| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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21 (1495) |
霊界物語 | 10_酉_黄泉比良坂の戦い | 25 木花開 | 第二五章木花開〔四五五〕 天雲も伊行きはばかる遠近の鮮岳清山抜き出でし 天教山の真秀良場や心もつくしの山の上 地底の国より吐き出す猛き火口に向ひたる 天津日向のあをぎ原穢き国に到りたる 醜のけがれを清めむと神伊邪那岐の大神は 日の出神と諸共に千五百軍を呼び集へ 浅間の海に下り立ちて御身の穢を払ひます 大神業ぞ勇ましき天の教を杖となし 進む衝立船戸神心の帯を固く締め 曲言向けし神ながら道之長乳歯彦の神 国治立の大神の御稜威の御裳になり出でし 道の蘊奥を時置師一度に開く木の花の 散りては結ぶ大御衣神の心も和豆良比能 宇斯能御神や御褌になります神は道俣神 心の空も飽咋の宇斯能御神と冠りに 戴き奉り左手の手纏に救ひの御手を曲神の 穢れの上に奥疎神四方の大海国原も 神の心に奥津那芸佐毘古奥津甲斐弁羅神 神世幽界辺疎神辺津那芸佐毘古 辺津甲斐辺羅神十二柱の神たちは 黄泉の島へ出でましてこの世の曲霊を照し給ふとき 穢に生れし神ぞかしアヽ麗しく尊さの 限り知られぬ神業よ限り知られぬ神業よ。 伊邪那美大神 伊邪那美大神『久方の天津御神の言霊の伊吹の狭霧に黄泉島 黄泉軍を言向けて暗よりくらき烏羽玉の 常夜の空も晴れ渡り天と地とに冴え渡る 日の出神の功績はこの世の光となりぬべし 三五の月に弥まさり御魂も清き月照彦の 神のみことの宣伝使尊き御代に大足彦の 神のみことの言霊別や嶮しき国は平けく 狭けき国は弘子の神の伊吹に払はれて 世の曲神も少彦名神の光の高照姫や 心も清き真澄姫八咫の鏡の純世姫 清き教も竜世姫地教の山に現はれし 神伊邪那美大神の御稜威輝く瑞御魂 世は望月の永遠に円く治まる五六七の世 天津御国も国原も堅磐常磐に常立と 開化くる御世ぞ楽しけれ天津御神の御教は 一度に開く木の花の咲き匂ふなる天教山の 嶺永遠に動揺なく天津日嗣の何時までも 変らざらまし神の御世豊葦原の瑞穂国 御稜威も高き厳御魂この世の泥をことごとく 洗ひ清むる瑞御魂厳と瑞との二神柱は 天に現はれ地に生れ清き神世を経緯の 錦の御旗織りなして天津御空の星の如 八洲の国の砂の如天の益人生み生みて 世を永久に永遠に雲に抜き出た高砂の 珍の島ケ根の尉と姥千歳の松の弥茂り 栄え尽きせぬ神の国限りも知れぬ青雲の 棚引く極み白雲の向伏す限りたてよこの 神の御稜威に治むべし神の御稜威に治むべし』 と歌ひ終らせ、伊邪那美大神はあをぎが原の神殿深く御姿を隠し給ふ。 木花姫命は満面に笑を湛へ、諸神の前に現はれ給ひて声音朗かに歌ひ給ふ。 木花姫命『豊葦原の中国に一輪清く芳ばしく 匂へる白き梅の花神世の昔廻り来て 国治立の大神が日に夜に心配らせし 常夜の国も晴れ渡り曲津軍も服従ひて 一度に開く木の花のうましき御代となりにけり 闇より暗き世の中を天津御神の神言もて 黄泉の島に天降り醜の国原言向けて 日の出神と現れし天と地との大道別の 神の命と勇ましく事戸を渡し琴平別の 厳の御魂の百引千引岩をも射ぬく誠心を 貫き徹す桑の弓弓張月の空高く 輝き渡る神々の功は清し天教山の 尾根に湧き出る言霊は湖の鏡に映るなり 移り替るは世の中の習ひと聞けど兄の花姫や 咲き匂ふなる春の日も瞬く間に紅の 色香も夏の若緑涼しき風に送られて 四方の山々錦織り紅葉も散りて木枯の 風吹き荒み雪霜のふる言の葉にかへり見て 心を配れ神々よ心を配れ神々よ 春の花咲く今日の日は吾胸さへも開くなり 吾胸さへもかをるなりかをりゆかしき神の道 一度に開く梅の花一度に開く梅の花 一度に開く梅の花』 日の出神は、神人らの総代として凱旋の歌を詠ませ給ひぬ。その歌、 日の出神『日の若宮に現れませる神伊邪那岐の大神は 妹伊邪那美の大神と天津御神の神言もて 天と地との中空に架け渡されし浮橋に 立たせ給ひて二柱撞の御柱大神と 天の瓊矛をさしおろし溢れ漲る泥海を こをろこをろにかきなして豊葦原の中津国 筑紫の日向のたちばなのをどのあをぎが原の辺に 天降りまし木の花姫の神の命と諸共に この世の泥を清めつつ珍の国生み島を生み 万の神人生みまして山川草木の神を任け 大宮柱太知りて鎮まり給ふ折からに 天足の彦や胞場姫の醜の魂より現れし 八岐大蛇や鬼狐荒ぶる神の訪に 万の災群れ起り常夜の暗となり果てし 世を照さむと貴の御子日の出神に事依さし 大道別と名乗らせて世界の枉をことごとに 言向け和せと詔り給ふ力も稜威もなき吾は 恵みの深き木の花姫の三十三相に身を変じ 助け給ひし御恵みに力添はりて四方の国 荒振る曲を言向けて黄泉の島の戦ひに 神の御稜威を顕はせしその功績は木の花姫の 神のみことの稜威ぞかし厳の御魂や瑞御魂 三五の月の御教に世界隈なく晴れ渡り 千尋の海の底深く竜の宮居も烏羽玉の 暗き根底の国までも天津日かげの永遠に 明し照さむ神の道富士と鳴門のこの経綸 富士と鳴門のこの経綸弥永遠に永遠に 神の大道を天地と共に開かむ、いざさらば 鎮まりませよ百の神鎮まりいませ百の神 桃上彦の貴の御子堅磐常磐の松代姫 心すぐなる竹野姫色香目出たき梅ケ香姫の 神の命の三柱は意富加牟豆美の桃の実と この世に現れ厳御魂瑞の御魂と何時までも 三五の月の御教を堅磐常磐に守り坐せ 堅磐常磐に守り坐せ』 この御歌に数多の神々は歓喜の声に満たされて、さしもに高き天教山も破るる許りの光景なりき。 木の花の鎮まり給ふこの峰は 不二の三山と世に鳴り渡る (大正一一・二・二五旧一・二九上西真澄録) |
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22 (1532) |
霊界物語 | 11_戌_コーカス山の大気津姫退治 | 19 汐干丸 | 第一九章汐干丸〔四八六〕 松代姫は矗然と立つて、 松代姫『心も広き琵琶の湖恵も深き琵琶の湖 浪に浮べる松の島千歳の松の青々と 繁り栄ゆる神心一度に開く梅の島 処狭き迄なよ竹の風に揉まるる竹の島 荒風強く渡るとも仮令深雪にたわむとも 千代に八千代にさき竹の悩みも知らぬ勇ましさ 妾は神世を松代姫この世を乱す大気津の 姫の奢侈りを戒めて心の仇花咲き散らし 天津御神の賜ひたる我が言霊に逸早く 開く梅ケ香姫の神竹野の姫の窟戸に 立て籠められて千万の憂に逢瀬を助けむと 進む時こそ来りけり憂しや辛しの世の中に 我身一人はうまうまと鹿の妻恋ふ奥山に みづの御あらか立て構へ虎狼に勝りたる 醜の曲津の曲業を祓ひ清めむ松代姫 梅ケ香姫と諸共に待ちに待ちたる時津風 吹く春こそは楽しけれ竹野の姫の消息を はしなく聞きし船の上飢な、まかるな、なよ竹の 女ながらも神国に尽す誠の竹野姫 救ひの神と現はれて茲に三人の姉妹の 語り合ふ夜も束の間の堪へ忍びの荒魂 勇みて待てよ妹よ汝が身を思ふ松梅の 魂は通へよ千引岩窟の中の妹が辺に 窟の中の妹が辺に』 と歌つて元の座に就きける。 牛公『オイ兄弟分(少し小声になつて)今ののたが聞えたか』 馬公『のたと云ふ事があるかい。何でも長たらしい、のたのたと訳の分らぬ事をのたつとつたではないか』 鹿公『オイ違ふよ。ありや歌と云ふものだ』 牛公『アヽさうか、何でも、うたがはしい事をウタウタと囀つて居つた。彼奴は歌よみの乞食かも知れぬぞ。「歌々と歌を囀る歌作りうたうた出来ぬ身こそうたてき」』 馬公『何を吐しやがるのだ。うたつ目にはうたうた囀りやがつて、そんな処かい。彼奴が例の代物だ、彼奴を、俺等が力を合してふん縛つて了へばもう占めたものだ。松だとか梅だとか白状し居つたではないか』 鹿公『しかし乍ら一寸見た処、なかなか豪胆な女らしい。二人や三人の梃に合ふ様な奴ぢやあるまい。それに貴様あんな大きな男がひつついて居るのだから、到底そんな野心を起しても駄目かも知れぬぞ』 虎公『しかりしかり、而うして聊か以て手強い奴だ。下手にマゴ付くと、スツトコドツコイのオタンチン、チンチクリンのチンチクリン』 馬公『そりや何吐す』 鹿公『まことにはや、しだいがらだ』 牛公『時に取つての儲け物だ。うまいうまい、しかと虎まへるのだな』 馬公『俺等の名を並べやがつて、うまい事吐きやがる』 牛公『もう斯うなつては、廐の隅にも置いとけぬワイ』 鹿公『しかりしかりしかも座敷の真中か、コーカス山の中のお宮の御住ひ』 虎公『とらマア結構な事だなア』 牛公『洒落やがるない。人の真似計りしやがつてモウそんな話は止めようかい』 馬公『ばかばかしいからな。うまい話と化物とは滅多に会はれるものぢやない』 鹿公『しかし乍らコーカス山には沢山な化物が集まつて居ると云ふ事だ。うまい話も沢山あるぢやないか』 虎公『虎でも、獅子でも、狼でも、熊でも、狐でも、狸でも、犬でも、猫でも、杓子でも、瓢箪でも、酒の粕でも、コーカスでも、狡猾な奴計りが集まつて利己主義をやつて居るのだと云ふ事よ。これから虎さんもちつと狡猾になつて猫でも被つて虎猫になつて見よう、ニヤーンと妙案だらう』 時公『オイオイ牛、馬、鹿、虎、俺が最前から狸の空寝入りをして貴様等の囁きを聞いて居れば、太い奴だ。牛公の儲け話、馬公の甘い算段、鹿公の狡猾目的、虎公の猫被り、トラ猫のコーカス野郎、大気津姫が呆れるワイ。サア、ま一度時さまの前で云つて見よ』 八公『こら四人の獣、四足、俺は八さまだぞ。知つてるか四ツの倍が八だ。ぐづぐづ吐すと八裂だぞ』 鴨公『ヤイ、貴様等、松がどうだの、梅がどうだのと何をかまふのだ。かもて呉れるな。此方は三五教の宣伝使だ。何もかも御承知だからかもさまと云ふのだ。貴様の悪い企はちやんと看破して居るのだ。どうだ何もかも白状するか』 牛公『もうもうもう何も彼も白状致します』 馬公『うまうま待つて下さい』 鹿公『鹿つめらしい顔してしかつて下さるな』 虎公『お前さま等にとらまへられぬ先に尾を捲きます』 鴨公『宜しい。これから何もかも気を付けるが宜からうぞ』 時公『アハヽヽヽヽ』 時公はすつくと立つて、宣伝歌を歌ひ始めた。 時公『浪音高き琵琶の湖鳴る言霊の此処彼処 また来る春を松島や浪風高き竹の島 見ても強そな梅の島浮ぶ景色も面白く 一寸三島の沖越えて真帆に風をば孕ませつ 此処まで来たる時も時ぎうと詰まつた船の客 うしや苦しと泡を吹く角の立つたる牛公や 尻の始末に馬さまが豆屁の様な法螺を吹き 欲と酒とにからまれて心は紅葉鹿の鳴く しかめ面した鹿さまや荒肝とられた虎さまの コーカス山の物語大気津姫が呆れたと 屁を放る様な小理屈をやつとかました八公の 骨も身もないかけ合ひだ墨を吹いたる蛸の様な 禿ちやま頭の鴨公がかもかかもかと威張り出す 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも コーカス山の曲神をこの時さまが現はれて 時をうつさず言霊の誠の道を説き分けて 欲に迷うた曲神の心のもつれ解いてやる 牛の糞でも天下取るうまい話にのせられた 船の上にてうつかりとほざいた鼻鹿物語 叱り散らすは易けれどとらまへ処のない虎公 直日に見直し聞直し宣り直し行く船の上 牛馬鹿虎のみならずこの船中の人々よ 鑿や鉋や鋸の働く如く今よりは 心の曲をきり払ひ垢を削れよ三五の 神の教にまつらうて栄耀栄華に暮し居る 大気津姫の真似をすな従順に心改めて 早く乗り換へ神の船この世を救ふ神の船 目無堅間の救ひ船浪風荒き世の中も 溺れる案じあら波の浪に漂ふ松代姫 神の教の一時に開く梅ケ香姫の神 此二方の宣伝歌確り聞いて改めよ この世ばかりか先の世の力となるは神の教 教の友船幾千代も老ず死らず天津日の 神の御国へ救ひ行く神の救ひの御船に 一日も早く乗り直せ乗れよ乗れ乗れ神の船 醜の言霊詔り直せ神は汝と倶にあり 嗚呼有難き神の恩嗚呼有難き神の徳 とつくり思案した上で神に貰うた生粋の 心の色を現はせよコーカス山は高く共 神の恵みに比ぶれば足元さへも寄り付けぬ 琵琶の荒湖深くとも深き恵みに比ぶれば たとへにならぬものぞかし畏き神の御教に まつろひまつれ諸人よ禍多き人の世は 神を離れて易々とくれ行く事は難かしい ほめよたたへよ神の徳祈れよ祈れ神の前 前や後や右左神の御水火に包まれて 生きて行くなる人の身は神に離れな捨てられな アヽ惟神々々御霊幸ひましまして 世の諸人の身魂をば研かせ給へ研きませ 心の岩戸押しあけて清き月日を照らせかし 清き月日を照らせかし』 と歌ひ終つて元の座に就きけり。 (大正一一・三・三旧二・五藤津久子録) |
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23 (1573) |
霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 27 航空船 | 第二七章航空船〔五二三〕 ウラル彦命、ウラル姫命は自ら盤古神王と称し、ウラル山、アーメニヤの二箇所に根拠を構へ、第二の策源地としてコーカス山に都を開き、権勢双ぶ者なき勢なりしが、三五教の宣伝使の為に、コーカス山の都を追はれ、再びウラル山、アーメニヤに向つて遁走し、数多の魔神を集めて捲土重来の神策を講じ居たりき。然るにアーメニヤに近きコーカス山に、神素盞嗚命武勇を輝かし、天下に君臨し給へば、流石の魔神も手を下すに由なく、美山彦、国照姫をしてアーメニヤを死守せしめ、自ら黄泉島に渡りて第二の作戦計画を廻らしつつありける。 ウラル彦、ウラル姫は、元来純直至誠の神であつたが、美はしき果実には、悪虫の襲ふが如く、少しの心の油断より八岐の大蛇、悪狐、悪鬼の憑依するところとなり、是等の悪神に使役されて、心にもなき邪道を辿りつつ、誠の神に向つて叛旗を翻すに至つたるなり。美山彦も一旦月照彦命、足真彦命の為めに言向け和され善道に立返りしが、再び邪神に憑依され、忽ち心魂くらみ国照姫の言を容れて、又もやウラル彦の部下となり、悪逆無道の行為を専らとするに至りたるなり。 茲にアーメニヤの神都には、表面美山彦はウラル彦命と称し、国照姫はウラル姫命と称して虚勢を張り、数多の魔神を集めてこの都を死守し、黄泉島と相待つて回天の事業を起さむと企て居たりき。 三五教の宣伝使、祝部神は月照彦神の化身と共に、黄金山を立出で筑紫の国のヨルの港を船出して、黄泉島の魔神を剿討すべく進み行く。此船は筑紫丸と名づくる大船なり。筑紫丸は竜宮島を経て黄泉島に沿ひ常世の国に通はむとするものなれば、常世の国に渡る船客がその大部分を占め居たり。祝部神は月照彦神と共に、筑紫丸の船客となり、数十日の海路を続くる。海中には種々の変異起り、島なき所に島現はれ、或は巨大なる岩石俄に海中に出没して天日暗く月光も無く、風は何となく腥く、得も言はれぬ不快極まる航路なりける。船中には色々の雑談が例の如く始まり来たる。 甲『モシモシ豊さま、貴方は何処まで行きますか、かう海上に変異が続出しては、余り遠乗りも危険ですよ。私も常世の国まで参る積りで出て来ましたが、この調子では先が険難でなりませぬ。竜宮島迄行つたら又次の船を待つて帰る事にしようと思つて居ますよ』 豊『さうですな、貴方は常世国へ何の為めにお越しになるのですか』 甲『実は家内も小供も一緒に乗つて居ますが、私はコーカス山の山麓の琵琶の湖の畔に住むもの、何だか世の中が変になつて来て何とも譬方のなき風が日夜吹き巻り、息がつまりさうになりますから、遠く常世の国へ移住でもしたらよからうと思つて参りましたが、もう斯うなれば何処に居るも世界中同じ事の様に思ひます』 豊『常世の国は数千里を隔てた、海の向ふの広い国、そこまで行けば日も照り月も輝き、立派な果物も実り、清鮮な空気も流通して居るでせう。私も豊の国の者ですが、豊の国には白瀬川の大瀑布があつて、魔神が棲居を致し、日夜毒気を吐き人民は残らず蒼白い顔になつて、コロリコロリと死ぬもの計り、あまり世の中が恐ろしくなつたので、黄泉島か、もつと足を伸ばして常世の島へ渡らうと思つて、一族を連れて来たのです。何でも黄泉島が此世の境と云ふのですから、黄泉島に渡れば昔のやうな清らかな海も、島も見られませう』 丙『私も常世の国へ遁げて行く者ですが、黄泉島はこのごろ大変な地震で、日々二三十間づつ地面が沈没しかかつて居るやうですな。人の噂に依れば、もう六分通り沈むで仕舞つたさうですよ』 甲『黄泉島でさへもさう云ふ按配だから、俄に海の中に無かつた大きな島が出来たり、岩が立つたり、大蛇が沢山に游ぎ廻るのは当然でせう。兎も角怪しい世の中になつて来たものだ。かうなつて来ると今まで馬鹿にして聞いて居た、三五教の教が恋しくなつて来る。たとへ大地は沈むとも誠の神は世を救ふとか云つて、宣伝使が廻つて来ましたが、我々は「何、馬鹿な、大地が沈むなぞと、そンな事があつたら、日天様が西からお出ましになる」と笑つて居ましたが、この頃は西からどころか、何処からもお昇りなさらず、黄泉島の様な大きな島まで六分まで沈むとは、本当に常世の国だつて我々のこの船が着く迄には、どうなつて居るか分つたものぢやない』 昼とも夜とも判別のつかぬ常暗の世の海面、船は海面に出没する大巌石を右に避け左にすかし、船脚もゆるやかに盲人の杖なくして荒野を行く如き有様、波のまにまに浮かび行く不安至極の航路なりける。 忽ち暴風吹き来り、山岳の如き波立ち来つて、筑紫丸を呑まむとする危険の状態に陥り、船客一同は互に手を合せ何事か頻りに小声に祈り、祝部神は立つて歌ひ初むる。 祝部神『神が表に現はれて善と悪とを立別ける 朝日は隠れて光なく月は地に落ち影もなし 大海原に蟠る八岐大蛇や醜神の 醜の猛びを皇神の依さし給へる言霊に 伊吹き払へよ四方の国大海原の醜神も 言向和す三五の道を伝ふる宣伝使 世は常暗となるとても黄泉の島は沈むとも 常世の国は永遠に波の随々漂ひて 天照します大神や国治立の大神の 御霊の恩頼を蒙らむ神素盞嗚大神の 深き恵みを白浪の上に漂ふ民草は 黄泉の島の日に月に沈むが如く忽ちに 浮瀬に落ちて苦しまむ嗚呼諸人よ諸人よ 神の教にまつろひて直霊の御霊研き上げ 朝夕神の御前に祈れや祈れ善く祈れ 我はこの世を救ひ行く三五教の宣伝使 月照彦の守りにてこの世の曲を祝部の 神と現れ黄泉島その比良坂にさやりてし 八岐大蛇を言向けてこの世の曲を掃き清め 世人を助くる神司神が表に現はれて 善と悪とを立別けるこの世を造りし神直日 心も広き大直日唯何事も人の世は 直日に見直し聞直し身の過ちは詔直せ 神は汝を守るらむ嗚呼惟神々々 御霊幸はひましませよ』 不思議や暴風は俄に止みて、浪凪ぎ渡りし間もあらず、西北の風またもや吹き来つて筑紫丸は矢を射る如く黄泉島に向つて疾走せり。予期に反して早くも黄泉島は間近くなりぬ。忽ち黄泉島は轟然たる音響をたて、見る見る海中に沈まむとする恐ろしさに、船客一同はこの光景を見て、アレアレと驚きの目を睜る。 祝部神『ヤア船中の方々、吾々は最前歌つた如く三五教の宣伝使、たとへ黄泉島は沈むとも、言霊の神力を以て、再び元の如く海面に浮ばせ見む、信仰の力は実に尊きものである。皆の方々には我が祈りの霊験を見て心を改められよ』 甲『貴方は宣伝使様、如何に御力があるとは云へ、あの島が浮き上りませうか、若しも浮き上つたら吾々は三五教に一も二もなく帰依致します。どうぞ一つ浮して見て下さいませ』 祝部神『神力は偉大なものだ。サア御覧』 と云ひながら拍手をなし天津祝詞を奏上し、鎮魂の姿勢をとり、汗をダラダラ流して一生懸命に霊を送つて居る。黄泉島は益々巨大なる音響を出し速度を早め、海中に沈み行くのみなりける。 祝部神『ヤア、こりや神さまが聞き損ひをなさつたナ。今一度願つて見ませう』 とまたもや一心不乱に祈りかけた。黄泉島は何の頓着も無く、刻々に海中に沈み行く。船中の人々は一斉にドツと声を上げて嘲笑する。 祝部神『オイ皆のもの謹慎をせぬか。お前たちの量見が悪いものだから、俺の鎮魂がチツトも利かない。皆揃つて俺が神言を奏上するからその後に従いて来るのだ。神様を馬鹿にして居ると、思わぬとこへ暗礁が出来て、船が覆へつて仕舞ふぞ。この船には幸ひに月照彦神の御守り厚き祝部の宣伝使が乗つて居るものだから、どうなりと浮いて居るのだ。俺が黄泉島に上陸したが最後この船は危くなるぞ』 乙『何とマア小さい男に似ず大法螺を吹く奴だなア。この法螺には時化の神も吹きまくられて鎮まつてしまふ。アレアレ宣伝使の祈りは利き過ぎたと見えて、黄泉島は益々鳴動激しく急速度を以て沈むぢやないか』 祝部神『莫迦を云ふな、島が沈むのぢやない。海嘯が来て居るのだ。波が高くなつて居るのを気が付かぬか』 甲、乙『モシモシ宣伝使様、この広い海の中、盥か何ぞの様に高くなつた、低くなつたと云ふ見当はどうしてとれます。成程水が高くなれば島は沈むやうに見えるのは当然だ。然し俄にかう高くなる道理がないぢやありませぬか』 祝部神は、 祝部神『島が沈むか波が高くなつたか、二つに一つだ。アハヽヽヽヽ』 と気楽さうに笑つて居る。船は漸く黄泉の島近くになつた。 祝部神『サア船頭、黄泉島に船を着けて呉れないか』 船頭『メツサウもない。刻々に沈むで行くあの島、どうして船が着けられませう』 祝部神は 祝部神『エーイ気の弱い船頭だなア』 と云ひながら神を念じ神言を唱へつつ身を躍らしてザンブと許り海中に飛び込み、黄泉島目がけて游ぎ行く。 甲、乙、丙『ヤア、法螺を吹く丈け随分胆玉の太い宣伝使だ。信仰の力と云ふものは、エライものだなア。アレ丈け一生懸命に島を浮かして下さいと頼むのに、チヨツトも聞いて下さらぬ神様を信じて未だ信仰を止めず、危険極まる黄泉島に游いで行くとはあきれたものだ。生命知らずと云ふのは、マアああいふ人の事かい。ヤアヤア偉い速力ぢや。たうとう此長い海面を向ふへ着いてしまつたよ』 又もや颶風吹き来り波高く帆柱を折り、船はいやらしき物音を立てて、今や破壊せむとする。船頭も船客も一度に蚊の泣く如く、天に哭し地に歎き、刻々沈み行く船の上を前後左右に駆廻り、狼狽へ騒ぐ有様は目もあてられぬ悲惨の光景なりける。 祝部神は島陰に立つて言霊を力限りに宣り始めたり。アーオーウーエーイの声に連れて、今や沈没せむとする筑紫丸は、何物かに惹かるる如く急速力を以て、黄泉島に近づき来たる。祝部神は又もやアオウエイの言霊を宣り初めければ、不思議やほとんど沈没せむとする船は、ポカリと水音高く浮上り、何時の間にか浸水せし水は跡形もなく除かれ居たりける。 祝部神『ヤア、皆さま、御神徳が分つたかな』 甲乙丙を初め船客一同は嬉し涙に暮れ一言も発し得ず、両手を合せ祝部神に向つて生神の意を表し合掌するのみなりき。祝部神は又もやウンウンと力を込めたるにぞ、ウの声に黄泉島は静々と浮き上り始めたり。又もやウヽヽの声に連れて島はウヽヽと浮き上りたり。 祝部神『皆の人達、この島が浮上ると云うた時、笑つただらう。どうだこれで分つたか』 甲、乙、丙『イヤモウ確に分りました。今迄の御無礼どうぞ御赦し下さいませ』 祝部神『ヨシヨシ分つたらそれで可い、神様の御神徳を忘れてはならぬぞ。サア今の間に早く常世の国に往つたら可からう。愚図々々して居るとこの島は又もや沈没の恐れがある。曲津神の棲む黄泉島はどうしても、海中に沈めてしまはねばならぬのだ。何千里も廻つた此島、一度にドブンと沈ンだ時は、この海原でも天に冲する如き巨浪が立ち上る。さすれば如何に堅固な大船でも一たまりもあるまい。サア早くこの島の沈没せぬ間に風を送つてやるから、常世の国へ向つて走り行け』 東風俄に吹き来つて筑紫丸は帆を膨らせながら一瀉千里の勢にて波上を滑り行く。船中の人々は黄泉島の祝部神に別を惜み、手を拍ち笠を振り袖を振りなぞして姿の見えぬまで名残りを惜みけり。 島の曲津神は祝部神の言霊の息に恐れて、雲を霞と比良坂さして逃げて行く。祝部神は足を早めて飛鳥の如く、黄泉比良坂の坂の上に月照彦の冥護の下に登り行く。 坂の上には、日の出神の用ゐ給ひし千引の岩がある。この岩の上に端坐して神言を奏上する折しも、大音響と共にさしもに広き黄泉島は海中に忽然として没し、残るは千引の岩のみ。折から荒浪は千引の岩を洗ひ、祝部神の身体をも今やさらはむとする時、天空を轟かして此処に降り来る天の磐樟船あり。見れば日の出神の遣はし賜うたる堅牢無比の神船にして、正鹿山津見神が乗つて居られる。祝部神は、 祝部神『ヤア貴神は正鹿山津見神』 正鹿山津見神『ヤア貴神は祝部神で御座るか。サア早くこの御船に乗らせ給へ』 祝部神は、 祝部神『全く救ひの船だ、有難し忝なし』 と磐樟船にヒラリと身を托し、中空高くかすめて天教山を目蒐け、一瀉千里の勢にて天を轟かしつつ阿波岐原に漸く降り着きにける。 俄に聞ゆる松風の音に目を開けば、豈図らむや、十四日の月は西山に沈み、高熊山の霧立ち昇る巌窟の傍に瑞月の身は端坐し居たりける。 (大正一一・三・一一旧二・一三谷村真友録) |
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霊界物語 | 13_子_フサの国・半ダース宣伝使 | 20 宣替 | 第二〇章宣替〔五四六〕 音彦、亀彦、駒彦の三人は、臥竜姫の館を後に見て、又もや巌窟内の探険に出かけた。九十九折の或は広く、或は狭く、或は天井高く、或は低き石径を宣伝歌を歌ひ乍ら、勇ましく進み行く。 音、亀、駒『神が表に現はれて善と悪とを立別ける この世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直せ聞直せ 身の過ちは詔り直せ醜の窟の曲神を 吾等三人の宣伝使言向和し神の世を 堅磐常磐に立てむとて進み来りし其の間に 何時か誇りの雲覆ひ心は暗き闇の道 誠の道を踏み迷ひ夢に夢見る心地して 心たかぶる其の儘に磐樟船に乗せられて 九天高く昇りつめやつと安心する間なく 喜び消えて夢の間の荒野ケ原に踏み迷ひ 得体の知れぬ野呂サンに寂しき野辺に廻り合ひ 荒き言葉のその中に神の恵みの玉の声 含みあるとは知らずして肩臂怒らし進み行く わが身の程も恥しき夢か現か幻か 心の暗きわれわれは黒白もわかぬ闇黒の 再び窟の人となり醜の身魂の数多く 前後左右に飛び廻る中を切り抜けやうやうに 光を三叉の道の角思ひがけなく衝当る 痛さは痛し胸の闇得体の知れぬ弥次彦や 酒も飲まぬに与太彦の二人の男に出会して 開き兼たる石の門天津祝詞の言霊に さつと開いて眺むれば果しも知らぬ長廊下 一目散に進み行く行けども行けど果しなく 心の駒の逸る間に行き詰りたる岩壁に はつと気がつき眺むればこは抑も如何に大空に きらめく星の数多く怪しみゐたる折柄に 玉をあざむく優姿いづくの方か出雲姫 フサの都に進まむと先に立ちてぞ出て行く 吾等三人の宣伝使コシの峠の麓まで 到りて見ればこは如何に日の出の別の宣伝使 鷹彦岩彦梅彦の四人千引の岩の上に 白河夜船の夢結ぶあゝ嬉しやと思ふ間も あらしの音に目を醒しよくよく見ればこは如何に 臥竜の姫の住ひたる奥の一間に端坐して 蜥蜴蚯蚓や蛇蛙見るも穢きなめくぢり 蚯蚓の馳走を与へむと貴の女神にすすめられ 遠慮会釈の折柄に三人の身体は鉄縛り 手足も自由にならぬ身のいよいよ生命を捨鉢の 決心したる折柄に臥竜の姫は忽ちに 優しき笑顔を現はしつ水も漏さぬ善言美詞 宣り聞されし嬉しさに衿の夢も何処へやら 直日の身魂輝きてここに館をいづのめの 神の身魂となりそめし三五教の宣伝使 そしり言の葉吹き払ひみやび言葉の神嘉言 詔り直し行く勇ましさ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるともたとへ大地は沈むとも 窟の曲津多くとも神の賜ひし言霊に 言向和し三五の神の教を縦横の 錦の機の此の仕組仕へまつらむ宣伝使 あゝ面白し面白し心は勇む岩の道 岩より堅き鋭心の大和心を振り起し 伊都の雄健び踏健び進みて行かむ神の道 進みて行かむ神の道』 と歌ひながら、岩窟内の十字路に着いた。この時前方より現はれたる三人の男、 岩彦『オー貴様は音公に亀公、駒公、何処にまごついて居よつたのだい。馬鹿野郎だな。俺たち三人は貴様の行方を探して、幾度この八衢の隧道を廻つたことか知れやしない。一体何をぐづついとつたのだい』 音彦『ハイ、コレハコレハ岩彦サンでございますか。誠に誠に御心配をかけまして済みませぬ。私は日の出別命様の磐船に、あなた方と一同に乗せられて雲の上に上げられ、ヤレ嬉しやと思つて居りましたが、豈図らむや何時の間にか草茫々と生え茂る荒野ケ原に、吾々三人は振り落されてゐました。あなた様三人は何うして居られますかと、今の今まで心配をして居りましたが、マアマア御無事な御一行の御顔を拝しまして、これ位嬉しいことはございませぬ。これも三五教の神様の全くの御引合せ有り難うございます』 岩彦『ナアンダ。俄に御丁寧な言葉を使ひよつて馬鹿にするない。礼に過ぐれば却て無礼だといふことを知らぬか。打つて変つた貴様の態度、気が狂つたのか、但は化物か、合点の行かぬ奴だ。ナア梅公、此奴はチト変痴奇珍だぞ』 梅彦『アーさうだ。三人の奴の面を見い。営養不良、色蒼白め、身体骨立餓鬼の如しだ。巌窟内の瓦斯に酔はされよつて精神に異状を来したのだらう』 音彦『コレハコレハ岩サン、梅サン、決して御心配下さいますな。精神に異状を来したでも、何でもございませぬ。私は三五教の宣伝使でございますから、ナー亀サン、駒サン、些も気が狂つてはゐませぬなア』 亀彦『左様々々、岩サン梅サンは大変心配をして下さるさうですが、決して異状はありませぬ、御安心して下さいませ』 岩彦『オイ梅公、鷹公、ますます変だ。女郎の腐つたやうに俄に糞丁寧になりよつたぢやないか。オイ音公、亀公、駒公、貴様等は人を嘲弄するのか。あまり馬鹿にするない』 亀彦『イエイエ滅相なこと仰有いませ。決して勿体ない三五教の宣伝使様を嘲弄ナンカしてどうして神様に申訳が立ちませう。私たちは三五教を天下に宣伝する神の僕でございます』 岩彦『ますます可笑しい奴だ。なぜ貴様はさう俄に女性的になつたのだ。モ少し勇壮活溌な男性的の精神を発揮して、ベランメー口調でも使つて勇ましく噪がぬかい。勇気がなくては大事は遂行することは出来ないぞ。お正月言葉を使ひよつて、ナンダ。俄に気分が悪いやうな御丁寧な言霊を使ひよるのか』 音彦『ハイ、吾々三人は仔細あつて改心を致しました』 岩彦『改心をすれば、さう女々しくなるものぢやない。何事も神様の御保護の下に、活機臨々として天下に雄飛活躍せなくてはならないのだ。貴様は惟神中毒をしよつて、雨が降つたというては胸を躍らせ、風が吹くというては胆を潰し、灯心の幽霊のやうな細い細い精神になりよつて、ナンダ、その女々しい言霊は。ちつと確りせぬか。元気がつくやうに二つ三つ拳骨をお見舞ひしてやらうか。これも貴様等を鞭撻するための情の鞭だ』 と云ひながら、蠑螺の如き拳骨を固め三人の頭をボカボカと急速度をもつて擲りつけた。 音彦『ご親切によう思つて下さいました。何卒これからは、幾度もご注意をして下さいませ』 岩彦『アハーやつぱり此奴どうかして居よる。オイ音公、確りせぬかい。貴様は魔に犯されたのだらう。ナンダその態度は』 亀彦『岩サンのご意見は御尤もでございます。決して無理とは申しませぬ。併し乍ら私等三人は以前に数十倍の力と強味が出来ました。如何なる難事に際会しても、少しも驚かぬやうになりました。如何なる敵に向つても怯めず臆せず、善戦善闘するだけの神力を与へられました』 岩彦『オイ鷹公、梅公、一体合点が行かぬぢやないか。此奴の態度と云つたら丸で処女の如しだ。辛気臭くて、長い長い口上を列べ立てよつて、干瓢でもたぐるやうに、あた辛気臭い。骨無しの力も無い、女々しい言霊、エーゲン糞の悪い』 鷹彦『ヤア感心です。音サン、亀サン、駒サン、よう其処まで魂を研き、強うなつて下さいました。今までの三人サンとは違つて勇気も百倍いたしました。嗚呼それでこそ如何なる敵にも打克つことが出来ませう。よい修業をなさいましたなア』 音彦『ご親切に能く言つて下さいました。貴方こそ本当の宣伝使様でございます。以後は何卒お見捨なくお世話下さいますやう御願ひ致します』 鷹彦『何う致しまして、お三人様お芽出度うございます。お互様に宜しく手を曳き合うて神の道に参りませう。貴方の方からもお見捨てなく』 岩彦『ナンダ。鷹公洒落ない。人が一生懸命に力を付けてやらうと思つて居るのに、貴様は横車を押しよつて人を嘲弄するのか。愈もつて怪しからぬ醜の巌窟式だ。ナア梅公、一体合点が行かぬぢやないか』 梅彦『岩サン、それは貴方のお考へ違ひでございませう』 岩彦『オツト待つた待つた。梅の奴、貴様までが逆上して何うするのだ。これだから精神の弱い奴は間に合はぬのだ。醜の窟の半分くらゐ探険してこれだから、全部探検する迄にはすつかり軟化して章魚のやうに、骨も何も無くなつて了ふかも知れやせぬぞ。オイ皆の奴、しつかりせぬか。腰抜け野郎奴が。あゝコンナ腰抜け野郎を五疋も伴れて、この岩サン一人が奮戦苦闘強敵に当らねばならぬかと思へば、心細くなつて来るワイ。エー何奴も此奴も好い腰抜けの揃つたものだな』 鷹彦『岩サン、貴方モー少し強くなつて下されや。外ばつかり強く見えても、肝腎の魂が落ついて居らねば、まさかの時の御間には合ひませぬからナア』 岩彦『エー腰抜け奴が、自分の目にある柱は見えぬでも人の目の埃はよう分るとは、貴様等のことだ。弱味噌奴が。何を吐かしよるのだい。天が地となり地が天となる。変れば変つたものだ。弱い者を称して強者といひ、強い者を称して弱者といふ。如何に逆様の世の中だと云つても、見直し、聞き直し、詔り直しを宣伝する神の使が、さう道理を逆転させては何うして此のお道がひらけると思ふか。しつかりせぬかい。何を呆けてゐるのだ。アヽ情無いわ。エライ厄介ものを背負はされたものだワイ』 音彦『アヽ私も岩サンのやうに空威張りの上手な心の弱い御方を、神様もナント思召してか知りませぬが、背負はして下さつたものだ。これも吾々の身魂研きの為に、弱い方の標本をお示し下さつたのだらうか』 岩彦『骨無しの腰抜け、何を吐しよるのだ。女郎の腐つたやうな弱音を吹きよつて情なくなつて来たワイ。オイ鷹公、梅公、貴様も一つ、ポカンと目醒しをくれてやらうか』 鷹、梅『ハイハイ何卒よろしうお願ひ申します。どつさりと気のつくまで叩いて下さいませ』 岩彦『ハテ合点の行かぬ五人の男、此奴ア狐にいかれよつたな。コンナ弱虫を引率して悪魔との戦闘は、たうてい継続されるものぢやない。ヤーヤー困つた事になつて来た。俺も一つ思案をせなくちやなるまい。オーさうだ。解つた。今まで俺は強い強いと思つてゐたが、人を杖について助太刀を頼むと云ふ心が悪かつたのだ。その点が俺の欠点であつた。これは神様が貴様一人で活動せエ。大勢の奴を力にしても駄目だ。まさかの時になつたら此の通りだ。何奴も此奴も腰抜け野郎だ。力と頼むは自分の守護神ばつかりだ。イヤイヤ吾身を守護し給ふ元の大神様ばかりだ。人に頼るな、師匠を杖につくなといふ教があつたワイ。サア俺はモ一つ強うなつて神業に参加せなくてはなるまい。それにつけても今まで寝食を共にして来た五人連れ、俺でさへも神様から弱いと云つて戒められて居るのだから、コンナ弱味噌を吾々として見棄てて置く訳にも行かない。アヽどうかして強くしてやりたいものだ。コンナ腰抜人足を世の中へ出したならば、これほど悪魔の蔓る荒野ケ原であるから、自分一身を保護することも出来やしない。アヽ情無いことだ。大国治立の大神様、どうぞ此の五人のものを憐れみ下さいまして、貴方のお力を分配してやつて下さいませ。九分九厘といふ所で、十中の八九まで大抵の宣伝使は腰を抜かして、屁古垂れるものだが、今ここに陳列してある五人の蛸宣伝使は、目的の半途にも達せずして殆ど崩壊して了ひさうだ。せめて九分九厘といふ所までなりと、活動さしてやつて下さいませ。国治立の大神憐れみ玉へ、助け玉へ。臆病神を払はせ玉へ、清め玉へ、岩彦が真心を籠めての一生の願ひでございます。惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世』 音彦『アヽ岩サンのご親切、何時の世にかは忘れませう。流石は三五教の宣伝使様、よくも吾々をそこまで思つて下さいます』 亀彦『ご親切に有り難う。骨身に応へます、嬉しうございます』 駒彦『性は善なり、人には添うて見よ、馬には乗つて見よとは、よく云つたことだ。岩サンの真心が現はれて大神様の直接の慈言のやうに、嬉しう辱なう存じます』 岩彦『アヽさつぱり駄目だ。モウ何ほど祈つたつて零点だ。アヽ止みぬる哉止みぬる哉。アヽ何とせむ方泣く涙、余りのことで涙さへ出ぬワイヤイ』 鷹彦『岩サンのお心遺ひ、われわれ一統満足を致しました』 梅彦『本当に心の色が現はれて、コンナ嬉しいことは無い。やつぱり神様に選ばれた宣伝使様だけあつて、ご親切に報ゆるために吾々も、彼の弱い岩サンをモ一つ強くして上げねばなりませぬ』 岩彦『コラ梅公、貴様そら何を云ふのだ。貴様より弱くなつて堪らうかい。今では俺が一番気が確だ。ここは醜の窟だ。気を張りつめて元気を出さぬか。何がやつて来るか知れやしないぞ。せめて自分だけの保護だけ位はやつて呉れぬと、俺も十分に奮闘が出来はしないワイ』 斯る所へ何処ともなく百雷の一時に落下する如き大音響と共に、巨大なる大火光は一同の前に落下した途端、爆発して四方八方に火矢を飛ばした。 岩公はアツと言うて、その場に昏倒した。五人は依然として両手を合せ、神言を奏上しつつありける。 (大正一一・三・二一旧二・二三外山豊二録) (第一五章~第二〇章昭和一〇・三・二九於吉野丸船室王仁校正) |
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霊界物語 | 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) | 07 難風 | 第七章難風〔五五七〕 小鹿峠の急阪を、弥次彦、与太彦、勝彦、六公の一行は、岩根に躓き、木の根に足を掻き、右に倒れ左に転けどつくりの口から出任せ、野趣満々たる俄作りの宣伝歌を謳ひ乍ら、爪先上りの雨に曝され掘れたる路を、千鳥の足の覚束なくも、喘ぎに喘ぎ上り行く。塵も積れば山となる、一尺一尺跨げた足も、始終休まぬ四十八坂を、心ばかりの勝彦が、自慢お箱の十八番の阪の上に、やつと上つて、鼈に蓼を噛ました様な荒息を継ぎ乍ら親も居らぬにハア(母)ハアと息をはづませ辿り行く。 勝『皆サン、此見晴らしの佳い所で、暫くコンパスの停車をして、浩然の気を養つたらどうですか』 弥『サア誰に遠慮会釈もありませぬワ、公然と休養致しませう、天洪然を空しうする勿れだ。しかし休養序に一つ石炭の積込をやりませうかい、斯う云ふ適当な港口は、この先には滅多に有りますまい、どうやら機関の油が涸れさうになつて来ました』 勝『何分アンナ堅い所へ格納されて居たものだから、サツパリ倉庫は空虚になつて了つた、何をパクついて可いか、肝腎の原料はないのだから仕方がありませぬワ、腹の虫が咽喉部まで突喊して来て、切りに汽笛を吹きます、せめて給水なりとやつて、芥を濁したいが、生憎谷は深し、起臥進退維谷まると云ふ腹具合ですワイ、何とか良い腹案はありますまいかな』 弥『オー此処にお粗末な、火にも掛けぬのに焦げた様な色のした握飯が、〆て二個ありますワイ、三途川の鬼婆アサンから記念の為に貰つて来た、形而上の弁当だ、噛む世話も要らねば、五臓六腑にお世話になる面倒も無い。これなつと食つて、唾液でも呑み込んで、食つた気分になりませうかい』 与『オイオイ弥次彦、あた汚い、貴様はまだ娑婆の妄執………オツトドツコイ幽界の妄執が除れぬと見えて、婆アだの、ハナ飯だのと、不潔い事を囀る奴だ、可い加減に思ひ切つたらどうだい』 弥『山に伐る木は沢山あれど、思ひ切るきは更にない………あの婆アサンの、厭らしい顔をして、歯糞だらけのくすぼつた歯を、ニユーツと突出し「親譲りの着物をこつちやへ渡せ」と吐しよつた時の面付を、どうして思ひ切る事が出来るか、飯食ふたびに握り飯のことを思ひ出して、ムカムカして来るワイ』 与『どこまでも弥次式だな、夫れほど恐ろしい婆アに、なぜ貴様は一蓮托生だとか、半座を分けて待つて居るとか、ハンナリとせぬ、変則的なローマンスをやりよつたのだ、得体の知れぬ唐変木だなア』 弥『そこは、外交的手腕を揮つたのだよ。燕雀何ぞ大鵬の志を知らむやだ、至聖大賢の心事が、朦昧無智の人獣に分つてたまるものかい』 与『人獣とは何だ、俺が人獣なら貴様は人鬼だ』 弥『定つた事だよ、天下一品の人気男だもの、それだから、閻魔サンでさへも跣足で逃げる様な、あの鬼婆アが、俺にかけたら、蛸か、豆腐のやうに骨無しになつて仕舞ひよつて目まで細くして、ミヅバナの混つた涎を垂れよつた位だもの………貴様は俺の人気男を実地目撃した正確な保証人だ、勝彦や、六公にも吹聴せぬかい、俺の戦功を報告するのは貴様の使命だ、縁の下の舞と埋没されては、吾々が苦心惨憺の神妙鬼策も何時の日か天下に現はれむやだ』 与『アハヽヽヽ、貴様どこまでも弥次式だな』 弥『定つた事だ、シキだよ、天下一品の色魔だよ。老若男女、貴賎貧富の区別なく、猫も杓子も、鼬も鼈も、蝸牛もなめくぢりも、牛も馬も、この弥次サンに向つては皆駄目だ。アヽ人気男と言ふものは随分気の揉めるものだ。冥土へ行けば行くで、優しうもない脱衣婆アまでが、強烈なる電波を向けるのだから、人気男の色男といふ者は変つたものだよ、古今にその類例を絶つと云ふチーチヤーだ、チーチヤー貴様もこの弥次彦にあやかつたらどうだ』 勝『アハヽヽヽ、ナント面白い人足………オツトドツコイ人気男に出会したものだナア』 弥『ヤア勝サン、お前は私の知己だ、英雄の心事を知る者は、君たつた一人だよ。人気応変、活殺自在、神変不思議の、赤門出のチヤキチヤキのチーチヤアだからネ』 与『アハヽヽヽ、開いた口が塞がらぬワイ』 弥『開いた口が塞がるまい、牛糞が天下を取るぞよ、コンナお粗末な弥次の弥次馬でも、馬糞の天下を取る時節が来るのだから、あまり軽蔑して貰ふまいかい、アンナものがコンナものになつたと云ふ仕組であるぞよ』 与『イヤー吹いたりな吹いたりな、三百十日の大風のやうだのう』 弥『三百十日と云ふ事があるかい、二百十日だらう』 与『馬鹿言へ、貴様は三百代言をやつておつた男だ、十人十日口だと吐して、その日暮しの貧苦の生活に苦しみ、三つ違の兄サン………と云ふて暮して居るうちに』 弥『何を吐しよるのだ、そりや貴様の事だよ、俺ん所は人も知る如く、高取村の豪農だ、下女の一人も使ひ、僕の半人も使つた門閥家だぞ』 与『アハヽヽヽ、半人の僕とは、そらナンダイ』 弥『きまつたことよ、允請ポリスを置いた事だよ』 与『ポリスでも判任官か……判任官の目下ぢやないか』 弥『その点はしつかりと判任せぬワイ、マアどうでも好いワ、貴様も一人前の人間になるのだ。一人一党主義で、快活に誰憚る所もなく、無限の天地に活躍するのが人間の本分だ』 与『エーソンナ雑談は中止解散を命じます』 弥『聴衆一時に立ち、喧々囂々収拾す可らずと云ふ幕だな、アハヽヽヽ』 勝『何と云つても、吾々は米喰ふ虫だ、腹が減つては戦が出来ない、何とか兵糧を工面せなくてはなりますまい』 六『御心配なされますな、今日の兵站部は私が担任致しませう、お粗末な物であなた方等のお口には合ひますまいが、大事なければ、召あがつて下さいませ』 と背中の風呂敷から固パンを出した。 勝『アー有難い、腹がカツカツして殆ど渇命にも及ばむとする所だつたよ』 弥『コラコラ六でもない事を言ふない、六公、人様に物を上げるのに、粗末だとか、お口に合ひますまいとか、そら何んだ、チツト言霊を慎まないか。これは美味しいから献げませう、うまいから食つて見て下さいと言ふのが礼儀ぢやないか……、ナンダ失敬な、食はれぬ様な物や、粗末なものを人に進上するといふ事があるかい。神様に物を献げるのにも、蜜柑の五つ位のピラミツドを拵へて、蕪や大根人参位をあしらひ、千切や昆布、和布、果実、小鮎、ジヤコ位をチヨンビリ奉つて、海河山野種々の美味物を、八足の机代に横山の如く置足らはして奉る状を、平けく安らけく聞し召せ、ポンポン………とやるぢやないか』 六『ハイハイ、あなたの御趣意は徹底しました。併し乍ら私の本心は、この麺包は美味しい結構なものだと思つて居るのだが、一寸遠慮をして、お粗末だとか、お口に合ふまいと言つたのですワ』 弥『口と心の違ふ横道者だナア、虚偽虚飾パノラマ式の生活を続けて、得々然として居るとは、何と云ふ心得ちがひだ。ソンナ事を言ふ奴は、五十万年未来の十九世紀から二十世紀の初期にかけて生れた、人三化七の吐く巧妙な辞令だ、チツト確乎せぬかい』 六『益々以て不可解千万、合点の虫がどうしても検定済みにして呉れませぬワイ』 弥『まだ貴様は分らないのか』 六『日本や支那の道徳を混乱して言つたつて和漢乱は当然ぢやないか、神様は正直と誠実の行ひをお喜びなさるのに、ナンダ、お粗末の物を、ホンの後家婆アの世帯ほど八百万の神様に奉つて、相嘗めに聞し召せとか、海河山野の種々の美味物だとか、横山の如く置足らはしてとか、現幽一致に御透見遊ばす神様の前に、虚偽を垂れて、商売繁昌、家運長久、子孫繁栄、無病息災、願望成就、天下泰平、国土成就、五穀豊穣なぞと、斎官共が吐すぢやないか、一体全体この点が腑に落ちないのだよ』 弥『分らぬ奴だなア、この天地は言霊の幸はふ国だ、悪い物でも善く詔直すのだ。少い物でも沢山なやうに宣り直すのだ、貴様の様に、善い物を悪いと言ひ、美味い物をまづいと云ふのは、言霊の法則を破壊すると云ふものだ。世は禁厭と言つて、勇んで暮せば勇む事が、とつかけ引つかけ現はれて来る、悔めば悔むほど悔み事が続発するものだ、それだから人間は、言霊を清くせなくてはならないのだよ』 六『モシモシ弥次彦サン、チツトの物を沢山だと言ひ、味無い物を美味い物と云ふのは、いはゆる羊頭を掲げて狗肉を売るといふものぢやないか。ソンナ事をすると、現行刑法第何条に依つて詐欺取財の告発を為られますよ。訳の分らぬ盲ばつかりの人間が集つてたかつて拵へた法律でさへも、是丈に条理整然として居るのだ、况して尊厳無比なる神様の御前に、詐欺をやつて良い気で済まして居れると思ふのか、無感覚にも程が有るぢやないか』 弥『定つた事だい、人間は神様の水火から生れた神の子だ、少しでも間隔があつて堪らうかい、無かんかくが当然だよ』 六『ヤア妙な所へ脱線しよつたな、本当に脱線もない………』 弥『脱線は流行ものだい、工事請負人と○○と結托して○○をやるものだから、広軌鉄道であらうが、電鉄だらうが、直に脱線転覆する世の中だ、善人は悪人と見做され、悪人は脱線して善人になると云ふ暗がりの世の中だ、吁脱線なる哉脱線なる哉だ、アハヽヽ』 勝『広軌鉄道とか電鉄とか云ふものは、それや何処に敷設されてるものですか』 弥『ヤア此れから数十万年後の、餓鬼道の世の中の、文明の利器と云ふ名の付く化物のことだよ。アハヽヽヽ』 六『随分あなたの滑車は能く運転しますな、万丈の気焔を吐いて、我々を煙に巻き、雲煙糢糊として四辺を包む態の鼻息、イヤモウ恐縮軍縮の至りですよ』 与『随分巨大なクルツプ砲が装置されて有ると見えますワイ、ホー砲、砲、砲、ホー』 弥『定つた事だよ、与太公や六公の様な、与太六とはチツト原料が違ふのだ、特別大極上等の、豊富なる原料を以て、鍛錬に鍛錬を加へ、製造したる至貴至重なる身魂の持主だ、古今に類例を絶つと云ふ逸物だから、何と言つたつて、弥次彦の足型をも踏めさうな事はないのだ』 勝『モシモシ弥次彦サン、あなたは余程自尊心の旺盛強烈なる御人格者ですネー、自分を称して弥次彦サンと敬語を使ひ、友人に対しては、与太公だの、六公だのと、恰も君王が僕に対する様な傲慢不遜の御態度、三五教の信者にも似合はぬお振舞、どこで勘定が違つたのでせう。これもやつぱり脱線の世の中の感化をお受けになつたのぢやありますまいかな』 弥『ソンナラ是から与太彦サン、六公サンと詔り直しますが、しかしよく考へて見なさい、神を敬する如く人を敬し、我身を敬すべしと云ふ信条が三五教の何処に有つたやうに思ひます。我々は無限絶対力の至貴至尊の大神様の水火を以て生れ出で、天地経綸の司宰者たる特権を賦与されて居る者ではありませぬか、人は神なり、神は人なり、神人合一して茲に無限の権力を発揮するのでせう。吾々の霊肉共に決して私有物ではありませぬ、みな神様の預り物です、さうだから、弥次彦サンと云つたつて別に少しの矛盾も撞着もないぢやありませぬか。神素盞嗚尊様は、大蛇を退治て、串稲田姫と芽出度く偕老同穴の契を結び給ふた時に、自分の胸を抑へて「あが御心すがすがし」と、自分が自分の心を敬はせ給ひ、天照大神様は「われは天照大神なり」と自ら敬語をお使ひになつた。昔の帝様は葛城山に狩猟をなされた時にも、その御腕に虻が食ひ付いた、その時に「あが御腕虻かきつき」と詔らせ給ふたぢやありませぬか、これを見ても敬語と云ふものは、どこまでも使用せなくてはなりませぬよ、決して等閑に附すべき問題ではなからうと拝察するのです。今の奴は、君主でもない友人に対して、君とか、賢兄とか言ひ、僕でもないのに僕だとか拙者だとか云つて、虚偽の生活を送り得意がつて居る逆様の世の中だ、自分の父ほど賢い者は無い、母ほど偉い者は無いと心の中で褒めて居乍ら、愚父だとか、愚母だとか言ひ、自分の息子は悧巧だ、他家の息子は馬鹿だ、天保銭だと心に思ひ乍ら、自分の子を称して、愚息だとか、拙息だとか豚児だとか吐き、他人の馬鹿息子や、鼻垂小僧を御賢息だとか、御令息だとか言つて、嘘で固めてゐる世の中だ。本当に冠履転倒とはこの事だ。女郎の言ひ分ぢやないが、「口で悪う言ふて心で褒めて、蔭ののろけが聞かしたい」と云ふ様な、娼婦的奴根性の人間許りだから、世の中は逆様ばつかり出来るのだ。一日も早く三五教の教理を天下に宣明して、第一着手として、この言霊の詔直しを始めなくては、何時までも五六七の神政は樹立さるるものではありませぬワイ』 勝『イヤア是は是は結構な御託宣を承はりました、斯う云ふお話は度々教へて下さいませ。私も宣伝使となつて、この通り変幻出没、自由自在の活動を続けて来ましたが未だその点に気が付いて居なかつたのです…………吁、何処にドンナ人が隠れて居るやら、何時神様が口を藉つて、戒めて下さるやら、分つたものぢやない。アヽ有難い有難い、惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世』 与『コレコレ弥次彦サン、お前は又、日頃の言行にも似ず、今日に限つて何故ソンナ深遠な教理を説いたのだい』 弥『ナニ、ナンダカ口が辷つて、中から何者かが言ひよつたのだい、弥次彦の知つた事かい、アハヽヽヽ』 勝『ヤア六サン、結構なお弁当を沢山頂戴いたしました、これで元気も快復しました。サア徐々御一同様、テクル事に致しませうかな』 弥『コレコレ勝彦サン、表は表、裏は裏だ、この道中にソンナ几帳面な挨拶は免除して下さいな、互に無駄口の叩き合で、われ、俺で行きませうかい、何だか肩が凝つて疲労の度を増す様だから…………のう勝公、与太六』 与『与太六とはあまり酷いちやないか』 弥『面倒臭いから、与太公と六公とを併合したのだ、会社でもチツト左前になると併合するものだよ』 与『今俺はパンを鱈腹食つたのだ、空腹前所か、これ見い、この通りの太つ腹だ』 弥『ホンにホンに、全然鰒の横飛見たやうな土手つ腹だな、蟇の行列か、鰒の陳列会か、イヤモウ何んともかとも形容の出来ないお姿だ、コンナ所を三面記者にでも見つけられた位なら、直に新聞の材料だよ。アハヽヽヽ』 折から小鹿山の山颪、木も倒れ岩も飛べよと許りに吹き来る。 弥『ヨー風の神、一寸洒落てゐよるなア。吹くなら吹け、大砲の弥次彦がご通行だ、反対に吹飛ばしてやらうか』 与『アハヽヽヽ、偉い元気だのう、しかし何ほど弥次サンが黄糞をこいて、金の目を剥いて気張つた所で、的サンは洒々落々、風馬牛といふ御態度だから、如何ともする事は出来まいかい』 弥『ヨーヨーこれや意外の強風だぞ、二人づつ肩と肩とをから組んで進まうかい…………与太六、貴様は一組だ、弥次彦は勝公と手を組んで、単梯陣を張つて、驀地に進軍だ。小舟に乗つて大海を渡る時にも、暴風怒濤に出会つた時には、舟と舟と二艘一所に合はして連結んで置くと、容易に顛覆せないものだ。舟じやないけれど、吾々は風に対する風船玉の難を避ける為に、連結んで風の波を漕ぎ渡る事とせうかい。グヅグヅして居ると小鹿峠の渓谷へ顛覆沈没の厄に遭ふかも知れない。サアサア早く早く、連結んだ連結んだ』 四人は二人づつ肩と肩とを組み合せ、風に向つて強圧的に、前方三十五度の傾斜体で坂路を跋渉する。 与『イヨー此奴ア猛烈だ、今日に限つて風の神の奴、どう予算を狂はせよつたのか、勿体なくも、天地経綸の司宰者たる人間様が御通行遊ばすのに、恐れ気もなく前途を抗塞するとは、不都合千万だ。ヤア六公、しつかりせぬかい、吹き飛ばされるぞ』 六『これ位な風に吹飛ばされる気遣はないが、弥次彦サンの気焔には随分吹飛ばされさうだ。アハヽヽヽ』 弥『コラコラ、貴様何をグヅグヅ言つて居よるのだい、この烈風に確乎勇気を出して進まないと、内閣の乗取は不可能だぞ、グヅグヅしてると、九分九厘行つた所で流産内閣になつて了ふかも知れないぞ』 与『エー八釜しう言ふない、如何に神出鬼没の勇将でも、ハヤこの風に向つて、どうして突喊が出来るものかい、千引の岩でさへも中空に巻きあげると云ふ様な風の神の鼻息だ、チツト風の神も、聞直して呉れさうなものだな、この谷間へでも落ちて見よれ、又候幽界の旅行をやらねばならぬぞ』 弥『そら何を幽界、悲観するな、モツト愉快になつて、風を突いて突進するのだ』 与『何と云つても貴様のやうな無茶な事は、俺には到底不可能だ。如何に人間が賢いと云つてもコンナ記録破りの暴風に出会しては、人間としては到底不可抗力だ、………オイ一寸そこらで一服したらどうだい』 弥『三五教に退却の二字はないぞ、どこ迄も唯進むの一事あるのみだ。一度に開く梅の花、何時までも風の神だつて、さう資本が続くものぢやない。グヅグヅ吐かすと足手纏ひになるから、貴様と俺とは最早国交断絶だ、旅券を交附してやるから、サツサと本国へ引返したが宜からうぞ』 与『アーア仕方のない頓馬助だナア……オイ六公、マア見とれ、向意気ばつかり強いが、タツタ今風に煽られて、再幽冥界の探険と出かけるのが落だぞ』 この時山岳も崩れ、蒼天墜落するかと思はるる許りの音響と共に、最大強烈なる暴風吹き来るよと見る間に、弥次彦の羽織袴の袂に風を含んで、勝彦と手を組んだまま、中空に吹あげられ、空中飛行の曲芸を演じつつ、風に追はれて谷間の彼方に、悠々として姿を隠した。不思議や烈風は、嘘をついた様にケロリと歇んだ。 与『ヤア大変だ、意地の悪い風だないか、弥次彦を吹飛ばして置きよつて、それを合図にピタリと休戦の喇叭をふきよつた様なものだ』 六『あまり弥次公は大法螺をふくものだから、風の神の奴、一つ懲しめてやらうと思つて、何でも早うから作戦計画をやつて居つたのに違ないぞ、何だか夜前から雲行が悪いと思つて居つた。ヤア夫れにしても吾々はこの儘に放任して置く訳には行かず、滅多に天上した気遣はなからうから、吾々両人は此処で一つ捜索をせなければなるまいぞ』 与『ナアニ、彼奴ア風に乗つて、コーカス山へお先へ失礼とも何とも言はずに、参詣しよつたのだらうよ。アハヽヽヽ』 六『ソンナ気楽な事を言ふて居る場合じやあるまい、是から両人協心戮力して、両人が在処を探さうじやないか』 与『探すもよいが、拙劣に間誤つくと、冥土の道伴にならねばならないかも知れないぞ、俺はモウ冥土の旅は一度経験を積んだのだから、余り苦しいとも思はぬが、貴様は初旅だから勝手も分らず、随分困るだらうよ』 六『エーろくでもない事を言ふものじやないワ、言霊の幸はふ世の中だのに』 与『風玉の災する世の中だ、アハヽヽヽ』 二人は弥次彦、勝彦の散りて行つた方面を指して、顔の色を変へ乍ら、急いで元来し道に引返し、二人の所在を捜索することとなつた。吁、二人の行衛はどうなつたであらう。 (大正一一・三・二四旧二・二六松村真澄録) |
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霊界物語 | 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) | 08 泥の川 | 第八章泥の川〔五五八〕 果しも知れぬ枯野原、神の恵も嵐吹く、濁り切りたる川の辺に、二人は漸く着きにける。 弥『ヤ、何だい、又もや幽界へ逆転旅行だな、オウ此処は三途の川だ。勝公、ナンデもこの辺に俺のなじみの頗る別嬪が、楽隠居をやつて居る筈だがナア』 勝『弥次彦サン、此処はどうやら娑婆気の離れた処のやうですなア、小鹿峠を暴風に梳づり、突貫の最中何だか気が変になつたと思つたが最後、局面忽ち一変して草茫々たる枯野原になつて居る、別に飛行機に乗つた覚えもないのに、何時の間にコンナ処に来ただらう、哲学者たら云ふ奴の好く云ふ夢中遊行でも遣つたのぢやあるまいか。誰か催眠術の上手な奴を連れて来て、早く覚醒でもさして呉れないと、まかり間違へば幽界旅行となるかも知れないなア』 弥『知れないも何もあつたものか、正に幽界旅行だ、此処は三途の川の渡場だよ』 勝『それにしては、婆アが居らぬじやないか』 弥『この頃は物価騰貴で収支償はぬと見えて、廃業しよつたのだらうよ、それよりもマア俺の昔なじみの別嬪が囲つて在るのだ、それに面会さして遣らうかい』 勝『貴様は何処までも弥次式だな、処もあらうに怪態の悪い、三途の川の傍に妾宅を構へると云ふ事があるものかい』 弥『それでも向ふが妾宅したのだから仕方がないさ。新月の眉濃やかに、緑したたる眼の光り、鼻の恰好から口の恰好、ホンノリとした桃色の頬、それはそれは何ともかとも云へぬ逸品だよ』 勝『ヨウ、ソンナ逸品があるのか、俺にもいつぴん見せて呉れぬかい』 弥『洒落ない、これから千騎一騎だよ、青、黒、赤、白、橄欖、種々雑多の百鬼千鬼万鬼と格闘をせなければならないのだ。アハヽヽヽヽ』 勝『何者が現はれ来るとも、神変不可思議の言霊の武器を使用すれば大丈夫だ、夫よりも早くその逸品とやらを、御高覧に供へ奉らぬかい』 弥『よしよし驚くな、随分別嬪だぞ、一度お顔を拝んだが最後、万劫末代五六七の代までも忘れることの出来ないやうな、すごい様な恐ろしい別嬪だ。一寸俺に随いて来い、それ其処に見越しの松といふ小ちんまりとした、妾宅があると思つたのは夢だ、茅葺の雪隠小屋のやうな中に、今頃はビイビイチヨンだ』 勝『怪体な言を云ふぢやないか、何がビイビイチヨンだい』 弥次彦は藁小屋の戸の隙より一寸覗いて、 弥『ヤー御機嫌だなア、また遣つて来ました、オツトドツコイ女房の脱衣場のお婆アサン、二世の夫天下一品の色黒い男、弥次彦サンだ、早う戸を開けぬかい』 藁小屋の中より、 婆『エーエーまた来たのか、よう踏み迷ふて来る餓鬼だな、この川は一遍渡つたら渡る事の出来ぬ三途の川だのに、何しに娑婆から冥土に踏み迷ふて来るのだい、娑婆の幽霊奴が』 弥『コラコラ夫婦と云ふものは、ソンナ水臭いものぢやないぞ、三途の川と云ふからは三度までは、渡るのは当り前だ。飯でも一日に三度は食はねばその日が暮れぬのだ、娑婆の幽霊とはそれや何をぬかしよるのだい』 婆『お前は娑婆の幽霊だよ、幽霊会社に首を突き出したり、幽霊株を振り廻したり、これやちつと有利得の株だと云へば、欲の皮を突つ張つて、身魂を汚し、女房子供に苦労をさせ、世間の奴に迷惑をかけ、どうして娑婆に立つて行けやうかなぞと、腰から足の無い奴の様に、藻掻きよつて宙ぶらりの影の薄い代物だ。娑婆の幽霊と云ふたのが何が不思議だい。幽冥界には貴様のやうな亡者は一人も居らないぞ、学亡者の親方奴が』 弥『コリヤ婆ア、それや何ぬかしよるのだ、女房が老爺をぼろ糞に言ふと云ふ事があるものか、貞操と云ふ事を知つて居るか、不貞腐れ婆奴が』 婆『不貞腐とは何だ、女ばかりが不貞腐れぢやない、男の奴にも沢山不貞腐れがあるぢやないか。貴様は何だ、娑婆に居つて彼方へ小便ひつかけ、此方へ糞をひつかけ、隣の嬶をチョロマカシ、近所の娘を誑かし、嬶アが古くなつたと云つては、博労が馬か牛を入れ替する様に、人間を畜生か機械の様な扱をしよつて、不貞腐れの張本奴が。この婆は斯う見えても地獄開設以来、この川端で規則を守つて職務忠実に勤めて居るのぢや、貴様のやうに月給が高いの安いの、此処は辛度いの楽だのと、猫の目のやうにクレクレと変りよつて落着きのない我楽多人間とは、チート訳が違ふのだよ。又しても又しても、この婆に厄介をかけよつて、モウ好い加減に退却せい、貴様の来るのはモチツト早いワ。此処へ来るのは、娑婆の罪を亡ぼした奴の来る所だ。貴様は罪悪の借金を沢山積んで居るから、モツトモツト苦しい目をしてから出て来るのだ。罪悪の借金を娑婆へ残して、コンナ処へ逃げて来るとは、余り狡いぢやないか、薄志弱行にも程があるワ、この三途の川はドンナ所だと思つて居るか、貴様の身魂を洗濯する所かい、天で言へば天の安河も同様な処ぢやぞ』 弥『エー八釜敷い、口の好い嬶だ、女賢しうて牛売りそこなふと云ふ事がある、折角夫婦になつてやつたが、今日限り三くだり半をやるから覚悟せい、夫婦喧嘩は犬でも喰はぬと云ふが、この弥次彦サンはソンナ執着心のある男ぢやないぞ』 婆『誰が弥次彦の女房になると云つたか、貴様が勝手に此前に踏み迷ふて来た時に、わしの名は弥次彦だから、お前の老爺彦だと言ひよつて、自分一人できめたのでないか、正式結婚でもなけりや、自由結婚でもない、貴様の方は何ほど縁談を申込んでも、此方の方から真平御免だ、肱鉄だ。この広い幽冥世界に貴様の女房になる奴は、半人でも四半人でも在ると思ふか、余り自惚するない、罪悪に満ちた娑婆でさへも、愛想をつかされた結果、コンナ結構な地獄に出て来よつて、女房ぢやの、ヘツたくれぢやのと、何を劫託云ふのぢや、此処に釘抜きがあるから、舌でも抜いてやらうかい』 弥『コラ古婆、それや何を吐しよるのだ、貴様は世間見ずだから、ソンナ馬鹿な事を言ふのだ。廿四世紀の今日に、原始時代のやうな、古い頭を持つてゐるから判らぬのだ、今日の娑婆を何と考へて居る、天国浄土の完成時代だ。中空を翔ける飛行機飛行船はすでに廃物となり、天の羽衣と云ふ精巧無比の機械が発明され、汽車は宙を走つて一時間に五百哩といふ速力だ、蓮華の花は所狭きまで咲き乱れ、何ともかとも知れない黄金世界が現出して居るのだ。それに貴様は開闢の昔から涎掛を沢山首にかけて道端にチヨコナンと、番卒の役を勤めて居る奴の様に、コンナちつぽけな雪隠小屋に焦附きよつて、娑婆が何うだの斯うだのと云ふ資格があるか、廿四世紀の兄サンだぞ』 婆『さうかいやい、それほど娑婆が結構なら、なぜ娑婆に居つて苦業をせぬのかい、ナンボ開けたと言つても、日輪様が二つも三つも出てをる筈もなからう、何時も何時も満月許りと云ふ訳にも行くまい、五十六億七千万年の昔から変らぬものは誠許りだ。どうだ貴様は物質的の欲望とか、文明とか云ふ奴に眩惑されよつて、視力を失つたのだらう、資力がなくては娑婆に居つたとて、会社の一つも立ちはせぬぞ、株券買ふと云つたつて、株の一枚も買へはしまい、貴様は二十四世紀だと云ふて威張つて居るが、十五万年ほど昔の過去となつて居るのが分らないか、今は一万八千世紀だぞ、古い奴だなア』 弥『オイ婆アサン、一寸待つて呉れ、俺は紀元前五十万年の昔に、娑婆に現はれて大活動を続け、ついたつた今、小鹿峠を宣伝歌を謳つて通つた様に思ふが、何だ、それから十万年も暮れたとは、一寸合点が行かぬワイ』 婆『光陰は矢の如しだと、十八世紀の豆人間が吐き居つたが、光陰の立つのはソンナ遅いものぢやない、ヂヤイロコンパスが一分間に八千回転を廻る様に、世の中は貴様の様な分らぬ奴には頓着なしに、ドシドシと進行して行くのだ。貴様も罪の決算期が来るまで、まア一度娑婆へ帰つて、苦労をして来るが可からうぞ。一時でも早く帰つて民衆運動でもやつて、ポリスの御厄介にでもなつて来い、さうせないと貴様の罪は重いから、この三途の川を渡るが最後石仏を放り込んだ様にブルブルとも何とも言はずに寂滅為楽だよ』 弥『オツト待つた、一旦亡者になつたものが、また川へはまつて、寂滅為楽と云ふ事があつてたまるかい、訳の分らぬ婆だなア』 婆『貴様は分らぬ訳だ、娑婆の奴は二重転売と吐かして、一遍売りよつて二度売つたり仕様もない六〇六号の御厄介にならねばならぬ様な腐れ女に、涎を垂らしながら揚句の果てには二次会とか三次会とか吐かして騒ぐぢやないか。それさへあるに一夫一婦の天則を破り、第一夫人第二夫人だの、第一妾宅だの第二第三、何々妾宅だのと洒落よつて、体主霊従のありつ丈けを尽して居る虫けらの如うな人間許りだらう。現界の事は直に幽界に写るのだ、一遍死んだ位ぢや死太い身魂が、仲々改心いたさぬから今一遍出直し、それでも改心せずば三遍四遍と何遍でも焼き滅すのだ。貴様は娑婆で廿世紀頃に始まつた三五教の教を聞いてゐるだらう、改心をいたさねば何遍でも、身魂を焼いて遣るぞよと云ふことがあるだらう、今の娑婆の奴は一度死んだら、二度は死なないと、多寡をくくつて居やがるが、一度あつた事は、二度も三度もあるものだぞ、何遍でも死なねばならないぞ』 弥『ヤア、文明の風がコンナ所まで吹いて来よつて、婆の奴この前に旅行した時とは、よほど娑婆気のある事を吐かしよる、かうして見ると時代の力は偉いものだ、幽界までも支配すると見えるワイ』 婆『それや何を幽界、貴様は小鹿峠を通る時に、一方の男の間抜面を見込んで、肩を組み合せ、屁の如うな風に吹き散らされよつて、冥土の道連れに勝公を幽界に誘拐して来よつた奴だ、愚図々々ぬかさずと、もう一遍甦生りて一苦労して来い。まだまだ地獄に出て来る丈け資格が具備して居ないワ、孰れ一度や二度はこの川を渡る丈けの権利は、登記簿にチヤンと附けて、確に保留して置いてやるワ、どうだ嬉しいか』 弥『エヽ、ツベコベと能う吐かす婆ぢやないか、碌な事は一寸も言ひよらぬワイ。道理ぢや、老婆心で吐かすことだから、これもあまり誅究するのは可愛想だ。オイオイ勝公、貴様は何故沈黙を守つて居るのだ、チツト位砲門を開いて砲撃をやつたらどうだい、敵は間近く押寄せたりだ、なにほど堅牢な船だと云つたつて艦齢の過ぎた老朽艦のしかもたつた一隻だよ』 勝『オイ弥次公、場所柄を弁へぬかい、何と云ふたつて此処へ来たらお婆サンの勢力範囲だ、従順に服従するより仕方がないじやないか、魚心あれば水心だ、なアお婆アサン、なんぼ悪道なお役だと言つても矢張血もあり涙もあるだらう、この弥次公は御存じの通り生れつきの弥次的一片の男ですから、お気にさえられず神直日、大直日に見直し聞直して、許してやつて下さいませ』 婆『何と云つてもこの男はこれだから………今度から、先の地獄にやりたいのだけれども、閻魔サマから、何の為めに貴様は、川番をして居つたのぢや、コンナヤンチヤを通過さすと云ふ事があるものか、何で娑婆へ追返さないのかと、免職を喰ふか分らない。サヽ一時も早く尻引つからげて足許の明るい内にいんだりいんだり』 弥『アハヽヽヽ、とうとう婆の奴、本音を吹きよつたな、ヤア面白い面白い、エーこの三途の川をばサンばサンと向ふに渡つて、青黒白赤と種々雑多の鬼共を、片つ端から鷲掴、香物桶の中にブチ込んで、上からグツと千引岩のおもしをかけ味噌漬にして、朝夕の副食物にしてやるのだ、娑婆に居たつて堅パンを一つか三つばかりパクついて、甘いの味ないのと言ふて居るよりも、温く温くの鬼味噌漬だ、稀代の珍味佳肴だ、吾々の前途は有望だ、オツトドツコイ幽霊だ、サアババサン緩りと、水の流れを見て暮シヤンセ、人間は老少不定だ、必ず達者にして暮せよ、アハヽヽヽヽ』 婆『エーエ八釜敷いワイ、渡ろと云ふたつて渡しては遣らないぞ』 弥『何、渡さむと仰有つても渡しは渡しの考へで此渡しを渡つて見せますワイ、渡しの御神徳を川の端から指を食へて見て居て下さいや、お婆アサン左様なら』 婆『オツト待つた待つた、待てと申せば待つたが好からうぞ』 弥『何を吐しよるのだい、春先になるとそろそろ逆上しよつて、三途の川の婆奴、三途のない奴だ、然しながら此川は大変濁つて居るぢやないか、この前に旅行した時とは天地の相違だ』 婆『定つた事よ、娑婆の奴が毎日、日にち汚い事ばつかりしやがつて、結構な水神の御守護遊ばす溝川へ、糞滓、小便を垂流して、一等旅館だの、特等旅館だとか吐いて、そこら中を糞まぶれに汚すなり、サツカリンの這入つた腐つた酒を、ガブガブ飲みよつて肺臓を痛め、そこら中に血を吐き散らすものだから、雨が降る度に皆この三途の川に流れ込むのだ、それだからこの通り川が濁つてしもうのだ、この川の中には貴様の糞も小便も交つて居るワイ、一杯喉が乾いたら飲んだらどうだい』 弥『何を吐かしよるのだ、コンナ物が飲めるかいやい、ソンナ事を聞くとこの川を渡るのが嫌になつて来た、婆の云ふ通イヤだけど、再び娑婆へ引返さうかな』 婆『お前達は糞や小便や血や啖のこの川が汚いのか、お前の身体は何だ、糞よりも小便よりも、鼻啖よりも、もつと穢苦しいぞ、糞の身体が糞水に浸つて糞水を飲むのが、それが、何が汚いのぢや、共飲みぢや遠慮はいらぬ、貴様の物を、貴様が飲むのぢやないかい』 弥『これは怪しからぬ、共食共飲みとは天地の神様に大違反の罪悪だ、人が人を喰ひ、猫が猫を食ふと云ふ事があつて耐らうかい』 婆『吐かすな吐かすな、貴様は親の脛を噛ぢつて食い足らないで、山を飲み家を飲み、まだ喰ひ足らずに蔵を喰ひよつて、揚句の果には可愛い子まで鬼の様に売つて喰ふて、それでもまだ足らいで友達を食ひ、世間のおとなしい人間の汗や脂を搾つて舐ぶり、餓鬼のやうな奴ぢや、余り大きい顔して頬げたを叩くものぢやないぞ』 弥『ヤアこの婆仲々ヒラけてゐよるワイ、一寸談せる奴だ』 勝『定つた事よ、毎日日にち世界中のいはゆる文明亡者が、此処を通過するのだから、門前の雀経を読むとか云ふてな、聞き覚え見覚えて居るのだ、貴様は小学校出、俺は赤門出のチヤーチヤー大先生だと吹きよつたが、このお婆アサンは赤門どころか、よつぽど黒門だ。早稲田大学出身の大博士だ、洋行婆アサンだぞ、うつかりして居ると赤門先生赤恥を掻いてアフンと致さねばならぬぞよ』 弥『コラ、カカ勝公、横槍を入れない、尋常学校の落第生奴が』 勝『今の学校を卒業したつて何になるのだ、碌でもない事ばつかり教へられよつて、尋常の間が本当の教育だ、それ以上になると薩張り四足身魂の教育だ、余り学者振るな、学者の覇の利いた時代は廿世紀の初頭だ、二十四世紀になつて居るのに学のナンノと、学が聞いてあきれるワ』 弥『それでも矢張り形式を踏まねば、ナンボ二十四世紀だとてあまり買手がないぞ、赤門出と云へばアカンモンでも威張つて直に買手が付くし、卒業早々立派な会社の予約済みに成れるのだ』 勝『まるで人間を貨物と間違へてゐる世の中だから仕方がないワイ、時世時節の力には神もかなはぬと仰有るのだから、俺も時勢に逆行する様な、馬鹿でないからまア一寸此処らで切上げて置かうかい。なア赤門先生』 弥『何と云つたつて赤門出は貨物だらうが、物品だらうが、価が好いから、仕様がないワ、この婆アサンのやうに何程大学を卒業したつて、黒門(苦労者)出で何ぼ立派でも使ひ手がないのだ、それだからカンカ不遇で何時も川端柳を見てクヨクヨと、脱衣婆の境遇に甘んぜねばならないのだよ。アヽ私はどうして赤門に這入らなかつたらう、鈍なアカンモンでも赤門出なればドント出世は出来るが、私は又どうして黒門(苦労者)になつただらうといくら悔んでも後の祭りだ、何時の世にも蔓と云ふものをたぐらねば出世は出来はしないぞ。あの芋を見よ、蔓にぶら下つてなつて居るのぢや、それだから游泳術の上手な奴をみんな芋蔓と云ふのだよ』 勝『エヽ訳の分らぬ事を云ふな、まるで薩摩の芋屁でも放つた様な臭い臭い理窟を伸べよつて鼻持ちがならぬワイ。ヤアお婆アサン、長らく御面倒いたしました、末長う宜しうお頼み申します、オツトドツコイ三途の川のお婆アサンにお頼みするやうでは、六な事ぢやない、末長うお頼み申しませぬワ、アハヽヽヽ』 婆『ア、さうださうだ、私の厄介になるやうな奴は、どうで碌な奴ぢやないワ、それよりもお前の連の与太や六が心配をして目を爛らして探して居る。早く帰つてやりなさいよ』 弥『オーさうだつた、ウツカリ婆アサンとの外交談判に貴重な光陰を夢中になつて消費して居つたものだから、二人の奴、俺の記憶から消滅して仕舞つて居つた、消滅地獄に落ちたやうだ。今頃はさぞ心身を焦がして居るであらう程に、もうしもうし勝五郎サンエ、勝チヤンえ、此処らあたりは山家故、オツトドツコイ川べり故、嘸寒かつたで御座んしようなア[※浄瑠璃の『箱根霊験躄仇討』のシャレ。]』 勝『オイしつかりせぬかい、此処は箱根山ぢやないぞ、俺を躄と間違へて貰つては迷惑千万だ』 婆『ヤレこの障子開けまいぞ開けまいぞ、そも三浦が帰りしとは坂本の城に帰りしか、よも此処へのめのめと迷ふて出て来る弥次彦ぢやあるまい、そりや人違ひ、若し又それが諚なれば、コーカス山、アーメニヤ分け目の大事の戦ひに参加もせずに戻つて来る不届者この茅屋根の家は婆が城廓、その臆れた魂でこの藁戸一重破らるるならサヽヽ破つて見よと[※浄瑠璃の『鎌倉三代記』の「三浦別の段」のシャレ。]』 弥『百筋千筋の理を分けて、引つかづいたるあばらやの内、チヤンチヤンぢや』 勝『ハハアそのお言葉を忘れねばこそ、故郷を出て今日まで一度の便りも致さねど、お命も危しと聞くより風に吹き飛ばされ、玉は碎け胸は痛み、眼眩んで三五の道を忘れし不調法、真平御免下されかし、いで戦場へ駆向ひ、華々しき功名して、コーカス山におつつけ凱陣仕らむ』 弥『アハヽヽヽヽヽ』 婆『オホヽヽヽヽ、もう御しばいだよ』 (大正一一・三・二四旧二・二六谷村真友録) |
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27 (1667) |
霊界物語 | 16_卯_丹波物語1 大江山/冠島沓島/丹波村 | 07 空籠 | 第七章空籠〔五九七〕 秋山彦が心籠めたる宣伝歌に鬼彦、鬼虎、石熊、熊鷹其他の面々は心の底より前非を悔い、一行の前に鰭伏して両手を合せ、覚束なき言霊の息を固めて秋山彦の後につき天津祝詞を奏上し、宣伝歌を唱へ帰順の意を表したりけり。 鬼彦『素盞嗚尊様を始め御一同の方々に御礼申し上げます、吾々の如き悪魔の容器赦し難き罪人の危難をお救ひ下され、其上にも大慈大悲の大神の大御心を以て身体不自由の吾々をお助け下されし御志何と御礼を申し上げて宜しいやら、今後は心の底より悔い改めます、サアサ何卒一刻も早く此場を御立退き下さいませ、此魔窟ケ原をズツト奥へ進みますれば愈鬼雲彦の岩窟の棲家、又立派なる本城が御座いまする、其処へ参れば数多の邪人共手具脛引いて待ち構へ居れば、如何に勇猛なる貴神様も多少御苦みの事と存じますれば、吾々の言葉をお用ひ下さいまして、何卒此場より御逃れ下さいますよう』 と真心を面に表はして忠告する。亀彦は揶揄半分に、 亀彦『ホー鬼彦の大将、随分智慧が能く廻るぢやないか、親切ごかしに吾々の勇将を撃退し暫時の猶予を貪らむとする猾い計略、今此処に於て吾ら一行を苦めむとせし処、天罰立所に致り過つて味方の石弾、征矢に中り零敗の大見当違ひを演じ懲り懲りしたと見えるワイ。然し乍ら吾々は決して婆羅門教の如く、否鬼雲彦の如く善の仮面を被り天下を攪乱せむとするものに非ず、之より鬼雲彦に面会し彼をして汝等の如く心の底より悔い改めしめねばならぬ、今よりは吾々一行を旧の如くに高手小手に縛め、御苦労乍ら、此網代籠に乗せて担いで行つて呉れよ』 鬼彦『イヤ滅相な、貴神等の如きお方を本城へ迎へ入れるが最後、天地転動の大騒動、大江山の城内は乱離骨灰、落花微塵の惨状を演出するは明鏡の物を照して余蘊なきが如しであります、何卒々々此場をお引き取り下さいませ』 亀彦『貴様は矢つ張り鬼雲彦の贔屓を致して居るな、ヤア感心々々、一旦大将と恃みた者に対してそれ丈けの心遣ひを致すは人間の真心の発露である。併し乍ら此処迄思ひ立つたる吾々の心中、中途に駒の頭を立て直す事は男子として忍び難き処だ、如何しても聞かねば吾々は之より強行的行脚を続け大江山の本城に立向ふであらう』 とそろそろ歩み初めたれば、鬼彦は泣声を出し、 鬼彦『モシモシ、タヽヽヽ大変で御座います、如何に貴神方が英雄なればとて多勢に対する無勢、御苦戦の程お察し申す』 と真心より止める。部下の一同は驚異の面相を陳列して鬼彦の顔をうち衛り居る。 亀彦『何だ、女々しい事を言ふな、貴様も鬼雲彦の左守と迄言はれた男じやないか、それに何ぞや、亡国的哀音を立て絶望的悲調の涙を湛へて吾々を止めむとするは其意を得ない、之には何か深き謀計のある事ならむ、吾等一行は自由自在に山中徒歩の権利を有す、サアサ御一同様、進みて参りませう。仮令鬼雲彦百万の大軍を擁し防ぎ戦うとも此亀彦が只一人あれば沢山なり。強風の砂塵を捲き上ぐる如く、吾一言の息吹によつて根底より悔い改めしめ、悪魔の巣窟をして天国楽園と化せしめむ。ヤア面白し、勇ましし』 と独語ちつつ肩を怒らし気焔万丈当るべからず、足踏み鳴らし雄猛びする。 鬼彦『亀彦様、大変な勢でメートルをお上げになつて居られますな』 亀彦『オウさうだ、敵の敗亡目前にメートルだ、某の前進を妨げむとしてメートルの事致すと量見ならぬぞ、ジヤンジヤ、ヒエールの某を何と心得てるか』 鬼彦『ジヤンジヤ、ヒエールか、ジヤンジヤ馬か存じませぬが能う貴下はジヤンジヤを捏ねるお方ですな』 亀彦『エーエ、ジヤンジヤマ臭い、愚図々々して居ると折角上つたメートルがヒエールだ、サアサ行かう』 と又もや行かむとする。 鬼彦『アヽア、行つて下さるなと親切に申し上げても貴下は何処までも行かむとする御気色、モウ斯うなつてはゆかん乍らゆかんともする事が出来ませぬ哩』 亀彦『エ、洒落どころかい、愚図々々吐さずと此方を縛り上げて本城へ担ぎ込まぬか』 鬼彦『ソヽヽヽそれが大変で御座います、今迄の私なれば貴下等が何程行かむと仰しやつても連れて行つて手柄に致しまするが、最早天地の因果を悟り悪を悔い改めた上は、如何して之が黙つて居られませう、人の性は善で御座います、決して悪い事は申しませぬ』 亀彦『ヤア仕方のない弱虫ばかりだナア、鬼雲彦もコンナ連中を養つて居れば並大抵の事でもあるまい、思へば思へば鬼雲彦の御心中お可憐相である哩』 斯かる処へ二本の角をニユツと生した鬘を被つた五人の男、ノソリノソリと手槍を提げ、此場に現はれ来り、 男『ヤア、鬼彦の大将、お手柄お手柄、サア之から吾々が御案内申さう、鬼雲彦の御大将様子如何にと首を長うしてお待ちかね、嘸お骨折で御座つたらう』 と言ひ乍ら駕籠の中を一々覗きこみ、 男『ヤア何だ、空籠じやないか、素盞嗚尊其他は如何なされた、首尾克う生擒つたとの御注進ではなかつたか』 鬼虎、熊鷹、石熊、鬼彦は四辺を見れば此は如何に、今迄盛にメートルを上げて居た亀彦の姿も素盞嗚尊、国武彦其他一行の影も形もなくなつて居る。 鬼彦『ヤア、此奴は不思議だ、今迄此網代籠に乗せて来た一同の神人、ではない囚人何処へ姿を隠しよつたか、合点の往かぬ事である哩』 熊鷹『サア此処は名に負ふ魔窟ケ原、目に見えない悪魔が出て来よつて吾々が知らぬ間に喰つて仕舞つたのか、但は鬼雲彦の大将の威勢に恐れて自然消滅致したか、何に付けても合点の往かぬ事である哩。ヤア五人の方々、一時も早く本城へ立ち帰り此由早く注進致すな』 五人の中の一人、目を円くし、 男『ヤア何と仰せられます、一時も早く注進致すなとは合点が承知仕らぬ』 熊鷹『俺は昨日迄の熊鷹ではない、今日は立派な三五教の信者であるぞ、之より本城へ逆襲なし鬼雲彦が素首捻切り引きちぎり八岐大蛇の身魂を片つ端より言向和し、勝鬨あげるは瞬く間だ、汝は一刻も早く此場を立ち去り吾々が寄せ手の軍勢に向つて防戦の用意オサオサ怠るな』 五人は一度にいぶかり乍ら、 五人『ソヽヽヽそれは真実で御座るか』 熊鷹『真偽は今に分るであらう、汝は早く此場を立ち去れ』 この権幕に五人は互に顔見合せて、 五人『何だ、鬼彦の大将と言ひ、熊鷹の阿兄と言ひ、其他一同の顔の紐は薩張解けて仕舞ひ、今迄の鬼面は忽ち変じて光眩き女神の様な顔色に堕落して仕舞ひよつた、ハテ困つた事だワイ、善の道へ堕落するとコンナ腰抜けに成つて仕舞ふものかなア』 五人は踵を返し一目散に彼方を指して逃げ帰る。鬼彦は衝立ち上り三五教の宣伝歌を謡ひ終り、 鬼彦『サア一同の方々、如何で御座る、何だか拍子抜けがした様には御座らぬか』 一同『左様で御座る、折角張り詰めた今迄の悪心は水の中で屁を放つた様にブルブルと泡となつて消え失せました、誰も彼もアルコールの脱けた甘酒の様になつて仕舞つた、亀彦が意見をして呉れたが之も余り拠り所が無い、甘い様な辛い様な、厳しい様な寛かな様な訳の分らぬ言葉であつた。丁度甘酒に、生姜の汁を入れて飲む様なものだ、親爺の強意見を聞き乍らソツとお金を貰ふ様な心持だつた、サアサ之から入信の記念として大江山の本城に駆け向ひ鬼雲彦の素首、オツト、ドツコイ悪神の魂を抜いて助けてやらねばなるまい』 一同拍手して賛成の意を表し、鬼彦を先頭に宣伝歌を謡ひつつ、凩荒ぶ荒野原や谷川を右に左に跳び越え進む折しも、忽然として叢の中より現はれ出でたる男女の二人[※高姫と青彦]、鬼彦一行の姿を目蒐けて冷やかに笑ひ乍ら、 男女二人(高姫、青彦)『ヤア貴方は大江山の英雄豪傑と聞えたる御方、然るに今日のお姿は如何で御座る。薩張台なしでは御座らぬか、玉の落ちたラムネの様な判然致さぬ其顔付、狐にでも欺されなさつたか、イヤ、エ、素盞嗚尊の悪神の口車に乗せられて胆をとられ腰を抜かしたのではあるまいか、何れにしても合点の往かぬ耄碌姿、耄碌魂、脆くも敵に翻弄されてノソノソと帰り来るとは言ひ甲斐なき鬼彦一同の面々、鬼雲彦の大将に於かせられても嘸々お喜び遊ばす事であらう、持つべきものは家来なりけりと団栗の様な涙を流してお喜びになるであらう、アハヽヽヽ、オホヽヽヽ』 と笑ひ転ける。鬼彦はムツト顔にて、 鬼彦『エー、何処の何奴か知らぬが吾々は吾々としての自由の権利を実行したのだ、汝等の如きものの容喙すべき処でない、愚図々々吐すと言霊の発射を致してやらうか。蠑螺の如き鉄拳、否牡丹餅で貴様の頬辺を殴つてやらうか』 男女二人(高姫、青彦)『アハヽヽヽ、オホヽヽヽ、ヤア皆の方々、此方へ御座れ、サアサ早く』 と岩をクレツと剥れば、中には階段がついて居る。 鬼彦『ヤア何時も吾々のお通り路だがコンナ処に穴があるとは今迄知らなかつた。こいつは妙だ、ヤイ鬼虎、熊鷹、石熊其他の面々一同、見学の為めに岩窟の探険と出掛ようではないか』 鬼虎は、 鬼虎『面白からう』 と先に立つて下り行く。数百人の荒男は残らず好奇心に駆られて岩窟の中にガラガラツと田螺の殻を山の上から打ちあけた様な勢で一人も残らず転げ込むだ。忽然として現はれたる鬼武彦は岩石の蓋をピタリと閉め其上に千引の岩をドスンと載せ、 鬼武彦『アハヽヽヽ、マア之で暫くは安心だワイ』 (大正一一・四・一四旧三・一八北村隆光録) |
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28 (1668) |
霊界物語 | 16_卯_丹波物語1 大江山/冠島沓島/丹波村 | 08 衣懸松 | 第八章衣懸松〔五九八〕 大江山の本城に間近くなつた童子ケ淵の傍に現はれ出でたる二人の男女、又もや地中より這ひ出でて、岩戸の入口を打眺め、 青彦『ヤア高姫さま、何時の間にか、吾等が入口を、斯くの如き千引の岩を以て塞ぎよつたと見えます。幸ひ脱け穴より斯うして出て来たものの、万一此穴がなかつたならば吾々は三五教に魂を抜かれた鬼彦一派の奴と共に、徳利詰に遭つて滅びねばならない所であつたのです。何とかして、此岩を取り除けたいものですな』 高姫『オホヽヽ、是れ全くウラナイ教の神様の御守護で御座いませう。何れ又時節到来せば、此岩は春の日に氷の解けるが如く消滅するであらう。瑞の御魂の変性女子が悪戯を致しよつたに相違なからふ。必ず心配に及びますまい』 青彦『さうだと言つて、此巨大なる岩石が、どうして解けませうか。押したつて、曳いたつて、百人や千人の力では、ビクとも致しますまい』 高姫『あのマア青彦さまの青ざめた顔ワイなあ、これ位な事に心配致す様では、神政成就は出来ますまい。あなたも聖地ヱルサレムに現はれた行成彦命と化けた以上は、モウ少し肝玉を大きうして下さいや』 青彦『ぢやと申して、此岩を取り除けなくては、再び吾等は地底の巌窟に出入する事は出来申さぬ。出る事はヤツトの事で、胸の薄皮を摺剥き乍ら出て来ましたが、這入るのは到底困難です。早速の間に合ぢやありませぬか。鬼雲彦の大勢力を以て、今にも此場に現はれ来るとあらば、吾々は如何致すで御座らう、吁、心許ない今の有様』 と悄気返る。高姫はカラカラと打笑ひ、 高姫『ホヽヽヽ、マア阿呆正直な青彦さま、顔から首まで真青にして、慄うて居るのか、夫れだから、世間からお前は青首だと言はれても仕方があるまい。チト確乎なさらぬか、鬼雲彦が何恐ろしい』 青彦『それでも鬼雲彦はバラモン教の大棟梁、彼奴が恐さに、万一の時の用意と、此処に巌窟を掘つておいたのではなかつたのですか』 高姫『一旦はさう考へたが、最早今日となつては、何事も此高姫が胸中の策略を以て、鬼雲彦も大半此方の者、あまり心配するものでない。お前もチツトは改心を致して、鬼心になつたが宜からう』 青彦『イヤ、其様な悪魔に与するならば、吾々は真つ平御免だ、今日限りお暇を頂きませう』 高姫『オホヽヽヽモウ斯うなつては、逃げようと云つたつて、金輪奈落、逃がすものか、チヤンと、湯巻の紐でお前の知らぬ間に、体も魂も縛つて置いた。逃げようと云つたつて、どうも出来まい、逃げるなら、勝手に逃げて御覧うじ、妾の掛けた細紐は、鉄の鎖よりもまだ強い、女の髪の毛一筋で大象でも繋ぐと云ふではないか。夫れさへあるに下紐を以て結び付けた以上は、ジタバタしてもあきませぬ。ホヽヽヽ』 青彦『わたしは今迄、あなたの教は、三五教以上だ、変性女子の御霊をトコトン懲しめ、部下の奴等を一人も残らず、ウラナイ教の擒に致し、善に導き助けてやらうと思つて居たのに、これや又大変な当違ひ、善か悪か、あなたの本心が聞きたい』 高姫『善に見せて悪を働く神もあれば、悪に見せて善を働く神もある。善悪邪正の分らぬ様な事で、能う今迄妾に随いて来た、………愛想が尽きた身魂ぢやなア、ホヽヽホーホ』 青彦『さうすると、ウラナイ教は、善に見せて悪を働くのか、悪に見せて善を働くのか、どちらが本当で御座る』 高姫『エー、悟りの悪い、悪と言へば何事に係はらずキチリキチリと埒の明く人間の事だ。善と云へば、他人の苦労で得を取る、畢竟御膳を据ゑさして、苦労なしに箸を取ることだ』 青彦『益々合点が往かぬ、あなたの仰せ……』 高姫『善に強ければ悪にも強い、此方は仮令善であらうと、ソンナ事に頓着はない、盗人の群に捕手が来たら、其捕手は盗人からは大悪人ぢや、コツソリと博奕を打つて居る其場へポリスが踏み込んで来た時は、博奕打から見たら、其ポリスは大悪人だ。お前と妾と暗の夜に橋の袂でヒソヒソ話をして居る所へ、三五の月が雲の戸開けて覗いた時は、其月こそ吾等の為には大の悪魔だ。これ位の事が分らいで、ウラナイ教がどうして開けるか。全然是れから数十万年未来の十七八世紀の人間の様な事を思つて居らつしやる。せめて十九世紀末か、二十世紀初頭の、善悪不可解の人間に改善しなさい。エーエー悟りの悪い。……一人の神柱を拵へるのにも骨のをれた事だ。若い時から男性女と云はれたる此高姫が、心に潜む一厘の仕組、言うてやりたいは山々なれど、まだまだお前にや明かされぬ、エーエー困つた事になつたワイ』 青彦双手を組み、暫し思案にくれて居る。 高姫『アヽ仕方がない、コンナ分らぬ神柱を相手にして居ると、肩が凝る。エー仕方がない。サアサア衣懸松の麓の妾が隠れ家に引返して、酒でも飲みて機嫌を直し、ヒソヒソ話の序に、誠の事を知らして遣らう。さうしたら、チツとはお前も改悪して胸が落着くであらう。改心と云ふ事は、神素盞嗚尊の誠の教を、嘘だ嘘だと言つて、其教子を虱殺しに喰ひ殺し、そつと舌を出して、会心の笑を漏らすと云ふ謎だよ。お前もまだ悪が足らぬ、飽くまで改心……ドツコイ……慢心するが宜い。慢心の裏は改心だ、改心の裏は慢心だ、表教の裏はウラル教、表と裏と一つになつて、天地の経綸が行はれるのだよ』 青彦『エー益々訳が分らなくなつた。さうすると貴女は迷信教を開くのだな』 高姫『さうだ、迷信とは米の字に、辵をかけたのだ。米の字は大八洲の形だよ、大八洲彦の命の砦に侵入して、信者をボツタクるから、所謂迷信教だ。オホヽヽヽ、迷うたと云ふ言葉は、悪魔の魔を呼ぶと云ふ事だ。それに三五教の奴は馬鹿だから、迷うたと云ふのは、誠のマに酔ふのだなどと、訳の分らぬ事を言つてゐよる、嗚呼迷信なる哉、迷信なるかなだ』 青彦『ますます迷宮に入つて来た』 高姫『定まつた事だ。米の字に因縁のある所に建てたお宮に立てこもつた吾々は、迷宮に居るのは当然だ。三五教の素盞嗚尊は、よつぽど、馬鹿正直な奴だ、世界の為に千座の置戸を負ひよつて、善を尽し、美を尽し、世界から悪魔だ、外道だと言はれて、十字架を負ふのは自分の天職だと甘ンじて居る、コンナ馬鹿が世界に又と一人あるものか、世界の中で馬鹿の鑑と云へば、調子に乗つて木登りする奴と、自ら千座の置戸を負ふ奴と、広い街道を人の軒下を歩いて、看板で頭を打つて瘤を拵へて吠える奴位が大関だ。……鬼雲彦も余つ程馬鹿だ。初から悪を標榜して悪を働かうと思つたつて、ナニそれが成功するものか、智慧の無い奴のする事は、大抵皆頓珍漢ばつかりだよ。善悪不二、正邪同根と云ふ真理を知らぬ馬鹿者の世の中だ。青彦、お前も大分素盞嗚尊に被れたな、世の中は何事も裏表のあるものだよ、ゴンベレル丈権兵衛り、ボロレル丈ボロつて、其後は、白蓮るのが賢い行方だ。お前も余つ程能い青瓢箪だなア』 と、ビシヤリと額を叩く。 青彦『ヤアどうも意味深長なる御説明恐れ入つて御座います。モウ斯うなる上は、どうならうとも、あなたにお任せ致しますワ』 高姫『アヽさうぢやさうぢや、さうなくては信仰は出来ない。信仰は恋慕の心と同じ事だ、男女間の恋愛を極度に拡大し、宇宙大に拡めたのが信仰だ。恋に上下美醜善悪の隔ては無い、宜いか、分かりましたか』 青彦『ハイ、根つから……能く分りました』 高姫『エー怪体な、歯切れのせぬ、古綿を噛む様な、歯脱けが蛸でもシヤブル様な返辞だなア、オホヽヽヽ、何は兎もあれ、衣懸松の隠れ家へ行きませう』 と先に立つてスタスタとコンパスの廻転を初める。青彦は不性不性に随いて行く。 最前現はれた鬼雲彦の使の魔神、五人の男は先に立ち、数多の魔軍を引連れて、此方を指して進み来る。忽ち聞ゆる叫び声、右か左か後か前か、何方ならむと窺へど、姿は見えず声ばかり、足の下より響き来る。鬼雲彦は栗毛の馬にチリンチリンのチヨコチヨコ走り、馬を止めて大音声、 鬼雲彦『ヤアヤア者共、此岩石を取除け。…此地底には宏大なる岩窟がある、ウラナイ教の宣伝使高姫、青彦の二人、数多の人々と共に隠れ忍ぶと見えたり。早く此岩石を取除けよ』 と呶鳴り立つれば、数多の魔神は此巨岩に向つて、牡丹餅に蟻が集つた様に、四方八方より武者振り付く。然れども幾千万貫とも知れぬ、小山の如き岩石に対して、如何ともする事が出来ざりけり。鬼雲彦は気を焦ち、自ら駒を飛び下りて、人の頭髪を以て綯へる太き毛綱を持出し来り、巌に引つかけ、一度に声を揃へて、エーヤエーヤと曳きつける。曳けども、引けども、動かばこそ、蟻の飛脚が通る程も、岩は腰を上げぬ。中より聞ゆる数多の人声刻々に迫り来る。斯かる所へ天地も揺るぐ許りの大声を張上げ乍ら、宣伝歌を歌ひ、十曜の手旗を打振り打振り進み来る一男二女の宣伝使ありき。 亀彦『ヤアヤア鬼雲彦の一派の奴輩、最早汝が運の尽き、吾れこそは三五教の宣伝使、万代祝ふ亀彦、暗夜を照らす英子姫、悦子姫の三人なるぞ。一言天地を震動し、一声風雨雷霆を叱咤するてふ三五教独特の清き言霊を食つて見よ』 と云ふより早く、天の数歌を謡ひ上げつつ、三人一度に右手を差出し食指の先より五色の霊光を発射して、一同にサーチライトの如く射照せば、流石の鬼雲彦も馬を乗り棄て、転けつ、輾びつ一生懸命、大江山の本城指して雲を霞と逃げて行く。 亀彦『アハヽヽヽ』 二女『ホヽヽヽヽ』 亀彦『ヤア面白い面白い、彼れが鬼雲彦の大将、我言霊に畏縮して逃散つたる時の可笑しさ、イヤもう話にも杭にも掛つたもので御座らぬ。是れと申すも全く、神素盞嗚大神の尊き御守り、国武彦の御守護の力の致す所、先づ先づ此処で一服仕り、天津祝詞を奏上し、神界に対し御礼を奏上し、ボツボツと参りませう。今日は九月九日菊の紋日、是が非でも、今日の内に悪神を言向け和さねばなりますまい。六日の菖蒲十日の菊となつては、最早手遅れ、後の祭り、ゆるゆると急ぎませう』 茲に三人は巨岩の傍に端坐し、天津祝詞を奏上したりしが、祝詞の声は九天に響き、百千の天人天女下り来つて、音楽を奏づるかと疑はるる許りなり。祝詞の声は山又山、谷と谷との木霊に響き、悪魔の影は刻々と煙となつて消ゆるが如き思に充たされける。 亀彦『サアサア御二方、ゆつくりと休息を致しませう』 英子姫『大変に足も疲労を感じました。休息も宜しからう』 悦子姫『ゆつくり英気を養つて、又もや華々しく言霊戦を開始しませう』 茲に三人は手足を延ばし、芝生の上に遠慮会釈もなく、ゴロリと横たはりぬ。後の方より震ひを帯びた疳声を張上げ乍ら、 男女二人(高姫、青彦)『オーイオーイ』 と呼ばはりつつ、此方を指してスタスタと息をはづませ遣つて来るのは男女の二人、 亀彦『ヤア何だか気分の悪い、亡国的悲調を帯びた声がする。あの言霊より観察すれば、どうで碌な神ではあるまい。ウラル教的声調を帯びて居る。……モシ英子姫様、一寸起きて御覧なさいませ』 英子姫はムツクと立上がり、後を振返り眺むれば、顔を真白に塗り立て、天上眉毛の角隠し、焦茶色の着物を着流した男女の二人、忽ち此場に現はれて、 女『これはこれは旅の御方様、斯様な所で御休息なされては、嘸やお背が痛う御座いませう、少し道寄りになりますが、妾の宅へお越し下さいますれば、渋茶なりと差上げませう。あの衣懸松の麓に出張致す者、どうぞ御遠慮なくお出で下さいませ。あなたのお姿を眺むれば、どうやら三五教の宣伝使とお見受け申す。妾等も三五教には切つても切れぬ、浅からぬ因縁を持つて居る、実地誠の事は、常世姫の霊の憑つた此肉体、日の出神の生宮にお聞きなさらねば、後で後悔して、地団駄踏みても戻らぬ事が出来まする。あなたは三五教の教をお開きなさるのは、天下国家の為、誠に結構で御座いまするが、併し乍ら三五教の教は国武彦命が表であつて、素盞嗚尊は緯役、邪さの道ばつかり教へる。天の岩戸を閉める、悪の鑑で御座いまする。根本のトコトンの一厘の仕組は、此高姫が扇の要を握つて居りますれば、マアマア一寸立寄つて下さい。本当の因縁聞かして上げませう。他人の苦労で徳を取らうと致す素盞嗚尊の教は駄目ですよ。三五教の教は国武彦の神がお開き遊ばしたのだ。本当の事は系統に聞かねば分りませぬ。サアサア永い暇は取りませぬ。どうぞお出で下さりませ』 亀彦『私はお察しの通り三五教の宣伝使、併し乍ら、あなたとは反対で、国武彦の教は嫌です、緯役の素盞嗚尊の教が飯より好、お生憎様乍ら、どうしても、あなたと私は意向が合はぬ。真つ平御免蒙りませう、ナア英子姫さま、悦子姫さま』 英子姫『ホヽヽヽ、亀彦さま、物は試しだ、一服がてらに聞いてやつたらどうでせう』 高姫眉を逆立て、口をへの字に結び、グツと睨み、暫くあつて歯の脱けた大口を開き、 高姫『サア夫れだから、瑞の御霊の教は不可ぬと云ふのだよ。女の分際として、今の言葉遣ひは何の態、……ホンニホンニ立派な三五教ぢや、ホヽヽヽ。コレコレ青彦さま、お前もチツト言はぬかいな、唖か人形の様に、知らぬ顔の半兵衛では、三五教崩壊の大望は…………ドツコイ………三五教改良の大望は成就致しませぬぞや』 青彦『何れの方かは存じませぬが、吾々も元は素盞嗚尊の教を信じ、三五教に迷うて居ました。併し乍らどうしても変性女子の言行が腑に落ちぬので、五里霧中に彷徨ふ折から、変性男子のお肉体より現はれ給うた日の出神の生宮、誠生粋の日本魂の高姫さまのお話を聞いて、スツクリと改心致しました。あなたも今は変性女子に一生懸命と見えますが、マア一寸聞いて見なさい、如何な金太郎のあなたでも、訳を聞いたら変性女子に愛想が尽きて、嘔吐でも吐き掛けたい様になりますぜ。物は試しだ、一つ行きなさつたら如何ですか』 亀彦『ソンナラ一つ聴いてやらうか』 高姫『聴いて要りませぬ、誠の道を教へて、助けて上げようと、親切に言つて居るのに、聴いてやらうとは、何たる暴言ぞや。どうぞお聴かせ下され………と何故手を合はしてお頼みなさらぬか』 亀彦『アハヽヽヽ、お前の方から聴いて呉れいと頼みたぢやないか、夫れだから、研究の為に聴いてやらうと言つたのが、何が誤りだ。エーもう煩雑くなつた。ご免蒙らうかい』 高姫『妾が是れと見込みた以上は、どうしても、斯うしても、ウラナイ教を、腹を破つてでも、叩き込まねば承知がならぬ、厭でも、応でも、改心させる。早く我を折りなされ、素直にするのが、各自のお得だ。あいた口が塞まらぬ、キリキリ舞を致さなならぬ様な事が出て来ては可哀相だから、……サアサア早う、日の出神の生宮の申す事を、耳を浚へて聴いたが能からう』 亀彦『アハヽヽヽ』 英子姫『オホヽヽヽ』 悦子姫『ホヽヽヽヽ』 高姫『何ぢや、お前さま等は、此日の出神の生宮を馬鹿にするのかい』 亀彦『イエイエ、どうしてどうして、あまり勿体なくて、見当が取れなくなつて、面白笑ひに笑ひました。笑ふ門には福来る。副守護神か、伏魔か知らぬが、米々と能く囀つて人の虚に侵入せむとする、天晴の手腕、天の星をガラツ様な御説教、旅の憂さを散ずる為聴かして貰ひませう』 高姫『サアサア神政成就、日本魂の根本の一厘の仕組を聴かして上げよう………エヘン……オホン……』 と女に似合はぬ、肩を怒らし、拳を握り、大手を振り、外輪に歩いて、ヅシンヅシンと、衣懸松の麓を指して跨げて行く。三人は微笑を泛べ乍ら、青彦を後に従へ伴いて行く。 衣懸松の麓に近寄見れば、些やかなる草屋根の破風口より黒烟、猛炎々々と立ち昇る。高姫は此態を見てビツクリ仰天、 高姫『ヤア火事だ火事だ、サアサア皆さま、火を消して下さい』 亀彦『煙は猛炎々々と立上れ共、家はヤツパリ燃えると見える。お前さまの腹の中も此通り紅蓮の舌を吐いて燃えて居るであらう、霊肉一致、本当に眼から火の出神の生宮だ、アハヽヽヽ』 高姫『ソンナ事は後で聞いたら宜しい。危急存亡の場合、早く助けて下さい、水を掛けなされ』 亀彦『ヤア大分最前から問答もして来た。水掛論は良い加減に止めて貰はうかい、舌端火を吐いた報いに、家まで火を吐いた。人を烟に巻いた天罰で、家まで烟に巻かれよつた。天罰と云ふものは恐ろしいものだ。マアゆつくり高姫さまの活動振を見せて貰ひませう。雪隠小屋の様な家が焼けた所で、別に騒ぐ必要もなからう。人の飛出した空の家が焼けるのだ。高姫さまは雪隠の火事で糞やけになつて居らうが、此方は高見の見物で、対岸の火災視するとは此事だ。一切の執着心を取る為には、火の洗礼が一番だ、是れで火の出神の神徳が完全に発揮されたのだ。ナア高姫さま、あなたの……此れで御守護神が証明されると云ふものだ。お喜びなさい』 高姫『エー喧しいワイ、何どこの騒ぎぢやない、グヅグヅして居ると、皆焼けて仕舞わア、中へ這入つて、燗徳利なと引つ張り出して呉れい。コレコレ青彦、何して居る、火事と云ふのは家が焼けるのだ、水が流れるのは川だ、目は鼻の上に在る』 と狼狽へ騒いで半気違になり、摺鉢抱へて右往左往に狂ひ廻る可笑しさ。瞬く間に火は棟を貫き、バサリと焼け落ちた。高姫、青彦は着衣の袖を猛火に嘗められ、頭髪をチリチリと燻べ乍ら、一生懸命に走りゆく。火は風に煽られて益々燃え拡がる。警鐘乱打の声、速大鼓の音頻りに聞え来る、二人は進退谷まり、丸木橋の上より青淵目蒐けて、井戸に西瓜を投げた様に、ドブンと落込みしが、此音に驚いて目を覚せば、宮垣内の賤の伏屋に、王仁の身は横たはり居たり。堅法華のお睦婆アが、豆太鼓を叩き鐘を鳴らして、法華経のお題目を唱へる音かしまし。 (大正一一・四・一四旧三・一八松村真澄録) |
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29 (1669) |
霊界物語 | 16_卯_丹波物語1 大江山/冠島沓島/丹波村 | 09 法螺の貝 | 第九章法螺の貝〔五九九〕 三五教の宣伝使万代祝ふ亀彦が 言霊の息にあふられて雲を霞と逃げ散りし 鬼雲彦は命辛々本城へ韋駄天走りに駆け戻り 赤白青の鬼共を一間に集めて鬼彦や 鬼虎、石熊、熊鷹が行方を探す大評定 バラモン教の祭壇を半祭つた其儘に 厭な便りを菊月の苦しみ藻掻く九月九日 何を夕のすべもなく半円の月は御空に輝けど 心の空は掻き曇る鬼に責められ村雲に 包まれきつた鬼雲が心の中ぞ哀れなる。 鬼雲彦は奥の一間を開放し、上段に胡坐をかき、象牙のやうな角をニユウと立て、鰐口を開いて一同に向ひ、 鬼雲彦『今日は実に目出度き菊見の宴、バラモン教が祭典日に犠牲を奉らむと、神饌の蒐集に遣はしたる鬼彦以下は何処へ姿を隠せしぞ。今に及びて帰り来らざるは何か非常事の出来せしならむ。斯くなる上は油断は大敵なるぞ、一々武装を整へ如何なる敵の来るとも怯めず屈せず克く戦ひ克く防ぎ、敵を千里に追ひ散らし、バラモン教が神力を天下に現はせよ』 と下知したるに、満座の中より現はれ出でたる一寸坊子、福助のやうな不恰好な頭をぐらつかせながら、危なき足許ひよろひよろと鬼雲彦が前に現はれ来り、 一寸坊子『申上げます、鬼彦其他の勇将は心機一転して三五教に寝返りを打ち、綾の高天に馳上り、日ならず大軍を率ゐて当山を十重二十重に取り巻き、鬼雲彦の大将を初め一人も残さず木端微塵に攻めつけ、大江山を三五教の牙城とせむとの敵の計略、一日も早くこの場を立ち去るか、但しは味方の全軍を率ゐて聖地に向つて進軍するか、時遅れては一大事、先ンずれば人を制す、一刻も早く進退を定めさせられよ』 と述べ立つるにぞ、鬼雲彦は両手を組み青息吐息の連続的発射に余念なかりき。時しもあれや、表門にガヤガヤとさざめく人声、鬼雲彦は自ら立つて表門に立ち現はれ、屹と目をすゑ眺むれば、こは抑如何に、鬼彦、鬼虎、熊鷹、石熊の四天王は数多の従卒に網代の駕籠を舁つがせながら意気揚々と帰り来る。鬼雲彦はハツと胸を撫で下ろし、 鬼雲彦『ヤア天晴れ天晴れ、汝は鬼彦、鬼虎、熊鷹、石熊、よくも無事で帰りしぞ。獲物は何うぢや』 鬼彦は肩を怒らし、鼻を蠢かしながら、 鬼彦『鬼雲彦の御大将に申上げる、抑々吾等従卒を引率し、由良の港の秋山彦が館に立ち向ひ、さしもに固き大門も右手を延ばしてウンと一声向うへ押せばガラガラガラ、力余つて鬼彦は押した途端に門の中へ四五間ばかりドツと飛び込みし時の危さ否面白さ、続いて入り来る数多の従卒、四方八方に手分を致して玄関、納戸、水門、物置、柴部屋より鬨を作つて乱れ入る、さしもに豪傑無双の素盞嗚尊も国武彦其他従ふ奴輩も肝を潰して右往左往に逃げ惑うと見えしが忽ち勢力を盛返し、千引の岩を手玉に取つて大地も割れむ許りドスン、ドスンと岩石の雨、忽ち秋山彦の門前は直径一里もあらむと云ふ岩の山を築いたり、されども少しも怯まぬ味方の勇士鬼彦は真先に立ち、さしもに固き岩山を片足揚げてポンと蹴ればガラガラガラ、又もや左の足を揚げてポンと蹴つた途端に秋山彦の館は中天にクルクルと舞ひ上る。吾は之にも飽き足らず、数万貫の大岩石を手毬の如くヒン握り、海原目蒐けて雨や霰と投げつくれば、さしもに深き千尋の海も、ドボンドボンと音立てて水量まさり、遂には大なる一つ島が現はれたり。ヤア開闢以来斯る勇士が天にも地にもあるものか、斯く迄強き豪傑が、何として鬼雲彦如き大将に盲従するや、吾と吾身を顧みればいやもう馬鹿らしくなりにけり。さはさりながら今日はバラモン教の祭典日、如何に豪傑なればとて神様には叶はぬ、一度礼を申上げむと唯今立ち帰りし処で御座る』 熊鷹は又もや大手を振り大地に四股踏み鳴らしながら、 熊鷹『某は鬼彦の絶対無限の神力に驚きもせず、神素盞嗚尊と渡り合ひ、千引の岩をもつて互に挑み戦へば、尊は吾の猛威に辟易し、二三歩よろめきわたる隙を窺ひ、飛鳥の如くつけ入つて有無を云はさず鉄より固き両腕を後に廻し踏縛り、網代の駕籠に押し込みて番卒に固く守護させ置き、強力無双の国武彦の所在は何処と尋ねる中、現はれ出でたる大の男、之こそ確に国武彦、熊鷹が力を見せて呉れむと云ふより早く拳固を固めて、縦横無尽に打ち振り打ち振り、国武彦の横面目蒐けてポカンと一つ擲るや否や、首は中天に舞ひ上り、日本海の彼方にザンブと許り音を立てて水煙、姿も水となりにけり』 鬼虎は又もや四股踏み鳴らし、 鬼虎『某は秋山彦の館に向ひ、様子如何にと眺むれば、四天王の一人鬼彦並に熊鷹の両人は神素盞嗚の大神や、国武彦を向うに廻し、獅子奮迅の勢凄じく、丁々発止と秘術を尽す上段下段、下を払へば中天に飛び上り、上を払へば根底の国に身を潜め、天地四方を自由自在に飛び廻る、電光石火の大活動目覚しかりける次第なり。吾も四天王の其一人、目に物見せむと云ふより早く、臀部を捲つてポンと一発発射すれば雲煙濛々として四辺を包み、黒白も分らぬ真の闇、自縄自縛、これや耐らぬと臍の下より息を固めフツと許り吹き放てば、こは抑如何に、今迄此処に華々しく戦ひたる敵も味方も影もなく、大江山の此方を指して駕籠も人数も何も彼も宙を駆けつて散つて行く、あゝ有難や有難や、バラモン教の神力は斯迄尊きものなるか、此勢をばいかして大江山の本城に立ち帰り、鬼雲彦の大将に尻を捲つて屁を放れば、館諸共中天に舞ひ上り真逆様に和田の原、忽ち船と早変り、転宅などの面倒は要らぬ、サアサア一つ捲つて見ようか、鬼雲彦の御大将』 と肩を怒らし雄猛びをする。四天王の一人と聞えたる石熊は、又もや腕を振り胸をドンドンと打ちながら、 石熊『某は当城より御大将の命令を受け、数多の木端武者を引き連れ、秋山彦の館に至つて見れば、今三人が申上げたる通りの乱痴気騒ぎの真最中、人の手柄の後追ふも面白くなしと股を拡げて朝鮮国へ一足飛に飛び行けば、神素盞嗚の大神の隠れ場所なる慶尚道の壇山に某が片足を踏み込み館も何も滅茶苦茶、留守居の神はこれに恐れて雲を霞と逃げ散れば、一歩跨げてウブスナ山脈の斎苑の宮居を足にかけ、コーカス山も蹂躙り、背伸びをすれば、コツンと当つた額の痛さ、よくよく見れば天に輝く大太陽、これ調法と懐中に無理に捻込み帰つて見れば、夢か現か幻か、合点の行かぬ此場の光景、木端武者等が寄合つて吾等が行方を詮議の最中、面白かりける次第なりけり、アハヽヽヽ』 と法螺を吹いて、一同を煙に捲きけり。鬼雲彦は四人の顔を熟々眺め、 鬼雲彦『ヤアヤア、汝等四人狂気せしや、空々漠々として雲を掴むが如き注進振り、何は兎もあれ網代駕籠を此場に引き据ゑよ、吾一々敵の首を実見せむ』 鬼彦『いや、決して決して空々漠々ではありませぬ、何れも副守護神の御詫宣、肝腎要の御本尊は既に三五教に帰順致して御座る』 鬼雲彦『ナニ、三五教に帰順致したとな、それや何故ぞ』 鬼彦『これはこれは失言で御座いました。にとがとの言ひ過り、三五教に帰順したのではない、三五教が帰順したので御座る。アハヽヽヽ』 鬼雲彦は得意満面に溢れ、網代駕籠の戸を荒々しく引き開け眺むれば、こは抑如何に、最愛の妻の鬼雲姫は五体ズタズタに斬り放たれ血に塗れ、真裸の儘縡ぎれ居る。又もや四つの駕籠より現はれ出でたる血塗ろの男女、見れば最愛の吾伜及び娘なり。息子娘は数十箇所の傷を身に負ひながら、虫の泣くやうな声を絞り、 息子、娘『父上様残念で御座います』 と一言残しその場にバタリと倒れ全身冷えわたり、氷の如くなりにける。月は皎々と輝き初め四辺は昼の如くに明るく、寝惚け烏は中天に飛び狂ひ阿呆々々と鳴き立つる。アヽ此結果は如何に。 (大正一一・四・一四旧三・一八加藤明子録) |
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霊界物語 | 16_卯_丹波物語1 大江山/冠島沓島/丹波村 | 10 白狐の出現 | 第一〇章白狐の出現〔六〇〇〕 八洲の国を駆け巡りこの世を曇らす自在天 自由自在の活動を続けて茲に婆羅門の 大棟梁と仰がれし鬼雲彦の猛将も、 最愛の妻の非業の最後に又もや続いて子女の浅ましき此姿を見て胸も張り裂く許り、魂消え、魄亡びる如き心地し乍らドツカと其場に打倒れ無念の涙にくれ居たり。鬼彦は肩を揺り乍ら大口開けて高笑ひ、 鬼彦(正体は鬼武彦)『アハヽヽヽ、吾こそは鬼彦とは詐り誠は大江山に現はれし白狐の鬼武彦、汝悪神の計略を根底より覆へさむと千変万化の活動を続け、神素盞嗚の大神の大命を奉じ、汝が一類を征服に向うたり、汝が力と恃む鬼彦は魔窟ケ原の岩窟に匿ひあれば汝が神力を以て索め出せよ、さり乍ら彼は最早汝の意志に従ふ者に非ず、立派なる三五教の信者となりて居るぞ、汝が妻と見えしは汝が眼の誤り、吾眷族の名もなき白狐の変化』 と言葉終らずに鬼雲姫は忽ち巨大なる白狐となつてノソリノソリと這ひ始め、鬼雲彦に向つて眼を光らせ牙を剥き飛びかからむとする勢を示し居る。鬼虎は又もや威丈け高に胸を打ち乍ら大口開けて高笑ひ、 鬼虎(正体は旭)『アハヽヽヽ、吾こそは大江山に現はれて四方の魔神を征服し言向け和す神の使、旭の白狐が化身なるぞ、汝が力と恃む四天王の随一と聞えたる鬼虎は前非を悔い今は三五教の信者となれり、魔窟ケ原の岩窟に匿ひあれば未練あらば汝自由に岩戸を開いて面会せよ、汝が伜と見えたるは、之も白狐の化身なり、汝が妻子は手段を以て、或処に匿まひあれば改心次第にて親子夫婦の対面を許し呉れむ』 と言葉終らぬに又もや一つの網代籠よりノソノソ這ひ出た巨大の白狐、以前の如く鬼雲彦が身辺に目を睜らし牙を剥きつつ進み寄る。熊鷹は又もや立ち上り、 熊鷹(正体は高倉)『吾こそは神素盞嗚の大神の立てさせ給ふ三五の教に仕ふる白狐の高倉、熊鷹と見えしは此方が化身』 と言葉終らぬに又もや這ひ出た巨大の白狐、同じく鬼雲彦に向つて襲ひ行く。石熊は又もや立ち上り、 石熊(正体は月日明神)『吾こそは月日明神と名を頂きし常夜の国の大江山に現はれたる白狐なるぞ、汝は今より前非を悔い婆羅門教を振り棄てて三五の神の教に信従するか、違背に及ばば大江の山は木端微塵に踏み砕き、草の片葉に至る迄焼き亡ぼさむ、返答如何に』 と詰めかける。又もや一つの駕籠よりは巨大の白狐現はれて鬼雲彦を前後左右より取り巻きコンコンと啼き立て乍ら改心を迫る。鬼雲彦は忽ち精神錯乱して大刀を引き抜き前後左右に荒れ狂ひ、館を後に木の茂みを指して姿を隠したり。数多の従卒共は鬼雲彦が後を追ひ、山を越え谷を渉り鬼ケ城山の方面さして力限りに遁走したりける。 鬼ケ城山の方面より亀彦を先登に英子姫、悦子姫は宣伝歌を謡ひ乍ら此方に向つて前進し来る。流石の鬼雲彦も前後に敵を受け死物狂の勇気を現はし、長刀を引き抜いて亀彦目蒐けて斬つて掛るを、心得たりと亀彦は右に左に身を躱し飛鳥の如く挑み戦へば鬼雲彦は踵を返し、もと来し道を一目散に帰り行く。数多の従卒は吾後れじと三十六計の奥の手を出して散り散りバラバラ、足に任せて逃げて行く。何時の間にやら鬼雲彦は又もや本城の門前に帰り来たりぬ。門内には鬼雲姫が叫び声、 鬼雲姫『鬼雲彦の夫はあらざるか、虎彦、亀彦、山姫、河姫は何所ぞ』 と身を藻掻き声を限りに叫び居る。鬼雲彦は息も絶え絶え門戸を敲き、 鬼雲彦『ヤアさう言ふ声は女房なるか、俺は無事に此処まで帰つて来たぞよ。鬼武彦は如何なつた、白狐の奴等は何処へ行つた、返答せよ』 と呶鳴り立てる。鬼雲姫は門内より、 鬼雲姫『アヽ恋しき吾夫、能くも無事に帰らせ給ひしぞ』 と中より門を颯と押し開き鬼雲彦が手を執つて奥へ奥へと進み行く。余りの嬉しさに足許見えず鬼雲姫は夫の手を携へたる儘、かねて穿ち置いたる城内の井戸に夫婦共々にドスンと許り陥みぬ。大江山の本城は敵も味方も影を隠し幽かに鼠の泣き声のみ聞え居る。門前には大江山の山颪、岩も飛べよと許り吹き荒みゐる。月は早西に没し黒雲四辺を包み咫尺を弁ぜず、暗黒の帳は下されたり。鬼雲彦夫婦は千仭の井戸の底に数多の蝮と諸共に世間知らずの楽隠居、否蝮地獄の苦き生活哀れなりける次第なり。 かかる処へ後追ひ来たる亀彦はツカツカと門内に進み入り城内隈なく探せども人影さへも見えざれば如何せしやと三人は四辺に心を配りつつ窺ふ折しも井戸の底より怪しき叫び声、はて訝かしやと手燭を点して覗へば紛ふ方なき鬼雲彦が夫婦の者、九死一生の此苦みを見るに見かね館の井桁に太縄を打ち掛けツルツルと井中に釣り下せば、鬼雲彦夫婦は無我夢中になつて手早く此綱に跳び付くや否や綱はツルツルと何物にか引き上げられて再び旧の処へ帰り行きぬ。暗を通して聞ゆる三五教の宣伝歌、鬼雲彦夫婦は叶はぬ時の神頼み、婆羅門教の神歌を唱へ声を限りに哀願する。一方鬼武彦は先に据ゑ置きたる千引の岩を取り除き岩蓋をサツと開けば待ちかねたる如く現はれ来る鬼彦、鬼虎、熊鷹、石熊其他数多の帰順せし人々は、枯木に花の咲きしが如く喜び勇み、大江山の本城目蒐けて帰り来たりぬ。 東の空はホンノリと白み初め、明けの鵲がカアカアと啼き初めたり。漸く山上の鬼雲彦が門前に立ち帰れば亀彦、英子姫、悦子姫の三人に取り巻かれ、鬼雲彦夫婦は何事か説諭を受けつつありぬ。鬼彦初め一同は亀彦一行に一礼し天津祝詞を奏上し三五教の宣伝歌を声を揃へて宣りつれば、鬼雲彦夫婦は居たたまらず館を捨てて一目散に雲を霞と駆け出し伊吹山の方面を目蒐けて天の岩船に手早く打乗り夫婦諸共中空を翔り行く。 亀彦、英子姫、悦子姫は、鬼武彦の神を言霊を以てさし招けば忽ち昼の天を掠め白煙となりて南方より現はれ来り忽ち三人の前に英姿を現はしたり。 亀彦『ヤア鬼武彦殿、貴下の活動天晴れ天晴れ、吾は之より聖地に向つて再び進まむ。貴下は此処に留まり給ひて、旭、高倉、月日の諸使と共に悪魔征服の守護をなし給へ』 鬼武彦『委細承知仕る、当山は天下の邪神集まり来る霊界の四辻なれば国武彦の大神、以前の如く国治立の大神と現はれ給ひ、神素盞嗚大神、瑞の御霊と現はれて、神政成就の暁まで代る代る当山を守護し奉らむ、吾々此処にあらむ限りは豊葦原の中津国なる自転倒島は先づ先づ安心なされ度し、貴下は素盞嗚の大神様の御後に従ひ天下に蟠る八岐の大蛇を言向けて神政復古の神業に奉仕されよ、万一御身の上に危急の事あらば土地の遠近を問はず、鬼武彦、旭、高倉、月日の名を呼ばせ給へば、時刻を移さず出張応援仕らむ』 亀彦、英子姫、悦子姫は一度に満足の意を表し鬼武彦の千変万化の神業を激賞し此処に目出度く袂を分ち東を指して進み行く。 (大正一一・四・一四旧三・一八北村隆光録) |
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霊界物語 | 16_卯_丹波物語1 大江山/冠島沓島/丹波村 | 13 神集の玉 | 第一三章神集の玉〔六〇三〕 秋山館の門番なる銀公、加米公両人は由良の港に立出て船出の用意致さむと表門へ駆け出す。折から現はれし一男二女の宣伝使、宣伝歌を謳ひ乍ら悠々として門内に入らむとする。銀公、加米公は大手を拡げて、 銀公、加米公『其方は亀彦の宣伝使、鍵盗人の同類であらう。もうもうもう宣伝使のせの字を聞いても嫌になる哩、最前来やがつた二人の宣伝使奴が、大切なる鍵をちよろまかして裏門より逃失せやがつた。それが為めに当館の中は上を下への大騒動だ、貴様ももう駄目だ、肝腎要の鍵は先の宣伝使が持つて帰つた、神秘の鍵を盗まれ当館は空前絶後の大混雑、之から沢山な番犬でもかり集めてかぎ探させる処だ、貴様も宜い加減に帰れ』 亀彦『之は心得ぬ其方の言葉、吾々に対し盗人扱ひをなさるのか』 加米公『極つた事だよ、宣伝使と言へば鍵盗人の代名詞だ、通る事罷りならぬ、貴様の様な者を奥へふみ込まさうものなら、それこそ大変だ』 亀彦『一応合点の往かぬ汝が言葉、二人の宣伝使とはウラナイ教の宣伝使であらう、吾々は三五教の宣伝使だ、神秘の鍵を与へる者だ』 銀公『何、神秘の鍵を与へるとな、サア早く其鍵を見せて呉れ、鍵を渡せば通行を許して与らう、宣伝使と言へば何奴も此奴も皆鍵盗人の様な気がする、貴様は何処で神秘の鍵とやらを盗みて来たのだ、サアサ早く手に渡せ』 亀彦『アハヽヽヽ、訳の分からぬ門番だな、サアサ英子姫さま悦子姫さま参りませう』 と行かむとする。銀公、加米公は大声をあげて呶鳴り立てる。此声を聞きつけたる秋山彦は何事ならむと表に飛び出し到り見れば亀彦の宣伝使一行なりけり。 秋山彦『ア、之は之は亀彦様、英子姫様、悦子姫様克く入らせられました。少し許り取込が出来ましたので大騒ぎを致して居ります、素盞嗚大神様よりお預り申した大切なる玉鍵を何者かに盗まれ、唯今僕共を四方に遣はし探索の最中で御座います』 亀彦『ア、それで分りました、門番共が私に対し鍵盗人だとか何だとか大変な事を言つて居ました、然しそれは大事ですな、何か心当りは御座いますまいか』 秋山彦『先程ウラナイ教の高姫、青彦と言ふ二人の宣伝使が玄関まで来訪致し、其儘姿を隠しました。あとを見れば玄関の間の額の裏に匿ひ置きたる大切な玉鍵が紛失致して居ります、人を疑ふは決して良い事ではありませぬが、よもやと思ひ心の裡に罪を作つて居ります』 亀彦『ヤア、それは御心配、お察し申す、吾々も共々に力添を致しまして、鍵の所在を捜索致しませう』 秋山彦『あの鍵は冠島、沓島の宝の鍵で御座いますれば、万々一其鍵を以て両島に押し渡り、如意宝珠の玉を盗み取る様な事が御座いましては、折角の神政成就の基礎も滅茶々々になつて仕舞ひまする、生命に代へても此鍵と玉とは守らねばなりませぬ』 亀彦『アヽ、さうぢや、斯ういふ時こそ鬼武彦殿にお頼み申さねばなるまい』 と大江山の方に向つて天津祝詞を奏上し救援を求めたるに、言下に、 『オウ』 と答へて現はれ来る覆面の大男、能く能く見れば鬼武彦なりける。 亀彦『ヤア貴下は鬼武彦様、能うこそ御入来下さいました、お願ひの筋は斯く斯く』 と鍵の紛失せし事を詳細に物語れば、鬼武彦は暫時頭を傾け目を閉ぢ居たりしが忽ち顔色華に、 鬼武彦『アハヽヽヽ、此鍵の掠奪者はウラナイ教の宣伝使高姫、青彦と言ふ奴、只今由良の港より船に乗り博奕ケ岬迄漕ぎ出して居りまする、サア吾々がお伴致しませう、船を出しなさいませ、秋山彦殿、御心配御無用だ』 秋山彦『有難う御座います、何卒何卒宜しく御願申します』 鬼武彦『某は之より亀彦と共に船を準備へ冠島、沓島に向ひませう、秋山彦を始め英子姫、悦子姫は当館にあつて吾々が帰るを待ち受けられよ、亀彦来れ』 と言ふより早く、加米公その他秋山彦の家の子郎党十数人を引率し三艘の小船を艤装して由良の港の月照る海原を艪櫂の音勇ましく漕ぎ出したり。三五の月は海底深く姿を浮かべ、船の動揺につれて忽ち上下左右に延長し海底に銀竜の姿を現じつつ、うつ波の博奕ケ岬を後に見て潮の飛沫をカブラ岩、経ケ岬を左手に眺め高雲山を右手に望み矢を射る如く高姫の後を追ひしき行きぬ。 高姫は二時ばかり以前に冠島に上陸し玉鍵を以て素盞嗚尊が秘め置かれたる如意宝珠を取り出し、山上の大桑樹の根元に密に埋め目標をなし、又もや青彦と共に船に乗り沓島に向ひける。 巨大なる鰐は数限りなく沓島の周辺を取り囲み堅く守り居る、鰐の群に圧せられて、船は最早や一尺も進む事能はず、高姫は船の綱を腰に結び付け鰐の背を渡つて青彦諸共漸く断崖に登り着きぬ。此間殆ど二時許りを要したりける。鬼武彦、亀彦の一行は忽ち此場に追ひつきける。数多の鰐は左右に分れ船路を開く。一同は直に島に駆け上り頂上の岩窟に向つて登り行く。釣鐘岩の絶頂に直立一丈許りの岩窟あり。其処には黄、紅、青、赤、紫其他色々の光彩を放てる金剛不壊の宝玉が匿されあり。二人は余念なく其岩窟に跳び込み玉を取らむとて汗み泥になつて働き居る。鍵は穴の端に大切相に木葉を敷いて置きありぬ。亀彦は手早く其鍵をとり上げ懐中に捻ぢ込みける。金剛不壊の此玉は、地底の世界より突出せしものにして巌の尖端に密着しあれば容易に摂取する事能はず、鬼武彦は密に傍の大岩石を引き抜き来り岩穴の上にドスンと載せたり。二人は徳利口を塞がれて如何ともする事能はず悲鳴をあげて泣き叫ぶ。 鬼武彦始め一同は此処に悠然として天津祝詞を奏上し宣伝歌を唱へ且その周囲に蝟集して休息し雑談に耽りぬ。岩と岩との隙間より二人の藻掻く態は歴然と見え居たり。亀彦は隙間よりヌツと中を覗けば、穴の中より高姫は亀彦の顔を見上げ、 高姫『ヤア汝は三五教の宣伝使、吾々は神勅を奉じて此玉をお迎へに参つたもの、神業の妨害すると地獄の釜に真逆様に落されるぞ、早く悪戯をやめて誠の道に立ち復り、此岩を除けて日の出神にお詫を申さぬか、不届な奴めが』 亀彦『アハヽヽヽ、末代上れぬ岩穴に放り込まれて減らず口を叩くな、此岩は巨大なる千引岩、仮令百人千人来るとも容易に動かぬ代物だ、マアマア悠りと此処に安居して沈思黙考なされませ、吾々は之より聖地を指してお先へ御免蒙る』 高姫『岩石を取らぬなら取らぬで宜い、其代りに冠島の玉の所在は分るまい、玉の所在が知り度くば此岩を取り除けて吾々二人を救ひ上げ船に乗せ鄭重に田辺の港まで送り帰せ、如意宝珠の玉は欲しくは無いか』 亀彦『エー、抜け目のない奴だ、鬼武彦さま、如何致しませうか、貴方の天眼力で、玉の所在をお探し下さらぬか』 鬼武彦『一旦悪神の手に渡つた如意宝珠なれば外部は穢れ曇り一向霊気を放射致さぬ、あの玉を再び用ひむとすれば七日七夜の間、和知の清泉に清めて磨かねばなりませぬ、さりとて、所在が分らねばこれ亦素盞嗚の大神に対して申し訳が立たぬ、エー仕方がない、高姫、青彦両人に白状させるより外に道はありますまい』 亀彦『困つたな、万劫末代此岩穴に封じ込めて与らうと思つたに惜しい事だ、オイ、高姫、青彦の両人、貴様は余つ程幸福者だ、玉の所在を逐一申せ、然らば此岩を取り除いて与らう』 高姫『ドツコイ、さうは往きませぬぞ、岩石を除いて吾々を冠島迄送り届けなければ仲々白状致さぬ、万一迂濶所在を知らすが最後此儘にして置かれては吾々の立つ瀬が無い、吾々を救ふ方法は玉の所在を知らさぬ一法あるのみだ、ホヽヽヽ』 亀彦『エー、酢でも蒟蒻でも往かぬ奴だ、一歩譲つて此岩を取り除けて助けて与ろか、打たぬ博奕に負たと思うて辛抱するかなア』 と呟き乍ら鬼武彦に目配せすれば鬼武彦はウンと一声、力をこめて岩を蹴る、岩石はガラガラガラツ、ドドンツと音響を立て眼下の紫色の海中に向つて水柱をたてつつドブンと落ち込みぬ。高姫、青彦は漸く這ひ上り、 高姫、青彦『ヤア皆さま、御心配を掛けました。お蔭さまで助けて貰ひました。サアサ、帰りませう』 亀彦『コレヤコレヤさうは往かぬ、何処に隠した、白状致さぬか』 高姫『如意宝珠の玉は冠島に隠してある。此処では無い、早く船を出しなさい、愚図々々して居ると荒風が吹いて帰る事が出来なくなる』 鬼武彦一行は釣鐘岩を辛うじて下り船に乗り込みぬ。高姫、青彦は鬼武彦、亀彦の船に分乗せしめ彼が乗り来りし船には秋山彦の僕を乗せ、艪櫂の音勇ましく冠島に向つて漕ぎ帰る。高姫は冠島へ着くや否や、猿の如く山上に駆け上り、手早く珠を掘り出し懐中に捻込み、 高姫『サア如意宝珠は之で御座る、今お渡しすると貴方は都合が宜しからうが妾の都合が一寸悪い、万一船中に於て海中に放り込まれでもしては大変だ、もし放り込まれたら懐中の玉と一緒に沈む覚悟だ、サアサ田辺の港でお渡し申す』 亀彦『何処迄も注意周到な奴だナア、吾々は決して汝等を苦しめる考へでは無い、今直に渡して呉れよ。屹度田辺に送り着けてやる』 高姫『滅相もない、其方の出様次第に依つて此玉を岩石に打付けて砕いて仕舞ふか、疵をつけるか、海中に投げ込むか、未だ見当が付いて居らぬ。渡す渡さぬは田辺へ着いた上の事だ、オホヽヽヽ』 亀彦『ソンナラ貴様だけ船に乗せてやる、青彦は此島に暫時居つて修業をしたが宜しからう』 高姫『滅相な、車の両輪、二本の脚、御神酒徳利、鑿と槌、二人居らねば何事も一人では物事成就致さぬ、一本では歩けない。青彦も一緒に連れて帰れ』 亀彦『何処迄も図々しい奴だ、それ位でなくては三五教の切り崩しは到底出来よまい、アア感心感心、韓信の股潜りだ、アハヽヽヽ』 鬼武彦『サア亀彦さま、話は悠りと船中でなさいませ、東北の天に当つて怪雲が現はれました。暴風の襲来刻々に迫つて来ました。サア早く早く』 と急き立てる。亀彦、高姫其他一同は四艘の船に分乗し艪櫂の音勇ましく田辺を指して帰り来る。アヽ此宝珠は如何なるであらうか。 因に言ふ、此如意宝珠の玉は一名言霊と称し又神集の玉とも言ひ言語を発する不可思議の生玉である。丁度近代流行の蓄音器の玉の様な活動をする宝玉にして今はウラナイ教の末流たる悪神の手に保存せられ独逸の或地点に深く秘蔵されありと言ふ。 (大正一一・四・一五旧三・一九北村隆光録) (昭和一〇・五・二六天恩郷王仁校正) |
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霊界物語 | 17_辰_丹波物語2 丹波村/鬼ケ城山 | 16 城攻 | 第一六章城攻〔六二七〕 冷たき風も福知山、世を艮の大空に聳り立ちたる鬼ケ城、千引の岩にて固めたる、鬼熊別が千代の住家、金城鉄壁一卒これを守れば万卒攻むべからざる、敵の攻撃に対しては絶対的の安全地帯、岩窟の中に築きたる八尋殿に砦の棟梁鬼熊別は、角の生えたる命の女房、顔色黒い蜈蚣姫数多の人足従へて夜昼堅固に守り居る。鬼熊別が懐中刀と頼みたる、荒鷹、鬼鷹始めとし、紫姫や容貌美き丹州の、味方の兵士を呼び集め、三五教の宣伝使、悦子姫が率ゐ来る言霊隊の進軍に対して、防戦の協議を凝らす大会議、数多の従卒岩窟戸の周囲を十重二十重に取り囲み、敵の襲来に備へ居るその物々しさ、よその見る目も勇ましき。鬼熊別は一同に向ひ、 鬼熊別『三五教の奴原、大江山に在す鬼雲彦の御大将の館を蹂躙し、尚ほ進みて三嶽の岩窟を破壊し去り、今や少数の神軍をもつて本城に押し寄せ来るとの注進、吾は名に負ふ大軍を擁し、斯る堅城鉄壁を構へ居れば、如何なる英雄豪傑鬼神の襲来と雖も屈するに及ばず、然はさりながら油断は大敵、汝等は是より、味方の数多の部下を引率し、所在武器をもつて敵に向ひ、只一戦に殲滅せよ、夫についての作戦計画、意見あらば各吾前へ開陳せよ』 と厳命したりければ、荒鷹は進み出で、 荒鷹『御大将の御仰せ、一応御尤もでは御座いますが、御存じの通り大江山の鬼雲彦は数多の味方を擁しながら、僅四人の宣伝使のために一敗地に塗れて雲を霞と遁走せられたる如く、到底天来の神軍に対し武器をもつて向ふは心許なし、何か良き方法あらばお示し下さいませ』 蜈蚣姫『さうだと申して此鬼ケ城に於ては、槍、長刀、剣の外に敵に対する武器はあらず。汝等如何に致す所存にや、良策あらば遠慮なく開陳せよ』 鬼鷹『畏れながら、鬼熊別、蜈蚣姫様に申上ます、敵は言霊を以て迫り来り、五色の霊光を放射し敵を縦横無尽に駆悩ます神力を具備し居れば、到底此儘にては叶ひ難し。吾は幸ひ一声天地を震撼し、一言風雨雷霆を叱咤する神力を図らずも三嶽山の山上に於て白髪異様の神人より伝授されました、もう此上は大丈夫、仮令幾万の武器ありとも、部下の身体を霊縛されなば如何ともする事は出来ますまい、吾々は言霊を以て寄せ来る敵を殲滅するを最上の策と存じます』 鬼熊別『汝一人如何に言霊を応用すればとて、其他の部将は如何致す積りだ』 鬼鷹『畏れながら、荒鷹、丹州、紫姫のお歴々は、私と一度に神変不思議の言霊の妙術を神人より伝授され居りますれば、必ず必ず御心配あらせられな、仮令三五教の宣伝使、神変不思議の霊術をもつて迫り来るとも、吾が言霊の威力を以て、縦横無尽にかけ悩まさむ、必ず必ず数多の部下を労し、兇器をもつて向はせ給ふべからず、確に吾々勝算が御座る』 と事もなげに述べ立てたるに、鬼熊別、蜈蚣姫は満面に笑を湛へ、 鬼熊別『然らば鬼鷹汝に全軍の指揮を命ず、必ず共に油断致すな、吾は是より高楼に登り、汝等が奮戦の状況を見む、蜈蚣姫来れ』 と此場を立つて奥の一間に悠々と忍び入る。忽ち聞ゆる宣伝歌の声に耳を聳立て、 鬼鷹『ヤアヤアかたがた、敵は間近く攻め寄せました、何れも防戦の用意あれ』 荒鷹『仮令三五教の宣伝使、悦子姫、音彦、加米彦、青瓢箪彦、腰の曲つた夏彦、狐のやうに目の釣り上つた常彦押寄せ来るとも、吾は孫呉の秘術を揮ひ、否々神変不思議の言霊の妙術を発揮し、敵を千変万化に駆悩まし、勝鬨上げるは瞬く間』 と勇める顔色英気に満ち、威風凛々として四辺を払ふ勇ましさ。一同は双手を打ち一斉にウローウローと鬨の声、山岳も崩るる許りの光景なり。 宣伝歌の声に一同は勇み立ち、鬼鷹、荒鷹其他の言霊隊は廊下に立ち現はれ、寄せ来る神軍の言霊の散弾に向つて防戦の用意に取りかかりぬ。寄手の部将加米彦は声も涼しく宣伝歌を宣り始めたり。 加米彦『神が表に現はれて善と悪とを立て別ける 鬼熊別の運の尽き亡び行く世は如月の 三五の月は大空に明皎々と輝きて 鬼の頭を照すなり万代祝ふ加米彦が 悪魔の砦に攻め寄せて宣る言霊は天地の 百の神達八百万諾ひ給へ鬼ケ城 群がる曲を言向けて西の海へと逐散らし 豊葦原の瑞穂国隈なく照す言霊の 誠の水火を受けて見よ槍雉刀や剣太刀 穂先を揃へて攻め来とも皇大神の守ります 吾加米彦の誠心は火にも焼けない又水に 溺れもせない如意宝珠万代朽ちぬ生身魂 玉の御柱立て直し言向け和す其ために 今や加米彦向うたり吾と思はむ奴原は 一人二人は面倒だ千万人も一時に 小束となつて攻め来れ三五教の宣伝使 神の御魂を蒙りて息吹の狭霧に吹き払ひ 風に木の葉の散る如く吹き散らさむは目のあたり 心改め吾前に帰順致すかさもなくば 城を枕に討死かそれも厭なら逸早く 城明け渡し逃げ出せ月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも此加米彦が麻柱の 心の魂に言向けて丹波の空に塞がれる 雲霧四方に吹き払ひ清めて晴らす神の道 嗚呼面白い面白い神の守りの宣伝使 嗚呼惟神々々御魂幸はひ坐ませよ』 と謡ひ終りし加米彦が宣伝歌に四辺を守る数多の部卒は頭を振り暫く苦悶の体を現はしける。 少壮白面の丹州は、加米彦の言霊に応戦すべく白扇を披き左右左に打ちふりながら、 丹州『誠の風の福知山人の心の鬼ケ城 鬼も大蛇も言向けて世人を救ふ神心 鬼熊別はバラモンの神の教の宣伝使 素より悪き者ならず顔色黒き蜈蚣姫 色の黒いに霊ぬかれ知らず識らずに水晶の 清き霊は曇り果て常夜の暗となり果てぬ さはさりながら加米彦よ人は神の子神の宮 悪の中にも善がある善に見えても悪がある 鬼熊別の大将は欲に心を曇らせて 曲の言霊宣りつれど時節来れば又元の 神の霊と立ち復り神の御為め国のため 世人のために勲功をひよつと立てまいものでない 許せよ許せ麻柱の神の教の宣伝使 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ 身の過ちは宣り直せこれぞ天地の大神の 御旨に等しき心なり嗚呼加米彦よ加米彦よ これの砦に立ち向ひ言霊戦を開始して 勝鬨あぐる汝が心さはさりながらさりながら 満つれば欠くる世の習ひ弱きを助け強きをば 抑へて行くが神の道勝に乗じて徒に 吾等が味方を悩ますな神の御眼より見給へば 世界の者は皆我が子神は親なり人は子よ 人と人とは兄弟よ兄弟喧嘩は両親に 対して不幸となるものぞ吾が言霊の一つだに 汝が耳に入るならば早く此場を立ち去れよ 世人を救ふ宣伝使嗚呼惟神々々 御魂幸はへましませよ』 と謡ひ終り忽ち姿を隠したり。 加米彦『何だ丹州の奴、敵だか味方だか訳の分らぬ事を云ひよつたな、エヽ気の弱い奴だ。鬼熊別に余程気兼をして居ると見える哩、アハヽヽヽヽ』 腰のくの字に曲つた小男の夏彦は敵の岩窟に向ひ、言霊戦を開始すべく宣伝歌を歌ひ始めたり。 夏彦『鬼の棲家と聞えたる曲津の潜む鬼ケ城 鬼熊別や蜈蚣姫牛のやうなる角生やし 虎皮の褌きうと締め広い世界をのそのそと 吾物顔に蹂躙り彼方此方の女達 弱いと見たら忽ちに小脇に掻い込み連れ帰り 寄つてかかつて嬲者生血を啜り肉を喰ひ 未だ飽き足らで人の家に隙を窺ひ忍び込み 目より大事と蓄へた金や宝をぼつたくり 栄耀栄華の仕放題雲に聳ゆる鬼ケ城 殊更高い高楼に登つて悠くり酒喰ひ 世人を眼下に見下して暑さ寒さも知らず顔 いかい眼を剥き鼻を剥き大い口をかつと開け 人を見下ろす鬼瓦夏彦司の言霊の 霰を喰つて忽ちにがらりがらりとめげ落ちる 鬼熊別の身の果てぞ今から思ひやられける 春とは云へど夏彦が誠にアツき言霊の 矢玉を一つ喰つて見よ鬼鷹、荒鷹、鹿に馬 紫姫も丹州も風に木葉の散る如く 不意を喰つてばらばらばら夕立のやうな涙雨 乾く間もなき袖時雨月は御空に輝けど 汝がためには運の尽きウロつき間誤つきキヨロつきの ウロつき廻る狐憑き鬼に大蛇はつきものぢや 昔々の神代より鬼の夫に蛇の女房 世の諺はあるものにこれや又何とした事か 鬼の女房に蜈蚣姫青い爺に黒い嬶 サア是からは夏彦が日頃鍛へし言霊の 霊弾を向けて鬼ケ城紅蓮の舌で舐めてやろ 嗚呼面黒い面赤い嗚呼惟神々々 とても叶はぬ叶はぬから耐りませぬと鬼共が 逃げ行く姿を目の当り見る吾こそは楽しけれ 見る吾こそは面白き。 アハヽヽヽ』 加米彦『オイ夏彦、何と云ふまづい言霊だ、ソンナ事で敵が降服するものか、宣り直せ宣り直せ』 夏彦『身魂相応の言霊をやつたのだ、何程宣り直せと云うても、はや品切に相成申候だよ』 加米彦『アハヽヽヽ、怪体の言霊もあるものだなア、併しこれも今度の戦闘の景物と思へば辛抱が出来るよ』 夏彦『何れ腰が曲つて居るものだから、臍下丹田から出る言霊も何うせ腰折れ歌だよ、アハヽヽヽ』 岩窟の方より鹿公は立ち上り、又もや扇を打振り打振り、寄せ手に向つて大音声に言霊戦を開始したり。その歌、 鹿公『真名井ケ原に現れませる豊国姫の大神に 詣でむものと紫姫の神の司は都をば 立ち出で給ひ馬と鹿二人の伴を従へて 山越え谷越え川を越え大野ケ原や里を越え 真名井ケ原の手前迄進み来れる折柄に 三嶽の岩窟に立て籠る荒鷹、鬼鷹両人が 部下の魔神に欺かれ真名井ケ原は此方ぢやと 云うた言葉を真に受けて暗き岩窟に誘はれ 深い穴へと放り込まれ馬と鹿とは馬鹿を見た 紫姫は幸に渋皮剥けたるお蔭にて 鬼鷹荒鷹両人がお目に留まつて助けられ チンコ、はいこと敬はれ岩窟の女王となり済まし 権威を揮ふ凄じさ間もなく出て来た麻柱の 神の教の宣伝使容貌も形も悦子姫 松吹く風の音彦や背の堅い加米彦が のそのそ来る谷の口バサンバサンと衣洗ふ 婆々にはあらぬ紫姫の神の司の優姿 肝を潰して加米彦が荊棘の茂る坂道を 転けつ辷りつ漸うに岩窟の前にやつて来て 思ひがけなき陥穽ドスンと落ちて尻餅を ついたかつかぬか俺や知らぬそれから三人のこのこと 紫姫に誘はれ岩窟の中にやつて来て 俺を助けて呉れた故そこで二人は麻柱の 神の教に入信し三嶽の山の絶頂で レコード破りの風に遇ひこれや耐らぬと四つ這ひに なつて漸う木の茂み一同此処に息やすめ 白河夜船と寝て居れば鬼鷹荒鷹やつて来て 鹿と馬とを後手に縛つて又もや岩窟に 押し込められた夢を見てビツクリ仰天起き上り 月の光を賞めながら其辺をぶらつく時もあれ 現はれ来る黒い影摺つた揉みたといさかいつ とうとう鬼鷹荒鷹の二人の奴を言向けて 三五教に導きつ悦子の姫の命令で 帰つて来たは表向おつとどつこいこれや違ふ 俺が言ふのぢやなかつたに余り嬉して間違つた ヤイヤイ夏彦常彦よドツコイすべつた灰小屋で 灰にまみれて真黒気もう斯うなれば是非もない 他人は兎も角俺だけは今を限りに鬼熊別の 大将に尻を喰ますぞよむかづくまいぞよ蜈蚣姫 うつかり剥げた嘘の皮俺の身魂はまだ暗い 言霊戦は皆駄目だ嗚呼惟神々々 御霊幸はひましませよ蛙は口から知らぬ間に 腹の中をば曝け出しもう叶はぬから逃げて出る 三五教の宣伝使本当に吾は帰順する 何うぞ赦して下されや』 と尻を捲つて一散走り、音彦が戦陣に向つて、一目散に逃げ来る可笑しさ、悦子姫、音彦、加米彦は可笑しさに吹き出し、笑ひ転けたり。 (大正一一・四・二三旧三・二七加藤明子録) (昭和一〇・五・二六王仁校正) |
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霊界物語 | 21_申_高春山のアルプス教 | 12 奇の女 | 第一二章奇の女〔六八六〕 竜国別は小声に宣伝歌を歌ひながら、大谷山の谷深く進み入る。 夕べを告ぐる鐘の声、諸行無常と鳴り響く。空に烏の幾千羽、塒求めてカアカアと物憂げに啼き立つる。身に沁む風は樹々の梢を七五三に揺つて居る。竜国別は年古りたる松の木立に立ち寄りて一夜の雨露を凌がんと、傍を見れば小さき祠がある。 竜国別『アヽ有難い、何れかの神様のお社が建つて居る。大方、山口の神様が祭つてあるのだらう』 と独言ちつつ神前に恭しく拍手叩頭し、天津祝詞を奏上し、宣伝歌をうたつて祠の後に横はる。其歌、 竜国別『三五教の宣伝使玉治別や国依別の 神の使と諸共に津田の湖辺に到着し 鷹依姫が力とも杖とも頼む秘密文 ふとした事より手に入れて敵の配置を悉く 手に取る如く探索し茲に間道潜りつつ 山野を伝ひて来るうち日は漸くに暮れ果てて 行手も見えずなりければ千引の岩の岩が根に そつと立ち寄り降る雪を凌ぎて一夜を明かすうち 現はれ来る妙齢の花をあざむく一婦人 赤子を胸に抱きつつ寒気に閉ぢられ手も足も 儘にならねば一夜の我に暖気を与へよと 身辺近く襲ひ来る我は此世を救うてふ 神の教の宣伝使高春山の曲神を 言向け和し帰るまで女に肌は触れまじと 唯一言に断れば女は又もや手を合せ 火を焚き呉れよと願ひ入るふと傍に目をやれば 天の与へか枯小柴忽ち燧を打ち出でて 火を点ずれば炎々と四辺は真昼の如くなり 女の顔はありありと生地迄スツカリ見えて来た 男尊女卑の言論と女尊男卑の弁舌に 天の瓊鉾(舌)を磨ぎ澄まし火花を散らして戦へば 女もさるもの中々に我言霊に怖れない 既に危く見えし時彼方此方の谷々の 木霊を響かせ進み来る法螺貝吹いた大男 忽ち此場に現はれて魔性の女を一睨み 女は驚き抱きし子を直に火中に投げ捨てて 雲を霞と逃げて行く我は睡魔に襲はれて 夢路を辿る折柄に揺り起されて目を開き 四辺きよろきよろ見廻せば大江の山に現はれし 鬼武彦の白狐神続いて言依姫神 我が眼前に現はれて急場を救ひ給ひつつ 妙音菩薩の音楽に連れて此場を消えたまふ 竜国別は唯一人巌を背にうとうとと 睡りながらに明けを待つ雪は頻りに降り来り 道も塞がり進退の自由を失ひユキ詰まる 中をも厭はず荒魂勇気を鼓してザクザクと 進む折しもむくむくと雪の中より現はれし 不思議の女に手をひかれ破れた小屋に伴はれ 種々雑多の問題を吹きかけられて困り入り 如何はせんと思ふうち傘のやうなる目を剥いて パツと消えたと思ひきや忽ち変る大白狐 山路を目蒐けて駆出だすよくよく見ればこは如何に 五尺有余も積りたる雪の山路はいつとなく 消えて僅かな薄雪に不審の胸を抱きながら ふと傍を眺むれば豈図らんや岩の根に くだらぬ夢路を辿りつつ心の眼を閉ぢて居た 朝日の光を身に浴びて此処を立ち出でスタスタと 雪に印した足跡を索ねて進む折もあれ 雪踏み分けて駆来る野猪に出遇ひ暫くは 道に佇み眺め入る空を掠めて何処よりか 白羽の征矢の飛び来り猪の頭に突き立てば 猪は驚き右左前や後に狂ひつつ 峰の尾上を打ち渡り谷間に身をば隠したり 鳥獣の末までも救ひ助くる神の道 これが見捨てて置かれうか助けやらんと足跡を 探りて谷間に下り往く萱茫々と生ひ茂り 人跡絶えし谷の底血糊を標べに来て見れば 自然に穿てる岩の洞其傍に横はる 猪の屍を愍れみて天津祝詞を奏上し 蘇らせて助けんと思ふ折しも岩窟の 中より出づる鬼娘忽ち猪にかぶりつき 血汐を吸ひ込む嫌らしさはて訝かしとよく見れば 高城山の近村にお竜が娘と生れたる お光の顔によく似たりお光は血汐を吸ひ終り 我顔じつと打ち眺めお前は隣の小父さまか お前はお光か何としてこの山奥に忍び住む 早く帰れと促せばお光は首をふりながら 猪の血糊は吸ひ飽いた美味い香のするお前 喰はしておくれと強要よるこれや大変と驚いて なだめ慊しついろいろと義理人情を教ふれば お光はフンと鼻の先馬耳東風と聞き流し 義理人情を弁へて如何して鬼になれますか お前の生血を唯一度飲ましてくれいと云ひながら 手頃の石を手に持つて忽ち砕く我が額 血潮は川と迸る我は脆くも気絶して 前後も知らずなりけるが俄に吹き来る寒風に 眼覚ませばこは如何に額は少し痛けれど 霊肉共に清々と洗つたやうな心地して 鬼の娘と誓約しつやつと虎口を逃れ出で 崎嶇たる山路辿りつつ漸く此処につきにけり 月は御空に輝けど木立の茂み深くして 我影だにも見えかぬる椿の森の宮の下 明日はいよいよ大谷の山を踏み越え高春山の 曲の砦に向ふなりあゝ惟神々々 御霊幸倍ましまして三五教の宣伝使 高姫黒姫両人を救ひ出させ給へかし 野立の彦や野立姫神素盞嗚大御神 木花姫の御前に竜国別の神司 遥に祈り奉る』 と歌ひ終つて古社の床下に横はり居る。 夜は深々と更け渡り、寂然として木の葉のそよぎもピタリと止まつた丑満の頃、猿を責めるやうな女の泣き声、刻々に近づき来る。竜国別は目を醒まし耳を傾けて、何者なるかと息を凝らして考へて居る。バタバタと数人の足音、女を一人此場に連れ来り、 甲『サア、もう斯うなつた上は、じたばたしても駄目だ。体よくカーリンスの宣伝使の奥さまになつて、左団扇で数多の乾児を頤で使ふ身分となるのが、却つてお前の身に取つて幸福だらう。土臭い田舎者に心中立てをしたつて何になるか、サア早うウンと云へ』 女(お作)『お前は立派な男の癖に、私のやうな繊弱き一人の女を寄つて集つて、無理往生をさせようとは些と卑怯ではありませぬか。カーリンスとか云ふ人に、それだけの徳望があれば、天下の女は何程袖で蜂を掃ふやうにして居つても、獅噛みついてゆきます。世間から高春山のカーリンスの鬼と噂され、蚰蜒か蛇のやうに嫌はれて居るお方に、誰が靡くものが有りませう。お前等はその蚰蜒に頤で使はれて居る人間だから、なほ更鼻持のならぬ男だ。エヽ汚らはしい、もう触つて下さるな』 乙『此奴中々剛情な女だ、よしよし貴様がさう出れば此方にも覚悟がある』 女(お作)『其覚悟を聞かして貰ひませう』 乙『そんな事は俺達の秘密だ、貴様に聞かす必要が何処にあるか』 女(お作)『ありますとも、私は貴方等の目的物、云はば当局者である。秘密を知らずにどうして一日だつて治まつて行きますか』 甲『エヽ、女の癖に何をツベコベと吐くのだ、引き裂いてやらうか』 女(お作)『口を引き裂きなさつても宜しい。併し乍ら万々一私がカーリンスの女房になると定つたら、お前は私の家来ぢやないか。さうすれば主人の口を引き裂き、折角綺麗な女を傷者にしたと云ふ罪を、何うしてカーリンスにお詫をなさるか、お詫の仕方がありますまい』 甲『たつて引き裂かうとは申しませぬ。併し乍ら我々の要求を容れて、奥さまになつて下さいますか』 女(お作)『ホヽヽヽヽ、好かんたらしい、カーリンスの嫁になる位なら烏の嫁に行きますワ』 甲『七尺の男子を貴様は翻弄するのか』 女(お作)『定つた事ですよ。女と云ふものは強いものです。女の髪の毛一条あれば大象も繋ぐと云ふ魔力をもつて居る。ヒヨツトコ野郎の五人や六人、束になつて来た所が到底駄目ですワ、そんな謀反は大抵にしてお止めなさい。山も田も家も倉も、舌の先や目の先で一遍に消滅させたり、顛覆させたりするのは女の力です。お前達は男に生れたと言つてエラさうにして居るが、多寡の知れた青瓢箪のお化見た様なカーリンスに、口汚なく酷き使はれて、満足をして居るやうな腰抜けだから、思へば思へば気の毒なものだよ』 丙『これや女、そんな劫託を並べる癖に、何故キヤツキヤツと悲鳴を挙げたのだ。そんな空威張りをしたつて駄目だぞ』 女(お作)『ホヽヽヽヽ、キヤアキヤアと云ふ声は泣き声ですか。お前こそ女の腐つたやうな猿とも人間とも弁別のつかぬ代物は、キヤアキヤアと云うて泣くだらうが、私はお前等のする事が余り可笑しいので、キヤツキヤツと云つて笑つたのですよ』 丁『何とマア強太い女もあればあるものだなア。俺は生れてからこんな女に出遇つた事がないワ』 女(お作)『出遇つた事がない筈、世界の女はお前の姿を見ても、お前の方から風が吹いても、嫌がつて皆逃げて仕舞ふ。それもお前が強いとか、怖いとか云うて逃げるのではない。汚らはしくつて、怪体な臭がして鼻持ちがならないから、化物だと思つて逃げるのですよ』 丙『仕方のない女だなア。こんな女を連れて帰つて、カーリンスの奥さまにでもしようものなら、俺達の却つて迷惑になるかも知れやしないぞ』 女(お作)『ナニ決して迷惑にやなりませぬ。キヨロキヨロ間誤ついて居ると、ちよいちよい長煙管がお前等のお頭にお見舞申す位なものだよ。けれども生命には別条はないから安心なさい、ホヽヽヽヽ』 甲『女子と小人は養ひ難し、到底弁舌では俺達は敗軍だ。不言実行に限る。サア各自に手足を取り、高春山に帰つてゆかう。これや女、何んぼ頤が達者でも直接行動には叶ふまい、男は口は下手だが実地の力は強いぞ』 女(お作)『ホヽヽヽヽ、たつた一人の繊弱い女に対し見つともない、五人も六人も一丈の褌をかいた荒男が、蚯蚓を蟻が寄つて集つて巣へ引き込むやうにせねば、一人の女を引捉へて、その目的を達する事が出来ないとは、何と男程困つたものはないものだなア』 甲『偉さうに云ふない、男は裸百貫と云つて、体が一つあれば世の中に立派な一人前の大丈夫として通用するのだ。女は蔭ものだ。もつと女らしく淑やかにしたら如何だい。女の徳は柔順にあるのだぞ』 女(お作)『私は柔順なんか大の嫌ひだ。私の女としての徳は柔術だ。一つ見本にお前達六人を、お月さまの世界迄も放りあげて見ようか』 甲『オイ皆の奴、如何しようかなア。こんな女を迂濶連れて帰らうものなら、何んな大騒動が勃発するか知れたものぢやないぞ』 乙『それだと云つて、連れて帰らねばカーリンスの親方に合す顔がなし、困つた事になつたものだなア』 女(お作)『一つ柔術をお目にかけませうかな、オホヽヽヽ』 甲『エヽ、この上は直接行動だ。乙、丙、丁、戊、己、一度にかかれ』 一同『ヨシ、合点だ』 と六人の男は手取り足取り無理に女を担ぎ行かむとする。女は又もやキヤツキヤツと頻りに叫ぶ。祠の後より、 (竜国別)『暫く待てツ、大自在天大国別命これにあり、申し渡す仔細がある』 と雷の如く呶鳴りつけた。六人は女を其場に投げ捨て雲を霞と逃げ散つた。女は静々と神前に詣で、拍手しながら何事か暗祈黙祷をして居る。 (大正一一・五・二〇旧四・二四加藤明子録) |
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霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 03 交喙の恋 | 第三章鶍の恋〔七四九〕 宇豆姫『神素盞嗚大神の御言畏み顕恩の 郷に現れます梅子姫二八の春の花盛り 木の花姫の一時に匂ひそめたる唇を 開いて宣らす三五の神の大道に心より 麻柱ひ奉りバラモンの神の教を振り捨てて 梅子の姫の侍女となり貴の教の宇豆姫と 慈しまれて仕へ居る時しもあれや太玉の 神の司の宣伝使顕恩郷に現れまして 鬼雲彦を初めとし鬼熊別や其外の 拗け曲れる枉人を雲の彼方に逐ひ払ひ ここに太玉神司顕恩郷に三五の 教の射場を建て給ひ妾は各々八乙女の 神の司に従ひてエデンの園に臨まれし 五十子の姫や梅子姫今子の姫と諸共に 波斯の国原彼方此方と教を伝ふ折柄に バラモン教の宣伝使片彦釘彦其外の 枉の司に捕へられ棚無小舟に乗せられて 荒波猛る海原に押流されし恐ろしさ 吾等四人は皇神の救ひを求めて各自に 天津祝詞を宣りつれば万里の波濤も恙なく 音に名高き竜宮の黄金の島に上陸し 小糸の姫と諸共に地恩の郷に現はれて 三五教の大道に仕へまつれる折もあれ 思ひがけなき蜈蚣姫数多の供人引きつれて 此処に現はれましましぬ地恩の城は日に月に 神の恵の加はりて一度に開く兄の花の 匂ふが如く栄え行くアヽさり乍らさり乍ら 往く手に塞る恋の闇千歳の松の鶴さまが 月照る夜半に庭の面彷徨ひ遊ぶわが姿 認めて後より抱きつき心の丈を繰返し 誘ひ給ふ嬉しさに胸轟きて何となく 河瀬の鯉の一跳に昇り詰めたる吾が恋路 水泡と消えて跡もなく云ひ寄る術も泣くばかり 後に至りて吾心天を仰いで悔めども 心の中の曲者に取り挫がれて胸の火の 消ゆる術なき苦しさよ妾が心を白雪の 冷たき魔の手に捉へられ退引ならぬ言の葉に 解くる由なき冬の雪心の色も清公が 左守神を笠に着て云ひ寄り給ふ苦しさよ 情なく当りし恋人に詫びる事さへ口籠り 心の悩みを大空の月に向つて歎つ折 又もや一つの影見えて吾手を掴み木下暗 四辺憚り声ひそめ吾は清公ブランジー 左守神と選ばれし栄の身なれど何時迄も 一つ柱に三五の道を支へむ事難し 汝宇豆姫クロンバーの神の司と成りなりて 吾身と共に地恩城三五教の神徳を 天地四方に輝かし開かば如何にと執拗に 度重なりし口説ごと断る力もないじやくり 神に任せし身の上は如何なる事の来るとも 覚悟の前とは云ひながら心に添はぬ夫を持ち 長き月日を送るより一層気楽に独身者 やもめとなりて大神の教に仕へまつらむと 決心するはしたものの清公さまの矢の使ひ 引きてかやさぬ桑の弓撥き返さむ由も無く 如何がはせむと煩ひつ憂目を忍ぶ折もあれ 金銀鉄の三人はかたみに妾の前に出で 左守神の妻たれと言葉尽して説き立つる 嗚呼如何にせむ今の吾千尋の海に身を投げて 此苦しみを脱れむか神の咎めを如何にせむ 千思万慮も尽き果てて今は苦しき板挟み 恋しき人に肱鉄を喰はせて御心怒らせつ 心に合はぬ清公に日に夜に口説き責められつ 心の暗も知らぬ火の砕けて落つる吾涙 汲む人もなき地恩郷あゝ惟神々々 御霊幸倍坐まして日夜に慕ふ鶴さまに 夢になりとも吾思ひ伝へ給へよ三五の 道を守らす須勢理姫神の命の御前に 心を清めて願ぎまつる朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 鶴公さまに吾思ひ通さにや置かぬ桑の弓 女の思ふ真心は岩をも射貫くと聞くからは 通さざらめや吾が恋路恋し恋しと朝宵に 積る思ひの恋の淵浮ぶ涙は滝津瀬の 水に流してスクスクと落ち行く末は海の原 情も深き恋の海男波女波を乗り越えて 棚無船に梶を取り太平洋の彼方まで 互に手に手を取り交し真の神の御教を 開かせ給へ惟神御霊幸倍坐ませよ』 と、四辺に人無きを幸ひ、宇豆姫は述懐の歌を歌つて胸の縺れを解かむとして居る。 此処へ慌しく駆来れるスマートボールは、 スマートボール『コレハコレハ宇豆姫様、御機嫌は如何で御座います。貴女のお顔は何処となく憂愁の色が漂うて居るやうで御座います。如何なる事か存じませぬが、スマートボールの力に及ぶ事ならば、何なりと仰せ下さいませ』 と出しぬけの言葉に、宇豆姫は心の底まで見透かされたやうな驚きと、嬉しさをもつてスマートボールに向ひ、赭らむ顔に笑を湛へ、 宇豆姫『コレハコレハ何方かと思へばスマートさまで御座いましたか。御親切によく仰有つて下さいました。余り神様の御神徳の無限絶対なる御仁慈を思ひ出し、感謝の涙に暮れて居りました。貴方も相変らず御壮健で御神業に御奉仕遊ばされ、何よりも結構で御座います』 スマートボール『ハイ、有難う御座います。私が唯今参りましたのは他の事では御座いませぬ。貴女に折入つてお尋ね致したい事が御座いますので、失礼をも顧みず唯一人、男子の身を持ち乍ら女御一人の処へ参りました。貴女に取つては嘸々御迷惑にお感じなさるでせうが、決して私は不潔な心を持つて、女一人のお居間をお訪ねしたのでは御座いませぬ。何卒悪からず思召し下さいませ』 宇豆姫『スマートさま、其お心遣ひは御無用にして下さいませ。清廉潔白にして、信心堅固の誉高き貴方様、如何して左様な事を思ひませう。誰だつて貴方の行動を疑ふ者は有りませぬから、お気遣ひなさいますな。人間は平生の行ひが肝腎です。貴方の如く信用のある方なれば、何時お越し下さいましても些しも苦しうは御座いませぬ』 スマートボール『ヤア、それで安心致しました。私は御存じの通りの周章者、円滑な辞令を用ひて遠廻しに貴女の御意中を探る様な事は到底出来ませぬから、唐突乍ら、手つ取り早くお伺ひ致し度い事が有つて参りました』 宇豆姫『妾に対してお尋ねとは、それは何う云ふ事で御座いますか』 スマートボールは頭を掻き乍ら、 スマートボール『エー、実は………』 と云ひ悪さうにモジモジして居たが、斯くてはならじと腹を据ゑ、 スマートボール『宇豆姫さま………』 と改まつたやうな口調で切り出した。 宇豆姫『ハイ』 スマートボール『貴女の御存じの通り、此地恩城も三五教の大神の御神徳にて日に月に栄え、国民は其徳に悦服し、天下泰平に治まり、其上素盞嗚大神様の御娘子、梅子姫様を初め黄竜姫様の御母上まで、黄竜姫女王の神務を内助され、地恩城の組織は稍完全に定まりましたのは、お互に大慶の至りで御座います。就きましては、今迄教務に老練なる高山彦様がブランジーの職に就かせ給ひ、黒姫様はクロンバーのお役を遊ばし、夫婦息を合して陰陽合体の神務に従事されて来ましたが、御両人が当城を出立遊ばしてより、清公様が左守神としてブランジーの職を継がせられ、大変に吾々迄が喜んで居りまする。就てはクロンバーとして奥様を迎へねばなりませぬが、一寸人々の噂を聞けば、貴女様が清公さまの妻となり、クロンバーの職をお継ぎ下さるとの事、吾々は是を聞いて衷心より歓喜の涙に打たれました。併し乍ら人の噂は当にはなりませぬ。それ故失礼乍ら、直接貴女様にお目にかかつて御意中を承はらむとお尋ね致した次第で御座います。何卒御腹蔵なく私迄お漏らし下さいますまいか』 宇豆姫はさも迷惑さうな顔をしながら、 宇豆姫『左様な事、何方にお聞きなさいましたか。ほんに嫌な事で御座いますな』 スマートボール『イヤ誠に恐れ入ります。失礼な事をお尋ね致しました。併し貴女として、まさか……さう……ハツキリと、左様だと云ふ事は仰有り悪いでせう。其処は人情ですから、矢張……ヤア分りました。さうすると貴女の御精神は、クロンバーの職にお就き下さるお覚悟と拝察致します。何卒私のやうな愚者なれど、末長く可愛がつて下さいませ』 宇豆姫は周章て、 宇豆姫『モシモシ、スマートさま、滅相な事仰有いますな。妾は清公さまの妻にならうなぞとは夢にも思つた事は御座いませぬ。何卒誤解の無きやうにお願ひ致します』 スマートボール『さうすると貴女はモウ好い年頃、何処までも独身生活を遊ばすお考へですか』 宇豆姫『ハイ……イヽエ』 とモガモガする。 スマートボール『ハヽヽヽヽ、流石は乙女心の恥かしさ、ハツキリと仰有らぬワイ。三月の壬生菜と同じぢやないが、仕たし怖しと云ふ所ぢやな』 宇豆姫『オホヽヽヽ、好い加減な当て推量は止めて下さいませ。妾はまだ外に……』 スマートボール『エヽ、あなたはまだ外にと仰有つたが、其次を続けて下さいませな』 宇豆姫『厭なこと、好い加減に堪忍て下さいな』 スマートボール『イエイエ、貴女の一身上の大事は申すも更なり、本城に取つて重大な問題ですから、何卒ハツキリと私迄云つて下さいませ』 宇豆姫『妾は嫌で御座います』 スマートボール『これは迷惑、決して私は貴女に対して野心は持つて居りませぬ。又私のやうな軽薄な人間は嫌と仰有るのは当然です』 宇豆姫『さう悪く気を廻して貰つては困りますよ。決して決してスマートさま、貴方を嫌ひと云つたのぢや御座いませぬ』 スマートボール『ハテ、合点のゆかぬ。さうすると権要の地位にあるブランジーの清公様を嫌ひと仰有るのですか』 宇豆姫『ハイ、仮令天地が覆るとも、絶対に嫌で御座います』 と思ひ切つたやうに、ハツキリと云うて退けた。 スマートボール『ハテナ、実際当つて見なくては分らぬものだ。人の噂と薩張り裏表だ』 と呟く。 宇豆姫『どんな噂が立つて居りますかなア』 スマートボール『余り貴女に対して気の毒だから、もう云ひますまい』 宇豆姫『チツとも構ひませぬから云うて下さいませ。お願ひで御座います』 スマートボール『城内の噂では、貴女はあれだけ人気のある鶴公さまを蛇蝎の如く忌み嫌ひ、権要の地位にある左守神の清公さまに秋波を送り、非常に御熱心だと云ふ噂が立つて居りますよ。蓼喰ふ虫も好き好きとやら、何程地位が高くても、あれだけ大勢の者が忌み嫌ふ清公さまに電波をお送り遊ばすとは、貴女の日頃の立派なお心に照り合して、些しも合点が参らぬと思うて居りました。併し乍ら、今仰有つたお言葉が真実としますれば、何事も氷解致しました』 宇豆姫『ハイ、有難う御座います』 スマートボール『貴女は意中の人があれば、女房におなりなさるのでせうな、神の道は女としては夫を持つのが本当です。何卒私に包まず匿さず仰有つて下さいませ。どんな斡旋でも致しますから』 宇豆姫『ハイ、有り難う御座います。何うも不束な妾、何程此方から恋しい意中の人があつても、先方様にそれ丈けのお心が無ければ、到底末が遂げられませぬから、マア今の処、妾の夫になつて下さると云ふ人は御座いますまい。妾の好いと思ふ方は先方からエツパツパーとお出かけ遊ばすだらうし、先方様から妾をお望み下さる方に限つて妾の方から虫が好かず、何うも思ふやうに行かないものです。何と云つても長い一生の間暮さねばならぬ夫婦の間柄、気の合はぬお方と一生暮すのは不快で堪りませぬ。女は夫に絶対服従すべきものだと云ひますが、妾としては些しく道理に合はない様に思ひます。夫が如何なる事を云つても、妻として絶対服従を強らるるのは残酷です。夫婦は互に意見を交換し、相携へて行かねばならぬもの、然るに世間の夫婦を見ますると、女房は殆ど夫の奴隷か、玩弄物のやうな扱ひを受け、夫が何んな不始末な事を致しても、妻として是を云々する権利もなく、まさか違へば髻を掴んで打ち打擲をされ、不貞腐れ女、不柔順な妻と無理やりに醜名を着せられ実に無告の民も同様で御座いますから、妾は夫を持つならば、この間の消息をよく弁へた、物事のよく分つた方と夫婦になり、円満なホームを作り、神界の御用に面白く嬉しく、潔く奉仕する事の出来る夫を持ち度う御座います。男女同権と云つて、男子も女子も同じ神の分霊、どちらも無ければなりませぬもの、然るに夫婦となれば、最早同権ではありませぬ。夫唱婦随と云つて夫によく仕へ、何事にも服従するのが妻たるの道、併し乍ら無理解な夫に無理難題を強られ、夫の権利を振りまはされては不快で耐りませぬから、心の底より妻の境遇を憐れみ、同情心をもつて添うて下さる夫が持ち度いので御座います』 スマートボール『成る程、承はれば御尤も千万だ。吾々は未だ妻を持つた事もなし、夫婦の味は知りませぬが、女の心理状態はそんなもので御座いますかなア。ヤアもう承はつて人情の機微を窺ふ事が出来ました。併し貴女の最前のお言葉に、意中の人は先方から応じない……との意味を漏れ承はりましたが、意中の方と云ふのは何方で御座いますか』 宇豆姫『ハイ……』 と云つて俯いた儘、顔を匿す。 スマートボール『貴女、意中の人にエツパツパーをやられた時のお心持は、どんなにありましたかな。女の心も、男の心も同じ事、意中の女に撥かれた男は、層一層残念なものですよ。七尺の男子が女の為に肱鉄を喰はされ、天地の神に対して合す顔が無いと云うて、庭先の松で、首を吊らうとした立派な男がありますよ。併もその男は貴女に撥かれて……』 宇豆姫『エヽ何と仰せられます。妾に撥かれて首を吊りかけたとは、それは本当の事で御座いますか』 スマートボール『白ばくれ遊ばしてはいけませぬ。現に貴女は撥いたぢやありませぬか。撥かれた男は此の庭先の松で、プリンプリンと空中活動を開始して居た。私はフト通り合せて、驚いて命を救つた哀れな男が御座います』 宇豆姫『エヽ……』 と云つた限り、又俯く。 スマートボール『貴女は右守神鶴公さまを月照る夜半に、素気なくも蜂を払ふやうな目に遇はせ、恥を掻かせたのでせう、其男が寝ても覚めても貴女の事を思ひ詰め、此頃は貴女が清公さまの女房になられるとの噂を聞き、真実に可憐さうに、大悲観の極に落ちて居ますよ。貴女も余つ程罪な方ですな』 宇豆姫『エヽ、あの鶴公さまが、そんなに御熱心でゐらつしやるので御座いますか』 スマートボール『貴女のお嫌ひな鶴公さまが、そこ迄執着があるとお聞きになつては、聊か御迷惑でせうな』 宇豆姫『何うして何うして御勿体ない。妾はあんなお方に、仮令半時なりとも添うて見たう御座いますワ』 と真赤な顔をして、思ひ切つたやうに云ひ放ち、クレツと後を向き顔を匿した。 スマートボール『ヤア、それでやつと安心しました。流石は貴女お目がよう利きます。恋も其処迄ゆけば神聖ですよ。屹度私がお力になつて此恋を叶へさせますから、御安心下さいませ』 宇豆姫『…………』 斯かる所へ、金、銀、鉄の三人を従へ入り来つた黄竜姫は、言葉静に、 黄竜姫『宇豆姫様、……ヤア貴方はスマートボールさま、御都合の悪い所に参つたのではありますまいかな。お話が御座いますれば、暫く彼方に控へて御遠慮致しますから、御両人、お話を済ませて下さい。妾は次の間に控へてお待ち申して居ります』 此言葉を聞いた宇豆姫は容を改め、襟を正し、座を立つて下座に坐り、 宇豆姫『コレハコレハ、女王様、よくこそ被入せられました。どうぞ此方へ御着座下さいませ』 黄竜姫『左様なれば着座致しませう。時に宇豆姫様、貴女に折入つて申上げ度い事が御座いますから、……スマートボール、暫く席をお外し下さい。金、銀、鉄の三人も暫し遠慮召されや』 スマートボールは、 スマートボール『ハイ、承知致しました』 と素直に此場を立ち退いた。三人も次の間に姿を隠した。暫く両人の間には沈黙の幕が下りた。屋外には嵐の音轟々と鳴り渡り、庭園に咲き乱れたる花弁を惜気もなく散らして居る。晃々たる太陽の光は戸の隙間より細く長く線を引き、煙のやうな塵埃がモヤモヤと飛散して居るのが、キラキラと日光に輝いて不知火の如く見えて居る。 黄竜姫『モシ宇豆姫さま、御覧遊ばせ。斯の如く咲き乱れたる百の花に向うて、日天様が晃々と輝きたまふにも関はらず、雲も無きに暴風吹き荒み、落花狼藉、庭の面は一面に花蓆を敷き詰めたやうでは御座いませぬか。実に花永久に梢に止まらむとすれど嵐来つて是を散らす。樹木静ならむとすれど風止まず、子養はむとすれども親待たずとかや、世の中は或程度迄は、吾々人間の自由には成らぬもので御座いますな。夫婦の道だとて同じ事、自分の添ひ度いと思ふ夫に添へなかつたり、自分の嫌で耐らぬ男に一生を任さねばならぬ事は、まま世界にある習ひで御座います。何事も天地の間に生れた以上は、神様の大御心に任し、何う成り行くのも因縁と諦めて我を出さぬのが天地の親神様に対して、孝行と申すものでは御座いますまいか』 と遠廻しに網を張つて居る。其言葉を早くも感づいた宇豆姫は、ハツと胸を躍らせ乍ら素知らぬ顔にて、 宇豆姫『女王様の仰せの通り、世の中は人間の勝手にはならぬもので御座います』 と僅に応酬した。 黄竜姫『今改めて黄竜姫が、宇豆姫に申し渡す事が御座います』 と儼然として立ち上り、最も荘重な厳格な口調にて、 黄竜姫『此地恩城は、清公を以て左守神と神定め、ブランジーの職を授けたる事は、和女の既に知らるる所、就てはクロンバーとして和女を清公が妻に定めまする。黄竜姫の申す事、よもや違背はありますまい。サア直様御返事を承はりませう』 宇豆姫は胸に警鐘乱打の響き、地異天変突発せし狼狽へ方をジツと耐へ、さあらぬ態にて胸撫で下し、 宇豆姫『ハイ、有り難う御座います。不束な妾の如き者を、勿体無くもクロンバーの位置に据ゑ、畏れ多くも驍名隠れ無き清公様の妻にお定め下さいました仁慈無限の思召し、早速お受致しますのが本意では御座いますが、何卒暫く御猶予を下さいませ。熟考した上で御返事を致しませう』 黄竜姫『黄竜姫が心を籠めた夫婦の結婚、一時も早く良き返事をして下されや』 宇豆姫『ハイ、兎も角も熟考の上御返事を致しませう』 黄竜姫は些しく言葉を強め、 黄竜姫『もはや熟考の余地は有りますまい。神様の為め、お道の為め、身命を捧げた貴女、仮令少々お気に足らぬ所があつても、其処を耐へ忍ぶのが三五の道の教ゆる所、必ず必ずお取り違ひのないやうに……』 と退つぴきならぬ釘鎹、進退維谷まつた宇豆姫は、何の答もないじやくり、涙を呑み込む哀れさよ。 黄竜姫『一時の猶予を致しまする。其間に良く熟考をなさいませ。本末自他公私の大道を誤らないように、呉れ呉れも注意して置きます』 と又一つ千引の岩の重石をかけられ、宇豆姫は、煩悶苦悩の極に達し、慄い声になつて、 宇豆姫『黄竜姫様の御親切、有り難う存じます。暫くの御猶予をお願ひ致します』 と僅に口を切つた。黄竜姫は莞爾としてこの場を悠々と立ち去る。 後に宇豆姫唯一人、夢か現か幻か、夢ならば早く覚めよと、とつおいつ、思案に暮れて居たりしが、 宇豆姫『嗚呼矢張夢ではない。アヽ何うしようぞ。何うして是が耐へられよう。神様の御為、お道の為とは云ひながら、妾程因果なものが世に在らうか。何故に男に生れて来なかつただらう』 とワツと許り、大河に濁水氾濫し、堤防を崩潰せし如く、一度にどつと涙川、身も浮く許り泣き叫ぶ。廊下を通りかかつた右守神鶴公は、耳敏くも此声を聞きつけ、何事の変事突発せしかと慌しくドアを押開け進み入り、 鶴公『モシモシ、宇豆姫様、如何なさいました。腹が痛みますか……介抱さして下さいませ』 と親切に後に廻つて横腹の辺りを抱へた。癪を止むる男の力、恋の力と一つになつて宇豆姫は一生懸命、 宇豆姫『是がお手の握り納め』 と云はぬ許りに、日頃恋慕ふ右守神の手も砕けむ許りに力限り握り締め、涙の顔を振り上げて、鶴公の顔を打ち眺め、 宇豆姫『鶴公様、何卒お許し下さいませ。情無き女と御蔑み、御恨み遊ばしたで御座いませう。妾の心は決して貴男様を忌み嫌つて居るのでは御座いませぬ。余りの嬉しさと驚きに、御無礼の事をいつぞやの夜致しました。御無礼のお咎めも遊ばさず御親切に御介抱下さいまするお志、妾は此儘息が絶えても、最早此世に恨みは御座いませぬ』 と又もや咽び泣く其可憐らしさ。 鶴公『アヽ其お心とは夢にも知らず、情無い貴女と、今の今迄恨んで居りました。何卒お許し下さいませ。仮令貴女と偕老同穴の契は結ばずとも、其のお言葉を一言承はつた上は、私は最早何一つ恨みは御座いませぬ。アヽよく仰有つて下さいました』 と両眼に涙を浮べ目をしば叩き、声を出して男泣きに泣く。割りなき恋路の二人の男女他の見る目も哀れなり。 (大正一一・七・七旧閏五・一三加藤明子録) |
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35 (1875) |
霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 13 握手の涙 | 第一三章握手の涙〔七五九〕 天恩豊な地恩城春秋冬も夏景色 木々の木の葉は麗しく果物豊に実りつつ 衣食の道に身をもがく難みも要らぬ一つ島 顕恩郷を立ち出でて錫蘭島に立て籠り 閨の友彦後にして大海原を渡り来る 小糸の姫の行先を鵜の目鷹の目つけ狙ひ 三十路に余る男の頃の島に渡りて彼方此方と 行方求めてバラモンの道を開きし友彦が 時の力に助けられ蜈蚣の姫に邂逅ひ 命の瀬戸の海中に堅磐常磐に浮びたる 小豆が島に名も高き国城山の岩窟に 遇ふた嬉しさ恐ろしさ洲本の庄の酋長が 捕手の者に縛られて何の言ひ訳淡路島 東助夫婦の情にて犯せし罪もうたかたの 水泡と消えて釣小舟清武鶴の三人と 馬関の関の浪を越え千引の岩に船をあて 命危ふき折からに三五教の神司 玉治別の一行に惜しき命を救はれて 蜈蚣の姫や高姫の漂着したるアンボイナ 南洋一の竜宮に上陸すればコハ如何に 小糸の姫の生の母蜈蚣の姫に再会し 何の云ひ訳荒波を乗り切り乗り切り沓島や オーストラリヤの浮島に蜈蚣の姫の一行と 命からがら上陸し小糸の姫の住ひたる 地恩の城に来て見れば情を知らぬ国人に 手も無く叩き出だされて傍の林に潜みつつ 黄竜姫の宿の夫嬉し嬉しの再会を 悦ぶ間もなく夢醒めて四辺を見れば岩の上 腰の骨さへ打ち砕き身動きならぬ悲しさに 漸く息を休めつつ三五教の神言を 赤心籠めて宣りつれば神の恵は忽ちに 身もすくすくと風荒き尾の上を伝ひてネルソンの 峰の頂上に辿り着き後振り返り眺むれば 一望千里の雲の奥地恩の城は何処ぞと 眼を見はりつつ憧憬るる時しもあれや烈風に 吹き捲くられて友彦は風にゆられて鷹鳶の 翼無き身は如何にせむジヤンナの郷に墜落し 人事不省の折柄に此地に住める郷人は 不思議と傍に立ち寄りてよくよく見れば昔より 待ち焦れたる救世主曲りながらも赤鼻に 喜び勇み雀躍りしジヤンナイ教の本山に 担ぎ帰りし面白さジヤンナイ教の神司 テールス(照子)姫に思はれてここに夫婦の新枕 月日を重ね往くうちに三五教の感化力 ジヤンナの郷にゆき渡り三五の月の御教は 朝日の昇る勢で四方に拡がり栄え行く 友彦夫婦は意を決し地恩の城に神徳の 花を開かす黄竜姫御許に到り其昔 蜈蚣の姫や小糸姫母娘の者を悩ませし 深き罪をば詫びむとてテールス姫に来し方の 事情細かに物語り漸く妻の諒解を 得たる嬉しさ夫婦連れジヤンナの郷の人々に 暫しの暇を告げながら供をも連れず入り来る 其真心ぞ雄々しけれあゝ惟神々々 神の御幸を蒙りて前非を悔いし友彦が 母娘の前に手をつきて心の曇を晴らしつつ 三五教の柱石と仕へまつりし古き世の 清き尊き物語神と神との御水火より 組み立てられし瑞御霊神の使の瑞月が 粗製濫造の蓄音器把手に撚をかけながら 不整調なるレコードの又もや廻転始めける あゝ惟神々々御霊幸倍ましまして 黄竜姫や友彦の搦みあうたるローマンス 恋の縺れの糸口をサラリサラリと淀みなく 宣らせ給へよ天津神国津御神や大八洲彦 神の命の御前に慎み敬ひ願ぎまつる。 ○ 友彦夫婦は、小糸姫に誘はれ奥殿深く進み入る。友彦の来訪を聞いて胸踊らせた蜈蚣姫、スマートボールや其他の一同は、珍らしさと忌はしさの混乱したる如き面持にて、中腰になりながら出迎ふ。黄竜姫は友彦の手を固く握り、二三回揺ぶり、 黄竜姫『ジヤンナーサール、ウツポツポ、サーチライス、友彦、テールス、テールスヘーム、タープリンスタープリンス、ケーリスタン、イジアン、ノールマン、シールンパーユエーギエル、シユライト』 と宣る。 『ジヤンナの郷に天降りました友彦の救世主よ、妻のテールス姫殿、御無事で御神業によく仕へて下さいました。妾も貴方が今迄の態度を改め、誠の道に御活動遊ばすを仄に聞き、愛慕の念に堪へず、何とかしてお便りを聞き度いものだ、又神様のお許しあれば一度会見をして今迄の御無礼を謝し、互に了解を得て御神業に参加したく思つて居りました。能くマア御遠方の処遥々お入来下さいました』 との意味であつた。(これから解り易いやう日本語を用ふ) 友彦『ハイ有難う御座います。鬼熊別様、蜈蚣姫様の御両親に対し、若気の至りとは申しながら、天にも地にも一粒種の貴方様を、悪魔の為に吾精神を魅せられ、あのやうな不都合な事を致しました私の罪を、お咎めも下されず、唯今の御親切なる打ち解けたる御挨拶、実に痛み入りました。私は過ぎ来し方の御無礼を思ひ出す度に神の光に照らされて、五体をぐたぐたに神様から斬り虐まれるやうな苦痛を感じ、寝ても覚めても居られないので、恥を忍び直接女王様に拝顔を得、心ゆく迄お詫を申上げ、且つお恨みのありたけを酬うて貰ひ、さうして自分の罪を赦され、至粋至純な元の御魂に立ち帰り、安心して御神務に奉仕したく存じまして、女房にも事情を打ち明け、態とに供人も召し連れず、昔の友彦となつてお詫びに参りました。何卒今迄の御無礼を、神直日大直日に見直し聞き直し、お赦し下さらむ事を、偏にお願ひ致します』 と涙をハラハラと流し、真心より詫び入る。黄竜姫は、 黄竜姫『ハイ有難う御座います。罪は却つて私に御座います。お慈悲深い神様に何事もお任せ致しまして、正しき清き御交際をお願ひ申上げます』 と心の底より打ち解ける其殊勝さ。友彦は一同に向ひ歌を詠んで挨拶に代へた。 友彦『沖に浮かべる一つ島地恩の城に現れませる 神威輝き天地の恵も開く梅子姫 三千世界に神徳を隈なく照らす黄竜姫 神の命を始めとし母とまします蜈蚣姫 泥にまみれし世の中をスマートボールや宇豆の姫 千歳祝ぐ松の世の梢に巣ぐふ鶴公の 右守の神の御前に神の教の友彦が 赤き心を打ち明けて居並びたまふ三五の 司の前に敬ひて言解き詫し奉る 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも誠の道は何時迄も 変るためしもあら尊と教の御子と選まれて ミロクの神の神業に仕ふる吾等の頼もしさ 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直し聞き直し 身の過ちは宣り直す神の尊き言霊の 底ひも知れぬ御恵吾人共に大前に 広大無辺の神恩を畏み感謝し奉る あゝ惟神々々御霊幸倍ましまして 地恩の城は永久に朝日の豊栄登るごと 栄え栄えて果も無く輝き渡る天津日の 御蔭蒙りネルソンの山の彼方の国人を 一人も残さず三五の神の恵に救ひ上げ 野蛮未開の魔の郷を開きて進む神の徳 東と西に分れたるネルソン山の頂きに 立たせ給ひて黄竜の姫は雄々しく此島の 救ひの神と現れませよ吾は友彦テールス姫と 力を一つに合せつつ汝が命の神業を 助けまつりて永久に国治立大神の 仁慈無限の御心に酬いまつらむ村肝の 心撓まぬ桑の弓射貫かにや止まぬ鉄石の 胸打ち明けていつ迄も固き心を誓ひ置く あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 梅子姫は総代的に立ち上つて祝歌を歌つた。 梅子姫『無限絶対無始無終仰ぐも高き大宇宙 𪫧怜に委曲に造りたる国治立大神は 仁慈無限の御心を三千世界の万有に 残る隈なく与へむと遠き神代の昔より 心を千々に配らせつ天津神達国津神 百の神達千万の青人草や海川や 草の片葉や鳥獣昆虫の末に至る迄 心を配り給ひつつ大海原に漂へる 泥の世界を清めむと清き御魂を幸はひて 高天原のエルサレム此処を聖地と定めつつ 三五教の御教を四方に開かせ給ひけり 神の最初の出現は珍の都のエルサレム 人の歴史の初まりは埃及国を元となし オリバス神を礼拝し印度の国はクリシユーナ 波斯の国ではミスラスの神を伊仕へ南米の 高砂島の国人はクエルザコールを礼拝す 神の初めのエルサレムは国治立大神を 祀ると云へど其元は清き流れのイスラエル 自転倒島に現れませる神の教も皆一つ バラモン教やウラル教ウラナイ教やジヤンナイの 教と云へど人の世の風土や人情に画されて 其名を異にするのみぞ黄竜姫も友彦も 過ぎし昔はバラモンの神に仕へし身なれども 其根本に立ち帰り此世を造りし神直日 心も広き大直日国治立や豊国姫 神の命の霊の裔埴安彦や埴安姫 貴の命と現はれて教を四方に開きます いとも尊き御恵に如何で隔てのあるべきや いよいよここに三五の神の教に天が下 四方の国々島々を残る隈なく統一し 此世を救ふキリストの神業清くミロク神 十字の架を背に負ひてノアの方舟操りつ 天教地教の山の上に世人を救ふ神の業 其神徳の一滴此処に滴り竜宮の 名に負ふ珍の一つ島メソポタミヤの顕恩郷 聖地に比すべき地恩郷青垣山を繞らして 珍の真秀良場永久に治め給へる黄竜姫 教の御子の友彦が心の底より打ち解けて 東と西を隔てたるネルソン山の青垣を 苦もなくここに打ち払ひ名詮自称の一つ島 一つ心に真実を籠めて仕ふる神の道 三千世界に隈もなく一度に開く梅子姫 心も勇み身も勇み父大神が三五の 清き御旨に叶ひつつ教の道の永久に 開け行くこそ尊けれあゝ惟神々々 御霊幸倍ましまして天は地となり地は天と 変る艱難の来るとも地恩の郷に三五の 厳の御柱弥高に瑞の御柱永久に 顕幽揃うて立つ上は如何で揺がむ国治立の 神の尊の御仰せ心清めて朝夕に 仕へまつれよ諸人よ神の恵は天地と 共永久に変らまじあゝ惟神々々 御霊の幸を賜へかし』 茲に目出度く友彦は黄竜姫と再会し、麻柱の至誠を捧げ、東西相和し相助け、友彦は黄竜姫の忠実なる部下となつて大神の大道を、全島に力の限り拡充する事となつた。いよいよ一同打ち揃ひ、神前に例の如く祝詞を奏上し、宣伝歌を歌ひ終り、十二分の歓喜に満たされて一旦各自の館に帰り、友彦夫婦は貴賓として鄭重なる待遇を受け、数日城内に滞留する事となつた。 (大正一一・七・一一旧閏五・一七加藤明子録) |
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36 (1942) |
霊界物語 | 28_卯_台湾物語(日楯と月鉾) | 14 二男三女 | 第一四章二男三女〔八一四〕 天津御空に照り亘る日楯、月鉾、両人は 照彦王や照子姫数多の人に立別れ サワラの城を後に見て緑、紅、白、黄色 花咲く野辺のユリコ姫尽きせぬ御代も八千代姫 神の御稜威も照代姫二男三女の五身霊 照彦王の密書をば力と頼み向陽の 高嶺をさして進み行く。 二男三女は無言の儘、向陽山を指して進んで行く。照彦王より与へられたる密書には、 『向陽山の麓を流るる大谷川の畔迄は決して言語を発す可らず、其川を渡ると共に、発言自由たるべし。向陽山には常楠仙人永住して汝等一同に摂受の剣と折伏の剣を与へ玉ふべし。これを受取つて、汝等は一日も早く泰安城に立向ひ、魔軍を言向け和し、且つヤーチン姫及真道彦、カールス王其他一同を救ふべし』 との文意が示されてあつた。行く事殆ど五六里、徒歩に稍疲れを感じ、山麓までは到底日の内に到達し難く思はれた。 茫々たる萱野原に、萩、桔梗、百合の花は配置良く咲き匂うて居る。二男三女は草を分け、漸くにして、向陽山麓の木々の梢まで肉眼にて見分くる計りの地点まで近寄つた。忽ち前方に当りて、大なる沼が横はつて居る。水底最も深く、周囲の樹木は沼の底に逆しまに影を映し、大空の淡雲は沼底に映つて居る。不思議にも五人の姿は沼の水に逆しまに映り、何とも言はれぬ麗しき光景であつた。一同はハタと突当り、如何はせむと思案に暮れてゐたが、言語を発する事を戒められ居る為、互に相談する事も出来ず、どうせうかと手真似、目使ひ等にて話し合つて居る。 日は漸く山の尾の上に姿を没し、夕べの風はソヨソヨと吹き出し、木の葉の梢にゆらぐ影は、沼底に逆さまに映り、数多の小魚の躍るが如く見えて来た。進退惟谷まつたる五人は愈意を決し、底ひも知れぬ沼を目蒐けてバサバサと歩み出した。不思議にも此深き沼にも係はらず、五人の身体は膝迄も没するに至らず、易々とさしもに広き沼の面を、彼方の岸に渡り着き、後振り返つて眺むれば、沼らしき影だにもなく、いろいろの草花が広き原野に咲き満て居た。これは常楠仙人が仙術を用ゐ、五人の信仰力を試す為に地鏡を映出したのである。 夜の帳は細やかに下ろされて、月は周囲の高山に隔てられ、姿を見せず、星の光は何となく、雨気の空の様に低う麗しく瞬いてゐる。二男三女は例の手真似にて合図をなし、爰に一夜を明かす事となつた。 猛獣の唸り声、前後左右より刻々に高く、烈しく響き来る。一同は心の中に天の数歌を称へ、暗祈黙祷を続けてゐる。そこへ一種異様の大怪物、鹿の如き枝角の一丈計りあるものを頭に戴き、大象の如き大動物、バサリバサリと進み来り、五人の前に鏡の如き巨眼を光らせ、大口を開き、洗濯屋の張板の様な長広舌を左右に振り乍ら、一行を目がけて舌に巻き込まんとして居る。日楯、月鉾は無言の儘、両手を組み、怪物の前に進み寄るや、怪物は象が鼻にて子供を捲く様に、舌にてペロペロと巻き乍ら、喉の中へ二人共一度に呑み込んで了つた。 三人の女は愈決心を固め怪物のなすが儘に任した。怪物は以前の如く、舌にて一人一人捲いては吾背に乗せあげ、三人共大象の幾倍とも知れぬ様な大背中に乗せた儘、向陽山を目蒐けてドシンドシンと地響きさせ乍ら進んで行く。日楯、月鉾の両人は怪物の腹に呑まれ乍ら、別に痛苦も感ぜず、暖かき湯に入りたる如き心地して、運命を惟神に任せて居た。 忽ち轟々たる水音耳に入るよと思ふ間に、あたりはパツと、際立つて明くなつて来た。見れば其身は向陽山麓の大谷川の激流を渡りて、其岸辺に立つて居た。三人の女は、岸の彼方に激流を眺め、二人の首尾克く山麓に渡り得たるを恨めしげに眺めて居た。 日楯始めて口を開いて、 日楯『惟神霊幸倍坐世』 と言ひ乍ら、 日楯『モシ月鉾さま、無言の行も随分辛いものでしたなア。さうして地鏡の沼に出会した時の胸の驚き、ヤツと安心する間もなく、今度は大怪物に出会し舌に巻かれて腹に葬られ、どうなる事かと心配して居つたが、何時の間にか、怪物の影はなく、吾々二人は此渡る可らざる大激流を、無事に渡つて居たのは、何と思つても合点が往かぬぢやないか。コリヤ、うかうかとしては居られまい。何を言うても常楠仙人の隠れます聖場だから、謹んだ上にも慎んで参らねば、幾度もあの様な試みに会はされては堪りませぬからなア』 月鉾『左様です。此球島へ渡つてからと云ふものは、実に不思議な事計り、神秘的な島ですなア。それにしても照彦王、照子姫様は仙人に出会ひ摂受の剣と折伏の剣を得て来いと教書に御示しになつて居るが、果して与へられるであらうか、それ計りが心配でなりませぬワ』 日楯『照彦王は吾々に此御用を致さすべく、前以て御夫婦がどつかの高山へ登られ、非常な苦労を遊ばして、神勅を受け御帰りになつたのだから、滅多に間違ふ気遣ひはありますまい。疑は益々神慮を損ふ所以となりませう。兎も角教書の儘を固く信じ今後如何なる艱難辛苦に出会うとも、屈せず撓まず、忍耐を強くして、目的を達せなくては、折角遥々此処まで参つた甲斐が有りませぬ。先づ此処で天津祝詞を奏上致しませう』 月鉾も此言葉に打諾き、二人は川岸に端坐して天津祝詞を奏上した。不思議や三人の女は激流の上を平然として此方に渡り来る。両人は手を拍ちて喜び、全く神の深き御庇護と又もや感謝の祝詞を奏上する。三人は漸くにして激流を渡り、二人の前に来つて嬉し相に笑を湛へ乍ら、二人を手招きしつつ、さしもの急坂を猿が梢を伝ふ如く登り行く。見る見る間に三女の姿は山霧に包まれ見えなくなつて了つた。日、月二人は互に顔を見合せ、 日楯『何と月鉾さま、神仙境はヤツパリ神秘的な事が続出致しますなア』 月鉾『本当に不思議なこと計りですワ。それにしても三人の女の、あの足の早さ、人間業とは思はれませぬ。大方仙人の霊魂でも憑依したのでせうかなア』 日楯『何は兎もあれ、此高山を一刻も早く登りきはめねばなりますまい。サア急ぎませう』 と日楯は先に立ち、宣伝歌を歌ひ乍ら登り行く。 向陽山は峰巒重畳たる中に魏然として聳え立つて居る霊山である。山頂に達する迄には幾十とも知れぬ山を越え、谷を渉り、或は広き山中の湖水を渉りなどせなくては、到底達し得ない、要害堅固の絶勝である。 二人は漸くにして、山中の稍広き湖水の畔に着いた。俄に女の叫び声、あたりの森林に聞えて来る。フト声する方を眺むれば、幾丈とも知れぬ大蛇、ユリコ姫の身体を腰のあたり迄呑みこみ、鎌首を立てて渦巻いてゐる。日楯、月鉾は大に驚き、如何はせむと稍少時、首を傾けてゐた。ユリコ姫は声を限りに、 ユリコ姫『日楯様、どうぞ妾をお助け下さいませ』 と手を合して命限りに叫んでゐる。又もや女の泣声、フト目を右方に転ずれば、照代姫、八千代姫の二人は、これ又二匹の大蛇に半身を呑まれ、顔の色迄青くなり、声も碌々に得立てず、両人の方に向つて手をあはせ、救ひを求めてゐる。 日楯は吾女房を救はむか、八千代姫、照代姫を如何にせむ、照代姫、八千代姫を救はむか、吾妻の生命を如何にせむと去就に迷ひつつあつた。月鉾は『ウン』と一声断末魔の声と共に、其場に打倒れ失心状態になつて了つた。日楯は現在の弟は斯の通り、妻も亦瞬間に迫る生命、救ひたきは山々なれど、先づ八千代姫、照代姫を救ふこそ人たる者の行ふべき道ならむと決心し、あたりに落ち散つたる太き角杭を折るより早く、八千代姫、照代姫を呑みつつある大蛇に向つて、首筋あたりを力限りに打ち据えた。見れば大蛇の影も、女の姿もなく、只月鉾のみ足許に倒れて居た。 日楯『ハテ訝しや』 とあたりを見れば、白髪異様の老人、藜の杖をつき乍ら、木の茂みを分けてのそりのそりと近付いて来る。日楯は直に湖水の水を口に含み、月鉾の面上に注ぎかけた。月鉾は漸くにして正気に復り、あたりをキヨロキヨロ見廻して居る。月鉾の卒倒したのは、ユリコ姫其他二人の大蛇に呑まれたる姿を眺めて驚いた為である。 白髪異様の老人は二人に向ひ、微笑を浮べ乍ら、手招きしつつ老の身に似ず、雲を翔るが如く、向陽山の頂上目蒐けて足早に登り行く。二人は老人の後に従ひ、息を喘ませ乍ら、足の続く限り急ぎ登り行くのであつた。 老人の姿は早くも向陽山を包む白雲の中に消えて了つた。二人は一生懸命になつて一里計り登り行けば、ハタと突当つた大岩石がある。よくよく見れば此岩は鏡の如く日光に照り輝き、三人の女の姿が奥の方に歴然と映つて居る。三女は二人の姿を見て早く来れと手招きをして居る。其距離殆ど二百間計りであつた。兄弟二人は三人の側に行かうとしてあせれ共、鏡の如く透き通つた此岩も、入口は分らず、非常に気を揉んで居る。 ユリコ姫外二人は頻りに早く来れ……と差招く。兄弟は心をいらち、進み入らむとすれ共、硝子の如き岩に突当つて、入口がどう藻掻いても分らない。此時頭の上の方から『天津祝詞』……と云ふ声が聞えて来た。二人はハツと気がつき、直に拍手し、天津祝詞を声もすがすがしく奏上し始めた。 二人の身体は何者にか吸ひ込まるる様に、透明なる岩窟の中に自然に進み入つた。忽ち山嶽も崩るる計りの大音響聞え来ると見る間に、周囲一丈計りの黒色の大蛇、腹の鱗は血にただれ乍ら、十数匹、此岩窟に向つて勢猛く進み来り、兄弟を呑まむと、大口を開けて焦れども、入口の分らざる為、大蛇は外にて残念相に頭を並べて二男三女の姿を眺めて居る。 二男三女は心中に深く神徳を感謝し乍ら、尚も奥へ奥へと進み入る。際限もなき岩窟をもしや蛇の入口を探り、後より追ひ来らざるやと、稍恐ろしさに、知らず知らずに足は意外に早く運びて、終に岩窟の終点に着いた。茲には以前現はれし白髪異様の老人が厳然として立現はれ、一同に向ひ言葉おごそかに、 老人『われは当山を中心として琉、球の夫婦島を守護致す常楠仙人であるぞ。其方は父の難を救ひ且つ国王を始め、数多の人々の苦難を救はむ為に遥々此処に来ること、実に殊勝の至りである。汝等は之より一刻も早く此島を離れ、エルの港より船に乗り、照代姫、八千代姫と諸共に、キールの港に向つて立帰れよ。又汝に与ふべき神宝は、此岩窟の入口にあれば、身魂相応に其一個を所持して帰れよ。さらば』 と言つたきり、老人の姿は煙となつて消えて了つた。五人は爰に於て又もや天津祝詞を奏上し、元来し岩窟の入口に大蛇は帰りしかと気遣ひ乍ら、漸くにして入口を出で見れば、そこに二つの玉と三つの鏡が置いてある。これは最前襲ひ来りし大蛇の所持して居た宝であつたが、余り二男三女の姿を見て恋慕の念を起し、遂に此宝を知らず知らずに体内より脱出し帰つた後であつた。 日楯は日の色に因みたる赤玉を取り、月鉾は白き玉を拾ひ、ユリコ姫、八千代姫、照代姫は光り輝く大中小三個の鏡を各一面づつ拾ひ上げ、押戴いて、道々天の数歌を歌ひ乍ら向陽山を降り行く。 漸くにして大谷川の岸に着いた。さしもの急流容易に渡るべくも見えなかつた。ユリコ姫は大の鏡を懐中より取出し、川の面を照らした。不思議や大谷川の水は板にて堰き止めたる如く横に分かれて、一滴の水もなき道路がついた。二男三女は足早に川中を向うへ渡り後ふり返り見れば、大谷川は依然として激潭飛沫の大急流になつてゐる。これより一同は足を早めて、三日三夜の後エルの港に到着し、繋ぎおきし船に身を托し、日楯、月鉾二人は艪櫂を操り、荒れ狂ふ海原を難なく漕ぎ渡り、漸くキールの港に、夜半の頃安着した。 これより二男三女は一旦玉藻山の聖地に帰り、玉、鏡を安置して、日夜祈願をこらし竜世姫命の神勅の下るを待つて大活動を開始せむと、昼夜祈願を凝らして居た。 二男三女は璽鏡の神宝を手に入れ、意気揚々として、天嶺、泰嶺の聖地には立寄らず、中心霊場なる玉藻山の聖地に立帰り、残存せる誠実なる信徒に迎へられ、璽鏡の宝物を宮殿深く納め、無事凱旋の祝宴を開いた。 マリヤス姫はテーリン姫を伴ひ、嬉し相に此席に列し、二男三女の功績を口を極めて賞揚し、神前に祝意を表する為、自ら歌ひ自ら舞ひ始めた。其歌、 マリヤス姫『天運茲にめぐり来て枯れたる木にも花は咲く 尊き御代となりにけり神代の昔国治立尊は 豊葦原の瑞穂国中心地点と聞えたる 貴の都のエルサレムに無限絶対無始無終の 森羅万象を造り玉ひし天御中主大御神 又の御名は大国治立尊の大御神勅を受けまして 豊葦原の瑞穂国に天津御空の神国の 神の祭政を布かむとし心を千々に砕きつつ 洽く天地神人の身魂の為に尽されし 其神業も隙行く駒のいつしかに曲の猛びに遮られ 尊き御身を持ち乍ら此世を捨てて艮の 自転倒島の秀妻国国武彦と名を変へて 下津岩根の綾錦紅葉の色も紅の 明き神代を建てむとて宣る言霊の一二三つ 四尾の山に永久に五つの御霊を隠しまし 六七しく神代の来るをば待たせ玉ふぞ尊けれ 八千代の春の玉椿九つ花の咲き出でて 十の神代を築きあげ百千万の民草に 恵の露を垂れ玉ふ尊き御代を松の世の 神の心は永久に竜世の姫の鎮まりゐます 此神島に花森彦命を天降し玉ひ顕事 幽事をば真道彦命に依さし玉ひし神事は 千引の岩の動きなく常磐の松の色褪せず 茲に現はれ来りまし国治立大神の 計り玉ひし松の世も今や開くる世となりぬ 真道彦命は黒白も分かぬ窟上の 牢獄の中に投げ込まれ日夜に苦難を嘗め玉へ共 天の岩戸も時来れば忽ち開く世の習ひ 日月潭に現れませる日楯、月鉾両人が 誠心の現はれて御稜威も茲に照彦王の 神の教に導かれ向陽山に登りまし 神変不思議の神術を悟りましたる常楠仙人が 水も洩らさぬ計らひに竜の腮の玉、鏡 二男三女は恙なく身魂相応に授けられ 神徳光る日月潭の中に泛べる玉藻山の 聖地に帰り来ますこそ三五教の教の花の開け口 マリヤス姫も今日こそは心の底より勇み立ち 五の御魂の神人が御国の為に尽してし 誠心を褒め奉り称へ奉るぞ嬉しけれ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひをはり舞ひ終つて、元の座につきにけり。 (大正一一・八・九旧六・一七松村真澄録) |
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霊界物語 | 33_申_玉の御用の完了/高姫と黒姫の過去 | 26 若の浦 | 第二六章若の浦〔九四一〕 秋も漸く高くして四方の山辺に佐保姫の 錦織出し小男鹿の妻恋ふ声を聞き乍ら 心あうたる夫婦連れ国玉別や玉能姫 駒彦さまと諸共に数多の信者に送られて 球の玉をば捧持しつ再度山の山麓に たちたる館を後にして少しは名残を惜しみつつ 生田の森をくぐりぬけ夜を日についで紀の国の 若の浦へと着きにける。 若の浦は昔は豊見の浦といつた。国玉別命が球の玉を捧じ、樟樹鬱蒼として茂れる和田中の一つ島に稚姫君命の御霊を球の玉に取りかけ斎祀つてより、豊見の浦はここに若の浦と改称する事となつたのである。此の島を玉留島と名づけられた。 玉留といふ意義は玉を固く地中に埋め、其上に神社を建てて永久に守るといふ意味である。今は此玉留島は陸続きとなつて、玉津島と改称されてゐる。 此辺りは非常に巨大なる杉の木や楠が大地一面に繁茂してゐた。太い楠になると、幹の周囲百丈余りも廻つたのがあつた。杉も亦三十丈、五十丈の幹の周囲を有するものは数限りもなく生えてゐた。自転倒島に於て最も巨大なる樹木の繁茂せし国なれば、神代より木の国と称へられてゐたのである。 大屋比古の神などは此大木の股よりお生れになつたといふ事である。また木股の神といふ神代の神も大木の精より現れた神人である。 近代は余り大木は少くなつたが、太古は非常に巨大なる樹木が木の国のみならず、各地にも沢山に生えてゐたものである。植物の繊維が醗酵作用によつて虫を生じ、其の虫は孵化して甲虫の如き甲虫族を発生する如く、古は大木の繊維により風水火の醗酵作用によつて、人が生れ出た事も珍しくない。又猿などは随分沢山に発生したものである。 天狗を木精といふのは木の魂といふ事であつて樹木の精魂より発生する一種の動物である。天狗は人体に似たのもあり、或は鳥族に似たのもある。近代に至つても巨大なる樹木は之を此天狗の止まり木と称へられ地方によつては非常に恐れられてゐる所もある。現代に於ても大森林の大樹には天狗の種類が可なり沢山に発生しつつあるのである。 斯の如き事を口述する時は、現代の理学者や植物学者は、痴人の夢物語と一笑に付して顧みないであらうが、併し天地の間はすべて不可思議なものである。到底今日の所謂文明人士の智嚢では神の霊能力は分るものではない事を断言しておく。 さて国玉別、玉能姫は此島に社を造りて、球の宝玉を捧按し、之を稚姫君の大神と斎祀り、傍に広殿を建て、ここにありて三五教の御教を木の国一円はいふも更なり伊勢、志摩、尾張、大和、和泉方面まで拡充したのである。 国玉別は宮殿を造り玉を納めて天津祝詞を奏上し、祝歌を歌ふ。其歌、 国玉別『朝日のたださす神の国夕日のひてらす珍の国 自凝島のいや果てに打寄せ来る荒波の 中に浮べる珍の島下津磐根はいや深く 竜宮の底まで届くなり千引の岩もて固めたる 此珍島は神国の堅磐常磐の固めぞや 皇大神の御言もて琉球島より現れし 球の御玉を今ここに大宮柱太知りて 高天原に千木高く仕へまつりて永久に 納むる今日の目出たさよ此神国に此玉の 鎮まりゐます其限り自凝島はいや固く 波も静かに治まりて青人草は日に月に 天津御空の星の如浜の真砂も数ならず 栄えて行かむ神の国朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも大地は泥にひたるとも 球の御玉をかくしたる此珍島は永久に 水に溺れず火にやけず国の守りとなりなりて 国玉別や玉能姫仕へまつりし功績を 千代に八千代に止むべしあゝ惟神々々 御霊幸ひましまして皇大神の守ります 三五教は天の下四方の国々隈もなく 伊行きわたらひ神人はいと安らけく平けく 五六七の御代を楽しみて鳥獣はいふもさら 草の片葉に至るまで各々其所を得せしめよ 球の御玉に取かけし稚姫君の生御霊 木の神国に鎮まりて押しよせ来る仇波を 伊吹払ひに吹き払へ自凝島は永久に 栄え栄えて神人のゑらぎ楽しむ楽園地 天国浄土の有様をいや永久に保ちつつ 千代に栄えを松緑世はくれ竹の起きふしに 心を清め身を浄め仕へまつらむ夫婦連れ 心の駒彦潔く神の御前に服ろひて 恵も開く梅の花一度に薫る時津風 松の神代の礎を樟の木の根のいや固に 杉の木立のすぐすぐと守らせ給へ惟神 神の御前に願ぎまつる神の御前に願ぎまつる』 と歌ひ終り拍手再拝して、傍の樟の根に腰打かけた。玉能姫は又歌ふ。 玉能姫『南に広き海をうけ東に朝日を伏し拝み 西に二日の月を見る此珍島に畏くも 稚姫君の御霊魂斎きまつりて三五の 神の司の宣伝使国玉別や玉能姫 心の駒彦諸共に大宮柱太しりて 朝な夕なに仕へゆく其神業ぞ尊けれ 天教山に現れませし神伊邪諾大御神 神伊邪冊大御神日の出神や木の花の 咲耶の姫の御言もて天の下なる国々を 開き給ひし神の道神素盞嗚大神の 瑞の御霊は畏くも高天原を退はれて 大海原の国々を巡り給ひて許々多久の 教司を配りつつ数多の神や人々を 教へ導き鳥獣虫けら草木に至るまで 恵の露をたれ給ひコーカス山や斎苑館 綾の聖地に天降りまし仁慈無限の神徳を 施し玉ふ有難さ妾も同じ三五の 神の大道の宣伝使大海原を打渡り 山川幾つふみ越えてやうやく玉能の姫となり 生田の森に年永く仕へまつりし折もあれ 夫の命の若彦は言依別の御言もて 琉球の島より宝玉を捧じて目出たく再度の 山の麓の神館生田の森に帰りまし ここに夫婦は同棲の恵に浴し朝夕に 琉と球との神宝を固く守りて居る間に 玉照彦や玉照姫の貴の命の御言もて 生田の森の館をば高姫司に相渡し 琉の玉をば残しおき球の神宝を捧持して 木の神国に打渡り大海原に漂へる 堅磐常磐の岩が根に宮居を建てて厳かに 稚姫君の御霊とし仕へまつれと宣り給ふ あゝ惟神々々神の御言はそむかれず 住なれかけし館をば後に見すててはるばると 此島国に来て見れば思ひもよらぬ珍の国 木々の色艶美はしく野山は錦の機を織り 川の流れはさやさやと自然の音楽奏でつつ 天国浄土の如くなり殊に尊き此島に 珍の社を建て上げていや永久に守る身は げにも嬉しき優曇華の花咲く春に会ふ心地 皇大神の御恵の深きを今更思ひ知り 感謝の涙しとしとと口には言はれぬ嬉しさよ 稚姫君大御神汝が命は此島に いや永久に鎮まりて普く世人の身魂をば 守らせ給へ惟神神の御前に只管に 玉能の姫が願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終り、永久に此島に鎮まり神業に奉仕する事とはなりける。 (大正一一・九・一九旧七・二八松村真澄録) (昭和一〇・六・一〇王仁校正) |
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霊界物語 | 36_亥_シロの島の物語 | 11 泥酔 | 第一一章泥酔〔九九九〕 ヨール、レツト、ビツト、ランチ、ルーズの一行は瓢の酒に酔ひ潰れ、足をとられて其場に倒れたまま、廻らぬ舌の根からソロソロと下らぬ熱を吹き立てる。酒を飲めば腰を抜かす、愚図をこねる、飲まねば悪事をする、博奕を打つ、女を追ひ掛ける、如何にも斯うにも始末にをへぬ代物ばかりである。 レツト『オイ、兄弟、何といい気分になつて来たぢやないか。舌は適度に縺れて来る、足は舟に乗つた様に地の上に浮いて来た。もう斯うなつては此急坂をセツセと汗を流して、テクの継続事業をやる必要もなくなつたぢやないか……乱雑骨灰落花微塵、煙塵空を捲いて風に散る……と云ふ様な大騒動が起つて来てもビクとも致さぬ某だ。かう巧く酒の神の御守護が幸はひ給ふと、何とはなしに此間の晩のサガレン王の身の上に、一掬同情の涙を濺ぎたくなつたぢやないか。大に多恨の才士をして懐旧の情を起さしむるに足るだ。何と胃の腑の格納庫は充実し、腹中の酒樽は恰も祝詞の文句ぢやないが……甕瓶高知り、甕の腹満並べて赤丹の穂に聞し召せと、畏み畏みも申す……と云つた塩梅式だ。なあヨールの大将、もう斯んな良い気分になつて来ればヨールもヒールもあつたものぢやない。一つ此処でゴロンと木の根に薬罐を載せて一眠りする事にしようかい。枕と云ふ字は木扁に尤と書くのだからな。エー、エプツ、ガラガラガラガラ……』 ビツト『あゝ臭い臭い、チツと心得ぬか、風上に廻りよつて……八月の大風ぢやないが蕎麦の迷惑だぞ。如何やら心の土台がグラつき出して、俺やもうサガレン王様の心がおいとしうなつて来た。何程出世さして呉れると云つても、猫の目の玉ほどクレクレと変る竜雲の親方では、チツと心細いぢやないか』 ヨール『コラコラ、宜い加減に心得ぬかい。それだから余り酒を飲むなと云ふのだ。困つた代物だなア。大事な用を持ち乍ら肝腎の時に酔ひ潰れよつて、何故腹の中と相談して飲まないのだ。身知らず奴が!』 ビツト『エー、八釜しう云ふない。何れ腰が抜けるのだ。サガレン王の御威勢に恐れて腰を抜かすか、酒に酔うて腰を抜かすか、何れ腰を抜かす十分の可能性を具備してるのだよ。人の頭に立つ者は、さう何でもない事を捉まへてコセコセ云ふものぢやないわ。チツと腹を広う持ち、肝玉を太くし、心を大きうしたら如何だ。頭が廻らにや尾が廻らぬと云ふぢやないか。一体ヨールの大将は偉さうに云つてるが腰が立つのかい』 ヨール『事にヨールと立つ事もあり、立たぬ事もあるわ。兎も角大将たるものは自ら働くを要せず、克く人に任じ、大局に当り小事に焦慮らず拘泥せず、部下の賢愚良否を推知して、各其能力を揮はしむるものだよ。人の将たるべき者将に務むべき事は大将の襟度だ。俺あアル中で腰が立たなくても、貴様達を指揮する権能があるのだから、そんな心配をして呉れるな。ただ貴様達は此のヨールの命令に従つて、犬馬の労を執りさへすれば宜いのだ。エーエー、貴様達の面は何だ。四角になるかと思へば三角になり、目玉を七つも八つも十も顔にひつ付けよつて、醜面の包囲攻撃は如何に英雄豪傑のヨールさまだつて、あまりいい気持はせぬワ。チツと配下の奴どもシツカリ致さぬかい。何だ千騎一騎の場合になつて、腰が抜けたの、サガレン王が恐ろしいのと亡国的の哀音を吐き、絶望的の悲哀を帯びた其弱い言霊、実に吾々も斯様な卑怯未練な部下を引ずり出して来たかと思へば、豈絶望の淵に沈まざるを得むやだ……ゲー、ウツ、プ、ガラガラガラ、アヽ苦しい、酒の奴まで大腹川を逆流しだしたワ』 レツト『ヤイ、ヨールの大将、もう徐々と現はれる刻限ですぜ。今にエームスやテーリスの謀反人が出て来たら如何処置する考へだ。それを一つ今の中に決定して置かねば、さあ今となつて、盗人を捕へてソロソロ縄を綯ふ様なへまな事も出来ますまいぜ』 ヨール『何、心配するな。此ヨールさまには一つの考案があるのだ。君子的否紳士的文明的のやり方を以て、力一杯舌の推進機を廻転し、戦はずして敵をプロペラペラと言向和す成算があるのだ。ジヤンジヤヘールの胸中が、貴様達の様なガラクタに分つて堪るかい。何といつても其処はヨールさまだよ』 斯く話す折しも大岩の後の方から声も涼しく謡ふ者がある。五人の奴は余りの泥酔に目も碌に見えず、耳はガンガンと警鐘を乱打した様に、物の音色も弁別がつかない処まで聴音機が狂うて居る。 ヨール『そら如何だ。天は正義に与すると云つてな、俺達の誠忠を憐れみ給ひ、天の一方より妙音菩薩が、此千引の岩の後より天の八重雲を掻き分けて現はれ給ひ、鈴虫か松虫かと云ふ様な美音を放つて酒の興を添へ、疲れきつた精神に新生命を授けて下さるぢやないか。斯うなるとヨールさまも余り馬鹿にならないぞ。アーン』 レツト『何だか知らぬが、俺達には如何も苛性曹達を耳の穴へ突つ込んだ様な気分になつて来たワイ。オイ皆の奴、シツカリせぬか。どうやら怪しいぞ。雨か、風か、はた雷鳴か、地震か、親爺か、火事か、何んだか知らぬが、余りよい気分がせぬぢやないか』 ヨール『八釜しう云ふな。心一つの持ち様で、善言美詞の言霊も悪言暴語に聞えたり、又甘露も泥水の味がしたりするのだ。貴様は余り向ふ見ずに酒を喰ひよつたものだから、聴声器に異状をきたし、こんな妙音菩薩の御託宣が鬼哭愁々然として響くのだ。それよりも胴を据ゑてモ一杯やれ』 レツト『やれと云つたつて瓢箪の奴、早くも売切れ品切れの札を出しよつたぢやないか。何程尻を叩いて見た処で、もう此上は一滴の酒だつて出るものぢやない。百姓と糠袋は絞れば絞る程出ると云ふけれど、是は又如何した拍子の瓢箪やら、蚊の涙程も出て来ぬぢやないか。アーアもう何もかも嫌になつてしまつた。俺はもうサツパリ改心したよ。万々一王様が此処へお越しになつたら、低頭平身七重の膝を八重九重十重二十重に折つてお詫をして、それでも許さぬと仰有つたら首でも刎ねて貰ふ積りだ。乍然俺の首はチツとばかり必要があるから尚早論を主張し、ヨールの素首を代表的犠牲物として刎ねて貰ふのだな。大将となれば、それだけの覚悟がなくては部下を用ふる事は到底不可能だ。なあヨールの大将、吾輩の云ふことがチツとは肯綮に嵌りますかな、否肯定するでせうなア』 ヨール『八釜しいわい。何と冴えきつた音色ぢやないか。サガレン王とか何とか聞えて来る。ヤイモウ宜い加減にシツカリして腰を上げぬかい』 ビツト『何程上げと云つても、此方は万劫末代ビツトも動かぬのだから実に大したものだ。アツハヽヽヽのオツホヽヽヽだ』 歌の声は益々冴え来る。 声(サガレン王、テーリス、エームス)『神が表に現はれて善と悪とを立て別ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直し聞き直し 身の過ちは宣り直す尊き神の御教 曲津の神に迷はされ神地の都に現れませる サガレン王に刃向ひて悪逆無道の罪科を 重ね来りし人々もその源を尋ぬれば 高皇産霊や神皇産霊陰と陽との神々の 水火より生れし者なれば何れも尊き神の御子 時世時節の力にて醜の魔風に吹かれつつ 知らず知らずに罪の淵陥る者も最多し 皇大神も憐れみて罪や穢に染まりたる 其曲人を助けむと朝な夕なに御心を 配らせ給ひ三五の神の教やバラモンの 珍の教を開きまし此シロ島に現れまして 四方を包みし村雲を科戸の風に吹き散らし 闇に迷へる国人を明きに救ひ上げ給ふ あゝ惟神々々神は吾等と倶にあり 心穢き竜雲に媚び諂ひて諸々の 曲を尽せし人々を誠の道の教にて 言向け和し天国の栄えの園に導きて 救ひ奉らむサガレン王の神の命の御心 仰げば高し久方の天津御空に聳り立つ 地教の山も啻ならず天教山に厳高く 鎮まりいます皇神の恵の露は四方の国 青人草は云ふも更鳥獣や草木まで 清き生命を与へつつ神世を永遠に開きます 其功績ぞ畏けれあゝ惟神々々 御霊幸はひましましてビツト、レツトやヨール外 二人の御子を憎まずに救はせ給へ惟神 神の御前に願ぎ奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 助けにや措かぬ岩の前酒の力に倒れたる 五つの身魂に日月の清き光りを与へつつ 誠の道に帰順させ救ひ与へむサガレン王 テーリス、エームス三人連五人の男に打ち向ひ 悟りの道を説き聞かすあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 ヨール『オイ皆の奴等、もう斯うなつちや悪の身魂の年の明きだよ。今の歌を聞いたか。あれを聞いた以上は俺達の耳は爽かになり、心の眼は開き、腹の中は清まり、胸の雲は晴れ、抜かした腰は立上り、手は舞ひ足は踊り、何ともかとも云へぬ天地開明の気分が漂ひ、生れ変つた様になつて来たぢやないか。サア貴様等は何事も俺の云ふ様にすると云つたのだから、今日限り改心をして今迄の悪心を翻し、サガレン王に忠義を尽すのだよ。ヨモヤ俺の言葉に違背する奴はあるまいな』 と廻らぬ舌から、四人の部下に朧気に説き諭して居る。 レツト『誰だつて、悪を好んでする様な大馬鹿者が何処にあるものかい。お前はサガレン王が悪だ、あれをベツトして了はなくちや善の道がたたぬ。竜雲様が誠の善の神様だと、耳が蛸になる程お説教を聞かしたぢやないか。俺アもうかうなつて来ると何方が善だか悪だかサツパリ見当がとれなくなつて来た。一体本当のことはサガレン王が善か、竜雲が善か、と云ふ事をハツキリ聞かして呉れ。善と悪との衝突がなければ、元よりこんな騒動がオツ始まる道理がないのだからなア』 ビツト『こらレツト、そんな劣等な事を云ふな。もとより王様に反抗すると云ふのは悪に決つてるぢやないか』 レツト『それでも貴様、竜雲さまが斯う云つて居たよ。エー、君、君たらずんば臣、臣たるべからず、父、父たらずんば子、子たるべからず、と云はれたぢやないか。それだから俺は竜雲様は本当に偉い神様だと信じて居るのだ。天下国家の救主だから、竜雲様のために働くのは即ち神様の為に働くのだ、国民一般の為に働く善行だと確信して居るから、夜も碌に眠らず捨身的の活動をして居るのだ。誰でも竜雲を悪だと知つたら、其意志に従つて活動する奴があるものかい』 ビツト『君、君たらずとも臣は以て臣たるべし、父、父たらずとも子は以て子たるべしと云ふのが、天津誠の麻柱の大道だよ。如何なる無理難題も甘んじて受けるのが、忠ともなり孝ともなるのだ。そんな貴様の様な小理屈を云つて居ては、何時迄も世の中は無事太平に治まるものぢやないよ』 ヨール『兎も角も、此ヨールさまの命令に服従するのだ。サアこれからサガレン王様にお詫だよ』 一同『はい、仕方がないなア』 (大正一一・九・二二旧八・二北村隆光録) |
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霊界物語 | 36_亥_シロの島の物語 | 24 三六合 | 第二四章三六合〔一〇一二〕 キングス姫は立上り、銀扇を拡げて歌ひ舞ふ。 キングス姫『白雲山の山麓にそそり立ちたる神館 天地を包みし黒雲も今や全く晴れわたり 正義の光は日月の輝く御代となりにけり タールチンの吾夫はサガレン王に見出され 左守の神と任けられて朝な夕なに真心を 尽して仕へゐたりしが何処ともなく降り来る 曲の司の竜雲が舌の剣に貫かれ 其身も危くなりければバラモン教の大神に 朝な夕なに真心を捧げて祈りし時もあれ 心傲ぶる竜雲が妾に向つて恐ろしや 天地許さぬ恋雲の心汚き其艶書 吾背の君の目を忍びいらへをなせと迫り来る 余りの無道に呆れ果て天地に神はなきものか 誠の神のいますなら此黒雲を逸早く 晴らさせ玉へと祈る折吾背の君は側近く 進ませ玉ひて竜雲が艶書を見せよと恥かしや 迫りますこそ是非なけれ顔赤らめて竜雲が 心乱れし艶書を吾背の君に相渡し 夫婦和合の謀計茲に返書を認めて 恋に迷ひし竜雲を夏風涼しき藤の森 大木の下に誘ひつ企みも深き陥穽 道の真中に相穿ち今や遅しと待つ内に 神ならぬ身の竜雲はかかる企みのある事を 夢にも知らず夜に紛れ館を一人立出でて 恋しき女の只一人空を眺めてわれ待つと 思ひ詰めたる愚さよ竜雲忽ち坂路に 吾背の君の穿ちたる無残や穴におち込めば 木蔭に潜みしタールチン君の仇をば滅すは 今此時と勇み立ちかねて用意の鍬をもち 苦しみ悶ゆる竜雲の頭の上よりバラバラと 岩石交りの土塊を蔽ひかぶせて何気なく 吾家をさして帰りけり悪運尽きざる竜雲は 思ひ掛なくエームスの神の司に助けられ 命カラガラ城内に慄ひ慄ひて立帰り あくるを待つてエームスを吾側近く呼び出し 汝はわれの危難をば救ひし功績はよみすれど タールチンやテーリスと心を協せて吾身をば ベツトせむとの企みなりかくなる上は一時も 容赦はならぬと言ひ放ち情容赦も荒縄に 手足を縛りて牢獄に投込みけるぞ無残なれ あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 吾等夫婦は牢獄に捕へられたる身乍らも 少しの苦痛も感じなく神の賜ひし吾魂は 天地を広く逍遥し東雲近く旭かげ 昇らせ玉ひて六合を照らさむ時を待つ内に アナン、ユーズの神司義兵を起して城内に 鬨を作つて攻め来る其勢ぞ勇ましき 吾等夫婦は忠勇の神の司に助けられ サガレン王の隠れます小糸の里の岩窟に 暫しかくれて竜雲を誅伐せむと謀計 めぐらす折しも三五の神の司の宣伝使 北光神の現れまして神の誠の御心を 完美に委曲に説き諭し心にかかりし村雲を 洗ひ玉ひし嬉しさよサガレン王を始めとし 君子の姫や清子姫吾背の君やエームスや テーリス、ウインチ、ゼム、エール百の司と諸共に 言霊軍を編成し風に旗をば翻し 旗鼓堂々と山路を単縦陣をはり乍ら 攻めよせ来りし勇ましさ又もや北光彦神 ここに現はれましまして善悪正邪の道を説き 敵と味方の隔てなく心の空の村雲を 伊吹払ひて救ひまし神人和楽の瑞祥を 八尋の殿に集まりて祝ぎまつるぞ嬉しけれ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令命はすつるとも神の御為国の為 心尽しの大丈夫が神と君とに捧げたる 其真心は永久に千引の岩のいや固く 千代も八千代も動かざれ神は吾等を守ります 吾等は神の子神の宮神に等しき行ひを 現はしまつり世の人を神の大道に導くは 神の司と任けられし吾等の尊き務めなり 国治立大神や塩長彦大御神 大国彦の御前に真心捧げて願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 エームスは立上り祝歌を謡ふ。 エームス『常世の国の自在天大国彦を祀りたる バラモン教の神館顕恩城にあれませし 大国別の貴の御子国別彦の吾君は 心汚き曲神に虐げられて聖地をば 後に見すててはるばると百の悩みに堪へながら 大海原を乗越えて波に浮べるシロの島 珍の御国に着き玉ひバラモン教の大道を 心をつくして遠近に開かせ玉ふ有難さ セイロン島の国人は君の御徳を慕ひつつ 遠き近きの隔てなく集まり来りて大神の 恵に浴し吾君の其仁徳に感激し 遂には君を王となし大峡小峡の木を伐りて 珍の館を建設しサガレン王と奉称し 主師親三徳兼備せる神の司よ大君と 上下一般喜びて仕へまつれる時もあれ 醜の魔風のふきすさび隙行く駒の恐ろしく 城内深く侵入しケールス姫を手に入れて ウラルの教を隈もなく此国内に拡めむと 企みし曲津の竜雲が天運ここに相尽きて 今は全く旧悪を吾大君の御前に つつまずかくさず言上し救ひを求むる世となりぬ 思へば思へば過ぎし夜半月見をせむと藤の森 峰に上りて吹き来る夜風に汗を拭ひつつ 月の光をほめながら坂道下る折柄に 辷り落ちたる陥穽訝しさよと窺へば 思ひもかけぬ人の声こは何者の悪業か おちたる人は何人と供を家路に走らせて 鋤や鍬をば数多く使ひて漸く救ひ上げ 月にすかして眺むれば豈計らむや朝夕に 君に仇する曲津神心汚き竜雲と 悟りし時の残念さ斯うなる上は是非もなし 天地の神の御心に任さむものと断念し 家路に帰り一夜さを明かす間もなく竜雲が 捕手の奴に捕へられ案に相違の牢獄に 投込まれたる無念さよあゝさり乍らさり乍ら 神は至愛にましませばいかでか悪魔の竜雲を 見のがし玉ふ事やあるあゝ待て暫し待て暫し 心を清め身を清め尊き神の御救ひに これの牢獄をぬけ出しサガレン王の御為に 八岐大蛇の宿りたる醜神たちを悉く 神の伊吹に吹き払ひ清明無垢の聖場と 立直さむは目のあたりあゝ惟神々々 大国彦の御神よわれらが尽す誠忠を 憐み玉へと祈る折アナン、セールやウインチや ゼムの司が時を得て義勇の軍を編成し 進み来りて吾々を救ひ玉ひし嬉しさよ 勇気はここに百倍し勢込んで竜雲が 居室をさして進み行くあはれやユーズを始めとし アナン、セールやシルレング誠の司は室内の 俄作りの陥穽におち入り玉へば諸人は 曲の巣くへる此館深入りするは虞あり 一先づここを引返し再び軍備をととのへて 彼竜雲が輩を剣の威徳に斬りはふり 殲滅せむといひ乍ら軍を返すもどかしさ あゝ惟神々々神の此世にましまさば 悪を退け善神を何故助け玉はざる などと愚痴をばこぼしつつ思ひ思ひに一同は 一先づ姿をかくしけるサガレン王はテーリスや エームス二人に助けられ河森川の坂道を 下りて時を松浦の小糸の里に至りまし 正義の勇士を駆り集め再び竜雲誅伐の 準備をすすませ玉ふ折北光彦の神司 鳩の如くに降りまし続いていでます君子姫 清子の姫の宣伝使吾大君と諸共に 心を協せ御力を一つになして宣伝歌 歌ひて進む勇ましさ神の恵の幸はひて 今日の喜び松の世の堅磐常磐の礎を 築き玉ひて永久に白雲山の雲もはれ 神地の都の庭固く千引の岩の其上に 千代の住処を固めつつ神を敬ひ民を撫で 治め玉はむ今日の日は五六七の御代の開け口 一度に開く木の花の咲耶の姫の御姿 蓮の花の一時に匂ひ出でたる目出度さよ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 此の外数多の神司の祝歌は沢山あれども、紙面の都合に依りて省略したり。 因にサガレン王は天の目一つの神の媒酌に依り、君子姫を娶つて妃となし、シロの島に永久に君臨する事となりぬ。又エームスは目一つの神の媒酌にて清子姫を娶り、サガレン王が側近く右守神となつて、顕幽一致の神政に奉仕し、ケールス姫は悔い改め、天の目一つの神の弟子となり、宣伝使を許されて天の下四方の国々を巡教し、竜雲は此島を放逐され、本国印度に帰り、心を改めて大道の宣伝に従事せしといふ。惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・九・二四旧八・四松村真澄録) |
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霊界物語 | 39_寅_大黒主調伏相談会/言霊隊の出発 | 14 清春山 | 第一四章清春山〔一〇七九〕 フサと月との国境に屹山せる半禿山の山奥に大岩窟を構へて、バラモン教を開設し、一方無暗に地方民の生産物を暴力を以て奉納せしめ、驕慢日に募り怨嗟の声は地上に充ちてゐる。バラモン教の宣伝使は清春山の部下に限り、左手にコーランを持ち右手に剣を携へて無理往生に信仰を強要しつつあつた。 照国別は照公、梅公の両人と共に、河鹿峠を難なく打越え清春山の山麓にさしかかる時しもあれや、俄に谷底に聞える女の叫び声に一同立止まり暫し首を傾けてゐた。叫び声は益々烈しくなつて来た。只事ならじと照国別一行は悲鳴を尋ねて谷底に近寄り見れば、大の男四五人、女を後手に縛り打擲してゐる。人を助くる宣伝使、これが見すてておかれやうかと、宣伝歌を歌ひ乍ら其場に間近くかけつけた。五人の荒男は三人の姿を見るより、あわてふためき、女をそこに残して、チリヂリバラバラに思ひ思ひの方へ逃げて行く。照国別は女の側近く立寄り、 照国別『吾々は三五教の宣伝使、此街道を通る折しも、俄に女の叫び声、コリヤ何事か惨劇が演ぜられてゐるのであらう、何は兎もあれ助けねばなるまいとここ迄尋ねて来たもの、最早吾々が現はれた以上は大丈夫だから、御安心なされよ』 と親切に労はれば、女は目をしばたき、 女(菖蒲)『ハイ、有難う厶います、ようマア危急存亡の場合をお助け下さいました。これと云ふのも全く神様のお助けで厶いませう。何を隠しませう、妾は三五教の信者、兄の行方を尋ねて巡礼する者、女の一人旅、ここ迄参りますとバラモン教の連中に取巻かれ、高手小手に縛められ、無体の要求に立腹の余り、口を極めて罵つてやりました所、五人の男は大に怒り殺してくれむと四方八方より、刀の鞘にて体一面所かまはず、突いて突いて突きまはし、苦痛に堪へかね、卑怯にも悲鳴を上げた所で厶います。よくマアお助け下さいました』 照国別『それは危い事、マアマア安心なさい。オイ、照公、梅公、此婦人の縛を解け』 『ハイ』と答へて両人は手早く縛をときにかかつた。 照公『何とマア惨酷な縛りやうだ。藤蔓で肉にくひ入る様に縛つてゐやがる』 と言ひ乍ら守刀をスラリと引ぬき、蔓を切り放し、女を漸くにして縛よりとき放つた。 女(菖蒲)『おかげで安心致しました。あなたは三五教の宣伝使様、私はコーカス山に参り或動機より三五教の信者になつた者で厶います。私の兄は梅彦といつて盤古神王様の教を伝ふべく、竜宮の一つ島へ参つたきり、今に行方が判りませぬ。父母はそれを苦にして最早世を去り、後に残つた妾は只一人、家にゐる事も出来ず、噂に聞けば、三五教の宣伝使に梅彦といふ方があると承り、コーカス山に元は信者と化け込んで様子を探る折しも、いつとはなしに三五の教理が有難くなり、とうとう誠の信者となつて了ひました。承はれば兄の梅彦は自転倒島とやらへ宣伝使となつて参つたと云ふこと、そして日出別の神様のお弟子になつた事まで承はり、斎苑の館の日出別様にお目にかかり、兄の所在を尋ねむと、アーメニヤを後にはるばる此処まで参る途中に、悪者に出会つてかかる憂目に会うた所で厶います。此近くには清春山といふ高山があつて、其山奥に大足別といふ悪神の大将が巣窟を構へて居りまする。其部下共に捉へられ、大足別の女房になれよとの無体の要求に腹を立てこんな憂目に会うてゐた所、よくマア助けて下さいました。たつた一人の兄妹を尋ねて参る憐れな女で厶います。あなた様も三五教の宣伝使と承はりましたが、梅彦の所在は御存じでは厶いませぬか』 照公『ヤア其梅彦とやら梅公とやら云ふ男は此処にザツと一対居られますよ』 女(菖蒲)『エヽそれは本当で厶いますか』 照公『梅公といふのは此男、照国別の宣伝使は今迄梅彦さまと言つてゐました。ナアもし宣伝使様、あなたは何時やら、一人の妹があると仰有つたやうに覚えて居ります。ヨモヤ此お方ではありますまいか、三日月眉毛にクルリとした目の具合、よく似て居りますで』 梅公『ホンにホンに似たりや似たりや、瓜二つだ。何と云つても照国別様の妹に違ない』 照国別は黙然として女の顔をマジマジと眺めてゐる。女も亦宣伝使の顔を穴のあく程首をかたげ乍ら見つめてゐた。暫くあつて女は思ひ切つた様に、 女(菖蒲)『あなたは兄上ぢや厶いませぬか、お懐かしう存じます』 照国別『お前の幼名は何と云つたか』 女(菖蒲)『ハイ私の幼名は菖蒲と申しました』 照国別『そんなら擬ふ方なき吾妹、ようマア無事でゐてくれた。併し乍ら海山の御恩深き御両親は、此梅彦の事を苦にやんでお国替なさつたか、アヽ残念やなア。如何して両親に申訳が立たうか、余り神様のお道に一生懸命になつて今迄両親の事や妹の事を忘れてゐた。妹、どうぞ許してくれ』 菖蒲『勿体ない兄上様、許すも許さぬも厶いませぬ、斯うなる上は最前申しました事は取消します。実の処は吾々の両親は清春山の岩窟に捕はれて居るさうで厶います。要するに私を女房にくれよと、バラモン教の大足別が幾度となく使を遣はしましたなれども、教理が違ふので、両親はやらぬと申しますなり、私も兄上に巡り会うた上でなければ、返答は出来ないと申してゐましたら、何時の間にやら、私の山に行つてゐる不在中に、両親をかつさらへて、清春山の岩窟に立帰り、私に女房になるならば、両親の命を助けてやらう、さなくば両親を殺して了うとの悪虐無道の掛合、両親も最早三五教の信者となつた以上は、何程苦しき責苦に会うても、バラモン教には降伏せないと頑張つて居りましたから、さぞ今頃は悪神の為に苦んでゐる事でせう。私は心も心ならず、何とかして兄上の所在を尋ね兄妹力を合せて両親を救ひ出さむと、斎苑の館へ進む途中で厶いました』 とワツと許りに声をあげて泣き倒れる其憐れさ。照国別は吐息をつき乍ら落涙に沈んでゐる。 照公『ヤア菖蒲様、あなたの今のお話で、何もかもハツキリ致しました。サアこれから宣伝使様のお供して、清春山の征伐に向ひませう』 照国別『神素盞嗚大神より大切な使命を受け乍ら、如何に両親の危難を救ふとは云へ、使命も果さずに、そんな私上の事は致されまい、ハテ困つたことだなア。両親を救はむとすれば、大神の使命が遅れる、神の命に従はむとすれば両親の身の上はいかに成行くかも計られない。ハテ困つた事が出来たワイ』 梅公『モシ宣伝使様、何程御神命なればとて、途中に悪者のために虐まれてゐる者があれば、これを見のがして行く事は出来ますまい。却て世界を救ふ宣伝使の職務に反するもので厶いませう。谷底の叫び声を尋ねて、ここへ道寄りしたも同じ事、そんな斟酌は決していりますまい、サア早く清春山征伐に参りませう』 照国別『お前のいふのも一応尤もだ。そんならすまぬ事乍ら、両親の危難を救ふ事に致さう』 菖蒲『兄上様、有難う厶います。そんなら私が先導に立ちます。最早之から三里ばかり奥まで行けばそこが敵の岩窟否御両親の捉はれ場所、かういふ内にも心が急ぎます。サア早く行つて下さい』 照国別『そんなら照さま、梅さま、御苦労だが一緒に来てくれるか』 両人『ハイあなたのお供だもの、どこへでも参ります』 照国別は二人の言葉に勢を得、一行四人山奥の岩窟さして、天津祝詞をひそかに奏上し乍ら尋ね行く。菖蒲は道々歌ふ。 菖蒲『神が表に現はれて善と悪とを立別ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直せ聞直せ 世の過は宣り直せ此御教は三五の 尊き神の御託宣とは云ひ乍ら両親を 悪魔の司に奪はれてどうして見直し聞き直し 宣り直す事が出来ようか山より高き父の恩 海より深き母の恩報い返さでおくべきか 神は吾等と共にあり三五教の宣伝使 照国別とはわが兄と分りし時の嬉しさよ 曲津の神は多くとも悪魔の猛びは強くとも いかでか恐れむ三五の誠一つの神司 仁義の軍に如何にして刃向ふ術のあるべきぞ 照国別を初めとし照さま梅さま菖蒲まで 心を合せ力をば一つになして進むなら 大足別の醜神が何程手下は多くとも 旭に露の消ゆる如亡び行かむは目のあたり あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 曲津の神に苦みし父と母との生命を 救はせ玉へ惟神神の御前に願ぎまつる 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも三五教に仕へたる 女心の一すぢに岩をも射ぬく吾覚悟 言向和さでおくべきか照国別の神司 神の力をうけ玉ひ今は立派な宣伝使 其風采も何とやら高尚優美に変りまし 昔の面影どこへやら英雄君子の御姿と ならせ玉ひし尊さよあゝ惟神々々 思ひの晴るる今や時花さく春の至る時 アヽ勇ましや勇ましや大足別は強くとも 神の力に如かざらむ清春山は高くとも 此谷路はさかしともなぞや恐れむ三五の 誠一つの言霊に言向和しバラモンの 砦にひそむ醜神をまつろへ和さでおくべきか あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ乍ら登り行く。梅公は後より歌ふ。 梅公『三五教の宣伝使照国別に従ひて 河鹿峠を打わたりいろいろ雑多と面白き 景色をながめ来てみれば千尋の谷間に「ウントコシヨ ヤツトコドツコイきつい坂」グヅグヅしてゐちや危いぞ キヤツと一声「ウントコシヨけたたましくもドツコイシヨ」 女の叫び声がする照国別に従ひて 声を尋ねて来てみれば思ひもよらぬ菖蒲さま 兄妹名乗りをあげ乍ら二人の親の御難儀を 救はむ為と勇みたち此山坂を上り行く 其いでたちの勇ましさ「ウントコドツコイ、ハーハーハー」 本当にきつい坂路ぢやコレコレまうし菖蒲さま 足元用心なされませここには蛇や蜈蚣めが 沢山路に横たはり手具脛引いて待つてゐる 此奴も矢張りバラモンの大足別の醜魂 蛇や蜈蚣となりかはり害を加へて「ドツコイシヨ」 困らしやらむと待つのだろ虫一匹と言うたとて 決して油断はなりませぬ「ウントコドツコイドツコイシヨ」 これ程きつい山路を越えて行かねばならぬよな 山奥深き岩窟に潜んでゐる奴あ「ドツコイシヨ」 ロクな奴ではあるまいに本当に力があるならば 正々堂々と広原に館を構へてゐるだらう 獣もロクに通へない此谷路のドン奥に 鳥なき里の蝙蝠を気取つてゐやがる馬鹿神は どうで弱虫腰抜の張本人に違ひない 脾肉の歎にたへかぬる梅公さまが只一人 あつたら「ドツコイドツコイシヨ」バラモン教の奴原を 片つ端からなで切りにするのは手間暇いらね共 ヤツパリ一人は危いと直日に見直し宣直し 四人一度に上り行く力が余りて仕様がない 千引の岩もて鶏の玉子をわるより易からう あゝ面白い面白い清春山はまだ来ぬか 何をグヅグヅしてゐるぞアタ邪魔臭い邪魔臭い ヤツパリ俺がてくらねば山はどうしても動かない 「ウントコドツコイドツコイシヨ」向ふに見ゆる黒煙 どうやらあこが岩窟ださぞ今頃は御両親 われ等の到るを待ちかねて厶るであらう「ドツコイシヨ」 悪のみたまの年のあきいよいよこれから正念場 進めや進めいざ進め照国別や菖蒲さま 照公さまも潔く駒に鞭打ち進みませ それそれそこに高い石遠慮会釈も「ドツコイシヨ」 知らぬ顔して立つてゐる一時も早く岩窟に 進んで曲津の首をば片つ端から切りおとし 勝鬨あげて三五の教を照らし世の人の 悩みを救ひ助くべしあゝ惟神々々 御霊幸はひましましてわれ等一行四人づれ 神の御為世の為に雄々しき功績をたてぬいて 二人の親の生命を救ひて月の都まで 進ませ玉へ大神の御前に慎みねぎまつる』 と歌ひ乍ら、勢よく秋風に吹かれつつ谷間を登り行く。 (大正一一・一〇・二八旧九・九松村真澄録) |