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61

(1896)
霊界物語 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 11 言の波 第一一章言の波〔七七六〕 秋彦は漸く聖地に船の近付きしに元気益々旺盛となり、副守護神の発動気分を発揮し歌ひ始めた。 秋彦『四尾の山が見えて来た和知の流れは永久に 清き教を白瀬川生田の里も早越えて 何の便りも音無瀬の流れも清き由良の川 由良の港に名も高き秋山彦や紅葉姫 鹿と呼ばれし秋彦が言依別に従ひて 麻邇の宝珠を迎へむと流れを下り来て見れば 思ひ掛なき瑞御霊八洲の河原に誓約して 清明無垢の御心を現はし給ひし救世主 神素盞嗚大神の聖顔殊に麗しく 慈愛の涙満面に湛へいませる崇高さよ 四尾の山に奥深く此世を忍び給ひつつ 神世をここに待ち給ふ国武彦の御身魂 煙の如く現はれて紅葉かがやく秋山の 館に隠れ給ひつつ遠き昔の初より 黄金の島の秘密郷諏訪の湖水の底深く かくれて神世を待ち給ふ玉依姫の厳御魂 麻邇の宝珠は恙なく八咫烏に送られて 天津御空を潔く秀妻の国の中心地 外の囲ひと聞えたる由良の港に鳩のごと 降り給ひて神の世の礎固くつき給ふ あゝ惟神々々御霊の幸を蒙りて 流れも清き和知川に汚れし身魂を洗ひつつ 前代未聞の神業に参加なしたる尊さよ 思ひまはせば其昔兄の駒彦諸共に 紫姫に従ひて花の都を後になし 豊国姫の常久に鎮まりいます比沼真奈井 瑞の宝座に詣でむと主従三人山を越え 草を分けつつ進み行く普甲峠の手前まで 主従三人進む折バラモン教に仕へたる 三嶽の山の守護神名も恐ろしき鬼鷹や 情容赦も荒鷹の曲津の神に誘はれ 紫姫と諸共に醜の岩窟に捕へられ 進退ここに谷まりて前途を煩ふ折柄に 三五教の宣伝使悦子の姫を始めとし 音彦、加米彦両人が岩窟の中に駆入りて 神の化身の丹州と息を合せて救ひ出し 茲に三人は三五の心の岩戸をさらさらと 開き給ひし尊さよ三五教の人々と 三嶽の山の峰伝ひ蜈蚣の姫の籠りたる 鬼ケ城へと立向ひ言霊戦を開始して バラモン教の司等を雲の彼方に追ひ散らし それより聖地に駆向ひ神の大道を伝へむと 高城山の松姫が館をさして進み行く 堪へ忍びの花咲きて神の御目に叶ひしか 名も秋彦と賜はりていよいよ尊き宣伝使 西や東や北南神の御教を伝へつつ 稚姫君大神を祀りし生田の神館 国依別や駒彦と三つの御霊の御教を 道を求むる人々に明し伝ふる折もあれ 玉を索めて南洋の竜宮島まで彷徨ひし 高姫さまの一行が訪問されて国さまや 駒彦、秋彦三人は又も五月蠅い玉詮議 さつと裁いて近江路の竹生の島に宝玉は 社殿の下に奥深く隠されありと出放題 其虚言を真に受けて高姫さまを始めとし 高山彦や黒姫は時を移さず進み行く あゝ惟神々々国依別や秋彦が 心にもなき詐りを宣り伝へたる曲業を 直日に見直し聞直し是非なきことと宣り直し 赦させ給へ三五の道を守らす大御神 埴安彦や埴安姫の貴の命の御前に 慎み敬ひ詫びまつるあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 と歌ひ終つた。 歓呼声裡に玉の御船は漸くにして、吉美の浜辺の南岸に安着した。 言依別命を先頭に、五十子姫、梅子姫、初稚姫、玉能姫、玉治別や黄竜姫、蜈蚣姫と順序を正し、錦の宮の八尋殿より迎へ来れる数多の信徒に神輿を舁がせ、列を正してしづしづと、微妙の音楽に前後を守られつつ、粛々として錦の宮に帰り行く。 腰の曲つた夏彦は、嬉しさの余り足も地に着かず、千鳥の如く右左、大道狭しと手を振り首を揺りつつ祝ひの歌を高らかに口ずさみながら帰り行く。 夏彦『あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 天地を清むる三五の神の教の御光は 四方に輝く時来り三つの宝珠を始めとし 今また五つの麻邇の玉経と緯との御仕組の 錦の機を織りませる真の神を斎りたる 錦の宮に更めて鎮まりますこそ尊けれ 心も赤き秋山彦の神の命の真心は 照り輝きて紅葉姫大和心の厳御霊 皇大神は詳細に夫婦が心をみそなはし 空前絶後の神業を依さし給ひて永久に 誉を四方に伝へむと神素盞嗚大御神 国武彦の厳御霊再び館に現はれて 三五の月の大御教を堅磐常磐に固めまし 神の大道に五十子姫教の花は香ばしく 一度に開く梅子姫花の莟の初稚の 姫の命や玉能姫玉の光はいやちこに 玉治別と現れまして神の御稜威もテールス姫の 神の司や黄竜姫蜈蚣の姫や友彦の 鼻の先まで紅の赤き心の宮仕へ 暗夜を明石の久助が海洋万里の波を越え 妻のお民と諸共に空前絶後の神業に 仕へまつりし健気さよ花さく春も早過ぎて あつき心の夏彦が今日の生日の足日をば 喜び祝ひ奉り千代も八千代も三五の 神の教の礎はいや固らかに揺ぎなく 茂り栄ゆる八桑枝の日に夜に開きのぶるごと 進ませ給へ惟神神の御前に慎みて 今日の喜び祝ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 と歌ひ了つた。 常彦は又夏彦の歌に促されて怪しき口調を以てうなり出した。 常彦『ウラナイ教の黒姫に愛想をつかして三五の 誠の道に救はれし沈香も焚かぬ屁も放らぬ 教も知らぬ常彦が錦の宮の側近く 朝な夕なに仕へつつ唯々諾々と日を送り 三五教の隆盛を指折り数へ松の世の 来るを遅しと伺へば三つの御霊の如意宝珠 綾の聖地に納まりて教の光日に月に 四方に輝く目出度さよ慶びを積み暉きを 重ねて広き八尋殿九つ花の咲き匂ふ 十の美世廻り来て思ひもよらぬ竜宮の 五つの御霊の麻邇宝珠初稚姫や玉治別の 神の使等一行の清き身魂の働きに 諏訪の湖空高く神の使に送られて 雲を圧して悠々と輝き渡り帰ります 今日の生日の足日こそ五六七神政成就して 天国浄土も目のあたり出現したる思ひなり あゝ諸人よ諸人よ天津神等国津神 百の司の神等の御前に赤き心もて 慎み感謝し奉れ先に現れます三つ御玉 神の仕組を畏みて隠させ給ふ言依別の 瑞の命の御指図仕へまつりし玉能姫 初稚姫の御前を寿ぎ奉る信徒の 沢ある中に高姫や高山彦や黒姫が 妬みの焔消えやらず心焦ちて西東 南の洋の果てまでもあてども知らぬ玉探し 出でます後に竜宮の実にも尊き麻邇宝珠 現はれ給ひて言依別の神の司の御許に 納まり給ふと聞くならば高姫如何に村肝の 心なやます事ならむ今から思ひやられける あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 三五教の上下は神に心を任せつつ 睦び親しみ末永く歓ぎて伊都の大前に 心平に安らかに心の空の雲霧を 尊き御水火に吹き払ひ堅磐常磐の礎を 築かせ給へ惟神神の御前に願ぎ奉る』 佐田彦は又もや歌ひ出した。 佐田彦『○○山の頂上に○○○に従ひて 空前絶後の神業に仕へ奉りし佐田彦は 初稚姫や玉能姫危き生命を救はむと 音高々とおちかかる○○滝の麓にて バラモン教の神司蜈蚣の姫と格闘し 初稚姫や玉能姫二人の神使を救ひつつ 波留彦諸共○○の又もや○に立帰り ○○○の御前に三つの御玉を○○し ここにいよいよ谷丸を道の先頭の佐田彦と 宣り直されて滝公は夏の初と言ひながら 名も波留彦と与へられ初稚姫や玉能姫 一行四人は慎みて此の世彼の世の○の海 波に浮べる○○の島に小舟を漕ぎつけて ○○○を○○し神の厳しき戒めに 折角来るは来たものの○○○の隠し場所 知らずに再び漕ぎ帰るさはさりながら○○の ○○したる○○は確かにここと明らめて 知つては居れど皇神のいとも厳しき戒めに 三十万年未来まで○○○にして置かう 高姫さまや黒姫が心を焦ちて遠近と 三つの宝珠の在処をば夜叉の如くに駆巡り 当所も知らぬ玉探しお気の毒ぢやと知つた故 いろいろ様々理を分けて申上ぐれど高姫は 日の出神を楯にとり続いて黒姫竜宮の 乙姫さまを標榜し三つの宝珠はどうしても 系統の身魂が預らにや完全無欠の松の世の 五六七神政は成就せぬ佐田彦言はぬと申すなら 言はでも宜しい高姫が日の出神の神力で 探して見せうと雄猛びし万里の波濤を乗越えて どこどこまでも探し行く心の中の可憐らしさ 玉の在処は○○と知らして安心させたいは 山々なれど○○の教はどうも反かれぬ あゝ惟神々々又もや神の御仕組で 高姫さまの居らぬ間に竜宮島の麻邇宝珠 綾の高天に納まりて梅子の姫を初とし 初稚姫や玉能姫再び尊き神業に 仕へませしと聞くならば日の出神も竜宮の 乙姫さまも肝ぬかれアフンとするに違ひない 夜食にはづれた梟鳥むつかし顔を目のあたり 今見るやうに思はれてお気の毒なる次第なり 今に高姫帰りなば初稚姫や玉能姫 向ふにまはして一戦おつ始まるに違ない 平和克復一時も聖地の空に来て欲しい 三つの宝珠や五つ宝珠ほしうて探す高姫の 心はいつか玉脱けのラムネの様な気ぬけ顔 味もしやしやりも無きのみか誰が呑んでも水臭い うすい憂目にあはしたと教主の襟髪引掴み 金切り声を搾り出し一悶錯をなさるだろ 佐田彦それが気にかかり一夜さへも安々と 眠りに就いた事はない三つの御霊に比ぶれば 天地霄壤に違ひある竜宮島の麻邇の玉 一つ位は高姫に手柄を分けてやつたなら 無事に解決つくだらう言依別神さまも お年が若いで気が利かぬ私が言依別ならば 今度は高姫、黒姫に一つ手柄を指してやる さうすりや高姫、黒姫も手の舞ひ足の踏む所 知らずに顔の紐をときお多福面になるだらう どうしてあれ程因縁が悪い方へとまはるのか これを思へば高姫の執着心の雲晴れず 自ら暗路に迷ひこみ大切の大切の神業に 外れて行くに違ない心一つの持様で 善の御用を命ぜられ悪の御用も引受ける 善悪正邪の二道に迷ひ切つたる三人連れ 三つの御玉は是非なくも因縁づくぢやと諦めて 思ひ切つたにしたとこで麻邇の宝珠のかくされし 竜宮の島に遥々と渡りて長らく住みながら 玉の在処を探らずに帰り来れる其後で 五つの玉の現はれし皮肉な神の経綸に 定めて舌を巻くだらう思へば思へば可憐らしい どうして是が事もなく高姫さまが聞いたなら 心の底から勇むだろ今から思ひやられます あゝ惟神々々神が表に現れまして 言依別や高姫の二つ柱が睨み合ひ どうぞ和めて下さんせ三五教の佐田彦が 真心こめて願ぎまつる厳の御霊の大御神 瑞の御霊の大御神あゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 滝公の波留彦は佐田彦の歌に引出され、始めて言霊の口を切つた。 波留彦『魔窟ケ原に現れしウラナイ教の黒姫が 幕下となつて日に夜に口汚くも使はれし 体主霊従の滝公も普甲峠の梅公が 故智に倣つて船岡の山の麓の森林に お節の後を追ひまくり一寸芝居を打つてみた 悪い時には悪いもの紫姫の一行が 暗の中より現はれて折角仕組んだ此芝居 蛇尾にされたる其揚句板公さまと諸共に 暗の谷間へ蹴落され腰をしたたか打ちなやめ やうやう其処を這ひあがり帰つて見れば黒姫の 大い目玉に睨まれて居た堪らねば板公と 二人は尻に帆をかけて漸う其場を抜け出し どこへ行つてもふられ蛸骨なし男と蔑すまれ 吸ひつく術もなくばかりお尻を喰へ観音の 山の峠に佇みて此世を果敢なむ折柄に 三五教の常彦が情のこもつた握飯 押戴いて蘇生りいよいよ心をため直し 神の恵に救はれて錦の宮の門掃除 塵や芥を掃きちぎり心の奥の奥庭を 清めて時を待ち居れば尊き神の御恵は 電の如身に下り言依別の神司 近く吾をば招きつつ再度山の……こら違うた 再びとなき神業を依さし給ひし嬉しさよ 杢助さまの愛娘初稚姫を始めとし 暗に紛れて縛りたるお節の方の玉能姫 因縁者の寄合ひで○○山の○○に 五人の男女は巡り会ひ黄金の玉は○○の 峰に○○かくしまし金剛不壊の如意宝珠 紫色の御宝初稚姫や玉能姫 滝公さまは波留彦と名を賜はりて谷丸の 佐田彦さまと諸共に帯を二つに引裂いて 俄に狂ふ玉能姫髪ふり乱しどんどんと 二つの玉を肩にかけ○○山の山頂を 一目散に駆出し谷を飛び越え山伝ひ 波打際に立並ぶ堅磐常磐の松林 蜈蚣の姫の手下等が目を眩ませて訳もなく 四人は無事に通りぬけ胸の動悸も高砂の オツト違うた高まりて息もせきせき又走る ○○浜に辿り着き一艘の船に二百両 初稚姫の御手より渡せば船頭は仰天し 忽ち家に駆入りて中より戸口を押へつつ 違約させじと力み居る頃しも波は高まりて 船を出すべき由もなく○月五日の月低う 波は愈高くなり大海原に永久に 浮びて立てる○の島神の恵に易々と 渡り終せて初稚姫や玉能の姫の二人連れ 二つの玉を守りつつ○○山の絶頂に 堅磐常磐に隠し置き千代の印と○○を 植ゑて帰りし勇ましさ吾等は○まで送れども ○○○は分らない○○○の海上を 夜を日に継いで漕ぎ帰る時間の程は分らねど どうやら四十(始終)一日か再度山の…又違うた 又と再び手に入らぬ此御宝を恙なく 隠しまつりし神業は空前絶後の大手柄 あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 悪に溺れし滝公も神の光に照らされて 転迷開悟の花咲かせ名も波留彦と宣り直し 今は聖地に名も高き神の使の宣伝使 深き恵を尊みて遥に感謝し奉る 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも三五教の御宝 三つの御玉の宝をば探さにやおかぬと高姫が 心の駒に鞭ちて岩の根木の根踏みさくみ 疲れ果てたる膝栗毛やがて高姫一行は 一先づ聖地に帰るだろアヽ其時は其時は 又も五つの麻邇宝珠心に好かぬ玉能姫 初稚姫や玉治別の神の司が竜宮の 玉依姫の御手づから麻邇の宝珠を受取りて 帰りし後と聞くならばさぞや御心揉めるだろ 国依別や秋彦の早速の頓智再度の 山に坐します大天狗小天狗までが現はれて 近江の国の竹生島玉無し場所を知らしたる 其天罰は目のあたり高姫さまが帰りなば 上を下へと喧しく又々もめる事だらう 今から思ひやられますあゝ惟神々々 御霊幸はへましまして今度計りは高姫や 黒姫さまの一行に何とか一つ花持たせ 執着心の雲霧を払ひ清めて村肝の 心の空に日月の澄み渡るごと爽かに 一切万事相済みて和気靄々と共々に 手を携へて三五の神の教の御光を 四方の国々島々に完全に委曲に布き教へ 五六七の神世の礎を立てさせ給へ惟神 尊き神の御前に慎み敬ひ願ぎ奉る』 と歌ひ了り、日頃の述懐を宣べ終りて拍手し、錦の宮の方に向つて暗祈黙祷するのであつた。 五個の神宝を乗せたる神輿は無事に聖地に到着し、言依別命を先頭に八尋殿に設けられたる聖壇に安置され、聖地の神司を始め信徒等は立錐の余地もなく集まり来りて、神威のいやちこなるに感謝の涙をふるひつつ、五六七神政の曙光を認めたる如き歓喜の声に充たされた。 九月九日の聖地の空は、金翼を一文字に伸べて、空中に翺翔する八咫烏の雄姿悠々として右に左に飛び交ひ、妙音菩薩の微妙の音楽は、三重の高殿の空高く響き渡つた。あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ。 (大正一一・七・一九旧閏五・二五松村真澄録)
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(1898)
霊界物語 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 13 三つ巴 第一三章三つ巴〔七七八〕 炎熱火房に坐す如く恰も釜中に居る如し 酷暑の空に瑞月が身を横たへて述べ立つる 廻すハンドル力なく半破れしレコードも 針の疲れにキシキシと鳴り出で兼ねしかすり声 妙音菩薩の山上氏傍に現はれましませど 泣き嗄したる時鳥八千八声も尽き果てて 唇加藤明きかぬる珍の言霊松村氏 真澄の空を眺めつつ此処迄述べて北村の 錦の宮の隆光る三五の月の神教を 守る神人言依別の瑞の命を始めとし 玉照彦や玉照姫の瑞の命の聖顔は 外山の霞掻き分けて豊二昇る朝日子の 日の出神の如くなり五六七太夫の谷村氏 真の友と水火合せ汗に眼鏡を曇らせつ 万年筆と口の先素的滅法に尖らせて 松雲閣の中の間で鼻高姫や黒姫が 御玉探しの大騒ぎ神素盞嗚大神が 帯ばせ給ひし御佩刀の三段に折りし誓約より 現はれませる三女神市杵嶋姫、多紀理姫 多岐都の姫を祀りたる御稜威輝く竹生島 社殿の下に瑞宝の匿されありと国依別の 俄天狗にそそられて此処に三人の玉抜けや ヤツサモツサの経緯を筆に写して止め置く あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ。 ○ 三五教の宣伝使変性男子の系統を 唯一の楯と頼みたる日の出神の肉の宮 嘘か真か知らねども天狗の鼻の高姫が 尊き御魂を持ちながら肝腎要の神業に 取り除かれし妬ましさ言依別が匿したる 玉の在処を何処迄も仮令火になり蛇になり 骨になるとも執拗に探り当てねば置かないと 執着心の鬼大蛇醜の曲津に誘はれて 自転倒島は云ふも更明石の海や淡路島 家島を越えて小豆島波濤に浮ぶ南洋の 蘇鉄の茂る大島やバナヽの薫り香ばしき 南洋一のアンボイナ谷水清く苔青く 竜宮島と聞えたるこれの聖地を後にして 流れ流れて一つ島黄金の島に上陸し 地恩の城に現はれて黄竜姫に玉抜かれ 流石剛気の高姫も胸轟かし黒姫や 高山彦を伴ひて潮の八百路の八潮路の 潮の八百会漕ぎ帰り淡路の島の東助が 鉄門を守る虻蜂に鼻を折られて再度の 山を目蒐けて漕ぎ帰り生田の森に名も高き 玉能の姫の神館執念深くも訪ぬれば 国依別や秋、駒の思ひも寄らぬ三人連れ やつさもつさと争論ひ揚句の果は竹生島 憑依もしない天狗の口に鼻高姫は勇み立ち 今度は願望成就と館の裏口走りぬけ 闇に紛れて細道を進み行くこそ可憐らしき 上野、篠原乗り越えて秋の御空も住吉の 郷に漸く辿り着き東の空を眺むれば 金剛不壊の如意宝珠光争ふ朝日子の 日の出神の御姿両手を合せ伏し拝み 中野の郷もいつしかに葭と芦屋の忙しく 運ぶ歩みも立花や小田郷、柴島、淀の川 漸く道も枚方やいつしか廻り大塚の 此坂道も高槻や山崎越えて美豆の郷 河の流れも淀の町銀波漂ふ巨椋池 宇治の流れに下り立ちて飲み干す水は醍醐味や 小山、大谷早越えて逢坂山の真葛 人に知らされ来る由も嬉しき玉を三井の寺 ミロクの神世に大津辺の幾多の船の其中に 殊更堅固な船を選り高姫艪をば操りて 心は後に沖の島波を辷つて進み行く 向ふに見ゆるは竹生島月西山に傾きて 闇の帳は水の面四辺を包む大空に 閃き渡る星の影船漕ぎ浪を砕きつつ 浅黄に星の紋つけた黒い婆さまがやつて来る 又もや続いて来る船は頭の光る福禄寿さま 弁天さまの此島に女布袋や大黒が 黄金の槌はなけれども土の中より瑞宝を 探り当てむと執着の心の暗に塞されて 星影映る湖の上互に息を凝らしつつ 進み寄るこそ訝かしき。 近江の国の琵琶の湖水は、其形楽器の琵琶に似たるをもつて、此名ありと巷間伝へらる。併し乍ら此湖中に浮べる竹生島に、神素盞嗚大神の佩かせ給ひし十握の剣を、天の安河に於て誓約し給ひし時、瑞の御霊の表徴として、温順貞淑の誉高き三女神現はれ給ひ、此処に其御霊を止めさせられ、時々竜神来りて、姫神の御心を慰め奉るため、琵琶を弾じたるより琵琶の湖と称ふるに至つたのである。又一名天の真奈井とも言霊学者は称へて居る。今の竹生島は湖水の極北にあれども、此時代は湖水の殆ど中央に松の島、竹の島、梅の島の三島嶼相浮び三つ巴となつて其雄姿を紺碧の波上に浮べて居たのである。松の島には多紀理姫神鎮座在まし、竹の島には市杵島姫神鎮まり給ひ、梅の島には多岐都姫神鎮まらせ給ひ、各島各百間許りの位置を保つて行儀よく配列されてあつた。高姫は先ず竹の島の市杵島姫を祀りたる社を指して漕ぎつけた。 黒姫、高山彦も期せずして闇夜の悲しさ、同じ竹の島に船を寄せ、同じ社の床下に玉探しの為め頭を集めた。 神素盞嗚の貴の子と生れ給ひし英子姫 万世祝ふ亀彦は神素盞嗚大神の 厳の神業詳細に遂げさせ給へと朝夕に 天津祝詞を奏上し天の数歌潔く 一二三四五つ六つ七八つ九つ十たらり 百千万と村肝の心を籠めて祈る折 磯の彼方に船繋ぎしとしと来る黒い影 気にも止めずに一向に祈る最中に神の前 忽ち現はれ額きて天津祝詞を奏り上ぐる 暗に確とは分らねど皺嗄れ声は高姫か 執着心に搦まれて当所も知らぬ玉探し 見るも無残と英子姫そつと此場を立ち出でて 己が館に静々と星の光を力とし 闇路を分けて島影の清き館に帰りけり 後に亀彦唯一人声を密めて御扉を そつと開いて中に入り様子如何にと窺へば 神ならぬ身の高姫は社の中に人ありと 知らぬが仏一心に無事の安着感謝しつ 拍手の音も湿やかに金剛不壊の如意宝珠 黄金の玉や紫の珍の宝珠を高姫の 両手に授け給へよと声を震はせ祈り居る 暫くありて高姫は珍の社の床下に 鼠の如く這ひ寄つて黒白も分かぬ闇の中 小声に神名唱へつつ探り居るこそ可笑しけれ 又もや近づく足音は社の前に手を拍つて 心の秘密を語りつつ暗祈黙祷稍暫し 心いそいそ御社の四辺を密かに窺ひつ 土竜の如く床下に又もや姿を匿しける 月の光は無けれども星の光に照らされて 長い頭の唯一つ闇を掻き別け進み来る 入日の影か竿竹か見越入道の大男 又もや社前に手を拍つて感謝の声も口の中 何か細々願ぎ終へて忽ち社殿の床の下 長き頭を匿しけるあゝ惟神々々 迷ふ身魂の三つ巴誠の仕組も白浪の 沖に浮べる神島に胸に荒波打たせつつ 心の鬼に爪立てて無暗矢鱈に掻き廻し 汗をたらたら三人が時々頭を衝突し ピカリピカリと火を出して四辺の闇を照らせども 心の闇は晴れやらず互に顔を不知火の 心砕くる思ひなり高姫心に思ふやう 国依別の云うたには言依別のハイカラが 二人の使を遣はして肝腎要の神宝を 掘り出させてうまうまと再びどこかに埋め置き 初稚姫や玉能姫可愛や二人に鼻明かせ 折角立てた功績をオジヤンにしようとの悪戯か 憎さも悪い言依別の醜の命のドハイカラ 初稚姫や玉能姫思へば思へばお気の毒 吾子の功績を鼻にかけ高天原に参上り 総務々々と敬はれ威張つて御座つた杢助も 今度はアフンと口あけて吠面かわくも目のあたり 嗚呼面白い面白いさはさりながら何者か 此場に二人もやつて来て玉を掘り出し帰らうと 一生懸命探し居る何処の奴かは知らねども 愈玉の出た時は変性男子の系統や 日の出神を楯に取り此高姫が恙なく 大きな顔で受け取らうそれにつけても黒姫や 高山彦は今何処黄金の玉や紫の 宝はもはや分りしか心もとなき吾思ひ 仮令小爪は抜けるとも金輪奈落土の底 土竜蚯蚓にあらねども土掻き分けて探し出し 吾手に取らねば措くものかあゝ惟神々々 叶はぬ時の神頼み南洋諸島へ遥々と 危険を冒して玉探し往た事思へば一丈や 二丈三丈掘つたとて何の手間暇要るものか 国依別の云うたには三角石を取り除けて 下三尺の深さぞと天狗に急かれて已むを得ず 白状致した面白さ天狗の申した其如く 三角形の石はある早三尺も掘り終へて もはや四五尺掘りぬいたされども玉は現はれぬ 是はてつきり三丈の深さのきつと間違ひだ 三丈四丈はまだ愚仮令地獄の底迄も 掘つて掘つて掘り抜いて探し当てねば措くものか 苦労と苦労の塊で尊い花の咲くと云ふ 神の教を聞くからは仮令百年かかるとも 掘らねば措かぬ吾心女の誠の一心は 岩をも射貫くためしありきつと掘り出し見せてやろ 目出度く玉が手に入らば意気揚々と立ち帰り 言依別を始めとし杢助お初やお節等の 顔の色迄変へさせて改心さして救はねば 日の出神の生宮のどうして顔が立つものか あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ。 と心の底に迷ひの雲を起しながら、一生懸命汗を流して火鼠か土竜のやうに砂混りの土を掻き上げて居る。 ○ 黒姫心に思ふやう再度山の大天狗 国依別の口借つて黄金の玉の匿し場所 近江の国の竹生島弁天社の床下と 確に確に云ひよつた国依別が云ふのなら 些しは疑ふ余地もある天狗は心潔白で 些とも嘘は云はぬもの間違ふ気遣ひあるものか 天狗の仰せの其如く言依別のハイカラが あらぬ智慧をば絞り出し此処に匿して置きながら 高姫さまや黒姫の昼夜不断の活動に 肝を潰して狼狽し見付けられない其中に 外へこつそり匿さうと猿智慧絞つて態人を 一足先に此島へ掘らしに来したに違ひない あの熱心な探しやう如何に剛気な黒姫も 呆れて物が云はれない宝探しの神業は 唯一言も言霊を使つちやならない神の告 迂濶言葉を出すならば折角見つけた宝玉も 煙となつて消え失せむ嚔一つ息一つ ほんに碌々出来はせぬ苦しい時の神頼み 祝詞を唱へて神様にお願ひする事は知つて居る 云ふに云はれぬ玉探しこんな苦しい事あらうか 言依別の使等が黄金の玉を発見し 持ち帰らうとした所で竜宮に在す乙姫の 鎮まりいます肉の宮千騎一騎の此場合 黒姫中々承知せぬ仮令地獄の底までも 掘つて掘つて掘つて掘り抜いて光眩き金玉を 再び吾手に納めつつ綾の聖地に持ち帰り 言依別や杢助をアフンとさせてやりませう あゝ惟神々々叶はぬ時の神頼み 頼りもならぬ口無しの息をつまへる鴛鴦の 番離れぬハズバンド高山彦は今何処 紫色の宝玉は何処の島か知らねども もはや手に入れ給ひしか高姫さまは今何処 金剛不壊の如意宝珠首尾よく御手に返りしか あちらこちらと気が揉めるあゝ惟神々々 叶はぬ迄も探し出し初心を貫徹せにやおかぬ 苦労と苦労の塊の花の咲くのはこんな時 又と出て来ぬ此時節琵琶の湖水は深くとも 闇の帳は厚くとも三五教の神司 高山彦や黒姫が言依別に着せられた 恥の衣を脱ぎ捨てて神国魂をどこ迄も 見せねばならぬ此立場何処の奴かは知らねども 高山さまに好く似たる茶瓶頭がやつて来て 又もやがさがさ探し出す欲と欲とのかちあひで 玉の詮議に頭うち火花を散らす苦しさよ 仮令天地が覆るとも黄金の玉は何処迄も 探し当てねば措くものか岩をも射貫く一心は 女たる身の天性だあゝ惟神々々 御霊幸倍ましませよ。 とひそかに思ひ、ひそかに念じながら、汗をたらたら搾り出し、一生懸命に砂を掻き上げて居る。 ○ 高山彦は訝かりつ心の中に思ふやう 再度山の大天狗国依別の口借つて 竹生の島の神社其床下に三角の 石を蓋せて紫の宝玉深く荒金の 土中に埋没せしと聞く三角石は此処にある さはさりながら訝かしや言依別の使とも 思へぬ節が一つある闇の帳は下されて さだかにそれとは分らねど体の恰好動きやう 頭をぶりぶり振る所高姫さまや黒姫に どこやら似て居る気配ぢやぞ天狗は至つて正直と 昔の人も云うて居る滅多に嘘は申すまい 高姫さまや黒姫によく似た者は世の中に 一人や二人はあるだらう何を云うても鴛鴦の 名乗もならぬ玉探し実際俺は言依別の 神の命が神界の仕組によりて匿されし 宝の在処を探そとは夢にも思うた事はない さはさりながら高姫や黒姫までが焦ら立つて 玉よ玉よとやかましく騒ぎ廻るが煩さに 己も何とか工夫して玉の在処を探し出し 二人の婆に執着の雲を晴らさしやらうかと 牛に牽かれて善光寺心ならずも竜宮の 一つ島迄駆廻り地恩の城にブランヂー クロンバー迄も勤めつつ数多の国人使役して 玉の在処を探したがこれ程広い世の中を 土中に深く隠されし玉の分らう筈がない 高山彦も今日限り此処で失敗したならば これきり思ひ切りませう日の出神や竜宮の 乙姫さまかは知らねども俺にはチツと腑に落ちぬ 真日の出神なれば玉の在処は何処其処と ハツキリ知らして呉れるだらう竜宮の乙姫さまならば 猶更玉の匿し場所知らない道理がどこにあろ 同じ名のつく神様も沢山あると見えるわい 高姫さまや黒姫に憑つて御座る神さまは 神力足らぬ厄雑神それでなければどうしても 俺の心にはまらない六十路の坂を見ながらも 五十女に操られ玉を探しに何処迄も 往かねばならぬか情ないあゝ惟神々々 叶ひませぬから高姫や黒姫二人の執着を 科戸の風に吹き払ひ生れ赤子に立てかへて 何卒助けて下しやんせ竹生の島の御神に 心を籠めて願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ。 と心の中に呟きながら、高姫、黒姫の改心を専一と祈願し、紫の玉は殆ど念頭に置かぬものの如くであつた。 (大正一一・七・一九旧閏五・二五加藤明子録)
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(1921)
霊界物語 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 14 草枕 第一四章草枕〔七九六〕 雲に聳ゆる比治山の麓に清き比沼真奈井 豊国姫の永遠に鎮まりゐます聖場に 朝な夕なに仕へたる心の色の照子姫 身魂もすぐれて清子姫神の御言を蒙りて 三五教の宣伝使梅子の姫を始めとし 初稚姫や玉能姫玉治別の一行が 海洋万里の波の上永久に浮べる竜宮の 一つ島なる諏訪の湖麻邇の宝珠を永久に 守り玉ひし玉依姫の神の命の御手より 手づから受けて八咫烏黄金の翼に跨りて 大空高く翔めぐり十重に二十重に包みたる 天の岩戸も秋山彦の人子の司の珍館 常磐の松の茂り生ふ御苑に降りますと聞き 二人の女神は大神に許しをうけて久次の 錦織なす里を越え四方の峰山紅葉して 行く手の道も長善寺大野、山田を乗り越えて 神の宮津に着きにけり天津御神の神宮を 右に拝してスタスタと岩淵、文珠、紅葉坂 荒波たける磯端を由良の港に辿りつき 秋山彦の門前に佇み様子を伺へば 後の祭か十日菊麻邇の宝珠は逸早く 綾の聖地に安々と着かせ玉ひしと聞くよりも 二人の女神は気を焦ち月の顔丸八江の 田舎を過ぎて田辺宿日は又空に余の内 池の内をば乗り越えて山と山との谷間の 日蔭も見えぬ真倉郷片方の上杉月照りて 心も開く梅迫や西八田、縁垣、味方原 綾の大橋打渡り小雲の流れに心胆を 洗ひて進む聖域に太しき建てる神館 十曜の神紋キラキラと月の光に反射して 絵にもかかれぬ美はしさ秋は漸く深くして 木々を染めなす綾の里錦の宮の御前に やうやう辿りて伏し拝み玉照彦や玉照姫の 二柱神の御前に現はれ出でて神勅を 再度請へば言依別の瑞の命の口を借り 言葉静かに宣らすやう汝はこれより聖地をば 一日も早く立出でて南に向ひ瀬戸の海 浪かき分けて琉球の神の御島に渡れよと 宣らせ玉ひし言の葉を畏み奉り二人連れ 錦の宮を伏し拝み小雲の流れを溯り 山路を駆り鷹栖や山家、音無瀬、才原の 細谷路を辿りつつ流れも広瀬の丸木橋 渡りて進む和知、本庄中山、新田、胡麻の郷 尋ね行くのは殿田川乗せて嬉しき船岡の 其行先は千妻や曽我谷、園部の花の里 小山、松原後にして羽はなけれど鳥羽の駅 道も広瀬や八木の町深き川関、千代川の 大川小川を打渡り神の御稜威も大井村 天田神徳嬉しみて玉照彦の生れませる 穴太の山の奥深く高熊さして登りゆく あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ 朝日の直刺す神の山夕日の日照らす神の峰 三つ葉躑躅の其下に小判千両埋けおいた 黄金の鶏の暁を告ぐる神代を松林 折柄吹来る秋風に木々の梢は自ら 微妙の音楽奏でつつ小鳥の歌ふ声清く あちらこちらの山柿の赤き顔してブラブラと 玉照彦の御姿を今見る如き照子姫 神の宝座も清子姫岩窟の中に忍び入り 木花姫の神勅を三七二十一日の 秋の夜長に細々と教へ諭され両人は 深き御徳を拝しつつ山を降りて谷路を スタスタ降る山の神水音高き滝の辺に 又もや身魂を洗ひつつ来勿止神に送られて 松の大木の大空を封じて暗き堺山 息急き登る雄々しさよ三五の月の光をば 頭上に浴びて六箇谷犬飼、法貴、湯屋ケ谷 崎嶇たる山路分け乍ら止止呂美坂や細の川 又もや渡る中河原木部の里をば打過ぎて 思ひも深き池田郷神田草鞋も桑津村 足や伊丹の郷こえて稲野、常吉向う脛 秋の芒に傷つけて屡休む柴野村 日は早空に西の宮茲に一夜を宿りつつ 朝日と共に打出て葦尾痛めん憂もなく 無事に進むは大神のまさしく本庄、御影町 生田の森に名も高き稚姫君の祀りたる 玉能の姫の神館一夜を爰に明かしつつ 心も勇む駒彦にいと親切に歓待なされ 兵庫の港に進み行く浜辺に繋ぎし新船を 代価を呉れて買ひ取りつ誠明石の海の面 波高砂の浦を越え家島、西島、小豆島 左手に眺めて豊の島児島半島のそば近く 進む折しも暗礁に船乗りあげて両人は 如何はせんと村肝の心を苦しむ折柄に 月照る波を分け乍ら此方に向つて馳来る 一つの船に助けられ茲に二人の姫神は 危き所を救はれて神のまにまに竜宮の 石松茂る磯端に船を繋ぎて上陸し 莓の実る山路を一行四人の男女連れ 常楠翁の住家なる目出度き人に大槻の 天然ホテルに着きにけり。 (大正一一・七・二七旧六・四松村真澄録)
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(1929)
霊界物語 28_卯_台湾物語(日楯と月鉾) 01 カールス王 第一章カールス王〔八〇一〕 千早振る遠き神代の其昔国治立大神は 豊葦原の瑞穂国を堅磐常磐に治めむと 心を尽し身を尽し綾と錦の機を織る 其糸口の竜世姫永遠に鎮まる此島は 神の御稜威も高砂島の胞衣となり出でし台湾島 清く正しき真道彦神の子孫は今も猶 栄え栄えて新高の山のあなたの神聖地 清鮮の波を湛へし日月潭の湖面を見下ろす玉藻山 国治立大神や瑞の御霊の神霊を 斎き祀りて高砂の島の老若男女をば 三五教の大道に導き救ふぞ健気なる。 全島第一の大高山、新高山の北麓に花森彦命の子孫、カールス王の鎮まる都が古くより建設され居たり。 花森彦命の子にアークス、エーリスの二人があつた。兄のアークスは花森彦の後を襲うて国王となり、アークス姫と夫婦の間にカールス王を生んだ。弟のエーリス夫婦の間に生れたるをヤーチン姫と云ふ。ヤーチン姫は性質温厚篤実にして、容色衆に優れ、高砂島の花と謳はれ、将来はカールス王の后たるべしと自らも信じ、国人も之を認めて居た。カールス王も亦ヤーチン姫の吾妃となるべき者たることを、堅く心中に期待して居た。 時に高国別、玉手姫の間に生れたるサアルボース、ホーロケースの二人の、心善からざる兄弟ありき。玉手姫は悪神の化身たりし事は、「霊主体従」寅の巻の物語に於て示したる通りである。其水火より生れたるサアルボース、ホーロケースの二人の心魂は恰も猛獣毒蛇の如く、アークス王の部下に仕へて暴政を全島に布き、民の怨恨を買ひ、国家は益々攪乱紛糾して収拾す可らざる情勢となり居たり。 然るにアークス王は或時新高山の淡渓に清遊を試みたる際、玉手姫の怨霊に憑依されて、誤つて渓流に陥り上天した。茲に於て其子カールス王をして其後を継がしむる事となつた。就てはエーリスの娘ヤーチン姫を容れて妃となさむと、数多の群臣は全力を尽して奔走し居たりける。 然るにアークス王の上天後はサアルボース、ホーロケースの勢益々烈しく、あわよくばカールス王を排除し自ら其位置に直らむと、計画して居た。サアルボース、ホーロケースの勢力は旭日昇天の如く、カールス王を殆ど眼中に置かざるの概があつた。されど天使花森彦命の子孫たるカールス王を排除するは、国民全体の反感を買ひ、暴虐無道の譏を受けむことを恐れて、表面はカールス王の臣となり、之を敬遠し居たり。カールス王は唯単に名義を存するのみ。其宮殿も其生活もサアルボース兄弟に比べて、実に比較にもならぬ程の質素さなりける。 時にカールス王の従妹に当るヤーチン姫を妃となす事は、国民一般の熱望する所であり、且つアークス王の旧臣は残らず婚儀の成立を希望して居た。サアルボースは自分の娘セールス姫を王妃となし、ヤーチン姫を何とかして却け、自らカールス王の外戚となりて、完全に政権を左右せむ事を企画してゐたのである。ヤーチン姫の身辺の危険は実に風前の灯火に均しかりける。 アークス王の上天後は其長子カールス王を立てて、万機を総裁せしむる事とし、ヤーチン姫を一日も早く王妃の位地に据ゑむことを謀り、別殿を造り、ヤーチン姫にユリコ姫を従へ、キールスタンをしてヤーチン姫の守護職となさしめた。然るにヤーチン姫は新造の館に移りてより、俄に急病を発し苦悩甚しく、呻吟の声遠近に聞ゆる計りなり。 サアルボースの娘セールス姫はマリヤス姫を従へてヤーチン姫の病床を見舞ひけるに、ヤーチン姫はセールス姫を見るより忽ち目を釣り上げ髪を逆立て、恰も狂乱の如く荒れ狂ひ、セールス姫に飛び掛つて、矢庭に髻を掴み痩こけたる病躯をも顧みず、室内を引摺り廻し、 ヤーチン姫『汝は吾れを悩ます金狐の邪神、一刻も早く此場を立去れツ』 とわめき狂ふ。キールスタンはヤーチン姫の荒れ狂ふを背後より抱きとめ、且セールス姫に対し言葉を低うして、其無礼を謝し、従臣のホールをしてセールス姫主従をサアルボースの館へ送り帰らしめたり。 セールス姫の立帰りし後のヤーチン姫は精神稍鎮静したりと見えて、スヤスヤと眠に就いた。されど時々『玉手姫々々々』と連呼し、其度毎に発熱苦悶の状益々烈しく、身体の肉は日に削るが如く痩衰へ、見る影もなき状態に陥りぬ。 此時カールス王はヤーチン姫の重病と聞き、病床を見舞ふべく、テーレンス、ハルマーズの重臣を従へヤーチン姫の館に到り、痩せ衰へて見る影もなき姫の姿に呆れ果て、日頃の恋愛の心も漸く薄らぎ来たりぬ。されどエーリス[※御校正本、校定版、愛世版いずれも「エールス」だが文脈上は「エーリス」(カールス王の父アークスの弟、つまりカールス王の叔父)が正しい。霊界物語ネットでは「エーリス」に修正した。]の娘にして、切つても切れぬ従妹の間柄、如何にもしてヤーチン姫の病気を回復せしめ、元の美はしき容貌となつて吾妃となし、永く偕老同穴を契らむと心の奥深く希求し居たりける。テーレンス、ハルマーズは一生懸命淡渓の畔に出でて水垢離を取り、ヤーチン姫の病気全快を祈願しける。 ユリコ姫はヤーチン姫の枕頭に侍し、看護に余念なかりし折しも、夜中堅き戸締りを風の如くに押開けて入り来る一人の美人、数多の侍女を伴ひ、此場に現はれ、眉間より金色の光を放ち、ユリコ姫に向つて言ふ。 (高照姫命と詐称する金狐)『妾は新高山を守護致す高照姫命なり。ヤーチン姫の病気危篤と聞きて、座視するに忍びず、姫が生命を救はむものと、起死回生の薬を持参したり。一刻も早く之を飲ませよ』 と言ひつつ、紫色の木瓜をユリコ姫に与へ、烟の如く立去りにけり。ユリコ姫は合点行かず、木瓜の一部を割いて狆の子に与へたるに、狆は尻を振り頭を振り、一口に呑み込みしと思ふ間もなく、忽ち室内を前後左右に狂ひまはり、七転八倒、黒血を吐き悲鳴をあげて其場に殪れける。 ユリコ姫『今の女神は如何なる魔神なりしか。ヤーチン姫様を毒殺せむと企みたるセールス姫の間者ならめ』 と且つは驚き、且つは怒り、直に新高山の南方に立昇る雲気を目標に、汗みどろになつて祈願をこらしけり。忽ち身体動揺して帰神となり、今の高照姫と称する女神は、金狐の化身にして、セールス姫の副守護神なることを口走り、初めて女神の正体を感知したり。ヤーチン姫は衰弱甚しく、殆ど虫の息となり居たるが、キールスタンは此場に慌だしく走せ来り、 キールスタン『ユリコ姫さま、姫様には御異状は御座りませぬか。只今此館より怪しき光現はれしと見る間に、悪狐の姿現はれ、暗に紛れて山上高く駆去りました。私は之を見るより取る物も取り敢ず、姫の身辺に異状なきやと、急ぎ御伺ひに参りまして御座います』 ユリコ姫『ハイ、あなたの御推量にたがはず、怪しき女が突然現はれ、姫様の病気本復致す様に此木瓜を与へよと渡して、直様立帰へりました。どうも腑に落ちませぬので、狆の子に木瓜の一片を切り取り与ふれば、狆は忽ち苦悶の結果、黒血を吐いて斃れまして御座います』 キールスタン『油断のならぬ悪神の仕業……すべて台湾島は高砂島の胞衣と昔の神代より定められ、竜世姫命国魂神として、御守護遊ばす以上は、竜世姫命を丁重に奉斎し、敬神の大道を再興致し候はば、妖怪変化の災は、忽ち払拭する事で御座りませう。アークス王の不慮の御上天も全く国魂神をおろそかにし、バラモンの教を国内に奨励したる神の戒めで御座いませう。カールス王は兎も角も、ヤーチン姫様の御居間丈なりと、三五教の大神を祀り、竜世姫の国魂神を奉斎致さば、初めて御安泰に渡らせられ、流石の難病も必ず本復遊ばす事と考へるのです』 ユリコ姫『キールスタン様いい所へ心付かれました。妾も貴方の御意見通り、国魂の神を祀るべき事は承知致して居りまするが、何を言うても、此国はバラモン教の教を以て政治の助けとなしあれば、三五教の神を念ずる事、世間に現はれなば、如何なる戒めに遭ふやも計り難く、実は内々にて妾一人信仰を致して居りました。然らばあなたと妾と心を協せ、竜世姫命の御前に御祈願致しませう』 キールスタンは嬉しげに打諾き、両人声を潜めて、 ユリコ姫、キールスタン『三五教の大神、殊更に国魂神竜世姫命、守り給へ幸はひ玉へ』 と祈願を凝らしけるに、不思議にもヤーチン姫の病気は刻々と快く、四五日を経て元の如くに全快したりけり。 これよりヤーチン姫は俄に三五教を信ずる事となり、三人密かに館の一方に斎壇を設けて日夜祈願をこらしつつありける。 ○ セールス姫はマリヤス姫を従へ、髪ふり乱し、顔色青ざめ父の館に慌しく立帰り、奥の間に駆入り、大声をあげ泣き倒れ居たり。 サアルボースの館の司タールスは、セールス姫の悲しげなる声を聞きつけ、恐る恐る其居間に駆つけて、両手をつき頭を下げ、 タールス『恐れ乍ら姫様に御伺ひ致します。あなた様はヤーチン姫の館へおこし遊ばし、御帰りになるや否や、俄に変りし御様子、如何なる事が出来致しましたか、どうぞ包まず隠さず私まで仰せ付けられ下さいませ。あなたの御為ならば、仮令此タールス、身命を抛つても御無念を晴らし、御希望を叶へまゐらす覚悟で御座います』 セールス姫は漸々に顔をあげ、鬢の縺れ毛を撫で上げ乍ら、半巾にて涙を拭ひ、声もきれぎれに、 セールス『タールス、よく聞いて呉れた。妾は終生拭ふ可らざる侮辱を受け、且九死一生の虐待に遭ひました。アヽ残念や、口惜や』 と声を限りに其場に泣き伏しぬ。 タールス『モシ御姫様、泣いて許り居られましては、一向訳が分かりませぬ。どうぞ詳しく御示し願ひます』 セールス『委細はマリヤス姫に聞いておくれ。余り残念さと恐ろしさに心も顛倒し、言ふ事が出来ませぬ』 と又もや泣き倒れる。 タールス『マリヤス姫さま、あなたは姫様の御供をしてヤーチン姫の館へ御出でになつた以上は、一切の様子残らず御存じの筈、一伍一什包まず隠さず、言つて下さい。此方にもそれに対する覚悟をせなくてはなりませぬから』 マリヤス『ハイ』 と言つた限り、言ひ渋つて居る。マリヤス姫はセールス姫の侍女なれ共、平素よりセールス姫の嫉妬と猜疑と悪虐無道の行為とに愛想を尽かして居た。されど主人の事なれば、無理に戒め諭す訳にも行かず、今迄幾度か命を賭して諫言せしことあれ共、いつも馬耳東風に聞き流して居た。今回のヤーチン姫に打擲されしは、全く天の戒め玉ふ所と深く心中に感謝して居た位であるから、其実状をタールスに物語りし結果ヤーチン姫の如何なる災厄に陥り玉ふやも計り難しと、躊躇して居たのである。 タールスはマリヤス姫に向つて、短兵急に訊問の矢を放つた。マリヤス姫は僅かに小声で、 マリヤス姫『ヤーチン姫様は御病気の勢にて、セールス姫様の御肉体に少し許り御手をかけられました。さり乍らヤーチン姫様はカールス王の御従妹、セールス姫様は臣下の御身の上、仮令如何なる事を遊ばしても彼是申上げる訳のものでは御座いませぬ。妾は此事許りは申上げる事は出来ませぬ。セールス姫様に、後でゆるゆる御聞き遊ばせ』 セールス姫は、矢庭に起ち上り、眼光凄じく夜叉の如き勢にて、マリヤス姫の髻をひつ掴み室内を引摺り廻し、身体所構はず、打つ、蹴る、殴る、殆ど息の根も絶えむ許りに打擲した。そしてセールス姫は声を荒らげ、 セールス姫『不忠不義のマリヤス姫、臣下の身分として、主人より如何なる乱暴を加へらるる共、一言も申上げられないと言つたであらう。「我身を抓つて人の痛さを知れ」と云ふ事を覚えて居るか。妾がヤーチン姫より被つた虐待は此通りだ。……タールス、妾がなす業をよつく覚えて居れよ。此通りなりしぞ』 と又もやマリヤス姫の髻を掴んで室内を引摺りまはし、頭髪は房の如くに肉のついた儘、血に染つてむしり取られた。マリヤス姫は苦みをこらへ、セールス姫のなすが儘に任してゐた。最早虫の息となつて了つた。セールス姫は心地よげにニタリと笑ひ、 セールス姫『イヤ、タールス、汝は此由御父上、叔父上の前に報告されよ』 タールスは『ハイ』と答へて、慌しく此場を立ち去つた。 (大正一一・八・六旧六・一四松村真澄録) (昭和一〇・六・五旧五・五王仁校正)
65

(1937)
霊界物語 28_卯_台湾物語(日楯と月鉾) 09 当推量 第九章当推量〔八〇九〕 テールスタンは泰安城に於て、真道彦命の神軍より手厳しく撃退されたる無念を晴らさむが為に、エールと共にカールス王に向つて口を極めて、真道彦命一派を讒訴した。 真道彦命は斯かる王の怒りに触れ居ることは夢にも知らず、マールエースをして、王を泰安城に迎へむと、誠意をこめて遣はしたるにも関はらず、エール等の讒訴を固く信じたるカールス王は容易に怒り解けず、真道彦の使者を悉く牢獄に投じ、日夜エールをして厳しく訊問せしめつつあつた。真道彦命は幾度使を遣はすも、一人として帰り来らざるに不審を抱き、ヤーチン姫と共に、王の陣屋に伺候し、誠意をこめて王を泰安城に迎へむと、遥々訪問したりける。 手具脛ひいて待つて居たエール一味の者は、有無を言はせず、ヤーチン姫、真道彦命を牢獄に投じ、日夜訊問を続けたり。第一に王の前に堅く両手を縛められて引出されたるは、マールエース、ホーレンスの二人であつた。正面にカールス王は閻羅王の如く厳然として眼を光らせ、エール、テールスタンは左右に赤面を曝し、目を怒らして、訊問の矢を放ちゐる。王はマールエースに向ひ、 カールス王『汝は玉藻山の聖地に永らく入り込みて、真道彦命と何事かを企画しつつありしと聞く。委細を詳さに陳弁せよ』 と厳しく問ひかくれば、マールエースは、 マールエース『ハイ私は王が御病気の為、淡渓の館に御退去の後はセールス姫、セウルスチン其他の悪人輩の行動、見るに忍びず、時を待つてカールス王様の御親政に復帰し奉らむと心を決し、玉藻山に身を逃れて、時機の到るを待ちつつありましたので御座います。然るに此度泰安城の大変事を聞き、王の御身辺を危み、救援の為に神軍を率ゐ参りました。外にそれ以上の目的は何も御座いませぬ。何卒公平なる御判断を願ひ奉ります』 カールス王『汝の申す事、よもや間違はあるまい。それに就いて、汝に尋ねたき事がある。ヤーチン姫と真道彦命二人の間の関係は存じて居るや』 マールエース『ハイ御両人共忠実に御神務に奉仕されて居られました。別に噂にのぼつて居る如き醜関係は、私としては認められませぬ』 カールス王『テールスタンやエールも永らく汝の如く聖地に入り込んで、幹部に列して居た者、彼れら両人の言ふ所に依れば、真道彦はヤーチン姫と怪しき関係を結び、時を得て泰安城を占領し、台湾島の主権を握り、自ら王と称する計画を立てて居つたではないか。斯の如く歴然たる二人の証人ある上は、隠すも無駄であらう。有態に白状せよ』 マールエース『真道彦命に限りて、決して左様な政治的野心も、又醜行も、毛頭御座いませぬ。三五教の古来の主義として、教主たる者は政治的野心を持つ可からずと云ふ厳しき掟が御座いまする。信心堅固なる真道彦命に於て、如何して左様な御心を抱かれませう。全く人々の邪推より出でたる噂で御座いますれば、何卒神直日大直日に見直し聞直し、公平なる御判断を願ひ奉ります』 王は烈火の如く憤り、 カールス王『汝、マールエース、其方は真道彦と心を協せ、泰安城を占領し、政治の全権を握り、且つ吾れを排斥せむとの悪虐無道の一類であらう。……ヤア、エール、一刻も早くマールエースが事実を白状致す迄、牢獄に投じ、水責め火責めの責苦に会はしても、事実を吐露せしめよ』 エールは傍の従卒に命じ、目配せすれば、従卒はマールエースを荒々しく引立て、暗黒なる牢獄の中に投込んで了つた。 カールス王は、続いてホーレンスに向ひ、 カールス王『汝はホーレンス、久しく玉藻山の聖地に参り居りし者、エール、テールスタンの申した事に間違はあるまいなア』 ホーレンス『ハイ決して間違は御座いますまい。ヤーチン姫様と真道彦命の醜関係は、私は実地目撃は致しませぬが、これは随分喧しき噂で御座います。御両人の間柄はつまり公然の秘密も同様、三歳の童児に至る迄知らぬ者は御座いませぬ』 カールス王『真道彦はヤーチン姫と関係を結び、将来は泰安城の国王となり、ヤーチン姫を妃とし、日頃の野心を遂行し、且つ此カールスを目の上の瘤と忌み嫌ひ、排斥せむとの計画を立て居りしと云ふ事、事実であらうなア』 ホーレンス『ハイ、夫も私の考へでは事実だと信じて居ります。此度神に仕ふる身であり乍ら数多の部下を引率し、泰安城へ救援の名の下に攻寄せ来りしは、全く王者たらむとの、野心より起つたる出陣と考へるより途は御座いませぬ』 王『あゝさうであらう。其方は正直な奴だ。サア只今より縛めの縄を解いてやらう』 エールは従卒に命じ、ホーレンスの縛めを解いた。ホーレンスは大いに喜び、三拝九拝して、王の意を迎ふる事のみに熱中し、夫が為に真道彦命の寃罪は容易に拭ふ可らざるものとなりにける。 続いてユートピヤール、ツーレンス、シーリンス、ハーレヤール其他数多の嫌疑を受けて投獄されたる三五教の幹部は、ホーレンスと略同様の陳述をなし、遂に縛めを解かれ、再び王の寵臣として深く用ゐらるる事となりけり。 茲にカールス王はエールをして此岩城の総監督たらしめ、且つ真道彦命、ヤーチン姫を牢獄につなぎ、数多の従卒をして監視せしめつつ、テールスタンの部下を引率れ、数多の幹部と共に、泰安城に堂々として乗り込んだ。此勢に真道彦の率ゐ来れる神軍を始め、マリヤス姫は思ひ思ひに遁走し、再びアーリス山の東南方に避難する者、或は各自の郷里に帰りて、何喰はぬ顔にて樵夫、耕しなどに従事し、暫くは玉藻山の霊地にも、大部分足を向けなくなり、カールス王の威力と真道彦教主の投獄とに萎縮して、一時三五教は火の消えし如く淋しくなりにけり。 カールス王は再び泰安城の城主となり、テールスタンを宰相とし其他の一同を重用して、万機の政事を執り行ひつつあつた。され共何となく国内の情勢は穏かならず、サアルボースはセールス姫を奉じて、日ならず泰安城へ攻来るべしとか、シヤーカルタン、トロレンスの一派、同志を集め捲土重来、再び戦闘は開始さるべしとか、種々雑多の噂にて持切つて居た。されどカールス王はテールスタン以下の重臣の甘言に誤られ、少しも国内の不穏なることを知らず、天下は無事太平にて、国民はカールス王の徳に悦服するものとのみ確く信じつつありしなり。 テールスタン、ホーレンス、ユートピヤール、其他の重臣は王に諂ひ、下を虐げ、我利我欲にのみ耽り、バラモンの神を祀り、今迄信じ居たりし三五教を塵芥の如く振棄てて、新高山以北の地には、再びバラモンの教を布き、以て国政の輔助となしつつあつた。国民怨嗟の声は以前に倍加して、何時動乱の勃発するやも計り難き危機に迫りつつあつた。 (大正一一・八・八旧六・一六松村真澄録) (昭和一〇・旧五・七王仁校正)
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(1946)
霊界物語 28_卯_台湾物語(日楯と月鉾) 18 天下泰平 第一八章天下泰平〔八一八〕 マリヤス姫は立あがり、自ら歌ひ自ら舞ふ。 マリヤス姫『花森彦神の裔アークス王の隠し子と 生れ出でたる吾身魂父の命の内命を 奉じて侍女と身をやつしセールス姫に従ひて サアルボースやホーロケース其他の魔神の行動を 朝な夕なに偵察し悪人共の計略を 一々胸にたたみつつ時の来るを待つ間に セールス姫の一類はヤーチン姫を排斥し カールス王の妃となりて泰安城の主権をば 吾手に握り暴政を布かむとしたる折柄に 妾は堪らずセールスの姫の一派を打懲らし 泰安城を脱け出でて真道の彦の現れませる 日月潭の聖場に忍びて神に仕へつつ 朝な夕なに月鉾の雄々しき姿を見るにつけ 忽ち悩む恋の暗折ある毎に言ひ寄りて 心の丈を口説け共信心堅固の月鉾は 天地の道理を楯に取り容易に妾が恋路をば 諾なひ玉はぬ月鉾の情なき心を恨みしが 神の御前に額づきて静に神意を伺へば アークス王が隠し妻罪より生れし吾身体 神に等しき月鉾の尊き司に汚れたる 吾身を以て妹と背の契を迫るは何事ぞ 誤つたりと悔悟して茲に愈断念し 天地の神に其罪を詫ぶれば心天忽ちに 真如の月は輝きて恋路の暗は晴れにけり 其れより妾は一心に泰嶺聖地の神前に 心を尽し身を尽し仕へまつりてありけるが 真道彦の神司岩窟上の牢獄に 縛められて千万の責苦に会はせ玉ふ事 聞くより心は焦り立ち救ひ出さむと国魂の 神の御前に朝夕に祈る折しも月鉾や 日楯の神やユリコ姫照彦王に仕へたる 照代の姫や八千代姫尊き五つの神宝を 持ちて聖地に帰りまし朝な夕なに奉斎し 心を研く折柄にセールス姫の一類は シヤーカルタンやトロレンスサアルボース、ホーロケースの 悪神共を駆り集め泰安城を陥れ 暴威を振ひカールスの王に仕へし司等を 岩窟上の牢獄に一人も残らず投げ込みて 暴虐無道の限りを尽し猶も進んで玉藻山 聖地を蹂躙せむものとセウルスチンを始めとし サアルボースやホーロケースを将となし攻め来る勢なかなかに 侮り難く見えにける妾は少数の神軍を 率ゐて聖地を出発し玉藻の湖辺に到る折 セウルスチンの率ゐたる数多の軍と出会し 獅子奮迅の勢に槍を揃へて攻め来る 猪武者に打向ひ大蛇の鏡を取出し 敵を照らせば鏡面の烈しき光に目も眩み 魂戦きて忽ちに将棋倒しとなりにける 神に受けたる言霊を妾はすかさず宣りつれば 今迄倒れし敵軍は心の眼は云ふも更 肉の目さへも忽ちに元の如くに開かれて 漸く悟る三五の尊き神の御恵み 心の底より正覚し帰順なしたる嬉しさよ。 妾はそれよりアーリスの峰を乗越え泰安の 城の馬場に攻寄せて群がる数万の軍勢に 向つて注ぐ照代姫八千代の姫の宝鏡の 光に敵は辟易し眼眩みて打ち倒れ 苦み藻掻く其中を城内深く進み入り セールス姫に打ち向ひ大蛇の玉を射照らせば 悪狐の姿と還元し数多の侍臣と諸共に 怪しき正体現はしつ雲を霞と消え失せぬ 妾は茲に息休め照代の姫や八千代姫 テーリン姫やユリコ姫其他の尊き神人と 泰安城を守りつつカールス王や真道彦 ヤーチン姫を始めとしマールエースやホーレンス テールスタンや其外の囚はれ人を救はむと 日、月二人の兄弟を岩窟上の牢獄に 差遣はせば両人は芽出度く使命を相果たし 凱歌を挙げて堂々と帰り来ませる勇ましさ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして カールス王を始めとし誠の道を誤りし 此場に控ゆる諸人に神の恵の幸深く 天より受けし魂の曇りを晴らして元の如 厳の御霊や瑞御霊直日の霊に立直し 救はせ玉へ天津神国津御神の御前に 謹み敬ひ願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ了つて元の座に着いた。 照代姫は立上り、自ら歌ひ、自ら舞ふ。 照代姫『神の都のエルサレム国治立大神の 御前に仕へし真鉄彦神の御裔と生れたる 暗き此世も照代姫サワラの峰の山麓に 父照若と諸共に神の教を守り居る 時しもあれや三五の神の司の照彦が 照子の姫と諸共に四辺まばゆき神徳を 照らして茲に降りまし南の島の人々を 神の光と御恵みに服従へ和し善政を 施し玉へば草も木も恵の風に靡きつつ 世は泰平に治まりぬ父の照若喜びて 照彦王の御前に進み出でまし八千代姫 照代の姫の姉妹を命の前に奉り 御側近く侍らせて誠を示し玉ひけり。 折しもあれや三五の神の御霊を祀りたる 玉藻の山の聖地より日楯、月鉾兄弟は ユリコの姫を伴ひて照彦王や照子姫 珍の御前に現はれて神の秘密を語り合ふ 素より三人は口無しの心と心に語りつつ 照彦王の計らひに大谷川を打ち渡り 向陽山の岩窟に心も堅き常楠の 白髪異様の仙人に五つの宝授かりつ エルの港を船出して波を渡りてキル港 人目を忍び山の尾を伝ひてやうやう玉藻山 神の集まる聖場へ二男三女は潔く 到着したる嬉しさよ。間もなく聞ゆる泰安の 都の空の大騒ぎセールス姫の一族が カールス王を幽閉し尚も暴威を揮ひつつ 三五教の聖場を蹂躙せむと襲ひ来る 高き噂を聞くよりもマリヤス姫を将となし 日楯、月鉾両人を副将軍と相定め テーリン姫やユリコ姫八千代の姫と諸共に 僅に残りし信徒を率ゐて玉藻の湖畔迄 進み来れる折もあれセウルスチンの一隊と 茲にいよいよ衝突し大蛇の鏡を射照らせば 神威に恐れて目も眩みマリヤス姫の言霊に 帰順の意をば表しけるセウルスチンの一軍を 茲に改め味方とし泰安城に立向ひ 空前絶後の勝利をば得たるは全く皇神の 深き守りと知られけり。あゝ惟神々々 御霊幸はひましまして泰安城は末永く カールス王やヤーチン姫の神の司は睦じく 妹背の契を結びまし真道の彦の御教を 朝な夕なに奉戴し五六七の神代の仁政を 台湾島に隈もなく施し玉へ惟神 神の御前に願ぎまつる。八千代の姫や照代姫 サワラの城の国王より日楯、月鉾両人に 従ひまつりて玉藻山聖地に仕へまつれよと 言ひ渡されし上からは仮令如何なる事あるも 再び国へは帰らまじカールス王よヤーチンの 姫命よ真道彦其他の尊き神人よ 妾等二人の姉妹が身霊を恵み玉ひつつ 神の使命を永久に立てさせ玉へよ台湾の 島に時めく神人の御前に祈り奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終つて、元の座に着いた。 茲にカールス王は真道彦命に向ひ、従前の過ちと無礼を謝し、且つ、 カールス王『吾はこれより三五教の神司となり、罪亡ぼしのため宣伝使となつて天が下四方の国を遍歴したければ、貴下は尊き真道彦命の神裔なるを幸ひ、貴下が御子なる日楯、月鉾を左右の臣となし、泰安城に永く留まりて、政教両面の主権を握り、国家を平安に治し召せよ』 と宣示したるを、真道彦命は大に驚き、 真道彦命『カールス王様、折角の御言葉なれ共、吾々は国治立尊の御退隠以前より、吾祖先は専ら神政に仕へ、現界の政治に容喙せざるを以て天職となし来りたるものなれば、如何なる事情あり共、吾は政教両面の主権者となり、王者の位地に進むべき者に非ず。何卒此事許りは御取消を願ひ奉ります。貴王は花森彦命の御裔、必ず此島国を治め給ふべき、祖先よりの使命おはしませば、一刻も早く元の王位に就き、ヤーチン姫を正妃として天下に君臨し玉へ。及ばず乍ら、真道彦命父子の者君が政事を蔭より麻柱奉り、天下泰平に世を治め玉ふべく守護し奉らむ。就ては王に進言したき事あり。信心堅固にして、仁慈と剛直とを兼ね備へたるマールエースを以て宰相となし、ホールサースをして副宰相となし、数多の罪人を赦し、シヤーカルタンやトロレンスをも重く用ゐ玉へば、天下は益々太平ならむ。これ真道彦が赤誠を籠めて、国家の為に進言する所以であります』 と毫も政治的野心なき事を告白した。カールス王は真道彦命の清廉潔白なる精神に感じ入り、真道彦命を導師と仰ぎ、自ら三五教の信者となり、全島に範を示し、天下は永久に三五教掩護の下に、枝もならさぬ高砂の芽出度き神国と治まることとなつた。さうしてヤーチン姫に対する王の疑は全く晴れ、茲に姫を容れて正妃となし、マリヤス姫を侍女の頭と定め、テールスタン、ホーレンス其他の人々をも悔い改めしめ、元の如く重用して、世は永久に治まり、万民鼓腹撃壌の楽みに酔うた。 茲にカールス王は琉球のサワラの都へ、マールエース、ホールサースを遣はし、いろいろの珍らしき貢物を齎せ、照彦王の前に感謝帰順の意を表することとなつた。 照彦王はカールス王の誠意に感じ、マールエース、ホールサースと共に始めて台湾島に渡り、泰安城に迎へられ、暫く此処に留まり、山野河海の饗応を受け、且つ真道彦命の鎮まり居ます玉藻山の聖場に参拝し、茲に固く手を握り、琉球、台湾相提携して、神業に奉仕する事となつた。 真道彦、照彦王の媒介に依りて、マールエースは八千代姫を娶り、ホールサースは照代姫を娶り、夫婦相睦びて泰安城に仕へ、其子孫は永く繁栄した。 末に至りてカールス王とヤーチン姫の間に八千彦、八千姫の一男一女が生れた。又照彦王と照子姫の間にも、照国彦、照国姫の一男一女が生れた。真道彦命の媒酌に依つて、照彦王の長子照国彦に八千姫を娶はせ、又カールス王の長子八千彦に照彦王の娘照国姫を娶はせ、茲に改めて親族関係を結ぶ事となつた。 マリヤス姫はアークス王の弟エーリスの長子フエールスの妻となり、泰安城の花と謳はれて、上下の信望を担ひ、ヤーチン姫の政事を輔けて子孫永く繁栄し、今迄混乱に混乱を重ねたる台湾島も全く天国浄土と化するに至つたのは、フエールス、マリヤス姫の力大に与つて功ありと言ふべしである。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・一〇旧六・一八松村真澄録)
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(1994)
霊界物語 30_巳_南米物語2 末子姫と言依別命の旅 15 花に嵐 第一五章花に嵐〔八五七〕 言依別命、国依別の宣伝使の理解に依りて、此地方一帯の住民は殆ど全滅せむとしたるを、御倉魚を食することを許されてより、忽ち元気恢復し、且つ言依別命を始め国依別の宣伝使を神の如く尊敬し、直に救世済民の教は三五教に若くものなしと、数十万人の人々はウラル教を脱退して悉く三五教に入信して了つた。併し乍ら言依別命は早くも此地を去りたれば、跡に国依別只一人、御倉の社を中心として教勢忽ちに振ひ、猫も杓子も、三五教にあらざれば救はれ難し、又正しき人間には非ざるべしとまで崇拝するに到りける。 国依別は三五教の教理を諄々として説きさとし、且つ天津祝詞や神言を教へ、御倉の社に国治立命、豊国姫命其他の諸神霊を合祀し、崇敬の的と定めた。国依別は、又一種の宣伝歌を作り、国人に平素高唱すべく教へ導きける。 国依別『高天原に現れませる国の御祖の大御神 国治立大神は普く世人を救はむと 天の御柱つき固め国の御柱つきこらし 瑞の御霊と現れませる豊国姫大神と 力を合せ玉ひつつ神世を開かせ玉ひけり 天足彦や胞場姫の醜の霊に現れませる 八岐大蛇や醜狐曲鬼共がはびこりて 世は常暗となり果てぬ皇大神は是非もなく 千座の置戸を負ひ玉ひ天教山の火坑より 根底の国に落ち玉ひ豊国姫と諸共に 深く其身を忍ばせつ此世を守り玉ひけり。 ウラルの彦やウラル姫大国彦や大国の 姫の命の枝神は天地四方の国々を 醜の煙に包まむと曲の教を開きつつ 世を曇らせし忌々しさよ天津御空に現れませる 神伊弉諾大神は妹伊弉冊の大神と 大空高く渡したる天浮橋に立ち玉ひ 泥に沈みし海原をコオロコオロに掻き鳴らし 神生み国生み人を生み天教山にましませる 日の出神や木の花姫の貴の命に神業を 授け玉ひて葦原の瑞穂の国を開きけり あゝ惟神々々神の御稜威のいや高く 教の道のいや広く埴安彦や埴安姫の 神の命と身を変へて黄金山下に出現し 三五の月の御教を完美に委曲に説き玉ふ これぞ誠の三五の錦の機の御教ぞ あゝ諸人よ諸人よ尊き神の御光りに 一日も早く目を覚ませ朝日は照る共曇る共 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 三五教の御教を夢にも忘るること勿れ 神を忘れし其時は身に苦しみの来る時 心の悩みの来る時ぞ如何なる事のありとても 神を忘れな三五の道の誠に離れなよ 神は汝と倶にあり神の御水火を受つぎし 人は神の子神の宮神に次での第一に 尊き者ぞ人の身は決して賤しき者ならず 曇り汚れし人の身と教へて諭す御教が ありと知るなら逸早く互に心を注ぎ合ひ 邪道に陥ること勿れ国魂神を斎りたる 御倉の山の竜世姫大地の主と現れませる 金勝要大神の珍の御霊の分霊 高砂島に永久に鎮まりゐまして国人の 幸を守らせ玉ふなり如何なる教の来る共 国魂神を余所にして心を曇らす事勿れ 竜世の姫を祀りたる御倉の山の社こそ 国治立大神に次で尊き神なるぞ あゝ惟神々々神の心に立返り すべての物を慈み互に争ふこと勿れ 神を尊び国の君敬ひまつり世の人に 神の恵を隈もなく輝き渡すは神の子と 生れ出でたる人草の朝な夕なに守るべき 誠一つの務めなり三五教の神司 国依別が此地をば去るに臨んで国人に 記念の歌を作りおくアヽ国人よ国人よ 暇ある毎に読み慣ひ歌に踊りに音楽に 合して心を慰めつ此世を守り玉ひます 皇大神の御心を和めまつれよ此歌に 歌は天地の神霊を感動さする神秘ぞや 世間話や無駄話云ふ暇あらば一時も 夢にも忘れず此歌を神の御前は云ふも更 山の上行くも又河へ浸る時しも村肝の 心長閑に歌へかしあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ此世を造りし神直日 心も広き大直日只何事も人の世は 直日に見直せ聞直せ過ちあれば宣り直す 三五教を呉々も忘れざらまし何時迄も 世人の為に残しおく』 斯く歌を作りて、最も熱心なる信者の中にて気の利いたるパークスと云ふ男に、足彦と云ふ名を与へ、宣伝使の列に加へ御倉の社を守りつつ、国人に三五の教理を説き諭すべく命じおき、国依別は又もやここを立出でて、ヒルの国の都を指して進み行く。 チルの里の荒しの森に差かかる時しもあれや、黄昏の暗に紛れて現はれ出でたる四五人の男、国依別の前に大手を拡げ、 甲『其方は三五教の宣伝使、よくも吾々に恥を見せよつたなア。かく申さば別に名乗らずとも、此方の名は分つて居る筈、サアどうぢや。如何に其方、弁舌巧なりとて、実行力には叶ふまい。尋常に手をまはすか、但はチルの渓谷に、吾々監視の下に身を投げて自滅いたすか、それも不服とあらば、吾々一同気の毒乍ら、剣の錆となし呉れむ。いかに汝勇猛なればとて、数百人の味方を以て、十重二十重に取巻あらば、いつかないつかな、身を逃るるの余地なかるべし。吾れは云はずと知れたウラル教の宣伝使、ブール、ユーズ、アナンの面々だ。御倉の谷間に於て神の禁じた神魚を食ひ、剰つさへ国人に残らず食はしめたる憎くき天則違反の張本人!ウラル教が数百年の努力を一朝にして水泡に帰せしめたる悪人輩、サア覚悟を致せ!』 と呼ばはる声に、自然に集まる数十人の人影、『ワーイワーイ』とどよめき来る騒々しさ。国依別大口あけて高笑ひ、 国依別『アツハヽヽ、卑怯未練な汝等が振舞、御倉山の谷あひに於て、猫に追はれし鼠の如くチウの声さへ得あげず、コソコソと逃げ帰りたる卑怯者、かかる為体にて、いかで神の御子たる人草を教化せむ事、思ひもよらず。汝等卑怯にも衆を恃んで、只一人の宣伝使を苦めむとする腰抜共、見事、相手になるならなつて見よ。吾言霊の神力に依つて一人も残さず誠の道に言向け和し、汝が奉ずるウラル教を根底より改革しくれむ。あゝ面白し面白し』 と又もやカラカラと打笑ふ。ブール、ユーズ、アナンの大将連は寄り来れる数十人の味方に何事か合図をなすや、一斉にバラバラと国依別に向つて武者ぶり付かむとする其可笑しさ。国依別は『ウン』と一声息をこめ、右手の示指を以て、彼等一同に速射砲的に左から右へ振りまはせば、球の玉の神力を身に納めたる国依別の霊光は一しほ光強く、何れも眼眩み這う這うの体にて逃げ去るもあり、其場に打倒れて苦悶するもあり、恰も嵐に花の散る如く、ムラムラパツと逃げ散る可笑しさ。国依別は此浅ましき敵の姿を見て、又もや大声に、 国依別『アツハヽヽ、面白い面白い』 (大正一一・八・一五旧六・二三松村真澄録)
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(1997)
霊界物語 30_巳_南米物語2 末子姫と言依別命の旅 18 日暮シの河 第一八章日暮シの河〔八六〇〕 三五教の宣伝使国依別は御倉山 社を後に立出でて山河渉り野路を越え 漸くチルの村外れ荒しの森に辿りつき 息を休むる折柄に日暮シ山に岩窟を 構へて教を開きたるウラルの彦の其一派 ブール教主を始めとしユーズ、アナンの両人を 左右の力と頼みつつ数多の部下を引連れて 荒しの森に出で来り国依別を取囲み 只一討ちにせむものと群がり来る可笑しさよ 国依別は泰然と心豊に口の内 生言霊を宣り終へて琉球島に打渡り 竜の顋の宝玉を受取り球の神力を 己が身魂に納めつつ天下無双の神人と 成り済ましたる今日の旅数多の敵に打向ひ 右手の拳を握りつめ示指を差し伸べて 押寄せ来る敵軍に向つて霊光発射せば 威力に打たれて一同は雪崩をうつて逃げて行く 国依別は只一人脆くも逃げ行く敵の影 目送しつつ高笑ひ神の威徳を感謝する 時しもあれやスタスタと現はれ来る人の影 マチ、キジ二人の信徒は国依別の前に寄り 両手をついて語る様私はチルの国人で ウラルの神を奉じたるマチとキジとの両人ぞ 饑饉の厄に苦みて玉の命は今日明日と 迫り来れる苦さに国魂神を祀りたる 社の下の谷川に神の使の御倉魚 姿を眺め手を合せ無事安全を祈る折 ウラルの道の宣伝使数多引つれ出で来り 軽生重死の教を説くさは去り乍ら吾々は 肉の命のある限りパンをば外に神の道 上なく尊くあればとて現当利益あらざれば やはか諾ひまつるべき如何はせむと、とつおいつ 否定の暗に悩む折実にも尊き宣伝使 三五の月の御教を御空も清く明かに 宣らせ玉ひて神代より神の禁ぜし御倉魚 捕へて食ひ玉の緒の命をつなぎ此世をば 天国浄土と相見做し尊き命を永らへて 現世に永く働けと思ひもかけぬ天来の 救ひの道の福音に吾等一同甦り 歓喜の雨は忽ちに涙となりて谷川に 流れ注ぎし尊さよあゝ惟神々々 かかる尊き神人を吾等はいかでおめおめと 此儘見逃しまつらむや命の限り御後を 慕ひて君の教言さし許されて天国の 清き教を四方の国草の片葉に至る迄 恵の露を与へむと吾等二人は諜し合ひ 故郷を後にしとしとと御後を慕ひ来りけり 国依別の神司何卒吾等が願をば 清く許させ玉へかし大御恵みの万分一 酬いまつらむ吾々が固き心は千代八千代 五六七の世まで変らじと心定めし益良夫の 誠受けさせ玉へよと涙と共に頼み入る 国依別は稍暫し思案にくれて居たりしが あゝ是非もなし是非もなし神の教の取次は 一人の旅と大神の定め玉ひし道なれど 汝が切なる其願ひ無下に断る由もなし 然らば吾に従ひて三五教の御為に 皇大神の御尾前に仕へまつれよマチ、キジよ 天津大神国津神国魂神に相誓ひ 汝が願ひを許すべしあゝ惟神々々 御霊幸はひましませと生言霊を宣りつれば マチ、キジ二人は雀躍し神に任せし此体 仮令野の末山の奥千尋の海の底迄も 神に仕へし神司国依別の宣言は 一つも背かず村肝の心に銘じて守らなむ あゝ惟神々々神の御蔭に預りて 今日は嬉しき旅の空国依別の生宮が 御弟子となりて仕へ行く天地開けし始めより 誠の神に巡り合ひ恵の露にうるほひて 夜露に宿る月影を伏し拝みつつ進む身の 吾等は如何なる果報ぞと喜び狂ふぞ勇ましき。 キジ、マチの新入信者は国依別に従ひ、ヒルの都を指して、涼しき夜の道を喜び勇んで進み行く。日暮シ山の渓谷より流れ来る大河の辺に辿り着いた。広き河中に清流ゆるやかに流れて居る。されど永日の旱魃に河水は細り、今は川の一方のみ帯の如く、水が、お定目的に流れて居た。国依別は立止まり、 国依『ヤア、之が有名な日暮シの河だなア。随分に広い河だが、此頃の大旱魃にて河水も余程減じたと見える。これ許りは人間として如何ともすることが出来ないなア』 キジ『宣伝使様、此川上には日暮シ山の霊場と云つて、ウラル教の一派が大なる岩窟を掘り、其処に盤古神王の霊を祀り、非常な勢力で御座いましたが、テルの国の高照山の麓にバラモン教の石熊と云ふ宣伝使が現はれ、非常な勢力にて、ウラル教の勢力範囲に喰ひ入り、数多の信徒を作りました為、此頃では余程衰頽した様子で御座います。此間御倉山の谷川に現はれ、あなたの言霊に辟易して逃帰りたる教主のブールと云ふのが、此水上なる霊場に割拠して居ります』 国依『あゝさうであつたか。随分難所だらうな』 キジ『非常な難所で御座いますが、いつも此日暮シ川は清い水が深くゆるやかに流れて居りますので、其山麓まで帆かけ舟が参ります。さうして交通を円滑にやつてゐましたが、斯う川に水がなくなつては、大変に不便で御座います。私も一二回、ウラル教の信者として参拝した事が御座いますが、それはそれは実に立派な岩窟で、目も届かぬ様な広いもので御座います』 国依『一度探険に往つて見たいものだなア』 マチ『そりや余程面白いでせう。あなたを桃太郎とし、キジ公が雉子の役をつとめ、私はマチと云ふ名のついた犬になつて御案内を致しませう。併し猿の役をつとめる者がないので、一つ困りましたなア』 国依『アハヽヽヽ、そりやよい思ひ付きだ。併し随分遠いだらうな』 マチ『里程は人の噂に依れば、八里だとか、十里だとか、中には十三里あるとか、マチマチの噂ですから、其中を取つて先づ九里位にして置いたら如何でせうなア』 キジ『そんな道寄りをやつてゐますと、ヒルの都へ行くのが遅くなります。何れヒルを済まして、ゆるゆるお越しになつたら如何でせう、猿の役を勤める者が又ヒルの都で出来ませうから……』 国依『あゝそれも良からう。どつさりと金銀珠玉、珊瑚樹、瑪瑙、しやこなどあらゆる宝玉を満載して、桃太郎の凱旋も面白からう』 と笑ひ話に耽つてゐる。 斯かる所へ川上の方から、月の光に瞬き乍ら、幾十旒とも知れぬ白旗に、三葉葵の紋を赤く染め抜いて、夜風に靡かせつつ、幾百とも知れぬ人影、蜈蚣の陣を張り乍ら川に沿ひ、足許騒がしく、忙しげに此方に向つて進み来る一隊があつた。これぞアナン、ユーズの引率せるウラル教の宣伝使、信徒の一団がヒルの都に向つて攻め行く途中である。 (大正一一・八・一六旧六・二四松村真澄録)
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(2000)
霊界物語 30_巳_南米物語2 末子姫と言依別命の旅 21 神王の祠 第二一章神王の祠〔八六三〕 国依別一行は足に任せて、旭を浴び乍ら、東南に向ひ前方に突当つたアラシカ山の大峠をソロソロと登り始めた。此地点は最早今年の旱魃にも遭ず、極めて安全にして、山々の草木は色美はしく、旭に照り輝き、活々として居る。一行は心も勇み、何となく愉快げに此急坂を知らず知らずの間に半日を費やして、峠の頂上に達した。 東北を眺むれば、ヒルの都は細く長く帯の如く人家が並んで居る。戸数に於て殆ど二三千計りの、此時代に取つては大都会である。又西南を瞰下すれば、ウラル教のブールが立籠りたる日暮シ山は手に取る如く、青々と緑の衣を被り、八合目以上は雲に包まれてゐる。 キジは国依別に向ひ、 キジ『モシ、宣伝使様、あの未申の方向に当つて白雲の帽子を着てゐる高山が、例の日暮シ山で御座いますよ。随分景勝の地点を選んだものですなア。三方山に囲まれ、一方に日暮シ河の清流を控え、四神相応の地点だと云つて、ウラル教の連中が非常に誇つて居る所で御座いますよ。ヒルの都はあの通り、茫々たる原野の中に築かれてありますから、大変に便利は宜しいが、要害の点に於ては、日暮シ山に比ぶれば、非常に劣つて居る様ですなア』 国依『成程ウラル教も恰好な地点を見付け出したものだなア。併し此頃の様に肝心の日暮シ河があの通り涸切つて了つては、交通の点に於て最も不便であらう。何事も一利あれば一害ある世の中だから、吾々なれば矢張ヒルの都の方が余程気に入るよ』 マチ『気に入ると云つたら、此涼風、暑い坂を汗タラダラと流して登り詰め、山上に息を休めて四方の景色を見晴らし、浩然の気を養ふ吾々は、実に天国へ登りつめた様な心持になつて来ました。何と云つても人は高山に登り下界を見下すに限りますなア。コセコセと狭い谷間に潜んで、日々何とかかとか云つて騒いで居るよりも、時々は山登りも又愉快なものです』 国依別は、 国依別『サア皆さま、参りませうか』 とスタスタと坂路を降り行く。二人は『モウ少し休みたいなア……』と小声に囁き乍ら、已むを得ず後に従ひ、急坂を下りて行く。 見れば坂路の傍に一つの祠が建つて居る。樟の大木は二三本天を封じ此祠に対し、雨傘の役を勤めて居る。ふと見れば、面やつれのした妙齢の女、社前に跪き何事か切りに祈願をこめてゐる。マチ、キジの両人は早くも之を認め、 マチ、キジ『ヤア宣伝使様、アレ御覧なさいませ。あすこには常世神王を祀つた祠が御座います。さうして何だか一人の女が荐りに祈願して居るやうですが、一つ立寄つて様子を聞いて見ませう。此淋しい山路、若い女の身として、此祠へ参つて来るのは何か深い曰く因縁が無けねばなりますまい』 国依『アヽ成程、古い社が立つてゐるなア。実に立派な楠が栄えて居る。これ位な大木にならうと思へば数千年の星霜を経て居るであらう。吾々の様に二百歳や三百歳で死んで了う弱い人間と違つて、数千年の寿命を保ち、尚青々として枝葉を繁茂させ、所在暴風雨に対し依然として少しも騒がず、此高山に生活を続けて居る楠は、実に偉いものだ。これを思へば植物位偉いものはない様な気がするネ。樟の木に霊あり、且言語を発するならば、遠き神代の有様を聞かして貰ふのだけれど、併しそれも仕方がない』 マチ『モシモシそれはさうと、あの女を御覧なさい。随分痩衰へて居るぢやありませぬか?兎に角祠の前へ立寄つて調べて見たら如何でせう』 国依『兎も角神様に参詣した序に尋ねて見るもよからうよ』 と云ひ乍らツカツカと祠の前に進みよる。三人は祠の前に跪き拍手再拝、天津祝詞を清く涼しく奏上し終り、傍の長き石に腰打掛息を休めた。 キジは祠前に跪き何事か切りに、落涙と共に祈つて居る女の側近く寄り、いたいたしげに脊を撫でさすり乍ら、 キジ『モシモシ、何処の御方か知りませぬが、大変な御信仰で御座いますな。此お社は、常世神王様の御神霊が御祀り申してあると云ふことで御座いますれば、貴女がここへ御参りになつてることを思へば、大方ウラル教の御方でせうネ。かよわき女の只一人、此高山の祠に詣でて御祈りをなさるのは、何か深き御様子のある事と御察し申します。吾々の力に及ぶ事なれば、何とかして御相談に乗つてあげたいと思ひますが、どうか御差支なくば、大略丈なりとお話下さいませ。及ばず乍ら御力になりませう』 此同情のこもつたキジの言葉に、女は漸く顔をあげ、 女(エリナ)『ハイ、私はアラシカ山の山麓に住居いたすエリナと申す者で御座います。私の父は、ウラル教の宣伝使でエスと申しますが、一ケ月以前に三五教の宣伝使様が御立寄りになり、いろいろと尊きお話を父と共に、夜中遊ばした結果、父も非常に喜びまして、四五日の間其宣伝使を吾家に止めおき、ウラル教の信者にも三五教の美点を説き聞かせ、神様の御神徳を受けて、大変に喜び勇んで居りました。所が此事忽ち日暮シ山の岩窟に聖場を立ててウラル教をお開き遊ばす、云はばヒルの国に於けるウラル教の総大将、ブールの教主の耳に入り、至急吾父のエスに参れとの御使、父は喜び勇んで、其霊地へ参りましたが、其後は何の音沙汰もなく非常に母と共に心配を致して居りましたが、四五日前にウラル教の宣伝使が尋ねて来られ、エスさまは三五教の宣伝使を自宅に宿泊させ其上ウラル教の信者に対して三五教を説き勧めたと云つて、日暮シ山の岩窟内の暗き水牢に投げ込まれ、大変な苦しみを受けて居られる、お前達も妻子たる廉を以て、何時召捕りに来るかも知れないから、気を付けよと、秘密に知らして呉れた親切な方がありました。母はそれを聞くより忽ち癪気を起し、重き病の床に臥し、日に日に体は弱り果て、見る影もなく痩衰へ、一滴の水も食物も喉を越さず、此まま死を待つより外に途なき悲運に陥つて居ります。それ故私はウラル教の教祖常世神王様の祠に日々詣でまして、父の危難を救ひ、母の病気を助け玉へと、祈つて居るので御座います』 と涙片手に包まずかくさず事情を物語る。 キジ『それはそれは、承はれば実にお気の毒です。私も今迄ウラル教の信者で日暮シ山の霊場へは、二度計り参拝した事もある位で御座いますが、実にウラル教は、今となつて考へて見れば残虐な教ですよ。人の死ぬ事を何とも思はず、天国へ救はれるのだから、無上の光栄だなんて、訳の分らぬ事を教へるのですからたまりませぬワ。併し乍らあなたの御父上が三五教の宣伝使を四五日も御泊めになつたと云ふのは、ウラル教に愛想をつかし、三五教の美しい所をお悟りになつた結果でせう。コリヤ、キツと因縁があるに違ひない。こんな所でこんな御話を聞くのも、神様のお引合せに違ない。必ず必ず御心配なさいますな。キツと吾々が御父上や御母アさまを助けて上げませう』 エリナ『どこの御方か知りませぬが、初て会うた此私に、御親切によく云つて下さいます。何分にも憐な私の今日の境遇、どうぞ御助け下さいませ』 と手を合せて、涙乍らに頼む憐れさ。 国依『モシ、エリナさまとやら、必ず御心配なさいますな。吾々一同がキツとお父さまを、如何な水牢の中からでも、日ならずお助け申して、あなたの宅へ送り届けませう』 エリナ『ハイハイ、有難う御座います。何分宜しう御願致します。……あなたは、さうしてウラル教の宣伝使様で御座いますか』 国依『イエイエ、吾々は三五教の宣伝使国依別と申す者、今此処に居る両人は、チルの国の方で、キジ、マチと云ふ非常な豪傑ですよ。キツと助けて上げますから、機嫌を直して早く家路に帰り、お母アさまにも安心させて上げなさい』 エリナ『ハイ、有難う御座います』 と嬉し涙にくれ、地に伏して泣いて居る。 国依『キジ、マチの両人、御苦労だが、モ一度ウラル教の霊場へ引返し、モウ一戦を始め、エスさまを救ひ出して来ようぢやないか?』 キジ『ハイ、それは大変に面白いでせう。併し乍ら、たかの知れたブールやユーズにアナンの如き木端武者が大将株をして居る様なウラル教へ、宣伝使にワザワザ往つて貰ふのは実に畏れ多いぢやありませぬか。あんな者は吾々一人にて余つて居ります。どうぞ私一人を日暮シ山に差向けて下さい。さうしてマチはエリナさまに従いて行き、お母アさまの病気を鎮魂して直して上げる役となり、宣伝使様は之よりヒルの都へお越しになり、吾々が芽出たく凱旋して帰る迄、待つてゐて下さいませぬか?』 国依『随分偉い元気だが、必ず油断は出来ないぞ。夜前大勝利を得たからと云つて、何時迄も勝つ計りにきまつたものぢやない。随分気を付けて、両人共一時も早くエスさまを救ひ出す様に御苦労にならうかな。エリナさまは私がヒルの都へ行く途中だから、お宅迄送り届け、お母アさまの大病を治しておいて、ヒルの都へ行くことと致しませう』 キジはニタリと笑ひ乍ら、 キジ『宣伝使様、中々抜目がありませぬなア』 と心ありげに笑ふ。 マチ『きまつた事だ。神様のお道に一分一厘、毛筋の横巾も抜目があつて堪るかい。お前こそ今度は抜目なく、気を付けて行かないと、思はぬ失敗を演ずるぞよ』 国依『マチさまも是非同道を願ひますよ。どうもキジさま一人では心許ないからなア』 キジ『宣伝使様、余りひどいですな。高が知れたウラル教の霊場、私一人にて喰ひ足らぬ様な気分が致して居ります。マチの様な男、連れて行くのは何だか足手纏ひの様な気が致しますけれど、あなたの御命令とあらば伴れて行きます。……コレ、マチ、貴様は余程果報者だ。征夷大将軍キジ公の副将となつて行くのだから、さぞ光栄に思つてゐるだらうなア』 マチ『アハヽヽヽ何を吐かすのだ。余り調子に乗つて失敗をせぬ様にせよ。……そんなら宣伝使様、キジ公の後に従ひ、これより日暮シ山に立向ひ、ウラル教の大将ブール其他の奴原を片つ端から言向け和し、エスの宣伝使を救ひ出し、日ならず凱旋の上、ヒルの都の楓別命が御館に於て御面会申しませう。……サア、キジ公の大将、早く出立遊ばせよ』 と、からかひ乍ら、早くも此場を後に、先に立つて元来し坂路を帰り行く。 キジ『オイオイ大将を後にして、先へ行くと云ふ事があるものか。待つた待つた』 と呼はり乍ら、 キジ『宣伝使様、エリナ様、左様なら、後日お目にかかりませう』 と言葉を残し、マチの後を追つかけ行く。 これより国依別はエリナと共にアラシカ山の山麓エスの宅に至り、エリナの母テールの病を癒やさむと祈願し、数日逗留の後ヒルの都を指して進み行く。 (大正一一・八・一六旧六・二四松村真澄録)
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霊界物語 30_巳_南米物語2 末子姫と言依別命の旅 22 大蜈蚣 第二二章大蜈蚣〔八六四〕 マチとキジとの両人は三五教の宣伝使 国依別に従ひて夜道を辿りやうやうに 夜も明け放れ露の道勢込んでスタスタと 下らぬ歌をうたひつつアラシカ山の麓まで 来りてここに息休め又もや乗出す膝栗毛 険しき坂を潔くやうやう頂上に登りつめ 涼しき風を浴び乍らあゝ面白い面白い 四方の国原見渡せば山野は青く河清く 西南方に屹然と雲の冠を頂きて 聳り立ちたる日暮シの山の麓の聖場を 指さし乍らウラル教ブールの教主が立籠る 霊地は彼処と国依別の貴の司に指し示し 問はず語を始めつつ又もや東北指さして 広袤千里の平原に長く築きしヒルの町 楓の別の鎮まりて三五教を開きます 神の館は目の下に甍も高く聳えつつ 確にそれと分らねど風に閃く旗印 勝利の都は足許に近寄りたりと勇み立ち 心のままに涼風を味はふ折柄国依別の 貴の司は先に立ち早く行かうと駆出せば 二人は名残を惜しみつつ是非なく後に従ひて 険しき坂を下りゆく路の片方に楠の木の 老木茂りウラル教教の祖を祀りたる 神王祠を発見し近寄り見れば妙齢の 女が一人面やつれ髪もおどろに手を合せ 祠の前に俯いて何かヒソヒソ祈り居る 怪しき様子にキジ公は側に寄り添ひ背をなで 言葉優しく労はりて事の様子を尋ぬれば 女は漸く顔をあげアラシカ山の山麓に ウラルの教の宣伝使と仕へまつれるエスの子よ 妾が父は三五の神の司を呼止めて 吾家に泊めし罪に依り日暮シ山の聖場に 引立てられて仄暗き残酷無情の水牢に 閉され玉ひ朝夕に苦しみ歎き玉ひつつ 此世を果敢なみ玉ふらむ父の災聞くよりも 妾の母は驚いて持病の癪気再発し 水さへ飲めぬ重態に痩衰へて玉の緒の 命尽きむとする場合いかで妾は此儘に のめのめ眺めて居れませうウラルの教を開きたる 教祖の神の御前に父の危難を逃れしめ 母の病を一日も早く治させ玉へよと 心の誠を捧げつつ一心不乱に神の前 朝夕祈る吾心推量あれと答ふれば キジ公涙に暮れ乍ら心配なさるなエリナさま 神に仕へしキジ公がとつとき力を現はして お前の父のエスさまをキツと助けて上げませう マチ公お前は此方に従ひエスの家に行き 病に苦む母親を鎮魂帰神の神業で 早く助けて上げて呉れ国依別の神様は 一時も早く楓別神の司の鎮まれる ヒルの館に出でましてキジが凱旋する間 ゆるゆる御待ち下されと勇み切つたるキジ公の 言葉にマチは擦りよつてオイオイキジ公そりや無理だ 何程弱い敵だとてお前一人ぢや険呑だ 国依別の命令に従ひ俺もついて行く 国依別の神様よ次いではエリナの娘さま 天晴れ凱旋した上で後日にお目に掛りませう 云ふより早くマチ公は尻ひつからげアラシカの 峠を上り下りつつ一目散に駆出せば オイオイ待つたマチ公とキジ公も尻をひつからげ 韋駄天走に進み行くあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 キジ、マチの両人は漸くにして、日暮シ河の丸木橋の袂に辿り着いた。 キジ『オイ、マチ公、夜前のキジ公が奮戦激闘の結果、大功名を現はしたる古戦場へやつて来た。此辺は死屍累々として横たはり、地下一尺を掘れば、白骨現はれ、夜は鬼哭啾々として寂寥身に逼ると云ふ記憶すべき印象の深き地点だ。一つ敵の亡霊を弔[※御校正本では「吊」]つてやらうぢやないか。アハヽヽヽ、南無アナン、ユーズ大居士、頓生菩提だ、どうだ一つ宣伝歌でも手向けてやらうぢやないか?』 マチ『何を云ふのだ。古戦場所か、極めて新戦場だ。吾々が大勝利を得た聖地だから、神様に御礼の為神饌を献るべき神饌場だよ。あゝ新鮮の空気は水の如く流れ来り、吾等が汗を拭ふ。勇なる哉。壮なる哉。どれどれ一服仕らう』 と云ふより早く、芝生の上に大の字を描いた。 キジ『ヤア、早から大勝利を祝つて、大の字になつてゐるのか。さう背部を下にして居ると、キツと大敗の憂目に会はなくてはならないよ』 マチ『何、敵をして大敗せしむると云ふ縁起を祝つてゐるのだ。俯むいて見れば敵を大に屈伏さすると云ふ大腹となるのだ。アハヽヽヽ』 と罪なき事を喋り散らし乍ら、余り勢込んで走つて来た体の疲れに、何時の間にか両人共熟睡して了つた。 何処よりともなくガサガサと這うて来た大蜈蚣に、耳の一方を刺され、痛さに目を醒まし起上つたキジ公は、矢庭に蜈蚣に向つて唾を吐きかけた。蜈蚣に対し大禁物の唾に忽ち、大蜈蚣はピンと体を伸ばし、青くなつて其場に倒れて了つた。キジ公は耳の痛さに何気なく、唾を指につけ、之を疵所に塗つた。不思議や痛みは忽ち止まり、耳の腫も瞬く間にひすぼつて了つた。マチ公は此騒ぎに目を醒まし、四辺を見れば、大蜈蚣が唾の毒にあてられて、殆ど虫の息になつてゐる。マチは之を眺めて、 マチ『オイ、キジ公、殺生のことをするない。貴様は蜈蚣の敵薬たる唾をかけたのだな、生物を殺すと云ふ事は天則違反だぞ。早く蜈蚣を助けてやらないか』 キジ『俺だつて別に無益の殺生を好んでする者ではない。安眠中を窺ひ、俺の耳を咬よつた悪い奴だから、此奴こそ唾棄すべき悪虫だと思つて吐きかけたのだ。俺の唾は偉いものだらう。一口吐くが最後、こんな大蜈蚣が忽ち寂滅為楽、頓生菩提となるのだからなア。アハヽヽヽ、武士と云ふ者は変つたものだらう』 マチ『グヅグヅして居ると、蜈蚣公、本当に縡切れて了ふぢやないか。早く川へ連れて行つて水を呑ましてやれ。さうすれば忽ち全快して、元の通りシヤンシヤンと活動する様になるワ』 キジ『此蜈蚣の歩く姿を見ると、夜前アナンの奴、沢山の竹槍隊を連れ、単縦陣を作つてやつて来た時の姿にソツクリだ。これも何かの前兆だ。此儘に捨てておかうぢやないか。蜈蚣が蘇生した様に、ブールの奴、余り元気付きよると、一寸此方は少数党だから険呑だよ』 マチ『アハヽヽヽ、ヤツパリどつかに不安を抱いてゐると見えるなア。国依別様の前ではズイ分吹いたぢやないか。こんな所でこんな弱音を吹く位だつたら、肝腎要の戦場に向つては、如何することも出来なくなつて了ふよ』 キジ『何さ、働く時に働きさへすれば宜いのだ。今は斯う弱さうにして力を蓄へ、潜勢力を養つておくのだ。エヽ邪魔臭い、蜈蚣の奴、助けてやらう』 と云ひ乍ら、川の中の流れを目がけて、手に掴んで投げ込んだ。蜈蚣は水に陥ると共に、毒は消ゑ、水中を辛うじて泳ぎ乍ら、岸に登り、二人が足許に勢能く、百本の足に馬力をかけ、大速力で突進し来る。二人は何となく、怖気つき、トントンと逃げ出した。不思議や蜈蚣は何処までもと云ふ調子で追つかけ来る、厭らしさ、とうとうウラル教の霊地と聞ゑたる日暮シ山の岩窟の前迄追つかけ来り、忽然として姿を消して了つた。此蜈蚣は言依別命が球の玉の霊力を以て、二人の出陣を励ますべく顕現せしめたのであつた。 (大正一一・八・一六旧六・二四松村真澄録)
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霊界物語 31_午_南米物語3 国依別の旅 01 主一無適 第一章主一無適〔八六七〕 千早振遠き神代の昔より珍の都のエルサレムに 天津御神の神言もて国治立大神は 普く世人を救はむと野立彦と現はれまし 豊国姫の神御霊は野立姫と現はれて 天と地とを兼ね玉ひ百の神人草木まで 安きに救ひ助くべく心を千々に配りまし 埴安彦や埴安姫の貴の命と現はれて 黄金山下に三五の神の教を樹て玉ひ 救ひの道を宣り玉ふ此御教を朝夕に 守り玉へる天教山の木の花姫を始めとし 日の出神の珍御子が神素盞嗚大神の 瑞の御霊の神業を輔け玉ひて世に広く 開き玉ふぞ尊けれ豊葦原の瑞穂国 根別の国と名に負ひし自転倒島の中心地 綾の高天の霊場に国治立大神は 暫し隠れて四尾山国武彦と名を替へて 五六七の御世を来さむと桶伏山の片ほとり 厳と瑞との神御霊玉照彦や玉照姫を 錦の宮の神司と定め玉ひて三五の 教の庭を開かせつ言依別の瑞御霊を 錦の宮の教主とし西の神都はエルサレム 東の神都は桶伏の霊山会場の神の山 太く建てたる神柱緯の御霊と聞えたる 言依別命をば道の教主と任け玉ひ 神の司を養ひて自凝島を初とし 国の八十国八十島を皇大神の御恵みの 光りに照らし露あたへ曇り切つたる現世を 寂光浄土の天国に造り成さむと千万に いそしみ玉ふ有難さ教司の其一人 中にも清き神司国依別の宣伝使は 教主の後に従ひて自凝島を出立し 神のまにまに和田の原荒浪分けてやうやうに 海に浮べる高砂のテルの港に上陸し 夜を日に継いで三倉山の国魂神を祀りたる 祠に二人は参拝し飢に迫りし国人を 救ひ助けて人々に救ひの神と崇められ 教主言依別命は袂を分ちウヅの国 末子の姫の現れませる都をさして出でて行く。 後に残りし国依別は軽生重死のウラル教が 無道極まる迷信を打破し尽して潔く 此場を立ちてヒルの国桜の花もチルの里 夜の荒シの森蔭に辿りて息を休め居る 時しもあれやウラル教乱れ散りたる信徒を 集めて再び出で来り国依別を十重二十重に 囲みて生命を奪ひ取り三五教を根底より 殲滅せむと襲ひ来る醜の魔神を悉く 珍の神術に蹴散らし皇大神の御前に 感謝し奉る折もあれキジとマチとの二人の男 国依別の神徳を慕ひて茲に走せ来り 師弟の約を結びつつ日暮シ河の土堤の辺に 進む折しもウラル教のアナン、ユーズの両人は 数多の部下を引率し剣や竹槍を携へて ヒルの都に三五の教を伝ふ神司 楓別命の霊場を夜陰に紛れて蹂躙し 打破らむと進み来る此一隊に出会し キジとマチとの両人は国依別の司より 鎮魂帰神言霊の幽玄微妙の神力を 完美に委曲に授けられ勇み進むで河の辺を 進みて来る魔軍に向つて言霊打出せば 不意を打たれて敵軍は雲を霞と逃げて行く 茲に三人は夜の道をスタスタ進みアラシカの 険しき峠を攣登り東北指して降り行く 道の片方の古社楠の古木の天を摩し 聳り立ちたる木下蔭額づき拝む人影を 認めて近づき伺へばウラルの道の神司 エスの娘と聞きしよりキジは言葉も柔かく 親切こめて問ひ糺し茲に様子を詳さに 明め尽し両人は国依別に相別れ 日暮シ山の岩窟に囚はれ苦しむエスの身を 一日も早く助けむと勇み進むで出でて行く 国依別の神司エスの娘に従ひて アラシカ山の麓なるエスが館に立ち向ひ 暫くここに逗留し神の教を宣べ伝へ ヒルの都に立寄りて楓別に面会し キジ、マチ二人を助けむと日暮シ山の岩窟に 進みてブールの神司言向け和し驍名を 高砂島は云ふも更豊葦原の国中に 轟かしたる物語狩野の渓流眺めつつ 初秋の風を浴び乍ら安楽椅子に横はり 敷島煙草をくゆらしつ浄写菩薩と立向ひ いよいよ霊界物語三十一の巻始め 言霊車転ばしぬあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 国依別はエリナに導かれ、エスの家に漸く着きぬ。エリナの母は思ひの外の重病にて、殆ど人事不省の体なり。国依別は取る物も取敢ず、草鞋をとくとく座敷に駆上り、直に天津祝詞を奏上し、天の数歌を称へあげ、鎮魂を施し、いろいろ雑多と丹精をこらして、病気回復の途を謀りける。されど如何にせしか、病人は少しも快方に向はずして、日に日に衰弱甚だしく、最早絶望の域に進みたり。エリナは一生懸命に水垢離を取り……、 エリナ『三五教の大神国治立命様、常世神王様、何卒々々父の危難を遁れさせ玉へ、母の難病を今一度救はせ玉ひて、夫婦親子が仮令一日なり共、嬉しく楽しく、互に顔を見合せ、恵の露にうるほひまする様……』 と、我れを忘れて祈願を凝らし居る。されどエリナの心中は未だ主一無適の精神には成り得ず迷ひあり。其理由は、国治立命は果して善神なりや?但は常世神王の方が善神なるや?国治立神を念じなば、常世神王の神怒に触れて、益々母の病は重り、父の大危難は愈深くなり行くには非ざるかとの疑念が、頭脳の中に往来しゐたるが故なり。 国依別はエリナの心の中を推知し、四五日茲に逗留して、いろいろ雑多と善悪不二、顕幽一本の真理を説き諭したれども、父母の災厄に周章狼狽したる若き娘の事とて、千言万語を尽しての国依別の教示も、容易に頭に入らず、唯一日も早く父の危難を救はれ、母の重病の癒やされむことにのみ余念なく、一心不乱になり乍ら、信仰上の点に於て非常に迷ひ苦しみ居たり。それ故に神徳充実したる国依別命の鎮魂も、言霊も功験を現はすには至らざりける。 凡て信仰は迷ひを去り、雑念を払ひ、理智に走らず、只何事も神意に任せ奉り、主一無適の心にならなくては、如何な尊き神人の祈念と雖も、如何に権威ある言霊と雖も、容易に其効の顕はれざるは当然なり。要するにエリナの信仰は二心にして、悪く言はば内股膏薬的信仰に堕し居たり。幼少の頃より宇宙間に於て常世神王に優る尊き神はなく、又常世神王に勝るべき権威はなし、万一常世神王の忌憚に触れむか、現界は云ふも更、霊界に於ても無限の苦しみを受け、且つ厳罰に処せらるべしとの信仰を深く心の底より植ゑ付けられ居たるが故に、誠の神の教を喜びて聴聞し乍らも、不安の雲に包まれ、煩悶苦悩を続け居たるなりける。 国依別は容易にエリナの信仰の動かざるを悟り、且つ彼の母の病気は到底救はれざることを悟りて、いよいよ此処を立去り、ヒルの都に向う決心なしたりける。 国依別はエリナに向ひ、 国依別『エリナさま、永らく御世話になりましたが、貴女の御信仰は何うしても徹底致しませぬ。それも無理のなき事でせう。就いてはお母アさまの御病気も最早絶望ですから、其お積りで居て下さい。又エスさまを救ひ出さむとして、日暮シ山の霊場に向つたキジ公、マチ公の両人が未だ帰つて来ないのも、何か神界に於て深き思召しのある事でせう。父を救ひ、母を救はむとのあなたの真心は実に感服の至りですが、斯かる場合には、あなたの日頃信ずる常世神王様に、主一無適の真心を捧げて御願ひなさる方が却て御神力が現はれるでせう。三五教の主神国治立命様は、あらゆる万民の苦みを助け下さる有難き神様なれど、あなたの信念力が二つに割れて居りますから、神様も救ひの御手を伸べさせ玉ふ事が出来ませぬ。斯う申せば、国治立神は余程気の狭い偏狭な神様だと思はれるでせうが、決して左様な不公平な神様ではありませぬ。只あなたが神様は元は一株だから、常世神王様を念じても、国治立の神様は決して御怒りなく、又国治立命を何程一心に念じたとて、常世神王様が御立腹遊ばすものでないと云ふ事が御分りにならなくては、信仰は駄目です。神様の方では左様な小さい障壁や区画はありませぬが、貴女の心の中に区画をつけたり深き溝渠を穿つたり、いろいろと煩悶の雲が包んでゐるから、何程神様が御神徳を与へやうと思召しても、お前さまの方に感じないのだから仕方がありませぬ。それ故あなたの最も信ずる、常世神王様に御祈願をなさつた方が、却て御安心でせう。私は是から御暇を致します。ここ暫くの間は、ヒルの都の楓別命の神館に逗留の考へで厶いますから、御用があつたら、国依別と云つてお訪ね下さいませ。何時でもお目にかかります。又幸ひにエスさま始めキジ、マチの両人が帰つて来られたら、国依別はヒルの都に逗留して居るからと、伝言を願ひます。左様ならばエリナさま、御病人様を大切になさいませ』 と立出でむとするを、エリナは周章て引とめ、 エリナ『モシモシ宣伝使様、どうぞさう仰有らずに、暫く御逗留遊ばして下さいませ。これから心を入れ替へて、あなた様の仰せに従ひ、信仰を致しますから……』 国依別『心の底から発根と分つての信仰でなければ到底駄目です。神様は仁慈無限の御方故、別に頼まず共、助けてやりたいと思召し、種々と力を御尽し遊ばして厶るのですが、あなたの心の中の執着と云ふ曲鬼が神徳を遮つて居るのです。其曲鬼をあなた自ら追出さねば到底駄目ですよ。国依別が別れに臨むで、御注意申上げておきます。左様ならば……』 と後に心を残しつつ、国依別は此家を立出でヒルの都を指して進み行く。 (大正一一・八・一八旧六・二六松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 05 琉球の光 第五章琉球の光〔八九六〕 カーリンスは三人の宣伝使の歌を聞き、吾も亦歌をうたひ、兎、鰐の一族に対し、巾を利かさねばなるまいと思つたか、直に立上り、妙な手附をして踊りながら、歌ひ始むる。 カーリンス『此処は名に負ふハルの国アマゾン河に沿ひて樹てる 大森林の時雨の森と人も言ふモールバンドやエルバンド 其外百の獣たち堅城鉄壁千代の棲処と 天日に怖ぢず地に憚らず月の光に恐れず 自由自在に咆哮怒号の魔窟ケ原 優勝劣敗弱肉強食の修羅の巷を 数百万年の昔より世界の秘密国として 汝が一族に与へられたる此森よ 森の主は兎の王と誇りし夢も何時しか消えて 今は悪魔の棲処と成り果てぬ 変れば変る現世の例に洩れぬ兎の身の上 鰐一族の淋しき生活広袤千里の森林に 十里四方の地点を選び要害堅固の鉄城と 頼みて暮す霊場も今は危くなりにけり 八岐の大蛇醜狐曲鬼共の霊の裔 激浪猛る奔流の深き河瀬に身を潜め 汝が一族悉く命の綱の餌食にし 根絶せむと附け狙ふモールバンドやエルバンド 斯かる仇敵のある中に虎狼や獅子に熊 大蛇禿鷲猿の群汝が一族狙ひつつ 眼を配る時もあれ国治立大神の 守り給へる三五の神の司鷹依姫を始めとし 竜国別の宣伝使テーリスタンやカーリンス 四人の貴の神の子が救ひの神と現はれて 此処まで降り来りしは枯木に花の咲きしが如く 大旱に雨を得たるが如くなるべし勇み喜べ兎よ鰐よ 吾等は是よりハルの国アマゾン河の森林を 神の御水火に言向け和し尚も進んで珍の国 旭のテルやヒルの国カルの国まで天降り 八岐大蛇の一族を言向け和し神の世の 畏き清き政事布き施すは目のあたり 仮令悪神アマゾンの河底深く潜むとも 猛き獣の徒に汝が群をば攻むるとも 吾等が此処に来りし限りビクともさせぬ神力を 固く信じて朝夕に喜び勇み神の前 瑞の御霊と現れませる月の御神の御前は 云ふも更なり国魂の神と現れます竜世の姫を 厚く祀れよ敬へよ吾も神の子亦汝も 同じく神の御子なれば何の隔てのあるべきや 神は万物一切に平等愛を垂れ給ふ あゝ惟神々々兎の都に現はれて 心も固き鰐の群集まり守る聖場に 三五教の神の国堅磐常磐に限りなく 基を建つる頼もしさあゝ惟神々々 神の恵を嬉しみて兎や鰐の群等よ 喜び勇め神の前森の谺の響くまで 歌へよ祈れ神の恩あゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 是より鷹依姫外三人は数多の兎を使嗾し、兎の都の王となつて、殆ど一年の日子を此別世界に楽しく面白く送りたり。 或夜、月皎々と光りを湖面に投ぐる折しも、四方の丘の上より、一斉に『ウーウー』と咆哮怒号突喊の声、耳も引裂くるばかり聞え来りぬ。兎の王は驚きて鷹依姫の前に走り来り、 兎の王『鷹依姫様に申上げます。只今四方の山々を取囲み、虎、狼、獅子、大蛇、熊王、数多の一族を呼び集め、雲霞のごとく此霊地を占領し、吾等が部下を捉へむと勢猛く攻め寄せました。鰐の頭は数多の眷族を呼びあつめ、死力を尽して闘つて居るでは御座いませうが、何を云つても目に余る大軍、容易に撃退することは不可能なれば、何とか御神力を以て彼等寄せ来る魔軍を言向け和し給はむ事を、偏に一族に代り御願ひ申上げます』 と慌ただしく息を喘ませ頼み入る。鷹依姫はウツラウツラ眠りつつありしが、忽ち身を起し、月の大神を祀りたる最も高き地点に登り、四辺をキツと見詰むれば、四方を包みし青垣山の彼方此方に炬火の光煌々と輝き、咆哮怒号の声、万雷の一時に聞ゆる如く、物凄さ刻々に激烈となり来る。 鷹依姫は直に拍手しながら天津祝詞を奏上し、天地に向つて言霊を宣り上げたり。 鷹依姫『天津神等八百万国津神等八百万 国魂神を始めとし取分け此世を造らしし 国治立大御神豊国姫大御神 天照らします大御神神素盞嗚大神の 貴の御前に三五の神の司と任けられし 鷹依姫が真心をこめて祈りを捧げます あゝ大神よ大神よ高砂島のハルの国 アマゾン河の両岸に幾万年の星霜を 重ねて樹てる大森林中に尊き此霊地 千代の棲処と定めつつ身魂も清く美はしき 兎の群や鰐の群いや永久に棲居して 神の恵を喜びつ天伝ひます月の神 朝な夕なに伏し拝み天地の恵を感謝する 尊き心を憐みて寄せ来る魔神を大神の 稜威の御水火に吹き払ひ安全地帯となし給へ あゝ惟神々々神の恵に包まれし 兎の都の此聖地千代も八千代も永久に 曲津の神の一指だも触るる事なく恙なく 常世の春のいつまでも喜び勇みの花咲かせ これの聖地を元として時雨の森に棲ひたる 猛き獣や大蛇まで神の恵に漏るるなく 救はせ給へ惟神神の御前に願ぎ奉る 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 敵の勢猛くとも神より受けし言霊の 吾等四人が御稜威をば天津御空の日の如く 照らさせ給ひて功績を千代に八千代に永久に 建てさせ給へよ惟神神の御前にひれ伏して 言霊称へ奉る』 斯く歌ふ折しも、西南の隅に当つて、屏風山脈の最高地点、帽子ケ岳の方面より、二つの火光、サーチライトの如く輝き来り、四方を囲みし魔軍は光りに打たれて声を秘め、爪を隠し、牙を縮め、眼を塞ぎ、大地にカツパとひれ伏して、震ひ戦き居たりける。 竜国別は立上り、火光に向つて再拝し、拍手しながら歌ふ。 竜国別『青垣山を繞らせるこれの聖地に永久に 棲ひなれたる兎の子等が魔神の災遁れむと 朝な夕なに月の神斎きまつりて誠心の 限りを尽し仕へ居る其誠心に同情し 八尋の鰐は湖の辺に集まり来りて夜昼の 区別も知らず聖場を守り居るこそ畏けれ 時しもあれや三五の道を伝ふる神司 自転倒島を後にして現はれ来る吾々が 一行四人は恙なく神の仕組の経糸に 引かれて此処に来て見れば兎の都は永久に 八尋の鰐に守られて天国浄土を目のあたり 見るが如くに栄えけりあゝ惟神々々 神の恵と嬉しみて吾等はここに大神の 禽獣虫魚の端までも恵み給へる御心を 信仰ひまつりて王となり兎や鰐の一族に 神の恵を間配りつ守る折しも青垣の 山を踏み越え攻め来る虎狼や獅子熊や 大蛇の霊諸共にこれの霊地を蹂躙し 兎や鰐の一族を滅亡させむと迫り来る 其災害を遁れむと朝な夕なに言霊の 稜威の祝詞を奏上し漸く無事に来りけり 然るに又もや四方の山峰の尾の上に曲津神 雲霞の如く攻め来り此聖場を奪はむと 息まき来る物凄さ吾等四人は村肝の 心の限りを尽しつつ暗祈黙祷やや暫し 勤むる折しも西北の空を隔てし屏風山 帽子ケ岳の頂上より琉と球との霊光は 電火の如く輝きて魔神の咆哮一時に 跡形もなく止みにけりあゝ惟神々々 如何なる神の御救ひか如何なる人の救援か げに有難き今日の宵竜国別は謹みて 皇大神の御前に心を清め身を浄め 遥に感謝し奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 斯く感謝の言霊を宣り上げ、再び月の大神の神前に向つて拍手を終り、兎の王に一先づ安堵すべき事を宣示した。兎の王は喜び勇んで此旨を部下に伝達せり。 鰐の頭此処に現はれ来り、大に勇みて、 鰐の頭『斯く天祐の現はれ来る限りは、吾等は湖辺に陣を取り、虎、狼、獅子、熊、大蛇の群、仮令幾百万襲ひ来るとも、これの湖水は一歩も渡らせじ、御安心あれ兎の王よ』 と勇み立ち、帽子ケ岳より輝き来る霊光に向つて感謝し、一同は歓声を挙げて天祐を祝し、其夜は無事に明かす事とはなりぬ。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 14 山上の祝 第一四章山上の祝〔九〇五〕 神代の昔高天にて五六七の神と現はれし 瑞の御霊の月神が大海原に漂へる 高砂島の秘密郷ブラジル国に名も高き アマゾン河の南北に聳り立ちたる大森林 広袤千里の中心に貴の聖地を形造り 月の御霊の天降りこれの聖地を悉く 兎の王に与へられ千代の棲処と定めつつ 月大神を朝夕に心の限り伏し拝み 斎き祀れる折柄に常世会議の其砌 武備撤回の制定に翼はがれし猛獣は 常世の国を後にしてブラジル国に打渡り 此森林に襲ひ来て心正しき兎の族を 虐げ殺して餌となし日に日に募る暴虐に 正しき兎は九分九厘彼等が毒牙にかかりつつ 種族も絶えむとする時に綾の聖地を後にして 現はれ来る三五の神の司の鷹依姫や 竜国別の一行が目無し堅間の船に乗り 大激流の氾濫し伊猛り狂ふアマゾン河を 溯りつつ南岸に辿りてここに一行は 兎の王に迎へられ月の御神を祀りたる 聖地にやうやう辿りつき虎狼や獅子に熊 大蛇禿鷲其外の禽獣虫魚に至る迄 神の恵の言霊に言向け和し今は早 時雨の森は天国の春を楽む真最中 鷹依姫の後を追ひはるばる探ね来りたる 三五教の神司高姫、常彦、春彦が 神の伊吹に服従ひて茲にいよいよ十二人 アマゾン河に立出でて天津御神の賜ひてし 貴の言霊宣りつればモールバンドやエルバンド 其他の怪獣悉く神の恵に悦服し 霊を清め天上に雲を起して舞ひ上り 尊き神の御使となりて風雨の調節に 仕へ奉るぞ尊けれテーリスタンやカーリンス 竜国別を始めとし心の空も安彦や 胸凪ぎ渡る宗彦が清き心の秋山別の 神の司と諸共に教を固くまモリスの 案内につれて屏風山果てしも知らぬ山脈の 空に秀でていと高き帽子ケ岳の霊光を 杖や力と頼みつつ神の恵に抱かれて 山河渡り谷を越え嶮しき坂をよぢ登り ここに十二の生身魂帽子ケ岳にをさまりて 時雨の森の神軍に光を与へ助けたる 言依別の大教主国依別の神司 二人が前に辿りつき宏大無辺の神恩を 感謝しながらウヅの国都を指して進み行く あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ。 十二人の一行はアマゾン河の魔神を言向け和し、各自に霊魂の行末を明かに諭し、且つ救ひの道を開き、琉と球との霊光に照らされ、意気揚々として宣伝歌を歌ひながら、山川渓谷を跋渉し、やうやくにして、帽子ケ岳に止り、種々の神策を行ひ、神軍応援に従事しゐたる教主言依別命、国依別命の前に帰り来り互に其無事を祝し、成功をほめ、感謝の涙を流しつつ互に打解け、喜び勇んで帽子ケ岳の頂上に、国魂神の神霊を祀り、感謝の祝詞を奏上し、凱旋の祝を兼ね、あたりの木の実を採収し来りて各其美味をほめ、ここに山上の大宴会は開かれにける。 然るに、時雨の森の北の森林に向ひたる正純彦、カール、石熊、春公の一隊は何の消息もなく、一日待てども二日待てども、帰り来るべき様子さへなかりける。 ここに言依別命が国魂神を厚く念じ、一同神楽を奏し、言霊歌をうたひて、正純彦一行が、無事此処に帰り来るべき事を十二の身魂を合せて、熱心に祈願をこめつつありぬ。 一行四人は大森林を右に左に駆巡り、高姫一行の在処を捜し求むれども、音に聞えし数百里の大森林、容易に発見すべくもあらず、殆ど絶望の淵に沈み、一行四人は双手を組んで、以前春彦、ヨブが暫し休息したる頭欠け石地蔵の傍に惟神的に引寄せられ、石地蔵より、高姫、鷹依姫以下十人、アマゾン河の魔神を言向け和し、今や帽子ケ岳に向つて凱旋の途中なることを詳細に解き諭され、喜び勇んで、帽子ケ岳さして、三日遅れた夕暮に漸く山上に辿りつき、言依別命以下の無事を祝し、ここに一行十八人となり、賑々しく屏風ケ岳の山脈を降りて長き原野をわたり、ブラジル峠を乗越え、暑熱の太陽に全身をさらしながら、漸くにしてウヅの都の末子姫が館に凱旋する事となりたり。 (大正一一・八・二三旧七・一松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 15 万歳楽 第一五章万歳楽〔九〇六〕 五六七の神世を松代姫心も直なる竹野姫 一度に開く梅ケ香姫の貴の命の御父と 現はれまして高砂のウヅの都に神館 開きて世人を導きし桃上彦の神司 五月の姫と諸共に神の御言を蒙りて 黄泉の島に出陣し親子夫婦が抜群の 功を立てて其ほまれ四方に輝き給ひたる 正鹿山津見神の主教の司の国彦に ウヅの館を任せつつ遠く海原打渡り 今は再度ヱルサレム貴の聖地にましまして 三五教の御教を完全に委曲に開きましぬ 心も清き国彦の長子と生れし松若彦は 父の言葉を畏みてウヅの館に謹みて 皇大神の正道を四方に伝ふる折柄に 神素盞嗚大神の貴の御子とあれませる 八人乙女の末子姫捨子の姫を伴ひて 潮の八百路を打渡り光り輝き降りまし 神の教は遠近に栄えて四方の国人は 神の恵と末子姫が尊き政治に悦服し 互に歓ぎ喜びつ松の神世を立てゐたる 時しもあれや三五の神の教の大教主 言依別の神司錦の宮を立出でて 玉照彦や玉照姫の貴の命の神勅を 守りてここに出でましぬ末子の姫を始めとし 松若彦や其外の神の司は喜びて 言依別の教主をば生きたる神と尊敬し 教の花は四方八方に匂ひ栄ゆる折柄に アマゾン河の森林に神を言向け和さむと 立向ひたる神司国依別を始めとし 鷹依姫や高姫が言霊戦を助けむと 正純彦の神司カール、石熊、春公の 三人[※初版や愛世版では「四人」だが、校定版や八幡版では「三人」になっている。第32巻第14章には「時雨の森の北の森林に向ひたる正純彦、カール、石熊、春公の一隊は」「一行四人は」と書いてあり、正純彦の供は3人であることは明白である。読者の混乱を避けるため、霊界物語ネットでは校定版と同様に「三人」に直すことにした。]の供を引率し夜を日についで山河を いくつか渉り屏風山大山脈の中央に 雲を圧して聳え立つ帽子ケ岳に立向ひ 国依別に面会し琉と球との宝玉の 珍の霊光発射して時雨の森に潜みたる 猛獣大蛇は云ふも更モールバンドやエルバンド 其外数多の曲神に向つて戦ふ神軍を 帽子ケ岳より射照らして言向け和し大勝利 雲の上迄立て給ふ其言霊の尊さに 高姫一行其外の数多の司は勇み立ち 帽子ケ岳を指してここに漸く寄り来り アマゾン河の水流が帯の如くに流れたる 景色を眺めて言霊の太祝詞言奏上し 言依別や国依別の琉と球との神人を 始めて外に十六の神の司と諸共に 末子の姫の守りますアルゼンチンの大都会 ウヅの館に悠々と凱歌を奏して帰ります 其御姿の勇ましさ末子の姫を始めとし 松若彦や捨子姫其外数多の神司は ウヅの都の国人を数多伴ひ出で迎へ 無事の凱旋祝しつつウヅの館に迎へ入る アルゼンチンの開けてゆかかる例しもあらたふと 此世を造り固めたる国治立大神や 豊国姫大御神金勝要大御神 日の出神や木の花の神の命も勇み立ち 五六七の神世は目のあたり開けましぬと喜びて 百の正しき神司これの聖地に遣はして 神の軍の凱旋を喜び祝ひ給ひけり 歓呼の声は天地に響き渡りて高砂の 島もゆるがむ許りなりあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして言依別や国依別の 高砂島の大活動神素盞嗚大神の はるばる此処に現れまして神世の仕組をなし給ふ 清き尊き物語完美に委曲に細やかに 言霊車遅滞なくころばせ給へ惟神 神の御前に瑞月が畏み畏み願ぎまつる。 末子姫は、言依別命一行の凱旋を祝し、金扇を拡げ、自ら歌ひ自ら舞ひ給ふ。 末子姫『世は久方のいや尊き綾の高天を立出でて 高砂島の民草を仁慈無限の大神の 貴の光りに照らさむと言依別の神司 国依別と諸共に目無し堅間の船に乗り 旭もテルの港まで海路を渡り来りまし ヒルとテルの国境三座の山[※御倉山のこと]の谷間に 瀕死に悩む国人を尊き神の御教に 霊肉共に救ひつつ国依別に立別れ あなた此方と廻りまし数多の国人救ひつつ 虎狼や熊獅子の伊猛り狂ふ荒野原 渉り給ひてやうやうにウヅの都に出でまして 玉照彦や玉照姫の神の教をま詳さに 開かせ給ふ時もあれ此世を洗ふ瑞御霊 父大神の御言もて捨子の姫の口を借り 宣らせ給ひし太祝詞畏みまつりて言依別の 神の命は神館立出で給ひ正純彦の 教司を始めとしカール、石熊、春公の 四人の供を従へてアマゾン河の南北に 展開したる大森林伊猛り狂ふ猛獣や モールバンドやエルバンド言向け和し給ひつつ 兎の都に祀りたる瑞の御霊の月の神 尊き御稜威を畏みて帽子ケ岳の頂上より 琉と球との霊光を照り合はしつつ永久に 百の霊を治めまし凱歌をあげて今ここに 帰り来ませる嬉しさよあゝ惟神々々 御霊幸はひましましてウヅの都は永久に 治まる常磐の松代姫清くすぐなる竹野姫 梅ケ香姫の一時に御稜威も開きて桃の実の 大加牟豆美と現れまして黄泉戦に大殊勲 立てさせ給ひし其如く末子の姫を始めとし 言依別や国依別の貴の命の御功績 天地と共に永久に月日の如く明かに 照らし給へよ天津神国津神たち八百万 国魂神の竜世姫月照彦の御前に 末子の姫が慎みて請ひのみまつり三五の 神の教はいつ迄もすぼまず散らず時じくの 香具の木の実の花の如薫りしげらせ給へかし あゝ惟神々々皇大神の御前に 言霊清く願ぎまつる』 と歌ひ終り、一同に会釈して、神素盞嗚大神の鎮まります奥殿さして進み入る。 (大正一一・八・二三旧七・一松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 16 回顧の歌 第一六章回顧の歌〔九〇七〕 ウヅの神館の八尋殿に、末子姫の発起として大歓迎会は開かれ、言依別命は立つて、簡単なる祝歌を歌ひ給ふ。 言依別命『此世を造り固めたる 厳の御霊とあれませる 国治立の大神は 百八十国の神人を おいずまからず永久に 五六七の神世に救はむと 天地の律法制定し 清き教を立て給ひ 豊国姫の大神は 瑞の御霊と現はれて 錦の機を織らせつつ 天教地教の神の山 堅磐常磐に鎮まりて 貴の聖地と諸共に 教を開き給ひける 時しもあれや天足彦 胞場姫二人の霊より 生れ出でたる曲津神 八岐大蛇や醜狐 曲鬼共の現はれて 豊葦原の瑞穂国 隈なく荒び猛りつつ 神の依さしの八王神 八頭神まで籠絡し 追々勢力扶植して 塩長彦を謀主とし 国治立の大神が 此世を遂に退隠の 余儀なきまでに至らしめ 世は刈菰の乱れ行く あゝ惟神々々 神の主なる厳御霊 国治立の大神は 天教山の火口より 身を跳らして根の国に 一度は落ちさせ給へども 此世を思ふ真心の 凝り固まりて身を下し 野立の彦と現はれて 豊国姫の化身なる 野立の姫と諸共に 天教地教の両山に 現はれ給ひて三五の 教を開き給ひけり 再び厳の御霊を 分けさせ給ひて埴安彦の 厳の御霊や姫命 時節をまちてヱルサレム 黄金山下に現はれて 救ひの道を宣べ給ふ 其御心を畏みて 国大立の大神の 四魂の神とあれませる 御稜威も殊に大八洲彦 神の命や大足彦の 神の命の神司 神国別や言霊別の 瑞の御魂と現はれて 茲に再び三五の 清き教を四方の国 開き給ひし尊さよ 国大立の大神は 神素盞嗚の大神と 現はれまして許々多久の 罪や汚穢を一身に 負はせ給ひて天地の 百神等の罪科を 我身一つに引き受けて 八洲の国に蟠まる 八岐大蛇や醜神を 天津誠の大道に 言向け和して助けむと いそしみ給ふぞ尊けれ ウブスナ山の斎苑館 此処に暫く現れまして 日の出別の命をば 後に残して皇神は いろいろ雑多に身をやつし 島の八十島八十の国 大海原を打ちわたり 自転倒島に出でまして 貴の霊場と聞えたる 綾の聖地に上りまし 四尾の山に潜みます 国治立の御化身 国武彦の大神と 互に心を合せつつ 経と緯との糸筋を 整へ給ひて世を救ふ 錦の機を織り給ふ 錦の宮の神司 玉照彦や玉照姫の 貴の命にかしづきて 八尋の殿に三五の 神の教を開きつつ 教主の役を任けられて 教を開きゐたりしが 厳の御霊や瑞御霊 経と緯との大神の 御言畏み聖地をば 後に眺めて和田の原 渉りてここに来て見れば 思ひがけなき瑞御霊 神素盞嗚の珍の子と 生れ給ひし末子姫 桃上彦の鎮まりし 教の館に現はれて 神の教を楯となし 恵の露を民草の 頭に下し給ひつつ 五六七の神世の有様を 今目のあたり開きます 斯かる尊き霊場に 参り来りし楽しさよ 時しもあれや素盞嗚の 神の尊ははるばると これの館に出でまして 捨子の姫に神懸り[※初版・愛世版は「神懸り」、校定版は「帰神(かむがか)り」。] アマゾン河の曲神を 言向け和し救へよと 宣らせ給ひし言の葉を 謹み畏み屏風山 帽子ケ岳に立向ひ 国依別に巡り会ひ 琉と球との霊光に 数多の魔神を言向けて 目出度く凱歌を奏しつつ 十八柱の神の子は ウヅの館に安々と 帰りて見れば有難や 神素盞嗚の大御神 はるばる此処に出でまして 憩はせ給ふ嬉しさよ あゝ惟神々々 御霊幸はひましまして 高砂島は云ふも更 豊葦原の瑞穂国 百八十島の果て迄も 恵の露に潤ひて 世は泰平の花開き 梅の香りの五六七の世 松の操のいつ迄も 色も変らず永久に 栄えましませ惟神 神の御前に願ぎまつる 朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも 誠の力は世を救ふ 誠の神は今ここに 現はれ給ひし上からは 天地と共に永久に 神の言葉は失せざらむ 厳の御霊や瑞御霊 金勝要の大御神 日の出神や木の花の 咲耶の姫の神力は 竜宮海の底深く 天教山の空高く 千代に八千代に揺ぎなく 輝き渡り天地の 光となりて輝かむ あゝ惟神々々 神の尊き御恵を 謹み感謝し奉り 神の司を始めとし 四方の民草悉く 神の恵を嬉しみて 常磐の松のいつ迄も 変らざらまし高砂の 島根に生ふる青松の 梢に鶴のすごもりて 名さへ目出度き尉と姥 亀の齢のどこ迄も 大海原の波清く 吹く風さへも朗かに 静まりませと祝ぎまつる あゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ了り、末子姫の後を逐ひて、神素盞嗚大神の休ませ給ふ奥殿指して進み入る。 国依別は立上り、金扇を開いて祝歌を歌ひ且つ舞ひ始めた。其歌、 国依別『錦の宮を立出でて言依別の大教主 高砂島に出でませる御供に仕へまつりつつ 波間に浮ぶ琉球の宝の島に上陸し 琉と球との玉を得て棚無し船に身を任せ 伊猛り狂ふ荒浪を乗り切り乗り切り高砂の 島の手前に来て見れば高姫一行暗礁に 船を乗上げ浪の上渡りて進む時もあれ 山なす浪に襲はれて命危く見えければ 高島丸の船長に命じて船に救はしめ テルの港に来て見れば先頭一に高姫は 常彦、春彦伴ひて姿を早く隠しける 言依別の神司われを伴ひ三座山[※御倉山のこと] 国魂神を祀りたる竜世の姫の神霊地 集まり来る国人の霊と肉とを救ひつつ 暫く此処に止りて誠の道を宣り伝へ それより進んでヒルの国楓の別の永久に 鎮まりいます神館に出で行く折しも天地は 震ひ動きて山は裂け河は溢れて人々の 住家は砕け諸人は水と炎に包まれて 苦み悶ゆる憐れさよ楓の別の妹なる 紅井姫の命をば艱みの中より救ひ出し ヒルの館に立向ひ稜威の言霊宣り上げて 天変地妖を鎮定し館を立ちてアラシカの 峠を越えて日暮しの館に教を開きたる ウラルの道の神司ブール其他の人々に 神の教を宣り伝へ紅井姫やエリナ姫 二人の女性を預けおき又もやここを立出でて 安彦、宗彦従へつブラジル峠に差しかかり 丸木の橋を危くも生命カラガラ打ちわたり シーズン川を乗越えて帽子ケ岳に立向ひ 別れて程経し神司言依別に巡り会ひ 手を握りたる楽しさよ琉と球との霊光に アマゾン河や森林の数多の魔神を言霊の 御水火に助けしづめつつ凱歌をあげて十八の 神の柱は潔くウヅの館に来て見れば 思ひ掛なき末子姫捨子の姫と諸共に 貴の教をひらきまし松の神代と栄えゆく 其目出度さは言の葉の尽す限りにあらじかし 心静かな国彦が御子の松若彦の神 主の君に能く仕へ治まるこれの神館 来りて見れば瑞御霊神素盞嗚大神は はるばるここに出でまして我等が言霊軍をば 遥に守り給ひつつ光り輝き給ふこそ 実に尊さの限りなれあゝ惟神々々 国依別の神司厳の御霊や瑞御霊 日の出神や木の花姫の貴の命の御前に 国魂神を通しつつ嬉しみ尊み祝ぎまつる 畏み尊み祝ぎまつる』 と歌ひ終り、欣然として奥殿に進み入る。 (大正一一・八・二三旧七・一松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 18 竜国別 第一八章竜国別〔九〇九〕 竜国別は銀扇を開き、自ら歌ひ自ら舞ふ。其歌、 竜国別『われは竜国別司ウラナイ教の高姫が 教を尊み畏みて心の駒を立直し 高城山の麓なる松姫館の門番と 仕へまつりて朝夕に鉄門を守る折柄に 三五教の教の御子馬と鹿との両人が 訪ね来れる様を見て門番共は猛り立ち いろいろ雑多の乱暴を加へて懲せど両人は 忍耐強く何事も神の心に任せゐる 其真心に感動し傲慢無礼を恥ぢながら 忽ち竜の真似をなし奥殿深く這ひ込めば 神罰忽ちめぐり来て吾々一同は畜生の 体と忽ち変じけり神の御国に生れたる 凡ての人は言霊や身の行ひを慎みて 清き人格保てよと示させ給ふ神教に 迷ひの雲も晴れ渡り松姫、お節の目の前で 神の使の神人に天地自然の真理をば 説き示されて三五の神の教に入信し 竜若司と呼ばれたる昔の名をば改めて 竜国別と名を賜ひ茲に尊き宣伝使 玉治別や国依別の教の司と諸共に 高春山に捉はれし高姫、黒姫両人を 救ひ出さむと立向ひ杢助、お初の応援に アルプス教の神司鷹依姫を言向けて 紫色の宝玉や高姫、黒姫両人を 此方に受取り鷹依姫の神の司をよく見れば 思ひ掛なき垂乳根の生みの母ぞと判明し 驚き喜び神恩を感謝しながら親と子が 三五教の人々と手を携へて綾錦 高天原の霊場に大宮柱太知りて 建ち並びたる神床に赤き心を捧げつつ 朝な夕なに親と子が心の限り身の限り 仕へまつれる折もあれ黒姫さまの保管せし 黄金の玉はいつの間か行方も知らず消え失せぬ 黒姫さまに疑はれ高姫さまに追ひ出され 親子は悲しきさすらひの旅に上りて宝玉の 在処を捜し高姫の疑念をはらし清めむと 棚無し船に身を任せ当所も波の上を漕ぎ 広袤千里の海原を難行苦行の末遂に 高砂島のテルの国テーリスタンやカーリンス 茲に四人の一行は恙もあらず上陸し 玉の在処を捜せども果てしも知らぬ大国を 仮令百年探るともいかでか捜し得べけむや 親子は首を傾けつ千思万慮の其結果 見込はアリナの滝の上親子の心を照らすなる 鏡の池に現はれて猿世の彦の旧蹟地 岩窟の側に草庵を結びて神を祀りつつ 鷹依姫の吾母を岩窟深く忍ばせて 権謀術数の悪業と心を悩ませ痛めつつ 一つの策をねり出してわれは審神者の役となり 母は月照彦となりテーリスタンやカーリンス 二人を言触れ神となし高砂島の全体を 月照彦大神に玉を献ぜし者あらば すべての願を叶へむと宣らせ給ふと触れまはし 其効空しからずして遠き近きの国々の 種々の玉をば携へて詣で来れる可笑しさよ 心の底は何となくウラ恥かしく思へども 黄金の玉の行方をば探らむ為の此手段 吾真心を天地の神も照覧ましまさむ あゝ惟神々々広き心に宣り直し 善きに見直し聞直し黄金の玉を一日も 早く取寄せ給へよと祈る折しもヒルの国 テーナの里の酋長が献りたる黄金の 玉に喉をば鳴らしつつ夜陰に紛れてアリナ山 一行四人打ちわたり荒野ケ原に露の宿 借る折もあれ木の花の神の命の御化身に 戒められて改心し原野を渉り海を越え アマゾン河を溯り時雨の森の南森 兎の一族住まひたる青垣山の聖場に 立現はれて諸々の鳥獣に三五の 誠を諭し言霊の威力を示す折柄に 帽子ケ岳のあたりより輝き来る霊光に 吾等一同勇み立ち月大神の御前に 感謝祈願をなせる折三五教の高姫が 数多の司を従へて波立ち狂ふ激流を 鰐の族に助けられ厳言霊を宣りながら 進み来るぞ嬉しけれここに吾等は雀躍し 大森林の禽獣に神の教を蒙りて 一定不変の律法を制定しながらアマゾンの 河辺に潜む怪獣を言向け和し天国の 恵の光りを与へつつ茲に一行十二人 琉と球との霊光を目当となして西北の 雲間に近き大高山帽子ケ岳に駆け登り 言依別や国依別の神の命に面会し 嬉し涙に暮れながら互に無事を祝しつつ 前途の光明楽みて茲に一行十八の 身魂は山野を打渉り日数を重ねて漸くに ウヅの館に来て見ればげに有難き末子姫 捨子の姫と諸共に遠き浪路を打渡り ここに降臨ましまして治め給へる尊さよ 国彦司の貴の御子松若彦が忠実に いそしみ給ふ功績は月日の如く輝きて 怪しき雲の影もなく国人歓ぎ睦びつつ 高砂島の名に恥ぢずウヅの都の名も清く 栄えいませる其中に言依別の大教主 はるばる此処に下りまし神徳ますます赫灼に 輝きわたり給ひけりアマゾン河に迷ひたる 吾等一行助けよと神素盞嗚大神の 清き尊き神懸り[※初版・愛世版では「神懸り」、校定版では「帰神(かむがか)り」。]其御教を畏みて 自ら言依別神帽子ケ岳に登りまし 吾等一行は云ふも更アマゾン河や森林に 潜む曲津に無限なる仁慈の恵を垂れ給ひ 其神徳はいや高く帽子ケ岳の頂上に 光り輝き給ひけり頃しもあれや現世の 救ひの神と現れませる神素盞嗚大神は 高砂島に蟠まる醜の霊を言向けて 安きに救ひ助けむと天降りましたる尊さよ 思へば思へば罪深き吾等親子がはしなくも 尊き神にめぐり会ひ御影を拝する嬉しさは 仮令天地は変るとも千代に八千代に忘れまじ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 今日の親子が喜びを幾千代迄も変りなく 恵ませ給へ惟神神の御前に願ぎまつる 神の御前に願ぎまつる』 と歌ひ終り、自席に着きぬ。 (大正一一・八・二四旧七・二松村真澄録)
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霊界物語 33_申_玉の御用の完了/高姫と黒姫の過去 16 暗夜の歌 第一六章暗夜の歌〔九三一〕 斯く話す中、日は西海の波に没し、暗の帳は刻々に辺りを包んで来た。船客は何れも誰彼の区別を知らず、各自に頬杖をつき眠りについた。暗の中より女の声として一種の歌が聞えて来た。其歌、 高姫『思ひまはせば去年の夏金剛不壊の如意宝珠 麻邇の宝に村肝の心を曇らせ高姫は 言依別の後を追ひ瀬戸の海をば船出して 波に泛べる大小の島根を尋ねて宝玉の 所在を探り索めつつ棚無し舟に身を任せ 常彦、春彦諸共に高砂島の近くまで 来る折りしも過ちて岩に御舟を砕きつつ 進退谷まる時もあれ高島丸の船長に 救ひ上げられ漸くにテルの国まで安着し 言依別や宝玉の所在を捜し索めつつ 鏡の池や荒野原時雨の森に立向ひ 心を配り身を砕きウヅの都に立向ひ 国依別や末子姫妹背の縁を結び昆布 其宴席に列なりて神素盞嗚大神の 尊き姿に拝謁し茲に一行六人は ウヅの都を後にしてテル山峠の峻坂を 漸く登り息休め西へ西へと降り行く 音に名高き大瀑布乾の滝に立向ひ 御禊をなさむと飛込めば底ひの水に流されて 波漂へる玉の池いつの間にやら流れ行く 心の空もうとくなり途方に暮るる折りもあれ 清子の姫や照子姫ここに現はれましまして 吾をば救ひ玉ひつつ乾の滝の麓まで 送り玉ひし嬉しさよあゝ惟神々々 神の恵は目のあたり鷹依姫の一行と 無事の対面し乍らも心いそいそ峻坂を 下りてハラの港まで到りて見れば折よくも 高島丸は今すでに出帆せむとする処 神の恵と雀躍りし一行これに乗込めば 思ひも寄らぬ松さまが国依別や松若の 彦の司の内命で此高姫が行動を 監視遊ばすけなげさよ乾の滝に研きたる 此高姫の神身魂月日の如く輝きて 塵も芥も雲霧も払拭したる今日の空 心を配らせ玉ふまじあゝ惟神々々 尊き神の御光に照らされ帰るテルの国 ハラの港を後にして汐の八百路を打渡り 自凝島の中心地錦の宮を祀りたる 綾の聖地へ帰り行く吾身の上ぞ楽しけれ 吾身の上ぞ楽しけれ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 三五教の神の道清く悟りし高姫は いかで心の変らむや研きすました此身魂 金剛不壊の宝珠より麻邇の玉よりいちじるく 閃きわたる今日の空数多の星のピカピカと 照すはおのが心かな神は吾等と倶にあり 吾は神の子神の宮高天原に千木高く 大宮柱太しりて仕へ玉ひし玉照彦の 貴の命や玉照姫や其外数多の神司 教の御子を初めとし心汚き高姫が 今まで作りし罪科を神の御前や人の前 さらけ出して許々多久の罪や汚れを払ふべし あゝ惟神々々高島丸の船の上 遠く御空を伏拝み深く海底拝みつつ 心の中の誠をばここに現はし奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と改心の歌を歌つてゐる。此歌を聞いた松彦は又もや暗の中より歌ひ始めたり。 松彦『松若彦の家の子と仕へまつれる松彦が 高姫さまの歌を聞き感謝の余り今ここに 委細を白状致します言依別の神様の 仰せられたるお言葉に高姫さまは何うしても 玉に執着強くして到底、改心むつかしい 言依別もそればかり日夜に心配致し居る 高姫さまが此砌自凝島へ帰りなば 麻邇の宝珠の所在をば知らせて手柄をさせたいと 心は千々に逸れども安心ならぬ高姫が 心を包みし八重曇り晴らさむ由もなき儘に 神素盞嗚大神の御後に従ひフサの国 斎苑の館に進み行く汝松彦慎みて 高姫さまの乗りませる高島丸に身を任せ 其行動を監視していよいよ無垢の精神に 返られたりと見た上は由良の港に立向ひ 秋山彦に言依別の神の司の言伝を 完全に詳細に物語り宣らせ玉ひし言の葉を 諾ひまつり今ここに高島丸に打乗りて 来りて見れば高姫が心の底より改めて 罪をわびたる健げさよあゝ惟神々々 高姫さまが真心に復り玉へば世の中は 雲霧四方に吹散りて五六七の御世は明かに 堅磐常磐に立つならむさはさり乍ら言依別の 神の司の御教は固く守りてどこ迄も 自凝島に至る迄明しかねたる吾秘密 テーリスタンの神司何程勧め玉ふとも ただ一厘の此秘密まだまだ明かすこた出来ぬ あゝ高姫よ高姫よ今の心を永久に 変らず動かず守りまし松の神世の太柱 清きほまれを身に負ひて神の御為世の為に 身魂を研かせ玉へかし松彦、鶴彦両人は 汝が身の後に付添ひて高姫さまの使命をば 果たさせ奉る吾覚悟悪しく思はせ玉ふまじ あゝ惟神々々高島丸の船の上 心の丈を打あけて神に誓ひて宣り上ぐる 神に誓ひて宣り伝ふあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 又もや暗中より歌聞えて来たりぬ。 竜国別『自凝島の聖地をば竜国別の宣伝使 鷹依姫と諸共に高姫さまに疑はれ 親子は疑団を晴らさむと大海原を打わたり 難行苦行の末遂に高砂島に漂着し いろいろ雑多と気をもみて玉の所在を尋ねつつ アマゾン河に打向ひ神の恵をまつぶさに 禽獣虫魚に注ぎつつ又もや此処を立出でて ウヅの都に立向ひ神素盞嗚大神や 末子の姫に拝謁し目出たき席に列ねられ 高姫さまと諸共に山野を渡り河を越え 乾の滝に立寄りて互に魂を洗ひつつ 漸くハラの港まで一行六人辿りつき 高島丸に乗せられて自凝島へ帰り行く 此船中にはしなくも松彦さまが乗りあはし 鷹依姫や高姫の噂をなさる不思議さに 耳をすまして聞き居れば言依別の神司 深き思ひをめぐらして遣はし玉ひし松彦の 神の司と聞きしより心も勇み気も勇み 名乗り上げむとする時に夜の帳はおろされて 黒白も分かぬ真の暗忽ち聞ゆる高姫の 詐りのなき物語歌に装ひて宣り玉ふ あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 高姫さまの真心を初めて聞きし心地して 其嬉しさは限りなく御空を拝し地を拝し 感謝の涙せきあへずここに言霊宣りあぐる あゝ高姫よ高姫よ今の心を永久に 動かず違へず三五の誠の道にまつろひて 五六七の御代の神柱広く太しく立てませよ 竜国別が真心をこめてぞ祈り奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひつつ船は暗の海面を、帆を孕ませ数多の船客の鼾を乗せて西へ西へと辷り行く。 (大正一一・八・二八旧七・六松村真澄録) 『本日大正日々新聞社長床次正広氏湯ケ島へ来訪即日帰阪す。 大本二代教主渡辺淳一氏を伴ひ帰綾す』
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霊界物語 33_申_玉の御用の完了/高姫と黒姫の過去 26 若の浦 第二六章若の浦〔九四一〕 秋も漸く高くして四方の山辺に佐保姫の 錦織出し小男鹿の妻恋ふ声を聞き乍ら 心あうたる夫婦連れ国玉別や玉能姫 駒彦さまと諸共に数多の信者に送られて 球の玉をば捧持しつ再度山の山麓に たちたる館を後にして少しは名残を惜しみつつ 生田の森をくぐりぬけ夜を日についで紀の国の 若の浦へと着きにける。 若の浦は昔は豊見の浦といつた。国玉別命が球の玉を捧じ、樟樹鬱蒼として茂れる和田中の一つ島に稚姫君命の御霊を球の玉に取りかけ斎祀つてより、豊見の浦はここに若の浦と改称する事となつたのである。此の島を玉留島と名づけられた。 玉留といふ意義は玉を固く地中に埋め、其上に神社を建てて永久に守るといふ意味である。今は此玉留島は陸続きとなつて、玉津島と改称されてゐる。 此辺りは非常に巨大なる杉の木や楠が大地一面に繁茂してゐた。太い楠になると、幹の周囲百丈余りも廻つたのがあつた。杉も亦三十丈、五十丈の幹の周囲を有するものは数限りもなく生えてゐた。自転倒島に於て最も巨大なる樹木の繁茂せし国なれば、神代より木の国と称へられてゐたのである。 大屋比古の神などは此大木の股よりお生れになつたといふ事である。また木股の神といふ神代の神も大木の精より現れた神人である。 近代は余り大木は少くなつたが、太古は非常に巨大なる樹木が木の国のみならず、各地にも沢山に生えてゐたものである。植物の繊維が醗酵作用によつて虫を生じ、其の虫は孵化して甲虫の如き甲虫族を発生する如く、古は大木の繊維により風水火の醗酵作用によつて、人が生れ出た事も珍しくない。又猿などは随分沢山に発生したものである。 天狗を木精といふのは木の魂といふ事であつて樹木の精魂より発生する一種の動物である。天狗は人体に似たのもあり、或は鳥族に似たのもある。近代に至つても巨大なる樹木は之を此天狗の止まり木と称へられ地方によつては非常に恐れられてゐる所もある。現代に於ても大森林の大樹には天狗の種類が可なり沢山に発生しつつあるのである。 斯の如き事を口述する時は、現代の理学者や植物学者は、痴人の夢物語と一笑に付して顧みないであらうが、併し天地の間はすべて不可思議なものである。到底今日の所謂文明人士の智嚢では神の霊能力は分るものではない事を断言しておく。 さて国玉別、玉能姫は此島に社を造りて、球の宝玉を捧按し、之を稚姫君の大神と斎祀り、傍に広殿を建て、ここにありて三五教の御教を木の国一円はいふも更なり伊勢、志摩、尾張、大和、和泉方面まで拡充したのである。 国玉別は宮殿を造り玉を納めて天津祝詞を奏上し、祝歌を歌ふ。其歌、 国玉別『朝日のたださす神の国夕日のひてらす珍の国 自凝島のいや果てに打寄せ来る荒波の 中に浮べる珍の島下津磐根はいや深く 竜宮の底まで届くなり千引の岩もて固めたる 此珍島は神国の堅磐常磐の固めぞや 皇大神の御言もて琉球島より現れし 球の御玉を今ここに大宮柱太知りて 高天原に千木高く仕へまつりて永久に 納むる今日の目出たさよ此神国に此玉の 鎮まりゐます其限り自凝島はいや固く 波も静かに治まりて青人草は日に月に 天津御空の星の如浜の真砂も数ならず 栄えて行かむ神の国朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも大地は泥にひたるとも 球の御玉をかくしたる此珍島は永久に 水に溺れず火にやけず国の守りとなりなりて 国玉別や玉能姫仕へまつりし功績を 千代に八千代に止むべしあゝ惟神々々 御霊幸ひましまして皇大神の守ります 三五教は天の下四方の国々隈もなく 伊行きわたらひ神人はいと安らけく平けく 五六七の御代を楽しみて鳥獣はいふもさら 草の片葉に至るまで各々其所を得せしめよ 球の御玉に取かけし稚姫君の生御霊 木の神国に鎮まりて押しよせ来る仇波を 伊吹払ひに吹き払へ自凝島は永久に 栄え栄えて神人のゑらぎ楽しむ楽園地 天国浄土の有様をいや永久に保ちつつ 千代に栄えを松緑世はくれ竹の起きふしに 心を清め身を浄め仕へまつらむ夫婦連れ 心の駒彦潔く神の御前に服ろひて 恵も開く梅の花一度に薫る時津風 松の神代の礎を樟の木の根のいや固に 杉の木立のすぐすぐと守らせ給へ惟神 神の御前に願ぎまつる神の御前に願ぎまつる』 と歌ひ終り拍手再拝して、傍の樟の根に腰打かけた。玉能姫は又歌ふ。 玉能姫『南に広き海をうけ東に朝日を伏し拝み 西に二日の月を見る此珍島に畏くも 稚姫君の御霊魂斎きまつりて三五の 神の司の宣伝使国玉別や玉能姫 心の駒彦諸共に大宮柱太しりて 朝な夕なに仕へゆく其神業ぞ尊けれ 天教山に現れませし神伊邪諾大御神 神伊邪冊大御神日の出神や木の花の 咲耶の姫の御言もて天の下なる国々を 開き給ひし神の道神素盞嗚大神の 瑞の御霊は畏くも高天原を退はれて 大海原の国々を巡り給ひて許々多久の 教司を配りつつ数多の神や人々を 教へ導き鳥獣虫けら草木に至るまで 恵の露をたれ給ひコーカス山や斎苑館 綾の聖地に天降りまし仁慈無限の神徳を 施し玉ふ有難さ妾も同じ三五の 神の大道の宣伝使大海原を打渡り 山川幾つふみ越えてやうやく玉能の姫となり 生田の森に年永く仕へまつりし折もあれ 夫の命の若彦は言依別の御言もて 琉球の島より宝玉を捧じて目出たく再度の 山の麓の神館生田の森に帰りまし ここに夫婦は同棲の恵に浴し朝夕に 琉と球との神宝を固く守りて居る間に 玉照彦や玉照姫の貴の命の御言もて 生田の森の館をば高姫司に相渡し 琉の玉をば残しおき球の神宝を捧持して 木の神国に打渡り大海原に漂へる 堅磐常磐の岩が根に宮居を建てて厳かに 稚姫君の御霊とし仕へまつれと宣り給ふ あゝ惟神々々神の御言はそむかれず 住なれかけし館をば後に見すててはるばると 此島国に来て見れば思ひもよらぬ珍の国 木々の色艶美はしく野山は錦の機を織り 川の流れはさやさやと自然の音楽奏でつつ 天国浄土の如くなり殊に尊き此島に 珍の社を建て上げていや永久に守る身は げにも嬉しき優曇華の花咲く春に会ふ心地 皇大神の御恵の深きを今更思ひ知り 感謝の涙しとしとと口には言はれぬ嬉しさよ 稚姫君大御神汝が命は此島に いや永久に鎮まりて普く世人の身魂をば 守らせ給へ惟神神の御前に只管に 玉能の姫が願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終り、永久に此島に鎮まり神業に奉仕する事とはなりける。 (大正一一・九・一九旧七・二八松村真澄録) (昭和一〇・六・一〇王仁校正)
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霊界物語 36_亥_シロの島の物語 24 三六合 第二四章三六合〔一〇一二〕 キングス姫は立上り、銀扇を拡げて歌ひ舞ふ。 キングス姫『白雲山の山麓にそそり立ちたる神館 天地を包みし黒雲も今や全く晴れわたり 正義の光は日月の輝く御代となりにけり タールチンの吾夫はサガレン王に見出され 左守の神と任けられて朝な夕なに真心を 尽して仕へゐたりしが何処ともなく降り来る 曲の司の竜雲が舌の剣に貫かれ 其身も危くなりければバラモン教の大神に 朝な夕なに真心を捧げて祈りし時もあれ 心傲ぶる竜雲が妾に向つて恐ろしや 天地許さぬ恋雲の心汚き其艶書 吾背の君の目を忍びいらへをなせと迫り来る 余りの無道に呆れ果て天地に神はなきものか 誠の神のいますなら此黒雲を逸早く 晴らさせ玉へと祈る折吾背の君は側近く 進ませ玉ひて竜雲が艶書を見せよと恥かしや 迫りますこそ是非なけれ顔赤らめて竜雲が 心乱れし艶書を吾背の君に相渡し 夫婦和合の謀計茲に返書を認めて 恋に迷ひし竜雲を夏風涼しき藤の森 大木の下に誘ひつ企みも深き陥穽 道の真中に相穿ち今や遅しと待つ内に 神ならぬ身の竜雲はかかる企みのある事を 夢にも知らず夜に紛れ館を一人立出でて 恋しき女の只一人空を眺めてわれ待つと 思ひ詰めたる愚さよ竜雲忽ち坂路に 吾背の君の穿ちたる無残や穴におち込めば 木蔭に潜みしタールチン君の仇をば滅すは 今此時と勇み立ちかねて用意の鍬をもち 苦しみ悶ゆる竜雲の頭の上よりバラバラと 岩石交りの土塊を蔽ひかぶせて何気なく 吾家をさして帰りけり悪運尽きざる竜雲は 思ひ掛なくエームスの神の司に助けられ 命カラガラ城内に慄ひ慄ひて立帰り あくるを待つてエームスを吾側近く呼び出し 汝はわれの危難をば救ひし功績はよみすれど タールチンやテーリスと心を協せて吾身をば ベツトせむとの企みなりかくなる上は一時も 容赦はならぬと言ひ放ち情容赦も荒縄に 手足を縛りて牢獄に投込みけるぞ無残なれ あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 吾等夫婦は牢獄に捕へられたる身乍らも 少しの苦痛も感じなく神の賜ひし吾魂は 天地を広く逍遥し東雲近く旭かげ 昇らせ玉ひて六合を照らさむ時を待つ内に アナン、ユーズの神司義兵を起して城内に 鬨を作つて攻め来る其勢ぞ勇ましき 吾等夫婦は忠勇の神の司に助けられ サガレン王の隠れます小糸の里の岩窟に 暫しかくれて竜雲を誅伐せむと謀計 めぐらす折しも三五の神の司の宣伝使 北光神の現れまして神の誠の御心を 完美に委曲に説き諭し心にかかりし村雲を 洗ひ玉ひし嬉しさよサガレン王を始めとし 君子の姫や清子姫吾背の君やエームスや テーリス、ウインチ、ゼム、エール百の司と諸共に 言霊軍を編成し風に旗をば翻し 旗鼓堂々と山路を単縦陣をはり乍ら 攻めよせ来りし勇ましさ又もや北光彦神 ここに現はれましまして善悪正邪の道を説き 敵と味方の隔てなく心の空の村雲を 伊吹払ひて救ひまし神人和楽の瑞祥を 八尋の殿に集まりて祝ぎまつるぞ嬉しけれ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令命はすつるとも神の御為国の為 心尽しの大丈夫が神と君とに捧げたる 其真心は永久に千引の岩のいや固く 千代も八千代も動かざれ神は吾等を守ります 吾等は神の子神の宮神に等しき行ひを 現はしまつり世の人を神の大道に導くは 神の司と任けられし吾等の尊き務めなり 国治立大神や塩長彦大御神 大国彦の御前に真心捧げて願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 エームスは立上り祝歌を謡ふ。 エームス『常世の国の自在天大国彦を祀りたる バラモン教の神館顕恩城にあれませし 大国別の貴の御子国別彦の吾君は 心汚き曲神に虐げられて聖地をば 後に見すててはるばると百の悩みに堪へながら 大海原を乗越えて波に浮べるシロの島 珍の御国に着き玉ひバラモン教の大道を 心をつくして遠近に開かせ玉ふ有難さ セイロン島の国人は君の御徳を慕ひつつ 遠き近きの隔てなく集まり来りて大神の 恵に浴し吾君の其仁徳に感激し 遂には君を王となし大峡小峡の木を伐りて 珍の館を建設しサガレン王と奉称し 主師親三徳兼備せる神の司よ大君と 上下一般喜びて仕へまつれる時もあれ 醜の魔風のふきすさび隙行く駒の恐ろしく 城内深く侵入しケールス姫を手に入れて ウラルの教を隈もなく此国内に拡めむと 企みし曲津の竜雲が天運ここに相尽きて 今は全く旧悪を吾大君の御前に つつまずかくさず言上し救ひを求むる世となりぬ 思へば思へば過ぎし夜半月見をせむと藤の森 峰に上りて吹き来る夜風に汗を拭ひつつ 月の光をほめながら坂道下る折柄に 辷り落ちたる陥穽訝しさよと窺へば 思ひもかけぬ人の声こは何者の悪業か おちたる人は何人と供を家路に走らせて 鋤や鍬をば数多く使ひて漸く救ひ上げ 月にすかして眺むれば豈計らむや朝夕に 君に仇する曲津神心汚き竜雲と 悟りし時の残念さ斯うなる上は是非もなし 天地の神の御心に任さむものと断念し 家路に帰り一夜さを明かす間もなく竜雲が 捕手の奴に捕へられ案に相違の牢獄に 投込まれたる無念さよあゝさり乍らさり乍ら 神は至愛にましませばいかでか悪魔の竜雲を 見のがし玉ふ事やあるあゝ待て暫し待て暫し 心を清め身を清め尊き神の御救ひに これの牢獄をぬけ出しサガレン王の御為に 八岐大蛇の宿りたる醜神たちを悉く 神の伊吹に吹き払ひ清明無垢の聖場と 立直さむは目のあたりあゝ惟神々々 大国彦の御神よわれらが尽す誠忠を 憐み玉へと祈る折アナン、セールやウインチや ゼムの司が時を得て義勇の軍を編成し 進み来りて吾々を救ひ玉ひし嬉しさよ 勇気はここに百倍し勢込んで竜雲が 居室をさして進み行くあはれやユーズを始めとし アナン、セールやシルレング誠の司は室内の 俄作りの陥穽におち入り玉へば諸人は 曲の巣くへる此館深入りするは虞あり 一先づここを引返し再び軍備をととのへて 彼竜雲が輩を剣の威徳に斬りはふり 殲滅せむといひ乍ら軍を返すもどかしさ あゝ惟神々々神の此世にましまさば 悪を退け善神を何故助け玉はざる などと愚痴をばこぼしつつ思ひ思ひに一同は 一先づ姿をかくしけるサガレン王はテーリスや エームス二人に助けられ河森川の坂道を 下りて時を松浦の小糸の里に至りまし 正義の勇士を駆り集め再び竜雲誅伐の 準備をすすませ玉ふ折北光彦の神司 鳩の如くに降りまし続いていでます君子姫 清子の姫の宣伝使吾大君と諸共に 心を協せ御力を一つになして宣伝歌 歌ひて進む勇ましさ神の恵の幸はひて 今日の喜び松の世の堅磐常磐の礎を 築き玉ひて永久に白雲山の雲もはれ 神地の都の庭固く千引の岩の其上に 千代の住処を固めつつ神を敬ひ民を撫で 治め玉はむ今日の日は五六七の御代の開け口 一度に開く木の花の咲耶の姫の御姿 蓮の花の一時に匂ひ出でたる目出度さよ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 此の外数多の神司の祝歌は沢山あれども、紙面の都合に依りて省略したり。 因にサガレン王は天の目一つの神の媒酌に依り、君子姫を娶つて妃となし、シロの島に永久に君臨する事となりぬ。又エームスは目一つの神の媒酌にて清子姫を娶り、サガレン王が側近く右守神となつて、顕幽一致の神政に奉仕し、ケールス姫は悔い改め、天の目一つの神の弟子となり、宣伝使を許されて天の下四方の国々を巡教し、竜雲は此島を放逐され、本国印度に帰り、心を改めて大道の宣伝に従事せしといふ。惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・九・二四旧八・四松村真澄録)
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霊界物語 37_子_出口王仁三郎自叙伝1 11 松の嵐 第一一章松の嵐〔一〇二三〕 一週間の矢田の滝の行を終つてから、宮垣内の自宅に於て、喜楽は愈々神業に奉仕する事となつた。盲目や聾唖、リウマチ、其他いろいろの病人がやつて来て鎮魂を頼む、神占を乞ふ、何れも御神徳が弥顕だと云ふ評判が忽ち遠近に轟いて、穴太の天狗さまとか金神さま、稲荷さまなどといつて、朝から晩まで参詣人の山を築き、食事する間もない位、多忙を極めて居た。 例の次郎松サンがやつて来て、祭壇の前に尻を捲つてドツカと坐り、大勢の参拝者の中をも顧みず、真赤な顔して喜楽を睨みつけ、 次郎松『コリヤ極道息子、貴様は又しても山子商売をやる積りだな。ヨシ、今に化けの皮をヒン剥いて、大勢の前で赤恥かかして見せてやらう。それが貴様の将来のためにもなり、上田家の為めにもなるのだ。株内や近所へよい程心配をかけさらせやがつて、其上まだ狐使ひの真似をするとは何の事だ。何故折角ここ迄築きあげた、見込のある牧畜や乳屋を勉強せぬか。神さまだの、占だの、訳の分らぬ出鱈目を吐しやがつて、世間の人を誤魔かし、甘い事を仕様たつて駄目だぞ、尾の無いド狐とは貴様の事だ。貴様が本当に神様に面会が出来、又神様の教が伺へるのなら、今俺が一つ検査をしてやらう。万が一にも当つたが最後、俺の財産四百円の地価を残らず貴様にやる』 と口汚く罵り乍ら、湯呑みの中へ何か小さい物を入れて、其口を厚紙で貼り糊をコテコテとつけ、音をせぬ様に懐から出して前にソツと置き、 次郎松『サア先生、イヤ極道息子、指一本でも触る事はならぬ。此儘此湯呑みの中に、どんな物がどれ丈け這入つてをるかと云ふ事を、貂眼通とか鼬通とか云ふ先生、見事あてて見よ。これが当つたら、それこそ天が地になり地が天になる。お月さまに向つて放す弓の矢は中つても、こればつかりは滅多にあたる気遣ひはない。如何ですな、先生!』 と軽侮の念を飽迄顔面に現し、喜楽の顔を頤をしやくつて睨めつける。 喜楽『俺は神様の誠の教を伝へたり、人の悩みを助けたりするのが役だ。手品師の様に、そんな物をあてると云ふ様な事は御免蒙り度い。神さまに教へて貰ふた事はないから知りませぬ』 次郎松はシタリ顔で、一寸舌を出し頤を二つ三つしやくつて、 次郎松『態ア見やがれド狸奴、到頭赤い尻尾を出しやがつた。エー、おけおけ、此時節にそんな馬鹿の真似さらすと、此松サンがフンのばして了ふぞ。オイ狸先生、腹が立つのか、何だ、其むつかしい顔は……残念なか、口惜しいか、早く改心せい、ド狸野郎奴』 と益々傍若無人の悪言暴語を連発する。喜楽はあまり次郎松の言葉が煩さくなつて来たので、一層の事、彼の疑心を晴らしてやらうと思ひ、 喜楽『松サン、あんまりお前が疑ふから、今日一遍だけ云ふてやるが……一銭銅貨を十五枚入れてあるだらう』 側に聞いて居つた数多の参詣者は、各自に此実地を見て感嘆して居る。次郎松は妙な顔し乍ら、御叮嚀に喜楽の顔を又もや覗き込み、自分の右の手で自分の膝頭を二つ三つ叩き、首を一寸傾けて、 次郎松『ハア……案の定、狐使ひだ。やつぱり箱根山の道了権現のつかはしの飯綱をつかつてるのだな。一体そんな管狐を何処で買つて来たのだ。何匹ほど居るのか。そんなものでも一匹が一円もとるか、一寸俺にも見せて呉れ、ホンの一寸でよい、大切なお前の商売道具を長う見せてくれとは云はぬ』 と訳の分らぬ質問を連発する。迷信家ほど困つたものはない。 喜楽『神懸りの霊術によつて、透視作用が利くのだ』 と少しばかり霊魂学の説明を簡単に述べたてて見た。されど元来の無学者だけに、何をいつても馬耳東風、耳に入りさうな事はない。又もや次郎松は口を尖らして、 次郎松『透視だか水篩だか、そんな事ア知らぬが、そこらに小さい管狐を放り出さぬ様にして呉れよ。ヒヨツと取り憑かれでもしたら大変だ。皆さま用心しなさい。此奴ア飯綱使ひだから、うつかりしてると憑けられますよ。病人が来ると、管狐を一寸除かして、病気を癒し、又暫くすると管狐をつけて病人にして、何度も礼をとると云ふ虫の良い商売を始めかけよつたのだ。何しろ近寄らぬが何よりだ。別に穴太の村に喜楽が居つて神を祀らうが祀らうまいが、矢張お日さまは東から出て御座る。暗がりになるためしもなし、喜楽が神さまを始めてから、お日さまが、光りが強くなつた訳ぢやなし、お月さまが毎晩出る訳でもないし、斯んな者に騙されるより早う皆さまお帰りなさい。こんな奴に眉毛をよまれ尻毛をぬかれて堪りますか。俺はきつてもきれぬ親類だから、第一上田家のため、又此極道の為め、お前サン達の為め気をつける』 と口を極めて反対の気焔をあげる。然し参詣者は一人も消えぬ。依然として鎮魂を乞ひ、伺ひを願つて喜んで帰つて行く。次郎松サンは翌日の朝早くから穴太の村中一軒も残らず、 次郎松『家の本家の喜楽と云ふ奴は、此頃飯綱を買うて来て妙な事をして居よるから、相手になつてくれるな』 と賃金不要の広告屋を勤めて居る。次郎松は神の教を忌み嫌ふ悪魔の霊に憑依されて知らず識らずに邪神の走狗となつて了つたのである。 其翌日大勢の参拝者を相手に、鎮魂をしたり神話を始めて居ると、侠客俣野の乾児と自称する背の低い牛公がやつて来た。足に繃帯をして居る。 牛公『オイ、喜楽サン、随分お前の商売もよう繁昌するね。俺は夜前一寸足に怪我をしたのだ。何卒お前の鎮魂とかで足の痛みを止めて貰ひ度いものだ』 と横柄に手を拱き、座敷の真中にドスンと坐つて揶揄ひ始めた。元より怪我などはして居ないのだ。みな嘘の皮、万々一喜楽が、 『さうか、それは気の毒だ』 と云つて直に祈願でもしやうものなら、 『天眼通の先生が之が分らぬか、怪我も何もして居ない、嘘だぞ』 と云つて大勢の中で笑つたり、ねだつたり、困らしたりしようとの悪い企みで来て居るのである。若し喜楽が、 『お前は疵も何もして居ない。そんな事をして俺をためしに来て居るのだ』 と云へば、自分の指の下に隠した小刀で繃帯を解き乍ら一寸足を切つて血を出し、 『これや、これ丈け血が出て居るのに怪我して居ないとは何の事だ。ド山子奴!』 と呶鳴り立てあやまらして、酒銭の一円も取つてやらうとの算段をして居るのだと見てとつた喜楽は、牛公の言葉を耳にもかけず放擲つて、素知らぬ顔で数多の参詣者に鎮魂を施して居た。 牛公は喜楽の態度が余程癪に触つたと見え、狂ひ獅子の様に暴れ出した。忽ち先祖代々から家の宝としてる、虫喰だらけの真黒気の障子の桁を滅茶苦茶に叩き破る、戸を蹴破る、火鉢を蹴り倒すと云ふ大乱暴をなし乍ら、再び座敷の真中にドスンと胡坐をかき、 牛公『こりや安閑坊の喜楽!これでも罰をようあてぬか、腰抜け神の鼻垂れ神ぢやな。そんなやくざ神を祀つてる貴様は、日本一の馬鹿野郎だ。今此牛さまが神床に小便をしてやるから、神力あり正念がある神なら、立所に罰をあてるだらう。そんな事して能う罰をあてん様な腰抜神なら、神でも何でもない、溝狸位なものだ。蚯蚓に小便かけてさへ○○が腫れるぞ、此奴ア狸だから正念があるなら、俺の○○を腫らして見い!』 と云ひ乍ら犬の様に片足をピンと上げて、無作法にもジヨウジヨウとやりかけた。数多の参詣者は吃驚して、残らず外に逃げ出して了つた。喜楽は神界修業の時から、三五教の無抵抗主義を聞いて居たから、素知らぬ顔して彼がなす儘放任して居た。牛公は益々図にのつて、終ひには黒い尻をひきまくり、喜楽の鼻の前でプンと一発嗅し『アハヽヽヽ』と笑ひ乍らサツサと帰つて行つた。 それと擦れ違ひに、弟が野良から鍬を担げて慌だしく馳来り、牛公の乱暴した事を聞き口惜がり、地団太を踏み乍ら、 由松『エーツ、此神さまは力の無い神だ。毎日々々物を供へてやるのに何の罰でも能うあてぬのか。ウーンとフンのばして了へばよいのに、そうすれや牛公だつて、次郎松だつて能う侮らぬのだが、此処に祀つてあるは気の利かぬ寝呆け神だから、あんな奴に馬鹿にしられるのだ』 と歯をかみしめて吃り乍ら怒つて居る。喜楽は静に弟に向つて、 喜楽『オイ、由松、そんな分らぬ事を云ふな。よう考へて見い、彼奴ア畜生だ。名からして牛ぢやないか。猫や鼠は尊い御神前の中でも、糞や小便を平気で垂れて居る、烏や雀は神様の棟へ上つて糞小便を垂れかける、それでもチツとも神罰があたらぬのぢやないか。元来畜生だから、神様のおとがめがないのだ。人間も人間の資格を失ふたら畜生同様だ。畜生に神罰があたるものかい』 と云はせも果てず由松は、 由松『ナニ、馬鹿たれるか』 と云ふより早く、祭壇の下へ頭をつつ込み其まま直立した。祭壇も神具もお供物一式ガタガタと転落し、御神酒からお供水、洗米、其他いろいろの供物が座敷一杯になつて了つた。神様の御みと迄畳の上にひつくり返つて居る。由松は拾うては戸外へ投げつける、参詣者はビツクリして顔色を変へチリチリバラバラに逃げ出す。由松は猶も猛り狂ひ、 由松『オイ哥兄、こんなやくざ神を祭つて拝んでも屁の役にもたたぬぢやないか、もう今日限りこんなつまらぬ事はやめてくれ。こんな餓鬼を祀つただけに家内中が心配したり、村中に笑はれたり、戸障子を破られたり、此神は上田家の敵だ。敵を祀ると云ふ事が何処にあるものか』 と分らぬ事を愚痴つて怒つて居る。 喜楽は由松の放かしたおみとを拾ひ塩で清め、再び祀り直し神様にお詫をして、漸く其日は暮れて了つた。 其日の夜中頃、由松の枕許に男女五柱の神様が現はれ玉ふて、頻りに由松に御立腹遊ばした様なお顔が歴々と見え、恐ろしくて一目もよう寝ず、夢中になつて寝たままあやまつて居る。せまい家の事とて横に聞いて居る喜楽の可笑しさ。由松もこれで少しは気がつくだらうと思つて居ると、翌朝早くから御神前をお掃除したり、お供物をしたり、祝詞を奏げるやら、暫くの間は打つて変はつて敬神の行為を励んで居た。然し十日ほどすると、又もや神様の悪口を次郎松と一所になつて始めかけた。 (大正一一・一〇・九旧八・一九北村隆光録)