| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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121 (2291) |
霊界物語 | 41_辰_黄金姫&清照姫の入那の国の物語1 | 09 蓮の川辺 | 第九章蓮の川辺〔一一一三〕 空照り渡る月の国朝日も清くテルマンの 国の都に名も高き毘舎族シヤールの富豪の 妻と降りし刹帝利セーラン王の従妹なる ヤスダラ姫は朝夕に其身の不運をなげきつつ 悲しき月日を送る折思ひもかけぬイルナ国 右守の司と仕へたる醜の司のカールチンが 女房のテーナは遥々とシヤールの館に立ち向ひ 右守の司の使者となり四辺を払ひ堂々と 進み来るぞ忌々しけれシヤールは使者と聞くよりも 打ち驚きて吾居間に茶菓の饗応慇懃に テーナの姫をあしらひつヤスダラ姫の館守 リーダー其他に命令し館の内外を清めしめ 時分はよしとテーナ姫導きながら入り来り ヤスダラ姫に打ち向ひ無理無体の暴言を 吐きかけながらテーナ姫の心を損ねちやならないと 諂侫阿諛のありたけを尽して尾をふる卑怯者 二世の妻なるヤスダラ姫の妻の命を哀れにも 堅牢無比の牢獄に投げ込み置きて胸を撫で やつと急場をのがれたる姑息の仕打ぞ憎らしき ヤスダラ姫に心より至誠を捧げて尽したる 下僕のリーダーは雨風のはげしき夜を幸ひに 鋭き鉞うちふるひ獄屋を苦もなく打ち破り 姫をば背に負ひながら警戒厳しき邸内を 闇に紛れてすたすたと荒野を渡る夜の道 北へ北へと進みつつヤスダラ姫の恋慕ふ 故国にイルナの国境蓮の川の畔まで 逃げ帰り往く折もあれカールチン等が部下の者 幾十人とも限りなく蓮の川の両岸に 手具脛引いて両人が逃れ来るを待ち居たり あゝ惟神々々神の恵の幸はひて 一日も早く本国へ二人の男女を恙なく 帰らせ給へと瑞月が心の空にかけまくも バラモン神の御前に代りて謹み願ぎまつる 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも曲津の神は猛ぶとも 忠義一途の下僕等が主人の君を守りつつ 往く手の道を隈もなく開かせ給へ惟神 神の心になり代り往く手の道を案じつつ 茲にそろそろ述べ立つるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 ヤスダラ姫、リーダーの両人は千辛万苦の結果、やつと虎口を逃れ蓮川の袂迄逃げ来る。頃しも秋の末つ頃、少し虧けたる清朗の月は、主従二人の頭を遺憾なく照らし給ひ、二人の行路をあつく守らせ給ふ。二人は川辺に安着し、漸く西に傾いた月影を眺めながら、ヤスダラ姫は、 ヤスダラ姫『天伝ふ月の光に照らされて 蓮の川辺に着きにけらしな』 リーダー『月もよし御空も清き月の国 ヤスダラ姫につき従ひし吾。 村肝の心もやうやく晴れ渡り イルナの国の月はかがやく』 ヤスダラ『やすやすと下僕の神に守られて 故国にイルナの吾ぞ嬉しき。 セーラン王神の命は如何にして 今宵の月を眺めますらむ。 さゆる夜に君の面影偲ばれぬ 昔イルナに見し月を思へば。 附添ひしリーダーの身をば照らしつつ 吾等を守る月夜見尊し』 リーダー『仰ぎ見る御空の月は清けれど テーナの住める館ぞ濁れる。 大空に輝き渡る月影も 醜の村雲覆ふぞ忌々しき。 この旅路いとやすやすと守れかし 大国彦の神の恵に』 ヤスダラ『テルマンの夫の館を忍び出て やうやくここに月の影さゆ。 胸の闇一度に開くハチス川 渡る浮世にさやる鬼なし。 さりながら天に風雨の障あり 人に禍なしとも限らず。 心せよリーダーの下僕この川は イルナの国の関所なりせば』 リーダー『謹みて前や後に村肝の 心を注ぎ守り仕へむ』 ヤスダラ『朝夕に慕ひまつりし吾君と 父のまします国近づきぬ。 心のみ先に立ちつつ吾足の 進み兼ねたるもどかしさかな』 リーダー『大空の月照り渡る夜の道 如何でか曲の襲ひ来べきや。 惟神神の心に任しつつ 誠を力に進み往くべし。 今しばしヤスダラ姫の神司 忍ばせたまへ二日三日路』 かく歌ひながら空を仰いで主従は息を休めて居る。忽ち川辺の草叢より、現はれ出でたる数十人の黒い影、見る間に両人が前後左右を取り囲み、四五間の距離を保つて近よりもせず、人垣を造り睨めつけて居る。リーダーは声を張り上げ、 リーダー『吾こそは左守の司、クーリンス様の御息女ヤスダラ姫様のお供を致す武術の達人リーダーなるぞ。何者の指揮か知らねども、吾々が往手にさやるは不都合千万、一刻も早く、道を開き土下座をなして姫様に謝罪を致せ。猶予に及ばば、目に物見せて呉れる、サア早く、命の惜しい奴は此方の申す様に致すが好からうぞ』 大勢の中より、小頭らしき大の男、忽ちリーダーの前に立ち塞がり大口あけて高笑ひ、 男(ハルマン)『アハヽヽヽヽ、只今の汝が広言片腹痛し。吾こそはイルナの国にて武術の達者と聞えたる強力無双のハルマンなるぞ。カールチン様の命令に依り、汝等両人を生擒にせむため、この関所に人数を集め、今や遅しと待ち疲れて居た所だ。愚図々々致さず、速に縛につけ』 リーダー『アハヽヽヽヽ吐したりな、ハルマンの空つけ者め、このリーダーが、苦き目見せて呉れむ』 と云ふより早く鉄拳を打ち振りながら、ハルマンに向つて攻め寄つた。ハルマンは一歩二歩後へすざり、キツト身構へしながら、 ハルマン『ヤアヤア家来の者共、吾はリーダー一人にかかつて居るから、其間にヤスダラ姫を捕縛致せよ』 と下知すれば、オーと答へて数十人は唯一人のヤスダラ姫に向ひ遮二無二飛びつき来る。ヤスダラ姫は忽ち下紐を解き、襷十文字に綾取り、後鉢巻リンと締めたる女武者の勇ましさ。寄り来る木端武者を片端からスツテンドウと或は草中へ或は川底へ投げ込み防ぎ戦へど、立ち代り入り代り寄せ来る敵に疲れ果て、ドウと其場に打ち倒れて仕舞つた。其機を逸せず数人の大男は、重なり合うて姫を力限りに押へつけ、腕を捻ぢ今や縄をかけむとする時しもあれ、後の方より四方を響かす宣伝歌聞え来る。 (竜雲)『神が表に現はれて正邪と理非を立て別ける ウラルの神に仕へたる吾は尊き宣伝使 セイロン島に打ち渡りバラモン教の神司 サガレン王を放逐しケーリス姫を手に入れて 意気揚々と神地城神の司となりし折 三五教の宣伝使天の目一つ神司 現はれ来りていと清き尊き言霊打ち出し 神地の城は忽ちに紅蓮の舌に舐められぬ 吾身に永く憑依せし八岐の大蛇は驚きて 雲を霞と逃げ出せば今迄迷ひし夢もさめ 誠の心に立ち帰り勇み進みて三五の 貴の信徒となりにけり三五教の司等が 仁慈無限のやり方に心の底より感歎し 神地の都を後にして月の国へと打ち渡り 七千余国を隈もなく三五教の宣伝歌 歌ひて進む吾なるぞバラモン教やウラル教 三五教といろいろに教の区別はありとても 此世を造り固めたる元つ御祖は一柱 吾等の父といます神天が下なる人草は 一人も残らず皇神の御息に現れし貴の御子 互に憎み争ひて神慮を悩ませまつるなよ 人は神の子神の宮尊き身魂と生れながら 虎狼に劣るべき醜の行ひつづけつつ 自ら吾身の品格を傷つけ破り根の国や 底の国なる苦しみを決して受くる事なかれ 悪の身魂の善心に立ち帰りたる竜雲が 四海同胞の好誼にて茲に忠告仕る バラモン教の人々よ直日に見直せ聞き直せ 互に吾身の過ちを顧みなして皇神の 心を安んじ奉り黄金花咲く天国の 救ひの門を開くべしあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 此宣伝歌に打たれてや、ハルマンを初め数十人の人影は雲の風に散る如く、一目散に北へ北へと蓮川を横ぎり先を争ひ逃げて往く。ヤスダラ姫は宣伝歌の主に向ひ、いと叮嚀に会釈しながら、 ヤスダラ姫『いづくの方か存じませぬが、剣呑千万の所へお越し下さいまして、尊き宣伝歌をお歌ひ下され、吾々主従は其御神力に依つて救はれまして厶ります。あゝ私もかういふ場合に宣伝歌を歌ひ、寄せ来る敵を言向和せばよかつたのですが、あまり俄の敵の襲来に挙措其度を失し、恥しながら女の分際としてあられもない腕立を致しました。そして貴方は何処の何人で厶いますか』 男(竜雲)『ハイ、私は卑しき首陀の家に生れたもので厶います。お聞き及びでも厶いませうが、セイロン島の神地の都に於て曲津神に誑惑され、大国別命様の御実子国別彦様が、サガレン王となつてバラモンの教を神地の城に於てお開き遊ばす処へ参り、姫様をチヨロまかし、悪逆無道の振舞を致しました竜雲で厶います。只今歌で申し上げました通り三五教の宣伝使天の目一つの神の御訓誡やサガレン王様の御仁慈に依つて、曇りきつたる身魂を救はれ、今は果敢なき放浪の身となり、月の国七千余の国々を廻り廻りて今此処へ参ります途中怪しき人声に何事ならむと駆けつけ見れば、御両人様が大勢に取囲まれ御困難の最中、それ故、及ばずながら三五の道の宣伝歌を歌ひ敵を追ひ散らしたので厶います』 と、包まず隠さず己が素性を打ち明け、落涙しながら其事実を物語る殊勝さに、ヤスダラ姫は感に打たれ、 ヤスダラ姫『貴方が音に名高き竜雲様で厶いましたか。ようまあ其処迄御改心が出来ました。実に御立派な御人格とおなり遊ばしましたなア』 竜雲『お褒めに預かつては畏れ入ります。私も神様のお蔭によつていろいろと苦労を与へられ、身魂を研いて頂きました。これも全く三五教のお蔭で厶います』 ヤスダラ姫『三五教はそれだけ感化力が厶りますか、実に結構な教で厶いますなア。私も一度其教が聞かして頂きたいもので厶います』 竜雲『貴女さへ聞きたいお心におなりなさつたならば、神様はキツト聞かして下さるでせう。先日も三五教の宣伝使、照国別様が数多の人の前で、結構な話をして居られた。其教を聞いた人間は貴賤老幼の嫌ひなく残らず帰順して仕舞ひました。誠一つを立て抜く無抵抗主義の三五の教へは、其伝播力も強く、恰も燎原の火の如き勢で厶います』 ヤスダラ姫は、 ヤスダラ姫『あゝ左様で厶いますか』 と云つたきり、さし俯いて両手を合せ「国治立の神、吾身の将来を守らせたまへ」と小声になつて祈つて居る。リーダーは膝頭の負傷を撫で擦りながら漸くにして立ち上り、竜雲に向ひ叮嚀に頭を下げ、 リーダー『今承はれば貴方は有名な竜雲様で厶いましたか、思はぬ所でお目に懸りました。これも何彼の因縁で厶いませう。よくまあ姫様の御危難をお救ひ下さいました。私は下僕のリーダーで厶います。何分宜敷此後の御指導を願ひます』 竜雲も頭を下げ叮嚀な言葉つきで、 竜雲『ハイ、お言葉恐れ入ります。袖振り合はすも他生の縁とやら、罪深き竜雲、何卒お互様に助け合ひを願ひたいもので厶います。そして貴方等はどちらへお越し遊ばすので厶いますか』 リーダー『ハイ、テルマン国のシヤールの館からイルナの都、クーリンス様のお宅へ指して姫様がお帰り遊ばすので、私はお供に参つたので厶います。然るに此川辺に於て、右守の司のカールチンが部下共、姫様を此処にて捕へむと致しましたについては、何か都に大変事が起つて居るので厶いませうと実に心配でなりませぬ』 竜雲『左守、右守お二方の間に大変な暗闘が出来て居ると云ふ事は、此竜雲も薄々聞き及んで居ります。カールチンと云ふ男は実に奸侫邪智の痴者で、国人の受けの悪い神司、それに引きかへ左守の人気のよい事、羨ましい位で厶います。そんな事から右守が嫉妬心を起し、悶着が起つて居るのでせう。これから及ばずながら竜雲が姫様をイルナの都迄お送り致しますから御安心なさいませ』 ヤスダラ姫『ハイ有難う、地獄で仏に会うたと申さうか、根底の国で救ひの神に会うたと申さうか、こんな嬉しい事は厶りませぬ。何分かよわき女の旅、宜敷お願ひ致します』 竜雲『然らば私が後になり前になり御身辺を保護して参ります、サア往きませう』 と云ふかと見れば、竜雲の姿は忽ち草の茂みに隠れて仕舞つた。主従二人は宣伝歌を歌ひながら蓮の川を横ぎり、何となく勇気加はり、足許もいと軽げに北へ北へと進み往く。 (大正一一・一一・一一旧九・二三加藤明子録) |
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霊界物語 | 41_辰_黄金姫&清照姫の入那の国の物語1 | 11 麓の邂逅 | 第一一章麓の邂逅〔一一一五〕 竜雲『高照山の岩窟に狼どもに誘はれ 思はぬ人に巡り会ひ思はぬ使命を受けながら 秋野を飾る黄金姫の貴の命の宣伝使 心も清照姫命母娘は勇み雀躍し 細き谷間を辿りつつ秋風荒ぶ大野原 神の御歌を歌ひ合ひ勇み進んで照山の 峠をさして来て見れば道の傍の岩の上に 男女三人の人の影何かヒソヒソ囁きつ 母娘の姿を打ちまもり驚異の眼を光らせて 黄金姫に打向ひもしもし旅のお方様 何れへお出でなされます私はイルナの都まで 帰り行く身の三人連れ何卒お供を願ひます つらつら眺め参らせば貴女は尊き宣伝使 三五教の人ならむ私も同じ三五の 道を奉ずる神の御子心汚き竜雲の おちぶれ果てた此姿直日に見直し聞直し お供に仕へさせ給へあゝ惟神々々 神の救ひにあづかりて清き神世も北光の 目一つ神に助けられ七千余国の月の国 経巡り終へし修験者決して怪しき者ならず お供に仕へさせ給へこれにまします姫司は イルナの都に隠れなき左守の司の姉の御子 ヤスダラ姫の神司一人の男はテルマンの 姫の国より従ひて此処まで送り来りたる 忠誠無比の僕ぞやあゝ惟神々々 神の恵みの幸はひてイルナの都に起りゐる 騒ぎを清く打ち鎮めセーラン王の身の上を 救ひまつらむと思へども神力足らぬ竜雲や ヤスダラ姫が如何にして此大任を果し得む 三五教の宣伝使吾等が微衷を憐れみて 救はせ給へ惟神神の御前に真心を 捧げて祈り奉る』 と竜雲は歌を以て黄金姫一行に掛合つて見た。黄金姫は直に歌を以てこれに答へた。 黄金姫『天と地とを造らしし国治立の大神や 豊国姫の守ります三五教の神司 妾は黄金姫命一人の女は吾娘 清照姫の宣伝使高照山の岩窟に 狼等に伴はれ登りて見ればこは如何に 三五教の神柱北光神を始めとし 竹野の姫は悠然と数多の狼使ひつつ 岩窟の主人となりすまし禽獣虫魚に至るまで 尊き神の御恵の露を施し給ひつつ 鎮まりいます尊さよ北光神の御言葉に 汝黄金姫命必ず途中に竜雲が ヤスダラ姫を伴ひてイルナの都に進み入る それの途中に会ふならむ汝は吾の言の葉を ヤスダラ姫の一行に完全に詳細に物語り 高照山の岩窟に直様進み来るべく 諭せと厳しく宣べ給ふ汝は正しく竜雲か ヤスダラ姫の神司テツキリそれと覚えたり さあ今よりは道を変へ狼群がる高照の 深山をさして進むべし吾等母娘は逸早く 照山峠を乗り越えて入那の都へ進み入り セーラン王の一族を救ひ助けて高照山の 狼岩窟に導きつ御身を厚く守るべし あゝ惟神々々神の御言を蒙りし 黄金姫の言の葉を夢々疑ふこと勿れ 人は正しき神の御子水晶魂を与へられ 神の柱と敬はれ尊き道の宣伝使と 神のまにまに任けられし清き魂を持ちながら 嘘偽りを言ふべきや早く座を起ち進みませ 北光神の御言もて汝等三人に打向ひ 委曲に勧め奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終れば、ヤスダラ姫はこれに答へて歌ふ。 ヤスダラ姫『あゝ有難し有難し声名高き三五の 教を伝ふる宣伝使黄金姫にましますか 若き女の神司音に名高き清照姫の 貴の命にいませしか存ぜぬ事とは云ひながら 誠に御無礼仕り謝罪の辞もありませぬ 只今貴女のお言葉に妾一行三人は イルナの都へ行かずして一時も早く高照の 深山の奥の岩窟へ進み行けよと宣り給ふ 北光神の御言もて宣らせ給へる御親切 いつの世にかは忘れまじ不運の重なるヤスダラ姫の 吾はかなしき神の御子大慈大悲の御心に 救はせ給へ惟神黄金姫や清照姫の 道の司の御前に真心こめて願ぎ奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌つて感謝の意を表したり。清照姫は声も涼しく歌ひ始むる。 清照姫『御空に月は清照姫きらめく星の数の如 劫河の真砂の数多き青人草の艱めるを 救ひ助けて天国の御園に導く宣伝使 三五教の大神の御言畏み遥々と 月の御国を横断しハルナの都に立向ふ 尊き使命を身に帯びし母娘二人の神司 イルナの都の刹帝利セーラン王の御危難を 救はむものと北光の神の御言を畏みて イソイソ進む道すがらヤスダラ姫の一行に 此場で巡り会うたるも全く神の引合せ 一時も早く吾母の言葉に従ひ高照の 山に進ませ給へかし妾は後よりセーラン王の 国主の命を守りつつやがて再び巡り合ひ 無事を祝することあらむ魔神の荒ぶ荒野原 躊躇ひ給ふ其中に右守の司に仕へたる 醜の捕手の来りなば又もや一汗心にも あらぬ荒びをせにやならぬ事なき中に一刻も 早く進ませ給へかし尊き神の御前に 真心誓ひて宣りまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終はれば、竜雲は二人の歌に答へて又歌ふ。 竜雲『あゝ有難し有難し尊き神の御教に 従ひまつる吾々は三五教の神司 汝が命の宣り言を如何でか否みまつらむや 仰せに従ひ今よりは心の駒に鞭をうち 虎狼の吠え猛る山路を分けていそいそと 高照山の岩窟に吾等一行三人づれ 勇み進んで登るべし黄金姫よ清照姫の 貴の命よ吾々が行手を守り給ひつつ 喪なく事なく高照山の岩窟に進ませ給へかし 如何なる枉津の現はれて姫を悩ますことあるも 三五教にて鍛えたる生言霊を打ち出して 寄せ来る敵を悉く言向和し北光の 神のまします御舎に送りて行かむ惟神 神の心に見直して心を安くましませよ あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 母娘二人の神司イルナの都に上りまし 枉の身魂を悉く生言霊に言向けて セーラン王の身の上を守らせ給へ大神の 御前に清き真心を捧げて慎み願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 リーダーは又歌ふ。 リーダー『黄金姫の神司清照姫の宣伝使 雪か花かと云ふ様な容色も形貌も美はしき 清き心の汝が命北光神の御宣言 吾等三人に隈もなく宣らせ給ひし尊さよ 吾等一行三人は汝が命の御教を 力と頼み勇ましく高照山の岩窟に 進みて神の御恵を蒙りまつりヤスダラ姫の 貴の命の身の上を保護しまつらむ吾心 仮令天地は変るともリーダーの僕のある限り ヤスダラ姫の身の上は必ず案じ給ふまじ 二人の司よ、いざさらば吾はこれより両人の お供に仕へまつりつつ高照山に向ふべし 汝が命は潔く照山峠を踏み越えて イルナの都に至りまし厳の言霊打鳴して 王の身辺守りませ天地の神の御前に 慎み敬ひ二柱神の司の成功を 慎みかしこみ願ぎ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして再び汝の御前に リーダーの姿を現はして大成功を祝ふ日を 松、竹、梅の潔く堅磐常磐に願ぎ奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 ここに五人は各述懐を歌ひ、別れを惜しみながら三人は高照山へ、二人は照山峠を野嵐に吹かれながらエチエチと登り行く。 (大正一一・一一・一一旧九・二三北村隆光録) |
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霊界物語 | 41_辰_黄金姫&清照姫の入那の国の物語1 | 13 夜の駒 | 第一三章夜の駒〔一一一七〕 イルナの都、セーラン王の館の奥の間には、王を始め黄金姫、清照姫、テームス、レーブ、カルの六人、上下の列を正し、対坐しながら、ひそびそ話が始まつてゐる。 王『黄金姫様、遠方の所夜中にも拘らず、よくお越し下さいました。これで私も一安心致します。貴女は鬼熊別様の奥様蜈蚣姫様、小糸姫様で厶いますなア』 黄金姫『ハイ、恥しながら運命の綱にひかれて、とうとう夫と別れ、神様の為に三五教の宣伝使になりました。世の中は思ふ様にゆかないもので厶います』 セーラン王『左様で厶いますなア、私も夫婦の道に就いて、非常に悲惨な境遇に陥つて居ります。これでも何時か又神様の御恵に依つて、思ふ様に身魂の会うたもの同士添ふ事が出来ませうかなア。貴女様は最早鬼熊別様と仲よく元の夫婦となつて、神界にお仕へ遊ばすことが出来ませう。私は到底望みがありますまい』 黄金姫『親子夫婦が一緒に神界に仕へる位、結構な事はありませぬが、私の夫は御存じの通り、バラモン教の柱石、私始め娘は三五教の宣伝使、何程神様は一つだと申しても、むつかしい仲で厶います』 セーラン王『決して御心配なさいますな。鬼熊別様は、キツト貴女のお説に御賛成遊ばすで厶いませう。私の今日の身の上は実に言ふに言はれぬ境遇に陥つて居ります。許嫁のヤスダラ姫は奸臣の為に郤けられ、心に合はぬ妻を押付けられ、一日として楽しく暮した事はありませぬ。其上奸者侫人跋扈し、私の身辺は実に危急存亡の場合に陥つて居ります。就いては貴女様をお迎へ申上げ、此危急を救うて頂きたいと存じまして、北光の神様の夢のお告げに依つて、数日前より貴女様の此方へお出ましになるのをばお捜し申して居りました。よくマア来て下さいました。今後は貴女のお指図に従ひ身を処する考へですから、何分宜しく御願ひ致します』 黄金姫『貴方は三五の教を信じますか』 セーラン王『ハイ、別に信ずるといふ訳では厶いませぬが、大自在天様も世界の創造主、国治立尊様も矢張り世界の創造主、名は変れども元は同じ神様だと信じて居ります』 黄金姫『国治立尊様は本当の此世の御先祖様、盤古神王や自在天様は人類の祖先天足彦、胞場姫の身魂から発生した大蛇や悪狐悪鬼の邪霊の憑依した神様で、言はば其祖先を人間に出して居る方ですから、非常な相違があります。神から現はれた神と、人から現はれた神とは、そこに区別がなければなりませぬよ』 セーラン王『あゝさうで厶いますかなア。私は三五教の奉斎主神たる国治立大神様も、盤古神王様も、大自在天様も同じ神様で、名称が違ふだけだと聞いて居ります。私も固くそれを信じて居りましたが、さう承はれば一つ考へねばなりますまい。チヨツト貴女様母娘に見て頂きたいものが厶りますから、どうぞ私の籠り場所へお越し下さいませ。妻でも左守の司でも誰一人入れたことのない神聖な居間で厶います。テームスよ、レーブ、カルと共にここに暫く待つてゐてくれ』 テームスは、 テームス『ハイ畏まりました』 とさし俯むく。王は母娘を伴なひ、籠りの室へ進み行く。行つて見れば、可なり広い室が二間並んでゐる。そこには立派に斎壇が設けられ、いろいろの面白き骨董品などが、陳列されてあつた。床の間の簾を王はクリクリと捲上げ、手を拍ち、祝詞を奏上し始めた。母娘も同じく頭を下げ、小声に祝詞を奏上し、終つて斎壇をよくよく見れば、一幅の掛軸が床の間の正面にかけられ、神酒、御饌、御水等がキチンと供へられてある。これは常に王が潔斎して神慮を伺ふ秘密室であつた。 掛物の神号をよく見れば、天一神王国治立尊……と正面に大字にて記し、其真下に教主神素盞嗚尊と記し、中央の両側に盤古神王塩長彦命、常世神王大国彦命と王の直筆で記されてあつた。黄金姫母娘は此幅に目をとめ、何とも言へぬ爽快さと驚きの念にうたれ、呆然として其神号を眺めてゐる。 セーラン王『私の信仰は此通りで厶います。お分りになりましたか』 黄金姫『思ひもよらぬ御神徳を頂きました。これではイルナの城も大丈夫、御安心なさいませ。併し乍ら此世の御先祖様でも時世時節には対抗し難く、一度は常世彦、常世姫一派の為に、根底の国までお出でなさつた位だから、決して油断は出来ませぬ。貴方の信仰が大黒主の方へでも分らうものなら大変だから、今暫くは発表せないが宜しいぞや』 セーラン王『ハイ、左守の司にさへも此室は覗かせた事はありませぬ。誰も知る者はないのですから、大丈夫で厶います』 黄金姫『仮令此室を覗かぬとも、貴方の信仰が斯うだとすれば、何時とはなしに、貴方の声音に現はれ、皮膚に現はれ、遂にはかん付かれるものです。如何しても心の色は包む事は出来ませぬから』 セーラン王『貴女様が此処へお越し下さつた以上は、余り心配する事も要りますまい。一寸これを御覧下さいませ』 と次の間に二人を導く。見ればここにも一寸した床の間があつて、二幅の絵像が掲げられてあつた。黄金姫、清照姫はアツとばかり驚かざるを得なかつた。それは日頃心にかけてゐる夫鬼熊別の肖像と一幅は神素盞嗚尊の御肖像であつた。清照姫は思はず、 清照姫『あゝこれはお父様、大神様』 と言はうとするを、黄金姫は口に手を当て、 黄金姫『コレコレ清照姫殿、何を仰有る。これはキツト大黒主様と自在天様の絵姿だ。そんな大きな声を出すと、悪魔の耳に這入つては大変ですよ』 清照姫『父上によう似た御肖像で厶いますなア。ホヽヽ』 セーラン王『私は今までバラモン神を信仰して此国を治めて居りましたが、或夜の夢に神素盞嗚大神様、鬼熊別命様と二柱現はれ給ひ、いろいろ雑多の有難き教訓を垂れさせ下さいまして、それより神命に従ひ、私一人信仰を励み、時の到るを待つて居りました。私の夢に現はれたお姿を思ひ出して、自ら筆を執り、ソツとお給仕を致して居ります。鬼熊別様は神界にては神素盞嗚尊様のお脇立になつてゐられます。キツト其肉体も三五のお道へお入り遊ばすでせう。只時間の問題のみが残つてゐるのだと感じて居ります』 黄金姫母娘は物をも言はず感に打たれ、嬉し涙にかきくれてゐる。セーラン王は、 セーラン王『天地の神の恵を目のあたり 拝みし今日ぞ尊かりけり。 素盞嗚神の尊に服ひて 教を守る鬼熊別の神司よ。 鬼熊別神の命は今暫し ハルナの都に忍びますらむ。 時機来ればやがて表に現はれて 三五教の司となりまさむ。 あゝ嬉し黄金姫や清照姫 神の司に会ひし今宵は』 黄金『来て見れば思ひもよらぬ王の居間に わが背の君の姿拝みし。 バラモンの教の御子と思ひしに 摩訶不思議なる今宵なりけり』 清照『千早振る神の光の強ければ 父の命の心照りつつ 吾父は最早国治立神の 教の御子となりましにけむ。 セーランの王の命よ今暫し 時を待ちませ神のまにまに。 清照姫教の司も今宵こそ 積る思ひの晴れ渡りける』 黄金『北光の神の命のかくれます 高照山にとく進みませ。 高照の山は世人の恐ろしく 噂すれども貴の真秀良場。 百千々の狼の群従へて 北光の神は王を待ちつつ。 いざさらばテームス、レーブ、カル三人 後に従へとく出でませよ』 王『黄金姫神の御言に従ひて とく立出でむ高照山へ。 吾行きし後の館は汝命 暫し止まり守り給はれ』 清照『大神の稜威の光に照らされて 道も隈なく安く行きませ。 母と娘が心を協せ身を尽し 入那の城を暫し守らむ』 王『鬼熊別神の命の賜ひてし 生玉章を汝に奉らむ。 心して披き見給へ鬼熊別 神の命の真心の色を』 と言ひながら、鬼熊別より王に遣はしたる密書を黄金姫に恭しく手渡した。黄金姫は手早く封じ目を切り、押披いて読み下せば、左の文面であつた。 『鬼熊別よりセーラン王に密書を送る。 一、これの天地は天一神王大国治立尊の造り給ひし神国にして、決して大国彦、塩長彦の神等の創造せし天地にあらず。又大黒主はバラモン教の大棟梁として兵馬の権を握り、大教主の仮面を被り居らるれども、天は何時迄も斯かる虚偽を許し給はず、必ずや本然の誠に立ち返り、三五教を信従する時あるべし。それに付いては神素盞嗚大神の御摂理に依り、吾妻子近々の中に王が館に訪問すべければ、一切万事を打明け、国家の為に最善の努力をなさるべし。ハルナの都は今や軍隊の大部分は遠征の途に上り、守り最も少なくなり居れり。然るに王に仕ふる右守より王を廃立せむとの願書、大黒主の許に来り、大黒主は数千の騎士を近々差向くる事となりをれば、イルナ城は実に風前の灯火なるを以て、貴王は吾妻子と共に善後策を講じ、一時何れへか避難さるべし。鬼熊別はハルナの都に止まつて、大黒主を悔ひ改めしめ、其身魂をして天国浄土に救はむと朝夕努めつつあり。吾妻子に面会の日を期し、一刻の猶予もなく、安全地帯へ一時身をかくさるべく呉々も注意致します。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と記されてあつた。黄金姫、清照姫は久しぶりに鬼熊別の肉筆の手紙を見て、夫に直接会ひし如く、父に面会せし如く、心勇み、感涙を落しながら、 黄金『あゝ之にて何もかも分りました。北光の神様が一時も早く貴方を狼の岩窟へ誘ひ来れとの御命令も、此手紙の文面にて氷解しました。あゝ、何と神様はどこまでも注意周到なお方だなア』 清照『お父様に直接お目にかかつた様な心持が致します。神様、有難う厶います』 と両手を合せ、神素盞嗚尊の聖像に向つて、感謝の詞を捧げた。 黄金『サアかうなる上は、一刻も早く高照山へ夜の明けない中にお越し遊ばせ。申上げたき事は山々あれど、今はさういふ余裕も厶いませぬ。サア早く早く』 とせき立つれば王は、 セーラン王『左様ならば、万事宜しく願ひます』 と先に立ち、テームス等が控へてゐる居間に姿を現はした。王は母娘と共に表の居間に立現はれ、テームスに打ち向ひ、 セーラン王『テームス、御苦労だが、早く駒の用意をしてくれ。これから高照山へレーブ、カルを伴ひ、出発致すから』 テームス『ハイ承知致しました。併し乍ら黄金姫様の御命令に依り、馬の用意はチヤンと整へておきました。何時なりともお供を致しませう』 セーラン王『あゝそれは有難い。それなら、黄金姫様、清照姫様、あとを宜しく御願ひ致します』 黄金『君ゆきて如何にけながくなるとても われは館を守りて待たむ。 うら安く進み出でませ高照の 山の岩窟に神は待たせり。 三五の教司の北光の神は 君のいでまし待たせ給はむ』 王『いざさらば黄金姫や清照姫 神の命よ惜しく別れむ』 と歌ひながら、慌しく表に出で、裏門口より駒引き出し、暗の道を辿りて、高照山の岩窟指して一行四人は雲を霞と駆り行く。 (大正一一・一一・一二旧九・二四松村真澄録) |
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霊界物語 | 41_辰_黄金姫&清照姫の入那の国の物語1 | 14 慈訓 | 第一四章慈訓〔一一一八〕 狼守る高照山の岩窟には主客五人膝を交へて何事か話に耽つてゐる。北光の神は宣伝使の傍鍛冶の名人なれば、数多の精巧なる機械を閑暇ある毎に製造し、鑿、槌、鶴嘴、鍬等を造つて岩窟を穿ち、今や八咫の大広間は幾つとなく穿たれ、難攻不落の金城鉄壁となつたのである。それに数百千の狼は北光の神の恩威に服し、恰も飼犬の如くよく其命を守り、且つ人語を解する様になつてゐた。岩窟の一間には天の目一つの神を上座に、其右側には竹野姫、少し下がつてヤスダラ姫、竜雲、リーダーの順に湯をすすりながら神話に耽る。 竜雲『北光の神様、私も悪逆無道の悪魔に憑依され、サガレン王に対し不臣の罪を重ね、已に霊魂は根底の国へ投げ込まるる所で御座りましたが、貴神の御親切なる御教訓によつて、貪瞋痴の夢も覚め、漸く真人間にして頂きました。一時勢に乗じ、サガレン王の後を襲うて権利を揮うた時の苦しさに比ぶれば、今日の気楽さ楽しさは、天地の相違で御座ります。体主霊従の欲望にかられ、知らず知らずに身魂を地獄に落してゐるものは、決して竜雲ばかりでは御座りますまい。何とかして其迷ひを醒まさせ、身魂を安楽にさせてやりたいもので御座りますワ』 北光『其方は月の国を巡回して来たのだから、最早天下の人情はよく分つただらう。随分世の中は憐れむべきものが多いだらうな』 竜雲『ハイ、仰せの通り何処の国へ参りましても宗教争ひや名利の欲に搦まれて、互に鎬を削る惨状は、まるで地獄餓鬼畜生道其儘の出現で御座ります。丁度以前のセイロン島に於ける竜雲の雛形は到る所に散見せられます。併し乍ら不思議な事には三五教の少しでも息のかかつた地方は、極めて人心平穏、寡欲恬淡にして、上下相親しみ、小天国が築かれてゐるのを目撃致しまして、最も愉快に感じた事も御座ります』 北光神『其方が七千余ケ国を巡つた中、比較的治まり難い処は何処々々だと思ひましたか』 竜雲『ハイ、随分沢山で一々申上げる訳には参りませぬ。併し乍ら第一にカルマタ国、第二にイルナの国などは今や大騒乱の勃発せむとする間際になつてゐる様で御座ります。カルマタ国は東北に地教山を控へ、地教山には三五教の神柱が誠の道を守つて附近の人民を教養して居られる。そこへウラル教の常暗彦が現はれて本拠を構へ、間隙あれば地教山を併呑せむと企んでゐる。此頃は又ウラル教の勢ひがあまり盛なと云うて、ハルナの都の大黒主が、大足別将軍に数多の軍隊を引率せしめ攻め来るとの飛報頻りに来り、人心恟々たる有様で御座ります。次にはイルナの国のセーラン王に対する嫉視反目日に月に加はり、正義派と不正義派とが断えず暗闘をつづけ、今にも右守の司は大黒主の威勢を頼みイルナの王を放逐し、自らとつて代らむとの計画中だとの城下の人々のとりどりの噂、何時イルナの都は戦塵の巷と変るやも知れぬとの事で御座ります。何とかして此惨状を未発に防ぎたいと存じ、竜雲も都下を徘徊致して宣伝歌を歌ひ廻りました所、右守のカールチンが部下に圧迫され、已に生命までとられむとせし所、不思議にも何処ともなく狼の群、白昼に現はれ来り、咆哮怒号して敵を追散らし、煙の如く姿を隠しました。その機を窺ひ一目散に都を逃げ出し、照山峠を越えてスタスタ帰り来る途中、蓮川の辺に於てヤスダラ姫様主従に出会ひ、お二人様の危難を救ひ、後になり前になり、見えつ隠れつ照山峠の麓まで送つて来ました所、三五教の黄金姫様母娘に出会ひ、一時も早く北光彦の神様の御命令だから高照山へ参れとのお言葉、取るものも取りあへず姫様のお供をして此処迄参つたもので御座ります。実に危険至極の世の中となつて参りました』 北光神『成る程、それは御苦労。此館は猛獣の眷族数多守り居れば、天下第一の安全地帯だ。ヤスダラ姫殿も御安心なされませ』 ヤスダラ姫『ハイ有難う御座ります。女の道を踏み外した妾をお咎めもなくお助け下さいまして何とも恐れ多くて申上げやうも御座りませぬ。何卒宜しく今後の御教養を、偏にお願ひ申します』 北光神『随分ヤスダラ姫様、貴女も悪人共の欲望の犠牲となつて苦しみましたな。身魂の合はぬ夫を持たされ、嘸日々不愉快をお感じになつたでせう。御心中お察し申します』 と情ある言葉に、ヤスダラ姫はヤツと安心し、嬉し涙を袖に拭ひながら、 ヤスダラ姫『思ひもよらぬ御親切な御言葉、有難う御座ります。何を隠しませう、妾はイルナの都の左守クーリンスの長女と生れ、セーラン王様の許嫁で御座りました所が、ハルナの都の大黒主様に諂び諛ふ右守カールチンの為めに遮られ、種々と難癖をつけられた挙句、テルマン国の毘舎が妻とせられ、今日まで面白からぬ月日を送つて来ました。今貴神のお言葉の通り身魂が合はないのか存じませぬが、夫のシヤールに対して少しも愛の念が起らず、夫も亦妾に対して至極冷淡、路傍相会ふ人の如く、夫婦としての暖味は夢にも味はつた事は御座りませぬ。妻として夫に対して愛を捧げるが道なれども、如何したものか其心が湧いて来ませぬ。勿体ない事ながら、明けても暮れても親の許嫁の夫セーラン王様の事が目にちらつき、お声が耳に響き、王様の事のみ夢現に恋ひ慕ひ心に罪を重ねて居りました。所へ右守の妻テーナ姫が夫の館に右守の使者として現はれ来り、妾に対し無理難題を吹きかけ、夫のシヤールを威喝して遂に獄舎を造り妾を投げ込み、非常な虐待を致すので御座ります。妾は最早運命つきたりと覚悟を極め、涙にくるる折しも、雨風烈しき夜半、これなる忠僕リーダーが獄舎を打破り、妾を背負ひ暗に紛れて此処まで漸う連れて来てくれました。之も全く神様のお蔭と竜雲殿の御保護で御座ります。最早此世に望みは御座りませぬが、せめて一度父のクーリンスや妹のセーリス姫に面会したう御座ります。又成る事ならば一目なりとも王様のお姿を拝みたく存じます。それさへ出来れば最早死んでも怨みは御座りませぬ』 と身の上話にホロリと涙を落し差俯むく。 北光神『それでスツカリ事情は分りました。やがて親兄妹は申すに及ばず、セーラン王様に会はせませう。さうして屹度身魂同士の夫婦だから肉体の上でも夫婦となつて、イルナの都の花と謳はれ遊ばす様に守つてあげませう。此手筈は已に此方に於て神示の下に行はれつつありますから御安心なさいませ』 ヤスダラ姫『左様な有難い事になりませうかな。そんな事が出来ますならば、妾を初め親兄妹はどれほど喜ぶか知れませぬ。王様も嘸御満足を遊ばすで御座りませう』 竹野『ヤスダラ姫様、貴女もこれから神様のために余程御苦労を遊ばさねばなりませぬぞや。妾も随分若い時は両親に別れ、淋しい月日を送りましたが、風の便りに父の命は高砂島に在しますと聞き、姉妹三人が色々と艱難苦労を致しまして、珍の都を立ち出でてエデンの川辺へ進み行く折しも、悪者共に取巻かれ、困りきつて居る所へ、月照彦様の御化身照彦と云ふ館の僕が追つ掛け来り危難を救ひ呉れられました。それより父の在します珍の都へ、主従四人訪ねて参り、ヤレ嬉しやと思うたのも束の間、木花姫命様の化身なる珍山彦の神に導かれ恋ひしき父の都を後に、テルの国にて照彦に別れ、それより船に乗つてアタルの港へ上陸し、ヒル、カルの国々を姉妹三人離れ離れに宣伝を致し、ウラル教の魔神鷹依別の目付に追ひ捲られ、情ある春山彦の館に隠され漸く危難を免れ、黄泉比良坂の戦ひに参加致しましたが、随分種々の神様のお試しに会ひました。それより又アジヤに渡り所々方々と宣伝に廻るうち、神素盞嗚大神様のお媒酌によつてコーカス山に於て北光の神様と結婚式を挙げましたが、それから長い間夫婦同居した事もなく、お道の為め活動をつづけ、此頃漸く夫婦が一緒に斯うして御用を勤める様になりました。最早夫も年が寄り、妾もこんな婆になつて了ひました。オホヽヽヽ』 と涙をかくして笑ひに紛らす。 ヤスダラ姫は竹野姫の話に感じ、且つ自分の苦労の足らぬのを恥かしく顔赤らめてオゾオゾしながら、 ヤスダラ姫『左様で厶りましたか、人間と云ふものは中々容易な事で一生を送る事は出来ませぬな。妾等は貴女の事を思へばお話になりませぬ。少しの忍耐もなく夫の牢獄を脱け出し、ノメノメと親兄妹や思ふ夫を慕うて帰つて来た心のきたなさ、恥かしさ、実に汗顔の至りで厶ります』 北光神『ヤスダラ姫様、御心配なさいますな。貴女はこれから神界のため御活動遊ばすのだ。人の一生は重荷を負うて険しい山坂を登るやうなものです。何時険呑な目に遭ふやら、倒れるやら分りませぬ。そこを神様の御神力で助けられ、波風荒き世の中を安々と渡るのですよ。さうして自分の身を守りながら神様の貴の御子たる天下の万民に誠の道を教へ諭して、天国に救ひ、霊肉ともに安心立命を与へるのが神より選まれたる貴女等の任務だから、如何なる艱難辛苦に遭ふとも決して落胆したり怨んだりしてはなりませぬ。何事も此世の中は人間の自由には木の葉一枚だつてなるものではない。みんな神の御心のまにまに操縦されて居るのだから、如何なる事が出て来ようとも惟神に任し、人間は人間としての最善の努力を捧ぐれば宜いのです。此竜雲さまだつて始めは随分虫のよい考へを起し得意の時代もあつたが、忽ち夢は覚めて千仭の谷間へ身を落した様に見すぼらしい乞食とまでなり果て、此処に翻然として天地の誠を覚り、諸国行脚をなし、今は完全な神司となり、御神力を身に備ふるやうにおなりなさつたのですから、人は如何しても苦労を致さねば誠の神柱にはなる事は出来ませぬ。此北光の神が都矣刈の太刀を鍛ふるにも、鉄や鋼を烈火の中へ投げ入れ、金床の上に置いて、金槌を以て幾度となく錬り鍛へ叩き伸し、遂には光芒陸離たる名刀と鍛へる様なもので、人間も神様の鍛錬を経なくては駄目です。一つでも多く叩かれた剣は切れ味もよく匂も美はしき様なもので、人間も十分に叩かれ苦しめられ、水火の中を潜つて来ねば駄目です。これから此北光の神が貴女の恋ふるセーラン王に面会させますが、決して安心をしてはなりませぬぞ。吾々夫婦の如く互に手配りをして誠の道に尽さねばなりませぬ。いつ迄も若い身を以て天下擾乱の此場合、夫婦が安楽に情味を楽しむと云ふ事は出来ませぬ。生者必滅会者定離、別離の苦しみは人間は愚か、万物に至るまで免れ難き所、此点を十分に御承知を願つておかねばなりませぬ。やがてセーラン王は二三の忠誠なる僕に守られ、此処にお出でになりませう』 ヤスダラ姫『ハイ、有難う厶ります。何から何まで御親切の御教訓、屹度肝に銘じて忘却致しませぬ。否何事も神様の仰せを遵奉致しまして、天晴れ神柱と鍛へて頂く覚悟で厶ります』 竹野『ヤスダラ姫貴の命の言の葉を 聞くにつけても涙ぐまるる。 勇ましき汝が御言を聞きしより 竹野の姫の胸も輝く』 ヤスダラ『有難し北光神や竹野姫 御言のままに道に仕へむ。 セーラン王貴の命の今此処に 来ますと聞きて胸轟きぬ。 相見ての後の心に比ぶれば 今の吾こそ楽しかるらむ』 北光『セーラン王貴の命は今此処に 北光神の住家訪ねて。 惟神神の御手に導かれ 妹背の山の谷間を行きませ』 竜雲『打仰ぎ空行く雲を眺むれば 人の行末思ひやられつ。 高照の山に棲まへる狼も 夫婦の道は忘れざるらむ。 妻となり夫となるも天地の 神の結びし縁なるらむ』 リーダー『はるばるとテルマン国を立出でて 姫を守りつ今此処にあり。 テルマンのシヤールの館を出でし時 行末如何にと思ひなやみしよ。 かくばかり尊き神に会ひし上は 世に恐るべきものあらじとぞ思ふ。 惟神神の御言を畏みて 世人の為めに身をや尽さむ』 斯く歌ひ終る時しも、俄に聞ゆる蹄の音カツカツと岩窟内まで響き来る。 北光『ヤア、あの足音はセーラン王の一行ならむ。竜雲殿、お出迎へ頼み入る』 ヤスダラ『えツ!』 竜雲『畏まりました』 と身を起し岩窟の入口指して一目散にかけり行く。 (大正一一・一一・一二旧九・二四北村隆光録) |
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霊界物語 | 42_巳_黄金姫&清照姫の入那の国の物語2 | 04 下り坂 | 第四章下り坂〔一一二九〕 レーブ『月日は空に照山の峠急坂下りゆく セーラン王に従ひてハイハイハイハイドウドウドウ どうしても此坂下らねばイルナの都に行かれない 右守の司のカールチン欲の悪魔に憑依され 悪逆無道の企み事ここ迄やつて来たけれど どうしてこんな企み事成り遂げさうな事はない ハイハイハイハイこん畜生確りせぬかい気をつけよ 尖つた石に躓いて千尋の谷間に落ちたなら お前は忽ち死ぬだらうハーハーハイハイ何とまあ 嶮しい嶮しい坂道だヤスダラ姫の神司 これから暫しの御辛抱やがて都が見えまする カールチン奴がいろいろと善からぬ事を企まうと 天地の神のます限り悪の栄ゆる例ない 忽ち消ゆる春の雪ハイハイハイハイ敗亡は 鏡にかけて見るやうだドツコイ畜生気をつけよ 豆屁ばつかり垂れよつてほんとに誠にハアハアハア 大馬鹿者奴、畜生奴何故俺の馬だけは これ程ハイハイ頓馬だらうガラガラガラガラアイタツタ ヒンヒンヒンヒンこん畜生おれが転げたがをかしいか お前は四つ足レブさまは生れついての二本足 二つの足と四つ足とどうして競争がなるものか あゝ惟神々々バラモン天王ドツコイシヨ こいつは云ふのぢやなかつたなア天地を造りし元つ神 国治立大神のお守り偏へに願ひます こんな難所でペツタリと右守の司の手下等に 出会すならばどうしようぞレーブは些とも構はねど 心にかかるは王様やヤスダラ姫の身の上だ 竜雲さまよ確りせお前さまの馬も怪しいぞ 私が後から眺むれば屁放り腰の馬のざま 目玉をあけて見られないハーハーハーハーハイハイハイ 此畜生奴気をつけよ俺の頭をなぜ噛ぶる すつての事で笠の台がぶつとやられる所だつた 賢いやうでも畜生だ此奴は大きな柄をして ヒンヒン吐かして屁を垂れて小さい男に扱はれ 背に乗られて鞭打たれいと神妙にハアハアハア ついて出て来る馬鹿者よこれこれもうし竜雲さま お前ばつかり先へ行て俺をどうして呉れるのだ 俺のコンパスあ達者だが肝腎要の馬の奴 どうしても思よに歩かない屁古垂れ馬を曳いて往く 俺の心になつて見よほんとに誠にぢれつたい さはさりながらハイハイハイ蛞蝓さへも百千里 歩めばいつか目的地達する例もありときく 照山峠は名にし負ふイルナで一の難所ぞや 此処をば無事に馬曳いて下り終せた暁は 再び駒を立て直し勇気を起して堂々と 一瀉千里の勢ひで進みイルナの聖城へ 何の苦も無く月の空ハーハーハーハーハイハイハイ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 照山峠はさかしともいつしか越ゆる此旅路 前途は中々有望だ勝利の都も近づいて 首をのばして待つて居る黄金世界の神司 黄金姫や清照姫の厳のお顔を拝むのも 次第に近づき北光の神の教を遵奉し イルナの城に蟠まる曲司等を悉く 誠の道に言向けて三五教の神力を 宇内に普く輝かし誉も高き宣伝使 レーブと名乗つて月の国ハイハイハイハイフサの国 羅馬に希臘小亜細亜筑紫の島の果てまでも 吾足跡を印しつつ仕へまつらむ吾思ひ 叶はせ給へ天津神国津神等八百万 馬諸共に真心を捧げて祈り奉る あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ』 と倒徳利のやうにドブドブと出まかせの熱を吐きながら、一行の最後について、足許覚束なく下り行く。テームスは馬を曳きながら歌ひはじめた。 テームス『セーラン王やヤスダラの姫の命の御尾前を 守りて下る照山の嶮しき坂はハイハイハイ 又とあるまい難所ぞや追々坂はきつくなり 足許あやしくなつて来た雨の如くに打出し 風に木の葉の散る如くバラバラバツと追ひ散らし ハイハイハイハイドウドウドウ畜生気をつけ危険ぞ 何だえ泡を吹きやがつてハーハーハツハイこれしきの 坂がそれ程苦しいかとは云ふものの俺だとて 矢張り苦しうなつて来た苦しい時の神頼み 三五教の神様よ何卒宜敷願ひます 人馬諸共恙なく此坂道をハイハイハイ 下らせ給へ惟神誠の道を進み往く 此テームスも神の御子神の守りのある上は 仮令曲津が襲来し前後左右を取り巻いて 猛虎の勢凄じく槍のきつ先ハイハイハイ 並べて進み来るとも如何で恐れむ益良雄の 吾等が腕には骨がある日本魂の生粋と 選りによつたる神司天下は如何に広くとも 吾等に敵するものあろか坂を登る時重宝な 名馬も困る下り坂足手纏ひと知りながら 曳いて往かねばハイハイハイ大野ケ原を渡れない 右守の司の手下等は神出鬼没ドツコイシヨ 木の葉の下に隠れ居て吾等一行を散々に 艱ませくれむとハイハイハイ固唾をのんで待つぢやらう 仮令数万の敵軍が押し寄せ来る事あるとても 三五教にて学びたる善言美詞の言霊を ハイハイハイハイブウブウブウエヽこん畜生臭いわい 後から風の吹く時にさうやられては耐らない 些は行儀を知るがよいセーラン王のお供だぞ 無礼極まる畜生だなハーハーハーハイアイタツタ 高い岩根に躓いた皆さま用心なされませ 其処らあたりに転倒て居る石の車に乗つたなら 馬諸共に千仭の谷間に忽ち顛落し 再び此世の明りをば見られぬやうになりますぞ ハーハーハーハイドウドウドウお蔭で難関踏み越えた 馬の畜生喜べよこれから先は歩きよい 俺も面白なつて来た人の一生と云ふものは 恰度此山渡るよなハイハイハイハイものだらう 一寸目放ししたときはハイハイ忽ち失脚し 世の落人となり果てて世界の奴に卑げしまれ ハーハーハイハイ牛馬に踏まれにやならぬやうになる さはさりながら人間が何程あせつて見たとこで 其力には限りある無限の神力備へたる ハイハイハイハイドウドウドウ尊き清き神様の 摂理のもとに任すより仕様模様も無いものぞ あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 神に従ふ吾々を厚く守りてハイハイハイ イルナの都へ恙なく進ませ給へと願ぎまつる ドツコイドツコイドツコイシヨ道も段々広くなり 小石も少うなつて来た七転八起の苦しみも 漸く越えた下り坂右守の司の醜霊を 直日の霊に言向けて勝鬨挙ぐるも目のあたり あゝ勇ましし勇ましし』 と歌ひつつ漸くにして一行は峠の麓に下りついた。 谷を流るる清水に喉の乾きをいやし、暫し休憩の上再び馬上の人となり、一同轡をならべて鈴の音も勇ましく、木枯荒ぶ大野原、暴虎馮河の勢にて、都をさして駆けりゆく。 (大正一一・一一・一四旧九・二六加藤明子録) |
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霊界物語 | 42_巳_黄金姫&清照姫の入那の国の物語2 | 15 帰城 | 第一五章帰城〔一一四〇〕 天の目一つ神司竹野の姫の鎮まれる 高照山の岩窟を後に見捨ててスタスタと 狼猛ぶ山道を黄金姫を初めとし 四方の景色も清照姫の神の命や竜雲や テームス、レーブ、カル、リーダー数多の供人従へて セーラン王やヤスダラの姫の命は悠々と 駒に跨り荒野原吹く凩にさらされつ 照山峠も乗り越えて轡を並べ帰り来る 其御姿の雄々しさよイルナの都の入口に 帰り来れる折もあれ左守の司のクーリンス 家の子郎党引き連れていと慇懃に出迎へ セーラン王の帰館をば悦び勇み前後 兵士共に守らせて旗鼓堂々と城内に 漸く帰り来りけり奥の一間に黄金の 姫の命は立て籠りセーラン王の声色を 使つて右守の神司縦横無尽に操りつ 清照姫はヤスダラの姫の命と仮名して 言霊剣ふりかざし恋に狂ひし右守をば いとサンザンに悩ませる時しもあれや受付に 慎しみ畏み仕へたる腰の曲りしミル司 右守の司の前に出でセーラン王の一行が 数多の供人諸共にいよいよ只今御帰館と 其報告に肝潰し四辺キロキロ見廻しつ 両手を組んでドツと坐し摩訶不思議なる出来事に 煩慮するこそをかしけれあゝ惟神々々 御霊幸はへましまして縺れに縺れし物語 いとながながと説いてゆく此有様を諾ないて いとスクスクと口車辷らせまたへ麻柱の 神の御前に瑞月が謹み敬ひ願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ。 セーラン王一行は、奥の間に進み入り、見れば清照姫、カールチンの二人が黙然として俯向いて居る。セーラン王は、直に三十一文字をもつて怪しみ問ふ。 セーラン王『思ひきや右守司のカールチン 千代に栄ゆるわが居間にありと。 何事の起りし事か知らねども 清けき居間を犯す痴者。 逸早く右守の司わが居間を 清めて去れよ神のまにまに。 怪しかもイルナの城の内外を 包む魔神の声さやぐなり』 ヤスダラ『なれこそは妾が身をば虐げし 右守司のカールチンかも。 カールチンよ一日も早く村肝の 心清めて誠にかへれ。 ヤスダラ姫神の命は一柱 二人あるとは思はざりけり』 清照『ヤスダラ姫神の命の魂は 清照姫と輝きませば。 今しばし尊き御名を借りにけり 醜助けむと思ふばかりに』 ヤスダラ『黄金の姫の命は今いづこ その御消息の聞かまほしさよ』 清照『黄金の姫の命は奥の間に セーラン王の声音つかひつ。 カールチン醜の身魂を洗はむと 母娘二人は心砕きつ』 カールチン『吾こそは恋の擒となり果てて 恥をかくとは思はざりけり。 兵士をハルナの国に遣はして 翼とられしやもめ鳥あはれ。 かくならば最早右守の神司 君の御前に命捧げむ。 いざさらば命を召せよセーラン王 欲と恋とに迷ひし吾を』 セーラン『何程の罪や汚れのあるとても 直日の神は許しますらむ。 いろいろと恋の魔神に操られ 汝が司の目や醒めにけむ』 黄金姫は奥の間より、隔ての襖を押しあけて微笑しながら出で迎へ、セーラン王、ヤスダラ姫に向ひ、会釈しながら三十一文字を詠む。 黄金姫『有難しいと畏しと思ふかな 尊き君の無事の帰城を。 大君の御後を守る親と子が 摩訶不思議なる夢を見しかな。 カールチン、ユーフテス等がいろいろと 恋路に迷ふ様のをかしさ。 腸も破るるばかりの可笑しさを こらへて今日が日をば待ちける』 カールチン『二世までと契りし妻を振り捨てて 思はぬ方に心寄せつつ。 思はざる人に思はれ恋はれしと 思ひし事を悲しくぞ思ふ。 今ははや心の闇も晴れ渡り 真如の月の光見るかも』 竜雲『吾とても右守の司に相似たる 醜業仕へし事もありけり。 さりながら御恵深き大神は 咎め給はず吾を生かしつ。 カールチン神の司よ聞し召せ 悔い改めは人の宝ぞ』 カールチン『畏しや竜雲司の御言葉は 救ひの神の声と響きぬ。 今よりは生れ赤子になり変り 神と王とに誠捧げむ』 テームス『イルナ城内外を包みし村雲も 晴れて嬉しき今日の空かな』 リーダー『遥々とテルマン国を立ち出でて 今日は嬉しき夢を見しかも』 レーブ『吾とても元よりめでたきものならず 君に叛きし曲津神なる。 さりながら尊き神の御光に 照らされ今は真人となれるも』 カル『大黒主神の軍に従ひて 道踏み外し谷間に倒れぬ。 此世をば照国別の現はれて 救ひたまひし事の嬉しさ』 清照『有難し忝なしと大前に 朝な夕なに太祝詞宣れ。 セーランの君の命はイルナ城の 誉も高き元の刹帝利。 いろいろと曲を企みし右守をば 見直しまして救はせ給へ。 清照姫神の命の悪戯を 怒らせ給ふな右守の司よ』 セーリス姫は王の帰城と聞きて慌しくかけ来り、 セーリス姫『珍らしやセーラン王と姉の君 百の司の帰城を祝はむ。 ヤスダラの姉かへりますと聞きしより 高照山の空を仰ぎつ』 (大正一一・一一・一六旧九・二八加藤明子録) |
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霊界物語 | 42_巳_黄金姫&清照姫の入那の国の物語2 | 19 野襲 | 第一九章野襲〔一一四四〕 入那城の奥の一間には、黄金姫、清照姫、ヤスダラ姫、セーリス姫の四人は火鉢を中に囲みながら、神話に耽り、話は転じてカールチンの身の上に移つた。 黄金『右守司も種々雑多として刹帝利の位にならうと思ひ、工夫に工夫を廻らしてゐたが、とうとう清さまの美貌に迷ひ、欲と恋との二道を歩まむとして、一も取らず二も取らず、しまひの果には諦めたと見え………兵士をハルナの国へ遣はして、翼奪られしやもめ鳥あはれ………なぞと王様の前で泣言をいつて帰つて了つたが、併しあれは本気で改心をしたのではありますまい。キツと今晩あたり、失恋組を語らうてむし返しに来るかも知れませぬから、皆さま、決して油断はなりませぬぞや』 セーリス『左様な御心配は要りますまい。………かくならば最早右守の神司、君の御前に命捧げむ………と云つたのですから、ヨモヤそんな事は出来ますまい。三百騎の味方は既にハルナの国へ派遣し、武力は既に既に根底から削がれてゐるのだから、何程向ふ見ずの右守だつて、そんな馬鹿なことは致しますまいよ。………いざさらば命をめせよセーラン王、欲と恋とに迷ひし吾を………と云つて、命まで差出したのですからな』 清照『さう楽観は出来ますまいよ。恋の意地といふものは恐ろしいものですからなア。私がヤスダラ姫様になりすまして、力一杯翻弄したのだから、男の面を下げて、どうしてあのまま泣き寝入りが出来ますものか。お母アさまの仰有る通り、キツと今晩あたり、失恋組が暗殺隊を組織してやつて来るに違ひありませぬ………思はざる人に思はれ恋はれしと、思ひしことを悲しくぞ思ふ………と云つて、未練らしく愚痴をこぼしてゐましたもの、キツと此儘で泣き寝入りは致しますまい』 セーリス『それでも右守司は………今よりは生れ赤子になり変り、神と君とに誠捧げむ………と王様の前で言明したではありませぬか。あの時こそ私は右守司の心の底から出た言葉と感じました』 ヤスダラ『如何してマア此入那の城は暗闘が絶えないのでせう。昔から左守、右守は犬猫同様ぢやと聞いてゐました。仲の悪い者同志の標語は犬と猿とではなくて、入那城の左守、右守と云ふ用語迄出来てゐるではありませぬか。何とかしてかういふことのないやうに守つて貰ひたいものでありますなア』 黄金『ヤア是も誠の道の開ける径路かも知れませぬ。イヤ之が却て神様の尊き御守護ですよ。王者争臣五人あれば其位を失はず、諸侯争臣三人あれば其国を失はず、大夫争臣二人あれば其家を失はずとかいひまして、如何しても争ひといふものは根絶するものではありませぬ。又争ひの根絶した時は国家の亡ぶる時ですから、動中静あり、静中動ありといふ惟神の御経綸でせう。右守司の陰謀があつた為、セーラン王様も御威勢が天下に輝くのでせう。いつもかも平穏無事であれば、王様を始め人心弛緩して国家はますます衰頽し、政治を怠り、遂には国家自滅の悲運に陥るものです。これを思へば右守司だつてヤツパリ入那の国の柱石、心の企みは憎むべきであるが、彼が謀反を企んだ為に王の位置はますます鞏固となり、入那城の弛んで居つた箍は緊張し、国家百年の基礎を造つたやうなものですから、右守司にして改心した以上は、何処までも許してやらねばなりますまい。なア、ヤスダラ姫様、貴女は如何に思召しますか』 ヤスダラ姫『何事も善悪正邪は神様が御審判遊ばすのですから、吾々としては右守司の罪を糺弾することは出来ますまい。又自分に省みて見れば、罪に汚れた吾々同志が、如何にして人を審判く事が出来ませうぞ。只惟神に御任せするより仕方はありませぬ』 黄金姫『さうですなア。右守司だつて吾々と同じ神様の分霊、もとより悪人ではありませぬ。悪神に憑依されて、良心の許さぬ野心を遂行しようとしたのですから、其悪神を憐れみ肉体を憐れんで、善道に立帰るやうにせなくては、吾々宣伝使の職務が勤まりますまい。同じ神様の氏子だから、只の一人でもツツボにおとしては神界へ済みませぬ。右守司は春秋の筆法を以て論ずれば、右守司王位を守る入那城に忠勤を励むと見直し聞直すことも出来ませう。言はば入那城に対する救ひの神ですワ。あの鷹といふ鳥は、生餌ばかり食つて生きてる猛鳥だが、冬になると爪先が冷えて、吾身が持てないので、温め鳥といつて、小鳥を捕獲し、両足の爪でソツと握り、吾爪を温め、ソツと放してやるといふことだ。そして其小鳥の逃げて行つた方向をよく認めておいて、三日が間は其方面の小鳥を捕へないといふぢやありませぬか。鳥でさへもそれ丈の勘弁があるのだから、いはば王様は鷹で、右守司は温め鳥のやうなものだ。キツと賢明な王様は右守司の罪をお赦し遊ばすでせう。どうで今宵は夜襲に来るでせうが、大江山の眷族旭、月日、高倉明神様がお守りある以上は、キツと目的を得達せず、改心を致すでせう』 かく話す所へ、セーラン王は竜雲其他の忠実なる臣下を従へ現はれ来り、黄金姫に向ひ、 セーラン王『いろいろ雑多の御心配りに依つて、入那城も稍安泰の曙光を認めました。全く黄金姫様母子の御守護の賜物で厶います。返す返すも有難く存じます』 と感謝の意を述べ立てる。黄金姫は歌を以て之に答ふ。 黄金姫『月も日も入那の城に現はれて 三五の月の教照らせり。 三五の神の教を畏みて これの大道を守りませ君。 世の中に善しも悪しきも分ちなく 守らせ給ふ神の御稜威は』 セーラン『今となり神の教の尊さを 悟りし吾ぞ愚なりけり。 愚かなる心に智慧の御光を 照らさせ給ひし三五の神』 ヤスダラ『大君の御為国の御為と 思ひ悩みて神を忘れつ。 神なくて如何でか国の治まらむ われはこれより神に一筋。 神と君仰ぎまつりて国民に 誠を教へ諭し行かなむ』 竜雲『三五の大道を進む身なりせば 醜の曲津もさやるべきかは。 村肝の心ねぢけし竜雲も 神に照らされ真人となりぬ。 神を知り教を知るは人の身の 先づ第一の務めなるらむ』 清照『皇神の御稜威は空に清照姫の 神の司も心輝く。 今ははや入那の城を包みたる 雲霧払ひし心地こそすれ』 黄金『今しばし醜の雲霧包むとも 神の伊吹に払ひよけなむ。 セーランの王の命よきこしめせ 今宵は右守のすさびあるべき』 セーラン『よしやよし右守司の荒ぶとも 神の守りの繁き吾身ぞ。 惟神神の教に任してゆ 心にかかる村雲もなし。 悲しみも亦戦きも消え失せぬ 神の光に照らされし吾は』 セーリス『大君よ心ゆるさせ給ふまじ ひまゆく駒の繁き世なれば』 レーブ『われは今神の司に従ひて 高天原に住む心地なり。 さりながら高天原も苦しみの 交らふ世ぞと心許さず』 カル『かけまくも畏き神の御光を 仰ぎ敬ふ身こそ安けれ。 黄金姫貴の命に従ひて 入那の城に来りし嬉しさ』 テームス『照りわたる尊き神の御教に 常世の国の暗を照らさむ。 常世ゆく天の岩戸に隠れます 皇大神を引出しまつれ。 今は早天の岩戸の開け口 イルナの国もやがて栄えむ』 清照『大神と君と国との其為に 心尽しの果までゆかむ』 セーリス『よからざる事と知りつつユーフテスを あやつり来りし心恥し。 さはいへど神と君との為ならば 許させ給へ三五の神』 清照『われも亦よからぬ事と知りながら 右守の司をあやなしにけり。 カールチン右守の司よ赦せかし 清照姫のいたづら事を。 右守をばもとより憎しと思はねど 道の為には是非もなければ』 竜雲『何事も皇大神は許すべし 身欲の為のわざにあらねば』 かく歌ふ時しも、俄に玄関口の騒がしさに、レーブは一同の許しを受け、視察のために表へ駆け出した。レーブは息を凝らして外の様子を窺ひ見るに、右守司を始めユーフテス、マンモス其他十数人は、庭に敷物も敷かずドツカと坐し、携へ持つた瓢の酒をグビリグビリと呑みながら、手を拍つて切りに歌つてゐる。かと思へば、大刀を引抜き空を切り、右へ左へかけまはりつつ、バタリと倒れては起上り、一種異様の狂態を演じてゐる。レーブは不審晴れやらず、直に奥殿に引返し、王の前に復命した。 レーブ『申上げます、庭先の騒々しさに、命に依つて何事ならむと覗ひみれば、豈はからむや、右守司、門先に十数人の部下と共にドツカと坐し、酒を汲み交し、歌つて居るかと見れば、長刀を引抜き、前後左右に切り捲つて居りました。察する所、白狐さまに騙されて、月照る土の上によい気になつて酒宴を催してゐるのでせう。右守司は大変ないい声で詩吟をやつてゐました………月卿雲客或は長汀の月に策をあげ、或は曲浦の波に棹をさし給へば、巴猿一度叫んで舟を明月峡の辺に停め、胡馬忽ち嘶いて道を黄沙磧の裏に失ふ………なんて意気揚々と剣舞をやつてゐましたよ。あの詩から考へて見ますれば、畏くも王様を放逐し、あとの天下を握つた夢を見てゐるらしう厶います。実に乱痴気騒ぎといつたら見られたものぢや厶いませぬ』 セーラン王『軈て目が醒めるだらうから、明日の朝まで打ちやつておくがよからう。折角天下を取つた夢を見て喜んでゐるのに、中途に醒してやるのは気の毒だ。夢になりとも一度天下を取つて見たいといふ者がある世の中だから、一刻も長く目の醒めぬやうに楽ましてやるがよからう。アハヽヽヽ』 黄金『オホヽヽヽ王様も余程仁慈の心が発達しましたねえ。其御心でなくては、人の頭にはなれませぬぞ。サア皆さま、明日の朝まで、ゆつくりと就寝致しませう。明日は又面白い芝居が見られませうからなア』 清照姫『お母アさま、御願ですが、私だけ一寸其場へ出張させて頂く訳には行きませぬか。メツタに心機一転して、右守司様に秋波を送るやうなことは致しませぬから………』 黄金姫『オホヽヽヽ何と云つても剣呑で堪らないから、清さまは母の側を一寸も離れちやなりませぬ、猫に鰹節だからなア。オホヽヽ』 清照姫『お母アさまの御心配なさらぬやうに、セーリス姫様、貴女と二人参りませうかねえ。さうすりや、お母アさまだつて心配はなされますまい』 セーリス姫『イエイエ、それでも貴女はカールチンさまに、私はユーフテスさまに揶揄つた覚えがあるのだもの、袖ふり合ふも多生の縁と云つて、万更の他人ではありませぬからねえ。ヒヨツとして出来心が起つたら、又お母アさまに要らぬ気を揉ませねばなりますまい。モウやめませうか』 清照姫『だつて貴女、此儘寝るのも、何だか気が利きませぬワ』 黄金姫『コレ清さま、腹の悪い。又しても老人に気を揉まさうと思つて揶揄つてゐるのだなア。モウ何時だと思つてゐなさる。山河草木も眠る丑満の刻ですよ』 清照姫『王様の前だから………左様ならば、今晩はドツと譲歩しまして、お母アさまの提案に盲従致しませう。盲従組のお方は起立を願ひます。オホヽヽヽ』 セーラン王は微笑を泛べながら独り寝室に入る。黄金姫其他一同も微笑しながら、それぞれ設けられた寝室に入つて夜を明かす事となつた。 (大正一一・一一・二四旧一〇・六松村真澄録) |
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霊界物語 | 42_巳_黄金姫&清照姫の入那の国の物語2 | 21 応酬歌 | 第二一章応酬歌〔一一四六〕 北光神『神が表に現はれて善神邪神を立別ける 抑神が人間を此世に下し給ひしは 天国浄土の繁栄を開かむための思召し 選り清めたる魂と魂高天原に現はれて 夫婦の道を開きつつ現界人と同様に 霊的活動を開始して情と情との結び合ひ 天人男女は相共に美斗能麻具倍比なしながら 清き正しき霊子を地上の世界に生み落し 人間界に活動する夫婦の体に蒔きつける 天より降せし霊子は父と母との御水火にて 忽ち母体に浸入し動静解凝引弛分合の 八つの力や剛柔流三つの体をもととして 十月の間母の身に潜みて身体完成し 霊子の宮を機関とし此世に現はれ来るなり 人の子として生れたる神の御子なる人々は 地上に於ける教育を完全無欠に受けながら 霊肉ともに発達し其成人の暁は 此世を捨てて天国の御園に帰るものぞかし 抑人間の肉体は天津御国に住ひたる 天人どもの霊の子が発育遂ぐる苗代ぞ 種蒔き苗立ち天国の田畑に移植する時は 人は愈現界を離れて天に復活し 天国浄土の神業に参加しまつる時ぞかし あゝ惟神々々神の御国は目のあたり 此地の上に建設し天国浄土の移写として 短き此世を楽しみつ元津御霊を健かに 磨きつ育てつ雲霧を押分け帰る神の国 あゝ有難し有難しイルナの都の刹帝利 セーラン王も今までは天津御国の消息を 知らざるために種々と地上に於ける欲望に 心を駆られ居たりしが三五教の御教を 聞きてやうやう人生の尊き使命を悟りつつ 短き此世に欲望を達成せむと企みたる 悪逆無道の右守をば直日に見直し聞直し 救ひ与へし健気さよ吾は北光彦の神 天の目一つ神司高照山を立ち出でて 汝が命の身辺を守り救はむその為に 暗に紛れて来て見れば実にも目出度き今日の空 月日の光も爽かに入那の城は永久に 花咲き匂ふ世となりぬ黄金姫や清照姫の 貴の命やヤスダラ姫竜雲司を始めとし テームス、レーブ、カル、リーダー其他百の司等の 清き心の花を見て喜び勇む胸の裡 三五教の御教が普く地上に亘りなば 敵もなければ味方なし善悪邪正おしなべて 尊き神の御恵に潤ひまつり天国の 姿を地上に現はすは今目のあたり見る如し 実にも尊き国の祖国治立大御神 瑞の御霊の大御神天教山に在れませる 木花咲耶姫の神大地をかねて守ります 金勝要大御神御稜威輝く日の出別 日の出神の神徳に忽ち開く常暗の 天の岩戸は永久に塞がであれや惟神 神の御前に北光の天の目一つ神司 至仁至愛の神の心もて天地万有一切に 代りて願ひ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 と歌ひながら、北光の神は悠然として奥の間より現はれ来る其不思議さ。セーラン王始め一同は突然の目一つ神の降臨に驚嘆やるかたなく、最敬礼を以て之を遇し、北光神を正座に招ぎ奉つた。 北光神は莞爾として一同を見廻し、 北光神『千早振る神の教の開け口 誠一つの手力男神。 手力男神の命は何処なる 誠を守る人の心に。 高天の原の御国は何処なる 誠に強き人の心に。 国治の立命の御舎は 汝が肉体の臍下丹田に。 入那山木の葉のさやぐ醜風も 凪ぎて静けき今日の空かな。 高照の山を立出で北光の 神の光は輝きにけむ』 セーラン『霊幸はふ神の光に照らされて 入那の闇は晴れ渡りけり。 恋ひ慕ふヤスダラ姫の肉体を 忘れ果てけり神のまにまに。 ヤスダラ姫神の命よ心せよ 汝をば憎む心にあらぬを。 さりながら誠の道に照らされて 消え失せにけり恋の黒雲。 美はしくいとしく思ふ吾胸は 今も昔も変らざりけり。 道の為め世人のために荒れ狂ふ 心の駒を引きしばり行く。 心にもあらぬ美辞を述ぶるより 神のまにまに打明かしおく』 ヤスダラ『有難し吾大君の御心は 幾世経ぬとも忘れざらまし。 大君よサマリー姫と常永遠に 御国を守れ神のまにまに。 今よりは三五教の神司 世人のために鹿島立ちせむ。 サマリーの姫の命に物申す 誠を捧げ王に仕へよ』 サマリー『心安く思召しませ姫命 朝な夕なに清く仕へむ。 君行かば後に残りし吾々は 心淋しく日を送るらむ。 さりながら神の御手に抱かれし 吾身の上を案じ給ふな。 大君に誠心を捧げつつ 吾国民を安く守らむ』 黄金『村肝の心の悩み失せにけり 姫と姫との和らぎを見て』 清照『天津日は御空に高く清照の 姫の心は輝き渡る。 カールチン右守の司に物申す 吾悪戯を許し給はれ。 何事も見直しするは神の道 もとより悪しき心ならねば』 カールチン『有難し清照姫の御言葉は 淋しき吾の生命なりけり。 今日よりは賤しき心取直し 神と君とに誠を尽さむ』 セーリス『斯くすれば斯くなるものと知りながら 引くに引かれぬ場合なりけり 天地の皇大神よ許しませ 知りて犯せし詐りの罪を』 北光『何事も皆惟神々々 霊幸はへませ教子の上に。 善しと云ひ悪ししと云ふも人の世の かりの隔てと聞直す神。 吾こそは天津誠の御教を 四方の国々開く神司。 さりながら月に村雲花に風 雪に朝日のあたる世の中。 何事も神の御胸にまかすこそ 高天の原にのぼる架橋』 セーラン王は声も涼しく歌ふ。其歌、 セーラン王『神が表に現はれてイルナの城に蟠まる 醜の枉津を追ひ払ひ言向け給ひし尊さよ 吾はイルナの刹帝利バラモン教の神司 鬼熊別の御教を朝な夕なに謹みて 仕へまつりし甲斐ありて妻子と在れます黄金の 姫の命や清照の貴の司に助けられ 又もや北光神司其外忠義の人々に 身を守られて入那城再び王と君臨し 世を常久に守り行く嬉しき身とはなりにけり 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも三五教の御教は 堅磐常磐に忘れまじ三五教やウラル教 バラモン教と種々に教の名称は変れども 天地を造り給ひたる誠の神は一柱 国治立大神の一つに帰するものぞかし 梵天帝釈自在天盤古大神塩長の 彦の命の御守護愈高く深くして 宇内唯一の三五の教に導き給ひたる 宏大無辺の神徳を謹み感謝し奉る 左守の司のクーリンス右守の司のカールチン 心を清め身を浄めいざこれよりは入那城 セーラン王の聖職を輔翼しまつり国民に 塗炭の苦しをば逃れしめ天国浄土の真諦を 導き諭し天国を地上に細さに建設し 人と生れし天職を上下睦み親しみて 仕へまつらむ吾心麻柱ひませよ惟神 神に誓ひて諸々の司の前に宣り伝ふ あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ』 (大正一一・一一・二五旧一〇・七北村隆光録) |
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霊界物語 | 42_巳_黄金姫&清照姫の入那の国の物語2 | 24 出陣歌 | 第二四章出陣歌〔一一四九〕 レーブは歌ふ。 レーブ『ライオン川を打渡り玉山峠の峻坂を 黄金姫の一行に従ひ駒を引きながら テームス峠の関所をば漸く無事に乗り越えて 大黒主の軍隊に坂の麓に出会し 千尋の谷間に顛落しカルの司と諸共に 三途の川を打渡り天国浄土の門口を 探険したる折もあれ照国別の一行に 呼び覚まされて甦り葵の沼の傍に 又もや敵に包囲され危き生命を助かりつ 沼の彼方に来て見れば黄金姫や清照姫の 貴の命の御休息いよいよ再生の思ひして レーブとカルとの両人は黄金姫に随伴し 入那の森に来て見れば右守の司の放ちたる テル、テク、アルマに出会し漸く敵を追ひ散らし テームス司と諸共に入那の城へ進み入り 暫く此処にやすらへば北光神に招かれて セーラン王は九重の雲押分けて高照の 深山をさして出で給ふ暗さは暗し闇の道 テームス、レーブ、カル三人轡を並べて戞々と 王に従ひ高照山の岩窟をさして進み行く あゝ惟神々々神の恵みの深くして 思ひもよらぬヤスダラの姫の命に出会し 暫らく此処に日を送り北光神に促され 駒に跨り堂々と夜陰に乗じ入那城 帰りて見ればカールチン畏れ多くも万乗の 吾大君を退けて己が欲望を達せむと 計り居るこそ嘆てけれ天地の神は何時迄も 魔神の荒びを如何にしてやすく見逃し給ふべき 忽ち陰謀露顕して右守の司に潜みたる 八岐大蛇や醜神は掻き消す如く逃げ去りぬ あゝ有難し有難し神の御稜威は忽ちに 輝き渡る四方の国天明らけく地豊に 瑞祥の御代となりにけりセーラン王の神勅もて 竜山別に従ひて三五教の御教を 四方の国々島々に隈なく教へ伝へ行く 名さへ目出度き宣伝使霊魂の限り身の限り 誠を筑紫の果までも開きて行かむ神の道 北光神よいざさらばセーラン王よサマリー姫 左守右守の司等よ吾行く後は天地の 神に誠を捧げつつ入那の国は云ふも更 テルマン国を初めとし其他百の国々へ 三五教の御光を照らさせ給へ天地の 神に誓ひて神司レーブは偏に願ぎ奉る 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも神に任せし吾体 生命の続く其限り曇りと汚れに充ち果てし 豊葦原の国中を清めすかして天国の 至喜と至楽の状態を出現せずにおくべきか あゝ惟神々々誠一つの三五の 五六七の神の御前に謹み敬ひ願ぎ奉る。 千早振る神の恵を蒙りて 世人を救ふ身こそ嬉しき。 悪を捨て誠の道に入那城 後に見捨てて進み行くかな。 北光の神の司よ吾魂を いや永遠に守り給はれ。 素盞嗚の神の命の守ります 三五教は世を救ふ道。 人は皆天と地との大神の 珍の宮居と聞くぞ嬉しき。 今よりは心の駒を立直し 魔神の荒ぶ荒野分け行く。 苦しさの中にも楽しみある世には 如何な枉津の来るも恐れじ』 カルは又歌ふ。 カル『入那の城を後にしてレーブ、テームス両人と 心を協せ手をとりて悪魔の征討に上り行く 吾は尊き神司竜雲司も今日よりは 竜山別と名を変へて魔神の荒ぶ山川を いと易々と宣伝歌歌ひて進み出でませよ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 御空の星は落つるとも海はあせなむ世ありとも 一旦神に任したる吾等四人の宣伝使 決して変心する勿れ神を忘れし其時は 身魂に忽ち苦みを覚ゆる時と知る上は 如何なる艱難に遭ふとても神を力に三五の 誠を杖にいそいそと道の真中を驀進し 魔神の集まる巣窟を根本的に掃蕩し 吾三五の大道を世界に照らし大神の 御稜威を四方に拡充し神と人との中に立ち 善悪正邪を超越し只何事も大神の 任し給ひし神直日清き心に宣り直し 見直し行かむ宣伝使あゝ面白し面白し 神は吾等と倶にあり吾等は神の子神の宮 如何なる枉の来るともいかでか神に敵し得む あゝ勇ましや勇ましや入那の城を後にして 足並揃へて四人連れ旗鼓堂々と恙なく 勝利の都に立向ひ神の御前に勝鬨を 現はしまつるは目のあたりいざいざさらば、いざさらば 北光神や其他の百の司の御前に 茲に暇を告げまつるあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ。 惟神神の大道を四方の国 開き行く身ぞ楽しかりけり。 天地は如何に広しと云ひながら 神の守らぬ国土はなし。 天地の神の恵みに抱かれて 神の御国を開き行くかな。 北光の神の司や大君に 今別れ行く吾ぞ悲しき。 さりながら生者必滅会者定離 別れて後に会はむとぞ思ふ』 (大正一一・一一・二五旧一〇・七北村隆光録) |
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霊界物語 | 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) | 05 感謝歌 | 第五章感謝歌〔一一五六〕 玉国別『大神の恵み開きぬ詳細さに 清き目の玉国別の司。 あり難し神の恵みに照らされて 常夜の暗も晴れ渡りたり。 北光の神の司になれとてや 一つの眼とらせ給へり。 これからは心を片眼身を片眼 神の光を照らし行くべし。 盲ひたる人の沢なる世の中に 吾は嬉しき目一箇の神か。 玉国別神の司は今よりは 身魂を磨き道に尽さむ。 玉しひを神と御国に捧げつつ 道別進まむ荒野ケ原を。 常夜往く闇夜も晴れて吾眼 一入清く光り初めたり。 山猿に掻きむしられし吾眼 玉国別の魂を救ひつ。 昔より良からぬ事をなし遂げし 吾身の仇を悔しと思ふ。 吾魂は神の御国に甦り 不可知世界の光見たりき。 肉の眼を失ひたりし其時ゆ 悟り得にけり神の世界を。 天ケ下四方の国々隈もなく 照らし行くなり片目司は。 万代のかためと神は定めけむ 心にたちし国の御柱。 吾は今一つの眼失ひて 所存の臍をかためたるかな。 逸早く神の大道に進み行かむ 行手にさやる枉言向けて。 三五の神の教ぞ有難き 心の盲目救ひ行く道』 道公『玉国別神の命は吾々の 弱き心をかためますらむ。 河鹿山渡りて来れば猿の群 吾等三人の眼さましつ』 伊太公『いたいたし君の眼を見るにつけ 吾目の中に涙こぼるる。 時置師神の命はライオンに 跨り来たり吾を救ひぬ』 玉国別『目の光失ひゐたる吾身には 神のいでまし悟らざりけり。 あな尊と吾等四人を救はむと 現はれますか時置師神。 天地の神は吾等を守りまし 助け給ひし事の尊さ』 純公『大空の澄み渡りたる秋の日も 暫しは雲に包まることあり。 水筒を道に落して伊太公が 狼狽へ騒ぎし事の可笑しき。 谷川に下りて汲みとる岩清水に なやみ去りけり水の魂。 瑞御霊神素盞嗚の神徳は 谷の底まで流れけるかも。 瑞御霊幸はひまして世の明り 五六七の神の救ひ尊し』 道公『道を行く人に会ふごと三五の 神の教を宣べ伝へばや。 今となり神の稜威を悟りけり 吾師の君の目の開きしより。 目も鼻もあかざる事が来るぞよとの 神の教をいまさら悟りぬ。 惟神神に従ひ行く身には 何か恐れむ世の中の道』 玉国別『天地の神の光を拝みてゆ 吾身魂さへあかくなりぬる。 照国別神の命は今何処 大御恵みに安く居まさむ。 黄金姫清照姫の便りをも 聞かま欲しけれ旅なる吾は。 吾罪を赦し給ひし大神の 心畏み御世を教へむ。 罪深き吾身なりとは今の今 目を破るまで悟らざりけり。 省れば吾身は枉の容器と なりゐたりしかいとも恥かし』 道公『千早振る天の岩戸は開けたり 吾師の君の眼清けく。 村肝の心を神に任せつつ 進み行くべし荒野ケ原を。 大道に迷ひし人を悉く 導き行かむ神の御国へ』 伊太公『ゆくりなく吾師の君の遭難に 伊太公今や眼覚めたり。 幸ひに二つの眼光れども 吾心眼の闇きを悲しむ』 純公『すみ渡り大空伝ふ月見れば 心恥しくなりにけるかも。 月も日も下界を照らし給へども 時に黒雲さやる忌々しさ』 玉国別は左の目の光を得たるを打喜び、三人を従へ山を下りて坂道に出で、宣伝歌を歌ひ乍ら下り行く。 玉国別『三千世界の梅の花一度に開く木の花の 咲耶の姫の御守護杢助司と現はれて 獅子の背中に跨りつ伊猛り狂ふ猿の群 峰の彼方に追ひ散らし吾等が盲目の一行を 救はせ給ひし有難さ右の眼は失せたれど 吾等が運命まだ尽きず神の司と選ばれて 伊猛り狂ふ枉神を言向和す宣伝使 許させ給ふ神の愛辱なみて今よりは 百の艱難もいとひなく天地の神の御為めに 誠一つの三五の教を楯に四方の国 勇み進んで開き行くあゝ有難し有難し 神は吾等と倶にあり神の御子と生れたる 青人草は云ふも更草木の片葉に至るまで 恵みの露を施しつテームス峠やライオンの 激流渡り玉山の胸突坂も乗り越えて 神の任しの神業に仕へまつらむ四人連れ あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 完全に委細に神業を遂げさせ給へと天地の 尊き神の御前に玉国別が真心を 捧げて祈り奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 神の恵みの深きをば如何でか忘れむ敷島の 大和男子の魂は岩をも射ぬく桑の弓 ひきて返さぬ金剛心空照り渡る日月の 光も清き玉国別は一切万事打捨てて 神の御為世の為に誠を筑紫の果てまでも 勇み進んで出でて行く道公伊太公純公よ 汝も神の子神の宮吾に従ひ何処までも 至仁至愛の大神の大御心に神習ひ 清き司と成りおほせ四方の国々島々を 隈なく照らし救へかしあゝ惟神々々 河鹿峠の峻坂を神に守られ下りつつ 玉国別の赤誠を披瀝し慎み願ぎまつる』 道公は足拍子をとり乍ら歌ひ出した。 道公『河鹿峠の急坂を玉国別に従ひて 懐谷の麓までやつと来かかる折もあれ 前代未聞の烈風に吹き捲られし腑甲斐なさ 吾師の君を初めとし吾等弱虫三人は 木の根に確としがみつき冷き風に煽られて 戦き居たる浅間しさ夜は森々と更け渡り キヤツキヤツキヤツと猿の声瞬く間に数千匹 四方八方より取巻いて威喝したのが吾々の 小癪にさはり腹を立て睨み佇む折もあれ 猿の奴め増長しておひおひ近より攻めかかる 伊太公さまが鼻高く長い口上並べ立て 呂律も合はぬ宣伝歌無性矢鱈に歌ひ出す 流石の猿奴も呆れ果てザワザワザワと騒ぎつつ チクチクチクと攻め寄する伊太公の奴は無謀にも 猿の一匹掴まへて力を籠めて突倒す サアそれからが大変だ小人数連れと侮つて 衆を恃んで四方から爪を尖らせ迫り来る 中に勝れた大猿は玉国別の後より キヤツとも何とも吐さずに二つの眼を掻き潰し 勝鬨あげて逃げて行く其外数多の小猿奴は 各自に石を拾ひ上げ雨や霰と投げつける 危険刻々迫り来て如何はせむと思ふ折 かすかに聞ゆる宣伝歌間もなく獅子の唸り声 衆を恃みし猿共もキヤツと一声背を向けて 雲を霞と山の尾を伝つて逃げ行く面白さ 四辺を見れば此は如何に玉国別の神司 眼を押へ紅の血潮をトボトボ落しつつ 痛さを堪へて草の上に蹲みますこそ悲しけれ 吾等三人は狼狽し一先づ伊太公を谷川へ 水筒を持たして水汲みに遣はしやれば慌者 道に水筒を遺失して手持無沙汰に帰り来る 肝腎要の此時に間に合はないとぼやきつつ 純公添へて谷底へ再び水を汲みにやる 何ぢや彼ぢやと大騒ぎ吾師の君は土の上に 両手を合せ天地の神に向つて詫び玉ふ 神徳忽ち現はれて眼の痛みは軽減し 漸く片目は助かりて再び此世の明りをば 拝み給ひし嬉しさよあゝ惟神々々 神の恵は目のあたり吾もそれより皇神の 深き恵を覚り得て心境たちまち一変し 挺でも棒でも動かない信神堅固の信徒と なり変りたる尊さよ神が表に現はれて 善と悪とを立別ける尊き道の御教 今更思ひ知られたり如何に罪科深くとも 誠心に祈りなば広き心に宣り直し 見直しまして速けく許させ給ふ神の愛 伊太公純公両人よ此処は名に負ふ急坂だ 足の爪先気をつけて何卒怪我などして呉れな 俺もこれから気をつけて板を立てた如うな坂道を いと悠々と下り行くこれも全く皇神の 尊き恵と知るからは寸時も神を忘れなよ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ一行の後について下り行く。 (大正一一・一一・二六旧一〇・八北村隆光録) |
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霊界物語 | 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) | 06 祠前 | 第六章祠前〔一一五七〕 山猿どものつどひたる懐谷を後にして 片目を取られし神司玉国別の一行は 岩石崎嶇たる急坂を一足一足力入れ 南をさして下り行く又もや吹き来る烈風に 笠をむしられ裳裾をば捲くられながらしとしとと 眼を据ゑてアブト式にどんどんどんと膝栗毛 吾物顔に下りゆく御供に仕へし伊太公は 皺枯声を張り上げて一足一足拍子取り 汗をタラタラ流しつつ冷たき風を苦にもせず 伊太公『「ウントコドツコイドツコイシヨ」玉国別に従ひて 斎苑の館を出立し意気揚々と膝栗毛 上りつ下りつ進み来る今吹く風よりひどいやつ どつと許りにやつて来て俺等の体を中天に 遠慮会釈も荒風奴吹き散らさむとした故に 用心深い宣伝使吾師の君は吾々を 労はりたまひ道端の木の根に確としがみつき 「ウントコドツコイ危ないぞ」又もや風が吹いて来た うつかりしてると散らされるこれこれ二人の供の者 確り木の根に喰ひつき風の通るを待つがよい などとドツコイ仰有つたこれ幸ひと三人は 轟く胸を撫でながら慄ひ戦き夜を明かし 又もや吹き来る荒風に吾身大事と一散に 懐谷に駆けつけて避難なしける折柄に 「アイタヽヽタツタコン畜生」高い石めに躓いた 猿公の奴めがやつて来て畜生だてら吾々に 揶揄ひやがる「ウントコシヨ」それ見る度に「ウントコシヨ」 癪に触つて耐らない遠慮会釈も知らぬ奴 とうとう側へやつて来た伊太公さまは「ウントコシヨ」 腕に力を籠めながらお猿を一匹突き倒す キヤツキヤツキヤツキヤツと吠乍ら縦横無尽に「ウントコシヨ」 群がり掛る恐ろしさ大猿の奴めが飛んで来て 吾師の君の両眼をキヤツとも何とも吐かずに 背中の方から掻きむしりドテライ羽目に落しよつた 俺は谷川へ水汲みにいつた所が「ドツコイシヨ」 肝腎要の水筒を小柴の中へ「ヤツトコシヨ」 落した時の阿呆らしさ道公さまにクドクドと お小言計り頂戴し俺の立つ瀬はあるものか アタ阿呆らしい「ドツコイシヨ」純公さまの手を引いて 水筒の所在を尋ねむと下つて往けば草の上 平気の平左で水筒奴が素知らぬ顔して寝て居よる 確りせぬかと尻たたき純公さまがひん握り 深き谷間に下りたつて突つ込む水筒ブルブルブル 屁のよな泡を吹き乍ら腹一杯に飲みよつた 今度は落しちやならないとグツと素首ひん握り 吾師の君の御前に持ち帰り来て両眼を 洗へば「ドツコイドツコイシヨ」俄に止まる眼の痛み 瑞の御霊の御神徳あゝ有難や尊やと 両手を合せ拝む折脚下に聞ゆる宣伝歌 こいつはテツキリ三五の神の司に相違ない これより後を追つかけて「ウントコドツコイ」鎮魂を 願つて眼病の全快を祈つて貰はふと願うたら 律儀一方の宣伝使なかなか縦に首ふらぬ 吾は天下の宣伝使心の油断につけ込まれ 畜生原に目をとられ何の顔色あるものぞ 頼むでないと「ウントコシヨ」「ヤツトコドツコイ」危ないぞ なかなか許して下さらぬ俺も因果の腰を据ゑ もう此上は神様にお願ひするより道はない 枯草の上にどつと坐し両手を合せ惟神 御霊幸はへましませと祈りし甲斐もありありと パツと開いた左の目あゝ惟神々々 神の恵は目のあたり「ウントコドツコイドツコイシヨ」 これから先はだんだんと坂がはげしくなるやうだ 純公気をつけ道公さまお前の足許危ないぞ 俺もなんだか膝坊子キヨクリキヨクリと吐しよる ほんに困つた坂だなアアイタヽヽヽつまづいた 躓く石も縁のはし一樹の影の雨宿り 一河の流れを汲むさへも深き縁と聞く上は 「ウントコドツコイ躓いた」憎い石でも「ドツコイシヨ」 余り捨てたものぢやないあゝ惟神々々 御霊幸倍ましまして一日も早く月の国 ハルナの都へドウドウと進ませ給へ三五の 皇大神の御前に慎み敬ひ願ぎまつる 「アイタタツタ又倒けた」』 純公は又唄ふ。 純公『河鹿峠の山の尾を吹く木枯に木々の葉は 敢なく散りて羽衣を脱いで捨てたる枯木原 冬野の如くなりにけり秋の山野を飾りたる 黄金姫の紅葉も夕日に清照姫の木も 今は全く「ドツコイシヨ」憐れ果かなくなりにけり 小猿の奴に目の玉を「ウントコドツコイ」引抜かれ 吾師の君は嘸やさぞ残念だらう無念だらう 「ヤツトコドツコイドツコイシヨ」足許用心するがよい 高い石奴が並んで居る小面の憎い猿の奴 天と地との経綸者万の物の霊長と 生れ出でたる人間を馬鹿にしやがる「ドツコイシヨ」 どうしてこれが世の人に話がならうか恥かしや 三人の供がありながら肝腎要のお師匠を 「ウントコドツコイ」むごい目に遇はして何と申し訳 神素盞嗚大神の御前に申し上げられよか 思へば思へば腑甲斐ない話にならぬ御供達 これから何れも気をつけて吾師の君の身辺を 守らにやならぬ道公よ伊太公も確りするがよい アイタヽタツタ躓いた厄介至極の坂道だ うかうかしとれば玉の緒の命も取られて仕舞ふぞよ こんなところで斃ばつてどうして天地の神様へ 何と云ひ訳立つものか「ウントコドツコイコレワイナ」 又々きつい風が吹く頭の先から爪の先 腰の廻りに気をつけて一歩々々力籠め 「ウントコドツコイ」此坂をエンヤラヤツと下らうか 黄金姫や清照姫の貴の司は此坂を どうして下つて往かれたかその御艱難こそ思ひやる 照国別の宣伝使三人の供と諸共に 此所を通らせたまうたに違ひあるまい「ウントコシヨ」 キツト功名お手柄を七千余国の国々で お立てなさるで厶らうぞ何程大将が偉うても 附き添ふ奴が悪ければ力一ぱい動けない 純公さまの云ふ事がお前のお気に触つたら 直日に見直せ聞直せ決して決して悪い事は 「ウントコドツコイ」云はぬぞよ』 斯く歌ひ乍ら、八分許り毀れた祠の前に下りついた。 玉国別『お蔭で目の痛みも余程軽減したが何だか些し許り頭がメキメキして来た。幸ひ此処に広場があり、毀れた祠が立つて居る、何神様がお祭りしてあるか知らぬが、此処で一息して往かうぢやないか』 道公『ハイ、それが宜敷う厶いませう、貴方は御病症の御身の上、無理をなさつてはいけませぬ。今日計りでない明日も明後日もあるのですから、緩りと御休息なさいませ。道公も大変疲れましたからおつきあひを致しませう』 玉国別は諾き乍ら蓑を大地にパツと敷いて其上にドツカと腰を下し、古祠の前に両手を合せ、天津祝詞を奏上し初めた。三人も同じく祝詞を奏上する。 玉国別『何神を祭りし祠かしらねども いたいたしくもなりましにける。 よし宮は毀れたりとも神実は 常磐堅磐に鎮まりまさむ。 国治立神の命も時を得ず 根底の国に隠れましぬる。 あゝ吾は神の御恵蒙りて 此地の上に勇み居るかな。 神様の国に生れて神様を 斎かぬ奴ぞ醜の曲津見。 この社見るにつけても思ふかな 天の日澄みの宮は如何にと。 エルサレム昔の姿消え果てて 今は淋しき凩の吹く。 惟神神が表に現れまして 世を治めます時ぞ待たるる。 吾思ふ心の儘になるならば 千木高知れる宮居を建てむ。 たてとほす誠の道の強ければ 珍の宮居もやがて建つべし。 伏し拝む祠の前に涙して 我大神の行方しのばゆ。 世をしのび人草を救ふ素盞嗚の 神の命ぞ尊かりけり。 自凝の島にまします国武彦の 神の命の慕はしきかな。 玉照彦貴の命や玉照姫 如何まさむと空を仰ぎつ』 道公『神の道朝な夕なに進む身は やがて届かむ勝利の都へ。 瑞御魂厳の御魂と諸共に 三五教を築きましけり。 三五の道に仕へし吾なれば 醜の曲津の如何で襲はむ。 惟神神より外に何もなし 親も子もなき吾身なりせば』 伊太公『吾は今神の司に従ひて 神の大路の坂歩むなり。 此祠如何なる神のましますか 知らずながらも祈りたくなりぬ。 いろいろと神の御名はかはれども 国治立のみすゑなるらむ。 皇神よ行先幸く守りませ 吾師の君の御身はことさら。 行く先に如何なる曲のさやるとも 神の息吹に払はせたまへ』 純公『村肝の心の月の清ければ 如何なる曲もさやらざらまし。 三五の月の教を守りつつ 月の御国へ吾進むなり。 月の国ハルナの都に蟠る 八岐大蛇を如何に救はむ。 曲神も皆皇神の御子ならば 吾等は如何で憎むべしやは』 玉国別『玉国別神の司は今日よりは 神のまにまに進み往くべし。 斎苑館神の御言を蒙りて 吾等四人は大道ゆくなり。 河鹿山峰の嵐は強くとも 如何で恐れむ神の兵士。 吹く風に煽られながら進み行く 神の司ぞ雄々しかりけり。 バラモンの軍の司行く先に 攻め来るとも刃向ふなゆめ。 さり乍ら千騎一騎の時来れば 神のゆるしを受けて動かむ。 動きなき玉の御柱撞固め 愛善の道伝へ行くなり』 道公『皇神の道にさやりし曲神を 言向け進む身の幸楽しも。 此森の千歳の松に言とはむ 国治立の神の昔を。 此森の千歳の松の物言はば 神代の昔聞かましものを。 過ぎ去りし昔の夢を辿りつつ 夢の浮世に長らへてゆく。 現世も又幽世も神の世も すべ守ります国の祖神。 三五の道を立てたる神柱 神素盞嗚の尊畏き。 素盞嗚の瑞の御魂にかなひなば 如何なる曲も背かざるらむ。 吾は今神の恵に守られて 師の君に従ひ宣伝の旅行く。 ゆく先は空照り渡る月の国 ハルナの都と聞くは勇まし』 伊太公『暫くは嵐吹けどもやがて又 花咲く春に遇はむと楽しむ。 山々の諸木の末に至るまで 冬ごもりして時をまつなり。 田鶴巣ふ此の松ケ枝は夏冬の わかちも知らに栄えけるかも。 鶯の谷の戸あけて出る春を まつも嬉しき宣伝の旅。 杜鵑八千八声を鳴き涸らし 黄金花咲く秋をまちぬる。 冬来ぬと目にはさやかに見えねども 空吹く風にそれと偲ばる。 此森に常磐堅磐に在す神 吾等を永久に守らせ給へ』 純公『澄み渡る秋の大空眺むれば 忽ち起る醜の黒雲。 時雨して晴れ往く後に初冬の 月は御空に輝きにけり。 日は既に西山の端に舂きて うら淋しくもなりにけらしな。 さりながら神の心にかへりなば 夜昼しらに賑しと思ふ。 いざさらば吾師の君よ立ち給へ やがては広き道に出でまさむ』 玉国別『有難し眼の痛み今は早 うち忘れたり神の恵みに。 いざさらば三人の供よ神の前に 祝詞捧げて立ち出で往かむ。 有り難し尊き神の御前に 息やすめたる恵を嬉しむ。 御恵の露は木の葉の末までも きらめき渡る月の夜半なり。 望の夜の月は御空に出でましぬ 山蔭あかくなりしと思へば』 斯く歌ひ終り祠の神に別れを告げ、立ち出でむとする時しもあれ、前方より駒の蹄の音騒々しく聞え数百騎の兵士時々刻々此方をさして進み来る。玉国別外三人は此物音に耳をすませ何者ならむと双手を組み思案に暮れて居た。今の物音は大黒主の部下鬼春別将軍の先鋒隊が斎苑の館に向つて進軍し来るのである。あゝ玉国別一行の運命は如何に成り行くならむか。 (大正一一・一一・二六旧一〇・八加藤明子録) |
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霊界物語 | 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) | 11 帰馬 | 第一一章帰馬〔一一六二〕 治国別一行は、片彦、久米彦の一隊馬上に跨り、いとも困難の態にて登り来る様子を面白気に見下して居る。 万公『ヨウ、おいでたおいでた強敵御参なれだ。この細い坂道を蜿蜒として長蛇の登るが如く行進し来る光景は丸で絵巻物を見る様だなア。霜黒葛来るや来るや痩馬の、毛曽呂毛曽呂に屁を放き来るといふ珍妙奇天烈の大部隊だ。マアゆつくりと此処に待つて居ませう。仮令何百人居つた所で一列より進む事は出来ないのだから、一人々々将棋倒しにやつつければ手間も暇も要つたものぢやない、さてもさても運の悪い奴だな。一卒之を守れば、万卒進む能はざる絶所と云ふものは此処の事だらう。アハヽヽヽ、治国別様、何と愉快ぢやありませぬか』 治国別『仇人の攻め来る見れば流石にも 八岐大蛇の姿なるかな』 万公『面白し蜈蚣の陣を張り乍ら 寄せくる敵も竜頭蛇尾に終はらむ』 晴公『遥々とハルナの都を立ち出でて 河鹿峠で泡を吹くかな』 五三公『風が吹く此山道で泡を吹く 五三公之見て法螺を吹くなり』 治国別『心せよ三人の司惟神 神に任せて刃向ふな夢』 万公『大神の館を汚す枉神を 見逃し返す事やあるべき』 晴公『人は皆天と地との御子なれば 仇と云へども憎むべしやは』 五三公『一条の此急坂を登り来る 馬の足並危く見ゆるも』 治国別は悠然として坂道の傍に腰を卸し、上り来る敵の大部隊を見下し乍ら、 治国別『ヤ、三人の者共、此治国別が敵の大将に掛合を初むるまで、お前等の方から慌て出しては可かないぞ、呉々も注意しておく』 万公『さうだと申して素知らぬ顔して居れば、いゝ気になつて斎苑館へ進撃するぢやありませぬか。今となつて、そんな事を仰有ると、何だか張りきつた力がサツパリ抜けて了ふぢやありませぬか』 治国別『これしきの敵軍に対し、かかる有利の地点に陣取り乍ら、別に力も何も要つたものぢやない。一人々々捉へて善言美詞の言霊を浴せかけ、誠の道に帰順さすれば可いぢやないか。然し乍らお前等が慌て出すと、却て折角の作戦計画が画餅に帰す様の事があれば、千仭の功を一簣に欠く様なものだ。まづまづ落ち着いたが宜からう』 万公『さうだと云つて何だか気が勇んでなりませぬわ。此言霊戦は私に先陣を仰付け下されますれば有難う厶います』 治国別『ウン、しつかりやれ、私はここでお前の言霊の発射振りを観戦する。晴公、五三公を貸してやるから、三人心を協せ敵に向つて慈悲の弾丸を打出すのだ。いゝか、分つたかな』 五三公『エ、今自費の弾丸を打出せと仰有いましたが、私は自費の弾丸も官費の弾丸も持つてゐませぬが如何致しませうかな』 万公『エー、分りもせぬ癖に喋くるない。慈悲と云ふ事は恵と云ふ事だ。ま一つわつて云へば情と云ふ事だ。シンパシイの心を以て敵に向へと仰有るのだ。貴様は如何しても現界的の頭が脱けぬと見えて、直に何事でも統計的に解釈し、官費だの自費だのと会計係か何かの様に直に、そんな処へ持つて行きやがるのだ。物質的欲望の垢がとれぬと見えるわい。本当に困つたものだな。モシ先生、こんな奴を言霊戦に参加させちや、却て味方の不利です。五三公だけは謹んで返上致しますから、何卒、塵紙にでも包んで明日の十二時まで、懐か袂へ入れてしまつておいて下さい』 五三公『何を吐しやがるのだい。俺を虫族扱にしてるぢやないか。そんな事で善言美詞の言霊を使ふ神司と云へるかい。本当に言霊の悪い奴だな』 敵の軍隊は峻坂をエチエチと漸く四五間前まで登つて来た。ズツと谷底を見渡せば二三十丁ばかりも騎馬隊が続いてゐる。万公はツカツカと先鋒に立つた騎士の前に進みより、大手を拡げて、 万公『バラモン教の軍人共、暫く待つた』 騎士『其方は吾々の進軍を妨げ様と致すのか、怪しからぬ奴だ。そこ除け、愚図々々致すと、此槍の切先がお見舞申すぞ』 万公『アハヽヽヽ吐したりな吐したりな、ヘナチヨコ士奴、俺を誰だと心得てゐる。勿体なくも辱なくも、天地の御先祖と現はれ給ふ大国治立尊の御守護遊ばす三五教の宣伝使の見習生だ、今日只今汝等の一隊河鹿峠を渡り斎苑の館へ攻め寄せ来ると聞き、此処に待ち伏せて居つたのだ。サア此先、一足でも進めるものなら進んで見たがよからうぞ』 と大手を拡げ眉を上げ下げし目をクリクリと回転させ、芝居気取になつて見えを切つた。 騎士『アハヽヽヽ御供にも立たぬ蠅虫奴等、其広言は後に聞かう。サア之からは槍の錆だ、観念致せ』 万公『エー、愚図々々吐すと言霊の発射だぞ』 騎士『アハヽヽヽヽ怪体な奴が現はれたものだな』 先鋒隊の一人が立ち止まつたので、追々やつて来た騎馬隊は急坂に立止まり、立往生の態である。後の方から久米彦将軍は采配を打ち振り、『進め進め』と厳しき下知をやつて居る。殿には又もや一人の将軍、采配を打ち振り『進め進め』と叱咤してゐる。先に立つた騎士は万公に遮られて進みも得ず、仏頂面を馬上に曝し、髪逆立てて呶鳴つてゐる。 騎士『コリヤ、小童子共、道を開け』 万公『ハヽヽヽヽ弱つたか。何程敵が沢山攻め寄せ来るとも此難所、一度に二人とかかる事は出来ようまい。一人々々虱殺しにやつてやらうかい』 治国別『コリヤコリヤ万公、争ひを致せとは決して命令しない。何故善言美詞の言霊を用ひないのか』 万公『言霊よりも私の腕が先陣を勤めたがつて仕方がありませぬわ。言霊軍隊はサツパリ休戦の喇叭を吹いたと見えます。如何しても出て来ませぬがな』 治国別『そんなら晴公、お前代つて言霊を発射せよ』 晴公『ハイ、確に承知致しました。 三五教の宣伝使治国別に従ひて ここに現はれ来りしは御空も清く晴れ渡る 晴公さまの宣伝使吾言霊を放ちなば 一歩も此山進めまい早く馬より下り来て 善言美詞の三五の世人を救ふ御教を 心を鎮めて聞くがよい朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 星は天より落つるとも悪の栄えし例ない 大黒主に従ひし枉の軍の人々よ 一時も早く村肝の心の駒を立直し 仁慈無限の大神の清き教を聞くがよい 人は神の子神の宮同じ天地に生れ来て 争ひ憎み戦ふは皇大神の御神慮に 背反したる醜業ぞ今打出す言霊を 心を据ゑてよつく聞け大黒主は強くとも 手下は如何に多くとも天地を造り給ひたる 神に対して刃向ふも如何でか終を完うせむ 一時も早く目を覚ませあゝ惟神々々 神に誓ひて晴公が汝等一同に気をつける』 晴公が熱誠をこめて宣り上げた生言霊を耳にもかけず、馬に鞭撻ち一目散に坂道を上り行かうとする。万公は只一騎にても此峠を通過させてはならないと、雷の如き大音声を張り上げ、 万公(大声で)『待て、曲者』 と呶鳴りつけた。先に立つた騎士は此声に辟易し、馬は驚いて危険な谷道で荒れ狂ふ。先頭に立つた馬の足並乱れたるを見て、次の馬も亦何に驚いてか荒れ狂ひ出した。一匹の馬が狂へば千匹の馬が狂ふ譬へ、次から次へ伝染して、数百頭の馬はヒンヒンと嘶き乍ら飛び上り、何れの騎士も其制御にもちあぐんでゐた。 万公『ハヽヽ、晴公の婉曲な生言霊よりも俺の一喝が余程利いたと見えるわい。一人でも万公だから万倍の力が備はつてゐると云ふ事を今実験した。エヘヽヽヽ愉快だ愉快だ、何の馬も此の馬も一度に狂ひ出したぢやないか』 晴公『馬鹿云ふな、晴駒が狂うたのだ。晴公の言霊で駒が狂ふから春駒と云ふのだよ。「咲いた桜に何故駒つなぐ、駒が勇めば花が散る」エヘヽヽヽヽ一番槍の功名はやつぱり晴公だよ』 治国別はいと荘重な声にて歌ひ初めたり。 治国別『誠の神が現はれて河鹿峠の峻坂で 善神邪神を立て別けるバラモン教の司等 吾言霊を聞召せ人は神の子神の宮 天と地との御水火より生れ出でたるものぞかし 月は御空に照り渡り日は晃々と輝ける 無事太平の天国に憎み争ひあるべきぞ 一日も早く三五の仁慈無限の御教に 眼を覚ませ耳すませ吾言霊を聞し召せ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも星は空より落つるとも 印度の海はあするとも大黒主の軍隊は 如何に勢ひ強くとも皇大神の御道に 背きて事の成るべきぞ省み給へバラモンの 神の教の司等其外百の軍人 吾等は茲に謹みて汝ら一同神の代に 安く楽しく救はむと真心こめて言霊の 光を現はし奉る此世を造りし神直日 心も広き大直日只何事も人の世は 直日に見直し聞直し身の過を宣り直す 誠の神の御教を諾ひませよ惟神 神に誓ひて亀彦が治国別と現はれて 汝等一同に宣り伝ふあゝ惟神々々 御霊幸ひましませよ』 と歌ひ終るや、先に立つた騎士は馬をヒラリと飛び下り、一目散に道なき山腹を駆け下る。一同の騎士は之に做つて、何れも吾遅れじと馬を飛び下り一目散に引き返す、其可笑しさ。馬も是非なく妙な腰付し乍らコツリコツリと引き返し帰り行く。 万公『アハヽヽヽヽ何と脆いものだな。如何に鬼神だとてこんな時に敵に出会したら堪つたものぢやないわ。何と神様はいい時に出会はして下さるものだ。之だからあまり急いても、遅れても、不可と云ふのだ。もしも登り坂で出会さうものなら斯う埒よく行かないが都合のいい地点だつた。アハヽヽヽ有難い有難い治国別様、万公の初陣は如何で厶いましたな。屹度金鵄勲章が頂戴出来るでせう』 治国別『ウン、遺憾乍ら改心させずにぼつ返して了つた。然し乍ら此峠で喰ひとめた丈けが、まだしも吾々の職務が勤まつたと云ふものだ。先づ一服したら宜からう。逃げ行く敵に玉国別の一隊が祠のあたりで又もや言霊を発射してるだらう。敵になつても堪つたものぢやないわ』 五三公『何と先生の言霊はよく利きますなア。晴公の言霊が十五点なら先生のは万点ですわ。いやもう恐れ入りました。オイ万公、敵の勢に辟易して今迄の広言に似ず絶句して一言も発射出来なかつたぢやないか。大方開いた口がすぼまらなんだのか、すぼんだ口が早速に開かなんだのか、何と云ふ惨目な態だつたい』 万公『ナニ、俺のは荒木細工だ。荒木棟梁だ。晴公のは小細工棟梁だ。先づ此万公さまが、うまうまと荒削りをやつて置いたものだから、晴公の言霊も如何なり斯うなり発射出来たのだよ。先生のは、こりや特別だ。さぞ今頃は敵の奴、狼狽してゐることだらう。ヤア、月が俄に雲の衣を被り給うた。あの雲さへのけば敵の敗亡を見下ろすに都合が好いのだけどな。アハヽヽヽエヘヽヽヽヽ』 治国別『サア、ボツボツと出掛ようか。玉国別さまと屹度衝突してるだらう。之から後おつかけて、もう一戦しよう』 と立ち上り先に立つて下りゆく。谷間の彼方此方には敵の乗り捨てた馬が嘶いてゐる。万公は得意になつて月下の道を下りつつ歌ひ初めた。 万公『ウントコドツコイドツコイシヨ河鹿峠はきつい坂 やうやう登りつめた時月の光は皎々と 数十里にも亘りたる原野を照らし給ひつつ 吾等一行守りますあゝ有難し有難し 治国別に従ひて二人の弱虫諸共に 坂の此方に来て見れば風が持て来る鐘の音 こりや堪らぬと雀躍し待つ間程なく登り来る 数百人の騎士の隊忽ち万さま躍り出で 疾風迅雷息つかず大喝一声言霊を ドンと一発打出せば先登に立つた騎士の奴 忽ち青い顔をして地震の孫か菎蒻の 幽霊見たよにブルブルと震ひ出したる可笑しさよ ウントコドツコイ危いよ夜目にはしかと分らねど 馬の足形沢山に所狭き迄ついてゐる あゝ惟神々々一時も早く此坂を トントントンと下りつき祠の森に待ち給ふ 玉国別の宣伝使其他の一行におひついて バラモン教の敵軍を片つ端から薙ぎ倒し 善言美詞の言霊を雪か霰か夕立の 降り濺ぐ如浴びせかけ誠一つの三五の 教を深く暁らしめウントコドツコイ曲り道 ウツカリすると滑るぞよコリヤコリヤ五三公気をつけよ 晴公も同じ事ぢやぞや治国別の宣伝使 貴方も気をつけなさいませ何処かそこらの木の蔭に 敵の片割潜伏し不意に手槍を扱きつつ 突掛来るも図られずあゝ惟神々々 神素盞嗚神様よ何卒吾等が一行を 守らせ給ひて逸早く曲津の軍を帰順させ 貴方の御側へ復言申させ給へと万公が 満腔の熱誠捧げつつ謹み敬ひ願ひます 朝日は照るとも曇るとも月黒雲に隠るとも 此山道は如何しても渡らにやならぬ吾々は 神の恵みを蒙りて依さしの使命を果さぬと 何しても斯しても済みませぬウントコドツコイドツコイシヨ 又もやそこに曲り道殊更きつい坂がある 斯う云ふ内にも気が急いて玉国別の身の上を 案じ出されて仕方ないあゝ惟神々々 御霊幸ひましませよ』 (大正一一・一一・二七旧一〇・九北村隆光録) |
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霊界物語 | 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) | 15 温愛 | 第一五章温愛〔一一六六〕 治国別は儼然としてマツ公に向ひ、 治国別『何処の何人の弟か知らぬが、まづまづ無事で目出たいなア。随分苦労をしたと見えて年の割りには窶れて居るぢやないか』 マツ公は飛びつくやうにして膝をにじり寄せ、 マツ公『貴方は私の兄様、亀彦さまで厶いませう。ようマア無事で居て下さいました。嬉しう厶います』 と早くも涙をハラハラと垂らして居る。 治国別『ヨウ、これは近頃迷惑、この治国別は其方のやうな弟は持つた覚えがない。何かの間違ひではあるまいか』 マツ公『それはあまり胴欲のお言葉、よく此顔を御覧下さいませ』 治国別『ちつとも覚えがない』 タツ公『モシ亀彦様、否三五教の宣伝使様、私はマツ公の女房の弟、タツと申します。縦から見ても横から見ても瓜二つ、御兄弟に間違ひはありますまい。そんなにじらさずに早く名乗つて下さいませ。義兄も気を揉んで居ますから』 治国別『三五教の宣伝使玉国別の供を虜にし剰つさへ畏くも斎苑の館の大神様を攻め滅ぼさむと致す、バラモン教の悪神の手先となるやうな弟は持つた覚えがない……かく申す治国別の胸中は千万無量、推量致せよ。バラモン教の神司、否軍人』 マツ公『イヤ、兄様ではない治国別命様、軽率に兄弟呼はりを致しまして、誠に御無礼で厶いました。何卒お咎めなくお見直し聞き直しを願ひ上げます』 玉国別『イヤ治国別さま、決して御遠慮には及びませぬ。折角の御対面……』 と云はむとするを、治国別は玉国別の口元を押へるやうな手つきして、 治国別『貴方の御親切は有難う厶いますが、是が如何して名乗られませうか。決して治国別は兄弟は持ちませぬ。マツ公とやら大神様の御前に三五の誠を現す気はないか』 マツ公『ハイ然らば是より私の真心を御覧に入れます。其上にて兄弟の名乗りをお願ひ申します』 と又もや泣き崩るる可憐らしさ。治国別は目を繁叩き、悲しさを耐へ黙然として居る。 タツ公『サア兄貴往かう、到底誠を表はさねば何程実の兄様だつて名乗つて下さる筈がない』 と涙声を絞りながら立ち上る。マツ公も立ち上り、 マツ公『宣伝使其他のお方々、暫時お別れ致します。明日はきつと此処でお目に懸りませう。此山口にはランチ将軍、片彦、久米彦初め鬼春別の大将が勢揃をして居りますれば、随分御用心なさいませ。今此処をお立ちなされては、如何に神力無双の宣伝使なればとて、剣呑で厶います。左様ならば』 と立ち別れ、両人は急坂を南へ下り行く。後見送つて治国別は涙を押隠し、 治国別『焦がれたる人に相見し今日の身は 昔にましていとも苦しき。 走り往く人の姿を眺むれば 知らず知らずに涙ぐまるる。 過を改め直し大神の 道にかへれよ二人往く人。 秋の日の淋しさ吾に迫りけり 思はぬ人を見るにつけても。 懐しき恋しき人は曲津見の 醜の司となり下りける。 吾とても心は鬼にあらねども 神の大道を外すよしなし。 吾身魂如何なる罪を造りしか 淋しさ身に沁む秋の山路。 不意なくめぐり遭ひたる愛人は 神の仇とぞ聞きし悲しさ』 玉国別『治国別神の御心思ひやり 吾も思はず涙おとしぬ。 やがて又花咲く春も来るらむ 冬籠りして待つ人の身は。 霜を踏み雪をかぶりて咲く花は 香めでたき庭の白梅』 治国別『有難し玉国別の言の葉よ 三月の木々の心地なしぬる。 吾は今悲しきヂレンマにかかりけり 誠と愛の枷に責められ』 道公『惟神神の心に任しませ やがて晴れゆく秋の大空』 万公『親となり子となり又も兄弟と 生るも神の仕組なるらむ。 さりながら生者必滅会者定離 浮世の様を如何にとやせむ』 晴公『師の君の深き心を思ひやり 晴の心も曇りけるかな』 五三公『師の君よ心安けく思召せ 頼りまつ身の花や開かむ。 清春の山に潜みし伊太公を 伴ひ帰るマツタツ二人。 マツタツの二人の友はやがて此処に 笑を湛へて帰り来るらむ』 玉国別『最前マツ公の話に聞けば、此山道には鬼春別の軍勢が数多待ち伏せ居る様子、吾々は別に急ぐ必要も、かうなつてはありますまい。暫く敵軍の此山道を通過する迄待つ事に致しませうか』 治国別『それも一つの神策でせう。仮令幾万の敵軍ありとも神に任せた吾々、些しも驚きは致しませぬが、敵を四方に追ひ散らした処が、飯の上の蠅を追ふやうなもの、再び斎苑館へ攻め来るは必然でせう。どうしても心の底より帰順さすか、但は此難所を扼して其進路を遮り留るより外、名案もありますまい』 玉国別『私は祠の前で暫く眼痛の軽減する迄祈りませう。何卒貴方はもとの場所へお出なさつて英気を養ひ捲土重来の敵に備へて下さいませ』 治国別『左様ならば暫く御免を蒙りませう。サアサア万公、晴公、往かう』 と先に立つ。後には玉国別、道公の両人が残つて居る。五三公、純公も治国別に従つて森蔭に身を没した。晩秋の風は又もや烈しく吹いて来た。半毀れし祠はギクギクと怪しき声を立て、鳴き出した。木々の梢はヒウヒウと笛を吹く。バラバラバラと枯葉が落ちる。冷たき雨さへ混つて、無雑作に目の悪い玉国別の頭を打ち叩く。二人は手早く蓑を被り、笠を確と結びつけ、祠の後に雨と風とを辛うじて避ける事を得た。 日は漸く西山に傾いて、塒定むる鳥の声彼方此方の谷間より喧しく聞え来る。薄衣の肌を冷やす風、時々降り来る村時雨、日の暮れると共に寂寥益々身に迫り来る。道公は玉国別の身体を後よりグツと抱いて体の暖を保つべく、吾身の寒さを忘れて労つて居る。発作的に出てくる頭の痛み、間歇的に出て来る眼の痛み、得も云はれぬ苦しみである。玉国別は私かに神に祈り、且つ身の罪を謝罪して居た。此時夕の谷間を圧して宣伝歌の声が聞えて来た。 (五十子姫)『至仁至愛の大神の大御心になりませる 三五教の御教を豊葦原の瑞穂国 くまなく開き照らさむと神素盞嗚大神の 神言畏み出でませる吾背の君の音彦は 今や何処にましますか斎苑の館の神殿に 額きまつり吾夫の功をたてさせ給へよと 祈る折しも摩訶不思議吾目にうつりし光景は 河鹿峠に名も高き懐谷に現れまして 子猿の群に十重二十重取り囲まれし其揚句 二つの眼を失ひて苦しみたまふ有様を 窺ひまつりし吾心何に譬へむすべもなし 心を定め肝を練り神の御前に額づきて 大神勅を伺へば皇大神の御言葉に 斎苑の館の五十子姫夫の難を救ふべく 今子の姫を従へて片時も早く出でませと 詔らせ給ひし有難さ天にも登る心地して 心いそいそ河鹿山渉りて此処まで来りけり あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 吾背の君の遭難を救ひたまひて三五の 神の依さしの神業を完全に委曲に成し遂げる 御稜威を与へ給へかし朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 神に仕へし吾夫の二つの眼は失するとも 如何でかひるみ給はむや遠き山野を打ち渡り 吾背の君の後追うて其神業を詳細に 補ひまつり五十子姫今子の姫と諸共に 此神業を果さねば仮令百年かかるとも 斎苑の館へ帰らじと盟ひまつりし悲しさよ あゝ惟神々々此急坂を吹きつける 醜の嵐の一時も早く静まり冬も過ぎ 花咲く春の来るごと吾背の君の眼病を 開かせたまへ惟神神の御前に願ぎまつる』 斯く歌つて下り来るのは歌の文句に現はれた玉国別の妻五十子姫であつた。 今子姫『玉国別の妻神と仕へたまひし五十子姫 夫の危難を救はむと神の御許し受けたまひ 孱弱き女の身をもつて荒風すさぶ荒野原 漸く越えて河鹿山淋しき山野を打ち渡り 又もや吹き来る烈風に髪梳り雨に濡れ 木の根に躓き足破り種々雑多と艱苦して 尋ね来ますぞ雄々しけれ今子の姫は今此処に 吾師の君の後を追ひ女ながらも皇神の 道にさやれる曲津見を厳の言霊打ち出して 言向け和し月の国四方にさやれる鬼大蛇 醜神司を払はむと岩の根木の根踏みさくみ 足にまかして進み来るあゝ惟神々々 吾等一行の出で立ちを憐れみたまひ逸早く 吾師の君の御前に進ませたまへ惟神 神の御前に今子姫誠心捧げ願ぎまつる 獅子狼は猛るとも如何に木枯強くとも 河鹿峠は嶮しともなどか恐れむ皇神の 恵を受けし此体勇み進んで何処までも 往かねばおかぬ吾思ひ遂げさせたまへ天地の 御親とまします大御神神素盞嗚大御神 日の出の神や木の花の姫の命の大前に 頸根突き抜き願ぎまつる』 と歌つて祠の森の前に向つて下り来るのが今子姫であつた。五十子姫、今子姫は、玉国別が此祠の後に雨風を凌ぎ居るとは夢にも知らず、 五十子姫『アヽ今子さま、やうやう祠の森迄参りました。お蔭で風も静まり雨もやみましたから、此処で御祈念をして暫く足をやすめる事に致しませう。かうスツポリと日が暮れては坂道は剣呑で厶いますからなア』 今子姫『ハイさう致しませう。何だか床しい森で厶います。私はどうしても此森に玉国別さまが居られるやうな気がしてなりませぬわ』 五十子姫『貴女もさう思ひますか。私も何となく、なつかしい森だと思ひます。サア此処で一服致しませう』 両人は拍手再拝、半破れし祠に向つて祈願を籠めて居る。 此時玉国別は道公に抱かれ心地よく睡について居たがフト目を醒まし、 玉国別『ヤア道公、御苦労だつた。吾を抱へて居つて呉れたのだなア。お蔭で温かく睡らして貰つた。頭の痛みも癒つた。眼の痛みも忘れたやうな気がする。アヽ有り難い、此嬉しさは何時までも忘れはせぬぞ』 道公『先生、そりや何を仰有います。弟子に礼を言ふといふ事がありますか。私だつて貴方を抱へさして頂いたお蔭で、真に暖かく知らず識らず安眠致しました。これも先生の御余光で厶います。礼を言はれては困ります。私の方からお礼を申上げねばなりませぬ』 玉国別『惟神なれが情のあつ衣 冷たき風を凌ぎけるかな』 道公『師の君の御身の温み身にうけて 蘇へりけり吾の魂』 玉国別『旅に出て人の情を悟りけり 神と道とに仕へゆく身は』 道公『毀れたる古宮なれど新しき 恵の露を下したまひぬ』 玉国別『治国の別の命の神司 夜風にさぞや苦しみたまはむ。 吾宿に残せし妻は嘸やさぞ 吾身の行く方尋ね居るらむ』 五十子姫、今子姫は敏くも、祠の後より幽かに漏れ来る歌を聞きて、飛び上るばかり打ち悦び「吾夫はここにましませしか」と轟く胸をぢつと抑へ、 五十子姫『懐しき吾背の君の声聞きて 冴え渡りけり胸の月影』 今子姫『懐しき吾師の君や皇神の 影に包まれ安くいませる』 道公は小声になり、 道公『モシ先生、あの歌をお聞きになりましたか、どうやら五十子姫様のやうで御座いますなア』 玉国別『ウン確に五十子姫だ。一人は今子姫に間違ひなからう』 道公『そんな事を仰有らずに、早くお会ひになつたらどうでせうか。五十子姫様は遥々此処迄お後を慕つてお出なさつたので厶います』 玉国別『ウン、会うてやり度いは山々だが、今会ふ事は出来ぬ。不愍ながら斎苑館へ追つ帰さねばなるまい』 五十子姫『モシ其処に居られますのは、吾夫玉国別様ぢや厶いませぬか。貴方は大変な怪我をなされましたと、神様に承はり心も心ならず、今子さまとお後を慕つて参りました。御容態は如何で厶いますか、どうぞお知らせ下さいませ』 玉国別『盲目たる心の眼開けけり 右りの目をば猿にとられて』 五十子姫『情なや吾背の君の御眼 剔り取りたる猿ぞ恨めし』 今子姫『兎も角も吾師の御君出でませよ 五十子の姫の心あはれみて』 玉国別『妻の君に一目会ひたく欲すれど 神の使命はおろそかならねば。 玉国の別の司は妻神に 助けられしと人に云はれむ。 恥かしき吾眼をば若草の 妻の命に如何でか会はさむ』 道公『モシ先生、そんな几帳面の事仰有らいでも宜しいぢやありませぬか。奥様がお出になつて居るのですから、誰が何と申しませう。そこが夫婦の情愛で厶いますから、サア祠の前迄参りませう』 玉国別『そんなら兎も角も出て見ようかなア』 と道公に手を曳かれ、杖を力に祠の前に出て行つた。五十子姫は十七夜の月の漸く山の端に上つた光に夫の顔を打ち眺め、 五十子姫『ヤア思つたよりも酷い掻き創、マアどうしたら宜しからうなア、今子姫さま』 今子姫『お気の毒な事で厶います、何と申し上げて宜しいやら、言の葉も出ませぬ。併し御心配なさいますな、キツト神様が癒して下さいませう』 五十子姫『モシ吾夫様、余り痛みは致しませぬか』 玉国別『ウン些ばかり痛むやうだ』 (大正一一・一一・二八旧一〇・一〇加藤明子録) |
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霊界物語 | 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) | 17 反歌 | 第一七章反歌〔一一六八〕 イルの案内で松公、竜公両人は岩窟の奥の間に行つて見ると伊太公、サール、イクの三人が一生懸命に組み付き合ひを始めて居る。サール、イクは伊太公を牢獄へ打ち込まうとする、伊太公は這入らうまいと抵抗する、揉み合ひの最中であつた。松公はこれを見て、 松公『コラコラ、待て』 と呶鳴りつけた。イク、サール二人は此声に驚いて、パツと手を放した。 松公『コリヤ両人、大切な客人を掴へて何を打擲致すのか』 イク『へえ、イクイクイクら這入れと云つても此奴頑固で這入らぬものですから一寸イクサールをやつて居りました』 サール『なかなか剛情な奴で厶います。此伊太公はチツとイタい目に合はしてやらねば懲りませぬからなア。イクとサールと両人が伊太公に向ひ臨時イクサールをやつて居つた処で厶います。牢の中へ行けと云ふのにイクとか行かぬとか云ふものですから、いや、もう偉い骨を折りました』 松公『大変に酩酊してるぢやないか。其足許は何だい』 両人一度に頭を掻き乍ら、 両人『ハイ』 と云つて蹲まる。 松公は言葉を改め、 松公『貴方は伊太公さま、玉国別様のお供のお方、えらい昨夜は御無礼致しました。今日はお迎へに参りましたから何卒私について祠の森まで帰つて下さいませ』 伊太公『ヤアお前は昨夜俺をフン縛つた奴だな、又してもひどい目に会はす心算だらう。俺やもう此処へ来た以上は動くのは嫌だ。そんなむつかしい顔せずに一杯やつたら如何だ。伊太公は此岩窟の主人公だ。遠慮はいらぬから、サアサア飲んだり飲んだり、世の中はさう七六つかしくやつた処で同じ事だ。人に憎まれて此世を送るよりも四海同胞主義を発揮して互に人間同志睦み親しみ手を引きあうて渡つたらどうだ。ちつぽけな人間同志が戦をしたり喧嘩をしたりしたつて、はづまぬぢやないか』 松公『イヤ如何も恐れ入りました。先づ先づ御壮健なお顔を拝し此松公もやつと胸を撫で下ろしました。此処に居るのは竜公と申しまして私の義弟です。つまり女房の兄弟ですからな、何分宜しく可愛がつてやつて下さいませ』 伊太公『何が何だか、チツとも訳が分らなくなつて来た。一体松公とやら、お前は何処の人だ』 松公『ハイ、私の生れはアーメニヤです』 伊太公『何、アーメニヤですと、そら妙だ。三五教にはアーメニヤ出の立派な宣伝使が沢山居られますよ。私の先生の玉国別さまもアーメニヤ生れなり、まだ外にも沢山にアーメニヤの方が居られますよ』 松公『私は三五教の宣伝使治国別の弟で厶います。何とぞ御入魂に今後は願ひ度いものです』 伊太公『成る程、さう聞けば治国別様に生写しだ。何と妙な処でお目に掛つたものだな』 松公『其治国別は今祠の森に玉国別さまと休んで居ります。然しながら私がバラモン教に仕へて斎苑の館へ攻め寄せる軍の中へ加はつてゐたものですから、如何しても兄貴は名乗つて呉れないのです。「お前の誠が現はれたら」と申しますので、こりや如何しても伊太公さまをここに隠した罪を詫び玉国別さまに貴方をお渡しせねば許して呉れないと合点して二人が取る物も取り敢ず、お迎へに参つた次第です』 伊太公『ヤア、それは奇縁ですな。さうして治国別、玉国別の両宣伝使は機嫌は宜いでせうかな』 松公『どちらも機嫌が宜しい。然し乍ら玉国別さまは少しお怪我を遊ばしたさうで気分が悪さうにして居られました』 伊太公『ア、それは心配な事だ。そんならお供をしようかな』 此処に松公、竜公、伊太公を始め外三人は岩窟を後にし、清春山の峻坂を下り行く。伊太公は先に立ち歌ひ始めた。 伊太公『雲の帯をば引きしめて中空高く聳えたる 清春山に来て見れば景色は四方に展開し 広袤千里の彼方には大山脈がうすうすと 幻の如横たはり見渡す限り黄金の 錦の野辺となりにけり祠の森に息休め 吾師の君と諸共に一夜を明かす折もあれ 人馬の物音かしましく谷道さして登り来る スワ一大事バラモンの枉神なりと耳すませ 月に透して眺むれば祠の前に人の影 駒の嘶き騒がしく人員点呼の声までも 高く聞えて何となく腕は呻り肉踊り 此伊太公は忽ちに吾身を忘れ杖を揮り 群がる軍に突進し足踏み外し谷川へ 落ちたる隙を無残にも高手や小手に縛られて 名も恐ろしき岩窟に連れ来られしぞ果敢なけれ 悪鬼羅刹の集まりて吾を虐待するものと 心を定め来て見れば豈図らむや三人の 男は忽ち打ち解けて酒倉開き胡床かき 四人一所に向ひ合ひ秋の夜長をヱラヱラと 歓ぎ楽しむ面白さ案に相違の伊太公は 心の腹帯ゆるみ出し三五教やバラモンの 教の蘊奥を談りつつ漸く一夜を明したり かかる所へ入口に突然聞ゆる人の声 イルの司は驚いて松公大将がやつて来た 暫くお前は牢獄へ這入つて呉れえと頼めども 神の使の吾々が汚れ果てたる牢獄に 如何して忍び入られうかイクとサールの両人が 力限りに伊太公を投げ込みやらむとする故に 伊太公は是非なく逆らひて揉みつ揉まれつする折に 松公さまが入り来り万事の事情判明し こんな嬉しき事はない之もやつぱり三五の 尊き神の御恵みウントコドツコイドツコイシヨ 河鹿峠の急坂もここ程きつい事はない 何故又こんな難所をばバラモン教はドツコイシヨ 選んでゐるのか気が知れぬ馬も通はぬ高山に 砦を構へて何にするあゝ惟神々々 神の御稜威の現はれて敵と思ひし松公に 会ひ度い見たいと恋慕ふ玉国別の御前に 連れて行かれる事となり手の舞ひ足の踏む所 知らぬばかりになつて来たあゝ勇ましし勇ましし 神は確に天地の中に居ますと云ふ事は これでも確に分るだらうこれこれ松公竜公さま 其外三人の番卒よこれから心を改めて 誠の道に立ち帰り救ひの神と現れませる 神素盞嗚大神の御前に誠を捧げつつ 神の御子と生れたる其本分を務めあげ ヤツトコドツコイドツコイシヨ此世を去りし其後は 千代万代の花開く無上天国浄土へと 上り行くべき其準備やつておかねばならないぞ 物言ふ暇も死の影は吾等の周囲につきまとふ 口ある内に神を称め手足の働く其中に 誠の行ひ励みつつ天と地との経綸に 任ずる身魂となりませよあゝ惟神々々 神の御前に伊太公が誓ひて汝に宣べ伝ふ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも ウントコドツコイドツコイシヨ仮令大地は沈むとも 此世を救ふ生神は国治立の大御神 豊国主の大御神神素盞嗚の三柱ぞ この大神を差措いて吾等を助くる神はない 天教山や地教山コーカス山やウブスナの 山に建ちたる斎苑館霊鷲山や四尾山 所々に神柱配りて世人を救ひ行く 三五教は天下一世界に目出度き教なり 祈れよ祈れ皆祈れ朝な夕なに慎みて 信仰怠る事勿れあゝ惟神々々 御霊幸ひましませよ』 と歌ひ乍ら時雨のまぜつた晩秋の風に面をさらしつつ、さしもに嶮しき清春山を下り行く。 (大正一一・一一・二八旧一〇・一〇北村隆光録) |
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霊界物語 | 45_申_小北山の宗教改革1 | 13 五三の月 | 第一三章五三の月〔一二〇三〕 お寅はお菊の後について皺枯声を張り上げながら四辺の空気が濁るやうな音調で歌ひ出した。其声は楯に罅が入つたやうにビイビイと一同の耳に不快に伝はり鼓膜を刺戟する事最も甚だし。 お寅『朝な夕なに神様のみまへを謹み敬ひて 山と川との種々の珍らし物を奉り 蓄めて置いたる一万両金迄スツパリ放り出して 此よに沢山宮を立て末代日の王天の神 月の大神大将軍朝日の豊栄昇り姫 義理天上やきつく姫耕し大神地上姫 天若彦や定子姫黄竜姫や金竜姫 金山姫は云ふも更種物神社大御神 へぐれのへぐれのへぐれ武者へぐれ神社迄立て並べ これ程信神して居るに何と思うてか神様は あの悪者がやつて来て千両の金をぼつたくり 肩を怒らしスタスタと帰つて往くのを眺めつつ そしらぬ顔で厶るとは聞えませぬぞ神様よ 私は心で思ふには千両やるのは惜けれど 尊き神の神罰でこの坂道の中程で 罰が当つて金縛り二進も三進もならぬよに なつて熊公が心から前非をくいて改心し 千両どころか一文も入らないこれは神様に お返し申す其かはり私をたすけて下されと 吠面かはいて来るだらうと思うた事も当はずれ みすみす千両の金取つた男を無事にいなすとは ミロク成就の神さまも常世の姫も此頃は 盲聾になつたのか呆れて物が言へませぬ 思へば思へば力の無いガラクタ神だと思うたら 俄に腹が立つて来たこんな事なら平常から 色々ざつたと気をつけてお給仕するのぢや無かつたに 愛想が尽きたユラリ彦末代日の王天の神 上義の姫の松姫もサツパリ宛にはなりませぬ 尊き神と思うたら思ひも寄らぬ狼だ 狼住まう此山に熊公の野郎がやつて来て 四つ足同様な行ひを致してお寅を苦しめた 虎狼や熊のやつ三つ巴になり果てて 何ぢやかンぢやと争ひつ早暮れかかる冬の空 腹が立つのか寒いのか体がブルブル慄て来た 叶はぬから叶はぬから本当に誠に耐らない 力も徳もない神だこれこれ蠑螈別さまよ ものも言はない神さまを何程お給仕した所で カラキシ駄目ぢやありませぬか即座に云ふ事聞いて呉れる 金の神さま奪ひ取られどうして後にぬつけりと 平気な顔で居られよかお寅の腕には骨がある これから熊公の後追うて獅子奮迅の勢で 彼奴の胸倉グツと取り一たんとつた金の神 引き戻さいで置くものかまさかの時に助かろと 思ふが故に朝晩に神のお給仕して居るのだ 盲聾の神さまに何程頼んで見たとこで 聞いて呉れそな事はない何程偉い神ぢやとて ビタ一文も持つて居ぬ貧乏な神様計りだ 朝から晩迄俺達の汗や膏で拵へた お神酒を喰ひ飯を食ひ海河山野くさぐさの 百味の飲食居ながらに頂きながら一言も 何とも彼とも云はぬ奴拝んだところで何になる 吾はこれからスツパリとガラクタ神を思ひ切り 誠の誠の根本の神の教を探ね出し 人に勝れた神徳を貰うて見せにやおきませぬ 思へば思へば馬鹿らしい怪体の悪い事だつた 思へば思ふ程腹が立つ皆さま御苦労で厶いました 此神さまを拝もうと捨てよとほかそと御勝手だ 信仰自由と聞くからは決して邪魔はせぬけれど 肝腎要の此わしが愛想尽かしたよな神を 祭つた所で仕様がない屁のつつぱりにもなりはせぬ 屁なら音なとするけれどブツともスツとも云はぬ奴 今迄迷うて来たものと吾身がボツボツいやになり 馬鹿であつたと気がついて大地に穴を掘穿ち かくれて見たいよな気がしだすあゝ惟神々々 神も仏もあるものか神は吾等と倶にあり 人は神の子神の宮こんな明白な道理をば 悟つて居ながら何として高姫さまの私造した ガラクタ神に現をば抜かして居たのか口惜い サアサアこれから自暴自棄糞だ堤防を切らして酒をのみ 白浪女の意地を出しドンチヤン騒いでやりませう のめよ騒げよ一寸先や暗夜よ暗の後には月が出る 月の光は明かに吾身の上を照らします ここに祭つた神さまは照らす所か暗の夜は 灯明をつけたり蝋燭をつけてやらねば目が見えぬ 困つた盲の神ばかりアイタヽヽタツタアイタヽツタ 余り口が辷り過ぎ奥歯で舌を噛み切つた やつぱり性根のある神かそンならこれから拝みませう あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 五三公はそろそろ歌ひ出したり。 五三公『神が表に現はれて善と悪とを立て分ける 神の中にも善がありまた悪神のあるものぞ 善を表に標榜し此世を救ふ生神と 信仰計り強くして理解し得ざる信徒の 体を宿とし巣をくんだ狐狸や曲鬼が 尊き神の名をかたり世人を欺く事もある 小北の山に祭りたる此神様の素性をば 包まづ隠さず云うたなら生命も魂も捧げたる 信者の方は驚かう私はそれをば知つて居る そんな悪魔に欺されて現を抜かし根の国や 底の国やら畜生道落ち行く人の身の上を 見るにつけても可憐らしく忙しき身をも顧みず 貴重なタイムを空費して此処に滞在して居るも 汝等一同の身魂をば正しき神の大道に 救ひ助けむ其ためぞ思へよ思へよ顧みよ 此神名は高姫が脱線だらけの神憑り みたまが地獄に落ちた時天の八衢に彷徨へる 醜の魔神に取りつかれ肉の宮をば宿にされ 変性男子の系統だ日の出の神の生宮と 吾と吾手に盲信し教を立てて居りたのだ 肝腎要の高姫や黒姫司が自分から 愛想尽かして打ち捨たウラナイ教の神様に どうして誠があるものか茲の道理を考へて 社を残らず潔斎し払ひ清めて天地の 真の神を祭るべくさうでなければ蠑螈別 司の体は曲の巣となつて忽ち身を砕き 魂は曇りて地獄道根底の国へ落ち行かむ 魔我彦さまやお寅さま貴方も確りするがよい 名もなき神に名をつけて拝んだ所で何にする 狐狸の弄びになるより外に道はない 天地の神の御息より生れ出でたる生宮と 名乗りながらも曲神に霊を汚され朝夕に 濁つた言霊奏上し世を乱すとは何の事 これ五三公が天地の神に誓ひて赤心を 汝が命の御前に怯ず臆せず並べ立て 忠告致す次第なり果してこれの神様に 誠の霊があるならば今眼前五三公が 無礼の事を囀つた舌の根とめて命をば とつて呉れても恨みないこれが出来ねばこの神は 霊も力も無い曲津茲で眼を醒まさねば 真の神の御怒りにふれてその身は云ふも更 霊魂までもメチヤメチヤにこはされ無限の苦しみを 万古末代受けますぞ顧みたまへ蠑螈別 百の司の御前に神に誓ひて述べておく あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 (大正一一・一二・一二旧一〇・二四加藤明子録) |
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霊界物語 | 46_酉_小北山の宗教改革2 | 06 千代心 | 第六章千代心〔一二一六〕 竹公は立上り、演壇に登つて面をふくらし、錫の瓶からコツプに水を、ついでは飲みついでは飲み、オホン徳利の様な面をさらし、顎を斜に前の方へニユツとつき出し、両手で卓をグツと押へ、腰を弓に曲げながら、述懐を述べ始めた。 竹公『浮木の村に生れたる竹公さまとは私のこと 親の代から蓄へた資産は余り多くない さはさりながら夫婦等が一生遊んで暮すだけ 物質的の財産があつた所へお寅さま 朝も早うから飛んで来てウラナイ教の祝詞をば 声高々と唱へ上げコレコレモウシ竹さまよ 此世の立替始まつて悪の世界は滅亡し 世界は三分に減りますぞさうした後へ世を救ふ 五六七菩薩が現はれて結構な神世を立てなさる 之を神政成就と教祖のきみが申された 結構な事ではないかいなこんな時代に生れ来た 私は云ふも更なれどお前等夫婦のお霊は 昔の昔のさる昔此世の先祖とあれませる 国治立の神様の根本の根本の御系統 五六七成就の大神の霊がうつつて厶るぞや 物質的の財産を皆神様に献り 家をたたんで小北山大聖場に参上り 朝から晩まで結構な御用を遊ばす気はないか お前の家のお福さまこなたも結構なお霊だ 旭の豊栄昇り姫五六七神政成就の 尊き神の奥様だなぞと甘い事並べたて 枯木に餅がなるやうによい事づくめで云ふ故に 首を傾け思案する間もなくお福が手をふつて 突然起つた神憑旭の豊栄昇り姫 神の憑つた因縁の霊のお福ぢや竹公よ お前は五六七成就の皇神様の生宮ぞ 旭の申す神勅をもしも疑ひ反くなら きつい神罰当るぞや七生までも祟るぞと 現在女房の口をかりなだめつおどしつ言ふ故に 神はウソをば云はないと思ひ込んだが病みつきで 近所隣や親族のとめるも聞かず家倉を 二足三文に売飛ばし残らずお金にとりまとめ 何れ此世が替るのだ物質的の財宝は ガラガラガラガラメチヤメチヤと今になるのは知れてゐる 結構な神の御教を人より先に聞いたのは ヤツパリ身魂のよい故だコリヤ斯うしては居られぬと お寅婆さまのお言葉を一も二もなく承諾し 夫婦は茲にウラナイの信者の中の世話役と 選まれ朝から日暮まで碌でないもの食はされて 蕪大根芋牛蒡これを唯一の御馳走と 今まで勤めて来ましたがタク、テクさまやお菊さまの 今の話を聞くにつけどうやら眼がさめかけた 五六七成就の大神と得意になつてゐたけれど どうやら此奴ア怪しいぞ小北の山の古狸 俺の体を宿として巣ぐつてゐるに違ひない 女房お福の体にも古い狸が巣をくんで 天眼通だといひながら女房の眼をくらませつ 妙な所を見聞きさせ馬鹿にしてるに違ひない 思へば思へば恥しや騙したお寅さまは憎けれど これもヤツパリ昔から悪を働いた其酬い 今に現はれ来たのだろこんな事にて今迄の 罪や汚れがスツパリと払はれ清まる事ならば 真に安い代償だかうなる上は三五の 誠の神の御教を遵奉なして道の為 世人の為に真心を捧げまつらむ惟神 神の御前にねぎまつるお福よお前もこれからは 心をスツパリ立直し旭の豊栄昇り姫 なぞといふよな慢心を致しちやならない惟神 神に目ざめて竹公が一寸お前に気をつける あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 お千代は壇上に登り、小さき顔に笑を湛へながら歌ひ出した。 お千代『天地を造り給ひたる尊き誠の神様の 智慧と力に比ぶれば神の生宮人間の 知識と力は大海の水一滴に如かざらむ そは云ふものの人は又万の物の霊長だ 尊き神が守護して守り給へる上からは 決して曲の犯すべき道理はなかろ、あの様に 一心不乱に真心をこめて天地の神様を 祈り遊ばす上からは其信仰の力にて 八岐大蛇も醜鬼も金毛九尾も如何にして 犯さむ由もなかるべしこれの御山に集まれる 人は残らず世の中にすぐれて正しき人ばかり ちつとは理解のある方と思うて居たに情なや 子供の私の目にさへも分り切つたる詐りが 欲に迷うた魂にやてつきり誠と見えるそな 尊き誠の神様を朝から晩まで誹謗して 名もなき詐り神どもを立派なお宮の中に入れ 鬚面男が嬉しそに十能のやうな手を合せ 一生懸命に祈るさま横から眺めた其時は フツと吹出し笑ひこけ尻餅ついてべべよごし 松姫さまにお叱言を頂戴致した事もある ホンに人間といふものは身欲に迷うた其時は 二つの眼もくらみはて耳は塞がり曲事が 神の慈言に響くのか五官の作用は忽ちに 大変調を来しつつ肝腎要の心霊まで ねぢけ曇りてあとさきの見えぬ心の盲目と なつて憐れな生涯を送るに至るあはれさよ 松姫さまは朝夕に皆さま方の迷信を 払ひて誠の大道に救はむものと心をば 配らせ給ひ皇神の真の御名を讃へむと 心を焦ち給へども神素盞嗚大神や 豊国姫大御神かかる尊き神名を 公然唱ふるものならば蠑螈別が目をむいて 御機嫌殊に斜なり婆アさままでが尾について いかい小言を云ふ故にこらへ忍んで今日迄も 館を別になされつつ人に聞かさぬやうにして 誠の神を一心に祈つて厶つた甲斐あつて 今日はいよいよ天地を包んだ雲は晴れ渡り 誠の日の出神様が輝き給ふ如くなる 目出度き道の開け口謹みここに祝します 只何事も神様の深き仕組にあやつられ 曲津の神の手をかつてよせられ来たのに違ひない 心の曇つた人間を初めの中から正直な 誠ばかりを教へたら中々容易によりつかぬ それ故天地の神様は曲津のなすが儘にして 御目をとぢて黎明の来る時をば待たせつつ 迷へる魂を天国にお救ひ下さる有難さ これを思へば皆さまが今まで神に尽したる 事に一つも仇はない皆神様の御神業 立派に仕へまつりたる殊勲者なれば力をば 落さずとみに弱らさず益々勇気をほり出して 今日から身魂を立直し小北の山の神殿に 誠の神の御光が輝き渡るを待ちませう あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 喜久公は壇上に登り述懐を歌ふ。 喜久公『蠑螈別や魔我彦の神の司に従ひて 北山村を出立しやうやう此処に来てみれば 坂照山の急坂をコチコチコチと穿ちゐる 二人の親子がありました不思議と側に立ちよつて あなたは何れの神様かお名告りなされて下されと いと慇懃に尋ぬれば坊主になつた鶴嘴を 巌の上に投げ出して滴る汗をふきながら わしは丑寅金の神世におちぶれて今は早 いやしき賤の野良仕事そのひまひまに此山へ 登つて岩を打砕き尊き神の鎮座ます 下津岩根を親と子が朝夕穿つて居りまする わたしも卑しき首陀なれど大将軍の生宮だ 此子の霊は地上丸何だか知らぬが自ら 一人腕がうごき出しこれ程堅い岩山が いつとはなしに平坦な場所が沢山出来ました ここに神さまを祀つたらさぞや結構になりませう 此御言葉に蠑螈別魔我彦さまは手を拍つて 実に感心々々だこれが人間だつたなら どうしてここまで開けよぞてつきりここは聖地だろ 一先づ神に伺うて実否を尋ね探らむと 私の女房のお覚をば神のうつらす生宮と 定めて祝詞を奏上しうやうやしくも伺へば 女房のお覚は手をふつて声の色まで変へながら 喜久公しつかり聞くがよいお覚はお前の女房だが 木曽義姫の生宮ぞこれから神がかる程に 此聖場に立派なる神の御舎建つまでは 決して女房と思ふなよ夜のしとねも別にして 河鹿の川で水垢離夫婦が取つて御神業に 仕へてくれる事ならば喜久公さまの守護神を 天晴現はしやりませうといと厳かに宣り給ふ 八岐大蛇の守護神か金毛九尾の身魂かと 案じ煩ふ折もあれリントウビテン大臣の 因縁深き生宮と聞いたる時の嬉しさよ それより夫婦は朝夕に普請万端気を付けて 夜の目もロクに寝もやらず御用をつとめて参りました タク、テク、お寅さまの言ふ事を真とすれば吾夫婦 話にならぬ呆け方バカの骨頂を尽したと そろそろ腹が立ち出して神のお宮を小口から こはしてやらうと思ふ折年端もゆかぬお千代さまが 清明無垢の魂に尊き神がかかられて 善悪不二の道理をば教へ給ひし嬉しさよ モウ此上は何事も皇大神の御心に 従ひまつり一言も決して不足は云ひませぬ 其日々々を楽んでしつかり御用を致しませう ここに並みゐる皆さまよ定めて私のやうな事 思うて厶つたでありませう私にならひ之からは 只何事も神のまま謹み敬ひ御奉公 身もたなしらに励みませうあゝ惟神々々 神の御前に喜久公が迷ひの雲霧ふき分けて リントウビテンの称号を御返し申し民草の 一つの数に加へられ心の限り身のきはみ 尽しまつるを平けくいと安らけく聞しめせ 偏にこひのみ奉る』 (大正一一・一二・一五旧一〇・二七松村真澄録) |
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霊界物語 | 46_酉_小北山の宗教改革2 | 15 黎明 | 第一五章黎明〔一二二五〕 一日の太陽が神の御守りの下に静に暮れ行きて、頓て平和な閑寂な夜が地の上に訪れ、遠寺の鐘の音、塒求むる鳥の声など漸くをさまり、四辺は死んだ様に静かになつて来た。鉄瓶の蓋が湯気に煽られて鳴る声が、何となくお寅婆アさまの胸に響いて、浮木の村の侠客時代を偲ばせる様であつた。蠑螈別に命の綱の恋と金とを奪はれて、眠りもやらず、胸に轟く狂瀾怒濤を抑へることにのみ疲れはて、次の間の鏡台の前に向つて、マジマジと自分の姿を見れば、両頬の痩せこけたのを見るにつけても、吾身の老い行きしこと、蠑螈別の逃去りしもさこそ無理ならじと思ふにつけ、其両眼がスグツと涙になる。 お寅『あゝこんな事ではいけない。モウ少し確りして、神様のお道を歩み直さねばなるまい』 と吾と吾手に心を引立てようとしてみたが、夜前の無念さ口惜しさが骨の節々にまでしみ込んでゐる悲しさが一時に飛び出して、忽ち金剛不壊的の信仰と覚悟を打破らうとする。 お寅『あゝあ、わしの今宵の苦しさと云つたら、石を抱かされ、算盤の上へすわらされて、無実の拷問をうけてゐるやうな苦しさだ。人と人とを繋いでゐた糸が切れて、行方も知らぬ荒野を独り寂しげに逍遥ふ心地がし出した。あゝどうしたらよからうかな。安心立命を得むとして神を信じ神を愛し、舎身的活動をやつて来たのだ。それに又何として斯様なみじめな目に会つたのだろ。世の中に不幸な人は此お寅ばかりではあるまい。さりながら又妾の様な悲痛な残酷な憂目に会つた者も又とあるまい。馬鹿らしさ、恥しさ、腹立たしさ、モウ立つてもゐても居られない様になつて来た。あゝどうしようぞいなア』 と鏡台の前に、老躯を投げつけるやうにして愚痴つてゐる。 お寅『あゝさうださうだ、人には三つの宝がある。其宝は決して物質的の宝でも、変則的情欲でもない、神様に対する恋愛だ。第一に愛、第二に信仰、第三に希望だ。此三つの歓喜を離れては、一日だつて暗黒の世の中に立つてゆく事は出来ない。あゝ誤れり誤れり、誠の神様、三五教を守り給ふ太柱神素盞嗚大神様、今日まで仁慈無限のあなたの御恵を蒙りながら、少しも弁へず、蠑螈別の邪説に従ひ、御無礼ばかりを申しました。其心の罪が鬼となつて、今私を責めて居るので厶いませう。あゝ吾敵は吾身体の中にひそんで居りました。払ひ給へ清め給へ神素盞嗚尊………』 と合掌し、悔悟の涙にくれ、稍しばし沈黙の淵に沈みつつあつた。暫くすると、何処ともなく燦然たる光明が輝き来り、お寅の全身を押し包むやうな気分がした。お寅は何時とはなしに夢路を辿つてゐた。ヂツと眠つてゐる目の底には美はしき天国の花園が開けて来た。牡丹や芍薬やダリヤの花が錦の様に咲き盛つてゐる中を、紅白種々の胡蝶と共に遊び歩いてゐるやうな、えも言はれぬ気持になつて来た。お寅はフと目をさまして独言、 お寅『あゝ仁慈深き五六七大神様の光明に照らされて、転迷開悟の花が吾胸中に開きました。薫しき風が胸を洗つて通るやうになりました。今まで人を救ひたい救ひたいとの念は時々刻々に沸騰して、胸に火を焚いた事は幾度か知れませぬ、併しながら万民所か、自分一人を救ふ事も出来なかつた、かよわい私たる事を徹底的に悟らして頂きました。自分一人の徹底した救ひは、やがて万人の救ひであり、万人の救ひは自分一人の自覚即ち神を信じ神を理解し、真に神を愛し、自分は其中に含蓄される以外にないものだと云ふことを、御神徳に依つて深く深く悟らして頂いた事を有難く感謝致します』 と悲哀にくれた涙は忽ち歓喜の涙と変り、心天高き所に真如の日月輝き渡り、幾十万の星は燦然としてお寅の身を包むが如き高尚な優美な清浄な崇大な気分に活かされて来た。お寅は俄に法悦の涙にむせ返り、褥をけつて起上り、口を滌ぎ手を洗ひ、人の目をさまさないやうと、差足抜足神殿に進んで感謝祈願の祝詞を、始めて心の底より嬉しく奏上する事を得た。実に理解と悔悟の力位結構なものはない。其心霊を永遠に生かし、其肉体をして精力旺盛ならしむるものは、実に真の愛を悟り、真の信仰に進み、そして真に神を理解し、己れを理解するより外に途はないものである。 あゝ惟神霊幸倍坐世。 お寅『暴風一過忽ちに吾身を包みし黒雲は 拭ふが如く晴れ渡り五六七の神の御慈光に 迷ひ切つたる魂も瑠璃光の如く照らされて やつれ果てたる身も魂も俄に無限の神力を 与へられたる思ひなり真如の月は村肝の 心の空に輝きて清光燦爛身を包む 銀河は長く横たはり東や西や北南 天津御空も地の底も只一点の疑雲なく 地獄は化して天国の至喜と至楽の境域に 楽しく遊ぶ身となりぬあゝ惟神々々 人の身魂は皇神の広大無辺至聖至貴 清きが上にも清らけき大神霊の分霊 吾身一つの魂の持ちよに依りて世の中は 天国浄土となるもあり地獄修羅道と変るあり 地上の小さき欲望に魂を汚され心をば 紊しゐたりし浅ましさ天国浄土は目のあたり 而も吾身の胸の内開けありとは知らずして 私利と私欲の欲界に漂ひ苦しむ世の人よ 其境遇を窺へばげに浅ましの至りなり われ先づ神に救はれぬ神に救はれ天国の 至喜と至楽を味はひぬあゝこれからはこれからは 尊き神の仁徳に報ゆる為に身を砕き 魂を捧げて道の為世人の為に何処までも 尽しまつらでおくべきか情は人の為ならず 吾身を救ふ宝ぞと悟りし今日の嬉しさよ 仁慈無限の大神の恩頼をかかぶりて 地獄と修羅に迷ひたるわれは全く救はれぬ 吾身を地獄におきながら憂瀬におちて苦める 世人を普く救はむと思ひし事の愚かさよ 之を思へば蠑螈別お民の君は吾為に 心の門を開きたる仁慈無限の救主 かく宣り直し見直せば天が下には敵もなく 恨みもそねみも消え失せてさながら神の心しぬ 思へば思へば有難き吾身の垢を洗ひます 瑞の御霊の御恵み神素盞嗚大神が 仁慈の余光を地になげて暗に苦む人草を 救はせ給ふ御心を今や嬉しく悟りけり 高姫司が称へたるウラナイ教は表向き 仁慈無限の神様の救ひの言葉と聞ゆれど 表裏反覆常ならず忽ち天候一変し 雷鳴ひらめき暴風雨吹き来る如き恐怖心 起させ霊をよわらせてむりに引込む横しまの 曲津の教と悟りたり末代日の王天の神 其妻上義姫の神リントウビテンや木曽義姫や 生羽神社や岩照姫や五六七成就の肉の宮 旭の豊栄昇り姫日の出神の義理天上 玉則姫や地の世界日の丸姫の大御神 大将軍や常世姫ヘグレのヘグレのヘグレムシヤ ヘグレ神社の大御神種物神社の御夫婦神 大根本の神木の十六柱の霊の神 なぞと怪しき御教をひねり出して愚なる 世人を欺く曲言を此上なきものと迷信し 朝な夕なに村肝の心を痛め身を削り 心肉共に痩せこけて苦みゐたる地獄道 今から思ひめぐらせばさも恐ろしくなりにけり 天津御空の日は歩み月行き星はうつろひて 銀河流るる地の上の高天原に住みながら 知らず知らずに根の国や底の国へと陥落し 日に夜に修羅をもやしつつ恋と欲とに捉はれて 苦みゐたるぞ果敢なけれ悔悟の涙はせきあへず 滂沱と腮辺に流れおつ無明の暗もあけ放れ 今日は歓喜の涙雨腮辺に伝ふ尊さよ あゝこの涙この涙世人の魂を洗ひ行く 瑞の御霊の露ならむ乾かであれよ何時までも 流れ流れて河鹿川清き水瀬の何処までも 尽くることなく暗黒の海に沈める曲人の 身魂を洗はせ給へかし神は汝と倶にあり 人は神の子神の宮神に等しきものなりと のらせ給ひし聖言は仁慈の光明に照らされて 悔悟の花の開きたる吾身に依りて実現し 証明されしものぞかし曲に汚れし吾身をば 自ら救ひよく生かし栄えて後に世の人の 霊を生かし救ひ上げ荘厳無比の天国を 普く地上に建設し国治立大御神 豊国主大御神神素盞嗚神柱 其外百の神等の大御心を体得し いよいよ進んで宣伝し神の氏子を助け行く 尊き司となさしめよ今まで暗に迷ひたる お寅が御前に慎みて懺悔し感謝し畏みて 恩頼を願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 お寅は斯くの如く精神上より生き返り、天国に復活したる心地して、入信以来始めて愉快な爽快な気分に酔はされ、感謝祈願の祝詞を三五教を守り給ふ仁慈無限の大神の御前に奏上し、欣然として吾居間に帰つて来た。此時夜はカラリと明け放れ、山の尾の上を飛びかつて、常世の春を祝ふ百鳥の声、鵲の声、いつもよりはいと爽かに頼もしく聞え来るのを沁々と身に覚ゆるに至つた。 (大正一一・一二・一六旧一〇・二八松村真澄録) |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 05 鞘当 | 第五章鞘当〔一二五九〕 ランチ将軍は慌しく奥の吾居間に帰つて見ると、清照姫、初稚姫及び片彦将軍がニコニコとして、火鉢を真中に三つ巴形となつて喋々喃々と笑ひ声を洩らして居る。ランチ将軍は之を見てやけて耐らず、忽ち一刀を引き抜き、片彦将軍をめがけて梨割にする所だが、遉二人の女にはしたない男と思はれてはとの考へから、腹立をグツと圧へ、態と素知らぬ顔して其場に進み入つた。されど其唇と云ひ手と云ひ足の先迄激しき震動を感じて居た。怒りの頂上に達した時は全身が激しく動くものである。片彦はランチ将軍の入り来りしを見て、眥を下げ、 片彦『ヤア是は是は将軍殿、何処におはせられた。いやもう二人のナイスに手を引かれ、甘酒にもりつぶされ、いかい酩酊を致して厶る、御無礼の段は平にお赦し下さいませ』 ランチ『別に尖めも致さぬが、苟くも将軍の身をもつて、即ち三軍を指揮する尊き職権を有しながら、作法を弁へず、拙者の不在中に女に現をぬかし、何の態で厶る。些とおたしなみなさい』 片彦『ヤアお説一応御尤も、拙者も部下に対して模範を示さねばならない重要の地位に立てるもの、女なんかに心を蕩かすやうな柔弱なものでは厶らぬ。併し此等両人、某に熱烈なる恋愛を注ぎ申すにより、無下に捨つるも男の情ならじと、迷惑ながら女に導かれ此処に参つた処で厶る。イヤ如何に固造のかた彦も、女の魔力には敵し得ず、骨も節もゆるみ、さつぱりガタ彦となつて了ひました。先程迄は此ナイス、貴方に熱烈なる愛を捧げて居たやうですが、もはや此通り、屋外に冷たき雪が降つて居りますれば、貴下に対する両人の恋情も冷やかになつたと見えますわい。どうかして此中の一人を貴方の御用をさせたいと思ひますが、どうしたものか、両人共首を左右に振り、ランチキ将軍のお世話にならうとも又お世話をしようとも申しませぬ、イヤもう此片彦もかたがたもつて迷惑でも何でも厶らぬ。アハヽヽヽ』 清照『モシ、ランチ将軍様、どこへ往つてゐやしたの、妾、どんなに探ねて居たか知れませぬよ』 ランチは此声に生返つたやうな心持になり、顔の色まで勇ましく、頓に元気づき、 ランチ『ヤア清照姫殿、誠に済みませなんだ、実は軍務上の件につき調査すべき事があり、暫く席を外して居りました』 清照姫『将軍様、そりや嘘でせう。妾がイヤになつたものだから、何処かへ隠れて居やしやつたのでせう、妾残念ですわ、アンアンアン、オンオンオン』 ランチ『エヘヽヽヽ、オイ片彦殿、如何で厶る、可愛いもので厶らうがな』 片彦『コレコレ清照姫殿、貴女は又変心をしましたか』 清照姫『ランチ将軍さまが、あの大きな目をむいて私に電波、イヤ電信を送つて下さつたから、どうしても返信(変心)をすべき義務があるぢやありませぬか、ホヽヽヽヽ』 片彦『アヽどうも仕方がない。どうせ片彦が二人の美女を左右に侍らせ、ナイスを一人で独占して居ても仕方がない。清照姫が変心したのも天の配剤だらう、イヤ清照姫、拙者は寛大なる勇猛心を発揮して、ランチ将軍にお任せ申す。唯今限り片彦の事は思ひ切り、ランチ将軍に貞節を尽したがよからう』 清照姫『オホヽヽヽ、あの片彦さまの虫のよい事、自惚もよい加減にして置かんせいなア。思ひもかけぬものに思ひ切れとは、マア何と云ふ自惚者だらう。好かぬたらしい。男と云ふものは、ほんとに自惚の強いものだよ』 片彦『ランチ殿、嘸御満足で厶らうのう、エーン、エーン、拙者は大に譲歩致して、年の若い初稚姫で満足致す、どうか拙者の雅量を認めて下さい』 ランチ『何なりと勝手に仰有い、両人共拙者の女で厶るぞ。ヘン馬鹿々々しい、拙者が黙言つて居るかと思つてよい気になり、図々しいにも程がある』 片彦『仰せられなランチ殿、拙者が何う致したのでもない、女の方から秋波を送り、女に頼まれて約束致せし迄の事、其女を拙者が貴下にお任せしようと云ふのだから、吾々は感謝をこそ受くべけれ、そのやうな、榎で鼻をこすつたやうな御挨拶は承はりたくない、コレ初稚姫殿、こんな分らない将軍の所に居らうよりも、私の居間に参りませう、貴女は永久に愛します』 初稚姫『エヽすかぬたらしい、私がいつ貴方を好きました。私は姉さまが好きな人が好きなのです、御免下さいませ』 片彦『何だか外の陽気が変つたと思へば、初稚姫様の鼻息までが変つて来たわい、ハヽ、ウン、分つた、恥かしいのだな、人前を作つて居るのだな。ウンウンヨシヨシ可愛いものだな』 と口の奥で呟いて居る。初稚姫は鋭敏な耳に此声を聞き知り、 初稚姫『モシ、片彦さま、「可愛いものだ」などと云うて下さいますな、妾、胸が悪くなりました』 ランチ『アハヽヽヽ、片彦殿、如何で厶る、色は年増が艮刺すと云ふ事を御存じかな。アハヽヽヽ』 片彦『チヨツ、エーエイ』 ランチ『片彦殿、チヨツ、エーエイとは御無礼では厶らぬか、上官の命令だ、この場を退却めされ』 片彦は鶴の一声、已むを得ず、 片彦『ヘーエ』 と嫌さうな返事をしながら二人の女に心を残し、次の間に飛び出し、襖の外から上下の歯を喰ひ締めたまま唇をパツと開き、 片彦『イーン』 と云ひながら、拳骨で二つ三つ空を打ち、 片彦『チヨツ、上官の命令だなんて、チヨツ、馬鹿にして居る、併し仕方がない、俺も上燗で一杯やる事にしよう、お民でも相手にして』 と云ひながら、すごすごと帰り往く。 ランチは片彦を室外に突き出し、二人の美人の中央に色男気取りで胡床をかき、目を細くしながら、 ランチ『これは清照姫殿、其方は此ランチの眼をよけて、いつの間にか片彦と以心伝心とやらをやつて居たのぢやないか』 清照姫『ハイ別に左様な事はありませぬ。併しながら貴方も好きですが、片彦さまの抱持さるる思想が気に入りましたから、それで私は片彦さまは何うでも宜敷いが、新しい思想だと思つて、其思想に惚れ込んで居ます。貴方が、私の思想と同じ思想をもつて下さらば、此位嬉しい事はありませぬ。実は貴方に対しては肉体美を愛し、片彦さまに対しては其思想を愛して居るのですよ』 ランチ『片彦の新思想とはどんな思想だ、俺だつて思想については、先繰り新しい書物をあさつて居るから、片彦には負けない積りだ、一体どんな事を云うて居るのだな』 清照姫『ハイ、片彦さまの思想はどうかと存じまして探つて見ました所、本当に惚れ惚れするやうな思想で厶いますよ。かいつまんで申せば、軍備不必要論者です、武備撤廃論者ですよ、そして平和な耽美生活を送りたいと云ふ、ほんとに新しい思想ですよ』 ランチ『片彦身軍籍にありながら左様な事を申したかな、それは中々もつて不都合千万……ぢやない、吾意を得たる、マヽヽヽ思想だ。ウン、さうして武術の事については、何う云うて居たな』 清照姫『武術家は臆病者だと云つて居られました。臆病者なるが故に世の中が恐ろしくなり、疑心暗鬼を生じ、敵なきに敵を作り、何人か自分を害するものはなきかと、心中戦々兢々として安らかならず、常に自己保護の迷夢に襲はれ、武術を練り、柔術などを稽古するのだと云うて居られました。ほんとに世の中に愛善の徳さへあれば、虎狼でも悦服して、決して其人に敵するものではありませぬ。況して人間に於てをやです、私はこの思想が大に気に入りました。心に邪悪分子を含んで居るものは、徒に人を怖がり人を恐るるものです。かかる人間が身を護るために剣術柔術を学ぶものです。地獄界に籍を有し、八衢に彷徨うて居るものが武術を志すものです、低脳児や殺人狂の徒が喜んで人命を奪ひ財産を奪ひ、或は人の国土を奪ひ或は人の子女を辱かしめ、悪逆無道の限を尽して英雄豪傑と誇り、其驕慢券とも云ふべき窘笑を、胸にブラブラ下げて居るのは、本当に時代後れだと片彦さまが仰有いましたよ』 ランチ『それだと云うて、世界に国家として存在する以上は軍備は必要だ。仮令ミロクの世となつても軍備の撤廃は出来ない、さう新思想にかぶれて仕舞つては駄目だ。一方に偏せず片寄らず、其中庸を往くのが最も安全の道だらうよ』 初稚姫『姉さま、ランチ将軍さまのお言葉は、本当に間然する所ありませぬが、併しながら三五教の治国別さまとやらを、深い陥穽へ突つ込み遊ばしたと云ふ事をチラリと聞きましたが、それを聞くと、本当にゾツと致しますね』 清照姫『さう、さうなの、アヽいやらしい、何とランチさまも甚い事をなさいます、私それを聞いて俄にこの人がどことはなしに嫌になつて来ましたよ。矢張片彦さまがお優しくて、仰有る事が新しうて、胸の琴線に触れるやうですわ』 ランチは慌てて、 ランチ『イヤイヤ決して私がしたのではない、片彦の計らひで致したのだ。彼奴は偽善者だから、其方達の前でそんな事を云うて居るのだ。彼奴は武断派の隊長、軍国主義の張本だ。併しながらあの治国別及び竜公と云ふ奴は、どうしても許す事の出来ない奴だ。これを許さうものなら、バラモン軍は根底より破壊せられなくてはならない、大黒主の大棟梁様に申訳ない、又竜公とやら、吾軍の秘書役を勤めながら敵に裏返つたのだから、陥穽に陥つて斃るのも自業自得だ、仮令愛する汝のためなればとて、是ばかりは赦す事は出来ない』 清照姫『妾この館に左様の人が九死一生の苦みをしてゐらしやるかと思へば、恐ろしくて仕方が厶いませぬ。どうか何処かへ雪見にでも連れて往つて下さいな』 ランチ『アハヽヽヽ、遉は女だな。気の弱い事を云ふものだ。併し其弱いのが女の特色だ、女の可愛い所なのだ。さらば、これより早速雪見の宴を催すため、入口の風景の佳き物見へ往つて、酒汲み交しながら楽しむ事と致さう』 清照姫『ハイ、早速の御承知、有難う厶ります。サア初稚姫さま、将軍の後について、少し遠うは厶いますが、物見櫓までお供を致しませう』 ランチ『この積雪に、女の足では行歩になやむだらう。幸ひ駕籠があるから、従卒に舁がしてやる』 初稚姫『姉さま、さう願ひませうかな』 清照姫『此丈の雪の中、どうせ駕籠で送つて貰はねば、とても歩けませぬわ』 ランチはポンポンと手を拍つた。次の間に控へて居た二人の副官は慌しく出で来り、 二人の副官『将軍様、何か御用で厶いますか』 ランチ『ウン、今日は稀なる大雪だ。四方は一面の銀世界、雪見の宴を催すから、お前達も供をせい。そして駕籠を五六挺持つて来いと云うて呉れ』 二人の副官は、 二人の副官『ハイ』 と云つたきり早々に此場を立つて出でて往く。 ランチは、アーク、タール、エキス、蠑螈別等の所在を従卒に命じ探さしめ、雪見に伴ひ往かむとしたが、折柄の積雪に埋もつて居たため発見する事が出来なかつた。此時お民は片彦将軍の居間に招かれて、いろいろと片彦の意味ありげな話に、膝をモヂモヂさせながら苦しさうに時を移して居た。ランチ将軍は四人の姿の見えざるに、どこか雪見でもする積りで郊外に往つたのだらうと思ひ、二人の副官と二人の美人を伴ひ、五人連れ駕籠に揺られながら物見櫓をさして進み往く。地上二尺許りの積雪に、駕籠舁の足音はザク、ザク、ザクと馬丁が押切りにて馬糧を切るやうな音をさせ、綺麗な雪道にスバル星を数多印しながら、漸くにして物見櫓に安着した。此処に炭火を拵へ、酒の燗をなし、雪見の酒宴を催す事となつた。 一方片彦はランチ将軍が二人の女を伴ひ、物見櫓に雪見の宴を張つて居ると云ふ事を、従卒の内報によつて聞き知り、大方蠑螈別其他も同伴せしならむと、二挺の駕籠を命じ、お民と共に宙を飛んで物見櫓をさして進み往く。 (大正一二・一・一二旧一一・一一・二六加藤明子録) |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 10 天国の富 | 第一〇章天国の富〔一二六四〕 現界即ち自然界の万物と霊界の万物との間には、惟神の順序によりて相応なるものがある。又人間の万事と天界の万物との間に動かすべからざる理法があり、又其連結によつて相応なるものがある。そして人間は又天人の有する所を総て有すると共に、其有せざる所をも亦有するものである。人間はその内分より見て霊界に居るものであるが、それと同時に、外分より見て、人間は自然界に居るのである。人の自然的即ち外的記憶に属するものを外分と称し、想念と、これよりする想像とに関する一切の事物を云ふのである。約言すれば、人間の知識や学問等より来る悦楽及び快感の総て世間的趣味を帯ぶるもの、又肉体の感官に属する諸々の快感及び感覚、言語、動作を合せて之を人間の外分となすのである。是等の外分は何れも大神より来る神的即ち霊的内流が止まる所の終極点に於ける事物である。何故なれば、神的内流なるものは決して中途に止まるものでなく、必ずや其窮極の所まで進行するからである。この神的順序の窮極する所は所謂万物の霊長、神の生宮、天地経綸の主宰者、天人の養成所たるべき人間なのである。故に人間は総て神様の根底となり、基礎となるべき事を知るべきである。又神格の内流が通過する中間は高天原にして、其窮極する所は即ち人間に存する。故に、又この連結中に入らないものは何物も存在する事を得ないのである。故に天界と人類と和合し連結するや、両々相倚りて継続存在するものなる事を明め得るのである。故に天界を離れたる人間は鍵のなき鎖の如く、又人類を離れたる天界は基礎なき家の如くにして、双方相和合せなくてはならないものである。 斯の如き尊き人間が、其内分を神に背けて、高天原との連絡を断絶し、却て之を自然界と自己とに向けて、自己を愛し、世間を愛し、其外分のみに向ひたるにより、従つて人間は其身を退けて再び高天原の根底となり、基礎となるを得ざらしめたるによつて、大神は是非なく、茲に予言者なる媒介天人を設けて之を地上に下し、其神人をもつて天界の根底及び基礎となし、又之によつて天界と人間とを和合せしめ、地上をして天国同様の国土となさしめ給ふべく、甚深なる経綸を行はせたまうたのである。この御経綸が完成した暁を称して、松の代、ミロクの世、又は天国の世と云ふのである。そして厳の御霊、瑞の御霊の経緯の予言者の手を通じ口を通じて聖言を伝達し、完全なる天地合体の国土を完成せしめむとしたまうたのである。大本開祖の神諭に『天も地も一つに丸めて、神国の世に致すぞよ。三千世界一度に開く梅の花、須弥仙山に腰を掛け艮の金神守るぞよ。この大本は天地の大橋、世界の人民は此橋を渡りて来ねば、誠のお蔭は分らぬぞよ』と平易簡明に示されて居るのである。されど現代の人間は却てかかる平易簡明なる聖言には耳を藉さず、不可解なる難書を漁り、是を半可通的に誤解して其知識を誇らむとするのは実に浅ましいものである。 治国別は竜公と共に言霊別命の化相身なる五三公に案内され、珍彦の館を後にして中間天国の各団体を訪問する事となつた。五三公は得も云はれぬ麗しき樹木の秩序よく間隔を隔てて点綴せる、金砂銀砂の布きつめたる如き平坦路をいそいそとして進んで往く。道の両方には、天国の狭田、長田、高田、窪田が展開し、得も云はれぬ涼風にそよぐ稲葉の音はサヤサヤと心地よく耳に響いて来る。天人の男女は得も云はれぬ麗しき面貌をしながら、瑪瑙の如く透き通つた脛を現はし、水田に入つて草取をしながら勇ましき声に草取歌を歌つて居る。太陽は余り高からず頭上に輝きたれども、自然界の如く焦げつくやうな暑さもなく、実に入り心地のよい温泉に入つたやうな陽気である。さうして此天国には決して冬がない、永久に草木繁茂し、落葉樹の如きは少しも見当らない。田面は金銀色の水にて満たされ、稲葉は青く風に翻る度毎に金銀の波を打たせ、何とも筆舌の尽し難き光景である。五三公は途中に立ち止まり、二人を顧みて微笑みながら、得も云はれぬ喜びの色を湛へて、 五三公『治国別様、御覧なさいませ、天国にも矢張り農工商の事業が営まれて居ます。さうしてあの通り各人は一団となつて其業を楽しみ、歓喜の生活を送つて居ります。実に見るも愉快な光景ぢやありませぬか』 治国別『成程、実に各人己を忘れ一斉に業を楽しむ光景は、到底現界に於て夢想だも出来ない有様で厶いますな。さうして矢張彼の天人共は各自に土地を所有して居るので厶いますか』 五三公『イエイエ、土地は全部団体の公有です。地上の世界の如く大地主、自作農又は小作農などの忌はしき制度は厶いませぬ、皆一切平等に何事も御神業と喜んで額に汗をし、神様のために活動して居るのです。さうして事業に趣味が出来て、誰一人不服を称ふる者もなく、甲の心は乙の心、乙の心は甲の心、各人皆心を合せ、何事も皆御神業と信じ、あの通り愉快に立ち働いて居るのです』 治国別『さうすれば天国に於ては貧富の区別はなく、所謂社会主義的制度が行はれて居るのですか』 五三公『天国にも貧富の区別があります。同じ団体の中にも富者も貧者もあります。併しながら、貧富と事業とは別個のものです』 治国別『働きによつて其報酬を得るに非ざれば、貧富の区別がつく筈がないぢやありませぬか。同じやうに働き、同じ物を分配して生活を続ける天人に、どうして又貧富の区別がつくのでせうか』 五三公『現界に於ては、総て体主霊従が法則のやうになつて居ます。それ故優れたもの、よく働くものが多く報酬を得るのは自然界のやり方です。天国に於ては総てが神様のものであり、総ての事業は神様にさして頂くと云ふ考へを何れの天人も持つて居ります。それ故天国に於ては貧富の区別があつても、貧者は決して富者を恨みませぬ。何人も神様のお蔭によつて働かして頂くのだ、神様の御神格によつて生かして頂くのだと、日々感謝の生活を送らして頂くのですから、貧富などを天人は念頭に置きませぬ。そして、貧富は皆神様の賜ふ所で、天人が各自の努力によつて獲得したものではありませぬ。何れも現実界にある時に尽した善徳の如何によりて、天国へ来ても矢張り貧富が惟神的につくのです。貧者は富者を見て之を模範とし、善徳を積む事のみを考へて居ります。天国に於ける貧富は一厘一毛の錯誤もなく、不公平もありませぬ。其徳相応に神から授けらるるものです』 治国別『天国の富者とは、現界に於て如何なる事を致したもので厶いませうか』 五三公『天国団体の最も富めるものは、現界にある中によく神を理解し、愛のために愛をなし、善のために善をなし、真の為に真を行ひ、自利心を捨て、さうして神の国の建設の為に心を尽し身を尽し、忠実なる神の下僕となり、且又現界に於て充分に活動をし、其余財を教会の為に捧げ、神の栄と道の拡張にのみ心身を傾注したる善徳者が所謂天国の富者であります。約り現界に於て宝を天国の庫に積んで置いた人達であります。さうして中位の富者は、自分の知己や朋友の危難を救ひ、又社会公共の救済の為に財を散じ、隠徳を積んだ人間が、天国に来つて大神様より相応の財産を賜はり安楽に生活を続けて居るのです。そして天国で頂いた財産は総て神様から賜はつたものですから、地上の世界の如く自由に之を他の天人に施す事は出来ませぬ。ただ其財産を以て神様の祭典の費用に当てたり、公休日に天人の団体を吾家に招き、自費を投じて馳走を拵へ大勢と共に楽しむので厶います、それ故に天国の富者は衆人尊敬の的となつて居ります』 治国別『成程、実に平和なものですな、本当に理想的に社会が造られてありますなア』 竜公はしやしやり出で、 竜公『モシ五三公さま、もしも私が天国へ霊肉脱離の後、上る事を得ましたならば、定めて貧乏人でせうな』 五三公『アヽさうでせう、唯今直に天国の住民となられるやうな事があれば、貴方はやはり第三天国の極貧者でせう。併し再び現界に帰り、無形の宝と云ふ善の宝を十分お積みになれば、天国の宝となり、名誉と光栄の生涯を永遠に送る事が出来ませう』 竜公『それでは聖言に、貧しきものは幸なるかな、富めるものの天国に到るは針の穴を駱駝の通ふよりも難し、と云ふぢやありませぬか』 五三公『貧しきものは常に心驕らず、神の教に頼り、神の救ひを求め、尊き聖言が比較的耳に入り易う厶いますが、地上に於て何不自由なく財産のあるものは、知らず知らずに神の恩寵を忘れ、自己愛に流れ易いものですから、其財産が汚穢となり暗黒となり或は鬼となつて地獄へ落し行くものです。若しも富者にして神の為に尽し、又社会のために隠徳を積むならば、天国に上り得るの便利は貧者よりも多いかも知れませぬが、世の中はようしたもので富者の天国に来るものは、聖言に示されたる如く稀なものです。其財産を悪用して人の利益を壟断し、或は邪悪を遂行し、淫欲に耽り、身心を汚し損ひ、遂に霊的不具者となつて大抵地獄に落つるものです。仮令天国に上り得るにしても、天国に於ける極貧者です』 竜公『治国別さまが、今天国の住民となられましたら何んなものでせう、相当の富者になられませうかなア』 五三『ハヽヽヽヽ』 と笑つて答へず。 竜公『ヤア先生も怪しいぞ、矢張これから天国の宝をお積にならねばなりますまい』 五三『サア是から霊陽山の名所に御案内致しませう』 と早くも歩を起した。二人は後に従ひ、麗しき原野を縫うて、樹木点綴せる天国街道を歓喜に満たされながら進んで往く。五三公は霊陽山の麓に辿りついた。 五三公『此処が第二天国の有名なる公園地で厶います。今日は公休日で厶いませぬから、余り天人の姿も見えませぬが、これ御覧なさいませ、あの山の景色と云ひ、岩石の配置、樹木の色、花の香、到底地上の世界では見られない景色で厶いませう』 治国『ハイ、何だかぼんやりとして、私の目には入りませぬ』 五三公『被面布をお被りなさい、さうすればハツキリと分るでせう』 治国別『ハイ』 と答へて治国別は直に被面布を被つた。竜公も同じく被面布に面を包んだ。 治国『何故、吾々の目には被面布がなくては、此麗しき景色が目に入らないのでせうか』 五三公『失礼ながら、天国の智慧に疎きものは此樹木花卉が目に入らないのです。総て神の智慧に居るものの前には、各種各様の樹木花卉にて満ちたる楽園の現はれるものです。是等の樹木は最も麗しき配列をなし、枝々交叉して得も云はれぬ装ひをなし、薫香を送るものです。総て天国は想念の国土でありますから、貴方に神的智慧が満つれば、直ちに天国の花園が眼前に展開致します。園亭あり、行門あり、行径あり、行く道の美麗なる事、言語の尽す所ではありませぬ。故に神の智慧に居るものは、斯の如き楽園の中を漫歩しながら、思ひ思ひに花を摘み花鬘を作りなどして、楽しく嬉しく暮し得るものです』 治国別『成程、此楽園には被面布を透して眺めますれば、種々雑多の樹木、花卉の吾々地上に嘗て見ざるものが沢山ございますな』 五三公『是等の麗しき樹木は正しき神の知識に居るものの愛の徳如何によりて花を開き実を結ぶものです。厳の御霊の神諭にも「一度に開く梅の花、開いて散りて実を結び、スの種を養ふ」とあるでせう。開く梅の花とは、智慧と証覚とに相応する情態の謂であります。斯くなる時は、天国の園亭や楽園に実を結ぶ樹木及び花卉は神の供へ物として、又天人各自の歓喜の種として各自の徳によつて現前するものです。高天原には斯の如き楽園のある事は聞いては居りますが、唯是を実際に知る者は、唯神よりする愛善の徳に居る者及び自然界の光と其偽りとによつて自己の胸中にある所の天界の光を亡ぼさなかつた者に限つて居ります。故に高天原に対して目未だ見えざるもの、耳未だ聞えざるものは、現に其場に近づき居ると雖も、此光景を見る事も亦斯の如き麗しき音楽の声を聞く事も出来ませぬ』 治国別『種々の御教諭、いや有難う厶いました。これで吾々も大変に神様の御恵を頂き、どうやら被面布を取つてもこの花園の光景が見えるやうになつて参りました。嗚呼神様、言霊別命様の御化身なる五三公様の口を通して、天国の福音をお示し下さつた其御恵を有難く感謝致します。アヽ惟神霊幸倍坐世』 (大正一二・一・一三旧一一・一一・二七加藤明子録) |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 13 月照山 | 第一三章月照山〔一二六七〕 治国別、竜公両人は、十二人のエンゼルに導かれ、宮殿の奥深く進み入つた。併しこの宮殿は都率天の前殿とも前宮とも称へられ、最奥の御殿ではなかつた。最奥の御殿は大至聖所と称へられ、大神の御居間である。此居間は、如何なる徳高きエンゼルと雖も一歩も踏み入れる事は出来ない。日の若宮と称へられ、大神は高天原の太陽として御姿を現じたまふ所である。故に証覚の最も勝れたる天人のみ、遥に其お姿を八咫の鏡の如く拝するを得るのみである。神は総て円満の相にましますが故に、此処にては太陽と現はれ給ひ、其御光は自然界の太陽の幾百倍とも知れない光を放たせたまひ、容易に仰ぎ拝する事は出来ない。併し大神は諸団体の天人の前に太陽として現はれ給ふ時がある。其時は和光同塵的態度をもつて、第一天国の天人には地上に於ける太陽の七倍の光をもつて現はれたまひ、第二天国に在りては五倍の光をもつて現はれたまひ、第三天国には二倍の光をもつて現はれたまふが例のやうに承はる。これはほんの大要であつて、各団体、各天人個々の善徳の如何によりて、其光に強弱の度があるのである。又時には一個の天人となつて団体中に現はれ給ふ時もある。さうして最奥の大至聖所に於ける大神の御経綸と其御準備に至りては、如何なる証覚の勝れたる天人と雖も、明白に之を意識する事は出来ない。其故は至貴至尊にして至智至聖なる大神の御神慮は天人の思慮の及ぶ所に非ず、証覚の達せざる所なるが故である。 高天原の天界に於て一切を統合するものは即ち善徳である。此善徳の性相の程度の如何によつて天界に差別を生ずるに至るものである。さうして斯の如く諸天人を統合するは、決して天人が自作の功に非ずして善徳の源泉たる大神の御所為である。大神は総ての天人を導き、之を和合し、之を塩梅し又其善徳に住する限り之をして自由に行動せしめ給ふのである。斯くて大神は天人をして各其所に安んぜしめ、愛と信と智慧と証覚を得て其生涯を楽しましめ給ふのである。故に大神の御側へは容易に進む事は出来ない。言霊別命は奥殿深く進み給ひ、治国別、竜公は神界の都合によりて或機会により、天国巡覧修業に上り来りし由を奏上し、大神の許しを受け、茲に盛大なる酒宴を前殿に於て催さるる事となつた。先づ正面には言霊別命正座し、相並んで西王母其右に座を占め、治国別、竜公は其傍に座席を設けられた。さうして十二人のエンゼルは麗しき葡萄の酒を雲脚机に載せ、恭しく目八分に捧げて四人の前に静に之を据ゑた。次には麗しき桃の実を雲脚机に一つ一つ載せ、一つは治国別の前に、一つは竜公の前にキチンと据ゑられた。西王母は玻璃の盃を先づ言霊別命にさし、葡萄酒をなみなみとつぎ給うた。言霊別命は押頂いて之を飲み、盃洗の水に洗ひ、懐より紙を取出し、盃をよく拭き清め治国別にさした。治国別は押頂き、西王母より葡萄酒を又八分ばかり注がれ、幾度も押頂いて之を飲み、又もや盃洗に滌ぎ拭き清めて竜公に渡した。竜公は盃を押頂き、感謝の涙に暮れて居る。西王母は膝をにじり寄せ、竜公の盃に半分ばかりつがせたまうた。之にて盃は終りをつげた。一人の天女は徳利や盃を雲脚机に据ゑた儘目八分に持ち、次の間に運んだ。この葡萄酒は大神の血と肉とにもたとふべき最も貴重なる賜であつた。この酒を飲む時は心の総ての汚れを払拭し、広大なる神力を授かり、且つ永遠の生命をつなぎ得るものである。次に西王母は天女の運び来りし二個の桃を両人に与へ、速かに此場に於て食すべき事を命じ給うた。二人は命の儘に押頂き、其風味に驚喜しつつ静かに腹中に納めて仕舞つた。不思議にも種は米粒の如く小さく、いつとはなしに種もろとも咽喉を通つて仕舞つたのである。この桃実は前園に実りしものにして、三千年の齢を保つと云ふ目出度き神果である。西王母は一言も言葉を発したまはず、ニコニコとしながら二人の顔を嬉しげに眺め居たまうた。十二の天女は笛、太鼓、鼓、羯鼓、其外種々の楽器を吹奏し、面白き歌を爽かな声にて歌ひ、其中の最も若く見ゆる四人の天女は長袖淑に胡蝶の舞を舞ひ終り、一同に辞儀をなし、衣摺れの音サヤサヤと次の間に姿を隠した。さうして竜公は、玉依別と云ふ神名を賜ひ、喜び勇む事一方ならず、何事か歌を歌つて、感謝の意を表せむとしたが、天国の光に打たれ、是亦一言も発し得なかつた。 西王母がこの二人に向つて此宴席に於て一言も言葉を発したまはなかつたのは、畏れ多き大神のお側近き前殿であつたから、遠慮をせられたのである。西王母の如き尊き証覚の神さへ謹慎を表し、一言も発したまはざる位なれば、言霊別命も亦沈黙を守り、治国別、玉依別は、一言を発せむにも発し得なかつたのである。 暫くあつて以前の舞姫は、二人の麗しき婦人を先に立て此場に現はれて来た。治国別は其二人の女に何処ともなく見覚えのあるやうな感がしたので、頻りに首を傾げよく見れば、豈計らむや、先に立つた女は紫姫であつた。さうして紫姫は、玉照彦を嬉しげに懐に抱き、何事か玉照彦に向つて顔の表情をもつて囁きつつ西王母の左側に座を占めた。も一人の女をよく見れば、お玉の方であつた。お玉の方は玉照姫を懐に抱き、同じく何事か表情をもつて玉照姫に囁きながら静々と西王母が右側に座をしめた。治国別、玉依別の両人はハツと驚き思はず知らずアヽと云つたが、其後の言葉は継げなかつた。西王母は紫姫、お玉の方に目配せし給うた。紫姫はスツと立つて治国別の前に座をしめ、得も云はれぬ笑顔を作りながら玉照彦を治国別の懐に抱かせた。又お玉の方はスツと立つて玉依別の前に進みより、嬉しげに笑顔を作り、玉照姫を玉依別に抱かしめ、二人は静々と西王母の左右にかへつた。暫くすると天女二人、治国別、玉依別の前に現はれ、一人は玉照彦を、一人は玉照姫を大事さうに抱へ、奥殿の大神の御殿をさして足音を忍ばせながら静に進み入つた。言霊別命は西王母に目礼をなし、二人を手招きしながら此御殿を出でて往く。二人は同じく西王母に目礼をなし、言霊別の後に従ひ前殿を出でて往く。それより中門を潜り表門に出た。 因に此前殿に於て、玉照彦、玉照姫を抱かせたまひたるは、深き意味のおはする事ならむも、二人は其何の意たるかを解し得なかつた。併し何れは其意味の判然する時が来るであらう。読者は楽しんで発表の時機を待たれむ事を希望する次第である。 三人は表門に出た。幾千人とも知れぬ麗しき天人は、各麗しき金色の旗を神風に翻へしながら、言霊別命他二人の前途を祝する如く見えた。二人は夢ではないかと思ひながら、麗しき樹木や花卉の道の両側に茂れる金砂の敷きつめたる如き坦々たる大道を、天津祝詞を奏上しながら、数多の天人が喜びの声に送られて、何処ともなく、言霊別命と共に進み往くのであつた。 言霊別命は、とある麗しき山上に二人を伴ひ、四方の風景を眺めながら、此処に腰を下し休息をした。二人も同じく側に腰を下し、天国の荘厳に打たれて唖然たるばかりであつた。 言霊『治国別さま、玉依別さま、大変な貴方はお蔭を頂きましたなア、お祝ひ申します』 治国『何ともお礼の申し様が厶いませぬ。大神様は貴方の御身を通し、吾々如きものに斯かる尊き神庭に導きたまひ、結構な賜物まで頂きまして、何とも早や感謝の情に堪へませぬ』 玉依『私も色々と御神徳を頂いた上、神名まで賜はりまして、実に何と申してよろしいやら、吾任務の益々重大なるを悟りました。これと申すも全く大神様の御仁慈、貴神様の御取りなし、実に感謝に堪へませぬ』 言霊別『拙者は大神様の命に依りてお取次を致したばかり、感謝を受けては困ります。総て天国のものは何事も皆神様の御所為と信じて居りますれば、感謝などせられては実に困ります。貴方等に感謝の言葉を受けるのは、要するに神様の御神徳を私する事になります。何卒此後は如何なる事ありとも、私に対して感謝の言葉を云つて下さるな。是ばかりは固く願つて置きます。どうぞ神様に感謝して下さいませ』 治国『ハイ有難う厶います、キツと今後は心得ませう』 と云ひながら両手を合せ、茲に両人は紫微宮の方に向つて感謝の祝詞を奏上した。 言霊別『此処は第一天国の楽園で、聖陽山と申します。皆さま、被面布をお除りなさいませ。最早此処迄参りました以上は、お除りになつても能く分ります。貴方は前殿に於て生命の酒を与へられ、加ふるに結構な桃の実迄も与へられ給うたのですから、もはや最高天国の諸団体を御巡覧になつても目の眩むやうな事もなく、又総ての天人の言語も明瞭に分ります。私はこれにて貴方等に対する今回の使命は終りました。どうぞ自由に天国団体をお廻り遊ばし、月の大神のまします霊国の月宮殿に御参拝の上、御帰顕あらむ事を望みます、さらば』 と云ひながら、又もや大光団と化して、天の一方に其英姿を隠させたまうた。二人は其後を眺め、暫く伏し拝み居たりしが、治国別は玉依別に向ひ、 治国別『ヤア玉依別殿、実に結構な事では厶らぬか。言霊別命様は昔の神様と承はつて居たが、現在吾前に現はれて、種々と結構な教訓を垂れたまひ、又もや五三公となつて身を下し、吾等を導きたまひし其尊さ、有難さ、治国別はもはや感謝の言葉さへ出なくなりましたよ』 玉依別(竜公)『仰せの如く結構な御導きに預かり、こんな嬉しい事は復と厶いますまい。アヽ神様、この悦びと栄えをして永遠に吾等に臨ませたまへ、惟神霊幸倍坐世』 治国別『惟神霊幸倍坐世』 と手を拍ち感謝の涙に袖を霑して居た。是より二人は天国の諸団体を一々訪問し、各団体の天人より意外の優遇を受け、感謝に満ちた境涯を送りながら、是より霊国の月宮殿に詣でむと聖陽山を乗り越え、霊国の中心を目当に道々祝詞を奏上しながら進み往く。 局面忽ち一変して紫、赤、黄、白さまざまの花咲き匂ふ大野ケ原に二人は立つて居た。 玉依別(竜公)『モシ治国別さま、見渡す限り際限なき百花爛漫たる大原野、これが所謂霊国で厶いませうかなア』 治国別『サア、霊国らしう厶いますなア。誰人か天人に会つて尋ねたいものです』 と話す折しも、一人の宣伝使、霊光に四辺を輝かせながら後より足早に、オーイオーイと声かけ進み来る。二人は立ち止まり、宣伝使の吾側に近づくを待つて居た。 宣伝使(大八洲彦命)『私は大八洲彦命と申す霊国の宣伝使で厶います。貴方は治国別、玉依別のお二方では厶いませぬか』 二人はハツと大地に踞み、 治国別、玉依別『ハイ、仰せの通り、治国別、玉依別の両人で厶います。貴方は吾々が日頃慕ひまつる月照彦様の前身、大八洲彦命様で厶いましたか、存ぜぬ事とて甚い失礼を致しました。何卒不都合の段お赦しを願ひます』 と嬉し涙に暮れながら答へた。大八洲彦命は両人を従へ、スタスタと東を指して進み往くその足の早さ。二人は後れじと一生懸命にチヨコチヨコ走りになつて従いて行く。何時の間にやら小高き丘陵の上に着いて居た。大八洲彦命は二人に向ひ、 大八洲彦命『此処は霊国一の名山、月照山と申します。此山は御存じの通り実に平坦な場所で厶います。是より私と奥へお進みになれば、月の大神様の宮殿なる月宮殿と云ふ立派な御殿が厶います。サア、も一足です、急ぎませう』 と又もや急ぎ歩み出した。二人は漸くにして七宝をもつて飾られたる門の前に辿りついた。数多の麗しき天人は大八洲彦命の帰館を出で迎へ、音楽や歌をもつて歓迎の意を表するのであつた。大八洲彦命は諸天人に一々挨拶を返しながら、七つの門を潜つて邸内深く進み入る。二人は後に従ひ勢よく数多の天人に会釈しながら、月宮殿さして急ぎ往く。 大八洲彦命は二人を導き、殿内深く進み、数多の天女に命じ、珍らしき果実や酒などを饗応し、歌舞音曲を諸天人に奏せしめ、其旅情を慰めた。二人は感謝の涙に咽びつつ、大八洲彦命の命のまにまに珍らしき飲食を喫しつつ、口中に天津祝詞の奏上を怠らなかつた。奥殿より金色燦爛たる御衣を着し、麗しき容貌に得も云はれぬ笑を湛へ、此場に現はれ給うた大神は、最前紫微宮に於て、桃園の案内をされた西王母であつた。西王母の後には巨大なる月光が影の如くつき従ひ輝いて居た。大八洲彦命は恭しく頭を下げ、王母に向ひ、 大八洲彦命『お蔭によりまして、治国別、玉依別の両人は漸く天国の修業を果しました。これ全く大神様の御恵と、両人にかはり、厚く御礼申上げます』 と恭しく奏上した。二人はハツとばかり頭を下げ、畏まり居る。西王母は両人の側近く進み給ひ、左手に治国別、右手に玉依別の手を固く握り、涙を落させ給ひ、 西王母『汝等両人、能くも神命を重んじ天国霊国の巡見を全うせしよ。其熱誠は感賞するに余りあり。汝等二人は是より天の八衢に向つて帰り往け、汝が教へ子、アーク、タールの両人が、キツと迎へに来るであらう。さすれば汝等両人は元の肉体に帰り、素盞嗚尊の神業に参加し得るであらう。名残は尽きざれど、これにて訣別するであらう』 と御声までも打ち湿り、振返り振返り奥殿指して帰り給ふ。二人はハツと後姿を伏拝み、感慨無量の態であつた。大八洲彦命は両人に向ひ、 大八洲彦命『サラバ、拙者はこれにてお別れ申さむ。神業のため随分御精励あれ』 と云ひ捨て、又もや鮮麗なる光となつて、其姿を東天に隠した。これより二人は祝詞を奏上しながら、中間天国を越え、下層天国をも乗り越え、神業に参加すべく天の八衢を指して帰り往く。 (大正一二・一・一三旧一一・一一・二七加藤明子録) |