| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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1 (79) |
ひふみ神示 | 2_下つ巻 | 第37帖 | 世が変りたら天地光り人も光り草も光り、石も物ごころに歌ふぞ、雨もほしい時に降り、風もほしい時に吹くと雨の神、風の神申して居られるぞ。今の世では雨風を臣民がワヤにしているぞ、降っても降れず、吹いても吹かん様になりてゐるのが分らんか。盲つんぼの世の中ぞ。神のゐる場所塞いで居りてお蔭ないと不足申すが、分らんと申しても余りであるぞ。神ばかりでもならず、臣民ばかりではなおならず、臣民は神の入れものと申してあろが、あめのひつくの民と申すのは、世界治めるみたまの入れもののことぞ、民草とは一人をまもる入れものぞ、ひつくの臣民は神がとことん試しに試すのざから、可哀そうなれど我慢して呉れよ、その代り御用つとめて呉れたら、末代名を残して、神からお礼申すぞ。何事も神は帳面につけとめてゐるのざから間違ひないぞ、この世ばかりでないぞ、生れ代り死に代り鍛へてゐるのぞ、ひつくの臣民落ちぶれてゐると申してあろがな、今に上、下になるぞ、逆立ちがおん返りて、元のよき楽の姿になるのが近づいたぞ、逆立ち苦しかろがな、改心した者から楽にしてやるぞ、御用に使ふぞ。八月三日、ひつ九のか三。 |
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2 (185) |
ひふみ神示 | 6_日月の巻 | 第12帖 | 三ハシラ、五ハシラ、七ハシラ、コトアマツカミ、ツギ、ウヒジニ、ツギ、イモスヒジニ、ツギ、ツヌグヒ、ツギ、イモイクグヒ、ツギ、オホトノジ、ツギ、イモオホトノべ、ツギ、オモタル、ツギ、イモアヤカシコネ、ミコトト、アレナリ、イキイキテ、イキタマヒキ、ツギ、イザナギノカミ、イザナミノカミ、アレイデマシマシキ。足許に気付けよ。悪は善の仮面かぶりて来るぞ。入れん所へ悪が化けて入って神の国をワヤにしてゐるのであるぞ、己の心も同様ぞ。百人千人万人の人が善いと申しても悪い事あるぞ。一人の人云っても神の心に添ふ事あるぞ。てんし様拝めよ。てんし様拝めば御光出るぞ、何もかもそこから生れるのざぞ。お土拝めよ。お土から何もかも生れるのぞ。人拝めよ、上に立つ人拝めよ、草木も神と申してあろがな。江戸に攻め寄せると申してあろがな。富士目指して攻め来ると知らしてあること近付いたぞ。今迄の事は皆型でありたぞ、江戸の仕組もお山も甲斐の仕組も皆型ぞ、鳴門とうづうみの仕組も型して呉れよ。尾張の仕組も型早よう出して呉れよ。型済んだらいよいよ末代続くまことの世直しの御用にかからすぞ。雨降るぞ。十月二十八日、ひつ九のかみ。 |
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3 (233) |
ひふみ神示 | 7_日の出の巻 | 第20帖 | 今度は世に落ちておいでなされた神々様をあげねばならぬのであるぞ、臣民も其の通りざぞ、神の申す通りにすれば何事も思ふ通りにすらすらと進むと申してあろがな。此れからは神に逆らふものは一つも埓あかんぞ、やりてみよれ、九分九厘でぐれんざぞ。神の国は何うしても助けなならんから、神が一日一日と延ばしてゐること会得らんか。皆の者がかみを軽くしてゐるからお蔭なくなってゐるのざぞ、世の元の神でも御魂となってゐたのではまことの力出ないのざぞ。今度の経綸は世の元の生き通しの神でないと間に合はんのざぞ。何処の教会も元はよいのであるが、取次役員がワヤにしてゐるのぞ、今の様は何事ぞ。此の方は力あり過ぎて失敗った神ざぞ、此の世かもう神でも我出すと失敗るのざぞ、何んな力あったとて我出すまいぞ、此の方がよい手本ぞ。世界かもう此の方さへ我で失敗ったのぞ、執念い様なれど我出すなよ、慢心と取違ひが一等気ざはりざぞ。改心ちぐはぐざから物事後先になりたぞ、経綸少しは変るぞ。今の役員神の道広めると申して我を弘めてゐるでないか、そんな事では役員とは言はさんぞ。今迄は神が世に落ちて人が神になりておりたのぞ、これでは世は治まらんぞ。神が上で、臣民、人民下におらねばならんぞ。吾が苦労して人救ふ心でないと、今度の岩戸
開けんのざぞ、岩戸開きの御用する身魂は吾の苦労で人助けねばならんのざ。十年先は、五六七の世ざぞ、今の人間鬼より蛇より邪見ざぞ、蛇の方が早う改心するぞ、早う改心せねば泥海にせなならんから、神は日夜の苦労ぞ。道は一つと申してあろがな、二つ三つ四つあると思ふてはならんぞ、足元から鳥立つと申してあろが、臣民火がついてもまだ気付かずにゐるが、今に体に火ついてチリチリ舞ひせなならんことになるから、神、執念気つけておくのざぞ。三四気つけて呉れよ、神の国は神の力で何事も思ふ様に行く様になりてゐるのに、学や智に邪魔されてゐる臣民ばかり、早う気付かぬと今度と云ふ今度は取返しつかんぞ。見事なこと神がして見せるぞ、見事なことざぞ、人間には恐しいことざぞ、大掃除する時は棚のもの下に置く事あるのざぞ、下にあったとて見下げてはならんぞ、この神は神の国の救はれること一番願ってゐるのざぞ、外国人も神の子ではあるが性来が違ふのざぞ、神の国の臣民がまことの神の子ざぞ、今は曇りてゐるなれど元の尊い種植えつけてあるのざぞ、曇り取り去りて呉れよ、依怙の様なれど外国は後廻しぞ、同じ神の子でありながら神の臣民の肩持つとは公平でないと申す者あるなれど、それは昔からの深い経綸であるから臣民には会得んことであるぞ、一に一
足す二でないと申してあろが、何事も神の国から神の臣からぞ、洗濯も同様ぞ。今度の御用
外したら何時になりても取返しつかんことになるのざから、心して御用して呉れよ、遣り損なひ出来ないことになりてゐるのざぞ。天に一柱地に一柱火にも焼けず水にも溺れぬ元の種隠しておいての今度の大建替ぞ、何んなことあっても人間心で心配するでないぞ、細工は隆々仕上げ見て呉れよ、此の神はめったに間違いないぞ。三千年地に潜りての経綸で、悪の根まで調べてからの経綸であるから、人間殿心配せずに神の申す様素直に致して下されよ。末法の世とは地の上に大将の器無くなりてゐることざぞ。オロシヤの悪神と申すは泥海の頃から生きてゐる悪の親神であるぞ。北に気つけて呉れよ、神の国は結構な国で世界の真中の国であるから、悪の神が日本を取りて末代の住家とする計画でトコトンの智恵出して何んなことしても取る積りで愈々を始めてゐるのざから余程褌締めて下されよ、日本の上に立ちて居る守護神に分りかけたらばたばたに埓あくぞ。早う改心して呉れよ。十二月二十六日、一二 |
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4 (370) |
ひふみ神示 | 15_岩の巻 | 第5帖 | 人民眼の先見えんから疑ふのも無理ないなれど、ミタマ磨けばよく判るのぢゃ、ついて御座れ、手引張ってやるぞ。誠の道行くだけではまだ足らんぞ。心に誠一杯につめて空っぽにして進みてくれよ、このことわからんと神の仕組おくれると申してあろうがな、早くなったところもあるなれど、おくれがちぢゃぞ。苦労、苦労と申しても、悪い苦労気の毒ざぞ、よき苦労花咲くぞ。花咲いて実結ぶのざぞ。人民苦しみさえすればよい様に早合点してゐるなれど、それは大間違ひざぞ。神の道無理ないと、くどう申してあらうがな。此の道理よく噛み分けて下されよ。神の国は元のキの国、外国とは、幽界とは生れが違ふのぢゃ。神の国であるのに人民近慾なから、渡りて来られんものが渡り来て、ワヤにいたしてしまふてゐるのに、まだ近慾ざから近慾ばかり申してゐるから、あまりわからねば、わかる様にいたすぞ。眼の玉飛び出すぞ。近くは仏魔渡り来て、わからんことにされてゐるであらうがな。五度の岩戸開き一度にせなならんと申してあらうが、生れ赤児の心で神示読めと申してあらうがな。二月十六日、ひつ九かミ。 |
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5 (490) |
ひふみ神示 | 22_青葉の巻 | 第21帖 | 神が引寄せるからと申して懐手してゐては道は拡まらんぞ、弥栄とは次々に限りなく喜びをふやして養って行くことざぞ、喜びとはお互ひに仲よくすることぞ、喜びは生きものぞ、形あるものぞ、色あるものぞ、声あるものぞ、判りたか。教会つくれと申しても今迄の様な教会ではならんぞ、今迄の教会も元はよいのであるぞ、いづれも取次役員がワヤにいたしたのぢゃ、神の心からはなれて人間心となったからぢゃ。神の動きは、アヤワ |
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6 (493) |
ひふみ神示 | 23_海の巻 | 第1帖 | 海の巻書きしらすぞ、五つに咲いた桜花、五つに咲いた梅の花、皆始めは結構であったが段々と時経るに従って役員が集まってワヤにいたしたのぢゃ、気の毒ぞ、神の名汚しておるぞ。大日月と現はれたら、何かの事キビシクなって来て、建替の守護と建直しの守護に廻るから、その覚悟よいか。間違った心で信心すれば、信心せんより、も一つキビシクえらい事がみちはじめみつようになるぞ。今に此処の悪口申してふれ歩く人出て来るぞ、悪口云われだしたら結構近づいたのざと申してあろ、悪口は悪の白旗ざぞ。飛んで来て上にとまってゐる小鳥、風吹く度にびくびくぢゃ、大嵐来ん前にねぐらに帰って下されよ、大嵐目の前。此処は先づ苦労、その苦労に勝ちたら、己に克ちたら魂磨けるぞ、段々と楽になって嬉し嬉しとなるぞ、結構な仕組、知らしたら邪魔入るなり、知らさんので判らんなり、心でとりてくれよ、世界の民の会なせばなる、なさねば後悔ぞ。八月十三日、一二 |
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7 (632) |
ひふみ神示 | 26_黒金の巻 | 第14帖 | 悪の総大将は奥にかくれて御座るのぞ。一の大将と二の大将とが大喧嘩すると見せかけて、世界をワヤにする仕組、もう九分通り出来てゐるのぢゃ。真の理解に入ると宗教に囚はれなくなるぞ。形式に囚はれなくなるぞ。真の理解に入らねば、真の善も、真の信も、真の悪も、真の偽りも判らんのぢゃ。今にイワトひらいてあきらかになったら、宗教いらんぞ。政治いらんぞ。喜びの歌高らかにナルトの仕組、二二にうつるぞ。一月二十二日 |
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8 (1544) |
霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 序文 | 序文 教祖御筆先と霊界物語に就て、少しく所感を述べて置きます。 抑も教祖の手を通して書かれた筆先は、到底現代人の智識や学力で之を解釈する事は出来ぬものであります。如何となれば、筆先は教祖が霊眼に映じた瞬間の過現未の現象や、又は神々の言霊の断片を惟神的に録したものですから、一言一句と雖もその言語の出所と時と位置とを霊眼を開いて洞観せなくては、其真相は判るものではありませぬ。之を今日の演劇に譬て見れば、艮の金神の筆先の名の許に、塩谷判官高貞の言語もあれば、高野師直、大星由良之介、大野九太夫、千崎弥五郎、早野勘平、お軽、大野定九郎、加古川本蔵、桃井若狭之介などの役者が各自に台詞を使ふのを、由良之介は由良之介一人に対する台詞、九太夫は九太夫一人のみの台詞を集めたのが、教祖の筆先であります。所謂芝居の下稽古の時に、各役者が自分の扮すべき役目の台詞のみを読み覚ゆるための抜書のやうなものであります。故に、実際の霊界にある神劇を目撃したものでなければ、筆先を批評する事は出来ませぬ。例へば大星由良之介の台詞の筆先を見れば、実に感心も為し忠臣義士の模範とする事も出来ますが、之に反して九太夫の台詞を記した筆先を見る時は、実に嘔吐を催す而已ならず、実に怪しからぬ筆先に見えるのであります。故に神様は、三千世界の大芝居であるぞよと、筆先に書いて居られます。其各自の台詞書を集めて、一つの芝居を仕組むのが緯の役であります。故に霊界物語は筆先の断片的なるに反し、忠臣蔵の全脚本とも云ふべきものであります。筆先の中にも、智恵や学では此筆先は到底判るもので無い、因縁の霊魂に神界の実地が見せてあるから、其者と直とでなければ筆先の精神は判らぬぞよ、と記してあるのを見ても判りませう。又時と処と位置とに因りて、筆先の文句に異同あるのも当然である。軽々しく筆先は人間の論評すべきものではありませぬ。筆先は決して純然たる教典ではありませぬ。 要するに、太古の神々の活動を始め、現在未来の神界の活劇を、断片的に示した台詞書きに過ぎませぬ。之を一つに取まつめてその真相を劇化して、完全に世人に示す様にするのが霊界物語編纂の大使命なのであります。右様の性質の筆先を一所に集めて、神劇の真相を世に発表せむと努力する緯役の苦心をも覚らずに、緯役が完全な筆先をワヤに作りかへたなぞと批評する人は、筆先の真の価値なり又神の御意志を以て、自分の意志と同一に見做した人々の誤りであります。教祖の書かれた筆先(台詞書)の九太夫の巻を見た人は、キツト艮の金神の教は悪であると云ふであらう。由良之介の台詞書を見た人は、定めて艮の金神の教を立派な結構な教であると云ふでありませう。この台詞書を整理して立派な神劇を組立てた上、始めて平民教育の芝居ともなり、バイブルともなるのであります。九太夫一人の台詞を見たり、由良之介一人の台詞書のみを見て、善だの悪だの忠だの不忠だのと批評するのは、批評する人が間違つて居るのであります。故に緯役は大正十年旧九月十八日、教祖の神霊の御請求に由つて、病躯を忍び臥床の儘霊界物語を口述することと致しました。然るに霊界物語は簡明を欠くとか、冗長にして捕捉する事が出来ないとか、複雑之を読むの煩に堪へないとか、神劇としても俗化して居て神威を冒涜するものだとか、甚だしきは緯役の精神そのものの発露だとか、種々雑多の小言を聞きますが、緯役として霊界物語を口述し始めたのは、今迄の信徒の方々が筆先の台詞書而も九太夫の台詞を真の神の教の如く軽信された結果、昨春の様な事件を突発する様になつたのだから、過失を再びせざらしめむとして、病中を忍び本物語を著述する事に成つたのであります。決して道楽や物好きでコンナ事が出来ませうか。 馬琴は二十八年間を費して八犬伝を作りました。この霊界物語は、僅かに一年足らずの間にて口述日数は百五十日、而も八犬伝の三倍を超過して居る大部なものであります。何れも人間の頭脳の産物でない事は、少し著述に経験ある文士なれば一目瞭然たるべきものだと考へます。又中には、霊界物語は神幽現三界の歴史であつて、家庭の宝典たる教化的価値なきものだと云つて居る布教師があるさうですが、未だ霊界物語を読了せないからの誤りであります。第一巻より第四巻迄位を読むだ人は、教訓的よりも歴史的方面の多いものと思惟されるのは寧ろ当然だろうと思ひます。併し霊界物語は歴史でもあり、教訓でもあり、教祖の筆先の解説書であり、確言書であり、大神劇の脚本であります。この物語に依らなければ、教祖の筆先の断片的(台詞書)のみにては、到底神界の御経綸と御意志は判るものでは無いのであります。 霊界物語の文句の中に、一旦帰幽した神人が時代不相応の後世まで生きて居て種々の活動をしたり、又ヱルサレムの都が現今の小亜細亜の土耳古であつたりするなどは、現代人の尤も疑ひの種を蒔くものと予期して居ます。併し何を謂つても数十万年前の物語であり、又霊界を主として口述したのですから、不審の点は沢山にあるでせう。口述者自身に於ても不審、不可解の点は沢山ありませう。筆先と霊界物語とは経緯不離の関係にある事を考へて貰ひたい。また今まで発表した神諭は、由良之介や千崎弥五郎の台詞のみを教訓として発表したものであります。たまに九太夫の台詞のやうに人に依つて感じられる点がある様なのは、其人が神劇の全体を見て居ないから起る誤解であります。由良之介でも七段目の茶屋場あたりでは、一寸見ると九太夫式の言辞を弄してゐる。されど彼の心中は決して悪ではない。緯役として今まで発表した神諭を、九太夫式の点がある様に解するのは、霊界の真相が解らないからであります。何れも緯役として解決の着かない様なものや、悪言的の筆先は決して発表はして居ませぬ。精神のゆがみたる人が見たら悪く見えるであらうが、緯役として神界の実地に触れ根拠ある点のみを選抜して神諭とした迄であります。悪く見ゆるのは神霊の活劇を見ないからであります。故にその蒙を啓くために、本書を発表する事となつたのであります。 中には『筆先は一字も直すことは成らぬぞよ』とあるのを楯に採り、緯役が直したのが不都合だと謂つて居る人がある。是も一を聞いて二を知らぬ人の誤りである。変性女子は緯役だから書き放題に出口直に書かしてあるから、女子がよく調べて直して出して下さいと示してある。是が緯役としての使命である。『一字も直す事は成らぬぞよ』と示されたる意義は、変性女子以下の当時の筆記者に対して示された筆先の詞である。之と混同して緯役を云々するのは少し早計でありませう。 |
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9 (1761) |
霊界物語 | 20_未_丹波物語5 錦の宮の発足 | 06 梅花の痣 | 第六章梅花の痣〔六六八〕 松鷹彦は今迄飯よりも好きであつた漁を断念し、武志の宮の社務所に居を転じ、宗彦、お勝の両人と共に朝夕神に仕へ、且三五教の教理を細々乍ら伝へてゐた。田吾作、お春の両人は御宮の参拝を兼ね、爺さんの話を聴く可く立寄つた。 田吾作『お爺さま、お前さまも此頃は大分に村中の評判が善くなつたぞい。朝は早うから御祝詞の声が聞えるお蔭で、村中が無病息災で全く松鷹彦様のお蔭だと言うてゐますぞや。尚宗彦さま、お勝さまの評判も仲々よろしい。併し村の者の話には、お前さまが此処へ来て神主になられてから、随分年も経つたが、お竹さまは亡くなり、後には女房子の無い一人のやもを暮し、本当に御気の毒だ。一層の事宗彦さまとお勝さまを子に貰つて、後を継がしたら如何だらうかとチヨイチヨイ村人の話頭に上りかけましたよ』 松鷹彦『私は最早三五教へ這入つてから、今迄の執着心をすつかりと除つて了ひ、幽界の結構なことも悟つたのだから、後継を貰つて心配をするよりも一層一人で余生を送る方が何程気楽だか知れやしない。此やうな老耄れた爺の子になつて呉れる者は恐らく広い世界にありますまい。私が亡くなつた時は滅多に捨てて置きはせまい。村人の情で何処かへ葬つてくれるだらう。それよりも幽界に行つて姿と一緒に暮す方が、現世に執着心が残らなくてよい』 お春『お爺さま、そりやそうだがお前さまがもしも病気になつた時には、矢張り世話をして呉れるものがないぢやないか。何程村のものだつてさうお前さまの病気に付添うて看病する訳にも行くまい。野良の暇の時ならば兎も角も、田植の最中や、稲刈りの最中に患ひでもなさつたら、それこそ仕方がありますまい。なんとか後継をこしらへて置きなさい』 松鷹彦『イヤもう藁の上から育てた子供なれば、なんとか無理を言つて介抱もして貰へるだらうが、俄に貰つた息子に対して、さうヅケヅケと言へるものでもなしに、却て遠慮をせなくちやならない様なものだから、もう何卒それだけは勧めて下さるな』 田吾作『お前さま、子は無かつたのかい』 松鷹彦『私は元は紀の国で生れたものだが、素盞嗚尊様が高天原を神追ひに追はれて遠い国へ御出ましになつた其時に、世の中は一旦は常暗の夜になつた事がある。其の時だつた、悪魔が横行して男二人、女一人の三人の子供を何者にか攫はれて了ひ、女房と二人が泣きの涙で、十五六年前に此処へ出て来て村人の情に依つて、此の宮守をさして貰ひ余生を送つて居るのだ。アーア我が子は如何なつたであらう。今迄は女房や子の事は好きな漁に心を紛らして忘れてゐたが、こんな話が出ると又思ひ出す』 と涙含む。宗彦は、 宗彦『モシお爺さま、貴方は今紀の国のものだと仰有いましたな。一体何の辺でございます』 松鷹彦『私は熊野の生れだ』 宗彦『ハテ不思議なことを承はります。私も実の所両親がわからず、他人から熊野辺の生れだと子供の時分に聞いたことがあります。私は大台ケ原の山奥の巌窟に悪神に攫へられて、長らく閉ぢこめられて居りました。其処へ立派な神様が現はれて、「お前はこれから浪速の里へ往て苦労せよ。一人前になつたら世界を順礼せい」と仰有いました。それを未だに夢のやうに覚えて居ります。さうして私も兄弟が三人あつたさうです。何処へ行つても親もなければ兄弟もない者は、誰も可愛がつては呉れず、漸く成人して牛馬にも踏まれないやうになつた頃から、徐々酒を呑み、そこら辺りへ養子にも幾度か行つて見、又家も持つて見ましたが、何分子供の時分から乞食のやうに、其処中を彷徨うて育つて来たものですから、家を持つの、養子に往くのと云ふことは窮屈でツイ飛び出し、自棄酒を呑んで女房に心配をかけ、沢山の女房を先立たしました。或人に聞けば私は丙午の年に生れたとかで、女に祟る身魂ぢやさうです。私も今は斯うして若いが、子が出来ないのでお爺さまのことを思ふにつけ、先が案じられてなりませぬ』 松鷹彦『お前さま、腋の下に梅の花のやうな痣がありはせぬかなア』 宗彦『そりや又貴老は何うして御存じですか』 松鷹彦『イヤ私の子供は男の方は二人とも梅の花の痣が付いて居る。兄は左の腋の下、弟の方は右の腋の下にハツキリと出てゐた筈ぢや。それを頼りに夫婦連れ、四五年が間探して見たが、人を捉まへて一々裸体になつて腋を見せて呉れと言ふ訳にも行かず、夏になると海水浴場へ往つて、わが子の年輩位な人の腋の下を一々調べて見たが、何を言つても見え難いところ、温泉へ行つても見当らず、これ位心配したことは無い』 と又俯向く。 宗彦『お爺さま、私の右の腋の下に何だか花のやうな型がありますが、一寸見て下さらぬか』 松鷹彦はビクリツと身を自然的にしやくり乍ら、 松鷹彦『ドレドレ一寸見せて下さい。アーアほんにほんに擬ふ方なき梅の花の痣、五弁の梅が上の方は少し欠けて居つたが、矢張り欠けて居る。さうするとお前は竹と云ふ男ぢやなかつたか』 宗彦『ハイ子供の時は竹と云ひました。バラモン教から宗彦といふ名を貰つたのです』 田吾作は二人の顔を見較べて見て、 田吾作『お爺さま、頭の恰好と云ひ、小鼻のつんもりとした辺から耳の塩梅、よく似てをるぢやないか。ヒヨツとしたらお前さまの子ぢやあるまいかな』 松鷹彦『擬ふ方ない私の息子だ。アーこれ宗彦、ようマア無事で居つて呉れた。これと云ふのも矢張り神様の御神徳だなア』 と泣き伏す。 宗彦『お父さまでございましたか、存ぜぬこととて御無礼を申しました。どうぞ許して下さいませ』 と宗彦は、カツパと伏して嬉し泣きに声を上げて泣く。お勝は手を組み思案に暮れ乍ら、松鷹彦を抱き起し、 お勝『モシモシお爺さま、貴老、一人の息女があつたと仰有いましたなア、其の息女さまには何か特徴は有りませぬか』 松鷹彦は声をかすめて、 松鷹彦『息女の特徴と云ふのは、臍の上に三角形なりに黒子が行儀よく出来て居たやうに覚えて居る。アーア一人の伜に廻り合つて嬉しいが、兄の松や、お梅は何処の何処に暮して居るであらうか。一つ叶へば又一つ、折角除れた執着心が再発して来た、ほんに苦しい浮世だなア』 と打沈む。お勝の胸にグツとこたへたのは臍の上の三角形の黒子、宗彦と夫婦になつて暮して来た関係上、名乗りもならず、一人胸を痛めてゐる。 松鷹彦『妙なことを訊ねるが私の心のせいか、何となくお前が恋しいやうな気がしてならぬのだ。竹に何処ともなしに似たやうな所もあり、女房のお竹にも何処か似て居るやうだが、若しや私の息女ではあるまいか』 お勝は口ごもり乍ら、 お勝『私も親も兄弟もあつたさうですが、行方は今にわかりませぬ。併し乍ら今貴老の仰有る黒子はありませぬ』 松鷹彦『アーさうかな、それは幸ひだつた。万一娘だとすれば血族結婚になり、天則違反で神様に罪せられるから、可愛さうだがマア兄妹でなくて結構だつた』 お勝『兄妹の結婚はそれ程罪が重いのですか。併し乍ら万一知らずに結婚をしたら、それは如何なります?』 松鷹彦『サア、それは何とも私にはわからない。余り例の無い事だから、この年になつても聞いたこともなし、三五教の真浦さまにも教へて貰つたこともないのだから』 宗彦『知らぬ神に祟りなしと云ふぢやありませんか。万一世間にそんな夫婦があるとしても、慈悲深い神様は屹度赦して下さいませう』 お勝は両の袂を顔に当て、身を悶えて泣いて居る。 田吾作『コレコレお勝殿、結構な父子の対面にお前さまが泣くと云ふことがあるものか、ハー羨りいのだなア。宗彦さまは焦れて居つたお父さまに会うて嬉しからうが、私は何時になつたら会へるだらうと思ひ出して泣くのだな。マヽヽ何事も神様に任して時節を待ちなさい。屹度信心の徳に依つてお父さまや、お母さまが現世にござつたら、会はして下さるでせう』 お勝『ハイ有難うございます。よう云つて下さいました。折角親子の……イエイエ親と子と御対面なさつて喜んでゐられるのを御喜びもせず涙を零して見せました。誠に済まぬことでございます。何卒お父様否宗彦さまのお父様、どうぞ私も子の様に思うて可愛がつて下さいませ。これからは打つて変つて親のやうに思つて孝行致します』 松鷹彦『アヽよう言うて下さつた。私も他人のやうには、どうしても思へない。親子も同然互に親切を尽し合うて神様の御用を致しませう』 三人は嬉し涙に暮れて、暫時無言の儘沈黙の幕が下りた。春の日は晃々として武志の森の千年杉の梢にかかつてゐる。烏は卵を孵化し、雌雄互に飛び交ひ、餌を漁つて子烏に与へてゐる。子烏は黄色い口を裂ける程開けてゐる。 田吾作は性来の慌者、 田吾作『ヤア爺さま、宗さま、親子の対面御芽出度う。ドーレこれから帰つて御祝ひでも持つて来ませう。オイお春さま、お前も何か祝はにやなるまい。さア帰らう』 松鷹彦『モシモシ田吾作さま、お春さま、どうぞ暫らく村の人に言うて下さるな。又騒がせると気の毒だから』 田吾作『何を爺さま仰有るのだ。地異天変、手の舞ひ脚の踏む所を知らざる大観喜天様の御来迎、これが黙つて居られますか。サアお春さま、早く早く』 と促し、爺の呼び留るのも聞かばこそ、捻鉢巻をグツと締め、尻ひん捲り、我家を指して馳帰る。 松鷹彦『アーア親切な男だ。ようちよかつく人だが、併し彼れ位心のキレイな方はない、アー見えても心は確りして居る。村中の賞めものだ。どうぞ好い嫁さまをお世話して上げたいものだ』 一方田吾作は何よりも早く留公が離家に居る真浦の宣伝使に報告せむとし、 田吾作『大変大変』 と道々呼ばはり乍ら、近所に火事でも起つた様な周章方で走つて来た。留公は鍬を担げて門口へ出ようとするところであつた。 田吾作は、 田吾作『オイ留公、貴様は鍬を担げて何処へゆくのだ。大変だ、地異天変だ、欣喜雀躍手の舞ひ、脚の踏む所を知らぬ大事件が突発した。サアサア早く貴様も用意をせぬかい、何をグツグツしてゐるのだ、野良仕事位は休んでも好い。天変だ天変だ』 と地団太ふんで踊り廻る。 留公『貴様さう云つたつて理由も言はずに解らぬぢやないか。一体なんだい』 田吾作『なんだつて解つとるぢやないか。芽出度いことだ。タヽヽ大変だ。早く宣伝使の真浦さまに取次で呉れ』 留公『そら取次がぬ事は無いが、ちつと落ちつかぬかい。詳細に報告せなくては事件の真相どころか、端緒も探れぬぢやないか』 田吾作『エー邪魔臭い、愚図々々して居ると喜びが何処かへ消滅して了ふと大変だ。邪魔ひろぐな』 と無理矢理に真浦の居間に走り込んだ。 真浦『田吾作さま、大変な勢ひで何事が起つたのだ』 田吾作『何事が起つたもあるものか。梅ぢや梅ぢや、梅の花ぢや』 真浦『梅だと云つたつて解らぬぢやないか。梅が必要なら裏に沢山なつてゐる。トツトとむしつてゆかつしやれ』 田吾作『そんな事どころか。梅と云つたら梅ぢやな。合点の行かぬ宣伝使だな。親子の対面だ』 斯かる処へ留公は跡を追つて走り来り、 留公『オイ田吾作、貴様は気が違ひ居つたのか。チト確りせぬかい』 と背中を握り拳で二つ三つ叩いた。 田吾作『アイタヽヽ、腕が抜けるやうな目に会はせやがつた。オーそれそれかひなぢや、かひなぢやかひなぢや』 と腋を左の食指で頻りに指し示す。 真浦『腕が何うしたと云ふのだい』 田吾作『腕に梅の花が咲いたのだ。五弁の上の奴がちよつと欠けて居る。それで親子の対面だ。武志の森の社務所で腕に咲いた梅の花、三千世界一度に開く梅の花のやうな喜悦だ』 真浦『とんと合点が行かぬ哩。田吾さま、もうチツト落ちついて云つて下さい』 田吾作『他人の乃公まで、あまり嬉しうて、これが何うして落ちつけよう。梅ぢや梅ぢや。武志の森まで往つて見りや解る』 真浦『益々解らぬことを云ふぢやないか』 と訝かし相に首を傾ける。其処へお春が遅れ馳せにやつて来た。 お春『モシモシ大変な喜びが出来ました。田吾作さまに大体のことは、御聴きでせうから私が申上げるものも二重ですが、本当に結構でございますよ。松鷹彦のお爺さまも到頭親子の対面をなさいました』 真浦『何ツ、お爺さまが親子の対面、して其子と云ふのは誰のことだな』 お春『彼の此間行者になつて出て来た宗彦さまが、お爺さまの子だつた相です。右の腋の下に梅の花の痣があつたので、それで親子と云ふことに気が付いたのです。彼の方は紀の国の生れで、名前は竹さまとか云つたさうです。さうしてまだ松さまといふ兄があり、お梅さまといふ妹があるさうです。それは未だ分りませぬ。併し乍らお爺さまは竹さまに会つたので大変な御喜び、どうぞ貴方も早く武志の森迄いつて神様に御礼を申して下さい。村中明日は総休みをして御祝ひをせなくてはなりませぬから』 真浦『何ツ、三人兄妹、さうして竹と云ふのが彼の男か』 田吾作『オーさうぢやさうぢや、なにを愚図々々して居るのだ。早くいきなさらぬか。お春さま女だてら構はひでも好いワ。早く帰つて御馳走の用意をせないか』 お春は『ハイ』と答へて足早に立ち去つた。真浦は手を組み、 真浦『ハテナ』 と云つたきり、深き思案に沈むものの如くである。 田吾作『ハテナもあつたものかい。サアサア御輿を上げたり上げたり。お前さまは斯んな芽出度いことが何とも無いのか。何を愚図々々してゐるのだ。それだから私に鍬の尖で指を斬られるやうな事が出来るのだ。サア早う早ういつてお呉れなさい』 真浦は何故か太き息を吐き、無言の儘うつむいて頻りに考へてゐる。 田吾作『オー今思ひ出した。此間お前さまが禊身の時に私がチラと見ておいた、お前さまの腋の下に梅の痣がありましたなア。それならひよつとしたら爺さまの子で松と云ふ男かも知れはしない。何うだい、違ひはありますまいがな』 真浦『コレコレ田吾作さま、滅多な事を云つて下さるな。梅の紋の痣のあるものは、広い世界には沢山あるだらう。さう軽率に云つて貰つては困るからなア』 田吾作『なに化物のやうに人間の身体に、梅の花の咲いた奴が、さう沢山あつてたまりますかい。うめい言ひ訳をしなさるな。ドーレ一つこれから爺さまの所へトツ走つて注進だ。ヤア天変だ、天変だ』 と駆出す。 真浦『コレコレ留さま、一寸田吾作さまを捉まへて下さいな』 留公は、 留公『合点だ』 と田吾作の後を追ひ駆る。田吾作は一生懸命走り出す。踏み外して崖下の麦畑へ顛落し、 田吾作『アーアやつぱり地異天変だ。麦一升な目に会つたものだ。オイ留公、この報告は俺が承はつたのだ、先へいつて喜ばしやがると承知せぬぞ』 留公『貴様の言ふことは何が何だか、薩張解らせんワ。俺ん所の麦畑をワヤにしやがつて何うして呉れるのだい』 田吾作『何うも斯うもあつたものかい。麦の一升や二升ワヤになつたつて、此の喜びに替へられるものか。親子の人に寄附したと思へば済むのだ。此の場合になつて吝嗇くさいことを言ふな』 留公は又もや両手を組んで、 留公『ハテナ』 と思案に暮れてゐる。松鷹彦は二人に留守を命じ置き、あかざの杖をつき田吾作の後を追うてヒヨロヒヨロと此処までやつて来た。 留公『ヤア貴方は宮のお爺さま』 松鷹彦『お前は留さまぢやないか。斯んな路傍に何心配さうにして立つてござるのだ』 留公『別に心配も何もありませぬが、田吾作の奴俄に発狂し居つて、これ此通り此の高土手から顛落し、訳のわからぬ事を言つてます』 爺さんは恐相に崖下をソツと覗いた。高所から落ちて腰を痛め、脚の蝶番を破損した田吾作は、爺の顔を見るより、 田吾作『ヨーお爺さま、大変大変、左の腋下にモ一つの梅の花が咲いた』 松鷹彦『それは何処に咲いたのだな』 田吾作『何処にも彼処にも咲いて咲いて咲き乱れて居る。真浦ぢや真浦ぢや、真浦の左の腋下に梅の花の痣があるのだよ。的切りお前の伜の松さまに間違ひなからう。いつて来なさい。私はお前に報告のため、駄賃取らずの飛脚さまで今日一日は、お前のために社会奉仕をするのだよ』 松鷹彦『それはマア妙なことを聞くが実際そんなことがあるのかい。嘘ぢやあるまいなア』 田吾作『嘘を云つた所で一文の徳にもなりはせぬ。早く帰つて親子対面の用意をしなさい。オイ留公、真浦さまを宮の社務所まで引張つて来るのだよ』 と身体の痛みも忘れて、一生懸命に叫んでゐる。松鷹彦は半信半疑乍らも、何か心に期する所あるものの如く、覚束なき足も欣々と軽げに元来し道へ踵を返した。 留公は田吾作を助けむと、少しく迂回して側に近付き、 留公『オイ田吾作、しつかりせぬか、口ばつかり噪やぎ居つて、腰がチツとも立たぬぢやないか』 田吾作『あまり嬉しくて嬉し腰が抜け居つたのだい』 留公『サア、俺が負うてやるから俺の背中に喰ひつくのだ』 田吾作『俺を負ふ人があるのだ。それ迄待つてゐるのだよ。大きに憚りさま』 留公『負惜みの強い奴だな。俺が親切に負うてやらうと言ふのに、何故負はれぬのか』 田吾作『かうして此処に平太つて居れば、屹度通る人があるのだよ。カヽヽエー矢張構うてくれな。何事も惟神に任すのだ』 留公『ハハア、カヽヽと云ひやがつて、大方お勝さまに負うて貰はうと思つてゐるのだらう、サアサ俺がお勝さまの所へ負つて連れて行つてやらう。背中に喰ひつくのだよ』 田吾作はソーと腰を上げてみて、 田吾作『アー妙だ、何時の間にか自然療法で全快し居つた。マア生命に別条はない。安心してくれ』 留公『こんな奴に相手になつて居ると狐につままれたやうなものだ。エヽ怪体の悪い』 とボヤキボヤキ上つて行く。田吾作はシヤンシヤンとして後を追ふ。漸く顛落した箇所までやつて来た。 田吾作『アヽ此処だ、俺の一生一代の放れ業の遺跡だ。臨時に目標でも建てて記念にして置かうかな』 其処へ慌しくやつて来たのは真浦である。 真浦『留さま、田吾作さま、何をしてゐるのだ』 留公『今田吾作が空中滑走の曲芸を演じ、此の留さまに御覧に供した所です』 田吾作『ヤア左の腋の下の梅の花か、サア早く来た。もう爺さんに注進済みだ。屹度四頭立ての黒塗りの馬車か、自動車を以て迎ひに来ますぜ。マア、ゆつくり此の田圃路に待つて居なさい』 真浦はニタリと笑ひ乍ら、足早に武志の森をさして急ぎ行く。二人も捻鉢巻し乍ら大股に宙を飛んで、宮の社務所目蒐けて駆け出した。 (大正一一・五・一三旧四・一七外山豊二録) |
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10 (1802) |
霊界物語 | 22_酉_鷹鳥山の鷹鳥姫 | 07 囈語 | 第七章囈語〔六九九〕 高姫は一生懸命精神錯乱状態になつて、熱に浮かされ猛虎の如く、咆哮怒号の声屋外にビリビリと響いて来た。遠州、武州は驚いて奥へ駆け入つたり表へ出たり、手の施す所も知らず、 武州『オイ遠州、何うしよう。大変ぢやないか。大変々々』 と狼狽へ廻つて居る。 杢助はお初の手を引きながら門の戸をがらりと開け、悠々と入り来り、 杢助『オイ、遠州、武州、何を騒いでゐるのだ』 遠州『あの声を御聞きなさいませ、刻々と鳴動がきつくなります。浅間山が爆発するのか、高姫山が破裂するのか知りませぬが、大変な騒動が始まりかけて居ます。何処へ避難したらいいかと思つて、周章狼狽の体で御座います』 杢助『アハヽヽヽ、如何にも偉い鳴動ですな』 遠州『何と云つても三十八度と四十度の間を昇降してゐる熱ですから、随分偉い煙も吐き出します。側に居られた態ぢやありませぬ。何卒貴方、鎮めて下さいな』 杢助『この鳴動は大森博士[※「大森博士」とは当時の有名な地震学者・大森房吉(1868~1923年)のことだと思われる。]だつて、如何することも出来はしない。併し杢助が一つ鎮魂をして鎮めて見ませう』 とお初と共に高姫の病床に進み入つた。 高姫は金盥の底をガンガン叩きながら、起ちつ坐りつ捩鉢巻になつて暴れ狂うてゐる。杢助は両手を組み、一、二、三、四、……………と天の数歌を静かに唱へ、ウンと一声指頭より霊光を発射し、高姫の面を照した。高姫は漸く鎮静状態に復し、バタリと床の上に倒れ、肩で息をしながらウンウンと唸つてゐる。杢助は高姫の肩を撫で擦りながら声低に、 杢助『モシモシ高姫さま、大層御苦しみと見えますが、何事も神様のなさることでせうから、決して決して御心配のなきやうに、気を確に持つて下さい。言依別の教主様も至極平気で居られますから』 高姫は此声にムツクと立上り、杢助の胸倉を矢庭にグツと引掴み、肩をいからし声を震はし、歯ぎしりをキリキリと言はせながら眼を釣上げ、 高姫『お前は杢助ぢやないか、仮令言依別が何と云つても、大事の大事の結構な玉を紛失致したのは、神政成就の為には大変な大失策だ。これと言ふのも貴様がお初を伴れて来て、高姫の生宮から無理に引張り出さしたその為に、斯んな目に遇うたのだ。私もそれから何となく変になり、斯んな病気になつたのも、みんな杢助、お前の為だ。神政成就の妨害を致す大曲津奴が。大方八岐の大蛇が化けて居るのだらう。サア白状致して玉の在処を知らせよ。さうでなければ何処までも放しは致さぬぞや』 杢助『高姫さま、それは偉い迷惑、マア悠くりと気を落着けて冷静になつて下さい』 高姫『何ツ、迷惑と申すか。お前の迷惑は小さいことだ。大神様を始め世界万民の迷惑ぢや。第一この高姫が起つても坐ても居られぬ迷惑な目に遇うてゐる。サア、キリキリと白状致せ』 杢助は高姫の手を強力に任せグツと放した途端に、高姫はどんと仰向けに倒れ、口から蟹のやうに泡を吹き飛ばし、前歯の抜けた口を斜交に開いて、頻りに何事か言はむと上下の唇をたたいている。 お初『小母さま、決して御心配なさいますな。その玉は神様の御手に御預り遊ばして御座るから、神政成就の妨害にはなりませぬ。三個の玉は有形です、そのために皆様はモツト立派な無形の玉を一個宛頂きましたから、御安心なさいませ』 此声に高姫は気がつき、 高姫『ヤア、お前はお初ぢやな。小豆のやうな態をして、ようツベコベ囀る奴ぢや。私の玉を叩き出した曲者、サア、もう斯うなる上は此高姫が承知致さぬ』 と飛びかからうとする。お初は体をヒラリと躱し、 お初『小母さま、気を落着けなさい』 高姫『何ツ、猪口才な、ゴテゴテ言はずにすつこんで居れ。大方貴様が玉を盗んだのであらう。サア、日の出神の生宮が承知致さぬ』 と又もや飛びかかる。お初は右へ左へ胡蝶の飛び交ふ如く、ヒラリヒラリと高姫の鋭鋒を避けて居る。門口にはテルヂー、雲州の二人、高姫の病気危篤と聞いて見舞にやつて来たと見え、 テルヂー『これ遠州さま、一寸開けて下さい。テルヂー、雲州の両人だ』 遠州は此声にガラリと戸を引き開け、 遠州『ヤア、よく来て下さつた。大変に大将の病気が、変になつて来たので困つてゐるのだ』 雲州『変になつたとは何うだい。危篤と云ふのか』 遠州『時々高姫山が鳴動をするので危険でたまらないのだよ。人事不省の高姫山、うつかり踏査でもしようものなら、山と共に奈落の底まで陥落するか分つたものぢやない。今も玉治別さまがカーンとやられて、遁げ帰らしやつたとこだ。気がついたら又俺から篤りと云うて置くから、帰つたがよからうぞ』 テル『折角此処まで来たのだから、御顔だけでも拝見して帰らうか。なア、雲州』 雲州『危険区域だと云つて退却するのは男子の本分ではない。これも修行のためだ、一つ踏査することにしようかい』 と遠州の止むるをも聞かず、無理に奥の間に進み入つた。 高姫は火の如き顔色に眼を釣り、拳を固めて六歳のお初目蒐けて追ひかけてゐる。杢助は此の騒ぎを他所事のやうに煙草をくすべながら、師団演習の観戦でもしてゐるやうな調子で泰然と構へてゐる。二人の姿を見るより、高姫は、 高姫『ヤー、お前はテルヂーに雲州ぢやないか。貴様は元が小盗人だから、大方あの玉を盗みよつたのだらう。サア、了簡せぬ。早く此処へ玉を吐き出せ』 と雲州の素首をグツと捻ぢ、畳に摺つけ、 高姫『サア、吐け吐け』 と高春山でお初の玉吐せを見てゐた高姫は、同じ流儀に倣つて腰を滅多矢鱈に叩きつける。 雲州『アイタヽ、ウンウン。モシモシさう叩いて貰ひますと、尻からプン州や、ウン州が出ますワイなア。オイ、テルヂー、早う俺を助けて呉れぬかい』 高姫『貴様は身魂が悪いから尻から吐くのだらう。コラ、今デルジリと吐かしただらう。早く尻を出せ』 杢助は強力に任せ、高姫の素首をグツと握つて、猫を抓んだやうに引提げ、ポイと蒲団の上に抓み下した。 又もや高姫は発熱甚だしく、ウンウンと苦悶の声を上げながら、床上に力なくグタリと倒れて囈語を始めた。 高姫『三五教の変性男子様の結構な教を、変性女子がワヤに致して盗つて了はうとするので、これは何でも系統の高姫が、一つ腰を入れねばなるまいと黒姫を説き諭し、青彦や魔我彦に言ひ聞かして、到頭ウラナイ教を樹てて、神政成就の御用を致さうと思ひ、日の出神の生宮が現はれ、黒姫には竜宮の乙姫様が引添うて、御守護遊ばすなり、力一杯変性女子の悪の守護神に敵対うて見たところが、思うたよりは立派な身魂で、ミロクさまのやうな素盞嗚尊ぢやと感心して、それから心を改め三五教へ帰つて、手を引合うてやらうと思へば、奴灰殻の学と智慧とで固まつた言依別命が教主となり、又もや学と智慧とで此世をワヤに致さうと致すに依つて、アヽ三五教も駄目だ、私が三つの玉を呑み込んで、再びウラナイ教を樹てて見ようと、心の底で思つて居つた。それ故黒姫に黄金の玉の御守をさして置いたのに、彼奴は莫迦だから到頭八岐の大蛇の眷属に奪られて了ひよつた。アヽ残念ぢや。三つの御玉が一つ欠けた、何うしよう、斯うしようと気が気でならず、到頭黒姫を鞭撻つて玉探しに出したが、これでは雲を掴むやうな頼りのない話。併しながら此の高姫が保管して居る二つの玉さへあれば、何うなり、斯うなりと、神様に対して高姫が変性男子の御用継ぎを致せると思うて居つたら、其の二つの玉も大蛇の乾児に、何時の間にか盗られて了ひ、今は蟹の手足をぼがれたやうな悲惨な事になつて了つた。 これと云ふのも言依別命が、余り物喰ひがよいので、何でも彼でも塵芥を、此の聖らかな神様の御屋敷へ引張り込むものだから、斯んな縮尻が出来たのだ。エーもう仕方が無い。併し此の玉は遠くは行くまい。何れ未だ近くに隠してあるに違ひない。さうでなければ誰かが呑み込んでゐるのかも知れぬ。仮令死んでも、火になつても蛇になつても、此の三つの玉を取返さねば置くものか。エーエー残念や、口惜しや、ウンウンウン』 と千切れ千切れに自分の腹の底まで白状して了つた。 之を聞いた杢助、お初、テルヂー、遠州、雲州、武州は目と目を見合はし、高姫の腹の中の清からざりしに肝を潰してゐる。 高姫の大病と聞きつけて、次から次へと見舞客は踵を接し、門口は非常に雑沓を極めた。されど杢助は深く慮るところあり、高姫の囈語を大勢に聞かせては大変と、遠州、雲州に堅く言ひつけ面会を謝絶せしめつつあつた。此処へ国依別は駿州、三州を伴ひやつて来た。 国依別『コレコレ遠州さま、高姫さまの御病気は如何です。些とよい方ですか』 遠州『善とも悪とも、テンと見当がつきませぬ。善いと思へば悪い、悪いと思へば善い、到底凡夫の吾々、見当の取れぬ仕組と見えますワイ』 国依別『コレコレ遠州さま、今日は教理のことをたづねに来たのぢやない。御病気は如何と云ふのだよ』 遠州『病気ですかい。御病気は矢張身体の機械が、どつか破損したのですなア。随分奇怪千万な病気ですよ。何でも彼りや憑いてますなア』 国依別『誰がついて居るのだ。看護婦は何人位居るか』 遠州『何分日の出神さまの生宮ですから、神主もそれはそれは沢山居るでせう。人間の目には根つから見えませぬなア。死虱とか云つて、随分観音さまが沢山、御守護してゐらつしやいますワ』 国依別『莫迦云ふない。オイ、駿州、三州、斯んな奴に相手になつて居つても、とんと要領を得ない。サア、奥へ強行的進軍だ』 と行かむとする。遠州は両手を拡げ、 遠州『アヽ国さま、駿、三、マア待つて下さい。杢助さまが喧ましいから』 国依別『なに、杢助さまが来てゐるのか。そんなら猶の事、這入らねばなるまい』 遠州『今お前達が這入ると病気は益々危篤になると云つて、杢助さまが心配して御座つたので、軈て御臨終も近寄つただらう』 国依別『それほど危篤に陥つて御座るのなら尚更の事だ。何うしても御目にかからねばなるまい。其処除け、邪魔ひろぐな』 と突き除け刎ね除け進み入る。見れば高姫は、杢助に抱かれて、スヤスヤと睡つてゐる。 国依別『アヽお初さま、杢助さま、皆さま、大変に御苦労でした。御様子は何うですな』 杢助『ハイ、案じられた容態で困つてゐます。精神錯乱と見えて取止めもないことを口走るので、実のところは面会謝絶をしてゐたのです。併しよう来て下さつた。到底もう駄目でせう』 と絶望的悲調を帯びたカスリ声で、力なげに答へる。 お初はニコニコしながら、 お初『何れも方、御心配下さいますな。これには深い様子のあることでせう』 斯る処へ言依別命は、言依姫、お玉の方、言照姫、紫姫、若彦を伴ひ、病気見舞のために此処に現はれ、枕頭に座を占め、天津祝詞を奏上し、天の数歌を唱へて恢復を祈つた。 (大正一一・五・二五旧四・二九外山豊二録) |
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霊界物語 | 22_酉_鷹鳥山の鷹鳥姫 | 13 寂光土 | 第一三章寂光土〔七〇五〕 嵐のたけぶ魔谷ケ岳バラモン教に立籠る 蜈蚣の姫を教主とし朝な夕なに真心を 捧げて尽す金助も心の駒を立直し 神の御稜威も鷹鳥の山の谷間に湧き出づる 流れも清き清泉魂を洗ひて忽ちに 心の園に一輪の花の薫りを認めてゆ 直に開く大御空高天原に日月の 光隈なく照り渡り娑婆即寂光浄土の真諦を 悟るや忽ち黄金の衣に包まれ煌々と 輝き渡る神御霊紫磨黄金の膚清く 身の丈三丈三尺の三十三魂と成り変り 鷹鳥山の山頂に宇宙万有睥睨し 茲に弥勒の霊体を現じて四方を照しける 折しもあれや玉能姫鷹鳥姫は山上の 光を求めて岩ケ根の庵を後にエチエチと 近づき見れば金像は五丈六尺七寸の 巨体と変じ給ひつつ左右の御手に鷹鳥の 神の司や玉能姫物をも言はず鷲掴み 中天高く投げやれば翼なき身の鷹鳥の 姫の司は忽ちに元の庵に恙なく 投げ返されて胸をつき心鎮めて三五の 道の蘊奥を細々と奥の奥まで探り入る 玉能の姫は中天に玉の如くに廻転し 再度山の山麓に落ちて生田の森の中 木々の若芽も春風に薫る稚姫君の神 鎮まりいます聖場へ端なく下り着きにけり 遠き神代の昔より皇大神の定めてし 五六七神政の経綸地時節を待つて伊都能売の 貴の御霊の姫神と仕へて茲に時置師 此世を忍ぶ杢助が妻のお杉の腹を藉り 生れ出でませし初稚の姫の命と諸共に 清く仕ふる三つ御霊三五の月の皎々と 四海を照らす神徳を暫し隠して岩躑躅 花咲く春の先駆を仕組ませ給ふ尊さよ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 鷹鳥山の頂に示現し給ひし弥勒神 深き経綸の蓋開けて輝き給ふ時待ちし 堅磐常磐の松の世の栄え目出度き神の苑 花は紅葉は緑天と地とは紫に 彩る神代の祥瑞に天津神等国津神 百の神々百人は雄島雌島の隔てなく 老木若木の差別なく栄ゆる御代に大八洲 樹てる小松のすくすくと天津御光月の水 受けて日に夜に伸ぶる如進む神代の物語 黄金閣の頂上に輝き渡る日地月 貴の瓢の永久に開くる御代の魁を 語るも嬉し神館月の桂を手折りつつ 言葉の花を翳しゆく醜の魔風の吹き荒び 朽ちよ果てよと迫り来る曲の嵐も何のその 松の操のどこまでも神の御業に仕へずば 固き心は山桜大和心のどこまでも ひきて返さぬ桑の弓言葉のツルを手繰りつつ 五六七の代まで伝へ行くミロ九の神代を松村が 心真澄のいと清く山の尾の上に馥郁と 咲き匂ひたる教の花太折りて語郎善美世は 開き始めて北村氏隆き御稜威も光りわたり 海の内外の山川も草木もなべて皇神の 豊の恵二浴しつつ神代を祝ふ神人の 稜威の身魂を照らさむと雪に撓める糸柳の いと軟らかに長々と二十二巻の小田巻の 錦の糸を繰返し心も加藤説き明す 鷹鳥山の高姫が娑婆即寂光浄土をば 心の底より正覚し国治立の神業に 仕へ奉りて素盞嗚の神の尊の神力を 悟り初めたる物語言の葉車欣々と 風のまにまに辷り行くあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 鷹鳥姫は玉能姫を伴ひ、山上の光を目標に登り行つた後に、若彦は金助、銀公の両人に対し、三五教の教理を説き諭す折しも、如何はしけむ、金助、銀公の二人はキヤツと一声叫ぶと共に其の場に倒れ、人事不省に陥つて了つた。若彦は驚いて谷水を汲み来り、両人の面部に伊吹の狭霧を吹き掛け、甦らさむと焦る折しも、風を切つて頭上より降り来る鷹鳥姫の姿に二度ビツクリ、近寄り見れば、鷹鳥姫は庭前の青苔の上に仰向けとなり大の字になつて、 鷹鳥姫『ウン』 と云つたきり、ピリピリと手足を蠢動させて居る。若彦は周章狼狽為す所を知らず、右へ左へ水桶を提げた儘駆けまはる途端に、鷹鳥姫の足に躓き、スツテンドウと其の上に手桶と共に打倒れた。手桶の水は一滴も残らず大地に吸収されて了つた。若彦は如何したものか、挙措度を失ひし結果、立上る事が出来なくなつて了つた。庭前の苔の上にやうやう身を起し、坐禅の姿勢を取り、双手を組んで溜息吐息、思案に暮れて居る。 若彦『嗟、金、銀の両人と云ひ、力と頼む鷹鳥姫様は此の通り、介抱しようにも腰は立たず、加ふるに妻の玉能姫の消息はどうなつたであらう。神徳高き鷹鳥姫様でさへ斯の如き悲惨な目に遇ひ給うた位だから、吾妻も亦どつかの谷間に投げ棄てられ、木端微塵になつたかも知れない。あゝ、神も仏もないものか』 と稍信仰の箍が緩まうとした。時しもあれや、バラモン教のスマートボール、カナンボールを先頭に、鉄、熊、蜂其他数十人の荒男、竹槍を翳しながら此方を指して進み来り、此態を見て何と思つたか近寄りも得せず、垣を作つて佇み居る。神殿に参拝し居りし七八人の老若男女の信徒は、此惨状と寄せ来る敵の猛勢に肝を潰し、裏口よりコソコソと遁れ出で、這々の態にて山を駆登り、何処ともなく消散して了つた。 山桜は折柄吹き来る山嵐に打叩かれて、繽紛として散り乱れ、無常迅速の味気なき世の有様を遺憾なく暴露して居る。若彦は漸く吾に返り独語。 若彦『あゝ兵は強ければ亡び、木硬ければ折れ、革固ければ裂く。歯は舌よりも堅くして是れに先立ちて破るとかや。吾々はミロクの大神の大御心を誤解し、勝に乗じて猛進を続け、進むを知つて退き、直日に見直し聞直し、宣直す事を怠つて居た。日夜見直せ宣直せの聖言も、機械的無意識に口より出づる様になつては、モウ駄目だ。あゝ過つたり誤つたり。 積む雪に撓めど折れぬ柳こそやはらかき枝の力なりけり とは言依別命様の御宣示であつた。慈愛深き大神様は吾々に恵の鞭を加へさせ給うたのか、殆ど荒廃せむとする身魂を、再び練り直し給ひしか、あゝ有難し辱なし、神様、お赦し下さいませ。神や仏は無きものかと、今の今まで恨みの言葉を申し上げました。柔能く剛を制すの真理を、何故今迄悟らなかつたか。口には常に称へながら有言不実行の罪を重ねて来た吾々、実に天地に対し恥かしくなつて来ました。鷹鳥姫様が斯様な目にお遇ひなさつたのも、玉能姫の消息の分らないのも、吾脛腰の立たなくなつたのも此若彦が誤解の罪、実に神様は公平無私である。敵味方の区別を立つるは吾々人間の煩悩の鬼の為す業、慈愛深き神の御目より見給ふ時は、一視同仁、敵味方などの障壁はない。あゝ神様、あゝ、此世を造り給ひし大神様、心も広き厚き限りなき神直日大直日の神様、何卒々々、至らぬ愚者の吾々が罪、神直日大直日に見直し聞直し下さいませ。今迄の曲事は唯今限り宣り直します』 と声を曇らせ、バラモン教の一味の前に在る事も打忘れ、浩歎の声を洩らして居る。スマートボールは声も荒々しく、 スマートボール『ヤイ三五教の青瓢箪、若彦の宣伝使、態ア見やがれ。金助、銀公の二人を貴様の宅に捕虜にして居やがるのだらう。其天罰でバラモン教の御本尊大国別命様に睨み付けられ、鷹鳥姫は其態、貴様は又脛腰も立たず何をベソベソと吠面かわくのだ。俺達はバラモンの教の為に魔道を拡むる汝等一味を征伐せむが為に実行団を組織し此場に立向うたのだ。これから此スマートボールが汝等一味の奴輩を、芋刺し、串刺し、田楽刺し、山椒味噌を塗りつけて炙つて食つて了ふのだ。オイ泣き味噌、貴様も肝腎要の所で、大変な味噌を付けたものだなア。コリヤ鬼味噌、何を殊勝らしく祈つて居やがるのだ。天道様もテント御聞き遊ばす道理がないぞ。サアこれから顛覆だ』 と槍の穂先を揃へて前後左右よりバラバラと攻め掛る。悔悟の涙に暮れたる若彦は、最早心中豁然として梅花の咲き匂ふが如く、既に今迄の若彦ではなかつた。傲慢無礼のスマートボールが罵詈雑言も侮辱も、今は妙音菩薩の音楽か、弥勒如来の来迎かと響くばかりになつて居る。 若彦『アヽ有難い。われも北光の神様になるのかなア。どうぞ早く目を突いて欲しい。慗に肉眼を所有して居るために、宇宙の光を認むることが出来ないのだ。アヽ惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 と一生懸命に心中に暗祈黙祷を続けて居る。スマートボールは、 スマートボール『オイ、カナン、どうだ。これ丈勢込んでやつて来たのに、一つの応答もせず、又反抗的態度も行らない奴に向つて、攻撃するも馬鹿らしいぢやないか。如何したらよからう』 カナンボール『今こそ三五教を顛覆させるには千載一遇の好機だ、何躊躇逡巡する事があるか。一思ひにやつて了へよ、スマートボール』 スマートボール『併し乍ら、お前は屋内に駆入り、金、銀の在処を探して呉れよ。俺は是から此奴等に引導をわたさねばならぬ。……鷹鳥姫の婆、並びに若彦のヘボ宣伝使、よつく聞け。此世は大自在天大国別命の治しめす世の中だ。然るに何ぞ、天則違反の罪を負ひて、永遠無窮の根底の国に、神退ひに退はれた国治立命や、現在漂浪の旅を続けて居る素盞嗚尊の悪神を頭に戴き、猫を被つて、天下を混乱させむとは憎き奴共。天はバラモン教の蜈蚣姫が部下スマートボールの手を借りて汝を誅戮すべく此処に向はせ給うたのだ。サア此世の置土産、遺言あらば武士の情だ、聞いてやらう。娑婆に心を残さず、一時も早く幽界に旅立到せ。覚悟はよいか』 と部下に目配せしながら、竹槍をすごいてアワヤ一突にせむとする折しも、中空より急速力を以て降り来れる一塊の火弾、忽ち庭の敷石に衝突して爆発し、大音響と共に四面白煙に包まれ、咫尺を弁ぜざるに立到つた。中よりコンコンと白狐の鳴き声、谷の彼方此方に警鐘を乱打せし如く、頻りに聞えて来た。レコード破りの大音響に、失心して居た鷹鳥姫はハツと気が付き、頭を上げて眺むれば、四辺白煙に包まれ、身は空中にあるか地底にあるか、判別に苦しみつつ、独り頭を傾けて記憶の糸を手繰つて居る。金助、銀公両人もハツと気が付き、咫尺も弁ぜぬ白煙の中を腹這ひながら表に出で、若彦、鷹鳥姫の傍に知らず識らずに寄つて来た。忽ち空中より優美にして流暢な女神の声にて、 女神『三五教の宣伝使鷹鳥姫、若彦の両人、よつく聞かれよ。取別けて鷹鳥姫は執着の念未だ去らず、教主言依別命の示諭を軽視し、執拗にも汝が意地を立てむとし、神業繁多の身を以て聖地を離れ、此鷹鳥山に居を構へ、大神を斎り、汝が失ひし二個の宝玉を如何にもして再び取返さむと、千々に心を砕く汝の熱心、嘉すべきには似たれども、未だ自負心の暗雲汝が心天を去らず、常に悶々として至善至美なる現天国を悪魔の世界と観じ、飽くまでも初心を貫徹せむと、迷ひに迷ふ其果敢なさよ。地上に天国を建設せむとせば、先づ汝の心に天国を建てよ。迷ひの雲に包まれて、今や汝は地獄、餓鬼、修羅、畜生の天地を生み出し、汝自ら苦む其憐れさ。片時も早く本心に立復り、自我心を滅却し、我情の雲を払拭し、明皓々たる真如の日月を心天心海に輝かし奉れ』 と厳かに神示を宣らせ給ひ、御姿は見えねども、空中を帰り給ふ其気配、目に見る如くに感じられた。鷹鳥姫は夢の覚めたる如く心に打諾き、 鷹鳥姫『アヽ謬れり謬れり、今迄吾々は神界の為、天下万民の為に最善の努力を尽し、不惜身命の大活動を継続し、五六七神政の御用に奉仕せしものと思ひしは、わが心の驕なりしか。アヽわれ如何に心力を尽すと雖も、無限絶対、無始無終の大神の大御心に比ぶれば、九牛の一毛だにも及び難し。慢心取違の………われは標本人なりしか、吁浅ましや浅ましや。慈愛深き誠の神様、何卒々々鷹鳥姫が不明を憐れみ給ひ、神業の一端に奉仕せしめられむことを懇願致します。唯今より心を悔い改め、誠の神の召使として微力の限りを尽させ下さいませ。神慮宏遠にして、吾等凡夫の如何でか窺知し奉るを得む。今まで犯せし天津罪国津罪は申すも更なり、知らず識らずに作りし許々多久の罪穢を恵の風に吹払ひ、助け給へ。アヽ惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 と両手を合せ、感謝の涙に咽びながら一心不乱に天地の神霊に謝罪と祈願を籠めて居る。四辺を包みし白煙は忽ち晴れて、四辺を見れば此は如何に、鷹鳥姫が庵の前の苔蒸す花園であつた。何処よりともなく三柱の美人、上枝姫、中枝姫、下枝姫は、玉の如き顔貌に、梅花の笑ふが如き装ひにて現はれ来り、鷹鳥姫、若彦、金助、銀公の手を取りて引起し、懐より幣を取出して四人が塵を打払ひ、労はり助けて庵の内に進み入る。スマートボール、カナンボール以下一同は如何はしけむ、身体強直し、立はだかつた儘此光景を不審げに目送して居る。谷の木霊に響く宣伝歌の声、雷の如く聞えて来た。 (大正一一・五・二七旧五・一松村真澄録) |
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霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 06 玉乱 | 第六章玉乱〔七八八〕 玉照姫、玉照彦は口を揃へて、 玉照姫、玉照彦『英子姫殿、紫の玉を我前に持来られよ』 と宣示された。英子姫は「ハイ」と答へて紫の玉を柳筥に納めた儘、恭しく捧持して二神司の前に奉らむとする時しも、高姫は、 高姫『一寸待つて下さい。又紛失すると大変だから、此玉は日の出神が保管致しておきます』 国依別『コリヤ高、又腹の中へ呑んで了ふ積りだらう。何程日の出神が偉くとも、玉照彦、玉照姫の御命令を反く訳には行くまい。……サア英子姫さま、お二方の御命令です、躊躇逡巡するに及びませぬ。早く献上なさいませ』 高姫『エー又しても又しても、邪魔計り致す男だ。今日只今限り、国依別を除名する』 国依別『エー又しても又しても、玉を呑まうと致す偽日の出神、今日只今より、国治立命、国依別の口を通し、高姫を除名する。ウンウンウン』 高姫『ヘン、おいて貰ひませうかい。何程国依別でも、国治立命様のお懸りなさる筈がありますかい。サア一時も早く国処立ち退きの命となつて帰つて貰ひませう』 玉照姫、高座より声しとやかに、 玉照姫『高姫、国依別両人共、お控へめされ』 国依別『ハハー』 と畏縮して其場に平伏する。高姫、 高姫『エーエ、日の出神の生宮さへあれば良いのに、無用の長物……でもない。何と言うても二つの頭が並んで居るのだから、行りにくいワイ。両頭蛇尾と云つて、善悪両頭使ひの高姫も芝居が巧く打てませぬワイ』 と小声で呟いて居る。 国依別『高姫さま、玉照姫様の御命令もだし難く、貴女の除名を、国依別茲に取消し致します』 高姫は舌をニヨツと噛み出し、あげ面し乍ら、二三遍しやくつて見せ、右の肩を無恰好に突起させ、 高姫『ヘン、……能う仰有いますワイ。日の出神が更めて国依別を外国行と定めるから、喜んでお受けをなさるがよからう』 国依別『お前さまに命令して貰はなくとも、言依別神様、杢助様、国依別は三人世の元となつて、チヤンと外国で仕組がしてあるのだ。七つの玉もお先に海外の或地点に隠してあるのだから、要らぬ御世話で御座います』 高姫『そんなら国依別、お前は早くから三人腹を合せて企んで居つたのだな』 国依別『どうでも宜しいワイ。虚実の程は世界の見えすく日の出神様が御存じの筈だ』 玉照姫『国依別、改めて申し渡すべき事あれば、暫く汝が館に立帰り、命を待たれよ』 国依別『ハハー、承知致しました』 と丁寧に挨拶をなし、終つて、 国依別『ヤア、テールス姫、玉能姫、玉治別、久助、お民さま、竜宮の女王黄竜姫、蜈蚣姫其他一統の方々、高姫、黒姫に対して、充分の防戦をなされませや。此国依別が此場を立去るや否や、そろそろと又吹き出しますからなア』 玉治別『ヤア有難う、あとは我輩が引受ける、安心して帰つて呉れ。さうして言依別様に宜しく申上げて呉れ。……オツト失敗つた、言依別様は最早どつかへ御不在になつた筈だなア』 高姫『今の両人が話振を聞けば、玉治別も同類と見える。お前もトツトとここを退場なされ。日の出神が命令する』 玉治別『高姫さま、大きに憚りさんで御座います。済みませぬが、私の進退は私の自由ですから、余り御親切に構うて下さいますな』 高姫、杢助の方にギヨロリと目を転じ、 高姫『お前さまは総務を辞職した以上は、そんな高い所に何時迄も頑張つて居る権利はありますまい。トツトと御下りめされ。サア是からは、言依別は逐電致すなり、杢助は辞職をするなり、ヤツパリ此八尋殿は高姫が教主となつて行らねばならぬかなア。時節は待たねばならぬものだ』 玉治別『コレハしたり、高姫さま、誰の命令を受けて貴女は教主になるのですか。誰もあなたを教主として尊敬し、且つ服従する者はありますまいぞ』 高姫『コレコレ田吾さま、お黙りなされ。天地開闢の初から系統の身魂、日の出神の生宮が教主になるのは、きまり切つた神界の御経綸だ。それだから日の出神の守護に致すぞよと、お筆先にチヤンと書いてあるのだ。……今までは悪の身魂に結構な高天原をワヤにしられて居たが、世は持切には致させぬぞよ。天晴れ誠の生神が表に現はれて日の出の守護となつたら、今迄上へあがりて偉相に申して居りた御方アフンとする事が出来るぞよ。ビツクリ致して逆トンボリを打たねばならぬぞよ。それを見るのが神は辛いから、耳がたこになる程知らしたが、チツとも聞入れないから是非なき事と諦めて下されよ。決して神を恨めて下さるなよ。我身の心を恨めるより仕様がないぞよ。……と現はれて居りませうがな。誰が何と云つても三五教は日の出神の生宮が表に立たねば、神界の仕組は成就致しませぬぞエ。誠の者が三人あれば立派に立替が成就すると仰有るのだから、イヤな御方は退いて下されよ。誠一つの生粋の水晶玉の大和魂の根本の、地になる日の出神の生宮と竜宮の乙姫の生宮と、高山彦と三人さへあれば、立派に神業は成就致しますワイな。グツグツ申すと帳を切るぞえ』 玉治別『アハヽヽヽ、よう慢心したものだなア。……コレコレ波留彦さま、秋彦さま、お前と私と三人世の元となつて、高姫軍に向つて一つ戦闘を開始したらどうだ』 波留彦『それは至極面白い事でせう。……なア、秋彦さま』 高姫『コレコレ滝、鹿、田吾作、お前達は何程三角同盟を作つても駄目だよ。モウ今日から宣伝使なんか、性に合はないことをスツパリ思ひ切つて、紫姫さまの門掃きになつたり、宇都山郷に往つて芋の赤子を育てたり、ジヤンナの郷へ帰つて土人にオーレンス、サーチライスと持てはやされる方が御互に得策だ。(高姫は逆上の余り滝と友と同うして喋つてゐる)いよいよ日の出神が教主となつた以上は何事も立替だ。今更めて教主より除名するツ』 玉照姫高座より、 玉照姫『三五教の教主は言依別命、神界の御経綸に依りて高砂島へ御渡り遊ばした。又杢助は神界の都合に依り筑紫の島へ出張を命ずる。淡路の島の人子の司東助を以つて三五教の総務に任じ、且つ臨時教主代理を命ずる。高姫、黒姫は特に抜擢して相談役に致す。玉治別、秋彦、友彦、蜈蚣姫、黄竜姫、玉能姫は以前の儘現職に止まるべし』 と宣示し玉うた。 高姫『玉照姫さまもチツと聞えませぬワイ。玉照彦様は何とも仰有らぬに、女のかしましい差し出口。何程結構な身魂でも、此三五教は艮の金神、坤の金神、金勝要神、竜宮の乙姫、日の出神の生魂で開いて行かねばならぬお道、お玉の腹から生れて出た変則的十八ケ月の胎生……言はば天下無類の畸形児ぢやないか。何と仰有つても今度計りは命令を聞きませぬぞ』 玉照姫『汝高姫、四個の麻邇の玉の所在を尋ね、それを持帰りなば、始めて汝を教主に任じ、高山彦、黒姫を左守、右守の神に任ずべし。誠日の出神又玉依姫の身魂なれば、其玉の所在をつきとめ我前に奉れ』 高姫『其お言葉に間違ひはありますまいな。宜しい。言依別と杢助の両人、腹を合せて隠しよつたに、間違ひない。証拠は……これ……此教主の書置き、立派に手に入れてお目にかけます。其代りにこれを持帰つたが最後御約束通り此高姫が教主ですから、満場の皆様もよつく聞いておいて下されや。日の出神の神力をこれから現はしてお目にかける。其時には玉能姫、蜈蚣姫、黄竜姫、玉治別、友彦、テールス姫、久助、お民、佐田彦、波留彦……其他の連中は残らず馘首するから覚悟なさいませ、とはいふものの、玉の所在を知つてる者があれば、そつと此高姫に云つて来い……でもよい。兎に角以心伝心無声霊話でもよいから……』 玉治別、両手を拡げ、体を前後ろにブカブカさせ乍ら、 玉治別『アツハツハヽ、アツハツハヽヽ』 と壇上で妙な身振をして笑ひ出した。 高姫『オイ田吾さま、そろそろ守護神が現はれかけたぢやないか。其態は何ぢやいな。コレコレ皆さま、御覧の通り、日の出神が表になると、皆の身魂が現はれて恥しい事が出来ますぞえ。今の所は言依別や東助さまが表面主権を握つて居る様だが、実際の所は床の間の置物だ。実地誠の権利は日の出神の生宮にあるのだから、取違をなされますなや。日の出神も中々大抵ぢやない。遥々と高砂島や筑紫の島まで行くのは並や大抵ぢや御座らぬ。魚心あれば水心だ。出世をしたい人は誰に拘はらず、我れ一とお働きなされ。お働き次第で日の出神が御出世をさして上げますぞえ』 波留彦一同を見まはし乍ら、 波留彦『皆さま、今高姫の仰有つた通り、手柄のしたい人はお手を上げて下さい……一、二、三……ヤア唯の一人も手を上げる人がありませぬなア』 玉治別『それで当然だよ。地位も財産も名誉も捨てて、一心に神界の為に尽さうと云ふ誠の人計りだから、そんな人欲に捉はれて、三五教へ入信つた者は一人もありませぬワイ。人欲の雲に包まれてるのは高姫さまに黒姫さま、高山彦位なものだなア』 一同手を拍つて「賛成々々」と呼ぶ。 高姫『口と心とサツパリ裏表の体主霊従計りがよつて来て、すました顔して御座るのが見えすいて可笑しう御座いますワイの、オツホヽヽヽ』 高山彦『高姫さま、私は今日限りお暇を頂きまして、竜宮の一つ島へ帰り、元のブランヂーとなつて活動致します。仮令貴女が目的を達して教主になられても、私はあなたの麾下につくのは真平御免ですよ。……黒姫もこれから充分竜宮の乙姫さまを発揮して、日の出神さまと御一緒に御活動なされませ。左様なら……』 と云ひすて、玉照彦、玉照姫の方に向つて丁寧に辞儀をなし、 高山彦『英子姫、五十子姫、梅子姫、初稚姫、其外御一同様、御機嫌よく御神業に御奉仕遊ばされん事を高山彦祈り上げ奉ります。御一同の方々、此高山彦は今日限り高姫様と関係を解き、皆様の前にて公然黒姫に暇を使はします。どうぞ其お心組で高山彦を可愛がつて下さいませ』 玉治別『それでこそ高山彦さまぢや。感心々々』 一同は「万歳」と手をあげて歓呼する。高山彦は、 高山彦『皆さま、左様ならば之より一つ島へ参ります。高姫殿、黒姫殿、さらば……』 と立出でんとする。黒姫は周章て裾をひき止め、 黒姫『マアマア待つて下さんせいな。最前からのあなたの御言葉、残らず承知いたしました。……とは云ふものの情なや、過ぎし逢う夜の睦言を、身にしみじみと片時も、思ひ忘るるひまもなう、年月重ぬる其内に、うつり易いは殿御の心と秋の空、もしや見捨はなさらぬかと、ホンにあらゆる天地の神さまや、竜宮さまに願かけて、案じ暮した甲斐もなう、今日突然離別とは、余りムゴイ御仕打、これが如何して泣かずに居られませうか、オンオン』 とあたりを構はず、皺くちや顔に涙を夕立の如くたらして泣沈む。 玉治別『悔んで帰らぬ互の縁、中をへだつる玉治川。……サアサア高山彦さま、思ひ切りが大切だ。グヅグヅして居ると、又もやシヤツつかれますよ。あとは此玉治別が、全責任を負うて引受けますから、一切構はず勝手にお越し遊ばせ』 高山彦『何分宜しく御頼み申す』 と立出でんとする。 黒姫『高山さまも聞えませぬ。お前と二人の其仲は、昨日や今日の事ではありますまい。私をふりすてて帰のうとは、余り聞えぬ胴欲ぢや。厭なら嫌で、無理に添はうとは言ひませぬ。生田の川の大水を渡つた時の私の正体[※第19巻第3章で黒姫は蛇体に還元して、水が氾濫した川を渡っているが、生田川ではなく白瀬川と呼ばれている。(どちらも由良川の別名と思われる)]、よもや忘れては居りますまいな』 高山彦『一度還元した以上は再び還元出来ぬ大蛇の身魂、もう大丈夫だ。日高川を蛇体になつて渡つた清姫[※平安時代の安珍・清姫伝説で、道成寺に逃げた安珍を追い駆け、清姫は蛇体に変じて日高川を渡ったことを指す。]の様に太平洋を横切つて、高山彦の色男を尋ねて来なさい。地恩の郷の大釣鐘を千代の住家として、高山彦は安逸に余生を送る考へだ。さうすれば極安珍なものだ。何程お前が地団駄ふんで道成寺かうせうじなどといつて、藻掻いた所でモウ駄目だよ。アハヽヽヽ』 と大きく肩をゆすり乍ら悠々として出でて行く。黒姫は夜叉の如く、あと追つかけんと、婆さまに似合はず捩鉢巻をし、裾を太腿の上あたりまで引あげて、大股にドンドンとかけ出しかけた。玉治別は追ひすがつて黒姫の後よりムンヅと許り帯をひつつかんで力に任せ、グツと引戻す。黒姫は金切声を出して、 黒姫『千危一機の此場合、どこの何方か知らねども、必ずとめて下さるな。妾にとつて一生の一大事、アヽ残念や口惜しや、そこ放しや』 と振向く途端に見合す顔と顔、 黒姫『ヤアお前は意地くね悪い田吾作殿、ここは願ぢや、放しておくれ』 玉治別『意地くね悪い田吾作だから放さないのだよ。雪隠の水つき婆うきぢやと人が笑ひますよ。まあチツと気をおちつけなされ。高山さま計りが男ぢやありますまい。男旱魃もない世の中に、コラ又きつう惚たものだなア』 黒姫は、 黒姫『エー放つといて』 と力限りふり放し、群衆の中を無理に押分け人を押倒し、ふみにじり乍ら、尻まで出して一生懸命高山彦の後を追つかけ走り行く。 (大正一一・七・二四旧六・一松村真澄録) |
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霊界物語 | 28_卯_台湾物語(日楯と月鉾) | 04 淡渓の流 | 第四章淡渓の流〔八〇四〕 真道彦命はホーロケースの軍勢に包囲攻撃され、言霊を発射したれども、何故か少しも効力現はれず、遂にはホーロの鋭き槍先に胸を刺されて、アワヤ亡びむとする時しもあれ、木花姫の化身に救はれ、館を棄てて、二三の従者と共に、新高山の峰続き、アーリス山の渓谷に逃れ、谷間の凹所に草庵を結び、あたりの果物などを食しつつ神を祈り、時の到るを待ちつつあつた。 頃しもあれや、絶壁の谷の傍に当つて、阿鼻叫喚の声切りに聞え来る。何事ならむと仰ぎ見れば、二人の男女谷を指し、『アレヨアレヨ』と、狂気の如く叫び廻つて居る。飛沫を飛ばす大激流に籐にて編みたる籠一個、浮きつ沈みつ流れ下るを見、直に真道彦命は三人の従者に命じ、『彼の籠を拾ひ来れよ』と命じた。され共滝の如き激流、近よるべくも非ず、一生懸命に拍手し乍ら言霊を奏上した。 籠は不思議にも渦巻にまかれて、真道彦が足下の淵にキリキリと舞ひ寄つた。直に三人の従者は籠を拾ひ上げ、庵の前に担ぎ来り、中を改め見れば、容色端麗にして品格高き一人の美女、高手小手に縛られ、気絶して居た。四人は驚き、直に籠より引出し、水を吐かせ縛を解き、いろいろと手を尽して漸く蘇生せしむる事を得た。 向ふの河岸に立てる二人の男女は、両手をあげて歓呼し、或は両手を合せ此方に向つて感謝の意を表して居る。 蘇生せし美人は余りの疲労に、言葉も発し得ず、僅に目を開き、口をモガモガさせ乍ら、何か言はむとするものの如くであつた。斯くする事半日許り、日は漸く新高山の峰に没し、四面暗黒に閉された。四人は代る代る祝詞を奏上し、漸く暁の烏の声、彼方此方の谷の木の間に聞え始めた。 此時何処より渡り来りけむ、二人の男女此場に現はれ、女の手を取り、 (キールスタン、ユリコ姫)『ヤーチン姫様、よくマア無事で居て下さりました。キールスタン、ユリコ姫で御座います』 此声にヤーチン姫はハツと気が付き、 ヤーチン姫『アヽ嬉しや、両人よくマア来て下さつた。何れの方かは知りませぬが、危き所をお助け下さつた。どうぞ両人より宜しく御礼を申して下さい』 両人は真道彦命に向つて、大地に両手をつき、 両人『有難う御座います』 と云つた限りあとは嬉し涙にかき暮れて、無言の儘俯むいて居る。 真道彦『世の中は相身互、御礼を言はれては却て吾々の親切が無になります。マアマアゆるりと御休み下さいませ』 と奥の一間に三人を引入れ、あたりの木々の果物を取り来りて饗応し、種々の物語に時を移した。 谷の彼方にはサアルボース、ホーロケースの部下の者共、ヤーチン姫の最後を見届けむと右往左往にさざめき乍ら、渓流の面を見つめて居た。庵の中より真道彦命は此体を覗き見て、三人に警戒を与へ、暗に乗じて谷間を流に添うて遡り、アーリス山を渉り、漸くにして玉藻の湖水の畔に着いた。 日楯、月鉾の二人は再び聖地を恢復し、教勢旭日昇天の如く天下に輝きたれ共、吾父の行方の不明なるに心を痛め、湖水の畔に来つて御禊を修し、祈願をこむる時であつた。数百の取次信徒は此処に集まり、共に感謝祈願の詞を奏上し居る際であつた。真道彦命はヤーチン姫、ユリコ姫、キールスタン其外三人の従者と共に此処に帰り来り、数多の人々の祈りの声を聞いて、暗を幸ひ、木蔭に身を潜め、様子を伺ひつつあつた。 真道彦命は聖地の大変より、深くアーリス山の渓谷に身を隠し、世を忍び居たりし事とて、玉藻山の霊地は再び三五教に取返され、吾子の日楯、月鉾の二人が三五教を開き居る事を夢にも知らなかつた。それ故今此多人数の祈りの声を聞いて、若しやホーロケースの一派にはあらざるかと、深く心を痛めつつあつたのである。 日楯は御禊を終り、衆人の中に立ち、宣伝歌を謡ひ始めたり。 日楯『神が表に現はれて善と悪とを立分ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直せ聞直せ 身の過ちは宣り直せ必ず人を恨むなと 三五教の御教さはさり乍らさり乍ら 吾等兄弟両人は三五教の神司 国治立大神の清き教を宣べ伝ふ 誠の道の宣伝使真道の彦の生みませる 三五教の取次ぞ仮令天地が変る共 親と現れます吾が恋ふる真道の彦の御行方 此儘見捨てておかれやうか定めなき世と言ひ乍ら 何処の空にましますぞバラモン教の神司 ホーロケースや其外の魔神の為に捉はれて 百千万の苦みを受けさせ玉ふに非ざるか 思へば思へばあぢきなき吾身の上よ身の果てよ 父が此世にましまさば一日も早く片時も 皇大神の恵にて一目なりとも会はせかし せめては空行く雁の便りもがなと朝夕に 祈る吾等が真心を汲ませ玉へよ天津神 国津神達八百万高砂島を守ります 竜世の姫の御前に心を清め身を浄め 慎み敬ひ祈ぎまつる。朝日は照るとも曇るとも 月は盈つ共虧くる共高砂島は沈むとも 誠の心は世を救ふ神の宣らせし太祝詞 確かに証兆あるならば吾願言を聞こしめせ 玉藻の山は日に月に神の光も輝きて 旭の豊栄登るごと栄えませ共あが父の 居まさぬ事の淋しさよ風吹く度に父の身を 思ひ悩ませ雨の宵霧の晨に大前に あが国人の安全を祈る傍父の身の 恙なかれと祈るこそ日楯、月鉾両人が 尽きせぬ願ときこし召せ神は吾等と倶にあり 神は汝と倶にありとは言ふものの情なや 日に夜に研きし吾魂も父を慕ひし恩愛の 涙に心曇り果て生死の程も弁へぬ 暗き身魂ぞ悲しけれアヽ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と兄弟は互に手を取り、足を揃へて踊りつ、舞ひつ、祈りを捧げて居る。 此歌を聞いて、真道彦命は始めて吾子の消息を知り、且つ三五教の様子を略悟り、欣喜雀躍の余り此場に立出で、二人の吾子に飛びつかんかと許り気をいらだてた。され共、傍にヤーチン姫其他の人々のあるに心を奪はれ、轟く胸をヂツと怺へて、心静かに成行を見守つて居た。 (大正一一・八・六旧六・一四松村真澄録) |
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14 (1955) |
霊界物語 | 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 | 端書 | 端書 霊界物語『海洋万里』(辰の巻)より未の巻に至り、南米太古の物語を口述しておきました。今日は人文大いに開けたる結果、国を建つるもの十数ケ国になつて居ります。中にも南米第一の富源を擁して居るにも拘はらず、国民は遊惰にして何時も外国の厄介にばかりなつてゐるのは秘露の国であります。故に英米人は此国を評して『黄金の床に寝て居る乞食の国』と謂つて居ります。この文章は現今南米諸国の状況を示したもので、決して三十余万年前の太古の事では有りませぬ。只物語の参考として茲に引用した迄であります。 秘露はこの物語にはヒルの国と称してあります。此国に無尽蔵の富源を抱いて居ること、其の北隣なるコロンビヤ(物語にはカル)と共に第一に置かれて居ります。このヒルの国は現今でこそ南米中の二等国に沈淪したものの、昔インカ帝国としての全盛時代は、その文明の程度は上代の希臘、羅馬の隆盛なりし折に比すべきもので、現今の智利(物語にはテル)エクアドル、ボリビヤ等の諸国は皆『太陽の子』インカ王の配下にあつたもので、今を距る四百年前、彼の西班牙の奸雄ビサロが、アタワルバを殺害して国を奪ひ、西班牙の植民地と為してから三百年間は、西班牙は戦慄すべき暴政を行つたので、国土が荒廃し文化は退歩したのであります。ビサロがアタワルバ王家から奪つた金塊でも、現今の価格で十億円のものであると言はれた程に、此国は貴重な礦物を沢山に包蔵して居ります。 この国を地理的に区別すると、南北に縦走するアンデス大山脈にて海岸、山嶽、森林の三地帯に区分されますが、海岸地帯は無雨地帯と称せられ(物語参照)、時々霏雨は降りますが、雨らしい雨は無いから土地が砂漠的に見えますが、其間にはアンデス山(高照山)より発する五十余の河川があり、その流域には数十の沃野があつて、良質の綿や、甘蔗の耕作が盛に行はれて居ります。此地域は昔インカ帝国時代には現在の数倍も耕作されて居たもので、今日も猶壮大なる昔時の灌漑工事の跡が方々に残つて居るのです。 此地帯は一見した所不毛の土地でありますが、水さへ引けば忽ち青々たる草野に変り、地味は非常に肥沃であります。また此地帯に於ける農業の特色は、異常な確実性を有し、害虫は殆ど無く、又風水の害も絶無でありますから、その収穫も安全を期待されて居ます。一万人余を計上されて居る日本移民の大部分は皆この地帯の耕耘に従事して居るのです。 気候は又一年中、日本内地の五六月の気候で実に理想的であります。目下白人は約十万町歩を耕して居りますが、灌漑に堪ゆる土地が尚二十万町歩は残存して居ります。山嶽地帯は一名礦山地帯とも云はれ、礦産は無類無量であります。バナデユームは世界第一位、金と銀とは同第四位、銅と鉛とは同第六位で、石炭も到る処に埋蔵されて居りますが、何分不便の為に発掘量が少いのです。 次に特記すべき事は森林地帯で是が所謂極楽郷であります。この地帯はアンデス山脈の東方で長さ南北約一千哩、幅は二百哩乃至七百哩を出入する広い地面で、海抜は二三千尺から一百尺の低地に及んで居る。秘露の行政区劃上、この地帯は八県に分たれて居ますが、実に全国の三分の二の地積を占め、アマゾン河本流及び其支流の上流を為す大小数千の河川は、皆この地帯に発して東走するのでありますから、将来に於て河川を利用する交通機関を起すには地勢上甚だ便利があるのです。この地帯の気候はコロンビヤ、ボリビヤ、ブラジル(物語にはハルの国)国境近くは熱帯の暑熱で年中華氏九十度位の平均であるが、アンデス山系の斜面地及び海抜二千尺以上の地域は亜熱帯や温帯の気候で、伊太利の南部に似て居るのです。旅行するものは実に良好な気持を感ずるものです。其フツクリとして柔かな何とも言へない身は、まつたく植物の吐く香気に埋れた温室の中でソヨソヨと微涼に吹かれる様な具合で、古来この地帯を通過した人は凡て極楽の気候だと感ずるものであります。 雨量は豊で一年を二期に区別し、十一月から翌年四月が最も多く(冬季)、五月より次第に少くなり、十月には最も少ない(夏季)。而して、地味の肥沃なることは無比である。 この地帯に足を入れた人の先づ驚嘆するのは、植物の発育の旺盛な情態であります。天を摩する巨木は到る所に見出され、香高き蘭科植物の多種なること、人間が乗れさうな巨大なる花、大蛇の如き大蔓草、人間の頭ほどある種々の美味なる果物、日本の如うな貧弱な植物界を見馴れた眼には胆を奪はれる位であります。又エボニー、マホガニー等の貴重なる材は到る所に見出され、薬草の豊富なることも、世界一と言はれて居ります。其の他染料、繊維、香料、ゴム樹等も頗る多く、一哩平方の地面に、植物の種類、凡そ一百万種に近い位で、実に植物の豊富なるには驚くの外は無いのであります。 次に此地帯に棲む動物も頗る多種類で、アマゾン河中に在る魚貝のみでも地中海に棲むものの種類に匹敵するのであります。 最近この地帯の河川、湖沼で蒐集された珍奇なる魚介の種類は、一万五千余種に及び、その中八百余種は全く新しい発見に係るものである。又アマゾン河の上流ワヤガ河附近には、握り拳ほどの大蝸牛や団扇程の蝶が居る。現今では猛獣毒蛇は少く虎と豹などが棲んで居るが、姿は却て小さく、左程怖るるに足らない。この森林地帯にも埋蔵の礦物は極めて多量であれども、交通不便の為に発掘されて居ないのです。元来この地帯は地質上カルの国からボリビヤに至る石油及び黄金の大地脈であつて、英米の専門家は近年来熱心に調査を進めて居るのである。既に英国の石油業者はこの地帯のバチラヤ、ワヤガ河、サクラメントバンバ附近まで五百万町歩、マドレヂオス河附近で一千万町歩、マラニヨン河附近で五百町歩に亘る石油コンゼツシヨンを獲得せむと、秘露政府に交渉して居るのであります。現に加奈陀人のロバートダンスミールと云ふのが、秘露政府との間に、同国の森林地帯を貫通さす二千四百哩の一大鉄道建設の契約を結び、四十五ケ年間の経営権を握つたのも、実に此地帯の礦物運搬が主なる目的であるとさへ見られて居る位であります。そして其目的は貴金属よりも発掘の容易なる石油にあるのは当然でせう。此国の石油は七八百年前インカ帝国時代に発見されて採取利用されたが、欧洲人の来るに及び、小規模乍らも各所で採掘事業が営まれた。将来は世界一の石油産地として著明になるでありませう。 又ヒル(秘露)、カル(古倫比亜)との間に聳立せる日暮山(アンデス山)山脈は海抜二万五六千尺もあり、其頂上には一大湖水があり、山の中腹には今も猶邪気の籠もれる死線と云ふものが横たはり、知らずに登るものは水腫病を起し、直に死亡するといふ危険な箇所があります。概して此地方は薬草の多い所で又年中降雨の無いのが特徴となつてをります。 大正十一年八月十三日 |
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霊界物語 | 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 | 05 引懸戻し | 第五章引懸戻し〔八二七〕 三五教の大教主言依別や国依別の 神の司の後を追ひ心も驕る高姫が 如意の宝珠や紫の珍の宝を始めとし 黄金の玉や麻邇の玉言依別が携へて 高砂島に渡りしと寝ても醒めても思ひ詰め 常彦、春彦両人を甘くたらして供となし 潮の八百路を打渡り高島丸に救はれて 朝日もテルの港まで漸く無事に安着し 数多の船客押分けて先頭一の高姫は 雲を霞と細くなり体を斜に山路を 勢込んで進み行く。常彦、春彦両人は 高姫司の後を追ひグヅグヅして居て高姫を 見失うなと言ひ乍ら老木茂る山路を 縫ひつ潜りつ谷川を数多渡りて暗間山 其山口に追ひ付きぬ。 高姫は暗間山の山口の雑草茂る松原に横たはり、 高姫『サア、モウ此処まで来れば大丈夫だ。よもや常彦、春彦は追ひかけては能う来まい。何程探すと云つても、此広い高砂島、滅多に出会す気遣ひはない。あゝモウ是れで安心だ。海上は船を操らせねばならぬから、どうしても二人の連中が必要だつたが、あんな頓馬な男が二人も附いて居ると、国人に対し、余りお里が見え透いて肝腎の御用が完全に勤めあがらぬ。サア是れから日の出神の神力を現はし、神変不思議の神術を以て、仮令曲津でも構はぬから、金毛九尾さまに御厄介になつて、一つ不思議を現はし、新しい弟子を沢山に拵へ、そして、勝手を知つた国人に、遠近隈なく、喜んで玉捜しを致す様に仕向けさへすれば、余り苦労せず共、キツと玉は集まつて来るに違ない。又言依別の所在を見つけて、直様報告致した者は、褒美は望み次第と、一つ、大芝居を始めるのだなア。それに付いては、あの様な間抜けた面した気の利かぬ、半鐘泥棒の常彦や、蜥蜴面の貧相な春彦を連れて居ると都合が悪い、甘くまいたものだ。あゝ日の出神の生宮は、ヤツパリ変つた智慧を持つて御座るワイ。余りに智慧が出るので、此高姫も吾と吾が手に感心を致しますワイ。それだから願望成就する迄は、黒姫さまの様に周章てハズバンドを持ちませぬのだ。わしの夫にならうと云ふ人物は、三千世界の悧巧者でないと、一寸はお気に入りませぬからなア』 と得意になつて独言を喋くり、思はず調子に乗つて、段々声が大きくなつて来た。常彦、春彦二人はソツと後から走つて来て、灌木の茂みに姿を隠し、高姫の独言を一口も残らず聞取つて了ひ、互に顔見合して目をまるくし、舌を出し、ニヤリと笑つて居る。高姫は少しも気が付かず、 高姫『サア是れからが性念場だ。併し此テルの国へ来て、只一人の顔馴染もなし、如何して国人に甘くひつかかつて見ようかなア。始めに引つかかる人間が一番大切だ。国中でもあの人なら……と持囃されてゐる立派な人間を弟子にするのと、常や春の様なヘボ人間を弟子にするのとは、国人の信仰上非常な影響がある。どうぞ神様、一つ、立派なテルの国でも一か二と云ふ人間を妾の弟子に授けて下さいませ。お願ひ致します』 と拍手を打ち、天津祝詞を奏上し始めた。日は漸く暗間山の頂きに没し、あたりは追々と暗くなり来たる。 高姫『あゝモウ日が暮れた。仕方がない。ここで一つ、一夜を明かし、又明日の思案にせうかなア。アヽそれも良からう』 と自問自答し乍ら、ゴロリと横になつた。されど何とはなしに心落ちつかず、甘く眠られないので、いろいろの瞑想に耽つて居る。 常、春の両人は俄にウーツと唸り乍ら、ガサガサガサガサと音を立て、慌だしく森の彼方に向つて姿を隠した。 高姫『なんだ、四つ足かなア。油断のならぬものだ、最前から高姫の独言を聞いてゐやがつたかも知れぬ。仮令四つ足にしても霊はヤツパリ神様の分霊だから、あんな事を聞かれると余り気分のよいものだない。あゝ慎むべきは口なりだ。ドレこれから口をつまへて無言の行でも致しませうかい』 と又ゴロンと横になる。少時あつて、高らかに話乍ら、ここを通り過ぎむとする二人の旅人があつた。 甲『あなたは是れから何処までお出になりますか』 乙『ハイ私はテルの都のカナンと申す男で御座います。一寸暗間山へ玉が出るとか聞きまして、行つて来ましたが、モウ既に誰かが掘出した後でしたよ』 甲『テルの都のカナンさまと云へば、国王様のお側付のカナンさまと違ひますか』 乙『ハイ左様で御座います』 甲『これはこれは、一度お目に掛りたい掛りたいと憧憬て居りましたが、是れは又良い所でお目にかかりました。これと云ふも全く三五の神の御引合せで御座いませう。私はヒルの都のヤツパリ国王の近侍を致して居ります、アンナと云ふ男で御座います』 乙『アヽあなたがあの有名なアンナさまで御座いますか。何とマア奇遇で御座いますなア』 と立話しをして居る。高姫は此話を聞き、 高姫『ヤレ良い奴が行つて来よつた。アンナにカナンと云ふ有名な男、同じ供に連れるのでも、偉い違だ。一人と万人とに係はる拾ひ者だ。万卒は得易く一将は得難し、何と神様も甘くお繰合せをして下さる事だ。有難う御座います』 と口の奥で感謝し乍ら、暗の中より涼しき若い声を出して、 高姫『ヤアヤア、アンナ、カナンの両人、暫く待ちやれよ。天教山に現はれたる日出神の生宮、変性男子の系統、高姫の神司、国治立大神の神勅により、汝等両人此処を通る事を前知し、此神柱が只一柱、此処に海山を越えて高砂島に渡り、暗間山口に待つて居たぞよ。是れより両人は高姫が部下となし、宣伝使の職を授ける。有難う思へ』 甲『ハイ誠に以て有難う存じませぬ』 乙『余り有難うてお臍が茶を沸します』 高姫『コレコレ、アンナ、カナンとやら、日の出神の生宮の申す事、何と心得なさる』 甲『日の出神の生宮もモウ聞き飽きました』 高姫『アヽさうだろう。お前さまが聞飽く程、生宮の名は此高砂島に響き渡つて居るだらう』 乙『日の出神様の御仕組は、何時も御失敗だらけで呑み込んだ玉迄紛失をなされ、常彦、春彦の家来迄が最前も途中に私に出会ひ、アンナ阿呆らしい事はカナンと申してゐましたよ。ウフヽヽヽ』 高姫『コレコレ段々と声の地金が現はれて来た。お前は常、春の両人ぢやないか。此日の出神を暗がりで騙さうと思つたつて、……ヘンだまされますかい。人がワザとに呆けて居れば良い気になつて、アンナぢやの、カナンぢやの、何を言うのだい。本当に好かぬたらしい。どこどこ迄も悪性男が女子の尻を追ひまはす様に、よい加減に恥を知りなさらぬか』 常彦『実の所は常彦、春彦で御座います。お前さまが最前から水臭い独言を云つてゐましたから、私も返報返しに一寸お気をもませました。誠に済みませぬ。お前さまが余り水臭いから、私には一つの面白い秘密があるのだけれど、魚心あれば水心ありだ。モウ云ひませぬワ。なア春彦、ソレ、高島丸の船中で、言依別さまと国依別さまに出会つて、玉の所在をソツと言つて貰つたから、此島にキツト隠してある。何々に往つて一日も早く掘出し、何々へ持つて行つて手柄をせうかい。高姫さまは随分水臭いことを仰有つて、俺達を邪魔者扱ひなさるから、俺達の方も却て結構だ。其言葉を聞かうと思つてワザワザ隠れて従いて来たのだ。二人で聞いた以上は、なんぼ言訳なさつたつて駄目ですよ。左様なら……』 春彦『常彦、早う逃げろ逃げろ、又高姫に追ひつかれては険呑だぞ。早く早く』 と同じ所を足踏みならして、逃げる真似してゐる。 高姫『コレコレ二人の御方、一寸待つて下され。今のは嘘だよ。こんな遠い所へ来て一人になつてたまりませうか。一寸待つてお呉れいなアー』 春彦『オイ常公、高姫さまが半泣きになつて頼まつしやるから、旅は道連れ世は情だ。玉の所在さへ知らさにや良いのだから、待つて上げて呉れ』 常彦は側に居乍ら、遠い所に居るやうな声を出して、 常彦『オイ、そんなら仕方がないなア。待つて上げやうかい』 と足音を段々高くし、 常彦『アヽ此処だつたか、そんならマア此処でゆつくりと夜明かしをせうかい。又明日、高姫さま、面白い話を聞かして上げますワ』 高姫『アヽそれで安心しました。余り仲がよすぎると、心易すぎて、互に罪のない喧嘩をするものだ。オホヽヽヽ』 と笑ひに紛らす。常彦は暗がり紛れに、寝るにも寝られず、平坦な芝生を幸ひ、盆踊りの様な恰好で、口から出放題を喋り乍ら踊り始めたり。 常彦『日の出神の生宮といつも仰有るエライ人 変性男子の御系統高姫さまに欺かれ 自転倒島をあとにして琉球の島迄漕ぎ渡り 槻の大木の洞穴に這入つて散々からかはれ 言依別の大教主国依別と一所に 万里の波濤をうち渡り高砂島へ七種の 玉を隠しに行かしやつた高姫さまは如何しても 言依別を引捉へ取返さねばおかないと 目をつり頬をふくらしてブウブウ泡を吹き乍ら フーリン島や台湾島左手に眺めて海原を 波押切つて渡る折思はぬ暗礁に乗上げて 船は忽ちメキメキと木端微塵に粉砕し 取り付く島も沖の中尻ひつからげ波の上 コブラを没する潮水を遥にかすむテルの国 山を合図に歩き出す忽ち吹来る荒風に 山岳の波寄せ来りアワヤ三人の生命は 水泡と消えむとする所神の恵の幸はひか 高島丸がやつて来て吾等三人を救ひ上げ 船長室に導かれタルチルさまに国所 いろいろ雑多と尋ねられ高姫さまが頑張つて 日の出神を楯に取り屁理窟言うたを船長は 逆上してると思ひ詰め矢庭に手足を縛り上げ クルリクルリと帆柱に吊り上げられて高姫は 目を剥き出した可笑しさよそこへ国依別神 言依別が現れまして高島丸の船長に 一言いへば船長は二つ返事で高姫を マストの上から吊下し其儘姿を隠しける それから種々面白い高姫さまの御説教 辻褄合はぬ御示しも却て皆のお慰み 国依別が現はれてコレコレ常彦、高姫が デツキの上に居る故に言依別や国依別が此船に 乗つて居るとは云うてくれな代りにお前に肝腎の 玉の所在を知らしてやらうコレ此通り美しい 七つの玉と吾が前に差出し玉うた其時は 如何な俺でもギヨツとした高姫さまが鯱になり 玉々云つて騒ぐのも決して無理はあるまいと 私も本当に気が付いたオツトドツコイ高姫さまの 御座る前とは知り乍らウツカリ口が辷りました ヤツパリこれは夢ぢやつた嘘でも本真でもかまやせぬ 夢にしておきや別状ないアヽ夢ぢやつた夢ぢやつた 高姫さまよ春彦よ必ず俺が麻邇宝珠 其他の玉の所在をば知つて居るとは思ふなよ 国依別に頼まれたオツトドツコイ又違うた 国依別が居つたなら言依別と一所に 七つの玉を嬉しそに抱えてニコニコしとるだろ それに相違はあろまいと思うて寝たらこんな夢 毎晩続けて見たのだよ夢の浮世と言ひ乍ら 不思議の夢もあるものぢや高姫さまよ春彦よ 此常彦が申すことゆめゆめ疑ふこと勿れ あゝ惟神々々私の毎晩見た夢は 嘘ではあるまい誠ぢやなかろホンに分らぬ物語 ドツコイシヨノドツコイシヨウントコドツコイ高姫さま ヤツトコドツコイ春彦さまドツコイドツコイ常彦さま ウントコセーのヤツトコセー』 と口から出放題、真偽不判明の歌を唄つて、高姫にからかつて見た。高姫は玉に関する話ときたら、どんな嘘でも聞耳立て、目を釣り上げ、一言も洩らさじと体を斜に構へ、此歌もヤツパリ大部分誠の物と信じ切り居たり。 (大正一一・八・一一旧六・一九松村真澄録) (昭和一〇・六・七王仁校正) |
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霊界物語 | 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 | 14 カーリン丸 | 第一四章カーリン丸〔八三六〕 三人は湖水の傍なる椰子樹の森に一夜を明かした。其夜は比較的風強く、湖水の波の音は雷の如く時々ドンドンと響いて来た。此湖水の名を玉の湖と云ふ。東西五十里、南北三十五里位の大湖水であつた。そして此湖水の形は瓢箪を縦に割つて半分を仰向けにしたやうな形をしてゐる。地平線上より新に生れ出で玉ふ真紅の太陽はニコニコとして舞ひ狂ひ乍ら、刻々に昇天し給ふ。一同は湖水に顔を洗ひ、口を滌ぎ手を清め、拍手感謝の詞を奏上し、蔓苺を掌に一杯むしり取つて朝飯に代へた。能く能く見れば傍に神の姿した石が立つて居る。扨て不思議と裏面を見れば、軟かき石像の裏に、『鷹依姫、竜国別、テーリスタン、カーリンスの一行四人、改心記念の為に此石像を刻み置く……』と刻り附けてあつた。常彦は此文面を読み上げて高姫に聞かした。高姫は驚いて、 高姫『あゝ矢張鷹依姫さまも竜国別さまも、テー、カーも、つまり此荒原を彷徨うて御座つたと見える。ホンにお気の毒な、あるにあられぬ苦労をなさつたであらう。此高姫が無慈悲にも、黒姫さまが黄金の玉を紛失したと云つて、鷹依姫さまや、外三人の方にまで難題を云ひつのり、聖地を追ひ出したのは、何と云ふ気強いことをしたのであらう。今になつて過去を顧みれば、私の犯した罪、人さまの恨みが実に恐ろしくなつて来た。せめては鷹依姫さま一同の苦労なさつて通られた跡を、斯うして修業に歩かして貰ふのも、私の罪亡ぼし、又因果の循り循りて同じ処を迂路つき廻るやうになつたのだらう。諺にも……人を呪はば穴二つ……とやら、情は人の為ならずとやら、善にもあれ、悪にもあれ、何事も皆吾身に報うて来るものだ……と口にはいつも立派に人様に向つて、諭しては居たものの、斯うして自分が実地に当つて見ると、尚更神様の教が身に沁々と沁み亘つて、有難いやら恐ろしいやら、何とも申上げやうが御座いませぬ。……あゝ鷹依姫様、竜国別様、テー、カーの両人さま、高姫のあなた方に加へた残虐無道の罪、どうぞ許して下さいませ。あなたがこんな遠国へ来て種々雑多と苦労をなさるのも、皆此高姫に憑依してゐた、金毛九尾の悪狐の為せし業、どうぞ赦して下さいませ。此石像は、鷹依姫様、竜国別様の心を籠められた記念物、之を見るにつけても、おいとしいやら、お気の毒やら、お懐かしいような気が致します。何程重たくても罪亡ぼしの為に此石像を、鷹依姫様、外御一同と思ひ自転倒島まで負うて帰り、お宮を建てて、朝夕にお給仕を致し、私の重い罪を赦して戴かねばなりませぬ』 と念じ乍ら、四辺の蔓草を綯つて縄を作り、背中に括りつけ、其上から蓑を被り、持重りのする石像を背中に負うて、たうとうアマゾン河の森林迄帰つて了つたのである。これが家々に、小さき地蔵を造り、屋敷の隅に、石を畳み、其上に祀ることとなつた濫觴である。 さて高姫は石像を背に負ひ、エチエチし乍ら草野を分けて湖畔を東へ東へと二人の同行と共に進み行く。 高姫は玉の湖畔を進み乍ら、湖中に溌溂として泳げる、何とも云へぬ美しき五色の、縦筋や横筋の通つた魚を眺め、 高姫『コレコレ、一寸御覧なさい、常彦、不思議な魚が居ります。これが噂に聞いた、玉の湖の錦魚といふのでせう。一名金魚とか云ふさうですが、本当に綺麗なものぢや御座いませぬか』 常彦『成程、天火水地結と青赤紫白黄、順序能く縦筋がはいつて居りますな。之が所謂縦魚で御座いませう。あゝ此処にも横に又同じ如うな五色の斑の附いた魚が泳いでゐます。どちらが雄で、どちらが雌でせうかなア』 春彦『定まつた事よ。縦筋の方が雄で、横筋のはいつた方が雌だ。経と緯と夫婦揃うて錦の機を織ると云ふのだから、錦魚と云ふのだ。此鰭を見よ、随分立派な鰭ぢやないか』 常彦『併し此魚には目が無いぢやないか。此奴アどうも不思議ぢやないか』 春彦『此縦筋のはいつた盲魚は一名高姫魚と云ひ、横筋のはいつたのは春彦魚と云ふのだ。どちらも盲だから、マタイものだ。それ此通り逃げも何もせぬぢやないか。併し手に取ると、やつぱりピンピン撥ねよるワ。ヤア其処へ本当の錦魚がやつて来たぞ。此奴ア縦横十文字、素的滅法界、綺麗な筋がはいつて、ピカピカ光つてゐる。目も大きな目があいてゐる。……なア高姫さま、これを見ても経と緯と揃はねば、変性男子の系統ばかりでも見えず、女子の行方ばかりでも後先が見えぬと云ふ神様の御教訓ですな』 高姫頻りに首を振り、 高姫『ウーン、なんとまア神様の御経綸と云ふものは恐れ入つたもので御座います。これを見て改心せねばなりませぬワイ。今迄の三五教の様に、経緯の盲同士が盲縞を織つて居つては、何時迄も錦の機は織り上がりませぬ。夫に就いては私が第一悪かつた。経糸はヂツとさへして居れば良いのに、緯糸以上に藻掻くものだから、薩張ワヤになつて了うたのぢや。あゝ何を見ても神様の教訓許り、何故今迄こんな見易い道理が分らなんだのだらう。ヤツパリ金毛九尾に眼を眩まされてゐたのだ』 と長大嘆息をしてゐる。是れより一行は夜を日に継ぎ、漸くにしてアルの海岸に着いた。幸ひ船はゼムの港に向つて出帆せむとする間際であつた。高姫は慌しく『オーイオーイ』と呼止めた。船頭は今纜を解いて港を少しばかり離れた船を引返し、三人を乗らしめ、折からの南風に帆を孕ませ、ゼムの港を指して波上ゆるやかに辷り行く。 長き海上の退屈紛れに船客の間にあちらこちらと雑談が始まつた。高姫一行は船の片隅に小さくなつて控へてゐる。 甲『去年の事だつたか、此船に乗つてゼムの港へ渡る時の船客の話しに、テルの国のアリナの滝とやらに大変な玉取神さまが現はれ、彼方からも此方からも、種々雑多の玉をお供へに行つて、いろいろの願事を叶へて貰はうと、欲な連中が引も切らず参拝してゐたさうぢや。さうすると何でもヒルとか夜とか云ふ国の偉いお方が黄金の玉をお供へになつた。玉取神さまはその黄金の玉が気に入つたと見えて、夜さりの間に玉を引つ担ぎ、何処へ逃げ出し、ウヅの国の櫟ケ原とかで、折角持出した玉を、天狗に取上げられ、這々の体でウヅの国(アルゼンチン)の大原野を横断し、アルの港から船に乗つて、アマゾン川の河上まで行つたと云ふ事だ。併し神さまの中にもいろいろあつて、欲な神さまもあればあるものぢやなア。其玉取神さまの大将は、何でも自転倒島の鷹とか鳶とか烏の様な名のつく、矢釜しい女神があつて、大切に守つて居つた玉を玉取神が失うたので怒つて叩き出し、其玉を手に入れる迄、帰つて来な……と此広い世の中に玉の一つ位、何程捜したつて、分りさうなことがないのに、無茶を言うて、いぢり倒したと云ふ話を聞いたが、随分悪い神もあればあるものだなア。屹度其奴には八岐の大蛇やら、金毛九尾の狐が憑いてをつて、そんな無茶なことを言はしたり、さしたりすると云ふ話しだ。本当に神さまだと云つても、無茶苦茶に信神出来ぬものだ。鷹鳶姫とか玉取姫とか云ふケチな神もある世の中だからなア』 乙『玉取姫位なら屁どろいこつちやが、世間には沢山、嬶取彦や爺取姫が現はれて、随分社会の秩序を紊し、此世の中に悪の種を蒔く神も、此頃は大分に出来て来たぞよ。アハヽヽヽ』 と他愛なく笑ふ。高姫は真赤な顔して小さくなつて、甲乙の談を聞いて居た。 常彦は高姫の耳に口を寄せ、 常彦『高姫さま、どうも世間は広いやうで狭いものですな。海洋万里の斯んな所まで、自転倒島の出来事が、仮令間違ひにもせよ、大体が行渡つて居るとは実に驚きましたねえ。玉野原の玉の湖の椰子樹の下に、竜国別さまが刻んでおいた四人の石像、仮令何万年経つたつて、貴女や私達の目にとまる筈がないのに、何百里とも際限のない野の中に、こんな小つぽけな物が只の一つ、それが斯うして貴女の背に負はれる様になると云ふも、不思議ぢやありませぬか。之を思うと人間も余程心得なくてはなりませぬなア』 高姫『サアそれについて、私は胸も何も引裂けるやうになつて来ました。私が変性男子様の系統々々と云つて、それを鼻にかけ、金毛九尾に誑惑されて、今迄は一生懸命に厳の御霊の御徳を落とすこと許りやつて来たかと思へば、如何して此罪が贖へやうかと、誠に恐ろしく、悲しくなつて来ました』 と涙ぐむ。船客は又もや盛んに喋り出した。 丙(ヨブ)『オイお前の云うて居つた鷹鳶姫と云ふのは、ソリヤ高姫の間違ひだらう。そして玉取姫と云ふのは鷹依姫の間違ひだらう。高姫と云ふ奴はなア、徹底的我慢の強い奴で、変性男子とか云ふ立派なお方の腹から生れて、それはそれは意地の悪い頑固者の、利己主義の口達者の、論にも杭にも掛らぬ化物ださうな。そして金剛不壊の如意宝珠とか云ふお宝物を腹に呑んだり、出したり、丸で手品師のやうなことをやる、悪神の容物だと云ふ事だ。噂を聞いて憎らしうなつて来る。どうで遠い自転倒島の話しだから、到底吾々には一代に会ふことは出来まいが、若しも出会うたが最後、世界の為に俺は素首引抜いてやらうと思つてゐるのだ。何だか高姫の話しが出ると、腹の底からむかついて来て堪らないワ。去年の今頃だつた。高姫に仕へて居つた鷹依姫、其息子の鼻の素的滅法界に高い竜国別、それに一寸人種の変つた、鼻の高い細長い、色の少し白いテーリスタンとかカーリンスとか云ふ四人連れが、アリナの滝の……何でも近所に鏡の池とか云ふ不思議な池があつて、そこに長らく居つた所、俄にどんな事情か知らぬが、居れなくなつて、たうとうアリナ山脈を越えて、ウヅの国の櫟ケ原を横断し、アルの港からヒルへ行く途中、誤つて婆アはデツキの上から海中へ陥没し、皆目姿がなくなつて了つた。そこで息子の竜国別が、婆アさまを助けようとドブンと計り飛込んだが、これも亦波に捲かれて行き方知れず、テ、カの二人も続いてドブンとやつたが、此奴もテンで行方が知れなくなつて了つた。彼奴は悪人か何か知らぬが随分親孝行者だ。母親が陥つたのを助けようと思うて、伜の竜国別が飛込んで殉死し、又弟子の二人が助けようと思つたか、殉死の覚悟だつたか知らぬが、共に水泡と消えて了つた。随分此航路では有名な話しだ。お前まだ耳にして居らぬのか』 乙『成程、親子主従の心中とか云つて、随分有名な話だが、其……何だなア、宣伝使の一行のことか、俺や又どつかの親子主従の心中かと思つてゐた。ホンに可哀相なこつたナア』 丙(ヨブ)『それと云ふのも元を糺せば、ヤツパリ高姫と云ふ奴が悪いからだ。彼奴が無理難題を云ひかけて、自転倒島から高砂島(南米)三界迄追ひ出したものだから、たうとうあんなことになつて了つたのだ。四人の宣伝使は可哀相でたまらぬ。俺やモウ其話しを聞いてから、空を翔つてる鷹を見ても癪に障つて堪らぬのだ。人間にでも鷹と云ふ名の附いてる奴に会うと、其奴が憎らしくなつて来て、擲りつけたいやうな気がするのだよ。赤の他人の俺が、何故鷹依姫や竜国別の、それ丈贔屓をせにやならぬかと思うと、不思議でたまらないワ。大方あの陥る時に、アヽ可哀相だと思うて見てゐたものだから、其亡魂でも憑依したのか……。今日は何だか其タカと云ふ名のついた奴が乗つて居やせぬかなア。何だかむかついてむかついて仕方がないのだ』 と目を真赤にし、歯噛みし、拳を握り、形相凄じく息を喘ませてゐる。 甲『ハヽヽヽヽ、他人の疝気を頭痛に病むと云ふのはお前のことだ。そんなことはイヽ加減にしておけ。何程力んでみた所で、肝腎の本人は海洋万里の自転倒島に居るのだから駄目だよ』 丙(ヨブ)『何だか俄に体が震ひ出した。何でも此船に高姫と云ふ奴、乗つてゐるのぢやあるまいかな。オイ一寸女客の名を、御苦労だが、一々尋ねて来て呉れぬか』 甲『馬鹿を言ふない、おれが尋ねなくても、船長さまに聞けば、チヤンと帳面に附けてあるワ』 丙(ヨブ)『それもさうだ、そんなら尋ねて見やうかな』 と立上がらうとする。高姫は、丙の袖を控へて、 高姫『モシモシ何処の方かは知りませぬが、鷹依姫、竜国別一行の為に、能うそこ迄一心に思うてやつて下さいます。定めて四人の者も冥土から喜んで居ることで御座いませう。あなたは最前から承はれば、四人の海へ落ちたのを見て居なさつたさうですが、後に何か残つてゐませなんだか。私があなたの憎いと思召す自転倒島から来た高姫で御座いますよ。罪の深い私、サアどうぞ貴方の存分にして下さいませ。さうすれば、四人の者も定めし浮かぶことで御座いませう。今私の負うて居ります石には、右四人の姿が刻り込んで御座います。かやうなことがあらうとて虫が知らしたのか、チヤンと自分から石碑を拵へて残しておいたと見えます。あゝ因縁と云ふものは恐ろしいものだ。天網恢々疎にして漏らさず、こんなことと知つたら、あんな酷いことを云ふのぢやなかつたに』 と云ひ乍ら、背中の石像を前に据ゑ、手を合せ、 高姫『コレコレ四人の御方、どうぞ怺へて下さい。三千世界の御神業に参加せなくてはならぬ大切な体なれど、私は今此御方に生首を引抜かれて国替を致し、お前さまの側へ行つて、更めてお詫を致します。あゝ惟神霊幸倍坐世。鷹依姫、竜国別、テーリスタンにカーリンス、頓生菩提、あゝ惟神霊幸倍坐世』 と一生懸命に念じてゐる。丙は高姫の真心より悔悟した其言葉と挙動とに、今迄張り切つた勢もどこへか抜け、今は却て、高姫崇拝者と心の中で知らず知らずの間になつてしまつてゐた。 (大正一一・八・一二旧六・二〇松村真澄録) |
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霊界物語 | 34_酉_黒姫のアフリカ物語1 | 15 手長猿 | 第一五章手長猿〔九五六〕 建日の館を訪ねたる三五教の黒姫は 建国別を真実の生みの吾子と思ひつめ はるばる訪ねて来たものを案に相違の悲しさに 早々館を立出でて二人の従者を見捨てつつ 髪ふり紊し吹く風に逆らひ乍ら坂路を 足に任せて降り行くたよりも力も抜け果てし 此黒姫の心根は聞くも無残の次第なり 万里の波濤を乗越えてこがれ慕うたハズバンド 高山彦は火の国の神の館にましまして 花を欺く愛子姫二度目の女房に持ち給ひ 睦まじさうに日を送り栄え玉ふと聞くよりも 黒姫心も何となく面白からずなり果てて 行く足並もトボトボと力なげにぞ見えにける。 黒姫『あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 火の国都にましませる高山彦に巡り会ひ 愛子の姫と睦まじく心の底より打あけて 互に手を取り三五の神の教を広めさせ 救はせ玉へ惟神純世の姫の御前に 願ひまつる』と宣り乍ら岩石崎嶇たる峻坂を トントントンと降り行くあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 黒姫の駆出した姿を見失はじと、房公、芳公の両人は、九十九曲りの山路を伝ひ乍ら、足拍子を取つて唄ひ行く。 芳公『ウントコドツコイドツコイシヨ天が地となりウントコシヨ 地が天となるウントコシヨ奇妙な事が出来て来た 高山彦の老爺さまが年の三十も違ふよな 若い女房を貰ふやら五十の尻を作つたる 皺苦茶婆さまの黒姫が万里の波を乗越えて ウントコドツコイ暑いのに汗をタラタラ流しつつ 薄情爺の後をつけ心の丈を口説かむと ウントコドツコイやつて来るコリヤ又何としたことだ 愛子の姫もウントコシヨ愛子の姫ではないかいな ウントコドツコイ棺桶に片足ドツコイつつ込んだ 此世に用のない爺薬鑵頭の寿老面 入日の影かドツコイシヨ物干棹かと云ふやうな 鰌の様な化物に秋波を送つて吾夫と かしづき仕へる不思議さよ男が不自由な世の中と どうして思うたか知らないがあんな爺と添ふならば モツト立派な人がある此芳公はウントコシヨ 如何に汚ない男でも年は若いしドツコイシヨ そこらあたりに艶がある同じ男を持つなれば 木乃伊の様に干すぼつた骨と皮とのがり坊子を 持たいでも良かりそなものぢやのに私は呆れてウントコシヨ 口が利けなくなつて来たウントコドツコイ危ないぞ それそれそこに石がある草鞋を切つては堪らない ま一人虎公が居つたなら草鞋を出して呉れようが 生憎虎公は酒の席あゝ是からは黒姫が 火の国都へドツコイシヨ乗込んだなら大変だ 決して無事にはウントコシヨ治まるまいぞ、のう房公 俺は案じて仕様がないサアサア早う行かうかい 女心の一筋に悔し残念つきつめて 短気を出して谷底へ身投げをドツコイしられたら 聖地へ帰つて言訳がどうして是が立つものか 黒姫さまも黒姫ぢやおい等二人を振棄てて 走つて行くとは何事ぞ孫公の奴はドツコイシヨ どこへ隠れて居るだろか此奴の事も気にかかる あちら此方に気を取られ頭の揉めた事ぢやワイ ウントコドツコイ危ないぞそれそれそこにも石車 爪先用心して来いよ若しも辷つて怪我したら お嬶のお鉄にドツコイシヨどしても言訳立たないぞ 自転倒島を出る時に俺のお嬶のお滝奴が もうしもうしこちの人お前一人のウントコシヨ 決して体ぢやない程にお前の体は私の物 私の体はウントコシヨヤツパリお前の物ぢやぞえ 自分一人と慢心し私を忘れて怪我したら 私は恨んで化けて出る仮令死んでもドツコイシヨ 高天原へは行かれぬと抜かした時の其顔が 今目の前にブラついてお嬶が恋しうなつて来た 貴様のお嬶も其通りどこの何処へ行つたとて 人情許りは変らないどうぞ用心して呉れよ お鉄に代つて気をつけるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と両手を動かせ、足を千鳥に踏み乍ら、一足々々拍子を取つて此急坂を降り行く。 黒姫は漸くにして高山川の畔に着いた。ここには恰好な天然の腰掛岩が人待顔に並んゐる。暫し息を休め、こし方行末の事を思ひ煩ひ、落涙に及んでゐる。 そこには樫の大木が天を封じて一二本立つてゐる。黒姫は目を塞ぎ、思案に暮れてゐると、樫の木の枝に数十匹の手長猿が此姿を見て、枝から一匹の猿が吊りおりる。次から互に次へと手をつなぎ、七八匹の奴が鎖の様になつて、蜘蛛が空からおりた様に『チウチウ』と黒姫の頭の上に降り来り、黒姫の笠をグイと引つたくり、ツルツルと次第々々に木の上へ持つてあがつて了つた。黒姫は宣伝使のレツテルとも云ふべき大切な冠り物を奪られ、樹上の手長猿の群を眺めて、目を怒らし、残念相に睨んでゐる。猿は凱歌を奏した様な心持になつて『キヤツキヤツ』と黒姫を冷笑的にからかつてゐるやうな気分がする。黒姫は縁起の悪い、冠り物を四つ手にしてやられて、無念さやる方なく、あり合ふ石をひろつて、樹上の猿の群に向つて投げつけた。猿は『キーキーキヤアキヤア』と声をはりあげ、同類を四方八方から呼び集める。またたく間にぐみのなつた程、樫の木の上に猿が集まつて来た。さうして樹上から小便の雨を降らす、糞を垂れる、樫の実をむしつては、黒姫目がけて投げつける。黒姫は樫の実と小便の両攻めに会うて、身動きもならず、怨めしげに立つてゐた。一足でも黒姫が動かうものなら、忽ち猿の群は寄つて集つて、かきむしり、如何な事をするか分らぬ形勢となつて来た。 猿と云ふ奴は、弱身を見せたが最後、どこ迄も調子に乗つて追跡し、乱暴を働くのである。黒姫は其呼吸を幾分か悟つたと見えて、痩我慢にも地から生えた木の様に身動きもせず、猿の群と睨めつくらをやつて居た。時々刻々に猿の群は集まり来る。又しても、頭の上へ猿の腕がおりて来て、今度は髪の毛をグツと手に巻き、引上げようとする。黒姫も堪らなくなつて、『一二三四五六七八九十百千万!』と手を組んで鎮魂の姿勢を取る。手長猿の群は之を見て、各自に手を組み『キヤツキヤツ』と言ひ乍ら黒姫を一匹も残らず睨みつける。黒姫は股を拡げて、トンと飛び上り大地に大の字になつて見せた。手長猿の奴、又之に倣つて、木の上をも省みず、一斉に飛び上り大の字になつた途端に、ステンドーと大地へ雪崩を打つて転倒し、『キヤツキヤツ』と悲鳴をあげ、はうばうの体で逃げて行く、其可笑しさ。黒姫はやつと安心の胸を撫でおろし、手拭を懐から取出し、汗を拭いた。 猿の親玉ともいふべき五六匹の大きな奴、樫の木の上から、逃げもせず黒姫の様子を眺めてゐたが、黒姫が汗を拭いたのを見て、同じく両の手で、懐から手拭を出す真似をし乍ら、顔をツルリと撫でた。樹上の大猿は又もや樫の実をむしつては黒姫目がけて、雨霰と投げつけ出した。黒姫は両手を拡げ、一方の足をピンと上げ、左の足でトントントンと地搗きをして見せた。樹上の大猿は一斉に両手を拡げ、一方の足をピンと上げて、木の上でトントントンと地搗の真似をした途端にドスドスドスンと一匹も残らず地上に墜落し『キヤツキヤツ』と悲鳴をあげ、転けつ転びつ、何処ともなく姿を隠して了つた。折柄サツと吹き来る可なり荒い風に黒姫の被つてゐた笠は音もなく、秋の初の桐の葉の落ちるが如く、フワリフワリと黒姫の前に落ちて来た。 黒姫は再生の思ひをなし、直に地上にうづくまり、拍手を打ち、天津祝詞を奏上し始めた。乍併、祝詞の声はどこともなく、力なく震ひを帯びてゐた。 かかる所へ房公、芳公の両人はドンドンと地響きさせ乍ら、息をはづませ、此場に追ひ付き来り、 房公『ハーハーハー、ア、息が苦しいワイ。マアマア黒姫さま、よう此処に居て下さつた。どれ丈心配したことか分りませぬよ』 芳公『黒姫さま、おつむりの髪が大変に乱れてゐるぢやありませぬか』 黒姫『よい所へ来て下さつた。今の今迄、手長猿の奴、何百とも知れずやつて来よつて、此通り髪の毛迄、ワヤにして了うたのだ。乍併神様のお蔭で、一匹も残らず退散したから、マア安心して下さい。お前さま、エロウ早かつたぢやないか、お酒を頂く間がありましたかなア』 房公『滅相な、そんなこと所ですか、黒姫さまが血相変へてお帰りになつたものだから、気が気でなく、もしもの事があつてはならないと、吾々両人が宙を飛んで此処まで駆つて来たのです』 黒姫『アヽそれは済まないことでしたなア。さうして虎公さまや、玉公は如何して御座るかなア』 芳公『今頃は甘い酒に酔つぶれて、管でも巻いてをりませうかい。斯うなると親方のない者は気楽ですワイ』 黒姫『そんな気兼は入らないのだから、ゆつくりと御酒でも頂いて来なさるとよかつたに、それはそれは惜い酒外れをなされましたワイ』 房公『ハイ、おかげ様で、酒外れを致しまして有難う御座います。併し黒姫さま、お前さまも、サツパリ、目的が逆外れになりましたなア。大将がサカ外れに会うてゐるのに、伴の吾々が外れないと云ふ訳はありませぬからなア、アツハヽヽヽ、本当に誠に、御互様に御気の毒の至りで御座いますワイ、ホツホヽヽヽ』 とおチヨボ口をし乍ら、肩をゆすつてチヨクツて見せた。黒姫は、 黒姫『エヽ又そんな洒落をなさるのか、エヽ辛気臭い代物だなア』 と口汚く罵り乍ら、矢庭に笠を引つかぶり、金剛杖をつき、足を早めて、二人に構はずスタスタと駆出した。房公は大声を張り上げて、 房公『モシモシ黒姫さま、一寸待つて下さいな、さうしたものぢやありませぬぞや』 黒姫『エヽお前達は若いから、足が達者だ、ゆつくり休んでお出で、此黒姫は年が老つて、足が重いから、ボツボツ先へ行きます。後から追ひ付いておくれよ』 芳公『モシモシ黒姫さま、我を出して一人旅をなさると、又猿の奴が襲撃しますぞや。暫く待つて下さいな、私はお前さまの身の上を案じて忠告するのだよ』 黒姫は耳にもかけず、後ふり向きもせず、尻をプリンプリン振り乍ら、杖を力に雨に洗ひさらされた石だらけの坂路を、コツリコツリと杖に音させつつ、火の国の都を指して急ぎ行く。 (大正一一・九・一三旧七・二二松村真澄録) |
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霊界物語 | 35_戌_黒姫のアフリカ物語2 | 24 歓喜の涙 | 第二四章歓喜の涙〔九八八〕 愛子姫は黒姫の訪問と聞き、稍危み乍ら、玄関口に津軽命と共に出で迎へる。玉治別は後に只一人腕を組み、何か思案にくれてゐる。黒姫は玄関口に立ち、 黒姫『高山彦夫の命の後追うて 黒姫司ここにきたれり。 高山彦夫の命は如何にして われを出迎へ遊ばさざるや』 愛子姫『あらたふと黒姫司はるばると 出でます事の心嬉しき。 いざ早く館の奥へ上りませ 汝来ますとてわれは待ちける。 玉治別神の命も出でまして 汝が入来を待たせ玉へり』 黒姫『いざさらばお構ひなくば奥の間へ 進みて夫に言問ひ申さむ。 高山彦夫の命の情なさよ 吾を見すててかかる国まで。 年老いし身も顧みず若草の 妻持たすとは何の心ぞ。 うらめしき汝が命の姿かな 吾背の君のいろと思へば』 愛子姫『黒姫の神の司よ聞しめせ 吾背の君は高国別の神。 高山彦神の命と名乗らせど 活津彦根の神にましける。 兎も角も奥に入りませ三五の 神の司の黒姫の君』 黒姫『さやうならこれより奥へ駆込みて 否応いはさず調べ見むかな。 詐りの多き此世と知らずして さまよひ来りし心悲しも』 愛子姫『疑ひの雲明かに晴らせませ 吾背の君の絵像見まして』 黒姫『さてもさても合点のゆかぬ汝が詞 荒井ケ岳の狐にあらぬか』 津軽命『これはしたり口が悪いも程がある 黒姫さまよ何を証拠に』 黒姫『自転倒島を後にして姿隠した高山彦の 神の命の吾夫は筑紫の島に渡るとて 聖地を見すてて出でしより妾は後を慕ひつつ 遠き海路を打わたり嶮しき山をふみ越えて 雨にさらされ荒風に髪梳りトボトボと 三人の供を従へて此処迄進み来りけり あゝ惟神々々誠の神のましまさば 愛子の姫がすげもなくわが背の命を奥深く 包みかくして白ばくれたばかる醜の枉業を あらはせ玉へ惟神皇大神の御前に 三五教の神司黒姫謹み願ぎまつる』 愛子姫『天地の神も御照覧いかに心の汚れたる 愛子の姫も徒に人の男をそそのかし 宿の夫とぞなすべきか黒姫さまの背の君は 高山彦と聞くからは同名異人のわが夫を 誠の夫と思ひつめ迷ひ玉ひしものならむ 黒姫司きこしめせ妾も神の大道を 守る身なれば如何にして詐り言を用ふべき 早くも奥へ進みませ汝が命の疑ひも 旭に露と消え失せむあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終り、悄然として涙含む。愛子姫は黒姫のキツイ詞に、きつく侮辱された様な感じがして、女心の悲しくなり来れるなりき。 黒姫『高山彦さまが桂の滝とやらへ修業に行かれたから、不在だと言はれたさうだが、そんな仇とい事で、此黒姫はあとへ引く様な女ぢや御座いませぬ。女の一心岩でもつきぬく、何処までも調べ上げねば承知を致しませぬぞや。大方奥にかくれて御座るのだらう。稲荷か何かの託宣で、此黒姫が此処へ来るといふ事を前知し、大方皆の者が腹をあはし、門番迄に言ひ含め隠して御座るのだらう。何と云つても隠すより現はるるはなしといつて、終ひには尻尾が見えますぞや。ヘエ御免なさいませ、コレコレ番頭どの、奥へ案内して下さい。夫の所在が分るまではビクとも動かぬ此黒姫、マア暫く御厄介になりませうかい、オツホヽヽヽ』 愛子姫は先に立ち奥の間に導く。此処には玉治別が腕を組んで、何事か思案にくれゐたり。 黒姫『コレコレお愛さま、お前も余程のすれつからしと見えて、千軍万馬の劫を経た此老人をうまくチヨロまかしますなア……ヤアそこには一人何だか見覚えのあるやうな男が坐つて居る。コリヤまア何の事ぢやいなア。大方こんな事だと思うて居つた。矢張高山彦さまは桂の滝へ行かれたのだらう。其不在の間にこんな男を伴れ込んで、イヤもうお話になりませぬワイ、オツホヽヽヽ』 愛子姫『モシモシ黒姫さま、夫ある妾に対して殺生な事を云つて下さるな。外聞が悪う御座います』 黒姫『外分[※初版では「外聞」だが三版以降では「外分」になっている。二版は未確認。]の悪い事を誰がしたのですか。高山彦の夫に代り、間男の成敗は私がする。サアお愛どの、気の毒乍ら、トツトと出て下さい。アーア高山さまが不在になるとサツパリワヤだ。一辺悪魔の大清潔法を行らないと、神さまだつて此館へは鎮まつて下さらないわ……コレお愛、何をグヅグヅして泣いてるのだ。泣かねばならぬやうな事をなぜなさつたのかい、オツホヽヽヽ、さてもさても気の毒なものだなア。私も同情の涙がこぼれませぬわいナ。ウツフヽヽヽ、あのマア悲しさうなないぢやくりわいのう』 玉治別はフツと顔をあげ、 玉治別『ヤアあなたは黒姫さま、最前から待つて居りました。サア此方へ御越し下さいませ』 黒姫『何だ、お前は玉ぢやないかい、門にも玉が居れば中にも玉が居る。お前がお愛の情夫だなア。何と抜目のない人間だこと。高山さまの尻を追うてこんな所迄やつて来て、チヨコチヨコとお愛に可愛がつて貰つてゐるのだろ、オホヽヽヽ。若い時は誰もある慣ひだ。本当に敏腕家だ。ドシドシと体主霊従主義を発揮しなさるがよからう。若い時は二度ないからなア。併し乍らよう考へて御覧、お前も三十の坂を越えてるぢやないか。十九や二十の身ではなし、チツとは心得たがよからうぞえ。併しお前の恋愛を私が彼これ云ふのぢやない。サア早く今の間にお愛を伴れて駆落をして下さい。高山さまがお帰りになると、大騒動だから、チヤツと早う出なさい。お前が可哀相だから、親切に言ふのだよ』 玉治別『アーア、情ない事になつて来た。黒姫さま、私はたつた今の先、このお館へ参つたのですよ。実は高山彦さまが、筑紫の島へ渡ると捨台詞を使つて、あなたにお別れになりました。私もさうだと思つて居つた所、豈計らむや、高山彦さまは伊勢屋の奥座敷にかくれて暫く御座つたさうですが、黒姫さまがいよいよ自転倒島を立たれた時分から、ヌツと顔を出し、毎日日日錦の宮へ御出勤になつて居られますよ。そこで言依別命様が聖地を立たれる時……黒姫さまが可哀相だから、お前御苦労だが宣伝旁筑紫の島へ行つて、黒姫さまをお迎へ申して来い、さうして夫婦和合して御神業にお仕へなさるやう取計らへ……との御命令で、はるばる貴女の後を慕うて此処まで参つたの御座います。愛子姫様と云々などと云ふやうな事は夢にも御座いませぬから、どうぞ諒解して下さいませ』 と真心面に表はれ、慨歎やる方なき其顔色を見て取つた黒姫は稍心やはらぎ、 黒姫『何、高山彦さまが聖地に御座るとは、そりや本当かい?』 玉治別『何嘘を申しませう。万里の波濤を渡つて、こんな所まで嘘を云ひに来る者が御座いませうか。黒姫さま、よく御覧なさいませ。此絵像は当家の御主人の生姿で御座いますから、能く御見並べなさいませ。本年三十五才の屈強盛りの活津彦根神様が高国別と御名乗り遊ばし、表向は高山彦と呼ばれて御座るのですから、あなたの御主人とは全く同名異人ですよ』 黒姫は其絵像をジツクリと眺め、 黒姫『いかにも違つてゐる。……ヤア愛子姫様、えらい御無礼な事を申上げました。どうぞはしたない女と思召さず、神直日に見直し聞直して下さいませ』 愛子姫『ハイ有難う、御諒解さへゆきましたら、こんな嬉しい事は御座いませぬ。どうぞ御緩りと御泊り遊ばして、神様の御話を聞かして下さいませ』 玉治別『愛子姫様、黒姫様は別に悪い心で仰有つたのぢや御座いませぬ。余り一心に当家の御主人を自分の夫と思ひつめ、はるばるお出でになつたものですから、逆上遊ばすのも無理は御座いませぬから、どうぞ悪く思はないやうにして下さいませ』 愛子姫『ハイ有難う御座います』 と云つた限り、疑のはれた嬉しさに愛子姫が歔り泣きの声さへ聞ゆる。 黒姫『アヽ私位因果な者が世にあらうか。遥々夫の後を慕うて来て見れば、人違ひ、捨てた吾子ではあるまいかと、はるばる建日の館へ行つて見れば、之も亦人違ひ、どうしてこれ程する事なす事が食ひ違ふのだらうか。之もヤツパリ前生の罪、否々神様から賜はつた伜を、若気の勢で捨てた天罰が酬うて来たのだらう……アヽ神さま、どうぞ許して下さいませ。さうして夫の所在の分りました以上は厚かましく御座いますが、どうぞ伜の所在を知らして下さいませ。一度伜に会はなくては死ぬ事も出来ませぬ。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と神前に向ひ手を合せ、涙乍らに祈願する。玉治別は首を傾け乍ら、 玉治別『モシ黒姫さま、今始めて承はりましたが、貴女にはお子さまがあつたのですか。そして其子はいつお捨てになりましたか。実は私も捨子で御座いますが、未だに両親が分りませぬので、日夜神さまに祈り、一目なりとも両親に会ひたいと、今も今とて憂ひに沈んで居つた所で御座います』 黒姫『何、玉治別さま、お前も捨子ですか、そりや初耳だ。丁度私の子が今生きて居つたならば三十五歳になつてる筈だ。お前の年は幾つだつたかなア』 玉治別『ハイ、当年三十五歳になりました』 黒姫『何三十五歳!そりや又不思議な事もあるものだ。併し私の捨てた子には、背中の正中に富士の山の形が、白い痣で出て居つた筈だ。これは全く木花咲耶姫さまの因縁のある子供だからといつて富士咲といふ名をつけておいたのだが、余り世間が喧ましいので、守り袋に富士咲と名を書きしるし四辻にすてました。思へば思へば可哀相なことをしました』 と泣き沈む。 玉治別『何と仰有います。其捨子は富士咲と申しましたか、そして背中に富士の山の形の白い痣があるとは合点のゆかぬ御言葉、一寸失礼ですが、黒姫さま、私の背中を見て下さいませぬか。私の小さい時は富士咲と申しました。そして人の話によると、何だか山のやうな痣が出来て居るさうです』 黒姫『それは又耳よりの話だ。一寸見せて御覧!』 「ハイ」と答へて玉治別は肌をぬぎ背をつき出す、黒姫は念入りにすかして見て、 黒姫『ヤアてつきり富士の山の痣、そしてお前の幼名が富士咲と聞く上は、全く私の伜だつたか。アヽ知らなんだ知らなんだ、神さま、有難う御座います。因縁者の寄合で珍らしい事が出来るぞよと大神さまが仰有つたが、いかにも因縁者の寄合だなア』 と嬉し涙にかきくれる。 玉治別『そんなら貴女私の母上で御座いましたか。存ぜぬ事とて、何時とても御無礼を致しました。どうぞお母さま御赦し下さいませ。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と両手を合せ、嬉し涙にかきくれる。 これより黒姫は愛子姫に厚く礼を述べ、無礼を謝し且つ徳公、久公にも其労を謝し別れを告げ、いそいそとして玉治別、孫公、房公、芳公と共に再び建日の港より船を漕ぎ出し、由良の港の秋山彦が館に立寄り、麻邇宝珠の神業に参加し、目出度く聖地に帰る事となりたるは、三十三巻の物語に明かな所であります。惟神霊幸倍坐世。 ○ かく述べ終られた時しも正に午後六時、表に出て天空を見れば、ドンヨリと曇つた大空を南北に区劃した青雲巾二三間と見ゆるもの、東の山の端より西の空遠く、輪廓正しく帯の如く銀河の如く横たはりつつありました。 (大正一一・九・一七旧七・二六松村真澄録) |
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霊界物語 | 36_亥_シロの島の物語 | 03 反間苦肉 | 第三章反間苦肉〔九九一〕 サガレン王は神前の間に端坐して冥想に耽つて居る。其処へ慌しく襖を押開け入り来りしケールス姫は、両眼に涙を湛へ乍らワツとばかりに泣き伏したり。サガレン王は驚いて、 サガレン王『消魂ましき汝の其様子、何事なるぞ』 と尋ぬれば、ケールス姫は漸くにして顔をあげ、涙を拭ひ、 ケールス姫『王様、大変な事が出来ました。御用心なさいませ』 サガレン王『大変な事とは何だ』 ケールス姫『外でも御座いませぬ。シルレング、ユーズの輩、私に徒党を結び反逆を企て、王様を始め妾等を今夜の中にベツトして、クーデターを行ふ陰謀を企てて居ります』 サガレン王『何、シルレング、ユーズが左様な事を企劃して居ると申すのか。それは大方何かの間違ひであらう』 ケールス姫『イエイエ、決して間違ひでは御座いませぬ。先日より両人の様子如何にも怪しと存じ、私にベールを遣はして、彼等が胸中を探らせし処、今夜を期して事を挙ぐる手筈になつて居ります。愚図々々致して居れば御身の一大事、社稷の顛覆は風前の灯火も同様なれば、時を移さず彼等一派を速かに獄に投じ、而して後ゆるゆるとお調べにならば、一切の事実が判然する事で御座いませう。万一ベールの報告にして誤りなりとせば、之に越したる喜びは御座いませぬ。兎も角も彼等を捕縛し、一時投獄を仰せ付けられるが安全で御座います。此事をお聞き下さるならば、妾も只今限りウラル教の信仰を捨て、バラモン教に入信し、王と共に神政に仕へ奉るで御座いませう。王様!何卒一刻の猶予もなりませぬから、早く御英断をお願ひ申します』 サガレン王『そなたがバラモン教に帰順してくれるのは有難い。第一家内円満の曙光を認めた様なものだ。然し乍らシルレング、ユーズに限つて左様な不都合な事を致すべき道理がない。篤と取調べた上、改めて報告せよ。吾も亦ゼム、エール、エームスに命じて、事の実否を急々探らせ見む。先づ心を落ち付けよ』 姫はワツとばかりに泣き出し、恨めしげに王の顔を見上げながら、 ケールス姫『お情ない其お言葉、妾の申上げた事を貴方は信用して下さいませぬか。ゼム、エール、エームスの如き臣下の方を、貴方は妾よりも幾層倍御信任なさるのでせう。エーさうなれば最早妾は是非に及ばぬ。居ながら王の危難を見るに忍びませぬ。此処にて自害を致します』 と云ふより早く、隠し持つたる懐剣を引き抜き、アワヤ咽につき立てむとする姫の狂言を王は誠と信じ、驚いて座を起ち、姫の手をシツカと握り、 サガレン王『ヤレ待て!ケールス姫、早まるな』 ケールス姫『イエイエ妾は貴方には捨てられ、臣下にはせめ立てられ、此世に生きて何の望みもなく、ムザムザと臣下の手にかかつて死恥を曬さむよりも、御身の前にて潔く咽を突き切り自害を致します。何卒其手をお放し下さいませ』 と泣き叫ぶ。王は黙念として居たりしが、暫くあつて口を開き、 サガレン王『然らば兎も角も、シルレング、ユーズの件に就ては其方に一任する。然し乍ら一切の事情の判明する迄は、決して成敗する事はならぬぞ』 姫は此言葉を聞いて、私かに舌を剥き出し乍ら、面に涙を流しつつ、 ケールス姫『ハイ、不束な妾の願を御聞き届け下さいまして有難う御座います。然らばこれよりタールチンに命じ、彼等を獄に投じます。就ては彼等の罪状は後で篤と取調べ、御報告申上げまする』 と云ひ乍ら此場を立たむとするを、サガレン王は、 サガレン王『ケールス姫、暫く待ちや』 と声をかけた。ケールス姫は後振り返り、 ケールス姫『待てと仰有るのは、御心変りがしたのでは御座りませぬか』 サガレン王『イヤ別に心変りは致さぬ。其方は今ウラル教を捨てて、只今限りバラモン教になると云つたであらう。それに間違ひはないか』 ケールス姫『仰せ迄もなく、一旦申上げた事に如何して間違ひが御座いませう』 サガレン王『ウン、それなら宜い。其方がウラル教を捨てた以上は、最早竜雲は本城に必要のない男だ。速に退却を命ぜよ。一刻も置く事はならぬぞ』 ケールス姫『それは余り急な御命令、竜雲にも篤と云ひ聞かし、得心をさせて帰さねばなりますまい。仮令ウラル教なればとて、今の今迄師匠と仰いだ竜雲に対し、さう素気なくも取扱ふ事は出来ますまい』 サガレン王『イヤ、彼こそ吾に対する危険人物の張本人だ。早く退却を命ぜよ』 ケールス姫『一国の王とならせ給へる御身を以て、左様な無慈悲の事を仰せられましては、如何して国民が悦服致しませうか。そこは円満に因果を含めて退却を命ずるが、王の為にも最前の御道だと考へます。然し乍ら謀反人の計画は、時々刻々に準備が整ひますれば、後に至つて臍を噛むとも及びませぬ。兎も角タールチンを呼び出し、シルレング、ユーズの両人を捕縛させませう』 と云ひ乍ら欣々として、ベールを伴ひ此場を立つて行く。 後に王は只一人黙念として差俯向き、思案に暮れて居る。かかる処へゼム、エールの両人は、足音何となく忙しく現はれ来り、恭しく両手をつき、 ゼム『恐れ乍ら王に申し上げます。竜雲なるもの、此頃の挙動何となく怪しく、一時も早く退却を命じ給はずば、如何なる事を仕出かすかも分りませぬ故、何とか御英断を以て彼を放逐して下さいませ』 サガレン王『ウン』 と云つたきり又俯向いて居る。 エール『サア早く何とか御命令を待ちまする。彼が如き怪物は最早一刻も此城内に留め置かせられては王の為になりませぬ。云はば暗剣殺も同様ですから、吾々は死を決して忠言を申上げます』 王『竜雲は何かよくない事を計画して居るか』 エール『ハイ確にレール、キング、ベツトの計画を立てて居りますれば、何卒一時も早く本城より放逐あらむ事を御願ひ申します』 王『竜雲が左様な不覊を企み居ると云ふ確な証拠がつかまつたのか』 エール『ハイ、これと云ふ証拠は御座いませぬが、吾々一同の考へには、如何しても彼の面上に殺気が現はれて居ります。一刻も留めおかせらるべき人物では御座いませぬ』 王は『ウン』と云つたきり又もや両手を組んで俯向いて居る。 そこへ慌しく入り来るは以前のケールス姫、ベールの両人である。 姫はゼム、エールの二人の姿が王の前にあるを見て大に怒り、目を釣り上げ乍ら、 ケールス姫『汝は奸佞邪智の大悪人、城内の秩序を攪乱致す不忠者、今宵の中に本城を乗取らむとする憎き曲者!』 と呶鳴りつけられ、ゼム、エールの二人は案に相違の姫の言葉に呆れ返り、 ゼム『これは又思ひも寄らぬ姫様のお言葉、何を証拠に左様な反逆者呼ばはりをなされますか』 エール『仮令姫様の御言葉なりとて証拠もなき其暴言、卑しき臣下なりとも吾々は聞き捨てはなりませぬ。何を証拠に左様な事を仰せられますか』 姫『黙れ!悪人猛々しとは汝等の事、汝はシルレング、ユーズと私かに諜し合せ、レール、キング、ベツトの計画を立てて居つたであらう……王様これも一味の奴原、決して油断はなりませぬ。早く投獄を仰せつけられます様に……』 王は首を左右に振り、稍不機嫌な面持にて言葉鋭く姫に向ひ、 サガレン王『ゼム、エールの両人は予が最も信任するもの、両人に限つて左様な不心得は決して致すまい。汝は居間に帰りて休息致せよ』 と儼然として宣示した。流石のケールス姫も王の一言には返す言葉もなく、両人を睨めつけ後に心を残しつつ吾居間さして帰り行く。 (大正一一・九・二一旧八・一北村隆光録) |
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霊界物語 | 37_子_出口王仁三郎自叙伝1 | 17 狐の尾 | 第一七章狐の尾〔一〇二九〕 暫くあつて御台サンと称する高島ふみ子は、総務格兼良人なる杉山氏と共に帰つて来た。服部と云ふ爺は驚いて、俄に徳利を股にかくす。杉山は喜楽の姿を見て、嬉し相に笑ひ、笑顔を作り、 杉山『あゝ喜楽サン、能う来て下さいました。今日はあなたに一席の講演を願はねばなりませぬ。御存じの通り信者が沢山殖えまして、何時までもこんな不便な家を借つて居る訳にも行きませぬ。どつかに新築をしたいと思ひますがそれに就いては一寸三千円許り必要なので、今寄附帳を拵へて、各自に手分けをなし、世話方が寄附金募集に歩かうと相談の纏まつた所で御座います。就いては私が教会建築の話をするのも何だか面白くありませぬから、一つあなたが私に代つて演壇に立つて下さいますまいかなア』 と云ふ。喜楽は其時はまだ二十六歳、父の病気が治して欲しさに信仰をして居つたのだから、神様の事なら何でもいとはぬと云ふ気になつて居た。そこで直に承諾の旨を告げ、教会の仕様書や設計などを見せて貰ひ、祭典がすめば一場の演説を試みようと心ひそかに腹案を作つてゐた。高島ふみ子、杉山の両人は非常に喜び、丁重な料理を取よせて、奥の間で饗応してくれた。服部は真赤な顔をし、フーフーと苦しさうな息をし乍ら、高島の前にやつて来て、 服部『今世話方衆が見えました。やがて信者も追々集まりませうから、世話方に夫れまで酒を呑んで貰ひませうか』 高島は小声で、 高島『世話方なんと云つた所で、いつも出て来て酒をのむ許りで何にもなりやしない』 と云つたのを、服部は聞きかじつて、巻舌になり乍ら、 服部『ナヽ何がイヽ稲荷のお台サン、キヽ狐サン、役に立たぬのだ。朝から晩までおめし給銀でこき使はれて居るのだから、たまたま一升位酒を飲んだつて、ゴテゴテ言ひなさるな』 高島『コレ服部サン、ソリヤ何を言つてゐなさるのだ。早う御世話方にお酒でも出して叮嚀にあしらうて下さい』 服部『今日は神様の一年に一度の春季大祭だから、私が神さまの御神酒を頂いた位で、ゴテゴテ言ひはしませぬだらうな。実の所は学校の小使に使うてやらうと云ふ人があるのだけれど、お前サンが怒つて、狐でも使ふてあたんでもすると困るから、そんな事アおけと友達が言ふてくれるので、辛抱して居るのだが、今日はモウ喜楽サンが来て居るのだから、狐の尾丈はやめなさいや』 と言ひ乍ら、ヒヨロリヒヨロリと玄関口の方へ走つて行く。 いよいよ午後の三時過になると、ボツボツと参詣人が集つて来て、牡丹餅や菓子、米、包み物、小豆、豆など沢山に供へられ、いよいよ午後四時を期して祝詞が始まり、神殿の前で護摩をたき始めた。五寸許りに切つて割つた木切れに、一々姓名や年齢を書き記し、それを高くつんで、大きな鍋の中で、火をつけてもやす、其上には幣が切つてぶら下つてゐる。杉山を始め服部其他沢山の世話方は、お鍋で作つた火鉢のぐるりから、祝詞を一生懸命に称へる。火はポーポーと音を立ててもえる。アワヤ上に吊つた御幣に火が燃えつかうとすると、水の垂るやうな榊をポツとくべて火を防ぐ、又燃上らうとすると榊の葉をくべる、それでも火はだんだんと烈しくなつてくる。高島ふみ子は例の神憑りになり、羽織のあひからチヨロチヨロと赤い色の狐の尻尾を見せながら、御幣をふつて、烈しく燃え上がる火の中へ突き出し、上から吊つた御幣に延焼せむとするのを防ぎつつ、其幣を又もや信者の頭の上に左右左とふる。すみからすみまで、百四五十人の頭の上を一つ一つ御幣でしばいてまはる、護摩の火はだんだん高くなり、アワヤ吊り下たフサフサとした御幣に燃え移らうとする危険に迫ると、四五人の世話方が一割大きな声で、シヤクル様に祝詞を上げる、それを合図に高島ふみ子は榊の青葉に括りつけた御幣を、あわてて火と吊幣との間にグツとつき出し延焼を防ぐ其巧妙さ。喜楽は高島ふみ子の尻からチヨロチヨロ見えて居る狐の尻尾をグツと握ると、ふみ子は驚いて『シユーシユー』と云ひ乍ら芋虫を弄ふた様な体裁でプリンと尻を一方へふり、御幣をプイプイと振り廻し又向ふの方へ払ひもつて行く。斯の如くして祭典は無事に終了を告げた。服部爺サンの言つた狐の尾も万更ウソでない事を悟つた。可笑しいやら馬鹿らしいやら、俄に信仰がさめて了ひ、それから三十一年の二月、廿八歳になるまで、神様に手を合すのがいやになり、極端な無神論者になつて了つたのである。 祭典は無事に済んだ。杉山某から御馳走迄拵へて頼まれた演説も此尻尾を見てから何となく気乗がせず、折角拵へておいた腹案もどつかへ消えて了ひ、申し訳的に十分間程取とめもない、支離滅裂な演説をやつてのけた。それでも不思議な事には、杉山を始め世話方信者は手を叩いて、非常に感服してゐる様子であつた。何も訳の分らぬ婆嬶の迷信連に向つて、自分でさへも訳の分らぬ事を云つたのに、余り反対も受けず、却て拍手を以て迎へられたのは合点のいかぬ事であつた。訳の分らぬ人間に対しては、ヤツパリ分らぬ事を云ふて聞かすのが、よく耳に這入るものだなアと、自ら感心せざるを得なかつた。 祭典は無事に済み、お台サンのおふみサンの言ひ付けで馬路村の或る中川と云ふ信者から、子が無事に生れたお礼だと云つて、御供へした沢山の牡丹餅を百四五十人の信者に二つづつ配つて廻つた。そしておふみサンの言草が面白い。 ふみ『皆サン中川サンの奥サンは、御妊娠をなさつてから、十二ケ月になるのに、子が出ませぬので、此大神様にお参りになり、お伺ひ遊ばした所、此人は懐妊になつてから、牛の綱を跨げたから、其罰で牛の子が宿つたので、十二ケ月も腹に居らはつたのです。神様の御言葉では、此儘放つといたら牛の子が生れるに依つて、信仰をせよと仰有りました。それから中川サン御夫婦は二里もある所を代る代る御参拝になつて、とうとう立派な人間の男の子がお生れになつたので、今日はお祭を幸ひに、牡丹餅をお供へになつたので御座います。皆サンあやかつて下さいませ。神様は信心さへ強うすればどんな事でも聞いて下はります。どうぞ皆サンも疑はずに信心をして下さりませ、キツと広大な御利益が頂けますぞえ』 としたり顔に教服をつけたまま、上座に立つて喋り立て、次の間に這入つた。大勢の信者は手に頂いて、一口かぶつては妙な顔をし乍ら懐から紙を出して包み袂に入れる。誰もかれも厭相な顔をしてゐる。自分も二つ貰うたが、妙な香だと思うて割つて見ると牛糞が包んであつた。 大勢の中から、 『オイお台サン、コリヤ牛糞が交ぜつとりますぜ』 と叫ぶ者がある。さうするとあちらからも此方からも、 『あゝ臭かつた、エーエー』 と紙を使ふものも出来て来た。高島ふみ子サンは驚いて、上装束をぬぎ、狐の尾を細帯で括つたまま、取るのを忘れて、此場へ走り来り、 高島『皆サン勿体ない事を仰有るな。そんな物を神様にお供へしそうな事がありませぬ』 と云ふや否や、中川と云ふ男、三十二三歳の少し色の黒い、細長い顔をして、神壇の前に立ち、 中川『私は馬路村の中川某と云ふ者です。私の家内が妊娠をしてから月が満ちても出産せぬので、ここへ伺ひに来た所、ここの奴狐がぬかすには、牛の綱をまたげたから、牛の子が宿つて居るのだ、信心さへすれば人間の子に生れさしてやると、バカな事をぬかしやがる、人間さまを馬鹿にしやがるも程があると思うて居つたが、それでも出来て見ねば分らぬと思ひ、女房の代りに毎日参つて居りました。そした所、女子が出来るとぬかしたに拘らず、立派な男の子が生れました。そんな事の腹の中の事まで分る様な稲荷なら、牡丹餅の中へ牛糞を入れて供へたらキツト知つてるだらう、モシ知らぬやうな事なら山子婆の溝狸だと思うてをつたら、案の条、牛糞を神様の前に供へて拝んでをる可笑しさ。私は皆さまに食て下さいと云ふて牡丹餅を持つて来たのだないから、皆さま怒つて下さるな。ここの婆アが悪いのだ、アハヽヽ稲荷下の山子バヽ、尻でもくらへ、これから俺がそこら中、此次第をふれ歩いてやる』 と言ひ乍ら、一目散に飛出し帰つて行つた。これより旭日昇天の勢ひであつた、此教会も次第々々にさびれて、遂には維持が出来なくなり、京町の天神さまの境内へ移転して、僅かに命脈を保つて、明治四十五年頃まで継続して居たのであつた。 (大正一一・一〇・一〇旧八・二〇松村真澄録) |