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書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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霊界物語 | 11_戌_コーカス山の大気津姫退治 | 16 大気津姫の段(二) | 第一六章大気津姫の段(二)〔四八三〕 『時に速須佐之男命、其の態を立伺ひて、穢汚もの奉るとおもほして、乃ち其の大気津比売神を殺したまひき』 鼻、口、尻なる衣食住の非理非道的に進歩発達したる為に、生存競争の悪風、天下に吹き荒み、その結果は、遂に近来に徴すれば、欧洲大戦争の如き惨状を招来し万民皆塗炭に苦しむの現状は、所謂『穢汚もの奉進る』の実例である。試みに考へて見よ。天地も崩るる許りの大騒動、大戦乱の砲声殷々たる惨状が漸く鎮静したかと思へば、忽ち世界を挙げて囂々たる社会改造の声と化し、一瀉万里、何の国境もなく、雷電の轟き閃くが如く、今や我皇国にも轟き渡つて来たのである。最近起りつつある生活問題も、労働問題も、思想問題も、要するに生活難の響きに起因するのである。只単なる世界の思潮に刺戟せられた一時的の現象であるかと云ふに、決してさうでない。如何に世界的思想であらうが、如何に好事者の巧妙なる煽動、乃至教唆であらうが、国民の要求に於て痛切に感ずる所が無ければ、決して共鳴するものではないのである。故に是を一時的の現象位に思つて、冷然として袖手傍観し、為政者や学者たるものが、何等の反省もせず且又其の起るべき根本の原因を究めずして、狼狽の余り、急速に之を防止しようとして徒に圧迫を加へたりすると、ますます紛糾して、終には救ふ可からざる一大禍乱を激発せないとも限らない。これ実に指導の任に当れる政治家、宗教家、教育家、および有志家の考慮し、奮起し、以てその大原因たる大気津姫から根絶改良せねばならぬのである。大気津姫を殺さむとする、現代の所謂改造の叫びは、何が大原因となつて、天下の人民の多数者が、斯の如く猛烈に共鳴心随するかと謂へば、一つに鼻、口および尻なる衣食住の生活問題に帰するのである。人間の苦しみの最大なりとするものは貧窮である。即ち衣食住の三類の大欠乏である。日々の新聞を見ると、貧苦の為に身を淵川に投げたり、首を吊つたり、鉄道往生や毒薬自殺をしたり、発狂したり等の悲惨事は日に月に増加して居るのである。之を見ても、貧苦と云ふものは、死するよりも辛い苦しいといふことが明かである。死ぬよりつらい処の貧苦を免れんが為に、ここに激烈なる生存競争が起つて来る。其の結果は優勝劣敗弱肉強食と云ふ、人生に於ける惨澹たる餓鬼道の巷となつて来たのである。体主霊従、利己主義の結果は、徳義もなければ、信仰も無く、節操も無く、勝者たる大気津姫神は常に意気傲然として、入つては大廈高楼に起伏し、出ては即ち酒池肉林、千金を春宵に散じて、遊惰、安逸、放縦を之れ事として、天下に憚らない。一方には劣者たる貧者は、営々として喘ぎ、尚ほ且つ粗雑なる食に甘んじ、以て漸くその飢ゑたる口腹を満たすに足らず、疲憊困倒して九尺二間の陋屋に廃残の体躯を横へ、空しく愛妻愛児の饑餓に泣くを聞いて居る。その心情は富者勝者の到底夢裡にだも窺知すべからざるの惨状である。古諺に曰く、『小人窮して乱を為す』と、終に或は非常識となり、軌道を逸し、身投げ、首吊り、または監獄行きを希望するに至るのである。又これが群衆的の行動となる時は、大正七年の米騒動や、進むでは焼打暴動ともなり、同盟罷工や、怠業的行動ともなり、日比谷運動や、革新的気分ともなるのである。故に恐るべきは、この結果を醸成する所の生活問題である。之を閑却して、思想の悪化や労資の衝突を防止せむとして、如何に政治家や、教育家や、宗教家が力説怒号して見た所で生命の無い政治家や、宗教家、教育家の力では、容易にその効果の現はるるものではない。故に大本は、神示に依りて明治二十五年以来、是が救済の神法を、天下に向つて指導しつつあるのである。古来名君と仰がれ、賢相と謳はれた人々は国民生活の安定を以て、先決問題としたのである。而して一方に於ては、宗教と教育の権威を発揮して以てその無限の欲を塞ぎ、その奢侈を矯め、公共心の涵養に務め、貧富の平均を保つて来たのである。既に生活の安定さへ得れば、民の之に従ふや易しで、喜びて善に向ふものである。要するに、現代の生活問題を、根本的に改善せむとするには、どうしても、大気津姫の改心に待たなければならぬのであります。 『種々』と云ふ事は、臭々の意味であつて、現代の如く、一も二も無く、上下一般に四足動物を屠殺しては舌鼓を打ち、肉食の汚穢を忌み、正食のみを摂つて、心身の清浄を保つてゐる我々大本人を野蛮人民と嘲笑するに立到つたのは、心身上に及ぼす影響の実に恐るべきものがあるのである。肉食のみを滋養物として、神国固有の穀菜を度外する人間の性情は、日に月に惨酷性を帯び来り、終には生物一般に対する愛情を失ひ、利己主義となり、かつ獣欲益々旺盛となり、不倫不道徳の人非人となつて了ふのである。虎や狼や、獅子なぞの獰猛なるは常に動物を常食とするからである。牛馬や象の如くに、体躯は巨大なりと雖も、極めて温順なるは、生物を食はず、草食または穀食の影響である。故に肉食する人間の心情は、無慈悲にして、世人は死なうが、倒れやうが、凍て居らうが、そんな事には毫末も介意せない。只々自分のみの都合をはかり、食色の欲の外天理も、人道も、忠孝の大義も弁知せない様に成つて了ふのである。斯う云ふ人間が、日に月に殖ゑれば殖ゑる程、世界は一方に、不平不満を抱くものが出来て、終には種々の喧しき問題が一度に湧いて来るのである。為政者たるものは、宜しく下情に通ずるを以て、急務とし、百般の施設は、之を骨子として具体化して進まねばならぬのである。素盞嗚尊は止むを得ずして、天下の為に大気津姫命を殺し玉ひ、食制の改良を以て第一義と為し玉うたのである。西郷南洲翁は、政とは、情の一字に帰すると断じ又孟子は、人に忍びざる心あれば茲に人の忍びざる政ありと云つて居る。然るに為政者は、果してこの心を以て、之に立脚して社会改良を企画しつつあるであらう乎。政治家なるものを見れば、徹頭徹尾、党閥本位であり、権力の闘争であり、利権の争奪である。斯の如き勢利のみに没頭せる人間に依つて組織され、運用される政治なるものは、因より国利民福と没交渉なるべきは、寧ろ当然であらうと思ふ。斯の如き世界の政治に支配されつつある国民が、不安の終極は、改造の叫びと成つて来るのは之も当然かも知れぬ。併し乍ら斯の如き肉食尊重、利己主義一遍の政治家を推選したる国民は全く自業自得にして、神界の戒めである。自ら火を採つてその手を焼いた様なものである。アヽ一日も早く皇祖の御遺訓と御事跡に鑑み、上下挙つて日本固有の美風良俗に還らねば、到底現代の不安、暗黒の社会を改良し、以て神国の一大使命を遂行する事は出来ないのである。先づ何よりも、大本神諭に示させ玉へるが如く、第一に肉食を廃し身魂を清めて、神に接するの道を開くを以て、社会改良の第一義とせねばならぬのであります。 (大正九・一・一六講演筆録松村仙造) |
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霊界物語 | 11_戌_コーカス山の大気津姫退治 | 18 琵琶の湖 | 第一八章琵琶の湖〔四八五〕 さしもに寒き冬の日も何時しか暮れて春霞 靉く時を松代姫神徳薫る梅ケ香の 姫の命の宣伝使三人の随伴を引連れて 魔神の猛ぶコーカスの山の神達悉く 神の御水火に言向けて三五教を開かむと 夜を日に継いで雪の路ゆき疲れたる膝栗毛 心の駒もはやりつつ早くも琵琶の湖の辺に 月照る夜半に着きにけり明くれば広き琵琶の湖 浪に漂ふ汐干丸朝日を受けてコーカスの 御山を指して走り行くコーカス山の山颪 降る雪さへも交はりて歯の根も合はぬ寒空に 神の恵の暖かき救ひの船と喜びつ 言霊清く琵琶の湖浪音立てて進み行く。 琵琶の湖には松島、竹島、梅島といふかなり大きな島がある。松島は全島一面に鬱蒼たる松樹繁茂し、竹島は斑竹一面に発生してゐる。さうして梅島には草木らしきものは一つもなく、殆ど岩石のみ屹立した島である。 船は漸くにして梅島の麓に着いた。断岸絶壁、紺碧の湖中に突出し、見る者をして壮烈快絶を叫ばしむる絶景である。この島には天然の港がある。折しも風波激しければ、岩窟の港に船を横たへて、暫く此処に天候の静穏になる日を待つ事とした。 是より三日三夜颶風荐りに至り、波高く、已むを得ず三日三夜を岩窟の港に過す事となつた。船客は百人許りも乗つて居る。船の無聊を慰むる為に、彼方にも此方にも歌を歌ふ者、雑談に耽る者が現はれた。船中の客は七八分まで鑿や鉋や槌などの大工道具を持つて居る。時公は四五人の男の車座となつて、何事か雑談に耽つて居る前に胡床をかき、 時公『一寸お尋ね致します。この船のお客さんは大抵皆大工さまと見えますが、これ程多数の大工が何処へ行かれるのですか』 甲(馬公)『俺は黒野ケ原から来た大工だが、これからコーカス山に引越すのだ』 時公『コーカス山には、それ程沢山の大工が行つて何をするのですか』 乙(牛公)『お前さんは、あれ程名高いコーカス山の御普請を知らぬのか。ソレハソレハ立派な御殿が、彼方にも此方にも建つて居る。さうして今度新しい宮さまが建つのだ。それでコーカス山の大気津姫とかいふ神様が家来をそこら中に配置つて、遠近の大工を御引寄せになるのだ。ヤツコスやヒツコスやクスの神が毎日日日、コーカス山に集まつて大きな都が開けて居るのだよ』 時公『ヤツコス、ヒツコス、クスの神とはソラ何ンだ。妙な者だナ』 乙(牛公)『お前何にも分らぬ男だな、大きな図体をしやがつて、それだから独活の大木、柄見倒しといふのだ、大男総身に智慧が廻り兼ねだ。マアわしの言ふ事を聞いたが宜かろう。山椒は小粒でもヒリリと辛いといふ事がある、俺はお前に比ぶれば根付の様な小さい男だが、世界から、あの牛公は牛の尻だ牛の尻だと言はれて居るお方だぞ。どんな事でも知らぬ事はやつぱり知らぬ、知る事は皆知つとる。聴かして欲しければ胡床をかいて傲然と構へて居らずに、チンと坐つて、御叮嚀にお辞儀せぬかい』 時公『アヽ仕様ないなア。マア辛抱して聞いてやらうかい』 牛公『開いた口が塞がらぬ、牛の糞が天下を取ると云ふ譬を知つとるか。何でも、三五教の小便しいとか大便使とかいふ奴が、こないだ、そんな事云つてコーカス山へ行きやがつて、頭から糞かけられて、今ではアババのバアぢや。アツハヽヽヽ』 時公『随分前置きが長いなア』 甲(馬公)『モシモシ貴方、そんな奴に物を聞いたつて何が分りますか。此奴は何時も猿の人真似で、偉さうに威張るのが芸だ、モウあれ丈云つたら後はないのです。私が何でも知つてますから、分らぬ事があれば問うて下さい。三五教の宣伝使ぢやないが、大は宇宙の真相から小は虱の腸まで能く御存じの馬さまだ。あなたも牛を馬に乗替へて、牛の尻の物知らずの牛糞の言ふ事は、テンから取上げぬが宜しい。馬さまがウマく説明して上げます』 牛公『コラコラ、モウ止めぬか、馬鹿な奴、コレコレ大きなお方、彼奴のウマい話に漫然乗らうものなら、牛々いふ様な目に遭はされて馬鹿を見ますで……』 馬公『コラ牛公、何を吐かしやがるのだ。他人の事に横槍を入れやがつて……』 丙(鹿公)『オイオイ、貴様達は牛飲馬食と云つて、酒計り喰つて飯は五人前も十人前も平気で平げやがつて、腮ばつかり達者な法螺吹きだ。この鹿さまはその名の如くシツカリとして御座る鹿さまだ』 牛公『鹿公、貴様は鼻ばつかり高くしやがつて、下らん事を能う囀るから、彼奴はハナシカだと云うて居るぞ、大工のやうな事は職過ぎとる。モシモシ大きな男のお方、此奴の言ふ事は皆落話で、聞落し、言ひ落し、見落し、人嚇し、烏嚇しの様なものです。聞かぬが宜しいで』 鹿公『愚図々々吐かすとシカられるぞ』 牛公『牛と見し世ぞ今は悲しき、といふ様な目に会はしたろか。鹿がシカみついてやつた。ナンダ蟹の様なシカ見面をしやがつて、牛の尻もあつたものかい』 時公『ヤ、モウモウ牛さまの話で馬鹿を見ましたワイ。本当に旅をすると、馬鹿々々しい目に会うものだ。この島ぢやないが、ウメイ話はないかい』 丁(虎公)『ありますともありますとも。コーカス山にマア一寸登つて見なさい、美味い酒は泉の如くに湛へられてある。肉は沢山に吊下げてある。それはそれは酒池肉林だ』 馬公『コラ虎公、なんぼウメイ物があつても、話丈では根つから気が行かぬぢやないか、其奴は皆八王や奇の神が食ふのだ。貴様達は指を銜へて、朝から晩までカンカンコンコンとカチワリ大工をやつて、汗をかいて汗の脂を舐つとる位が関の山だ。ヒツコスはヒツコスで引込んどれ』 時公『ヤ、其ヤツコスとかヒツコスとか云ふのが聞きたいのだ』 虎公『八王といふのは、世界中の贅沢な奴が沢山な金を持ちやがつて、ウラル姫とか常世姫とか云ふ偉い贅沢な神が、大けな尻を振りやがつて大尻姫などと言つてる。その家来が皆家を持つて家を建てて方々から移転して来るのだ、それをヤツコスと云ふのだ。昔は十二も八王とか、八王とか云つた偉い神さんが、天山にも、青雲山にも、鬼城山にも、蛸間山にも、その外にも沢山あつたさうぢやが、今度の八王はそんな気の利いた八王ぢやない、利己主義の、人泣かせの、財産家連中の楽隠居をするのを、是れを称して即ち八王といふ。ヘン』 馬公『コラ虎公、何をヘンなんて空嘯きやがつて、馬鹿にするない。ヒツコス奴が』 虎公『貴様もヒツコスぢやないか、甲斐性なし奴が。カチワリ大工の其処ら中で恥を柿のヘタ大工奴が使用主がないものだから、刃の欠けた鑿を一本持ちよつて、荒削りの下役に行くんぢやないか、アラシコ大工奴が。斯う見えても此方さまは上シコだ。せめて中シコ位にならねば巾は利かぬぞ。大工も上シコ鉋を使ふ様になれば、占めたものだ』 馬公『貴様はシコはシコだが醜神だ。悪い事には一番に四股を入れやがつて、他人の膏をシコタマ搾りやがる醜女だ。チツト是から俺が天地の道理を説いて、貴様を仕込んでやらうか。仕込杖も一本や二本持つて居るから、愚図々々吐かすと、貴様のドテツ腹へ仕込むでやるぞ』 時公『オイオイ大工同志、喧嘩ははづまんぢやないか、酒を鑿ぢやとか、カンナぢやとか、冷酒だとか言はずに、マアマア心を落付けて、カンナガラ霊幸倍坐世を唱へたらどうぢや』 馬公『ナントあんたは馬い事を云ひますね。そら燗した酒の味は耐りませぬ、チツトち割つて呉れと仰有るのか。現代の奴は利己主義だから中々チワルのチハイマスのと云ふ様なお人善はありませぬデ。酒も酒も曇つた世の中だ。……酒に就て思ひ出したが、ナンでも酒の姫とか云ふ小便使がコーカス山へ大尻姫と穴競べとか、尻比べとかに行きよつたさうだ。そした所がその小便使は穴無い教だとかで、薩張り大気津の神に取つ詰られて、岩窟の中へ投込まれたと云ふ話だ。三五教だから穴の中へ入れて貰ひよつたのだらう』 時公『酒の姫、そりやあなたの御聞違ぢやありませぬか。竹野姫と云ふ女の方ぢやあるまいかなア』 馬公『ナンデも、青い様な長い様な名だつた。ウンさうさう、この湖には竹島という島があるワイ。琵琶の湖の島に能く似たまた二人の姉妹があると云ふ事だ。梅とか、松とか云ふ小便使が、コーカス山へ小便垂れに来ると云ふ事だから、其奴を捉へたら、それこそ大したものだ』 時公『それは誰がそんな事を言つて居たのだ』 馬公『イヤ誰でもない、その竹野姫が岩室へ打込まれる時に、アヽ松島、梅島助けて下さいとほざけやがつたのだ。それでまだ二人の小便使があると云ふので、それを大気津姫が手を配つて探しに廻らして居るのだ。そいつを捕へたら最後、我々も御褒美を頂戴して、かち割大工を廃め、引越すから直に八王になるのだ』 時公『コーカス山には大概八王が幾許程居るのだ』 馬公『サア、大概八百八十八位あるだらうなア』 牛公『うそ八百云うな、貴様は嘘馬と云うて村中の評判だ』 馬公『耄碌大工牛の尻黙れツ、愚図々々云うと、化が露はれて糞が出るぞ。牛糞が天下を取り損ねるぞ』 松代姫、梅ケ香姫は被面布を除り、牛公、馬公の前に現はれ、 松、梅『妾がお話の松代姫、梅ケ香姫で御座います。竹野姫の姉と妹、何卒妾を連れて大気津姫とやらの側へ案内して下さらぬか。あなた方のお手柄になりますから……』 時公『これはしたり御両人様、大胆不敵な其お言葉………オイオイ牛、馬、鹿、虎、嘘だぞ嘘だぞ。この方は小便使でも何でもない。松でも、梅でもないのだ。お前達があまりウメイ事を言うて、牛糞が天下を取る世を待つもんだから、滑稽交りに妾が松だとか、梅だとか、ウメイ事を仰有るのだ。全く戯談だ。斯んな女を引張つて行かうものならそれこそ大騒動が起つて仕末におえぬぞ』 松代姫『オホヽヽヽ、時さま、嘘言つてはいけませぬ、宣り直しなさい』 時公『こんな所で宣り直して堪まりますか、この船の客は残らずヒツコスばつかりだ。ウツカリした事おつしやると大変ですデ』 梅ケ香姫『ホヽヽ、時さんの弱いこと、愚図々々云つたら、ヒツコスの首を残らずヒツコ抜く迄のことですよ』 時公『これはこれは、あなたこそ宣り直しなさい』 梅ケ香姫『イエイエ、皆さま達の体主霊従魂が黄泉の国に引越して、神の国の身魂が皆さまの腹の中へ引越すといふ事です』 時公『アハヽヽヽ、梅ケ香さま、ウメイ事を仰有る』 松代姫『ホヽヽヽ』 斯くする間、三日三夜の颶風はピタリと歇ンだ。船は再び真帆に風を孕んで、西北指して畳の様な、凪ぎ渡つたる浪の上をスルスルと辷り行く。 (大正一一・三・三旧二・五松村真澄録) |
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霊界物語 | 11_戌_コーカス山の大気津姫退治 | 19 汐干丸 | 第一九章汐干丸〔四八六〕 松代姫は矗然と立つて、 松代姫『心も広き琵琶の湖恵も深き琵琶の湖 浪に浮べる松の島千歳の松の青々と 繁り栄ゆる神心一度に開く梅の島 処狭き迄なよ竹の風に揉まるる竹の島 荒風強く渡るとも仮令深雪にたわむとも 千代に八千代にさき竹の悩みも知らぬ勇ましさ 妾は神世を松代姫この世を乱す大気津の 姫の奢侈りを戒めて心の仇花咲き散らし 天津御神の賜ひたる我が言霊に逸早く 開く梅ケ香姫の神竹野の姫の窟戸に 立て籠められて千万の憂に逢瀬を助けむと 進む時こそ来りけり憂しや辛しの世の中に 我身一人はうまうまと鹿の妻恋ふ奥山に みづの御あらか立て構へ虎狼に勝りたる 醜の曲津の曲業を祓ひ清めむ松代姫 梅ケ香姫と諸共に待ちに待ちたる時津風 吹く春こそは楽しけれ竹野の姫の消息を はしなく聞きし船の上飢な、まかるな、なよ竹の 女ながらも神国に尽す誠の竹野姫 救ひの神と現はれて茲に三人の姉妹の 語り合ふ夜も束の間の堪へ忍びの荒魂 勇みて待てよ妹よ汝が身を思ふ松梅の 魂は通へよ千引岩窟の中の妹が辺に 窟の中の妹が辺に』 と歌つて元の座に就きける。 牛公『オイ兄弟分(少し小声になつて)今ののたが聞えたか』 馬公『のたと云ふ事があるかい。何でも長たらしい、のたのたと訳の分らぬ事をのたつとつたではないか』 鹿公『オイ違ふよ。ありや歌と云ふものだ』 牛公『アヽさうか、何でも、うたがはしい事をウタウタと囀つて居つた。彼奴は歌よみの乞食かも知れぬぞ。「歌々と歌を囀る歌作りうたうた出来ぬ身こそうたてき」』 馬公『何を吐しやがるのだ。うたつ目にはうたうた囀りやがつて、そんな処かい。彼奴が例の代物だ、彼奴を、俺等が力を合してふん縛つて了へばもう占めたものだ。松だとか梅だとか白状し居つたではないか』 鹿公『しかし乍ら一寸見た処、なかなか豪胆な女らしい。二人や三人の梃に合ふ様な奴ぢやあるまい。それに貴様あんな大きな男がひつついて居るのだから、到底そんな野心を起しても駄目かも知れぬぞ』 虎公『しかりしかり、而うして聊か以て手強い奴だ。下手にマゴ付くと、スツトコドツコイのオタンチン、チンチクリンのチンチクリン』 馬公『そりや何吐す』 鹿公『まことにはや、しだいがらだ』 牛公『時に取つての儲け物だ。うまいうまい、しかと虎まへるのだな』 馬公『俺等の名を並べやがつて、うまい事吐きやがる』 牛公『もう斯うなつては、廐の隅にも置いとけぬワイ』 鹿公『しかりしかりしかも座敷の真中か、コーカス山の中のお宮の御住ひ』 虎公『とらマア結構な事だなア』 牛公『洒落やがるない。人の真似計りしやがつてモウそんな話は止めようかい』 馬公『ばかばかしいからな。うまい話と化物とは滅多に会はれるものぢやない』 鹿公『しかし乍らコーカス山には沢山な化物が集まつて居ると云ふ事だ。うまい話も沢山あるぢやないか』 虎公『虎でも、獅子でも、狼でも、熊でも、狐でも、狸でも、犬でも、猫でも、杓子でも、瓢箪でも、酒の粕でも、コーカスでも、狡猾な奴計りが集まつて利己主義をやつて居るのだと云ふ事よ。これから虎さんもちつと狡猾になつて猫でも被つて虎猫になつて見よう、ニヤーンと妙案だらう』 時公『オイオイ牛、馬、鹿、虎、俺が最前から狸の空寝入りをして貴様等の囁きを聞いて居れば、太い奴だ。牛公の儲け話、馬公の甘い算段、鹿公の狡猾目的、虎公の猫被り、トラ猫のコーカス野郎、大気津姫が呆れるワイ。サア、ま一度時さまの前で云つて見よ』 八公『こら四人の獣、四足、俺は八さまだぞ。知つてるか四ツの倍が八だ。ぐづぐづ吐すと八裂だぞ』 鴨公『ヤイ、貴様等、松がどうだの、梅がどうだのと何をかまふのだ。かもて呉れるな。此方は三五教の宣伝使だ。何もかも御承知だからかもさまと云ふのだ。貴様の悪い企はちやんと看破して居るのだ。どうだ何もかも白状するか』 牛公『もうもうもう何も彼も白状致します』 馬公『うまうま待つて下さい』 鹿公『鹿つめらしい顔してしかつて下さるな』 虎公『お前さま等にとらまへられぬ先に尾を捲きます』 鴨公『宜しい。これから何もかも気を付けるが宜からうぞ』 時公『アハヽヽヽヽ』 時公はすつくと立つて、宣伝歌を歌ひ始めた。 時公『浪音高き琵琶の湖鳴る言霊の此処彼処 また来る春を松島や浪風高き竹の島 見ても強そな梅の島浮ぶ景色も面白く 一寸三島の沖越えて真帆に風をば孕ませつ 此処まで来たる時も時ぎうと詰まつた船の客 うしや苦しと泡を吹く角の立つたる牛公や 尻の始末に馬さまが豆屁の様な法螺を吹き 欲と酒とにからまれて心は紅葉鹿の鳴く しかめ面した鹿さまや荒肝とられた虎さまの コーカス山の物語大気津姫が呆れたと 屁を放る様な小理屈をやつとかました八公の 骨も身もないかけ合ひだ墨を吹いたる蛸の様な 禿ちやま頭の鴨公がかもかかもかと威張り出す 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも コーカス山の曲神をこの時さまが現はれて 時をうつさず言霊の誠の道を説き分けて 欲に迷うた曲神の心のもつれ解いてやる 牛の糞でも天下取るうまい話にのせられた 船の上にてうつかりとほざいた鼻鹿物語 叱り散らすは易けれどとらまへ処のない虎公 直日に見直し聞直し宣り直し行く船の上 牛馬鹿虎のみならずこの船中の人々よ 鑿や鉋や鋸の働く如く今よりは 心の曲をきり払ひ垢を削れよ三五の 神の教にまつらうて栄耀栄華に暮し居る 大気津姫の真似をすな従順に心改めて 早く乗り換へ神の船この世を救ふ神の船 目無堅間の救ひ船浪風荒き世の中も 溺れる案じあら波の浪に漂ふ松代姫 神の教の一時に開く梅ケ香姫の神 此二方の宣伝歌確り聞いて改めよ この世ばかりか先の世の力となるは神の教 教の友船幾千代も老ず死らず天津日の 神の御国へ救ひ行く神の救ひの御船に 一日も早く乗り直せ乗れよ乗れ乗れ神の船 醜の言霊詔り直せ神は汝と倶にあり 嗚呼有難き神の恩嗚呼有難き神の徳 とつくり思案した上で神に貰うた生粋の 心の色を現はせよコーカス山は高く共 神の恵みに比ぶれば足元さへも寄り付けぬ 琵琶の荒湖深くとも深き恵みに比ぶれば たとへにならぬものぞかし畏き神の御教に まつろひまつれ諸人よ禍多き人の世は 神を離れて易々とくれ行く事は難かしい ほめよたたへよ神の徳祈れよ祈れ神の前 前や後や右左神の御水火に包まれて 生きて行くなる人の身は神に離れな捨てられな アヽ惟神々々御霊幸ひましまして 世の諸人の身魂をば研かせ給へ研きませ 心の岩戸押しあけて清き月日を照らせかし 清き月日を照らせかし』 と歌ひ終つて元の座に就きけり。 (大正一一・三・三旧二・五藤津久子録) |
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霊界物語 | 11_戌_コーカス山の大気津姫退治 | 20 醜の窟 | 第二〇章醜の窟〔四八七〕 梅ケ香姫は立上り、 梅ケ香姫『四方の山野を見渡せば雪の衣に包まれて 見るも清けき銀世界世界の曲や塵芥 蔽ひかくしてしらじらと表面の光る今の世は 何処も彼処もゆき詰る青きは海の浪ばかり 青木ケ原に現れませる神伊邪諾の大神や 木花姫の御教を照し行くなる宣伝使 乗りの友船人多く皆口々に囁きの 言の葉風に煽られて心も曇る胸の闇 闇夜を照す朝日子の日の出神の命もて 曲津の猛ぶコーカスの大気津姫のあれませる 雪積む山に向ひたる竹野の姫は如何にして 岩窟の中に捕はれし嗚呼我々は千早振 神の光を身に受けて黒白も分ぬ岩窟の 憂に曇る姉の君救ひまつらで置くべきか コーカス山の山颪何かあらむや神の道 踏み分け進む我一行時は来れり時は今 天の窟戸押し分けてコーカス山に集まれる 百の魔神を言向けむ言向和す皇神の 広き心の神直日恵の露も大直日 曲の身魂をスクスクに直日に見直し聞直し 宣り直させん宣伝使千変万化の神界の 神の御業を畏みて言霊清き琵琶の湖 渡りて進む五人連心竹野の姫の神 神を力に神嘉言讃美へて待てよ今暫し 暫し隠るる星影も雲たち退けば花の空 月は盈つとも虧くるとも虧けてはならぬ姉妹の 月雪花の桃の実は意富加牟豆美と顕はれて 黄泉戦に勲を建てたる如く今一度 天照神の御前に岩戸開きの神業を つかへまつらむそれ迄は虎狼や獅子熊の 醜の刃をかい潜り清き命を保つべく 守らせ玉へ金の神神須佐之男大御神 国治立の大御神三五教を守ります 百の神達八十の神松竹梅の行末を 厚く守れよ克く守れ下国民の血を絞り 膏を抜きて唯一人奢りを尽す大気津姫の 神の命と現はれしウラルの姫に附き纏ふ 八岐大蛇や醜狐醜の鬼神八十曲津 神の御息に悉く服ろへまつる今や時 アヽ時さまよ八さまよ牛馬鹿虎鴨さまよ 勇み進んでコーカスの山吹きまくる醜の風 皆一息に吹き払ひ祓ひ清むる神の国 神と国との御為に力を合せ身を尽し 鑿や鉋をふり捨てて神の道のみ歩みつつ 神の御魂の惟神霊の幸を受けよかし 進めよ進めいざ進め進めよ進めいざ進め』 と歌ひ了りぬ。 時公『八さま鴨さまどうだ。最前から随分噪いで居た大工さまの牛、馬、鹿、虎の四つ足、オツトドツコイ四人さまは、どうやら時さまの宣伝歌で帰順したらしいぞ。これも時の力と云ふものだ。貴様はいつも俺を、時々脱線する男だから時さまだナンテ、冷かしよつたがどうだ、時々功名を現はすたふとき尊とき時さまだぞ』 八公『何を偉さうに時めきやがる。たふときも尊ときも同じ事ちやないか。貴様クス野ケ原で梅ケ香姫のお洒落にかかつた時と、一つ目小僧に出逢つた時の状態は何だい。知らぬかと思つて法螺を吹いても、チヤンと此八さんは天眼通力で調べてあるのだ。八耳の八さまと云へば俺の事だ。この八さまにはどんな奴でも尾を捲くのだぞ』 時公『八はやつだが、負惜みの強い奴、悪い奴、法螺を吹く奴、困つた奴』 八公『コラコラ時さま、そらまだ八だない四つだ、八が四ツより無いぢやないか』 時公『八つ、四つと貴様の身魂が四つ足だからそれで合して八ツになるのだ。分らぬ奴だなア』 鴨公『アハヽヽヽ、コイツ気味が良い。胸がスツとした。何でもかでも、八かましうする奴だから、村の者が愛想を尽かして、厄介者扱ひにしとる位だから、コイツ余程酷い奴だ』 牛公『オイ、八さま、ギユウ牛云はされて居るな』 馬公『馬鹿野郎、状態見やがれ』 鹿公『シカられ通しにして居やがる』 虎公『トラれてばつかり居やがる、揚げ足と油を』 時公『時にとつての御愛嬌だ』 かく雑談に耽る折しも船は岸に着いた。船客一同は船を見捨てて思ひ思ひに雪の道を進み行く。松代姫の一行五人に牛、馬、鹿、虎を加へて九人連れ、宣伝歌を歌ひ乍らコーカス山目蒐け、人の往来の足跡をたよりに、谷間を指して進み行くのであつた。 満山一面の大雪にて、彼方の谷にも此方の谷にも雪の重さにポンポンと樹木の折れる音頻々と聞えて居る。 鴨公『ヤア、モーそろそろ日が暮る時分だ。そこら一面雪で明くなりやがつて、昼だと思つて居る間に、夜になつて仕舞ふのは雪の道だ。何処ぞこの辺に猪小屋でもあつたら一服して、都合がよければ一泊やらうかい』 八公『さうだ、俺も最前から宿屋を探して居るのだが、是から一里許り奥へ行けば、何百軒とも知れぬ、立派な家が建つて居るのだから、そこ迄無理に行く事にしよう』 時公『ヤア、待て待て、其処まで行つたら最早敵の縄張りだ。それ迄に一夜を明し、草臥を休めて、明日の元気を養ふのだ』 牛公『私は何時もこの辺を往来する者です。山の勝手は能く知つて居ますが、此谷は少しく右へ下りると岩窟がある。其処で一夜を明す事にしませうか』 時公『どうです松代姫さま』 松代姫『ハイ、宜敷からう、今晩は久し振で岩窟に逗留さして貰ひませうか』 と衆議一決して、牛公の案内につれ、小さい谷を目あてに進み行く。牛公の云つた通り二三十人は気楽に寝られる、立派な岩窟があつた。ここに一行は蓑を敷き、携へ持てる無花果を食つて、逗留する事になつた。 梅ケ香姫『アヽ都合のよい岩窟ですなア。此岩窟を見るにつけ、想ひ出すのは姉様の事、姉様が押し込められて居る岩窟と云つたら、こンなものでせうか』 牛公『滅相もない。コンナ結構な処ですか、この山奥には七穴と云つて、七ツの岩穴がある。さうしてその穴の中は、こンな平坦な座敷の様な処ぢやない。私も一ぺん這入つて見た事があるが、穴の中は真暗がりで、底が深くて、なんでも竜宮迄続いて居ると云ふ事で、あんな処へ入れられようものなら、ゆつくり腰を掛る事も出来やしない。両方が岩壁になつて居る。そこへ岩の尖に足を掛けて、細い穴を股を拡げて踏ン張るのだ。一寸居眠りでもしたが最後、底なき穴へ落込んで仕舞ふのだ』 時公『そんな穴が七つもあるのか』 牛公『さうです。此間も何ンでも淤縢山津見とか云ふ強い奴が出て来て、大気津姫を帰順さすとか云つて登つて来たところ、大勢の者が寄つてたかつて攻めかけたら、奴さま其穴の中へ隠れよつた。そこで大勢の者が寄つてたかつて岩蓋をピシヤーンとしめて、外から鍵を掛けた。それつきり百日許りになるのに何の音沙汰も無い。大方穴の底へ落つこつて死んで仕舞つたやらうとの噂だ。それから暫くすると、背のスラリと高い竹野姫とか云ふ小ン便使が、小ン便歌を歌つてやつて来た。そいつは日が暮て泊るところがないものだから、自分から穴の中へコソコソとはいつて行きよつた。馬鹿な奴もありや有るもんだなア』 馬公『オイオイ、さう口穢く云ふな。御姉妹が居られるぞ』 牛公『アヽさうだつたなア。その竹野姫と云ふ小ン便使様が、雪が降つてお困りと見えて、穴の中へコツソリとお這入遊ばした。さうすると大気津姫様の手下の悪神様が、「サア御出なさつた」と待ち構へて居らつしやつて、外からピシヤリと戸を御しめ遊ばした。竹野姫さまは中から金切声を立ててキヤーキヤー御ぬかし遊ばした。外からは悪神様が「サア斯うなつたら百年目だ、底無き穴へ落つこちて、クタバリ遊ばすか、飢ゑて御死に遊ばすか、二つに一つだ。是で吾々の御心配もとれて、マアマア御安心だ」と仰有つて………』 馬公『コラコラ、叮嚀に云ふもよいが、余り叮嚀過ぎるぢやないか。竹野姫様の事を御叮嚀に御話してもよいが、悪神の方は好い加減に区別せぬかい』 牛公『そンな融通の利く位ならカチ割り大工をやつたり、ウラル教の目付役をしとるものかい』 時公『牛さん随分現金な男だなア』 牛公『長い物には捲かれ、強いものには従ひ、甘い汁は吸へ、苦い汁は擲かせと云ふ世の中、人間は時世時節に従ふのが徳だからなア』 時公『お前等は今初めて聞いたが、ウラル教の目付役だと云つたね』 牛公『イーエ、ソラ違ひます。ホンの一寸口が滑つたのでモー牛上ました』 時公『イヤ、さうだなからう』 牛公『左様々々、さうだなからう』 松代姫『皆さま、モウ寝ませうか、サア、是から神言を奏上して、宣伝歌を一同揃つて上げませう』 時公『それは宜敷からう。併し今日は私に考へがありますから、籤引をして一に当つた者から、発声する事にさして下さい』 松代姫『時さまの御随意に……』 時公『サアサア、これから籤引だ。御婦人方は免除だ。男七人が籤引だ。一番長い奴を引いた者が発声するのだ』 と云ひながら草蓑の端を千切つて長短をこしらへ、 時公『サア、引いたり引いたり』 と六人の前へ突き出した。六人は争つて是を引いた。 時公『ヤア、牛公が一番長いのを引いたぞ。サア牛公、お前から宣伝歌の発声だ。アレ丈け船の中でも教へてあるなり、途々聞かしてあるから云へるだらう』 牛公『ハイハイ、確に云へます。一遍聞いたら忘れぬと云ふ地獄耳だから、何でもかでも皆覚えて居る。ソンナラ皆様今日は私が導師だ。後から附いて来るのだよ』 と云ひ乍ら牛公は宣伝歌を歌ひ始めた。 牛公『神が表に現はれて膳と茶碗を立て別ける この世で甘いは燗酒ぢや心持よき大御酒ぢや 唯何事も人の世は酒と女が一ツちよい 呑めよ騒げや一寸先や闇よ闇の後には月が出る』 一同『アハヽヽヽヽ』 鴨公『コラ牛公、貴様は矢張ウラル教だ。一寸先や闇だなんて吐きやがつて、宣り直せ。膳と椀とを立て分けるとは何だ。法螺事ばつかり云ひやがつて』 牛公『定つた事よ、大気津姫の家来だもの、食ふ事と、呑む事と、着る事より外には何もないのだ。その癖食つたり呑んだりする口から出るのだもの、食ふ事や飲む事を云ふのは当り前だ。サア、鴨とやら、もう一口云ふなら云つて見い。徳利の口ぢや、一口にやられるぞ。土瓶の口ぢや、二口と云ふなら云つて見い』 時公『エー、仕様のない奴だ。こんな処で洒落どころか、仕様がない、発起人の俺が導師になつて、宣伝歌を唱へるから、お前達や随いて来るのだ』 と云ひつつ宣伝歌を歌ひ始めた。一同は其あとに随いて歌つて居る。この時幾百人とも知れぬ足音が岩窟の外に聞えて来た。牛公は岩戸の隙間より一寸覗いて、 牛公『ヤア、御出た、御出た、是れ丈味方があれば何程時公が強うても大丈夫だ』 と口走つた。時公は、 時公『これは大変』 と牛公に当て身を喰はした。牛はウンとその場で倒れた。足音は次第々々に遠ざかり行くのであつた。 (大正一一・三・三旧二・五岩田久太郎録) |
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霊界物語 | 11_戌_コーカス山の大気津姫退治 | 22 征矢の雨 | 第二二章征矢の雨〔四八九〕 岩窟の中には二人の宣伝使を始め、時公外六人は、足音が岩戸の前にピタリと止りしより、頭を傾け思案に暮れ居たり。暫くありて時公は、 時公『今外に立ち止つて中の様子を窺つて居る奴は、ウラル教の間者か。よもや三五教の宣伝使ではあるまい。松代姫様どうでせう、いつその事、戸をガラリと開いて、ウラル教であれば言向け和してはどンなものでせうなア』 松代姫『心配は入りませぬ、開けて下さいませ』 時公『承知致しました』 と、ガラリと岩室の戸を引張り開けた。戸に凭れて居た男は戸を引くと共に岩窟の中にゴロリと転げ込んだ。見れば石凝姥の宣伝使である。 時公『ヤア、貴方は東彦様、エライ失礼をしました。これは又不思議な処でお目にかかつたものです』 石凝姥は起き上り、塵を払ひながら、 東彦『ヤア、貴方は時さま、ヨウ梅ケ香さま、これはこれは不思議の御対面と申すもの、も一人の女の方は誰人で御座いますか』 梅ケ香姫『ヤア東彦さま、よう来て下さいました。妾の姉の松代姫の宣伝使でございます。姉さまの竹野姫がコーカス山の岩窟に、悪魔のために閉ぢ込められて居ると聞きまして今救ひ出しに行かうとする途中です』 東彦『それは誠に都合のよい事、我々もこの山にはウラル彦の一派が立籠ると聞き、その魔神を言向け和さむと、雪掻き分けて唯一人やつて来ましたところです。斯様な所にお目にかかるも神のお引合せ、明日は花々しく働きませう。我々もこの岩戸の前迄二人の男に案内さして出て来ましたが、外に立つて漏れ来る声を耳を澄ませて聞けば、三五教の宣伝歌、これは不思議だと戸に凭れて窺つて居ますと、二人の奴は、ウラル教の間者と見えて雲を霞と引返して仕舞ひました。いづれ彼等は我々の此処に居る事を大気津姫に報告にいつたのでせう。油断は大敵、サア、これから皆さま御一緒に前進する事と致しませう。先んずれば人を制すと云ふ事がある』 松代姫『初めてお目にかかりました。貴方は名高い石凝姥の宣伝使様ですか。梅ケ香姫がお心安う願つたさうです。どうぞ私もお心安う願ひます』 八公、鴨公『ヤア、石凝姥様とやら、私は八、鴨と云ふ俄信者で御座います、何卒お心安く願ひます』 牛公『私は三五教の古い古い信者で御座います、何卒お心安う』 八公『ハヽヽ、古いは古いだが今の前まで悪事が現はれて、菎蒻のやうにピリピリとフルイ震い信者さまです。こンなお方の仰有る事は根つから当になりませぬ』 時公『ヤア、喧しい奴だな。小供は小供らしう寝るのだよ』 鴨公『これがどうして寝られませうか。竹野姫さまを救ひ出すまで』 時公『それもさうだ。併し心配して心を痛めて体を弱らすより、刹那心だ。寝る時は悠りと寝て、働く時にや働けばよいのだ』 かく云ふうち、岩窟の外には、ワイワイと数多の人声聞えて来た。 時公『ヤア、来た来た。ヤア、一緒にこんな岩窟へ閉ぢ込まれては働く事は出来はしない。皆さま出て下さい。オイ牛、馬、鹿、虎、貴様等は出る事ならぬ、何時裏返るか知れぬ』 と云ひながら時公は飛び出した。 白壁に沢山の蠅が止まつたやうな黒い影、ワイワイと刻々に岩窟目蒐けて押寄せて来る。 松代姫『ヤア皆さま、たとへ幾万の敵が来ても、我々には誠の神様がついてゐらつしやいますから驚くに及びませぬ。皆さん此処で悠くり神言を奏上しませうか』 東彦『ヤア、松代姫さま、梅ケ香姫さま、貴女方は此処に悠りと神言をもつて応援して下さい。私は時公さまと二人で活動いたします』 と言ひながら、東彦は岩戸を開けて外に現はれ、泰然自若として寄せ来る群衆を眺めて居る。 矢は雨の如く東彦、時公に向つて、ヒウヒウと集まつて来る。時公は来る矢を両手に掴んでは落しながら大音声、 時公『ヤアヤア、此方は古今無双の英雄豪傑天地の間に名の轟いた時雷の大神だ。三人五人は面倒だ。百人千人億万人、束に結うて一度にかかれツ、虱潰しにしてやるぞ』 群衆の中より一人の大男、ヌツと前に現はれ来り、右の肩を無理に聳かし、左の肩をトタンと落し、体を斜に構へ、眼をくしやくしやさせながら、 男『ヤアヤア、此方はヒツコス神の棟梁のビツコの熊さまだ。三五教の宣伝使の奴、三人までは此方の指揮によつて生擒にいたした豪の者、時雷の痩せ浪人、今に一泡吹かせて呉れん。覚悟を致せよ』 東彦は歌ふ。 東彦『朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 雪は積むとも解けるともコーカス山に立籠る 大気津比売の曲業を言向け和しておくづきの 敵は幾万来るとも神の御霊の増鏡 照らして雲霧吹き払へビツコの熊も諸共に 高い鼻をば打ち砕き噛んで砕いて神の道 腹に詰め込み洗てやる八王神やヒツコスや クスの神まで打ち揃ひ天の岩戸を速かに 開く時こそ来りけり神が表に現はれて 善と悪とを立てわける此世を造りし神直日 心も広き大直日直日に見直し聞き直し 曲の言霊宣り直せコーカス山の峰の雲 伊吹き払ふは神の息勢猛き曲津見の 曲の砦を言霊の玉の功に打ち砕き 心を砕く宣伝使大気津比売の改心を 神に祈りて松代姫心も固き石凝の 姥の命の宣伝使春待ち兼ねし梅ケ香の 姫の命の姉の君竹野の姫を今此処に 送り来りて天地の神に罪をば贖へよ 北光彦や淤縢山の神の命の宣伝使 三つの御霊を揃へたて早く返せよ返さねば 神が表に現はれてコーカス山を立替へる 善と悪との真釣合ふ松の神代の宣伝使 心直ぐなる竹野姫朝日は昇る東彦 光に笑める梅ケ香の恵の露のかかる時 かかる例も烏羽玉の闇世を開く時さまの 神の化身の宣伝使三十三相の其一つ 光現はれ北光の彦の命と諸共に コーカス山を照らすなり日は照る光る月は盈つ 三五の月の御教に心の雲を掻き分けて 神の御霊に立ち帰れ本津御霊に立直せ 一度に開く梅の花一度に開く梅の花 一度に開く梅の花』 と歌ひ終つた。雨と降り来る矢の音は、この言霊と共にピタリとやみて、数多の捕手はいづれも雪の谷道に蹲まり、中には感涙に咽び、声を放ちて泣くものさへもありけり。 松代姫、梅ケ香姫は此場に現はれ、一同に向つて三五教の教理を懇に説き諭しけり。数多の捕手は神の清き言霊に打たれて、いづれも心を改め、遂には大気津姫の部下の八王神の帰順に全力を尽す事となりぬ。 神の誠の心を知り、言霊を清め、身も魂も神に等しく、勇智愛親四魂の活用全く成りし神人の宣伝は、如何なる悪鬼邪神と雖も、其言霊に帰順せざるものは無いのである。故に宣伝使たるものは己先づ身魂を研き、総ての神人に対し、我身に対すると同様の心懸を持たねばならぬ。此心懸なき宣伝使は、如何に智を振ひ弁を尽すとも、神の御国に救ふ事は出来ないものたるを知るべきなり。 (大正一一・三・三旧二・五加藤明子録) |
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霊界物語 | 11_戌_コーカス山の大気津姫退治 | 23 保食神 | 第二三章保食神〔四九〇〕 黄泉比良坂の戦に、常世の国の総大将大国彦命、大国姫命その他の神々は残らず日の出神の神言に言向和され、悔い改めて神の御業に仕へ奉ることとなつた。其為め八岐の大蛇や、金毛九尾の悪狐、邪鬼、醜女、探女の曲神は暴威を逞しうする根拠地なるウラル山に駆け集まり、ウラル彦、ウラル姫を始め、部下に憑依して其心魂を益々悪化混濁せしめ体主霊従、我利一遍の行動を益々盛んに行はしめつつあつたのである。悪蛇、悪鬼、悪狐等の曲津神はウラル山、コーカス山、アーメニヤの三ケ所に本城を構へ、殊にコーカス山には荘厳美麗なる金殿玉楼を数多建て列べ、ウラル彦の幕下の神々は、茲に各根拠を造り、酒池肉林の快楽に耽り、贅沢の限りを尽し、天下を我物顔に振舞ふ我利々々亡者の隠処となつてしまつた。かかる衣食住に贅を尽す体主霊従人種を称して、大気津姫命と云ふなり。 大気津姫の一隊は、山中の最も風景佳き地点を選み、荘厳なる宮殿を建設する為め、数多の大工を集め、昼夜全力を尽して、宮殿の造営に掛り、漸く立派なる神殿を落成し、愈神霊を鎮祭する事となりぬ。流石のウラル彦夫婦も、天地の神明を恐れてや先づ第一に国魂の神として、大地の霊魂なる金勝要大神を始め、大地の霊力なる国治立命及び大地の霊体なる素盞嗚命の神霊を鎮祭する事となつたのである。数多の八王神は競うて稲、麦、豆、粟、黍を始め非時の木の実、其他の果物、毛の粗きもの、柔きもの、鰭広物、鰭狭物、沖津藻菜、辺津藻菜、甘菜、辛菜に至るまで、人を派して求めしめ、各自に大宮の前に供へ奉る事とした。此宮を顕国の宮と云ふ。此祭典は三日三夜に渉り力行された。数多の八王神、ヒツコス、クスの神達は、祝意を表する為め、酒に溺れ、或は歌ひ、或は踊り舞ひ狂ふ様、恰も狂人の集まりの如き状態なりき。 顕国の宮は祭典始まると共に、得も言はれぬ恐ろしき音響を立てて唸り始めたり。ウラル姫は全く神の御喜びとして勇み、酒宴に耽りつつあつた。八百有余の八王神を始め、幾千万のヒツコス、クスの神は、 『サアサアヨイヂヤナイカヨイヂヤナイカ酔うてもヨイヂヤナイカ 泣いてもヨイヂヤナイカ笑つてもヨイヂヤナイカ 怒つてもヨイヂヤナイカ死んでもヨイヂヤナイカ 倒けてもヨイヂヤナイカお宮が唸つてもヨイヂヤナイカ 天地が覆つてもヨイヂヤナイカヨイヂヤナイカ山が割れてもヨイヂヤナイカヨイヂヤナイカ 三五教でもヨイヂヤナイカヨイヂヤナイカウラル教でもヨイヂヤナイカヨイヂヤナイカ 勝てもヨイヂヤナイカ負けてもヨイヂヤナイカ 何でもヨイヂヤナイカ三日のお祭り四日でも、五日でも 十日でもヨイヂヤナイカ人はどうでもヨイヂヤナイカヨイヂヤナイカ 自分丈けよければヨイヂヤナイカヨイヂヤナイカウラルの教が三千世界で 一番ヨイヂヤナイカヨイヂヤナイカヨイヂヤナイカヨイヤサのヨイトサツサ 飲めよ騒げよ一寸先や暗よ暗の後には月が出る 月はつきぢやが運の尽き尽きてもヨイヂヤナイカ 亡んでもヨイヂヤナイカ倒せばヨイヂヤナイカ 三五教の宣伝使』 と無我夢中になつて、昼夜の別なく数多の八王神、ヒツコスやクスの神等に、数多の邪神が憑つて叫び廻る。八王神の綺麗な館も、数多のヒツコスに土足の儘踏みにじられて踊り狂はれ、襖は倒れ、障子は破れ、戸は壊れ、床は落され、敷物は泥まぶれ、着物は勝手気儘に取出され、着潰され、雪解の泥中に着た儘酔つて転げられ、食ひ物は食ひ荒され、宝は踏みにじられ、大乱痴気騒ぎが始まつた、されどもウラル姫を始め数多の八王神は、何れも悪魔に精神を左右せられて居るから、皆好い気になつてヒツコス、クスの神と共に手をつなぎ踊り狂ふ。顔も着物も泥まぶれになつて居る。顕国の宮は刻々に鳴動が激しくなつて来た。ウラル姫は泥まぶれの体躯に気が付かず、忽ち顕国の宮の前に進み、 ウラル姫『コーカス山に千木高く大宮柱太しりて 仕へ奉れる神の宮顕しき国の御霊たる 速須佐之男の大御神国治立の大御神 金勝要の大神の三魂の永遠に鎮まりて 神の稜威のアーメニヤコーカス山やウラル山 ウラルの彦の御教を天地四方に輝かし 我世を守れ何時迄も此世を守れ何時迄も 顕しの宮の唸り声定めし神の御心に 叶ひ給ひし御しるしか日々に弥増す唸り声 ウラルの姫の功績の天地に輝く祥兆や 嗚呼有難や有難や天教山や地教山 黄金山や万寿山是れに集へる曲神の 曲の身魂を平げてウラルの神の御教に 心の底よりまつろはせ天の下をば穏かに 守らせ給へ三柱の吾大神よ皇神よ 神の稜威の幸はひて遠き神世の昔より 例もあらぬコーカスの山に輝く珍の宮 神酒は甕高しりて甕の腹をば満て並べ 荒稲和稲麦に豆稗黍蕎麦や種々の 甘菜辛菜や無花果の木の実や百の果物や 猪や羊や山の鳥雉や鵯鳩雀 沖津百の菜辺津藻菜や種々供へし供へ物 心平らに安らかに赤丹の穂にと聞し召せ 神が表に現はれてウラルの神の御教を 堅磐常盤に守れかし善と悪とを立別て 此世を造りし国の祖国治立の大神の 神の御前に四方の国百の民草悉く コーカス山に参ゐ詣でウラルの神の御教に 潮の如く集ひ来て我世の幸を守れかし アヽ三柱の大神よアヽ三柱の皇神よ 心許りの御幣帛を捧げて祭るウラル彦 ウラルの姫の真心を良きに受けさせ賜へかし 良きに受けさせ賜へかし』 と一生懸命神前に拝跪して祈つて居る。此時数多の八王神、ヒツコス、クスの神は神殿に潮の如く集まり来り、又もや、 『ヨイヂヤナイカヨイヂヤナイカヨイヂヤナイカお宮はどうでもヨイヂヤナイカ 酒さへ飲んだらヨイヂヤナイカ飲めよ飲め飲め一寸先や暗よ 後はどうでもヨイヂヤナイカ暗の後には月が出る 運の尽でもヨイヂヤナイカこの世の尽でもヨイヂヤナイカ ウラルの姫の泥まぶれ笑うて見るのもヨイヂヤナイカ 上でも下でもヨイヂヤナイカ八王でもビツコスでもヨイヂヤナイカ 三五教でもヨイヂヤナイカウラル教捨ててもヨイヂヤナイカ お宮が唸つてもヨイヂヤナイカ潰れた所でヨイヂヤナイカ お酒が一番ヨイヂヤナイカヨイヂヤナイカヨイヂヤナイカヨイヂヤナイカ』 と数千の群衆は口々に酔ひ潰れ、泥にまぶれ、上下の区別なく飛廻り跳狂ひ踊り騒いで居る。かかる所に神殿さして悠然と現はれ出でたる三五教の宣伝使、松竹梅を始めとし、石凝姥神、天之目一箇神、淤縢山津見神、時置師神、八彦神、鴨彦神は口を揃へて、 『神が表に現はれて善と悪とを立別ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直し聞直せ コーカス山に集まりしウラルの姫を始めとし 百の八王神、ヒツコスやクスの神まで皇神の 御水火に早く甦り醜の身魂を立替へて 大気津姫の曲業を直日に見直せ宣り直せ 神は我等と倶に在り醜の曲津の亡ぶ時 八十の醜女の亡ぶ時八岐大蛇や曲鬼や 醜の狐や千万の曲の身魂を皇神の 神の御前に追ひ出し眼を醒せ目を開け 顕しの国の大宮に鎮まり給ふ三柱の 神の怒りは目の当り天地に響く唸り声 酔を醒せや目を覚ませ胸の帳を押開けて 空に輝く朝日子の日の出神の真心に 復れよ帰れ諸人よウラルの彦よウラル姫 神は汝を救はむと千々に心を砕かせつ 我等を遣はし給ふなり我等は神の御使 三五教の宣伝使宣伝万歌の言霊に 霊の真柱立直し一時も早く立替へよ 身魂の立替へ立直し体主霊従の立直し 大気津姫の行ひを今日を限りに立直せ 天は震ひ地は揺ぐ山は火を噴き割るるとも 誠の神は誠ある汝が身魂を救ふらむ 一日も早く改めよ一日も早く詔り直せ』 と言葉爽かに歌ひ終つた。神殿の鳴動は此宣伝歌と共にピタリと止んだ。ウラル姫の神は忽ち鬼女と変じ、雲を呼び、風を起し、雨を降らし四辺を暗に包み、八王神、ヒツコス引連れて、天の磐船、鳥船に其身を任せ、アーメニヤ、ウラルの山を指して雲を霞と逃げ散りたり。松竹梅を始め宣伝使一同は、改めて神殿に祝詞を奏上し、神徳を感謝する折しも此場に現はれた五柱の神がある。見れば鬼武彦、勝彦、秋月姫、深雪姫、橘姫であつた。何れも皆鬼武彦が率ゐる白狐の化身である。流石奸智に長けたる金毛九尾の悪狐も、白狐の鬼武彦、旭、高倉、月日の神力には敵はず、ウラル姫と共に此場を捨てて逃げ去つてしまつたのである。 茲に石凝姥神、天之目一箇神、天之児屋根神は、高倉以下の白狐に向ひ顕国の宮に捧げ奉れる稲、麦、豆、黍、粟の穂を銜へしめ、世界の各地に播種せしめたり。 国治立命、神素盞嗚命、金勝要の三柱を祭り、顕国の宮を改めて飯成の宮と称へたり。宮の鳴動したる理由は、何れも体主霊従の穢れたる八王神の供物なれば、神は怒りて之を受けさせ給はざりし為めなり。 白狐は五穀の穂を四方に配り、世界に五穀の種子を播布したり。これより以前にも五穀は各地に稔れども、今此処に供へられたる五穀の種子は勝れて良き物なりし故なり。 今の世に至るまで白狐を稲荷の神と云ふは此理に基くものと知るべし。 (大正一一・三・三旧二・五谷村真友録) |
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霊界物語 | 11_戌_コーカス山の大気津姫退治 | 26 橘の舞 | 第二六章橘の舞〔四九三〕 橘姫は立ち上り、遷宮式の祝歌を奏上したり。其の歌、 橘姫『皇大神の千万に此世を治め給はむと 心筑紫の橘の小戸の青木ケ原にます 神伊邪那岐の大神の依さしのままに海原を 知ろし召さむと天の原雲霧分けて葦原の 瑞穂の国に天降りまし神の教の永久に 橘姫の美はしく勲を祝ひ奉る 世は平かに安らかに山川草木おしなべて 君の御稜威を慕ひつつ仕へ奉らむ現し御代 生代足代の礎を茲に顕の国の宮 救ひの神が現はれて善と悪とを立別る 別けて尊き伊邪那岐の神の御水火に現れませる 神の御言の御あらかを仕へ奉りしアーメニヤ ウラルの山のウラル彦ウラルの姫の曲神も 誠の神の分霊魂恵も深き皇神の 大御心に隔てなく善も悪きもおしなべて 守らせ給ふ神心曲のみたまに迷はされ 神に背きし二柱いたく憎ませ給ふなく 恵の露の山川や荒野の草に致るまで 注がせ給ふ神直日心も広き大直日 直日に見直し聞き直し宣り直しつつ曲神の 海より深き罪咎を拭ひて助け給へかし 一視同仁天地の神の恵は天津日の 総ての物に照る如く三五の月の隈もなく 恵みの露を与ふ如御心平に安らかに 恵みも深き言霊に言向け和し天が下 四方の国々落ちもなく漏れなく救ひ給へかし 顕の国の宮の前畏み仕へ奉る身の 吾が祈言を橘の姫の命と現はれて 常世の暗を吹き祓ひ天の岩戸をおし分けて ミロクの神の神業に仕へ奉らむ今日の日に 仕へ奉るぞ尊けれ仕へ奉るぞ尊けれ』 と歌ひ終つて元の座に着きける。 天之児屋根命は立ち上り、 天之児屋根命『天津御空に千万の星の輝き渡る如 大海原に現れませる天の益人民草の 限りも知らぬ安の河真砂の如く生みなして 神世を開かせ給ふなり大御百姓となり出でし 百人、千人、万人草の片葉も漏らすなく 天と地との水火を汲み筑紫の日向の橘の 小戸の青木ケ原と鳴る生言霊のアオウエイ 五大父音の神の声母音はカサタナハマヤラワ 父と母との息合せ火の神キシチニヒミイリヰ 水と現れます言霊の息はケセテネヘメエレヱ 地の御神と現れませる息はコソトノホモヨロヲ 息は結びの神の声成るはクスツヌフムユルウ 五十の言霊鳴り出でて二十五声を生み出し 天地四方の神人や万の物を生みませる 其言霊の清くして比ひ稀なる神嘉言 天のかず歌数へつつ空明けく地豊に 治まる天津太祝詞祝詞の声は天地に 轟き渡り曲津見の神も隠ろひ鎮まりて 常夜の暗も晴れ渡り塵も留めぬ顕国 玉の宮居の神祭り上と下とは睦び合ひ 天と地とは明けく鏡の面を合はせつつ 玉の御柱搗きかため身魂も清き剣太刀 斯くも目出度き今日の空空行く雲も憚りて 晴れ渡りたるコーカスの山の祭りぞ尊けれ 日は照る光る月は満つ三ツの御霊の神柱 大神津見の三ツの桃月雪花と現はれし 三五教の三柱の神の宰の宣伝使 錦の袖を振り栄えて今日の御祭り祝ぎまつる 松は千歳の色深く千代に八千代に永久に 栄えミロクの御代までも幸多かれと祈るなり 幸多かれと祈るなり此世を照らす惟神 御霊幸はひましまして大地の主とあれませる 皇大神のまつりごと守らせ給へ天津神 国津神たち八百万五伴緒や八十伴男 草の片葉にいたるまで今日の生日の良き日をば 祝ひ奉るぞ尊けれ』 太玉命は、太玉串を手にしながら立ち上り、簡単なる祝歌を奏上したり。 太玉命『天と地との神々の水火より成りし神嘉言 四方に轟き高光の天の児屋根の神宰 宣る言霊の清くして太き勲を太玉の 太玉串となびきつつ太敷立てし宮柱 仮令雨風地震の叫び荒ぶる世ありとも 天地清むる言霊の水火に固めし神の宮 千代も八千代も動かまじアヽ尊しや有難や 今日の祭りの此の庭に三つ葉の彦の宣伝使 神の御稜威も広道の別の命と現はれて 心平に安らかに太玉串を奉る アヽ惟神々々御霊幸はひましまして 秋津島根を永久に守らせ給へ幾千代も 顕の国の宮の元塵も留めじ清らかに 神世を永久に立てませよ神世は永久に栄えませ 栄ゆる御代を松竹や梅の花咲く春の日の 心も長閑に受けませよ心を平に受けませよ』 と歌ひ終つて元の座に着きにける。 此外、神人等は各自に祝歌を奏上し、目出度遷宮式は終了を告げたりける。 (大正一一・三・四旧二・六藤津久子録) |
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霊界物語 | 11_戌_コーカス山の大気津姫退治 | 28 二夫婦 | 第二八章二夫婦〔四九五〕 天之児屋根命は神籬を左より廻り合ひ、結婚式の歌を歌ひ始むる。 天之児屋根命『仰げば高し久方の青雲別けて三つ星の 御魂幸ふ霊鷲の山に現はれ大稜威 高彦神と現はれて黄金山に現れませる 埴安彦の開かれし三五教の宣伝使 四方の国民救はむと駱駝の背に跨りて アシの沙漠を打渡り広き河瀬を横ぎりて 雪踏みさくみ霜を浴び雨に風にと曝されて 噂に高きアーメニヤ曲の猛びを鎮めむと 心の駒に鞭撻ちて道もいそいそ膝栗毛 雪は真白に積り居て表は清き銀世界 中に包まる曲津見のウラルの彦やウラル姫 コーカス山に立籠り心も猛く荒鉄の 地を護れる三柱の神の宮居を太知りて 此世を詐る曲業を厳と瑞との言霊に 向和さむと来るうちウラルの彦の目付役 雲霞の如く出で来り有無を言はせず山腹の 七つの岩窟に投げ込まれ心を千々に砕きつつ 案じ煩ふ折柄に眠の神に襲はれて 暗き千尋の底深く水を湛へし岩底に 落ちて凍ゆる折柄にかすかに響く言霊の 光りに漸う力附き眼を開き眺むれば 我目の上になよ竹の雪にたはみし如くなる 手弱女姿の竹野姫詔る言霊に勇み立ち 力の限り岩壁を伝ひて漸く姫の前 来る折りしも傍の岩壁砕く物音に 驚き見詰むる間もあらず天の頭槌打振ひ 岩の戸割りて出で来る天の目一箇神司 此処に三人は巡り会ひ宿世を語る折柄に 表に聞ゆる足音は救ひの神か曲神か 様子如何にと聞き居れば忽ち開く岩戸口 立出で見ればこは如何に開く時世を松代姫 薫りゆかしき梅ケ香姫の貴命の宣伝使 石凝姥や時置師八彦鴨彦諸共に 廻り会うたる優曇華の花咲く春の嬉しさよ 心も勇み身も勇み珍の宮居に来て見れば ウラルの姫やヤツコスの神に従ふビツコスや 数多のクスの神迄が宴会の莚賑しく 列を乱して舞ひ狂ふ時しもあれや松代姫 二人の姉妹始めとし天の数歌歌ひつつ 声も涼しき宣伝歌詔らせ給へば曲神は 霊に打たれて雲霞逃げ行く後は春の日の 花咲く如き心地して茲に三柱大御神 祝ぎ奉れる折柄に神素盞嗚の大神の 大御言もて高彦は梅ケ香姫と末永く 縁を結びの神の前左り右りの順序をば 正しく巡り来て見れば互に合す顔と顔 神か人かは白梅の薫り目出度き姫の前 嗚呼美しきエー少女嗚呼美はしきエー少女 男と女の仲は千代八千代天と地との睦合ひ 表と裏との水火合せ神の鎮まる肉の宮 貴の御子をばさわさわに湯津玉椿繁る如 生み足はして天地の大百姓を生みなさむ 嗚呼エー少女エー少女嗚呼美しき汝が顔 嗚呼美しき汝が胸若やぐ胸を素手抱きて 手抱拱真玉手の玉手差纒[※「纒」は「纏」の異体字]き股長に 抱きて寝ねん豊の御酒うまらに委曲に聞し召せ 嗚呼美はしき神の道嗚呼美はしき神の御子 阿那爾夜志愛少女』 梅ケ香姫は又もや右より、撞の御柱に傚へたる神籬を廻り始め、歌ひ出したり。 梅ケ香姫『仰げば高し久方の高天原の天使長 桃上彦の神司末の娘と生れましし 妾は梅ケ香姫の神過つる春の上三日 年は二八の月の顔花の姿を雨風に 曝しつ出し姉妹の松竹梅の旅衣 聖地を後に立ち出でてエデンの河を渡らむと する時醜の里人に悩まされつつある折に 月照彦の神霊魂名も照彦と現はれて 松竹梅の姉妹を父のまします珍の国 珍の都へ送りまし親子夫婦は優曇華の 花咲く春の喜びに七日七夜を暮しつつ 又もや親子の生別れ高砂島を遠近と 教へ伝ふる折柄にハザマの森に差かかり 途方に暮るる折柄に心目出たき春山の 彦の命に助けられ茲に姉妹三人は 端なく巡り相生の松代の姫や竹野姫 鬼武彦に救はれて茲に目出度く目の国を 越えて黄泉の島に着き黄泉戦の戦ひに 大神津見と現はれし桃の三人の末の子の 吾れは梅ケ香姫の神金勝要の大神の 依さしの儘に今日の日に撞の御柱巡りつつ 喜び勇み来て見れば誉も高き高彦の 天の児屋根の神司天津祝詞の太祝詞 詔らせ玉へる言の葉は天津国土揺ぐごと 轟き渡る大稜威雄々しき聖き神の御子 嗚呼エー男エー男嗚呼美はしき珍の御子 神の命を畏みて幾久しくも限りなく 真玉手玉手取交し夫婦のちぎり心安の 心安国と鳴り響く汝が言霊に百草も 靡き伏すらむ鴛鴦衾男と女の水火の末永く 変らせ給ふ事なかれ神を力に真心を 杖や柱と頼みつつ神生み島生み人生みの 大神業に仕ふべし貴の御業に仕ふべし 嗚呼美はしき愛男子嗚呼美はしき愛女 花と月との夫婦連花は散らざれ幾千代も 月は円かれ何時迄も花月(鼻突き)飯の面白く 神の随意々々栄えかし神のまにまに栄えかし』 と繰返し繰返し歌ひ終つて、首尾好く結婚の式を終了しける。 天之目一箇神は撞の三柱を中に置き、竹野姫と結婚の式を挙ぐ可く、二人は左右より廻り会ひぬ。天之目一箇神の歌、 天之目一箇神『霊鷲山に生れませる神の教を白雲の 降居向伏す其きはみ白雲別と現はれて 三大教を開かむと神の造りし宣伝歌 歌ひて来る折柄にエデンの川の岸の辺に 五大教なる宣伝使石凝神に巡り会ひ 経と緯との御教を錦の機に織り成して 水も漏らさぬ三五の神の教と改めつ 言霊詔れる折柄に群がる人の中よりも 猛しき神の現はれて竹切れ持ちて我眼 骨も徹れと突きにける一つの眼を失ひし 我身の幸を嬉しみて天と地とに仰ぎ伏し 恵みを称ふ折柄にまたもや来る次の矢を 待つ間程なく東彦神の命に救はれて 後に残りし一つ目の神の命の宣伝使 神素盞嗚の大神の依さしの儘にアルプスの 珍の鋼鉄掘出して両刃の剣打ち鍛へ 国の護りの神実と仕へ奉りし今日の春 漸く心落着きて又もや神の御仰せ 銅鋼鉄アルプスの山に出でむとする時に 金勝要の大神の縁の糸に結ばれて 思ひも掛けぬ妹と背の契嬉しき神籬を 左り右りを過たず巡り来りて今此処に 人に勝れて矗々と背長延びたる竹野姫 醜の魔風をサラサラとさばくに敏き宣伝使 露の滴る眥や花の唇月の眉 嗚呼エー女エー女かかる女と末永く 契る八千代の玉椿貴の剣を鍛ふごと 身魂を鍛へ磨き上げ百世も千代も限りなく 水火と水火とを合せつつ天津御神や国津神 神の依さしの神業に仕ふる身こそ楽しけれ 仕ふる身こそ楽しけれ』 と歌ひ終り、竹野姫は神籬を右より廻りながら、 竹野姫『桃上彦の珍の御子松竹梅の三つ栗の 中に生れし竹野姫父の行衛を尋ねつつ 松と梅とに誘はれヨルの湊を船出して 朝日も智利の国を越え大蛇の船に乗せられて 珍の都の父の前思ひ掛けなき母神の 五月の姫に巡り会ひ親子五人は相見ての 言葉も籠る鴛鴦の妹背の契親と子の 逢ふ瀬を茲に楽しみつ又もや此家を伊都能売の 御祖を後に三柱は館を出でて遥々と 歩みも軽きカルの原ハザマの国や目の国を 越えて荒浪打渡り日の出神や木の花姫の 依さしの儘に黄泉島桃の実魂と現はれて 大神津見と称へられ黄金山を後に見て 又もや進む宣伝使鬼や大蛇や曲津見の 出るを幸ひ言向けつ心の色は紅葉の 明志の湖を打渡り雪は積めども黒野原 言霊響く琵琶の湖松竹梅の三つの島 我姉妹と振返り見返りながら寒風に 吹かれて漸うコーカスの雪の山路にかかる時 顔色黒き牛雲の捕手の群に取巻かれ 岩窟の中に入れられて出るに出られぬ籠の鳥 時世時節を待つ間に思ひも掛けぬ姉妹や 石凝姥の宣伝使力の強い時さまを 連れて此場に進み来る天の岩戸に潜みたる 竹野の姫は忽ちに此場に現はれ北光の 眼一つの神様と今一柱三柱の 皇大神を祭りたるコーカス山の山の尾の 顕しき国の宮の前ウラルの姫の曲事を 伊吹払ひて言霊の息吹き放てば雲霧と なりて逃げ行く可笑さよ胸の思ひも晴れ渡り 此処に三柱大神の御霊を仕へ奉る時 珍の神実造りたる両刃の剣夜昼に 鍛へに鍛へし北光の目一箇神の功績に 心の空は何となく三千年の桃の花 一度に開きし思ひしてかかる目出たき彦神を 一目見たやと思ふ内一目の神は現はれぬ 是れぞ名に負ふ北光の神の命と聞きし時 一目見るより村肝のかかる男神と末永く 契を結ぶ身とならばたとへ根の国底の国 魔神の猛ぶ唐野尾も何の物かはクス野原 現はれ出でし一つ目の大化物の姿より 千重も八千重も勝りたる姿優れし男振り 仮令眼は一つでも人目に触れぬ霊の目の 数多保たせ給ふなる鍛へに鍛へし北光の 剣の御魂や都牟刈の四方の醜草薙ぎ払ふ 神の姿ぞ雄々しけれ嗚呼エー男子エー男 眺めも尽きじ醜人は竹野の姫の竹の先 グサリと突いた目の光り光り輝き北光彦の 竹野の姫が附添うて汝が命の神業を 側目も振らず助くべし目出た目出たの一つ目の 北光彦の神司天の目一箇神様に 竹野の姫の起臥しに汝が身の妻と成り鳴りて 心の竹の有丈を君の御前に捧ぐべし 嗚呼エー男子エー男子嗚呼エー女エー女 男女の睦び合ひ竹野林の何時迄も 栄え目出度き松の御代五六七の代迄も変らざれ 五六七の代迄も変らざれ』 と歌ひ納め、三組の結婚式は目出度く終結を告げける。後は酒宴に移り、陪席の神々は面白き歌を詠み、此結婚を賑しにける。 (大正一一・三・四旧二・六谷村真友録) |
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霊界物語 | 11_戌_コーカス山の大気津姫退治 | 29 千秋楽 | 第二九章千秋楽〔四九六〕 顕国玉の宮の祭典は、恙なく神霊鎮座せられ、次で男女三組の結婚式は行はれた。石凝姥神は此祭典慶事を祝すべく立つて歌ひ始めたり。 石凝姥神『東雲の空別昇る朝日子の光眩ゆき神の道 西北南東彦石凝姥の宣伝使 黄金山を立出でて栗毛の駒にウチの河 鞭ち渡る膝栗毛クス野ケ原や明志湖 雪積む野辺を踏みさくみ言霊清き琵琶の湖 渡りて此処に梅ケ香の姫の命や説明可笑 神の命と諸共に雲に抜き出たコーカスの 山の砦に来て見れば大気津姫と現れませる 喰物着物住む家に奢り極めし此深山 ウラルの姫に服従ひし百の八王ヒツコスや 酒の神まで寄り集ひ顕の国の宮の前 三柱神を斎ひつつ饗宴の酒に酔痴れて 節も乱れし酒歌を唄ひ狂へる折柄に 松竹梅の宣伝使天之児屋根や太玉の 神の命を始めとし月雪花や目一箇の 神諸共に宮の前来りて詔れる言霊に ウラルの姫は雲霞後を暗ましアーメニヤ 大空高く逃げて行く此処に再び大宮の 庭を清めて厳かに三柱神の祭典 仕へ奉りて太祝詞称へ奉りて頼母しく 直会神酒に村肝の心を洗ひ清めつつ 歓び尽す折柄に神素盞嗚の大神の 許しの儘に松竹の姫の命の御慶事 天之児屋根や太玉や天之目一箇神司 永遠に結びし妹と背の珍の御儀式ぞ畏けれ アヽ三夫婦の神達よ神の恵みをコーカスの 山より高く琵琶明志湖の底より猶深く 授かりまして幾千代も色は褪せざれ万代も 色はさめざれ押並べて五六七の御代の楽しさを 三夫婦共に松代姫心も開く梅ケ香の 姫の命や世に猛き曲言向けし竹野姫 北光神や高彦の神の御稜威を天が下 四方に広道別の神此世を包む烏羽玉の 雲霧四方に掻分けて神の教を中津国 海の内外に弘めかし神が表に現はれて 須弥仙山に腰を掛け此世を守り給ふごと 心の駒の手綱執り神の御教を過たず 安の河原の永久に流れて清き玉の湖 海より深き父母の恵みに勝る神の恩 山より高き神の稜威コーカス山はまだ愚 天教地教の山よりも功績を高く現はして 神の御国の太柱千木高知りて仕へませ 日は照る光る月は盈つみづの身魂の三巴 甍も清く照る如く遠き近きの国原を 救うて通れ汝が命我れは石凝姥の神 堅磐常盤に村肝の心固めて皇神の 御稜威を広く増鏡鏡の面を見はるかし 三人夫婦の行末を守らせ給へ百の神 心尽しの有丈を傾け願ひ奉る 百代も千代も万代も松の操の色褪せず 枯れて松葉の二人連力をあはせ村肝の 心を神に任せつつ仮令山川どよむとも 天津国土揺ぐとも青山萎れ海河は 涸れ干す事のあるとても永遠に変るな妹と脊の 産霊の道の何時までも鴛鴦の契の何処までも 百年千年万歳万の花に魁けて 薫る梅ケ香姫の如色香ゆかしく語りませ 色香ゆかしく渡りませ恋しき妻に手を引かれ 黄金の橋を渡会の松竹梅の姉妹が 揃ひも揃ふ今日の宵宵に結し喜悦は 神の守護の弥深き千尋の海の底までも 届かざらめや何処迄も神の恵みの尊けれ 神の恵みの尊けれ』 と歌ひ終つて元の座に就きぬ。 時置師神と現れたる鉄谷村の時公[※後の杢助。第26巻第8章参照]は、又もや立つて祝ひの歌を詠み始めたり。その歌、 時公『三五教の宣伝使松竹梅の三柱は 花の春をば仇に越え夏の真中となりし身の 花は散れども遅桜山は青々葉桜の いよいよ開く返り咲三五教と聞いた時 縁の遅いは当然嫁ぎの道は何時迄も なさらぬ方と思て居た人は見かけに依らぬもの 色よき夫を松代姫永き月日の浮節に 待ちに待つたる縁の糸今日は愈結び昆布 摘み肴の切鯣名さへ粋なる梅ケ香の 姫の命の肝玉は此処に現はれ高彦の 神の命の妻となりいよいよ三人の姉妹は 神に貰うた雨に濡れ水も漏さぬ蒸衾 小夜具が下にたくづぬの白きただむき玉の手を 互に抱きさし巻きていをしましませ腿長に 豊の神酒をばきこし召しいよいよ今日から二柱 神の祝の餅搗いて子餅もたんと拵へて 天つ国土轟かし天に輝く星の如 浜の真砂の数多く青人草の種をまけ 三夫婦揃うた世の中に東雲別の東彦 石凝姥の宣伝使時公さまや八彦や 鴨彦さまの顔の色峠の下の小僧の様に 上り下りの客人の姿眺めて指噛むで 蜥蜴の様な面をして恨めし相に眺めいる ホンに芽出たいお目出度い心をかがみの時さまは 鏡餅ではなけれども滅多に妬きはせぬ程に 必ず案じて下さるな牛は牛連れ馬は馬 八公は八公鴨は鴨八つの足をばさし巻いて キウと吸いつく蛸坊主チンチン鴨の神楽舞 上を下へと戦して神に仕ふる時も来る アヽ三柱の夫婦神石凝姥の石の如 堅く誓ひて離れざれ時公八公鴨公の 真心籠めて神の前偏に祈り奉る 偏に祈り奉る』 と歌ひ終り、大口を開けて 時公『アツハヽヽヽヽ』 と笑ひ転ける。一同は時置師神の手つき身振の可笑しさに、天地も揺ぐ許り笑ひ崩れけり。秋月姫はスツクと立つて、長袖しとやかに祝歌を歌ひ舞ふ。 秋月姫『天と地とに三五の道を教ふる宣伝使 三五の月の澄み渡る秋月姫の空清く 今日の喜び幾千代も松竹梅の何時までも 心に掛けて忘れまじ松は千歳の色深く 竹の姿の末永く梅の莟の香しく 一度に開く神の舞鶴は千歳と舞納め 亀は万代歌ふなり千歳の鶴や万代の 亀の齢を保ちつつ天地と共に永久に 月日と共に限りなく此世の続く其限り 夫婦の中は睦じく心を協せ神国に 尽させ給へや三柱の神の命の夫婦連 秋月姫のいと円く家も治まり身も魂も 治まり清く照り渡り神の御水火を受継ぎて 御子沢々に生みなして神の柱を経緯の 錦の機の神の教宣るも涼しき神嘉言 三柱神の大前に君が千歳を寿ぎまつる 君が千とせを寿ぎまつる』 と歌つて元の座に就きぬ。深雪姫は又もや立上り長袖しとやかに歌ひ舞ふ。 深雪姫『三柱神の三つ身魂棟に輝く三つ巴 三夫婦揃ふ今日の宵見ても見飽かぬ妖艶姿 三葉の彦の又の御名天の太玉神司 青雲別の高彦が天之児屋根と現はれて 白雲別けて北光の天の目一箇神司 鴛鴦の契を今此処に結の莚深雪姫 夫婦の仲も睦じく互に心を相生の 松も深雪の友白髪尉と姥との末永く 高砂島にあらねども御稜威も高きコーカスの 山に鎮まる三柱の神の御前に妹と背の 契を結ぶ金の神神の恵みの幸はひて 撞の御柱右左巡り会ひつつ愛男 愛女よと宣らせつつ鶺鴒の教畏みて 学ばせ給ふゆかしさよ芽出度儀式を深雪姫 黄金世界銀世界月日は清く照り亘る 神の光を身に浴びて千代も八千代も栄えませ 幾千代までも松竹の色香も褪せず咲匂ふ 梅ケ香姫のあだ姿月の鏡に美はしく 尊き御子を望月の百千万に生みなして 神の御水火の神業に仕へましませ三柱の 妹背の仲は吉野川流れも清きみづ身魂 神素盞嗚の大神の恵みの露にうるほひて 色も褪せざれ変らざれたとへ天地は変るとも 夫婦の仲は何時迄も弥次々に栂の木の 孫子の世迄栄えませ孫子の世迄栄えませ 深雪の姫が真心を神の御前に捧げつつ 三柱神の行末を畏み畏み寿ぎまつる 畏み畏み祝ぎまつる』 と歌ひ終り元の座に就く。橘姫は又もや立上り、声も涼しく祝歌を歌ふ。其の歌、 橘姫『秋月姫の空晴れて深雪も積る銀世界 春山彦の珍の子と生れ出でたる姉妹は 恋しき父の館をば橘姫の姉妹が 三五教を開かむと神のまにまに進み来る 雪積む野辺を右左寒けき風に梳り 山河越えてコーカスの三柱神の御前に 橘姫の喜びは色も目出度き松代姫 薫ゆかしき梅ケ香姫の貴の命や竹野姫 神の詔勅を畏みて人目の関の隔てなく 妹背の契結びます芽出度き今日の新莚 神酒は甕の瓶高しりて饗宴の蓆賑しく 夜は更けわたる戌の刻亥の刻過て腿長に 各も各もの子の刻や丑寅神の御守護 嬉し嬉しの花も咲く心の卯さも辰の刻 巳ぢかき春の夢醒めて午く納まる此縁 瑞の身魂の未申互に盃取り交はし 悪魔もいぬや亥の時刻夜半の嵐も収まりて 宿世行末物語り睦ばせ給ふ間もあらず 青垣山に鳴く烏雉子は動よむ鶏は鳴く 雉子どよむな鶏鳴くな今朝は烏も唖となれ 鴛鴦の衾の楽し夜を遮る勿れ今日の朝 東の山に日は昇り昼より明かくなるとても 今日一日は烏羽玉の闇にてあれや暗となれ 暗の岩戸を押開き互に含笑む顔と顔 岩戸の前に橘の姫の命の太祝詞 聞ゆる迄は三柱の神も眠を覚まさまじ 明けて悔しき今日の日は竜の宮居の姫神の 御手より受し玉手箱アヽ恨めしや浦島の 年も取らずに何時までも若やぐ胸をすだ抱きて 夫婦の中は睦び合ひ真玉手玉手携へて 神の御業を務めよや結びの神と聞えたる 金勝要の大御神山河動よみ国土揺り 海は涸れ干す世ありとも夫婦の中は何時までも 月日と共に変らざれ月日と共に永久に 栄えましませ何時迄も橘姫が真心を こめて御前に鰭伏しつ畏れ慎み願ぎまつる 畏れかしこみ寿ぎまつる』 と歌つて元の座に就きぬ。 時公『サアサア、芽出度く婚姻の式も済み、三夫婦の濃艶なる宣詞も聞かして貰つた。加ふるに月雪花の三柱神の祝ひの詞、時さまも一寸仲間入りをさして貰つた。石凝姥神様の御祝歌は一寸感心した。サアサア八さま、鴨さま、神酒ばつかり頂いて居ても、芸無し猿では巾が利かない。何でも構はぬ、芽出たい事を歌つたり歌つたり』 八公『時さま、何でもええか』 時公『芽出度い事を歌つたがよかろう』 八公『笑うて呉れな、わしの歌は拙劣だから』 と云ひ乍ら、ヌツと立つて歌ひ始めた。 八公『今日は如何なる吉日か大気津姫は逃げて行く コーカス山の貴の宮三柱神のお祭に みんな揃うて酒に酔ひヨイヨイヨイと舞狂ふ 松竹梅の宣伝使月雪花の乙女達 北光神や高彦や心の太い太玉の 神の命がヒヨイと来て夢に牡丹餅食た様に 松竹梅の宣伝使女房に持つて嬉しかろ この八さまも嬉しいぞヤツトコドツコイ、ドツコイナ それに引替へ気の毒な石凝姥の宣伝使 身体の大きい時さまはほつとけぼりを喰はされて 見るも憐れな鰥鳥とりつく島もないじやくり 時さま許りか八さまも鴨さままでが指銜へ 青い顔して淋しそにこんな馬鹿気た事はない 大勢の前でてらされて茹蛸見たよな顔をして 妬きはせないが日に焦けた黒い顔してくすぶつて 勘定に合はぬ此仕末俺も男ぢや何時か又 綺麗な女房を持つてやる其ときや皆さま見てお呉れ 小野の小町か照手の姫か天津乙女か乙姫さまが 跣で逃げ出す素的な奴を貰ふか貰はぬかそら知らぬ 知らぬが仏神心何時かはカミの厄介に なつて喜ぶ時も来るオイ時公よ鴨公よ 俺の胸先トキトキと何ぢや知らぬが轟いた 足は知らぬに鴨々と震ひあがつて気に喰はぬ 淡白焼いた蛤の美味い汁吸ふ時は何時 何時か何時かと松代姫松かひあつて太玉の 神の命の妻となり角を隠した綿帽子 姿かくして鳴く鳥は山時鳥丈ぢやない 此処にも一人や三人は泣いて居るかも知れはせぬ 千秋万歳末永う松竹梅のお姫さま 夫婦仲良く暮しやんせ心の堅き宣伝使 夫を持つて忽ちに心緩みて神の道 必ず粗末にせぬがよいそれ丈わたしが頼み置く アヽ三柱の神さまへ此三人の夫婦仲 水も漏らさず末永う添はしてやつて下さンせ これが八公の願なりこれが八公の願なり』 時公は大口を開けて、 時公『アハヽヽヽヽ』と、又もや笑ひ転けて腹を抱へる。 八公『オイ時公、何で笑ふか、人をあまり馬鹿にしよまいぞ。お前は拙劣でもよいと云つただらう、拙な歌が却つて面白いのだ。併し乍らお前の歌もあまり立派な作ではなかつた。担うたら棒が折れる様なものだ』 時公『コラコラ、棒が折れるとは何だ。宣り直さぬか』 八公『それでも、是丈歌ふのには棒所か、随分骨が折れたのだよ。アハヽヽヽ』 時公『サア鴨公の番だ。どうせ碌な事は云やせまいが、貴様の偽らぬ心を歌つて見よ』 鴨公『ヨシヨシ、俺も男だ。気張つてフーフーと息継ぎ乍らやつて見る。良かつたら、メヨト喝采するのだぞ』 時公『ヨシヨシ、よしと云つても養子婿ぢやないぞ』 鴨公の歌、 鴨公『明志の湖から従いて来て雪の路をばザクザクと 黒野ケ原に行つて来た孔雀の姫が人喰うと 聞いてビツクリ会うて見りや十五の月の様な顔 案に相違の松代姫ウラルの教を振棄てて 三五教に寝返りを打つて又もや琵琶の湖 烈しき風に曝されて汐干の丸の潮を浴び 牛馬鹿虎四人の目附の神に送られて コーカス山に来て見れば思ひがけなき神祭 八王ヒツコス酒の神祝の酒に酔潰れ 何処も彼処も泥まぶれウラルの姫も泥の衣 心の泥を吐き出してうまい事づくめに神の前 ツベコベほざく其時に松竹梅を始めとし 鴨彦さまも共々に三五教の宣伝歌 歌つて見ればアラ不思議忽ち鬼女となり変り 黒雲起して逃げ去つた後に尊き神祭 祝の酒をグツと呑み酔がまはつた最中に 皇大神の神勅松竹梅の三柱に 婿を貰へと仰せられ開いたる口に牡丹餅を 詰めたる様に一口にウンと呑み込む男方 三人揃うて妹と背の芽出度い盃三々九度 何方も此方も歌を詠み品姿能く踊り舞ひ狂ふ 我れは素より芸無し猿何んにも知らぬヨウせぬと 断る訳には行かないで猿の人真似やつて見よう 猿が三疋飛ンで来て婚礼したのはサル昔 昔々の大昔その又昔の昔から 神の結ンだ因縁で夫婦になつたに違ない 夫婦は天地にたとへられ山と海とに比べられ 神生み国生み島生みの道を開きし伊弉諾の 神の命の初めてし美斗能麻具波比妹背の 今日の芽出度い此祝ひ此喜びはここよりは 外へはやらじやらざれと祈る真心神の前 金勝要の大御神国治立の大御神 神素盞嗚の大御神三夫婦揃うて縁結ぶ こんな芽出度い事はないどうぞわたしも一日も 早く結ンで下さンせ家をば治め国治め 心治まる夫婦中落ちて離れぬ枯松葉 二人の水火は相生の待ちに待つたる嫁貰ひ 貰ひ喜び貰ひ泣きないて明志や琵琶の湖 深き契を何時までも続かせられよ三柱の 聞くも芽出度い夫婦仲仲善く暮せ何時迄も 天に輝く星の如浜の真砂の数多く 御子を生め生め地の上に所狭き迄生みおとせ 落ちて松葉の二人連れ三人四人夫婦仲 三人四人鰥仲盈つれば虧くる世の慣ひ 御空の月の影を見よ何時も満月キラキラと 明るく暮せ夫婦連れ連添ふ妻を振棄てな 妻も夫に尻ふるな神の恵みの雨に濡れ 何時も青々稚翠若やぐ姿永久に 年は取るなよ皺よせな寄せては返す荒浪の 濤も凪げ凪げ春の海生み落したる子宝は 養み育て天地の神の御用に立てて呉れ くれぐれ頼む鴨公の是が一生の願ぞやと 願掛巻神の前神の恵みの幸はひて 夫婦の仲は睦じく八千代の春の玉椿 栄えに栄えよ松代姫梅ケ香姫よ竹野姫 天之目一箇太玉や天之児屋根の神司 神の御前に太祝詞称へ奉るぞ尊けれ 称へ奉るぞ畏けれ畏き神の御教を 夫婦力を協せ合ひ海の内外に隈もなく 輝き渡せ神の道輝き渡せ神の教』 と歌ひ終り座に着きぬ。コーカス山の神祭、瑞の身魂に因縁ある三柱神の婚姻は茲に芽出度く千秋楽を告げにける。 (大正一一・三・四旧二・六松村真澄録) (昭和一〇・二・一九王仁校正) |
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霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 04 初蚊斧 | 第四章初蚊斧〔五〇〇〕 三柱の宣伝使は蚊取別の立てる前に現れ、 高光彦『ヤ、これはこれは三五教の宣伝使蚊取別様とやら、初めてお目にかかります。御高名は父から承はりました。神様の御引合せ、思はぬ所でお目にかかりました』 蚊取別『ヤア、貴神等が万寿山の磐樟彦命の御子達ですか。神国の為に御苦労で御座います。あなた方は是から何れの方面にお越しのお考へですか』 高光彦『ハイ我々はイホの都を越えて、筑紫島、豊の国の白瀬川の滝に魔神が潜むで災害をなすと聞き、言向和す為に参る途中で御座います』 蚊取別『それは結構ですナ。白瀬川には六箇の大瀑布があつて、そこには悪竜悪蛇が棲処を構へ、八頭八尾の大蛇と気脈を通じて、此通り天を曇らせ、地を汚して居るといふ事、私も一旦黄金山に帰り、附近の地を宣伝して居ましたが、今度は長駆して白瀬川の魔神を退治る積りで、此処迄やつて来た途中、見れば、前方に炬火の光、人の叫び声、合点行かずと宣伝歌を歌ひながら走つて来て見れば、豈図らむや、御覧の通り立派な人形の陳列会、何処の技師が作つたものか知りませぬが、よくも出来たものです。おまけに此人形は別に仕掛はない様ですが、目の玉を動かし、涙をこぼし、つひ最前までは、酒を喰ふ法螺をふく、歌を唄ふといふ妙な人形です』 三人『アハヽヽヽ』 蚊取別『皆さまどうでせう。一々この人形に魂を入れて、ものを言はせ、立派に立働く様にやつて見ませうか。きつと三五教の教に帰順する様になるでせう』 高光彦『我々は万寿山を立出てより、まだ一回も宣伝を試みた事はありませぬ。何分にも沙漠や野原ばかりを渡つて来たものですから………』 蚊取別『私が一寸手本を出しますから手伝つて下さい』 といひ乍ら、化石の様になつた人々の前に坐り込み、 蚊取別『サアサア人形さま、お前は目ばかり動かして居るが、今口を動く様にしてやる。私の言ふ通りに云ふのだよ……ウンよしよし、承知か、頷いて居るナ……神が表に現はれて』 初、口をモジヤモジヤさせ乍ら、 初公『カメカオモテテニアラワワレテ』 蚊取別『モツト確乎言はぬか。サアも一遍言うた』 初公『カ……カ……敵わぬ、カニして下さい。必ず必ず心を直します』 蚊取別『ヨシ、それは分つたが、神が表に現はれてを歌へ』 初は、 初公『神が表に現はれて善と悪とを立別る 此世を造りし神直日心も広き大直日 ただ何事も人の世は直日に見直せ聞直せ 身の過ちは宣り直せ蚊取の別の神さまよ 聞けばお前も其昔良くもない事沢山して 悪神さまと歌はれて今は偉そに其処ら中 牛から馬に乗り替へて善ぢや悪ぢやと言ひ歩く ホンに世界は広いものわしも昔は自在天 神に仕へた悪神ぢや其時お前は猩々の 様にガブガブ酒喰ひ人を泣かした奴なれど どうした風の吹き廻し今は立派な宣伝使 心の色は変れどもやつぱり変らぬ其姿 茹蛸みた様な姿して人を教へて歩くとは それやマア何とした事かホンに世界は広いもの』 蚊取別『コラコラ何を言ふのだ。昔は昔、改心すれば其日から善の神だ。口だけ自由にして遣れば、直にそれだから………貴様も容易に改心は出来相にもない。マア改心の出来るまで、百年でも千年でも固くなつて鯱こばつて居るが宜いワイ』 初公『お前も昔馴染だ。つひ心安いものだから言つたのだ。そんな意地の悪い事言はずに、身体を旧の通りにせむかい蚊取別』 蚊取別『アハヽ、どこまでも負惜みの強い奴だナア』 初公『弱くて此世が渡れるか。負惜みなつと強くなければ、優勝劣敗弱肉強食の此世の中が渡れるものか。善ぢや善ぢや世の為だ、国の為ぢや、人の為には身命を賭してナンて吐かす奴は、みんな偽善者だ。俺は斯う見えても、悪にも強ければ善にも強いのだ。併し乍らどうしたものか、悪は行りたくない。町の奴が可愛相だから、厭でも応でも悪の仮面を被つて憎まれ者になつて、酋長や物持の春公に掛合つて見たのだ。世間の奴は善に見せて悪を行る、俺は悪に見せて善を行ふのだ。蚊取別、お前も取分けて抜目のない男だつた。常世会議では一寸失敗りよつたが、しかし宣伝使の仮面を被つて相変らず悪い事を行つとるのだらう。顔も知らぬ宣伝使なら、叮寧に頼みもし、謝罪もするが、何分お前の素性を百も承知、万も合点して居る俺としては、チヤンチヤラ可笑しいて、真面目に改心するなぞと言はれたものかい。そんな悪戯をせずに早く霊縛を解け』 蚊取別『解いてやるが、解いたらモウ喋らぬか。三人の若い宣伝使の前で、昔の棚卸しをやられると面目玉を潰して了ふ。どうだ、何も言はぬと誓ふか』 初公『チガフかチガハヌか、そら知らぬが、記憶にある事は、俺が言ふまいと思つても、腹の中から言うて来るのだから仕方がないワ。一寸先の事は分らぬから、堅い約束は出来ぬワイ。俺の身体が自由になつたら、虫の居所に依つては、お前の薬鑵頭をブン擲るかも知れぬ、其時は其時の事だ』 蚊取別『イヤア面白い。貴様見かけに寄らぬ正直な奴だ。中々よく身魂が研けて居るワイ』 初公『ハヽヽヽヽ、さうだらう。大勢の代りになつて、名誉も、生命も、何も投出して、此イホの都でも威勢の高い酋長や、物持の春公に掛合うて居る位だから、何れ明日位には酋長の奴、沢山な家来を連れて俺を召捕りに来るのは、印判で押した様なものだよ』 蚊取別は、 蚊取別『サア、これから霊縛を解いてやる』 といひ乍ら、 蚊取別『ウン』 と一声。初公は旧の身体に復し、 初公『ヤア、有難う。蚊取別大明神、よつぽどお前は御神徳を貰うたなア。私もこれ丈の神力があれば、酋長の三人や五人位ウーンと霊をかけて、対方をウンと堅に首を振らしてやるのだけれどナア』 蚊取別『そンな事は何でもないワ、俺がするのぢやない。神様のお力だ。俺の背後には結構な神様が守護して御座るのだ』 初公『アヽさうか、偉いものだナア。併し俺だけ自由になつたが、他の者は気の毒だ。一つ皆にそのウンを行つて呉れぬか』 蚊取別『お前が俺の行つた様に手を組んで、皆の者にウンと一声かけて見よ。忽ち旧の通りになるのは請合だ。併し神力が現はれても、お前の力だと思つたら違ふぞ。九分九厘まで神様のお力だから、さう心得ろ』 初公『行つても可からうかな。私の様な素人がウンを行つても利くだらうか』 蚊取別『それが悪いのだ。自分が行ると思ふから間違ふのだ。お前は唯神様の機械になる丈だ。サア手を組むで一同に向かつてウンと行つて試い』 初公は不安の念に駆られ乍ら、惟神霊幸倍坐世を二回心細げに唱へて、大勢に向ひ、ウンと鎮魂術を行ふ。不思議にも一同は旧の姿に立復り四人の宣伝使の前に走り来り、跪いて涙を流し合掌し居たりけり。 初公『ヤア皆さま、安心なされ、この初公が御神力を頂いたらこんなものだ。モウモウ明日の事は心配するに及ばぬ。今日の事は今日一生懸命に働いて、取越苦労をせぬ様にするのだ。マアマア揃うて神様にお礼を申上げようかい。酋長や春公は逃げて了つたが、何れ捕手が来るだろう。来たつて構はぬ。この初公が一寸手を組んでただ一声、ウンとやれば、何の事はない。ウンもスンも言はずに往生するのだ。ナンと神様は偉いものだらう』 高光彦『ヤア何事も神様のお蔭です。どうだ初さま、是から酋長や春さまを言向和はしておいて、白瀬川の悪魔退治と出かけたらどうだ。お前のウンの試し時だ』 初公『イヤ有難う、私は神力はないが神様の神力で天晴れ悪神を言向けて見ませう』 群集の中より現はれたる斧公は顔をあげて、 斧公『ヤア初さまよ、お前は本当に偉い奴だ、よう変つたものだナ。昔は悪い男だつたが、義侠心に富んだ人だと町中の評判だよ。どうぞ俺にも其ウンを教へて貰うて呉れぬか。お前が宣伝使のお伴をして此町を立退くとなると、後が寂しいからのう』 初公『それもそうだ…………モシモシ、蚊取別の宣伝使様、此斧公にも許してやつて下さいナ』 蚊取別『私が許すのぢやない。三五教の教が有難いといふ事が分れば、神様が直接に御神徳を授けて下さるのだ。モシモシ斧さまとやら、神様はおのぞみ次第、おのおの身魂相応の御用を仰付けられるのだから、十分に魂を研きなさい。初さまが此町に居るとお前達は気を許してもたれる気になるから可かない。初さまが此町を立去つたが最後、皆の心が引締り、人を杖に突くといふ依頼心がなくなつて了ふ。さうすれば力と頼むのは神様ばかりだ。そこにならぬと御神力は与へて下さらぬ。マア安心して大神様を信仰しなさい。天下の宣伝使は決して嘘や掛値は言はぬ。お前さまは初公さまの代りになつて、町の者等を守つてやつて下さい』 斧公『有難う御座います。何分宜しく……』 と頭を地に着け涕泣し居る。いよいよ四人の宣伝使は初公を伴ひ、酋長の館を指して進み行く。 (大正一一・三・六旧二・八松村真澄録) |
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霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 08 思出の歌 | 第八章思出の歌〔五〇四〕 月日の駒の関も無く豊にめぐり如月の 上九日の今日の日は稜威も高き高熊山の 神の巌窟に誘はれ五六七の御代を松岡の 九山八海の山の御使月早西に傾きて 風も静まり水さへも子の正刻に賤の家を そつと立出で道の奥の人に知られぬ神国の 花を手折りし今日の日は二十五年の時津風 厳の御魂や瑞御魂教の光隈もなく 清く流るる小雲川常磐の松生ふ川の辺に 聳り立ちたる松雲閣いよいよ十二の物語 聖き神代の消息を音無瀬川の川の瀬に 流すが如くすくすくと滑り出でたる蓄音器 瑞の御魂の開け口梅を尋ねて鳥が啼く 東の遠き都より瑞霊輝く三光堂 松の大本常久に三五の月の御教は(松本常三郎) 円満清朗比ひ無く綾の錦の服部の(服部静夫) 静夫の大人の計ひに谷の戸開けて鶯の(谷広賢) 声も長閑に世を歌ふ広き賢き道の教 神野出口の岩の上に栄え吉しき千代の松(野口岩吉) 本の教の神直日枝も鳴らさぬ神の風(松本直枝) 海の内外に極みなく山は豊二芽含みつつ(外山豊二) 花咲く春も北村の天津御空に隆光る(北村隆光) 聖の御代を松村や弥仙の山に現はれし(松村仙造) 木の花姫の御教を造次顛沛村肝の 心に加けて藤つ代の神代を明す物語(加藤明) 藤の御山の高津神教の道を永久に(藤津久) 伝へむものと中津国野立の彦や野立姫(中野祝) 聖き教の太祝詞宣る言霊は山の上(山上郁太郎) 谷の底まで押しつつむ村雲四方に吹き払ひ(谷村真友) 真の道の教の友心の華も馥郁と 皇大神の伝へ太郎日本心の雄心は 清く空しき仇言を一人も岩田の久太郎(岩田久太郎) 宣る言霊は命毛の筆に任せて記し行く 今日の生日ぞ尊けれなんの辛の酉の年 神の御声を菊月の中の八日に神懸り 神の出口の口開き誠一つの霊界の 奇しき神代の物語二つの巻の口演を うまらに委曲に宣り了へて闇夜も秋の神祭り 事なく済みて万代の基芽出度き瑞祥の やかたに到り名も高き高熊山に百人を 伴ひ参り岩屋戸の貴の稜威を称へつつ 神の集まる宮垣内わが故郷を訪れて 産土神を伏し拝み名さへ芽出度き亀岡の 教の園に立帰り言葉の華の開け口 瑞の身魂に因みたる三つの巻をば半まで 録して帰る竜宮館黄金閣に向ひたる 教主殿に三柱の教の御子に筆とらせ 本宮山や四尾山峰の嵐に吹かれつつ 吹きも吹いたり四つの巻いつかは尽きぬ物語 五の御魂の五つの巻端緒開けて言霊の 速き車に身を任せ千代を岩井の温泉場 神の恵みも暖かに廻るこまやの三階に 五六七の居間を陣取りて五も変らぬ六まじく 六びて語る六つの巻師走三十日になりぬれば 心の駒のせくままに足並早き汽車の上 綾の高天に恙なく帰りて述ぶる七つ巻 錦水亭に横たはり四日の間に述べ終へて 壬戌の節分の祭もここに恙なく 年を重ねて瑞祥の再び館の人となり 祭すませて高熊の峰に二百と五十人 誘ひ詣で神徳の花開くなる八つの巻 九つの巻、十の巻半ならずに引返し 綾の高天の教主殿奥の一間に横たはり 漸く胸も十の巻芽出度く編みて並松の 松雲閣に立帰り七日の夕十一の 巻物語り相済みて思ひ出深き如月の 八日いよいよ十あまり二つの巻に取かかる 斯る尊き神の代のその有様の万分一 一々筆に書きとめて今日の生日を祝ひつつ 世人の為に録すなりアヽ惟神々々 御霊幸はひましませよアヽ惟神々々 御霊幸はひましませよ (大正一一・三・七旧二・九外山豊二録) |
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霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 09 正夢 | 第九章正夢〔五〇五〕 常夜ゆく暗を晴らして皇神の珍の御子たち助けむと 稜威も高き高光彦や神より受けし伊都能売の 玉光彦の玉も照り大海原に漂ひて 海月なす国光彦のみづの身魂の三柱は イホの都の町はづれ老樹茂れる森の下 露を厭ひて仮枕国魂神を祀りたる 祠の後に身を隠しまどろむ折しも何処よりか 集まり来る人の影神灯神酒を奉り 常夜の様を歎きたるイホの都の酋長が 世人助くる手段さへ夏山彦の神司 神の御前に太祝詞唱ふる声もいと清く 心の闇も春公の倉あけ渡し食物を 神に誓ひて夫れぞれに配り与へ饑渇き 救ふはいとど易けれど霊の餌と充つるべき 教の餌に苦みつ神の御前に諸人を 集めて諭す神の教食物着物住む家と 酒より外に心なき醜の身魂を如何にして 神を敬ひ長上に尊び仕へ真心の 本霊にことごとく立直さしめ天地の 神の御子たる務をば各も各もに尽させて 神の怒も淡雪の溶けて嬉しき春の日の 花咲き匂ひ百鳥の歌ふ嬉しき神の代の 日月空に輝きて鬼も探女もナイル河 滝に洗ひしその如く清めむものと酋長が 心筑紫の白瀬川世人を思ふ真心の 涙は滝の如くなり夢か現蚊取別けて 言霊清き宣伝歌暗を透して鳴り渡る 時しもあれや初公が醜の雄健び踏たけび 狂ふ折しも宣伝使双手を組みし言霊の 其一声に肝打たれ魂研かれて各が 恵みも深き皇神の心を悟り服従ひし その嬉しさに胸躍り心勇みて四柱の 神の命の宣伝使初めて会ひし初公を 伴ひ進む闇の路四方に塞がる村雲の 空も愈春公や青葉も茂る夏山彦の 館を指して出て行く途中睡気を催して ここに五人の一行は露をも置かぬ草の上 腰打掛けて憩ふうち何時か睡魔に襲はれて 脆くも此処に横はり夜の更け行くも白瀬川 ナイルの滝の森林に黎明を待ちて秋月の 滝の魔神を一々に六つの滝まで清めむと 暗の木下に憩ふ折一つ火忽ち現はれて 一行五人が心をば照させ給ふ夢の跡 大蛇の背より飛下りて腰を抜かせし束の間に つかつか来る夏山彦が率ゆる人数の足音は いと高々と聞え来る。 蚊取別『ヤア、エライ恐ろしい夢を見たものだナア。余り知らず識らずの間に慢心して、大蛇の背中に乗せられ、雲の上まで引張り上げられて了つて居た。盲蛇に怖ぢずと云ふ事があるが、本当に目明の積りで、我こそは天下の宣伝使、世界の盲聾の目をあけてやらうナンテ偉さうに言つて歩いて居つたが、エライ怖い夢を見たものだ。コリヤきつと霊夢であらう、アーア慢心はし易いものだナア。慢心は大怪我の本だと、何時も口癖の様に云ひながら、箕売り笠でひると云うたとへは自分等の事だ。人が悪いとか馬鹿だとか思うてゐると皆自分のことだ、これから一つ魂の焼直しをして掛らねばならぬワイ。吁神様有難う御座います。能く気をつけて下さいました』 高光彦『蚊取別さま、どんな夢を御覧になりました。我々も恐ろしい夢を見ました。四方八方真暗がりで、秋月の滝の前だと思へば、大蛇の背に乗せられて、エライ所へ鰻上りではなうて蛇上りに上つてきつい戒めに遭ひ、中天から飛びおりて、腰をぬかし本当に妙な夢を見ましたよ』 蚊取別『ハア、我々の夢と同一ですワ』 と声をかすませ、首を捻る。玉光彦、国光彦、初公も異口同音に、 玉光彦、国光彦、初公『私も其通りそのとおり』 と胸を轟かせ乍ら、小声になつて首を頻りに傾けて居る。折柄の物音に前方を見れば、提灯の光瞬き、数十人の人声此方に向つて進み来る。 初公『あの提灯の印は丸に十、たしかに夏山彦の酋長が手下の者共、愈初公さまを召捕に来よつたな。ヨーシ、今迄の初公さまと思つて居るか、あまり我は、偉い偉いと思うて居るとスコタン喰うぞよ。足許は真暗がり、闇に烏のまつ黒々助、夏山彦の家来の奴共、片つ端から「ウウーン、ウーン」と阿吽の言霊、開くや否や四方八方に、蜘蛛の子を散らすが如く、チリチリバツト、花に嵐の其如く、皆散り散りに逃げて行く………』 蚊取別『コラコラ、何寝呆けてるのだ。あまりウーンに慢心をすると、今の様な怖い夢を見せられて、お警告を受けるのだぞ。ウーンも好い加減に使つて………乱用するとまた夢を見せられるぞ』 初公『モシ蚊取別さま、あれは夢だが、今そこへ来るのは現実ですよ』 蚊取別『幻術でも、妖術でも、神術でも無暗に使ふものぢやないよ』 初公『それでも、短兵急に押しよせて来た、この敵にムザムザと虜にしられようものなら、それこそ最早ウーンの尽だ。運の尽きる迄一つ、ウンウンを行つて行つて行り倒し、運を一時に決せむだ。サア来い勝負………』 高光彦『アハヽヽヽ』 初公『笑う所か大変ですぜ。あの提灯を御覧、丸に十だ』 高光彦『丸に十なら結構ぢやありませぬか、三五教の裏紋だからな』 初公『裏紋教でも、表教でも、大本でも、かうなつては最早百年目、自由行動と出ますから、あなた方四人の御方はジツトして、この初公のハツ人芸を御覧なさい。一人でハツ人ぢや、初夢の初功名、神力ハツ展の初舞台だ』 蚊取別『コラコラ、さうハツやぐものぢや無い、ハツかしい事が後になりて出て来るぞよ。神の申す間に聞かぬと、我で致したら失敗るぞよ』 斯かる所へ早くも夏山彦の一隊は徐々と現はれ来たる。 初公『ヤア、寄せたり寄せやがつたりな。我れこそはイホの都に隠れなき初公さまだ。召捕るなら美事召捕つて見よ。小癪に構ふ汝等が振舞、儘になるなら、麦飯、稗飯、粟飯、五もく飯、米の飯、サア勝手にメシ取つて見よ』 蚊取別『アハヽヽヽ』 三人『ワツハヽヽヽ』 群衆中より立派な姿をした二人の男、蚊取別の前に悠々と現はれ、 夏山彦、春彦『ヤ、あなたは蚊取別の宣伝使様、………御一同様、私等は夏山彦、春彦でございます。どうか此駕籠に御召し下さいまして我々が矮屋に一夜御逗留を御願申したく、態々御迎へに参りました』 初公『ヤア、ナーンだ、天が地となり、地が天となる、変れば変る世の中だ。オイオイ其駕籠は大蛇の背中とは違ふか』 夏山彦『ヤア、お前は初公か、我々は蚊取別その他三人の宣伝使様に御挨拶申上げて居るのだ。横間から喧しう申さずに、暫く待つて居て呉れ』 初公『ヨーシ承知した。併し駕籠は四台よりないぢやないか、初公さまの駕籠は後から来るのかい』 春彦『生憎四台よりありませぬので一台………』 初公『オイオイ、四台よりない?………何と情なきシダイなりけりだ。一だいのテレ臭い恥曝しだワイウフヽヽヽ』 蚊取別『折角の思召無にするも何となく心許なく思ひますが、我々はさ様な贅沢な駕籠などに乗ることは出来ませぬ』 初公『ヤア今あまり調子に乗つて、ウンウン気張ると云つて、ウンが増長して高い高いコクウンの中までおつぽり上げられ、スツテンドウと地上に真逆様に墜ちて、腰を折つた夢を見よつたものだから………そんな俄に殊勝らしい事を仰せられるのだ。恰度それならそれで都合が良いわ。三人の宣伝使様と此初公さまと四人乗せて貰はう』 玉光彦『私は駕籠は平に御免蒙ります』 国光彦『我々もその通り』 初公『拙者も同様、駕籠は平にお断り申す』 群衆の中より、 群衆の一人『コラ初公、貴様がお断り所か、頼んだつてコチラからお断りだよ』 夏山彦『折角の志、どうぞお召し下さいませ』 蚊取別『イヤ又尾の先から振落ちねばならぬと困るから、乗物は平にお断り申します』 初公『モシモシ蚊取別さま、どうやら此処も大蛇の背ぢやあるまいか、足許がツルツルするぢやないか。夏山彦の宅で御馳走を戴いたと思へば、牛糞か馬糞か、訳の分らぬ物を食はされて、舌鼓を打つた夢を見た連中だから、この夏山彦も夢の中ぢやあるまいかナア』 蚊取別『夢でも何でもよいぢやないか。天は暗く月の光は無く、何れ悪魔の跋扈跳梁する世の中だ。斯う暗黒になつて来ると、誠の物は一つもないと思つたら落度はない。マア夢でも化物でも何でも構はぬ。刹那心だ、行く所迄行かうかい』 と一行五人は夏山彦以下群衆に迎へられて、今度は愈夢でもない、幻でもない、曲神の館でもない、正真正銘の夏山彦の館へ着いたのである。 正門は左右に開放され、門内は薄暗けれど、塵一本なき迄に清く箒目正しく、掃除が行届いて居る様子である。表門の入口より一間巾程の麗しき真砂は敷詰められ、一行を歓迎した酋長の真心は此砂路にも現はれ居たりける。 初公『ヤア是は一遍通つた。門と云ひ門番の貫公、徹公[※第5章では「鉄公」]の朧ながらも顔と言ひ、玄関の様子、一分一厘間違ひのない仕組だ。コラ又夢だらう、………オイオイ蚊取別さま、一寸私の頬べた捻つて見て呉れぬか、自分がひねつたのでは、夢か夢ぢやないか明瞭せない………アイタヽヽヽあまり酷い事すな、鼻を捻上げよつて………』 蚊取別『捻つて呉れと云ふから、註文通り捻つてやつたのだ。貴様の鼻はあまり低いのと横つチヨに着いとるものだから、頬辺だと思つて捻つたのだ。はなはなもつて見当の取れぬ面付だなア』 初公『本当にさうだ、ケントウがとれぬワイ。提灯は取れても、軒灯は高い所に吊つてあるから、俺の様な背の低い者では、一寸取り難いなア』 蚊取別『今度は夢ぢやない、本当だ』 初公『本当か嘘か、蚊取別さまのお言葉もあまり当にはなりませぬワイ。一つ此処で一か八かぢや、真偽を確めて見よう』 と言ひ乍ら、初公は腕を振り、ドシドシと奥の間に進み入り、 初公『ヤア、拙者は今日迄イホ村の侠客権太郎の初公と云つたは世を忍ぶ仮の名、元を糺せば聖地エルサレムに於て、行成彦の従神たりし行平別命、汝夏山彦八岐の大蛇の片腕となり、白瀬川の大蛇となり、此イホの都に尻尾を現はし、我々に立派な館と見せかけ、牛糞馬糞を馳走と見せかけて食はさうと致す其計略は、前以て承知の拙者、サア尋常に白状致せばよし、白状致さぬに於ては、十握の宝剣を以て寸断にするぞ』 と大音声に呼はつて居る。夏山彦は此声に驚きて此場に走り来り、 夏山彦『ヤア、誰かと思へば初公ぢやないか、何だ大きな声を出して………』 初公『大きな声は俺の地声だ。大蛇の化物ツ』 夏山彦『モシモシ宣伝使様、この男はどうかして居るのでせうな』 蚊取別『イヤどうもして居りませぬ。一寸副守護神が乗り憑つて、訳もない事を吐ざくのですよ』 初公『ナニ、副守護神だ!馬鹿にするない。フクはフクだが世界の福を守護する七福守護神だぞ』 蚊取別『雑巾持たしたらそこらをフク守護神、雪隠へ行つても、碌に尻丈は拭かぬ守護神、法螺ばつかり吹く守護神だ。蟹の様に泡を吹く守護神、熱も吹く守護神だ。アハヽヽ』 夏山彦『御一同様、お疲労で御座いませう。どうぞ緩り、日の出の頃まで未だ夜が御座います。此頃は日の出と言つても、日輪様のお姿は雲に包まれて拝めませぬが、ここに一つ灯を点して置きますから、ゆつくり御飯でも召上つて、今晩はお休み下さいませ。明日ゆつくりお目にかかりませう』 初公『それ見よ蚊取別さま、初公の目は黒いものだ、やつぱり大蛇の背だ。日の出神だとか日の出だとか、一つ火とか言うたぢやないか』 蚊取別『此奴まだ夢見てゐる、困つた奴だナア』 とまた鼻を力限りに捻ぢ上げる。 初公『イヽヽヽイツタイ、蚊取別、フニヤフニヤフニヤ、ヘタイヘタイヘタイヘタイ、ハヤセハヤセハヤセハヤセ』 蚊取別『アハヽヽヽ』 初公『あまり人を馬鹿にすな。此好い男つ振を鼻を引延ばしよつて……天狗の様になつたぢやないか』 蚊取別『ヤ、是でへつこむだ鼻が延びて調和が取れた。ハナの都の初花姫の様な、立派な顔になつたよ』 この時奥の間より、嚠喨たる一絃琴の音幽かに聞え、女神の歌ふ声、蚊取別の耳に特に浸み込む様であつた。蚊取別は首を傾け乍ら手を組み、 蚊取別『ハテなア』 (大正一一・三・九旧二・一一松村真澄録) |
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霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 10 深夜の琴 | 第一〇章深夜の琴〔五〇六〕 夏山彦は一同に向ひ、 夏山彦『最早夜も深更に及びましたれば、緩りと御寝み下さいませ。また明朝、緩々と御話を承はりませう』 と一同に会釈し一間に姿を隠した。 初公『蚊取別さま、この度は夢ぢやなからうなア。アイタヽヽヽ』 蚊取別『アハヽヽヽ、矢張り痛いか、痛けりや本当だ。安心して寝むだら宜からう』 初公『あの一絃琴の音はどうだ。小督の局が居るのぢやなからうかな。 「峰の嵐か松風か、恋しき人の琴の音か、駒を留めて聞くからに、爪音しるき想夫憐」 と云つた奴だナア』 蚊取別『馬鹿云ふな。夫れは何十万年未来の世の出来事だ。今は天の岩戸隠れの神代だぞ』 初公『過去現在未来を一貫し、時間空間を超越するのが神界の経綸ぢやないか。己が斯うして夏山彦の館に一絃琴を聞いて彼是噂して居た事を何十万年の未来の世の狂人が、霊界物語だと云つて喋べる様になるのだ。是も神界の仕組だよ。さうだから、ちつとでも今の間に善い事をして未来の人間に持て囃される様にならねば困る。天の岩戸開きの神業に奉仕するのは、末代名の残る事だ。それを思うと一分間でも無駄に光陰を費やすと云ふ事は出来ないワ』 蚊取別『喧しう云はずに寝る時分には寝るものだ。最早子の刻だ。三人の宣伝使が御疲れだから、貴様一人寝るのが厭なら、門へ出て其辺を迂路付いて来い』 初公『子の刻だから寝ると云ふのか、妙なコヂツケだな』 蚊取別『コヂ付けでも何でもない。開闢の初めから定まり切つた言霊の規則だよ。戌の刻限は、人間のいぬる時だ。ぬるの言霊は寝るのだ。亥の刻限にはゐと云うて休む時なのだ。ゐも又寝るのだ。子の刻にはねるものだ。戌亥子の三時は人間が一日の疲れをすつかり休めて華胥の国に遊楽する刻限だ、即ち寝る時だよ。十分体が休まつて、ウーシとなると明日の働く元気が身体一面に、ウーと張り切りシーと緊り、トーと尖つて芽をふき、ラーと左旋運動を起す。それが寅の刻だ。丑寅の刻に元気を付けて、ウーと太陽が卯の方に上る時に人間も起き出で、日天様を拝し顔を洗ひ嗽ひをし、身魂を清めてそれから飯を食ひ、辰の刻が来れば立つて働く。巳の刻が来れば、霊魂にも体にも、みが入つて一日中の大活動時機となる。午の刻になれば日天様は中天に上られ、人間の体も完全に霊と体との活用がウマク行はれるのだ。未になれば火の辻と云うて、火と水との境目だ。それから段々下ると申の刻、そこら一面に水気が下つて来る。酉の刻になれば一日の仕事を取り纏べて、其辺中を取片付け、御飯をとり込んでまた神様にお礼を申し、皆揃うて戌の刻になるといぬるのだよ』 初公『お前は割とは難かしい事を知つて居る宣伝使だねえ』 蚊取別『根ツから葉ツから蕪から菜種迄、宇宙一切万事万端解決が着かねば、宣伝使にはなれないのだよ。牛の尻ぢやないが、牛の尻にならぬと世界を助け廻る事は出来ぬ。兎も角宣伝使が尤も慎むべき寅の刻、オツトドツコイ、虎の巻は何事も省ると云ふ事が一等だ、卯の刻ではない、己惚心を出してはならぬぞ。自分は足らはぬ者ぢや、力の弱い者だ、心の汚れた者だ、罪の塊だと、始終心に恥ぢ、悔い、畏れ、覚り、省みる様にならなくては神様の御用は出来ない。辰と緯との機の仕組、神の因縁を良く諒解し、一方に偏らず、其真ん中の道を歩み、巳の刻ではない、身魂を磨き身を慎み、身贔屓身勝手は捨て改め、猥りに人を審判かず、心は穏かに春の如く、午の刻、否うまく調和を取つて神に等しき言霊を使ふのが本当の神の使だよ』 初公『蚊取別さまの御話で大体甲子(昨日)から随いて歩いて、漸く十二分の干支九(会得)が出来た。然し一絃琴の音が益々冴えて来たぢやないか。寝よと云つたつて、琴の音に耳を澄まされ子る事は出来はしない。ことの外真夜中過ての一絃琴だ。一言禁止する訳には行こうまいかな』 蚊取別『ハテナ、あの琴の音はどうやら、秘密が潜むで居るワイ。此処に来たのも何か神様の一つの絃に操られて来たのだらう』 一絃琴の音はピタリと止むだ。高光彦を始め初公は漸く眠りに就いた。蚊取別は一絃琴の耳に入りしより何となく胸騒ぎ、心落着かず眠り兼ね寝床の上に双手を組むで思案に暮れて居た。又もや微に聞ゆる琴の音、微かに歌ふ声、蚊取別は眠られぬ儘に、琴の爪音を探りさぐり近付いて襖の外に息を殺し静かに聞き入つた。一室に女の歌ふ声、 祝姫『世は烏羽玉の暗くして黒白もわかぬ人心 此世の曲を天地の神の伊吹きに祝姫 山の尾の上や川の瀬に威猛り狂ふ曲神を 言向け和し宣り和め神の恵みを四方の国 百人千人に白瀬川言の葉車の滝津瀬と 逸れど曇る世の中は何の効果もナイル河 滝の涙も涸れ果てて緑の色も褪せにけり 夏山彦の神館百日百夜のもてなしも 早秋月の滝の水乾くよしなき今の身は 生きて甲斐なき宣伝使北光彦の媒介に 蚊取の別の妻となり比翼連理の片袖も 今は湿りて濡衣の乾くよしなき浅猿しさ シナイ山より落ちかかる秋月滝に身を打たれ 醜の魔神にさやられて神に受けたる玉の緒の 息も絶えなむ時もあれ情も深き夏山彦の 貴の命に助けられ病き悩む現身を これの館に横たへて朝な夕なの慈み 身も健かになりぬれば愈此家を立ち出でて 天が下をば駆巡り三五教の御教に 常夜の暗の戸をあけて荒振る神や醜神の 魂照さむと思ふ間思ひがけなき夏山彦の 貴の命の横恋慕夫ある身も白瀬川 流す浮名の恐ろしく操破らぬ祝姫 アヽさりながらさりながら世人の口の怖ろしく 戸もたてられぬ我思ひ義理と情にほだされて 操の松も萎れ行く嗚呼如何にせむ蚊取別 夫の命が此噂聞し召しなば如何にせむ 夏山彦は名にし負ふ心目出度き貴の司 神ならぬ身の祝姫夫持つ吾と知らずして 恋の小田巻繰返し返し重ねて朝夕に 心の丈を割りなくも口説き給ふぞ悲しけれ 此の世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直し聞き直し 世の過ちを宣り直す三五教の守り神 百の神たち我胸の暗き帳を引きあけて 心を晴らせ八重雲を伊吹き祓ひて日月の 光照らさせ給へかし蚊取別てふ背の君は 今は何処に荒野原独り苦しき漂浪の 旅を続かせ給ふらむ逢ひたさ見たさ身の詰り 只一言の言霊の夫の命に通へよや 峰の嵐や松風に寄せて妾が琴の音を 夫の命に送れかし夫の命に送れかし』 と静かに歌つて居る。蚊取別は思はず、ウンウンと溜息つきながら足音高く我居間に立帰り、四人と共に床の上にコロリと伏し、夜の明くるを今や遅しと待ち居たりける。 (大正一一・三・九旧二・一一藤津久子録) |
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霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 15 宣直し | 第一五章宣直し〔五一一〕 峰の嵐や松風の音高熊山の岩の前 霊より覚めし瑞月は神の使に十四夜の 御空を仰ぎ眺むれば星の瞬きやうやうに 霞みて月も弥仙山峰の後にかくろひて 鶏鳴間もなき朝嵐冷たき風に吹かれつつ 又もや霊は悠々と果しもあらぬ神界の 方へと息せき進み行く水音高きナイル河 春の初と言ひ乍ら名は秋月の大瀑布 八岐大蛇の片割なる醜の大蛇を言向けて 此世の曲を祝姫蚊取の別や三光の 神の使ひの宣伝使高熊ならぬ高光彦 神の霊の玉光彦御稜威も高き国光彦 風にちらつく行平別の茲に六人の神司 深雪の滝の曲神を善言美詞の神言に 吹き払はむと進み行く夢の中なる物語。 行平別『サア今度は深雪の滝だ。皆さま一緒に前後左右より言霊を以て攻め掛ませうか、また秋月の滝の様に私一人に一任されては困りますよ』 蚊取別『イヤ、深雪の滝は一人で結構だ。行平別の宣伝使に頼むでおかう。祝姫さま、あなたの弔ひ合戦も是で帳消だ。今後は夏山彦の奥さまだから、今迄の様に天下を自由自在に濶歩する事は出来ない。夫唱婦随の天則に従つて家庭を守らねばならぬ。人は一代名は末代、夏山彦の奥さまは、秋月の滝の悪魔を退治に往つて悪神の為に苦められ、大失敗を演じ、夏山彦に助けられ、その情に絆されて夫婦になつた、宣伝使を失敗つた、有終の美を全うする事が出来なかつたと、末代の語草になつては詰らないから結婚をされた後ではあれども、宣伝使の務めを全うさせたい為に、秋月の滝にあなたを連れて来たのだ。最早秋月の滝の征服も無事に片付いた以上は、宣伝使としての責任も、完全に果されたと云ふものだ。サア是から夏山彦の館に帰り、賢妻良母となつて、イホの都に善政を布く夫の神業を内助するのだ。最早宣伝使の役も神界より免除された。サアサア早く還りませう』 祝姫『折角秋月の滝迄来たのですから、モウ私も宣伝使の年の明、花々しく残りの滝の魔神を征伐する迄待つて下さいますまいか』 蚊取別『それはいけませぬ、何事も八分といふ所が良いのだ。十分手柄をしてやらうと思へば、却て失敗の基となる。たとへ失敗せずとも、白瀬川の悪魔は全部我々が征服したのだと云ふ慢心が起るから其慢心が貴女の婦徳を傷つける基となるから、これで打切にするが宜しい』 行平別『さうだなア、蚊取別の仰有る通りだ。祝姫さま、此方は斯う見えても、普通の宣伝使ではない、天教山より現はれたる尊い天使に間違ない、天使の命令だ。素直にお聞なさるが良からう』 祝姫『アヽ仕方がありませぬ、今迄は山野河海を跋渉し、種々の苦心惨怛たる辛い目も味はひ、また愉快な事にも会つて来ましたが、今日から最早宣伝使が出来ないかと思へば何だか心残りがある様です。矢張り妾は温き家庭に蟄居して安楽に暮すよりも、貴神方と共に命懸の苦労をする方が、何程愉快だか分りませぬ。アヽどうして男に生れて来なかつただらう』 蚊取別『執着心をサラリと抛つて、夏山彦の奥様となり、三五教の神を尊敬し、且その教を管轄下の人民に懇切に説き諭して神業を助けなさい。サア私が送つて上げませう。目を塞ぎなさい、途中に目を開けると大変ですから、蚊取別がサア目を開けなさいと云ふ迄開けてはなりませぬよ』 祝姫『ハイ』 と答へて従順に瞑目する。この時何処ともなく四辺を照す大火光が現はれ来たり、一行の頭上を四五回ブウブウと音を立てて循環し、轟然たる大音響と共に、白煙となつて消え失せた。見れば蚊取別、祝姫の姿は最早この場に見えずなりにける。 附言 夫婦となるべき霊、親子となるべき霊魂、主従師弟となるべき身魂は、固より一定不変のものである。併し乍ら世の中の義理とか、何とか種々の事情の為に已むを得ず、不相応の身魂と結婚をしたり、師弟の約を結んだりする事がある。但し霊と霊との因縁なき時は、中途にして破れるものである。蚊取別の天使は、祝姫の霊の夫婦に巡り会ふまで、他の異りたる霊と結婚をなし、天分使命を中途にして過たむ事を恐れ、種々と工夫を凝らし、一旦自分の妻神と名付け、時機の来るのを待たせつつあつたのは、神の大慈大悲の御守護であつた。故に人は結婚に先立ち、産土の神の認許を受け神示を蒙つた上にて結婚せざれば、地位財産名望義理人情恋愛等の体主霊従的境遇に支配されて、一生不愉快なる夫婦の生涯を送る様な事が出来てはならぬから、人倫の大本たる夫婦の道は、神の許しを受け、妄りに軽々しく結婚してはならないものである。中には二度目の妻、所謂二世の妻を持たねばならぬ様な場合があるが、これは第一世の妻と霊が合はなかつたり、或は合つてゐても肉体が霊に添はずして、夭死したりするものである。併し乍ら愛情と言ひ、家庭の切廻しと云ひ、どうしても第一世の妻に比ぶれば、第二世の妻は劣つて居るものである。要するに、二世の妻は、妻といふ名はあつても、大抵は一世の妻の代理たるべき者であるからである。また中には第一世の妻より二世の妻の方が、何かに付けて優つたのもある。それは第一世の妻は夫婦の霊が合うて居なかつたので、第二世の妻が本当の霊の合うた夫婦の場合である。二回とも霊の合はぬ夫婦となり、中途にしてどちらかが欠げ、第三回目に霊の合うた者が発見されても、最早三世の妻は持つ事が出来ないのが、神界の不文律である。 祝姫も斯る過失に陥らざる様と蚊取別の天使は、今日まで姫の身辺を保護すべく夫婦の名を附して居たのである。 蚊取別祝姫は、白煙となつて此場に姿を隠した跡に四人は茫然として白煙立上る雲の彼方を見て、感歎稍久しうし、 高光彦『ヤア今まで蚊取別の宣伝使は変つた人だと思つて居たが、神様と云ふものは実に何処までも行届いたものだナア。唯一人の祝姫の一生を守るべく、種々の手段を以て操縦された其御神業、小さい事にも大きい事にも気のつくものだ。我々も細心の注意を払つて世の中に立たねばならぬ。况して今日の如き常暗の世の中に、蚊取別の様な人は目薬にしたいと思つてもあるものでない。サア之から我々も知らず知らずの慢心を省みて本当の神心にならねば、五つの滝の曲神を征服どころか却て征服されて了はねばならぬ。アー何だか蚊取別さまの帰られた後は、鳥も通はぬ離島に唯一人棄てられた様な心持になつて来た』 玉光彦『さうですナ、各自に腹帯を締めて掛らねばなりませぬ。人は背水の陣を張らねば何事も成功しませぬ。勇断果決、獅子奮迅の勢を以て、先づ自分の霊に憑依せる悪魔を追出し、清浄潔白の霊になつた上悪魔を征服する資格が初て出来るのだ。大瀑布に悪魔が居ると思へば、豈図らむや、自分の心の奥に白瀬川の大瀑布が懸り、そこに大蛇の悪魔が巣ぐうて居るのだ。身外の敵は容易に征服出来るが心内の敵は退治が出来難い。先づ深雪の滝の悪魔に突撃するまでに、各自の悪魔を征服し、或は帰順せしめて後に掛りませうか』 高光彦『アーさうだ。悪魔に対ふのは、恰度的に向つて弓を射る様なものだ。弓を射る者は其身を正しうして、一分一厘の隙間もなく、阿吽の呼吸の合つた時始めて、弓を満月の如くに引絞り、私の心を加へず秋の木の葉の風もなきに、自然に落つるが如き無我無心の境に入りて、自然に矢が弦を離れる。さすれば其矢は的の中心に当る様なものだ。先づ己の霊を正しうするのが肝腎だ』 国光彦『敵は本能寺にあり、我身の敵は我心に潜む。心の敵を滅せば、如何に常暗の世の中とは云へ、我に取りては悪魔も大蛇もナイル河、尊き神代を深雪の滝、速河の瀬に失ひ流す、神司麻柱の宣伝使、深雪の滝に向ふに先立ちて先づ自己の霊の洗濯にかかりませう』 行平別『アヽ、万寿山の御兄弟の深刻なるお話に依りて、私の心の岩戸も、サラリと開けました。アレ御覧なさいませ、天津御空には喜悦の太陽晃々として輝き始めました。これ果して何の祥瑞でせうか』 高光彦『世の中に鬼も大蛇も悪魔も有るものでない、ある様に見えるのだ。各自の心に誠の日月が照り輝き、神の慈愛の心の鏡に映つたならば、天地清明安養浄土、サアサア皆さま、打揃うて天津祝詞を奏上致しませう』 四人は茲に端坐し、天津祝詞を奏上し終つて宣伝歌を高唱する。 三光、行平別『神が表に現はれて善と悪とを立別ける 善悪不二の神の道善を思へば善となり 悪を思へば悪となる舌の剣の切先に 鬼も悪魔も曲霊も先を争ひ出で来る この世曇るも舌の為争ひ起るも舌のため 敵に悩むも舌のためこの世を照すも舌の為 人を救ふも舌のため天国浄土も舌の為 地獄極楽舌のため世のことごとは押並べて 舌の毒より湧き出づる舌の奥には心あり 鬼が出づるも心から大蛇探女も心から 神も仏も心から心の持様唯一つ 心に花の開くとき天地四方に花開く 心に凩荒ぶとき世界に凩吹きまくる 人を殺すも村肝の心の呼吸の舌の先 人を救ふも舌の先神となるのも舌の先 鬼となるのも舌の先人は第一言霊の 天の瓊矛と称へたる舌の剣を慎みて 慈愛の鞘によく納め妄りに抜くな放つなよ 善言美詞の神嘉言使ふは舌の役目ぞや 善言美詞は天地の醜の悪魔を吹き払ふ 生言霊の剣ぞやアヽ惟神々々 霊幸倍坐世言霊の舌の剣を穏かに 使はせ給へ天津神国津神たち百の神 神代を開く言霊の清き御水火に曲津見の 醜の霊は消え失せむ此世を造りし神直日 心も広き大直日唯何事も人の世は 直日に見直せ聞直せ身の過ちは詔り直せ』 と歌ひ終るや、百日百夜暗黒に鎖されたる天地は、茲に豁然として夜の明けたる如く、日は晃々として天に輝き、今迄騒然たる瀑布の響はピタリと止まり、虎狼獅子大蛇鬼の叫びも瞬く間、若葉を渡る春風の響とこそはなりにける。 (大正一一・三・一〇旧二・一二松村真澄録) |
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霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 16 国武丸 | 第一六章国武丸〔五一二〕 天に月日の光なく、地に村雲ふさがりて、奇しき神代も呉の海、国武丸に帆を揚げて水夫の操る櫂の音は、波に蛇紋を画きつつ、コーカス山の麓を指して進み行く。 風も無く、油を流したやうな静かな、淋みのある海面を船脚遅く、波掻き分けて北東指して進む。此の海上に漂ふこと旬日、数十人の船客は四方山の話に耽り居るのみ。 甲『斯う毎日日日天は曇り、地は言ふに言はれぬ鼻もむしられるやうな臭気がして来る。若い者の頭までが白髪になる。年も寄らぬに禿頭が彼方にも此方にも殖ゑて来る。五穀は実らず、果物は熟せず、病気は起る、獅子や、虎や、狼や大蛇は所々に現はれて人を害する、困つた世の中になつたものだナア。斯うなつて来ると人間も弱いものだ。吾々を救ふ誠の神様が果して世の中に御一柱でもあるとすれば、斯んな世の中を一日も早く立替へて下さりさうなものだな』 乙『それや神様は屹度有るよ。誠の神様は広い世界に唯一柱より無いのだ。何程偉い神さまだとて一柱では、さう隅から隅まで手が廻りさうなことは無いぢやないか。神様が一方で救け持て往かつしやる後から、又悪魔がドンドンと魅入つて往くのだから仕方が無い。各自に心得て魂を研くより仕様がないわ。さう神さまばかりに凭れて居つても自分から改心せなくては、神様がお出になつても、アー斯んな穢れた奴は屑の方に入れてやれと云つて、屑籠の中へ投り込まれて了ふかも知れない。他力信神も結構だが、他力の中に自力信神が無ければならぬよ』 丙『自力で救かるのなれば別に神様は無くても好いぢやないか』 乙『自力の中に他力が有り、他力の中に自力が有る。神様と人間とは持つ持れつ呼吸が合ねば、御神徳は現はれて来ぬのだ。人間は神様に救けられて世の中に活躍し、神は人間に敬はれて御神徳を現はし給ふのだ。毎日手を束ねて他力ばかりを待つて居た所でさう易々と棚から牡丹餅が落ちて来る様な訳には行かない。人間は尽す可き道を尽し、心を尽し、身を尽し、もう是で自分の力の尽しやうが無いと云ふ所まで行つたとこで、神様が力を添へて下さるのだ。偸安姑息自分許り為べき事もせず楽な方へ楽な方へと、身勝手なことばかり考へて居る奴に、神さまだつてナニ護つて下さるものか。これ丈け世の中が曇つて来たのも、みんな神様の所行ぢやない。吾々人間の心得が悪いからだ。互に憎み、妬み、怨み、譏り、怒り、呪ひ、瞋恚の焔を燃して悪魔道のやうに、優勝劣敗、弱肉強食の悪心悪行が天地を包むで、自然に斯んな日月の光も見えぬ暗黒界が現はれたのだ。詮り人間の口から吹く邪気が凝つたのだよ。何うしても是は善言美詞の言霊を以て直日に見直し聞き直し宣り直し天津神言の伊吹きに依て、この天地の妖雲を払ひ清めねば、天日の光を仰ぐことは何時までも出来ぬ。雨も降らず、風も無し、地上に邪気は蔓延する。一体お前たちは此の世界は何うなると思つてゐるのか』 甲『何うなるつたつて、何うも仕方が無いぢやないか。一人や二人の言霊を清くした所で大海の一滴、何の役に立つものか。神様でさへも御一柱で手が廻らぬのに、况して人間の分際で一人や、半分、何程清い言霊を使つた所で何の足にもなりはせぬぢやないか』 乙『人間は神様の容器だ。神様が人間の身体に入つて下さらば、その身魂は日月の如く輝いて、斯んな暗黒な世の中でも薩張すつかりと浄まつて了ふのだが、何を言つても吾々の肉体には醜の曲津が巣を組んで居るから、神様が入つて下さる隙が無いのだよ。一日も早く心の曲津を投り出して、真如の日月を心の天に輝かすやうにならなくては駄目だ。塵芥の溜つた座敷には、貴いお客さんは据ゑることは出来ない。マアマア身魂の掃除が一等だな』 甲『この呉の海には大変な竜神さまが、この頃現はれたと云ふことだよ。その竜神が現はれた風評の立つた頃から、斯うして天地が真暗気になつたぢやないか』 乙『勿体ないことを云ふな。この呉の海は、昔は玉の井の湖と云ふ水晶の湖水があつて、そこに沢山の諸善竜神様がお住居をしてござつたのだ。その時代は此辺りは世界の楽土と言はれた所であつたが、その玉の井の湖を占領せむとして、大自在天の部下なる牛雲別、蟹雲別と云ふ悪神が、攻めよせ来たり、竜神さまと鬼神との戦ひがあつて、その時に玉の井の湖水は天へ舞ひ上り、二つに分れて出来たのがこの呉の海と、琵琶の湖だよ。さう云ふ因縁の有る此の海に何うして悪神さまが住居を為さるものかい。余り人間が悪賢うなつて悪が盛んになつたが為に、地上の諸善神は残らず天へ昇られ、竜神さまは何れも海の底、即ち竜宮の底へ、身を潜め給うたのだ。この地上には、誠の神様はみんな愛想をつかし見捨てて或は天に昇り、或は海の底に入らるるやうになつたものだから、恐い者無しの悪魔が横行濶歩するやうになつたのだよ』 甲『神様は全能ぢやとか、愛だとか言ふぢやないか。真に吾々を愛し給ふならば、何故飽迄も保護をして下さらぬのだ。斯うなつて見ると神の慈愛も疑はざるを得ぬではないか。要するに神と云ふものは美しい、綺麗なばかりで実力の無いものと見える。心穢き悪魔の跋扈に耐へ兼ねて天へ避けたり、海の底へ隠れるとは、なんと神様も不甲斐無いものだナア。吾々人間でさへも斯うして地上に依然と辛抱してゐるぢやないか』 乙『莫迦を云ふな。「人盛なれば天に勝ち、天定まつて人を制す」と曰ふことがある。何程神様が人間を照してやらうと思召しても、鏡が曇つて居るから神様の御神力が映る途が無いのだ。濁つた泥の池には清き月の影は映らぬ。曇つた鏡には姿は映らない、神様は清浄潔白、光だから斯う云ふ汚い人間には御うつりなさらうと思つてもうつることが出来ないのだよ』 甲『其処が神さまぢやないか。吾々の魂が曇つて居れば、何とかして勝手に磨いて、うつればよささうなものぢやないか。魂を研け、磨いた者には、うつつてやらう、護つてやらう、救けてやらう、磨けぬ者には、うつらぬ、護つてはやらぬ、救けぬと云ふのでは別に吾々と異つたことは無いぢやないか。吾々でも色の白い、年の若い、綺麗な別嬪には不知不識に目がうつり、心がうつり、気分がよくなるし、穢いお多福面の色の黒い、どて南瓜のやうな奴には、何となしに心持が悪くつて、そよそよと吹いて来る風も厭と云ふやうな気になる。其処が人間の心だ。仕方が無いが世界の人民は皆我が児だと仰有る神の親心から見たなれば、極道の児や不具の児は、親の心としてなほ可愛がつて呉れさうなものぢやないか。之を考へると余程吾々の方が慈悲心が深いやうだワイ』 乙『よう理窟を云ふ奴だな。神界の事は人間界の理窟で解るものかい。至大無外、至小無内、千変万化の神様の御働き、そんな人間を標準としての屁理窟を言つたつて、神様の大慈大悲の大御心が解るものかい。各自に身魂を研くが一等だ』 甲『さうすると此の海にござる竜神さまは、善の神と云ふのか。善の神なら一寸姿を現はして吾々に安心をさして下さつてもよかりさうなものだのにナア』 乙『何時でも現はして下さるよ。斯んなことは神様の自由自在だ。併し乍ら吾々のやうな穢苦しい身魂の人間が、竜神さまの頭の上を斯うして船に乗つて穢して渡つて居るのだから、何とも知れないよ。マゴマゴすると大変な御立腹を受けて荒波が立つて、船と一緒に竜宮行きをせにやならぬかも分らぬぞよ』 甲『たとへ船がひつくりかへつても、竜宮へ往けるならば結構ぢやないか。神様ばかり清らかな天や、海の底へ入つて地上の人間を斯んな悪魔の中に放つたらかして置くとは、ちつと量見が解り兼る。竜宮へ遣つて貰つて俺は一つ神様と談判をして地上の人間を守つて貰ふやうにしたいのだ』 乙『何程結構な竜宮へ往つた所で、自分の心の鏡が曇つて居れば、美しいことはないわ、鬼や、大蛇や、醜女、探女が四方八方から取囲むで苦しめに来るだけのものだよ。心相応に神様は現はれ給ふのだ。そこが千変万化の神の御働きだよ』 斯く話す折しも俄に一陣の颶風颯と吹き起つて船をキリキリ廻し、山岳の如き浪を立て数十人の生命を乗せたる国武丸は、今や海中に没せむとするの光景とはなりにける。 (大正一一・三・一〇旧二・一二外山豊二録) |
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霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 21 立花島 | 第二一章立花島〔五一七〕 高光彦の宣伝使は石凝姥、時置師の二人に向ひ慇懃に挨拶を述べ、朝日に向つて宣伝歌を歌ひ始めたり。 高光彦『朝日は光る月は盈つ大海原に潮は満つ 潮満球や潮干の大御宝と現はれて 波押し分けて昇る日の光は清く赤玉の 緒さへ光りて白玉の厳と瑞との其神姿 愈高く美はしく豊栄昇る天の原 コーカス山も唯ならず大海原に漂へる 四方の国々島々は皆明けく成りにけり 日の出神の一つ火は天津御空や国土に 照り渡るなり隈もなく清き神代の守護神 三五教の御教を千代に八千代に橘の 島に在します姫神の齢も長き竹生島 橘島と名を変へて呉の海原照しつつ 憂瀬に落ちて苦しまむ百の罪人助け行く 神の尊き試錬に遭ひし牛、馬、鹿、虎の ウラルの神の目付役心の嵐も浪も凪ぎ 今は漸く静の海波風立たぬ歓喜に 枉の身魂を吹き払ふ旭日は空に高光彦の 貴の命の宣伝使天津神より賜ひてし 玉光彦の神身魂直日に照りて顕国 有らむ限りは光彦のこの三柱の宣伝使 国武丸に乗り合ひて名乗り合ひたる十柱の 珍の御子こそ尊けれ畏き神の御恵を 一日片時忘れなよ神の恵を忘れたる 時こそ曲の襲ふ時身に過ちの出る時 身に災の来る時天と地との神々の 深き恵を忘るるな神に次いでは父母の 山より高く海よりも深き恵も片時も 忘れてならぬ四柱の牛、馬、鹿、虎神の御子 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令曲津は荒ぶとも大地は泥に浸るとも 誠の力は世を救ふ現界、幽界、神界を 通して我身を常久に救ふは誠の道のみぞ 誠を尽せ何時迄も身魂を研け常久に 朝な夕なに省みて心を配れ珍の御子 アヽ惟神々々御霊幸ひましませよ 御霊幸ひましませよ』 と歌ひ終つて旧の席へ復り合掌する。 船は漸くにして橘の島に安着した。六人の宣伝使を初め船中の人々は一人も残らず島に上陸した。 牛公『ヤア有難い有難い、この橘島丸に乗つて居れば、どんな風が吹いた処で最早沈没する虞は無いわ。仮令天が地となり地が天となり、如何なる暴風吹き来るとも、岩より堅い此船は牛公の腕の様なものだ。オイ馬鹿虎、何だ青黒い面をしよつて鼻を拭かぬか、醜い』 馬公『チツト風を引いたものだからナア』 牛公『風を引かなくても貴様の鼻は年中だ、恰度下水鼻だ』 時置師『コラコラ、また噪ぎよるか。此島は無駄口を言ふ処で無いぞ。畏れ多くも須佐之男大神様の珍の三柱の御子、剣の威徳に現はれ給うた橘姫さまのお鎮まり遊ばす神島だ。チツト言霊を慎むだが宜からう。心得が悪いと又帰りがけに海が荒れるぞ』 牛、鹿、馬、虎の四人はハイハイと畏まり、力無げに俯向いて居る。 此島は世界一切の所有草木繁茂し、稲麦豆粟黍の類、果物、蔓物総て自然に出来て居る蓬莱の島である。地上の山川草木は涸れ干し、萎れて生気を失ひたるにも拘はらず、此島のみは水々しき草木の艶、殊更美はしく味良き果物枝も折れむ許りに実りつつあるのである。何処とも無く糸竹管絃の響幽かに聞え、百花千花の馥郁たる香気は人の心魂をして清鮮ならしめ、腸をも洗ひ去らるる如き爽快の念に充さる。 玉光彦は潮水に手を洗ひ口を漱ぎ声爽かに歌ふ。 玉光彦『天津御神や国津神選びに選びし此島は 花も非時薫るなり薫りゆかしき樹々の実は 味も殊更美はしく色鮮かに光るなり 神の造りしパラダイス永久の教の花咲きて 斯く美はしき珍の島高天の原と開けしか 荒び果てたる荒野原山川越えて今此処に 波を渡りて来て見れば思ひも寄らぬ清の島 大御恵は目のあたり四辺輝く島山の 橘姫の御神姿鏡に映る如くなり 高天原の神の国高天原のパラダイス 千代に八千代に此栄え変らざらまし橘姫の 神の命の御舎と常磐の松の永久に 色も褪せざれ葉も散るな神の守護の永久に 神の恩恵の常久に』 と歌つて神の御徳を讃美したりき。 国光彦は又もや涼しき声を張り上げて、 国光彦『雲井の空の限りなく海の底ひの極みなく 満ち足らひたる神の徳神の水火より生れたる 此神島に来て見れば百の草木は生茂り 青人草の非時に食ひて生くべき食物 百の木の実も豊やかに枝も撓わに実るなり 天津日影はいと清く波また清き呉の海 神の御子たる民草の心の色の清ければ 此島のみか四方の国何処の果ても天地の 神の恵に潤ひて楽み尽きぬパラダイス 神の心を慎みて深く悟りて三五の 誠の教に服へば御空は清く地清く 波平けく山や野は何時も青々松緑 松の神世の常久に栄えしものを現身の ねぢけ曲れる人心日に夜に天地を穢したる 醜言霊の醜の呼吸草木を枯らし山河の 水まで涸らす愚さよ嗚呼この島を鑑とし 心を清め身を清め四方の国々皇神の 誠の道を伝ふべし世は常久に橘の 姫の命の知食す橘島のいと清く 波も静まれ四つの海魔神の猛ぶ葦原の 醜の醜草薙払ひ天の岩戸を押し開き 天地四方の国々を日の出国と開くべし 嗚呼尊しや有難や神の恵みの限りなく 君の恵みの極みなく親子夫婦は睦び合ひ 人と人とは親みて歓ぎて暮す神の国 一度に開く白梅の花の薫を松竹の 清き操も変らざれ清き神世も変らざれ 堅磐常盤の松緑ミロクの神が現はれて 天津教を経緯の綾と錦の機織らす アヽ惟神々々御霊の幸を願ふなり 千代に八千代に常久に千代に八千代に常久に』 行平別は大口を開けて又もや歌ひ始めた。 行平別『山川どよみ国土揺り青垣山は枯れ果てて 何処も彼処も火を点す野辺の百草露も無く 萎れ返りて枯るる世に神も守つて呉の海 唐紅の如くなる枯野の原の地の上 露を帯びたる緑葉は一つも無しと思ふたに これやマア何とした事かこの島だけは青々と 五穀は稔り木は栄え果物熟して甘さうな 自然に唾が湍る一視同仁神様の 心に似合はぬ何として此島だけは幸多き 思ひまはせば廻す程腹がたちばな島の山 云ひたい理窟は山々あれど心穢き人間の 身の分際を省みて理窟を言ふのは止めにしよう 人さへ住まぬ此島に米が実つて何になる 果物熟して何とする余りに神は気が利かぬ サアこれからは此方の生言霊の力にて 四方の国々島々に緑の木草珍の稲 豊の果物一々に移して世人を救ふべし 橘島の姫神よ行平別の言霊を 𪫧怜に委曲に聞こしめせ若しも諾かれなそれでよい 行平別にも腹がある聞いた印にや一時も 早く姿を変へられよ此島山が枯れ果てて 枯れ野の如くなつたなら豊葦原の国々は 皆生々とするであらう橘姫は只一人 栄えの国に安々と其日を暮し四方国の 青人草の悩みをば他所に見るのか逸早く 印を見せよ片時も疾く速やけく我前に』 と大音声に呼つた。此時何処ともなく忽然として現はれたる高尚優美の橘姫は、右の手に稲穂を持ち、左の手に橙の木実を携へて来り、天の数歌淑かに歌ひ終つて右の手の稲を天空高く放り上げ給うた。稲穂は風のまにまに四方に散乱し豊葦原の瑞穂の国を実現する事とはなりぬ。左の手に持たせ給ふ木実を又もや中天に投げ上げ給へば、億兆無数の果物となつて四方に散乱しければ、豊葦原の瑞穂国の食物果物はこれより良く実り、万民安堵する神世の端緒を開かれにける。これ天の岩戸開きの一部の御神業なり。 『因に曰ふ』橘姫は三光の一人なる国光彦の宣伝使と共に夫婦となり、この嶋に永遠に鎮まりて国土鎮護の神となつた。天の真奈井に於ける日神との誓約の段に現はれたる三女神の中の多岐都比売命は橘姫命の後身なりと知るべし。 (大正一一・三・一〇旧二・一二北村隆光録) |
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霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 23 短兵急 | 第二三章短兵急〔五一九〕 一つ島なる深雪姫ケ館の高楼より、眼下の海面を見渡せば、幾百千とも限りなき軍船、魚鱗の備へ堂々として島を目蒐けて押寄せ来る物々しさ。唯事ならじと深雪姫は近侍の老臣高杉別を近く招き宣り玉ふ。 深雪姫『高杉別殿、妾は今此の高楼より海面を眺むれば、此方に向つて攻め来る数多の兵船ウラル彦の魔軍か、天教山に現れませる皇大神の神軍か、慥に見届け来られよ』 と下知すれば、高杉別は、 高杉別『委細承知仕りました。われは是より当山を下り、事の実否を糺した上直に報告仕るべし』 と云ふより早く馬に跨り、深雪ケ丘を浜辺に向つて戞々と下り行く。深雪姫は又もや大国別を近く招き、 深雪姫『アイヤ大国別殿、当山に攻め寄せ来る数多の軍勢唯事ならず。仮令ウラル彦の魔軍にもせよ、必ず武器を以て之に敵対すべからず、善言美詞の言霊を以て曲を言向け和すは神須佐之男の命の大御心、この館には数多の武器、兵士、充ち備へありと雖も、決して敵を殺戮する目的に非ず。天下の神人が心に潜む曲津軍を、剣の威徳に依つて怯ぢ怖れしめ帰順せしむるの神器なれば、弓は袋に、剣は鞘に納まり返つて、総ての敵に臨むべく部下の将卒にも此旨厳しく伝へられよ』 と言厳かに宣示された。 大国別『敵は雲霞の如く、当山に向つて攻め来り、島人を殺戮し、民家山林を焼き払ひ、火は炎々として最早館の間近く燃え寄せたり。日頃武術を鍛へたるは斯る時の用意ならめ。研き置いたる弓矢の手前、胆を練りたる将卒の今や武勇の現はれ時、この時を措いて何れの時か戦はむや。みすみす敵に焼き滅されむは心もとなし。神は至仁至愛に坐ませども時あつて折伏の利剣を用ひ給ふ。况んや、コーカス山に鎮まり給ふ、十握の宝剣の御魂の威徳に成り在せる貴神に於てをや。血迷ひ給ひしか、今一度反省されむ事を希ひ奉る』 深雪姫『剣は容易に用ふ可らず。剣は凶器なり。凶を以て凶に当り、暴を以て暴に報ゆるは普通人の行ふ手段、苟くも三五教を天下に宣伝する天使の身として、また宣伝使の職として、善言美詞の言霊を閑却し、武を以て武に当るは我が心の許さざる所、ただ何事も至仁至愛の神に任せよ。武を尚び雄健を尊重すると云ふは、構へなきの構へ、武器あつて武器を用ゐず、武器無くして武器を用ゐ、能く堪忍び、柔和を以て狂暴に勝ち、善を以て悪に対し、神を以て魔に対す、柔能く剛を制するは神軍の兵法、六韜三略の神策なり。汝此主旨を忘却する勿れ。吾はこれより奥殿に入り、大神の御前に神言を奏上し、寄せ来る敵を言向け和さむ。一兵一卒の端に至る迄、今日に限り武器を持たしむるべからず』 と宣示し、悠々として奥殿に入らむとなしたまふ。大国別は、深雪姫の袖を控へて、 大国別『まづまづ暫くお待ち下さいませ。追ひ追ひ近づく矢叫びの声、如何に善言美詞の神嘉言を以て言向け和さむとすればとて、暴力には及び難からむ。吾はこれより部下の将卒を励まし、寄せ来る敵を縦横無尽に斬り立て、薙払ひ、日頃鍛へし武勇を示さむ。此事計りは強つて御許し下さいませ』 と拳を握り身を震はし、雄健びしつつ願ひ居る。深雪姫は悠々迫らず、悠長なる音調にて、 深雪姫『神が表に現はれて善と悪とを立別ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ 世の曲言は宣り直せ正義に刃向ふ剣なし 誠の力は世を救ふ神を力に三五の 神の教を杖として如何なる敵の来るとも 神の嘉言に言向けて敵を傷つく事勿れ 神は汝と倶にあり神は誠を立て徹す 誠で人を救ふべし今は身魂の試し時 心の持方一つにて善も忽ち悪となり 悪も忽ち善となる善悪正邪の分水嶺 天が下にはおしなべて敵も味方も無きものぞ 味方も時に敵となり敵も味方となり変る 只何事も人の世は神に任せよ悉く 心を焦ちて過失つな神は汝と倶に住む 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも此神島は焼けるとも 神は必ず吾々が赤き心を御覧し 安きに救ひ給ふべし誠一つの玉鉾に 寄せ来る敵を言向けて神の力を現はせよ 神の稜威を輝かせ』 と歌ひながら、奥殿に姿を隠させ玉ふ。 数万の軍勢は全島に火を放ち、折からの風に煽られて黒煙濛々として四辺を包み、数多の将卒は何れも雄猛びして、防戦の命の下るを今や遅しと固唾を呑むで控へゐる。 大国別は双手を組むで、青息吐息、如何はせむと思案に暮るる時しもあれ、駒の足音戞々と走せ帰りたる高杉別はヒラリと駒を飛び下りて、大国別の前に現はれ、 高杉別『ヤア大国別殿、貴神は何故防戦の用意をなさらぬか、敵は四方より数万騎を以て当山を囲み、山林に火を放ち既に当館も烏有に帰せむとする場合、何を躊躇さるるや』 と膝を叩いて呶鳴り付けたるにぞ、大国別は何の答もなく双手を組むだ儘俯むき涙さへ腮辺に伝ふるを見て取つた高杉別は悖かしげに、 高杉別『エイ、日頃の武勇にも似ず、千騎一騎の此の場合、敵の勢力に萎縮して、周章狼狽の余り、憂苦に沈む卑怯未練な貴神の振舞、最早斯くなる上は、貴神に相談するも何の益あらむや。吾れはこれより館の将卒を率ゐ、此処を先途と一戦を試み、勝敗を一時に決せむ』 と雄健びし乍ら、スタスタと此場を立つて表に出むとするを、大国別は言葉をかけ、 大国別『ヤア高杉別殿、貴下の御意見御尤も千万、吾れとても当館の主宰神、闇々敵の蹂躪に任せ袖手傍観するに忍びむや。さは然り乍ら、至仁至愛の大神が天下救済の御神慮は慎重に考慮せざる可からず。貴神暫く熟考せられよ』 高杉別『大国別殿の言葉とも覚えぬ。卑怯未練な陳弁、貴神は本島を守り給ふ深雪姫の神の宰神ならずや。斯かる卑怯未練の御心掛にて闇々敵に占領されなば、何を以て深雪姫の神に言解けあるか。アレアレ聞かれよ、山岳も轟く許りの敵の叫び声、到底貴神の賛成は覚束なければ、吾れは是より単独にて自由行動に出で、本島に攻め寄せ来たる雲霞の如き大軍を、日頃鍛へし武力を以て鏖殺せむ』 と勢込んで表をさして駆出す。 大国別『ヤアヤア高杉別殿、暫く暫くお待ちあれ』 高杉別『何ツ、此期に及むで暫時の猶予がならうか、勝てば官軍負くれば賊、大国別殿、拙者が武勇を御目に掛けむ』 と云ひ捨てて表門へと駈出だし、部下の将卒に向つて、戦闘準備を命令せむとする折しも、深雪ケ丘より帰り来れる手力男の神は此体を見て、 手力男『ヤア、大変に面白くなつて来ましたね。一つ敵軍の行列を緩りと、酒でも飲むで見物致しませうか』 高杉別『汝は、御年村の自称丑寅の金神手力男ではないか。かかる危急存亡の場合、何を悠々として気楽さうに構へて居らるるや。千騎一騎の此場合、防戦の用意をなされ』 手力男『アハヽヽヽ、ヤア面白い面白い、高杉別のその狼狽かた、イヤもう臍が宿換いたすワイ。アハヽヽヽ、マアマア緩り落着いて敵軍の襲撃を見てそれを肴に一杯やらうかい。ヤア誰も彼も酒だ酒だ、殺伐な剣や槍や弓の様な物は神様の鎮まり給ふ聖地に於て用ふる物ではない。武器は兇器だ』 高杉別はクワツと怒り、 高杉別『放縦無責任の汝の言葉、門出の血祭りにせむ』 と一刀を抜いて真向より斬りかかる。手力男神は、門柱をグツと引き抜き頭上高く振り翳し、高杉別を押へ付けた。 高杉別『ヤア、貴様は今まで忠実なる味方と見せかけて、内外相呼応して、此聖地を占領せむと計画しつつありし曲者ならむ。たとへ吾身は殺されて帰幽する共、我誠忠正義の霊魂は地上に留まり、汝が悪念を懲さで置くべきか』 手力男神『アハヽヽヽヽ、モシモシ高杉別殿、誤解されては困りますよ』 と云ひながら門柱をサツと取り除けた。高杉別はその刹那、飛鳥の如く飛びかかつて、 高杉別『反逆無道の曲者思ひ知れや』 と云つて、手力男の脇腹目蒐けて突きかかる。手力男はヒラリと体を躱したる途端に、高杉別は狙ひ外れて勢余り、七八間も前方にトントントントンと走つて抜刀の儘ピタリと倒れた。 黒煙は益々館を包み、風に煽られて全山樹木の焼ける音、攻め寄せ来る人馬の物音、刻々に近付高まり来たりぬ。 (大正一一・三・一一旧二・一三藤津久子録) |
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霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 29 子生の誓 | 第二九章子生の誓〔五二五〕 そこで須佐之男命がお父さんの伊邪那岐命に申上げられましたのには、然らば私は根の堅洲国に参ります。併しそれにつきましては、高天原に坐す姉君の天照大御神に一度お暇乞ひを致して参り度と存じます。高天原に上りますと申されて、 『乃ち天に参上りますときに、山川悉く動み、国土皆震りき』 天にお上りになるといふ此天は大本で言へば高天原で、今日に譬へて見たならば国の政治の中心で現代日本の高天原は東京であります。神界にも政治の中心が高天原にあつたのは当然で御座います。そこでいよいよ高天原に上り給はむとするとき山も川も悉く動いた。国土皆震ひ出しました。即ち物質界の上にも精神界の上にも、大地震があつたのであります。併しこれは形容であつて、社会万民総てのものが今更のやうに驚き、国土の神々が一度に震駭した。今日の言葉で言へば内乱が起つたといふやうな意味で非常な騒ぎであります。須佐之男命がこれから根の堅洲国においでになるに就ては、今度お暇乞ひの為に高天原にお上りになるといふので、国中非常な大騒ぎで、終に騒乱が起つたのであります。一方天照大御神様は、今度須佐之男命が天に上るに就て、国中大騒ぎであるといふことを聞し召されて、大いにお驚きになつて、 『あが汝兄の命の上り来ます由は、必ず美しき心ならじ、我が国を奪はむと欲すにこそ』 と詔り給うて弟の須佐之男命が海原を治さずして、高天原に上つて来るといふことであるが、これは必ず美しい心ではなからう。我此主宰する所の高天原を占領に来るのであらうと仰せになつて、 『御髪を解き御美髪に纏かして』 男の髪のやうに結ひ直して大丈夫の装束をして数多の部下を整列せしめ、戦ひの用意をなさつたのであります。元来変性男子の霊性はお疑が深いもので、わしの国を奪りに来る、或は自分の自由にする心算であらう、斯う御心配になつたのであります。丁度これに似たことが、明治二十五年以来のお筆先に非常に沢山書いてあります。変性女子が高天原へ来て潰して了うと云つて、変性女子の行動に対して非常に圧迫を加へられる。また女子が大本全体を破壊して了うといふやうなことが、お筆先に現れて居ります。それで教主初め役員一同、教祖の教の通りに此皇国の為め、霊主体従の神教を説いて日夜務めて居るので御座いますが、併し大本教祖も変性男子の霊魂であつて矢張疑が深いといふ点もあります。天照大御神様は、疑ひ深くも弟の美しい心を、これは悪い心を以て来たのではあるまいかとお疑になつたのであります。教祖もさう云ふ工合に変性男子の神界の型が出来て居るのであります。さうして、 『左右の御美髪にも御鬘にも、左右の御手にも、各八坂の勾玉の五百津の御統真琉の珠を纏き持たして、背には千入の靱を負ひ』 矢筒や弓をお持ちになりて、 『伊都の竹鞆を取り佩して弓腹を振り立てて』 弓を一生懸命に、ギユツト満月の如く引き絞つて、 『堅庭は向股に踏みなづみ、沫雪なす蹶散かして、伊都の男健び踏み健びて待ち問ひ給はく』 男健びといふのは、角力取りが土俵に上つてドンドンと四股を踏んで、全身の勇気を出す有様であつて、弟が軍勢を引き連れて来たならば一撃の下に討ち亡ぼして了うて遣らうと、高天原の軍勢を御呼び集めになつたのであります。 如何にも女神の勇ましさと、偉い勢を形容してあります。弟の須佐之男命が上つて来るのは、高天原を攻め落さうと思つて来るのではないかと、非常に御心配になつてそれに対する用意をしてお待ちになつたのであります。今日世人や新聞雑誌記者や既成宗教家や学者などが、大本が何か妙なことを考へて居るのではあるまいかと、変な所へ気を廻して居るのと同じことであります。そこで、 『何故上来ませると問ひ給ひき』 汝は海原を治めて居ればよいのである。然るに今頃何が為めに高天原へ出て来たかとお問ひになつた。すると須佐之男命が答へられた。私が今来て見れば、大変な防備がしてある。大変な軍備がして有りますが、これは私に対する備へでせうが、私は決して然う云ふ穢い考へは持つて居りませぬ。ただ父君伊邪那岐命が何故その方は泣くかとお尋ねになりましたから、実状を申上げるのはどうも辛う御座いますし、親様に心配をかけるのは畏れ多いと思つて、私は母の国に参らうと思ひますと申し上げました所が、父の大御神は以ての外のお怒りで、此国を治めるだけの力無きものなら、勝手に行けと仰有つて、手足の爪を抜き、鬚をぬき、髪の毛を一本もないやうに、こんな風にせられました。で私はこれから母の国に参りますといふことを姉上に申上げに参つたのであります。然うしますると天照大御神様は、果して然らば、汝は何によつてその心の綺麗なことを証明するか、証拠を見せて貰ひ度いと仰せられた。そこで須佐之男命は、 『各誓ひて御子生まな』 誓ひといふことは、誓約のことであります。若しも私が悪かつたならば斯々、善かつたならば斯々といふ誓ひであります。 『故爾に各天の安河を中に置きて誓ふときに』 天の安河といふのは、非常に清浄な所を意味するのであります。総て河の流れのやうに、少しも滞らない留まらない所は綺麗であります。物を溜るといふことは腐敗を意味します。この綺麗な清らかな、公平無私な所を、天の安河といふのであります。それを真中にして、本当の公平無私なる鏡を茲に立てて、さうして両方から誓約をせられました。どう云ふ誓約であるかといふに、須佐之男命は十拳の剣を持つて居られた。剣といふものは男の魂であります。昔から我国では刀を武士の魂又は大和魂と申して居ります。女の魂は鏡であります。乃ちお前の魂である所の剣を渡せと天照大御神が仰せられたから、それをお渡しになると、天照大御神は三つに折つて、 『天の真名井に振り滌ぎてさ嚼みに嚼みて吹き棄つる気吹の狭霧に成りませる神の御名は』 第一番にお生れになつた神は多紀理姫命、次に市寸嶋比売命、次に多気津姫命の三女神で現に竹生嶋に祀つてあります。安芸の宮嶋に祀つてありますのは市杵島姫命であります。次に多紀理姫命、多岐津比売命、この三人の女神がお生れになつた。今度は須佐之男命、この神様は非常に怖い、絵で見る鐘馗さんみたいな暴悪無類の神様のやうに見える、おまけに剣まで佩ひて居られる、その剣をお調べになると、三人の綺麗な姫様がお生れになつて居るのである。この三女神は竹生島その他の神社に祀つてあります。三女神の神名を言霊上より解釈すれば『多紀理姫命は尚武勇健の神』『市寸島姫は稜威直進、正義純直の神』『多気津姫命は突進的勢力迅速の神様』で是が真正の瑞の御魂の霊性であります。この竹生島とは竹生と書きまして昔から武器の神様としてあります。即ち武器といふのは、竹が初まりであつて、先づ竹槍を造つた。そして竹で箭を造り、弓を拵へることを発明したといふやうな工合に、今の武器の初めは竹であつた故に武の字をタケと読むのであります。そこで今建速須佐之男命の持つて居られました剣、つまり須佐之男命様の御霊である所の刀からは三人の姫神がお生れになつた。刀を持つて居るから建速と申すとも言ひます。多紀理比売は手切姫で斬る。多岐都比売は手で突くといふ意味にもなります。伊突姫も突刺す意味である。すると槍とか剣とかは伊突き、手切り、手断突の働きになつて居ります。兎に角立派な綺麗な極従順な鏡の如き姫神様でありました。それで之れを瑞の霊とも、三人の瑞の霊[※御校正本・愛世版では「三人の瑞の霊」だが、校定版・八幡版では「三人の霊」に直している。]とも申します。三月三日の節句を女の節句として祝ひますのも然う云ふ所から出て居ります。それから今度は須佐之男命が天照大御神の御用ゐになつて居ります珠、平和の象徴たる所の飾りの八坂の勾瓊を御受けになつて、天の真名井の綺麗な水にお滌ぎになつて、 『さがみにかみて吹き棄つる気吹の狭霧に成りませる神の御名は』 玉と云ふものは元来清く美しい光り輝く真善美のものであつて、刀の如くに斬つたり突いたりするものではありませぬ。実に平和に見えるものであります。これは左とか右りとか沢山ありますけれども長くなりますから委しく申上げませぬ。而して気吹の狭霧になりませるとありますのは、此処はつまり鎮魂であります。初め先づ鎮魂して各自の霊を調べるのであります。吾々の静坐瞑目して致して居ります所の鎮魂と同じ意味であります。如何なる守護神が現はれてゐるか、霊魂の集中を審めて見るので御座います。そこでお生れになりましたのが、正勝吾勝勝速日天の忍穂耳命、不撓不屈勝利光栄の神、次に鎮魂してお生れになつたのが天の菩卑能命、血染焼尽の神。次が天津日子根の命、破壊屠戮の神。次に活津彦根命、打撃攻撃電撃の神。次が熊野久須毘命、両刃長剣の神。都合五柱の男の命がお生れになつたのであります。天照大御神は姿は女である。女の肉体をお有ちであつたので御座いますが、その霊は以上述べた如く実に勇壮無比の男神でありました。鎮魂の結果お生れ遊ばしたのは五柱の男の神様の霊性が現はれた、それで姿は女であつて男の御霊を備へて居られますから、天照大御神を変性男子と申し、厳の御魂と申し、須佐之男命は姿は男であつても女の霊をおもちであつたから変性女子と謂ひ瑞の御魂といふので御座います。而して前の三女の霊に対して、この五柱の命を五男の霊とも申します。之を仏教では八大竜王と唱へまして、京都の祇園では八王子というて御祭りになつて在ります。 茲で初めて須佐之男命は表面怖い暴逆な神様であるけれども実は極く優美しい、善い心の神様であるといふことが解り、これに引きかへ天照大御神は極くお優しい、鏡からぬけ出たやうな玲瓏たるお方でありますけれども、前の言霊解の如き御霊があつたのであります。 ここで一つよく考へなければならぬ事は天照大御神のお言葉に、 『言向け和はせ』 と書いてありますが、言葉を以て世界を治めよといふことになります。さうしますと天照大御神は外交の難しい事について御子孫にお示しになつたのでありまして、どこまでも此珠を以て充分に平和を旨として治めて行かなくてはいかぬといふ御心でありました。然るに須佐之男命は根の堅洲国へ行くについても、武備を非常に盛んにして軍艦を沢山に拵へ、大砲を沢山造るといふ、所謂武装的平和のお心である。斯う考へますと、今の外国の主義が須佐之男命のと同じである。体主霊従である。天照大御神は日本国になつて居るといつてもよいと思ひます。日本人の心の中には武備がある。大和魂がある。けれども表面には武装がないのである。いざといふ場合には稜威の雄健び、踏健びをしなくてはならぬがその間には常に極く平和に落着いて居る。然るに外国は始終刀を有てゐる。外に向つて十拳の剣を握つてゐるけれども、愈戦ふとなれば、あちらは三人の女の神様であるのに反して、表面弱い如くに見えても五人の男の神様の霊性が出て来るのである。この霊および身魂のことに就てはお筆先にも出て居ります。身魂の善悪を改めると申されてあります。 『是に天照大御神、須佐之男命に告り給はく』 後から生れた所の五柱の神はわしの有つて居る珠から出て来たものであるから自分の子である。所謂自分の魂から出た男神はみな自分の子である。それから先刻生れた姫御児はその種が汝が魂十拳の剣から出たのだからこれは汝の子であると仰有つた。これで身魂の立て分けが出来た。須佐之男命は変性女子で、天照大御神は変性男子であるといふことが明かになつた。所が須佐之男命は、姉天照大御神は今迄は私の心を疑うて御座つたが、これで私の清明潔白な事は証拠立てられた。私の心の綺麗な事は私の魂から生れた手弱女によつて解りませう。あの弱々しい女子では戦をする事は出来ますまい。斯う考へたならば最前あなたは、私が高天原を奪りに来たらうと仰られたがあれは間違ひでせう。私の言ふことが本当でせう。 『これによりて言さば自ら我勝ぬと言ひて、勝さびに天照大御神の営田の畔離ち、溝埋め、亦其の大嘗聞し召す殿に屎まり散らしき』 この言葉は少いけれども、この意味は、当時須佐之男命様にも尚ほ沢山の臣下が在つた。茲に須佐之男命に反対するものと、味方するものとが出来て来たので迷ひが起つたのであります。須佐之男命がお勝になつて、増長なさつたといふよりも寧ろ、私の綺麗な心は解つた筈である。然るに尚悪いと仰せになるのは心地が悪い、不快であるといふので終に自暴自棄に陥つたのであります。やけくそを起した結果が、田の畦を壊したり、溝を埋めたり、御食事をなさる所へ糞をやり散らして、いろいろ乱暴のあらむ限りを、須佐之男命に味方する系統の者が行つたのであります。天照大御神は此状態を御覧になり、弟は決してあの多量の糞をまいたりする筈はない、酒に酔つて何か吐いたのであらう。畔を離ちたり、溝を埋めるのは、丁度今でいふ耕地整理のやうなもので、いらぬ畔や溝を潰して沢山米が出来るようにする為めだらうと、所謂直日に見直し詔り直して、一切のことを総て善意に御解釈されて所謂詔り直し給うたのであります。何でも善い方に解して行けば波瀾は少いもので御座います。天照大御神も善意に解して居られましたけれども、御神意を悟らぬ神等の乱暴は愈長じて遣り方が余りに酷くなる。八百万の神様方がどうしてもお鎮まりがない。世の中が大騒ぎになつた。彼方でも此方でも暴動が起る。無茶苦茶な有様になつた。そのうちに、 『天照大御神、忌服屋に坐まして、神御衣織らしめ給ふときに、其の服屋の頂を穿ちて、天の斑馬を逆剥ぎに剥ぎて堕し入るるときに、天の御衣織女、見驚きて梭に陰上を衝きて死せき』 斯う云ふ事件が起つたので御座います。ここで機を織るといふことは、世界の経綸といふことであります。経と緯との仕組をして頂いて居つたのであります。すると此経綸を妨げた。天の斑馬暴れ馬の皮を逆剥にして、上からどつと放したので、機を織つて居た稚比売の命は大変に驚いた。驚いた途端に梭に秀処を刺し亡くなつてお了ひになつたのであります。さあ大変な騒動になつて来た。 (大正九・一〇・一五講演筆録) (大正一一・三・六旧二・八谷村真友再録) |
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霊界物語 | 13_子_フサの国・半ダース宣伝使 | モノログ | モノログ この霊界物語は、全巻を通じて三大潮流が不断に幹流し、時々大小の渦巻が起つて居りますが、何分にも大編著でありますから、一冊や二冊位拾ひ読みを為たぐらゐでは、到底その真相を捕捉する事は出来ませぬ。先づ全巻を読了された上でなければ、如何なる批判も加へる事は出来ない様に成つて居ります。先づ我身魂を宇宙外に置き、無我無心の境地に立つて本書に抱含されたる大精神を見極めて貰ひ度いものであります。 読者の中には霊界物語もマンザラ捨てたものではないが、天地の剖判だとか、神示の宇宙だとか、常世会議だとか、人間の元祖論の如きは折角の神著をして無価値たらしむるものだ、霊界物語も右様の脱線的文章さへ削除すれば、時代遅れの拙劣な小説として見るべきものに成るだらうと、注意を与へて呉れた人もありました。又中には霊界物語の中の脱線的文章は、口述者に頑迷不霊の悪霊が憑依して喋舌り立てた時の作物だから筆録者に於て之を取捨塩梅して発表すると宜いのだが、何を謂つても絶対的服従を以て最大の善事と誤解して居る迷信家だから、薩張仕末に了へない、小波山人でも呼んで来て訂正させたらおトギ話位には成るだらうと、コボして居る人々もあつたさうです。口述者としても合点の行き兼る点が多少ないでも無いが、何と言つても惟神に任して少しも人意を加へない、神の言葉その儘を写し出すのですから、この点も篤とお考へを願ひたいものです。仁慈無限なる神様の方より、天地間の万物を御覧に成つた時は、一切の神人禽獣虫魚草木に至るまで、一として善ならざるは無く愛ならざるは無いのであります。只人間としての行動の上に於て、誤解より生ずる諸多の罪悪が不知不識の間に発生して其れが邪気となり、天地間を汚濁し曇らせ、自ら神を汚し道を破り、自業自得的に災禍を招くに至るものであります。善悪不二、正邪一如、顕幽一致の真諦は、この神著に依つて明白に成る事と確信する次第であります。この物語は凡て宇宙精神の一斑を説示したものであります。大病人などが枕頭にてこの物語を読み聞かされ、即座に病気の全快する位は何でも無い事実であります、之を見ても人間の頭脳の営養物たる事が判ります。大本の大精神は、この書に依つて感得さるべきものでありますから、大本信徒に取つては最も必用な羅針盤なるのみならず、洋の東西を問はず、人種の如何を論ぜず、修身斉家の基本的教訓書ともなり、大にしては治国平天下の軌範たるべき神書たる事を信ずるのであります。大本信徒諸氏よ、変性男子だとか、変性女子だとかの言句に跼蹐せず、凡ての心の障壁を撤廃し、虚心坦懐以て本書に包含する所の五味の真相を闡開されむことを希望する次第であります。 斯く誌す時しも万寿苑[※万寿苑は亀岡の天恩郷の旧称。]瑞祥閣の上空に二羽の鴻鶴ゆるやかに飛揚しつつありしが、暫くありて大公孫樹に一羽、堀端の松樹の上に一羽留まりて羽根を休め、終には竹林の中にその瑞姿を隠しました。丹波の国にて鶴を見ると云ふ事は、数十年来あまり聞かぬことであつて、大本瑞祥会に対する何かの神示慶徴なるべしと、役員等の口々の評定面白く、記念のため一筆茲に附記しておきます。 大正十一年九月二十日旧七月二十九日午前十一時 王仁識 |
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霊界物語 | 13_子_フサの国・半ダース宣伝使 | 総説 | 総説 瑞祥東海の天に靉靆き、金烏皇国の神園に輝く。天孫降臨以来茲に幾万の星霜を数へ大希望と大光明とは、実に六千万同胞の身魂に充満せり。顧みれば天地初発の時、大地球の未だ凝固せざるに当り、天神まづ我国祖に世界肇国の大任を命じて曰く 『此ただよへる地球を修理固成せよ』 と。我祖先神勅を奉じて先づ世界の中心として、我神国を修理固成せられたり。茲に於て乎万国成る。由来日本民族は神勅を奉じ以て祖先の志を継ぎ、天の下四方の国を安国と平けく治めむと、静に神洲の仙園に修養年を重ぬること幾万歳、漸く其潜勢力を蓄積し、曩には東洋文化の精を吸収し尽し、今また泰西文明を集めたり。 吾等神洲の神民は、実に世界文化の精粋を一身に集めて、之を消化し之を精錬し、徐に天祖の遺訓及び父母祖先の志を発揮し、以て世界的文明建設の大業を為すべき一大天職を荷へり。見よ東太平洋を隔てて亜米利加に対し、北支露を通じて欧羅巴の諸列強に連なる。世界海陸交通の軌道は、日々我神洲に向つて万邦の之に朝宗するものの如し。嗚呼日本国民たる者、過去の歴史に稽へ、又現在の趨勢に微しなば、建国の一大精神が世界人類のために建設せられたるを知るに足らむ。されば現今の世は、正に国民が祖先の大理想を実行する第一歩のみ。斯る大意義を有する大正の聖代に当りては予め大に用意する所なかる可からず、吾人は大本開祖の神訓なる 『お照しは一体、七王も八王も王があれば、世界に苦説が絶えぬから、一つの王で治めるぞよ。日本は神国、神が出て働くぞよ。日本の人民用意をなされよ』 この活教を遵奉すると共に、天啓の益々現代民心に必要欠く可からざるを深く信ずる次第なり。 (一)神旗の由来 大本十曜神旗の義は、専ら日本の国体を晋く世に知らしめ、日本魂の根本を培養せむが為に、開祖開教の趣旨に則りて考案せしものにして、上古天照大御神が天の岩戸に隠れ給へる際、天之宇受売命が歌ひ給へる天の数歌に則りしものなり。則ち一より十に至る十球より組織して十曜の神旗と称するなり。 ●第一球は正上に位し宇宙の大本たる渾沌雞子の色となし、 ●第二球は白色とし、 ●第三球は黒色を以て、宇宙の実相たる真如を開発して、陰陽二元となれるに形造りしものなり。而して、二元感合して、森羅万象を生ずるの理由より、四より十までを七元色に分別して日月火水木金土の七曜に配し、なほ全球を神統に配し奉りて、我国体の真相を知らしめむとするものなり。 仮りに十球の配別を色別、数別、神統別にて記せば、 [#図十球の配別] ●色別 神旗十曜の色別は、光学上より色別したるものにして、正上の第一球を卵色と為したるは、天地未剖の前に於ける混沌たる鶏子の色を採り、以て宇宙開発前の一元真如を形造りしもの也。恰も光学上に於ける卵色が各色の光線一様に集まりて物体に吸収されたる時に生ずる色にして何色とも分明せざるは、なほ宇宙真象が万有の終始を為し、統一を保有せるを以て、如此定めたるなり。また第二球を白色第三球を黒色と為したるは、天地剖判の始期、大極動きて陰陽を生じたるに形造りしものにして、恰も光線が全く物体に吸収せられずして反射する時は白色を生じ、反対に全く吸収せらるる時は黒色を生じ二元相交はりて下の七元色より無数の色を生ずるに至るは、なほ陰陽其性全く相反して而も親しく交はる時は森羅万象を生ずるが如きものあるを以て之を執り斯く定めたり。以下の七元色は順序上の説明に依りたるものにして、光線の反射さるる事多ければ多きだけ則ち、白、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、黒となり、吸収さるること多ければ多きだけ即ち漸次、黒、紫、藍、青、緑、黄、橙、赤、白に還る、なほ万有の生滅変化息ざるに同じ。而して万色の本は黒白の二色にして、二色を統一するものは卵色なり。これ十曜色別の理由とする所なり。 ●数別 数別は天の数歌に則れるものなり。天の数歌は天之宇受売命に始まり、後世に到りては鎮魂祭の際に、猿女の君に擬したる巫女が受気槽を伏せて、其上に立ち鉾を槽に衝立て此歌を謡ひ、以て天皇の御寿命長久を祈りしものなり。国語にて霊妙なることを『ひ』と云ひ、『と』は敏捷なる活気鋭きを云ふ。宇宙の本体は霊妙にして活気の最たるもの、故に之れを『ひと』と云ひ一と数ふ。本体の霊妙活気を他より之を見れば『力』なり。力に依つて変化す『ふ』は浮出沸騰の義『た』は漂ひ動くの義あり、則ち『ふた』は宇宙の本体霊機の力に依りて始めて開発す、故に之を二となす。本体活動して霊機の凝固するもの之れ物体なり。物体は『み』なり、また実なり、充るの意あり、これを三となす。この霊力体なる三大要素ありて始めて爰に世(四)、出(五)と数ふ、動物植物蔚然として萌るを(六)と数へ、万有生成(七)弥(八)凝りて(九)人世の事足(十)と本歌の意義を以て十曜の神旗を作成したるもの也。 我国語に於ける基数は、天地開闢人世肇出の沿革を語るものなれば、大本が此十曜を組成して神旗と為し、この天の数歌に則りしも不知不識の間に宇宙進化の理法より肇国の精神立教の主旨を晋く世人に教へむが為なり。 ●神統別 神別に就て略解せむに、先づ宇宙の本体之を人格化して、天之御中主神と称し奉る。宇宙の活動力之を人格化して高皇産霊、神皇産霊の神と称し奉る。渾沌たる無始の始めに於て三神造化の首を為し、二神夫婦の道を開き給ひて、国土山川を生み、日月星辰を生み、風雨寒暑を生み草木、動物、人類を生み給へり。かくて我肇国の始めに当つて、天神長く統を垂れ給ひ、連綿として今日に及べるなり。然れば 明治天皇の大勅語に 『皇祖皇宗国を肇むる事宏遠に徳を樹つる事深厚なり』 と宣ひし所以なり。吾人日本国民は此深厚なる神徳に依つて、陛下の民と生れ、陛下は吾等が宗家の嫡子に坐し、今上に在して、下は吾等を治め給ふは、吾等の大祖先が無始際より延長して吾等を愛護し給ふものにして、吾等が報本反始の誠を尽すは、一に忠君愛国に在る事を信仰し、以て天賦の職責を全うし、人生本来の面目を達し、宇宙造化の功に資し奉るを得るは、実に無上無比の至大幸福と謂ふべし。吾人は悠々たる天地の間之を以て生き、之を以て死し、此に住して安心立命し、此境に入りて天国楽園の真楽を稟く。大本が十曜を組成して神旗と定めたるは、実にこの精神に基きしものなり。正上の第一球を一と為し正中の一大球を十と為したるも、大本の神旗なる故に大本皇大神を正中に配したる所以なり。 (二)霊力体 神徳の広大無辺なる、人心小智の能く窺知すべき所にあらず。然りと雖も、吾人静に天地万有の燦然として、次序あるを観察し、また活物の状態に付て仔細に視察するに於て明かに宇宙の霊力体の運用妙機を覚知し以て神の斯世に厳臨し玉ふこと、疑を容るの余地無きに至らしむ。 神の黙示は則ち吾俯仰観察する宇宙の霊、力、体の三大を以てす。 一、天地の真象を観察して真神の体を思考す可し。 一、万有の運化の亳差無きを視て真神の力を思考すべし。 一、活物の心性を覚悟して真神の霊魂を思考すべし。 以上の活経典あり。真神の真神たる故由を知る。何故人為の書巻を学習するを用ゐむや。唯不変不易たる真鑑実理ある而己。 天帝は唯一真神にして天の御中主神と称す。宇宙の神光を高皇産霊と曰ひ、神温を神皇産霊と曰ふ。古事記に曰く 『天地初発之時、於高天原成坐神名、天御中主神、次高皇産巣日神、次神皇産巣日神、此三柱神者並独神成坐而、隠身也』 天帝は宇宙万有の大元霊にして幽之幽に坐し、聖眼視る能はず賢口語る能はざる隠身たり。また神光はいはゆる天帝の色にして神温は即ち天帝の温なり。共に造化生成の妙機にして独立不倚の神徳なり。 神は宇宙万有の外に有り、万有の中に在り、故に之を宇宙の大精神と謂ふ。 大精神の体たるや至大無外、至小無内、若無所在、若無不所在なり。聖眼之を視る能はず、賢口之を語る能はず。故に皇典にいはゆる隠身也は即ち神の義なり。宜なるかなその霊々妙々の神機。天帝は無始無終なり、既に無始無終の力と無始無終の体とを以て無始無終の万物を造る。その功また無始無終なり。 天帝は勇、智、愛、親を以て魂となし、動、静、解、凝、引、弛、分、合を以て力となし、剛、柔、流を以て体を為す。 ●全霊 全霊は荒魂、和魂、奇魂、幸魂、の四魂也。而して荒魂は神勇、和魂は神親、奇魂は神智、幸魂は神愛なり。乃ち所謂霊魂にして、直霊なるもの之を主宰す。俗学不識荒和を以て心の体となし奇幸を以て心の用となし、直霊の何物たるを知らず、豈悲しまざる可けむ哉。 ●全体 剛、柔、流の三物是れ上帝の全体なり。而して流体を生魂と唱へ葦芽彦遅と称し、剛体を玉留魂と唱へ常立と称し、柔体を足魂と唱へ、豊雲野と称す。 剛体は鉱物の本質なり、柔体は植物の本質なり、流体は動物の本質なり。 スピノーザ曰く、本質とは独立して依倚する所なきものの謂なり。更に之を言へば本質とは吾人之を理会するに於て一も他の物と比照するを須ひざるもの是なりと、至言と謂ふべし。 全体の図解 [#図全体の図解] ●全力 動、静、解、凝、引、弛、分、合以上八力これを上帝の全力と称す。而して神典にては動力を大戸地と謂ひ、静力を大戸辺と謂ひ、解力を宇比地根と謂ひ、凝力を須比地根と謂ひ、引力を活久比と謂ひ、弛力を角久比と謂ひ、合力を面足と謂ひ、分力を惶根と謂ふ。皆日本各祖の所名なり。 全力の図解 [#図全力の図解] 霊、力、体合一したるを上帝と曰ふ。真神と謂ふも上帝と曰ふも皆天之御中主大神の別称なり、左図を見て知る可し。 全智全能乃真神 [#図全知全能乃真神] |