| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 16 霊縛 | 第一六章霊縛〔三六六〕 一行はブラジル峠の山頂に四辺の風景を眺めながら、下らぬ話に耽り居たり。涼しき風は吹き捲り、次第に烈しく周囲の樹木も倒れむ許りなりけり。蚊々虎は側の樹の根にしつかとしがみ付き、 蚊々虎『モシモシ宣伝使様、どうしませう。散ります散ります』 淤縢山津見『それだから蚊と言ふのだ。これつ許りの風が吹いたと云つて、木の根にしがみ付いて散ります散りますもあつたものかい。まるで酒でも注いで貰ふ時の様なことを言ひよつて、弱虫奴が、これから巴留の国へ行つたら、これしきの風は毎日吹き通しだよ。大沙漠を駱駝の背に乗つて横断しなくてはならぬが、貴様の様な弱いことでは、駱駝の背から蚊のやうに吹き飛ばされて了ふかも知れぬ。あーあ旅は一人に限るナ。コンナ足手纏ひを連れて居ては、後髪を牽かれて、進むことも、何うする事も出来やしない嫌な事だワイ』 蚊々虎『モシモシ宣伝使様、偉さうに仰有るな、後髪を牽かるると云つても、髪の毛は一本もありやしないワ。俺の頭を見やつしやれ、棕梠のやうな立派な毛が沢山と、エヘン、アハン』 淤縢山津見『貴様のは髪ぢや無いよ。それは毛だ。誠の人間には髪が生えるし、獣には頭に毛が生えるのだ。俺の頭は髪だぞ。髪と云ふ事は、鏡を縮めたのだ。よう光つとらうがな』 蚊々虎『蚊が止まつても辷り落ちる様な頭をして、神様も何もあつたものか。蚊が止まつて噛様だ。アハヽヽヽヽ』 淤縢山津見『何を言ふ。俺は勿体なくも頭照す大御神様だ。頭照す大御神様の御神体は八咫の御鏡ぢやといふ事は知つて居るだらう』 蚊々虎『ヘン、甘いことを仰有いますな。流石は宣伝使様。大自在天の一の御家来、悪い事ばかり遊ばして、根の国底の国に追ひやられて、終には国処を売つて、世界中を迂路つき廻つて、負け惜みの強い体のよい乞食だ。宣伝使様と云へば立派な様だが、乞食の親分見た様なものだ。頭照す大御神様も有つたものか。国処立退の命だ』 淤縢山津見『貴様にはもう暇を遣はす。これから帰れ。何と云つても連れて行かぬ』 (義太夫調) 蚊々虎『私を何うしても連れないと言ふのですか。それはあんまり無情い、胴欲ぢや。思ひ廻せば廻すほど、俺ほど因果な者が世に有らうか。常世の国に顕れませる、大自在天の其の家来、醜国別と歌はれて、空行く鳥も撃ち落す、勲もしるき神さまの、家来となつた嬉しさに、有らう事かあるまい事か、勿体ない天地の神の鎮まり遊ばした、ヱルサレムの宮を穢し奉り、その天罰で腰痛み、腰はくの字に曲り果て、蚊々虎さまと綽名をつけられ、今は屈みて居るけれど、元を糺せば尊き神の御血筋、稚桜姫の神の御子の常世姫が内証の子と生れた常照彦。世が世であれば、コンナ判らぬ淤縢山津見のお供となつて、重い荷物を担がされ、ブラジル山をブラブラと、汗と涙で駆け登り一息する間もなく、もうよいこれで帰れとは、実につれない情ない、善と悪とを立別る、神がこの世に坐ますなら、淤縢山津見の醜国別、体主霊従の宣伝使、義理も情も知らぬ奴、矢張り悪は悪なりき。猫を冠つた虎猫の蚊々虎さえも舌を捲いて、泣くにも泣かれぬ今の仕儀、どうして恨を晴らさうか、今は淤縢山津見と、厳めしさうな名をつけて、肝腎要の魂は、醜の枉津の醜国別、その本性が表はれて、気の毒なりける次第なり。それよりまだまだ気の毒なは、この山奥で只一人、足の痛みし蚊々虎に、放とけぼりを喰はすとは、ホンに呆れた悪魂よ。玉の緒の命の続く限り、こいつの後に引添うて、昔の欠点をヒン剥いて、邪魔して遣らねば置くものか。ヤア、トンツンテンチンチンチンだ』 淤縢山津見『こらこら蚊々虎、馬鹿な事を云ふな。貴様そら本性か、心からさう思つてるのか』 蚊々虎『本性で無うて何んとせう』 と手を振り口を歪め、身振り可笑しく踊り出したり。 淤縢山津見『ハヽヽ貴様は気楽な奴だナ。コンナ処で狂言したつて、見る者も、聞く者も有りやせぬぞ。誰に見せる積りぢや』 蚊々虎『お前は天下の宣伝使、これ丈沢山の御守護神が隙間もなしに聞いて居るのが分らぬか。俺はお前に聞かすのぢや無い。其処らあたりの守護神に、お前の恥を振舞うて行く先き先きで神懸りさせて、お前の欠点をヒン剥かす俺の仕組を知らぬのか。それそれそこにも守護神、それそれあそこにも守護神、四つ足身魂も沢山に面白がつて聞いて居る。夫れが見えぬか見えないか。お気の毒ぢや、御気の毒では無いかいな』 このとき幾十万とも知れぬ叫び声が四辺を圧して、蚊の鳴く如くウワーンと響きぬ。稍あつて幾十万人の声として、ウワハヽヽヽとそこら中から、声のみが聞え来たる。淤縢山津見は両手を組み、顔の色を変へ、大地に胡坐をかき、思案に暮るるものの如くなりけり。 蚊々虎は俄に顔色火の如くなり、両手を組みしまま前後左右に飛び廻り、 蚊々虎(国照姫が憑依)『くヽヽくにくにくに てヽヽてるてる ひヽヽめヽヽ くにてるひめ』 と口を切りぬ。 淤縢山津見は、直に姿勢を正し両手を組み審神に着手したり。 淤縢山津見『一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、百、千、万』 と、唱ふる神文につれて蚊々虎は大地を踏み轟かし踊り出したり。 淤縢山津見『汝国照姫とは何れの神なるぞ』 蚊々虎(国照姫が憑依)『キヽ鬼城山に立籠り、美山彦と共に常世姫の命の命令を奉じ、地の高天原を占領せむと、昼夜苦労を致した木常姫の再来、国照姫であるぞよ。その方は醜国別、今は尊き淤縢山津見司となりて、日の出神の高弟、立派な宣伝使、妾は前非を悔い木花姫の神に見出され、アーメニヤの野に神都を開くウラル彦と共に、発根と改心を致して今は尊き誠の神と成り、アーメニヤの野に三五教を開き神政を樹立し、埴安彦命の教を天下に布くものである。これより巴留の国に宣伝の為に出で行かむとするが、暫く見合して後へ引き返し、この海を渡つてアーメニヤの都に立帰れ。巴留の国は神界の仕組変つて日の出神自ら御出張、ゆめゆめ疑ふな。国照姫に間違は無いぞよ』 淤縢山津見は、全身に力を籠めて神言を奏上し、ウンと一声蚊々虎の神懸りに向つて霊光を放射したるに、蚊々虎は大地に顛倒し、七転八倒泡を吹きだしたり。 淤縢山津見『其方は邪神であらう。今吾々の巴留の国に到る事を恐れて、この蚊々虎の肉体を使つて、天下の宣伝使を誑かさむとする枉津の張本、容赦は成らぬ。白状いたせ』 蚊々虎(国照姫が憑依)『畏れ多くも日の出神の御使、国照姫に向つて無礼千万。容赦はせぬぞ』 淤縢山津見『容赦するもせぬも有つたものか、この方から容赦いたさぬ』 と云ひながら、又もやウンと一声、右の食指を以て空中に円を画き霊縛を施しければ、 蚊々虎(国照姫が憑依)『イヽ痛い痛い、赦せ赦せハヽ白状する。妾はヤヽ八岐の大蛇の眷属、八衢彦である。この巴留の国は妾らが隠れ場処、いま汝に来られては吾々仲間の一大事だから、国照姫が改心したと詐つて、汝をこの嶋よりボツ返す企みであつた。斯の如く縛られては何うすることも出来ぬ。サアもうこれから吾々一族は、ロッキー山を指して逃げ行く程に、どうぞ吾身の霊縛を解いて下さい。タヽ頼む頼む』 淤縢山津見『巴留の国を立去つて海の外に出て行くならば赦してやらう。ロッキー山へは断じて行く事ならぬ。どうだ承知か』 蚊々虎の神懸りは、首を幾度とも無く無言のまま縦に振つてゐる。淤縢山津見は、ウンと一声霊縛を解けば、蚊々虎の身体は元の如くケロリとなほり、流るる汗を拭ひ乍ら、 蚊々虎『あゝ偉い事だつたワイ。何だか知らぬが俺の身体にぶら下りよつて、ウスイ目に逢うた。サアサア宣伝使様、もういい加減に行きませうかい。コンナ処に居つては碌なことは出来ませぬよ』 と正気に帰つた蚊々虎は先に立つてブラジル山を西へ下り行く。 (大正一一・二・八旧一・一二東尾吉雄録) |
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霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 17 敵味方 | 第一七章敵味方〔三六七〕 山頂の木を捻倒す如き暴風もピタリと止みて、頭上は酷熱の太陽輝き始めたり。淤縢山津見は、蚊々虎と共にこの山を西へ西へと下りつつ、 淤縢山津見『オイ蚊々虎、足はどうだイ。ちつと軽くなつたか』 蚊々虎『ハイもう大丈夫です、この調子なれば如何な嶮しき山でも岩壁でも、たとへ千万里の道程でも行ける様な心持になつて来ましたワ』 淤縢山津見『お前はしつかりせぬと曲津に取り憑かれる恐れがある。何と云つてもまだ改心が足らぬから、ちつとも臍下丹田に魂が据わつて居ないので、種々の曲津に憑かれるのだよ。それで足が重くなつたり、苦みたり弱音を吹いたりするのだ。曲津は我々のこの山を越えて巴留の国へ行くのを大変に恐れて居るのだよ。それで腹の据わらぬお前に憑つて弱音を吹かすのだ。魂さへしつかりすれば、たとへ億兆の邪神が来たとて指一本さへられるものではないよ』 蚊々虎『ほんたうにさうですな、イヤこれからしつかり致しませう。随分私も貴下の悪口を言ひましたが、赦して下さいますか』 淤縢山津見『赦すも赦さぬもあつたものか、皆お前に憑依した副守が言つたのだ。お前の言つたのぢやないワ』 蚊々虎『三五教は甘い抜道がありますな。あれ丈私が貴下のことをぼろ糞に云つたつもりだのに、それでもやつぱり副守が言つたのですか』 淤縢山津見『さうだ。邪神か四足の言葉だよ』 蚊々虎『それでも現に私が確に云つた事を、記憶して居ますがなあ』 淤縢山津見『サア記憶して居る奴が四足だもの、虎の本守護神は奥の方にすつこみて、副守がアンナ下らぬ事を云ふのだ。蚊々虎も副守も、まあ似た様なものだねー』 蚊々虎『さうすると私が副守の四足ですか、そりやあまり非道いぢやありませぬか。一体貴下のおつしやる事は何が何だか判らなくなりましたよ』 淤縢山津見『人間の云ふことならちつとは、こつちも怒つても見たり、理屈を云うて見るのだけれども、何分理屈を言うだけの価値がないからなー』 蚊々虎『へー妙ですなー。テンで合点の虫が承知しませぬわい』 淤縢山津見『まあ好い。俺の言ふ通りにさへすればよいのだ。その内に身魂が研けて本守護神が発動するよ』 二人はコンナ話しに旅の疲労を忘れて、ドンドンと雑木の茂る、山道を下り行く。傍に可なり大きな瀑布が、飛沫を飛ばして懸つてゐる。見れば四五人の荒くれ男が瀑布の前に腰打掛けて、何か面白さうに囁いてゐた。二人はその前を過らむとする時、その中の一人の男が大手を拡げて谷道に立塞がり、 男(荒熊)『オイ暫く待つた。お前は何処のものだ。ここは巴留の国だぞ。鷹取別の司の御守護遊ばす御領地だ。他国の者はこの滝より一人も前へ進む事を許さぬのだ。速かに後に引帰せ』 と睨み付ける。蚊々虎は腕を捲り捻鉢巻をしながら、 蚊々虎『巴留の国が何だ。鷹取別がどうしたと言ふのだ。勿体なくも三五教の大宣伝使淤縢山津見のお通りだ。邪魔を致すと利益にならぬぞ』 途に立塞がつた男、 男(荒熊)『俺は巴留の国の関所を守る荒熊といふ者だ。此方の申す事を聞かずに通るなら通つて見よ。利益にならぬぞ』 蚊々虎『よう吐かしよつたな。俺が為にならぬと云へば、猿の人真似をしよつて為にならぬと吐きよる。ウンそれも判つて居る。人に物を貰つて返しにお返礼を出す事がある。オツトドツコイ貰ひ言葉に返し言葉、しやれるない。俺を一体何と心得てをる。俺は貴様のやうな副守の容器になつた四足魂とは訳が違ふのだ。本守護神様の御発動なされる正味生粋の蚊々虎の狼だぞ。下におれ下におれ。神様のお通りに邪魔ひろぐと貴様の為にならぬぞ。コラ荒熊もうお返礼は要らぬぞよ』 荒熊『此奴は執拗い奴ぢや。オイ皆の者来ぬか来ぬか。五人寄つてこの黒ん坊を倒ばしてしまへ』 蚊々虎『アハヽヽヽ、蚊々虎は流石に虎さまだ。俺一人に五人も掛らねば、どうする事も出来ぬとは、貴様らが弱いのか、俺が強いのか、根つから葉つから分らぬ。ヤイ荒熊の五つ一美事掛るなら掛つて見よ』 と拳を握り、腕をニユツと前に突き出し、黒い目をグルグルと剥いて見せる。 荒熊『ヤイ貴様あ、何処の馬の骨か、牛の骨か知らぬが、偉う威張る奴だナ。もうそれ丈か、もつと目を剥け、鼻を剥け、口を開け、お化奴が』 蚊々虎『言はして置けば何を吐かすか判りやしない。愚図々々吐かすとこの鉄拳で貴様の横面を、カンカンと蚊々虎さまが巴留の国だぞ』 荒熊『オイオイ掛れ掛れ。伸ばせ伸ばせ』 と荒熊が下知するを、蚊々虎は両方の手に唾しながら、 蚊々虎『サア来い、五つ一、一匹二匹は面倒だ。一同五人の奴、束になつて束て一度にかかれ』 荒熊『何だ、割木か、柴のやうに束になつてかかれと、その広言は後にせえ。吠面かわくな、後の後悔は間に合はぬぞ』 と前後左右より蚊々虎に武者振りつく。 蚊々虎『ヤー、わりとは手対へのある奴だ。もしもし、センセン宣伝使様、鎮魂だ、鎮魂だ、ウンと一つやつて下さいな』 淤縢山津見『マー充分揉れたがよからうよ。あまり貴様は腮が達者だから、鼻の一つも捻ぢ折つて貰へ。アハヽヽヽ』 蚊々虎『そりやあまり胴欲ぢや、聞えませぬ。コンナ時に助けて下さるのが宣伝使ぢやないか、人を見殺しになさるのか。もしもし、もうそれそれ今腕を抜かれる。イヽヽヽイツターイ腕が抜ける。コラ荒熊、荒い事するな。柔かに喧嘩せぬかい』 荒熊『喧嘩するに固いも柔かいもあるか。この鉄拳を喰へ』 と云ふより早くポカリと打つ。四人は蚊々虎の左右の手足に確りと、獅噛付きゐる。 荒熊『オイ四人の者共それを放すな。これからこの蚊々虎の身体を突かうと殴らうと俺の勝手だ』 蚊々虎『オイ突くのも撲ぐるのもよいが、あまり酷いことをするなよ。ちつと負けとけ、割引せい』 荒熊『俺は負けと云つたつて、喧嘩に負けるのは嫌ひだ。木挽なら何の様にも割挽くが俺や止めた、嫌だ。貴様の生首をこれから捻ぢ切つてやるのだ。アー面白いドツコイ、貴様の面ぢや面黒いワイ。ワハヽヽヽ』 と笑ふ途端に崖から谷底目がけてヅデンドウと落込みける。四人は驚いて掴まへた手足を放したれば、蚊々虎は元気づき、 蚊々虎『さあ大丈夫だ。貴様らもこの谷底へみんな葬つてやらう』 四人は慄ひ戦き、岩に獅噛付いて居る。 蚊々虎『アハヽヽ、俺の真正面に来よつて、この方の霊光に打たれたと見えて、荒熊奴が仰向けに谷底にひつくり返つた。オイ荒熊の乾児共、面を上ぬかい。俺の霊光にひつくり返してやらうかい。もう大丈夫だ。もしもし宣伝使様、貴方はあまり卑怯ぢやないですか。味方の味方をせずに敵の味方をするとはよつぽど好い唐変木ですよ。それだから貴方はおーどーやーまーづーみーと云ふのだ。この蚊々虎の御神力に恐れ入つたらう。これからは荷物持ちになれ』 と云つて大法螺を吹きながら四辺を見れば、宣伝使の影は煙と消えて見えざりけり。 蚊々虎『あゝ弱い宣伝使だな。此奴もまた谷底に放られたのか知らぬ、あゝ気の毒なことだ。袖振り合ふも多生の縁、躓く石も縁の端、折角ここまでやつて来たものの、荒熊と一緒に谷底に放られてしまうたか、エー気の毒ぢや、アー人間と云ふものは判らぬものだナア。今まで偉さうに蚊々虎々々々だのと昔のかばちを出しよつて、偉さうに言つて居たのが、この悲惨な態は何の事かい。昔は昔、今は今ぢや』 と調子に乗つて四人の男を前に据ゑ、一人御託を並べて居る。そこへ流暢な声で、 宣伝使(淤縢山津見)『神が表に現はれて善と悪とを立別る この世を造りし神直日』 と云ふ宣伝歌聞え来たりぬ。 蚊々虎『ヨウまた宣伝使か、誰だらう。谷底へ嵌つた幽霊の声にしては、何んとなしに力がある。ハテナ、怪体な事があれば有るものぢや』 と独語を云つてゐると、そこへ淤縢山津見は谷底に落ちたる荒熊を、背に負ひ労り乍ら宣伝歌を歌ひつつ上り来たり。 蚊々虎『ヤヤバヽ化け者が、よう化けよつたナア』 淤縢山津見『オイオイ蚊々虎、俺だよ。化物でも何でもない真実者だ。宣伝使は善と悪とを立別る役だ。貴様があまり御託を並べるから同情は出来ない。却つて俺は荒熊に同情してこの危難を助けたのだ。神の道には敵も味方もあるものか。三五教の御主旨は味方の中に敵が居り、敵の中にも味方が在ると教へられてある。貴様は俺の味方でありながら神様の御心を取違ひ致して、却て敵になるのだ。この荒熊さまは吾々に対して無茶なことを云ひ、吾々の通路を妨げる敵の様だが、敵を敵とせず、敵が却て味方となる教だ。どうだ合点が行つたか』 蚊々虎は怪訝な顔して、 蚊々虎『へー』 と味のない味噌を喰つた様な顔をして、首を傾け指をくはへ、アフンとして山道に佇立しゐたり。 (大正一一・二・八旧一・一二谷村真友録) |
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霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 19 刹那心 | 第一九章刹那心〔三六九〕 淤縢山津見の宣伝使は大地に伏したる荒熊に向ひ、 淤縢山津見『高彦殿、貴下は今まで大胆不敵の強者なりしに今斯く卑怯未練の精神になられたのは、察するに貴下の身体には、邪神悪鬼が憑依して、天授の身魂を弱らせ臆病者と堕落せしめたるならむ。凡て人は心に悪ある時は物を恐れ、心に誠ある時は物を恐れず、吾は是より貴下の魂を入れ替へせむ。暫くここに瞑目静坐されよ』 と厳命したるに、荒熊は唯々諾々として、命のまにまに両手を組み、路上に瞑目静坐したり。 宣伝使は双手を組み、一二三四五六七八九十百千万の神嘉言を奏上し終つて、左右の手を組みたるまま食指の指頭より霊光を発しつつ、荒熊の全身を照したり。荒熊は忽ち身体動揺し始め前後左右に荒れ狂ひ、キヤツと一声大地に倒れたるその刹那、今まで憑依せる悪霊は、拭ふが如く彼が身体より脱出したり。宣伝使は『赦す』と一声呼ばはると共に荒熊は元の身体に復し、心中英気に満ち顔の色さへ俄に華やかに成り来たりぬ。 荒熊は突立上り大地を踏み轟かし、 荒熊(高彦)『吾こそは元を糺せば、大自在天の宰相醜国別の御片腕、一時の失敗より心魂阻喪し、千思万慮の結果度を失ひて、八岐大蛇に憑依され、風の音、雨の響きにも心を痛め茅の穂にも戦き恐れ、折角神より受けたる吾が御魂も、殆ど潰え果て、弱り切りたるその所へ、如何なる神の引き合せか、昔仕へし醜国別の宣伝使に、人跡稀なるこの山奥に廻り合ひ、危難を救はれ、日頃吾身を冒しゐたる悪鬼邪神を取払はれ、心は晴れて大空の月の如く輝き渡り、澄みきりたり。最早かくなる上は幾百万の敵軍も、億兆無数の曲神も、真澄の鏡振りはへて、誠の剣抜き持たし、縦横無尽に切りまくり天地に轟く言霊の力に、巴留の都に蟠まる、鷹取別を言向けて功績を立てむ。嗚呼嬉しし嬉しし悦ばし』 と腕を叩いて雄叫びしたり。 宣伝使は満面に笑を湛へ、 淤縢山津見『あゝ勇ましし勇ましし。高彦殿これより巴留の都に向はむ、案内されよ』 と、先に立ちて行かむとするを、高彦は袖を扣へて、 高彦(荒熊)『暫くお待ち下さいませ。この先には数万の群衆、日の出神の当国に押し寄せ来ると聞き軍勢を整へ、伏兵を設けて待ち居れば、如何に神徳高くとも軽々しく進むべからず、一と先づ我は様子を窺ひ報告仕らむ。暫く此所に待たせ給へ』 と、雲を霞と駆け出したり。 蚊々虎は肘を張り、右の手の拳を固めて左の利き腕を打ち敲きながら、 蚊々虎『たとへ悪魔の軍勢幾百万押し寄せ来る共、この蚊々虎が腕に任せ、寄せ来る敵を縦横無尽に打ち伏せ張り倒し、一泡吹かせて呉れむ。ヤー面白し面白し、吾一生の腕試し、腕が折れるか千切れるか、蚊々虎の隠し力の現れ時、サアサア出て来い、やつて来い。役にも立たぬ蠅虫奴ら、この蚊々虎の鼻息に百や二百の木端武者、吹いて吹いて吹捲り……』 淤縢山津見『その広言は後の事だ、さう今から力むとまさかの時に力が抜けて了ふぞ、蚊々虎』 蚊々虎『宣伝使様、オー此処な四人の守護神、人間様、心配するなよ。俺の力をお前達は知らぬから取越苦労をするが、神の道に取越苦労は大禁物ぢや。今と云ふこの刹那が勝敗の分るる所、最初から敵を恐れてどうならうか、戦はぬ内から蚊々虎は敵を呑んで居るのだ。臆病風に誘はれては成らないぞ。この蚊々虎さまがブラジル峠を登つて来る時に、道の両方に雲霞の如き、数限りも知れぬ沢山の敵が、俺等を待ち伏せて居た。その時この宣伝使を傍の木の蔭に忍ばせ置き、数万の敵に向つて大音声。ヤーイ皆の奴木端武者共、俺を何と心得てゐる。この方は広い世界に二人とない智勇兼備の天下の豪傑蚊々虎さまとは吾事なるぞ。相手になつて後悔するな。サー来い勝負と大手を拡げた。数多の敵は言はして置けば要らざる広言、目に物見せてくれむと、四方八方より、タツタ一人の蚊々虎さまを目蒐けて攻め寄せたり。強力無双の蚊々虎さまは、寄せ来る敵を箸で蚕を撮む如うに、右から来る奴を左へポイトコセ、左から来る奴を右へポイトコセ、終にはエヽ面倒と、首筋を一寸撮んで空を目がけてプリンプリンプリン、また来る奴を一寸撮んでプリンプリンプリン、上から降りて来る奴、下から上へ放られる奴、空中で頭の鉢合せをして、アイタヽヽヽピカピカと目から火を出し、放り上げられた奴と、宙から落ちて来る奴と、途中で貴方お上りですか、私は降りです、下へ降りなしたら蚊々虎さまに宜敷……』 淤縢山津見『コラコラ法螺を吹くにも程がある。黙らぬかい。言はして置けば調子に乗つて……ここを何と心得をる。数万の強敵を前に扣へて置いて、ソンナ気楽なことを言うて居る所で無いぞ』 蚊々虎『ヤー、ヤツパリ淤縢山津見ぢやなあ、数万の敵にオドオドして、向ふは真暗がり、暗墨の如うに、一寸先は真黒黒助だ。エヘン豪さうに口ばつかり、取越苦労はするな過越苦労は禁物ぢやのと、口先で立派なことを仰有るが、この蚊々虎さまはかう見えても刹那心、たとへ半時先に嬲殺しに逢はされやうが、ソンナ事は神様の御心に任して居るのだ。モシ宣伝使さま、さうぢや有りますまいかな。釈迦に説法か、負うた子に教へられて浅瀬を渡ると言ふのか、いやもうトンとこの辺が合点の虫が、承知しませぬワイ。まさかの時になつて来ると、宣伝使さまの覚悟も誠に怪しい頼り無いものだワイ』 と、目を剥き舌を少し出して、宣伝使の顔をチヨツと見上げる。 宣伝使は顔を少しくそむけながら、 淤縢山津見『さうだなア。さう言へば、マアソンナものかい』 蚊々虎『ソンナものかいも有つたものかい。甲斐性無し奴が、ちと改心したか、エーン』 淤縢山津見『蚊々虎、無礼で有らうぞよ』 斯かる所へ以前の荒熊は、呼吸を喘ませながら、坂道を上り来たりぬ。 蚊々虎は頓狂な声で、 蚊々虎『ヤー帰つたか様子は何んと、仔細は如何に、細に、言上仕れ』 淤縢山津見『また貴様出しやばるな』 蚊々虎『出しや張るツて、刹那心ですよ。気が何だか急くから急いで問うたのですよ。決して取越苦労ではありませぬよ』 荒熊が、 荒熊(高彦)『申し上げます、不思議なことには何時の間にか人影も無くなつて居ります。之には何か深い計略の有る事と思ひますが、軽々しく進む訳には行きますまい。一つこれは考へものですな』 蚊々虎『ナーニ刹那心だ。行く所まで行かな分るものかい。進め進め』 と蚊々虎は、先に立つて進み行く。 後に六人は路傍の岩に腰打ち掛け、何かヒソヒソと頭を鳩めて囁きゐたり。 蚊々虎は只一人、ドンドン腕を振りながら一目散に坂道を下り行く。 (大正一一・二・八旧一・一二森良仁録) |
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霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 27 沙漠 | 第二七章沙漠〔三七七〕 蒼空一天の雲翳も無く、天津日は中天に輝き玉ふ真昼時。 茲に四人の宣伝使は、数十頭の駱駝に数多の食物を積み、駱駝の背にヒラリと跨つて闇山津見夫婦に名残を惜しみ、大沙漠を横断して、巴留の都に進まむとする時、五月姫は名残惜しげに門口に送り出で、 五月姫『堅磐常磐に変り無き世や久方の大空の 天の河原に棹さしてエデンの河に天降りまし 恵も深き顕恩の郷に鎮まる南天王 日の出神と現はれて四方の国々隈もなく 神の御教を輝かし千尋の海の底の宮 竜の都に出でまして憂瀬に悩む神人を 救ひ玉ひし生神の教の御子の宣伝使 淤縢山津見司様その外三人の宣伝使 名残は惜しき夏の空五月の暗に掻き曇る 心悲しき五月姫血を吐く思ひの杜鵑 思ひは同じ世を救ふ神の身魂を禀け継ぎし 妾は女の身なれども神の御言を宣べ伝ふ 清き司と成らざらめ常世の闇を晴らさむと 思ふ心の仇曇り晴らさせ給へ淤縢山津見 教の司の宣伝使汝は都へ妾は後に 残りて何を楽まむ明日をも知れぬ人の身の 空しき月日を送るべき荒野の露と消ゆるとも 沙漠の塵に埋むとも世人を思ふ村肝の 心は曇る五月闇疾く晴らさせよ宣伝使』 と声しとやかに歌ひて、名残を惜む。闇山津見はこの歌を聞いて五月姫の心中を察し、新に駱駝を曳出し来り、五月姫に与へ、淤縢山津見一行と共に、宣伝使として天下を教化することを許したり。五月姫は天へも昇る心地し、茲に男女五人の宣伝使は轡を並べて、さしもに広き巴留の大沙漠を横断することと成りにけり。 茲に五人の宣伝使は、闇山津見をはじめ数多の国人に『ウローウロー』の声に送られ、意気揚々として、闇山津見の館を後に、宣伝歌を歌ひ乍ら進み行く。いよいよ大沙漠に差懸りたれば、前方よりは烈しき風吹き荒み砂煙を立て、面を向くべきやうも無かりけり。 蚊々虎は大音声を張り上げて、 蚊々虎『風よ吹け吹け旋風吹けよ砂よ飛て飛て天まで飛てよ 雨も降れ降れイクラデモ降れよたとへ沙漠は海と成り 天は下りて地と成り地は上りて天と成る 如何なる大難来るとも神に貰うた蚊々虎の この言霊に吹き散らし薙いで払うて巴留の国 靡き伏せなむ神の徳蚊々虎さまの神力に 何れの神も諸人も虎狼や獅子熊も 青菜に塩のその如く縮んで萎れてペコペコと 謝り入るは目の当り風も吹け吹け何ぼなと吹けよ 砂も飛て飛て何ぼなと飛てよソンナ事には応へぬ神だ 応へぬ筈だよ誠の神の教を伝へる宣伝使 淤縢山津見の司様勇む心も駒山彦や 天狗の鼻の高彦や天女に擬ふ五月姫 ちつとも恐れぬ金剛力の蚊々虎さまがござるぞよ 進めや進めいざ進め』 と口から出任せに、大法螺を吹きながら駱駝の背に跨り、勢よく風を冒して進んで行く。漸くにして風はピタリと止んだ。夏の太陽は又もや煌々と輝き始めたり。 駒山彦『オイオイ蚊々虎の宣伝使、豪勢なものだな。お前のその大法螺には、風の神だつて何だつて萎縮して了ふわ。よくも吹いたものだなー』 蚊々虎『向ふが吹きよるから吹いたのだ。滅多矢鱈に吹いて、俺らを砂煙に巻よつたから、俺も亦一つ風の神に向つて、大法螺を吹いて吹いて、風の神もお前達も一緒に煙に巻いたのだよ』 高彦『ハヽヽヽ相変らず、空威張の上手な男だネー』 蚊々虎『矢釜敷う言ふない、先を見て貰はうかい。先になつて驚くな、何んな働きをなさるか知つて居るかい』 高彦『オホン刹那心だ。先の事を云つたつて判るものか。今の内に精出して法螺でも吹いて置くが宜からう。万緑叢中紅一点の五月姫の女宣伝使が居ると思つて、俄に元気づきよつて、声自慢で法螺歌を歌つたつて、風の神なら往生するならむも、五月姫さまはソンナ事では一寸お出でぬぞ』 蚊々虎『馬鹿言ふな。オイオイ、際限も無いこの沙漠だ。一体何日程走つたら、巴留の都へ行くか知つて居るかい』 高彦『ソンナ事は知らぬワイ。お前は神懸さまぢやないか、宇宙一切の事が判明るなら、その位な事が鏡に懸けた如く知れさうなものでないか』 一行は互に駱駝に跨り、或は宣伝歌を歌ひ、雑談に耽りながら、漸くにして巴留の都に着きにける。 (大正一一・二・九旧一・一三森良仁録) |
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霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 37 珍山彦 | 第三七章珍山彦〔三八七〕 大蛇の背に乗りたる宣伝使一行は、一瀉千里の勢で山麓に下り行きたり。 駒山彦は得意顔にて、 駒山彦『ヤア、馬には乗つて見い、人には添うて見い、大蛇には跨つて見いだな。杏よりも桃が易い。割りとは楽に来たよ。コンナ事なら、これから大蛇に遇うても一寸も怖くは無い。この行く先々に、山へかかれば的さんがやつて来て呉れると、本当に重宝だね』 蚊々虎は、 蚊々虎『大蛇どの、もうよろし、ここでオロチて下さい』 見れば五人の宣伝使は、広き芝生の上に下され居たり。そして大蛇は影も形も見えなく成り居たりける。 駒山彦『なんだ、夢だつたらうかな。現に今、大蛇に乗つた積りだつたのに、此の様な芝生の上に坐つて居るとは、一体全体駒山には訳が分らぬわい』 蚊々虎『神変不可思議の神業だ。三五の教には、ドンナ結構なお方が落魄れて御座るかも知れぬから、必ず侮ることは成らぬとあるだらう。この蚊々虎さまは此様に粗末に見えても立派な神様だぞ。化けて御座るのだよ。それだから大蛇で有らうが、何であらうが、宇宙一切のものは、この蚊々虎さまの一言で自由自在になるのだ。風雨雷霆を叱咤し、天地を震動させるのも、吾々が鼻息一つで自由自在だぞ』 駒山彦『また始まつた。オイ、もう吹くのは止めて呉れぬか。お前の二百十日には駒山彦だよ』 淤縢山津見はアフンとして、 淤縢山津見『合点の往かぬは蚊々虎の神力だ。ヒヨツとしたら、此奴はお化けかも判らないぞ』 正鹿山津見『お化けでも何でも宜いぢやありませぬか。あの様な大きな大蛇を自由自在に使ふなんて吾々は到底、目から火を出して気張つた処で、石亀の地団太だ。物には成らない、偉い方ですね。正鹿も感心しましたよ』 五月姫も、 五月姫『ほんたうに感服しましたわ』 駒山彦はシヤシヤリ出で、 駒山彦『「妾、ほんたうに感服しましたわ」と、仰有りますワイ。蚊々虎さま、お目出度う』 淤縢山津見も、 淤縢山津見『今日まで蚊々虎々々々と言つて居たが、こりや何うしても宣り直さなくちやいけない。何とか名をあげませうかな』 正鹿山津見も呆れて、 正鹿山津見『さうだなあ、大蛇を使つた神力に依つて大蛇彦と命名たら何うだらう』 蚊々虎『大蛇彦は御免だ。珍山彦だ。珍山彦と言つて貰ひたいね』 淤縢山津見も、 淤縢山津見『ヤア、それは本当にいい名だ。それなら是れから、珍山彦様と申上げるのだねー』 蚊々虎『尤も、尤も。蚊々虎を改名しますよ』 五月姫『ホヽヽヽヽ、なんとはんなりとしたいいお名ですこと、妾、蚊々虎さまより、珍山彦様の方が気持が宜しいわ』 駒山彦は口を尖らして、 駒山彦『ホヽヽヽヽ、「なんといい名だこと、妾、蚊々虎さまより、駒山彦が好きだわ」とおいでたな、とは言はぬ「珍山彦様の方が好きだわ」ヘン、馬鹿にしてらあ』 正鹿山津見は、 正鹿山津見『御一同様、話は途々伺ひませう。はるか東方に当つて小高き森がありませう。そこに田螺をぶちあけた様に小さき家が沢山に並んで居ませうがな。彼の辺が珍の都です。サアもう一息だ。私の宅まで御足労になつて、悠々と休息いたしませうかい。都近くなつた祝ひに、此処で一つ神言を奏上し、宣伝歌を歌ひながら参りませう』 と一同は芝生の上に端坐し神言を奏上し終つて、宣伝歌を歌ひつつ都を指して進み行く。 正鹿山津見は唄ふ。 正鹿山津見『巴留の都を後にして汗水垂らす夏の山 涼しき風に煽られて心は秋の如くなり 樹々の梢の紅葉の色にも勝る村肝の 身魂も清き宣伝使珍山峠を乗り越えて 千引の岩に夜を明し仰ぐも高き天雲山の 峠を越えて五柱大蛇の船に乗せられて 漸うここに月の空月照彦の鎮まりし この高砂の神島は神の選みしうづの国 花の都も近づきて心の駒は勇むなり 神が表に現はれて善と悪とを立別る この世を造りし神直日心も広き大直日 大野ケ原を右左眺めて通る心地よさ 向ふに見ゆる白壁は珍の都のわが住家 ただ何ごとも人の世は直日に見直せ聞き直せ 蚊々虎さまの名前さへ珍山彦と宣り直し 天津御神の貴の御子大御宝と現はれて 世界を開く宣伝使淤縢山津見や五月姫 勇む心の駒山彦や夏の真盛り正鹿山 津見の命の五人連れ誠の神に救はれて 漸う都へ着きにけりやうやう都へ着きにけり 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも たとへ大地は沈むとも誠の神の教へたる 三五教は世を救ふ救ひの神と現はれし 厳の御魂の五柱瑞の御魂の月の影 尽きぬは神の御恵ぞ尽きぬは神の御恵ぞ』 と節面白く歌ひながら、漸く一行の宣伝使は正鹿山津見の館に着きにける。 駒山彦は、 駒山彦『ヤア、宣伝使の住居にしては贅沢な構へだね』 珍山彦(蚊々虎)『決つたことだよ。珍一国の守護職だもの、当然だ』 門内よりは、数多の下僕蒼惶しく走り来り、 下僕『これはこれは御主人様、ようこそお帰り下さいました。皆の者が、もう今日はお帰りか明日はお帰りかと、首を伸ばしてお待ち申して居りました。サアサアお疲労れでせう、早くお休み下さいませ。ヤア、これはこれは、何れの方か知りませぬが、よく送つて来て下さいました。何卒悠くりと湯でも飲つて、寛いで下さいますやうに』 正鹿山津見は、 正鹿山津見『オー、国彦か、よくまあ留守を仕て呉れた。御苦労であつたな。イヤ、御一同様、見苦しき荒屋で御座いますが、どうぞ御遠慮なくお上り下さいませ』 淤縢山津見も、 淤縢山津見『仰せに従ひ遠慮なく休まして貰ひませう』 と、正鹿山津見の後に随いて、奥の間にドツカと安坐したり。 国彦は恭しく湯を沸かして持ち来り、 国彦『ヤー、御一同様、山道と云ひ、この頃の暑さと云ひ、嘸お疲労でせう。承はれば、主人も偉いお世話になられたさうで御座います。よくまあ生命を助けてあげて下さいました。今お湯がすぐに沸きますから、どうぞ悠くりと湯浴でもして、お寛ぎ下さいませ』 と、挨拶を終つて、部屋の方へ姿を消す。 四人の宣伝使は打ち解けて、岩上に一夜を明かし、悪戯をされた事やら、大蛇に出会した時の感想を語り、面白可笑しくさざめき居たり。 襖を開けて、正鹿山津見は、 正鹿山津見『どうやらお湯が沸きました様です。皆さま何うでせう。一緒に這入りませうか』 珍山彦『そら面白からう、一緒に願はうかい』 正鹿山津見『どうかこちらへ』 と、先に立つて行く。一同は浴槽の側に衣服を脱ぎ捨て、バサバサと一度に飛び込みぬ。 珍山彦は、 珍山彦(蚊々虎)『ヤアヤア、湯に入つた気分はまた格別だね。湯々自適とはこのことだ。ゆはぬはゆふにいや勝る。ゆうて見ようかゆはずにおこか。ゆはな矢張り虫がゆふ』 駒山彦『そら貴様何をゆふのだ。湯快さうに自分一人はしやいで』 珍山彦(蚊々虎)『それでも湯快だよ。湯ぐらゐ結構なものは無いぢやないか。お前は何とゆふことをゆふのだ』 と珍山彦、駒山彦の二人は湯の中で揶揄ひながら、やや暫し汗を流して、一同と共に湯を上り、元の間に引き返し見れば、山野河海の珍味佳肴が並べられてゐたり。一同はその厚意を感謝しながら、漸く夕餉を済ませける。 正鹿山津見を中心に、国魂の神を祀れる神前に向つて、天津祝詞を奏上し、宣伝歌を歌ひ了つて楽しみ話に耽り、その夜は疲労れはて、何れもよく熟睡し、明る日の八つ時に各自目を醒まし、又もや四方山の話に耽り居たり。 (大正一一・二・一〇旧一・一四東尾吉雄録) |
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霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 38 華燭の典 | 第三八章華燭の典〔三八八〕 一同は国魂の神前に神言を奏上し、讃美歌を唱へ終つて休息してゐた。正鹿山津見は襖を押開け入り来り、 正鹿山津見『御飯が出来ました。どうぞ御上り下さいませ。何分長らく留守に致して置きましたのと、家内がないので不行届き、不都合だらけですけれど』 と挨拶を述べ、この場を立ち去りぬ。 珍山彦(蚊々虎)『皆の方々、今承はれば正鹿山津見様は女房が無いと云ふ事だ。一国の守護職として宣伝使を兼ねられた急がしい身体、肝腎の女房が無いとは気の毒でないか。一つ珍山彦が奥様を御世話しようと思ふが如何でせうな』 駒山彦は膝をのり出し、 駒山彦『それは結構だな。適当の候補者の見込みがあるのかい』 珍山彦(蚊々虎)『あらいでか、確にあるのだ。吾々の御世話したいのは、女宣伝使の五月姫だよ。ナア五月さま、貴方は珍山峠の麓の岩の上で、正鹿山津見さまは誠に男らしい、立派な御顔付きの方だと云うて居ましたね、御異存はありますまい』 五月姫は黙つて袖に顔を隠す。駒山彦は言葉せはしく、 駒山彦『そらいかぬ。お人が違ふではないかな。貴様はあれ丈け惚れてゐたではないか。俺は貴様の奥さまに世話したいと思つてゐたのだ。ソンナ遠慮は要らぬ。遠い所からくすぐるやうに謎かけをせずに、「五月姫殿、珍山彦の女房になつて下さい」と、男らしくキツパリと切り出したら如何だい。奥歯に物の詰つたやうな事を言ひよつて、何処までも図々しう白ばくれる男だな』 珍山彦(蚊々虎)『このはなさまは故あつて女房は持ぬのだ。それ丈は怺へて呉れ。余り俺が洒落るものだから、本当にし居つて痛うない腹を探られて迷惑だよ。さうぢやと云つて、此の可愛らしい五月姫が嫌ひだと云ふのでは無い。好きの好きの大好きだが、女房を持れぬ因縁があるのだよ』 駒山彦『オイ蚊々虎、ドツコイ珍山彦、その因縁を聞かうかい』 珍山彦(蚊々虎)『お前に聞かせるやうな、因縁なら何に隠さう。こればかりは怺へて呉れ。俺は未だ未だ重大なる任務があるのだから』 淤縢山津見は、 淤縢山津見『ヤア珍山さま、貴方の事は何うしても吾々は合点が往かない。丸切り天空を翔る蛟竜の如く、千変万化捕捉すべからずだ。もう何事も言ひませぬ。貴方の御意見に任して五月姫さまを、此家の主人の奥様に推薦したいものですな』 珍山彦は、 珍山彦(蚊々虎)『どうか貴方も御同意ならば、正鹿山津見さまに一つ掛合つて見て下さいな』 淤縢山津見は『よろしい』といつて其の場を立ち一室に行つた。 五月姫は顔を赤らめて俯向いてゐる。駒山彦は、 駒山彦『これこれ五月さま、女にとつて一生の一大事、俯向いてばかり居つては事が分らぬ、珍山さまにするか、正鹿山津見さまにするか、右か左か返答しなさい。御意見あらば吾々に、隔ても何もない仲だ、キツパリ云つて下さい。万々一両人の御方が気に入らねば、外に候補者も無いことはありませぬよ。コーと云ふ頭字のついた人を御世話致しませうか』 珍山彦は駒山彦の顔を眺めて、 珍山彦(蚊々虎)『ウフヽヽヽ』 五月姫は漸くに面を上げて、 五月姫『ハイハイ、正鹿山津見さまさへ御異存無くば』 珍山彦は手を拍つて、 珍山彦(蚊々虎)『お出でたお出でた、願望成就、時到れりだ。ヤア、さすがは五月姫殿、天晴れ天晴れ、よう目が利いた。夫れでこそ天下の宣伝使だ。思ひ立つたを吉日に、今日婚礼の式を挙げませう』 駒山彦は、 駒山彦『コラコラ、珍山彦、一方が承知したつて、一方が何う云ふか判りはしない、鮑の片想ひかも知れないのに、よく周章てる奴だな』 珍山彦『なに大丈夫だよ。猫に鰹節だ、狐に鼠の油揚だ、二つ返事で喰ひつき遊ばす事は、請合ひの西瓜だ、中まで真赤だ。コレコレ五月姫さま、貴方も今までは押しも押されもせぬ一人前の女だ、男も女も同じ権利だつた、言はば男女同権。しかし今日から結婚したが最後、夫に随はねばならぬ。夫唱婦従の天則を守り、主人によう仕へ、家の中を治めて行くのが貴女の役だよ。男女同権でも、夫婦同権でないから、それを忘れぬやうに良妻賢母の鑑を出して、三五教の光を天下に現はすのだ。広い世の中に夫となり妻となるのも深い深い因縁だ、神様の御引合せだから、決して気儘を出してはいけませぬぞ。私が珍山峠で御話ししたやうに、どうぞこの花婿を大切にして蓮の台に末永う、必ず祝姫の二の舞を踏まぬやうにして下さい。頼みます』 五月姫は涙をボロボロと零しながら、 五月姫『ハイ、何から何まで、貴方の御親切は孫子の時代は愚か、五六七の世まで決して忘れは致しませぬ。貴方の御教訓は必ず固く守ります。御安心して下さいませ』 駒山彦『ナント珍山、貴様は変な男だねー。ホンニ合点のゆかぬ男だ。コンナ別嬪を人にやるなどと、ナントした変人だらう。が併し感心だ。この駒山だつたら迚も其処まで身魂が研けて居らぬからなー』 斯く話す折しも、正鹿山津見は淤縢山津見に伴はれ、[※御校正本・愛世版では「淤縢山津見は正鹿山津見を伴ひ」だが、校定版・八幡版では「正鹿山津見は淤縢山津見に伴はれ」に修正されている。後に続く「御一同様~」のセリフは正鹿山津見のセリフであるため、御校正本は主語が間違っている。そのため霊界物語ネットでは校定版に準拠して文章を修正した。]この場に現はれ叮嚀に辞儀をしながら、 正鹿山津見『御一同様、いろいろと御世話になつた上、今度は結構な御世話を下さいまして有難う。御恩の返し様は、もう御座りませぬ』 と感謝の意を漏した。 珍山彦は、 珍山彦(蚊々虎)『あゝ結構々々、それで安心して吾々も宣伝に参ります。どうぞ幾久しく夫婦仲好くして此の神国を永遠に治めて下さい。一朝事ある時は、夫婦諸共神界の御用に立つて下さい』 と日ごろ快活な男に似ず、声を曇らして嬉し涙を零し居たり。 淤縢山津見は、 淤縢山津見『ヤア、斯く話が纏まつた上は、善事は急げだ。早く神前結婚の用意にかかりませうか』 茲に一同は家の子郎党と共に、盛大なる結婚の式を挙げける。一同は直会の宴にうつり、各手を拍ち歌を歌ひ、感興湧くが如き折しも、番頭の国彦は襖を開いて、 国彦『御主人様に申上げます。只今ヱルサレムの聖地から松代姫、竹野姫、梅香姫の三人の御嬢様が、「御父様の住家は此処か」と云つて、一人の供を伴れて御出でになりました。如何が取計らひませうか』 正鹿山津見は驚きながら、 正鹿山津見『あゝ嬉しいことが重なるものだな』 一同手を拍つて、ウローウロー。 附言 正鹿山津見は、聖地ヱルサレムの天使長であつた桃上彦命である。兄広宗彦命、行成彦命の神政を奪ひ、体主霊従の限りを尽し、地の高天原は為に混乱紛糾の極に陥り、その妻は病死し、自分は常世彦、常世姫のために、或一時の失敗より追放され、三人の娘を後に残して住み慣れし都を後に、一つ島に進む折しも、暴風に逢ひ船は忽ち顛覆し、琴平別の亀に救はれ竜宮城にいたり、門番となり果てし折しも、日の出神に救はれ、この珍の都の守護職となれるなり。 この事を三人の娘は、神夢に感じて遥々此処に尋ね来たり。黄泉比良坂の坂の上に於て、黄泉軍を待ち討ち給ひし伊弉諾命の三個の桃の実は、即ち桃上彦命の三人の娘の活動を示されたるなり。 (大正一一・二・一〇旧一・一四外山豊二録) |
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霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 39 言霊解一 | 第三九章言霊解一〔三八九〕 『故ここに伊弉諾命詔り給はく「愛くしき我が那邇妹命や、子の一つ木に易へつるかも」と宣り給ひて、御枕べに匍匐ひ御足べにはらばひて、泣き給ふ時に、御涙に成りませる神は、香山の畝尾の木の下にます、御名は泣沢女の神、故其の神去りましし伊弉冊神は、出雲の国と伯伎の国との堺、比婆の山に葬しまつりき』 伊弉諾命は即ち天系霊系に属する神でありまして、総ての万物を安育するために地球を修理固成されました、国常立尊の御後身たる御子の神様でありますが、古事記にある如く、迦具土神が生れまして、即ち今日は、交通機関でも、戦争でも、生産機関でも火力ばかりの世で、火の神様の荒ぶる世となつたのであります。この火の神を生んで地球の表現神たる伊弉冊命が神去りましたのであります。この世の中は殆ど生命がないのと同じく、神去りましたやうな状態であります。 そこで伊弉諾命は我が愛する地球が滅亡せむとして居るのは、迦具土神が生れたからであるが、火力を以てする文明は何程文明が進んでも、世の中がこれでは何にもならぬ。地球には換られぬと宣らせ給はつたのであります。これが『子の一つ木に易へつるかも』といふ事であります。 次に『御枕べに匍匐ひ御足べにはらばひて』といふことは、病人にたとへると病人が腹這ひになつて死んだのを悔む如く、病人と同じく横になつて寝息を考へたり、手で撫でて見たり、又手の脈をとつて見たり、足の脈をとつて見たり、何処か上の方に生た分子がないか、頭に当る所に生気はないか、日本魂が未だ残つては居ないかと調べ見給ひし所殆ど死人同様で上流社会にも、下等社会にも脈はなくて、何処にも生命はなくなつて居る。全く今日の世の中はそれの如くに暖かみはなく冷酷なもので、然も道義心公徳心が滅亡して了つて居るのであります。それで泣き悲しみ給ふ時に、その涙の中に生りませる神の名を泣沢女神というて、これは大慈大悲の大神様が、地上一切の生物を憐み玉ふ所の同情の涙と云ふことであります。今日でも支那の或地方には泣女といふのがあつて、人の死んだ時に雇はれて泣きに行く儀式習慣が残つて居るのも、これに起源して居るのであります。 神去りました伊弉冊命は、之を死人にたとへて出雲の国と伯耆の国の境に葬むられたと書いてありますが、出雲といふのは何処もといふことで亦雲出る国といふことである。 今日の如く乱れ切つて、上も下も四方八方、怪しい雲が包んで居るといふ事であります。伯耆の国といふのは、掃きといふことで雲霧を掃き払うと云ふことである。科戸の風で吹払うと云ふのもさうであります。即ち国を浄める精神と、曇らす精神との堺に立たれたのであります。所謂善悪正邪の分水嶺に立つたものであります。実に今の世界は光輝ある神世の美はしき、楽しき黄金世界になるか、絶滅するか、根の国底の国、地獄の世を現出するかの堺に立つて居るのであります。 『比婆の山に葬し』といふ事はヒは霊系に属し、赤い方で、太陽の光線といふ意義でバと云ふのは、ハとハを重ねたもので、これは悪いことを指したものであります。即ち霊主体従と体主霊従との中間に立て、神が時機を待たせられたと云ふことであります。斯くして伊弉冊命即ち地球の国魂は、半死半生の状態であるが、併し天系に属する伊弉諾命は純愛の御精神から、此地球の惨状を見るに忍びずして、迦具土神即ち火の文明が進んだため、斯うなつたといふので、十拳剣を以て迦具土神の頸を斬り給うたのであります。十拳の剣を抜くと云ふ事は、戦争を以て物質文明の悪潮流を一掃さるる事で、所謂首を切り玉うたのであります。 この首といふことは、近代でいへば独逸のカイゼルとか、某国の大統領とか云ふ総ての首領を指したのである。即ち軍国主義の親玉の異図を破滅せしむる為に、大戦争を以て戦争の惨害を悟らしむる神策であります。 『是に伊邪那岐命、御佩せる十拳剣を抜きて、其御子迦具土神の御頸を斬り給ふ。爾に其御刀のさきにつける血、湯津石村にたばしりつきて、成りませる神の御名は、石拆神、次に根拆神、次に石筒之男神、次に御刀の本につける血も、湯津石村にたばしりつきて成りませる神の御名は、甕速日神、次に樋速日神、次に建御雷之男神、亦の御名は建布都神亦の御名は豊布都神、次に御刀の手上にあつまる血、手俣より漏れ出で成りませる神の御名は闇於加美神、次に闇御津羽神』 十拳剣即ち神界よりの懲戒的戦争なる神剣の発動を以て、自然に軍国主義の露国や独乙を倒し、カイゼルを失脚させ、そのとばしりが湯津石村にたばしりついたのであります。この湯津石村につくといふことは、ユとは夜がつづまつたもので、ツは続くのつづまつたもので、要するに夜ル続くといふことになります。彼方からも此方からも、草の片葉が言問ひを致しまして、彼方にも此方にも、種々の暗い思想が勃発して、各自に勝手な主義なり意見なりを吐き散らしまして過激主義だとか、共産主義だとか、自然主義、社会主義がよいとか、専制主義がよいとか、いろいろなことを言ふ意味になります。又イハといふことは、堅い動かぬ位といふことで、ムラは群がるといふ意義で、岩とは尊貴の意、村とは即ち下の方の人間の群といふことであります。所謂タバシリツクといふのは、鳴り続いて上にも下にも種々雑多の思想や主義が喧伝されて居ることであります。即ちたばしりついて生りませる神といふのは、生れ出ることではなくして、鳴り鳴りて喧ましいといふ事であります。その神の御名を甕速日神といふ。 ミは体、カは輝くといふことで、体主霊従の神であります。樋速日神は霊主体従の神であつて、両者より種々なる思想の戦ひが起るといふ事であります。即ち主義の戦ひであります。次に建御雷之男神は、直接行動と云ふことで、霊主体従国は言向平和神国であるから、滅多にありませぬが、体主霊従国などは皆々建御雷之神であります。即ち露国のやうに、支那のやうに皇帝を退位せしめたり、すべて乱暴をするとか、焼討をするとか、暴動を起すとか、罷業、怠業するとかいふ如うな事であります。 建御雷神は天神の御使でありますが、本文の言霊上から考ふれば、爰はその意味にはとれぬ、争乱の意味になるのであります。亦の名は建布都神、又は豊布都神といふのは善と悪の方面を指したもので、凡て善悪美醜相交はるといふことになります。即ちよき時には苦しみが芽出し、苦しみの時には楽みが芽出して居るといふやうなものであります。 世の中が混乱すればする程、一方に之を立直さむとする善の身魂が湧いて来るといふ意味であります。 十拳剣を握つて居らるる鍔元に集まる血といふのは、各自に過激な思想を抱いて居るといふ事で、血を湧かす事であります。即ち手のまたから漏れ出ることになります。この手のまたから漏れ出ると云ふ事は、厳重な警戒を破つて現はるる事であります。闇於加美神といふことは、世界中の上の方にも非常な過激な思想が現はれるといふことであります。 次に闇御津羽神のみつといふのは、水でありまして、下の方即ち民のことで、これも無茶苦茶な悪思想になつて、世の中が益々闇雲になるといふことであります。 この昔の事を今日にたとへて見ますと独逸のカイゼルが失脚したのも、露国のザーが亡んだのも、支那の皇帝がああなつたのも、皆天の大神が十拳剣を以て斬られたのであります。斯の如く神は無形の神剣を以て斬られるのであります。それで人間が戦ふことになるのであります。この殺された迦具土神のことを現代にたとへますれば、爆弾とか大砲とか、火器ばかりで戦ふのでありまして、弓とか矢で戦ふのではありませぬ。軍艦を動かすのも火の力であります。それで大神に依て火の神が殺されたといふことは、惨虐なる戦争が止んだといふことになるのであります。今回の五年に亘る世界戦争の結果は、迦具土神の滅亡を意味して居るのであります。 (大正九・一一・一於五六七殿講演外山豊二録) (大正一一・二・一〇旧一・一四谷村真友再録) |
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霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 42 言霊解四 | 第四二章言霊解四〔三九二〕 『其妹伊弉冊命吾に辱見せたまひつと言したまひて、即ち黄泉醜女を遣はして追はしめき』と云ふ事は、以上の如くに乱れ果てたる醜状を、神の光なる一つ火に照らされ、面の皮を曳剥られて侮辱されたと言つて、大本であれば心に当る醜悪なる教信徒が一生懸命に大本や教主に反抗すると云ふことであり、世界で言へば、益々立腹して大本を圧迫し、窮地に陥れむとする人物の出現すると云ふ事で在るから、誠の教を開くと云ふ事は、随分六ケ敷事業であります。今日のやうな無明闇黒の社会に容れられる様な教なら別に苦労艱難は要らぬ、四方八方から持て囃されるで在らうが、その様な教なら現代を覚醒し、人心を改造する事は出来ない。国家を泰山の安きに置き奉らむとするの志士仁人は凡ての迫害と戦ひ、総ての悪魔に打ち克ち、身を以て天下に当るの勇猛心を要するのであります。黄泉醜女は決して悪い魔女の事では無い。今日の人間は上下共に男も女も、八九分通りまで醜女であります。何処にも一点の男子らしき、勇壮なる果断なる意気を認むる事は出来ぬ。斯ういふやうな黄泉醜女らが、大本の一つ火の明光に照されて、夏の虫の如くに消しに来ては却つて自分が大怪我をするのであります。今日の大本は四方八方から攻め立てられ、人民を保護す可き職に在る人々までが、時には逆様に攻撃妨害を加へむとして居るのであります。是が大本を四方突醜目で見てをると云ふのであります。 然し至誠思国の吾々大本人は、所在総ての圧迫と、妨害に打ち克つ為に、一つの力を貯へねば成らぬ如く、世界に対しても我国は、充分の準備を整へねばならぬ。即ち神典に所謂黒御鬘を投げ打つて掛らねば成らぬのであります。 『爾伊弉諾命黒御鬘を取りて投げ棄て玉ひしかば、乃ち蒲子生りき』 之を今日の大本に譬へると、幽玄美はしき神の御教を、天下に宣伝する事を『投げ棄て玉ひき』といふのであります。『蒲子生りき』と云ふ事は、美はしき誠の新信者が出来たと云ふ事であります。黄泉神醜女は、また之に向つて一人々々に種々の圧迫妨害を加へると云ふ事が、『是を拾ひ食む』と云ふのであります。何れの教子にも悉く四方突軍が御蔭を堕さしに廻つて居る。その間に又一つの戦闘準備に着手する事を『逃げ出でますを』と云ふのであります。 『猶追ひしかば、亦其の右の御角髪に刺せる、湯津津間櫛を引闕て、投げ棄てたまひしかば乃ち笋生りき』 蒲子とも言ふべき信仰の若い信者を、片端から追詰め引落しにかけ乍ら、なほもそれに飽き足らずして、大々的妨害を加へむとの乱暴には、神も終に堪忍袋の緒が断れたので、右の御角髪にまかせる湯津津間櫛を引闕て、乃ち神界の一輪咲いた梅の花の経綸を表顕して、所在四方突醜女に向つて宣伝した所が、終に箏と云ふ、上流貴紳[※身分の高い人という意]の了解を得、至誠天に通じて、いよいよ大本の使命の純忠純良なる事を、天下に知らるるやうに成るのを箏生りきと云ふのであります。是は全地球上の出来事に対する御神書であれども、総ての信徒に了解の出来易いやうに、現今の大本と将来の大本の使命を引用して、説明を下したのであります。 『是を抜き食む間に逃行でましき』 又々邪神の頭株が、大本の折角の経綸を破壊せむと、百方苦心しつつ在る内に、いよいよ神国の危急を救ふ可き、諸々の準備を整へ、何時にても身命を国家に捧げ奉つて、君国を守るべき用意を整へて行くと云ふ事が、『是を抜き食む間に逃行でましき』と云ふ意義であります。 『旦後には其の八種の雷神に千五百の黄泉軍を副へて追はしめき』 之を大本に譬へて見ると、八種の雷(前に詳述)に加ふるに社会主義者または仏教家、基督教徒などの、数限りなき露骨なる運動を起して、力限り攻撃の矢を向け来る事であります。之を世界に対照する時は、前述の八種の悪魔の潜在する上に、千五百軍即ち或る国から、日本の霊主体従なる神国を攻めて来ると云ふ事になるのであります。黄泉軍と云ふことは、占領とか、侵略とか、利権獲得とか、良からぬ目的の為に戦ひを開く国の賊軍隊の謂ひであります。 『爾御佩せる十拳剣を抜きて、後手に揮きつつ逃げ来ませるを』 霊主体従の神軍は戦備を整へながら即ち十拳剣を抜きながら、充分に隠忍し敢て戦はず、なるべく世界人類平和の為め、治国安民の為に言向平和さむとする意味を指して『後手に揮きつつ逃げ来ませる』と云ふのであります。 『其の坂本なる桃の子を三個取りて待撃ちたまひしかば悉く逃げ帰りき』 ヒラサカのヒの言霊は明徹也、尊厳也、顕幽皆貫徹する也、照智也、光明遍照十方世界也、日の朝也、大慈大悲五六七の神徳也。ラの言霊は、高皇産霊神也、霊系の大本也、無量寿の大基也、本末一貫也。 サの言霊は⦿に事ある也、栄ゆ也、水の音也、水の精也。 カの言霊は、蒙せ覆ふ也、光り輝く也、懸け出し助くる也。 以上ヒラサカ四言霊の活用を約むる時は、尊厳無比にして六合を照し、世界を統一し以て仁慈を施し、霊系の大本神たる日の大神の本末一貫の徳と、万世一系の皇徳を備へ、⦿に変ある時は、水の精なる月光世に出で、皇国の栄えを守り、隠忍したる公憤を発して、駆け出し向ひ戦ひ、神威皇徳を世界に輝かすてふ、神軍の謂ひであります。 又坂本は神国の栄え行く大元といふ事であります。大本といふも坂本の意義である。桃は百の意義で、諸々の武士といふ事であります。霊主体従日本魂の種子が乃ち桃の実であります。『三箇取りて待ち討ちたまひし』とは日本男子の桃太郎が、智仁勇に譬へたる、猿犬雉を以て、戦ふと云ふ事であります。猿は智に配し、雉は仁に配し、犬は勇に配するのであります。亦三ツと云ふ事は、変性女子なる三女神の瑞霊の御魂であります。そこで三ツの御魂即ち十拳剣の精なる神の教に依て悠然として、待ち討ちたまうた時に、黄泉軍は悉く敗軍遁走して了つたと云ふ意義であります。 『爾に伊弉諾命桃子に告り曰はく。汝吾を助けし如、葦原の中つ国に、有らゆる現在人民の苦瀬に落ちて苦患む時に、助けてよと告りたまひて、意富加牟豆美命といふ名を賜ひき』 茲に於て日の大神様から、聖なる至誠の団体や、三つの御魂に向つて、能く忠誠を尽し、国難を救うて呉れたと、御賞めになり、なほ重ねて世界人民が戦争の為に、塗炭の苦みを受けるやうな事が、今後において万一にも出来したら、今度のやうに至誠報国の大活躍をして、天下の万民を救うて遣つて呉れよ。汝にはその代りに意富加牟豆美命と名を賜うと仰せになつたのであります。このオホカムツミの言霊を奉釈すると次の如くであります。 オの言霊は、霊治大道の意である。 ホの言霊は、透逸卓出の意である。 カの言霊は、神霊活気凛々の意である。 ムの言霊は、組織親睦国家の意である。 ツの言霊は、永遠無窮に連続の意である。 ミの言霊は、瑞の身魂善美の意である。 之を一言に約むる時は、霊徳発揚神威活躍平和統一高照祥光瑞霊神剣発動の神と言ふ事であります。即ち惟神の大道を天下に宣伝する至誠至忠の聖団にして、忠良なる柱石神なりとの御賞詞であります。アヽ現代の世態に対し、神の大命を奉じて日本神国のために身心を捧げ、麻柱の大道を実行する大神津見命は、今何処に活躍するぞ。天下の濁流を清め妖雲を一掃し、災禍を滅し、世界万有を安息せしむる神人は、今や何処に出現せむとする乎。実に現代は黄泉比良坂の、善悪正邪治乱興廃の別るる大峠の上り口であります。 (大正九・一一・一於五六七殿外山豊二録) (大正一一・二・一一旧一・一五谷村真友再録) |
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霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 43 言霊解五 | 第四三章言霊解五〔三九三〕 『最後に其妹伊弉冊命、身自ら追来ましき』 今迄は、千五百の黄泉軍を以て攻撃に向つて来たのが、最後には世界全体が一致して日の神の御国へ攻め寄せて来たと云ふ事は、伊弉冊命身自ら追ひ来ましきといふ意義であります。是が最后の世界の大峠であります。すなはち神軍と魔軍との勝敗を決する、天下興亡の一大分水嶺であります。 『爾ち千引岩を、其の黄泉比良坂に引塞へて、一日に千頭絞り殺さむと申したまひき』 千引岩とは、非常に重量の在る千万人の力を以てせざれば、微躯とも動かぬ岩といふ意義であります。千引岩は血日国金剛数多といふ意義で、君国を思ふ赤誠の血の流れたる大金剛力の勇士の群隊と云ふことであつて、国家の干城たる忠勇無比の軍人のことであります。また国家鎮護の神霊の御威徳も、国防軍も皆千引岩であつて、侵入し来る魔軍を撃退し又は防止する兵力の意義であります。 『中に置き事戸を渡す』と云ふ事は、霊主体従の国家国民と、体主霊従の国家国民とは、到底融合親睦の望みは立たぬ。堂しても天賦的に、国魂が異つて居るから、神国の行り方、異国(黄泉国)はその国魂相応の行り方で、霊主体従国と体主霊従国とを立別ると云ふ神勅が事戸を渡すと云ふ事であります。 善一筋の政治や神軍の兵法は、体主霊従国の軍法とは根本的に相違して居るから、一切を茲に立別て、霊主体従国は霊主体従国の世の持方、体主霊従は体主霊従の世の治め方と、区別を付けられた事であります。要するに神国の土地へは、黄泉軍の不良分子は立入るべからずとの御神勅であります。人皇第十代崇神天皇様が、皇運発展の時機を待たせ玉ふ御神慮より、光を和げ塵に同はりて、海外の文物を我国に輸入せしめ玉ひし如く、何時までも和光同塵の制度を、墨守する事が出来ないので、断然として、事戸を渡さねば成らぬ現代に立到つた如き有様であります。事は言辞論説の意味で、戸は閉塞するの用であります。要するに日本は皇祖大神の御聖訓を以て、治国安民の要道と決定され、一切体主霊従国の不相応なる言論を輸入されないと云ふ意義が、乃ち事戸を渡し給うと云ふ事であり、之を夫婦の間に譬へますと離縁状を渡して、一切の関係を断つと云ふ事であります。何時までも和光同塵的方針を採るのは我々の今日の処世上に於ても一考せなくては成らぬ。悪思想や貧乏神には、一日も早く絶縁するが、家の為めにも一身上の為にも得策であります。今日の我国家も、一日も早く目覚めて我国土に不相応なる思想や、論説や哲学宗教なぞと絶縁して、所謂事戸を立て渡し度いもので在ります。 『伊弉冊命宣りたまはく愛くしき我那勢命如此為たまはば汝の国の人草、一日に千頭絞り殺さむとまをしたまひき』 黄泉大神の宣言には、我々の愛慕して止まない、神国兄の国の神宣示を以て、斯の如く黄泉国の宗教学説を排斥さるるならば、此方にも一つ考へがある。汝の国の人民の、上に立つて居る所の頭役人どもを黄泉軍の術策を以て、一日に千人即ち只一挙にして、上の方の役人どもを馘つて了つてやる、即ち免職をさせて見せようと云ふ事である。 惟神の大道即ち皇祖の御遺訓に依つて思想界を統一せむとする守護神があれば、直に時代に遅れた骨董品格にして、役人の頭に採用せないのみならず、直に首を馘られて了ふから、伊弉諾命即ち日本固有の大道を、宣伝実行する事を、避けむとする利己主義のみが発達するのであります。 是皆黄泉軍、体主霊従魂の頤使に甘んずる腐腸漢計りに成つて居る現代であります。我々は伊弉諾命の神教、即ち天神天祖の聖訓を天下に宣伝し実行せむとするに当つて、黄泉の軍の体主霊従国魂の守護神から圧迫され、日々千人即ち赤誠の信者を、大本より離れさせむとして、黄泉神の手先が、百方邪魔をひろぐのも同じ意味であります。 たとへ日本の神の教が結構と知り、又大本の出現が、現代を救ふには大必要である事を、充分了解し乍ら世間を憚り且つ又、旧思想家と云はれ、終には現今の位置より馘られ、社会的に殺され葬られて了ふ事を恐れて世間並に至誠貫天的の、社会奉仕の大本を悪評し、かつ圧迫するを以て、安全の策と心得て居る守護神許りで表面上大本の信者たる事を標榜するが最後、直に其の赤誠人は軍人と言はず、教育家と言はず会社員と言はず、馘られ職を免ぜられると云ふ事が『一日に千人絞り殺さむとまをしたまひき』と云ふ事になるので在ります。 『爾に伊弉諾命詔り玉はく、愛くしき我那邇妹命、汝然為たまはば吾はや、一日に千五百産屋立ててむと詔りたまひき。是を以て一日に必ず千人死に一日に必ず千五百人なも生るる』 茲に伊弉諾命は、我愛する那邇妹命よ、思想問題を以て日の御国を混乱せしめ猶ほ亦、今一致して武力を以て、我国を攻め給ふならば、我にも亦大決心がある。吾は惟神の大道を発揮して、以て一日に千五百の産屋を立てて見ませうと仰せられた。御神諭にある産の精神の人民、生れ赤子の心の人民を養成する霊地を、産屋と云ふのであります。 チは血なり赤誠也、霊主体従の意也、父の徳也、乳也、塩也。 イ[※ヤ行イ]は結び溜る也、身を定めて不動也。 ホは、上に顕はる也、太陽の明分也、照込也、天の心也。 ウ[※ア行ウ]は結び合ふ也、真実金剛力也、親の働き也。 ブは茂り栄ふ也、世の結び所也、父母を思ひ合ふ也。 ヤは固有の大父也、天に帰る也、経綸の形也。 以上のチイホウブヤの六言霊を納むる時は、神の血筋因縁の身魂が集り合ひて、赤誠の実行を修め、霊主体従の本領を発揮し、天の父たり、地の母たるの位を保ちて、仁恵の乳を万民に含ませ、大海の塩の如く、総ての汚れを浄め、総ての物に美はしき味を与へ腐敗を防ぎ、有為の人材一団と成りて、我身の方向進路を安定し、以て邪説貪欲に心を動かさず、俗界の上に超然として顕はれ、大神の大御心を宇内に照り込ませ、太陽の明分即ち日の神国の天職を明かに教へ覚し、至真至実の大金剛力を蓄へ、世界の親たるの活動を為し、上下の階級一つの真道に由りて結合し、日々に結びの力を加へ、終には世界を統一結合し、父母として万民慕ひ集まり固有の大父なる国祖大国常立神の御稜威を仰ぎ、天賦の霊性に帰りて世界を経綸し以て、三千世界を開発し、救済する聖場の意義であります。要するに、地の高天原なる綾部の大本の、神示の経綸は、乃ち千五百産屋に相当するのであります。大本の御神諭には『綾部は三千世界の世の立替立直しの地場であるから、日の大神様の御命令によりて、世界の人民を天の大神の誠一とつで此の世を治める結構な地の高天原であるぞよ』と示されてあるも、所謂千五百産屋の意義にして、生れ赤子の純良なる身魂を産み育て玉ふ神界の大経綸の中府であります。故に何程黄泉大神の精神より出でたる、過激的思想も侵略的の体主霊従国軍も、綾部に千五百産屋の儼存する限りは、如何ともする事が出来ないのであります。亦之を文章の侭に解する時は、一日に千人死して千五百人生れ出づる時は、結局人口は年を追うて増進する故に、之を天の益人と謂ふのであります。天の益人は天下国家の為に利益を計る、至誠の人の意味にも成るのであります。我大本の誠の信徒は、皆一同に天の益人とならねば成らぬ。亦日本全体を通じて天の益人たるの行動をとつて、国家を開発進展せしめ、黄泉国なる国々に其の範を垂れ示さねば、神国の神民たる天職を尽す事は出来ぬのであります。今日社会主義や過激派にかぶれた、不良国民が黄泉軍の眷属となり、大官連中に不穏なる脅迫状を送つたり、大本の幹部連中に向つて、同様の脅迫状が舞ひ込んで来るのも、千人を殺さむと白したまひきの意味であります。米国加州の排日案が通過したのも、西伯利亜満洲支那朝鮮の排日行動も、排貨運動の実現も、各地の小吏が大本に極力反対し、且つ我行動を妨害しつつあるのも、皆黄泉軍の一日に千人くびらむ、と白し玉ひきの実現であります。 太陽面に、地球の七八倍もある円形にして巨大なる黒点が出現し、約七万哩の直径を有し、吾人の肉眼を以て明視し得る如くに成つて居るのも、日の若宮に坐す伊弉諾命を、黄泉軍の犯しつつある表徴であります。亦この黒点が現はれると、其の年及び前後数年間は、従来の記録に依つて調べて見ると、第一気候が不順で、悪病天下に蔓延し、饑饉旱魃等は大抵その時に現はれ、人心の騒擾極点に達する時であります。天明の大饑饉も、太陽の黒点と時を同じうして現はれて居る。今日此頃の天候の不順も亦この黒点の影響である。況んや今度の如き、開闢以来未曾有の大黒点に於ておやであります。アヽ一天一日の太陽の黒点、果して何を意味するものぞ。伊弉諾命の持たせ玉へる一ツ火の光も、半ば消滅せむとするには非ざるか、我等は一日も早く千五百産屋は愚、八千五百産屋万産屋を建て、以て君国の為めに大活動を開始せざるべからざるを切に感ぜざるを得ないのであります。 『故其伊弉冊命を、黄泉津大神と謂す。亦其の追及しに由りて、道敷大神と称すとも云へり』 チシキの大神の言霊を解すれば、 チは血也、数の児を保つ也、外に乱れ散る也。 シは却て弛み撒る也、世の現在也。 キは打返す也、打ち砕く也。 之を一言に約する時は、数多の児即ち千五百軍を部下に有し、血脈を保ち外に向つて乱を興し終に自ら散乱し現在の世の一切を弛廃せしめ、以て正道を打返して、邪道に化し、至仁至愛の惟神の、生成化育の道を打砕く、大神と云ふ事であります。現代は国の内外を問はず、洋の東西を論ぜず道敷の大神の最も活動を続行し玉ふ時であります。 『亦其の黄泉の坂に塞れりし石は道反大神とも号し塞坐黄泉戸大神とも謂す』 チカヘシの大神はウチカヘシの大神と云ふ事で在り、又邪道を塞ぎて邪道を通過せしめずと云ふ意義であります。古来町の入口や出口には、塞の神と謂うて巨大なる石が祭つて在つたもので在ります。是も邪悪を町村内に侵入させぬ為の目的であります。吾人の家屋を建つるにしても、礎石を用ゐ、又その周囲に石を積み、又は延べ石を廻らすも、皆悪鬼邪神の侵入を防止するの意義より、起元したもので在ります。今日の思想界にも此の大石が沢山に欲しいものであります。 『故其の所謂黄泉津比良坂は、今出雲国の伊賦夜坂とも謂ふ』 伊賦夜坂の言霊を解すれば、 イ[※ア行イ]は強く思ひ合ふ也、同じく平等也、乱れ動く也、破れ動く也。 フは進み行く也、至極鋭敏也、忽ち昇り忽ち降る也、吹き出す也。 ヤは外を覆ふ也、固有の大父也、焼く也、失也[※「失」は「矢」の誤字の可能性がある。「言霊の大要」(『神霊界』大正7年3月1日号p20)では「矢」でフリガナが無いが、大石凝眞素美の『大日本言霊』では「矢」に「ヤ」とフリガナが付いている。黄泉比良坂の古事記言霊解は大正9年11月1日に綾部の五六七殿で講演した講演録であり、3つの文献に掲載されている。『神の国』大正9年12月1日号(皇典と現代2)p24では「失(うしなふ)」、『霊界物語』第8巻第43章「言霊解五」(大正11年2月9日再録、昭和10年3月4日校正)では「失(しつ)」、『出口王仁三郎全集第5巻』(昭和10年6月30日発行)p59は「失(しつ)」になっている。]、裏面の天地也。 ザ[※以下の活用は「ザ」ではなく「サ」の言霊の活用である。]は騒ぎ乱る也、⦿に事在る也、降り極る也、破壊也。 カは一切の発生也、光輝く也、懸け出し助くる也、鍵也。 イフヤザカの五言霊を約言する時は善悪正邪の分水嶺であります。男神の伊弉諾命と女神の伊弉冊命と、互ひに自分の住し、かつ占有する国土を発展せしめむと、強く思ひ合ひて争ひ賜ふ所は同じく平等にして何の差別もなく、只々施政の方針に大なる正反対の意見あるのみ。然れど女神黄泉神の御経綸は惟神の大道に背反せるが故に、終に海外の某々の如く悉く大動乱大破裂の惨状を露出したのは、近来事実の確証する所であります。 男神の神国は、日進月歩至極鋭敏にして、終に世界の大強国の仲間入りを為したり。されど忽ち昇り忽ち降るの虞れあり。黄泉国の二の舞を演ぜざる様、注意を要する次第であります。ヤは日本にして、何処までも徳を積み輝きを重ねつつ、外面を覆ひ、以て克く隠忍し、天下の大徳を保ちて天下に臨むと雖も黄泉国の八雷神や、千五百の妖軍は何の容赦も荒々しく、焼也、天也、の活動を成し、裏面の天地を生み成しつつあり。故に世界各国は殆ど騒乱の極みに達し正義仁道は地を払ひ、⦿に事の在りし暴国なり。茲に仁義の神の国の一切の善事瑞祥発生して、仁慈大神の神世に復し治め、暗黒界を光り輝かせ、妖軍に悩まされ滅亡せむとする、国土人民に対しては身命を投げだして救助し治国平天下の神鍵を握る可き、治乱興亡の大境界線を画せる、現代も亦これ出雲の国の伊賦夜坂と謂ふべきものであります。(完) (大正九・一一・一午前五六七殿講演外山豊二録) (大正一一・二・一一旧一・一五谷村真友再録) (第三七章~第四三章昭和一〇・三・四於綾部穹天閣王仁校正) |
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霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 余白歌 | 余白歌 谷底に育ちし木々は直なれば国の柱を採るに具はし〈第2章〉 高山に生ひたる木々は曲りゐて柱に成らぬものばかりなり〈第2章〉 いと高き大内山の一つ松に鶴巣籠りて日の出を歌へり〈第3章〉 道程は余程遠きに似たれども神から見れば唐も一所〈第7章〉 火と水の二つの柱世に出でぬこれが誠の火水世の礎〈第7章〉 世の人の渡る危き丸木橋を今取り替へし神の掛橋〈第9章〉 松の世を来たさむために永久に神力隠して経綸せし神〈第9章〉 天地の神の怒りも最と深し堪へ忍びの袋破れて〈第9章〉 大本の神は表に現はれて百の国々神代に開かす〈第10章〉 六十路をば越えたる男子が現はれてこの世のかぎり光り照らさむ〈第10章〉 三千年の世の立替も迫りけりこの行く先は心ゆるすな〈第10章〉 空蝉の定め無き世の吾なればこころも身をも神に任せむ〈第13章〉 いまだ世になかりし大なる災厄の来る思へば恋しき神なり〈第13章(校正)〉 世の人の知らぬ楽しき神の道に栄えの花は常永に咲きぬる〈第13章〉 千早振神の踏まれし正道をつぶさに教へ諭すこのふみ〈第14章〉 昔より話にさえも聞かざりし世の変遷を思ふ春なり〈第14章(校正)〉 日に月につもりし罪や穢をば瑞の霊によりて清めむ〈第14章〉 如何にせば神の御言葉悟り得む知慧も力もなき人の身は〈第15章〉 万国の穏やかを祈れ道の人よ生れし国の幸はなほさら〈第18章〉 世の業にさかしき人は皇神の真の道に愚なりけり〈第18章〉 皇神のみのりを写す此の神書はとこよのやみを照すともし火〈第19章〉 大神の道ふみ迷ひ自から皆狼となり果てにけり〈第22章〉 山川も一度にどよむ世となりて百神たちは荒れ狂ふなり〈第23章(校正)〉 高山の頂きを見れば眼のあたり八重村雲のかかる忌々しさ〈第24章〉 八雲立出雲八重垣九重に十重に二十重に包む村雲〈第25章〉 村肝の心の奥も白真弓曳きて返らぬ横矢こそ憂き〈第26章〉 天災地変を指折り数へ松虫の冬の霜さき憐れなりけり〈第29章〉 大神の心の奥を覚りなばただ一口の言の葉も出ず〈第29章〉 神業をなすのが原の玉草は踏まれ蹂られ花咲きて居り〈第32章〉 立直しそりや立替とかしましくさへずる百舌の声ぞ忌々しき〈第33章〉 新しき御代生れむと折々に人の驚く事のみ出で来も〈第35章(校正)〉 村肝の心の底も見ゆる哉言葉の玉の転ぶまにまに〈第38章〉 火の性は横なり水の性は縦なれども水は横に流れつ〈第38章〉 機の緯織る身魂こそ苦しけれ一つ通せば三つも打たれつ〈第38章〉 打たれても断れずもつれず綾錦織り成す瑞の御魂大神〈第38章〉 言霊の幸ひ助くる神国に生れて如何で世をば歎かむ〈第39章(校正)〉 月も日も西へかくるる如見ゆれ月の船こそ東へ進める〈第39章(校正)〉 音もなく静に積る白雪の清きは神の心なりけり〈第41章〉 (「校正」は昭和十年三月、王仁三郎が校正した時に挿入したもの。)[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました] |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 03 三笠丸 | 第三章三笠丸〔三九六〕 主人を思ふ真心の赤き心は紅葉の 色にも優る照彦が父に会ふ日を松代姫 心の竹野ある限り山と積みてし苦しさや 谷の戸開けて鶯の鳴く音淋しき梅ケ香姫の 貴の命と諸共にエデンの河を打渡り 世は九分九厘足曳の山を打越え野を渉り 心も勇む四人連心つくしのアフリカの ヨルの港に着きにけり。 今や船は帆に風を孕んで智利の国へ向はむとしてゐる。船人は声を限りに出船の時迫れるを叫んでゐる。数十の乗客は先を争うて乗込んだ。松代姫の一行も漸くにして船に乗りたるか、三笠丸は青葉滴る岸を離れて西へ西へと波の琴を弾じながら、海面静かに滑つて行く。 日は漸く斜に、さしもに広き大海原は金波銀波の錦の蓆、なみなみならぬ眺めなりけり。船頭は声を張り上げ、 船頭『筑紫の国をあとに見てウヅの都へはせて行く 道は三千三百里通ふも遠き波の上』 と暢気さうに唄ふ。一行はあと振返り流れ行く雲を眺めて望郷の念に駆らるる折しも、日は漸く水平線下に姿を没し、夜の帳はおろされて、黒白もわかぬ波の上、滑り行く海面は僅に船の微な音の聞ゆるのみ。この時船の一隅より、 女『朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 筑紫の海は深くとも天津御空は高くとも 神の恵みに如かざらめ神のいきより生まれたる わが垂乳根は今いづこ母は黄泉に出でまして 何の便りもなみの上あとに残りし桃上彦の 父の命の在処をば探ねむための旅の空 神が表に現はれて善と悪とを立て別ける この世を造りし神直日罪科深きわが父の 穢れをここに荒磯の尊き夢を三笠丸 ウヅの都を立出でてうづまきわたる和田の原 親島子島のここかしこ数多浮べる世の中に 一人の親に生別れ雲霧わけて進む身の みづの身魂ぞあはれなりあゝ皇神よ皇神よ 心も広く大直日見直しまして片時も いと速けく父上に会はせ給へよわだつ神 風凪ぎ渡る海原は波も静かにをさまれど 親を慕へる雛鳥の心の波は騒ぐなり 心の波は騒ぐなりただ何事も人の世は 直日に見直し聞き直し身の苦しみは宣り直す 神の教と聞きつれど山より高く海よりも 深き恵みの神の裔桃上彦のわが父に いつか相生淡路島通ふ千鳥の声高く 歌ふ心を平けくいと安らけく聞しめせ』 とやさしき女の声聞え来る。更け渡る春の夜の大空は、何処ともなくドンヨリとして、星は疎らに、あちらに一つ、こちらに三つ、五つ、十と、雲の帳をあけて覗くのみなり。 船客はそろそろ白河夜船を漕ぎ出し寝に就く。折柄の東風はぴたりとやみて、肥えた帆は痩せしぼみ極めて静寂なり。船客の四五人は眠りもやらず雑談を始めて居る。 甲『オイ、今のやさしい声はあら何だ。月は照るとも曇るとも、ナンテ云つてるやうだが、此頃は真の暗だ。照るも曇るもあつたものか、訳のわからぬ事を云ふ奴だね』 乙『貴様、わからぬ奴だな。ありや宣伝歌だよ。今晩の事を云つてるのではないよ。ありや三五教の宣伝使が歌ふ神歌だ。よく聞いて見よ、なかなか味があるよ』 甲『それでも貴様、海の上だと云つたよ。現在今の事を云つてゐよるのだ。貴様は女宣伝使だと思つて弁護をするのか。本当に抜目のない奴だ。船に乗りながら又重ねて船に乗らうなんて、ソンナ野心を起したつて九分九厘行つたところで、クレンと覆されるのだ。この間の朝日丸に乗つた時に、三五教の宣伝使が、改心せぬと何時船が覆るやら知れぬと云つてゐたよ』 丙『船の中でかへるのかへらぬのと縁起の悪い事を云ふない』 甲『ナンボ船だつて、行き切りにはなりはしない。いづれ一篇は帰つて来るのだ。かへらいで堪らうかい。今朝も出掛に俺の所の乙姫が、用がすみたら一時も早く帰つて頂戴、三笠丸に乗つて智利の国へ行つて、妙な船に乗つてみかさでもかかぬやうにして、早く帰つて下さいねえ、ナンテ吐かしよつて、こなさまの肩をトントンと叩きよつた。そしてな、早く帰つて妾の船に、とよ』 丙『莫迦にするな。何だい乙姫ナンテ、どてかぼちやのひちおたふくみたやうな嬶を大事さうに、乙姫が聞いて呆れるワ。貴様が智利の国でかさでも被つて戻つて来てな、妙な事をやつて貴様の嬶の鼻をおと姫にするのだろ、其処らが落ちだよ』 乙『オイオイ、三人も別嬪が乗つてゐるぢやないか。そんな仕様もない話をすると愛想を尽かされるよ』 丙『愛想を尽かされたつて構ふものか。俺等の自由になるのではなし、貴様、矢張り色気があるね』 乙『あらいでかい、この世の中に色気と自惚と欲のない奴があるものか。貴様は欲はない、よくない奴は所謂悪人だよ』 丙『何を吐かしよる』 と声を目当に頭をポカンとやつつける。 乙『アイタタ、こら喧嘩をするのか。地中海の汐風に曝したこの腕だぞ。サア来い』 と暗闇紛れに拳骨を固めて、見当を定めてブン殴れば、 女『キヤーア』 と女の声。 乙『やあ、これは失敬。狸の奴、替玉を使ひよつたな。声を上げぬか、卑怯ぢやないか』 くらがりから、 丙『俺もこんなひけふに陥つては頭が上らぬワイ。チウの声も出ぬ事はない事はない』 丁『まるで鼠の様な奴だなア』 と囁きゐる。忽ち沖のあなたより荒浪狂ふ音迫り来り、咫尺を弁ぜぬ闇の中に、波は鬣を振つて舷に噛みつき来りしが、此時又もや男の声として、涼しき宣伝歌は船の一隅より聞え来りぬ。 (大正一一・二・一二旧一・一六池沢原次郎録) |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 05 海上の神姿 | 第五章海上の神姿〔三九八〕 数十艘の大船小船は真帆に風を孕んで、堂々と陣容を整へ進み来る。三笠丸は風に逆らひながら、櫂の音高く進み行く。向ふの大船には、気高き女神舷頭に立ちあらはれ、涼しき瞳滴るが如く、楚々たる容貌、窈窕たる姿、いづこともなく威厳に満ち東天を拝して何事か祈るものの如くなり。傍に眉秀で鼻筋通り、色飽くまで白く、筋骨たくましく、眼光炯々として人を射る大神人立ちゐたり。船中の人々は期せずして此の一神に眼を注ぐ。 (日の出神)『限りも知れぬ波の上救ひの船をひきつれて 黄泉の国におちいりし百の身魂を救ひ上げ 仰ぐも高き天教の山にまします木の花姫の 神の命の御教をあをみの原の底までも 宣べ伝へゆく宣伝使神伊邪那美の大神の 御許に仕へ奉る吾は日の出神司 醜のあつまる黄泉島黄泉軍を言向けて 世は太平の波の上皇大神に従ひて 救ひの神と顕現し善と悪とを立別る この世を造りし神直日心もひろき大直日 直日のみたまを楯となし厳のみたまや瑞みたま 並んで進む荒海の波をも怖ぢぬ荒魂 風も鎮まる和魂世人を救ふ幸魂 暗世を照す奇魂茲に揃うて伊都能売の 神の命の神業は山より高く八千尋の 海より深き仕組なり海より深き仕組なり』 と歌ふ声も風にさへぎられて、終には波の音のみ聞えけり。照彦はこの歌に耳をすませ、頭を傾け、 照彦『モシ松代姫様、今往きちがひました船の舷頭に立てる二人の神様は、恐れ多くも伊邪那美の大神様と、天下に名高き日の出神様でありませう。幽かに聞ゆる歌の心によつて、慥に頷かれます。伊邪那美の命様は、根の国、底の国へお出で遊ばし、最早や此の世に御姿を拝することの出来ないものと、私共は覚悟致してをりました。然るに思ひもかけぬ此の海原で、伊邪那美の神様にお目にかかるといふは、何とした有難い事でございませうか。あゝ実に、貴女様はお父上を探ねてお出で遊ばす船の上で、あの世へ一旦行つた神様が、再び此の世へ船に乗つて現はれ、何処かは知らぬが東を指してお出ましになつた事を思へば、お父上に御面会遊ばすのは決して絶望ではありませぬ。否お父上のみならず、母上も御無事でゐらつしやるかも分りませぬ。何と今日は目出度い事でございませう』 松代姫『あゝ、あの気高い御姿を妾は拝んだ時、何とも言へぬ崇高な感じがしました。又日の出神様とやらのお姿を拝した時は、何となくゆかしき感じがして、わが父上の所在を御存じの方のやうに思はれてなりませぬ。もしや父上は、あのお船にお乗り遊ばして御座るのではあるまいか。あゝ何となく恋しい船だ』 と少しく顔の色を曇らせながら物語る。竹野姫は、 竹野姫『お姉さま、お父さまに会はれた上に、又お母さまに会へるやうなことが御座いませうかな』 梅ケ香姫は静に、 梅ケ香姫『妾のいつもの夢に、お父さまには何時も会へますが、お母さまに会つても、何だか妙な霞に包まれてハツキリ致しませぬ。神様のお蔭で父上にはめぐり会ふ事は出来ませうが、お母さまに会ふといふ事は覚束ないでせう』 主従四人は斯くの如き話を船の片隅でひそひそとしてゐる。船中の無聊に堪へかねて、腰の瓢から酒をついで、互に盃を交す三人の若者あり。追々と酔がまはり、遂には巻舌となり、 甲『タヽヽヽヽ誰だい。この荒い海の中で、死んだお母さまに会ひたいの、会はれるのと言ひよつて、縁起の悪い。ここは何処だと思つてるのかい、太平洋の真中だぞ。三途の川でも血の池地獄でもないワ。死んだ者に、それ程会ひたきや、血の池へでも舟に乗つて渡らぬかい。クソ面白くもない。折角甘い酒がマヅくなつて了ふワ』 乙『貴様、酒飲むと、ようグツグツ管を巻きよる奴だな。何でも彼でも引つかかりをつけ人様の話を横取りしよつて、何をグツグツ喧嘩を買ひよるのだ。あのお方はな、貴様のやうな素性の卑しい雲助のやうな奴とは、テンからお顔の段が違ふのだ。なんだ、仕様もない雲助野郎が、訳の分らぬ事を言つて、寡婦の行水ぢやないが、独りゆうとるワイと心の中で笑つてゐらつしやるのかも知れぬぞ。それだから貴様と一緒に旅をするのは御免だといふのだ。酒癖の悪い奴だな。アフリカ峠を痩馬を追ふ様に、酒を飲まぬ時にはハイハイハイハイと吐かしよつて、屁ばかりたれて、本当に上げも下しもならぬ腰抜けのツマらぬ人間だが、酒を食ふと天下でも取つたやうな気になつて、何をほざくのだ、身の程知らず奴が。一体あのお方はどなたと思つてるのか。恐れ多くもヱルサレムの宮に天使長をお勤め遊ばした結構な神様の箱入娘さまだぞ』 甲『ナヽヽヽ何だ、箱入娘だ、箱入娘がものを言ふかい。馬鹿な事を吐かすな。箱入娘なら俺の所には沢山あるワ。娘ばかりか箱入息子も箱入爺さまでも箱入婆さまでも箱入牛まで、チヤーンととつといてあるのだ』 乙『それは貴様、間違つてケツかる、人形箱の事だらう』 甲『さうだ、人形だつたよ。人形がものを言うて堪るかい』 乙『やア、その人形で思ひだしたが、この海には頭が人間で体が魚で、人魚とかいふものが居るさうだぞ。そいつを漁つて料理して喰ふと、千年経つても万年経つても年が寄らぬといふことだ。一つ欲しいものだのう』 丙『やかましう言ふない。折角の酔が醒めて了ふぢやないか。人の眼の前に立ち塞がりよつてな、エーせめて俺の眼の邪魔なとすない。俺は最前からな、あの三人の三日月眉毛の花のやうな美しいお姿のお姫様のお顔を、チヨイチヨイと拝んで、それをソツと肴にして楽しんでをるのだ。そんな所に立つてガヤガヤ吐かすと、眼の邪魔になるワイ』 かく話す折しも、船底に怪しき物音聞え来る。一同は、 一同『ヤア何だ』 と驚いて一度に立上る。船頭は力なき声にて、 船頭『お客さま達、皆覚悟をおしなさい。もう駄目だから』 甲『ダヽヽヽダメだつて、ナヽヽヽ何がダメだい。ベヽヽヽ別嬪がダヽヽヽダメと言ふのかい』 船頭は大声で、 船頭『船が岩に打つかつたのだ。裸になつて飛び込め、沈没だ沈没だ』 船内一同は一時に阿鼻叫喚の声と化し去りぬ。あゝ松竹梅の手弱女一行の運命は如何。 (大正一一・二・一二旧一・一六桜井重雄録) |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 11 蓬莱山 | 第一一章蓬莱山〔四〇四〕 松代姫の歌。 松代姫『松は千年の色深く厳のみろくの守り神 瑞の御魂と現はれし三五教の宣伝使 三葉の彦の神魂清き尊き玉鉾の 広道別と改めて黄金山に宮柱 太知り立てて神の代を治め給ひし神業を 朝な夕なに嬉しみて天地に願ひを掛巻も 畏き神の引き合せ恋しき父に邂逅ひ 心の丈を語りあふ今日の月日を松代姫 待つ甲斐ありて今茲に松竹梅の姉妹は 恋しき父に巡り会ひ又もや母の懐に 抱かれて眠る雛鳥の吾身の上ぞ楽しけれ 吾身の上ぞ楽しけれ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも千代も八千代も変りなき 心やさしき五月姫母の命と敬ひて 心を尽し身を尽し力の限り仕ふべし あゝ垂乳根の父母よ親と現はれ子となるも 遠き神代の昔より天津御神や国津神 金勝要の大神の結び給ひし神業と 聞くも嬉しき今日の宵竜世の姫や月照彦の 神の命の守ります高砂島は幾千代も 山は繁れよ野は栄え花は匂へよ百の実は 枝もたわわに結べかし五日の風や十の日の 雨も秩序をあやまたず稲麦豆粟黍までも 豊に稔れ永久に蓬莱山も啻ならず 鶴の齢の末長く亀の寿のいつまでも 夫婦親子の契をば続かせ給へ国治立の 神の命よ豊国姫の神の命よ平けく いと安らけく聞しめせ天教山にあれませる 木の花姫の御守りは千代も八千代も変らざれ 千代も八千代も変らざれ神に任せし親と子の 心は清し惟神御霊幸はへましまして 世の大本の大御神開き給ひし三五の 言葉の花は天地と共永遠に栄えませ いや永遠に栄えませ』 と述懐歌をうたひ、しとやかに舞ひ納めたれば、竹野姫は又もや起つて、長袖ゆたかに歌ひ舞ふ。 竹野姫『あゝ有難し有難しいづの身魂のみ守りに うづの都を立ち出でてえにしも深き海の上 おさまる胸は智利の国かがやき渡る天津日の きしに昇りて山河をくもなく渡る四人連れ けしき勝れし珍の国こころも晴るる今日の空 さかえに充てる父の顔しら雪紛ふ母の面 すずしき眼月の眉せみの小川の水清く そそぎ清めし神御魂たなばた姫の織りませる ちはた百機綾錦つぼみも開く梅ケ香に てる月さへも清くしてとこよの暗も晴れてゆく なに負ふ清き高砂のにしきの機を織りなして ぬなとも母揺にとり揺らしねがひ叶ひし親と子は のどかな春に逢ふ心地はるる思ひの鏡池 ひびに教ふる言霊のふかき恵みを仰ぎつつ へに来し夢も今はただほーほけきよーの鶯の ま声とこそはなりにけれみじかき夏の一夜さに むすぶも果敢なき夢の世のめぐりて此処に親と子は もも夜の春に逢ふ心地やちよの椿優曇華も いや永遠に薫れかしゆくへも知らぬ波の上 えにしの船に乗せられてよを果敢なみつ進み来る わが身の上を憐みていづの御魂や瑞御魂 うきに悩める姉妹のゑがほも清き今日の宵 をさまる夫婦親子仲四十五文字の言霊の 花も開いて実を結ぶ結びの神の引き合せ 娘と父と母神の今日の団欒ぞ嬉しけれ 今日の団欒ぞ楽しけれ』 梅ケ香姫は又もや起つて歌ひ舞ふ。 梅ケ香姫『ひは照る光る月は冴ゆふかき恵みの父母よ みたりの娘を何時までもよは紫陽花と変るとも いつくしみませ永久にむすぶ縁の糸柳 ながながしくも親と子はやちよの春の来るまで こころ変らぬ松の世のときは堅磐に何時までも もも上彦と現はれて千々の民草守りませ よろづのものを救ひませひがしに昇る朝日影 二日の月は上弦のみいづかくして世を守る よしも悪しきも難波江のいつしか晴るる神の胸 むかしの神代廻り来てなく杜鵑声高く 八千代の春を祝ふらむこころも清き梅ケ香の とこよの春を迎へつつももの千花に魁けて ちり行く後に実を結ぶよろづ代祝ふ神の国 ひかり洽き神の国ふかき恵みに包まれて みろくの御代を松代姫よし野に開く花よりも いつも青々松緑むつびに睦ぶ神人の なさへ目出度き高砂ややま河田畑美はしく こころも直き竹野姫ときは堅磐に栄ゆべし もも上彦の知らす世は千代も八千代も限りなく よろづ代までも栄えませ万代までも栄えませ 思ひは胸に三千年の一度に開く梅の花 心のたけのすくすくと世は治まりて伏し拝む み民の心ぞ尊けれみ民の心ぞ尊けれ 常世の松代くれ竹野世のふしぶしに潔く 色も香もある桃の花梅ケ香慕ふ鶯の 声も春めき渡りつつ血を吐く思ひの杜鵑 声も静かに治まりて松吹く風となりにけり 松吹く風となりにけり緑滴る夏山の 霞をわけて天津日の輝き渡る五月姫 三月三日の桃の花五月五日の花菖蒲 桃と菖蒲の睦びあひ松竹梅の千代八千代 栄ゆる御代ぞ目出度けれ栄ゆる御代ぞ目出度けれ』 と節なだらかに、舞ひ終り座に着きぬ。珍山彦は、 珍山彦『ヤア、天晴々々、これは秀逸だ。天の数歌を三度も繰返された御手際は、三月三日の桃の花よりも、五月五日の花菖蒲よりも、美はしい、尊い目出度い歌であつた。さあさあ、これからは照彦さまの番だよ』 照彦は儼然として立上り、声高々と自ら歌ひ自ら舞ふ。 照彦『天地百の神たちのその喜びをただ一人 うけさせ給ふ桃上彦の神の命の宣伝使 地の高天原を出でまして御稜威も高き高砂の 島に現はれ正鹿山津見の命の珍都 音に名高き淤縢山祇の神の命や村肝の 心の駒山彦司御稜威輝く蚊々虎の 名もあらたまの貴の御子木の花姫の御恵に 珍山彦と宣り直し心も晴るる五月姫 鴛鴦の衾の幾千代も外へはやらぬ悦びは 御稜威も高き高砂の浜辺に繁る松代姫 世は呉竹野すくすくと梅ケ香匂ふ神の島 月日は清く照彦の神の恵ぞ尊けれ 波も静かな国彦の従属の神と諸共に 珍の御国に永久に鎮まりまして高砂や この浦船に帆を揚げて月照彦と諸共に 出潮入潮平けくいと安らけく凪ぎ渡る 大海原に浮く島の国の栄えぞめでたけれ 国の栄えぞめでたけれ』 駒山彦は、 駒山彦『妙々、天晴々々』 と感嘆の声をもらすのみ。珍山彦も手を拍つて、 珍山彦『天晴々々。天晴れ国晴れ皆晴れよ、晴れよ晴れ晴れ晴れの場所、晴れの盃親子の縁、ここに目出度く千代も八千代も、弥永久に祝ひ納むる』 (大正一一・二・一三旧一・一七東尾吉雄録) |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 14 闇の谷底 | 第一四章闇の谷底〔四〇七〕 淤縢山津見一行は、照山峠を東に向つて下つて行く。智利の国の里近くなつた時、一行の足はぴたりと止まり、どうしても一歩も進む事が出来ない。 珍山彦『ヤア、足が歩けないやうになつちまつた。どうだ、皆さまは』 一同『イヤ、吾々も同じ事だ。合点の行かぬ事もあるものだ』 駒山彦『何でもこれは向ふに悪い奴が沢山居て、吾々を待ち討ちしようとして居るのに違ひないワ。そこで神様が吾々の足を縛つて、軽々しく進むでない。胸に手をあて、よく後前を考へて見よ、との暗示を与へられたのだらう』 一行七人は途上に立つたまま、石地蔵のやうに固まつて仕舞つた。傍の老樹鬱蒼たる森林の中より、 声『淤縢山津見、駒山彦、照彦』 と破鐘のやうな声が響いて来る。その声と共に三人の身体は、何物にか惹きつけらるるが如き心地して、思はず知らず声する方に向つて、自然に足が進み、遂に三人の姿は見えなくなりたり。 後に珍山彦、松、竹、梅の四人は、何時の間にか足も自由になり、路傍の清き芝生の上に端坐して、 珍山彦『サア皆さま、繊弱き女の身で、まだ三五教の教理も知らずに、宣伝使となつて、悪魔の蔓る此の世の中を教導すると云ふ事は、一通りの苦労では行くものではない、さうして、斯うどやどやと七人も列んで宣伝に歩くと云ふことは、一寸見れば華々しく立派に見えるが、それは皆仇花だ。誠の道の宣伝は一人々々に限る。これから姉妹三人は、この珍山彦が及ばずながら実地の教訓を施して上げますから、今の間に吾々四人は、三人の宣伝使に離れてハラの港からアタルへ着き、それから常世の国に廻つて、実物教育を受け、黄泉島を宣伝致しませう。サアサアお出でなさいませ』 と先に立つて行く。三人は引かるるやうに珍山彦の後を追ふ。珍山彦は言しづかに、 珍山彦『皆さま、淤縢山津見や駒山彦や照彦のことはすつかり忘れて仕舞ふのだ。人間は背水の陣を張つて、九死に一生の困難に遭はねば、真実の誠の道は開けるものではない。苦労の花の咲いたのは盛りが長い、これから吾々と共に概略仕事が出来たら、姉妹三人手分けして、ちりちりばらばらになつて神業に奉仕するのだ。仮令一人になつても神様が守つて下さるから、師匠や兄弟を力にしたり、杖につくやうな事では、到底神界の奉仕は完全に出来るものでない。サア行きませう』 とハラを指して進み行く。 淤縢山津見ほか二人は、怪しき声に惹きつけられ、不知不識の間に谷川を遡つて、数里の山奥に迷ひ入る。 折しも十五夜の月は東天に輝き渡れども、峨々たる高山と高山との深き谷間は、月影もささず、夜は追々と更け行くばかり、寂しさ刻々に迫り、三人は此処に云ひ合したる如く一度に腰を下し、谷川の傍に端坐しぬ。三人の身体は又もや強直して、びくとも出来なくなり、自由の利くは首のみ、鬱蒼とした樫の木の上から俄に 声『ウヽ』 と大なる唸り声聞え来る。 淤縢山津見『ヤア二人の方、私は身体が一寸も動かない、貴方は如何ですか』 駒山彦『へヽヽ変だ。こんな変梃な事はないワ』 照彦は雷のやうな声を出して、 照彦『此方は月照彦の命であるぞよ』 駒山彦『何、月照彦だ。馬鹿言へ、そんな狂言をすな。貴様は三人の娘さまにつきてる彦だが、今は薩張離れてる彦ぢやないか。こんな闇い山奥へ踏み迷うて、馬鹿な真似をすると、駒山が承知をしないぞ。そんな気楽な事かい』 照彦『アハヽヽヽ、阿呆らしいワイ。三五教の宣伝使と豪さうに言つて、そこら辺を大きな声を張りあげて歩き廻る馬鹿宣伝使、どうぢや、一寸先は真の暗の、此谷底に捨てられて、アフンと致したか。顎が外れたか。あまり呆れてものが言はれぬ。開いた口がすぼまらぬぞよ。アハヽヽ憐れなものぢや、身魂の性来の現はれに魂を洗へよ、尻を洗へよ、足を洗へよ、明かな神の教はありながら、歩み方が違ひはせぬか』 照彦『アヽ、此奴は悪魔の神懸り[※校定版では「神憑り」]になりよつた。あられもない事を口走りよつて、ほんにほんに憐れな者だな。これこれ淤縢山さま、貴方もぢつとして居ずに、此場合あつぱれ審神をして照彦に憑依して居る悪魔を現はしてやつて下さいな』 淤縢山津見『イヤ、吾々も、俄に足腰たたぬ不自由の身、あまりのことであふんと致して、荒膽をとられて了つた。アヽ耻づかしい事だワイ』 照彦『イヒヽヽヽ、可愍しいものだ。異国の果で威張つた報いで、いまはの際にいろいろと悔んだところで、如何ともする事は出来まい。かやうな処を数多の国人に見られたならば、宣伝使の威厳は全く地に墜ちるぞ。神が意見致さうと思つて、いろいろ雑多に苦労を致し、湯津石村の此谷底に誘ひ来りしは神の慈悲。宣伝使は只一人で天下を布教宣伝すべきものだ。それに何ぞや、物見遊山のやうに、ぞろぞろと幾人もつらつて宣伝に歩く屁古垂者、以後は必ず慎しめよ。神の言葉に違背するな。いいか、返答如何に』 駒山彦『いかにも、蛸にも、蟹にも、足は四人前、もういい加減に下つて下さい、お鎮まりを願ひます。天狗か何だか知らないが、こんな谷底へ放り込まれて意見も何も聞かれるものか、こら照彦の副守護神よ、何時までも愚図々々致して居ると、霊縛をかけてやらうか』 照彦『ウフヽヽヽ、うしろを振り向いてよく考へて見よ。うろうろと此山奥に踏み迷ひ来りしは、全く汝の身魂の暗きがため、動きの取れぬ汝の体、うかうか致すと足許から火が燃えて来るぞよ。艮の金神の教を何と心得て居る。牛の糞のやうな身魂を致して、天下の宣伝使とは片腹痛い、有為転変は世の習ひ、牛の糞でも天下を取る、煎豆にも花が咲くと、万一の僥倖を夢みて迂路つき廻る宣伝使、後指を指されて居るのも気がつかず、得意になつて濁つた言霊の宣伝歌を歌ふ狼狽へもの、此上もなき迂濶、迂愚、迂散な奴ども』 駒山彦『うつかりしとると、どんな目に遭はされるか分つたものぢやない。これこれ淤縢山、俯いてばかり居らずに、貴方も天下の宣伝使ぢやないか、何とかして照彦の憑霊を縛つて下さいな』 淤縢山津見『煩くても仕方がない。これも神様の試みだ。気を落ち付けて聞いて居れば大に得るところがある。私は却つてこれが嬉しい』 照彦『エヘヽヽヽヽ』 駒山彦『ヤア、又エヘヽヽヽだ。豪い事になつて来た。もう好い加減にお鎮まりを願ひませうか、遠慮会釈もなしに、吾々の小言ばかり言つて、得体の知れぬ神憑りぢやなあ』 照彦『エヘヽヽヽ閻魔様とは此方の事ぢやぞ、これから些と、豪い目に遭はしてやらう。遠近を股にかけて、遠慮会釈もなしに囀り居る駒山彦の宣伝使、一つや二つの山坂を越えて、えらいの、苦しいのと、耻も知らずに、よくもほざいたなあ、口ばかり偉さうに申す宣伝使』 駒山彦『エヘヽヽヽえぐい事ばかり言ふ得体の分らぬ副守護神だ。もう結構です、これで御遠慮申しませう。好加減にやめて下さい。縁起の悪い、此暗の晩に谷底に坐らせられて、怺まつたものぢやありやしない、馬鹿々々しい、照彦の奴、もう好加減に鎮まつたらどうぢや』 照彦『オホヽヽヽ、臆病者の二人の宣伝使。淤縢山津見、何をオドオドと恐れて居るのか。奥山の谷より深い、道を分け行く三五教の宣伝使、負うた子に教へられ、浅瀬を渡るおろか者の、狼心の鬼と悪魔の容物となつたお化の宣伝使。お気の毒でも、蠅毒でも、猫入らずでも、汝の心の鬼は容易に往生致さぬぞよ。恐るべきは人の心の持方一つ、往生際の悪い守護神は、神は綱を切つて仕舞はうか』 駒山彦『モヽヽヽおいて呉れ、大きな声で俺達を脅かしよつて、そんな事で怖ぢつく俺ぢやないワイ。をかしな声を出しよつて、人の欠点ばかりほじくる奴は、鬼か大蛇か狼の守護神だ。俺の神力を見せてやらうか、おつ魂消て尾を捲きよるな。俺が奥の手を出して見せたら、遉の鬼の守護神も尾をまいて落ちるだらう』 照彦『オホヽヽヽ面白い面白い』 (大正一一・二・一四旧一・一八加藤明子録) |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 15 団子理屈 | 第一五章団子理屈〔四〇八〕 三五の月は昇れども、山と山との谷間は、黒白も分かぬ真の暗、空せまく地狭き谷底に、三人の宣伝使は端坐し、首ばかり動かし居る折柄、何処ともなく虎狼の唸るやうな声、木霊を響かせ聞え来る。 声『ウーオー』 駒山彦『イヤー虎か狼か、どえらい声が聞えて来た。淤縢山津見さま、神言でも上げませうか』 淤縢山津見『ヤー、仕方がない、神言を奏上しませう』 照彦『カヽヽ神を松魚節に致す宣伝使、かなはぬ時の神頼み、「神言でも」とは何だ。それでも宣伝使か、でも宣伝使。稜威輝くてるの国、珍はてるてるはる山曇る、オツトドツコイ淤縢山くもる、駒山彦は雨降らす、雨は雨だが涙の雨だ。かなしさうな其面つき、仮令からだは八つ裂になつても、神のためなら、チツトもかまはないと言ふ覚悟がなくて、誠の道が開けるか、カラ魂のさかしら魂、神の心も推量して呉れても宜からう。少しの艱難辛苦に遭うても、尻を捲つて雲をかすみと逃げ行く宣伝使、からすのやうな黒い魂で誠の神をかついで、勝手なねつを吹き歩くがとう虫奴が。かてて加へて蟹が行く横さの道を歩みながら、吾程誠の者はない、誠一つが世の宝、誠をつくせ、真心になれと、かたる計りの宣伝使。 からすのやうに喧ましい蚊々虎さまの素性も知らず、軽い男と侮つて、汗かき、耻かき、頭かき、かばちの高い、カラ威張りの上手な神の使ひ、カラと日本の戦があるとは、汝らが御魂の立替へ立直し、今までのカラ魂を、オツ放り出して、水晶の生粋の日本魂に立替へいと申すことだ。喧しいばかりが宣伝使でないぞ。改心いたせばよし、どこまでも分らねば、神はモウ一限りに致すぞよ。何程気の長い神でも、愛想が尽きて、欠伸が出るぞよ』 駒山彦『カヽヽ叶はぬ叶はぬ、勘忍して下さいな。是から改心致しますから、モウ吾々の事に構ひ立てはして下さるなよ。かいて走るやうな掴まへ処のない意見を聞かされて、アヽ好い面の皮だ』 照彦『キヽヽ貴様は余程しぶとい奴、此方の申すことが気に入らぬか。奇怪千万な駄法螺を吹き廻つて、良い気になつて気楽さうに、宣伝歌を歌ひ、気まぐれ半分に、天下を廻る狼狽者、気抜け面して、気が利かぬも程がある。鬼門の金神現はれて善と悪とを立別る。鬼畜のやうな、気違ひ魂の宣伝使は、世の切り替にキツパリと取払ひ、根から葉から切つて了ふぞよ。貴様の気に入らぬは尤もだ。ひどい気強い鬼神のやうな言葉と思ふであらうが、よく気を付けて味はうて見よ。きくらげのやうな耳では神の誠の言葉は聞き取れまい。気が気でならぬ神の胸、いつまでも諾かねば諾くやうに致して諾かして見せうぞよ。汚ない心をさつぱり放かして、誠の神心になり、万事に対して機転を利かし、心配り、気配りの出来ぬやうな事では、気の利いた御用は到底勤まらぬぞよ。きなきな思はず気に入らいでも、歯に衣を着せぬ神の言葉、是から気張つて気分を改め、気不性な心を立直し、気随気儘をさらりと放かし、神と君とに誠を尽し、気六ツかしさうな面をやはらげ、心を決めて荒胆を練り、キヤキヤ思はずキユウキユウ苦しまず、心を清め身を浄め、誠の神に従へば気楽に道が拡まるぞよ。キチリキチリと箱さした様に行くぞよ。神を笠に着るなよ。抜刀や刃物の中に立つて居る様な心持になつて、油断を致すな。窮まりもなき神の恩、万の罪咎も神の光りに消え失せて、身魂は穏かに改まり、さうした上で始めて三五教の宣伝使だ。どうだ、分つたか』 駒山彦『キヽヽ気が付きました。気張つて気張つて是から早く改心を致します。此気味の悪い谷底で、奇妙奇天烈な目に逢うて気を揉まされて、何たるマア気の利かぬ事だらう。神の気勘に叶うた積で、気張つて気張つて心配り気配りして、此処まで勤めて来たのに、思ひがけなき気遣ひをさされた。サア、もうキリキリと決りをつけて、来た道へ帰らうかい。淤縢山津見さまも何だ、一体気の小さい、おどおどとして顫うて居るぢやないか。ナント膽玉の弱い男だな。こんな所に長居をすると、猿の小便ぢやないが、先のことが気にかかるワ』 淤縢山津見『きまりの悪い、不気味な態でキツウ膏を搾られました。際どいとこまで素破抜かれて、アー俺も気が気ぢやないワ。ドウデ吾々は神様の気に入るやうな宣伝はできては居らぬからなア』 照彦『クヽヽ苦労なしの、心の暗い暗雲の宣伝使』 駒山彦『モシモシ、クヽ暗がりにそんな下らぬ事を、モヽモウ是位で止めて下さい』 照彦『苦しいか、苦面が悪いか、臭い物に蓋をしたやうに隠し立てしても、何程クスネようと思うても、四十八癖のあらむ限りは改めてやるぞ。下らぬ理屈を口から出放題、グヅグヅグデグデとクドイ理屈を捏並べ、一つ違へばクナクナ腰になつて、一寸した事でも苦にするなり、委しき事も知らずに、喰ひ違つた御託を並べ立て、九分九厘で覆るの覆らぬの、一厘の仕組をくまなく悟つたの、汲み取つたのと、そりや何の囈語、汲めども尽きぬ神の教、大空の雲を掴むやうな掴まへ所のない、駄法螺を吹いたその酬い、悔し残念をコバリコバリ、今までの取違ひを悔ひ改め、クヨクヨ思はずに神の光を顕はし、闇黒の世を照し、また来る春の梅の花、開く時を呉々も待つがよいぞよ。クレンと返る神の仕組、苦労の花の開く神の道、委しいことが知りたくば、悔い改めて神心になれ。噛んでくくめるやうに知らして置くぞよ』 駒山彦『クヽヽクドクドしいお説教、モヽ分りました分りました、結構で御座います。決して決してモウ此上は取違ひは致しませぬ。何卒これで止めて下さいませ、さうして吾々三人の身体を自由になるやうにして下さい』 照彦『ケヽヽ結構々々とは何が結構だ。毛筋の横巾も違はぬ神の教だ。決心が第一だ。道を汚してはならぬから、神が気もない中から気を付けるのだ。怪体な心を取直し、ケチケチ致さず、神心になつて居らぬと、獣の身魂に欺されて、尻の毛まで一本もないやうにしられるぞよ。嶮しき山を上り下りしながら、毛を吹いて疵を求めるやうな其行り方、従者を連れたり、女を伴れたり、そんな事で神の教が拡まるか、毛虫よりも劣つた宣伝使』 駒山彦『ケヽヽ怪体なことを言ふ神だな。淤縢山さま、如何しよう。耳が痛くつて、面白くもない、コンナ目に遇はされやうと思うたら、宣伝に廻つて来るぢやなかつたに、アヽ何と宣伝使は辛いものぢやなア。毛色の変つた照彦のやうな男が来るものだから、コンな怪体な谷底で、眉毛を読れ、鼻毛を抜かれ、尻の毛まで抜かれるやうな、怪しからぬ目に遇うて、谷底へ蹴落されて、けがしたよりも余程つまらぬ目に遇ふのか。お前さまは頭が坊主だから、けがなくてよからうが、駒山彦は二進も三進もならぬ目に遇うて、困り切つてゐるワイ』 照彦『コヽヽ駒山彦、何を言ふか、乞食芝居のやうに、男女七人連にてゴテゴテと、此処彼処ゴロツキ廻る宣伝使、神は勘忍袋が破れるぞよ。此世の鬼を往生さして、神、仏事、人民を悦ばす神の心、耐へ忍びのない心の定まらぬ、破れ宣伝使が何になるか。梢に来て鳴く鶯でも、春夏秋冬はよく知つて居るに、応へたか、此方の云ふ事が分つたか。コツコツと角張つたもの言ひをしたり、ゴテゴテと小理屈を捏ねたり、事に触れ物に接し、下らぬ理屈を捏ね廻し、人の好まぬ事を無理に勧め、怖がられて強い物には媚び諂ひ、後先真暗の神を困らす駒山彦の宣伝使、米喰ふ虫の製糞器、菰を被つた乞食のやうに、一寸の苦労に弱音を吹き、泣き声をしぼり、モウこいつあ叶はぬ、宣伝はコリコリだと弱気を出したり、怖い顔して威張つて歩く狼狽者の得手勝手なねつを吹くお取次ぎとは、おどましいぞよ。鬼も大蛇も狼も恐れて、尾を振つて跣足で逃げる、イヤ逃げぬ、心の小こい腰の弱い困り者の駒山彦の宣伝使』 駒山彦『サヽヽ囀るない、サツパリ分らぬ事を喋り散らしよつて、態が悪いワイ。逆捻に俺の方からちつと囀つてやらうか、余り喋ると逆トンボリを打たねばならぬぞよ。先にある事を世界に知らす、三五教の悟りのよい流石は宣伝使だ』 照彦『サヽヽ騒がしいワイ』 駒山彦『アヽヽ五月蝿いなア、サツパリ油を搾つて了ひよつた。さてもさても残念なことぢや』 照彦『サアサアサア是からだ。賽の河原で石を積む、積んでは崩す積んでは崩す気の毒な尻の結べぬ宣伝使。月は御空に冴え渡れども、心は暗き谷の底、足許は真暗がりで谷底へ逆トンボリを打たねばならぬぞよ。神の申すことを逆様に取るとはソリヤ何の事、先へ先へと知らす神の教、先の知れぬ宣伝使が、神を審神するといふ探女のやうな、御魂の暗い奴、酒と女に魂を腐らし、やうやう改心致して俄宣伝使になつたとて、サヽそれが何豪い。差添の種ぢやと威張つて居るが、何も彼も差出の神か、イヤ狸だ。流石の其方も神の申す今の言葉、指一本指す事は出来まい。早速開いた口は閉まろまいぞよ、沙汰の限りぢや。サタン悪魔の虜となつても、サツチもない事を触れ歩き、偖も偖も悟りの悪い二人の宣伝使、蚕のサナギのやうに、一寸の事にもプリンプリン尾を振り頭を振り、盲目滅法の審神を致し、本守護神だ、正副守護神だと騒ぎ廻り、日本御魂の両刃の剣はサツパリ錆刀。探り審神者の向ふ見ず、様々の曲津に欺かれ、えらい目にあはされながら、まだ目が醒めぬか。之でも未だ未だ我を張るか。偖もさもしい心だのう。塞ります黄泉彦神の曲の使を信じ、よくもよくも呆けたものだ。今からさらりと我を折りて、慢心心を洗ひ去り、各自に吾身を省みて、猿の尻笑ひを致すでないぞ。耻を曝されて頭を掻くより、褌でもしつかりとかけ。騒ぐな、囀るな、冴えた心の望の月、サアサア淤縢山津見、駒山彦、神の申す事がチツトは腹に入つたか』 駒山彦『シヽヽヽしぶいワイ。うかうか聞いてをれば面白くもない、こんな谷底でアイウエオ、カキクケコの言霊の練習をしよつて、余り馬鹿にするない。言霊なら俺も天下の宣伝使ぢや、負けはせぬぞ。言ふ事はどんな立派な事を言つても、行ひは照彦ぢやで、さう註文通りには行くものぢやない。スカ屁を放つた様な事を吐しよつて、せんぐりせんぐりと、ソヽヽそろそろと棚おろしをしやがつて、チヽちつとも応へぬのぢや。ツヽ詰らぬ事を、テヽヽ手柄さうに、トヽヽ呆けやがつて、ナヽヽ何を吐しやがるのだ。ニヽヽ憎つたらしい、ヌヽヽ抜けたやうな声で、ネヽヽ根も葉もないやうな事を、ノヽヽ述べ立て、ハヽヽ腹が承知せぬワイ。ヒヽヽ昼ならよいがコンナ暗の夜に、フヽヽ悪戯た事を、ヘヽヽ屁のやうに、ホヽヽ吐きよつて、マヽヽ曲津神奴が、ミヽヽみみず奴が、ムヽヽ虫ケラ奴が、メヽヽ盲目奴が、モヽヽ百舌の親方奴が、ヤヽヽ八ケ間しい、ややこしい、イヽヽ嫌な事をユヽヽ云ひよつて、エヽヽ得体の知れぬ、ヨヽヽ黄泉神奴が、ラヽヽ埒もない、リヽヽ理屈を捏ねよつて、ルヽヽ類を以て曲津を集めよつて、レヽヽ連発する、ロヽヽ碌でなしの世迷言、ワヽヽ分りもせぬ、イヽヽいやらしい、イケ好かない事を、ウヽヽ呻り立て、エヽヽエー、モー恐ろしい処か、をかしいワイ。お化の大蛇の神憑奴が』 照彦『シヽヽ』 駒山彦『またシーやつてけつかる。縛つてやらうか、虱の守護神奴が』 照彦『シヽヽ思案して見よ、虱の親方、人の血を吸ふ毛虫の駒山彦、執念深い宣伝使、修羅の巷に踏み迷ひ、後先見ずの困つた駒山彦。叱られる事が苦しいか、叱る神も随分苦しいぞ。シカと正念を据ゑてシツカリ聞け。敷島の大和の国の神の教に、シヽヽ如くものはないぞ。醜の曲津に誑らかされ、汝が仕態は何事ぞ。獅子、狼の様な心をもつて、世界の人間が助けられるか、至粋至純の水晶の心になれ。下の者を大切に致せよ。しち難かしい説教を致すな。シツカリと胸に手をあて考へて見よ。一度は死なねばならぬ人の身、死んでも生き通しの霊魂を研けよ。屡々神は諭せども、あまり分らぬから神も痺をきらして居るぞよ。しぶといと言うてもあんまりだ。終ひには往生致さねばならぬぞよ。シミジミと神の教を考へて見よ。腹帯をシツカリ締めて掛れよ。霜を踏み雪を分けて世人を救ふ宣伝使、知らぬ事を知つた顔して、白々しい嘘言を吐くな。尻から剥げるやうな法螺を吹くな。知ると言ふ事は神より外にないぞよ。天地の事は如何な事でも説き明すとは、何のシレ言、困つた代物ぢや。嗄れ声を振り立てて神言を奏上したとて、天地の神は感動致さぬぞよ。身魂を研けよ、身魂さへ研けたなら、円満清朗な声音が湧いて来るぞよ。強ひて嫌なものに勧めるな。因縁なきものは時節が来ねば耳へ入らぬ。修身斉家、治国平天下の大道だと偉さうに申して居れど、吾身一つが治まらぬ、仕様もない宣伝使、何が苦しうてシホシホと憔悴れて居るか。荒魂の勇みを振り起して、モツト勇気を出さぬかい』 駒山彦『シヽヽシツカリ致します。奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の、声聞く時は哀れなりけり、だ。えらい鹿に出会してしかられたものだい』 淤縢山津見『ヤア、拙者は脚が起つた、身体が自由になつた、大分に魂が研けたと見えるワイ。いやもう何れの神様か存じませぬが、よくもまあ結構な教訓を垂れさせられました。屹度之から心を入れ替へて、御神慮のある処を謹しんで遵奉致します』 駒山彦『ヤア淤縢山さま、脚が起ちましたか、アヽそれは結構だ。吾々はまだビクとも致しませぬ、胴が据つたものですな』 淤縢山津見『貴方は最前から聞いて居れば一々神様に口答へをなさる、貴方は発根からまだ改心は出来て居ない。改心さへ出来たならば吾々の様に、神様は脚を起たして下さいませう。何卒早く屁理屈を止めて改心して下さい』 駒山彦『カヽヽ改心と言つたて、照彦の様な奴さまに憑つて来る様な守護神の言ふ事が、如何して聞かれるものか、神霊は正邪賢愚に応じて憑依されるものだ。大抵此肉体を標準としたら、神の高下は分るでせう』 照彦『スヽヽ直様、淤縢山津見は脚が起つたをきりとして、カルの国に進んで行け。道伴れは決してならぬ』 淤縢山津見『仰せに従ひ改心の上、直様参ります。今まではえらい考へ違ひを致して居りました』 照彦『一時も早く、片時も速に此場を立去れ』 駒山彦『アヽ淤縢山さま、それはあまり得手勝手だ。自分は脚が起つてよからうが、吾々の様な脚の起たぬ者を見捨てて行つても、神の道に叶ひませうか。朋友の難儀を見捨てて何処へ行くのです。神の道は、親切が一等だと聞きました。それでは道が違ひませう』 照彦『駒山彦の小理屈は聞くに及ばぬ、早く起つて行け。駒山彦の改心が出来るまで、此方が膏を搾つてやらうかい』 淤縢山津見は徐々と此場を立ち去らむとする時、三五の明月は山頂に昇り、細き谷間を皎々と照せり。淤縢山津見は此月光に力を得、宣伝歌を歌ひながら谷道を伝ひて、もと来し道を下り行く。 (大正一一・二・一四旧一・一八森良仁録) |
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196 (1443) |
霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 16 蛸釣られ | 第一六章蛸釣られ〔四〇九〕 神の恵の弥深き、この谷底に残されし、駒山彦は淤縢山津見の帰りゆく姿を眺めて、 駒山彦『オーイ、オーイ』 と呼び止めるを、淤縢山津見はこの声を木耳の、耳を塞いて悠々と、宣伝歌を歌ひながら下り行く。月は漸々にして、山の端を出で、皎々と輝き渡り、二人の面はここに判然せり。見れば、照彦は、俄に容貌変り、珍山彦の姿に変化し居たるなり。 駒山彦『ヤア、貴様は照彦と思つてゐたら、何だ、蚊々虎の珍山彦か、あまり馬鹿にするな、洒落るにも程があるぞ』 照彦『スヽヽスツカリ腰を抜かした駒山彦の宣伝使。そんな腰抜の分際で、どうして道が広まるか。どうして大道が進めるか。雀や燕の親方のやうに口ばかり達者でも……』 駒山彦『スヽヽスリヤ何を言ふのだ。貴様も何時までも、そんな悪い悪戯をせずに、俺に鎮魂をして、脚を起たしてくれたら如何だ』 照彦『スヽヽスワ一大事と言ふやうにならねば、貴様の腰は起たぬ。酸いも甘いも皆知りぬいた蚊々虎を、その方は今まで何と心得て居たか。稲を作つて、米を搗いて、飯を炊いて、サアお食りといふ様に、据ゑ膳を食つた苦労の足らぬ宣伝使。スツカリ曲津に欺されて、隙だらけの汝の身魂、汝のやうな、馬鹿な身魂は尠からう。少彦名神の在します常世の国へ、直に行かうとはチト慢心が過ぎる。この細谷川の山奥で難行苦行の功を積み、神の助けを蒙つて身魂を洗ひ浄め、少しも疵のない、日月のやうな心に研き上げ、素盞嗚尊の雄々しき生れ変り、頭の上から身体の裾まで、気をつけて、スタスタと山路を進んで行くのが汝の天職。素直な心を以て、末永く神に仕へよ。スマから隅まで、澄みきる今宵の月の顔、これを心の鏡とし、皇大神に仕へ奉れ。誠の道をスラスラと脚も達者に起ち上れ』 駒山彦『セヽヽセングリセングリ、イヤモウ、おむつかしい御意見を承はつて、ウンザリした。世界は広しと雖も、心は急き立てども、急けば急くほど足腰は起たず、世間の奴にこんな所を見られたら、愛想をつかされ、捨てられて、宣伝使の面目玉は丸潰れだ』 照彦『ソヽヽさうだらうさうだらう、ソワソワしいその態は何だ。そこらに人はないと申すが、これだけ沢山の神々が眼につかぬか。それほど外の聞えが気にかかるなら、そなたの心を取り直し、心の底からその慢心を祓ひ出せ。空行く雲も自由自在に走るでないか。其方の脚はそりや何の醜態、それでもまだ気が付かぬか。もうそろそろと我を折つたらどうだ』 駒山彦『モウ、ソロソロと脚を起たして呉れてもよかりさうなものだな』 照彦『タヽヽヽタヽさぬ起たさぬ。他愛もないこと、大変に饒舌る宣伝使。息も絶え絶えになるとこまで、イヤサ、この場で倒れるとこまで戒めて、高い鼻を叩き折つて、煮いて喰てやらうか。野山の猛き獣の餌食になるか、蛸のやうな骨も何にもないたわけ者、たたきにしようか、それが嫌なら直に改心するか。改心出来たら足は起つぞよ。腹をたてな、腹を立てると足は立つまいぞよ。譬へて言へば高峰の花、大空の月、神の誠の奥は、よほど改心を致さねば、掴むことは出来ぬぞよ。何ほど言うても、訳の解らぬ情ない、なまくら身魂の鉛のやうな両刃の剣で何が出来るか。泣いて暮すも一生なら、笑つて暮すも一生だ。ない袖は振れぬ、ない智慧はしぼれまい。ホロが萎えたか、直霊のみたまに詔り直せ。中々難かしい神の道、気楽に思うて居ると、泣き面かわくやうなことが度々あるぞよ。罪もなく、穢もなく、心の玉に曇りなければ、どんな事でも為し遂げらる。誠の固まつたのは長う栄えるぞよ。名さへ目出度き高砂の、この神島に渡りながら、汝のなしたる修業は蚊々虎の蚊の涙にも及ばぬ、何を致すも耐へ忍びが肝腎だ。鈍刀で悪魔は斬れぬぞ。心の波を静かにをさめ、艱難辛苦を嘗め、奈落の底も恐れぬ魂にならねば、何事も成り遂げぬぞよ。ものの成るは、成るの日に成るにあらずして、成らぬ日に成るのである。早く神心に成れ成れ駒山彦。惟神の道に倣うて此世を渡れ。チヽヽ知慧や学を頼りに致すな。近欲に迷ふな。直取をすな。ヂグヂグと考へて進め。道に違うた事は遣り直せ。小さい心で知識を鼻にかけ、天狗面して笑はれな。チツトは物事を考へて地に落ちた人間を助け、千早振る神の教を世にかがやかせ。凡ての事に心を散らさず、心の塵を吹き払ひ、誠の知慧を働かせ。ツヽヽ月は山の端に隠れむとしてゐる。ヤア、照彦の奴さまも此場を去らねばなるまい。駒山彦ツ、これからトツクリと御修業なさるがよからう。左様なら』 と言ひつつ照彦はツと起ち上り、悠々としてこの場を去らむとする。 駒山彦『マヽヽ待つて下さい。折角月が出たと思へばこの細い谷間、また月が隠れて真闇がりになつてしまふ。こんな所に一人放置かれては耐つたものではない。ヤア照彦、お前の神懸も、どうやら鎮まつたと見える。俺を伴れて帰つてくれないか』 照彦『神の言葉に二言はない。左様なら』 と、またもや宣伝歌を歌ひ、闇にまぎれて何処ともなく立去りにける。 駒山彦『アヽ、つまらぬ目に遇はしよつた。まるで狐に抓まれたやうな目に遇はしよつて、二人の奴、俺を置去りにして行くとは、アヽ人間も当にならぬものだ。まさかの時に自分の杖となり力となり、何処までも随いて来るものは自分の影法師ばつかりだ。その影法師さへも、闇の夜には随いて来てくれぬ。斯うなつて来ると人間も詰まらぬものだ。神の教の司と言ひながら、こんな拙ない、辛い事が世にあらうか。頼みの綱も断れ果てて、終に会うた事もない、月さへ見えぬ谷底に突き落され、地の上に坐らされて、罪滅しか何か知らぬが、蛸を釣られて居る苦しさ。ツクヅク思ひ廻らせば、日に夜に積んだ罪の酬いか。露の命を存らへて、杖も、力も、伝手も、泣く泣く苦しみ悶える浅間しさ。信心は常にせよと、毎日日日、詰めかけるやうに教へられて、漸く宣伝使になるは成つたものの、実につれない浮世だナア。強いことを言つて居つても、斯う辛うては到底忍耐れたものぢやない。アヽ、行きつきばつたりに宣伝使になつたのが、吾身の病み月で運の月かい。つくづく思案をして見れば、月に村雲花に風、尽きぬ思ひの此谷底で、虎狼の餌食になるのであらうか、アーアー』 と独言を言つてほざいてゐる。 この時闇中よりまたもや大声が何処ともなく響き来る。 駒山彦は、この谷間に百日百夜、跪坐らされ、断食の行を積み、日夜神の教訓を受け、いよいよ立派な宣伝使となつて、名を羽山津見神と改め、黄泉比良坂の神業に参加したり。而して彼照彦は、或る尊き神の分霊にして、後には戸山津見神となりたり。 (大正一一・二・一四旧一・一八河津雄録) |
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197 (1444) |
霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 17 甦生 | 第一七章甦生〔四一〇〕 駒山彦は唯一人、闇の谷間に残されて稍決心の臍も固まり初めたり。暗中に何神の声とも知らず、五十音歌聞え来る。 声『あたまの上から足の裏いつも心を配りつつ うかうか暮すな世の人よえい耀栄華の夢醒まし おのおの業を励めよやかみの恵みは天地に きらめき渡り澄み渡りくまなく光り照すなり けしき賤しき曲道にこころの玉を穢すなよ さん五の月の大神がしきます島の八十島は すみずみ迄も照り渡るせ界一度に開くなる そのの白梅薫るなりたか天原に現はれて ち機百機織りなせるつきの御神や棚機の てる衣、和衣、荒衣のとばりを上げて天津神 な落の底まで救ふなりにしや東や北南 ぬば玉の夜は暗くともね底の国は暗くとも のぞみは深き神の道はな咲く春の弥生空 ひかり輝く皇神のふみてし道を漸々と へに来し神の分霊ほろびの道を踏み変へて まことの道に進み行くみちは二条善と悪 むかしも今も変りなきめ出度き神の太祝詞に ももの罪咎消えて行くやまと島根に何時までも いや栄え行く桃の花ゆ津玉椿の色紅く えだ葉も茂り蔓りてよを永久に守るなり わが高砂の神島はいづの霊や瑞霊 うべなひまして麗しき神の依さしの宝島 ゑだ葉も茂る老松のをさまる御代ぞ目出度けれ この神国に渡りきて心卑しき宣伝使 三五教を開くとは愚なりける次第ぞや 愚なりける次第ぞや』 駒山彦はこの谷間に百日の行をなし、心魂清まつて茲に羽山津見神となり、身体も健に、声も涼しく宣伝歌を歌ひつつ、カルの都をさして嶮しき山を越え谷を渉り、暑さと戦ひ、飢を凌ぎながら進み行く。 駒山彦『智利の御国の奥山の深き谷間につれ行かれ 百千万の苦しみを嘗めさせられて様々の 神の戒め言霊の教を聞きて身は光る 心も光る智利の国身霊にかかる村雲も 吹き払はれて夏の夜の洗ふが如き月影に 照らされ進む嬉しさよ月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも智利の深山の山奥の 深き谷間に洗ひたる吾霊魂は永久に 千代も八千代も曇らまじ黒雲四方に塞がりて 世は常暗となるとても駒山彦の真心に 常久に澄みぬる月影は光り眩ゆく惟神 道は三千三百里三五の月に照されて 心は光る真寸鏡摂取不捨の真心の 剣を右手に執り持ちて左手に神の太祝詞 宣るも尊き神の道横さの道を歩むなる 体主霊従の身魂を言向けて常世の闇を照らしつつ 心も足もカルの国霊魂の光る目の国や ロッキー山を踏み越えて醜女探女の猛ぶなる 黄泉の島に打ち渡り神伊邪那岐の大神の 尊き御業に仕ふべし奇しき御業に仕ふべし この世を造りし神直日心も広き大直日 直日の神の御恵に身魂も清く照り渡る 神の経綸ぞ尊けれ神の御稜威ぞ尊けれ』 と昼夜の区別なく、数多の国人に神の教を伝へつつカルの国を指して進み行く。 (大正一一・二・一四旧一・一八北村隆光録) |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 18 初陣 | 第一八章初陣〔四一一〕 珍山彦は松、竹、梅の三人と共に、草の衾に石枕、数を重ねて漸々に智利の国の南方ハラの港に着きぬ。夜船は今に出帆せむとする間際なり。十三夜の月は、満天黒雲に包まれて光を隠し、一点の星影もなき真の闇なり。この船の名はアタル丸といひ、アタルの港より、ハラの港に数多の果物を積み、人を乗せ来り、今や国に帰らむとする時なりき。船頭は黒暗の中より、 船頭『いま船が出ます、乗る人は早く乗りなさいー』 と、声を限りに呶鳴り立て、竹筒を口に当てなどして、ブーブーと吹き知らして居る。折からの南風に、船の帆は風を充分に孕んで、船脚早く進行し始めたり。 珍山彦一行は船の一隅に乗つて居た。この時船中は誰彼の顔さへ碌に見えない程の暗さなり。船頭は燈台を目標に、 船頭『智利の御国を船出して夜なき秘露へ帰りゆく 覆るためしも浪の上風もあたるの港まで』 と節流暢に歌つてゐる。船中には、あちらこちらと雑談始まる。 熊公『オイ、虎公、貴様は何時やら筑紫の国から帰つて来る時に、三笠丸の船客から、ドツサリと酒代をボツタクツタでないか[※第7章のエピソード。]。貴様も悪い事にかけたら抜目のない奴だなア』 虎公『ここは人中だ、人中で恥を振撒きよるのか。コラ熊公、俺を何だと心得て居る、俺はこの高砂島に、誰知らぬ者もない鬼の虎さまだぞ』 熊公『人中でも船中でも、夜の中でも腹の中でも構ふものか。貴様は却々の悪党だが、しかし其処まで悪党も徹底すれば、却て偉いワ』 虎公『決つた事だい。弁天さまとも、竜宮の乙姫さまとも、例へ方ない立派な美人が、しかも三人。そこに美しい強さうな家来が一人随いて居つた。そこで亀公の野郎、業腹を煮やし自暴自棄になり、酒をチビチビ飲み出して種々な話の末、珍の国の桃上彦命さまが、巴留の国で殺された話をやりよつた。さうすると、その家来が一寸お尋ね申しますとお出でたのだ。そこでこの方が亀公の話を横奪りして「ヘイ、何でございます」とやつた処が、その男は何でも桃上彦命さまの家来の端くれと見えて、私は一寸仔細があつて、面会に参る者と言ふのだ。サア占めた、お出でたなア、と手ぐすね引いて待つて居ると、鰯網に鯨がかかつたやうに、虎さまの舌の先に乗つて、見たこともないやうな立派な金をガチヤガチヤゾロリと出しをつた。それで此奴却々持つて居るワイ、一遍に言つて了つたら物に成らぬ、またお代りをと云ふ調子で、いい加減に言つて居ると、お前の言ふ事は判りにくい、もちと確かりハツキリと言つて呉れと言ふのだ。そこでこの虎さまは、地獄の沙汰も金次第だとかましたところ、何にも知らぬ都人の青首が「うん、さうか、酒代が欲しいのか、うるさい奴だなア」と莞爾と笑つて、またドスンと重たい程呉れよつたのだ。あんなぼろい事は滅多にありやせぬ。誰か、またあんな話をやつて呉れないかなア』 熊公『オイ、虎公、柳の下に何遍も鰌は居らぬよ。お前のやうな、欲の熊鷹には同情は出来ない』 松、竹、梅の三人の娘は側にあつて、熊と虎との対話に耳を傾け聴いてゐる。 珍山彦は小声で、 珍山彦『松代姫様、妙な話をやつてますなア。蛙は口からとやら、現在あなた方の乗つて居らつしやるのも知らずに、自分の悪事を手柄さうに囀つて居る妙な奴もあるものだ。一つあの男を帰順させたら何うでせうか。悪に強い奴は、また善にも強いものですよ』 松代姫『さうでせうかなア。あんな人でも改心するでせうか』 珍山彦『あなたも宣伝使の初陣だ。あの男を改心さす事が出来ぬやうでは、到底宣伝使は勤まりませぬなア』 松代姫『アヽ、一つそれではやつて見ませう』 松代姫は立つて声しとやかに宣伝歌を歌ひ始むる。 松代姫『神の造りし神の国神の御魂に生れませる 神にひとしき人の身はいかで心の曲るべき いかで心の曇るべき心の空に月は照る 心の海に天津日の輝き渡る人の身は 善きも悪しきも押しなべて神の恵をうくるなり 禍多き世の中に父には離れ垂乳根の 母にはこの世を先立たれ憂ひに悩む雛鳥の 心悲しき波の上恵みも高き高砂の 珍の御国に現れませる恋しき父に会はむとて 心も清き照彦の従僕の司ともろともに 花咲き匂ふはるの空恋しき都を後にして 歩みも馴れぬ山坂を草の衾や石枕 恵みの露に潤ひつ心つくしの国を経て 神の力によるの市よるの港を船出して 恋しき父をみかさ丸波風荒き海原を 渡るも淋しき手弱女の心の中にたつ雲の 黒白も判かぬ真の闇闇より出でて闇に入る 日数重ねてやうやうに月日もてるの港まで 来たる折しも何人か恋しき父の物語 桃上彦の垂乳根は遠き御国へ出でますと 聞きたる時の吾胸の悲しさ辛さ如何ばかり 量り知られぬ滝津瀬の涙に咽ぶ折からに この世に鬼はなきものか木の花姫のみかへるの 神と現れます大蛇彦その温かき言の葉に 憂ひの雲も晴れ渡り波を押分け昇る日の 光る心の嬉しさよ神が表に現はれて 善と悪とを立別るこの世を造りし神直日 心も広き大直日ただ何事も人の世は 直日に見直せ聞き直せ身の過ちは宣り直せ 吾身の仇は赦せかし人を恕すは烏羽玉の 闇に彷徨ふ身の罪を祓ひ清むるものぞかしと 教へ導く神の道神と君とにあななひの 道を教ふる麻柱教教の船に乗せられて 暗き闇世もてるの国光り輝くひるの国 朝日あたるの港まで進み行くこそ楽しけれ あゝ虎公よ虎公よわれは御教の宣伝使 奪られた金は惜しくないただ惜しむべきものがある 神に貰うた虎公の清き身魂を枉津見の 神に心を曇らされ吾身を守る魂を 奪られ給ひし事ぞかし奪られた魂は是非なしと 思ふことなく今よりは霊の真柱立て直し 下津磐根に千木高く言霊柱建てかけて 天津御神の賜ひてし心の玉をとり返せ 心の玉をとり返せ返す返すも悲しきは 魂を抜かれし虎公のおん身の上ぞ行く末ぞ あゝ虎公よ、とら公よ一日も早く片時も 誠の道にのりなほせ神の産みてし人の身は 神にひとしき者ぞかし神にひとしき者ぞかし 神の身魂と現はれて善しと悪しとを省みよ ただ今までの曲業を直日に見直せ宣り直せ 直日の神の分霊わけて尊き神の子よ 誉めよ称へよ神の恩魂を洗へよ神の前 暗を馳せ行くこの船よ神の身魂の照り渡る てるの港を後にして大御恵みも弥深き 青海原を渡りつつよるなきひるの神の国 あたるの港に進むごといと速かに速かに 心の塵を払ふべし心の玉を洗ふべし』 船中の人々は、この声に耳を澄ませ、首を傾けて静かに聞き入る。暗き船の中にはこの歌を聞いて、何れも感歎する声頻りに起れり。虎公は以前の元気にも似ず、大声をあげて泣き叫び伏しぬ。アタル丸は燈台を目標に、暗を破りて荒浪を切りながら、チヨクチヨクと進み行く。 (大正一一・二・一四旧一・一八東尾吉雄録) |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 19 悔悟の涙 | 第一九章悔悟の涙〔四一二〕 今まで黒雲に包まれたる大空は、所々綻びを見せて天書(星)の光り瞬き始め、十三夜の月は漸く東天に姿を現はし給ひ、皎々たる光りに照されてアタル丸の船中は昼の如く、誰彼の顔も明瞭に見え来る。珍山彦は虎公の話相手なる熊公に向つて霊をかけたれば、熊公は忽ち身体震動して、ここに神憑[※初版・愛世版では「神憑」、校定版では「神懸」。]状態となり口を切つて、 熊公『此方は大蛇彦命である。いま虎公に申渡すべき事あれば、耳を澄まして確と聴け』 と雷の如くに呶鳴りつける。船客一同は熊公に向つて視線を集注し、如何なり行くならむと片唾を呑んで凝視つてゐる。 熊公『悪の企みの現はれ時、何時までも悪は続かぬぞよ。動きのとれぬ汝の自白、閻魔の調べは目のあたり、大蛇彦が今言ひ聞かす、神の教をしつかり聴け。木に餅のなる様な、うまい事ばかり考へて苦労もせずに、他人の苦労の宝を奪ひ、誇り顔に述べ立てる怪しき卑しき汝が魂、心の鬼の囁きを吾と吾手に白状せしは天の許さぬ所、審神者の眼に睨まれて、その本人がこの船に居るともシヽヽヽ知らず知らずに口挙げ致した。悪は永うは続きはせぬぞ。速かに前非を悔い、澄み渡る大空の月の如くに心を洗へ。世界広しと雖も其方のやうな悪逆無道の痴漢は少ない。誰に依らぬ、皆心得たがよい。些の悪でも積み重ぬれば根底の国に行かねばならぬ。強さうな事を言つても、人間の分際として木の葉一枚自由にならぬ、障子一枚先の見えぬ人間、天地の神を畏れよ。虎公ばかりでないぞ、長い間に重ねた罪はわが身を亡ぼす剣の山だ。憎まれ子世に覇張る、西も東も弁へずに、吾さへよけりやよいと申して、人の目をぬすみ、宝を盗み取り、悪の身魂に狙はれて根底の国に連れ行かれ、喉から血を吐く憂き目に遇うて恥を曝し、果敢なき運命に陥るやうな僻事を改めよ。日に夜に行ひを改めて心の雲を科戸の風に吹き払へ。悪は一旦栄えても永うは続かぬ、滅の種子だ。この世に悪を為すほど下手な事はない。生きても死んでもこの世の中は神のまま、長い月日に短い生命、太う短う暮すが得だと日夜吐いた虎公のその吠え面は何のざま、誠の道を踏み外し、身欲に迷うて無理難題を人に吹きかけ、誠の人を誑かしむしり取つたるその金子は、大蛇となつて火焔を吐き、冥途へ送る火の車だ。大勢の中で面目玉を潰されてもがき苦しむのも自業自得だ。八十の曲津よ、僻み根性の虎公よ。夢にも知らぬ三人の娘の前で、偉さうに吾身の悪をべらべらと、ようも喋り居つたな。羅刹のやうな心を以て利欲の山に駆け登り、人を悩ます悪魔の容器、わが身の仇とは知らずして、欲に呆けて何のざま。いよいよ改心いたせばよし、改心いたして生れ赤子の心になり、今までのゑぐたらしい心を立替へよ。鬼も大蛇も追ひ出せよ。虎公、今が改心のよいしどきだ。天国に救はれるか、地獄に墜ちて無限の苦しみを嘗めるか、神になるか、悪魔になるか、二つに一つの境の場所だ。ヤア船中の人々よ。必ず虎公のこととのみ思はれな。めいめい罪の大小軽重こそあれ、九分までは皆悪魔の容器だ、罪の塊だ。大蛇彦命が一同に気をつけるぞよ。今は余が懸つてゐる熊公とても同じことだ』 と言葉終つて神憑り[※初版・愛世版では「神憑り」、校定版では「神懸り」。]は元に復したり。 虎公は船底に畏縮して涙に暮れながら、この教訓を胸に鎹打たるるが如く、呑剣断腸の念に苦しみ、身の置き処もなく煩悶の結果、月照り渡る海原に向つてザンブとばかり身を投げたり。船客一同は、アレヨアレヨと総立ちになり、 一同『誰か救けてやるものはないか』 と口々に叫び合ふにぞ、熊公は堪り兼ね、忽ち真裸体となり、又もや海中に飛沫を立ててザンブとばかり飛び込みぬ。船客は総立ちとなつて立上り、海面に目をさらしてゐる。船は容赦もなく風を孕んで北へ北へと進み行く。 アヽこの二人の運命は如何なりしぞ、心許なき次第なり。 (大正一一・二・一五旧一・一九外山豊二録) |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 20 心の鏡 | 第二〇章心の鏡〔四一三〕 六月十三夜の皎々たる月光に照されて、三人の松、竹、梅の娘、顔の皮膚滑らかに潤ひのある眦、柳の眉、紅の頬、雪の肌、殊更目立ちて麗しく、三五の明月か、冬の夜の月を宿した積雪か、桃か桜か白梅か、丹頂の鶴の掃溜に下りて遊ぶが如き、得も言はれぬ崇高な面容である。三柱の女神は舷頭に立ち、海面に向つて拍手しながら声しとやかに歌ふ。 松、竹、梅『神が表に現はれて善と悪とを立て別ける この世を造りし神直日心も広き大直日 ただ何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ 身の過ちは宣り直せこの世を造りし皇神の 厳の御息に生れたる青人草は神々の 鎮まりいます生宮ぞ人の霊魂は初めより 曇り穢れしものならず清き尊き天地の 御息を受けて神の子と生れ出でにしものなれば いとも広けき御心に万の罪を宣り直し 助け給へや天津神国津御神や百の神 琴平別の大神よ海より深き罪咎を 赦して神の船に乗せ花咲き匂ふ高砂の 島根に救ひ給へかし心の浪も治まりて 罪を悔いたる虎公の心の空は真寸鏡 光りも清き月照彦の神の心に見直して 身魂を救へ照彦の清き身魂に立て直し 海に落ちたる熊、虎の二人の御子を救ひませ 二人の御子を救ひませ三五教は現世の 穢れを清め人草の悩みを救ふ神の道 鳥獣はまだ愚虫族までも御恵みの 教の露に霑ひて天地四方の海原も 清めて澄ます神心大御心の幸はひに 助け給はれ貴の御子憂瀬に沈む人々の 身体の穢れと村肝の心の塵を吹き払ひ 朝日も清くテルの国夜なきヒルの国原に 月日の光隅もなくアタルの港へ救ひませ アタルの港へ救ひませ』 と歌ひ神言を奏上し、再びもとの座に帰りぬ。船中にはヒソビソと雑談がまた始まる。 甲『今の神懸りや歌の心を何と思ふか。実に恐ろしいやうな、有難いやうな、結構なことだのう。俺はモウあの神懸りの言葉を聞いて、一つ一つ身にこたへて、自分が叱られた様な気がしたよ』 乙『さうだな、俺らも同じ事だ。虎公とか言ふ悪人ばかりぢやない。胸に手を置いて考へて見ると、吾々の腹の中にも悪い奴が居つて、暗々裡に罪の方へ罪の方へと引張つて行かるる様な気がしてならぬワ』 丙『ヤ、誰しも蓋をあけたらチヨボチヨボだよ。虎公のやうに露骨に悪をやるか、やらぬかだけのものだ。善人らしい蚤一つ殺さぬやうな優しい顔した奴の中に却て悪い奴があるものだ。人間から悪人ぢや悪人ぢやと嫌はれる者に却て善人があつたり、聖人君子を気取つて、世の中の人に賢人ぢや、善人ぢやと持て囃される人間の中に却て悪人があるものだ。悪魔と言ふものは善人の身体を容器にして化けて悪い事をやるものだよ。之だけ悪の九分九厘まで栄えた世の中の人間に褒めらるる者はきつと悪人だ。彼奴は悪い奴だと世の中から攻撃される人間に真実の善人があるものだ。あの虎公と言ふ奴は随分名高い悪人だが、真実の彼奴の性来は善人だと見えて、悔悟の念に堪へ兼ね、大切の生命を捨てたぢやないか。人間は矢張り神の子だ、「鳥の将に死なむとするやその声悲し。人の将に死なむとするやその言良し」と言ふ。吾々も一時も早く心の雲を取り払つて、今夜の月の様な美しい心になつて世の中を渡りたいものだなア』 丁『然し、この頃は妙な事があるぢやないか、アリナの滝の水上に大きな巌窟があつて、そこには鏡の池とやら言ふ不思議な池が出来たと言ふ事だ。其処へ三五教の宣伝使狭依彦とか言ふ妙な面した男がやつて来て、数多の人間に洗礼を施してゐるさうなが、そこで洗礼を受けた者は、みな立派な人間になつて悪い事もせず、喧嘩もなし、盗人も這入らず、戸締りもせずとも夜は安楽に眠れるやうになつたと言ふ事だよ。吾々も一度洗礼を受けたいと思つて居るのだ。さうした処が今度、またヒルの国の玉川の滝に偉い宣伝使が現はれたと言ふ事だよ。その滝にも滝の傍に妙な洞穴があつて、神様がものを言つて何かの事を聞かして下さるさうだ。俺はそこへ一遍参らうと思つて来たのだが、お前らも何なら一緒に行かうではないか』 甲『さうか、そんな事があるのか。実は吾々は、その狭依彦と言ふ宣伝使に洗礼を受けたのだ。今までは随分大酒も飲み喧嘩もし、人を泣かした事も沢山あつたが、あの鏡の池の中から妙な神さまの声が聞えて、吾々の今までやつて来た事を素破抜かれた時の恐ろしさと言つたら、思ひ出しても身の毛がよだつやうだ。それから宣伝使の洗礼を受けて家内中睦じう暮し、村の人からも今は重宝がられる様になつたのも、全く神様の御蔭だよ』 乙『それは結構だが、あの虎公は如何なつたであらうか。今三人の綺麗な宣伝使がお祈りになつたから、神様は至仁至愛だから助けて下さるではあらうが、真実に可哀さうだなア』 丁『それは心配するには及ばぬよ、改心した者はきつと神様が助けて下さる。まあアタルの港へこの船が着く時分には、チヤンと竜神さまに助けられて波止場に「皆さま、お先に失礼しました」と言ふ様な調子で待つてゐるだらう』 丙『そんなうまい事があらうかなア。若しも二人が助かつて居る様な事だつたら、吾々は村中あの宣伝使の教に従つて仕舞はう』 甲乙丙丁はヒソビソと、神徳の話を語つてゐる。珍山彦は無言のまま、四人の話をニコニコとして聞いて居た。 アタル丸は漸うにして、翌日の五つ時にアタルの港へ安着した。波止場には虎公、熊公が立つてこの船を待ち迎へて居る。 (大正一一・二・一五旧一・一九北村隆光録) |