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61

(1623)
霊界物語 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) 13 山上幽斎 第一三章山上幽斎〔五六三〕 醜の魔風や様々の、世の誘惑に勝彦の、神の使の宣伝使は、弥次彦、与太彦、六公の三人を伴なひ、小山の郷を打過ぎて、二十の坂を三つ越えし、峠の頂きに漸く登り着いた。 この峠の頂きは今迄過来し各峠の頂上に引換へて大変に広い高原になつて居る。小鹿川の流れは眼下の山麓を、白布を晒した如く、岩と岩とにせかれて飛沫を飛ばして居る。山腹は殆んど岩を以て蔽はれ、灌木の其処彼処に青々として、岩と岩の配合を、優美に高尚に色彩つて居る。 弥『小鹿峠も漸く二十三坂を跋渉したが、この頂上くらゐ広い所は無かつた。東西南北の遠近の山、茫漠たる原野は一望の下に横たはり、風は清く、何となく春の気分が漂ふて来た。此処で吾々はゆつくりと休養して参る事に致しませうか』 勝『アヽそれは宜からう、この頂上より四方を眺めた時の気分は、実に雄渾快濶にして、宇宙を我手に握つたやうな按配式だ。ゆるゆると神界の話でもさして頂かうか、斯う云ふ清い所では、何程神界の秘密を話した所で、滅多に曲津神の襲来する虞もなからう』 と言ひ乍ら、青芝の上に腰を下した。三人も同じく、芝生の上に横たはつた。 与『アヽ良い気分だ。何時見ても、頂上を極めた時の心持はまた格別だが、今日は殊更に気分が良い。斯う云ふ時に一つ幽斎の修業を始めたら、キツト善い神様が感合して下さるでせう、………もし宣伝使様、一同此処で三五教の鎮魂帰神の神法を施して下さいませぬか』 勝『それは結構だが、生憎高地の事とて、水も無し、手を洗ひ口をすすぎ、水を被ると云ふ事が出来ないから……第一此れには閉口だ』 弥『神様の教にも、「身の垢は風呂の湯槽に洗へ共、洗ひ切れぬは魂の垢なり」と示されてある、たとへ水が無くとも、神様に一つ御免を蒙つて、身魂の洗濯をして貰ふ訳にはゆきますまいか。水は肉体の垢を洗ひ落す丈のもの、鎮魂は精神の垢を落すものですから、今日は肉体は已を得ずとして、霊丈の洗濯をして貰ひませうか……ナア与太彦、六公』 与『それも一つの真理だ……もしもし勝彦の宣伝使、あなたは古参者だ、吾々は新参者、どうぞ一つ鎮魂を願つて下さいな』 勝『霊肉一致、現幽一本だから、理屈を云へば、別に水行をせなくつても、霊さへ洗へば良いと云ふ様なものだが、矢張汚い肉体には美しい霊の神が憑る事は、到底不可能だらう。コンナ所で漫然と幽斎でもやらうものなら、ウラル教の守護を致して居る悪神が、何時憑依するかも知れたものでない。此頃は霊界に於て、往昔国治立の大神、その他の神々に対し、極力反抗を試み、遂には大神をして退隠の已むなきに至らしめたと云ふ大逆無道の常世姫や木常姫、口子姫、八十枉彦の邪霊連中が、少しでも名望のある肉体に憑依し、再び神界混乱の陰謀を企てて居るのだから、愚図々々して居ると、何時憑依されるか分つたものでない。宇宙一切は大国治立尊の御支配だから、到る所として正しき神の神霊は、充満し給ふとは云ふものの、また盤古系統、自在天系統の邪神も天地に充満して居るから、此方の霊をよほど清浄潔白にして掛らねば、神聖の神の降臨を受けるといふ事は、到底不可能なが原則だ。水が一滴もないのだから、肉体を清める訳にも行かないから、また滝壷の在る所か、清き流れの水に禊をするとかして、その上で幽斎の修業にかかつたが宜しからう』 弥『アヽ融通の利かぬものだな、全智全能の根本の神様でも、ソンナ窮屈な意見を以て居られるのだらうか。善悪相混じ、美醜互に交はつて、天地一切の万物は、茲に初めて力を生じ、各自の活動を開始するのでは有りませぬか。世の中には絶対の善もなければ、また絶対の悪もない。如何に水晶の身魂だと云つても、大半腐敗せる臭気に包まれた人間の体に宿らねばならぬのだから、何程表面を水位で洗つた所で、五臓六腑まで洗濯しきれるものでない、物を深く考へれば、手も足も出せなくなつて了ふ。何事も神直日大直日に見直し聞直し詔直して、ここで一つ神聖なる幽斎の修業を、是非々々開始して下さい。ナンダカ神経が興奮して、神懸の修業がしたくつて、仕方がなくなつて来た』 勝『幽斎の修業は心身を清浄にする為、第一の要件として、清潔なる衣服を纏ひ、身体を湯水に清めて掛らねばならぬのだが、さう言へば仕方がない、神様に御免を蒙つて幽斎の修業をさして頂く事にしやうかなア』 弥『イヤー有難いありがたい……ナア与太彦、六公、貴様は今迄まだ神懸の経験がないのだから、この弥次彦サンの神懸を、能つく拝め、心を清め、肝を錬れ、……サア勝彦の宣伝使様、早く審神をして下さい。ナンダカ気がイソイソとして堪まらなくなつて来ました、……ウンウンウンウン、ウーウー』 と忽ち惟神的に両手は組まれ、身体忽ち前後左右に動揺し始めた。 与『ヨー弥次彦の奴、独り芝居を始め出したナ、ナンダ、妙な恰好だな、目を塞ぎよつて両手を組み、坐つたなりに飛上がり、宙にまいまいの芸当を始め出した。大方松の大木から滑走しよつた時の亡霊が、まだ体のどつかに残留して居つたと見える……オイ六公、面白いぢやないか、……コレコレ勝彦サン、今日はモウ口上丈はやめて下さい、頼みますぜ』 勝『アハヽヽヽ』 弥次彦は夢中になつて、汗をブルブル垂らし乍ら、蚋が空中に餅搗した様に、地上一尺以上を離れ、五六尺の間を昇降運動を開始して居る。神懸に関しては素人の与太彦、六公の二人は、口アングリとして大地に倒れた儘、 与、六『アーアー、ヤルヤル、妙だ妙だ、オイ弥次彦、貴様はそれ丈の隠し芸を持つて居つたのか、重宝な奴だ、宙吊りの芸当は珍らしい。ワハヽヽヽ、モシモシ宣伝使さま、どうとかして、御神力で弥次彦の体を、猿廻しの様に使つて見せて下さいな』 勝彦は両手を組み、天津祝詞を声も緩やかに奏上し終り、一二三四五六七八九十百千万と、天の数歌を歌ひ終り、右の食指の指頭より五色の霊光を発射し、弥次彦の身体に向つて、空中に円を描いた。弥次彦の身体は勝彦の指の廻転に伴れて、空中に円を描き、指の向ふ方向に、彼が身体は回転する。勝彦は、今度は思ひ切つて腕を延べ、中天に向つてブンマワシの如くに円を描き、弥次彦の体は勝彦の指さす中空に向つて舞上り舞ひ下り、また舞ひ上り舞下り、空中遊行の大活劇を演ずる面白さ。 与『オイ六公、あれを見い、弥次彦の奴、漸々熱練しよつて、体が小さくなつて、見えぬやうな高い所まで、空中を滑走し、上つたり下りたり、上になつたり下になつたり、大変な大技能を発揮しよるぢやないか、……モシモシ宣伝使さま、あなたの指の動く通りに、弥次彦の奴、動きますなア。あれなら軽業師になつても大丈夫食へますナ』 勝『アハヽヽヽ、あれは霊線の力に操られて、体を自由に使はれて居るのだ。俺の指の通りになるであらうがな』 与『ハハア、さうすると弥次彦が偉いのじやなくて、あなたの指が偉い神力を具備して居るのだなア……あなたはヤツパリ魔法使だ、恐ろしい油断のならぬ宣伝使ぢや、私丈はアンナ曲芸は、どうぞ遣らさぬ様に願ひますで、喃六公、アンナ事をやられたら、息も何も切れて了うワ』 六『アヽ恐ろしい事だのう』 斯く云ふ中、弥次彦の身はスーと空気を分ける音と共に、三人の前に下つて来た。勝彦は又もや両手を組んで、『許す』と一声、弥次彦は常態に復し、目をギロつかせ乍ら、 弥『アヽやつぱり二十三峠の頂上だつた、ヤア怖い夢を見たよ、天へ上がるかと思へば地へ下つて、地へ下つたと思へば又天へ引上げられる、目はまわる、何ともかとも知れぬほど苦しかつた、アヽやつぱり夢だ夢だ』 与、六『エ、なアに、夢所か実地誠の正味正真だ。現に俺達は今ここで貴様の大発明の軽業を、無料観覧した所だ。貴様もよつぽど妙な病気があると見える、親のある間に治療をして置かないと、親が無くなつたら、到底一生病だ。不治の難症と筍医者に宣告されるが最後、芝を被つて来ない限り、迚も此世では駄目だぞ、……モシモシ勝彦さま、コラ一体何の業ですか』 勝『弥次彦には、悪逆無道の木常姫と云ふ奴が、タツタ今油断を見すまして、くつつきよつたのだ。そこで私が鎮魂の力を以て木常姫の悪霊を縛つたのだ。悪霊は私の指の指揮に従つて、あの通り容器と一所に、宙を舞ひ狂うたのだよ、モウ今の所では、木常姫の邪霊も往生致して逃げよつたから、弥次彦も旧の通り、常態になつたのだ、ウツカリして居ると、貴様等も亦何時邪霊の一派に襲はれるか知れやしないぞ。夫れだから、至貴至重至厳なる幽斎の修業は、肉体を浄めもせず、汗だらけの、垢の付いた衣服を纏ふて奉仕する事は出来ないと、私が説諭したのだ。それにも拘はらず、私の言葉を無にして聞かないものだから、修業も始めない中から、邪霊に誑惑され、忽ち木常姫の容器となりよつたのだ、……オイ弥次彦、しつかりせないと、又もや邪神が襲来するぞ』 弥『智覚精神を殆んど忘却して居ましたから、何が何だか私としては、明瞭を欠きますが、仮令邪神にもせよ、宙を駆けるナンテ、偉い力のあるものですなア』 勝『馬鹿を言ふな、胴体なしの凧といふ事がある。悪魔と云ふ者は、大体が表面ばかりで、実地の身がないから、恰度、言へば風の様なものだ。その邪霊が人間の肉体へ這入つたが最後、人間の体は風船玉が人間を宙にひつぱり上げる様な具合になつて、体が飛び上がるのだ。人間は大地を歩む者、鳥かなんぞの様に、宙を翔つ奴は、最早人間としての資格はゼロだ、貴様たちも中空が翔つて見たいのか』 与、六『ヘイヘイ邪神だらうが、何だらうが、人間として天空を翔ると云ふ様な事が出来るのなら、私は一寸一遍、ソンナ目に会ふて見たいですな。世界の人間は驚いて……「ヤア与太彦、六公の奴、偉い神力を貰ひよつた、生神さまになりよつた」と云つて、尊敬して呉れるでせう。そうなると、「ヤア彼奴は三五教の信者だ、三五教は神力の強い神だ、俺も三五教に帰依する」と云ふて、世界中の人間が一遍に改心するのは請合です。神様も吾々にアンナ神力を与へて、世界の奴をアツと言はして下さつたら一遍にお道が開けて、世界の有象無象が改心するのだけれどなア』 勝『正法に不思議なし、奇蹟を以て人を導かむとする者は、いはゆる悪魔の好んで執る所の手段だ。吾々は神様の貴重な生宮だ、充分に自重して、肉の宮に重みを付け、少々の風にまで飛あがり、宙をかける様な事になつては、最早天地経綸の司宰者たる資格はゼロになつたのだ。何処までも吾々はお土の上に足をピツタリと付け居るのが法則だ』 与『それでも、鷹彦の宣伝使は宙を翔つぢやありませぬか』 勝『鷹彦は半鳥半人の境遇に居るエンゼルだ。彼は時あつて空中を飛行し、神業に参加すべき使命を持つて居るのだから、羽翼が与へられてあるのだよ。羽翼は空中を飛翔するための道具だ。羽もない人間が、今弥次彦の様な事を行るのは変則だ、悪魔の翫弄物にせられて居るのだよ』 六『さうすると、悪魔の方がよつぽど偉い様ですな。誠の神様は土に親しみ、悪魔は天空を翔るとは、実に天地転倒の世の中とは言ひ乍ら、コラ又あまり矛盾ぢやありませぬか。仮令邪神でも何でも構はぬ、一遍アンナ離れ業を演じて見たいワ』 勝『コラコラ六公、言霊の幸はふ国だ、ソンナ事を言ふと、貴様には、竜宮城から鬼城山に使ひした、一旦大神に叛いた口子姫の霊が、貴様の身辺を狙つて居るぞ、シツカリ致せ』 六『ヤアそいつは一寸乙でげすな、何時も憑り通しにされては困るが、一遍位は憑つて呉れても御愛嬌だ、……ヤイ口子姫とやら、俺の肉体を貸して与るから、一遍アツサリと憑つて呉れぬかい』 弥次彦口をきつて 弥次彦『クヽヽヽチヽヽヽコヽヽヽヒヽヽヽメヽヽヽ口子…口子…ヒヒメメメメ口子姫命只今より六公の肉体を守護致すぞよ』 六『有難う御座います』 と云ふや否や、身体を上下左右に動揺し始めた。地上より四五尺許りの所を、上りつ下りつ、石搗の曲芸を演じ始めた。遂には足は地上を離れ、最低地上を距ること一尺余、最高二三丈の空中を上下し、廻転し始めた。 弥『ヤア六公の奴、偉い神力を貰ひよつたぞ、羨りい事だ、俺も一遍アンナ事が有つて見たい。俺にアヽ言ふ実地が現はれたら、それこそ一も二もなく神の存在を、心底から承認するのだが、どうしても俺には、霊が曇つて居ると見えて、神が憑つて呉れぬワイ』 与『オイ弥次公、貴様ア、アンナ事所かい、殆ど日天様の所へ行きよつたかと思ふほど高う、空中をクルクルクルと廻転しよつて、まるで鳥位小さく見える所まで……貴様は現に大曲芸を演じよつたのだよ、それを貴様は記憶して居らぬか』 弥『アヽさうか、ナンダかソンナ夢を見たやうな記憶が朧げに残つて居る様だ。ヤアヤア六公の奴、追々と熟練しよつて、ハア上るワ上るワ……殆ど体が小さく見える所まで上りよつたナ、……モシモシ勝彦さま、アラ一体全体どうなるのですか』 勝『あまり慢心をすると、体の重量がスツカリ無くなつて、邪神の容器となり、風船玉のやうに吹き散らされるのだ、幸に今は無風だから好いが、一昨日の様な風でも吹いた位なら、夫れこそ、どこへ散つて仕舞ふか分りやしないぞ。それだから俺が此処では幽斎の修業は行られぬと云ふたのだ、……吁、困つた病人が二人も出来よつた、愚図々々して居ると、与太公、貴様にも伝染の兆候が見えて居る、病菌の潜伏期だ。何とかして、免疫法を講じたいものだが、此附近には避病院もなし、消毒薬も無し、困つた事だワイ』 与『消毒薬とは何ですか』 勝『生粋の清浄なお水だ、お水で体を清めて、神様の霊光の火で、黴菌を焼き亡ぼすのだ。吁、困つた事だ、……オイ与太公、しつかりせぬか、貴様には八十枉彦が附け狙ふて居るぞ、……何だ其態度は……またガタガタと震ひ出したぢやないか』 与『強度の帰神状態で、……イヤもう神人感合の妙境に達するのも、余り遠くはありますまい、……南無八十枉彦大明神、何卒々々この与太彦が肉体にどこどこまでもお見捨てなく、神懸り下さいませ、惟神霊幸倍坐世』 勝『また伝染しよつた、病毒の伝播と云ふものは、実に迅速なものだ、アヽ仕方がない、此奴等は皆奇蹟を好んで神を認めやうとする偽信者だから、谷底へ落ちて目を覚ますまで打遣つて置かうかなア。大火事の中へ、一本や二本のポンプを向けた所で仕方がないワ。エ、ままよ、これ丈熱くなつて燃え来つた火柱の様な、周章魂は、最早救ふの余地はない、……吁、国治立の大神様、木花姫の神様、日の出神様、モウ此上は貴神の御心の儘になさつて下さいませ、惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世』 勝彦の祈り終るや、六公は上下動を休止し、芝生の上にキチンと双手を組んだ儘端坐し、真赤な顔をし乍ら、汗をタラタラと垂らして居る。与太公は又もや唸り出した。法外れの大声で、 与太彦『ヤヤヤヤヤア、ヤソ、ヤソヤソヤソ、ママママ、ガヽヽヽ、マガマガマガ、ヒヒ、ココ、ヒコヒコ、八十枉彦だア……腐り切つたる魂で、三五教の宣伝使とは能くも言ふたり、勝彦の奴、……俺の審神が出来るなら、サア、サアサアサア、美事行つて見よ……』 勝『ナニツ、此世を乱す悪神、退却致せ』 と双手を組んで霊線を発射した。 八『アハヽヽヽヽ、ワツハヽヽヽヽ、可笑しいワイ、イヤ面白いワイ、小鹿峠の二十三坂の上に於て、審神者面を致した其酬い、数多の魔神を引きつれて、貴様の肉体を八裂に致してやらう、覚悟を致せ、……ヤツ…ヤツ…』 と矢声を出し乍ら、勝彦が端坐せる頭上を、前後左右に飛びまわり出した。勝彦は全身の力と霊を籠めて、右の食指より霊光を、八十枉彦の憑れる与太彦の前額部目掛けて発射した。 八『ワツハヽヽヽ、オツホヽヽヽ、猪口才な腰抜審神者、吾々を審判するとは片腹痛い。サアこれよりは其方の素つ首を引き抜いてやらう、覚悟を致せ』 と猿臂を延ばして掴みかかる。勝彦は『ウン』と一声言霊の発射に、与太彦の身体は翻筋斗うつてクルクルと七八廻転し乍ら、傍の木の茂みに転げ込んだ。又もや弥次彦は容色変じ、目を怒らせ、歯をキリキリと轢る音、……暫くあつて大口を開き、 弥次彦『コヽヽヽツヽヽヽネヽヽヽヒヽヽヽヒメ、コツコツコツ、ネヽヽヽヒヒヒ、メメメメ、コツコツ、コツネヒメのミコト、……其方は三五教の宣伝使と申し、変性男子埴安彦の神、変性女子埴安姫の神の神政を楯に取り、吾々の天下を騒がす腰抜野郎、この二十三峠は、吾々が屈強の関所だ。二十三坂、二十四坂の間は、ウラル彦の神に守護いたす、八岐の大蛇や、金狐、悪鬼の縄張地点、此処へ来たは汝が運の尽き、これから其方の霊肉共に木葉微塵にうち亡ぼし呉れむ、カカ覚悟をせよ』 と弥次彦の肉体は、拳骨を固めて、勝彦目がけて迫つて来る。勝彦は又もや『ウン』と一声言霊の水火を発射した。弥次彦の肉体は二三間後に飛び下がり、大口を開けて、 弥次彦『オホヽヽヽヽ、汝盲宣伝使の分際と致して、この木常姫を言向和さむとは片腹痛し、思ひ知れよ。汝が身魂の生命は、最早風前の灯火だ。この谷底に蹶り落し、絶命させてやらうか、ホヽヽホウ、愉快千万な事が出来たワイ。貴様を首途の血祭りに、祭りあげ、夫れよりは尚も進んでコーカス山を蹂躙し、ウラルの神に刄向ふ変性女子の身魂を片つ端から喰ひ殺し、平げ呉れむは瞬く間、オツホヽヽホウ、嬉し嬉し喜ばし、大願成就の時節到来だ、………ヤアヤア部下の者共、一時も早く勝彦が身辺に群がり来つて、息の根を止めよ、ホーイホーイホーイ』 と云ふかと見れば、ゾツと身に沁む怪しの風、縦横無尽に吹き来り、四辺陰鬱の気に閉され、数十万の厭らしき泣き声、笑ひ声、叫び声、得も言はれぬ惨澹たる光景となつて来た。勝彦は最早これ迄と、一生懸命、両眼を閉ぢ、天津祝詞を奏上し、天の数歌を歌ひ始めた。与太彦の身体は前後左右に脱兎の如く、駆け廻り始めた。続いて弥次彦の身体は四つ這となつて猛虎の荒れ狂ふが如く、口より猛火を吐きつつ、勝彦の居所を中心に猛り狂ひ飛廻る。六公は忽ち頭上の中空に跳上がり、勝彦が頭上を前後左右に駆けめぐり、何とも譬難き悪臭を放ち始めた。四辺は刻々に暗黒の度を増した。最早勝彦の身辺は烏羽玉の闇に包まれて了つた。 (弥次彦)『八十枉彦、木常姫、口子姫の神の神力には恐れ入つたか、イヤ恐れ入らずに居られうまい、ワツハヽヽヽ、オツホヽヽヽ、ホツホヽヽヽ』 と暗がりより、怪体な声切りに響き渡る。虎嘯くか、獅子吼ゆるか、竜吟ずるか、但しは暴風怒濤の声か、響か、四辺暗澹、荒涼、魔神の諸声は五月蝿の如く響き渡る。怪また怪に包まれたる勝彦は、一生懸命、滝の如き汗を絞り乍ら、神言を生命の綱に、声の続く限り奏上しかけた。この時闇を照して、中空より、馬に跨り下り来る四五の生神があつた。見る見る此場に現はれ、金幣を打振り打振り、前後左右に馬を躍らせ、駆け巡れば、流石の邪神も度を失ひ、先を争ふて二十四坂の方面指して、ドツと許り動揺めき渡り、怪しき声と共に煙の如く逃げ散つた。与太彦、弥次彦、六公は忽ち元の覚醒状態に復帰した。 勝『アヽ有難し有難し、悪魔の襲来を払ひ清め給ひし、大神の御神徳有難く感謝仕ります』 と大地に頭をすりつけて、嬉し涙に咽ぶ。弥次彦、与太彦、六公の三人も、同じく芝生に頭を着け、何となく驚異の念に駆られ、一生懸命に神言を奏上して居る。四人の身体は虹の如き鮮麗なる霊衣に包まれた。芳香馥郁として四辺に薫り、嚠喨たる音楽の響は、四人の身魂に沁み込むが如く聞ゆるのであつた。四人は漸く首を挙げて眺むれば、こはそも如何に、日の出別の宣伝使は、鷹彦、岩彦、梅彦、亀彦、駒彦、音彦と共に、馬上豊に此場に立つて居る。 勝『ヤア是れは是れは日の出別の神様、能くも御加勢下さいました。思はぬ不調法を致しまして、重々の罪御宥し下さいませ。此上は決して決して、斯かる不規律なる幽斎の修業は断じて行ひませぬ。何事も、我々が不覚無智の致す所、知らず識らずに慢心仕り、お詫の申様も御座いませぬ』 日の出別の神は一言も発せず、首を二三回肯かせ乍ら、一行の宣伝使を引連れ、再び天馬空を駆つて、雲上高く姿を隠した。無数の光輝に冴えたる霊線は、虹の如く彗星の如く、一行の後に稍暫く姿を存しける。 峰の尾の上を吹き亘る春風の声は、淑やかに聞えて来た。百鳥の春を唄ふ声は長閑に四人が耳に音楽の如く聞え始めた。 弥『モシ勝彦の宣伝使さま、大変な大騒動がおつぱじまつて、天の岩戸隠れの幕が下りましたな、あの時の私の苦しさと云つたら、沢山な青面、赤面、黒面の兎や、虎や、狼、大蛇が一時に遣つて来て、足にかぶり付く、髪の毛を引つぱる、耳を引く、腕をひく、擲る、それはそれは随分苦しい目に逢はされました。イヤもう神懸は懲り懲りでした。咫尺暗澹として昼夜を弁ぜず、苦しいと云つても譬様のない、えぐい、痛い、辛い、臭いイヤもう惨々なきつい目に会ひました。その時に…アヽ宣伝使様がウンと一つ行つて下さると好いのだけれど、あなたは霊眼が疎いと見えて、敵の居ない方ばつかり、一生懸命に鎮魂をやるものだから、鼻糞で的貼つた程も効能は無く、聾ほども言霊の神力は利かず、イヤモウ迷惑千万な事でしたよ』 勝『アヽさうだつたか、そらさうだらう、何分曇り切つた肉体で、俄審神者を強ひられて無理に行つたものだから、審神者の肉体に神様が完全に宿つて下さらぬものだから失敗をやつたのだ。然しチツトは鎮魂も効能が現はれただらう』 弥『千遍に一度位まぐれ当りに、私を責めて居る悪霊の方に霊光が発射したのは確かです。イヤモウ脱線だらけで、必要な所へはチツトも霊の光線が発射せないものだから、悪魔の奴益々付け込んで、武者振りつき、えらい苦みをしました。アーア斯うなると立派な大将が欲しくなつて来たワイ』 勝『惟神霊幸倍坐世』 与『私もえらい目に遭はされた、人の首を真黒けの縄で、悪魔の奴、幾筋ともなく縛りよつて、古池の水を両方から、釣瓶の綱をつけて替揚げる様に、空中を自由自在に振り廻しよつた時の苦さと言つたら、何遍息が絶えたと思つたか分りませぬ、アヽコンナ苦い責苦に会ふのなら、一層の事、一思ひに殺して欲しいと思ひましたよ。熱いと思へば又冷たい谷底へ体を吊り下ろされ、今度は又焦つく様な熱い所へ吊り上げられ、夏と冬とが瞬間に交代をするのだから、体の健康は台なしになるなり、手足は散り散りバラバラになつて了つた様な苦みを感じた。その時に審神者の勝彦サンは、どうして御座るか、ここらでこそ助けて呉れさうなものだと思つて、あなたの方を眺めて見れば、あなたの背後には、常世姫の悪霊が、貧乏団扇をふつて、悪霊の指揮命令をやつて居る、お前さまは、その常世姫の手の動く通りに、操り人形の様に活動し………否蠢動して居るものだから、却てそれが此方の助け所か、邪魔になつて、益々苦しさを加へ、イヤモウ言語に絶する煩悶苦悩、目の球が一丁ほど先へ飛出すやうな悲惨な目に遇はされました』 勝『それだから、コンナ所で幽斎の修業は廃せと言ふのに、貴様が勝手に悪魔の方へ行きよつたのだ。仮令邪神でも、あの弥次彦の様に、空中滑走がしたいの曲芸が演じたいのと、熱望的気焔を吐くものだから、魔神の奴得たり賢し、御註文通り何でも御用を承はります、私の好物、手具脛引いて待つて居ました、何のこれしきの芸当に手間もへツチヤクレも要るものか、遠慮会釈にや及ばぬ、悪神の容器には持つて来いして来いぢや、ヤツトコドツコイして来いナ、権兵衛も来れ、太郎兵衝も来れ、黒も来い、赤も来い、大蛇も来い、序に狐も、狸も、野天狗も、幽霊も、あらゆる四つ足霊もやつて来いと、八十枉彦の号令の下に集まり来つた数万の魔軍、千変万化の魔術を尽して攻め来る仰々しさ、目ざましかりける次第なりけりだ。アツハヽヽヽ』 与『モシモシ勝彦の宣伝使さま、あまり法螺を吹いて貰ひますまいか、………イヤ法螺ぢやない業託を並べて嘲弄して貰ひますまいかい。この天地は言霊の幸はふ国ぢやありませぬか、ソンナ事を言つて居ると、又もや私の様に、軽業の標本に、魔神の奴から使役されますぜ。労銀値上の八釜しい今の世の中に、破天荒の………否廻転動天の軽業を生命からがら、無報酬で強制され、汗や脂を搾られて、墓原の骨左衛門か骨皮の痩右衝門の様な、我利々々亡者の痩餓鬼にならねばなりますまい、チツト改心なされ』 勝『惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 六『コレコレ立派な審神者の勝彦さま、あなたの御神力には往生致しましたよ、イヒヽヽヽ』 勝『みなが寄つて、さう俺を包囲攻撃しても困るぢやないか。俺だつて誠心誠意、有らむ限りのベストを尽したのだ。これ以上吾々に望むのは、予算超過と云ふものだ。国庫支弁の方法に差支へて了ふ。又復増税なんて、人の嫌がる事を言はねばならぬ。お前等はさう言つて、吾々当局の審神者を攻撃するが、当局者の身にもチツトはなりて見るが宜い。国家多事多難のこの際ぢや、金の要るのは底知れず、増税、徴募あらゆる手段を尽して膏血を絞り、有らむ限りの智慧味噌の臨時支出までして、ヤツトこの場を切抜けたのだ。さう八釜しく責め立ると、勝彦内閣も瓦解の已むを得ざる悲運に立到らねばならなくなる。さうなれば、貴様等も一蓮托生、連袂辞職と出かけねばなるまい。今度の責任を俺一人に負担させやうと云ふのは、あまり虫が好過ぎるワイ。共通的の責任を持つのが、いはゆる一蓮托生主義だよ、アハヽヽヽ』 弥『イヤ仰る通りだ、御尤もだ、モチだ。スツテの事で勝彦内閣も崩解するとこだつた。併し乍ら、人間は老少不定、何時冥土の鬼に迎へられて、欠員が出来るか知れたものぢやない、その時には、弥次彦が後釜に坐つて、この弥次喜多内閣でも組織し、お前サンの政綱を維持して行く、つまり連鎖内閣でも成立させて、居すわる積りだから、後に心を残さず、白紙の三角帽を頭に戴いて、未練残さず旅立なされ。何れ新顔の一人や二人は入れても構はぬ、居坐り内閣をやつて居る方が、党勢維持上都合が好いから、アハヽヽヽ。併しコンナ所に長居は恐れだ、グズグズしとると、冥土から角の生えた鬼族院がやつて来られちや、一寸閉口だ。これや一つ、研究会でも開いて、熟議をこらすが道だけれど、余り同じ処にくつついて居るのも気が利かない。二十四番峠も踏破し、二十五番の峠の上で、善後策をゆつくり講究致しませうか、アハヽヽヽ』 一同『ワハヽヽヽ』 勝『まだ笑ふ所へは行かないぞ、何時瓦解の虞があるかも知れやしない。常世姫命が、遠く海の彼方に逃げ去つて、盛に空中無線電信で合図をして居るから、一寸の隙も有つたものぢやない、気を付けツ、進めツおいち二三四ツ』 と道なき路をアルコールに酔ふた猩々の如く、無闇矢鱈に二十五番峠の上まで、漸く辿り着いた。 勝『アーア、ヤレヤレ危ない事だつた、中空に高き一本の丸木橋を渡つて来るやうな心持だつた』 弥『地獄の釜の一足飛といふ曲芸も、首尾能く成功致しました。皆様、お気に入りましたら、一同揃ふて拍手喝采を希望いたします』 勝『ヤア賛成者は少いなア、……、ヤア一つも拍手する奴がない、全然反対だと見えるワイ』 与『それでも勝彦さま、あなたの身の内に簇生して居る寄生虫は、ソツと拍手して居ましたよ。その声が……ブン……と云つて、裏門から放出しました。イヤもう鼻持のならぬ臭い事だつた、ワハヽヽヽ』 この時忽然として、東北の天より黒雲起り、暴風忽ち吹き来つて、峠の上に立てる四人の体は中空に舞ひ上り、底ひも知れぬ谷間目がけて天上より、岩をぶつつけた如く、一瀉千里の勢を以て、青み立つたる淵に向つて、真逆様にザンブと落込んだ。 その途端に夢は破られ附近を見れば瑞月が近隣の三四人の男、藪医者を招いて脈を執らせて居る。 藪医者は、一寸首を捻つて、 医者『アー此奴ア、強度の催眠状態に陥つて居る、自然に覚醒状態になるまで、放任して置くより途はなからう……非常な麻痺だ、痙攣だ……』 と宣告を下し居たりける。 (大正一一・三・二五旧二・二七松村真澄録)
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霊界物語 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) 余白歌 余白歌 めぐり来る神代のしるしかをちこちの山に霊光輝き初めたり〈第1章(再版)〉 諸々の教の光うすらぎて御空に映ゆる三五の月かげ〈第1章(再版)〉 闇の幕深く包みし三五の月は雲井の空に映ゆらむ〈第2章(再版)〉 五十鈴川清き流れにみそぎして光りしるけき三五の月〈第2章(再版)〉 霊国の姿をうつす花明山の月宮殿は神代の礎〈第3章(再版)〉 櫓櫂なき舟に似しかな主の神の教を知らぬ人の宿世は〈第3章(再版)〉 我国は神の開きし神の国よ神斎かねばをさまらぬ国〈第3章(再版)〉 えらまれし神の柱を押し込めし曲の亡ぶる時は近めり〈第4章(再版)〉 世のために真心つくす正人を捕へて苦しむ曲世ゆゆしき〈第4章(再版)〉 今といふこの瞬間に善を言ひ善を思ひて善をおこなへ〈第5章(再版)〉 過ぎさりしことは詮なし今といふこの瞬間を清く守れよ〈第5章(再版)〉 神ならぬ人の身なれば明日の事の自由にならねば神に任せよ〈第5章(再版)〉 世の中は神のまにまに進むのみ人はみむねに従ひてゆけ〈第6章(再版)〉 大本の神の教の言の葉はすべての人の薬ともなれ〈第7章〉 古の聖も未だ説かざりし真理をさとす伊都能売の神〈第12章(再版)〉 神の在す国と呼びつつ国民は仏を祭る不思議なる国〈第12章(再版)〉 釈迦孔子エスキリストやマホメツトあななひ教の先走りせし〈第12章(再版)〉 現実の宝を生命とあがめたる人永遠の生命を知らず〈第13章(再版)〉 さび朽つる宝に心しみつきて永遠の生命を忘るる人かな〈第13章(再版)〉 世のために尽す心の数々を誰も白浪の立ち騒ぐなり〈第16章〉 たにぐくの狭渡る極み大本の誠の教を布かむとぞ思ふ〈第16章〉 かけまくも畏き神の御教を伝へ行く身の楽しさ苦しさ〈第16章〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました]
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霊界物語 15_寅_顕恩郷/スサノオの経綸/高姫登場 16 水上の影 第一六章水上の影〔五八三〕 三男三女は神歌を謡ひ乍ら、潔く前進する。又もやトンと行当つた岩壁、 高国別『ヤア又しても岸壁だ、如何に一切万事行詰りの世の中だと云つても、此処まで行詰りの風が吹いて来て居るのか。吾々は誠の神力を以て此岩戸を開き、行詰りの世を開かねばなるまい。先づ先づ休息の上、ゆつくりと相談致しませう』 亀彦『臨時議会の開会はどうでせう』 梅彦『アハヽヽヽ、議会と聞けば、醜の岩窟を連想せずには居られない。歴史は繰返すとかや、一つゆるりと秘密会でも開催しませう』 と頃合の岩の上に腰打掛けた。三人の女性も同じく腰打かけ、 三女『アーア、有難い有難い、マア此処でゆつくりと休まして戴きませう』 高国別『エー、あなた方御一同はどうして此岩窟にお這入りになりましたか』 亀彦『吾々は神素盞嗚の大神が地教山を越え此西蔵の秘密郷にお出で遊ばしたと聞き、取る物も取り敢ず、お後を慕つて進み来る折しも、小さき雑草の丘の前に突当り、五人は息を休むる折しもあれ、何処よりともなく一人の女神現はれ来り、「此地底の岩窟には、活津彦根命御探険あれば、汝等は急ぎお跡を慕へ」との一言を残し、その儘姿は消えさせ給うた。傍を見れば暗き穴、ハテ訝かしやと覗き居る際、地盤はガタリと陥落し、七八間も地中に落込んだと思へば、此岩窟、……それより吾々一同はこの岩窟内を神歌を謡ひつつ、探り来る折しも、道に当つた古井戸、フト見れば何か怪しの物影、合点行かぬと思ふ折、井戸の底より貴下の声、……と云ふ様な来歴で御座いましたよ』 高国別『アヽそれは結構でございました。実は吾々が彼の井戸に陥りし刹那、失心致したと見え、広大なる原野を通過し、高山の頂きに登りつめ、五人の男女に巡り会ひしと思へば、ハツト気が付き、空を仰ぐ途端に、貴下ら一行のお姿………イヤもう実に不思議千万な事で御座います』 梅彦『吾々は昨夜の夢に、貴下にお目にかかりましたが、本日只今この岩窟内に斯うして休息して居る有様が、ありありと目に附きました。実に現幽一致、此世と云ふ所は不思議な所ですな』 俄に何処ともなく、阿鼻叫喚の声、響きわたる。高国別はツト立ち上り、 高国別『ヤア皆さま、何か此岩窟内には変事が起つて居ますよ。サアサア早く早く探険と出かけませうかい』 と云ひつつ、岩壁を力に任せてグツと押した。岩の戸はパツと開いた。見れば数十人の老若男女、何れも高手小手に縛しめられ、中央に朱の如き赤き面した鬼神四五人、鉄棒を提げ、足の先にてポンポンと男女を蹴り苦しめて居る。 高国別『ヤア各方、此処は冥土の地獄の様だ。ヤア何れも方、飛込んで救うてやりませう』 と身を躍らして先に立つた。五人はあとに引つ添ひ、声を揃へて言霊を奏上する。鬼の姿は追々に影うすく、遂には煙の如くなつて消え失せたり。数多の老若男女の姿を見れば、高手小手に縛められ居たりと見えしは、幻なりしか、各自に双手を合せ、岩窟の前に端坐して、 一同『神素盞嗚の大神、一時も早く地上に現はれ給ひて、吾等を救ひ給へ』 と一生懸命、側目もふらず拝んで居るのであつた。六人の姿を見るより、一同の老若男女は、此方に向き直り、合掌し乍ら、 一同『ヤア有難し有難し、勿体なし、あなた様は神素盞嗚の大神の御眷属様ならむ』 と嬉し涙に咽ぶ。 高国別『ヤア最前より様子を聞けば、汝等一同の者、神素盞嗚の大神の御出現を祈り居る有様、汝の至誠は天に通じ、只今カナンの家に尊は御逗留遊ばすぞ。一時も早く此岩窟を立出で、仁慈の大神の尊顔を拝せよ』 と宣示したれば、一同は此言葉を聞いて大に喜び、 一同『ヤア大神の御再臨、有難し辱なし』 と嬉し腰を脱かし、のたくり廻り、歓ぎ喜ぶ。高国別は一同に向ひ、天の数歌を称ふれば、今迄痩衰へたる数十人の老若男女は、俄に肉付き、顔色麗しく、元気恢復し、忽ちムクムクと立ち上り、手を拍つて、前後左右に踊り狂ひ、大神の再臨を心の底より感謝する。而て一同はイソイソとして、大麻を持てる男を先頭にゾロゾロと帰り行く。後見送つて高国別は、 高国別『アヽ可愛らしい者だ。これ丈の善男善女が心を一つにして、信仰を励むのを見れば、何とも彼とも知れぬ良い心持ちがする。尊に於かせられても、嘸御満足に思召すであらう。嗚呼、惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 高国別一行は、奥へ奥へと進み行く。日は西山に没せしと見え、岩窟の中は俄に暗くなつて来た。六人は探り探り進み行くにぞ、傍に怪しき呻声が聞えゐる。耳ざとくも、愛子姫は其声を聞き、 愛子姫『もしもし皆さま、何だか怪しき声が聞えるではありませぬか』 亀彦『ヤアそれは、あなたの神経でせう。岩窟の中は音響のこもるものですから、大方最前の祝詞の声が内耳深く潜伏し、反響運動を開始して居るのでせう』 愛子姫『イエイエ祝詞の声ではありませぬ、苦悶を訴ふる、しかも女の声、悪神の巣窟たる此岩窟、如何なる惨事の行はれ居るやも図られませぬ。皆さま一同に立止まり、耳を澄ませて聞いて下さい。世界を救ふ神の使の吾々、苦悶の声を聞き逃し、ムザムザと通過も出来かねます』 亀彦『ヤア如何にも苦しさうな声だ。もしもし高国別様、暗さは暗し、余り軽々しく進むよりも、一つ此声を探り当てませうか』 高国別『ホンに如何にも妙な声が致しますな』 と言ひつつ、傍の岩壁をグツと押した途端に、不思議や、岩の戸は案外に軽くパツと開いた。能く能く見れば、白き影、岩窟内に横たはり苦しさうに唸つて居る。 亀彦『ヤア怪しいぞ怪しいぞ、此暗がりに、何だか削りたての材木の様な者が唸つて居る。これは大方、白蛇であらう』 梅彦『白蛇にしては、太さの割に余りに丈が短いではありませぬか』 亀彦『白蛇の奴、どつかで半身切られて来て、九死一生苦悶の態と云ふ場面だらう。……オイオイ白蛇の先生、どうしたどうした』 白き影『アーア恨めしやなア、妾は姫君様の御後を慕ひ、此処まで来るは来たものの、ウラナイ教の曲津神、蠑螈別が計略にかかり、手足を縛られ、岩窟の中へ押込まれ、逃れ出づる方策もなし、アヽ何とせう、恨めしやなア』 亀彦『ヨウ大蛇だと思へば、何だか分らぬ事をほざいて居るワ。もしもし高国別様、一寸調べて下さいな』 高国別『イヤあなた御苦労乍ら一寸探つて見て下さい、どうやら人間らしう御座いますよ』 亀彦『滅相な、あた嫌らしい、此暗がりに、コンナ白い者が、どうしてなぶられませうか……オイ梅サン、お前は平素より大胆な男だ。一つ此処らで侠気を出して、幾代姫様に英雄振をお目にかけたらどうだ』 梅彦『イヤ吾々も吾々だが、亀彦サンも亀彦サンだ。菊子姫様に英雄振をお見せになつたらどうでせう、余り厚かましう致すのも御無礼で御座る。あなたには先取権が御座る、どうぞ御遠慮なく、とつくりと、頭から足の先までお調べなさいませ。菊子姫様の手前も御座いまするぞ』 亀彦『アーア、偉い所へ尻平を持つて来られたものだ。ナニ、材木が動いて居るのだと思へば良い、……コラコラ材木、その方は何者だ』 白き影『アヽ恨めしや』 亀彦『ナヽ何だ、ウラナイ教か、幽霊か、何だか知らぬが、材木の幽霊は昔から聞いた事はないワイ。素盞嗚の大神が御退隠遊ばしてより、山川草木に至る迄、言問うと云ふ事だが、やつぱりこの材木も其選に漏れないと見えて、何だか言問ひをやつてゐる、……コラ材木、起きぬか起きぬか』 梅彦は、白き影を目当に、スウツと撫でまわし、 梅彦『ヤアこれは人間だ、しかも肌の柔かき美人と見える、高手小手に縛められて居る。おほかた悪神の奴に虐げられて、此岩窟に幽閉されたのであらう』 と言ひ乍ら、スラスラと縛を解いた。白き影はスツクと立ちあがり、懐剣逆手に持つより早く、 白き影『ヤア、ウラナイ教の悪神、蠑螈別の手下の者共、モウ斯うなる上は、妾が死物狂ひ覚悟を致せ』 と六人のほのかな影を目当に短刀をピカつかせ乍ら、前後左右に暴れ狂ふ。 亀彦『ヤア待つた待つた、吾々は三五教の宣伝使だよ』 白き影『ナニツ、三五教の宣伝使とは、まつかな偽り、浅子姫が死物狂ひの車輪の働き、思ひ知れよ』 と飛鳥の如くに飛び廻る。 高国別『ヤア汝浅子姫とは、顕恩郷に現はれたる愛子姫の腰元ならずや。吾は愛子姫の夫高国別なるぞ』 浅子姫『執念深き悪魔の計略、其手に乗つて堪らうか、浅子姫が手練の早業、思ひ知れよ』 と又もや短刀を暗に閃かし暴狂ふ。愛子姫は、 愛子姫『そなたは浅子姫に非ずや、先づ先づ静まりなさい、愛子姫に間違御座らぬ』 浅子姫『ヤアさう仰有るお声は、正しく愛子姫様』 愛子姫『そなたは擬ふ方なき浅子姫の声、夜目にもそれと知らるる其方の姿、嬉しや嬉しや、思はぬ所で会ひました』 浅子姫は稍落着きたる声にてハアハアと息をはづませ乍ら、 浅子姫『そ、そ、そう仰有るあなたは擬ふ方なき愛子姫様、お懐しう御座います』 とワツと許りに其場に泣き伏しぬ。此時何処よりともなく、一道の光明サツと輝き渡り、一同の顔は昼の如く明かになり来たりぬ。 浅子姫『これはこれは何れも様、不思議な所でお目にかかりました、能うマア危き所をお助け下さいました。是れと云ふも、全く木花姫の御守護の厚き所』 と合掌し、後は一言も得言はず、嬉し涙に掻き曇るのみ。勇みを附けんと高国別は、浅子姫の背中を、平手に三つ四つ打ち乍ら、 高国別『浅子姫殿、しつかりなさいませ。是には深き様子有らむ。吾々も此先に於て、大に覚悟せなくてはなりませぬ。あなたを斯くの如く岩窟に押込めし以上は、当岩窟には数多の悪神の巣窟あらむ、此処に立到られし仔細を詳さに物語られよ』 と声を励まして問ひかくれば、浅子姫はハツと心を取直し、 浅子姫『是れには深き仔細が御座いまする、一先づ妾が物語お聞き下さいませ。天の太玉命、顕恩郷に現はれ給ひ、バラモン教の大棟梁鬼雲彦を神退ひにやらひ給ひ、妾は愛子姫様と共に、顕恩城を守護しまつる折しも、天照大神様、天の岩戸に隠れ給ひしより、太玉命は急遽、天教山に登らせ給ひ、その不在中、愛子姫様と妾は城内を守る折しも咫尺暗澹として昼夜を弁ぜず、荒振神は五月蝿の如く群がり起り、鬼雲彦は又もや現はれ来りて、暗に紛れて暴威を逞しうし、妾主従は生命も危き所、闇に紛れて城内を逃れ出で、エデンの河を生命からがら打渡り、何の目的も時の途、進み行く折しも、暗を照して現はれ来たる日の出神にめぐり会ひ、愛子姫様、菊子姫様、幾代姫様は、神素盞嗚尊の御後を慕ひ、西蔵に難を遁れさせ給ひしと聞くより、妾は岸子姫、岩子姫と共に、夜を日に継いで、山野を渉り、大河を越え、漸くラサフの都に来て見れば、姫君様に奇の岩窟にて面会を得させむと、木花姫の夢のお告げ、妾三人は勇み進んで、小高き丘の入口より、岩窟に進み来る折しも、ウラナイ教の曲神蠑螈別、幾十ともなく数多の邪神を引き連れ、妾三人を前後左右に取囲み、後手に縛り上げ、此岩窟に押込めたり。嗚呼、岸子姫、岩子姫は、如何なりしぞ、心許なや』 と又もや涙の袖を絞る。 高国別『これにて略様子は判然致しました。……ヤア一同の方々、岸子姫、岩子姫の身の上心許なく御座れば、急ぎ在処を尋ね、救ひ出さねばなりますまい』 一同『然らば進みませう』 と、一同は四辺に耳を欹て、目を配り乍ら、急ぎもせず、遅れもせずと云ふ足許にて、奥深く進み行く。隧道は俄に前方低く、板を立てたる如き急坂になつて来た。一行七人は、一足一足力を入れ乍ら、アブト式然と、坂路の隧道を下つて行く。行く事七八丁と覚しき所に、比較的広き水溜りがある。薄暗がりに透かし見れば、何だか水面に人の首の様なものが漂うて居る。亀彦は目ざとくもこれに目を注ぎ、 亀彦『ヤア此奴ア又、変挺だ。岩窟の中に池があると思へば、円い顔の様な物が浮いて居る、鴛鴦にしては少しく大きいやうだ。ヤア目鼻が付いて居る。悪神の奴、酒に喰ひ酔つて、瓢箪に目鼻をつけ、此池に放り込みよつたのではあるまいか。瓢箪ばかりが浮物か、俺の心も浮いて来た。サアサア浮いたり浮いたりだ、アハヽヽヽヽ』 梅彦『亀サン、あれを能く御覧なさい、女の首ですよ。ナンダか、つぶやいて居るぢやありませぬか』 幾代姫『ヤア彼の顔は、岩子姫、岸子姫ではなからうか』 亀彦『エー何を仰有います、鴨かナンゾの様に、女が首ばつかりになつて、池の中に浮いて居ると云ふ事がありませうか。あなたは視神経の作用が、どうか変調を来して居るのでせう。腐り縄を見て蛇と思つて驚いたり、木の欠杭を見て化物と思ふ事が往々有るものです。マアマア気を附けてください、変視、幻視、妄視の精神作用でせう、コンナ所に棲息する者は、キツト河童か、鰐か、まかり間違へば人魚ですよ。人魚と云ふ奴は、能く人間に似て居るものだ、それで、人の形をした翫弄具を人形サンと云ふのだ。アハヽヽヽヽ』 池の中より女の首、苦しき声を絞り乍ら、 岩子姫、岸子姫『ヤア、あなたは幾代姫様、菊子姫様、愛子姫様では御座いませぬか。夜目にはしかと分りませぬが、お姿が能く似て居ります。妾は悪神に捉へられ、手足を縛られ、重き石錨をつけられて苦んで居ります、岩子姫、岸子姫の両人で御座います。どうぞお助けくださいませ』 亀彦『ヤア金毛九尾の同類奴、馬鹿にするない、何程化たつて、モウ駄目だ。手を替へ品を換へ、結局の果には池の中に姿を現はし、吾等を水中に引込まむとの水も洩らさぬ………否水責めの汝の計略、其手に乗つて堪らうかい』 岩子姫『イエイエ、決して決して妖怪変化では御座いませぬ、どうぞお助け下さいませ』 亀彦『もしもし高国別様、どうでせう、彼奴は本物でせうか。偽物の能く流行する時節ですから、ウツカリと油断はなりませぬぜ、………コラコラ化の奴、新意匠をこらし、レツテルを替へて、厄雑物を突付けても其手には乗らぬぞ、意匠登録法違反で告発をしてやらうか』 高国別『アハヽヽヽ、何は兎もあれ、亀彦サン、高国別の厳命だ、あなた真裸となつて救うて来て下さい。高国別が神に代つて命令を致します』 亀彦『滅相な、どうしてどうして、是ばつかりは真つ平御免、アーメン素麺、トコロテン、ステテコテンのテンテコテン、テンデ話になりませぬワイ、テンと合点がゆきませぬ、是ればつかりは平に御断り申す。斯く申すは決して亀彦の肉体では御座らぬ。亀彦が守護神の申す事で御座る』 梅彦『アハヽヽヽ、巧い事を言ひよるワイ、融通の利く副守護神だ、斯うなると副守先生も重宝なものだなア』 亀彦『亀彦の守護神が、神素盞嗚の大神の命に依つて、梅彦に厳命する………梅彦、速かに真裸となり、水中にザンブと許り飛込んで、二人の妖怪を救ひ来れ。万々一、彼にして大蛇の変化なれば、汝は一呑みに蛇腹に葬られむ。然る時は、汝が霊を引抜き、至美至楽の天国に救ひ、百味の飲食を与へ遣はす、ゆめゆめ疑ふ事勿れ』 梅彦『ウンウンウン』 亀彦『コラコラ、偽神懸は厳禁するぞ、亀サンの審神を暗まさうと思つても、天眼通、天耳通、宿命通、自他心通、感通、漏尽通の六大神通力を具備せる、古今無双の審神者のティーチヤーに向つて、誤魔化しは利かぬぞ、速かに飛込め』 池中に浮かべる二つの首は、苦痛を忘れて、思はず、『ホヽヽヽヽ』と笑ひ出せば、 亀彦『それ見たか、俺の天眼通はコンナものだ。此寒いのに池の中に投り込まれ、人間なら、何気楽さうに笑ふものか、とうとう化物の正体を現はしよつた。アツハヽヽヽ』 幾代姫『亀彦様、梅彦様、あなたは分らぬお方ですな、………アーアコンナ方を二世の夫に持つたと思へば恥かしいワ』 亀彦『コレコレ嬶左衛門殿、何と御意召さる。親子は一世、夫婦は二世で御座るぞ』 二女『夫婦二世と云ふ掟を幸ひ、あなたの様な、臆病神との契を解き、第二の夫を持ちませう。ネー愛子姫様、決して天則違反では御座いますまい』 亀彦、梅彦、両手を拡げて、 亀彦、梅彦『アヽ待つた待つた、如何に女権拡張の世の中ぢやとて、姫御前の有られもない其暴言、これだから、新しい女を女房に持つのは困ると言ふのだ。エー仕方がない、俺も男だ………サア梅サン………ヤア亀サン………一イ二ウ三ツだ』 と云ふより早く、真裸となり、ザンブと飛込んだ。 亀彦、梅彦『ヤア比較的浅い池だワイ………オイオイ二つの生首、かぶりついちや不可よ、俺一人ではない、俺には彼の通り立派な奥方がお二人も随いて御座るのだ。一度死んだから二度とは死なないから、吾々は生命位は何ともないが、後に残つた菊子姫、幾代姫の悲歎の程が思い遣られる……コラコラ助けてやるから生命の恩人だと思つて、かぶり付いてはならぬぞ』 と言ひつつ、コワゴワ頭髪をグツと握り締めた。 岩子姫『アイタタ、痛う御座んす、どうぞ、妾の腰の辺を探つて見て下さい』 亀彦『女の分際としてあられもない事を言ふな、立派な奥様が大きな目を剥いて監督をして御座るぞ、腰のあたりを触つて堪るものかい』 岸子姫『イエイエ、腰の辺りに、可なり大きい紐で大きい石が縛りつけて御座います。三つも四つも、重い石に繋がれて居ます、どうぞ其綱を切つて助けて下さい』 亀彦『アーア、偉い事になつて来たワイ、神が綱を掛たら放さぬぞよ、アハヽヽヽ』 岩子姫『冗談仰有らずに、どうぞ真面目にほどいて下さい』 二人は水中に手を下し、腰のあたりを探つて見て、 亀彦、梅彦『ヤア甚い事を行つて居る……やつぱり鱗でもなければ、羽でもない、人間の肌だ』 と云ひ乍ら、ほどかむとすれど、綱は膨れてどうする事も出来ぬ。 亀彦、梅彦『アーア仕方がない』 と再び岸に這ひ上り、双刃の剣を口に啣へ、バサバサと飛込み、プツツと綱を切り、二人を肩にひつ担ぎ乍ら上つて来た。高国別および三人の女性は、 四人『アーア結構結構、好い所で助かつたものだ』 浅子姫『岩子さま、岸子さま、あなたは酷い目に会ひましたな、妾も御主人様に救はれました……アヽ結構結構、これと云ふも、大神様の全く御守護で御座いませう』 と浅子姫は、今更の如く嬉し涙に暮れて水面に向つて合掌しゐたりける。 (大正一一・四・三旧三・七松村真澄録) (昭和一〇・三・二三於花蓮港支部王仁校正)
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霊界物語 15_寅_顕恩郷/スサノオの経綸/高姫登場 余白歌 余白歌 歴史にも無き神界の有様をつぶさに語るこれの神書〈第2章(三版)〉 人生における一大問題は死後の世界の有無に関はる〈第4章(三版)〉 精霊は人の本体肉体は人のしばしの仮の宮なる〈第4章(三版)〉 精霊は不老不死なり肉体は栄枯盛衰ある世なりけり〈第4章(三版)〉 永遠に不老不死なる生命をさとりし人は天国の民〈第5章(三版)〉 生前に神を信ぜず科学のみ主とせし人は根の国にゆかむ〈第5章(三版)〉 八衢に迷ふみたまは現世に罪はなけれど神知らぬ人〈第5章(三版)〉 歴史にもなき神の代の正事を四方に宣りゆく大本の道〈第6章(三版)〉 大空にかかる月日を教へとし人の教へに夢な迷ひそ〈第8章〉 から人の唱ふ誠の大方は神国の教へにそぐはざるなり〈第8章〉 暗黒の夜も明け離れ茜刺す朝日の昇る暁近し〈第9章〉 三千歳の暗も漸く晴渡り月日輝く神代待たるる〈第9章〉 世の中の物知り人も霊国に到ればはかなき姿とならむ〈第10章(三版)〉 一文字も知らぬ霊の天国に遊ぶは愛の力なりけり〈第10章(三版)〉 愛善の道に進めば天国に真信さとれば霊国にゆく〈第10章(三版)〉 穢れたる浮世の泥を清めむと世に伊都能売の神のいさほし〈第11章(三版)〉 千万年歴史の末に生まれたる吾現世に教を説くなり〈第11章(三版)〉 天国や霊国ともに地の上に開き給ひぬ伊都能売の神は〈第11章(三版)〉 煎豆に花咲く神代めぐり来て山河草木よみがへり行く〈第12章(三版)〉 浮き沈み七度八度の世の中を安く渡らむ神の恵みに〈第13章(三版)〉 生れ子の心になりて皇神に仕ふる人は天国のたみ〈第13章(三版)〉 曲神の威猛り狂ふ闇の世に安く生くるは神の御恵み〈第15章(三版)〉 天国に昇るは易し根の国に落るは難し神にある身は〈第15章(三版)〉 言の葉を改め直せ許々多久の罪も汚れも消え失するなり〈第18章〉 身に魂に曇り懸るは今までの言葉に汚れありし故なり〈第18章〉 霊幸ふ神の恵みも懲戒もおのが身魂のもちかたによる〈第18章〉 行く先は高天原と知りながら命惜しむは人の常なり〈第21章(三版)〉 遠近をくまなく照らす三五の道をうべなふ人の幸かも〈第22章(三版)〉 岸を打つ波にも力あるものを人の身として成らざるはなし〈跋文(三版)〉 ゆきつまる世を神国に開かむと朝夕道教る宣伝使かも〈跋文(三版)〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました]
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霊界物語 16_卯_丹波物語1 大江山/冠島沓島/丹波村 05 秋山館 第五章秋山館〔五九五〕 高天原を追はれて千座の置戸を負はせつつ 八洲の国を漂浪の旅に出立ち給ひたる 神素盞嗚の大神の行衛如何と案じつつ 東の空を打眺め心にかかる村肝の 雲の渦巻サラサラと晴れて嬉しき今日の朝 君の便りを菊月の上九日の菊の宴 親子主従めぐり会ひ胸の岩戸も秋山彦の 神の司の真心に綾と錦の機を織る 赤き心は紅葉姫万代祝ふ亀彦が 暗を照らして英子姫心地もわけて悦子姫 廻り会うたる折柄に表に聞ゆる鬨の声 忽ち開く表門秋山彦は立出でて 寄せ来る魔軍に打向ひ天の数歌勇ましく 力限りに宣りつれば敵の人数も大江山 鬼雲彦が部下共大地にドツと打倒れ 苦み悶ゆる状態は実に面白き限りなり 顔色赤く目は青く棕櫚の赤髪を振紊し 六尺計りも踏張つてノソリノソリと遣つて来る 鬼雲彦が懐の刀と頼む鬼彦は 虎皮の褌締め乍ら牛の様なる角目立て 大口開けて高笑ひ。 鬼彦『アハヽヽヽ、猪口才千万な、秋山彦が言霊の防戦、左様な事でたぢつく様な鬼彦と思うて居るか。此方には雲霞の如きジヤンジヤヒエールが、数限りもなく控へて居るぞ。仮令汝獅子王の勢あるとも、此鬼彦が片腕を揮ふや否や、汝の身体は木つ端微塵、今日は九月九日、大江山の本城に於ては、鬼雲彦の御大将、バラモンの大祭典を御執行の贄として、神前に暖かき人肉を供へ、血の酒を献らねばならぬ。それに就ては、バラモン教を目の敵と狙ふ三五教の張本人、素盞嗚尊一族の者、汝が館に隠れ忍ぶと聞く、四の五の吐さず、速に主人を吾面前に引ずり出せ。ゴテゴテ吐さば、それがし自ら踏み込みて、片つ端から腕を捻ぢ、脚を折り、量を低く致して此網代籠に詰め込み、汝諸共神の神饌に供してくれむ』 と言ふより早く、秋山彦の襟首をグツと握り、締め附けたり。秋山彦は豪力無双の鬼彦に捻ぢ伏せられ乍ら、委細構はず言霊を奏上せむとするや、手頃の石を拾つて秋山彦の口に捻ぢ込み、其上に猿轡を啣ませ、 鬼彦『アツハヽヽヽ、最早大丈夫だ、サア秋山彦、汝が唯一の武器と頼む言霊も、モウ斯うなつては叶ふまい。オイ言霊はどうだい……ヤアヤア皆の者共、最早心配は要らぬ。速に立上れ』 と云ふ間もなく、言霊に打たれて苦悶し居たる部下の魔神共は、やうやう立上がり、真つ青な顔に、空元気を附け、ガタガタ震ひの空威張り声、 『ウワアウワア』 と鬨を作つて、盛に示威運動を開始するこそ可笑かりける。 奥には糸竹管絃の響、長閑な歌の声、此場の光景を知らず顔に響き渡りける。魔軍は力限りに鬨の声を揚げ呶鳴り立て居たり。此方の奥殿には、此声を峰の嵐の音と聞き流し酒宴の真最中、慌ただしく駆けつけ来る門番の銀公、加米公はピタリと両手をつき、頭を畳に摺り附け乍ら、 加米公『申上げます、表門はタタ大変で御座います』 紅葉姫『ヤア汝は加米、銀の両人、大変とは何事なるぞ。委曲に物語れ』 加米公『ハイハイ申上げます、あのモシ……あの……何で御座います。夫れは夫れは申上げ難い事で……マアマア大変な事が出来ました……斯う言へば、申上げずとも大抵、御判断が附きませう』 紅葉姫『早くしつかり申しなさい』 加米公『オイ銀公、お前は上役だ。詳しい事は、お前が知つとる筈だ。御主人の御容子を……』 銀公『ヤア此方は折悪く雪隠に往つて居つたのだから、実状は承知して居らぬ。加米、貴様は実地目撃して居つたのだ。直に申上げぬか』 加米公『上役の分際として、御主人様が危急存亡の場合、雪隠へ隠れよつて、慄うて居つたぢやないか。俺は何分大勢の寄せ手に、肝を潰し、目は眩み、実地目撃不充分、貴様は安全地帯に身を隠し、雪隠の窓から覗いて居よつたのだ。早く申さぬと、御主人様の口に石を捻ぢ込み、猿轡を箝め、高手小手に縛しめて、網代籠に、手足をもぎとり量を低うして、今日の祭典に大江山の本城に連れ帰り、犠牲にするかも知れぬぞや、早く実地を申さぬかい』 銀公『ハア申上げます。加米公の申した通り、寸分違は御座いませぬ。早く何々をなさらぬと、鬼彦が御主人様を何々して、何々へ何々するかも知れませぬ。どうぞ一時も早く表門に立向ひ、御主人様をお助け下さいませ』 素尊『ハヽヽヽヽ』 国武彦『ヤア面白い事が出来ました。鬼彦とやらの軍勢を、当館を開放し奥深く侵入させて、彼等が手振り足振りを眺め乍ら、悠くりと菊見の宴を張りませう』 亀彦『これはこれは国武彦の御言葉とも覚えぬ。今承はれば、秋山彦は敵の為に囚はれの身となり、危機一髪の場合、チツトは紅葉姫の御心中も察し上げねばなりますまい。それだから此亀彦が、寄せ来る敵に向つて進まむと致せし時、横合から吾が行動を止めさせられたは、其意を得ぬ。冷淡至極の貴下が振舞、秋山彦を見殺しになさる所存か返答聞かう』 と目を怒らし、腕を張つて詰め寄せたれば、国武彦はニツコリしながら、 国武彦『秋山彦の一人や二人犠牲にした処で、何騒ぐ事があるか。一人を殺して吾々数人が助かると云ふものだ。一人を損するか、吾等一同を損するか、利害得失を能く胸に手を当て、算段をして見よ。情を棄つるか、理智を棄つるか、二つに一つの性念場だ。情に惹かされ、大事を謬る天下の痴呆者、仮令秋山彦の三人、五人殺されようとも、神素盞嗚尊様さへ御無事ならば、吾等は是れにて満足致す。マアマアゆつくりと、酒でも飲みて、今日の酒宴を賑やかに致せ。喜悦の座席に血腥い話を持込まれては、サツパリお座が醒める』 亀彦『汝国武彦とは真赤な詐り、大江山に現はれたる、鬼雲彦が鬼の片腕、国武彦と名を偽り、三五教に忍び込み来たり、内外相応じ、神素盞嗚尊を損はむとする者ならむ、首途の血祭り、亀彦が一刀の下に斬りつけ、蹴散らかして呉れむ』 と短剣ヒラリと引抜いて、切つて掛かるを、国武彦は少しも騒がず、体を左右に躱し、あしらひ乍ら、 国武彦『アハヽヽヽヽ、亀の踊は格別面白う御座る、ヤア素盞嗚の大神殿、御愉快では御座らぬか』 素尊『ワハヽヽヽヽ面白い面白い』 亀彦『是れは怪しからぬ、利己主義の中心、個人主義の行方……高天原を神退ひに退はれたは、寧ろ当然の成行、此亀彦は今迄貴神が悪逆無道の心中を知らず、至善至美至仁至愛の大神と信じて居たは残念だ。モウ斯うなる上は、天下の為に汝を滅し、吾れも生命を棄てて、宇宙の悪魔を除かむ』 と切つて掛るを、英子姫、悦子姫は其前に立塞がり、 英子姫、悦子姫『オホヽヽヽヽあの亀彦の元気な事、さぞお草臥でせう。妾が代つて一芝居致しませう。マアマアお休み遊ばせ』 紅葉姫は声を挙げて泣伏しける。 亀彦『是れは是れは紅葉姫様、お歎き御尤も、主人の災難を聞き乍ら、女房として此れがどう忍ばれませう。あかの他人の亀彦さへも、残念で残念で堪りませぬワイ。斯う云ふ時に助けて貰はうと思つて、秋山彦が日頃の親切、イヤモウ気楽千万な素盞嗚の御大将呆れ蛙の面の水と申さうか、馬耳東風と言はうか、味方の危難を対岸の火災視し、一臂の力も添へざるのみか、愉快気に酒を飲むで戯むれむとするは、人情軽薄紙の如く、イヤもう実に呆れ果てて御座る。サア紅葉姫殿、斯かる連中に斟酌なく、亀彦と共に表へ駆け出し、秋山彦が弔戦、此細腕の続かむ限り、剣の目釘の続く丈、縦横無尽に斬り立て、薙ぎ立て、敵の奴輩一人も残さず、秋の紅葉を散らせし如く、大地を血汐に染めなし、血河屍山の大活動を仕らう、紅葉姫、サア亀彦に続かせ給へ』 と表を指して行かむとす。英子姫は腰の紐帯を取るより早く、亀彦が首にヒラリと打かけ、グイと引戻せば、亀彦は細紐に喉笛を締められ、脆くも仰向に其場にパタリと倒れたり。表に聞ゆる人声は、刻々に館の奥を目蒐けて近づき来る。 紅葉姫は、 心も魂も捧げたる神素盞嗚の大神に 力の限り身の限り仕へまつるか但し又 此場を棄てて吾夫の秋山彦を救はむか。 神命は重し又夫の身の上は、妻の身として坐視するに忍びず、千思万慮とつおいつ、心の中を紅葉姫、顔に散らした唐紅の血汐漲る鬨の声、胸はドキドキ、刻々に、近付き来る敵の勢、姫が心ぞ憐れなる。 此場に近付き来るかと聞えし声は、何時しか消えて跡なき小春空、秋山彦は悠然と騒がず、遽らず、奥の間指して帰り来る。亀彦、紅葉姫の両人は、余りの嬉しさに、ハツと胸逼り、ものをも言はず、其場に打倒れ、夢か現か幻かと、吾と吾が心を疑ひ、思案に時を移すのみ。国武彦は立ちあがり、 国武彦『亀彦、紅葉姫、心配致すな。吾等が眷族鬼武彦をして、鬼雲彦の悪逆無道を懲す為神変不思議の神術を用ひ、敵の本城に忍ばせたれば、少しも案ずる事勿れ』 と始めて事情を打明けたるにぞ、亀彦、紅葉姫は、 亀彦、紅葉姫『ハヽア、ハツ』 と計りに嬉し泣き、暫しは顔を得上げざりしが、素盞嗚尊は亀彦に向ひ、 素尊『ヤア亀彦、汝が心の中の美はしさ、吾れは満足致したぞよ、イザ是れより賑々しく酒宴を催し、大江山の本城は彼等眷族に打任せ、吾々一行は由良の湊より船に乗り綾の高天原に進まむ』 と宣示し給へば、亀彦は勇み立ち、 亀彦『アヽ、ハツハヽヽヽ芽出たし芽出たし、愈是れより大神の御伴致し、聖地を指して逸早く進み上り、神政成就の基を開かむ、ヤア秋山彦、紅葉姫、お喜びあれ。貴下が誠忠、至誠、至愛の真心天地に通じたり。併し乍ら吾々一同当家を去らば、再び大江山より鬼雲彦の部下の者、又もや押し寄せ来るも計り難し、随分心を附け召されよ』 秋山彦夫婦は涙を揮ひ、 秋山彦夫婦『何から何まで、貴下の御親切、骨身に徹して辱なう存じます。併し乍ら吾等は神素盞嗚大神の御守りあれば、必ず御心配下さいますな、一時も早く聖地を指して御上り下され。神政成就の基礎を樹立する為、御奮励の程偏に希ひ上げ奉る』 と慇懃に謝辞を述べける。 素尊『ヤア秋山彦夫婦、多大いお世話になりしよ。我れは是より一先づ聖地に立向ひ、天下の悪神を掃蕩すべき準備をなさむ、船の用意を致せ』 秋山彦『ハハア委細承知仕りました。……銀公、加米公、汝は一時も早く湊に出で、御船の用意にかかれ』 銀公『ハヽア委細承知仕りました。併し乍ら船は敵軍の為に殆ど占領せられたるやも計られませぬ。万々一船なき時は、如何取計らひませうや』 秋山彦双手を組み頭を傾け思案にくるるを、国武彦は、 国武彦『ナニ心配に及ばぬ、御船は残らず国武彦が眷属を以て守らせあれば大丈夫なり。安心致せ。且又当邸の周囲には、最早敵の片影だもなし、勇み出船の用意をせよ』 銀公、加米公は、 銀公、加米公『ハイ』 と答へて此場を立去りぬ。又もや糸竹管絃の響は屋外に洩るる陽気と一変したりけり。 神素盞嗚尊は突立上り、声も涼しく歌はせ給ひぬ。 素尊『高天原を立出でて四方の国々島々を 世人を助け守らむと彼方こちらと漂浪の 旅を重ねて西蔵やフサの荒野を打渡り ウブスナ山に立籠りイソ山峠の絶頂に 仮の館を構へつつ熊野樟毘命をば 留守居の神と定めおき我れは悲しき隠れ身の 愛しき娘は四方八方に四鳥の別れ釣魚の涙 憂を重ねてやうやうに渡りて来る和田の原 醜の曲津も大江山鬼雲彦を言向けて 世人の悩みを救はむと船に揺られて由良湊 心も赤き秋山彦の館に暫し身を休め 四方の国形伺へば十里四方は宮の内 内と外との境なる大江の山にバラモンの 神の司の鬼雲彦が又もや砦を築きつつ 醜の荒びの最中に訪ねて来る艮の 神の命の分霊国武彦と現はれて 我れに附添ひ右左前や後を構ひつつ 鬼武彦の伊猛るの神に従ふ白狐共 暗夜を照らす朝日子や月日明神神徳も 高倉稲荷の活動に悩ませられて悪神は 愈今日は運の尽月に村雲花に風 心の錦秋山彦の神の司の真心は 紅葉の姫の如くなり光眩ゆき英子姫 すべての用意も悦子姫万代固むる亀彦が 忠義の刃研ぎすましさしもに猛き曲神を 言向和すは目前吁、面白し面白し さはさりながら神心凡ての敵を救はむと 善をば助け曲神を懲して救ふ神の道 青垣山を繞らせる天津神籬磐境と 現はれませる世継王山深き仕組を暫くは 雲に包みて弥仙山本宮山に現はれて はちすの山の蓮華台三五教の御教を 常磐堅磐に搗固め鬼も大蛇も丸山の 神の稜威に桶伏や汚れを流す由良の川 言霊響く五十鈴川曲の健びは音無瀬の 水に流して清め行く科戸の風の福知山 めぐりて此処に鬼城山鬼も悪魔も無き世ぞと 治むる御代こそ楽しけれ治むる御代こそ楽しけれ』 国武彦は立ちあがり歌ひけり。その歌、 国武彦『宇宙を造り固めたる大国治立神の裔 国治立の大神と綾の高天原に現はれて 天地の律法制定し天地を浄め照さむと 思ひし事も水の泡天足の彦や胞場姫の 邪気より成れる鬼大蛇醜の狐や悪神の 荒びの息は四方の国充塞がりて月も日も 光失ひ山河や木草の果てに至るまで 所得ずしてサワサワに騒ぎ烈しき醜の風 誠嵐の吹き荒び日の稚宮に坐しませる 日の大神の思召し根底の国に退はれて 百千万の苦しみを嘗め尽したる身の果ては 野立彦の神と現はれて天教山を胞衣となし 猛火の中を出入し此世を守る我が身魂 世を艮の神国と鳴り響きたる中津国 自転倒島の中央に姿隠して今は早 国武彦となり下り五六七の御代の来る迄 心を尽し守らむと神素盞嗚の大神の 瑞の御霊と諸共に愈此処に厳御霊 三と五との組合せ八洲の国を三五の 教の則に治めむと心尽しの益良夫が 花咲く春を松の世の松の緑に花が咲き 一度に開く白梅の花の香を天地に 揚ぐる時こそ待たれける我は是より世継王の 山の麓に身を忍び弥勒の御代の魁を 勤むる艮金の神神素盞嗚の大神は 一旦聖地に現はれて三五教の礎を 築固めたる其上に又もや海原打渡り 大地隈なく言向けて五六七の御代の魁を 開く神業に真心を注がせ給ふ瑞御霊 三五の月のキラキラと明き神代を望の夜の 月より丸く治めませ治まる御代は日の本の 誠一つの光なり誠一つの光なり』 英子姫は立上り、 英子姫『父大神の御言もて妾姉妹八乙女は 豊葦原の中津国メソポタミヤの顕恩の 郷に籠れる曲神の鬼雲彦を平げて 三五教の神の道八洲の国に照さむと 思ふ折しも曲神が醜の企みの捨小船 波のまにまに流されて流す涙も海の上 荒き汐路を踏み分けてやうやう此処に揺られつつ 由良の湊に来て見れば秋山彦が真心に 妾等二人は照されて心の暗も晴れわたる 斯る浮世に鬼無しと世人は言へど大江山 鬼の棲家のいと近く人の生血を絞り喰ふ 此有様を聞き乍らどうして此場を去られうか 父大神や国武彦の神の命の出立は 是非に及ばず然り乍ら妾は後に残り居て 鬼雲彦の一類を言向和し世の中の 醜の災禍根を絶ちて聖地に進むも遅からじ 許させ給へ父の神国武彦の大神よ 偏に願ひ奉る偏に拝み奉る』 と両手を合せ、二神に向つて拝礼し、涙と共に頼み入る。 国武彦『英子姫の願、一応尤もなれども、多寡が知れたる鬼雲彦が一派、何の恐るる事かあらむ。神力無限の鬼武彦をして、彼れ悪神が征討に向はせたれば安心あれ、サアサア一時も早く聖地を指して進み行かむ。躊躇に及ばば、鬼雲彦が一派鬼掴の眷属共、我等が到着に先立ち、聖地を穢すの虞あり、イザ早く……』 と急き立つれば、神素盞嗚の大神は、装束整へ、一行と共に悠然として此家を立出で、由良の湊の渡船場、世継王丸に身を任せ、折から吹き来る北風に真帆を孕ませ、悠々と河瀬を溯り給ふこそ尊けれ。 (大正一一・四・一四旧三・一八於瑞祥閣松村真澄録)
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霊界物語 24_亥_豪州物語1(高姫と蜈蚣姫) 09 神助の船 第九章神助の船〔七三九〕 神が表に現れて善と悪とを立別ける 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも高姫生命を棄つるとも 島の八十島八十の国山の尾の上や川の末 海の底まで村肝の心到らぬ隈もなく 探さにや措かぬと雄猛びし矢竹心の矢も楯も 堪りかねたる玉詮議左右の目玉を白黒と 忙しさうに転廻し善と悪との瀬戸の海 牛に曳かれて馬の関狭き喉首乗り越えて 数多の島々右左眺めて越ゆる太平の 波を辷つてアンボイナ南洋諸島の其中で 珍の竜宮と聞えたる芽出度き島に漕ぎつけて 玉の所在を探す内綾の高天の聖地より 玉照彦の神言もて初稚姫や玉能姫 玉治別の三人は再度山の山麓に 生田の森にて足揃ひ船を準備へ高姫が 危難を救ひ助けむと潮の八百路を打渡り 漕ぎ来る折しも霧の中仄かに聞ゆる叫び声 唯事ならじと船を寄せよくよく見れば此は如何に バラモン教の宣伝使友彦初め清鶴や 武の四人が船を破り生命の綱と岩壁に 力限りにかぢりつき救けを叫ぶ声なりし 玉治別は快く四人の男を救ひ上げ 率ゐ来りし伴舟に友彦其他を救ひつつ 男波女波を打渡り雄滝雌滝の懸りたる 雄島雌島の合せ島アンボイナ島の竜宮へ 船を漕ぎつけをちこちと青葉茂れる山路を 濃霧に包まれ千丈の瀑布の音を知るべとし 近より見れば滝津瀬の漲り落つる音ばかり 一行七人滝の前に佇み此れの絶景を 驚異の眼をみはりつつ其壮烈を歎賞し 涼味に浴する折柄に濃霧を透して婆の声 常事ならじと近寄りて窺ひ見れば高姫の 腕は血潮に染りつつ団栗眼を怒らして 面をふくらせ何事か囁く側に蜈蚣姫 妖怪変化に擬ふなる化物面を曝しつつ 滝の麓に倒れ居る玉治別は驚いて 手負に向つて鎮魂の神法修し一二三四 五六七八九十百千万と言霊の 霊歌を頭上に放射せば幾許ならず蜈蚣姫 元の姿に全快し地獄で仏に遭ひし如 心の底より感謝しつ嬉し涙に暮れにけり 玉治別の一行は探ね来りし高姫の 所在を知つた嬉しさに真心こめていろいろと 言依別の命令を完全に委曲に宣りつれど 心ねぢけし高姫は情を仇に宣り直し 相も変らず減らず口叩いてそこらに八当り 憎々しげに罵れば流石無邪気の一行も 呆れて言葉なかりけりヤツサモツサの押問答 やうやう治まり一同は二隻の船に分乗し 玉治別の操れる船には初稚玉能姫 鶴武清の六人連波を乗り切り竜宮を 後に眺めて離れ行く残りの船は友彦が 艪を操りつ蜈蚣姫高姫貫州久助や スマートボールやお民等の一行を乗せてやうやうと 波ののた打つ和田の原西南指して進み行く 前後左右に駆けまはる海蛇の姿眺めつつ 轟く胸を押隠し心にも無き空元気 船歌うたひ友彦が力限りに炎天の 大海原に搾る汗ニユージランドの手前まで 進む折しも暴風に吹きまくられて浪高く 危険刻々迫り来る左手に立てる岩山の 影を目標に漕ぎ寄せて難を避けむと進み寄る 鬼か獣か魔か人か得体の知れぬ影二つ 猿の如く岩山を駆けめぐり居る訝かしさ 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直し聞直し 身の過ちは宣り直す神の救ひの船に乗り 大海原に漂へる此岩島を一同が 生命の親と伏拝みここに小船を止めつつ アヽ惟神々々御霊幸はひましませと 祈る言霊勇ましく雷の如くに鳴り渡る 此神言を聞きしより二つの影は嬉しげに 此方に向つて下り来る神の仕組ぞ不思議なる。 友彦は怪しき二つの影を見て、 友彦『ヤア高姫さま、蜈蚣姫さま、愈願望成就の時節到来、お喜びなさいませ。貴女のお探ねになる代物は漸く此島に在ると云ふ事が、的確に分つて来ましたよ』 高姫吃驚した様な声で、 高姫『エヽ何と仰有る。あの玉が此島に隠してあると云ふのかい』 友彦『御覧の通り、真黒黒助の、ア…タマが二つ、如意宝珠の様にギラギラした目のタマが四つ、貴女方を歓迎し、上下左右に駆けめぐつて居るぢやありませぬか。ありや屹度玉の妄念ですよ。黄金の隠してある所には何時も化物が出ると云ふ事だ。彼奴はキツト如意宝珠の精が現はれ、人に盗まれない様に保護をして居た所、焦れ焦れた……言はば……玉の親のお前さまがやつて来たものだから、再び腹の中へ呑み込んで帰つて貰はうと思ひ、妄念が現はれて玉の所在を知らして居るのに違ひない。コンナ所に……さうでなければ黒ン坊が住居して居る筈はない。キツトさうですよ。女の一心岩でも突き貫くとやら、あの通り岩を突き貫いて玉の精が現はれたのでせうよ』 高姫は目をクルクルさせ乍ら、二つの影を凝視め、 高姫『如何にも不思議な影だ。どう考へてもコンナ離れ島に船も無し、人の寄りつく道理がない……サア蜈蚣姫さま、あなたはモウ玉に執着心は無いと仰有つたのだから、微塵も未練はありますまいな』 蜈蚣姫『妾はアンナ黒ン坊にチツトも執着心は有りませぬ』 高姫『さうでせう。それ聞いたら大丈夫、サア是れから貫州と二人此岩山を駆け登り、玉の所在を探して来う……イヤイヤ待て待て、腹の悪い連中、岩山の上へあがつて居る後の間に、蜈蚣姫さまに船でも盗られたら、それこそ大変だ。……サア貫州、お前は此船の纜をキユツと握つて放す事はならぬぞえ。……モシ蜈蚣姫さま、お付合に従いて来て下さいな』 蜈蚣姫『オホヽヽヽ、さう御心配なさらいでも、滅多に船を持つて逃げる様な事はしませぬ……とは請合はれませぬワイ』 高姫『サアそれだから険難だと云ふのだ。わしの天眼通は、お前さまの腹のドン底までチヤーンと見抜いてある。それが分らぬ様な事で、どうして日の出神の生宮が勤まるものか……アヽ仕方がない。貫州、お前御苦労だが、玉の所在を、あの黒ン坊に従いて探して来て呉れ。わしは蜈蚣姫さまの監督をして居るから……アーア油断も隙も有つたものぢやないワイ』 蜈蚣姫『オツホヽヽヽ、よう悪気の廻るお方ですな。お前さまは宝を見ると直にそれだから面白い。恰度、犬コロが三つ四つ一所に集まり、顔を舐めたり、尾を嘗めたりして互に睦まじう平和に遊んで居る、其処へ腐つた肉の一片を投げて与ると、忽ち争闘を始め、親の讐敵に出会うた様に喧嘩をするのと同じ事、お前さまは宝が……まだ本当に有るか無いか知れもせぬ前から、目の色まで変へて騒ぐのだから、本当に見上げた御精神だ。いつかな悪党な蜈蚣姫も腹の底から感服致しました。………スマートボール、お前は貫州さまと一緒に黒ン坊の側へ行つて、万々一玉が有ると云ふ事が分つたら、外の二つの玉は如何でも良いから、金剛不壊の如意宝珠を、非が邪でもひつたくつて来るのだよ。此蜈蚣姫ぢやとて、性来から善人でもないのだから宝の山へ入り乍ら手振りで帰る様な馬鹿ぢやない。今迄の苦労を水の泡にはしともないから、わしも犬コロになつて、力一杯争うて見ませうかい。オツホヽヽヽ』 高姫『一旦お前さまは小糸姫にさへ会へばよい、玉なぞに執着心は無いと、立派に仰有つたぢやないか。それに何ぞや、今となつて子と玉の変換をなさるのかイ』 蜈蚣姫『変説改論の持囃される世の中だから当然さ。……コレ、スマートボール、高姫さまが何程鯱になつても、味方と云へば貫州さま唯一人、あとは残らず蜈蚣姫の幕下計りだ。寡を以て衆に敵する事は到底不可能だ。何程多数党が横暴だと国民が叫んでも、何程少数党が正義だと云つても、矢張多数党が勝利を得る世の中だもの、泰然自若、チツトも騒ぐに及びませぬ。他人の苦労で徳とると云ふ事は恰度此事だ。高姫さま、御苦労乍ら貴女、玉の所在を査べて来て下さいな。同じ大自在天に献上するのだもの、誰が取つても同じ事、それに貴女は私に玉を取らそまいとする其心の底が分らぬ。大自在天様を看板に、ヤツパリ三五教の大神に献上する考へだらう。何程布留那の弁の高姫さまでも、心の中の曲者を隠す事は出来ますまい……あのマア迷惑相なお顔付、オツホヽヽヽ』 とワザと肩を揺り、高姫流の嘲笑振りをして見せる。斯かる所へ二人の黒ン坊、断崖絶壁に手をかけ足をかけ、大勢の前に下り来り、 チャンキー『わしはチヤンキー、も一人はモンキーと云ふシロの島の住人だが、三年前に鬼熊別の御娘小糸姫様を御送り申して、竜宮の一つ島へ渡る途中暴風に出会ひ、船を打割り、辛うじて此島に駆けあがり、生命を助かり、蟹やら貝などを漁つてみじめな生活を続けて来た者ですがどうぞお前さま、吾々二人を船に乗せて連れて帰つて下さいませ』 と手を合して頼み入る。毛は生え放題、髭は延び次第、手も足も垢だらけ、目のみ光らせて居る。二人の姿を間近く眺めた一同は、此言葉を半信半疑の念にかられ乍ら聞いて居る。蜈蚣姫は胸を躍らせ、 蜈蚣姫『ナニ、お前は小糸姫を送つて来て難船したと云ふのか。さうして小糸姫は何処に居りますか』 チャンキー『サア何処に居られますかな。私たちは男の事でもあり、漸く此島にかぢりついたのだが、あまりの驚きで如何なつた事やらトツクリとは覚えて居りませぬ。大方竜宮へでも旅立たれたのでせう』 蜈蚣姫『竜宮と云ふのはオーストラリヤの一つ島の事かい』 モンキー『サア其一つ島へ行く途中に難破したのだから、竜宮違に、乙米姫様の鎮まり玉ふ海底の竜宮へお出でになつたのでせう。本当に綺麗な女王の様な方で、今思ひ出しても自然に目が細くなり、涎が流れますワイ。アヽ惜しい事をしたものだ』 と憮然として語る。蜈蚣姫は今迄張詰めた心もガツタリと、其場に倒れ身震ひし乍ら船底にかぶりつき、忍び泣きに泣き居る。高姫は蜈蚣姫の此悲歎に頓着なく、チヤンキー、モンキー二人の胸倉をグツと取り、 高姫『これ、チヤン、モンとやら、お前は誰に頼まれて玉を隠したのだ。玉能姫か、言依別か、但は此処に居る連中の誰かに頼まれて隠したのだらう。よう考へたものだ。コンナ遠い岩山に埋没して置けば如何にも知れぬ筈ぢや。私も今迄立派な立派なアンボイナ島や、大島や、小豆島を探さうとしたのが感違ひ、アヽ時節は待たねばならぬものだ。サアもう斯うなつた以上は、お前が何と云つて弁解しても白状させねば置かぬ。何程隠しても、斯んな小つぽけな島、小口から岩を叩き割つても、発見するのは容易の業だ。隠しても知れる、隠さいでも知れるのだから、エライ目に遇はされぬうちにトツトと白状したがお前の得だよ』 チヤンキー、モンキーの二人は寝耳に水の此詰問に、何が何やら合点ゆかず頭を掻き乍ら、 チャンキー『今貴女は玉を隠したとか、どうとか仰有いますが、一体何の玉で御座いますか』 高姫『オホヽヽヽ、よう白ばくれたものだなア。それ、お前が玉能姫に頼まれた如意宝珠の玉だよ。それを何処に隠したか、キツパリと白状しなさい』 チャンキー『ソンナ事は一切存じませぬ』 モンキー『玉ナンテ名も聞いたこたアありませぬワイ』 高姫『ヨシヨシ強太い者だ。腹を断ち割つても、今度こそは白状させねば置かぬ。アヽ面倒臭い事だ。妾が自ら査べに行けば後が案じられる。蜈蚣姫さまは……ヘン……吃驚したよな顔をして船底にかぢりつき油断をさせて、此高姫が山へ往つたならば矢庭に船を出し、此島に放つとく積りだらうし、アヽ体が二つ三つ欲しくなつて来たワイ』 蜈蚣姫は漸くにして顔を上げ、 蜈蚣姫『わしも今迄恋しい一人の娘に会ふのを楽みに、心の合はぬ高姫と表面だけは調子を合して来たが、天にも地にも唯一人の娘が此世に居らぬと聞けば、モウ破れかぶれだ。……サア友彦、お前も憎い奴なれど、仮令一年でも私の娘の夫となつた以上は、切つても切れぬ親子の仲、キツト私に加勢をして呉れるだらうな』 友彦『ハイお母さま、よう仰有つて下さいました。貴女の命令なら、高姫の生首を引抜けと仰有つても、引抜いてお目にかけます』 蜈蚣姫『ヤア頼もしや頼もしや、親なればこそ、子なればこそ。何処にドンナ味方が拵へてあるか分つたものぢやない。「ほのぼのと出て行けど、心淋しく思ふなよ。力になる人用意がしてあるぞよ」……と三五教の神様が仰有つたと云ふ事だ。……(声に力入れ)サア高姫、モウ斯うなる以上は化の皮を引ん剥いて婆と婆との力比べだ、尋常に勝負をなされ』 高姫『ヘン、蜈蚣姫さまの、あの噪やぎ様……イヤ狂ひやう。誰だつて一人の娘が死んだと聞けば、自暴自棄も起るであらう。気が狂ふまいものでもない。併し乍ら其処をビクとも致さぬのが神心だ……女丈夫の大精神だ。小糸姫様が海へ沈んで竜宮行をしたと聞いて腰を抜かし、其愁歎振は何ですか。見つともない。此高姫は元来気丈の性質、流石は生宮丈あつて、小糸姫が海の底へ旅立をしたと聞いて、落胆どころか却て愉快な気分に充されました。ナント身魂の研けた者と、研けぬ者との心の持様は違うたものだナ。オホヽヽヽ』 と自暴自棄になつて減らず口を叩く。 蜈蚣姫『人情知らずの悪垂婆の高姫。……サア友彦、親の言ひ付けだ。櫂を持つて来て頭から擲りつけて下さい。一人よりない大事な娘が死んだのを、却て愉快だと言ひよつた。……サア早くスマートボール、久助、高姫を打ちのめし、海の竜宮へやつて下され。チヤンキー、モンキーさま、お前さまも無理難題をかけられて、嘸腹が立たうのう。一寸の虫にも五分の魂だ。チツトは敵討ちをしなさらぬかいな。敵は貫州と唯二人、モウ斯うなれば蜈蚣姫のしたい儘だ。……サア高姫、返答はどうだ』 と追々言葉尻が荒くなる。貫州は両手を拡げ、 貫州『蜈蚣姫さま、御一同さま、マア待つて下さい』 蜈蚣姫『此期に及んで卑怯未練な、待つて呉れも有るものか。お前も讐敵の片割れ、覚悟をしたが宜からう』 貫州『わしだつてコンナ没分暁漢の高姫に殉死するのは真平御免だ。お前さまの方に、貫州も一層の事応援するから、……どうだ、聞き届けて呉れるかな』 蜈蚣姫『お前はメラの滝でチラリと喋つた言葉に考へ合はすと、あまり高姫を信用しとりさうにもないから、赦してやらう。サアどうぢや高姫、舌噛み切つて死ぬるか、此場で海へ身を投げるか、それが厭なら皆の者が寄つて懸つてふん縛り、海へ放り込まうか。最早是までと諦めて、宣伝歌の一つも此世の名残に唱へたがよからうぞ。オツホヽヽヽ』 高姫は悪胴を据ゑ、腕を組み、涙をボロリボロリと零して俯向き沈む。 蜈蚣姫『オホヽヽヽ、高姫さま、嘘ですよ。あまりお前さまが我が強いから、一つ我を折つて上げようと思うて狂言をしたのだから、安心なされませ。天が下に敵もなければ他人もない。私も今迄の蜈蚣姫とは違ひます。玉能姫さまや初稚姫さまを、あれ丈ボロ糞に言つてもチツトも怒らず、親切計りで立て通しなさつた其心に感じ、善一つの真心に立帰つた此蜈蚣姫、どうしてお前さまを苦しめませう、安心して下さい。其代りお前さまも、玉能姫さまや初稚姫其他の方々を鵜の毛の露程でも恨む様な事があつては冥加に尽きまするぞ』 高姫『ヤアそれで高姫もヤツと安心を致しました。併し乍ら初稚姫や玉能姫の悪人計りは、如何しても思ひ切る事が出来ませぬワイ。人我れに辛ければ我れ又人に辛しとやら言つて、年をとつて是れだけ苦労艱難をするのも、みんな初稚姫や玉能姫のなす業、如何に天下の大馬鹿者、無神経者と云つても、此残念が如何して忘れられませうか』 蜈蚣姫『玉能姫様や初稚姫様は、神様の命令を受けて御用遊ばした丈ぢやありませぬか。元からお前さまを困らさうなどと、ソンナ悪い心はなかつたのでせう』 高姫『ソンナ小理屈は言うて下さいますな。例へば主人が下僕に対し藪の竹を一本伐つて来いと命令したと見なさい。竹を伐る時の竹の露は誰にかかりますか。ヤツパリ下僕にかかるぢやありませぬか。竹伐つた奴は玉能姫、初稚姫の両阿魔女だ。怨みが懸らいで何としようぞいの。アヽ口惜しい、残念や、オーンオーンオーン』 と前後を忘れ狼泣きに泣き始めける。 折しも海鳴の音、俄に万雷の一時に轟く如く聞え来り、波は刻々に高まる。一同はチヤンキー、モンキーの後に従ひ、最も高き岩上に避難した。船は纜を千切られ、何処ともなく、浪のまにまに流れて了つた。水量は追々まさり、最早足許まで浸して来る。山岳の様な浪は遠慮会釈もなく、頭の上を掠めて通る。殆ど水中に没したと思へば又現はれ、息も絶え絶えになり、各自覚悟の臍を極めて神言を奏上し、心の隔てはスツカリ除れて、唯生命を如何にして保たむやと是れのみに焦慮し、宣伝歌を泣声まぜりに声を嗄らして唱へ居る。 斯かる所へ波に漂ひつつ艪を操り、甲斐々々しく進み来る一隻の稍大なる船ありき。日は漸く暮れ果て、誰彼の顔も碌に見えなくなり来たり。一隻の船には二三人の神人が乗り居たり。船の中より、 神人『ノアの方舟現はれたり、サア早く乗らせ給へ』 と呼ばはり乍ら足許へ漕ぎ寄せ来る。一同は天にも昇る心地し乍ら、一人も残らず此船目蒐けて、天の祐けと飛び込めば、船は波を押分け悠々として西南指して進み行く。 斯く俄に鳴動し、水量まさり来りしは、南洋のテンカオ島と云ふ巨大なる島が、地辷りの為に海中に沈没した為、一時の現象として斯の如くなりしなりき。水量は追々常態に復しぬ。船は月に照され乍ら海上静かに走り居る。船の中の神人の爽かな声、 玉能姫『妾は玉能姫で御座います。高姫様、蜈蚣姫様、其他御一同様、危ない所で御座いましたが、神様のお蔭で先づ先づ御無事で、コンナ御芽出たい事は御座いませぬ。妾達は神様の御命令に依つて、貴女方が海神島にお着き遊ばす迄御保護申せとの言依別命の御命令で、見えつ隠れつお後を慕つて参りました。アヽ有難い、これで妾の使命も完全に勤まつたと申すもの、マアよう無事で居て下さいました。玉治別も居られます。初稚姫様もここに乗つて居られます』 高姫『是れと云ふのも全く日の出神様の御神徳ぢや。お前さまも其お蔭で言依別命に対して言ひ訳も立ち、完全に御用も勤まつたと云ふもの、コンナ事がなければお前さまが遥々此処まで出て来たのも無意義に終るとこだつた。アヽ神様は誰もつつぼに致さぬと仰有るが偉いものだなア。大神様は平等愛を以て心となし給ふ。お前さまもこれでチツトは我が折れただらう。手柄を横取して自分一人が猫糞をきめこみ、結構な神宝を隠して素知らぬ顔をして御座つたが、是れで神様の大御心が分つたでせう。サア玉の所在を綺麗サツパリと皆の前にさらけ出し、功名手柄を独占しようなぞと云ふ執着心を、此際放かしなさるのが御身の得だぞへ、オホヽヽヽ』 玉能姫、初稚姫は呆れて何の言葉もなく、黙然として俯むき居たり。玉治別は一生懸命に艪を操り乍ら高姫の言葉を聞いて少しくむかついたが、神直日大直日の宣伝歌を思ひ出し、吾と吾心を戒め、さあらぬ態に船唄を唄ひ、汗をタラタラ流し乍ら船を操り居たり。 高姫『コレお節さま、お初さま、お前さまもいい加減にハンナリとしたらどうだい。助けに来るのも、助けられるのも皆神様に使はれて居るのだよ。必ず必ず高姫其他を助けてやつたと慢神心を出してはなりませぬ。ハヤそれが大変な取違だ。九分九厘になつたれば神が助けるぞよと、チヤンと仰有つてる。家島で船を取られた時も、神がお節さまを御用に使ひ、船を持つて来さしました。アンボイナ島でも其通り、今又日の出神のおはからひで結構な御用を指して貰ひなさつた。此処で結構な御用をさして貰ひなさつたのも、ヤツパリ高姫があつたればこそ……一遍々々お前さまは手柄が重なつて結構だが、ウツカリ慢神すると谷底へ落されますぞや。大分に鼻が高うなり出した。チツト捻ぢて上げようか』 と二人の鼻を掴みかからうとする。貫州は其手をグツと握り、 貫州『コレ高姫さま、我が強いと云つても余りぢやないか。側に聞いて居る私でさへも憎らしうて、お前さまを殴りつけたうなつて来た。ようもようも慢神したものだなア、チツト胸に手を当てて考へて見なさい。生命を助けて貰ひ乍ら、又しても又しても減らず口を叩いて、よう口が腫れぬ事だナア』 高姫『貫州、神界の事はお前達の容喙すべき事ぢやない。どんなお仕組がしてあるか分りもせぬのに、出しやばつて囀るものぢやありませぬぞ。バラモン教の蜈蚣姫さまでさへも高姫の言葉に感心して、何とも仰有らぬのに、没分暁漢のお前が何を吐くのだい。お前も大分に鼻が高くなつた。一つ捻つてやらうか』 と稍高い鼻を掴みかかるのを、貫州は力をこめて撥ね飛ばした途端に、高姫はザンブと計り海中に落込みぬ。玉治別は驚いて、矢庭に棹を突き出す。高姫は一生懸命になつて棹に喰ひつき、漸くにして救ひ上げられけり。 高姫『コレ貫州、何と云ふ乱暴な事を致すのだい』 貫州『是れも神界の御都合でせう。肱出神様が肱ではぢかはりましたら、貴女が曲芸を演じてカイツムリとなり、皆の者一同に観覧さして下さいました。本当に抜目のない愛想のよい仁慈無限の高姫さまだと、云はず語らず、皆の者が舌を出して喜び居りましたワイな』 蜈蚣姫『高姫さま、お怪我は御座いませなんだか。お前さまも余りお口がよろしいからナア』 高姫『放つといて下され、口がよからうが悪からうが、妾の口は妾が自由に使用するのだ。お前さま等の改心が足らぬから、此高姫が千座の置戸を負うて此海へ飛び込み鹹い塩水を呑んで罪を贖ひ、助けて上げたのだ。何故一言の御礼を申しなさらぬ。……コレコレ、ムカデにお節、お初殿、分りましたかなア』 玉能姫『ハイ、どうもお元気な事には心の底から感心致しました。その勢なれば強いものです。大丈夫ですワ』 高姫『さうだらう。お前も大分に高姫の心の底が見えかけたよ、大分に身魂が研けたやうだ。モ一つ打解けて玉の所在さへ白状すれば、それこそ立派な者だ。高姫の片腕になれるべき素質は充分にある。モウそろそろ言はねばなるまい。言はねば云ふ様にして言はすぞよと大神様が仰有つた事を覚えて居ますか。誰が何と云つても艮の金神、坤の金神、金勝要神、一番地になるのが日の出神、四魂揃うて、誠の花が咲くお仕組、何程言依別が瑞の御霊でも、玉照姫が木花咲耶姫の分霊でも、玉照彦が三葉彦の再来でも、到底四魂の神には肩を並べる事は出来ますまい。お前さま達は今迄何でも彼んでも、言依別や其他の枝の神の申す事を聞いて居つたから、思ふ様にチツトも往きやせまいがな。四魂の中でも根本の土台の地になる日の出神をさし措いて、何結構な御用が出来るものか、此れを機会に改心が一等で御座るぞや』 と口角泡を飛ばし、誰も返辞もせないのに、独り噪やいで居る。 船中の人々は高姫を気違扱ひして相手にならず、言ひたい儘に放任し置きたりける。 蜈蚣姫は丁寧な言葉にて、 蜈蚣姫『玉能姫様、初稚姫様、玉治別様、アンボイナ島では大変な失礼な事を申上げましたが、どうぞ御赦し下さいませ。就きましては妾の娘小糸姫は魔島の麓で船を破り可哀や溺死を遂げました。夫は今は波斯の国に居りますなり。年老つた妾、夫婦別れ別れになり、一人の娘には先立たれ、最早此世に何の望みも御座いませぬ。どうぞ今迄の御無礼を海へ流して、どうぞ妾を貴方のお供になりと御使ひ下さいますまいか。実に立派な御心掛け、如何な悪に強い妾も感心致しました』 と袖に涙を拭ひ泣き伏す。玉能姫は合掌しながら、 玉能姫『如何致しまして、老練な蜈蚣姫様、どうぞ宜しく、足らはぬ妾の御指導をお願ひ致します。今承はれば小糸姫様は海の藻屑となつたと仰せられましたが、それは御心配なされますな。屹度オーストラリヤの一つ島に立派な女王となつて、羽振りを利かして居られます。妾は素盞嗚尊様の御娘、五十子姫様より小糸姫様の消息を聞きました。今は三五教の教を樹て黄竜姫と名乗つて立派に暮して居られます。やがて芽出たく親子の対面が出来ませう。どうぞ御心配をなさらぬ様、勇んで下さいませ』 蜈蚣姫『アヽ有難い、左様で御座いましたか。是れと云ふのも皆大神様の御神徳……』 と手を合せ、直に天津祝詞を奏上し、感謝の辞に時を移しけり。高姫は投げ出したやうな言葉付きで、 高姫『蜈蚣姫さま、どうでお節の云ふ事、当にやなりますまいが、仮令話にせよ、娘さまに会へると云ふ事をお聞きになつたら嘸嬉しいでせう。妾も虚実は兎も角、言霊の幸はふ国、刹那心でも芽出たいと思はぬこたアありませぬ。併しマア物は当つてみねば分りませぬ。どうも日の出神の観察では怪しいものだが、折角そこまでお前さまが喜びて居るのだから、妾も一緒にお付合に喜びて置きませう』 玉治別は立ち上り、 玉治別『サア向方に見えるのがニユージランドの沓島だ。皆さま少々波が荒くなるから、其覚悟して下さい』 (大正一一・七・三旧閏五・九松村真澄録) 此日午前六時二代様三代様も白山、月山に御登山の途に就かるとの電来たる。
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霊界物語 24_亥_豪州物語1(高姫と蜈蚣姫) 13 治安内教 第一三章治安内教〔七四三〕 大海原に漂へる黄金花咲く竜宮の 一つの島に上陸し厳の都の城門を 潜りて高姫蜈蚣姫黄竜姫に面会し 梅子の姫や宇豆姫の高き功績に舌を巻き 天狗の鼻の高姫は高山彦や黒姫と 諜し合せて玉能姫初稚姫や玉治の 別命は海原を遠く渡りて自転倒の 島に帰りしものとなし俄に船を操りつ 東を指して出でて行く玉治別や玉能姫 初稚姫の一行は厳の都の城門を 後に眺めて竜王山峰を伝うてシトシトと 谷を飛び越え岩間をくぐりネルソン山の山頂に 汗をタラタラ流しつつ炎暑と戦ひやうやうに 息継ぎあへず登り行く折柄吹き来る涼風に 払ひ落した玉の汗厳の都を顧みて 山又山に連なりし雄大無限の絶景を 心行くまでも観賞し各祝詞を奏上し 天津御神や国津神国魂神の大前に 拍手の声も勇ましく竜宮島の宣伝を 無事に済まさせ玉へよと祈る折しも山腹より 俄に湧き来る濃雲に一行十人忽ちに 暗に包まれ足許も碌々見えずなりにける 斯かる所へ黒雲を押し分け来る大蛇の群 焔の舌を吐き乍ら一行目蒐けて攻め来る スマートボールは驚いて闇の中をば駆めぐり ネルソン山の頂上より足踏みはづし万丈の 谷間に忽ち顛落し続いて貫州武公や 久助お民も各自に行方も知れずなりにけり 玉治別や玉能姫初稚姫は手をつなぎ 暗祈黙祷の折柄に忽ち吹き来る大嵐 本島一の高山の尾の上を渡る荒風は 一入強く三人は木の葉の如く中空に 巻きあげられて悲しくも各行方は白雲の 包む谷間に落ちにけり神が表に現はれて 善と悪とを立別ける此世を造りし神直日 心も広き大直日唯何事も人の世は 直日に見直し聞直し世の過ちを宣り直す 三五教の皇神の教に任せし一行は 唯何事も惟神御霊幸はひましませと 心の中に祈りつつ底ひも知れぬ谷底に 生命からがら墜落し谷の木霊を響かせつ 天津祝詞をスラスラと奏上するこそ健気なれ。 ○ 厳の城より舁出され谷間の岩上に墜落し 腰を打ちたる友彦も[※第11章末を参照]神の守りの著く ハツと心を取直しあたりを見れば人影の 無きを幸ひ森林の草を分けつつやうやうに 木の実を喰ひ谷水に喉を潤しネルソンの 山の尾の上に着きにける又もや吹き来る烈風に 友彦の身は煽られて高山数多飛び越えつ ジヤンナの谷間に墜落し前後不覚になりにける あゝ惟神々々御霊幸はひましますか 九死一生の友彦もジヤンナイ教の信徒に 担ぎこまれて照姫の教の館に着きにける。 此島はネルソン山の山脈を以て東西に区劃され、東は黄竜姫が三五教を宣布し、其勢力範囲となつて居た。されどネルソン山以西は住民も少く、猛獣、毒蛇、大蛇の群無数に棲息して、東半部の人民は此山脈を西に越えた者はなかつた。然るにネルソン山以西にも相当に人類棲息して秘密郷の如くなつて居た。極めて獰猛勇敢なる人種にして、男子は身の丈八九尺、女子と雖も七八尺を下る者はない、巨人の棲息地である。男子も女子も残らず顔面に文身をなし、一見して男女の区別判じ難き位である。木の葉を編みて腰の周囲を蔽ひ、其他全部赤裸にして、赤銅の如き皮膚を有し居れり。 色の黒い顔に青い文身をなし居る事とて、実に何とも云へぬ恐ろしき容貌計りなりき。猛獣、大蛇の怖れて近寄らざる様との注意より、斯くの如く文身をなしゐるなり。故に此地に美男子と云へば最も獰猛醜悪なる面貌の持主にして、酋長たるべき者は一見して鬼の如くなり。頭部には諸獣の角を付着し、手には石造りの槍を携へ、旅行する時は少くとも五六人の同伴が無ければ、一歩も外へ出ないと云ふ風習である。住宅は主に山腹に穴を穿ち、芭蕉の如き大なる木の葉を敷き詰めて褥となし、食物は木の実、山の芋、松の実等を以て常食となしゐるなり。山間の地は魚類は実に珍味にして、一生の間に一二回口にするを得ば、実に豪奢の生活と言はるる位なり。谷川に上り来るミースと云ふ五寸許りの魚、時あつて捕獲するのみにして、魚類の姿を見る事は甚だ稀なり。兎、山犬、山猫などを捕獲し、之れを最上の珍味とし居たるなり。 されどジヤンナイ教の教理は、動物の肉を食ふ事を厳禁しあるを以て、若し此禁を破る者は、焦熱地獄に陥るとの信仰を抱き、容易に食ふ事を忌み居れり。一度肉食を犯せし者は、其群より放逐され、谷川の畔に追ひやらるる事となれり。此肉食を犯し追ひ退はれたる者は、ネルソン山の西麓の広き谷間に集まり来り、神に罪を謝する為に酋長の娘照姫を教主と仰ぎ、ジヤンナイ教を樹て、醜穢の罪人計りに対し、謝罪の道を教へ居たりける。肉食せざる者は何れも山の中腹以上に住居を構へ、豊富なる木の実を常食となし、安楽なる月日を送りゐたり。谷底には猛獣、大蛇、毒蛇多く集まり、実に危険極まる湿地なりけり。 此谷底に照姫を教主とせるジヤンナイ教の本山は建てられ、数多の信徒は朝夕に祈願を凝らしつつあつた。ジヤンナイ教の信条は………我等はアールの神の禁を犯せし罪人なれば、死後は必ず根底の国の苦みを受くる者なれば、神に祈りて罪を謝し、来世の苦を逃るべきもの……と固く信じてゐたるなり。さうして……頓て鼻頭の赤き神、此地に降臨する事あらむ。是れ我等の救世主にして、天より我等の信仰を憐れみ天降し玉ふものなり……と、照姫の教を固く信じ、時の来るを待ちつつありける。さうして鼻赤き生神はオーストラリヤ全島を支配し、霊肉共に、我等を救ふ者との信念を保持して、救世主の降るを旱天の雲霓を望むが如く待ち居たりしなり。 斯かる所へネルソン山上のレコード破りの強風に吹きまくられ、高山の頂きを数多越えて今此ジヤンナの広き谷間に墜落したれば、怪しき人物の降り来れるものかなと、折から来合せたる十数人の男女は、友彦の人事不省となれる肉体を藤蔓を以て編みたる寝台に載せ、ジヤンナイ教の本山に担ぎ込みぬ。数多の信徒は物珍しげに集り来り、水を飲ませ、撫でさすり、手を曲げ、足を動かしなどして、やうやうに蘇生せしめたり。 友彦は此時は既に失心し、血液循環も殆ど休止し、全身蒼白色に変り居たり。照姫の一の弟子と聞えたるチーチヤーボールは、勝れて大の男にして、口は頬の半まで引裂け、鼻は大きく、白目勝の大なる眼の所有者なりき。教主照姫は少しの文身もなさず、比較的色白く、稍赤味を帯びたる美人なりき。ジヤンナイ教の教主たる者は、天然自然の肉体を染めざるを以て教の本旨となし、数多の信者より特別の待遇を受け、尊敬の的とせられ居たるなり。 友彦は漸くにして正気づき、四辺を見れば、何とも知れぬ恐ろしき、男女区別も分らぬ人種の、十重二十重に我周囲を取巻きゐるに驚き、如何はせむと首を傾げ思案に暮れ居たり。顔色は漸く元に復し、身体一面に血色よくなると共に、鼻の先はいやが上にも赤くなり来たりぬ。 チーチヤーボールは大勢に向ひ、 チーチヤーボール『オーレンス、サーチライス』 と云ひける。此意味は『吾々の救世主なり』と云ふ意味なり。一同は腰を屈め、両手を合せ、友彦に向つてしきりに何事か口々に叫び乍ら、落涙しゐる。チーチヤーボールは、 チーチヤーボール『オーレンス、サーチライス』 と繰返し繰返し言ふ。友彦は合点往かねども、此土人等は決して吾を虐待するものにあらず、珍らしげに吾を天降人種と誤信し、感涙に咽ぶものならむと思ひ、日頃の山師気を発揮し、右の手を握り人差指を立て、天を指して、 友彦『ウツポツポー、ウツポツポー』 と二声叫びてみたり。チーチヤーボールを初め一同は其声に応じて、 一同『ウツポツポー、ウツポツポー、オーレンス、サーチライス』 と声を揃へて叫び出しぬ。其声は谷の木霊に響き、向ふ側の谷にも山彦が同じ様に言霊を応酬する。土人は又もや声する方に向つて前の言葉を繰返しける。 友彦は稍安心したるが、此ジヤンナの郷の言語が通じないに聊か当惑を感じたり。されど頓智のよい友彦は……何、却て天降人種は地上の言葉に通ぜざるが一層尊貴の観念を与ふるならむと決心し、 友彦『アオウエイ、カコクケキ、サソスセシ、……』 と五十音を繰返し繰返し唱へ出したり。老若男女一同は友彦の言葉に従いて『アオウエイ』と異口同音に唱へ出す。友彦は漸く空腹を感じ、 友彦『我れに食を与へよ』 と云ふ。されど郷人の耳には一人として了解するものなく、呆然として友彦の顔を心配げに打眺めてゐたり。友彦は自分の口を右の手で押へてみするに、一同は同じく自分の手で各自の口を抑へゐる。友彦は、 友彦『何か食ふ物があれば持つて来いツ』 と云ふ。又一同は、 一同『何か食ふ物があれば持つて来いツ』 と妙な訛で叫ぶ。 此時大勢の声の尋常ならぬに不審を起し、二三の侍女を伴ひ現はれ来りしは、ジヤンナイ教主テールス姫(照姫)なりき。友彦の顔を見るより忽ち堪へ切れぬ様な笑を含み、友彦の手を握りぬ。友彦は鬼の様な人間の群の中にも、斯かる麗はしき女性のあるかと驚き乍ら、彼女がなす儘に任せ居たり。テールス姫は侍女に何事か命令したるに、三人の侍女は左右の手を執り、一人は腰を押し、テールス姫は先に立ち、穴居民族に似ず、蔦葛を以て縛りつけたる木造の広き家に導きける。友彦は意気揚々として、天下の色男気取りになりて、奥の間深く導かれ行く。 奥の間には立派な斎殿が設けられてあり、名も知れぬ麗はしき果物、小山の如く積み重ね供へられありぬ。テールス姫は其中の紅色の果物を一つ取出し、侍女に命じ、石の包丁を以て二つに割らしめ、さうして一つは自分が食ひ、一つは友彦に食へと、仕方をして見せたり。友彦は喜び空腹の事とて、かぶり付く様に瞬く間に平げにける。これはコーズと云ふ果物の実で、此郷に唯一本より無き大切なる樹の果物なりき。二年目或は三年目に僅かに一つ二つ実る位のものにして、此コーズの実の稔りたる年は必ず此郷に芽出度き事ありと伝へられ居たり。そしてテールス姫が二つに割つて友彦に食はしたるは、要するに結婚の儀式なりけり。数多の男女は雪崩の如く追々此家に集まり来り「ウローウロー」と嬉しさうに叫び、手を拍ち躍り狂ひゐる。是れは救世主の降臨を祝しテールス姫の結婚を喜ぶ声なりけり。 テールス姫は救世主の降臨と夫婦結婚の盛典を祝する為に立つて歌ひ初めたり。その歌、 テールス姫『オーレンス、サーチライスウツポツポ、ウツポツポ テールスナイス、テーナイステーリスネース、テーネース ウツパツパ、ウツパツパパークパーク、ホースホース、エーリンス カーチライト、トーマースタリヤタラーリヤ、トータラリ タラリータラリー、リートーリートー、ユーカシンジヤン、ジヤンジヤ、ベース ヘース、ヘースク、ツーターリンスイーリクイーリク、イーエンス ジヤイロパーリストポーポー、パーリスク ターウーインス、エーリツクチヤーリンスク、パーパー』 と唄ひける。友彦は何の事だか合点行かず、されど決して悪い事ではない、祝の言葉だと心に思ひぬ。此意味を総括して言へば、 『天来の救世主現はれ玉ひ、人間としても実に立派な英雄豪傑なり。吾れは此郷の信仰の中心人物、さうして実に女として恥かしからぬ准救世主である。汝が降り来るを首を長くして神に祈り待つて居りました。最早此谷間の郷は如何なる大蛇が来ても猛獣が来ても、如何なる悪魔でも、決して恐るるに足りない。私は立派な夫を持ち此上の喜びはない。暗夜に灯火を点じたやうな心持になつて来た。今日の老若男女は誰彼も貴方の御降臨を見て、手の舞ひ足の踏む所を知らず喜んでゐます。どうぞ千年も万年も此郷に御鎮まり下さいまして、末永く夫婦の契を結び、此郷の救ひ主となつて人民を守つて下さい。アヽ有難い、嬉しい。天の岩戸が開けた様な……否全く岩戸が開けました。我々一同は是より安心して月日を送ります。お前の鼻の頭の赤いのが日の神の国から御降りなされた証拠だ。どうぞ末永く妾を初め一同の者を可愛がつて下さい』 と云ふ意味の感謝の辞なりけり。友彦は返答せずには居られないと、負けぬ気腰になりて……天降人種気取りで分らぬ事を言つてやる方が却て有難がるだらう、土人の言語も知らずに、憖ひに真似をして却て軽蔑さるるも不利益だ……と心に思ひ定め、さも応揚な態度で、 友彦『……アーメンス、ヨーリンスフーララリンス、サーチライス スーツクスーツク、ダーインコーウンスカーブーランス、ネーギーネーブーカー ナーハーネース、エンモース水菜に嫁菜に蒲公英セーリンス ナヅナ、ヤーマンス、ノンインモードンジヨー、ウナーギー、フーナモロコ、 コーイ、ナマヅ、タコドービンヒツサゲタ、ナイス、ネース、ローマンス、 ホートーホートー、ローレンスピーツク、ピーツク、ヒーバーリース』 と唄ひ済まし込み居たり。一同は何の事だか訳が分らぬ。されど天より降りし救世主の言葉と有難がり、随喜の涙を零し居たりける。 此時又もや十数人の土人に担がれて、此場へ来たりしは玉治別なりき。玉治別は友彦が言葉を半分ばかり聞いて可笑しさに吹き出し「プーツプーツ」と唾を飛ばしける。一同は同じく「プーツプーツ」と言つて友彦目蒐けて唾液を吹つ掛ける。友彦は唾液の夕立に会うた様になつて、 友彦『誰かと思へば玉治別さま、あまりぢやないか、馬鹿にしなさるな』 玉治別『オイ友彦さま、随分好遇たものだなア。コンナナイスを女房に持ち、無鳥郷の蝙蝠で暮して居れば、マア無事だらうよ』 友彦『玉治別さま、チツト気を利かして下さいな。折角ここの大将が此赤い鼻に惚れて、コンナ面白い夢を見て居るのに、しようもない事を言うて下さると、サツパリ化けが現はれるぢやないか』 玉治別『ナアニ、言語の通じない所だ。何を言つたつて構ふものか。わしも一つ言霊をやつて見ようかな』 友彦『やるのも宜しいが、なまかぢりに此郷の言葉を使つちや可けませぬよ』 玉治別『ソンナこたア玉さま百も承知だ。笑つちや可けないよ』 友彦『ナニ笑ふものかい、やつて見玉へ。わしは最早此郷の御大将だから、あまり心安さうに言つて呉れては困るよ。第一お前の態度から直して、わしの家来の様な風をして見せて呉れよ』 玉治別は、 玉治別『ヨシ面白い』 と言ひ乍ら言語の通ぜざるを幸ひ、 玉治別『ジヤンナの郷人よ、玉治別が今申す事をよつく聞けよ。此友彦と云ふ男はメソポタミヤの顕恩郷に於て、バラモン教の副棟梁鬼熊別が娘小糸姫(十五才)を巧言を以てチヨロまかし……』 友彦『コレコレ玉さま、あまりぢやないか』 玉治別『何でも好いぢやないか。分らぬ事だから、マア黙つて聞かうよ……それから錫蘭の島へ随徳寺をきめ込み、一年ばかり暮して居たが、赤鼻の出歯の鰐口に、流石の小糸姫も愛想をつかし、黒ン坊のチヤンキー、モンキーを雇ひ、船に乗つて一つ島まで逃げて来た。……話が元へ戻つて友彦と云ふ奴、浪速の里に於て三百両の詐欺を致し、次に淡路の洲本の酋長東助が不在を窺ひ、女房の前に偽神懸[※三版・御校正本・愛世版では「神懸」、校定版では「神憑」。]を致し、陰謀忽ち露見して雪隠の穴より逃げ出し……』 友彦『コラコラ好い加減に止めて呉れぬかい。あまりぢやないか』 玉治別『ナアニ、構ふ事があるものか。あれを見よ。有難がつて涙を流して聞いてるぢやないか。………マダマダ奥はありますけれど、先づ今晩は是れにて止めをき、又明晩ゆーるゆるとお聞きに達しまする。皆さま、吶弁の吾々が此物語、よくも神妙にお聞き下さいました。併し乍ら用心なさらぬと、此友彦は険難ですよ。……テールス姫さま、此奴は女子惚けの後家盗人、グヅグヅしてると、そこらの侍女を皆チヨロまかし、あなたに蛸の揚壺を喰はす事は火を睹るより明かですよ。アツハヽヽヽ』 と大口を開けて笑ひ転ける。友彦は仕方がなしに自分もワザと笑ひゐる。チーチヤーボールは此場にヌツと現はれ………「神様が大変な御機嫌だ。併し今お出でになつた神は余程立派な方だが、併し家来に違ない。其証拠には鼻の先がチツトも赤くない。さうして余り口が小さすぎる」……と稍下目に見下し、友彦と同じ座に着いて居る玉治別の手を取つて、一段下の席に導き、 チーチヤーボール『ウツポツポウツポツポ、サーチライス、シーリスシーリス』 と合掌する。他の者も一同に、 一同『シーリスシーリス』 と云ふ。これは「救世主のお脇立……御家来」と云ふ意味なり。玉治別は其意を悟り、 玉治別『オイ友、馬鹿にしよるな。俺を眷属だと言ひよつて、貴様それで大将面して居つて気分が良いのか』 友彦『何だか奥歯に物がこまつた様な気もするし、尻に糞を挟んどる様な心持もするのだ、マアここはお前も辛抱して家来になつて呉れ』 玉治別は嘲弄半分に、 玉治別『オイ友、其方は俺の一段下につけ。貴様は天来の救世主と、鼻の赤いお蔭で信ぜられてるのだから、俺が上へ上つた処で貴様が下だとは思ひはせまい。さうしたら、貴様の位は落ちず、俺はモ一つ上の神様と信じられて、面白い芝居が出来るから、一遍俺の方を向いて拝みて見よ』 友彦『さうだと云つて、まさかテールス姫の前で、ソンナ不態の事が出来るものか。そこはチツト忍耐して呉れぬと困るよ』 玉治別『それならそれでよし、俺には考へがある。貴様の旧悪を此郷の言葉で素破抜いてやらうか』 友彦『ヘン、偉さうに言ふない。此郷の言葉がさう急に分るものか。何なと言へ、分りつこないワ』 玉治別『ヨシ、俺は今神様から言葉を習つたのだ……オーレンス、サーチライス、ウツポツポウツポツポ、イーエスイーエス、エツポツポエツポツポ、エツパツパ……』 友彦はあわてて、 友彦『コラコラ、しようもない事を言うて呉れるない。何時の間に覚えよつたのだらう。モウ此上は治安妨害だから、弁士中止を命じます』 玉治別『とうとう弱りよつたなア。サア俺に合掌するのだ。下座に坐れ』 友彦はモヂモヂし乍ら、尻に糞を挟んだ様な調子で、青い顔して佇み居る。テールス姫は何と思つたか、友彦の手を取り、柴で造つた押戸を開け、奥の間へ姿を隠しける。 玉治別『エー到頭養子になりよつたなア。淡路島で養子になり損つて面を曝されよつたが、熱心と云ふものは偉いものだナア。到頭鼻赤のお蔭でコンナ所へ来依つて、怪態の悪い、テールス姫と手に手を取つて済ましこみて這入りよつた。併し乍ら彼奴も可憐相だ。モウこれぎりで嘲弄ふ事は止めてやらう』 チーチヤーボールは玉治別の前に来て、 チーチヤーボール『オーレンス、サーチライス、シーリスシーリス』 と云ひ乍ら、手を取つて次の間に導き、果物の酒を注いで玉治別に進めける。玉治別は右の手を高く差し上げ、 玉治別『アマアマ』 と云ひつつ太陽を指し示したり。ここは次の第三番目の間で、屋根は無く、唯石盤の様な石が奇麗に敷き詰めてある露天の座敷なり。鬱蒼たる樹木が天然の屋根をなし居たり。チーチヤーボールは此樹上に登れと命じたと早合点し、猿の如く樹上に駆け登り、テールス姫が寵愛の取つときのコーズの実の二つ計り残つて居るのを、一つむしり懐に捻こみたり。懐と云つても、粗い粗い蔓で編みし形ばかりの着物なり。コーズは着物の目を抜けてバサリと落ちたる途端に、玉治別の面部にポカンと当りぬ。玉治別は「アツ」と叫んで俯向けに倒れ、鼻を健か打ち、涙をこぼし気張り居る。チーチヤーボールは驚いて樹上を下り来り、玉治別の前に犬突這となりて無礼を拝謝するものの如く、 チーチヤーボール『ワークワーク、ユーリンスユーリンス』 と泣声になり合掌し居たり。暫くして玉治別は顔をあげたるに、鼻は少しく腫あがり、友彦以上の赤鼻と急変したり。チーチヤーボールは驚いて飛びあがり、 チーチヤーボール『ウツポツポウツポツポ、オーレンス、サーチライス、アーリンスアーリンス』 と叫び出しぬ。其意味は、 『今テールス姫の夫となつた救世主より一層立派な救世主だ。縁談を結ぶ時に用ふる果実が当つて、斯の如き立派な鼻になつたのは、全く神様の思召であらう』 と無理無体に玉治別の手を取つてテールス姫の居間へ迎へ入れたり。見れば友彦は立派なる冠を着せられ、蔓で編みたる衣服を着流し、木の葉の褌を締め、傲然と構へ居たり。側にテールス姫はジヤンナイ教の神文を、 テールス姫『タータータラリ、タータラリ、トータラリ、リートーリートートータラリ』 と唱へ居る。神文が終るを待つて、チーチヤーボールはテールス姫に向ひ、 チーチヤーボール『オーレンス、サーチライス、アーリンスアーリンス』 と言葉をかけたり。此声にテールス姫は後振り向き、玉治別の赤い鼻を見て打驚き……「アヽ今日は何たる立派なる神様がお出で遊ばす日だらう。それにしても後からお降りになつた神様の方が余程立派だワ。同じ夫に持つのなら立派な方を持たなくては、神様に申訳がない。少しく口は小さいなり、身長は低いけれど、何とはなしに虫の好く御方だ」……と穴のあく程、玉治別の顔に見惚れ、心の中にさげ比べをなし居たりけり。 玉治別『オイ友、どうだ、俺の鼻を見い、貴様は余程此処へ来て鼻高になりよつたが、俺は正真正銘の鼻赤だ。貴様の赤さは……実の所を云へば……安物の染料で染めた様に大変色が薄くなつて居るぞ。俺の鼻はまるで赤林檎の肌の様だ。サア鼻比べをしようかい。赤いハナには目が付くと云つて、子供でさへも喜ぶんだぞ。俺の鼻の色が百点とすれば、貴様の鼻はマア四十点スウスウだ。今にテールス姫さまが審神をして下さるから、マア楽んで居たがよからう。キツト団扇は俺の方へあがるこたア、請合の西瓜だ。中までマツカイケだ……たーかい、やーまかーら、谷底見ればなア、うーりやなあすびイイの、ハナ、あかいな、アラどんどんどん、コラどんどんどん、……どんどんでテールス姫の花婿さまは、玉治別に九分九厘定つて居るワ。それだから、此鬼の様な立派な面をして、チーチヤーボールさんとやらが貴様が結婚したにも拘はらず、俺を導いて此室へ連て来て呉れたのだ。エツヘン』 と鼻の先に握拳を二つ重ねて、キリキリツと二三遍廻つて見せたりける。 友彦『洒落も良い加減にして置かぬかい。何程美しうても、塗つた鼻は直剥げて了ふぞ。此暑い国に汗を一二度かいて見よ。忽ち化が現はれるワ。俺の鼻は生れつき、地の底から生えぬきの赤鼻だ。ヘン、自転倒島や其他では……鼻赤々々……と馬鹿にしられて、あちらの女にも此方の女にも鼻あかされて来たが、どんなものだい。貴様の鼻はたつた今化が露はれて、お払ひ箱に会ふのだ』 玉治別『馬鹿言へ、ナンボ拭いても拭いても、落ちぬのだ。俺は俄に天の神様が御降臨遊ばして御憑りなさつた、コノハナ赤や姫の御化身だぞ。貴様があまり詐欺や泥棒して、行く所が無くなり、又斯様な所で温情しい土人をチヨロまかさうと致すから、天の大神様が、可憐相だから、本当のコノハナ赤や姫は玉治別だと云ふ事を証明する為に、此通り赤くして下さつたのだ。嘘と思ふなら貴様来て一寸拭いて見よ。中まで真赤けだ』 友彦『ソンナ真赤な嘘を言ふものぢやない』 玉治別はヌツと腮を突出し、舌を出し、 玉治別『アヽさうでオマツカ、ハナハナ以て赤恥をかかし済みませぬなア』 テールス姫はツト立ち、玉治別の左の手を自分の右手でグツと握り、二三遍揺つた上今度は手を離し左の手で玉治別の右の手を握り、右の頬を玉治別の右の頬に擦りつけ、恋慕の情を十二分に示した。充分尊敬の極、愛慕の極に達した時は、相手の左の手を自分の右の手に握るのが方式である。さうして頬をすりつけるのは、最も気に入つたと云ふ表証であつた。友彦は劫を煮やし、ツカツカと此場に進み寄り、テールス姫の右の手を鷲掴みにグツと握り、二つ三つ横にしやくつた。姫は顔をしかめて、腰を屈め、そこに平太らうとした。玉治別も友彦も、期せずして握つた手を放した。友彦は自分の頬をテールス姫の頬に当てようと身に寄り添うた。テールス姫は、 テールス姫『イーエス』 と云ひ乍ら、力限りに友彦を突き飛ばした。友彦はヨロヨロとよろめき、ドスンと尻餅を搗き、マ一つひつくり覆つて、居室の柱に厭と云ふ程後頭部を打つけ、「キヤツ」と云つて其場にフン伸びて了つた。玉治別、テールス姫、チーチヤーボールは驚いて、水を汲み来り、頭から何杯も何杯も誕生の釈迦の様に、目、鼻、口の区別もなく注ぎ掛けた。友彦は「ウン、ブー、ブルブルブル」と息を吹いた拍子に、鼻汁を垂らし、鼻から薄い毬の様な玉が三つ四つ、串団子の様に吹き出した。テールス姫は顔を背向けて俯ぶいて了つた。 そろそろ玉治別の赤い鼻は血がヨドンだと見え、紫色になり、終局には真黒けになつて了つた。されど玉治別はヤツパリ鮮紅色の鼻の持主だと信じて居た。友彦は玉治別の鼻の色の変つたのにヤツと安心し、テールス姫の手をグツと握り、左の手で玉治別の鼻を指し示した。テールス姫は怪訝な顔して玉治別を眺めて居る。玉治別はモ一つ悪戯つてやらうと、ツカツカと前に進み、テールス姫の手をグツと握り、頬を当てようとした。テールス姫は、 テールス姫『イーエスイーエス』 と云ひつつ力に任せて、玉治別をドツと押した。玉治別は後の低い段々を押されて、友彦同様タヂタヂと逡巡ぎ乍ら、一の字に長くなつて倒れた。友彦は手を拍つて、 友彦『アツハヽヽヽ』 チーチヤーボール『エツポツポエツポツポ、エツパーエツパー、イーエスイーエス』 と云ひ乍ら、玉治別を引起し、次の間に押出して行く。 (大正一一・七・五旧閏五・一一松村真澄録)
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霊界物語 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) 14 園遊会 第一四章園遊会〔七六〇〕 オーストラリヤの一つ島は、現在は殆ど夏計りなれども、此時代は僅かに春夏秋冬の区別がついて居た。日中は年中殆ど同じ暑熱であつたが、朝夕夜間の気候には自然に四季の区別を現はして居た。 我国で言へば殆ど晩夏の頃、城外の天を封じて立てる老樹の遠近に生茂る馬場に於て友彦夫婦の為に大園遊会が開かれた。四面山に包まれたる地恩郷は、平地としては全島に於ける第一の高地であつた。谷川は南北を流れ、崎嶇たる岩石、谷々に壁の如く突つ立ち、奇勝絶景並ぶものなき景勝の地である。 一つ嶋に於ける景勝の地は、第一に諏訪の湖、第二にヒルの郷のクシの滝壺の近辺に指を屈するのである。されどヒルの渓谷は区域最も狭くして、平地は殆ど無く、地恩郷に対して、其大小広狭の点に於て比べものにならない。土地高く風清く、且つ面積広く、大樹鬱蒼たる点は、全島第一と称せられて居る。 門外の広場の森林には所々に赤、白、黒、青、紅等の面白き形をしたる岩石、地中より頭をもたげ、一見して大なる花の地上より咲き出でたる如く思はる。岩石の大部分は、蓮華の花の咲き出でたる如き自然形をなし、国人は単に之を蓮華岩と云ひ、或は蓮華の馬場とも名づけて居る。 黄竜姫以下数百人の人々は、右往左往に、思ひ思ひの遊戯をなし、歌ふ、踊る、舞ふ、岩笛を吹く、石を拍つ、一絃琴、二絃琴、三絃琴の音嚠喨として響き、横笛、縦笛、磬盤などの音は最も賑しく、思はず身を天国にのぼせ、妙音菩薩の来りて楽を奏する如き感に打たれ居る。梅子姫は中央の最も高き紫色の蓮華岩に登り、面白き歌を歌つて興を添へた。 梅子姫『芙蓉山と聞えたる天教山に現れませる 木の花姫の御身魂一度に開く梅子姫 皇大神の統御げる皇御国のスの種を 四方に間配り大八洲数ある中に自転倒の 島根の国の真秀良場や青垣山を繞らせる 下津磐根の蓮華台芙蓉山の御移写 神の教に国人の心も開く蓮葉の 匂ひ出でたる地恩郷蓮華の花の此処彼処 咲き乱れたる其台神の教を麻柱ひし 貴の御子たる八乙女の開き初めたる梅子姫 三千世界の神人を招き集ふる此斎場 教の稜威も高天の原に坐します日の御神 月の御神の御恵の御水火を受けて黄竜姫 大海原の波を分け雲を起して久方の 天津御国に昇る如御稜威畏き神司 母と現れます蜈蚣姫豊葦原の中津国 メソポタミヤの顕恩郷エデンの河と諸共に 清き誉を流したるバラモン教の神司 鬼熊別の片柱天地四方の神人を 誠の道に救はむと大国別の御言もて 埃及国や波斯の国印度の国まで教線を 布かせ給ひし雄々しさよ父大神の神言もて 天の太玉神司エデンの河を打ち渡り 顕恩城に出でまして天津誠の御教を 𪫧怜に委曲に宣りつれど天運未だ循環り来ず 鬼雲彦の荒神は神の心を慮り兼ね 雲を霞と自転倒の島に渡らせ給ひつつ 率ゆる人も大江山稜威の砦を構へ立て 教の花の開く様みくにケ嶽や鬼ケ城 北と南にバラモンの教の射場を造りつつ 同じ天地の珍の子と生れ出でたる三五の 神の司に追はれまし再び波斯の本国へ 帰り給ひし痛ましさあゝさり乍らさり乍ら 此世を造りし大神の恵の露は天地の 百の神人草木まで漏れ落ちもなく霑ひて 誠の道に敵もなく味方の差別もなき世をば 小さき意地に搦まれて右や左や北南 種々雑多と名を変へて荒び居るこそ悲しけれ 転迷開悟の蓮花愈開く常磐木の 松の神代のめぐり来て敵と味方の区別なく 心合せし一つ島地恩の郷に三五の 教を開く嬉しさは高天原に手を曳いて 歓ぎ遊べる如くなりあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして一度叛きし友彦が 心の空に月は照り輝き渡る今日の宵 国治立大神や神素盞嗚大神の 此有様を詳細に眺め玉へば如何ばかり 歓ぎ給ふか白雲の包む谷間ぞ床しけれ 科戸の彦や科戸姫御霊幸はひましまして 地恩の郷や吾々が心を包む雲霧を 一日も早く吹き払ひ天国浄土の真相を 宇宙主宰の大神の御前に現はし奉るべし 神は吾等と倶にます親子兄弟睦び合ひ 此楽園に神国の春を楽しむ一同の 花も開きし蓮華台堅磐常磐の岩の上に 千代も八千代も万代も栄えませよと願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終つて、紫の蓮華岩を下り来り、芝生の上に息を休め居る。 蜈蚣姫は稍くの字に曲つた体を揺ぶり乍ら、両手を拡げて手付き面白く、廁の水浸き然として歌ひ踊り始めたり。 蜈蚣姫『豊葦原の瑞穂国根分けの国と伝はりし メソポタミヤにバラモンの足場を作り天が下 世界十字に踏みならす蜈蚣の姫の身の果は メソポタミヤを後にして波斯を越えて印度の国 大空駆ける磐船に身を任せつつ自転倒の 島に渡りて彼方此方と教を開き黄金の 玉の所在を探らむと思ひし事も水の泡 阿波の鳴門や淡路島生命の瀬戸の海越えて 小豆ケ島や南洋の竜宮島のアンボイナ 男滝女滝に身を浴し浪路も遠き太平の 洋を渡りて進み来る船脚早く沓の島 ニユージランドの玉森に一度息を休めつつ 波を辷りて此島に着くや間もなく地恩郷 神の立てたる三五の教柱の黄竜姫 来りて見れば吾娘小糸の姫の面影は 老の眼もうるみなく擬ふ方なき愛娘 教の光久方の天津御空の雲分けて 天降りましたる朝日子の日の出神の御守り 金勝要大神が御分霊なる真澄姫 天と地との神々の其懐に抱かれて 安々送る老の身の心に懸る雲もなし さはさり乍ら白雲の彼方に遠き波斯の国 夫の命は黄竜姫が少女の命の今日の様 未だ知らずにましまさむ翼なき身は如何にせむ 空漕ぎ渡る鳥船も皇大神の警告に 今は用ゆる術もなく空行く雲の吾為に 篤き心のあるならば一日も早く夫の辺に 吾等親子の喜びを一日も早く伝へかし 遠く四方を見渡せば霧に隠れし地恩郷 何の目的も梨礫鳩の使の片音信 執着心の曲鬼を伊吹祓ひに打祓ひ 速川の瀬に清めむと心に覚悟は定め乍ら 忘れ難きは恩愛の止むる由なき吾涙 梅子の姫よ友彦よテールス姫よ宇豆姫よ スマートボール鶴公よ其他並居る教子よ 神の真道に入り乍ら心もつれし吾姿 眺めて笑うて下さるな道は道なり親と子の 情は世界の始めより今に変らぬ玉椿 千代も八千代も永久に動かぬものと神直日 見直しまして何時迄も吾等親子を親子とし 堅磐常磐に道の為尽させ給へ惟神 神の御前に久方の天津祝詞の声清く 仕へ奉らむ蜈蚣姫あゝ惟神々々 神に誓ひし教子よ教を守るピユリタンよ』 と歯の抜けた口から、不整調な言霊にて歌ひ終り、蓮華岩の上に腰を打下し、ホツと息を吐いた。続いてスマートボール、宇豆姫、鶴公其他の歌は数多あれども、山鳥の尾の余り長々しければ省略す。 黄竜姫以下幹部は、園遊会を切りあげて表門を潜り、各居室に姿を隠した。貫州、武公、マール、ミユーズ其他の連中は、後に残りて酒に酔ひ、クダを巻き、解放的気分になつて、彼方に五人此方に三人と、木蔭に足を投げ出し、芝草をむしり乍ら雑談に耽つて居る。マールは口を縺れさせ乍ら、 マール『モシモシ、貫州のボールさま……蜈蚣姫さまも昔はバラモン教の立派な大将株で終局にや海洋万里の自転倒島まで玉を探しに往つたり、宣伝をされたり、三五教を目の敵の様に敵対うて御座つた癖に、自分の娘が三五教の神司、地恩城の女王さまになつたと思つて、俄に心機一転し、三五教を此上なき結構な教の様に思つて御座るのは、チツと可笑しなものですな。梅子姫さまに、最前の様に耳の痛い歌を歌はれて、何とも思筈、自分も立つて踊り狂ひ、妙な歌を歌はしやつたが、一体全体何の態だ。俺やモウ胸糞が悪くて、三五教にお仕へするのも厭になつて来た。……貫州さま、今日限りお暇を頂戴して、又元の土人の仲間へ還元しますから、どうぞ悪からず御承認を願ひます』 と巻舌になり、フーフと酒臭い息を貫州に吹き掛け乍ら、覗き込む様にして詰寄つた。 貫州『神様の道の信者にはイロイロと径路があるものだ。悪いと思へば直に改良するのが所謂惟神の道だよ。貴様の様な一本調子で、神様の信仰が出来るものか。要するに神の道は理智に依つてかたづけようと思つても駄目だ。信入も悟入も、左旋も右傾も、消極も積極も一寸見た所では大変にかけ離れて居る様だが、実際は皆一体だ。何方から入信つた所で、落着く所は天地創造の元の神様を信仰するのだ。所謂江南の橘は江北の枳殻だ。バラモン教であらうが、三五教であらうが、誠の道に二つはない。畢竟人間の考へに依つて種々の雅号を附けたり、勝手な障壁を拵へて威張る丈のものだよ。蜈蚣姫さまの……吾々は……態度に就いては大賛成だよ。貴様もそこまで理屈を言ふ様にならば、最早信仰の門口に這入つたのだ。宅の女房の名がお竹でも、お松でも別に変りはないぢやないか。お竹の名がお松にならうと、お松の名がお梅にならうと、人間其者はチツとも変りがないと同様に、神様は一株だから、よく考へて見て、其上に去就を決した方がよからうぞ。バラモン教と云ふも三五教と云ふも、但はジヤンナイ教と云ふも、ウラル教も、教を伝ふる人間の解釈に依りて、深浅広狭の区別が付くまでだ。兎も角深く広く、入り易く、愉快な教を信仰して、其日其日を安心立命して行くのが、神の教を信ずる信者の本領だ。モチツト話してやりたいが、さうヅブロクになつて居ては、折角の高論卓説も貴様の耳には這入るまい。先づ酔が醒めてから、悠りと説明するから、明日の事にしよう』 マール『何だか知らぬが、チツとばかし、気に喰はなくなつて来たのだ。そんなら明日改めて聞かして貰はうかい』 と行歩蹣跚として、目も霞、右の腕で両眼を横にツルリと撫で、鼻をツンとかみ乍らあつちやにヨツたり、こつちやへヨツたり、八人脚になつて門内へよろめき入る可笑しさ。一同は手を拍つて『ワツハヽヽヽ』と笑ひ転げる。 紺碧の空は俄にドンヨリとして来た。ネルソン山の峰を圧して、天空高く現はれ来る異様の女神七八人、瞬く間に朱欄碧瓦の神殿現はれ、数多の人々の影、手に取る如く天空に筍の生えた如く、ポツリポツリと現はれ来る。 武公は初めて此蜃気楼を眺め、『アツ』と驚き、黄竜姫に注進せむと、転けつ輾びつあつちやへヨツたり、こつちやへヨツたり、八人連れの歩みをし乍ら、奥深く姿を隠し一同は天を仰いで、蜃気楼の立派なるに打驚き、園遊会の余興だと、興がつて居る。 武公の注進に依りて、黄竜姫、梅子姫其他の最高幹部は高殿に上り、ネルソン山の頂上より此方に向つてパノラマの如く、チクチクと位置を転じ来る、諏訪の湖の蜃気楼を熟視すれば、数多の女神に手を曳かれ、左守神たりし清公其外四人連れ、何事か神勅を受け居る姿を眺めて、一同は手を拍つて驚喜し、直に天に向つて天津祝詞を奏上した。蜃気楼は益々明瞭に、且つ左右に長く展開し、湖面に浮かぶ白帆まで判然と映つて居る。黄竜姫は蜃気楼を見て言霊の歌を歌ひ始めた。 黄竜姫『アふげば高し久方のイ域の空に現はれし ウヅの宮居の蜃気楼エにある様な姫神の オホ空高く現はれてカミの御前を伏し拝み キヨき正しき太祝詞クモ井に高く詔りあげし ケ色は殊に美はしくコバルト色の山の上を サシ登りたる清公のシロき顔容珍の衣 スワの湖影清くセマり来れる地恩城 ソラ高々と現はれぬタカ天原の神の国 チ五百万の神人のツキ添ひまつる崇高さよ テニ手に玉を携へてトコ世の空を打眺め ナガき影をば和田の原ニシや東や北南 ヌりたる如き空の色ネ底の国まで照り渡る ノゾミも遂げて神人がハナの顔容月の眉 ヒダリ右りの侍女はフジの額に雪の肌 ヘグリの山のそれの如ホホベも春の花の色 マナコ涼しく眉濃くミダレ髪さへ顔に垂れ ムツび合うたる神と人メグり大足神の世の モモの花咲く弥生空ヤ千代の君を寿ほぎて イヅミも清き湖の底ユフに言はれぬ麗しさ エに見る如き光景はヨにも稀なる眺めなり ワが言霊の清ければヰづくの空も澄み渡り ウきつ沈みつ行雲のヱらぎ栄えて永久に ヲサまる御代を守れかしあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして左守神と仕へたる 心の空も清公が地恩の城を後にして 身を下したるタカ港屋根無し船に揺られつつ ヒルの港に漕ぎつけて谷間に荒ぶ曲津霊を 言向け和しセーランの山の麓を踏越えて 露の枕も数重ね一望千里の玉野原 厳しき暑熱を浴び乍ら進み進んで諏訪の海 湖辺に漸く辿りつき天津祝詞を奏上し 身禊払ひてスクスクと水児のみづの魂となり 湖中に浮び漂へる男島女島に助けられ 転迷開悟の教の花開いて散りて実を結び 天女の如く浄化して黄金の船に迎へられ 朱欄碧瓦の高殿に導かれたる有様は 今目のあたり見えにけりあゝ惟神々々 神の恵に隔てなし心の空に塞がれる 雲を払へば天津日の光は清く照り渡る 三五の月を包みたる八重棚雲も忽ちに 科戸の風に払はれて円満清朗望の月 尽きせぬ神の御恵は天垂る地垂る海に垂る 人の身魂にたり充ちて一二三四五つ六つ 七八九つ十の空百千万の神達の 守りも深き竜宮嶋妾もいかで此儘に 地恩の郷に悠々と空しく月日を過さむや いざこれよりは村肝の心を清め魂磨き 清きが上にも清くして神の集まる竜宮の 諏訪の湖へと立向ひ天火水地と結びたる 珍の宝を拝戴し自転倒島に宮柱 太しき建てて永久に鎮まり居ます大神の 御前に捧げまつりなば三五教の礎は 云ふも更なり天が下四方の国々永久に 黄金世界を造りなし貴き神の功績を 堅磐常磐に現はさむ三五教の人達よ 天に輝く蜃気楼神の姿を目のあたり 眺めし上は如何にして安きを貪る時ならむ 一日も早く片時も妾と共にネルソンの 高嶺を越えて西の空虎狼や鬼大蛇 醜の曲津の猛ぶ野を神の光を身に浴びて 安々進み行かむとす早々用意召されよ』……と 促す姫の一言に蜈蚣の姫を始めとし 神の花咲く梅子姫宇豆姫友彦伴ひて テールス姫も諸共に旅装を整へしづしづと 地恩の城を後にして身装も軽き蓑笠の 露押し分けて進み行くあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 (大正一一・七・一一旧閏五・一七松村真澄録)
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(1890)
霊界物語 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 05 真心の花(四) 第五章真心の花(四)〔七七〇〕 友彦宣伝使は立ち上つて銀扇を開き、自ら歌ひ自ら踊り狂うた。その歌、 友彦『バラモン教の神司鬼雲彦の副柱 鬼熊別の家の子と仕へ奉りし友彦は 花見の宴の帰りがけエデンの川を渡らむと 宴会の酒に酔ひ潰れ諸人騒ぎ立ち廻る 頃しも主の愛娘小糸の姫は過ちて ザンブとばかり川の瀬に落ち込み給ふと見るよりも 身を躍らして川中に生命を的にもぐり込み 溺れながらも救ひ上げ鬼熊別の御夫婦に 此上なきものと愛せられ抜擢されてバラモンの 珍の教の神司仕へ奉るを幸ひに 深窓に育ちし小糸姫隙間の風にもあてられぬ 一人の乙女を友彦が舌の剣にチヨロまかし 手に手を取つてエデン川流れ流れて錫蘭の 島に漸う辿りつき山奥深く身を潜め 小糸の姫を女王とし吾は僕の神となり 此世を誑かり居たりしが持つて生れた酒好の 乱暴狼藉末遂に小糸の姫に棄てられて 怨みは深き錫蘭の海土人の船に身を任せ 印度の国まで漕ぎ渡り難行苦行の数尽し 又もや流れて自転倒の敦賀の海に上陸し 夜を日についで丹波路の宇都山郷に身をひそめ 鳥なき郷の蝙蝠を気取りて茲にバラモンの 教司となりすまし郷の老若男女をば 言葉巧に説きつけて教を開く折柄に 天の真浦の宣伝使現はれ来りいと清き その言霊にまくられて雲を霞と逃げて行く 山城、大和、紀伊、和泉浪速の里に舞ひ込みて 数多の男女を誑らかし心も暗き身ながらも 神を表に標榜し明石の里の久助が 家に到りて曲事の限りを尽し磯端に 繋ぎし船を横奪し力限りに漕ぎ渡る 浪の淡路の一つ島残る隈なく遍歴し そのいやはてに東助が不在を嗅ぎつけうまうまと 館に招き入れられてお百合の方を前に置き 憑依もせない神がかりうまうまやつて九分九厘 忽ち尻尾を掴まれて進退谷まる折柄に 死んだと思うた東助が清、武、鶴の三人を 伴ひ此処に帰り来る南無三宝と気を焦ち 少時の猶予と暇どらせ廁の中に忍び入り 思案の果は跨げ穴潜りて此家を逃れ出で 沖に繋ぎし屋根無しの小舟に身をば任せつつ 生命からがら瀬戸の海力限りに漕ぎ出せば 如何なる風の吹き廻し小豆ケ島へつけられて 風凪ぎ渡るその間此の浮島をめぐらむと 脚に任せて国城の山の砦に行て見れば 思ひがけなき蜈蚣姫三五教の高姫や 明石の里の久助に出会つた時の苦しさは 此の地の底に穴あらば消えも入りたき心地して 心悩ます折柄に又もや来る東助が 捕手の男に縛られて一旦淡路の洲本まで 連れ帰られし苦しさよ地獄で仏の東助が 情の言葉にほだされてヤツと胸をば撫で下し 清、鶴、武の三人と船を操り高姫が 危き身の上守らむと南洋大小の島嶼に 後を尋ねて周航し蜈蚣の姫や初稚姫の 神の命にめぐりあひ海洋万里の浪の上 月日を重ねて漸うに一つの島に安着し タカの港を後に見て地恩の郷に行き見れば 女王と名乗る黄竜姫の神の命は小糸姫 過ぎし昔を懐ひ出し心を悩ます折柄に 地恩の城の下人に追ひまくられて城外の 林の中に放棄され百の艱難を忍びつつ 山の尾伝ひ峰越えて百里二百里何時しかに 果実に飢をしのぎつつネルソン山の頂上に 登りて息を休めつつ四辺の景色を打眺め 心を養ふ折もあれ忽ち起る山腹の 黒白もわかぬ黒雲に包まれ咫尺も弁へず 心痛むる折柄にレコード破りの烈風に 吹き捲られて中天に空中飛行を演じつつ 数多の峰の彼方なるジヤンナの郷に顛落し 息も絶えなむ其時にジヤンナイ教の人々に ヤツと生命を助けられ鼻の赤きを幸ひに 数多の人にオーレンスサーチライスと敬はれ テールス姫に思はれて茲にメシヤとなりすまし 言葉も通はぬ郷人に出任せ言葉を列べつつ 崇拝させて居たりしが妻の命に実情を 残る隈なく打明けて夫婦は茲に気を合せ 地恩の城に立ち向ひ黄竜姫に昔日の 無礼を謝せば快く昔の怨みを打忘れ 東と西と携へて竜宮島を治めむと 宣らせ給ひし嬉しさよ黄竜姫の計らひに 地恩の城の馬場にて園遊会を開かれし 時しもあれやネルソンの山の尾高く蜃気楼 現はれ来り友彦は猿田彦司と相成りて 一行五人蓑笠の軽き身装を装ひつつ ジヤンナの郷に立寄りて教の御子に送られつ 山川渡り漸々に玉野ケ原に安着し 茲に身魂を清めつつ梅子の姫に罪科を 宣り直されて潔く喜び勇む折柄に 湖を辷つて駆け来る黄金の船を眺むれば 地恩の城に現はれて左守神と仕へたる 清公さまを始めとしチヤンキー、モンキー外二人 無言の儘に船の上此方に向つて麾く 梅子の姫を始めとし一行船に飛び乗りて 真帆を孕みし浪の上風に吹かれて辷り行く 妙音菩薩の音楽や浪の鼓に送られて 玉依姫の在れませる竜の宮居の側近く 御船を横たへ十柱の教の御子は悠々と 黄金の門を潜りつつ心いそいそ進む折 初稚姫や玉能姫玉治別の一行に 思はぬ処に迎へられ又も十二の姫神に 前後左右を守られて玉依姫の常久に 鎮まりいます水館奥の広間に招ぜられ 畏み仕へ奉る折上座の玉の扉押開き 近侍の女神に五色の玉を持たせて悠々と 現はれ給ひし崇高さよ心も清き白玉の 麻邇の宝珠の其の光明石の郷の久助に 手づから授け給ひつつ無言の儘に微笑して 其の場に立たせ給ひける久助玉を頂きて 教の道の友彦が手に渡しつつ悠々と 元の座につき畏まる心穢れし友彦も 案に相違の此始末うら恥かしく思へども 神の恵の露の玉潤ふ顔に伏し拝み 侍女の賜ひし錦襴の袋に深く秘めながら 首に確と結びつけ神の恵を感謝しつ 涙に暮るる時もあれ梅子の姫は座を立ちて 悠々此場を出で給ふ十曜の紋に因みたる 神の十柱宣伝使竜の館を立ち出でて 八咫烏の背に乗り雲霧分けて浪の上 渡りて漸く秋山彦の貴の命の庭園に 降り来れる嬉しさよあゝ惟神々々 仁慈無限の大神の御霊幸はへましまして 罪科深き友彦を見捨て給はず竜宮の 麻邇の玉をば授けられ神政成就の神業に 加へ給ひし有難さこれより心取り直し 身魂を浄め夢の間も神の恵を忘れずに 真心尽して仕へなむ錦の宮に常久に 鎮まりいます天地の元の御祖の大御神 瑞の御魂の大御神力なき身を憐れみて 三千世界の神業を過ちなしにすくすくに 仕へさせませ友彦が心の限り身の限り 力の限り真心を捧げて祈り奉る あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ』 お民は又もや立ち上つて祝意を表し、歌ひ舞ふ。 お民『此世を造りし大神の五六七の神世の御仕組 三つの御玉は永久に自転倒島に納まりて 神の御稜威も弥顕著に輝く折しも竜宮の 五つの宝麻邇宝珠神の御稜威に現はれて 大和島根に恙なく寄らせ給ひし尊さよ 三と五との睦び合ひ三五の月の御教は 八洲の国に隈もなく照り渡るらむ皇神の 経綸の糸にあやつられ誠あかしの郷人と 生れ出でたる久助が妻のお民は如何にして 斯る尊き神業に仕へ得たるか尊くも 皇大神の御恵み有難涙に咽びつつ 神の仕組の永久に末ひろびろと開く世を 松の神世と仰ぎつつ明石の浜の松原に 打寄せ来る清砂の数限りなき神徳を 尊み畏み喜びて皇大神の御前に 心の限り身の限り御稜威を称へ終へ奉る あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 玉依姫の賜ひたる黄金色なす麻邇の珠 四方の国々テールス姫の神の命の厳身魂 輝き渡れ永久にあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 と歌ひ終つた。 テールス姫は立ち上り、又も祝歌をうたひ始めた。 テールス姫『大海原に漂へる黄金花咲く竜宮の 一つ島にて名も高きネルソン山の山つづき ジヤンナの郷に現はれてジヤンナイ教を開きたる テールス姫は三五の道の司の友彦に 尊き道を伝へられ鬼をも欺く郷人に 誠の道を宣り了へて地恩の城に名も高き 黄竜姫の御前に夫の命と諸共に 現はれ出でて村肝の心の底を語り合ひ 力を協せ竜宮の一つの島を治めむと 語らふ折しも中天に現はれ出でし蜃気楼 諏訪の湖水は竜宮の麻邇の宝を取りもたし 数多の女神いそいそといそしみ給ふ其姿 遥に拝み奉り梅子の姫と諸共に 一行五人打揃ひ虎狼や獅子大蛇 曲神猛ぶ山道を神の御稜威に助けられ 月日を重ねて竜宮の浪さへ清き諏訪の湖 竜の宮居に参上り四辺眩ゆき金殿に 優しき侍女に導かれ玉依姫の御前に 進みし時の嬉しさよ玉依姫のお手づから 黄金の玉を取り出しお民の方に授けられ ほほゑみ給ふ折柄にお民の方は慎みて 受取り直に吾前に持出でまして快く 渡し給ひし美はしさあゝ惟神々々 神の教を悟りたる誠の人の心根は 斯くも美はしものなるか恥しさよと思ひつつ おしいただいて錦襴の袋に納め神恩を 感謝し奉る折柄に神素盞嗚大神の 貴の御子と生れたる梅子の姫は悠々と 此場を立つて門外に歩みを運ばせ給ふより 妾も御後に引添うて黄金の海のほとりまで 帰り来れる折も折はばたき高く黄金の 翼ひろげて飛び下る八咫烏に乗せられて 自転倒島に恙無く降り来りし尊さよ あゝ惟神々々神の恵みは目の当り 仁慈無限の大神の開き給ひし三五の 教の道に身を任せ心の限り永久に 生命の限り仕ふべし神素盞嗚大御神 国武彦大御神お民の方を始めとし 此一行の神人の御前に感謝し奉り 貴の御玉の恙なく還りましたる祝言を 喜び歌ひ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 と歌ひ終つて座についた。 (大正一一・七・一七旧閏五・二三外山豊二録)
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(1899)
霊界物語 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 14 大変歌 第一四章大変歌〔七七九〕 折から吹き来る夜嵐に湖水の面は波高く 島の老木の根本より吹きも倒さむ勢に 神さび建てる神社風にゆられてギクギクと 怪しき音を立て初めぬこれ幸ひと亀彦は 社の扉を打開きそろそろ階段下り来て 玉に魂をばぬかれたる三つ巴の玉奴 身辺近く進み寄り白衣の着物を頭より フワリと被り吹く風に長き袖をばなぶらせつ 声も女神の淑かに宣り出せるぞ面白き 天教山に現はれしわれは木花姫神 その御心を汲みとりて汝等三人の迷人に 玉の在処を説き示すあゝ惟神々々 御霊幸はへましまして三五教やバラモンの どちらか知らぬが宣伝使三人ここに現はれて 憑依もせない天狗の宣示を誠と思ひつめ 長途の旅をエチエチと暗かき分けて波の上 三つの御霊の鎮まれる竹生の島に漕ぎつけて 隠してもない神宝を下らぬ意地に絡まれて 探しに来る愚さよ鼻高姫や村肝の 心の暗の黒姫や頭の光る福禄寿面 揃ひも揃うた大馬鹿の社殿の下の玉探し たとへ百丈掘つたとて金輪奈落その玉は 出て来る気づかひあるまいぞ日の出神や竜宮の 乙姫さまの生宮と威張つて居たが何の態 女神の癖に荒い事吐くと思ふか知らねども 決して女神が云ふでない三人の心に憑りたる 副守の鬼が吐くのだ要らぬ苦労をするよりも 吾身の行ひ省みて玉の詮索思ひ切り 一日も早く大神の誠の道を世の中に 懺悔さらして仕へ行け先に来たのは高姫ぢや 次に出て来た黒姫が言依別の遣はせし 玉掘神と誤解して吾劣らじと暗雲で 指の先まですりむきつオチヨボのやうに砂を掘り いよいよ味噌を摺鉢の糠喜びの砂煙 何時迄お前が掘つたとて隠してないもな出ては来ぬ 高山彦のハズバンド婆さまのお尻をつけ狙ひ 六十面を下げながらようも天狗に欺された あゝ惟神々々訳の解らぬ奴ばかり こんなお方が三五の教の幹部に坐るなら それこそ勿ち聖場は地異天変の大騒動 亀彦ドツコイ亀の背に乗つて波間に浮び来る 木花姫の御心を承はりて現れた 玉の在処を守り居るわしは誠の女神ぞや 三つの玉は神界の御経綸なれば高姫が 何程日の出神ぢやとて現はれ来る筈はない そんな謀反は諦めて一時も早く三五の 綾の聖地に立帰り神に御詫をするがよい 九月八日の秋の空黄金花咲く竜宮の 一つ島なる諏訪の湖玉依姫の御宝 天火水地と結びたる麻邇の宝珠は由良港 秋山彦の庭先に鳩の如くに下りまし 言依別を始めとし梅子の姫や五十子姫 お前の嫌ひな玉能姫初稚姫も諸共に 神輿に乗せて悠々と由良の川瀬を遡り 嬉しき便りを菊の月今日は九日四尾の 山の麓の八尋殿たしかに納まる日なるぞや お前もグヅグヅして居ると後の祭の十日菊 恥の上塗りせにやならぬ生田の森の館から 直様聖地に帰りなば前代未聞の盛典に 首尾よく列して五色の麻邇の宝珠を拝観し 尊き神業の末端に奉仕出来たであらうのに 執着心に煽られて憑依もせない天狗に だまされぬいて遥々と探ねて来る盲神 気の毒なりける次第なりあゝ惟神々々 それが叶はぬと思ふなら一時も早く立帰れ 玉守姫が親切で一寸誠を明し置く そろそろ風も強なつた嵐に吹かれて何時迄も ここに居つては堪らないウントコドツコイ高姫さま ヤツトコドツコイ黒姫さま高山彦の福禄寿さま そんならお暇申しますドツコイシヨのドツコイシヨ ウントコドツコイドツコイシヨヤツトコセーのヨーイヤナ アレはのせーコレはのせーヤツトコドツコイ玉探せ。 と歌ひ了り、暗に紛れてクツクツ噴出しながら英子姫の館を指して帰り行く。 ○ ここに三人の玉探し汗をタラタラ流しつつ 無言のままで一心に側目もふらず土掘りの 真最中に亀彦が俄に女神の作り声 高姫、黒姫、高山彦の福禄寿頭の三人と 図星を指されて高姫はハツと驚き立上り よくよく見れば黒姫や高山彦の二人連れ アヽ残念や口惜しや国依別の極道奴 日の出神や高姫や竜宮さまの生宮を マンマとよくも騙したな馬鹿にするのも程がある 十里二十里三十里痛い足をば引ずつて いよいよ今度は如意宝珠その外二つの宝をも うまく手に入れ年来の願望成就と思ひきや 又だまされて玉探しわしより若い奴輩に 馬鹿にしられて口惜しい黒姫さまもこれからは チツとしつかりするがよい高山彦も余りぢや 朝から晩までニヤニヤと黒姫さまの面計り 眺めて居るからこんな事流石に尊い竜宮の 乙姫さまも腹を立て遠くの昔に魂ぬけの あとは盲の守護神今までお前を生宮と 思うて居たのが情無い思へば思へば腹が立つ それぢやに依つて初から神の誠の御道は 夫婦あつては勤まらぬわしがあれ程言うたのに 馬耳東風と聞き流し肝腎要の竜宮の 乙姫さまにぬけられてその面付は何の事 暗夜でお面は分らねど定めて夜食に外れたる 梟のやうな面付でアフンとしてるに違ひない 私も愛想がつきました何程日の出神ぢやとて こんな分らぬ守護神憑いた御身を伴にして どうして神業が勤まらうチツとは改心なされませ 性懲もなく又しても油揚鳶にさらはれた 高山彦の親爺さま六日の菖蒲十日菊 きくさへ胸が悪くなる再度山の大天狗 身魂の曇つた国公にサツと憑つて世迷言 吐いた言葉を真にうけてここ迄来たのは情無や あゝ惟神々々神の御都合と諦めて これから大きな面をして正々堂々陣を張り 言依別のハイカラに恨みを晴らす逆理屈 御二人しつかりしなされよ神の教を次にして 親爺の事や女房の身の上計り気にかけて 現を吐すと此通りこれこそ神の御戒め これで改心なさつたか思へば思へば馬鹿らしい お前のやうな没分暁漢黄金の玉を盗まれて 在処探ねてはるばると竜宮島に二三年 留まりながら何の態お前の帰つたその後で 初稚姫や玉能姫玉治別や友彦に 又もや麻邇の如意宝珠尊い御用を占領され 天地の神の御前に何うして顔が立ちますか 胸に手を当てつくづくと考へなさるがよからうぞ 何程泣いて悔んでももう斯うなれば是非は無い サアサア皆さま帰りませう一度に開く梅の花 開いて散りて実を結ぶ平助お楢の両人が 腹から生れたお節等に馬鹿にしられて堪らうか 高姫ぢやとて骨があるお前のやうなグニヤグニヤの 蒟蒻腰では無い程に見違ひなさるな高姫が 岩より堅い大和魂日の出神の生宮に お前のやうな盲神何うしてついて来たであろ うまい果実にや虫がつく賢い人には魔が来る お前の忠告真に受けて今迄出て来た高姫も 余り偉そにや言はれねど大将は素より看板ぢや 側に付添ふ副柱こいつに力の無い時は 何程偉い生宮も策を施す余地がない 持つべきものは家来ぢやが持つて困るは馬鹿家来 こんな事なら初からお前を使ふぢや無かつたに 悔みて返らぬ今日の首尾諦めようより仕様が無い あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ。 と、流石の高姫も焼糞になつて、黒姫、高山彦に八当りの歌をうたひ、胸の焔を消さむとして居る。 ○ 星の明りに黒姫は高慢強き高姫の 歌を聞くより腹を立て暗をすかして眺むれば 前歯のぬけた膨れ面汗をブルブルかきながら 蟹の様なる泡を吹き眼を怒らして睨み居る 黒姫見るより腹を立てこちらも劣らぬムツと顔 声の色まで尖らして日の出神の生宮と 当てすつぽうな名をとなへ世界が見え透く見え透くと 何時も仰有るその癖にたかの知れたる再度の 山に隠れた野天狗にうまく騙され泡を吹き 何程腹が立つたとて私に当るといふ事は お前さまそれはチト無理ぢや口に税金要らぬとて 業託言ふにも程がある私も女の端くれぢや 日の出神の生宮が高姫さまなら黒姫は 矢張竜宮の乙姫ぢや日の出神と引添うて 竜宮さまの御手伝これで無ければ神界の 経綸は成就せぬぢや無いかあなたは何時も言うただろ その言霊を夢の如ケロリと忘れて黒姫に 熱を吹くとは余りぢや私もチツトは腹が立つ 私丈なら何うなりと悔しい残念堪らうが 二世を契つたハズバンド高山さままで引出して 悪口言ふとは虫がよい神のお道を世の中に 伝へて歩く高姫の仰有る事とは受取れぬ 真の日の出神さまは余り偉い慢神に 愛想をつかして御帰りのあとに曲津が巣をくみて お前の御口を自由にしそんな悪口吐くのだろ 油断も隙も無い御道一寸慢神するや否 八岐の大蛇の醜魂にのり憑られて眼はくらみ 魂は捻けて此の通り国依別や秋彦の 身体に憑つた野天狗にチヨロマカされてはるばると 夜を日についで三十里琵琶の湖までやつて来て 寄辺渚の離れ島隠してもない玉探し お腹が立つのは尤もぢやさはさりながらお前さま 胸に手をあてトツクリと考へなさるが宜しかろ 真の日の出神ならば玉の在処は居ながらに 判然分らにやなるまいに海洋万里の島々を うろつき廻る玉探しそれから可笑しと思て居た 何うしても斯うしても腑に落ちぬ口先ばかり偉さうに 頬桁叩くやくざ神早く帰すがよいわいな これから心改めて三五教の神司 言依別の命令にハイハイハイと箱根山 痩馬追うて登る様に神妙に御用を聞きなされ 私はこれで三五の神の御道は止めまする 聖地へ帰つて人々に何うして面が合はされよう 鉄面皮なる黒姫も今度計りは何うしても 面向け致す術が無い変性男子の筆先に 慢神致すと面の皮引きめくられて家の外 歩けぬやうに成り果てて頭抱へて奥の間に 潜みて居らねばならないと御示しなさつてあるものを 日の出神の生宮を無性矢鱈に振り廻し せつぱつまつた今日の空思へば思へば御気の毒 私は同情いたしますこれから聖地へ立帰り 心の底から改めて今迄とつたる横柄な 態度をすつかり止めにして小猫のやうになりなされ 仁慈無限の神様の尊き試練に遇ひました あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ 叶はぬから帰りませう。 ○ 高山彦はムツとして薬鑵頭に湯気を立て ドス声頻りに張りあげて高姫さまよ黒姫よ 日の出神や竜宮の乙姫さまを楯にとり 一丈二尺の褌を締めた男を馬鹿にした 俺は元からお前等の言うとる事が怪しいと 思うて居たがまさかにもこんな馬鹿とは知らなんだ 男の顔に泥を塗り返しのつかぬ恥かかせ 日の出神もあるものか尻が呆れて屁も出でぬ お前の様な年寄を女房に持つのは厭なれど 尊い竜宮の乙姫が肉の宮ぢやと聞いた故 高姫さまの媒介で波斯の国から遥々と 天の鳥船空高く乗つて来たのは馬鹿らしい 白い頭に黒い汁コテコテ塗つて誤魔化して 枯木に花の咲きほこりこんな事だと知つたなら お前と添ふのぢや無かつたに日の出神も竜宮の 乙姫さまも此頃はねつから当にはならないぞ 執着心にそそられて国々島々かけめぐり 玉の在処を探し行く二人の婆の馬鹿加減 俺は愛想が尽きたぞよ国依別や秋彦の 若い男の憑霊に眉毛をよまれてこんな態 どうして聖地へ帰られうか女子供に到る迄 俺の顔見りや馬鹿にするかうなり行くも高姫や 黒姫二人の為す業ぞあゝ惟神々々 玉の詮議は今日限りすつぱり思ひ諦めて 誠心に立帰り三五教の神司 玉照彦や玉照姫の貴の命の神人が 御言畏みよく仕へ必ず自我を出すでない 高山彦が両人に真心こめて気を付ける あゝ惟神々々神のまします此島に 何時迄居つても仕様がない恥をばしのび面被り 兎も角聖地へ立帰り心の底から今迄の 誤解慢神悉く神の御前に御詫して 赤恥さらせばせめてもの罪滅しとなるであろ それが嫌なら高姫も女房の黒姫今日限り 三行半の離縁状すつぱり書いて渡さうか 今迄男を馬鹿にした天罰忽ち報い来て こんな憂目に遇うたのだ改心するのは結構だ 高天原の門開き慢心すると此通り 世間の人に顔向けのならない様な事が来る 今日からサツパり心をば洗ひ直して惟神 うぶの心になるがよいサアサア帰のうサア帰のう 吹き来る風は強くとも高波如何に猛ぶとも 仁慈無限の大神の大御守を力とし 杖と頼みて帰らうぞあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ。 (大正一一・七・一九旧閏五・二五外山豊二録)
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霊界物語 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 14 草枕 第一四章草枕〔七九六〕 雲に聳ゆる比治山の麓に清き比沼真奈井 豊国姫の永遠に鎮まりゐます聖場に 朝な夕なに仕へたる心の色の照子姫 身魂もすぐれて清子姫神の御言を蒙りて 三五教の宣伝使梅子の姫を始めとし 初稚姫や玉能姫玉治別の一行が 海洋万里の波の上永久に浮べる竜宮の 一つ島なる諏訪の湖麻邇の宝珠を永久に 守り玉ひし玉依姫の神の命の御手より 手づから受けて八咫烏黄金の翼に跨りて 大空高く翔めぐり十重に二十重に包みたる 天の岩戸も秋山彦の人子の司の珍館 常磐の松の茂り生ふ御苑に降りますと聞き 二人の女神は大神に許しをうけて久次の 錦織なす里を越え四方の峰山紅葉して 行く手の道も長善寺大野、山田を乗り越えて 神の宮津に着きにけり天津御神の神宮を 右に拝してスタスタと岩淵、文珠、紅葉坂 荒波たける磯端を由良の港に辿りつき 秋山彦の門前に佇み様子を伺へば 後の祭か十日菊麻邇の宝珠は逸早く 綾の聖地に安々と着かせ玉ひしと聞くよりも 二人の女神は気を焦ち月の顔丸八江の 田舎を過ぎて田辺宿日は又空に余の内 池の内をば乗り越えて山と山との谷間の 日蔭も見えぬ真倉郷片方の上杉月照りて 心も開く梅迫や西八田、縁垣、味方原 綾の大橋打渡り小雲の流れに心胆を 洗ひて進む聖域に太しき建てる神館 十曜の神紋キラキラと月の光に反射して 絵にもかかれぬ美はしさ秋は漸く深くして 木々を染めなす綾の里錦の宮の御前に やうやう辿りて伏し拝み玉照彦や玉照姫の 二柱神の御前に現はれ出でて神勅を 再度請へば言依別の瑞の命の口を借り 言葉静かに宣らすやう汝はこれより聖地をば 一日も早く立出でて南に向ひ瀬戸の海 浪かき分けて琉球の神の御島に渡れよと 宣らせ玉ひし言の葉を畏み奉り二人連れ 錦の宮を伏し拝み小雲の流れを溯り 山路を駆り鷹栖や山家、音無瀬、才原の 細谷路を辿りつつ流れも広瀬の丸木橋 渡りて進む和知、本庄中山、新田、胡麻の郷 尋ね行くのは殿田川乗せて嬉しき船岡の 其行先は千妻や曽我谷、園部の花の里 小山、松原後にして羽はなけれど鳥羽の駅 道も広瀬や八木の町深き川関、千代川の 大川小川を打渡り神の御稜威も大井村 天田神徳嬉しみて玉照彦の生れませる 穴太の山の奥深く高熊さして登りゆく あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ 朝日の直刺す神の山夕日の日照らす神の峰 三つ葉躑躅の其下に小判千両埋けおいた 黄金の鶏の暁を告ぐる神代を松林 折柄吹来る秋風に木々の梢は自ら 微妙の音楽奏でつつ小鳥の歌ふ声清く あちらこちらの山柿の赤き顔してブラブラと 玉照彦の御姿を今見る如き照子姫 神の宝座も清子姫岩窟の中に忍び入り 木花姫の神勅を三七二十一日の 秋の夜長に細々と教へ諭され両人は 深き御徳を拝しつつ山を降りて谷路を スタスタ降る山の神水音高き滝の辺に 又もや身魂を洗ひつつ来勿止神に送られて 松の大木の大空を封じて暗き堺山 息急き登る雄々しさよ三五の月の光をば 頭上に浴びて六箇谷犬飼、法貴、湯屋ケ谷 崎嶇たる山路分け乍ら止止呂美坂や細の川 又もや渡る中河原木部の里をば打過ぎて 思ひも深き池田郷神田草鞋も桑津村 足や伊丹の郷こえて稲野、常吉向う脛 秋の芒に傷つけて屡休む柴野村 日は早空に西の宮茲に一夜を宿りつつ 朝日と共に打出て葦尾痛めん憂もなく 無事に進むは大神のまさしく本庄、御影町 生田の森に名も高き稚姫君の祀りたる 玉能の姫の神館一夜を爰に明かしつつ 心も勇む駒彦にいと親切に歓待なされ 兵庫の港に進み行く浜辺に繋ぎし新船を 代価を呉れて買ひ取りつ誠明石の海の面 波高砂の浦を越え家島、西島、小豆島 左手に眺めて豊の島児島半島のそば近く 進む折しも暗礁に船乗りあげて両人は 如何はせんと村肝の心を苦しむ折柄に 月照る波を分け乍ら此方に向つて馳来る 一つの船に助けられ茲に二人の姫神は 危き所を救はれて神のまにまに竜宮の 石松茂る磯端に船を繋ぎて上陸し 莓の実る山路を一行四人の男女連れ 常楠翁の住家なる目出度き人に大槻の 天然ホテルに着きにけり。 (大正一一・七・二七旧六・四松村真澄録)
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(1942)
霊界物語 28_卯_台湾物語(日楯と月鉾) 14 二男三女 第一四章二男三女〔八一四〕 天津御空に照り亘る日楯、月鉾、両人は 照彦王や照子姫数多の人に立別れ サワラの城を後に見て緑、紅、白、黄色 花咲く野辺のユリコ姫尽きせぬ御代も八千代姫 神の御稜威も照代姫二男三女の五身霊 照彦王の密書をば力と頼み向陽の 高嶺をさして進み行く。 二男三女は無言の儘、向陽山を指して進んで行く。照彦王より与へられたる密書には、 『向陽山の麓を流るる大谷川の畔迄は決して言語を発す可らず、其川を渡ると共に、発言自由たるべし。向陽山には常楠仙人永住して汝等一同に摂受の剣と折伏の剣を与へ玉ふべし。これを受取つて、汝等は一日も早く泰安城に立向ひ、魔軍を言向け和し、且つヤーチン姫及真道彦、カールス王其他一同を救ふべし』 との文意が示されてあつた。行く事殆ど五六里、徒歩に稍疲れを感じ、山麓までは到底日の内に到達し難く思はれた。 茫々たる萱野原に、萩、桔梗、百合の花は配置良く咲き匂うて居る。二男三女は草を分け、漸くにして、向陽山麓の木々の梢まで肉眼にて見分くる計りの地点まで近寄つた。忽ち前方に当りて、大なる沼が横はつて居る。水底最も深く、周囲の樹木は沼の底に逆しまに影を映し、大空の淡雲は沼底に映つて居る。不思議にも五人の姿は沼の水に逆しまに映り、何とも言はれぬ麗しき光景であつた。一同はハタと突当り、如何はせむと思案に暮れてゐたが、言語を発する事を戒められ居る為、互に相談する事も出来ず、どうせうかと手真似、目使ひ等にて話し合つて居る。 日は漸く山の尾の上に姿を没し、夕べの風はソヨソヨと吹き出し、木の葉の梢にゆらぐ影は、沼底に逆さまに映り、数多の小魚の躍るが如く見えて来た。進退惟谷まつたる五人は愈意を決し、底ひも知れぬ沼を目蒐けてバサバサと歩み出した。不思議にも此深き沼にも係はらず、五人の身体は膝迄も没するに至らず、易々とさしもに広き沼の面を、彼方の岸に渡り着き、後振り返つて眺むれば、沼らしき影だにもなく、いろいろの草花が広き原野に咲き満て居た。これは常楠仙人が仙術を用ゐ、五人の信仰力を試す為に地鏡を映出したのである。 夜の帳は細やかに下ろされて、月は周囲の高山に隔てられ、姿を見せず、星の光は何となく、雨気の空の様に低う麗しく瞬いてゐる。二男三女は例の手真似にて合図をなし、爰に一夜を明かす事となつた。 猛獣の唸り声、前後左右より刻々に高く、烈しく響き来る。一同は心の中に天の数歌を称へ、暗祈黙祷を続けてゐる。そこへ一種異様の大怪物、鹿の如き枝角の一丈計りあるものを頭に戴き、大象の如き大動物、バサリバサリと進み来り、五人の前に鏡の如き巨眼を光らせ、大口を開き、洗濯屋の張板の様な長広舌を左右に振り乍ら、一行を目がけて舌に巻き込まんとして居る。日楯、月鉾は無言の儘、両手を組み、怪物の前に進み寄るや、怪物は象が鼻にて子供を捲く様に、舌にてペロペロと巻き乍ら、喉の中へ二人共一度に呑み込んで了つた。 三人の女は愈決心を固め怪物のなすが儘に任した。怪物は以前の如く、舌にて一人一人捲いては吾背に乗せあげ、三人共大象の幾倍とも知れぬ様な大背中に乗せた儘、向陽山を目蒐けてドシンドシンと地響きさせ乍ら進んで行く。日楯、月鉾の両人は怪物の腹に呑まれ乍ら、別に痛苦も感ぜず、暖かき湯に入りたる如き心地して、運命を惟神に任せて居た。 忽ち轟々たる水音耳に入るよと思ふ間に、あたりはパツと、際立つて明くなつて来た。見れば其身は向陽山麓の大谷川の激流を渡りて、其岸辺に立つて居た。三人の女は、岸の彼方に激流を眺め、二人の首尾克く山麓に渡り得たるを恨めしげに眺めて居た。 日楯始めて口を開いて、 日楯『惟神霊幸倍坐世』 と言ひ乍ら、 日楯『モシ月鉾さま、無言の行も随分辛いものでしたなア。さうして地鏡の沼に出会した時の胸の驚き、ヤツと安心する間もなく、今度は大怪物に出会し舌に巻かれて腹に葬られ、どうなる事かと心配して居つたが、何時の間にか、怪物の影はなく、吾々二人は此渡る可らざる大激流を、無事に渡つて居たのは、何と思つても合点が往かぬぢやないか。コリヤ、うかうかとしては居られまい。何を言うても常楠仙人の隠れます聖場だから、謹んだ上にも慎んで参らねば、幾度もあの様な試みに会はされては堪りませぬからなア』 月鉾『左様です。此球島へ渡つてからと云ふものは、実に不思議な事計り、神秘的な島ですなア。それにしても照彦王、照子姫様は仙人に出会ひ摂受の剣と折伏の剣を得て来いと教書に御示しになつて居るが、果して与へられるであらうか、それ計りが心配でなりませぬワ』 日楯『照彦王は吾々に此御用を致さすべく、前以て御夫婦がどつかの高山へ登られ、非常な苦労を遊ばして、神勅を受け御帰りになつたのだから、滅多に間違ふ気遣ひはありますまい。疑は益々神慮を損ふ所以となりませう。兎も角教書の儘を固く信じ今後如何なる艱難辛苦に出会うとも、屈せず撓まず、忍耐を強くして、目的を達せなくては、折角遥々此処まで参つた甲斐が有りませぬ。先づ此処で天津祝詞を奏上致しませう』 月鉾も此言葉に打諾き、二人は川岸に端坐して天津祝詞を奏上した。不思議や三人の女は激流の上を平然として此方に渡り来る。両人は手を拍ちて喜び、全く神の深き御庇護と又もや感謝の祝詞を奏上する。三人は漸くにして激流を渡り、二人の前に来つて嬉し相に笑を湛へ乍ら、二人を手招きしつつ、さしもの急坂を猿が梢を伝ふ如く登り行く。見る見る間に三女の姿は山霧に包まれ見えなくなつて了つた。日、月二人は互に顔を見合せ、 日楯『何と月鉾さま、神仙境はヤツパリ神秘的な事が続出致しますなア』 月鉾『本当に不思議なこと計りですワ。それにしても三人の女の、あの足の早さ、人間業とは思はれませぬ。大方仙人の霊魂でも憑依したのでせうかなア』 日楯『何は兎もあれ、此高山を一刻も早く登りきはめねばなりますまい。サア急ぎませう』 と日楯は先に立ち、宣伝歌を歌ひ乍ら登り行く。 向陽山は峰巒重畳たる中に魏然として聳え立つて居る霊山である。山頂に達する迄には幾十とも知れぬ山を越え、谷を渉り、或は広き山中の湖水を渉りなどせなくては、到底達し得ない、要害堅固の絶勝である。 二人は漸くにして、山中の稍広き湖水の畔に着いた。俄に女の叫び声、あたりの森林に聞えて来る。フト声する方を眺むれば、幾丈とも知れぬ大蛇、ユリコ姫の身体を腰のあたり迄呑みこみ、鎌首を立てて渦巻いてゐる。日楯、月鉾は大に驚き、如何はせむと稍少時、首を傾けてゐた。ユリコ姫は声を限りに、 ユリコ姫『日楯様、どうぞ妾をお助け下さいませ』 と手を合して命限りに叫んでゐる。又もや女の泣声、フト目を右方に転ずれば、照代姫、八千代姫の二人は、これ又二匹の大蛇に半身を呑まれ、顔の色迄青くなり、声も碌々に得立てず、両人の方に向つて手をあはせ、救ひを求めてゐる。 日楯は吾女房を救はむか、八千代姫、照代姫を如何にせむ、照代姫、八千代姫を救はむか、吾妻の生命を如何にせむと去就に迷ひつつあつた。月鉾は『ウン』と一声断末魔の声と共に、其場に打倒れ失心状態になつて了つた。日楯は現在の弟は斯の通り、妻も亦瞬間に迫る生命、救ひたきは山々なれど、先づ八千代姫、照代姫を救ふこそ人たる者の行ふべき道ならむと決心し、あたりに落ち散つたる太き角杭を折るより早く、八千代姫、照代姫を呑みつつある大蛇に向つて、首筋あたりを力限りに打ち据えた。見れば大蛇の影も、女の姿もなく、只月鉾のみ足許に倒れて居た。 日楯『ハテ訝しや』 とあたりを見れば、白髪異様の老人、藜の杖をつき乍ら、木の茂みを分けてのそりのそりと近付いて来る。日楯は直に湖水の水を口に含み、月鉾の面上に注ぎかけた。月鉾は漸くにして正気に復り、あたりをキヨロキヨロ見廻して居る。月鉾の卒倒したのは、ユリコ姫其他二人の大蛇に呑まれたる姿を眺めて驚いた為である。 白髪異様の老人は二人に向ひ、微笑を浮べ乍ら、手招きしつつ老の身に似ず、雲を翔るが如く、向陽山の頂上目蒐けて足早に登り行く。二人は老人の後に従ひ、息を喘ませ乍ら、足の続く限り急ぎ登り行くのであつた。 老人の姿は早くも向陽山を包む白雲の中に消えて了つた。二人は一生懸命になつて一里計り登り行けば、ハタと突当つた大岩石がある。よくよく見れば此岩は鏡の如く日光に照り輝き、三人の女の姿が奥の方に歴然と映つて居る。三女は二人の姿を見て早く来れと手招きをして居る。其距離殆ど二百間計りであつた。兄弟二人は三人の側に行かうとしてあせれ共、鏡の如く透き通つた此岩も、入口は分らず、非常に気を揉んで居る。 ユリコ姫外二人は頻りに早く来れ……と差招く。兄弟は心をいらち、進み入らむとすれ共、硝子の如き岩に突当つて、入口がどう藻掻いても分らない。此時頭の上の方から『天津祝詞』……と云ふ声が聞えて来た。二人はハツと気がつき、直に拍手し、天津祝詞を声もすがすがしく奏上し始めた。 二人の身体は何者にか吸ひ込まるる様に、透明なる岩窟の中に自然に進み入つた。忽ち山嶽も崩るる計りの大音響聞え来ると見る間に、周囲一丈計りの黒色の大蛇、腹の鱗は血にただれ乍ら、十数匹、此岩窟に向つて勢猛く進み来り、兄弟を呑まむと、大口を開けて焦れども、入口の分らざる為、大蛇は外にて残念相に頭を並べて二男三女の姿を眺めて居る。 二男三女は心中に深く神徳を感謝し乍ら、尚も奥へ奥へと進み入る。際限もなき岩窟をもしや蛇の入口を探り、後より追ひ来らざるやと、稍恐ろしさに、知らず知らずに足は意外に早く運びて、終に岩窟の終点に着いた。茲には以前現はれし白髪異様の老人が厳然として立現はれ、一同に向ひ言葉おごそかに、 老人『われは当山を中心として琉、球の夫婦島を守護致す常楠仙人であるぞ。其方は父の難を救ひ且つ国王を始め、数多の人々の苦難を救はむ為に遥々此処に来ること、実に殊勝の至りである。汝等は之より一刻も早く此島を離れ、エルの港より船に乗り、照代姫、八千代姫と諸共に、キールの港に向つて立帰れよ。又汝に与ふべき神宝は、此岩窟の入口にあれば、身魂相応に其一個を所持して帰れよ。さらば』 と言つたきり、老人の姿は煙となつて消えて了つた。五人は爰に於て又もや天津祝詞を奏上し、元来し岩窟の入口に大蛇は帰りしかと気遣ひ乍ら、漸くにして入口を出で見れば、そこに二つの玉と三つの鏡が置いてある。これは最前襲ひ来りし大蛇の所持して居た宝であつたが、余り二男三女の姿を見て恋慕の念を起し、遂に此宝を知らず知らずに体内より脱出し帰つた後であつた。 日楯は日の色に因みたる赤玉を取り、月鉾は白き玉を拾ひ、ユリコ姫、八千代姫、照代姫は光り輝く大中小三個の鏡を各一面づつ拾ひ上げ、押戴いて、道々天の数歌を歌ひ乍ら向陽山を降り行く。 漸くにして大谷川の岸に着いた。さしもの急流容易に渡るべくも見えなかつた。ユリコ姫は大の鏡を懐中より取出し、川の面を照らした。不思議や大谷川の水は板にて堰き止めたる如く横に分かれて、一滴の水もなき道路がついた。二男三女は足早に川中を向うへ渡り後ふり返り見れば、大谷川は依然として激潭飛沫の大急流になつてゐる。これより一同は足を早めて、三日三夜の後エルの港に到着し、繋ぎおきし船に身を托し、日楯、月鉾二人は艪櫂を操り、荒れ狂ふ海原を難なく漕ぎ渡り、漸くキールの港に、夜半の頃安着した。 これより二男三女は一旦玉藻山の聖地に帰り、玉、鏡を安置して、日夜祈願をこらし竜世姫命の神勅の下るを待つて大活動を開始せむと、昼夜祈願を凝らして居た。 二男三女は璽鏡の神宝を手に入れ、意気揚々として、天嶺、泰嶺の聖地には立寄らず、中心霊場なる玉藻山の聖地に立帰り、残存せる誠実なる信徒に迎へられ、璽鏡の宝物を宮殿深く納め、無事凱旋の祝宴を開いた。 マリヤス姫はテーリン姫を伴ひ、嬉し相に此席に列し、二男三女の功績を口を極めて賞揚し、神前に祝意を表する為、自ら歌ひ自ら舞ひ始めた。其歌、 マリヤス姫『天運茲にめぐり来て枯れたる木にも花は咲く 尊き御代となりにけり神代の昔国治立尊は 豊葦原の瑞穂国中心地点と聞えたる 貴の都のエルサレムに無限絶対無始無終の 森羅万象を造り玉ひし天御中主大御神 又の御名は大国治立尊の大御神勅を受けまして 豊葦原の瑞穂国に天津御空の神国の 神の祭政を布かむとし心を千々に砕きつつ 洽く天地神人の身魂の為に尽されし 其神業も隙行く駒のいつしかに曲の猛びに遮られ 尊き御身を持ち乍ら此世を捨てて艮の 自転倒島の秀妻国国武彦と名を変へて 下津岩根の綾錦紅葉の色も紅の 明き神代を建てむとて宣る言霊の一二三つ 四尾の山に永久に五つの御霊を隠しまし 六七しく神代の来るをば待たせ玉ふぞ尊けれ 八千代の春の玉椿九つ花の咲き出でて 十の神代を築きあげ百千万の民草に 恵の露を垂れ玉ふ尊き御代を松の世の 神の心は永久に竜世の姫の鎮まりゐます 此神島に花森彦命を天降し玉ひ顕事 幽事をば真道彦命に依さし玉ひし神事は 千引の岩の動きなく常磐の松の色褪せず 茲に現はれ来りまし国治立大神の 計り玉ひし松の世も今や開くる世となりぬ 真道彦命は黒白も分かぬ窟上の 牢獄の中に投げ込まれ日夜に苦難を嘗め玉へ共 天の岩戸も時来れば忽ち開く世の習ひ 日月潭に現れませる日楯、月鉾両人が 誠心の現はれて御稜威も茲に照彦王の 神の教に導かれ向陽山に登りまし 神変不思議の神術を悟りましたる常楠仙人が 水も洩らさぬ計らひに竜の腮の玉、鏡 二男三女は恙なく身魂相応に授けられ 神徳光る日月潭の中に泛べる玉藻山の 聖地に帰り来ますこそ三五教の教の花の開け口 マリヤス姫も今日こそは心の底より勇み立ち 五の御魂の神人が御国の為に尽してし 誠心を褒め奉り称へ奉るぞ嬉しけれ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひをはり舞ひ終つて、元の座につきにけり。 (大正一一・八・九旧六・一七松村真澄録)
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(1943)
霊界物語 28_卯_台湾物語(日楯と月鉾) 15 願望成就 第一五章願望成就〔八一五〕 日楯は祝意を表する為、マリヤス姫に傚つて自ら歌ひ且つ自ら舞ひ始めた。 日楯『遠き神代の昔より尊き神の選みてし 高砂島の中心地雲に聳えた新高の 山の巽の神聖地日月潭の湖を 控へて清き玉藻山遠津御祖の真道彦命は 代毎々々に神定の此処に鎮まりましまして 尊き神の御教を四方の民草残りなく 教へ導き玉ひつつ父の命の御代になり 醜の教のバラモン教此神島に渡り来て 体主霊従の振舞を世人の頭に浸み込ませ 日に夜に曇る人心山河どよみ草木枯れ 四方の人々泣き叫び争ひ絶ゆる隙もなく 修羅の巷となり果てぬ父の命は今の世の 有様見るに忍びかね心を尽し身を尽し 誠の道を世の人に朝な夕なにこまごまと 諭し玉へど如何にせむ時の力は容赦なく 悪人栄え蔓りて善はますます凋落し 神の威徳も完全に現はれ玉はず今は早 御国の為に尽したる其真心が仇となり カールス王に疑はれ往来絶えたる岩窟上の 暗き牢獄に呻吟し果敢なき浮世を歎ちつつ 暮し玉へる悲しさに吾等兄弟両人は 烏羽玉の世を旭の豊栄昇るごと 照し清めて国民を塗炭の苦より救ひ出し 父の命の寃罪をすすぎまつりて孝養を 尽さむものと国魂神竜世の姫の神勅を いと厳かに被りてアーリス山を打渡り 須安の山の峰伝ひふみも慣らはぬ長の旅 千里の波を乗切りて弟月鉾、ユリコ姫 茲に三人は琉球の南の島に安着し サワラの都に進み入り三五教の神司 国王を兼ねたる照彦王や照子の姫に面会し 神政成就の神策をいと細やかに教へられ 大谷川を打渡り向陽山の岩窟に 進み進みて常楠の神の司の仙人に 玉や鏡を授けられ二男三女の五つ身魂 心も勇み身も軽く再び船を操りて 此神島に到着しやうやう此処に帰りけり あゝ惟神々々御霊の幸を蒙りて 吾等兄弟始めとしユリコの姫や八千代姫 曇る此世も照代姫奇き功績を現はして 父の命の永久に鎮まりゐませし霊場に 帰り来れる嬉しさは何に譬へむ物もなし あゝ尊しや神の恩仰ぐも畏き神の徳 いよいよ吾等は大神の大御守りを力とし 泰安城に立向ひ玉と鏡を手に持ちて 言霊戦を押開き魔神を残らず言向けて カールス王やヤーチン姫の珍の命を始めとし 恋しき父の生命をば救ひ奉らむ時は来ぬ 思へば嬉し神の恩仰げば高し神の徳 あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終つて座に着いた。月鉾は又もや立上り自ら歌ひ自ら舞ひ始めた。 月鉾『時世時節といひ乍ら父は牢獄に捕へられ 三五教の聖地なる玉藻の山に立向ひ 千代の住家と定めたる数多の神の取次も 父の命の遭難に心の生地を露はして 神に反いて逃げ帰り阿諛諂佞の限りを尽し カールス王に取入りて自己の利益や栄達を 謀る魔神と還りけり月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも二つなき身の生命をば 神の為には捧げむと口先計り華やかに 囀りゐたる百鳥の尻より糞を引つかけて 素知らぬ顔の曲業に無念の涙やるせなく 朝な夕なに国魂神の珍の御前にひれ伏して 祈る折りしも竜世姫いと厳かに現はれて 吾等二人に打向ひ汝はこれより琉球の 南の島に打渡りサワラの都の照彦王に 一日も早く面会し至治太平の神策を 授かり帰れと詳細と宣らせ玉ひし嬉しさに 兄の日楯やユリコ姫暗に紛れて聖地をば 密に立出で蓑笠の軽き扮装トボトボと 山路を伝ひてアーリスの峠にかかり路端の 巌に腰を打掛けて息を休むる折柄に 思掛けなきテーリン姫が蛇が蛙を狙ひし如く 執念深くも後追ひて大胆至極の一人旅 ヤツサモツサと恨み言百万ダラリと並べられ 困り切つたる最中に現はれ出でしマリヤス姫の 珍の命の御計らひ金剛杖を打ふりて 吾身体を滅多打木石ならぬ月鉾も 腹は切りに立騒ぎ悔し涙は雨の如 降り来れ共如何にせむ大事を抱へし今の身は 堪忍するより道なしと諦め居たる折柄に テーリン姫は忽ちにマリヤス姫の御腕に 力限りに噛りつき争ふ隙を窺ひて 吾等三人は逸早く暗に紛れて身をかくし 山の尾渉り谷を越えいろいろ雑多の苦みを 嘗めてやうやうキル港船を求めて波の上 琉球島に安着し竜世の姫の命の如 照彦夫婦や常楠の尊き神にめぐり会ひ 五つの宝を授かりて漸く茲に帰り来ぬ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 今日の生日の喜びは煎りたる豆に生花の 咲き匂ひたる思ひなり天津御神や国津神 国魂神の御恵未だ吾々兄弟を 見放し玉はぬ嬉しさよさらば是れより五つ身魂 水火を合せて泰安の都に進み言霊の 伊吹の征矢を放しつつ群がる魔神を言向けて 国治立大神の仕組ませ玉ひし五六七の世 堅磐常磐の松の世を千代万代に動ぎなく 建設せむは案の中マリヤス姫の計らひに テーリン姫はアーリスの山の尾の上の争ひを 漸く茲に納得し今迄時節を待居たる 其心根の健気さよさはさり乍らテーリン姫 妹背の契を今ここで結び了へむは易けれど 泰安城の一戦無事に凱旋する迄は 暫く待つて賜へかしあゝ惟神々々 竜世の姫の御前に固く御誓ひ奉る 必ず共にテーリン姫心を悩ます事勿れ』 と歌ひ了つた。テーリン姫は直に立上り、銀扇を拡げて、自ら歌ひ自ら舞うた。 テーリン姫『男心と秋の空猫の目玉と諸共に 変り易いと聞くからは如何なる固き御言葉も 妾は心安からず添はねばならぬ身魂なら 今でも将来でも同じこと美味い物なら先に食へ 世の諺もあるものを何れの人に気兼して 左様の事を仰有るか聞えませぬぞえ月鉾さま そんな気休め妾に云うて結構な玉を手に入れた 為にお前の心が変り田舎じみたるテーリン姫を 一生一代の女房に持つよりは泰安城に到りなば 桃や菫や桜花選り取り見取りのよい女房 勝手気儘に娶らむと先を見越してのお前の言葉 妾はどしても腑におちぬどうせ添うなら今の内 大事を抱へたお前の身の上無理に枕を交せとは 妾も野暮な女でない限り分らぬ事は云ひませぬ マリヤス姫の御前で二世も三世も夫婦ぞと キツパリ言うて下さんせお前の兄の日楯さま ユリコの姫と手を曳いて仲よう暮して厶るでないか お前は妾を邪魔者扱になさつて一人琉球の 島へお出でたばつかりに夫婦の中に只一つ 白い玉よりありはせぬお前の兄の日楯さま 夫婦揃うて神業にお勤めなさつた其おかげ 玉と鏡の夫婦事これでも分るでありませう あの時お前が此妾を御用に伴れて行つたなら 妾も結構な神業に加はり珍の御鏡を 貰うて帰つたに違ひない今度お前が泰安城へ 言霊戦に行くならば日楯夫婦と同じ様に 妾と結婚相済まし夫婦の水火を合せつつ 神の御用に立たうでないかこれ程妾が言わけて 言うても聞かぬお前ならヤツパリ今のお言葉は 嘘と言はれても仕方があるまい早く返答承はりませう あゝ惟神々々国魂神の竜世姫様 何卒々々今ここで夫婦の契を結ばせ玉へ テーリン姫が真心を捧げて祈り奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ了つた。月鉾は当惑顔を隠し、 月鉾『あゝテーリン姫様、あなたの御心はよく分りました。私もこれから千騎一騎の活動を致さねばなりませぬ。女房があつては、其為心を惹かれ、思ふ様の活動が出来ませぬから、どうぞ凱旋の後まで待つて下さい。キツト約束を履行致しませう。……マリヤス姫様、さう致しましたら、如何で厶いませうかな』 マリヤス姫『ヘイ……』 と言つた限り、黙然として俯むいてゐる。 テーリン姫『女房があつては気を惹かれて十分の働きが出来ぬとは、これは又妙な事を仰有いますな。女房があつて働きが出来ないのなら、世界の男は残らず未結婚で居る筈ぢやありませぬか。日楯さまでさへも、夫婦揃うて立派に御神業を御勤め遊ばしたぢやありませぬか。瓢箪鯰式に何とか彼んとか云つて、一時逃れに日を延ばし、妾を姥桜にして了ふ貴方の御考へでせう。何と仰有つても、妾は貴方の後を慕ひ戦場に向ひます。貴方と一緒に参り、チツとでも御邪魔になる様な事がありましたら、妾も女の端くれ、潔う喉を掻き切つて死んで見せませう』 月鉾『そんな事をさせともないから、凱旋の後まで待つて呉れと云ふのだ』 テーリン姫『それ程妾をヤクザの女とお見下げ遊ばして御座るのですか。妾だつてユリコ姫様のなさる事位は立派に勤めてお目にかけます。……コレコレ、マリヤス姫様、貴女は、アーリス山で妾に仰有つたぢや御座いませぬか。どうぞ早く結婚の取持をして下さいませ。此期に及んで躊躇なさるのはヤツパリ末になつて月鉾さまと情意投合なさるお考へでせう』 と妙な所へ鉾を向けて駄々を捏ね出した。マリヤス姫は是非なく思ひ切つた様に、 マリヤス姫『月鉾さま、是非此場で結婚の式を挙げて下さい。万一お聞き下さらねば、妾はテーリン姫様の疑惑を解く為、ここで自刃して相果てまする』 と早くも懐剣をスラリと引抜き決心の心を現はし、唇をビリビリ震はせ、顔色青ざめて、唯事ならぬ気配を示してゐる。 月鉾『ハイ、貴女の御意に従ひます。……テーリン姫様、そんなら今日から天下晴れての夫婦仲、どうぞ末長う御世話を頼みます』 テーリン姫飛び立つ許りに打喜び、 テーリン姫『マリヤス姫様、有難う、……月鉾さま、お前は立派な男、流石は真道彦様の御胤、私の観察は違はなかつた』 と狂気の如く喜び、直に神前に駆上つて、感謝の祝詞を奏上するのであつた。 マリヤス姫の媒酌にて芽出度く、月鉾、テーリン姫の結婚は行はれた。これより、マリヤス姫を首領とし、日、月夫婦を始め、八千代姫、照代姫の二男五女は、愈準備を整へ、泰安城へカールス王、ヤーチン姫、真道彦命其他を救ふべく出陣する事となつた。 (大正一一・八・九旧六・一七松村真澄録)
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(1956)
霊界物語 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 01 アリナの滝 第一章アリナの滝〔八二三〕 千早振る遠き神代の其昔支那、西蔵、印度の国 三国に跨る青雲の山に鎮まる八王神 神の心も澄み渡る神澄彦や八頭 吾妻彦[※青雲山の八頭神は「吾妻彦」であるが、この章では、御校正本・愛世版は「吾妻別」になっている。→「」を見よ]の神司黄金の玉を黄金の 宮に納めて玉守彦の神の司に守らせし 神世を造る珍宝ウラルの彦に狙はれて 遂に危くなりければ玉守彦を始めとし 朝日輝く吾妻彦玉を御輿に納めつつ 黄金山下に現れませる埴安彦や三葉彦 埴安姫の御許に送り来りて暫くは 宝の倉に納めつつ時の至るを待つ間に 黄金の玉は何時しかに唸りを立てて竜門の 玉と釜とに別れつつ頻りに不思議のありければ 埴安彦は神勅を伺ひまつり桶伏の 山に再び埋蔵し朝な夕なに村肝の 心を配り守り居る時しもあれやバラモンの 神の司の蜈蚣姫いろいろ雑多と計略 めぐらし遂に黄金の珍の宝を盗み出し 三国ケ岳の岩窟に納めゐたるを三五の 神の司の国依別や玉治別の一行に 玉の所在を嗅出され再び玉は桶伏の 山の麓に千木高く築きあがりし綾錦 貴の都に納まりて三五教の神司 高山彦の妻として仕へ奉りし黒姫に 玉の保管を命じつつ言依別の大教主 神の教を遠近に伝へゐませる時もあれ 日の出神の生宮と自ら名乗る高姫や 黒姫達の心意気甚だ怪しくなりければ 言依別は神前に進みて祝詞を奏上し 玉照彦や玉照姫の珍の命の手を通ふし 国治立の御前に請ひのみまつり伺へば 『高姫、黒姫両人の心の空は定まらず 又もや玉を呑み込みてウラナイ教を恢復し 此世を紊す虞あり言依別は今の間に 金剛不壊の如意宝珠紫色の宝玉や 黄金の玉を取出し私かに隠しおくべし』と いと厳かに宣り玉ふ。言依別は意を決し 高姫、黒姫両人が生命の綱と朝夕に 頼みて守る神宝を神の神言に従ひて 何時の間にかは取出し錦の宮の奥深く 納めおきしと知らずして松の根元に黒姫は 夜な夜な通ひて玉の番隠せし場所の何となく 心にかかり黒姫はソツと唐櫃を押開けて 中をつくづく眺むれば金光眩き宝玉は 空しく消えて玉無しの唐櫃の姿に仰天し 四尾の峰の山麓に薄き氷の張り詰めし 小池にザンブと飛込みて生命を棄てむとなしけるが 窺ひ寄つたる従僕のテーリスタンやカーリンス バサリと聞えた水音にコリヤ大変と玉の緒の 生命を的に厳寒の空をも厭はず池中に 飛び込み水底かひくぐり黒姫司を救ひあげ やうやう館に連れ帰り生命を助けた黒姫に 無理難題を浴びせられ困り入つたる折柄に 高姫司の耳に入り竜国別や鷹依姫の 神の司を始めとしテーリスタンやカーリンス 黒姫五人に打向ひ『黄金の玉の所在をば どこどこまでも捜し出し錦の宮に持帰り 其責任を果す迄再び聖地に帰るな』と いとも厳しき命令に涙を呑んで五人連れ 高山彦や黒姫は大海原に漂へる 一つ島なる竜宮へ玉の所在を探らむと 出で行く後に鷹依姫の神の司は竜国別の 神の命やテー、カーの三人を伴ひ高砂の テルの港に安着し南を指して進み行く。 あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ。 黒姫は私かに高山彦を伴ひ、竜宮の一つ島に黄金の玉の所在を探らむと、聖地を後に出で行きたることは、既に如意宝珠(酉の巻)に述べた通りである。 又テーリスタンやカーリンスは亜弗利加の筑紫洲へ、玉の所在を探すべく決心して、聖地を出発したるが、途中にてつくづく考ふるに、広袤数千里の筑紫の島に、一人や二人出かけた所で、雲を掴むよりも便りなき話と俄に心機一転し、鷹依姫、竜国別の後に従ひ、一行四人、運を天に任して、南米(高砂島)へ玉の所在を探らむと、数百日の間、海上をさまよひ、大小無数の島々を、残る隈なく探索し、漸くにしてテルの港に安着し、夫より一行四人は路を南に取り、昔猿世彦が狭依彦神となりて、三五教を開きたる旧跡、蛸取村の山奥、アリナの滝の上流、鏡の池の岩窟に巣を構へ、鷹依姫は岩窟の中に深く潜みて姿を隠し、竜国別は岩窟の外に庵を結び、日夜鏡の池の神勅を請うと称し、玉の所在を居乍らにして探るべく計画を立てたりける。 其方法はテーリスタンやカーリンスをテルの国や珍の国、ヒルの国、ハルまでも巡礼姿となつて巡回せしめ、……此度テルの国の鏡の池の岩窟に月照彦神現はれ給ひ、如何なる玉にても鏡の池に献上する者は、富貴を与へ長寿を守り、盗難、風難、水難、火難、剣の難まで免れしめ玉ふ。何人に依らず、玉を所持する人は一日も早く、アリナの滝の鏡の池に持参せば、福徳円満、子孫長久の基を開き、遂には天下の覇権を握る神徳を与へらるべし。特に黄金色の玉は、最も大神の喜び給ふ所なり……と両人は東西南北に手分けして宣伝に廻つた。 比較的質朴なる高砂島の人間は、テー、カーの宣伝を真に受け、玉らしき物は、先を争うて、遠き山坂を越え、遥々とアリナの滝の上流、鏡の池に持参し、神徳を蒙らむと参来集ふ者踵を接した。幾百とも知れぬ玉は一年ならずして集まつた。され共何れも珍らしき石の玉や、丸き団子石玉にて鷹依姫や竜国別の尋ね求むる黄金の玉は一つも集まらざりける。 時にヒルの国のアールと云ふ男、先祖代々より、神宝として秘蔵したる黄金色の玉を取出し、恭しく柳筥に納め、美はしき御輿を造り、里人に担がせ乍ら、数十旒の旗を押立て、法螺貝を吹き、磬盤を叩き、横笛、縦笛等にて、長き道中をねり歩き乍ら、アリナの滝の月照彦神に献上せむと、夜を日についで長途の旅をつづけ、漸く蛸取村に安着し、茲に暫し止まつて、七日七夜の御禊をなし、改めて祭服を着し、鏡の池に献上することとなりける。 テーリスタン、カーリンスは一わたり、高砂島の目星き地点を宣伝し終り、漸くアリナの滝に帰つて、竜国別、鷹依姫と共に、黄金の玉の集まり来ることを、指折り数へて待ちつつありき。 又鷹依姫は岩窟の奥深く身を忍び、竹筒を口に当て、ド拍子の抜けた声にて神示を伝へる生神様となり、竜国別は神勅を伺ふ審神者の職を勤め、国人をうまく誤魔化し、玉の収集に全力を尽してゐたり。 今日は朝から何人も来さうにないので、鷹依姫も気を許し、竜国別、テーリスタン、カーリンスと鏡の池の傍の庵に集まり、懇談会を開きゐたり。 鷹依姫『わしも年がよつてから聖地を離れ、はるばるとこんな遠いテルの国までやつて来て、窮屈な岩窟の中に身をかくし、虫には咬まれ、蟹には脛を挟まれ、いろいろと辛抱して、歯の抜けた口を無理にすぼめて、こんな重たい竹筒を吹かされ、丸つきり野師の様な所作をして、玉集めをせなきやならぬと思へば、いくら神界の為、世界の為とは言へ、情無うなつてきた。玉は山の如くに集まつたけれども、一つも黄金の玉は出て来ず、団子石に毛の生えた様な、ヤクザ石ばつかりで、目的の宝玉は一つも集まらず、……あゝヤツパリ此島には、黄金の玉は来て居らぬと見えまするワイ。わしも何時迄もこんな窮屈な真似は叶ひませぬから、一つ代つて貰つて、わしは外へ出て働かして貰はう。モ一度宣伝して見たら、集まつて来るかも知れぬ。人間は欲の皮が厚いから、黄金の登り竜、下り竜の現はれた、あのお宝は、有つても容易に手放しするものではない。それには一つ宣伝の方法を替へて、出す様に致さねばなりますまい。中には随分珍しい玉も集つてゐるが、どうも神政成就のお宝に比べては雲泥の相違だ。アヽすまじきものは宮仕へだ』 と太い息を漏して首を傾け、グニヤリとなる。 竜国別『お母アさま、お歎きは御尤もなれど、これ丈玉の多い高砂島、初まりは団子石の様な玉計り集まつて居つたが、段々と数は減つて来た代りに、一日々々立派な玉が此通り集まつて来ることを思へば、モウ暫く此処で御辛抱下さいませ。私が中へ這入つて、あなたは外で審神者の役をして貰ふのは易いことですが、何程竹筒を通して物を言つても、竜国別の声は熱心な信者が能く聞分けるであらうし、又今迄姿を見せた事のない、年寄りのお前さまが審神者となり、此竜国別の姿が見えなくなつたら、それこそ疑の種を播き、千仭の功を一簣に虧く様な事が出来ても詰りませぬから、モウ暫くの所、何程御窮屈でも御辛抱下さいませ。大蛇や猛獣の猛び狂ふ此山国や、大沙漠を渡る事を思へば、何程窮屈でも、穴の中で涼しい目をして、辛抱して下さる方が何程能いか分りませぬ』 鷹依『アヽそんなら、お前の言ふ通り、モウ暫く辛抱致して見ようかなア』 竜国『どうぞ御苦労ですが、暫く、さうして居つて下さいませ。キツト前途有望だと信じますから……。オイ、テーリスタン、お前も永々と御苦労だつたが、随分宣伝に骨が折れただらうなア。……カーリンス、お前も中々の骨折だつた。お前の往つた方も、テーの行つた方も、余程よく宣伝が行き渡つたと見えて随分、珍の国や、ヒルの国、カルの国あたりから、種々の玉を供へに来たよ。まだ一人も出て来ぬのは、ハルの国だ。ヒヨツとしたらハルの国にあるかも知れない。併しあの国はブラジル山と云ふ大きな山があり、アマゾン河と云ふ広大な流れがあつたり、大沙漠もあるから、何程熱心な者だとて、一寸此処までワザワザ玉を納めに来るものはなからう、モウ一寸辛抱しても来なかつたら、ハルの国へ宿替へして、モウ一芝居打たうぢやないか』 テー『さうですな、随分山の如く玉が集つて来ましたが、世の中には欲呆けや、迷信家が沢山あると見えますわい。アハヽヽヽ』 カー『身魂相応の玉を持つて来ると見えて、随分ヤクザ玉ばかり集つたものだ。高姫玉や黒姫玉、高山玉に杓子のお玉、狸の睾丸、瓢六玉、団子玉などは沢山集まつて来たが、肝腎の黄金の玉はまだ根つからお出で遊ばさぬ。何程毎日、あゝ惟神御玉幸はひましませ……とか、玉ちはひませ……とか云つて拝んでも、根つから神様は肝腎の御性念玉を集めては下さらず、わしも肝玉がひしげる様な恐い目にあうたり、睾丸が縮み上がる様な苦労をして、随分頭の脳味噌を絞つて見たが、タマで目的の黄金玉は集まり来らず、玉々黄色い色がして居ると思へば、土玉で、少しひねくつてをると砕けて了ふ様なフヌケ玉許り、これ丈苦労艱難しても玉の悪い奴許りより集つて来ぬかと思へば、わしも癇癪玉が破裂しさうだ。本当に遠い山坂や谷川を駆けめぐり、こんな張合のない事では、たまらぬぢやありませぬか。なア竜国別さま』 竜国『さう気投げをせずに、モウちつと辛抱して呉れ。チツとは結構なことが出て来るよ。黄金の玉を手に入れるが最後、俺達は聖地へ帰り、高姫の頑固者に頭を下げさせ、アツと云はして、天晴三五教の柱石となり、巾を利かして大神業に参加するのを楽みに、モウ暫く忍耐して、モウ一働き働いて呉れ』 カー『忍耐は幸福の母、鷹依姫は竜国別の母、瑞の御霊は世界の母だ。……母に別れて幼子が、遠き山路を打渉り、艱難して此処まで尋ね来たものを、聞えませぬと取り付いて、涙先立つ恨み声、チンチリチンぢや』 テー『コリヤコリヤ、そんな気楽な事所かい。チツと確りと智慧をめぐらし、モウ一活動やらねばならぬ、肝腎要の性念場だぞ』 斯く云ふ折しも、俄に聞ゆる縦笛、横笛、法螺貝、磬盤を叩く音頻りに聞え、『黄金の玉献上』と云ふ旗幾十となく木の間に見えつ隠れつ、翩翻として谷風に吹かれ乍ら登つて来る。 鷹依姫は竹筒を右手に握つたまま、慌だしく岩窟内に姿を隠した。竜国別は威儀を正して鏡の池の前に端坐し、両手を合せて天津祝詞を奏上してゐる。テー、カー両人は行儀よく竜国別の後に平伏して一生懸命に鏡の池を拝み居る。 (大正一一・八・一一旧六・一九松村真澄録)
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(1971)
霊界物語 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 16 波の響 第一六章波の響〔八三八〕 常彦が祝を兼ねたる佯らざる告白歌に励まされ、ヨブは立上がり、入信の祝歌を歌つた。 ヨブ『高天原と定まりし貴の聖地のエルサレム 国治立大神は三千世界を救はむと 神の御言を畏みて教を開き玉ひつつ 天地の律法制定し世は平安に治まりて 神人和楽の瑞祥を楽み玉ふも束の間の 隙行く駒の曲神に天の御柱国柱 転覆されて葦原の瑞穂の国の守護権 常世の国に生れたる曲の頭に渡しつつ 天教山の火坑より根底の国におりまして 忍びて此世を守ります其功績ぞ尊けれ 斯かる尊き皇神のいかで此儘根の国や 底の御国にましまさむ時節を待つて天教の 再び山に現はれて野立の彦と名を変じ 埴安彦と現れまして迷へる四方の人草を 安きに救ひ助けむと仁慈無限の心より 三五教を建設し神の司を四方の国 間配り玉ひて川の瀬や山の尾の上に至る迄 尊き御教を布き玉ふあゝ惟神々々 神の心を白波の天足彦や胞場姫が 罪より現れし醜神の醜の叫びに化されて 世人の心日に月に曇り行くこそ忌々しけれ 厳の御霊の大神は国武彦と現れまして 四尾の山の神峰に此世を忍び玉ひつつ 五六七の御世の経綸を行ひ玉ひ素盞嗚の 神尊の瑞御霊コーカス山や産土の 斎苑の館に現れまして八洲の国にわだかまる 八岐の大蛇や醜狐曲鬼共を言向けて 天地にさやる村雲を神の伊吹に払はむと 心を配らせ玉ひつつ言依別を現はして 自転倒島の中心地綾の高天と聞えたる 錦の宮に神司清き神務を命じつつ 世人を救ひ玉ひけり。旭日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 高砂島は亡ぶ共誠の神の御教に いかでか反きまつらむや大和田中に浮びたる カーリン島の神の御子ヨブは今より高姫が 清き心を諾なひて仮令野の末山の奥 虎狼や獅子大蛇如何なる曲津の棲処をも おめず臆せず道の為心を尽し身を尽し 皇大神や世の中の青人草の其為に 仕へまつらむ惟神神の恵の幸はひて ヨブが身魂を研き上げ尊き貴の御柱と 依さし玉へよ天津神国津神達八百万 国魂神の御前に謹み敬ひ願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終つて座に着いた。春彦は又もや歌ひ出したり。 春彦『綾の聖地を後にして変性男子の御系統 高姫さまに従ひて瀬戸内海を打渡り 南洋諸島を駆けめぐり如意の宝珠を探ねつつ 高砂島の手前まで小舟を操り来る折 隠れた岩に突当り当惑したるをりもあれ 高島丸に助けられ漸くテルの港まで 到着するや高姫は数多の船客かきわけて 先頭一に上陸し吾等二人をふりまいて 暗間の山の松林姿を隠し玉ひしが 綾の聖地に現れませる杢助さまに高姫の 監督役を命ぜられ居乍らのめのめ見失ひ 如何して言訳立つものか急げ急げと一散に 尻ひつからげ大地をばドンドン威喝させ乍ら 暗間の山の麓迄来りて様子を窺へば 高姫さまの独言常彦、春彦両人の 半鐘泥棒や蜥蜴面間抜男を伴うて 高砂島の人々に軽蔑されてはたまらない 何とか立派な国人を甘く操り弟子となし 千変万化の一芝居打つて見ようと水臭い 吾等二人を放棄して甘い事のみ考へる 其蔭言を灌木の茂みに隠れて聞き終り 余りに腹の立つままにガサガサガサと飛出せば 高姫さまの曰くには油断のならぬ世の中ぢや 仮令獣といひ乍ら今の秘密を聞きよつた 神の霊を授かりし四つ足なれば一言も 聞かれちや都合がチト悪い天に口あり壁に耳 謹むべきは口なりと後悔遊ばす可笑しさよ 常彦、春彦両人は足音隠して二三丁 山の麓に忍び足それから足音高めつつ テル[※校定版・八幡版では「ヒル」。オニペディアの「霊界物語第29巻の諸本相違点」を見よ]の国王のお側役私はカナン[※御校正本・愛世版では「アンナ」。オニペディアの「霊界物語第29巻の諸本相違点」を見よ]と申す者 暗間の山に如意宝珠隠してあると聞いた故 私は捜しに行きましたされど遅れた其為に 後の祭りと春彦[※御校正本・愛世版では「常彦」。オニペディアの「霊界物語第29巻の諸本相違点」を見よ]が声高々と話する そこで私はヒル[※校定版・八幡版では「テル」。オニペディアの「霊界物語第29巻の諸本相違点」を見よ]の国国王様のお側役 アンナ[※御校正本・愛世版では「カナン」。オニペディアの「霊界物語第29巻の諸本相違点」を見よ]と申す男ぞと八百長話を始むれば 猫が松魚節見た如うに高姫さまが飛びついて もうしもうし旅の人暫くお待ちなされませ 変性男子の系統で日の出神の生宮と 世に謳はれた高姫ぢやお前も中々偉い人 私の話を聞きなされ昔の昔の根本の 尊き因縁聞かさうとお婆アの癖に小娘の やうな優しい作り声吹出すように思へども ここで笑うては一大事大事の前の小事ぢやと 脇のあたりでキユーキユーと笑ひの神をしめつけて 足音低く高くして遥向うから後戻り して来たように作りなしどこの何方か知らね共 私に向つて何御用早く聞かして下されと 吾から可笑しい作り声流石の高姫嗅ぎつけて お前はアンナと云ふけれど半鐘泥棒の常彦だ カナンと名乗る蜥蜴面春彦さまにきまつたり 余り人を馬鹿にすな声を尖らし怒り出す 暴風襲来低気圧二百十日の風害も 来らむとする其時に私がアンナと云うたのは お筆先にもある通り神の仕組はアンナ者 こんな者になつたかと世界の人がビツクリし アフンとさせるお仕組ぢやカナンと云うて名乗つたは 春彦さまの平常は赤子のやうな人なれど 神が憑つた其時は誰でもカナン身魂ぢやと 言はして人を大道に導くお役と逆理窟 一本かましてやつたれば高姫さまは腹を立て 私等二人を振すてて又も逃げよとする故に 高島丸の船中で国依別に面会し 金剛不壊の如意宝珠其他珍の御宝を 拝見さして貰うたとカマをかけたら高姫が 玉にかけたら夢うつつ忽ち機嫌を直し出し ホンにお前は偉い人気の利く男と思うてゐた さうして如意の宝玉は国依別が如何したか 知らしてお呉れと云ふ故に此春彦は知らねども 狐のやうに常彦が眉毛に唾をつけ乍ら 三千世界の神宝は高砂島にコツソリと 言依別や国依の神の司が出て参り 何々々に何々し絶対秘密ぢや云はれない 国依別のお言葉にお前を男と見込んでの 肝腎要の秘密をば明かした上は高姫に 決して云ふちやならないぞ私も常彦宣伝使 言はぬと云つたらどこ迄も首がとれても云はないと 約束したから如何しても高姫さまには済まないが これ許りは御免だとキ常彦口から出任せに からかひまはす可笑しさよとうとう喧嘩に花が咲き 常彦私の両人は高姫さまを振すてて 今度は二人が逃げ出した高姫さまは驚いて 吾等二人を引捉へ玉の所在を白状させ 綾の聖地に持帰り日の出神の生宮の 天眼通は此通り皆さまこれから吾々の 言葉に反いちやならないと法螺吹き立てる御算段 そんな事には乗るものか三十六計奥の手を 最極端に発揮して雲を霞と駆け出せば 高姫さまは道の上の高い小石に躓いて 大地にバタリと打倒れ額を打破り膝挫き 生血を流してアイタタと頭を撫でたり膝坊主 押へて顔をしかめゐる此時四五の若者は どこともなしに出で来り高姫さまを介抱して 抱き起して助くればいつも変らぬ減らず口 結構なおかげをお前等は頂きなさつた神様に 御礼なされよ私にも御礼を仰有れ神の綱 私がかけて上げましたなどと又もや世迷言 玉の所在を知ると云ふ一人の男に騙されて アと云つては金一両リと聞いては金一両 ナーと云つては金取られ滝と云つては二両取られ 鏡の池と六つの口又もや六両はぎ取られ 呑み込み顔で高姫が吾々二人が路端に 憩ふ所をドシドシと肩肱いからし高姫は 日の出神の御告げにて玉の所在を知つた故 これから独り行く程に間抜男は来るでない 神の仕組の邪魔になる必ず従いて来てくれな 言葉を残してドンドンとテル国街道を走せて行く 吾等二人は高姫が後を追ひつつ駆出して 牛のお尻に衝突しヤツサモツサと争ひつ 牛童丸に横笛で首が飛ぶ程横ツ面 やられた時の其痛さ常彦さまが行つた事 私は傍杖くわされてあんなつまらぬ事はない 牛童丸に牛貰うて常彦さまは牛の背 私は綱を曳き乍ら小川を伝うて杉林 十間許り遡り高姫さまが他愛なく 休んで厶る其前に牛引つれて往て見れば モウモウモウと唸り出す其大声に目を醒まし 高姫さまはうるさがり又も二人を振棄てて アリナの滝に只一人玉を占領せむものと 行かうとしたので吾々はお前はアリナの滝の上 鏡の池に行くのだろ吾等二人は牛に乗り お前さまより二三日先にアリナへ到着し 玉を手にして帰ります左様ならばと立出づる 高姫さまは又しても猫撫声と早変り コレコレ常公春公へ私の心を知らぬのか 海山越えてはるばるとこんな所迄やつて来て お前に別れて如何ならう一緒に行かうぢやないかいと 相談かけて呉れた故モウモウモーさん帰んでよと 牛に向つて言霊を発射致せばアラ不思議 煙となつて消えにける夫れより三人手を引いて テルの街道ドシドシと大西洋を眺めつつ アリナの滝のほとりなる鏡の池に来て見れば 数千年の沈黙を破りて池はブクブクと 泡を立てたりウンウンと厭らし声にて唸り出す 高姫さまは玉どこか肝腎要の魂抜かれ 焼糞気味になりまして月照彦神さまと いろはにほへとちりぬるの四十八文字の掛合に 奴肝を抜かれて失心し人事不覚となられける 懸橋御殿の神司現はれまして高姫を 助け玉へば高姫は相も変らぬ憎い事 百万ダラリと並べ立て側に控えた吾々も 余り憎うて横ツ面擲つてやりたいよに思うた 夫程分らぬ度し太い高姫さまもどうしてか 櫟ケ原の真中で天教山に現れませる 木の花姫の御化身日の出姫の訓戒に 心の底から改心し虎と思うた高姫が サツパリ猫と早変りそれから段々おとなしく もの言ひさへも改まり誠に可愛うなつて来た 玉の湖水の畔にて椰子樹の森に夜を明かし 鷹依姫や竜国別の神の司やテー、カーの 姿を刻んだ石地蔵眺めて高姫手を合し コレコレ四人のお方さま此高姫が悪かつた どうぞ勘忍しておくれ黒姫さまの過ちを お前さま等に無理云うて綾の聖地を放り出し 苦労をかけたは済みませぬ罪亡しに今日からは お前等四人の姿をば刻んだ重たい此石を 背中に負うて自転倒の島迄大事に連れ帰り 祠を建てて奉斎し朝晩お給仕致します どうぞ許して下されと心の底から善心に 立返られた健気さよ余り早い変りよで 私も一寸疑うたアルの港で船に乗り 高姫さまが偽らぬ其告白に感歎し ヨブさま迄が驚いて高姫さまの弟子となり 入信されたお目出度さあゝ惟神々々 神の恵は目のあたりこんな嬉しい事はない 高姫様の御改心入信なされたヨブさまの 前途益々健全に渡らせ玉ひて神徳を 世界に照らし玉ふ日を指折数へ待ちまする あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 最後に高姫は改心と入信の悦びの歌を唄ひけり。 高姫『あゝ惟神々々尊き神の御恵に 常夜の暗も晴れわたり真如の月は村肝の 心の空に輝きて金毛九尾の曲神に すぐはれ居たる吾身魂今は漸く夢醒めて 曲津の神の影もなく神の賜ひし伊都能売の 霊の光輝きて心の悩みも消え失せぬ 旭は照る共曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも一旦改心した上は 身魂の此世にある限り天地に誓うて変らまじ 此高姫の改心が一日遅れて居つたなら 此船中でヨブさまに命取らるるとこだつた 変性男子の筆先に何よりかより改心が 一番結構と云うてある改心すれば其日から 敵もなければ苦労もない早く改心なされよと 幾度となく書いてあるあゝ改心か改心か 木の花姫の御言葉で始めて悟つた改心の 誠の味は此通り私を仇と狙うたる カーリン島のヨブさまが打つて変つて高姫を 師匠と仰いで入信し無事に此場の治まりし 其原因を尋ぬればヤツパリ私の改心ぢや 改心入信一時に善い事計りが降つて来た こんな嬉しい事はないさはさり乍ら海中に 陥り玉ひし四人連思へば思へばいぢらしい せめては霊を慰めて朝な夕なに奉斎し 叮嚀にお給仕致しませう鷹依姫や御一同 広き心に見直して私の罪を赦しませ あゝ惟神々々神の御前に慎みて 今日の慶び永久に感謝しまつり鷹依姫の 教の司や三人の冥福祈り奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 斯く歌ひ了りて、莞爾として座に着いた。船は三日三夜さ海上を逸走し、漸くゼムの港に安着した。高姫一行四人はここに上陸し、ゼムの町を二三里許り隔てたる天祥山の大瀑布に御禊をなすべく、意気揚々として、宣伝歌を歌ひ乍ら山深く進み入りにける。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・一二旧六・二〇松村真澄録)
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(1991)
霊界物語 30_巳_南米物語2 末子姫と言依別命の旅 12 マラソン競争 第一二章マラソン競争〔八五四〕 茲に末子姫は捨子姫、カール、春公、幾公、鷹公、石熊の一行と共に芽出たく巽の池の大蛇を言向け和し、解脱せしめ、池に向つて感謝の詞を述べ、向後決して此池に、従前の如き竜蛇神の棲居して、世人を苦めざる様と深く鎮魂を修し、災を封じおき、いよいよ珍の都に向つて進むこととなりにけり。 此時不思議にもカールの足の長短は何時の間にか両足相揃ひ、行歩極めて容易になつてゐた。されどカールは少しも気付かず、依然として跛の不具者と信じてゐるものの如くであつた。末子姫は天津祝詞を奏上し、天の数歌を歌ひ上げ、一同に向ひ、 末子姫『サア皆様、御苦労で御座いました。これからボツボツと参りませう』 と先に立つて進み行く。 石熊『モシモシ皆様!待つて下さい。どうしたものか、チツとも足が動かなくなりました。どうぞ鎮魂をして下さいませ。何だか締つけられる様で、仕方が御座いませぬ』 カール『もし、末子姫様、石熊の大将、足が立たないと云つてゐます。困つた者ですなア』 末子『イエイエ決して御心配には及びませぬ。キツと時節が参れば、立つ様になります……なア、カールさま、不言実行と云ふことを御存じですか?』 カール『ハイ、分りました。どうぞ、そんなら姫様、一足お先へお越し下さいませ。捨子姫様も御一緒に御願致します……オイ春、幾、鷹の三公、お前はお二人様のお伴して帰つて呉れ。俺は少し石熊の大将の足を直してから帰るから……』 春『オイ、カール、いい加減にしとかぬかい。余り今迄悪党なこと計りやつて来た酬いで神罰が当つたのだ。お前がどれ丈言霊が上手でも御祈りが立派でも駄目だよ。神様が御許しがなければ到底足が立つ筈がないワ。余り汚れた身魂だから、神様がウヅの聖地へ来ないようと、不動の金縛りをかけて御座るのだよ。いい加減に帰つたらどうだ』 カール『そんな訳に行くものか。人の難儀を見て、それを救はずに帰る様なことで、如何して神様の取次が出来るものか。何は兎もあれ姫様の御命令だ。グツグヅ云はずに早く姫様の御伴をして帰つて呉れ。すぐに俺は追ひ付くから……』 春『さうか、ソリヤ実に感心な心になつたものだなア』 と嘲る様に言ひ乍ら、二人の後に従ひ、ウヅの都をさして帰り行く。 後に二人は稍少時、水面に向つて暗祈黙祷を続けて居た。 カール『オイ石熊の大将!今迄俺はお前の弟子となつて、エライお世話になつたものだ。今日は其御恩返しと罪亡ぼしの為に、邪が非でもお前の足を直して、やらねばならぬ。如何しても足が立たなければ、俺が背中に負うてでもウヅの都へ連れて行く覚悟だからマア安心せよ』 石熊『ソリヤどうも有難い。苦労をかけて済まぬなア』 カール『世の中は相身互だ。さう病気も直らない内から礼を云つてくれると、如何云つて良いやら、俺も返答に困つて了ふ。マアゆつくりと気をしづめたが良からう。マア待て、俺が是から新規蒔直しの言霊を奏上するから、キツとお前の足が巽の池となるのは受合だ。さうなつたら二人手に手を取つて潔く宣伝歌を謡ひ、ウヅの都をさしてサツサと乾の池だよ。水も洩らさぬ二人の仲だ。池ないことは互に堤かくさず、打明けて、兄弟の如く親切を尽し合はうぢやないか。此池の様に水がタツプリ過ぎて、水臭い交際は最早改めねばならないよ。サア是から一つカールさまの生言霊だ。マアそこへ足をニヨツと出せ。一つ鎮魂を御願してやらう。さうして言霊歌を奏上することにせう。笑ふなよ!』 石熊『勿体ない、祈念をして貰つて笑ふ奴があるものか。併し乍ら病気が直つたら、余り嬉しくて、笑ひ泣きをするかも知れないから、夫丈は前以てお断りをしておく』 カール『嬉し笑ひなら、ドツサリ笑つて呉れ。俺も手を拍つて嬉し笑ひをするからなア』 石熊は池の畔の芝生の上に足をヌツと揃へ、突出してゐる。カールは例に依り、叮嚀に大腿骨の辺りから爪先まで、天の数歌を謡ひ乍ら、幾回となく撫でおろし、そろそろ祈願の歌を謡ひ始めた。其歌、 カール『天津神様八百万国津神様八百万 此奴は余り悪が過ぎた故最早運命は月照彦の 神様どうぞ此足をカールに直して下さんせ 高砂島を守ります生国魂の神様よ 石熊さまの両足が一時も早く竜世姫 立つて踊つてシヤンシヤンとウヅの国へと喜んで 勇んで参ります様にお守りなさつて下さりませい 一時も早く此躄巽の池の竜神の 罪はほどけて天上に立帰りました其如く 忽ち平癒さしてたべ腰から上はどうもない なぜ此足が悪いだろヤツパリあしき事をした 深いめぐりが来たのだろ悪きを払うて助け玉へ 転輪王ではなけれ共天にまします神様よ 地にまします神様よカールが代つて御願 完美に委曲にきこし召し早く助けて下さりませい 私もこんな男をば連れにするのは厭なれど 旅は道伴れ世は情神の戒め恐い故 せうことなさに介抱するオツトドツコイ石熊さま これは私の冗談だ瓢箪からは駒が出る 冗談からは隙が出る灰吹きからは蛇アが出る 一時も早く石熊に憑依致した悪霊が 出る様に守つて下さんせ此奴の体に這入つた以上 キツと入口あるであろ出口の神さま一時も 早く追ひ出し下さんせ百人一首ぢやなけれ共 足を痛めた足引の山鳥の尾のしだり尾の 長々しくも何時迄も斯うしてゐては堪らない どうで罪をば重ねた男御無礼の数々いつとなく 尽しましたで御座いませうお腹の立つのは尤もぢや 併し神様私の願を容れて腹立てず 足の立つよにしてお呉れ夜明けに立つは○○ぢや 親と一度に生れたる伜は見ん事立つなれど 此奴の足はどうしてか容易に立たうと致さない 如何なる罪があらうとも今度計りはお助けを たつて御願申しますこりや又不思議何時の間に 俺の一方の長い足誰が盗んで帰んだのか いつの間にやら両足が高低なしに揃うてゐる かうなる上は俺とても採長補短の融通は コレから利かすこた出来ぬいやまて暫し待てしばし そんな不足は云はれないこれも尊き神様が 一方の足を縮めたか但は一方を伸ばしたか 何ぢや知らぬが嬉しいぞ心もカールなつて来た 石熊さまよ!これ見やれ誠が天地に通じたら 一生病のド跛もいつの間にやら神さまが 頼みもせぬのに気を利かしチヤンと直して下さつた お前の足は真直に長い短いない足だ こんな所で腰ぬかし立つも立たぬもあるものか 気を引立てて立つてみよ三五教の御教に 経と緯との御仕組艮鬼門金神の 気勘に叶うたことなれば錦の綾の機をあげ 天晴れ神の太柱下つ岩根に立て通し 上つ岩根につきこらし信仰の徳をつむならば どんな悪魔もたてつかぬ立てよ立て立て早く立て 立てと云うたら立たぬかいお前は余程腰抜だ 巽の池の竜神のあの勢に辟易し 肝玉つぶして腰をぬきアタ恥かしい荒男 腰をぬかして何とする俺のぬかすは口計り 何時もグヅグヅ吐す奴黙つて居れよと何時の日か 俺を叱つたことがあろあゝ惟神々々 叶はぬなれば立あがれ性のよくない此病 耆婆扁鵲が現はれて忽ち直して呉れまいか 俺の言霊立所に御兆候がなければならぬ筈 恥し乍ら是程に言霊車を運転し きばつて見れどまだ立たぬ立つた立つた立つた立つたラツパ節 法螺貝吹いた其酬いこんな憂目に合ふのだろ 竜世の姫の神さまよお前の水火に生れた子 なぜに立たして下さらぬ私は痛うも痒ゆもない さは去り乍ら心の中はホンに歯痒い痛ましい いたつて口のやかましい此石熊も今は早 往生致して居りまする最早慢心致すまい 改心記念に今一度足が立つよに頼みます 衝き立つ船戸の神様の御名を負へる此杖を 力にチヨツと立つて見よあゝ惟神々々 どうして是程お前の病しぶとう直らぬ事だらう 末子の姫の御一行立つて行かれた其跡で 気が気でならぬ二人連れ神さまたつて頼みます オイオイ石熊立つて見よ立つて立てない事はない お前の心を引立てて誠の道を立て通し 猜疑の心を絶つならばキツと此足立つだらう たつからお前を眺めても横から見ても気にくはぬ ハラの立つよなスタイルだこれでは役に立つまいぞ ヤレ立てソラ立て早う立てドツコイドツコイドツコイシヨ 転けつ輾びつ気を引立つてカールの後に跟いて来い 最早俺さまは立つ程に石熊さまよ御ゆつくり そこで御隠居なされませお腹が立つかは知らね共 立たねばならぬ此場合早く帰りて姫様の お役に立つが俺の役サアサア行かうサア行かう ドツコイドツコイドツコイシヨウントコ立つたり石熊さま 気張つて立つたり石熊さま左のお足を一寸屈め 右の御足を一寸屈め神さま力に立つて見よ 立つに立たれぬことはない心一つの持様だ さらばさらば』と立帰る後に石熊只一人 石熊『オイオイカール待つて呉れ俺達一人をこんな所に 捨てておくのは胴欲ぢやこんな無情な事されて 腹が立たずにおかうかい腹が立たずに済むものか 残念至極思ひ知れ』無念の歯がみし乍らも 怒りにまぎれて両足の痛を忘れて立上がり 『コラコラカール一寸待て貴様は誠に済まぬ奴 コレから素首引抜いて命を取らねばおかうか』と 尻ひつからげドンドンとカールの後を追うて行く。 あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて カールの願も竜世姫完美に委曲に聞し召し 助け玉ひし有難さ足の立つたる石熊は 始めて天地の神徳を悟ると共に逃て行く カールの心を能く悟り忽ち両手を合せつつ 『コレコレカール待つて呉れお前のおかげで立ちました 忽ち神徳現はれて俺の体は此通り 決してお前を恨まない一口お前に追ひついて 今の御礼が申したいたつて頼みぢや待つて呉れ』 声を限りにドンドンと後おつかけて走り行く カールは後を振返り カール『ここまで厶れ早厶れ甘酒飲まして上げませう ウヅの都に末子姫捨子の姫の両人が 首を伸して待つて御座るお前の様なヒヨツトコに 話する間があるものか用があるなら従いて来い ウヅの都でトツクリとお前の合点が行く様に 詳しう説明してやらうあゝ惟神々々 御霊幸はひましませ』と二人はマラソン競争の 決勝点を競ふよに大地を威喝させ乍ら 阿修羅の荒たる勢で進み行くこそ勇ましき。 これぞカールが大神に教へられたる神策を 実地に活用致したる千変万化の働きぞ いよいよ茲に両人はウヅの都に安着し 互に胸を打割つて慈愛の神の御心を 涙と共に語り合ひ感謝するこそ畏けれ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ。 (大正一一・八・一五旧六・二三松村真澄録)
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(2034)
霊界物語 31_午_南米物語3 国依別の旅 25 会合 第二五章会合〔八九一〕 国依別は安彦、宗彦両人と共に、樹木鬱蒼たる森林を越え、谷を渉り、小山を幾つか越えて、漸くに屏風山脈の最高所と聞えたる帽子ケ岳の頂上に登りつき、秋山別、モリス両人の此処に来り会するを待ちつつ、榧の木の根元に神言を奏上し乍ら待合せ居たりけり。 此時山の背後より宣伝歌の声聞え来たれり。 (言依別命)『神が表に現はれて善と悪とを立わける 此世を造り玉ひたる国治立大神は 豊国姫と諸共に豊葦原の瑞穂国 青人草を始めとし鳥獣や魚に虫 草の片葉に至るまで生たる命を与へつつ 各其処を得せしめて此世に清く美はしく 茂らせ玉ふ有難ささは去り乍らブラジルの 此神国は広くして高山三方に立ちめぐり 東に荒波狂ひ立つ大海原を控へたる 人跡稀なる国なれば酷の曲津は各自に 先を争ひ寄り来りアマゾン河を始めとし 時雨の森に集まりて牙を光らせ爪を研ぎ 時々山を乗り越えてアルゼンチンやテルの国 ヒル、カル其他の国々へ現はれ来り曲の業 青人草の安全を破りて此世を脅かす 其曲神を三五の清き御水火に言向けて 天が下には鬼もなく醜の大蛇や曲神の 影をば絶ちて千早振る神の依さしの神業に 清めむものと葦原の中津御国を後にして 荒波猛る海原を国依別と諸共に 進み進みてテルの国テル山峠を乗越えて 神素盞嗚大神の八人乙女の末子姫 鎮まりゐますウズ国の神の都に現はれて 暫し蹕を止めしが神素盞嗚大神は はるばる浪路を打わたりイソの館を後にして 珍の御霊の宇都の国現はれ来り宣たまはく 一日も早くアマゾンの河に沿ひたる森林に 汝言依別神二三の伴を引連れて 進めや進め早進め屏風の如く南北に 立ち並びたる青垣の大山脈の最高地 帽子ケ岳に国依別の教の司の一行が 来りて汝を待つならむ此神言を畏みて 数多の月日を閲しつつ山野を渡り川を越え 漸く此処に来りけりあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして国依別に巡り会ひ 力を合せ村肝の心を一つに固めつつ 神の依さしの神業に仕へ奉りてアマゾンの 時雨の森に迷ひたる鷹依姫の一行や 高姫、常彦、春彦の危難を救ひ森林に 蟠まりたる悪神を伊吹の狭霧に吹き散らし 生言霊の神力に悪魔を善に宣り直し 言向和し一日も早く神業成し遂げて 神素盞嗚大神の御前に復命させ玉へ 旭はてるとも曇るとも月はみつともかくるとも 時雨の森の悪神はいかに勢猛くとも 厳の御霊の大神が依さしの言をどこ迄も 楯に飽く迄戦はむあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 帽子ケ岳の東方を登り来る宣伝使は、此歌に現はれたる言依別命の一行にぞありける。 国依別は此宣伝歌を聞いて、大に喜び、百万の援軍を得たる如き心地して、襟を正して待ち居たり。安彦は嬉しげに、 安彦『宣伝使様、今の宣伝歌は何とも知れぬ清涼な言霊で、大変な強味のある音声では御座いませぬか。此様な高山へ三五教の宣伝使が出て来うとは夢にも思ひませぬが、誰がやつて来るのでせうかなア』 国依別『誰だかチツとも分らぬが、大方神様が御越しになるのだらう。サー行儀よくして、ここに坐つて、御迎へしたがよからうぞ』 安彦『ハイ、畏まりました。併乍ら、秋山別、モリスの両人は大変に遅いぢやありませぬか。大方一昨日の烈風に吹きまくられて、どつかへ散つて了つたのぢや御座いますまいかな。実に案じられた者です。宣伝使様は如何御考へなさいますか』 国依別『あの二人はまだ十分の改心が出来てゐないから、故意とに南の谷を登らせたのだよ。キツといろいろの神様の試練に会うて魂を研き、立派な人間になつて、ここへやつて来るから、お前達二人も余程しつかりせないと、恥しいことが出て来るよ』 宗彦『しつかりせいと仰有つても宗彦は、是以上如何したらよいのですか。あれ丈猛獣の声が聞えても、又襲来されても、レコード破りの大風が吹いてもビリともせず、一生懸命に御神力に依つて胴をすゑて来た吾々ぢや御座いませぬか』 国依別『まだどこやらに、胴のすわらない所が、国依別の目から見れば沢山あるよ。これから時雨の森へ行かねばならぬが、あれ位の事が何ともなかつたと云つて、自慢をするやうな事では、到底、ドエライ奴に出会した時には、怺へ切れないやうなことが出て来るよ。お前が胴をすゑて居つたといふのも、吾々が居つたからだよ。単独であの坂を越えて、胴が据わつてをつたなら、モウ大丈夫だが、三人の真中に立つて、やうやうここまでやつて来たお前の腕前、案じられたものだよ』 と話して居る折しも、モリスは秋山別の手を引いて漸く此処に登り来り、国依別の一行を見るや、余りの嬉しさに嗚咽涕泣久しうし、漸くに口を開いて、 モリス、秋山別『国依別様、誠に有難う御座いました。南の谷間を、汝等両人通つて行け……と仰せられた時は、何とも云へぬ淋みしさを感じ、又幾分か貴方を恨ンで居りましたが、イヤ実に結構なお神徳を頂きまして、始めて、神様や貴方の御仁慈の御心が分りました。吾々両人は未だ身魂に曇が多く、到底アマゾン河の言霊戦に参加する資格は御座りませなかつたが、どうやら、斯うやら、やツと及第点を得られた様な感じが致します。今更めて厚く感謝し奉ります』 と両人は土の上に手をついて、嬉し涙にくれてゐる。 宣伝歌の声は追々近付きしと見る間に、言依別命は先頭に、二三人の伴人と共に、国依別が端坐し待ち居たる榧の大木の側近く進み来る。 是より言依別命、国依別の両将はここを策源地となし、いよいよ時雨の森の魔神に対し、言向戦を開始することとはなりぬ。此物語は紙面の都合に依り、未の巻に口述する事とせり。 惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二〇旧六・二八松村真澄録) (昭和九・一二・一九於北陸路王仁校正)
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(2035)
霊界物語 31_午_南米物語3 国依別の旅 余白歌 余白歌 かたく氷りし深山の雪も そよと吹き来る春風に 誘はれながら溶け初めぬ とけて流れて谷川の 同じ水とぞなりにけり 流れ流れて末遠く 野初の草葉をひたし行く ○ 草は根本を露はされ 風にさそわれ延び始む 風と水とは草むらを 繁らす種となりにけむ 耳根にすだくあの虫も ここを宿とやひそむらむ ○ 溶ける氷と春風は 草と虫との始めなり 結びし霜と秋風は 草と虫との終はりなり 廻りめぐりて幾千代も 同じことをば繰り返す〈序歌〉 我身をばキリストなりと崇めつつ生命捨てむと言ふ人ぞ憂し〈第3章〉 教主を崇むるために皇神の光忘るる転きまめ人よ〈第4章〉 吾が作と思へど可笑さ堪へがてに吹き出だしたり校正しながら〈第9章〉 まめ人の神を忘れて只吾をあがむることの如何に苦しき〈第10章〉 求むべきものを求めず只吾に権威を強ゆる人恐ろしも〈第11章〉 熱烈な信仰はげむ人の中に吾を誤る曲ぞ沢なる〈第13章〉 厳御魂より尊しと狂ひたる人の言葉を聞くはうれたき〈第13章〉 現し世の身の救ひのみに憧憬れて御霊の幸を知らぬ人あり〈第14章〉 精霊の世界を救ふ神の使をこの世の神と見るはうたてき〈第14章〉 古のエスキリストも嘗めましきその苦しみを吾に見るかな〈第15章〉 熱信な御弟子のために苦しみし神の独り子吾に似たるも〈第15章〉 吾が持てる心の誠を知らずしてあらぬこといふ人のうたてさ〈第15章(三版)〉 神のため大君のため国のため尽くすわが身に二心あるべき〈第18章〉 神の御名を世界に広く現はして永久に生きなむ律に死すとも〈第19章〉 心せまき教を御子に囲まれて身動きならぬ吾が身なるかな〈第19章〉 古の神代の奇しき物語に朝夕吾は御魂を砕きつ〈第20章〉 心血も涸れなむとす骨も肉も砕けなむとす物語して〈第20章〉 朝夕に吾を敬ひ愛しつつ吾をそこなふ人の多かり〈第21章〉 より以上吾が力量を過信して吾が霊体まで破る人あり〈第21章〉 今は早身も霊魂も疲れ果てぬ教の御子の脱線おもひて〈第22章〉 父上とすがる吾が子の言の葉に振り返りては又も笑ひぬ〈第22章〉 神国の元の姿に還さむと思ふ夕べに啼きわたる雁〈第22章(三版)〉 幼児の舌もまはらぬ言の葉に愛はますます高まりけるかも〈第23章〉 抱きたる幼き児ろを眠らせて寝させて頬に吸ひつきて見し〈第23章〉 静かなる夜なりと外をながむれば尾の上の雪に月はさしをり〈第24章〉 君見むと今宵も宿を出で行けば寒月ふるひ吾を見守る〈第24章〉 暖かき母が慈愛に涙しつ今朝も急ぎぬ神の御前に〈第25章〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました]
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 17 悔悟の歌 第一七章悔悟の歌〔九〇八〕 松若彦は銀扇を拡げて、自ら歌ひ自ら舞ひ祝意を表しぬ。其歌、 松若彦『珍の都の神司時めき給ふ桃上彦の 神の命のみまつりを麻柱ひまつりし吾父の 後を襲ひて神館心を清め身を浄め 謹み守り来る折天の八重雲かき分けて 天降りましたる末子姫捨子の姫と諸共に これの聖地に来りまし神の教を遠近に 開き給ひて国人に恵の露を隈もなく 与へ給ひし尊さよ松若彦は素盞嗚の 神の尊の貴の御子末子の姫に朝夕に 仕へまつりて三五の教に侍らふ折柄に 言依別の神司自転倒島の中心地 高天の原より降りまし神の教はますますに 茂り栄えて木の花の一度に匂ふ如くなり かかる例しは古より夢にも聞かぬ瑞祥の 光は清く日月と御稜威を争ひ給ひつつ 再び降り来ります神素盞嗚大神の 清き御姿畏くも拝みまつりし嬉しさよ 松若彦は云ふも更百の司を始めとし 四方の国人喜びて御徳を慕ひまつりつつ 鼓腹撃壤の神の世を寿ぎまつる折柄に アマゾン河の曲神を神の教に言向けて 帰り来ませる言依別の瑞の命の一行を 目出度く迎へ奉り枯木に花の咲く如く 灸りし豆に紫の花咲き出でし如くなる 千代の歓び永久の春の楽み末永く 高砂島の永久にあらむ限りは忘れまじ あゝ惟神々々神の御水火の幸はひて 末子の姫の守りますアルゼンチンの神国は 大三災の憂ひなく小三災の曲もなく いや永久に松の世の五六七の神の御恵に うるはせ給へ惟神神の御前に千歳経る 松若彦が謹みて心の丈を立直し ひたすら念じ奉る只管祈り奉る あゝ惟神々々御霊の幸を賜へかし』 と歌ひ終り、蒼惶として一同に拝礼し、又もや奥殿に姿を隠しぬ。 鷹依姫は銀扇を開き、自ら歌ひ自ら舞ひ祝意を表する。其歌、 鷹依姫『豊葦原の中津国メソポタミヤの顕恩郷 バラモン教の本山に大国彦を奉斎し バラモン教を開きたる鬼雲彦に従ひて 教を四方に伝へつつ自転倒島に渡り来て 高春山の岩窟に又もやアルプス教を立て テーリスタンやカーリンス百の司を呼び集へ 紫色の宝玉を斎きまつれる折柄に 三五教の神司高姫、黒姫両人が 天の鳥船空高く轟かせつつ出で来り 給ひし折を奇貨として手段をめぐらし岩窟の 中に押し込めゐたる折玉治別や杢助が 国依別や竜国別を先頭に立てて出で来り 年端も行かぬ愛娘初稚姫の言霊に 厳しく打たれアルプスの教を棄てて三五の 神の教に服従ひつ竜国別は吾子ぞと 悟りし時の嬉しさよ綾の聖地に送られて 錦の宮に朝夕に謹み仕へ居たりしが 黄金の玉の保管役托されゐたる黒姫が 思はず玉を紛失しヤツサモツサの最中に 高姫司が現はれて思ひもよらぬ御難題 黒姫さまを始めとし鷹依姫は竜国別の 教司を伴ひて尊き聖地を立ちはなれ テーリスタンやカーリンス五つの身魂は名自に 黄金の玉の在処をばあく迄捜し求めむと 大海原を打渡り竜宮島や常世国 高砂島の果て迄もさまよひ巡りて探ぬれど 探ぬる由もなき寝入りアリナの滝に現はれて 四方の国より種々の大小無数の品玉を 手段を以て呼び集め時を待ちつつありけるが テーナの里より黄金の貴の御玉の納まりて ヤツト心を治めつつ黄金の玉を逸早く 錦の袋に納め込み一行四人は烏羽玉の 暗に紛れてアリナ山漸くわたりてウヅの国 荒野ケ原に来て見れば木の花姫の化身なる 神に出会ひて村肝の心の駒を立直し 広袤千里の大原野辿りてアルの港まで 駒を進むる膝栗毛折柄出で来る帆船に 身を任せつつ海原を渡る折しも過ちて 一度は海に陥落し大道別の分霊 琴平別の化身なる八尋の亀に救はれて ゼムの港に上陸し天祥山を乗越えて チンの港やアマゾンの河瀬を舟にて上りつめ 時雨の森の南側兎の王の都なる 珍の聖地に安着し月の大神まつりたる 清き湖水をめぐらせる霊地に足を止めつつ 数多の猛き獣を神の御水火の言霊に 言向け和しアマゾンの兎の司と成りをへて 恵のつゆを隈もなくうるほし与ふる折柄に アマゾン河を打渡り探ね来ませる高姫が 一行八人と諸共に不思議の再会祝ふ折 帽子ケ岳のあなたより無限の霊光発射して 霊を照らし給ひけり是より一同勇み立ち アマゾン河に立出でて醜の魔神を征服し 神の恵に言向けて一行喜び勇みたち 十二柱の神の子は不思議の霊光探ねつつ 帽子ケ岳によぢ登り言依別の瑞御霊 国依別と諸共に無事の凱旋ことほぎて 天地の神に太祝詞となへ了りて一行は 山野を渉り坂を攀ぢ清き流れの谷を越え 深き恵もアルゼンチンのウヅの都に恙なく 凱旋したる嬉しさよウヅの館に来てみれば 神素盞嗚大神や八人乙女の貴の子と 生れ出でませる末子姫松若彦と諸共に 神の尊き御教を世人に広く伝へつつ 鎮まりいます尊さよ心にかかる村雲も 拭ふが如く晴れわたり真如の日月心天に 輝き給ひて三五の誠を悟り一同が 皇大神の御前に額づきまつる今日の幸 あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 国治立大神や豊国姫大神の 仕組み給ひし松の世の錦の機の神業に 仕へまつりて天地の貴の御子と生れたる 清き務めを永久に尽させ給へ惟神 神の御前に願ぎまつり今日の喜び心安く 神の御前に祝ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終りて、座に着き、一同に向つて、叮嚀に挨拶をする。 次に高姫は金扇を開いて、自ら歌ひ自ら舞ふ。其歌、 高姫『われは高姫神司フサの国なる北山の 隠れし里に神館造り設けてウラナイの 神の教を立てながら瑞の御霊の大神の 御心疑ひ怪しみていろいろ雑多と気をいらち 国治立大神の経の教を主となし 緯の教をことごとく損ひ破り松の世の 五六七の神世を来さむと思ひし事も水の泡 瑞の御霊の真心を取違ひたる愚かさに 前非を悔いて三五の神の教に立帰り 変性男子の御教や変性女子の教をば 経と緯とに織りなして尊き神の神業に 仕へまつりし折柄に金剛不壊の如意宝珠 紫色の宝玉を失ひ心は顛倒し あらゆる島根をまぎ求め遂には竜宮の一つ島 地恩の郷迄あらはれて心を砕き身をくだき 捜しまはれど影さへも波の上渡り自転倒の 又もや島に立帰り執念深くもさまざまと 再び玉の行方をば捜し求むる時も時 竜宮島より現はれし玉依姫の御宝 天火水地と結びたる青赤白黄紫の 麻邇の宝珠の点検に又もや不審を起しつつ 言依別の後を追ひ高砂島に来て見れば 鏡の池の片畔架橋御殿に黄金の 玉は更なり如意宝珠紫玉や麻邇の玉 隠しあらむと気をひがみいろいろ雑多と争ひつ 常彦、春彦伴ひてテルとウヅとの国境 アリナの山を乗越えて荒野ケ原に来て見れば ポプラの上にブラブラと黄金の玉は輝きぬ 天の与へと雀躍し喜び勇む折もあれ 木の花姫の御化身日の出姫の現はれて 天地の道理をこまごまと教へ給ひし嬉しさに いよいよ迷ひの夢醒めて執着心を脱却し 荒野を渡り河を越え湖水をめぐりて漸うと アルの港に安着し折柄来る帆船に 乗りて海原渡る折ふとした事より船中の ヨブの真人に巡り会ひ師弟の約を結びつつ ゼムの港に上陸し天祥山やチン港 アマゾン河を横ぎりて時雨の森の北野原 鷹依姫の在処をば探ねてさまよひゐたりしが さも恐ろしきモールバンド勢猛く攻め来り 命からがら常磐樹の梢に難を避けながら 天津祝詞を奏上し厳の言霊宣る折に 秋山別を始めとしモリス、安彦、宗彦が 三五教の宣伝歌声も涼しく歌ひつつ 此方に向つて進み来る時しもあれや西北の 雲押分けて光り来る琉と球との霊光に モールバンドは驚きてスゴスゴ逃げ出す嬉しさよ 茲に一行八人は無事の奇遇を祝しつつ アマゾン河の岸の辺に森林分けて辿りつき 鰐の架橋打渡り南の森に現れませる 鷹依姫や竜国別の珍の住家に立向ひ ここに一行再会を祝し合ひつつ大神の 御前に祝詞を奏上し虎狼や獅子に熊 其外数多の禽獣に稜威の律法制定し 固く守らせおきながら再び岸辺に立出でて モールバンドやエルバンドさしもに猛き曲神を 言向け和し十二人琉と球との霊光を 目当てに進み帰り来る心の駒の勇ましさ 言依別や国依別の貴の命に迎へられ 感謝祈願も胸の中嬉し涙に暮れながら 一行ここに十八の神の司は勇み立ち 夜を日についでウヅの国これの館に立向ひ 数多の人に迎へられ八尋の殿に来て見れば 五六七の神世の救主神素盞嗚大神や 貴の御子なる末子姫その他数多の神司 天つ御空の星の如居並び給ふ尊さよ あゝ惟神々々神の恵を蒙りて 心曇りし高姫も真如の月日に照されて 身魂も清き増鏡伊照り輝く身となりぬ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令天地は覆るとも天津御空に日月の 輝く限り大神の深き恵みは忘れまじ 尊き神の御教を朝な夕なに麻柱ひて 今迄犯せし罪科を悔い改めて惟神 尊き神の御前に功を立てむ永久に 松の五六七の末迄もあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終り、莞爾として座に着く。 (大正一一・八・二三旧七・一松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 18 竜国別 第一八章竜国別〔九〇九〕 竜国別は銀扇を開き、自ら歌ひ自ら舞ふ。其歌、 竜国別『われは竜国別司ウラナイ教の高姫が 教を尊み畏みて心の駒を立直し 高城山の麓なる松姫館の門番と 仕へまつりて朝夕に鉄門を守る折柄に 三五教の教の御子馬と鹿との両人が 訪ね来れる様を見て門番共は猛り立ち いろいろ雑多の乱暴を加へて懲せど両人は 忍耐強く何事も神の心に任せゐる 其真心に感動し傲慢無礼を恥ぢながら 忽ち竜の真似をなし奥殿深く這ひ込めば 神罰忽ちめぐり来て吾々一同は畜生の 体と忽ち変じけり神の御国に生れたる 凡ての人は言霊や身の行ひを慎みて 清き人格保てよと示させ給ふ神教に 迷ひの雲も晴れ渡り松姫、お節の目の前で 神の使の神人に天地自然の真理をば 説き示されて三五の神の教に入信し 竜若司と呼ばれたる昔の名をば改めて 竜国別と名を賜ひ茲に尊き宣伝使 玉治別や国依別の教の司と諸共に 高春山に捉はれし高姫、黒姫両人を 救ひ出さむと立向ひ杢助、お初の応援に アルプス教の神司鷹依姫を言向けて 紫色の宝玉や高姫、黒姫両人を 此方に受取り鷹依姫の神の司をよく見れば 思ひ掛なき垂乳根の生みの母ぞと判明し 驚き喜び神恩を感謝しながら親と子が 三五教の人々と手を携へて綾錦 高天原の霊場に大宮柱太知りて 建ち並びたる神床に赤き心を捧げつつ 朝な夕なに親と子が心の限り身の限り 仕へまつれる折もあれ黒姫さまの保管せし 黄金の玉はいつの間か行方も知らず消え失せぬ 黒姫さまに疑はれ高姫さまに追ひ出され 親子は悲しきさすらひの旅に上りて宝玉の 在処を捜し高姫の疑念をはらし清めむと 棚無し船に身を任せ当所も波の上を漕ぎ 広袤千里の海原を難行苦行の末遂に 高砂島のテルの国テーリスタンやカーリンス 茲に四人の一行は恙もあらず上陸し 玉の在処を捜せども果てしも知らぬ大国を 仮令百年探るともいかでか捜し得べけむや 親子は首を傾けつ千思万慮の其結果 見込はアリナの滝の上親子の心を照らすなる 鏡の池に現はれて猿世の彦の旧蹟地 岩窟の側に草庵を結びて神を祀りつつ 鷹依姫の吾母を岩窟深く忍ばせて 権謀術数の悪業と心を悩ませ痛めつつ 一つの策をねり出してわれは審神者の役となり 母は月照彦となりテーリスタンやカーリンス 二人を言触れ神となし高砂島の全体を 月照彦大神に玉を献ぜし者あらば すべての願を叶へむと宣らせ給ふと触れまはし 其効空しからずして遠き近きの国々の 種々の玉をば携へて詣で来れる可笑しさよ 心の底は何となくウラ恥かしく思へども 黄金の玉の行方をば探らむ為の此手段 吾真心を天地の神も照覧ましまさむ あゝ惟神々々広き心に宣り直し 善きに見直し聞直し黄金の玉を一日も 早く取寄せ給へよと祈る折しもヒルの国 テーナの里の酋長が献りたる黄金の 玉に喉をば鳴らしつつ夜陰に紛れてアリナ山 一行四人打ちわたり荒野ケ原に露の宿 借る折もあれ木の花の神の命の御化身に 戒められて改心し原野を渉り海を越え アマゾン河を溯り時雨の森の南森 兎の一族住まひたる青垣山の聖場に 立現はれて諸々の鳥獣に三五の 誠を諭し言霊の威力を示す折柄に 帽子ケ岳のあたりより輝き来る霊光に 吾等一同勇み立ち月大神の御前に 感謝祈願をなせる折三五教の高姫が 数多の司を従へて波立ち狂ふ激流を 鰐の族に助けられ厳言霊を宣りながら 進み来るぞ嬉しけれここに吾等は雀躍し 大森林の禽獣に神の教を蒙りて 一定不変の律法を制定しながらアマゾンの 河辺に潜む怪獣を言向け和し天国の 恵の光りを与へつつ茲に一行十二人 琉と球との霊光を目当となして西北の 雲間に近き大高山帽子ケ岳に駆け登り 言依別や国依別の神の命に面会し 嬉し涙に暮れながら互に無事を祝しつつ 前途の光明楽みて茲に一行十八の 身魂は山野を打渉り日数を重ねて漸くに ウヅの館に来て見ればげに有難き末子姫 捨子の姫と諸共に遠き浪路を打渡り ここに降臨ましまして治め給へる尊さよ 国彦司の貴の御子松若彦が忠実に いそしみ給ふ功績は月日の如く輝きて 怪しき雲の影もなく国人歓ぎ睦びつつ 高砂島の名に恥ぢずウヅの都の名も清く 栄えいませる其中に言依別の大教主 はるばる此処に下りまし神徳ますます赫灼に 輝きわたり給ひけりアマゾン河に迷ひたる 吾等一行助けよと神素盞嗚大神の 清き尊き神懸り[※初版・愛世版では「神懸り」、校定版では「帰神(かむがか)り」。]其御教を畏みて 自ら言依別神帽子ケ岳に登りまし 吾等一行は云ふも更アマゾン河や森林に 潜む曲津に無限なる仁慈の恵を垂れ給ひ 其神徳はいや高く帽子ケ岳の頂上に 光り輝き給ひけり頃しもあれや現世の 救ひの神と現れませる神素盞嗚大神は 高砂島に蟠まる醜の霊を言向けて 安きに救ひ助けむと天降りましたる尊さよ 思へば思へば罪深き吾等親子がはしなくも 尊き神にめぐり会ひ御影を拝する嬉しさは 仮令天地は変るとも千代に八千代に忘れまじ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 今日の親子が喜びを幾千代迄も変りなく 恵ませ給へ惟神神の御前に願ぎまつる 神の御前に願ぎまつる』 と歌ひ終り、自席に着きぬ。 (大正一一・八・二四旧七・二松村真澄録)