使三千彦司が現はれて 三九坊に魅せられし家令の悴ワックスが 神の館の重宝を密かに匿し置き乍ら 三千彦司に看破され吾身危くなりしより 正反対に如意宝珠匿せしものは三千彦と 宮町一般触れ歩き何にも知らぬ人々を 誑りおほせし憎らしさ如何にワックス奸智をば 振ひて一時は世の中を欺き渡る事あるも 天地を造り玉ひたる此世の主と現ませる 誠の神は何時迄も曲の猛びを許さむや 吾は三千彦神司岩窟の中に押込まれ 暫し思案に暮るる折月照彦の大神の 遣はし玉ふエンゼルが現はれ玉ひ忽ちに 真鋼の鎚を打揮ひ此岩窟に穴穿ち 容易く救ひ玉ひけり初稚姫の遣はせし 神の変化のスマートが今や吾身に附添ひて 守らせ給ふ上からは仮令ワックス幾万の 軍を率ゐ攻め来とも如何でか恐れむ惟神 神の息吹の言霊に一人残さず吹き散らし 愛と善との聖徳を此土の上に輝かし 信と真との光明を天地の間に照らしつつ これの館の禍を払はにやおかぬ神の道 アア面白や面白や神の力は目のあたり 現はれ来る神館汝等二人の番卒よ 悔い改めて吾前に来りて罪を謝すならば 根底の国の苦みを神に祈りて救ひやり 永遠無窮の楽みを味はひ暮す天国へ 導きやらむ惟神神に誓ひて宣り伝ふ』 と歌ひ乍ら猛犬を引連れ悠々と岩窟の上面を下り来る。二人の番卒は此姿を見るより大地に頭をすりつけ、尻をつつ立てて一言も発し得ず、謝罪の意を表し乍ら慄うてゐる。太陽は漸く西山に没し、四辺はおひおひと暗くなつて来た。三千彦は二人に案内させ密かに抜け道より館を指して帰り行く。 ワックス、オークス、ビルマ、エルの四人は体を水にて洗ひ、会議室に入つてコソコソと、昼の間から日の暮れるのも知らず野心会の打合せをやつて居た。スマートは室内の怪しき臭に鼻をぴこつかせ、小声で『ウーウー』と唸り乍ら、三千彦に四人の悪者が密談に耽つてゐる事を知らした。三千彦は二人の番卒を霊縛したまま裏口よりソツと小国姫の居間に進み入つた。小国姫は悲痛の涙にくれ、今後如何になり行くならむと青息吐息をつきゐたり。 小国姫『如何にせむ今日の悩みを切り抜けむ 三千彦司の偲ばるるかな。 三千彦の道の司は三五の 誠の神の使なるらむ。 下男僕は数多あり乍ら 心汚きものばかりなり。 吾身のみ愛する輩集まりて 主人を思ふ人ぞなきかな。 泣き干して涙の種もつきにけり 救はせ玉へ三五の神。 如何ならむ悩みに会ふも神館 守らむ為めには吾身を惜しまじ。 如意宝珠貴の宝は帰りぬれど 吾子宝は如何になりしぞ。 背の君の病益々重なりて 早縡糸の断れむとぞする。 世の中に憂に悩める人々は ありとし聞けど吾に如かめや。 如何ならむ昔の罪の廻り来て かかる苦しき日を送るらむ。 待て暫し神の恵みの深ければ やがて三千彦帰り玉はむ。 三五の教司と仕へます 誠一つの君は益良夫』 と悲しげに述懐を宣べて居る。そこへ三千彦は忍び足にて帰り来たり。 『奥様奥様』 と小声に呼ぶ。小国姫は此声を微に聞いて夢かと許り打驚き乍ら、微暗き行燈の光に透かして見れば擬ふ方なき三千彦司であつた。 小国姫『ア、貴方は三千彦様、よう、マア帰つて来て下さいました。何処へお出でになつて居りましたか』 三千彦『ハイ、これには長いお話が厶います。然しこれ等両人が聞いて居りますれば、暫く霊縛を加へて置きます』 と云ひ乍ら耳と口とに霊縛を加へ、次の間に忍ばせ置きスマートをして警護せしめた。スマートは二人の番卒の一挙一動にも眼を配り、二人が一寸でも動かうとすれば目を怒らし、噛みつかむとする勢に恐れをなして、慄ひ慄ひ次の間に控へて居た。 三千彦『サアもう、これで大丈夫、然し乍ら旦那様は如何で厶いますか』 小国姫『ハイ、お蔭様で、まだ続いて居ります。一時も早く娘に会うて死にたいと申して居りますが、まだ娘の行衛は分りませぬので、今も今とて貴方の事を思ひ出し、泣いて居つた処で厶います』 三千彦『どうしてもお嬢さま二人とも、修験者に送られ、已に此館へお帰りになつて居らねばならぬ筈で厶います。之には何か悪人輩の企みがあるので厶いませう。今あの会議室でワックス以下四人の連中が密々と相談を致して居りますれば、私が此館へ帰つた事を覚れば彼等は如何なる事を致すか分りませぬ。何卒誰も来る事の出来ない居間へ案内して頂き度いもので厶います。そこでトツクリとお話を申上げませう』 小国姫『チツト窮屈で厶いますが吾夫の病室の上に暗い居間が厶います。そこは誰も上る事は出来ませぬから、そこへお越しを願うて、何かの事を承はり度う厶います』 三千彦『それは好都合です。サア早く参りませう。何時悪者がやつて来るか知れませぬから』 と云ひ乍ら小国姫に導かれて二階の暗き一間に微な火を点じ、身を隠し密々話に耽つた。 三千彦『実の所は二人のお嬢様は私の察する所、テルモン山の岩窟に隠して居るやうに考へます。ワックスと云ふ奴、デビス姫様に恋着し、肱鉄砲を喰はされたのを、性懲りもなく、飽迄恋の欲望を遂げむとし、如意宝珠を隠してお館を困らせた上、往生づくめで押掛け婿にならうと企んで居た所へ、拙者が参つたものですから陰謀露顕を恐れ、反対に拙者を魔法使と触れ廻り、如意宝珠を隠したのも拙者だと主張致し何も知らぬ町民は彼が言葉を真に受け、又修験者が送つて来た御両人様を化物だと吹聴し、岩窟に匿しおき、往生づくめに姫様に得心させた上、御主人の御死去後正々堂々と乗り込まうと云ふ悪い企みで厶いませう。併し乍らお嬢様は確りした女丈夫ですから、決して彼が毒手におかかり遊ばす案じは要りませぬ。又決して彼等に身を任せ、操を破らるる事はありませぬから御安心下さいませ。併し乍ら今直に如何すると云ふ事も出来ませぬ。町内の人の心が鎮まつた上、徐にワックスの陰謀が現はれた処へ拙者が首を出し、姫様をお助けする事に致しませう。ここ二三日は落着いて居らねばなりませぬ。又御主人の御病気に、さしひきがあつても此四五日は何ともありませぬから御安心下さいませ』 小国姫『それを承はりまして一寸安心致しました。娘は無事で居りませうかな。主人が聞きましたら何程喜ぶ事でせう。これを冥土の土産として潔く帰幽する事で厶いませう。アア惟神霊幸倍坐世。然しワックスと云ふ奴は親にも似ぬ悪党で厶いますな。さうしてマンの悪い時には悪い事が重なるもので、家令のオールスチンは大怪我を致し吾主人よりも先に死ぬかも知れぬ様な重態で厶います。あれを助けてやる訳には行きますまいかな』 三千彦『とても助かりますまい。肋骨を二本迄折つて居ますから』 小国姫『さても困つた事で厶います。これも何かの因縁で厶いませう。あまり悴が悪党を致しますので子の罪が親に酬うたのでは厶いますまいか』 三千彦『決して決して、子の罪が親に酬ふ等といふ道理が厶いませぬ。神様は公平無私にゐらつしやいますから決して人を罰め、苦める様な事をなさる筈が厶いませぬ。况して罪なき本人に子の罪迄おきせ遊ばす不合理な事がありませうか。只此上はオールスチン様の冥福を祈つてやるより外に道はありますまい。そして一時も早く国替をなさつて病気のお苦みをお助かり遊ばす様、祈るより外に道は厶いませぬ』 斯く密々話をして居る処へ、ワックス、オークス、ビルマ、エルの四人は酒を矢鱈にあふり乍ら、ドヤドヤと病室に入り来り、 ワックス『これはこれは、小国別の御主人様、御病気は如何で厶います。お訪ね致さねば済まないのですが、何分私の父が大怪我を致しましたので、一人よりない親、見逃す訳にもゆかず、夜の目も寝ず、孝行第一に看病致して居りました。だと申して大切な御主人様お訪ね致さぬも不忠の至りと、気が気でならず、宅に居つても心は御主人様の身の上に通つて居ります。アア忠ならむと欲すれば孝ならず、孝ならむと欲すれば忠ならず、どうも世の中は思ふやうには行きませぬ。どつちや……いえ、どつち道、私の爺は肋骨を折られて居ますから、死なねばならぬ運命で厶います。それで早く死んで呉れますれば、御主人様のお世話が出来ます事と、心は焦りますれど、病気計りは人間がどうする事も出来ませぬので、ツヒ失礼を致して居りました。何卒御無礼の罪お赦し下さいませ。モシ御主人様、家令の父が亡くなりましても此ワックスがビチビチして後に控へて居りますれば、決して御心配下さいますな。そしてデビス姫様とケリナ姫様とは間近い内にお帰りになりませうから、及ばず乍ら私がお世話をさして頂きます。これも御安心下さいませ。予めワックスに娘二人を宜しく頼むと只一言仰有つて下さいますれば、獅子奮迅の活動を致し、姫様を御目にかけるで厶いませう。ここに貴方の遺言状を代書して来ましたから、一寸拇印を捺して下さいますまいか。何もワックス一人の為では厶いませぬ。お館、町内一同の為は申す迄もなく、テルモン国一国の為で厶いますから』 小国別はソファーの上にヤツと起き上り凹んだ目をクワツと瞠き、力なき声にて、 『お前はワックスだつたか、何とか云つてる様だが病気のせいか、耳がワンワンして何も聞えない。女房が其処辺に居るだらうから話があるならトツクリと女房として呉れ。私はもう体が弱つて耳さえ聞えなくなつたから』 と故意と小国別は煩さを排除せむと耳に事寄せて取り合はぬ。 ワックス『モシ、御主人様、チト確りして下さいませ。此館には三千彦と云ふ魔法使が来ましてから怪事百出、貴方の御病気も彼奴の魔法の為で厶いますよ。その三千彦をテルモン山の牢獄へ押込め、お館の禍を除いたのは此ワックスで厶いますから、御安心下さいませ』 小国別『何、あの三千彦様を岩窟へ打ち込んだとは、そりや大変な事をして呉れた。あのお方は生神様だ。左様な事を致したらお前等に神罰が当るぞ。早くお助け申して吾前に送つて参れ。怪しからぬ事を致すでないか』 と怒気を帯びて力無き声に呶鳴りつけた。 ワックス『ハハハハハ、貴方の聾は嘘で厶いましたか。何と都合の好い耳で厶いますな。御主人様、よく考へて御覧なさいませ。今日か明日か知れぬ身を以て、さう頑張るものぢやありませぬ。此お館は此ワックスが居らねば駄目で厶います。バラモン教の聖場へ三五教の宣伝使を引張込む等とは重大なる罪で厶いませう。こんな事が大黒主の耳に這入つたら如何致します。お道の為には此ワックスは御主人様でも、何でも厶いませぬ』 と呶鳴り立てた。 小国姫、三千彦は頭の上の二階にワックスの声を聞いて居たが下りる訳にもゆかず、……マンの悪い処へ悪い奴が出て来たものだ……と顔を顰め、一時も早く帰りますやうにと、一生懸命に三千彦は大神に祈願を凝らして居た。 ワックスは益々大きな声で主人より拇印をとらむと迫つて居る。看護婦のセールは見るに見かねて、 セール『もし、ワックス様、旦那様は御大病のお身の上、お体に障りますから何卒お控へ下さいませ。奥様がお帰りになつた上、とつくりと御相談遊ばしたが宜しからう』 ワックス『エー、看護婦の分際として、家令の悴ワックスに向ひ、無礼の申し様、すつ込んで居れ。汝等如き卑女の容喙する処でない。モシ御主人様、是非ともこれに拇印を願ひます』 とつきつける。小国別は止むを得ず、 『アア私は目も眩み、耳も遠くなつて何にも分らないが、どんな事が書いてあるのか大きな声で読んで呉れ。そしてワックスが読んだのでは当にならぬ。セール、私に代つて、その遺言状を読んで呉れ』 セール『ハイ、承知致しました。ワックス様、サア此方へお渡し下さい。妾が旦那様の代りに読まして貰ひますから』 ワックス『モシ、御主人様、読んだ以上は拇印を捺して下さいますか。捺して貰はなくては読んで貰つても何にもなりませぬからな。それから前に定めて置かねば読む訳には行きませぬ』 小国別『読んだ上で拇印を捺してやらう』 ワックス『イヤ有難い。おい、セール、そこは……それ……腹で読むのだ。妙な読みやうを致すと家令の悴ワックスが承知致さぬぞ』 と睨みつける。セールは委細頓着なく病人の耳許に口を寄せて声高らかに読み初めた。 遺言状の事 一、吾れ帰幽せし後はテルモン山の館の事務一切を家令の悴ワックスに一任すること。 一、小国姫は別に館を建て、比丘尼として一生を安楽に送らすこと。 一、デビス姫、ケリナ姫はワックスに一切身を任すこと。 一、ワックスを当館の養子となし、デビス姫を女房とすること。 一、ケリナ姫はワックスの意志により第二夫人となすもよし、都合によれば他家へ縁づかすもワックスの自由たるべきこと。 右の遺言状は小国別重病のため筆写する事能はざるを以て、ワックスに代筆せしめ後日のため拇印押捺するもの也。 年月日小国別神司 セール『ホホホホホ何とマア虫のよい遺言状で厶いますこと、モシ、旦那様、こんな事御承知遊ばしますか』 小国別『以ての外の事だ。左様な遺言状には拇印は決して捺さない。引裂いて了へ』 と怒りの声諸共にワックスを睨めつけた。ワックスは手早くセールの手より遺言状を奪ひ取り、主人の指に印肉をつけ、無理に捺させ様とした。老衰の小国別は抵抗する力もなく進退維谷まつた処へ、宙を飛んで馳来る一頭の猛犬、ウーウーウー、ワツワツと叫び乍らワックスに跳びかかり腰の帯をグツと銜へて、猫が鼠を銜へた様な調子で館の外へ運び行く。オークス、ビルマ、エルの三人は顔色をサツと変へ、スゴスゴと受付の間に走り込み、青い顔して慄うて居る。小国姫はヤツと胸撫で下し四辺を窺ひ乍ら病床に下つて来た。 (大正一二・三・二四旧二・八於伯耆皆生温泉浜屋北村隆光録)
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霊界物語 59_戌_イヅミの国2(キヨの港) 08 暗傷 第八章暗傷〔一五〇八〕 夫婦の中に咲き匂ふ花は何時迄チルナ姫 家庭平和の実を結び千代も八千代も偕老の 其楽しみを共になし此世を安く渡らむと 神に願を掛巻も心許さぬチルナ姫 思はぬ風の吹廻し二世を契つた吾夫の チルテル司は醜神に清き霊も曇らされ 恋の膚となりはてて彼方此方の女をば 弄びしと聞くよりもチルナの姫は驚きて 忽ち悋気の角はやし所在手道具打くだき 障子や襖をかき破り半狂乱の為体 チルテル、カンナの企みたる焚付薬が利きすぎて 思ひもよらぬ失態を演出したりと驚きて 初稚姫の居間を去り矢庭に此処へ飛込みて チルナの姫の髻をば左手にグツとわし掴み 蠑螺のやうな拳をば固めて振上げクワンクワンと 三つ四つ打てばチルナ姫怒り狂ひてしがみ付き チルテル司の股くらにブラブラさがる茶袋を 一生懸命に握りしめ力をこめて引たくる 何条以て堪るべきアツと一声悶絶し 泡をふきつつ大の字に倒れて身体をビリビリと 慄はせ居たる可笑しさよ流石のチルナも驚いて 水よ薬と気を焦ちカンナの司を叱り付け 泣声絞り狼狽へるデビスの姫の後逐うて 伺ひ来りし三千彦や伊太彦二人は此態を 遥に眺めて飛来り矢庭に座敷へ這ひ上り 双手を組んで一二三四五六つ七八九十 百千万と数歌を歌ひ上ぐればウンウンと 苦しき声を張上げて面を顰めて起き上り 四辺をキヨロキヨロ見廻してアフンと許り呆れゐる チルナの姫は両人を見るより早く怒り立ち 夫婦喧嘩の最中へ断りもなく飛込むで 構立する奴は誰了見ならぬ一時も 早く此場を立去れと悋気の怒りの矛先を 夫の危急を救ひたる二人の司にふり向ける 心紊れしチルナ姫見る人毎に吾敵と 心をひがむぞ是非なけれチルテル、カンナは三千彦の 姿見るより手を合せ危急の場合能くもマア 御助けなさつて下さつた先づ先づ奥で御休息 遊ばしませと言ひ乍ら心汚きチルテルは カンナに向かつて目配せし此両人を逸早く 捉へて庫につき込めと眼で知らす厭らしさ 三千彦伊太彦両人は二人の心を察すれど デビスの姫の所在をば探らむものと思ふより 素知らぬ面を装ひつカンナの後に従ひて 暗の庭先トボトボと隙を窺ひ跟いて行く 三千彦つつと立止まりカンナの腕をグツと取り 汝は此家の使人バラモン教のリューチナント カンナと申す奴であらうデビスの姫を隠したは 此家の主チルテルの全く指図によるものと 早くも吾は悟りしぞいと速に所在をば 完全に委曲に告げまつれ違背に及ばば玉の緒の 汝が命を奪ふべし返答如何にとせめかくる 流石のカンナも困りはて身をブルブルと慄はせて ハイハイ白状致します命許りはお助けと 両手を合せて涙ぐみ二人を伴ひ第一の 倉庫の表を押開けて中に立入りデビス姫 厳しき縄を解き乍ら二人に向ひ丁寧に モウシモウシ宣伝使此処に居られる御婦人は 貴方のお尋ね遊ばしたデビス姫で厶りませう 私は宅に不在番を致して居つた其為に 其経緯は知りませぬ先づ先づお査べなさりませ 云へば三千彦伊太彦は四辺に心を配りつつ 伊太彦外に待たせおき三千彦一人倉の中 明りを灯して入見れば口にははます猿轡 手足を縛り土の上にいとも無残に寝させける 三千彦見るより腹を立て姫の縛解き乍ら 直にカンナを縛り上げ其場に倒しデビス姫を 労はり乍ら倉の外へ漸く救ひ出しけり 茲に三千彦倉の戸をピシヤリと閉めて錠おろし 姫を労り慰めつ闇に紛れてスタスタと 此場を後に出でて行く。[※この続きは第14章へ] ヘールは夜の巡視を了へて館へ帰つて見ると、チルナ姫は髪ふり乱し、血相変へて坐つてゐる。チルテルは真青な面して睾丸を押へ、ウンウンと唸つてゐる。ヘールはつかつかと傍に近付き、 ヘール『ヤア、貴方はキャプテンの旦那様、奥様、啻ならぬ此御様子、何者が襲来致しましたか』 チルナ『お前はヘール、能う来て下さつた。チルテルさまは本当に毒性な人だよ。私を放り出して、裏の離室に居る女性や、其他沢山の女を引入れ、勝手気儘の生活を送らうとなさるのだから、こんなことがハルナの都へ聞えやうものなら、それこそ御身の終り、妾は最早覚悟を定ました。此家を追出される代りに、ハルナの都へ帰つて一伍一什を申上げ、主人の目を覚さねばおきませぬ。ヘール殿、後を確り頼みますよ。妾は之からお暇を致します』 ヘール『モシモシ一寸お待ち下さい。余り仲が良すぎるので、そんな喧嘩が始まるのです。旦那様は何時も貴女を偉い女房だ、美しい者だ、優しい者だと褒めて居られますよ』 チルナ『エーお前は旦那様と肚を合し、妾を追出す所存であらうがな。何もかもカンナから聞いてあるのだよ。そんな一時逃れの追従を食ふやうなチルナぢや厶いませぬ。左様なら、旦那様、スベタ女とお楽しみなさい』 と血相かへて飛出さうとする。飛出て欲しかつたチルテルも、こんなことをハルナの都に報告されては大変だ、一層のこと永久に庫の中へ放り込んでおくに限ると決心し、痛さを堪へて、 チルテル『ヤア、ヘール、女房は発狂致し、此俺の睾丸を握つて殺さうと致した謀殺未遂犯人だ。サア早くふん縛つて、第一号の倉庫へ放り込むでくれ。之はチルテルの命令ぢやない、キャプテンの申付だぞ』 ヘール『ハア』 とゐずまゐを直し、矢庭にチルナ姫の後にまはり、 ヘール『謀殺未遂の大罪人、バラモン軍の関守兼キャプテンの命に仍つて捕縛する。神妙に縄にかかれ』 と云ひ放ち、チルナ姫の細腕をグツと後へ廻し、捕縄を以て縛り上げ、 ヘール『きりきり歩め』 と云ひ乍ら第一倉庫を指して引摺り行く。 ヘール『ハハア、此処はデビス姫とか云ふ奴が、放り込んである倉庫だ。女同志二人放り込みておけば、随分悋気の花が咲くことだらう。イヤ面白い喧嘩が始まるだらう』 と呟き乍ら、ガラガラと戸を開け無理に押込み、ピシヤリと戸を締め錠をおろしておく。此錠は小さい穴に一寸した石を放り込めば、それで中から何程焦つても開かない。外からは自由自在に開くやうになつてゐる。つまり倉庫とは云ふものの、監禁室である。 チルナ姫はヘールに押込まれた途端にヒヨロヒヨロとして、カンナがふん縛られて倒れてゐる上にパツタリとこけ込むだ。真暗がりである。何人か見当がつかぬ。併し乍ら今ヘールが独言にデビス姫だとか云ひよつた。大方其女であらう、此奴もヤツパリ仇の片割れだ、斯様な女をチルテルの爺が隠まひおき、チヨコチヨコ密会をして居るのだらう、エー残念だ、何とかして懲してやりたいが、斯う手を縛られては何うすることも出来ない……と小声で呟き乍ら、カンナの太腿にガブリとかぶり付いた。カンナは吃驚して、 『アイタヽ、痛い痛い』 チルナ『エー、極道女奴、チツとは痛いぞ、モツとかぶつてやらうか』 と又かぶりつく。 カンナ『モシモシ私は女ぢや厶いませぬ。カンナといふ男で厶います。どうぞ怺へて下さいませ。かう手足を縛られては動くことも出来ませぬ』 チルナ『エー、図々しい、男の声色を使つたつて、そんなことに誤魔化されるチルナ姫ぢや厶いませぬぞえ。大化者奴、能うマア旦那様に悪知恵をつけ、妾をこんな目に会はしよつたナ。妾は死物狂、汝の肉を皆咬み切つてやらねば了見ならぬ、覚悟しや』 カンナ『モシモシ貴女は奥様ぢや厶いませぬか。私はカンナで厶いますよ』 チルナ『エー、そんな嘘を言つても承知を致さぬぞや。カンナはこんな所に居る筈がない。お前はデビスに間違ひなからうがな』 カンナ『滅相な、私の声をお聞になつても分るぢやありませぬか』 チルナ『エー、何をツベコベと云ふのだい。耳がワンワンして、声が聞分られるやうな場合かい、何と云つても、お前はデビスに違ひない。思ひ知つたがよからうぞや』 と又かぶる。カンナは、 カンナ『痛い!痛い痛い痛い』 と悲鳴をあげる。其勢に手をくくつた綱はプツリと切れた。カンナは直様かぶりついてゐる女の髻を片手に持ち、片手に拳骨を固めて、力の限り殴りつけた。キヤツと一声、後は何も聞えなくなり、かぶりついても来ぬ。カンナは直に足の縛を解き、暗がりを探つて、チルナの縛を解き背中を三つ四つ殴りつけた。「ウーン」と息吹返した。されど真暗がりで互の顔は鼻を摘まんでも分らない。チルナは死武者になつて、這ひまはり、カンナが面を顰めて傷所を撫でてゐる其手がフツと触つたので、 チルナ『エー此スベタ女奴』 と言ひ乍ら、グツと太腿を掻きむしつてやらうと、手を差伸べた途端に、種茄子のやうな形した物が手に触つた。 チルナ『あゝヤツパリお前は男であつたか、何者ぢや』 カンナ『私はカンナで厶います。奥様に暗がりで、三四ケ所も太腿の肉を咬とられ、何うも痛くて辛抱が出来ませぬ。酷いことをなされますなア』 チルナ『そりやお前、時の災難と諦めるより仕方がないぢやないか。妾の横面を大変、お前も殴りつけたのだから、互に恨は帳消しとして、一時も早く此処を逃出す工夫をしようぢやないか』 カンナ『逃出さうと云つても、かう足に重傷を負うては動きが取れませぬ。そして此錠前は中からは何うしても開けられないのです。壁には太い鉄線が碁盤の目の如く張つてありますから、到底駄目でせう』 チルナ『ここにデビス姫とかが縛つて投げ込むであるといふことだから、一つ探つてみて仇を討つから、お前さまそれなつと見て、気を慰めなされ。あゝ腹立たしい、何こにすつ込んでゐるのだな。オイ、デビス、声を立てぬか。何程黙つて居つても昼になればチツと明くなるから、所在を見付け、成敗を致すぞや。今素直に此処に居りますと申せば腕の一本位で堪へてやる』 カンナ『モシ、奥さま、其デビスは私と入替に旦那様のお使が出て来て連れ出して了ひました。大方今頃は其女を看護婦代用にしてゐられるでせうよ。アイタヽヽ、あゝ痛い痛い、本当にエライことかぶられて、太腿が三所も四所も赤い口をあけて欠伸をしてゐるやうだ。本当に酷い目に会はしましたなア』 チルナ『ホツホヽヽヽ、常平生から旦那さまを咬かし、初稚などと云ふ女を連れて来たのも、元を糺せばお前ぢやないか。つまり云へば自業自得だよ。マア天罰が当つたと思うて辛抱しなさい。お前は太腿の三片や四片取られたとて夫れ程苦しいのか。妾は大事の大事の夫の身体を全体取られたでないか、あゝ残念やなア、ウンウンウンウン』 倉の隅から猫の様な劫経た大きい鼠が、 『クウクウクウクウ、チウチウチウチウ、ガタガタガタガタ、ゴトゴトゴトゴトゴト』 と厭らしい音を立ててゐる。 (大正一二・四・一旧二・一六於皆生温泉浜屋松村真澄録)
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霊界物語 59_戌_イヅミの国2(キヨの港) 11 黒白 第一一章黒白〔一五一一〕 ヘールは勢込んで初稚姫の籠もれる館の前迄やつて来たが、何だか敷居が高くて心が怖ぢつく。 ヘール『エー、又副守の卑怯者奴、正守護神の行動を防止せむと致すか。猪口才千万な、左様な事に躊躇逡巡するヘールさまではないぞ。全隊止まれ』 腹の中から副守一同に『ハーイ』。 ヘール『よしよし、暫らく沈黙を守るのだ。いや寝て居るが宜い。非常召集の喇叭が鳴つたら、その時こそ一度に立上るのだ。それ迄副守全隊に休息を命ずる。今の間に郷里にでも帰つて爺婆の乳でも飲むで来い。アハヽヽヽ、到頭副守の奴沈黙しやがつたな。然しまだ恐怖心の奴、喰付いてゐると見えるわい。これ恐怖心、お前も早く郷里に帰つて在郷軍人となり、農工商の業に従事せよ。一旦緩急あらば鋤を鉄砲に代へ、算盤を剣に代へ、鑿を槍に代へて義勇奉公の実を示すのだ。それ迄此ヘール体内国の現役兵を免ずる。有難く思へ。アハヽヽヽ、どうやらチツト許り恐怖心が退散したさうだ否帰郷したさうだ。エー一つ歌でも歌つて姫の精神を恍惚たらしめるのだな。俺も硬骨男子と云はれて居たが、女にかけたら何と云ふ軟骨だらう。此二〇三高地は一寸骨が折れるわい。口で法螺を吹き、尻で喇叭を吹いた位ぢや容易に効果が上らない。未来の聖人は礼楽を以て世を治めたと云ふ。射御書数は末の末だ。先づ礼を厚くし楽を奏し、微妙なる音声を出して名歌を歌ひ、姫の心を動かすに限る。歌は神明の心を和らげ又天地を動かすと云ふ。況んや、人間の心に於ておやだ。歌なる哉歌なる哉だ。 恋といふ字を分析すれば 糸し糸しと言ふ心[※恋の旧字体は「戀」]……か、 やア此奴ア古い。初稚姫位のナイスになつたら已に聞いてるだらう。俺の発明した歌だと思つて呉れれば宜いが黴の生えた様な受売歌だと思はれちや、却て男が下る。よし何とか考へて見よう。 糸し可愛と心に思や 糸しお方と先方が言ふ(戀) これでスツカリ新しくなつた。然し乍ら引繰返しの焼直しだから、矢張もとの方がどうも宜い様だ。はてな、今度は愛と云ふ字を分析して歌つてやらうかな。 可愛心が貫くなれば 君は必ず受けるだらう。 今度は至上主義の至上だ、ベストだ。エヘヽヽヽ、どうか巧くやり度いものだナ。 ラブのベストは一つで厶る 土の上には君ばかり。 初稚姫のナイスさま天の川原に船泛べ 黄金の棹をさし乍らキヨの海原乗り越えて これの館に天降りまし花の顔月の眉 星の衣をつけ玉ひ天女の姿その儘に これの館にビカビカと光らせ玉ふ尊さよ 朝日は照るとも光るとも月の姿は清くとも 初稚姫に比ぶれば側へもよれない惨めさよ 雪を欺く白い顔肌滑らかにツルツルと 水晶玉の如くなりそも天地の真相は 白きは色の始まりよ黒きは色の終なり 艮は即ち年増ぞや色は年増が艮めさす 白と黒とが寄り合ふてキチンとしたる碁盤の目 経と緯との仕組をば遊ばしました大御神 赤が重なりや黒うなる黒がかへれば白となる 初稚姫の白い肌ヘールの司の黒い顔 これぞ全く艮の厳の御霊の御再来 初稚姫は瑞御魂坤なる姫神の 皇大神の御再来厳と瑞との水火合せ 夫婦の契永久に天の御柱廻り合ひ 山川草木諸々の珍の御子を生みましし 神伊邪那岐の大神のその古事に神習ひ 此地の上に永遠の天国浄土を建設し 所在百の神人を救はむ為に皇神は お色の黒き尉殿とお色の白き姥殿を 目出度くここに下しけり初稚姫の神司 如何にヘールを嫌ふとも神のよさしの縁ぞや 省みたまへ惟神神の教に目覚めたる ヘールの身魂に明かに鏡の如く映りけり 此家の主チルテルは肝腎要の女房を 他所に見捨て遠近の仇し女に現をば 抜かして魂を腐らせつ夫婦喧嘩の絶えまなく 家財一切ガタガタと時々騒ぎ躍り舞ふ 化物屋敷に居る様だ青と白とをつき交ぜた 干瓢面を下げ乍らキヨの関守笠に着て キャプテン面を振廻し天から降つた初稚姫の 神の命の神女をば閨のお伽になさむとて チルナの姫に難癖をうまうまつけて縛り上げ 倉の中へと無慚にも押込めたるぞ憎らしき かかる残虐無道をば敢て恥ない鬼畜生 必ず迷はせ玉ふなよ涙もあれば血も通ふ 義勇一途のこのヘール昨晩の神の御告げに 其方は神世の昔から深い因縁ある身魂 初稚姫と其昔夫婦となつて道の為 尽しまつりし天人ぞ弥勒の神代が来るにつけ お前を変性女子となし初稚姫の神司 変性男子と現はれて神の御国を細に 造り固めよと厳かに宣らせ玉ひし尊さよ 初稚姫の神司必ず嘘ではない程に 神の言葉に二言ない胸に手をあて神勅を 正しく覚りヘールをば神の結びし夫とし 睦び親しみ神業に参加なされよ瑞御魂 変性女子が宣り伝ふ朝日は照るとも曇るとも 仮令大地は沈むとも夫婦の道は変らない 兎角浮世は人間の心の儘にはなりませぬ 互に欠点辛抱して採長補短睦じく 天地の水火を固むべし吾言霊の御耳に 安全に委曲に入るならばいと速けく返事 宣らせ玉へよ姫命誠に厚きヘール司 ここに慎み神勅を命の前に宣りまつる あゝ惟神々々恩頼を賜へかし』 初稚姫は中よりパツと戸を開いてヘールの姿を打見守り乍ら微笑して、 初稚姫『何人の言霊ぞやと怪しみて 窓を開けば面白の君。 種々と厳の言霊繰返す 君の心の悲しくぞある』 ヘール『吾とても男の子の中の男の子なれば 如何で女に心乱さむ。 さり乍ら神の言葉は背かれず 汝が命に宣り伝へける。 此恋は人恋ならず神の恋 ラブ・イズ・ベストの鑑なりけり』 初稚姫『訝かしや神の言葉と聞く上は 背かむ術もなきにあらねど』 ヘール『瞹眛な姫の言霊如何にして 解く由もなき吾思ひかな。 益良夫が思ひつめたる恋の矢は やがて岩をも射貫くなるらむ』 初稚姫『さは云へど妾は神の御使よ 夫持たすなと厳しき戒め。 戒めを固く守りて進む身は 醜の嵐の誘ふ術なし。 詐りのなき世なりせば斯くばかり 吾魂を痛めざらまし。 吾身には恋てふものは白雲の 空にまします月の大神』 ヘール『吾とてもこれの関所につきの神 テルモン山の雄々しき姿よ』 初稚姫『春は花夏は橘秋は菊 冬水仙の寂しき花よ。 手折るべき人なき吾を慈しむ 男の子は神に等しとぞ思ふ。 真心は吾魂に通へども 詮術もなし天人の身は。 現世の人は一所なりあはぬ しるし有れども吾はこれなし。 浮かれ男の吾身体を知らずして 迷はせ玉ふ事の果敢なさ』 ヘール『どうしても皇大神の御教を 守りて君を吾妻とせむ。 如何程に振らせ玉ふも撓みなく 従ひ行かむ海の底まで』 初稚姫『思ひきや思はぬ人の深情 汲む由もなき吾ぞ悲しき』 ヘール『柔かに珍の言霊生き車 押す君こそは天の於須神 ラブベスト那須野ケ原の若草は 踏まれ躙られ乍ら花咲く』 初稚姫『踏まれても又切られても花咲かず 見る影もなき無花果の樹は。 神の道只無花果に進む身は 春風吹くも咲く例なし。 花の無き妾の姿を見限りて 野に咲き匂ふ花を求めよ。 紫雲英花実に目覚ましく開くとも 床の飾りにならぬ吾なり』 ヘール『野辺に咲く紫雲英の花の花莚 敷きてやすやす寝ねむとぞ思ふ。 もどかしき君の言葉を早吾は 聞くも堪え難くなりにけらしな。 男心の大和心を振り起し 手籠めにしても手折らで止まじ』 と云ひ乍ら表戸をガラリと開け、ツカツカと初稚姫の前に進み猿臂を伸ばして、グツと其手を握らむとした。初稚姫は手早く其手を放し襟髪とつて窓の外に猫を提げた様な調子でフワリと投げ出した。ヘールはムクムクと起き上り再び座敷に性懲りもなく初稚姫の前に進み寄り、 ヘール『一旦男が云ひだした恋の意地、中途に屁古垂れる様な男では厶らぬ。もう此上は平和の手段では到底駄目だ。覚悟召され、美事靡かして見せよう』 と武者振りつくを初稚姫は手もなく、グツと押へつけ、 初稚姫『ホヽヽヽヘールさま、宜い加減に悪戯なさいませ。貴方はお酒に酔つて居らつしやるのでせう。少しく酔の醒めるまで、此処でお休みなさいませ』 ヘール『決して酔うては居りませぬ。酔うたと云ふのは貴方の容色に酔つたのです。之も全く貴女より起つた事、吾心を鎮めて下さるのは貴女より外にはありませぬ。決して私は初めから貴女にラブしようとは思つて居なかつたのです。それが俄かに貴女のお姿を見るにつけ、忽ち神懸となり、矢も楯もたまらず、神の命に従つて貴女にかけ合つたのです。決してヘールの考へではありませぬ』 初稚『ホヽヽヽよい年をして、ようまアそんな事を仰有いますな。ブリンギング・アップ・ファーザー(老年教育)を施さなくては到底貴方は駄目でせう。神さまの命令だなどと云つて妾を誤魔化さうと思召しても、外の女ならいざ知らず、妾に対しては寸功も現はれませぬから、どうか左様な詐言はお慎み下さいませ』 ヘール『何と仰有つても男の顔が立ちませぬ。何卒そこ放して下さい。左様な剛力で押へられましては息が絶れますわい』 初稚『息が絶えても構はぬぢやありませぬか。貴方は妾の為には海の底まで跟いて行くと仰有つたでせう、ホヽヽヽヽ』 と小さく笑ふ。そこへ足をチガチガさせ乍ら血相変へてやつて来たのは館の関守チルテルのキャプテンであつた。 (大正一二・四・二旧二・一七於皆生温泉浜屋北村隆光録)
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霊界物語 59_戌_イヅミの国2(キヨの港) 13 案知 第一三章案知〔一五一三〕 キヨの関所の館をば探らむ為にテクテクと 玉国別に暇告げ斥候隊の心地して チルテル館に行てみれば肝腎要の事務室は 猫の子一匹居らばこそ天井の鼠がチウチウと ちちくり合うてゐる声のいと騒がしく聞ゆのみ 遠慮会釈も荒男裏庭潜り初稚姫が 居間を目当に出で行けばチルテル、ヘールの両人が 衣脱ぎすて赤裸体節くれだつたり気張つたり 山門守る仁王さま虎搏撃攘の真最中 コラ面白い面白い団扇はなけれど俺が今 行司をやつてつかはそと勇み進むで近よれば 初稚姫は声をかけお前はテクさまリュウチナント 行司は妾が致します貴方も此処で衣を脱ぎ 力比べの消しがかり最後の勝利を得た方に 妾はラブを注ぎます力の強い男をば 妾は夫に持つのだと梅花のやうな唇を いと愛らしく動かせて詞涼しく宣り渡す 聞くよりテクは雀躍りし玉国別の斥候と なりて来りし身を忘れうつつになつて衣を脱ぎ いざ来い勝負と待ちゐたる時しもあれやチルテルは 美事にヘールを投げつけて見るも恐ろし陥穽に 放込み了るをみるや否よし来た勝負と手を拍つて 獅子奮迅の猪突主義発揮し乍らくらひつく 体の汗はぬらぬらと鰻と鯰が組みついて 争ふごとき為体合うては離れ離れては 又取組むでドスドスと庭の小砂をへこませつ 茲を先途と戦へば初稚姫は手をあげて オホヽヽヽヽと笑ひつつ愛嬌籠もる視線をば 二人の頭上に浴せかけ勝負如何と待ちゐたる チルテル、テクの両人は女帝の前の晴勝負 世界で一の色男世界で一のナイスをば 女房になして世の中の有情男子の肝ひしぎ 其成功を誇らむと命を的に挑み合ふ 新手のテクは漸くに相手の褌をひき握り ヅドンと許り地の上に岩石落しに投付くる 勢余つてコロコロと再度三度廻転し 汗のにじゆんだ肉体は忽ち砂の祇園棒 砂巻酢となり了へて千尋の深き陥穽へ またたく内に落ちにけり遉のテクも気をゆるし 月桂冠を得たりとて心ホクホク地の上に 黒いお尻をドカとすゑハートに波を打たせつつ 四辺を見ればこはいかにバラモン教のワックスや エキス、ヘルマン、エル[※御校正本・校定版・愛世版いずれもここは「エル」ではなく「ヘル」と書いてある。しかし第12章に「ワックス、ヘルマン、エキス、エルの四人は関所の門を潜り」と書いてあり、この4人組なので、「ヘル」は「エル」の誤字だと考え、霊界物語ネットでは「エル」に直した。]四人莞爾し乍ら立つてゐる 初稚姫は嬉しげにテクに向つて声をかけ リュウチナントのテクさまえお前は本当に強い人 サアサアこれから約束の私は女房になりまする 握手を一つと言ひ乍ら優しき白き手を出せば 握手所かキッスでも何でも構はぬ致します エヘヽヽヽヽエヘヽヽヽ涎をタラタラ流しつつ 猿臂を伸ばして目を細め白き腕を握らむと なしたる刹那初稚姫の無比のナイスはテクの手を 取るより早く白い毛を現はし玉へばテクの奴 ハツと呆れて其面を見上ぐる途端にあら不思議 目は釣上り口元は耳迄さけし其姿 驚き後辺にドツと伏し眼キヨロキヨロ光らせば 初稚姫は忽ちに白狐の姿と還元し 箒のやうな尾をふつてのそりのそりと歩み出す ワックス始め三人は驚き狼狽逃迷ひ 四人一度に陥穽にバサリと墜ちて其姿 地上に見えずなりにけるテクは再仰天し 漸く腰を立て乍ら足もヒヨロヒヨロバタバタと 勝手門をば潜り脱け尻はし折つて一散に 玉国別の隠れたるタダスの森に走り行く 日は漸くに黄昏て月は御空に輝けど 梢の茂みに遮られ一寸先も見え分かぬ 暗の帳は下りにけり真純の彦は闇の森を ブラリブラリと進み来る此時先方より駆け来る 一人の男は忽ちに真純の彦の胸板に ドンと頭を打ちつけてアツと許りに打倒れ ウンウンキヤアキヤア唸りゐる真純の彦は怪みて 玉国別をソツと招び火打を取出し火を点じ よくよく見ればこは如何に斥候主任のテクの奴 ポカンと口をあけ乍ら空を仰いで倒れゐる 其スタイルは池鮒の泥に酔ひたる如くなり アツパアツパと口あけて目をキヨロつかせ眺めゐる。 真純彦はいろいろ介抱をし、テクを抱き起し、背中を打つたり撫でたりし乍ら、 真純『オイ、テク、確りせむかい。敵の様子は何うだ。三千彦の所在は分つたか。サア早く報告せよ』 テクは息苦しげに起き上り、土の上に両手を付いて、 テク『ヘー、どうも大変で厶います。夫れは夫れは日の下開山世界一の大角力が初まつてをりました。私も其角力に参加して大勝利を得ました。そして、キヽキツネのニヨニヨ女ン房を褒美に貰いました』 真純『オイ、テク、確りせぬかい。偵察は何うだつたい。此永の日を今迄、俺達は待つてゐたのぢやないか、何をして居つたのだ。サア詳細に注進せい』 テク『イヤもう、化物屋敷の探険には、流石のテクもテクずりました。角力取が穴へおちたり、狐が現はれたり、バラモンのワックスが見物に出て来たり、それはそれは大した人気で厶いましたよ。折角、命カラガラ大勝利を得て、初稚姫といふ古今無双のナイスを女房に持つたと思へば、キヽ狐になつて、のそりのそりと這ひ出しました。イヤもう、怖いの怖くないのつて、口でいふやうな事ぢやありませぬワ。酒の酔も何も、一度に何処へか逐転して了ひました。あゝあ、あゝ苦しい。こんな怖ろしい苦しい事は、生れてからまだありませぬワ。モシ玉国別先生、あんな所へ行くが最後、陥穽へ堕されますよ。そして彼処の奴ア、人間と思うてたら騙されますよ。皆狐になりますよ。あんな危険な所へは行て下さりますな。御身が大切で厶いますから……』 真純『オイテク、一向要領を得ぬぢやないか、モツと明瞭報告せないか』 テク『ヘーヘー、要領を得ないのは当然ですよ。私も要領を得損つたのですからなア。……本当に本当に、古今独歩、珍無類の奇妙奇天烈な、目に会つて来ましたワイ』 真純『三千彦の消息は分つたか』 テク『余り怖くつて、目が眩み、みち彦も川彦も何も分りませぬ。これ丈暗いと、人に行当つても、知れないのですから、どしてみち彦が分りませうかい。あゝあホンニホンニうすい目に会うたものだ』 真純『困つた奴だなア。何の為の使だ。チツと確りせぬかい』 玉国『オイ、テク、少し気を落付けて悠りと話してくれ。お前の言葉ではチツとも要領が分らぬからのう』 テクは暫く休息した上、館の表より進み入つて、裏庭を見れば角力が始まりかけてゐた事や、自分が角力を取つて勝つた事、初稚姫と思つた女は大きな白狐であつた事などを細々と復命した。そして三千彦外二人の行衛は分らなかつたが、大方陥穽へ落ちてゐるだらう……と心配相に答へた。玉国別は暫く首を傾け思案に暮れてゐた。 真純『モシ先生、どう致しませうか、三千彦以下二人を、此儘放任する訳にも行かず、ぢやと云つて、此暗いのにうつかり行かうものなら、又もや陥穽へ突込まれちや大変ですからなア』 アンチー『モシ、先生様、そんな御心配は要りませぬ。私が御恩報じに瀬ぶみを致しますから、何卒後から足跡を踏んで来て下さい。若し私が落ち込むだら、そこを通らない様にして下されば、それで安心でせう。サア参りませう。グヅグヅして居つては三千彦様御夫婦を始め伊太彦さまが何うなるか知れませぬ。あの館には沢山の兵士が居るといふ事ですからなア』 玉国『兎も角充分注意をして進む事にせう。オイ、テク、お前はモウ、バーチルさまの館へ帰り、番頭さまの役を忠実に勤めたがよからう。狼狽者を伴れて行くと、却て作戦計画の齟齬を来すからなア』 テク『滅相もない、どこ迄もお伴を致します、大抵の所は勝手を知つてゐます。滅多に落ち込む様なこた致しませぬ。何程暗くても、空さへ見れば梢の調子で、此処は何処だ位の事は分つてゐますからなア』 アンチー『然らば私が先頭を仕りませう。あの屋敷は私も、三年以前にチヨコチヨコいつた事があります。……オイ、テクさま、お前は一番後から先生を守つてついて来い、…… 暗の帳は下されて一寸先は見えず共 心の空の日月は鏡の如く輝けり 玉国別の神司や真純の彦に従ひて 吾等二人は勇ましくバラモン教の悪神の 醜の館を指して行く何程暗いと云つたとて 元より盲でないものは暗になれたら明くなる 只恐るるは足許の百足や蝮の類のみ それの危難を遁れるは三五教の神様の 教へ玉ひし数歌を一二三四五つ六つ 七八九つ十百千万と称へ進むなら 如何なる曲も恐るべき却て先方が戦きて 雲を霞と逃げるだらう三千彦さまのお身の上 デビスの姫や伊太彦の悩みを案じ煩ひつ 心の駒のはやるまに神の光を身に浴びて 敵の館へ進み行くあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして玉国別を始めとし 吾等一行恙なく三千彦様の一行を 救はせ玉へと願ぎまつる俄番頭のテクさまが 真昼の内に偵察とお出かけなされて泡をふき 大化物や昼狐得体の知れぬ怪物に 肝を奪られて帰り来る其光景の可笑しさよ 此アンチーはどこ迄も狐や狸にや恐れない 無人の島に三歳ぶり大蛇や鷹と相棲居 一旦鬼の境遇に成さがりたる経験上 何程悪魔が攻め来共決して恐るるものでない 玉国別の師の君よ真純の彦の神司 心平に安らかにアンチーの後を目当とし 進ませ玉へ惟神神の守りで安全な 場所へ案内致します』 かく小声で歌ひ乍ら、チルテル館の裏門から足元に気を付け乍ら、アンチー、テクは後先に立つて進み入る。 (大正一二・四・二旧二・一七於皆生温泉浜屋松村真澄録)
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霊界物語 61_子_讃美歌1 10 神厳 第一〇章神厳〔一五六〇〕 第九二 一 朝日輝く神の国その真秀良場に築きたる 神の御庭に上ります天津使の瑞御魂 御魂幸ひましまして罪の重荷に苦しめる 百の身魂をいと安く珍の御前に導き玉へ。 二 瑞の御魂と現はれて災多き世の中の 艱難の道も悲しみの山も安々過ぎ玉ふ 此世の旅に迷ふなる青人草を導きて 明き神国へ進ませ玉へ。 三 天津御国の御使を率ゐて再び現世に 現はれ玉ふ時とこそ今や全くなりにけり 厳の御魂の御側に吾等が身魂を導きて つきぬ喜び栄光をば得させ玉へと願ぎ奉る 神は愛なり権威なり珍の御前に伏し拝む。 第九三 一 現身の姿その儘天津国に 上りて行かむ身こそ楽しき。 二 八雲立つ出雲小琴の音に合ひて 神と人との息は揃へる。 三 根の国の御門は神に砕かれて 天津大道に妨げもなし。 四 死出の山醜の川辺も何かあらむ 恵の神の導きあれば。 第九四 一 月日輝く大空を八重棚雲に打乗りて 上り行きます瑞御霊栄光の主の神姿を 眺めて迎ふ天使百の音楽奏でつつ 御門を開き迎へ入る称讃の歌は天地に 響き渡るぞ畏けれ。 二 五六七の殿は賑しく寄り来る人は笑み栄ゆ 言霊軍を統べ玉ふ瑞の御魂は死の長の 御手より此世をとり返し生命の国を開きつつ 勝の祝を平かにいと安らかに謳ひ玉ふ。 三 元津御神と諸共に神の大道を歩みなば 生命と滅亡と別るる道の八衢街道も何のその 目にも止まらず皇神の栄光の国へ上るべし 神は言霊権威なり。 四 土の上にて朽ち果つる人の命を憐れみて 栄え久しき天津国千代の御園に昇らせて 恵みの露を垂れ玉ふ清めの神の御後をば 慕ひまつれよ人の子よ振りさけ見れば大空に 吾等が行くべき千代の里いともさやかに見え渡る。 第九五 一 千座の置戸を負ひましし栄光の主の瑞御魂 その名を聞くも潔し青人草を生かさむと 八束の髯を抜きとられ手足の爪を除かれて 血潮に染り身に罪を負はせ玉ひて世の人を 清むる神業を詳細に遂げさせ玉ふ尊さよ。 二 厳の御魂の大神の右に居まして永久の 珍の住居を構へつつ吾等を守る瑞御魂 深き恵みを嬉しみて賞めよ称へよ御栄光を 人は神の子神の宮。 三 瑞の御魂の御恵み清き稜威は世に広く 現はれましていと高く妙に尊き大神業 天津使と相共に世人挙りて主の名の 輝き栄ゆる有様を賞めよ称へよ真心に。 第九六 一 三五の神の教の司等 瑞の御魂の徳を仰げよ。 二 天津日の神の御裔とあれませる 珍の御子をば敬ひ奉れ。 三 許々多久の罪や穢を身に負ひて 世人清めし主を崇めよ。 四 皇神の恵みと主の悩みとを 思ひ出して神を称へよ。 五 千万の国の益人御前に 平伏し御稜威を畏み崇めよ。 六 永久の厳の御歌に声合せ 万司の主を崇めよ。 第九七 一 世を洗ふ厳の御魂や瑞御魂 その聖顔は伊照り輝く。 二 天地に類もあらぬ清め主 天津使も挙りて仕ふ。 三 世の人を憐み玉ひ千座をば 負ひて落ち行く主ぞ尊き。 四 根の国に落ち行く身魂憐みて 天津神国に生かす君はも。 五 限りなき恵みを受けし人の身は 心の限り仕へまつれよ。 第九八 一 世の人を恤り玉ふ瑞御魂御声は妙に天地に 響き渡りぬ世の民よ厳の御魂の吾主に 栄光の冠を献れ。 二 天津使も打伏して厳の御魂の御光を あこがれ拝む尊さよいざ諸人よ清めの主に 栄光の冠を捧げよや。 三 矢叫びの声鬨の声俄に止みて戦ひの 庭は神国となり変る祈りと歌との言霊は 天と地とに響きけり四方の民草平和の主に 宝の冠を献れ御空の極み地のはて 残る隈なく御栄光の珍の光は照り渡る 厳の御魂や瑞御魂此世を知らす神柱に 栄光の冠献れ。 第九九 一 総ての司とあれませる清めの主の瑞御魂 賞めつ称へつ神の声世人の声は海山に 隈なく響き渡りけり厳の御魂よ瑞御魂 諾なひ玉へ惟神。 二 栄光の主よ厳御魂瑞の御魂よ神の世を 弥永久にしろしめし神の稜威の御光を 洽く天地に輝かし凡てを生かし玉へかし 珍の御前に願ぎ奉る厳の御魂や瑞御魂 守らせ玉へ惟神。 三 清めの主よ来りませ珍の御声を嬉しみて 吾等が身魂を清めつつ命の糧と仕へなむ 仮令天地は失するとも吾等は主の御恵みを 弥永久に喜びて黄金の琴をかき鳴らし 稜威を仰ぎ奉るべし厳の御魂や瑞御魂 来らせ玉へ惟神。 第一〇〇 一 烏羽玉の暗き闇夜は消え去りて 東の空に茜さすなり。 二 美はしき主の御影を伏し拝み 光の主と仕へまつらむ。 三 神国の光といます厳御魂 瑞の御魂の御稜威畏し。 四 皇神の恵みの露に生ふる民の 歓喜栄光何に譬へむ。 五 大空の星にも勝る民の数 恵ませ玉ふ神ぞ畏き。 第一〇一 一 厳御魂瑞の御魂の名に優る 清きは他にあらじとぞ思ふ。 二 いと貴き神の御子にしましませど 世を洗ふため降りましぬる。 三 八千座の上に掲げし珍の名を 万国民今や仰がむ。 四 皇神の右にぞ坐して神の世と 現世しらす君ぞ畏し。 (大正一二・五・三旧三・一八北村隆光録)
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霊界物語 63_寅_伊太彦の物語 序歌 序歌 此世を救ふマイトレーヤボーヂーサトーヴ現はれて ウヅンバラチャンドラの体を藉りシブカ(苦聖諦)サムダヤ(集聖諦) ニローダ(滅聖諦)マールガ(道聖諦)苦集滅道四聖諦 完美に審細に道説し無明の世界を照波して マハー・ラシミブラバーサマハーヸユーバ(弘大)に開かむと スーラヤ、チヤンドラ世に降しスメール(須弥)山に腰をかけ ジヤムブドヸーバ(全世界)を守らむと アクシヨーバヤ[※校定版はここに括弧書きで「(阿閦如来)」という言葉を挿入している。フリガナは付いていないが一般に「あしゅくにょらい」と読む。]の天使を前後左右に侍らせつ 現はれたまひし尊さよ神が表面に現はれて チャンドラスーラヤヸマラブラバーサ スリー[※校定版はここに括弧書きで「(日月浄明徳仏)」という言葉を挿入している。]、サルヷサトーヴブリヤダルシヤナ[※校定版はここに括弧書きで「(一切衆生喜見菩薩)」という言葉を挿入している。] 完全無欠の神国といと平けく安らけく 治めたまふぞ有難き仰げば高し神の国 大日の下のエルサレム豊葦原の真秀良場と 定め給ひて厳御魂国常立の大御神 豊国主の大御神三五の月日と現れまして 再び清き神の代をこの地の上に建設し 天の下なる神人が暗き御魂を照しつつ 黄金世界を樹て給ふその神業を一身に 担任したる瑞御魂神素盞嗚の大神の 御命畏み伊苑館清く仕ふる宣伝使 マハーカーシヤバ亀彦やヤシヨーダラーの音彦や クンヅルボーヂーサツトワ梅彦がマンジユシリボーヂーサツトワ岩彦と 黄金姫のスヴアラナ神の司や清照姫の スヴルナブラバーシヤ初稚姫と相共に 梵天王のブラフマンサハームバテー祀りて醜の御教を 四方に流布する魔の頭カビラマハールシの大黒主を 言向け和し天界の大荘厳や光明を 斯の土の上に築かむと苦集滅道の荒浪を しのぎて進む物語竜の宮居に現はれて 神の使のウヅンバラチヤンドラ爰に謹みて 世人のために述べ伝ふアヽ惟神々々 御霊幸はへ坐しませよ。 大正十二年五月二十九日旧四月十四日
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霊界物語 63_寅_伊太彦の物語 01 玉の露 第一章玉の露〔一六〇八〕 天地万有悉く霊力体の三元を 与へて創造なし給ひ各其所を得せしめし 国の御祖の大御神国常立の大神は 大国治立大神の貴の御言を畏みて 大海原の中心地黄金山下にあれまして 天地百の生物をいと安らけく平けく 守らせ給ひ厳かに珍の掟を定めまし 神と人との踏みて行く道を立てさせ給ひしが 日は行き月たち星移り世はくれ竹のおひおひに 天足の彦や胞場姫の醜の身霊ゆなり出でし 八岐大蛇や醜神のいやなき業に畏くも 珍の聖地を後にして神の仕組と云ひ乍ら 大海中に浮びたる自転倒島にかくれまし 国武彦と名を変へて此世を忍び曙の 日の出の御代を待ち給ひ女神とあれし瑞御霊 豊国姫の大神は夫神の命のなやみをば 居ながら見るに忍びずと豊葦原の中津国 メソポタミヤの山奥に永く御身を忍びまし 五六七の御代を待ち給ふ大国常立大神は 厳の御霊と現はれて四方久方の天盛留向津媛 御稜威も殊に大日婁女貴女神となりて諾冊の 二神の間に生れまし豊国姫の大神は 神素盞嗚の大神と現はれ給ひ天地を おのもおのもに持ち分けて守らせ給ふ折もあれ 魔神の猛り強くして岩の根木根立百草の 片葉も言向ひ騒ぎ立て豊葦原の瑞穂国 再び常世の暗となり神素盞嗚の大神は この惨状を如何にして鎮めむものと村肝の 御心千々に砕かせつ朝な夕なに憂ひまし 山河草木枯れ果てて修羅の巷となりにけり 父とあれます伊邪那岐の皇大神は大空ゆ 下らせ給ひて素盞嗚の珍の御子に打向ひ 憂ひ歎かすその理由を尋ね給へば瑞御霊 完全に詳細に世の状を語らせ給ひ我は今 母のまします月の国罷らむものと思ひ立ち この世の名残に泣くなりと答へ給へば父の神 いたく怒らせ給ひつつ胸に涙を湛へまし 大海原を知食す権威なければ汝が尊 根底の国に至れよといと厳かに宣り給ふ 千万無量の悲しみを胸に湛へて父神は 日の若宮にかへりまし神素盞嗚の大神は 姉大神とあれませる厳の御霊の大日婁女 天照神の御前に此の世の名残を告げむとて 上らせ給へば山河は一度に動み地は揺り 八十の枉津の叫ぶ声天にまします大神の 御許に高く響きけり天照します大神は 此有様をみそなはし弟神の来ませるは 必ず汚き心もて吾神国を奪はむと 攻め寄せたるに間違ひなし備へせよやと八百万 神を集へて剣太刀弓矢を飾り堅庭に 弓腹振り立て雄猛びし待ち問ひ給へば素盞嗚の 瑞の御霊の大神は言葉静に答へらく 我は汚き心なし父大神の御言以て 母の御国に行かむとすいとも親しき我姉に 只一言の暇乞ひ告げむが為に上りしと 云はせも果てず姉神はいと厳かに宣らすやう 汝の心の清きこと今この場にて証せむ 云ひつつ弟素盞嗚の神の佩かせる御剣を 御手に執らせつ安河を中に隔てて誓約ます この神業に素盞嗚の神の尊は瑞御霊 清明無垢の御精神いと明かになりにけり 神素盞嗚の大神は姉のまかせる美須麻琉の 玉を御手に受取りて天の真名井に振り濺ぎ 奴那止母母由良に取由良し狭嚼みに咬て吹き棄つる 伊吹の狭霧に五御魂現はれませしぞ畏けれ 姉大神の御心は初めて疑ひ晴れぬれど 天津神等国津神容易に心治まらず 高天原は忽ちにいと騒がしくなりければ 姉大神は驚きて天の岩戸の奥深く 御姿かくし給ひけり六合忽ち暗黒と なりて悪神横行し大蛇曲霊のおとなひは 狭蠅の如く充ち沸きぬここに神々寄り集ひ 岩戸の前に音楽を奏でまつりて太祝詞 宣らせ給へば大神は再び此世にあれまして 六合ここに明け渡り栄光の御代となり初めぬ 斯くもかしこき騒ぎをば始めし神の罪科を 神素盞嗚の大神に千座の置戸を負はせつつ 高天原より神退ひ退ひ給ひし歎てさよ 天地一時は明けくいと穏かに治まりし 如く表面は見えつれど豊葦原の国々は 魔神の健び猛くして再び修羅の八巷と なり変りたる惨状を見るに忍びず瑞御霊 国武彦と相共に三五教を開きまし 深山の奥の時鳥八千八声の血を絞り この土の上に安らけき五六七の御代を建設し 八岐大蛇や醜神を生言霊に言向けて 姉の御神に奉り世の災を除かむと コーカス山やウブスナの山の尾の上に神館 見立て給ひて御教を開き給ひし尊さよ 八岐大蛇の分霊かかりて此世を乱し行く ハルナの都の悪神を先づ第一に言向けて 此世の枉を払はむと心も清き宣伝使 数多派遣し給ひしが瑞の御霊の御娘 五十子の姫の夫とます玉国別の音彦に 心の空も真純彦教を伝ふる三千彦や 伊太彦司を添へ玉ひハルナの都に遣はして 神の恵を人草の身魂に照らし給はむと 任け給ひしぞ尊けれ。 ○ 玉国別の宣伝使三人の司と諸共に 河鹿峠を打渡り懐谷の山猿に 苦しみ乍ら神力に守られ祠の神の森 とどまり病を養ひつ珍の宮居を建て終り 祝詞の声も勇ましく御前を立ちて山河を 渡り漸くテルモンの館に入りてデビス姫 親と妹との危難をば救ひて神の御名を挙げ デビスの姫を三千彦の妻と定めてテルモンの 湖水を渡り種々の珍の神業なし遂げて アヅモス山のバーチルが館に立ち寄りアヅモスの 山に隠れしタクシャカの竜王始め妻神の サーガラ竜王救ひつつ夜光の玉や如意宝珠 竜王の手より受取りて真澄の空の夏の道 草鞋に足をすり乍ら伊太彦デビス四柱の 御供と共にエルサレム聖地を指して進み行く 日も黄昏れて道の辺の祠の前に立寄れば 思ひも寄らぬ法螺の貝鬼春別の治道居士 比丘の司に廻り会ひここに一行六人は スダルマ山の山麓を右に眺めて辿りつつ 声も涼しき宣伝歌四辺の山河轟かし 空気を清めて進み行く。 (大正一二・五・一八旧四・三於竜宮館北村隆光録)
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霊界物語 64_上_卯エルサレム物語1 02 宣伝使 第二章宣伝使〔一六三一〕 カンタラ駅からスエズ運河を横ぎつて、エルサレム行の軍用列車に乗り込みし一人の東洋人ありき。汽車は茫々たる大砂漠の真中を一瀉千里の勢で馳走して居る。窓外は、森林も田畑も、河川も村落も人の影さへも、眼に入らない寂寥さである。所々に小屋の様な、殺風景な停車場が黙々として建つて居る。シナイ山は遥の遠方にボンヤリと霞んでゐる。ユデヤの高地に掛つたと見えて、丘が刻々に急勾配になつて、橄欖の樹が窓外に追々と見えて来る。四十歳前後の、一人の眼のクルリとした色の浅黒い、何処ともなしに凛々しい東洋人らしき宣伝使は、高砂島から派遣されて数十日間の海洋を渡り、メシヤ再臨の先駆として神の命により遥々出て来たルートバハーの教主ウヅンバラ・チヤンダーに先だつて来た、ブラバーサと云ふ紳士なり。 ブラバーサは世界各国の言語にも通じ、且つ近来流行のエスペラント語にも精通し居たり。それ故特にルートバハーの宣伝使として抜擢され、万里の海洋を打渡り、異域の空に聖跡を尋ねてメシヤ再臨の先鋒として赴任したのである。このブラバーサには郷国高砂島に一人の妻と一人の愛娘が残つて居る。ブラバーサは窓外の際限もなく広く展開せる砂漠を眺めて、聖者の古の事蹟を思ひ浮べ、感慨無量の体で吐息を漏らし居たり。 隣席に控えてシガーを燻らして居た白髪の老紳士は、ブラバーサの傍近く寄つて、さも馴々しげに握手を求めた。ブラバーサは海洋万里の不見不識の国で同じ車上に於て握手を求められたのは実に意外の歓びに打たれざるを得なかつた。ブラバーサは直に立つて老紳士と握手を交へた一刹那、百年の知己に逢つた様な懐しさを覚えた。 老紳士は馴れ馴れしく、 バハーウラー『私はバハイ教のバハーウラーと申すものですが、メシヤの再臨の近づきし事を神様より承り、老躯を提げて常世国から今日漸と茲まで無事到着致しました。貴師は何れより御越しで御座いますか。一寸拝顔しただけでも普通の御人とは見えませぬ。聖者と御見受いたしますが、御差支なくば御話しを願ひたいものですなア』 ブラバーサ『ハイ有難う御座います。私も貴師の様な聖者に、異域の空で而も同じ車中に御眼にかかり、互に御道の談を交換さして致だくのは望外の幸ひで御座います。実は私は高砂島の中心地点に宮柱太敷立てて鎮まりたまふ、大国治立大神の御許に仕へ奉るプロパガンディストで、ブラバーサと申すもので御座いますが、暫くエルサレムの霊気に触れ、神界の御経綸の一端に奉仕いたしたきものと神命のまにまに遥々出向致しましたものです。何分宗教や信仰には、国籍や人種別などの忌はしき障壁は御座いませぬから、何卒同胞として親交を願ひます』 バハーウラー『イヤ、お互様に御懇親を願ひませう。私は現代の宗教家の態度に飽き足らない一人で御座います。同じ太陽の光の下に生育する吾々人類は、何処までも神様の最愛の御子として、相愛し相助け合つて行かねばなりませぬ。そして凡ての迷信から脱離した宗教、過去の死神死仏は言ふ迄も無く、黴の生えた形式から解放された宗教、宗派根性を超越した真善美愛に徹底した宗教、種々の伝説や附会や迷信を交へた上に紛雑した教理と註訳に織込まれた曼陀羅的の教典から離脱した宗教、名実一致、霊肉一体、神人合一、聖凡不二を実現した宗教、其時代に必要あつて起れる教祖を以て唯一の救世主となし、教祖の教示を万世不易の聖言となす偏狭固陋なる牢獄的信仰の束縛を解いて、万聖の大集会即ち≪世界の国会開き≫を出現せしむる宏大無辺の宗教、一夫一婦の大道を明示した宗教、世間と出世間の障壁を除却して、真に一実在の生ける道を教ふる宗教、善と悪、信者と不信者、救済と罪悪、天界と地獄とを区別して争論の種を蒔く狭隘な宗教から脱却して、心底から親愛の目的として凡ての人類を見る所の真の救世の宗教、国語、労働、国際等の問題、学術と宗教との問題等一切を解決し、世界人類をして平等に光明世界の住民たらしむる権威ある宗教の必要に迫られて、数十年間あらゆる迫害や艱苦と戦つて来たもので御座いますから、貴師もルートバハーの神使として聖地へ御出張遊ばした以上は、互に神の子の兄弟として相提携し、万国の民を天界に救ふため、持ちつ持たれつの親交を願ひたきものです』 ブラバーサ『バハーウラー様、只今貴師の御言葉には実に感服いたしました。私が奉ずるルートバハーも、その主義精神に於て寸毫の相違点をも見出す事が出来ませぬ。高砂島に於けるルートバハーの教と、貴教とは東西符節を合する如くで御座いますよ。何うか今後は姉妹教として永遠の親交をお願ひいたしたく存じます』 バハーウラー『何卒よろしく御願ひいたします。時にブラバーサ様、現今世界の有様は如何でせう。吾々人類のために、天の神様より懲戒的大鉄槌を下される様な形勢になつて来たぢや在りませぬか』 ブラバーサ『昨日も船中でロンドンタイムスを読んで見ましたが、其中に吾々としては依然として落着いて居られない様な記事が載つて居ましたよ。ルートバハーの教と全然同一でしたワ』 バハーウラー『ドンナ記事が載つて居ましたか』 ブラバーサ『表題が二号活字で麗々しく「死んだ新聞王の霊が探偵小説家のコナン・ドイル氏に世界の大災厄が来ると云ふことを囁いた」と出て居りましたよ。今懐に持つて居りますから朗読いたしませう』 と云ひつつ、懐より細かく折つた新聞を取り出し、押し開いて、 ブラバーサ『目下米国にあるコナン・ドイル氏は、三十一日、桑港に於て左の奇抜な発表をなした。曰く「新聞王故ノース・クリフ卿の霊が余に囁くに、「汝等の生存中この世界に一大災厄が来る。若し人間が霊的に改造されて、この災厄を除かなければ、千九百十四年の世界大戦よりも更に恐ろしい運命に陥る」一体○国人は余り齷齪し過ぎる。余も生存中同様の誤謬を敢てしたが、物質的進歩の競争のため、人間の智慮は滅び遂に災厄が来るものであると云ふことを初めて理解するに至つたと、ドイル氏は全く真剣に真面目に右の言明をして居る』云々 と読み了り、 ブラバーサ『吾々の信仰いたしますルートバハーも亦同様の神示を三十年以前から主張して来ましたが、物質的研究にのみ焦心して居る世界の学者も、其他の同胞も容易に信じて呉れないのみか、流言浮説をなして人を誑惑するものだと言つて聖主を始め信者は所在社会上下の圧迫を受けて来ました。聖主の教にも、右同様に人心の悪化は宇宙に邪気を発生し、遂には地異天変を招来するものだと説かれてあります。天地が今に覆るぞよ。吃驚箱が開くぞよ。脚下から鳥が飛つぞよ。霊魂を研いて改心致して下されよ。神は世界の人民は皆最愛の我子であるから、一人なりとも助けてやり度いのが胸一杯であるから、永らく予言者の口と手に由りて世界の人民に気を付けて居るなれど、余り今の人民は科学に凝り固まりて神の申す真誠の教が耳に這入らぬので、神も大変に心を砕いて居るぞよと仰せられて居ます』 バハーウラー『如何にも、真に結構な御神示ですなア。それに寸毫の間違ひも御座いますまい。私も神示によつて、貴師の御説と同様のことを承はりましたので、バハイ教を開いて世界の同胞に警告を与へて居るのです。最早メシヤの再臨も余り長くは有りますまい』 ブラバーサ『左様です。メシヤの再臨は世界の九分九厘に成つて、此エルサレムの橄欖山上に出現されることと確信いたして居ります。既にメシヤは高砂島の桶伏山麓に再誕されて居りますよ。再誕と再臨とは少しく意義が違ひますからなア』 バハーウラー『救世主が最早再誕されたと仰有るのですか。大聖主メシヤたる可き神格者には九箇の大資格が必要ですが、左様な神格者は容易に得られますまい。先づ第一に、 一、大聖主は世界人類の教育者たること 二、其教義は世界的にして人類に教化を齎すもの成ること 三、其智識は後天的のものに非ずして自湧的にして自在なる可きこと 四、彼は所在賢哲の疑問に明答を与へ、世界の所在問題を決定し、而して迫害と苦痛を甘受す可きものなること 五、彼は歓喜の給与者にして、幸福の王国の報導者なる可きこと 六、彼の智識は無窮にして、理解し得べきものなる可きこと 七、其言説は徹底し、其威力は最悪なる敵をも折伏するに足るの人格者なる可きこと 八、悲しみと厄難は、以て彼を悩ますに足らず、その勇気と裁断は神明の如く、而して彼は日々に堅実を加へ、熱烈の度を増可きこと 九、彼は世界共通の文明の完成者、所在宗教の統一者にして、世界平和の確定と世界人類の最も崇高卓絶したる道徳の体現をなす可き人格を有すること以上 「爾等が此等の条件を具備したる人格者を世に求むる時には、初めて彼によつて嚮導をうけ光照を被るを得む」と吾バハーの聖主アブデユル・バハーは仰有いました。果して右九箇の大資格を備へた聖主が再誕されて在るとすれば、吾々は実に至幸至福の身の上で御座います。併し人各信仰に異同のあるものですから、私はアブデユル・バハーこそ大聖主と信じて居るものであります』 ブラバーサ『成程大聖主はアブデユル・バハー様でせうが、最早現界に生存遊ばさない上は、如何に九箇の大資格を備へたまふとも、今や来らむとする世界の救済事業に対しては、御手の下し様がありますまい。勿論聖主の教を汲みて、後の弟子達が完成さるれば兎も角もですが』 バハーウラー『貴師の仰有るメシヤの平素の言心行について、一応御話を承はり度いものですな』 ブラバーサ『先に貴師は九箇の大資格を羅列して説明下さいましたが、其大資格者に私は朝夕接従して居りましたから、大略申し上げて見ませう。虚構も誇張も方便も有りませぬから、そのおつもりでお聞きを願ひます』 バハーウラーは襟を正し、さも謹厳な態度で、ブラバーサの談話を耳を傾けて聞き初めた。 汽車は早くもユデヤの高丘を足重たげに刻みて上り行く。 ブラバーサ『私のメシヤと云ふ人格者は目下高砂島の下津岩根に諸種の準備を整へて居られます。そして其名はウヅンバラ・チヤンダーと謂つて、実に慈悲博愛の権化とも称すべき神格者です。世界人類に対して、必須の教育を最も平易に懇切に、施し玉ひつつあるのです。故に宗教家も教育家も、政治家も、経済学者も、天地文学者も軍人も職工も農夫も皆訪ね来つてそれ相応の教を受け、歓んでその机下に蝟集して居ます。如何なる難問にも当意即妙な答を与へられ、何れも満足して居ります。是が只今貴師の仰せられた第一の資格たる 「大聖主は世界人類の教育者たるべきこと」の条項に匹敵するやうに思ひます』 バハーウラー『成程御尤もです』 と頭を三ツ四ツ振つてうつむく。 ブラバーサ『ツルク大聖主が伊都の御魂と顕はれ玉ふて、三千大千世界一度に開く梅の花の大獅子吼を遊ばしましたが、此御方は約りヨハネの再臨だと信じられて居られます。そして基督とも謂ふべき美都の御魂の神柱、ウヅンバラ・チヤンダーと云ふ聖主が現はれて、世界的の大教義を宣布し、凡ての人類に教化を与へたまひ、今や高砂島は言ふに及ばず、海外の諸国から各種の宗教団体の教主や代表者が、聖主を世界の救世主と仰いで参り、其教義の公明正大にして且つ公平無私なるに感化され、日に月に笈を負ふてその門下に集まつて来て居ります。今貴師の仰せになつた第二の大資格たる 「その教義は世界的にして人類に教化を齎す可きものなること」の条項に合致するものでは有りますまいか』 バハーウラー『御尤もです。第三の資格に合致した点の御説明を願ひます』 ブラバーサ『我聖主ウヅンバラ・チヤンダー様は、小学校へ通ふこと僅かに三年で、しかも世界智識の宝庫とまで言はるる程の智識を有し玉ひ、天地万有一切の物に対して深遠なる理解を有し、三世を洞観し、天界地獄の由来より過去現在未来に渉りて、如何なる質問にも尠しも遅滞せず即答を与へ、且つ苦集滅道を説き道法礼節を開示し、泉の如く淆々として湧出するその智識には、如何なる反対者と雖も感服して居りますよ。天文に地文に、政治に宗教に、道徳に芸術に、医学に暦法に、詩歌に文筆に演説等、何れも自湧的に無限に其真を顕はし得ると云ふ稀代の神人であります。幼時より八ツ耳、神童又は地獄耳などの仇名を取つて居た方ですからなア。今も猶、神政成就の神策に関する神秘的神示を昼夜執筆されつつあります。世界各国の国語と雖も、未だ一度も学んだ事の無いお方が、凡ての国の言語が習はずして口から出て来るのですから、吾々はどうしても凡人だとは思ひませぬ。何人も聖主を指して生神だ生宮だと崇めて居りますよ。所謂貴師の仰せに成つた 「その智識は後天的のものに非ずして、自湧的なる可きこと」に合致するぢやありませぬか』 バハーウラー『ヘエー、何と不思議な方ですな。それこそ真正の大聖主メシヤですな』 ブラバーサ『それから瑞の御魂の聖主は、あらゆる賢人哲人の疑問に対し、即答を与へて徹底的に満足せしめ、且つ世界に所在種々の大問題に対し決定を与へ、種々雑多の迫害と苦痛を甘受し、常に平然として心魂にも止めず、部下の罪科を一身に負担して泰然自若、日夜感謝の生涯を送つて居られるのです。如何なる迫害も苦痛も聖主に対しては、暴威を振ふ事は出来ないと見えます。是が第四の条件に匹敵せる大聖主の資格の一ではありますまいか』 バハーウラー『なる程感心いたしました。それから第五の条件は如何で御座いますか』 ブラバーサ『聖主は実に歓喜の給与者とも云ふべきウーピーなお方です。如何なる憂愁の雲に閉されたる時にも、聖主の御側に在れば忽ち歓喜の心の花が開きます。そのお言葉を聞けば直ちに天国の福音を聞く如く、楽園に遊ぶが如く、何事も一切万事忘却し、歓喜の情に溢れ、病人は忽ち病癒え、失望落胆の淵に沈むものは希望と栄光に充たされ、一刻と雖も御側を離るる事が出来ない様な気分になつて了ひます。又身魂共に至幸至福の花園に遊び、天国を吾身内に建設する様になつて了ひます。実に仁慈と栄光との権化とも云ふべき神人で御座いますよ。斯くてこそ三千世界の救世主だと思ひます。次に第六の資格としては、聖主の深遠宏大なる内分的智識です。その深遠なる智識に由つて、無限無窮に人類の身魂を活躍せしめ、老若男女智者愚者の区別なく、直に受け入るる事の出来る自湧の智識と言霊を用ゐて衆生を済度されます。それ故、一度聖主に面接し又はお言葉を聞いたものは、決して忘れる様な事はなく、且つ時々思ひ出して歓喜に酔ふのです。婦女や愚人にも理解し易く、且つ宏く深き真理を、平易に御開示下さいます。 また第七の資格としては、過去現在未来に渉る一切万事の解説は、終始克く徹底し、前人未発の教義を極めて平易に簡単に了解し易く説示し、内外種々の反抗者や圧迫者に対しても、凡て大慈大悲の雅量と神直日大直日の神意に従ひ敵を愛して、終には敵をして心底より悦服せしめ、善言美詞の言霊を以て克く言向和し、春野を風の渡るが如くその眼前に来れるものは、一人も残らず善道に導きたまひ、自己に対して種々の妨害を加へ災厄を齎したる悪人に対しても、聊かの怨恨を含まず、貴賤老幼の別なく慈眼を以て見給ふ所は、第七の大資格に合致して居られる様に思ひます。 また第八の資格として茲に申上げますれば、聖主は暗黒なる社会又は宗教方面より非常な圧迫を受け、終には今や八洲の川原の誓約の厄に逢ひ、千座の置戸を負はせられ、髭を根底よりむしられ、手足の生爪まで抜き取られ、血と涙とを以て五濁の世を洗ひつつ、あらゆる困苦と艱難に当つて益々勇気を振り起し、世界人類のために大活躍を昼夜間断なく続けられて居られます。又諸事物に対しては神明の如く明確なる裁断を下し、即座に解決を与へ、且つその信念は日に月に堅実を増し、熱烈の度を加へ、今や官海方面より強烈なる圧迫を受けつつ泰然自若として天下万民のために心力を傾注し、五六七神政の福音を口に筆に開示されつつあります。開闢以来深く閉されつつあつた神秘の門も、漸次聖主に由つて開放されつつあります。何れの世にも勝れたるものは、世界の圧迫を一度は受けるものですが、我聖主の如きは、十字架を負ひ玉ひし基督の贖罪にも優つた程の世の圧迫と疑惑と嘲罵とを浴せかけられて少しも撓まず屈せず、殆ど旅人の春の野を行く如き状態で身を処し、能く神の教に従つて忍耐されつつ居られます』 バハーウラー『どうも有難う。貴師のお談によつて私も大に心強さを感じました。何うか今一つ第九の資格に就いて、聖主の御行動に関する御説示を願ひます』 ブラバーサ『聖主は人類愛善は言ふに及ばず、山河草木禽獣虫魚の端に至るまで博く愛し玉ふことは、平素の行動に由つて一般信者の崇敬感謝措く能はざる所です。凡ての宗教に対し該博なる観察力を以て深く真解を施し、生命を与へ、以て世界の宗教の美点を揚げ、抱擁帰一の大精神を以て対したまひますが故に、凡ての宗教家の白眉たる人士は雲の如く膝下に集まり、何れも皆満足をしてその教を乞ふて居ります。世界平和の確定と宗教の統一、世界共通的文明の建設者にして、最も卓絶したる真善美の道徳体現者だと信じます。やがて時来らば、天晴メシヤとして万人に仰がれ玉ふ時が来るであろうと、私共は固く信じて疑ひませぬ。アブデユル・バハー大聖主の再来か、その聖霊の再現か、何れにしても暗黒無明なる現社会の光明だと信じて止まないので御座います』 バハーウラー『いろいろと御懇切なる御説示に預かりまして、私も大に得る所が御座いました。どうやらエルサレムに着車した様ですから、茲で御別れ致しませう。私はパレスタインの或る高丘に、大聖主の後嗣が居られますので、一寸御訪ねいたし、再び橄欖山上にお目にかかり、結構なる御説示を蒙り度いと存じて居りますから、今後宜敷く御指導を願ひます。そして私はアメリカンコロニーへ訪問したいと思つて居ります』 ブラバーサ『私も貴師と同道を願ひたいものですが、少しばかり神命を帯びて来て居りますので、先づ第一に橄欖山へ参り、神様の御都合に由つてアメリカンコロニーや貴師の御在所を御訪ねするかも知れませぬから、何分にも宜敷く御願申上げます』 と、茲に両人は又もや固き握手を交換し、互に車窓を急いでプラツトホームへ出たり。 ○ 三千世界の人類や禽獣虫魚に至るまで 救ひの御船を差向けて誠の教をさとし行く 神幽現の大聖師太白星の東天に 閃く如く現はれぬ一切万事救世の 誠の智慧を胎蔵し世間のあらゆる智者学者 凡ての権威に超越し迫害苦痛を一身に 甘受し世界を助け行く歓喜と平和を永遠に 森羅万象に供給し至幸至福の神恵の 精神上の王国を斯の土の上に建設し 無限の仁慈を経となし無窮の智識を緯として 小人弱者の耳に克く理解し易き明教を 徹底的に唱導す如何なる悪魔も言霊の 威力に言向和しつつ寄せ来る悲哀と災厄を 少しも心に掛けずして所信を飽くまで貫徹し 裁制断割の道極め神人和合の境に立ち 悪魔の敵に会ふ毎に心は益々堅実に 信仰熱度を日に加へ三千世界に共通の 真の文明を完成し世界雑多の宗教や 凡ての教義を統一し崇高至上の道徳を 不言実行体現し暗黒無道の社会をば 神の教と神力に照破し尽し天津日の 光を四方に輝かす仁慈の神の神業に 奉仕するこそ世を救ふ大神人の任務なれ あゝ惟神々々御霊幸倍坐ませよ。 (大正一二・七・一〇旧五・二七加藤明子録)
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霊界物語 64_下_卯エルサレム物語2 03 草居谷底 第三章草居谷底〔一八〇九〕 トンク、テク、ツーロの三人は僧院ホテルの裏口から二人を担いだ儘、一生懸命に道路、田畑の嫌ひなくかけ出し、キドロンの谷深く川辺を伝ふて登り行き、雨露を凌ぐ許りの自分の借家へと持ち運び、手荒く二人を土の上に投げつけた。守宮別はこの間に殆ど酔も醒め、丸い目をギヨロづかせ、ウンと云つた限り、三人の顔を睨めつけて居る。お寅は勝気の女とて大地に投げつけられた際、腰骨をうち乍ら痛さを耐へて、 お寅『こりや、三人のアラブ共、三千世界の救世主、底津岩根の大ミロク、日の出の神の太柱お寅さまの肉体を、お神輿さまとして、此処迄つれて来るのはいいが、なぜ下ろす時にも些と気をつけないのか、お神輿が些と許り損傷だぞよ、行儀も作法も知らない馬鹿野郎だなア。サア私を此処まで連れて来た以上は、何か深い計画があつてのことだらう。きつぱりと白状したがよい。何者に頼まれたかその訳を聞かう。これこれ守宮別さま確りせぬかいなア。何の為めの強力だいな。それだから無茶苦茶に酒を呑みなさるなと云ふのぢや。お前さまはお前さまとした所で、竜宮の乙姫さまの生宮は何をして居るのだらう、ても扨ても気の利かない人足許りだなア。こりやアラブ、早く神の前に白状致さぬか、神罰が当つて脛腰が立たぬやうにしてもよいか』 トンクは、 トンク『ハヽヽヽヽ。気違ひ婆、それや何アに吐してけつかる。誰にも頼まれはせぬ。貴様の懐中にもつて居るお金が目的ぢや。地獄の沙汰も金次第ぢやからキリキリちやつと渡したらよからう。グヅグヅ致して居ると生命が無いぞよ。一方の野郎は酒に喰ひ酔つて脛腰は立たず。高が婆の一人位、捻り漬すのは宵の口ぢや。金を渡さにや渡さぬでよい。勝手に取つてやる。サア覚悟せい』 と猿臂をのばして、胸倉をグツと掴む。お寅はその刹那足を上げてトンクの睾丸を力一ぱい蹴つた。トンクはウーンと云つた切り、地上に大の字となつて了つた。テク、ツーロの二人は吃驚してトンクを呼び生けようとする。其隙を考へて守宮別はテクの足をグイと引張り俯向にドンと倒す。お寅はツーロの首筋を鷲掴みにしながら挙骨を固めて六つ七つ撲り打ちに打ち据ゑる。ツーロはフラフラと眼が暈うて又もやばたりと其処に倒れて仕舞つた。 お寅『サア、守宮別さま、其処の藤蔓をもつて動かないやうに、何奴も此奴も今の中に縛つておきなさい。これからこれ等三人を厳しく詰問してブラバーサの陰謀を白状さしてやらねばなりますまい。何と気味の善い事、遉は日の出の神の生宮だけあつて偉いものだらう。これ守宮別さま、日の出の神の生宮には感心したらうな、アラブの千匹万匹来るとも、このお寅が、フンと一つ鼻息するや否や、何奴も此奴もバタバタと東京のバラツクに二百十日の大風が吹いたやうにメチヤメチヤに倒れて了ふのだよ。日の出神様も聖地へ来てから、だんだん出世を遊ばし偉い御神徳の出来たものだ。もう此上は三千世界の救世主と名乗つても誰一人非難するものはあるまい、ヘヽヽヽ。てもさても愉快の事だわい。苦みの果には楽しみあり、万難を排して勝利の都に達するとかや。お前さまも些と酒をやめて心の底から私の云ふ事を聞くのだよ。僧院ホテルでお前さまは何と云ふ馬鹿気た演説をするのだえ。この私をブラバーサと同じやうに余り信じないと云つたぢやないか。肝腎要の参謀長がそんな考へをもつて居てどうしてこんな大望が成就しますか。些と心得なされ。余り云ふ事を聞かないと小北山のお寅さまぢやないが、鼻を捻ますぞや』 守宮別『イヤもう改心致しました。朝顔形の猪口がメチヤメチヤになつては耐りませぬからな、ウフヽヽヽ』 トンクはウンウンと唸き出した。お寅はトンクの髻をグツと握り、 お寅『これやトンク、恐れ入つたか。往生致したか。どうぢや、サア誰に頼まれた白状致せ』 トンク『ハイ、ハヽ白状致します。どうぞ其手を放して下さい髪が脱けます』 お寅『ぬけたつて何だ。お前の頭ぢやないか。肉と一緒にコポンと取つてやる積りだ。苦しきや白状なさい。魚心あれば水心だ。白状さへすれば今迄の罪は神直日大直日に見直し聞き直して許してやる。そして白状した褒美にお金をやるから、トツトと白状したがよからうぞや。かう見えてもこのお寅は、虎でもなければ狼でもない、三千世界の氏子を助ける生神様だからな。敵たうて来たものには鬼か大蛇になるお虎であるけれど、従つて来たものには結構な結構な大歓喜天の女神様ぢやぞえ』 トンク『ハイ、白状致します。その代りにテク、ツーロの縛を解いてやつて下さい。私だけ助かつた所で仕方がありませぬから』 お寅『これこれ守宮別さま、何んぢやいな、気楽さうに煙草ばかり呑みつづけて、ちつとお手伝ひをなさらぬか。気の利かねえ男だなア』 守宮別『到底神様のお手伝ひは人間として出来ませぬわい。マア悠りと見物でもさして貰ひませうかい。あた阿呆らしい。酒も無いのにこんな事を見て居られませうか、お寅さまも仲々気が荒いですなア』 お寅『それや荒いとも、アラブの荒男を三人迄、荒肝を取つて荒料理をせうと云ふのだもの。随分霊験な神様だよ。これアラブのトンク、大略でよいから早く誰に頼まれたと云ふ事を白状せぬか。命取られるのが好いか。お金を貰ふのがよいか、どうぢや』 トンク『実の所はお前さま所へ始終出入して居るヤクさまに頼まれました。ヤクさまが金を吾々三人に二十両宛下さいました。そしてお寅さまが剣呑になつて来た時は掻攫へて僧院の裏から何処かへ逃げて呉れと仰有つたのです』 お寅『ホヽヽヽヽ、甘い事、どこ迄も云ひ含めたものだなア。ブラバーサの奴、反間苦肉の策をつかひよつて、ヤクに頼まれたなぞと、熱心の信者とこのお寅と喧嘩させようと思つて居やがるのだな。どこどこ迄も油断のならぬど倒しものだ。これやトンク本当の事を云へ。ヤクさまぢやあるまいがな』 トンク『イエ滅相な有体の事を申します。御霊城の受付をして厶るヤクさまが、お前さまが僧院で演説をしられた時、聴衆の中へ入つて厶つて、あまり聴衆の人気が悪く殺気が立ち、お前さまを殺してやらうと迄ひそびそ相談して居たものが有つたので、ヤクさまが心配して、傍に居つた私等三人に大枚二十円宛をそつと懐中に入れ、どうかお寅さまと守宮別さまを担いで此場を逃げて呉れ。さうせぬとお二人の命が危いと囁きましたので、二十円のお金まうけにお二人さまを担ぎ出しました。さうするとお前さまの懐中に、ガチヤガチヤと余り沢山の金が入つて居さうなので、此処迄来てから二重儲けをせうと思つて、一寸ごろついて見たのですよ。何うか耐へて下さい。しかし吾々三人が無かつたらお前さまの生命が無かつたかも知れませぬよ。これが正直正銘一文の掛値のない所の白状で厶います』 お寅『フーン、さうかいな。ても扨てもブラバーサと云ふ奴は剣呑な奴だな。矢張り彼奴が此生宮を殺さうと思つて、聴衆の中に暴漢を匿まひ置きよつたのだなア。これトンクさま、お前さまはブラバーサをどう思ひますか』 トンク『さうですな、どうか頭を放して下さい痛くて仕方がありませぬわ。アイタヽヽヽヽ、痛いがな』 お寅『余り話に身が入つてお前の頭をブラバーサだと思ひ、力一杯痛めたのは悪かつた、まア耐へてお呉れ。これも時の災難だからな。これこれ守宮別さま、話が分つた以上は、テク、ツーロの縛を解いて上げて下さい。話を聴いて見ねば分らぬものだ、ほんに気の毒だつたな。とは云ふものの三人が三人乍ら、俄にこのお寅を脅迫した罪は許されないから、痛い目に遇つたからといつて怒る事は出来まい、これで帳消だ。サアこれから改めてお前達三人と篤と相談をしよう』 トンク『悪にかけたら抜目のない吾々三人、金になる事ならドンナ御相談にも乗ります。私だつてあのブラバーサには深い深い意恨が厶います。マリヤの奴を三人寄つて手籠になし、念仏講でもやり、楽しもうと思つて居た所へ彼のブラバーサが、仕様も無い歌を歌つて来たものだから、折角仕組だ芝居も肝腎の所でおジヤンになり、オチコウツトコ、ハテナの願望も遂げず、すごすごと吾家に帰つたものだから仲々伜のやつ承知をしませぬ、オチコ、コテノとなつて、マストを立てそれはそれは夜半大騒動五人組が駆け出すやら、泥水が出るやら、ヘヽヽヽヽン、いやもうラツチもない事でした、アハヽヽヽ』 守宮別『ウフヽヽヽ、ソンナ厚い唇で、真黒な顔して居つて色のこひの鮒のつて、些と食ひ過ぎて居るわい。併し乍らブラバーサとマリヤに対し、さう云ふ経緯があり意恨が残つて居るとすれば何うだ、反対派の吾々の仲間に入り、幾何でも金はやるからエルサレムの町に出て、ブラバーサ攻撃の大演説をやる気は無いか』 トンク『ハイそれは合ふたり叶ふたり、大にやります。のうテク、ツーロお前達も賛成だらう』 テク『ウン尤もだ、テクさまの恋の敵のブラバーサ、力一ぱい面皮を剥いてやり、此エルサレム町に居れないやうにしてやるのも痛快だ、腹癒せだ、溜飲が下るやうだ。ようし面白い面白い、面白狸の腹鼓だ。喃、ツーロ、何程辛うても、エルサレムの通路を縦横無尽にテクついてブラバーサの罪状をトンクと市民に分るやうに、布留那の弁を揮つて吹聴仕やうぢやないか』 トンク『ヤア面白い、大ミロクの生宮、日の出の神のお寅さまを大将軍と仰ぎ、守宮別様を参謀総長とし、エルサレムの町を三方四方から突撃と出かけようかい』 お寅『これこれトンクさま、決してヤクに頼まれたなどと云ふちやなりませぬよ。ブラバーサに頼まれて、あんな悪い事を致しましたが、日の出の神の御神力に怖れて罪亡ぼしに白状致しましたと大声に云ふのだよ。分つたかな』 トンク『ハイ、事実を曲げて云ふのは間違ひやすうて些と許りやり悪くて困りますが、マア成可く貴女の為になるやうブラバーサを攻撃致しませう』 お寅『ブラバーサ憎む心はなけれども 世人のために葬らむとぞ思う。 聖場を色で汚したマリヤ姫を 千里の外に逐やりて見む』 守宮『吾は唯薬師如来がましまさば 如何な悩みも苦しからまじ。 酒呑めばいつも心は春の山 笑ひ乍らに花は咲くなり。 お寅さまお花さまでは気が行かぬ 蒲萄酒ビール酒が好物。 キリストも釈迦も孔子も神さまも 酒に比べりやしやうもない奴』 お寅『又しても守宮別さまの罰当り 腸までが腐つて居るぞや』 守宮『くさつても酒と鯛とは味がよい 腐らぬ先に呑めばなほよし。 ドブ貝の腐つたやうな香ひより 酒の腐つた香がよろしい』 お寅『虫の喰た松茸股にぶらさげて 腐れ貝とは何を云ふぞや』 トンク『くさいやつ三人五人集まつて 臭い相談谷底でするも』 テク『お寅さま手管の糸を繰返し マリヤの腹を突かむとぞする』 ツーロ『つらうても彼の為めなら町に出て 嫌な演説せねばなるまい』 お寅は、 お寅『さア早く此場を立つて帰りませう お花が霊城に待つて居るだろ』 と云ひ乍ら、吾営所を指して一行五人帰り行く。 (大正一四・八・一九旧六・三〇於由良秋田別荘加藤明子録)
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霊界物語 64_下_卯エルサレム物語2 07 虎角 第七章虎角〔一八一三〕 守宮別お花の二人は奥の一間で、酒汲みかはし乍ら、意茶付き喧嘩をやつて居る所へ、トンク、テク両人は盗人猫が不在の家を覗くやうなスタイルで、ヌーツと顔をつき出した。お花は早くも二人の姿を見てとり、 お花『ヤ、お前は、お寅さまと一所に霊城へやつて来たトンク、テクの両人ぢやないかい、何ぞ御用があるのかな』 トンクは右の手で額を二つ三つ叩き乍ら、 トンク『イヤ、どうも、誠に済みませぬ。些と許り酒代が頂戴致したいので、……』 お花『お前はお寅さまの御家来ぢやないか、妾に些とも関係はありませぬよ、酒代が欲しけら、お寅さまに貰つて来なさい、ノコノコと失礼な、人の座敷へ入つて来て、盗猫のやうに、黒ん坊のクセに何んぢやいな』 トンク『お前さまに直接の関係はありますまいが、ここに厶る守宮別さまには深い深い関係があるのです。……これはこれは守宮別様、大変お楽みの所を、不粋な黒ん坊が二人もやつて来まして、嘸御迷惑でも厶いませうが、チツと許り口薬が頂戴致したいので厶いますよ』 お花『何、口薬が欲しいと云ふのかい、守宮別さまの暗い影でも掴んだといふのかい』 トンク『ハツハヽヽヽ、白々しい事を仰有いますな。大変なローマンスを見届けてあればこそ、かうして口薬を頂戴に参つたのです。ゴテゴテ云はずに、ザツと二十円、二人で〆て四十円、アツサリと下さいな、安いものでせう』 お花は之を聞いて、守宮別がお寅以外に女でも拵へて居るのではあるまいか。そこを此トンクに見つけられて、弱点を握られてるのだらう、何と気の多い男だなア。……と稍嫉妬心が起り出し、 お花『これ、守宮別さま、お前さまは又しても又しても箸まめな事をして厶るのだろ、サ、トンクさまとやら、あつさりと云ふて下さい、さうすりや、お金は二十円はさておいて、五十円でも百円でも上げます』 守宮別『コレお花、コンナ者に、さう金をやる必要がどこにある。相手にしなさるな』 お花『そらさうでせう、妾がトンクさまを相手にすると、チト、あなたの御都合が悪いでせう。コレコレ、トンクさま、遠慮はいりませぬ、とつとと守宮別さまのローマンスをスツパリと、此場でさらけ出して下さい』 トンク『ハイ有難う、屹度百円くれますな』 お花『併し二人に百円だよ。取違して貰ふと困るからな』 トンク『ハイ宜しあす、此守宮別さまは、お寅さまと何時も師匠と弟子のやうな顔をして、殊勝な事をいふてゐられますが、其実内証でくつついてゐるのですよ。私や、いつやらの晩、橄欖山の上り口で、怪体な所を見て置きました。なア守宮別さま、其時あなた、人に言つちや可けないよ……と云つて私に十円呉れましたね』 守宮別『ウン確かにやつた覚がある、併しそれをどうしたといふのだ。ソンナこた、お花さまの前で言つた所で三文の価値も無いぢやないか。お花さまだつて、今日迄の俺とお寅さまとの関係は御承知だからなア』 トンク『それでも、あなた、さういふ事を世間へ発表せうものなら、貴方もチツトは困るでせう』 お花『阿呆らしい、トンクさま、そんなことなら聞かして貰はいでも可いのだよ。此守宮別さまが、外の女と怪しい関係があつたか無かつたか、それが聞かしてほしかつたのだよ。確な証拠はなくても、どこの家で酒を呑んで居つたとか、意茶ついて居つたとか、夫れが分れば可いのだからな』 トンク『ヘ、五十円なら申上げます。エルサレムの横町のカフエーの奥で、お花さまと守宮別さまが一杯やり乍ら、夫婦約束をしたり、頬ぺたを抓つたり、肩にブラ下つたり、それはそれは見るに見られぬ醜体を演じてをられました、事を私許りぢやなく、ここの女中が証人ですよ。それも今月今日、サ五十円、二人でシメて百円、如何です安いものでせうがな』 守宮別『フツフヽヽヽ、此奴ア面白い。マ一杯やつたらどうだ』 とコツプをつき出す、お花は眉を逆立て、声を尖らし乍ら、 お花『ヘン、あほらしい、業々し相に、何のこつちやいな。五十両もお前さま等にやるやうな、金があつたら、ヨルダン川へでも放かしますわいな』 トンク『宜しい、お前さまが其了見なら、直様お寅さまへ注進致しますよ』 お花『どうぞ注進して下さい。そして守宮別さまと此お花との交情のこまやかな所を、お寅さまにつぶさに報告し、忠勤振を発揮なさいませ。最早此お花はお寅さまと手を切り、守宮別さまとは天下晴れて、切つても切れぬ夫婦ですよ。どうか、お寅さまに守宮別さま夫婦が宜しう伝へたと仰有つて下さい。そしてエルサレムの市中へ、妾達夫婦の結婚式を挙げた事を、駄賃をよう出しませぬが、披露をして下さい』 トンク『エー、クソ面白くもない。ようし、これから、一つお寅にたきつけてやらう』 とテクと共に千鳥足し乍ら、カフエーを立出で、お寅の霊城へと注進の為忍び行く。 お寅は守宮別、お花の打つて変つた愛想づかしと無情な仕打に、憤慨の余り逆上し、暫庭の土の上に倒れてゐたが、漸く気がつき、辺りを見れば、箱火鉢は腹を破つて木端微塵となり、そこらは灰神楽で、一分許りの畳の目もみえぬ程黒くなつてゐる。ブツブツ小言を云ひ乍ら、穂先の薙刀になつた箒でヤツトの事、灰を掃清め、ドスンと団尻を下ろした所へ、ヒヨロヒヨロになつて、一杯気嫌の鼻唄諸共、トンク、テクの両人が入り来たり、トンクは開口一番に、 トンク『これはこれは、生宮様、お一人で嘸お淋しいこつて厶いませう。ヤクの後を追つかけて、生宮様がお駆出しになつたものですから、人馬の行通ふ雑踏の巷、貴女のお身の上が険呑だと思ひ、三人が手分を致しまして、そこら中を捜しました所、お行方が分らず、一層の事ヤクを取つ捉まへてお目にかけたいと思ひ、エルサレムの裏長屋迄捜して見ましたが、たうとう幸か不幸か、姿を見失ひました。それから横町のカフエーに立寄り、ブドー酒をテクと二人引つかけてゐますと、それはそれは天地転倒と云はふか、地震ゴロゴロ雷ピカピカ、いやもう、ドテライ、貴女のお身の上に取つて、大事件が突発して居りましたので、取る物も取敢ず、お弟子になつた御奉公の初手柄として御報告に参りました』 お寅『それはどうも有難う、お前ならこそ報告に来て呉れたのだ、大方ブラバーサが暴力団でも使つて、此お寅を国へ追返さうとでも企んでゐるのぢやないか』 トンク『イエ、滅相な、ソンナ小さい事ですかいな。貴女のお身の上にとつて、天変地異これ位大きな災は厶いますまい、なあテク、側から見て居つても、ムカつくぢやないか』 テク『本当にテクも、腹が立つて、歯がギチギチ云ひよるわ、あのザマつたら、論にも杭にも掛らぬわい。お寅さまが本当にお気の毒だ』 お寅『コレ、序文許り並べて居らずに、短刀直入的に実地問題にかかつて下さい。一体大事件とは何事だいな』 トンクは、 トンク『ヘー、これ程大事な事を申上げるのですから、貴女はお喜びでせうが、一方の為には大変な不利益です。さうすれば、貴女に喜ばれて、一方の方からは非常な怨恨を買ひ、暗の晩にでもなれば、うつかり外は歩けませぬわ。それだから、ヘヽヽヽ一寸は容易に申上げたうても申上げられませぬ。なあテク、地獄の沙汰も○○だからなア』 お寅『エー辛気臭い、お金が欲しいのだらう。お金ならお金と何故あつさり言はぬのだいな』 トンク『ハイ、仰に従ひ、あつさりと申上げます。どうか前金として、二十円程頂戴致したう厶います』 お寅『ヨシヨシ、サ、あらためて取つてお呉れ』 と其場に投出せば、二人はガキの様に引つつかみ、ヤニハにポケツトへ捻込んで了ひ、 トンク『ヤ、有難う、流石はウラナイ教のお寅さま、底津岩根の大ミロクの生宮、日出神のお寅さま、ウラナイ教の大教主、誠に感じ入りました』 お寅『コレコレ、ソンナ事聞かうと思つて、お金を出したのでない。大事件の秘密を早く聞かして下さい』 トンク『ハイ、これからが正念場です。どうか吃驚せないやうに、胴をすゑて居つて下さいや。エー、実の所は横町のカフエー迄一杯呑みに行きました所、裏の離れに男女が喋々喃々と、甘つたるい口で囁いたり、頬べたを抓つたり、金切声を出して、意茶ついてる者があるぢやありませぬか』 お寅『成程、そら大方ブラバーサとマリヤの風俗壊乱組だらうがな。そんな事がナニ妾に対して大事件だろ、併し乍らヨウ報告して下さつた。之から彼方等を力一杯攻撃して、再び世に立てない様、社会的に葬つてやる積だから、そら可い材料だ』 と話も聞かぬ内から早呑込みしてゐる。トンクは言句に詰り、 トンク『もし、お寅さま、さう早取して貰ふと、二の句がつげませぬがな。オイ、テク、お前之から性念場を些と許り申上げて呉れ。お前廿両貰ふた冥加もあるからの』 テク『お寅さま、ソンナ気楽な事ですかいな、お前さまの寝ても醒めても忘れない、最愛のレコとあやめのお花さまとが、それはそれは目だるい事をやつていましたよ。私が貴女だつたら、あの儘にはして置きませぬがな。生首を引抜いて烏にこつかしてやらねば虫が癒えませぬがな』 之を聞くより、お寅は電気にでも打たれた如く打驚き、暫しは口を尖らし、目を剥いて言葉も出なかつたが、稍暫時して、 お寅『テヽテクさま、トヽトンクさま、そら本当かいな。本当とあれば、ジツとしては居られない、お花の奴、本当にバカにしてる』 と早くも捻鉢巻をなし、赤襷をかけようとする。 トンク『そら、マヽ待つて下さい、さう慌てても、話が分かりませぬ、たうとう二人は夫婦約束を致しました。そして祝言の盃もやり直したといふことですよ』 お寅『ナヽナアニ、シユシユ祝言の盃、そして又ドヽ何処の内で、ソヽそんな事を、ヤヽやつてゐるのだい』 トンク『横町のカフエーの奥座敷ですがな、併し乍らトンクが言つたとは、云つて貰へませんで、あとが恐ろしう厶いますからな』 お寅『コリヤ、トンク、テク、お前も妾の家来に成つたのぢやないか、妾の為には何でも聞くだろ、妾が踏込んで生首引抜くのも易い事だが、そんな乱暴な事すると、日出神の沽券にかかはる。妾はここで辛抱するから、お前代りにお花の生首引抜いてヨルダン川へ投込みて下さい。さうすりや、何ぼでもお金は上げるからな』 トンク『何程お金に成りましても、ソンナこたア私に出来ませぬワ。暴力団取締令が出て居りますので、二人寄つても、直にスパイが後を追つかける時節ですもの。そんなこたア、御本人直接に決行されたが可いでせう。刑務所へ放り込まれて臭い飯くはされても約まりませぬからな、それとも一万両下さらばやつてみても宜しい』 お寅『エーエー腑甲斐のない、何奴も此奴もガラクタ許りだな。守宮別さまは決してそんな無情な人ぢやない。酒に酔ふと、いろいろの事を仰有るが、正直な親切な、誠生粋な大広木正宗さまの生宮だ、スレツカラシのお花の奴、たうとう地金を放り出し、男を喰はへて、ヌツケリコと夫婦気取で、そんな所へ行て酒をくらうて居やがるのだらう。エーまどろしい、暴力団取締が何だ。日の出神の生宮がお花位に敗北を取つてどうなるものか』 と眉毛は逆立ち目は血走り鉢巻したまま、襷をかけたまま、後先の考へも無く腹立紛れに飛出した。トンク、テクの両人は、『コラ一大事』とお寅の後を見え隠れに付いて行くと、十字街頭を微酔機嫌で守宮別がお花の手を引いてヒヨロリヒヨロリとやつて来るのに出会した。お寅はアツと言つたきり、其場に悶絶して了つた。守宮別、お花は掛り合になつては一大事と、素知らぬ顔し乍ら、橄欖山目がけて逃げてゆく。 (大正一四・八・一九旧六・三〇於由良秋田別荘松村真澄録) (昭和一〇・三・一〇於台湾草山別院王仁校正)
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霊界物語 70_酉_トルマン国の国政改革 06 鬼遊婆 第六章鬼遊婆〔一七七三〕 黄昏時に頭から壺をかぶつたやうな空の色、何とも知れぬ血腥さい、腸の抉れる如うな風がピユーピユーと吹いてゐる。痩こけた烏が二三羽、羽衣を脱いだ柿の木の枝に梢諸共空腹を抱へて慄ふてゐる。 地上は枯草が一面に生ひ立ち、処まんだら赤い生地を現はしてゐる。何とも知れぬ、いやらしい虫が枯草を一面に取りかこみ、人の香がすると一斉に集まり来り、人間の体を吸はうとして待ちかまへてゐる。そこへ現はれて来たのは、三年間中有界にとめおかれ、修業を命ぜられたウラナイ教の高姫であつた。 高姫は新規の亡者を一人伴ひ乍ら、自分はヤツパリ現界に立働いてゐるつもりで、野分に吹かれ乍ら、東海道五十三次のやうな弊衣を身に纒ひ、新弟子のトンボと一緒に道行く人を引張込まむと待構へて居た。 トンボ『もし生宮様、もういい加減に帰らうぢやありませぬか。何だか此街道は淋しくて淋しくて犬の子一匹通らぬぢやありませぬか。何時まで蜘蛛が巣をかけて蝉がとまるのを待つやうにして居つても、蝉が来なくちや駄目でせう』 高姫『これ、トンボ、お前は何と云ふ気の弱い事を云ふのだい。仮令人間が通らなくても、此生宮が此処に出張して居れば、沢山の霊が通つて大弥勒の生宮の御神徳に触れ、御光に照され、百人が百人乍ら、お蔭を頂いて天国へ上るのだぞえ。それだから肉体人が来なくても、霊界人が来さへすればいいのだ。お前の俗眼では一人も人間が来ないやうに見えるだらうが、此生宮の目には、今朝から八万人許り来たのだよ。それはそれは忙しい事だよ。お前も肉体が曇つてゐるので、あれ丈けの亡者が一人も目につかぬのは無理もない。然し乍ら今朝から通つた八万人の亡者が、お前の顔を見て羨ましさうにしてゐたよ』 ト『何故又私のやうな不幸者を羨ましさうにして通るのでせうか。サツパリ合点が行きませぬがな』 高『それだからお前は盲と云ふのだ。目が見えぬと黄金の台に坐つて居つても、泥の中に突込まれて居るやうな気がするものだよ。結構な結構な三千世界の救世主、底津岩根の大弥勒、日の出神の直々の御用をさして頂き乍ら、何と云ふ勿体ないお前は量見だえ。お前のやうな結構な御用をさして貰ふものは、何処にあるものか。それだから八万人の精霊が羨ましさうにして通つたのだよ』 ト『ヘーン、妙ですな』 高『これ、トンボ、トンボーもない事を云ひなさるな。「ヘーン、妙ですな」とは何だい。この生宮さまをお前さまは馬鹿にして居るのだな。そんな量見で生宮の御用をして居ると神罰が立所に当つて、頭を下にし、足を上にしてトンボ返りをせねばならぬぞや。チツト心得なされ』 ト『私やこの間から、余り辛いのと馬鹿らしいので実の所は生宮様の隙を窺ひ、うまくトンボ(遁亡)しようかと考へて居りましたが、私を羨むやうな人物が八万人も一日に通るかと思へば、何処に行つても同じ事だ。生宮様のお側にマアしばらく御用をさして頂きませう』 高『これ、トンボ、そら何を云ふぢやいな。暫く御用をさして頂くとは罰当り奴、そんな量見で居るやうなガラクタなら、今日から暇をやる。サア、トツトと帰つておくれ。お前が居らなくても肉体は女だから炊事万端お手のものだよ。無用の長物、ウドの大木、体見倒しの頓馬野郎だな。之からトンボと云ふ名を改名して、トンマ野郎と云ふてやらう。それがお前の性に合うてるだろ』 ト『生宮様トンマ野郎とは、ひどいぢや御座いませぬか』 高『ヘン、三千世界の救世主、底津岩根の大弥勒、第一霊国の天人、日の出神の生宮のお側に御用さして頂いて居るのぢやないか、何程賢い立派な人間でも、此生宮の目から見れば、何奴も此奴も皆トンマ野郎だよ。大学の博士だつてトンマ野郎だ。総理大臣や衆議院議員になるやうな奴は尚々トンマ野郎の腰抜野郎だ。お前も総理大臣や博士と同じ称号を生宮から与へられたのだから、有難く感謝しなさい』 ト『生宮さま、それでもあまりぢや御座りませぬか。どうか元の通りトンボと仰有つて下さいな』 高『さうだ。そんならお前はドン臭い男だから、ドンボと呼んで上げよう。トンマ野郎とは少しマシだからな。底津岩根の大弥勒様、第一霊国の天人、日の出神の生宮ぢやぞえ』 ト『もしもし生宮さま、もうその長たらしいお名前は聞きたんのう致しました。どうぞ簡単に云つて下さいな。法性寺入道と間違ひますがな』 高『こりや、トンマ野郎、そらナーン吐かしてけつかるのだ。トンマ野郎が嫌なら、ドンマ野郎にして上げよう。ああア、何奴も此奴も碌な奴は一匹も居やアしないわ。アゝゝゝゝ呆れた。開いた口が早速には塞がりませぬわい、イヽヽヽヽ何時迄経つても何時迄経つても生宮の申すことが分らず、改心が出来ず、イケ好かない野郎だな。ウヽヽヽヽ煩さい程、口が酸くなる程、毎日日々烏の啼かぬ日があつてもコケコーが歌はぬ朝があるとも、撓まず屈せず御説教してやるのに、エヽヽヽヽ会得が行かぬとは何と云ふオヽヽヽヽおそろしう大馬鹿だろ。カヽヽヽヽ噛んでくくめるやうに、日夜の生宮の説教も、馬の耳に風吹く如く、キヽヽヽヽ聞いては呉れず、キマリの悪い面付をして、クヽヽヽヽ喰ひ物許り目をつけ、苦労許り人にかけやがつて、ケヽヽヽヽ怪しからぬ怪体な獣だよ。コヽヽヽヽこんな事でどうして此法城が保てると思ふかい。サヽヽヽヽ扨も扨も困つた、シヽヽヽヽしぶとい代物だな。死損ひの腰抜けと云ふのはお前の事だぞえ。スヽヽヽヽ少しは生宮の心も推量し、進んで神国成就の為に大活動をしたらどうだい。セヽヽヽヽ雪隠で饅頭喰たやうな面して此生宮の脛を噛り、トンマ野郎が気に喰はぬなどと何を云ふのだ。ソヽヽヽヽそんな奴根性を持つてゐる粗末の代物を、高い米を喰はして養ふてゐる此生宮も、並大抵の事ぢやないぞえ。タヽヽヽヽ誰がこんなトンマ野郎を、仮令三日でも世話するものが御座りませうかい』 ト『チヽヽヽヽチツト無理ぢや御座りませぬか、畜生か何ぞのやうに、トンマ野郎だのドンマだのと、あまりひどいです。ツヽヽヽヽ月に一ぺん位、蛙の附焼位頂いて、どうして荒男の体が保てませう。テヽヽヽヽ手も足も此通り筋張つて来ました。丸ツきり扇の骨に濡れ紙を張つたやうな手の甲になつて了つたぢや御座りませぬか。トヽヽヽヽトンボだつて、どうして貴女と共に、活動が出来ませうぞ。チツとは私の身の上も憐れんで下さい。貴女計り美味い物を喰て、いつも私には芋の皮や大根の鬚や水菜の赤葉許り、当てがつて居るぢやありませぬか』 高『ナヽヽヽヽ何を云ふのぢやいな。勿体ない、その心では罰が当るぞや、ニヽヽヽヽ西も東も南も北も此通り曇り切つた世の中、お土の上に、何を蒔いても此通り、菜葉一つ満足に出来ない暗がりの世ぢやないか。赤ツ葉の一つも頂いたら結構ぢやと思つて喜びなさい。こんな寒い風の吹く世の中に、夜分はヌヽヽヽヽぬつくりと温い茶を呑んで、煎餅布団の中へ、潜り込んで居れるぢやないか。ネヽヽヽヽ年が年中何一つ、これと云ふ働きもせず、ノヽヽヽヽノラクラと野良仕事さしても烏の威しのやうに、立つて許り居るなり、ラヽヽヽヽ埒もない皺枯声を出して頭の痛むやうな歌を唄ひ、リヽヽヽヽ悧巧さうにトンマ野郎と云うて呉れな等とはお尻が呆れますぞや。ルヽヽヽヽ流浪して行く処がないから使つて下さい、と泣いて頼んだぢやないか、レヽヽヽヽ礼を云ふ事を忘れて、不足許り申すとはホントにホントによい罰当りだよ。お前は神様の警めで、ロヽヽヽヽ牢獄へ突込まれてゐるのだ。然し乍らお前の肉体は此生宮が構ふてゐるが、その魂は、喰ひ度い喰ひ度い遊び度い遊び度いと云ふ、大牢に這入つてゐるのだよ、フツフヽヽヽヽ』 ト『ワヽヽヽヽ笑うて下さるな。私はお前さまの云ふやうな勘の悪い人間ぢや御座りませぬぞや。これでも一時はバラモン軍のリユーチナント迄勤めて来た武士ですよ。ヰヽヽヽヽ何時までもお前さまの側へ居らうとは思ひませぬから、ウヽヽヽヽ煩さうても、売口がある迄辛抱してやつてゐるのですよ。ヱヽヽヽヽえぐたらしい事を朝から晩まで聞かされて、なんぼ軍人だつてお尻が呆れますよ。私はもう貴女のお供は之でヲヽヽヽヽをしまひですよ』 と逃げ出さうとする。高姫は後から痩こけた手をグツと出し、襟首を掴み二足三足後に引き乍ら、 高『こりや灸箸、麻幹人足、逃げるなら逃げて見い。燈心の幽霊見たやうな腕をしやがつて、線香の様な足をして、かれいのやうな薄つぺたい体をして、生宮様に口答へするとは以ての外だ。サア動くなら動いて見よれ』 ト『イヤもう、えらい灸を据ゑられました。どうぞかれいこれ云はずに許して下さい。許して下さらなもう仕方が無い。あの谷川へとうしん(投身)と出掛けます』 高『エーしやれ処かい』 とパツと手を放した途端にヒヨロヒヨロヒヨロと餓鬼の如くヒヨロつき、枯れた萱草の中にパタリと倒けて了つた。 高『ホヽヽヽヽ生宮様にかかつたら、バラモンのリユーチナントも脆いものだな。サアサア之から館へ帰り、夕御飯の用意でも致しませう』 とダン尻を中空にたわつかせ乍ら帰らむとする。時しもあれ、珍らしくも歌の声が聞えて来た。高姫は此声を聞くや否や、操り人形の如くクレリと体を交し、 『ヤア来た来た、これから私の正念場だ』 と大地に二三回も石搗きを始めて勇んでゐる。 『梵天帝釈自在天大国彦の大神は 三千世界の救世主神や仏は云ふも更 青人草や草木まで恵の露を垂れ給ひ 救はせ給ふ尊さよ大黒主の大棟梁 清き教を受け給ひ七千余国の月の国 一つに丸めて治めむとバラモン教を遠近に 開き給へど如何にせむ三五教やウラル教 勢ひ仲々強くして誠の神の御教を 蹂躙するこそ是非なけれ未だ時節の到らぬか これ程尊い御教も数多の人に仰がれず 誹毀讒謗の的となり日に夜に教は淋れ行く 大黒主の権力に押されて表面バラモンの 信者に化けて居るなれど心の中はウラル教 三五教の奴許りこんな事ではならないと 大黒主の御心配強圧的に軍隊を 用ゐて信徒を召集し否が応でもバラモンの 教に靡かせくれんづと大足別の将軍に 三千余騎の兵士を引率させてデカタンの 大高原に進軍しトルマン国を屠らむと 吾にスコブツエン宗を開かせ給へどその実は 異名同宗バラモンの教に少しも変らない 只々相違の一点はバラモン教より劇烈な 信徒に修行を強ゆるのみこんな事でもしておかにや 虎狼に等しい人心を緩和し御国を保つこと 容易に出来るものでないかてて加へて此頃は 思想日に夜に混乱しアナアキズムやソシヤリズムが 到る処に出没し大黒主の此天下 愈危くなつて来た吾は此間に教線を 七千余国に拡張し大黒主の失脚を 見届け済まして月の国いや永遠に統治なし 神力無双の英雄と世に謳はれむ面白や 神は吾等と共にあり吾こそ神の化身ぞや 神に刃向かふ奴輩は何奴も此奴も容赦なく 亡ぼし呉れむ吾宗旨アヽ面白や面白や いかなる神の教をも言向和し大野原 風に草木の靡く如振舞ひ呉れむ吾力 吾等は神の化身なり吾等は力の根元ぞ 来れよ来れ四方の国鳥獣の分ちなく キユーバーが配下としてやらうイツヒヽヽヽイツヒヽヽヽ 実に面白くなつて来た天は曇りて光なく 地上は冷えて草木さへ皆枯れ萎む世の中に スコブツエン宗只独り旭日の天に昇るごと 日々毎日栄え行くウツフヽヽヽヽウツフヽヽヽヽ』 と大法螺を吹き立て乍ら四辻迄やつて来た。高姫はキユーバーの姿を見るより、カン走つた声にて、 『これこれ遍路さま、一寸待つて下さい。お前は一寸見ても、物の分りさうな立派な男らしい。私は三千世界の救世主、大みろくの太柱、第一霊国の天人、日の出神の生宮ぢやぞえ。サア一寸、私の館迄来て下さい。結構な結構なお話を聞かして上げませうぞや』 キユーバー『何、お前が救世主と云ふのか、フヽヽヽフーン、はてな』 高『これ、遍路さま、何がフヽヽヽフンだい。はてな……処か、これから世の初まり、弥勒出現、神代の樹立、世の終ひの世の始まりぢやぞえ』 キユ『ハヽヽヽヽヽ何と面白い婆さまだな。幸ひ日の暮の事でもあり、そこらに宿もなし、一つ宿めて頂かうかな』 高『サアサア宿つて下さい。結構な結構なお話をして上げますぞや、ホヽヽヽヽヽ。トンボの奴到頭草の中へ埋もつて了ひよつた。あんな奴アどうならふと構ふ事はない。生宮様に対して理窟許り吐くのだもの。何と世の中は妙なものだな。一人の奴が愛想づかして逃げたと思へば、チヤーンと神様は代りを拵へて下さる。この遍路は、どうやら生宮の片腕になるかも知れぬぞ。ホヽヽヽヽヽ』 トンボは最前から草の中に身を隠して高姫の様子を考へてゐたが、……こんな奴に来られちや自分はもう足上りだ。然し乍ら高姫の奴、あんな男を引張り込んで、どんな相談をしとるか知れぬ。今晩は兎も角、館の外から二人の話を聞いてやらねばなるまい…………と思案を定め、両人が岩山の麓の破れ家へ帰つて行く後から、闇を幸ひ足音を忍ばせついて行く。 (大正一四・八・二三旧七・四於由良秋田別荘北村隆光録)
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霊界物語 75_寅_太元顕津男の神の物語3 10 祈り言 第一〇章祈り言〔一九〇四〕 玉野比女の神、生代比女の神は、漸くに国魂神の安らに平に生れ給ひて真鶴の国の基礎の固まりしを喜び給ひて、玉野大宮の清庭に立ち出で、白衣の長袖を山風にひるがへし乍ら、左手に白扇を持ち、右手に五百鳴の鈴を持ちて踊りつ舞ひつ、国土生み神生みの完成を祝し玉ふ。即ち二女神は、 『タータータラーリタラリーラー タラリアガリララーリトー チリーヤタラリララリトー』 と宇気伏せて踏み轟かし給ひて、 『アメツチヒラクトコヨナル カミハキニケリイサゴイサゴ イササゴイサゴヤハレヤハレ アハレアハレワハレワハレ イヒレイヒレイヒレイヒレ ヰヒレヰヒレタラナタラナ チリニチリニツルヌツルヌ テレネテレネトロノトロノ コゴコククズケゲデキギヂ タラナトロノツルヌテレネ チリニハサザホソゾフスズ ヘセゼヒシジタリカムナガラホギス いろはにほへどちりぬるを わがよたれそつねならむ うゐのおくやまけふこえて あさきゆめみしゑひもせす アア惟神々々御霊幸ひおはしませ』 斯かる所へ太元顕津男の神は薄き白衣を纒ひ給ひて大宮の沙庭に現れ、大麻を打振り打振り御声も円満清朗に、少しの淀みもなく神言を宣り給ひぬ。其の祝詞の全文を此処に示し奉らむとす。 祈り 『掛巻も畏き紫微天界に八隅知らす⦿の大神の御霊代なる高天原は、天之峯火夫の神の住み極まり玉ふなる大御⦿にしあれば、⦿の神の弥広殿にして、天津諸々数の極み孕み備はり神充実りに充実りて、一つの大御玉なるが、⦿の巣定まるが故に天地火水の位を分ち、其天は道反の御玉を保ち、其地は足御玉を保ち、其火は幸御玉を保ち、其水は豊御玉を保ち保ち、其産霊は死反しの御玉を保つ。故れ地は高天原の中心に澱止り、水は地の守りとなり、火は磨擦て発り又相搏ちて燃え騰る。天は常しく定まりて伊機佐志を建つる、産霊は往来て誠を保つ、之を内外裏表とに結び統べ摂けて大霊元球と称ふ。霊元球活用きて大御心となる。大霊元球の精体大御身と成る。是故に世の皇腺は、⦿の大神の大玉体の内に全く備はれる大御目なり、大御鼻なり、大御耳なり、大御口なり、大御手なり、大御足なり、大御胸なり、大御腹なり、御肺なり、御心なり、御脾なり、御肝なり、御腎なり、御筋骨なり、御腸なり、御腺なり、御爪毛なり。一つの大玉体にして諸の御名を分つ大元素は、是⦿の神の項掛け玉ふ美須麻留の大皇玉なるが故に、其組織分子の一条る脈にして、機臨旺精産霊て神人となり出でたるものにしあれば、敢て独神立つ事ならず、皆諸共に産霊活りて全く纒り、更に私なく、更に離れ散る事なく、身挙りて⦿の神の皇腺なり。爰に⦿の大神は大御心を主どり玉ひて、紫微の天津高御座に大座しまし、大臣神は智慧を主どりて御火座に位し、小臣神は誨教を主どりて水座に位し、田身の神は手業足業を主どりて地座に位し、一つに産霊て天津大政事に事へ奉る。有りて久しき大神世を前後長く常しへに弥遠長く連らぎて、其条脈を守り、其姓を姓とし、其職を職とし、其家を家とし、交代生れ来りて、愛しく愛しく愛く愛く愛しく思ひやらる。其機綱に写り、み入りて、天津大至祖より幾万数々の世を経て、今此身に至り、此身よりして子孫、曽孫、玄孫、来孫、昆孫、仍孫、雲孫、脈孫、系孫、紀孫、遠孫、裔孫、やすささ孫、種孫、仁孫、素孫と成りて、数の限り継ぎ継ぎ連なりて常永に運りめぐる。其時々の色として、⦿の大霊元球の組織経綸の条脈を、糸経、日次、月次、年次を貫緯て大神世を造らす。神御衣の神織に連なり、梭執る天津真言を織り立て奉り、錦の花を開き、天津⦿腺の真実を産霊ぶ。故れ⦿の大神の大玉体は、世の⦿腺を統べ坐せる大霊元球にして坐せば、大霊元球の⦿腺なる神人として、独り我立ち己立ち、身勝ち取り勝ち優勝劣敗類ひの穢き汚はしき鳥獣らの心を起し、魚虫木草らの行を行ひて、神人の道に背く事しあれば、忽ち正しく天津誠の糸条を紊り、大霊元球の組織を破り、親心を亡ぼすにしあれば、即ち⦿の大神其儘の大玉体を乱り奉り、傷ひ奉り、悩め奉り、掛巻も綾に尊く言巻も綾に霊妙き⦿の大神の大玉体を穢し汚し奉る事にしあれば、諸の神人の悪む品となり、神の譴責る所となり、御祖の祟る所となり、必ずしも溺れ漂ひと諸々の災にかかり苦しみ果てなむを、畏きかもよ醜しきかもよ、⦿の大神の御心を痛め奉り、世を穢し己を苦しめ己を亡ぼし奉る。迷ひ溺るる事の甚しき憂とし思へば、現しく是禍津神の禍事なれば、迅速く大麻を執り奉り、神直日大直日に見直し聞き直し奉りて、其過ちを改め奉り、其穢を潔ぎ奉り、其紊れを理め奉り、其破れをつなぎ奉り、清め潔め奉りて、再び犯し奉らじものをと誓ひ奉り、大き神小さき神人の悉々見慎み聞き慎み、伊澄み渡り奉る。かくて⦿の大御神其儘の大玉体は弥全く、弥尊く、弥貴く、弥霊妙に弥明りに澄み透らひ、大御稜威貫き徹りて、感伏ひ奉らざるものなく、大智慧の光りかがやきて、暗けき所なく、大御和みに賑み、大御温みに穆み、産霊徳り奉る。故れ今此の紫微天界の豊秋津洲の大御国に、神人と産霊成り出でたる神人は、即ち今の現に⦿の大御神を五層の天界を知ろしめし、大御座大神の大玉体の皇脈なれば、⦿の神の大御心のまにまに畏み慎み、世の為神人の為と励しみ勉め奉り、事に臨みては火に水に入る事をも厭はず、誠の大神言とし知らば、道のまにまに白刃の林に入るも、亦烈しく射向ふ矢玉の中も更に厭はず、神進みに進みて、禍を攘ひ国を清むる、其麻柱の鋭き事、雷よりも烈しく、其程利の当れる事、太陽の往きます道よりも明白なり。諸々皆此の如くなれば、⦿の大神は天津高御座にまし坐して、天津国を無窮に知ろしめし、御褥の上に拱手まして、御褥の神紋を融び徹して、十六面に普からしめ、数の限り理まりたる天津誠の大経綸を五ツ五ツに整き立て、大霊元球の組織のまにまに、世の事毎を明かに統べ知り玉ひて、天津法言の太法言を以て、礼のまにまに道のまにまに、明かに導かせ給ひて、助け玉ひ育て玉へと、高天原に有りとある大神等小神等、大臣神小臣神たち田身神等諸々を、乳児の神に至るまで、一柱だも落し玉ふ事なく、生きとし生ける諸々は、塵の半分も残し玉はず、助け玉ひ恵ませ玉ひて、幾万億々世々の後の後をも、政り治め玉ひて、天津⦿の神の天津誠を祭らせ玉ひ、斎かせ玉ひて、肝⦿む天の誠を手握り玉ひ、無為て事なき大神世を弥脩めに理め、弥平かに平らげ玉ひて、天津神代の神律その儘に、平けく安らけく、天津高御座に天津誠を聞しめし玉ひて、此皇脉を守り幸へ玉へと、畏み畏み伊宣り奉る』 顕津男の神の御歌。 『天晴れ天晴れ真鶴の国は堅まりぬ 国魂神は生れましにける ⦿の神の任さしの業のその一つ 目出度く成りし今日の嬉しさ 玉野比女生代の比女の真心に 真鶴国原輝き初めたり 男神我は高日の宮を出でしより 四柱の命生り出でにけり 八十比女神我を待ちつつ年さびむ ことの悔しも独り神われは 玉野比女神の誠に玉藻山の 常磐の松の色深みたるかも 麒麟鳳凰迦陵頻伽の声冴えて 家鶏鳴き高し真鶴国原』 玉野比女の神の御歌。 『畏しや太元顕津男の神は 生言霊に国魂生ませり 生代比女神の神言のあらざらば 貴の神業は遂げざらましを 右左水火合はさねど斯の如く 御子生れまさば何を歎かむ 天渡る月さへ流転の影を見る われは全きを望むべしやは』 生代比女の神の御歌。 『今となりて愧づかしきかも比古神を 想ひて荒びし其の日おもへば 玉野比女神の御言を聴くにつけて 足らはぬわが身の心恥づるも よしやよし想ひ死なむとも慎みて あるべきものと思へば面ほてる 貴の御子生れましし今日は嬉しくもあり 愧づかしくも亦ありにけるかな 省みれば諸神たちの御面さへ 見まゐらすも恥づかしと思ふ 玉野湖の底までかわきし情熱の 焔は遂に消えてあとなし 今日よりは怪しき心を立直し 瑞の御霊の神業さまたげじ 千代鶴姫命生れまし真鶴の 国に一つのわづらひもなし わが業は千代鶴姫の生れましに いよいよ重くなりにけらしな 別るべき岐美とし知れど生れし御子の 稚きを思へば岐美と在りたき 岐美恋ひて狂ひし心のたまゆらの 万世までも残らむと悔ゆる 鬼となり大蛇となりて狂ひたる わが恋ごころ消さむ術なし 成り遂げし恋にはあれど狂ひたる そのたまゆらの今に解けなく 恐ろしきものは恋かも身も魂も 忘れ他の目も愧ぢざりにけり 玉藻山千条の滝に禊身して この恋ごころ万代に消さむ 顕津男の神の心をなやませし 吾にも主の神は赦し給ひぬ この上はわが為せし業を改めて 只ひたすらに御子育まむ 真鶴の山の御魂と永久に 神のよさしの国土を守らむ 顕津男の神は神生みの職なれば やがて真鶴国を立たさむ 万代の別れは吾に惜しけれど 神業なれば諦めむと思ふ』 顕津男の神の御歌。 『生代比女神の心のすがしさに われ安らけく旅立ちやせむ 我とても同じおもひの苦しさを しのびて別れむ神生みの為に 永遠の妻ならなくに悲しもよ 主の大神の神示重くして たとへ我万里の遠きに離るとも 汝がまことは永久に忘れじ 一度の水火と水火との結び合せも 御子生るまで深き赤縄よ 玉野比女神の心を思ふ時 われは涙に曇るのみなり 玉野森に久しく待たせ給ひたる 比女に対へむ言葉如何にせむ 荒野原万里の旅に立ちながら 思ふは今日の別れなるべし 生れし御子の生長さへも知らずして 万里の旅に立つ身は苦しき 八十柱比女神たちに次々に 逢ひつ別れつ苦しき我なり 木石にあらぬ身なれば我とても もののあはれは悟り居るなり 固まり初めし真鶴の国今生れし 御子を残して立たむ苦しさ 常磐樹の松も栄えよ白梅も 時じく匂へわれはなくとも 凰も田鶴も家鶏鳥も諸鳥も この神山に常永にうたへよ 迦陵頻伽清しき声も今日よりは 聴くすべなしと思へば惜しまる 千木高く清く建ちたる玉野宮に 別る思へばわが胸さびしも わが行かむ西方の国土は地稚し 如何にせむかとこころ悩めり 真鶴国の神人等の心治めむと われは御前に神言祈れり 天津御祖⦿の大神の誠こそ 神人の習ひて進むべき道よ』 (昭和八・一一・二六旧一〇・九於高天閣出口王仁識) 太元顕津男の神 本書紫微天界を説くに当り、同天界に於ける国土生み御子生みの神業に関して、最も関係の深き太元顕津男の神の神名に就いて、言霊学上より略解を試むる必要を感じたれば、その一言々々に依りて活用を示し置くなり。 オホモト四言の言霊解は、大正八年九月の「神霊界」雑誌「おほもと」号[※『神霊界』大正8年(1919年)9月15日号p3「大本言霊解」]に略述しおきたれども、種々訂正すべき箇所多く、且茫漠として、捕捉するに難き点多々あれば、今回太元顕津男の神の神名を解釈せむとする機会に際し、今改めて其真相を言霊学の上より説明を加へ、以て瑞霊神の御職掌を明示せむと欲するものなり。 太元即ちオホモトの言霊を略解すれば、 オ声は、ア行の第二段に位して即ち出なり、厳也、稜威なり。総てア行は天位にして、父音なり、母音なり。アオウエイの五音は何れも横音に響くなり。是を天津祝詞には筑紫之日向之橘の大戸(音)と示されたり。 オ声の言霊 起る也、貴也、高也、於なり、興し助くる也、大気也、大成也、億兆之分子を保有し且つ分子の始終を知る也。心の関門受納の義也、真と愛の引力也、権利強烈なり、先天之気也、大地を包蔵し居る也、漸次に来りて凝固する也、外及也等の言霊活用を有せり。 ホ声の言霊 天地万有の始なり、母なり、矛なり、隠門なり、臍なり、ヽ也、袋なり、日の霊なり、上に顕る言霊なり、天の心なり、照り込む義なり、火の水に宿る也、掘なり、帆なり、父なり、太陽の名分なり、心に写るなり、恋ふる也、見止る也等種々の活用あり。 モ声の言霊 舫ふなり、塊るなり、亦なり、者なり、累なり、与むなり、円満を主どるなり、下に働くなり、世の芽出しなり、天之手なり、数寄り数成る也、伸縮有る也、遂に凝固して物と成るなり、本元なり、土の上面なり、水の座なり、分子の精なり等種々の活用あり。 ト声の言霊 男なり、轟くなり、解くなり、基なり、人なり、昇也、万物の種を司どつて一より百千万の数を為す。タ行は総て前駆の意義あり、十也、能く産み出す也、結び徹り足る也、皆治まる也、結びの司也、形の本源なり、八咫に走る也、世の位なり等種々の活用あり。 ア声の言霊 天也、地也、現也、無にして有也、顕出也、世の中心也、大物主也、昼也、御中主也、地球なり、円象入眼なり、光線の力を顕す也、眼に留るなり、顕の形なり、近く見る也、大本初頭なり、名の魂なり、大母公なり、普くして仁慈也、⦿の本質也、心の魂なり、其方面を見る也、低く居る也、全体成就現在なり、幽の形也、遠く達す也、陽熱備る也、アツクマリホトリマル也、悉皆帰之也、隠れ入る義なり、夜也、一切含蔵する也。 キ声の言霊 上無き言霊也、君なり、一ツに尽し極め居る也、貫き続き居る也、スミキリなり、世を一眼に見定め居る也、霊魂球之精機也、霊魂現之神機也、打ち返す也、立返す也、世を統べ極まり居る也、持たざる物無き也、世の極祖極元の真也、現在世を統べ主どり居る也、世を子に持つなり、本を結び結べ[※「言霊の大要」も同様に「結べ」になっているが「統べ」の誤字の可能性あり。『大日本言霊』では「統べ」である。]極まる也、限り極まり帰る也、人心一切に帰する也、神霊魂之極元府也、極母なり、下に這ひ渡るなり、世界一切に帰し居る也、動植一切を握り居る也、打ち砕く也、築き堅むる也、イ声の極上なり、下を助くる義なり、機也、木也、城なり、生なり、精なり、気なり。 ツ声の言霊 強き也、続く也、機臨の大元なり、速力の極也、大造化の極力也、テウの結び也、突き貫く也、皆治まる也、大金剛力也、帰る事無き也、天神心気機地妙体不離也、是をツと謂ふ。実相真妙是をツと曰ふ。間断無き也、玉の蔵也、霊々神々赫々也、平均の極也、⦿の編羅紋也、是をツと曰ふ、此ツを身に私するを罪と曰ふ也、智量之府也、敢て生死無き也、機関の太元也、大元明王なり、決断力也、凝縮まる也、宇の全象を保つ也、産霊の大元也、切り離す也、対偶力也、螺旋力也、照応力也、極度循環力也。 ヲ声の言霊 結びて一と成る也、食也、シシモノ也、霊魂脈管也、ウオの結び也、霊の緒也、形を使役為す也、自在に使役為す也、尾なり、細長き形なり、緒なり、長也、治まる也、教也、躍也、祭令守也、マツヲレツク也、居る也、己也、呼声也、をめく声なり。向ふものを緒を以て繋ぎ引き御する義也、男の陰茎也。唏承諾也、上命下諾也、大気の一条也、青也、劣り降る也、別派の形也、解き分け掌る也、遠く至る所也、息也。 以上の言霊解に由りて、太元顕津男の神の御名義、御活動の大要を窺知し得べきなり。 (昭和八・一一・二六旧一〇・九於更生館出口王仁識)
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霊界物語 76_卯_世界の神話/朝香比女の神の物語 12 山上の祈り 第一二章山上の祈り〔一九二九〕 朝香比女の神は栄城山の中腹に、神々の心により新しく建てられたる八尋の殿に旅の疲れを休めむと、初夏の一夜を明し給ひけるが、暁を告ぐる山烏の声に眼を醒まさせ給ひ、静に床を跳ね起き給ひて、髪のほつれをととのへ、白き薄き衣を纒ひ給ひつつ、居間の窓を押し開き給へば、栄城の山の朝風は颯々として芳ばしく吹き入り、展開せる大野の原に棚引く霧は、陽光に映じて得も言はれぬばかりの美しき眺めなりける。伽陵頻迦は木の間に囀り、真鶴は松の茂みに暁を歌ふ。 『見渡せば遠の大野に霞立ちて そよ吹く風も初夏を匂へり 栄城山松吹く風の音も冴えて 梢にうたふ真鶴愛ぐしも 白梅の花はなけれど鶯の 声のさえたる栄城山はも 長旅の疲れやすみて吾は今 八尋の殿に国土見するかも 常磐樹の松の下びに咲き匂ふ つつじの花の目出度くもあるか 石南花の花桃色に咲きにけり 小さき鳥の来りてあそべる 背の岐美の御後したひて吾は今 栄城の山に安居するかも 百神のあつき心にほだされて 栄城の山に一夜いねけり その昔わが背の岐美の神言を 宣らせたまひし御山恋しも 東の空に高照山霞み 西にそびゆる高地秀の山 高照山高地秀の山の中にして 清しく立てる栄城の山はも 栄城山これの聖所に岐美まさば 吾はこの天界に思ひなけむを ままならぬ浮世なるかな背の岐美は 万里の外の旅に立たせり 翼あらば高照山を飛び越えて 光明の岐美が許に行かむを 駿馬の脚は如何程速くとも 万里の道ははろけかりけり 御樋代の神と生れて斯くの如 苦しき吾とは思はざりけり わが思ひ淡く清しくあるなれば かかる悩みもあらざらましを 谷水の冷たき心持ちてわれ この天界に住み度くおもふ さり乍ら如何なしけむわが思ひ 炎となりて胸を焦がしつ わが胸の炎を消すは瑞御霊 水の力に及ぶものなし 岐美を思ふあつき心に焦がされて はづかしきことを忘れけるかな』 斯く一人歌はせ給ふ折しもあれ、小夜更の神は紫、紅のつつじ及び石南花の花を捧げ乍ら、静々比女神の御殿に入り来り、比女神に捧げむとして御歌詠ませ給ふ。 『栄城山松の木蔭に匂ひたる 生命の花を公にまゐらす 小夜更けて公に誓ひし丹つつじや 桃色石南花みそなはしませ』 朝香比女の神は小夜更の神の奉るつつじ、石南花の花を莞爾として受取り乍ら、わが唇に花の台をあてさせ給ひ、御歌詠ませ給ふ。 『芳ばしき紅の花よ紫よ 桃色の花よ口づけて見む この花は香り妙なり背の岐美の 水火のまにまに匂ひつるかも 紅のつつじの花の心もて いつかは岐美に見えまつらむ 石南花の花美はしく桃色に 香り初めたり吾にあらねど 桃色の花の姿を見るにつけ 岐美のつれなき心をおもふ 背の岐美をうらむらさきの花つつじ 手折りし小夜更神の心は』 斯く問はせ給へば、小夜更の神は畏みながら御歌詠ませ給ふ。 『桃色の石南花の花たてまつり 比女の心をそこなひしはや 石南花の花美はしと心なく 奉りたるあやまち許せよ 紫の花は目出度きしるしぞや やがては岐美に逢はむと思ひて いろいろの花の心を比女許に 供へて旅を慰めむと思ひしよ』 朝香比女の神は莞爾として、御歌詠ませ給ふ。 『故もなきわが言の葉に汝が神の 心悩ませしことを悔ゆるも 只吾を慰むる為の花なりしを 深く思ひてあやまちしはや 紅の花の唇朝夕に 吸ふ蝶々のうらめしきかも いつの日か紅の唇まつぶさに 吸はむと思へば心はろけし』 斯く歌ひ給ふ折しも、機造男の神は恭しくこの場に現れ給ひ、 『朝津日は昇り給へりいざさらば 尾の上の宮居に導きまつらむ 長旅に疲れましぬと思ひつつ 朝の居間をおどろかせつる 紫の雲は東の大空に いや棚引きつ陽は昇りたり 久方の御空雲なく晴れにけり 栄城の山のいただき清しく』 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『長旅の疲れを岐美が真心に 休らひにけり一夜ねむりて 眺めよき八尋の殿に導かれ 朝の景色にとけ入りにけり 常磐樹の松の下びに咲き匂ふ つつじの花にこころ休めり いざさらば導き給へ背の岐美の 祈りたまひし聖所をさして』 ここに機造男の神は諸神と共に、朝香比女の神を前後左右に守りつつ、頂上の宮居の大前さして上らせ給ひける。 朝香比女の神は宮居の聖所に立たせ給ひ、感慨無量の面持にて、四方の国形を覧しながら大前に拝跪して、神言を御声さわやかに宣らせ給ふ。 『掛巻も綾に尊き 栄城山の上津岩根に 宮柱太しく建てて鎮まりいます 主の大神の大前に 朝香比女の神謹み敬ひ 祈願奉らく そもそもこれの大宮居は 顕津男の神御自ら 大峡小峡の木を伐りて 百神等を率ゐまし 開き給ひし宮居にしあれば 吾は一入尊しも いやなつかしもこの宮居に 鎮まりいます主の神の 深き恵みをかかぶりて 吾背の岐美の出でませる 西方の国土に恙なく 進ませ給へと願ぎ奉る 八十曲津神は猛るとも 醜の醜女はさやるとも 荒野に風はすさぶとも 大蛇は道にさやるとも 神の御水火に生れませる 天の駿馬に鞭うちて 安らに平に岐美許に 進ませ給ひて詳細に 御子生みの神業をねもごろに 仕へ終へしめ給へかし 栄城の山の松ケ枝は 千代のみどりの色深く 真鶴の声は弥清く 伽陵頻迦の音も冴えて 御空はいよいよ明けく 国土の上まで澄みきらひ 四方にふさがる雲霧は あとなく消えてすくすくと 神の依さしの神業に 仕へ奉らせ給へかしと 栄城の山の山の上に 畏み畏み願ぎ奉る。 見渡せば栄城の山は雲の上に そびえ立ちつつ常磐樹茂れり 見の限り四方は霞めり高地秀の 山はいづくぞ黒雲ふさがる 雲の奥空のあなたに高地秀の 神山は高くそびえ立つらむ 栄城山の頂上に立ちて打ち仰ぐ 御空の碧の深くもあるかな ここに来てわが背の岐美の功績を 一入深くさとらひにけり 皇神の厚き恵をかかぶりて 又もや明日は旅に立つべし』 機造男の神は御歌詠ませ給ふ。 『顕津男の神の造りしこの宮居は むらさきの雲いつも包めり 比女神の登らせし今日は殊更に 御空あかるく雲晴れにけり 日並べてこの神山におはしませ 朝な夕なにつかへまつらむ 見渡せば四方の国原未だ稚く 湯気もやもやと立ち昇りつつ』 散花男の神は御歌詠ませ給ふ。 『久方の御空は晴れぬ山晴れぬ この神山の今日のさやけさ 御樋代の比女神ここに現れまして 神山の雲霧とほざかりけり 非時に春をうたへる鶯の 声に栄城の山は生きたり 家鶏鳥は宮居の面に時をうたひ 田鶴は千歳を寿ぎて鳴くかも 風薫るこの神山のいただきに 立たせる比女の光さやけし』 中割男の神は御歌詠ませ給ふ。 『この宮居に吾は仕へて年月を 経ぬれど晴れし吉き日なかりき 今日の如晴れわたりたる神山に 国形を見るたのしさを思ふ 永久に栄城の山は晴れよかし 御樋代神ののぼりし日より 栄城山溪間に棲める曲津見も 今日より雲は起さざるらむ 比女神の生言霊のひびかひに 八十の曲津見あとなく消えなむ 国土造り国魂神を生まします 御樋代神の出でまし天晴れ 吾も亦比女神の御供に仕へむと 思へどいかに思召すらむ』 朝香比女の神の御歌。 『神々の厚き情に守られて 栄城の山の尾の上にのぼりぬ 栄城山今日を限りに栄えかし 常磐の松の色ふかみつつ 栄城山廻らす野辺はかたらかに いやかたまりて国の秀見ゆるも あちこちと国魂神の家見えつ 果てなき栄えを思はしむるも』 小夜更の神は御歌詠ませ給ふ。 『晴れ渡る今日の吉き日に大宮居に 比女を守りてわれは詣でし 高地秀の山は雲間にかくれつつ 栄城の山は陽炎もゆるも 陽炎のもえ立つ尾根に佇みつ 大野の夏を見るはたのしき 山も野も緑のころも着飾りて 夏の女神をむかへゐるかも 栄城山尾の上を渡る夏風は 爽かにして涼しくもあるか』 親幸男の神は御歌詠ませ給ふ。 『はろばろと来ませる比女神導きて 晴れたる栄城の尾根にのぼりつ 大宮居の聖所に立ちて比女神の 生言霊をわれ聞きしはや 言霊の水火より生れし天地に 言霊宣らで生くるべきやは いざさらば神山を下り八尋殿に 休ませ給へ御樋代比女の神よ』 神々は尾の上の大宮居の聖所に立ちて、各自御歌詠ませつつ、岩の根木の根踏みさくみ乍ら、右に左りに折れつ曲りつ、九十九折の坂道を比女神の御憩所なる八尋殿さして下らせ給ひける。 (昭和八・一二・七旧一〇・二〇於水明閣谷前清子謹録)
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霊界物語 78_巳_朝香比女の神の物語(葦原新国) 09 邪神征服 第九章邪神征服〔一九六五〕 忍ケ丘の本営には、朝香比女の神、野槌彦を話相手としながら、今日の戦況如何に成り行きしかと稍不安の面色をたたへつつ、四柱神の凱旋を心待ちに待たせ給ひける折もあれ、駒の蹄の音勇ましく鈴の音もシヤンシヤンと四辺の空気を響かせながら、四神将の先に立ちたる初頭比古の神は一目散に忍ケ丘の本営に馳せ参じ、御歌もて戦況を𪫧怜に委曲に報告し給ひたり。 『御樋代神の神言もて グロスの沼に潜みたる 曲津の軍をきためむと 四柱神は大野原 駒の蹄の音高く 進む折しも常磐樹の 一本松の下蔭を 見出でてこれに休憩し 駒の鋭気を養ひつ 言霊戦の作戦を 語り合ひつつ時を経て 再び駒に跨りて はてしも知らぬ焼野原 進む折しも道の辺に 面ただれし国津神 雉子と名乗る老媼は 沼の大蛇はいち早く 逃げ失せたれば神々は 進ませ給ふも詮なしと 言葉を極めて止めける 媼は泣きつつ言ひけらく グロノス、ゴロスの醜神は 吾等を悉傷つけて 親子の命を奪ひとり 国津神等を悉く 滅ぼしおきて鷹巣山 方面さして逃げ去りぬ 神々等は駿馬を 忍ケ丘に引き返し 曲津の征途を止めませ などと細々言ひわけを 言葉を極めて宣りけるが 正しく曲津の偽りと 吾は早くも悟りしゆ 生言霊を打ち出せば 曲津は大蛇と還元し 雲を霞と逃げ去りつ グロスの沼の底深く 怪しき姿をかくしけり ここに吾等は勇み立ち 駒を速めて沼の辺に 近寄り見ればいや広し うす濁りたる沼水は あなたこなたと泡立ちて 数万の曲津見潜む状 吾目のあたり見えければ 吾等四柱神等は 沼の東西南北に 部署を定めて陣取りつ 天津祝詞を奏上し 七十五声の言霊を いや広らかに打ち出し 天の数歌宣りつれば さすがの曲津も辟易し ひるむと見えし折からに 御空ゆ高く聞え来る ウ声の言霊幸はひて 沼の大蛇は正体を 水上高く現はしつ のたうち廻るあはれさよ 御空に聞えしウの声は 御樋代神を守ります 鋭敏鳴出の神の功績か ああ惟神々々 生言霊の幸はひに 沼の曲神は跡もなく 雲を起して逃げ去りぬ 吾等はそれより天地の 神に感謝の太祝詞 宣り上げ終りめいめいに 元来し道をたどりつつ 一本松の下蔭に 集ひて戦況語り合ひ 又もや駒に跨りつ 遠の野路をば恙なく 公のいませるこの丘に 勝鬨揚げて帰りけり いざこれよりは中野河 速瀬を渡り御樋代の 比女神います聖所へ 国津神等を率き連れて 進ませ給へ惟神 神の御前に願ぎ奉る』 と復命し給ひけるにぞ、朝香比女の神は四柱神の功績を甚く賞め讃へ給ひつつ御歌詠ませ給ふ。 『四柱の神の功の尊さに 忍ケ丘は蘇りたり 千早振る神世も聞かぬ功績を 荒野ケ原にたてし神はも 曲津見は生言霊に怖ぢ恐れ 雲を霞と逃げ去りしはや 今日よりは焼野ケ原の国津神も 心安らかに世を送るらむ はてしなき広き国原隈もなく 輝き渡らむ神の御稜威は 待ち待ちし軍の公は帰りけり 吾居ながらに言霊放ちつ 言霊の光りにまさるものなしと 今日の戦に深く悟りぬ 曲津見は再び鷹巣の山の根に さやらむとして移りけむかも 今日よりは中野大河を打ち渡り 鷹巣の山をさして進まむ 四柱の神の功は永久に グロスの島の語り草とならむ』 国津神野槌彦は歌ふ。 『神々の貴の恵に浸されて 今日より安けむ国津神等は 十年の長きを艱みし曲津見の 禍消えて蘇りけり 諸々の国津神等はことごとく この地の上に大らかに住まむ 地を掘りて深く潜みし国津神も 荒金の土の上に生くべし 土の上に家居を造り今日よりは 天津日の光の恵に浴せむ いざさらば御樋代神の御供に 仕へ奉りて聖所に進まむ』 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『国津神野槌彦の言の葉を 諾ひ吾は聖所に進まむ 諸神よ駒の用意を急ぎませ いざ立ち行かむ河のあなたへ』 初頭比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『吾公の神言畏み四柱は 御後に仕へ急ぎ進まむ 天津日は輝き渡り大空は 澄みきらひたる今日の旅かも 曲津見の影を潜めし焼野ケ原 照る天津日はさやかなるかも 白梅の花咲く野辺を駒並めて 進まむ道のさやかなるかも 右左丘の面を封じたる 梅は漸くほぐれ初めたり 白梅の花の香りに送られて 聖所に進む今日の楽しさ』 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『勇ましく曲津の軍に勝ちおほせ 又も進まむ貴の聖所に 吾公の今日の御行を寿ぐか 迦陵頻伽は梅に囀る 真鶴は翼揃へてこの丘の 御空に円を描きて舞へるも 鵲の声勇ましく聞え来る 忍ケ丘は貴の聖所よ 一夜の露の宿りの忍ケ丘に 名残惜しみて吾は立つなり』 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代の神の御供に仕へつつ 曲津の軍に立ち向ひしよ 言霊の厳の光の功績を 悟りし吾は恐るるものなし 駿馬は鬣ふるひ嘶きぬ 今日の首途を急ぎけるにや 国津神の艱みを払ひし今日こそは 天地晴れし心地するかも 久方の御空は高く荒金の 地は広けし吾中を行かむ』 ここに御樋代神の朝香比女の神は、四柱の従神と国津神野槌彦を案内役とし、グロスの島を横ぎれる中野河の濁流を渡るべく用意万端ととのへ終り、暴虎馮河の勢にて御歌うたひつつ進ませ給ひける。 (昭和八・一二・二一旧一一・五於大阪分院蒼雲閣谷前清子謹録)
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霊界物語 80_未_予讃の国の水奔鬼の物語 08 月と闇 第八章月と闇〔二〇一二〕 月見ケ丘以南は、譏り婆の水奔鬼が縄張とも称すべき魔の原野なり。譏り婆は此入口に現はれ、一行の出発を妨げむとして、小手調べの為全力を尽し、黒雲を起し、天心の月を包みて闇となし、且一行の心胆を奪はむと極力譏り散らしけるが、秋男の生言霊に打ちまくられ、旗を巻き鉾を納めて退却したりける。 再び大空の雲は、科戸の風に吹きまくられ、以前の如き明鏡の月皎々と輝き渡りて、月見ケ丘の清地は、蟻の這ふさへ見ゆるまで明くなりける。 秋男は勇みたち歌ふ。 『面白や醜の司の譏り婆は わが言霊に雲と消えたり。 魔力の限りつくして大空に 黒雲起せし婆もしれ者よ。 全力を尽せし婆の計略も 生言霊に脆く消えたり。 月見ケ丘の虫の影さへ見ゆるまで 晴れ渡りたる今宵めでたし。 譏り婆の言葉によれば弟は 笑ひ婆アに殺されしとや。 さりながら悪魔の言葉は当にならじ われを謀るの手段なるらむ。 悪神の力の底も見えにけり わが魂はいよいよかがよふ。 大空の月の鏡に照らされて 悪魔は霧と消え失せにけむ。 女郎花匂へる丘に休らひて 譏り婆アの荒び見しかな。 影かくし声のみかくる婆なれば その魔力の底も見ゆめり。 いやらしき声を張りあげ吾等をば 嚇す婆アの浅はかなるも。 これよりは二人の婆を相手とし いむかひ行かむ高光の山へ。 面白き夢の世なるよ月を見る 丘に曲津は闇の幕張る。 闇の幕はもろく破れて鬼婆は 生命からがら逃げ失せにける。 萩桔梗女郎花咲く丘の上に うつろふ月は鏡なるかも。 萩の露むすびて喉を潤ほさむ 川水ことごと毒の混れば。 水奔草の葉末の露のしたたりて 川となりぬる水は恐ろし。 葭原のよし草の間に生ひ茂る 水奔草はいまはしき草よ。 草の間に忍び棲まへる毒竜や イヂチに心注ぎて進まむ。 兎も角も天地一度に晴れし夜の 月の鏡を力に進まむ。 秋さりて野辺吹く風は涼しけれど 心せよかし毒の混れば。 果敢なくも鉾を納めて逃げ去りし 譏り婆アの卑怯なるかな』 松は歌ふ。 『松に澄む月の光はさゆらげり 野辺吹く風のすがたなるらむ。 風の道夜目にも見えて丘の上の 茂樹の梢波うちにけり。 面白き譏り婆アのわざをぎを 暗闇の幕透して聞きぬ。 一時はわが魂も戦きぬ 二十重の闇に包まれしより。 闇の幕われを包みしたまゆらに 魂はをののき消えむとせしも』 竹は歌ふ。 『心弱き松の君かなわれはただ 空吹く風とうそぶきて居し。 闇の声目当に突かむと竹槍の 穂を磨きつつわれは待ち居し。 上下に右に左に聞え来る 婆の在処を分けがてに居し。 わが君の生言霊にうち出され 脆くも鬼は破れけるかな。 魔力のあらむ限りのはたらきは かくやと思ひわれは勇むも。 肝むかふ心かためて進むべし 水奔草のしげれる野辺を。 月光はさやかなれども夜の明くるを 待ちて進まむ醜の草原』 梅は歌ふ。 『面白き譏り婆アが現はれて 泥を吐きつつ逃げ帰りけり。 暗闇の中にまぎれて譏り言 ぬかす婆アの卑怯なるかな。 笑ひ婆、譏り婆アと面白き 鬼の棲むなる醜の葭原よ。 葭原の広きに曲津は潜むとも われは飽くまで征討めでおくべき。 吾君の生言霊に怖ぢ恐れ さすがの譏り婆アも消えたり。 一度は姿消ゆれど何時か亦 譏り婆アは現はれ来らむ。 われも亦譏り散らして鬼婆の 度肝を抜いてくれむとぞ思ふ。 譏る事ならばひるまじ何処までも 人の悪口好きな吾なり。 譏り婆いくらなりとも譏れかし 悪たれ婆アの寝言と聞かむ。 ざまを見ろ生言霊にやらはれて 影も形もなきつつ逃げ行く。 どこまでも婆アの後を追跡し 譏り殺してやらねば置かぬ。 籠り木の梢に婆は小さくなりて わが言霊を震ひ聞くらむ。 彼も亦しれものなれば其姿 虫と変じて忍び居るらむ。 面白き婆アの荒びを見たりけり 姿なけれどくだけたる声』 桜は歌ふ。 『わが君の生言霊に大空の 黒雲晴れて月は覗けり。 望の夜の月を頭に浴びながら 月見ケ丘に雄猛びするかな。 虫の音も俄かに高く冴えにけり 月のしたびに露をなめつつ。 瑠璃光のひかり照して草の葉の 露はあちこち輝きそめたり。 此清き月見ケ丘におほけなくも 譏り婆アは現はれにけり。 さりながら姿かくせる鬼婆の その卑怯さにあきれかへりぬ。 ギヤハハハハとさもいやらしき声絞り われ等が肝を冷さむとせし。 曲鬼の言葉は弱く力なし 如何でひるまむ大丈夫われは。 鬼婆の力の底は見えにけり いざや進まむ亡び失すまで。 萩桔梗女郎花咲く此丘に 一夜の露の宿りたのむも。 はろばろと醜の大野を渉り来て 鏡と冴ゆる月に親しむ。 兎も角も今宵は眠らず暁を 待ちて火炎の山に進まむ。 音に聞く火炎の山は鬼婆の 手下集むる元津棲処と』 秋男は歌ふ。 『月明の夜なれば秋の百草の 花の色香もさやに見えけり。 明くるまで吾等は此処に休らひて 花と月とを賞めて待つべし。 丘の上に風に靡ける穂薄の 露にかがよふ月のさやけさ。 花薄風にゆれつつ打ち靡く 月見ケ丘の夜は静けし。 これといふ人もなき夜に穂薄の 誰を招くか聞かまほしけれ。 吹く風の吹きのままなる穂薄の 姿は弱き人に似しかも。 露しげく保つ尾花の頭重み 地にうつぶして涙垂らせり。 かくの如譏り婆アもいづれかの 野辺にうち伏し泣き伏しにけむ。 穂薄の右に左にさゆれつつ 涙の露を散らす夜半なり。 穂薄は此丘のみか道の辺に 露を浴びつつ招き居るらむ。 心地よき此秋空を穂薄の 風に靡きて暮れ行く惜しさよ。 小夜更けてわびしき丘に穂薄は いと淋しげに吾を招けり。 花薄風になびける優姿を 見つつ思ふも家なるつまを。 虫の声いとも冴えたる丘の上に 花波寄する夜半の穂すすき。 夜半の風松をそよがす度毎に 丘の尾花は袖かへすなり。 吹き払ふ風に袂を靡かせつ なほ露しげき穂すすきの花』 松は歌ふ。 『咲き匂ふ小草の花に置く露も 今宵は月の光にかがよふ。 八千草の茂みにすだく虫の音は いよいよ高く月も聞くらむ。 夜の露にぬるる袂を絞りながら 尾花を分けてのぼり来しはや。 夕さりて秋風そよぐ此丘に のぼれば松に月はさゆるる。 吹く風の音につくづく秋を知る 月見ケ丘の露のやどりに。 淡く濃く染め出したる紅葉の かげ一色に見ゆる月の夜。 黒雲に包まれたれどしら百合の 花は真白く見えにけらしな。 鬼婆も月見ケ丘の風光に 憧れて夜な夜な来り見るらむ』 竹は歌ふ。 『吹き荒ぶ風に葉末の露ちりて わが裳裾まで湿らひにける。 鬼婆の涙の露か知らねども わが衣手は重くなりぬる。 はかなきは露の生命か風吹かば ただに散りゆく鬼婆の影。 此丘の月のしたびに輝ける 露の白玉見るもさやけし。 鬼婆に唆されて是非もなく 月見ケ丘に夜を明しける』 梅は歌ふ。 『葭原の葭の葉末を吹きて来し 風の響きは濁らへるかも。 丘の上に一本老松くつきりと 月下にたちて葉の色黒めり。 丘の上の赤土の上に松の影 描きて月は西渡り行く。 明日の日は醜の大野をのり越えて 岩の根木の根踏みさくみ行かむ。 葭草の生ひ茂りたる低所 さけて通らむ薄生ふる野を。 高き地は穂薄なびき低き地は しめりて葭草茂らへるかも』 桜は歌ふ。 『ほのぼのと東の空は白みけり 西行く月のかげうすらぎて。 やがて今豊栄のぼる日の光を 力とたのみ南に進まむ。 南の空に聳ゆる火炎山は ほのかに見えて霞棚引く。 火炎山かすみの帯をしめながら 曲鬼数多かかへ居るらし。 東の御空つぎつぎ明らみて 数多の星はかくろひにけり』 これより一行は、火炎山方面さして、やや高き原野を伝ひながら、宣伝歌をうたひ南進する事となりぬ。 (昭和九・七・二七旧六・一六於関東別院南風閣白石恵子謹録)
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大本神諭 神諭一覧 明治35年旧3月11日 明治三十五年旧三月十一日 艮の金神表に現はれて、是からは善き事いたした人民と、悪しき事致した人民とを立分けて見せるから、永らく筆先で知らした事が判りて来るぞよ。神の道では教役者なり、公人、役人、頭いたして居るものを、心の悪しきものは皆取払いに致すぞよと、筆先に出して在ろうがな、皆出て来るぞよ。世界の隅々まで審査が致してあるから、世界へ見せしめが仕て見せて在れども、盲目つんぼの世の中であるから、何を仕て見せたとて一つも解らんから、今度は天晴れ現はれて、天の大神様の御命令を戴きて、善悪を裁き分けると、盲目も眼が明き、聾も耳が聞え出して、トチ面貌を振ってビックリ致すぞよ。世界の人民は疑いきついもので在るから、実地まことの正末を見せてやらねば、何を言い聞かしても耳へも這入らず、何をして見せても目に留らず、根本の霊魂が曇り極りて居るから解るのが六ケ敷から、何程可愛相でも神の神力は、是ぐらいなもので在るといふ事をして見せて、改心させねばモウ助けやうが無いぞよ。人民といふものは万物の霊長と申して、神にも成れる性来の、結構な霊魂を戴いて居り乍ら、是だけに曇らして了ふて、何も誠の神の教が解らんやうになりたのは、外国の教を世界一の善きものと思ひ迷はされて、肝心の日本魂を外へ宿替さして、全然カラ魂と摺り代へられて居るからであるぞよ。昔から此の神が管掌ねば国が乱れて、世界中が潰れて了ふから、此方が厳敷く神々に申して頑張りたのであるが、大勢と独りとは到底叶はいで、万の神から艮へ閉鎖られたのでありたぞよ。時節を待てば煎豆にも花が咲いて、弥々艮の金神が世界のお土の上を、一切守護致す世になりて来たから、此暗の世を日の出の守護にいたす神界の経綸の御用の力になる神があれば申してお出なされよ。此世をこのままに為て置いたなれば、日本は外国に略取れて了ふて、世界は泥海に化るから、末法の世を締めて松の世に致して、日本神国の行いを世界へ手本に出して、外国人を従はして、万古末代動かぬ神の世で、三千世界の陸地の上を守護致して、神、仏事、人民を安心させてやるぞよ。そこへ成までに世界には、モ一つ、世の立替の大峠があるから、一日も早く改心いたして神に縋りて誠の行いに替へて居らんと、今迄のやうな、我さえ善けら人は倒けようが仆れやうが、見向もいたさん精神でありたら、神の戒め厳しきから、到底此大峠は越す事は出来んぞよ。
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大本神諭 神諭一覧 大正4年旧6月13日 大正四年旧六月十三日 根本の天と地との先祖の大神が、仏界に権現て、世界の守護して居りたなれど、何彼の時節が循りて来て、天の御先祖様と地の先祖が、昔の弥勒様の神道へ立帰りて、昔から査べてありた御魂を立替立直して、安心な世に致すぞよ。仏教と学問とで、爰まで日本の霊の元の大神の国を汚して、天から降りて大神の休む所も無いやうに汚したのは、世界の御土の上は降さんやうに致し、一と申して二の無い日本の国を、山の谷々、野の隅々までも、さッぱり汚して、大神は不用んものと、致してありたであろうがナ。誰の手にも合はん地の先祖の、国常立尊を艮へ押し込めて、此世には最う無い神としておいて、悪魔の仕組で、末代この世を維持うと致し、最う一ツ悪を強う致して、日本の国を悪の先祖の仕組通りに致して、末代悪でやり抜く心算であらうがナ。昔の根本からの事から、何知らん事のない天と地との活証文の、天地の先祖であるから、帳面に記てある如くに、何一ツ知らん事の無い此方を、視損ひを致して居りたが、今度は些と判りかけたであらう。何であらうと、此方の眼で一度睨みたら、滅他に違はんぞよ。小さい事でも、世界の事の大きな事も、眼で見いでも、人の腹の中が見え透く神であるから、此内部は一日ましに気遣ひになるから、これまでの世に出て居れた守護神では、此前途は能く承知を致して居らんと、筆先通りになりて来るから、気をつけるのであるぞよ。末代に一度ほか無いといふやうな、大望な御魂の立替立別であるから、誤解と慢心とが一番にこの内部は畏いぞよ。これ程上り切りた世の中へ、昔から此世出来てから無いと云ふやうな、大望な事が、これほど日々明白に御守護がありても、見えも聞えも致さんと云ふやうナ、惨い事になりて居るのが、暗闇であるぞよ。水晶霊に磨けんと海外の国の申すことを、おっとまかせで居ると、かなはんことが出来てくるぞよ。確乎いたして、元の日本魂の性来に、男も女も成りて居らんと、日本の国の間に合はんから、婦人でも男子が敵はん位に日本魂を固めておくがよいぞよ。皆ンな揃ふて、従来の悪のやり方を全然棄てて了ふて、大和魂の性来に成りて居らんと、外国魂では、日本の国が三全世界を救済るといふ事は六ケ敷いぞよ。天地の根本の大神は、何う云ふ事で今日まで御苦労なされたと云ふ事を弁へて居らんと、真の事が判らんぞよ。世界の人民、鳥類、畜類、虫族まで、息ある物をよくしてやりたいとの、深い思召を汲み取る守護神人民が、今にないといふやうな惨い事に致して居るが、此度の天からの御手伝いが、大本の内部に、これ程結構にあるのに、盲者、聾者と同じこと故、言へば気に障るし、言はな何も判りはせんし、元の日本魂に立返りたら、天の事が視え透いて、人間界が厭になるぞよ。天からは水晶魂ばかりが降りるやうになりて、御三体の大神様の御手伝が明白にあるが、人間界は醜くて、神とは何も反対ばかりで、善と思ふて為す事が、神には気障りのことばかりであるぞよ。神の為にと思ふてして呉れる事が、皆反対の事ばかりより出来ては居らんぞよ。天地の大神様を、一日も早く顕はさんことには、大本の信者と成りた甲斐が無いぞよ。一日も早く、これ丈のことがあるのに、些ッとは判りさうなものではないか。出口直の前に、これ丈の事があるのに、真実に致す人民が無いが、能くもこれまで、曇りたものである。実証をこれだけ見せても詐欺師とより見えぬぞよ。言ふてやりても、未だ真実に致す人民が無いなれど、そンな事に心を悩んやうに致して、日々出る筆先を人民に見せんと、何時になりても、御蔭が取れんぞよ。世界中が総曇りであるから、善き事をして居りても、左程に思ひはせんし、悪い事を仕て居りても、それ位な事は当然ぢゃといふやうナ、混乱ナ真暗がりの中に居る人民であるから、大出口直に実地を見せておいて、その実地を筆先に書いて見せるから、それを見て改心を致さねば、日本の国の御地の上には、置いて貰へんやうになる守護神が多数出来るぞよ。耳にタコが出来る程言ひきかしてあるぞよ。今の守護神につかはれて居る人民は、外国の性来になりて了ふて居るから言ひきかした位に、聴く者が無いぞよ。一ッ平に上流と下流とが、いッち改心が出来難いぞよ。三段に区分てある身魂を立替立直して、眼口鼻を着けねばならんのであるから、何につけても大難事であるぞよ。身魂の立替立直しが中々の大事業であるから、人民の思ふて居るやうナ、小さいことで無いぞよ。二度目の世の立替を致して万古末代の事をきめて、今後は悪といふやうナ道を、さッぱり平げて了ふて、昔の弥六様のお造りに成りた善一ツの真正の道を開くから、これまで悪で思惑立てた身魂の性来を、平げて了ふから、悪の霊は利かんやうに致してやるぞよ。善に立返るなら、亦善くしてやるなり。この先きの世を、団子に致さうと、棒に致さうと、三角に致さうと、四角に致さうと、此世を自由に致すぞよと、毎度申して筆先に出して知らしてあるやうに、何も出て来るぞよ。玉水の竜宮の乙姫どのが、日の出の神と引ッ添ふて、筆先通りに致すぞよ。玉水の竜宮館が、高天原と定まりて、昔の天の規則を地の高天原で決めてあるから、此規則を背いたら、今後は末代まで赦しはなき事にきびしくなるぞよ。 直の規則破りの御魂は、二度目の世の立替の御用を勤め上げて、赦して貰ふて、今後は善と悪との亀鑑を先繰にだすから、悪の亀鑑にはならんやうに、誰によらず致されよ。今後の懲罰は、末代御赦るしが無いから、此大本の内部は、男も女も身を慎みて不調法の無いやうにして下されよ。今後は大本の内部は、大変日に増しに、きびしくなるぞよ。初発から大分悪い亀鑑が出て居るぞよ。大本に善き事も悪るい事も、末代名を書き残して、不調法の出来ぬやうにきびしくなるぞよ。何も時節がまゐりたから、従来の世に出て居りたズンダラナ守護神では、この大本の勤めは辛いぞよ。今では好きなやうにさせてあるなれど、善悪を立て別けて、規則を決めると、天と地とが揃ふて来て、上下揃へて昔の神代へ世が戻るから、この内部も今のやうなズンダラな事はさせんぞよ。一度何でも申したことは用ふる人民でないと、天地の大神はズンダラな人民は使はんぞよ。この綾部の大本からは善悪の鏡が何時になりても出るぞよ。現在の醜誤人を、さッぱり立別て了はんと、何彼の事が判らんから、日に日に自己の精神が間違ふて居らぬかと、自己の腹の中を日々改めて下されよ。人民といふものは、ちょッと行きよると、知らぬ間に自己の心が上り詰めて居りても判らんぞよ。他人からは能く判るから、取違と慢心とが一番に怪我の元となるから、気をつけた上にも気を付けるぞよ。神の気を付ける折に気がつかんと、此大本は後で何程お詫びを致しても、聴き入れは無いから、これまでの世は、前後構はずに、その場のがれの処世術で、嘘でつくねた世でありたから、誠実は些ッとも無いから、天地の大神の御心に叶はん、やり方でありたぞよ。毛筋の横幅でも混ぜりの無いやうに、立替を致すのであるから、世に出て居れる方の守護神には、大分辛くなるから、今ぢゃ早ぢゃと申して、急き込みたなれど、今に判らん守護神に、使はれて居れた人民が可哀想なから、今に気を付けるのであるぞよ。天地の大神は、大の字が上を向いて、元へ戻るから、結構になるなれど、天地の大神を無いやうにして置いて、利己主義で、下の御魂が上へあがりて、神はこの世には不用ものと申して、末流の神やら、渡りて来た身魂が上に登りたなれど、以後は最う降るより為様は無いぞよ。今後は上る身魂と下る身魂とで世界中の混雑となり、掌は反るし、ビックリ筥は開くし、何彼の事が一度になりて来て、盲目が眼が明き、聾者が耳が聞えるやうになりて、其辺が、眩うて、耳が鳴りて、彼方からも此方からも、変な所からも護光が射すぞよ。眼の前で光り、耳の側で鳴るばかりで、何が何やら判らぬやうになるぞよと、毎度筆先で気が付けてあるが、申してあるやうになりて来るぞよ。燈台脚下は真ッ暗がり、此村の人引ッ付いて居りても、心がないと判らんぞよ。昔から無い事であるから、御魂に因縁が無いと判りはせんから、改心が出来難いのであるぞよ。外国の身魂では、耳に這入りかけが致さんぞよ。可哀想なものであるぞよ。神といふものは、暑さ寒さの厭いもなく、昼夜も構はずに守護致して居りても、人民には判ろまいがナ。大出口直には判るであろうがナ。人民といふものは万物の長でないか。日本の霊の元の大和魂の性来でありたら、何も見え出して、今の人民の中には、居るのが厭になるぞよ。天地が光り渡り出すぞよ。斯ンな結構な世になるのに、外国の身魂になり切りて居るから、何実地の事を申しても、善い加減な事を申して居る位に見えようが、実地が来るぞよ。
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大本神諭 神諭一覧 大正4年旧6月20日 大正四年旧六月二十日 何なりともそれぞれの行といふ事を致さんと、誠が出て来んぞよ。太初の根本から、今に分らん暗がりの世であるから、この暗がりの世を水晶の世に致して、従来の事を、一寸も混ぜりの無い世に致して、霊主体従の日本魂に世を戻さな成らん大望な事であるから、守護神と人民とに分らんので、仕組がして、待ち兼ね山のほととぎす、姿を隠して爰までは蔭の守護でありたなれど、明けの烏と成りて来たから、仕組通りを致さんと大変物事が遅れて来て居るから、何も一度に成りて来て、一度の改心は辛いばかりで、間には合はず、世界には何うしたとこで、人は減るし、長う掛りたら後の立直しが中々の大望であるぞよ。今後は一日増しに大本の中は厳しく成るぞよ。今のやうな事で無いぞよ。昔の肉体の其儘で、末代其儘で居る生神であるから、現はれると厳びしきぞよ。従来の行り方で行りて居りた守護神が、俄に改心は出来ず、この中の御用は出来ず、外国へ去ぬ事は厭でも去なな日本のお土の上には些とも居れん時節が参りて来て、逆立に成りて、上へあがりて居りた守護神程苦まな成らん事になるぞよ。日本の国の人民は、神の容器に造らいてある、大切の肉体を、外国の悪神に自由にしられて、今の体裁。神は人民を守護致して宜くするなり、人民は神を敬ひて、将来を見て、一度に改心を致されよ。余りの事で、神も耐袋が切れて来たぞよ。余り神には水臭いぞよ。