第二六章橘の舞〔四九三〕
橘姫は立ち上り、遷宮式の祝歌を奏上したり。其の歌、
橘姫『皇大神の千万に此世を治め給はむと
心筑紫の橘の小戸の青木ケ原にます
神伊邪那岐の大神の依さしのままに海原を
知ろし召さむと天の原雲霧分けて葦原の
瑞穂の国に天降りまし神の教の永久に
橘姫の美はしく勲を祝ひ奉る
世は平かに安らかに山川草木おしなべて
君の御稜威を慕ひつつ仕へ奉らむ現し御代
生代足代の礎を茲に顕の国の宮
救ひの神が現はれて善と悪とを立別る
別けて尊き伊邪那岐の神の御水火に現れませる
神の御言の御あらかを仕へ奉りしアーメニヤ
ウラルの山のウラル彦ウラルの姫の曲神も
誠の神の分霊魂恵も深き皇神の
大御心に隔てなく善も悪きもおしなべて
守らせ給ふ神心曲のみたまに迷はされ
神に背きし二柱いたく憎ませ給ふなく
恵の露の山川や荒野の草に致るまで
注がせ給ふ神直日心も広き大直日
直日に見直し聞き直し宣り直しつつ曲神の
海より深き罪咎を拭ひて助け給へかし
一視同仁天地の神の恵は天津日の
総ての物に照る如く三五の月の隈もなく
恵みの露を与ふ如御心平に安らかに
恵みも深き言霊に言向け和し天が下
四方の国々落ちもなく漏れなく救ひ給へかし
顕の国の宮の前畏み仕へ奉る身の
吾が祈言を橘の姫の命と現はれて
常世の暗を吹き祓ひ天の岩戸をおし分けて
ミロクの神の神業に仕へ奉らむ今日の日に
仕へ奉るぞ尊けれ仕へ奉るぞ尊けれ』
と歌ひ終つて元の座に着きける。
天之児屋根命は立ち上り、
天之児屋根命『天津御空に千万の星の輝き渡る如
大海原に現れませる天の益人民草の
限りも知らぬ安の河真砂の如く生みなして
神世を開かせ給ふなり大御百姓となり出でし
百人、千人、万人草の片葉も漏らすなく
天と地との水火を汲み筑紫の日向の橘の
小戸の青木ケ原と鳴る生言霊のアオウエイ
五大父音の神の声母音はカサタナハマヤラワ
父と母との息合せ火の神キシチニヒミイリヰ
水と現れます言霊の息はケセテネヘメエレヱ
地の御神と現れませる息はコソトノホモヨロヲ
息は結びの神の声成るはクスツヌフムユルウ
五十の言霊鳴り出でて二十五声を生み出し
天地四方の神人や万の物を生みませる
其言霊の清くして比ひ稀なる神嘉言
天のかず歌数へつつ空明けく地豊に
治まる天津太祝詞祝詞の声は天地に
轟き渡り曲津見の神も隠ろひ鎮まりて
常夜の暗も晴れ渡り塵も留めぬ顕国
玉の宮居の神祭り上と下とは睦び合ひ
天と地とは明けく鏡の面を合はせつつ
玉の御柱搗きかため身魂も清き剣太刀
斯くも目出度き今日の空空行く雲も憚りて
晴れ渡りたるコーカスの山の祭りぞ尊けれ
日は照る光る月は満つ三ツの御霊の神柱
大神津見の三ツの桃月雪花と現はれし
三五教の三柱の神の宰の宣伝使
錦の袖を振り栄えて今日の御祭り祝ぎまつる
松は千歳の色深く千代に八千代に永久に
栄えミロクの御代までも幸多かれと祈るなり
幸多かれと祈るなり此世を照らす惟神
御霊幸はひましまして大地の主とあれませる
皇大神のまつりごと守らせ給へ天津神
国津神たち八百万五伴緒や八十伴男
草の片葉にいたるまで今日の生日の良き日をば
祝ひ奉るぞ尊けれ』
太玉命は、太玉串を手にしながら立ち上り、簡単なる祝歌を奏上したり。
太玉命『天と地との神々の水火より成りし神嘉言
四方に轟き高光の天の児屋根の神宰
宣る言霊の清くして太き勲を太玉の
太玉串となびきつつ太敷立てし宮柱
仮令雨風地震の叫び荒ぶる世ありとも
天地清むる言霊の水火に固めし神の宮
千代も八千代も動かまじアヽ尊しや有難や
今日の祭りの此の庭に三つ葉の彦の宣伝使
神の御稜威も広道の別の命と現はれて
心平に安らかに太玉串を奉る
アヽ惟神々々御霊幸はひましまして
秋津島根を永久に守らせ給へ幾千代も
顕の国の宮の元塵も留めじ清らかに
神世を永久に立てませよ神世は永久に栄えませ
栄ゆる御代を松竹や梅の花咲く春の日の
心も長閑に受けませよ心を平に受けませよ』
と歌ひ終つて元の座に着きにける。
此外、神人等は各自に祝歌を奏上し、目出度遷宮式は終了を告げたりける。
(大正一一・三・四旧二・六藤津久子録)
No.: 1539