| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
|---|
|
81 (2189) |
霊界物語 | 37_子_出口王仁三郎自叙伝1 | 14 夜の山路 | 第一四章夜の山路〔一〇二六〕 喜楽は懐淋しく、何となしに力落ちがして愈帰国の途に就かむとした。一度空心町の斎藤の家に暇乞ひに立寄つて見ようと思ひ、再び訪れると、佐市夫婦を始め、四年以前に一寸悶錯を起して別れた娘が折よく来て居た。お繁婆アさんは粋を利かして、狭い内だけれど今晩は泊つて帰れと云ふ。そこへ十六七の富野といふ妹が居るので、僅四畳半の間で、五人が雑魚寝することとなつた。姉娘のお秋といふのが夜の十時頃に、ガラガラと車でやつて来て、何だかブツブツ小言を云ひ乍ら、おいのといふ女を合乗りで連れて帰つて了つた。油揚を鳶にさらはれたやうな気分で、喜楽は舌打ちし乍ら眠に就いた。併し乍ら此時の喜楽は一切の情欲に離れ、只信仰一点張に酔つ払つて居た時だから、昔の女に出会ひ一間に寝た所で、別に旧交を温めようとも何ともそんな考へは持つて居なかつた。乍併何となくなつかしいやうな気がして、其女と同じ家に一宿することを嬉しく思うて居たのである。 夜は容赦なく更け渡る。四人は何時の間にか安々と眠りについて了つた。 ○ 永き春日も稍西に傾いて、淀の川水に金鱗の光を流す、水瀬も深き浪速潟、水の都の天神橋の上に立つて、首を傾け思案にくれてゐた。巽の方を見れば、山岳の如く巍々として築き上げられた、宏壮雄大なる大阪城が水に映つて、薨がキラキラと西日に輝いてゐる。喜楽は之を見て感に打たれ、独言を云つてゐた。 喜楽『あゝ人間の運命といふものは不思議なものだ。二百八間の矢矧の長橋に菰を纏うた腕白小僧の藤吉郎も、忍耐勉励の功空しからず、登竜の大志を達成し威徳赫々として、旭日東海の波をけり、躍り出でたるが如く、遂に六十余州の天下を掌握し、三韓を切り従へ、大明王を驚かせ、万古不朽の偉業を後世に伝へた。話に聞くも実に心持よき英雄である。豊太閤だとてヤツパリ人間の生んだ子だ。彼も亦同じ百姓から生れた人間だ。豊太閤の幼時の境遇は、又喜楽の当時に酷似してゐる。矢矧の橋ならぬ天神橋の袂、自分も此処で一つ何か思案をせなくてはなるまい。折角無理算段をして持つて来た旅費はいつの間にか、煙の都の煙と消えて了ひ、何一つ持つて帰るべき土産もない。精神一到何事か成らざむや、吾れも太閤の成功位に甘んじては居れまい。神を力に誠を杖に、五六七神政の基礎を固めねばならぬ』 と往来しげき橋の上にて、吾れを忘れて雄健びなしつつ、空想にからるる一刹那、ドンと突当つた十二三歳の子供があつた。喜楽は驚いて其子供の顔を見つめてゐる。あとより息せき切つてかけ来る三十前後の番頭風の大男有無をいはせず子供を引掴み、打つやら、蹴るやら、乱暴狼藉を恣にしてゐる。子供は悲鳴をあげて、泣き叫ぶのを、物見高い大阪人の常として、忽ち橋の上は三人、五人、十人と立止まり、往来止めの姿と変つて了つた。番頭風の男は尚も続いて手首を無理に固く執り、腕もぬけむ計りに引張り乍ら、 男『一寸警察迄出て来い!』 と引きずつて行かうとする。喜楽は見るに見かねて、 喜楽『モシモシ暫く待つてやつて下さい。どんな悪いことをしたか知りませぬが……』 と言はせも果てず、男は言も荒々しく、 男『お前は田舎下りの旅人、構うてくれな。此奴アチボの玉子だ。今店先にあつた実母散を一服かつさらへ、逃げ出してうせたヅ太き小僧だ。今後の戒めに橋詰の巡査に引渡すのだ』 と鼻息あらく、エライ権幕で睨みつける。子供は薬の包をそこへなげ出し、両手をつき、涙乍らに泣きわびるいぢらしさ。喜楽は此子供もウブからのチボではあるまいと思ひ、大の男に向つて言葉を叮嚀に、子供に代つてあやまり、子供の言ふことを聞訊してみれば、 子供『私の母は永らく子宮病とかに罹つて苦み最早生命も危うなつて居ります。貧乏の為に薬を買ふことも出来ず、お医者さまに診て貰ふことも出来ないので、居乍らお母アサンの死ぬのを見るに忍びず、日々エライ心配をして居りましたが、隣の人の話によると、女の病には実母散を呑んだら、キツと全快すると聞いて、俄に其薬が欲しくなり母を大事と思ふ一念から、後前の弁へもなく薬屋の店先にあつた実母散を一服持つて逃げて来ました』 と語り了つて、ワツと計り其場に泣き倒れた。孝行息子の心にほだされて、喜楽も思はず知らず貰ひ泣きをし乍ら、懐を探つて五十銭を取出し、 喜楽『此薬を私に売つて下さい、そして子供の罪を許してやつて下さい』 といへば、大の男は面をふくらせ乍ら、 男『此奴は許し難い奴だが、今日はお前に免じて忘れてやるから今後はキツと慎め!』 と口汚く罵り、一服十銭の薬に五十銭を引つたくるやうにして受取り、ツリをも払はず肩を怒らして帰つて行く其無情さ。血も涙も通はぬ男かなと、怒りの色を現はして、帰り行く男の姿を歯ぎしりし乍ら見送つて居た。 草枕旅にし出でて悟りけり 空恐ろしき人の心を 大阪と云へば日本三大都会の一つ、商業発達の大地で七福神のみの楽天地と思うて居つたのに、今目のあたり貧児の境遇を見聞して、どこへ行つても、ヤツパリ秋には秋が来る、冬はヤツパリ冬だ、暗黒界は鄙も都も同じものだと溜息つくつく、『アヽアヽ』と歎いた声が、側に寝てゐるおしげ婆アサンの耳に入り、 おしげ『コレコレ喜楽サン、何寝言をいつてるのだ』 とゆすり起されて気がついてみれば、狭い餅屋の四畳半に眠つてゐた。今の橋の上の夢の中の出来事は神さまの御心によりて、喜楽の心を鞭撻し、郷里に一人の母や、老祖母のあることを思ひ出さしめ、早く帰国させむとの計らひなりしことが後日に至つて感じられた。 易者の言葉に励まされ丹波の国へ帰らむと 心の駒に鞭うつて車も呼ばずトボトボと 梅田の駅につきにけり仕度なさむと懐中を 探りてみれば情ない残りの金は二銭半 汽車はあれ共乗るすべも何と線路の真中を 一直線に膝栗毛腹も吹田のうまやぢの 茶店にひさぐ蒸し芋は栗より甘い十三里の 道程一歩又一歩茨木町を北に取り 丹波をさして帰り行く頃しも四月十五夜の 月は東の山の端に丸き面をあらはして ニコニコ笑ませ玉へ共夕べの空の何となく 心淋しき一人旅東も西も南北も 知人もなくなく山路を空の月かげ力とし 一度通りしおろ覚えの山と山との谷路を どこやら不安の心地して岐路ある所に停立し 首をかたぐる時も時忽ち前に現はれし 怪しき白衣の旅人は四五間先へ立つて行く 喜楽が進めば彼進み立止まれば又止まり モウシモウシと声をかけ呼べど答へぬ白い影 或は現はれ又は消え変幻出没不思議なり 二股道に現はれて又もや案内をする如し 怪しみ乍らも力得て足を運べど空腹と 疲れの為に進みかね眠けの鬼におそはれて 街路に転倒し乍らも眠たさ怺へて帰り行く 西別院の村外れ下り坂にとさしかかる 水さへ音なき丑の刻道の片方の細谷川を 隔てて狭き墳墓あり六地蔵さまを祀りたる 小さき屋根が見えてゐるここにて雨露を凌がむと 厭らし墓と知り乍ら天の与へと喜びて 六体並んだ石地蔵のしりへに身をば横たへて 手枕したままグウグウと華胥の国へ上りゆく あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ。 あたり寂然として静まり返る時しもあれ、夢か現か幻か、吾枕頭に近く聞ゆる女の忍び泣く声、幽かに耳に入ると共にフと目をさませば、喜楽は六地蔵の後に横たはつてゐることに気が付いた。 喜楽の頬に、冷たい水のしぶきがかかる。キツと目をあけて見れば六地蔵の前に余り背の高くない、横太い怪しい一人の女が、赤ん坊を背に負ひ乍ら、土瓶のやうな物を片手に提げ、石地蔵の頭から、『南無阿弥陀仏』といひ乍ら、冷たい水をかけて、何事か切りに、石地蔵に訴へてゐるやうである、喜楽は轟く心臓の鼓動を強て鎮圧し、息を殺して伺ひ居れば、怪しき女の影は一歩々々とゆるぐが如く、しづしづとして新しい墓の前に到り、マツチをすり蝋燭を点じ、合掌し乍ら泣き声になつて、伏し屈んでゐる。石地蔵の立つてゐる隙間から、此様子を覗きみた喜楽は俄に恐怖心にかられ、頭の毛はちぢみ、体はふるひ出し、寸時もここに居たたまらず、厭らしさに此場を逃げ出さうかと思つたが、腹の底から小さい声で、『待て』と云ふやうに聞えて来た。此声に自分は再び胴をすえ、直日に省りみることを得た。……喜楽は顕幽両界の救済者たらむとする霊学の修業者である、今幸ひにして斯の如き怪霊に出会し、研究の好材料を得たのは全く神さまの御心であらう。よく考へて見れば天が下に素より妖怪変化のあるべき筈がない、何れも皆心の迷ひから怖くない者が怖くなつたりするのである。何でもない者を妖怪変化だと思つて、昏迷誑惑其度を失はむとしたのは、何たる卑怯であらう。長途の旅にて心身疲労の結果、こんな妄想に陥つたのではあるまいか……と、キツと心胆を据え、目を見はれば妖怪でも幽霊でもなく、田舎婦人が何事か急の出来事の為に、此真夜中に亡き夫の墓に参つたのであるらしく、稍久しく祈つた後、『南無阿弥陀仏』と力なげに口ずさみ乍ら、ヨボヨボと元来し細谷川を渡つて、其姿は木立に紛れて見えなくなつて了つた。 女の姿の消えしより、喜楽も亦俄に恐ろしくなつて来た。永居はならじとソロソロ立上り、頬かぶりをなし、尻をひつからげ、コワゴワ渓流を渡り、山路に出でたる一刹那、 『怖いツ!』 といふ子供の叫び声が、つい足許に聞えて来た。喜楽は此声に二度ビツクリし乍ら、 喜楽『何にも怖いことはない、俺は人間だ!』 と呼ばはりつつ後ふり向きもせず、一目散に足の痛みも忘れて、法貴谷の方へと走せ帰るのであつた。 (大正一一・一〇・一〇旧八・二〇松村真澄録) |
|
82 (2193) |
霊界物語 | 37_子_出口王仁三郎自叙伝1 | 18 奥野操 | 第一八章奥野操〔一〇三〇〕 一旦斎藤宇一の座敷から、退却を命ぜられた修業場は、又もや爺の機嫌が直つて、再修行場に、二間続きの奥座敷を給与された。其時は多田琴、石田小末、上田幸吉などが最も面白き神懸りであり、いろいろの珍しき神術をして見せた。多田琴が両手を組み審神者となり、石田小末が神主となり、 小末『サア地震だ』 といへば、俄に家がガタガタとふるひ出し、ゴーゴーと唸り声が聞えて来る。けれ共地震は此家限りで、門口を出ると最早何の事もなかつた、大勢の者は其不可思議な神力に肝を潰し、舌を巻いてゐた。多田琴が、 多田『われは巴御前だ、オイ家来の者、皆サンにお茶を注げ』 と命ずると、戸棚からガチヤガチヤと音がして茶碗が人の数丈宙をたつて、二人の前に出て来る。多田は、 多田『皆サンの前へ、一つづつ配れ』 と厳命すると、何も居らぬのに、茶碗が畳の上五六寸の所を通つて、各自の膝の前にチヤンと据はる、据はつた時どれもこれも茶碗が二三遍キリキリと舞うてゐるのが不思議である。 多田『サアお茶をつげ』 と多田琴が命令すると、石田小末は手で土瓶を持つて、茶を注ぐ真似をする。さうすると、火鉢にかかつてゐた土瓶が勝手に、宙をブラブラやつて来て、誰かが持つて茶を注ぐ様に、八分許り、各次ぎ次ぎに注いでまはる。始めの中は喜楽の霊学は偉い者だとほめて居たが、ソロソロ魔法使、飯綱使と口を極めて罵り出した。それにも構はず霊をかけて火鉢を動かしたり、机を二三尺許りも宙に上げたり、土瓶を廻らしたりして、日夜研究に没頭してゐた。此時位面白くて得意な事はなかつた。多田琴に憑つた巴御前と自称する霊は喜楽に向つて曰ふ。 多田『此通り色々の霊術を、神が守護致してさしてやるのだから、これから一座を組んで、京大阪へ飛出し、奇術師となつて、ドツサリ金を儲け、それを資本として大きな神殿を造り本部を建てようだないか』 と勧めるのであつた。喜楽は神様の道に、そんな馬鹿な事をしては却て神の道を汚すだらうと思つて、躊躇して居ると、石田小末の憑霊が又もや発動して、 小末『サア是から宙を歩いて見せる、何ンでもかンでも御望み次第ぢや、こんな結構な神術があるのに、丹波の山奥に隠しておくのは勿体ない、京大阪へ出て、天晴れ神術をして見せたら、それこそ一遍に神様の御神徳が分つて、お道が開けるだらう。サア早く決心なされ』 と多田と小末の二人の神懸が両方からつめかける。山子好きの元市親子は喉をならして喜び、 元市親子『サアこれが神様の御神徳だ。天眼通から天耳通、天言通、それにこんな神術、これを見せたら、いかな理屈の強い男でも、往生せずには居られまい。金儲けをしもつて、神様のお道が広まるのだ、エヘヽヽヽ、こんな結構な事が世にあらうか』 と乗気になつて居る。岩森とく、斎藤高子までが色々の不思議な神術を習得して同意し出した。喜楽の心では、……そんな所へ出て、芸をして見せるのは、何だか恥しくて堪らない、乍併それで神様の道が開けるのならば、強ち止める訳にも行くまい。何事も神懸に任して、思ひ切つて京大阪へ一興行やりに行かうか……と決心し、産土神社へ参つて、伺つてみた。さうすると又もや自分の腹から塊が二つ三つゴロゴロと喉のあたりまで舞ひ上り、 『バカバカバカツ』 と呶鳴りつけた。喜楽は止めるのが馬鹿か、興行に出るのが馬鹿か、どちらで御座ります………と問ひ返して見ると、又腹の中から、 『其判断がつかぬ奴は尚馬鹿だ』 と呶鳴られた。喜楽は、 喜楽『そんなら多数決に依つて、神懸や元市サンの云ふ通りに致します』 と言つてみれば、又もや腹の中から、 『やるならやれ、兇党界に落してやるぞよ』 と呶鳴りつけられ、とうとう霊学興行は思ひ切る事にして了つた。 例の如く修業場で幽斎を始めて居ると、多田琴の容貌が俄に獰悪となつて来た。そしてはじけわれるやうな声で、 多田琴『アラアラアラ』 と呶鳴り出し、撃剣家が竹刀をふり上げて立合ふ様な素振りをして居る。審神者の喜楽は、 喜楽『鎮まれ!』 と一言言霊を発射した。多田は其一言に元の座に行儀よく坐り、組んだ手を離して、昔の武士が、腰の刀を抜く様な素振をなし、 多田琴『之を見よ』 と審神者の前に手をつき出す、審神者は目をつぶつた儘、之を見れば短刀の根元に、白紙が巻いてあるのをつき出してるやうに見える。そして此短刀を持つた男は、年は四十前後の稍赤みがかつた細だちの品のよい男である。多田は口を切つて云ふ、 多田『某は園部の藩主小出公の指南番奥野操といふ者で厶つたが、同役のそねみに依つて、讒言をせられ、園部を追ひ出され、亀山に参り、松平公の指南番となり、勤めてゐた所、十八歳の殿様の妹娘に惚れられて、遂に同役より又もや讒言をせられ、無念の涙を呑んで、丁度八十年以前の今晩、切腹を致して相果てた武士で厶る。此短刀を見られよ、血汐が附いてをらうがなア』 と呶鳴り立てた。 喜楽『ここは神様のお憑り遊ばす為の修行場であれば、人霊などの来るべき所ではない。早く立去つたがよからう』 ときめつけた。憑霊は首を左右に振り、 多田琴『苟くも天下の豪傑、武道の指南番に向つて、無礼千万な其言ひ条了見致さぬぞ』 と言ひ乍ら、ツと立上り、 多田琴『ヤアヤア』 と声をかけ、喜楽の頭の上を前後左右に飛び廻り、時々頭を蹴つて、騒ぎまはり、何程鎮魂をしても、荒くなる計りで、少しも鎮まらない。喜楽も殆ど持てあまし、此場をぬけ出し、再産土の社へかけつけて、祈願をこらして居た。そこへ石田小末が走つて来て、 小末『モシ先生、鎮まりました。操と云ふ武士が先生に一つ御頼みがあるから、早く帰つて欲しいと頼んで居ります。どうぞ帰つて下さいませ』 と叮嚀に頭を下げて頼んで居る。喜楽は、 喜楽『ヤアもう鎮まつたか、そりや有難い、産土様の御蔭だ』 と云ひ乍ら、社前に感謝し、直に元市の宅へ帰つて行く。 帰つて見れば多田琴は厳然として坐りこみ、 多田『アイヤ上田氏、某は最前申せし如く、亀山公の指南番奥野操と申す者で厶る。女房もなければ子もなし、又身内もなき故に後弔ひくれるものもなく、宙に迷うて居りまする。就いては自分の家に出入を致して居つた家来の子孫が内丸町に紙屑屋を致して居る。これは西尾と申す者なれば、よく査べて下され、戒名は何々と記し西尾の宅と西町の某寺に祀つてある。先づ第一に虚実を調べた上、此方の霊を御祀り下さらば、某は神の座に直り、其方が神業を保護いたし、日本国中は申すに及ばず、世界の隅々に致るまで十年ならずして名を轟かして見せるで厶らう。猶も疑はしくば、亀岡古世裏の墓地へ往つて調べて下され。入口から右に当つて三つ目の石塔が、拙者の石塔で厶る。性念のある印には、上田氏が石塔の前に立たれたならば自然に動くに依つて、それを証拠に御祀り下され。武士が百姓の伜に頭を下げてお願申す』 と威丈高になつて構へてゐる。これより喜楽は宇一其他二三の修業者を引つれ西町の某寺を調べ、紙屑屋の西尾の宅へ行つて聞いて見たが、操と云ふ名はハツキリ分らぬが、某々院殿某々居士と云ふ事丈は的中して居た。全く操の霊に間違ないと、勇んで古世裏の墓地へ往つて見た。所が墓地全体の様子が亡霊のいつた通り寸分の間違もなく、右の三つ目の石碑には苔がたまつて、ハツキリとは分らぬが、どうも似た字が現はれてゐる。石塔がモウ動くかモウ動くかと待つ事殆ど一時間許り、されど依然としてビクとも動かない。ハテ不思議と、不思議でもない事を、不思議がつて瞑目し、霊眼で調べて見ると、石塔の裏に大きな古狸が目をむいてゐるのが目についた。 (喜楽)『おのれド狸奴が、人を馬鹿にしやがつた、これから帰つて多田琴の審神を厳重にしてやらう』 と思ひ乍ら、スタスタと穴太の修業場へ帰つて来た。其時既に日は暮れて居た、修業場には薄暗いランプが一つ、点つて其向ふに多田琴と石田が四角張つて、厳然と控えて居る。自分等の姿を見るより、 多田琴、石田小末『ヤア上田殿、大儀々々よくこそお調べ下さつた。此方の申す事に間違は厶らうまいがなア、早く某の霊をお祀り下され。ヤア元市どの、其外の面々、いかい御苦労で厶つた、アツハヽヽヽ』 と豪傑笑ひをなし、肩を二人一時に揺すつてゐる。 喜楽『コリヤ多田に憑つてゐる古狸奴、小末にうつつてる狸の子分奴、此審神者を馬鹿にしやがつたな、サアもう了見ならぬ。これから霊縛をかけて縛めてやるから覚悟を致せ』 多田の憑神は一層大きく肩をゆすりて大口をあけ、 多田琴『アハヽヽヽ、イヒヽヽヽ』 と笑ひ乍ら横にゴロンとこけて了つた。喜楽は両手を組み、一生懸命にウンウンと霊縛をかけた。石田はウンの声と共にゴロリと倒れた。それと引替へに多田の肉体はムクリと起き上り、ドンドンドンと餅つく様に二十貫の体を二尺許り上げ下げして、座敷中を飛び廻る。喜楽は一生懸命になつて、 喜楽『どうぞお静まりを願ひます』 と頭を下げて優しく出た。憑神は大口あけて、 多田琴『アハヽヽヽおれは小松林様に頼まれて、貴様達に審神者の修業をさせてやつたのだ。実の所は松岡だ。能うだまされたのう、石塔の裏で狸を見た時は、随分妙な顔だつたのう。ホツホヽヽヽ、アハヽヽヽ』 と又腹を抱へて笑ひこける。 俄に室内が死人臭くなつて来た。……あゝ臭い臭いと各自に鼻をつまんでゐると、どこともなしに坊主のお経が聞えて来るかと思へば厭らしい声で巡礼歌が聞える、チンドン、ジヤブリンと云ふ葬礼の行列が耳に入る。此奴ア怪しいと手を組み目を塞ぎ、霊眼をてらせば、幾十とも知れぬ亡者が各自に笠と杖を手に持ち、乞食坊主の後について、障子の細い穴からくぐつて這入つて来るのが目についた。そして一番先に出て来る亡者の顔が、隣のお紋と云ふ娘の顔にソツクリである。喜楽は思はず知らず、 喜楽『ヤアお紋サン』 と叫んだ。されど何の答もなしに座敷へドカドカと亡者が重なり来り、遂には何百とも知れず重なり合うて、こちらを向いて睨んでゐる。斎藤高子、岩森徳子の二人の神憑はコワイコワイと叫び乍ら、喜楽の体に喰ひついて震ひ泣いてゐる。 何とも知れぬ不快の臭が室内に充ち、ランプの光は自然に細つてそこら中が薄暗くなつて来た。それから蝋燭を四五本も灯してみたが、どれもこれも火が小さくなつて消えて了ふ。仕方がないから、東側の細溝の清水で体を清め、胴を据えて、天津祝詞を一生懸命に奏上しかけた。怪しき亡者の影は一人減り二人減り、とうとう又元の障子の細い破れ穴から逃げ去つて了つた。かかる所へお紋の母親お初といふ婆アサンが、慌ただしくやつて来て、 お初『モシモシ喜楽サン、最前から俄にお紋が病気になつて囈言許りいつてゐます、そして喜楽サンどうぞこらへて下さいと、幾度となく繰返して居りますから、どうぞ、どんな悪い事をしたか知らぬが、まだ年の行かぬ子供の事だから、カニーしてやつて下され。大変な熱で、臭うて側へもよりつけませぬ』 と言ひ乍ら、泣いて居る。喜楽はこれを聞くより隣のお紋サンの家に行き見れば、お初婆アサンの云つた通り、熱臭く不快な臭が漂ひ娘はウンウンと唸つて居る。丁度元市の修業場で嗅いだ臭とソツクリであつた。そこで又もや天津祝詞を声高らかに奏上し、鎮魂を施せば、お紋サンは夢中になつて、 『のきますのきます』 と云ひ乍ら、寝所から立上り、二足三足門口の方へ歩き出し、バタリと其場に倒れて了つた。それと同時に病気はスツカリ治つて了つたのである。 此事があつてから、次郎松は、いよいよ喜楽は飯綱使だと口を極めて罵り、曽我部の村中を、御苦労にも仕事を休んでまでふれて歩いた奇篤な人間である。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一〇・一〇旧八・二〇松村真澄録) |
|
83 (2195) |
霊界物語 | 37_子_出口王仁三郎自叙伝1 | 20 仁志東 | 第二〇章仁志東〔一〇三二〕 話は少し元へ帰る。明治卅一年の四月三日神武天皇祭[※神武天皇が崩御した日。]の日、喜楽は早朝より神殿を清め修業者と共に祭典を行つて居た。そこへ瓢然として尋ねて来た五十余りの男がある。男は無造作に閾をまたげてヌツと這入り、 男『私は紀州の者で三矢喜右衛門と申します。稲荷講の福井県本部長で、静岡県阿部郡富士見村月見里稲荷神社附属、稲荷講社総本部の配札係で御座います。紀州を巡回の折柄、ここの噂を承り、すぐさま総本部へのぼり長沢総理様に伺うた所、因縁のある人間ぢやに依つて、兎も角調べて来いと言はれました。過去現在未来一目に見え透く霊学の大先生長沢様の御言葉だから、喜んでお受けなされ、決して私は一通りの御札くばりではありませぬぞ』 とまだ喜楽が一口も何ともいはぬ先から、虎の威をかる狐の様に威ばり散らしてゐる。喜楽は稲荷講社と云ふ名称に就いては聊か迷惑のやうな気がした。なぜならば口丹波辺は稲荷講社といへば直に稲荷おろしを聯想し、狐狸を祀るものと誤解されるからである。併し乍ら過去現在未来を透察する霊学の大家が長沢先生だと言ふことを聞いては、此三矢を只でいなすことは出来ない様になつて来た。 二月以来高熊山の修行から帰つたあとは、霊感問題に没頭し、明けても暮れても、霊学の解決に精神を集中して居たからである。そして親戚や兄弟、村の者までが、山子だ、飯綱使だ、狐だ、狸だ、野天狗だ、半気違だと口々に嘲笑悪罵を逞しうするので、何とかして此明りを立て、人々の目をさまさねばならぬと、心配して居た所へ三矢氏が来たのだから、一道の光明を認めたやうな気になつて、勇み喜び、直に三矢を吾家に止め、いろいろと霊学上の問題を提出して聞いて見たが、只配札のみの男と見えて、霊学上の話は脱線だらけで、何を聞いても一つも得る所がなかつた。それから旅費を工面して、三矢の案内で愈同月の十三日、穴太を立つて京都まで徒歩し、生れてから始めての三等汽車に乗つて、無事静岡の長沢先生の宅に着くことを得た。 長沢先生は其時まだ四十歳の元気盛りであつた。いろいろと霊学上の話や、本田親徳翁の来歴等を三四時間も引続けに話される。喜楽が一口言はうと思うても、チツとも隙がない。此方の用向も聞かずに四時間斗り喋り立て、ツツと立つて雪隠へ行き、又元の所へ坐り、三方白の大きな目を剥き出し、少し目が近いので背を曲げ、こちらを覗く様にして、又もや自分の話を続けられる。机の下は二三ケ月間の新聞紙が無雑作に散らけてある。沢山の来信も封を切つたのや切らぬのが、新聞紙とゴツチヤになつて広い机のグルリに散乱してゐる。長沢先生は障子の破れ紙の端をチヨツと引むしつて、ツンと鼻をかみ、ダラダラと流れやうとする鼻汁を又ポンと紙を折り、遂にはツーと余つて鼻汁が膝の上に落ちやうとするのを、今度はあわてて新聞紙の端を千切り、それに鼻汁紙を包んで、無雑作に机の下に投げ込み乍ら、平気な顔で又五時間斗り喋りつづけられた。長途の汽車の旅で体は草臥てゐる。一寸どこかで足を伸ばしたいと思ふても先生が動かないので如何することも出来ず、とうとう其日は自分の住所姓名を僅に告げた丈で、長沢先生の話斗りで終つて了つた。 先生の母堂に豊子といふ方があつて、余程霊感を得てゐられた。豊子さまは喜楽に向ひ、 豊子『お前さまは丹波から来られたさうだが、本田さまが十年前に仰有つたのには、是から十年程先になつたら、丹波からコレコレの男が来るだらう、神の道は丹波から開けると仰有つたから、キツとお前さまのことだらう、これも時節が来たのだ。就ては、本田さまから預つて置いた鎮魂の玉や天然笛があるから、之を上げませう。これを以てドシドシと布教をしなされ』 と二つの神器を箪笥の引出しから出して喜楽に与へ、且神伝秘書の巻物まで渡してくれられた。翌朝早うから之を開いて見ると、実に何とも云へぬ嬉しい感じがした。自分の今迄の霊学上に関する疑問も、又一切の煩悶も拭ふが如く払拭されて了つた。 午前九時頃から、長沢先生は再び自分を招かれた。早速に先生の前に出で、今度は自分の方から喋り立て、先生に一言も云はすまいと覚悟をきめて出合ふなり、自分の神憑り[※初版・愛世版では「神憑り」、校定版では「神懸り」。]になつた一伍一什を息もつかずに三時間斗り述べ立てた。先生は只『ハイハイ』と時々返事をして、喜楽の三時間の長物語を神妙に聞いて呉れられた。其結果一度審神者をして見ようと云ふことになり、喜楽は神主の席にすわり、先生は審神者となつて幽斎式が始まつた。其結果疑ふ方なき小松林命の御神憑[※初版・愛世版では「御神憑」だが、校定版では「御神懸(ごしんけん)」。]といふことが明かになり、鎮魂帰神の二科高等得業を証すといふ免状迄渡して貰つた。喜楽は今迄数多の人々に発狂者だ、山子だ、狐つきだとけなされ、誰一人見わけてくれる者がなかつた所を、斯の如く審神の結果、高等神憑[※初版・愛世版では「神憑(かむがかり)」だが、校定版では「神懸(かむがかり)」]と断定を下されたのであるから、此先生こそ世界にない、喜楽に対しては大なる力となるべき方だと打喜び、直ちに請ふて入門することとなつたのである。要するに長沢先生の門人になつたのは霊学を研究するといふよりは、自分の霊感を認めて貰つたのが嬉しかつたので入門したのであつた。 夫れより先生に従ひ、三保の松原に渡り、三保神社に参拝して、羽衣の松を見たり、又は天人の羽衣の破れ端だと称する、古代の織物が硝子瓶の中に納められてあるのを拝観したりし乍ら、一週間許り世話になつて、二十二日の夜漸く穴太の自宅に帰る事を得た。三矢喜右衛門も再穴太へ従いて帰り、園部の下司熊吉方に往復して、とうとう斎藤静子と熊吉との縁談の媒人までなし、今迄の態度を一変して、下司熊をおだて上げ、いろいろと喜楽に対し、反抗運動を試みる事となつた。 下司熊は、斎藤静子の余りよくない神憑を女房に持ち、自分も神憑となつて、相場占を始め出した。下司の腹心の者に藤田泰平といふ男があつた。此男は人の反物を預り、着物や羽織を仕立て、賃銭を貰つて生計を立てて居た男である。下司熊の頼みによつて、方々から預つたいろいろの反物を質に入れ、金を借り、それを下司熊に使はれて了ひ、依頼主から火急な催足をされて、非常に煩悶をしてゐた。グヅグヅして居ると刑事問題が起り相なので、泰平自ら穴太へ行つて来て、下司熊の為に自分は退引ならぬ破目に陥つた事を歎きつつ物語り、如何かして助けて貰ふ訳には行かうまいかと云つて泣いて居る。喜楽も最早如何する事も出来ない。併し乍ら何とかして助けてやりやうはないかと、頭を悩ましてゐた。そこへ斎藤宇一が自分の叔母の婿となつた下司熊と共に出て来て、何とかして藤田を助ける工夫はなからうか、藤田許りか下司までが、此儘にしておいたら、取返しのつかぬやうな事になつて了ふ。お前の家や屋敷を抵当に入れて、金でも借つてくれまいかと斎藤が云ふ。併し乍ら喜楽の家屋敷は既に抵当に入り、五十円借つた金も、とうの昔になくなつて居た。ふと思ひ出したのは奥条といふ所に預けておいた乳牛がある。其牛は喜楽の自由の物で、精乳館の物ではなかつたのを幸ひ、それを売つて下司や藤田の急場を助けてやらうかと思ひ、喜楽が九十円で買うた牛が奥条に預けてある、それをどつかへ売つてくれたら、其金を間に合はしてやらうと、云ふた言葉に下司は手を拍つて踊りあがり、 下司『そんなら済まぬが、どうぞ暫く私に貸して下さい。此牛は自分が入営してゐた時の友達で、矢賀といふ所に伯楽をして居る者があるから、そこへ連れて行て買うて貰はう』 といふ。そこで話が纏まつて、藤田泰平は園部へ帰る。喜楽と宇一と下司熊の三人は、奥条の牛の預け先から引出して来て、八木の川向うの矢賀といふ所へ引張つて行つた。 其日は此地方の氏神の祭礼で、あちらこちらに大きな幟が立つてゐる。漸くにして九十円の牛を十五円に買ひ取られ、日が暮れてからソロソロ八木へ廻つて帰らうとした。十五円の金は下司が預つたきり、懐へ入れて了つた。そして十円さへあれば下司の問題も一切片付くのである。五円丈は喜楽に渡すといふ約束であつたが、下司はふれまわれた酒にヘベレケに酔うて、何と云つても、妙な事計り言つて受入れぬのみか、日清戦争で戦死した戦友の石碑が立つてる前へ行つて手を合せ、 下司『惟神霊幸倍坐世、オイ貴様もおれと一緒に戦争に往つたのだが、とうとう先へ死によつたのう、本当に貴様は可哀相なものだ。こんな部落へ生れて来て、其上鉄砲玉に当つて死んで了ひ、本当に可哀相だ。おりや君に同情するよ。ナアに、俺だつて、同じ人間だ。そんなこた遠慮に及ばぬ』 と沢山の部落民がそこに居るのも構はず喋り立てる。忽ち十四五人の男が現はれて、 『ナアに失礼な事をぬかす、やつてやれ』 と言ひ乍ら、下司熊の手足を取り、ヨイサヨイサと祭の酒に酔うた奴斗りが、矢賀橋の側までかいて行き、メツタ矢鱈に頭をなぐる、打つ蹴る、非常な大騒ぎとなつた。宇一は部落民の方へ分け入つて、いろいろと下司の為にあやまつてやつてゐた。喜楽は懐中の天然笛を取出して、一生懸命にヒユーヒユーと吹き立てた。何と思ふたか、一人も残らず暴漢は逃げて行く。 そこへ巡回の巡査がやつて来て、下司熊を労はり八木まで送り届けてくれた。喜楽も宇一も巡査の後に従いて八木の橋詰まで帰つて来た。来て見れば橋の西側に劇場があつて、芝居が始まつてゐる。勧進元は下司熊の父親の下司市といふ可なり名の売れた顔役である。下司熊は喜楽や宇一を楽屋の中まで引張て行き裸になつて見せて、 下司『あゝ喜楽サン、折角に世話になつた牛の金が最前の喧嘩でおとしたとみえて、これ此通り一文も無い』 としらばくれてゐる。後から事情を探つて見れば、実際は五十円に牛を売り、ワザとに八百長喧嘩を仕組み、一文も残らず引つたくつてやるといふ計略に乗せられたのであつた。又藤田の来たのも、下司や宇一との計略に依つて喜楽の牛を売らし其金をせしめようといふ計略であつた事が判明したのである。それが分つたので喜楽は神憑[※初版・愛世版では「神憑」、校定版では「神懸」。]になり、腹の中の憑霊に向つて、 喜楽『なぜ喜楽の肉体がこんな目に会うてるのに知らさなんだか、言はいでもよいこと許り喋る癖に、なぜかう云ふ時に知らしてくれぬのだ。モウこれからお前らの言ふことは聞かぬ。サア私の体からトツトと帰つてくれ』 と腹立紛れに呶鳴り立てた。さうすると暫く静まつて居つた玉ゴロが、又もや喉元へこみ上げて来て、小さい声で、 『アツハヽヽヽ、馬鹿だのう』 といつたぎり、何と云つても、キウともスウとも答へてくれぬ。とうとう泣き寝入りになつて了うた。 下司熊は其後須知の岩清水といふ所で、村の神官と諜し合せ、観音の木像を土の中へ深く埋けておいて、「サテ自分は神さまのお告に依り岩清水の或地点に観音さまが埋まつて御座ることを聞きましたが、一ぺん調べさして頂きたい」と区長の宅へ頼みに行つた。それから区長の許しを受けて、宮の神主と共に掘り出しに行つた所、観音の木像が出たので、それを御神体とし、船越某の家で祭壇を作り、所在神仏の木像を古道具屋の店のやうに祀りこみ、二三十本の幟をあちら此方に立て、お大師さまの御夢想の湯だと云つて、湯をわかし、患者を入浴せしめなどして、沢山の愚夫愚婦を集めて居た。そして観音の木像が神さまのお告げで現はれたといふので大変な人気となり、一時は非常に繁昌してゐたが遂に警察から科料を取られ、拘留に処せられ、それより段々信者が来なくなつて了ひ、やむを得ず、岩清水を立つて、再び園部へ舞ひもどり、神さま商売もテンと流行らなくなつたので、再び博徒の群に入り、とうとう睾丸炎を起して夭死して了つた。泰平も亦二三年を経て急病でなくなつて了つた。牛を下司に取られたといふので、又々由松が怒り出し、 由松『此神は盲神だから、兄貴の馬鹿がだまされて居るのを、黙つて見てやがつた、腰抜神だ。モウ俺の内にはおいてやらぬ』 といつて再斎壇を引つくり返し、暴れまはるので、喜楽も安閑として居る訳にも行かず、此上如何したらよからうか、一つ神さまに伺つて見ようと、産土の社に参拝して神勅を受けた。其時小松林命喜楽に神懸りして、 小松林『一日も早く西北の方をさして行け、神界の仕組がしてある。お前の来るのを待つてゐる人がある。何事にも頓着なく速にここを立つて園部の方へ向つて行け!』 と大きな声できめつけられた。それより喜楽は故郷を離れる事を決意したのである。 (大正一一・一〇・一一旧八・二一松村真澄録) |
|
84 (2209) |
霊界物語 | 38_丑_出口王仁三郎自叙伝2 | 05 三人組 | 第五章三人組〔一〇四二〕 喜楽、幸吉の二人は、道々神話に耽り乍ら、虎口を逃れた様な心持で北へ北へと進み行く。 穴を出て穴に入るまで穴の世話 穴恐ろしい穴の世の中 一休禅師の歌や、 故郷は穴太の少し上小口 只茫々と生えし叢 等と観音の化身が詠んだと云ふ狂歌を謡ひ乍ら、足に任せて十余里の道程を、漸くにして上谷の修行場へ安着した。帰つて修行場を調べて見ると、第一懸念して居た黒田きよ、四方春三、塩見せいの三人の姿が見えぬので、留守中を依頼したる四方氏に尋ねて見ると、 四方『一昨日の夕方教祖が態々御出でになつて……神様の御命令だ……と仰有つて、私の留めるのを諾かずに、三人を連れて帰られました』 との答である。 『あゝ頼み甲斐のない人ぢやなア…』と思ひ乍ら、四方甚之丞と云ふ修行者を綾部へ遣はして、三人の修行者を今夜の中に是非とも上谷へ帰つて来る様にと厳しく申付たら、側に居た四方平蔵氏が口を出し、 四方『上田先生が何と云はれても、教祖様の御言葉ですから、御三体の大神様のお憑り遊ばしたお三人様を今夜の中に呼び寄するなんて、そんな途方もない事は出来ませぬ』 と首を振つてゐる。自分は重ねて、 喜楽『三人の者を明日の朝迄綾部へおく事は出来ぬ。邪神が憑つて又々狂態を演じ、其筋のお手数に預らねばならぬ様な事が出来するから、是非とも今夜の中に、三人を此処へ連れて帰つて貰ひ度い』 と厳しく云ひ張つても、四方平蔵氏始め一同腹を合して聞き入れぬのみか、 四方『先生に今帰つて貰ふと、神さまの肝賢のお仕組の邪魔になるから、お迎へに来る迄綾部へは決して帰つて下さるな。貴方は緯役で、大神様のお仕組の反対をなさるお役ぢやさうなから……』 と妖魅の言葉を信じきつて居る。 四方平蔵氏は自分に隠れて、ソツと綾部の金明会へ馳せ帰り、幸吉と云ふ弟と共に上谷迄帰つた事を急告した。 サアさうすると、福島寅之助を始め三人が慌出し、 『何、上田が上谷迄帰つて来たか。そりや大変ぢや、早う上田の帰らぬ中に、仕組をせねばならぬぞ』 と四人は襖を閉めきつて、奇妙奇天烈の神懸[※校定版では「神憑(かむがかり)」]を続行してゐた。 自分は仕方なしに幸吉と共に、上谷に残つてる修行者を鎮魂して居た。其翌日の十時頃になると、四方祐助爺サンが顔色を変へて出て来て、震うてゐるので自分は、 喜楽『祐助サン、碌な事で来たのぢやなからうな』 と問ひかくれば、爺サンは直に大地へ手をついて、 祐助『ハイハイ恐れ入りました。外の事では御座りませぬが、綾部は大変で御座います。お三体の大神様がお三人サンへお憑り遊ばして、口々に……三人世の元、結構々々……と百遍ほども仰有つて、終ひには新宮の安藤金助サン処の庭に、大地の金神金勝要の神さまが埋もつて居るから、之を掘り出して鄭重にお祀りせんならんと云つて、三人がおいでになり金助サンとこの大黒柱の根元を三四尺ばかり、一生懸命になつて掘り出しなさつたけれども、石一つ碌に出て来ぬので未だ掘り様が足らぬのだ。もつともつとと云つて、三人サンは水をかぶり白衣を着け、緋の袴を穿いて掘つて居られた処へ、警察の署長サンが前を通つて、此有様を見つけ、……一体お前等はそんな風をして何をしてゐるのか、尋ね度い事があるから一寸来い……と云つて、三人共警察へ連れて去なはりましたので、私も吃驚して早速其由を教祖様に申ましたら、教祖さまは平然として……何事も皆神様の御都合ぢや、チツとも心配は要りませぬ、又土の中から形のある御神体が出るのではない、大地の金神様の霊気が、地の上へおでましになる事ぢや……と仰有つて居られますが、此爺には根つから合点が参りませぬ。四方春三サンや外二人は、警察へひかれたきりで未だ帰つて来られず、如何しやうと思案に暮れて、皆サンに隠れて爺の心で先生にお伺ひに出ました』 とオドオドし乍ら、半泣きになつて居る。然し此事件は何ともなしに治まり、自分は依然として幸吉と共に上谷で審神をつとめて居た。 二三日経つと、今度は足立正信氏の代理として、新宮の四方源之助、西原の西村文右衛門の両氏が、上谷へ態々やつて来てニコニコし乍ら、 『上田先生、喜んで下さいませ。今日から教祖様は、出口お直さまと申さずに、信者一同から出口の神と崇敬致す様になりました。神さまと申す訳は、二三日以前に綾部の警察から、署長サンが二人も巡査をつれて来て、何か怪しいものを祀つて沢山の人を騙し金儲けをして居るのぢやないかと疑ふて、大広前を隅から隅迄調べて見ましたが、別に胡乱の事がないので、何とも云はれずに帰られましたが、其時教祖さまが署長サンに向ひ、大きな声で……明治廿五年から出口直は神の因縁ありて、表向き狂人の様に致して、警察の側において、世界の事を言はして気を付けてありたぞよ。それに此神の誠が分らぬか……と呶鳴られましたが、相手にもならず帰られましたが、これ全く神の御神徳で御座います。万一私等が警察の署長サンに向つて、そんな事でも云はうものなら、官史侮辱だとか云つてやられて了ひます。何と教祖様の御神徳といふものは偉いもので御座います。も一つ恐れ入つた御神徳は外でもありませぬが、出口の神の総領娘のお米サンが、西町の大槻鹿造の嫁になつて居られまして、明治廿五年から今年迄足掛け九年振り、神様の罰が当つて丸狂人になつて居られた所、一昨日其お米サンが、金明会の大広前へおいでになると、出口の神の仰せには……大槻鹿造は大江山の酒天童子の霊魂であるぞよ。其女房となつて居るお米は出口直の子であれど、大蛇の霊魂で此世を乱して、世界の人間を苦しめた極悪神であるから、世界の見せしめの為めに、今日迄狂人に致して懺悔を曝さして、九年振り懲戒致したなれど、今日限り改心したらば許してやらう……と仰有つたら、あら有難や、あら不思議や、其場でお米サンが打倒れ、サツパリ正念がない様になつて了ひ、体がダンダンと冷たくなつて来ました。死人同様に息一つ出ませぬので、私達役員は……サア水ぢや、お神酒ぢや、おひねりさまぢや……と云つて騒ぎ出しましたら、出口の神さまは平気な者で……何も皆サン、御心配には及びませぬ。神様の御都合ぢやから後で分ります……と仰有つて、奥の間へ這入つて、知らぬ顔でお筆先をお書きになつて居られましたが、教祖様の仰せの通り、一時間ばかり経つとお米サンが息を吹き返し、元の体となり、其れきりさしも猛烈な狂乱も俄に平癒しまして、其言行が普通の人間とチツとも変はらぬ様になつたので、皆の信者が感心して、思はず知らず出口の神様と口で一斉に唱へたので御座ります。九分九厘迄死んで生きかへると云ふ様な事は到底普通の神力では出来ませぬ。人間業では無い。正しく神様のお力である、誠の艮の金神様に間違ひはないと合点して、今迄疑ふて居た無礼を一同がお詫致しました。それだから先生も一時も早う我を折つて、出口の神さまにお詫をして下さる様にお知らせに来ました』 と熱心面に現はしての永い物語であつた。自分は、 『はあはあ』 と云ひ乍ら二人の話を聞了り、茶等を進めて一寸一服して居ると、二人は又ソロソロ綾部の話をし出し始めた。 (大正一一・一〇・一四旧八・二四北村隆光録) |
|
85 (2230) |
霊界物語 | 38_丑_出口王仁三郎自叙伝2 | 26 日の出 | 第二六章日の出〔一〇六三〕 明治三十二年の夏、上谷の修行場にて幽斎修行の最中審神者の喜楽に小松林命神懸せられ、 『如何なる迫害や圧迫があつても綾部を去つてはならぬ。兎も角明治卅五年の正月十五日までは綾部で辛抱をせよ』 とのお諭しであつた。それで喜楽はあらゆる迫害と侮辱を隠忍して卅五年を待ちつつ、神妙に神様の道を修行して居た。愈卅五年正月十五日が来たので、 喜楽『今後如何しませうか』 と伺つて見た所、 『明日の朝からソツと園部の方面を指して行け』 との神示が降つたので軽装を整へ、只一人澄子に其意を告げ布教伝道の途に上つた。澄子は初めての妊娠で已に臨月であつた。何時出産するかも知れない場合である。自分も大変に初めての子の出産であるから気にかかつて仕方がない。けれども一旦神様に任した身の上、妻の為に神務を半時でも悤にする事は出来ぬと決心し、夫婦相談の上出立したのである。 先づ園部本町の奥村と云ふ雑貨店へ落ちつき、主人夫婦の懇篤なる世話によつて其家の別宅を無料で貸して貰ひ、且つ衣食万端を奥村から支給され日夜宣伝に従事しつつあつた。奥村氏は園部に於て相当の地位名望もあり財産もあつた。さうして清廉潔白の聞えの高い紳士である。其奥村氏が先頭に立つて商業の傍、熱心に宣伝したので、地方の紳士連中は先を争うて入信した。園部へ落ちついてから十二日目の夜に、綾部に残してある澄子が出産した様な夢を見たので、神様に聞いて見ると出産をしたから一先づ帰つてやれと云ふ事であつた。そこで奥村氏に其旨を告げ留守中を頼みおき、浅井はなと云ふ婆サンに神前の御給仕を命じて只一人スタスタと檜山の坂原巳之助と云ふ熱心な信者の宅へ立寄り昼飯を供せられ一服して居ると、其処へ慌ただしく綾部から四方祐助と云ふ爺サンが尋ねて来り門口から、 祐助『海潮サンはお内に居られますか』 と尋ねてゐる。坂原巳之助は綾部の中村一派のやり方に愛想をつかし、喜楽の教のみを信従してゐたのだから、屹度喜楽は此処に居るだらうと思つて尋ねて来たのである。奥の間で祝詞を奏上して居た喜楽は此声を聞いて静かに表へ出て、 喜楽『あゝ祐助さん、能う来て呉れた、まあ一服しなさい』 と云ふと爺サンは庭に立ちはだかつた儘、 祐助『これ海潮、何をグヅグヅして居るのだ。綾部は大変な事が出来て居りますぜ』 とゴツゴツした声で睨めつける様に云ふ。喜楽も何か澄子の身の上に就て変事でも出来たのではないかと、少しく不安の念に駆られて、 喜楽『祐助サン、澄子は機嫌よく出産しましたかな』 と尋ねると、祐助は首をブリブリと振つて、 祐助『えー、出産も糞もあるものか。自分の女房が臨月になつてゐるのに教祖様に隠れて其処ら中をうろつき廻り、悠々閑々と何の事ぢやい。綾部には大変の事が出来ましたぞ。それだから教祖様が何処へも行くでないと仰有るのだ。教祖様の命令を背くと何時でもこの通りなりますのぢや』 と息を喘ませて諒解し難い事を呶鳴りたてる。喜楽は益々不安の雲に包まれて、 喜楽『澄子は安産しただらうなア。そして男か女か何方が出来た、早く知らして呉れ』 と云はせも果てず、祐助は又もや首を頻りに振つて、 祐助『え、凡夫の俺がそんな事分つて堪るものか。海潮サンは天眼通が利くぢやないか、小松林に尋ねたら、それ位の事は分りさうなものぢやないか。それが分らない様な事で偉さうに神懸ぢやの、先生ぢやのとは云ふて貰ひますまい。綾部は何どころの騒ぎぢやないわ。改心をせぬと、こんな事が出来ると何時も教祖さまが仰有つたのを尻に聞かして居るものだから、こんな不都合な事が出来たのぢや。初産の事とて教祖さまも大変な心配、此祐助も何れ丈心配したかしれませぬぞや。お前サンも綾部へヌケヌケと帰つて来る顔がありますまい。帰るのが嫌なら帰らいでも宜しい左様なら』 と云ひ乍らスタスタと阪原の家を出て行かうとする。喜楽は益す気になつて、 喜楽『これ祐助サン、吉か凶か、どちらか、それだけ聞かして呉れ』 と小さい声で尋ねて見ると祐助は、 祐助『そんな事の分らぬ様な天眼通が何になるものかい』 とブツブツ囁き乍ら委細構はず駆け出し、 祐助『よう思案するがよい』 と捨台詞を残して早くも綾部へ帰つて行く。喜楽は慌て阪原氏に送られ一目散に祐助の後を追ひ駆けた。さうすると祐助は三の宮のある茶店で腰をかけ、 祐助『あゝ云つておけば屹度帰つて来るに相違ない』 と高を括つて居る。 『兎に角安産した。そして女の子が出来た』と云つたら、『あゝさうか』と云つたきり喜楽は帰らぬから心配さしたら帰つて来るだらうと、綾部で役員信者相談の結果祐助が代表者になつて選まれて来たのだと云ふことが後になつて分つた。丁度自分が園部で夢を見た其日に直霊が生れたのである。其日は新三月七日旧正月二十八日であつた。祐助と三人連れで綾部の宅に帰つて見ると、盛に赤児の泣き声が聞えて居る。初めて自分の子の声を聞いた時は何とも云はれぬ感じがした。然しあの声で子は達者であるが、澄子の身体は如何だらうと案じ乍ら門口を跨げて見ると母子とも至極壮健であつた。それから教祖さまに、 『自分の女房が臨月で何時子が出来るか分らぬのに、神様の命令も聞かずに、そこら中に飛び出すのは余り水臭いぢやないか』 と散々叱言を云はれ、謝り入つて三十日の間、宮詣りのすむ迄綾部に蟄居して居た。さうすると園部の奥村から『沢山の信者が待つて居るから早く来て呉れ』と云ふ手紙が毎日の様に出て来るので、四月の三日再び綾部を飛び出し園部で布教をつづけて居た。其留守中に自分が明治三十一年、穴太に居つた時から三十四年一杯かかつて執筆しておいた五百冊の書物を、四方平蔵、中村竹造の発起で立替の御用ぢやと云つて悉皆焼いて了つたのである。それから園部を根拠として大阪へ教線を開き、陸軍砲兵中佐の溝口清俊と云ふ休職軍人と心を協せて大阪市の宣伝に従事して居た。此中佐の宅へ心安く遊びに来る、背のスラツとした、人品のよい少し頭の光つた男が溝口中佐に説きつけられて熱心な信者となり、追々中流以上の信者が出来て天王寺の附近に一万坪の地面を買ひ、霊学会の本部を設置する段取とまでなつてきた。さうして其溝口の宅へ出入りして居た男と云ふのは、大阪の難波分所長の内藤正照氏であつた。内藤正照氏と溝口中佐と喜楽の三人は大阪市中の稲荷下げの教会を巡歴して種々と霊術比べをやり、それを唯一の楽しみとして布教は、そつちのけに三百六十軒ばかり市中の神懸[※初版・愛世版では「神懸」、校定版では「神がかり」。]を探し廻つて霊縛をしたり、色々と自分等の霊術を誇り得意になつて居た。今から思へば実に馬鹿らしい事を得意になつてしたと思ふ。然し此間に神懸[※初版・愛世版では「神懸」、校定版では「神がかり」。]に対する非常な経験を得た事を思へば、これも矢張御神慮であつたかも知れぬ。それから北海道の銀行の頭取をやつて居た山田文辰と云ふ男や内藤や、京都牧場の松原栄太郎等と人造精乳会社を、京都、大阪、園部に設置し、数千円の金を醵出して一つの事業を起し宣伝の費用に当てやうと目論見、已に着手して居る所へ、京都の高松某が中村竹造の指図によつて会社の工場修繕の大工に雇はれ散々に喜楽の悪口をなし、それが基となつて松原栄太郎、若林某、山田文辰等が変心し出し、折角組み立てた発頭人の喜楽や内藤を放逐せむとした。中村は何とかして喜楽が京阪地方で活動するのを妨害し、失敗の結果綾部へ逃げ帰り一間へ押し込めて活動の出来ないやうにしてやらねば此儘にして置いては虎を野に放つやうなもので、大本の教をとつて了ふに違ひないと役員一同が相談の結果、かう云ふ手段をとつたのであつた。そこで喜楽は已を得ず精乳会社を脱退し、内藤正照と愛善坂の麓で神様を祀り、布教宣伝に着手して居た。難波新地の婦人科の医者で杉村牧太郎と云ふ金光教の熱心な信者があり、又杉本恵と云ふ御嶽教の教導職や大阪大林区署に勤めて居た高屋利太郎、並びに錻力職の池田大造らと図り大宣伝をやつて居た。大阪の侠客の団熊や山田嘉平等も信者となつて大活動を始め、漸く曙光を認め、高屋利太郎は一同の代表者として一度綾部へ参拝して来やうと云つて詣つて来た所、中村が一生懸命に喜楽の悪口をついて且脱線的の言葉を並べ『洋服を着た様な連中は此処には来る事ならぬ』と高屋氏を箒で掃き出したので、高屋氏が大阪へ帰つて来て憤慨し折角組み立てた霊学会へひびが這入り、ゴタゴタして居る所へ中村竹造の内命で三牧次三郎が尋ねて来て、此男が口を極めて喜楽を罵倒したので止むを得ず大阪を立ち綾部へ帰つて来たのは明治三十六年の十一月頃であつた。さうすると役員が寄つて集つて自分の洋服を剥ぎとり、帽も靴も服も引裂いて雪隠へ突つ込んで了ひ、 『さあ、これで四ツ足の皮を剥いでやつた。これで海潮も改心をして、おとなしくなるだらう。神に背いて致した事は何事も九分九厘でグレンと覆るとお筆に出て居りますが、これで海潮サンも気がつくだらう』 と自分等が極力妨害しておき乍ら、神さまの業の様にすまし込んで居る。それから自分も再び離れの六畳に蟄居して又もや隠れ忍んで古典学を研究したり、筆の雫や道の大本等の執筆にとりかかり、明治三十八年の八月まで綾部に尻を据えて時を待つ事としたのであつた。 (大正一一・一〇・一九旧八・二九北村隆光録) |
|
86 (2243) |
霊界物語 | 39_寅_大黒主調伏相談会/言霊隊の出発 | 08 母と娘 | 第八章母と娘〔一〇七三〕 月てり渡る月の国梵天王の守ります 清き尊き国なればバラモン国と称へけり 抑も月の神国は所を以て国となし 其数七千有余国刹帝利族を王となし バラモン族は浄行を唯一の勤めと励みしが 古き風習も今ははや時の力に抗しかね 刹帝利族は散々な憂目に遭ひて屏息し 今は全くバラモンのやからの掌握する迄に 国の秩序は紊れたり七千余国の其内に 最も広きハルナ国ハルナの都に現はれて 梵天王の末裔と僣称したる曲津神 鬼雲彦は葦原の中津御国をあとにして フサの国をば横断し自転倒島に打ち渡り 暴威を揮ひゐたりしが神素盞嗚大神の 守り玉へる三五の教司に退はれて 雲を霞と中空をかけりて逃げゆく印度の国 ハルナの都に現はれて梵天王の自在天 大国主を祀りつつ霊主体従を標榜し 惨虐無道の教をば開きゐるこそ忌々しけれ 遠き神代の昔より王の位を継承し 此国々の王位をば占めたる清き刹帝利 国の貴族を虐げてバラモン族と聞えたる 大黒主はわが部下を其国々に遣はしつ 現と幽との全権を握らせおきて自らは 印度の国の大王となりすましたる時もあれ ウブスナ山の斎苑館守り玉へる更生神 数多の神人従へて朝な夕なに天地に 塞がる鬼雲やらはむとここに神たちよび集へ 日出別の御言もて黄金姫や清照姫 神の命を初めとし照国別や玉国別 治国別の神司初稚姫に言任けて 印度の国を三方より進ませ玉ふ御経綸 あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 此物語スクスクと言霊車よく走り 万里をめぐる月の国残る隈なく調査せし 神代の深き物語述べさせ玉へ惟神 神の御前に願ぎまつる。 黄金姫、清照姫は河鹿峠を巡礼姿に身をやつし、上りつ下りつ、谷間の絶景を眺めて、憩ふ折しもハム、イール、外三人の鬼熊別が部下に出会し、遂に道ならぬ事とは知り乍ら、正当防衛上止むを得ずして、ハム、イール、ヨセフの三人を、千仭の谷間を目がけて投込み、外二人の雲を霞と逃げゆく姿を冷やかに見守り乍ら、あたりに心をくばりつつ、母娘二人はシトシトと崎嶇たる羊腸の坂路を進み行きつつ歌ふ。 黄金姫『バラモン教の副棟梁鬼熊別の妻となり 埃及国に現はれて教を伝ふる折柄に 天理にたがひし曲業を知らずに勤めゐたりしが 仁慈無限の三五の神の光に照らされて イホの都を逐電し鬼雲彦に従ひて 顕恩郷に身を隠し月日を重ねて漸くに バラモン教の礎を固めゐたりし折もあれ 太玉命の宣伝使現はれ玉ひて天地を 震撼せむず言霊を発射し玉へば大棟梁 鬼雲彦を初めとし彼等一族雲霞 副守の大蛇につれられて安全地帯と聞えたる 自転倒島の中心地なる果物も大江山 厳の岩屋に立こもり三岳の山や鬼ケ城 部署を定めてバラモンの教を四方に宣伝し 豊葦原の瑞穂国百八十島の果てまでも バラモン教に帰順させ梵天王の御教や 御稜威を四方にてらさむと思ひし事も水の泡 英子の姫に仕へたる神の御国の強者に 追ひやらはれて果敢なくも鬼雲彦は逃げて行く わが背の君も後を追ひ姿をかくし玉ひけり 女心のどこまでも初心を徹さにやおかないと 鬼ケ城をばふりすてて安全地帯のかくれ場所 雲をとほして三国岳岩窟に深く忍び入り 数多の部下を使役して捲土重来バラモンの 復興はかる折もあれ神の恵か白雲の 空わけ登る宣伝使悪事は忽ち露顕して 住むによしなき悲しさに心の駒ははやり立ち 善と悪との瀬戸の海小豆ケ島の岩窟に 身をかくしつつバラモンの教を開く傍に 小糸の姫の所在をば焦れ尋ぬる真最中 心曲れる友彦と思はずここに邂逅して わが子の消息略悟り棚なし舟を操りて 三五教の高姫と力を合せ海原を 渡りて進む一つ島地恩の郷にまゐ上り 黄竜姫の愛娘嬉しくここに面会し 三五教の神人に導かれつつスワの湖 玉依姫の隠れます尊き霊地に参拝し 麻邇の宝珠の神業に仕へまつりし嬉しさよ 四尾の山の山麓に大宮柱太知りて しづまり玉ふ大神の宮居に朝夕仕へつつ 言依別の御言もて再び来たるフサの国 ウブスナ山の霊場に身魂を研きゐたりしが いよいよここに月の国ハルナの都に現はれし 大黒主の曲業をため直しつつ天地の 神の恵に浴せしめ醜の司を初めとし 七千余国の国人を安きに救ひ助けむと 神の御言を畏みて進み行くこそ嬉しけれ 河鹿峠の山路を辿る折しも吾夫の 守らせ玉ふバラモン教配下に仕ふる魔神たち 虎狼の心もてわれら母娘を迫害し 暴威をふるひ来るより天則違反と知り乍ら やむに止まれず手のすさびいで来る奴をひつ掴み 何の容赦も荒川の谷間に向つて投げやれば 残る魔神は逸早く雲を霞と逃げ失せぬ さはさり乍ら彼等とて天地の神の御水火より 生れ出でたる神の御子悔い改めて速やかに 身魂を清め美はしき高天原の都率天 尊き神の御前に霊を救ひ玉ひつつ 其醜業を一日も早く改めさせ玉へ 清照姫と諸共に河鹿峠の山みちに 心の垢を拭ひつつ三五教を守ります 皇大神の御前に畏み畏みねぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 清照姫は坂を下りつつ母の後について歌ふ。 清照姫『神が表に現はれて善神邪神を別け玉ふ バラモン教の神司鬼雲彦に仕へたる 父の命の鬼熊別は無限絶対無始無終 霊力体の大元首梵天王と聞えたる 大国彦の神霊を自在天神とあがめつつ 常世の国をあとにして埃及国に打渡り 顕恩郷にあれまして教を開き玉ひしが 其勢力は日に月に八桑枝の如茂久栄に 栄え茂りて権力は並ぶ者なき神司 数多の侍神を従へてヤツと心を安んじつ 副棟梁に任けられて母命を相娶り 夫婦仲よく道の為仕へ給ひし雄々しさよ 二人の仲に生れたる小糸の姫は幼時より 栄耀栄華に育てられ世の荒波も知らぬ身の 弁へもなく友彦に心を奪はれ海山の 恩ある父母をふりすてて心の暗に紛れつつ 恋しき男に手を引かれエデンの河を伝ひつつ フサの海原乗越えて波に漂ふシロの島 松浦の郷に身を忍び一年ここにゐたりしが 友彦司の行ひに愛想をつかし夜に紛れ 館を後に舟人のチヤンキー(長吉)モンキー(茂吉)と諸共に 千波万波を押分けてはるばる進む竜宮島 五十子の姫や梅子姫三五教を守ります 神の司に巡り会ひ身魂共に救はれて 神の威徳もオスタリヤ地恩の郷にかけ向ひ 高山彦や黒姫の蔭の力に守られて 一時は時めくクヰンの身月日の如き勢を 四方に照らしてゐたりしが神の守りの浅からず 恋しき母に巡り会ひ麻邇の宝珠の神業に 仕へてやうやう自転倒の島に初めて立向ひ 錦の宮に暫くは真心こめて仕へしが 言依別の教主より斎苑の館に母と子は さし遣はされ朝夕に恵の露に浴しつつ 清照姫と名を賜ひ母娘二人は潔く 三五教の宣伝に仕ふる折しも日出別 神の司の命令に恋しき父のますと聞く 月の都に進めよと仰せ玉ひし嬉しさよ 神に任せし此体いかなる悩みの来る共 いかで恐れむ神の道さやる曲津を悉く 尊き稜威の言霊に言向和しいち早く 神の御国を立直し月照りわたる月の国 空もハルナの都とし照らさむ為の此首途 あゝ勇ましし勇ましし如何に嶮しき山坂も 心の駒の勇むまに千里の道も遠からず 進み行くこそ楽しけれあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして吾等母子の神業を 守らせ玉へと村肝の心も清く照りわたる 清照姫がねぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ乍ら、秋風に面をふかれ、蓑をあふられ、杖を力に河鹿峠を降り行く。 (大正一一・一〇・二七旧九・八松村真澄録) |
|
87 (2260) |
霊界物語 | 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 | 01 大雲山 | 第一章大雲山〔一〇八五〕 空すみ渡る初秋の風も涼しき月の国 花は散れどもハルナの都バラモン教を開設し 大雲山の岩窟に館を構へて鬼雲彦は 大黒主と改名し梵天王の直胤と 此世を偽る曲津業数多の軍隊引連れて 左手に教書を捧げつつ右手に剣をぬきかざし 七千余国の印度の国刹帝利族の大半を おのが幕下に従へつ飛ぶ鳥さへも落すよな 其勢の凄じさ時しもあれやウラル彦 ウラルの姫の御教を宣伝しゆく神司 常暗彦は月の国デカタン高原に現はれて 教の旗をひらめかしこれ又左手にコーランを 捧げつ右手に剣持ちバラモン教の向ふ張り 勢やうやう加はりてバラモン教の根底は 危殆に瀕し来りけりかてて加へてウブスナの 山に建てたるイソ館神素盞嗚大神の 教を伝ふる日の出別八島の主の声望は 東の空に天津日の豊栄昇る如くにて 気が気でならぬバラモンの教司は岩窟に 集まり来りいろいろと対抗戦を開かむと 鳩首謀議の折柄に早馬使ひのテルヂーが 勢込んで馳せ帰り神素盞嗚大神の 部下の面々イソ館味方を集めて迫り来る 其勢はライオンの速瀬の如く急がしく 旗鼓堂々と攻め来る気配と確に覚えたり 今此時に躊躇して月日を仇に送りなば 臍をかむとも及ぶまじ早く精鋭の軍卒を さし向け彼が計画を根本的に覆へし 一泡吹かしてこらさねばハルナの都は忽ちに 土崩瓦解の虞あり用意めされと息早め 虚実交々取混ぜて注進すれば神司 大黒主は驚いて左守右守に相対し 如何はせむと謀る折又もや入り来る足音に 何人ならむと眺むればカルマタ国に遣はせし 斥候隊のケリスタン汗をタラタラ流しつつ カルマタ国に割拠する常暗彦は日に月に 猛虎の勢加はりつ数多の軍勢を引率し 山野をわたりはるばると月の都に攻めよせて 一挙に城を覆へしバラモン教を根底より 絶滅せむと計りゐる其計画はありありと 手に取る如く見えにけり今此時に此時に 一挙に彼を討ちすてて国の災払はねば 臍をかむとも及ぶまじ一日も早く片時も 勇敢決死の軍卒を差向け給へと汗拭ひ 風声鶴唳におぢ怖れ注進するこそ可笑しけれ 大黒主は色を変へ大足別に打向ひ 如何はせむと尋ぬれば大足別は肱を張り われは武勇の神将ぞ神素盞嗚大神や 常暗彦が現はれて獅子奮迅の勢に 本城に攻めかけ来るとも何かは恐れむバラモンの 教の神力身に受けて刃向ふ奴輩ことごとく 追つかけちらし薙ぎ倒し敵を千里に郤けて 君の危難を救ふべし何は兎もあれ諸々の 神の司と謀らひて其上着否を決せむと 苦り切つたる顔付にドカリと其場に胡坐かき 豪傑笑ひに紛らしぬ。 鬼雲彦を始め左守の鬼春別、右守の雲依別、石生能姫、鬼熊別其他四五の幹部連、大雲山の岩窟、大黒主の隠家に集まつて、三五教、ウラル教に対し取るべき手段を首を鳩めて謀議しつつあつた。鬼雲彦は鬼熊別の其妻子が[※初版・三版・愛世版は「鬼熊別は其妻子が」だが、校定版・八幡版では「鬼雲彦は鬼熊別のその妻子が」に直してある。主語が鬼熊別だと、それ以降の文章の意味が通じなくなるため、霊界物語ネットでも校定版と同じように直した。]三五教に帰順し、宣伝使となつてバラモン教の教線を攪乱せりとの急報を屡々耳にし、猜疑の眼を怒らし、いつとはなしに二人の中には大障壁が築かれ、大溝渠が穿たれ、鬼熊別も怏々として楽まず、遂には自ら左守の職を辞し、部下の神司と共に、己が館に潜みて、梵天王を祀りたる神殿に端坐し、何卒一日も早く大黒主の教主が善道に立帰り、大自在天の教を完全に発揮し、且つ大国別の御子国別彦の所在の分りて、ハルナの都に大教主として臨まるる日の一日も早かれ……と祈りつつ、一方には妻子の所在を探ねむと、日夜祈願に余念なかつたのである。然るに今日は大黒主の珍しき使に依つて、心ならずも主命もだし難く、此席に面を現はしてゐたのである。今此処に集まれる幹部は、何れも大黒主の股肱と頼む部下のみで、信任最も厚き人物ばかりであつた。そこへ鬼熊別が列席したのは恰も白米に籾の混つた如く、油に水を注したやうなもので、何とはなしに意思の疎隔を来したのも免れ難き所であつた。 大黒主は立上つて一同に向ひ、 大黒主『今日一同をここに召集したのは一日も看過す可らざる緊急事件が突発したからである。抑も吾バラモン教は常世の国の常世城より、大国別は神命を奉じて埃及に渡り、神徳を四方に輝かし給ふ際、憎き三五教の宣伝使、吾本城を攻撃して、神の聖場を蹂躙し、吾等も衆寡敵せず、大国別の教主と共に、メソポタミヤの顕恩郷に居を転じ、漸く神業の端緒を開きし折、執念深き三五教の宣伝使輩は、言霊軍を引率し、神素盞嗚尊の命と称し、短兵急に攻めよせ来り、内外相応じて、再びバラモンの本城を破壊し去り、吾等は已むを得ず、涙を呑んで親子夫婦の生別れ、漸く忠勇義烈なる部下と共に自転倒島に渡り、又もや神業を開始する折しも、三五教の神司の言霊に破られ、無念やる方なく再び残党を集めて、此都に来り、月の国の七千余ケ国の大半を征服し、今や旭日昇天の勢となり、神業を葦原の瑞穂国全体に拡充し、バラモンの威力を示さむと致す折しも、天の岩戸を閉鎖したると云ふ悪神の張本素盞嗚尊、再び部下をかりあつめ、黄金山、コーカス山、イソ館と相俟つて、再び吾本城を覆へさむず計画ありと聞く。今に及んで敵の牙城に迫り、之を殲滅せざれば、バラモン教は風前の灯火の如し。汝等の忠勇義烈に依頼して、吾は此災を芟除せむと欲す。左守を始め、一同は吾旨を体し、最善の方法を講究すべし』 と宣示し、軽く一瞥を与へて、奥の間に姿を隠した。 石生能姫は、大黒主の立去りし後の席に儼然として立現はれ、いとおごそかに、 石生能姫『只今大教主の仰せの如く、本教は危急存亡の機に瀕せり、速に評議を凝し、至誠を吐露して、大教主の御心に応へ奉れよ』 と宣示するや、左守は立上つて、 鬼春別『吾々はバラモン教の為、大黒主の御為ならば素より身命を惜まぬ覚悟で厶る。就ては慎重に審議を致さねば、此大問題を軽々に決することは出来ませぬ。私は断言します。今に至りて考ふれば、此城内には二心ある有力なる幹部の伏在して、三五教やウラル教に款を通じ、内外相応じて本教を転覆せむとたくらむ曲者が厶います。第一此悪人を取調べなくては、如何なる妙案奇策も敵に漏洩する虞があり、到底目的は達せられますまい』 と目を瞋らし、ワザとに鬼熊別の面体を睨みつけた。鬼熊別は平然として顔の色をも変へず控へてゐる。 右守の雲依別は立上り、卓を叩いて声を励まし、 雲依別『鬼春別様の仰せの如く、敵の巨魁は此城中に潜み居るは一目瞭然たる事実で厶いませう。さうでなくては今日まで世界の秘密国として自由自在にバラモンの教を拡張し、無人の野を行く如き有様でありしもの、俄に各地方の刹帝利は反旗を翻し、尊きバラモン神に向つて不順の色あり、人心恟々として安からず、天下の騒擾将に勃発せむとする兆ある時、ウブスナ山、カルマタ城より、数多の神軍を引連れ押寄せ来らむとの注進は、決して虚言ではありますまい。いざこれより、城内に潜む巨魁を誅伐し、首途の血祭となして、怨敵調伏の出師をなさむ、列座の面々如何思召さるるや』 鬼熊別は立上り、 鬼熊別『怪しき事を承はるものかな。バラモン教の本城に敵に款を通ずる巨魁ありとは、そは何人の事で厶るか。左様な悪神は一時も早く誅伐し、国家の災を根底より除かねば、バラモン教は、いかに神力強くとも未だ安心する所へは参りますまい。左守殿のお言葉によれば、確に其巨魁は此城中に潜みゐる事を御承知のやうに聞きました。其悪人は何人なるか、速に御発表を願ひます』 と言はせも果てず、鬼春別はクワツと目を見ひらき、声を荒らげ、顔を真赤に彩どりながら、 鬼春別『お黙り召され、鬼熊別どの、其張本人と申すは鬼熊別といふ悪虐無道の侫人ばらで厶る。言はずと知れた、鬼熊別は此城内に一人より厶るまい。速に事情を逐一白状致して其赤誠を現はすか、さなくば吾々が面前に於て男らしく切腹めされよ』 鬼熊『こは心得ぬ左守殿の御言葉、何を証拠に、左様な事を仰せらるるか。痩せても枯れても、バラモン教の柱石鬼熊別、めつたな事を申さるると、聞き捨はなりませぬぞ』 鬼春『アハヽヽヽ悪人猛々しいとは此処の事、よくもマア、ヌツケリと白々しい其言葉、ハルナの城には盲は一人も居りませぬぞ。左様な事が看破出来ないやうな事で、如何して大切な左守が勤まらうか』 鬼熊別『確な証拠あつての仰せか。サアそれが承はりたい。サア如何で御座る』 鬼春別『サアそれは』 鬼熊別『サアサア如何で厶る、御返答を承はりませう』 鬼春別『サアそれは』 『サアサアサア』 と二人は両方より意気まいてゐる。右守はツと立つて、 雲依別『アイヤ両人暫らく待たれよ』 と制すれば、二人は不承々々に己が座につき、互に睨み合つてゐる。 雲依『左守の仰せは数多の斥候どもの種々の注進を綜合して、これは正しく鬼熊別が、敵方に款を通ずる者ならむとの推定に過ぎますまい。私が考へますには鬼熊別様の斯かる嫌疑を受けられたのも二三の原因があるだらうと思ひます。今茲に羅列すれば、先づ第一に鬼熊別殿の妻蜈蚣姫殿は今は三五教に帰順し、堂々たる宣伝使となつて天下を布教し居らるる事、これが第一大黒主さまの御気勘に叶はぬ点で疑惑の起る導火線で厶る。……又第二は小糸姫殿が竜宮の一つ島へ渡り、地恩城に於て女王となり三五教を拡め、部下の友彦までも三五教に帰順せしめたるとの噂、これが第二の疑の原因。次には妻子は三五教に心酔し、最早バラモン教に復帰する形勢もなきに、何時までも独身生活を続け、悪虐無道の妻子と再び家庭を作らむとの御所存と見える、これが第三の疑をまく種。次には大黒主さまが鬼雲姫さまの不都合を詰り、別宅を造りて退隠を命じ給うた時、之に対して極力反抗的態度を用ひ、新夫人の石生能姫に対し悪感情を抱き居らるる事、これも亦疑惑の種。大黒主と鬼熊別との間には深き溝渠が穿たれ、意思の疎通を欠きし事。……次には兵馬の権を握り、片手に教権を掌握し玉ふ大黒主よりも、武力なき身を以て、数多の国人の信用を受け居らるる事。これ亦疑惑の種となつて居るのだらうと私は推察致します。併し乍ら神に仕へ給ふ身を以て左様な疑惑の種を蒔く如き御精神では厶いますまい………と私は信ずるのであります。今は斯様な内紛を繰返す時では厶らぬ。一時も早く外に向つて敵の襲来に備へ、且つ敵を根底より滅亡させねばならぬ国家の危機だから、小異を棄て、大同に合し、協心戮力して此国家の大事に備へようではありませぬか。これ右守が偽らざる至誠の告白否忠告で厶る』 と堂々として鬼熊別の寃罪を弁護しつつ説き来り説き去り座に着いた。鬼春別は不機嫌顔にて再び立上り、 鬼春別『如何にも心得ぬ右守の御言葉、吾々は一向合点が参らぬ。然らば右守どの、鬼熊別の一身に就ては、貴殿に一任しますから、キツト過ちのなき様に御監督を願ひます』 雲依『神徳高き鬼熊別さまの御監督とは思ひもよらぬ大役なれど、今日の場合止むを得ませぬ、仰に従つて監督を承はりませう』 鬼熊『これは心得ぬ、御両人の御言葉、悪虐無道の叛逆者ならばいざ知らず、吾々如き忠臣義士に対して、何の為に御監督を遊ばすか。あらぬ嫌疑をかけられ、憤慨の至りに堪へねども、国家の一大事を慮り、陰忍自重しつつある吾に、其心遣ひは御無用に願ひませう』 石生『此問題はどうぞ妾に任して貰ひませう。イヤ鬼熊別さま、エライ気を揉ませました。今の世の中は誠の者が虐げられ、疑はれ、大悪人の時めく時代なれば、あなたもそれだけの御疑を受けさせられる半面にはキツト善い事があるでせう。どうぞ御機嫌を直して、今日以後は日々国家の為に、教の為に、御登城御出勤を願ひますよ』 鬼熊別は石生能姫の言葉に感謝の涙を秘かに流しながら、 鬼熊別『ハイ有難う厶います。然らば御言葉に従ひ、明日より出勤致すことにきめませう。今迄の不都合は平にお赦しを願ひます』 石生能姫は儼然として言葉を改め、 石生能姫『イソの館へは左守鬼春別殿、部下の軍卒を引連れ出発さるべし。又大足別は軍勢を引率して、カルマタ国のウラル教が本城へ向つて攻め寄せらるべし。鬼春別が目出度く凱旋ある迄は元の如く鬼熊別殿、左守となつて奉仕されたし。右守は従前のまま、何れも神妙に心を併せ、手を引合ひ神務に従事されよ。大教主の命に依りて、石生能姫、代理権を執行致す』 一同は此言葉に、 一同『ハハア』 と首を傾け、承諾の意を示した。 因に右守の雲依別は時の勢に抗し難く、左守と表面バツを合せてゐたが、其実鬼熊別の美はしき心と日夜の行動に感激し、心中潜かに鬼熊別を畏敬尊信してゐた。それ故鬼熊別の無辜を憐れみ弁解的弁論をまくしたてたのである。又石生能姫は鬼熊別のどこともなく男らしく、威儀備はる容貌に、心私かに恋着してゐた。それ故大黒主の余り好まぬ鬼熊別を代理権を執行して左守となし、鬼熊別に同情をよせつつある右守を止め、常に鬼熊別を讒言する鬼春別、大足別を出陣させて了つたのであつた。女の美貌は城を傾くるとか云ふ。実に女位恐ろしきものはない。大黒主も此石生能姫には恋愛の雲に包まれて、善悪に関らず、一言半句も背いた事はなかつたのである。 (大正一一・一一・一旧九・一三松村真澄録) |
|
88 (2266) |
霊界物語 | 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 | 07 文珠 | 第七章文珠〔一〇九一〕 照国別は照公、梅公、岩彦の宣伝使と共にクルスの森に休息する折しも、前方よりイソ館に向つて進撃する鬼春別の部将片彦の一隊の来るに会ひ、潜かに木の茂みに隠れて様子を窺ひつつあつた。片彦の一隊数十騎はライオン河を渡り、百丁余りの道を疾駆して、漸くクルスの森に到着し、人馬の休息をなさむと馬を乗り捨て、森の中に逍遥する者、又は横はつて雑談に耽る者もあつた。 此一隊はイソ館に向ふ攻撃軍の先鋒隊とも斥候隊ともいふべき重要の任務に就いてゐる隊列である。 暫く休息の上、片彦は再び馬にヒラリと飛乗り、人員点呼をなし、馬上より大音声を張り上げて下知して曰く、 片彦『之より先は三五教の勢力範囲ともいふべき地点である。清春山は大足別将軍、今やカルマタ国へ進軍の為不在中なれば、守り少く、到底力とするに足らず。本隊のランチ将軍は、後より進み来るべしと雖も、吾等は吾等としての任務あり。四辺に心を配り、左右を窺ひつつ、之より以北は最も注意を要す』 と命令しつつあつた。木蔭に隠れし照国別一行はイソの館に進軍の先鋒と聞き、仮令少数と雖も此儘通過せしむる事は出来ない。何とかして此先鋒隊を追ひ捲らねばならない。後より来る玉国別に対しても、照国別は敵に遭ひながら之を見のがし、ウブスナ山に近付かしめたりと言はれては、吾々の職務が尽せない…………と腕を組み思案に暮れてゐた。 岩彦は心を焦ち、 岩彦『照国別さま、大変な事になつて来ました。片彦の一隊と見えます。之を奥へ進ませてはなりませぬから、一つここで何とか方法を講じようではありませぬか。最前のお話に依れば、三五教は何処までも無抵抗主義と云はれましたが、敵は武力を以て進み来るもの、いかに言霊の妙用ありとて、十数倍の敵に向つて戦ふは容易の業ではありますまい。如何しても武力に訴へなければ駄目でせうから、あなたは宣伝歌を歌ひ魔神の霊を畏服させて下さい。此岩彦は得意の杖を使ひ、敵の真只中に躍り込んで、一歩も之より奥へは進入させない様に致しますから、決して敵を殺傷する様な事は致しませぬ。只敵を威喝して、元へ追つ返す迄の事ですから………』 照国『先鋒隊として黄金姫、清照姫が行つて居る筈だから、後へ追つ返せば、却て両人を後より攻め来る敵軍と共に挟み撃ちに遭はす様なものだ。ハテ困つたことが出来たものだ。吾々の目的はハルナの都の大黒主を帰順さすのが使命の眼目で、彼等如き木端武者を相手にすべきものではない。ぢやといつて、みすみすイソ館へ進撃する一隊と知つて、之を防止せざるは吾々の職務を果さざるといふもの。兎も角言霊を以て彼片彦が一隊に向ひ戦闘を開始してみよう。それでゆかない時は岩彦の考への通りに杖を使つて敵を散乱させる方法を採るより仕方はあるまい。先づ第一に神様のお力を借つて善戦善闘する事にせう。照公、梅公もその用意を致すがよからう』 照公『始めて敵の軍隊に出会し、こんな愉快な事はありませぬワイ。わが言霊の神力を試すは此時で厶いませう』 と潔く言つてのけたものの、何とはなしに其声は震うてゐた。 梅公『宣伝使様、万々一敵の馬蹄に踏み躙られ、命危くなつた時は抵抗するかも知れませぬから、それ丈御承知を願つておきます。私は岩彦さまのやうに武器を使ふ事は不得手です、が何とかして防衛をなし、一身を守らねばなりませぬ』 と大事の使命を忘れて只自分の安全に就てのみ心を痛めて居る様子であつた。岩彦は早くも杖をしごいて、弦を離れむとする間際の矢の如く、体を斜に構へて、照国別の命令を今や遅しと待つて居た。此時敵は已に馬首を並べて北進せむとする様子が見えて来た。 照国別は声も涼しく宣伝歌を歌ふ。 照国別『常世の国の自在天大国彦を祀りたる バラモン教の神館空照り渡る月の国 ハルナの都に現はれて鬼雲彦の又の御名 大黒主が郎党を呼び集ひつつ日に月に 再び勢盛り返し傲り驕ぶり今は早 自高自慢の鼻高く神素盞嗚大神の 鎮まりいますイソ館進撃せむと進み来る 其扮装の勇ましさ片彦いかに勇あるも 天地を揺がせ雷電や風雨を自由に叱咤する 三五教の言霊にいかでか敵し得ざらむや あゝ惟神々々神の心に見直して 無謀の戦を起すより一日も早く真心に 立復りませ片彦よわれも神の子汝も亦 尊き神の貴の御子御子と御子とは睦び合ひ 誠一つの天地の神の大道に叶ひつつ 天の下なる神人を救ひ助けて神国の 柱とならむ惟神神に誠を誓ひつつ 汝が軍に立ち向ひ言霊車挽き出す われは照国別の神此世を照らす照公や 神の御稜威も一時に開いて薫る梅公や 心も固き宣伝使岩彦司の四人連 イソの館を立出でてここ迄進みクルス森 木蔭に潜み横はり汝が一隊の物語 完全に委曲に聞終り覚りし上は如何にして 汝を此儘通さむや鬼春別の部下とます 汝片彦将軍よ言霊隊の神軍が 勇士と現れし三五の照国別の言の葉を いと平けく安らけく心の鏡にうつし見て 省み給へ惟神神に誓ひて宣り伝ふ』 俄に森の中より聞え来る宣伝歌の声に、片彦始め一同は案に相違し、暫し馬首を止め、稍躊躇の色が見えて来た。後に控へし四五人の騎士は言霊に討たれて、何となく怖気づき、早くも馬首をめぐらし、馳け出さむとする形勢さへ見えて来た。片彦はこの態を見て、気を焦ち、躊躇してゐては、却て味方の不統一を来し、不利益此上なしと声を励まし、 片彦『ヤアヤア一同の騎士、三五教の宣伝使の一行現はれたり、大自在天大国彦神の神力を身に受けたる吾々神軍の勇士は、彼等に躊躇することなく、馬蹄にかけて踏み殺せよ』 と厳しく下知すれば、駒に跨り、照国別の方に向つて、鞭をきびしく馬背に当てながら踏砕かむと進み来る。照国別は泰然自若として天の数歌を奏上し、又もや宣伝歌を歌ひ出した。されど心の曇り切つたる曲神には、宣伝歌の力も充分に透徹せず、敵は命限りに攻め来る。其猛勢に腕を叩いて待構へてゐた岩彦は『照国別殿お許しあれ』と言ひながら弦を放れた矢の如く、金剛杖を上下左右に唸りを立てて振り廻しながら、敵に向つて突撃し、瞬く間に馬の脚を片つ端から擲り立てた。馬は驚いて立上り、馬上の騎士は真逆様に地上に転落し、馬を乗り捨て四方八方に逃げ散りゆく。片彦は騎馬の儘、一目散に南方さして駆け出すを、岩彦は敵の馬に跨り杖にて馬腹を鞭ちながら片彦の後を追うて一目散に駆り行く。 照国別は泰然自若として尚も宣伝歌を歌ひつつあつた。数多の騎士は思ひ思ひに四方八方に転けつ輾びつ散乱した。されども北へは一人も恐れてか逃げ行く者はない。岩彦に膝頭を打たれて倒れてゐる馬匹は七八頭、彼方此方に呻き声をあげてゐる。馬から転落する際、首を突込み、肩骨を外して九死一生の苦みを受け呻吟してゐる二人の敵を、照公、梅公が手分けして介抱してゐる。照国別は敵の負傷者に向つて一生懸命に鎮魂を与へた。漸く首の骨は二人の介抱に依つて元に復し、外れた肩胛骨も元の如く治まつた。 三人の介抱を受けて漸く元に復したる二人の騎士は、味方は一人もあたりに居らず、三人の三五教の宣伝使や信者の顔を見て大に驚き、 二人の騎士(ケーリス、タークス)『私は片彦将軍の見出しに預かり、バラモン教の宣伝使となつてゐるケーリス、タークスといふ二人の者で厶います。どうぞ今日只今より三五教に帰順致しますから、命ばかりはお助けを願ひます』 とハラハラと涙を流して頼み込んだ。照国別は言葉を改めて、いと慇懃に労はりながら、 照国別『あなた方は矢張バラモンの宣伝使で厶つたか。世の中は相見互だ、互に助け助けられ、持ちつ持たれつの世の中、三五教は決してバラモン教の如く敵を殺傷するといふやうな非人道的なことはやらないから安心してゐるがよい。就ては汝等両人に申付くることがある。之より清春山へ立寄り、イソの館へお使に行つてはくれまいかなア』 二人の騎士(ケーリス、タークス)『ハイ最早貴方のお弟子となつた以上は如何なることも承はりませう。併し乍らイソの館へ参るの丈は何だか恐ろしい心持が致します』 照国別『決して三五教は敵でも助ける役だから、汝等を苦めるやうなことはない。又照国別の弟子だといへば屹度大切に扱つて下さるであらう。今手紙を書くから、之を持つて清春山へ立寄り、其次にはイソの館に行つて日の出別神様に面会し、暫くイソ館にて三五の道の修業を致すやう取計らうてやらう』 二人は、 『ハイ』 と云つたきり有難涙にくれ、再び馬に跨り北へ北へと進むこととなつた。一通の手紙は清春山のポーロに宛て、帰順を促す文面であり、一通は照国別が出陣の途中遭遇したる一伍一什を日の出別神に報告し、且つ此両人をして三五教の教理を学ばしめ、将来宣伝使として用ひ給はば、相当の成績をあぐる者なるべし、何分宜しく頼み入るとの文面であつた。二人は心の底より照国別の慈愛に感じ、遂に清春山に立寄り、ポーロに手紙を渡し、次いでイソ館に進んで教理を学び、且又バラモン教のイソ館を攻撃する一伍一什の作戦計画を残らず打開けて物語り、非常な便宜を与へたのである。 清春山に二人が立寄り、ポーロ其外を帰順せしめたる一条や其他の面白き経路は項を改めて述ぶることとする。 話は元へ返つて、岩彦は駿馬に跨り、逃げゆく片彦の後を、己も馬に跨つて一目散に西南指して駆け行く。ライオン河の近くまでやつて来ると、釘彦将軍の一隊又もや数十騎、片彦と共に岩彦一人を目がけて弓を射かけ、攻めかくる。岩彦は一隊の的となり、身体一面矢に刺され、蝟の如くなつて了つた。されど生死の境を超越したる岩彦は獅子奮迅の勢を以て、馬の蹄にて一隊を踏み躙らむと、前後左右をかけ巡りつつあつたが、身体の重傷に疲れ果て、ドツと馬上より地上に転落し、人事不省となつて了つた。片彦、釘彦将軍は今此時と、馬を飛び下り、岩彦の首を刎ねむとする時、何処ともなく山岳も崩るるばかりの大音響と共に数十頭の唐獅子現はれ来り、其中にて最も巨大なる獅子の背に大の男跨り、眉間より強烈なる神光を発射しながら、釘彦の一隊に向つて突込み来る、其勢に辟易し、得物を投げ棄て、或は馬を棄て、四方八方に散乱して了つた。獅子の唸り声に岩彦はハツと気が付きあたりを見れば、巨大なる獅子の背に跨り、眉間より霊光を発射する神人が側近く莞爾として控へてゐる。岩彦は体の痛みを忘れ起直り、跪いて救命の恩を謝した。よくよく見れば嵩計らむや、三五教にて名も高き英雄豪傑の時置師神であつた。岩彦は驚きと喜びの余り、 岩彦『ヤア貴神は杢助様、如何して私の遭難が分りましたか、よくマア助けて下さいました』 杢助はカラカラと打笑ひ、 杢助『イヤ岩彦、今後は決して乱暴なことは致してはなりませぬぞ。苟くも三五教の宣伝使たる身を以て暴力に訴へ敵を悩まさむとするは御神慮に反する行動である。飽迄善戦善闘し、言霊の神力を発射し、それにしても行かなければ、隙を覗つて一時退却するも、決して神慮に背くものではない。汝は之より此獅子に跨り、ライオン河を渡り、黄金姫、清照姫の遭難を救ふべし、さらば』 といふより早く杢助の姿は煙と消え、数多の獅子の影もなく、只一頭の巨大なる唐獅子のみ両足を揃へ、行儀よく坐つてゐた。今杢助と現はれたのは、其実は五六七大神の命に依り、木花姫命が仮りに杢助の姿を現はし、岩彦の危難を救はれたのである。岩彦は之より只一人唐獅子に跨り、ライオン河を打渡り、黄金姫の危急を救ふべく、急ぎ後を追ふこととなつた。 此時、岩彦の姿は何時の間にやら透き通り、恰も鼈甲の如くなつてゐた。仏者の所謂文珠菩薩は岩彦の宣伝使の霊である。之より岩彦は月の国を縦横無尽に獅子の助けに依りて、所々に変幻出没し、三五の神軍を、危急の場合に現はれて救ひ守ることとなつたのである。 惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一一・二旧九・一四松村真澄録) |
|
89 (2284) |
霊界物語 | 41_辰_黄金姫&清照姫の入那の国の物語1 | 02 入那城 | 第二章入那城〔一一〇六〕 入那の国のセーラン王の館は東西南に広き沼を囲らし、北の一方のみ原野につづいて居る。此国では最も風景好く且要害よき地点を選み王の館が築かれてある。セーラン王は早朝より梵自在天の祀りたる神殿に昇りて祈願を凝らし、終つて吾居間に帰り、ドツカと坐して双手を組み思案にくれながら独言、 セーラン王『あゝ世の中は思ふ様に行かないものだなア。忠誠無比の左守の司クーリンスの娘ヤスダラ姫を幼少の頃から父王の命に依り許嫁と定つて居たものを、大黒主の神様に媚び諂ふ右守の司カールチンの勢力日に月に増大し、殆ど吾をなきものの如くに扱ひ、ヤスダラ姫をテルマン国の毘舎シヤールの女房に追ひやり、わが最も嫌ふ所の右守の司が娘サマリー姫を后に致したとは、実に下、上を犯すとは言ひながら無暴の極まりだ。あゝヤスダラ姫は今頃は如何してゐるだろう。一度姫に会つて幼少からの吾心の底を打明かし、ユツクリと物語つて見たいものだが、吾は刹帝利の王族、ヤスダラ姫は最早毘舎の女房と迄なり下つた以上は到底此世では面会も叶ふまい。一国の王者の身でありながら、一生の大事たる許嫁の最愛の妻に生き別れ、斯様な苦しき月日を送らねばならぬとは如何なる宿世の因縁か、あゝヤスダラ姫よ、余が心を汲み取つてくれ』 と追恋の情に堪へかねて思はず知らず落涙に咽んで居る。かかる所へ襖をサラリと引き開け、少しく顔色を変へて絹ずれの音サラサラと入り来りしはサマリー姫なりき。 サマリー姫『王様、貴方の此頃の御機嫌の悪いこと、一通りや二通りでは厶いませぬ。妾も日夜貴方様の不機嫌なお顔を拝みましては到底やりきれませぬから、本日限りお暇を賜りたう存じます』 と意味ありげに声を震はせて詰る様に云ふ。王は驚いてサマリー姫の顔をツクヅクと見守りながら、 セーラン王『合点の行かぬ其方の言葉、何かお気に障つたかなア』 サマリー姫『いえいえ、決して決して気に障る様な事は厶りませぬ。何と申しても誠忠無比の左守の司様のお娘、許嫁のおありなすつたヤスダラ姫様を悪逆無道の吾父カールチンが放逐して、貴方のお気に入らない妾を后に納れられたのですから、貴方の日夜の御不快は無理も厶りませぬ。最早今日となつては妾もやりきれませぬ。互に愛のない、諒解のない夫婦位不幸なものは厶りませぬから、妾は何と仰有いましても、今日限りお暇を頂き父の館へ下ります』 セーラン王『これサマリー姫、今更左様な事を云つてくれては困るぢやないか。少しは私の身にもなつて呉れたら如何だ』 サマリー姫『はい、貴方のお嫌ひな妾がお側に仕へて居ましては、却て貴方のお気を揉ませ苦しめます道理、妾の如き卑しき身分の者がヤスダラ姫様の地位を奪ひ、斯様な地位に置かれるのは実に心苦しう厶ります。提灯に釣鐘、月に鼈の配偶も同様、互に苦情の出ない間に別れさして下さいましたならば、妾は何程幸福だか知れませぬ。今貴方の独言を聞くとはなくに承はれば、誠忠無比の左守の司の娘ヤスダラ姫を吾父のカールチンが放逐し、気に入らぬサマリー姫を后に納れたのは残念だと仰有つたでは厶いませぬか。何と云つてもお隠しなされても、もう駄目で厶ります。妾はこれから父の家に帰り、父より大黒主様へ伺ひを立て、其上で妾の身の振り方を定めて頂きますから、何卒これまでの縁と思つて下さいませ』 と早立上らうとするを王は狼狽てて姫の袖を引掴み、 セーラン王『さう短気を起すものではない。其方は私を困らさうと致すのだな』 サマリー姫『いえいえ、お困らし申す所か、貴方がお気楽におなり遊ばす様にと気をもんで居るので厶ります。左様なら、御免下さいませ』 と王の手を振り放し、怒りの血相物凄く父の館へ指して一目散に帰り行く。 セーラン王は姫の狂気の如く駆け出した後に只一人黙然として頭を傾け、吾身の運命は如何になり行くかと、トツ、オイツ思案に暮れ居たる。其処へシヅシヅと入り来るは左守の司のクーリンスなりける。クーリンスはセーラン王の父バダラ王の弟であつて、言はば王の叔父に当る刹帝利族である。 クーリンス『王様、今日はお早う厶います。只今登城の際、館の者の噂を聞けば、サマリー姫様は何か王様と争ひでもなさつたと見え、血相変へて数多の家来共の御引留申すのも聞かず、蹴倒し薙払ひ一目散にカールチンの館へ帰られたさうで厶います。兎も角七八人の家来をカールチンの館へ差向け、姫を迎へ帰るべく取扱つておきましたが、一体如何な事を仰有つたので厶りますか。右守の司カールチンは大黒主様の大変なお気に入り、王様も左守の司も殆ど眼中にないと云ふ旭日昇天の勢で御座りますれば、今サマリー姫の機嫌を損じ、カールチンの立腹を招かうものなら、忽ち貴方の御身辺も危う厶りませう。誠に困つた事が出来ました』 セーラン王『何事も天命と諦めるより仕方がない。吾は決して顕要の地位を望まない。仮令首陀でも何でも構はぬ。夫婦が意気投合して此世を渡ることが出来たならば、此上ない余としての喜びはないのだ』 クーリンス『王様、何とした、つまらぬ事を仰有るのですか。貴方が左様なお心で如何して此入那の国が治まりませうぞ。少しは気を強くもつて下さらないと吾々左守の司の働きが出来ないぢやありませぬか。王様あつての左守の司では厶りませぬか』 セーラン王『もう斯うなる以上は何と云つても仕方がない。サマリー姫が帰つた以上は、屹度カールチンは日頃の陰謀を遂ぐるは今此時と、大黒主の力を借つて遂には吾地位を奪ひ、入那の国を掌握する事になるだろう。如何なりゆくも運命だと余は諦めて居る』 クーリンス『右守の司のカールチンが此頃の傍若無人の振舞は怪しからぬ、とは云ひながら、もとを糺せば王様が鬼雲姫様の御退隠の件に就いて御意見を遊ばしたのが原因となり、王様は鬼熊別の腹心の者と睨まれ給うたのが起りで厶います。悪人の覇張る世の中、阿諛諂侫の徒は日に月に勢力を張り天下に横行闊歩し、至誠忠直の士は圧迫される世の中ですから、少しは王様も其間の消息をお考へ遊ばし、社交的の頭脳になつて頂かねばなりますまい。クーリンスは心に染まぬ事とは知りながら、お家の為めを思ひ剛直一途の貴方様に対し涙を呑んで御忠告を申上げます』 セーラン王『仮令大黒主に睨まれ、国は奪らるるとも王位を剥がるるとも、仮令吾生命は奪はるるとも、吾は断じて邪悪に与する事は出来ぬ。放埒不羈にして悪逆無道の限りを尽す大黒主の頤使に甘んずるよりも、鬼熊別様の趣旨に賛し、亡ぼさるるが本望だ。あゝもう此上そんな事は云つて呉れるな』 クーリンス『だと申して此儘に打ちやり置けば大変な事になります』 セーラン王『余は昨夜の夢に、北光彦の神と云ふ白髪異様の神人顕はれ来り諭し給ふやう「汝の一身を始め入那の国家は実に危急存亡の秋に瀕せり、之を救ふに一つの道がある。それは外でもない、鬼熊別の神司の妻子なる黄金姫、清照姫は、今や三五教の神力無双の宣伝使となつて居る。彼はハルナの都へ言霊戦を開始すべく出陣の途中、此入那の国を通過すべければ、彼をカールチンの部下の捕へぬ間に汝が部下に捜索せしめ、密に此館に誘ひ帰りなば、カールチンやサマリー姫の勢力如何に強くとも、到底敵すべからず。今や大黒主は鬼春別、大足別の両将をして大部隊の軍卒を引率せしめ出陣したる後なれば、今日の大黒主の勢力は前日の如くならず、早く部下の忠誠なる人物を選み、母娘両人の行手を擁し、此王城にお立寄りを願ふべし」との事であつた。クーリンス、夢であつたか現であつたか、余には判然と分らないが、屹度これは真実であらうと思ふ。其方は如何思はるるか』 クーリンス『王様も其夢を御覧になりましたか、へー、何と妙な事があるものですな。私も昨夜その夢を歴然と見ましたので、実は夢の由を申上げむと参つたので厶ります。こりや屹度正しき神様のお告げで厶りませう。左様ならば時を移さず忠実なる部下を選んで表面は母娘を生捕ると称し、迎へて参る事に致しませう』 セーラン王『然らばクーリンス殿、一時も早く其用意を頼む』 クーリンス『はい』 と答へてクーリンスは恭しく暇を告げ一目散に吾家を指して帰り行く。 王は又独り黙然として両手を組み、少しく光明にふれたやうな気分にもなつて居た。 セーラン王『昨夜の夢が実現したならば自分も亦此苦が逃れられるであらう。うまく行けば再びヤスダラ姫と添ふことが出来るかも知れない』 などと、頼りない事を思ひ浮かべながら色々と考へ込んで居る。そこへ足音高くカールチンの一の家来と聞えたるユーフテスは、虎の威をかる狐の勢、王者も殆ど眼中になき有様にて、案内もなく襖をサラリと引き開け、 ユーフテス『王様、只今カールチン様のお使で参りましたが、貴方様はサマリー姫様を虐待遊ばし、王者の身としてあるまじき乱暴をお働きなさつたさうで厶りますな。吾主人カールチン様は表向き貴方様の御家来なり、又サマリー姫様の父親なれば、王様にとつてはお父様も同然で厶りませう。親として子の不埒を、何程王者なりとて戒められずには居れないと云つて、ハルナの都の大黒主様の御許に早馬使をお立てになりました。何分のお沙汰あるまで別館に行つて御謹慎をなさりませ』 と横柄面に打ちつけるやうに云ふ。その無礼さ加減、言語に絶した振舞である。王はカツと怒り、 セーラン王『汝、臣下の分際として余に向つて無礼千万な、左様な事は聞く耳もたぬ。ユーフテス、汝が主人カールチンに対して余は今日限りサマリー姫と共に暇を遣はす、一時も早く右守の司の館を立出で、何処へなりと勝手に行けと申伝へよ』 と声荒らげてグツと睨めつけ叱りつくれば、ユーフテスは案に相違の王の権幕に縮み上り、頭をガシガシ掻きつつ、狼に出会うた痩犬の様に尾を垂れ、影まで薄くなつてシヨビシヨビとして帰つて行く。 セーラン王『アハヽヽヽヽ、右守の司の悪人に仕ふるユーフテス奴、余が一喝に遇うて悄気返り、初めの勢何処へやら、スゴスゴ帰り行く其有様、ほんに悪といふものはマサカの時になれば弱いものだな、アハヽヽヽヽ』 と思はず知らず高笑ひして居る。そこへスタスタと足早に這入つて来たのはヤスダラ姫の妹セーリス姫なり。 セーリス姫『王様、今日は御壮健なお顔を拝し、セーリス姫誠に恐悦に存じます。就きましては早速ながら、父クーリンスの命により女の身をも顧みず罷り出でました。カールチンは年来の野心を成就するは今此時と、ハルナの都へ早馬使を立て王様の廃立を図つて居りまする。就いては吾父クーリンスはそれに対する準備も致さねばなりませず、家老のテームスに命じ黄金姫母娘の所在を探すべく準備の最中なれば、父が参る暇が厶りませぬので不束なる女の妾が参つたので厶ります。又父が幾度も登城致しますれば右守の身内の奴等に益々疑はれ事面倒となりますれば、向後を慮り妾を代理として参らせたので厶ります』 セーラン王『あゝさうか。事さへ分れば女でも結構だ。時にセーリス姫、其方はユーフテスに今会はなかつたか』 セーリス姫『ハイ、只今お廊下で会ひました。大変な悄気方で帰つて参りました。あの男は実に好かない人物で厶ります。毎日日々妾の許へ艶書を送り、それはそれは嫌らしい事を云つて参ります。本当に困つた事で厶ります』 セーラン王『ホー、そりや都合のいい事だ。これセーリス姫、近う近う』 と手招きすれば、セーリス姫は「はい」と答へて王の側近くににじり寄る。王は姫の耳に口寄せ何事か囁けば、セーリス姫はニツコと笑つて打頷き此場を立つて帰り行く。 (大正一一・一一・一〇旧九・二二北村隆光録) |
|
90 (2360) |
霊界物語 | 44_未_玉国別と治国別2 | 04 滝の下 | 第四章滝の下〔一一七三〕 初冬の空に輝く月の光は、河鹿川の谷間を落つる屏風の様な滝に懸つて、玉の如き飛沫をとばし、其飛沫には一々月が宿つて、星の飛ぶ様に見えて居る、ここは祠の森から三町許り下手である。滝の音を圧して、大声に笑ひさざめいてゐる三人の男ありける。 イル『オイ、イクにサール、今晩は怪体な晩ぢやないか。松公さまが兄貴に会ひ、根本の根本から三五教に帰順して了ひ、俺と一緒に巻込まれて了つたが、併し考へてみれば危ないものだぞ。何程三五教が、神力が強いと云つても、玉国別、治国別の一行〆て十人以内だ。ランチ将軍の率ゆる、数多の軍勢に進路を遮られ、何時迄も袋の鼠の様に祠の森近辺に退嬰して居つた所で、さう兵糧は続くまいし、今度は計画をかへて、捲土重来と、ランチ将軍が指揮の下に登つて来ようものならそれこそ大変だよ。俺達ア敵に帰順したと云つて、キツと槍玉にあげられるに違ない。三五教に帰順すればバラモン教から睨まれる。バラモン教の方へ行けば三五教から攻められるだらうし、イクにも行かれず、逃げるにも逃げられず、エライ、ヂレンマに係つたものだ。お前達は如何する考へだ』 イク『此イクさまの肚の中にはイクラも妙案奇策が包蔵してあるのだから、さう悲観したものぢやない。キツと三五教に帰順して居れば活路は開けるよ。此河鹿峠は敵味方勝敗の分るる所だ、が併し乍ら、此喉首を三五教に扼されて了つたのだから、仮令百万の兵士を引つれて、ランチ将軍が登つて来た所で、さう一度に戦へるものでなし、小口から将棋倒しにやられて了ふのは当然だ。それだから身の安全、霊の健全を保つ為に三五教にスーツパリと帰順したのだ。貴様はまだ迷うてイルのか、信仰心の足らない奴だなア。風呂の蓋でイル時にイラン、入らぬ時に入る代物だよ』 イル『それだと云つてヤツパリ人は先の事も考へておかねば、サア今となつて周章狼狽した所が、後の祭で仕方がないからのう』 サール『兎も角も吾々三人をお疑もなく、そこらを遊ンで来いと云つて解放してくだサールような寛大な度量のひろい宣伝使だから、キツと確信があるのだ。モウそンな馬鹿な事はいはずに神様に任しておく方が何程安心だか知れないなア。此滝水を見い、実に綺麗ぢやないか。此真白に光つた清らかな水で心の垢をサールと洗ひきよめ、月の光に照されて、自然の境に逍遥し、三人の親友が仮令半時でも、かうしてゐられるのは全く貴き神様の御恵だよ。あゝ有難い有難い。バラモン教であつたならば、何うして今に帰順した者に対し、自由行動をとらしてくれるものか、之を見ても教の大小が分るぢやないか。第一世の中を刃物を以て治めようなぞとは実に危険千万だ。おりや最う、バラモンのバの字を聞いても厭になつたよ。バのついたものに碌なものはありやしないよ。ババアにババにバケモノ、バクチにバンタ、バリにバカと云ふよなもので、穢い物計りだ。皆穴(欠点)のある奴ばかりがかたまつて居るのだからなア、俺だつてバラモン教へ這入つてから、世間の奴や友達に大変に擯斥されたよ。今ぢやバラモン教以外の奴アサール神に祟りありとか云つて、交際つてくれないのだからなア』 イル『バラモン教へ入信つてから人が附合はぬようになつたのぢやない、貴様は呑んだくれのバクチ打のババせせりのバカ者だから、世間の奴から排斥され、行く所がなくなつてバラモンへ入信つたのだろ。どうせ、バラモンへ入信るやうな奴ア、皆行詰り者だ。行詰つて約らぬようになつてから、つまらぬとは知り乍ら入信るのだからなア』 サール『さういへば、幾分かの真理がないでもないでごサールワイ。併し乍らイルだつて、さうだろ、世の中からゲジゲジの様に厭がられ、相手がなくて、バラモンへ沈没したのだから、余り大きな声で人の批評はせぬがよからうぞ。此世に用のない人間はバラモンへでも入信つて、日を送らねば仕方がないからなア』 イル『俺だつて、まだ世の中に必要があるのだ。イル代物だ。それだからイルと名がついてるのだよ。弓もイル、風呂にもイル、人の為には肝もイル。足の裏に豆をイル。……といふ重宝な哥兄さまだ。余りバカにして貰うまいか、こンな事を嬶が聞いたら一遍にお暇を頂戴しなくちやならないワ、なア、イク公』 サール『貴様偉相に言つてるが、女房がそれでもあるのか、サール事実ありとは根つから噂にも聞いた事がないぢやないか』 イル『女房が内に要るからイルと言ふのだ。嫁がイル婿がイルといつて、一軒の内にはなくてならぬのだ。併し乍ら俺はまだ年が若いから、女房の候補者はザツと二打ばかりあるのだが、まだ金勝要の神とやらが決定を与へてくれないので待命中だ』 サール『待命中なら月給の三分の二はくれるだらう。チツとサールにも分配したらどうだい』 イル『イヅレ金勝要神さまだから、金は沢山に持つて厶るよ。俺のは一遍にチヨビチヨビ貰ふのは邪魔臭いから、一時金として頂くように、天国の倉庫に預けてあるのだ。欲しければ貴様勝手に働いて力一杯取つたがよからう、イルだけ取らしてやらう』 かく話す所へ覆面の男二人、手槍を杖につき乍ら木蔭よりノソリノソリ現はれ来たり、黒頭巾は大喝一声「コラツ」と叫ぶを、三人は思はず声の方に視線を注げば二人の大男が立つてゐる。 イル『コレヤどこの奴か知らぬが、イル様が機嫌よく夜遊びをしてるのに、コラとは何だ、一体貴様は誰だい。大方三五教の目付だろ、俺は勿体なくも大自在天様の子分だ。清春山の番をしてゐる、イル、イク、サールのお三体様だぞ。サア是から貴様等両人をふン縛り、ランチ将軍の前へ連れて行くから、覚悟を致せ』 男(アリス又はサム)『今木蔭に於て汝等三人の話を聞けば、最早三五教に帰順しよつた反逆人、そンな言訳を致して、あべこべに此方を三五教の捕手呼ばはり致すとは、中々以て世智に丈けた代物だ、サアかうならば最早了見は致さぬ。此方はランチ将軍の目付役アリス、サムの両人だ。俺の武勇は天下に聞えて居るだろ。一騎当千の英傑はアリス、サムの事だ。サア覚悟をせい』 イル『アハヽヽヽ吐したりな吐したりな。アリス、サムの野郎、グヅグヅぬかすと、生言霊の発射をしてやらうか、モウ斯うなつてイル以上は隠すに及ばぬ、吾々三人は三五教宣伝使治国別の三羽烏だ。グヅグヅぬかすと手は見せぬぞ』 アリス『何と俄に噪ぎ出したものだのう。そして貴様等三人ばかりここにゐるのか。何か後押する者がなくては、貴様の口からそンな強い事が言へる筈がない。サア其事情を、ハツキリと申上げるのだぞ』 イル『大に後援者がアリスだ。イル丈イクらでも加勢をして下サールのだから、大丈夫だ。貴様のやうな弱将の下に仕へてゐるイルさまぢやない、サア美事生捕れるなら生捕つてみよ。今俺が呼子の笛を一つ吹いたが最後、数百万の獅子は唸りを立てて此場に現はれ、汝等が如き弱武者を木端微塵に噛み砕き、谷川を紅に染なす迄の事だ。サア吾々三人に指一本でもさへられるものならさへてみよ』 と捻鉢巻をし乍ら大の字に立はだかり、槍の切先も恐れず頬桁を叩いてゐる。 谷道の遥下方より坂を上り来る人声聞え来たるにぞ、アリス、サムを始め、イル、イク、サールの彼我一行は期せずして、其声に耳をすましける。 (ヨル、テル、ハル)『高天原の大空に常磐堅磐に輝ける 天王星の御国より下りましたる神柱 梵天帝釈自在天大国彦の大神を いつき祭つたバラモンの神の司の此処彼処 ハルナの都の神柱大黒主の御言もて 逍ひ巡る軍人斎苑の館に現れませる 神素盞嗚尊をば屠らむものとハルナ城 都を後に鬼春別の大将軍を始めとし ランチ将軍其外の表面ばかりは錚々と 強さうに見える軍師らが猛虎の如き勢で 河鹿峠の急坂を上りてウブスナ山脈の 大高原の斎苑館占領せむと思ひ立ち 片彦久米彦二柱先鋒隊の将軍と 選まれイソイソ進み行くモウ一息といふ所で 治国別の言霊に打たれて脆くも潰走し 今は是非なく山口の浮木ケ原の真中に 俄作りの陣営を構へて敵を捉へむと 手具脛引いて待ち居れり吾れは片彦将軍の 部下に仕へしテル、ハルよ負た戦の門番を 任され酒に酔ひ狂ひ思はず知らず脱線し 大黒主の身の上を口を極めて誹謗する 其場へヌツと現はれた大監督のヨル司 団栗眼を怒らして片彦下へわれわれを 引立て行かむと威しよる此奴ア鰌ぢやなけれ共 酒でいためてくれむぞと仁王の如く立つてゐる ヨルの左右に葡萄酒の瓶を見せつけつめよれば 流石のヨルも辟易しコローツと参つて了ふたり 二打ばかりの葡萄酒を瞬く内に平らげて 足もよろよろヨルさまはヨル辺渚の捨小舟 殺そと生かそとテル、ハルの瞬く内に掌中に 其運命を握られてくたばり返つた面白さ 流石のヨルもそろそろと酒に誘はれ本音をば 吹出し心の奥底を物語りたる其時の 吾等二人の驚きは譬ふる物もなかりけり いよいよこれから急坂だテルさまシツカリしておくれ オイオイ、ヨルさま気をつけて紐にしつかり取縋り 身の安定を保てよやづぶ六さまに酔ひつぶれ 二人に舁れて山坂を登つて行くとはこれは又 開闢以来の大珍事アイタタタツタ躓いた オイオイ、テルさまモウここでヨルをおろしたらどうだろう これから先は馬だとて容易に登ることは出来ぬ あゝ惟神々々御霊幸ひましませよ 旭は照る共曇る共月は盈つ共虧くる共 大黒主は強く共三五教の御道に 進みし上は千万の艱難苦労が迫る共 などや恐れむ敷島の清き涼しき神心 滝の流れに身を洗ひ霊を浄めて休息し 祠の森に隠れます神の司の御前に 進みて行かむ面白や祠の森に祀りたる 梵天帝釈自在天許させ玉へ吾々の 清き願を一言もおとさず洩らさず諾ひて 誠の道に進むべく守らせ玉へ惟神 世の大元の皇神の御前に感謝し奉る あゝ惟神々々御霊幸ひましませよ』 ヨル、テル、ハルの三人はランチ将軍の陣営を脱け出し、治国別一行に会ひ、バラモン教の策戦計画を密告し、自分も亦三五教の為に尽さむと、酒に酔ひつぶれた監督のヨルを山駕籠にて舁つぎ乍らやうやう滝の下まで登つて来た。此歌を聞くや否や、アリス、サムの両人は道なき山を駆け上り、何処ともなく姿を隠した。ここに彼我六人は暫し休息の上、祠の森を指して登り行く。 (大正一一・一二・七旧一〇・一九松村真澄録) (昭和九・一二・二二王仁校正) |
|
91 (2377) |
霊界物語 | 44_未_玉国別と治国別2 | 21 小北山 | 第二一章小北山〔一一九〇〕 松彦一行は暫く休憩の後、一町計り峻坂を登り、細い階段を二百計り刻み乍ら漸く小北山神館の門口に着きける。そこには白髪の老人が机を前に据ゑ、白衣に白袴で置物の様にキチンと坐つてゐる。奥の方にはザワザワと祈念の声が聞えて居る。松彦は、 松彦『お爺イさま、私は旅の者ですが、結構な神様がお祀りになつてあると承はり参拝をさして頂きました、ここの教は何と申しますか』 老人(文助)『お前さまはどこの方か知らぬが、ようマア、御参詣になりました。私は目が見えぬので、かうして受付けをやつてゐるのだが、それでも有難いもので、人の声を聞けば、男か女か年寄か若い者か心のよい人か悪い人か、よく分るのだから有難いものだ。そしてチヨコチヨコ人に頼まれて、此通り絵を書いてるのだ』 松彦『何と妙ですなア、一寸見せて御覧』 老人『ハイハイ見て下さい、これでも信者の人が喜ンで額にしたり、掛地にしたりするのだから……』 松彦『なる程、目の見えぬ人の書いた絵にしては感心なものだ。ヤア松に竜神さまが巻きついたり、蕪に大根、円山応挙でも跣で逃げ相だ。オイ万公さま、お前蕪に大根は好物だないか、一つ頂いたら何うだ』 万公『松彦さま、あなたも余程身魂が悪いと見えて、此絵を御覧なさい、お前さまの名の松に一本の角の生えた黒蛇が巻いてるぢやありませぬか』 老人『何処の方か知らぬが、これは竜宮の乙姫さまの御神体だ。黒蛇なぞと勿体ない事をいひなさるな』 万公『それでも大きな口があつて黒い縄が引ついとるぢやないか。それで私は黒い口縄だといつたのだ』 老人『アハヽヽヽ、お前さまは絵を見る目が無いから困つたものだナア』 万公『此方に目の無いのは当然だ。目の無いお爺イさまの書いたのだもの、こら大方冥土の竜神さまかも知れぬぞ』 老人『お前さまは此お館へ冷かしに来たのだな、そンな人は帰ンで下さい、アタ万の悪い』 松彦『お爺イさま、此奴ア、チと気が触れてますから、何卒了見してやつて下さい。実の所は此気違ひを直して頂かうと思つて連れて来ましたのぢや、田圃の中へ這入つて、大根や蕪の生を噛つたり、薩摩芋を土のついたなり、ほほばるのですから、困つた癲狂院代物ですわい。何とか直して頂く工夫はありますまいかな』 老人『成る程さう聞けばチツと此方は気が触れてると見えますわい、どうも私の霊に其様に始めから感じました。気の毒で厶いますなア。この気違ひは容易に直りますまいから、暫く気の鎮まる迄、石の牢がして厶いますから、お預かり申して三週間計り暗い所へ突つ込ンでおきませうよ』 万公『イヤもうお爺イさま結構です。貴方のお顔を拝ンでから、次第々々に気分がよくなり何うやらモウ正気になりました。モウ結構で厶います』 老人『それでも再発したりすると困るから、二三日入れて見ませうかな。松彦さまとやらお考へは何うですか』 万公は松彦の袖を頻りに引ぱつてゐる。 松彦『ヤア之位なら大した事はありますまい。マア暫く容子を見た上でお願する事に致しませう』 老人『そンなら貴方の御意見に任しませう。何時でも御預かり致しますから』 松彦『ハイ有難う厶います。何卒宜しう頼みます』 五三公は小声で万公の袖をチヨイチヨイと引ぱり、 五三公『オーイ松に黒蛇、大根に蕪計り書いてるぢやないか、丸で二十世紀の三五教の五六七殿に居る四方文蔵さまの様なお爺イさまだねえ』 万公『ウフヽヽオイあこに髭の生えた人が居るぢやないか。あの人こそ本当の神さまみた様だなア。あの先生に拝ンで貰うたら、有難いに違ひないぞ』 五三公『ナアにあれは謡の先生だ。大分に酒が好きだと見えて、あの顔の色みい、ホテつてるぢやないか』 万公『コリヤ大きな声で言ふな。聞えるぞ』 松彦は、 松彦『此教会の縁起が聞たいものですなア』 と云へば、老爺は心よく、 老人『ハイ此小北山のお広間は元はフサの国の北山村にあつたのだ。高姫黒姫といふ立派な宣伝使があり、高姫さまが教祖で、黒姫さまが副教祖であつた。たうとうあの人も惜い事になつたものだ。アブナイ教とかへ首を突込ンで了ひ、今はどうならしやつたか、便りもなし、実にアブナイ事をしたものだ。そこで総務をして厶つた蠑螈別さまが魔我彦といふ弟子を連れてここへお出になり、小北山の神殿というて、高姫の遺鉢を受け、ここで教を開かれたのだ。随分沢山の神様が集まつて厶る地の高天原ぢやぞえ。お前さまも神様の因縁があればこそ引寄せられなさつたのだよ』 松彦は、 松彦『有難う厶います。其蠑螈別さまはゐられますかなア』 老人『ハイ大奥にゐられますが、余りいろいろの神様が御出入り遊ばすので、お忙しうてお酒の接待計りしてゐられます』 松彦『蠑螈別様の一つの体にさう大勢お集まりになるのですかなア。ソリヤ大抵ぢやありませぬなア』 老人『今はかむづまり彦命と仰有いましてな、ウラナイ教の教祖で厶いますぞ。それだから随分沢山の神様が御出入り遊ばし、お神酒をあがるので、朝から晩まで本性はチツとも厶いませぬ、本当に妙ですワ。今仰有つた事と、少し後で仰有つた事とは、クレリツと違ふのですから、そこが所謂八百万の神様のお集まりなさる証拠です。何と偉いお方もあつたものですワイ』 松彦『さうするとお憑りになる神様は何と申しますかな』 老人『余り沢山で早速には数へる事も出来ませぬが、何を言つても、八百万の神さまですからな。先づ第一神集ひ彦の神、神議姫命様、葦原の瑞穂彦命様、八洲国平姫命様、言依さしまつりの命様、荒ぶる神様、言問し姫命様、神払彦命様、岩根木根立彦命様、片葉言止め姫命様、天の岩座放ちの命様、天の八重雲姫命様、厳の千別彦命様、四方の国中彦命様、下つ岩根彦命様、宮柱太しき立ての命様、天の御影彦、日のみかげ姫、益人姫、過ち犯し彦、くさぐさの罪の姫、畔放ち彦、みぞうめ姫、ひ放ちしきまき姫、串さし様……といふ様な立派な神様が沢山に祀つて厶います』 万公はあきれ顔で、 万公『丸で三五教の祝詞そつくりぢやないか。妙な名のついた神さまもあつたものぢやなア』 爺イは真面目な顔して、 老人『神様は其お働きに依つてお名が現はれて居るのだから、お名さへ聞けば何を御守護下さるといふ事がよく分るやうに、蠑螈別の教祖がおつけ遊ばしたのだ。元より神様に御名はない、人間が皆お名を差上げて称へまつるのだからなア』 松彦『成る程、如何にも御尤も。流石は蠑螈別の教祖様ですなア、お爺さま、一つ松彦に神様の因縁を聞かして下さいな、今仰有つた神様はどこに祀られて厶いますか』 老人『其神様は神言殿といふ御殿を立てて祀らねばならぬのだが、まだ準備中だ。かうして山のどてつ辺まで沢山の宮が建つてゐるが、一番下の大きな御殿が大門神社と云つて、世界根本の生えぬきの神様が祀つてあるのだ』 松彦『そして其神様の名は御存じですか』 老人『アハヽヽヽ、肝腎の御仕へしてる神様の名が分らいで何うなりますか、お前さまも余程分らずやだなア』 松彦『分らないからお尋ねしとるのぢやありませぬか』 老人『一番此世の御先祖さまが、国治立命様、それから左のお脇立がゆらり彦命、右のお脇立が、上義姫命様だ。そしてゆらり彦命様の又の御名末代日の王天の大神様と申しますのだ。それから日照す大神さまといふのが祀つてある、其神様の御分霊が羊姫様、羊姫の妹様が常世姫命様だよ。そして稚姫君命様は艮の金神様坤の金神様の御娘子だ』 松彦『一寸待つて下さい。ソリヤ少し配列が違はしませぬか』 老人『お黙りなさい。神様の戸籍調べをしてゐるのに、勿体ない何をグヅグヅ云ひなさる。気にいらな聞いて下さるな。モウいひませぬぞや』 松彦『イヤこれはこれは不調法申しました。どうぞ御教訓を願ひます』 老人『それなら聞かして上げやう。確り聞きなされ。此大門神社にはそれ丈の神様と、まだ外に沢山の神様がお祀りしてあるのだ。稚姫君命様が天地から御預かり遊ばした八人の結構な神様がある。第一に義理天上日出神様、第二に青森白木上の命様、次に天地尋常様、これ丈が男の神様、次に常世姫様、次が金竜姫様、次が大足姫様、次が琴上姫様、其次が金山姫様此三男五女が変性男子の系統で厶いますぞや。それから又常世姫様が天地の神様から始めてお預かりになり育て上げられた神様が八柱、これは五男三女だ、第一に地上大臣様、次がたがやし大臣様、次が地上丸様、次がきつく姫様、次が旭子姫様、次が花依姫様、此神様の霊が猿彦姫と変化、又変化遊ばしてみのり姫とやがてお成り遊ばすさうだ。それから早里姫、地上姫、以上十六柱が魂の根本の元の誠の生粋の大和魂の因縁の神様で厶います。これを合して四々十六の菊の神様と申します。それから又、義理天上さまが預つて育てた神様が七人厶る。第一に天照彦、天若彦、次が八王大神、大野大臣、それから道城よしのり、大広木正宗、柔道行成、都合二十三柱の神様が天地根本、生粋の霊の元の神様だ。これ位結構な神様の教を聞き乍ら、第一の教祖の高姫さまはアブナイ教へ沈没して了つたのだから惜いものですわい』 万公『もし松彦さま、サツパリ支離滅裂ぢやありませぬか。親かと思へば子になつたり、子かと思へば親になつたり、なンと訳の分らぬ神さまですな。マンマンマンマー』 老人『コレ、支離滅裂とは何を云ふのだ。ヤツパリお前は気違ひだな、黙つて聞かつしやらぬかいな』 万公『ハイ万々聞かして貰ひませぬワイ』 松彦『此奴あキ印ですから、どうぞ気にさえずに居つて下さい。松彦はお詫します』 老人『ヨシヨシ、今言うた二十三柱の神様が天地をお造り遊ばし、人間の姿を現はして、現界の政治を遊ばしたが大将軍様、常世姫様の夫婦で厶います。それが又、大将軍御夫婦が余り我が強いので、折角の神政が破れ、御退隠なされ、第二の政治をなされたのが、地上大臣様、耕し大臣様、そこへ地上丸様が御手伝遊ばして、三人世の元結構な世が開きかけてをつたが、又もや慢心が出て現界の政治が潰れ、止むを得ず又大将軍様が変化てサダ彦王となり、常世姫様が変化てサダ子姫となり、きつく姫、旭子姫、花依姫といふ三人の子をお生み遊ばしたが、又其政治が潰れ高天原は大騒動が始まりました。それから今度は四代目の天下の政治を遊ばしたのが、八王大神様と王竜姫様、王竜姫は後に大鶴姫とおなり遊ばした。又其政治がつぶれ、五代目の政治をなさつたのが大野大臣様、大野姫のお二方、此時は非常に盛であつて、世界中が一つに治まり、後にも先にもないやうな世の中の政治が行はれた。そして青森行成さまや、義理天上さま、天地尋常さまがお手伝ひをなさつたので、非常な勢になつて来た。そした所が余り世が上りつめて又大野大臣さまの政治がメチヤメチヤに破れ、第六番目には道場美成様と事足姫の御夫婦が御政治を遊ばし、大広木正宗、柔道行成といふ二人のお子さまが出来、いよいよ神政成就が成上がつたと思へば少しの間に又もや、慢心を遊ばし、八岐大蛇や金毛九尾曲鬼の悪霊に蹂躙されて、世の中がサーパリわやになつて了ひ、そこへ変性女子の素盞嗚尊が現はれて、悪の鏡を出したものだから、今日のやうな強い者勝の世界が出来たのだ。此ウラナイ教は御覧の通り天下太平上下一致だが三五教にバラモン教、ウラル教などは戦ばかりしてゐるぢやないか。神様が喧嘩なさるといふ事はある可からざる事だ、お前さまもそンな喧嘩好の神様を信仰せずにウラナイ教の神様を信仰をなされ、昔の昔のさる昔の因縁から、根本の根本から、大先祖の因縁、霊魂の性来、手に取る如くに分りますぞや。あゝ惟神霊幸倍坐世』 万公『アハヽヽヽ万公は満口が閉さがらぬワ、イヒヽヽヽ』 松彦『又気が違ひ出した、困つた奴だなア、ウツフヽヽ、松彦も困りますよ』 老人『これで此大門神社の神様の因縁はあらまし分つたでせう』 松彦『ハイ、よく分りました。有難う厶いました。貴方は随分詳しいお爺さまだが、お名は何と申しますかな』 老人『私はおちたきつ彦と申しますよ』 松彦『ヘー、長いお名ですな』 老人『蠑螈別様に頂いた神名だから、長くても仕方がありませぬ。名が長い者は長生をするとかいひますから、モ少し長くてもいいのですが、まだ修行が足らぬので、ここらで止められて居るので厶います。私の修行が積みた上は、おちたきつ速川の瀬にます彦命といふ名をやらうと仰有いました』 一同『ウツフヽヽ、エツヘヽヽ』 と一同は笑ふ。 老人『サア是から、種物神社へ案内致しませう』 松彦『老爺さま、目のお悪いのにすみませぬなア』 老人『目が悪いと云つても、神様の御用ならば何でも出来るのだ。サアついて来なさい。きつい山だぞえ、辷りこけて向脛を打つたり、腰をぬかさぬやうになさいませや』 と云ひ乍ら、種物神社の前へエチエチと登りつめた。 松彦『ここには石造りの宮と木造の拝殿が建つて居りますなア。何とマア偉い断岩絶壁を開いて建てられたものですなア』 老人『ハイ之は大将軍様の生宮と地上丸さまの生宮が鶴嘴の先が擂粉木になる所迄岩をこついてお造り遊ばしたのだ。何と感心なもので厶いませうがなア。此神様に地の世界の大神様と日の丸姫の大神様が祀つてある。そして右の方に義理天上さまと玉乗姫様と祀る事になつて居ります。左の方には大将軍様と常世姫様のお宮が建つのです。これは世界の万物の種物をお始め遊ばした結構な結構な根本の神様ですから、よく拝みておきなさい。お前さまも若いからどうせ種まきをせにやならぬのだろ。神の生宮をポイポイと拵へるのが神の役目だから、今こそ男と女が暗がりで、かが安う生宮を拵へるやうになつたが、昔は人間一人仲々並や大抵で作れたものでありませぬぞや。其お徳にあやかる為に種物神社に祭つてあるのだ』 松彦『ハイ有難う』 と松彦はうつむく。 老人『サア之から、おちたきつ彦がモ一つの上のお宮様を御案内致しませう』 万公は、 万公『モシモシお爺イさま、そンなきつい岩石を目の悪いのに登つて、何卒谷底へ落ちたきつ彦にならぬ様に願ひますで。サア五三公、アク、タク、テク、お爺イさまのお伴だ。何とマアきつい坂だなア』 老人『あゝあ、人に改心さそうと思へば仲々の苦労だ。ソレ御覧なさい、ここに木造りの宮が三社建つてをるだろ。中央が生場神社の大神様、岩照姫の大神様、此御夫婦が祀つてある。右のお社はりんとう美天大臣様、木曽義姫の大神様の御夫婦が祀つてあるのだ。そして左の方の宮には五六七上十の大神様、旭の豊栄昇りの大神様御夫婦が祀つてあるのだ。モ一つ上に三社あるけれど、これから上は道がないから、ここからお話しておかう。石の宮が三社あつて、正中が月の大神様、日の大神様御夫婦が祀つてある。右の石の宮は末代日の王天の大神様上義姫大神様御夫婦がお祀りになつてゐる。左の方が日照らす大神様、大照皇大神宮様御夫婦が御祀りだ。何と結構な地の高天原が開けたものでせうがな』 松彦『モウ此外に神様の祀つてある所はありませぬかナ』 老人『まだない事はないが、さう一遍にお話しすると、話の種が切れるから、又今度にのけておきませうかい。お前さまも一遍に食滞しては困るからなア』 万公『アツハヽヽヽお爺イさま、御苦労でした。実の所は私は三五教の宣伝使、治国別命の片腕の万公さまだ。気違でも何でもないのだから、さう思うて下さい。随分怪体な神さまばかり、能う拝まして下さつた。これも話の種になりますわい。『霊界物語』にのせたら、キツと大喝采を得ませう。お前さまの方では種物神社だが、此万公さまは種取り神社だ。義理かき天上の神様となつて、これからウラナイ教を一生懸命に信神しませぬワ。オツホヽヽ』 老人『この年寄を此処迄連れて来て、何と云ふ愛想づかしを云ふのだい。それだから三五教は悪の教といふのだよ。大方お前も変性女子の廻し者だろ、油断のならぬ代物だなア』 松彦『此奴ア、お爺イさま気が違うてるのですから、どうぞ気に触へて下さいますな』 老人『あゝさうださうだ、気の触れた方だつたなア。何ぼ気違でも余りな事云ふと気の宜うないものだ。併し気違ひとあれば咎める訳にもゆかぬ、見直し聞直しておかう』 松彦『ハイ有難う厶いました。お年寄に高い所迄御苦労になりまして申訳が厶いませぬ』 老人『お前さま達、下の大広間で今晩はお泊りなされ、女ばかり百人あまりも鮨詰になつて寝て居ります』 五三公はにやりとしながら、 五三公『オイ、アク、タク、テク、泊めて貰はうかなア』 アク『なンだ、女ばかり鮨詰になつてると、爺さまが言つたら、顔の紐迄解きよつて、アタ見つともない、女の側は険呑だ。サア松彦さま、遅れちやなりませぬ、折角のお爺さまの御親切だが、今日はマア御免被つて、又改めてお世話になりませうか』 松彦『あゝそれがよからう、お爺イさま、どうぞ蠑螈別さまに宜しう言つて下さい。今日は急ぎますから、これで御免を蒙ります』 老人『万さまとやらを気を付けて上げて下さいや、危ない一本橋がありますから、川の中へでも、気の触れた人は飛込むかも知れませぬからな』 松彦『ハイ御親切に有難う厶います。サア一同の者、お暇乞ひして急がう。発車時間に遅れちや今夜中に万寿山へ帰れぬからなア。お爺さま左様なら』 万公『おちたきつ速川の瀬にます彦の神さま、万々々公有難う厶いました』 老人『アハヽヽヽ、気を付けてお帰りなさい、万公さまとやら』 (大正一一・一二・九旧一〇・二一松村真澄録) (昭和九・一二・二九於湯ケ嶋王仁校正) |
|
92 (2382) |
霊界物語 | 45_申_小北山の宗教改革1 | 02 神木 | 第二章神木〔一一九二〕 お寅婆アさまは松彦に向ひ河鹿川の川岸に枝振りのよい老松が蜒々として枝を四方に広げ川の上にヌツと突き出て居るのを指し、 お寅『もし、末代日の王天の大神の生宮様、あの松を御覧なさいませ。立派なものぢや厶りませぬか』 松彦『成る程、川の景色と云ひ、あの枝振りと云ひ青々とした艶と云ひ、実に云ひ分のない眺めですな。随分鶴が巣籠りをするでせうな』 お寅『ハイハイ、鶴どころか、あの松には日の大神様、月の大神様を初め八百万の大神様がお休み遊ばす世界一の生松で厶ります。末代日の王天の大神様の、あれが御神体で厶ります』 松彦『さうすると、あの松は私の御霊の変化ではあるまいかな』 お寅『滅相な、変化どころか、あれが貴方の本守護神ですよ。時節と云ふものは恐いものですな。たうとう生神様の貴方様がお越しなさる様になつたのだから、ウラナイ教は朝日の豊栄昇り彦命になります。蠑螈別の教祖が仰有つた事は一分一厘違ひませぬがな』 万公『アハヽヽヽ松彦さま、貴方は不自由な体ですな、いつもあの川辺に水鏡ばつかり見て鳶鷹鷲等に頭から糞を引つかけられ泰然自若として川端柳を気取つて厶るのですな。道理で足が重いと思うて居た。本守護神があの松の大木だと分つての上は、松彦さまの無精なのも、あながち責る訳にも行きますまい。エヘヽヽヽ』 お寅『これこれブラリ彦、又口八釜しい。左兵衛治をするものぢやない』 万公『これ婆さま、わしは左兵衛治なんて、そんな老爺めいた名ぢやありませぬぞ。万古末代生通しと云ふ生々した万公さまだ。余り見損ひをして貰ひますまいかい』 お寅『オホヽヽヽ何と頭の悪い男だな。左兵衛治と云つたら差出物と云ふ事だ。何でもかンでもよく差出て邪魔ばつかり致すから、左兵衛治と云つたのだよ。大松のお前が差出る処ぢやない、芋掘奴めが』 万公『俺や、あんな大松とはチツと違ふのだ。なんぼ大松だつて松の寿命は千年だ。此方は万年の寿命を保つ万公さまだ。あんまり安う買うて貰ひますまいかい』 お寅『エーエ、何から何まで教育してやらねば訳の分らぬ困つた男だな。大松と云ふ事は大喰人足と云ふ事の代名詞だ。野良へやれば蕪をぬいて食ふ、大根をかじる、人参を喰ふ、薩摩芋から南瓜の生まで、噛じる喰ひぬけだから、それで大松と云ふのだ』 万公『大喰ひするものを大松と云ふのは可笑しいぢやないか。其言葉の起源を説明して貰ひたいものだな』 お寅『エーエ、合点の悪い代物だ、ライオン川の杭は、みんな長い大きな奴が要るので、それで大杭の長杭と云ふのだ。その大杭の長杭は大松ぢやなければ出来ぬのだから大松と云つたのだよ』 万公は妙な手付をして、 万公『あゝさうでおまつか、ヘーン、松彦さまもさうすると松に因縁があるから大松でせうね』 お寅『お前の松は杭になつた松だ。此お方の松は、あの通り生々した生命のある松だよ。万古末代生通しの松と、幹を切られ枝を払はれ、年が年中頭を削られて逆トンボリにされ尻を叩かれて、突つ込まれて居る大松とは、松が違ふのだ。善悪混淆して貰うては大変困りますわい。然し松彦さま、あの松の木の根元に結構な御守護がしてあるのだから大門神社に行く迄に一寸そこの神様に参拝して貰ひたいのです』 松彦『あの松の根元に神様が祀つてあるのですかな』 お寅『ハイハイ、あそこが肝腎な御仕組場だ。あの因縁が分らねば小北山の因縁が分りませぬ。是非共来て貰ひ度いものです』 万公『さうすると、まだ外に神さまが祀つてあるのか。一遍に見せると食滞すると受付の爺さまが云ふた神さまだな。一つ見るも二つ見るも同じ事だ。序に観覧して来ようかな。おい、五三公、アク、タク、テク、何うだ、貴様も一つ見物する気はないか』 一同『ウン、面白からうな。参考の為にお寅さまの、亡者案内で見物して来ようかい。お寅さま、亡者案内賃は安うして置いてくれや、見掛どりをやられると此頃吾々はチツとばかり手許不如意なのだから困りますぞえ』 お寅『観覧だの、見物だのと、何と云ふ勿体ない事を仰有るのだ。見に行くのだない、参拝に行くのだ。何故参拝さして頂きますと云はぬのだ』 万公『三杯どころか、もう之丈け沢山に誤託宣を聞かして頂いた上は腹一杯胸一杯だ、アハヽヽヽ』 お寅『サア、末代様、御案内致しませう。何卒此婆について来て下さいませ』 松彦はいやいや乍ら婆アの後に一行と共に枝振りのよい大松の麓まで進んで行つた。 見れば途方途徹もない大きな岩が玉垣を囲らし切口の石を畳んで置物の様にチヨンと高い処に立派に祀つてある。さうして傍に案内石が立ち蠑螈別の筆跡で、 「さかえの神政松の御神木」 と記してある。 五三『もしお婆さま、此大きな岩は一体何だい。さうして御神木と記してあるが、こりや木ぢやない、岩ぢやないか』 お寅『そんな事は気にかけいでも、理屈いはいでも、いいぢやないか。お前達が神木する様に「さかえの神政松の御神木」と書いてあるのだよ。ここは善と悪との境だから小北山の地の高天原へ悪神の這入つて来ぬ様に千引岩が斯うして置いてあるのだ。表向きは弥勒様の御神体だと云つて居るのだ。さうして十六柱の神様がお祀りしてある標だと云つて十六本の小松が此通り植ゑてあるのだ。然し乍ら之は表向き、実の処は素盞嗚尊の生魂をここへ封じ込んで動きのとれぬ様に周囲八方石畳を囲らし、上から千引の岩を載せて、万古末代上れぬ様に封じ込めておいたのだ。そのために瑞の魂の素盞嗚尊は八方塞がり同様で、二ツ進も三ツ進もならぬ様になり困つてゐやがるのだ。此石をここへ運ぶ時にも随分苦労をしたのだよ。第一蠑螈別さま、魔我彦さま、大将軍さま、此お寅等の奮励努力と云つたら大したものだつた。夜も昼も二十日ばかり寝ずに活動して到頭素盞嗚尊の悪神を封じ込めてやつたのだ。三五教の奴は何にも知らずに馬鹿だからヤツパリ素盞嗚尊が此世に現はれて居る様に思うてゐるのだよ。斯うしておけば三五教の信者を鼠が餅ひく様に皆小北山に引張込むと云ふ蠑螈別さまの御神策だ。何と偉いものだらうがな』 万公、五三公の両人はクワツと腹を立て両方から婆の手をグツとひん握り、 万公『こりや糞婆、もう量見ならねえ。此川へ水葬してやるから、さう思へ。怪しからぬ事を吐す』 五三『こりや、お寅、蛙は口から、吾と吾手に白状致した上からは、もはや量見ならぬぞ。サア覚悟せい。おい万公、其方の足をとれ、俺も此足を持つて川の深淵へ担いで行つて放り込んでやるのだ』 お寅『オホヽヽヽ、地から生えた木の様なものだ。此婆がお前達三人や五人に動かされる様なヘドロい婆か。竜宮の乙姫さまの御神力を頂いた上に艮金神様の分け魂のお憑り遊ばした丑の年生れの寅さまだ。丑寅婆アさまを何と心得てるのだ』 万公『おい、五三公、随分重い婆だな。本当にビクともしやがらぬわ』 アク『アハヽヽヽ、ビクともせぬ筈だよ。婆アさまは其処に居るぢやないか。お前達は、岩を一生懸命動かさうとしたつて動くものかい。それが婆アさまに見えたのか』 五三『いや、ほんにほんに岩だつたな。おけおけ馬鹿らしい。お寅婆は彼処にけつかるぢやないか』 お寅『オホヽヽヽ三五教の信者の眼力は偉いものだな。お寅さまとお岩さまと取違へするのだから』 万公『エー』 アク、タク、テク三人『アハヽヽヽ、又いかれやがつたな』 お寅『あまり疑うて居ると真逆の時に眩惑がくるぞよ、足許の深溜が目に見えぬ様になるぞよ。ウフヽヽヽ』 松彦『お婆さま、いや如何も感心致しました。これから一つ大門神社へ参りませう』 お寅『あ、お前さまは末代様だ。身霊が綺麗だと見える。あんなガラクタは後廻しで宜しい。お寅さまの後から跟いて来なさい。竜宮の乙姫さまが末代さまを御案内致しませう』 松彦『ありがたう。然し乍ら此連中を捨てて置く訳にも行かぬから連れて行かう』 お寅『それは貴方、末代さまの御都合にして下さい。サア斯うおいで成さいませや』 と頭をペコペコさせ頻りに媚を呈し乍ら、もと来し道に引返し急坂を一行の先に立つて上り行く。 急坂を二三丁ばかり登つた処にロハ台が並んでゐる。 万公『もし松彦さま、一寸ここで休息して行きませうか』 松彦『ウン、よからう』 と腰をかけ息を休める。お寅は怪嫌な顔をし乍ら後ふり返り、 お寅『逆理屈ばかり囀る万公が 坂の中央で屁古垂れにけり。 偉相に腮をたたいて居た万公 此弱り様は何の事だい。 鼈に蓼食はした様な息づかひ 万々々公も休むがよからう』 万公『迷信の淵に沈んだお寅さま 底知れぬ淵へバサンとはまつて。 之程にきつい坂をばスタスタと 登るは狐狸なるらむ。 登り坂上手な奴は馬兎 丑寅婆さまの十八番なるらむ』 お寅『糞垂れて婆さまの登る山道を 屁古垂れよつた万公の尻。 芋蕪大根人参あつたなら 万の野郎に喰はせ度きもの。 大根や蕪がきれて息つまり 何と茄子の溝漬け男』 万公『臭い奴吾一行の先に立つ 腋臭とべらの婆の尻糞』 お寅『こりや万公、臭い奴とは何を云ふ 貴様は臭い穴探しぞや。 彼岸過ぎになつても穴の無い蛇は そこら辺りをのたくり廻る。 穴ばかり探して歩く万公を 岩窟の穴へ入れてやり度い』 万公『何吐す丑寅婆の尻糞奴 尻が呆れて雪隠が踊る』 松彦『ロハ台に腰打ち掛て万公が 尻のつぼめの合はぬ事言ふ』 五三公『ロハ台に尻を下した万公さま 糞落ちつきのないも道理よ』 アク『アクアクと互に誹り妬み合ひ 無性矢鱈に口をアクかな』 タク『いろいろとタクみし証拠は千引岩 松の根元に沢山にある』 テク『山坂をテクる吾身は何となく 足腰だるくなりにけるかな。 面白もない婆さまに導かれ 登るも辛し針の山坂』 お寅『万公よアク、テク、タクの御一同 此坂道は神の坂だよ。 神になり鬼になるのも此坂を 越えぬ事には分るまいぞや』 アク『登りつめアクになつたら何とせう 丑寅婆さまに欺かれつつ』 お寅『疑を晴らして竜宮の乙姫が 後に来る身は大丈夫だよ』 松彦『サア一同、もう行つてもよからう。乙姫さま、宜しう頼みます』 お寅『ホヽヽヽヽ末代様、サア参りませう』 万公『ヘン、馬鹿にして居やがる。婆の乙姫さまも見初めだ。なア五三公』 五三『きまつた事だ。逆様の世の中だもの、乙姫さまだつて世界のために御心配遊ばして厶るのだもの、チツたあ年も寄らうかい。アハヽヽヽ』 一同『ウフヽヽヽ』 (大正一一・一二・一一旧一〇・二三北村隆光録) |
|
93 (2387) |
霊界物語 | 45_申_小北山の宗教改革1 | 07 相生の松 | 第七章相生の松〔一一九七〕 ウラルの姫の系統と生れ合ひたる高姫が バラモン教やウラル教三五教の御教を あちら此方と取交ぜて変性男子の系統と 自称し乍らフサの国北山村に居を構へ 蠑螈別や魔我彦や高山彦や黒姫を 唯一の股肱と頼みつつウラナイ教の本山を 立てて教を四方の国宣べ伝へつつ三五の 神の仁慈にほだされて全く前非を後悔し 神の御為世の為に舎身の活動励みつつ 今は全く三五の教の司と成りすまし 生田の森の神館珍の司となりにける。 後に残りし魔我彦は蠑螈別を教祖とし 北山村を後にして坂照山に立こもり 茲に愈ウラナイの教を再び開設し 小北の山の神殿と称へて教を近国に 伝へ居るこそ雄々しけれ蠑螈別や魔我彦は 高姫仕込みの雄弁を縦横無尽にふり廻し 彼方此方の愚夫愚婦を将棋倒しに説きまくり 天下に無比の真教と随喜の涙をこぼさせつ 螢の如き光をば小北の山の谷間に 細々乍ら輝かすさはさり乍ら常暗の 黒白も分ぬ世の中は蠑螈別や魔我彦の ねぢけ曲れる教をも正邪を調ぶる智者もなく 欲にからまれ天国へ昇りて死後を安楽に 暮さむものと婆嬶が愚者々々集まりゐたりけり 浮木の村に名も高き白浪女のお寅さま どうした機みか何時となく小北の山に通ひ出し 足しげしげと重なつて蠑螈別に殊愛され 女房気取りで何くれと一切万事身のまはり 注意に注意を加へつつあらむ限りの親切を 尽して教祖の歓心をやつと求めて丑寅の 婆さまはニコニコ悦に入り小北の山を一身に 吾双肩に担うたるやうな心地で控えゐる。 蠑螈別は曲神に魂をぬかれて酒計り 夜と昼との区別なくあふりて心の煩悶を 慰め居れど時々に心に潜みし曲鬼が 飛出し来り高姫の色香を慕ひ口走り お寅の心を痛めたる其醜態は幾度か 数へ尽せぬ計り也お寅は無念を抑へつつ 勘忍袋をキツと締めこばり詰めてぞゐたりしが 大洪水の襲来し千里の堤防一時に 決潰したる計りにて悋気の濁水氾濫し 人目もかまはず前後をも忘れて教祖の胸倉を つかみ締めたる恐ろしさかかる乱痴気騒ぎをば 表に待ちし松彦の司の一行に隠さむと 心を痛めいろいろと此場の体裁つくろへど 隠し終うせぬ燗徳利土瓶の居ずまひわれた猪口 金切声は屋外に聞え来るぞ是非なけれ お寅婆さまが此山に来つて御用を始めてゆ これ丈怒つた大喧嘩未だ一度もなかつたに 如何した拍子の瓢箪か思ひもよらぬ醜状を 珍客さまの目の前に曝露したるぞ神罰と 云ふもなかなか愚なりあゝ惟神々々 御霊幸ひましませよ。 ○ 小北の山の別館に潜みて教の実権を 掌握しつつ朝夕に神素盞嗚大神の 大御心を奉戴しウラナイ教の曲神を 日日万に言向けて根本的に改良し 蠑螈別や魔我彦の身魂を立替立直し 三五教の真髄を理解せしめて道の為 世人の為に神徳を輝かさむと松姫は 蠑螈別の言ふままに上義の姫と称へられ 心ならずも春陽の花咲き匂ふ時節をば 神に祈りて松姫が心の奥ぞ床しけれ 小北の山に祀りたるユラリの彦の又の御名 末代日の王天の神其外百の神名は いずれも正しきものならず狐狸の神霊に 誑されて魔我彦が誠の神と思ひつめ 得意になりて宮柱ヘグレのヘグレのヘグレムシヤ ヘグレ神社を立て並べ迷ひゐるこそうたてけれ 三五教の松姫もかやうな事に騙れて 信仰するよな者でないさは去り乍ら今すぐに いと厳格な審神をばなすに於ては蠑螈別 其外百の神司一度に鼎の湧く如く 怒り狂ひて松姫の身辺忽ち危しと 悟りたるより松姫は素知らぬ顔を装ひつ ウラナイ教の実権を何時の間にかは掌握し 小北の山の神殿は殆ど松姫一人の 指命の下に大部分動かし得べき身となりぬ モウ此上は松姫も何の遠慮も要るものか やがてボツボツ正体を現はしくれむと思ふ内 昔別れし吾夫の松彦さまが三五の 神の司となりすまし思ひも寄らぬ此山に お寅婆さまに導かれ登り来りし其姿 居間の窓より覗きこみハツと胸をば躍らせつ 俄に恋しさ身にせまりたまりかねてぞなりければ 神勅なりと言ひくろめお寅婆さまを招きよせ 今来た人はユラリ彦末代日の王天の神 尊き神の生宮ぞあの神様に帰なれては 五六七神政成就の仕組はとても立たうまい 御苦労乍ら一走りお前は後を追つかけて 末代さまを是非一度これの館に連れ帰り いと慇懃に遇していついつ迄も此山に 鎮座ましましウラナイの神の教の目的を 立たさにやならぬお寅さまこれの使命を果しなば お前はこれから此山の最大一の殊勲者と おだてあぐればお寅さま俄に元気を放り出して 十曜の紋の描きたる扇片手にひつつかみ 松姫館を飛出してオーイオーイと松彦を 呼戻したる其手腕なみなみならぬ婆さま也 あゝ惟神々々御霊幸ひましませよ。 蠑螈別の片腕と自分も許し人も亦 許す魔我彦副教主蠑螈別の託宣を 一から十迄鵜呑みして善悪正邪の区別なく 只有難い有難い誠の神は此外に 広い世界にやあるまいと心の底から歓喜して 真理を紊す教とは少しも知らず朝夕に 骨身を惜まず神前にいとまめやかに仕へつつ 迷い切つたる魔我彦は蠑螈別のなす事は 善悪正邪に係はらず何れも神の正業と 迷信せるこそ愚なれかくも教に迷信な 朴直一途な魔我彦も若き男の選にもれず 恋に心を乱しつつ吾れにかしづく女房は 甲に致そか乙にせうか又々丙か丁戍か なぞと集まる信者をば女と見れば探索し 物色しつつ目が細い色は白いが鼻低い 鼻は高いが目が細い背丈が高い低いなど 朝な夕なに首かたげ妻の選挙に余念なく 心を悩ましゐたる折少しく年はよつたれど 花を欺く松姫がこれの館に来りしゆ 二世の女房は松姫と自分免許の妻さだめ 神の奉仕の其間は万事万端気を付けて 松姫さまの歓心を買ふ事計りに身を俏し 吉日良辰到来し連理の袖を翻し 合衾式をあげむぞと楽しみゐたるも水の泡 思ひもよらぬ松彦が此神館に現はれて ウラナイ教の信徒が唯一の主神と頼みたる 神徳高きユラリ彦又の御名を尋ぬれば 末代日の王天の神珍の宮居と現はれて 突然ここに天降り上義の姫の松姫が 霊の夫婦と聞きしより気が気でならぬ魔我彦は 胸を躍らせゐたりけるかかる所へ松姫の 侍女のお千代が現はれて魔我彦さまへ上義姫 あが師の君が御用ぞと聞いたを機に座を立つて 鼻うごめかし肘を張り吉報聞かむと行てみれば 豈計らむや松姫は打つて変つた其様子 犯し難くぞ見えにける義理天上と自称する 魔我彦、姫に打向ひ思ひの丈をクドクドと 述べむとすれば松姫は挺でも動かぬ勢で 魔我彦さまへ今日からはお前に頼む事がある 松彦さまは吾夫よモウ之からは厭らしい 目付をしたりバカな事言はない様にしておくれ 二世の夫のある私大に迷惑致します 松彦さまはユラリ彦末代日の王天の神 私は妻の上義姫遠き神世の昔から 切るに切られぬ因縁でヘグレのヘグレのヘグレ武者 世界隅なく逍よひておちて居つたが優曇華の 花咲く春に相生の松と松との深緑 千代の契を結び昆布お前と私との其仲は 至清至潔の身の上だ汚しもなさず汚されも せない二人の神司万の物の霊長と 生れた人は何よりも断の一字が大切よ 恋の執着サツパリと放かしてお呉れと手厳しく 不意に打出す肱鉄砲呆れて言葉もないじやくり 言葉を尽し最善を尽せど松姫承知せず お千代に迄も馬鹿にされ無念の涙ハラハラと 松彦司を恨みつつシオシオ立つて元の座へ 顔の色まで青くして帰つて見れば万公や 五三公其他の連中が力限りに嘲笑する 魔我彦さまは腹を立て歯ぎしりすれど人の前 怒りもならず泣けもせず煩悶苦悩の胸おさへ 俯むきゐるぞ憐れなる少女の千代に導かれ 松彦さまは別館進みて見れば此はいかに 日頃慕ひし松姫が盛装凝らしニコニコと 笑顔を湛へて松彦が手をとり奥へよび入れる 流石の松彦呆然と言葉も出でず松姫が 面を眺めてゐたりしがあたり見まはし松姫は ソツと其手を握りしめ恋しき吾夫松彦よ 夜の嵐に誘はれて別れてから早十年 余りの月日を送りました雨の晨や風の宵 思ひ出しては泣くらし思ひ出しては又歎く 月日の駒の関もなく今日が日迄も吾夫の 行方を探ね神様に祈りを上げて一日も 早く会はさせ玉へやと祈りし甲斐もありありと 現はれ玉ひし神の徳今日の集ひの有難さ 何から言うてよかろやら話は海山積れ共 其糸口も乱れ果て解きかねたる胸の内 推量なされて下さんせマアマア無事で御達者で 私も嬉しいお目出たい貴方に見せたい者がある どうぞ喜んで下さんせ語れば松彦涙ぐみ 其手をしかと握りしめお前は吾妻松姫か ヨウまあ無事でゐてくれたお前に別れた其後は 世を果敢なみてウロウロとフサの国をば遠近と 巡り巡りて月の国バラモン教の本山に 現はれ玉ふ神柱大黒主の部下とます ランチ将軍片彦が司の神に見出され 神の柱や軍人二つを兼ねてまめやかに 仕へ乍らも両親や兄の身の上汝が身を 思ひ案じて一日も安く此世を渡りたる 時も涙にかきくれて悲しき月日を送る折 尊き神の引合せ河鹿峠の谷間で 恋しき兄に巡り会ひ茲に心を翻へし 三五教に入信し御伴に仕へまつりつつ 野中の森で夜をあかし橋の袂に来て見れば お寅婆さまの母と子に思はず知らず出会はし 縁の綱に曳かされて思はず知らず来て見れば 日頃慕ひし吾妻はここに居たのか嬉しやな 結ぶの神の結びたる二人の仲は一旦は 右に左に別る共心に解ぬ恋の糸 解き初めたる今日の空嬉しさ胸に満ち溢れ 答ふる言葉もないじやくり神の恵を今更に 思ひ浮べて有難く身に沁みわたる尊さよ 旭は照る共曇る共月は盈つ共虧くる共 仮令大地は沈む共誠の力は世を救ふ 真心こめてひたすらに神の教を守りたる 二人の身をば憐れみて思ひもよらぬ此山で 会はし玉ひし天地の神の御前に感謝して 此行先は殊更に命を惜まず道の為 心の限り身の限り仕へまつりて神恩の 万分一に報うべしあゝ惟神々々 御霊幸ひましませよ。 松彦『尊き神様の御恵みに依つて、永らくの間、互に在所の分らなかつた松と松との夫婦が、思はぬ此山で廻り合ふとは、何たる有難い事であらう。先づ其方も無事で、松彦も嬉しい、就ては私に見せたい物があると云つたのはどんな物だ、様子有りげなお前の言葉、グツと胸にこたえた』 松姫『ソリヤさうで厶いませう。貴方にお別れした時に、私は身重になつて居つた事を覚えてゐらつしやるでせう』 松彦『確に覚えてゐる。機嫌よく身二つになつただらうなア』 松姫『ハイ、アーメニヤを逃げ出す途中、フサの国のライオン河の畔で腹が痛くなり、たうとう妊娠八ケ月で、可愛い女の子を生みおとしました』 松彦『そして其子は何うなつたのだ。早く聞かして呉れ』 松姫『途中の事とて如何する事も出来ず、苦んで居る所へ、酒に酔うた男がブラリブラリと通り合せ、親切に吾家へつれ帰り、介抱をしてくれました。それが為に母子共に機嫌よく肥立ち、娘は其男に子がないのを幸ひ、貰つて貰ひ、私はフサの国北山村のウラナイ教へ信仰を致し、遂には抜擢されて宣伝使となり、自転倒島の高城山に教主となつて御用を致して居りましたが、高姫様の三五教へ帰順と共に私も三五教へ帰順致し、言依別命様の内命に依つて、小北山へいろいろと言を設け、うまく入り込んで、神業の為に、心を砕いて居ります。そして其娘はここに居る此お千代で厶います』 松彦『ヤアこれが吾娘か、ヨウまア大きくなつてくれた。親はなうても子は育つとは能く云つたものだな。コレお千代、私はお前の父親ぢや、養育を人手に渡して済まぬ事だつたなア』 と涙ぐむ。お千代は始めて松姫の物語を聞き、松姫は自分の実の母で、松彦は実の父なることを悟つた。お千代は思はず嬉し涙にくれてワツと其場に泣倒れた。松姫も涙乍らにお千代を抱起し、頭を撫で背を撫でて歯をくひしめて忍び泣きしてゐる。 松彦『たらちねの親はなくても子は育つ 育ての親の恵み尊き。 吾子をば育て玉ひし両親は いづくの人か聞かまほしさよ』 松姫『フサの国竹野の村のカーチンと 言つて名高き白浪男。 さり乍らカーチンさまの夫婦づれ 今はあの世の人となりぬる』 松彦『一言のいやひ言葉もかはされぬ 育ての親の有難き哉。 吾娘、千代も八千代もカーチンの 育ての恩を忘れまいぞや』 千代『有難き育ての親に悲しくも 別れて誠の親に会ひぬる。 たらちねの父と母とに巡り合ひ 嬉し涙の止めどなくふる』 松姫『母よ子よと名乗らむものと思ひしが あたり憚り包み居たりし。 吾母と知らずに仕へ侍りたる お千代の心いとしかりけり』 千代『吾母と知らず知らずに懐しく 師の君様と思ひ仕へぬ。 どことなく温みのゐます師の君と 朝な夕なに伏拝みける』 松彦『三五の神の大道に入りしより 三日ならずに妻にあひぬる。 妻となり夫となるも天地の 神の御水火のこもるまにまに。 天地の神の御水火に生れたる 吾子は千代に栄え行くらむ』 千代『父母の恵のたまくら知らね共 何とはなしに慕ひぬる哉。 カーチンの父の命を生みの親と 慕ひて朝夕仕へ来にけり。 朝夕になでさすりつつ吾身をば 育て玉ひし親ぞ恋しき』 松彦『さもあらむ、藁の上から育てられ 慈悲の温みに生ひ立ちし身は。 われよりも育ての親を尊みて とひ弔ひを忘れざらまし』 松姫『恋したふ、あが脊の君に巡り会ひ 嬉し涙のとめどなき哉』 かく親子は歌を以て心の丈を述べてゐる。館の外面より俄に聞ゆる瓦をぶちやけた様な声、 (魔我彦)『グワハツヽヽヽ、イツヒヽヽヽ』 親子三人は此声に驚き、あたりをキヨロキヨロと見廻した。怪しき笑ひ声はそれつきりにて屋上を吹き亘る凩の音ゾウゾウと聞えてゐる。此声の主は魔我彦であつた事は前後の事情より伺ふ事が出来る。 (大正一一・一二・一二旧一〇・二四松村真澄録) |
|
94 (2406) |
霊界物語 | 46_酉_小北山の宗教改革2 | 03 噛言 | 第三章噛言〔一二一三〕 夜はカラリと明け放れ、大門神社広前の合図の太鼓が七五三に聞えて来た。五三公、万公、お寅、魔我彦其他アク、タク、テクは数十人の信者の中を通つて一段高き祭壇の前に座を占め、魔我彦先づ天津祝詞を奏上した。つづいてお寅は又もや神言を奏上した。 小北の山に神言。 (お寅)『小北の山に神つまります、五六七成就の大神、旭の豊栄昇り姫の命もちて、嘘八百万の神等を餓鬼集へに集へ給ひ、餓鬼議りに議り給ひて、大広木正宗、鈴野姫命は、泥足原の水鼻汁を安国平姫命と知らぬ事依さしまつりき。頭と恥をかくよさしまつりし国土に汗膏とり神共をば、雁灯まはしにまはし給ひ、神掃に掃出し給ひて、今年は岩根木根立穴草の片屏風をも断りて、頭の髪の毛ぬき放ち、頭の焼を何時の間にやら墨塗つて、頭かくし依さしまつりき。斯く冠せまつりし夜の鬘と大山子欲高姫命、ヤンチヤ女と定めまつりて、白髪頭に墨塗立て、高姫の腹に枉津高知りて、雀親方の命の耳の御穴を塞ぎまつりて、頭の御鬘、日の焼を隠しまして、やさし女と誑り、喋る口中に泣き出でむ、赤の他人等が過ち犯しけむ、クサグサの罪事は、枉津罪とは、頭はられ、耳引かれ、目玉は火放ち、尻頻蒔き、禿頭に櫛さし、鶏屋の頭の、生剥ぎ、逆毛剥ぎ、糞小便屁許々多久の罪を、枉津罪と詔り別けて、臭き罪とは、生膚断、即ち腋臭、死膚断、即ちトベラ、白日床組、黒日床組、夜も昼も、己が母のやうな、年の違つた女と、をかしことせる罪、ハアハアと息喘ませ、叱言云ふ罪、獣犯せる罪、襟に這ふ虫虱の災、高姫神の災、黒姫鳥の災、借り借り倒し、うまい事せる罪、此処彼処でボツタクリの罪、沢山出でむ、斯く出でば、枉津神乱れ言以て、余りもせない金を、元も子も無く、打きり取られ、血を吐く思ひの、吾身の果、剰へ、此お寅姫を置去りにして、剰へ元のお民を連立ち、末の末までと、目を忍び、二人の仲を取り割きて、枉津の鶏屋の太い婆だと、旅装束にて、川を乗り越え、逃げ失せにけり。斯くならば、最早是非なし、枉津神は魔我の岩戸を押開きて、魔我の八重雲を、厳の千別に千別きて、聞召さむ、砕けつ神は、高姫の尻に、黒姫の尻に、とりつきまして、高姫の便、黒姫の便を、嗅別けて聞召さむ、かく聞召しては、罪と云ふ罪は、充ち充ちにけりと、吝みたれ神の、阿呆の痩我慢、泡吹き放つ事の如く、悪縁生みきり、夕のお神酒を、悪神、貧乏神の、吹払ふ事の如く、尻をうつべに居る大船を、屁こき放ち、糞こき放ちて、雪隠の中に放き落す事の如く、落ちた沫が、元に返りて、返り討する事の如く、飲んだる酒は一つもあらじと、腹を痛め気を痛め給ふ事を、高姫の尻、お民の尻より、真逆様に落ち滝津、河鹿川の瀬に在す性悪姫と云ふ神、蠑螈別を大肌の腹の中に喰はへ行かむ、かく喰はへ行けば、阿呆らしの尻の、尻糞の、焼糞の、沫の矢鱈に飛びます、穴あけつ姫と云ふ神、大広木正宗、お民を抱へ持ち、嬶となして酒飲みてむ、かく嬶と酒飲みては、屁吹き戸に在す屁放戸主と云ふ神、根の国、底の国に屁こき放ちてむ、かく屁放き放ちては、根の国、底の国に在す、腹立ち擦り姫と云ふ神、揉みさすらひ失ひてむ、かく牛馬泣いては、ウツソリした、お寅の身にも、心にも、恋と云ふ恋はあらまし、遂げさし給へと、議らひ給へ、気をつけ給へと申すことを、馬鹿の耳振り立てて聞召せと、頭つつこみ、つつ込みも枉申す、あゝ叶はぬから、目玉飛び出しましませよ』 お寅『さあ、皆さま、御苦労で厶りました。これで大方、蠑螈別さまも帰つて来るだらう。もしも帰らなかつたら神罰が当り、野垂死をせにやならぬから、嫌でも応でも帰つて来るだらう。松姫さまが御祈願して下さつてるのだから、もはや間もあるまい。大広木正宗の肉の宮、貞子姫命、行長春命、言足姫命、鈴野姫さま、桃上彦命さま、地上姫命様、いつもお前さまは俺の世話になつてるのだから、正念があるのなら、今日一遍でよいから、手別けして大神様のお助けによつて、大広木正宗さまの肉の宮を、袖か袂を皆銜へて引張つて来るのだよ。之が出来ぬやうの事だつたら、お前は犬より劣つた狐だ。如何しても今日中に大広木正宗さまの肉の宮を俺の前につん出して下さらなくちや、もう此お寅もお給仕致しませぬぞや。お給仕どころか、皆宮から放り出して焼いて了ふのだから、お前さまも今日は千騎一騎の処だ。狐が出世して神の名を名告り、結構なお給仕をして頂いた方がよいか、放り出されたがよいか、ここは一つ思案のし所ぢやぞや。此お寅に対しても素知らぬ顔をして居られる義理ぢやあるまい』 と何時の間にやら、人の前も忘れて大きな声で喋り出し、ハツと気がつき袖に口をあて、顔を隠しながら教祖の館へ逸早く姿を隠した。 五三公、万公はアク、タク、テクを信者の中へ交へ、一同の噂を聞き取らしむべく云ひ含めおき、松姫の館をさして上つて行く。 七五三の太鼓の音響き渡ると諸共に 彼処や此処の宿舎より寄り集まりし信徒は 大門神社の広前に有難涙を零しつつ 鼻汁をすすつて太祝詞唱へ居るこそ殊勝なれ お寅婆さまは中啓を右手にキチンと握りしめ 左の手にて袖たたみ其足音も淑かに 水色袴をサラサラと音させながら五三公や 万公其外三人を後に従へ神壇の 前に現はれ叩頭し手を拍ち終り例の如 天津祝詞を奏上し生神言を宣りつれど 心乱れし其故か側より耳たて覗へば 以前の如く不可思議な祝詞の如くに聞え来る 心のせいか耳のせいか或は曲津の悪戯か 合点の行かぬ次第ぢやと五三公、万公初めとし 並み居る信者も首傾げ思案にくれて居たりけり 中上先生のアクさまは鳥なき郷の蝙蝠を 気取つて壇上にはね上り高卓子を前に置き コツプの水をグツと飲み演説気取りで述べ立てる 其スタイルの可笑しさよ懐探りて塵紙を 取り出し鼻をツンとかみ又もや紙を折り重ね 再び鼻をツンとかみ目やにを拭ひ歯糞とり 無雑作に懐へつつ込んで又もやグツと水を飲み オホンと一声咳払ひ (アク)『これこれ満場の諸君達貴方は此処の神様を 信仰なさるは宜けれども随分用心なさらぬと 商売繁昌病気平癒子孫長久は中々に 思うた様には出来ませぬ天国浄土の有様を 皆さま心に刻み込み中有界や地獄道 いろいろ雑多の神様の尊き教を体得し 置かねば何程信神をして見た処で無益ぞや 私はもとはバラモンの神に仕へた者ですが 野中の森で図らずも三五教の宣伝使 治国別の弟なる松彦一行に廻り会ひ 誠の道をよく悟り此処迄ついて参りました まだ温々の信者とて教理はしつかり知らねども 岡目八目人の目はあんまり違ふものでない バラモン教に比ぶればウラナイ教はましだらう さはさりながら皆さまよ此処に祀つた神さまは 天地の元の根本の月日の神や世の初め 御用なされた神さまが祀つてあると思ひますか それ程尊い神ならばウラナイ教を開いたる 高姫さまは何として三五教に兜脱ぎ 黒姫さまと諸共に神の司になつただらう ここの点をばよくよくも考へなさればウラナイの 教の値打も分るでせう正宗さまの肉宮は 信者となつて来て居つた衣笠村のお民さまと 暗に紛れて此館脱け出で一本橋渡り 野中の森を乗り越えてもう今頃は河鹿山 祠の森の近辺に逃げて行つたに違ひない お寅婆さまが驚いて髪ふり乱し其後を 追つ駆け行きし其様を眺めて愛想がつきたぞえ 之でも皆さま御一同はまだ懲りずまにウラナイの 道を信仰なされますか一寸意見が尋ねたい 同じ事なら三五の神の教を信仰して 喜び勇んで現界に生れ出でたる本分を 尽して神をよく信じ天国浄土へ上るべき 準備を早くなされませ松姫さまは久し振り 別れて程経し夫に会ひ夫婦親子の名告りをば 首尾克くなされましたぞや頂上に建つた石の宮 三社ともに祀り替へ此世の元の神様を 斎きまつりて天地に怯ぢも恐れも致さない 国治立の大神の誠の御霊を鎮祭し 神の恵を十分に頂く事になりました 是非に今夜は小北山小宮の端に至る迄 一つも残らず祀り替へ変性男子の御霊 教へ給ひし神様をお祀り替へる段取と 愈なつて来ましたぞ嘸や皆さま驚いて 狼狽へなさることだらうもしや嫌なら今の内 ここをば捨ててスタスタと吾家をさしてお帰りよ あんまりうまい口車乗り切りなさつた皆さまは 容易に私の言ふ事を受取り遊ばす筈はない もしや此中一人でも分つた人があるならば 今夜の此処の御遷宮に参加なさるが宜しからう 強つて勧めはせぬ程に一寸気をつけ置きまする あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 斯の如くアク公は小北山の祭神の素性をスツパ抜いた。百人許り集まつてゐた金太郎の信者は俄に騒ぎ出し、形勢刻々に怪しくなり、彼方此方の隅々から、 (声)『アク公とやらを引摺り落せ、叩き伸ばせ、道場破りだ、宮つぶしだ。俺達は、こんなことを聞いて見逃しにやならない。リントウビテン大臣の生宮が承知致さぬ』 と喚き立てるものがある。一方には岩照姫の生宮が承知致さぬぞやと、金切り声を絞つて泣声でぞめく。其外五六七成就の大神、木曽義姫の大神、大照皇大神宮の肉宮などと自称する信者が、俄に狂ひ立ち、壇上のアクを目がけて襲撃し、鉄拳の雨を降らす、足を取つて引摺りおとす、恰も日比谷ケ原の選良其儘の光景を演出した。アクは人込の中を、スバしこく潜つて姿を隠した。其代りにタクが捉へられ、悪言暴語の代償として鉄拳の雨を浴びせかけられ半死半生となつて、其場に倒れて了つた。忽ち大門神社の広前は阿鼻叫喚、一大修羅場が勃発することとなつた。あゝ叶はぬから目玉飛出しましませよ。 (大正一一・一二・一五旧一〇・二七北村隆光録) |
|
95 (2412) |
霊界物語 | 46_酉_小北山の宗教改革2 | 09 文明 | 第九章文明〔一二一九〕 文助は朝から晩まで置物然として白装束に白袴を着け、相変らず松に一本角の黒蛇、蕪、大根を描いて居た。そこへお菊がソツとやつて来て、 お菊『もし、文助さま、お前チヨツト此方へ来て下さらぬか。大変面白いもの見せてあげますよ』 文助『何程面白いものでも、俺に見せてやらうと云ふのは無理な註文だ。盲の芝居、聾の浄瑠璃聞と同じだから、まあ止めておかう』 お菊『何、お前さま、蕪や大根が書ける位なら見えぬ筈がない。見ようと思つたら屹度見えるだらう。本当に妙な事があるのよ。人に分らぬ中、ソツと来ておくれよ』 文助『さう受付役が席を立つて此処をあけておく訳にもゆかないから、又暇の時に見せて貰はう』 お菊『そんな気の長い事を云つてゐたら駄目よ。今の中に来て見なくちやいけない。実の処は、蠑螈別さまが帰つて来たのよ。さうして三万両の金をお母さまにやつて居るのよ』 文助『何、三万円のお金をお母さまにあげられましたか。流石は蠑螈別さまだ。夜前夜ぬけをなさつたとかで随分上を下への大騒動、どうなることかと俺も心配してをつたが、あゝ有難い有難い、あの方が帰つて下さつたら小北山は大丈夫だ。神様有難う厶ります』 お菊『一寸見に来て下さいな。どうも不思議で堪らないのよ』 文助『何、お金は人間の持つものだから三万円位持つて帰つたつて別に不思議はない。あの方だから人の物を泥棒なさる筈がない。それは神様からお情でお金を降らして下さつたのでせう。さうして其お金をお母さまは如何なさいました』 お菊『直様懐へ捻込んで了つたのよ』 文助『そりや良い事をなさいました。あの方にお持たせして置くといけませぬから。神様有難う厶ります』 と又拝む。 お菊『何、そればつかしぢやないのよ。後から聞いて見れば、まだあと二十七万両、懐に持つて居ると云つてゐたよ』 文助『何、二十七万円、ハヽヽそりや大方聞き違ひだ。二十七銭だらう』 お菊『阿呆らしい、二十七万円と二十七銭と取違へる様な私は馬鹿ぢやありませぬ。確に二十七万両、十分の一与らうと云つて三万両放り出したのだもの、さうしてまだお民さまに二十万両やつて来たと云つてゐましたよ。文助さま、早う来て下さいな。お民さまの処へ、これから行くなんて云つてゐますよ。私、それ聞いて気が気でないので、ソツと貴方を頼みに来たのよ。蠑螈別さまは貴方の云ふ事は聞いて呉れるけれども、お母さまの事は聞いてくれぬのだから』 文助『そりや大変だ。あんな人に、そんな大金を持たせておいたら、どんな事をするか知れやしない。人間が好いから直に人にとられて了ひ、神様の名を悪くするやうにしちや大変だから。それなら行きませう』 お菊『文助さま、ソツと来て下さいや。あまり人に聞えちや都合が悪いかも知れぬから』 受付係の文助は思はぬ話を聞かされて 何とはなしに勇み立ち重たい尻をあげながら 咫尺も見えぬ目を持つて杖を力にトボトボと お菊の後に従ひて蠑螈別の住居なる 館をさして出でて行くお菊は先に立ちながら お菊『これこれもうし文助さま此処が表の入口よ さあさあ私が手を曳いて教祖のお居間へ参りませう』 云へば文助首肯いて一寸笑をば湛へつつ 年の若いに似もやらず何から何まで蕪から 大根菜種の端までも気のつく娘と褒めながら 奥の一間へ進み入り 文助『これこれもうしお寅さま目出度い事が出来ました 蠑螈別の教祖さまは御無事でお帰り遊ばして 私も嬉しう厶りますその上沢山のお金をば 土産にもつてお帰りと私は聞いて飛び上り 大神様に御礼を直様申上げました 昨夜蠑螈別様が駆落なさつたと聞いてから 館の上下大騒動数多の信者の信仰が ぐらつき出して私まで頭を痛めて居りました 其上尚も神様の尊き恵みによりまして 三十万両の金もつて無事にお帰りなさるとは 何に譬へむものもなき歓喜の極みで厶ります これこれもうし教祖さま私は文助受付の 時間を盗んで御挨拶致さにやならぬとお菊さまに お手をひかれて参りました何卒結構なお話を 私に聞かして下さんせ真に嬉しい事ですよ 鶴は千歳と舞ひ遊び亀万歳と歌ひ舞ふ こんな目出度いお目出度い事が如何して来たものか これもやつぱりユラリ彦末代日の王天の神 五六七成就の大御神リントウビテン大神や 日の出神の義理天上大将軍や常世姫 旭の豊栄昇り姫其外尊き神様の 御守護の徳で厶りませうあゝ惟神々々 何程嬉しいと云つたとて口が塞がる筈がない 蠑螈別さま、お寅さまあまり私をじらさずに 早くお話し下さんせ気がせきます』と呼ばはれば お寅は呆れて倒れたる身体ムツと引き起し 火鉢の前に座蒲団をキチンと敷いて行儀よく 膝に両手をおきながらお寅『文助さまか、よくもまあ お目の悪いにトボトボとお訪ねなさつて下さつた 私は結構な御神徳今日は初めて受けました 天の岩戸が開けたるやうな心地が致します 何卒喜んで下さんせ本当に目出度い吉日』と 申せば文助勇み立ち文助『そりやまあ結構な事でした 蠑螈別の教祖さまは大きな神徳頂いて 三十万両を懐に入れてお帰り遊ばして 十分一の三万両お前さまにスツパリ下さつた やうにお菊さまに聞きました本当に目出度い事ですな 私に直接頂いたやうに嬉しう厶ります さうして蠑螈別さまはお声が根つから聞えぬが 疲れ果ててグツスリとお寝みなさつて厶るのか それならそれで私もお寝みなさる邪魔をしちや 真に済まない事故にこれからお暇申します これこれもうしお寅さま娘御寮のお菊さま これから御免蒙つて書き残したる蕪の画 スツカリ仕上げた其上でお暇を頂き見えの番 足を伸ばして今夜こそグツスリ寝さして貰ひませう 何れもサラバ』と立上る此時お寅は声をかけ お寅『文助さまよ今私が結構なお神徳を頂いた 天の岩戸が開けたと云つたは金の事でない 百万両はまだ愚か幾千万とも限りなき 譬へ方なき神徳をスツカリ受けた事ですよ 蠑螈別が突然と此場に帰り来りまし 三万両の小判をばゾロリと私の目の前に 並べて呉れたと思ふうち豈図らむや蠑螈別 忽ち姿を変更し牛の様なる古狐 クワイクワイクワイと泣きながら向ふの谷の森林を 目蒐けて姿をかくしましたあまり私は胴欲で 汚い事のみ朝夕に思つて居たのが罪となり 清い尊い魂が自然に曇つて居つたのか 此有様を見るよりも一度に開く蓮花 サラリと開いた胸の暗これ程嬉しい事はない 蠑螈別の教祖さまはお前も知つてゐる通り 酒に身魂を腐らして前後夢中に首をふり 精神病者となつてゐるあんな分らぬ男をば 何程大切にしたとても神のお道は何処までも 拡まりさうな事はない又あの人はお民と云ふ 女に迷ひ三五のお道に厶る高姫を 慕うて朝晩胸痛め鬱散ばらしに酒をのみ 居るやうな人を私が何程大切に思うても 最早駄目だと知る上は執着心も何もかも 速河の瀬に流し棄て今は嬉しき水晶の 御空の如くになりました喜び勇み神様に お礼を申して下さんせ私もこれから魂を 入れ替へ天地の祖神を祀り直して神妙に 一心不乱に仕へます文助さまよ今迄の 私の醜行見直して愛想つかさず何処までも 交際なされて下さんせ今日更めて願ひます 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとももう此上は吾心 決して決して変らない天地の神よ百神よ 初めて悟る吾々が真の道の御光を いや永久に照らしつつ此肉体は云ふも更 此世を去つて神界へ旅立ちする時吾魂を 安きに救ひ給へかし神は吾等の救ひ主 心も身をも傾けて偏に願ひ奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 (大正一一・一二・一五旧一〇・二七北村隆光録) |
|
96 (2414) |
霊界物語 | 46_酉_小北山の宗教改革2 | 11 変化神 | 第一一章変化神〔一二二一〕 万公『アク公さまが演台に登るや否や小北山 変化神社の種あかし怯めず臆せず滔々と 数多の信者の目の前で喋り立てたが仇となり 上を下へと大騒動乱痴気騒ぎが始まりて 五六七成就の生宮と自ら信じ人も亦 許して居たる竹公が獅子奮迅の勢で 攻めかけ来るをアク公が[※「攻めかけ来るをアク公が」の「を」は、初版には有るが、三版以降は無い。「を」が有った方が意味的には正しくなる。オニペディアの「第46巻の諸本相違点」を参照。]タクを犠牲に立てながら 敏くも其場を立ち出づる此時万公は只一人 ヘグレ神社を一々に調べて廻り頂上の 月の大神日の御神社の前に突つ立つて 蠑螈別が奴狐につままれよつてこんな神 勿体らしくも祀りこみ馬鹿を尽すも程がある 狐狸に騙されて出て来る信者の顔見れば 一人も碌な奴はない目玉の一つ無い奴や 聾に躄、肺病やみ横根、疳瘡、骨うづき 陰睾、田虫で苦しんだガラクタ人間蜘蛛の子が 孵化つたやうにウヨウヨと此世で役に立たぬ奴 固まり居るこそ可笑しけれそれ故こんなガラクタの お宮を立てて古狐八畳敷の古狸 厳めしさうな名をつけて末代日の王天の神 上義の姫や常世姫大将軍と斎ひこめ 祀つて居やがる馬鹿らしさ闇の世界と云ひながら これ程阿呆が世の中に沢山居るとは知らなんだ さアこれからはこれからは松彦さまや松姫が 被つて居つた猫の皮すつぱり脱いで曲神の 素性を露はし諸人の眼をさましやるならば 如何に驚く事だらうこの万公は精神が 確りして居る其お蔭狐狸の曲神に 騙されないのが不思議だよ世界の奴は尊きも 富めるも卑きも賤しきも欲に心を眩ませて 知らず知らずに迷ひ込み曲神どもの玩弄に されて居るのが気の毒ぢやこれを思へば一日も 早く三五教をして暗き此世の光とし 暗夜を照らして救はねば三千世界は忽ちに 荒野ケ原と変るだらうあゝ惟神々々 御霊幸倍坐しませよ』 かかる所へお菊はスタスタ登つて来た。 お菊『もし万公さま、私最前からどれだけ探したか知れないのよ。こんな寒い所に一人何してゐらしたの』 万公『お前には肱鉄をかまされ竹公さまには怒られ、身を置く所がないので、ユラリ彦さまのお宮の前まで避難のためにやつて来たのだ。お前は又、こんな強い山をどうして一人登つて来たのだ』 お菊『私だつて足がありますわ。況してスヰートハートした万公さまがゐらつしやるのだもの、思ひの外足が軽くて知らぬ間に此処に登つて来たのよ』 万公『馬鹿にするない、年端も行かないのに男に調戯ふと云ふ事があるものか。随分酷い目に会はしたねえ』 お菊『そりや極つた事ですわ。親の前や人さまの前で、何程好きだとて好きな顔が出来ますか、恥かしいから嫌ひだと云つたのよ』 万公『それでも昨夜大変俺に恥をかかしたぢやないか。あの時こそ誰も居なかつたのに、ありや余り念が入り過ぎるぢやないか』 お菊『何を言つてゐらつしやるの、あの時も暗がりに、アク、テク、タクさまが隠れて、私と貴方との立ち話を聞いて居たぢやありませぬか。それだから私あんな事を云つたのよ』 万公『成程さうだつたな、お前は随分細かいとこへ気がつくな』 お菊『そらさうですとも、前後に気をつけにや人に発見されては大変ですもの』 万公『発見されてもよいぢやないか、何れ夫婦になるのぢやもの』 お菊『それだつて、野合夫婦なんか云はれては末代の恥だわ』 万公『それなら、何故こんな処へ来たのだ。夜分なら兎も角も、誰が見とるか分らぬぢやないか』 お菊『夜分なら疑はれても仕方がないが、昼の最中だもの、誰が怪しみませう。却つて物事は秘密にすると人に感づかれるものですよ。此処なら何しとつたて大丈夫だわ』 万公『エヘヽヽヽ、オイお菊、お前は小さい時から可愛い奴だと思うて居たが、ほんとに可愛いものぢやな、それ程私を思うて呉れてるのか』 お菊『極つた事ですよ。あれ程目許で知らして居るのに、万さまは一寸も気がつかないのだもの、ポンポン怒つて居らつしやるのだから本当に焦つたかつたわ』 万公『なんと本当に分らぬものだな。恐れ入つたよ。そこまで念が入らなくては恋愛の趣味がない、併しお寅さまが承知せなかつたらどうする心算だ』 お菊『何れ容易に承知しては呉れますまいよ。それだから私も一つ考へがあるのよ。万さまはこんな所へ来て、神様の悪口ばかり云つて居ましたでせう』 万公『ウン、余り業腹だから、小口から狐の神に引導を渡してやつたのだ』 お菊『そんな悪戯せいでもよいに、狐が怒つて魅んだらどうします』 万公『ハヽヽヽヽ、そんな心配して呉れるな、狐に騙されるやうな精神ぢやない。狐の奴、俺の顔を見ると尾を巻いて忽ち十里位逃げ出すのだから大したものだよ』 お菊『時に万さま、喜んで下さい。二十七万両の金を手に入れました』 万公『そんな金を何うして手に入れたのだ』 お菊は耳に口をあて、 お菊『今蠑螈別が三十万両の金をもつて野中の森から帰つてきたのよ。そして三万両をお母アさまに与へ、二十七万両の金をグヅと懐に入れて酒を飲みだしたから、私が酒を飲まして酔ひ潰し、二十七万両の金を引つたくつて、そつと此処まで逃げて来たのよ』 万公『女に似合はぬ豪胆者だな、そんな金何にするのだ』 お菊『ホヽヽヽヽ、この金もつて山越しにお前と私と駆落をする積りで逃げて来たのよ。サア足のつかない間にこの山を南に渡つて月の国へ逃げようではありませぬか』 万公『ヤアまア待つて呉れ、私は神様の御命令で月の国へ往く者だが、今は治国別さまのお供してアーメニヤにゆくのだから、其間はお前と一緒に居る訳にはいかない』 お菊『これ万さま、好い加減に呆けて置きなさい。それならお前はこのお菊は本当に可愛いのぢやないのだな』 万公『可愛くなうてかい』 お菊『それなら私の云ふ事聞いて下さいな』 万公『ウン、聞くの段ぢやないが、御用の済むまで待つて呉れ』 お菊『エヽ好かぬたらしい、神様の御用なんかどうでもよいぢやないか。サアこれから私と行きませう、二十七万両の金さへあれば、どんな立派な家も建つし、そんな危ないバラモン教を征伐するため、宣伝使のお供して野宿したり、乞食のやうな真似するよりも、茲は一つ考へ所だ。サア往つて下さい、頼みぢやから』 万公『困つたなア、エヽ仕方がない、自暴だ、それならお前と手に手を取つて此山越しに行かう』 お菊『そりやまア有難う厶います、よう云つて下さいました。私もあんなやんちや親にひつついて居るのは嫌だし、こんな神様の所へ居るのは猶ほ嫌だし、兄様と知らぬ他国で苦労するのなら、こんな嬉しい事はないわ』 万公『そんな事言つて又中途で俺を放かすやうな事はすまいなア』 お菊『滅相な、変り易いは男の心だから、万さまこそ心を変へないやうにして下さい。ねえ貴方、私好きで好きで仕方がないわ』 万公『エヘヽヽヽ』 と涎を繰りながら、 万公『サア、それなら松彦さまや五三公に済まないけれど、二十七万両の金を有つて弥高飛びぢや』 お菊は山の尾の上を伝ひながら、万公の先に立ち歌ひつつ進んで行く。 お菊『此世の中に生れ来て何楽しみに人は生く 浮世の中の楽みは酒と博奕と色ばかり これに越したる楽みは人間界にはあらうまい それに治国別さまは窮屈至極の三五の 教のお道に耽溺し乞食のやうにブラブラと 可愛い女房を家におきお道のためとは云ひながら そこらあたりをウロウロとうろつき歩くをかしさよ 万公さまも神様の教に些つと陥りこみ 河鹿峠の峻坂を越えて漸く小北山 ウラナイ教の広間までやつて来たのは面白い 私がいつも恋ひ慕ふ大事の大事の殿御ぞや 何とか工夫を廻らして万公さまを銜へ込み 日頃の思ひを達成し知らぬ他国で水入らず 一つ苦労をして見よと思うて居たらアラ不思議 一本橋の袂にて結びの神の引き合せ お目にかかつた嬉しさよさはさりながら何うかして 母の蓄へおかれたる一万両のそのお金 盗み出して万さまと駆落するまで親の前 嫌な男と云ひはつて油断をさして目的を 達せむものと思ふ中降つて湧いたる儲けもの 蠑螈別が沢山のお金をもつてニコニコと 帰り来るを見るにつけ心の中に雀躍りし 頻りに酒を勧めつつ思ふ存分酔ひ潰し 内懐にしめ込んだ二十七万両の金 旨く手に入れ小北山頂上の宮の御前に 登りて見れば万さまがたつた一人で待つて居る こんな結構な事あろか早速情約締結し 山の尾の上を渡りつつ吹く凩も何のその 温いポツポに勢を得たる嬉しさ恋人と 手に手を取つて何処となく逃げ往く身こそ嬉しけれ あゝ惟神々々御霊幸倍坐しませよ』 (大正一一・一二・一五旧一〇・二七加藤明子録) |
|
97 (2417) |
霊界物語 | 46_酉_小北山の宗教改革2 | 14 打合せ | 第一四章打合せ〔一二二四〕 松姫館には夜の更くるまで雑談が始まつてゐる。 五三『モシ松彦さま、思はず、暇を小北山で費しましたなア。治国別の宣伝使は、さぞ待つてゐられますでせうなア。何うです、神様をスツパリ祀りかへて行くといふお話ださうですが、これだけ沢山のお宮さまを一々祀りかへて居つた日には、二日や三日では埒があきますまい。そんな事をしとつたら肝腎の御用が後れるぢやありませぬか』 松彦『ソレもさうですが此儘にして行く訳にも行かず、困つたものです。私達は都合によつたらエルサレム迄行つて来なくてはなりませぬ。さうすれば一年位は早くてもかかりますから、イツソの事、松姫に一任しておいたら何うでせうなア』 五三『万公さまも一緒に暫く残しといたら何うでせうか』 アク『モシ先生、こんな男を残しておかうものなら、又狐につままれて駄目ですよ。お寅さまに魔我彦、万公の欺され三幅対です。が、欺され三幅対をこんな処へ置いておかうものなら、又候狐狸の巣窟となつて了ひます。而して万公さまは斎苑の館からお供に連れて治国別さまが厶つたのだから、貴方の勝手にはなりますまい』 松姫『ソラさうですなア、五三公さま、一つ貴方神様に伺つて見て下さらぬか』 五三『ハイ承知致しました。それなら一つ伺つて見ませう』 と言ひながら手を組んで暫く無我の境に入つた。 五三『ヤア解りました。未だ三日ばかしは差支ない様です。明日早朝から神様の御祀りかへをする事に致しませう、それに就てはお寅さま、魔我彦さまの承諾をうけておく必要はありますまいかなア』 松姫『それが第一です。テクさま、すまないが一つお寅さまと魔我彦さまを此処へ来て頂くやうに頼んで下さいなア』 テク『承知致しました』 と座を立つて階段を下り行く。 アク『松姫さま、随分貴女は此処へおいでになつてから日日が経つたやうですが、妙な神さまばかり祀つたものですなア』 松姫『本当にをかしくて怺らぬのです。幾何にでもへぐれてへぐれてへぐれ廻す神さまですからなア』 アク『へぐれ神社に種物神社、生羽神社に大門神社、其他随分妙な名があるぢやありませぬか。ヨウマアこんな出放題な神名や神社名がつけられたものですなア』 松姫『ソレでも世間は広いものですよ。誰も彼も一生懸命になつて詣つて来るのですから、不思議なものですわ』 アク『大変に変性男子をほめて変性女子をくさしてゐるぢやありませぬか』 松姫『二三年前迄は極力変性女子を悪の鏡だとか言つて攻撃して居りましたが、此頃は変性男子の生宮が昇天遊ばしたので、仕方がなく一生懸命に変性女子の弁解ばつかりしてゐるのですよ。男子と女子とが経と緯とで錦の機を織るのだ。而して義理天上日の出神が世界中の事を調べて、変性女子にソツと言うて聞かすのだと、ソレハソレハ偉い権幕でしたわ』 万公『余程改心が出来たと見えますねえ』 松姫『イエイエさうではありますまい。三五教の信者を占領しようと思へば、此頃は女子の勢力が強いのだから、両方をうまく言はねばひつかかつて来ないものですから、策略であんな事を云つとるのですよ。九分九厘行つたとこで女子は悪の鏡だと云つてクレンとひつくり返すのですから油断は出来ませぬよ。併しながら変性女子の眷属がかうして沢山やつて来たものだから、肝腎の教祖が女と手に手をとつて駆落したのも、つまり神罰が当つたのでせう』 松彦『曲神は善の仮面を被りつつ 世を欺くぞゆゆしかりける。 表には愛と善とを標榜し 裏に曲をば包む醜道。 何時の世にも栄ゆるものは偽善者よ 正しきものは衰へて行く。 さりながら五六七の神の生れし上は 最早悪魔の栄ゆ術なし』 松姫『蠑螈別、魔我彦、お寅婆さまの 心は猫の眼なりけり。 夜も昼も酒に腸くさらせつ 曲の宮居となれる憐れさ。 艮の婆さまと自ら称へつつ 坤神何時もこぼちつ。 曲津見の醜の教に迷ひけり 何を言うてもきくらげの耳。 これだけによくも迷ひしものぞかし 誠の教は一言もきこえず』 五三『斎苑館珍の宮居に比ぶれば 天と地との如くなりけり。 小北山峰の嵐はつよくとも 早をさまりて松風の音』 万公『ここへ来て怪しき事の数々を たこになるまで耳に入れける。 耳も目も口鼻迄も痺れける 曲と曲とに囲まれし身は。 さりながら神の御稜威は灼乎に 逃げ失せにけり醜の曲神』 アク『あくせくと心なやむる事勿れ ただ何事も神に任せて。 悪神を追ひそけちらし根本の 神祀るとて世人あざむく』 タク『ユラリ彦、上義の姫の生宮と 信じゐるこそ可笑しかりけれ。 さりながら信じてくれたそのために 小北の山を立直すなり。 高姫や黒姫司がきくならば さぞ懐旧の念に燃ゆべし』 テク『尾白し頭も白し古狐 騙しけるかな三人の人を。 蠑螈別今は何処にひそむらむ お民の後を慕ひ慕ひて。 魔我彦の心はさぞやもめぬらむ 恋にこがれしお民とられて』 これよりお寅、魔我彦、お菊、文助などを加へ、松姫館の奥の間で明朝早くより三五の大神を鎮祭すべく修祓、遷座式其他の件に就て打合せをなし、各自の居間に帰つて其夜を明かす事となつた。 あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一二・一五旧一〇・二七外山豊二録) 因に、本日午前九時より午後十一時まで十四時間に原稿紙八百一枚を口述し終れり。これ今日までのレコード也。(瑞月) |
|
98 (2421) |
霊界物語 | 46_酉_小北山の宗教改革2 | 18 エンゼル | 第一八章エンゼル〔一二二八〕 お寅、魔我彦両人が、犬と猫とが互に隙を窺ひ、虚々実々論戦に火花を散らし、仁義の争ひ、最も酣なる所へ、エンゼルの如き美人が降つて来た。これは言ふまでもなくお千代であつた。お千代は足早に二人の前にかけ上り、双手を組み、ウンと一声、三尺ばかり空中に飛上り、キチンと二人の前に端坐した。お寅も魔我彦も、威厳備はり何となく優美なる乙女の姿に、思はず知らず頭を下げ、両手をついて畏まつた。 千代『われこそはユラリ彦命なり。汝等両人、小北山の祭神の善悪正邪に就いて論戦稍久しきを知り、天極紫微宮より降臨し、汝両人が迷夢を醒まさむとす、謹聴あれよ』 とおごそかに宣示した。お寅は意外の感に打たれ、実否如何と、神勅の裁断を待つてゐる。魔我彦は心の中にて……それお寅さま、御覧なさい、ヤツパリ私の信仰するユラリ彦命さまは誠の神だろ、此エンゼルの降臨に依つて、一切の迷夢を醒ましなされ……と口には言はねど、心の中に期待してゐる。 魔我『これはこれはユラリ彦様、よくマア御降臨下さいました。実の所はお寅さまと、神様の御事や信仰上の点に就て衝突を来し、互に論戦をしてゐた所で厶います。どうぞ明晰なる御宣示を願ひたう厶います』 天使『魔我彦、汝の苦悶をはらすべく降臨せしものなれば、遠慮会釈はいらぬ、何事でも質問をなされよ』 魔我彦『然らばお言葉に甘へてお尋ね致しますが、此小北山にお祀りしてある神様は有名無実だとお寅さまが申しますが、実際は如何で厶いませうか。ある神ならばあると仰有つて頂きたい。なき神ならば、ないと仰有つて下さらば、それにて私は去就を決します』 天使『此小北山に祀られたる大小無数の神霊は、宇宙に存在せるは確なる事実である。生羽神社の大神、リンドウビテンの大神、五六七成就の神、木曽義姫の大神、旭の豊栄昇り姫の大神、地の世界の大神、日の丸姫の大神、義理天上日の出神、玉則姫、大将軍、常世姫、ヘグレ神社の大神、末代日の王天の大神、上義姫の大神、其他いろいろ雑多の祭神は、確に存在する神なることは証明しておくぞよ』 魔我彦は狂喜しながら、お寅の方を打見やり、したり顔にて、 魔我彦『コレお寅さま、如何でげす、ヤツパリ私の考へは違ひますかな』 と稍得意の面をさらしてみせる。 お寅『そりや祀つてある以上は神霊はなけねばなりませぬ』 魔我『それ御覧なさい、それなら朝夕御給仕をしても差支はないぢやありませぬか』 天使『神といへば皆斉しくや思ふらむ 鳥なるもあり虫なるもあり。 よき神も曲れる神もおしなべて 神と言ふなり天地の間は』 お寅『どうも有難う厶いました。コレ魔我彦さま、神様には違ひないが、神の中にも百八十一の階段があるのだから、そこを考へねばなりますまいぞや』 魔我『エンゼル様に重ねてお尋ね致します。小北山に祀られたる神々様は、上は第一天国より、地の世界を御守護遊ばす主なる神様と聞きましたが、それに間違ひ御座りますまいなア』 天使『小北山宮居は数多建ちぬれど まつれる神は八衢にます。 八衢にさまよふ神はまだおろか 根底の国の醜神にます。 さりながら人は天地の司なれば 汚れし神を救ふも宜べよ。 世を守り人の身魂を守るてふ 誠の神は此神ならず。 此神は罪や汚れを犯したる 曲の霊をいつきしものぞ。 拝むより救うてやれよ小北山 まつれる神の身を憐れみて。 われこそはユラリの彦と宣りつれど 只魔我彦を救はむがため。 ユラリ彦神とふ神は常世国 ロツキー山に蟠まる曲。 松彦をユラリの彦と尊みて 敬ひ仕ふる人の愚かさ。 松彦も其真相は悟れども 汝救はむとしばし忍びつ。 松姫も上義の姫は曲神と 云ふ事知らぬ生宮でなし。 さりながら迷へる人を救ふべく あらぬ御名をば忍びゐる哉』 魔我『これはしたり世人を救ふ神々と 思ひし事の仇となりしか。 訳もなき神を山々いつかひて 世を迷はせし事の悔しさ。 今よりは心の駒を立て直し 皇大神の道に仕へむ』 お寅『エンゼルの厳の言霊輝きて 魔我彦の暗を照らし給ひぬ。 有難し心にかかる村雲を 払ひ給ひし神ぞ嬉しき。 魔我彦もさぞ今よりは村肝の 心の空に月を仰がむ』 魔我『久方の心の空も晴れにけり 神の使ひのエンゼルの声に』 お寅『吾言葉聞き入れざりし魔我彦も 神の使ひにまつろふ嬉しさ。 身に魂に光の足らぬ吾なれば 魔我彦司を救ひかねつつ。 有難き神の使の下りまし 照らし給ひぬ二人の胸を』 天使『相生の松より生れし愛娘 千代の固めを茲に築きぬ。 これよりは小北の山の神々を 祀り直せよ神の詞に』 お寅『いかにして神の御言を反くべき 勇み進むで仕へまつらむ』 魔我『今は只神の御旨に任すのみ 力も知慧も足らぬ吾身は。 掛巻くも畏き神の御恵に うるほひにけりかわきし魂も。 うゑかわき悩み苦む吾魂も 瑞の御魂に甦りける。 瑞御霊、厳の御霊の神柱 おろそかにせしわれぞ悔しき。 今迄の深き罪科許せかし 心の曲の仕業なりせば』 お寅『魔我彦よ心の鬼に罪科を きせてはならぬ汝が身の錆。 迷ひたる汝が身魂に鬼住みて あらぬ御業に仕へせしかな』 天使『二柱迷ひの雲は春の水 氷となりて解けし嬉しさ。 主の神の永遠にまします神国は 常世の春の花咲き匂ふ。 人の身は天つ御空の神国の 真人とならむ苗代にこそ。 地の上は汚れ果てたるものなりと 思ふは心の迷ひなりけり。 村肝の心に神の国あらば 此地の上も神国となる。 地の上に神の御国を立ておほせ おかねば死して神国はなし。 地の上に住みて地獄に身をおかば まかれる後は鬼となるらむ。 鬼大蛇醜の曲霊の猛ぶ世も 心清くば神の花園。 うつし世を地獄や修羅と称へつつ さげすみ暮す人ぞゆゆしき。 人は皆天津御国に昇るべく 生みなされたる神の御子ぞや。 主の神は青人草の霊体を もらさず落さず天国へ救ふ。 救はむと御心いらち給へども 人は自ら暗におちゆく。 根の国や底の国なる暗の世へ おちゆく魂を救ふ大神。 此神は瑞の御霊とあれまして 三五の道開き給へり。 三五の道の誠を守る身は いかでおとさむ根底の国へ。 神の愛神の智慧をば理解して 住めば地上も天国の春。 秋冬も夜をも知らぬ天国は 人の住むべきパラダイスなり。 永久の花咲き匂ひ木の実まで 豊な神の国ぞ楽しき。 主の神は数多のエンゼル地に降し 世を救ふべく守らせ給ふ。 三五の教司はエンゼルよ ゆめ疑ふな神の詞を』 魔我『ウラナイの神の司も皇神の 珍の使ひにおはしまさずや』 天使『ウラナイの神の司は鳥獣 虫族なぞを救ふ正人』 魔我『虫族も神の御水火に生れたる ものとし聞けば救はむとぞ思ふ』 天使『大神の心用ひて救ふべし 人の愛する神ならざるを知れ』 お寅『此山にまつれる神は虫族の 救ひ求むる神にますらむ』 天使『さに非ず虫族までも取りて食ふ 曲の神ぞや心許すな』 魔我彦は始めて、エンゼルの訓戒に依り、心の闇をはらし、俄に顔色清く、元気百倍して無限の歓喜を感得する事を得た。魔我彦はエンゼルに向ひ、涙と共に其神恩を感謝した。 魔我『尊き清きエンゼルの御降臨、御蔭に依りまして、今までの私の迷ひも春の雪が太陽にとけるが如く氷解する事を得ました。実に無限の努力と生命とを賦与されたやうな思ひに漂ひます、歓喜の涙にうるほひました。此上は今迄の愚なる心を立直し、只一心に誠の神様の為に全力を注ぐ考へで厶います』 天使『魔我彦、汝は今神様の為世の為に尽すと云つたが、神の力は広大無辺、汝の力を加ふべき余地は少しもないぞよ。只汝は天の良民として汝の身につける一切の物を完全に照り輝かし、万一余裕あらば之を人に施すべきものだ。併し乍ら人間として、どうして世を救ひ、人を救ふ事が出来ようぞ。汝自らの目を以て、汝の顔及び背を見る事を得るならば、始めて人を幾分なりとも救ふべき力が備はつたものだ。之を思へば、人の身として、如何でか余人を救ふ事を得む。斯の如き考へを有する間は、未だ慢心の雲晴れきらぬものなるぞ』 魔我彦『ハイ、いろいろの御教訓、誠に以て有難う厶います。併し乍ら吾々は自分の身を救うて、それで決して満足は出来ませぬ。憐れな同胞の身魂を救つてやりたいので厶います。宣伝使の必要も吾身を救ふ為では厶いますまい。ここをハツキリと御教示願ひたいもので厶います』 天使『宣伝使は読んで字の如く、神の有難き事、尊き事を体得して、之を世人に宣べ伝ふる使者である。決して一人なりとも救ふべき権利はない。世を救ひ、人を救ふは即ち救世主の神業である。只宣伝使たるものは、神の国に至る亡者引である。此亡者引は、ややもすれば眼くらみ、八衢にさまよひ、或は根底の国に客を導き、自らも落ち行くものである。それ故何事も惟神に任すが一等だ。何程人間が知識ありとて、力ありとて、木の葉一枚生み出す事も出来ないではないか。一塊の土たりとも産出する事の出来ない身を以て、いかでか世人を救ふ力あらむ。只宣伝使及び信者たるものは、神を理解し神の国の方向を知り、迷へる亡者をして天国の門に導く事を努むれば、これで人間としての職務は勤まつたのだ。それ以上の救ひは神の御手にあることを忘れてはなりませぬ』 魔我彦『ハイ、何から何まで親切なる御教訓有難う存じます』 天使『最前お寅どのの口をかつて、惟神の説明を致しておいたが、其方はお寅の肉体を軽蔑して居るから、誠の事を云つて聞かしても其方は分らなかつた。そこで今度は清浄無垢の少女が体をかつて、神は魔我彦の為に訓戒を与へたのである、決して慢心致すでないぞや』 魔我彦は歓喜の涙をしやくり上げ、畳を潤はし蹲まる。お寅は有難涙にくれ、顔もえ上げず、合掌して伏拝む。四辺に芳香薫じ微妙の音楽耳に入るよと見る間に、エンゼルは元つ御座に帰り給ひ、可憐なるお千代の優しき姿は、依然として十二才のあどけなき少女と変つて了つた。 魔我彦は初めて前非を悔ひ、神の光に照らされ、松彦の指揮に従つて小北山の祭神を一所に集め、厳粛なる修祓式を行ひ、誠の神を鎮祭する事を心より承認したのである。いよいよこれより松彦を斎主とし、五三公を祓戸主となし、厳粛なる遷座式に着手することとなつた。 あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一二・一六旧一〇・二八松村真澄録) |
|
99 (2422) |
霊界物語 | 46_酉_小北山の宗教改革2 | 19 怪しの森 | 第一九章怪しの森〔一二二九〕 小北の山を包みたる醜の八重雲隈もなく 吹き払ひたる時津風斎苑の神風しとやかに 世人の心に積りたる塵や芥を払ひつつ 平和の花園忽ちに神の館に開けけり あゝ惟神々々八十の曲津の醜魂に とらはれ苦しむ枉人も漸く眠りの夢覚めて お寅婆さまを始めとし魔我彦、文助其他の 神の司や信徒は誠の神の恩恵を 心の底より摂受して勇みの声は天に充ち 地上も揺ぐばかりなり三五教に仕へたる 松彦司を始めとし五三公、万公其他の 清き司は身を清め心を浄め天地の 誠の神と祀り替へ以前の神を一所へ 斎ひをさめて一同に嬉しき別れを告げながら 館を後に宣伝歌歌ひ歌ひて進み行く お寅婆さまは松彦の後に従ひ吾は今 誠の神に救はれぬ悪魔の虜となり果てし 蠑螈別やお民をば誠の道に誘ひて 眼を覚まし救はねば天地の神に相対し 何の弁解あるべきか何処までもと追ひ行きて 是非とも真理を伝へむと松彦一行に従ひて 老躯をひつさげスタスタと進み行くこそ健気なれ。 小北山には松姫、魔我彦、お菊、お千代が重なる神柱となり、文助は依然として受付を忠実につとめ、其他百の役員信者は喜んで三五の誠の教を遵奉し、天国の福音を詳さに説き諭され歓喜法悦の涙にくれて居た。 一方松彦一行七人は小北山の神殿を伏拝み、河鹿川の橋を渡つて浮木の森をさして進み行く事となつた。 話は後へ戻る。浮木の森の三里ばかり手前に一寸した小さき森がある。ここは河鹿峠の本街道と間道との別れ道である。治国別、松彦が通過したのは、山口の森から近道を選んで間道を来たものであつた。此森は怪しの森と云つて絶えず不思議があると伝へられてゐた。此森へ入つたものは到底無事で帰れないと云ふ噂が立つてゐる。それだから追手に出会つた時等は、必ず此森へ隠れさへすれば追手も大抵の時は追及せないのが例となつてゐる。故に一名難除けの森とも称へられてゐた。此森の入口、河鹿峠の本道、間道と分れてゐる辻の角に四五人の荒男がバラモン教の目附と見えて車座となつて退屈ざましに雑談に耽つてゐた。 コー『おい、ワク、此寒いのに火も焚かず、昼となく夜となく、こんな道へ辻地蔵の代用を仰せ付けられて居つてもつまらぬものだな』 ワク『一体此戦は如何なるだらうかな』 コー『どうなるつて、勝敗の数は正に歴然たるものだ。衆寡敵せず、窮鼠猫を噛むと云ふ事があるだらう。衆は所謂寡に敵する事が出来ないのだ。愈となれば鼠が猫を噛むやうなものだ。愈真剣となつた時にや、どうしても小人数の方が心が一致して大勝利を得るものだよ』 ワク『それだつて衆寡敵せずとは多勢と一人とは敵はぬと云ふ事だ。多勢と小人数とは数に於て益に於て、凡ての点に於て敵はないものだ。強いものが勝ち、弱いものは負けるのは天地の道理だ。それだから衆寡敵せずと云ふのだ。貴様の解釈は矛盾してるぢやないか』 コー『衆寡敵せずと云ふのは衆が寡に敵せずと云ふのだ。寡が衆に敵せぬ時は寡衆に敵せずと云ふのだ。然しあまり寡衆に敵せずと云ふ事は聞いた事がない。其証拠には河鹿山の戦ひを考へても分るぢやないか。敵は僅に四人、而も武器を持つて居ない敵に対し、数百の勇士が脆くも潰走したぢやないか。之が衆寡敵せずの実例だ』 エム『時に兄弟、小北山にはウラナイ教とか云つて大変な信者が集まつてゐると云ふ事だが、こんな衛兵の役さへなければ、一遍何んな事をやつてゐるか研究のため行つて見たいものだな』 コー『随分沢山の女がゐるさうだ。浮木の里の女と云ふ女は大方あの小北山とかへ避難してるさうだ。然し、あこへ行つたものを奪つて来ると云ふ事は到底出来ないさうだ。何でも神変不思議の術を使ひ、素盞嗚尊でさへも如何する事も出来ないと云ふ勢だからな』 エム『さうすると、余程強い奴が居ると見えるな。吾々の大将は素盞嗚尊の弟子の奴等三四人に脆くも敗走したのだ。三五教は偉いと思つてゐたが、小北山はさうするとそれ以上だな。何と上には上があるものだな』 コー『きまつた事よ。無茶ほど強いものはないからな』 エム『だつて片彦将軍だつて、ランチ将軍だつて、無茶で行つたぢやないか。無茶が勝つのなら、あんなみつともない敗北はとりさうな筈がないぢやないか』 ワク『そこが人間の智慧で分らぬ所だ。勝敗は時の運と云ふからな。時に俺達も斯う毎日単純な無意味な生活を続けて居つてもつまらぬぢやないか。女房はあつてもハルナの都に置いてあるなり、本当に陣中の無聊には閉口せざるを得ないな』 コー『誰か此処へナイスでもやつて来たら、面白いがな』 エム『さう誂向にいつたら宜いが、こんな物騒な所へナイスが通る筈があるか』 ワク『それでも小北山には沢山の女が寄つて居るさうだから、ここを通らなくちや通る所がないぢやないか』 エム『此頃は吾々が浮木の森に張つてゐるから、どれもこれも恐れて、橋から此方へは来ないと云ふのだから、サツパリ駄目だよ。夜も大分に更けたし、寒うはあるし、火を焚けば軍律上敵に所在を知られるとか云つて八釜しいなり、本当に因果な商売だな』 斯く話して居る処へ、髪振り乱し息せき切つて走つて来る一人の女があつた。 コー『おい、向ふを見よ。誂向にやつて来たよ。如何やら月に透かして見れば、あの足許と云ひ女らしい。一つ俄に泥棒と化けて嚇かしてみようぢやないか』 両人『そりや面白からう』 かかる処へスタスタやつて来たのは小北山を逃げ出したお民であつた。[※第46巻第10章参照]お民は野中の森をさして行くつもりだつたが、何とはなしに人声が森の中へ聞えて居るので、引返して道を此方へとり、本街道に出るつもりでやつて来たのであつた。 コー『そこなお女中、一寸待たつせい。ここを何処だと考へてゐる。女の身として妄りに通行は許さない処だ』 お民『ホヽヽヽヽ、天下の往来が何故通れないのですか。此道はお前さまが造つたのぢやありますまい。通るなと仰有つても私の権利で通ります。構うて下さいますな』 コー『何と云つても通さないと云つたら金輪際通さないのだ。俺を誰様と心得てる』 お民『あた阿呆らしい。誰様も此方もあつたものか。お前さまは立派な男に生れながら、こんな道の辻の番をさされてゐるのぢやないか。技能と知識とあればランチ将軍の陣営にあつて帷幕に参じ重要な相談に与るのだが、何処も使ひ場のない屑人足だから、石地蔵の様に、こんな辻番をさされてゐるのだ。そんな男が空威張をしたつて誰が恐れるものがありませうぞ。すつこんでゐなさい』 ワク『何と渋太い尼つちよだな』 お民『渋太い尼つちよだよ。何程女が弱いと云つても、お前さま等のやうな番犬の代理をつとめて居るやうなお方に弱るやうな女は、広い世界に一人だつてありやせないワ』 ワク『番犬とは何だ。あまり口が過ぎるぢやないか』 お民『過ぎたつて事実なれば仕方がないぢやないか。お前、そんな事云つて居れば、今に吠面かわかなくちやなりませぬぞや。小北山に時めき給ふウラナイ教の教祖蠑螈別が今直ぐお越しだから、神変不思議の術を以て、お前さま等の五十人や百人は一息に吹いて飛ばされる様な目に遇ひますよ。そんな馬鹿な事を云はずに其処退きなさい。こんな夜の道に髯武者の狼面した男が居つては通る事が出来ぬぢやないか。往来妨害の罪でバラモン署へ訴へて上げませうか』 エム『おい、ワク、コー、何と押尻の強い代物だな。此奴ア只の狸ぢやあるまいぞ。一つ非常手段をとつて何々しようぢやないか』 お民『ホヽヽヽ、お察しの通り只の狸ぢやありませぬぞえ。小北山の大神の眷属ですよ』 コー『何、狼の眷属、此奴ア又太う出よつたものだ』 お民『何も太くも細くも、ありやせないよ。お寅さまと喧嘩して此処まで来たのだ』 コー『何、大虎と喧嘩する。此奴ア、素敵な代物だな』 エム『此奴ア、さうすると狼が化けてゐやがるのだな。道理でお内儀さまの風になつてゐやがる』 ワク『何、狼ぢやない。大神さまの眷属と云つて居やがるのだ。さうしてお寅婆さまと云ふ、酢でも菎弱でも行かぬ悪垂婆が居るさうだから、そのお寅婆に苛められて逃げて来よつたに相違ない。何程強い女だと云つても多寡が女一人、此方は三人だ。まだ其他にお添物として弱い奴が二匹慄うて居る。此奴、やつつけようぢやないか。これ女、貴様は、婆に悋気されて放り出されて来たのだらう。どうも慌てた様子だ。さア此処を通過するなら通過さしてやらぬ事もないが、身のまはり一切を俺様に渡して行け』 お民『オホヽヽヽヽ、甲斐性のない男だこと、大きな体を持ちながら、人の物を盗つて生活せなくては此世が渡れぬとは、憐れなものだな。衛兵になつたり泥棒になつたり、ようへぐれる代物だな』 コー『馬鹿な事を云ふない。軍人と云ふものは強盗強姦を天下御免でやるのが所得だ。所謂役徳だ。或時は正義の軍人となり、或時は財宝掠奪の公盗となり、或時は猥褻公許者となるのだ。さうだから男と生れた甲斐にや、如何してもバラモン教の軍人にならなくちや幅が利かないのだ』 お民『えー、八釜しい、耄碌、其処除け』 と無理に通り過ぎようとする。三人はお民に喰ひつき一歩も進ませじとあせる。お民は全身の力を籠めて荒男をヤスヤスと柔術の手で投げつける。かかる所へ「おーいおーい」と苦しげな声を出して此方へ向つて馳せ来る一人の男があつた。 (大正一一・一二・一六旧一〇・二八北村隆光録) |
|
100 (2424) |
霊界物語 | 46_酉_小北山の宗教改革2 | 21 民の虎声 | 第二一章民の虎声〔一二三一〕 小北の山の霊域を闇に紛れて逃げ出し 恋の欲望を達せむと蠑螈別と語らひつ 河鹿の橋を打ち渡り野中の森に来て見れば 思ひがけなき人の声幾十人ともわかぬ程 ザワザワザワと聞え来るお民は驚き倉皇と 元来し道に引き返し息をはづましノソノソと 野中の森を目当にて河鹿峠の本道に 廻らむものと進み行く怪しき森の木下蔭 四五の男は胡床座になりてヒソヒソ雑談に 耽りて冬の夜寒をば慄ひながらも明し居る 斯かる事とは神ならぬ身の知るよしも泣きながら 淋しさ身にしむ冬の道後に心を引かれつつ すたすた来る人の影コー、ワク、エムの三人は 女に向つて声をかけいづくの奴か知らねども バラモン軍の御関所通行罷りならぬぞと 呶鳴れば女は打ち笑ひ天下御免の大道を 通行するのが何悪い邪魔ひろぐなと云ひながら 一切かまはず行かむとす男は両手を打ち拡げ 一歩もやらじといきまけばお民は声を荒らげて 小童武者よ後のため懲しめ呉れむと云ひながら 前後左右に詰め寄せる男の素首ひん握り 右や左と打ち倒し挑み戦ふ折もあれ 大地をどんどん響かせて枯草しげる細道を 走つて来る男あり此有様を見るよりも お前はお民と言つたきり腰を抜かして道の辺に ウンと倒れた可笑しさよお民は後を振り向いて お前は蠑螈別さまかようまあお出で下さつた どうぞ助太刀頼みます蠑螈別は落ち着いて アハヽヽヽヽヽヽアハヽヽヽ御供にも立たぬ蠅虫を 相手になすとは何事ぞ俺は此処にゆつくりと さも勇ましい活劇を見物致す精出して 愉快な芝居を見せて呉れあゝ面白い面白い 何ぞと俄に負惜しみ其場を繕ふをかしさよ お民も相手も疲れ果て互に路傍に息やすめ 遂に和睦の曙光をば認めた上に蠑螈別が 所持の大金放り出して賠償気取りになつて居る かかる所へバラモンの目附の役と選ばれし エキスが一人現はれて又もや茲に談判を 開設せしぞ面白き無欲恬淡金銭に 心を寄せぬ蠑螈別は有金すつぽり投げ出して エキス目附のお気に入りお民諸共陣中に 駕籠に乗せられ将軍の帷幕に参じ三五の 教を叩きやぶらむと胸に一物抱きつつ 本陣さして進み行くコー、ワク、エムの三人は 怪しの森に元の如く警固を勤むる折もあれ 遠く聞ゆる宣伝歌雷の如くに響き来る 一同両手で耳押へ木蔭に潜んでブルブルと 声の過ぐるを待ちにける。 ○ 松彦は小北山の聖地を離れ、一本橋を渡り、直に宣伝歌を歌ひ出した。 松彦『神が表に現はれて善神邪神を立てわける 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直し聞き直し 身の過を宣り直す三五教の神の道 国治立大神の厳の教を畏みて 産土山の高原に神素盞嗚大神は 珍の御舎千木高く仕へまつりて永久に 鎮まりいまし天の下四方の国々蒼生に 救ひの道を宣べたまふ教にまつらふ宣伝使 治国別の一行は河鹿峠を乗り越えて 南の坂の下り口進み来ませる折もあれ バラモン教の片彦が久米彦将軍引き具して ランチの先鋒とつかへつつ河鹿峠の八合目に 進む折しも三五の治国別の言霊に 打ちなやまされ散々に秋の木の葉の散る如く 逃げ散り往くぞ果敢なけれ吾は片彦将軍の 帷幕に参じ秘書となり斎苑の館の征討に 向ふ折しも皇神の慈光に触れて蘇り 不思議の縁にて恋慕ふ兄亀彦にめぐり会ひ 別れて程経し物語茲に兄弟名告り上げ 玉国別に暇乞ひ祠の森を立ち出でて 峻しき坂を下りつつ山口の森に一泊し 不思議な神の経綸に驚異の眼見張りつつ 野中の森に来て見れば又も怪しき事ばかり 一夜を明す其中に治国別に立ち別れ 何と詮方泣く泣くも五三公、万公初めとし アク、タク、テクの三人を従へ野路を進みつつ 小北の山の向岸一本橋に来て見れば 又もや不思議の神縁に引かれて登る小北山 潜む曲津を言向けて正しき神を祀り込み 思ひも寄らぬ吾妻や娘と廻り会ひつつも 神の仁慈を喜びて感謝の涙せきあへず 再びここを立ち出でて治国別の後を追ひ 浮木の森の敵陣へ旗鼓堂々と進み行く あゝ面白し面白し正義に刄向ふ神はなし 神素盞嗚大神の無限の神力賜りて これの使命を恙なく終へさせ給へ惟神 厳の御前に願ぎまつる朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 神に任せし此体たとへ死なうが倒れうが 決して悔む事はない只何事も神様に 心のままに打ち任せ進み行く身は大丈夫 大和心は胸に充ち腕は唸り肉躍り 幾百万の敵軍も怯めず恐れず堂々と 進みて行かむ魂と早くも生れ変りけり あゝ勇ましし勇ましし神の力は目のあたり いやしき吾身に添ひたまひ群がる敵の陣中も 無人の野をば行くごとしあゝ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 万公は又歌ふ。 万公『斎苑の館を立ち出でて漸く此処に来て見れば 思ひもよらぬお寅さまお菊にまでも廻り会ひ 切るに切られぬ宿縁の涙を拭ふ折もあれ 神の恵に生かされて小北の山の聖場は 再び春の花盛り常世の暗も晴れ往きて 月日は清く照り渡り空気はいとも澄みきりて 今迄悪魔の巣ぐひたるみやまも今は神の国 天国浄土となりにけり松彦司に従ひて 悪魔の征途に上り行く神の下僕の万公は 世にも稀なる宣伝使治国別のお伴して ハルナの都は未だ愚か神の鎮まるエルサレム 黄金山に向ひたる鬼春別の軍隊を 一人も残らず三五の誠の道に言向けて 救ひ助けむこの首途あゝ惟神々々 神の恵の幸はひて一日も早く片時も 神の依さしの神業を尽させたまへ天地の 貴の御前に万公が畏み畏み願ぎまつる』 (大正一一・一二・一六旧一〇・二八加藤明子録) |