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書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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霊界物語 | 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 | 24 天の浮橋 | 第二四章天の浮橋〔二二四〕 竜宮城の三重の金殿より顕国玉の神威発揚して、あたかも両刃の剣を立てたるごとき黄金の柱中空に延長し、その末端より発生したる黄金橋はこの柱を中心に東西に延長し、その少しく下方よりは左右に銀橋を発生し、そのまた下方部よりは銅橋を発生して東西に延長し、地球の上面を覆うたことは前述の通りである。 そして各橋より垂下する金銀銅の霊線の鉤に身体をかけられ、上中下三段の身魂が各自身魂の因縁によつて金銀銅の橋上に救ひ上げられ、或は中途に地上に落下する有様を、訝かしげに眺めつつ見惚れてゐた瑞月の前に、銀色の霊線が下りきたり、その末端の鉤は腹部の帯に引掛るよと見るまに、眼も眩むばかりの速力にて空中に引きあげられた。あまりの恐ろしさに、思はず眼を閉ぢ口を塞ぎ、両手をもつて耳を塞ぎつつあつた。俄に、 『眼を開けよ』 といふ声が、頭上の方にあたつて聞えた。その声に思はず眼を開けば、遥の中空に捲揚げられ、自分は銀橋の上に立たされてゐた。銀橋の上には、ところどころに神人が引き揚げられてゐるのを見た。いづれも恐ろしげに緊張しきつた態度で、地上を瞰下してゐるのであつた。このとき吾頭上にあたつて、 『吾は国姫神なり、汝に今より小松林命といふ神名を与へむ。この綱にすがりて再び地上に降り、汝が両親兄弟朋友知己らに面会して天上の光景を物語り、悔い改めしめ、迷へる神人をして神の道につかしむべし』 と言葉終るとともに頭上より金線は下つてきた。そして国姫神の姿は声のみにて、拝することは出来なかつたのである。下りくる金色の霊線を両手に握るよとみるまに、ガラガラと釣瓶の車をまはすごとき音して地上に釣瓶落しに卸されて了つた。 降れば身は何ともいへぬひろびろとした原野に立つてゐた。ここには吾親らしきものも兄弟知己らしき人間もなく、ただ虎、狼、山狗、狐狸の群がところどころに散在してゐるのであつた。不思議にも是らの猛獣は白壁造りの庫を建てて、或は立派な門構へをなし、美しき広き家に住まつてゐるのである。どう考へても猛獣狐狸の棲むべき住家とは思はれなかつた。これはどうしても人間の住むべき家である。しかるに何ゆゑ、此のごとき獣類のみ住みをるやと、訝かりつつあつた。 このとき国姫神の声として、 『天上より此黒布を与へむ』 と云はるるかと見るまに、黒き布は風にヒラヒラとして吾前に下り来つた。手早くこれを持つて面部を覆うた。黒布を透してその猛獣狐狸の群をながむれば、あにはからむや、いづれも皆立派なる人間ばかりである。中には自分の親しく交はつてゐた朋友も混つてをるには、驚かざるを得なかつた。 それよりこの黒布を一瞬の間も離すことをせなかつた。そのゆゑは、此眼の障害物を一枚除けば、前述のごとく猛虎や狐狸の姿に変つて了ひ、実に恐ろしくてたまらなかつたからである。 さうかうする間、又もや天上より吾前に金色の霊線が下つてきた。以前のごとく吾腹帯に鈎は引かかつた。今度はその黒布を手ばやく懐中に入れ、両手を以て確と金色の霊線を掴みながら、前のごとく一瀉千里の勢にて上空に引き揚げられて了つた。 やや久しうして、 『眼を開けよ』 と叫びたまふ神の声が聞えた。眼を開けば今度は最高点の黄金橋の上に引き揚げられてゐたのである。まづ安心とあたりを見れば、国姫神は莞爾として四五の従神とともに吾前に現れ、 『この橋は黄金の大橋といひ、また天の浮橋ともいひ、地球の中心火球より金気昇騰して顕国の玉となり、この玉の威徳によりて国の御柱は中空に高く延長し、その頂上は左右に分れ、左は男神の渡るべき橋にして、右は女神の渡る橋なり、この黄金橋は滑にして、少しの油断あらば滑りて再び地に顛落し、滅亡を招くの危険あり。汝は抜身の中に立つごとく心を戒め、一足たりとも油断なく、眼を配り、耳を澄ませ、息を詰め、あらゆる心を配りてこの橋を東方に向つて渡れ。また此橋は東南西北に空中を旋回す、その旋回の度ごとに橋体震動し、橋上の神人は動もすれば跳飛ばさるる恐れあり、また時には暴風吹ききたつて橋上の神人を吹き落すことあり。欄干もなく、足溜りもなく、橋とはいへど黄金の丸木橋、渡るに難し、渡らねば神の柱となることを得ず、実に難きは神柱たるものの勤めなり』 と言葉嚴かに云ひ渡された。 王仁は唯々諾々として其教訓を拝し、東方に向つて覚束なき足下にて、一歩々々跣足のまま歩を進めた。 忽ち黄金橋は東より南に廻転を初めた。じつに危険身に迫るを覚え、殆ど顔色をなくして了つた。このとき何神の御声とも知れず、 『勇猛なれ、果断なれ、毅然として神命を敢行せよ。神は汝の背後にあり、夢恐るるな』 といふ声が耳朶を打つた。 王仁はこの声を聞くとともに、恐怖心も何も全部払拭され、光風霽月、心天一点の暗翳も留めざる思ひがした。 金橋はますます廻転を速め、東より南に、南より西へ、西より北へと中空をいと迅速に旋回し、また元の東に戻つた。 黄金橋の東端は、ある一つの高山に触れた。見れば是は世界の名山天教山の頂きであつた。このとき木花姫命を初め数多の神人は、吾姿を見て、 『ウローウロー』 と両手を挙げて叫び、歓迎の意を表された。 いつの間にか王仁の身は天教山の山頂に、神々とともに停立してゐた。金橋は何時のまにか東南隅に方向を変じてゐた。 時しも山上を吹き捲くる吹雪の寒さに、頬も鼻も千切れるばかりの痛みを感ずるとともに、烈風に吹かれて山上に倒れし其の途端に前額部を打ち、両眼より火光が飛び出したと思ふ一刹那、王仁の身は高熊山の岩窟に静坐し、前額部を岩角に打つてゐた。 (大正一一・一・一〇旧大正一〇・一二・一三井上留五郎録) |
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霊界物語 | 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 | 26 艮坤の二霊 | 第二六章艮坤の二霊〔二二六〕 轟然たる大音響とともに突然爆発したる天教山の頂上より、天に向つて打ち上げられたる数多の星光は、世界の各地にそれぞれ落下した。 これは第四巻に示す地球の中軸なる大火球すなはち根底の国に落ちて、種々の艱難辛苦をなめたる各神の身魂の時を得て、野立彦命の神徳により地中の空洞(天の岩戸)を開き、天教山の噴火口に向つて爆発したのである。俗に地獄の釜の蓋が開くと云ふはこのことである。また『天の岩戸開き』と云ふのも、これらを指して云ふこともあるのである。 地上に散布せられたる星光は、多年の労苦に洗練されて天授の真霊魂に立替はり、ことに美はしき神人として地上に各自身魂相応の神徳を発揮することとなつた、これらの顛末を称して、 『三千世界一度に開く梅の花』 と謂ひ、また各身魂の美はしき神人と生れて、神業に参加するの状態を指して、 『開いて散りて実を結び、スの種子を養ふ』 といふのである。 かくして野立彦命は世の立替へ、立直しの先駆として、まづ世に落ちたる正しき神を一度に岩戸を開き、地獄の釜の蓋を開いて救ひたまひ、世界改造の神種と為し給うたる最も深遠なる御経綸である。 却説木花姫命は、月照彦神以下の諸神を随へ、天教山の中腹なる青木ケ原に下り着きたまうた。ここには彼の銀橋を渡りてきたれる神々の数多集ひて、山上を見上げながら、木花姫命を先頭にあまたの供神とともに下りきたるを見て、一斉に手を拍ち喊声をあげ、ウローウローと叫びつつ、踊り狂うて歓迎した。 神人は遥にこの光景を眺めて大に喜び、先を争うて青木ケ原に息せききつて上りきたり、上中下三段の身魂の神政成就の神柱の揃ひしことを喜び祝し、手に手に木の皮を以て造れる扇を開き、前後左右に手拍子、足拍子を揃へ、ウローウローと叫びながら踊り狂うた。その有様は、あたかも春の野に男蝶女蝶の翩翻として、菜の花に戯るごとくであつた。神々の一度に手を拍ち祝詞を奏上する声は、上は天を轟かし、下は地の万物を震動させた。 かくのごとく天教山にては、上中下の身魂の神柱は、各自部署を定めて地上の世界を救済のために宣伝者となつて巡回し、かつ先に地上に散布されたる身魂は、美はしき神人と出世して各地に現はれ、この宣伝者の教を聞いて随喜渇仰した。説く者と聞く者と意気合するときは、神の正しき教は身魂の奥に沁みわたるものである。あたかも磁石の鉄を吸ひよせるごとき密着の関係をつくることが出来る。これらを称して身魂の因縁といふ。 ゆゑにいかに尊き大神の慈言といへども、教理といへども、因縁なき身魂は、あたかも水と油のごとく反撥して、その効果は到底あがらない。後世印度に生れた釈迦の言に、 『縁なき衆生は度し難し』 と言つたのも、この理に拠るのである。ゆゑに大神に因縁あるものは、この浅深厚薄に拘はらず、どうしても一種微妙の神の縁の絲に繋がれて、その信仰を変ふることはできない。 神諭にも、 『綾部の大本は、昔から因縁ある身魂を引寄して、因縁相応の御用をさせるぞよ』 と神示されたのも、遠き神代の昔より、離るべからざる神縁の綱に縛られてをるからである。 『神が一旦綱をかけた因縁の身魂は、どうしても離さぬぞよ。神の申すことを背いて、何なりと致して見よれ。後戻りばかり致すぞよ』 との神示は、神の因縁の綱に繋がれてをるから、自由行動を取りつつ、一時は都合よく行くことあるも、九分九厘といふ所になつて、神よりその因縁の綱を引かるるときは、また元の大橋へ返らねばならぬやうになるものである。 これを神諭に、 『引つかけ戻しの仕組』 と示されてある。 さて木花姫命の宣示を奉じて、月照彦神、足真彦神、少彦名神、太田神、祝部神、弘子彦神その他の神々は、折から再び廻転しきたれる銀橋に打乗り、一旦中空を廻りながら、復び野立姫命の現はれたまへるヒマラヤ山に無事降下した。 ヒマラヤ山には、あまたの神人が夜を日についで、山の八合目以下の木を伐採し、大杭をあまた造り、頚槌を携へ地中にさかんに打込みつつあつた。月照彦神一行は、その何の意なるかを知らず、神人らに丁寧に一礼しながら、山上の野立姫命の神殿に向つて、隊伍粛々として参向したのである。 (大正一一・一・一〇旧大正一〇・一二・一三外山豊二録) |
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霊界物語 | 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 | 35 波上の宣伝 | 第三五章波上の宣伝〔二三五〕 この教示を、首を傾けて聞き入つた彼の酋長は、吐息を吐きながら再び口を開いて云ふ。 『天地の間に、果して貴下の仰せのごとき独一真神なる大国治立尊の坐しますとせば、何故に斯のごとき天変地妖を鎮静せず、地上の神人をして恐怖畏縮せしめ、傍観の態度を取り給ふか。いづくんぞ全智全能の神力を発揮して、世界を救助し給はないのでせうか。吾々は真の神の存在について、大に疑ひを抱くものであります』 と云つて祝部神の教示を待つた。 祝部神は、事もなげに答へて云ふ。 『宇宙万有を創造し給うた全智全能の大神の経綸は、吾々凡夫の窺知する所ではない。吾らは唯々神の教示に随つて、霊主体従の行動を執ればよい。第一に吾々神人として、最も慎むべきは貪欲と瞋恚と愚痴である。また第一に日月の高恩を悟らねばならぬ。徒に小智浅才を以て、大神の聖霊体を分析し、研究せむとするなどは以ての外の僻事である。すべて吾々の吉凶禍福は、神の命じたまふ所であつて、吾々凡夫の如何とも左右し難きものである。之を惟神といふ。諸神人らはわが唱ふる宣伝歌を高唱し、天津祝詞を朝夕に奏上し、かつ閑暇あらば「惟神霊幸倍坐世」と繰返すのが、救ひの最大要務である。吾々はこれより外に、天下に向つて宣伝する言葉を知らない』 と云つた。 折しも再び日は西山に姿を没し、半円の月は頭上に輝き始めた。この時又もや東北の天に当つて一塊の怪しき雲片が現はれた。祝部神は神人らに向ひ、 『彼の怪しき雲を見られよ』 神人らは一斉に東北の天を仰いで視た。祝部神は尚も語をついで、 『すべて神のなす業は、斯くの如きものである。今まで蒼空一点の雲翳もなく、月は皎々として中天に輝き、星は燦爛として満天に列を正し、各大小強弱の光を放つてゐる。地上の吾々凡夫は、実に無知識無勢力である。何時までも天空に明月輝き、星光燦爛たるべきものと、心に期する間もなく、忽然として一塊の怪雲現はれしは、果して何物の所為であらうか。変幻出没窮まりなく、神機無辺の活動はこれ果して何物の所為であらうか。すべて宇宙間一物と雖も、原因なく因縁なくして現はるるものはない。しかしてその原因、因縁は到底凡夫の究めて究め尽す限りではない。諸神人の中に、果して彼の一塊の怪雲は如何に変化するかを知れる者ありや。恐らく一柱として之を前知したまふ神人はあらざるべし。吾々は天地の神の教を説く宣伝使の身としても、一分先の黒雲の結果いかになりゆくかを覚ること能はず、かくのごとき暗昧愚蒙の知識力を以て、神明の聖霊を云為し、神の存否を論争するがごときは、あたかも夏の虫の冬の雪を知らざるがごとき愚蒙のものである。視られよ、彼の黒雲を、次第々々に四方に向つて拡大するに非ずや。其の結果は雨か、嵐か、果た雪か、地震か、雷鳴か、天地の鳴動か、吾々の知識力にては、到底感知する事能はず、唯地上の神人は、宇宙の大原因たる天主大国治立尊[※御校正本では「天使大国治立尊」だが「天使」だと意味がおかしい。校定版・八幡版では「天主」に直している。愛世版では削除して単に「大国治立尊」にしている。第34章の御校正本p232に「天主、大国治立尊」という用例があるため、霊界物語ネットでは校定版・八幡版と同様に「天主」とした。]の意思に柔順に随ふのみである』 と舌端火を吐いて諄々と宣伝した。 神人らは祝部神の教示に耳をすませ、今更のごとく、神の無限絶対の霊威と力徳と、其の犯すべからざる御聖体の不可測なるを感嘆しつつ『惟神霊幸倍坐世』と一斉に高唱した。 前日の喧騒を極めたる此の船は、今は全く祝詞の声清き祭場と化して了つた。折しもまばらなる雨、ぼつぼつと石を投げるごとく船中の神人らの身体を打つた。俄然、寒風吹くよと見る間に、雨は拳のごとき霰を混へて降り注ぎ、これに打たれて負傷する神人さへあつた。このとき祝部神は立上り、又もや、 『朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも たとへ大地は沈むとも誠の神は世を救ふ 誠の神は世を救ふ勇みて暮せ、神の造りし神の世ぢや 神から生れた神の子ぢや力になるは神ばかり 神より外に杖となり柱となるべきものはない 雨風荒き海原も地震かみなり火の車 何の恐れも荒浪の中に漂ふこの船は 神の恵みの御試し喜び勇め神の恩 讃めよ称へよ神の徳天地は神の意のままぞ 天を畏れよ地をおそれ畏れといつても卑怯心 出してぶるぶる慄ふでないぞ神の力を崇むることぞ 如何なる災難来るとも神に抱かれし吾々は 神の助けはたしかなりたしかな神の御教の 救ひの船に身を任せ任せ切つたる暁は 千尋の海も何のその海の底にも神坐せば たとへ沈んだところーでどこにも神は坐しますぞ 讃めよ称へよ祈れよ歌へ歌ふ心は長閑なる 春の花咲く神心神の心になれなれ一同 一度に開く梅の花一度にひらく梅の花』 と歌まじりの宣伝を、又もや手真似、足真似しながら、際限もなく説き立てる。 船は辛うじて西南の岸に着いた。ここを埃の宮と云ひ、また埃の港とも云ふ。一行は勇んで上陸した。海面を見渡せば、山岳の如き荒浪、見るも凄じき音を立てて踊り狂うてゐる。 (大正一一・一・一二旧大正一〇・一二・一五外山豊二録) |
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霊界物語 | 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 | 余白歌 | 余白歌 天地の初発之時ゆ祖々の御魂の因縁現はせる神世〈総説〉 うつ蝉の世を立直す柱木はあめの御柱くにの御柱〈総説〉 二柱やうやく立ちて千万のその副柱今も尋ねつ〈総説〉 自発的一つの小長ある人は衣食に不足つぐることなし〈第2章〉 くよくよと物事悔む暇あれば大小となく行ひてみよ〈第2章〉 天の下は皆ことごとく無欲者の自由所得の世界なりけり〈第3章〉 公のために争ふ人々は神の御眼より罪とはならじ〈第3章〉 使ふべき人や遺つると谷具久の狭渡るきはみわれは尋ねつ〈第6章〉 物事は注意をすれば人の世は過ち防ぐ大価とぞなる〈第6章〉 梓弓ひきてかへらぬ雄心は神代ながらの日本魂〈第9章〉 この度の神の経綸の深ければただ一柱知る神もなし〈第12章〉 天地の神の造りし人の身は髪一筋もままにはならじ〈第12章〉 皇神の依さし給ひし布教者と化りて世人を欺く曲神〈第13章〉 このたびの神の気吹のなかりせば四方の雲霧誰かはらはむ〈第13章〉 百口のへつらひ言葉聞くよりもただ一言の誠うれしき〈第14章〉 黄昏れて西に落ちたる日も月もやがて東の空に輝るらむ〈第15章〉 蟹が行く横さの道にふみ迷ふ世人のために身を砕くなり〈第15章〉 大本の大橋渡りまだ先へ行き詰りては後戻りする〈第16章〉 聞きたくば尋ね来れよ説明す人の心の信念力あるだけ〈第16章〉 近寄りし世の立替に先立ちて身魂を洗へ四方の神子たち〈第17章〉 久方の天のはしだて踏みしめて綾の高天へ昇れ神子たち〈第17章〉 葦原の八十の曲津見はらはむと中津御国の経綸なしつつ〈第18章〉 攻めきたる外国魂を一いきに言向け和平す神国の道〈第18章〉 先の世と聞いて心を許すなよ明日の日柄も先の世なれば〈第19章〉 大方の人の夢にも知らぬ間に説き諭すなり先の世の事〈第19章〉 立替が始まり来れば眼も鼻も口さへあかぬことのあるらむ〈第22章〉 天地の神の怒りの雄たけびにすべての曲は亡び失すなり〈第22章〉 この事を早く世人に知らさむとはやれど更に聞くものはなし〈第22章〉 醜魂を洗ひすまして神国の日本御魂を研き清めむ〈第23章〉 曲人の時を得るてふ闇の世は正しき人を爪はじきする〈第23章〉 争ひは小事に快く負けて大事に勝つが成功の鍵なり〈第24章〉 時来れば外国までも連れ行かむ万代までも名をあぐる為に〈第24章〉 世の中の人はたちまち驚かむかぎり知られぬ神の力に〈第24章〉 この経綸遂げ終せたる暁は神人ともに歓喜に充たむ〈第24章〉 疑の雲晴れ行きて世の人の心の空に月日照るなり〈第25章〉 世の本の誠の神が現はれて世人の知らぬことを教へつ〈第26章〉 常夜行く天の岩戸を開かむと思ひは胸に三千歳の今日〈第28章〉 天地に神の有る無し明らかに現はれ出づる時は来にけり〈第28章〉 天津御祖神の御言をかしこみて下津岩根に道をひらきし〈第28章〉 おしなべて世を救はむと皇神の神言かしこみ吾は出でけり〈第28章〉 曇りなき心の空に天津日の輝き渡る人は神なり〈第29章〉 まだしばしその日早しと何事も山の小言と聞き流しつつ〈第29章〉 立替の大峠までに神の子は心入れ替へよ最早暇なし〈第29章〉 神の世は隅々までも澄みわたり曲津の潜む隈もなきまで〈第34章〉 変りゆく時代の潮に逆らふは身をほろぼすの基なりけり〈第35章〉 神々の神言かしこみ言霊のその活用は歌となりけり〈第38章〉 時は今天地ひらく神代かも神のみいづの鳴りわたる時〈第38章〉 天津御祖神の怒りの強ければもうこの上は力及ばず〈第38章〉 天地の洗ひ替へより真先に人の心の洗ひ替へせむ〈第43章〉 大本へ集り来る人の数々を教へ諭して御柱とせむ〈第46章〉 益良夫は神国の宝女子は家の宝ぞ大切にせよ〈第46章〉 霊幸はふ神の教の深ければ浅き心の人には解らず〈第49章〉 黙々として成し遂げし大業は真に完全無欠なるべし〈第49章〉 心身は自己の自由と言ひながら神に依らずば真の自由なし〈第50章〉 愚かなる児に財産を遺すより世のため神と道とに貢げよ〈第50章〉 村肝の心は動きやすければ神の御綱によりて繋げよ〈第50章〉 神の心は凡夫の心凡夫の心は神心〈第50章〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました] |
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霊界物語 | 06_巳_大洪水/国生み神生み/三五教の誕生 | 02 瀑布の涙 | 第二章瀑布の涙〔二五二〕 名も恐ろしき鬼城山、曲の棲処と聞えたる、棒振彦や高虎の、醜男醜女の砦を造り、悪逆無道の限りを尽し、あらゆる総ての生物を、屠りて喰ふ枉神の、朝な夕なに吹く息は、風も湿りて腥く、さしもに広き、鬼城河、紅に染りて汚れはて、地獄ならねど血の河と、流れも変る清鮮の、水は少しもナイヤガラ、一大瀑布を右に見て、足を痛めつ身は長雨にそぼ濡れて、この世を救ふ真心の、両つの眼より迸る、涙は雨か滝津瀬か、響く水音轟々と、この世を呪ふ鬼大蛇、曲津の声と聞ゆなる、深山の谷を駆上り、黄昏近き寒空に、とぼとぼ来る宣伝使、大足彦の成れの果、疲れて足も立ち悩み、大地にドツと安坐して、息を休むる足真彦、面壁九年の其れならで、見上ぐる斗りの岸壁を、眺むる苦念の息づかひ、この世を救ふ神人の、心の空はかき曇り、黒白も分ぬ黄昏の、空を眺めて独言。 足真彦『嗚呼吾は闇の世を照らさむと、心の駒に鞭撻つて、駆廻りたる今日の旅、行衛も知らぬ月照彦の、神の命の御舎を、尋ぬるよしもナイヤガラ、心は急せる大瀑布、滝津涙も汲む人ぞ、泣く泣く進む常世国、弥々ここに鬼城山、若や魔神に吾姿、美山の彦の現はれて、天の逆鉾うち振ひ、進みきたらば何とせむ。嗚呼千秋のその恨み、いつの世にかは晴らすべき、疲れ果てたる吾身の宿世、饑に苦しみ涙にかわき、一人山路をトボトボと、迷ひの雲に包まれし、世の蒼生を照らさむと、心をこめし鹿島立、今は仇とはなりぬるか。山野に暮せし年月を、天教山に現れ坐せる、野立の神や木花姫の、神の命に復り言、申さむ術もナイヤガラ、轟く胸は雷霆の、声にも擬ふ滝の音の、尽きせぬ思ひ天地の、神も推量ましませよ』 と宿世を喞つ折からに、はるか前方にあたつて騒々しき物音が聞え来たりぬ。 足真彦は、つと身を起し、耳を傾け、何者ならむと思案に暮るる折しも、馬の蹄の音戞々と近より来るものありける。 見附けられては大変と、心を励まし疲れし足を運びながら、渓路さして下り行かむとする時しも、後方よりは老いたる神と見えて、嗄れ声を張揚げながら、 鬼熊彦(実は蚊取別)『オーイ、オーイ』 と呼ばはりける。その言霊の濁れるは、正しき神にあらざるべし。 疲れ果てたる今の身に、魔神に襲撃されてはたまらじと、運ばぬ足を無理やりに、一歩一歩走り行く。 駒牽きつれし枉神は苦もなく追着きぬ。進退これ谷まりたる足真彦は、わざと元気を装ひ、剣の柄に手を掛けて、寄らば斬らむと身構へ居る。 このとき薬鑵頭の爺、両手をついて宣伝使に向ひ、 鬼熊彦『貴下は天下の宣伝使と見受け奉る。吾に一つの願あり。願はくば宣伝使の諸人を救ひ給ふ慈心によつて、吾一生の願を叶へ給はずや』 とさも慇懃なり。宣伝使は、 足真彦『願とは何事ぞ』 と、やや緊張したる顔色にて問ひ返せば、禿頭の男はただ袖を以て涙を拭ひ、大地に平伏するのみなりき。中にも稍若き、額の馬鹿に突出たる、福助頭の黒い顔の男は、人形芝居の人形の首の様に器械的に顔を振りながら、涙を拭ふ真似をして、 鬼虎『旅のお方に一つの御願があります。今ここに平伏して居るのは吾父であります。不幸にして三年以前に妻に別れ、今は老木の心淋しき余生を送る身の上、せめて今日は妻の三年にあたる命日なれば、その霊を慰むるため、この難路を往来する旅人に供養をなし、妻の追善のため四方に家僕を派遣し、往来に悩む旅の人を助け、醜き吾茅屋に一宿を願ひ、宣伝歌を霊前に唱へて、其霊を慰め給はるべき御方を求めつつあるのであります。しかるに如何なる宿世の因縁か、宣伝使たる貴下の御姿を拝し、嬉しさに堪へず失礼を省ず、御迹を追うてここまで到着いたしました。父のためには妻なれど、私のためには肉身の生の母の三年祭、父子は共に宣伝使の往来を待つて居ました。どうぞ一夜の宿泊を願ひます』 と、真しやかに洟啜りながら、声までかすめて願ひ入る。 油断ならずと宣伝使は、やや思案に暮れながら、無言のまま佇立して彼らの言葉を怪しみつつありける。 父子は口を揃へて、 鬼熊彦・鬼虎『誠に貴下のごとき尊き神人を吾茅屋に宿泊を願ふは、分に過ぎたる願でありますが、袖振合ふも多生の縁とやら、今日妻や母の三年祭に当り、聞くも有難き宣伝使に邂逅し奉るは、全く妻の霊の守護する事と信じて疑ひませぬ。かかる草深き山中の事なれば、差し上ぐべき馳走とてはありませぬが、鬼城山の名物たる無花果の果実や香具の果物および山の芋などは、沢山に貯へて居りますから、どうぞ吾々の願を叶へて此痩馬に御召しくださらば、お伴仕ります』 と頼み入る。 足真彦は道に行き暮れて宿るべき処もなく、かつ腹は空しく足は疲れ、悲観の極に達した際の事なれば、やや顔色を和げ、……エー、どうならうと儘よ。木花姫の神勅には、決して一人旅と思ふな、神は汝の背後に添ひて守らむと仰せられたれば、是も全く神の御繰合せならむ……と心に決し、直に承諾の旨を示した。 嗚呼この父子は何者ならむか。 (大正一一・一・一六旧大正一〇・一二・一九井上留五郎録) (第二章昭和一〇・一・二八於筑紫別院王仁校正) |
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霊界物語 | 06_巳_大洪水/国生み神生み/三五教の誕生 | 22 神業無辺 | 第二二章神業無辺〔二七二〕 爰に天の御柱の神は、女神の宣言を喜び給はず、いたく怒り給ひて、歌もて其の怒りを洩らさせ給ひぬ。其御歌、 『天津御神の御言もて天の柱となり出でし 吾は高天原を知らすべき神のよさしの神司 雲井に高き朝日子の光りも清き神御魂 汝は国土知らすべき豊葦原の神つかさ 天と地とはおのづから高き低きのけじめあり 重き軽きのちがひあり天は上なり地は下よ 男子は天よ女は地よ天は下りて地は上 此逆さまの神業は本津御神の御心に いたく違へるひが事ぞ天は上なり地は下 男子は上ぞ女は下ぞ天と地とを取違ひ 上と下とを誤りていかでか清き御子生まむ いかでか清き国生まむ再び元に立帰り 天津御神にさかしらのこの罪科を詫び了へて 再び神のみことのり祈願奉り御柱を 改め廻り言霊を宣りかへしなむいざさらば いざいざさらば汝が命』 と稍不満の態にて、男神は元の処に帰り給ひけるに、女神も其理義明白なる神言にたいし、返す言葉もなく再び元の処に、唯々諾々として復帰し給ひたり。 その時成り出でましたる嶋は、前述のごとく淡嶋なりき。淡嶋は現今の太平洋の中心に出現したる嶋なるが、此天地逆転の神業によつて、其根底は弛み、遂に漂流して南端に流れ、地理家の所謂南極の不毛の嶋となりにける。 而て此の淡嶋の国魂として、言霊別命の再来なる少名彦命は手足を下すに由なく、遂に蛭子の神となりて繊弱き葦舟に乗り、常世の国に永く留まり、その半分の身魂は根の国に落ち行き、幽界の救済に奉仕されたるなり。 この因縁によりて、後世猶太の国に救世主となりて現はれ、撞の御柱の廻り合ひの過ちの因縁によりて、十字架の惨苦を嘗め、万民の贖罪主となりにける。 ここに諾冊二尊は再び天津神の御許に舞上り、大神の神勅を請ひ給ひぬ。大神は男神の宣言のごとく、天地顛倒の言霊を改め、過ちを再びせざる様厳命されたり。 ここに二神は改言改過の実を表はし、再び撞の御柱を中に置き、男神は左より、女神は右より、い行き廻りて互ひに相逢ふ時、男神先づ御歌をよませ給ひける。其御歌、 『浮世の泥を清めむと天津御神の御言もて 高天原に架け渡す黄金の橋を打ち渡り おのころ嶋におり立ちて八尋の殿をいや堅に 上つ岩根につき固め底つ岩根につきならし うましき御世を三つ栗の中に立てたる御柱は つくしの日向の立花や音に名高き高天原の あはぎが原に聳え立つ天と地との真釣り合ひ 月雪花の神まつり済ませてここに二柱 汝は右へ吾は左左は夫右は妻 めぐりめぐりて今ここに清き御国を生みの親 神伊邪那美の大神の清き姿は白梅の 一度に開く如くなり嗚呼うるはしき姫神よ 嗚呼うるはしき顔容よ汝が命のましまさば たとひ朝日は西の空月は東の大空に 現はれ出づる世ありとも夫婦が心は相生の 栄え久しき松の世を常磐堅磐に立てむこと いと安らけし平けしいざいざさらばいざさらば 天津御神の御言もて国の安国生みならし 島の八十嶋つき固め百の神達草木まで 蓬莱の春のうまし世に開くも尊き木の花の 咲耶の姫の常永に鎮まり居ます富士の峰 空行く雲もはばかりて月日もかくす此の山に 稜威も高き宮柱撞の御柱右左 めぐる浮世の浮橋はこの世を渡す救け船 救けの船の汝が命見れども飽かぬ汝が姿 阿那邇夜志愛袁登女阿那邇夜志愛袁登女 夫婦手に手をとりかはし天と地との御柱の 主宰の神を生みなさむ主宰の神を生みなさむ 浦安国の心安くみたまも光る紫の 雲のとばりを押分けて輝きわたる日の光 月の輝きさやさやにいやさやさやに又さやに 治まる両刃の剣刃の天の瓊矛の尖よりも 滴り落つる淤能碁呂の嶋こそ実にも尊けれ 嶋こそ実にも尊けれ』 と讃美の歌を唱へられたりける。 (大正一一・一・二〇旧大正一〇・一二・二三井上留五郎録) (第二二章昭和一〇・二・一二於木の本支部王仁校正) |
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霊界物語 | 06_巳_大洪水/国生み神生み/三五教の誕生 | 24 富士鳴戸 | 第二四章富士鳴戸〔二七四〕 二柱は茲に撞の御柱を廻り合ひ、八尋殿を見立て玉ひ、美斗能麻具波比の神業を開かせ玉ひぬ。美斗能麻具波比とは、火と水との息を調節して、宇宙万有一切に対し、活生命を賦与し玉ふ尊き神業なり。撞の御柱の根に清き水を湛へたまひぬ。これを天の真奈井と云ひまた後世琵琶湖と云ふ。撞の御柱のまたの御名を伊吹の御山と云ふ。天の御柱の神は九山八海の山を御柱とし、国の御柱の神は塩の八百路の八塩路の泡立つ海の鳴戸灘をもつて胞衣となし玉ひ、地の世界の守護を営ませ玉ふ。また鳴り鳴りて鳴りあまれる、九山八海の火燃輝のアオウエイの緒所と云はれて居るは不二山にして、また鳴り鳴りて鳴り合はざるは、阿波の鳴戸なり。『富士と鳴戸の経綸』と神諭に示し玉ふは、陰陽合致、採長補短の天地経綸の微妙なる御神業の現はれをいふなり。鳴戸は地球上面の海洋の水を地中に間断なく吸入しかつ撒布して地中の洞穴、天の岩戸の神業を輔佐し、九山八海の山は地球の火熱を地球の表面に噴出して、地中寒暑の調節を保ち水火交々相和して、大地全体の呼吸を永遠に営み居たまふなり。九山八海の山と云ふは蓮華台上の意味にして、九山八海のアオウエイと云ふは、高く九天に突出せる山の意味なり。而て富士の山と云ふは、火を噴く山と云ふ意義なり、フジの霊反しはヒなればなり。 茲に当山の神霊たりし木花姫は、神、顕、幽の三界に出没して、三十三相に身を現じ、貴賤貧富、老幼男女、禽獣虫魚とも変化し、三界の衆生を救済し、天国を地上に建設するため、天地人、和合の神と現はれたまひ、智仁勇の三徳を兼備し、国祖国治立命の再出現を待たせ玉ひける。木花姫は顕、幽、神における三千世界を守護し玉ひしその神徳の、一時に顕彰したまふ時節到来したるなり。これを神諭には、 『三千世界一度に開く梅の花』 と示されあり。木花とは梅の花の意なり。梅の花は花の兄と云ひ、兄をこのかみと云ふ。現代人は木の花と云へば、桜の花と思ひゐるなり。節分の夜を期して隠れたまひし、国祖国治立の大神以下の神人は、再び時節到来し、煎豆の花の咲くてふ節分の夜に、地獄の釜の蓋を開けて、再び茲に神国の長閑な御世を建てさせ玉ふ。故に梅の花は節分をもつて花の唇を開くなり。桜の花は一月後れに弥生の空にはじめて花の唇を開くを見ても、木の花とは桜の花に非ざる事を窺ひ知らるるなり。 智仁勇の三徳を兼備して、顕幽神の三界を守らせたまふ木花姫の事を、仏者は称して観世音菩薩といひ、最勝妙如来ともいひ、観自在天ともいふ。また観世音菩薩を、西国三十三箇所に配し祭りたるも、三十三相に顕現したまふ神徳の惟神的に表示されしものにして、決して偶然にあらず。霊山高熊山の所在地たる穴太の里に、聖観世音を祭られたるも、神界に於る何彼の深き因縁なるべし。瑞月は幼少の時より、この観世音を信じ、かつ産土の小幡神社を無意識的に信仰したるも、何彼の神の御引き合はせであつたことと思ふ。惟神霊幸倍坐世。 附記 三十三魂は瑞霊の意なり。また天地人、智仁勇、霊力体、顕神幽とも云ひ、西王母が三千年の園の桃の開き初めたるも三月三日であり、三十三は女の中の女といふ意味ともなるを知るべし。 (大正一一・一・二〇旧大正一〇・一二・二三加藤明子録) |
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霊界物語 | 06_巳_大洪水/国生み神生み/三五教の誕生 | 35 北光開眼 | 第三五章北光開眼〔二八五〕 霊鷲山の宣伝神北光天使は泰然自若として、一心不乱に神教を説き進めつつあつた。一同の中より、 乙『宣伝使にお尋ねします。私は御存じのとほり、片目を抉られました。幸ひに片目は助かつたので、どうなりかうなり、この世の明りは見えますが、時々癪に触ります。貴下の御話を承り、かつ御忍耐の強きに感動しまして、私も貴下のやうに美しき心になつて、直日とやらに見直し聞き直さうと、覚悟は定めましたが、どうしたものか、腹の底に悪い蟲が潜んで居まして承知をして呉れませぬ。これでも神様の御意に叶ひませうか。どうやらすると、仇を討て、仇を討て、何をぐづぐづしてゐる。肝腎の眼球を刳られよつて、卑怯未練にもその敵を赦しておくやうな、弱い心を持つなと囁きます。どうしたら之が消えるでせうか。どうしたら之を思はぬやうに、綺麗に忘れる事ができませうか』 北光彦『御尤です、それが人間の浅ましさです。しかし、そこを忍耐せなくてはならないのです。何事も惟神に任せなさい。吾々がかうして一口話をする間も、死の悪魔は吾々の身辺を狙つて居るのです。また吾々の心の中には、常に鬼や悪魔が出入をします。それで人間は生れ付の直日の霊といふ立派な守護神と相談して、よく省みなくてはなりませぬ。笑つて暮すも泣いて暮すも、怒つて暮すも勇んで暮すも同じ一生です。兎にかく忘れるが宜しい。仇を討つべき理由があり、先方が悪ければ神様はきつと仇を討つて下さるでせう。人間は何よりも忍耐といふことが第一であります。人を呪はず、人を審判ず、ただ人間は神の御心に任して行けばこの世は安全です。何事も神様の御心であつて、人間は自分の運命を左右する事も、どうする事も出来ないものです。生くるも死するも、みな神様の御手の中に握られて居るのである。ただ人は己を正しうして人に善を施せば、それが神様の御心に叶ひ、幸福の身となるのです。人間としてこの世にある限り、どうしても神様のお目に止まるやうな善事をなすことはできませぬ。日に夜に罪悪を重ねてその罪の重みによつて種々と因縁が結ばれて来るのです。あなたが眼球を刳られたのも決して偶然ではありますまい。本守護神たる直日に見直し聞き直し、省みて御覧なさい。悪人だと思つても悪人でなく神様に使はれてをる人間もあり、善人だと見えてもまた悪魔に使はれてをる人間もあります。善悪正邪は到底人間として判断は出来ませぬ。ただ惟神に任せて、神の他力に頼つて安養浄土に救うて貰ふのが人生の本意であります。惟神霊幸倍坐世』 と合掌する。折しも甲は、 甲『ヤイ皆の奴、こんな恍けた教示を聞く馬鹿があるか。それこそ強い者勝の教だ。此奴はきつとウラル彦の間諜だぞ。俺のやうな弱い者を、舌の先で、ちよろまかしよるのだ。オイ金州、貴様は片目を刳られて、今朝まで仇を討つと吐かして力んでけつかつたが、今の態つたらどうだい。さつぱり宣伝使に盲にせられよつて、今に片方の目も取られてしまふのを知らぬか。オイ片目、所存の臍をかんち、否、固めてかからぬと馬鹿な目玉に遇はされるぞ。コラヤイ、何処から北光彦の宣伝使、貴様もえらい目に遇はしたらうか』 といふより早く、削竹を持つて宣伝使の右の眼をぐさと突いた。宣伝使は泰然としてその竹槍を抜き取り、片手に目を押さへながら、右の手に竹槍を持ち、押戴き天に祈り始めた。 甲『ヤイ腹が立つか。天道様に早く罰を与へて下さいなんて、竹槍を頭の上に戴きやがつてるのだらう。滅多に此方さまに罰が当つてたまるかい。悲しいか、痛いか、苦しいか、涙を雫しよつて。今まで太平楽の法螺ばかり垂れてその吠面は何だ。今迄の広言に似ず、何をメソメソ呟いてゐるのだイ』 と言を極めて嘲弄した。宣伝使は竹槍を頭に戴き、右手にて目を押さへながら、[※校定版・八幡版では「右手(めて)」ではなく「左手(ゆんで)」になっている。これは、前の方で「右の手に竹槍を持ち」と書いてあり、その竹槍を右手で持ったまま、同時に目を押さえるのではおかしいため、「左手」に変更したものと思われる] 北光天使『アヽ天地の大神様、私は貴神の深き広きその御恵と、尊き御稜威を世の中の迷へる人々に宣伝して神の国の福音を実現することを歓びと致します。殊に今日は広大無辺の御恩寵を頂きました。二つの眼を失つた人間さへあるに、私は如何なる幸か一つの眼を与へて下さいました。さうして一つのお取り上げになつた眼は、物質界は見ることは出来なくなりましたが、その代りに、心の眼は豁然として蓮の花の開くが如く明になり、三千世界に通達するの霊力を与へて下さいました。今日は如何なる有難い尊き日柄でありませう。天地の大神様に感謝を捧げます』 と鄭重に祈願を捧げ、天津祝詞を声朗かに奏上した。一同の人々は感涙に咽んでその場に平伏しうれし涙に袖絞る。甲は冷静にこの光景を見遣りながら、 甲『オイ腰抜け、弱虫、洟垂れ、小便垂れ、減らず口を叩くな。三文の獅子舞口ばかりぢや。それほど眼を突かれて嬉しけりやお慈悲に、も一つ突いてやらうか』 と又もや竹槍を持つて左の目を突かうとした。このとき東彦命はその竹槍を右手にグツと握つたとたんに右方へ押した。甲はよろよろとして倒れ、傍のエデン河の岸より真逆さまに顛落した。北光天使は驚いて真裸体となり河中に飛び入り、甲の足を掴み浅瀬に引いて之を救うた。 これよりさしも猛悪なりし乱暴者の甲も衷心よりその慈心に感じ、悔い改めて弟子となり宣伝に従事することとはなりぬ。宣伝使は之に清河彦と名を与へたり。因みに北光天使は天岩戸開きに就て偉勲を建てたる天の目一箇神の前身なりける。 (大正一一・一・二二旧大正一〇・一二・二五加藤明子録) |
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霊界物語 | 06_巳_大洪水/国生み神生み/三五教の誕生 | 43 猫の手 | 第四三章猫の手〔二九三〕 遠音に響く暮の鐘五月の空の木下闇 空に一声時鳥黒白も分ぬ夜の旅 ローマに通ふ広道別の貴の命の宣伝使 心にかかる故郷の空振り返り降る雨の 雲路を別の宣伝使東を指して進み行く 血を吐く思ひの杜鵑闇で暗せよ暫くは やがて三五の月の顔元照別の司の在す ローマの都も近付きて東の空に茜さし 変る変ると啼き渡る明けの烏の右左 頭上に高く飛び交ひて旅の疲を労るか その啼声も五月雨に湿り勝なる明の空 かあいかあいと鳴き渡る今日は珍し雨雲の 帳を開けて天津日の長閑な影を地に投げて 前途を照す如くなり前途を照らす日の神の 恵みの露に村肝の心の空も晴れ渡る 渡る浮世に鬼は無し鬼や大蛇や狼の 勢猛く荒れ狂ふローマの空も久方の 天津御神や国津神撞の御柱大御神 神の御かげを頼りとし寄せくる曲を言向けて 美し神世を経緯の綾と錦の機を織る 唐紅の紅葉の朝日夕日に照り栄ゆる 色にも擬ふ埴安の彦の命や埴安の 姫の命の織りませる百機千機の御教は 天の河原を中にして栲機姫や千々姫の 心も清き稚桜姫の神の命の御心ぞ 三五の月の御教を残る隈なく天が下 四方の国々布いて行く心の色ぞ美しき 心の花ぞ馨しき。 降りみ降らずみ雲に包まれたる五月雨の空も、今日は珍しくも天津日の神は、東天に円き温顔を現はし、下界に焦熱き光輝を投げ給ひける。 二人の宣伝使は、ホツと息吐きながら宣伝歌を謡ひつつ、ローマを指して膝栗毛に鞭うち進み行く。ここはローマの町外れの二三十軒ばかり小さき家の立ち列ぶ御年村といふ小村なりける。 村の若者五六人、路傍に蓑を敷き腰うち掛けながら、雑談に耽り居る。田植時の最中と見えて、町外れの田舎の田園には、蓑笠の甲冑を取りよろひ、手覆、脚絆の小手脛当、三々五々隊伍を整へ、節面白く田歌を唄ひながら、田植に余念なき有様なり。 見渡す限り、牛や馬の田を鋤く影、老若男女の右往左往に活動する有様は、実に猫の手も人の手といふ農家の激戦場裡ともいふべき光景なりける。 甲『アヽ斯うして夜も昼も碌に眠ることもできず、汗水垂らして働いて田は植ゑて居るものの、また去年のやうに大水が出て流されて了ふのぢやなからうかな。二年も三年もあんなことが続いては、百姓もたまつたものぢやない。俺はそんなこと思ふと腕が倦うなつて、手に持つ鍬も、ほろが泣いて落ちさうだ。百姓は実業だなんていふ者があるけれど、百姓ぐらゐ当にならぬものは無いぢやないか。せつかく暑いのに草を除り肥料を施り、立派な稲ができたと思へば、浮塵子がわく。肝腎の収穫時になると、目的物の米は穫れず藁ばつかりだ。本当に草喜びとは此のことぢやないか。それも自分の田地なら未だしもだが、穫つた米はみな野槌の神さまの所へ納めねばならず、納めた後は、後に残るものは藁と籾の滓ばつかりだ。アーア火を引いて灰残る。灰引いて火残る。さつぱり勘定が合はぬ。蚯蚓切りの蛙飛ばしも厭になつちまつた、割切れたものぢやない。四捨五入も六七面倒くさい約らぬものだ。ローマの都の奴は、暑いの涼しいのと云ひよつて左団扇を使つて、「呑めよ騒げよ一寸先は暗よ」なんて気楽さうに田の中の蛙のやうに、ガヤガヤ吐かして一汗も絞らずに、俺らの作つた米を喰ひよつて、米が美味いの味無いの、あらが高いの低いのと、小言八百垂れよつてな。おまけに垂れた糞まで俺らに掃除をさせよつて、土百姓、土百姓と口汚く、口からごふたくを垂れるのだ。誰だつてこんなこと思ふと、本当にごふが湧かア。これが何ともないやうな奴は、洟たれの屁古たれの、弱たれの馬鹿たれの、ばばたれの……』 乙『オイ、貴様もよく垂れる奴ぢやね。さう小言を垂れるものぢやない。誰もみな因縁ぢやと諦めて辛抱しとるのぢや。土百姓が都会の人間になつて、じつとして、うまい商売をして都会の人の真似をしようたつて、智慧がないから駄目だ。お玉杓子は、小さいときは鯰に似て居るが、チーイと日が経つて大きくなりよると、手が生え足が生えて蛙になつて了ふ。どうしても蛙の子は蛙だ。そんな下らぬ馬鹿を垂れるより精出して、糞でも垂れたが利益だよ。肥料になとなるからな。どうせ貴様たちは米を糞にする製糞器だ。人間は米を食つては糞にし、糞を稲にやつては米を作り、その米をまた食つては糞にし、糞が米になつたり、米が糞になつたり、互に因果の廻り合ひの世の中だ。これでも一遍芝を被つて出直してくると、都会の奴のやうな結構な生活をするやうになるのだ』 丙『さうか、そりや面白い。よい事を聞かして呉れた』 と言ひながら、大鍬を握るより早く路傍の芝草を起して頭に被つて、 丙『オイ、芝を被つて出直してきた。その後はどうしたら都会の人のやうになるのだ。教へてくれぬか』 乙『馬鹿、芝を被るといふ事は死ぬといふ事だ』 丙『死ぬのが芝を被るつて合点が往かぬぢやないか』 乙『マアー、そんな事はどうでもよい。この百姓の忙しい、猫の手も人の手といふ時に雑談どころじやない。先のことは心配するない。人間は今日の務めを今日すればよい。明日の天気を雨にしようたつて、日和にしようたつて人間様の自由になるものぢやない。みんな神様の為さるままだ。この間も三五教とかの宣伝使とやらが出てきてな、百姓を集めて六ケ敷い説教をしてゐたよ。その中にたつた一言感心したことがある。吾々土百姓はその心で無ければ、今日の日が務まらぬ。流石は宣伝使だ、偉いことを言ふよ』 甲『どんな事を言つたい』 乙『天機洩らす可らず。また雨が降ると困るからな。早苗饗休みに、ゆつくりと聞かしてやらう』 甲『一口ぐらゐ今言つたつて仕事の邪魔にもならないぢやないか。一寸先の知れぬ弱い人間のざまで、早苗饗の休みもあつたものかい。物いふ間も無常の風とやらが俺らの身辺をつけ狙うとるのぢや。その風が何処からともなしに、スツと吹いたが最後、寂滅為楽頓生菩提だ。いちやつかさずに言つてくれ。後生のためだ』 乙『ほんなら言うたらう。俺は宣伝使だぞ』 甲『にはか宣伝使様、蚯蚓飛ばしの蛙切り、糞垂れのはな垂れ、頤ばつかり達者で百姓を嫌うて一寸も宣伝使だ……』 乙『要らぬことを垂れない、はな垂れ奴。抑も三五教の教理は皇祖教だ』 甲『皇祖教つて何だい、そんな事を吐かすと、それそれ警察から不礼罪として訴へられるぞ』 乙『マア先まで聞けい。 この餓鬼は蚯蚓かあんこか虱か蚤か今日も明日もと糞垂れるなり』 甲『馬鹿、何吐かすのだい。貴様聞き損ねよつて、矢張り蛙切りの伜は蛙切りだ。困つたものだね。俺が云ふてやらう。ヱヘン。 この秋は水か嵐か知らねども今日のつとめに田草とるなり 明日の事はどうでもよい。今日の事は今日せいと宣伝使が吐かすのだ。頼りない宣伝使だ。俺はもう厭になつてしまつた。アーア、また一汗絞らうかい』 と甲は立ち上つた。つづいて四五の若者も蓑笠を身に纏ひ、水田の中へバサバサと這入つて了つた。 『神が表に現はれて善と悪とを立てわける』 と大声に呼ばはりながら、二人の宣伝使が此方に向ひ進みくる。 (大正一一・一・二四旧大正一〇・一二・二七外山豊二録) |
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霊界物語 | 06_巳_大洪水/国生み神生み/三五教の誕生 | 余白歌 | 余白歌 八の鳥 こひは誰かをしへつるかもかりそめにほのみしかけの身にしみてうき〈序歌〉 岐美ケ代の千代の礎固めむと石の宮居を月の花明山〈松葉の塵〉 久方の天津御国の荘厳を地上にうつす綾の鶴山〈松葉の塵〉 流水の如くに清く美しき神の教の湧ける玉の井〈松葉の塵〉 隠身而形も見えず声もなきまことの神は御中主なり〈第1章〉 今までは世人の為に延したれど見赦しならぬ時とは成りぬ〈第5章〉 地は震ひ雷猛り火の雨のふる事記を能くも調べよ〈第5章〉 村肝の心を千々に砕くかな世を生かさむと思ふばかりに〈第6章〉 天地の神の気吹に退らはれて高嶺の雲は四方に散り行く〈第7章〉 神ごごろつくしのはても東路も西洋までも拡めゆくなり〈第9章〉 千早振神代の手振りまつぶさに説き明かしたる生ける書かも〈第14章〉 和妙の綾の高天に現はれて瑞霊昔の状を説くなり〈第14章〉 いつまでも筆と口とで知らせども人は残らず盲目聾者〈第14章〉 まのあたり世の立直しするまでにかへておきたし人の心を〈第14章〉 今までは人の心のままにせしをこの世の事は神のままなり〈第14章〉 高山の尾根に黒雲立ちこめて御空の月の影を包めり〈第15章〉 あし引の山も野末もよみがへり弥勒の御代を寿ぎ奉らむ〈第15章〉 立替の神が表へ出るなれば高嶺の雲は四方に散るらむ〈第16章〉 時は今科戸の風の渓間より吹き上げ吹き荒れ吹き捲くるなり〈第16章〉 天地の神の怒の強くしてたやすく解けぬ時となりぬる〈第16章〉 独神成而隠身居たる月日神は国常立と豊雲野の神〈第18章〉 許々多久の罪も穢も引受けて世人を救ふ二柱神〈第18章〉 この怒りとく神々は世の中にただ二柱坐すばかりなり〈第18章〉 神代より深き因縁のある土地に世の立替の経綸せし真神〈第21章〉 国魂の神を調査国々の身魂の審判始め給へり〈第21章〉 闇の世に月日を慕ふ人心早く日の出をまつばかりなり〈第22章〉 高山に月は隠れて渓底は黒白も分かぬ闇となりぬる〈第29章〉 人草の腸の底まで洗ひきる瑞の御魂の教はかむわざ〈第29章〉 九重の古き都に一枝の神の経綸の梅開くなり〈第30章〉 立替の天の御柱たてよこの月日は朝夕心砕きつ〈第30章〉 待ちかねて此の世へいづの大神は瑞の御魂ぞ力なりけり〈第30章〉 かかる神世を待兼山のほととぎす姿かくして啼き暮しつつ〈第30章〉 東の御空に狂ふ鳥船の行末は弥勒の海を越えたり〈第33章〉 本宮の神の経綸を助けむと生れ出にけり宮垣内より〈第34章〉 久方の天の目一箇神出でて曇りたる世の光とならせり〈第35章〉 澄切りし人の身魂に天地の誠の日月は宿を借るなり〈第38章〉 天地の神に代りて世を開く人は真の神にぞありける〈第38章〉 天津御祖神の御言をかしこみて下津岩根に道を開きし〈第41章〉 中空の曇りも深き今の世は下津岩根の神も解らず〈第41章〉 渓間より真の光現はれて雲井の空を照らし返さむ〈第42章〉 高光る神のみいづを白雲のよその教になびくしこ草〈第46章〉 葦原の中津御国はさやぎ居り救はせ給へ伊都能売の神〈第46章〉 村肝の心の塵を払はむと神の気吹きの現はれにける〈第47章〉 黒雲の天地を包む世の中を照らして守る三五の月〈第48章〉 月の精地上に下りうば玉の人の心を照らし給へり〈第48章〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました] |
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霊界物語 | 07_午_日の出神のアフリカ物語 | 12 熟々尽 | 第一二章熟々尽〔三一二〕 八『本当にだよ、たうとう腰抜かしよつたナ。併しながら俺が腰を抜かしたお蔭で、貴様たちは助かり、コシて安心して居れるのだよ。コシコシ云ふない、腰抜野郎奴』 鹿『シカし、健寅とか云ふドエライ目を剥いた宣伝使は何処へ逃げたのかイ、酋長さまは居らつしやらぬじやないか』 甲『只今ナ、天から日の大神様とか日の入の神様とかいふお方がヒヨツクリコと現れて三五教の宣伝歌を歌はれたのだ。さうするとウラル彦の乾児の健寅彦奴が、あの大きな目をサツパリ閉ぎよつて、デカイ頭を拘へて縮こまつて了つて、終ひには野鼠のやうに小鼠と一緒に山の奥へ逃げて行きよつたよ。そして酋長さま夫婦に日の暮とやらの神様が、ウラナギとかウラナミとかいふ名を下さつて酋長さま夫婦は喜ンで、この山へドンドンお出で遊ばしたのだワ』 鹿『何ツ!、ウラ那芸?ウラル彦の為にナギな目に会つたのでウラナギといふのかい』 甲『知らぬわい』 乙『知らぬなら言うてやらうか。ウラナギぢやない、ツラナギぢやぞ。その名の因縁はマア、ザツトこの方の申す通りだ。エヘン、ツラツラ惟みるにツライこの世にツライ目して蛸をツラれて聞きヅライ宣伝歌を聞かされて好いツラの皮ぢや。俺アもう首でもツラねばならぬかと思ふほどツラかつた。それをツライとも思はずにジツとして耐へて御座つて、酋長さまはツライナンギを辛抱し、外へ落す涙を内へ溢して素知らぬ顔して飲みたい酒も呑まず、鋭い刃を目の前へ突きつけられ、ツラを晒されても何のツラからうといふやうなツラ構へをしてござつたのぢや。それでツラナギの神、ツラナミの神さまだ。分つたか』 鹿『へー、ツラツラと大きな面をしよつて何劫託をツラねさらすのだい。そンな事を聞かされるのも良いツラの皮だ。ヤイ、そこいらにウラル彦の宣伝使が酒でも忘れて行きよりやせぬかなあ』 一同四辺を見まはして、 『おゝ彼処にも此処にも沢山徳利を置いとるわい。ロハの酒なら呑ンでやろかい』 甲『ヤイヤイ、おけおけ、それを呑む位なら俺達は、こンな辛い目はしやせぬのだよ』 乙『きまつた事だい。彼奴の前なり、酋長の前だから、気張つてゐたが、健寅彦の居らぬ後なら何ぼ飲ンだつて分らぬぢやないか。宣伝使の前で飲むのは剛腹だからなア』 丙『それでも神さまは見てござるぞ。おけおけ』 斯く言つて口々に喋てゐるところへ、現はれたのは酋長の妻面那美の神なりき。面那美の神は一同に向ひ、 『お前達は神様の教を守つてよく忍むでくれた。これからは妾が酋長となつて、お前たちを守つてやる。我が夫は今日より三五教の宣伝使となつて、世界の人民を助けにお廻り遊ばすのだよ。今までは此の小さい白雪郷だけ守つてゐたが、もはやそンな時期ではない。こンな郷位は妾一人で沢山だから、今日限りこの郷を御出立遊ばすのだから、お前たちもお暇乞ひにこの山奥まで出てくるがよい。ウラル彦の宣伝使のやうに酒ばかり飲むことは出来ぬが、今日は門出の祝だから、充分に酒も飲むがいい』 乙『それ見たか、今日は飲ンでもいいつて最前から俺が言つたじやらう。そこいらにウラル彦の宣伝使が残した酒がある。みんな飲ンでやらうかい』 一同は先を争うて、その徳利を拾い上げて飲みはじめたるを、面那美の神はこの光景を見て顔をしかめ、 『人間といふ奴は口卑しいものだなア。あゝこれでは夫の留守番もなかなか大抵ぢやなからう。兎も角何ごとも神様にお任せするより外に仕方がない』 と独り言を言ひながら小声になつて宣伝歌を歌ひ、もと来し道へ引返し行く。老若男女は片手に徳利を抱へながら、姫神の後に従つて山奥に進み入るに、少し平坦なる処に、日の出神は酋長と共に美しき女性の前に端坐しゐたり。この女性は前に述べたる祝姫の宣伝使なり。祝姫は健寅彦の数多の弟子共に取り囲まれ、酒と剣とを以てこの酋長のごとくに責められたりしが、少しも恐れず、諄々として、三五教の教理を説き諭しければ、一同は大いに怒りて祝姫を今や打殺さむとなす折しも、日の出神現はれ来りて大音声に宣伝歌を歌ひたる。その声に何れも縮み上り、コソコソと四方八方に姿を潜めし際なりける。 ここに日の出神、面那芸の神、祝姫の三柱は白雪山を下り、一たん白雪郷の酋長の家に一泊し、歓びを尽して宣伝に出発したりける。 (大正一一・一・三〇旧一・三桜井重雄録) (第八章~第一二章昭和一〇・二・二二於増田分院王仁校正) |
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霊界物語 | 07_午_日の出神のアフリカ物語 | 16 釣魚の悲 | 第一六章釣魚の悲〔三一六〕 再び暴たる光景に船の諸人はまたも不安の念に駆られ、猫に逐はれし鼠の如く頭を垂れ呼吸を凝し、戦慄き伏してチウの声も挙げ得ざりける。 この四辺は大小無数の岩石水面に起伏して危険極まる区域なり。一つ違へば船は忽ち破壊覆没の厄に遭ふ地点にして、地獄の釜の一足飛び、人々の生命は恰も轍迹の魚か石上の累卵か、危険刻々に迫り来たりける。このとき船の一方に声あり。 (日の出神)『禍多き人の世は飯食ふ暇も附け狙ふ 情嵐の吹き荒び何の容赦も荒浪の 涙の淵に沈みたる世の諸人を天津日の 神の恵に救はむと黄金山に現はれし 三五教の宣伝使日の出神と現はれて 波風猛る荒海を渡りてここに太平の 神世を修理固成めむと常世の国に進み行く 心も広き海原や神の恵の弥や深く 大御稜威は久方の天津御空にそそり立つ 天教山も啻ならず神徳高き照妙の 衣を捨てて簑笠の服装も軽き宣伝使 重き罪人救はむと教の船に棹さして 闇の海原進み行く黒白も分かぬ暗の夜に 苦しみ迷ふ人々の心の波は騒ぐとも 魂の月は曇るとも天津日の出の宣伝使 光り輝く言霊に眠を醒せ眼を開け 眠を醒せ眼を開け神が表に現はれて 善と悪とを立て別るこの世を修理固成りし神直日 心も広き大直日ただ何事も人の世は 直霊に見直し聞き直せ身の過は宣り直せ 神の御子なる人草は恵も深き神の前 祈りて効験あらざらめ祈れよ祈れ諸人よ 神は汝と倶にあり神は汝と倶に在り 心の岩戸を押開き鬼や大蛇を逐ひ出し 三五教の神の教心の倉に隙間なく 充たせ足らはせ諸人よ充たせ足らはせ諸人よ 世は紫陽花の七変り月日は落つる世ありとも 海の底ひは乾くとも千代も八千代も変りなき 神の恵を力とし大神光を目標に 波風高き荒海の潮踏み分けて世を渡れ 神は汝と倶にあり光り輝く言霊の 天津祝詞の太祝詞声も涼しく宣れよ人 声も涼しく宣れよ人この世を救ふ埴安彦の 神の命や埴安姫の神の命の開きたる 三五教の教理をば耳の戸開けて菊の秋 四方の山々紅に錦織りなす真心は 神に通へる心ぞや神に通へる心ぞや 吾は日の出神なるぞわが言霊は常世行く 暗を照らして世の中の百の曲事祝姫 長閑な海面面那芸の厳の息吹に凪ぎて行く 実にも尊き神の恩実にも尊き神の徳』 と歌ひ終ると共に、またも海面は風凪ぎ、波静まり、月は中天に皎々として輝き始め、さしも頑強なる船の人々も思はず手を拍つて天地の神の洪徳を感謝したりける。 船客の中より色浅黒き、口元の締りたる中肉中背の男、日の出神の前に現はれ、恭しく手を突きながら、 男『一度ならず二度までも、この遭難を救ひ、吾らに清き美はしき教を垂れさせ玉ひしことを有り難く感謝いたします』 と云ひつつ涙を拭ひ、 男『さて、宣伝使にお尋ね申したきことがあります。お聴き届け下されますや』 と耻かし気にいう。日の出神は、 日の出神『吾は世界を導く宣伝使、何事なりとも問はせ給へ』 と快く答へたまへば、彼の男は、 男『私は実は白雪郷の者であります。ふとしたことより郷の女と恋に落ち、白雪郷を追ひ出され常世の国に遁げ行かむと致しました。然るに唯一足違ひにて、船は常世の国へ出帆いたし、次の船を待つて、今や常世の国に渡らうと致して居ります。然るに吾が恋しき女はわが後を追ひ、同じ船に如何なる因縁か乗ることとなりました。しかし彼の女は私の此の船に乗つて居ることは夢にも知りませぬ。私も亦その女の船に乗つて居ることは毫も気が付かなかつたのです。時しも船の一方に当つて、歌を唄ひ始めた女あり、よくよく視れば、私の日頃恋ひ慕ふ彼なれば、噫、彼は一旦約したる言葉を守り、遥々遠き波の上、我を捜ねて来りしか、嗚呼、愛しの者よ、と自ら名乗りを挙げ、相擁して泣きたく思ひました。傍を見れば豈計らむや、我が父の儼然として船中に控へて居るに気が付きました。思ひは同じ一蓮托生の身の上、とつおいつ、吐息を漏らす折からに、彼の女は遂に何思ひけむ、深き千尋の海に身を投げて、泡と消えゆく哀れさ。亦もや我が父の後を追ひて海の藻屑となりしを見る我身の苦しさ。私もその時彼と父との後を追ひ、この海原へ身を投げむやと決心はいたしたものの、何となく腹の底より「マア待て、マア待て。愛する彼の女と恩深き父の弔ひは誰人がなす。天にも地にも親一人子一人の汝、身投げは思ひ止まれよ」と頻りに私語きます。我身の不覚より、彼の女を殺し、大恩ある我父の生命まで水の泡となせしは私の罪咎、千尋の海よりも深きを思へば立つてもゐても居られませぬ、何卒わが心の迷ひを照らさせ給へ、日の出神の宣伝使さま』 と涙と共に物語るを、日の出神は莞爾として、事も無げに、 日の出神『世の中は老少不定、会者定離だ。一切万事人の運命は神の御手に握られて居る。生くるも神の御慮、死するも神の御慮ぞ。唯何事も人の世は、直日に見直せ聞き直せ、身の過は宣り直せ。また来る春に相生の、松も芽出度き親子夫婦の再会を、必ず得させ玉はむ。汝はこれより本心に立ち帰り、三五教の教を守り、天地の神を真心より讃美し奉れ』 と教へ玉へば、彼は熱き涙を湛へながら、日の出神に感謝し、直に宣伝歌を声高らかに歌ひはじめたり。日の出神は手を拍つて彼の男に向ひ、 日の出神『彼方を見られよ』 と指さしたまふ。波の彼方に、浮きつ沈みつ、何かにのせられたる男女の影見えたり。この男女は果して何人ならむか。 (大正一一・一・三一旧一・四広瀬義邦録) |
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霊界物語 | 07_午_日の出神のアフリカ物語 | 17 亀の背 | 第一七章亀の背〔三一七〕 夜は漸くに明け離れ、東海の浪を割つて昇る朝暾の光は、さしもに広き海原を忽ち金色の浪に彩り、向ふに見ゆる島影は、ニウジーランドの一つ島、大海原彦の鎮まりゐます、真澄の玉の納まりし、国治立大神の穿たせ玉ひし沓嶋。浪の間に間に浮きつ沈みつする様は、荘厳身に迫るの思ひあり。 怪しき船に跨がりて、浪に漂ふ男女の影は、船を目掛けて近より来る。よくよく見れば豈図らむや、猛り狂ふ浪間に身を投げ捨てたる白雪郷の若き女と、白髪交りの長髪の男の二人なりき。日の出神は麾き「来れ、来れ」と呼ばはれば、男女を乗せたる怪しき影は、やうやう船に近寄りきたるを見れば巨大なる亀なりき。二人は直ちに船に飛び乗りぬ。巨大の亀は日の出神に打ち向ひ、熟々顔を見交はしつつ又も姿を海深く没したりける。嗚呼この亀は何神の化身ならむか。 二人は此処に再生の思ひをなして再び船中の客となり、日の出神に打ち向ひ、涙を湛へながら各自の経歴を物語り、且つ、 二人『海中に身を投ずる折しも、何処よりともなく一道の光明が現はれて来ました。妾はその光を眼当に浪に漂ひ、浮きつ沈みつ参りました。私の後より一人の男又も追つかけ来り、そうかうするうち、光は消えて真の暗、身は何物かの上に二人とも乗せられて居ました。さうして日の出神様の宣伝歌は、猛り狂ふ風の音、浪の響きを透して手に取る如く聞えました。私はその歌について共に合唱いたしました。不思議や天津御空は晴れ渡り、風凪ぎ浪静まり、長閑な春の浪の上に比類稀なる大亀の背に救はれ御船に助けられたる嬉しさを、いつの世にかは忘れませう。実に有難き大神の深き恵みや』 と、嬉し涙に暮れて二人は交る交る感謝する。 一人の名は国彦と云ひ、この女は奇姫と云ふ。国彦は傍らに黙然として俯き居る男の顔を横目に見て、 国彦『ヤアお前は高彦か』 と叫べば、若き男は、 高彦『アヽ、父上様か、若気の致り、尊き親の恩を忘れ、えらい苦労をかけました。お赦し下さいませ。ただ何事も今までの罪は見直し聞き直し、宣り直しを願ひます』 と涙と共に語る。国彦は両眼に涙を浮べ、 国彦『アヽ高彦、天にも地にも親一人子一人、如何してお前を憎もうぞ。老先短い我が命一人の我子に生き別れ、この世に生きて詮もなし、たとへ汝の行方が一生知れぬとも、汝の渡りし常世の国のせめて土になりたいと思ひ定めて、此処まで来た親の心、どうしてお前が憎からう、心配するな。お前が里の規則を破り白雪郷を追放せられたその後は、後に残りし老の身の明暮涙の袖を絞るばかりであつたが、如何なる神の御引き合せか渡る世間に鬼は無い。それにも一つ嬉しいは、お前の慕うた彼女はいま此処に来てをる。俺がこれから仲媒して、天晴親子夫婦の契を結ばせやう。オイ高彦、可憐の女に、よう来たと柔しい言葉をかけてやれ。広い世の中に親となり、子となり、女房となるも昔の神代から神の結びし深い因縁、同じ船の一蓮托生』 と嬉し涙にかき曇る。此処に親子夫婦の契を結び、三人手に手を取つて宣伝歌を歌ひ神に感謝を捧ぐる殊勝さよ。船の一方には、 甲(熊公)『オイ、馬鹿にするじやないか。お安くないところを見せつけよつて、俺もかうはして居るものの、国に帰れば、皺だらけの父母もあれば、頗る別嬪の女房もあるのだ。それで近所の奴等あ、俺の事を歌に唄ひよつて「よい嬶持つたが一生の徳だよ、近所も喜ぶ、爺も喜ぶ、お婆も喜ぶ、第一熊さま喜ぶ、熊さまどころか、伜も喜ぶ」とこんな歌を唄ひよるのだよ』 乙『オイ、涎を拭かぬか、見つともない』 熊『あまり嫉妬ない、あまりやくと色が黒くなるぞ』 乙『貴様とこの嬶は、あれでも別嬪だと思うて居るのか、笑はしやがる。鼻は獅子舞、眼玉は猫で、菊石だらけで、おまけに跛者と来て居るのだから、悪い事にかけたら完全無欠だ。ウンその尻で思ひ出した、貴様の嬶は村中にない大きなだん尻をぶりぶりさしよつて、歩く態つたらありやしないよ。それでも貴様はみつちやも笑靨、獅子鼻も却つて優らしい、歩く姿は品がよい位に思つて居るだらう。ほんとにお目出度い奴だよ』 熊『オイ、小さい声で云はぬかい、人の前だぞ。此処に居る奴は俺の嬶のことを知りやしない、それだから別嬪らしう俺が云つて居るのに貴様が大きな声で素破抜きよつて、あまり気が利かぬぢやないか。些と心得て呉れぬと困るよ』 乙『困るたつて、事実は事実ぢやないか。貴様とこの嬶はどて南瓜の七お多福で、おまけに菊石面で、ど跛者で大きなだん尻をぶりぶりさして歩いて居る姿たら見られた態ぢやないぞ。それで俺のところの村の名物だ』 と態と大きな声で呶鳴るを、熊公は『シツ』と低い声で制してゐる。 乙『貴様「シツ」なンて俺を牛でも追ふやうな扱ひをしよるのか、俺が牛なら貴様は熊だ。黒熊、嬶大明神ばかり拝むで居る赤熊穴熊さまだよ』 と自暴自棄気味になつて喋りたてて居る。かく話す中に船は沓嶋の港に無事に着きけり。 高彦は天久比奢母智司の前身にして、奇姫は国久比奢母智司の前身なりける。 (大正一一・一・三一旧一・四加藤明子録) |
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霊界物語 | 07_午_日の出神のアフリカ物語 | 21 飲めぬ酒 | 第二一章飲めぬ酒〔三二一〕 またもや海面は波荒く猛り狂ひ、出帆を見合はすの止むなきに致り、風を待つこと殆ど一ケ月に及びける。 この島は潮満、潮干の玉を秘めかくされ、豊玉姫神、玉依姫神これを守護し給ひつつありしが、世界大洪水以前に、ウラル彦の率ゆる軍勢の為に玉は占領され、二柱の女神は遠く東に逃れて、天の真名井の冠島、沓島に隠れたまひし因縁深き嶋なりける。 その後はウラル彦の部下荒熊別といふ者、この島を占領し、数多の部下を集め、酒の泉を湛へて、体主霊従のあらむかぎりを尽しゐたり。然るに天教山に鎮まり給ふ神伊邪那岐神はこの島の守護神として真澄姫命を遣はし給ひぬ。それより荒熊別は神威に怖れ、夜陰に乗じて常世の国に逃げ帰つたりける。その時の名残として、今に酒の泉は滾々と湧き出て居たるなりき。 日の出神は真澄姫命の神霊を祭る可く、久々神、久木神に命じ、大峡小峡の木を伐り、美しき宮を営ましめたまふ。是を竜宮島の竜の宮といふ。而して田依彦をこの嶋の守護神となし、名を飯依彦と改めしめたまへり。 久々神、久木神はこの嶋の人々をかり集め、宮殿造営の棟梁として忠実に立働きぬ。嶋の谷々には木を伐る音、削る音、人の叫び声盛ンに聞えける。 日の出神は海辺の見はらし佳き高殿に昇りて、海上の静まるを待ちゐたまひぬ。 山の奥には彼方にも此方にも、斧鉞の音丁々と聞え盛に伐木しゐたり。 甲『おい、皆一服しやうじやないか。いま久々神があちらへ行きよつたで、叔母の死ンだも食き休みと云ふ事があるよ。鬼の様な大将が彼方へ行つた留守の間に、鬼の来ぬ間の洗濯だ。おいおい、休め休め』 乙『おーい皆の奴、一緒に休まうかい』 丙『それでも休むと音が止るから、また呶鳴られるよ』 甲『休ンで、そこらの木を叩いて居ればよいワイ』 乙『一体、宮を建てるとか云つて、まるで吐血の起つた様に、夜さにも俺らを寝ささずに、ひどく酷使ひよるじやないか。結構な酒はあーして湧いて居るのに、飲まれぬなどと吐かしよるし、堪つたものじやない。合間には酒位、ただ湧いて居るのじやもの、飲まして呉れたつてよかりさうなものじやないか。一体こりや何の宮だらう』 甲『酒を飲まさぬから、お前達ア腹が立つ、その腹を立てさせぬため、神さまを祭らすのだ。それで何でも、腹がたつよ姫とか、真澄姫とか桝呑姫とかいふ神さまじやさうだよ』 乙『けたいな神さまだね。立つものは腹ばかりぢやない。疳癪も立つし、鳥も立つし、立疳姫の神やら、立鳥姫の神も祭つたらどうだらう』 丙『馬鹿いふない。それまた彼処へ痛い奴さまが来たぞ。それそれ釘の神さまだ』 甲『釘ぢやない。久木神さまといふのだい。なまくらをして居ると、首きりの神さまにならつしやるぞ』 かかる処へ久木神は廻り来たり、 久木神『オー、皆の者御苦労だな。酒が飲みたさうな顔をして居るが、酒はあまり飲まぬがよいぞ。俺も今まで酒が好きだつたが、たうとう嫌ひになつて了つた。好きなものを無理に止めよと云つても、止むものぢやない。お前たちは充分に酒を飲ンで満足したら、しまひには舌がもつれ口が痺れ副守が飛出して酒が飲めなくなるかも知れぬぞよ。飲みたい飲みたいと思つて辛抱して居ると、根性が曲つてよく無い。酒は百薬の長だ、御神酒あがらぬ神は無いから、お前たちも神さまになりたくば、ちつとも遠慮は要らぬ。自然に湧く酒だから遠慮なしに飲ンで来い』 と云ひ捨てて、この場を立ち去る。後見送つて、 甲『おいおい、久々神は酒を飲むなと、喧しう吐かすが、いま来た久木神さまは流石に苦労人じやなあ。根性が歪ンではいかぬから、飲みたい丈け飲ンで来いと云ひよつたぞ。お許しが出たのだ。天下御免だ。飲ンで来うかい』 一同『よからう、よからう』 と、大勢は先を争うて、酒の湧き出る滝壺指して走り行く。 来て見れば酒の泉の滝壺は、千引の岩にてすつかり包まれ、処々に人の口位な孔が上面に開いてをる。 甲『やいやい皆の奴、久木神も腹が悪いじやないか。こンな巨大きな岩で、何時の間にやら、ぴつたりと蓋をして置きよつて、飲みたけりや飲ンで来いなンて、俺らを馬鹿にするじやないか』 一同『さうだな、しかし其処に孔が開いて居るじやないか。その孔から口を突込ンだらどうだい』 甲『おー、それもさうだ。皆の奴ここから飲まう飲まう』 一同は岩蓋の上に取り縋つて、その孔より舌を突き出して見てゐたるが、 甲『おい甘さうな酒は沢山あるが、舌が届かぬワイ。もう一分といふ所だ』 乙『貴様舌が短いのだ、どれどれ俺が飲ンで見てやらう』 甲『貴様は何時も舌の長い奴だ。舌長に物を吐かすから、こンな時にや重宝だ。やつて見よ』 乙『エヘン』 と咳払ひしながら、岩の孔から舌を突込ンで見たが、是も届かない。交る交るやつて見たが、どうしても酒の所までは、間隔があつて嘗めることが出来ない。しかしその孔からは何とも云へぬ馨しい酒の匂ひがして居るので、各自に口を当てて匂ひを嗅いだ。喉は各自にごろごろ唸り出して、腹の中の焼石は残らず酒壺に向つてジユンジユンと音を立てて、落ち込みにける。 それよりこの郷の人間は、酒の匂ひを嗅ぐさへも嫌になり、神の教をよく守り、飯依彦神の指揮に従ひて、名にし負ふ竜宮島の楽しき生活を送りたりける。 (大正一一・一・三一旧一・四井上留五郎録) |
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霊界物語 | 07_午_日の出神のアフリカ物語 | 42 分水嶺 | 第四二章分水嶺〔三四二〕 高照彦の憂に沈む懐旧談に、耳を澄まして聞き入りゐたる三人の宣伝使は、有為転変の空行く雲を打眺め、感慨無量の態なりしが、面那芸司は日の出神に向ひ、 面那芸『ただいま高照彦様のお話を聞きまして、実に感心いたしました。これを思へば、我々はわづかな狭い白雪郷に酋長となつて、夢の如くにこの世を暮して来たが、高照彦様の御苦労のことを思へば、殆ど九牛の一毛にも如かない苦労だ。幸にも日の出神の宣伝使に三五教の結構な教を説き諭され、翻然として悔い改め、ここまで来るは来たものの、未だ未だ我々は苦労が足りない。実際の事を白状いたしますが、明けても暮ても、白雪郷に残しておいた我が妻の面那美姫は何うして居るであらうか、訳の分らぬ虎や熊のやうな里人を、女の弱い細腕で酋長として何うして治めて行くであらうか。思へば思へば不愍なものだ。夫婦となるも深い因縁だのに、神の為とは言ひ乍ら、海山越えて二人は悲しき生木の別れ、四鳥の悲しみ釣魚の歎きとは我々の境遇であらうと、明け暮愛着の涙を人知れずしぼつたのを思へば、実に情ない。何たる卑怯であらう。あゝ何たる未練な我であらう。生者必滅会者定離だ。愛別離苦の念に駆られるやうな事では、到底この世を救ふ清き宣伝使となることは出来ない。あゝ悪かつた。あゝあゝ神様、どうぞ私の弱き心に、貴神の強き力を与へて下さいませ』 と天に向つて合掌し、涙を流しける。 日の出神はうち頷き、 日の出神『あゝそれで宜しい。その心掛でなくては、とても宣伝使にはなれない。私も実の事を言へば、貴方の精神上の覚悟の点に於て、最う少し何処やら物足らぬ心持がしてゐた。中途に神徳を外して了やせぬか、腰を折りやせぬかと、やや不安の念に駆られてゐたのだ。あゝ私もそれを聞いて本当に安心した。有為転変の世の中は、何事も惟神に任すより仕方がない。今といふこの瞬間は、善悪正邪の分水嶺だ。過去を悔まず未来を恐れず、神命のまにまに皆さま心を合せて進みませう』 と言ひ切つて、先に立ち、又もや涼しき声を張りあげて、 日の出神『心つくしの益良雄が神の命を蒙りて 波に漂ふアフリカの筑紫の国へと進みゆく 心は矢竹にはやれども弱り果てたる膝栗毛 足は草鞋に破られて血潮を染めなす紅葉の 赤き心をたよりとし豊葦原の瑞穂国 踏み行く旅の面白さそも此の島は身一つに 面四つありと聞くからは残るはもはや一つ面 思ひは同じ宣伝使宣る言霊も清くして 大海原を包みたる深霧伊吹きに払ひつつ 国の主宰の白日別鎮まりゐます都まで 進めや進めいざ進め進めや進めいざ進め』 と勢よく駆け出しにける。 折しも、轟然たる大音響聞ゆると見る間に、東北の天に当つて黒煙濛々と立ち昇り、大岩石は火弾となりて地上に落下し来りぬ。一行はこの爆音に思はず歩みを止め、しばし途上に佇立して、その惨澹たる光景を遥にうち仰ぎける。 面那芸『モシモシ、あれは何処の山が破裂したのでせうか。吾々の前途を祝するのでせうか、あるひは悪神が呪つてるのではありますまいか』 祝姫『いいえ、吾々は神様の御用のために斯うして天下を遍歴する者、天地の大神様は我々の一行の門出を祝するために、煙火を上げて下さつたのでせう。最前も日の出神様が有為転変の世の中ぢやとおつしやつたでせう』 面那芸『さうでせうかな。それにしても余り大きな音でした。私は耻しい事だが、胆玉が転覆しかけましたよ』 日出神『アハヽヽヽヽ、も一寸面那芸さま、度胸をしつかりせないとこンな事ではない、今かうして吾々の通つてゐる大地が爆発するかも知れない。その時には貴方は何うする心算だ』 面那芸『さあ刹那心ですな。善悪正邪の分水嶺、一寸先のことは分りませぬわ』 日出神『さうでせう、さうでせう。しかしこの世の中はすべて神様の意の儘だ。今破裂したのは、あれはヱトナの火山だ。タコマ山の祭典の時に、爆発して以来、今日まで鎮まつてゐたのだが、又もや突然爆発したのは吾々に対する天の警告だらう。竜宮城の言霊別の神はヱトナ火山の爆発した一刹那、悪神に毒を盛られて大変に苦しまれたといふことだ。吾々も注意せないと、筑紫の都へ行つて、何ンな悪神の計略の罠に陥れられるやも知れないから、気を付けなくてはならぬ』 高照彦『さういふ時には吾々はどうしたらよろしいか』 日出神『別に何うするも斯うするもありませぬ。ただ天地を自由にし、風雨雷霆を叱咤するといふ神言を、無駄口を言ふ暇があつたら、奏上さへすれば凡ての災は払はれて了ふのです』 祝姫『今ここで一同揃うて神言を奏上しては如何でせう。大変に足も疲れましたなり、休息がてら神言を奏上しませうか』 日出神『休息がてらとは、それは何の事です。序に神言を上げるといふやうな事は出来ない。休息は休息、神言奏上は奏上だ』 祝姫『いや、これは有り難う、ついうつかりと取違ひをいたしました』 高照彦『それだから、女の宣伝使は頼りないと言ふのだ』 日出神『人の事はかまはひでも宜しい。宣伝使の身になつたホヤホヤで、人の事を言ふどころですか。貴方こそ私は頼りないと思つてゐる』 四人の宣伝使は道々いろいろの話を進ませながら、漸くにして大野原に出で、見れば南方に当つて、巍然たる白日別司の鎮まる館現はれたりける。 (大正一一・二・二旧一・六桜井重雄録) |
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霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 09 鏡の池 | 第九章鏡の池〔三五九〕 猿世彦はアリナの滝に身を清め、この巌窟の鏡の池に禊をなし洗礼を施しゐたり。猿世彦は名を狭依彦と改めける。狭依彦の名は遠近に轟きわたり、洗礼を受けに来るもの、教理を尋ねに来るもの続々殖え来たりぬ。元来三五教の教理は、船の中にて聞き囓りの俄宣伝使なりければ、深き事は分らず。されど苟くも宣伝使たるもの、知らぬとは云はれざれば夜昼鏡の池に祈願を籠め、曲りなりにも説教を始め居たりける。 このとき黒彦と云ふ色の浅黒き眼のくるりとした鼻の小高く口許の締りし中肉中背の男、大勢の信者の中より現はれて質問を始めたりける。 黒彦『もしもし宣伝使様、貴方は宇宙一切の事は何でも言霊で解決を与へると仰有つたさうですが、一つ聞かして頂きたいですが何をお尋ねしても構ひませぬか』 狭依彦『我は天下の宣伝使、ドンナ事でも知らない事は無い事は無い』 黒彦『曖昧な御言葉ですな、知つてるのですか、知らぬのですか』 狭依彦『ドンナ事でも、知る事は知る、知らぬ事は無い事は無い。何なつと聞かつしやれ』 黒彦『一寸お尋ねしますが、あの蕎麦は何で蕎麦と云ふのですか』 狭依彦『お前の内に作つてゐませぬか。雪隠の傍や、山の側や、畑の側や其辺中の側に生えてるだらう、それで蕎麦と云ふのだよ』 黒彦『貴方の仰有る事はチツト違ひはしませぬか、此間も大中教の宣伝使が遣つて来て、蕎麦と言ふものは、昔の昔のズツト昔の其昔、天の御三体の大神様が柱の無い屋根ばかりの三角形の家を造つて、其処へお住居を遊ばした。其家の側に出来たので蕎麦と云ふのです。それで屋根の形に蕎麦は三角になつてるだらう、お前達の雪隠の側にも、家の側にも出来てるではないか。側に居りながら貴様は余つ程饂飩な奴だと云ひましたよ』 狭依彦『あゝお前さまはウラル彦の教を奉ずる人だな』 黒彦『尤だ、何でも世界の事は皆知つてるとか、知らぬとか、蕎麦を掻いて喰ふ様な法螺を吹いて、側の人間をあつと云はさうと思つても、さうはいかぬぞえ。お前達の様なものが宣伝使になつて居つては、薩張り宣伝使の相場が狂つて仕舞ふワ。馬鹿々々しい』 狭依彦『それならお前さま、大中教の宣伝をやつて下さい。貴方の仰有る事が理屈に合うてゐるなら私は大中教に従ひます。それなら、此方からお尋ねするが黍と云ふのはどう云ふ処から名が附いたのですか』 黒彦『黍の穂は気味が良いほど実がなるから黍だ。ずる黍は手に撫でて見るとズルズルするから、ずる黍だ。大根は神さまの大好物だから大根と云ふのだ。蕪は余り味が良いから、オイ一つお前もかぶらぬかと云うて、つき出すから蕪と云ふのだ。米の炊いたのは美味いから、子供が食つてもウマウマと云ふからママと云ふのだ。さあさあ何でも聞いたり聞いたり』 狭依彦は一寸感心したやうな顔して首を傾け、 狭依彦『へえ、ソンナものですか、それは結構な事を聞きました。私もコンナ話は大好物で気味が宜しい』 と下らぬ理屈に感心をしてゐる。 鏡の池の水は俄にブクブクと泡立ち初め、そして水の中から竹筒を吹く様な声がして、 『卑しい奴らだ。喰物ばかりの問答をしよつて気味が良いから黍だの、大好物だから大根だの、召し上れの、うまうまのと、何と言ふ喰ひ違ひの事を申すか。やり直せ、宣り直せ、オーン、ボロボロボロ』 狭依彦『いや大変だ。池の中からものを云ひだしたぞ。何でも之は教へて呉れるに違ひ無い。おい黒さま、お前に用は無い。俺は此池を鑑として之から何でも聞くのだ。もしもし鏡の池の神さま、之からコンナ奴が来たら直に私に教へて下されや』 池の中から竹筒を吹く様な声で、 『黒彦に教へて貰へ』 狭依彦『やあ、こいつは堪らぬ、偉い事を仰有る。矢張り黒彦が偉いかしら、モシモシ黒彦さまお尋ね致します。私の頭は如何したら毛が生えますか』 黒彦『それあ、生えるとも、一篇芝を冠つて来たら生える』 狭依彦『ソンナ事は、きまつてる。此儘生えぬかと頼むのだ』 黒彦『瓢箪に毛が生えたらお前さまの頭にも毛が生えるよ。枯木に花が咲くか、煎豆に花が咲いたら其時はお前の頭に毛が生えるのだよ。三五教では煎豆に花が咲くと云ふではないか』 狭依彦『もう宜しい、何にもお尋ねしませぬ。口計り矢釜しい、雀の様に云うて何にも知りはせぬ癖に偉さうに言ふない』 黒彦『俺を雀と云うたが、雀の因縁知つてるか』 狭依彦『知つとらいでか、鈴の様に矢釜しく囀るから雀だよ。四十雀の様に、始終ガラガラ吐かしよつてな』 黒彦『ソンナラ鷹の因縁知つてるか』 狭依彦『高い処へ飛ぶから鷹だ。そこら中を飛び廻るから鳶と云ふのだ』 黒彦『ソンナラ雲雀は如何だ』 狭依彦『高い処へ上り上つて告天子と云つて威張り散らすから雲雀と云ふのだ。雲雀何んぞ大鵬の志を知らむやと云ふのはお前達の事だよ。解く位の事なら何でも講釈してやる。朝も早うからガアガア鳴きたてる、日の暮に又ガアガア声を嗄らして鳴く奴を声を烏と云ふのだ。三五教の教には一つも穴が無からうがな』 としたり顔に云ふ。 またもや鏡の池はブクブクと泡が立つて、前の様な拍子抜けのした声で、 『お前達はとりどりの講釈を致すが、どえらいとり違ひだよ。もつと心をとり直したが良からう。ブーツブーツ』 と法螺貝の様な唸り声が聞え来たる。 黒彦『此奴は堪らぬ、化物だ。何が飛び出るか分りやせぬ。皆の者逃げろ逃げろ』 と尻引つ紮げて一目散に逃げ出したり。唸り声は刻々と高まり来たり、大地震の様にブルブルと大地一面が動き出したれば、転けつ輾びつ、過半数の人間は四方に逃げ散りぬ。膽玉の小さい腰を抜かした人間ばかり、依然として其場に残り居たるなり。狭依彦もまた腰を抜かし其場に依然として祈願を凝らしつつありき。唸り声はますます烈しくなる一方なりけり。 (大正一一・二・六旧一・一〇北村隆光録) |
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霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 20 張子の虎 | 第二〇章張子の虎〔三七〇〕 淤縢山津見は荒熊の高彦その他の四人と倶に静々と、ブラジルの山を西へ西へと降り行く。遥か前方に展開されたる原野あり、彼方此方に黄昏の暗を縫うて燈火が瞬きゐる。前方遥かに見渡せば松明の光、皎々と輝き大勢の喚き声聞えけり。一行は、その声の方に向つて急ぎけり。 見れば蚊々虎を真中に、数百人の群衆は遠巻に取り巻きて何事か呶鳴りつけ居る。蚊々虎は中央の高座に上り、 蚊々虎『朝日は照とも曇るとも月は盈つとも虧くるとも たとへ大地は沈むとも誠の力は世を救ふ 神が表に現はれて善と悪とを立て別ける ヤイ、巴留の国の奴共、善と悪との立別の戦争は、今におつ始まるぞ。黄泉比良坂の戦ひが目前に差し迫つて居るのだ。何をキヨロキヨロして居るのだい。お前達は朝から晩まで「飲めよ騒げよ一寸先は暗夜、暗の後には月が出る」などと、真黒けの一寸先の判らぬウラル彦の宣伝歌に呆けて、酒ばかり喰つて腸まで腐らして居る連中だらう。勿体なくも黄金山から御出張遊ばした天下の宣伝使、常照彦とは我輩の事だ。確かり聞け、諾かな諾く様にして改心さして遣るぞ。おーい。盲目共、聾共、どうだ改心するか、するならすると男らしくキツパリ此処で神様に申し上げろ』 群衆の中から、 甲『オイオイ何だ彼奴は、偉さうに吐かしよつて、よつぽど酒が飲み度いと見えるぞ。貴様らウラル彦の宣伝歌を聞いて酒ばかり飲んで俺には少しも飲まして呉れぬと呶鳴つて居るではないか』 乙『貴様、聞き違ひだ。彼奴はなあ、三五教の宣伝使で俺らに酒を飲むな、酒を飲むと腸が腐つて死んで終うと云うて呶鳴つて居るのだ。彼奴の言草はチツとは気に喰はぬが然し吾々を助けてやらうと思つて、大勢の中に単身で飛び込んで、生命を的に彼様な強い事を云うてるのだ。何ほど度胸があつても、吾身を捨てて懸らな、アンナ大胆なことは云はれるものぢやないよ』 丙『何、彼りや狂人だよ。当り前の精神でソンナ馬鹿な事が云へるか。これほど皆が一に酒、二に女、三に○○[※御校正本・愛世版では「○○」で伏せ字になっているが、校定版・八幡版では「博打(ばくち)」という文字が入っている。]と云うて居るその一番の楽みを放かせと云ふのだもの、どうせ吾々のお気に入らぬことを喋べくるのだから、生命を的にかけて、ああやつて歩いてゐるのだ。チツとは聞いてやらぬと冥加が悪いて』 甲『何だか知らぬが、この間ウラル彦の宣伝使が来た時には、沢山の瓢箪を腰につけて自分一人酒をグツと飲んでは、酒飲め飲めと勧めて居つたが、何程飲めと云つたとて、俺らは酒をもつて居ないのに飲む事も出来ないし、宣伝使奴が甘さうに飲んで管を巻きよるのを、唇を嘗めて青い顔して、羨り相に聞いて居るのも余り気が利かぬぜ。それよりも彼奴のやうに自分が飲まずにおいて、皆に飲むな飲むなと言ふ方が、まだましだよ。根性なりと僻まいで宜いからなあ』 大勢の中より酒にへべれけに酔うた男、片肌をグツと脱ぎ、黒ん坊が黄疸を病んだ様な膚を現はし乍ら、宣伝使の前に歩々蹣跚として進み寄り、 男(虎公)『やい、やーい、貴様あ、ささ酒を飲むなと吐すぢやないかエーン、酒は飲んだら悪いかい、馬鹿な奴だなあ、これほど甘いものを喰うなと吐かしよる奴は一体全体、何処の唐変木だい。エーン、酒が無うてこの世が渡られると思うとるのか、馬鹿、何でもかでも酒が無ければ、夜も明けぬ、日も暮れぬ世の中だ。そして貴様、さけもさけも、世の中に、酒ほど甘いものがあらうか、四百種病の病より酒を止めるほど辛い事は無いと云ふ事を知つとるか、貴様のやうな唐変木には話が出来ぬワイ。トツトと帰れ。俺の処のお多福奴が、毎日日にち酒を飲むな飲むなと吐かしよつて、むか付くのむか付かぬのつて、腹が立つて腸が沸えくり返る。それで俺あ、意地になつて嫌でもない酒を無理に飲んでやるのだ。それに貴様は何処の奴か知らぬが、自家の嬶と同じやうに酒を飲むな、喰ふなとは何の事だい。真実に人を馬鹿にしやがらあ、コンナ事でも自家の嬶が聞きよつたら、三五教の宣伝使様が酒を飲んだら腸が腐るとおつしやつたと、白い歯をむき出し、団栗眼を釣りよつてイチヤイチヤ云ふにきまつてらあ。糞面白くもない。俺の処の嬶の出て来ぬ中に早う去なぬか、待ち遠い奴だ。何をほざいて居やがるか』 蚊々虎は泥酔者の言葉を耳にもかけず疳声を張り上げて、 蚊々虎『世の中に酒ほど悪い奴は無い家を破るも酒の為め 離縁になるのも酒の為め喧嘩をするのも酒の為め 生命を捨てるも酒の為め小言の起るも酒の為め ケンケン云ふのも酒の為め酒ほど悪い奴は無い 腸腐らす悪酒に酔うて管巻く悪者は 扨もさても気の毒な酒を飲むなら水を飲め』 と歌ひ出すを、泥酔者はますます怒つて、蚊々虎の横面目蒐けてポカンと殴りつける。蚊々虎は又もや疳声を張上げて、 蚊々虎『人を殴るも酒の為め夫婦喧嘩も酒の為め』 男(虎公)『まだ吐かしよるか、しぶとい奴だ。もつと殴つてやらうか』 蚊々虎は目を塞ぎ、泥酔者に向つてウーンと一声呶鳴りつけたるに、泥酔者はヒヨロヒヨロとよろめきながら、傍の石原に顛倒し額を打ちて、滝の如く血を流しゐる。大勢の中より、 甲『おいおい、泥酔者が転けよつた。あらあ何だ、血が出て居るぢやないか、救けてやらぬかい』 乙『救けてやれと云うたつて、コンナ者に相手になる者は、この広い巴留の国には一人もありはせないよ。彼奴はグデン虎のグニヤ虎の喧嘩虎と云うて大変に酒の悪い奴だ。指一本でも触へ様ものなら、因縁をつけよつてヘタバリ込んで、十日でも二十日でも愚図々々云うて只の酒を飲む奴だ。アンナ者に相手になつたらそれこそ家も倉も山も田も飲まれて了ふぞ。相手になるな、放つとけ放つとけ。彼奴が死によると皆の厄介除けだ。国中の者が餅でも搗いて祝ふかも知れないよ』 乙『彼奴が噂に高い酒喰ひの喧嘩虎か。やあ煩さい煩さい、よう云うて呉れた』 虎『だ、だ、誰だい、俺をグデン虎のグヅ虎の喧嘩虎だと、何処に俺がグヅを巻いたか、喧嘩をしたか。さあ承知せぬ、俺を誰様と心得て居る。俺は広い巴留の国でも二人とない虎さまだ。虎さまが酒を飲むのが何が不思議だい。酒飲みは皆酔うと首を振りよつて、誰も彼も張子の虎になるのだ。虎が酒飲んだのが、な、な、何が悪い。さあ承知せぬ、貴様の家は知つとるから之から行つて家も、倉も、山も、田も、御註文通り飲んで遣らうかい。二人の奴、酒の燗をして置きよらぬかい』 と団栗目をむいて睨みつける。 甲乙『モシモシ、虎さまとやら、お気に障りまして誠に済みませぬ。私は決して貴方の事を申したのではありませぬ。他の国にソンナ人があるげなと云うたのです。取違して貰つては困ります』 虎公『いかぬいかぬ、誤魔化すか。何でも宜い、飲んだら良いのだ、コラ、八頭八尾の大蛇の子とは俺の事だぞ。何も彼も飲むのが商売だ』 二人は顔を顰め当惑して居る。蚊々虎はこの場に現れて、 蚊々虎『おい虎公、酒喰ひ、何を愚図々々云ふか、俺の腕を見い、誰だと思つてる、三五教の宣伝使だ。貴様が喧嘩虎なら此方さんは蚊々虎ぢや、虎と虎との、一つ勝負を始めようかい』 虎公『な、何だ、喧嘩か、喧嘩は酒の次に好きだ。こいつ、酒の肴に喧嘩でもやらうかい、面白からう』 と虎は立上つて、蚊々虎目蒐けて飛び掛る。蚊々虎は泰然自若として彼が打擲するままに身を任せ居る。斯る処へ暗を破つて、 (淤縢山津見の声)『神が表に現れて善と悪とを立別る』 と声爽かな宣伝歌は聞え来たりける。 (大正一一・二・八旧一・一二北村隆光録) |
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霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 35 一二三世 | 第三五章一二三世〔三八五〕 樹々に囀る百鳥の声、眠気なる油蝉の声に送られて、夏の炎天を喘ぎ喘ぎ嶮しき坂を登り行く。汗は滝の如く流れ、彩られた顔はメチヤメチヤになつて赤い汗さへ流るる無状さ。一行は汗を拭ひ拭ひ、漸くに山頂に達したり。山頂には格好の岩が程よく散布されてありぬ。宣伝使一行は、各自に岩に腰打かけ息を休めたり。 蚊々虎『ままになるなら此涼風を、母の土産にして見たい』 駒山彦『オイ、蚊々虎、殊勝らしい事を云ふね。「ままになるなら此涼風を母の土産にして見たい」随分孝行者だなア。夫れほど親孝行の貴様が放蕩ばかりやりよつて、両親に心配をかけ、子が無うて泣く親は無いが、子のために泣く親は沢山あるとか云つてな、ソンナ優しい心があるのなら何故親を放つたらかして其辺中を迂路つき廻るのだ。口と心と行ひと一致せぬのは、神様に対してお気障りだぞ』 蚊々虎『人間の性は善だ。誰だつて親を思はぬ子があらうか。浮世の波に漂はされて止むを得ず、親子は四方に泣き別れと云ふ悲惨の幕が下りたのだよ。親子は一世、夫婦は二世、主従は三世と云ふ相なからのう』 駒山彦は、 駒山彦『ヘン、うまい事を云ひやがらア。親は如何でも良いのか、夫婦は二世なんて、死んでまで添うと思ひよつて二世も三世も夫婦だと思つて居るから情ない。如何に五月姫ぢやとてお前の様な腰屈りに、誰が心中立をするものかい』 蚊々虎は 蚊々虎『故郷の空打眺め思ふかな、国に残せし親は如何にと』 駒山彦は 駒山彦『オヤオヤ又出たぞ。何だ貴様、今日に限つて殊勝らしい事を並べ立よつて、一角詩人気取りになつて「アヽ、蚊々虎さまはああ見えても心の底は優しいお方だ。たとへ腰は曲つてもお顔は黒うても、男前はヒヨツトコでも、チツとくらゐ周章者でも、心の底のドン底には両親を思ふ優しい美しい心の玉が光つて居る。アンナ人と夫婦になつたら嘸や嘸、円満なホームが作れるであらう。おなじ夫を持つなら、あの様な優しい男と夫婦になつて見たい」などと五月姫さまに思はさうと思ひよつて、貴様よツぽど抜目のない奴だワイ。アハヽヽヽ』 淤縢山津見は、 淤縢山津見『ヤア感心だ、人間はさう無くてはならぬ、山よりも高く、海よりも深い父母の恩を忘れる奴は人間でない。お前もまだまだ腐つては居らぬ、頼もしい男だよ』 駒山彦は、 駒山彦『オイ鼻を高うすな、貴様は直に調子にのる男だから余り乗せられるとヒツクリ返されるぞ。天教の山ほど登らせておいてスツトコトントン、スツトコトンと落される口だぞ。貴様、親よりも女房が大切だらう。親子は一世、夫婦は二世なぞと云ひよつて、之ほど大切な親よりも「五月姫殿、お前が女房になつたらモツトモツト大切にするぞ」と遠廻しにかけよつて、うまい謎をかけよるのだ。本当に巧妙なものだね』 蚊々虎はしたり顔にて、 蚊々虎『オイ、駒、貴様わけのわからぬ奴だナ。俺がいま宣伝してやるから尊い御説教を謹聴しろよ。親子一世と云ふ事は、何ほど貴様の様な極道息子の親泣かせでも、親が愛想をつかしてモウ之つきり親の門口は跨げる事はならぬ。七生までの勘当だと云つた処で、矢張り親子は親子だ。お前が俺に勘当するなら勘当するでよい、又外に親を持ちますと云つた処で生んで呉れた親は矢張り一つだ。親子は一世と云ふ事は、泣いても笑つても立つても転んでも一度より無いのだ。それだから親子は一世と云ふのだ。断つても断れぬ親子の縁だよ。貴様の考へは大方生てる間は親子だが、死んで仕舞へば親でも無い子でもない、赤の他人だと云ふ論法だらう。ソンナ訳の分らぬ事で宣伝使が勤まるか』 駒山彦『能う何でも理屈を捏る奴だな、夫婦は二世とは何のことだい。親よりも結構だ、死んでからでも又互に手に手をとつて三途の川を渡り、蓮の台に一蓮托生、百味飲食と夫婦睦じう暮さうと云ふ虫の良い考へだらう。さう甘くは問屋が卸すまい。貴様極楽に行つて、蓮の台に小さくなつて夫婦抱合つて、チヨコナンと泥池の中で坐つて見い。どうせ碌な事はして居らぬ奴だから、「貴様が金城鉄壁だ、お前と俺との其仲は千年万年はまだ愚五十六億七千万年の後のミロクの世までも、お前と俺と斯うして居れば之が真実の極楽だ、ナア五月姫さま、現界に居つた時は駒山彦の意地悪に随分冷かされたものだが、斯うなつちやア、もう占たものだ」なぞと得意になつてゐると、娑婆に残つて居る貴様の旧悪を知つた奴が噂の一つもせぬものでも無い。噂をする度に嚔が出てその途端に、蓮の細い茎がぐらついて二人は共に泥池の中へバツサリ、ブルブルブル土左衛門になつて仕舞ふのだよ。一旦死んだ奴の、もう一遍死んだ奴の行く処は何処にもありはせない。さうすると又娑婆へ生れよつて、ヒユー、ドロドロ怨めしやーと両手を腰の辺りに下向けにさげて出て来るのが先づ落だな。夫婦は二世だなぞとソンナ的の無い事は、まあ云はぬが宜からう』 蚊々虎『エーイ、喧しい、俺のお株を取つて仕舞ひよつて、能うベラベラと燕の親方の様に喋る奴だナ。この蚊々虎さまの説教を謹んで聴聞いたせ。夫婦は二世と云ふ事は、貴様の考へてる様な意味で無い。夫婦と云ふものは陰と陽だ。「鳴り鳴りてなり余れる処一処あり、鳴り鳴りてなり合はざる処一処あり、汝が身の成り余れる処を我身の成り合はざる処に、さしふたぎて御子生んは如何に」と宣り給へば「しかよけむ」と応答し給ひきと云ふ事を知つてるかい。夫婦と云ふものは世の初めだ。誰の家庭にも夫婦が無ければ、円満なホームは作れないのだ。さうして子を生むのだよ。其子がまた親を生むのだ』 駒山彦『オツト待て待て、脱線するな。親から子が生れると云ふ事はあるが、子が親を生むと云ふ事が何処にあるかい』 蚊々虎『貴様、分らぬ奴だな。男と女と家庭を作つたのは夫は夫婦だ。そこへ夫婦の息が合つて「オギヤ」と生れたのだ。生れたのが即ち子だ。子が出来たから親と云ふ名がついたのだ。子の無い夫婦は親でも、何でもありやしない。此位の道理が分らないで宣伝使になれるかい。さうして不幸にして夫が死ぬとか、女房が夭折するとかやつて見よ。子が出来てからならまだしもだが、子が無い間に女房に先だたれて仕舞へば、天地創造の神業の御子生みが出来ぬでは無いか。人間は男女の息を合して、天の星の数ほど此地の上に人を生み足はして、神様の御用を助けるのだ。そこで寡夫となつたり寡婦となつたり、其神業が勤まらぬから、第二世の夫なり妻を娶るのだ。之を二世の妻と云ふのだい。貴様の様に此世で十分イチヤついて、又幽世に行つてからもイチヤつかうと云ふ様な狡猾い考へとはチト違ふぞ。さうして二世の妻が、又もや不幸にして中途で子が出来ずに先に死んで仕舞つたら、夫はもう天命だと諦めるのだ。三回も妻を持つと云ふ事は、神界の天則に違反するものだ。それで已を得ざれば、二人目の妻までは是非なし、と云つて神様が御許し下さるのだ。其を夫婦は二世と云ふのだよ。あゝあ一人の宣伝使を拵へ様と思へば骨の折れる事だ、肩も腕もメキメキするワイ』 淤縢山津見は感じ入り、 淤縢山津見『ヤア、蚊々虎は偉い事を云ふね。吾々も今まで取違をしてゐた。さう聞けばさうだ。正鹿山津見さま、如何にもさうですね。何でも無い事で気のつかない事が、世の中には沢山ありますなあ。三人寄れば文殊の智慧とやら、イヤもう良い事を聞かして貰ひました。南無蚊々虎大明神』 駒山彦は、 駒山彦『親子は一世、夫婦は二世、そいつは貴様の、オイ蚊々虎先生の懇篤なる、綿密なる、明細なる、詳細なる、正直なる……』 蚊々虎『馬鹿、人をヒヨツトくるか、蚊々虎大明神だぞ』 駒山彦『ヒヨツトコヒヨツトコ来る奴もあれば、走つて来る奴もあるワイ』 蚊々虎『困つた奴だなア、主従三世だ。今日から貴様は蚊々虎の家来で無いぞ』 駒山彦『家来で無いもあつたものかい、誰が貴様の家来になつたのだ。ソンナ法螺を吹かずに主従は三世の因縁を聞かして下さらぬかイ』 蚊々虎『下さらぬかなら、云うてやらう。人に物を教へて貰ふ時には矢張り謙遜るものだ。からだに徳をつけて貰ふのだからな。オホン、主従三世と云ふ事は、例へて云へば此蚊々虎さまは、もとは此処にござる淤縢山津見様が醜国別と云うて悪い事計りやつて居る時に俺が家来であつた。然しコンナ主人に仕へて居つては行末恐ろしいと思つたものだから、如何かして暇を呉れて与らうと思うたのだ。さうした処がネツカラ良い主人が見つからぬのだ。探してゐる矢先に日の出神と云ふ立派な宣伝使が現はれたのだ。それで此方さまは、第二世の御主人日の出神にお仕へ申して居るのだ。さうして淤縢山さまは、蚊々虎々々々と云つて家来扱ひをされても、俺の心は五文と五文だ。その代り一旦主人ときめた日の出神の前に行つた位なら、ドンナ者だい。臣節を良く守り、万一日の出神様が俺の見当違ひで悪神であつたと気がついた時は、其時こそ弊履を捨つるが如くに主人に暇を与るのだ。さうして又適当な主人を探して、それに仕へるのだ。それを三世の主従と云ふのだよ。三代目の主人は醜国別よりも、もつともつと悪い奴でも、もう代へる事は出来ない。そこになつたら、アヽ惟神だ、因縁だと度胸を据ゑて、一代主人と仰ぐのだ。三回まで主人を代へ、師匠を代へるのは、止むを得ない場合は神様は許して下さるが、其以上は所謂天則違反だ。主従四世と云ふ事はならぬから「主従は三度まで代へても止むを得ず」と云ふ神様が限度をお定めになつて居るのだよ。どうだ、駒、俺が噛んでくくめるやうな御説教が、腸にしみこみたか、シユジユと音がして浸み込むだらう。賛成したか、それで主従三世だよ』 一同は声を揃へて、 一同『アハヽヽヽ、オホヽヽヽ』 (大正一一・二・一〇旧一・一四北村隆光録) |
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霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 38 華燭の典 | 第三八章華燭の典〔三八八〕 一同は国魂の神前に神言を奏上し、讃美歌を唱へ終つて休息してゐた。正鹿山津見は襖を押開け入り来り、 正鹿山津見『御飯が出来ました。どうぞ御上り下さいませ。何分長らく留守に致して置きましたのと、家内がないので不行届き、不都合だらけですけれど』 と挨拶を述べ、この場を立ち去りぬ。 珍山彦(蚊々虎)『皆の方々、今承はれば正鹿山津見様は女房が無いと云ふ事だ。一国の守護職として宣伝使を兼ねられた急がしい身体、肝腎の女房が無いとは気の毒でないか。一つ珍山彦が奥様を御世話しようと思ふが如何でせうな』 駒山彦は膝をのり出し、 駒山彦『それは結構だな。適当の候補者の見込みがあるのかい』 珍山彦(蚊々虎)『あらいでか、確にあるのだ。吾々の御世話したいのは、女宣伝使の五月姫だよ。ナア五月さま、貴方は珍山峠の麓の岩の上で、正鹿山津見さまは誠に男らしい、立派な御顔付きの方だと云うて居ましたね、御異存はありますまい』 五月姫は黙つて袖に顔を隠す。駒山彦は言葉せはしく、 駒山彦『そらいかぬ。お人が違ふではないかな。貴様はあれ丈け惚れてゐたではないか。俺は貴様の奥さまに世話したいと思つてゐたのだ。ソンナ遠慮は要らぬ。遠い所からくすぐるやうに謎かけをせずに、「五月姫殿、珍山彦の女房になつて下さい」と、男らしくキツパリと切り出したら如何だい。奥歯に物の詰つたやうな事を言ひよつて、何処までも図々しう白ばくれる男だな』 珍山彦(蚊々虎)『このはなさまは故あつて女房は持ぬのだ。それ丈は怺へて呉れ。余り俺が洒落るものだから、本当にし居つて痛うない腹を探られて迷惑だよ。さうぢやと云つて、此の可愛らしい五月姫が嫌ひだと云ふのでは無い。好きの好きの大好きだが、女房を持れぬ因縁があるのだよ』 駒山彦『オイ蚊々虎、ドツコイ珍山彦、その因縁を聞かうかい』 珍山彦(蚊々虎)『お前に聞かせるやうな、因縁なら何に隠さう。こればかりは怺へて呉れ。俺は未だ未だ重大なる任務があるのだから』 淤縢山津見は、 淤縢山津見『ヤア珍山さま、貴方の事は何うしても吾々は合点が往かない。丸切り天空を翔る蛟竜の如く、千変万化捕捉すべからずだ。もう何事も言ひませぬ。貴方の御意見に任して五月姫さまを、此家の主人の奥様に推薦したいものですな』 珍山彦は、 珍山彦(蚊々虎)『どうか貴方も御同意ならば、正鹿山津見さまに一つ掛合つて見て下さいな』 淤縢山津見は『よろしい』といつて其の場を立ち一室に行つた。 五月姫は顔を赤らめて俯向いてゐる。駒山彦は、 駒山彦『これこれ五月さま、女にとつて一生の一大事、俯向いてばかり居つては事が分らぬ、珍山さまにするか、正鹿山津見さまにするか、右か左か返答しなさい。御意見あらば吾々に、隔ても何もない仲だ、キツパリ云つて下さい。万々一両人の御方が気に入らねば、外に候補者も無いことはありませぬよ。コーと云ふ頭字のついた人を御世話致しませうか』 珍山彦は駒山彦の顔を眺めて、 珍山彦(蚊々虎)『ウフヽヽヽ』 五月姫は漸くに面を上げて、 五月姫『ハイハイ、正鹿山津見さまさへ御異存無くば』 珍山彦は手を拍つて、 珍山彦(蚊々虎)『お出でたお出でた、願望成就、時到れりだ。ヤア、さすがは五月姫殿、天晴れ天晴れ、よう目が利いた。夫れでこそ天下の宣伝使だ。思ひ立つたを吉日に、今日婚礼の式を挙げませう』 駒山彦は、 駒山彦『コラコラ、珍山彦、一方が承知したつて、一方が何う云ふか判りはしない、鮑の片想ひかも知れないのに、よく周章てる奴だな』 珍山彦『なに大丈夫だよ。猫に鰹節だ、狐に鼠の油揚だ、二つ返事で喰ひつき遊ばす事は、請合ひの西瓜だ、中まで真赤だ。コレコレ五月姫さま、貴方も今までは押しも押されもせぬ一人前の女だ、男も女も同じ権利だつた、言はば男女同権。しかし今日から結婚したが最後、夫に随はねばならぬ。夫唱婦従の天則を守り、主人によう仕へ、家の中を治めて行くのが貴女の役だよ。男女同権でも、夫婦同権でないから、それを忘れぬやうに良妻賢母の鑑を出して、三五教の光を天下に現はすのだ。広い世の中に夫となり妻となるのも深い深い因縁だ、神様の御引合せだから、決して気儘を出してはいけませぬぞ。私が珍山峠で御話ししたやうに、どうぞこの花婿を大切にして蓮の台に末永う、必ず祝姫の二の舞を踏まぬやうにして下さい。頼みます』 五月姫は涙をボロボロと零しながら、 五月姫『ハイ、何から何まで、貴方の御親切は孫子の時代は愚か、五六七の世まで決して忘れは致しませぬ。貴方の御教訓は必ず固く守ります。御安心して下さいませ』 駒山彦『ナント珍山、貴様は変な男だねー。ホンニ合点のゆかぬ男だ。コンナ別嬪を人にやるなどと、ナントした変人だらう。が併し感心だ。この駒山だつたら迚も其処まで身魂が研けて居らぬからなー』 斯く話す折しも、正鹿山津見は淤縢山津見に伴はれ、[※御校正本・愛世版では「淤縢山津見は正鹿山津見を伴ひ」だが、校定版・八幡版では「正鹿山津見は淤縢山津見に伴はれ」に修正されている。後に続く「御一同様~」のセリフは正鹿山津見のセリフであるため、御校正本は主語が間違っている。そのため霊界物語ネットでは校定版に準拠して文章を修正した。]この場に現はれ叮嚀に辞儀をしながら、 正鹿山津見『御一同様、いろいろと御世話になつた上、今度は結構な御世話を下さいまして有難う。御恩の返し様は、もう御座りませぬ』 と感謝の意を漏した。 珍山彦は、 珍山彦(蚊々虎)『あゝ結構々々、それで安心して吾々も宣伝に参ります。どうぞ幾久しく夫婦仲好くして此の神国を永遠に治めて下さい。一朝事ある時は、夫婦諸共神界の御用に立つて下さい』 と日ごろ快活な男に似ず、声を曇らして嬉し涙を零し居たり。 淤縢山津見は、 淤縢山津見『ヤア、斯く話が纏まつた上は、善事は急げだ。早く神前結婚の用意にかかりませうか』 茲に一同は家の子郎党と共に、盛大なる結婚の式を挙げける。一同は直会の宴にうつり、各手を拍ち歌を歌ひ、感興湧くが如き折しも、番頭の国彦は襖を開いて、 国彦『御主人様に申上げます。只今ヱルサレムの聖地から松代姫、竹野姫、梅香姫の三人の御嬢様が、「御父様の住家は此処か」と云つて、一人の供を伴れて御出でになりました。如何が取計らひませうか』 正鹿山津見は驚きながら、 正鹿山津見『あゝ嬉しいことが重なるものだな』 一同手を拍つて、ウローウロー。 附言 正鹿山津見は、聖地ヱルサレムの天使長であつた桃上彦命である。兄広宗彦命、行成彦命の神政を奪ひ、体主霊従の限りを尽し、地の高天原は為に混乱紛糾の極に陥り、その妻は病死し、自分は常世彦、常世姫のために、或一時の失敗より追放され、三人の娘を後に残して住み慣れし都を後に、一つ島に進む折しも、暴風に逢ひ船は忽ち顛覆し、琴平別の亀に救はれ竜宮城にいたり、門番となり果てし折しも、日の出神に救はれ、この珍の都の守護職となれるなり。 この事を三人の娘は、神夢に感じて遥々此処に尋ね来たり。黄泉比良坂の坂の上に於て、黄泉軍を待ち討ち給ひし伊弉諾命の三個の桃の実は、即ち桃上彦命の三人の娘の活動を示されたるなり。 (大正一一・二・一〇旧一・一四外山豊二録) |
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霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 43 言霊解五 | 第四三章言霊解五〔三九三〕 『最後に其妹伊弉冊命、身自ら追来ましき』 今迄は、千五百の黄泉軍を以て攻撃に向つて来たのが、最後には世界全体が一致して日の神の御国へ攻め寄せて来たと云ふ事は、伊弉冊命身自ら追ひ来ましきといふ意義であります。是が最后の世界の大峠であります。すなはち神軍と魔軍との勝敗を決する、天下興亡の一大分水嶺であります。 『爾ち千引岩を、其の黄泉比良坂に引塞へて、一日に千頭絞り殺さむと申したまひき』 千引岩とは、非常に重量の在る千万人の力を以てせざれば、微躯とも動かぬ岩といふ意義であります。千引岩は血日国金剛数多といふ意義で、君国を思ふ赤誠の血の流れたる大金剛力の勇士の群隊と云ふことであつて、国家の干城たる忠勇無比の軍人のことであります。また国家鎮護の神霊の御威徳も、国防軍も皆千引岩であつて、侵入し来る魔軍を撃退し又は防止する兵力の意義であります。 『中に置き事戸を渡す』と云ふ事は、霊主体従の国家国民と、体主霊従の国家国民とは、到底融合親睦の望みは立たぬ。堂しても天賦的に、国魂が異つて居るから、神国の行り方、異国(黄泉国)はその国魂相応の行り方で、霊主体従国と体主霊従国とを立別ると云ふ神勅が事戸を渡すと云ふ事であります。 善一筋の政治や神軍の兵法は、体主霊従国の軍法とは根本的に相違して居るから、一切を茲に立別て、霊主体従国は霊主体従国の世の持方、体主霊従は体主霊従の世の治め方と、区別を付けられた事であります。要するに神国の土地へは、黄泉軍の不良分子は立入るべからずとの御神勅であります。人皇第十代崇神天皇様が、皇運発展の時機を待たせ玉ふ御神慮より、光を和げ塵に同はりて、海外の文物を我国に輸入せしめ玉ひし如く、何時までも和光同塵の制度を、墨守する事が出来ないので、断然として、事戸を渡さねば成らぬ現代に立到つた如き有様であります。事は言辞論説の意味で、戸は閉塞するの用であります。要するに日本は皇祖大神の御聖訓を以て、治国安民の要道と決定され、一切体主霊従国の不相応なる言論を輸入されないと云ふ意義が、乃ち事戸を渡し給うと云ふ事であり、之を夫婦の間に譬へますと離縁状を渡して、一切の関係を断つと云ふ事であります。何時までも和光同塵的方針を採るのは我々の今日の処世上に於ても一考せなくては成らぬ。悪思想や貧乏神には、一日も早く絶縁するが、家の為めにも一身上の為にも得策であります。今日の我国家も、一日も早く目覚めて我国土に不相応なる思想や、論説や哲学宗教なぞと絶縁して、所謂事戸を立て渡し度いもので在ります。 『伊弉冊命宣りたまはく愛くしき我那勢命如此為たまはば汝の国の人草、一日に千頭絞り殺さむとまをしたまひき』 黄泉大神の宣言には、我々の愛慕して止まない、神国兄の国の神宣示を以て、斯の如く黄泉国の宗教学説を排斥さるるならば、此方にも一つ考へがある。汝の国の人民の、上に立つて居る所の頭役人どもを黄泉軍の術策を以て、一日に千人即ち只一挙にして、上の方の役人どもを馘つて了つてやる、即ち免職をさせて見せようと云ふ事である。 惟神の大道即ち皇祖の御遺訓に依つて思想界を統一せむとする守護神があれば、直に時代に遅れた骨董品格にして、役人の頭に採用せないのみならず、直に首を馘られて了ふから、伊弉諾命即ち日本固有の大道を、宣伝実行する事を、避けむとする利己主義のみが発達するのであります。 是皆黄泉軍、体主霊従魂の頤使に甘んずる腐腸漢計りに成つて居る現代であります。我々は伊弉諾命の神教、即ち天神天祖の聖訓を天下に宣伝し実行せむとするに当つて、黄泉の軍の体主霊従国魂の守護神から圧迫され、日々千人即ち赤誠の信者を、大本より離れさせむとして、黄泉神の手先が、百方邪魔をひろぐのも同じ意味であります。 たとへ日本の神の教が結構と知り、又大本の出現が、現代を救ふには大必要である事を、充分了解し乍ら世間を憚り且つ又、旧思想家と云はれ、終には現今の位置より馘られ、社会的に殺され葬られて了ふ事を恐れて世間並に至誠貫天的の、社会奉仕の大本を悪評し、かつ圧迫するを以て、安全の策と心得て居る守護神許りで表面上大本の信者たる事を標榜するが最後、直に其の赤誠人は軍人と言はず、教育家と言はず会社員と言はず、馘られ職を免ぜられると云ふ事が『一日に千人絞り殺さむとまをしたまひき』と云ふ事になるので在ります。 『爾に伊弉諾命詔り玉はく、愛くしき我那邇妹命、汝然為たまはば吾はや、一日に千五百産屋立ててむと詔りたまひき。是を以て一日に必ず千人死に一日に必ず千五百人なも生るる』 茲に伊弉諾命は、我愛する那邇妹命よ、思想問題を以て日の御国を混乱せしめ猶ほ亦、今一致して武力を以て、我国を攻め給ふならば、我にも亦大決心がある。吾は惟神の大道を発揮して、以て一日に千五百の産屋を立てて見ませうと仰せられた。御神諭にある産の精神の人民、生れ赤子の心の人民を養成する霊地を、産屋と云ふのであります。 チは血なり赤誠也、霊主体従の意也、父の徳也、乳也、塩也。 イ[※ヤ行イ]は結び溜る也、身を定めて不動也。 ホは、上に顕はる也、太陽の明分也、照込也、天の心也。 ウ[※ア行ウ]は結び合ふ也、真実金剛力也、親の働き也。 ブは茂り栄ふ也、世の結び所也、父母を思ひ合ふ也。 ヤは固有の大父也、天に帰る也、経綸の形也。 以上のチイホウブヤの六言霊を納むる時は、神の血筋因縁の身魂が集り合ひて、赤誠の実行を修め、霊主体従の本領を発揮し、天の父たり、地の母たるの位を保ちて、仁恵の乳を万民に含ませ、大海の塩の如く、総ての汚れを浄め、総ての物に美はしき味を与へ腐敗を防ぎ、有為の人材一団と成りて、我身の方向進路を安定し、以て邪説貪欲に心を動かさず、俗界の上に超然として顕はれ、大神の大御心を宇内に照り込ませ、太陽の明分即ち日の神国の天職を明かに教へ覚し、至真至実の大金剛力を蓄へ、世界の親たるの活動を為し、上下の階級一つの真道に由りて結合し、日々に結びの力を加へ、終には世界を統一結合し、父母として万民慕ひ集まり固有の大父なる国祖大国常立神の御稜威を仰ぎ、天賦の霊性に帰りて世界を経綸し以て、三千世界を開発し、救済する聖場の意義であります。要するに、地の高天原なる綾部の大本の、神示の経綸は、乃ち千五百産屋に相当するのであります。大本の御神諭には『綾部は三千世界の世の立替立直しの地場であるから、日の大神様の御命令によりて、世界の人民を天の大神の誠一とつで此の世を治める結構な地の高天原であるぞよ』と示されてあるも、所謂千五百産屋の意義にして、生れ赤子の純良なる身魂を産み育て玉ふ神界の大経綸の中府であります。故に何程黄泉大神の精神より出でたる、過激的思想も侵略的の体主霊従国軍も、綾部に千五百産屋の儼存する限りは、如何ともする事が出来ないのであります。亦之を文章の侭に解する時は、一日に千人死して千五百人生れ出づる時は、結局人口は年を追うて増進する故に、之を天の益人と謂ふのであります。天の益人は天下国家の為に利益を計る、至誠の人の意味にも成るのであります。我大本の誠の信徒は、皆一同に天の益人とならねば成らぬ。亦日本全体を通じて天の益人たるの行動をとつて、国家を開発進展せしめ、黄泉国なる国々に其の範を垂れ示さねば、神国の神民たる天職を尽す事は出来ぬのであります。今日社会主義や過激派にかぶれた、不良国民が黄泉軍の眷属となり、大官連中に不穏なる脅迫状を送つたり、大本の幹部連中に向つて、同様の脅迫状が舞ひ込んで来るのも、千人を殺さむと白したまひきの意味であります。米国加州の排日案が通過したのも、西伯利亜満洲支那朝鮮の排日行動も、排貨運動の実現も、各地の小吏が大本に極力反対し、且つ我行動を妨害しつつあるのも、皆黄泉軍の一日に千人くびらむ、と白し玉ひきの実現であります。 太陽面に、地球の七八倍もある円形にして巨大なる黒点が出現し、約七万哩の直径を有し、吾人の肉眼を以て明視し得る如くに成つて居るのも、日の若宮に坐す伊弉諾命を、黄泉軍の犯しつつある表徴であります。亦この黒点が現はれると、其の年及び前後数年間は、従来の記録に依つて調べて見ると、第一気候が不順で、悪病天下に蔓延し、饑饉旱魃等は大抵その時に現はれ、人心の騒擾極点に達する時であります。天明の大饑饉も、太陽の黒点と時を同じうして現はれて居る。今日此頃の天候の不順も亦この黒点の影響である。況んや今度の如き、開闢以来未曾有の大黒点に於ておやであります。アヽ一天一日の太陽の黒点、果して何を意味するものぞ。伊弉諾命の持たせ玉へる一ツ火の光も、半ば消滅せむとするには非ざるか、我等は一日も早く千五百産屋は愚、八千五百産屋万産屋を建て、以て君国の為めに大活動を開始せざるべからざるを切に感ぜざるを得ないのであります。 『故其伊弉冊命を、黄泉津大神と謂す。亦其の追及しに由りて、道敷大神と称すとも云へり』 チシキの大神の言霊を解すれば、 チは血也、数の児を保つ也、外に乱れ散る也。 シは却て弛み撒る也、世の現在也。 キは打返す也、打ち砕く也。 之を一言に約する時は、数多の児即ち千五百軍を部下に有し、血脈を保ち外に向つて乱を興し終に自ら散乱し現在の世の一切を弛廃せしめ、以て正道を打返して、邪道に化し、至仁至愛の惟神の、生成化育の道を打砕く、大神と云ふ事であります。現代は国の内外を問はず、洋の東西を論ぜず道敷の大神の最も活動を続行し玉ふ時であります。 『亦其の黄泉の坂に塞れりし石は道反大神とも号し塞坐黄泉戸大神とも謂す』 チカヘシの大神はウチカヘシの大神と云ふ事で在り、又邪道を塞ぎて邪道を通過せしめずと云ふ意義であります。古来町の入口や出口には、塞の神と謂うて巨大なる石が祭つて在つたもので在ります。是も邪悪を町村内に侵入させぬ為の目的であります。吾人の家屋を建つるにしても、礎石を用ゐ、又その周囲に石を積み、又は延べ石を廻らすも、皆悪鬼邪神の侵入を防止するの意義より、起元したもので在ります。今日の思想界にも此の大石が沢山に欲しいものであります。 『故其の所謂黄泉津比良坂は、今出雲国の伊賦夜坂とも謂ふ』 伊賦夜坂の言霊を解すれば、 イ[※ア行イ]は強く思ひ合ふ也、同じく平等也、乱れ動く也、破れ動く也。 フは進み行く也、至極鋭敏也、忽ち昇り忽ち降る也、吹き出す也。 ヤは外を覆ふ也、固有の大父也、焼く也、失也[※「失」は「矢」の誤字の可能性がある。「言霊の大要」(『神霊界』大正7年3月1日号p20)では「矢」でフリガナが無いが、大石凝眞素美の『大日本言霊』では「矢」に「ヤ」とフリガナが付いている。黄泉比良坂の古事記言霊解は大正9年11月1日に綾部の五六七殿で講演した講演録であり、3つの文献に掲載されている。『神の国』大正9年12月1日号(皇典と現代2)p24では「失(うしなふ)」、『霊界物語』第8巻第43章「言霊解五」(大正11年2月9日再録、昭和10年3月4日校正)では「失(しつ)」、『出口王仁三郎全集第5巻』(昭和10年6月30日発行)p59は「失(しつ)」になっている。]、裏面の天地也。 ザ[※以下の活用は「ザ」ではなく「サ」の言霊の活用である。]は騒ぎ乱る也、⦿に事在る也、降り極る也、破壊也。 カは一切の発生也、光輝く也、懸け出し助くる也、鍵也。 イフヤザカの五言霊を約言する時は善悪正邪の分水嶺であります。男神の伊弉諾命と女神の伊弉冊命と、互ひに自分の住し、かつ占有する国土を発展せしめむと、強く思ひ合ひて争ひ賜ふ所は同じく平等にして何の差別もなく、只々施政の方針に大なる正反対の意見あるのみ。然れど女神黄泉神の御経綸は惟神の大道に背反せるが故に、終に海外の某々の如く悉く大動乱大破裂の惨状を露出したのは、近来事実の確証する所であります。 男神の神国は、日進月歩至極鋭敏にして、終に世界の大強国の仲間入りを為したり。されど忽ち昇り忽ち降るの虞れあり。黄泉国の二の舞を演ぜざる様、注意を要する次第であります。ヤは日本にして、何処までも徳を積み輝きを重ねつつ、外面を覆ひ、以て克く隠忍し、天下の大徳を保ちて天下に臨むと雖も黄泉国の八雷神や、千五百の妖軍は何の容赦も荒々しく、焼也、天也、の活動を成し、裏面の天地を生み成しつつあり。故に世界各国は殆ど騒乱の極みに達し正義仁道は地を払ひ、⦿に事の在りし暴国なり。茲に仁義の神の国の一切の善事瑞祥発生して、仁慈大神の神世に復し治め、暗黒界を光り輝かせ、妖軍に悩まされ滅亡せむとする、国土人民に対しては身命を投げだして救助し治国平天下の神鍵を握る可き、治乱興亡の大境界線を画せる、現代も亦これ出雲の国の伊賦夜坂と謂ふべきものであります。(完) (大正九・一一・一午前五六七殿講演外山豊二録) (大正一一・二・一一旧一・一五谷村真友再録) (第三七章~第四三章昭和一〇・三・四於綾部穹天閣王仁校正) |