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(939)
ひふみ神示 39_月光の巻 第7帖 大奥山は神人交流の道の場である。道は口で説くものではない。行ずるものである。教は説かねばならない。多数決が悪多数決となるわけが何故に判らんのぢゃ。投票で代表を出すと殆んどが悪人か狂人であるぞ。世界が狂ひ、悪となり、人民も同様となっているから、その人民の多くが選べば選ぶ程、益々混乱してくるのであるぞ。それより他に人民の得心出来る道はないと申してゐるが、道はいくらでもあるぞ。人民の申してゐるのは平面の道、平面のみでは乱れるばかり、立体にアヤなせば弥栄えて真実の道が判るのぢゃ。ぢゃと申して独裁ではならん。結果から見れば神裁ぢゃ。神裁とは神人交流によることぞ。十二月二十五日 神はうそつきぢゃと人民申しても、悪い予言はうそにしたいので日夜の苦労、こらえられるだけこらえてゐるのである。もう、ものばかりでは治まらんこと、キンでは治まらんこと、平面のみでは駄目であること、よく判ってゐるのにカブトぬげん神々様よ、気の毒が来ぬ前に改心結構。遠くからでは判らんし、近づくと迷うし、理屈すてて神にほれ参らせよ。よくこの神をだましてくれたぞ、この神がだまされたればこそ、太神の目的なってくるのぢゃ。細工はりゅうりゅう仕上げ見て下されよ。区別すると力出るぞ、同じであってはならん。平等でなくてはならんが、区別なき平等は悪平等である。天に向って石を投げるようなことは、早くやめねばならん。霊かかりもやめて下されよ。人民が絶対無と申してゐるところも、絶対無ではない。科学を更に浄化弥栄させねばならん。空間、時間が霊界にないのではない。その標準が違うから無いと考えてよいのである。奥山は奥山と申してあろう。いろいろな団体をつくってもよいが、何れも分れ出た集団、一つにしてはならん。奥山はありてなきもの、なくて有る存在である。奥山と他のものとまぜこぜまかりならん。大き一つではあるが別々ぞ。今迄になかった奥山のあり方、判らんのも無理ないなれど、これが判らねばこの度の大神業、判りはせんぞ。
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(988)
ひふみ神示 39_月光の巻 第56帖 そなたは何時もあれもよいらしい、これもよいようだと迷って、迷ひの世界をうみ出し、自分で自分を苦しめて、気の毒よなあ。これと一応信じたらまかせきれよ。梶をはなして鳴門の渦の中にまかせきれよ。まかせきるとひらけてくるのぢゃ。悟れたようでゐて、そなたが悟り切れんのはまかせきらんからぞ。そなたはいつも孤独、そなたの不運は孤独からぢゃ。友をつくりなさい、友つくることは己をつくることと申してあろうが。友つくることは新しき世界をつくることぞ。一人の世界は知れたものぞ。一人ではマコトの道を生きては行かれんぞ。友と申しても人間ばかりではないぞ。山も友、川も友、動物も植物も皆友ぞ。大地も大空も皆友となるぞ。何も彼も皆友ぢゃ、皆己ぢゃ。皆々己となれば己はなくなるぞ。己なくなれば永遠に生命する無限の己となるのぢゃ。御神前で拝むばかりでは狭いぞ。野菜拝めば野菜が、魚拝めば魚が己となるのぢゃ。拝むことは和すこと。和すことが友つくる秘訣ぞ。友を己とすることは、己を友とすることぢゃ。友にささげることぢゃ。親は子にささげるからこそ、子が親となるのぢゃ。判りたか。赤ん坊のお尻をふいてやることもあるであろうがな。そなたが赤ん坊と同じであったら出来ない芸当ぞ。お尻を出すものがあっても、決して怒ってはならん。子のお尻と思ってきれいにふいてやれよと申してあろうが。お尻を持ち込まれるのは、持ち込まれるだけのわけがあるからぞ。利子は後から支払えばよいと、そなたは思ってゐるが、先に支払ふこともあるのであるぞ。先にお尻をふかねばならんことも、世が迫ってくると出てくるのぢゃ。その代り、後では神がそなたのお尻をきれいにふいて下さるぞ。ぶつぶつ申さずに勇んでやって下されよ。そなたは他にものを与えることに心せねばならんぞ。与えることは頂くことになるのであるから、与えさしてもらう感謝の心がなければならんぞ。強く押すと強く、弱く押すと弱くはねかえってくること、よく知って居ろうがな。自分のものと云ふものは何一つないこと、よく判って居る筈ぢゃ。
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(1038)
霊界物語 01_子_霊界探検/玉の争奪戦 41 八尋殿の酒宴(一) 第四一章八尋殿の酒宴の一〔四一〕 竹熊は奸計を廻らし、やうやく二個の玉を手に入れたが、後にまだ十個の玉が残つてゐるのを手に入れねばならぬ。しかし是はなかなか容易の業ではないと悟つた竹熊一派は、一挙に十個の玉を得むことを企画した。そこで先づ第一に竜宮城の宰相神なる大八洲彦命を誑かる必要に迫られた。竹熊は大虎彦と共に種々の珍しき宝を持ち、大八洲彦命の御前に出で、以前の悪逆犯行の重き罪を、空涙とともに謝罪した。 その時の有様は、土間に両名四つ這となり、地に頭を下げ、もつて絶対的帰順を装うたのである。大八洲彦命は元来仁慈無限の神にして、かつ戦闘を好まず、悪霊を善道にみちびき神界を泰平ならしめむと、日夜焦慮してをられた。そこへ両名の帰順の態度を見て心中深く憐れみ、邪悪無道の敵ながらも気の毒なりと、つひにその請ひを許し、将来は相提携して神業に奉仕せむことを教示せられた。両名は感謝の意を表はし、恭しく礼を陳べこの場を立去つた。 しかして竹熊、大虎彦は門外に出づるや否や、たがひに面を見合せて舌を出し、苦笑した。このとき大八洲彦命は、田依彦、玉彦が竹熊の奸計によりて、玉を奪取されたことを感知してゐなかつた。田依彦、玉彦は己が失策を責められむことを恐れて、たれにも口外せず、ただ独り煩悶してゐたからである。 ここに竹熊、大虎彦は、新しき八尋殿を建てて諸々の珍器を飾り、金銀珠玉をちりばめたる金殿玉楼を造り、平和帰順の目出度記念として大祝宴を張らむとし、第一に大八洲彦命を招待した。大八洲彦命は、玉照彦、大足彦を左右にしたがへ、神彦、芳彦、高杉別、森鷹彦、鶴若、亀若、倉高、時彦、杉生彦、猿彦らと共にこの祝宴に臨まれた。また竹熊の方では、大虎彦をはじめ、玉若、繁若、坂熊、寅熊、桃作、木常姫、中裂彦らが宴に侍した。 大八洲彦命は竹熊らの歓待に満足し、大盃を挙げて祝された。しかして一同にむかひ、 『斯くのごとく互ひに打ち解け帰順和合の上は、もはや世界に敵味方の区別なし。たがひに力を協せ心を一にし、親子兄弟のごとく相和し相親しみ、もつて神業に奉仕せよ』 との訓示を伝へ、かつ竹熊、大虎彦らに厚く礼を述べ、玉照彦、大足彦とともに鳥船に乗りて、竜宮城へ無事帰城された。 大八洲彦命の退座されし後は、もはや少しの気兼なく、たがひに心を打ちあけ無礼講をなさむとて、さかんに飲み食ひ、かつ乱舞に時を移した。時分はよしと竹熊は、田依彦、玉彦より奪ひたる玉に金箔を塗り、玉の一部分に生地を露はし、その生地のところに日月の形を造り、宴席の上座に持出して、 『これは余がかつて天神より賜はりたる金剛水の玉なり、この玉ある時は世界は自由自在なり』 と誇り顔に陳べたてた。竹熊の従臣は、「われにも斯かる珍器あり」とて、円き石に種々の箔を着せ、宴席に持出し、非常に玉の功用を誇つた。高杉別以下の竜宮城の神司は面目を失つた。たちまち負けぬ気になつた芳彦は、懐より紫の玉を取出し、 『諸神よ、あまり軽蔑されな。われにも斯くのごとき宝玉あり』 と席上に持出し、これを机上に据ゑ肩をはり鼻息たかく頤を振つてみせた。ここに神彦は、「われにも玉あり」とて、黄色の玉を持出し、机上に据ゑてその珍宝を誇り、意気揚々として座に復した。 そのとき大虎彦は席上に立ち、 『われ等の部下にはかくの如き数多の玉を有す。然るに竜宮城の神司に玉少なきは如何』 と暗に敵慨心を挑発せしめた。このとき負けぬ気の倉高は、 『貴下らの玉は、吾らの所持する宝玉に比ぶれば、天地霄壤の差あり、天下無双、古今独歩、珍無類の如意の宝珠の玉を見て驚くな』 と酒気にまかして、前後の弁へもなく、鼻高々と机上に据ゑわが席に復つた。竹熊は大ひに笑ひ、 『いかに立派なる竜宮の宝玉とて、ただ三個にては何の用をかなさむ。吾には無数の宝玉あり』 とて、なほ奥の間より一個の偽玉を持出してきた。 一見実に立派なものであるが、その内容は粘土をもつて固められた偽玉である。羨望の念に駆られたる杉生彦、猿彦は負けぬ気になり、 『斯くのごとき宝玉は、いかに光り輝くとも何かあらむ、今わが持ち出づる玉を見て肝を潰すな』 と酒気にまかせて机上に持出し、玉の由来を誇り顔に物語つた。 このとき高杉別、森鷹彦、鶴若、亀若、時彦は苦り切つた顔色をなし、酒の酔も醒め色蒼白めて控へてゐる。竹熊、大虎彦は五柱の神司にむかひ、言葉汚く、 『汝らは竜宮城の従臣なりと聞けども、ただ一個の宝玉も無し。ただ汝の持てるものは大なる肛門の穴か、八畳敷の睾丸のみならむ』 と冷笑した。五柱は怒り心頭に達した。されども深く慮つて、容易にその玉を出さなかつた。 (大正一〇・一〇・二四旧九・二四外山豊二録)
44

(1041)
霊界物語 01_子_霊界探検/玉の争奪戦 44 緑毛の亀 第四四章緑毛の亀〔四四〕 亀若は緑の玉を生命にかけて死守してゐた。いかなる名誉欲も、物質欲も眼中におかず、ただこの玉のみを保護することに心魂を凝らしてゐた。しかるに亀若は八尋殿の酒宴のみぎり竹熊の奸計にかかり、毒虫を多く腹中に捻込まれたのが原因をなして、身体の健康を害し、病床に臥し全身黄緑色に変じ、つひに帰幽した。亀若の妻亀姫は、天地に慟哭し、足辺に腹這ひ頭辺に這ひまはり、涕泣日を久しうした。その悲しみ泣き叫ぶ声は風のまにまに四方にひびき、つひには悲風惨雨の絶間なきにいたつた。この間およそ百日百夜に及んだ。 この時ガリラヤの海より雲気立ち登り、妖雲を巻きおこして一種異様の動物現はれ、竜宮城近く進んできた。異様の動物は、たちまち美はしき神人と化した。そして亀姫の家に亀若の喪を弔うた。この者は其の名を高津彦といふ。亀姫は高津彦を見て大いに喜び、その手を取つて一間に導き、いろいろの酒肴を出して饗応し、かつ、 『貴下はわが最も愛する亀若ならずや』 と訝かり問ふた。高津彦は、 『われは亀若なり、決して死したるに非ず、毒の廻りし体を捨て、新に健全なる体を持ち、汝の前にきたりて偕老同穴の契を全くせむとすればなり』 と言葉たくみに物語つた。亀姫は高津彦の顔色といひ、容貌といひ、言葉の色といひ、その動作にいたるまで亀若に寸毫の差なきを見て、心底より深くこれを信ずるにいたつた。ここにふたりは水も洩さぬ仲のよき夫婦となつた。 亀姫は再生の思ひをなし、一旦長き別れと断念した不運の身に、夫のふたたび蘇生しきたつて鴛鴦の契を結ぶは如何なる宿世の果報ぞと、手の舞ひ足の踏むところを知らなかつた。 夫婦の仲は蜜のごとく漆のごとく親しかつたが、ふとしたことより風邪のために高津彦は重い病の床についた。今まで歓喜に満ちた亀姫の胸は、ふたたび曇らざるを得なかつた。手を替へ品を換へ看病に尽した。幾日たつても何の効も見えず、病はだんだん重るばかりである。このとき高津彦の友の高倉彦きたりて病床を見舞ひ、かつ医療の法をすすめた。百草を集め種々の医薬をすすめた。されど病は依然として重るばかりである。亀姫の胸は、実に熱鉄を当るごとくであつた。不思議にも高倉彦の容貌、身長、言語は、亀若に酷似してゐた。ここに亀姫は、その真偽に迷はざるを得なかつた。そこで亀姫は、かつ驚き、かつ怪しみ、 『貴下はいづれより来ませしや』 といぶかり問ふた。高倉彦は、 『われは竜宮城の神司にして、亀若のふるくよりの親しかりし美はしき友なり』 と答へた。そこで亀姫は、 『高倉彦の亀若に酷似したまふは如何なる理由ぞ』 と反問した。高倉彦は答へて、 『実際吾は亀若とは双生児である、されどわが父母は世間を憚り、出産とともに他に預けたのである。そして亀若と吾とは此の消息を少しも知らず、心の親友として幼少のころより交はつてゐた。然るにある事情より吾はこの事を感知せしが、今ここに病みたまふ亀若は、この真相を御存じないのである。われは骨肉の情に惹かれて、同胞の苦しみを見るに忍びず、いかにもしてこの病を恢復せしめ兄弟睦じく神業に奉仕せむと焦慮し、神務の余暇を得て、ここに病床を訪ねたのである』 とはつきり物語つたので、亀姫の疑ひは全く氷解した。 高倉彦は、亀姫の信頼ますます加はつてきた。一方亀若の病気はだんだん重るばかりである。そこで亀姫はふたたび、 『夫の病を救ふ妙術はなきや』 と面色憂ひを含んで高倉彦に相談をした。そのとき高倉彦は、実に当惑の面持にて、 『ああ気の毒』 と長歎息をなし、腕を組んで頭を垂れしばしは何の返答もなかつた。ややあつて思ひ出したやうに高倉彦は喜色を満面にたたへて、 『その方法たしかにあり』 と飛び立つやうな態度をしながら答へた。亀姫は顔色にはかに輝き、驚喜して、 『いかなる神法なりや聞かま欲し』 と高倉彦の返辞をもどかしがつて待つた。 高倉彦はわざと落着いて手を洗ひ口嗽ぎ、天に向つて永らくのあひだ合掌し、何事か神勅を請ふもののやうであつた。病床にある亀若はしきりに苦悶の声を発し、既に断末魔の容態である。亀姫の胸は矢も楯もたまらぬやうになつた。たとへ自分の生命は失ふとも最愛の夫、亀若の生命を救はねばおかぬといふ決心である。一方高倉彦の様子いかにと見れば悠々として天に祈り、いささかも急ぐ様子がない。高倉彦はおもむろに祈りを捧げた後、室内に這入つてきた。このとき亀姫は渇きたる者の水を求むるごとくに、高倉彦の教示や如何にと待ち詫びた。高倉彦はこの様子を見て心中に謀計のあたれるを打ち喜び、外知らぬ顔にて左も勿体らしく言葉をかまへていふ、 『当家には貴重なる緑色の玉が秘蔵されてある。この玉を取りだして月の夜に高台を設けてこれを奉安し、月の水をこの玉に凝集せしめ、その玉より滴る一滴の水を亀若に呑ましめなば、病癒えなむとの月読神の神勅なり』 と誠しやかに教示した。亀姫は天の佑けと喜び勇んで直ちに高台を造り、その玉を中央に安置した。その刹那一天たちまち掻き曇り、黒雲濛々として天地をつつみ、咫尺を弁ぜざるにいたつた。時しも雲中に黒竜現はれ、その玉を掴みて西方の天に姿をかくした。数日を経てこの玉は、竹熊の手に入つたのである。今まで夫と思ふてゐた偽の亀若は、にはかに大竜と変じた。また高倉彦はガリラヤの大なる竈に還元し、亀姫を後に残して雲をおこし姿をかくした。亀姫は地団駄踏んで侮しがり、精魂凝つて遂に緑毛の亀と変じ竜宮海に飛び入つたのである。亀は万年の齢を保つといふ。亀若は八尋殿の宴会において毒虫を食はせられ、それがために短命にして世を去つた。それから亀姫の霊より出でし亀は、衛生に注意して毒虫を食はず、長寿を保つことになつた。 (大正一〇・一〇・二五旧九・二五加藤明子録)
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(1075)
霊界物語 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 23 竜世姫の奇智 第二三章竜世姫の奇智〔七三〕 小島別、竹島彦は、言霊別命の輿をかつぎながら、猿が渋柿を喰つたやうに、子供が苦い陀羅助を呑んだやうな面構へして嫌々ながらかついでゆく。心中の不平不満は察するにあまりがあつた。やうやく嶮しい坂に差しかかつた。ふたりは汗水垂らして登りゆく。松代姫は竹島彦の後棒を押しながら助けてゆく。竜世姫は滑稽諧謔の神司である。後からこの状態を見、手を打ちつつ笑ひ、いろいろの面白き手まね、足踏みしながら、 『言霊別の神さんはこしの常世へ使ひして 道に倒れて腰を折り輿に乗せられ腰痛む こしの国でも腰抜かし腰抜け神と笑はれる 他の事なら何ともないこしやかまやせぬ、かまやせぬ』 と声を放つてからかふ。 小島別以下の一行は、登り坂にあたつて苦しみつつある際、この歌を聞きて吹きだし、笑ひこけ、足まで捲るくなつて一歩も進めず、ここらに立往生をなし、つひには腰をまげ腹を抱へて笑ふのであつた。輿の中よりは、言霊別命の声としてさも愉快げに、 『こいでこいでと松代は来いで末法の世がきて駕籠をかく 小島、竹島お気の毒さぞやお腰が痛からう お腹が竜世が倒れうが他のことなら何ともない こしや構やせぬ、かまやせぬ』 と歌つた。小島別、竹島彦はその歌を聞くなり大いに怒つて輿をそのまま谷底へ投げ棄てた。 輿は転々として谷底に落ち木葉微塵に砕けてしまつた。小島別らは手をうつて快哉を叫び舞ひをどつてゐた。 言霊別命は懐中に持てる、種々物の領巾の神力により、少しの負傷だもなく、悠然として谷を登り、小島別一行の立てる前に現はれた。竜世姫は口をきはめて言霊別命を熱罵した。ここに二神のあひだに大争論がはじまり、つひには掴みあひとなつた。この争論は全く両神の八百長である。真意を知らざる小島別、竹島彦らは、竜世姫に怪我させじと仲に分けいり、言霊別命を双方より乱打した。それより竜世姫、言霊別命は後になり先になり悪口の限りをつくし、犬猿もただならざる様子を示した。一行はおひおひ常世の都に近づいた。常世姫はあまたの神司をして言霊別命の一行を迎へしめた。そして二台の輿がきた。一台には言霊別命これに乗り、一台には竜世姫がこれに乗つた。小島別、竹島彦は迎への神司に命じ、言霊別命の輿を前後左右に揺りまはし、あるひは高く頭上に上げ、ときどきは低く地上に落とし苦しめた。命はほとんど眩暈するばかりであつた。常世姫の宮殿に着いたときは、言霊別命は劇烈なる動揺のため疲労し、咽喉をかわかせ、急ぎ水を求めた。常世姫の侍者は黄金の器に水を盛り、渇ける命に捧呈した。このとき竜世姫は輿より降り、この様をみて、 『かかる尊き玉水を腰抜神に呑ますの必要なし。われは大いに渇きたり。この水はわが呑むべき水なり。腰抜神は泥水にて充分なり』 といひながらその水を横合よりやにはに奪ひ、松代姫の神を目がけて打かけた。松代姫の袖よりは火煙を発し、熱さに悶えつつ濠に飛込み火を消し、辛うじて這ひ上つてきた。諸神司は驚いて松代姫の方に走り新しき衣を着替へさせこれを労はり慰めた。言霊別命は竜世姫の剛情我慢を詰つた。竜世姫はしきりに「腰ぬけ、腰ぬけ」と嘲笑した。言霊別命は憤懣の色をあらはし、剣の柄に手をかけ切つて捨てむと竜世姫に迫つた。小島別、竹島彦は二神人の仲に割つていり、百方弁をつくして仲裁の労をとり、この紛争は無事に治まつたのである。この争ひは竜世姫が言霊別命の毒殺されむとするを救ふための深慮に出でたる一場の狂言であつた。 (大正一〇・一一・一旧一〇・二[※戦前の二版・校定版・愛世版では旧10月3日になっているが、大正10年(1921年)11月1日は旧暦10月2日が正しい。他の章では旧10月2日と記してあるので、ここも旧10月2日に直した。]加藤明子録)
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(1078)
霊界物語 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 26 信天翁 第二六章信天翁〔七六〕 元照彦の攻撃に進退きはまり、金毛八尾白面の悪狐となりてロッキー山の方面に雲をおこして逃げ帰りしと見えしは、まつたく常世姫の魔術であつた。常世姫は依然として城内の奥深く潜んでゐた。常世姫は盛装をこらし悠然として竜世姫、竹熊彦らの前に現はれた。竹熊彦は死者の蘇へりし如く狂喜した。諸神司もともに歓喜の声をあげて勇躍した。城内はにはかに、枯木に花の咲きしがごとく陽気となつた。これに反し小島別、竹島彦、松代姫は稚桜姫命にたいし、この失敗をいかにして陳謝せむやと、思案にくれ、顔の色までかへて青息吐息の体であつた。竜世姫は可笑しさに堪へかねて失笑だした。さうしてまた面白く歌を唄つて踊りだした。 その歌の文句は、 『竹島彦の顔見れば閻魔が抹香喰つたやうに 何が不足でそんな顔ここは地獄か極楽か 常世の城ではないかいなお地蔵さまでも呼んで来て お酌さしたらどうであろ小島別の神さんの お顔を一寸眺むれば青瓢箪か干瓢か 朝瓜、鴨瓜、唐茄子南瓜の一寸ひねたのか ここは畑ぢやあるまいに青息吐息の仏掌薯 つくづく思案をして見ればうそでつくねた其の罪で 真赤な恥を柿のへた下手な巧はせぬがよい 宵に企んだ梟鳥夜食に外れてお気の毒 これが真の信天翁一つの取得泣き寝入り 煎豆花咲く時もあるこの縮尻は身の因果 因果応報目のあたり当り散らして怒つても 私は一寸も知らぬ顔顔が立たうが立つまいが いが栗頭が割れやうが用が無いのはお前さん 三度の食事も二度にして指をくはへて寝るがよい よいよいよいのよいとさつささつさと竜宮に逃げ還れ 帰れば竜宮の神さんに頭をはられて可笑しかろ をかし可笑しと笑はれて腹を立てなよ小島別 笑ふ門には福きたる来る時節を楽みに 今度は改心するがよいよいよいよいのよいとさつさ』 諸神司は小島別、竹島彦の心配さうな顔つきを眺め、いろいろと言葉を尽して慰めた。常世姫はあまたの珍らしきものを二柱に与へ、かつ慇懃にその労を謝し、竜世姫には麗しき宝玉を与へ、稚桜姫命の御土産としては、種々の珍宝を取り出して、これを竜世姫に伝献せしむることとなし、ここに四柱はまづ竜宮城へ還ることとなり、はるかに海山川を打渡りやうやく帰城した。竜世姫は何の恐れ気もなく稚桜姫命の御前に出で、常世姫より預かりしくさぐさの珍宝を奉り、かつ小島別、竹島彦らの今回の失策を詳細に、面白く進言した。稚桜姫命は大いに怒り、 『小島別以下の二神司、すみやかに吾が前に来れ』 と厳命せられた。三柱は猫に追はれた鼠のごとく縮みあがり、蚤か虱のその如く、頭を隠して戦慄いてゐた。言霊姫はこの状態を見て気の毒にたへず、いかにもして稚桜姫命の怒りを和らげむと百方焦慮し、竜世姫は面白き歌を作り、言霊姫は怪しき手つきをなして踊り狂ひ、命を抱腹絶倒せしめ、この場のごみを濁さむとした。その歌は、 『大蛇に追はれた蟇蛙こんなことぢやと知つたなら 使ひに行くのぢやなかつたに何ぢやかんぢやとだまされて ぢやぢや馬神にぢやぢやにされ元照彦に邪魔されて 善ぢや悪ぢやと争ひつたがひに邪推の廻し合ひ 相も変らぬ邪智深き常世の邪神に尾をふつて 尻までふつて腰抜いて輿を取られて輿を舁き 輿に乗せたる神さんにさんざん膏を搾られて その上腰を揉まされて越の国をば腰抜け顔して竜宮へ 帰つた姿を眺むれば青菜に塩か蛭に塩 血を吐く思ひの時鳥ほつと一息休む間も なくてこの場に一同引き出され何の云ひわけ荒男 男の顔も竜世姫立つ時えらい勢で 帰つた時のその姿姿かくして泣いてゐる これが深山の時鳥ほうほけきようの呆け面 面を隠して尻を出し尻の締りはこの通り 通り越したる大阿呆阿呆々々と暁に 鳴いた烏の惚け声どうぞ許して下しやんせ 三人寄れば文殊の智慧といふものをこの三人の神さんは 年は取つても虫喰はぬ目に見ぬ智慧は稚姫の 若布のやうな弱腰で向ふも見ずにべらべらと 云はぬは云ふにいや勝る猿が三匹飛んで出て 常世の国で恥をかきなほまた帰つて頭掻く 木から落ちたる猿のよに空を眺めて泣くよりも 一先づこの場をさるがよいよいよいよいのよいとさつさ』 といふ戯歌であつた。三柱はこの歌の言霊によつて、稚桜姫命のお怒りを和らげ、言霊別命を失つたる失敗の罪を赦された。 (大正一〇・一一・一旧一〇・二加藤明子録)
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霊界物語 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 27 湖上の木乃伊 第二七章湖上の木乃伊〔七七〕 元照彦は裸体のまま辛うじて常世城を逃れいで、草を編んで簑笠を作り、紅の館に落ちのび美濃彦の門を叩いた。美濃彦の門戸には立熊別といふ守将が、少数の神卒と共に厳守してゐた。そこへ元照彦は顔に桑の実の汁をぬり、容貌を変へ、簑笠のみすぼらしい姿にて現はれたのである。立熊別はこの姿を見て悪神の落ちぶれ者と信じ、大いに叱咤して門戸の出入を拒んだ。 元照彦は、 『吾は美濃彦の同志である。すみやかにこの旨を美濃彦に伝へられよ』 といつた。立熊別はこれを信ぜず、 『すみやかにここを立ち去れ』 と厳命し、元照彦が何ほど弁明しても聞き入れぬ。そこで元照彦は一策を案じ、 『実は吾は浮浪神である』 と言つて、そろそろ竜世姫の故智をまねて歌を唱ひだした。 『常世の城を逃げだして身は身で通る裸ン坊 簑着て笠着て身の終りどうして会はしてくれなゐの 館の神の門番は身のほど知らぬ簑虫か わが身の姿の落ちぶれて乞食のやうに見えたとて 結構な神ぢやぞ見のがすなわが身の仇となることを 知らずに門に立つ熊がわけも知らずにハネのける 今は曇りしこの身体元は照彦身は光る 光が出たら紅の館はたちまち夜が明ける 開けて口惜しい玉手箱美濃彦今に泣き面を かわくを見るのが気の毒ぢや会はにや会はぬでそれもよい 後でビツクリして泡吹くな後でビツクリして泡吹くな』 と繰返しくりかへし踊つたのである。 立熊別は不思議な奴が来たものと、面白半分にからかつてゐた。美濃彦はあまり門口の騒がしさに立ち出で、じつと様子を考へてみた。合点のゆかぬはこの浮浪神である。顔の色こそ変つてゐるが、どことなく見覚えのある顔である。またその声は何となく聞き覚えのある声である。不思議に思つて、ともかくもこれを門内に通した。門内に入るや否や、美濃彦にむかひ、 『吾は元照彦である。常世の城に敗をとり、全軍四方に解散し、吾はわずかに身をもつて免れ、やうやくここまで落ちのびたのである』 と一伍一什を物語つた。 美濃彦は驚いて大地に平伏し、立熊別の無礼を陳謝し、ただちに奥殿へともなひ種々の饗応をなし、かつ新しき衣服を出し来りてそれを着用させた。さうして元照彦を正座に直し、自分は左側に端座し、侍者をして立熊別を招き来らしめた。立熊別は美濃彦の前へ出頭した。正座に立派な神のあるのを見て驚き、不審さうに顔を打見まもつてゐる。美濃彦は立熊別に向つて、先程の浮浪神は此方であると、上座の方を指し示した。立熊別はつくづくこれを眺め、はじめて元照彦なりしことを知り、尻を花立にして以前の無礼を陳謝した。 ここに美濃彦と密議の結果、元照彦は服装を変じ、館の従臣港彦をともなひ、スペリオル湖のほとりに船頭となつて往来の神司を調べ、味方をあつめ、かつ敵の情勢を探らむとした。 常世姫の軍は、八方に手分けして言霊別命、元照彦の所在を厳密に探らむとし、猿世彦は言霊別命の後を追ふて、いま此処に現はれた。猿世彦は船を命じこの湖水を渡らむとした。港彦はただちに船を出した。船は湖の中ほどまで進んだ。にはかに暴風吹きおこり、浪高く船はすでに浪に呑まれむとする。猿世彦は顔色蒼ざめ慄ひ戦ひてゐた。これにひきかへ、港彦は平気の平左で歌をうたつてゐる。さうして常世の城は言霊別命、元照彦といふ神将のために再び陥落し、常世姫は竜宮城に行つたといふ噂が専らであると、他事に話しかけた。猿世彦は心も心ならず、速やかにこの船を元へ返せと命じた。風はますます烈しく、浪はおひおひ高くなつてきた。猿世彦は気が気でなく、しきりにかへせかへせと厳命した。港彦は少しも騒がず、ますます北方へ漕ぐのであつた。そして港彦は容を正し、猿世彦にむかひ、 『吾は卑しき船頭となつて汝らの来るのを待つてゐたのである。実は言霊別命、元照彦の謀将である。今ここで南へ引きかへさむか、言霊別命は数多の神軍を整へて汝を滅ぼさむと待ちかまへてゐる。北へ進まむか、北岸には元照彦が神軍を整へ汝の到着を待つてこれを滅ぼさむとしてゐる。この湖は両神軍の部将が東西南北に手配りして、蟻のはひでる隙間もない状況である。吾は汝に教ふべきことがある、袖振り合ふも他生の縁といふではないか。汝と吾とはいはば一蓮托生、いつそこの湖に両人投身しては如何。なまじひに命を長らへむとして恥をかくは男子たるものの本意ではあるまい。また卑怯未練な心をおこし身を逃れむとして捕虜となり、恥をさらさば、汝一人の恥のみではない。常世姫の一大恥辱である。覚悟はいかに』 と問詰めた。猿世彦は進退きはまり卑怯にも声を放つて、男泣きに泣きだし、手を合はせて救ひを乞ふた。港彦は愉快でたまらず、 『しからば汝の願ひを聞き届けてやらう。その代りに、吾の一つの願ひを聞いてくれるか』 といつた。猿世彦は、 『命あつての物種、たとへ貴下が山を逆様に上れと言はれても、吾が命さへ助けたまへば決して違背は申さじ』 と答へた。港彦は、 『しからば汝の衣類を脱ぎすて、この湖の中へ投入し、裸になれ』 と命じた。 寒気の激烈なるこの湖上に、かてて加へて身を切るやうな寒風が吹き荒んでゐる。されど命が大事と猿世彦は、命のまにまに衣を脱ぎ捨てた。たちまち菎蒻の幽霊か地震の孫のやうに、ブルブル慄ひだし、つひには手足も凍り息さへ絶えて、完全なる木乃伊になつてしまつた。港彦は言霊別命の土産として、この木乃伊を乗せて乗場に引きかへしたのである。 (大正一〇・一一・二旧一〇・三桜井重雄録)
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霊界物語 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 39 太白星の玉 第三九章太白星の玉〔八九〕 竜宮城の従臣鶴若は、黄金水より出たる十二の玉の中、一個の赤玉を命にかへてアルタイ山に逃れ守つてゐたが、竹熊一派の奸策に陥り、つひにこれを奪取されて無念やる方なく、つひには嘆きのあまり、精霊凝つて丹頂の鶴と変じたるは、さきに述べたところである。 丹頂の鶴は昼夜の区別なく、天空高く、東西南北に翔めぐつて声も嗄れむばかりに啼き叫んだ。その声はつひに九皐に達し、天の太白星に伝はつた。太白星の精霊生代姫命はこの声を聞き、大いに怪しみ、その啼くゆゑを尋ねられた。ここに鶴若は、 『われは、わが身の不覚不敏より大切なる黄金水の宝を敵に奪はれ、大八洲彦命に謝する辞なく、いかにもして、この玉を探し求め、もつて竜宮城に帰参を願ひ、再び神人となり、この千載一遇の神業に参加せむと欲し、昼夜の区別なく地上を翔めぐり探せども、今にその行方を知らず、悲しみにたへずして啼き叫ぶなり』 と奉答した。生代姫命は、 『そは実に気の毒のいたりなり。われは十二の白鳥を遣はし、黄金水の宝に優れる貴重なる国玉を汝に与へむ。汝が敵に奪はれたる玉は今や死海に落ち沈めり。されどこの玉はもはや汚されて神業に用ふるの資格なし。されば、われ新に十二の玉を汝に与へむ。この玉を持ちて竜宮城に帰還し、功績を挙げよ』 と言葉をはるや、忽然としてその神姿は隠れ、白気となりて太白星中に帰還された。たちまち鳩のごとき白鳥天より降るをみとめ雀躍抃舞した。されど鶴若は、わが身一つにして十二の白鳥の後を追ふはもつとも難事中の難事なり、いかがはせむと案じ煩ふをりしも、天上より声ありて、 『汝は天空もつとも高く昇り詰め、玉の行方を仔細に見届けよ』 といふ神の言葉が聞えてきた。 鶴若はその声を聞くとともに天上より引つけらるるごとき心地して、力のかぎり昇り詰めた。このとき十二の白鳥は諸方に飛散してゐたが、たちまち各地に降下するよと見る間に白き光となり、地上より天に冲して紅霓のごとく輝いた。 鶴若はその光を目あてに降つた。見れば白鳥は一個の赤玉と化してゐる。鶴若は急いでこれを腹の中に呑み込んだ。また次の白気の輝くところに行つた。今度はそれは白玉と化してゐた。これまた前のごとく口より腹に呑み込んだが、かくして順次に赤、青、黒、紫、黄等の十二色の玉をことごとく腹に呑み込んだ。鶴若は、身も重く、やむをえず低空を飛翔して、やうやく芙蓉山の中腹に帰ることをえた。 芙蓉山の中腹には種々の色彩鮮麗なる雲立ちあがつた。この光景を怪しみて、清国別は訪れて行つた。すると其処には立派なる女神が一柱現はれて、十二個の玉を産みつつあつた。清国別は怪しみて、 『貴神は何神ぞ』 と尋ねた。女神は答ふるに事実をもつてし、かつ、 『この玉を貴下は竜宮城に送り届けたまはずや』 と頼んだ。この女神は鶴野姫といふ。 清国別はここに肝胆相照らし、夫婦の約を結び、竜宮城に相携へて帰還し、この玉を奉納せむとした。 しかるに夫婦の契を結びしより、ふたりはたちまち通力を失ひ、次第に身体重く、動くことさへままならぬまでに立ちいたつた。 ふたりは神聖なる宝玉はともかく、夫婦の契によりてその身魂を涜し、通力を失ひたることを悔い、声をはなつて泣き叫ぶ。 その声はアルタイ山を守る守護神大森別の許に手にとるごとく聞えた。大森別は従臣の高山彦に命じ、芙蓉山にいたつてその声の所在を探らしめた。 高山彦は命を奉じ、ただちに芙蓉山に天羽衣をつけて、空中はるかに翔り着いた。見ればふたりは十二の玉を前に置き泣き叫んでゐる。高山彦は大いにあやしみ、 『汝、かかる美しき宝玉を持ちながら、何を悲しんで歎きたまふや』 と問ふた。ふたりは答ふるに事実をもつてし、かつ、 『貴神司はこの十二の玉を竜宮城に持ちゆき、大八洲彦命に伝献したまはずや』 と口ごもりつつ歎願した。 高山彦はこの物語を聞き、しばし頭を傾け、不審の面持にて思案の体であつた。たちまち物をも言はず、ふたたび羽衣を着し、アルタイ山めがけて中空はるかに翔り去つた。 後にふたりは絶望の念にかられ、その泣き声はますます高く天上に届くばかりであつた。ふたりのまたの名を泣沢彦、泣沢姫といふ。 高山彦はアルタイ山に帰り、大森別に委細を復命した。大森別は、 『こは看過すべからず。汝も共にきたれ』 といふより早く天の羽衣を着し、芙蓉山に向つた。さうして心よくふたりの請を入れ、十二個の玉を受取り、ただちに竜宮城にいたり、この玉を奉献した。 大八洲彦命は大いに喜び、これを千載の神国守護の御玉とせむと、シオン山に立派なる宮殿を造営し、これを安置した。 シオン山は竜宮城の東北に位し、要害堅固の霊山にして、もしこの霊山を魔軍の手に奪はれむか、地の高天原も竜宮城も衛ることのできない重要な地点である。 ここに棒振彦仮の名美山彦、高虎姫仮の名国照姫は、この霊地を奪ひ、かつ十二の宝玉をとり、ついで竜宮城および地の高天原を占領せむとして、主としてシオン山に驀進した。かくていよいよシオン山の戦闘は開始さるるのである。 (大正一〇・一一・六旧一〇・七谷口正治録)
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霊界物語 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 50 鋼鉄の鉾 第五〇章鋼鉄の鉾〔一〇〇〕 神国別命、神国彦以下の神司は、八王大神の変心せしことは夢にも知らず、数多の神司に囲繞されながら、諄々として国治立命の教示を説き示しつつあつた。 折しもにはかに城内は騒々しく数多の足音は近く迫つてきた。室内の戸を開くやいなや、八王大神は以前にかはる暴悪なる顔色をなし、大刀の柄に手をかけ、神国別命の前に詰めより、 『汝はすみやかに盤古大神に帰順せよ。混乱紛糾をきはめたる現下の世界の情勢は、汝らの主神国治立命の唱ふるごとき、迂遠きはまる教をもつて、いかでか天下を至治太平ならしむることを得む。汝らの唱ふる経綸策は、天下泰平に治まれる世にたいしての遊戯的神策にして、言ふべくして行ふべからざる迂愚の策なり。汝すみやかにその非を悟り常世城の従臣となるか、ただしは兜をぬいで降伏するか、二つとも否認するにおいては、気の毒ながら汝らを門出の血祭り、一刀両断の処置を執らむ』 と打つて変つた狂態を演ずるのである。 神国別命は、じゆんじゆんとしてその非を説き、天下は圧力武力をもつて到底治むべからざるの神理を、言葉をつくして弁明した。されど貪、瞋、痴の三毒をふくめる悪神の主将八王大神には、あたかも馬耳東風のごとく、もはや毫末の効果もなかつた。 八王大神は立ちあがり、 『いらざる繰言耳を汚すも面倒なり』 と真向上段に斬つてかかつた。神国別命以下は身に寸鉄を帯びず、ただ一心に神明を祈るよりほかに道はなかつた。神国別命は天に向つて合掌し、神言を奏上せむとするや、八王大神は一刀を頭上高く振りかざしたるままどつと仰向に倒れた。この光景を目撃したる常世城の神司は、右往左往に周章ふためき、急ぎ常世姫にこの実状を報告した。常世姫は直ちに鉄棒の火に焼けて白熱化したるを提げ来り、あはや神国別命は、焼鉄に打たれてすでに焼き滅ぼされむとするをりしも、東北の空より俄然暴風吹ききたり、常世姫は暴風にあふられて、たちまち地上に転倒した。城内の神司もまた一度にどつと吹き倒された。神国別命は神国彦以下の神司とともに、からうじてその場を逃れ、やうやくにして竜宮城に帰還し、高尾別の変心し、かつ何時魔軍を引率してここに攻め来るやもはかられざることを、国直姫命に奏上した。 ここに地の高天原においては、国直姫命、大八洲彦命、言霊別命以下の神将竜宮城に会し、八王大神の反逆にたいし防戦の議をこらした。このとき国直姫命は、 『いかなる暴悪無道の強敵たりとも、神明の力を信じ、天地の律法を遵守し、悪にたいするに至善をもつてせよ』 との命令を発せられた。神司は神国別命の詳細なる報告に接し、切歯扼腕悲憤の涙を、顋辺にただよはしながら、天地の律法に違反すべからず、あくまで柔和と懇切と信義をもつてこれに対抗せむと、協議一決した。 時しも百雷の一時に轟くごとき音響とともに黒雲に乗じ、西南の天をかすめて入来る数多の鳥船がある。彼らは黄金橋のかたはらに落下し、獅子奮迅の勢をもつてヨルダン河を押しわたり、竜宮城に押しよせ門扉を打破り、暴虎馮河の勢をもつて城内に侵入し、国治立命に面会せむと、大音声に呼ばはつた。 鬼雲彦、清熊を先頭に八王大神その他の魔神が、雲霞のごとく押し寄せているため、城内はにはかに騒ぎたつた。大八洲彦命は周章ふためく神司を制しとどめ、みづから出でて八王大神に面会し、来意を厳かに訊問した。 八王大神は傍若無神の態度にて、諸神将を眼下に睨めつけ、 『汝らのごときやくざ神にいふべき言葉なし。すみやかに国治立命に見参せむ』 と仁王立になつて怒号した。国治立命はこの声を聞くより、たちまち悠然としてその場に出現したまうた。八王大神は声をふるはしながら、 『われは盤古大神大自在天の大命を伝へむために出場せり。汝はみづから国治立命と称すれども、まつたくの偽神なり。国治立命とは国土を永遠に立て守るべき神明なり。かかる天下混乱の際、下らぬ迂遠なる教をもつて、難きを避け安きにつかむとするは心得がたし。汝が唱ふる天地の律法とはそもそも何ぞ。陳腐固陋の世迷言にして唾棄すべき教理なり。すみやかにこの律法を破壊し、汝はこれより根の国底の国に、一時も早く退却せよ。真の国治立命は、大自在天の権威ある神策によつて、初めて顕現せむ。返答いかに』 と詰めよつた。 八王大神の従臣、鬼雲彦は尻馬に乗り、 『汝国治立命と称する偽神よ。八王大神の教示を遵奉せずして、万一違背に及ばば、われは竜宮城の諸竜神を寸断し、地の高天原の神司を、一柱も残らず、刀の錆となし、屍の山を築き、竜宮海を血の海と化せしめむ。返答いかに』 と詰めよつた。国治立命以下の諸神司は、天地の律法をみづから破るに忍びず、いかなる悪言暴語にも怒りをしづめ、博く万物を愛するの律法を遵守し、柔和の態度をもつてこれに向はせ給ふた。 されど八王大神は何の容赦もなく、つひに一刀を抜きはなち、今や狼藉におよばむとするとき、衆神の中より突然現はれたる花森彦は、 『われはただ今戒律を破らむ』 と言ひもはてず、一刀を抜きはなち鬼雲彦の背部に斬りつけた。なほも進んで八王大神に斬つてかかるを、大足彦は、「しばらく待て」とこれを制止した。 大足彦の一言に花森彦も刀ををさめ、元の座に復し、唇をふるはせ、心臓をはげしく鼓動させ、顔色蒼白となつてひかへてゐた。八王大神はこの勢にのまれて、やや躊躇の色が見えた。鬼雲彦は背部の負傷にその場に打倒れ、哀みを乞ふた。 ここに大足彦は、国の真澄の鏡を取出し、八王大神以下の魔軍を射照した。たちまち正体をあらはし、悪竜、悪鬼、悪狐の姿と変じ、自在の通力をうしなひ、身動きも自由ならず一斉に救ひを乞ふた。 この時ふたたび国治立命あらはれ給ひ、 『地の高天原は天地の律法を遵守する、正しき神の神集ひに集ふ聖地である。また広く万物を愛し、禽獣虫魚にいたるまで殺さざるをもつて主旨とす。ゆゑに今回にかぎり汝らの罪を赦し、生命を救ひ、常世城に帰城せしむべし。汝らは一時も早く帰城し、常世姫をはじめ他の神司にわが旨を伝へよ。暴に報いるに暴をもつてせば、何時の日か世界は治平ならむ。憎み憎まれ、恨み恨まれ、殺し殺され、誹り誹られ、世は永遠に暗黒の域を脱せざるべし。常世姫にして、わが教を拒まば是非なし。常世城をすみやかに明け渡し、根の国、底の国に、汝ら先づ退却せよ。しからざればやむを得ず、律法を破り、決死の神司をして、常世姫を屠らしめむ』 との厳格なる神示であつた。 ここに八王大神は、その意を諒し、厚く感謝して部下一同とともに、神国彦に送られ常世城に立帰り、国治立命の神示を常世姫に伝へた。常世姫は聞くより打笑ひ、鼻先に扱ひつつあくまで国治立命に対抗し、大八洲彦命以下の神司を滅ぼし、ふたたび竜宮城を占領せむと力みかへり、かつ八王大神の不甲斐なきを慨歎した。 八王大神は常世姫の大胆なる魔言に動かされ、ふたたび反抗の旗を挙げむとし、魔神を集めて決議をこらす折しも、天上より鋼鉄の鉾、棟をついて降り、八王大神の側に侍する鬼雲彦の頭上に落ち、即死をとげたのである。これは自在天より神国彦に向かつて投げたのが、あやまつて鬼雲彦に中つたのである。 八王大神は驚いて奥殿に逃げ入り、息をこらして鼠のごとく、一隅に身慄ひしつつ蹲踞んでゐた。 このとき、一天にはかに晴れ、天津日の光り輝き渡るよと見えしとたん、身は高熊山の巌窟に静坐してゐたのである。このとき巌上に坐せるわが足は、にはかに苦痛をうつたへ、寒気は身を切るばかりであつた。 (大正一〇・一一・九旧一〇・一〇外山豊二録)
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霊界物語 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 余白歌 余白歌 夢ならばいつかは醒めむ夢の世の夢物語聞いて目さませ〈序前〉 古へゆ今に変らぬ神の世の活物語するぞうれしき〈序前〉 天地のあらむ限りは人の世の光とならむこの物語〈序前〉 浮き沈み憂きを美山の彦神と化けおふせたる棒振彦の神〈第2章(初版)〉 苦にならぬ国照姫の名をかたる鼻高虎の醜の曲津見〈第2章(初版)〉 奸策を種々さまざまに振りまはす棒振彦の汚れたる身は〈第2章(初版)〉 高虎の醜女の神はロツキーの山の鼻高姫を使いつ〈第2章(初版)〉 顕はれて間なく隠るる二日月〈第4章〉 四日月を三日月と見る二日酔〈第4章〉 空海も必ず筆を選むなり〈第4章〉 美山彦国照姫は名を替へて言霊別や言霊姫となりぬ〈第5章〉 病神どこへうせたか春の風〈第5章〉 神徳は山より高し天真坊〈第6章(初版)〉 天地の律法を正す天道坊〈第6章(初版)〉 尻尾まで別れて逃げる古狐〈第8章(初版)〉 春霞棚引きそめて久方の高天原の教の花咲く〈第8章(初版)〉 久恵彦の足は行かねど天の下世の悉々は覚りましけり〈第8章(初版)〉 人皆の夢にも知らぬ幽事を覚すは神の教なりけり〈第8章(初版)〉 惟神道の奥処に別け入れば心の罪の恐ろしきかな〈第8章(初版)〉 冠を足にはきつつよろこびて沓をかしらにかぶる世の中〈第9章(初版)〉 良き人はしいたげられて曲者のもてはやさるる暗の世の中〈第9章(初版)〉 毒よりも気の毒としれ曲つ神〈第10章(初版)〉 毒々し曲津の毒の巧みごと〈第10章(初版)〉 気を付けよ味方の中に敵潜む〈第10章(初版)〉 虎よりもおそろしき口を人は持ち〈第11章〉 しこめとは我大神をおしこめしからの身魂の使なりけり〈第12章(初版)〉 まごころを貫きとほす槍の穂に常世の鬼も逃げうせにけり〈第13章〉 蜂かこむ室屋を出て大巳貴須世理の姫の比礼に免れつ〈第13章〉 烏羽玉の暗き天地照らさむと雲押し別けて月は出でけり〈第13章〉 惟神宇宙の外に身をおきて日に夜に月の光あらはすも〈第13章〉 炉の傍に居ても寒けき冬の夜の御空に澄める月もありけり〈第13章〉 いつはりの無き世なりせば斯くばかり心も身をも砕かざらまし〈第14章(初版)〉 初めてぞ神の恵みの知られけり苦しき坂を登り終ふせて〈第15章〉 病む時は神の御前に平伏して心の罪の在所たづねよ〈第15章〉 梟や宵になく声朝のこゑ〈第16章(初版)〉 登りゆく神路の山の山松に神の恵の露の玉散る〈第17章〉 八島国島の悉々照り渡る神の威徳に隈蔭もなし〈第17章〉 大空にきらめき渡る星かげものぼる旭にかくろひにけり〈第19章〉 一切のことに疑問を抱く内はまだ小人の境を脱せず〈第22章〉 世の中の総ては区々の感情の争ひなりせば神に在れ人〈第22章〉 幸福は家内揃うて睦まじく暮すにまさる歓びはなし〈第23章〉 産業の外の事業の一切は皆空業と覚るべきなり〈第23章〉 現し世の濁りに濁り乱るるはみな黄金の禍ひなりけり〈第25章〉 神界の真の神業は産業にあらねど唯一の実業と知れ〈第25章〉 奇魂智慧の光は村肝の心の暗を照り明すなり〈第26章〉 奇魂智の道の程々に世の物事を裁く義しさ〈第26章〉 世を救ひ国を開きて曲津まですくふ言霊別の雄々しさ〈第28章〉 国々に御名を変へさせ玉ひつつ救ひの為に降ります主〈第29章〉 天のはて地のきはみもおつるなく照らす光と現はれし救主〈第29章〉 老人も若きも男子女子も上る神路の山は変らじ〈第30章〉 あし原の中つ御国は異人の夢にも知らぬ宝ありけり〈第30章〉 教とは人の覚りの及ばざる神の言葉の御告なりけり〈第30章〉 躊躇の心打ち捨て勇ましく思ひし善事遂ぐるは義し〈第34章〉 国人を幸ふために身を忘れ難みに殉ふ心義しさ〈第34章〉 一家内和合なければ自棄自暴遂には離散の憂目見るべし〈第36章〉 咲く花の散り行く見ればいとど猶身の果敢なきを忍ばるるかな〈第37章〉 身体はよし死るとも霊魂は幾千代までも生きて栄ゆる〈第37章〉 みづみづしをしへの主の御姿は空照り渡る月のかんばせ〈第40章〉 春の朝露にほころぶ白梅の花にもまして美しき救主〈第40章〉 万有に通ずる真の神力は自信の光に如くものは無し〈第42章〉 わが祈る誠を愛でて惟神奇しき力を授け玉へよ〈第44章〉 天照神の教は神国の人のふむべき大道なりけり〈第44章〉 釈迦孔子や外の聖の唱へたる教も一つは善き節もあり〈第44章〉 今の世は神の職の多けれど神の真教を知る人まれなり〈第44章〉 時つ風吹き荒ぶとも真木柱立てし初めの心ゆるめな〈第49章〉 醜草を薙ぎて放りて神国の日本魂の松の種蒔け〈第49章〉 いろいろと世は紫陽花の七変り変らぬ道は天津日の道〈第49章〉 道のため書き記したる教典の千代万代に栄えとぞ思ふ〈第50章〉 この道の光も知らぬ人草は醜の魔風に靡き伏しつつ〈第50章〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました]
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霊界物語 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 26 大蛇の長橋 第二六章大蛇の長橋〔一二六〕 モスコーには、黒色の玉を安置し、これを烏羽玉の宮といふ。道貫彦を八王神となし、道貫姫を妻として神務を輔佐せしめ、夕日別を八頭神とし、夕照姫を妻として神政を輔翼せしめたまへり。 夕照姫は常に気の勝ちたる女性にして、したがつて肉体甚だ弱く、常に病魔の襲ふところとなりゐたり。その病魔は八頭八尾の大蛇の眷族大蛇姫といふ邪霊ありて、憑依し、姫の身体を苦しめゐたり。これがために夕照姫はつひに重態におちいり、危篤に瀕しければ、夕日別は枕頭をはなれず親しく看護に手をつくしたり。従つて夫婦の仲はきはめて親密なりける。夕照姫は臨終にさいし、夕日別にむかひ、 『妾が死後はかならず後妻を納れたまふなかれ』 と遺言せむとし、言ひだしかねて煩悶し、連日連夜夫の顔を凝視てゐたりける。夕照姫は、吾が死後において夫の後妻を娶るを嫉ましきことに思ひ、その一念執着のため、臨終の息を引きとりかねゐたりけるより、夕日別はつひにその心中を察知し、妻にむかひて、 『汝は吾に心を残すことなく神界にいたるべし。汝の昇天後、吾は断じて後妻を納れじ、安心せよ』 と約したりければ、夕照姫は満面笑をふくみ眠るがごとく絶息したりける。 かくて夕日別は多くの年を経たるが、老年におよび淋しくなりしより、後妻を娶らむとするの心を抱きける。部下の神人は、命の老て寂寥を嘆きたまふを気の毒に思ひ、後妻を娶られむことを勧めけるに命はおほいに喜び、夕照姫との約束を無視して、八王神道貫彦の娘なる夕凪姫を娶りける。 夕日別はそれより元気とみに回復し、領内の巡視に、あまたの従者をしたがへ出張さるることしばしばなりき。夕凪姫はいつも奥殿に居住して外出せざりけるが、ある時、たちまち天上より黒雲に乗りて降りきたる容貌醜悪なる鬼女あり。薙刀をひつさげ、夕凪姫の前に現はれて、 『妾こそは夕照姫なり。夫は、妾が臨終のときの堅き約束を破り、汝を納れて後妻としたり。妾は夫にたいして恨を晴らさむと日夜つけねらへども、神力強盛にしていかんともすること能はず。よつて、その片割なる汝と雌雄を決せむ。尋常に勝負あれ』 と呼ばはりけるに、夕凪姫も元来勝気の女性なれば、少しも怖れず、ただちに立つて長押に懸けし薙刀を取るより早く立ちむかひける。かくして互ひに火花を散らし、秘術をつくして戦ひけれども容易に勝負はつかず、鶏鳴とともに夕照姫は、ふたたび黒雲にのり中空に影を没したりける。夫の不在中は、毎夜時刻を定めて現はれきたり、たがひに薙刀をもつて勝負を争ひゐたるをもつて、一間のうちは天井裏、柱、畳、襖の区別なく、薙刀の創痕ばかりとなりける。されども夕凪姫は深くこれを秘して何人にも漏らさざりけり。 夕日別は領内の巡視を終へ、帰城して夕凪姫の奥殿に入り、居室の刀痕を見ておほいに怪しみ、その理由を尋ねける。夕凪姫はやむを得ず有りし次第をもれなく物語りしに、夫はこれを聞きておほいに驚き、ただちに烏羽玉宮にいたり、祈願を凝らし、かつ宮司高国別をもつて神勅を奏請したりける。 ときに巫子あり、にはかに身体震動し、大地にバツタと倒れ、起あがりてはまた倒れ、大声を放つて泣き叫び、夕日別の面上を穴のあくばかりに、怨恨に燃ゆる嫌らしき目をもつて睨みつけ、 『汝夕日別は、妾との約束を破り、夕凪姫を後妻にいれたり。ただ今、目に物見せむ』 と矢庭に飛びかかり、命の首に手をかけ、生首を引き抜かむと猛りくるふその有様は、身の毛もよだつばかりなりける。 夕日別は如何ともするよしなく、ただ違約の罪を謝し、かつ、 『夕凪姫を離縁して汝の霊を慰め、冥福を祈るべければ、今回は許せよ』 といひけるに、巫女はふたたび口を切りて、 『しからば妾が要求すべきことあり、第一にその要求を容れたまふか』 と念を押したり。夕日別は震慄しながら、 『何事にても我が力のおよぶ範囲のことならば汝の要求に応ずべし』 と言葉も切れぎれに息をはづませて答へける。巫女はやや顔色をやはらげ、 『然らばモスコーの長橋の袂に、今宵丑満の時を期して、三万匹の蛙を捕へ、笊籠に納めて汝みづから持ちきたれ』 といふを、夕日別は恐怖のあまり一も二もなくこれを承諾して館に帰り、即時に数多の神卒に命じ、山野にいでて蛙を捕獲せしめたれど、蛙は漸く三百匹より集まらず、夕照姫の要求の百分の一を得たるに過ぎざりける。ここに夕日別はやむを得ずあまたのなめくじを捕へてこれを底積となし、蛙をもつて上側をつつみ、侍神をして丑満の刻を期し、長橋の袂に持ち運ばしめける。 たちまち天上より黒雲に乗りくる鬼女あり。侍者は驚きその場に打ち倒れむとするとき、鬼女はこれを助けおこし侍者にむかひて、 『夕日別は何故来りたまはざりしや』 と問ひければ、侍者は答へて、 『命は数十万のなめくじを室の四周に集め、その中に安座して出でたまはず、夕凪姫と相擁して楽しみゐたまへり』 と答へたるに、鬼女はたちまち忿怒の色を現はし、見る見る黒き大蛇の姿となり、蛙の入れある笊に頭を投げ入れ、一口に喰ひつくしたるが、たちまちなめくじの毒にあてられ、大蛇の身体は見るまに溶解消滅して跡には骨のみを残し、夕照姫の怨霊はここにまつたく滅尽したりける。 夕凪姫は、それより先妻同様の病を発し、帰幽してその霊魂は大蛇と化し、長橋の守護神となりにける。これを「大蛇の長橋」と称ふ。 (大正一〇・一一・二八旧一〇・二九加藤明子録)
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霊界物語 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 45 猿猴と渋柿 第四五章猿猴と渋柿〔一四五〕 天使長高照姫命以下の女天使は、天地の激怒に狼狽し、ほとンど為すところを知らず、部下の神司らは残らず驚きのあまり右往左往に逃げまはり、或ひはつまづき或ひは失神し、とかげの欠伸したるごとき怪しき顔にて呆れ仰天するもあり、石亀の酒壺におちいりて溺れし時のごとき顔付にて、じつに見るも滑稽至極のいたりなりける。 雷鳴は容易にやまざるのみならず、ますます激烈に鳴りとどろき、東北の強風しきりに吹き荒み、暗雲天地に閉してすさまじく、常夜の暗のごとく神人戦慄し、禽獣虫族にいたるまで、いづれも地に俯伏して息をも発せざるの惨状を現出したるぞ畏こけれ。また四柱の女天使は自我心もつとも強くして、神命さへも抗拒し律法を破りたれば、天地の大神の怒りに触れ、かかる混乱状態に陥りたるぞ是非なき次第なりけり。 待ちまうけたる常世姫の部下、国照姫、杵築姫は、平素の願望を成就するはこの時を逸すべからずとし、国治立命の奥殿に参向し、高照姫命以下の女天使らの神勅を無視し、律法に違反せる罪科を詳細に陳述し、すみやかに四柱の女天使の職を免じ、聖地聖城を追放されたしと進言したり。神明に依怙なし、大神は天地の律法に対し、情に訴へて四天使を赦すわけにもゆかず、つひに涙をのンで四人の聖職を免じ、かつ四人に対し、改心のためとてエデンの園に籠居を厳命したまひける。 四天使は神命と律法にたいしては抗弁するの余地なく、唯々として厳命を拝受し、命のまにまにエデンの園に籠居の憂目を味はふの止むなきに立いたりけり。 四天使の追放とともに、さしも激烈なりし雷鳴も、凄じかりし電火も、烈風強雨も、たちまち鎮まりて清澄なる天地と化し、宇宙は夢の醒めたるごとき光景となりにける。 エデンの園は、東北西の三方青山をもつて囲まれ、南方のみ広く展開して一条の大川清く流れ、自然の城壁を造られあり。四人はこの一定の場所に押込められ、草木の実を食用に供しつつ楽からぬ光陰を送りけり。 エデンの園は、かつて邪神の棟梁竹熊の割拠せし所にして、鬼熊のために占領せられしが、鬼熊、鬼姫の没落後まつたく竜宮城の管下になりゐたりしところなり。 因に、高照姫命は金勝要の神の和魂であり、 真澄姫命は幸魂であり、 言霊姫命は荒魂であり、 竜世姫命は奇魂である。 今まで四魂合一して、神業に奉仕されつつありしが、自我心の強烈なりしために、聖地聖城を追放され、さびしき配所の月に心を慰め、時を待ちたまふの止むをえざるに立いたりしは実に残念のいたりなりける。これについても慎むべきは、自我心と驕慢心なれ。神諭の各所に、 『金勝要之神もあまり自我心が強かつたゆゑに、狭い処へ押込められなさつたぞよ』 とあるも、この消息を漏らされたるなり。 しかるに金勝要の神は、一旦大地神界の根神とまでなりたまひしに、自我心の頑強なりしため、エデンの園に押こめられ、なほも自我を頑強に張りしため、つひには地底の醜めき穢なき国に墜落し、三千年の辛苦をなめたまふに至りしなり。 美山彦、国照姫の一派は、時運の到来をよろこびつつ、かならずや後継の天使長は、常世彦に新任され、自分らの一派は天使の聖職を命ぜらるるものと期待し、肩を怒らし鼻をうごめかし、得意頂点に達し、その吉報を今か、いまかと指をり数へて楽しみ待ちゐたりける。 しかるに豈計らむや、後継の神司は常世彦一派に下らずして、天上より降りきたれる金神の首領なる沢田彦命の一派に降りける。沢田彦命は一名大将軍と諸神将より賞揚されつつありし英雄神におはせり。 常世彦の一派は、案に相違し、猿猴が渋柿を口一杯に含みしごとく、頬をふくらせ渋面を造りながら、悄然として引下がりたるその状、見るも気の毒なる次第なりける。 ここに国治立命は沢田彦命を天使長に任じ、妻沢田姫命を輔佐神司となし、真心彦を天使に任じ、妻の事足姫をして神務を輔佐せしめたまひける。 また沢田彦命の従臣に、八雲彦、八雲姫の夫婦ありしが抜擢されて用ひられ、また真心彦には国比古、国比女の夫婦および百照彦を従臣として奉仕せしめられたり。 百照彦は、真心彦のもつとも寵愛深かりし者にして、真心彦は霜の朝、月の夕に無聊を晴らすためと、百照彦を居室に招き、種々の面白き物語を聞きて心の労を慰めゐたり。百照彦は、いかにして主の心労を慰安せむかと常に焦慮しゐたれども、主の機嫌とるべき物語も、もはや種絶れとなりにける。 いかにせば良からむやと我が居間に端座し、双手を組みて吐息をもらし、思案に沈みてゐたるを、妻なる春子姫は夫の近ごろの様子をうかがひ、夫には何か一大事の出来し、それがために朝夕苦慮をめぐらしたまふならむかと、心も心ならず、思ひきりて夫にむかひ言ふやう、 『近ごろの夫の様子を伺ひまつるに、よほど御心痛のていに見受けたてまつる。天地の間にかけがへなき水ももらさぬ夫婦のあひだに、なにの遠慮懸念のあるべきぞ、苦楽を共にすべき偕老同穴の契を結びたる妻に、心の苦衷を隠したまふは、実に冷酷無慈悲の御仕打ち、妾はこれを恨みまつる』 と涙片手に口説き立つれば、百照彦はやうやく口を開き、 『吾は主の仁慈と恩徳の深きに昼夜感謝の念を断たず。しかるに主真心彦は神務の繁忙に心身を疲労し、日をおひて身体やつれ弱らせたまふを見るにつけ、従臣の身として、これを対岸の火災視するあたはず、いかにもして主の御心を慰め奉らむと日々御側に侍し、神務の閑暇には面白き四方山の物語を御聞に達し、御心を幾分か慰め奉りきたりしに、もはや吾はめづらしき物語もつきたれば、今後はいかにして御心を慰め奉らむと、とつおいつ思案にくるるなり』 と語りて太き吐息をつく。春子姫は何事か期するところあるもののごとく、夫にむかひ笑顔をたたへ見せゐたりけり。 (大正一〇・一二・九旧一一・一一加藤明子録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 14 大怪物 第一四章大怪物〔一六四〕 ここに大島別の従臣たる玉純彦は、八王大神の許しを得て威勢よく登壇し、笑顔を湛へながら満座の神司の首を一々実検におよび、両肩をわざと聳やかしながら、 『アヽ満座の神司よ、耳の穴の清潔法を執行し、風通しを良くして以て、吾が述ぶるところの高論卓説を謹聴せられよ。我こそは、南高山に隠れなき雷名天地に轟き渡る八王神大島別の第一の重臣のその従臣、又その従臣なる玉純彦とは我がことなり。日は照るとも曇るとも、常世の城は焼けるとも、南高山の名城さへ無事ならば毫も痛痒を感ぜず、笑つてこれを看過するといふ鷹揚至極の大英傑大胆者の玉純彦なるぞ。諺にも勇将の下に弱卒無し、臍の下に乳房なし、口の下に眼なし、ただ眼と口の間には、かくのごとき高き鼻あるのみ』 と言ひつつ右手の指を固めて拳となし、その拳を吾鼻の上におき、左の手の指を固めて前の如く拳骨を造り、右手の上に重ねて、またもや右の手を抜いては左の手の上に重ね又左手を抜いては右手の拳の上に重ね、交る交る手を抜きては重ね腕を上前方に伸長して、 『我はかくの如き鼻の高き英雄なれば、南高山の鼻形役者と持てはやさるる、花も実もある尊きものなるぞ。花の都の花と謳はれしは、智仁勇兼備の誉を恣にする吾玉純彦のことなり。吾素性を聞いて胆を潰し、壇上より転落し、肱を折り挫かざる様、登壇さるる諸神人にたいし忠告を与ふ』 と、広依別もどきにさも横柄にかまへ、またもや以前のごとく両手の拳を交る交る鼻の先に高く重ねながら、手を振り足踏みとどろかし、品よく面白く踊りながら、即座に口から出まかせの歌を作りける。その歌、 『狐ン狐ン痴奇珍狐ン痴奇珍抑狐ン度の大怪議 常世の国の常世彦常世の姫の狐ン胆で ヤツト開けた狐ン怪の真怪屁和のそのために 八百八十八柱の寄りに寄つたる痴甚幽 惨得犬尾の誤醜怪恐れ入谷の鬼子母神 鬼や悪蛇の御念仏アカンアカンと鳴る鐘は 弥勒三会の鐘鳴らで地獄の門を押し開く 合図とかねてきく耳の耳と舌とは極楽へ 上る壇上は針の山足並痛く揃はぬは 妙痴奇珍の珍怪議泥田や野天で法螺を吹く 尾も白狸の腹つづみ神の面には泥をぬり どこもかしこも泥田ン坊泥つくどんどん泥まぶれ 泥に酔ふたる鮒のごと泥吐かされて笑はれる 狐ンな馬鹿げた失態は常世の何処を探しても またと有るまい赤愧とあたまを掻いて仰天し 見れば天には天の川数千万の星の影 ほしいほしいは神界の総統権と咽鳴らす 猫を被つた常世彦常夜の暗の常世姫 さぞや心は細引の褌のやうに右左 外れた目算桁違ひ春日の森の古狐 喰へて振られたモスコーの道貫彦の面の皮 かはいかはいの春日姫長い尻尾に尻の毛を 抜かれて八王の聖職を捨てるといつた腰抜けの 尻からはげて泥の中なかぬ斗りの顔つきで あつもの食つて懲りこりし鱠を吹いた可笑しさよ 南高山は名にし負ふ難攻不落の鉄城と 天下にほこりし八王の大島別の尻の毛は 八島の狐につままれて一本も残らず抜き取られ 城よりか己れ真先にあばずれ姫の春日女の 愛におぼれて無残にも自ら八王の聖職を 落す盲目の常夜城野天の泥田に落されて からしが利いたか双の眼に涙落した可笑しさよ 禿げたあたまは光れども心の魂は光りなし 早く身魂を研きあげ玉純彦の神となり 聖地の神に謝罪せよそれが厭なら我前に 三度も四度も尻まくりワンワンワンと声高く ほえて廻れよ禿八王時世時節と云ひながら 斎代の彦の鼻神は鼻をこすつて眼をこすり 寝とぼけ顔の寝言をば百万陀羅尼と蝶舌り立て 口先ばかりの大神楽獅子の舞ならよからうが 奇想天外天山の八王の神の唐威張 心の底はドキドキと轟き震ふた斎代彦 何を柚やら蜜柑やらキンカン桝で量るやら はかり知られぬ底ぬけの池の鮒とぞならにやよい 生血を搾り吸ひに来る蚊取別神壇上に 現はれ出でて灰猫の手水を使ふその恰好 ツルリと撫でた黒い顔ピシヤリとたたいて鼻柱 吾と吾手で打ち懲らし眼から火を出し肱を折り 痛つたいいたいと男泣き気の毒なりける次第なり 八十枉彦の腰まがり心も鼻も首筋も 能く能く揃ふた曲津神機織バツタの化物か 稀代の珍姿怪体をもれなく高座に曝したり 広依別のウロウロと前後左右に壇上に 大法螺吹いて舞ひ狂ひ蚊取の別の二の舞を 演じてまたもや赤耻をかいてかかれて場外へ 投げ出だされし愚さは余所の見る目も憐なり 余所の見る目も憐なり狐ン狐ン痴奇珍狐ン痴奇珍』 満場の諸神司は玉純彦の面白き節にて謳ふその美声に酔はされ、神聖なる議席にあるを忘れて、ただ口のみ、あんぐりとし耳を澄まし、目を見張りゐたりける。 ふと面を上ぐれば、今まで玉純彦と見えしは謬りにて、仁王にまがふ骨格たくましき荒神は、鏡のごとき両眼をカツと見開き、太き鉄棒をひつさげ壇上に衝立ちながら、八王大神の方を見つめて火焔のごとき舌を吐き出しヂリヂリと攻めよるにぞ、さすがの常世彦も満座の諸神司もこの光景に荒胆をくじかれ、顔色土のごとくに変じ、わなわなと地震の孫の火事見舞のやうに震ひ出しける。この荒神は次第々々に煙のごとく成りて消えたまひける。日は常世の西山に舂きて、早くも黄昏つぐる長鳴鶏の声とともに、第三日目の大会議はまたもや有耶無耶に閉ぢられたりにけり。玉純彦は依然として此の間自席に眠りを貪りゐたるなり。そのため、この光景を夢にも知らざりける。はたして何神の化身なりしぞ。この怪物の正体はいつの日か氷解さるるならむ。神諭に示されたる三千世界の大化者とは如何なる神にましますか、たいてい推知し得べきなり。 (大正一〇・一二・一八旧一一・二〇出口瑞月)
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霊界物語 06_巳_大洪水/国生み神生み/三五教の誕生 34 三大教 第三四章三大教〔二八四〕 黄金山下の埴安彦神の教示を天下に宣伝する東彦は、一同を集め、岩上に端坐し五大教の教理を説示する折しも、遥の前方より、又もや白髪異様の宣伝使現はれ来り、 北光天使『この世を造りし神直日御魂もひろき大直日 ただ何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ 身の過ちは宣り直せ』 と節面白く謡ひつつ、此方に向ひて進み来る。 頭髪は飽くまで白く、髯は八握の胸先に垂れ、是また純白にして、銀の如き光沢を放ち居たり。 この宣伝使は、霊鷲山麓の玉の井の郷に現はれ出でたる三葉彦神の教理三大教を、天下に宣布する北光天使であつた。さうしてこの霊鷲山は印度と西蔵の境に屹立する高山であり、黄金山は聖地ヱルサレムの傍に聳え立つ橄欖山の別名なり。 白髪異様の老宣伝使は、東彦天使の宣教を耳を澄ませて路傍に立ちながら静に聴き入る。東彦天使はこの宣伝使が、吾傍に来りて教理を立聞きせることを夢にも知らず、一心不乱に側目も振らず五大教の教理を説示しつつありき。 北光天使は一同に目礼するのも打忘れ、襟を正して無我夢中にこの教理を聴きつつありき。東彦天使は少しく息を休めむとして口を閉ぢ、あたりを見れば、白髪異様の宣伝使が平岩の傍に佇立しゐるに驚き、 東彦天使『貴下は何人なるや』 と軽き目礼と共に問ひかくるに、白髪異様の宣伝使は、慇懃に答礼を施しながら、 北光天使『吾は霊鷲山の麓に坐します三葉彦神の宣伝使なり。今貴下の御説示を聴き感歎措く能はず拝聴したり。願はくは吾にも教理の蘊奥を説示し給はずや』 と懇請する。 東彦天使は宣伝使と聞き、直に岩の座を下りその前に進み、慇懃に会釈しながら、 東彦天使『吾は愚鈍の性質にして、貴下らに教理を説くの力なし。只吾より後れたる信者に対し、神の道を朧気ながら口伝へするのみ』 と謙譲の色を表はし、固く辞し、かつ、 東彦天使『貴下は如何なる教理を宣伝したまふや、聴かま欲し』 と云ふにぞ、北光天使は、 北光天使『こは心得ぬ貴下の御言葉かな。そもそも神の道は神人の知識また考量を以て伝ふ可きものにあらず。神は宣伝使の口を藉りて以て甚深微妙の教理を説示し給ふにあらざるか』 と問ひ返したるに、東彦天使はその理に服し、 東彦天使『吾は誤れり。日夜大神の神示を宣伝弘布する身でありながら、かくの如き重大なる意義を忘却し居たり。嗚呼耻かしや』 とさし俯向きて、袖に顔を隠すを見て、北光天使は気の毒がり、 北光天使『致らぬ吾らの過言無礼許させたまへ。吾は神人を思ふの余り、かくも不遜の言辞を、宣伝使たる貴下に申上げしは不覚の至りなり。実に耻かしさの限りよ』 と吾心に省み、大に耻づるものの様なりける。 ここに二人の宣伝使は岩上に立ち、宣伝歌を交る交る謡ひて、天津祝詞を奏上し、天地の大神の洪徳を賛美したりける。而して二人の宣伝歌を合一して、一つの歌に延長したり。 『神が表面に現はれて善と悪とを立て別ける 魂を研けよ立替へよ身の行為も立直せ この世を造りし神直日霊魂もひろき大直日 ただ何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ 身の過失は宣り直せ』 東彦天使は席を譲つて、北光天使を平岩の上へ安坐せしめ、神の教示を聴き入りぬ。この時一同は合掌して神徳を讃美し、異口同音に宣伝歌を謡ふ。一同の顔には以前に引代へ、愉快に充てる血色漂ひける。 甲『只今の宣伝使に御尋ね致します。前刻より黄金山の宣伝使様に承はりますには、この世の中は善悪の立替があり、大慈大悲の神様が現はれて善人を助け、悪人を亡ぼし、強きを挫き、弱きを救ひ、吾々の地に落ちたる人民を天国に救うて下さると云ふ事であります。実に吾々は再生の思ひと、歓喜に堪へませぬ。然るに、又もや貴神がここに現はれて、「ただ何事も人の世は、直日に見直せ聞直せ云々」と仰せられましたが、一体これは何う云う事でありませうか。詳しく御説示を願ひます。吾々は祖先伝来の山や田地を悪人に占領せられ、女房は奪ひ取られ、住居は焼かれ、食ふに食なく、眠るに家なく、親子夫婦は四方に離散し、実に在るにあられぬ、悲しい世を送つて居ります。私はそれ故斯く乞食となりて四方を廻り、家を焼き女房を奪つた悪者を探し求めて、仇を討つてやらうと考へ、苦労艱難を致してをりますが、若し神様がこの世に在らつしやるのならば、何故こんな不公平な事があるのに、黙つて見て居られるのでせうか。私はこの世に神の存在を疑ひます。先の宣伝使の言はれたやうに、善悪を立替る神様が在るとすれば、一日も早くこの無念を晴らして欲しいと思ひます。然るに只今貴下の御言葉の中に「ただ何事も人の世は、直霊に見直せ聞き直せ」と仰せになりましたが、これは要するに何事も諦めよとの教ではありますまいか。先の神様の教と貴下の教とは、どうしてもつばねが合はないやうな考へがするのです。どうぞ詳しく御諭しを願ひたう存じます』 ここに北光天使は、 北光天使『神様は至善至美至仁至愛の御方である。故に悪を憎み、無慈悲を御嫌ひ遊ばすのは云ふ迄もない。しかし人間はいかに立派な賢い者でも、神様の御智慧に比べて見れば、実に耻かしいものであります。災多く、悪魔の蔓延る今日の世の中は、どうしても無限絶対力におはします神様の力に依頼らねばならぬ。あなたが家を焼かれ、山林田畑を掠奪され、女房を取られて、その怨みを晴らさうと思ひ、諸方を尋ね廻らるるのは人情として尤もであり、吾々も満腔の同情をよせますが、併し、そこを人間は忍耐して、敵を赦してやらねばならぬのです。そこが人間の尊い所であつて、神様の大御心に叶うといふものです』 と聞くや否や、甲はムツクと起ち上り、 甲『馬鹿』 と叫び、かつ隼の様な眼を剥いて北光天使を睨みつけ、息をはづませながら、 甲『オヽ俺はコヽ斯んな宣伝使の吐かす事は、キヽ気に食はぬ。腰抜野郎奴。嬶を奪られ、家を焼かれ、悪人に財産を全部ふんだくられ、寝る家もなく、食ふ物もなし、親子は散り散りばらばらになつて、在るにあられぬ艱難苦労をして居るのに、苦労知らずの人情知らず奴。ナヽ何が、カヽ神さまだ。赦してやれも糞もあつたものかい。尻が呆れらア。あまり人を馬鹿にするない。そんならお前の頭に、オヽ俺が今小便を引つかけてやるが、それでもお前はオヽ怒らぬか』 といひながら、宣伝使の背後に立ち、端坐せる北光天使の頭をめがけて、ジヤアジヤアと放りだした。東彦天使その他の一同は、 『待て待て』 と叫ぶ。その間に小便は全部放出し了りぬ。 北光天使は莞爾として坐りゐたり。 甲は尚も口汚なく、 甲『ヤイ腰抜、弱蟲、小便垂れ、洟垂れ』 と罵る。一同は、 『オイ貴様が小便垂れぢやないか。今現に小便を垂れたであらう。人のことだと思つて自分の事を吐かして居らア。オイ、洟を拭かぬかい。水洟垂らしやがつて、洟垂れの小便垂れとは貴様のことだよ』 といふに、甲は躍起となり、 甲『なに、俺が小便垂れたのぢやない。小便の方から出よつたのだ。俺や、洟垂れアせぬ、洟の方から出て来やがつたのだい』 と不減口を叩く。 北光天使は泰然として、小便を浴びたまま講演をつづける。 (大正一一・一・二二旧大正一〇・一二・二五井上留五郎録)
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霊界物語 06_巳_大洪水/国生み神生み/三五教の誕生 38 黄金の宮 第三八章黄金の宮〔二八八〕 高彦天使は、雲掴の改心の情現れしより、一同の霊縛を、一イ二ウ三ツと唱へながら解いた。一同は一時に身体の自由を得、涙を流して各々柄物を大地に投げ捨て、宣伝使の前に群がり来りて跪きその無礼を陳謝し、雲掴は涙片手に逐一その真相を語りける。 『当山は貴下の知らるる如く、古より国治立命の命によりて黄金の玉を祭り、玉守彦、玉守姫の二神が、宮司として之を保護し奉りて居りました。さうして神澄彦が八王神となりて、当山一帯の地を御守護遊ばされ、吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]は神政を管掌されつつあつたのでありましたが、八王神の神澄彦様は、大洪水の前に、宣伝使となつて、聖地ヱルサレムへ御出になり、それからは吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]の独舞台となつてをりました。然るにこの度、常世彦の御子なるウラル彦が、アーメニヤの聖地に神都を開かれ、宣伝使を諸方に派遣され、先年その宣伝使たる鬼掴と云ふ力の強き使が、当山にきたりて吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]と談判の末、つひに吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]は鬼掴に降伏し、アーメニヤの神都に帰順された。そこでいよいよアーメニヤの神都に、黄金の国魂を祭るべく、黄金の宮をアーメニヤに遷される事となり、やがてウラル彦は、数多の供人を引き伴れ、当山へその玉を受取りに御出になるので、吾々は吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]の厳命によりて、山道の開鑿に昼夜間断なく従事してをりました。しかるに尊き貴下の御出になり、有難き神様の教を聞かして頂きましてより、どうやら私らの心の中に潜める大蛇の悪霊も逃げ出したやうで実に天地開明の心持となり、今迄の吾々の慢心誤解を省みれば、実に耻かしくつて穴でもあらば這入りたいやうな気が致します』 と真心を面に現はして述べたてにける。宣伝使は打ち首肯き、 『汝の詐らざる告白によつて、総ての疑団は氷解した。それに就いても当山の守護神吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]は今何処に在るぞ』 との尋ねに、雲掴は、 『ハイ、この頃は黄金の宮の御神体をアーメニヤに遷す準備のために、昼夜断食の行を為して居られます。然るに肝腎の宮司なる玉守彦天使は、この御宮をアーメニヤに遷すことは、御神慮に適はないと云つて、大変に反対をされて居るさうであります。肝腎の御宮守が御承知なければ、如何に当山の守護職なる吾妻彦命[※校正本では「吾妻別命」]も、どうする事も出来ず、さりとて一旦ウラル彦に約束なされた以上は、これを履行せなくてはならず、万々一今となつて違背される様な事があるとすれば、当山はウラル彦のために焼き亡ぼされるは火を睹るより明かなりと云ふので、玉守彦天使様の御承知が行く様にと、一方に準備すると共に、一方は断食の行をせられて居るのであります。私は実は雲掴と申して、賤しき人夫の頭領を致してをりますが、実際は吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]の補佐の神司で、雲別と申す者であります。それゆえ当山の事ならば、何事も詳しく存じて居りますが、今日のところ吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]は実に板挟みとなりて、苦しみ悶えて居られます。誠に見るも御気の毒の至りであります』 と顔色を曇らせ、吐息を吐きつつ述べ立つる。 高彦天使は、雲別に向つて、 『御心配はいりませぬ、当山の禍を救ふは、唯天津祝詞と言霊の力と、宣伝歌の功徳のみであります。また黄金の宮は決してアーメニヤには遷りませぬ。これは黄金山に遷せば宜しい。黄金山には仁慈無限の神様が現はれて、立派な教を立てられて居りますから、一時もはやく之を黄金山に遷し奉り、高天原に坐します神伊邪那岐命の御神政御守護の御魂とすべきものであります。それゆゑ吾々は当山に宣伝使となつて参りしなり』 と、初めて自分の使命を物語りける。この高彦天使は、後に天照大御神様が岩戸隠れを遊ばした時、岩屋戸の前で天津祝詞を奏上し玉ひし天児屋根命の前身なり。 是より雲別の案内にて山頂に登り、吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]、玉守彦天使に面会し、三五教の教理や伊邪那岐の大神の御神徳を詳細に説き示し、つひに吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]は、伊邪那岐命に帰順し忠誠を擢ンでたりける。而して黄金の宮は、玉と共にヱルサレムの聖地に遷座さるる事となりにける。 (大正一一・一・二三旧大正一〇・一二・二六藤原勇造録)
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霊界物語 07_午_日の出神のアフリカ物語 10 附合信神 第一〇章附合信神〔三一〇〕 日の出神は、ビクビク顫ふ三人を先頭に立て山深く進みけるが、先頭に立てる甲は忽ち『キヤツ』と一声、その場に仆れたり。 乙は驚いて抱き起さうとするを、甲は眼を塞ぎ首を左右に振りながら、 甲『おい最うこらへてくれ、ドエライこつちや。今それ、健寅彦の宣伝使が仰山乾児を連れて此方へ来るぢやないか。それツ』 と目を塞ぎながら前方を指さしてブルブル顫へて言ふ。 丙『何にも来やあせぬぢやないか。猫一匹居りはせぬのに、貴様何だい、大方幻でも見たのだらう』 乙『此奴は何時もビツクリ虫を腹の中にやつと飼うとるからな。此奴と歩くと俺までが顫ひ出すわい。こんな腰抜は帰なしてやつた方がよからう。モシモシ宣伝使様、こンな奴を連れて行つては足手纏ひになつて大変な御迷惑をかけるかも知れませぬ。我々二人がお供をしますから、此奴はもう帰してやつて下さい。おい、もう除隊だ。勝手に帰つて留守の家で鼠と一緒に仲ようせい。貴様の嬶アは今ウラル彦の宣伝使に喰はれて了つてるかも知れぬぞ。早う帰つて線香でも立ててやれ。俺は斯ういふものの独身者だから、脛一本、ラマ一本だ。しかし貴様や甲になると、さういふ訳には行かぬから気の毒なものだ。それだから、三五教の宣伝使様が荷物を軽うして置けと仰有つたのだよ』 丙『馬鹿な事を言ふない。貴様だつてあのお照を嬶アにすると言つたぢやないか。そのお照は今ごろ宣伝使に殺されとるぞ。あまり大きな声で太平楽を言ふない』 日の出神『おい、好い加減に話を切り止めて案内せぬか』 一同『ハイハイ、今案内いたします』 と拳を握り人指し指をニユーツと出して、 甲『モーシ、宣伝使様、如何にも斯うにも足が向ふへ出ませぬ。かう行つて、かう行つて、かう曲つて、かう寄つてツーとお出なさいませ』 日の出神『そんなことを言つたつて分るか、この深山が』 甲『俺だけ、それなら堪へて呉れるか。家まで送つてくれ。丙は俺の後について乙は前になつて俺の所まで送つた上で、宣伝使様のお供をしてくれ』 日の出神『コラコラそンな悠長な事ではない。貴様はそンな弱いことで何うするのか。苟も三五教の教を聞いた者のする所作か』 甲『ハイ、私は何の事ぢやかテンと分りませぬが、酋長様が拝めと仰有るので拝まぬと叱られますからなア。邪魔くさいけれどイヤイヤ祭つとりますので』 日の出神『この郷の奴は皆そンな信仰か』 甲『ハイ』 と言ひかけて、首を振り、 甲『イエイエそれは私一人のことです。他の奴共は何ンな信仰有つとるかテンと分りませぬ。何だか知れませぬが、しぶとい信仰を持つとります。ウラル彦の宣伝使にエライ目に遇はされても信仰は変へぬといつて気張つてます』 乙『たとへ殺されてもこの神様には離れぬと言つてますぜ。命知らずですなア。ほンとに馬鹿ですなア。私らの思ふのには、敵はぬ時に助けて貰うための信仰なのに殺されてまで信仰する馬鹿があるものか。トンと合点が行かぬがなア』 日の出神『何ツ、殺されても信仰を変へぬというか。エライ奴だ。見込みがある』 乙『へー殺されても信仰するつて幽霊になつて信神するのですか。ケタイな神さまですなア』 日の出神は大喝一声、 日の出神『馬鹿!』 と言つたその声に三人は驚いて、両手をひろげ口を開けて、思はず知らず、二三尺飛び上る。日の出神はこれらの弱虫に目もくれず、ドシドシと又もや宣伝歌を歌ひながら、山奥さして進み行く。 (大正一一・一・三〇旧一・三桜井重雄録)
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霊界物語 07_午_日の出神のアフリカ物語 18 海原の宮 第一八章海原の宮〔三一八〕 船は漸くニユージランドの沓島の港に着きぬ。この島は人々の上陸することを禁じられありき。唯この島より湧き出づる飲料水を船に貯ふる為に寄港したるなり。 日の出神は、天津祝詞を奏上し、且つ宣伝歌を歌ひながら、二人の宣伝使を伴ひ上陸し、海原彦神の鎮まります宮に詣で、海上の無事を祈願し、風波の都合にてこの島に一月許り避難する事となりにける。 船中の人々は無聊に苦しみ、又もや珍らしき話を互に始め出し、国々の自慢をなしゐたり。 中に二三の色黒き大男と、顔の細長く脊の高き大の目を剥ける男と、少しく脊の低き痩顔の三人の男が、チビリチビリと酒を呑みながら話に耽り居る。 芳彦『おい、時彦、あんまり酒を喰うと大台ケ原に出会した日の出神が乗つとるぢやないか、見付けられたら大変だぞ』 時彦『芳彦、構ふない。今、日の出神は山へ上つて行つたぢやないか。その間に精出して貴様も呑め、俺も呑むのだ。おい、田依彦。そンな大きな目ばつかりギロつかさずに呑め呑め』 田依彦『貴様規則を破ると、俺が承知せぬぞ。俺は酒は香ひを嗅ぐのも嫌ひだのに、両方から俺を困らせようと思ひよつて、また酒を喰ふのか。今度こそは日の出神さまに言うてこます。この長い海の上をアタ世間の狭い、酒を喰ひたいものだから、名乗も上げずに、何時も俯向いて顔を隠して貴様だけなら好いが、俺まで俯向かせられて堪つたものかい』 時彦『業が湧くぢやないかい。若い男と女奴が海に飛び込みたり、上つたりしよつてな、終には気の良い宣伝使を、ちよろまかして夫婦になるなンて、馬鹿にしとるじやないか。俺らは遥々とこの波の上を、常世へ行くのも、ウラル彦さまの乾児となつて、甘い酒を鱈腹呑まして貰うためだ。国の御柱の神さまが根の国とかへ遁げて行つたと云つて、宣伝使とやらが騒いでゐるが、根の国とか、夜見の国とか云ふのは、常世の国のことだい。きつと酒に浸つて酒池肉林といふ、贅沢三昧を遊ばして御座るのよ。俺らもその酒池肉林に逢ひたさに、可愛い女房を捨てて行くのぢやないかエーン』 田依彦は丸い目を剥き出し、口を尖らせ、 田依彦『貴様はいよいよ怪しからぬ奴だ。常世の国に稚桜姫命が現はれ遊ばして、神政を再び御開き遊ばす。夫れに就て昔の竜宮の家来は、元のごとくに使うてやらうとおつしやるのだから、一時も早う行かうじやないかと、俺を此処まで誘ひ出しよつたのは嘘だつたな』 時彦『今頃に貴様嘘に気が付いたのかい。田依ない奴ぢや。夫れで頼り無い彦と皆が云ふのだよ。頼りに思ふ女房を玉を奪られた玉彦に玉なしにされて其上に玉を奪られたこの時彦に、魂を奪られて何の態。貴様の性念玉は気の毒ながら腐つて居るよ。併しなンぼ腐つて居ても仕様が無い。貴様と一緒にかうして暮さにやならぬ腐れ縁だもの』 田依彦は、 田依彦『何、馬鹿吐かす』 と云ふより早く鉄拳を固めて、時彦の横面をポカンとやる。 時彦は酒が廻り、舌は縺れ、足はひよろひよろなりき。口ばかり達者なるが、身体の自由は一寸も利かぬ。船の人々は、 人々『喧嘩だ喧嘩だ』 と総立になつて眺めてゐる。日の出神は宣伝歌を歌ひながら、海原の神の宮を後にして、この船に向つて帰りきたる。 時彦、芳彦は蝸々虫のやうに縮まつて、船の底に平太ばりぬ。田依彦は、むつくと立上り、 田依彦『もしもし日の出神様、私は田依彦であります。大台ケ原で御別れ致し申しましてから、豆寅は久々能智と云ふ立派な御名を頂戴して、大屋毘古と一緒に家造りをやつて居ります。それはそれは偉い鼻息で、私らは奴扱ひにされて堪りませぬので、たうとう貴下の後を慕つて参りました。何卒私にも結構な名を命けて下さい。何時までも田依彦でも頼るところがなければ仕方がありませぬ』 と、目をギヨロギヨロさせながら頼み入る。 日の出神『あゝさうか。夫れに相違なければ感心な男だ。しかし其処に平太ばつて居る二人は、時彦と芳彦では無いか。頻りに、酒の香ひがするなア。その徳利は誰のだ』 田依彦『ハイ、これはトヽヽヽヽトヽヽヽヽトントもう解りませぬ。トキドキこンな事があります』 日の出神『それは芳彦のじやないか』 田依彦『ハイハイ、田依彦はヨヽヽヽヽヨヽヽヽヽヨソの人かと思ひます。ヨヽヽヽヽ酔うて居ります』 日の出神『なンだ貴様は、俄に吃になつたのか』 田依彦『ハイ、ドヽヽヽヽドヽヽヽヽドウもなりませぬ。時や、芳が私の云ふことを聞かぬものだから、私も共々にイヤもう何うもかうも申上げやうはありませぬ。何卒神直日に見のがし、聞のがして下さいませ。併し、此奴は燗直日で無うて、冷酒で呑ンでゐます。私も側に居つて、貴下に見つかりやせぬかと思ひまして、ヒヤヒヤアブアブしとりました。私は性来の酒嫌ひですから、一つも呑みませぬ。時彦や、芳彦は、たとひ何うならうとも私だけは赦して下さい。日の出神さま』 日の出神『馬鹿言ふな、貴様だけが助かつたら好いのか』 田依彦『イーエ、成る可くは貴様も、時も、芳も救けて貰ひたいものです。おい時、芳、面を上げい。日の出神さまだぞ。目から火の出るやうな目に一遍逢はされて見い、酒も酔も醒めるだらう。今なんと吐かした。国の御柱の神さまは、常世の国へ酒呑みに行かつしやつたなンて云うただらう』 日の出神は微笑しながら、 日の出神『好い加減にせよ。今船が出る。船の中で悠久と油を搾つてやらうかい』 船は又もや錨を捲き揚げ、順風に帆を上げて竜宮島さして進み行く。 (大正一一・一・三一旧一・四外山豊二録) (第一三章~第一八章昭和一〇・二・二三於徳山王仁校正)
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霊界物語 07_午_日の出神のアフリカ物語 29 山上の眺 第二九章山上の眺〔三二九〕 行けど行けど限り知られぬ足曳の、山路を辿る宣伝使、激潭飛瀑の谷川を、右に左に飛び越えて、夜を日に継いで進み行く。ここに三人の宣伝使、さしもに高き山の尾に、腰打かけて四方山の景色を眺めて雑談に耽りゐる。日の出神は、 日の出神『曲津神と云ふものは、何処から何処まで、よくも仕組をしたものだな。こンな未開の筑紫の嶋の山奥まで、眷族を遣はして、どこ迄も天下を席巻せむとする執念深き仕組には、吾々は実に感服の至りだ。悪が八分に善が二分の世の中、吾々もうかうかとしては居れない。ヤヤ、あの北の方に怪しい煙が立つではないか』 祝姫『如何にも妙な煙が立ちますな、紫の麗しい何ともいへぬ煙の色。あそこには何でも尊い神様が居らつしやるのでせう。斯うして高山の上から四方を見はらせば実に世界一目に見るやうな雄大な心地が致しまして、実に壮快ですな』 日出神『いかにも壮快だ、人間は山へ上るに限る。かうして展開された四方の山や海を眼下に見下す心地よさは、丁度天教山から自転倒嶋を見下すやうだね。ヤヽ、あの煙を見られよ、ますます麗しき五色の彩になつたぢやないか』 面那芸『彼処は肥の国でせうかな』 日出神『さうだらう、何でもこの熊襲山の山脈を境に肥の国があつて、そこには武日向別[※建日向別のことか?]が守つてゐる筈だ。しかしながら常世神王の毒牙に罹つて、彼国の神人は又もや悪化してゐるかも判らない。一つ行つて宣伝をやつて見やうかな』 面那芸『それも結構ですが、良い加減に帰りませぬと、常世の国へ船は出て了ひはしますまいかな。こンな嶋に置いとけぼりを喰つては堪りませぬぜ』 日出神『何、構ふことがあるものか、何事も惟神だ。船はあれ計りじやない、また次の船が来るよ。折角神様の御計らひで常世の国へ行く積りが、こンな処へ押し流されたのだから、何か深い神界の御都合があるのだらう。我々は翌日の事は心配しなくてもよい。今と云ふこの瞬間に善を思ひ、善を言ひ、善を行つたらよいのだ。我々はその刹那々々を清く正しく勤めて行けばよい。取越苦労も過越苦労も、何にもならない。一息後のこの世は、もはや過去となつて吾々のものではない。また一息先といへども、それは未来だ。人間の分際で取越苦労をしたり、過越苦労をしたつて何にもならない。マア何事も神様に任したがよからうよ』 祝姫『貴神の仰せの通り、何事も惟神に任せませう』 面那芸『如何にもさうです、然らばぼつぼつ参りませう』 三人の宣伝使は、又もや宣伝歌を歌ひながら、五色の雲の立昇る山を目当に疲れた足を進ませ嶮しき山を下りゆく。 山の尾を伝ひ、谷に下り、また山に上り谷に下りつ進み行く折しも、何処ともなく人声聞え来たるにぞ、三人は人里近しと立停まつてその声を聞き入りぬ。 谷間には、数十人の以前の如き黒い顔の人間が、何事か囁きながら谷間の奇石怪岩をいぢつて居る。 甲『おい、詰らぬじやないか。毎日日日こンな重たい石を担がされて、腹は空るなり、着物は破れるなり、掠り疵はするなり、掠り疵はまだ宜いが、鈍公の様に岩に圧へられて、身体が紙の様になつて死ンで了つちや、たまつたものぢやないぜ。皆気を付けぬと、何時石に圧へられて、また鈍公のやうな目に逢ふかも知れないぞ。気を付けよ』 乙『気を付けるも良いが、貴様らは神さまを知つてゐるかい。神さまさへ信神すれば、怪我なンかしやしないよ。あの鈍公の野郎はな、俺が三五教の宣伝使の教を聞いて、「貴様も神様を信仰しないと、今日はえらい怪我をするぞ、貴様の顔には不審しい曇りが現はれて居る」と気をつけてやつたのに、鈍公の野郎「なに、神さまだ、そンなものが何処にあるかい。神さまがあるなら俺に逢はしてくれ、一目でも神の姿を見せて呉れたら本当にする。屁でさへも、姿見えでも音なりとするだらう。それに音もせねば声もなし、姿も見えず、そンな便りないありもせぬ神が信神できるかい。俺のとこには、立派な、ものもおつしやる、手伝うても下さる結構な嬶大明神といふ現実の神様が鎮座ましますのだよ。それに何ぞや、屁でもない神さまを信神せなぞと、雲を掴むやうなことを云ひよつて、人を馬鹿にするない、俺の目は光つて居るぞ、節穴じやないぞ」と劫託を吐き散らして、鼻唄を唄ひよつて、石運に行きよつた。さうすると彼の大きな岩奴が、鈍公の方にごろりと転けたと思ふが最後、きやつと一声この世の別れ、忌やな冥土へ死出の旅、気の毒なりける次第なりだ。貴様も、ちつと神さまを信神せぬと、また鈍公の二の舞だぞ』 斯く囁く折しも、三柱の宣伝使は宣伝歌を歌ひながら谷間に向かつて下りきたる。 (大正一一・二・一旧一・五井上留五郎録)
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霊界物語 07_午_日の出神のアフリカ物語 31 虎転別 第三一章虎転別〔三三一〕 久方の天津御空に聳り立つ仰ぐも高き天教の 山に鎮まる木の花姫の神のみことの世を救ふ 清き教を四方の国国の八十国百八十の 八島の別の宣伝使堅磐常磐に鎮まりし 肥の神国の常磐城折りから起る鬨の声 八島の別は怪しみて戸を押し開き眺むれば 東や西や北南蟻の這ひでる隙もなく 押し寄せきたる諸人の勢猛き人の波 心も荒き国人の醜の荒びぞ凄じき。 数万の群集の中より勝れて背の高い色の赭黒い、目の玉の大きい鰐口の男は、四五の醜男を引き連れて、拳を固め大手を振りながら、八島別の門前に立ち現はれ、 大男(虎転別)『オーイ、オーイ、この門開け』 と雷のごとく呶鳴り立てゐる。門番は、 門番『何物ならば勿体なくも、天教山より天降り給うた八島別様の御威勢を恐れず、この門開けとは無礼千万、汝ら如き乱暴者の申すことを聞く耳持たぬ。トツトと帰れ』 大の男、才槌のごとき拳を固め、 大男(虎転別)『恐くてよう開けぬか、穴虫、がつと虫、まだも違うたら土鼠、塵埃に潜む蚯蚓虫、ごてごて云はずに早く開け』 門番『明けの鴉のカアカアと、あたやかましい、開けなら開けで開けもしようが、開けてビツクリ玉手箱、魂の宿替せぬ様に、性念魂をしつかり据ゑてゐるがよからう』 門番は不承無精に門の戸をガラガラと音させながら左右にサツト開けば、屋根葺の手伝のやうな体中の真黒黒助、熊のお化か烏の親方か、頭か顔か一寸見分のつかぬ五人連、口を揃へて目を釣り上げながら、 虎転別『俺は肥の国の数万の人間に選ばれて談判にきた虎転別だ。一時も早く八島別の前に案内いたせ』 門番『何だい黒ン坊、二つとない命が惜くなければ会はしてやらう、吃驚するな。さあ俺について来い』 と奥殿さして進み行く。 門番『モシモシ受付のお方、ドエライ奴が参りました。真黒黒助の熊転だとか、虎猫だとか、怪体な奴が八島別に会はしてくれと申します、どうぞお取次を願ひます』 虎転別『コラ門番、いらぬ事をいふな、虎様を八島別に会はせばよいのだ』 暫くすると奥の間より、容姿端麗なる四五の美人現はれ来り、しとやかに、 美女『コレハコレハ虎転別様、ようこそお出下さいました。すぐに奥にお通り下さいませ』 と云ひつつニヤリと笑つて両手をとり、奥へ導き入る。 虎転別は絶世の美人に、鰐の鱗のやうな手を握られ、章魚の様にグニヤグニヤになつて涎を垂らしながら奥深く伴はれ行く。何とも知れぬ酒の香がしてゐるので、虎転別は立ち止まり、鼻を犬のやうにピコつかせながら山の如く積み重ねたる酒樽の方に眼を配りゐる。 女性は虎転別に向ひ、 美女『もしもし虎転さま、お酒はこの通り沢山に置いてあります。八島別さまは神通力を以て、あなたのお越し遊ばすことを前以て御承知なので、酒を沢山に珍客に十分飲ましてあげといふ事でした。サアサア妾がお酌をします。御遠慮なくお召上がり下さい』 と言ひながら怪しき秋波を虎転別に注げば、虎転別は猫のやうにゴロゴロと喉を鳴らせ、今までの勢は何処へやら行つてしまひ、 虎転別『八島別さまは話せるわい、気が利いてるな。しかし気の毒だが折角ここまで用意して下さつたのだから無下にお辞退するも気の毒だ。頂くのも気の毒だが、頂かぬも気の毒だ。同じ気の毒ならトツクと頂かう』 女『それが宜しうございませう』 虎転別は忽ち相好を崩してその場に安坐をかいてベツタリと坐り込み、四人の供人もこの男を中心に鶴翼の陣を張りて左右にヅラリと並ぶ。この三人の美人の名は春姫、夏姫、秋姫といふ。春姫は白扇をひろげ、長袖を振つて舞ひ始め、夏姫は磬を打つて調子をとり、秋姫は大の盃になみなみと注いで、虎転別を始め四人の供人に代るがはる酒を勧める。虎転別は御機嫌斜ならず、八島別の館に在るを打ち忘れ、銅鑼声を張り上げて首を左右に振りながら、唄ひ始めたり。 虎転別『ここは筑紫の神国と人はいへども常世国 常世神王のその使虎転別の御領分 鬼でも蛇でも閻魔でも掴みて喰らふこの方の 威勢も知らずに何の態八島の別の宣伝使 天教の山から降つてきてこの肥の国に城造り その名も建の日向別訳の分らぬ有散事を ほざいて世人を迷はせる俺にはそれが気に喰はぬ そこで俺奴が国人を沢山集めて谷々の 岩を運ばせ城築き八島の別の常永に 鎮まる城だと誑かりてその礎も大方に 築き始めた我が企みいよいよ成功した上は 虎転別は城の中弓矢を調へ準備して 八島の別の宣伝使ただ一撃にやる企み 企みはうまいぞあゝ旨い甘いといつたらこの酒ぢや 酒ほど甘いものはない酒を飲まして虎転を 亡ぼす企みが面白い酒さへ飲まして呉れたなら 俺はどうでも宵の口酔つてクダまきや尾も白い 頭も白い古狐化けた虎転化の司 金毛九尾の御眷族あゝ面白いおもしろい』 と酒に酔ひ潰れて自分の企みを残らず白状しけるぞ面白かりける。 (大正一一・二・一旧一・五吉原亨録)
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霊界物語 07_午_日の出神のアフリカ物語 38 雲天焼 第三八章雲天焼〔三三八〕 春の山辺は緑の顔を天に晒して打ち笑ひ、芳しき花は黄紫赤白と処々に咲き乱れて木の間を綴り、百鳥は長閑な声を張り上げてこの世を謳ふ。春山の霞を別けて下り来る心も清き宣伝使、身装も軽き簑笠の、鎧冑を取り付けて、草鞋脚絆の小手脛当、勢込ンで進みくる。潺々として流れも清き谷川の傍に腰打ち掛け、雑談に耽る四五人の杣人ありけり。 甲『オイ、貴様ら聞いたか、この間から艮の方に当つて、五色の雲が立ち昇つただらう。アレヤ、一体何ンだと思つて居るか』 乙『乞食の雲つて何ンだい、それや貴様らの親類だらう。乞食の雲助が立ち昇つた、艮で無うても此の山道には、何日も雲が籠を舁いだり乞食が徘徊するじやないか』 甲『馬鹿、貴様はド聾だな。五色の雲が立ち昇つたのだと云ふのだよ』 と乙の耳の傍に口を寄せて大声に呶鳴る。 乙『そンな大きな声を為なくてもよう聞えて居るのだ。乞食と雲助が何うしたと云ふのだい』 甲『ハヽヽヽヽ面白い面白い、金挺子だね、こンな聾に話をして居ると日が暮れてしまふわ。オイ八公、五色の雲の理由を聞かして呉れ』 八は威丈高に成り、 八公『何ンでも肥の国に虎転別とか、雲天焼とか、妙な名の悪神がをつてな。焼島別とかいふ宣伝使の館に火を点けよつたが、その煙が天へ舞ひ昇つて、空の雲が焼けて、それで雲天焼と云ふのだよ。さうして結構な宣伝使の館が、スツカリ焼けて島つた別といふのだ。何れ焼けて島つた別は居る所がないので、この峠を越して出て来るかも知れないぞ。又あンな奴が豊の国に逃げて来よつて、肩の凝るやうな歌を歌ひよると、豊の国にも腰抜けばかりは居やしないから、第二の雲天焼が現はれるに定つてゐる、物騒な事だワイ』 乙『その雲天焼とかいふ奴はこの広い豊の国には何れ居るだらうね』 八公『居らいでかい、居らいで耐らうかい。俺がその雲天焼に成るのだもの』 乙『貴様雲天焼に成つて何うするのだい』 八公『そンな奴が来よつたら焼糞になつて焼いてこますのだ』 乙『それや貴様、焼糞に成つたら雲天焼ではないよ。糞天焼だよ』 と、馬鹿口を叩いてをる。そこへ微に聞えて来た宣伝歌の声。 八公『ヤア、怖いぞ肩の凝る声が聞え出した。長居は恐れだ、逃げろ逃げろ』 乙『態見やがれ、大法螺計り吹きよつて、宣伝歌の声か水の音か風の響か分りもせぬのに、日の暮まぎれに茅の穂を見て幽霊だと思つて腰を抜かした奴のやうに、見つとも無いじやないか』 八公『喧しう言ふない。頭が痛いわ、逃げろ逃げろ』 乙は一目散に駆け出さうとする。 八公『一寸待つてくれ俺も一緒に連れて逃げぬかい』 乙『貴様足が有るだらう。貴様勝手に歩かぬかい』 八公『何うやら俺は胴が据つたと見えてビクともできぬわい』 乙『貴様臆病者奴、腰を抜かしよつたな』 宣伝歌は益々近く聞え来たる。 日の出神ら宣伝使『神が表に現はれて善と悪とを立別る 日の出神や三柱が今下り行く豊の国 四方の草木も神風に靡き伏しけむ醜草は 神の御息に散り果てむ散りたる後に実を結ぶ 神の教の豊の国豊日の別と現はれて 四方に拡むる宣伝歌』 と近辺を響かせながら一声々々と近寄り来る。四五人の杣人は頭を抱へ呼吸を詰めて谷道に横たはりブルブル震へゐる。中に一人の勝れて大の男泰然自若として首を傾け、その宣伝歌を愉快気に聴き入りぬ。 声は刻々に近づくと共に益々高く聞え出し、大の男は立上り声する方に向つて歌ひ始めたり。 大男(熊公)『此処は亜弗利加豊の国広い沙漠の連りし 不毛の土地ぞ荒野原神の御国の宣伝使 何ほど力が有るとても荒野が原の荒風に 吹かれて体は砂まぶれ頭の髪はテカテカと 光の強い禿頭何ンな神なと出てうせよ 豊日の別の神の国豊日の別の神国は 荒ぶる神や曲津神曲つた心の八公や 虎公のやうな奴が居る』 八公『ヤイ何を言ふのだい、宣伝使が来ると思つて貴様一人が助かり度いと思ふのか、俺の悪口まで歌ひよつて怪しからぬ奴だ。覚えて居ろ』 大男(熊公)『八公、熊公[※御校正本・校定版・愛世版すべて「熊公」になっている。しかしこの大男の名前が「熊公」なので、「虎公」の方が妥当であろう。]、ここ迄ござれ、ドツコイシヨドツコイシヨ』 と、舌を出し、手を振りながら、八公を嘲弄しつつ、宣伝使の声のする方に向つて走り行く。 日出神『お前は豊の国の者か』 大男『ハイ私は豊の国の熊といふ野郎です。能う来て下さいました。しかし、この国は七分どほり沙漠で毎日日日風が吹きます。それはそれはえらい砂烟で目も鼻も開けて居る事は出来ませぬ。それで彼方此方の木草の繁つた山を撰ンで、木の実を食つたり兎や猪を生捕て生活をして居る惨目な国であります。駱駝は沢山に居りますが、彼奴馬鹿な奴で大きな図体をしよつて何も役に立たず、時々虎や狼に追はれて吾々人間の居る処へ妙な声を出して押寄せて来るなり、その時には吾々の歩く場も無いやうな目に会せます。貴下はこの国に折角御出で下さつたが、もう御帰りになつたが宜しからう。世界は広いのにこンな悪い国に御出でになつたつて仕方が有りませぬ。肥の国の八島別のやうに又虎転別とか云ふ悪者が出てきて惨い目に会はされては御気の毒ですから、もうこれ限りこの山を引き返して熊襲の国にでも御出でなさいませ。私は決して悪いことは申しませぬ。貴下の歌はつしやる宣伝歌は誠に結構ですが、この国の人間の耳には余り立派過ぎて這入りませぬ』 と虎転別の豊日別が現在眼の前に居るのも知らずに喋り立てゐる。 豊日別『俺はその悪者の虎転別だよ。今は日の出神の御取計らひに依つて此の豊の国の守護職と成つたのだ。お前らは豊の国の都へ吾々一同を案内いたせ』 大の男熟々と豊日別の顔を見て、 大男『イヤー、肥の国の虎転別といふ奴は頭の禿げた悪者だといふ事だのに、それにお前さまは毛が生えて居るでは無いか、結構な宣伝使様だらう。それに何ぞや鬼のやうな人の嫌ふ悪の強い虎転別じやなンて戯言にも程がある、本当の名を仰言つて下さい』 豊日別『そりや実際だ。何は兎もあれ、豊の国の都へ案内してくれ』 大の男は、不承無精ながら先に立つて、豊の国の都へ、四人の宣伝使を導き行く。八公その他四五の杣人は路傍に腰を抜かしたるまま、 八公『オイオイ熊公貴様どこへ行く。豊の都にでもそンな奴を案内したら、この国は大変だぞ。俺一人でも雲天焼に成つてやるぞ』 と叫ぶ。 熊公『八公の腰抜け、喧しう云ふない、善か悪か未だ知れやしない。馬には乗つて見い、人には添うて見いだ。貴様も早く腰を癒して後から俺の処を探ねて来い』 と云ひながら都を指してドンドンと急ぎ行く。 四人の宣伝使は又もや宣伝歌を歌ひつつ進み行く。 (大正一一・二・二旧一・六谷川常清録) (第三三章~第三八章昭和一〇・二・二五於天恩郷透明殿王仁校正)