🏠 トップページへ

📖 キーワード検索

番号
(No.)
書籍 内容
161

(2627)
霊界物語 54_巳_ビクの国の物語2(後継者問題) 余白歌 余白歌 天恩郷の花 経綸の花の香匂ふ春は来ぬ燃ゆる陽炎殊にうるはし〈序文(初版)〉 新しき御代の開くる心地していそしみ仕ふわが身嬉しも〈総説(初版)〉 万代をことほぎ奉る亀山の下津岩根に立つる礎〈総説(初版)〉 梓弓春立ち初めて信徒の心の園に白梅かをる〈総説(初版)〉 遠寺の鐘の響きも何処となく淋しく聞えぬ天恩の郷〈総説(初版)〉 古の大英雄の住みしてふ城跡に千代の礎固む〈総説(初版)〉 戦ひの激しき暗の世の中の光とならむ三五の月〈総説(初版)〉 言さやぐ醜のものしり多き世にかくれて説かむ救世の御教 (大正十四年二月、於亀岡万寿苑)〈総説(初版)〉 草の葉の露に等しき醜の世は月光にさへ恐れをののく〈第2章(初版)〉 朝日影草葉の露に照り初めてもろくも散らむ高山の雲〈第5章(初版)〉 常世往く暗世を照らす月光を蔽はむとする高山の雲〈第6章(初版)〉 久方の大空わたる三五の月の姿を世人さげしむ〈第6章(初版)〉 風荒び雨しきりなる今の世に雷なくば如何で晴れなむ〈第6章(初版)〉 濁流を逆しまに妨ぐ手力男神の出でずば御世はとこやみ〈第6章(初版)〉 天地を吾ものとして楽しめば心の園に常永の花咲く〈第6章(初版)〉 神の国聖界霊語読みながらあつき一日を今日も送りつ〈第8章(初版)〉 根の国や底の国をば幾度も探険したる吾面白きかな〈第8章(初版)〉 衣は裂け手足は霜に破れつつ御用いそしむ尊き献労〈第8章(初版)〉 身も魂も捧げて高天の聖場を守るは神子のつとめなりけり〈第9章(初版)〉 からやまと月の国まで言霊の光を放つ三五の月〈第11章(初版)〉 天地に唯一つなる神苑に千年の松の一本茂れる〈第11章(初版)〉 蒙古野に一度隠れし月影の再び空にかがやく御代かも〈第11章(初版)〉 花もかをれ蝶も来て舞へと朝夕に望み抱へて待つ人のあり〈第12章(初版)〉 日の国の御空を包む黒雲も何時かは晴れなむ神の稜威に〈第12章(初版)〉 言さやぐ君が御代こそ忌々しけれ山川海の神もなげきて〈第12章(初版)〉 功験録 世以七年人示盛衰果人胆以三年世示進退 世与人関係五年之後心然興新陳代謝要求 諺日十年星霜是一昔有祥慶有変遷有後悔〈第14章(初版)〉 空顕録 大正辛酉九月八日晨沐浴斎戒待神命降下 弥勒神聖忽感応来格宣日爾速説苦集滅道 可開示道法礼節本義瑞月謹発表霊界真相 ○ 文芸講談其他諸雑誌日夜耽読反覆養神気 惜哉其程度為極低級不適進取的男子趣味 回首覩神諭霊界聖語光照赫燿有照暗夜思〈第14章(初版)〉 惟神教かしこみ進み行く誠の道に障る曲なし〈第15章(初版)〉 今は只神の心にまかすのみ人の心の儘にならねば〈第15章(初版)〉 天の下四方の国々和め行く吾が玉の緒の在らむ限りは〈第17章(初版)〉 櫟原きり開きつつ常磐木の千年の小松植ゑて楽しむ〈第18章(初版)〉 限りなき希望に充ちて天恩の郷に静かに時臻る待つ〈第18章(初版)〉 天の下四方の国々乱れ行く様をながめて立つ人もあり〈第20章(初版)〉 地獄にも堕す術なき曲人の醜の叫びの耳を打つかも〈第20章(初版)〉 もろこしも西洋も大和も押並べて靡き伏しなむ神の御旗に〈第21章(初版)〉 何となく心急ぎぬ天地の神の御業に尽す吾が身は〈第21章(初版)〉 ある時は死なましくおもひ或時は活きむと思ふ救世のために〈第21章(初版)〉 天恩郷 幗松森々茂満山神苑清浄無俗塵 祝詞言霊洗乾坤月高風薫亀城跡。 巨石掘出亀城跡献労集来悉信徒 高壁堅三五道場青松繁茂天恩郷。 千歳青松鶴来遊万寿苑内充瑞気 億兆慕集天恩郷神教宣伝大道場。 蒙古帰来無寧日神務多端百事忙 得小閑遊万寿苑畳巨石築天恩城。 乙丑如月九日朝当陽暦三月三天 三時三十三分開鶏鳴明美交子領。〈巻末(初版)〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました]
162

(2628)
霊界物語 55_午_ビクの国の物語3(玉木の里) 序文 序文 (明)けく治まる御代の三十一年春は如月の九日天教山に鎮座したまふ木花姫命の神使斯世を (治)めむと神々の協議の結果をもたらし坐丹波の国曽我部の村に牛飼ふ牧童の辛未の年生れ (三)ツの御魂に因縁ある三葉彦命の再生なる神柱に三千世界の修理固成の神業の先駆を命じ (十)字架を負はしめたまひしより今年大正の十二年正月十八日まで満二十五年間出口王仁は (一)心不乱に神国成就のために舎身的活動を続けて宇宙万有一切の為に心身を焦がし奉り十 (年)一日の如く三千世界の諸天人民に至上の心を持せしめ神の御国に安住せしめむと妙法真 (如)の光明を顕彰し暗黒社会を照破すべく変性男子の精霊と倶に綾の聖場地の高天原に現れ (月)光菩薩の神業に心事し家を捨て欲を棄てて神の僕となり微妙真心を発こし一向に我神国 (九)山八海の諸神を念願し諸の功徳を修して高天原に万人を救はむことを希ふ大国常立大神 (日)の大神月の大神は神を愛し神を理解し信真の徳に充たされたる者を天界に救ふべく最と (高)き神人を率ゐて霊肉脱離の際に来迎し直ちに宝座の前に導きて七宝の花の台に成道し虎 (熊)狼などの悪獣をも恐れざる不退転の地位に住して智慧勇猛神通自在ならしめ玉ふ噫天教 (山)に現はれたまふ木花姫の無上の神心に神習ひ大功徳を修行して顕幽両界の神柱となり人 (の)人たる本分を尽さしめ玉ふ伊都の御魂の大御心の有難さ瑞月は多年の間千難万苦を排し (修)行の効を了え漸く神界より赦されて爰に謹み畏こみ三世一貫の物語を口述するを得たり (行)して神使となること能はずとも当に無上の神心を発し一向に天地の大祖神を祈願し真心 (よ)り可成的善行を修して斎戒を奉持し神の聖社を建立するの一端に仕え神使に飲食を心よ (り)供養し神号輻を祀り灯火を献じ祝詞を奏上し神の御前に拝跪せば天界に生れしめ玉はむ (今)生は云ふも更なり来世に到りて智慧証覚を全ふし愛善の徳に住して身に光明を放射し兆 (年)の久しき第二の天国に安住し得べし又十方世界の諸天人民にして至心ありて天国浄土に (大)往生を遂げむと欲するものは譬え諸の功徳を成す能はずと雖も常にこの物語を信じ無上 (正)覚を得て一向に厳瑞二神を一意専念せば神徳いつとなく身に具足して現幽両界共に完全 (十)足の生涯を楽み送ることを得べしこの深遠なる教理を真解して歓喜し信楽して疑惑せず (二)心を断ち一向に神教と神助を信じ至誠一貫以て天国に復活せむ事を願ふ時は臨終に際し (正)に夢の如くに厳瑞二神即ち日月の神を見たてまつりて至美至楽の第三天国に復活すべし (月)神の信真によりて智慧証覚の光明を受くること第二即ち中間天国の天人の如くなるべし (十)方世界の無量無辺不可思議の聖徳を具有する諸神諸仏如来宣伝天使は大国常立大神の徳 (八)荒に輝き給ふを称讃して其の出現聖場たる蓮華台上に集り給ひ無量無数の菩薩や衆生は (日)月の光を仰ぎ奉りてここに往詣して洪大無辺の神徳に浴し克く恭敬礼拝し供物を献じた (ま)ひて神慮を慰め且つ五六七神政の胎蔵経たる経緯の神諭と聖なる霊界物語を歓喜聴受し (て)顕幽二界の消息に通じ天下の蒼生に至上の神理を宣布し東西南北四維上下を光輝し月光 (満)ちて一切の神人各自に天界の妙華と宝香と無価の神衣とを以て無量の証覚を供養し顕幽 (二)大世界は咸然として天楽を奏し和雅の音を暢発し最勝最妙と大神柱を謳歎し神徳を覚り (十)方無碍の神通力と智慧とを究達して深法界の門に遊入し功徳蔵を具足して妙智等倫無く (五)逆消滅して慧日世間を照らし生死の雲を消除し給ふべし嗚呼惟神の霊光天に輝く月と日 (星)の如くにして荘厳清浄の天国を現じたまふ霊主体従の至上心を発揮し神に奉仕する時は (霜)雪の寒気も忽ち変じて春陽の生気と化し三界一時に容を動かして欣笑の声を発し無限光 (を)出して十方世界を照らさせ玉ふ霊光を以て身を囲繞せしめ円相を具し天人と倶に踊躍し (経)緯の神人に由つて大歓喜の心境に遊入すべし若し人にして善徳なき時は此の神啓の神書 (た)るを覚らず且つ理解し得ざるべし清浄無垢にして小児の如き心境に在る者にして根本よ (り)其真実味を聞くことを獲べし驕慢と悪しき弊と懈怠とは容易く神示に成り就たる是の (霊)語神声を信ずる事能はざるべし心身清浄にして能く神を信じ克く神に仕え神を愛し精霊 (界)の諸消息を探知したるものは歓喜雀躍してこの神言霊教を聴聞し聖心を極めて一切の事 (物)を開導するに至るべし神界の主神たる大国常立大神の愛善の徳と信真の光明は弥広く言 (語)の尽し得る所にあらず二乗の測知し得る限りにあらず只大神自身のみ独り明瞭にこの間 (の)経緯真相を知悉したまふ而已たとへ一切の人にして智慧証覚を具備して道を悟りこれを (口)に手に現はさむと欲するも又本空の真理を知り万億劫の神智を有する共到底これを口に (述)ぶること能はざる可し神の智慧と証覚には辺際なく絶対なりアア愚眛頑固なる人間智を (開)きて最奥第一の天界は云ふも更なりせめて第三の下層天界の消息を覚らしめ無限絶対無 (始)無終の神徳に浴せしめむとする吾人の苦衷何時の世にかこの目的を達し得むや口述開始 (よ)り既に十五ケ月未だ神諭に目覚めたる人士の極めて少数にして偶々信ずる者あるも元よ (り)上根の人にあらざれば僅かにその門口に達したる迄の状態にありアア如何にせむ神将三 (十)三相を具備し玉へる観世音菩薩最勝妙如来の道化の妙法瑞の御魂の千変万化の大活動三 (五)教の大本五六七の仁慈に浴して各自にその智慧を充たせ深く神諭の深奥に分け入りて箇 (箇)の神性を照し神理の妙要を究暢し神通無礙の境地に入りて諸根を明利ならしめたまへと (月)光如来の聖前に拝跪して鈍根劣機の男女をして神意を識らしめ五濁悪世に生じて常に執 (着)の妖雲に包まれ苦しめる蒼生をして清く正しく理解するの神力を与え金剛法身を清め両 (手)に日月の光を握らせ玉え鈍根劣機痴愚の生涯を送りつつある神の僕の瑞月が謹み畏こみ (日)に夜に真心を捧げて天下万民のために大前に祈願し奉る三五教の聖場五六七の大神殿に (数)多の聖教徒日夜に参集して道教を宣伝し妙法を演暢したまふ神使の言に歓喜し心解し得 (は)四方より自然に神風起りて普く松柏の宝樹を吹き鳴らし五大父音の神声を出して天下無 (二)の妙華を降らし風に随つて宇内を周遍し天の岩戸開きの神業は易々として天地主宰神八 (百)万の神と倶に宇都の神業は大成され神示の許になれる是の神書霊界物語を著はしたる連 (日)の辛苦も稍々その光明を輝かし得るに至る可し大聖五六七の神霊地上に降臨して宇宙間 (に)羅列棊布せる一切万有を済度し玉ふその仁慈は大海の如く慧光また明浄にして日月の如 (し)清白の神法具足して円満豊備せること天教山の如く諸の神徳を照らし玉ふこと等一にし (て)浄きこと大地の如し浄穢好悪等の異心なきが故に猶ほ清浄なる泉の如く塵労もろもろの (五)逆十悪を洗除し玉ふが故に猶ほ火王の如く一切煩悩の薪を焼滅し玉ふこと猶大風の如く (十)方世界を行くに障礙なきが故に猶ほ虚空の如く一切の有に於て執着無きが故に蓮の如く (五)濁の汚染なく真に月の皎々として蒼天に輝くが如し之れ月の大神の真相にして霊界物語 (編)述する時の吾人の心境なりアア何時迄も志勇精進にして心神退弱せず世の灯明となり暗 (を)照らし常に導師となりて愛善の徳に住し正しきに処して万民を安んじ三垢の障りを滅し (終)身三界のために大活躍せしめ玉ひて口述者を始め筆録者の真心を永遠に輝かし玉へと祈 (る)も嬉し五十五編の霊界物語茲に慎み畏み神助天祐の厚きを感謝し奉るアア惟神霊幸坐世 大正十二年三月五日旧正月十八日
163

(2629)
霊界物語 55_午_ビクの国の物語3(玉木の里) 総説歌 総説歌 待ちに待つたる三月三日三ツの御魂の開け口 大く正しき正月の中の六日の朝日影 東の空を彩りて書斎の窓を射照らしつ 奇しき尊き神ツ代の顕幽神の物語 守らせたまふ神の家言霊車の軋る音 只一言も漏らさじと息をこらして松村加藤 いよいよ五十と五の坂をスタスタ登り北村の 隆く光れる日の本の国の真秀良場畳並はる 青垣山に包まれし綾の聖地の竜宮館 四ツ尾の霊山桶伏の山を左右に眺めつつ 写すも嬉し印度の国ハルナの都に蟠まる 八岐大蛇の悪霊を神の稜威に守られて 言向和はす三五の神の教の宣伝使 治国別の亀彦が常磐の松の心より 五六七の御代を松彦や教を四方に竜彦の 珍の司の波斯の国猪倉山に割拠せる 婆羅門教の宣伝使軍の司を兼ね居たる 鬼春別や久米彦の醜のゼネラル始とし スパール、エミシのカーネルを神の誠の言霊に 助けて玉置の村司テームス首陀の愛娘 二人を救ひ救援に向ひて敵に捕はれし 道晴別やシーナまで救ひ出して立ち帰り 万公の徒弟にスガール姫配し姉のスミエルを シーナの妻と定めつつ茲に目出度結婚の 儀式をすませ一同に神の教を克く諭し 松彦竜彦従えて神のまにまに月の国 ハルナを差して進み行く後に残りしバラモンの マーシャル鬼春別司久米彦スパール、エミシ等が 悔悟の念に堪えかねて髪を剃して比丘となり ビクトル山の谷間に庵を結び三五の 珍の教に真心を捧げて清く仕えたる 尊き神代の物語述べ始めたる今日こそは 心楽もしき春の空四方の山辺も雪解けて 和知の流れも滔々と水量増るみづ御魂 心を洗ふ如くなりああ惟神々々 御魂幸倍ましませよ。 大正十二年三月三日旧正月十六日
164

(2632)
霊界物語 55_午_ビクの国の物語3(玉木の里) 03 万民 第三章万民〔一四一一〕 鬼将軍と世の人に恐れられたるバラモンの 鬼春別は漸くに心に悔悟の花開き 前非を悔いて大神の尊き恵を覚りつつ 瑞の御霊の神徳は汲めども尽きぬ久米彦が スパール、エミシと諸共に心の空も治国別の 神の命の御教に帰順しまつり常磐木の 動かぬ心の松彦や醜の岩窟を竜彦の 司と共に阪道をスタスタ帰る神司 道晴別やシーナをば背に負ぶつて許々多久の 罪や穢れの贖と川の流れもスミエルの 谷間を渉り大神に誠を捧げてスガール姫 万公司に送られて屠所の羊のトボトボと 悄気返りたる足許も漸く茲に玉木村 テームス館の門前に月照る空の夕間暮れ 首を傾け汗流し息もせきせき帰り着く。 万公は表に立ち止まり大音声を張り上げて 万公『玉木の村のテームスよそれに仕ふる僕等 一時も早く凱旋の宣伝将軍迎へ入れ 歓喜の涙に浴すべしそも吾々は三五の 神の教の宣伝使治国別の一の弟子 万公別の命ぞや猪倉山に立籠もる バラモン軍のゼネラルと羽振り利かした大将を 箒木で蝶を叩く様にいと容易と生捕つて 芽出度く凱旋なしにけりくめども尽きぬ久米彦の 悪業多き身魂をば尊き神の御恵に 谷の流れに洗はれて今は誠の人となり スツパリもとの生身魂スパール、エミシのカーネルが 万公別のお伴して二人の姫を送りつつ 此処にお詫を致さむといと殊勝にも来りけり 治国別の宣伝使松彦、竜彦諸共に 尊き司にましませど万公別が居らなけりや 如何しても斯うしても此戦これ程うまく行きはせぬ 喜び玉へテームスよベリシナ姫のお婆アさま 早く此門開けなされ吾師の君を何時迄も これ程蚊の喰ふ門の前立たせて置くは失礼ぢや 万公別もちと困る開けよ開け表門 常夜の暗も一時に明け放れたる岩戸口 歌舞音楽を調へて吾等一行の英雄を 早く歓迎致すべしああ惟神々々 神に代りて万公別館の主に気をつける』 と歌ひ乍ら門の戸が割れる程殴つて居る。門番の乙丙は万公の歌を聞いて胸を轟かせ、バラモン教の悪神が、又もや、あんな事を云つて門を開かせ倉につないで置いた両人を奪還しに来たのではあるまいかと案じ案じ奥の間に駆け込んで、テームスの前に……数多の人々が門外へ押寄せ来たれり……、と報告した。テームスは……物騒な世の中油断はならぬ……と身仕度をなし槍を小脇に抱へ乍ら、兎も角様子を窺はむと密かに門口に立現はれ、門の戸に隔てられて一行の姿は見えねども……何だか娘の帰つた様な気配がする、治国別様が娘を助けて帰つて下さつたのではあるまいか。但しは敵に捕らはれ玉ひ悲惨な憂目に会はせ玉うたのではなからうか。敵は勢に乗じて吾館を打滅さむと押寄せ来りしには非ずや……と、とつおいつ思案に暮れて暫し佇み考へてゐる。 シーナは傷だらけの頭をふり乍ら、苦しさうな声で、 シーナ『旦那様、シーナで厶ります。治国別様のお助けによつてお嬢さまと共に無事に皈りました。何卒此門開けて下さいませ』 と呶鳴つて見たが、どうしても厚い門扉に隔てられて中へは聞えなかつた。万公はもどかしがり大声にて、 万公『吾こそは、三五教の宣伝使治国別の片腕と仕へまつる、天下無双の英雄豪傑、万公別命で厶る。館の主テームス殿、一時も早く表門を開かれよ。某の申す言葉に間違は厶らぬ』 と呶鳴り立てた。テームスは万公の声を聞いてヤツと安心し、急ぎ門扉を開き、半信半疑乍らよくよく見れば月夜の事とて、ハツキリは分らねど、どうやら、シーナを始め二人の娘が背に負はれて皈つて来た様子に思はず知らず門外へ走り出でた。シーナは背中から、 シーナ『もし旦那様、お蔭で助けて頂きました。御安心下さいませ』 と云ふ声に、テームスは驚喜し乍ら、 テームス『やア皆様、御苦労で厶りました。さア何卒奥へお這入り下さいませ。まあまあ治国別様、よう娘をあの峻い阪を負うて帰つて来て下さいました。嘸お疲れで厶りませう』 と嬉し涙と共に感謝する。治国別は一同の先に立つて門内に入る。十二人はテームスの後に従ひ僕に灯火を以て案内され、奥の広き一間に進み入る。 テームス、ベリシナの夫婦は余りの嬉しさに、下女や下男に命じ、座敷を掃いたり座布団を出したり、煙草盆を並べなどしてキリキリ舞ひをしてゐる。 万公『テームス殿、必ずお構ひ下さいますな。まア御緩りなさいませ。吾々が勝手にそこらを片づけて休息させて頂きます。もう斯うなれば親子も同然ですから……』 と早くも養子になつた気分に馴々しく云ひ出した。 テームス『ハイ、貴方様は命の親で厶ります。御礼は何う申してよいやら分りませぬ』 万公『いや舅殿、若いものが控えて居りますれば、貴方は御老体、何卒緩りとなさいませ。併し乍ら道晴別、シーナ、スミエル様を始めスガールが深い陥穽に堕され余程体を痛めて居りますから何卒寝床を拵へてやり度いものです。夜具や蚊帳の用意をせねばなりませぬが、何分私はホヤホヤで今来た所ですから家の勝手は分りませぬから一寸教へて下さいませ』 テームス『ハイ、勿体ない。左様な事を貴方にさせて済みますか。何卒御緩りして下さいませ』 万公『舅殿、そりや何を仰有る。若いものが働かいで誰が働くものですか。治国別、松彦、竜彦の宣伝使には私が名代として十分にお礼を申して置きます。おい春チヤン、久米チヤン、スーチヤン、エーチヤン、病人を……いや負傷者を早く卸して下さい。お前さまも御苦労でした。こんな時や図体の大きい奴は重宝なものだな』 四人は下女の案内によつて負傷者を一室に連れ行き夜具を敷いて其上にソツと寝かせ、下女に介抱を頼みおき、もとの居間へ帰つて来た。治国別は松彦、竜彦と共に離れの間に下女に案内され、一先づ息を休め、大神に感謝の祝詞を奏上し、終つて茶菓を喫し息を休めてゐた。鬼春別、久米彦、スパール、エミシ、万公は、奥の一室にグツタリとして足を伸ばせ自分按摩を頻りにやつてゐる。四人は況して重い人間を背負つて来たのだから、足も疲れ体も弱り、縄の様になつて腕枕に横たはつて居る。 テームス、ベリシナの夫婦は娘の帰つた嬉しさに治国別に礼云ふ事も忘れ、室内をウロウロし乍ら四人の負傷者が寝て居る居間へ駆け込み、ベリシナは二人の娘の介抱にかかり、テームスは道晴別、シーナの枕許に坐つて体を擦り労つて居る。何れも深い穴へ吊り下ろされ体を何処ともなく痛めて思ふやうに動かないのを、やつと安心したので気も緩みグツタリとなつて、物をも云はずベツドの上で苦しげな息を吐いて居る。両親は能ふ限りの親切を尽して介抱に余念なく、治国別の事を殆ど忘れて居た。万公は老夫婦が娘二人と道晴別、シーナを何処かへ連れて行つたきり、顔をも出さぬのでチツとばかり癪に触つたと見え、大きな声でそこらにウロウロしてゐる下女を捉まへ、『茶を汲め、足を揉め、何を愚図々々してゐるか』と早くも若主人気取になつて呶鳴りまはして居る。 万公『肝腎の娘番頭を助けられ テームス老爺礼さへ云はず。 愛し娘の帰りたるより狼狽へて 俺やお客を忘れよつたか。 万公はスガール姫の主人公 神が許した仲と知らぬか。 僕共早く主人を呼んで来て 吾師の君に愛相せぬかい。 此様な大きな家に住み乍ら 何故俺等を馬鹿にするのか』 下女『テームスの主人の君は姉妹の 姿眺めて狼狽へ玉ひぬ。 今少時し待たせ玉へよ神司 水の出鼻は詮術もなし』 万公『それだとて義理人情は知るだらう 救ひの神を袖にするのか』 下女『私はお民と申す賤女よ そんなむつかしい事は知らない。 三四日前に出て来た下女なれば、 宅の様子が分りませうか。 その様な駄々を捏ねずに今晩は おとなしうして寝み遊ばせ。 姫様が千騎一騎の苦しみを 如何して親が見捨てられよか。 テームスの主人の君は愛し娘に 心悩ませ煩ひ玉ふ。 お前さま屈強な身をば持ち乍ら チツとハキハキ働きなされ。 俺だとて之程広い家中を 手の廻りさうな事がないぞえ。 緩りと今夜は此処に落着いて 夜が明けたなら噪ぎなされ』 万公『こりやお民女の癖に益良夫を 嘲弄致すか迂愚者奴が』 お民『此家に来ると匆々若主人 気取りて厶る人の可笑しき。 心よきお嬢さまだと云つたとて お好き遊ばす筈はないぞや。 何故なればお前の姿は阿呆面 顔の紐まで解けてる故』 万公『賤女の癖にべらべらたたく奴 腮外さうか神の力で』 万公は斯んな下女に相手になつて居つてもつまらない、兎も角主人を引張り出し、吾師の君に挨拶をさせなくちや済まないと、お民を案内させて、四人の寝て居る居間に進み行く。見れば夫婦は四人の負傷者を交る代る親切に介抱してゐる。 万公『やア御主人、介抱は私が引受けてやります。何卒吾師の君御一行にお礼の御挨拶に御入来下さいませ。彼処に待つて居られますから』 テームス『ハイ、有難う厶ります。あまり嬉しいのと、娘の介抱に気をとられ、肝腎の命の親様に一言の御礼を申すのも忘れてゐました』 ベリシナ『誠に済まない事で厶りました。そんなら老爺どの、あなた、済まないけれど治国別様御一行に、取敢ずお礼を云つて来て下さい。私はここで介抱して居りますから』 テームスは肯き乍ら、慌ただしく廊下を渡つて治国別の居間に進み行く。万公は一生懸命にスガールの横顔を覗き乍ら、道晴別、シーナの介抱を甲斐々々しくやつて居た。 (大正一二・二・二六旧一・一一於竜宮館北村隆光録)
165

(2639)
霊界物語 55_午_ビクの国の物語3(玉木の里) 10 鬼涙 第一〇章鬼涙〔一四一八〕 アーシスは治国別の歌に対し、自分とお民との結婚を承諾したりとの意を歌を以て答へたりける。其歌、 アーシス『科戸の風もフサの国猪倉山の山麓に 群がり立てる玉置郷テームス館に使はれて 朝な夕なに家政をば統轄したるアーシスは 賤しき首陀の胤ならず由緒も深きビクの国 左守の司のキユービツトが其落胤と聞えたる 此世を忍ぶ独身者治国別の宣伝使 神の御言を蒙りてビクの国をば知召す 刹帝利様や左守司父の危難を救ひまし 神の宮居を建て玉ひ又もや此処に現はれて スミエル嬢やスガール嬢道晴別やシーナ迄 救はせ玉ひし有難さ旭は照る共曇る共 月は盈つ共虧くる共星は空より墜つるとも テームス一家を救はれし此高恩は何時の世か 忘るる事のあるべきぞ賤しき下女と住み込みし お民の方の系統も矢張りビクの国生れ 左守司の家系より秀れて高き人の子と 生れ出でたる珍の御子チヌの里なる卓助が 里子となりて世を送る果敢なき身にも荒風の 吹き荒び来て両親は最早あの世の人となり よるべ渚の捨小舟彼方此方と彷徨ひて 艱みの果ては今茲にテームス館の下女と迄 なり下りたる痛ましさお民の素性を知るものは アーシス一人を除いては今迄誰もあらざりし かくも尊き人の子と生れましたるお民さま 如何なる神の取持か吾れと妹背の契をば 結ばせ玉ふ事となり首陀の館で合衾の いよいよ式を挙げむとは思ひもよらぬ二人仲 ああ惟神々々イドムの神が現はれて 治国別に懸りまし吾等が素性を委曲に 明かさせ玉ひし尊さよさはさり乍ら吾々は 世に捨てられし日蔭者二人の父は坐しませど 名乗らむ術もなくばかり歎ち暮した苦しさも 今は漸く薄らぎて暁告ぐる鳥の声 旭間近き心地せりああ惟神々々 皇大神や治国の別の司の御前に 畏み畏み真心を捧げて感謝し奉る』 お民は歌ふ。 お民『神の恵も足乳根の父と母とはあり乍ら 浮き世の雲に隔てられ名乗もならぬ身の因果 雲井に高き刹帝利ビクトリヤ王の珍の子と 生れ出でたる吾身なれ共后の宮の御憤り いと烈しくましましければ母の皐月と諸共に フサの御国の山野里チヌの村なる卓助が 館に母子預けられ悲しき浮世を送りしも 月に村雲花には嵐吹き荒ぶなる世の中の ためしに漏れず養ひの父は此世を早く去り 母と妾は味気なき月日を山の畔に送る折しも バラモン教の軍人夜陰に乗じて入り来り 雨戸を蹴立てて踊り入り妾と母を取り違へ 凱あげて連れ帰りしが老いさらばひし母上と 知るよりも情を知らぬ悪神は 悔しや恋しき母上を野中の井戸へ蹴落として 玉の緒の命を奪ひし恨めしさ妾は後に残されて 彼方の家に三日四日永きは五日と彷徨ひつ どこの家でも追ひ出され漸々ここにテームスの 主人の君に助けられ水仕奉公を励む折 天の八重雲かき分けて降りましたる神の教の司たち 主人の家の愛娘スミエル姫やスガール姫を 救ひやらむと雄健びし魔神のたけぶ猪倉山を駆け登り 出で行きませし其後に妾は両手を合しつつ 凱あげて帰ります生日の吉き日を待つ折もあれ 軍の君を引率れて四人の人を助けつつ 帰らせ玉ひし嬉しさよ神の司の其中で 恋に心を焦したる万公別の神司 神の仕組か知らね共忽ち主人となりすまし 上から下まで気を付けて竃の下や鍋の蓋 彼方此方の拭掃除火を焚くわざ迄懇に 教へ玉ひし有難さうるさい事はなけれ共 何だか知らぬがゴテゴテと言はるる度に気が立ちて 遂には思はぬ灰神楽どこも彼処も泥の海 足踏む場所もなき迄に汚れたるこそ是非なけれ 折角心を尽し身を尽し漸く煮えた飯さへも 喉を通らぬ灰まぶれハツと顔をば赤らめて 胸を痛むる折もあれアヅモス司現はれて 又いろいろと御教訓虫の居所悪かりしか フエル奴と謀らひて栄螺の如き拳を固め 所かまはず打ち据ゑ嘖み居たる折もあれ アーシス司は忽ちに此場に現はれ来りまし 荒れ狂ひゐたる両人を手もなくグツと押へつけ 救ひ玉ひし有難さ情は人の為ならずと 世の諺も目のあたり夫れより妾はアーシスの 司を尊み敬ひて世が世であらば吾夫と 仕へむものと村肝の胸をば焦がす折もあれ 今日は嬉しき三五の神の司の治国別が 尊き聖き勅り妹背の道を契れよと 教へ玉ひし言の葉を慎み畏み諾ひて いとしき司のアーシスと茲に目出たく婚姻の 儀式を結ぶ事の由確に諾ひ奉る ああ惟神々々上は大国治立の大神を始めとし 縁を結びの神柱金勝要の大御神 イドムの神と現れませる神素盞嗚の大神の 貴の恵を慎みて感謝の詞奉る ああ惟神々々御霊の恩頼を賜へかし』 鬼春別は一杯機嫌になつて、今迄遠慮してゐた心が稍太くなつたと見え、銅羅声を張上げて歌ひ始めたり。 鬼春別『吾れは大国彦の神大国別に仕へたる バラモン教の大棟梁大黒主の部下となり 三五教の本陣と世に聞えたる斎苑館 只一戦に屠らむと数多の軍兵引率し 山野を渡り谷川を越えて漸く枯尾花 茂り合ひたる浮木の里に広き陣屋を造りつつ 久米彦片彦将軍を先鋒に立てて戦況を 窺ひゐたる折もあれ治国別の神司 厳の御水火に打出す其言霊に肝打たれ 脆くも破れ逃げ帰る其浅ましき態を見て とても叶はぬ此戦進みもならず退きも ならぬ苦しき破目となり三千余騎を従へて 浮木の陣屋を立ち別れライオン河を横切りて 古き尊きビクの国ビクトル山の麓にて 又も陣屋を構へつつ軍を進むる折もあれ 魔性の女に欺かれ遠く逃げ行く大原野 シメジ峠を乗越えて猪倉山の岩窟に 城を構へて遠近の国を従へ靡かせつ バラモン国を建設し一旗挙げむと思ふ折 心の曲に誘はれてテームス館の二人の娘を 家来の者に言ひつけて攫ひ帰らせいろいろと 脅しつすかしつ掛合へど気丈の女どこ迄も 操汚さぬけなげさに舌を巻きつつ久米彦は 執念深くも吾物となさむとあせり一室に しまひおきたる時もあれ道晴別の神司 シーナを従へ出で来り言霊車押出せば 流石の勇士も驚いて右往左往に散乱し 周章狼狽其果ては一先づ四人を岩窟の 千尋の底に投げ堕し言ふにいはれぬ無礼をば 加へし事の恥かしさ治国別の一行に またも攻められ吾々は執着心の夢も醒め 三千余騎の兵士を瞬く内に解散し 四人の真人を送りつつ漸く此処に来て見れば 豈計らむやフエル、ベツトの両人が御庫の中に押込まれ 苦みゐたるぞ不思議なれ悪虐無道の将軍も 神の光に照されて今は誠の人となり 此家に仇せし身乍らも治国別の御影にて 目出たき今日の宴席に恥を忍びて列るも 縁の糸のどこ迄も結ぼれゐたる為ならむ ああ惟神々々直日に見直し聞直し 宣り直されてテームスよベリシナ姫よ二人の姫御子 汝に加へし嘖みの罪を赦させ玉へかし 旭はてる共曇るとも月は盈つとも虧くる共 一旦神に目醒めたる鬼春別はどこ迄も 誠の為に身を尽し世人を救ふ真心に 復りてテームス夫婦が身の幸を朝な夕なに祈るべし 赦させ玉へ惟神神に誓ひて詫びまつる』 と歌ひ了り、一同に向つて恭しく感謝した。されど疑深きテームス夫婦は、鬼春別が心の底よりの悔悟も謝罪も信ずる事が出来なかつた。それ故夫婦は此歌に対しても、一言の答さへせなかつた。此外久米彦、スパール、エミシなどの歌も沢山あれ共、余り長ければ是れにて言霊車を停止する。ああ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・三・三旧一・一六於竜宮館松村真澄録)
166

(2649)
霊界物語 55_午_ビクの国の物語3(玉木の里) 20 万面 第二〇章万面〔一四二八〕 ビクトリヤ城の評議室にはタルマンを初め左守司のキユービツト、ハルナ、右守司のエクスが首を鳩めて秘々相談会を始めてゐる。 左守『タルマン殿、寸善尺魔の世の中と申してバラモン軍が退却致し、やれ一安心と思ふ間もなく再び右守司のベルツ、シエールが叛逆軍に取囲まれ、国家已に危き所、尊き三五教の宣伝使一行に助けられ、これにてビクの国家も刹帝利家も大磐石と思ふ折、六人の王子女が帰られて益々万代不易と喜んで居つた所、此度の刹帝利様の俄の御病気、その上ダイヤ姫様が又もやお行衛が分らなくなり再び城内は黒雲に包まれたも同然、貴方は日夜玉の宮に専仕される以上は、此御病気の原因や姫様の御行衛がお分りで厶いませう。一つ御意見を聞かして頂き度いものですな』 タルマン『何分にも神徳の足らぬ拙者の事なれば、ハツキリした事は申上げ兼ねますが、刹帝利様の御病気は生霊の祟りと存じます』 左守『何、生霊とは何者の怨霊で厶るかな』 タルマン『察する所、前右守司のベルツ、シエールが怨霊と察します。拙者が神殿に於て祈願の最中、煙の如く両人が現はれ鬼の様な顔をして刹帝利様を睨めつけて居りました。屹度彼奴の生霊に間違厶いますまい』 左守『して、その両人の所在は分つて居りますかな』 タルマン『ハイ、何処だかハツキリは分りませぬが、拙者の霊眼に映じた所によれば、沢山な魔神に誑惑され、深山の谿谷に分け入り大瀑布にうたれて刹帝利様を呪詛の荒行を致して居る様で厶います』 左守『その地名は分りませぬか。地名が分らねば、せめて此城内から何方に当ると云ふ方角位は分るでせうな。さうして姫様の行衛はまだ見当がつきませぬか』 タルマン『ハイ、何でも姫様もその滝へソツと刹帝利様の御病気を癒さむため荒行においでになつた所、ベルツ、シエールの両人が左右より姫様を打殺さむと大刀を揮つて攻めかけてゐる。姫様は大木の幹を楯にとり飛鳥の如く防ぎ戦うてゐなさる場面が霊眼に映じました。併し乍ら地名と方角はまだ分りませぬ。ああ斯ふ云ふ時に治国別様か、お弟子の一人でも居て下さつたらハツキリ分るであらうに、……ああ惟神霊幸倍坐世。心の曇りたるタルマンに、何卒々々霊眼を開かせ下さいまして、ハツキリした事をお知らせ下さいます様、三五の大神様、慎み畏みお願ひ申します』 と両手を合せて祈願して居る。然し如何しても地名や方角はタルマンの霊力では感知する事が出来なかつた。 左守『はて、困つた事だ。如何したら王様の御病気が全快致し、姫様が無事にお帰り下さるであらう』 ハルナ『皆様、これから吾々一同が玉の宮へ参拝致し、兎も角無事で姫様がお帰りになる様、刹帝利様の御全快遊ばす様、一生懸命願はうぢやありませぬか』 左守『ヤ、それは誠に結構で厶る。第一左守、右守が命を神様に捧げて、刹帝利様の御病気の平癒を祈らねばなるまい。之が臣たるものの道だ。さア右守殿、貴方も用意なされ』 右守『ハイ、承知致しました。私の考へでは、王様の御病気も日ならず御全快遊ばし、姫様も近日無事にお帰り遊ばす様な気分が致します。併し乍ら左守様は御老体、ハルナ様が御名代としてお詣りになれば宜しからう。貴方はビクトリヤ家の柱石、王様のお側をお離れになつてはいけませぬ。吾々三人が参拝致し御祈願を凝らす事に致しませう』 左守『然らば拙者は王様のお側を守つて居りませう。御苦労乍ら早く玉の宮へ御参詣を願ひます』 タルマンは『畏まりました』とハルナ、右守と共に急ぎ玉の宮へ参拝と出掛けた。 後に左守は只一人双手を組んで思案にくれてゐる。 そこへ慌ただしく受付のトマスは、襖をソツと開き両手をつき乍ら、 トマス『左守様に申上げます。只今三五教の宣伝使のお伴をして来られた万公さまが、六人連れで玉の宮へ御参拝になり、左守様に一度お目にかかり度いと云つてお越しになりました。如何致したら宜しう厶りませうかな』 左守『ウン、三五教の万公さまが見えたか。ヤ、それは有難い。併し乍ら治国別様は御出でにはなつてゐないか。治国別様や松彦、竜彦様ならば斯ふ云ふ場合に助けて下さるであらうが万公さまでは心許ない。そして其お連れと申すのは何んなお方かな』 トマス『ハイ、男が三人、女が三人、どうも三夫婦らしう厶います。 島田潰して丸髷結うて 主と二人で宮詣り と云ふ様な陽気な様子で厶いますよ』 左守『その三人の男と云ふのは治国別さまか、竜彦さまの中であらう。モシ、さうであつたならば万公さまはどうも八釜しくて困るから……治国別さまか竜彦さまに、一寸お目にかかりたいと申して呉れ。そして外のお方は応接間にお茶でも出して大切に待たして置くのだ』 トマス『ハイ、承知致しました。直様治国別様を呼んで参りませう』 と急ぎ此場を立つて玄関口に現はれ、 トマス『さア、皆さま、お待ち遠う厶いました。何卒応接間の方へお通り下さい。暫らくして左守がお目にかかります。時に治国別様か、竜彦の宣伝使は此処に交つて居られますかな。根ツから万公さまでは八釜しくて……一寸取込んでゐるから都合が悪い……と左守様が云つて居られました。何卒万公さまは此処に御婦人の方と一緒に待つてゐて下さい。さアお二人の中何方でも宜しい、お一人さま、左守の居間へ行つて下さいませ』 シーナ『拙者は玉置村の者でシーナと申すもの、実は治国別様の媒酌によつて里庄の娘スミエル姫と結婚式を挙げ、今日は玉の宮様へ礼詣りを致したので厶います』 トマス『ヘー、それは、マアマアお目出度う厶います。一寸新婚旅行とお洒落遊ばした所ですな。アハ……も一人のお方、貴方は宣伝使ぢや厶いませぬか』 アーシス『ハイ、拙者は矢張り玉置の村の者でアーシスと申します。一度左守様にお目にかかり度いと存じ、今度女房を持つたお礼に玉の宮様へ参拝を致し、一寸御面倒を致しました』 トマス『ハハア、それはお目出度う、新夫新婦が二組もお揃ひになつたのですな。ヤ、万公さま、お前さまは到頭治国別様に暇を出され、どつかの家で奉公でもしてゐると見えますな』 万公『エエ八釜しく云ふな。之でも三五教の宣伝使万公別だ。治国別様から此度新に万公別の宣伝使と名を頂いたのだ。神徳無限の神司だ。取り込んでゐる事があるとは一体何事か知らぬが、此宣伝使に御相談あれば直様解決をつけて上げると、左守様にさう仰有るがよからう』 トマス『ヘー相変らず大変な馬力ですな。左守様が何と仰有るか知りませぬが、一寸奥へ伝へて来ます。暫時待つて下さいませ』 と早くも此場を立つて左守の居間へ引返した。 トマス『左守様、一寸調べて参りましたが、玉置村の若夫婦が新婚旅行を兼ね、玉の宮様へ参拝を致し帰り道、万公さまに連れられて、お訪ねをしたのだと云つて居ます。そして万公さまは治国別様から新に宣伝使号を頂き万公別となり、無限の神力を与へられたと云つて居られますが、此方へお通し申しませうか』 左守『今日の場合、誰彼の容赦はない。万公別なんて法螺を吹いて居るのだらう。併し乍ら万公のチヨカさまも三五教の宣伝使の伴に歩いて居つたのだから、何処かに見込があるだらう。兎も角「膝とも談合」と云ふ事がある。早く此方へお越し下さいと云つて御案内して来い。さうして他のお客さまは珈琲でも出して鄭重に用の済むまで待つて頂くのだ。失策のない様にして置くのだぞ』 トマス『ハイ、そんな事に抜目が厶いませうか。直様呼んで参ります。エーエ』 と云ひ乍ら襖をピシヤリと締め、 トマス『エーエ、忙しい事だ。彼ツ方へ行つたり、此ツ方へ行つたり、キリキリ舞ひだ。之だから、すまじきものは宮仕へと云ふのだ。ぢやと云うて外に何もこれと云ふ芸能はなし、先づ玄関番で辛抱するより仕方がないな』 と一人呟き乍ら応接室に慌ただしく入り来り、 トマス『イヤ、皆さま、お待たせ申しました。何卒珈琲なつとドサリ召つて、……五人の方は此処に待つて居て下さい。……万公別なんて、宜い加減法螺を吹いてゐるのだらう。あの万公は鈴の様に八釜しくて、おまけにデレ助で仕方の無い奴だけど、治国別様の丁稚役をしてゐたのだから少しは霊術も利いて居るだらう。膝とも談合だ。空腹い時には不味ものなし、万公でも宜いから呼んで来い……と仰有いました。さア万公別さま、このトマスに跟いて左守の居間迄お越しを願ひます』 万公『何だ、川獺の様な顔しやがつて失敬ぢやないか。今日の万公さまは玉置の村の里庄テームス家の若旦那だぞ。これ見い、此様なナイスを女房に持つて新婚旅行を兼ね、玉の宮へ参拝をしたのだ。チツと羨るい事はないか。エー、ダイヤ姫と何方が美しいと見えるか、ヒヒヒヒヒ』 トマス『エヘヘヘヘヘ犬も歩けば棒に当るとか云つて、到頭治国別さまに暇を出され玉置の村の里庄の宅の門掃男となり、お嬢さまのお伴をして詣つて来たのだな。お前のスタイルでそんなナイスが女房に持てるものかい。遠い所で分らぬと云つて、此トマスが一目チヤンと見たら決して、はづれツこは無いワイ。ウツフフフフ』 万公『エー、馬鹿にすない。左守の奴、ダイヤ姫と俺との縁談をチヤチヤ入れやがつたものだから此爺、仕方の無い奴だ……と実の所怨んでゐたのだ。そした所、此通り古今無双のナイスが……ヘヘヘ此万公さまに首ツたけラバーしたものだから、嫌でもない縁談を……俺もチツとはスヰートハートして居たものだから両方からピツタリと意思投合の結果お粗末乍ら……ヘン……合衾の式を挙げ新婚旅行と洒落てゐるのだよ。万公別の腕前には如何だ、獺のトマス、感服しただらう』 スガール『もし、万公別さま、そんな事云つて下さいますな。妾恥しう厶いますわ』 万公『何が恥しい。天下晴れての夫婦ぢやないか。エヘヘヘヘヘ、これから左守司にアフンとさしてやるのだ。ああ愉快々々』 トマス『此様子では、も一度左守様に伺つて来なくちや直様お会せ申す訳には行きませぬワイ。ま一遍伺つて来るまで一寸此処に待つてゐて下さいや。そして御主人のお嬢さまを大切に守つてゐて下さいや。うかうかすると「此下男は気が利かぬ」と云つて又放り出されますよ』 と云ひ乍ら、又もや左守司の居間に踵を返し急ぎ行く。 万公『ハハハハハ、スガールの美貌に肝を潰し魂を有頂天にして居やがるワイ。さア此れからが三段目だ。オイ、スガール、今日は俺の男を左守の前で売つて見せるのだから、お前も辛からうがチツと意茶ついて見せて呉れぬと困るよ。夫が妻に対する一生の願だからな』 スガール『ホホホホホ、 キツと引締め三筋の糸で 主のお好きに紫檀竿。 焚いて喰はうと焼いて喰はうと万公さまのお勝手ですわ』 万公『ヘヘヘヘヘそれでこそ三国一の花嫁だ。万公別、万歳』 (大正一二・三・五旧一・一八於竜宮館北村隆光録)
167

(2661)
霊界物語 56_未_テルモン山の神館1 07 高鳴 第七章高鳴〔一四三七〕 七重八重言葉の花は咲きぬれど実の一つさへなき山吹の 花にも擬ふ教へ草インフエルノのどん底に 霊魂の籍をおきながら底津岩根の大神の 誠一つの太柱此世を救ふ義理天上 日の出神の生宮と信じ切つたる高姫は 如何なる尊き御教も吾魂に添はざれば 一々これを排斥し変性男子の生御霊 書かせ給へる御教を所まんだら撰り出し 自が曇りし心より勝手次第に解釈し 其身に憑る曲霊に身も魂も曇らされ 唯一心に神の為め世人のためと村肝の 心を尽すぞ果敢けれ妖幻坊の杢助に 魂を抜かれて中空より印度の国のカルマタの 草茫々と生え茂る原野に危く墜落し 其精霊は身体を首尾よく脱離しブルガリオ 八衢関所に到着し赤白二人の門番が 情によりて解放され天の八衢遠近と 彷徨ひ廻りて岩山の麓に庵を結びつつ 冥土へ来る精霊を三途の川の脱衣婆の 気取になつて点検し一々館へ連れ帰り 支離滅裂の教理をば口角泡を飛ばせつつ 一心不乱に説き立てる其熱心は天を焼き 地を焦がさむず勢に遉慈愛の大神も 救はむよしもなきままに三年の間高姫が 心のままに放任し眼を閉ぢて自ら 眼醒むる時を待ち給ふかくも畏き大神の 大御心を覚り得ず吾身に憑る精霊は 至粋至純の神霊日の出神の義理天上 底津岩根の大神と曲の霊に騙られ 信じ居るこそ憐れなり八衢街道の真中で ふと出会した四人連れ言葉巧に誘ひて 己が館へ連れ帰り心をこめて天国へ 救ひやらむと気を焦ち力を尽す高姫が 心を無にしてバラモンのヘルやケリナが反抗し 互に顔を睨み鯛小さき部屋に燻つて 白黒眼をつり居たる時しもあれや表戸を 叩くは水鶏か泥坊か但は嵐の行く音か 何は兎もあれ門口に現はれ実否を探らむと 四人の男女を睨みつつ庭に下り立ち表戸を ガラリと開ればこは如何に髯茫々と生え茂る バラモン教の落武者が泥坊仲間の親分と 聞くより高姫目を瞠り神の教の言霊に 誠をさとし助けむと心を定めて誘ひ入れ 四人の前に引き来るああ惟神々々 神の御霊の幸倍ひて一時も早く高姫や 其外五人の精霊を一日も早く大神の 誠の教に服はせ救はせ給へと願ぎまつる 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも誠の力は世を救ふ 誠の道を誤りし虚偽に満ちたる高姫が 教を如何に布くとても正しき神の在す限り 如何でか目的達すべきさはさりながら善人は 愛と善との徳に居り真と信との光明に 浴し仕ふるものなれば善悪正邪は忽ちに 心の空の日月に映ろひ行けど曲津見に 心を曇らす精霊は却て悪を善となし 虚偽をば真理と誤解して益々狂ふ憐れさよ 三五教のピユリタンと救はれきつた精霊は 如何でか曲の醜言に尊き耳を傾けむや 眼は眩み耳ふさぎ霊の汚れし精霊は 霊と霊との相似より蟻の甘きに集ふごと 喜び勇み集まりて虚偽と不善の教をば こよなきものと確信し随喜渇仰するものぞ ああ惟神々々神の大悲の御心を 量りまつりて万斛の涙は河と流れゆく 此河下は三途川脱衣婆々と現はれて 現幽二界の精霊が心を洗ふヨルダンの 流れを渡るぞ憐れなる此惨状を逸早く 救はせ給へと瑞月王仁が謹み敬ひ三五の 神の御前に赤心を捧げて祈り奉る。 高姫は今来た男に向ひ、穴のあく程其顔を打ち見守りながら、 高姫『ヤアお前の面体には殺気が溢れて居る。大方泥坊でもやつて居るのぢやないかな』 男(ベル)『是はしたり、此処へ這入るや否や泥坊とは恐れ入ります。成程貴女の仰有る通り、吾々は元からの泥坊では厶いませぬ。月の国ハルナの都に現はれたまふ大黒主の御家来、鬼春別のゼネラルのお伴を致し、斎苑の館へ進軍の真最中、将軍の部下片彦、久米彦が三五教の宣伝使治国別の言霊に脆くも打ち破られ、浮木の森に引き返し来りたれば、此処に軍隊を二つに分ち、一方は鬼春別、一方はランチ、各三千騎を引き率れ、ビクの国を蹂躙し、次で猪倉山に陣営を構へ、武威を八方に輝かす折しも、又もや治国別の神軍に踏み破られ、鬼春別、久米彦の両将軍は三五教に帰順致され、吾々は解散の厄に遇ひ、心にも無き剥ぎ取り泥坊を彼方此方でやつて居るもので厶る。併し私が泥坊だと云つてお前さまに咎めらるる道理はありますまい。泥坊は泥坊としての最善を尽し、其商売の繁昌を計つて居るのだから泥坊呼ばはりはやめて貰ひませうかい。此方が泥坊なら此処に居る四人も泥坊だ。其外世界の奴は直接間接の違ひこそあれ泥坊根性の無いものはない。いや泥坊根性の無いものは無いのみならず、藁すべ一本なりと泥坊せないものは何奴も此奴もありますまい』 高姫『オホホホホ。泥坊にも三分の理窟があるとか云つて、どうでも理窟の付くものだなア、併し乍らお前のやうに泥坊を自慢らしく云ふものは聞いたことがない。些と恥を知りなさい。それだから神様が「今の人間は天の賊だ、泥坊の世の中だ」と仰有るのだ。遠慮してコソコソやつて居るのなら可愛らしい所もあるが、大きな声で泥坊だと威張り散らすやうになつてはもう世も末だぞへ。そこで底津岩根の大神様が今度立替を遊ばし、鬼も大蛇も賊もないやうになさるのだよ。お前も好い加減に改心なさらぬと未来の程が怖ろしいぞへ』 ベル『アハハハハ。諺にも「猿の尻笑ひ」と云ふ事がありますぞや、吾々は泥坊といつても、唯金銭物品を泥坊する許りだ。それよりも大泥坊、否天の賊が此処に一人あるやうだ。鬼の念仏はこのベル、根つから聞きたうは厶いませぬわい』 高姫『天の賊が此処に一人居るとはそれや誰の事だい。お前は私の顔を睨めつけながら天の賊と云ふた以上は、誠生粋のこの生宮を取り違ひして天の賊と云つたのだらうがな』 ベル『勿論お前の事だよ、よく考へて御覧なさい。変性男子厳の御霊の生宮が、大国常立尊の伝達遊ばした神示を、そつと腹に締め込み、それを自分の物として横領して居るぢやないか。そして自分は義理天上だとか、底津岩根の大神の生宮だとか云つて得意になつて居るのは実に天地容れざる大罪悪、大虚偽もこれに越したるものはあるまい。それだからこのベルが大泥坊天の賊と云つたのが、どこに間違ひが厶るかな、不服とあらばベルの前で説明をして貰ひませう』 と胡床をかき言葉鋭く詰よつた。 高姫『ホホホホホ。ても扨ても分らぬ男だな、善一つの誠生粋の日本魂の、根本の根本の此世の御先祖様の憑らせたまふ生宮に対し泥坊呼ばはりをするとは無智にも程がある、お前のやうな盲聾が娑婆を塞いで居る以上は何時になつても神政成就は出来ませぬわい。何と云ふても霊が地獄に堕ちて居るのだから、人の眼についている塵は目についても己の眼にある梁は目に入らぬと見える、これシャル、六造、この二人の男を見て改心なされや。今が肝腎の時で厶いますぞえ。人民の分際として善ぢやの悪ぢやのとそれや何を云ふのぢや。三五教の教にも「神が表に現はれて、善と悪とを立て分ける」とお示しになつて居るぢやないか。神様の外に善と悪とを立て分けるものは無い。それも根本の弥勒様より外に立分ける者は無い、枝の神では出来ない、それだから根本の神様の御用をする此高姫の言ふことは大神様の御心だから、お前の心に合はなくてもこの高姫の云ふ通り素直になして行ひを改めさへすれば、現界、神界、幽界、ともに結構な御用が出来ますぞや』 六造『高姫さま、何と仰有つても私にはテンと信用が出来ませぬがな、お前の御面相を最前から考へて居るが、ちつとも神様らしい所が現はれて居りませぬ。表向にはニコニコとして厶るが、その底の方に何とも云へぬ険悪な相や、憎悪の相が現はれて居りますぞや。「人間の面貌は心の索引」とか云ひまして、何うしても内分は包む事は出来ませぬ、きつと外分に現はれて来るものですからなア』 高姫『アーアー、何れもこれも分る霊は一人も無いわい。神様も仰有つた筈だ「誠の人が三人あつたら三千世界の立替立直が出来る」との事、今更其お言葉を思ひ出せば実に感歎の外はない。私も長らくこれ程一生懸命に神様の為め、世人の為め、粉骨砕身の活動をして来たが未だ一人の知己を得る事が出来ないのか、情なや情なやほんに浮世が嫌になつて来たわい』 シャル『もし高姫様、私はどこ迄も貴女のお言葉を信じます。貴女は本当の根本の大神様の生宮様に間違ひはありませぬ。何卒私を貴女のお弟子にして下さいますまいか』 高姫『オホホホホ。成程お前は何処ともなしに気の利いた男だと初から見込んで置いた。矢張り日の出の神の目は違はぬわい。これ皆の泥坊共、高姫の申す事でも誠さへ心にありたら、このシャルの通り一遍に腹へ入りますぞや。分らぬのはお前の心が曇つて居るからであるぞや。ちと御改心なされ、足許から鳥が立つぞや』 斯る所へ何処ともなく、ブーウブーウと山彦を轟かす法螺貝の声近づき来る、ああ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・三・一四旧一・二七於竜宮館二階加藤明子録)
168

(2695)
霊界物語 57_申_テルモン山の神館2 18 翼琴 第一八章翼琴〔一四六八〕 小国別の重病は、二人の姉妹の無事に帰り来りしに力づきしものと見え、時々刻々に元気を増し、最早憂慮を要せざる容態となつて来た。小国姫初め家族一同の喜びは譬ふるに物なき程であつた。又求道居士、ヘルの負傷も比較的浅かりしため、ケリナ姫の注意周到なる看護によつて日に日に快方に向ひ、ケリナ姫に手を引かれ、裏の庭園を散歩し得る迄に到つた。 扨てデビス姫は三千彦と共に離れの間に入つて、大神を念じ、館の無事を祈願し終り、睦じく四方八方の話に耽つた。デビスは久し振りにクラヴィコード(翼琴)を取り出し、三千彦の労を犒はむため、微妙なる声音を張り上げて指先巧にコードを弾じながら、心の丈を糸に托して述べ初めた。 デビス姫『久方の天津御国の皇神の清き尊き麗しき 外に例もあら尊珍の御教を四方の国 開かせ給ひて天地の中に生とし生ける者 蒼生は云ふも更鳥獣や虫けらや 草の片葉に至る迄恵の露を与へむと 国治立の大御神豊国姫の大御神 埴安彦や埴安姫の珍の御言を畏みて 神の都のエルサレム黄金山下に現まして 教を開き四方の国島の八十島八十国を 黄金世界に作り上げ天国浄土を地の上に 移さむものと瑞御霊神素盞嗚の大神は 厳の雄健び踏み健び厳の嘖譲を起しつつ 此世を乱す曲津神八岐大蛇や醜狐 曲鬼共を言向けて仁慈無限の御心を 普く天下に照らさむと雪の晨や霜の宵 嵐に髪を梳づり雨に御身をば曝しつつ 彼方此方と漂浪の長き旅路を続けまし 黄金山を初めとし斎苑の館やコーカス山 霊鷲山や万寿山自転倒島の中心地 四尾の峰に下りまし種々雑多と御心を 配らせ給ひ世の中の遍く罪を清めむと 千座の置戸を負ひ給ひ心正しくいと清く 優しき数多の神司四方に使はし給ひつつ 世人を救ふ宣伝使中にも別けて三千彦の 神の司の雄々しさよバラモン教の敵城に 怯めず恐れず唯一人神の教を力とし 光輝き下りまし妾等親子の悩みをば 救はせ給ひし有難さ仮令天地はかへるとも 月落ち星は失するとも大海原は涸るるとも 此御恵はいつの世か忘れまつらむ惟神 神の御為め道の為め賤しき吾身を奉り 三千彦司と諸共に八岐大蛇に魂を 抜かれ給ひしバラモンの教の柱大黒主の 司の君に赤心を捧げて救ひ奉り バラモン教や三五の教の道の隔てをば 隈なく取りて相共に此世を造り給ひたる 祖神様の御教に力を合せ村肝の 心を一つに結びつつ曇りきつたる現世を ブラバーサの世界とし天地の神の御前に 功を立てて山海の恵に酬い奉るべし 神の教の霊幸はふ道の司の三千彦さまよ 妾が小さき胸の中燃ゆる炎を瑞霊 注がせ給ひて片時も早く休ませ給へかし 如何に世界は広くとも吾背の君と打ち仰ぎ 仕へまつらむ武士は汝が身をおきて外になし さはさりながら三千彦司汝は彦知にましませば 打ち見る島の先々やかき見る磯の隈々おちず 若草の妻持たせらめ吾こそは女にしあれば 汝をおきては男子なし汝の外には夫はなし 綾垣の浮はやが下に蒸衾さやぐが下に淡雪の 若やる胸を素抱きて白き腕取り交し たたきまながり真玉手玉手いやさしまきてもも長に 寝をしなせませ豊神酒きこしめせなつかしの君よ恋しき男子よ 青山に日が隠くらば烏羽玉の夜は出でなむ 旭の笑み栄えまして妾が厚き願ひをば 完全に委曲にきこし召せ神に誓ひて願ぎ奉る 金勝要の大御神イドムの神のおとりなし 偏に幸を願ぎ奉るアア惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 と歌ひ終り、クラヴィコードを傍に直し、顔を赤らめ乍ら、いと恥づかしげに三千彦に向つて玉の盃をさし出した。三千彦は聊か有難迷惑の体にて、胸を轟かせながら黙つて姫のさし出す盃を取り醍醐味を浪々と注がれて押し頂き、感謝と共にグツと飲み乾し、決心の臍を固めて声も涼しく返歌を歌ふ。 三千彦『仰げば高し久方の天津空より下りまし 天の下なる諸々を救ひ守らす産土の 神の館に永久に鎮まり居ます瑞霊 神素盞嗚の大神の教の館を統べたまふ 八島の主の御言もて玉国別の師の君と 真純の彦や伊太彦を伴ひ目出度神館 伏し拝みつつ旅枕軽き身装の扮装に 河鹿峠の急坂を登りつ下りつ種々の 難みに遇ひて漸くに虎狼の吠猛る 荒野を渉り四人連れハルナの都に進まむと 来る折しもバラモンの醜の司に襲はれて 師弟四人は散々に行方も知れず分れけり 吾師の君は今何処教の友は如何にせしと 心にかかる夏の空山野は笑ひ新緑の 芽を吹きいとど嬉しげに風に梢を翻し 舞踏を演じ勇ましく笑ひ栄ゆれど三千彦の 心の空は五月暗青葉に姿隠しつつ 鳴く時鳥も只ならず八千八度の声涸れて 尋ぬるよしも泣逆吃淋しき旅を続けつつ 青野ケ原をトボトボと烈しき風に煽られて 神の化身のスマートに危ふき命を救けられ アンブラック川を打ち渡りテルモン山の聖場に 向つて進む折りもあれ小国姫の御姿 道の傍に廻り会ひ請はるるままに神館 深く忍びて三五の教の道を宣べ伝へ これの館を包みたる八重黒雲を科戸辺の 神の御息に吹き払ひ月日も空にテルモンの 目出度き館となりにける時しもあれや曲津神 伊猛り狂ひて凄じく此の館に仇をなし 狂ひ廻るぞうたてけれ身の不覚より三千彦は 曲神共に捉へられ情け容赦も荒縄に 縛りつけられ免れむ道も手段も荒川に 投げ捨てられて玉の緒の露の命を失ひつ 神霊界の八衢に彷徨ひ進む折もあれ 神の恵の弥深く猛犬スマート遣はして 吾の霊魂を現世に迎へ還させ給ひけり 嗚呼[※愛世版では「呼々」、戦前の第二版では「呼呼」になっているが、「嗚呼」の誤字だと思われる]惟神々々神の恵の尊さよ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 星は空より落つるとも大海原は涸るるとも 道に捧げし三千彦の露の命を惜まむや 館の難みを見るにつけ見捨て兼ねてぞ三千彦が 心の駒の進むまに命を的にテルモンの 深山の奥の岩窟に人目を忍び尋ねより 心も姿も麗しき二人の姫を救ひ出し ようよう此処に帰りける心にかかりし父君の 病もおひおひ癒え給ひ求道居士やヘル司 二人の身魂も安らかに元に復りて勇ましく ケリナの姫に導かれ花咲き匂ふ神苑を 心楽しげに逍遥し恵の露を嬉しみて 楽しむ身とはなりにけりアア惟神々々 神の恵の尊さよさはさりながらデビス姫 汝が命の御心は吾赤心に通へども 吾は尊き大神の一大使命を帯ぶる身よ 其神業の半途にて思ひも寄らぬ妻定め 如何でか神の許さむや此事許りは諦めて 吾の負ひたる使命をば果させ給へ惟神 神に誓ひて汝が前に誠を明し宣り奉る アア惟神々々御霊幸倍ましませよ』 と歌ひ終り、デビス姫の御親切なる御志は、実に感謝に堪へないが、神の使命を帯び、吾師の君と共に神業に仕ふる中途なれば折角のお志なれどお断わり致すとの意味を、いと細やかに述べ終つたのである。アア此両人の恋愛関係は如何にして落着するであらうか。 (大正一二・三・二六旧二・一〇於皆生温泉浜屋加藤明子録)
169

(2702)
霊界物語 57_申_テルモン山の神館2 25 天声 第二五章天声〔一四七五〕 ニコラスのキャプテンはハンナ、マリス外四人と共に小国姫、ヘルの二人を高手小手に縛め、門前の馬場に来て見れば警固させ置いた兵士は何れも一蓮托生、立つた儘白河夜船を漕いで居る。大杭に縛りつけて置いた三千彦以下四人の姿は影もなく、又今縛つてきた二人も何時の間にか縄ばかりになつて居る。ニコラスは不審に堪へず双手を組んで首を垂れ思案に暮れて居る。俄に禿鷲がパツと空から飛つて来て軍帽の上から頭をカンカンとコツいた。アツと叫んでニコラスは芝原に蹲み頭を抱へて慄うて居る。禿鷲は五十人の兵士の居眠つて居る頭の上から一、二、三、四と万遍なく、コツき廻つた。さうして最後の一人をグツと掴んで中空に翼を拡げ、誇り顔に舞うて居る。兵士は一時に兇霊の襲来を受け各刀を引き抜き、ニコラス外六人の士官に向つて、無性矢鱈に斬り込んで来た。ニコラスも頭の痛さをこらへハンナ、マリス以下四人を指図し、兵士にむかつて応戦した。忽ち十数人の重軽傷者を出し、草を紅に染めてしまつた。此時空中に音楽ひびき、淑かな宣伝歌が聞えて来た。 其歌、 隆光彦『天津御神の御言もてバラモン教の神館 テルモン山の霊場を救はむ為に三五の 珍の司の三千彦をバラモン神の乞を容れ 神素盞嗚の大神は此処に遣はし玉ひけり その御心も露知らずバラモン軍のキャプテンが 数十の兵士を引率れてこれの館に出陣し 神の御前に拝礼もなさず忽ち奥の間に 闖入なして神館主人の妻を初めとし 誠の道の神柱一人も残らずフン縛り 無慙の仕打をなせしより仁慈無限の天地の 神は怒らせ玉ひつつ旭、高倉二柱 神の使を遣はして勝ち誇りたるニコラスの 軍を悉目を覚し尊き神の御教に 言向和す御仕組ニコラス如何に勇あるも 神の力に及ばむや悔い改めよ省みよ 三五教やバラモンの教と御名は変れども その源を尋ぬれば大国治立大神の 珍の御裔と知らざるかアア惟神々々 神の教にいと暗き色盲患者の武士よ 一日も早く真心にかへりて天地の大道を 弁へ悟れ惟神神は汝と倶にあり 人は神の子神の宮心の魂の清ければ 如何なる曲の襲ふとも如何で恐るる事あらむ 汝が力に相任せ縛り上げたる宣伝使 其外五人の真人は誠一つの勇士ぞや 悔い改めて大神の御旨に叶ひ奉りたる 尊き神の太柱如何でか汝等曲神の 縄に縛られ怯むべき朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令天地は覆るとも 誠一つを尽しなば現幽神の三界は 思ふがままになるものぞ眼を覚ませ早覚ませ 吾は隆光彦の神天津御空の天国の 神の使命を蒙りて汝等一同の曲神を 誠の道に救はむと天の八重雲掻き分けて 降り来れるものなるぞ此世を造りし神直日 心も広き大直日只何事も人の世は 直日に見直し宣り直し吾身の罪を悔い覚り 人の過ち悉く直日に見直せ聞直せ それが誠の神心神の心に曇りなし 誠の道にさやりなし誠は天地の宝ぞや そもそもこれの神館バラモン教の大神を 斎き奉りしものなれど天津国より降りたる 如意の宝珠のある限り瑞の御霊の霊場ぞ 大黒主は霊宝の威徳に恐れて逃げ出し 千里の山野を打渡り今は漸く月の国 ハルナの都に居を定め大雲山の岩窟に 弥永遠に棲まひたる八岐大蛇に操られ 偽り事を真とし悪をば善と信じつつ 脱線だらけの宣伝を始めたるこそ嘆てけれ 汝ニコラス、キャプテンよ吾エンゼルの言の葉を 只一言も洩らさずに胸の奥にと畳み込み 深く省みよく悟り尊き神の御心を 麻柱奉れ惟神神のまにまに諭し置く 吾はこれより久方の高天原の霊国に 大宮柱太知りて鎮まり居ます月の神 貴の館に舞ひ上り此有様を詳細に いとこまごまと復命し汝等一同神の子の 罪をば許し玉ふべく願ひ奉らむいざさらば 心の底より改めて神の御為世の為に 真心捧げて尽せかしアア惟神々々 神のまにまに宣り伝ふ』 と歌ひ終り、淡き煙となつて何処ともなく中空に消え玉うた。今まで居眠つて居て禿鷲に片身怨みなく額をコツかれ、苦痛に悩んで居た兵士の傷は忽ち癒え、眠気も頓に覚め、精神爽快を覚え、何んとなく顔色まで生々して来た。ニコラスは合点行かず、ハンナ、マリス外四人の士官を引率れ、再び館の奥の間に進み入り見れば豈図らむや、小国姫、三千彦を初め縛り上げた人々は嬉しげに手を拍つて酒宴の最中であつた。ニコラスは翻然として悟り、神徳の広大なるに感じ、涙を流して三千彦に無礼の罪を謝した。此時館の外にはワイワイと山岳も揺ぐばかりの喊声が聞えて来た。一同は何事ならむと耳を欹て暫し様子を窺つて居る。スマートの声は耳を劈く様に『ウワッウワッ』と四辺の木霊を響かして居る。 (大正一二・三・二六旧二・一〇於皆生温泉浜屋北村隆光録) (昭和一〇・六・一五王仁校正)
170

(2708)
霊界物語 58_酉_イヅミの国1(猩々島) 03 怪散 第三章怪散〔一四七八〕 清き心の玉国別は夏の御空の真純彦 足を傷づく伊太彦の二人の弟子を伴ひて 天津日影もテルモンの珍の館の表門 神の使のスマートに守られながら進み入る 老若男女の叫び声矢叫びの音に驚いて 立ち現はれし三千彦は表の門の入口に 焦れ慕ふた師の君や二人の友に廻り会ひ 嬉しさ余り胸迫り何の応答も泣く許り 漸く心取り直し奥の一間に静々と 三人を伴ひ進み入る小国姫を初めとし デビスの姫やケリナ姫バラモン教の神司 ニコラスキャプテン初めとし求道居士やヘル司 マリス、リーベナ、ルイキン、ポリトバットを初め四五人の 僕と共に控へ居る小国姫は三人の 姿を見るより喜びて其坐を下り手を支へ よくこそお出下さつた貴方は三千彦宣伝使 救ひの神の師匠様まあまあこれへと請ずれば 玉国別は目礼し其言の葉に従ひて 設けの席につきにける。 小国姫『此処はバラモン教の神館、大黒主様の発祥の地、其お館を守る吾々夫婦、いろいろと禍の神に見舞はれ、煩悶苦悩の最中へ貴方のお弟子三千彦様がお出下さいまして、吾々一同の難儀をお救け下さいました。其胆力と義侠心に対し、感謝の涙を零して居ります。何卒今後はお見捨てなく宜敷くお願ひ致します。又、この求道居士は元は、バラモン教のカーネルさま、治国別様のお言葉に感じ比丘となり三五教のお道をお開きなさる道すがら、私の娘二人の危難をお救ひ下さつた御恩人で厶います、何ともお礼の申やうが厶いませぬ』 玉国『それはそれは、結構なお神徳を頂かれました。お目出度う存じます。そして貴方は求道居士様ですか、よくまア入信なさいました』 求道『ハイ、私はバラモン軍のカーネル、エミシと申すもの、鬼春別、久米彦将軍に従ひ浮木の森迄進軍致し、河鹿峠の味方の敗戦によりビクの国迄退陣致し、此処を又立ち出て、猪倉山の岩窟に要塞を構へ、難攻不落と誇つて居る所へ治国別様がお越になり、神様の道をお諭し下さいましてから、翻然として悟り、今は三五教の信者となり、御神業に奉仕さして頂いて居ます。足はぬ某、何卒厚き御指導をお願ひ申ます』 玉国『お互に手を引き合うて、御用に立てさせて頂きませう』 求道『此処に見えて居る七人の方は、バラモン軍の、ニコラスと云ふ、キャプテンで厶います、其他の六人は何れも下士官で厶いますが、鬼春別将軍の変心及び其後の模様を調査すべく、先刻この館に御出張になり、吾々の話を聞いて、漸く賛成下さつた所です。何卒宜敷く御指導を願ひ上げます』 玉国『何分お互に宜敷く願ひませう。ああ、貴方がニコラス様で厶いますか。や、御一同様初めてお目にかかります。世の中には敵もなければ味方も厶いませぬ、同じ神様に育まれて居る吾々人間は互に仲よくせねばなりませぬからなア』 ニコラス以下六人はハツと頭を下げ、 『何分宜敷くお願ひ申ます』 と心の底より挨拶をする。斯る所に門前俄に騒がしく擦鉦の音、大声に歌ふ声聞え来る。三千彦はツと立つて何事ならむと表門に出た。スマートは厳然として門を守つて居る。悪酔怪長タンクは先に立ちて進み来り、三千彦に向ひ揉手をしながら、米搗バツタのやうにピヨコピヨコと腰を折り頭を下げ、媚を呈し乍ら、 タンク『エエ、これはこれは、三五教の大宣伝使、神力無双の三千彦様で厶いますか。まアよく遥々と神館にお出下さいまして、館の危難をお救ひ下さり、これの館の黒雲を除き、天下泰平にお治め下さいました段、宮町一同は申すに及ばず、国民一同の感謝措かざる所です。私は天下の無頼漢、イヤ、オツトドツコイ無頼漢を懲す、悪酔怪の怪長タンクと云ふケチナ野郎で厶います。怪員一同に代り、貴方の御高徳を感謝する為に罷りつん出ました。スマート様にもそれはそれは何とも云へぬ御尽力に預りまして有難う存じます。ワックス、ヘルマン、エキス、エルの悪人輩が集まりまして、如意宝珠の玉を盗むやら、家々の宝を盗むやら騒動をおつ始め、どうとも斯うともならない難儀で厶いましたが、貴方様のお出以来、風塵治まり、天下泰平の端緒を得ましたのは、私等の抃舞措く能はざる所です。何卒吾々の至誠をお認め下さいまして、今後御贔屓下さるやうお願ひ致します。此の通り数多の町民が参りましたのも皆、貴方の御高徳を感謝せむ為に参上致しましたので厶いますから、何卒宜敷く可愛がつて頂き度う厶います』 三千『ヤア夫は結構だ。吾々に対する誤解が解けましたかな。今後は互に手を引きやうて、お館のため、お国のため協力一致、誠を捧げられむ事を祈ります。然し乍ら、かう大勢館へ入り込まれましては小国別様も御病中なり、御迷惑をせられませうから、門前の馬場にてお目にかかりませう』 とスマートを引き連れ門を出で、階段を下り草青き馬場に出立ち見れば、五十の兵士は列を正し、ワックス外四人を縛したまま警護して居る。軍人側と、悪酔怪側とはいつしか和睦が出来たと見えて互にニコニコ笑つて居る。タンクは再び驢馬に跨り、ワックス外三人の前に馬を留め大音声にて演説を初めかけた。三千彦は麗しき赤、白、黄、紫のデリケートの花の咲き満ちた青芝の上に腰を下ろし、スマートの頭を撫で乍ら、ニコニコとして控へて居る。 タンク『そもそも此処に繋がれしテルモン山の神館 荒し廻りしワックスや其外三人の悪漢は 大黒主の御宝如意の宝珠を横奪し 館の主を苦しめてギウギウ云はせ吾恋の 野望を甘く達せむと所在手段を廻らして 悪の限りを尽したる極悪無道の痴漢ぞ 三五教の神使三千彦さまの威に打たれ 如何ともする術もなく首も廻らぬ苦しさに 魔法使と布令廻し吾々一同町民を 甘く偽り暴動を起させたるぞ憎らしき 此宮町の町民はテルモン山の霊地をば 堅磐常磐によく守り天地の神の御恵に 報ひむ為に赤誠を力限りに尽すのみ 知らぬが仏の町民は家令の悴ワックスが 企みの罠におとされて神力無双の神人に 刄向かひ奉りし愚さよ悪に長けたるワックスは 吾身の罪を蔽はむと茲に一計案出し 悪酔怪を組織して弱きを挫き強きをば 助けむものと主張しつ数百余人の団体を 造りて誠の神人を悩まし奉り神館 占領せむと企みたる其悪計ぞ怖ろしき 天罰忽ち報ひ来て己が率ゆる怪員に 手もなく体を縛られてこれの馬場に万世の 恥を晒すぞ可笑しけれああ惟神々々 誠の神はいつ迄も悪の企みを許さむや 吾等はタンクと云ふ男六百人の町民に やつと選まれ長となり今又茲に悪酔怪の 頭とおされ町民を代表なして三五の 神の司の御前に誠の心を顕彰し 御国の為に尽さむと衆を率きつれ来りたり 赦させたまへ惟神神かけ念じ奉る 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ 身の過は宣り直せ三五教の宣伝使 三千彦司の前なれどこれに繋ぎし四人連れ これの聖地を朝夕に掻き乱し行く曲者ぞ 必ず許し給ふ無く厳しき笞を加へつつ これの聖地を追ひ出し懲しめたまへ惟神 六百人になり代り更め願ひ奉る ああ惟神々々御霊幸倍ましませよ かかる悪魔の聖場に姿を見する其内は 如何なる神の御恵も如何なる誠の御教も 如何で開けむ常闇の世は追ひ追ひと曇るのみ ああ願はくば三千彦の誠の教の宣伝使 吾等の願ひを逸早く聞き取りたまひ片時も 早く聖地を追ひ出しこれの霊地の禍を 除かせ給へと願ぎまつるああ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 と歌をもつて演説に代へ、且つ三千彦に向ひ、是等四人の悪党を一時も早く此聖場より追放されむ事を祈つた。悪酔怪員一同は、一斉に手を打つてタンクの説に賛成の意を表した。三千彦は歌をもつて之に答ふ。 三千彦『世は常闇となり果てて悪魔は天下を横行し 吹き来る風は腥く絶ゆる間のなき人馬の音 払はむよしもなきままに難み苦しむ宮町の 老若男女の心根は今更思ひ知られけり テルモン山の峰清く蓮華の花の四方八方に 芳香薫じ夏風に揺られて御代の泰平を 謳へど神の御館日毎夜毎に憂愁に 包まれたまひ神柱小国別や姫命 其外二人の乙女達其身の不覚を歎きつつ 家令の悴ワックスが醜の猛びに敵し得ず 持ち倦みます時もあれ神の御言を蒙りて 救ひの神と現はれし三千彦司は身を砕き 心を痛め種々の難みに会いて漸うに 神の館を包みたる醜の雲霧吹き払ひ 旭の豊阪登るごと漸く生れ代りけり ああ惟神々々神の御稜威の著く 恵の露の深きをば喜び祝ひ奉り 玉の所在も漸くに現はれまして神館 上を下へと歓ぎつつ元の姿となりにけり さはさりながら団体の長とあれますタンクさま 悪酔怪の綱領は弱きを挫き強きをば 助くるよしに聞き及ぶ悪魔に等しき団体は 天地の神の御心に背反したる暴挙ぞや いと速に改めて此団体を解散し 誠一つの三五の教の道に帰順せば 吾等も共に手を引いてこれの聖地を守るべし 顧りみたまへ惟神神の御前に赤心を 捧げて茲に願ぎまつる旭は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 誠の力は世を救ふ誠の道に皆来れ 悪酔怪の目的は決して世の為め人の為め 利益となるべきものでなし否々却て世を汚し 大混乱の種ぞかし顧み給へタンクさま 其外会員御一同三五教の三千彦が 心を籠めて宣りまつるああ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 タンク『いざさらば君の教に従ひて これの集団を解き放ちなむ。 この集団吾等一同の心より 出でしに非ずワックスの胸。 ワックスの百の企みの現はれし 上は尚更何の要なき。 弱きをば挫き強きを助くるは 曲津の神の仕業なるらむ』 三千彦『健気なるタンクの君の言の葉は 誠の神の御声とぞ思ふ。 いざ早く曲の集団を解きほどき 神の御前に赤心ささげよ』 かく歌を取り交し、和気靄々として茲に悪酔怪の解散をなし、町民一同打ち揃ひ、神館に恭しく詣でて感謝祈願の言葉を奏上した。中空には微妙の音楽聞え、天津乙女の姿二つ三つ嬉しげに舞ひ狂ひ、優曇華の花弁風に翻り、各人の頭にパラリパラリと落ち来る。ああ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・三・二八旧二・一二於皆生温泉浜屋加藤明子録)
171

(2709)
霊界物語 58_酉_イヅミの国1(猩々島) 04 銅盥 第四章銅盥〔一四七九〕 タンクの会長は三千彦と相談の結果、悪酔怪を解散し神館の神殿に一同参拝し感謝祈願の祝詞を奏上し了つた。日は已に暮れて暗の帳はボトボトとテルモン山の麓より下ろされて来た。数百の会員並に町民一同はワックス以下の悪漢に誤魔化され、思はぬ暴動をつづけ大神の道に背きたる事を悔ひ、且つ懲戒の為ワックス以下四人に笞を加へ追放せむ事を主張して止まなかつた。三千彦は種々言葉を尽し、其不合理を責た。併し乍ら此町の昔からの不文律、俄に破る訳には行かぬと云ふので三千彦も止むを得ず笞刑を許した。笞打つ役はトンク、タンクの二人が当つた。ワックスには一千の笞、其外の連中には五百づつの笞を加へて放逐する事となつた。四人は杭に後向きに繋がれ、竹の根節の笞にて力限りに打たれる事となつた。三千彦は暗夜を幸ひ、四人の尻に銅の金盥を括りつけ、素知らぬ顔して居た。タンク、トンク両人は少しも覚らず松明をドンドン焚き乍らソロソロ笞を打ち初めた。一同は拍子をとつて之に和す。銅の盥の上には着物がかかつて居るから何程松明の火が明くても容易に誰の目にもつかなかつた。タンクは笞を振り上げ一節歌つてはワックスの尻をピシヤと殴る。其度毎にカンと妙な音がする。トンクはエキスの尻を目蒐けてピシヤと打つ。これ亦カンと鳴る。 『テルモン山の神館珍の聖地に仕へたる ヨーイヨーイドンと打てカーンカーン アイタタアイタタアイタタツタ家令の悴ワックスは 古今無双の悪党者エキス、ヘルマン、エルの奴 うまく騙かし如意宝珠館の宝を盗み出し ヨーイヨーイドンと打てカーンカーン アイタタアイタタアイタタツタ小国別の御夫婦に あらぬ難題塗りつけてせつぱつまつたその挙句 自分のラブした姫さまをうまく手に入れ御養子と ならうと致した悪漢だヨーイヨーイドンと打て カーンカーンアイタタアイタタアイタタツタ 此世に神のます限り悪は何時迄つづかない 蜴の様な面をして色の恋のと何の事 色と欲との二道をかけた家令の小悴奴 馬鹿を尽すも程があるヨーイヨーイドンと打て カーンカーンアイタタアイタタアイタタツタ 此奴の尻はどうしてか笞打つ度にカンカンと 怪体な音がするぢやないか面の皮まで厚い奴 お尻の皮まで厚いのかヨーイヨーイドンと打て カーンカーンアイタタアイタタアイタタツタ 三千彦さまの神司野蛮な事は止めにして 助けてやれと仰有つたそれも一応尤もだ さはさり乍ら昔からきまつた所刑を今となり どうして廃止がなるものか打たねばならぬ四人連れ お尻の皮が剥けるまでヨーイヨーイドンと打て カーンカーンアイタタアイタタアイタタツタ こりやこりやワックス初めとしエキス、ヘルマン、エルの奴 もう斯うなれば是非がない十分覚悟を相定め お尻の肉が取れる迄打つて貰つて俺等を 今迄騙し苦しめた罪の償ひするがよい ヨーイヨーイドンと打てカーンカーン アイタタアイタタアイタタツタお前がここを去つたなら テルモン山の神館宮町中は餅搗いて ポンポンポンと勇み立ち平和に其日を送るだろ 悪酔怪を組織して吾等一同を抱き込み 神の使の三千彦を苦しめまつりお館を 占領せむとの悪企みいつ迄神は許さむぞ ヨーイヨーイドンと打てカーンカーン アイタタアイタタアイタタツタ此奴のお尻は渋太いな 観音さまでもあるまいにカンカンカンと音がする 余程因果な生れつき家令の悴と生れ来て 水平会や町民に声を揃へて唄はれて 笞刑の恥を曝すとは憎い乍らもお気の毒 これも規則だ仕様がない涙を呑んで辛抱せよ ヨーイヨーイドンと打てカーンカーン アイタタアイタタアイタタツタほんとに厄介な者だなア デビスの姫やケリナ姫尊い尊いお姫様 生命を助けて下さつた求道居士の修験者 狐に狸の化物とうまく俺等を騙かして 鳩の岩窟に放り込んで夜な夜な自分が通ひ込み 種々雑多と辞を設け二人の姫の歓心を 買つて天晴色男鼻毛をよまれ涎くり 目尻を下げて出でて行くそのスタイルが見たかつた ヨーイヨーイドンと打てカーンカーン アイタタアイタタアイタタツタ二人のナイスに肱鉄を 喰つた其上スマートに腕をば咬まれ足噛まれ 半死半生と成り果てて血まぶれ姿の憐れさよ 自業自得と諦めて町民一同の志 きつい笞をば受けなされ俺等もヤツパリ人間だ 痛い苦しい其味は決して知らぬ者ぢやない それでも以後の懲戒だ涙を呑んで尻叩く 止むに止まれず尻叩くヨーイヨーイドンと打て カーンカーンアイタタアイタタアイタタツタ 斯うなりやお前も金盥叩いた様な音がする 余程お尻が腫ただろ痛いとて辛抱するが宜い たつた五百や一千の笞を受けてメソメソと 吠面かわく奴があるかお前も一度は団体の 頭となつた男ぞや男の中の男ぞと 誇つて厶つたワックスよそれに従ふ三人連れ 相も変らず無頼漢お気の毒だがもう暫し 規則通りにカンカンと神妙に打たれて置きなされ 万劫末代名が残るヨーイヨーイドンと打て カーンカーンアイタタアイタタアイタタツタ 悪酔怪の会長と町民諸君に選まれた 神力無双のタンクさま此方の腕には骨がある あんまり強う叩かねど力が充ちて居ると見え 軟かい尻を叩くのにカンカンカンと音がする こりや又如何した事だらうヨーイヨーイドンと打て カーンカーンアイタタアイタタアイタタツタ 落選したるトンクさまヤツパリ俺と同じ様に 竹の根節を振り上げてエキスの尻を打叩く ヤツパリこれも腕力備はり居ると見えまして 打つ度毎にカンカンと怪体な音が響いてゐる 尻観音か知らねども何程カンカン云つたとて 最早貫目は保たれぬカンカラカンのカンカラカン カンツクカンツクカンツクカンカンカンベラボウ、ボンボラボウ ボンボラ坊主の四つの尻ヨーイヨーイドンと打て カーンカーンアイタタアイタタアイタタツタ 何程尻を叩いても痛い痛いと云ふ計り 涙一つも零さないクスクスクスと笑つてる 余程肝の太い奴これを思へば神館 思ふが儘に占領して天下無双の美人なる デビスの姫に目をかけて思惑立てたは当然 ホンに図太い奴だな此奴の尻は不死身だらう 何程打つてやつたとてチツとも往生致さない 打てよ打て打て確り打てよヨーイヨーイドンと打て カーンカーンアイタタアイタタアイタタツタ』 トンク『さあエキスの分は済んだ。これからヘルマンだ。おい、ヘルマン無情な奴と怨めて呉れな。これも貴様の心から出た錆だから仕方がないわ。尻の結目の合はぬ事するから、シリが来るのだ。それだから俺もお前等のシリ合だけれど此町の規則によつて尻を打たねばならぬ破目となつたのだ。悪い事をするなら何故もつと尻を結んで置かないのだ。シリ滅裂の計画をやるものだから到頭終ひの尻は町民に笞刑五百と判ケツされてこんなケツい目に会ふのだ。然しまあケツ構と思へ、命とられぬ丈ケツ構だから。お姫様をケツねだの、狸だのと吐した酬いでケツ構な目に遭はなならぬのだから観念するがよいわ。いやもうカン念してるに相違ない。エキス、ワックスはカン念カン念と云つて居る。何分尻迄物云ふ時代だから馬鹿にならぬわい。これから俺が音頭とるのだ。さア辛抱せい。ワックスはまだ半分残つてる。これを思へば貴様は半分で済むのだからケツ構だぞ。 ヨーイヨーイドンと打てカーンカーン アイタタアイタタアイタタツタ家令の館へ押掛て チヨコチヨコサイサイ金銀の小玉をドツサリ強請りとり うまい汁をば吸ひよつたその証にや尻迄が ブクブク太つてケツからアさアさア痛うても辛抱せよ 俺も涙は零してる現在互に識つた仲 こんな役目を勤むるは俺も嬉しうはないけれど 止むにやまれぬ此場合ヨーイヨーイドンと打て カーンカーンアイタタアイタタアイタタツタ 此奴の尻も亦不思議又々カンカン唸り出す 顔に被つた鉄面皮此奴は尻迄鉄面だ 手詰になつた此場合いやでも打たねばならうまい 宮町中の怨霊がお前の尻に集まつて 此ケツ断になつたのだお前も決心するが宜い 打たねばならぬ此場合ヨーイヨーイドンと打て カーンカーンアイタタアイタタアイタタツタ これから此処を立出でて荒野ケ原を打渉り テルモン山を後にして運も命も月の国 デカタン高原さして行けお前によう似た悪人が 沢山集つて居ると云ふ此霊場に置くならば 又もや悪事を企み出し吾等一同に難儀をば 必ず掛るに違ひない気の毒乍ら打つてやらう ヨーイヨーイドンと打てカーンカーン アイタタアイタタアイタタツタ』 漸くにして規則通り四人は数百人に声を揃へて囃され乍ら尻を打たれた挙句、縛を解かれて、夜陰に紛れ逃げ出す途端、金盥はガランガランと音をして芝生の上に仰天してキラキラと篝火に輝いて居る。 トンク『やア、余り強く打つたので尻に血が凝つたので、斯んな大きな肉塊を落して行つた』 とよくよく見れば四つの金盥が大きな口を開けて天を眺めて居る。 トンク『ハハア、皆さま、これ御覧なさいませ。何がカンカン云ふかと思へば四人の奴の尻は此通り金になつて了ひました。ヤツパリ余り金を使つた天罰でせう』 一同は、タンク、トンクの両人が両方の手に金盥を一つづつ捧げて来て見せるのを不思議相に『ワーイワーイ』と叫んで、 『溜飲が下つた、胸がスツとした。これで飯がうまい。帰んで一杯やらうかい』 と口々に囁き乍ら各吾家を指して帰り行く。タンク、トンクの両人は無事笞刑の済んだのを報告すべく金盥を四つ、各自に抱へて神館の大神殿に進み入り、恭しく呈上した。三千彦は此場に現はれ来り、 三千『タンクさま、トンクさま、御苦労で厶いました。四人は嘸弱つたでせうな』 タンク『はい、何だか知りませぬが余り打つたものですから、此通り尻が硬くなり、血が滲んで尻の凝固を落して逃げました。然し随分元気よく何処かへ逃げましたよ、アハハハハハ』 タンク『三千彦の神の司の慈み 尻に鎧を着せ玉ひけり』 トンク『金盥とは知り乍ら大神の 恵嬉しみ打据ゑにける』 三千彦『大神の恵の露を負ひし身は 如何でか人を損ひ得べき。 皇神も二人の司の誠心を さぞ喜びて諾ひますらむ』 (大正一二・三・二八旧二・一二於皆生温泉浜屋北村隆光録)
172

(2710)
霊界物語 58_酉_イヅミの国1(猩々島) 05 潔別 第五章潔別〔一四八〇〕 テルモン山の神館青葉の茂る庭園に 咲き誇りたる花菖蒲青紫や白黄色 所狭まで燕子花咲き匂ひたる床しさよ パインの枝は涼風に吹かれて自然の音楽を 奏でて舞踏を演じつつ至治泰平の瑞祥を 現はし居るこそ目出度けれ常磐の松の青々と 緑ものびて玉の露風吹く毎にバタバタと 金砂銀砂の上に落つ三五教の宣伝使 恵の露を浴びながら進んで来りし玉国の 別の命を初めとし比丘の姿の求道居士 バラモン教のキャプテンが伴ひ来る下士官と 膝を交へて奥の間に涼しき風を入れながら 天地の恵を嬉しみて心の隔て相はづし 語り出づるも神ながら誠の道の教より 外に言葉は荒風の青野を渡る有様に 天国浄土の真相を今目の当り見る如し ああ惟神々々神の恵の幸はひて 三五教やバラモンの教の区別を取り払ひ 旭も清くテルモンの山の麓に楽園を 築き初めしぞ尊けれ茲に三千彦宣伝使 神の館に仇なせるワックス、エキス、ヘルマンや エルの司を追放しタンク、トンクを伴ひて 悠々帰り坐につけば玉国別は声をかけ 汝三千彦神司館の前の馬場にて 老若男女の叫び声御空を焦す篝火の その顛末を詳細に宣らせたまへと促せば 三千彦両手をつき乍ら恭しくも答へける。 ○ 『月の都に現ませる大黒主の神柱 古此処に在しましてバラモン教の御教を 開き給ひし霊場の記念となして如意宝珠 珍の宝を奉斎し館の主人二柱 教司に相命じ固く守らせ給ひしが オールスチンの悴なる頑迷愚鈍のワックスが 野心を充す其為にエキス、ヘルマン両人を 使嗾なしつつ奥殿に忍ばせ玉を窃取して 深く吾家の床下に土をば被ひ隠し居る 其心根の醜さよ館の主人は村肝の 心を痛め給ひつつ重き病の身となりて 命旦夕に迫る折神の命を畏みて これの館に入り来り小国姫に頼まれて 玉の所在を探索し館の難儀を救ひつつ 少時留まる折もあれ色と欲とに迷ひたる ワックス司初めとし其外百の悪漢が 教の道の三千彦を魔法使と云ひ触らし 此霊場に永久に住める男女を嗾かし 悪酔怪を組織して館を目宛に攻め来る 其勢の凄じさ吾は僅かに身をもつて 寄せくる曲に打ち向ひ力限りに戦へど 味方は一人敵軍は雲霞の如き勢に やみやみ敵に捉へられアンブラック河に投げ込まれ 生死不明の境涯に陥りたるぞ腑甲斐なき 斯る所へスマートが現はれ来り懇に 厳の言霊のり出し清水を口に含みつつ 吾が生魂を呼び生けて再び元の身となしぬ 勇気日頃に百倍し神の館の災を 取り除かむと勇み立ち種々雑多と身を焦し 心を配り漸くに悪漢共を捕縛して 定めの儘に鞭を当てタンク、トンクの両人が 笞の下に悪漢は雲を霞と逃げ去りぬ ああ惟神々々貴き神の御恵 危き命を助けられ館の主人の重病も 日に夜に快方に相向ひデビスの姫やケリナ姫 目出度茲に帰りまし親子対面恙なく 済まして喜ぶ折もあれ玉国別の師の君が 真純の彦や伊太彦を伴ひ来り嬉しくも 師弟の対面なし遂げぬああ惟神々々 神の御前に赤心を捧げて感謝し奉る 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 空おち星は失するとも千尋の海は涸るるとも 神の依さしの熱誠に尽さにやおかぬ三千彦が 心を察し師の君がこれの館を立ち出でて 吾等と共に月の国ハルナの都にスクスクと 進ませ給へ惟神猶予もならぬ今日の空 昨日に変り四方八方に霞棚引き風荒く 雨さへ交る夏の日の行方定めぬ人の身は 片時さへも空費せず神の御為世の為に 進ませ給へと願ぎ奉るデビスの姫は吾前に 百の言霊宣り給ひ妹背の道を契らむと 心せつなき談判に吾は言葉も返しかね 躊ひ居たる時ぞかし吾師の君の出ましを これ幸と逸早く館を出でて月の国 一日も早く進むべし真純の彦よ伊太彦よ 神の教の三千彦が生言霊を諾ひて 吾師の君と諸共に膝の栗毛に鞭ちて 青野が原を打ち渡り暑熱と戦ひ雨を浴び 風に髪をば梳ずり進みて行かむいざ早く 早く早く』とせき立てる ○ 真純の彦は立上り大神前に打ち向ひ 恭しくも拍手して玉国別に打ち向ひ 言葉も低う腰屈め『吾師の君と仕へたる 玉国別の宣伝使三千彦司の言の葉を 諾ひまして片時も早く此場を立ち出でて 悪魔の征途に上りませ如何なる曲の攻め来とも 如何でか怖れむ神の道千里の山川打ち越えて 浪風猛る湖や濁水漲る大川を 神の恵に打ち渡り嶮しき坂を攀登り 道々悪魔を言向けて進み行かなむ惟神 許させたまへと願ぎ奉る』 ○ 玉国別『テルモンの山の嵐もをさまりぬ いざ立ち行かむ月の御国へ』 三千彦『師の君の宣りのまにまに出でて行く 行手の道は安けからまし』 デビス姫『三千彦の神の司よ若草の 妻を伴ひ進ませ給へ』 三千彦『大神の宣りのまにまに出でて行く 三千彦司如何に苦しき。 師の君の許させ給ふ事あらば 伴ひ行かむ月の御国へ』 デビス姫『玉国別神の命に物申す 妾を印度につれて行きませ』 玉国別『垂乳根の許しありせば連れ行かむ 唯何事も神のまにまに』 小国姫『デビス姫三千彦司の妻として 連れさせ給へ神の司よ』 玉国別『垂乳根の母の許しのある上は 如何で拒まむ旅の伴連れ』 真純彦『永久の花開くなる春秋の 喜び胸に三千彦の君』 伊太彦『いたいけのデビスの姫を妻となし 旅に出でます君ぞかしこき』 三千彦『さりとても心に染まぬ道連れよ 神の使命を相果すまで』 真純彦『言の葉の綾をかざりて若草の 妻忌みがてにのるぞ可笑しき』 求道居士『三千彦の神の司の心根は 三五の月の如くなりけり。 いざさらば吾は此家に止まりて 二人の親に厚く仕へむ』 ニコラス『玉国の別の命に物申す これの館を如何に治めむ』 玉国別『バラモンや、三五教の隔てなく 斎たまはれ大本の神。 さりながらこれの館はバラモンの 神をば捨つる訳にはゆかず。 三五の神を斎きてバラモンの 皇大神に厚く仕へよ』 ニコラス『隔てなき君の言葉に従ひて 斎き奉らむ百の神達。 バラモンの軍の君を今日よりは 離れて厚く神に仕へむ』 玉国別『いざさらば百の司よ心安く いとまめやかに世を過ごしませ』 小国姫『懐しき教の君に遇ひ乍ら いま別れむとする胸の苦しさ』 ケリナ姫『皇神の教の道を伝へ行く 玉国別よやすく出でませ』 玉国別『時の間は早くも移りケリナ姫 親に仕へて清くましませ』 と、互に離別の歌を歌ひ和気靄々として盃を取りかはし玉国別、真純彦、伊太彦、三千彦、デビス姫の一行は、後事を求道居士に一任し置き、宣伝歌を歌ひながら、欣々としてテルモン山を南に下り、青葉の影に隠れ行く。ああ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・三・二八旧二・一二於皆生温泉浜屋加藤明子録)
173

(2714)
霊界物語 58_酉_イヅミの国1(猩々島) 09 湖月 第九章湖月〔一四八四〕 浪より出でて浪に入る玉兎の玉国別司 初稚姫の賜りし目無堅間の船に乗り 果しも知らぬ湖原を五人の男を救ひつつ 欵乃高く潔く歌ひて進む浪の上 星の光はキラキラと深く沈める湖の底 天津御空も船底も金砂銀砂を鏤めし 其中間を渡り行く天の河原は南北に 清く流れて果もなく洗ふたやうな月影は 湖底深くきらきらと銀竜の如く揺らぎ居る ああ惟神々々神の依さしの宣伝使 浪音清き音彦の玉国別を初めとし 星は御空に三千彦の姿を写す真純空 伊太彦一枚隔てたる千尋の深き水地獄 デビスの姫と諸共に声爽かに宣伝歌 歌ひ歌ひて進み行く天の川原に棹さして エデンの河に船を漕ぎ顕恩郷に上るごと 心涼しく勇ましく思はず知らず進み行く 汗拭き払ふ夏の風いやな潮の香なく 矢を射る如く帆を孕みマストは弓に曲りつつ 折から起る荒浪を乗り切り乗り切る勇ましさ 長らく陸路の旅を経し玉国別の一行は 何とはなしに気も勇み身も冴え冴えと元気よく 沖の鴎やアンボイナ飛び交ふ景色を賞ながら 天国浄土に昇るごと風に任して馳て行く 危き命を救はれしダルとメートの両人は 漸く元気恢復し皺枯れ声を張り上げて 面白さうに歌ひ出す メート『私の生れは月の国テルモン山の南麓に 首陀と生れしメーテルの私は一人の息子です 三五教の宣伝使これの湖水を渡らむと いと懇にことわけて宣らせたまひし時もあれ 掟をやぶると知り乍らダルと二人が船を出し キヨの港にはるばると安着したる時もあれ バラモン教の目付役カンナ、ヘールの両人が 有無を云はせず引捉へキヨの関所につれ行きて 三千五百の笞をあて揚句の果は船に乗せ 湖中に浮ぶツミの島送り届けて逸早く 逃げ行く後を打ち眺め悲歎の涙に暮れにける 家に残せし父母は如何に過させ給ふらむ 夢になりともこの様を知らさむものと思へども 翼なき身は如何にせむ音づるよしも泣逆吃 ダルと二人が抱き合ひ世を果敢なみて怖ろしき 磯に打ち来る浪の音頼りに月日を送りつつ 磯辺の蟹や貝を獲り僅に露命をつなぎつつ 救ひの船の一日も早く来れと天地の 神に祈りをかくる折漂ひ来る三人連れ 吾等の姿を見るよりも叩き殺して三人が 餌食になさむと怖ろしき其言の葉を聞くよりも 狭き岩窟を立ち出でて敵の毒手を逃れつつ さしも嶮しき岩山を猿の如く駆け登り 手ごろの石を手に取つて人喰ひ人種を打ち殺し 吾身の危難を逃れむと心を千々に砕きつつ 最早三人の食人鬼吾なげ下す岩片に 打たれて脆くも身失せしと思ひて窺ひ立よれば 豈計らむや三人は岩窟の中に端坐して 白い眼を剥きながら吾等二人の姿をば 見つけて又もや殺さむと力限りに追ひ来る 吾等二人は大切の命を取られちやならないと 息絶え絶えに逃げ出しピツタリと止まつた簫の岩 進退茲に谷まりて窮鼠却て猫を食む 命を的に逆襲と騎立て直す苦しさよ 茲に五人は全身の力を籠めて揉み合ひつ 疲れて互に打ち倒れ前後不覚になりにけり 時しもあれや三五の救ひの道を述べ伝ふ 仁慈無限の宣伝使現はれまして吾々が 危難を救ひ給ひつつ味よきパンを与へまし 安全無事の此船に助けていとど親切に 吾等が住所に送らむと宣らせ給ひし有難さ それに引き換バラモンはヤッコス、ハール、サボールの 情を知らぬ人畜生取り喰はむと角を立て 迫り来るぞ怖ろしきさはさりながら吾々は 尊き神の御使に守られ茲にある上は 最早怖るる事はなしバラモン軍の三人よ 汝も心を改めて誠の心に立ち帰り 悪逆無道の精神を仁慈無限の神様に ならひて払ひ清むべし人は神の子神の宮 吾は元よりバラモンの教の道の御子なれど 三五教の宣伝使吾家に一夜泊らせて 誠の道を伝へてゆ茲に心を改めて 御船を出し湖原を遠く送りてキヨ港 思はぬ人に見つけられ身の災となり果てて 人喰鬼の住むと云ふ浪風荒き浮島に 流され居たるぞ悲しけれ仁慈無限の大神は 珍の使を遣はして愈吾等を救ひまし 湖路を守り給ひつつ送らせ給ふ有難さ 仮令天地は変るともバラモン教の御教は 孫子に伝へて守らない玉国別の宣伝使 其外百の司達吾等を憐れみ給へかし 皇大神の御前に赤心捧げ両人が 謹み敬ひ願ぎまつる』 バラモン軍の捕手、ヤッコスは舷に立つてそろそろ歌ひ出した。 ヤッコス『バラモン軍に仕へたる吾はヤッコス目付役 四人の部下を引き連れてテルモン湖上を打ち渡り ニコラス大尉の後を追ひ三五教の宣伝使 若も湖水を渡りなば引捉まへて懲せよと 大黒主の命を受け船に真帆をば孕ませて 北へ北へと進む折俄の颶風に出会し 船は暗礁に乗り上げて船体忽ち粉微塵 衣類を脱ぎすて辛うじて荒浪猛る罪の島 命辛々泳つき食を求めて遠近と 彷徨ひ廻れど浪荒く一つの餌食も無かりしゆ 三人は磯辺をぶらぶらと足もとぼとぼ歩みつつ 岩蔭さして立よれば骨と皮との二人連れ 人喰人種にあらねども飢たる時には是非もなし 心を鬼に持ち直し二人の男を打ち殺し 一時の飢を凌がむと心にもなき悪逆を 企みたるこそうたてけれ生れついての鬼でない 仁義道徳一通り習ひ覚へた人の子よ さはさりながらやむを得ず小人下司の常として 窮すれや乱すといふ譬心ならずも悪業を 企みたるこそ是非もなき優勝劣敗弱肉強食の 世界に傚ふて果敢なくも皇大神の御教を 忘れたるこそ苦しけれ三五教の宣伝使 心も清き玉国の別の命が現はれて 敵と狙ふ吾々を救はせ給ひし有難さ 天が下には敵なしと教へられたる言の葉は 今目の当り悟りけり吾等も是より慎みて 残虐無道の行動を改め神の御為に 誠を尽し世の人を救ひて人と生れたる 其天分を尽すべし三五教の神司 吾等が心を憐みて尊き君の御伴に 使はせ給へ惟神神に誓ひて願ぎまつる 朝日は照るとも曇るとも月落ち星は失するとも 仮令命は捨つるとも深き恵を蒙りし 司の君の高恩は子孫に伝へて忘るまじ 此世を造りし神直日心も広き大直日 総ての罪を悉く宣り直します三五の 尊き神の御心深くも感謝し奉る ああ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 ハールは又歌ふ、 ハール『一切万事の経緯は目付頭のヤッコスが 概略茲に述べました私も元はウラル教 信者の端に加はりて神の教を崇めつつ 其日を送り居たりしが何分酒に身を崩し 二世と契つた女房に夜脱けせられて是非もなく 彼方此方に彷徨ひつ心は日に夜に僻み行く もう此上は盗人の群に加はり長からぬ 浮世を太く暮さむと心を鬼に持ち直し 思案に暮るる折もあれバラモン教のヤッコスが 情の言葉に絆されて茲に目付の役となり 一年前から忠実に目付の役を勤めつつ 此湖原を越え来る三五教の司をば 一人残らず引捉へ吾身の出世を誇らむと 思ひ居たるぞ果敢なけれまだ幸に一人の 三五教の信者をも神の司も捉まへず 罪を重ねし事なきはせめては私の胸やすめ 三五教の神司私は唯今述べました やうな身分で厶います如何なる罪がありとても 広き心に宣り直し赦させ給へどこ迄も 御伴に使ひ給へかし神かけ念じ奉る ああ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 と述懐の歌を歌ふ。かかる所へ七八艘の海賊船、船の行手に横梯陣を張り、前途を壅塞し、手具脛引いて待ち居るものの如くであつた。ああ玉国別の一行は如何なる運命に遭遇するであらうか。 (大正一二・三・二八旧二・一二於皆生温泉浜屋加藤明子録)
174

(2715)
霊界物語 58_酉_イヅミの国1(猩々島) 10 報恩 第一〇章報恩〔一四八五〕 玉国別一行の搭乗した船は仮に初稚丸と命名された。その理由は初稚姫に危急の場合この堅牢なる船を与へられたからである。月照る湖面を白帆をかかげ南へ南へと急速力にて翔つて行く。前方に当り七八艘の船が単梯陣を張つて初稚丸目蒐けて押し寄せ来る形勢が見えて居た。ヤッコスは之を見るより早く、 ヤッコス『もし、御一同様、あの前方に並んでゐます七八艘の船は此湖に陰顕出没して南北往来の船を掠める賊船で厶います。捉まつては一大事ですから何とか工夫をせなくてはなりますまい。私はこれから舳を少しく西南に向けやうと思ひますから其覚悟で居て下さい。西南へ向ひますれば暗礁点綴して容易に賊船は追つ駆ける事は出来ませぬ。然し私も表面バラモン軍に仕へ目付頭を致して居りますが海賊の大親分です。船路の様子を知つてるのは私許りです。もしも強敵に出会つた時は、何時も此航路をとり逃げます。追駆けて来た船は必ずその辺で難船し、或は沈没するものです。左様さして頂いても宜しいか』 玉国『船路の勝手を知つてるお前に何事も一任する。さア早くその用意をして呉れ』 ヤッコス『はい、御恩の報じ時で厶います。然らばこれから私が船を操ります』 と櫓を握り八人の水夫に一生懸命に櫂を漕がせ矢を射る如く走り出した。賊船は一生懸命に舳を転じ初稚丸の後を追ふて追駆け来る。 ヤッコスは一生懸命に水夫を励まし、櫓を漕ぐ。漸く危険区域に船が差蒐つた時、賊船の二三艘は早くも舷々相摩する処迄、近づいて来た。さうして錨を初稚丸に投げつけた。初稚丸は到頭おつつかれて了つた。グヅグヅして居る間に八艘の船は初稚丸の周囲に船垣を作り、各自に弓を満月に絞つて威喝を試みて居る。ヤッコスは大声をあげ、 ヤッコス『オイ、貴様等は賊船ではないか。俺を誰と心得てる。賊船頭のヤッコスだぞ。俺は今大黒主の命令によつて三五教の宣伝使を捕縛し、キヨの港の関所に送る途中だ邪魔をひろぐと容赦は致さぬぞ』 八艘の船を統率して居た海賊のデブは舷頭に立ち、 デブ『あ、親方で厶いましたか。えらい失礼を致しました。貴方のお乗込の御用船とは知らず、よい獲物が現はれたと、全隊を引率れて、ここ迄おつ駆けて来ました。誠に済まない事を致しました。何卒お許しを願ひます』 ヤッコス『今後は必ず心得たが宜からう。其方が安閑として此湖上に悪性商売が出来るのも皆此ヤッコスがバラモン軍の目付頭になつてる余徳ぢやないか。俺が一つ首を振らうものなら、忽ち数千人の軍隊を以て貴様達を捕縛し、且貴様等の住宅を皆知つてるから、妻子眷族も召捕つて重い成敗に会はされるのだ。それよりもこれから北へ北へと進んで、三五教の宣伝使が七八十人やつて来るから、それを捕縛すべく進んだが宜からう。それを巧くやつたならば、其方に望み次第の褒美を、関所の役人に執持つて貰つてやらう。さア行け。後に居る奴は皆弱虫許りだ。一番強い奴はここに五六人ふん縛つて連れて来たのだ。グヅグヅしてゐると影を見失ふかも知れぬぞ。早く船を引返し、真北に向つて進んだが宜からう』 デブ『はい、承知致しました。何分宜しう願ひます。さア皆の者、舳を北に向け、急速力で漕ぎ出せ』 と命令した。忽ち八艘の船は船首を北に向け一生懸命にグイグイと櫂の音賑しく鳥の飛つ如き勢で遠ざかり行く。 ヤッコス『アハハハハハ、もし、玉国別の宣伝使様、悪人も斯んな時には間に合ふもので厶いませうがな。私も昨日迄のヤッコスであればここで怎んな謀反を起すか分らないのですが、貴方等の仁慈無限のお心に感じ、今迄やつて来た事が恐ろしくなりまして、今日は漸く人間らしい気分になりました。神様の教を聞いたものが嘘偽りを申すのは誠に済まぬ事とは存じ乍ら、此場合臨機応変の処置を採らなくてはならぬと存じ、心にもなき偽りを申しました。何卒神様にお詫を貴方様からして下さいます様お願致します』 と真心を面に現はして頼み入る。 玉国『ハハハハハやア感心だ。人喰人種が俄に如来様になつたのだな。それではダル、メート様も、もはや喰はれる心配もないから今迄の怨みをスツクリ湖に流して同じ船の一蓮托生、和気靄々と打解て此湖を渡らうぢやないか』 バラモン組、並にメート、ダルの両人は『ハイ』と嬉しげに差俯向き涙さへ滲ませて居る。 ヤッコスは櫓を操り乍ら歌ひ初めた。一同は舷を叩いて賑々しく之に和した。その声は水面に響き渡り海底の竜神を驚かす許りに思はれた。 ヤッコス『テルモン湖水に昔から鬼よ悪魔と呼ばれつつ 往来の船を引捕らへ宝を奪ひ衣を剥ぎ 尊き人の命までとりて其日を送りたる 悪逆無道のヤッコスもバラモン軍の勢に 辟易してゆ黄白を数多散じて賄賂とし キヨの港の関守にうまく取入りバラモンの 目付頭と選まれて密かに海賊使役しつ 悪と虚偽とに日を送る此ヤッコスも天命尽き 勝手覚えし海原も俄の暴風に進路をば 謬り暗礁に乗り上げ木端微塵に船砕き ここに五人は真裸体波を潜りて漸くに 水泳に長けた三人は人の恐れて寄りつかぬ 荒波狂ふツミ島へ命からがら泳ぎつき 飢に迫りて罪人を屠り殺して喰はむと 力限りに格闘し互に体は疲れ果て 息も絶えむとする時に仁慈無限の三五の 教の道の宣伝使現はれまして吾々が 危き命を救ひまし清き教を諄々と 説き玉ひたる有難さ流石無道の吾々も 神の御声に目を覚まし有難涙にくれ乍ら 初稚丸に乗せられてキヨの港に帰らむと 波に漂ふ折もあれ前方に浮ぶ八艘の 船は正しく吾部下のデブの率ゆる賊船と 見るより早く進路をば転じて湖中の危険地と 聞えし灘に駆け向ふ湖に慣れたる賊船は 矢を射る如くおツついて思ひも寄らぬ獲物ぞと 四方八方取囲む海より深き恩人の 命を救ひ高恩に報ひまつるは此時と 幸ひ部下のデブ以下に嚇し文句や偽を 並べて漸く追ひ散らし初めて胸もサヤサヤと 晴れ渡りたる月の空実にも芽出度き次第なり ああ惟神々々御霊幸倍ましまして 暗礁点綴する湖を無事に彼岸に達せしめ 吾等一行をやすやすとキヨの港へ着かしめよ 思へば思へば昔より神の心は露知らず 善と真とに背を向け悪と虚偽とに一心に 心を曇らせ居たるこそ実にも愚の至りぞと 省みすれば後の世がいと恐ろしくなりにけり 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直し聞き直す 三五教の大御神今まで犯せし身の罪を 赦させ玉へと願ぎ奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるともこれの湖水は乾くとも 仮令命は失するとも一旦神に真心を 捧げ奉りしヤッコスは如何でか曲に溺れむや 憐れみ玉へ惟神皇大神の御前に 畏み畏み願ぎ奉る』 斯く歌ひ乍ら漸くに船首を再び西南に転じ潮流にのつて月の海面を辷り行く。 (大正一二・三・二九旧二・一三於皆生温泉浜屋北村隆光録)
175

(2726)
霊界物語 58_酉_イヅミの国1(猩々島) 21 館帰 第二一章館帰〔一四九六〕 アキスは一行の先に立ち元気よく歌ひ出した。 アキス『ああ有難し有難し恋に焦れた旦那さま 番頭さまと諸共に行衛失ふ其日より 今日で殆どまる三年流石平和の家中も 主人の不在となり果てて春は来れども花咲かず 夏の木立も萎れ勝ち秋の木枯吹き荒み 樹々の梢は羽衣を脱いでブルブル慄ふ如 何とはなしに家の内冷たく悲しく暮しける サーベル姫の奥様は一人の坊さま力とし いつ帰るとも白波の海に消えたるバーチルの 夫の君を慕ひつつ涙片手に懇ろに 問ひ弔ひを営みつ朝は早うからバラモンの 神の御前に拝礼し主人の君の冥福を 祈らせ玉ひ日の暮はアヅモス山の御墓場 香華を手向け水供へ山野河海の珍味物 心を籠めて奉り夫婦の情の何処迄も 深きを面に現はして貞女烈婦の鑑ぞと 四方に謳はれ玉ひけり主人の家に古くより 仕へまつりし吾々は女主人の御顔を 見る度毎に涙ぐみ胸に迫りてハアハアと 吐息をつくも幾度か測り知られぬ悲しみを やうやう忍びて早三年皇大神は此様を 憐れみ玉ひてバーチルの家に降臨遊ばされ サーベル姫に神懸遊ばしまして主の君の 帰り来ますと厳かに告げさせ玉ひし尊さよ 余りの事に吾々も半信半疑の村雲に 包まれ乍ら炎天を侵してスマの磯に立ち 主人の君の帰りをば首を延ばして待ち居たる 時しもあれや白浪の彼方に見ゆる白帆影 主人の君か他人か神ならぬ身の吾々は 覚らむ由も夏の日の芝生に尻を打据ゑて 恋しき人は吾前に帰りますかと待ち倦む 心の暗の開け口暗夜を照らして日の神の 東の山の端昇りまし下界に光明投げ玉ふ 嬉しき時は来りけりああ惟神々々 三五教の御教を四方に伝ふる宣伝使 玉国別の一行に無人の島より助けられ アンチーさまと諸共に帰りますこそ嬉しけれ サーベル姫は云ふも更五歳になつた坊様も 欣喜雀躍遊ばして嬉し悲しの活劇が 奥の一間で遺憾なく演出さるるでありませう ああ有難し有難しバーチル一家は云ふも更 恩顧を受けし里人は主人の君が恙なく 三年振りで吾家に帰りましたと聞くならば 爺々も婆々も孫連れてお祝申しに来るであらう 門前忽ち市をなし歓喜の声は一時に 潮の寄せ来る其如く館の周囲は人山を 築いて歓喜の花開き常世の春の賑しさ 眺めて祝ふ瑞祥を今目のあたり見る心地 心も勇み胸躍り体は宙に立つ如く 重たき足も軽々と知らず知らずに進み行く ああ惟神々々神の恵みの幸はひて 憂ひに沈む此館地獄の様な光景も 忽ち変る天国の弥永久の春となり 飲めよ唄への大歓喜ああ惟神々々 神の恵みを慎みて遥かに感謝し奉る 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも神の恵みに助けられ 無事でお健で莞爾と帰りましたる吾主人 その高恩は何時の世か必ず忘れ玉ふまじ 僕に仕ふる吾々も神の恵を嬉しみて 心の鬼を追ひ出し誠一つの御道に 真心籠めて朝夕に仕へ奉りて主の為 力の限り身の極み誠を尽し守るべし 守らせ玉へ大御神御前に祈り奉る』 カールは又歌ふ。 『有為転変は世の習ひとは云ふものの情ない スマの里にて第一の大物持と聞えたる 主人の君は朝夕に漁り許りを楽しんで 暇ある毎に舟を漕ぎ大海原に網を打ち 大小幾多の魚族を捕獲し玉ひ里人に 惜しげもなしに与へましうまいうまいと舌鼓 打つ里人の声を聞きこれが唯一の楽みと 家の業をも打忘れ凝り固まりし漁りの 妙技は益々発達し漁師の神と仇名され 清めの海の魚族をば鬼の如くに驚かせ 一大得意になりまして益々漁業に勉励し 遂に悪魔に魅られてレコード破りの暴風に遇ひ 山と寄せ来る荒波に船諸共に呑まれまし 浮きつ沈みつ猩々島神の守りに救はれて 三年の憂を忍びつつ三五教の司等に 送られ帰り玉ひけりああ惟神々々 神の恵みの有難さ主人の君のバーチルよ これから心を取直し仮令魚族の端と云へ 天地の恵みを楽しみて悠々遊べる生物を 必ず苦しむ事勿れ禽獣虫魚は云ふも更 虫族草木に至る迄皆神様の生身霊 宿らせ玉ふ御霊物無益の殺生し玉ふな カールの僕慎みてお家の為に真心を 捧げて諫め奉るああ惟神々々 御霊幸はひましませよ館の森に近づいて 木々の梢は青々と主人の帰りを待つて居る 牡丹の花は広庭に媚びを呈して打笑ひ 腮を外した芍薬の花は舌をばペラペラと 風のまにまに動かせつ祝ひの酒を待ち兼ねつ 喉を鳴らして待つて居る屋根の間に巣を組んだ 雀の群はチヨチヨとお家の栄えを祝ひつつ 軒端に匂ふ花燕子花菖蒲の剣はヒラヒラと 刃を翳して警護する実にも目出度き今日の日は 幽冥界より帰り来る主人の君の甦り 竜宮城に遥々と亀の背中に乗せられて 進みましたる浦島が乙姫さまの玉手箱 戴き帰りませし如その喜びは何物も 譬へむ術ぞなかるべしああ惟神々々 神に感謝し奉る』 と歌ひ乍ら一行は早くも宏大なる邸の表門に着いた。 (大正一二・三・三〇旧二・一四於皆生温泉浜屋北村隆光録)
176

(2742)
霊界物語 59_戌_イヅミの国2(キヨの港) 09 暗内 第九章暗内〔一五〇九〕 玉国別、真純彦は長途の海路に草臥れきつた上、振舞酒にグツタリ酔ふて其夜は潰れた様に熟睡して了つた。先づ手洗を使ひ口をすすぎ、東天を拝し、次いで神殿に進み祝詞を奏上し、暫らく休息して居る。そこへバーチルは顔色を変へて出で来り、 バーチル『もし先生様、大変な事が出来致しました。誠に申訳のない事で厶います』 玉国『大変とは何事で厶いますか』 バーチル『はい、私もグツタリと草臥れて、よく寝込んで了ひましたので、夜中の出来事は少しも存じませぬが、三千彦様、伊太彦様、デビス姫様のお三方が、何程そこらを探しても行衛が分りませぬ。里人の話によりますと裏門口を開いてバラモンの軍人が三人様をフン縛り帰つたとの事、実に申訳のない事を致しました』 玉国『何、三人がバラモン軍に誘はれたと、やア、それは大変だ。真純彦、こりやかうしては居られまい。之から両人がバラモンの関所に押掛けて行つて様子を探つて見ようぢやないか』 真純『如何にも大変な事が出来致しました。さア参りませう』 バーチル『もし先生様、一寸お待ち下さいませ。バラモンの関所には一中隊の勇猛なる兵士が抱へて厶いますから、お二人様では険難で厶いませう。幸ひ斯うして村中の者が昼夜の別なく、祝に来て居りますから此中から強い者を選むで数十人お連れになつてはどうでせう。私も命を助けて貰つた御恩返しに今度は命を捨てます。何卒さうなすつて下さいませぬか』 玉国『いや、決して御心配下さいますな。又宣伝使が貴方等の助力によつて多数を恃むで押掛けたと云はれては済みませぬ。又一方は武器を持つたもの、里人に怪我でもあつては済みませぬから吾々両人が直接に出掛けませう』 バーチル『さう仰有れば是非が厶いませぬ。代りに私がお伴を致しませう』 玉国『いや、それには及びませぬ。然し乍ら僅かに二人、敵の中へ参るので厶いますから之がお顔の見納めになるかも知れませぬ。何卒貴方は神様の御心をよくお覚りなさつて、此里人を導き可愛がつておやりなさいませ』 かかる所へサーベル姫は襖をソツと押開き涙と共に転げる様にして入り来り、 サーベル『玉国別様、真純彦様、大変な事が出来致しました。何卒神様の御神徳によつて御三方を救ひ出し、無事にお帰り下さいませ。妾は神様を念じ無事の成功を祈ります』 玉国別『有難し君が情の厚衣 身に纒ひつつ進み行くべし。 真心を深く包みし衣手に 薙ぎて屠らむ醜の輩を』 真純彦『曲神に苦しめられし吾友を 助けに行かむ神のまにまに。 大神の御前に額き願ぎ申す 此首途を真幸くあれよと』 バーチル『真心を籠めて打出す言霊に 刃向ふ仇の如何であるべき。 さり乍ら心配りて出でませよ 企みも深き陥穽あれば』 サーベル姫『玉国別神の命よ真純彦よ 仇の館に気を配りませ』 玉国別『有難し神に捧げし吾命 よし捨つるとも如何で恐れむ』 真純彦『皇神の縁の糸に結ばれし 身ながら今は解けむとぞする』 バーチル『吾僕アンチー連れて出でませよ 彼は力の強き益良夫』 玉国別『吾道は人を頼らず杖につかず 只真心に進むのみなり。 折角の思召をば無みするは 心済まねど許し玉はれ。 三千彦は嘸今頃は仇人と 厳の言霊打ち合ひ居るらむ』 真純彦『言霊の戦ひなれば恐れまじ 兇器を持ちし敵の陣中も。 曲神の憑りきつたる仇人を 言向和す日とはなりぬる』 アンチー『神司吾れを召し連れ出でまして 真心の限りを尽させ玉へ。 よしやよし命を敵に渡すとも いかで悔いなむ捨てし此身は』 玉国別『玉の緒の命に代へて嬉しきは 汝が心の誠なりけり』 斯く互に歌を取交し、玉国別、真純彦は今や宣伝使の服を脱ぎ、バーチルの与へたる衣服と着替へ乍ら立出でむとする所へ、泥酔者のテクはツカツカと現はれ来り、 テク『ヘー、御免なさいませ。私は今日迄はバラモン教の目付役の下を働くスパイで厶いました。一方には海賊の張本人ヤッコスと兄弟分となり、種々雑多と、よくない事許りやつて居ましたが、玉国別様に何とも知れぬ般若湯を頂き、それから心に潜む鬼が私の身内から逐転しまして、今は全く人間心に立帰りました。就きましてはチルテルの邸には沢山の陥穽が厶いますれば此テクが御案内を致しませう。うつかり行かうものならえらい目に会ひます。その秘密を知つてるのは外には厶いませぬ。関所を守つてる軍人の外は誰も知りませぬからお危う厶います』 玉国『おう、お前はテクさまだつたな。や、有難う、それ程沢山に陥穽が拵へてあるかな』 テク『ヘーヘー、彼方にも此方にも陥穽許りで厶います。あんな所へ落ちたが最後、上る事は出来ませぬ。さうして此頃は何とも知れぬ美しい女の方が離家に只一人居られます。さうして其お名は初稚姫様だとか云ふ事で厶います。関守のキャプテンがその女に現を抜かし、それが為に夫婦喧嘩がおつ初まり、いや、もう内部の醜態と云つたら話になりませぬ』 玉国『なに、初稚姫様が厶ると云ふのか。どんな年格好なお方だ』 テク『はい、明瞭は分りませぬが一寸見た所では十七八才かと思ひます。然し何処ともなく十五六才の幼い所も厶いますし、体中宝石を以て飾つて居られます。それはそれは綺麗なお方ですよ』 玉国『はてな、初稚姫様は、そんな宝石等を身に飾る様なお方ぢやないと聞いて居る。大方同名異人だらう。なア真純彦』 真純『そら、さうで厶いませう。世間に同じ名は何程も厶いますからな』 玉国『あ、そんなら屋敷の案内をお願ひしようかな』 テク『いや早速の御承知、有難う厶います。大抵の所は皆私が知つて居りますから、私の後に跟いて来て下さいますればメツタに不調法はさせませぬ。そして彼の女に一度お会ひになれば真偽が分るでせう。大方貴方のお弟子は陥穽に落ち込みなさつたかも知れませぬ。うつかりして居ると命が怪しう厶います。沢山な兵士が寄つて上から石を投げ込むのですから、堪つたものぢやありませぬわ』 バーチル『テクさま、お前さまはアキスから聞けば宅の番頭になつたと云つて居られたさうだが本当に番頭になつて呉れますか。アンチーも暫く休まして下さいと云つてるから、お前さまが番頭頭になつて下さらば大変都合が宜しいがな』 テク『承知致しやした。貴方からお言葉のかからぬ中から已に番頭と一人で定て居りますから何の異議が厶いませう。もとは悪人で厶りましたが神様の光に照らされて最早悪が恐しくなり、その罪亡しに一つでも善事を行ひ度いと決心をして居りますから何卒宜しくお願ひ申します。サア玉国別様、真純彦様、参りませう』 アンチー『是非とも私をお伴に願ひます』 玉国『それ程仰せらるるなれば御同行を願ひませう』 とバーチル夫婦に暇を告げ、裏口より一行四人キヨの関守チルテルが館を指して進み行く。テクは先頭に立ちヤッコス踊をし乍ら心イソイソ歌ひ初めた。 テク『バラモン教のキャプテンが部下に使はれ犬となり 彼方此方と湖辺をば尋ねまはりて三五の 神の司や信徒を一人も残さずフン縛り キヨの関所へ連れ行きて褒美の金を沢山と 頂き好きなお酒をば飲んで浮世を面白く 暮さむものと心をば鬼や大蛇と変化させ 悪の道のみ辿りたる悪党無頼の此テクも 玉国別の神様の厚き心に感服し 迷ひの夢も覚め果ててバーチルさまの家の子と 仕ふる身とはなりにけりバラモン教の関守が 如何程神力あるとても如何で及ばむ三五の 誠一つの言霊に敵する事は出来よまい 屋敷の中に沢山の陥穽をば穿ちつつ 三五教やウラル教道の教のピュリタンを 否応云はさずフン縛り皆悉く陥穽に 落して喜ぶ悪神の醜の器となり果てし チルテル司は魔か鬼か思ひ廻せば恐しや かかる悪魔を逸早く亡ぼし尽し世の人の 災難を早く救はねばイヅミの国の人々は 枕も高く眠れない吾も元より悪人の 種ではなけれど止むを得ずバラモン教の勢力に 刃向ひ其身の不幸をば招かむ事を恐れてゆ 心にもなき間諜となり吾良心に責られて 苦しき月日を送りつつせつなき思ひを消さむとて 朝から晩まで酒を飲み浮世の中を夢現 三分五厘に暮さむと金さへあれば自棄酒を 呻つて過す浅間しさあゝ惟神々々 神の恵みの幸ひて愈今日は三五の 貴の司の先走り今迄犯せし罪科を 償ひまつる今や時皇大神よ大神よ テクの心を憐れみて今度の御用を恙なく 遂げさせ玉へ惟神仮令天地は変るとも 一旦神の御前に罪を悔いたる此テクは 汚き心を露持たじ敵は如何なる謀計を 廻らし吾等を攻むるとも何か恐れむ神心 振ひ起して何処迄も神の御為世の為に 悪魔の棲ひしチルテルの醜の司を懲しめて 世人の為に災を除かせ玉へ惟神 御伴に仕へし此テクが真心捧げて願ぎ奉る あゝ惟神々々御霊幸ひましませよ』 アンチーは又歌ふ。 アンチー『三年振りに吾主人バーチルさまに廻り会ひ 喜び勇む間もあらず命の親の神司 危き敵の館へと出でます君を案じつつ 主人の君の許し受けお伴に仕へ進む身は 如何なる曲の企みをも如何で恐れむ敷島の 大和男子の魂を現はしまつりて高恩の 万分一に報ふべしキヨの港は遠けれど 勝手覚えし抜け道を進むで行けば一時の 間には容易く達すべしさはさり乍ら真昼中 敵の館へ進み行くこれが第一険難だ 日暮れを待つてボツボツと隅から隅まで探索し 三千彦さまの所在をば探し求めた其上で あらむ限りのベストをば尽すもあまり遅からじ 玉国別の宣伝使真純の彦の神司 新番頭のテクさまよ貴方の御意見詳細さに お知らせなさつて下されや敵にも深い企みあり 軽々しくも進みなば臍を噛むとも及ぶなき 大失敗を招くべし省み玉へ神司 此アンチーは意外にも卑怯な男と皆さまは 思召すかは知らねども注意の上に注意して 行かねばならぬ敵の中あゝ惟神々々 何れにしても大神の力に頼り進むべし 玉国別の御前に更め伺ひ奉る』 と歌ひ終り、玉国別の意見を求めた。玉国別はアンチーの言葉に一理ありとなし、途上に佇みて暫し思案を廻らして居る。テクは無雑作に口を開いて、 テク『もし、皆様、私は幸い種々の関係上チルテルに接近せなくてはなりませぬ。それについては色々とチルテルの腹を探り、又敵の様子や三千彦様以下の所在を探索するに余程便宜を持つて居りますから、貴方は暫らく此密林に日の暮るる迄御休息を願ひ、私が一応取調べた上、日が暮れてからお出掛けになつた方がよからうと在じますが貴方等のお考は如何で厶いませうか』 玉国『成程、却つて夜分の方が宜いかも知れない。御神諭にも「今迄は日の暮が悪いと申したが之からは日の暮に初めた事は何事もよい」とお示しになつて居る。そんならテクさま、御苦労乍らチルテルの館に罷越し、能ふ限りの偵察をして下さい。それまで此の森蔭に祈願をして待つて居りませう』 テク『いや、早速の御同意、有難う厶います。それなら此テクがうまく様子を探つて参ります。何卒此森の奥で悠りと休息をして待つて居て下さい。左様なら』 と云ひ乍ら尻引紮げトントントンと夏草茂る細い野道を駆け出した。三人は森の木蔭に腰を下し、時の至るを待つて居る。 (大正一二・四・一旧二・一六於皆生温泉浜屋北村隆光録)
177

(2750)
霊界物語 59_戌_イヅミの国2(キヨの港) 17 倉明 第一七章倉明〔一五一七〕 第一倉庫の中にはカンナ、チルナの両人が互に悲歎の涙に暮れ乍ら世を果敢なみて述懐を歌つて居る。 チルナ姫『恋ひ慕ふ吾背の君は曲神に カンナ…………『襲はれ玉ひし事の悲しさ。 チルナ姫『暗がりの倉に情なく投げ込まれ カンナ…………『乾く由なき吾涙かな。 チルナ姫『初稚の姫と称ふる曲神は カンナ…………『此世を乱す人鬼ならめ。 チルナ姫『何時の日かこれの鉄門や開かれむ カンナ…………『頼り無き身を悶え苦しむ。 チルナ姫『飢ゑ喝く此苦しみを如何にせむ カンナ…………『唾さへ出ぬ二人の身の上。 チルナ姫『悲しさは涙となりて溢れけり カンナ…………『世の荒波に揉まれし身には。 チルナ姫『大空に月日は清く輝けど カンナ…………『心の空を黒雲包めり。 チルナ姫『如何にしてこれの鉄門を開かむと カンナ…………『あせれど最早力尽きぬる。 チルナ姫『此上は只大神に願ぎ奉り カンナ…………『救はるる時を待つばかりなり。 チルナ姫『恋雲に深く包まれ身の光 カンナ…………『隠して一人吾は苦しむ。 チルナ姫『背の君は女に心とられましぬ カンナ…………『吾も変らず迷ひ苦しむ。 カンナ『デビス姫娶らむものと村肝の チルナ姫………『心砕きし人の憐れさ。 カンナ『太腿に噛りつかれた苦しさを チルナ姫………『思ひやるだに涙ぐまるる。 カンナ『チルナ姫暗に紛れて吾腿に チルナ姫………『獅噛みついたる事の悔しさ。 カンナ『惟神神の御前に罪を悔い チルナ姫………『詫びつ恨みつ泣き渡るかな。 カンナ『バラモンの皇大神は吾身をば チルナ姫………『救ひまさずやいとど悲しき。 チルナ姫『月に村雲花には嵐吹き荒むなる世の中に 花を翳して永久に此世を安く渡らむと 祈りし事も水の泡初稚姫と云ふナイス 現はれ来りて吾夫の清き心を濁らせつ 心にもなき枉業を尽させ玉ふ恨めしさ 吾背の君はバラモンのキヨの関所を預りて ハルナの都へ攻め寄する三五教の宣伝使 一人も残さず引捕らへ地底に深く穿ちたる その岩窟に投げ込みて此世の災払はむと 誠心を捧げつつ朝な夕なに大神に 感謝祈願の太祝詞宣らせ玉ひし折もあれ 木花散らす夜嵐に吹き捲られて妹と背の 道を誤り玉ひつつ妾の身をば館より 追放せむとなし玉ふその曲業ぞ悲しけれ 吾背の君の迷ひをば覚まし呉れむと心にも なき偽りを構へつつ半狂乱を装ひて 戸障子手道具悉く打折り砕き警告を 与へし事の仇となり忽ち手足を縛られて 無慙や暗き倉の中投げ入れられし悲しさよ これも全くリュウチナントカンナの司の待遇しが 面白なかりし其為と一度は怨み居たりしが カンナの司も今ここに吾等と共に苦しめる 姿を見るより同情の涙に濡れて吾怨み 春野の雪と消えにけりあゝ惟神々々 神の恵みの幸はひて一日も早く片時も 吾等二人の身魂をば広きに救ひ玉へかし 偏に願ひ奉る梵天帝釈自在天 大国彦の大御神大国彦の神柱 御前に慎み鹿児自物膝折伏せて願ぎ奉る。 天地に神は在さずや居まさずや この願ぎ事も聞し召さずや。 村肝の心の暗の戸打開けて 救はせ玉へ大御神等』 カンナ『バラモン教の神柱ハルナの都に在れませる 大黒主の命令もてリュウチナントに任ぜられ チルテル司に従ひて己が務めを忠実に 仕へまつりし此カンナ如何なる悪魔の魅りしか 思ひも寄らぬ災難に不遇を喞つ今日の身は あるにあられぬ悩みなりチルテルキャプテンに頼まれて チルナの姫の御前に心にあらぬ偽りを 図う図うしくも並べ立て清き心を曇らせて 姫の災招きたるその罪悪を省みて いと恐ろしくなりにけり暗の中とは云ひ乍ら 吾太腿を峻烈に噛み切り玉ひし其痛さ 無念の歯噛みなし乍ら怨みを晴らし呉れむずと 拳を固めて二つ三つ尊き面を殴りしは 悔むで返らぬ過失ぞ事の起りは此カンナ 物の黒白も分らずに欲に迷ひし其為ぞ 許させ玉へチルナ姫人は神の子神の宮 もとより鬼の子でもない大蛇の腹に生れたる 蛇でもなければ曲でない何れも神の分霊 水晶魂の持主よさはさり乍ら大空の 月日も暫し黒雲に包まれ姿を隠す如 吾魂も何時しかに悪魔の虜となり果てて 思はぬ不覚をとりましたかうなり行くも己が身の 犯せし罪の報ひぞやチルテルさまや姫様を 最早や少しも怨まない梵天帝釈自在天 二人の悩みを逸早く救はせ玉へ惟神 黒白も分かぬ暗の中双手を合せ真心を 捧げて祈り奉る』 斯く歌ふ折しも俄に四辺騒がしく、数十人の足音が聞えて来た。二人は耳をすまして何者の襲来なるかと暫し様子を窺つて居た。忽ち、ガチヤリと戸を開く音、見れば初稚姫初めチルテル其外沢山な宣伝使や兵士が立つて居る。チルナ姫は矢庭に倉を飛び出し、初稚姫目蒐けて夜叉の如く飛びついた。初稚姫はヒラリと体を躱し、 初稚姫『三五の誠の道を伝へ行く 吾は初稚姫の神ぞや。 チルナ姫妾の姿を見誤り 怨み玉ふか心もとなや』 チルナ姫『よく見れば何処とはなしに御姿 変らせ玉ひぬ許させ玉へ』 チルテル『いと恋やの妻の命よ心せよ 吾も初稚姫に救はれしぞや』 チルナ姫『背の君に刃向ひまつりし吾罪を 赦し玉はれ神の心に』 チルテル『吾胸に巣へる曲に誘はれ 思はぬ罪を犯しけるかな。 今日よりは心の駒を立て直し チルナの姫を厚く愛なむ』 チルナ姫『有難し其の宣り言を聞く上は 仮令死すとも怨まざらまし』 カンナ『チルテルの司よ清く許しませ 罪に溺れし吾魂を』 玉国別『皇神の恵みの露に霑ひて 吾人ともに勇みけるかな』 三千彦『日影なき地底の洞に落されて 心砕きし事の果敢なさ。 初稚姫神の命があれまして 吾等が命を救ひ玉ひぬ。 何時の世か此御恵を忘るべき 弥勒の御世の末の末まで』 ワックス『テルモンの神の館に色々の 枉企みたる吾はワックス。 今こそは誠心に帰りけり 許させ玉へ三千彦の君』 三千彦『村肝の心の花の咲きぬれば 世に憎むべき人はあらまし』 ヘルマン『如何にして己が犯せし罪科を 詫びむと思ふ心苦しさ。 デビス姫の清き身魂を曇らせし 吾は此世の魔神なりしか』 エキス『五百笞の戒め受けて遙々と 来りて此処に夢は覚めけり』 エル『三千彦の厚き情の御計らひ 仇に返せし吾身の嘆てさ。 三千彦の情けの盥なかりせば 吾身体の如何で保たむ。 海山の恵みを受けし身ながらに 仇と狙ひし事の苦しさ』 イク『初稚姫神の命の後になり 前になりつつ進み来にけり』 サール『キヨ港関守館に尋ね来て 思はぬ人に巡り合ひしよ』 テク『いざさらばバーチル主の館へと 急いで行かむ皆の人等』 チルテル『今暫し館の中を片づけて 後に行くべし先に出でませ』 初稚姫『いざさらば吾はこれより皇神の 宣りのまにまに別れ行かなむ』 玉国別『今暫し待たせ玉へよ初稚姫 君の恵みに報ゆ術なき』 初稚姫『玉国別神の命の真心を 力となして進み行くべし』 斯く歌ひ乍ら一同に目礼し、スマートを従へ足許早く館の門を出づるや、忽ち姿は霞と消えさせ玉ふた。初稚姫はスマートの背に跨り木の間を潜つてハルナの都へと急がれたのである。イク、サールの両人は折角追つついた姫様に見捨てられては大変と、両人は取る物も取り敢ず、トントントンと地響き打たせ水晶の宝玉を片手に固く握り乍ら追つて行く。 (大正一二・四・二旧二・一七於皆生温泉浜屋北村隆光録) (昭和九・一二・一王仁校正)
178

(2754)
霊界物語 59_戌_イヅミの国2(キヨの港) 21 客々舟 第二一章客々舟〔一五二一〕 猩々王の肉体の亡びし姿を見るよりも 海竜王は雀踊し猩々島に駆け上り 小猿の群を悉く呑み喰はむと蜒々と 体も太く弥長く島のかための岩石に 三周り四周り巻きつきて大きな口を開け乍ら 一つも残さず丸呑みになさむものぞと控へ居る 数多の猩々は驚いて狼狽へ騒ぎキヤツキヤツと 悲鳴をあげてヤッコスやハール、サボールの前に寄り 救ひを乞へば三人は猩々よりか身の大事 仮令悪竜に喰はるるも能ふ限りの抵抗を 試み其身の万一を僥倖せむと磯端の 石を掴んでバラバラと悪竜目蒐けて打ちつける 三百有余の猩々は猿の人真似各自に 石を手にして投げつける流石の悪竜も面喰ひ 少時躊ふ折もあれ三五教の宣伝使 伊太彦司が現はれて天津祝詞を奏上し 厳の言霊一二三四五六七八九十 百千万の声共に打出す言霊石の玉 見る見る竜の体より黒煙濛々立昇り 硬き鱗の間より紅蓮の舌を吐き出し その極熱に堪へかねて海竜王は岩山を 下りてバツサリ海中に姿隠せし嬉しさよ ヤッコス、ハール、サボールはハツと胸をば撫で下ろし 伊太彦司の率ゐたる二十の船に打向ひ 両手を合せて感涙に咽びかへるぞ憐れなれ 数多の猩々は掌を合せ伊太彦司に打向ひ キヤツキヤツキヤツと鬨の声嬉し涙に泣き叫ぶ 忽ち湖水は湧き返り熱湯の如くなり変り 大小無数の鱗族は皆水面にポカポカと 腹を覆して浮び居る伊太彦之を憐れみて 忽ち天地の大神に向つて祝詞を奏上し 一二三四五つ六つ七八九つ十百千 万の声に千万の海に浮びし鱗族は 忽ち元気恢復し溌溂として撥ね廻り 一同首を並べつつ感謝の意をば表しける 神の使の伊太彦は島に残りし三人の 神の御子をば相救ひ天王の森の眷族と 仕へまつりし数百の猩々の命を救済し 海に浮べる鱗族の生命までも救ひつつ 真善美愛の神業を最と極端に発揮して 心も勇む波の上天津神等国津神 三五教を守ります百のエンゼル神使 その外海の神々に感謝の祝詞を捧げつつ 科戸の風に送られて心いそいそ帰り行く かかる例はあら尊と天地開けし初めより 又と世界に荒波の上漕ぎ渡る神の船 実にも目出度き次第なりあゝ惟神々々 御霊幸はひましましてこの物語詳細に 水も洩らさずスクスクと述べさせ玉へと瑞月が 畳の波に浮びたる長方形の方舟に 横たはりつつ舵をとり敷島煙草のマストより 歪まぬ煙を吹き乍ら四月三日も北村の北村隆光 隆々光る朝日影背に浴びつつ述べて行く 伯耆の国の米子駅一里半を隔てたる 名さへ目出たき皆生村浜屋旅館の二階の間 生きた神代の引うつし処女の著作の物語 諄々ここに述べて行く此世を造りし神直日 心も広き大直日只何事も人の世は 直日に見直せ聞き直せ身の過ちは宣り直す 三五教の大御神三十万年末の世に 生れ出でたる瑞月が雲霧分けて朦げに 宣べ伝へ行く物語脱線誤謬は多くとも 広き心に宣り直し許させ玉へ惟神 神のまにまに述べ進むそも瑞月が此里に 一行五人来りしゆ例もあらぬ豊漁と 里の男女が囁くを聞くともなしに聞き居れば 大本教の神様が此地に来りませしより この神徳を村人が頂きたりと口々に 語り居るこそ床しけれ日本海に連なりし 夜見の浜辺の波清く日本国の要ぞと 海底深く湧き出でし簸野川上の大山は 清き姿を天空に雪の衣を被りつつ 海を覗いた水鏡天も清浄地も清浄 松の林も海水も人の身魂の六根も 皆清浄と清めつつ猩々島の物語 心勇みて宣り伝ふ波は太平の鼓うち 清めの湖は塵もなく竜宮海の乙姫が 数多の魚族に送らせつ方舟ならぬ猩々舟 幾百万とも限りなく大小無数の鱗族が ピンピンシヤンシヤン撥ね乍ら神船を押して進み行く あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ。 伊太彦は声も清らかに歌ふ。猩々は声を揃へて拍子をとる。 伊太彦『天津御空の影映す塵もとどめぬキヨの湖 二十の船を相並べ猩々の島に立向ひ 天王の森の眷族を三百三十三人と 人一化九の三人を漸く救ひ帰り行く キヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツドンドコドンドコドコドコドン 波も静に治まりて一直線に水平の 上辷り行く此船は天津御国の助け舟 処女の航路に猩々隊二十の船に満載し 酒の鏡を抜き放ち勝手次第に飲み乍ら 天国浄土の光景を今目のあたり眺めつつ 人も獣も化物も喜び勇む今日の空 実にも目出度き次第也キヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツ ドンドコドンドコドコドコドン三五教に仕へてゆ 此伊太彦は行先で瓢軽者だ狼狽者 出洒張者と笑はれて玉国別の師の君に 軽蔑されて居たけれど誰憚らぬ今日こそは 一人舞台の艦長さま何程大きいと云つたとて 牛の尻尾になるよりも鶏の頭になるがよい 凱旋将軍伊太彦が此武者振を逸早く 吾師の君や真純彦三千彦夫婦に知らせ度い あゝ勇ましや勇ましや今日は天地も殊更に 清く涼しく広く見ゆキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツ ドンドコドンドコドコドコドン人には一度は添ふて見よ 馬には必ず乗つて見よ何処の何処に何んな人が 隠してあるか知れないと三五教の筆先に 明瞭り現はれ居りまする誰様の事かと思ふたら 一行の中の沓取と自分でさへも信じたる 此伊太彦の事だつた真純の彦や三千彦が 何程偉いと云つたとて三百有余の団体の 頭となつて権力を振り廻したる事はない 俺の身魂は何として清浄のものであつただろ キヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツドンドコドンドコドコドコドン いや待て暫し待て暫し三百人の頭ぢやと 何程メートル上げたとてあンな顔した人間を 統率したとて偉さうに威張れた道理ぢやない程に 人の面した奴ならば乞食でも泥棒でも構やせぬ 頭になつたら面白い一寸此奴は閉口だ とは云ふものの魂は矢張り人に優れたる 猩々さまと云ふからはチツとは誇つてもよいだらう こんな事迄考へりや俄に力が落ちて来た 大きな顔してベラベラと誇る訳にはゆくまいぞ 玉国別の師の君が汝が身魂の相応ぢやと 選て迎へにやつたぞともしも一言仰有らば それこそサツパリ水の泡真純の彦や三千彦や デビスの姫に殊更に馬鹿にされるに違ひない 思へば思へば阿呆らしや阿呆と云はれる悲しさに せめてはマストを裸にし阿帆の帆をば巻き下し 腕の力で漕ぎ帰る俺の勇気はこんなもの あゝ惟神々々神のまにまに任します キヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツドンドコドンドコドコドコドン。 (都々逸調)浪も静まるキヨメの湖に 瑞の御魂の水鏡。 水鏡、チヨイと覗けばアラ不思議 俺の面まで皺が寄る。 その筈ぢや、波の上漕ぐ此船は 板と板との継ぎ合せ。 年並も寄らぬ姿に波が打つ 人並勝れた吾ちから』 と歌ひ乍ら長柄の杓で酒をグイグイひつかけつつ数万の魚族に送られて南をさして帰り行く。 (大正一二・四・三旧二・一八於皆生温泉浜屋北村隆光録)
179

(2756)
霊界物語 59_戌_イヅミの国2(キヨの港) 23 鳩首 第二三章鳩首〔一五二三〕 ヤッコス、ハール、サボールの三人は、伊太彦丸の片隅に小さくなつて不安の面をさらし乍ら、コソコソ密談をやつてゐる。 ヤッコス『オイ両人、此奴アちと怪しいぞ。俺達を置去にして行きやがつた宣伝使の片われ伊太彦が大将になつて、これ丈沢山の船を拵へ、猩々の一族を引率れ帰るに就いては何か深い企みがあるに違ひない。猩々の前で、俺等を一つ掻きむしる真似でもせうものなら、あれ丈の猩々が一所へ固まつて来て、真似の上手な奴だから、掻きむしり、結局にや一つよりない命まで取つて了ふかも分らぬぢやないか。之を思へば俺はモウ酒を呑む気にもなれない、汝等どう思ふか』 ハール『ナアニ、三五教は無抵抗主義、博愛主義だと聞いてるから、俺達三人位殺した所で、世界の米が安うなるといふ訳もなし、悪魔が根絶するといふ道理もないから、滅多にそんなこたア致すまい。マア安心したが宜からうぞ。俺は何だか助けてくれるやうな気がするのだ』 サボール『イヤ、さう安心も出来まい。どつかの磯端へ伴れて行つて猿攻に会はす積だらう。三五教といふ奴ア、ズルイから、自分が手を下して人を殺せば天則違反になるのを虞て、猿公の手をかり、俺達三人をバラモンとやる積だらう。一層の事、今の内に先んずれば人を制すだ。伊太彦の素ツ首を捻ぢ切つてやらうでないか。さうすれば猿の奴真似しやがつて、どの船も此船も船頭の首を捻ぢ切るだらう。猩々は何と云つても俺達と仮令三日でも同棲して居た馴染もある。又大蛇に呑まれかけた時に応援もやつたし、恩を知つてる獣だから、俺達の危難を見て救はぬといふ道理がない。併し猿といふ奴、先にやつた者の真似をするのだから、遅れた方が敗だ、一つ決行せうぢやないか』 ヤッコス『まてまて、伊太彦一人ぢやない、此船にはアンチーといふ力強が乗つてゐるから、ウツカリ手出しをせうものなら、それこそ窮鼠却て猫を咬むやうな破目になるかも知れぬ。何とかかとか云つて、沢山酒を呑ませ機嫌を取つて酔ひ潰し、寝鳥の首を締めるやうに甘くそこはやらかそぢやないか』 ハール『お前達両人はどこ迄も人を疑ふのか。疑心暗鬼といつて、自分の心の鬼が自分を責めるのだ。何程三五教の魔法使だとて、おとなしい者を苦しめるこたア出来ぬからのう。マアそんな取越苦労をするよりも大自在天様を御祈願した方が安全かも知れぬぞ』 ヤッコス『あ、兎も角俺は険難で堪らない。併し乍らサボールの言つた通り、一方は神力無双の宣伝使、一方は力強だから、先づ甘く機嫌を取り酒に酔ひつぶし、其上決行しよう。それが最良の手段方法だ。オイ、サボール、汝常から声自慢だから、一つ慄ひつくやうな美声を出して唄つてみよ。さうすりやキツと伊太彦が気を許すに違ひない』 サボールは首を三つ四つ縦にしやくり乍ら、細い涼しい声で、船の隅の方から唄ひ出したり。 『三千世界の世の中に尊いものが四つある 第一番に尊きは豊栄昇るお日イ様 次には夜を守ります円満清朗のお月様 大地を造り固めたる三五教の守り神 大国常立大御神此神様の御恵で 梵天帝釈自在天大国彦の神様も 此世に生きて厶るのだモ一つ尊い御方は 三五教で名も高き此船守る伊太彦司 こんな尊い御方と一つの船に乗せられて 鏡のやうな海原を帰つて行く身は有難い 至仁至愛の神様は禽獣虫魚の隔てなく 皆夫れ夫れに生命を一日なりと永かれと 守らせ玉ふぞ有難きまして天地の神様の 大経綸に仕ふべき神の鎮まる生宮を 憐れみ玉はぬ事やあるモシ神様が人間を 仮令猩々の手を借つて悩め玉ひし事あるも ヤツパリ愛の本体が根本的に崩解し 神の資格がゼロとなるこんなみやすい道理をば 悟らせ玉はぬ事あろかかくも仁慈の神様に 朝な夕なに赤心を捧げて仕へ奉ります 三五教の神司中にもわけて美しき 身魂を持たせ玉ひたる伊太彦司は神様の 珍の化身と人が言ふこんな尊い神人に 守られ帰る吾々は大舟に乗つた心地して 先の事をば案じずに結構なお神酒を頂いて 猩々さまの御伴をさして貰ふが宜からうぞ これこれモウシ宣伝使三五教の神様の 深き恵に絆されて貴方の顔を見るにつけ 高天原の霊国の天人のやうに思ひます これを思へばバラモンの教を守る神さまは 月とスツポン雲と泥天地のけじめがあるやうに 何だか思へてなりませぬこれから素張りバラモンの 教を捨てて三五の誠の信徒となりまする スパイの役を勤めたり片商売に海賊を やつて来ました吾々は心の底から悔悟して 貴師のお弟子になりまする何程罪があるとても 天地の神の御心を思ひ出されて吾々を 必ず殺して下さるな最早私は悪神の 影さへとめぬみづ御霊鏡の如き魂と 俄に研き上げました貴師の清き魂で 私の心の奥底を隅から隅迄透視して 疑晴らし三人を何卒御助け下されや 梵天帝釈自在天オツトドツコイこら違うた 天地を造り固めたる天の祖神三五の 大国常立大御神其外百の神達の 御前に畏み願ぎ奉る旭は照る共曇る共 月は盈つ共虧くる共仮令大地は沈む共 一旦改心した上は決して元へは返らない 天地の神も御照覧安心なさつて沢山と 結構なお神酒をあがりませさうして下さる事ならば 吾等三人一時に直接行動ドツコイシヨ 直接間接神様に誠を捧げまつりませう あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 伊太彦『バラモンの醜の司が村肝の 心いらちて疑ひて三人。 吾心すかして三人バラモンの 醜の司よ心安かれ』 ハール『有難し其御言葉を聞きしより 心も広くゑみ栄えぬる』 ヤッコス『疑の雲霧晴れて和田の原 波に揺られて帰る嬉しさ。 人は皆尊き神の生身魂 悩むる人は鬼か悪魔ぞ。 吾れも又鬼や大蛇とよばれつつ 世人なやめし事を悔ゆなり』 アンチー『こそこそと船の小隅に集まりて 疑三人酒に四人。 伊太彦の神の司よ心せよ うはべを飾る人の心に』 伊太彦『何事も只惟神々々 神の恵に任すのみなり。 和田の原五百重の波を辷りつつ 心もスマの岸を目当に。 帰り行く猩々舟は勇ましく 常世の春を齎し帰るも』 ハール『伊太彦の道の司は神なれや 其言霊に心栄えぬ』 ヤッコス『何事も伊太彦さまの御心の 御船の舵に任すのみなり。 さり乍ら何時荒風の吹きすさみ 船覆へす事のこはさよ』 ハール『疑の心は暗の鬼となる 早く晴らせよ胸の曇を』 (大正一二・四・三旧二・一八於皆生温泉浜屋松村真澄録) (昭和九・一二・一王仁校正)
180

(2766)
霊界物語 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 05 鎮祭 第五章鎮祭〔一五三〇〕 真善美を尽したる二棟の宮殿は玉国別以下一同の丹精によつて漸く完成し、東側の宮には大国常立大神を祀り、西の宮には大国彦命を鎮祭する事となつた。 玉国別は斎主として新調の祭服を身に着け、真純彦以下の宣伝使及び主人側のバーチル夫婦並にバラモンのチルテル以下里人一同と共に荘厳なる遷宮式を挙行した。 大国常立尊の御神体としてはバーチルの家に古くより伝はりし直径三尺三寸の瑪瑙の宝玉に神霊をとりかけ、大国彦命の御神体としてはチルテルが大切に保存せる直径三寸許りの水晶の玉に神霊をとりかけ、これを奉斎する事となつた。 さうしてバーチルは東の宮の神主となり、サーベル姫は西の宮の神主となり、朝夕心身を清めて之に奉仕する事となつた。 玉国別の宣伝使は遷宮式の祝詞を歌に代へて歌ふ。 玉国別『朝日輝くアヅモスのテーヷラージャーの森の中 大峡小峡の木を伐りて清き心の里人が 下津岩根に宮柱太しく造り高天原に 千木高知りて三五の皇大神やバラモンの 教司の神等を斎まつらむ今日の日は 天の岩戸の開くなる生日足日の生時ぞ 此世を造り固めたる大国常立大御神 天王星より下ります梵天帝釈自在天 大国彦の大神の深き恵みを蒙りて 漸くここに宮柱建て了りたる目出度さよ 高天原の霊国の姿を移すスメールの 山は世界の救ひ主天地の神も寄り集ひ 世を常久に守らむと寄り来仕ふる目出度さよ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令天地は覆るとも元津御祖の大神が 此地に鎮まります限り如何なる枉も来るべき 大三災の風水火小三災の饑病戦 煙の如く霧の如朝の風や夕風の 吹き払ふ如影もなく安全無事の霊場と 弥永久に鎮まりて世人を守り玉へかし 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直し聞直し 身の過ちは宣り直す善言美詞の神嘉言 朝な夕なに宣り上げて総ての邪気を拭き払ひ 神の御国の歓楽をこの国人は永久に 味はひまつる有難さアヽ惟神々々 此神床に永久に鎮まりまして常暗の 世界を救ひ玉ひつつ神の御稜威はラシューズダ サハスラバリ・ブールナドヷヂャサルワサットワブリヤダルシャナと 現はれ玉ひて永久に鎮まり居ませと願ぎ奉る この里人の誠心ゆ捧げまつりし海河や 山野の種々珍味物八足の机に弥広く 弥高らかに横山の姿の如く置き足らし 真心こめて大神酒や大神饌御水奉る 此二柱大御神青人草の真心を 完全に委曲に聞し召し今日の喜び永久に 続かせ玉へ惟神尊き神の御前に 三五教の神司玉国別が真心を 籠めて一同になり代はり畏み畏み願ぎ奉る アヽ惟神々々御霊幸はひましませよ』 祭典は無事に終了し、各聖地に処狭き迄群集り居て撤饌の供物により直会の宴を開き、神酒を頂き乍ら思ひ思ひに今日の盛事を祝した。其中重なる人の歌を一、二左に述べて置く。 バーチル『アヽ有難し有難し天の岩戸は開きけり 暗の帳は上りけり四辺の空気は何となく いと爽かに風そよぐ木々の梢は淑かに 自然の音楽相奏で梢は舞踏を演じつつ 今日の盛事を祝ふなり野辺に咲きぬる蓮花 香りも高く吹き送る牡丹芍薬ダリヤ迄 艶をば競ひ香を送る天国浄土も目のあたり 眺むる如き心地なり朽ち果てたりし宮殿も 今は目出度く新まり木の香新に鼻をつく 見るもの聞くもの一として尊き神の御恵の 籠らせ玉はぬものはなし父の犯せし罪科の 吾身に巡り来りてゆ日夜に心を痛めつつ 清めの湖に浮び出で百の鱗族漁りつつ 心を慰め居たりしが神の恵みの引合せ 例もあらぬ颶風に遭ひ猩々の島に助けられ 因縁因果の巡り合ひ猩々の姫とゆくりなく 鴛鴦の縁を契りつつ三年を過ぐる暁に 救ひの神の来りまし吾を助けてイヅミなる スマの館に送りまし今又神の神勅 忝なみて伊太彦の神の司に一族を これの神山に迎へられ霊魂の親子は喜びて スメール山の神殿に朝な夕なに仕へ行く 嬉しき身とはなりにけり吾は之より比丘となり 神の柱となる上は父祖の伝へし吾館 その外山野田畑を天地の神に奉還し 里人各持場をば定めて自由に稲や麦 豆粟黍は云ふも更羊や豚の数限り 知られぬ許りの財産を皆里人の有となし この儘地上の天国を弥永久に築きつつ その神恩に浴されよ神に仕へし上からは 物質的の宝をば塵もとどめず放り出し 神の恵に与りて夫婦親子は聖場に 楽しく仕へ奉るべし諾ひ玉へ天津神 国津神等八百万その生宮と現れませる バラモン軍のキャプテンを始め奉りて部下とます 百の軍も里人も公平無私に吾宝 分配なして穏かに此世を送り玉へかし 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも神の司のバーチルが 言葉は永久に変らまじ心安けく平らけく 思召されよと皇神の御前に誓ひて宣りまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 里人が原野を捜つて集め来りし四種の曼陀羅華を神殿処狭きまで供へまつり、サーベル姫はその花の中心に立つて曼陀羅華を手にし、太鼓、羯鼓、笙、篳篥、翼琴等の微妙の音楽の音に和して歌を歌ひ乍ら舞ひ狂うた。 因に四種の曼陀羅華とは、 一、マーンダーラヷ 二、マハーマンダーラヷ 三、マンヂュシャカ 四、マハーマンヂュシャカ を云ふ。さうして曼陀羅は適意花、成意花、円花、悦音花、雑色花、天妙花とも翻訳され、その色は赤に似て黄色を帯びたり、青に似て紫、紫に似て黒を帯びたり種々雑妙の色がある。マハーマンダーラヷは白華又は大白華となすものがある。マンジュシャカは柔軟草、如意草、赤団華とするものもある。 サーベル姫『天火水地と結びたる青赤白黄紫の 曼陀羅華をば大前に処狭き迄奉り 天地の水火に叶ひたる真善美愛の花束を 里人等が慎みて真心捧げて奉る 皇大神は言霊の天火水地を結びまし 地上の人は曼陀羅華天火水地と結びたる 種々雑妙のこの花を大宮前に立て並べ 至誠を現はし奉る皇大神よ大神よ 吾等を初め里人が清き心を臠し アヅモス山の霊場に大宮柱太しりて 鎮まり居ます珍宮の司と永遠に仕へませ バーチル夫婦が真心をここに現はし願ぎ奉る 吾等夫婦は大神の恵みの露に霑ひて 咲き匂ひたる曼陀羅華一度に開く花蓮 心の空に天界の平和と歓喜の国を建て 神の御為世の為に三五教やバラモンの 一体不二の神教を普く四方に宣べ伝へ 世人を救はせ玉へかし三百三十三体の 此愛らしき猩々は吾身に憑りし猩々姫 神の使の生みませる天地の愛の珍の子と 憐れみ玉ひて永久に身魂を守り平安に この世を渡らせ玉へかし執着心や世染をば 科戸の風に払拭し安の河原に垢離をとり 清浄無垢の魂となり仕へまつらせ玉へかし あゝ惟神々々御霊の恩頼を願ぎまつる』 斯く歌ひ終り一同に拝礼し、数多の猩々に前後を守られて、一先づ元の館へ引返し村人一般に対し財産全部提供の準備をなすべく欣々として嬉しげに立ち帰る。 (大正一二・四・七旧二・二二於皆生温泉浜屋北村隆光録)