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霊界物語 64_下_卯エルサレム物語2 11 狂擬怪 第一一章狂擬怪〔一八一七〕 守宮別、お花の両人は漸くにして橄欖山上に登り、涼しい樹蔭に佇み、風に面をさらし乍らくだけたやうな、嬉しさうな顔をして、暫く抱擁キツスをやつてゐると、後の林からバタバタバタと妙な音がしたので二人はビツクリして猫が交尾むだあとのやうに両方にパツと三間許り分れて了つた。 お花『何だいな、人をビツクリさして、私は又、お寅さまぢやないかと思つたのに、鷹の奴、本当に私の肝玉をデングリかへしよつたわ』 守宮別『ハヽヽヽヽ、お寅は昔の高姫の身魂の再来だから、鷹が現はれてビツクリさせよつたのも、マンザラ因縁のない事もあるまい、フツフヽヽヽ』 お花『ア、いやらしい、あのタのつく奴に碌なものは一つもありやしないわ。狸に田吾作にタワケに高姫、まだまだタントタント、タ印はあるけれど、気に喰はないもの許りだわ、それに一番いかない奴は高歩貸、猪飼野の権さまだつて、到頭鬼になつて了つたぢやありませぬか』 守宮別『ウツフヽヽヽヽ、同じタでも高天原は、どうだい』 お花『そのタと此タとはタの種類が違ひますわ』 守宮別『叩き潰して喰ふタはどうだい』 お花『好きな人に叩き潰され、喰はれるのは満足ですわ』 守宮別『タゴール博士やスタール博士はどうだい』 お花『青目玉の赤髭の毛唐人さまなんて、ネツカラ虫が好きませぬわね。初めて自転倒島からお寅さまと一緒に来た時、旦那さまと英語でペチヤペチヤ云つてゐた毛唐さまも、矢張タがついてゐたやうですな』 守宮別『ウン、ありやお前、有名なお札博士のスタールさまと云ふシオン大学の先生だよ』 お花『大学の先生ナンテよい加減のものですな。貴方のやうな立派なお方や、私のやうな美人を、よう認めなかつたぢやありませぬか』 守宮別『何と云つてもお寅の、あのスタイルでは一寸見た所、威厳が無いからのう。私だつて鉛を銀だと云ひ鷺を烏として紹介するのは大変に苦しかつたよ。うすいうすいメツキのかかつた救世主だもの、直に生地が見えるのだから、どうする事も出来なかつたよ。然しお前なら容易に生地は見えまい、何と云つても都育ちだからなア、お寅のやうに山のほ寺の荒屋住ひで年を取つた代物とは、テンで比べ物にならないからな、あの時お前が日出神と名乗つてゐたなら、うまくいつたかも知れないよ』 お花は嬉しさうに、 お花『そら、さうでせうね、何程研いても金は金、瓦は瓦ですもの。もし旦那さま、これから私が救世主と名乗つても成功するでせうかな』 守宮別『そりや無論の事だ。お前なら大丈夫だ。正札付の救世主だよ』 お花『これ、旦那さま、物も相談ぢやが、一つお寅さまの向ふを張り、ブラバーサの面皮をむく為に、新ウラナイ教を立てようぢやありませぬか。そして世界万民の救世主と仰がれて見ようぢや厶いませぬか』 守宮別『そら、面白からう、然し救世主の役はお前か、私か、どちらにしたら宜いか』 お花『そら、云はいでも、きまつてゐますがな。天照大御神様でも女でせう。平和の男神と云ふものはありませぬからな』 守宮別『いかにも、さう聞けや、さうだ』 お花『キリスト教だつて聖母マリヤがあしらつてあればこそ、その宗教が天下に拡まつてゐるのですよ。仏教だつて阿弥陀さま丈では駄目です。お釈迦さまを産んだ麻耶夫人もあり、又三十三相具備した観世音菩薩や弁才天があしらつてあるものだから、仏教は燎原の火のやうに世界に燃え拡がり、三千年も立つた今日迄命脈を保つてゐるのですよ。三五教だつて坤の金神と云ふ女神さまをあしらつてあるぢやありませぬか。どうしても宗教を開かうと思へや女をあしらはねば駄目ですわ』 守宮別『さうすると、何だな、世の中はサツパリ女尊男卑にして了ふのだな』 お花『そら、さうですとも、三五教でさへも霊主体従と云つてるでせう。霊は女性を意味し、体は男性を意味してるぢやありませぬか』 守宮別『いかにも、御尤も、分つてる。ソンナラ、之からお前をお花大明神と崇め奉らう』 お花『いやですよ、お花なぞと、私は難浪津に咲くや此花冬籠り、今を春べと咲くや木花と、帰化人の王仁博士が歌つておいた、難浪津に生れたチャキチャキのお花ですもの、どうか木花姫命と云つて下さいな、あの雲表に聳えてゐるシオン山を御覧なさい、あの山だつて日出島の富士山に、よく似てるでせう。世界の国人は、あの山を尊称してシオンの娘と云つてるぢやありませぬか』 守宮別『ナル程、どうしてもお前は俺よりは役者が一枚上だ。そんなら今日から改めてお前をシオンの娘、木花姫命、新ウラナイ教の大教主と尊称を奉らうかな』 お花は嬉しさうにニコニコし乍らチツト許りスネ気分になり、体をプイとゆすつて口に手をあて、 お花『ホヽヽヽ、何うなと御勝手になさいませ』 守宮別『お気に入りましたかな、イヤ重畳々々。これで愈三千世界の救世主もきまり新ウラナイ教の組織も出来たと云ふものだ。サア之から一万円の資本を以て大々的活躍を試みようかい』 お花『これ旦那さま、又しても一万円一万円と仰有いますが、此一万円だつて使つたら、減つて了ひますよ。此金はマサカの時の用意とし、貴方と二人の生活費位は新宗教の所得で補ふやうにせなくちや駄目ですよ』 守宮別『何と、お前は大変な経済家だのう』 お花『そら、さうですとも、生馬の目をぬくやうな競争の烈しい大都会の真中で、一文なしから立派な家屋敷を買求め、あやめのお花と云つて満都の有情男子の肝を焦らしたと云ふ兵士ですもの。世の中は経済を知らなくちや何事も成功しませぬよ。金さへあればバカも賢う見え、貴族院議員だ、衆議院議員だ、国家の選良だと、持て囃されませうがな。矛盾議員だつて、着炭議員だつて、楠の子の墓議員だつて、墓標議員だつて、ヤツパリお金の力ですわ。私だつて文なしの素寒貧だつたら、旦那さまの目には馬鹿に映るでせう。又一層、顔の皺が深く見えるでせう』 守宮別『成程感心だ、然し乍らこれから新宗教を樹立しようと思へばチツト許りは資本が要るよ。先づ第一に政府に運動して、宗教独立の認可を受けねばならぬなり、相当の出資は覚悟せなくちやなるまい。お前だつて一足飛びに世界の救世主となるのだもの、少し位の犠牲は覚悟して貰はなくちやならないよ』 お花『それや、チツト許り運動費の要る位の事は私だつて知つてゐますわ』 守宮別『○○教[※聖師校正前は「天理」教]が独立したのも運動費の百万円は要つたさうだし、××教[※聖師校正前は「金光」教]の独立の際も五十万円の金を撒いたと云ふ事だ。陣笠議員に出ようと思つても五万や十万の金は飛ぶのだからな。そして万一、マンが悪くて落選でもして見よ。十万円の金を溝に放つたやうなものだ。そして、おまけに落選者の名を天下に吹聴されるのだ。その事を思へば一万円の運動費位費つた処で落選する事はないのだから安いものだよ』 お花『一万円も運動費を費つて教主になつた所でつまりませんわ。せめて三千円位で成功出来ますまいかな』 守宮別『そら、さうだ。表から運動と出かけりや、到底二万や三万の端金では駄目だが、そこは運動の方法によつて三千円でも漕ぎつけない事はない。然し此芸当は俺ぢやなくちや打てない芝居だ』 お花『そら、さうでせうとも。貴方、手続きをどうしてするお考へですか』 守宮別『マア、さうだな。幸に日出島へやつて来られた時、懇意になつたお札博士のスタールさまも、此大学に居られるし、タゴール博士も今迄二三回も文通をしておいたし、キツト成功疑なしだよ。どうしても今の世の中はレツテルの流行る世の中だから博士とか大臣とか華族とかの名を列べて、顧問にせなくちや、嘘だからな』 お花『「前車の覆へるのは後車の警め」と云ふ事が厶いませう。何卒博士や大臣、華族を引張込むのなら、手段として止むを得ませぬが、人物のよしあしを調べてかかつて下さいや。三五教の変性女子のやうに、シヤツチもない、ガラクタ文学士の鼻野高三さまや、鼻野中将なぞ、ドテライ爆裂弾を抱へ込みて数十万円の借金を負はされ、後足で砂かけられるやうな下手な事になつちやつまりませぬからな』 守宮別『ソンナ事に抜目があるものかい。マア安心したがよからう』 かく話す所へシオン大学の教授を終り、白い帽子を頭に頂き乍ら、太いステッキをついて彼方へ向つてボツボツ歩み出す紳士があつた。守宮別は一目見るより、 守宮別『ヤア、お花、あれが有名なタゴール博士だよ。あの人に頼めば大丈夫だからな。しかし、運動費が先立つから、お前一寸三千円許り貸てくれないか』 お花『今、ここに現金は所持して居りませぬ。郵便局に行つて来にや、間にあひませぬわ』 守宮別『いかにもさうだつたね。それでは一つ俺が博士に会つて話して見るから、お前が来ると却て、いかないから、一寸ここに待つてゐてくれ。どうやら西坂から帰られるやうだからね』 お花『この機会を逸せず、早くおつついて掛合つてみて下さいな』 守宮別『よし、ソンナラ行つて来る。お花、暫くここに待つてゐてくれ。どこの男が通つても話しちやいけないよ』 と云ひ乍ら横向いてペロリと舌を出し、 守宮別『サア愈お花の懐から三千円の現ナマを引出す手蔓が出来た』 とホクホクし乍ら、タゴールの後を追ふて西坂の下り口へと駆り行く。お花は吉凶如何にと、片唾をのんで木蔭に佇み、のび上り乍ら様子を見てゐる。守宮別はタゴールの後から坂を下つて行く。二人の白い帽子が空中を歩いてゐるやうに見えた。 守宮別『もし貴方はタゴール博士ぢやありませぬか』 タゴールは一寸立止まり、後振り向いて、 タゴール『ハイ、拙者はタゴールです。貴方はどなたで厶りますか。ネツカラお目にかかつた事は厶いませぬが?』 守宮別『ハイ、私は日出島から宗教視察に参りました守宮別と云ふ海軍軍人で厶います。シオン大学も仲々立派に建築が出来ましたね。これも全く貴方等のお骨折の結果で厶いませう』 タゴール『ハイ、有難う、仲々学校事業と云ふものは思つたよりも費用の要るもので、容易に完備する所へは行きませぬ。貴方も宗教視察においでになつたのなら、どうです、シオン大学に入学なさつては』 守宮別『ハイ、有難う厶います、此頃一寸許り脳を痛めてゐますので、エルサレム病院になりと入院致し、全快しました上お世話になりませう。どうかその時は宜しくお願ひ申します』 タゴール『ハイ、承知致しました。十分の便宜を図りますから御安心下さいませ』 守宮別『ソンナラ、どうか宜しくお願ひ致します。貴方の権威と勢望によつて私の目的を達成するやう御尽力下さいませ。お願ひ致します』 タゴール『ハイ、確に承はりました。左様なら』 と軽き挨拶を交し坂道を下り行く。 何事にも疑ひ深い、あやめのお花は実否を探らむものと差足、抜足、守宮別とタゴールの問答を聞かむものとやつて来たが『頼む、承知した』の一言を耳に入れ、やつと安心しホクホクしてゐる。守宮別は、 守宮別『サア、之から、うまくお花をちよろまかさう』 と後振りかへり見れば坂道の木の茂みからお花がニユツと顔を出した。守宮別は……サア失敗た……、とサツと顔色が変つたが、元来の横着物、そしらぬ顔で、 守宮別『ヤア、お花、お前ここへ来て居たのか、博士と私の話を残らず聞いたのだらう』 お花『ハイ、全部は聞きませなかつたが、流石は守宮別さま、偉いお腕前、お花も感心致しました、どうやら博士が承知して呉れたやうですな』 守宮別は此言に虎穴を逃れたやうな心持で、ソツと胸を撫で下ろし、鼻の先でフーンと息し乍ら、 守宮別『オイ、お花、俺の腕前は大したものだらう。かうなりや三千円の運動費は出さねばなるまい。又お前の懐をゑぐつて済まないけどな』 お花『目的が成就する為のお金なら、たとへ一万両要つたつて構ひませぬわ。サア之からシオン大学の立派な建築を拝見して帰りませうよ』 守宮別『帰らうと云つたつて、霊城を飛び出した以上宿がないぢやないか。一体どこへ帰るつもりなのだい』 お花『ホヽヽヽヽ、守宮別さまの初心な事。あんなトルコ亭の路地のやうな処にある霊城なんかに居つたつて、世間の聞きなれが悪くて仕方がありませぬわ。堂々と僧院ホテルの間借りでもして活動にかからうぢやありませぬか』 守宮別『成程、そいつは面白い。サア早く帰らう、どうやら機関の油が切れさうだ。酒のタンクが空虚を訴へ出した』 お花『ホテルに行つて、又シツポリ御酒でも頂きませう、ホヽヽヽ』 と笑ひ乍ら橄欖山を下らむとするところへ、霊城の受付をやつてゐたヤクがスタスタとやつて来るのに出会つた。ヤクは息をはずませ乍ら、 ヤク『ヤアお二人様、大変に探して居りました、サア帰りませう』 お花『これ、ヤクさま、お寅さまの様子を聞いただらうな』 ヤク『ハイ、エルサレムの町を貴方の行衛を尋ねて、ブラついて来ますと十字街頭に黒山の如き人の影、何事の珍事が突発せしかと、人込の中からソツと窺つて見ればお寅さまが目をまかして居る。警察医が飛んで来て注射したり、いろいろと介抱をした結果、お寅さまがたうとう息を吹きかへしました。トンクとテクの奴、お寅さまを俥に乗せ、自分も後前を俥で警固し乍ら、霊城さして帰り行く姿を確に認めました。又二三日して身体がよくなつたら煩さい事でせうよ』 お花『これ、ヤクさま、お前は、あれ丈私に毒ついておいて、何しに来たのだい』 ヤク『何しに来たつて、貴方の家来にして貰はうと思つたからですよ。職業紹介所へ行つて就職口を世話して貰はうと思ひましたが、あまり沢山な希望者で、三百人の就職口に五千人の希望者があるのですもの、到底お鉢が廻りませぬわ。どうか男一匹助けると思つて使つて下さいな。その代りに碗給で結構で厶いますから』 お花『私は今日改めて守宮別さまと結婚をしたのだから、その積りで居つて下さいや。そしてお寅さまの動静時々を洞察して報告して下さい。それさへ立派につとまるのならば、番犬を一匹飼ふたと思つて、使つて上げますわ、ホヽヽヽヽ』 ヤク『もしお花さま、否奥さま、番犬とは殺生ぢやありませぬか、なア旦那さま』 と守宮別の顔を見る。 守宮別『フヽヽヽヽ、マア大切にして上げるよ。私と二人に使はれて見なさい。お寅さまのやうなヒドイ使ひやうはせないからな』 ヤク『ハイ有難う、お役に立つ事なら、どんな事でも致しませう』 ここに三人は、急ぎ橄欖山を下り、僧院ホテルに宿をとるべく、山麓より自動車をかつて意気揚々と進み行く。 (大正一四・八・二〇旧七・一於由良北村隆光録)
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(2918)
霊界物語 64_下_卯エルサレム物語2 12 開狂式 第一二章開狂式〔一八一八〕 守宮別、お花、ヤクの三人は、僧院ホテルの立派なる座敷を、三間ぶつ通しに借り切り、奥の間には、新ウラナイ教の御本尊、シオンの娘、木花咲耶姫を奉斎し、その生宮として、アヤメのお花は天晴教主となり済ますこととした。発起者は夫婦主従〆て三人、先づ祭典も無事に済み、直会の酒宴に移つた。守宮別は新宗教創立を祝する為め、酒に酔つ払つた怪しい口元から、祝歌を歌ふ。 守宮別『天も清浄地も清浄清浄無垢の御霊体 アヤメの君は今此処に三千世界の救世主 世界に名高き神の山シオンの娘木の花の 咲耶の姫と現れまして浮瀬に沈む民草を 愛と善との神徳に御霊を包み信真の 光を世界に輝かし天の岩戸を開かむと 現はれ玉ひし尊さよ扨ても世界の初まりは 神伊邪那岐の大御神神伊邪那美の大御神 夫婦の神が現れまして天の御柱国柱 見立て玉ひて汝は右へ廻らせ給へ吾は左 廻り合はむと宣り給ひ婚の業を初めまし 諸多の御子を生み生みて生みの果てには山川や 草木の神迄造りまし遂には光明赫々と 輝き渡る大日婁女天照る神を生み給ひ 広き世界に神国を立てさせ給ひし古事に 習ひまつりて吾々は那岐那美二尊にかたどつて アヤメの君と盃をいとり交しつ神の為め 世人の為めに聖場をこれの聖地につき堅め 百の人草草木迄救はむ為めのこの祭 あゝ惟神々々アヤメの君があればこそ ヤクの奴が居ればこそ守宮別の太柱 添ふて居りやこそ今日のよな誠に誠に結構な 新宗教の創立が完全無欠に出来たのだ もしもお寅が居つたなら一から百迄蕪から 菜種の屑に至るまでごてごてごてとさし出口 日の出の神の生宮を振り廻されて吾々は 一生頭が上らないこれを思へば此間の 喧嘩は却て吾々の大幸福となつたやうだ 昔の古い諺に人間万事塞翁の 馬の糞とはよく云つたわいがの烈しい女神さま 何程御神業と云つたとて鼻持ならず好物の 酒さへ味が悪くなるシオンの娘と現れませる アヤメのお花の教主さまわいがもとべらも有りはせぬ 頭に霜は見ゆれども却て雅趣を添へるよだ これも全く神さまの水も漏さぬ御仕組 守宮別も二三十年若返りたる心地する あゝ有難い有難い何より彼より第一に 命の水の酒呑みて昔の綺麗なナイスをば 座右に侍らし優姿梅花のやうな唇の 間からチヨイチヨイ現はれる象牙のやうな歯の光 瑪瑙のやうな爪の色梅花のやうな頬の艶 天地の幸福一身に独占したやうな気がしよる エヘヽヽヽヽエヘヽヽヽコンナ所をお寅奴が 一寸覗いた事ならば嘸や泣くだろ怒るだろ 二人の髻をひつ掴み金切声を張り上げて 近所合壁大騒動燗徳利は宙に舞ひ お膳や茶碗はがちやがちやと木端微塵に潰滅し 嵐の跡の花の山見る影も無き惨状を 現出するに違ひないあゝ惟神々々 御霊の恩頼を願ぎまつる』 お花『オホヽヽヽ、遉はこちの人、何とまア当意即妙の結構なお歌だ事。傍に聞いて居ても胸がすき、頭がせいせいとして来ますわ。なぜ又旦那さまはコンナ知恵を持つて居ながら、今迄隠して居たのですか。鼠とる猫は爪隠すとは能く云つたものだなア。アヤメのお花の一身に対しては、本当に旦那さまは好い掘り出しものだよ』 守宮別『これこれ肉宮さま、縁起の悪い、放出し者だなどと云つて貰ひますまいぞや。二つ目には気に入らぬと云ふて放り出されては耐らないからな』 お花『ホヽヽヽヽ。妾は決して放り出しませぬよ。旦那さまの方から放り出ないやうに頼みますわ』 守宮別『よし、そのだんは安心して呉れ。棚池の生洲の鼬がついたやうなものだ。命のない所迄離れつこは無いからな』 お花『あれ程大切にして居られたお寅さまでさへも、弊履を捨つるが如くに思ひ切つて素知らぬ顔をして厶るのだもの。第二のお寅さまにしられちや耐りませぬからね』 守宮別『そこ迄心配しては際限がない。俺がお前を愛する程度といふものは、丸切り砂糖の固りに蟻がついたやうなものだよ。も一つ違つたら、蛙を狙ふ蛇のやうなものだ、どこ迄も徹底的にくつついて行くのだからなア』 お花『ホヽヽヽ、砂糖に蟻がついたなぞと、余り有難くもありませぬわ』 守宮別『それでもお花、いや女房、生宮さま、有難いよ。甘いものはありがたがる、えぐいものや苦いものはありがたがらぬ、と云ふ事があらうがな』 お花『旦那さまは、妾を余程甘いと見縊びつて厶るのですな。砂糖に譬るとは余りですわ』 守宮別『それやお花は甘いよ、花と云ふ奴みな甘い蜜を持つて居るので、蜜蜂やドカ蜂がブンブンと喰ひつくぢやないか。俺だつてお花の蜜を吸ひたくなるのは当然だよ。お花は砂糖でもあり、砂糖よりまだ甘い佐渡の土を持つて居るから、尚ほ俺が好きなのだよ。エヘヽヽヽ』 お花『又しても又しても佐渡の土だナンテ、旧めかしい文句を云ふて下さいますな。ホヽヽヽヽ』 守宮別『これ肉宮さま。今日は創立の祝ひだから、肝腎の生宮さまから宣言歌を歌つて貰ひ度いものですな』 お花『なんだか衒れくさくて歌へませぬわ』 守宮別『ヘン、何を云ふのだい。矢張り結婚すると、娘のやうに恥かしさが分るのかいな。非が蛇でも、蟻が鯛でも、芋虫が鯨でも、山の芋が鰻になつても、笹の葉が鰌になつても、今日許りは宣言歌をお謡ひなさらにや駄目ですよ。その歌をつけとめて置いて印刷屋へ廻し、ビラを作つて自動車に乗り、市中へバラ撒かねばならぬからな』 お花『ナントまア。救世主にならうと思へば気の張る事だわい。ソンナラシオンの娘、木の花姫の生宮が宣言歌を謡ひませう。一言も漏れなくつけとめて下されや』 守宮別『エ、宜しい。承はりました。分つて居る。併し乍ら、ヤクさまの方が余程筆が達者だからなア。ヤク、お前が一つ筆記役になつて呉れないか』 ヤク『ハイ謹みて御用承はりませう』 守宮別『ウンよしよし、アこれで謡ひ役に、聞き役、書き役と、三拍子揃ふた。目出度い目出度い、サア生宮様、 歌ひなされやお歌ひなされ 歌ふて御器量は下りやせぬ あーコリヤコリヤ』 と謡ふて立ち上り踊り始める。アヤメのお花は日の丸の扇を両手に持ち、長い裾を引きずつて、すらすらとお手のものの踊を始め出したり。 お花『此処は世界の中心地点暗の世界もパレスチナの 珍の都のエルサレム三千世界の梅の花 一度に開く時は来て前代未聞の救世主 シオンの娘木花の咲耶の姫が再臨し アヤメのお花の肉体を自由自在に使用して お寅婆さまやブラバーサ訳の分らぬ宣伝使 瞬く間に打きつけ至粋至純の聖道を 開くも尊き今日の宵花も匂へよ蝶も舞へ 千歳の鶴も舞ひ込めよ亀も這ひ込んで万歳を 祝ぎまつれ神の家やがて独立宗教の 大看板を掲げつつ三千世界の民衆に 歓喜の雨を濺ぎかけ正真正銘の救世主 生神さまと謡はるる其暁も近づいた 竜宮海の乙姫も今日限り暇呉れて 三十二相又三相具備し給へる木の花の 姫の尊の肉の宮アヤメのお花が今茲に シオンの娘と現はれて三千世界の隅々も 漏さず落さず救ひ行く実にも目出度き今日の日は 天澄み渡り地の上は春の青草萠え出でて 開闢以来の救ひ主大降臨を待つ如し 思へば思へば有難や喜び祝へ百の人 慕ひまつれよ救世主アヤメのお花の肉宮を。 ホヽヽヽヽ、どうかこれ位で耐らへて頂戴な。何だか恥かしくて後が続きませぬもの』 守宮別『妙々。天晴々々。天下の救世主だなア。ヤク、お前も感心しただらう。お寅さまに比べて、どちらが立派だと思ふか』 ヤク『それやさうですな、本当にさうですよ』 守宮別『そりやさうですな、では分らぬぢやないか、どちらが優れて居るかと問ふて居るのだ』 ヤク『ヘエヘエ、それやもう、テンで段が違ひますわい、比べものになりませぬがな』 お花『これこれヤクさま、どちらが優れて居ると云ふのだい』 ヤク『ハイ、何と云つても、かんと云つても何ですな。それや矢張り、優れて居る方が優れて居ますなア』 お花『怪体な事云ふ男だな。ハツキリ云ひなさらぬかいな』 ヤク『御本人の前ですもの、大抵にして御推量下さいな』 お花は自分が褒められて居るのだと思ひ、満面に笑を湛へ、目を細め、横目でヤクの顔を一寸見ながら、 お花『ホヽヽヽ、遉はヤクさまは目が高いわい。それでこそ守宮別さまの添へ柱、確り頼みますぞや』 直会の式も漸く終了し、お花が郵便局から出して来た三千円の現金を懐中しながら、新宗教独立の運動をして来ると云ひ残し、守宮別は漂然としてホテルを立ち出で、タゴールの館へは行かず、駅前の青楼さして登り行く。 (大正一四・八・二〇旧七・一於由良秋田別荘加藤明子録)
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霊界物語 65_辰_虎熊山と仙聖郷の物語/七福神 26 七福神 第二六章七福神〔一六八二〕 日の出別命の左右には道彦、安彦の両人が従ひ、初稚姫一行を導いて数百旒の五色の旗を風に翻し乍ら、百花爛漫たるゲッセマネの園にと進み入つた。玉国別一行が竜王の三個の玉を捧持して来りし其功績を賞する為め、特に埴安彦尊の命により歓迎宴が開かれた。ゲッセマネの園には種々の作物や、音楽や演劇が盛んに催されて居た。さうしてコウカス山よりは、言依別命が数多の神司を引き連れ、二三日前に早くも聖地に到着されて居た。 玉国別、真純彦は途中に於て初稚姫に『聖地は結構な所の恐ろしい所だ』と誡められ、筋肉迄緊張させ居たにも拘はらず、この大袈裟の歓迎に肝をつぶし、夢かと許り呆れてゐる。只見るもの、聞くもの意外の事許りで語る事も知らず、無言の儘初稚姫の後について進んで往く。日出別の神は俄作りの建物をさし示し、 日の出別『サア皆様、貴方方の御苦労を慰める為め、神様の思召によつて、種々の余興が催されて居ます。これから此建造物に於て、七福神宝の入船と云ふお芝居が初まりますから、悠悠気をゆるして御覧下さいませ』 玉国別は案に相違しながら、 玉国『いや、どうしてどうして、そんな気楽な事が出来ませうか。真純彦に持たせた此宝玉を、無事神様にお渡しする迄は、芝居所では厶いませぬ。是ばかりは平にお恕し下さいませ。うつかりして九分九厘で顛覆しては大変ですからなア』 と何処迄も警戒し体を固くして居る。 日の出別『決して決して御心配なさいますな。此通り貴方方の御到着を祝ふために宝の入船と云ふ神劇が催されて居るのです。貴方も宝を抱いてヨルダン河を船にて渡り、この聖地へお這りになつたのですから、宝の入船の主人公は貴方方ですよ』 玉国『ハイ。真純彦、お前はどう考へるか。どうも大教主のお言葉が私には些と許り解し兼ねるのだがなア』 真純『先生、これや神様から気を引かれて居るのかも知れませぬよ。兎も角お断りを申て、早く此玉を埴安彦の神様にお渡しして来うではありませぬか。さうでなくてはお芝居を見る気がしませぬわ』 初稚『決して御心配は要りませぬ。這入つて御覧なさいませ。いやいや貴方方が役者にならねばならぬのですよ。やがて治道居士、伊太彦、三千彦、デビス姫、ブラヷーダさまが見えることですから、七福神になつて貰ふ積りです。治道居士さまは布袋、玉国別さまが寿老人、真純彦さまが毘沙門天、伊太彦さまが大黒さま、三千彦さまが恵比寿さま、それから、デビス姫さまが弁財天、と云ふやうに、各自にちやんとお役が定つて居るのです。サアどうぞ楽屋へお這入り下さい。私等は見せて貰ふのです。実の所は貴方方に役者になつて貰ふのですから、是も御神業だと思つてお勤め下さいませ』 玉国『ハテナ、些とも合点が往きませぬわ。御命令とあれば俄俳優になつてもよろしいが、てんで台詞が分りませぬからねえ』 日の出別『台詞なんか要りませぬよ。其時神様が憑つて口を借りて仰有いますから、承諾なさればよいのです』 真純『モシ先生、イヤ寿老人さま、神様の命令だ、千両役者になりませうか』 玉国『何と云つても神様の御命令とあれば背く訳には行きますまい。勤めさして頂きませう。そして三千彦、伊太彦はもはや此方へ見えて居りますか。どうしても吾々とは二三日後れるやうに思ひますがなア』 言依別『時間空間を超越したる神の道、そんな御心配は要りませぬ。直に今此処へお出になりますよ。総て神様の御国は想念の世界ですから、想念の儘になるのです。此処が外の地点とは違つて尊い所以です。さうでなくてはエルサレムと云つて神様がお集まり遊ばす道理がありませぬから』 玉国『左様ならばお受け致します』 真純『私も先生と同様お受を致します』 と云ふや否や、二人の姿は忽ち七福神の中の一人となつて居た。いつの間にやら、治道居士、三千彦、伊太彦、デビス姫、ブラヷーダ姫其外の人々は集まり来りて、何れも七福神の姿となつて居る。愈茲に七福神宝の入船の奉祝神劇は演ぜられた。数多の神司や信者は、此広き建物の中に、立錐の余地なき迄に集まつて、愉快げに観覧し、其妙技を口を極めて賞揚した。神劇の次第は左記の通りであつた。 抑我日の下は神の御国なり天地ひらけ陰陽分れ 青人草を始めとし万物爰に発生して 天地人の三体備はりぬ天津御国の太元は 大国常立の大御神又の御名は天照皇大御神なり 地津神の太元は豊国主の大御神又の御名は神素盞嗚尊 豊葦原の瑞穂の国産土山の底津岩根に宮柱太敷立て 三五の神の都を奠め賜ひしより千代万代に動ぎなく 天下泰平国土安穏五穀成就万民鼓腹撃壤の楽みを享く 実に有難き神の国の草木も靡く君が御代 かくも目出度国の中に四海波風豊にて 雲井の空に寿ぎ舞ふ鶴や千年の松の緑の色深く 万歳の亀も楽しむ天教の山の高く澄みきる月のあたり たなびく霞の中よりも真帆をば風に孕ませつ 浮かれ入り来る宝の御船七五三の静波かきわけて 積み込む宝の数々やまばゆきばかりあたりを照らす うるはしさ 丁子や分銅の玉の袋に黄金の鍵もかくれ蓑 七宝壮厳の雨に濡れし小笠の露や玉の光と 打出の小槌七福神の銘々が 乗合舟の話こそ面白き。 中にも口まめな福禄寿長い天窓を振り立てて、 福禄『天下無双のナイスお弁さま、イナ弁財天女どの、貴女は新しい女と見えて、こんな変痴奇珍な男子計りの船の中へ、案内もせないのに、何と思つて同席の栄を賜はつたのかな』 弁天女は面恥ゆげに莞爾と笑み乍ら、 弁天『ホヽヽヽ、アノまあ福禄寿さまの御言葉とも覚えませぬ。好く考へて御覧、何程新しい女だとて、ナイスだとて、五百羅漢堂を覗いたやうなスタイルして居らつしやる醜男子の側に来られないと云ふ法律は発布されては居りますまい。五六七の御代が開ける魁として、今度エルサレムの宮に於て、玉照彦命、玉照姫命二柱の神様のお目出度い御婚礼があるので、御祝のため貴神等は、この宝舟に乗つて聖地エルサレムの竜宮城へ昇られるのでせう。何程福の神だと云つて、男子許りでは花も実もありますまい。昔から七福神は聞いて居るが、六福神は聞いた事が無い。夫れで妾が天津神様の御命令で、俄に貴神等の仲間に加はつたのですよ』 福禄『コレお弁さま、御心配下さるな。この福禄寿一神あつても下から読み上げて見ると十六福の神だよ。ヘン済みませぬナア。そこへ寿老人(十六神)を加へて三十二神ですよアハヽヽヽヽ。それよりも身の上話でも聞かして貰つた上、都合によつて加へて上げようかい』 弁天『三十二神の処へ妾が一神加はれば、三十三相の瑞の御魂ですよ。一神欠けても三十三魂にはなりますまい。女は社交上の花ですからねー。妾の素性を一通り聞かして上げますから、十六神さま謹聴なさいませホヽヽヽヽ』 六福『謹聴々々ヒヤヒヤ』 弁天『妾は神代の昔の或る歳、頃は弥生の己の巳日、二本竹の根節を揃へて、動ぎ出でたる嶋だと云ふので、竹生島と称へられる、裏の国の琵琶の湖に浮べる一つの嶋に、天降りました天女の中でも、最も勝れたナイスの乙女ですよ。自分から申しますと何んだか自慢するやうですが、神徳があまりあらたかなと言ふので、世人より妙音弁財天女と崇められ、妾の身体は引張り凧の様に日の下の国の四方に分霊を祭られて居ります。先づ東の国では江の島、西の国では宮嶋に、今一体は勿体なくも古、伊邪那岐尊、伊邪那美尊の二柱の神様が天の浮橋に渡らせたまひ、大海原に天降り、始めて開かれたる淤能碁呂嶋、その時、鶺鴒と云ふ小鳥に夫婦の道を教へられ、天照大神を生み給ふてより、又一名を日の出嶋と名付けられ、この国人に帰依せられ、福徳を授けしによつて、美人賢婦の標本として七福神の列に加はつた事は、十六福神さまも遠うの昔に御存知の筈。アナタも何時の間にやら福禄寿でなくて、モウロク(最う六)十三になりましたねー、ホヽヽヽヽ』 福禄『ヒドイなア』 六福『アハヽヽ。オホヽヽヽヽヽ』 顔色の黒いのを自慢の大黒天は、槌を持つた儘座に直り、 大黒『弁天ナイスの今の話を聞いた以上は拙者も男だ。一つ身の上話を初めて見よう。一同御迷惑ながら御聴聞なさいませ。 抑も拙者は、神素盞嗚大神の御子にて、八百米杵築の宮に鎮まりし、大国主命でござる。生れつきの慈悲心包むに由なく、貧しき者を見るに付け、不便さ忍び難く、一切の衆生に福徳を与へむとして心を砕き、チンチンチン一に米俵を踏まへて、二に賑はしう治めて、三に栄えの基となり、四ツ世の中悦んで、五ツいつも機嫌よく、六ツ無病息災で、七ツ難事もないやうに、八ツ屋敷を開ひて、九ツ花の倉を建て、十分満ればこぼるるぞ。コレ此槌は福を打出す槌ぢやない、お土を大切にして生命の種のお米を作れと知らすためぢや。モ一つには奢れる奴等の天窓をば打砕く槌ぢやわい。アハヽヽヽヽ』 福禄『アハヽヽヽヽ、コリヤ御尤もだ。オイ戎、コレサ聾どの、エベスどのエベスどのエベスどの貴神は、マア舳に出て釣許りして厶るは一体、こなたは何う云ふ福の神ぢやい。福の神にも色々あつて、雑巾を持つて縁板などをフクの神もあれば、尻をフクの紙もある。きつぱりと素性を明かして呉れないか』 戎『俺かい。おれはナ、何事も聞かざる、見ざる、言はざると云つて、庚申の眷属を気取り、三猿主義を固守し、只堪忍をのみ守つて居るのだ。徳は堪忍五万歳だ。抑も拙者は、蛭子の命と云つて、正月三日寅の一天に誕生した若蛭子だ。商売繁昌を祈るが故に欲の深い連中から商売の神と崇められて居るのだ。誠に目出度う候ひけるだ、アハヽヽヽヽ。十日戎の売物は、はぜ袋に、取鉢、銭がます、小判に金箱、立烏帽子、桝に財槌、束熨斗、お笹をかたげて千鳥足』 大黒『アヽコレコレさう踊り廻すと船の上は危険だ。モウ良いモウ良い御中止を願ひます』 大黒『エヽ時に寿老人殿、貴神は何時も何時も渋い面をして落付払つて厶るが、こんな芽出度い時には、チツと笑つて見せても可いぢやないか』 寿老『イヤ是は又迷惑千万、物価謄貴生活難の声喧しき、この辛い時節に、あまい顔をせよとは、粋にして且つ賢明なる方々にも似合ぬお言葉では厶らぬか。拙者は何時も苦い顔をして倹約を第一と守り、郵便貯金を沢山にして、他人に損をかけず、自分も損を致さねば、心労なき故、長命を仕るのぢや。長命に過ぎたる宝は厶らぬ。兎角、拙者の行り方を見習へば、たとへ福は授からなくとも、自然に福徳が保てますぞや』 福禄『ヘン、何程長命したとて、ソンナ苦い顔をして一生送るのなら、余り福徳でも在るまい。笑つて暮すのが、何より人生の幸福だ。高利貸の親父でも、たまには笑ふぢやないか。ナア、皆の福神連中さま』 寿老『イヤ恐れ入る。併し自分は是でも人の知らぬ心のよろこびに充ちて、楽しく日を送つて居るのだ。サテ、愚老許りお喋舌いたして皆様の交際を忘れて居た。余りの楽しさと、面白さと、今度の御婚礼の目出度さとに気を取られて、アハヽヽヽヽ。サア是からお交際申さう』 と傍にあり合ふ妻琴を引寄せ掻きならし、 (歌)『忍ぶ身や夜な夜なもゆる沢の螢火に夜更渡りぬる』 寿老『余り長いのは皆様のさはりになる。長い者を俗に長者と言ふさうぢや。ヤ、是はしたり、長い者とは福禄寿様へ差合ました。失礼々々』 布袋和尚は吹出して、 布袋『アハヽヽヽアハヽヽヽ、オホヽヽヽ、ハテ、コリヤ面白い面白い面白いハヽヽヽヽヽ奇妙々々』 毘沙門天は、むつとした顔しながら、 毘沙『ヤイ、そこな土仏坊主奴。何がそれ程可笑しいのだい。袋と腹とで乗合船の居所を狭めて居る癖に、チツと位遠慮召さつても可いだらう』 布袋『アヽ、コレコレ毘沙殿。さう腹立まいぞや、腹立まいぞや、立腹まいぞや。少々は乗合の邪魔にも成るだらうが、ソコは仲間の事だから、神直日大直日に見直し聞直してマアマア曰く因縁を聞き玉へ。夫れ一家一門附合、朋友、得意先、丸う無くては治まらないと云ふ道理は、拙者のこの天窓で判るだらう。眼まで丸い布袋和尚だ、ハヽヽヽヽ。まつた腹は大きくなければ、心がさもしいものだ。そこで愚僧が此大きい腹を突き出し、腹鼓を打つて一通りお話致すで厶らう。 「ソレ、この袋といつぱ」見たる事聞きたる事、よしあし共に忘れぬ様、中へ納めて斯の通り、もたれて居申すなり。又世に子宝と云へるが、稚き者ほど可愛者はあり申さぬ。その稚き者を団扇を持つて行司仕り居り候也。アヽ宜き楽みかな宜き楽みかな』 福禄『イヤ布袋どの、尤も尤も、尤も次手に笑はしやるのも尤も尤も。「笑ふ門へは福禄寿」サレバお咄し申しませう。夫れ天窓が長ければ背はズント低う厶る。低うなければ愛嬌を失ひます。先づ入口を這入るにも長いによつて余ります。天窓を下げて這入ります。それで愛嬌が厶るだらうがの、愛嬌ついでに皆さま、おはやし頼みます。 「越後の国の角兵衛獅子、国を出る時や、親子連れ、獅子をかぶりて、くるりと廻つて、首をふりまする、親父や、まじめで笛を吹く」 ヨー、ハヽヽヽヽ福禄寿さま、大当りだ大当りだ。アハヽヽヽヽ』 六福『併し獅子の頭が少々高過ぎるぢやないか。ハヽヽヽヽ』 福禄『ハテ、頭が高うもなければ納まらぬ事もある物だ。是もやつぱり世界の道具だからのう。ハヽヽヽヽ』 毘沙門天は居直りて、 毘沙『ムヽヽヽヽ、ハヽヽヽヽ面白し面白し、吾は異形の姿にて鉾携へし身乍らも、七福神の列に加はる其由来を物語らむ。そも不身持山の皆身(南)に当りて難渋ケ嶽の峰に住む、貧乏困神とて悪神あり、彼に徒党の奴原を悉く誠罰し諸人の患を救はむと、この日の国に天降り、日出る国信貴山に根城を構へ、追付悪神討亡ぼし、困窮の根をたやさむこと、此多聞天が方寸の内にあり、ハヽヽハヽヽハヽヽヽヽ、悦ばしや嬉しや』 と勇める顔色、威あつて尊く、実に有難き霊験なり。 皆一同にあふぎ立て、中に取分け弁財天。 弁天『何れに、おろかは無けれども、多聞天のおん物語、勇ましや。イザヤ発船、又の御げん』 とのたまふにぞ、さらばさらばと漕ぎよせて、竜宮館の水の面に、清き宝の入船や、七福神の霊験も、仁義釈教、恋無常、勧善懲悪聞明し、改過を作るその主は、近松ならで松の元、一とふし込し、竹本ならぬ国武彦の御助け、梅の香床しき一輪の、花の流れや汲み取る綾の、聖地の玉の井に、映る言霊影きよく、照り輝きし玉照姫や、暗をも照らす玉照彦二柱、九月八日の慶びを、筆にうつして末広く、伝へ栄ゆる神祝ぎの、尽きせぬ神代こそ芽出度けれ。 (大正一二・七・一八旧六・五北村隆光・加藤明子共録) (昭和一〇・六・一六王仁校正)
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霊界物語 67_午_ハルの湖/タラハン国の国政改革1 05 浪の皷 第五章浪の皷〔一七〇七〕 波切丸の甲板の上にて笑の座が開かれ甲乙二人の問答を聞いて、今迄の悪業を改め三五の道に翻然として帰順したるシーゴーは又もや御霊の土台がグラつき出し、再びもとの山賊に立帰り、飽迄大胆不敵に山賊万能主義を発揮せむかと決心の臍を極め、良心忽ち邪鬼となり、悪魔となり大蛇とならむとせし危機一髪の刹那ヨリコ姫が誡の歌に悔悟し、地獄陥落の危険を免れた。ヨリコ姫はタライの村に開墾事業に従事して居ると思つて居たシーゴーが、いつの間にか波切丸に乗り込み吾傍に在りしを見て怪訝の念に打たれ乍ら言葉静に丹花の唇を開いて稍微笑を泛べながら、 ヨリコ『其方はシーゴーさまぢやないか。タライの村に堅気となつて、開墾事業に従事して居らるるだらうと思つて居たのに、いつの間に其方は吾船に乗り込んで居たのだい』 シーゴー『ハイ、宣伝使一行が、ハルの湖を渡つてバルガン城へお出になると聞き、どうかしてスガの港迄お送りしたいと存じ、先へ廻つて波切丸の船底に身を潜め、蔭ながら御保護の任に当つて居たのです。この湖は沢山の海賊が居ますので、もし途中に御難があつてはと存じ、改心と報恩の為に窃に御同船を願つたので厶います』 ヨリコ『これシーゴーさま、御親切は有難いが、何と云つても猪喰つた犬のヨリコが乗り込んで居る以上大丈夫です。其お心遣ひは御無用にして、一日も早く民衆幸福の為めに開墾事業にかかつて下さい。さうして其方は今二人の船客の話を聞いて、折角黎明に向つた霊を暗黒界へ投げ入れやうとして居たではないか。万一妾が傍に居なかつたなら、其方は再び天地容れざる大悪魔となつて身を滅ぼし来世の地獄を作る所だつたよ。男子は一旦決心した事を翻すものではありませぬよ。些と考へて下さい。私は其方の為に大変に気を揉んで居るのだから』 シーゴー『ハイ有難う厶います。動もすれば押へ付けておいた心の鬼が頭を擡げ出し、「此世の中に神も仏もあるものか。善だとか愛だとか、信仰だとか、誠だとか云ふものは偽善者どもが世の中を誑かる道具に過ぎないのだ。女々しい事を思ふな。今の世の中は弱肉強食、優勝劣敗だ。勝てば官軍負れば賊、強者はいつも善人と呼ばれ弱者は悪人視せらるるのが現代の趨勢だ。何を苦しんで男らしくもない改心などをするのだ。なぜ徹底的に悪を遂行しないか。畢竟善と云ひ悪と云ふのも世の中の一種の標語だ。善も悪も有つたものか」と囁きますので開墾事業などはまどろしくなつて、「矢張り遊んで大親分となつて暮す山賊事業が壮快でもあり、男性的でもあり英雄的でもある」と、時々良心の奴がグラついて来るのです。併し乍ら女帝の御訓戒に依つて漸く危険区域を脱出したやうです。何分悪に慣れた私の事ですからスガの港迄どうぞお伴をさして下さい。さうして其間に宣伝使や貴女の御薫陶を受け快濶に善の為めに活動したいもので厶います』 ヨリコ『アヽそれは善い所へ気がついた。妾も一安心をしましたよ。宣伝使の梅公様がこんな事をお聞になつたならばきつと笑はれるでせう。妾もさう心のグラつくお前さまを今迄使つて居たかと思はれては赤面の至りですからなア』 シーゴーは嬉し涙を腮辺に垂らしながら黙々としてヨリコ姫に向ひ合掌して居る。海の静寂を破つて梅公の口より音吐朗々と独唱する神仏無量寿経が甲板上に響渡つた。 神仏無量寿経 第一神王伊都能売の大神の大威徳と大光明は最尊最貴にして諸神の光明の及ぶ所にあらず。或は神光の百神の世界、或は万神の世界を照明するあり。要するに東方日出の神域を照らし、南西北、四維上下も亦復斯の如し。嗚呼盛なる哉伊都能売と顕現し玉ふ厳瑞二霊の大霊光、是の故に天之御中主大神、大国常立大神、天照皇大御神、伊都能売の大神、弥勒大聖御稜威の神、大本大御神、阿弥陀仏、無礙光如来、超日月光仏と尊称し奉る。 それ蒼生にして斯の神光に遭ふものは、三垢消滅し身意柔軟に歓喜踊躍して、愛善の至心を生ず。三途勤苦の処にありて、斯神の大光明を拝し奉らば、孰も安息を得て、又一つの苦悩無く、生前死後を超越し、坐し乍ら安楽境に身を置き、天国の生涯を送ることを得べし。 斯神の大光明は顕赫にして、宇内諸神諸仏の国土を照明したまひて聞えざることなし。只吾が今其の神光霊明を称へ奉る而己ならず、一切の諸神諸仏、清徒声聞求道者縁覚諸々の宣伝使、諸々の菩薩衆、咸く共に歎称悦服帰順し玉ふこと亦復是の如し。若し蒼生ありて其光明の稜威と洪徳を聞きて日夜称説し信奉して、至心にして断えざれば、心意の願ふ所に随ひて、天国の楽土に復活する事を得べし。諸々の宣伝使、菩薩、清徒声聞の大衆の為に、共に歎誉せられて其の洪徳を称へられ、其然る後に成道内覚を得る時に至り、普く三界十方の諸神諸仏、宣伝使、菩薩の為めに、其の光明を歎称せられむこと亦今の如くなるべし。嗚呼吾伊都能売の大神の神光霊明の巍々として殊妙なることを説かむに昼夜一劫すとも尚未だ尽すこと能はず。爾今の諸天人及び後世の人々、神明仏陀の神教経語を得て当さに熟ら之を思惟し、能く其中に於て心魂を端し、行為を正しうせよ。瑞主聖王、愛善の徳を修して、其下万民を率ひ、転た相神令して、各自ら正しく守り、聖者を尊び、善徳者を敬ひ、仁慈博愛にして、聖語神教を遵奉し、敢て虧負すること無く、当さに度世を求めて、生死衆悪の根源を抜断すべし。当さに天の八衢、三途無限の憂畏苦痛の逆道を離脱すべし。 爾等、是に於て広く愛善の徳本を植え、慈恩を布き、仁恵を施こして、神禁道制を犯すこと無く、忍辱精進にして心魂を帰一し、智慧証覚を以て衆生を教化し、徳を治め、善を行ひ、心魂を浄め、意志を正しうして、斎戒清浄なること一日一夜なれば、則ち無量寿の天国に在りて、愛善の徳を治むること百年なるに勝れり。如何となれば彼の神仏の国土には、無為自然に、皆衆善大徳を積みて毫末の不善不徳だも無ければなり。此に於て善徳を修め信真に住すること十日十夜なれば、天国浄土に於て愛善の徳に住し、信真の光明に浴すること、千年の日月に勝れり。其故如何となれば、天国浄土には善者多く、不善者少なく、智慧証覚に充たされ、造悪の余地存せざればなり。唯自然界、即ち現界のみ悪業多くして、惟神の大道に背反し、勤苦して求欲し、転た相欺き心魂疲れ、形体困み、苦水を呑み、毒泉を汲み、害食を喰ひ、是の如く怱務して、未だ嘗て寧息すること無し。 吾爾等蒼生の悲境苦涯を哀れみ、苦心惨澹誨諭して教へて善道を修めしめ、器に応じて開導し、神教経語を授与するに承用せざることなく、意志の願ふ所に在りて悉皆得道せしむ。聖神仏陀の遊履する所、国邑丘聚化を蒙らざることなし。天下和順し、日月清明、五風十雨、時に順ひ、十愁八歎無く、国土豊にして、民衆安穏なり。兵戈用無く、善徳を崇び、仁恵を興し、努めて礼譲を修む。 吾爾等諸天、及び地上蒼生を哀愍すること父母の如く、愛念旺盛にして無限なり。今吾此の世間に於て、伊都能売の神となり、仏陀と現じ基督と化り、メシヤと成りて、五悪を降下し、五痛を消除し、五焼を絶滅し、善徳を以て、悪逆を改めしめ、生死の苦患を抜除し、五徳を獲せしめ、無為の安息に昇らしめむとす。瑞霊世を去りて後、聖道漸く滅せば、蒼生諂偽にして、復衆悪を為し、五痛五焼還りて前の法の如く久しきを経て、後転た劇烈なる可し。悉く説く可からず。吾は唯衆生一切の為に略して之を言ふのみ。 爾等各善く之を思ひ、転た相教誨し聖神教語を遵奉して敢て犯すこと勿れ。あゝ惟神霊幸倍坐世。 伊都能売の大神謹請再拝 ○ ヨリコ姫もシーゴーも花香も船客一同も襟を正し甲板上に坐り直して、合掌しながら感涙にむせびつつ、梅公宣伝使の読経を恭しく聴聞した。梅公は一同に目礼しながら階段を下り、吾居間に入つて休息した。ヨリコ姫、花香、シーゴーも各自分の船室に入り、ドアーを固く鎖して瞑想に耽つて居る。ヨリコ姫は吾居間にあつて神恩の高きを思ひ、暗黒の淵より黎明の天地に救はれたる歓喜の思ひに満ち乍ら、声も静かに神徳を讃美して居る。其歌、 子 伊都の御霊の大御神出現ませし其日より 早三十年を経たまへり法身光明きはもなく 暗黒世界を照らし給ふ。 丑 愛と信との光明は無明の暗を照らしつつ 一念歓喜し信頼しまつらふ人を天国の 真楽園に生ぜしめ給ふ。 寅 皇大神の霊暉より無碍光威徳洪大の 信と愛とを摂受して瑞の御霊と向上し 菩提の清水を汲ませ給ふ。 卯 愛と善との神徳と虚偽と悪との逆業は 水と氷の如くにて氷多きに水多し 障多きに徳多し。 辰 五濁悪世の万衆の選択神に在しますと 信じまつれば不可称辞不可説不可思議もろもろの 御徳は爾の身に充たむ。 巳 愛と善との大徳と信と真との大慈光 蒙ぶる神の道の子は法悦道に進み入り 安養世界に帰命せむ。 午 生死の苦海は極み無し久永に沈める蒼生は 伊都能売主神の御船のみ吾等を乗せて永遠の 天津御苑へ渡すなり。 未 五六七如来の大作願苦悩の有情を捨ずして 万有愛護の御誓ひ信真光をば主となして 愛善心をば成就せり。 申 五六七如来の神号とそれの光徳智証とは 無明長夜の暗を破し所在一切万衆の 志願を充たせ給ふなり。 酉 吾罪業を信知して瑞霊の教に乗ずれば すなはち汚穢の身は清く全天界に昇往し 法性常楽証せしめ給ふ。 戌 厳瑞慈悲の大海は智愚正邪の波も無し 神の誓ひの御船に乗りて苦界を渉り行く その身は愛風に任せたり。 亥 多生曠劫斯の世まで愛護を受けし此の身なり 厳瑞二霊に真心を捧げ奉りて神徳の 高きを称へ奉るべし。 花香姫は梅公宣伝使の広大無辺なる神格や艶麗にして犯すべからざる神格の備はれる其の容貌の尊さを胸に浮かべながら、神の化身ならずやと憧憬のあまり大神の神徳を讃美した。其歌、 子 暗黒無明の現界を憐れみ玉ひて伊都能売の 神の慈光の極みなく無碍光如来と現はれて 安養世界を建て玉ふ。 丑 伊都能売霊魂の光には歓喜清浄愛と信 充満なして其智証顕神幽に貫徹し 天人地人を息ましむ。 寅 顕神幽の三界の天人及び蒼生は 厳瑞二霊伊都能売の御名に依りて信真の 大光明に喜悦せむ。 卯 金剛不壊的信仰の定まる時を待ち得てぞ 伊都能売御魂の聖霊光普く照護し永遠に 生死を超越させたまふ。 辰 悪と虚偽との逆徳に遮断せられて摂取の 大光明は見えねども愛の全徳幸はひて 常に吾身を照らすなり。 巳 東西両洋の聖師等哀愍摂受を怠らず 愛と信とを世に拡め天下の蒼生隔てなく 信楽境に入らしめよ。 午 救世の聖主に遇ひ難く瑞霊の教聞きがたし 神使の勝法聞くことも稀なりと云ふ暗の世に 聴くは嬉しき伊都能法。 未 三千世界一同に輝く光明畏みて 神の御名とおん教聴き得る人は常永に 不退転位に進むなり。 申 聖名不思議の海水は悪逆無道法謗の 屍体も止めず衆悪の万河一つに帰しぬれば 功徳の潮水に道味あり。 酉 伊都能売御魂の御神徳尽十方無礙なれば 愛と信との海水に煩悩不脱の衆流も 遂に無限の道味あり。 戌 悪と虚偽とに充されし吾等は神にまつろひて 愛と善との徳に居り信と真との光明に 浴して御国に昇り得む。 亥 聖教権仮の方便に万衆久しく止まりて 三界流転の身とぞなる神に信従する身魂は 一乗帰命す天津国。 ○ 俄に湖面は北風徐に起つて白帆を膨らませ、波上をほどほどに辷りだした。舷を打つ浪の音は、御世太平を謡ふ皷の如く、穏かに聞えて来る。恰も救世の御船に乗つて天国浄土の楽園に進むの思ひがあつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一三・一二・二新一二・二七於祥雲閣加藤明子録)
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霊界物語 69_申_南米ウヅの国の国政改革 15 四天王 第一五章四天王〔一七六〇〕 国州、浅州の両人は午前の十時頃辛うじて、国玉依別命が主管してゐるアリナの滝の懸橋御殿の大広前に辿りついた。国玉依別、玉竜姫夫婦は祭服を着し、数多の信徒と共に、月例の祭典を了り、宣伝歌を奏上してゐる。 国玉依『アリナの滝の水清く此谷間のいや深き 神の恵に包まれて懸橋御殿に朝夕に 真心ささげ仕へゆく吾は国玉依別の 神に仕ふる宣伝使玉竜姫と諸共に 皇大神の御教をアリナの山の空高く テルの荒野のいや広く海の外迄伝へゆく あゝ惟神々々世は常暗となりつれど 遠き神代の昔より神の恵は変りなく 四方の民草恵みまし世の荒風も醜雨も 凌ぎて安く世をわたるテルの国こそめでたけれ 旭は清くテルの国夕日も清くテルの国 月は御空に鮮かに天伝ひつつテルの国 浜の真砂の数多く御空の星もテルの国 月照彦の皇神の現はれ玉ひし鏡池 常夜の暗を照らしつつ稜威輝くテルの国 天照神の恵にて野山は青く水清く 大海原より打よする波も静に漁りの わざも豊に国原は稲麦豆粟よく稔り 地上に生ふる人草は朝な夕なに嬉しみて 神を敬はぬ者ぞなしげに高砂の名に負へる 底津岩根のテルの国領有玉ふ国魂の 聖き御前に鹿児自物膝折りふせて大稜威 神嘉ぎ仕へ奉るあゝ惟神々々 身魂の恩頼を謝し奉る一二三四五つ六つ 七八九つ十たらり百千万の国人が 朝な夕なに大前にい寄りつどひて御恵の 千重の一重に酬いむと三五の月の照り渡る 今日の生日に月例の御祭仕へ奉り 海川山野くさぐさのうまし物をば横山の いとさわさわに置足ひ真心捧げ仕へゆく 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 大西洋はあするともアリナの山は崩るとも 滝の流は干るとても千代に尽きせぬ神恩の 露に霑ふ民草の心の色ぞ麗はしき 心の花ぞ麗しき此世を造り玉ひたる 無限絶対無始無終神徳強き国の祖 国治立の大御神世人を洽く救ひます 神素盞嗚大神の貴の御前に畏みて 天津祝詞の太祝詞たたへまつるぞ嬉しけれ あゝ惟神々々御霊の恩頼を謝しまつる』 と歌ひ了り、四拍手して神前を退き、二柱は数多の信徒に笑を湛へて目礼し乍ら、己が居間へと進み入る。 国、浅の両人は信徒の中に交はりて此祭典に列してゐた。浅州は国照別の耳に口を寄せ、 『何と荘厳な宣伝歌だありませぬか。そして此処の神司は随分老耄の様だが、其言霊は十七八の若者の様な涼しい清らかな声を出すだありませぬか。あの声を聞くと私はふるひ附く程好になりました』 国『心さへ清浄潔白にあれば、言霊も濁らないから、あゝいふ美しい声が出るのだ。俺達も之からは魂を清めて声の年がよらないやうにしたいものだ。ここは昔俺の親爺から聞いてゐるが、親爺の友達の竜国別といふ宣伝使が、自分の母親や弟子共と共に、玉よせの芝居をやつた所ださうな。其時に竜国別母子がソツト黄金の玉を失敬してアリナ山を遙々越え珍の原野迄いつた所、神様の戒に会うて悔い改め、其次に高姫といふ我の強い宣伝使がやつて来て、又其玉の為に神様に脂を搾られ改心したといふ歴史の残つてゐるお宮様だ。竜国別が中途で神様に取上げられた黄金の玉が御神体となつて、此お社に祀つてあるといふ事だから、俺達も三五教の信者たる以上は、満更縁のない者でもない。どうだ、今晩此処でお通夜でもやつて御神徳を頂き、アリナの滝で身をうたれ、それからボツボツ目的地へ行かうぢやないか』 浅『それは誠に至極結構でせう。何なら親分、ヒルの国なんて、山河数百里も隔てた遠国へ行くよりも、山一つ越ゆれば、自分の生れた国だから、一層の事、此処で暫く尻を据ゑたら何うでせう。別にヒルの国迄行かなくても、侠客にはなれますよ』 国『一旦男子が思立つた事は中途にやめる訳には行かない。絶壁前に当るとも、白刃頭上に閃くとも、一旦言あげした事は実行せなくちや男とはいはれない。まして男の中の男一匹と、世間に持てはやされ、仁侠を以て世を救ふ大望を抱いた吾々、そんな腰の弱い事が出来ようか。お前は厭なら厭で可いから、此処に何時迄も固着してゐるが良からう、俺は一人でやつて来るからのう』 浅『どこ迄もお供致します。然し三日や四日はお骨休め、足休めの為、此処でお籠りしたら何うでせうか』 国『先づ二三日滝に打たれて、体を浄め、鏡の池の神様に神勅をうけ、そしてボツボツ行く事にせう』 浅『ヤ、それで安心しました。そんなら之からお滝へ参りませうか』 国『ヨーシ、先づ第一に身禊をやつて来う』 といひ乍ら、拍手再拝し、口の奥で天の数歌を称へてゐると、信者の風をした十四五人の男、前後左右よりバラバラと取囲み、両人の首筋をグツと握り、剛力に任して押へつけた。浅公は驚いて、 『アイタヽヽヽ、ナヽ何をさらすのだ。コリヤお前達ア、神様を信心してる信者ぢやないか。人の首筋を押へて何うするつもりだ。イイ痛いワイ、何ぢやい。人の手を後へ廻しやがつて……何俺が悪い事したか……モシ親分、タヽ助けて下さいな』 国照別は剛力に押へられ、俯向いた儘、阿呍の息を凝らし、隙をねらつてゐた。息の調子を計つて、パツとはね起き、矢庭に大の男四五人を取つて投げた。浅公を押へてゐた大男も吃驚して手を放した。浅公は矢庭に座敷の真中につつ立上り、大手をひろげ、手に唾し乍ら、 『サー来い、珍の都に於て隠れなき白浪男の浅公さまとは、こなはんのことだ。いらざるちよつかいを出して後悔を致すな。乾児の俺でさへも此通だ、俺の親分を何と心得てゐるか、珍の一国の国の柱の国さまだぞ』 此中の最も大将らしき奴、行儀よく畳の上にキチンと坐り両手をついて、 男『誠に失礼をいたしました。私は伊佐彦老中の部下に仕ふる、はした役人共で厶いまするが、国照別の世子様が、珍の都に身をおとして、お忍びになつたといふ事が城下一般にひろがり、それから大勢の者が手配りを致しましたが、どうしても御行衛が知れぬので、ヒヨツとしたら他国へ逐電されるかも知れないと、十数人の手下を引つれ、一方口の此館に信者と化込み、様子を考へてゐた所、今日計らずも、世子様のお出で、誠に恐れ多い事で厶いますが、吾々がお供を致しますから、どうぞ国へお帰り下さいませ』 国『お前達は誠に御苦労な役だ。願によつて帰つてやるのは易い事だが、俺も最早決心した以上は、一歩も後へ返す事は出来ない、諦めて帰つてくれ。何れ永遠に珍の国を見すてるのではない。俺には俺の考へがあつての事だから、素直に帰つたが可からう』 男『私は深溝役所の目付で厶いまして、駒治といふ者で厶います。左様な事を仰せられずに、一先づ御帰り下さいませ。珍の城下は大変な騒で厶いますから、一度帰つて頂かねば、衆生が塗炭の苦みに陥ります。衆生を愛し下さる真心があるなら、どうぞ私がお供を致しますから、此場より御帰りを願ひます。貴方が御帰り下さらねば、吾々は再び都へ帰る訳には参りませぬ』 国『別に都へ帰る必要はないぢやないか。生活の保証は俺がしてやるから、どうだ。俺は国州といふ侠客と還俗したのだから、汝等も俺の乾児となり、天下の男伊達と名を売つたらどうだ。そして腕を研いた上俺は故国へ帰り国の真柱となる積りだ。其時はお前も抜擢して、大取締位に使つてやるが、ここは一つ思案の仕所だ、どうだ、俺のいふ事が合点がいたら、否応なしにすぐに其十手をこの谷川へ捨てて了へ』 駒治は心の中にて……一層の事、侠客にならうかなア、何といつても、珍一国の御世子だ。其方が斯うして身をおとし、白浪男になつて世の中を救はうとなさるのだから、何時迄も役人の端に加はつて居つても、先が見えてゐる。一層潔よく降参せうかな……と早くも決心して了つた。然し乍ら大勢の部下に対し、直ちに服従する訳にも行かず、部下の顔色をソツと窺つてゐる。 国『オイ一同の者共、今日から俺の乾児だ。侠客でなくつても、高砂城の未来の国司だ。さうすりやお前たちは皆俺の乾児だ。どうだ否応あるまい。其ペラペラした十手をねぢ折つて谷川へ放る気はないか』 駒治『何卒私を貴方の直参の乾児にして下さいませ。如何なる事でも御命令に服従致します。証拠は此通で厶います』 と十手を、眼下の谷底へ投込んで了つた。他の捕手連中は去就に迷ひ、目を白黒させて駒治の顔を見つめてゐたが、市公、馬公の両人を除く外、十手に手をかけたまま、列をつくり、駆足の姿勢で、怖さうに館を逃げ出しアリナ山を指して逃げ帰りゆく。後見送つて国照別は、 『ハヽヽヽヽ駒治、市に馬、誠の者は三人になるかも知れぬぞよ……とはよく言つた事だ、三人世の元結構々々だ。お前達新帰順新侠客が三人、俺達二人を合すれば五人となる、厳の御霊だ。三五の明月だ。ヤ、目出たい目出たい、サア是から神様に御礼を申上げやう』 駒治『御世子様、そんなら今日から、誠にすみませぬが、貴方を親分と申しても宜しう厶いますか』 国『きまつた事だ、親分国州さまと云つてくれ。市も馬も其通だぞ。窮屈な取締をやめて脛一本、沼矛一本の男一匹になるのは男子の本懐だ。汝も之で救はれたのだ。ヤツパリ霊がいいとみえて、俺の心が分つたと見えるワイ、アツハヽヽヽヽ』 駒治『エー、親分に申上げますが、早く此場を立去らないと、今帰つた十三人の奴、都へ帰り、伊佐彦老中へ報告するに間違ひありませぬ。さうすりや捕手がやつて来る、険呑ですから、何とか身隠しをせななりますまい』 国『ナアニ、心配するな、此急阪を登り下りして、それから広い野を渡り、都へ帰るにも五日や六日はかかる。それからやつて来た所で、又五日や六日は時日が要る。マアここ十日位は大丈夫だ。ゆつくり身禊でもして神勅を受け、それから自分の方針を徹底的にきめるのだ。そんな事に齷齪して頭を痛めてゐるやうな事では到底侠客にはなれないぞ。ヤ面白い面白い、俺も〆て乾児が四人出来たか、四天王の勇士、しつかり頼むよ』 浅『モシモシ親分さま、四人の中で順序を立てておかねばなりませぬが、誰が此中では一番兄貴になるのですか、キツと私でせうね』 国『時間に於てはお前が兄貴だ。併し乍ら胆力と腕力に於ては怪しいものだなア。何は兎もあれ、お滝へ身禊に行く事にせう、一二三四』 と言ひ乍ら懸橋御殿を後に、水音轟々として響きわたる瀑布の傍に一行五人辿りついた。無心の滝水は何を語るか。囂々鼕々として地をゆるがせ、無数の飛沫には日光が映じて、えも言はれぬ宝玉の雨を降らしてゐる。 (大正一三・一・二四旧一二・一二・一九伊予於山口氏邸、松村真澄録)
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霊界物語 70_酉_トルマン国の国政改革 11 血臭姫 第一一章血臭姫〔一七七八〕 千草姫は満座をキヨロキヨロ見まはし乍ら、瞋恚にもゆる胸の火をジツと抑へ、わざと笑顔を造り、特に慇懃に両手をつかへて、首を二つ三つ左右に振り乍ら、屈んだ儘顔を上げ、額と腮とを殆んど平行線にし乍ら、 『これはこれは吾夫ガーデン王様を始め、智謀絶倫の勇士チウイン太子、野武士の蛮勇ジヤンクの爺さま、三五教の宣伝使雲国別オツト違つたピカ国別、又違つたデルクイ別とか云ふ神司、其他のお歴々の方々へ今日の御祝儀、目出たう御祝申しまする。いよいよ之にてトルマン国は天下泰平、万代不易の基礎が定まることと慶賀に堪へませぬ。時にスコブツエン宗の名僧トルマン国の救ひ主、キユーバー殿は如何致されたか。チウイン太子に対し、此母が恐れ乍ら一言訊問に及びまする。何と云つても親と子の仲、決して遠慮は要りませぬ。サ、早く実状を述べさせられよ』 此言葉にチウイン太子は言句も出でず、ハアハアと云つたきり俯むひて了つた。 千草『ホヽヽヽヽヽ、これ悴チウイン殿、最前もいふ通り、親と子の仲、隔てがあつては家内睦まじう治まりませぬ。其方は此母に対し、必ず必ず不孝の振舞は御座いますまいな』 チウイン太子は益々言句に詰り、『ハ、ハ』と云つたきり、俯むひて了つた。ガーデン王はキリリと目を釣上げ、 『ヤ、千草姫、倅に問ふ迄もなく余が逐一説明しよう、トクと聞け。彼れキユーバーなる者は不敵の曲者、神聖無比なる大神の祭典に際し、照国別様の大切な御冠に手をかけ、群衆の前にて赤恥をかかさむとしたる乱暴者、余は其場に於いて切つて捨てむかと思ひしか共、何をいつても大神の御前、血を以て聖場を汚すも恐れ多し、時を待つて誅伐せむと控えをる折しも、キユーバーが不敵の行動益々甚だしく、口を極めて宣伝使を罵詈讒謗し、両手を拡げて行列の妨害をなすなど、言語に絶したる其振舞、見るに見かねてチウイン太子はジヤンクに命じ、キユーバーを捕縛し、獄に投じておいたのだ。城内の安寧秩序を保つ為、最も時宜に適した処置と余は心得てゐる』 千草『ホヽヽヽヽヽ、如何にも乱暴者を縛り上げ、獄に投じ玉ふは国法の定むる所、之について千草姫一言も異存は御座いませぬが、彼れキユーバーだつて、もとより悪人でもなく、狂乱者でもなからうと存じます。彼としてかかる暴挙に出でしめたるに就いては、何か深き原因がなければなりませぬ。軽卒に外面的行動のみをみて、一応の取調もなく、所もあらうに大神の御前に於て、不遜極まる罪人を出し玉ふとは千草姫心得ませぬ。刹帝利様、愚鈍なる妾の得心が行く迄御説明を願ひませう』 王『喧しう云ふな、汝の知る所でない。余は余としての考へがある。女の出しやばる幕でない。サ、トツトと汝が居間に立返れよ』 千草『ホヽヽヽヽヽ女の出しやばる場合でないとは刹帝利様、ソラ何といふ暴言で御座います。王様は国民の父、王妃は国民の母で御座いますよ。昔の神代に於ても伊弉諾命伊弉冊命二柱、天の御柱を巡り合ひ、なり余れる所と、なり合はざる所を抱擁帰一遊ばし、天下の神人を生み玉ふたでは御座いませぬか。男子は外を守る者、女子は内を守る者、何と仰有つても此城内の出来事、千草姫の権限に御座いますよ。もし妾を排斥遊ばすならば、トルマンの国家は風前の灯火、何程立派な国王様だとて王妃の内助なくして、一日も国が保たれまするか。能く能く御考へなされませ。それにも拘らず、ウラルの神様の御祭典に当り、ウラルの宣伝使を一人も用ひ玉はず、大神の忌みきらひ玉ふ曲神の教を奉ずる三五教の宣伝使を抜擢して斎主となし玉ふは、実に天地の道理を紊したりといふもの。私かに承はれば彼れ照国別はウラル教の謀叛人、中途に於て三五の邪教に沈溺せし者、益々神の御怒りは甚だしかるべく、何時如何なる災の、神罰に仍つて突発するかも知れますまい。又ウラル教以外の異教徒を以て、斎主となすの已むを得ざる場合ありとせば、何故国難を救ひたる彼れキユーバーを重用し、斎主を御命じなされませぬか。邪臣を賞し[※「邪臣を賞し」は「忠臣を賞し」の誤字か?]、逆臣を戒むるは政治の要訣、霊界さへも天国地獄が御座いまするぞ。今度の戦ひに於ける第一の勲功者を除外し、神の御前に於て彼れに恥を与へしを以て、彼れキユーバーは悲憤の余り、かかる暴挙に出でたものと考へるより外余地はありますまい。否決して決してキユーバーの意志ではなく、ウラル教の大神、盤古神王の彼の体を藉つての御戒めに相違御座いますまい。かかる忠臣義士を牢獄に投ずるとは以ての外、千草姫一向合点が参り申しませぬ。キユーバーを牢獄に投じ玉ふに先立ち、何故照国別一派を投獄なさりませぬか。かかる明白な理由を無視し、一国の王者で依怙の沙汰を遊ばすに於ては、之より賞罰の道乱れ、刑政行はれず、国家は再び混乱の巷となるで御座いませう。照国別は実に微弱なる教派の一宣伝使、キユーバーは大黒主の御覚目出たしといふスコブツエン宗の大教祖で御座いませぬか。万々一吾国運衰へ、再び大黒主、此度の戦争の恥辱を雪がむと、数万の兵を引つれ押よせ来らば何となされます。其時に当つて最も必要なる人物は、キユーバーを措いて外には御座いますまい。それ故妾は飽く迄も彼を懐柔し、まさかの時の用意にと、平素より歓心を買ひおき、国難を救ふべく取計らひをるので御座います。かかる妾が深遠なる神謀鬼策も御存じなく、勢に任せて、照国別の肩をもち、キユーバーを獄に投ずるとは、何といふ拙い遣り方で御座いませうか。妾は仮令キユーバーに少々の欠点ありとて、邪悪分子ありとて、左様な些細な点迄詮索する必要はありますまい。彼さへ薬籠中の者として優待に優待を重ねて城内に止めおかば、大黒主なりとて、さうムザムザと本城へ攻めても来られますまい。仮令不幸にして国難勃発する共、大黒主の御覚めでたきキユーバーを派遣せば、何の苦もなく平和に治まる道理ぢや御座いませぬか。トルマン国永遠平和の為にはキユーバーを獄より引出し、刹帝利を始めチウイン太子、ジヤンク等、九拝百拝して其罪を謝し、照国別を面前に於て縛りあげ、キユーバーの遺恨をはらし玉はねば、吾国家の為に由々しき大事で御座りまするぞ。又ウラル教と三五教の聯合は国策上最も不利益千万で御座います。速に此聯合を破壊し、スコブツエン宗と聯合提携するに於ては、ハルナの都の大黒主の怒りも解け、吾国家は安穏に国民挙つて平和の夢を貪ることを得るで御座いませう。千草姫の言葉に之れでも異存が御座いまするか』 王『だまれ、千草姫、国家の危急を救ひ玉ひし照国別御一行に対し、無礼極まる其雑言、最早聞捨ならぬぞ』 千草『ホヽヽヽヽヽ、青瓢箪や干瓢や西瓜の様な干からびた青い頭を並べて、お歴々の御相談、よくマア国家を亡ぼす為の立派な御行動を、此千草姫遥に眺めて実にカンチン仕りますワイ。刹帝利様は老齢のこととて聊か精神御悩みあり、一々仰せらるることは正鵠を欠き玉ふは無理なけれ共、倅チウインの如きは血気の若者、斯やうな道理が分らずして、どうして此国家を保つことが出来ようぞ。いざ之よりは王様に退隠を願ひ、憚り乍ら千草姫女帝となつてトルマン国を治めるで御座いませう。まだ口のはたに乳の臭がしてゐるチウイン如きは、到底妾の相談相手にはあきたらない、ホヽヽヽヽヽ』 チウ『母上に申し上ます。父ガーデン王があつてこそ貴女は王妃の位置に就いて、国の母として政治に干与遊ばし玉ふことを得るのでは御座いませぬか。父王が退隠されるとならば、母君は政治に干与する権利は御座いませぬぞ。そこをトクと御考へなさいませ』 千草『ホヽヽヽヽヽ小賢しい、コレ悴、何といふ分らぬことを申すのだ。女が政治の主権者となることが出来ぬとは、ソリヤ誰に教はつたのだい。能く考へて御覧なさい。天照大神様は女神でいらつしやるぢやないか。英国の皇帝はエリザベスといふ女帝が太陽の没するを知らぬ迄の大版図の主権者となつてゐられたでないか。子の分際として母に口答へするとは不孝此上もなし。其方も此上一言でも云つてみなさい。母の職権を以て牢獄に投込みますぞ』 といひ乍ら、ツと立上り、畳ざわりも荒々しく吾居間さして帰り行く。 刹帝利は余りの腹立たしさと、照国別に対する義理から、千草姫を手討にせむとまで覚悟をきめてゐたが、又思ひ直して、グツと胸を抑へ、歯をくひしばり慄ひつつあつた。チウイン太子も父の様子の常ならぬを見てとり、いよいよとならば、父の両腕に取縋つて千草姫を助けむものと、心中に覚悟をきめてゐた。刹帝利は漸く口を開き、 『照国別の宣伝使様、彼れ千草姫は、先日来の戦争に脳漿を絞つた結果、精神に異状を来してをりますれば、何卒神直日大直日に見直し聞直し寛大に御宥しの程願奉りまする。穴でもあらば潜り込みたくなりました』 と気の毒さうにいふ。照国別は平然として、 『刹帝利様、其御心配は御無用で御座います。決して千草姫様の御本心から仰せられたのでは御座いませぬ。之には少し理由が御座いまするが、今日は申し上ぐる訳には行きませぬ。決して私は千草姫様のお言葉に対し、毛頭意に介して居りませぬ。どうか御安心下さいませ』 王『ヤ、それ承はつて安心致しました。何卒々々末永く御指導を願ひ奉ります。時に照国別様、如何で御座いませうか、彼れキユーバーを厳罰に処して、禍根を断たむと存じまするが』 照国『私は人を助くる宣伝使、仮令鬼でも蛇でも悪魔でも赤心を以て臨み、誠の限を尽し、誠の道に帰順させるが神の道、刑罰などは不必要かと存じます。人は何れも神の精霊を宿したもの、人間で人間を審くなどとは僣上至極な行方、一刻も早くキユーバーを御助けなさるが可からうかと存じます。さすれば千草姫様の心も和らぎ、家庭円満の曙光を認むるに至るで御座いませう』 王『成程、一応御尤もかと存じます。チウイン、其方は何う考へるか』 太子『ハイ、私は天にも地にも替へがたい吾母の意志に反き、彼れキユーバーを国民の面前に於て捕縛致しました。之に就いては非常な決心を持つて居ります。彼が再び城内に入り、母と結託して権威を揮ふに於ては、吾王室は風前の灯火も同様で御座いませう。宣伝使の御言葉なれど、之許りは即答する訳には参りませぬ』 ジヤンク『恐れ乍ら、王様を始め太子様に申し上げます。何は兎も有れ、千草姫様の御心を汲取り、彼れキユーバーをお免しなさつたが可からうかと存じます。万々一再び脱線的行動を取るに於ては、容赦なく再び投獄すれば可いぢや御座いませぬか。及ばず乍ら、此ジヤンク、余生を王室に捧げ、一身を賭して国家を守る考へで御座いますから』 王『イヤ、それを聞いて安心致した。左守右守の両柱共に、此度の戦ひに於て他界なし、棟梁の臣なきを心私かに歎いてゐた矢先、智勇絶倫なる汝が、一身を賭して都に止まり、吾国家を守つてくれるとあらば何をか云はむ。キユーバーの処置は汝に一任する。能きに取計らへよ』 ジヤ『早速の御承知、有難う存じまする。太子様、ジヤンクの此処置に就いては、チツと許りお気に入りますまいが、ここは少時此老臣に御任せ下さいませ』 チウ『余は此問題に就ては何も言はない。余は余としての一つの考へを持つてゐる』 照国別は立上り、音吐朗々として歌ひ出した。 『神が表に現はれて善悪邪正を立分ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直せ聞直せ 世の過ちは宣り直せ三千世界の梅の花 一度に開く神の国開いて散りて実を結ぶ 月日と土の恩を知れ此世を救ふ生神は 高天原に神集ふあゝ惟神々々 御霊幸ひましませよ旭は照とも曇る共 月は盈つ共虧くる共仮令大地は沈む共 誠の力は世を救ふ誠の力は世を救ふ あゝ惟神々々御霊幸ひましませよ』 と謡ひ了り、舞ひをさめた。此言霊に一同は勇み立ち、何事も神のまにまに任すこととなり、此宴席を無事閉づることとなつた。 (大正一四・八・二四旧七・五於丹後由良秋田別荘松村真澄録)
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霊界物語 □_特別編-入蒙記 05 心の奥 第五章心の奥 日出雄は唐国別の談を聞いて暫く俯いて考へ込んだ。日出雄の心天に忽ち大光明が輝いた。満州や蒙古に活動して居る馬賊といつても、決して一般人の考へて居るやうな兇悪乱暴の者計りでもあるまい。中古我国の元亀天正の頃の群雄が割拠して居たやうなもので、規律整然たるものであらう。決して人の財宝を掠奪したり、殺人強姦などを行ふものではあるまい。兎に角徳を以て馴づけたなら虎でも狼でも心の底より帰順するものだ。殊に蒙古の馬賊に至つては、弱者を助け狂暴なる者を誡め、社会の弱き人民を保護する任に当ると聞いて居る。政治の行届かない蒙古の広野では馬賊も一つの政治的機関だ。今日満州王をもつて自任して居る東三省の保安総司令である張作霖[※底本(全集)では「張作相」。張作霖より6歳ほど年下で東三省保安総司令部の高官を務めているが、ここの文脈上は張作霖が正しいと思われる。校定版や愛善世界社版では張作霖に修正している。霊界物語ネットでも張作霖に直した。]だつて、張宗昌だつて、其他の名ある督軍達は皆馬賊から出て居るのだ。これを考へても馬賊は決して日本の山賊や泥棒のやうなものではあるまい。一層のこと盧占魁と提携して蒙古に新彊に王国を建設し、日本魂の本領を世界に輝かすのも男子として面白い事業だ。併し馬賊といつても種々の種類があつて掠奪のみを以て事とする小トルの団体もある。善悪正邪の混淆して居る世の中だ、天下の大事と思へば小さいことに齷齪して居る訳には行かぬ。盧占魁の如き天下に驍名を馳せた馬賊の頭目は、決して人民を苦しめるやうなことはせないだらう。彼と宗教家とが提携したつて別に不都合はあるまい。大神業の御経綸に奉仕する一歩としては止むを得ない今日の場合だ。広大なる地域を有する蒙古に一大王国を建設すると云ふ計画は、事の成否は別として、日本男子としては実に壮快極まる試みだ、宗教家だと云つて神前に拍手し祝詞のみを上げて居るが芸でもあるまい。万有愛の主義から是非決行して見よう。心境を一変し、宗教的に世界の統一を図り地上に天国を建設する準備として先づ新王国を作り、東亜の聯盟を計るのが順序だらう。あゝ思へば実に壮快だ。腕が鳴り血が踊るやうだ。言語学の上から見ても、古事記の本文から見ても、蒙古は東亜の根元地であり、経綸地である。日本人は昔から、義勇の民が開国以来未だ一寸の地も外敵に侵されないと云つて自慢して居るものがあるが、併し吾々の祖先は蒙古軍の為めに拭ふべからざる大国辱を受けて居るのだ。元寇の役はどうだつた。国内上下挙つて蒙古襲来の声に震駭し、恐怖し、其度を失ひ、畏多くも亀山上皇は身を以て国難に当らむことを岩清水八幡に祈願し給ふた結果、全国の各大社には奇瑞続出して遂に伊勢の神風となり、蒙古は十万の軍を西海の浪に沈めた事は元明史略其他の史実にも明記され、生命を全ふして帰り得たるもの僅に三人といふことだ。併し乍ら我国は是をもつて日本男子の武勇を誇る事は出来まい。日本を守りたまふ神明の加護と畏多くも亀山上皇の宸襟を悩まされたその結果である。日本は神国、神の守りたまふ国で、決して外敵の窺ふことの出来ない磯輪垣の秀津間の国、細矛千足の国と誇つて居るが、今日の日本の現状は外敵に対しさう楽観して居られるだらうか、軍器の改良された今日では、少々の神風位で敵艦を覆すと云ふ事は到底不可能であらう。又そんな神頼み計りやつて居て実行せないならば、到底国を保つ事は出来ないだらう。扨て吾々の祖先が蒙古十万の大軍に脅かされた末代の大国辱を回復し、建国の精神と国威をどうしても一度中外に発揚して我歴史の汚点を拭はねばなるまい。宗教的、平和的に蒙古を統一し東亜聯盟実現の基礎を立て見たいものだ。自分は今日黒雲のかかつた、世人から疑を受けて居る身の上である。此際グヅグヅせず思ひ切つて驚天動地の大活動をやつて見たいものだ。盧占魁に会つたらば屹度自分の意志を受け入れるであらう。自分は今裁判の事件中だが弁護士の話によると、本問題は神霊問題だから二年や三年の中には到底解決がつくまいとのことだ。これの解決を待つて居ようものなら、我民族は日に月に窮地に陥るばかりだ。世界到る所排日問題は勃起し外交は殆ど孤立して居る。今の中に我同胞の為に新植民地でも造つておかねば我同胞は遂に亡ぶより外はない。併し乍ら大本信徒にこんな事を云はふものならそれこそ大騒動だ。併し面白い、ひとつやつて見よう乗るか反るかぢや、元より身命を神に捧げた自分だと大覚悟を究めたのである。 大本は野火の燃え立つ如くなり風吹く度に拡がりてゆく この度の深き経綸は惟神只一息の人心なし 神の世の審判に今や逢坂の人は知らずに日を送りつつ いつ迄も醜の曲神の荒びなば危ふからまし葦原の国 世の中の移らふ状をながめては起つべき時の来るを悟る 排他的既成宗教はあとにして開き行かなむ海の外まで 吹かば吹け醜の木枯強くともわれには春の備へこそあれ 白妙の衣の袖をしぼりつつ世を歎くかな隠れたる身も 思ひきや御国の為に尽す身をあしさまに云ふ醜のたぶれら 身も魂も囚へられたる吾なれど心は広し天国の春 機の緯織る身魂こそ苦しけれ一つ通せば一つ打たれつ 神業をなすのが原の玉草は踏まれ蹂られ乍ら花咲く 天地の神に仕へて日の御子に赤き心を尽し奉らむ 身はよしや虎伏す野辺に果つるとも御国の為に命惜まず 故郷にのこせし母を思ふ間もなくなく尽す神国の為 月は今地平線下に潜みつつ世の黎明を待つぞ床しき 惟神真の神の定めてし人の出でずば国は危ふし 花見むと出でしにあらず野の桜吾衣手に香をな送りそ 言霊の助け天照る日の本はすべての国を知らす神国 天津日も只一つなり地の上も一つの王で治まりて行く 皆人の眠りにつける真夜中にさめよと来鳴く山郭公 郭公声は御空に鳴きかれて月の影のみあとにふるへる 国のため尽す谷間の真人を雲井に告げよ山郭公 心のみ誠の道にかなふとも行ひせずば神は守らじ 言挙げの条は数々ありながら暗夜をおしのわれぞ甲斐なき 君の為御国の為に真心を尽して後は津見に問はれぬ 吾を知る人こそ数多ありぬれど我魂を知る人は世になし 西東南も北も天地も荷なうて立てる神の御柱 世の為に尽す心の数々を誰も白波の立ちさわぐなり 現し世に生るも神の御心ぞまかるも神の恵とぞ知れ そよと吹く風にも声のあるものを神の御声の聞えざらめや 夜な夜なに詣うでてあつき涙しぬ神座山の荒されし跡に わが涙こりては霖雨雪となり泉となりて御代を清めむ 神の御名を世界に広く現はして永久に生きなむ律に死すとも 古のエスキリストも甞めまじきその苦しみを我に見る哉 足乳根の老います母を偲びつつ出で行く吾は涙こぼるる 濡衣のひる由もなき悲しさに霧島山の火こそ恋しき 月一つ御空にふるひ地に一人友なくふるふ我ぞわびしき 退きも進みもならぬ今の世は神のみ独り力なりけり (大正一四、八、一五、加藤明子筆録)
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霊界物語 73_子_太元顕津男の神の物語1 01 天之峯火夫の神 第一章天之峯火夫の神〔一八三二〕 天もなく地もなく宇宙もなく、大虚空中に一点のヽ忽然と顕れ給ふ。このヽたるや、すみきり澄みきらひつつ、次第々々に拡大して、一種の円形をなし、円形よりは湯気よりも煙よりも霧よりも微細なる神明の気放射して、円形の圏を描きヽを包み、初めて⦿の言霊生れ出でたり。此の⦿の言霊こそ宇宙万有の大根元にして、主の大神の根元太極元となり、皇神国の大本となり給ふ。我日の本は此の⦿の凝結したる万古不易に伝はりし神霊の妙機として、言霊の助くる国、言霊の天照る国、言霊の生くる国、言霊の幸はふ国と称するも、此の⦿の言霊に基くものと知るべし。 キリストの聖書にヨハネ伝なるものあり。ヨとはあらゆる宇宙の大千世界の意なり、ハは無限に発達開展、拡張の意なり、ネは声音の意にして宇宙大根本の意なり。ヨハネ伝首章に曰く、『太初に道あり、道は神と偕にあり、道は即ち神なり。此の道は太初に神と偕に在き。万物これに由て造らる、造られたる者に一として之に由らで造られしは無』と明示しあるも、宇宙の大根元を創造したる主の神の神徳を称へたる言葉なり。 清朗無比にして、澄切り澄きらひスースースースーと四方八方に限りなく、極みなく伸び拡ごり膨れ上り、遂に⦿は極度に達してウの言霊を発生せり。ウは万有の体を生み出す根元にして、ウの活動極まりて又上へ上へと昇りアの言霊を生めり。又ウは降つては遂にオの言霊を生む。 ⦿の活動を称して主の大神と称し、又天之峯火夫の神、又の御名を大国常立神言と奉称す。大虚空中に、葦芽の如く一点のヽ発生し、次第々々に膨れ上り、鳴り鳴りて遂に神明の形を現じたまふ。⦿神の神霊は⦿の活動力によりて、上下左右に拡ごり、⦿極まりてウの活用を現じたり。ウの活用より生れませる神名を宇迦須美の神と言ふ、宇迦須美は上にのぼり下に下り、神霊の活用を両分して物質の大元素を発生し給ひ、上にのぼりては霊魂の完成に資し給ふ。今日の天地の発生したるも、宇迦須美の神の功なり。ウーウーウーと鳴り鳴りて鳴極まる処に神霊の元子生れ物質の原質生まる。故に天之峯火夫の神と宇迦須美の神の妙の動きによりて、天津日鉾の神大虚空中に出現し給ひ、言霊の原動力となり七十五声の神を生ませ給ひ、至大天球を創造し給ひたるこそ、実に畏き極みなりし。再拝。 (昭和八・一〇・四旧八・一五於天恩郷千歳庵加藤明子謹録)
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霊界物語 73_子_太元顕津男の神の物語1 06 言幸比女の神 第六章言幸比女の神〔一八三七〕 言霊の天照り幸はひ生くるてふ、貴の御名をおはせたる言幸比女の神は、音吐朗々として言霊の幸を歌ひたまひぬ。 『大虚空一点のヽあらはれて スの言霊は生れ出でたり 澄みきりしスの言霊は生ひ立ちて 天之峯火夫の神とならせり 峯火夫の神の功のなかりせば 紫微天界は生れざるべし 久方の天之峯火夫の神は天界の 万有諸神が主神に坐します 主の神の力によりて宇迦須美の 神の御霊は生れましけり ウの神の功は下りて大津瑞穂 神と生れます言霊なりけり ウの神は上に開きて天津瑞穂 アの言霊と生れたまひぬ 主の神は七十五声を生みまして 天の世界を開きましけり 天に満ち天に輝き透き徹り 鳴り鳴りやまぬ主の神の功 惟神厳の言霊鳴り鳴りて 世の輝きは生れましけり 栄えゆく生言霊の幸ひて サの言霊は現れにけり タタの力鳴り響きつつ輝きて タの言霊はなり出でにけり 鳴り鳴りて鳴りやまざるの力もて ナの言霊は生れ出でにけり 四方八方に極まりもなく神業の 永遠に開くるハの言霊よ まるまると固りをさまる功績は マの言霊の御稜威なりけり ヤアヤアと勢強き言霊の 言葉はヤ声に生れ出でけり めぐりめぐり果しも知らぬ神力は ラの言霊ゆ生れ出でけり 若返り若返りつつ澄みきらふ言霊は ワの功ゆなり出づるなり 火と水をあやなしこれの天界に 命を与ふるイの言霊よ スの水火の澄みきらひたる功に キの言霊は生れ出でたり 一切にしめりを与ふる活動は シの言霊の功なりけり 一さいの命を救ふ原動力は チの言霊の恵みなりけり 左右上と下との結び合ひは ニの言霊の功なりけり 生き生きて生きの果てなき神力を 照して果てなきヒの言霊よ 万有の元素となれる言霊は ミの神声の功なりけり 右左上と下との定まりは ヤ行イ声の言霊なりけり 一さいの呼吸の作用は尽く リの言霊の功なりける 霊の呼吸体的の呼吸を組み合し 世を固むるはヰの言霊よ 主の神の初声にあれし言霊は 宇迦須美の神のウ声なりけり 水と火を組み合せつつ万有に 幸はひたまふはクの言霊よ 一さいの真中にまして万物の 根本にますスの言霊よ つみ重ね重ねつつ雲となり 狭霧となりしツの言霊よ 次ぎ次ぎに果しも知らず列なるは ツの言霊の功績なりけり 大宇宙間隙あればぬひてゆくは ヌの言霊の功なりけり 火と水を自由自在に活動かすは フの言霊の活用なりけり むしわかし結び連ぬる活動は ムの言霊の活用なりけり 穏かに強き弱きを引きならす 功はユ声の言霊なるも 一切万事取り定むるは惟神 ルの言霊の功績なるも ワ行ウの生言霊は生み生みて 生みの果しを守らす神なり 内に集り空に開くる活動は ア行エ声の言霊なりけり 消えて又世に現るる活動を ケの言霊と称へ奉るも 内に迫り外面に起る活動を セの言霊と言ふぞ畏き 起り立ち強く勇みて外に出で 活動く力をテの言霊と言ふ をさまりきり外に現れ廻るてふ 生言霊はネ声なりけり 退きて又もや動き進むなる 活用力をヘの言霊と言ふ 内分に精力を含み女子を含む 活用力はメ声なりけり 弥果に栄えしきりに集ひくる 活動はエ声の言霊なりけり より極まり億兆一切の焦点と 活用く神霊はレ声なりけり 楽しみ栄え幸ひ進む活用は ヱの言霊の功なりけり 起し助け大成大気の活用は オの言霊の功なりけり 一切の真言となりて天津誠の 活動力はコ声なりけり 退き下り外に添ひつく活用は ソの言霊の功なりけり 結び定め八咫にはしる活用は トの言霊の功績なりけり 延び延びて天賦の儘なる活用は ノの言霊の功なりけり 照りこみて上に現れ目に見ゆる 活動力をホ声と言ふなり 散り乱れ下に活用く言霊は モ声の活動力を生むなり 寄り結び又離れ散る活用は ヨの言霊の功なりけり 狭く入り近くあつまり広く指す 活用力はロ声なりけり 結び結び一つに集る活用は ヲの言霊の功なりけり アカサタナハマヤラワより一々に とき示したる言幸比女の神 紫微宮に天津まことの神々を まつりて嬉し永久の神国に 果しなき此神国に生れ合ひて 今日の祭に逢ふぞ嬉しき 宮柱太しくたちて此神国を 知召すかも三柱の神 三柱の神の功に百神は 生の命の果を知らずも 生き生きて生きの果なき天界を 造りたまひし主の神畏し 久方の高天原と定まりて 永久の命を楽しむ百神 左守右守相並ばして天界の 礎かためたまふ尊さ 広々と果しも知らぬ天界に 澄みきりすみきる心楽しも』 (昭和八・一〇・六旧八・一七於天恩郷千歳庵加藤明子謹録)
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霊界物語 73_子_太元顕津男の神の物語1 20 廻り逢ひ 第二〇章廻り逢ひ〔一八五一〕 太元顕津男の神は、高日の宮の八尋殿に、天之御柱、国之御柱をみたて給ひて、右り左りの神業を行はせ給ひ、如衣比女の神を呼ばひて、婚ぎの神業をなし給ふ。 大御母の神は祝して、 『天なるや 主の大神の依さします 御霊も清き神司 東の宮に在しまして 神国を治め世を教へ 日に夜に貴の神言を 宣らせ給へど百神の 心一つに片よりて 神旨にかなふものもなく 朝な夕なに神業の 後れむ事をなげかしし 顕津男の神今ここに 国の司と現れまして 神の依さしの如衣比女と 婚ぎの業を遂げ給ふ 今日の良き日の佳き辰に 主の大神を初めとし 天翔り在す百の神 国翔ります八十の神 歓ぎ集ひて大神宣 寿ぎ給ふ目出度さよ 駒は嘶き麒麟は謡ひ 鳳凰天より舞ひ降り 迦陵頻伽は声清く 常世の春を歌ふなり 高照山に紫の 雲棚引きて四方の国 諸の草木はゆたかなる 粧ひなして花開き 貴のつぶら実満ち満ちて 斎場に生ふる稲種は 日々に茂りて遠久の 足穂八十穂と栄えつつ 天津神国の神の代を 寿ぎ奉る今日こそは この天界の初めより 今に例しもあら尊 今日の婚ぎの神業は 紫微天界の礎ぞ 太元顕津男の神の 貴の神業いや広に いや高々に天津日の 輝く如く照れよかし 西より昇る瑞御霊 月の御神の面の如 清しく涼しく生れまして これの国原隈もなく しめりをあたへ百木草 恵みの露に生かせ給へ ああ惟神々々 神寿ぎ仕へ奉る 天津日は照る月は満つ 霊地の上は五穀 所狭きまで実りつつ 四方の神々世を歌ひ 歓ぎ楽しむ神代こそ 岐美の出でましあればこそ 千代に八千代に栄えつつ 香りも清き白梅の 花の香四方に薫じつつ 栄ゆる神代こそ畏けれ 栄ゆる神代こそ畏けれ』 顕津男の神は大御母の神の寿ぎ言に対し、感謝の御歌を謡ひ給ふ。 『わが心知らせる岐美に導かれ 永久の住家に今日を来つるも 主の神の任けのまにまに八尋殿に 婚ぎの道を開ける嬉しさ 大御母神の神言のなかりせば 今日の喜びあらざらましを 大御母神の神言を今日よりは まことの母と仕へ奉らむ 久方の天津神国ことごとく 生言霊にわれは照らさむ 言霊の天照る国の真秀良場に 太しく立ちしこれの宮かも 高照山貴の清所に来りてゆ 心の空も晴れ渡りける 高照の山高けれど大御母 神の心に及ばざるらむ』 如衣比女の神は謡ひ給ふ。 『天晴れ天晴れ国晴れ心晴れにけり 高照山の春にあひつつ 大御母神の神言の計らひに 春の心は燃え立ちにけり 燃え立ちし春の心をつぎつぎに 生かして国魂生まむとぞ思ふ 顕津男の神の神言に御子なくば いかで神業の成りとぐべきやは 主の神の御樋代となりし吾なれば いかなる業もいとはざるべし 愛恋の吾背の岐美と手を引きて この神国を固めたく思ふ 大御母神と在します大神に 子とし仕へむ今日の生日ゆ』 大御母の神は莞爾として御歌詠まし給はく、 『二柱八尋の御殿にましまして 国魂生ますと思へば尊し 今日よりは宮の司と吾なりて 岐美の神業をたすけ奉らむ』 眼知男の神は祝歌を謡ひ給ふ。 『天をぬく高照山を紫の 雲はいよいよ深くなりつつ 高照の山も勇むか殊更に 今日は光もしるく見ゆめり 高照の山の常磐木みどりして 今日の良き日を寿ぎ顔なり 朝夕にこれの清所に仕へ奉る 眼知男の神はうれしも 今日よりは此の宮居に在しまして 神国の柱みたて給はれ 二柱ここに現れます上は この神国におそるるものなし』 明晴の神は、婚ぎの席に列り給ひて、御歌よまし給はく、 『東の空より西に照り渡る 天津陽光は清らけく 西より東に澄み渡る 月の光は清々し 月の御霊と生れませる 太元顕津男の神は 神の依さしの神業を 仕へ奉ると今ここに 八尋の御殿に現れまして 如衣の比女と婚ぎまし 天の御柱めぐり合ひ 国の御柱立て給ひ 国生み神生みものを生み この神国を照らさむと 現れますぞ尊けれ われは明晴神司 四方にふさがる雲霧も 生言霊に明らけく はらし奉りて大前に 朝な夕なを仕へつつ 今日の良き日の佳き辰に 逢ふも嬉しや惟神 いや永久に玉の緒の 千代も八千代も変りなく 輝きたまへ二柱 御前に畏み寿ぎ奉る』 如衣比女の神は、返し歌詠まし給ふ。その御歌、 『明晴の 神の神言よ汝こそは 雄々しき神よ男の神よ 吾はかよわき比女神の 身にしあれ共国思ひ 神いつくしむ真心は 神に誓ひて忘れまじ これの宮居にある限り 朝夕を恙なく 神業に仕へ奉るべく 守らせ給へ明晴の 神の神言の真心に ゆだね奉らむ惟神 神かけ誓ひ奉るなり。 立迷ふ雲の帳は深く共 伊吹き祓はむ女の言霊に 天も地も一度に開く今日こそは 主の大神の光なりける 皇神の神言畏し国津神の 心は愛しと国を照らさむ』 ここに近見男の神は、寿ぎ歌うたひ給はく、 『神国に永久の花咲く時近み 吾嬉しさにたへず歌ふも 高地秀の宮を守らす神司 これの清所に高照山はも 高照の山も今日より輝きを まして国原さやけくなるらむ 二柱神の神言の生れましを 国津神達いさみてあらむを 吾も亦嬉しさあまり言霊の 助けによりて神代寿ぎぬ』 (昭和八・一〇・一三旧八・二四於水明閣谷前清子謹録)
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霊界物語 73_子_太元顕津男の神の物語1 26 主神の降臨 第二六章主神の降臨〔一八五七〕 高照河の上流に、高くかかれる万丈の瀑布中津滝の淵に潜める大蛇は、大御母の神、真澄の神たちの天津真言の言霊によりて雲を起し雨を降らせつつ、大空高く逃げ去りたれども、妖邪の気は山の谷々を包みて、さしもに清き聖山も黒雲常に覆ひて時に暴風を起し、樹木を倒し宮居を破り、豪雨を降らして諸神を苦しめ、田畑を破り其害日に月に烈しくなりければ、高日の宮の神司は諸神を集めて、天地の害を除かむと大御前に厳めしく祭壇を新に造り、山の物、野の物、河海の種々の美味物を八足の机代に置き足はし、御酒御饌御水堅塩を奉りて国土平安の祈願を籠め給ふ。 顕津男の神は、邸内より滾々として湧き出づる玉の御池に身を滌ぎ、声も清しく大前に天津祝詞を奏上し祈り給ふ。其宣言、 『掛巻も綾に恐き、天津高宮に大宮柱太しき立てて鎮まり坐す主の大御神、天の峯火夫の大神の大御前を謹み敬ひ、遥に遥に拝みまつる。抑々これの紫微の天界は、大御神の大御言もて天津真言の言霊に生り出で給ひ、山野の草木は日に夜に栄え、百神達は美しき神代を楽しみ、朝夕の風も和やかに、降り来る雨もほどほどに、総ての物を浸しつつ、神の依さしの神国は全く茲に現れぬ。彼百神達は大御神の大神業を称へまつり、喜びまつりて麻柱の誠を尽し、紫微天界は日に月に弥広々く、弥開けに開け弥栄えに栄えける折しもあれ、高照山の峰高く、落ち来る滝の其中津滝に醜の大蛇の潜み棲みて、万の神々を害ひまつり、天に成るもの地に生ふるもの悉く其の禍を蒙らざるものなし。故ここをもて、百の神々をこれの斎場に神集ひ、天津真言の祝詞もて大御神の御心を和め奉り、四方の雲霧吹き払ひ神代の昔にかへし奉らむと、謹み敬ひ願ぎ申す。此有様を平らけく安らけく聞召し相諾ひ給ひて、我等が麻柱の誠を𪫧怜に委曲に聞し召し、これの神国は曲もなく汚れなく荒ぶる神は影ひそめ、真言の道に立ち帰り、共々に神国のため神業に仕ふべく、守らせ給へと高日の宮の神司、顕津男の神謹み祈り奉る』 と声も爽やかに太祝詞言宣り給へば、高照山の峰より、香しき風吹き起りて、妖邪の気は忽ち吹き払はれ、尾上を包みし黒雲は跡なく消えて紫の雲棚曳きわたり、天津日の光、月の光は皓々として地上に光を投げ給ふぞ畏けれ。忽ち四辺に微妙の音楽響き、紅白青紫黄色の旗を手に手に翳しつつ、八十の神達は主の大神の御尾前に仕へつ、高日の宮の清庭に悠然として天降ります尊さに、顕津男の神、大御母の神、大物主の神其他の諸神は宮の清庭に拝跪し、荘厳の神気に打たれ乍ら、謹み敬ひ迎へまつる。顕津男の神は恭々しく主の大神を三拝し、自ら御尾前に仕へまつり、高日の宮の至聖殿上に招ぎまつりける。 顕津男の神は主の大御神の降臨を拝しまつりて恐懼に堪へず、謹みの余り御声までも慄はせ給ひて恐る恐る御歌詠ませ給ひける。 『かけまくも綾に畏き主の神の 天降りますこそ尊かりける 高地秀の山を下りて我は今 神を生まむとここに来つるも 大神の生言霊に生り出でし 紫微天界はうまし神国よ 久方の高日の宮に天降りましし 主の大神の厳々しきかも 願はくはわれに力を賜へかし この神国を永久に守るべく 日を重ね月を閲してやうやくに 妖邪の空気は湧き出でにけり いかにして此の邪気をば払はむかと 主の大神の神言請ひける』 ここに主の大神は儼然として立たせ給ひ、左手に玉をかかへ右手に幣を左右左と打ち振りながら、厳かに宣り給ふ。 『言霊の天照る国よ言霊の 真言濁れば国は乱れむ 朝夕に生言霊の響なくば この天界は曇り乱れむ 言霊は総てのものの力なり 心清めて朝夕宣れよ 澄みきらふスの言霊の御水火より 正しき尊き神はうまれむ 濁りたる神の言霊世に凝りて 曲神達は生れ出づるなり 高照山醜の大蛇も神々の 言霊濁れる酬いとこそ知れ』 斯く大神宣を宣り終りて、主の大神は至聖殿上に消ゆるが如く神姿をかくし給ひぬ。茲に顕津男の神は朝な夕なに生言霊を宣りまつれども、わが霊魂のいづくにか曇り濁りのある事を悟りて大に悔い給ひ、百神達に向つて、心の丈をのべ伝ふべく御歌詠ませ給ふ。 『おほけなくも高日の宮の神司 百神達の御前に申さむ 久方の天より降りし主の神の 生言霊にわれ打たれける 朝夕を禊に霊魂清めつつ 未だ濁れるわが魂うたてき 如衣比女神去りしよりわが心 曇りしものか神代は曇りつ 主の神の教畏み今日よりは わが魂を洗はむと思ふ 主の神のわれにたまひし八十比女も ただ国生みのためなりにけり 恋すてふ心起りていたづらに 迷ひぬるかな比女神の前に 神を愛し神を恋ふるも誠心の ために非ずば世は乱るべし 八十比女を愛と恋とに泣かせつつ われつつしみの違へるを思ふ 凡神のそしりを恐れ身を安く 守らせむとせし事のうたてさ 百神よ心したまへ今日よりは われ主の神の神言に仕へむ 百神はいかに賢しくはかゆとも 神の依さしに我は違はじ』 と謡ひ給ひて顕津男の神は、主の大御神の大神宣のまにまに、国生み神生みの神業に仕へまつり得ざりし事を、わが心の汚きより出でしものと大に悔い給ひ、今後は凡神達如何に言はかり譏り合ふとも、自己の名誉を捨てて只管に神命に応へむと宣言し給ひしなり。茲に居列ぶ神々は主の大御神の神言を謹聴し、又宮司の宣言を諾ひ、己が小さき心の曇りより神業を妨害し居たる事を今更の如く悔い給ひて、先づ大御母の神よりお詫の言霊を宣り給ふ。 『主の神の依さしに生れし宮司の 神業知らざりし吾を悲しむ 如何ならむ神の妨げありとても 神業の為めには雄々しくませよ 百神の小さき心を押しはかり 主の神言に背きたまひし 吾も亦主の神言を悟らずて 凡神のごと思ひけらしな 岐美こそは天の依さしの神司 われ等に比すべき神におはさず 今日よりは心の駒を立て直し 岐美に仕へむ大御母の神は』 大物主の神は御歌詠まし給ふ。 『天渡る月の御霊の宮司 百神達のはかゆべしやは 主の胤を彼方此方にまくばらす 岐美の神業を知らざりにけり 日の神は日の神月は月の神 おのもおのもに神業ありける 凡神の誠をもちて大神を 議ゆる心の愚しさを思ふ 凡神の誠は月の大神の 真言に比して差別ありける 大神のよしと宣らする神業も 凡神の目に悪しと見ゆるも 凡神のよしと思ひし神業は 大神業の妨げとなりぬ 神々はそれ相当の職務あり 小さき神の議ゆべきかは』 茲に顕津男の神は、二神のわが神業をやや諒解したる事を喜び給ひて、御歌よまし給ふ。 『大御母大物主の言霊に 我は心もなごみ初めたり 今日よりは醜の囁き耳とせず 我おほらかに神前に仕へむ 如衣比女の姿に心暗まされ わが言霊は濁りたるらし わが神業諾ひたまふ神あれば 心の魂は曇らざるべし わが心曇れば忽ち言霊も 濁りて神代は乱れむとすも 恐るべきものは心よ言霊よ 朝な夕なに洗ひ清めむ』 斯くおほらかに宣示し給ひて、主の大神の賜ひしわが神業を明かにし、怯めず臆せず遂行せむ事を言挙げし給ひたるぞ、天界経綸発祥の基礎とこそ知られける。 (昭和八・一〇・一七旧八・二八於水明閣加藤明子謹録)
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霊界物語 73_子_太元顕津男の神の物語1 27 神秘の扉 第二七章神秘の扉〔一八五八〕 主の神より瑞の御霊太元顕津男の神に依さし給へる国生みの神業とは、荒果てたる国土を開拓し、神々の安住すべき土地を開かせ給ふの意にして、神生みの神業とは、国魂神を生み給ふの意なり。先づ国を生みて其国魂たる、正しき清き神魂を生まざれば、神々は優勝劣敗の気分を起して終に収拾すべからざるに至るを憂ひ、茲に国の司たるべき御子を生み給ふの意なり。而して主の神より八十比女神を与へ給ひたるは、現代人の如きヌホコとホトとの接合にあらずして、只両神の真言の言霊の水火と水火とが融合調和し給ふ神業に感じて、ここに神霊胎内に宿りて、終には日を足らし月を満たして呱々の声と共に生まれ出で給ふ神業なり。比女神と比古神の澄み切り澄みきらひたるスの言霊の水火を初めとし、男神のウ声と女神のア声とここに凝りて神示の神業は完成するものなり。故に現代の如くペニスとムツシエリーとの交接の如き醜猥の手続を取るにあらざるを知るべし。 世は次々に変り行きて現代人の如き、御子生みの手段を取るに至りたれども、遠き神代の神々は斯かる手段を取るの要なく、清く正しき真言の生言霊を互に宣り交しつつ、女神は男神に、男神は女神に融合親和して、二神は茲に一神となり、水火と水火とを蒸し蒸して其神業を為し終へ給ふなりき。男神女神が其の豊円なる肌と肌とを抱き合せ給ふ時は、互に舎密電気の発生により温熱次第に加はりて、蒸しつ蒸されつ御子の霊宿るなり。斯くして生れたる男の御子をムス子と言ひ、女の御子をムス女といふは、今に至るまでその称へは同じ。遠き神代に於ける太元顕津男の神が八十比女神に対せる御子生みの神業を聞きて、現代人は一夫多妻の邪道と誤解するの惧れあるものなれば、ここに説示し置くものなり。 故太元顕津男の神は、八十比女神を御樋代として百神の暗き心を照すべく、御子生みの神業に奉仕し給ひしこそ畏けれ。 天界は愛と善との世界なれば、其愛は益々昂じて恋となり又恋愛となるは止むを得ざる自然の理と知るべし。愛は一切万有に対する情動の活用にして、恋は之に反し或一つのものに焦れて魂のこびりつく意なり。故に恋は親子の中にも、君臣の間にも、又朋友男女の間にも起る情動なり。恋愛に至りては然らず、恋ひ恋ひて焦れたる末は終に其肉体をも任せ任され、終には夫婦の道を造り又は破るの結果となる、之を恋愛の情動といふ。 今の世に至るも主の神の神言を蒙りて世に生れ出でたる神人は、凡人の如き形式を取らず、古の天界に於ける夫婦の道の如く、水火と水火とを組み催合ひ、情動と情動の接合によりて御子生みの神業を為し得るものなれば、極めて清浄なる行為なれども、凡人は妬み嫉み心捻け曲りて、醜悪の行為を為せるものと見做すこそ是非なけれ。女男両神は互に顔と顔とを摺り合せ、胸と胸とを抱き合せ、互に手を握りて愛の情動を交接し、其水火の発動によりて貴の御子は生れ出づるものなり。 有徳の神人は現代に生ると雖も、此の方法によりて御子は生れ出づべし。女男互に心に恨みなく、妬みなく、嫉みなく、其の清き赤き言霊を取り交す時は、別に男女の交接の手段を採らずとも貴の御子は生れ出づべし。これ言霊の天照国の幸ひなり。現代にても、想像妊娠といふことあり。ここに或る女ありて遥に恋ひ遠く慕ひつつ、手枕の夢結ばずと雖も、有徳の神人の御名を聞きて朝夕之に敬慕し、愛を籠め恋ふる時は、神人の霊魂忽ち親臨して水火を睦み合ひ、茲に胎児となりて現るるなり。故に賢明にして至粋至純なる女体には、一切の交接なくして御子生るる理由なり。 又妊婦は常に聖賢の像を壁間に懸けて敬慕おかざる時は、容貌美しき賢児生れ、羅漢像の如き醜悪なる容貌を朝夕見る時は、醜悪なる男女の御子生れるものなり。善言美詞の言霊を朝夕拝誦し、神人の面影を心中に描くときは神の御子生れ出で、悪言暴語を常に口にする時は獰猛醜悪なる御子生れ出で、国を乱し家を破り、終に両親を泣かしむるものなり。故に現代人と雖も常に言葉を謹みて、朝な夕なに善言美詞の神言を奏上し、清き赤き真言の心以て神人を恋ひ慕ふ賢女は、真しく国家の柱石となるべき善良の御子を生み得るものなりと知るべし。嗚呼惟神霊幸倍坐世。 (昭和八・一〇・一七旧八・二八於水明閣森良仁謹録)
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霊界物語 73_子_太元顕津男の神の物語1 余白歌 余白歌 惟神神代の生り出でし有様を神の力によりて説くなり〈総説〉 言霊の天照国の人々は心を清く持つべきを知れ〈総説〉 大虚中ただ一点の⦿現れて至大天界生まれ給へり〈第1章〉 すみきりて清くかしこき天界に千万の神生れましけり〈第2章〉 七十余り五つの声を生みまして五層の天界創め給ひぬ〈第3章〉 朝夕の神言宣りて天の世はいやつぎつぎに開かれにける〈第5章〉 言霊の助くる天津神国に生れます神は詞の花なり〈第5章〉 学者ほど迂遠なるもの世になしと吾思ひけり天界を知らねば〈第6章〉 眼暗き人のそしりを苦にもせず吾はばからず天界を説かむ〈第6章〉 生き生きて生きの果なき天界の姿は人の眼には写らじ〈第7章〉 果てしなき紫微天界の神々は祓ひ言のみいそしみ給へり〈第7章〉 言霊の水火に天界発生し百の神達生れますなり〈第8章〉 山も川も大海原も言霊の神の水火に生れ出でしものよ〈第8章〉 意外なる事のみ多く天界の事象は現代人に説けなく〈第11章〉 現界の智識をもちて天界の事象知らむと思ふは難し〈第11章〉 地の上の森羅万象悉く主神の水火に栄えこそすれ〈第12章〉 愚なる現代人は天界の事象を夢と見なして聞かずも〈第13章〉 荒唐無稽取るに足らざる戯言と愚者は必ずあざけるなるらむ〈第13章〉 天界に遠くみたまを馳せながら我は地上に説き明すなり〈第14章〉 天界の言葉を記すよしもなく三十一文字を借りてとくなり〈第14章〉 神々の言葉はあまりに説き難し我歌をかりて御心示さむ〈第14章〉 主の神の神言畏み我は今この物語謹みて編む〈第16章〉 現代の哲学宗教一変し真の道に生かさむと思ふ〈第16章〉 神に生き神に栄ゆる人の身は瞬時も神を忘るるな夢〈第16章〉 天界を開きたまひし神々のみわざをつぶさに示すこの文〈第17章〉 久方の高天原も地の上も皆主の神の御水火に生くるも〈第17章〉 若がへり若がへりつつ神々は地上に人と生れましけり〈第17章〉 高光る神の功績は目前月日を見るも明かなりけり〈第18章〉 顧みれば既成宗教悉くこの神国を汚し来りし〈第19章〉 幼稚なる科学哲学を妄信し神をなみする痴人多し〈第19章〉 吾は今宇宙の外に身をおきて天界の事象を語りつづくる〈第21章〉 天界の事象悉地の上にうつりて御代は栄えゆくなり〈第22章〉 想念の天界なれど形あるものは悉なり出づるなり〈第24章〉 天界の現象悉地の上に写りて御代は開けゆくなり〈第24章〉 天界にありし事象は悉く大地に鏡の如くうつらふ〈第28章〉 果しなき紫微天界の真秀良場に永久に立たせる神のみあらか〈第30章〉 山も川も木草も茂る天界は住みやすき国うら安き国よ〈第30章〉 言霊の助けによりて天界の現象悉なり出づるなり〈第31章〉 天界は言霊の国貴の国水火と水火とに神生れませり〈第32章〉 霊界のさま委細に説き明すわが物語諾なひてよめ〈第35章〉 伊都能売の神あれまして天界の事象悉とかせたまひぬ〈第35章〉 不成宮の神粟粒三石の数に勝ると神書に見えたり〈第36章〉 我古事記古語拾遺日本書紀合せ記せる神名は二百余柱〈第36章〉 春夏はあれども天津神国は秋と冬との淋しみはなし〈第37章〉 非時に花咲き匂ふ天界は人の夢にも悟らぬ光景〈第37章〉 天界は意志想念の世界なれど栄枯盛衰の境はあるなり〈第37章〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました]
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霊界物語 74_丑_太元顕津男の神の物語2 総説 総説 本来神皇国日本は、大宇宙の中心に永遠無窮の神護を以て、天津神祖の神の生み成し給ひし聖域なれば、皇御国と称し奉り、万世一系に之を統御し給ふ主権者を、スメラミコトと申し奉るも、⦿の言霊の神徳に依りて、成り出で給ひし神国なればなり。大虚空中にスの水火のすみきり澄みきらひつつ鳴り鳴りて鳴り止まざるスの生言霊は、神を生み宇宙を生み大地を生み、永遠無窮に渉りて終にスの神国我葦原の瑞穂の国なる中津国を生り出で給ひ、大宇宙の主宰として日の本の国を生み給ひ、天照皇大神の生り出で給ひて、天上の主宰と任け給ひ、御皇孫永久に平らけく安らけく知召す本つ神国にして、現人神に在す万世一系の天皇鎮まりませる日の本は言ふも更なり、全地の上に皇大神の洪徳を発揮し給ひ、神人安住の聖域と為し給ひしぞ畏けれ。 言霊学上より見る日の本の日は、則ち⦿にして⦿の本の国なり。故に日の本は日の本なるの意義を知る可し。 瑞月は茲に『霊界物語』の続巻天祥地瑞の著述に際し、聊か言霊学の大意を略解し、天地諸神の活動の意義と我神国日本の一大使命と、皇室の天神より出でで尊厳無比なる理由を解明し奉らむと欲し、重ねて『霊界物語』の続巻を著す事とはなりける。 言霊学の見地よりすれば、七十五声音の活動各異なりて、声なるあり音なるあり、半声半音なるあり、今爰に声音の区別を明かにせむとす。 アオウエイは天に位して父声なり。此の五大父声は大宇宙に鳴り鳴りて鳴り止まず、宇宙万有の活動力を不断に与へ給ひつつあり。吾人の耳には余りの大声にして入り難しと雖も、言霊学に通じたる聖者の耳には能く聴き得るものなり。則ち、 アオウエイ ナノヌネニ ハホフヘヒ マモムメミ ヤヨユエイ ワヲウヱヰ は純然たる声にして、 カコクケキ タトツテチ ガゴグゲギ ダドズデヂ パポプペピ ラロルレリ は音なり。而して、 サソスセシ ザゾズゼジ バボブベビ は半声半音なり。又アカサタナハマヤワの九行四十五音は正清音にして、ラロルレリは濁音なり。ガゴグゲギ、ザゾズゼジ、ダドヅデヂ、バボブベビは重音にして、言霊の重なれるを言ふ。チチの父を重ぬればヂヂ(祖父)となり、ハハの母を重ぬればババ(祖母)となるが如し。パポプペピは撥音なり。 大宇宙の根元を為すスの言霊を略解すれば、 スは外部を統べて北に活用き北東に活用きて有の極となり、⦿声の精と現じ東北に活用きて無所不為也。東に活用きて八咫に伸び極まり、天球中の一切を写真に写す如く現じ、更に滞り無く、結の座を占むる也。次に東南に活用きて数の限りを住み切り、南東に活用きて八極を統べて居り、南に活用きて正中心に集り、南西に活用きて真中真心を現じ、西南に活用きて本末を一徹に貫き西に活用きて自由自在也。而して大宇宙の至大天球の内外を涵し保ちて極乎たり。次に西北に活用きては無所不在也。次に北西に活用きて玄々の府となり、有にして空也。而して劫大約を統べ至大天球中の一切を写して安々の色ありて統べ居るなり。又霊魂球を涵し、涵しの司と現じ、上りては大⦿玉となり、出入の息限り無く澄みきり、呼吸と共に現れ結の柱となり、以て大宇宙に満ち足らひ常住不断なり。故に宇宙の一切は、スの言霊によりて其太元を生み出されたるものと知る可きなり。 次にウ声の言霊に就て略解しおくべし。 ウ声は北に活用きて離れ背き、北東に活用きて更け行く。次に東北に活用きて持ち含み、東に活用きて現在世界の結柱となり、東南に活用きて純美麗み嬉み、南東に活用きて産み産み魂機張り、南に活用きて結び合ひ、南西に活用きて固有の真と成り真実金剛現れ味の元素となり、西南に活用きて待ち合ひ氤氳として行く気発機となり、内部に所を得又中心に鎮まり、父母一に備はる中柱となり、又は鋭敏鳴出で三世を了達し、臼を造りて⦿を容れ鎮り、氏の元祖となり出づる也。 次にア声の言霊を略解すれば、 ア声は北に活用きて隠れ入るの義を現し、夜となり、北東に活用きて悉皆帰元り、東北に活用きて陽熱備はり、東に活用きて光線の力を顕し、眼に留まり、東南に活用きて圓象入眼也、南東に活用きて昼となり、大物主となり、世の中心となり、南に活用きて顕出づる言霊となり、南西に活用きて御中主となり、地球となり、西南に活用きて大本初頭と現じ、西に活用きて全体成就現在なり、西北の活用きは一切無なり、北西に活用きて一切含蔵なり。其外総じて顕の形にして近く見る言霊なり、大母公にして大仁慈となり、名の魂となり、⦿の本質にして心の塊なり。其方面を見、低く居る時あり、又幽の形にして遠く達する言霊なりと知るべきなり。 次にオ声の言霊活用を略解すれば、 オ声は北に活用きて受け納め、北東に活用きて漸々来りて凝り、又引く力となり、東北に活用きて蒼天の色と現じ神権強く、東に活用きて大気凝りて形を顕し、形の素となり、東南に活用きて外面を守り及ぼし、南東に活用きて大気となり、大成し圧力を現じ、南に活用きて興し助くる言霊となり、南西に活用きて大宇宙及び大地を包み、西南に活用きて起り立ち登り、西に活用きて大気一如の心となり、親子一如となりて広く尊し。西北には活用無きなり、北西に活用きて真愛引力言霊となり、総じて極乎たる真空即ち現見の蒼天を現じ億兆の分子を保ち、又分子の始末を知悉し、親の位に在りて大に足り大に余る力を生じ、先天の気となり、心の関門となり、出入自由にして拒み鳴り、二数而水素力となる言霊なり。 次にエ声の言霊を略解すれば、 北に活用きて外面を開き、北東に活用きて外に顕れ調ひ余る力なり、東北に活用きて投げ打ち、東に活用きて自在に使役為力と現ず、把手又は柄なども此の活用なり。東南に活用きて焼点となり灯となり、南に活用きて内に集る力となり、南西に活用きて世に立ち居り、指し令得る力となり、西南に活用せず、西に活用きて中心を採り束ね、幽を顕に写し示し、西北に活用きて説き分けの言霊と現じ、北西に活用きて解け、成り、消ゆる、言霊なり。総じてエの言霊は真の固有にして本末を糺し、引付ける力を現じ、世を容れ居り、明に得る也、又絵也、教令也、指令也、顕照也、与る也、教導の意義なりと知る可し。 次にイの言霊を略解すれば、 北に活用きて始而無為の義なり。北東に活用きて反射力となり、東北に活用無し。東に活用きて既に極まり、東南に活用きて吹き行く熱となり、南東に活用きて止りとなり、五つ揃ひとなり、南に活用きて成就の言霊となり、南西に活用きて強く足り余り、西南に活用きて吹き来る熱となり、西に活用きて強く思ひ合ふ力となり、西北に活用きて小天球の証となり、北西に活用きて破れ動く力を現ずる也。総じて大金剛力にして基となり台となり、強く張り籠り天の内面を司り、勢ひに添ひ付き、同じく平等に動く言霊也と知る可し。 天祥地瑞第一巻、第二巻の天神等の以上六声音の言霊に、大宇宙及び万有一切を産み出で給ひしその元理真相を表はさむとして、七十五声音の言霊の中にても最も基礎となるス声を始め、アオウエイ五大父声音の活用を示し、この物語の大要を知らしめむとするなり。 昭和八年十月十九日旧九月一日 於天恩郷千歳庵口述者識
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霊界物語 74_丑_太元顕津男の神の物語2 余白歌 余白歌 言霊の天照る国に生れあひて言霊学び知らぬ人多し〈第1章〉 言霊の水火は火水となり火水となりしほともなりて世にみつるなり〈第1章〉 若がへり若がへりつつ天界は万代までも栄えはてなき〈第1章〉 足引の山川草木悉く其根元は天界にあり〈第2章〉 天界の功のしるき神々をつまみ記すも二千余柱〈第3章〉 神々の御名とはたらき委曲に説き示すなるこの物語よ〈第3章〉 無始無終極みも知らぬ天界のさま示さむと我は苦しむ〈第3章〉 万世の後に生れし人々はわが宣ごとに覚め驚かむ〈第7章〉 よしとあし生れる荒野を押し開き永久に生きます天界の神〈第7章〉 山川も木草も獣鳥魚も生れし基は水火の力よ〈第9章〉 濛々と棚黒雲の漂へる天の世の始は淋しかりしよ〈第9章〉 現世の人の眼は眩みたり天地創始の元理を知らずて〈第9章〉 大太陽現れまして天界は言霊の水火鳴り鳴りやまず〈第9章〉 日月は地上より見る日月に七倍まして光さやけき〈第9章〉 言霊の水火を結びて天地のすべてのものは生り出づるなり〈第12章〉 有難き神の御国に生れ来て外国の教に迷ふ愚人よ〈第12章〉 千万の星は互に結び合ひて虚空に位置を保ちをるなり〈第15章〉 国魂の神を生ませる神業も水火と水火との結びなりけり〈第17章〉 若返り若返りつつ顕津男の神は万代までも居ませる〈第17章〉 愛恋の心を神に生みつけて国魂生ませる顕津男の神〈第17章〉 生替り死替りつつ神代より今に至るも守ります神〈第18章〉 天地の未だ固まらぬ天の世の状態をつぶさに証すこの物語〈第21章〉 伝奇物語なる書にはあらず言霊の生ける真言の証なりけり〈第21章〉 史詩の形式をかりて天の世のありしことぐ説き示すなり〈第21章〉 頼るべき何物もなき霊界のこの物語口述るは難しも〈第22章〉 一巻の参考書もなく口述て行く天祥地瑞の物語かも〈第22章〉 天も地も未だ固まらぬ天の世の神の活動説くはこの書〈第24章〉 国々に天地開闢説はあれど言霊学に依りたるはなし〈第25章〉 隠身を神とし唱へ現身を命といひし神代なりけり〈第25章〉 国学者数多あれども皇道の大本覚りし人は稀なり〈第25章〉 大方の世人はことごと怪まむ未だ耳にせし事なき教を〈巻末〉 五十六億七千万の年を経て弥勒胎蔵教を説くなり〈巻末〉 伝へにも無き神の代のことがらを我言霊の力に説くなり〈巻末〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました]
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霊界物語 75_寅_太元顕津男の神の物語3 05 山上の祝辞 第五章山上の祝辞〔一八九九〕 顕津男の神、玉野比女の神を始め、百の神等は生言霊の功によりて、真鶴の国の広き国原豊けく膨れ上り、玉野湖水の底ひまで水乾きて、土地はいよいよ高く空に伸びたち、横に拡ごり膨れ膨れて果しなき光景を目撃しながら、喜びのあまり玉野宮居の聖所に立たせ給ひて、各自主の大神の洪徳を感謝しつつ、よろこびの御歌詠ませ給ふ。 顕津男の神の御歌。 『久方の天津高宮ゆ天降ります 神の功に国土うまれたり はしけやしこの国原を眺むれば 目路の限りは湯気立ちのぼる もやもやと湯気立ち昇り国原は かわき固まり栄えむとするも わが立ちし玉野の丘の聖所 膨れあがりて高根となりぬる 高照の山の高きに比ぶべき 玉藻の山の稚々しもよ 山稚く地柔かにありながら 常磐の松はみどりいやます 白梅の花のかをりの芳しさは 主の大神の御旨なるかも 真鶴の千歳の栄えを寿ぐか 九皐に鳴く鶴の音清しも 紫微の宮立ち出で吾は方々の 宮に侍りて細し国土生みぬ つぎつぎにわが言霊は清まりて うまし神国は生れたりける 国魂の神生む神業慎みて われは来つるもこれの聖所に 宮柱太しきたてて永遠に 鎮まりいます主の宮居はも 幾万劫の末の神世のかためぞと われ雄健びの禊せしはや 振魂の禊伊吹の禊まで 我は委曲に行ひしはや 雄詰の禊の神業に玉野丘の 霊は笑みて山となりぬる 鳥船の禊畏み玉泉に わが言霊を甦らせり 玉泉万丈の滝と落ちたぎつ 四方に響かふ言霊さやけし 言霊の天照り助け幸へる 国土となりけり稚き真鶴は 地稚き真鶴の国は言霊の 伊吹と禊にひろごりにける 有難し尊し天之峰火夫[※「峯火夫」という表記が多いが「峰火夫」という表記も第75巻以降に少し使われている。]の 神の功に国土造りをへぬ 久方の天津高宮の主の神は 天降りまして我を救ひませり 瑞御霊如何に言霊清くとも いかでなるべき此国原は 主の神の清き御稜威を蒙りて 我は正しく国土を生めりき 真言厳の神は正しく厳御霊 天之道立神におはせしか 厳と瑞の言霊の水火合はざれば この美国は生り出でざるべし 久方の天之道立神の功 隈なく悟りし今日ぞ嬉しき 千万里駒に跨り玉野森に 進みて永久の国土を生みしよ 真鶴の国は𪫧怜に生れましぬ いざ国魂の神よ出でませ』 真言厳の神は御歌詠ませ給ふ。 『久方の天津高宮の主の神の 神言のままにわれは天降りつ 瑞御霊国土生みの神業助けよと 神言かしこみ吾は来つるも 紫微天界開けし昔ゆかくの如 目出度き例はわれ聞かざりき 千代八千代万代までも栄えかし 常磐樹しげる真鶴の国は 瑞御霊来まさむ先に主の神の 神言のままに待ち居たるかも 目路はるか遠の国原見渡せば 瑞光輝き紫雲たなびくも 紫の雲のとばりを押し分けて 天津日の神かがやき給ひぬ 昼月のかげはさやかに大空に かかりて今日の喜び寿ぎませり 天地も揺り動きつつ真鶴の 国土は常磐に固められける アオウエイの生言霊の生みませる 伊吹の風の音の強しも サソスセシ生言霊の御稜威より 恵の雨は降りしきりたり パポプペピ生言霊は雷と なりて天地に響き渡れり 雷の厳の雄健び雄詰に 四方の醜雲散り失せにける 東より西に閃めく稲妻の いとはやばやと国土は生れし 見の限り葭と葦との茂りたる 国土は忽ち稲田となれかし 八束穂の稲種普く蒔き足らはして 神のいのちを永久につながむ 樛の木のいやつぎつぎに国土生みの 神業を仕へて神国を守らせむ』 玉野比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『久方の主の大神の神言もて われ玉野森に気永く仕へし 朝夕に生言霊は宣りつれど かかる例はあらざりにけり 二柱天津高宮ゆ降りまし 厳と瑞とに国土は生れけり 厳御霊瑞の御霊の水火合せ 生ませる国土の清しくもあるか 今日よりは真心の限りを主の神に 捧げまつりて国土造らむかも 水清き玉の泉に朝夕を 禊のわざに仕へ来しはや 朝夕に洗へど濯げどわが魂の 時じく曇るを恥づかしく思ふ 一日だも禊のわざをつとめずば ただちに曇る霊魂なりけり 時じくの香具の木の実の主の霊ゆ 生れし吾もにごるをりをり 大神の生言霊に生り出でし 天津祝詞の功たふとし 大前に朝な夕なを太祝詞 白せば清しわが玉の緒は 幾年もこの神国に生き生きて はてなき神業に仕へまつらむ 足引の山はあちこちに生れ出でぬ 地を固むる神の経綸に あらがねの地は総てのものの生命 永久に生ませる御手代なるも 見渡せば紫の雲たなびきて 神世の栄えを彩りにけり』 生代比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『真鶴の山に生れてわれは今 これの聖所に岐美と立つかも 惟神俄に恋しくなりしより 瑞の御霊に水火合せけり 水火と水火合せて御子を孕めども 怪しき心はつゆだに持たず 一柱御子生れませしあかつきは 真鶴山に一人住むべし 国中比古神の神業を朝夕に 助けまつりて神国を開かむ』 近見男の神は御歌詠ませ給ふ。 『顕津男の神の御尾前近く仕へ この喜びにあひにけらしな 南の国を知らせとのたまひし 瑞の御霊の言葉かしこし 真鶴の国生り出でし今日よりは 御子を助けて永久に仕へむ 玉野比女の心つくしの功績を 今目のあたり見るぞかしこき 生代比女の御腹にいます貴御子の 国魂神とならすたふとさ 真鶴山玉藻の山の神社に 天かけりつつ仕へまつらむ 天翔り地駆りつつ真鶴の 国土の栄えを永久に守らな 天界は愛善の国土よろこびに 満てる神国と漸く悟りぬ 曇りたるわが魂線は愛善の 国の光をおぼろげに見し おぼろげにわが見し紫微の天界は いよいよ明くきよく見えたり』 圓屋比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『玉野湖の百のなやみを乗り越えて 瑞の御霊は国土生ましませり 一時は如何になるかと危ぶみし 心づかひも夢となりける かくのごと深き経綸のあらむとは 圓屋比古われさとらざりける 高地秀の峰とひとしき高山の 尾の上に立ちて見る国土さやけし 玉藻山千条の滝のしろじろと 落ちたぎちつつ言霊響くも 玉藻山滝の水音響かひて 曲神たちは眼醒まさむ 五日目に風は吹けかし十日目に めぐみの雨は降れかし神国に 雨も風も神国の栄ゆる基ぞと 思へば尊し科戸辺水分の神』 宇礼志穂の神は御歌詠ませ給ふ。 『久方の雲井に高く聳えたる 玉藻の山は紫微の宮はも 玉藻山尾の上に建ちし大宮は 紫微の宮居に等しかるらむ 主の神の天降りますなる大宮は 雲井の上にそそりたつかも 玉野丘は次第々々に高まりて 今は雲井の上に立たせり 目の下に湧き立つ八重雲いとほして 下界に天津日かげはさせり 玉藻山尾の上に仰ぐ月かげは 一入さやけく思はるるかな 吾駒はいかがなしけむ森の外の 並木に永久に繋ぎ置きしを 言霊の水火に生れます白駒の 行方思ひて安からぬかも』 かく歌ひ給ふ折もあれ、玉野森の外廊遠く繋ぎ置きたる駒は、玉藻山の膨脹とともに大地膨れあがり、山の七合目あたりに清く嘶き居たりしが、宇礼志穂の神の生言霊に感じけむ、蹄の音もかつかつと、山の傾斜面を真白に染めて、単縦陣をつくり、神々の前に駆けのぼり来つ、新しき神国を祝する如く、声もさはやかに嘶きける。 宇礼志穂の神は再び御歌詠ませ給ふ。 『めづらしもわが言霊の澄みぬるか 言下に駒はあらはれにけり 駿馬の嘶き清し新しき 国土の生れを寿げるにや 主の神の七十五声のみいきより 生れし駒ぞたふとかりける』 (昭和八・一一・三旧九・一六於水明閣白石恵子謹録)
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霊界物語 75_寅_太元顕津男の神の物語3 11 魂反し 第一一章魂反し〔一九〇五〕 太元顕津男の神は、如衣比女の神の御魂を招くとして、八種の神歌を歌ひ、鎮魂祭を行ひ玉ふその御歌。 (一) アチメオオオオアメツチニ キユラカスハサユラカスカミハカモ カミコソハキネキコウキユラカス (二) アチメオオオオイソノカミ フルノヤシロノタチモカト ネカフソノコニソノタテマツル (三) アチメオオオサツヲラガ モタキノマユミオクヤマニ ミカリスラシモユミノハスユミ (四) アチメオオオノボリマス トヨヒルメガミタマホス モトハカナホコスエハキホコ (五) アチメオオオミワヤマニ アリタテルチガサヲ イマサカエデハイツカサカエム (六) アチメオオオワキモコガ アナシノヤマノヤマヒトト ヒトモミルカニミヤマカツラセヨ (七) アチメオオオタマハコニ ユウトリシデテタマチトラセヨ ミタマカリタマカリマカリ マシシカミハイマゾキマセル (八) アチメオオオミタマカリ イニマシシカミハイマゾキマセル タマハコモチテサリタルミタマタマカヤシスヤナ 斯く招魂の神歌をうたひ給ふや、如衣比女の神の神霊忽ち感応来格して、春風到り芳香薫じ、常磐樹の松は前後左右に揺れ動きて、他神の目にも歴然と御姿を拝し得るに至れり。茲に顕津男の神は御歌詠ませ給はく。 『神去りし如衣比女神は大前に 珍し御姿を顕し給へり 我と倶に在りし其の日と比ぶれば 一入御姿たふとくおはすも 四柱の御子生みをへし今日の日を 祝ひて比女の御魂招きぬ 霊界によし坐しますともわが造る 紫微天界を守らせたまへ 如衣比女神の神去りましてより われは心を建て直したり 公の魂わが身辺を守りますか 今日まで事無く神業仕へし 朝夕に公を慕ひしわが霊も 神業せはしくかへりみざりき 漸くに真鶴の国の生りたれば 公の功をおもひてまねきし 在りし日の事思ひ出で比女の魂を わが真心に招ぎ奉りける』 如衣比女の神霊は、しとやかに御歌詠ませ給ふ。 『何事も主の大神の御心ぞ 御魂となりてわれ仕へゐるも 瑞御霊われを招かす真心に ほだされ此処に降りつるはや 八雲立つ出雲の雲の八重雲を かきわけ玉藻の山に降りし 身体は大蛇に呑まれ失するとも わが魂線の生命は永久なり 中津滝にわが魂線は洗はれて 罪穢れなき今日の身軽さ 幽界に吾生き生きて瑞御霊 大御神業を守りまつらむ 千代鶴姫命の生ひ先き朝夕に 岐美の御霊と思ひて守らむ 頼みなき顕世を吾のがれ出でて 永久の生命の天国に栄えつ 八十比女神御魂守りて主の神の よさしの神業あななひまつらむ いざさらば雲路を別けて帰るべし 主の神います天津高宮へ 恋ひなづむ心なけれど別れゆく このたまゆらの惜しまるるかな』 顕津男の神の御歌。 『果てしなき紫微天界の中にして 水火と水火とを合せたる公よ 天路はろか下り来まして今直ぐに 帰らす公を惜しくも思ふ 主の神のよさしの神業をへぬれば われも天界に昇らむと思ふ 久方の天津高宮主の神の 御前恋ふしくわれなりにけり 真鶴の国はやうやく生れたり この行く先きの悩みを如何にせむ さまざまの悩みにあひて国土造る われをたすけよ如衣比女の御魂』 如衣比女の神は軽き御姿を現しながら、御空の雲を押し別け神馬に跨り、いういうとして、天津高日の宮のあなたをさして帰らせ給ひぬ。 玉野比女の神は、そのやさしく神々しき御姿を拝しまつりて、御歌詠ませ給ふ。 『畏しや如衣の比女の神の御魂 紫微宮の状を具さに宣らせり 仰ぎみるさへも眩きばかりなる 如衣の比女の姿たふとき 生死の差別さへなき天界と 悟りてわれは神世を楽しむ 死りたる神も姿を現して 言霊宣らす神世ぞ畏し 朝夕を玉の泉に禊して 清まりし目にうつらす御姿 魂は幾万代の末までも 生きてはたらく由を悟りぬ 吾は今年さびぬれど魂線の 生命の若きを思へば楽しも 生替り死替りつつ神の世に 永久に仕へて国土を守らむ 中津滝の大蛇の腹に葬ふられし 如衣の比女は生きてゐませし 顕津男の神の悲しき御心を 思へば知らず涙こぼるる 鶏の尾の長の別れと思ひてし 如衣の比女に岐美はあひませり』 生代比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『神去りし如衣の比女の御姿を いま目のあたり拝みて驚きぬ かねてよりかかる例のある事は 聞けども今更おどろきにけり 久方の天津高宮に仕へます 如衣比女神の御姿清しも 顕津男の神の御心推しはかり われは思はず涙にくれたり 生き生きて神の御殿に仕へます 如衣の比女の幸を思ふも 愛善の天界なれば⦿の神の 厚き心に護られにけむ 生死のなき天界に玉の緒の 生命を保つ身こそ幸なれ』 遠見男の神の御歌。 『玉藻山の上つ岩根の清庭に 天降りて御言宣り給ふ比女よ 隠り世に坐ませし神の瑞御霊の 生言霊によみがへり坐しぬ たまきはる生命を常永に天国に 保ちて神業に仕ふる比女神よ 愛善の光と徳に充たされし 神国の神人の姿やさしも 御子生みの神業をへて神国に のぼりし神人の姿生きたり 玉藻山の此の清庭に天降りたる 如衣比女神のいとしき心よ 瑞御霊の神の心の雄々しさよ すべての執着を打ち払ひつつ』 宇礼志穂の神の御歌。 『足引の山の尾の上に禊身して 死りし神人に逢ひし不思議さ 死りたる神人と思ひしを目のあたり 生ける御姿拝みけるかも 玉の緒の生きの命の果てしなきを 見つつ天界に生れしを嬉しむ 真鶴の国生れ出でし目出度さに 天降り坐しけむ如衣比女の神は 生代比女神は嘸かし嬉しからむ 国魂神の子やすく生まして 御子生れし玉藻の山の頂上に 玉の神の子生れし嬉しさ みまかりし神も御山に降りきて 御子生れますを寿ぎ玉へり』 美波志比古の神の御歌。 『久方の空にも御橋の架れるか 如衣比女神往来ましけり 久方の天の浮橋渡らひて 天津高宮に帰らす女神はも 真鶴の国やうやくに固まりて 死れる神もことほぎに来る 目出度さの限りなるかも真鶴の 国魂神は産声冴えにつ 瑞御霊御魂反しの宣り言に 如衣比女神天かけり来ませる 言霊の御稜威の力今更に 覚らひにけり魂反しの祝詞に 村肝の心正しき神司の 生言霊の神妙なるかも』 産玉の神の御歌。 『かくり世の神も来りて玉藻山 御子生れし日をことほぎ玉へり 神妙くもあるかな既に身死りし 神も天降りて国を祈らす 顕津男の神の苦しき御心を 偲びまつれば吾堪へ難きも 地稚き国土は次ぎ次ぎに固まりて 隠世の神さへ天降り坐しぬる』 魂機張の神の御歌。 『魂機張る神人の神言の尊さよ 生死一如に栄え果てなき 万有の主宰と現れし神人の身は とこしへまでも亡びざるべし 常遠の生命保ちて天界の 神業に仕ふる神人ぞ幸なる 鎮魂の八種の神言宣りまして 死れる神人を招ぎ給ひしはや 言霊の天照り助くる国なれば 斯かる例もあるべかりける 千代鶴姫命の生れますこの山に 鶴のうたへる声は澄めるも 幾千年万年まで姫命 しづまりいまして国土守りませ』 美味素の神の御歌。 『天国は尊き国よ甘美し国よ 常永に生死の境なければ 生き生きて生きの栄えの果てしなき 天津神国の住居たのしも 吾は今生死一如の真諦を 悟りて心勇み立つなり 久方の天津高宮ゆはろばろと 天降りし神の心愛はし 愛善の天津神国の真諦を いま目のあたり見つつ楽しも 玉の緒の生命は永久に亡びざるを 覚る今日こそ楽しき吾なり 地稚き玉藻の山の山の尾に 死りし神の御姿をがめり 瑞御霊の生言霊の味はひに 天降り給ひぬ如衣比女神は 愛の善信の真をも旨として 生れし天国は歓喜の園なり とこしへの生命を保つ天界に 生れし幸をたふとみ思ふも』 結比合の神の御歌。 『久方の御空は高しあらがねの 大地は広し生命はながしも 生死の別ちなき天界に生れあひて 楽しきものは言霊の幸なり』 国中比古の神の御歌。 『地稚き真鶴国の国中に 珍しき神事をろがみにけり アチメオオオオ魂反しの行に 如衣比女神天降りましけり』 (昭和八・一一・二六旧一〇・九於更生館出口王仁識)
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霊界物語 75_寅_太元顕津男の神の物語3 12 鶴の訣別(一) 第一二章鶴の訣別(一)〔一九〇六〕 天地の一切万有は、総て言霊の水火の活用によりて生れ出でたるものなる事は、前巻既に述べたるが如し。例へばカコクケキの言霊幸ひて烏、家鶏鳥、鵲等の鳥族生り出で、其声音も亦カコクケキを発するは其象徴なり。雀、鼠、其他の禽獣は、タトツテチの言霊幸ひて生れたるをもつて、今に其声音を保ち、猫の如きはナノヌネニに生れ、牛の如きはマモムメミより、馬の如きはハホフヘヒより、犬の如きはワヲウヱヰより、其他各禽獣虫魚は生れたる言霊の声音を万世に通じて発するものなり。 茲に顕津男の神は真鶴国の修理固成やや緒につきたれば、七十五声の言霊を宣り給ひて、天界に必要なる禽獣虫魚及び木草のはしに至るまで、生言霊の水火によりて生み出で給ひたるこそ畏けれ。 『天晴れ天晴れ生言霊の幸ひに 百の翼はなり出でにけり 畏くも生言霊の天照りて 国土は次ぎ次ぎ固まりにける 冴えわたるスの言霊に天地を 包みし雲も消え失せにける 立つ雲のかげも消えたり言霊の 御稜威は天地に澄みきらひつつ 長き世の末の末まで言霊の 水火は栄えて生命を守らむ 花咲きて稔り豊けき国原は スの言霊の幸ひにこそ まろまろとわが言霊は響くなり 吹き来る風も柔かにして 安国と治め澄まさむ言霊の 厳の力を腹に充たして 若草の妻は御子をば生ましけり この真鶴の国の柱と いすくはし生言霊に生り出でし 森羅万象に生命ありけり 木に草におく白露の光さへ 生言霊の水火のこもれる 白雲の墜居向伏すそのかぎり ⦿の大神の御水火に生れし 塵芥積り積りて地となり 木草の種は萌え出づるなり 賑しく栄ゆる国土は言霊の 水火の力の功なりけり 日も月もスの言霊の御水火より 生れしを思へば畏くぞある 水清き千条の滝も非時に 宣る言霊はさやかなるかも 五十鈴をふれるが如く常磐樹の こずゑは風に言霊宣るも 生き生きてまかるべきもの一つなき わが天界は言霊の国土よ 美しき天津神国のなり立ちも スの言霊ぞはじめなりける 国土造り御子生む神業も言霊の 水火の力の功なりけり スの声は総てのものの元津親 ⦿の神これに現れましにける 月も日も澄みきらひつつ大空に 輝きたまふも言霊の水火 奴羽玉の闇も晴れゆく言霊の 水火の力の大いなるかな 吹く風の音にも見ゆる言霊の 強き力のたふとき功よ 蒸しわかし天地なりし其元は 水火と水火とのむすびなりけり ゆがみなき誠心の言霊は 生きて活用きすべてを生ませり 美しき生言霊の幸ひに この天界は生れ出でしはや ゑらゑらに歓ぎ賑はふ言霊の 水火と水火とは神を生ませり 景色よき真鶴国の国形は 皆言霊ゆ生れ出でしはや 跼まりぬきあしなしつ天地の 中に生きたるわが言霊よ 光り照りて神国を清むる天津日の 光もいづの言霊なりける 音色よき虫の鳴く声耳すませ 聞けばのこらず言霊の水火よ 荒野原経廻りここに真鶴の 生国原は生れ出でにけり 目出度さの限りなるかも国魂の 神生れましぬ生言霊に 選まれて瑞の御霊と生れたる 我は言霊の局なるかも 笑み栄え果しも知らぬ喜びの 国土言霊に永遠を生くるも 起きて見つ寝てみつ玉藻の山の上に 心楽しき真鶴の国 衣手を撫でゆく風も言霊の 水火と思へば尊かりける そよと吹く風の響も言霊の 水火の力の幸ひにこそ 鳥獣虫類までも言霊を のらざるはなし神の御国は 野に山に生言霊の幸ひて 百花千花咲きみつるなり ほのぼのと遠山霞み近山は 緑に萌ゆる言霊さき国よ もろもろの鳥獣や草木虫 魚も残らず生みし言霊 夜昼の差別わかちて万有を 動かせやすます言霊の幸よ 面白し心爽けし言霊の 水火にみちたる国土に生れし 国魂の神生れましぬ生代比女 育くみまつれ神のちからに 我は今国魂神を生みをへて 西方の国土いざや拓かむ 玉野比女神の神言は玉藻山 神の御前に永遠に仕へよ 国中比古神は国魂神守りて 真鶴の国を永遠にひらかせ 遠見男の神は南の国原を すべ守ります職掌なるぞよ 産玉の神は千代鶴姫御子の 生ひたたすまで守りたまはれ 美波志比古神は往来の道芝を 永遠に守りて神業たすけよ 魂機張神は真鶴国魂の 命を守れ千代に八千代に 万有の水火と水火とを結び合せ 国の栄えを永遠に守らへ 真鶴の国に生り出づる万有に 味はひ与へて世を守りませ いざさらば我は別れむ玉藻山 ふたたびふまむ時楽しみて』 斯く生言霊を宣らせつつ玉野宮居の神霊に別れをつげ、天の白駒にひらりと跨り、単騎出発せむとし給ひしぞ雄々しけれ。 『仰ぎ見れば雲の彼方にかすみたる 西方の国の遥けくもあるか 国土を生み御子を生みつつ果しなき 旅ゆく我はやすらふ間もなし 万代の基礎を定むる言霊の わがゆく旅に曲なさやりそ 久方の天の高日の宮を出で けながくなりし国土生みの旅 わが思ひはろけかりけり⦿の神の います宮居にかへり言申すまで 八十比女はあれどもわが身一つにて 国魂生まむことの苦しき 御子生まばすぐ立ち出づる言霊の わが旅こそは何かさみしき 玉野比女生代比女神のやさしかる 心思ひて去りがてに居るも 常磐樹の松の梢に鳴く鶴の 声も一入今日はかなしき 家鶏鳥の鳴く音も曇る心地して 名残惜しみつ別れむとすも 行く先は如何にならむとわづらひつ スの言霊を力と出でゆかむ 国土稚き大野の原をはしりゆく 駒の蹄のゆきもなやまむ いざさらば百神達よ別れむと 駒に鞭うちいでむとしたまふ』 茲に玉野比女の神をはじめ、御供に仕へ来りし神等は別れを惜しみ、顕津男の神の乗らせる駒の轡をとり、暫しの間と引きとめながら名残の御歌詠ませ給ひける。 (昭和八・一一・二七旧一〇・一〇於水明閣加藤明子謹録)
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霊界物語 75_寅_太元顕津男の神の物語3 23 魔の森林 第二三章魔の森林〔一九一七〕 スウヤトゴルに姿を変じて、西方の国土の天地を吾物とし、邪気に包み居たる大曲津見は、高地秀の宮より降らせ給ふ朝香比女の神を、自ら顕津男の神と称し迎へ奉りて、御子生みを為し、西方の国土を完全に占領せむものと、計画をさをさ怠らざりし処へ、真正の太元顕津男の神の間近に来り給ひしに驚き、途中にて瑞の御霊一行を全滅せしめむと、部下の邪神等を集めて種々評議の結果、最も狡猾にして性質悪く、嘘つき上手で、自己の利益のみを巧妙に計らふ醜狐を柏木の森に遣はし、種々の謀計を与へて之に当らしめて居る。此狐を醜女の神といふ。醜女の神は柏木の森の手前に姿を隠しながら、顕津男の神の一行の駒の脚許近く、微なる声にて、 『右行かば必ず勝たむ 中行かば必ず負けむ 左行かば必ず亡びむ 主の神の教ぞ』 と姿を隠して歌つて居る。 顕津男の神は耳敏くも、醜女の神の歌を聞きて微笑みつつ御歌詠ませ給ふ。 『醜神の醜の言葉を聞きにけり 左に行くも我は亡びず 三ツ栗の中津道をば我行かむ 亡びを知らぬ面勝の神は 右行かば勝たむといひし醜の声は 我を謀る偽り言なり この森は奥深くしてほの暗し 駒の蹄に踏み破りなむ 右行かば必ず曲津の深き罠に かかりて百神亡ぶなるべし いざさらば亡ぶといひし左の道を 駒の蹄にかけて進まむ』 この御歌に七柱の供神は稍不安の面持しながら、各自に御歌詠ませ給ふ。 美波志比古の神の御歌。 『スウヤトゴル醜の曲津の先走り 醜女の神の謀計なるらむ 美波志比古吾は進まむ瑞御霊の 御許しを得て左の道を わが岐美の光を恐れてスウヤトゴルは 此処に謀計の罠を造れるか スウヤトゴル輩下に仕ふる醜狐 この森林に仇すると聞く この森を拓き渡りてスウヤトゴルの 曲津のすみかに進まむと思ふ 兎も角も吾は御前に仕ふべし 瑞の御霊よ続かせ給へ』 斯く歌ひて、左へ行けば亡ぶべしとの曲神の言葉踏みにじりつつ、奥へ奥へと一行八柱は馬上豊に御歌うたひつつ進み給ふ。 顕津男の神の御歌。 『柏木の森は小暗く繁りたれど 我は恐れじ悪魔のすみかも 大空を封じて小暗き柏木の 森を照してわが行かむかな スウヤトゴル大曲津見の潜みたる 峰は彼方の空に聳えつ 四方八方ゆ怪しき声の響き来る われ柏木の森を拓かむ 曲神の勢如何に強くとも 生言霊に拓きすすまむ 愛善の光を四方に照し行く 我に仇する曲津は亡びむ 醜神の亡ぶといひし森林の 左の道を伊行くは楽しも 大空の雲はちぎれて天津日の 光は静にさし初めにけり 曲神は雲を起して御空包み 月日の光をさへぎりて居り』 内津豊日の神の御歌。 『時じくに怪しき音の聞ゆなる 柏木の森は曲津のすみかよ 今とならば何を恐れむ瑞御霊 光の岐美の現れましぬれば 亡びなむと醜女の神の叫びたる 道行く吾は楽しかりけり 亡ぶべき道を明して進み行く 光の岐美の雄々しきろかも 斯くならば如何なる醜のさやるとも 何か恐れむ禊せし身は 惟神禊祓ひしわれなれば 醜の犯さむ術なかるべし わが行かむ道の隈手も恙なく 守らせ給へ皇大神 主の神のウ声に生れし吾にして 醜女の言葉に動くべきやは 地稚き西方の国土は彼方此方に 曲津見潜みて仇を為すかな 今日よりはこの国原は天国と 新に生れし聖所なるぞや』 大道知男の神の御歌。 『惟神大道知男の神われは 左の道に災なしと思ふ 右行けば災せむと醜女神 力かぎりに謀らみ居るも この森は東西十里南北は 三十八里の曲津のすみかぞ スウヤトゴル輩下の神の大方は この森林に潜み居るとふ 兎も角も柏木の森の醜神を 言向和せて進みませ岐美 行けど行けど果しも知らぬ森林の 木蔭を渡る風は冷たき 曲神の水火凝り凝りて風さへも わが身の骨を浸み透すなり 言霊の水火を照してこの森を 駒の蹄に踏みにじり行かむ 曲神の醜の謀計は飽くまでも 深くあれども底力なし 表面のみ強く見ゆれど曲神は 生言霊にあひて消ゆるも 言霊の幸はふ国よ言霊の 天照る国よ恐れなき国よ 今日までは曲津の神に襲はれしが 今や真言の力得にけり 禊して清まりにけるわが魂は 昨日に増して百倍強きも』 宇志波岐の神の御歌。 『この辺り宇志波岐居れど柏木の 森に足をば入れし事なし 今日までは怪しの森と捨て置きし 曲津のすみかを踏みて破らむ 心強くも光の神の御供して 曲津のこもる森行く今日は スウヤトゴル峰の魔神もこの森の 亡びを聞かば忽ち消ゆべし 果しなき小暗き穢きこの森は 曲津のすみかに応はしきかな 百木々は半ば枯れつつ各も各も 邪気吐き出でて世を汚しつつ 曲津見の邪気の集るこの森を 生言霊にきよめひらかむ この森に醜の狐の棲むと聞けば 分け入りし神今までになし この森に迷ひ入りたる国津神は 生きて帰りし一柱もなし 瑞御霊岐美に仕へて進み行く 吾等に邪気は襲はざりけり わが駒は邪気の集る森中を いななきながら進み行くかも 顕津男の神の御稜威に驚きて 醜の曲津は逃げ去りにけむか 安々と渡り行くかも魔の森の 茂みを分けて八柱の神は』 臼造男の神の御歌。 『岐美行かば柏木の森は明らけく 光り初めたり曲津は何処ぞ 仰ぎ見ればスウヤトゴルの山脈は いやつぎつぎに遠去りにける 顕津男の神の光に曲津見は 恐れ山もて逃げ去ると見ゆ この森は生言霊に縛りあれば 曲津も動かす能はざるべし 醜女神この森林に永遠に すまひて国土の仇をなしつつ 曲津見の輩下の神は八百万 この柏木の森にひそめる 曲神の数の限りを言向けて 神の聖所に清めむとぞ思ふ 亡ぶべしと曲津の宣りし左の道は 心安けかり神の光に 月も日も御空の雲を押分けて 柏木の森の上に輝く 輝ける御魂々々を照しつつ 出で行く道に曲津の姿なし 日南河禊の神事の功績に 安く渡らむ柏木の森を 曲神は姿を潜めて静なり 梢を渡る風の音のみにて 迦陵頻伽時を得顔にうたふなり 曲津見の森にも天津日照らひて 百花は露を帯びつつ森蔭に 艶を競ひて咲き出でにける 花蓆敷き並べたる如くなり わが行く森の木下蔭の道は 醜神のすまへる森は忽ちに 花匂ひつつ小鳥はうたひつ 虫の音も小鳥の声も天国の 春をうたふか冴え渡るなり 斯くの如花咲き満つる柏木の 森に曲津のすむと思へず 岐美が行く道の隈手に曲津はなし 花咲き匂ひ鳥うたふのみ 真鶴の国より来るか幾千の 鶴は御空に舞ひ初めにけり 斯くならばこの魔の森は天国よ 醜女の神は逃げ去りにけむ 勇ましき岐美の旅かも山も野も 木草の果までよみがへりつつ 幾千の鶴の鳴く音は西方の 国土の万世うたふなるらむ 右左道を違へず進み来し 今日の旅路は安けかりけり 右行かば醜女の神の謀計に 落ちて吾はも苦しみにけむ 曲神の謀の裏をかきながら 岐美は雄々しく出でまししはや 吾も亦光の岐美の御恵に 心安けく魔の森を行くも 処々清水湛ふる泉ありて 天津日の影浮べて澄むも この清水今日が日までも濁らひしを 生言霊に甦りたるよ 斯くならば手に掬ぶとも汚れまじ 長き生命の糧ともならむか』 内容居の神の御歌。 『月読の神の御霊に従ひて 心安けく魔の森を行くも 大曲津見醜のすみかのこの森の 岐美のみゆきに清まりしはや 曲津見は恐れをなしてスウヤトゴルの 山もろともに遠去りにける 醜狐数多棲むてふこの森も 月日輝く神園となりしはや 吹く風も清しく冴えて光るなり 木々の梢は千代ささやきつ 大空を包みし醜の黒雲も 散りて跡なく月日は照らふ 斯くならば未だ地稚き西方の 国土は栄えむ草木は萌えむ 天津醜女神は何処の野の果に 逃げ去りにけむ姿だにもなし 次々に岐美の光の輝きて 醜の魔神の隠れ所もなし 天翔り地を潜りて逃ぐるとも 如何でのがれむ神の眼を 西方の稚き国原にやうやうと あらはれましぬ光の岐美は この国土は八十比女神のいまさずば 殊に乱れし曲津のすみかよ 曲神は八十比女神のいまさぬを よき機会として雄猛び狂ふも 主の神の依さし給ひし八十比女の 神の御稜威は国土の鎮めよ この国土に八十比女の一柱ましまさば 斯くも曲津は猛ばざりしを 漸くに光の神の出でましを 仰ぎて国原よみがへりつつ 主の神の神言畏み国原を 廻れど曲津は亡びざりける 八十日日はあれども今日の生日こそ 国土の始めの吉日なるかも 濛々と黒雲立ちて昼もなほ 小暗き国土を照し給ひぬ わが岐美の厳の御水火に大空を 包みし雲も散り失せにけり 黒雲は紫の雲と変じつつ この国原はあらたに生れむ 八雲立つ黒雲立ちたつ西方の 国土を照して光る岐美はも 待ち待ちし光の岐美は現れましぬ 神に祈りし功なるらむ 今日よりは国津神等導きて 禊の神事に世を生かすべし 四方八方は雲と霧とに包まれて 月光さへも見ぬ国土なりけり 仰ぎ見れば天津日の光月の光 御空の碧に輝き給ひぬ 空碧く地は緑に木草生ひて 生れし国土は神国なるかも 高照の山は東に聳えつつ 紫の雲わき立つが見ゆ 今日までは高照山の頂上も 雲に包まれ見えずありしよ』 初産霊の神の御歌。 『駿馬の嘶き強し御空にも 鶴の鳴く音の冴え渡る今日 この国土に始めて見たる日月の 光のさやけさに吾魂生くるも 黒雲に空は閉され国津神は 始めて拝む月日なりけり 真鶴の空に舞ひつつ歌ひつつ 岩戸開けし国土を祝ふも 大空を十重に二十重に包みたる 雲散り行きて御空高しも 碧々と底ひも知らぬ空の海を 静に渡らす月舟の影 嬉しさは何に譬へむ百千花 咲き匂ひたる新しき国土を 山に野に百花千花咲き満ちて 吹き来る風も芳しき国土』 愛見男の神の御歌。 『天国と早や愛見男の神柱の 国土はさやけく雲晴れにつつ 瑞御霊光の岐美の出でましに 新しき国土生れたるかも スウヤトゴル曲津見潜む山脈は 今を限りに遠ざかりつつ 曲神を言向け和せ西方の 国土の月日を永久に拝まむ 草も木も小鳥も虫も今日よりは 岐美の御稜威をうたひ奉らむ 有難き日は来りけり瑞御霊 光の岐美の御稜威あふれて 雲霧は四方に立ち立ち風冷えて 木草の生育も乏しき国土なりし 永遠の光の岐美の言霊に この稚国土はよみがへるべし 西方の国土には八十比女神坐さず 曲津見処得顔に猛びし 待佗びし光の岐美の国土造り 喜び迎へむ国津神等は』 斯く神々は各自生言霊の御歌うたひつつ、曲神の棲めるてふ、柏木の森を何の艱みもなく突破し、スウヤトゴル山脈さして、駒の轡を並べ悠然として進み給ふぞ畏き極みなりけり。 (昭和八・一一・三〇旧一〇・一三於水明閣森良仁謹録)
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霊界物語 76_卯_世界の神話/朝香比女の神の物語 ミクロネシヤ創造説 ミクロネシヤ創造説 太初には、天も地もありませんでした。有るものは、果しなく広がつた海と、アレオブ・エナブといふ年老いた蜘蛛とだけでした。蜘蛛は漫々たる大海原にふわふわと漂うてゐました。 ある日蜘蛛は、非常に大きな貝を見つけました。蜘蛛はそれを取り上げて、 『どこにか口がありさうなものだな。あつたら中に這ひ込んでやるが』 と、四方八方から眺めて見ましたが、どこにも口が開いてゐませんでした。彼は貝を叩いて見ました。すると空洞のやうな響を立てましたので、 『とにかく、中には何もはいつてゐないな』 と独言をいひました。 蜘蛛は、どうにかして口を開けさせたいと思つて、頻りに呪文を唱へてゐますと、やつと少し蓋が開きました。蜘蛛はすかさず貝の中に潜り込みましたが、蓋が少ししか開いてゐないので、立ち上ることも出来ませんでした。 蜘蛛は貝の中を根気よく這ひまはつてゐるうちに、一匹の蝸牛を見つけ出しました。彼は蝸牛に元気をつけてやるために、それを腋の下に入れて三日が間眠りつづけました。それからまた、あちらこちらと探し廻つてゐると、更に大きな蝸牛を見つけました。蜘蛛は又それを腋の下に入れて、三日が間眠つてゐました。目が覚めると、小さい方の蝸牛に対つて、 『どうも貝の天井が低くて困る。せめて坐れるくらゐ天井をおし上げてもらひたいが、お前にそれが出来るかね』 と尋ねました。小さい蝸牛は、 『出来ますとも』 と答へて、少し天井を押し上げました。蜘蛛はお礼を言つて、その蝸牛を貝の西の方に据ゑつけて、それを月に変へました。 月が現れたので、貝の中が少し明るくなりました。蜘蛛は月の光で一匹の大きな蠐螬を見つけました。彼は蠐螬に対つて、 『お前は、今よりも一層高く天井を押し上げることが出来るかね』 と尋ねますと、虫は、 『出来ますとも』 と答へて、天井を押し上げ始めました。天井は次第に高くなりましたが、あまり骨がをれるので、蠐螬の体から汗がどんどん流れ出しました。蜘蛛はその汗を集めて海をこしらへました。それと同時に押し上げられた貝の上蓋が天空となり、下の蓋が大地となりました。蜘蛛は大きな方の蝸牛を貝の東の方に据ゑつけて、太陽に変へました。 天地、日月、海などはかうして出来たのでした。(ナウリ島) また一説に、世界の始めには、海だけでした。海の南に暗礁があり、海の北に沼がありました。ロアといふ神が、海に対つて、 『汝の暗礁を見よ』 と言ひました。すると忽ち暗礁が海の面に浮び出て陸となりました。ロアが更に、 『汝の砂を見よ』 と言ひますと、陸はすぐに砂に覆はれました。 『汝の樹を見よ』 ロアがかう言ひますと、忽ち陸地にいろんな樹が生えました。ロアは更に、 『汝の鳥を見よ』 と叫びますと、忽ち多くの鳥が現れました。そしてその中の海鴎が舞ひ上つて、大地の上に大空を拡げました。(マーシヤル群島) また一説に、太初一本の大きな樹が、逆しまに生えてゐました。その樹の根は大空の中に広がつてゐるし、その枝は海原に広がつてゐました。 この世界樹の枝のうちに、一人の女が生れ出ました。と、エラファズといふ天空神が一握の砂を女に与へて、 『これを撒きちらすがいい』 と言ひました。女が海の面に砂を撒きちらしますと、それが忽ち変じて大地となりました。 註他の神話によると、天がまだ大地に接し、大地がまだ海と分れなかつた頃、タブリエリックといふ神が鳥に変じて、この混沌たる世界の上を翔り、それからリギといふ蝶が大地と海との上を飛んで、この二つを分ち、更に他の神々が天を大地と分つて、上に押しあげたといふのであります。 日月神話 大昔ナ・レアウが、一人の男と一人の女とを造つたあとで、彼等に対つて、 『わしは、お前たちをこの大地に留めておくから、よく大地の番をするがいい。が、お前たちは、決して子供を生んではいけないよ。わしは人間が殖えるのを好まないのぢや。もしわしの命令に背いたら、ひどい罰を与へるから、さう思ふがいい』 と言つて、天界に去りました。 二人の人間──それはデ・バボウといふ男と、デ・アイといふ女でした──は、しかし神さまの命令に背いて、三人の子を産みました。するとナ・レアウの召使である一匹の鰻が、早くもそれを見つけて、ナ・レアウに、 『神さま、人間どもは、あなたさまの御命令に背いて、三人までも子を産んだのでございます』 と告げ知らせました。これを聞くと、ナ・レアウは大変怒つて、大きな棒を手にして、二人の男女を留めて置いた島に降つて来ました。二人は神さまの厳かな姿を見ると、その言葉に背いた恐ろしさの余り、ペタリと大地に坐り込んで、 『どうかお赦し下さい。お言葉を破つた罪は幾重にもお詫びします、でも生れた子供は、わたくしたちの生活に大層役に立つのでございます。太陽は光を与へてくれます。そのお蔭でわたくしたちはものを見ることが出来ます。太陽が沈むと、月がその代りに現れて、光を与へます。それから海は、わたくしたちに沢山の魚を与へて、食物に不自由なくしてくれるのでございます』 と言ひました。ナ・レアウは、二人の言葉を聞くと、心の中で、 『なるほど、二人の言ふことは本当だ。赦してやることにしよう』 と言つて、そのまま天界に帰つて行きました。 かうして太陽や月や海が、世界にあるやうになつたのでした。(ギルバート群島) 註一ペリュー群島にも、簡単な日月神話があります。それによりますと、大昔二人の神が手斧で大きな石を削つて、太陽と月とをこしらへて、天空に投げ上げたといふのであります。 註二デ・バボウ及びデ・アイといふ二人の男女が、太陽と月と海とを産んだといふ一事は、わが国の古史神話に伊弉諾、伊弉冊の二神が、天照大神と月読命と素盞嗚命とをお産みになつたとあることを思ひ出させます。 人類の起原 ミクロネシアには、余り念の入つた人類創生神話が見出されません。みな簡単な素朴なものばかりです。カロライン群島の神話によると、リゴブンドといふ神が、空から大地に降つて来て、三人の子を生み、そしてその三人が人類の祖先になつたと言ふのであります。また同群島に存する他の神話に従へば、ルクといふ神が大地を造つて、これに樹を栽ゑつけたあとで、自分の娘のリゴアププをそこに降しました。リゴアププは大地に降ると、大変喉が渇きましたので、樹の洞にたまつてゐる水を飲みました。水の中に小さい動物が入つてゐましたが、かの女はそれに気がつかないで、水と一しよに嚥み下しました。すると間もなく身重になつて、一人の女の子を産みました。女の子が大きくなつて、一人の娘が出来、その娘がまた一人の男の子を産みました。男の子が大きくなると、その脇腹の骨の一本から男が出来、その男がリゴアププと夫婦となつて、この二人が人間の祖先になつたと言ふのであります。 更にモルトロク島の神話によりますと、リゴアププが、樹の洞にたまつてゐる水を飲んで、一人の女を産み、その女の腕から一人の男が生れ、双の眼から男と女とが生れて、それ等が人類の先祖となつたと言はれてゐます。 またギルバート群島の神話によると、ナレウアといふ神が、一本の樹に火をつけますと、その火花と灰とから、人間どもが生れ出ました。ナレウアはそれ等の人間に言ひつけて、世界の諸地方に分れ住むやうにさせました。それが人類の祖先であると言つてゐます。