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霊界物語 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) 序文 序文 天地惟神の御庇護の下に口述開始より今日に到り殆ど十三箇月と十日の日子を費し、瑞月霊界物語第四十三巻を亀岡に於て編纂し了ることを得ました。筆記者も極めて熱心に寝食を忘れて就事されたのは、決して普通事ではありませぬ。然し本日は大正十一年十一月二十八日陰暦十月十日と云ふ、神の道に取つても最も因縁深き吉祥日であります。冬の初めとはいへ陽気も極めて暖かく、梅花匂ひ花鳥来つて君が代の瑞祥の春を謳ふかとばかり思はるるやうな、気持の良い日であります。十の月十の日は是れ円満具足完全無欠を意味するものです。口述者の瑞月、侍者の鮮月、松の神代(永遠無窮の聖代)に因みたる姓名の松村真澄氏、北光の神の名に因みある北村隆光氏、加ふるに婦人記録者として加藤明子氏の三人は、相変らず綾部より出張して其健腕を振ひ、一言一句を漏らさず拾ひ上げられたことを瑞月が衷心より感謝する次第であります。大本秋季大祭終了後、高熊山参拝を済ませ、其後引続き亀岡にて目出度く本巻を前後三日間の光陰に包まれて漸く講了いたしました。惟神霊幸倍坐世。 大正十一年十一月廿八日旧十月十日
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霊界物語 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) 04 玉眼開 第四章玉眼開〔一一五五〕 伊太公『思ひきやきやきやきやと泣く猿に キヤツといふ目に会はされるとは』 道公『コリヤコリヤ伊太公、気楽相に狂歌所かい。宣伝使様が今日か明日か知らぬよな目に会はされて苦んで厶るのに、何を呆けてゐるのだ。サ、早く谷川へでも下りて清水を汲んで来い。俺は御介抱を申上げるから……』 伊太公『そんならお前達両人に、先生の御介抱を頼む事にしよう。俺はこれから谷水を汲んで来るワ』 といひ乍ら、水筒をブラブラブラ下げ、谷川さしておりて行く。 伊太公『ヤア此所に綺麗な水が流れてゐる。之を汲んで洗つて上げたらキツと癒るだろ。 山猿に掻きむしられて何もかも 水の御霊の救ひ求むる。 この水は神の恵の露なれば 今日は見えると言ひたくぞある。 谷川に落ち込み水を汲みに来た 深き心を汲ませ玉へよ。 此みづは眼ばかりか命まで 救ひ助くる恵の露ぞ。 惟神神の光の現はれて 玉国別の眼照らせよ。 みず知らず懐谷の山猿に 掻きむしられし事の悔しさ。 さり乍ら神の使命をおろそかに いたせし罪の報い来しにや。 時置師神の命が現はれて 心の眼開き玉へり。 待てしばしぐづぐづしてるとこぢやない 早く眼をあらはにやならぬ。 伊太公の目は大丈夫さり乍ら 師の君見る目いたいたしく思ふ』 と口ずさみ乍ら、清冽なる秋の谷水を水筒に盛り、一刻も早く玉国別を助けむと、小柴や茨を掻きわけ、息をはづませ登り行く。玉国別は両眼より血を垂らし乍ら、布にて血糊を拭き取り、手の掌を両眼にあてて痛さをこらへて俯いてゐる。道公、純公は、 道公、純公『サア大変々々』 と慌てふためき、うろたへ廻つて、チツとも間しやくに合はない。 玉国別『道公、水はまだか。伊太公はまだ帰らぬか』 道公『ハイ山路をタツタツタと下つて行たきり、今に至り姿を見せませぬ。先生が是程傷で困つて厶るのに……エヽ気の利かぬ奴ですワイ。オイ純公、貴様何をウロウロしてゐるのだ。早く伊太公の水の催促に伊太々々』 純公『エヽ洒落どころかい。大変な目に会うて吾々は進路に迷うてゐるのだ。一寸先は真暗やみだ。そんな気楽なことどこかいやい』 かかる所へ伊太公はフースーフースーと鼻息荒く登り来り、 伊太公『アヽ大変遅くなつてすみませぬ。一刻の間も早く帰りたいと思ひ、気をあせればあせる程、キツい坂で足がずり、漸くここ迄到着致しました』 道公『オイ早く水筒を出さぬかい。根つから持つてゐないぢやないか』 伊太公は腰のあたりを探り乍ら、『アツ』と一声打驚き、 伊太公『ヤア大変だ。余り慌てて、谷底へ水を汲んだなり忘れて来たのだ。オイ道公、貴様早く取つて来てくれぬかい。先生の痛みが気の毒だから、早く目を冷さぬと段々腫れて来ちや大変だ』 道公『エヽ慌者だなア、どこらに置いておいたのだ。それをスツカリ言はぬかい』 伊太公『谷川と云つたら、山の谷を流れる川だ。其水を汲んでチヤンと砂の上においてあるのだ。サア早く行かぬかい。一分間でも先生の苦痛を助けにやなるまいぞ』 純公『オイ伊太公、貴様が置いといたのだから、貴様が行かなグヅグヅ捜してゐる間がないぢやないか。本当に困つた奴だな。丸で雉子の直使だ。水を汲みに行つたつて、持つて帰らにや何になるものか』 伊太公『貴様、水を汲んで来いとぬかしたぢやないか。別に持つて帰れと迄は言はぬものだから忘れたつて仕方がないワイ。オイ純公、貴様も来てくれぬかい。実の所はどこで落したか分らぬのだ。二人よつて鵜の目鷹の目で、小柴の中や枯草の間を捜し求めて見つけて来うぢやないか、……モシモシ先生様、モウ暫くの御苦痛、どうぞ御辛抱下さいませ。誠に気の利かぬ男で厶いまして、御心中お察し申します。コラ、道公、何を呆けてゐるのだ、早く御介抱を申さぬかい』 道公『介抱せいと云つたつて、仕方がないぢやないか。俺やここで猿の再襲来を防禦してゐるから、貴様等両人、水筒捜しに行つて来い』 伊太公、純公両人はブツブツ呟き乍ら、小柴を分けて水筒の落ちた場所を探しに行く。漸くにして一丁ばかり下つた所に、水筒は落ちて居た。併し乍ら入口を下に尻を上に落したのだから、一滴も残らず吐き出して了ひ、空水筒となつて、天下太平気分で横はつてゐる。 伊太公『エヽ気の利かない水筒だな、落ちるのなら何故上向けに落ちないのだ。折角俺が呑ましてやつた水を、皆吐き出して……何と都合の悪い時にや、都合の悪いものだなア。オイ純公、仕方がない。マ一度谷底まで一走り行つて来うかい』 純公『さうだなア。水筒が見つかつた以上は貴様一人でいいのぢやけれど、元来が慌者だから、又道で落しよると何にもならぬ。俺が監視役として従いて行てやらう』 純公は水筒を懐にねぢ込み、急坂を小柴を分け、草に辷り乍ら、伊太公と共に深き谷底に下り立ち、清泉をドブドブドブと丸い泡を立てさせ、口まで満たした。 純公『すみ切りし此谷水を水筒に 呑ませて帰る身こそ嬉しき。 伊太公が折角汲んだ谷水は 水泡となりて消え失せにける』 伊太公『俺だとて落す心はなけれ共 目に見ぬ智慧を落したるらむ。 落したる瓶を拾うて音彦の 眼を洗ふわれおとましき』 純公『さア早う伊太公の奴よついて来い 眼伊太公と待つて厶るぞ』 と云ひ乍ら、又もや急坂を攀ぢ登り、漸くにして玉国別の傍に着き、水筒の水を手にすくひ、玉国別の両眼を念入りに洗滌した。 玉国別『アヽ有難い、これでスツカリ目の痛みが止まつたやうだ』 伊太公『先生、痛みが止まりましたか、それは何より嬉しい事で厶います。併し明りは見えますかな』 玉国別『イヤ痛みは余程軽減したやうだが、チツとも見えないワ』 道公『エヽ何と仰有います、お目が見えませぬか、コリヤ大変だ。大西洋の真中で蒸気船の機関が破裂したよなものだ、これから俺達は如何したら良からうかなア』 玉国別『心配してくれな。物のあいろは分らぬが、ボンヤリとそこら中が明く見えるやうだ。何れ熱が下つたら、元の通りになるだらう。これといふのも吾身の安全を第一として烈風に恐れ、肝腎の神様に祈願することや言霊を以て風神を駆逐することを忘れてゐた其罪が報うて来たのだ。実によい教訓を受けたものだ。せめて北光神様のやうに一眼なりと開かして下されば、結構だがなア』 道公はつくづくと玉国別の両眼を打ち眺め、 道公『ヨウこれは思つたよりも大疵だ。モシ先生、右の目はサツパリ潰れて了つてゐますよ。まだも見込のあるのは左の目ですよ』 玉国別『左の目は日の大神様、右の目は月の大神様だ。月の国へ魔神の征服に出陣の途中、月の大神に配すべき右の目を猿に取られたのは、全く神罰に違ない。まさしく坤の大神様が、吾目をお取上げになつたのだらう、あゝ惟神霊幸倍坐世』 道公『オイ伊太公、純公、コリヤ斯うしては居られまい、これから三人は谷底へ下つて一生懸命に水垢離を取り、先生の目の祈願をさして頂かうぢやないか』 斯く話す折しも、下の谷道を宣伝歌を歌ひつつ東北指して登り行く一隊があつた。これはケーリス、タークス、ポーロの一行が照国別の信書を携へ、斎苑館に修行に向ふのであつた。 道公『ヤアあの声は三五教の宣伝歌ぢやないか。モシ先生、キツとあれは吾々の味方に違ありませぬ。一つ後追つかけて、貴方の眼病を鎮魂して貰ひませうか』 玉国別『苟くも宣伝使の身を以て、山猿に眼を掻きむしられ、どうしてそんな事が、恥しうて頼めるものか。何事も神様にお任せするより道はないのだから、御親切は有難いが、それ丈はどうぞ止めてくれ』 道公『それだと申して、危急存亡の場合、そんな事が言うてゐられますか。今となつては恥も外聞もいつたものぢや厶いませぬ。何程神徳高き宣伝使でも、怪我は廻りものですからそれが恥になると云ふ事はありますまい。オイ伊太公、純公、何をグヅグヅしてるのだ。千危一機の此場合に泣く奴があるかい。早く宣伝歌の声を尋ねて頼んで来ぬか』 伊太公『それもさうだ。オイ純公、お前も御苦労だが、俺に従いて来てくれ』 純公『ヨーシ、合点だ。急かねばならぬ、急いては事を仕損ずる。気をおちつけて、ゆるゆる急いで行かう』 道公『何卒さうしてくれ。サアサア早う早う、手を合はして、今日は俺が頼むから』 玉国別『コリヤ三人、どうしても俺のいふ事を聞かぬのか、俺に恥をかかす積りか』 道公は頭を掻き乍ら、 道公『ダツて貴方、これが如何して安閑として居られませうか』 玉国別『神様の教に、人を杖につくな、身内を力にするな……といふ事がある。俺の目は俺が神様に祈つて何とかして貰ふから、どうぞそれ丈はやめてくれ、頼みだから』 道公『オイ伊太、純、どうも仕方がないぢやないか』 伊太公『俺達の先生だもの、俺達三人が神様に祈つて直して貰へばいいのだ。外の宣伝使に先生の恥を曝すのも済まないからなア』 玉国別は天に向つて合掌し、天津祝詞を奏上し、……国治立大神の神名を称へて、罪を謝した。其詞、 玉国別『高天原の主宰にして、一霊四魂三元八力の大元霊にまします大国治立大神様、私は貴神の尊き霊力体を賦与せられ、此地上に生れ来て、幼少の頃よりいろいろ雑多の善からぬ事のみ致しまして、世を汚し、道を損ひ、人を苦め、親を泣かせ、他人に迷惑をかけ、しまひの果にはウラル教の宣伝使となり、日の出別神様に救はれて一人前の宣伝使として頂きました。かかる罪深き吾々をも捨て玉はず、きため玉はず、広き厚き大御心に見直し聞直し詔直し下さいまして、尊き宣伝使にお使ひ下さいました事は、罪深き吾々に取つては、無上の光栄で厶います。かかる広大無辺なる御恩寵に浴し乍ら、知らず知らずの間に慢心を致し天下の宣伝使気分になつて、世の中の盲聾唖躄などを癒やし助けむと、勇み進んで此処迄参りました事を、誠に恥かしく存じます。今日只今山猿の手を借つて、吾々の両眼を刔出し、汚れたる心を清め、曇りたる心の眼を開かせ、身霊を明きに救ひ玉ひし其御恩徳を有難く感謝致します。人間の体は神様の生宮とある以上は何処迄も大切に此肉体を守らねばならないので厶いますが、自分の心の愚昧より大切なる肉の宮を損ひ破り、吾々の霊肉を与へ下さいました貴神様に対してお詫の申上げやうも厶いませぬ。誠にすまない無調法を致しました。仮令玉国別両眼の明を失する共、せめては心の眼を照らさせ下さいますれば神素盞嗚大神様より依さし玉ひし吾使命を飽迄も果たし、斎苑の館に復命をさして頂く考へで厶います。此上は御無理な願は決して致しませぬ。何卒々々惟神の御摂理に依りて、御心の儘にお取成し下さいます様に謹んで御願を申上げます』 と願ひ終り、両眼より雨の如く涙を流してゐる。三人も此有様を見て、思はず落涙にむせび、大地にかぶり付いて感謝の祈願を凝らしてゐる。玉国別は尚も一生懸命に、天地の大神に対し、懺悔の告白をなしつつあつた。不思議や左の目は俄に明くなり、四辺の状況は手に取る如く見えて来た。玉国別は嬉し涙に咽び乍ら、又もや拍手再拝して神恩を感謝する。 玉国別『イヤ道公、伊太公、純公、喜んでくれ。どうやら片眼が見え出したやうだ。神様は罪深き玉国別を助けて下さつた。あゝ有難し有難し』 と又もや合掌。三人は此言葉に驚喜し、 三人『あゝ有難し勿体なし』 と一斉に合掌し、勢込んで再び天津祝詞を奏上し始めた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一一・二六旧一〇・八松村真澄録)
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霊界物語 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) 10 夜の昼 第一〇章夜の昼〔一一六一〕 斎苑の館に現れませる瑞の御魂の救主 神素盞嗚大神の神言畏み亀彦は 治国別と改めて万公晴公五三公の 三人の御供を従へつ神の教を菊子姫 妻の命に相別れ凩荒ぶ秋の野を 足に任せてテクテクと河鹿峠の山麓に 進み来れる折もあれ千引の岩も飛び散れと いはぬ計りに吹きつける科戸の風に面をば さらして漸く頂上に息をはづませ登りつき あたりの厳に腰をかけ四方の原野を見はらして 吾身のこし方行末を思ひまはすぞ床しけれ。 万公『先生様、何と佳い風景ぢやありませぬか。河鹿峠の頂上から四方を見はらす光景は何時も素的ですが、あれを御覧なさいませ。広大なる原野の果に、白雲の衣を被つて、頭をチヨツクリと出してる彼の高山は、何とも云へぬ正しい姿ぢやありませぬか。八合目以下は綿の衣に包まれ、頭の上は常磐木が鬱蒼と生え茂り、腰あたりに白雲の帯を引締めてゐる光景と言つたら、何とも云へない床しさ否、眺めですなア。斯う四方を見はらした山の上に立つてゐると、何だか第一天国へでも登りつめたやうな気分が漂ふぢやありませぬか。願はくはいつ迄も斯様な崇高な景色を眺めて、ここに千年も万年も粘着して居りたいものですなア』 治国別『さうだ、お前の言ふ通り、雄大な景色だなア。佐保姫もこれ丈の錦を、広大無辺の原野に一時に織なすといふのは、余程骨の折れる事だらう。これを思へば天然力否神の力は偉大なものだ。造化の妙機活動に比ぶれば、実に吾々の活動は九牛の一毛にも足らないやうな感じがして、実に神様へ対しお恥かしいやうだ。アヽかかる美はしき地上の天国に晏如として生を送らして頂く吾々神の子は何たる幸福なことであらう。神の造られし山河原野は俺達のやうに別に朝から晩まで喧しく言問ひせなくても、花の咲く時分には一切平等に花を咲かし、実を結ぶ時には統一的に実を結ぶ。実に神の力は絶大なものだ』 晴公『実に晴々とした光景ですなア。天か地か地か天か、殆ど判別がつかないやうな極楽の光景ぢやありませぬか。此無限絶大なる世界に生を禀け、自然の天恵を十二分に楽み、自由自在に一切万物を左右し得る権能を与へられ乍ら、小さい欲に捉はれて屋敷の堺を争うたり、田畑の畦を取合ひしたりしてゐる人間の心が分らぬぢやありませぬか。私は今となつて此景色を見るに付け、神様のお力の偉大なるに驚きました。ヤツパリ人間は低い所に齷齪して世間を見ずに暮してると、自然気が小さくなり、小利小欲に捉はれて、自ら苦悩の種を蒔くやうになるものですなア。あゝ惟神霊幸倍坐世』 治国別『併し乍ら大神様に承はれば、バラモン教の大黒主の軍勢が此峠を渉りて斎苑の館へ攻め来るとの事だ。吾々宣伝使を四組も五組も月の国へ御派遣遊ばしたのも、深き思召のあることだらう。ハルナの都などは黄金姫様の御一行がお出でになれば十分だ。要するに吾々は大黒主の軍隊に向つて言霊戦を開始すべく派遣されたのであらう。さうでなくては、何程勢力無限の大黒主だとて斎苑の館の宣伝使、殆ど総出といふやうな大袈裟なことは神様が遊ばす筈がない。お前達も其考へで居らなくてはならないぞ。月の国は名に負ふ大国五天竺といつて五州に大別され、七千余ケ国の刹帝利族が国王となつて、互に鎬を削り、此美はしき地上の天国に修羅道を現出してゐるのだから、仁慈無限の大神の心を奉戴し、吾々一行は如何しても五六七神政出現の為めに粉骨砕身的の活動を励まねばなるまい、実に重大なる使命を与へられたものだ。天地の大神様に十分に感謝をせなくてはならない。あゝ有難し有難し、惟神霊幸倍坐世』 と合掌し瞑目傾首してゐる。 五三公『モシ先生様、お話の通りならば、大黒主の軍隊はキツと途中で吾々と遭遇すでせうなア』 治国別『ウン、最早間もあるまい。各自に腹帯を確り締めておかねばなるまいぞ』 五三公『ハイ、それは斎苑館出立の時から、腹が瓢箪になる程細帯でしめて来ました。赤い筋がついて痛い位ですもの、大丈夫ですワ。併し少しく腹が減りましたから、ここでパンでも頂きますか。さうでなくては、マ一度締め直さなくちやズリさうになつて来ました』 治国別『アハヽヽヽ』 万公『オイ五三、分らぬ男だなア。そんな腹帯ぢやないワイ。心の腹帯をしめ……と仰有るのだ』 五三公『心の腹帯て、どんなものだい。無形の腹帯を如何して締めるのだ。そんな荒唐無稽のことをいふと、人心惑乱の罪で、バラモン署へ拘引されるぞ』 万公『アツハヽヽヽ徹底的に没分暁漢だなア。天の配剤宜しきを得たりといふべしだ。至聖大賢計りが斯う揃つてゐると、道中は固苦しくて根つから興味がないと思つてゐたが、五三公のやうなゴサゴサ人足が混入してゐるとは、面白いものだ。悪く言へば天の悪戯、よく言へば天の配剤だ。チツとばかり貴様がゐると虫の薬になるかも知れない。アハヽヽヽ』 五三公『コリヤ余り口が過ぎるぢやないか。何だ、結構な神の生宮さまを掴まへて竹の子医者か何ぞのやうに、天の配剤だとは、余りバカにするぢやないか』 万公『クスクスクス』 五三公『コリヤ、狸を青松葉で燻べた時のやうに、何をクスクス吐すのだ。チツと俺のいふことも能くせんやく(煎薬)して聞け、こうやく(膏薬)の為になるから、ヤクザ人足奴、そんな事でマサカの時のおやくに立つかい、エヽー』 万公『そんなこた、如何でもいゝワ。早くパンでも頂いて腹をドツシリと拵へ、敵の襲来に備へるのだ。グヅグヅしてはゐられないぞ』 五三公『敵に供へてやる丈のパンがあるかい。自分の生宮に鎮座まします喉の神様や仏様に供へる丈より持つてゐないのだから、余計な敵の世話迄やく必要があるか。敵に兵糧を与へる奴ア、馬鹿の骨頂だ』 万公『神様の道からいへば、敵も味方も決してあるものでない。三十万年未来に、自転倒島に謙信、信玄といふ大名があつて、戦争をやつた時に、一方の敵へ向けて塩を贈つたといふ美談があるさうだから、敵を仁慈を以て言向和すのには、恩威並び行はねば到底駄目だ。貴様の筆法で言へば丸切りウラル教式だ。自分さへよければ人はどうでもいいといふ邪神的主義精神だから、そんなことでは大任を双肩に担ひ玉ふ治国別先生のお供は叶はぬぞ。アーン』 治国別『オイ万公、五三公、いらざる兄弟喧嘩はやめたがよからうぞ。サア是からがお前達の活動舞台だ』 万公『敵の片影を見ず、今から捻鉢巻をして気張つた所で、マサカの時になつたら待ち草臥れて力が脱けて了ふぢやありませぬか』 治国別『イヤイヤ半時許り経てばキツと敵軍に出会するにきまつてゐる。玉国別と吾々とが坂の上下から言霊を打出して、誠の道に帰順せしむべき段取がチヤンとついてゐるのだ。能く心を落着けて、騒がない様にせなくちやならぬぞ。千載一遇の好機だ、之を逸しては、神の大前に勲功を現はす時期はないぞ』 万公『それ程敵は間近に押寄せて居りますか。さう承はらば吾々もウカウカしては居られませぬ。併し乍ら黄金姫様や照国別様の一行は大衝突をやられたでせうなア』 治国別『多少の衝突はあつたであらう。併し何れも御無事だ。あの方々と吾々とは使命が違ふのだから……丁度此下り坂を楯にとつて、言霊戦を開始すれば屈竟の地点だ』 五三公は、 五三公『ヤアそれは大変、時こそ到れり、敵は間近に押よせたり。吾こそは三五教の宣伝使治国別の幕下五三公命だ。バラモン教の奴原、サア来い来れ。一人二人は邪魔臭いイヤ面倒だ。百人千人束に結うて束ねて一度にかかれ。ウンウンウン』 と左右の拳を固め、稍反り気味になつて、胸の辺りをトントントンとなぐつてゐる。 治国別『アツハヽヽ五三公の武者振りは今始めて拝見した。何時迄も其勢を続けて貰ひたいものだなア』 万公『コリヤ五三の蔭弁慶、何だ今からさうはしやぐと、肝腎要の時になつて、精力消耗し、弱腰を抜かし、泣面を天日に曝さねばならぬやうになるぞ。モウ少し沈着に構へぬかい。狼狽者だなア』 五三公『敵の間近き襲来と聞いて、如何してこれが騒がずに居られようか。弓腹ふり立て堅庭に向股ふみなづみ、淡雪なせる蹴えちらし、厳の雄健びふみ健び、厳の嘖譲を起して、海往かば水潜屍、山往かば草生屍大神の辺にこそ死なめ、閑には死なじ、額に矢は立つ共背中に矢は立てじ、顧みは為じと、弥進みに進み、弥逼りに逼り、山の尾毎に追ひ伏せ、河の瀬毎に追ひ散らし、服へ和し言向和す五三公さまの獅子奮迅の武者振だ。此位の勢がなくて、如何して大敵に当られるものかい』 万公『貴様は頻りに愚問を発するから、此奴ア、チト低能児だと思つてゐたが、比較的悧巧なことを並べ立てるぢやないか』 五三公『きまつたことだい。三五教の祝詞仕込だ。祝詞其ままだ。群りよせ来る敵を払ひ玉へ清め玉へと申すことの由を、平らけく安らけく聞し召せと申す。惟神霊幸倍坐世』 万公『アツハヽヽヽ此奴ア又偉い空威張りだなア、のう晴公、余程いゝ掘出し物ぢやないか。マサカの時になつたら、尻に帆かけてスタコラヨイサと逃げ出す代物だぜ』 晴公『ウツフヽヽヽ』 万公『一つ此処で風流気分を養つて参りませうか。大敵を前に控へ悠々として余裕綽々たりといふ益良男の一団ですからなア』 治国別『ウン、一つやつて見よ』 万公『見わたせば四方の山野は錦着て 吾一行を迎へゐる哉』 五三公『なあんだ、そんな怪体な歌があるかい、かう歌ふのだ、エヽー…… 見わたせば、山野の木々は枯れはてて 錦のやうに見えにける哉』 万公『ハツハヽヽヽ何と名歌だなア、柿本人麿が運上取りに来るぞ』 五三公『柿の本ぢやないワ、山上赤人だ。一つ足曳の山鳥の尾をやつてみようかな、エヽー』 万公『そりや面白からう。サアサア詠んだり詠んだり三十一文字を……』 五三公『山の上にあかん人こそ立ちにけり 万更馬鹿とは見えぬ万公』 万公『コリヤ五三、チツと御無礼ぢやないか。礼儀といふことを弁へてゐるか』 五三公『礼儀を知らぬ奴がどこにあるかい。擂鉢の中へ味噌を入れてする奴ぢやないか、エヽー。それが違うたら、売僧坊主が失敗の言訳に腹を切る真似する道具だ。エヽー』 万公『アハヽヽヽ此奴アいよいよ馬鹿だ。レンギと礼儀と間違へてゐやがる』 五三公『其位な間違は当然だよ、間違だらけの世の中だ。石屋と医者と間違へたり、役者と学者と混同したり、大鼓と大根とを一つにしたりする世の中だもの、当然だ。エヽー』 万公『ウツフヽヽヽだ、イツヒヽヽヽだ、アツハヽヽヽ阿呆らしいワイ。そんな馬鹿なことをいつてゐると、それ見ろ、鳶の奴、大きな口をあけて笑つてゐやがるワ』 五三公『きまつたことだよ。飛び放れた脱線振りを発揮してるのだもの。鳶だつて、笑つたり呆れたり舌を巻いたりするだらうかい』 治国別『三人ともパンを食つたかなア、まだなら早く食つておかないと、時期が切迫したやうだ』 五三公『ハイ時機切迫と仰有いましたが、畏まりました。ジキに切迫とパクついて腹でも拵へませう。ハラヒ玉へ清め玉へだ』 と無駄口を叩き乍ら、パンを取出し、パクつき始めた。 風がもて来る人馬の物音騒々しく手に取る如く耳に入る。 万公『ヤアお出たなア。コリヤア面白い。先生、一つ万公の活躍ぶりを御覧下さい、花々しき大飛躍を演じて見ませう』 治国別『心を落つけて三五教の精神を落さない様に一番槍の功名をやつて見たがよからう。サア行かう』 と蓑笠をつけ、杖を左手に握り、登り来る敵に向つて悠々迫らざる態度を持し、宣伝歌を歌ひ乍ら降つて行く。 治国別『神が表に現はれて善と悪とを立別ける 此世を造りし国の祖国治立の大神の 守り玉へる神の道朝な夕なに身を尽し 心を尽す三五の神の柱と現れませる 神素盞嗚大神の吾れこそ珍の神司 治国別の宣伝使万世祝ふ亀彦が 名さへ目出たき万公や暗夜を晴す晴公さま 三五の月の御教にゆかりの深き五三公の 三人の司と諸共に七千余国の月の国 天地を塞ぐ曲神を神の賜ひし言霊に 服ひ和し天国を地上に立てむ御神策 岩石崎嶇たる河鹿山烈しき風に吹かれつつ 苦もなく越えて来りけりあゝ惟神々々 御霊幸はひましましてハルナの都に蟠まる 八岐大蛇の化身なる大黒主の軍隊を これの難所に待ち受けて一人も残さず言霊に 打平げて斎苑館珍の御前に復り言 申さむ時こそ来りけりあゝ勇ましし勇ましし 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 嵐は如何に強くとも敵は幾万攻め来とも いかでか恐れむ生神の教を守る吾一行 朝日に露か春の雪脆くも消ゆる曲津日の 魂の行方ぞ憐れ也此世を造り玉ひたる 国治立大神は吾等一行の信徒に 広大無辺の神徳を下し玉ひて此度の 吾等が征途を照らしまし紅葉あやなす秋の野の 木々の梢に吹き当る醜の嵐に会ひし如 曲を千里に追ひ散らし敵を誠に言向けて 救ひやらむは目のあたり玉国別の一行は 神の御言を畏みて祠の森の木下蔭 月の光を浴び乍ら吾等の一行を待つならむ 上と下より挟み打神算鬼謀の此仕組 暗黒無明の魂持つ片彦久米彦将軍は 飛んで火に入る夏の虫袋の鼠も同じこと 思へば思へば気の毒や直日に見直し聞直し 詔直しつつ天地の教の道に救ひ行く 吾身の上ぞ楽しけれあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 万公は足の爪先に力を入れ、再び吹き来る夜嵐に面を向け乍ら、月照る道を歌ひつつ下りゆく。 万公『今宵の月は望の月昼の白昼の如くなり 河鹿の山の頂上に立ちて四方を見はらせば 大野ケ原は綾錦紅葉の園となり果てぬ 吾等一行四人連昼と夜とを間違へて 峠の上に佇立して四方を見はらす時もあれ 目下に聞ゆる鬨の声風がもて来る足音に つつ立ち上りウントコシヨバラモン教の魔軍の 攻め来りしと覚えたりいざいざさらばいざさらば 千変万化の言霊を打出し敵を悉く 天と地との正道に服ひ和し天国の 其楽しみを地の上に常磐堅磐に立てむとて さしもに嶮しき坂路を勢込んで下りゆく あゝ面白し面白し神に任せし吾々は 仮令数万の敵軍も如何でか恐れひるまむや あゝ惟神々々神の守りを蒙りて 晴公五三公二人ともシツカリ致せよ今や時 敵は間近に押よせたあれあれあの声聞いたかい 半死半生の叫び声兵児垂れよつた塩梅だ 駒に跨りハイハイと登つて来る声がする 俺等は坂のてつぺから生言霊を打出せば 不意を打たれし敵軍は面を喰つて忽ちに 潰走するは目のあたり面白うなつてお出でたな 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも三五教はやめられぬ お道を守つてゐたおかげこんな勇壮活溌な 実地の戦が出来るのだ向ふは兇器数多く 槍の切先揃へ立て林の如く抜き翳し 迫り来るに引きかへて此方は神変不可思議の 無形の言霊潔くドンドンドンと打ち出し 上を下への大戦力を試す時は来ぬ ウントコドツコイドツコイシヨ今こそ大事の体ぞや 一人を以て幾百の魔神に当る貴重の身 指一つでも怪我したら大神様に済まないぞ あゝ惟神々々神の光を目のあたり 輝かし照らす時は来ぬ進めよ進めいざ進め 神は吾等と共にありアイタヽタツタ夜の道 目玉が狂うてしくじつたこれこれモウシ宣伝使 ここが適当の場所でせう敵の登るを待ち伏せて 不意に打出す言霊の大接戦をやりませうか』 治国別『余り慌てて下るにも及ぶまい。ここが屈竟の場所だ。先づ歌でも歌つて、敵の近付くのを待つ事にしよう。名に負ふ急坂だから、近くに見えてゐても容易に登つては来られまい』 万公『ハアさうですなア。先づ先づ敵の行列を拝見して徐に不意打を喰はしてやりませうかい。アハヽヽヽ』 (大正一一・一一・二七旧一〇・九松村真澄録)
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霊界物語 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) 12 双遇 第一二章双遇〔一一六三〕 晴公は夜道を下りながら、猿の人真似気分で歌ひだした。 晴公『昼さへ嶮岨な山道をドンドンドンと下りゆく こりや又何とした事かウントコドツコイヤツトコシヨ 是も矢張お月さまの吾等を照らしたまふ為め どうしても月日は世の中になければドツコイをさまらぬ 月日の駒は矢の如く早暮れかかる夜の道 ヒンヒンヒンと遠近に馬の嘶き聞え来る バラモン教の奴原が乗り捨て置いたお馬さま 声まで貧相な奴ぢやなア貧すりや鈍すと云ふ事は 俺も前から聞いて居るヒンヒン吠える痩馬に 鈍な男が乗つて来た河鹿峠の峻坂で 一泡吹いて逃げかかるその為体を見るにつけ 愛想が尽きてウントコシヨ早速口が塞がらぬ 片彦久米彦将軍は余程弱いやつぢやなア 唯一人の晴さまの生言霊に怯ぢ恐れ 全体残らず総崩れバラバラバラと坂道に 小石を打ちあけたその如く味方を踏み越え乗り越えて 命からがら逃げ失せぬよい腰脱けもあるものぢや 大黒主がウントコシヨ何程軍勢持つとても あれ程弱い代者をウントコドツコイヤツトコシヨ 連れて道中がなるものか足手纏ひにドツコイシヨ なる奴ばかり、エンヤラヤ三千世界の穀潰し お米が貴うなつたのもガラクタ共が沢山に ウヨウヨして居るその為だこの調子ではどうしても 食料問題ドツコイシヨ持ち上らねば治まらぬ お蔭で月を隠したる雲の衣がぬげたよだ 道が俄に白みえる此足形は何だらう 痩馬共の爪先に堅く打ちたる蹄鉄の 半月形が沢山にあちらこちらに落ちて居る あゝ面白や面白や神の御稜威に照らされて 虎狼の咆えたける噂に高き此山を 苦もなく進む吾々はウントコドツコイ天下一 古今無双の豪傑ぞ治国別の宣伝使 嘸や得意で厶いませう私のやうなよい弟子を よくマア探し当てたもの何程世界を探しても 二人と決してありませぬオツトドツコイドツコイシヨ 知らず識らずに慢心の鬼奴が角を振りたてて つまらぬ事をドツコイシヨ晴公の口から吐きよつた あゝ惟神々々尊き神のお守りに 稜威の宮居の此体悪魔の襲ふ事もなく いとすくすくと神の道進ませ給へ天地の 尊き神の御前に心も晴るる晴公が 畏み畏み願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 五三公は又歌ひ出したり。 五三公『朝日は輝く月は盈つ斎苑の館の神風に 吹かれて進む吾々は治国別に従ひて 河鹿峠の頂上で又もや風にドツコイシヨ 吹きまくられて行き悩むあゝ惟神々々 神は吾等をウントコシヨ捨てさせたまはず直々と さしも難所の坂道を心平に安らかに 渡らせたまひし有難さバラモン教の神司 片彦久米彦両人は数多の兵士を引率し 吾等一行のウントコシヨ彼等を待つと知らずして 駒に鞭ちエイエイと行き難みたる坂の道 登り来るぞをかしけれ治国別の御許しを 受けて万公が飛び出し胸突坂に大手をば 拡げて忽ち仁王立ち似合ふか似あはぬか知らないが 言霊機関が閉塞し眼玉をキヨロキヨロ剥きだして 絶句したるぞをかしけれウントコドツコイドツコイシヨ 又々月に黒雲がすつかりかかつて来たやうだ 吾師の君よ皆さまよ足許気をつけ下りませ 祠の森も近づいた懐谷を右手に見て 猿の声を聞きながら心いそいそ進み行く 吾は天下の宣伝使とは云ふもののドツコイシヨ 大きな声では云はれないやつとの事で候補生の まだぬくぬくの俺達だウントコドツコイドツコイシヨ 又々月が現はれた矢張俺等はドツコイシヨ ドツコイドツコイヤツトコシヨ武運が強いに違ひない 五三公五三公と沢山に万公さまが仰有るが この五三公があればこそ前代未聞の面白い 山路の旅が出来るのだアイタヽヽタツタ躓いた あんまり喋べつて足許がお留守になつたと見えるわい 坂を下るに第一の注意を要する足の先 口が過ぎるとウントコシヨ吾師の君にウントコシヨ 沈黙守れと叱られるほんとにきつい坂路だ み空に月は輝きて吾胸さへも晴れ渡り 吹き来る風も何のその些も心にかからない あゝ惟神々々神の恵を今更に 謹み感謝し奉る朝日は照るとも曇るとも 月黒雲に隠るとも虎狼の咆ゆる野も 悪魔の征討の旅立ちは金輪奈落やめられぬ こんな愉快の事あろかあゝ面白し面白し アイタタツタツタまた倒けたドテライお尻を台なしに ウンと云ふ程打ちましたこりやこりや晴公万公よ 暫く待つて呉れぬかい足が怪しくなつて来た 折角此処まで従いて来た友を見捨ててスタスタと 進み往くとは何の事友達甲斐のない男 そんな薄情な事すると此世を去つて幽界へ 落ちた其時ドツコイシヨかういふもののアイタタツタ アイタタツタツタ痛いわいな地獄の鬼奴がやつて来て 八万地獄へ突落しきつと成敗するだらう 後生の為を思ふなら俺を助けて往くがよい 決して俺の為ぢやないお前が来世にウントコシヨ 善因善果の喜びを人にも分けずまる貰ひ 其種蒔きぢやドツコイシヨ俺に同情して呉れよ あゝ惟神々々神の大地にありながら 仁義をしらぬ万公や晴公さまのすげなさよ これこれモーシ宣伝使二人を叱つて下しやんせ 神かけ念じ奉る』 万公は立ち止まり、腰を屈めて下りゆく五三公を眺め、 万公『チエ、何だい、肝腎要の時に斃りやがつて一体其腰付はどうしたのだい、まるで二重腰ぢやないか』 五三公『さうだから、最前から待つて呉れと云つたぢやないか、どうやら腰の骨が外れたやうだ。一寸見て呉れないか』 万公『馬鹿云へ、腰が外れたものが一足だつて歩けるかい。大方大腿骨を岩角で打つたのだらう。エヽ厄介者だなア。グヅグヅして居ると宣伝使様に後れて仕舞ふ。併し是も乗りかけた船だ、サア癒してやらう』 と云ひながら、平手で三つ四つ五三公の腰のあたりをピシヤピシヤと打つた。 五三公『アイタタツタ、これで息が楽になつた。ヤア有難う、持つべきものは矢張親友だ』 万公『サア早う往かう。とうとう先生の影が見えなくなつて了つた。いそげいそげ』 五三公は、『よし来た。駆歩々々』と云ひ乍ら万公の後について嶮しき坂路を下り行く。 ○ 話は元へ戻る。玉国別、道公、純公の三人は、伊太公の行方不明となつたのを打ち案じ乍ら、今や治国別の言霊に打たれて帰り来るべき敵を、言向和さむと、手具脛ひいて待つて居た。 純公『随分道公も妙な夢を見たものだなア。矢張常平生から、仕様もない事を考へて居るから、貘も食はないやうな、怪つ体な夢を見よつたのだ。本当に是を思へばお前の身魂は開闢以来のデレさまと見えるのう、ウフヽヽヽ』 道公『俺達の夢は先づザツトあのやうな華々しいものだ。お前達の見る夢は、鬼婆に追ひかけられたり、逃げ損なつて糞壺に落ち込んだ位なものだ。夢だつて余り馬鹿にならぬぞ。夢の浮世だから、何時かはそれが現実になるのだ。前途多望の良青年だからなア』 純公『良青年がそんな厭らしい夢を見るものか、ジヤラジヤラとした……先生様の前だぞ、不謹慎にも程があるわ。ナア先生、本当に可笑しいやつですね。あまりの事で臍が転宅しかけましたよ』 玉国別は目を押へながら、いとも冷然として『ウフヽヽヽ』と静かに笑つて居る。この時坂の彼方より騒々しき物音が聞えて来た。見るまに鞍をおいた荒馬七八頭速力を出して祠の前を逃げて往く。 道公『ヤア面白い面白い、いよいよ出会したな。落花狼藉、馬迄が驚いて敗走と見えるわい。軈て落武者共がやつて来るだらう、サアこれから一つ捻鉢巻だ。生言霊の連発銃だ、オイ純公、確り頼むぞ』 と捻鉢巻をしながらお相撲さまのやうにトントンと四股踏んで雄猛びして居る。 かかる所へ死物狂となつた数十人の敵は祠の森にて残党を集めむとやつて来た。玉国別一行の姿を見て片彦は声を怒らせ、 片彦『ヤア其方は三五教の宣伝使、いい所で出会つた。貴様の家来を生擒に致して、連れて帰つたのも知らず、のめのめとよう出て来やがつた。サア貴様も三五教の片割れ、江戸の仇を長崎かも知らぬが腹いせにやつてやらう。オイ者共、此奴等に槍の切つ先を揃へて取り掛れ』 と厳しく号令して居る。数人の敵は三人を目蒐けて猛虎の勢凄じく突いて掛る。三人は不意を喰つて手早く身をかはし祠を楯にとつて防ぎ戦はむとする。されども大将の玉国別は目を痛め、激烈なる頭痛に悩んで居る。如何に勇ありとて無茶で出て来る敵には無茶で行かねばならず、敵は目に余る大軍、あはや三人の命は風前の灯火と云ふ危機一髪の際俄に聞ゆる獅子の唸り声山岳も崩るる許りであつた。此声に敵は顫ひ戦き思はず知らず大地に耳を押つけて踞んで了つた。見れば巨大なる獅子に時置師神が跨つて居る。玉国別はこれを見て思はず知らず両手を合せ、 玉国別『木花咲耶姫命様、有り難う厶います』 と感謝の涙に咽ぶ。獅子に乗つた時置師神はものも云はず嶮しき山を駆け登り何処ともなく姿を隠した。 坂道の彼方より盛に宣伝歌が聞えて来た。一旦大地に踞んだ敵はムクムクと起き上り、先を争ひバラバラと人馬諸共、下り坂目蒐けて一人も残らず逃げて往く。 道公『ハヽヽヽヽ、御神力と云ふものは偉いものだなア、三五教には立派な生神様が御守護していらつしやるからうまいものだ。モシ先生様、結構ぢや厶いませぬか、虎口を逃れるとは此事で厶いませう』 玉国別『ウン、実に有難い事ぢや。併し今聞える宣伝歌の声は正しく治国別様ぢや、お出迎へするがよからうぞ』 道公『ナニ、治国別さまですか、ヤそいつは有難い、よい所へ来て下さつた。如何にも先生の仰有つた通り一分一厘間違ひは厶いませぬねえ。いやもう感心致しました。オイ純公何をキヨロキヨロして居るのだ、早くお迎への用意をせぬかい。エ、辛気臭い奴ぢや』 純公『余り有難いのと嬉しいのとで、どうしてよいか分りやしないわ。こりや道公夢ぢやあるまいかな。今お前は夢の話をして居つたであらう、俺は如何しても本当と思へないわ。モシモシ先生様、現実ですか』 玉国別『ウン、確に現実だ。早く一足なりとお迎へに往かねば済むまいぞ』 純公『ヤア本当とあればキヨロキヨロしては居られない、オイ道公サア往かう。それそれそこにどうやら黒い姿が見えて来た。あゝ惟神霊幸倍坐世、あゝ惟神霊幸倍坐世』 (大正一一・一一・二七旧一〇・九加藤明子録)
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霊界物語 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) 14 忍び涙 第一四章忍び涙〔一一六五〕 祠の前には四人の敵味方頤の紐を解いて他愛もなく笑ひ興じてゐる。 五三公『ヤア随分バラモン教にも面白い男が混入してゐるね。俺も今日は本当に睾丸の皺伸しをしたよ。旅と云ふものは愉快なものだなア』 マツ公『俺だつてこんな面白い動物に出会つたのは今日が初めてだ。チツトも戦争気分がせないわ。まるで喜劇をロハで見てゐるやうだつた。一層の事、俺も秘書役を止めて喜劇師となりハルナの都の大劇場で一つ腕を揮つて見度くなつた』 五三公『そりや貴様のスタイルと云ひ、饒舌と云ひ、気転の利く点から滑稽諧謔を、のべつ幕なしに吹き立てる点は随分見上げたものだ。屹度千両役者になれるかも知れぬよ』 マツ公『ナーニ駄目だ。斎苑の館を千両(占領)役者と出掛けた処、こんな嵐に吹き散らされ、惨めな敗軍をやつたのだからな』 五三公『さうだから貴様は軍人には適しないのだ。如何しても役者代物だよ』 マツ公『さうかな、何だか俺もさう聞くと役者を志願したくなつた。こんな殺風景な、何時首が飛ぶかも知れぬ様な危険千万な商売は嫌になつて了つたよ』 五三公『そんなら俺と此処で会うたのも何かの因縁だらうから、一つ奮発して改心とでかけ三五教の宣伝使のお供となつたら如何だ。修業が出来た上は又宣伝使となれぬとも限らぬからな』 マツ公『ヤ、三五教の宣伝使のお供も駄目だ。猿に目を引かかれたり、捕虜にせられて岩窟の中へ打ち込まれる様な事になると、さつぱり詮らぬからな、アハヽヽヽ』 純公は膝をにじり寄り、グツとマツ公の右手を握り声を慄はして、 純公『何、貴様、誰にそんな事を聞いたのだ。チと可笑しいぢやないか。何も彼も此処で白状しろ』 マツ公『誰にも聞きやせぬわい。宣伝使のお供して居た伊太公を捕虜にして訊問した所、俺の先生の玉国別さまは猿に目を引掻かれたと白状したのだよ』 純公『その伊太公は一体何処に居るのだ。貴様知つてるだらう。サア早く白状せぬかい』 マツ公『そりや知つてる。然し乍ら片彦将軍から秘密を守れと云はれてゐるのだから如何しても所在は云ふ事は出来ないわい。併し乍ら生命には別条ないから安心するが宜からう。彼奴は何でも尋ねされすればベラベラ喋るから大変重宝だと云つてバラモン教の連中が岩窟に入れ毎日酒を飲まして酔はして斎苑館の秘密を皆して聞く事にしてゐるのだ。あんなに口の軽い奴は本当に困つたものだね。尋ねもせぬのに猿に掻かれた事もベラベラ喋つて了つたのだ。さうだから片彦将軍も久米彦将軍も玉国別が負傷したと聞いて大安心の体で河鹿峠を登つて行つたのだ。さうした処が前門の狼は弱りよつたが後門の虎に出会し昨日のあの敗軍だ』 純公『何と貴様も尋ねもせぬ事に秘密をベラベラ喋るぢやないか。伊太公以上だぞ』 マツ公『ナニ、斯うして貴様等と兄弟同様になつたのだから、それ位の秘密は喋つたつて宜いぢやないか。怪我もしとらぬ足を癒して呉れた親切なお前だからな、アハヽヽヽ』 五三公『そこ迄打解けた以上は伊太公の所在を知らしても宜いぢやないか。どつと奮発して祠の神様へ寄附すると思つて伊太公の所在を奏上せぬかい。御神殿に……エーン』 マツ公『オイ、タツ公、如何しようかな。何だか片彦将軍に済まない様な気がするぢやないか』 タツ公『ウン何だか不徳義の様で言はれないな。秘密の守れぬ様な男は男子でないからな』 純公『そんな出し惜みをせずに打たぬ博奕に負けたと思つてどうだ、アツサリと云つて呉れたら。俺だつて友達の難儀をジツとして見逃す訳にも行かぬからな』 マツ公『ウン、云つて呉れと云ふのなら言つてやつてもいいが、最前のやうに頭抑へに白状せいなどと呶鳴りつけると、俺だつて少し腹に虫があるから、云ひ度くても云へぬぢやないか』 純公『いや済まなかつた。そら、さうぢや、人間は感情の動物だからな、矢張穏かに下から出て掛合ふのが利益だな』 マツ公『ハヽヽヽヽ、到頭兜を脱いでマツ公さまの軍門に降ると云ふ場面だな。ヨシヨシお前がさう出りや俺だつてまんざら悪人でもない事はないから人情に絆されて、チツと位は知らしてやつてもいいわ。併し乍ら此マツ公は云はない。俺の肉体に憑依してゐる邪霊が云ふのだからな。今後屹度マツ公に聞いたなんて云つちや不可いよ。悪神の守護神に聞いたと云つて貰はぬと困るからな』 五三公『アハヽヽヽ、中々うまくやりをるわい。流石は片彦将軍の秘書役だけあるわい。何につけても巧妙なものだ。いや此五三公も大に感服仕つた』 マツ公『オイ、俺はバラモン教の片彦将軍の、やつぱり部下だから三五教のお前達に云ふ訳にや行かない。何程邪神だつて俺の体に憑いてゐるのだから直接三五教には明されない。兎も角此祠の神様に御祈願するから其祝詞を拝聴する方がよからう。一寸待つて呉れ、谷川へ下りて口を濺ぎ手を洗つて来るから』 と云ひ乍ら只一人谷川へ下り立ち、口や手を清め再び此祠の前に帰つて来た。マツ公は二拍手再拝終つて祝詞を奏上し始めた。 マツ公『掛巻も畏き祠の森に宮柱太敷建て高天原に千木高知りて堅磐常磐に鎮まり給ふ大自在天大国彦の大前にバラモン教の軍の司、千歳の緑栄えに栄ゆマツ公矣慎み敬ひ畏み畏みも白す。抑秋の紅葉は色づき初め小男鹿の妻恋ふ河鹿山の水清き谷川の辺、十月十六日の朝日の豊栄昇りに願ぎまつる。大黒主の神の大御言を蒙りて斎苑の館に鎮まり給ふ神素盞嗚尊を言向和し糺めむとランチ将軍を初めとし片彦、久米彦将軍、征討に百の軍を従へて上りましき。先鋒隊として両将軍は十五日の夕間暮、月の輝き渡る祠の前に進みまし、暫し息を休らひ兵士の数を調べ進軍の御歌を歌ふ折しも、森の木蔭より現はれ出でたる、三五教の伊太公伊、物をも言はず軍の群に打ち入り縦横無尽に荒れ狂ひ、恨めしくも片彦将軍を打ち奉りたれば馬は驚きて跳ね廻り飛び上り将軍は佐久奈多里に道の辺に落ち給ひぬ。スワ強者現はれたりと、おのれマツ公は其強者に組みつき高手小手に縛め三人の軍人に護らせて、教も清晴の山の岩窟に隠しおきぬ。掛巻も畏き皇大神、厳の御魂を照らさせ給ひて吾捕へたる伊太公を何処までも敵の手に帰らざる様守り幸へ給へ。又大黒主の軍人共は一人も過ちなく平けく安らけく守らせ給ひて、大黒主の御前に復言申させ給へと鹿児自物膝折伏鵜自物頸根突抜天畏み畏みも祈願奉らくと白す。かなはぬからたまちはへませ、ポンポン』 純公『イヤ斎主御苦労で厶いました。あゝ貴方の熱誠な御祈願に感じ純公大明神も其願事を隅から隅までお聞きなさつたでせう、アハヽヽヽ』 マツ公『エー、時にお前等の先生は如何なつたのだ。根つから其処辺にお姿が見えぬぢやないか』 純公『此森のチツと向ふに治国別の宣伝使、玉国別の宣伝使と共に三人の俺達の友達と休息して居られるのだ。何なら面会したら如何だ』 マツ公『イヤ、そりや願うてもない事だ、おいタツ公、どうだ。一つ拝顔の栄を賜つたら』 タツ公『そいつア有難いなア。何程神力の強い恐しい宣伝使だつて、よもや吾々を頭から噛りもなさるまいからな』 五三公『何、頭から直にかぶりなさるぞ』 タツ公『ヤアそりや大変だ。まるで狼の様な宣伝使だな』 五三公『きまつた事だよ。大神の教を伝ふる宣伝使だもの。頭からかぶらいで如何して役が勤まろかい』 タツ公『ヤアそいつア大変だ。おいマツ公、御免蒙つて退却しようぢやないか』 五三公『アハヽヽヽ頭からかぶると云ふのは宣伝使の必要な古代冠だよ』 タツ公『なんだ。吃驚させやがつた。俺だつて口からかぶるよ、無花果や林檎位なら、アハヽヽヽ』 純公『オイ、お前達二人は何処ともなしに親しみのある男だ。何れバラモン教へ這入つた位だから一通りではあるまい。一つ経歴談でも聞かして呉れないか』 マツ公『ウン、俺の生れはな、実はアーメニヤだ』 五三公『何、アーメニヤ?』 マツ公『ウン、其アーメニヤが不思議なのか』 五三公『実の所は俺の先生も純公の先生も生れはアーメニヤだからな』 マツ公『アーメニヤの生れならウラル教ぢやないか。それが又三五教の宣伝使になつてゐるのか。俺もアーメニヤの生れだが三五教は今におき、一人も居やせぬ。チツと可怪しいな』 五三公『俺の先生はな、今迄は亀彦さまと云つてウラル教の宣伝使だつたのだ。さうしてウラル彦の神様の命令で竜宮の一つ島へ三年も宣伝に行つて厶つた所、さつぱり駄目になつて帰る途中フサの海で難風に会ひ三五教の宣伝使日の出別に助けられ、それから国許へも帰らず三五教になつて了はれたのだ。そりや何とも神徳の高い先生だぞ』 マツ公『何、ウラル教の宣伝使で竜宮の一つ島へ宣伝に行つて居つた?はてな、そしてその名が亀彦と云ふのか』 五三公『ウンさうだ。随分以前は面白い人だつたさうだ。今こそ真面目臭つて偉い人だがな』 マツ公『そのお連れの名は聞いてゐるのか』 五三公『ウン、聞いてゐる。梅彦に岩彦、鷹彦、音彦、駒彦、そこへ俺の先生の亀彦様と六人連れだ。半ダース宣伝使と云つて随分名高いものだつたらしいぞ』 マツ公『その亀彦宣伝使は此森の中に休んでゐられるのか』 五三公『ウン、居られる』 マツ公『一遍会ひたいものだな』 五三公『お前は又先生の事云ふと顔色まで変へて熱心に尋ねるが何か縁由があるのか』 マツ公『有るの無いのつて、その亀彦さまなら俺の永らく尋ねてゐる兄さまだよ。今は斯うしてバラモン教に這入つてゐるが、もしや兄さまの所在が、何かの機に分りはせぬかと、そればつかり苦にしてゐるのだ。アヽ有難い、その亀彦は俺の兄さまに違ひない。アヽ惟神霊幸倍坐世』 と声まで曇らせて感謝の意を表するのであつた。五三公は忽ち声を張り上げて歌ひ出した。 五三公『神が表に現はれて善と悪とを立別ける それのみならず三五の吾等を守る神様は 親兄弟の所在をばいと審に知らします 森の木蔭に憩ひたる吾師の君よ亀彦よ 地異天変も啻ならぬ突発事件が出来ました さあさあ早く腰上げて祠の前に出でませよ 思ひもよらぬ松さまがトボトボ此処に現はれて 亀彦さまに会ひ度いと両手を合して待つてゐる あゝ惟神々々神の恵は目のあたり バラモン教の片彦が一方の腕と仕へたる 神の司のマツさまは吾師の君の弟に 間違ひないと知れました治国別の宣伝使 何は兎もあれ逸早く祠の前に下り来て 別れて程経し兄弟の目出度き対面なされませ 此五三公も嬉しうて手の舞足の踏む所 知らぬばかりになりました朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 兄弟二人の其縁由なかなか尽きは致すまい 此世を造りし神直日心も広き大直日 ただ何事も人の世は直日に見直し宣り直す 三五教の神の道仮令マツ公バラモンの 神のお道にあればとて改心したれば天地の 清き氏子に違ひない吾師の君よ逸早く 此処までお出で下さんせ歓天喜地の花開く 前代未聞の御慶事が今目の前に展開し 面白う嬉しうなりまする貴方に仕へし五三公が 真心籠めて願ひますあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌つてゐる。 森の木蔭に息を休めてゐた五人の男、五三公の高らかに歌ふ声に耳を澄ませてゐる。 晴公『モシ先生、あの歌の声は五三公でせう。何だか妙な事を云ふぢやありませぬか』 治国別『ウン、何だか合点の行かぬ事を云つてゐる様だ』 晴公『先生貴方は兄弟がおありなさるのですか』 治国別『ウン、あると云へばある、ないと云へばないやうなものだ』 晴公『それでも今五三公の歌に先生の弟が来たから会つてやつて呉れえと云つてるぢやありませぬか』 治国別『さう云つた様だな。如何しても合点のゆかぬ話だ。然し乍ら日頃念ずる神様のお蔭で兄弟の対面をさして下さるのかも知れない』 と言葉も静かに落着き払つてゐる。 玉国別『治国別さま、どうも私は御兄弟が見えたやうな気がしますがね。然し乍ら御兄弟とすれば如何して斯んなバラモン教の軍隊の中を潜つて来られたのでせうか』 治国別『大方バラモン教へでも落ち込んでゐたのでせう。何だか最前から純公や五三公の笑ひ声が聞え、又外に二人ばかりも笑ひ声が聞えてゐた様です。どうもあの声に何だか聞き覚えがある様に思ひましたよ』 かく話し居る所へスタスタとやつて来たのは狼狽者の五三公であつた。五三公は上り坂で苦しかつた息を喘ませ乍ら、 五三公『セヽヽ先生、最前から……私があの通り大きな声で……歌つて知らしてゐるのに、何を愚図々々して居られるのだ。サア早く来て下さいな。偉い事になりましたぞ。それはそれは吃驚虫が洋行する様な突発事件ですわ。サア早う下りて下さい。そして又伊太公の所在が分りました』 玉国別は慌てて、 玉国別『何?伊太公の所在が分りましたか。ヤアそれは有難い』 治国別『俺の弟が分つたと云ふのか』 五三公『分つたも分らぬもあつたものですかい。最前からあれ程八釜しう騒いでゐるのに貴方は何を愚図々々してゐるのですか。サア早く来てマツ公さまに喜ばしてやつて下さい』 治国別は平然として少しも騒がず、笑ひもせず、別に喜びもせずと云ふ態度で、 治国別『ウン、弟が分つたら、それで宜い。やつぱり此世に生きて居つたかな』 五三公『何と先生は兄弟に水臭い人ですな。兄弟は他人の初まりとか聞きますが如何にも古人は嘘は云ひませぬな。あれだけ焦れ慕うて久し振りに兄さまの所在が分り飛びつき武者振りつきし度い様に思つて厶るのに、旃陀羅が榎で鼻を擦つた様な事を仰有つちやマツ公さまの折角の期待を裏切ると云ふものだ。も少し優しく云つて下さいな。エー私までが悲しくなつて来た』 治国別『何は兎もあれ祠の前迄下る事としよう。ヤア玉国別さま、三人の者共ボツボツ此天然別荘を出立する事にしようかなア、アハヽヽヽ』 玉国別、治国別は悠々として四人と共に森の坂道を下り祠の前に着いた。 純公『ヤア、治国別様、お目出度う厶います。貴方の御兄弟が分りました。サア何卒お名乗りをなさいませ』 治国別は以前の如く冷然として、 治国別『アヽ左様か、大変な御看病に預かつたさうだな。マツ公さまの仮病も全快しただらう。白十字病院も余程繁昌してゐたさうですな』 純公『モシ先生、そんな洒落はどうでも宜しい、弟さまですよ。早くお名乗なさらぬか』 治国別『左様、弟に間違ひはあるまい。別に名乗る必要もないから』 玉国別『ウフヽヽヽ』 道公『此奴ア、妙なコントラストだ、アハヽヽヽ』 (大正一一・一一・二八旧一〇・一〇北村隆光録)
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霊界物語 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) 18 石室 第一八章石室〔一一六九〕 谷の下り道、半分許りの所に七八人這入れる石室が穿たれてあつた。俄に吹き来る山颪、大粒の雨さへ混つてゐる。松公は、 松公『オイ、伊太公さま、其外一同の者、かう雨風が一度に襲来しては下りる事も出来ない。幸ひ此石室で雨風の過ぐるを待つ事にしようではないか』 竜公『そりや結構だなア、皆さま、一服しませうかい』 伊太公『大変に気もせきますが、仰せに随つて雨をまつ事に致しませう、別に吾々の体は紙で拵へたのではないから、少々の雨位構ひませぬが、皆様がお気の毒だからおつきあひに憩ませて貰ひませう』 入口の戸もない石室に侵入し、天然の岩椅子に各自腰をかけ、暫く足をやすめて居た。竜公は俄に顔色蒼め、冷汗をかき、ブルブルと慄ひ出した。一同は驚いて『ヤア何だ何だ竜公確りせぬか』と周囲からよつて集つて撫でさする。竜公は汗を滲ませながら歯をガチガチ云はせ、団栗眼をむき出した。 松公『ヤアこいつは困つた、とうとう瘧に襲はれやがつたなア、モシモシ伊太公さま、どうしたらよろしからう』 伊太公『困つた事になつたものだ、こりや瘧に違ひない。途中の事と云ひ、どうも仕方がない。瘧をおとすには病人の頭へ擂鉢をかぶせ、艾を一つかみ其上にのせて灸を据ゑると直落ちるのだけれど、擂鉢もなし、艾もなし困つたものだ』 松公『一体瘧と云ふのは何神の仕業でせうかなア』 伊太公『瘧は皆死霊の業だ。谷川へ陥つたり、池や沼に落ち込んだ奴の亡霊が憑依するのだ。硫黄温泉でもあれば、そこへ突込んでやれば直退散するのだけれど、困つたところで瘧をふるつたものだわい』 松公『温泉へ入れたら瘧が落ちますか、ヤアそりや聞き初めだ。幸ひこの谷道を一丁ばかり右へ下りると、昔から硫黄温泉が湧いて居るとの事です、そこへ浴れてやつたら何うでせうなア。貴方もお急きでせうが、どうせ玉国別さまも治国別さまも祠の森をお離れなさる気遣ひはないから、一寸そこ迄廻つて貰へますまいかなア』 伊太公『そりやお易い事です、人の苦しんで居るのを見捨てて行く訳にも行きませぬから』 松公『そりや有難い、そんなら御苦労になりませうかなア』 竜公は歯をキリキリと云はせながら目を怒らせ、 竜公『オヽ俺は決して死霊ではないぞ、瘧でもないぞ、大黒主に仕へ奉る八岐大蛇の片割だ。汝等五人の不届者奴、俺達の仲間を滅さむと計る、素盞嗚尊の手下、玉国別や治国別に甲を脱ぎ吾々に背くやつ、決して許しは致さぬぞ。此竜公が命を取り、次には松公が命をとり、イル、イク、サール三人の奴は申すに及ばず、伊太公迄もとり殺してやるのだから、其覚悟を致したらよからう』 松公は口を尖らし乍ら、 松公『伊太公さま、あんな事を云ひますわ、これでは温泉も駄目でせう、何とか工夫はありますまいかな』 伊太公『瘧でないと分れば、又方法もあります。サアこれから三五教独特の鎮魂を以て悪魔を見事退散さして見ませう』 松公『どうぞ宜しう願ひます。オイ三人のもの貴様も一つ祈つて呉れい』 茲に伊太公、外四人は一生懸命に両手を合せ、惟神霊幸倍坐世を十回許り唱へた後、伊太公はポンポンと手を拍ち天津祝詞を奏上し終つて天の数歌を二三回唱ひ上げた。大蛇の憑霊は、天の数歌に怯ぢ恐れ、竜公を其場に倒して逃げ去つて了つた。竜公はけろりとして汗をふきながら、 竜公『ヤア苦しい事だつた。ようマア伊太公さま助けて下さつた、何とマア三五教のお経はよく利きますねえ』 伊太公『マア何より結構でした。三五教ではお経とは申しませぬ、これは重要なる讃美歌で、天の数歌と云ひます。皆さまもこれから間があれば、この数歌をお唱ひなさい』 松公『イヤもう義弟の命を助けて頂き、此の御恩は忘れませぬ。サア雨も余程小降りになり、風も熄んだやうです。も一気張りですから、ポツポツ下りませうか』 と先に立ち、又もや足拍子をとつて歌ふ。 松公『清春山の下り路天下にまれなる難関所 下る折しも竜公が石室中に飛び込んで ガタガタブルブル慄ひ出すこれぞ正しく「ウントコシヨ」 「ヤツトコドツコイ六つかしい足踏み入れる所もない」 瘧のやつに違ひないと心をいため谷間に 滾々湧き出る硫黄の湯そいつへ入れて助けよと 評定して居る最中に竜公のやつが口をきり 俺は死霊ぢやない程に八岐大蛇の片割ぢや 俺等の仲間を倒さうと企んで居よる素盞嗚の 神の手下に帰順して「ヤツトコドツコイ」怪しからぬ 事をするから竜公の命を先に奪ひとり 松公さまや三人の大事の大事の命まで 取つてやらうと嚇しよる俺も些つとは「ドツコイシヨ」 吃驚せずには居られない狼狽へ騒ぎ居る中に 三五教の伊太公は神変不思議の鎮魂と 一二三ツ四ツ五ツ六ツ七八ツ九ツ十百千 万の曲を払はむと声も涼しく「ドツコイシヨ」 天の数歌歌ひあげ雄建びませば悪神は 其神力に怯ぢ恐れ雲を霞と逃げよつた あゝ惟神々々神の恵は目のあたり 俺もこれからバラモンの醜の教を思ひ切り 神徳高き三五の神の御教に従ひて 種々雑多と修業なし名さへ目出度き神司 松公別と名乗りつつ普く世人の悩みをば 助けにや置かぬ惟神兄の命とあれませる 治国別の宣伝使同じ腹から生れたる 「ウントコドツコイ」俺の身は兄貴の真似が出来ないと 云ふよな理屈はあるまいぞあゝ面白い面白い 前途の光明が見えて来た神徳高き素盞嗚の 誠の神に刃向ふは命知らずのする事だ 俺はこれから心境を根本的に改良し 神の御子と生れたる其天職を詳細に 神の御前に尽すべし竜公お前も神様に 苦しい所を助けられ尊き事が「ドツコイシヨ」 漸く分つたであらうぞや何程人が偉いとて 蠅一匹の寿命さへ一秒時間延ばす事 出来ないやうな身を以て神に刃向ひなるものか 思へば思へば人間は神の力に比ぶれば 塵か芥の如きものもうこれからは神様に 体も魂も打ち任せ一心不乱に善道を 進んで道の御為に力限りに尽さうか あゝ勇ましし勇ましし長い坂でもドンドンと 一足々々下りなば遂には麓につく如く 如何に小さい信仰も積れば遂に山となる 山より高く海よりも深き尊き神の恩 報いまつらで置くべきか此世計りか神界へ 国替へしても神様が矢張り構うて下される 真の親は神様だ恋しい親に死別れ 今迄悔んで居たけれどそれは此世の親様だ 万劫末代変らない吾身を救ふ親様は 神様よりは外に無い思へば思へば有難や 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも神に任せた其上は 如何なる事か恐れむや地震雷火の車 大洪水の来るとも一旦覚悟をした上は 誠の神の立てませる三五教の御道は 決して決して捨てはせぬ「ウントコドツコイドツコイシヨ」 大分坂も下りて来たもう一気張りだ皆さまよ 足許用心するがよいここは悪魔の巣窟だ うかうかしとると大蛇奴が何時憑くか分らない 竜公の奴が好い手本御魂に気をつけ足許に 心を配つて下りませあゝ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 と節面白く歌ひつつ、玉国別の宣伝使が休息して居る祠の森をさして急ぎ行く。 (大正一一・一一・二八旧一〇・一〇加藤明子録)
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霊界物語 44_未_玉国別と治国別2 02 月の影 第二章月の影〔一一七一〕 治国別は万公、晴公の他愛なき鼾声を聞き乍ら諸手を組み差俯向いてしばし冥想に耽りゐる。そこへ慌ただしく、息を喘ませ森の急坂を登り来たるものは五三公にぞありける。 五三公『もし、先生、奥さまが見えました。さア何卒早く祠の前迄お下り下さいませ』 治国別『何、奥が見えたとは何しに来たのだらう。奥に用はない。面会は相叶はぬから直に引返せと云つて呉れ』 と治国別は不興顔なり。 五三公『何程あなたが権利があると云つて、玉国別様の奥様に対し、そンな命令権があるとは五三公には思はれませぬワ』 治国別『何だ、五十子姫様か、お前は奥様だと云ふから又菊子姫が後を追うて来たのではあるまいか、怪しからぬ奴だと思つたからだ』 五三公『本当に怪しからぬですな。五十子姫様を御覧なさいませ。玉国別様の御身の上を案じ煩ひ、女の身をも顧みず此山坂を夜を日に次いでお尋ね遊ばされました。それに同じ宣伝使の奥様菊子姫様こそ、怪しからぬぢやありませぬか。夫婦の情合と云ふものは、そンな水臭いものぢやなからうと五三公は思ひますよ』 治国別『アハヽヽヽ人間の心といふものは一人一人違ふものだな。俺は斯うして宣伝しに出た以上は女房も忘れ、家も忘れ、自分の生命までも忘れて居るのだよ』 五三公『何とまア、水臭い方ですな。菊子姫様がお聞きになつたら嘸失望落胆なさるでせう。天にも地にも掛替のない一人の夫が左様の(浄瑠璃)水臭いお心とは露知らず、都でお別れ申してより、雨の晨、風の夕、片時たりとも忘れし暇はなきものを、思へば情なき貴方の心、あゝ何としようぞいな何としようぞいなア……とお嘆き遊ばすは石の証文に岩の判を押した様なものですよ。肝腎の女房を忘れるやうな先生だから弟子の私等をお忘れになる位は何でもないでせう。一人途中に放つとけぼりを喰はされては、それこそ……本当につれないわ、本当につれないわ』 治国別『アハヽヽヽ、怪体な男だな、河鹿峠の猿の霊が憑いたと見えるわい。エーエ、困つた人足を連れて来たものだ。一層の事、五十子姫のお帰りの時に五三公を袂の中に入れて這ひ出ぬ様に袂の先を蔓ででも括つて帰りて貰ひ雪隠の隅にでも放つといて貰はうかな。アハハヽヽ』 万公、晴公は今迄治国別の厳しき命令に寝れぬ目を無理に塞ぎ、態とに高鼾をかき、寝真似をしてゐたが、余りの可笑しさに両人一度に吹き出し、 両人『ギヤツハヽヽヽギユツフヽヽヽ』 治国別『万公、晴公、治国別に寝た真似をして見せてゐたのだな、仕方のない男ばかりだな』 五三公『本当に男ばかりでは仕方がありませぬ、殺風景なものですよ。あの祠の近辺を御覧なさいませ。五十子姫様に今子姫様、仲々仕方がたつぷりありますよ。こりや万公、晴公、いい加減に狸の代理はよしにして先生のお伴に参り祠の前の春の様な気分を御相伴しようぢやないか。斎苑の館をたつてから異性の香を嗅いだ事もなく、殺風景な場面ばかり、心も気も荒れ果てた処で春陽の気の漂ふ絶世のナイスがやつてきたのだから何とはなしに上気分だ。エーン、いい加減に森を出立してホコラ(そこら)あたりを五三公と共に迂路つかうぢやないか』 万公『万公さまの御耳には、何だか祠の近辺には笑声が湧きたつて居るやうに聞こへて堪らないがナア』 五三公『それだから小生が人間の処世法は笑ふに限る、笑ひは天国の門を開く捷径だと云つてゐるのだよ。さア先生、五三公と共に参りませう。貴方も久し振りで五十子姫様にお会ひになつても、あまり悪い気は致しますまいぜ。義理の姉さまぢやありませぬか。やがて松公さまも伊太公を連れて帰つて来られませうから兄弟の対面も間近に迫つたりと云ふもの、さア早く御輿をお上げなさいませ。如何に重々しいのが宣伝使の威厳だと云つても、さう尻が重たくては千変万化の活動は出来ませぬぞや』 治国別『アハヽヽヽそンなら三人の部下に擁立されて治国別も危険区域へ出陣しようかな』 五三公『(芝居口調)早速の御承知、五三公身にとり、光栄至極に存じます。然らば私が先登に立つて御案内、あいや、万公、晴公は治国別宣伝使の前後を守り吾後に従つて来よ。下に下に下に』 と杖を以て四辺を払ひ乍ら祠をさして下り進む。 治国別は漸く祠前に進み、拝礼終つた後、 治国別『玉国別様、お塩梅は如何でございますか。これはこれは五十子姫様、ようまアおいで下さいました。やア之で私も一安心、誠に玉国別様はお気の毒で厶りました』 五十子姫『治国別様、夫が色々と深いお世話になりましてお礼の申しやうも厶りませぬ。吾々夫婦の改心のため神様が目を覚まさして下さつたので厶りませう。思へば思へば実に有難い御神徳を頂きました』 治国別『今子姫様、治国別で厶りますよ、御苦労でしたな。嘸お疲れになつたでせう』 五三公『エヘヽヽヽ女と云ふものは結構な者だな。玉国別様に一寸義理一遍の簡単な御挨拶、それから異性の五十子姫様に対しては至れり尽せりの親切振り、其余波を今子姫様へタツプリ浴せかけ、いやもう抜目のない先生のやり方、五三公も女に生れて来たらモチト位やさしい言葉をかけて頂くのだけどな。五十子姫と五三公との間違ひで、之程社会の待遇が変るものかな』 五十子姫は吹き出だし、 五十子姫『オホヽヽヽ何と面白い、治国別様は同勢を連れて居なさいますこと、屹度道中は弥次喜多気分が漂うて愉快な事で厶りませう』 治国別『兎も角神様の御為めに活動する位、楽しい事は厶りませぬ。就いては此処に一つ云ふに云はれぬ有難い事が私の身に突発致しました』 と聞くより五十子姫は驚きの色をなして、 五十子姫『それは何より結構で厶ります。さうして、その嬉しい事とは何で厶りますか、早く聞かして下さりませ』 治国別は「ハイ」と言つて首を垂れてゐる。 五三公『先生様に代つて五三公が報告の任に当りませう。治国別様は御兄弟の対面を成さいました。それはそれは立派な弟さまがお在りなさるのですよ。しかも片彦将軍の秘書役ですから随分立派な方ですわ。人品骨柄と云ひ、其容貌と云ひ、先生様と瓜二つですもの』 五十子姫『何、御兄弟に御対面遊ばしましたと、それはそれはお目出度い事で厶ります。然し乍らバラモン教の片彦将軍が秘書役とは不思議ぢや厶りませぬか。運命とか云ふ神の手に人間は翻弄されて居るやうなものですな。如何かして三五教に御帰順遊ばし兄弟揃うて御神業にお尽し遊ばすことは出来ぬもので厶りませうか』 と稍心配げに治国別の顔を見つめる。 治国別『惟神の御摂理によつて都合よくして下さるでせう。伊太公さまの所在を尋ねて参りましたから、やがて弟は帰順の上、ここへ帰つて来るでせう』 五十子姫『伊太公さまは何処へ行きましたか。バラモンの手にでも、捕はれたのぢや厶りますまいかな』 と五十子姫の晴れぬ顔色を見るや治国別は、 治国別『ハイ伊太公はバラモンの軍人に捕へられ、清春山の岩窟に幽閉されて居りますのを私の弟が改心帰順の結果、神様へ御奉公始めに伊太公さまを、とり返しに行つたので厶ります。伊太公さまを首尾克く連れ帰る迄は此治国別は兄弟の名乗りを許さない覚悟で厶ります』 と云ひ終つて涙ぐむ。 斯く話す折しも谷道の下方より四五人の人声聞え来たる。玉国別は其人声に耳を聳てバラモン教の残党の襲来に非ずやと胸を躍らし待ち構へ居る、斯る処へ伊太公を伴ひ帰り来れるは松公、竜公外数人なりける。松公は祠の前に合掌し感謝の神言を奏上し終つて一同に向ひ恭しく礼を施し治国別の前へ進み出で、 松公『宣伝使様、松公で厶ります。お蔭を以て伊太公様を迎へて参りました』 治国別『それは御苦労感謝する。まづゆるゆると休息して下さい。伊太公さま、嘸お困りでしたらう。お察し申します』 伊太公は第一に玉国別に向つて涙と共に挨拶を終り五十子姫、今子姫其他に対し感謝の涙を湛へ無事を祝し、治国別に向ひ容を改め、 伊太公『神様の御恵と松公、竜公さまのお蔭によりまして無事に先生のお側へ帰る事を得ました。有難く御礼を申し上げます』 治国別『貴方の壮健なお顔を見て治国別も安心致しました。お蔭で弟に公然と対面が出来るやうになりました。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と合掌する。 道公『もし先生、道公の一行はもとの森蔭へ転宅致しませうか。兄弟御対面につきまして何れ海山の話がありませう。貴方が五十子姫様と御面会の時も治国別様は気を利かしてあの森蔭に待つて居て下さつたのですから、此方も其返礼にしばらく此幕を切り上げようぢやありませぬか。ねえ五十子姫様、さうでせう』 五十子姫『旦那様、私が手を曳いて上げますから、あの森蔭迄遠慮致しませう』 治国別『別に男と男との兄弟が久し振りに巡り合うたのですから、又夫婦の御面会とは模様が違ひます。何卒御遠慮は要りませぬから、ここに居て下さいな』 玉国別『伊太公お前は如何だつた。随分困つたらうな。玉国別の言ふ事も聞かずに血気の勇を揮つて飛び出すものだから皆のお方に心配をかけたのだよ。これからは気をつけて貰はねば困るよ』 伊太公『はい、誠に申訳も厶りませぬ。至つて至らぬ伊太公、此後は屹度心得、自由行動は今日限り鼬の道切れといたちます』 道公『アハヽヽヽ何処迄も気楽な男だなア、道公の私もあきれて了ひました。先生、此奴はもう脈上りですよ。こんながらがらを旅につれて歩くのは一つ考へ物です。奥様のお帰りの時に懐へでも入れて持つて帰つて頂いたら如何でせう』 五十子姫『五十子姫だつて、さう二人も軽い男を懐に入れて帰るのは困ります。ねえ今子さま』 今子姫『あの五十子姫様の弱い事を仰有りますこと、今子は歯痒ゆくなりましたワ。男の三人や五人は髪の毛一筋あればつないで帰れるぢやありませぬか。現代の男はまるで屁の様なものですからな。ホヽヽヽヽ』 伊太公『此奴あ怪しからぬ。斯う女に侮辱されては伊太公も男子を廃業したくなつて来たわい』 治国別は言葉を改めて、 治国別『今日より松公は治国別の弟、竜公さまは義理の弟、何卒皆さまと一緒に仲良うして神業に尽して貰ひ度い』 松、竜両人はハツとばかりに嬉し涙に咽び頭も得上げず大地に踞みて俯向き居る。 治国別『皆さまに御免を蒙つて治国別が其方と別れし後のアーメニヤの状況を詳しく聞かして呉れないか。さうして其方は如何云ふ手続きでバラモン教に這入つたのか。その動機を聞かして貰ひ度い』 松公『兄上様がアーメニヤの神都より宣伝使となつて竜宮の一つ島へ渡られた後、バラモン教の一派に襲はれ刹帝利、浄行を始め毘舎、首陀の四族は四方に散乱し目も当てられぬ大惨事が突発しました。大宜津姫様がコーカス山から敗亡の体で逃げ帰つて来られてから間もない疲弊の瘡の癒え切らない所だから、忽ち神都は防禦力を失ひ常世の国へウラル彦、ウラル姫様一族は其姿を隠し玉ひ諸司百官庶民の住宅は焼き亡ぼされ、ウラル河の辺りに武士の館が少し許り残されたのみ。離々たる原上の草、累々たる白骨叢に纒はれて、ありし昔の都の俤も見えず蓮府槐門の貴勝を初め毘舎の族に至るまでウラル河に身を投じて水屑となつたものも沢山にあり、中には遠国に落ち延び田夫野人の賤しきに身を寄せ或は山奥の片田舎に忍び隠れて桑門竹扉に詫住居する貴勝の身の果敢なさ。夜の衣は薄くして暁の霜冷たく朝餉の煙も絶えて首陽に死する人も少からず。その中にも私は父母兄弟に生別れ、死別れの憂目に会ひ、広い天下を当所もなく漂流する内バラモン教の片彦に見出され、心ならずも兄様の所在を探るを唯一の目的として今日まで日を送つて参りました。アヽ有難き大神様の御引合せ、コンナ嬉しい事は厶りませぬ』 と袖に涙を搾る。 一同は松公の物語を聞き感に打たれてすすり泣きするものさへありき。夜は段々と更け渡り、月は黒雲に包まれ、忽ち四面暗黒の帳は深く下ろされぬ。山猿の叫ぶ声、彼方此方の谷間より消魂しく響き来る。 (大正一一・一二・七旧一〇・一九北村隆光録)
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霊界物語 44_未_玉国別と治国別2 10 奇遇 第一〇章奇遇〔一一七九〕 万公、晴公、竜公はやつと胸撫で卸し、瘧の落ちたやうな顔をして女の顔を不思議さうに見守つて居る。松彦は何呉となく親切に女を労り、いろいろと慰安の言葉を与へて居る。治国別は気の毒さに頭を垂れ、目を瞬き涙をそつと拭ひながら、 治国別『承はれば貴女の家庭には悲惨の幕が下りたものですなア。そして黄金姫様に神様の話を聞かして頂き三五教の祝詞を奏上して居たために、バラモンに捕へられなさつたとは実に気の毒な事だ。併し乍ら御安心なさいませ。キツと貴女の両親は命に別条ありませぬよ。これから私が何とかして救ひ出して貴女にお渡し致しませう』 女は、嬉し涙を拭ひながら、 女(楓)『ハイ御親切によう云つて下さいました、あり難う厶います。神様に遇ふたやうに存じます。何卒憐れな私の境遇、お助け下さいませ。両親はキツと助かりませうかなア』 治国別『キツと助けてみせませう。御心配なさいますな。さうして貴女の両親の名は何と云ひますかな』 女(楓)『ハイ父の名は珍彦、母は静子と申します。そして私の名は楓と申します』 治国別『さうしてお前の尋ぬる兄の名は何と云ふのかなア』 楓『ハイ、兄の名は俊と申しました。其兄に廻り会ひたいばかりに、親子三人が広いフサの国を彷徨ひ、漸くライオン河の辺まで参つて……両親は老い、足の歩みも、はかばかしくないので、つひそこへ住居を定めて居たので厶います』 晴公は此女の物語を聞き、太き息をつき、口をへの字に結び、目を閉いで、頻りにウンウンと溜息を吐きながら、何か深き考へに沈ンで居る。 万公は勢ひよく、 万公『オイ晴公、何だい、こくめいな顔をしよつて、貴様が生ンだナイスぢやないか。仕様もない言霊を出して鬼女を生ンだと思へば何の事はない、天下無双のナイスだ。ちつと噪がぬかい、こンな時こそ貴様の威張る時だよ。 思ひきや鬼女と思ひし其影は 譬へ方なきナイスなりとは だ。本当に貴様は今夜の言霊戦の殊勲者だ。この女を発見して一つ手がかりを得、ランチ将軍の陣営を根底より覆へし神力を現はす機運が向いたのだ。何をウンウンと溜息をつくのだ。ちつと確りせぬかい、エーン』 晴公は力なげに、 晴公『アヽ済まぬ。如何したらよからうかなア』 と云ひながら豆のやうな涙をパラパラと降らして居る。折から十八夜の月は、河鹿山をかすめて上り初めた。森の中とは云へ全体的にホンノリと四辺は明くなつて来た。蝋燭の火はつぎ換へられた。 万公は元気よく、 万公『何だ晴公、貴様は泣いて居るのだな。三五教の宣伝使の卵が何だ、メソメソと吠面をかわくと云ふ事があるかい。俺が一つ活を入れてやらう確りせい』 と云ひながら拳を固めて二つ三つ晴公の背をつづけ打ちにした。 晴公『今あの楓の云つた兄と云ふのは俺だよ、この晴公だよ』 万公『何、お前があのナイスの兄貴か、ヨウさう聞くと、どこともなしに似よつた処があるやうだ。もし先生妙な事があるものですな。これもやつぱり神様のお引き合せでせう。晴公がしやうもない言霊を寝もせずに上げて居つたのを見て怪体な男だと怪しみながら寝て居ましたが、矢張り虫が知らしたので寝られなかつたのですな。兄妹の霊魂が交通したのでせうかな。ヤア晴公さまお目出度う。楓さまお目出度う。お祝ひ申します。私の先生もこの松彦さまと久し振りで兄弟の御対面なさつたのだ、何と人間の運命は分らぬものだなア、先生、本当に不思議ぢや御座いませぬか』 治国別『さうだなア、不思議な事もあればあるものだ。何れ宣伝使になるものは親兄弟に生き別れたり、再び世に立つ可からざる運命に陥つた者ばかりが神の恵に救はれて御用をして居るのだから、誰だつて其来歴を洗ひ曝せば、皆悲惨な者ばかりだよ。人間心に立ち帰つて考へ出した位なら一時も心を安むずる事は出来ないのだが、愛と信と神様の光明に照らされて地上の憂さを忘れて居るのだからなア』 と悄然として首垂れる。万公は涙声を態と元気らしく、 万公『先生貴方からそう悄気て貰つては、吾々は如何するのです。人の心霊は歓喜のために存在すると何時も仰有つたぢやありませぬか。どうやら貴方は歓喜去つて悲哀来ると云ふ状態ですよ。ちつと確りして下さいな』 治国別『イヤわしは歓喜余つての悲哀だ。つまり有難涙に暮れて居るのだ。神様の御恵を今更の如く感謝して居る随喜の涙だからさう心配をして呉れるな』 万公『私も歓喜の涙がアンアンアン溢れますわい。オンオンオンオイ晴公、いや俊さま、お前も嬉し涙が溢れるだらう。歓喜の涙なら堤防が崩れる処迄流したらよからう。アンアンアン余り嬉しくて泣き堪能が仕度いわい』 晴公は又涙声にて、 晴公『治国別の先生様有り難う厶います。何卒妹の身の上を宜しくお願ひ致します』 治国別『ウン私も満足だが、お前も嘸満足だらう』 楓『あなたは兄上で厶いましたか、妾は楓で厶ります。ようまあ無事で居て下さいました。どうぞお父さまやお母さまの命を救うて下さいませ。貴兄にこの事さへ知らして置けば楓は此儘死すとも此世に思ひは残りませぬ、あゝ惟神霊幸倍坐世』 晴公『妹随分苦労をしたであらうなア、俺だとて親兄妹の事を一時も忘れた事はない。雨の晨風の夕アーメニヤの空を眺め、両親は如何に、妹は如何にと、涙の種がつきる程どれ丈泣き暮らしたか知れない。治国別の宣伝使に拾はれて神様のお道に入り、歓喜の雨に浴し、「かへらぬ事を思ふまい」といつも心を紛らし、馬鹿口ばかりたたいて浮世三分五厘で表面は暮らして居るものの、恩愛の覊はどうしても切る事は出来ぬ。妹、俺も会ひたかつた』 と人目も構はず楓の体を抱きかかへ、一言も発し得ず泣き崩れて居る。勇みをつけむと治国別は立ち上り声も涼しく歌ひ出しぬ。 治国別『朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも曲津の神は荒ぶとも 誠一つの三五の教の道は世を救ふ 神が表に現はれて善神邪神を立て分ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ 身の禍は宣り直せ天地を造りたまひたる 誠の神のます限り信と愛との備はりし 誠の氏子の身の上を守りたまはぬ事やある 晴公楓の両人よ心安けく平らけく 神に任せよ千早振る尊き神の御恵に 親子兄妹廻り会ひ天国浄土の楽しみを 摂受し得るは目のあたり治国別は三五の 神の力を頼りつつ汝等二人の望みをば 必ず叶へ与ふべし神は汝と共にあり 吾等も神の子神の宮神に任せし身の上は 如何に悪魔の荒ぶとも如何でか恐れむ敷島の 大和心を振り興し四方の醜草薙払ひ 天地に塞がる叢雲を生言霊の神力に 吹き払ひつつ天つたふ月の光の清きごと 天津日かげの照る如く吾が神力を輝かし バラモン教の曲神を言向け和し歓楽の 海に真如の日月を浮べて歓喜の小波に 此世を渡す法の船心安けくおぼされよ いざこれよりは曲神の軍の砦に立ち向ひ 天津御神の給ひてし生言霊を打ち出して 天地清浄山川も木草の端に至るまで 歓喜の雨に浴せしめ救ひて往かむ惟神 神の御前に亀彦が治国別と現はれて 偏に願ひ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ。 今のぼる月の御光親と子の 身の行末を守らせたまへ。 今暫し時をまたせよ楓姫 珍彦静子の親に遇はさむ。 たらちねの親の恵は日月の 空に輝く光なるかも。 七里を照らすと云へる垂乳根の 親の光ぞめでたかりけり。 治国別神の命は村肝の 心の限り汝をたすけむ』 楓は唄ふ。 楓『たまちはふ救ひの神に遇ひしごと 吾は心も勇み来にけり。 有難き神の恵に照らされて 吾父母に遇ふ日待たるる。 吾兄に思はぬ処で廻り会ひ 嬉し涙のとめどなきかな。 三五の神を恨みし吾こそは 身の愚さを今ぞ悔いぬる。 垂乳根の親は如何にと朝夕に 胸迫りつつ神詣でせし。 父母を奪ひ去りたる曲神を 憎みしあまり醜業せしかな。 大空を照らして登る月影を 見るにつけてもうら恥かしき』 晴公『三五の恵の露に浴しつつ 浮世の夢を覚しけるかな。 妹と聞くより心飛び立ちて 抱きつきたくぞ思ひけるかな。 バラモンに捕へられたる父母の 身の行末を果かなくぞ思ふ。 さりながら神の恵は垂乳根の 身を隅もなく守りたまはむ。 垂乳根の父珍彦よ母の君よ 今兄妹が救ひまつらむ。 さは云へどか弱きわれの力ならず 産土山の神の恵みに。 治国別神の司に助けられ 吾垂乳根を救ふ嬉しさ。 曲神の如何程せまり来るとも 神の力におひ退けやらむ。 妹よ心安かれ三五の 神は吾等を見捨てたまはじ』 楓『有難し兄の命の言の葉を 胸にたたみて守りとやせむ。 アーメニヤ恋しき家をふり捨てて 逍ひし親子の身の果なさよ。 黄金姫神の司に助けられ またもやここに救はれにけり。 何事も皆神様の御経綸 見直し見れば憂き事もなし。 憂き事のなほ此上に積るとも 何か恐れむ神のまにまに』 松彦『月も日も大空に照る世の中は 曲のかくらふ隙はあらまし。 ランチてふ軍の司の前に出て 生言霊をたむけてや見む。 愛信の誠の剣振りかざし 曲のとりでを切りはふりなむ。 面白しあゝ勇ましき門出かな 神に仕へし軍司の』 万公『世の中に吾子に勝る宝なし 珍彦静子の心しのばゆ。 珍彦よ静子の姫よ待てしばし 救の神と現はれゆかむ。 ゆくりなく廻り会ひたる山口の 森は結びの神にますらむ』 竜公『常暗の森を照らして進み来る 怪しき影に驚きしかな。 さりながら世にも稀なるナイスぞと 悟りし時の心安けさ。 今となり身の愚かさを顧みて 顔の色さへ赤くなりぬる。 吾胸に醜の曲津の潜むらむ 正しき人をおぢ怖れけり。 村肝の心に潜む曲神を 払はせたまへ三五の神。 治国別神の司に従ひて 言霊戦に向ふ嬉しさ』 治国別『山口の森に休らひ兄妹の 名乗りあげたる事の床しさ。 片彦やランチ将軍何者ぞ 彼は人の子人の身なれば。 吾こそは神の御子なり神の宮 いかで恐れむ人の御子らに。 さりながら心高ぶる事勿れ 言霊戦に向ふ人々。 たらちねの親子兄妹廻り会ひ 抱き喜ぶ時の待たるる。 夜や更けぬ月は御空に上りましぬ いざいねませよ百の人達』 晴公『神司宣らせたまへる言の葉も 守るよしなき今日の嬉しさ。 村肝の心勇みて森の夜の 明けゆく空を待ちあぐむなり』 楓『なつかしき兄の命よ治国別の 神の司の御言守りませ さりながら妾も心勇み立ち ねるに寝られぬ今宵ばかりは』 治国別『兄妹の心はさもやあるべしと 直日に見直し聞き直しおく いざさらば万公五三公竜公よ 松彦共に一ねむりせよ』 松彦『吾兄の言葉にならひ人々よ よくねむりませ寅の刻まで』 斯く歌ひて治国別一行は、やすやすと眠りについた。晴公、楓の兄妹は嬉しさの余り一睡もせず辺りを憚り、ひそびそと長物語を涙とともに語り明かさむと此場を立出で兄妹は月光を浴びて森の外を逍遥する真夜中、初冬の月は皎々として満天に輝き、此森の外面は白く光つて居る。 (大正一一・一二・八旧一〇・二〇加藤明子録) (昭和九・一二・二七王仁校正)
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霊界物語 44_未_玉国別と治国別2 12 大歓喜 第一二章大歓喜〔一一八一〕 治国別の言霊に一同は驚き目を覚まし、万公は目をこすり乍ら、 万公『先生貴方は俄に言霊を発射なさいましたが、何か変つた者が現はれたのですか』 治国別『ウン』 万公『オイ晴公、楓さまの姿が見えぬぢやないか。大蛇に呑まれて了つたのぢやあるまいかな。オイ五三公、竜公、何をグヅグヅしてゐるのぢやい。サア探した探した』 と慌まはる。五三公、竜公、松彦も目をキヨロキヨロさせ乍ら四辺を見まはし、二人の姿の無きに驚いて居る。 治国別『御苦労だが四人共、森の外へ出て、ここへ駕籠をかついで来てくれ』 万公『駕籠を舁げとは、ソリヤ又妙なことを仰有いますなア』 治国『行つて見たら判るのだ。晴公と楓さまが、待つてゐるよ。サア四人共早く行つたり行つたり』 万公『オイ、何は兎もあれ先生の御命令だ。行つて見ようかな』 三人は「ヨーシ合点だ」と万公の後につき、森の外へと走り行く。後に治国別は合掌し乍ら、独言、 治国別『あゝ有難い、神様の御引合せ、どうやら親子兄妹の対面が許された様だ。之から一骨折らなくてはなるまいと、昨夜も思案にくれて眠られなかつたが、何とマアよい都合に神様はして下さつたものだ。之と云ふのも昨夜言霊の宣伝歌を歌つた神力の御蔭だらう。道は神と共にあり、万物之に依つて造らる、との聖言は今更の如く思はれて実に有難い、あゝ偉大なる哉神の御神力、言霊の効用』 と感歎し乍ら、東に向つて天津祝詞を奏上し、天の数歌を歌ひ上げ、神言まで恭しく詔上げて了つた。そこへ二挺の駕籠を舁いで、一行六人は帰り来たる。 治国別は、 治国別『ヤアお目出度う。晴公さま、楓さま、神様の御神徳は偉いものですなア』 晴公『先生、晴公は、おかげで両親にタヽ対面が出来ました』 と早くも声を曇らしてゐる。楓は紅葉のやうな愛らしき手を合せ、治国別に向ひ、覚束なげに泣声交りに惟神霊幸倍坐世を幾度となく繰返して居る。 万公『先生、イヤもう何うもかうもありませぬワイ。偉いものですなア、大したものですなア、エヽー、こンな結構なことは万々ありませぬワ。本当に嬉しいですワ、何と云つて御挨拶を申上げたらよいやら、万公は言葉も早速に出て来ませぬワ』 治国別『ヤア結構だ、万公サア早くお二人をここへ出して上げてくれ』 万公『万々々承知致しました。コレコレ晴公さま、楓さま、何を狼狽へて居るのだい。お前さまも手伝はぬかい、コラ五三公、松彦、竜、何をグヅグヅしてゐるのだい。千騎一騎の此場合安閑としてる時ぢやないぞ。サア対面ぢや対面ぢや、言霊だ言霊だ、言霊の幸はふ国だ』 と万公は駕籠のぐるりを幾度ともなく、お百度参りの様に廻転してゐる。老夫婦は悠々として駕籠より立出で、治国別の前に両手を合せ、 珍彦『三五教の活神様、有難う厶います。私は珍彦と申す者で厶ります』 静子『妾は妻の静子で厶ります。お礼は此通りで厶います』 と両手を合せ、嬉し涙を滝の如くに流してゐる。晴公も楓も茫然として、余りの嬉しさに言葉もなく、両親の顔を横から見守りゐるのみ。 万公『何とマア偉いこつちやないか、エヽー。本当に誠に欣喜雀躍、手の舞ひ足の踏む所を知らずとは此事だ。余り嬉しくてキリキリ舞を致すものと、怖うてキリキリ舞致す者と出来るぞよ、信神なされ、信神はマサカの時の杖になるぞよ……との御聖言はマアこんな事だらう、万々々万公の満足だよ。 あゝ有難い有難い神の力が現はれて 常夜の暗の如くなる此山口の森蔭で 親子四人の巡り合ひおれの親でもなけれ共 矢張嬉しうて万公は手の舞ひ足の踏む所 知らぬばかりになつて来た三五教の神様は 本当に偉いお方ぢやなアバラモン教の曲神は バカの骨頂だガラクタの力の足らぬ厄雑神 折角ここ迄やつて来て肝腎要の品物を 途上に放り出し逸早く治国別の言霊に 恐れて逃げ出す可笑しさよあゝ面白い面白い オツトドツコイ有難いそれだに依つて万公は 何時も喧しう言うてゐる三五教ぢやないことにや 誠の救ひは得られない生言霊の神力は 本当に偉い勇ましい斎苑の館に沢山の 神の司はあるけれど一番偉い杢助の あとに続いた亀彦は治国別と云ふ丈で 天下無双の宣伝使俺の肩まで広うなつた オイオイ五三公竜公よお前のやうな仕合せな 奴が世界にあらうかいサア是からは是からは ハルナの都を蹂躙し大黒主の素つ首を 言霊隊の神力で捻切り引切り月の海 ドブンとばかり投込ンで天が下にはバラモンの 曲津の神の影もなく伊吹払ひに吹き払ひ 天地を浄め神界のお褒めをドツサリ被りて 至喜と至楽の天国を地上に建設せうぢやないか 治国別の先生よ本当に貴方は偉い方 始めて感じ入りましたどうぞ私を末永う お弟子に使うて下さンせコレコレ晴さま楓さま お前も一つ喜ンで歌でも歌うたらどうだいナ 地異天変もこれ丈に突発したら面白い オツトドツコイ有難い三五教の神様に 早く御礼を申しやいのう何をグズグズして厶る 側から見てもジレツたいあゝ惟神々々 神の御前に万公が今日の恵を謹みて 感謝し仕へ奉る朝日は照る共曇る共 月は盈つ共虧くる共仮令大地は沈む共 星は天よりおつる共三五教はやめられぬ ホンに結構な御教だ不言実行といふことは 三五教の神様が手本を出して下さつた これから心を改めて口を謹み行ひに 誠の限りを現はして神の御子たる本職を 尽そぢやないか皆の者あゝ有難い有難い 有難涙がこぼれますヤツトコドツコイドツコイシヨ ドツコイドツコイコレワイシヨヨイトサアヨイトサア ヨイヨイヨイのヨイトサアドツコイドツコイドツコイシヨー』 と夢中になつて、広場を飛廻る。治国別は言も静に、 治国別『珍彦さま、大変な苦しい目に会はれたでせうな。お察し申します。静子さまも嘸御心配をなされたでせう』 珍彦は涙を拭ひ乍ら、 珍彦『ハイ有難う厶います。アーメニヤの大騒動に依つて親子思ひ思ひに離散し、漸くにして娘の所在を尋ね、三人手に手を取つて、兄俊彦の行衛を尋ねむものと、いろいろ艱難辛苦を嘗め、テームス山の麓を流るるライオン川の畔迄参りました所、老の疲れが来たものか、不思議にも夫婦の者が身体の自由を失ひ、一人の娘に二人の親は介抱をされ、あるにあられぬ困難を致して居りました所へ、黄金姫様が美しい娘さまと共に通り合はされ、いろいろと結構なお話を聞かして下さいまして、お蔭で夫婦の者は気分も爽快になり体の悩みも段々と癒つて参りました。小さい草小屋を造り、川端の一軒家で親子三人が暮して居りました所へ、ランチ将軍の手下がやつて来て、夫婦の者の祝詞の声を聞き……貴様は三五教の間者だろ……と云つて、無理にも高手小手に縛められ駒に乗せられ、ランチ将軍の陣営迄送られました。吾々夫婦はどうなつても構ひませぬ。惜くない命なれど、娘や兄の事が案じられ、寝ても起きても、夫婦の者が霜寒き陣営に捉へられて、無念の涙を絞つて居りました』 と言ひさして、ワツとばかりに男泣に泣く。 治国別は憮然として慰めるやうに、 治国別『それは御老体の身を以て、エライ御艱難をなさいましたな。併し乍ら最早御安心をなさいませ。吾々のついてゐる限りは最早大丈夫ですから』 珍彦は「ハイ」と云つたきり、又もや泣きじやくる。静子は又もや涙片手に、 静子『お話申すも涙の種乍ら、ランチ将軍の陣営へ夫婦は連れ行かれ、鬼のやうな番卒に朝から晩迄、身に覚えもないことを詰問され、身体所構はず鞭たれ、実に苦しう厶いました。そしてランチ将軍の前に時々引出され……其方は三五教の杢助であらう。汝は黒姫であらう、白状致せ。そして其方の同居してゐた娘は初稚姫に違ひなからう。サアどこへ隠した、所在を知らせ……とエライ拷問、到底命はなきものと覚悟致して居りましたが、死ぬる此身は厭はねど、どうぞして吾子二人に廻り合はねば死ぬにも死ねないと思ひまして、嘘を言つては済まないと存じ乍ら、向うの尋ぬるままに、夫は杢助で厶いました、……と答へ、私はまがふ方なき黒姫だ、そして娘は初稚姫に相違厶いませぬ……と言つてのけました。そした所がますます詮議が厳しくなり、三五教の宣伝使はハルナの都へ向つて、何人ばかり出張したかとか、いろいろと存じもよらぬことを詰問され、苦しさまぎれに口から出任せの返答を致しました所、斎苑の館へ送つてやらうと云つて、吾々夫婦を後手に縛り山駕籠に投込み、家来に舁がせてここ迄つれて来ました。吾々夫婦はどうなることかと胸を痛めて居りましたが、思ひもよらぬ貴方様のお助けに預かり、其上焦れ慕うた二人の子に会はして貰ひ、斯様な嬉しいことは、天にも地にも厶りませぬ。命の親の活神様』 と又もや手を合はしてワツとばかりに泣伏しにける。 晴公は珍彦の側に寄り、 晴公『父上様、お久しう厶います。よくマア生きてゐて下さいました。私は俊彦で厶います、若い時はいろいろと御心配をかけましたが、三五教の教を聞くにつけて、親の御恩を思ひ出し、何卒両親に会はして下さいませと、朝夕祈らぬ間とては厶いませなかつたので厶ります』 と又もや涙を絞る。珍彦は鼻を啜り乍ら、皺手を伸ばして、晴公の頭を撫でまはし、 珍彦『あゝ俊彦、よう言うてくれた。其言葉を聞く以上は此儘国替をしても、此世に残ることはない。あゝ有難い。持つべきものは吾子だ。コレ俊彦、安心して呉れ、私は年はよつてゐても体は達者だから、ここ二年や三年にどうかうはあるまいから』 晴公『ハイ有難う厶います、これから力限り孝行を励みます。今迄の罪は許して下さいませ』 といふ言葉さへも涙交りである。楓は静子の手をシツカと握り、 楓『お母アさま、随分お困りでしたらうねえ。私、どれ丈泣いたか知れませぬよ。ウブスナ山の斎苑館へ参拝して、御両親の所在を知らして貰はうと、身をやつして、河鹿峠の山口迄参りました所、道行く人の話に聞けば、バラモン教の軍勢が谷道を扼してゐるといふことを聞きましたので、あゝ是非がない、モウ此上は両親の無事を祈り、かたきの滅亡を祈るより、私としての尽すべき途はないと思ひ、此恐ろしい魔の森の奥に大蛇の岩窟のあることを聞き、ここに忍びて居ればバラモンの捕手も滅多に尋ねては来まいと思ひ、恐ろしい岩窟に身を忍び、三七廿一日の夜参りを、鬼に化けて致して居りました。心願が通つたと見えて、三七日の上りに兄さまに巡り会ひ、又お父さまお母アさまに会はして頂きました。どうぞ御安心下さいませ、斯様な偉い宣伝使様の懐に抱かれた以上は最早大丈夫で厶います』 と涙交りに慰める。静子は楓の背に喰ひつき、嬉し涙にかきくれる。これより治国別の命に依つて、珍彦、静子、楓、晴公の四人を玉国別のこもつてゐる祠の森へ手紙を持たせてやることとした。そして山口迄宣伝使一行は送り届けた。親子四人は玉国別に面会し、神殿造営の手伝ひをなし、夫婦は遂に宮のお給仕役となり、楓は五十子姫の侍女となつて、神殿落成の後斎苑館に帰り、神の教を研究し、遂には立派なる宣伝使となつて神の御恩に報ずる身とはなりにける。 (大正一一・一二・八旧一〇・二〇松村真澄録) (昭和九・一二・二八王仁校正)
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霊界物語 44_未_玉国別と治国別2 13 山口の別 第一三章山口の別〔一一八二〕 治国別一行は珍彦親子四人を河鹿峠の上り口迄送り届け、茲に一行は路傍の巌に腰うちかけ、別れの挨拶に代へて歌ふ。晴公の歌、 晴公『コーカス山に現はれし大気津姫の部下となり 八王神の列に入り時めき給ひし吾父も コーカス山を退はれて落ち行く先はアーメニヤ ウラルの彦やウラル姫開き給ひしウラル教 塩長彦の大神を盤古神王と称へつつ 教を四方に伝へ行く数多の司を従へて 時めき渡り居たりしがバラモン教の大棟梁 鬼雲彦の部下共に打ち亡ぼされ神司 信徒共に四方八方に雲を霞と逃げ散りぬ 其時吾は辛うじて夜陰に紛れ逃げ出し 彼方此方とさまよひつ吾両親や妹の 在所求むる時もあれ三五教の神司 亀彦司に助けられ斎苑の館に導かれ 尊き神の御教を朝な夕なに教へられ 御伴となりて河鹿山烈しき風を浴び乍ら 漸く越えて山口の森の木蔭に来て見れば 虫が知らすか何とやら寝られぬままに只一人 吾師の君の宣らせたる生言霊を思ひ出し 考へすます折もあれかすかに見ゆる火の光 嬉しや嬉しや言霊の吾神力の現はれて 暗に包みし此森を隅なく照らすか有難や 吾言霊の神力も愈現はれ来りしと 笑壺に入りし時もあれおひおひ近寄る火の光 よくよく見れば此は如何に形相実にも凄じき 肌に粟を生ずべき鬼女の姿に驚いて 何と言葉も行きつまり慄ひ戦く時もあれ 吾師の君の御諭しに怪しの女は妹と 分りし時の嬉しさよ歓喜のあまり気は勇み 寝られぬままに妹の手を曳き乍ら森の外 小径を伝ひスタスタと三丁ばかり進む折 足を早めて馳来る三葉葵の紋所 記した提灯ぶら下げて此方をさして出来る こは一大事と兄妹は大木の蔭に身を寄せて 様子覗ひ居る中にバラモン教の斥候兵 アク、タク、テクの三人は臆病風にさそはれて 下らぬ事を喋り出し終には父母の所在迄 知らず知らずに喋り出すアツと驚く間もあらず 後より来る山駕籠はまさしく吾の父母と 覚りし時の驚きは何に譬へむ物もなし 三五教の大神の深き恵みと師の君の 生言霊の力にて親子兄妹巡り合ひ 互に昔を語り合ひ嬉し涙にくれにける あゝ惟神々々神の恵みの浅からず 日頃慕ひし父母や吾妹に目のあたり 無事なる顔を合せつつ親子兄妹勇み立ち ウブスナ山に礼詣り吾師の君に許されて 祠の森に籠もります玉国別や五十子姫 司の前に進み行く吾身の上こそ楽しけれ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 星は空より落つるとも山裂け海はあするとも 皇大神の御恵みは夢に現に忘れむや 吾師の君よいざさらば神の恵みを蒙りて 一時も早くハルナ城大黒主を言向て 太しき功績を立て給へ皇大神の御前に 花々しくも復り言申させ給ふ吉日を 指折り数へ大神の御前に祈りて待ち奉る あゝ惟神々々御霊幸ましませよ。 三五の神の恵みに送られて 河鹿峠もやすく越えなむ。 玉国別神の司のあれませる 祠の宮に疾くも進まむ。 皇神の瑞の御舎建て終せ 神の御稜威を四方に照らさむ』 治国別『千早振る神に習ひて親と子は 世人を守れ千代に八千代に。 河鹿山峠は如何に険しとも 神の恵にやすく渡らむ。 玉国別神の命に会ひませば 治国別はよしと伝へよ。 松彦や万公、五三公も恙なく 道に尽すと伝へ給はれ』 晴公『有難し吾師の君の言の葉は 胸にたたみて忘れざらまし。 足乳根の親の命を助けまし 妹に会せし神ぞ尊き。 これよりは親子兄妹睦み合ひ 神の大道に仕へまつらむ』 珍彦『千早振る神代の春の巡り来て 親子は千代の春に会ふかな。 三五の神の恵を今ぞ知る 治国別の口を通して。 河鹿山登りて行かむ吾身をば 守らせ給へ天地の神。 海山の恵を受けし師の君を 朝な夕なに神と斎かむ』 静子『千万の嘆きを受けし吾身にも 今日は嬉しき旅をなすかな。 親と子を救ひ給ひし神と師の 恵は死すとも忘れざるべし。 よしやよし、此まま君に会はずとも 吾魂は君に添ふべし。 師の君の面影見ればなつかしき 思ひに沈む初冬の空。 凩の吹き荒びたる山道も 神を思へば苦しくもなし』 楓『なつかしき父と母とに巡り合ひ 兄の君にも会ひし嬉しさ。 皇神と吾師の君は何時迄も 吾等親子を恵ませ給へ。 ゆくりなく暗の木蔭に巡り合ひ 神の恵みに浸りけるかな。 俊彦の兄の命の帰りまさば 吾師の君の気遣はれける。 さり乍ら吾師の君は活神よ 罪に穢れし人の子ならねば。 師の君の行手を祈り奉り 朝な夕なに神に仕へむ』 治国別『楓姫、心安けく思召せ 吾には神の守りありせば。 皇神の道伝へゆく神司 さやる魔神の如何であるべき』 万公『俊彦よ二人の親を大切に 又妹も慈みませ。 親となり子と生るるも神の代の つきぬ縁と聞くぞ目出度き。 人々に百の行ひありとても 孝より外によき道はなし。 朝夕に神を敬ひ足乳根の 親に仕へて世を送りませ。 年若き汝が妹を憐れみて 誠の道に育て給はれ』 晴公『あり難し万公さまの思召 胸にたたみて忘れざるべし。 友垣の情誼を今ぞ悟りけり 汝の心の赤さ親しさ』 五三公『晴公よ親を大切に妹を 慈しみつつ神を敬へ。 俺は今吾師の君に従ひて 進みて行かむ神の大道を。 暇あらば五三公の事を思ひ出し 神の御前に祈つて呉れよ。 さり乍ら親兄弟を後にして 俺を祈れと云ふのではない』 晴公『五三公さまいそいそとして居ておくれ お前の事は忘れないから。 嚔が出た時や俺を五三公が 誹つて居ると思ひ喜ぶ』 五三公『嚔の一つ出るのは褒められて 居ると思うて腹を立てなよ。 嚔の二つ出るのは誹られて 居るのぢやけれど俺はそしらぬ。 嚔の三つ出るのは笑はれて 居るのだけれど俺は笑はぬ。 嚔の四つ出るのは風を引く 之を思うて自愛なされよ。 五三公は蔭口言ふ様な男では 無いと云ふ事知つて居るだろ』 晴公『そらさうだ、お前に限りそンな事 云ふとは更に俺は思はぬ』 竜公『神様の御縁で心安くなり もう別れるが情ないぞや。 晴公さま二人の親を大切に たまには俺の事も思へよ。 その代り俺は朝夕晴公の 身の幸ひを祈り居るぞや』 晴公『竜公さま何卒宜しう頼みます 何時かはお目にかかる時まで』 松彦『河鹿山峠険しく風荒く 猿棲み居れば気をつけて行け。 玉国別神の司ぢやなけれども お猿の奴に祟られなゆめ。 逸早く祠の森に行きまして 瑞の御舎仕へまつれよ。 道公や伊太公、純公の友垣に 宜しう云うたと伝へて呉れよ』 晴公『松彦がそンな事をば云はずとも 俺が宜いよに云うておくぞや。 治国別神の命の神司に 山より高き恵みを感謝す。 いざさらば之より親子四人づれ 険しき坂を登り行かなむ。 治国別其他三人の司達 神の恵みに安く進めよ』 楓『いざさらば命の親の師の君に 名残惜くも立別れなむ』 治国別『親と子と三人四人睦び合ひ 神の大道を登り行きませ』 斯く互に餞別の歌を歌ひ交し南と北に袂を分ちける。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一二・八旧一〇・二〇北村隆光録) (昭和九・一二・二九王仁校正)
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霊界物語 44_未_玉国別と治国別2 15 変化 第一五章変化〔一一八四〕 治国別一行は山口の森を後にして、足を速めて二十里ばかり南進した。二十里といつても極近いものである。一里といへば我国の二百間位なもの、丁度三丁強に当るのである。 治国別は道の傍の細き流れに下りて喉をうるほし、空行く雲を眺めて暫し息を休めてゐた。二十間ばかり隔つた田圃の中にコンモリとした森[※次の章で「野中の森」と呼ばれている]が、巍然と広き原野を占領して吾物顔に立つてゐる。其森の中より騒々しき女の声が聞えて来た。万公は早くも聞きとり、 万公『モシ先生、あの森の中に奇妙奇天烈な活劇が演じられてゐるやうです。どうです、今晩は活劇見物がてら、あの森で一宿致しませうか。森林ホテルも乙なものですでー。夜前も森林ホテル、今晩も又同じくと云ふのだから日記帳につけるのも大変便利がよろしからう。アレアレ御聞きなさいませ。猿を攻めるやうな女の声、此奴は何か秘密が伏在して居るでせう。兎も角実地探険に参りませうか』 治国別は、 治国別『モウ少し先へ行き度いのだが、あの声を聞いては宣伝使として見逃して通る訳には行かぬ。大変な茂つた森だから、ソツと忍び寄り、何事か様子を考へて見よう』 五三公は、 五三公『オイ万公、又ヒユードロドロだぞ。肝をつぶすな』 万公『ナアニ昼の幽霊が恐くて怺るかい。ドロドロでも泥坊でもかまはぬぢやないか。大方泥坊さまが旅人を引張り込ンで衣類を剥ぎ、厭がる女を無理無体に捻伏せて念仏講でもやつて居るのだらう』 五三公『念仏講て何だい。妙な事をいふぢやないか。ハヽヽヽ幽霊が出るので成仏する様に念仏を唱へてゐるのだな。それにしては根つから詠歌の声が聞えぬぢやないか。薩張金切声のチヤアチヤアだ。一寸聞くと狐々様のやうにもあるし、猿のやうにもあるし、女の様にも聞えて来る。何だか怪体な代物だ。五三公は研究の価値が十分にあるやうに思ひますがなア先生』 治国別『ウン兎も角行つて見やう。併し篏口令を布いておくから、号令が下る迄、何事があつても発声する事は出来ないぞ』 万公『承知致しました。囁き話も出来ませんか、万公も一寸困るナア』 治国別『ウン勿論だ』 万公『万公別が、五三公、竜公に対し篏口令を布く。堅く沈黙を守るのだぞ』 五三公『ハヽヽヽ直に受売りをやつて居よるナ。そんな小売りをしたつて俺達ア買ふ気づかひは無いぞ。物価調節令が出て居るのに、それを無視して小商人が暴利を貪り、無性矢鱈にゴンベツたり、ビヤクツたりするから為政者もこの五三公さまもなかなか骨の折れる事だワイ、アハヽヽヽヽ』 治国別は、 治国別『サア行かう、沈黙だ』 と厳命し乍ら草野を分けて進み行く。 見れば欝蒼たる森の中に五六人の荒男、一人の美人を捕へ、四方八方より寄つてかかつて打擲を始めてゐる。治国別は平然として此光景を木の茂みより眺めてゐる。万公は胸を躍らせ、口をパツと開け、両手をひらいて中腰になり、今にも飛び出さむとする格好で歯がゆ相に片唾を呑ンで、治国別の命令一下すれば、片端から撲り倒し、虐まれてゐる女を救ひやらむと身構へしてゐる。五三公も竜公もハラハラし乍ら、もどかしげに眺めてゐた。治国別、松彦は素知らぬ顔で微笑をうかべ乍ら愉快気に見つめてゐる。女を仰向に寝させ胸倉をグツと取り大の男が蠑螺のやうな拳骨をふり上げ、キアキア云ふ女を憎々し気に睨みつけ乍ら、 甲『コリア尼ツちよ、何うしても白状致さぬか。しぶとい奴だなア。貴様は三五教の初稚姫といふ奴だらう』 女『イエイエ決して決してそんな女ぢや厶いませぬ。山住居をいたして居るものの娘で厶います。何卒御慈悲に御助け下さいませ』 甲は、 甲『エーしぶとい女奴』 と呶鳴りつけ、拳骨を固めて前額部をコツンと擲る。撲られて娘はキヤアキヤアと叫ぶ。 万公は今は一矢の弦を離れむとする如き勢で、体を前方に反らせ足をふン張り、マラソン競争の合図の太鼓が鳴るのを待つやうな構へで、腕を唸らしてゐる。 一方の荒男は又もや声を荒らげ、 男『エーしぶとい。貴様は杢助の娘に間違ひなからう。さあ尋常に白状して了へ。貴様の親の杢助や、三五教の黒姫はライオン河の畔でランチ将軍様の部下に捕へられ、日夜の責苦に逢うて苦しみてゐるのだ。貴様さへ白状すれば二人の罪は許され、貴様はランチ将軍様のお妾と抜擢されて出世をするのだ。コリヤ女、此処で殺されるのがよいか、将軍様のお妾になつて親の生命を助けるのがよいか。よく思案をして返答いたせ』 女『オホヽヽヽ、彼のマア瓢六玉わいのう。何うなと勝手になさいませ。杢助などといふ父親は持つた事は厶いませぬわ。黒姫なンて出逢つた事もありませぬわ。さア、殺すなと何なとして下さい』 男『ヤア俄に強くなりよつたな。ハー、あまりビツクリして気が違つたのだな。こンな気違ひを連れて行つたとこで、将軍さまの御用に立つでも無し、併し乍ら何処迄も白状さして伴れ帰らねば、俺達の役目が済まぬ。オイ女、貴様はランチ将軍様を怨ンで昼は大蛇の窟に身を隠し、夜は鬼娘と化けて呪ひの五寸釘を打つてゐよつたのだらうがなア。そンな事はチヤンと探索してあるのだから、モウ駄目だ。俺が此間の夜りだつた…頭に蝋燭を立つて、鏡を下げ、凄じい様子をして山口の森へ行きよつた時、俺も一寸気味が悪かつたけれど、なアにバラモン教の神様に頼めば大丈夫だと思ひ、尾行して貴様の言ふ事を聞けば、何卒私の親の仇が打てますやうに、さうして無事に逃れますやう、ランチ将軍が亡びますやうと言つては釘を打つてゐたではないか。そこ迄手証を握つてゐるから、モウ隠しても駄目だぞ。大それた女の分際として大蛇の窟に安閑として高鼾をかいて寝てゐやがつた所をとつ捉まへて来たのだ。さア、白状せい。昨日の日暮から殆ど一日一夜骨を折らしよつて、ドシ太い。俺だつて腹が減つて怺らンぢやないか』 女『オホヽヽヽ、何と云ふお前達あ、間抜けだい。その女は楓といつて夜前も釘を打ちに行つたよ。妾と間違へられちや大変だ。偉い災難だよ。三五教の宣伝使に助けられ、今頃は河鹿峠を上つてゐる最中だ。余程好い頓馬だこと。ホヽヽヽヽ』 男『コリヤ尼ツちよ、そンな事をいつて俺達を胡麻化さうとしても駄目だぞ。チヤアンと証拠が握つてあるのだから、好い加減に白状致さぬと親の為に悪いぞ。杢助や、黒姫が可愛相とは思はぬか』 女『ホヽヽヽヽ杢さまが何うならうと、此方や一寸も目算が外れぬのだから構やせぬわ。黒さまが何うならうとお前さまが苦労する丈けの事ぢや。殺しなつと煮て喰はふと勝手になさいませ』 男『コリヤ女、貴様は親に対し孝行といふ事を知らぬのだなア。丸で狐狸のやうな奴だ。不人情者だなア。こンな優しい顔をしよつて、親不孝の魂見下げはてた女だ』 女『妾はコンコンさまだよ。お前達は馬鹿だからつままれてゐるのだ。そンな枯木杭をつかまへて何をしてゐるのだイ。よい盲目だなア、ホヽヽヽヽ』 男『丸で狐のやうな奴だ。ドシ太い何ぼ叩いても叩いてもキアキア吐すばつかりで往生しよらぬ。此奴は不死身かもしれぬぞ。俺一人では駄目だ。皆寄つてたかつて叩き延ばしてやらうかい』 女『ホヽヽヽ、たかが一人の女を取まいて大の荒男がよりかかり、一昼夜もかかつて何うする事もようせぬといふやうな間抜けが仮令何万人かかつたつて烏合の衆だから、カラツキシ駄目だよ。御気の毒様、お前さまの手を御覧なさい。木の欠杭をたたいて血だらけになつてますよ』 男『云はしておけば際限も無き雑言無礼、最早勘忍袋の緒が切れた。さア一同寄つてたかつて殺して了へ』 『よし合点だ』 と七八人の荒男は棍棒を打振り一人の女に打つてかかる。何う間違つたか、互に入り乱れて同士討をやつてゐる。女の体よりパツと立つた白煙、太い尾を下げた白狐が一匹、ノソリノソリと歩き出し、コンコンクワイクワイと吠え乍ら、森を見棄てて逃げて行く。 八人の男は女が狐と変じて逃げ失せたるに気がつかず、一生懸命に同士討ちをつづけてゐる。可笑しさを怺えてゐた万公は口が破裂した様に「グワツハヽヽヽ」と笑ひ声を噴出する。治国別外三人もたまりかねて「アハヽヽヽ」と体を揺つて笑ひ出した。此声に驚いて八人の奴は一生懸命雲を霞と逃げて行く。万公は、 万公『グワツハヽヽヽ、道公さまぢやないが、到頭大勢の奴を笑ひ散らしてやつた。エヘヽヽヽ』 一同は、「アハヽヽヽ」と吹き出してゐる。 五三公は呆れて、 五三公『先生、貴方は本当に感心ですよ。何故あンな優しい女が虐待されて居るのに平気で笑つて厶るのか、無情冷酷な御方だと内実は思つてゐました。飛び出したいは山々だつたが命令が下らぬものだから、差控へて居りましたが、彼奴は狐になぶられてゐたのですなア』 治国別『ウン、あの御方は三五教の御守護神、鬼武彦の御眷族、月日明神さまだよ。バラモン教の捕手が山口の森に隠れて厶つた楓さまを召捕らうと大蛇の窟迄覗きに行き居つたのだから、月日さまが楓さまの親子対面が出来る迄、あゝして身代りになつてゐて下さつたのだ。而して吾々に御守護あつた事を示すために今迄待つてゐて下さつたのだよ。お前達の目に娘と見えたのは枯木杭だ。可愛相に娘の額だと思つてトゲだらけの欠杭を撲りつけ、血だらけの拳になつて居つたぢやらう』 万公は、 万公『ヘー何だか赤い手袋をはめてゐると思つてゐました。月日さまといふ明神さまは本当に偉い方ですなア』 治国別『サア今晩は此処で宿ることにしよう。先づ第一に天津祝詞の奏上だ』 と治国別の命令に一同は、 一同『ハイ畏まりました』 と辺りの小溝で口を嗽ぎ、手を洗ひ、型の如く祝詞を奏上し、一夜を此処に明す事とはなりける。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一二・八旧一〇・二〇外山豊二録) (昭和九・一二・二九王仁校正)
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霊界物語 44_未_玉国別と治国別2 21 小北山 第二一章小北山〔一一九〇〕 松彦一行は暫く休憩の後、一町計り峻坂を登り、細い階段を二百計り刻み乍ら漸く小北山神館の門口に着きける。そこには白髪の老人が机を前に据ゑ、白衣に白袴で置物の様にキチンと坐つてゐる。奥の方にはザワザワと祈念の声が聞えて居る。松彦は、 松彦『お爺イさま、私は旅の者ですが、結構な神様がお祀りになつてあると承はり参拝をさして頂きました、ここの教は何と申しますか』 老人(文助)『お前さまはどこの方か知らぬが、ようマア、御参詣になりました。私は目が見えぬので、かうして受付けをやつてゐるのだが、それでも有難いもので、人の声を聞けば、男か女か年寄か若い者か心のよい人か悪い人か、よく分るのだから有難いものだ。そしてチヨコチヨコ人に頼まれて、此通り絵を書いてるのだ』 松彦『何と妙ですなア、一寸見せて御覧』 老人『ハイハイ見て下さい、これでも信者の人が喜ンで額にしたり、掛地にしたりするのだから……』 松彦『なる程、目の見えぬ人の書いた絵にしては感心なものだ。ヤア松に竜神さまが巻きついたり、蕪に大根、円山応挙でも跣で逃げ相だ。オイ万公さま、お前蕪に大根は好物だないか、一つ頂いたら何うだ』 万公『松彦さま、あなたも余程身魂が悪いと見えて、此絵を御覧なさい、お前さまの名の松に一本の角の生えた黒蛇が巻いてるぢやありませぬか』 老人『何処の方か知らぬが、これは竜宮の乙姫さまの御神体だ。黒蛇なぞと勿体ない事をいひなさるな』 万公『それでも大きな口があつて黒い縄が引ついとるぢやないか。それで私は黒い口縄だといつたのだ』 老人『アハヽヽヽ、お前さまは絵を見る目が無いから困つたものだナア』 万公『此方に目の無いのは当然だ。目の無いお爺イさまの書いたのだもの、こら大方冥土の竜神さまかも知れぬぞ』 老人『お前さまは此お館へ冷かしに来たのだな、そンな人は帰ンで下さい、アタ万の悪い』 松彦『お爺イさま、此奴ア、チと気が触れてますから、何卒了見してやつて下さい。実の所は此気違ひを直して頂かうと思つて連れて来ましたのぢや、田圃の中へ這入つて、大根や蕪の生を噛つたり、薩摩芋を土のついたなり、ほほばるのですから、困つた癲狂院代物ですわい。何とか直して頂く工夫はありますまいかな』 老人『成る程さう聞けばチツと此方は気が触れてると見えますわい、どうも私の霊に其様に始めから感じました。気の毒で厶いますなア。この気違ひは容易に直りますまいから、暫く気の鎮まる迄、石の牢がして厶いますから、お預かり申して三週間計り暗い所へ突つ込ンでおきませうよ』 万公『イヤもうお爺イさま結構です。貴方のお顔を拝ンでから、次第々々に気分がよくなり何うやらモウ正気になりました。モウ結構で厶います』 老人『それでも再発したりすると困るから、二三日入れて見ませうかな。松彦さまとやらお考へは何うですか』 万公は松彦の袖を頻りに引ぱつてゐる。 松彦『ヤア之位なら大した事はありますまい。マア暫く容子を見た上でお願する事に致しませう』 老人『そンなら貴方の御意見に任しませう。何時でも御預かり致しますから』 松彦『ハイ有難う厶います。何卒宜しう頼みます』 五三公は小声で万公の袖をチヨイチヨイと引ぱり、 五三公『オーイ松に黒蛇、大根に蕪計り書いてるぢやないか、丸で二十世紀の三五教の五六七殿に居る四方文蔵さまの様なお爺イさまだねえ』 万公『ウフヽヽオイあこに髭の生えた人が居るぢやないか。あの人こそ本当の神さまみた様だなア。あの先生に拝ンで貰うたら、有難いに違ひないぞ』 五三公『ナアにあれは謡の先生だ。大分に酒が好きだと見えて、あの顔の色みい、ホテつてるぢやないか』 万公『コリヤ大きな声で言ふな。聞えるぞ』 松彦は、 松彦『此教会の縁起が聞たいものですなア』 と云へば、老爺は心よく、 老人『ハイ此小北山のお広間は元はフサの国の北山村にあつたのだ。高姫黒姫といふ立派な宣伝使があり、高姫さまが教祖で、黒姫さまが副教祖であつた。たうとうあの人も惜い事になつたものだ。アブナイ教とかへ首を突込ンで了ひ、今はどうならしやつたか、便りもなし、実にアブナイ事をしたものだ。そこで総務をして厶つた蠑螈別さまが魔我彦といふ弟子を連れてここへお出になり、小北山の神殿というて、高姫の遺鉢を受け、ここで教を開かれたのだ。随分沢山の神様が集まつて厶る地の高天原ぢやぞえ。お前さまも神様の因縁があればこそ引寄せられなさつたのだよ』 松彦は、 松彦『有難う厶います。其蠑螈別さまはゐられますかなア』 老人『ハイ大奥にゐられますが、余りいろいろの神様が御出入り遊ばすので、お忙しうてお酒の接待計りしてゐられます』 松彦『蠑螈別様の一つの体にさう大勢お集まりになるのですかなア。ソリヤ大抵ぢやありませぬなア』 老人『今はかむづまり彦命と仰有いましてな、ウラナイ教の教祖で厶いますぞ。それだから随分沢山の神様が御出入り遊ばし、お神酒をあがるので、朝から晩まで本性はチツとも厶いませぬ、本当に妙ですワ。今仰有つた事と、少し後で仰有つた事とは、クレリツと違ふのですから、そこが所謂八百万の神様のお集まりなさる証拠です。何と偉いお方もあつたものですワイ』 松彦『さうするとお憑りになる神様は何と申しますかな』 老人『余り沢山で早速には数へる事も出来ませぬが、何を言つても、八百万の神さまですからな。先づ第一神集ひ彦の神、神議姫命様、葦原の瑞穂彦命様、八洲国平姫命様、言依さしまつりの命様、荒ぶる神様、言問し姫命様、神払彦命様、岩根木根立彦命様、片葉言止め姫命様、天の岩座放ちの命様、天の八重雲姫命様、厳の千別彦命様、四方の国中彦命様、下つ岩根彦命様、宮柱太しき立ての命様、天の御影彦、日のみかげ姫、益人姫、過ち犯し彦、くさぐさの罪の姫、畔放ち彦、みぞうめ姫、ひ放ちしきまき姫、串さし様……といふ様な立派な神様が沢山に祀つて厶います』 万公はあきれ顔で、 万公『丸で三五教の祝詞そつくりぢやないか。妙な名のついた神さまもあつたものぢやなア』 爺イは真面目な顔して、 老人『神様は其お働きに依つてお名が現はれて居るのだから、お名さへ聞けば何を御守護下さるといふ事がよく分るやうに、蠑螈別の教祖がおつけ遊ばしたのだ。元より神様に御名はない、人間が皆お名を差上げて称へまつるのだからなア』 松彦『成る程、如何にも御尤も。流石は蠑螈別の教祖様ですなア、お爺さま、一つ松彦に神様の因縁を聞かして下さいな、今仰有つた神様はどこに祀られて厶いますか』 老人『其神様は神言殿といふ御殿を立てて祀らねばならぬのだが、まだ準備中だ。かうして山のどてつ辺まで沢山の宮が建つてゐるが、一番下の大きな御殿が大門神社と云つて、世界根本の生えぬきの神様が祀つてあるのだ』 松彦『そして其神様の名は御存じですか』 老人『アハヽヽヽ、肝腎の御仕へしてる神様の名が分らいで何うなりますか、お前さまも余程分らずやだなア』 松彦『分らないからお尋ねしとるのぢやありませぬか』 老人『一番此世の御先祖さまが、国治立命様、それから左のお脇立がゆらり彦命、右のお脇立が、上義姫命様だ。そしてゆらり彦命様の又の御名末代日の王天の大神様と申しますのだ。それから日照す大神さまといふのが祀つてある、其神様の御分霊が羊姫様、羊姫の妹様が常世姫命様だよ。そして稚姫君命様は艮の金神様坤の金神様の御娘子だ』 松彦『一寸待つて下さい。ソリヤ少し配列が違はしませぬか』 老人『お黙りなさい。神様の戸籍調べをしてゐるのに、勿体ない何をグヅグヅ云ひなさる。気にいらな聞いて下さるな。モウいひませぬぞや』 松彦『イヤこれはこれは不調法申しました。どうぞ御教訓を願ひます』 老人『それなら聞かして上げやう。確り聞きなされ。此大門神社にはそれ丈の神様と、まだ外に沢山の神様がお祀りしてあるのだ。稚姫君命様が天地から御預かり遊ばした八人の結構な神様がある。第一に義理天上日出神様、第二に青森白木上の命様、次に天地尋常様、これ丈が男の神様、次に常世姫様、次が金竜姫様、次が大足姫様、次が琴上姫様、其次が金山姫様此三男五女が変性男子の系統で厶いますぞや。それから又常世姫様が天地の神様から始めてお預かりになり育て上げられた神様が八柱、これは五男三女だ、第一に地上大臣様、次がたがやし大臣様、次が地上丸様、次がきつく姫様、次が旭子姫様、次が花依姫様、此神様の霊が猿彦姫と変化、又変化遊ばしてみのり姫とやがてお成り遊ばすさうだ。それから早里姫、地上姫、以上十六柱が魂の根本の元の誠の生粋の大和魂の因縁の神様で厶います。これを合して四々十六の菊の神様と申します。それから又、義理天上さまが預つて育てた神様が七人厶る。第一に天照彦、天若彦、次が八王大神、大野大臣、それから道城よしのり、大広木正宗、柔道行成、都合二十三柱の神様が天地根本、生粋の霊の元の神様だ。これ位結構な神様の教を聞き乍ら、第一の教祖の高姫さまはアブナイ教へ沈没して了つたのだから惜いものですわい』 万公『もし松彦さま、サツパリ支離滅裂ぢやありませぬか。親かと思へば子になつたり、子かと思へば親になつたり、なンと訳の分らぬ神さまですな。マンマンマンマー』 老人『コレ、支離滅裂とは何を云ふのだ。ヤツパリお前は気違ひだな、黙つて聞かつしやらぬかいな』 万公『ハイ万々聞かして貰ひませぬワイ』 松彦『此奴あキ印ですから、どうぞ気にさえずに居つて下さい。松彦はお詫します』 老人『ヨシヨシ、今言うた二十三柱の神様が天地をお造り遊ばし、人間の姿を現はして、現界の政治を遊ばしたが大将軍様、常世姫様の夫婦で厶います。それが又、大将軍御夫婦が余り我が強いので、折角の神政が破れ、御退隠なされ、第二の政治をなされたのが、地上大臣様、耕し大臣様、そこへ地上丸様が御手伝遊ばして、三人世の元結構な世が開きかけてをつたが、又もや慢心が出て現界の政治が潰れ、止むを得ず又大将軍様が変化てサダ彦王となり、常世姫様が変化てサダ子姫となり、きつく姫、旭子姫、花依姫といふ三人の子をお生み遊ばしたが、又其政治が潰れ高天原は大騒動が始まりました。それから今度は四代目の天下の政治を遊ばしたのが、八王大神様と王竜姫様、王竜姫は後に大鶴姫とおなり遊ばした。又其政治がつぶれ、五代目の政治をなさつたのが大野大臣様、大野姫のお二方、此時は非常に盛であつて、世界中が一つに治まり、後にも先にもないやうな世の中の政治が行はれた。そして青森行成さまや、義理天上さま、天地尋常さまがお手伝ひをなさつたので、非常な勢になつて来た。そした所が余り世が上りつめて又大野大臣さまの政治がメチヤメチヤに破れ、第六番目には道場美成様と事足姫の御夫婦が御政治を遊ばし、大広木正宗、柔道行成といふ二人のお子さまが出来、いよいよ神政成就が成上がつたと思へば少しの間に又もや、慢心を遊ばし、八岐大蛇や金毛九尾曲鬼の悪霊に蹂躙されて、世の中がサーパリわやになつて了ひ、そこへ変性女子の素盞嗚尊が現はれて、悪の鏡を出したものだから、今日のやうな強い者勝の世界が出来たのだ。此ウラナイ教は御覧の通り天下太平上下一致だが三五教にバラモン教、ウラル教などは戦ばかりしてゐるぢやないか。神様が喧嘩なさるといふ事はある可からざる事だ、お前さまもそンな喧嘩好の神様を信仰せずにウラナイ教の神様を信仰をなされ、昔の昔のさる昔の因縁から、根本の根本から、大先祖の因縁、霊魂の性来、手に取る如くに分りますぞや。あゝ惟神霊幸倍坐世』 万公『アハヽヽヽ万公は満口が閉さがらぬワ、イヒヽヽヽ』 松彦『又気が違ひ出した、困つた奴だなア、ウツフヽヽ、松彦も困りますよ』 老人『これで此大門神社の神様の因縁はあらまし分つたでせう』 松彦『ハイ、よく分りました。有難う厶いました。貴方は随分詳しいお爺さまだが、お名は何と申しますかな』 老人『私はおちたきつ彦と申しますよ』 松彦『ヘー、長いお名ですな』 老人『蠑螈別様に頂いた神名だから、長くても仕方がありませぬ。名が長い者は長生をするとかいひますから、モ少し長くてもいいのですが、まだ修行が足らぬので、ここらで止められて居るので厶います。私の修行が積みた上は、おちたきつ速川の瀬にます彦命といふ名をやらうと仰有いました』 一同『ウツフヽヽ、エツヘヽヽ』 と一同は笑ふ。 老人『サア是から、種物神社へ案内致しませう』 松彦『老爺さま、目のお悪いのにすみませぬなア』 老人『目が悪いと云つても、神様の御用ならば何でも出来るのだ。サアついて来なさい。きつい山だぞえ、辷りこけて向脛を打つたり、腰をぬかさぬやうになさいませや』 と云ひ乍ら、種物神社の前へエチエチと登りつめた。 松彦『ここには石造りの宮と木造の拝殿が建つて居りますなア。何とマア偉い断岩絶壁を開いて建てられたものですなア』 老人『ハイ之は大将軍様の生宮と地上丸さまの生宮が鶴嘴の先が擂粉木になる所迄岩をこついてお造り遊ばしたのだ。何と感心なもので厶いませうがなア。此神様に地の世界の大神様と日の丸姫の大神様が祀つてある。そして右の方に義理天上さまと玉乗姫様と祀る事になつて居ります。左の方には大将軍様と常世姫様のお宮が建つのです。これは世界の万物の種物をお始め遊ばした結構な結構な根本の神様ですから、よく拝みておきなさい。お前さまも若いからどうせ種まきをせにやならぬのだろ。神の生宮をポイポイと拵へるのが神の役目だから、今こそ男と女が暗がりで、かが安う生宮を拵へるやうになつたが、昔は人間一人仲々並や大抵で作れたものでありませぬぞや。其お徳にあやかる為に種物神社に祭つてあるのだ』 松彦『ハイ有難う』 と松彦はうつむく。 老人『サア之から、おちたきつ彦がモ一つの上のお宮様を御案内致しませう』 万公は、 万公『モシモシお爺イさま、そンなきつい岩石を目の悪いのに登つて、何卒谷底へ落ちたきつ彦にならぬ様に願ひますで。サア五三公、アク、タク、テク、お爺イさまのお伴だ。何とマアきつい坂だなア』 老人『あゝあ、人に改心さそうと思へば仲々の苦労だ。ソレ御覧なさい、ここに木造りの宮が三社建つてをるだろ。中央が生場神社の大神様、岩照姫の大神様、此御夫婦が祀つてある。右のお社はりんとう美天大臣様、木曽義姫の大神様の御夫婦が祀つてあるのだ。そして左の方の宮には五六七上十の大神様、旭の豊栄昇りの大神様御夫婦が祀つてあるのだ。モ一つ上に三社あるけれど、これから上は道がないから、ここからお話しておかう。石の宮が三社あつて、正中が月の大神様、日の大神様御夫婦が祀つてある。右の石の宮は末代日の王天の大神様上義姫大神様御夫婦がお祀りになつてゐる。左の方が日照らす大神様、大照皇大神宮様御夫婦が御祀りだ。何と結構な地の高天原が開けたものでせうがな』 松彦『モウ此外に神様の祀つてある所はありませぬかナ』 老人『まだない事はないが、さう一遍にお話しすると、話の種が切れるから、又今度にのけておきませうかい。お前さまも一遍に食滞しては困るからなア』 万公『アツハヽヽヽお爺イさま、御苦労でした。実の所は私は三五教の宣伝使、治国別命の片腕の万公さまだ。気違でも何でもないのだから、さう思うて下さい。随分怪体な神さまばかり、能う拝まして下さつた。これも話の種になりますわい。『霊界物語』にのせたら、キツと大喝采を得ませう。お前さまの方では種物神社だが、此万公さまは種取り神社だ。義理かき天上の神様となつて、これからウラナイ教を一生懸命に信神しませぬワ。オツホヽヽ』 老人『この年寄を此処迄連れて来て、何と云ふ愛想づかしを云ふのだい。それだから三五教は悪の教といふのだよ。大方お前も変性女子の廻し者だろ、油断のならぬ代物だなア』 松彦『此奴ア、お爺イさま気が違うてるのですから、どうぞ気に触へて下さいますな』 老人『あゝさうださうだ、気の触れた方だつたなア。何ぼ気違でも余りな事云ふと気の宜うないものだ。併し気違ひとあれば咎める訳にもゆかぬ、見直し聞直しておかう』 松彦『ハイ有難う厶いました。お年寄に高い所迄御苦労になりまして申訳が厶いませぬ』 老人『お前さま達、下の大広間で今晩はお泊りなされ、女ばかり百人あまりも鮨詰になつて寝て居ります』 五三公はにやりとしながら、 五三公『オイ、アク、タク、テク、泊めて貰はうかなア』 アク『なンだ、女ばかり鮨詰になつてると、爺さまが言つたら、顔の紐迄解きよつて、アタ見つともない、女の側は険呑だ。サア松彦さま、遅れちやなりませぬ、折角のお爺さまの御親切だが、今日はマア御免被つて、又改めてお世話になりませうか』 松彦『あゝそれがよからう、お爺イさま、どうぞ蠑螈別さまに宜しう言つて下さい。今日は急ぎますから、これで御免を蒙ります』 老人『万さまとやらを気を付けて上げて下さいや、危ない一本橋がありますから、川の中へでも、気の触れた人は飛込むかも知れませぬからな』 松彦『ハイ御親切に有難う厶います。サア一同の者、お暇乞ひして急がう。発車時間に遅れちや今夜中に万寿山へ帰れぬからなア。お爺さま左様なら』 万公『おちたきつ速川の瀬にます彦の神さま、万々々公有難う厶いました』 老人『アハヽヽヽ、気を付けてお帰りなさい、万公さまとやら』 (大正一一・一二・九旧一〇・二一松村真澄録) (昭和九・一二・二九於湯ケ嶋王仁校正)
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霊界物語 45_申_小北山の宗教改革1 04 霊の淫念 第四章霊の淫念〔一一九四〕 朝から晩まで酒盛の蠑螈別の神司 数多の神の出入に酒を祀ると云ひ乍ら 頬べた迄も赤くして臭い息をば吹まくり 侍者の鼻をばゆがませつ腋臭のかほり紛々と あたりの空気を改悪し天津祝詞の言霊を 呂律もまはらぬ舌の根にころばせ乍ら朝の中 ウラナイ教の神言を汗をタラタラ絞りつつ 唱へて又もや神様にうましき酒を献り づぶ六サンになつた上真昼が来れば神前に 足許怪しく進みより天にまします吾父よ 御国を来らせ玉へかし天になります其如く 地にも天国建てさせよアーメン、ソーメン、トコロテン ウドンに蕎麦に焼芋の肴をドツサリ前に据ゑ 曲津の神の御光来いと叮嚀に歓迎し 絶対的に博愛の趣旨を貫徹させ乍ら 夕べになれば正宗の酒にはあらぬ肉の宮 蠑螈別は数珠をもみ南無阿弥陀仏南無阿弥陀 般若心経波羅蜜経節面白く唱へ上げ 三教合同の御本尊床次さまの後をつぎ 天晴れ教主と成りすまし酒の機嫌でドラ声を 張上げ唸るお寅さま小皺のよつた手を出して 燗徳利をひん握り朝顔型の盃を 前につき出し目を細うしお酒の功徳も大広木 正宗さまよコレちよいとお過ごしあれと差出せば 酒のタンクの正宗は御機嫌斜ならずして お寅よお前は偉い奴年はとつても姥桜 まだどこやらに花の香がプンプン残つて居るやうだ お前の優しい其目許オツトヽヽヽヽヽこぼれます あまり勢が強い故情が余つて迸り 一張羅のお小袖がサツパリわやになりました さは去り乍ら之も亦正宗さまの御酒に よごされたりと見直せば却て私は有難い 可愛いお方が好き好む霊の籠つた露ぢやもの 如何して不足に思ひませう一献あがれと徳利を 又もや前に突出せば正宗さまは悦に入り あゝ世の中に酒と云ふ奴程可愛いものはない お酒が俺の生命だ酒さへあらば如何様な ナイスも嬶も要るものかお寅のさした盃は 高姫さまの口元にどことはなしによく似とる 此盃を唇にあててキツスをする時は 何ともいへぬ味がするあゝ有難い有難い これ高姫よ高姫よ大けな口を開け乍ら ここに居ますと一言のなぜ言問ひをしてくれぬ 口ばつかりがあつたとて肝腎要の肉の宮 お目にかからな気がゆかぬホンに思へば情ない 夢の浮世といふことはこんなことをば言ふのだろ 夢の蠑螈別さまと播陽さまが言ひよつた コレコレ丑寅婆アさまよお前ぢや根つから気がゆかぬ 大奥に居る上義姫肉の宮をば呼んで来て 酒の相手をさしてくれ何とはなしに淋しうて そこらが冷たくなつて来たそも人間といふ奴は 異性がなくては面白く可笑しう此世が渡れない サアサア早う上義姫呼んでお出でとタダこねる 丑寅婆さまはキツとなり口角泡をとばしつつ 団栗眼をむきいだし蠑螈別の旦那さま 私の前でそんな事どこを押へたら言へますか 過ぎし逢瀬の睦言を最早お忘れなさつたか ホンに薄情なお前さま私は今は年老つて 皺苦茶婆アになつたれど浮木の村の侠客で 丑寅さまと仇名をば取つたる女侠客だ バカになさるも程がある何程神が沢山に お出入りなさるか知らね共さうクレクレと猫の目の お変り易い恋衣破つて貰つちやたまらない 私も了見ある程に覚えてゐろよと言ひ乍ら 松彦さまを受付に待たしたことを打忘れ 蠑螈別の胸倉を力に任せてグツと取り コリヤコリヤ正宗大広木蠑螈別よバカにすな お寅の腕には骨があるモウ此儘ですまさぬぞ どうぢやどうぢやと胸板を力に任してもみつぶす 蠑螈別は泡を吹き顔を蒼青にサツと変へ アイタタタツタ待つてくれどうやら息が切れさうだ もう是からはスツパリと松姫さまの上義姫 肉の宮をば思ひ切りお前を大事にする程に 放せよ放せ胸倉をアイタタタツタウンウンウン 苦しいわいの、コラヤお寅許してくれよと手を合はし 剛情我慢の正宗も命惜さに詫入れば 呆れてこける燗徳利盃までがメチヤメチヤに 砕けて笑ふ面白さガチヤンガチヤンと拍子取り 土瓶は躍る徳利舞ふ朝顔型の盃は 落花微塵となりはてて姿小さく数多く 変化したるぞ可笑しけれお寅は尚も承知せず コリヤコリヤ正宗大広木口先ばかりでツベコベと ゴマかしよるか、そんな事聞くよな婆ぢやない程に 以後のみせしめ今一つあの世この世の境まで やつてやらねばおかないと鬼の蕨をふり立てて 悋気の勢凄じくポカンポカンと打たたく 目を白黒とさせ乍らアイタタタツタコリヤ許せ 金輪奈落天が地となる世が来ても正宗は 決してお前を捨てはせぬ疑はらして其手をば 早く放してくれぬかい折角呑んだ酒迄が 早遠国へ出奔しゾツと身に沁む秋の風 冬の薄衣ブルブルと身体一面慄ひ出した あゝ惟神々々御霊幸ひましませよ 涙と共に手を合せ願へばお寅はつけ上り 今日はどしても許しやせぬ松姫さまに涎くり 怪体な細目をむきやがつて私を盲目にしたぢやないか 今日はドツサリ身のあぶら絞つてやらねば虫がいえぬ たかが男の一人位殺した所で何惜い 観念せよと言ひ乍ら怒りの面色凄じく 何時果つべしとも見えざりし所へスタスタやつて来る 魔我彦さまの義理天上日の出神の肉宮が 見るより忽ち仰天しアツとばかりに尻餅を ついたる様の可笑しさよ魔我彦漸く口をあけ コリヤコリヤお寅婆アさまよ正宗さまの肉宮を なぜ其様に失礼な無体なことを致すのか 痩てもこけてもウラナイの神の教の教祖様 神の出入の生宮を打擲するとは何の事 覿面に罰が当るぞや早く其手を放さんせ 言へばお寅は目をすえてコリヤコリヤ魔我彦義理天上 訳も知らずにツベコベと仲裁だてが気にくはぬ 唐変木のお前さまに此いきさつが分らうか モウ斯くなれば何もかも一切曝露して了ふ 実の所は此お寅正宗さまに思はれて 夜は暖き敷蒲団恩も知らずに此色魔 人もあらうに神様の御用を遊ばす松姫に 秋波を送り二世三世百生迄も夫婦ぞと 約束したる此わしを邪魔者扱にさらす故 お寅の顔が立たないと今折檻をするとこぢや 子供の出て来る幕でないグヅグヅしてると飛ばしづく どこへかかるか知れないぞお前の足元明い内 どこなと勝手に逃げなされサア是からが荒料理 腹わた迄もゑぐり出し大洗濯をしてやらな 中々改心致すまいここらが百尋胃袋と 無性矢鱈にひつつかみ鷲のやうなる爪たてて 引かきむしるぞ恐ろしき蠑螈別は顔しかめ 半死半生の為体アイタタタツタウンウンウン 苦しい苦しい魔我彦よどうぞ助けてくれぬかい アイタタタツタアイタタタお寅といふ奴アこれ程に 悋気の強い女だと思はなかつたあゝ苦しい 助けてくれえと声限り呼ばはり居たる折もあれ 目かいの見えぬ文助がコレコレ申し教祖さま あなたがお呼びなさつたる末代日の王天の神 生宮さまが受付にしびれ切らして待つて厶る 早くお出会なされませ何だか知らぬがガヤガヤと いと騒がしい音がする痛い痛いと仰有るが 頭痛がするのか但し又お肩がこるのか知らね共 余り人を待たしては御無礼になるかも知れませぬ 目かいの見えぬ文助は此場の様子を露知らず 平気な事を言うてゐるお寅はハツと気がついて オウオウさうぢやオウさうぢや末代日の王天の神 此門口に待つて厶るコリヤコリヤ正宗大広木 末代様のお出で故今日は許しておく程に モウこれからは馬鹿なことしたり言うたり致したら お前の首はない程に覚悟はよいかと云ひ乍ら パツと放せば正宗はハツと一息鼻汁をかみ 涙を拭ふ可笑しさよお寅は尻目にかけ乍ら 素知らぬ顔をよそほひつ襟をば直しソロソロと 受付さして出でて行く。 お寅婆アさまの受付へ出た後で、魔我彦は松彦にこんな所を見られては大変だと思ひ、蠑螈別の手を引いて奥の一間へ寝かせて了つた。蠑螈別は夢現になつて、訳の分らぬ事を呶鳴つてゐる。其間にお寅は松彦一行を叮嚀に導き、奥の間へ伴れて来た。 お寅『あゝあ、油断のならぬ悪い猫奴が徳利をこかす、盃をふみわる、なんのこつちやいな、エーエ気のつかぬ、魔我彦は何しとるのぢやいな。其間に座敷を片付けてくれるかと思ひ、ワザと暇を入れて居つたのに……私がしたのだないから知らぬ……といふ様な他人行儀の魔我彦の仕方、エーエ仕方のないものだ』 と小声で呟いてゐる。 松彦『お寅さま、大変大きな猫がゐると見えますなア。盃を踏みわるなんて、随分立派な物でせう』 魔我彦は次の間からヌツと顔を出した。お寅は目に角を立て、 お寅『コレ、天上さま、気のつかぬ方ぢやなア。これ程猫があばれてるのに、なぜ片付けないのだい。お客さまがお出でになつたのに、みつともないぢやないか』 魔我『ハイ実の所は牡猫と牝猫が二疋やつて来やがつて、噛み合ひをやつたのですよ。牡の方は酒の好きな猫で、ヘベレケになり、一方はドテライ牝猫で而も寅猫でした。滅多矢鱈に咬合ふものだから、火箸でなぐらうと思うたトタンに、猫はなぐれず盃をなぐつて、此通りメチヤメチヤにして了うたのですよ』 お寅『エーエ、何をさしても気の利かぬ方だな、サア、早く片付けなさい、人様にザマが悪いぢやないかい』 魔我彦は苦笑ひし乍ら、 魔我『ザマの悪い事は誰がしたのだ。ヘン馬鹿らしい』 と口の中で呟き乍ら、不精無精に座敷を片づける。松彦一党は居間の入口に手持無沙汰な風をして立待ちをして居る。魔我彦はあわただしく一間の掃除をなし、火鉢、鉄瓶、徳利、膳などの置場所を直し、座蒲団を七枚布き終り、 魔我『サアえらうお待たせしました。末代日の王天の大神の生宮様、どうぞ正座にお直り下さいませ』 松彦『天の大神も随分落ちぶれて居りました』 と言ひ乍ら、差図する儘に正座に坐つた。 お寅『これはこれはよくマアお出で下さいました。上義姫様の肉の宮が大変にお待受で厶いますよ。神様だつて夫婦がなければ、誠の御神業は出来ませぬからなア』 松彦『吾々にはそんな粋事はありませぬ。お見かけ通りの木石漢ですからなア』 お寅はツツと傍へ寄り、松彦の手の甲をソツと押へて細目をし乍ら、 お寅『ヘヽヽ、うまい事を仰有いますな。流石姫殺だ。恋の上手はやつれてかかるとか言ひましてな。本当に至れり尽せりだ。蠑螈別オツトドツコイ……大分に違ひますわい。此婆アだつて貴方の様な男らしい生神様だつたら、モウ二十年も若かつたら一苦労して見ますがなア。ホツホヽヽヽ』 松彦は渋をかんだ様な面付で、 松彦『どうぞ揶揄はやめて下さい。吾々は大切な御用のある身体、其寸暇を伺つてあなたのお勧めに任せ参つたのですから、下らぬ話をなさるのならば、最早お暇を致します』 と箱さしたやうなスタイルでキチンとすわつてゐる。 お寅『これはしたり、誠に失礼なことを申上げました。併しねえ、さう仰有つても、ヤツパリ人間には裏表がありますからなア』 松彦『ハヽヽヽ』 魔我『末代日の王様の生宮様、よくマア御入来下さいました。神政成就の太柱様、どうぞあなたも身魂の因縁だから、他所へは行かずに、神政成就の暁迄、何卒ここに御逗留を願ひます』 松彦『それは聊か迷惑、半時ばかり御邪魔を致し、今度は是非共お暇を頂きませう』 魔我『何と仰有つても、身魂の因縁で引寄せられ遊ばしたのだから、そりや駄目でせう。マアゆつくりとして下さいませ』 松彦『ハイ有難う』 万公『モシ義理天上さま、此ブラリ彦は何時帰つたら宜しいかな』 魔我『どうぞ貴方の御随意になさつて下さいませ。御都合が悪ければ、今直に御帰りになりましても構ひませぬ』 万公『山竹姫の口から生れた生宮ぢやないが、マンマンマンウマーと呆れざるを得ませぬわい。ヘン』 魔我『お前はウラナイ教を研究しましたか。ようそんな細かいことまで御存じですな』 万公『ハイ此中でウラナイ教通と云つたら、マア私位な者でせう。私はお寅さまの内の入婿でしたからなア。何か因縁があるので、神様が知らして下さいますわ。山竹姫さまは馬が出来たので、ビツクリして今度目に又、天の大神様にお祈り遊ばし、猪を生まれたでせう。それから又次に口から玉を生み出し、其玉がヘグれて孔雀が生れたでせうがなア。其位なことはチヤーンと此万公は知つてゐるのですからなア』 魔我『成程コリヤ感心だ』 万公『私の随意にこれから御暇を致しませうか』 お寅『コレコレ万さま、お前、何時の間にそんなおかげを頂いたのだい。それを聞くからは、帰のうといつたとて帰なしはせぬぞや。それではヤツパリお前の霊はブラリ彦ではなかつた。耕し大神の霊かも知れぬぞえ。なア魔我彦さま、どうも耕し大神の様ですなア』 魔我『メツタにタガヤ……シませぬぢやらうかな。私や疑やしませぬけれどなア。耕し大神にしてはチツと軽いやうな気がしますがなア』 万公は両手を組み、目を閉ぎ『ウン』と飛上り、 万公『コリヤ、魔我彦、其方は耕し大神の霊を何と心得て居る、そんなことで義理天上日出神の生宮と言へるかア。三千世界の事なら、隅から隅迄、何もかも知つて知つて知りぬいた此方だぞウ』 魔我『ハイ恐れ入りました』 お寅『これはこれは万公、イヤイヤ耕し大神の生宮様、誠にすまぬことを致しました。コレコレお菊、教祖様がいつも言うて厶つただらう、お前の霊は地上姫だ、地上姫の夫は耕し大神の生宮と仰有つたぢやないか。サア早うこちらへ来て御挨拶を申上げないか』 と大きな声で呼ばはつた。お菊は驚いて此場に走り来り、 お菊『お母アさま、耕し大神の生宮さまて、どなた?此お方ですか』 と松彦を指さす。万公は包みきれぬ嬉しさと可笑しさを無理に笑ふまいと気張つてゐる。成るべくコクメンな素知らぬ体を装うとしたが、どうしても堪へ切れなくなり、 万公『パーハツハヽヽヽ』 と吹出した。 お寅『マアマア耕し大神様の御機嫌のよいこと、ソラさうだろ、永らく地の底へ落ぶれて厶つたのだもの、ここで肉の宮と肉の宮の御対面を、天晴と現はれてなさつたのだから嘸御満足で厶いませう。コレお菊、耕し大神の肉の宮はあの万公さまだよ』 お菊『エーエ好かンたらしい、あたしイヤだわ。あんな黒い褌しとつた男、それお母アさま、にえ茶を呑ンでこけた時、あれ思ひ出すと、何ぼ耕し大神さまだつて、愛想がつきますワ』 五三『ウツフヽヽヽ』 アク、タク、テク一度に『ワアハツハヽヽヽ』 アク『何とマア都合のよい教だなア。俺も今日からスツパリとウラナイ教へ入れて貰はうか知らぬてなア。サア何と言つたらよからうかな。アクビ直し彦でもつまらぬし……ウンさうだ、同じアのつく天若彦になつてやらう。ウンウンウン』 ドスン…… アク『此方は悪にみせて善を働く天若彦であるぞよ』 お寅『オホヽヽヽ』 魔我『アハヽヽヽ』 お寅『おきやんせいなア。そんな受売をしたつて誰が買ふものか。よいかげんに冗談もなさるがよい。悪垂彦命奴が』 アク『あゝあ、たうとう尻尾を見られて了つた』 お寅『心得なされや、私の前だからよいが、よそへ行つて、そんな山子をなさると、ドテライ恥をかきますぞや』 五三『ウツフヽヽヽ、たうとう悪の企みの現はれ口だ。口は災の門とは能く云つたものだな、無茶苦茶に口をアクとアカンことになるのだ、のうテク、タク、俺達の面よごしだ』 アク『万公だつて、さうぢやないか、万公の言ふことが通用して、俺のいふことが通用せぬといふ理屈がどこにあるかい』 五三『アリヤ万が良いのだ。アハヽヽヽ』 松彦『肝腎の大広木正宗さまは何処にゐられますか。私は正宗様に会うてくれと仰有つたので参つたのですが、御本人が居られぬとすれば仕方がありませぬ。帰りませうかな』 お寅『ヤ、居られます。併し今御神懸の最中ですから、どうぞ暫く御待ち下さいませ。奥の間にお伺ひの最中で厶います』 松彦『私も何となく気がせきますから、そんなら私の方から伺ひませう』 とツツと立ち、行かうとする、お寅は酔ひつぶれた蠑螈別を見られては大変と、両手を拡げ、 お寅『マアマアマア、待つて下さい。今貴方に行かれては、一寸都合の悪いことが厶います』 五三『松彦さま、酒に酔うて厶るのですよ。受付へ聞えとつたでせう、此お寅さまと酒に酔ひ、イチヤ付喧嘩をして、胸倉をとられたり、頭をコツかれたり、助けてくれ……と叫んでゐられたでせう。盃を破つたのも猫ぢやありませぬよ、皆二人の意茶付喧嘩の産物です、シツカリせぬとゴマかされて了ひますで』 松彦『アハヽヽヽ、人さまの内のことは言ふものぢやない。沈黙しなさい』 と云ひ乍ら再び元の座に着いた。隣の間には蠑螈別が酒に酔ひつぶれ、うつつになつて囈語を言ひ出した。其声は次の間へ筒抜けに聞えて来る。 蠑螈『あゝあ、エライことになつたものだ。つひ酒の勢で南瓜みたやうなお寅婆アをなぶつたのが病み付で、こんな目に会はされたのだ。あゝあ之を思へば高姫は親切だ。あゝあ高姫は如何して居るだらうなア。高姫ー々々、会ひたいわいのう。ウニヤウニヤウニヤウーン』 お寅の顔色は俄に変つて来た。 魔我『エヘヽヽヽお寅さま、お気のもめる事でせうなア』 お寅『アリヤ信者の病人があんなこと言つてるのだよ。ここへ時々気のふれた者が参つて来るから……厄介な事だ』 魔我『それでも教祖さまの声にソツクリぢやありませぬか』 お寅『サアそこが気違だ。悪神が憑つて教祖様の声色を使つてるのだ。そんなことが分らいで、仮令看板丈でも、副教祖が勤まりますか。すまないが此お寅は教祖様の……ウンではない……エヽ二世の○○だよ。お寅さまを差おいてヅケヅケと言ふものでない。スツ込んでゐなされや』 魔我『義理天上日出神もお寅さまにかかつては駄目ですわい』 万公は長らく手を組んでゐたが、足はしびれ、手はだるくなつて堪え切れなくなり、ワザとにドスンと飛上り、空呆けた顔をし乍ら、 万公『あゝ、あゝ大変な夢を見て居つた。綺麗な別嬪さまと祝言の盃をしたと思へば……何だ夢だつたかいな。オヽそれそれ其お菊とソツクリの女だつた。何とマア妙なことがあるものだなア』 お寅『ナアニ、お菊と同じ美人と結婚をしたことが霊眼にうつつたのかな。オヽさうだろさうだろ、それで益々確実になつて来た。神様の仰有つたことは違はぬワイ……神様、有難う厶います、惟神霊幸倍坐世』 と蠑螈別の腹立を忘れてお菊の為に祈つてゐる。 (大正一一・一二・一一旧一〇・二三松村真澄録)
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霊界物語 46_酉_小北山の宗教改革2 07 妻難 第七章妻難〔一二一七〕 お覚は歌ふ。 お覚『高姫司の開きたる北山村の本山を 蠑螈別や魔我彦の司に従ひ喜久さまと これの聖地に来て見れば思ひもよらぬ神憑 思ひがけなや吾魂は古き昔の因縁で 木曽義姫の守護神尊き神の御裔と 聞いたる時の驚きは何に譬へむものもなく 其驚きと嬉しさの雲に包まれゐたりけり 尊き神の命令は反くに由なく喜久さまと 三年を越えし今日迄も身を慎みて褥さへ 別にいく夜の淋しさを涙と共にしのびつつ これも昔の神代から世を持ちあらした天罰が 酬うて来たのに違ひないかうして身魂の借銭を つぐなひ下さる事ならばこんな結構な事はない 限りもしれぬ罪悪を直日に見直し聞き直し 百目の質に編笠を一介出してすますよな ボロイ尊い話ぢやとここまで教をよく守り 神に仕へて参りました其おかげやら今日は又 結構な事が分り出し半信半疑の雲はれて げに爽快な魂とスツパリ生れ変りました これもヤツパリ小北山鎮まりいます曲神の 一つはおかげに違ひない吾身に憑つた神様は 木曽義姫といふ事ぢやどこの狐か知らねども ようマア人の肉体をうまく使うたものだなア これぢやに依つて人間は注意をせなくちやならないと 三五教の神様が赤子の口にそら豆を かみくくめるやう親切に諭して下さる御仁愛 其お言葉をいつとなく忘れて了ひウラナイの 教司の高姫が水も漏らさぬ弁舌に 迷うた為に肝腎の尊き親を袖にして 訳の分らぬ神様に迷うて来たのが情ない 大きな顔して家の外どうしてこれが歩けよか とは云ふもののこれも亦仁慈無限の神様の お試しならむと見直せば見直されない事もない あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 此神山に天地の誠の神の降りまし 世人を普く善道に教へ導き吾身魂 救ひ給ひて天国の栄えを与へ給へかし 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも星は天より下るとも 山さけ海はあするとも三五教の神徳に 眼を覚した上からは如何なる事の来るとも 決して邪教にや迷はない曇つた眼は今あけて 真如の光明ありありと心の海に照り出した 仁慈無限の神様よ天の誠の五六七様 何卒々々吾々が汚い心を憐れみて 誠一つの三五の教を完全に委曲かに さとらせ給へ惟神珍の御前に願ぎまつる』 お福はまた歌ふ。 お福『さだ子の姫の肉宮と鈴野の姫をかね給ふ 内事司のお寅さま吾家に現はれ来りまし ウラナイ教の信仰をお勧めなさつた時もあれ 不思議や妾の身体は地震の如く震動し 胸苦しくもなつて来た此奴ア不思議とわれながら 怪しみ疑ふ時もあれ腹の底からウンウンと 唸り出したる玉ゴロが漸く喉へ上りつめ 口を切らうとした時は後にも先にもないやうな 苦しい思ひを致しましたお寅さまが吾家へ来るや否 不思議な事が出来たのは偉い神徳ある人だ 只のお方ぢやあらうまい尊き神の御化身と 信じて拝む折もあれ息は追々楽になり 旭の豊栄昇り姫これからお前は因縁で 俺が肉体かる程に小北の山へ罷り出で 信仰せよとおごそかに自分の口から宣り伝ふ かうなる上は夫婦とも疑ふ余地もあらざれば お寅婆さまの云ふままに屋財家財を抛つて これの館に転住し吾身に持てる財産は 櫛笄に至るまで売代なして神様の お宮の御用に立てましたそれから私は何となく 心驕りて知らぬ間に旭の豊栄昇り姫 霊肉一致の神柱何たる結構な体よと 夫婦が朝夕会ふ毎に一人笑壺に入つてゐた 然るに何ぞ計らむや皆さまのお話聞くにつけ 愛想もコソもつきました何程神の仕組でも 私をこんな目に会はすとは余りヒドイ神様ぢや 私はこれからスツパリと思ひ切ります神いぢり 御幣をかついで笑はれてどうして此世が渡れませう コレコレもうし竹さまえお前は五六七成就の 神のお宮ぢやなかつたかまるで狐につままれた やうな思ひがすぢやないか思ふ所か正真正銘の 坂照山のド狐が騙してゐたのに違ひない コレコレもうし竹さまえ思ひ切るのは今だらう グヅグヅしてると松姫や松彦さまに又しても 眉毛をよまれ尻の毛を一本もないまで抜かれますぞや あゝ怖ろしや怖ろしや神を表に標榜し 正しき此世の人間を騙して食はうとする奴は 虎狼の眷属だ長居は恐れ逸早く ここをば立つて帰りませう竹さまそれが不承知なら 私は勝手に帰にますよコレコレもうし春さまえ お前と私と平常から互に心が解け合うて しつぽり話をしたぢやないか私が信仰やめたなら お前もやめると云ふただろサアサア早く帰りませう トチ呆け爺の竹さまはまだまだお目がさめませぬ サアサア早う』と言ひながら春公さまの手を取つて 太い女がひんにぎりトントントンと広前を 夜叉の如くに駆け出し坂道さして帰りゆく 竹公驚き立上りお福の後を追駆けて 竹公『旭の豊栄昇り姫暫く待つた一寸待つた お前に言ひたい事がある短気は損気ぢや待てしばし 待てと申さば待つがよい之には深いわけがある』 声を限りに叫びつつ坂道指して追うてゆく。 お福は半狂乱の如くになり、河鹿川の川べりにある笠松の麓の堺の神政松の神木としるしてある千引岩の傍に走りより、 お福『コリヤ、神政松の神木、よう今迄おれを騙したなア。此普請は俺が蠑螈別に騙されて拵へたのだ。モウ今日から信仰をやめた上は、叩き潰さうと何うしようと私の勝手だ、エヽ怪体の悪い』 と力一杯押せども引けども、数十人を以て引張つた此巨岩、ビクとも致さばこそ、泰然自若、平気な顔でお福の繰言を冷笑してゐる。お福は十六柱の神になぞらへて植ゑておいた十六本の小松をグイグイと引抜きながら、 お福『エヽ神政松もへつたくれもあつたものか、アタいまいましい、奴狐め、騙しやがつた』 と言ひながら、握つては川へ流し、握つては川へ流し猛り狂ひ、 お福『コリヤ神政木、元の金にならぬか、性念があるなら、せめて一寸なと動いて見せよ。コラよう動かぬか、ド甲斐性なし奴、貴様は神だと申すが、まるで躄のやうな奴だ』 と云ひながら、あたりの石を拾つて、千引の岩にバラバラと打ちかけてゐる。そこへ春公、竹公は走り来り、 竹公『コリヤコリヤお福、マア気をしづめたら何うだ。サウお前のやうに一徹に怒つてくれると話が出来ぬぢやないか』 お福『エヽエ腰抜男が何を言つてるのだい、笑ふ門には福来る、お前の名はお福さまだから、三年先になれば一粒万倍にして福を返して下さると、蠑螈別や魔我彦が言ひやがつて、人の金を残らず巻上げよつた。丸三年になつた時、今日は万倍にしてくれるかと思つて待つてゐたら、一文も、どこからもくれやせぬ。それでも神政成就に近付いたら、百万倍にして返してくれるだろと待つてゐたのだ。最前から聞いてみれば、坂照山のド狐に騙されて居つたと云ふぢやないか、阿呆らしい、どうしてあんな処に居れるものか、今まで大勢の信者に旭の豊栄昇り姫様といつて崇められてゐたのに、大勢の前でスツパぬかれて、どうして此お福の顔が立ちますか。お前さまは気のきかぬ頓馬だから、私が人に顔が会はされないやうにして了つたのだ。此儘泣寝入りをしては世間へ会はす顔がないから、仮令何時までかかつても、此岩をひつくり返し潰さねば承知をせないのだよ。竹さま、春さま、何だ、ヒヨツトコ面して、何青い顔してるのだい、さうだから意気地なしと言はれるのだ』 竹公『貴様がせうもない神憑をするものだから俺までが巻き込まれたのだ。罪は貴様にあるのだ、俺に不足をいふ筋は一つもあるまい』 お福『それだから頓馬といふのよ。何程嬶が勧めても、夫は夫の権利があるぢやないか、なぜ其時に一言気をつけてくれないのだ。お前も一緒に賛成をするものだから、此お福も怪しいとは思うては居つたが、竹さまが男の身で居ながら一番に賛成したものだから、ヤツパリ私の守護神は結構な神様だと思うて賛成したのだ。それがサツパリ当が外れて、世間へ顔出しが出来ぬ事になつて了つたぢやないか。本当にいまいましい、アンアンアン、返せ戻せ、私の出した金を』 竹公『俺だつて、怪しいとは思つて居つたが、お前が一寸も怪しまないものだから、ヤツパリ本真かと思つたのだ。つまりどちらの魂も間が抜けとつたのだから、責任は両方にある。マア俺の云ふ事を聞いて、マ一遍大広間まで出て来てくれ、結構な話を聞かして貰つてやるから……』 お福『ヘン、責任は二人にあるなんて、何とマア卑怯な男だ事、女は蔭者、表には立ちませぬぞや。家長権の執行者はお前ぢやないか、何と云つてもお前が悪いのだよ。馬鹿野郎の頓痴気野郎だよ』 竹公はムツとして、つかみつく、茲に夫婦は組んづ組まれつ、互に髪をつかみ合ひ、キヤアキヤア犬の噛み合ひのやうに云ひ出した。春公は中に割つて入り、 春公『マアマア待つて下さい、五六七成就の大神様、旭の豊栄昇り姫の大神様、神様の生宮が人間なみに喧嘩するといふ事がありますか、みつともないぢや厶いませぬか。これから五六七神政成就して旭の豊栄昇りに栄える松の神代が出て来うとしてゐるのに、肝腎の神柱がそんな事で如何なりますか。どうぞ三千世界を助けると思うて、春公に免じてお鎮まりを願ひます』 お福『何、春さま、お前はヤツパリわたしを旭の豊栄昇り姫と思つてゐるのかい』 春公『ヘーヘー、誰が何と云つても私は飽くまで信じます。そして竹さまは何処迄も五六七成就の大神様です、こんな事が違うてなりますものか。私はお寅婆アさまにタク、テク、お菊さまの云ふ事が気に喰はないのです。ドタマをカチ割つてやろと、腕が鳴り肉が躍つて仕方がなかつたのに、神様の前だと思つて涙を呑み辛抱してゐたのだ。誰が何と云つても、五六七成就の大神様、旭の豊栄昇り姫の大神様に間違はありませぬ』 春公の言に二人はケロリと喧嘩を忘れ、ニコニコしながら、 お福『ソラさうでせうねえ、そんな事があつてたまりますものか。コレ竹さま、春公さまが証明してくれるのだから安心しなさい。これから二人が小北山を背負つて立たねばなりませぬで、三千世界の為ですからね』 竹公『ウーン、さうだな、大変だな、これから』 お福は腹立紛れに引きむしつて川へ流した松の事を思ひ出し、忽ち大地に平伏し、拍手をうつて涙声、 お福『栄えの神政松、ミロク神代の御神木様、十六本の柱神様、真にすまない事を致しました。どうぞ許して下さいませ、其代りにすぐ十六本の松を植ゑてお返し申します、あゝ惟神霊幸倍坐世』 春公『竹さまの胸の村雲晴るさまは 松の根元でキン言をふく』 竹公『アハヽヽヽお目出度う』 お福『神様、真にすみませぬ、有難う厶います、それなら之から、マ一度大広間へやらして頂きませう』 (大正一一・一二・一五旧一〇・二七松村真澄録)
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霊界物語 46_酉_小北山の宗教改革2 14 打合せ 第一四章打合せ〔一二二四〕 松姫館には夜の更くるまで雑談が始まつてゐる。 五三『モシ松彦さま、思はず、暇を小北山で費しましたなア。治国別の宣伝使は、さぞ待つてゐられますでせうなア。何うです、神様をスツパリ祀りかへて行くといふお話ださうですが、これだけ沢山のお宮さまを一々祀りかへて居つた日には、二日や三日では埒があきますまい。そんな事をしとつたら肝腎の御用が後れるぢやありませぬか』 松彦『ソレもさうですが此儘にして行く訳にも行かず、困つたものです。私達は都合によつたらエルサレム迄行つて来なくてはなりませぬ。さうすれば一年位は早くてもかかりますから、イツソの事、松姫に一任しておいたら何うでせうなア』 五三『万公さまも一緒に暫く残しといたら何うでせうか』 アク『モシ先生、こんな男を残しておかうものなら、又狐につままれて駄目ですよ。お寅さまに魔我彦、万公の欺され三幅対です。が、欺され三幅対をこんな処へ置いておかうものなら、又候狐狸の巣窟となつて了ひます。而して万公さまは斎苑の館からお供に連れて治国別さまが厶つたのだから、貴方の勝手にはなりますまい』 松姫『ソラさうですなア、五三公さま、一つ貴方神様に伺つて見て下さらぬか』 五三『ハイ承知致しました。それなら一つ伺つて見ませう』 と言ひながら手を組んで暫く無我の境に入つた。 五三『ヤア解りました。未だ三日ばかしは差支ない様です。明日早朝から神様の御祀りかへをする事に致しませう、それに就てはお寅さま、魔我彦さまの承諾をうけておく必要はありますまいかなア』 松姫『それが第一です。テクさま、すまないが一つお寅さまと魔我彦さまを此処へ来て頂くやうに頼んで下さいなア』 テク『承知致しました』 と座を立つて階段を下り行く。 アク『松姫さま、随分貴女は此処へおいでになつてから日日が経つたやうですが、妙な神さまばかり祀つたものですなア』 松姫『本当にをかしくて怺らぬのです。幾何にでもへぐれてへぐれてへぐれ廻す神さまですからなア』 アク『へぐれ神社に種物神社、生羽神社に大門神社、其他随分妙な名があるぢやありませぬか。ヨウマアこんな出放題な神名や神社名がつけられたものですなア』 松姫『ソレでも世間は広いものですよ。誰も彼も一生懸命になつて詣つて来るのですから、不思議なものですわ』 アク『大変に変性男子をほめて変性女子をくさしてゐるぢやありませぬか』 松姫『二三年前迄は極力変性女子を悪の鏡だとか言つて攻撃して居りましたが、此頃は変性男子の生宮が昇天遊ばしたので、仕方がなく一生懸命に変性女子の弁解ばつかりしてゐるのですよ。男子と女子とが経と緯とで錦の機を織るのだ。而して義理天上日の出神が世界中の事を調べて、変性女子にソツと言うて聞かすのだと、ソレハソレハ偉い権幕でしたわ』 万公『余程改心が出来たと見えますねえ』 松姫『イエイエさうではありますまい。三五教の信者を占領しようと思へば、此頃は女子の勢力が強いのだから、両方をうまく言はねばひつかかつて来ないものですから、策略であんな事を云つとるのですよ。九分九厘行つたとこで女子は悪の鏡だと云つてクレンとひつくり返すのですから油断は出来ませぬよ。併しながら変性女子の眷属がかうして沢山やつて来たものだから、肝腎の教祖が女と手に手をとつて駆落したのも、つまり神罰が当つたのでせう』 松彦『曲神は善の仮面を被りつつ 世を欺くぞゆゆしかりける。 表には愛と善とを標榜し 裏に曲をば包む醜道。 何時の世にも栄ゆるものは偽善者よ 正しきものは衰へて行く。 さりながら五六七の神の生れし上は 最早悪魔の栄ゆ術なし』 松姫『蠑螈別、魔我彦、お寅婆さまの 心は猫の眼なりけり。 夜も昼も酒に腸くさらせつ 曲の宮居となれる憐れさ。 艮の婆さまと自ら称へつつ 坤神何時もこぼちつ。 曲津見の醜の教に迷ひけり 何を言うてもきくらげの耳。 これだけによくも迷ひしものぞかし 誠の教は一言もきこえず』 五三『斎苑館珍の宮居に比ぶれば 天と地との如くなりけり。 小北山峰の嵐はつよくとも 早をさまりて松風の音』 万公『ここへ来て怪しき事の数々を たこになるまで耳に入れける。 耳も目も口鼻迄も痺れける 曲と曲とに囲まれし身は。 さりながら神の御稜威は灼乎に 逃げ失せにけり醜の曲神』 アク『あくせくと心なやむる事勿れ ただ何事も神に任せて。 悪神を追ひそけちらし根本の 神祀るとて世人あざむく』 タク『ユラリ彦、上義の姫の生宮と 信じゐるこそ可笑しかりけれ。 さりながら信じてくれたそのために 小北の山を立直すなり。 高姫や黒姫司がきくならば さぞ懐旧の念に燃ゆべし』 テク『尾白し頭も白し古狐 騙しけるかな三人の人を。 蠑螈別今は何処にひそむらむ お民の後を慕ひ慕ひて。 魔我彦の心はさぞやもめぬらむ 恋にこがれしお民とられて』 これよりお寅、魔我彦、お菊、文助などを加へ、松姫館の奥の間で明朝早くより三五の大神を鎮祭すべく修祓、遷座式其他の件に就て打合せをなし、各自の居間に帰つて其夜を明かす事となつた。 あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一二・一五旧一〇・二七外山豊二録) 因に、本日午前九時より午後十一時まで十四時間に原稿紙八百一枚を口述し終れり。これ今日までのレコード也。(瑞月)
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霊界物語 46_酉_小北山の宗教改革2 15 黎明 第一五章黎明〔一二二五〕 一日の太陽が神の御守りの下に静に暮れ行きて、頓て平和な閑寂な夜が地の上に訪れ、遠寺の鐘の音、塒求むる鳥の声など漸くをさまり、四辺は死んだ様に静かになつて来た。鉄瓶の蓋が湯気に煽られて鳴る声が、何となくお寅婆アさまの胸に響いて、浮木の村の侠客時代を偲ばせる様であつた。蠑螈別に命の綱の恋と金とを奪はれて、眠りもやらず、胸に轟く狂瀾怒濤を抑へることにのみ疲れはて、次の間の鏡台の前に向つて、マジマジと自分の姿を見れば、両頬の痩せこけたのを見るにつけても、吾身の老い行きしこと、蠑螈別の逃去りしもさこそ無理ならじと思ふにつけ、其両眼がスグツと涙になる。 お寅『あゝこんな事ではいけない。モウ少し確りして、神様のお道を歩み直さねばなるまい』 と吾と吾手に心を引立てようとしてみたが、夜前の無念さ口惜しさが骨の節々にまでしみ込んでゐる悲しさが一時に飛び出して、忽ち金剛不壊的の信仰と覚悟を打破らうとする。 お寅『あゝあ、わしの今宵の苦しさと云つたら、石を抱かされ、算盤の上へすわらされて、無実の拷問をうけてゐるやうな苦しさだ。人と人とを繋いでゐた糸が切れて、行方も知らぬ荒野を独り寂しげに逍遥ふ心地がし出した。あゝどうしたらよからうかな。安心立命を得むとして神を信じ神を愛し、舎身的活動をやつて来たのだ。それに又何として斯様なみじめな目に会つたのだろ。世の中に不幸な人は此お寅ばかりではあるまい。さりながら又妾の様な悲痛な残酷な憂目に会つた者も又とあるまい。馬鹿らしさ、恥しさ、腹立たしさ、モウ立つてもゐても居られない様になつて来た。あゝどうしようぞいなア』 と鏡台の前に、老躯を投げつけるやうにして愚痴つてゐる。 お寅『あゝさうださうだ、人には三つの宝がある。其宝は決して物質的の宝でも、変則的情欲でもない、神様に対する恋愛だ。第一に愛、第二に信仰、第三に希望だ。此三つの歓喜を離れては、一日だつて暗黒の世の中に立つてゆく事は出来ない。あゝ誤れり誤れり、誠の神様、三五教を守り給ふ太柱神素盞嗚大神様、今日まで仁慈無限のあなたの御恵を蒙りながら、少しも弁へず、蠑螈別の邪説に従ひ、御無礼ばかりを申しました。其心の罪が鬼となつて、今私を責めて居るので厶いませう。あゝ吾敵は吾身体の中にひそんで居りました。払ひ給へ清め給へ神素盞嗚尊………』 と合掌し、悔悟の涙にくれ、稍しばし沈黙の淵に沈みつつあつた。暫くすると、何処ともなく燦然たる光明が輝き来り、お寅の全身を押し包むやうな気分がした。お寅は何時とはなしに夢路を辿つてゐた。ヂツと眠つてゐる目の底には美はしき天国の花園が開けて来た。牡丹や芍薬やダリヤの花が錦の様に咲き盛つてゐる中を、紅白種々の胡蝶と共に遊び歩いてゐるやうな、えも言はれぬ気持になつて来た。お寅はフと目をさまして独言、 お寅『あゝ仁慈深き五六七大神様の光明に照らされて、転迷開悟の花が吾胸中に開きました。薫しき風が胸を洗つて通るやうになりました。今まで人を救ひたい救ひたいとの念は時々刻々に沸騰して、胸に火を焚いた事は幾度か知れませぬ、併しながら万民所か、自分一人を救ふ事も出来なかつた、かよわい私たる事を徹底的に悟らして頂きました。自分一人の徹底した救ひは、やがて万人の救ひであり、万人の救ひは自分一人の自覚即ち神を信じ神を理解し、真に神を愛し、自分は其中に含蓄される以外にないものだと云ふことを、御神徳に依つて深く深く悟らして頂いた事を有難く感謝致します』 と悲哀にくれた涙は忽ち歓喜の涙と変り、心天高き所に真如の日月輝き渡り、幾十万の星は燦然としてお寅の身を包むが如き高尚な優美な清浄な崇大な気分に活かされて来た。お寅は俄に法悦の涙にむせ返り、褥をけつて起上り、口を滌ぎ手を洗ひ、人の目をさまさないやうと、差足抜足神殿に進んで感謝祈願の祝詞を、始めて心の底より嬉しく奏上する事を得た。実に理解と悔悟の力位結構なものはない。其心霊を永遠に生かし、其肉体をして精力旺盛ならしむるものは、実に真の愛を悟り、真の信仰に進み、そして真に神を理解し、己れを理解するより外に途はないものである。 あゝ惟神霊幸倍坐世。 お寅『暴風一過忽ちに吾身を包みし黒雲は 拭ふが如く晴れ渡り五六七の神の御慈光に 迷ひ切つたる魂も瑠璃光の如く照らされて やつれ果てたる身も魂も俄に無限の神力を 与へられたる思ひなり真如の月は村肝の 心の空に輝きて清光燦爛身を包む 銀河は長く横たはり東や西や北南 天津御空も地の底も只一点の疑雲なく 地獄は化して天国の至喜と至楽の境域に 楽しく遊ぶ身となりぬあゝ惟神々々 人の身魂は皇神の広大無辺至聖至貴 清きが上にも清らけき大神霊の分霊 吾身一つの魂の持ちよに依りて世の中は 天国浄土となるもあり地獄修羅道と変るあり 地上の小さき欲望に魂を汚され心をば 紊しゐたりし浅ましさ天国浄土は目のあたり 而も吾身の胸の内開けありとは知らずして 私利と私欲の欲界に漂ひ苦しむ世の人よ 其境遇を窺へばげに浅ましの至りなり われ先づ神に救はれぬ神に救はれ天国の 至喜と至楽を味はひぬあゝこれからはこれからは 尊き神の仁徳に報ゆる為に身を砕き 魂を捧げて道の為世人の為に何処までも 尽しまつらでおくべきか情は人の為ならず 吾身を救ふ宝ぞと悟りし今日の嬉しさよ 仁慈無限の大神の恩頼をかかぶりて 地獄と修羅に迷ひたるわれは全く救はれぬ 吾身を地獄におきながら憂瀬におちて苦める 世人を普く救はむと思ひし事の愚かさよ 之を思へば蠑螈別お民の君は吾為に 心の門を開きたる仁慈無限の救主 かく宣り直し見直せば天が下には敵もなく 恨みもそねみも消え失せてさながら神の心しぬ 思へば思へば有難き吾身の垢を洗ひます 瑞の御霊の御恵み神素盞嗚大神が 仁慈の余光を地になげて暗に苦む人草を 救はせ給ふ御心を今や嬉しく悟りけり 高姫司が称へたるウラナイ教は表向き 仁慈無限の神様の救ひの言葉と聞ゆれど 表裏反覆常ならず忽ち天候一変し 雷鳴ひらめき暴風雨吹き来る如き恐怖心 起させ霊をよわらせてむりに引込む横しまの 曲津の教と悟りたり末代日の王天の神 其妻上義姫の神リントウビテンや木曽義姫や 生羽神社や岩照姫や五六七成就の肉の宮 旭の豊栄昇り姫日の出神の義理天上 玉則姫や地の世界日の丸姫の大御神 大将軍や常世姫ヘグレのヘグレのヘグレムシヤ ヘグレ神社の大御神種物神社の御夫婦神 大根本の神木の十六柱の霊の神 なぞと怪しき御教をひねり出して愚なる 世人を欺く曲言を此上なきものと迷信し 朝な夕なに村肝の心を痛め身を削り 心肉共に痩せこけて苦みゐたる地獄道 今から思ひめぐらせばさも恐ろしくなりにけり 天津御空の日は歩み月行き星はうつろひて 銀河流るる地の上の高天原に住みながら 知らず知らずに根の国や底の国へと陥落し 日に夜に修羅をもやしつつ恋と欲とに捉はれて 苦みゐたるぞ果敢なけれ悔悟の涙はせきあへず 滂沱と腮辺に流れおつ無明の暗もあけ放れ 今日は歓喜の涙雨腮辺に伝ふ尊さよ あゝこの涙この涙世人の魂を洗ひ行く 瑞の御霊の露ならむ乾かであれよ何時までも 流れ流れて河鹿川清き水瀬の何処までも 尽くることなく暗黒の海に沈める曲人の 身魂を洗はせ給へかし神は汝と倶にあり 人は神の子神の宮神に等しきものなりと のらせ給ひし聖言は仁慈の光明に照らされて 悔悟の花の開きたる吾身に依りて実現し 証明されしものぞかし曲に汚れし吾身をば 自ら救ひよく生かし栄えて後に世の人の 霊を生かし救ひ上げ荘厳無比の天国を 普く地上に建設し国治立大御神 豊国主大御神神素盞嗚神柱 其外百の神等の大御心を体得し いよいよ進んで宣伝し神の氏子を助け行く 尊き司となさしめよ今まで暗に迷ひたる お寅が御前に慎みて懺悔し感謝し畏みて 恩頼を願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 お寅は斯くの如く精神上より生き返り、天国に復活したる心地して、入信以来始めて愉快な爽快な気分に酔はされ、感謝祈願の祝詞を三五教を守り給ふ仁慈無限の大神の御前に奏上し、欣然として吾居間に帰つて来た。此時夜はカラリと明け放れ、山の尾の上を飛びかつて、常世の春を祝ふ百鳥の声、鵲の声、いつもよりはいと爽かに頼もしく聞え来るのを沁々と身に覚ゆるに至つた。 (大正一一・一二・一六旧一〇・二八松村真澄録)
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霊界物語 46_酉_小北山の宗教改革2 16 想曖 第一六章想曖〔一二二六〕 お寅婆さまは小北山開設以来の打つて変つた活々とした水々しい顔をしながら、身も軽々しく、棕櫚箒や采払を持ちて、パタパタパタパタ、スースースーと心の清潔法をすませ、室内の掃除に余念なかつた。そこへ寒さうに筒袖の中へ手を入れて、フーフーと冷たい空気を吹きながらやつて来たのは魔我彦であつた。殆ど失望落胆の極に達し、地獄の底から捕手の出て来たやうな、えも言はれぬ淋しい容貌を曝け出して入つて来た。 お寅『魔我彦さま、一寸鏡を見て御覧、お前の顔は年の若いにも似ず八十爺さまのやうな萎びやうだよ。チツト心の持方を変へなくちや駄目ですよ』 魔我『余り馬鹿らしくて、世の中が淋しくなり、何とはなしに不平の雲が襲つて来て、地の上に身をおく所もない様な思ひが致します。それにお寅さま、貴女は今日に限つて、大変水々しい愉快さうな顔をしてゐるぢやありませぬか。○○博士の若返り法でも研究なさつたのですか。但しはニコニコ雑誌でも耽読されたのですか。大変な変り様ですワ』 お寅『ニコニコ雑誌や若返り法位で、さう俄に元気が出るものですか。そんな人間の頭脳から捻り出した厄雑物で、何うしてこんな愉快な気分になれるものですか』 魔我彦『それなら何うすればよいのです。何だかそこら中がウヂウヂして来て、冬の冷たい日に雪隠の中へ突つ込まれたやうな、クソ面白くもない空気に襲はれて仕方がありませぬ』 お寅『お前さまは神様に対して、真の理解がないからだ。神様さへ理解すれば、すぐに私のやうに、地獄は忽ち化して天国の境域に進むことが出来るのだよ』 魔我彦『神を理解せよと云つたつて、人間の知慧には限りがあります。これだけウラナイの尊き教を信じ神々様を念じながら、狐につままれて馬鹿を見せられるのだから、私は神の存在を疑ひます』 お寅『神の存在を認めず、神の救ひを忘れた時は心身共に衰耗廃絶するものだ。そして神の愛と神の信とに直接触れ、真に理解した時は忽ち歓喜の夕立、吾全身を浸し、霊肉共に不老不死的に栄えるものだ。併しながらヘグレ神社や種物神社では駄目ですよ。お前さまもよい加減に、義理天上日の出神の雅号を返上しなさい、そして一個の罪人とおなりなさい。卑しき一個の下僕となり、乞食の靴を取る謙譲の徳を心の畠に培ひ養ひさへすれば、忽ち天国は開けますよ』 魔我彦『それだと云つて、今まで一生懸命に信仰して来たユラリ彦様やヘグレ神社、種物神社、大門神社の神々様を捨てる事は出来ませぬ。さうクレクレと此頃の空の様に変つては、誠が貫けますまい』 お寅『お前さまは神素盞嗚大神様の御仁慈を有難く思ひませぬか。救世主だといふ事が理解されませぬか』 魔我彦『何処迄も私は信じられませぬ。お寅さま、よく考へてごらん、素盞嗚尊を信ずるのならば、別にウラナイ教を立てたり、小北山の神殿を造営し、一派を立てる必要はないぢやありませぬか』 お寅『そこが改心といふものだ。間違つて居つたといふことが分れば、直様改めるのが人間の務めだ。何程魔我彦さまが神力が強うても、荒金の土を主管し給ふ瑞の御霊の御神徳に比べては大海の一滴、どうして比較になりませう。チツと胸に手を当てて御考へなさい』 魔我彦『お寅さま、貴女はさう生々として元気さうに言つてゐるのは、要するに三万両のお土産を蠑螈別から貰つたからだらう』 お寅『エヽあた汚い、お前さまはそれだから苦むのだ。吾と吾心に造つた鬼に責められてゐるのだよ。物質的の欲望なんか物の数でもありませぬワ。それよりも、モツトモツト尊い宝が、そこら中にブラついてゐることをお悟りなさい。夢の中で貰つた三万両は、物質的の宝としては使へばなくなるものだ。仮令それが現実の黄金にした所で、一つお宮を建てたら、それで仕舞ぢやないか。何程使つても使ひ切れぬ、使へば使ふ程殖える無限の宝がおちてゐるのだよ。それを拾ふのが神を信仰する者の余徳だ。その尊い神の御余光を毎日日日ふみつけてゐるのだから、駄目だよ。お金で譬へたら、幾十万億両とも知れぬお宝を、私は頂戴したのだ、つまり世界一の富者になつたのだ。それだから此通り若やいで活々としてゐるのだよ』 魔我彦『お寅さま、世の中に阿呆と気違位幸福な者はありませぬネ。お前さまは夜前狐につままれて、三万両の金を貰つたのでせう。そして蠑螈別さまとしつぽり会つたのでせう。それから二世も三世もといふお目出度い情約を締結し、批准交換がすんだと思つて喜んでゐるのでせう。そんな泡沫に等しき喜びは、霧の如く煙の如く、瞬く間に消滅して了ひますよ。其時にアフンとせないやうになさいませや』 お寅『お前も狐に騙され、お民さまと手に手を取つて、二十万両の持参金と共に小北山の教祖になると云つて、顎まで外して居つたぢやないか。なぜそんな目に遇つたのか、分つてゐますか』 魔我彦『三五教の曲津神が善の仮面を被り、六人もやつて来やがつて、いろいろと奇怪な事ばかり致し此聖場を蹂躙せむとして居るのですよ。私は昨日の事からスツカリ目が覚めました。お前さまはまだ年がよつて居るので、精神上の欠陥がヒドイと見えて、依然として狐につままれ、糞壺へ投込まれて結構な温泉へ入つたと思ひ、牛糞や馬糞をつきつけられて結構な牡丹餅と信じ、瓦かけを持たされて三万両の黄金だと思つてゐるのだから、本当にお目出度いものだ。一層の事、お前さまのやうに無知識に生れて来たら、此世を夢現で喜んで暮せるのだけれど、何と云つても知識の光が強いものだから、お前さまのやうな気にはなれませぬワイ。鑑別だとか、認識だとか、肯定だとか、否定だとか、いろいろの什器が心の宝庫に充実してるのだから、私の悲痛な思ひは、要するに将来の歓喜の源泉となるものだ。お前さまの歓喜は、丁度阿片煙草に熟睡して世事万端を忘れ、夢の世界に逍遥し恍惚とし霊肉を蕩かしてるやうなものだ。丁度田螺の母親が、自分の生んだ沢山な子に、体を餌食にされ、いつとはなしになめ尽されて、愉快な気になつてゐる間に、自分の肉体をスツカリ食ひ殺されてる様な愉快さだ。コレ寅さま、チツト気をつけないと駄目ですよ。変性女子の悪御霊が、全力をあげて小北山を滅亡せしめむとして千変万化の画策をめぐらしてゐるのだからなア。灯台下暗しと云ふからは、中々油断がなりませぬぞ。お前さまがそんな心で、何うして此小北山の本山が立つて行きますか。チツトしつかりして貰はないと、淋しくてたまらぬぢやありませぬか』 お寅『あゝ困つた男だなア、これ程言つても目が覚めぬのかなア』 魔我彦『あゝ困つた婆アさまだなア、何と云つても思想が単純だから、私の言ふ事が、充分魂に沁み込まないと見えるワイ。女子と小人は養ひ難しとは、あゝよく言つたものだ』 お寅『本当にお前と私と斯うして寝食を共にし、口の中に入れたものでも食ひ合ふやうにしてゐる親しい近い仲でも、心は千里の距離があるのだから、どうしても容易にバツが合はないのだ。これ魔我彦さま、一つ直日の霊に見直し聞直し、省みたら何うだい』 魔我彦『あゝお寅さまは、たうとう地獄の底へ落ちて了つたのだなア、本当に可哀さうだ。世界の人民も救うてやらねばならないが、肝腎要のお寅さまから救ひ助けておかねば、到底万民を助ける事は出来ない、困つた事になつて来たワイ』 お寅『魔我彦さま、お前は救はれてゐる積かい。貴方御自身が真の神の愛にふれ、真の信仰に接し、真の神を理解することが出来て、お前の魂も肉体も天国浄土の歓喜を味はふ事が出来ましたか。それから一つ聞かして貰ひたい』 魔我彦『始から何事も都合よく行くものぢやない、私は今煩悶苦悩の最中だよ。本当に此世が厭になることが幾度あるか知れない。そこを耐へ忍んで行きさへすれば、所謂天国の門が開かれるのだ。人間は悲境のドン底に沈んだ時に於て始めて幸の種を蒔くものだ。幸の時、得意満面の時に却つて地獄の種を蒔いてゐるのだ。お前は曲神に誑惑されて地獄に落ちながら、まだ目が覚めないのだよ、本当に可哀さうなものだなア。此魔我彦は今や天国の門を開かむとする首途にあるのだ。よい後は悪い、悪い後はよいと云つてなア、今の間に苦みをしておけば、永遠無窮の歓喜の園を開く事になるのだ。あゝ惟神霊幸倍坐世……どうぞお寅さまの曇り切つた魂が豁然として開けますやう、魔我彦がお願ひ致します。ユラリ彦の大神様、五六七成就の大神様……』 お寅『コレ魔我さま、ユラリ彦さまも、ヘグレ神社さまも、モウ言つておくれな、私は本当の信仰を握つたのだから。よく考へて御覧なさい。人間は永遠無窮に生き通しだよ。僅か二百年や三百年の肉体を受得する為に生れて来たのではない。天国浄土に於て永遠無窮に繁り栄え、天国の御用をする為に生れて来たのだ。吾々の意志も観念も記憶も正しい知識も一切残らず高天原の天国へ此儘留存して行くのだから、現肉体のある間に歓喜の雨にぬれ、此身此儘天国の住民となつておかねば、どうして死後の生涯が楽しく送れませうか。此世の中は神の造り給うたものだから悩み苦みなどのあるべき筈がない。豁然として神の真の愛にふれ、真の知慧にふれ、神様を理解する事が出来たならば、此世此儘最上天国だよ。悲痛な思ひをしたり些々たる欲望に心を悩めてゐるのは、所謂此世からなる地獄道に陥没してゐるのだ。お前さまは小智小欲が勝つてゐるから、自ら造つた地獄へ落ち、自ら築いた牢獄に呻吟してゐるのだ。一日でも此世に於て歓喜と感謝の生活を続け、仮令一息の間も悲観などしちや仁慈の神様へ対して大変な罪になりますぞや。人は心の持様一つだよ』 魔我彦『それでも、苦労を致せよ、苦労致さねば誠の花は咲かぬぞよ……と神様は仰有るぢやありませぬか。世の為、人の為、道の為に苦み且つ世を悲しむのは最善の人事ぢやありませぬか。吾身をすてて万民を救ふといふ事は善事中の善事でせう。それだから私は何うなつてもいい、人さへ助かれば、それで人間の本分が尽せるもの、神様に対して忠実な御奉公だと確く信じてゐるのだ』 お寅『ホツホヽヽヽ、何と分らぬ男だこと、どうにも斯うにも助け様がないワ。お前さま、自分が不幸悲哀の淵に沈み、涙の生活を送りながら、どうして人が救へると思つてゐますか、先づ自己を救ひ、自己を了解した上で、始めて世を救ひ、道を伝ふる完全な神力が備はるぢやありませぬか。よう考へて御覧なさい、ここに一人の川はまりがある。今已に溺れ死せむとしてゐる所を人が通る、モシ其人が盲であつたならば、救ひを求むる声は聞えても、決して救ふ事は出来ますまい。此時には水泳に達した人で、体の壮健な、目の見える人間でなければ、其溺没者を救ふといふ事は到底不可能でせう。それだからお前さまも、先づ自己を強くし、自己を照し、自己の神力を十二分に受けなくてはなりませぬ。神力さへ備はらば、自然に歓喜の悦楽が吾身辺を襲うて来るものだ。私も夜前から神の慈光に照されて、悲哀の極、遂に歓楽境に救はれたのだ。どうぞして、お前を私と同じ精神状態に救うてやりたいのだが、余り距離があるので、可哀さうながら救ふ事が出来ないのかな。併し乍ら私も第一着手としてお前を救ふ事が出来ないやうで、何うして万民を救ふ事が出来よう。あゝ私は、大変な神様から試験をうけてるやうだ。魔我彦峠を突破するのは中々容易ぢやないワイ。あゝ神様、あなたの御慈光に依つて、私に誠の光と誠の愛をお与へ下さいまして、魔我彦が心に潜む曲を照し、どうぞ天国浄土へ霊肉共に導かして下さいませ。偏に神の御恩寵を御願ひ申上げ奉ります』 魔我彦『あゝあ、どうしても駄目だなア、可哀さうなものだ。私も此お寅さまを第一着手として救はなくちや到底万民を救ふ事は出来ぬであらう。どうぞユラリ彦の神様、ヘグレ神社の大神様、あなたの栄光と権威と慈愛とに依りまして、可憐なるお寅婆アさま、魔我彦が最も敬愛する此老婦人の心に一道の光明を与へ下さいまして、あなたをよく信じ、あなたを理解し、あなたの愛を徹底的に悟る事が出来ますやうに、特別の御恩寵を此老婦人の上に垂れさせ給はむ事を、偏に希ひ上げ奉ります。あゝ惟神霊幸倍坐世、末代日の王天の神様、五六七成就の大神様、旭の豊栄昇り姫様、義理天上日の出神様、大広木正宗様、大将軍様、常世姫様、偏にお願ひ申上げ奉ります』 お寅『コレ魔我彦さま、モウ其神名は私の前で言つて下さるなといふに、訳の分らぬ人だなア、どしても目が覚めぬのかいなア、あゝ何うしたらよからうぞ、惟神霊幸倍坐世、国治立大神様……』 魔我彦『あゝ何うしたら、お寅さまの迷ひを解く事が出来るだらう、あゝ惟神霊幸倍坐世』 (大正一一・一二・一六旧一〇・二八松村真澄録)
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霊界物語 46_酉_小北山の宗教改革2 17 惟神の道 第一七章惟神の道〔一二二七〕 お寅婆アさまと魔我彦は互に顔を見合せ、友の一刻も早く善道を悟り、忠実なる神の下僕となり、且つ神の代表者、生宮たる実を挙げしめむと、互に親切にほだされて暫しが間黙然として顔色ばかりを見つめてゐる。一方は老人にも似合はず十七八の娘のやうな色つやを浮べ、ぽつてりと太り、活々としてゐるに引替へ、一方は冬の木の葉が凩に叩き落され、雪に慄へて、えもいはれぬ淋しみを感じた様な悄然たる面を向けてゐる。恰も枯木寒岩に倚る三冬暖気なしといつたやうな、熱のあせた冷やかい気分に包まれてゐる。昨日まで煩悶苦悩の淵に沈み、下らぬ情欲に捉はれ、且黄金に眼をくらましてゐたお寅婆アさまは、神の仁慈に照されて、恰も無碍光如来の様な霊肉に変じ、否向上し、一方魔我彦は悲歎の淵に沈み、万劫末代浮ぶ瀬のない八寒地獄の飢と寒さに泣く亡者の様な容貌をさらし、不安と不平の妖雲に包まれ、頬は痩せこけ、皺は網の目の如く、顔色青白く、唇は紫色に変じ、言葉さへもどことなく力失せピリピリと慄ひ戦いてゐる。実に信仰の光といふものは恐しいものである。同じ山の頂に降る雨も、両半滴の降る場所に依つて、或は東に落ち或は西に落ち、南に北に別れて落ち流るる如く、鵜の毛の端程違つても大変な距離の出来るものである。此両人は恰も峠の上に降つた雨であつた。如何してもお寅婆アさまの雨は旭に向つて流れねばならなくなつてゐた。魔我彦の雨はどうしても夕日の方に向つて流れ落ちねばならない境遇になつてゐた。善悪正邪の分水嶺上に降る雨は、如何しても天から降らねばならぬ、決して人間の身体から雨は降るものでない。茲に悟ると悟らざるとの区別がついて来るのである。お寅婆アさまは恵の雨は天より降るものだといふことを自覚した。そして魔我彦は、自分の知慧や力や考察力や苦労の結果で、自分の身体から自由自在に雨を降らし得るものと考へてゐた。ここに惟神と人ながらの区別のつく所以である。如何なる聖人君子智者勇者と雖も、天の御恵なくしては、到底救はるることは出来ない。広大無辺の天然力即ち神の御威光によらなくては、地上一切の事は何一つ思ひの儘に出来るものでない。吾頭に生えた髪の毛一筋だも、或は黒くし、或は白くし得る力のない人間だ。此真理を理解して始めて宇宙の真相が悟り得るのである。これが所謂惟神であり、魔我彦が最善と思惟して採つたやり方は即ち人ながらであつて、神の御目より見給ふ時は慢心といふことになるのである。 要するに真の惟神的精神を理解とも言ひ又は改心とも言ふ。仮令人の前にて吾力量を誇り、吾知識を輝かし、吾美を現はすとも、偉大なる神の御目より見給ふ時は実に馬鹿らしく見えるものである。否却て暗く汚らはしく、悪臭紛々として清浄無垢の天地を包むものである。故に神は謙譲の徳を以て、第一の道徳律と定め給ふ。人間の謙譲と称するものは其実表面のみの虚飾であつて、所謂偽善の骨頂である。虚礼虚儀の生活を送る者を称して、人間社会にては聖人君子と持て囃されるのだからたまらない。かかる聖人君子の行くべき永住所は、概して天の八衢であることは申すまでもない。 人間が此世に生れ来り、美醜、強弱、貧富、貴賤の区別がつくのも決して人間業でない。何れも皆惟神の依さしの儘に、それ相応の霊徳をもつて地上に蒔きつけられたものである。富める者は何処までも富み、貧しき者は何処までも貧しいのは其霊の内分的関係から来るものであつて、決して外分的関係より作り出されるものでない。貧しき霊の人間が現界に活動し、巨万の富を積み、金殿玉楼に安臥し、富貴を一世に誇ると雖も、依然として其霊と肉とは貧しき境遇を脱する事は出来ない。丁度如何に醜婦が絶世の美人の容貌にならむと、紅白粉を施し、美はしき衣服を装ひ、あらむ限りの人力を尽すと雖も、醜女は依然として醜女たるの域を脱せざると同一である。鼻の低い者は如何に隆鼻術を施すとも、美顔術を施すとも、到底駄目に了る如く、貧者は何処までも貧者である。凡て貧富の二者は物質的のみに局限されたものでない。真に富める人は一箪の食、一瓢の飲を以て、天地の恵を楽み、綽々として余裕を存し、天空海濶たる気分に漂ふ。如何に巨万の財宝を積むとも、神より見て貧しき者は、その心平かならず豊ならず、常に窮乏を告げて欲の上にも欲を渇き、一時たりとも安心立命することが出来ない。金の番人、守銭奴たるの域に齷齪として迷ふのみである。又天稟の美人は美人としての惟神的特性が備はつてゐるのである。美人として慎むべき徳は、吾以外の醜婦に対し、なるべく美ならざるやう、艶ならざるやう努むるを以て道徳的の根本律としてゐるのは、惟神の真理を悟らざる世迷言である。美人は益々装ひを尽せば、ますます其美を増し、神又は人をして喜悦渇仰の念を沸かさしむるものである。之が即ち美人として生れ来りし自然の特性である。これを十二分に発揮するのが惟神の真理である。又醜婦は決して美人を妬みそねまず、自分の醜をなるべく装ひ、人に不快の念を起さしめず、且又美人に対して尊敬の念を払ふのが醜婦としての道徳である。 富者となり貧者となり、貴人となり賤民となり、美人となり醜婦となり、智者となり愚者と生れ来るも、皆宿世の自ら生み出したる因果律に依つて来るものなれば、各自に其最善を尽し、賤民は賤民としての本分を守り、貴人は貴人としての徳能を発揮し、富者は富者としての徳を現はし、貧者は貧者としての本分を守るのが天地惟神の大道である。斯の如く上下の万民が一致的に其本分を守るに於ては、神示に所謂桝かけ引きならして、運否のなき五六七の世が現出したのである。瑞月が斯の如き説をなす時は、頑迷固陋の倫理学者、道徳学者は、必ず異端邪説として排斥するであらう。併し乍ら天地の真理の惟神の大道たる以上は、如何ともすることが出来ない。五六七仁慈の大神の心の儘に説示しておく次第である。 あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一二・一六旧一〇・二八松村真澄録)
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霊界物語 46_酉_小北山の宗教改革2 18 エンゼル 第一八章エンゼル〔一二二八〕 お寅、魔我彦両人が、犬と猫とが互に隙を窺ひ、虚々実々論戦に火花を散らし、仁義の争ひ、最も酣なる所へ、エンゼルの如き美人が降つて来た。これは言ふまでもなくお千代であつた。お千代は足早に二人の前にかけ上り、双手を組み、ウンと一声、三尺ばかり空中に飛上り、キチンと二人の前に端坐した。お寅も魔我彦も、威厳備はり何となく優美なる乙女の姿に、思はず知らず頭を下げ、両手をついて畏まつた。 千代『われこそはユラリ彦命なり。汝等両人、小北山の祭神の善悪正邪に就いて論戦稍久しきを知り、天極紫微宮より降臨し、汝両人が迷夢を醒まさむとす、謹聴あれよ』 とおごそかに宣示した。お寅は意外の感に打たれ、実否如何と、神勅の裁断を待つてゐる。魔我彦は心の中にて……それお寅さま、御覧なさい、ヤツパリ私の信仰するユラリ彦命さまは誠の神だろ、此エンゼルの降臨に依つて、一切の迷夢を醒ましなされ……と口には言はねど、心の中に期待してゐる。 魔我『これはこれはユラリ彦様、よくマア御降臨下さいました。実の所はお寅さまと、神様の御事や信仰上の点に就て衝突を来し、互に論戦をしてゐた所で厶います。どうぞ明晰なる御宣示を願ひたう厶います』 天使『魔我彦、汝の苦悶をはらすべく降臨せしものなれば、遠慮会釈はいらぬ、何事でも質問をなされよ』 魔我彦『然らばお言葉に甘へてお尋ね致しますが、此小北山にお祀りしてある神様は有名無実だとお寅さまが申しますが、実際は如何で厶いませうか。ある神ならばあると仰有つて頂きたい。なき神ならば、ないと仰有つて下さらば、それにて私は去就を決します』 天使『此小北山に祀られたる大小無数の神霊は、宇宙に存在せるは確なる事実である。生羽神社の大神、リンドウビテンの大神、五六七成就の神、木曽義姫の大神、旭の豊栄昇り姫の大神、地の世界の大神、日の丸姫の大神、義理天上日の出神、玉則姫、大将軍、常世姫、ヘグレ神社の大神、末代日の王天の大神、上義姫の大神、其他いろいろ雑多の祭神は、確に存在する神なることは証明しておくぞよ』 魔我彦は狂喜しながら、お寅の方を打見やり、したり顔にて、 魔我彦『コレお寅さま、如何でげす、ヤツパリ私の考へは違ひますかな』 と稍得意の面をさらしてみせる。 お寅『そりや祀つてある以上は神霊はなけねばなりませぬ』 魔我『それ御覧なさい、それなら朝夕御給仕をしても差支はないぢやありませぬか』 天使『神といへば皆斉しくや思ふらむ 鳥なるもあり虫なるもあり。 よき神も曲れる神もおしなべて 神と言ふなり天地の間は』 お寅『どうも有難う厶いました。コレ魔我彦さま、神様には違ひないが、神の中にも百八十一の階段があるのだから、そこを考へねばなりますまいぞや』 魔我『エンゼル様に重ねてお尋ね致します。小北山に祀られたる神々様は、上は第一天国より、地の世界を御守護遊ばす主なる神様と聞きましたが、それに間違ひ御座りますまいなア』 天使『小北山宮居は数多建ちぬれど まつれる神は八衢にます。 八衢にさまよふ神はまだおろか 根底の国の醜神にます。 さりながら人は天地の司なれば 汚れし神を救ふも宜べよ。 世を守り人の身魂を守るてふ 誠の神は此神ならず。 此神は罪や汚れを犯したる 曲の霊をいつきしものぞ。 拝むより救うてやれよ小北山 まつれる神の身を憐れみて。 われこそはユラリの彦と宣りつれど 只魔我彦を救はむがため。 ユラリ彦神とふ神は常世国 ロツキー山に蟠まる曲。 松彦をユラリの彦と尊みて 敬ひ仕ふる人の愚かさ。 松彦も其真相は悟れども 汝救はむとしばし忍びつ。 松姫も上義の姫は曲神と 云ふ事知らぬ生宮でなし。 さりながら迷へる人を救ふべく あらぬ御名をば忍びゐる哉』 魔我『これはしたり世人を救ふ神々と 思ひし事の仇となりしか。 訳もなき神を山々いつかひて 世を迷はせし事の悔しさ。 今よりは心の駒を立て直し 皇大神の道に仕へむ』 お寅『エンゼルの厳の言霊輝きて 魔我彦の暗を照らし給ひぬ。 有難し心にかかる村雲を 払ひ給ひし神ぞ嬉しき。 魔我彦もさぞ今よりは村肝の 心の空に月を仰がむ』 魔我『久方の心の空も晴れにけり 神の使ひのエンゼルの声に』 お寅『吾言葉聞き入れざりし魔我彦も 神の使ひにまつろふ嬉しさ。 身に魂に光の足らぬ吾なれば 魔我彦司を救ひかねつつ。 有難き神の使の下りまし 照らし給ひぬ二人の胸を』 天使『相生の松より生れし愛娘 千代の固めを茲に築きぬ。 これよりは小北の山の神々を 祀り直せよ神の詞に』 お寅『いかにして神の御言を反くべき 勇み進むで仕へまつらむ』 魔我『今は只神の御旨に任すのみ 力も知慧も足らぬ吾身は。 掛巻くも畏き神の御恵に うるほひにけりかわきし魂も。 うゑかわき悩み苦む吾魂も 瑞の御魂に甦りける。 瑞御霊、厳の御霊の神柱 おろそかにせしわれぞ悔しき。 今迄の深き罪科許せかし 心の曲の仕業なりせば』 お寅『魔我彦よ心の鬼に罪科を きせてはならぬ汝が身の錆。 迷ひたる汝が身魂に鬼住みて あらぬ御業に仕へせしかな』 天使『二柱迷ひの雲は春の水 氷となりて解けし嬉しさ。 主の神の永遠にまします神国は 常世の春の花咲き匂ふ。 人の身は天つ御空の神国の 真人とならむ苗代にこそ。 地の上は汚れ果てたるものなりと 思ふは心の迷ひなりけり。 村肝の心に神の国あらば 此地の上も神国となる。 地の上に神の御国を立ておほせ おかねば死して神国はなし。 地の上に住みて地獄に身をおかば まかれる後は鬼となるらむ。 鬼大蛇醜の曲霊の猛ぶ世も 心清くば神の花園。 うつし世を地獄や修羅と称へつつ さげすみ暮す人ぞゆゆしき。 人は皆天津御国に昇るべく 生みなされたる神の御子ぞや。 主の神は青人草の霊体を もらさず落さず天国へ救ふ。 救はむと御心いらち給へども 人は自ら暗におちゆく。 根の国や底の国なる暗の世へ おちゆく魂を救ふ大神。 此神は瑞の御霊とあれまして 三五の道開き給へり。 三五の道の誠を守る身は いかでおとさむ根底の国へ。 神の愛神の智慧をば理解して 住めば地上も天国の春。 秋冬も夜をも知らぬ天国は 人の住むべきパラダイスなり。 永久の花咲き匂ひ木の実まで 豊な神の国ぞ楽しき。 主の神は数多のエンゼル地に降し 世を救ふべく守らせ給ふ。 三五の教司はエンゼルよ ゆめ疑ふな神の詞を』 魔我『ウラナイの神の司も皇神の 珍の使ひにおはしまさずや』 天使『ウラナイの神の司は鳥獣 虫族なぞを救ふ正人』 魔我『虫族も神の御水火に生れたる ものとし聞けば救はむとぞ思ふ』 天使『大神の心用ひて救ふべし 人の愛する神ならざるを知れ』 お寅『此山にまつれる神は虫族の 救ひ求むる神にますらむ』 天使『さに非ず虫族までも取りて食ふ 曲の神ぞや心許すな』 魔我彦は始めて、エンゼルの訓戒に依り、心の闇をはらし、俄に顔色清く、元気百倍して無限の歓喜を感得する事を得た。魔我彦はエンゼルに向ひ、涙と共に其神恩を感謝した。 魔我『尊き清きエンゼルの御降臨、御蔭に依りまして、今までの私の迷ひも春の雪が太陽にとけるが如く氷解する事を得ました。実に無限の努力と生命とを賦与されたやうな思ひに漂ひます、歓喜の涙にうるほひました。此上は今迄の愚なる心を立直し、只一心に誠の神様の為に全力を注ぐ考へで厶います』 天使『魔我彦、汝は今神様の為世の為に尽すと云つたが、神の力は広大無辺、汝の力を加ふべき余地は少しもないぞよ。只汝は天の良民として汝の身につける一切の物を完全に照り輝かし、万一余裕あらば之を人に施すべきものだ。併し乍ら人間として、どうして世を救ひ、人を救ふ事が出来ようぞ。汝自らの目を以て、汝の顔及び背を見る事を得るならば、始めて人を幾分なりとも救ふべき力が備はつたものだ。之を思へば、人の身として、如何でか余人を救ふ事を得む。斯の如き考へを有する間は、未だ慢心の雲晴れきらぬものなるぞ』 魔我彦『ハイ、いろいろの御教訓、誠に以て有難う厶います。併し乍ら吾々は自分の身を救うて、それで決して満足は出来ませぬ。憐れな同胞の身魂を救つてやりたいので厶います。宣伝使の必要も吾身を救ふ為では厶いますまい。ここをハツキリと御教示願ひたいもので厶います』 天使『宣伝使は読んで字の如く、神の有難き事、尊き事を体得して、之を世人に宣べ伝ふる使者である。決して一人なりとも救ふべき権利はない。世を救ひ、人を救ふは即ち救世主の神業である。只宣伝使たるものは、神の国に至る亡者引である。此亡者引は、ややもすれば眼くらみ、八衢にさまよひ、或は根底の国に客を導き、自らも落ち行くものである。それ故何事も惟神に任すが一等だ。何程人間が知識ありとて、力ありとて、木の葉一枚生み出す事も出来ないではないか。一塊の土たりとも産出する事の出来ない身を以て、いかでか世人を救ふ力あらむ。只宣伝使及び信者たるものは、神を理解し神の国の方向を知り、迷へる亡者をして天国の門に導く事を努むれば、これで人間としての職務は勤まつたのだ。それ以上の救ひは神の御手にあることを忘れてはなりませぬ』 魔我彦『ハイ、何から何まで親切なる御教訓有難う存じます』 天使『最前お寅どのの口をかつて、惟神の説明を致しておいたが、其方はお寅の肉体を軽蔑して居るから、誠の事を云つて聞かしても其方は分らなかつた。そこで今度は清浄無垢の少女が体をかつて、神は魔我彦の為に訓戒を与へたのである、決して慢心致すでないぞや』 魔我彦は歓喜の涙をしやくり上げ、畳を潤はし蹲まる。お寅は有難涙にくれ、顔もえ上げず、合掌して伏拝む。四辺に芳香薫じ微妙の音楽耳に入るよと見る間に、エンゼルは元つ御座に帰り給ひ、可憐なるお千代の優しき姿は、依然として十二才のあどけなき少女と変つて了つた。 魔我彦は初めて前非を悔ひ、神の光に照らされ、松彦の指揮に従つて小北山の祭神を一所に集め、厳粛なる修祓式を行ひ、誠の神を鎮祭する事を心より承認したのである。いよいよこれより松彦を斎主とし、五三公を祓戸主となし、厳粛なる遷座式に着手することとなつた。 あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一二・一六旧一〇・二八松村真澄録)
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霊界物語 47_戌_治国別の天国巡覧1 02 黒士会 第二章黒士会〔一二三五〕 思はぬ不覚をとつた治国別は、竜公を労はりながら、 治国別『オイ竜公、どこも怪我はなかつたかなア。大変な不覚をとつて、深く落ち込んだものだ』 竜公『ハイ有難う厶います、別にどこも怪我は致して居りませぬが、余り深い企みに乗ぜられ、深い穴へ落されて、チツとばかり不快でたまりませぬ。アハヽヽヽ』 治国別『ウフヽヽヽ、貴様も余程三五教式になつたな。如何なる艱難に出会つても、其態度でなくちや駄目だ』 竜公『アナ有難や、穴尊しや、三五教の神様、ヤツパリ、バラモン教は三五教の反対で穴有教ですなア』 治国別『オイ何時迄もこんな所に蟄居して居つても約らぬぢやないか。モウいい加減に這ひ上る工夫をしたら何うだ』 竜公『さうですな、幸ひ沢山な槍を立ててゐやがるし、此通り、蜘蛛の巣の如く、吾々の身体にまきつくやうに網をはつてゐよるのだから、槍の先を皆ぬいて、先ぐり之をくくりつけ、槍の梯子でも拵へて上つてやりませうか。グヅグヅしてゐると、アークの奴沢山の子分をつれて来て、上から槍の雨でも降らされると困りますで』 治国別『ナアニ其時は、これ丈沢山の槍だから、下から上へ向けて槍の雨を降らしてやればいいのだ。マアゆつくりと風の当らぬ空井の底で休養でもして上ることにしようかい。時に穴の縁には誰かゐるぢやないか』 竜公『彼奴ア、タールといふ男です。随分馬鹿ですけれど、人間のいゝ奴ですから、どちらへでも傾く代物です。一つ彼奴を言向け和したらどうでせうかな』 治国別『お前の初陣に一つやつて見よ、治国別はここにて、竜公の言霊戦を観戦するから……』 竜公は、 竜公『ハイ有難う』 と云ひながら、空を打仰ぎ、 竜公『バラモン教の先鋒隊片彦将軍が秘書役、竜公、今更めてタールの奴に申付ける。此竜公は、汝の知る如く、河鹿峠に於て治国別の為に一敗地にまみれ、全軍遁走する折しも、腑甲斐なき味方の敗残見るに忍びず一計を案じ、松公と共に詐つて治国別に降参を装ひ、ここ迄導いて来たのだ。一時も早く此方を縄梯子なりと吊り下して救ひ出せよ。さすれば汝は、アークにまさる手柄者として、ランチ将軍に奏上してやらう。どうぢやタール、此方の神算鬼謀は恐れ入つたであらうがなア』 タール『ハイハイ、そんな事とは存じませず、誠に以て御無礼を致しました。サア何うぞお上り下さいませ。幸ひここに縄梯子が厶いますから、今つり下します。どうぞ貴方丈上つて下さい。そして治国別はどうなりましたか』 竜公『最早治国別にかまふ必要はなくなつた。縄梯子さへつり下したらいいのだ』 タール『それは真に気の毒な様、気の毒でない様なことで厶いますな。芋刺しにでもおなりなさつたのですか。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と云ひながら、縄梯子を暗い陥穽へ吊り下した。治国別は縄梯子を伝うてトントンと上りゆく。 タール『ヤア竜公さま、あゝ結構々々、怪我がなくて何よりでした。どうぞ私の御無礼は平に許して下さいませ』 治国別『タールとやら、拙者は竜公では厶らぬ。治国別だよ』 タール『ヤア、これはこれは真にはや、何ともかとも申上げられませぬ。マンマンマンお目出度う厶います。そして竜公は何うなりましたか』 治国別『ウン、竜公は都合好くなつた。マア大丈夫だよ』 タール『それはマア可哀相なことを致しました。沢山に血が出ましただらうな』 治国別『ウン、今に幽霊となつて、井戸の底から青い火をとぼし、ヒユーとやつて来るだらうよ』 此時早くも竜公は穴の口へ九分ばかり登つて来てゐた。そして両人の話を小耳にはさみ、俄に幽霊気分となつて、目をクルリとむき、口をポカンと開け、舌をたらし、腰をフニヤフニヤさせ、両手を力なげにグナリと前に突出し、 竜公『恨めしや』 と妙な声を絞り出した。タールは、 タール『キヤツ』 と其場に尻餅をつき、 タール『アヽヽヽヽ』 と口をあけて慄うてゐる。 治国別『アハヽヽヽ、オイ、タールさま、嘘だ嘘だ。竜公が悪戯をしてゐるのだ。オイ竜公、朝つぱらから幽霊も、根つからはやらないぞ』 竜公『オイ、タール、実の処は済まなかつたが、井戸の底から俺の言つた事は皆嘘だ。地獄の様な所へ落されたのだから、地獄相応の佯りを云つたのだよ。最早井戸の底から比ぶれば、天国にも比すべき、此平地へ上つて来たのだから、嘘佯りは云ふこた出来ない。サア是から、ランチ将軍の館へさして案内をしてくれ』 タール『ヤ、それで俺も一寸ばかり安心した。併しながら、そんな所へ行かないで、私も一緒に伴れて、宣伝使様に逃げて貰ふ訳には行きますまいか。なモシ治国別様とやら、決して悪いこた申しませぬ、今にアークが沢山の軍勢を引連れて、貴方を召捕りに来るに違ひありませぬ。サ早く引返して下さい。其代り私もお供さして貰ひますから』 治国別『ハヽヽヽヽ、敵を見て旗を捲き、矛を納めて退却するといふことはない、三五教は目的に向つては退却はない。只驀進あるのみだ』 かく話す所へ、馬に跨り、先頭に立つてやつて来たのはアークであつた。アークは数十人の騎士を引連れ、轡を並べてバラバラと治国別一行を取囲み、 アーク『三五教の治国別とやら、最早かうなつては叶ふまい。サ尋常に手をまはし、縛につけ。ランチ将軍の御前に引連れくれむ』 と大音声に呼ばはつた。 治国別は平然として、 治国別『イヤ、アークとやら、出迎へ大儀、治国別は汝が要求なくとも、堂々とランチ将軍に面会すべく進んで来たものだ。必ず心配致すな、逃げも隠れも致さぬ』 アーク『左様なことを申して、吾々に油断をさせ、隙を窺ひ、遁走致す所存であらう。其手は食はぬぞ。ヤア部下の者、治国別を始め、反逆者の竜公諸共召捕れ、縄をかけよ』 と下知をする。治国別は平然として、天の数歌を奏上するや、一同の騎士は身体強直し如何ともするに由なく、パタリパタリと馬上より椿の花が雨にあうて落ちるが如く、地上に顛倒し始めた。アークも馬上から真逆様に転落し、治国別の脚下に大の字になつて、ふん伸びて了つた。治国別は竜公に向ひ、天の数歌を奏上せしめた。竜公は稍心中に不安を感じながら、一生懸命になつて天の数歌を二回ばかり奏上した。不思議や一同の騎士はすこしの怪我もなく強直した身体は元に復し、手早く又馬に跨り、駒に鞭ち、一生懸命、疾風の如く陣屋をさして逃げ帰り行く。後に残るはアーク只一人、何うしたものか、身体の自由が利かない。 竜公『神様、有難う厶います。私の様な悪党が尊き数歌を奏上致しまして、即座に効験を現はし下さいましたのは、全く神様の御恵御稜威と存じます。決して竜公の力では厶いませぬ。どうぞ此上益々厚く私の身体を御使用下さいます様にお願ひ致します。就いては此アーク一人のみ、まだ言霊の神徳を頂かずに、此通り強直状態になつて居ります。どうぞ之も私の口を通してお救ひ下さいます様、御願ひ致します。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と一生懸命に合掌する。何程祈つても、数歌を奏上しても、アークの強直状態は旧に復らなかつた。 竜公『モシ治国別様、何うしたものでせうか、アーク一人は神様がお許し遊ばさぬのでせうかな』 治国別『ウン、此アークは治国別に危害を加へむと致したのだから、拙者が祈願致してやらねば、駄目だらう』 と云ひながら、暫く暗祈黙祷をつづけ、全身に神格の流入充溢せし時を窺ひ……許す……と一言を宣れば、不思議やアークの身体は旧に復した。アークは治国別の前に跪き、涙をたらしながら、重々の無礼を謝した。 治国別『アークとやら、大変なお骨折りで厶つたなア。併しながら治国別はお蔭に仍つて此通り、カスリ疵一つ負うて居らねば、汝に対して少しも恨むることはない。否寧ろ神々様の御警告だと思ひ感謝してゐる。神様は汝が手をとほし、此治国別に、油断の大敵たることをお示し下さつたのであらう。さすれば汝は吾に対して、唯一の導師だ。大に感謝する。サア、アーク殿、そなたもバラモン軍の中に於て、可なり相当の地位を持つてゐる人物らしい。さぞ陣中にも御用もあらう。早く帰つて治国別即刻ランチ将軍に面会の為、参上致すと伝へてくれ』 アーク『ハイ、何とも申上げ様が厶いませぬ。併しながら私はこれより仰せに従ひ、ランチ将軍の前に罷り出で、三五教の教理を申上げ、一時も早く貴方の前に降服致す様取計らひませう。然らば御免下さいませ』 といふより早く駒に跨り、一鞭あてて雲を霞と陣中指して帰り行く。 竜公『ハヽヽヽヽ、たうとうアークの大将、ヘコたれよつたな。併しマア偉相にランチ将軍を改心させるなんて、御託を云つて行きよつたが、彼奴も駄目だ。そばへゆくと、猫の前へ出た鼠のやうにピリピリふるうて、何もよう云はないのだからなア。ランチ将軍の目の動き方や顔の色ばかり考へて、ハートに浪を立たせる代物だから、到底成功は覚束ない。別れる時のお正月言葉だ。キツとランチ将軍の後について、治国別征伐なんて、洒落てやつて来るでせうよ。宣伝使様、決して油断はなりませぬで、あゝいふことはバラモン教一般の常套手段ですからなア』 治国別『ウン、さうかも知れないが、吾々は決して人を疑ふこた出来ない。何事も惟神に任しておけばいいのだ』 タール『オイ竜公さま、さう見くびつたものぢやないよ。バラモン教の中にもチツとは骨もあり、花も実もある人物も交ぜつてゐるからな。アークは此頃、バラモン教軍の中で、一種の決死隊ともいふべき団体を作つてるのだ』 竜公『有名無実の団体が幾らあつたつて、役に立つものかい。そんなことを云つて空威張りをするのだらう。コケ威した、曰く何々団、曰く何々会と、雨後の筍ほどにそこら中に奇々怪々な会が創立されるが、宣言は立派でも実行が出来るためしはないぢやないか。そしてアークの創立した会はどんな会だ、法螺の貝か、溝の貝か、どうでロクなものぢやなからう』 タール『馬鹿云ふな、吾々国士がよつて、国士会といふものを作り、最善のベストを尽してゐるのだ』 竜公『ハハア、まつくろけになつて死ぬ黒死病の会だな。ウンそれで分つた、ペストを尽すのだ。それよりもバラモン省へ掛合つて、一匹の鼠を十銭づつに買上げさせさへすりや、それの方が余程近道だよ』 タール『貴様にはテンデ話が出来ないワ。国士会と云つたら、国家を憂ふる志士の団体だ』 竜公『獅子か虎か狼か豹か鼠か知らぬが、どうでロクな奴の集まる団体ぢやなからう、アークが発頭人だと聞いちや、余り信用も出来ぬぢやないか。そして何か会の趣意書でも出来てゐるのか』 タール『先づ不平党の張本人アークさまが主唱者で、おれ達が賛助員だ。此趣意書を一寸拝読してみよ』 と得意気に懐から小さい印刷物を取出して見せた。竜公は手に取り、趣意書を読み下せば左の文章が書いてある。 趣意書 国事日に非なれども、天下一人の聴従すべき権威者なし、所謂慨世の士、口を開けば思想の変化を言ひ、思想に対するには思想を以てせざる可らざるを説く、其言や不可なしと雖も、漫然たる抽象論は此際寸効なし。況んや公党公人相率ゐて世を欺き、己を欺き、只自ら守るに急にして、心術の陋劣を暴露して憚らず、益々思想の変化を助長しつつあるに於ておや。吾々国民は寧ろ百人の論客よりも一人の志士の立つべきを思ふ。それ難に赴くは士の本領なり、大にしては天下国家の難、小にしては一地方一個人の難、吾党の士は苟くも辞せず、身を挺して之を救はむことを欲す。もし吾党の士一度立つて解決せざる案件あらば、そは士道の汚辱たらむのみ。何とならば吾国士会は名正しからざれば、断じて立たず、誓約十則に示すが如く、悉く士道に率由して行動すればなり、敢て天下に宣す。 年月日 国士会 十則 一、国士はバラモン教男子たることを誇りとす。 二、国士は難に赴くを以て本領とす、但し時処位によるべし。 三、国士は誓つて無名の戦ひを宣せず。但しランチ将軍の命なれば敢て辞せず。 四、国士は対者の為に計つて忠なるを期す。但三五教に対しては此限りにあらず。 五、国士は本来の敵を有せず、故に勝敗に超越す。(河鹿峠の言霊戦に於ける吾軍の行動は其好適例なり) 六、国士は一諾が一死に値するも悔いず、但し最愛の女性に限る。 七、国士は精神を主とし、形式を従とす。但しバラモン軍中に在りては、或は適用せざることあるべし。 八、国士は過去を追はず未来を信ず、但バラモン教の大棟梁大黒主の最後は必ずしも光明ならざることを。 九、国士は無意義なる一日を天に恥づ、但酒宴の時は仮令三日四日たりとも之を恥づることなし。 十、国士は一人の知己を有すれば足れり、但し異性なれば最もよしとなす。 竜公『なアんだ、立派なことを並べてゐるが但書がサツパリ駄目ぢやないか。これだからバラモン式は当にならないといふのだ。羊頭をかかげて狗肉を売るのだからなア』 タール『これが現代の処世法の最優秀なる手段だ。バラモン教の真髄をうがつたものだ、之でなくちや世の中が渡れないからな』 竜公『アハヽヽヽ、モシ先生、どうです、国士会も、随分奇抜なことを云ふぢやありませぬか』 治国別『ウン結構だ、詐らざるバラモンの告白だ。イヤもう感心致した』 竜公『私だつたら、こんな会へは入会しませぬな。エキスキユーズ・ミー………とやりますよ』 治国別『ハヽヽヽヽ、ドラ行かう。タールさまに案内して貰はうかなア。否国士会の賛助員さま、御先導を願ひます』 竜公『国士会員万歳、アハヽヽヽ』 かく笑ひ興じながら、治国別外二人は浮木の村の陣屋を指して、宣伝歌を歌ひながら、朝露をふんで勢よく進み行く。 (大正一二・一・八旧一一・一一・二二松村真澄録)