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(344)
ひふみ神示 13_雨の巻 第10帖 天の岩戸開いて地の岩戸開きにかかりてゐるのざぞ、我一力では何事も成就せんぞ、手引き合ってやりて下されと申してあること忘れるでないぞ。霊肉共に岩戸開くのであるから、実地の大峠の愈々となったらもう堪忍して呉れと何んな臣民も申すぞ、人民には実地に目に物見せねば得心せぬし、実地に見せてからでは助かる臣民少ないし神も閉口ぞ。ひどい所程身魂に借銭あるのぢゃぞ、身魂の悪き事してゐる国程厳しき戒め致すのであるぞ。 五と五と申してあるが五と五では力出ぬし、四と六、六と四、三と七、七と三ではカス出るしカス出さねば力出んし、それで神は掃除許りしてゐるのざぞ、神の臣民それで神洲清潔する民であるぞ、キが元と申してあるが、キが餓死すると肉体餓死するぞ、キ息吹けば肉息吹くぞ、神の子は神のキ頂いてゐるのざから食ふ物無くなっても死にはせんぞ、キ大きく持てよと申してあるが、キは幾らでも大きく結構に自由になる結構な神のキざぞ。臣民利巧なくなれば神のキ入るぞ、神の息通ふぞ、凝りかたまると凝りになって動き取れんから苦しいのざぞ、馬鹿正直ならんと申してあろがな、三千年余りで身魂の改め致して因縁だけの事は否でも応でも致さすのであるから、今度の御用は此の神示読まいでは三千世界のことであるから、何処探しても人民の力では見当取れんと申してあろがな、何処探しても判りはせんのざぞ、人民の頭で幾ら考へても智しぼっても学ありても判らんのぢゃ。ちょこら判る様な仕組ならこんなに苦労致さんぞ、神々様さえ判らん仕組と知らしてあろが、何より改心第一ぞと気付けてあろが、神示肚にはいれば未来見え透くのざぞ。此の地も月と同じであるから、人民の心其の儘に写るのであるから、人民の心悪くなれば悪くなるのざぞ、善くなれば善くなるのぞ。理屈悪と申してあろが、悪の終りは共食ぢゃ、共食ひして共倒れ、理屈が理屈と悪が悪と共倒れになるのが神の仕組ぢゃ、と判ってゐながら何うにもならん事に今に世界がなって来るのざ、逆に逆にと出て来るのぢゃ、何故そうなって来るか判らんのか、神示読めよ。オロシヤの悪神の仕組人民には一人も判ってゐないのざぞ。神にはよう判っての今度の仕組であるから仕上げ見て下されよ、此の方に任せておきなされ、一切心配なく此の方の申す様にしておりて見なされ、大舟に乗って居なされ、光の岸に見事つけて喜ばしてやるぞ、何処に居ても助けてやるぞ。雨の神、風の神、地震の神、荒ノ神、岩の神様に祈りなされよ、世の元からの生き通しの生神様拝がみなされよ。日月の民を練りに練り大和魂の種にするのであるぞ、日月の民とは日本人許りでないぞ、大和魂とは神の魂ぞ、大和の魂ぞ、まつりの魂ぞ、取違ひせん様に気付けおくぞ。でかけのみなとは九九ぢゃぞ、皆に知らしてやりて下されよ、幾ら道進んでゐても後戻りぢゃ、此の神示が出発点ぞ、出直して神示から出て下されよ、我張りてやる気ならやりて見よれ、九分九分九厘で鼻ポキンぞ、泣き泣き恥ずかしい思いしてお出直しで御座るから気付けてゐるのぢゃ、足あげて顔の色変へる時近付いたぞ。世建替へて広き光の世と致すのぢゃ、光の世とは光なき世であるぞ、此の方の元へ引寄せて目の前に楽な道と辛い道と作ってあるのぢゃ、気付けてゐて下されよ、何ちらに行くつもりぢゃ。十一月二十七日、一二
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(1678)
霊界物語 16_卯_丹波物語1 大江山/冠島沓島/丹波村 18 遷宅婆 第一八章遷宅婆〔六〇八〕 百日百夜の一同が苦辛惨憺の結果、漸く建ち上りし白木の宮殿、鎮祭式も無事に済み一同直会の宴にうつる。今日は正月十五日、雪は鵞毛と降りしきり、見渡す限り一面の銀世界、天津日の影は地上に光を投げ、玲瓏として乾坤一点の塵埃も留めず、実に美はしき天国の御園も斯くやと思はるる許りなり。 英子姫は神霊鎮祭の斎主を奉仕し悠々として階段を降り来るや、忽ち神霊に感じ神々しき姿は弥が上に威厳備はり徐に口を開いて宣り給ふやう、 英子姫に懸かった天照御神『我は天照大神の和魂なり、抑も当所は綾の聖地に次げる神聖の霊場にして天神地祇の集まり給ふ神界火水の経綸場なり、神界に於ける天の霊の川の源泉にして宇宙の邪気を洗ひ清め百の身魂を神国に救ふ至厳至聖の神域なり。又この東北に当つて大江山あり、此処は神界の芥川と称し邪霊の集合湧出する源泉なれば霊の川の霊泉を以て世界に氾濫せむとする濁悪汚穢の泥水を清むべき使命の地なり。此濁流の彼方に天の真名井ケ岳あり、此処は清濁併せ呑む天地の経綸を司る瑞の御霊の神々の集まる源泉なり。豊国姫の分霊、真名井ケ岳に天降りミロク神政の経綸に任じ給ひつつあり、されども曲神の勢力旺盛にして千変万化の妖術を以て豊国姫が経綸を妨碍せむとしつつあり。汝悦子姫、之より大江山の濁流を渡り真名井ケ岳に打向ひ百の曲霊を言向和し追ひ払ひ吹き清めよ。又亀彦、英子姫には神界に於て特別の使命あれば之より聖地に向へ、其上改めて汝に特別使命を与ふべし』 と言葉厳かに言挙げし給ひ忽ち聞ゆる微妙の音楽と共に引きとらせ給ひぬ。アヽ尊き哉皇大神の御神勅よ。 茲に亀彦、英子姫は神勅を奉じ、熊鷹、石熊両人を始め数十人の供人と共に、聖地に向ふ事となりぬ。又悦子姫、青彦は、鬼彦、鬼虎の二人に、四五の従者を伴ひ谷川に禊を修し宣伝歌を唱へ乍ら大江山の魔窟ケ原を打越え真名井ケ岳に向つて進む事になりける。 悦子姫は宮川の渓流を溯り、険しき谷間を右に跳び、左に渉り漸くにして魔窟ケ原の中央に進み入り、衣懸松の傍に立ち止まり見れば、百日前に焼け失せたる高姫の隠家は又もや蔦葛を結び、新しく同じ場所に仮小屋が建てられありたり。 悦子姫『此間妾が高姫に招かれて此松の下へ来ると、間もなく火煙濛々と立昇り、小屋の四方八方より猛烈に紅蓮の舌を吐いて瞬く内に舐尽し、高姫さま始め此青彦さまも火鼠の様に、彼の丸木橋から青淵へ目蒐けて飛び込まれた時の光景は実にお気の毒なりし。その時妾は高姫さまの水に溺れて苦しみ藻掻き居られるのを、真裸になりて救ひ上げた時、高姫さまに非常に怒られた事あり、「妾が勝手に心地よく水泳をやつて居るのに、真裸で飛ンで来て妾の手を引ン握り、ひつ張り上げるとは怪しからぬ」と反対に生命を助けて怒られた事あり、あの一本橋を見ると其時の光景が今見る様な』 と述懐を漏したり。 青彦『さうでしたな、あの時に私も亀彦さまが居なかつたら土左衛門になる処でした。真実に生命の親だと思つて心の底から感謝して居ました。それに高姫さまは私がお礼を申さうとすれば目を縦にして睨むものですから、つひお礼を申し上げず心の裡に済まぬ事ぢやと思つて居ました、真実に負惜みの強い方ですな』 鬼彦『ウラナイ教の奴は皆アンナ者だよ、向ふ意気の強い、負ず嫌ひばかりが寄つて居るから負た事や弱つた事は知らぬ奴だ、悪と云ふ事も知らず本当に片意地な教だ、負た事を知らぬものに勝負も無ければ、恥を知らぬものに恥はない、人間もああなれば強いものだ、否気楽なものだ、自分のする事は何事も皆善ときめてかかつて居るのだから身魂の立て直し様がありませぬ哩』 青彦『ヤア私も高姫の強情なには呆れて物が言はれませぬ、沓島で岩蓋をせられた時にも私は消え入る様な思ひがして、泣くにも泣かれず慄うて居ましたが、高姫は豪気なものです、反対に窮鼠却て猫を咬む様な談判をやるのですから呆れざるを得ぬぢやありませぬか、漸く田辺に着いたと思へば暗に紛れてドロンと消え失せ、間もなく月の光に発見されて鬼武彦に素首を掴まれ、提げられて長い道中を秋山彦の館まで連れ行かれ、苦しいの、苦しうないのつて、息が切れさうでしたよ、それでも減らず口を叩いて太平楽を並べると云ふ意地の悪い女だから、何処迄押し尻が強いか分つたものぢやない。如意宝珠の玉を大勢の目の前で平気の平左で自分の腹の中に呑み込みて仕舞ひ、終には煙の様に天井窓から逃出すと云ふ放れ業をやるのだから、化物だか、神様だか、魔だか、素性の知れぬ痴者だ、そして随分口先の達者な事と言つたら燕か雀の親方の様だ、人には交際つてみねば分らぬが、あの剛腹の態度と弁ちやらとに掛つたら、大抵の男女は十人が九人迄やられて仕舞ふ、本当に巧な者だ、其処へ又、も一つ弁舌の上手な黒姫と言ふのが始終後について居つて応援をするものだから、口八丁手八丁悪八丁と言ふ豪の者に作りあげて仕舞つたのだ。然しチヤンと此焼け跡に又もや新しい小屋が建つて居る、大方黒姫の奴、後追つかけて来よつて焼け跡に小屋を建てて隠れて居るのではあるまいか、何処までも執念深いのはウラナイ教の宣伝使だからな』 鬼虎『一つ調べてやりませうかい』 鬼彦『若し黒姫が居つたら貴様何うする、又舌の先でチヨロチヨロと舐られてグニヤグニヤとなりやせぬかな』 鬼虎『何、大丈夫だよ、鬼虎には鬼虎の虎の巻がある、俺の十一七番を御目に懸けてやるから悠りと見物をせい』 一同は路傍の恰好の石に腰掛けて休息し乍ら雑談に耽つて居る。鬼虎は七八間許り稍傾斜の道を下り衣懸の松の麓の藁小屋を外からソツと覗き、 鬼虎『ヤア、居るぞ居るぞ、婆が一匹、男が二匹だ、オイ婆ア、貴様は何だ、バラモン教か、ウラナイ教か、ウラル教か、返答致せ』 小屋の中より、 婆(黒姫)『エー、八釜しい哩、何処の穀潰しか知らぬが新宅の成功祝で、グツスリ酒を飲みて暖い夢を見て居た処だ、大きな声で目を覚まさしよつてチツト人情を知らぬかい。安眠妨害で告発するぞ』 鬼虎『ヤア、一寸洒落て居やがる、よう牛の様にツベコベと寝乍らねちねちと口を動かす奴だ、丸で高姫か黒姫みたいな餓鬼だ、改心せぬと又それ紅蓮の舌に舐められて、藁小屋は祝融子に見舞はれ全部烏有に帰し、頭の毛や着衣に火が延焼して一本橋から身を投げて寂滅為楽、十万億土の旅立をせにやならぬ様になるぞ』 小屋の中より、 婆(黒姫)『何処の奴か知らぬが俺は貴様の今言うた黒姫だよ、名は黒姫でも顔の色はそれ今其処らに降つてる雪の様に白い雪ン婆の様な心の綺麗なウラナイ教の宣伝使ぢや、此沢山な雫を掻き別けて寒い寒い山道をうろつく奴は余程ゆきつまつたしろ物と見える哩。今日らの日に彷徨ふ奴は家の無いもののする事ぢや、田螺でも蝸牛虫でも一つは家を持つて居る、家無しのド乞食奴が、何とか、彼とか言ひよつて人の処の家へ泊めて貰はうと思つても……さうは往かぬぞ、然し魚心あれば水心ありぢや、俺の言ふ事を聞くのなら泊めてやらぬ事は無いわ、それ程寒相に歯の根も合はぬ程、カツカツ慄ふよりも如何ぢや、俺の結構な話を聞いて暖い火にあたつて、味の良い濁酒でも鱈腹飲みた方がましだらう、世の中は馬鹿者が多いので此雪の降つてピユウピユウと顔の皮が剥ける様な風が吹くのに、下らぬ宣伝歌を涙交りに謡ひよつても誰が集まつて聞くものかい、後から後から此雪の様に冷かされる一方だ、一つ冷静に酒の燗ドツコイ考へて見たが宜からうぞ』 鬼虎『アハヽヽヽ、オイ鬼彦、一寸来い、大分に能うツベコベ吐す奴ぢや、高姫の二代目が居りよる哩。白姫とか赤姫とか吐す中年増の婆ぢや、一つ此奴を、真名井ケ岳に行く途中の先登として言向け和したら面白からうぞ』 鬼彦『ヤ、さうか、何でも婆の潜みて居さうな藁小屋ぢやと思つた。ドレドレ之から鬼彦が応援に出掛け様かい』 雪の中をザクザクと音させ乍ら小屋の側に寄り添ひソツと中を覗き、 鬼彦『ヤア、居る居る、此奴は何時やら見た事のある奴ぢや。随分八釜しい婆ぢやぞ、鈴の化物見た様な奴ぢや』 鬼虎『鈴か煤か知らぬが何でも黒い名のつくババイババイ婆宣伝使だ。オイ、婆ア、一つ貴様の得意の雄弁を振つて天下分け目の舌鋒戦でも開始したら如何だ、面白いぞ』 婆(黒姫)『オイ、音、勘、酒に喰ひ酔うて何時迄寝て居るのだ、外には貴様に合うたり叶うたりの荷担うたら棒が折れる様なヒヨツトコ男が来よつて、百舌鳥の様に囀つて居る、貴様一つ出て舌戦をやらぬかいナ』 音、勘『ムヽヽヽ、ムニヤムニヤムニヤ、アヽア、アー』(寝惚け声で) 婆(黒姫)『エー、じれつたい、欠伸許りして夜中の夢でも見てるのかい、もう午時ぢや、早く起きぬか』 音公『午時か猫時か知らぬが二人がグツスリと猫を釣つて、甘い物をドツサリ喰つた夢を見てる時に、アヽ偉い損をした、十七八の頗るのナイスが現はれて、細い白い柔かい手で目を細うして「音さま、一杯」と盃をさして呉れた最中に起されて、エーエ怪つ体の悪い、一生取り返しのならぬ大損害だ、生れてから見た事もない様なナイスにお給仕をして貰ふ時の心持と言つたら天国浄土に行つても、夢でなくては有りさうもない、アヽア、嬉しかつた嬉しかつた』 婆(黒姫)『オイ、音、何をお前は惚けて居るのだい、チツト確りしなさらぬか、戸を開けて外を見なさい、沢山の耄碌がやつて来て今此黒姫の舌鋒に刺されて、ウラナイ教に帰順せむとする準備の最中だ、サアサア勘公も起きたり起きたり』 婆はノソリノソリと小屋を立ち出で、 婆(黒姫)『ヤア誰かと思へば青彦も其処に居るのか、コレヤ、マア如何したのだ、何時の間に三五教に這入りよつたのだ、宣伝使の服が変つて居るぢやないか、サア早く脱ぎ捨ててウラナイ教の教服と更へるのだよ』 青彦『これはこれは黒姫先生、憚り乍ら今日の青彦は最早百日前の青彦とは趣が違つて居ますから、その積りで物を言つて貰ひませぬと、某聊か迷惑の至りだよ』 婆(黒姫)『オホヽヽヽ、猫の眼の玉の様に、能う変る灰猫野郎だな、そこに居る女宣伝使は此間来た悦子姫と言ふ破れ宣伝使だらう、ソンナ者に従いて歩いて何になるか、チツトお前も物の道理を考へて利害得失を弁へたが宜からうぞ、オホヽヽヽ』 勘公『皆さま、ソンナ処へ腰掛けて居らずに、トツトとお這入りなさいませ、内はホラホラ外はスウスウぢや、随分広い間がありますよ』 婆(黒姫)『コレヤ、勘公よ、能う勘考してものを言はぬかい、主人の黒姫にも応へずに僕の分際として勝手にお這入り下さいとはソレヤ何を言ふのか、アンナ者を一緒に入れたら丸で爆弾を詰めた様なものぢや、何処から破裂致すやら分つたものぢやないぞ』 勘公『爆弾でも何でも宜いぢやありませぬか、先方の爆弾をソツと此方へ占領して使ふのが妙案奇策、敵の糧を以て敵を制する六韜三略の兵法で御座る、アハヽヽヽ』 婆(黒姫)『お前の兵法は矢張屁の様な物だ、匂ひも無ければ音もこたへず、音公と同じ様な掴まへ所の無い人三化七ぢや』 音公『これこれ、黒姫のチヤアチヤアさま、音公の様な者とは、ソレヤ何を証拠に言ふのだ、チヤアチヤア吐すと量見せぬぞ、世界一目に見え透く竜宮の乙姫ぢやぞと、明けても暮れても口癖の様に自慢して居るが、現在足許に居る此音さまを誰だと思つて居るのか、明き盲目だな、三五教の宣伝使音彦司とは此方の事だぞ』 婆(黒姫)『音に名高い音彦の宣伝使と言ふのはお前の事か、オツト、ドツコイ、音に聞いた程も無い見劣りした腰抜け野郎だ、水の中でおとした屁の様な男(音公)だな、斯ンなガラクタ男が三五教の宣伝使だなぞと本当におとましい哩、生るる時に母親の腹の中で肝腎な、目に見えぬものをおとして来た様な間抜けた顔付をしよつて、宣伝使の何のつて、雪隠虫が聞いて呆れますぞえ、宣伝使ぢや無うて雪隠虫ぢやらう、オホヽヽヽ』 音彦『エー、仕方のない剛情な婆ばかりウラナイ教には寄つて居やがるな』 婆(黒姫)『きまつた事ぢや、お前も余つ程の馬鹿人足だな、今頃に瘧が落ちた様な顔しよつて、「剛情な奴ばかりウラナイ教は寄つて居やがるな」なぞとソンナ迂い気の利かぬ事でウラナイ教の間者に這入つたつて何が成功するものか、此黒姫は此奴一癖ある間抜けだと思つて、知らぬ顔で居れば良い気になりよつて何を言ふのだ、貴様の面を見い、世界一の大馬鹿者、三五教の腰抜け野郎と貴様の寝てる間に此黒姫司が墨黒々と書いて置いた、それも知らずに偉相に言ふな、鍋の尻の様な面になりよつて、お前も余つ程くろう好きぢやと見える、「心からとて吾郷離れ、知らぬ他国で苦労する」とはお前の様な馬鹿者の境遇を剔抉して余蘊なしだ、ホヽヽヽ、それに付けても青彦の奴、何の態ぢや、日蔭に育つた瓢箪の様な面をして結構なウラナイ教の神様に屁をかがしたか、かかさぬか、…………ド拍子の抜けたシヤツ面を此寒空に曝し、瑞の霊と言ふ冷たい名の付いた奴の教を有難相に聞きよつて、蒟蒻の化物の様にビリビリ慄ひ歩く地震の化物奴、チツと胸に手を当てて自身の心を考へて見よ』 青彦『大きに憚り様、何うせ青彦と黒姫は名からして色彩が違ふから反が合ませぬ哩。黒い黒い顔に石灰釜の鼬見たように、ドツサリと白粉をコテコテ塗りたて、丸で此処にある焼杭木に雪が積つた様なものだ。五十の尻を作りよつて白髪を染めたり、顔を塗つたりしたつて皺は隠れはせぬぞ、若い者の真似をして若相に見せ様と思つても雪隠の洪水で糞浮きぢや、汚いばかりぢや、良い加減に改心せぬかい』 婆(黒姫)『俺が顔に白粉をつけて居るのが何が可笑しい、何事も隅から隅まで前にも気をつけおしろいにも手を廻して抜目の無い教と言ふ印に白粉をつけて居るのだ、貴様は尾白い狐に魅まれよつてウロウロとうろついてるのだな、娑婆幽霊の死損なひ奴が』 青彦『娑婆幽霊の死損なひとは貴様の事だよ、人生は僅か五十年、五十の坂を越えよつて白粉をつけて俏した処で地獄の鬼は惚れては呉れはせぬぞ、三途川の鬼婆の姉妹と取り違へられて、冥土に行つても又大々的排斥をせらるるのは判を捺した様なものだ、本当に困つた婆だな、執着心の強い粘着の深い、着いたら離れぬと言ふ牛蝨の様な代物だ、如何ぞして結構な三五教に救うてやり度いと思つて居るのだが、もう斯うなりては駄目かな、耳は蛸になり目は木の節穴の様に硬化して仕舞ひ、口ばつかり無病健全と言ふ代物だから、如何しても見込みがつかぬ哩』 婆(黒姫)『エー、ツベコベと世迷ひ言を能う囀る男だ、初めには三五教が結構だと言つて涙を零し、洟まで垂らして有難がり、次には三五教は薩張り駄目だ、瑞の霊の不可解な行動が腑に落ちぬ、もうもう愛想がつきた、三五教のあの字を聞いても胸が悪いと言ひよつて、此黒姫の紹介でウラナイ教にヤツと拾ひ上げ、もう何うなり斯うなり一人歩きが出来る様になつたと思へば又もや変心病を出しよつて、「矢張りウラナイ教は駄目だ、先の嬶は嘘はつかぬ哩、三五教の御神力が強い」と、萍の様な心になつて、風が東から吹けば西に漂ひ、西から吹けば東の岸に漂着すると言ふ漂着者だ、ソンナ事で神様の御蔭が貰へるか、終始一貫、不変不動、岩をも射抜く梓弓、行きて帰らぬ強き信仰を以て神に仕ふるのが万物の霊長たる人間の意気だよ、能うフラフラと変る瓢六玉だ、アヽ可憐相な者だ、ヤア哀なものだなア、オホヽヽヽ』 青彦『何を言ひよるのだ、コラ黒姫、貴様だつて三五教は結構だ、広い世界にコンナ誠の教があらうかと言ひよつて、今迄信じて居たバラモン教を弊履を捨つるが如く念頭より放棄し、今又ウラナイ教の高姫の参謀になりよつたと思つて、偉相な事を言ふない。お猿の尻笑ひと言ふのは貴様の事ぢや、オヽそれそれ猿で思ひ出した、猿と言ふ奴はかく事の上手な奴ぢや、貴様は高姫の筆先だとか、何とか折れ釘の行列の様な、柿のへたの様なものを毎日、日にち写しよつて、それを唯一の武器と恃み、鬼の首を篦でかき切つた様な心持になつて、世界中の誠の信者の信仰をかき廻すと言ふ、さるとはさるとは困つた代物だよ、猿が餅搗くお亀がまぜると言ふ事がある、コラ猿婆貴様の舌端に火を吐いて言向け和した信者の持ち場を、青彦の宣伝使が之からかき廻すのだから、マアマア精出して活動するが良い哩、貴様は三五教の先走りだ、イヤ、もう御苦労のお役だ、霊魂の因縁に依つて悪の御用に廻されたと思へば寧ろお気の毒に堪へぬワイ、アヽ惟神霊幸倍坐世、叶はぬから霊幸倍坐世、アハヽヽヽ』 (大正一一・四・一六旧三・二〇北村隆光録)
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(1721)
霊界物語 18_巳_丹波物語3 玉照姫の誕生 10 赤面黒面 第一〇章赤面黒面〔六三八〕 谷川に禊を済まして、梅公一行は再び地底の館に帰り来たり、 梅公『高山彦様、黒姫様、お蔭で大江山の悪霊も、スツカリ退散致しました。そこら中が何ともなしに軽くなつた様で、明晰な頭脳が益々明晰になり、モウ是れで大宇宙の根本が、現界、神界、幽界の、万事万端手に取る如く明瞭に、梅が心鏡に映ずる様になつて来ました。随分御禊と云ふものは結構なものですなア』 黒姫『さうだろさうだろ、何時もそれぢやから、朝と晩と昼と、間さへあれば、お水を頂きなさいと云うとるのぢや。火と水とお土の御恩が第一ぢや。何時も水を被るのは、蛙の行ぢやと言つてブツブツ叱言を云つてらつしやるが、今日は合点がいつただらう』 梅公『ヤアもう徹底的に分りました。有難い事には、日の出神様と竜宮の乙姫さまが私の肉体にお懸り下さいまして、結構で御座いました』 黒姫『これこれ梅公、何と云ふ傲慢不遜な事を言ひなさる。日の出神様は、誠水晶の生粋の根本の元の身魂でなければお憑りなさらず、又竜宮の乙姫さまは、因縁の身魂でなければ、誰にも、彼れにもお憑りなさる筈がない。「昔から神はものを言はなンだぞよ。世の変り目に神が憑りて、世界の人に何かの事を知らせねばならぬから、因縁の身魂に神が憑りて、世界の初まりの事から、行末の事、身魂の因縁性来を細かう説いて聞かして、世界の人民を改心さすぞよ。稲荷位は誰にも憑るが、誠の大神は禰宜や巫子には憑らぬぞよ」と変性男子の身魂が仰有つて御座る。それに何ぞや、下司の身魂にソンナ結構な神様が憑りなさる筈があるものか。日の出神の生宮が、さう二つもあつたり、竜宮の乙姫さまの生宮が、さう彼方にも此方にも出来て堪るものか。お前は一寸良いと直によい気になつて、慢心をするなり、一寸叱られると、直に青くなつてビシヨビシヨとして了ふ。それと云ふのも、モ一つ腹帯が締つて居らぬからぢや。身魂相応の御用をさされるのぢやから、慢心をし、高上りをしてブチヤダレヌ様にしなされや、灯台下はまつ暗がり、自分の顔の墨は分るまい。空向いて世の中を歩かうと思へば、高い石に躓いて、逆トンボリを打たねばならぬぞよ。開いた口がすぼまらぬ様なことのない様に、各自に心得たが宜いぞ』 梅公『ヤア承知致しました。併し乍ら、臨時御降臨遊ばしたのだから仕方がありませぬ』 黒姫『そら何を云ひなさる。神憑には公憑、私憑と二つの種類がある。其中でも私憑と云ふのは、因縁の身魂丈によりお憑りなさらぬと云う事ぢや。国治立命は変性男子の肉体、日の出神は系統の肉体、竜宮の乙姫は又その系統の肉体と、チヤンと定つて居るのぢや。公憑と云うて、上の方の身魂にも、中の身魂にも、下の身魂にも臨機応変に憑ると云ふ様な、ソンナ自堕落な神さまとは違ひまつせ。竜宮の乙姫さまを、何と思うて居りなさる。チツトお筆先でも拝読きなさい。お筆さへ腹へ締め込みておきたら、目前の時に、ドンナ神力でも与へて下さる。兎角お前達は、字が悪いとか、読み難いとか、クドイとか、首尾一貫せぬとか、肉体が混つとるとか、ここは神諭ぢや、此点は人諭ぢやと、屁理屈ばつかり仰有るから、サツパリ訳が分らぬ様になつて了うのだ。日の出神の生宮のお書き遊ばしたお筆先を審神したり、しやうとするから間違ふのだ。是れから、絶対に有難いと思うていただきなさい』 梅公『私はお道を開く因縁の身魂ぢやありませぬか』 黒姫『きまつた事ぢや。因縁なくて、此結構なウラナイ教へ来られるものか』 梅公『因縁の身魂の中でも、私は最も因縁の深いものでせう。高姫さまは高天原に因縁のある名ぢやし、黒姫さまは、くろうの固まりの花が咲くとお筆先に因縁があるなり、私は三千世界一度に開く梅の花と云ふ、変性男子の初発のお筆先に出て居る因縁の名ぢやありませぬか。何と云つても梅は梅、一度に開く役は梅公の守護神のお役でせう』 黒姫『此広い世界に、梅の名のつくのは、お前ばつかりぢやないわいな』 梅公『それでも、今あなた、因縁の身魂ばつかり引き寄せて有ると仰有つたぢやありませぬか。ウラナイ教へ引寄せられた人間の中に、梅の名の付いた者が、一人でもありますか。松で治めると云ふ、松に因縁のある松姫さまは、高城山であの通り羽振りを利かし、なぜ此梅公は、さうあなたから軽蔑されるのでせう』 黒姫『もうチツと修業しなされ。さうしたら又、松姫と肩を並べる様にならうも知れぬ。併し今日は初めて綾彦、お民に、宣伝を、竜宮の乙姫の肉体が、直接にしてあげるから、お前もシツカリ聴きなされ。そして此肉体の宣伝振をよく腹へ締め込みて、世界を誠で開くのぢやぞえ』 梅公『それは有難う御座います。吾々も傍聴の栄を得まして……』 黒姫『コレコレあまり喋るものぢやない……男だてら……口は禍の門ぢや。黙つて謹聴しなさい』 と押へつけ乍ら、少し曲つた腰付をして底太い声を張上げ歌ひ始めたり。 黒姫『昔の昔その昔遠き神代の初めより 国治立の大神は千座の置戸を負ひ給ひ 世を艮に隠れまし三千年の其間 苦労艱難遊ばして此世を永久に開かむと 種々雑多と身をやつし蔭の守護を遊ばされ ミロクの御代を待ち給ふ時節参りて煎豆に 花咲く御代となりかはり変性男子の御身魂 道具に使ふて昔から末の末まで見通され 尊きお筆を出しまし世に落ちぶれた神々を 今度一緒に世にあげてそれぞれお名を賜ひつつ 神の御用に立て給ふ時節来たのを竜宮の 乙姫様は活溌な御察しの良い神故に 今まで生命と蓄へた金銀、珠玉、珊瑚珠も 残らず宝投げ出して大神様へ献つり 穢ない心をスツパリと海へ流して因縁の 身魂と現れし黒姫を神政成就の機関とし 現はれ給うた尊さよ今まで竜宮の乙姫の 醜しかつた御霊丈系統の身魂に憑られて 懺悔遊ばし一番に改心なされた利巧者 三千世界の世に落ちた神々さまは竜宮の 乙姫さまを手本とし力一杯身魂をば 磨いて今度の御大謨にお役に立つた其上で それぞれお名を頂いて結構な神と祀られる 三千世界の梅の花一度に開くと云ふ事は 永らく海の底の底お住居なされた竜宮さま 肉のお宮にをさまりて広い世界の民草に 誠一つのお仕組を現はしなさるお働き 日の出の神と引つ添うて今度の御用の地となり 神の大望成就させ天にまします三体の 大神様へ地の世界斯うなりましたとお目にかけ お手柄遊ばす仕組ぞや此お仕組は三五の 神の教を厳御霊変性男子の筆先に くまめる様に書いてある其筆先の読み様が 足らぬ盲のミヅ御霊変性女子が混ぜ返し 蛙の行列向ふミヅ瑞の御霊と偉相に 日の出神の筆先を何ぢや彼ンぢやとケチをつけ 黒姫までも馬鹿にするされ共此方はどこまでも 耐り耐りて出て来たが余り何時まで分らねば 是非に及ばず帳を切り悪の鑑と現はして 万劫末代書き残す変性男子は唯一人 変性女子も亦一人それに何ぞや三つ御霊 三つもあつてたまるかい此事からが間違ひぢや 変性男子は経の役変性女子は緯の役 経と緯とを和合させ錦の機を織る仕組 日の出神が地となりて竜宮様のお手伝ひ 今度一番御出世を遊ばす事を知らないか 必ず必ず三五の緯の教に迷ふなよ 経が七分に緯三分これでなければ立派なる 誠の機は織れないに三五教の大本は 次第々々に紊れ来て経が三分に緯七分 変性男子は先走り変性女子は弥勒さま 何ぢや彼ンぢやと身勝手な理屈を並べて煙に巻く 此儘棄てて置いたなら変性男子の永年の 艱難苦労も水の泡水の泡にはさせまいと 系統の身魂を選り抜いて日の出神が現はれて 誠の筆先書きしるし一度読めよと勧むれど 変性女子の頑固者どうして此れが読まれよかと 声を荒立て投げつけるそれ程厭なら読までよい 後で吠面かわくなと言うて聞かしてやつたれど 訳の分らぬ頑固者神の恵を仇に取り 何ほど親切尽してもモウこの上は助けやうが 無いと悔みて高姫が何時も涙をポロポロと 零して御座るお慈悲心それに続いて分らぬは 金勝要の大御神この肉体もド渋とい まだまだ渋とい奴がある仮令大地は沈むとも 生命の綱が切れるとも日の出神の筆先は 当にならぬと撥ねつける木の花姫の生宮と 嘘か本真か知らねども現はれ出でた男女郎 火が蛇になろがどうしようが改心させねば置くものか 縦から横から八方から探女醜女を遣はして いろいろ骨を折るけれど固より愚鈍な生れつき 石の地蔵に打向ひ説教するよな塩梅で どしても聞かうと致さない木の花姫の肉体を 改心させねば何時までも神の仕組は成就せぬ ウラナイ教も栄やせぬサア是れからは黒姫の 指図に従ひ身をやつし千変万化に活動し 一日も早く因縁の身魂を改心さす様に 祈つて呉れよ黒姫もこれから百日百夜は 剣尖山の谷川の産のお水で身を清め 一心不乱に祈念するアヽ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と汗をブルブルに掻き、身体一面ポーツポーツと湯気を立て、 黒姫『アーア苦しいこと。……世界の人民を助けようと思へば、並大抵ぢやない、変性男子や高姫さまの御苦労が身に浸みて、おいとしう御座るわいの、オンオンオン』 と泣き崩れる。 これより黒姫は、百日百夜、宮川の滝に水行をなし、高山彦の懇望もだし難く、一旦数多の信徒を宣伝使に仕立てて、自転倒島の東西南北に間配り置き、手に手を把つて、フサの国へ渡り、高姫の身許に着きける。高姫は三五教の勢力侮り難きを黒姫より聞き、黒姫を北山村の本山に残し置き、自らは二三の弟子と共に、自転倒島に渡り、再び魔窟ケ原に現はれ、衣懸松の下にて庵を結び、三五教覆滅の根拠地を作らむとして居たのである。又もやそれより由良の湊の人子の司、秋山彦が館に於て、冠島、沓島の宝庫の鍵を盗り、遂には如意宝珠の玉を呑み、空中に白煙となりて再び逃げ帰りしが、それと行違に黒姫は、又もや魔窟ケ原に現はれ、草庵の焼跡に新に庵を結び、前年高姫と共に築き置きたる地底の大岩窟に居を定め、極力宣伝に従事して居たりしなり。然るに黒姫の部下に仕ふる夏彦、常彦、其他の弟子共は、フサの国より扈従し来り乍ら、少しも黒姫に夫ある事を知らざりける。黒姫は独身主義を高唱し、盛ンに宣伝をして居た手前、今更夫ありとは打明け兼ね、私に高姫に通じて、神界の都合と称し、始めて夫を持つた如く装ひける。高山彦の表面入婿として来るや、以前の事情を知らざりし弟子達は、黒姫の此行動に慊らず、遂にウラナイ教を脱退するに至りたるなり。夏彦、常彦以下の主なる者は、此時高城山に立籠り、東南地方を宣伝し居たれば、梅、浅、幾などの計らひに依りて、新に入信したる綾彦の事は少しも知らざりける。また高城山の松姫が侍女として仕へ居るお民の素性も、気が付かず、唯普通の信者とのみ思ひて取扱ひ居たりしなり。黒姫は又もや剣尖山の麓を流るる宮川に、綾彦外一人を伴ひ、禊の最中、紫姫、青彦の一行に出会し、青彦が再びウラナイ教に復帰せしと聞き、喜び勇みて、この岩窟に意気揚々として帰り来たりしなり。 ○ 黒姫『サアサアこれが妾の仮の出張所だ。大江山の悪魔防ぎに地下室を拵へて有るのだから、這入つて下さいませ。……青彦、お前は勝手をよく知つてる筈ぢや。どうぞ皆さまを叮嚀に案内をしてあげて下さいな』 鹿公『ヤアこれは又奇妙なお住居ですな、三五教の反対で、穴有教だなア、ヤア結構結構、穴有難や穴たふとやだ』 と一人々々、ゾロゾロと辷り込む。 黒姫『モシモシ高山彦さま、極道息子が帰つて来ました。どうぞ勘当を赦してやつて下さい』 高山彦『ヤアお前の常々喧しう言つて居つた……これが青彦だらう』 青彦『ハイ始めてお目にかかります。どうぞ宜しう御願ひ致します』 高山彦『ハイハイ、もう是れからは、あまりグラつかぬ様にして下さい』 青彦『決して決して、御心配下さいますな』 高山彦『ヤアなンと綺麗な娘さまがお出になつたぢやないか』 青彦『此お方は由緒ある都の方で御座いますが、お伊勢様へ御参拝の折、黒姫様の言霊を聞いて、大変感心遊ばし、「どうぞ妾も入信が致したう御座いますから、青彦さま、頼みて下さいな」ナンテ、それはそれはお優しい口許でお頼みになりました。私もコンナ綺麗な方が、男ばつかりの所へお出になつては、嘸御迷惑だらうと思ひましたけれども、折角のお頼み、無下に断る訳にもゆかず、黒姫様に御取次致しました。黒姫さまは二つ返辞で承知して下さいました』 紫姫『ホヽヽヽヽ』 と袖に顔を隠す。 黒姫『コレ青彦、チツと違つては居らぬかな』 青彦『アーさうでしたかなア。あまり嬉しかつたので、精神錯乱致しました。どうぞ見直し聞直しを願ひます』 黒姫『青彦お前は久振で親の家へ帰つたのだから、気を許して奥でゆつくりと寝なされ、今は新顔ばつかりで、お前の知つて居る者は、みなフサの国の本山へ往つたり、高城山へ行つて居る、馴染がなくて寂しいだらうが、気の良い者ばつかりだから、気兼なしにユツクリと休まつしやい。馬公鹿公も、トツトとお休み、又明日になつたら結構な話を聞かしてあげる。……サテ紫姫さまとやら、あなたは三五教の宣伝使におなりになつたのは、何を感じてですかなア。何か一つの動機がなければ、あなたの様な賢明な淑女が、あの様な瑞の御霊の混ぜ返し教に入信なさる道理がない。みな奥へ行つて睡眼みて了つたから、誰も聞く者もないから、遠慮なしに話して下さいな』 紫姫『ハイ有難う御座います、別に是れと云ふ動機も御座いませぬ。国家の為社会の為に舎身的の活動をなさる瑞の御霊の大神さまに同情を表しまして、つい何とはなしに宣伝使になりました』 黒姫『それはそれは結構な事だ。身魂の因縁がなくては、到底尊い宣伝使にはなれませぬ。三五教もウラナイ教も、みな変性男子、変性女子と、経と緯との身魂が現はれて錦の機の仕組をなさるのぢやが、併し乍ら、素盞嗚尊は天の岩戸を閉めるお役で、大神様が、此世の乱れた行方がさしてあると仰有る。ナンボ神様の仰有る事でも……これ丈乱れた世の中を、治める事を措いて、乱れた方の御守護をしられて堪りますか。そこで吾々は元は三五教の熱心な取次だが、今では変性女子の行方に愛想をつかし、已むを得ず、ウラナイ教と名をつけて、神様の御用をして居りますのぢや。同じ事なら三五教の名が附けたいけれど、高姫や黒姫は、支部ぢやとか、隠居ぢやとか言はれるのが癪に障るので、已むを得ず結構な結構なウラル教の「ウラ」の二字を取り、アナナイ教の「ナイ」の二字をとつて、表ばつかり、裏鬼門金神の変性女子の教は一寸も無いと云ふ、生粋の日本魂のウラナイ教ぢや。お前も、同じ宣伝使になるのなら、喰はせものの三五教を廃めてウラナイ教になりなされ。あなたのお得ぢや。否々天下の為ぢや』 紫姫『素盞嗚尊さまは、それ程悪いお方で御座いますか。世界万民の為に千座の置戸を負うて、世界の悪を一身に引受け、人民の悪い事は、みな吾が悪いのぢやと言つて、犠牲になつて下さる神さまぢや有りませぬか』 黒姫『それはさうぢやけれども、モ一つ我が強うて改心が出来ぬものぢやから、神界のお仕組が成就しませぬ。何と言うても、高天原から、手足の爪まで抜かれて、おつ放り出される様な神ぢやから、大抵云はいでも分つとる。お前も能う胸に手を当てて御思案なさいませ』 紫姫『ウラナイ教には、ちツとも……仰有る通り裏がないので御座いますか』 黒姫『勿論の事、見えた向きの、正真正銘、併し乍ら、神様のお仕組は奥が深いからなア、一寸やそつとに、人間の理屈位では分りませぬ。マアマア暫く絶対服従で信神して見なさい。御神徳が段々分つて来るから』 斯く話す折しも、慌ただしく走り帰つた二人の男。 黒姫『ヤアお前は滝と板とぢやないか』 滝公、板公『ハイ左様で御座います』 黒姫『昨日から此処を飛び出した限り、どこをウロウロ迂路ついとつたのだい』 滝公『ハイ昨日遅がけに、一人の女が通りましただらう。それをあなたが捉まへて来いと仰有つたものだから、此奴ア又、梅公の故智に倣つて、一つ大手柄を現はし、あの女を入信させてやるか、あまり諾かねば、何れ三五教の奴だから、叩き潰してやらうかと思うて、あなたの御命令で追ひかけて行きました』 黒姫『誰が叩き潰せと言つたのか。丹波村のお節に違ひないから、捉まへて来いと言つたのだ、そして其お節を如何したのぢやい』 滝公『板公と二人、尻引き捲つて……お節は走る、二人は追ひかける、船岡山の手前までやつて来ると、日は暮れかける。お節は石に躓きパタリと倒れたので、其間に追ひつき、無理無体に手足を括り、暗の林に連れ往つて、グツと縛りつけ、猿轡を箝ませ、再び姿を改ため、……コレコレどこのお女中か知らぬが、コンナ所に悪者に括られて可愛想に……と云つて助けてやる。さうすれば如何なお節もウラナイ教の親切に感じて、三五教を思ひ切るだらう……と思ひまして、一寸智慧を出しました。さうした所が、お前さまがやつて来て、種々と仰有るものだから、暗がり乍ら御案内しました。……あなた覚えが御座いませう……忽ちお節は息が切れ、厭らしい声を出して、化けて出よつた、其途端に私は尻餅を搗いて、暗さは暗し、傍の谷川へサクナダリに落ち滝つ、腰イタツ磐根に打据ゑて、それはそれは酷い目に遭ひました。暫くは気を取り失うて、半死になつて了ひ、苦みて居るのに、あなたは側へ来て居り乍ら私を見殺しにして帰りなさつたぢやないか。何時も人を助ける助けると仰有るが、アンナ時に助けて貰はねば、常に御大将と仰いで居る甲斐がありませぬワ』 黒姫『そら何を云うのだ、妾が何故ソンナ所へ行く必要があるか、又何とした乱暴な事をするのだい。ソンナ事がウラナイ教の教にありますか。モウ今日限り、破門するツ、サア出て行け出て行け』 滝公『悪人は悪人とせず、鬼でも、蛇でも、餓鬼虫けらでも助けるのが、ウラナイ教ぢや有りませぬか。出て行けとはチツと聞えませぬワ』 黒姫『モシ紫姫さま、斯う云ふ取違する者がチヨコチヨコ出来ますので、誠に困ります。併し乍ら、コンナ者ばつかりぢや御座いませぬ。これは大勢の中でも、選りに選つて一番悪い奴で御座います。そして又入信してから、幾らもならぬものですから、つい脱線をしましてナ』 板公『モシモシ黒姫さま、余り甚いぢやありませぬか、私が悪人なら、モツとモツと大悪人が沢山居りますで……綾彦だつて、お民だつて、改心さしたのは、あなた知らぬか知らぬが、それはそれは大変な酷い事をやつて入信させたのだ。私も兄弟子の兵法を倣つて巧くやらうと思つたのが当が外れた丈のものですよ、あれ程喧しう下の者が噂をして居るのに、あなたの耳へ這入らぬ筈はない、一年からになるのに、世界が見え透くと云ふあなたが、知つとらぬとは言はれませぬ。腹の底を叩けば、「権謀術数的手段は用ゐるな。併し俺の知らぬ所では都合よく行れ、勝手たるべし」と云ふ、あなたの御精神でせう』 滝公『ソンナこたア、言はなくても定まつて居るワイ。あれ程、神の取次する者は、独身でなければ可かぬと仰有つた黒姫さまでさへも、ヤツパリ言うた事をケロリと忘れて因縁だとか、御都合だとか理屈を附けて、ハズバンドを持たつしやるのだもの、言ふ丈野暮だよ』 黒姫『何を言ふのだ。早う出て下さい』 滝公『都合が悪うおますかなア……初めての入信者の前ですから、成るべくは、コンナ内幕話は言ひたくはありませぬが、お前さまが今日から除名すると仰有つた以上は、今迄の師匠でもなければ、弟子でもない。力一杯奮戦して、どこまでも素破抜きませうか』 黒姫は唇を震はし、目を逆立て、クウクウ歯を喰ひしばつて、怒つて居る。 滝公『モシ黒姫さま、怒る勿れ……と云ふ事がありますなア。怒つて居るのぢやありませぬか。チツと笑ひなされ』 黒姫『ウームウーム』 と歯を喰ひしばり、目を剥いて居る。 紫姫『これはこれは滝さまとやら、板さまとやら、良い加減にお静まりなさいませ。夜前あなたがお節さまを悩めて御座る所を、妾外三人の者がよく見て居りました。黒姫さまは決してお出でぢやありませぬ。妾の連の鹿と云ふ男が黒姫さまの……暗を幸ひ……声色を使つたのですよ。それに黒姫さまがお出でになつたなぞと仰有つてはお気の毒ですワ、お節さまはこの奥へ来て、スヤスヤ寝みてゐらつしやいますよ』 滝公、板公『エー何と仰有る、お節さまが……そいちやア大変だ』 紫姫『さう御心配なされますな、青彦さまも見えて居ります』 滝公『ヤアうつかりして居ると、ドンナ目に合ふか分らぬぞ。仇討に……岩窟退治に来よつたのだなア。……オイ板公、黒姫さまはどうでも良い。生命あつての物種だ、見付からぬ間に、一刻も早く此場を退却だ』 と滝は駆出す。板も続いて、 板公『オイ合点だ』 と後を追ふ。黒姫は、 黒姫『オイこれこれ、滝公、板公、待つた待つた、言ひたい事がある』 滝板の両人は、岩穴の外から内を覗いて、 滝公、板公『黒姫さま、左様なら、ゆつくりと、青彦やお節に、脂を搾られなさつたが宜からう、アバヨ、アハヽヽヽ、ウフヽヽヽ』 と云つた限り、何処ともなく……それ限りウラナイ教には姿を見せなくなりにけり。 紫姫は気の毒がり、 紫姫『モシモシ黒姫さま、お腹が立ちませうが、若い人の仰有る事、どうぞ宥して上げて下さいませ、……イヤもう人を使へば苦を使ふと申しまして、御苦心の程、お察し申します』 黒姫『これはこれは、ご親切によう言うて下さいました。無茶ばつかり申しまして困ります。これと言ふのも、決して決して、滝や板が申すのぢや御座いませぬ。又さう云ふ様な悪い事をする男ぢや有りませぬが、素盞嗚尊の悪神の眷属が憑つて、吾々を苦めやうと思うて、アンナ事を言つたり、したりするのです。チツとも油断はなりませぬ。悪神に使はれた、滝公板公こそ不憫な者で御座います、オンオンオン』 と泣き真似をする。 紫姫『黒姫さま、モウお休みなさいましたらどうでせう。大分夜も更けた様です』 黒姫『ハイ有難う、ソンナラお先へ御免蒙りませう。明日又ゆつくりと、根本のお話を聴いて貰ひませう』 紫姫『ハイ有難う』 と互に寝に就きにける。 (大正一一・四・二六旧三・三〇松村真澄録)
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霊界物語 18_巳_丹波物語3 玉照姫の誕生 14 蛸の揚壺 第一四章蛸の揚壺〔六四二〕 魔窟ケ原の地下室に、ウラナイ教の双壁と己も許し人も許した、素人離れのした黒姫が、高山彦と睦じさうに晩酌をグビリグビリとやつて居る。 黒姫『コレ高山さま、時節は待たねばならぬものだなア。お前と偕老同穴の契を結び乍ら、枯木寒巌に依つて、三冬暖気無しと云ふやうな、没分暁漢の部下の宣伝使や信者の動揺を恐れて気兼ねをして、貴方をフサの国の本山に、私はこの自転倒島へ渡つて、神様の為にお道の為に、所在最善の努力を尽し、一生懸命に宣伝して来たが、何を云つても追ひ追ひと年は寄る、無常迅速の感に打たれて、何処とも無く心淋しく、どうぞ晴れて夫婦と名乗つて暮したいと思つて居たが、これ迄独身主義を高張して来た手前、今更掌を覆したやうな所作もならず、本当に空行く雲を眺めて雁がねの便りもがなと、明け暮れ涙に暮れた事は幾度あつたでせう、然し乍ら何程お国の為お道の為だといつても、自分に取つて一生の快楽を犠牲にしてまで、痩せ我慢をはつて居つても、こいつは駄目だ。初めの内は、黒姫は偉いものだ、言行一致だといつて褒めて呉れよつたが、終ひには神様の御取次ぎする者は、女だつて独身生活するのは当然だ。何感心する事があるものか。あれや大方、どつか身体の一部に欠陥があるので、負惜みを出して独身生活をやつて居るのだ……何ぞと云ふ者が出来て来た。エヽ、アタ阿呆らしい。これだけ辛抱して居つても悪く言はれるのなら、持ちたい夫を持つて、公然とやつた方が、何程ましか知れないと、いよいよ決行して見たが、初めの内は夏彦、常彦をはじめ、頑固連が追々脱退し、聊か面喰つたが、案じるより生むが易いといつて、何時の間にやら、私と貴方の結婚問題も信者の話頭に上らなくなり、この頃はソロソロと、青彦やお節、おまけに紫姫といふ様な、賢明な淑女迄が帰順したり、入信したり、実に結構な機運に向つて来たものだ。これからは高山さま、もう一寸も遠慮はいらないから、私ばかりに命令をささずに、あなたは天晴れ黒姫の夫として、権利を振うて下さいねエ』 高山彦『アヽさうだなア、待てば海路の風が吹くとやら、時の力位、結構なものの恐ろしいものは無いなア』 黒姫『時に寅若、富彦、菊若の三人は、ここを出てから四五日にもなるに、まだ帰つて来ない。何か道で変つた事でも出来たのではあるまいか。何だか気にかかつて仕方が無いワ』 高山彦『そう心配するものでも無い。何事も時節の力だ』 かく言ふ折しも、ソツと岩の戸を開けて辷り込んだ三人の男、 黒姫『アヽ、噂をすれば影とやら、寅若エロウ遅かつたぢやないか。首尾はどうだつたなナ』 寅若『ハイ、委細の様子は悠くりと、明日の朝でも申上げませう。ナア菊若、富彦、エライ目に遇うたぢやないか』 黒姫『お前達は、あまり遠い道でも無いのに、どうして御座つた。今日で七日目ぢやないか。何時も都合が良い時は、大きな声で門口から呶鳴つて帰つて来るが、今日はコソコソと細うなつて這入つて来たのは、余り結構な話しぢや有るまい、明日の朝申し上げるとは、そら何の事だ。此間から、日日毎日指折り数へて待つて居たのだ。サア早く実地の事を、包まず隠さず云ひなさいや』 寅若、頭をガシガシ掻き乍ら、言ひ難さうに、 寅若『あの、何で御座います。それはそれは、大変な事で、何とも彼とも、注進の仕方が有りませぬワイ。併し乍ら、物質的獲物は一寸時期尚早で、暫時機の熟するまで保留して置きましたが、霊的には大変な収獲がありました』 黒姫『又しても又しても、霊的の収獲と仰有るが、それはお前の慣用的辞令だ。もう霊的の収獲には、この黒姫もウンザリしました。ハツキリと成功だつたとか、不成功だつたとか、女王の前に陳述するのだよ』 と声を尖らせ、目を丸うして睨みつける。 三人は縮み上り、 三人『イヤもう、斯うなれば委細残らず言上いたします。紫雲棚引く東北の天、如何なる神の出現したまふやと、心を清め身を清め、途々宣伝歌を唱へながら、弥仙の山麓までやつて行つた。時しもあれ、噂に高き玉照姫の生母お玉の方は、吾々三人の威風に恐れてか、一生懸命に嬰児を背に、弥仙山に向つて雲を起し、雨を呼び、為に地は震ひ雷鳴轟き、山岳は一度に崩るる許りの大音響を発し、面を向く可からざる景色となつて来た。流石の寅若、富彦、菊若の三勇将も、暫し躊躇ふ折柄に、忽ちあなたの御霊や、高山彦の御霊が、吾々三人に憑依遊ばされ、勇気百倍して弥仙山目蒐けて驀地にかけ登り行く。時しもあれや、山の中腹より、現はれ出たる三五教の奴輩、各自に柄物を携へ、僅か三人の吾々の一隊に向つて攻めよせ来るその勢の凄じさ、されども黒姫さま、高山彦様の御霊の憑つた吾々三人、何条怯むべき。群がる敵に向つて電光石火、突撃攻撃、言霊の火花を散らして戦うたり。さはさり乍ら、此方は形許りの九寸五分、只一本あるのみ。群がる敵は数百千万の同勢、全山人を以て埋まり、如何に防ぎ戦うとも、遉黒姫様の御神力も是れには敵し兼ねたりと見え、吾々三人の肉体を自由自在にお使ひ遊ばされ、血路を開いてターターターと、滝水の落ちるが如く、一潟千里の勢にて、こなたに向つて予定の退却、鬼神も欺くその早業、勇ましかりける次第なり』 黒姫『コレ、富彦、寅若の今言つた通り、間違は無からうなア』 富彦『ヘーヘー、間違つて堪りますものか。あなたは常に吾々の身の上に、仁慈のお心をお注ぎ下さいまする、其一念が幸はひ給ひて、御分霊忽ち降下し給ひ、さしもの強敵に向つて、獅々奮迅の応戦をやつたのも、全くあなた様御両人の神徳の然らしむる処、万々一お両方の御霊の御守護無き時は、如何に吾々勇なりと雖も、忽ち木端微塵に粉砕されしは勿論のこと、然るに僅三人を以て、かく迄よく奮闘し、敵の胆を寒からしめたるは、形体上に於ては兎も角も、精神上に於て、敵を威嚇せしこと、幾何なるか計り知られませぬ。マアマア御喜び下さいませ』 黒姫『それは先づ結構であつた。併し、お玉に玉照姫は何うなつたのか』 富彦『オイ菊若、これからは貴様の番だ。確りと申し上げるのだぞ』 菊若『ハイハイ、申上げます。いやもう何のかのと云うた処で、向うはたつた女の一人』 黒姫『ナニ、女一人』 菊若『女一人と思ひきや、四辺の物蔭より来るワ来るワ、恰も蟻の宿替への如く、ゾロゾロゾロと此方へ向つて馳せ来る。三人は丹州の霊縛にかけられ、身体忽ち強直し』 黒姫『何、お前達三人が』 菊若『イエイエ、滅相な、丹州と云ふ奴、吾々三人を目蒐けて、霊縛を加へ強直させようとかかつた処、流石黒姫様、高山彦様の御威霊憑らせ給ふ吾々三人を如何ともするに由なく、敵は一生懸命死力を尽して押しよせ来る。吾々三人は、アヽ面白い面白いと、勇気百倍して、挑み戦はむとする折しも、吾々三人に憑り給うた御魂の命令、汝は一先づ引返し、時機を待つて捲土重来の準備をなすが得策なりと、流石神謀鬼略に富ませ給う黒姫様、高山彦様の御霊の命令もだし難く、みすみす敵を見捨て一目散に立帰つて候』 と言ひをはつて冷汗を拭く。 黒姫『コレコレ、私が馬鹿になつて聞いて居ればお前、それや何という法螺を吹くのだい。みな嘘だらう。一人か二人の木端武者に怖れて一目散に逃げ帰つたのだらう。そんなお前さん達の下司身魂に私の霊魂が憑つて堪るものか。馬鹿にしなさるな』 寅若『そんなら、あなたの名を騙つて、四足か何かが憑いたのでせうか』 富彦『そうかも知れぬよ。豊彦の爺が言つて居ただ無いか』 黒姫『それ見なさい。お前らは豊彦の家へ行つて尻を喰はされて、謝罪つて逃げて帰つたのだらう。エヽ仕方のない男だ。はるばる高山さまがフサの国から、選りに選つて連れて御座つたお前は大将株ぢやないか。そらまた何とした腰抜けだ』 寅若『何を云つてもフサの国なれば、地理をよく存じて居りますが、この自転倒島は地理不案内で、思うやうに戦闘も出来ず、さうして陽気が眠たいですから、思うやうな活動も、実際の事は出来なかつたのです。併し一遍失敗したつて、さう気なげをしたものぢやありませぬ。失敗毎に経験を重ね、遂には成功するものですから、マア今度の失敗は結局成功の門口ですなア』 黒姫『エヽ、おきなされ。敗軍の将は兵を語らずという事が有るぢやないか。余り大きな声で減らず口を叩くものぢや無い。奥へ這入つて麦飯なと、ドツサリ食つて休みなさい。折角機嫌よう飲んで居つた酒までさめて了つた。エヽ早く寝なさらぬか』 と長煙管が折れる程火鉢を叩く。三人は頭を抱へ、こそこそと奥に影を隠した。 黒姫『高山さま、もうお休みなさいませ。私は一寸綾彦に詮議をしたい事がありますからお前が側に居られると、ツイ臆めてよう言はないと困るから、私は女の事であり、やあはりと尋ねて見ますから、早く寝んで下さい』 高山彦『ハイハイ、お邪魔になりませう。さやうなればお先き御免を蒙りませう』 黒姫『記憶えて居らつしやい。貴方こそお邪魔になりませう。紫姫のお側へでも往つて、ゆつくりと夜明かしをなさいませ』 と、ツンとした顔をする。 高山彦『ハヽヽヽ、形勢頗る不隠と成つて来た。どれどれ雷の落ちぬ間に退却しよう、アヽ桑原桑原』 と捨台詞を残し、ノソリノソリと奥へ行く。 黒姫『高山さまはあゝ見えても、やつぱり可愛相な程正直な人だ。何処ともなしに、身魂にいいとこが有るワイ』 と肩を揺り、又もや長煙管に煙草をつぎ乍ら、 黒姫『綾彦綾彦』 と呼ぶ声に綾彦はこの場に現れ、両手をつき、 綾彦『今お呼びになりましたのは私で御座いましたか』 黒姫『アヽ左様ぢや左様ぢや、お前に折入つて尋ねたいと此間から思うて居たのぢやが、ここへ来てから大分になりますが、一体お前のお国許は何処ぢやな、色々と誰に尋ねさしても言ひなさらぬが、大方何処かで悪い事をして逃げて来たのだらう。それを体よう真名井さまへ詣つたなぞと、誤魔化しとるのだらう』 綾彦『イエイエ滅相もない、生れてから悪い事は、塵程もやつた覚えは有りませぬ』 黒姫『そんならお前の処は何処ぢや。虱でさへも生れ所は有るのに、滅多に天から降つたのでもあるまい。地の底から湧いて出たのでも有るまい。お父さまや、お母さまが有るだらう。処と親の名と聞かして下さい』 綾彦『これ許りはどうぞ赦して下さいませ』 黒姫『それ見たかな。矢張怪しい人ぢや。私は何処までも、言うて悪い事は秘密を守る、私丈に言ひなさらぬかいな』 綾彦『貴方様はいつも仰有る通り、世界中隅から隅まで見え透く、竜宮の乙姫の生宮ぢやありませぬか。そんな事お尋ねなさらないでも、遠の昔に何も彼も御存じの筈、煽動て下さいますな』 黒姫『ソラさうぢや。霊の方ではお前の身魂は何の身魂ぢや、昔の根本は何んな事をして居つた。また行く先は何う成ると云ふ事は、能く分つて居るが、肉体上の事は畑が違うから、聞いた方が便利がよい。こんな事を神さまに勿体なうて、御苦労かけずともお前に聞いた方が早いぢやないか。又お前も、これ丈長らく世話に成つて居ながら、何故生れた処を言はれぬのか』 と言葉に角を立て、長煙管で畳を二つ三つ叩いた。 綾彦『何と仰有つても、これ丈は申上げられませぬ。どうぞあなた、天眼通でお調べ下さいませ、私の口が一旦いかなる事があつても国処、親の名は言うで無いと、両親にいましめられ、決して生命にかかる様な事が有つても申しませぬと約束をして出た以上は、何処迄も申上げる事は出来ませぬ』 黒姫『ハヽヽヽ、お前は親に孝行な人ぢや。親の言葉をよく守つて、どうしてもいけぬと仰有るのは、実に感心ぢや。人間はさう無くては成らぬ。併し乍ら、お前はモ一つ大事の親を知つて居ますか。大方忘れたのだらう』 綾彦『私は親と云つたら、お父さまと、お母さまと二人より御座いませぬ。其上にま一つ大事の親とは、それや何の事で御座いますか』 黒姫『アーアー、お前も見た割とは愚鈍な人ぢやな。あれ程毎日日日、竜宮の乙姫さまのお筆先を読んで居つて、まだ判らぬのかいなア。自分の肉体を生んで呉れた親は仮の親ぢやぞい。吾々の霊魂、肉体の根本をお授け下さつた、天地の誠の親が有る事を、お前聞いて居るぢや無いか』 綾彦『ハイ、それはお筆先でお蔭をいただいて居ります』 黒姫『お前は、誠の親が大切か、肉体の親が大切か、どちらが大切か考へてみなされ』 綾彦『それは何方も大切で御座います』 黒姫『何方も大切な事は決つてゐるが、併し其中でも、重い軽いが有るだらう。僅か百年や二百年の肉体を生んで呉れた親が大切か、幾億万年と知れぬ身魂の生命を与へて万劫末代守つて下さる、慈悲深い神様が大切か、それが聞きたい』 綾彦『ハイ………』 黒姫『天地の根本の神様の生宮の私は、つまり大神様の代りぢや。何故親の云ふ事を聞いて私の云ふ事が聞けぬのかい。一寸信心の仕方が間違うて居やせぬか』 かかる処へ紫姫現はれ来り、 紫姫『今承はりますれば、大変に綾彦さまに、何かお尋ねのやうですが、何うぞ私に任して下さいませ。私が機を見て、綾彦さまに篤りと尋ねまして、お返事を致します』 黒姫『さよかさよか、どうぞ貴女、やあはりと問うて見て下さい。何分婆の言ふことは、気に入らぬと見えますワイ、綺麗な貴女のお尋ねなら、綾彦も惜気なく言ひませう』 紫姫『ホヽヽヽ、サア、綾彦さま、もうお寝みなさいませ。黒姫さま、夜も更けました、何卒御休息を』 黒姫『ハイハイ、早く寝て下さい』 紫姫『さやうなら』 紫姫は綾彦の手を引き、廊下伝ひに奥に入る。 黒姫は又もや疳声を出して、 黒姫『青彦青彦』 と呼び立ててゐる。 青彦は周章てて此の場に走り来り、 青彦『ハイ、何の御用で御座いましたか』 黒姫『青彦、お前もお節を高城山へやつて、さぞ淋しからう。心の裡は私もよく察して居る。本当にお気の毒ぢや。同情の涙は、いつも外へ零さずに、内へ流して居る』 と追従らしく言ふ。 青彦『何御用かと思へば、そんな事で御座いますか。イヤそんな事なら、御心配下さいますな、却て私は気楽で宜しう御座います』 黒姫『お前に折入つて尋ねたい事がある。外でも無いが、あの綾彦と云ふ男は、弥仙山の麓の、於与岐の村の豊彦と云ふ男の息子ぢやないか』 青彦『あなた、それが何うして分りましたか』 黒姫はしたり顔にて、 黒姫『そんな事が判らないで、竜宮の乙姫さまの生宮ぢやと言はれますかいな。蛇の道は矢張蛇だ。間違ひは有らうまいがな』 青彦『ヤア、あなたの御明察には恐縮致しました。それに間違ひは有りますまい』 黒姫『さうだらうさうだらう、流石はお前はよう改心が出来て居る。正直な男だ。時にお前に折入つて相談があるが、乗つて下さるまいかな』 青彦『これは又、改まつての御言葉、何なりと御遠慮なく仰有つて下さいませ』 黒姫『ヤア、有難い有難い。お前も噂に聞いて居る通り於与岐の里に、お玉といふ綺麗な娘が有つて玉照姫とかいふ、不思議な子が出来たといふ事ぢや。それは何うしても斯うしても、ウラナイ教へ引き入れねば、神界のお仕組が成就しないから、此の間も、寅若や、富彦、菊若の三人を遣はして交渉に遣つたが、何うやら失敗して帰つたらしい、併し乍ら、よう考へて見れば、向うの老爺が孫を呉れんのも、一つの理由がある。何故といつたら、あの綾彦夫婦は行衛不明となり、只一人の娘お玉とやらが、年寄の世話をして居るさうだ。そのお玉に、男も無いのに子が胎り、其子が又妙な神力を持つて居るので、エライ評判ぢやげな。そこで其子を貰うには、綾彦夫婦を元へ還してやらねば成るまい。若しも三五教の連中が、綾彦とお民が、爺さまの子ぢやと云ふ事を探知うものなら、何んな手段を運らしてでも、引張り込んで交換に玉照姫を貰つて了ふに違ひ無い。さうなれば、此方は薩張、蛸の揚壺を喰つた様な羽目に成らねばならぬ。どうぢや、青彦、何とかお前の智慧で、玉照姫を此方の者にする工夫は有るまいかな』 青彦『それは重大事件ですなア。よくよく考へませう。どうぞ此処限り他に漏れないやうに、絶対秘密を守つて下さいませ』 黒姫『よしよし、お前と私と二人限りだ。高山彦さまにだつて、此の事成就する迄は、言はぬと言つたら言はないから、安心して下さい』 青彦『左様ならば充分熟考した上、又コツソリと御相談致しませう。今晩はこれでお寝みなされませ』 青彦は一間に姿を隠した。後に黒姫はニタリと笑ひ、 黒姫『アーアー、何と言つても青彦だ。今ウラナイ教で誰がエライと言つても、彼に越した奴は有りはしない、三五教が欲しがつた筈だ。持つ可きものは家来なりけりだ、アヽどれどれ、高山さまが淋しがつて御座るであらう、一寸話相手になつて上げませう』 と、独言ちつつ一間に入る。 (大正一一・四・二八旧四・二東尾吉雄録) (昭和一〇・六・二王仁校正)
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霊界物語 19_午_丹波物語4 玉照姫と玉照彦 05 零敗の苦 第五章零敗の苦〔六五〇〕 炎熱火房に坐するが如く、釜中に在るが如き酷暑の空、雲路を別けて降り来る一隻の飛行船は、フサの国北山村のウラナイ教が本山の広庭に無事着陸したり。魔我彦、蠑螈別の二人は此音に驚き、高姫の御帰館なりと、取るものも取敢ず、表に駆け出し見れば、高姫は眼釣り、得も謂はれぬ凄じき形相し乍ら、鶴、亀の両人を伴ひ、船より出で来り、 高姫『アヽ蠑螈別さま、留守中大儀で御座いました。別に変つた事は有りませなンだかな』 蠑螈別『ハイ、たいした変りは有りませぬが、二三日以前より、何とも知れぬ太白星の様な光を発した光玉、夜半の頃になると、大音響を立て、庭前に落下する事屡で有ります』 高姫『それは大変な吉祥だ。併し其玉はどうなさつたか』 魔我彦は丁重に首を下げ、 魔我彦『毎朝早くより、綿密に調べて見ましたが、別に此れと云ふものも落て居らず、又何の形跡も残つて居ませぬ』 高姫『それは不思議な事だ。いづれ何か結構な事が有るでせう』 蠑螈別『紫の雲の出所は分りましたか。定めて良結果を得られたでせう。万事抜目も無いあなたの事ですから、大成功疑なしと、館内一同の者は貴方の御帰りを今か今かと首を長くして待つて居ました。どうぞ早く奥へお這入り下さいまして、結構な御土産話を、一同に聞かして下さいませ』 高姫『………』 魔我彦『コレコレ蠑螈別さま、大切な神界の御経綸、玄関口で尋ねると云ふ事があるものか、高姫様が沈黙なさるも当然だ』 蠑螈別『ア、それもさうでした。高姫さま、サア奥へ御案内致しませう』 高姫は奥に入る。一同は俄に上を下へと、バタバタ歓迎の準備に多忙を極め居る。 高姫『今日は無事に墜落もせず、遥々と帰つて来たのだから、御神前にお神酒を沢山に献上し、種々の御馳走をお供へ申し、ゆつくり直会の宴でも張つて下さい。あまり急速力で帰つて来ましたので、妾は少し許り頭痛気味だから、奥へ往つて二三日ユツクリ休息を致します』 蠑螈別『ア、それはさうでせう。併し乍ら御休みになれば、お尋ね申す訳にもゆかず、一寸端緒なりと、一口仰有つて下さいませいナ』 高姫『神界の御経綸、秘密は何処までも秘密ぢや。今は御神命に依りて言ふ事が出来ませぬ……コレ鶴に、亀、お前も休みなさい。種々の事を言ふではないよ』 鶴公『私はチツトも疲労して居りませぬ。別に休む必要も御座いませぬから、ゆつくりと貴方に代つて、亀と二人が交る交る、一切の大失敗……ウン……オツトドツコイ顛末を演説致しませうか』 高姫『コレコレ鶴、亀、鶴は千年、亀は万年と云ふ事が有るぢやないか。鶴には千年の間箝口令を布く。亀には一万年が間箝口令を布く…』 鶴公『モシ高姫さま、千年も箝口令を布かれては、唖も同様ですから、そればつかりは取消を願ひます』 高姫『イヤ、今度の事に関してのみ箝口令を布くのだよ。其外の事はお前の勝手だ。紫の雲に関した秘密の件だけは言うてはならない。時節が来たならば、高姫が皆に披露するから、サア鶴、亀、お前も永らくお供をして呉れて、辛かつただらう。二三日、誰も居らぬ所へ往つてユツクリと遊びて来なさい、又いろいろの事を喋舌ると煩雑いからな。……蠑螈別さま、魔我彦さま、それなら失礼致します。どうぞユツクリ酒でも飲み、皆さまと仲よく、神恩を感謝して下さい。妾は何だか頭痛がして、モウこれつきり暫く言ひませぬから』 と襖を引開け奥の間に力無げに進み入り、中より固く鍵をかけて了ひけり。 蠑螈別『サア皆さま、これから祭典を執行し、終つて直会の宴だ。今日は酒の飲み満足だ。併し酒を飲むのはいいが、酒に呑まれない様にして下さいよ』 甲『蠑螈別の大将、あなたこそ何時も酒に呑まれるでせう。今日はあなたから十分の御警戒を願ひますで。何分高姫様が頭痛を起してお休みになつて居るのだから、あまり大きな声を出しては、お体に障つちやなりませぬからなア』 蠑螈別『きまつた事だ。ソンナ事に抜かりの有る私だと思つて居るか』 祭典は型の如く厳粛に行ひ了り、一同は別殿に進み入り、直会の宴に現を抜かし、そろそろ酒の酔が廻るにつれて、喧騒を極め出したり。 甲『オイ鶴、随分愉快だつたらうなア。お羨ましい。吾々もアヽ云ふお供がして見たいワ』 鶴公『何を云うても、大飛行船に乗つて、地上の森羅万象を眼下に見くだし、空中征服の勇者になつて、自転倒島へ渡るのだもの、実に愉々快々、筆紙の尽すべき限りでは無かつたよ』 甲『立派に目的は達しただらうな』 鶴公『勿論の事、途中に墜落もなく、立派に目的地に到達したのだ』 甲『それは定まつて居るが、モ一つの肝腎要の紫の雲だ。それはどうなつたのだい』 鶴公『紫の雲に関する事は千年間の箝口令が布かれてあるから、紫だけは言つて呉れな。其代りに玉照姫の一件は、事に依つたら報告してやらう。併し乍らモウ少し酒が廻らぬと、巧く言霊が運転しないワイ。一つ滑車に油を注ぐのだな』 亀公『コラコラ鶴公、紫の雲に関する事と云へば、玉照姫の事だつて言はれぬぢやないか、箝口令を厳守せぬかい』 鶴公『ナーニ、紫の雲の事さへ言はなかつたら良いぢやないか。皆の御連中が証人ぢや、ナア蠑螈別さま、高姫さまはそう仰有つただらう』 蠑螈別『兎も角、成功話を言つて下さい。皆の者が待ちに待つて居つたのだ』 亀公『コラコラ鶴、滅多の事を言うではないぞ』 鶴公『貴様は酒を喰はぬから、生真面目で仕方がない。融通の利かぬ奴だ。高姫様のお口からは、アンナ事がどうしても言はれぬものだから、俺達に代つて、言うではないぞと仰有つたのは、要するに言へと云ふ事だよ。別に俺の口で俺が喋べるのに、資本金が要るのでもなし、国税を納める心配も要らぬのだから……俺は俺の自由の権を発揮するのだ』 亀公『ソンナラお前の勝手にしたがよいワイ。俺だけは何処までも沈黙を守るから…』 鶴は酒にグタグタに酔ひ、傲然として肱を張り、 鶴公『今日の鶴公は、要するに高姫様の代言者ぢや。さう心得て謹聴しなさい、エヘン、 フサの国をば後にして雲井の空を高姫が 翼ひろげて鶴亀の二人の勇士を伴ひつ 高山短山下に見て大海原を打渡り 自転倒島にゆらゆらと降り着いたは由良湊 魔窟ケ原へテクテクと三人駒を並べつつ 黒姫館に立入りて委細の様子を尋ぬれば 弥仙の山の裾野原賤が伏家に世を忍ぶ 豊彦夫婦の館より色も芽出度き訝かしの 雲立ち昇り玉照姫の神の命の神人が 現はれました事の由聞いたる時の嬉しさよ 黒姫司は逸早く千変万化の手を尽し 紫姫や青彦の二人の勇士に一任し 玉照姫をウラナイの教の道の本山に 迎へむものと気を配り心を尽す妙案奇策 どうした拍子の瓢箪かガラリと外れて三五の 神の教の間諜紫姫や青彦は 手の掌返す情無さ高姫司は青筋を 立ててカツカと怒り出す高山彦や黒姫は ソロソロ喧嘩を始め出す此有様を見る俺は 立つても坐ても居られない気の毒さまと申さうか 愛想が尽きたと申さうか言ふに謂はれぬ為体 これから奥は有るけれど此れより先は神界の 秘密ぢや程にどうしても紫姫や青彦の 誠の様子は話せないアヽ惟神々々 高山彦や黒姫はさぞ今頃はブクブクと 面を膨らし燻つて互に顔を睨み鯛 目を釣り腮釣り蛸釣つて一悶錯の最中だらう モウモウコンナ物語飲みし酒迄冷えて来る 三五教は日に月に旭の豊栄昇るごと 玉照姫の神力で宇内へ輝き渡るだらう それに引換へウラナイの神の教はゴテゴテと 貧乏世帯の夕日影段々影が薄くなり 終局に闇となるで有らうアヽ惟神々々 叶はぬ時の神頼み鶴公司の報告は 先づ先づザツと此通り』 蠑螈別『オイ鶴公、真面目に報告をせないか。ソンナ馬鹿な事が有つて堪るものかい』 鶴公『堪つても堪らいでも、事実は事実だ』 蠑螈別『仕方がないなア』 鶴公『エーもう此鶴公は、千年の箝口令を布かれて居るが、俺の副守護神に対しては言論自由だ。……オイ副守の奴、チツと酒ばつかり喰うて居らずに発動せぬかい。責任は副守が負ふのだよ。……副守護神が現はれて何から何迄包まず隠さず知らすのであるから、鶴公司は何にも知らず、高姫殿、必ず必ず鶴公を恨めて下さるなよだ、ヒヽン』 魔我彦『サア副守先生、細かく仰有つて下さいませ』 鶴公『ウーン、ウンウン、此方は鶴公の肉体を守護致す副守護神のズル公であるぞよ。併し乍ら大体の要領は、鶴公の肉体が申した通り、今回の事件は全部高姫さん一派の零敗だ。大当違の大失策だ。それだから頭痛もせないのに頭痛がすると言つて、此不利益極まる報告を避けたのだ。何れ早晩分る事実だから、隠したつて仕方がない。モウ、ウラナイ教は駄目だ。バラモン教は間近まで教線を張り、猛烈な勢でやつて来る。ウラル教は又もや蘇生した様に、此フサの国を中心として押寄せて来て居る。三五教も其通り。三方から敵を受けて、どうして此教が、拡張所か現状維持も難かしい。日向に氷だ。風前の灯火だ。アツハヽヽヽ、良い気味だ。世界一の黍団子、何程キビキビした高姫の智嚢でも、最早底叩きだ。底抜けの大失策だ。底抜け序に自棄酒でも飲み、底抜け騒ぎをやつたがよからうぞよ。ウーン、ウン、もうズル公はこれで引取るぞよ。蠑螈別、魔我彦、好な酒でもズルズルベツタリに飲みたが宜からうぞよ』 とグレンと体をかわし、汗をブルブルかいて正気に返つた様な姿を装ひ、 鶴公『何だか副守護神が仰有つたやうですな。何と言はれました。自分の口で言つて自分の耳へ聞えぬのだから、大変に不便利だ。知覚精神を忘却し、大死一番の境に立ち、感覚を蕩尽し、意念を断滅して、仮死状態になつて居たものだから、言うた事がトンと分らない。…鶴公は何も知らぬぞよ。高姫の先生殿、屹度鶴公を叱つて下さるなよ。守護神が口を借つた許りであるぞよ』 甲『アハヽヽヽ、何は兎もあれ、貴様は知らな知らぬでよいワ。副守護神の奴、鶴公が全部言つた通りだと証明したよ。ヤツパリ鶴公の肉体に責任があるのだ。…モシモシ蠑螈別さま、一寸先や暗の夜だ。飲めよ騒げよと、ウラル教もどきに乱痴気騒ぎでもやりませうかい。チツト位乱暴したつて、劫腹癒やしだ。今日に限つて、高姫さまだつて、失敗して帰つて来て、吾々に荘重な口調を以て、戒告を与へる事は出来ますまい』 亀公『今鶴公の肉体の言つた事も、ズル公の副守の言つた事も、全然反対だ。お前達を驚かさうと思つて、アンナ芝居をやりよつたのだ。鶴位の知つた事かい。本当の事は此亀公が脳裡に秘め隠してあるのだ。鶴と云ふ奴ア、ツルツルと口が辷るから本当の事は知らしてないのだよ。屹度一道の光明がウラナイ教の上に輝いて居るのだから、さう気投げをするものぢやない。千秋万歳楽の鶴亀の齢と共に、天の岩戸は立派に開けて日の出神様の御守護の世となるのだ。闇の後には月が出る。夜が過ぐれば日の出となるのは、天地の真理だ。暗中明あり、明中暗あり、明暗交々代り行くは、所謂神の摂理だ。人は得意の時に屹度失望落胆の種を蒔き、不遇の境遇に有る時、屹度光明幸福の因を培ひ養ふものだ。何時も昼ばつかり有るものぢやない、又暗黒な夜ばかりでもない。善悪不二、吉凶同根、明暗一如、禍福一途、大楽観の中に大苦観あり、大苦観の中に大楽観あり、天国に地獄交はり、地獄に天国現はる。有耶無耶の世の中だ。マアマア心配するな。コンナ結構な事は無いのだよ。人は心の持様一つだ。ドンナ苦しい事でも、観念一つで大歓楽と忽ち一変する世の中だ。吁惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 と拍手し、祈願を凝らして居る。高姫は此場に手拭にて鉢巻し乍ら、ノコノコと現はれ来り、 高姫『ヤア皆さま、お元気な事、親の心は子知らず、神の心は人間知らず。あなた方は実に羨ましいお身分だ。妾も半時なりとあなた方の様な気分になつて見たいワ』 魔我彦『何分に重大なる責任を負担して御座る貴女の事ですから、御心中を御察し申します。今回の遠路の御旅行、さぞさぞお疲れで御座いませう。それに就いても言ふに謂はれぬ御苦心が有つた様です。玉照姫は到頭三五教に取られて了つた様ですなア』 高姫『エー、それは誰れが言つたのかなア』 魔我彦『ズル公が詳細に報告を致しました。併し乍ら失敗は成功の基、失敗が無くては経験が積みませぬ。即ち万世に残る大偉業は七転び八起きと云うて、幾度も失敗を重ね、鍛へ上げねば駄目ですよ。イヤもう御心中お察し申します』 高姫『ヤアこれだけ沢山な宣伝使や信者がある中に、妾の苦衷を察して呉れる者はお前だけだ、アヽ妾もこれで死ンでも得心だ。千歳の後に一人の知己を得れば満足だと覚悟して居たが、現在此処に一人の知己を得たか、アヽ有難や、これと云ふのもウラナイ教の神様のお蔭…』 鶴公『知己を得ましたか。千歳の後で無くて今チキに妙チキチンのチンチキチン、心の曲つた魔我彦が共鳴しましたのは、実に上下一致天地合体の象徴でせう。併しこれは鶴公の肉体に守護致すズル公の託宣ですから、決して鶴公に怒つては下さるなよ。…神は物は言はなンだが、時節参りて鶴公の口を藉りて委細の事を説いて聞かすぞよ。ウンウンウン、ドスン……アーア又何だか憑依しよつたな。イヤ副守の奴発動したと見える。飛行機に乗つて空中を征服し乍ら、意気揚々とやつて居つたと思へば、俄の暴風に翼を煽られ、地上目蒐けて真つ逆様に顛落せしと思ひきや、ウラナイ教の本山、八咫の大広間の酒宴の場席、アーア助かつた助かつた』 高姫『コレコレ鶴公、ソンナ偽神術をやつたつて、此高姫はチヤンと審神をして居ますよ。お前は余程卑怯者だ。残らず責任を副守護神に転嫁せうとするのだナ』 鶴公『イエイエ決して決して、臍下丹田に割拠する副守の発動です。どうぞ此副守を何とかして追ひ出して下さいな』 高姫『蠑螈別さま、魔我彦さま、鶴公の臍下丹田に割拠する副守の奴、此短刀を貸してあげるから、剔り出してやつて下さい。鶴公の願ひだから……ナア鶴公、チツトは痛くつても辛抱するのだよ。苦の後には楽がある。死ぬのは生れるのだ。生れるのは墓場へ近寄るのだ。仮令死ンだ所で、やがて新しくなるのだからナア、ヒヽヽヽ』 鶴公『モシモシ高姫さま、そンなことせなくつても、副守は飛ンで出ますよ。ウンウンウン……ソレ、もう飛ンで出ました。ア、もう此ズル公は鶴公の肉体には居らぬぞよ』 魔我彦『馬鹿にするない。飛ンで出たと言つてからまだ……此肉体には居らぬぞよ……とは誰が言つたのだ。ヤツパリ副守が居つて貴様の口を使つたのだらう。肉体を離れた奴が貴様の肉体を使つて腹の中から声を出すと云ふ理由が有るか』 鶴公『これは副守護神の言霊の惰力だ。どうぞ半時ばかり待つて居て下さい』 斯かる所へ又もや一隻の飛行船天を轟かし、庭前に下り来る。 鶴公『あの物音は敵か、味方か。紫姫、青彦、玉照姫を捧持してウラナイ教に献納に来たのか。但は高山彦、黒姫、悄然として泣き面かわき帰つて来たのか。……ヤアヤア者共、一刻も早く表へ駆け出し、実否を調べて参れ。世界見え透く日の出神が、鶴公の肉体を借りて申付けるぞよ』 亀公『何を言うのだ。日の出神様は世界中見え透き遊ばすのだが、門口へ出て来た者が敵か味方か分らぬと云ふ様な、日の出神が有るものかい』 鶴公『ウラナイ教に憑依する日の出神は、先づ此位な程度だよ、イヒヽヽヽ』 亀公『誠の日の出神の生宮の高姫さまの御前だぞ。チツトは遠慮を致さぬかい』 鶴公『モシモシ本当の日の出神の生宮、高姫さま、貴女はジツとして、世界中の事が見え透く御身霊、表へ下つて来た飛行船の主は敵で御座いますか、味方で御座いますか、どうぞお知らせ下さいませ。これがよい審神のし時ぢや。これが分らぬよな事では、日の出神さまも良い加減なものですよ。貴女の信用を回復し……否御威徳を顕彰するのは、今を措いて他にありませぬ。サア此一瞬間が貴女に対し、ウラナイ教に対し、国家興亡の分るる所、明かに命中させて、一同の胆玉を取り挫ぎ、疑惑を晴らしてやつて下さい』 高姫『コレコレ鶴公、一歩出れば分る事ぢやないか。お前は大それた、神を審神せうとするのかい。ソンナ逆様事が何処に有るものか。恰度学校の生徒が校長の学力を試験するよなものだ。ソンナ天地の転倒つた事が何処に有りますか。心得なされツ』 鶴公『これは誠に済みませぬ。併し乍ら、私も実は今回の貴女の大失敗を回復させ、帰依心を増さしめむが為の、血涙を呑みての忠告ですから、悪く思つて下さつてはなりませぬ』 高姫、心の中に、 高姫『今来た人は何して居るのかなア、早く此処へ来て呉れれば良いのに……』 鶴公『高姫さま、スツタ揉ンだと掛合つとる間に、やがて誰か這入つて来ませう。さうすればヤツと胸撫でおろし、虎口を遁れたと、一安心する人が、どつかに一人現はれさうですよ』 高姫チツトでも暇をいれようと考へて居る。外には高山彦、黒姫、寅若、菊若、富彦の五人連れ、傷持つ足の何となく屋内に進みかね、モヂモヂとして入りがてに居る。 黒姫『アヽ誰か来て呉れさうなものだなア。何時もの様に堂々と……何だか今日は閾が高くて這入れない様な気がする……オイ寅若、お前這入つて下さいな』 寅若『此奴ア一つ低気圧が襲来しますよ。ウツカリ這入らうものなら、暴風雨の為に何処へ吹き散らされるか分つたものぢや有りませぬ。私の様に横平たい図体の者は、風が能く当つて散り易いから、斯う云ふ時にはお誂ひ向の細長い、風を啣まぬ、帆柱竹の様な高山彦さまが適任でせう』 黒姫『エー一寸も自由にならぬ人だな。なぜお前はそれ程師匠の言ふ事を用ひぬのだい』 寅若『ヘン、師匠なぞと、殊勝らしい事を仰有いますワイ。失笑せざるを得ませぬワ。今までは乞食の虱の様に口で殺して御座つたが、今度の失敗はどうです。吾々の顔までが、何ともなしに痩せた様な気が致しますワイ。これと云ふも全く、お前さまが出しやばるからだ。それだから牝鶏の唄ふ家は碌な事が出来ぬと言ひませうがな。此役目は大責任の地位に立たせられる黒姫さまの直接任務だ。外の事なら二つ返辞で承はりませうが、こればつかりは真つ平御免だ。お生憎様……』 と白い歯を喰ひ締め、腮をしやくつて見せたり。 黒姫『エー剛情な男だナア。一旦師匠と仰いだら、何でも彼でも盲従するのが弟子の道だ。師匠や親は無理を云ふものだと思ひなされと、常々云うて聞かして有るぢやないか。何事に依らず、絶対服従を誓つたお前ぢやないか。モウお前は今日限り、師弟の縁を切るから、さう思ひなさい』 寅若『トラ、ワカらぬ事を仰有いますな。宇治の橋姫ぢやないが、二つ目には縁を切るの、封を切るのと、口癖の様に……馬鹿々々しい。実の所は此方から切りたい位だ。アツハヽヽヽ』 菊若『モシモシ黒姫さま、私は何時も申す通り、善悪邪正の外に超越し、絶対信仰を以て貴女の仰せは、徹頭徹尾キク若だ。オイ富彦、俺と一緒に出て来い。何時まで閾が高いと言つて、物貰ひの様に門口に立つて居たところで、解決がつかない。常よりも大股に跨げて這入らうぢやないか、黒姫さまばつかりの失敗ぢやない。総監督の任に当る高姫さまも、其責を負ふべきものだ。先んずれば人を制すだ。ナニ構ふものか、堂々と這入つてやらうかい』 と菊若はワザと大きな咳払をなし、富彦を従へ、大手を揮つて、人声のする八咫の大広間へ向つて進み行く。 菊若『これはこれは高姫様、御無事で御帰館遊ばされまして、お芽出たう存じます』 高姫『此日の出神が霊眼で見た通り、お前は黒姫のお使で、飛行船に乗つて遠方ご苦労だつたなア。あア見えても高山彦、黒姫さまも大抵ぢやない。非常な御苦心だ。何事も時節には敵はぬから、お前が帰つたら、どうぞ慰めて上げて下さいよ。妾もつい腹が立つて、怒つて帰るは帰つたものの、何だか黒姫さまの事が気になつて、後ろ髪曳かるる様な気がしてならなかつた。アヽ可哀相に……魔窟ケ原の陰気な岩窟で、黒姫さまも第二の作戦計画をして御座るであらう』 菊若『イエ、黒姫さま始め、高山彦、寅若も、今門前へ飛来致しまして、余り貴方に会はす顔がないので、門口にモガモガと手持無沙汰で、這入るにも這入られず、帰るにも帰られぬと言つて、煩悶苦悩の自由権利を極端に発揮して居られます』 高姫『アヽさうだらうさうだらう、妾の見たのは黒姫さまの本守護神だつた。本守護神は依然として岩窟に止まつて居られる。副守の先生肉体をひつぱつて来たのだな。何分顕幽を超越して居る天眼通だから、ツイ軽率に見誤つたのだ。霊眼と云ふものは余程注意をせなならぬものだ、ホツホヽヽヽ』 鶴公『高姫さま、貴方の霊眼は実に重宝ですなア。活殺自在、実に一分一厘の隙も有りませぬワ。さうなくては一方の将として、多数を率ゐる事は出来ませぬワイ。イヤもう貴方の神智神識には……否邪智頑識には、実に感服の外なしで御座います』 高姫『エーつべこべ何理屈を仰有る。神界の事が物質かぶれのお前に分つて堪るものか。斯うして幾十年も神界の為に尽して居る妾でさへも、あまり奥が深うてまだ其蘊奥を究めて居ない位だのに、僅か十年足らずの入信者が分つてたまるものか……誠が分りたら、口をつまへて黙りて居つて、改心致さなならぬ様になるぞよ。ゴテゴテと喋舌りたい間は、誠の改心が出来て居らぬのであるぞよ。一時も早く改心致して、うぶの心になりて、誠の御用を致して下されよ……と変性男子のお筆先にチヤンと書いて有るぢやないか。筆先の読みよが足らぬと、そンな屁理屈を言はねばならぬ。神の道は理屈では可けませぬぞエ。絶対服従、帰依心、帰依道、帰依師でなければ信仰の鍵は握れませぬぞエ』 鶴公『二つ目にはよい避難所を見つけられますなア。鍵が握れぬなぞと、うまく仰有いますワイ。鶴公の名論卓説を握り潰すと云ふ心算でせう』 高姫『きまつた事だ。古参者の吾々に、新参のお前たちが、太刀打しようと思つたつてそりや駄目だ。駄目の事は言はぬが宜しい。あつたら口に風引かすよなものだ。何時までもツルツルと理屈を仰有るなら、モウ神のツルを切らうか』 鶴公『ツルなつと、カメなつと、縁なつとお切りなさい。三五教もウラナイ教も奉斎主神は同じ事だもの。私は神さまと直接交渉致します。人を力にするな、師匠を杖につくなと、三五教もどきに貴女も始終仰有つたぢやありませぬか。嘘を吐く師匠を杖に突くと云ふ事は、熟々考へて見ればみる程厭になつて来ましたワイ。何れ私が脱退すれば、千匹猿の様に、喧し屋の革新派が従いて来るでせう。さうすればウラナイ教もシーンとして、世間から見て、大きな館で沢山人が居る様だがナンした静かな所ぢやと、世間から申す様になるぞよ。さうでなければ誠が開けぬぞよと日の出神のお筆先にも出て居る通り、貴方も御本望でせう。筆先の実地証明が出来て、日の出神の生宮の御威勢は益々揚り、旭日昇天のウラナイ教となりませう』 高姫『コレ鶴公、よう物を考へて見なさいや、ソンナ浅薄な仕組ぢや有りませぬぞエ。お前はチツトばかり青表紙や、蟹文字を噛つて居るから、仕末にをへぬ。マアマア時節を待ちなさい。枯木にも花咲く時が来る。後になつて、アーアあの時に短気を起さなかつたらよかつたにと、地団駄踏みてジリジリ悶えをしてもあきませぬぞエ。よう胸に手を当て心と相談をして見なさい』 鶴公『ヤツパリ、私の様なプロテスタントにも未練がかかりますかなア』 高姫『プロテスタント派だから余計可愛のだ。敵を愛せよと神様は仰有る。改心の出来ぬ悪人程、妾は可愛いのだ。不具な子程親は余計憐れみを加へたがる様に、神様の御慈愛と云ふものは、親が子を思ふと同じ事だ』 鶴公『アヽ仕方がない。流石は高姫さまだ。チツトも攻撃の出来ない様に、何時の間にか鉄条網を張つて了つた』 高姫『早く黒姫さまを此方へお迎へして来ないか。コレコレ亀公、黒姫さま一同にどうぞお這入りなさいませと言つて、御案内を申してお出で……』 亀公『承知致しました』 鶴公『オイ亀公、鶴と亀とは配合物だ。俺も従いて往かう』 亀公『ヤアお前が来ると又難問題が突発すると仲裁に困るから、マア控へとつて呉れ』 鶴公『ナーニ、鶴と亀と揃うてゆけば、鶴亀凛々だ。活機臨々として高姫の御威勢は、天より高く輝き亘り、大空に塞がる黒姫……オツトドツコイ黒雲は、高山彦のイホリを掻き分けて、天津日の出神の御守護となるに定つて居る。それは此鶴公が鶴証するよ。アハヽヽヽ』 高姫『コレコレ鶴公、お前は此処に待つて居なさい。亀公一人で結構だ』 鶴公『これは高姫さまのお言葉とも覚えませぬ。折角遠方からお出でになつたのに、亀公一人を出しては、チツト不待遇ぢや有りませぬか。鶴亀の揃はぬのは、あまりお芽出たうは有りますまいぞ。併し乍ら高姫様は芽出たい様にと、鶴亀の両人を連れてお出でになつたが、ヤツパリ……ヤツパリだから、御案じ遊ばすのも無理は御座いますまい。……エー仕方が有りませぬ。大譲歩を致しまして、鶴公は本陣に扣へて居りませう。……オイ亀公、一人御苦労だが、鶴公は奥にハシヤいで居ます……と黒姫さま一行に伝言をするのだよ』 亀公『勝手に、何なと吐けツ』 と足を早めて表へ駆け出したり。黒姫の一行は亀公に案内され、喪家の犬の様に悄気返つて、コソコソと足音までソツと、薄氷を踏む様な体裁で此場に現はれたり。 高姫『アヽ黒姫さま、高山彦さま、ようマア帰つて下さつた。今も今とて霊眼で貴方の御心労を拝観して居ました。お前さまは副守護神の容器だらう。黒姫さまや、高山彦さまの本守護神は屹度アンナ利巧な事はなさいますまい』 黒姫『ハイ誠に申訳の有り……もせぬ事を致しまして、何分副守護神が此頃は権幕が強いものですから、黒姫の本守護神も持て余して居られますワイ。高山彦さまの本守護神も第二の作戦計画をやつて居られます。此処に参上たのはヤツパリお察しの通り副守護神の容器で御座います』 高姫『それはそれは副守護神どの、遠路の所御苦労で御座いました。サアサアどうぞ妾の居間へお出で下さいませ。副守護神同志、何かの相談を致しませう』 ハイと答へて、黒姫、高山彦は、高姫の後に従ひ、ホツと一息つき乍ら、奥の間指してシホシホと進み行く。後には魔我彦、蠑螈別、鶴公、亀公、寅若、菊若、富彦、甲乙丙丁戊己其他数十人の者、酒に酔ひ潰れ、喧々囂々、遂には打つ、蹴る、擲る、泣く、笑ふ、怒るの一大修羅場が現出されウラナイ教の本山は鼎の沸くが如く大乱脈の幕に包まれにける。 (大正一一・五・七旧四・一一松村真澄録)
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(1812)
霊界物語 22_酉_鷹鳥山の鷹鳥姫 17 生田の森 第一七章生田の森〔七〇九〕 三千世界の梅の花薫りゆかしく実を結び 四方の春野を飾りたる桜も散りてむらむらと 咲き乱れたる卯の花の白きを神の心にて 生田の森の片ほとり花を欺く玉能姫 初稚姫の二人連初夏の景色を眺めつつ 再度山の山頂に神の御告を蒙りて 登り行くこそ床しけれ。 杢助は唯一人神前に祝詞を奏上する折しも、門戸を叩き、 国依別『頼まう頼まう』 と訪るる一人の宣伝使があつた。杢助は神前の礼拝を終り、門の戸を開き、 杢助『ヤア、其方は国依別の宣伝使、何用あつて杢助が館を御訪ねなさつたか』 国依別はツと門の敷居を跨げ、杢助と共に座敷に通り、煙草盆を前に置きながら二人向ひ合せ、 国依別『今日参つたのは余の儀では御座らぬ。あなたは折角三五教に入りながら此頃の御様子怪しからぬ事を承はる。事の実否を探らむ為、国依別宣伝の途中、紀の国より取る物も取り敢へず引返し、ここに参りました。あなたは太元教とかを立てて居られるさうだ。神様に対し御無礼では御座いませぬか』 杢助大口を開けて高笑ひ、 杢助『何事ならむかと思へば、左様な御尋ねで御座るか。杢助が折角の信仰を翻し、太元教を新に開いたのは余の儀では御座らぬ。其理由と致す所は、此杢助三五教の信者を標榜し居ると、腰抜の宣伝使や信者が、言依別様の御命令だとか何だとか言つて、旅費を貸せとか、履物を出せとか、いろいろ雑多の厄介をかけ、小便や糞をひりかけ後は知らぬ顔の半兵衛さん。それも一人二人なれば辛抱致すが、絡繹として蟻の甘きに集ふが如く、イナもう煩雑くて堪り申さぬ。杢助の家でさへも此通りだから、其他の信徒の迷惑は思ひやらるる。それ故心の内にて三五教を信ずれども、表面は太元教と、見らるる如く大看板を掲げたので御座る。国依別殿、其方も其亜流では御座らぬか』 国依別『そんな奴は三五教には一人もない筈です。大方バラモン教の奴が、三五教の仮面を被つて居るのでせう』 杢助『バラモン教もチヨコチヨコやつて来る。併し乍ら教の建て方が違ふものだから、先方も遠慮を致して居ると見えて、唯杢助が忙しきタイムを奪つて帰る位なものだ。金銭物品まで借用しようとは申さぬ。宣伝使たる者は未だ教の及ばざる地方又は人に対してこそ宣伝の必要あれ、一旦入信したる者の宅に何時となく訪問致し、厄介を掛け、安を求むる如きは、宣伝使の薄志弱行を自ら表白するものだ。そなたも杢助館に訪問する時間があらば、なぜ其光陰を善用して、未信者の宅を訪問なさらぬか。半時の間も粗末に空費する事は、宣伝使として慎むべき事でせう。サア一時も早く帰つて下され。お茶を進ぜたいが、茶を飲ませては、信者の吾々忽ち貧乏神に襲はれねばならない。仮令番茶の一杯でも小判の端だ。それを進ぜた所で……何だ杢助は、折角訪問してやつたのに番茶を飲まして追ひ返した……と云はれては一向算盤が合ひ申さぬ。愚図々々して御座ると、第一タイムの損害、畳が汚れる。さすれば又もや表替をそれ丈早く致さねばならぬ道理だ。最早杢助は三五教に食はれ、飲まれ、借り倒され、逆様になつても血も出ない様な貧乏になつて了つた。斯んな貧乏神の館へ出て来るよりも、巨万の富を積みながら、此世の行末を案じ、吾身の無常を託ちつつある憐れな精神上の極貧者は、世界に幾らあるか分らない。物質に富み、無形の宝に飢ゑたる人を求めて神の教を説き諭し、錆びず朽ちず、火に焼けず、水に流れぬ尊き宝を与へて、物質上の宝を自由自在に気楽に使用したが宜からう。精神上の宝に充たされ、物質上の宝に欠乏を告げたる此杢助の館に、宣伝使の必要は少しも御座らぬ』 国依別『あなたは此春頃から心機一転、余程吝臭くなられましたなア』 杢助『何だかお前さまの声を聞くと直に、此通り吝臭くなつたのだ。心貧しき力弱き其方の守護神が、杢助の体内に飛び込んで、斯様な事を吐ざいて居るのだ。此杢助は何にも知らぬ、早く国依別さま、心の貧乏神、柔弱神を追ひ出して、連れて帰つて下さい。杢助真に迷惑千万で御座る。アハヽヽヽヽ』 と腹を抱へ、体を大きく揺つて、ゴロンと笑ひ転けて了つた。 国依別『さうして初稚姫様、玉能姫様はどこへお出でになりましたか』 杢助仰向になつた儘、足をニユーと天井の方に直立させ、 杢助『初稚姫、玉能姫は「国」とか云ふ貧乏神がやつて来るから、憑依されてはならないと云つて一時許り前に逃げ出しました。折角結構な神様が杢助の館にお鎮まり遊ばすのに、腰抜神の貧乏神がやつて来るものだから、肝腎の玉能姫……オツトドツコイ魂までが脱け出して了つた。オイ魂抜けの国依別、どうぞ早く帰つて呉れ。此杢助もそなたの霊が憑つて、此通り四つ足になつて了つた。其四つ足もまだ俯向いて居れば歩く事も出来るが、この通り腹と背中を換へて了つては、何程藻掻いて見ても空を掻くばかり、畳に平張付いて動きが取れない。アヽ国依別、たまたま訪ねて来て、四つ足のお土産は真平御免だ。三五教の宣伝使がやつて来ると、手足を藻掻いても、如何しても、動きの取れないことになつて了ふ。馬に灸で貧窮だ。狐に灸で困窮だ。其方は牛に灸で何ぞモウギウな事がないかと思つて来たのであらうが、最早灸も茲まで据ゑられては、艾もあるまい。モグサモグサ致さずトツトと帰つたがよからう』 国依別『杢助さま、火の付いた様な火急なお言葉、あなたは杢助さまではなくて、ヤイトをすゑる艾助さまになつて了ひましたなア。これはこれは真にアツイ御志……否御教訓、どつさり此四つ足の守護神もヤイトを据ゑられました。それなら四つ足は唯今限り帰ります。あなたもどうぞ元の杢阿弥……オツトドツコイ杢助さまに帰つて下さい』 杢助『ハイ有難う。それなら改めて国依別の宣伝使様、三五教の杢助改めて対面仕らう、今迄は四つ足同志の掛合で御座つた。アツハヽヽヽヽ』 と笑ひながら起き直り、庭の泉に手を洗ひ、口を漱ぎ、礼装を着し、 杢助『サア、国依別様、神前に拝礼致しませう』 と促しながら、拍手再拝、天津祝詞を奏上し始めた。国依別も杢助の背後に端坐し、恭しく祝詞を奏上し終つた。 杢助『国依別様、あなたは是れから何処へお出でになる心組ですか』 国依別『ハイ私の今迄の教[※「教」では意味が通じないためか、校定版・八幡版では「心」に直している。]は、実を申せば貴方の御宅に参り、一つお尋ねをせなくてはならない事があつたものですから、ワザワザやつて来たのですが、モウ申しますまい。これで貴方の深き御精神も了解致しましたから……』 杢助『アツハヽヽヽ、若彦一件でお出になつたのですな。若彦は今紀州に居りますか』 国依別『ハイ、紀州の熊野の滝で大変に荒行を致して居る事を聞きました。それで私は熊野の滝へ参つた所、若彦は唯一言も申さず、無言の行を致して居る。手真似で尋ねても文字を地に書いて糺して見ても、何の答も致さず、石仏同様、取り付く島もなく、鷹鳥山に於て何か感じた事があるのだらう、其峰続きに御住ひ遊ばす貴方にお尋ねすれば、様子は分らうかと存じまして参りました。併し唯一言……杢助さま有難う………と若彦の言つた言葉幽に聞えたので、何もかも様子を御存じだらう。あの喧しやの若彦が、あの通り神妙になつて了つたのは、貴方の感化に依るのだと信じます。過去を繰返すは御神慮に反するでせうが、御差支なくば少しなりと御漏らし下さらば安心致します』 杢助『若彦は鷹鳥山に立籠り、悪魔に憑依され、四つ足となつて門口まで参りました。私は「モウ一つ修業をして来い、四つ足に用はない………」と云つて、杓に水を汲んで犬の様にぶつかけてやつたら、尾を掉つて駆け出したきりですよ。ヤツパリ若彦は人間らしう立つて歩いて居ましたかなア。イヤもう四つ足の容物ばかりで困つて了ひますワイ。アツハヽヽヽヽ』 国依別『さうすると私もチヨボチヨボですな』 杢助『チヨボチヨボなら結構だが、愚図々々すると、コンマ以下のチヨボチヨボに落ちて了ふから、気を付けねばなりますまい。お前さまも折角今、宣伝使に始めてなつたのだから、どうぞチヨボチヨボにならぬ様に願ひますよ。貴方がさうなると、私までも感染しては、最前のやうに二進も三進も行かぬ苦境に陥り、キウ窮言はねばなりませぬからな、アツハヽヽヽヽ』 国依別『アツハヽヽヽヽ』 と笑ひ合ふ。門口へ又もや婆の声、 鷹鳥姫(高姫)『生田の森の杢助さまのお宅は此処で御座いますか。チヨツト開けて下され』 杢助『国さま、又もやチヨボチヨボがやつて来たやうです。お前さま一つ私に代つて応対をして下さい。私は奥へ行つて少しく神さまに承はらねばならぬ事が御座いますから』 と云ひ棄て、慌しく姿を隠した。国依別はツと立ち、門口の戸をガラリと引開け、 国依別『此処は太元教の御本山だ。何処の四つ足か知らぬが、トツトと帰つて呉れ』 鷹鳥姫『何ツ、杢助が太元教を樹てたとは、噂に聞いたが、ヤハリ事実だなア。なぜ左様な二心をお出しなさるか』 国依別は黄昏を幸ひ、ワザと杢助の声色を使つて居る。 鷹鳥姫『わしは鷹鳥姫だが、お前さまに一つ御礼を申さねばならぬ事もあり、御意見をせなくてはならぬ事があるからお訪ねしたのだ』 国依別『何とか彼とか口実を設けて、三五教の宣伝使や信者が、金を貸せの、履物を貸せ、飯を食はせ、茶を飲ませ、小遣銭を渡せと、まるで雲助の様な事を吐し、小便、糞を垂れながして帰る奴ばかりだから、此杢助も愛想をつかし、心は三五教でも表は太元教と標榜して居るのだ。最早神の恵に浴し、神徳充実した杢助には意見は御無用だ。掛り合つて居れば大切なタイムまでも盗まれて了ふ。番茶一杯飲まれてもそれ丈欠損がゆく。身代限り、家資分散の憂目に遭はねばならぬから、一足なりとも這入つて呉れな。お前に礼を言はれる道理はない。トツトと早く帰つたが宜からう』 鷹鳥姫『何と云つても、そんな事を聞く以上は、ますます動く事は出来ぬ。コレ杢助さま、心機一転もあまりぢやないか』 国依別『オイ、其心機一転だ。暫くの間現はれて消える蜃気楼、名あつて実なき鷹鳥姫の宣伝使、それなら這入る丈は許してやらう。其代り番茶一杯飲ます事もせぬ。何程無料で湧いた水でも、飲ましちやそれ丈減るのだから、其覚悟で這入つたが宜からう』 鷹鳥姫『大変貴方は吝坊になつたものだなア。執着心の大変に甚い方だ。御免なさい』 と蓑笠を脱ぎ棄て、ツカツカと座敷にあがる。国依別は又もや煙草盆を前に据ゑ、杢助気取りになつて坐り込んだ。 鷹鳥姫『コレ杢助さま、お前さまは俄に小さい事を仰有ると思へば、体まで小さくなつたぢやないか』 国依別はゴロンと仰向けになり、尻を鷹鳥姫の方に向け、手足をヌツと天井の方に伸ばして見せ、 国依別『金剛不壊の如意宝珠の玉や紫の玉が喉から出て了つたものだから、此通り瘠せて人間が小さくなり、元の杢助ではなうて杢阿弥。神徳も何もなくなつて了ひ、鷹鳥山で已むを得ず若彦、玉能姫を召し連れ、バラモン教の蜈蚣姫がてつきり隠して居るのに相違ないから、何とかして取返さねば聖地の役員信徒に対し合はす顔がないと、執着心に駆られ言依別の教主の篤き心を無にして行つて居つた所、俄に山の頂に黄金の像現はれ、身の丈五丈六尺七寸、てつきり弥勒様の御出現、鷹鳥姫の信心の力に依りて愈五六七神政の太柱を握つた。誠の霊地は四尾山麓ではない、鷹鳥山にきはまつたりと、鼻の鷹鳥姫が得意顔に雀躍りしながら、チヨツと薄気味悪さうに近付き見れば、黄金像は高姫の素首をグツと鷲掴み、猫でも放る様にプリンプリンと、鷹鳥山の教の庭にドスンと落下し、人事不省となり、ピリピリピリと蛙をぶつつけた様になつて了ひ、其処へ此杢助がやつて往つて、生命丈は助けてやつた。其為に此杢助は……コレ此通り足が上を向き背中が下を向いて、サツパリ自由の利かぬ四つ足になつて了つたのだ。併し乍ら此杢助は信神堅固の勇士……斯んな事になる筈はない。鷹鳥姫の副守護神が憑依したのだから、どうぞ早う、こんな……土産はスツ込めて下さい。なア鷹鳥姫さま、お前も却々執着心が酷いと見える。同じ四つ足でも下向いて歩けるものならまだしもだが、斯うなつては天地顛倒、背中に腹を換へられて、どうして此世が渡られうか。……アツハヽヽヽヽ……。オイ笑ふ所か、高姫の守護神此国……オツトドツコイ神の国に出て来て、神の教を建てるなんて、あんまり精神が顛倒して居るではないか。元の杢阿弥の杢助の真心に立返り、早く副守護神を連れて帰つて呉れ。杢助誠に迷惑だ。国、クニ、苦になつて仕方がない。依りにヨツて、別のわからぬ副守護神を連れて来るものだから、玉能姫さまも初稚姫さまも、チヤンと御存じ、どつかへ蒙塵遊ばしたぞ。杢助の本守護神も愛想を尽かして隠れて了つたぞ。ウンウンウン』 鷹鳥姫『コレコレ杢助さま、お前さまは何とした情ない事になつたのだい。結構な三五教を見限つて太元教なんて、そんな謀叛を起すものだから、天罰で四つ足になつて了ひ、肩身が狭う小さくなつたのだよ。それだから油断は大敵、改心なされと云ふのだ。何程大持てにモテる積りでも、大モテン教だ。早く改心なされ、神様は人間が子を思ふと同じ事、片輪の子や悪人程可愛がらつしやるのだから、わしも斯んな悲惨な態を見て、此儘帰る訳にも行かぬ。サアこれから鎮魂をして誠の教を聞かしてあげよう。エーエー困つた事が出来た。此高姫の守護神が憑つたのだなどと、よう言へたものだ。悪神と云ふ者は、どこどこまでも抜目のない奴だ。到頭守護神の悪の性来を現はしよつたか。アーア杢助さまの肉体が可哀相だ。オイ四つ足、杢助さまの肉体を残してトツトと魔谷ケ岳へ帰つてお呉れ。愚図々々吐すと、日の出神の生宮が承知を致さぬぞや』 国依別『此杢助は最早お前さまの副守になつて了つた。お前さまは何時も口からものを言はず、ものを尻で聞いたり人の言葉尻を取り、尻でもの言ふから、屁理屈ばつかりだ。鼻持ならぬ匂がする。何程三五教でも尻の締りがなければヤツパリ穴有り教ぢや。終局には気張り糞を放つて、此通り四つ足に還元して了ふ。早く杢助の肉体から退かぬかいなア。杢助は大変な御迷惑様だ。アツハヽヽヽヽ』 と自ら可笑しさを耐へ、忍び笑ひに笑ひ、体中に波を打たせて居る。 鷹鳥姫『なんだ。低い所から声が出ると思へば、暗がりで分らなかつたが、お前さま失礼な寝て話をすると云ふ事があるものか、チト失敬ぢやないか』 国依別『霊界物語でさへも、寝て足を上げたり、下したりして言ふぢやないか。お前さま位な四つ足に話すのは寝とつて結構だよ』 鷹鳥姫『到頭変性女子の四つ足の守護神が現はれましたなア。早く改心をなさらぬと、頭を下にし足を上にして、ノタクラねばならぬ事が出来致すぞよと、大神様のお筆にチヤンと誡めてあります。鼻を撮まれても分らぬ程身魂が曇つて居るものだから、お前さまは天と地と間違へて居るのではなからうか。どうやら足が天井の方を向いて居るぢやないか』 国依別は、 国依別『アーア、悪性な守護神を連れて来て私に憑すものだから、段々足が上へあがり頭が下になつて了ひ、手で歩かねばならぬ様になつて来たぞよ』 と云ひながら逆立になり、両の手で座敷を歩いて見せた。七手許り歩いた途端に、体の中心を失つて、高姫の頭の上へドスンと倒れた。 鷹鳥姫『コレコレ杢助さま、妾にはそんな守護神は居りませぬぞえ。日の出神様に、何時までもそんな巫山戯た態をなさると承知なさらぬぞ。あゝモウ駄目だな。初稚姫さまも玉能姫さまも逃げて行かつしやる筈だワイ。わしも鷹鳥山を断念し、此処迄来るは来たものの、こんな悲惨な幕を目撃しては、帰りもならず、居る事も出来ず、困つた事だ。ドレこれから神様に御願して助けてやつて貰はう。仕方がない』 国依別は、 国依別『不言実行だよ。高姫さま』 とからかふ所へ、手燭を左の手に持ち、ノソリノソリとやつて来た真正の杢助、 杢助『ヤアお前は鷹鳥姫に能く似た化物だなア。此処にも一人、お前の分霊が倒れて居る。ヤアもう此頃は沢山の狐が人間の皮を被つて、杢助を誤魔化しに出て来よるので油断も隙もあつたものでない』 鷹鳥姫『ヤアお前さまは本当の杢助さま。どうして御座つた』 杢助『何うしても御座らぬ。最前から闇に紛れて、四つ足同志の珍妙な芸当を拝見致して居つたのだ。何でもタカとか鳶とか、クモとか国とか云ふ怪体な代物が、断りもなく杢助の身魂や住家を蹂躙し、エライ曲芸を演じて居つた。まるで此化物は鷹鳥山の鷹鳥姫に似た様な脱線振りを、遺憾なく発揮しよるワイ。アツハヽヽヽヽ』 国依別は、 国依別『ワツハヽヽヽ、オツホヽヽヽ』 と笑ひながらムツクと起き、ワザとカンテラの前に顔を突き出し、鷹鳥姫に俺の首実験せよと言はぬ許りにさらけ出した。 鷹鳥姫『何ぢや。お前は国依別の理屈言ひの宣伝使ぢやないか。みつともない、四つ足の真似をしたり………チツト慎みなさい。モシモシ杢助さま、これでも分りませうがなア。サツパリ正体が現はれて、御覧の通り本当に悲惨なもので御座いますワイ。こんな精神病者を、お前さまもお預りなさつて、大抵のこつちや御座いますまい』 杢助『今の今迄何ともなかつたのですが、お前さまが持つて来た……否お前さまの執着とか名のついた副守護神が憑つたのですよ。アヽ、どうやら、私も変になつて来た。体中にウザウザと毛が生える様な気分が致しますワイ』 国依別『杢助さま、国もどうやら茶色の毛が生え出して来ました。風邪を引いたのか、俄に腹の中でコンコンと咳をして居ます。今晩と云ふ今晩は実に不思議な宵ですな』 鷹鳥姫『なんとお前さま達は、これ程神界が御多忙なのに、気楽な洒落をなさつて日を送りなさるのは、チツト了簡が違やしませぬか。利己主義の守護神が極端に発動して居りますなア、妾の守護神が憑依したなんて、ヘンよう仰有りますワイ。これから日の出神様が御神力を現はして見せませうか。そこらが眩うて目もあけて居られぬ様になりますぜ』 杢助は笑ひながら、 杢助『「何を言つても、私は折角呑み込んだ二つの玉を、杢助の娘のお初に叩き出されて了つたものだから、サツパリ腰は抜け、鷹鳥山もサツパリ駄目になり、これから何処へ迂路ついて行かうか。若彦は姿を隠すなり、せめて杢助さま宅へでも往つて……此間はエライ御世話になりました……と御礼をきつかけに、何とかよい智慧を借りたいものぢやと、ノコノコやつて来て見れば杢助さまは御座らつしやらず、理屈言ひの捏廻し上手の国依別が人を嘲弄しやがる。エー此上は如何したら宜からうかなア。アンアンアン」……斯う云ふ声は杢助の言葉では御座らぬ。鷹鳥姫の薄志弱行と名の付いた守護神が、私にこんな事を囁かすのだ。早く此守護神を放り出し、自分も此館を放り出て、どこかへお道の為に行つて貰ひたいものだ。杢助も大変に迷惑だ。アツハヽヽヽ』 高姫は暫く腕を組み、首を頻りに振り、思案に沈む。国依別は、 国依別『あの高姫さまの心配さうな顔、どうしたら元の通りになるだらう。………オウ分つた、あの玉の在処を知らしてやりさへすれば、元の日の出神の生宮で威張れるだらう、さうすりやキツト全快するに定つて居る。ヤツパリ言ふまいかなア。又呑まれ、今迄の様に噪がれると困る、当る可からざる万丈の気焔を吐かれると、側へも寄りつけないやうになるから……』 高姫『何、宝珠の行方を、お前知つて居るのかい』 国依別『知つて居らいでかい、国さまだもの』 高姫『そんならお前が妾を困らさうと思つて隠したのだなア。油断のならぬ男だ。サア杢助さま、蛙は口からわれと吾手に白状しました。締木に懸けても言はしめて、玉の在処を探して見ませうかい』 杢助『サア如何だかなア。大方蒟蒻玉か何ぞと間違つて居るのだらう。それが違うたら瓢六玉か、狸の睾玉位なものだ。アツハヽヽヽ』 国依別『ナアニ杢助さま、本当に玉の在処を発見したのですよ。これから私がコツソリと其玉を拾ひあげ、高姫さまぢやないが、腹へ呑み込んで、一つ大日の出神となる心算だ………オツト失敗つた。高姫さまの居る所で言ふぢやなかつたに………秘密が暴露したワイ、アハヽヽヽ』 高姫『神政成就の御宝、一日も早く現はして御用に立てねばなりますまい。三五教は日に日に衰へて行くぢやありませぬか』 国依別『ヤツパリ国の夢やつたかいな………イヤイヤ夢ではない、現実だ。併し高姫さまの前では夢にしとかうかい。鷹鳥姫が忽ち玉取姫に早変りすると、折角発見した私の功績が無になる。言依別の神様に御褒めの言葉を戴き、それから三五教の総務になつて、日の出神の生宮を腮で使ふと云ふ段取だ。高姫さま、お気の毒ながら時世時節と諦めて下さい。あゝこんな愉快な事があらうか』 高姫『本当にあるのなら、二つの玉を、一つお前に上げるから、一つは妾に手柄を譲つて下さい。別に呑み込んで了ふのぢやないから………』 国依別『何でも呑み込みのよいお前さまだから剣呑なものだ。それなら一つ相談をしよう。紫の玉はお前さまが預るとして、私は金剛不壊の如意宝珠を預かる事にしよう。それさへ決定れば、何時でも知らしてあげる』 高姫『そりやチツト虫がよすぎる。金剛不壊の如意宝珠は、永らく妾の腹の中に鎮座ましました宝玉だ。謂はば妾の生御魂も同然だ。お前さまは紫の玉で辛抱しなさい』 国依別『滅相な、鷹鳥姫がアルプス教の御本尊として居た位な紫の玉は、如意宝珠に比べては余程劣つて居る。身魂相応だから、お前さまが紫の玉だ。私は何と云つても如意宝珠を取るのだから、さう覚悟しなさい』 高姫『エー訳の分からぬ男だなア。モウ斯うなる以上は何と云つても承知せぬ。奴盗人奴が、サア引摺つて往つてでも在処を白状させる』 国依別『世界見え透く日の出神さまの生宮が、私の様な人間を連れて行かねば、玉の在処が知れぬとは、実に気の毒なものだなア』 高姫『妾の悪口を言ふのなら辛抱もするが、畏れ多い、日の出神様の悪口まで言ひよつたなア、サアもう了簡ならぬ』 といきなり胸倉をグツと取つて締めつける。国依別は、 国依別『何ツ、猪口才な高姫の奴』 と又胸倉を取り、両方から睨み合つて、真赤な顔を膨らして居る。杢助は、 杢助『コレ高姫さま、国依別さま、お鎮まりなさい。同じ三五教の宝、誰が手に入れても同じ事ぢやないか』 高姫『イエ、斯んな奴に如意宝珠の玉を弄らさうものなら、それこそ穢れて了ひます。如何しても斯うしても、一歩譲つて紫の玉だけは発見した褒美としてなぶらしてやるが、仮令天が地になり地が天となつても、如意宝珠ばかりは、こんな奴に持たして堪らうか……』 国依別『ナアニ発見主は俺だ。先取権があるのだから、グヅグヅ云ふと、二つながら俺が預るのだ』 高姫『何ツ、玉盗人の分際として広言を吐くか』 と高姫は組んづ組まれつ、座敷中をのたうち廻り、終局には金切声を張上げて、汗みどろになつて大活動を始めて居る。杢助は、 杢助『コラコラ国依別さま、お前、本当に其玉の在処を知つて居るのか』 国依別『ナアニ発見したら……と云ふ話です。夢にでも見たら俺が見つけたのぢやから、如意宝珠の玉を俺が預ると云つたばかりです。まだ皆目在処は分らぬのです、アツハヽヽヽ、あまり一生懸命で嘘が真実になつて了つた。アツハヽヽヽ』 高姫『何ツ、お前嘘を云つたのか。なアんの事だいな。あーア、要らぬ苦労をやらされて了つた。そこらが茨掻だらけだがな』 杢助『アツハヽヽヽ、又執着と云ふ魔が憑いて、面白い演芸を無料観覧させて呉れたものだな、アツハヽヽヽヽ』 と腹を抱へて笑ふ。 (大正一一・五・二八旧五・二松村真澄録)
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霊界物語 23_戌_木山の里/竜宮島へ出発 04 長高説 第四章長高説〔七一六〕 杢助は魔我彦、竹彦二人と共に窃に聖地に帰り、表戸を閉し暫らく外出せず、聖地の様子を窺つて居た。玉治別、若彦、国依別の三宣伝使も密に聖地に帰り、国依別が館に深く忍び、高姫一派の陰謀を偵察しつつあつた。神ならぬ身の高姫は此事は夢にも知らず、鬼の来ぬ間の洗濯するは今此時と、私かに聖地の役員信徒の宅に布令を廻し、緊急事件突発せりと触れ込んで、錦の宮の八尋殿に集めた。 此日は風烈しく急雨盆を覆へす如く、雷鳴さへも天の東西南北に巻舌を使つてゴロツキ出した。斯かる烈しき風雨雷電にも屈せず、緊急事件と聞いて爺も婆も猫も杓子も、脛腰の立つ者は満場立錐の余地なきまでに寄り集まつた。此時高姫は烏帽子、狩衣厳めしく神殿に進み、言依別の教主、尻でも喰へと言ふ鼻息にて斎主を勤め、型の如く祭典を済ませ、アトラスの様な曼陀羅の面を講座の上に曝し、満座の一同に向ひ、鬼の首を篦で掻き斬つた様に得意気に壇上に肩を揺り、腮を上下にしやくり乍ら、 高姫『皆さま、今日は斯くの如き結構なお日和にも拘らず、残らず御参集下さいまして、日の出神の生宮も満足に存じます。言依別の教主は先日より少しく病気の態にて引き籠られ、又杢助の総務殿は何れへかお出でになり、此三五教の本山は首の無い人間の様だ、二進も三進も動きが取れないと、大勢様の中には御心配遊ばしたお方があつた様ですが、日の出神の御神徳は偉いものです。教主が出勤せなくても、杢助其他の幹部宣伝使が居なくても、御神力に依つて、斯くの如く一人も残らず参集して下さつたと言ふのは、未だ天道様は此高姫を捨て給はざる証で御座いませう。杢助総務の召集でも言依別の教主の召集でも、此八尋殿の建設以来、是だけ立錐の余地なき迄お集まりになつた事は御座いませぬ。それだから神力が強いか、学力が強いか、神力と学力との力競べを致さうと神様が仰有るのです。論より証拠、実地を見て御改心なさるが一等です。時に緊急事件と申しまするのは外でも御座らぬ。我々日の出神の生宮、而も変性男子の系統の肉体、及び錚々たる幹部の御連中を差措き、たかの知れたお節の成り上りの玉能姫や、杢助の娘お初の如き者に、ハイカラの教主が大切なる御神業をソツと命令し、吾々始め幹部の御歴々にスツパヌケを喰はすと言ふ事は、如何に御神業とは言へ、吾々一同を侮辱したる仕打ちでは御座りますまいか。幹部役員は申すも更なり此処にお集まりの方々は何れも熱心なる三五教の信者様計りで御座りませう、神様のお仕組の御用を各々に致し度いばつかりで、地位財産を捨てて此処へ来乍ら、訳の分らぬ杢助一派の者に蹂躙されて、指を啣へてアフンとして見て居ると言ふ事がありませうか。斯う見渡す所、大分立派な男さまも居られますが、貴方等は睾丸を提げて居られますか。実に心外千万ではありますまいかな』 加米彦は満座の中よりヌツと立ち上り、 加米彦『高姫さまに質問があります、何事も神界の御経綸は我々人間の容喙すべき所ではありますまい。如何に日の出神の生宮ぢやと仰有つても、神様が高姫さまの命令に服従せよとは、何処の筆先にも書いてはありませぬ。日の出神呼ばはりは廃めて貰ひ度い。貴女こそ聖地及び神界の御経綸を混乱顛覆させる魔神の容器でせう』 高姫は講座より地団駄を踏み、目を釣りあげ、 高姫『誰かと思へば汝は秋山彦の門番加米彦ではないか。世界の大門開きを致す此高姫の申す事、たかが知れた一軒の家の門番が容喙すべき限りでない。すつ込つで居なされ』 と一口に叩きつけ様とする。加米彦は負ず気になり、高姫の立てる壇上に現はれて一同を見渡し、 加米彦『皆さま、私は今高姫さまの仰せられた如く、秋山彦の門番を致して居りました加米彦で御座いますが、然し乍ら高姫さまも大門の番人ぢやと只今自白されたではありませぬか。門番の分際として大奥の事が如何して分りませう。それに就いても私は秋山彦の館、即ち神素盞嗚大神、国武彦命様の御隠れ館の門番を致して居つた者、其時に冠島、沓島の鍵を応答なく盗んで行つて玉を呑み込んだ人があると言ふ事は、私が今申し上げずとも、皆さんは既に已に御承知の事と存じます。斯様なる権謀術数到らざるなき生宮さまの言葉が、如何して真剣に真面目に信ぜられませうか。皆様冷静によく御考へを願ひます』 座中より『尤も尤も』『賛成々々』『ヒヤヒヤ』『ノウノウ』の声交々起つて来る。 高姫は烈火の如く、 高姫『今「ノウノウ」と言つたお方は此日の出神の前に出て来て下さい。吾党の士と考へます。サア早く此処へお越しなされ』 加米彦『恐らく一人もありますまい、私の説に対し「ノウノウ」と言つたお方は賛成の意味を間違つて言はれたのでせう。皆さま、失礼な申し分で御座いますが、中には老人や子供衆も居られますから、一寸説明を致します。「ヒヤヒヤ」と言へば私の説に賛成したと言ふ事、「ノウノウ」と言へば賛成せないと言ふ事です。如何です。尚一度宣り直して貰ひませう。さうして不賛成のお方は「ノウノウ」と言つて下さい』 場の四隅よりは『ヒヤヒヤ』の声計りである。殊更大きな声で『ノウノウ、然し高姫の説にはノウノウだ』と付け加へた。高姫は口角泡を吹き乍ら、 高姫『皆さま、今となつて分らぬと言うても余りぢやありませぬか、大切なるお宝を隠されて、よう平気で居られますな。第一言依別のドハイカラの教主は、杢助の様な奴にチヨロまかされ、系統の生宮の高姫を疎外し、さうして其宝をば何処かへ隠して仕舞つた。皆さまはそんな章魚の揚壺を喰はされた様な目に遇ひ乍ら、平気で御座るとは無神経にも程があるぢやありませぬか。何程言依別の教主が偉くても、杢助の力が強くても、神界の事が学や智慧で分りますか。昔からの根本の因縁、大先祖は如何なる事を致して居つたか、如何なる因縁で此世へ生れて来たか、日の出神の誠のお活動は如何なものか、竜宮の乙姫様の御正体は如何かと言ふ明瞭な答へが出来ますか。モウ是からは錦の宮を始め此八尋殿は、及ばず乍ら此高姫が総監致します。玉能姫や初稚姫の女を選んで、大切な御用をさせると言ふ訳の分からぬ教主に、随喜渇仰して居る方々の気が知れませぬ。チツと皆さん、耳の穴を掃除して日の出神の託宣を聞き、活眼を開いて実地の行ひをよくお調べなされ。根本の要を掴んだ日の出神の生宮を差措いて、枝の神の憑つた肉体に何が分りますか。ここは一つ……誰の事でも無い、皆お前さん等の一身上に関する大問題、否国家の大問題です』 加米彦『只今高姫さまのお言葉に就いて異議のある方は起立を願ひます』 一同は残らず起立し『異議あり異議あり』と叫んだ。 加米彦『皆さまの御精神は分りました。私の申した事に御賛成のお方は何卒尚一度起立を願ひます』 高姫は隼の如き目を睜り、各人の行動を監視して居る。壇下の信者は高姫に顔を睨まれ、起立もせず坐りもせず、中腰で居るものも沢山あつた。 加米彦『皆さまに伺ひますが、教主が神界の御命令に拠つて、玉能姫さま、初稚姫さまに御用を仰せ付けられたのが悪いとすれば、まだまだ横暴極まる悪い事が此処に一つある様に思ひます』 聴衆の中より『有る有る、沢山にある』と呶鳴る者がある。 加米彦『その職に非ざる身を以て、神勅も伺はず、教主の承諾も得ず、部下の役員を任免黜陟すると言ふ事は、少しく横暴ではありますまいか。黒姫様、鷹依姫様、竜国別様、テーリスタン、カーリンスを聖地より追出したのは、果して何人の所為だと思ひますか』 此時高姫は肩を斜に聳やかし乍ら、 高姫『加米彦、そりや何を言ひなさる。系統の生宮、日の出神が命令をなさつて、黒姫以下を海外諸国へ玉探しにお遣り遊ばしたのだ。何程言依別や初稚姫が偉いと言つても、日の出神には叶ひますまい。学や智慧で定めた規則が何になるか。そんな屁理屈は神界には通りませぬぞや』 加米彦『これ高姫さま、お前さまは二つ目には日の出神だと仰有るが、そんな立派な神様なら何故宝玉を隠されて、それを知らずに居りましたか。それの分らぬ様な日の出神なら我々は信頼する丈けの価値がありませぬ』 一同は『ヒヤヒヤ』と叫ぶ。中には『加米彦さま、確り頼みます』と弥次る者もあつた。 高姫『誰が何と言つても日の出神に間違ひはない。そんな小さい事に齷齪して居る様な日の出神なれば、如何して此三千世界の御用が勤まりますか。物が分らぬにも程がある。仮令此高姫一人になつたとて此事仕遂げねば措きませぬぞ』 加米彦『高姫さま、一人になつてもと今言はれましたな。此通り沢山の方々が見えて居つても、只一人も貴女の説に賛成する者が無いのを見れば、既に已に一人になつて居るのではありませぬか』 場の四隅より『妙々』『賛成々々』『しつかり頼む』『孤城落日』等の弥次り声が聞えて来た。 高姫『盲目千人、目明一人の世の中とはよくも言つた者だ。神様の御心中をお察し申す。あゝあ、斯んな分らぬ身魂の曇つた人民計りを、根の国、底の国の苦しみから助けてやらうと思召す大神様や、日の出神様の広大無辺のお心がおいとしい』 と涙を拭ふ。 加米彦『高姫さま、貴女の誠心は我々も認めて居りますが、然し乍ら根本的に大誤解があるのを我々は遺憾に存じます。貴女の肉体は変性男子の系統だから曲津神が抱込んで、国治立大神のおでましを妨害し、再び悪魔の世界にしやうとして居るのですから、ちつとは省みなさつたが宜しからう、我々の様な肉体に憑つた処で悪魔の目的は達しない。断つても断れぬ系統の肉体を応用して日の出神だと誤魔化すのですから御用心なさらぬと、遂には貴女の身の破滅は言ふに及ばず、大神様の御経綸を妨害し天下に大害毒を流す様になりますから、此処は一つ冷静にお考へを願ひたい。寄ると触ると幹部を始め数多の信者は、此事計りに頭を悩めて居りますが、然し貴女が変性男子の系統でもあり、断つても断れぬお方ぢやと言ふので皆遠慮して居るのです。此加米彦なればこそ、職を賭して斯かる苦言を申し上げるのです。決して貴女を排斥しようとか、除け者にしようとの悪い心は少しもありませぬ。第一貴女のお身の上を案じ、大神様の御経綸を完全に成就して頂き、世界の人民もミロクの神政を謳歌し、一時も早く松の世をつくり上げ度いとの熱心から御忠告を申し上げるのです。何卒よくお考へを願ひます』 高姫『秋山彦の門番、加米彦、そりや何を言ふか。ヤツとの事で宣伝使の末席に加へられたと思つて、ようツベコベと其んな屁理屈が言へたものだ。系統を抱き込んで目的を立てると言ふ事は、それは言依別命の事だ。此高姫は正真正銘の変性男子よりも早い神様の御降臨、云はば変性男子よりも高姫の方が先輩と云つても異論はありますまい。打割つて言へば、変性男子よりも此日の出神の生宮が教祖とならねばならぬ者だ。変性男子の肉体は最早昇天されたのだから、後は高姫が教祖の御用をするのが神界の経綸上当然の帰結であります。然し乍ら一歩を譲つて変性女子の言依別を教主にしてやつて置いてあるのは、皆此高姫が黙つて居るからだ。然し最早斯うなつては勘忍袋の緒がきれて来た。日の出神が加米彦の宣伝使を今日限り免職させ、杢助の総務役を解き、言依別命を放逐し、玉治別、国依別の没分暁漢も今日限り免職させるから、今後ノソノソ帰つて来ても皆さまは相手になつてはなりませぬぞ』 加米彦『アハヽヽヽ、何程高姫さまが地団駄踏んで呶鳴らつしやつても、少しも我々に於ては痛痒を感じませぬ。お前に任命されたのではない。言依別神様に任ぜられたのだから、要らぬ御心配をして下さいますな』 高姫『お前等の知つた事ぢや無い。善一筋の誠正直を立て通す妾の仕込んだ魔我彦、竹彦両人こそ、本当に立派な宣伝使だ。是から誰が何と言つても魔我彦を総務にし、竹彦を副総務に神が致すから左様心得なされ。嫌なお方は退いて下され。此錦の宮は高姫が誰が何と言つても総監致すのだから』 此時佐田彦、波留彦の両人は壇上に駆上り、 佐田彦『吾々は言依別命様より或特別の使命を帯び、御神宝の御用を勤めた者であります。何と言つても高姫さまは其隠し場所が分らなくては駄目ですよ。大勢の者が如何しても貴女に畏服するのは、貴方が天眼力で玉の所在を言ひ当なくては日の出神も通りませぬ』 高姫は目を瞋らせ、 高姫『エヽ、又しても門掃の成上りがツベコベと何を言ふのだ。玉の所在が分らぬ様な事で、斯んな啖呵がきれますか。屹度時節が来たなれば現して見せて上げよう』 佐田彦『日の出神も時節には叶ひませぬかな』 波留彦『吾々の心の裡にチヤンと仕舞ひ込んであるのだが、常平生から人の心が見え透くと仰有る日の出神さまに、此胸の中を一寸透視して貰ひませうか』 と襟を両方に開け、胸板を出して稍反身になり、握り拳を固めてウンウンと殴つて見せた。 高姫『ツベコベと神に向つて理屈を言ふ間は駄目だ。誰が何と言つても魔我彦、竹彦位立派な者はありませぬワイ。妾の言ふことが気に喰はぬ人はトツトと尻からげて帰つて下さい。お筆先に此大本は大勢は要らぬ。誠の者が三人さへあれば立派に御用が勤めあがると、変性男子のお筆にチヤンと出て居る。今が立替立直しの時期ぢや、サアサア早う各自に覚悟を成さいませ。此処は大勢は要りませぬ。大勢あるとゴテついて、肝腎の御用の邪魔になる。日の出神の生宮が天晴れ神政成就さして見せるから、其時には又集まつて御座れ。神は我子、他人の子の隔ては致さぬから、其時になつたら、「高姫様始め魔我彦、竹彦の宣伝使、エライ取違ひを致して居りましたから、何卒御勘弁下さりませ」と逆トンボリになつてお詫に来なされ。気好う赦して上げるから、今は御神業の邪魔になるからトツトと帰つて下され。帰るのが嫌なら高姫の言ふ事を聞いて、改心をなさるが宜からう』 斯かる所へ杢助は魔我彦、竹彦両人を従へ、ノソリノソリと人を分けてやつて来た。群集は三人の姿を見て思はず雨霰と拍手した。杢助一行は一同に目礼し乍ら講座に上り、 杢助『アヽ是は是は高姫様、御演説御苦労で御座いました。嘸お疲れでせう。貴女の御信任厚き魔我彦、竹彦の立派な宣伝使が見えました。是から貴女に代つて演説なさるさうです。私も大変に両人さんのお説には感服致しました』 高姫は百万の援軍を得たる如き得意面を曝し、肩を聳やかし稍仰向き乍ら、 高姫『杢助殿、アヽそれは御苦労であつた。よう其処迄改心が出来て結構だ。是から何事も高姫の申す事を聞きなさるか、イヤ改心をなさるか』 杢助『改心の徹底迄いつたものは、最早改心する余地がありませぬ。貴女の様に改心から後戻りをして慢心が出来ると、又改心する機会がありまするが、吾々の如き者は、融通の利かぬ困つた者です。貴女の様に慢心しては改心し、改心しては慢心し、慢心改心、改心慢心と自由自在の芸当は、到底吾々の様な朴訥な人間では不可能事です、アツハヽヽヽ』 と豪傑笑ひをする。群集は手を拍つて笑ふ。 高姫『アヽ魔我彦、竹彦、好い処へ帰つて御座つた。皆さまに合点の往く様に此処で改心の話を聞かして下さい。さうすれば此高姫の日頃教育した力も現はるるなり、お前さまの善一筋の一分一厘歪はぬ日本魂の生粋が証明されるのだから、サア早うチヤツと皆さまに大々的訓戒を与へて下さい。これこれ加米彦、佐田彦、波留彦、余り沢山に講座に居ると窮屈でいかぬ。暫らく下へおりて、魔我彦や、竹彦の大宣伝使の御説教を聞くのだよ。さうすれば、チツトはお前さまの我も折れて宜からう』 と得意満面に溢れ肩を揺りイソイソといきつて居る。魔我彦は大勢に向ひ、 魔我彦『皆さま、私は高姫様の神様に御熱心なる御態度に心の底から感銘致しまして、如何かして高姫様の思惑を立てさし度いと思ひ、御心中を忖度致しまして紀伊の国に罷り出で、実の処は若彦を巧く誑かし聖地へ連れ帰り、杢助さま、言依別の教主を或難題を塗りつけ放逐しやうと企みつつ、大台ケ原の峰続き青山峠までスタスタやつて往つた所、玉治別、国依別の両宣伝使が谷の風景を眺めて、休息して居られました。そこで高姫様の一番お邪魔になるのは言依別命、それについで命の信任厚き玉治別、国依別の両人を、何とかして葬り去らうと思ひ進んで行つた所、折よくも日の暮前両人に出会し、二人の隙を覗ひ千仭の谷間へ突落し、高姫様の邪魔ものを除かむものと考へて居りました。万々一都合よく行けば、あとに残つた言依別命位は最早物の数でもないと、忽ち悪心を起し、思ひきつて谷底へ突き込みました。両人は五体が滅茶々々になつて斃死つただらうと思つて居ましたが、あに計らむや妹図らむや、若彦の館に於て杢助様始め玉、国両宣伝使に出会した時のその苦しさ怖さ、屹度復讎を討たれるに相違ないと思つて心配を致し、生きた心地も無くガタガタ慄へ乍ら、矢庭に庭先の松の樹に駆上り、神憑りの言を信じ雲に乗つて逃げ出さうと思ひ、過つて二人共樹上より大地に向つて真逆様に墜落し、人事不省に陥つて居る所を、玉、国の両宣伝使の手厚き御保護を受け、さうして鵜の毛の露ほども怨み給はず、却て神様から結構な教訓を受けたと喜んで下さつた時の吾々の心、到底高姫さまの教へられる事とは天地雲泥の違ひで御座いました。そこで私は何故此様な善のお方を悪く思つたか知らぬと、懺悔の念に堪へず考へ込んで居りましたが、矢張言依別の教主の教理を聞いて御座るお蔭で、斯んな立派な人格になられたのであらうと深く感じました。又私があの様な悪心を起したのも、矢張高姫さまの感化力がさせた事だとホトホト恐ろしくなりました。如何しても人間は師匠を選ばねばなりませぬ。水は方円の器に随ふとか申しまして、教はる師匠、交はる友によつて善にもなり、悪にもなるものと堅く信じます。私は皆さまに今日迄の取違を此処にお詫致します』 高姫『コレコレ魔我彦、誰がそんな乱暴な事をせいと言ひましたか、それは大方言依別の霊が憑つたのだらう』 竹彦『イヽエ、言依別さまの身魂は余り尊く清らかで、我々の様な小さい曇つた鏡にはおうつりに成りませぬ。全く高姫さまや、黒姫さまの生霊が憑りましてな』 聴衆は手を拍つてドヨメキ渡る。杢助は又もや口を開き、 杢助『皆さま、私は言依別の教主より内命を奉じ、十津川の谷間へ急行せよとの仰せにより行つて見れば、谷川に似合はぬ大滝の下に立派な青い淵がありました。そこで水行して居ると上から二人の男が突然降り来り、ザンブとばかり淵へ落ち込んだ。日の暮紛れに何人か分らねども見逃す訳にも行かぬ、直に淵へとび込んで救ひ上げ色々と介抱した所、二人の男は漸く息を吹き返しました。よくよく見れば、玉治別、国依別の宣伝使で御座いました。それより両人に向ひ如何して斯んな所へ落ち込んだのですかと尋ねて見ましたが、御両人は他人に瑕瑾をつけまいと言ふ誠心から、現在此魔我彦、竹彦につき落された事を一言も発せず隠して居られました。さうして二人に対して毛頭怨みを抱いて居られないのには私も感服致しました。是と言ふのも全く瑞の御霊の大精神を体得して居られるからだと、流石の杢助も感涙に咽び、それより三人は道を急いで若彦の館に行つて見れば、魔我彦、竹彦の両人が何事か善からぬ虚言を構へ若彦を唆かし大陰謀を企まむとして居る所でありました。然し乍ら流石の悪人も誠の心に感じ斯くの如く改心を致して、自分の罪状を逐一皆さまの前に曝け出し真心を示して居られます。之でも言依別様の教が悪と言はれませうか。高姫さまの教は果して完全なもので御座いませうか』 と釘をさされて高姫はグツとつまり、壇上を蹴散らす如き勢で肩を斜に首を左右に振り乍ら、己が館へ足早に帰り行く。 斯かる所へ言依別の教主は莞爾として現はれ、一場の演説を試みた。玉治別、国依別、若彦の三人は此場に悠然として現はれ来り、一同に会釈し、神殿に向ひ天津祝詞を奏上し終つて一同解散したり。今後の高姫は如何なる行動を執るならむか。 (大正一一・六・一〇旧五・一五北村隆光録)
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霊界物語 23_戌_木山の里/竜宮島へ出発 09 高姫騒 第九章高姫騒〔七二一〕 若彦の門を潜つて入り来る一人の美人があつた。門番の秋公、七五三公の両人は此姿を見て、 秋公『モシモシ、何処のお女中か知りませぬが、何の御用で御座るか、門番の私に一応御用の趣を聞かして下さいませ』 女『少しく様子あつて……兎も角主人に会ひ度う御座いますから』 七五三公『名も分らぬ女を通す事は罷り成りませぬ』 女『お前は此処の門番ではないか、妾が如何なる者か分らぬ様な事で、門番が勤まりますか』 とたしなめ乍ら、足早に奥深く進み入つた。 七五三公『アヽ薩張駄目だ、女と言ふ奴は押し尻の強いものだ。然し彼奴は何処ともなしに気品の高い女であつたが一体何だらうかなア』 秋公『ひよつとしたら大将のレコかも知れぬぞ』 と小指を出して見せる。 七五三公『当家の大将に限つてそんな者があつて堪らうかい。玉能姫様と言ふ立派な奥様があるのだが、今は再度山の麓の生田の森に、三五教の館を建てて熱心に活動して居られると言ふ事だ。御夫婦は遥々国を隔てて忠実に御神業を為さると言つて、大変な評判だから、そんな事があつて堪るものか』 秋公『さうだと言つて思案の外と言ふ事がある。ひよつとしたら玉能姫さまが御入来になつたのぢやあるまいかな』 七五三公『馬鹿を言へ、玉能姫様がどうして一人お入来になるものか。少なくとも一人や二人のお供は、屹度従いて居らねばならぬ筈だ』 秋彦『そこが……微行と言ふ事がある。きつと大将が恋しくなつて、御微行と出掛けられたのだらう』 と門番は美人の噂に有頂天になつて居る。 美人は奥深く進み入り玄関先に立ち、小声になつて、 女『若彦様は御在宅で御座いますか』 と訪うた。玄関番の久助は此声に走り出で、 久助『ハイ、若彦の御主人は今奥に居られます。誰方で御座いますか、御名を聞かして下さいませ』 女『少しく名は申し上げられぬ仔細が御座います。お会ひ申しさへすれば分りますから、何卒「女が一人お訪ねに参つた」と伝へて下さいませ』 久助『私は姓名を承はらずにお取次を致しますると、大変に叱られますから、何卒名を言つて下さい、さうでなければお取次は絶対に出来ませぬ』 女『左様なれば妾から進んでお目に掛るべく通りませう』 久助『是は怪しからぬ事を仰有る。此処は私の関所、さう無暗に通る事は罷りなりませぬ』 女『左様なれば取次いで下さいませ』 久助『見れば貴女は相当の人格者と見えるが、私の言ふ事が分りませぬか。玄関番は玄関番としての職責を守らねばなりませぬから、何程通して上げ度くとも、姓名の分らない方は化物だか何だか知れませぬ。気の毒乍ら何卒お帰り下さいませ』 美人は稍声を高め、 女『コレ久助、お前はまだ聖地に上つた事もなく、生田の森へ来た事も無いので分らぬのも無理はないが、名を名告らずとも玄関番をして居る位なら、大抵分りさうなものだ。何と言つても妾は通るのだから邪魔をして下さるな』 と何処やらに強味のある言ひ振り。 久助は首を傾け、 久助『ハテナ、貴女は奥様では御座いませぬか。ア、いやいや奥様ではあるまい。尊き玉能姫様は結構な御神業を遊ばして、今では女房とは言ひ乍ら、格式がズツと上になられ、当家の御主人様も容易にお側へ寄れないと言ふ事だ。そんな立派な方が供を連れずに、軽々しく一人御入来遊ばす道理がない。アヽ此奴は、てつきり魔性のものだ。……こりやこりや女、絶対に通る事は罷りならぬぞ』 と大声に呶鳴りつけてゐる。若彦は久助の大声に何事の起りしかと、座を起つて此場に現はれ来り、美人の姿を見て打ち驚き、 若彦『ア、お前は玉……』 と言ひかけて俄に口をつぐみ、居直つて、 若彦『何れの女中か存じませぬが、何卒奥へお通り下さいませ』 女『ハイ、有り難う御座います。御神務御多忙の中を御邪魔に上りまして、誠に御迷惑様で御座いませう。左様なればお言葉に従ひ、奥に通して頂きませう』 若彦『サア私に従いて御入来なさいませ。コレ久助、お前は此処にしつかりと玄関番をして居るのだよ、一足も奥へ来てはいけないから』 と言ひ捨てて両人は奥の間に姿を隠した。後見送つた久助は首を稍左方に傾け舌を斜に噛み出し、妙な目付をして合点の往かぬ面持にて天井を眺めて居る。若彦は奥の間に女と二人静かに座を占め、 若彦『貴方は玉能姫殿では御座らぬか。大切な御神業に奉仕しながら、何故案内も無く一人で此処へお入来になりましたか。私は神様へ誓つた以上、貴女と此館で面会する事は思ひも寄りませぬ』 玉能姫『お言葉は御尤もで御座いますが、之には深い仔細があつて参りました。貴方の御存じの通り、言依別様より大切な神業を命ぜられ、次で生田の森の館の主人となりましたが、それに就いて高姫さまの部下に仕へて居る人達が、「三個の神宝は、屹度妾と貴方とが申し合せ当館に隠してあるに相違ないから、若彦の生命をとつてでも、其神宝の所在を白状させねばならぬ」と言つて、大変な陰謀を企てて居りますから、妾もそれを聞いて心落ち着かず、何にも御存じの無い貴方に御迷惑を掛けては、妻たる妾の責任が済むまいと思つて、長途の旅を只一人忍んで御報告に参りました』 若彦『左様で御座つたか。それは御親切に有難う御座います。然し乍ら何事も神様に任した私、仮令高姫が如何なる企みを以て参りませうとも、神様のお力に依つて切り抜ける覚悟で御座います。何卒御安心の上、休息なされたら一時も早くお帰り下さいませ。万一此事が他に洩れましてはお互の迷惑「若彦、玉能姫は立派な者だと思つて居たのに、矢張人目を忍んで夫婦が会合して居る」と言はれてはなりませぬから、教主のお許しある迄は絶対にお目に掛る事は出来ませぬ。その代り私も何処までも独身で道を守つて居りますから、御安心下さいませ』 玉能姫『貴方に限つて左様な気遣ひは要りますものか。互に心の裡は信用し合つた仲ですから、決して決して左様なさもしい心は起しませぬ。御承知で御座いませうが何れ遠からぬ中、高姫さまか、又は部下の方々が食物を以て見えませうから、決してお食りになつてはなりませぬ。是だけは特にお願ひ致して置きます』 若彦『ハイ、有り難う御座います、何から何まで御注意下さいまして御親切の段、何時迄も忘却致しませぬ』 玉能姫は嬉し気に若彦の言葉を聞いて笑顔を作り、嬉し涙を滲ませて居る。 斯かる処へ玄関に当つて争ひの声おいおい高くなつて来る。二人は何事ならんと耳を澄ませ聞き入れば、高姫の癇声として、 高姫『此処へ玉能姫が来たであらう』 久助の声『イヤイヤ決して決して女らしい者は一人も来ませぬ。此館は御主人の命令に依つて当分の間、女は禁制で御座る』 高姫の声『何と言つて隠してもチヤンと門番に聞いて来たのだ。女が一人此処へ這入つて来た筈だ、上も下も心を合せ、しやうも無い女を引き摺り込み、体主霊従のあり丈けを尽し、表面は誠らしく見せて居る若彦の企みであらう。彼奴は青彦と言つて、妾が育ててやつた男だ。エー、通すも通さぬもあるか、言はば弟子の館に師匠が来たのだ。邪魔致すな』 と呶鳴り立て、久助の止むるを振り払ひ、三四人の男を玄関に待たせ置き、畳を足にて強く威喝させ乍ら若彦の居間に進み来り、 高姫『オホヽヽヽ、若彦さま、悪い処へカシヤ婆が参りまして誠に御迷惑様、折角意茶つかうと思ひなさつた処を、風流気の無い皺苦茶婆が這入つて来て、折角の興を醒ましました。お前さまは羊頭を掲げて狗肉を売る山師の様な宣伝使ぢや。玉能姫殿、此高姫の眼力に違はず、表面は立派な事を……ヘン……仰有つて言依別の教主を誤魔化して御座つたが、今日の醜態は何で御座りますか。貴方の御身分で一人の伴も連れずに、大切な神業を遊ばす夫の側へ忍んで来るとは、実に立派な貴方の行ひ、高姫も実に感心致しました。本当に凄いお腕前、爪の垢でも煎じて頂き度う御座いますワ。オホヽヽヽ』 若彦『これはこれは高姫様、遠方の所ようこそいらせられました』 高姫『よう来たのでは無い、悪く来たのですよ。お前さまも気持良く楽しまうと思つて居た処へ、皺苦茶婆アがやつて来て、折角の楽しみを滅茶々々にされて胸が悪いでせう。月に村雲、花には嵐、世の中は思ふ様には往きますまいがな。西は妹山、東は背山、中を隔つる高姫川、本当に悪い奴が出て参りました。コレコレ玉能姫さま、恥かし相に赭い顔して何ぢやいな。阿婆擦女の癖に、殊勝らしう見せようと思つて、そんな芝居をしても、他のお方は誤魔化されませうが、此高姫に限つて其手は喰ひませぬぞエ。「その手でお釈迦の顔撫でた」と言ふのはお前さまの事だ。アヽア怖い怖い、こりや一通りの狸ではあるまい。愚図々々して居ると高姫の睾丸……オツトドツコイ……胆玉まで抜かれますワイ』 玉能姫『これはこれは高姫様、遠方の処御苦労様で御座いました。今承はれば貴方は色々と我々夫婦の事に就いて、誤解をして居らつしやいますが、決して左様な考へを以て来たのでは御座いませぬ』 高姫『そんな事は今々の信者に仰有る事だ。蹴爪の生えた高姫には、根つから通用致しませぬワイなア』 と小面憎気に頤をしやくつて見せる。玉能姫は返す言葉も無く迷惑相に俯向いて居る。 高姫『コレ、玉能姫さま、イヤお節さま、悪い事は出来ますまいがな。誠水晶の生粋の日本魂ぢやと教主が見込んで、大切な御神業を言ひ付けられた貴女の精神が、さうグラ付く様な事では如何なりますか。妾は是から貴女の夫婦会合を実地に目撃した証拠人だから、三五教一般に報告致しまして信者大会を開き、お前さまの御用を取上げて仕舞はねば、折角大神様の三千年の御苦労も水の泡になります。サア如何ぢや、返答をしなされ。三つの玉は何処へ隠してある。それを聞かねば、お前さまの様なグラグラする瓢箪鯰には秘密は守れませぬ。サア玉能姫さま、若彦さま、夫婦共謀してドハイカラの言依別を誤魔化して居つたが、最早化けの現はれ時、何と言つても高姫が承知しませぬぞエ。一般に報告されるのが苦しければ……魚心あれば水心ありとやら……此高姫も血もあれば涙もある。決してお前さま達の御迷惑を見て、心地よいとは滅多に思ひませぬ。サア玉能姫さま、お前さまはチツと妾の言ひ様が強うて腹も立つであらうが、そこは神直日大直日に見直し聞き直して、御神宝の所在を妾にソツと言つて下さい。さうすればお前さま等夫婦のアラも分らず、妾も亦誠の御神業が出来て結構だから』 玉能姫『妾は一度教主様から玉はお預り致しましたが、不思議な方が現はれて遠い国へ持つて行かれましたから、実際の事は何処に隠されてあるか、妾風情が分つて堪りますか。又仮令知つて居りましても、三十万年の間は口外は出来ない事になつて居りますから、それ許りは如何仰有つても申し上げられませぬ。何卒貴女の天眼通と日の出神の御守護とで、玉の所在を御発見なさるが宜しう御座いませう』 高姫『エー、ツベコベと小理屈を言ふ方ぢやなア。そんな事を勿体ない、日の出神に御苦労を掛けたり、天眼通を使うて堪りますか。お前さまが只一言「斯う斯うぢや」と言ひさへすれば良いぢやないか』 若彦『現在夫の私にさへも仰有らぬのですから、何程お尋ねになつても駄目ですよ』 高姫『エー、お前までが横槍を入れるものぢやない。夫婦が腹を合して隠して居るのであらう。そんな事はチヤーンと分つて居るのだ』 若彦は稍語気を荒らげ、 若彦『知つて居るのなら何故貴女勝手にお探しなさらぬか。貴女の仰有る事は矛盾撞着脱線だらけぢやありませぬか』 高姫『脱線とはお前の事だ。教主の御命令がある迄夫婦顔を合さぬと誓ひ乍ら、今日の脱線振りは何の事だ。矛盾撞着はお前等夫婦の事ぢやないか。余り人の事をけなすと屑が出ますぞ。オホヽヽヽ』 と嘲る様に笑ふ。 玉能姫『若彦様、妾は之でお暇致します。高姫様、何卒御ゆるりと遊ばしませ。左様なら』 と立ち上らうとするを、高姫はグツと肩を押へ、 高姫『コレコレ、逃げ様と云つたつて逃しはせぬぞえ。金輪奈落の底迄、神宝の所在を白状させねば措きませぬぞ』 玉能姫『何と仰有つても是許りは申し上げられませぬ』 高姫『何と、マア、夫婦がよく腹を合したものだ。本当に羨ましい程、仲の良い御夫婦様ぢや。オホヽヽヽ』 玉能姫『何卒高姫様、其処放して下さいませ。妾は生田の森へ帰らねばなりませぬから、一時の間も神業を疎略に出来ませぬ』 高姫『オホヽヽヽ、一時の間も疎略に出来ない御神業を振り棄てて、夫の側へなれば幾日も幾日もかかつて、遥々紀の国迄お越し遊ばすのだから、実に立派なものだ』 玉能姫『それでも退引きならぬ御用が出来ましたので、多忙の中を神様にお願ひ申して参つたので御座います』 高姫『その用とは何事で御座るか、サア、それを聞かして貰はう。妾に聞かせぬ様な御用なら何れ碌な事ではあるまい。お前達若夫婦は寄つて如何な企みをして居るか分つたものぢやない。サアもう斯うなつては私も勘忍袋の緒が切れた。何と云うても舌を抜いてでも言はして見せる』 と癇声に呶鳴り立てて居る。 此時玄関に騒々しき人の足音が聞えて来た。暫らくすると秋彦、駒彦、木山彦夫婦外四人兄弟、慌しく奥の間の声を聞きつけて此場に現はれ来り、八人一度に手をついて若彦の前に平伏した。 若彦『ヤア、其方は駒彦、秋彦の宣伝使では御座らぬか、何用あつてお越しなされた』 駒彦『ハイ、熊野の大神様へお礼の為めに参拝致しました』 高姫はカラカラと打笑ひ、 高姫『アハヽヽヽ、オホヽヽヽようもようも揃つたものだ。何かお前達は諜し合はせ大陰謀を企てて居た所、アタ間の悪い、憎まれ者の高姫がやつて来て居るので肝を潰し、熊野の大神様へお礼詣りをしたとは、子供騙しの様な逃口上、立派な聖地には大神様が御座るぢやないか。それにも拘はらず熊野へお礼詣りとは方角違ひにも程がある。何事も嘘言で固めた事は直剥げるものだ。オホヽヽヽ、あの、マア皆さんの首尾悪相な顔わいな。梟鳥が夜食に外れてアフンとした様な其様子、写真にでも撮つて置いたら、よい記念になりませうぞい』 と言葉尻をピンと撥ねた様に捨台詞を使つて居る。駒彦一行は何が何やら合点往かず途方に暮れ、黙然として看守つて居る。 若彦『皆様、後でゆつくりとお話を承はりませう。何卒御神前へおいで遊ばして、お礼を済まして来て下さいませ。……オイ久助、御神殿へ此方々を御案内申せ』 久助は玄関より若彦の声を聞きつけ走り来り、 久助『サア、皆様、大広間へ御案内致しませう』 高姫『コレコレ悪人共、イヤ同じ穴の狐衆、暫くお待ちなされ。若彦と腹を合はせ、御神殿へお礼と云ひ立て、巧く此場を逃げて行く御所存であらう。そんなアダトイ事を成さつても、世界の見え透く日の出神の生宮はチヤンと知つて居りますぞえ。何故男らしう此場で斯様々々の次第と白状なさらぬのだ。今日三五教に於て、誠の神力の備はつた神の生宮は此高姫で御座る。高姫の申す事を聞くか、若彦の言葉を聞くか。サア事の大小、軽重を考へた上、速かに返答なされ。返答次第に依つて此高姫にも量見が御座るぞや』 秋彦、駒彦は口を揃へて、 秋、駒『私は第一に言依別の教主、其次には玉能姫様、其次には若彦さまの崇敬者ですよ。何程高姫様が御神力が強いと言つて、自家広告を為さつても、根つから我々の耳には這入りませぬ。サア皆さま、御神殿へ参拝致しませう』 と此場を立つて行かうとする。高姫は夜叉の如く立腹し、秋彦、駒彦の襟髪を両手にひん握り、力をこめて後へドツと引き倒した。常楠、木山彦は余りの乱暴にムツと腹を立て、 常楠『何処の何人か知らぬが、罪も無い我々の伜を打擲するとは言語道断、年は寄つても昔執つた杵柄の腕の冴えは今に変りは致さぬ。さア高姫とやら、思ひ知れよ』 とグツと襟首を掴みて常楠が強力に任せて、猫を抓んだ様に館の外に放り出した。高姫はそれきり如何なつたか暫く姿を見せなかつた。一同は神殿に向ひ感謝の祝詞を奏上して高姫の無事を祈りけるこそ殊勝なれ。 (大正一一・六・一一旧五・一六北村隆光録)
9

(1880)
霊界物語 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) 18 玉の所在 第一八章玉の所在〔七六四〕 高姫の言葉に従ひ、黒姫、高山彦、アール、エースは一生懸命汗みどろに成つて、両人の身魂の救はれむ事を祈願し始めた。国依別、秋彦両人はムツクと起き上り手を組み、ドスンドスンと座敷の真中に床がぬける程、飛び上り揶揄ふ。 高姫『皆さま御覧なさい。日の出神の御神力と言ふものは偉いものでせう。あの通り生き乍ら畜生道に陥ち込み、足をピンと上にあげて、如何する事も出来ずに鼠の霊に憑られて……チユウチユウ、クウクウ……と泣いて居りましたが、日の出神の反魂力に依りて此通り元の様になりました。座敷中飛び上つて居つたのも、此の日の出神の御神力に恐れての事、サア皆さま、寄つて集つて四方八方から鎮魂攻めにあはせ、国依別等を霊媒として、誠の玉の所在を白状させようぢやありませぬか』 黒姫『そりや、至極結構でせう』 駒彦『もしもし、高姫さま、黒姫さま、何卒御心配下さいますな。彼奴ア、あんな事をして貴方等を揶揄つて居るのですよ。本当にして居ると馬鹿を見ますよ』 高姫『お黙りなさい。お前さま等に分つて堪りますか。此方には日の出神と竜宮の乙姫とが憑いて居ります。揶揄つて居るのか、本当か、邪霊が憑つて居るのか、そんな事が分らずに如何して神界の御用が出来ますか。お前さまのやうに、婆になつたり娘になつて誤魔化さうとしても、日の出神の此高姫が……ヘン……見れば直ぐ化が現はれる。お前さまはゴテゴテ言ふ資格はないから、其辺辺のペンペン草でも引きなさい。それが性に合うて居りますワイ、オホヽヽヽ』 駒彦『高姫さま、お前さまの仰有るのも一応御尤もだが、よく泳ぐ者はよく溺ると言ふ事がありますぜ。神懸りの道を知らぬ者は神懸り[※初版・三版・校定版では「神懸」、愛世版では「神憑」。]に騙される事は無いが、お前さまの様に神懸りに不徹底して居ると、却つてアフンと言ふ目に遭はされるか知れませぬよ。此処は例のアフン鉄道の終点、ビツクリ駅だからなア』 高姫『エー、八釜しいワイな。まア黙つて此生宮の審神を見て御座れ。今に此両人に口をきらして、お前達の一切の素性を素破抜かすから……。アーア、竜宮の一つ島から帰つて来る途中随分苦労をしたが、一つ試験の為め霊をかけて聞いて見よう』 と両手を組み、 高姫『大将軍様、十悪道様、地上大神様、地鎮荒神様、大黒主神様、鷹鳥神様、何卒々々此両人にお憑り下さいまして、玉の所在を一伍一什お示し下さいませ。天下国家の一大事、決して高姫や黒姫の私有物に致すのでは御座いませぬ。惟神霊幸倍坐世。一、二、三つ此玉が一時も早く出ます様に、一、二、三、四、五つの玉が又もや現はれたと言ふ事、それが真実ならば、今度こそは高姫、黒姫、高山彦の三人にお渡し下さい。一、二、三、四、五つの玉が早く発見致しまするやう……六、七、八、九、十、百、千、万、仮令何処の果に隠しあるとも、大神様の御眼力を以て御発見遊ばし、此肉体の口を借つて直接に御示し下さいませ』 とウーンウーンと霊を送る。国依別は組んだ手を頭上高くさし上げ、弓の様に反り身になつて、 国依別『ウヽヽヽ運命の綱に引かれて、竜宮の一つ島まで彷徨ひ歩く汝の心の可憐しさ、オホヽヽヽおれは……俺は、俺は、俺は、俺は、フヽヽヽ再度山の大天狗であるぞよ。高山彦や黒姫の心事を憐み、聖地の神には済まぬなれども、玉の所在を知らして遣はす。それに就いては意地くねの悪い高姫が、此処に居つては絶対に言ふ事は出来ぬぞよ』 高姫『再度山の大天狗、そりやチツと量見が違ひはしませぬか。高山彦や黒姫に知らして此高姫に知らさぬと言ふのは、そりや又如何言ふ理由ぢや。それを聞かして下され』 国依別『それは…それは…それは我眷族の小天狗が、秋彦の肉体に憑つて居るから、それに聞いたが宜からうぞ。俺はもう引き取るぞよ』 高姫『引き取ると言うても此事解決をつける迄、霊縛を加へて引き取らせませぬぞ。サア高姫に言はれぬと云ふ其理由から判然と聞かして貰ひませう』 国依別『日の出神は世界中見え透く神ぢやから、玉の所在は大天狗が知らさずともよく御存じの筈だ。申上ぐるも畏し、釈迦に説教を致す様なものだ。高姫に対し玉の所在を明かさぬのは、畢竟敬意を払つて、日の出神の御神力を輝かさむと思ふ大天狗の真心で御座る』 高姫『御心遣ひは御無用に成されませ。さあチヤツと日の出神様の様な尊い神に御苦労をかけるのも畏れ多い、お前さま、知つてるのなら小さい声でソツと言つて下さい。黒姫や高山彦は、言はばお添物だから如何でも宜しいのだ』 と耳の端に口を持つて行き、小さい声で囁く。国依別は故意と大きな声で、 国依別『それは高姫、一寸量見が違ひは致さぬか、今耳の端で……高姫さへ玉を手に入れたら宜い、高山彦や黒姫などは添物だ、如何でもいい……と囁いたであらうがな。そんな二心で黒姫、高山彦を扱つて居るのか。ヤイ、高山彦、黒姫、よう今迄高姫に馬鹿にしられよつたな。もう神懸りは嫌になつた。俺は斯う見えて居つてもチツとも霊は懸つては居らぬぞ。国依別は肉体で申して居るぞよ。それに間違ひは無いぞよ。よく審神して下されよ』 高姫『悪神と言ふものはよく嘘言をつくものだ。コラ大天狗、其手は喰はぬぞ。国依別の肉体が言うた等と巧く逃げ様と思つても、いつかないつかな此日の出神が睨んだ以上は逃がしはせぬ。サア綺麗サツパリと、高姫、黒姫、高山彦の三人の前で玉の所在を白状致すが宜からう』 国依別『三つの玉の所在を知らせませうか、但し五つの玉の所在からお知らせ致しませうか』 高姫『何卒三つの玉の所在は申すも更なり、五つの玉の所在も一緒に仰有つて下さい。さうすれば再度山に立派なお宮を建て、其上大天狗の遊ぶ公園を造つて上げますから……何卒仰有つて下さい』 国依別『そんなら是非に及ばず、知らしてやらう。三つの玉は二三日中に聖地へ八咫烏に乗つて来るぞよ。一つの玉は玉治別、も一つは玉能姫、も一つはお玉の方、これが三つの生魂であるぞよ。又も玉照彦、玉照姫を合せて五つの御魂となるぞよ。アハヽヽヽ』 高姫『エー、合点の悪い。それは人間の名ぢやないか。本当の宝玉は何処にあるのだ、それを言ひなさい』 国依別『実の処は此国依別も、秋彦、駒彦も聖地へ行き度いのが胸一杯なれど、折あしく其方等がやつて来たものだから行くに行かれず、迷惑致して居るぞよ。それに就いて玉の所在は此処ぞと嘘言を言ひ、高山彦の一行を或地点へ玉探しにやつて置き、其ままコツソリと三人が聖地に行つて秘密の神業に参加する積りであつたが……アヽ如何したら宜いかなア』 高姫『それ見たか、矢張り国依別では無い。大天狗の神懸りだ。国依別が如何して自分の秘密を自分の口で言ふものか。これ大天狗、そんな嘘言云うた処で此高姫は承知しませぬぞ。早く玉の所在を知らして下さい。大天狗なら何でも知つてる筈だ』 国依別『そんなら玉の所在を詐つて騙してやらうか。間違つても決して国依別の肉体に対して不足は申さぬか』 高姫『決して不足は申さぬ。嘘言から出た誠、誠から出た嘘言と言ふ事がある。嘘実不二表裏一体だ。何でも宜いから言つて下さい。物も研究だ。オーストラリヤ三界まで調べに行つて来た熱心な我々一同、仮令一日二日遅れても構ふものか、なるべく本当の事を嘘言らしく言ふのだよ』 国依別『本当の嘘言の事を本真らしく申してやらう。神の奥には奥があり、其又奥には奥があるぞよ』 高姫『エーそんな事は妾の言ふ事だ。奥の奥の其奥は羽織の紐ぢやないがチヤンと胸にある。サア言つて下さい』 国依別『オヽヽヽ俺は、俺は大天狗の事であるから、言依別命の為さる事はチツとも分らぬぞよ。実の処は知らぬと申すより外は無いぞよ』 高姫『エー、意茶つかさずに置いて下され。あた辛気臭い、早く言ふのだよ。何時までも人を暇さうに焦慮らすものだない。時機切迫の今日の神界、仮令一分間でも空に光陰を費やす事は出来ませぬ』 国依別『此大天狗が知らぬと言うたら何処迄も、シヽ知らぬぞよ。ウフヽヽヽ』 黒姫『もしもし高姫さま、此奴ア駄目ですよ。あんまり玉々と言つて玉に魂を抜かして居るものだから、大天狗の鼻高が我々を嬲るのですから、よい加減になつて置きなさいませ』 高姫『これ黒姫さま、そりや何を仰有る。掃溜の中にも金玉が隠される事がある。斯う言ふ低い神に聞いた方が却て都合が好いのだ。少し腹のある神は中々秘密は申さぬが、斯う言ふ低い神は責めて責めて責め倒すとツイ白状するものだ。お前さまも来てチツト鎮魂攻めを手伝つて下さい。何処までも責めて、白状させねば措きませぬぞえ』 国依別『アーア、悪戯が本当になつて来た。二進も三進も方法がつかぬワイ、……もし高姫さま、何も憑つては居りませぬ。国依別が出放題を申したのですから、何卒神直日大直日に見直し聞直し、一座の興だと思つて諦めて下さい』 高姫は首を振りウンと息をかけ、 高姫『一座のけふも明日もあつたものかい。何処までも調べて調べて、調べ上げねば措きませぬぞ。仮令百日かかつても千日かかつても白状させねば措くものか、サア大天狗、もう好い加減に白状したら如何だい』 国依別『アヽ困つたな。実の処は早く聖地に行かねば、言依別神様にお目玉を頂戴するのだ。然し高姫と一緒に帰つては困るなり、実際は嘘言だから何処に玉が隠してあるか、そんな事が分るものか。国依別の肉体に間違ひないから、何卒疑ひを晴らして下さい』 高姫はキツとなり、 高姫『こりや、再度山の大天狗奴、何と言つても白状させねば措くものか』 と又もや汗をたらたら流し、『ウンウン』と霊を送る。側に目を塞ぎ手を組んで坐つて居た秋彦の方は根つから、相手になつて呉れぬので、 秋彦『アーア、偽神懸りも辛いものだ。誰も相手になつて呉れない。本当に玉なしだ。アヽもう廃めとこかい』 高姫『これ、小天狗、巧い事化けやがるな。何と言つても肉体ぢや無い。サアお前はチツとでよいから何方の方面だと言ふ事位は知らして呉れ。さうしたら公園を拵へお宮を建てて祀つてやる』 秋彦『公園も何も要りませぬ。あゝ足が痛くなつて来た』 と立ち上らうとする。 高姫『これ黒姫さま、高山彦さま。秋彦の両方の手をグツと握つて下さい。小天狗の奴、何処へ肉体を連れて行くか分りませぬぞ。白状させる迄は此肉体を外にやる事は絶対になりませぬぞ』 国依別『そんなら、エー、白状致します。再度山の大天狗に間違ひはありませぬ。又此秋彦の肉体に憑つて居るのは私の眷族小天狗です。何卒しつかり手足を掴まへて立つて去なぬ様にして下さい』 秋彦『これこれ国依別さま、殺生な事を言はないで下さい。足が痛んで仕方がありませぬ。お前さまがするから真似したのが病付きだ。……もしもし御両人様、どうぞ手を放して下さい。お前さまも肉体か神懸りか分らぬ事はあるまい。本当によく調べて下さい』 黒姫『何と仰有つても小天狗は小天狗だ。国依別は平常から鼻が高いから大天狗が憑るのは当然だ。お前も鼻高だから身魂相応の小天狗が憑るのだ。巧い事肉体に化けてもあきませぬぞよ』 国依別『アハヽヽヽ、暁没漢ほど困つたものは無いワイ。そんなら偽の神懸りで、大天狗が高姫に玉の所在のスカタンを知らして上げようかい。其代りに知らしてやつたら此処を立ち退くだらうなア』 高姫『何処迄もお前を引張つて行つて神懸りをさせて玉を探させ、土の中でも何尺下と言ふ事を透視さすのだから、玉が出る迄放しませぬぞえ』 国依別『こいつは困つたなア。俺も自分乍ら肉体だか神懸りだか分らぬ様になつて仕舞つた』 高姫『それ見なさい。何処だかハツキリと白状しなさい、事と品とに依つたら此場で開放してやるかも知れませぬ』 国依別『別に開放して貰はなくてもよい。霊縛されたのでも無し、自由自在に行き度い処に行けるのだが、一つ困るのはお前さまが跟いてくる事だ。跟いて来さへせねば国依別は国依別としての御用が勤まるのだ。二三日遅れて聖地へ帰るなら帰つて下さい。それ迄にチヤンと秘密の相談をして、お前さま達にアフンとさせる仕組をさせねばならぬからなア』 高姫『何と言つても国依別が其んな自分の不利益な事を喋るものか。再度山の大天狗に間違はあるまいがな』 と後程大きな声で呶鳴りつける。 国依別『そんなら三つの玉の所在を一人々々一ケ所づつ申し上げるから、互に秘密を守つて下さい。三人が三人乍ら分らない様にするといふお約束になれば、実際の事を大天狗が申し上げませう。実の処は言依別命様が明日の朝早く掘り出しに御出になり、又外へお隠し遊ばすのだから、玉を手に入れるのなら今の内ですよ』 高姫、首を縦に三つ四つ振り乍ら、 高姫『あ、さうだらうさうだらう、そんなら高山彦さま、黒姫さま、妾は如意宝珠の玉の所在を聞きますから、貴方達は彼方へ行つて下さい。順番が廻つて来たら知らせますから……』 黒姫『エー、仕方が無い。そんなら順番が来る迄待つて居ませう』 と次の間に下がる。 国依別『此家を遠く離れて森の中まで行つて下さい。さうでないとお前さまの副守護神が立聞きすると困るから……』 黒姫『ハーイハーイ』 と長い返事をし乍ら黒姫は出でて行く。 高姫『さア御註文通り誰も居りませぬ。チヤツと仰有つて下さいませ』 国依別『金剛不壊の御玉は、杢助の娘、初稚姫、言依別の手より受取り給ひ、近江の国の竹生島の社殿の下に三角石を標として匿し置かれたぞよ。その方は只今より黒姫に姿を隠して、一時も早く竹生島に向つて玉取りに行くが宜からう。愚図々々致して居ると言依別の使者に先に掘出されて仕舞ふぞよ』 高姫『何でも妾の霊眼に映じたのは島ぢやと思うて居た。お礼は後で申し上げる。又国依別の肉体も良い御用をしたのだから、肉体に対しても後で御礼を申すから……』 と欣々と杢助館の裏口より駆出して仕舞つた。 国依別『オイ秋彦、駒彦、如何だ。俺の狂言は余り巧くやり過ぎて、本当の大天狗にしられて仕舞つたぢやないか。アハヽヽヽ』 秋彦『然し国依別さま、本当に金剛不壊の玉は竹生島に隠してあるのですか。俺は初めて聞きましたよ』 国依別『大きな声で言ふな。疑ひ深い高姫がソツと俺達の話を立聞きしてるか知れぬぞ……オイ、駒彦、家の周囲を見て来い』 駒彦『イヽエ、高姫は雲を霞と走つて行きましたよ』 国依別『サア、之から此大天狗が黒姫、高山彦を何とか撒かねばならぬ。今度は何処に隠したと言はうかな。エー、よしよし、其時の塩梅ぢや、……オイ駒彦、黒姫さま唯一人来いと言うて呼んで来い』 駒彦『承知しました』 と尻引からげ、森の中に控へて居る黒姫を迎へて来た。黒姫はイソイソとして足も地に着かず此場に現はれた。 国依別『今改めて大天狗より黒姫に黄金の玉の所在を知らしてやらう。高姫は既に宝の所在を教へられ掘出しに出立致したぞよ。サア秋彦、駒彦、其方は門外へ出て仕舞へ、秘密が洩れると大変だから……』 二人は笑ひ乍ら門口へ飛び出す。 国依別『再度山の大天狗が今改めて黒姫に黄金の玉の所在を知らしてやる程に、仮令高山彦になりとも口外せぬと言ふ事を誓ふか、如何だ』 黒姫『ハイ、決して秘密は漏らしませぬ』 国依別『そんなら確に聞け。近江の国は琵琶の湖、竹生島の弁天の祠の下に、三角形の石を標として三尺下に黄金の玉は隠されてあるぞよ。早く参らぬと言依別の使の者が掘出して、後でアフンとせねばならぬぞよ。一時も早く行つたが宜からう』 黒姫『それはそれは、有難い貴方のお示し、そんなら之から参ります』 と裏口より夜叉の如く尻引からげ、雲を霞と駆け出しぬ。続いて高山彦も此処に招かれて又もや国依別の居間に入り来る。 国依別『ヤア其方は高山彦で御座つたか。今大天狗が知つた丈の事を教へて遣はす。高姫には金剛不壊の如意宝珠の玉の所在を示し、黒姫には黄金の玉の所在を知らした処、両人は時おくれては一大事と、玉の隠し場所へ走つて行つたぞ。紫の玉の所在は瑞の御魂の佩かせ給ふ十握の剣より現はれ出でたる、三女神の鎮まり給ふ近江の国は竹生島、弁天の祠の下に、三角形の石を乗せて三尺ばかり底の方へ隠してあるぞよ。一時も早く取りに行かぬと聖地より掘出しに行くぞよ。如何ぢや、ありがたいか』 高山彦『ハイ、有難う。三人共願望成就、御礼は後から、ゆつくり……左様なら……大天狗様、之にてお別れ致します』 国依別『汝は裏口より走つて行け。さうしてアール、エースの二人を伴ひ、刻を移さず走つて行くが宜いぞよ』 高山彦『何から何まで御注意下さいまして有難う御座います。御礼は後より……』 と言ひ捨てて、長いコンパスを大股に踏張り乍ら地響き打たせて、ドスンドスンと床を鳴らして進み行く。国依別は後見送つて、 国依別『アハヽヽヽ、三五の神の道にはチツとも嘘言は申されぬのだが、アア責められちや仕方がない。玉はなくても弁天様へ参拝して結構な悟を開き、玉以上の御神徳を頂くと思つて、竹生島詣りをさしてやつたのだ。知らず知らずに瑞の御魂に頭を下げさすと言ふ俺の仕組だ、何と妙案だらう』 秋彦『其奴ア上出来だつた。然し駒彦さま、お前しつかり留守して居て呉れ。愚図々々して居ると初稚姫様や玉能姫様が聖地へお帰り遊ばした後になつては大変だから、俺達二人は之から聖地へ参拝するから……あと宜しく頼むよ』 駒彦『ヨシ、承知した。サア早く行つたが宜からう。東助さまも、モウ今頃は聖地へ安着されてる時分だ。お前達両人の帰るのを首を長うして待つて居られるだらう。サア後は俺が引受けるから、心配せずに早く足の用意に掛つて呉れ』 国依別、秋彦は急ぎ旅装を整へ、館を後に聖地を指して進み行く。 (大正一一・七・一二旧閏五・一八北村隆光録)
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(1899)
霊界物語 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 14 大変歌 第一四章大変歌〔七七九〕 折から吹き来る夜嵐に湖水の面は波高く 島の老木の根本より吹きも倒さむ勢に 神さび建てる神社風にゆられてギクギクと 怪しき音を立て初めぬこれ幸ひと亀彦は 社の扉を打開きそろそろ階段下り来て 玉に魂をばぬかれたる三つ巴の玉奴 身辺近く進み寄り白衣の着物を頭より フワリと被り吹く風に長き袖をばなぶらせつ 声も女神の淑かに宣り出せるぞ面白き 天教山に現はれしわれは木花姫神 その御心を汲みとりて汝等三人の迷人に 玉の在処を説き示すあゝ惟神々々 御霊幸はへましまして三五教やバラモンの どちらか知らぬが宣伝使三人ここに現はれて 憑依もせない天狗の宣示を誠と思ひつめ 長途の旅をエチエチと暗かき分けて波の上 三つの御霊の鎮まれる竹生の島に漕ぎつけて 隠してもない神宝を下らぬ意地に絡まれて 探しに来る愚さよ鼻高姫や村肝の 心の暗の黒姫や頭の光る福禄寿面 揃ひも揃うた大馬鹿の社殿の下の玉探し たとへ百丈掘つたとて金輪奈落その玉は 出て来る気づかひあるまいぞ日の出神や竜宮の 乙姫さまの生宮と威張つて居たが何の態 女神の癖に荒い事吐くと思ふか知らねども 決して女神が云ふでない三人の心に憑りたる 副守の鬼が吐くのだ要らぬ苦労をするよりも 吾身の行ひ省みて玉の詮索思ひ切り 一日も早く大神の誠の道を世の中に 懺悔さらして仕へ行け先に来たのは高姫ぢや 次に出て来た黒姫が言依別の遣はせし 玉掘神と誤解して吾劣らじと暗雲で 指の先まですりむきつオチヨボのやうに砂を掘り いよいよ味噌を摺鉢の糠喜びの砂煙 何時迄お前が掘つたとて隠してないもな出ては来ぬ 高山彦のハズバンド婆さまのお尻をつけ狙ひ 六十面を下げながらようも天狗に欺された あゝ惟神々々訳の解らぬ奴ばかり こんなお方が三五の教の幹部に坐るなら それこそ勿ち聖場は地異天変の大騒動 亀彦ドツコイ亀の背に乗つて波間に浮び来る 木花姫の御心を承はりて現れた 玉の在処を守り居るわしは誠の女神ぞや 三つの玉は神界の御経綸なれば高姫が 何程日の出神ぢやとて現はれ来る筈はない そんな謀反は諦めて一時も早く三五の 綾の聖地に立帰り神に御詫をするがよい 九月八日の秋の空黄金花咲く竜宮の 一つ島なる諏訪の湖玉依姫の御宝 天火水地と結びたる麻邇の宝珠は由良港 秋山彦の庭先に鳩の如くに下りまし 言依別を始めとし梅子の姫や五十子姫 お前の嫌ひな玉能姫初稚姫も諸共に 神輿に乗せて悠々と由良の川瀬を遡り 嬉しき便りを菊の月今日は九日四尾の 山の麓の八尋殿たしかに納まる日なるぞや お前もグヅグヅして居ると後の祭の十日菊 恥の上塗りせにやならぬ生田の森の館から 直様聖地に帰りなば前代未聞の盛典に 首尾よく列して五色の麻邇の宝珠を拝観し 尊き神業の末端に奉仕出来たであらうのに 執着心に煽られて憑依もせない天狗に だまされぬいて遥々と探ねて来る盲神 気の毒なりける次第なりあゝ惟神々々 それが叶はぬと思ふなら一時も早く立帰れ 玉守姫が親切で一寸誠を明し置く そろそろ風も強なつた嵐に吹かれて何時迄も ここに居つては堪らないウントコドツコイ高姫さま ヤツトコドツコイ黒姫さま高山彦の福禄寿さま そんならお暇申しますドツコイシヨのドツコイシヨ ウントコドツコイドツコイシヨヤツトコセーのヨーイヤナ アレはのせーコレはのせーヤツトコドツコイ玉探せ。 と歌ひ了り、暗に紛れてクツクツ噴出しながら英子姫の館を指して帰り行く。 ○ ここに三人の玉探し汗をタラタラ流しつつ 無言のままで一心に側目もふらず土掘りの 真最中に亀彦が俄に女神の作り声 高姫、黒姫、高山彦の福禄寿頭の三人と 図星を指されて高姫はハツと驚き立上り よくよく見れば黒姫や高山彦の二人連れ アヽ残念や口惜しや国依別の極道奴 日の出神や高姫や竜宮さまの生宮を マンマとよくも騙したな馬鹿にするのも程がある 十里二十里三十里痛い足をば引ずつて いよいよ今度は如意宝珠その外二つの宝をも うまく手に入れ年来の願望成就と思ひきや 又だまされて玉探しわしより若い奴輩に 馬鹿にしられて口惜しい黒姫さまもこれからは チツとしつかりするがよい高山彦も余りぢや 朝から晩までニヤニヤと黒姫さまの面計り 眺めて居るからこんな事流石に尊い竜宮の 乙姫さまも腹を立て遠くの昔に魂ぬけの あとは盲の守護神今までお前を生宮と 思うて居たのが情無い思へば思へば腹が立つ それぢやに依つて初から神の誠の御道は 夫婦あつては勤まらぬわしがあれ程言うたのに 馬耳東風と聞き流し肝腎要の竜宮の 乙姫さまにぬけられてその面付は何の事 暗夜でお面は分らねど定めて夜食に外れたる 梟のやうな面付でアフンとしてるに違ひない 私も愛想がつきました何程日の出神ぢやとて こんな分らぬ守護神憑いた御身を伴にして どうして神業が勤まらうチツとは改心なされませ 性懲もなく又しても油揚鳶にさらはれた 高山彦の親爺さま六日の菖蒲十日菊 きくさへ胸が悪くなる再度山の大天狗 身魂の曇つた国公にサツと憑つて世迷言 吐いた言葉を真にうけてここ迄来たのは情無や あゝ惟神々々神の御都合と諦めて これから大きな面をして正々堂々陣を張り 言依別のハイカラに恨みを晴らす逆理屈 御二人しつかりしなされよ神の教を次にして 親爺の事や女房の身の上計り気にかけて 現を吐すと此通りこれこそ神の御戒め これで改心なさつたか思へば思へば馬鹿らしい お前のやうな没分暁漢黄金の玉を盗まれて 在処探ねてはるばると竜宮島に二三年 留まりながら何の態お前の帰つたその後で 初稚姫や玉能姫玉治別や友彦に 又もや麻邇の如意宝珠尊い御用を占領され 天地の神の御前に何うして顔が立ちますか 胸に手を当てつくづくと考へなさるがよからうぞ 何程泣いて悔んでももう斯うなれば是非は無い サアサア皆さま帰りませう一度に開く梅の花 開いて散りて実を結ぶ平助お楢の両人が 腹から生れたお節等に馬鹿にしられて堪らうか 高姫ぢやとて骨があるお前のやうなグニヤグニヤの 蒟蒻腰では無い程に見違ひなさるな高姫が 岩より堅い大和魂日の出神の生宮に お前のやうな盲神何うしてついて来たであろ うまい果実にや虫がつく賢い人には魔が来る お前の忠告真に受けて今迄出て来た高姫も 余り偉そにや言はれねど大将は素より看板ぢや 側に付添ふ副柱こいつに力の無い時は 何程偉い生宮も策を施す余地がない 持つべきものは家来ぢやが持つて困るは馬鹿家来 こんな事なら初からお前を使ふぢや無かつたに 悔みて返らぬ今日の首尾諦めようより仕様が無い あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ。 と、流石の高姫も焼糞になつて、黒姫、高山彦に八当りの歌をうたひ、胸の焔を消さむとして居る。 ○ 星の明りに黒姫は高慢強き高姫の 歌を聞くより腹を立て暗をすかして眺むれば 前歯のぬけた膨れ面汗をブルブルかきながら 蟹の様なる泡を吹き眼を怒らして睨み居る 黒姫見るより腹を立てこちらも劣らぬムツと顔 声の色まで尖らして日の出神の生宮と 当てすつぽうな名をとなへ世界が見え透く見え透くと 何時も仰有るその癖にたかの知れたる再度の 山に隠れた野天狗にうまく騙され泡を吹き 何程腹が立つたとて私に当るといふ事は お前さまそれはチト無理ぢや口に税金要らぬとて 業託言ふにも程がある私も女の端くれぢや 日の出神の生宮が高姫さまなら黒姫は 矢張竜宮の乙姫ぢや日の出神と引添うて 竜宮さまの御手伝これで無ければ神界の 経綸は成就せぬぢや無いかあなたは何時も言うただろ その言霊を夢の如ケロリと忘れて黒姫に 熱を吹くとは余りぢや私もチツトは腹が立つ 私丈なら何うなりと悔しい残念堪らうが 二世を契つたハズバンド高山さままで引出して 悪口言ふとは虫がよい神のお道を世の中に 伝へて歩く高姫の仰有る事とは受取れぬ 真の日の出神さまは余り偉い慢神に 愛想をつかして御帰りのあとに曲津が巣をくみて お前の御口を自由にしそんな悪口吐くのだろ 油断も隙も無い御道一寸慢神するや否 八岐の大蛇の醜魂にのり憑られて眼はくらみ 魂は捻けて此の通り国依別や秋彦の 身体に憑つた野天狗にチヨロマカされてはるばると 夜を日についで三十里琵琶の湖までやつて来て 寄辺渚の離れ島隠してもない玉探し お腹が立つのは尤もぢやさはさりながらお前さま 胸に手をあてトツクリと考へなさるが宜しかろ 真の日の出神ならば玉の在処は居ながらに 判然分らにやなるまいに海洋万里の島々を うろつき廻る玉探しそれから可笑しと思て居た 何うしても斯うしても腑に落ちぬ口先ばかり偉さうに 頬桁叩くやくざ神早く帰すがよいわいな これから心改めて三五教の神司 言依別の命令にハイハイハイと箱根山 痩馬追うて登る様に神妙に御用を聞きなされ 私はこれで三五の神の御道は止めまする 聖地へ帰つて人々に何うして面が合はされよう 鉄面皮なる黒姫も今度計りは何うしても 面向け致す術が無い変性男子の筆先に 慢神致すと面の皮引きめくられて家の外 歩けぬやうに成り果てて頭抱へて奥の間に 潜みて居らねばならないと御示しなさつてあるものを 日の出神の生宮を無性矢鱈に振り廻し せつぱつまつた今日の空思へば思へば御気の毒 私は同情いたしますこれから聖地へ立帰り 心の底から改めて今迄とつたる横柄な 態度をすつかり止めにして小猫のやうになりなされ 仁慈無限の神様の尊き試練に遇ひました あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ 叶はぬから帰りませう。 ○ 高山彦はムツとして薬鑵頭に湯気を立て ドス声頻りに張りあげて高姫さまよ黒姫よ 日の出神や竜宮の乙姫さまを楯にとり 一丈二尺の褌を締めた男を馬鹿にした 俺は元からお前等の言うとる事が怪しいと 思うて居たがまさかにもこんな馬鹿とは知らなんだ 男の顔に泥を塗り返しのつかぬ恥かかせ 日の出神もあるものか尻が呆れて屁も出でぬ お前の様な年寄を女房に持つのは厭なれど 尊い竜宮の乙姫が肉の宮ぢやと聞いた故 高姫さまの媒介で波斯の国から遥々と 天の鳥船空高く乗つて来たのは馬鹿らしい 白い頭に黒い汁コテコテ塗つて誤魔化して 枯木に花の咲きほこりこんな事だと知つたなら お前と添ふのぢや無かつたに日の出神も竜宮の 乙姫さまも此頃はねつから当にはならないぞ 執着心にそそられて国々島々かけめぐり 玉の在処を探し行く二人の婆の馬鹿加減 俺は愛想が尽きたぞよ国依別や秋彦の 若い男の憑霊に眉毛をよまれてこんな態 どうして聖地へ帰られうか女子供に到る迄 俺の顔見りや馬鹿にするかうなり行くも高姫や 黒姫二人の為す業ぞあゝ惟神々々 玉の詮議は今日限りすつぱり思ひ諦めて 誠心に立帰り三五教の神司 玉照彦や玉照姫の貴の命の神人が 御言畏みよく仕へ必ず自我を出すでない 高山彦が両人に真心こめて気を付ける あゝ惟神々々神のまします此島に 何時迄居つても仕様がない恥をばしのび面被り 兎も角聖地へ立帰り心の底から今迄の 誤解慢神悉く神の御前に御詫して 赤恥さらせばせめてもの罪滅しとなるであろ それが嫌なら高姫も女房の黒姫今日限り 三行半の離縁状すつぱり書いて渡さうか 今迄男を馬鹿にした天罰忽ち報い来て こんな憂目に遇うたのだ改心するのは結構だ 高天原の門開き慢心すると此通り 世間の人に顔向けのならない様な事が来る 今日からサツパり心をば洗ひ直して惟神 うぶの心になるがよいサアサア帰のうサア帰のう 吹き来る風は強くとも高波如何に猛ぶとも 仁慈無限の大神の大御守を力とし 杖と頼みて帰らうぞあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ。 (大正一一・七・一九旧閏五・二五外山豊二録)
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(1908)
霊界物語 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 01 高姫館 第一章高姫館〔七八三〕 五六七の神世の経綸地青垣山を繞らせる 霊山会場の蓮華台桶伏山の東麓に 旭を受けて小雲川清き流れを瞰下する 風景絶佳の岩が根に丸木柱に笹の屋根 厚く葺いたる神館静かに建てる冠木門 天然石を敷き並べ梅と松との庭園を 可なりに広く繞らして建てる館は四間造り 奥の離れの一棟は高姫さまが書斎の間 萩の小柴を編み立てて造り上げたる文机 天然石の硯をばお鍋が味噌を摺る様に 焼木杭をクリクリと連木の様に摺り減らし 竹の篦にて造りたる筆に墨をば染ませつつ 青く乾きし芭蕉葉に何か知らねどスラスラと 書き記し居る時もあれ門を開いて入り来る 高山彦や黒姫の姿眺めて下男 勝公安公両人は竜宮様の御入来と いと丁寧に腰屈め敬意を表せば黒姫は 高姫様は在宅か高山彦の夫婦連れ 参りましたと奥の間へ伝へてお呉れと促せば ハイハイと答へて勝公はコレコレ安公門の番 しつかり頼むと言ひ捨てていそいそ奥へ駆けて行く 暫くありて勝公は二人の前に腰屈め 高姫さまの仰せには待兼山の時鳥 お二人共に奥の間へ早くお進み下さんせ 以ての外の御機嫌と話せば黒姫羽撃きし 高山彦も教服の塵打払ひ悠々と 細き廊下を伝ひつつ奥の間さして忍び入る 高姫は別棟の書斎から廊下伝ひに袴も着けず、板縁をめきめき云はせ乍ら、稍空向き気味になつて奥の間に現はれ、木の株を切抜いた火鉢を前に据ゑ、煎餅の様な薄い座蒲団の上に四角張つて、 高姫『コレハコレハ高山彦さまに黒姫さま、お仲の良いこと。独身者の高姫の前にそんなお目出度いとこを展開して貰ひますと、堪りませぬワ。オホヽヽヽ、まあまあ御遠慮は要りませぬ。ズツと奥へ御通り下さい。………さう遠慮をして貰うと、肝心要の話も見えず、お顔も聞えず、大変に都合がよくありませぬワ』 と態とに顔が聞えぬの、話が見えぬのと、脱線振を発揮して、高山彦夫婦に対し大日の照るのに、昼日中気楽相に夫婦連れでやつて来たのは、チツト脱線ぢやないかとの意味を仄かして居る。 黒姫の顔はサツと変り、高山彦の袂をチヨイチヨイと引張り、早く気を利かして貴方はお帰りと云ふ意味を私かに示した。 高山彦『コレ黒姫、お前は何時も人の袂をチヨイチヨイ引張るが、唖でもあるまいに、何故明瞭と言はないのだ。わしはそんな、狐鼠々々と手真似や仕方で以心伝心の使分けは嫌ひだからなア』 黒姫『エー気の利かぬ……瓢六爺だなア。高姫さまが最前の御言葉、貴方は何と聞きましたか。竹生島でも仰有つた通り、夫婦ありては御用の出来ぬ御道だのに、高山さまを貰うてから、私の間が抜けたとキツパリ仰有りましたでせう』 高山彦『オホヽヽヽ、いやもう恐れ入りました。此高山彦も高姫様の御精神に、大賛成です』 黒姫目に角を立て、少しく口角より泡を滲ませ乍ら、 黒姫『それ程何々さまがお気に入りますれば、どうぞ御好きな様になさいませ。何と云つても何時も貴方の仰有る通り、色の黒い烏の嫁に、首や手足の長い鶴の婿さまは釣合ひませぬ。ヘン……此頃の空と男の心、折角御邪魔を致しましたが、私は是で御免を蒙ります。高山彦に鷹鳥姫様、高と鷹との情意投合、私も是にて断念致します。こんな厄介な爺を誰が好き好んでハズバンドにしたい者が御座いませうか。高姫さまの御紹介だと思つてお道の為、国家の為に今迄辛抱して参りました。男鰥に蛆が湧く、女鰥夫に花が咲く、ヘン…済まないが私だつて……ヘーン』 高山彦『大変な所へ鋒鋩を向けるのだなア。ここを何と心得てる』 黒姫『ヘン、仰有いますな、そんな事の分らぬ様な黒姫ですかいな。擬ふ方なき高姫さまの御館、桶伏山の朝日の直刺す景勝の地、小雲川の畔で御座んすぞえ』 高姫『オホヽヽヽ、随分御気楽なことですな。私等は春の花も仲秋の月も、楽しむ暇は無く、何だか神様の為にかうヂツとして居ても、気が焦々し、忙しくつてなりませぬワ。小心者の高姫に比べては、余裕綽々たる御夫婦仲、実にお羨ましう御座います。ホツホヽヽ』 黒姫『今日は左様な貴女の嘲罵的御話を聞きに参つたのぢや御座いませぬ。国依別が高姫さまに進上して呉れと云つて、妙な物を持つて来ました。開けて見れば大変な立派な重の内、上に一つの短冊が載つてゐる。其文面には………鮒もろこ、鯰からかぎ鯉に鱒、酒の肴に鰌ニヨロニヨロ、ふんぞくらいに砂くぐり、石食ひ魚に釜掴み、直におあがり下さらねば、直に石に変化する虞あり………と書いてありました。こら妙だと開けて見れば、不思議も不思議、上の重も中の重も下の重も残らず石ばつかり、何程国依別が悪戯好きだと云つても、まさか石を初から持つては来ますまい。貴女に怒られると大変だと思ひ、一寸私の宅に其儘預つておきました。どう致しませうかな』 高姫俄に面を膨らし、 高姫『黒姫サン』 と言葉尻をピンと撥ね、 高姫『お前さまは余程良い馬鹿ですね』 黒姫『ヘー……』 高山彦『何分にも竜宮の乙姫様が一つ島とやらへ、御旅行遊ばした不在宅のガラン洞ですからなア、アハヽヽヽ』 黒姫『情意投合のお二人様、どうなつと仰有りませ。あなたは何時もサカナ理屈を言うておイシが悪いから、意趣返しに団子理屈………オツトドツコイ団子石を国依別が態と持つて来たのでせう。そんな事の気の付かぬ様な黒姫ぢや御座りませぬ。金剛不壊の宝珠でさへも御呑み遊ばす高姫さまだから、今度はお生憎様、堅い玉がないから、これなつと御あがり遊ばして、腹の虫を御癒やしなされと云ふ、国依別の皮肉な謎ですよ』 高姫『兎も角国依別を招んで来ませうか。本人に直接承はれば一番近道だから………コレコレ安公さま、お前ちよつと御苦労だが、杢助館の隣の豚小屋の様な小さい家に、国依別が今頃は昼寝の夢でも見て居るに違ひないから、高姫さまが此間の御礼に御馳走をあげたい。就いては折入つて御頼みしたい事があるから、最大急行で御出で下さいと、呼んで来るのだよ』 安公『ハイ、さう御註文通り、国依別さまが来て呉れませうかな』 高姫『来いでかい。もし来なかつたら……系統の生宮の命令を何故聞かないか、日の出神を何と心得て御座る……と一本、槍を突つ込んでおくのだ。さうすると国依別は取るものも取り敢ず、スタスタとやつて来るよ。サア早く往つてお呉れ』 安公『アイ』 と一声後に残し、国依別の矮屋の前に走り着いた。 安公『もしもし、国の大将さま、大変だ。高姫さまの御居間で高山彦と黒姫が夫婦喧嘩をおつ始め、組んず組まれつ、乱痴気騒ぎ、イヤもう大変な事ですよ。それに就て、国依別が愚図々々吐すと、日の出神の生宮だ、系統の身魂を何と心得てる……と云うて剣突を……ドツコイ違うた。槍を一本突つ込んで帰れと仰有つた。もう邪魔臭いから何も彼も一緒に申し上げますワ』 国依別『アハヽヽヽ、夫婦喧嘩ぢやあるまい、石の問題だらう、此頃は陽気が悪いで、早く料理するか、煮しめん事にや、石に変化して了ふさうだ。山の芋が鰻になつたり、鮒が化石したり、青雲山ぢやないが、木の枝に魚が実つたり、川の瀬に兎が泳いだりする例しもあるからなア』 安公『国さま、最大急行だよ。早う来て貰はないと、高姫館は地震雷火の車、地異天変のガラガラ、ドタンバタンの幕が下りる。急行々々』 と国依別の手を取りて無理に表へ引摺り出す。 国依別『オイ安公、手を放せ。コレから往つてやらう』 と先に立ち高姫の館に行かんとする時、秋彦は後より走り寄つて、 秋彦『国依別さま、どこへ御出で遊ばす、高姫館ぢやありませぬか』 国依別『オウさうだ。これから一談判始まる所だ。お前も来ぬか、随分面白いぞ』 秋彦『有難う、サア参りませう。……オイ安公、しつかり案内せいよ。何分天地暗澹、黒姫の世の中ですから、道路の石の高姫に躓いて、鼻の高山彦を台無しにしちや堪らないからなア、アツハヽヽヽ』 と嘲笑ひ乍ら、スタスタと高姫の門前迄立向うた。秋彦は形計りの門を開いて先へ飛び込み、少しく腰を曲げ、右の手指を固めて細くし乍ら、 秋彦『コレハコレハ国依別の宣伝使様、妾が如き見窄らしき茅屋へよくこそ御入来下さいました。日の出神の生宮、心の底より光栄に存じます。又先達ては黒姫様の御手を通し、結構な結構な堅いお魚を沢山に頂戴致しまして有難う厶います。何か御返礼をしたいと思ひましても、御存じの通り貧家に暮す高姫、御礼の仕様も厶いませぬ。併し乍ら折釘のかます子に、最後屁のかます、手製の左巻き、かいちう虫の饂飩、雪隠虫の汁の子、青菜に塩の蛭の素麺、蛇の蒲焼、蛙の吸物、なめくじの胡瓜揉み、どうぞ御遠慮なく、サア奥へチヤツと行つて腹一杯おあがり下さいませ。ホツホヽヽヽ、あのマア国依別さまの御迷惑相な御顔付…』 国依別『コレコレ鹿さま……ではない……お鹿さま。いい加減に戯談仰有いませ』 秋彦『お鹿さまが申すのでは厶いませぬ。高姫さまの副守護神が此門を入るや否や神憑り[※初版・校定版では「神憑り」、愛世版では「神懸り」。]されまして、斯様な事を仰有ります。決して秋彦のお鹿が言うたとは思つて下さいますな、オホヽヽヽ』 と出歯の口を無理にオチヨボ口にしようと努むる可笑しさ。 国依別『左様ならば、遠慮なしに罷り通るツ。出歯鹿殿、案内召され』 安公『アハヽヽヽ、門芝居がお上手な事、高姫さまが御覧になつたら嘸御笑ひでせう…イヤ腮を外してひつくり返り、又もや外科医者を頼みに行かねばならない様なことが突発したら、又候……安公さま、御苦労乍ら、お前一寸外科医の山井養仙さま所へ、最大急行で頼みに往つて呉れ……なんて仰有るのは目のあたりだ、腮阿呆らしい。ワツハヽヽヽ』 国依別『汝安公とやら、今日只今より国依別が直接の家来となし、名を安彦と授くる。其積りで国依別に随いて来るがよからう』 安公『コレハコレハ思ひもよらぬ御恩命、安彦の宣伝使、確かに御恩命を拝しませぬ、アタ阿呆らしい、言依別神様から頂くのなら、結構だが、巡礼上りの胸の悪い宗彦に宣伝使を任命されて堪らうかい』 秋彦『どうでも良いぢやないか。兎も角頂戴しておけ。お前は松鷹彦になるのだよ。さうしておれはお勝になつて、此宗彦さまと巡礼に歩くのだ。少し川は届かぬけれど、あの小雲川を宇都山川と見做し、高姫館を松鷹彦の茅屋に擬し、茲で一つ面白い芝居をやるのだな』 安公『そんな事言つたつて、松鷹彦がどうするのか、ちつとも分らぬだないか』 国依別『そこは臨機応変だ。そこは……此方から言ふのに応じて答へればよいのだ。お前は霊界物語の如意宝珠の未の巻を読んで居ないから、其間の消息が分るまいが、其時は又其時の絵を書くのだ』 安公『よし、棹が無いが、茲にチツと太いけれど物干し竿がある、これでマア鷹や鴉を釣ることにしようかい。サア早く巡礼御夫婦、やつて来なさいや』 国依別『よし、ここを川辺と見做し、向ふから宣伝歌を歌ひつつやつて来るから、お前は太公望気取りで竿を垂れて居るのだ』 と云ひ乍ら国依別、秋彦は門を出て一二丁後返りをなし、出鱈目の歌を歌ひ乍ら進んで来る。 安公は庭先の飛石を川の瀬と見做し、物干し竿の先に藤蔓を糸の代りに付け、太公望気取りで魚釣りの真似をして居る。そこへ勝公が飛んで来て、 勝公『オイ安、貴様何して居るのだ。最前から高姫さまが大変に御待兼だ、まだ使に行かぬのか』 安公『喧しく云ふない、無声霊話をかけて招んであるのだ。俺は武志の宮の松鷹彦だぞ。まあグヅグヅして居るより見てをれ、かうして居れば国依別や秋彦が引つかかつて来るのだよ。俺が此竿を振るや否や、妙な宣伝歌を歌つてツルツルツルと引摺られて来るのだ』 勝公『そんな馬鹿な事があるものか。是から高姫様に注進するぞ』 と云ひすてて、屋内に隠れた。国依別はどこで寄せて来たか、蓑笠を被り、俄作りの金剛杖を突き、 国依別『嬶が表に現はれて善ぢや悪ぢやと立騒ぐ 此世の困つた娑婆塞ぎ乞食心の高姫が 只玉々と朝夕に心を焦つ気の毒さ われは宗彦バラモンの神の教の修験者 殺生するのは善くないと高姫さまが言うた故 小雲の川におり立つて生物擁護の実行と 無心無霊の団子石魚と見做して釣り上げる 手間暇要らぬ漁りは経済上の大便利 刃物も要らねば煮る世話も一寸も要らぬ石の魚 さざれ石さへ年経れば巌となりて苔が蒸す 瓢箪からも駒が出る団子石とて馬鹿にはならぬ 如意の宝珠や紫の玉に変るか分らない サア是からは是からは宇都の河原の川辺に 松鷹彦の庵を訪ひ一つ談判してやらう 秋公来れ早来れオツと違うた妻お勝 教の道の兄弟が夫婦気取で面白く 高姫川の川堤やつて来たのは安公が 芝居気取の太公望もうしもうしお爺さま お前は古い年をして水なき川に竿を垂れ 何を釣るのか気が知れぬ諸行無常や是生滅法 高姫さまの目的は寂滅為楽となるであろ 黒姫さまや高山の女大黒福禄寿面 欲の川原に竿たれて金剛不壊の玉の魚 釣らむとするも辛からう欲につられて高姫が 南洋三界駆け巡り黒くなつたる面の皮 つらつら思ひ廻らせば燻り返つた釣られ鯛 睨み合うたる二人仲恵比須でさへも尾を巻いて 跣足でサツサと逃げて行くあゝ気の毒や気の毒や 安公までが国さまの言葉に釣られて欲の川 物干竿に綱をつけ宗彦お勝の巡礼が 茲に来るを待暮すあゝ惟神々々 叶はん事が出来て来た高姫さまが腹を立て コレコレ国よ国公よ日の出神の生宮を 馬鹿にするのも程がある何程呑み込みよい妾も 歯節の立たぬ団子石団子理屈を捏ねやうと 二重三重に封をして持つて来たのが憎らしい 此因縁を聞かうかと面ふくらして飛びかかり 胸倉とつて一騒ぎおつ始まるに違ない スワ一大事と言ふ時に逃げる用意をしておかう 秋公横門開けておけまさか厠の股げ穴 脱け出す訳にも行かうまい太公望の安公よ もう釣竿は流すのだ是から釣るのは高姫ぢや もうしもうし高山の福禄寿爺と黒さまは 当家におゐで遊ばすか一寸お尋ね致します』 此声聞いて勝公は戸口をガラリ引あけて 勝公『賤しき巡礼の二人連国依別や秋彦に よう似た声を出しやがつて瞞しに来てもそりやあかぬ スツカリ駄目だと諦めて早く帰つて下さんせ 巡礼なぞのノソノソと出て来る場所ではない程に 高姫さまが見付けたら長い柄杓に水汲んで 頭の上からザブザブと熱吹きかけるに違ない 犬ぢやなけれど尾を振つて一時も早くイヌがよい ワンワンワンといがみ合ひ喧嘩をされては堪らない 巡礼に化けた国さまや秋さま二人の宣伝使 危険区域を逸早く逃れてお帰り下さんせ 奥に高姫黒姫が額の静脈血を充たし 青筋立てて控へ居る』早く早くと手を拡げ つき出す様な真似をする。 高姫は門口の怪しき声に、黒姫、高山彦を奥の間に残し、自ら茲に現はれ、 高姫『勝公さま、お前今何を言つて居たの、どこに私が青筋を立てて居ますか』 勝公『イイエ滅相もない、そんな事は申した覚えはテンで厶いませぬ。今そんな男が一寸やつて来ましたので、高姫さまのお目にかけたら、嘸お笑ひ遊ばすだらうと云つて居たので厶います……それ、そこに乞食巡礼が二人立つて居ませうがなア。一人は宗彦、一人はお勝、もう一人は松鷹彦、欲の川で竿をたれ、鷹とか鴉とかつるとか言つて居ました。……ヘーまあ、何で厶います、ザツと此通りで』 とモヂモヂして頭を掻く。 高姫『お前は国依別さま、秋彦の両人でせう。大それた悪戯をなさつて、此高姫に合す顔がなくなり、蓑笠を被つて元の宗彦時代に立返り、心の底から改心を致しました、と云ふ証拠でやつて来たのだらう。そんな芸当は世界の見え透く日の出神の前では通用致しませぬぞえ。サアサア早く正体を現はして這入つて下さい』 国依別『幽霊の正体見たり枯尾花。 たそがれて山低う見る薄かな』 高姫『俄に風流人めいた事を言つて、誤魔化さうと思つてもあきませぬぞや。サアサアとつとと這入つて下さい。お前さまに尋ねたい因縁があるのだから……』 国依別『因縁の玉を集むる此館……因縁つける高姫大根…… 旅役者大根と聞いて顔しかめ。 大根役者どこやらとなく魂が脱け。 玉おちのラムネぶつぶつ泡を吹き。 今抜いたラムネの泡や高姫……オツト高く飛び。 黒姫の様な葡萄酒萩の茶屋。 高山も低う見ゆるや萩の花。 如意宝珠空に輝く秋の月。 秋彦の空高くして馬は肥え』 高姫『コレコレ、国さま、何を愚図々々言つて居るのだ。這入れと云つたら、這入りなさい』 国依別『這入れよと言はれて躊躇ふ熱い風呂。 風呂吹を喰はぬ役者の子供哉。 大根の役者の芝居チヨボ葱』 高姫『エー、辛気臭い。気が咎めて閾が高いのだな』 国依別『高姫の敷居の欲に股が裂け。 股裂けた五つの玉は不在の間に。 黒姫は酒より男好きと言ひ。 高山に黒雲起り日は隠れ。 東天に日の出の光暗は晴れ。 堂々と国依別は進み入り』 と言ひ乍ら秋彦を伴ひ、高姫に先立つて奥の間に進み入る。 高姫、黒姫、高山彦、国依別、秋彦の五つの頭は火鉢を中に置いて、五弁の梅の花の開いた様に行儀よく並んだ。 国依別『明月や高山頭に照り渡り。 高山を透かして見れば星低し』 高姫『国依別さま、此間は御心を籠められた沢山な魚を頂戴致しまして、有難う御座います。これには何か御意趣のあることで御座いませう。サア其因縁から包まず隠さず聞かして下され』 国依別『和知川に洗ひ曝した石の玉、我は尊き人に捧げつ。 身魂相応堅くなつたる石の玉。 石よりも堅い決心感じ入り。 激流に揉まれて石は円くなり。 瀬を早み岩に堰かれて石の魚』 高姫『エーもどかしい。そんなむつかしい事を言つて分りますかいな。救世軍のブース大将が言つた事を知つて居ますか。例へば一軒の家でも一番小さい三つ児か、無学な下女に分る言葉でなければ名語ぢやありませぬぞ。俳人気取りで何を駄句るのだ。お前さまチツト此頃はどうかしとりますねえ。小雲川で一つ顔を冷し目を醒まして来なさい』 国依別『底までも澄みきりにけり秋の水。 秋の水腐つて居れどいと清し。 清らかな水には棲まぬ鮒もろこ。 濁江の深きに魚は潜むともなど川蝉の取らでおくべき』 高姫『おきなさんせ、大石内蔵之助の真似をしたり、何も知らぬと言へば調子に乗つて、人の歌まで自分が作つた様な顔をしようと思つて……本当にお前は歌泥坊だ』 国依別『床の下深きに玉は隠すとも など高姫の取らでおくべき。アツハヽヽヽ』 高姫『コレ国さま、どこまでも人を馬鹿にするのかい』 国依別『馬鹿野郎夜這の晨狼狽しゆき詰りては胸も高姫。………動悸は玉の置所。 竜宮へおと姫したかと気を焦ち世界隈なく探す馬鹿者』 高姫『コレ黒姫さま、国さまに是丈馬鹿にされてお前さま何ともありませぬか。チツト日頃の弁舌をお使なさつたらどうですかい』 黒姫『何だか人間らしうないので、話の仕様がありませぬもの』 国依別『人間を超越したり神司。 黒雲に包まれ星は影潜め。 高山に黒雲懸り雨は降り。 涙川忽ち濁る玉の雨』 黒姫『コレ高山さま、今国さまがどうやらお前さまや妾の事を、俳句とやらで罵倒して居るやうだ。お前さまも立派な男だないか、何とか一つ言霊で遣り返し、国を遣り込めて了ふ丈の甲斐性は無いのかい』 高山彦『苦にするな国依別けて大切な げほう頭は如意宝珠……光は玉の如くなりけり』 黒姫『高山さま、自分の事を言つてるのだないか。国さまに対して言ふのだよ。エーエ、鈍な男に緞子の羽織、女房も随分気の揉める事だなア。そんなら妾が代つて言ひませう。聞いて居なされ、斯う云ふのだよ。…… 黒姫の黒い眼で睨んだら 神の国依別もなく散る 桜の花は神風に 吹かれてバラバラバラモン信者 聞いてもムネ彦悪くなる 負てもお勝の尻を追ひ 肥桶担ぎの玉治別に 玉を取られし気の毒さ 泣面に蜂 止まつて咬んだ如くなりけり』 国依別『アハヽヽヽ、ウフヽヽヽ、此奴ア面白い。始めて聞いた名歌だ。柿本人麿も丸跣足だ。与謝野晶子の所へ持つて往つたら、屹度秀逸点を呉れるだらう。イヒヽヽヽ、エヘヽヽヽ、オホヽヽヽ…… 黒姫の歌にお臍が宿替へし。 脇の下キユウキユウキユウと鼠鳴き。 名歌の徳床板迄が動き出し。 睾玉の皺まで伸ばす此名歌』 高姫『黒姫さま、こんな男にかかつちや、口八丁手八丁の高姫だつて、三舎を避けねばなりませぬワ。もうそんな歌などで話しちや駄目ですよ。……コレ国さま、お前さまは何の為にあの様な物を、私に贈つたのだ。失礼ぢやありませぬか。何程物喰のよい豚だつて石は喰ひませぬよ』 国依別『豚よりも物喰ひのよき人もあり。 如意宝珠玉さへ噛る狂女哉。 今の世は砂利さへ喰ふ人もあり。 嫁入の祝ひに据ゑる石肴二世を固めの標なるらむ。 マアざつと斯う云ふ精神で、貴方の堅固な精神をお祝ひ申し、お賞め申した国依別の真心。 岩さへも射貫く女の心哉。 と云ふ様なものですワイ。悪気を廻して貰つちや、折角の国依別の志が水泡に帰しまする。魚だつて……魚が水に棲めば、此石だつて綺麗な流水にすみきつて、神世の昔から永久に川底に納まりきつて居つた石肴ですよ。別に喰つて下されと云つて贈つたのぢやありませぬ。お目にかけると云つたのだから、食へる食へぬはお前さまの御勝手、そんな問題は些いと的外れでせう』 高姫『流石はドハイカラの仕込み丈あつて、巧いものだワイ。オホヽヽヽ。コレコレ黒姫さま、高山彦さま、お前も随分鉈理屈が上手だが、国さまにかけちや側へも寄れますまい。言霊の幸はふ世の中だ。チツト是から言霊の練習をなされませ』 斯かる所へ夏彦、常彦両人は、言依別の目を忍び系統の高姫に御機嫌伺ひの為、太平柿を風呂敷に包み、やつて来た。勝公は直に奥の間に進み入り、 勝公『もしもし高姫さま、夏彦、常彦の両人が御機嫌伺ひだと云つて今見えました。如何致しませう』 高姫したり顔に、嫌らしく笑ひ乍ら、国依別、秋彦に目を注ぎ、 高姫『勝公さま、どうぞ御両人様、ズツと奥へ御通り下さい、と丁寧に御迎へ申してお出で………アーアやつぱり身魂の良い者は分るワイ。 落魄れて袖に涙のかかる時人の心の奥ぞ知らるる だ。妾が聖地へ帰つてから今日で三日目だ。それに言依別を始め、杢助迄が不心得千万な、系統のお帰りを邪魔者扱に致して、馬鹿にして居る………エー、今に見ておぢやれよ、アフンと致さして見せるぞよと、日の出さまが仰有るので、先づ神様にお任せして辛抱して居るのだ。人間と云ふ者は薄情なものだ。冷酷無惨の浮世とは云ひ乍ら、人情薄きこと紙の如しだ』 国依別『此国さまは人情厚きこと神の如しでせう』 高姫『さうでせうとも、偶の挨拶に団子石を贈つて来る様な、無情……オツトドツコイ親切なお方ですからな』 国依別『イヤその御礼には及びませぬ。沢山なもので厶いますから……』 斯る所へ勝公に導かれ、夏彦、常彦は目をギヨロつかせ乍ら、此場に恐る恐る現はれ来り、国依別や秋彦の其場に端坐せるを見て、聊か手持無沙汰な顔付にて、ドギマギして居る可笑しさ。夏、常両人、丁寧に高姫の前に手をつかへ、 両人『是は是は高姫様、御遠方の所永らく御苦労様で厶いました』 高姫『イヤもう御挨拶痛み入ります。何分身魂が研けぬもので厶いますから、不調法計り致して居ります』 両人『滅相もない、貴方は決して無駄では厶いませぬ。神様の御筆にも、人民から見れば何でもないやうだが、神の方からは大きな御用が出来て居るぞよ……と現はれて居りますから、屹度結構な御用が出来てをるに違ひありませぬ。兎角神界のことは人民では分りませぬから、形の上で彼此申すのは、申す人が分らぬので御座いませう』 高姫『ハイ、有難う』 と涙含む。 両人『是は是は高山彦様、黒姫様、つい申し遅れました。あなたも永らく神界の為に御苦労様で厶いました。直様御伺ひ致すのが本意で厶いますけれど、二三日前から杢助さまに………エー、一寸…何で厶いますので………つい遅れまして厶います。マア御無事で御両所共御帰り下さいまして、聖地は益々御神徳が上がるであらうと、一同影から御喜び申してをる様な次第で厶います』 高山彦『ヤア常彦さま、夏彦さま、あなたも御無事で御目出度う』 黒姫『ヨウ親切に此婆アを訪ねて下さいました。年がよると腰が屈む、目汁鼻汁……イヤもう醜くるしいもので、誰もふりかへつて呉れるものは御座いませぬワイ。力と頼むは大神様と、日の出神様、竜宮の乙姫様計りで厶います。人情紙の如き軽薄な世の中に、ようマア御訪ね下さいました。あなたも御無事で結構で厶いますなア』 両人『ハイ、有難う。……ヤア国依別さま、秋彦さま、あなたは何時御越しになりましたか』 国依別『………』 秋彦『つい、最前参りました。お三方が久し振で御帰りになつたので、我々も何となく心勇み、御祝ひ旁お訪ねしたのですよ』 国依別『来客に其場を外す悧巧かな。 心から除けて見たきは襖かな。 石よりも堅き心の集ひかな。 鐘一つ年は二つに分かれけり』 と口吟み、一同に、 国依別『御密談の御邪魔になりませうから、我々両人は御遠慮致します』 との意を示し、目礼し乍らスタスタと帰つて行く。門をくぐり出た両人、互に顔を見合せ乍ら、ニタリと笑ひ、 国依別『高姫も大分に我が折れたねえ。あれなればもう気遣ひあるまいね』 秋彦『さうでせう。黒姫も、高山彦も余程変つて来ましたよ。何時もなら、あんな石でも贈らうものなら、忽ち低気圧が襲来して雷鳴轟きわたり、地異天変の勃発するところですが、矢張苦労はせんならぬものですなア』 国依別『アヽ是で杢助さまに対し、相当の報告が出来るワイ。神様の御経綸は到底我々には分るものでない。それにつけても貧乏籤を引いたのは此国依別だ。いつとても揶揄役を仰せ付けられて居るのだから、堪つたものぢやない』 秋彦『身魂の因縁で善の御用をするものと、悪の御用をするものとあるのだから、御苦労な…あなたも御役ですな』 国依別『三千世界改造の大神劇の登場役者だから、仕方がない。併し乍ら悪役ばつかりは御免蒙りたいワ』 秋彦『末になりたら、皆一所に集まつて互に打解け合ひ、あゝ斯うであつたか、さうだつたかと云つて、力一杯神様に使はれて、こんなことを思つて居つたのかと、笑ひの止まらぬ仕組ださうですから、さう気投げをしたものぢやありますまいで、常彦や夏彦が忠義顔して、高姫の前で味噌を摺つて居るのも、あれも何かの御仕組の一端でせう。一寸聞くとムカツキますがなア。よく考へて見ると、どんな仕組がしてあるか分りませぬからなア』 国依別『そらさうだ。マア細工は流々仕上げを御覧うじと仰有るのだから、改造鉄道の終点迄行かねば分らぬなア。ヤアもう何時の間にか、国依別館の門前まで来て了つた』 秋彦『ハヽヽヽヽ、何処に門があるのですかい』 国依別『有つても無うても、有ると思へばある、無いと思へば無いのだ。俺の居宅は九尺二間の豚小屋の様に、お前の眼では見えるだらうが、国依別の天空海濶なる霊眼を以て見る時は、錦の宮の八尋殿同様に広く見えるのだからな。これ丈広い世界も心の持様一つで、我七尺の体を置く所もない様に見えたり、又こんな小さい居宅が宇宙大に見えたりするのだから、色即是空、空即是色だ。娑婆即寂光浄土の真諦はこんな小さい家の中に居つて、魂を研くとよく了解が出来るよ。アハヽヽヽ』 秋彦『そんなものですかいな。私の眼には如何しても八尋殿と同じ様には見えませぬワイ。裏口出た所に厠が附着いたり、小便壺が有つたり、その横に井戸が在つたり、走りに竈、何だか醜くるしい様な気分がするぢやありませぬか。一寸聞くと、あんたの御言葉は痩我慢を言つてるやうに聞えますで。何程無形的に広いと云つても、現実が斯う矮小醜陋では、余り大きなことも云へますまい。これから国依別さま、私になら何を言つてもよろしいが、人の前でそんなことを仰有ると、皆が取違して、国依別は負惜みの強い奴だ、減らず口を叩く奴だと却て軽蔑しますよ』 国依別『形ある宝は錆び、腐り、焼け、亡び、流れ壊るる虞がある。起きて半畳寝て一畳だ。広い館に住んで居れば、あつたら光陰を掃除三昧に空費し、肝腎の神業の妨害になるだないか。小さいのは結構だ、何かに都合が好い。第一経済上から云つても得策だからなア』 秋彦『あなた掃除をなさつた事があるんですか。雪隠の虫が竈の前に這うて居るぢやありませんか』 国依別『……ここ暫し家の美醜は忘れけり神大切に思ふ計りに…… と云ふ様なものだな』 秋彦『ヘーエあなたも余程高姫化しましたねえ。弁舌滔々風塵を捲く。実に揶揄役のあなたは、高姫さまに接するの度が多いから余程の経験が積んだと見えますワイ。都合の悪い時には、発句か川柳か、鵺式の言葉を使つて駄句り続け、腰折歌を並べ随分側から聞いてると苦さうでしたよ』 国依別『苦中楽あり、楽中苦ありだ。それも見やうによるのだよ。一葉目を蔽へば、大空一度に隠れ、一葉を掃へば、大空我目に映ずと云つて、凡て物は見方に依るのだ、見方が大切だ』 秋彦『味方計り大切だと云つて愛する訳には行きますまい。神様は敵する者を愛せよと仰有るぢやありませぬか』 国依別『それだから高姫さまに対し、私は何時も適対ふのではない、適当の処置を取つて居るのだ。ヤツパリ見方によつては味方に見えるだらう』 秋彦『何程贔屓目に見ても、あなたが高姫さまに対して為さることは、余り同情のある遣り方とは見えませぬぜ。何時も高姫さまの鼻をめしやげたり、手古摺らしては痛快がつてるぢやありませぬか』 国依別『……心なき人は何とも言はば言へ世をも怨みじ人も恨みじ…… 燕雀何ぞ鴻鵠の志[※「鴻鵠」は一般には「こうこく」と読むが、ここでは「こうこう」とフリガナが付いている。誤字か?]を知らんやだ。紫蘭満路に咲く、芳香何ぞ没暁漢の知る所ならんやだ。アハヽヽヽ』 (大正一一・七・二二旧閏五・二八松村真澄録)
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霊界物語 37_子_出口王仁三郎自叙伝1 09 牛の糞 第九章牛の糞〔一〇二一〕 斎藤元市氏は大霜天狗の託宣のがらりと外れたのに愛想をつかし、修業場を貸すことを謝絶し、それきり自分の方へは見向きもせなくなつたのみならず、『大先生』と、暫く崇めてゐた喜楽に『泥狸、ド狸、野天狗、ド気違』と罵り始めた。そして自分の妻の妹のチンコの静子を、中村の修業場から引張帰り、園部の下司熊吉といふ博奕打の稲荷下げをする男の女房にやつて了つた。十三歳の高子の方は神懸りが面白いので、中村の多田亀の内で修業をして居た。宇一は爺の目を忍んで、そろそろ喜楽の宅へ出入りを始めた。そして神の道を覚束なげに研究してゐた。 奥山で失敗して帰つてから、五日目の夜さであつた。又もや大霜天狗サンが、五日間の沈黙を破つて、腹の中からグルグルと舞ひ上り、喉元へ来て呶なり始めた。喜楽はヤア又かと、迷惑してゐると、雷のやうな大きな声で、 大霜『此方は住吉の眷族大霜であるぞよ。男山の眷族小松林の命令に依つて、再びここに現はれ、其方に申渡すことがあるから、シツカリ聞くがよいぞ。宇一は暫く席を遠ざけたがよからう』 宇一は審神者気取りになり、 宇一『コレ大霜天狗サン、余り人を馬鹿にしなさるな。奥山に金が埋けてあるなんて、能うそんな出放題が言へましたなア、モウこれからお前の云ふことは一言も聞きませぬで……オイ喜楽、チとシツカリせぬと可かんぜ。お前の口から言ふのぢやないか、余程気を附けぬと気違になつて了うぞ。……オイ大霜、これでも神の申すことに二言がないといふか。八十万円なんて駄法螺を吹きやがつて、俺たち親子を馬鹿にしやがつたな』 大霜『八十万円でも八百万円でも其方の心次第で与へてやる。まだ改心が出来ぬから、誠のことが言うてやれぬのだ。金の欲が離れたら幾らでも金を与へてやる』 宇一『金の必要があるから欲しくなるのです。誰だつて必要のない物は欲しいことはありませぬ、欲しくない金なら要りませぬワイ。石瓦も同然だから、金を欲しがらぬ奴には金をやらう、欲しがる奴にはやらぬといふ意地の悪い神がどこにあるか、チツと考へなさい。審神者が気をつけます』 大霜『そんならこれから神も改心して、欲しがる奴にチツと計り与へてやらう』 宇一『ハイ、私は別に必要は厶いませぬが、内の爺は先祖からの財産を相場でスツクリ無くして了つたものですから、親類からはいろいろ攻撃せられ、あの養子はようしぢやない、わるうしだと人に言はれるのが残念ぢやと悔やんで居ります。余り欲な事は申しませぬから、元の身上になる所迄金を与へてやつて下さい。そしたら爺も喜んで信仰いたします。此頃は大霜サンが喜楽にうつつて騙しやがつたと云つて怒つてゐます。それ故私も爺に内証で、斯うして神さまの御用をさして貰はうと勉強して居るので厶います』 大霜『お前は親に似合はぬ殊勝な奴だ、それ丈の心掛があらば結構だ。そんならこれから金の所在を本当に知らしてやる、決して疑ふではないぞ。先に騙されたから今度も嘘だらうと、そんな疑を起さうものなら、又もや金銀の入つた財布が牛糞に化けるか知れぬぞ、よいか!』 宇一『決して神さまのお言を始めから疑うて居るのぢや厶いませぬが、此間の様に神様から間違はされると、又しても騙されるのぢやないかと、自然に心がひがみまして、一寸計り疑が起つて参ります』 大霜『それが大体悪いのだ。綺麗サツパリと改心をいたして、此方の申すことを一から十迄信ずるのだぞ』 宇一『ハイ、一点疑をさし挟みませぬから、お告げを願ひます』 大霜『そんなら言つてやらう、一万両でよいか』 宇一『ハイ、当分一万両あれば、さぞ爺が喜ぶこつて厶りませう』 大霜『其一万両を如何する積りだ。天狗の公園を先にするか、自分の目的の相場の方にかかるか、其先決問題からきめておかねば言うてやる事は出来ぬワイ』 宇一『ハイ、そこは神さまにお任せ致します。御命令通りになりますから……』 大霜『そんなら言つてやらう、よつく聞け!葦野山峠を二町許り西へ下りかけた所の道端の叢に、十万円這入つた大きな色の黒い財布がおちてゐる。それは鴻の池の番頭が京都の銀行から取出して、大阪へ帰る途中泥坊の用心にと、ワザと途を転じて葦野山峠を越えた所、泥坊の奴、チヤンと先廻りを致し、葦野山峠に待つてゐた。それとも知らず番頭は、百円札で一千枚都合十万円持つて、葦野山峠をスタスタと登り、夜の十二時頃通つた所を、泥棒が物をも云はず、後からグーイと引つたくり、持つて逃げ様と致すのを、此大天狗が大喝一声……曲者!……と樹の上から呶鳴りつけた所、泥棒は一生懸命に逃げ出す、番頭は生命カラガラ能勢の方面へ逃げて行く。アヽ大切な主人の金を泥棒に取られて、如何申訳があらう、一層池へ身を投げて申訳をせうと、今大きな池のふちにウロウロしてゐる所だ。それをどうぞして助けてやらうと、此方の眷族を間配つて守護致して居るから、先づ今晩は大丈夫だが、何れ彼奴は金が出ない以上は死ぬに違ひない、それ故其方が其金を拾ひ、其筋へ届けたなら規則として一割は貰へるのだ、一割でも一万円になる、サア早く行け!』 宇一『それは何時賊が出ましたので厶いますか?』 大霜『今晩の十二時頃に出たのだ』 宇一『一寸待つて下さい、まだ午後五時で御座います。日も暮れて居らぬのに、今晩の十二時に賊が出たとは、そら昨夜の間違ひと違ひますか?』 大霜『ナニ今晩に間違ない、神は過去、現在、未来一つに見え透くのだ。先に出て来る事を知らぬ様では神とは申さぬぞよ。サア早く行け、グヅグヅして居ると番頭の寿命がなくなるばかりか、十万円の金を又外の奴に拾はれて了へば、メツタに出て来る例しがない』 宇一『葦野山峠は僅に一里計りの所です。今から行きましたら六時には着きます。六時間も待つて居るのですか?』 大霜『オウそうぢや、お前は肉体を持つた現界の人間だ、神界と同じ調子には行かぬワイ、そんなら十二時に賊が出て金を取るのだから、余り早過ぎてもいかず、遅過ぎてもいかぬから、此処を十一時半に立つて行け、そうすれば丁度都合がよからう』 宇一『最前申した様に決して疑は致しませぬけれど、もし間違つたら如何して下さいますか?』 大霜『間違うと思ふなら行かぬがよかろ、後で不足を聞くのは面倒だから、一層の事喜楽一人行くがよい、一万円の謝金は其方の自由に使うたが宜からうぞ』 宇一『もし大霜さま、此間の様に喜楽丈が行きますと、不結果に了るかも知れませぬ。私も一緒に連らつて行つたら如何ですか?』 大霜『それも宜からう。それまでに水を三百三十三杯頭からかぶり神言を五十遍上げよ。そうすればこれから丁度十一時半迄時間がかかる、それから行つたがよからう。神は之から引取るぞよ』 ドスンと飛上り、畳を響かせ鎮まつて了つた。宇一は釣瓶に三百三十三杯の水をカブるのは苦痛で堪らず、小さい杓で、一杯の水を三しづく程酌んで『一つ二つ三つ……』と云つて三百三十三杯かぶる真似をしてゐた。祝詞も神言では長いと云つて、天津祝詞に代へて貰ひ、漸くにして五十遍早口に唱へて了ひ、 宇一『サア喜楽、ソロソロ行かうぢやないか。まだ九時過ぎだが、道々修行したりなんかしもつて行けば、丁度よい時間になるよ。遅いより早いがましだからな』 喜楽『モウおかうかい、おれは何だか本当のやうに思はぬワ。又此間の様な目に会はされると馬鹿らしいからな』 宇一『羹物にこりて膾を吹くとはお前の事だ、そう神さまだつて何遍も人を弄びになさる筈がない、疑ふのが一番悪い、何でも唯々諾々として是命維れ従ふと云ふのが、信仰の道だ。そんな事云はずに行かうぢやないか』 喜楽『余り人に分らぬよにしてをつてくれ。もし失策つたら又次郎松サンに村中触れ歩かれると困るからなア』 宇一は『ヨシヨシ』と諾き乍ら、早くも吾茅家を立出でる。喜楽も従いて、田圃路を辿り天川村を右に見て、出山を越え、上佐伯の御霊神社の森に辿りつき、森の杉の木の株に腰を打掛けて、夜のボヤボヤした春風を身に浴び乍ら、眠たいのを無理に辛抱して、時刻の到るのを待つてゐた。 愈十一時を社務所の時計が打出した。 宇一『アヽモウ十一時だ、早く行かう』 と宇一は先に立つ。喜楽は後からスタスタと険しき葦野山峠を、七八丁計り登つて行く。峠の茶屋に山田屋と云ふのがあつた。まだ時刻が早いので、一寸一服して行かうと、戸の隙から中を覗くと、此五六軒よりかない村の若い者が、まだ遊んでゐる。……コリヤ却て都合が悪い……と云ひ乍ら、峠の右側の松林に進み入り、暫く時刻の到るを待つてゐる間に、二人共グツスリ寝込んで了つた。 フツと先に目が開いたのは宇一であつた。 宇一『オイ喜楽、早う起きぬか、今一寸道の方を覗いて居りたら、神さまの云ふたやうに、一人の黒い男が、財布の様な者を担げて通りよつたぞ。又其後へ二人の男が一町ほど離れて行きよつた。ヤツパリ神様の仰しやる事は違はぬワ。丁度今財布をボツタクられてる所だ。余り早く行くと俺達が泥棒と間違へられて天狗さまに叱られては大変だから、ゆつくりして行かうだないか』 と小さい声で囁く。喜楽の心の中は、八分まで信ぜられない、如何してもウソの様な気がする。けれ共二分許り何とはなしに希望の糸につながれてるやうな気がした。 そこで両人は林の中から街道へ下り、峠を二町ばかり降つて見ると、一寸曲り途がある。ここに間違ひないとよく目を光らして見れば、財布の様なものが黒く落ちてゐる。二人は一イ二ウ三ツで其の黒い物に手をかけると、財布と思ふたのは牛の糞の段塚であつた。 二人は余り馬鹿らしいので、互に何とも云はず、まだ外に落ちてるに違ひないと、汚れた手をそこらの草にこすりつけ拭き取り乍らガザリガザリと草の中を捜して見た。ここは常から牛車の一服する場所で、路傍の草原に牛をつなぐ為、どこにもかしこにも牛糞だらけである。……コラ此処ではあるまい……と又一町許り降り、そこら中捜してみたが、何一つおちてゐない。念入りに葦野峠の西坂五六丁の間を捜してる間に、夜はガラリと明けて了つた。宇一は失望落胆の余り、 宇一『オイ喜楽、貴様の神懸りはサツパリ駄目だ。今度は糞を掴ましやがつただないか、クソ忌々しい、もうこんな事は誰にもいふなよ。お前は口が軽いから困る。そして今日限り神懸りは止めようぢやないか』 喜楽『グヅグヅして居ると金の財布が牛糞になると神さまが言ふたぢやないか。モウ仕方がない、これも修業ぢやと思うて諦めようかい』 宇一『サア早く帰なう、誰に出会うか知れやしない。余り見つともよくないから……』 と云ひ乍ら、力なげに両人は穴太へ帰つて来た。 斯の如くして神さまは天狗を使ひ、自分等の執着を根底より払拭し去り、真の神柱としてやらうと思召し、いろいろと工夫をおこらし下さつたのだと、二十年程経つて気がついた。それ迄は時々思ひ出して、馬鹿らしくつて堪らなかつたのである。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一〇・九旧八・一九松村真澄録)
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霊界物語 37_子_出口王仁三郎自叙伝1 20 仁志東 第二〇章仁志東〔一〇三二〕 話は少し元へ帰る。明治卅一年の四月三日神武天皇祭[※神武天皇が崩御した日。]の日、喜楽は早朝より神殿を清め修業者と共に祭典を行つて居た。そこへ瓢然として尋ねて来た五十余りの男がある。男は無造作に閾をまたげてヌツと這入り、 男『私は紀州の者で三矢喜右衛門と申します。稲荷講の福井県本部長で、静岡県阿部郡富士見村月見里稲荷神社附属、稲荷講社総本部の配札係で御座います。紀州を巡回の折柄、ここの噂を承り、すぐさま総本部へのぼり長沢総理様に伺うた所、因縁のある人間ぢやに依つて、兎も角調べて来いと言はれました。過去現在未来一目に見え透く霊学の大先生長沢様の御言葉だから、喜んでお受けなされ、決して私は一通りの御札くばりではありませぬぞ』 とまだ喜楽が一口も何ともいはぬ先から、虎の威をかる狐の様に威ばり散らしてゐる。喜楽は稲荷講社と云ふ名称に就いては聊か迷惑のやうな気がした。なぜならば口丹波辺は稲荷講社といへば直に稲荷おろしを聯想し、狐狸を祀るものと誤解されるからである。併し乍ら過去現在未来を透察する霊学の大家が長沢先生だと言ふことを聞いては、此三矢を只でいなすことは出来ない様になつて来た。 二月以来高熊山の修行から帰つたあとは、霊感問題に没頭し、明けても暮れても、霊学の解決に精神を集中して居たからである。そして親戚や兄弟、村の者までが、山子だ、飯綱使だ、狐だ、狸だ、野天狗だ、半気違だと口々に嘲笑悪罵を逞しうするので、何とかして此明りを立て、人々の目をさまさねばならぬと、心配して居た所へ三矢氏が来たのだから、一道の光明を認めたやうな気になつて、勇み喜び、直に三矢を吾家に止め、いろいろと霊学上の問題を提出して聞いて見たが、只配札のみの男と見えて、霊学上の話は脱線だらけで、何を聞いても一つも得る所がなかつた。それから旅費を工面して、三矢の案内で愈同月の十三日、穴太を立つて京都まで徒歩し、生れてから始めての三等汽車に乗つて、無事静岡の長沢先生の宅に着くことを得た。 長沢先生は其時まだ四十歳の元気盛りであつた。いろいろと霊学上の話や、本田親徳翁の来歴等を三四時間も引続けに話される。喜楽が一口言はうと思うても、チツとも隙がない。此方の用向も聞かずに四時間斗り喋り立て、ツツと立つて雪隠へ行き、又元の所へ坐り、三方白の大きな目を剥き出し、少し目が近いので背を曲げ、こちらを覗く様にして、又もや自分の話を続けられる。机の下は二三ケ月間の新聞紙が無雑作に散らけてある。沢山の来信も封を切つたのや切らぬのが、新聞紙とゴツチヤになつて広い机のグルリに散乱してゐる。長沢先生は障子の破れ紙の端をチヨツと引むしつて、ツンと鼻をかみ、ダラダラと流れやうとする鼻汁を又ポンと紙を折り、遂にはツーと余つて鼻汁が膝の上に落ちやうとするのを、今度はあわてて新聞紙の端を千切り、それに鼻汁紙を包んで、無雑作に机の下に投げ込み乍ら、平気な顔で又五時間斗り喋りつづけられた。長途の汽車の旅で体は草臥てゐる。一寸どこかで足を伸ばしたいと思ふても先生が動かないので如何することも出来ず、とうとう其日は自分の住所姓名を僅に告げた丈で、長沢先生の話斗りで終つて了つた。 先生の母堂に豊子といふ方があつて、余程霊感を得てゐられた。豊子さまは喜楽に向ひ、 豊子『お前さまは丹波から来られたさうだが、本田さまが十年前に仰有つたのには、是から十年程先になつたら、丹波からコレコレの男が来るだらう、神の道は丹波から開けると仰有つたから、キツとお前さまのことだらう、これも時節が来たのだ。就ては、本田さまから預つて置いた鎮魂の玉や天然笛があるから、之を上げませう。これを以てドシドシと布教をしなされ』 と二つの神器を箪笥の引出しから出して喜楽に与へ、且神伝秘書の巻物まで渡してくれられた。翌朝早うから之を開いて見ると、実に何とも云へぬ嬉しい感じがした。自分の今迄の霊学上に関する疑問も、又一切の煩悶も拭ふが如く払拭されて了つた。 午前九時頃から、長沢先生は再び自分を招かれた。早速に先生の前に出で、今度は自分の方から喋り立て、先生に一言も云はすまいと覚悟をきめて出合ふなり、自分の神憑り[※初版・愛世版では「神憑り」、校定版では「神懸り」。]になつた一伍一什を息もつかずに三時間斗り述べ立てた。先生は只『ハイハイ』と時々返事をして、喜楽の三時間の長物語を神妙に聞いて呉れられた。其結果一度審神者をして見ようと云ふことになり、喜楽は神主の席にすわり、先生は審神者となつて幽斎式が始まつた。其結果疑ふ方なき小松林命の御神憑[※初版・愛世版では「御神憑」だが、校定版では「御神懸(ごしんけん)」。]といふことが明かになり、鎮魂帰神の二科高等得業を証すといふ免状迄渡して貰つた。喜楽は今迄数多の人々に発狂者だ、山子だ、狐つきだとけなされ、誰一人見わけてくれる者がなかつた所を、斯の如く審神の結果、高等神憑[※初版・愛世版では「神憑(かむがかり)」だが、校定版では「神懸(かむがかり)」]と断定を下されたのであるから、此先生こそ世界にない、喜楽に対しては大なる力となるべき方だと打喜び、直ちに請ふて入門することとなつたのである。要するに長沢先生の門人になつたのは霊学を研究するといふよりは、自分の霊感を認めて貰つたのが嬉しかつたので入門したのであつた。 夫れより先生に従ひ、三保の松原に渡り、三保神社に参拝して、羽衣の松を見たり、又は天人の羽衣の破れ端だと称する、古代の織物が硝子瓶の中に納められてあるのを拝観したりし乍ら、一週間許り世話になつて、二十二日の夜漸く穴太の自宅に帰る事を得た。三矢喜右衛門も再穴太へ従いて帰り、園部の下司熊吉方に往復して、とうとう斎藤静子と熊吉との縁談の媒人までなし、今迄の態度を一変して、下司熊をおだて上げ、いろいろと喜楽に対し、反抗運動を試みる事となつた。 下司熊は、斎藤静子の余りよくない神憑を女房に持ち、自分も神憑となつて、相場占を始め出した。下司の腹心の者に藤田泰平といふ男があつた。此男は人の反物を預り、着物や羽織を仕立て、賃銭を貰つて生計を立てて居た男である。下司熊の頼みによつて、方々から預つたいろいろの反物を質に入れ、金を借り、それを下司熊に使はれて了ひ、依頼主から火急な催足をされて、非常に煩悶をしてゐた。グヅグヅして居ると刑事問題が起り相なので、泰平自ら穴太へ行つて来て、下司熊の為に自分は退引ならぬ破目に陥つた事を歎きつつ物語り、如何かして助けて貰ふ訳には行かうまいかと云つて泣いて居る。喜楽も最早如何する事も出来ない。併し乍ら何とかして助けてやりやうはないかと、頭を悩ましてゐた。そこへ斎藤宇一が自分の叔母の婿となつた下司熊と共に出て来て、何とかして藤田を助ける工夫はなからうか、藤田許りか下司までが、此儘にしておいたら、取返しのつかぬやうな事になつて了ふ。お前の家や屋敷を抵当に入れて、金でも借つてくれまいかと斎藤が云ふ。併し乍ら喜楽の家屋敷は既に抵当に入り、五十円借つた金も、とうの昔になくなつて居た。ふと思ひ出したのは奥条といふ所に預けておいた乳牛がある。其牛は喜楽の自由の物で、精乳館の物ではなかつたのを幸ひ、それを売つて下司や藤田の急場を助けてやらうかと思ひ、喜楽が九十円で買うた牛が奥条に預けてある、それをどつかへ売つてくれたら、其金を間に合はしてやらうと、云ふた言葉に下司は手を拍つて踊りあがり、 下司『そんなら済まぬが、どうぞ暫く私に貸して下さい。此牛は自分が入営してゐた時の友達で、矢賀といふ所に伯楽をして居る者があるから、そこへ連れて行て買うて貰はう』 といふ。そこで話が纏まつて、藤田泰平は園部へ帰る。喜楽と宇一と下司熊の三人は、奥条の牛の預け先から引出して来て、八木の川向うの矢賀といふ所へ引張つて行つた。 其日は此地方の氏神の祭礼で、あちらこちらに大きな幟が立つてゐる。漸くにして九十円の牛を十五円に買ひ取られ、日が暮れてからソロソロ八木へ廻つて帰らうとした。十五円の金は下司が預つたきり、懐へ入れて了つた。そして十円さへあれば下司の問題も一切片付くのである。五円丈は喜楽に渡すといふ約束であつたが、下司はふれまわれた酒にヘベレケに酔うて、何と云つても、妙な事計り言つて受入れぬのみか、日清戦争で戦死した戦友の石碑が立つてる前へ行つて手を合せ、 下司『惟神霊幸倍坐世、オイ貴様もおれと一緒に戦争に往つたのだが、とうとう先へ死によつたのう、本当に貴様は可哀相なものだ。こんな部落へ生れて来て、其上鉄砲玉に当つて死んで了ひ、本当に可哀相だ。おりや君に同情するよ。ナアに、俺だつて、同じ人間だ。そんなこた遠慮に及ばぬ』 と沢山の部落民がそこに居るのも構はず喋り立てる。忽ち十四五人の男が現はれて、 『ナアに失礼な事をぬかす、やつてやれ』 と言ひ乍ら、下司熊の手足を取り、ヨイサヨイサと祭の酒に酔うた奴斗りが、矢賀橋の側までかいて行き、メツタ矢鱈に頭をなぐる、打つ蹴る、非常な大騒ぎとなつた。宇一は部落民の方へ分け入つて、いろいろと下司の為にあやまつてやつてゐた。喜楽は懐中の天然笛を取出して、一生懸命にヒユーヒユーと吹き立てた。何と思ふたか、一人も残らず暴漢は逃げて行く。 そこへ巡回の巡査がやつて来て、下司熊を労はり八木まで送り届けてくれた。喜楽も宇一も巡査の後に従いて八木の橋詰まで帰つて来た。来て見れば橋の西側に劇場があつて、芝居が始まつてゐる。勧進元は下司熊の父親の下司市といふ可なり名の売れた顔役である。下司熊は喜楽や宇一を楽屋の中まで引張て行き裸になつて見せて、 下司『あゝ喜楽サン、折角に世話になつた牛の金が最前の喧嘩でおとしたとみえて、これ此通り一文も無い』 としらばくれてゐる。後から事情を探つて見れば、実際は五十円に牛を売り、ワザとに八百長喧嘩を仕組み、一文も残らず引つたくつてやるといふ計略に乗せられたのであつた。又藤田の来たのも、下司や宇一との計略に依つて喜楽の牛を売らし其金をせしめようといふ計略であつた事が判明したのである。それが分つたので喜楽は神憑[※初版・愛世版では「神憑」、校定版では「神懸」。]になり、腹の中の憑霊に向つて、 喜楽『なぜ喜楽の肉体がこんな目に会うてるのに知らさなんだか、言はいでもよいこと許り喋る癖に、なぜかう云ふ時に知らしてくれぬのだ。モウこれからお前らの言ふことは聞かぬ。サア私の体からトツトと帰つてくれ』 と腹立紛れに呶鳴り立てた。さうすると暫く静まつて居つた玉ゴロが、又もや喉元へこみ上げて来て、小さい声で、 『アツハヽヽヽ、馬鹿だのう』 といつたぎり、何と云つても、キウともスウとも答へてくれぬ。とうとう泣き寝入りになつて了うた。 下司熊は其後須知の岩清水といふ所で、村の神官と諜し合せ、観音の木像を土の中へ深く埋けておいて、「サテ自分は神さまのお告に依り岩清水の或地点に観音さまが埋まつて御座ることを聞きましたが、一ぺん調べさして頂きたい」と区長の宅へ頼みに行つた。それから区長の許しを受けて、宮の神主と共に掘り出しに行つた所、観音の木像が出たので、それを御神体とし、船越某の家で祭壇を作り、所在神仏の木像を古道具屋の店のやうに祀りこみ、二三十本の幟をあちら此方に立て、お大師さまの御夢想の湯だと云つて、湯をわかし、患者を入浴せしめなどして、沢山の愚夫愚婦を集めて居た。そして観音の木像が神さまのお告げで現はれたといふので大変な人気となり、一時は非常に繁昌してゐたが遂に警察から科料を取られ、拘留に処せられ、それより段々信者が来なくなつて了ひ、やむを得ず、岩清水を立つて、再び園部へ舞ひもどり、神さま商売もテンと流行らなくなつたので、再び博徒の群に入り、とうとう睾丸炎を起して夭死して了つた。泰平も亦二三年を経て急病でなくなつて了つた。牛を下司に取られたといふので、又々由松が怒り出し、 由松『此神は盲神だから、兄貴の馬鹿がだまされて居るのを、黙つて見てやがつた、腰抜神だ。モウ俺の内にはおいてやらぬ』 といつて再斎壇を引つくり返し、暴れまはるので、喜楽も安閑として居る訳にも行かず、此上如何したらよからうか、一つ神さまに伺つて見ようと、産土の社に参拝して神勅を受けた。其時小松林命喜楽に神懸りして、 小松林『一日も早く西北の方をさして行け、神界の仕組がしてある。お前の来るのを待つてゐる人がある。何事にも頓着なく速にここを立つて園部の方へ向つて行け!』 と大きな声できめつけられた。それより喜楽は故郷を離れる事を決意したのである。 (大正一一・一〇・一一旧八・二一松村真澄録)
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霊界物語 37_子_出口王仁三郎自叙伝1 21 参綾 第二一章参綾〔一〇三三〕 旧六月の暑い最中であつた。老祖母や修業者に無理に別れを告げて、只一人穴太を離れ北へ北へと進み行く。道程殆ど二里ばかり来た処に、南桑田、船井郡の境界の標が立つて居る。其処には大井川の清流をひいた、有名なる虎天関と云ふのがある。虎天関の傍に枝振りよき並木を眺めて小さき茶店が建つて居た。喜楽は何気なく其茶店に立寄つて休息をして居た。 三十あまりのボツテリと肥えた妻君が現はれて渋茶を汲んで呉れた。さうして喜楽の異様な姿を眺めて、 女『貴方は神様の御用をなさる方ぢや御座いませぬか』 と云ふ。喜楽は即座に、 喜楽『私は神様の審神をする者で御座います。随分其処ら中の教会を調べて見ましたが、狐や狸のお台サンばつかりでした。アハヽヽヽ』 と手もなく笑つて居る。此女は畳みかけた様に、 女『モシ先生、私が一つ頼み度い事があります。私の母は今綾部に居りますが、元は金光様を信神して居ましたが、俄に艮の金神さまがお憑りなさつて沢山の人が御神徳を頂き、金光教会の先生が世話をして居られますが、母に憑つた神様の仰有るには、私の身上を分けて呉れる者は東から出て来る。其御方さへ見えたならば出口直の身上は判つてくると仰有いましたので、私等夫婦は態と此道端に茶店を開いて往来の人さまに休んで貰ひ、母の言つたお方を探して居りました。大方貴方の事かと思はれてなりませぬ。何卒一度母の身上を調べてやつて下さらぬか。これが母の神様がお書になつたお筆先で御座います』 と出して来たのが、バラバラの一枚書きの筆先であつた。 喜楽は此筆先を見て、高熊山の修業の中に於て霊眼にて見聞したる事の或部分に符合せるに驚き、婦人の依頼を受けて近々に上綾する事を約し、園部の広田屋と云ふ旅館に落着き、あちらこちらと知己を訪問して霊学の宣伝に従事しつつあつた。 旧八月二十三日[※明治31年(1898年)旧8月23日は新10月8日]、初めて綾部裏町の教祖の宅を訪問し、二三日滞在して居た。然るに金光教の教会の受持教師なる足立正信を始め、世話係の中村竹造[※霊界物語における中村竹造の名前に「竹造」と表記している場合と「竹蔵」と表記している場合があるが、霊界物語ネットでは「竹造」に統一した。詳しくはオニペディアの「霊界物語第37巻の諸本相違点」を見よ]、村上清次郎、西村文右衛門等に、極力反対運動をされ、時機未だ至らずとして教祖に暇を告げ、綾部の地を去つて園部村の字黒田、西田卯之助の座敷を借つて神の道を宣伝しつつあつた。種々の神憑りに関する面白き話は此地方に於ても沢山目撃したり遭遇したる事あれども、岐路に入る虞ある故此処には省略して置く。園部の上本町に奥村徳次郎と云ふ熱心な信者があつた。あまり沢山な信者が喜楽を訪ねて来るので、園部町の有志は信仰は兎も角土地繁栄の一策として園部の公園内に立派なる布教所を建設し、喜楽を、此処に永住せしめむと、土地の有志が東西に奔走し、話も大方纏まつて居る所へ、綾部から出口教祖のお使として、四方平蔵氏が遥々訪ねて来た。 其時喜楽は園部川の大橋の下流で漁遊びをして居た。其処へ平蔵氏がやつて来て、河の堤から、 平蔵『モシモシ、上田さまは此辺に居られませぬか、只今黒田のお宅へ参りましたら、園部の河原へ魚取りに行かれたとの話故、此川縁を伝うて此処迄来ました』 と云つて居る。喜楽は川の中から、 喜楽『ハイ、上田は私です。貴方は先頃手紙を呉れた綾部の四方サンですか。綾部はもう懲々しましたから行くのは止めますわ。今面白い最中だから、モチツと魚をとつて帰りますから、日の暮に来て下さい』 と云へば四方氏は堤の上から、 平蔵『そんなら仕方がありませぬ。私は園部の扇屋で今晩泊りますから、又お訪ね致します』 と云ひ乍ら、四方氏は大橋を渡つて扇屋をさして行つて了つた。喜楽は漁を終り、黒田の宅へ帰り着物を着換へ、園部の扇屋に四方氏を訪ねて見た。さうして今度は足立、中村其他の役員には極内々で、教祖と自分とが相談の上、喜楽を迎へに来た事が分つた。斯うなると自分も敵の中へ飛込む様なものである。余程の覚悟をせなくてはならぬと思ひ乍ら、早速綾部へ行く事を承諾し、往復八里の夜の道を穴太へ帰り、老祖母や母に愈綾部に行く事を云ひ、産土の大神に祈願をこらし、夜の明くる前漸く園部の扇屋へ帰つて来た。されど四方氏は喜楽が穴太へ帰つて来た事はチツとも分らなかつた。 それより四方氏と共に黒田の宅へ帰り、種々と支度をなし、五時頃から黒田を立ち出で、漸くにして檜山迄着いた。日はズツポリと暮れて来た。少し目の悪い四方氏は最早歩く事が出来なくなつて来た。止むを得ず樽屋と云ふ宿屋へ投宿した。忽ち大雨降り来り、雷鳴さへも轟いて実に物凄き天地となつて来た。樽屋の裏の離座敷を与へられ、喜楽と四方氏は四方山の話に耽り乍ら、夜の一時頃になつて漸く寝に就いた。朝の四時頃に四方氏は目を覚まし早くも天津祝詞を奏上して居た。喜楽は其声に目を覚まし、慌て起き出で見れば、相変らず車軸を流す様な大雨である。四方氏は、 四方『先生、お目覚めですか。早うから八釜しく申しましてお目を覚まして済みませぬ。昨夜は何とはなしに気が欣々しまして一睡も出来ませなんだ。神様が大変にお勇みだと見えます。併し乍ら昨夜から引き続いて偉い大雨です。これでも止みませうかな』 と心配相に尋ねる。喜楽は一寸目を塞ぎ伺つて見て、 喜楽『九時になればカラリと晴れます。それまで、マアゆつくり話を承りませう。貴方は綾部から来たといはれましたが、お宅は大変な山家の様に思ひますが違ひますか。家の裏に綺麗な水が湧いた溜池があり、前は一尺ばかりまはつた枝振りの面白き松の樹がある。さうして少し右前の方の街道に沿うて小屋の様なものがあり、其処に菓子なんかの店が出してあり、六十位のお婆アサンが見えますが違ひますか』 と尋ねて見た。四方氏は吃驚して、 四方『ハイ、其通りです。そんな事までよく見えますか。あんたは、さうすると稲荷でも使ふて居られるのですか』 と不思議相に顔を覗く。喜楽は首を振り、 喜楽『イエイエ、そんな事はありませぬ。霊学の一部、天眼通で見たのです。誰でも真心にさへなれば、天眼通位は直に判る様になりますよ』 四方『アヽそれで安心しました。私は金光教の古い信者で御座いましたが、こんな処から五里も六里もある処が見える様なものは、狐か狸だと金光教の先生が云ひました。モシ先生が綾部へ行つて、そんな事でもなさらうものならサツパリ狐使ひだと云つて、ボツ帰されて了ひますから、綾部へ御いでになつたら、其魔法だけは暫くやらぬ様にして下さい。疑を受けては貴方の御迷惑ですからなア』 喜楽『そんな分らぬ奴ばかり居る所なら、もう私は御免蒙つてこれから帰りますワ』 四方『そんな短気を出さずに兎も角教祖様の御内命で来たのですから、一度綾部を見ると思ふて来て下さい。此頃は和知川の鮎が沢山にとれますから、鮎食ひに行くと思うて、マアマア兎も角一遍来て下さい。私も今此処で先生に帰られては教祖様に対し申訳が御座いませぬ』 喜楽『第一貴方に霊学を諒解して貰ふておかなくてはなりませぬから、狐を使ふか、使はぬかと云ふ事を一遍此処で実地を見せませう。さうして貴方に承知が行つたら行く事にしませう。そんな処まで鮎食ひに行かなくても園部で沢山ですから……』 四方『私の様な素人にでも、そんな天眼通が行へますだらうか』 喜楽『マア其処に坐つて目を塞ぎ、両手を組んで見なさい』 四方『そんなら頼みます』 と四方氏は素直に座敷の真中に正座し、手を組み目を塞いだ。喜楽は、 喜楽『サアこれから四方サン、天眼通を授けます。今私が……ソレ見い……と云つたが最後、何かの姿が映りますから、それを話して御覧……』 四方『ハイ……』 と云ひ乍ら、一生懸命に目を塞ぎ早くも霊感者になつて、少し鼻息を荒くし体をピリピリと慄はせて居る。喜楽は、 『それ見い!』 と大喝一声した。 四方『ハイ、見えました。小さい古き藁葺の家が一軒、前横の方に又一つ汚い家があつて、其処に美しい水の湧いた池があります。さうして裏の方には榧の木や、椋の大木が見えます。細い綺麗な河が道の下を流れて居ます』 喜楽『アヽそれで愈天眼通が開けました。それは私の生れた家ですよ。もう宜しい』 と云へば、四方氏は組んだ手を離し目を開き、 四方『何とマア、結構な神様ですな。イヤもう感心致しました。流石教祖様も偉いわい。多勢の役員や信者に隠れてお迎へして来いと仰有つた丈けの価値があります。こんな事が分れば、三千世界一度に見え透くと仰有る神様の御用が充分に勤まりませう』 と無性矢鱈に喜んで居る。それから病気の伺ひや天眼通の試験を色々として、四方氏に先づ霊学の尊い事を悟つて貰ひ、朝飯を食ひ愈これから出立しようとする時、さしもの大雨もピタリと止まり、ガンガンと日本晴れの空に太陽が照り輝き出した。四方氏は、 四方『ヤア、仰有つた通り九時になつたらカラリと霽れました。ほんに霊学と云ふものは結構なものですな。これから綾部へ帰りましたら、金光教の先生や役員どもが愚図々々云ふと面倒で御座いますから、ソツと裏町の教祖さまの宅へ参りませう』 と云ひ乍ら六里の山坂を越えて其日の午後四時頃、漸くにして裏町の教祖の宅へ安着した。 誰が喋つたのか早くも信者の四方与平、黒田清子、四方すみ子、塩見じゆん子を始め七八人の信者が集まつて来て、 『平蔵サン、結構な御神徳を頂きなさつた。よい先生を迎へて来て下さいました』 などと喜び勇み、金光教の旧信者へ通知に各自廻つて了つた。此勢に足立正信氏は吃驚して中村竹造を裏町へ遣はし、色々と水をさし妨害を加へた。されど出口教祖を始め、四方平蔵氏の勢があんまり猛烈なので、到頭中村竹造も我を折り教祖の命に服従して了つた。 四方源之助、西岡弥吉、西村文右衛門、村上清次郎、西村庄太郎、四方伊左衛門等と云ふ世話係は裏町の宅へ集まり来たり、平蔵氏と教祖の説明によつて非常に共鳴し、艮金神様の金の字をとり、日の大神様、月の大神様の月日を合せて金明会と云ふ団体を組織し、信者は日に夜に遠近より集まり来り、裏町の狭い倉の中では身動きもならぬやうになつたので、本町の中村竹造の本宅へ金明会を移して了つた。四方氏は得意の天眼通を振りまはし神占をしたり、病気平癒を祈つたりして非常な人気である。只の一回位、霊学を教へて貰ふて、四方平蔵サンはあれ丈け御神徳を貰ふたのだから、修行さへしたら誰でも神徳が頂けるだらうと、幽斎修行の希望者が瞬く内に二十人あまりも出来て来た。喜楽は向側の西村庄兵衛と云ふ信者の裏の離家を借つて其処に寝泊りをしたり、世話方に色々と神の話を聞かして居た。金光教会の足立正信氏は最早策の施すべき所なく、村上清次郎、中村竹造、四方すみ、塩見じゆん、黒田清などの宅を訪問して、いろいろの反対運動を試みたけれども、到底効を奏する事が出来なくなつて来た。 教祖は足立氏の境遇を気の毒に思ひ、小遣銭や米等を贈つて金光教を脱退し、教祖の教に従へと信者を交る交る遣はして勧められた。けれども足立氏は頑固として応ぜず、陰に陽に反対の気勢を挙げ、 足立『上田と云ふ狐使ひをこんな処へ引張つて来て、山子を始め出したから騙されない様にせよ』 と中村竹造や村上房之助等を遠近の信者の宅に遣はし、色々と非難攻撃を始めた。中村は自分の家を金明会へ貸しておき乍ら、足立の命令に従つて反対運動を昼夜の区別なくやつて居た。併し乍ら時の勢には抗すべくもあらず、一人も信者が行かなくなり、手も足もまはらぬ破目に足立氏は陥つて了つた。そこで止むを得ず足立氏は我を折つて、 足立『何卒改心するから金明会へ使つて下さい』 と頼みに来た。金明会の役員連は速に協議会を開いた結果、 『足立正信氏は信者の受けも悪し、○○や○○と醜関係をつけ、神の名を汚して居るから、此際絶対に金明会へ這入る事は謝絶するがよい』 と云ふ事に協議が纏まつて了つた。足立氏が尾を振つて来たのは、心の裡から金明会へ心従して居るのではない。老母や子供が忽ち糊口に窮する処から、一時の窮策として表面心従したと見せかけ時機を見て金明会を転覆させ、喜楽先生を放り出す計略なる事は、今迄の足立氏の行動に徴して明白だから、今度の好い機会を幸ひに一切の関係を絶つ方が上分別だと、今まで同氏の熱心な教養をうけたものさへ、極力排斥を主張する様になつて来た。喜楽は足立氏の境遇を憐れみ、且又今迄金光教を信じて居た役員や信者の人情の浮薄冷酷なるに呆れ果て、 『今日は人の身の上、明日は吾が身の上と云ふ事がある。こんな薄情な人間の処へ居つては到底駄目だ。自分さへ此処を立ち去つたならば足立氏親子の困難は除かれるだらう。世人の困難を救ふべき神の取次が人を困らせてはならない』 と思つたから、四方氏を始め重なる役員に向ひ、 上田『私が此処へ来たために、足立氏親子が困難を来すべき結果を生じたのだから、私は同氏に対して済まないから今日から帰ります。何卒足立氏と仲良うして神様の御用をして下さい』 と申し込んだ。そこで数多の役員は大に狼狽し、鳩首謀議の結果、 役員たち『足立氏の処置に就いては上田先生に一任しますから、是非とも教祖様の側に居て、大本の宣伝に力を尽して下され』 と異口同音に頼み込む。 そこで喜楽は足立氏を金明会の副会長に任じ、金明会の名の許に仲良く神務に奉仕する事となつた。出口教祖も足立氏の身の上につき心密かに非常な心痛をして居られたが、喜楽の同情ある処置に対し、非常に安心をしたと云つて感謝せられた。足立氏は大変に喜び、役員信者も喜楽の赤誠に感じ、直に今迄の態度を改め、教祖に次いで喜楽を師匠と尊敬し出した。一時は大争乱が勃発しさうの模様のあつた金光教対金明会も、茲に円満な解決が出来て、双方とも心持克く勇んで和合の裡に神様の御用に尽す事を得たのである。 (大正一一・一〇・一二旧八・二二北村隆光録)
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大本神諭 神諭一覧 明治30年(月日不明) 明治三十年 有難や神の出来が致したぞよ。是れから世界には結構が判りて来るぞよ。直を余り早く結構に致せば間に合はぬ故に、ワザとに落して在りたぞよ。正真正体の神が何も皆言はして在るから、チッとも違いの無き事ぞよ。此の直に真正の神が世界の事々物々を予言すから、皆の取次魂を研ひてドウゾ力に成りて下されよ。手柄を致さして、世界をナラすので在るぞよ。清吉どのを基礎に致して世の始まりに成るので在るぞよ。東京からも参拝りて来る様に成るので在るぞよ。珍らしき事を致して神が在るか無いかを表現すぞよ。迷雲が掃蕩るぞよ。牛糞が天下を取るぞよ。開いた口がすぼまらぬ事が出来るぞよ。世界の人民早く改心を致たされよ。余り疑ひ激き故に、世界に見示懲戒を致して、世界の人民に改心させるぞよ。良い見示めも在れば悪き見示めも在るぞよ。此の神は世界を自由に致す神で在るぞよ。世が変れば神は賞罰顕著即座審判く、人民は鼓腹太平光明世界に成るぞよ。今は世の行詰り、末法の世の終局で絶命の世に成りたぞよ。良き世に変るから早く改心致されよ。神は急けるぞよ。 艮の金神の筆先で在るぞよ。明治三十年の正月の十九日に、出口直に書かした筆先で在るぞよ。何鹿の郡綾部本宮町出口竹造直の屋敷には、神の守護経綸が致して在るから、角造どの退去いて下されよ。金助どの家持って退いて下されよ。治郎右衛門殿も家持って退いて下されよ。此の村は神の経綸守護が致して在るから。人民の住居は出来ん村、村の衆皆家を持って退いて下されよ。此の神を今迄は悪神崇り神として敵対ふたが、此の神が実際的守護に成りたら敵はぬぞよ。早く村の者も改心を致されよ。此の方が世に落ちて居りたに付いては、出口直を世に落して、大望な御用を命したぞよ。此れは此世に大望ある故、ワザとに神が使ふたのじゃぞよ。今に足もとから鳥が飛ちて来て吃驚を致さすぞよ。 此の神延は結構な事に成るので在れども、皆モチト修行を致さねば結構には成らぬぞよ。神は大望が在るから、まだ神の事が相判らねばモチト結構に成らぬから、筆先に書いて見せて在るから、神の事から拡めて下されば、神が守護は致すぞよ。筆先を見て教親に相談致して、早く拡めねば遅く成りて神は急けるぞよ。絶命の世に成りて、是れ程見せても判らぬか。 大槻鹿造どの、此の身魂は万の神のお叱りを負ふて居る身魂で在る故に、知らぬ苦労を致して居るから、米どのはアノ次第で在るぞよ。是れを見て皆の者よ改心致されよ。善き心を持てば良き事を致さすし、悪き心を持てば苦しみを致さすぞよ。世界には善き見示め悪き見示めは為て見せて在れども、余り今の人民の心が悪き故に、此れが判らぬ故、判らねば判るやうに致さうが、夫れでは可愛想なから、一人でも言ひ聞かして助けねば成らぬぞよ。鹿造とヨネ改心を致したら許して与るぞよ。戒しめて在るぞよ。 神は世界の人民に神徳を賦りて、助けて与りたさに苦労を致して居るぞよ。取り次ぎは皆慢神を致して間に合はぬぞよ。至誠奉公の人民を此の神廷へ引き寄して、神の御用に使ふぞよ。余り欲心の有る者は行かんから、善き者斗りを引き寄て勇んで暮す神廷で在るぞよ。罪深きものの寄り合ひで在るぞよ。余程改心を致さねば神の間に合はぬぞよ。また取次ぎから改心を致さねば他の者の改心が出来んぞよ。金神が艮めで在るから、モウ是れより改心の仕様は無いと言ふ所まで、トコトンの改心を致して下されよ。 ○ 三千世界が一度に開く梅の花、金神の世に成りたぞよ。世が変るぞよ。此の戦ひが治まりたら、天も地も世界中、マスカケ引いた如くに致すぞよ。神も仏事も人民も勇んで暮す世に成るぞよ。此の戦争は勝利ち戦争、神が出て活動きて日本へ手柄致さすぞよ。太初から此の世の来るは知れて居るぞよ。金神と言ふ神は、昔の神代に余り神力応顕な神で、押込まれた神で在るぞよ。時節を待てば煎豆にも花が咲きて、是からは金神の守護の世に変るぞよ。此の世に成れば月日大神様の御指図で、三千世界を守護ふ御役と成りたぞよ。外国じんが日本へ参りて好き候に致したが、是から返報讐しを致すぞよ。モウ一ト戦ひが在るぞよ。此の戦ひは大戦ひで在れども、日本は神国の世で在るから、何程外国に人民が在りたとて、日本は金神が表面に現はれて、日本の神力を、実地を為て見せて、世界中を末代口舌の無い神国の世に治めるぞよ。早く改心致して居らんと、日本にも何事が出現うやも判らんぞよ。早く一人でも言ひ聞かして下されよ。神は急けるぞよ。筆先は五年前から広間へ出して在るぞよ。脚下から鳥が立つまで判らんが、他所から拡めるぞよ。是事を拡めさす為に、金光、黒住、天理などを先に導きが使して在るぞよ。是から判るぞよ。事物を知るなら早う知れよ。後で知るなら誰もする事、誠の御役に立たんぞよ。魂を研けば先途の見え透く神徳を授けるぞよ。脚下までが暗黒では何手柄する事も出来んぞよ。此の方が守護う世に成れば、人民の身魂にも光りが出て、末代の世が水晶の如く、悪と言ふ様ないやらしい事物は無くなるので在るぞよ。世も変れば守護する神も、是迄の神とはさつぱり行り方が変るから、今迄の事は何も間に合はんから、ソレで改心と申すのは、何彼の行り方を、世に出る神の行り方に変へえと申すので在るぞよ。サッパリ心の入れ変を致さんと、天地の間に住居の出来ん様に成るぞよ。改心致さねば致す所まで戒めを致すから、我が身がいらぬ苦労を致さな成らぬぞよ。余程の苦労を致さぬと、誠の天威地光は出て来ぬぞよ。 仏事に神力を取られて、神の神力が薄く成りて居りたなれど、此の世に成れば神の神力が強く成りて、仏事は神力が無くなりたぞよ。見て御座れよ、此の神が出て来たら、世界を自由に致すぞよ。此の神は小さい事は嫌いで在るぞよ。誠の水晶の真心なれば、大きな神智神能を賦興る神で在るぞよ。見て御座れ、誠の者は自分にも判らん様な事が出来出す世に成りたぞよ。世界のものは吃驚致す様な事が出来るから、夫れで誠々と一点張りに申すので在るぞよ。神は力徳が与りたくて突き出して居れども、皆の人民は誠が無いから、良い利益を貰ふ迄やう辛棒を致さずに、皆途中に逃て了ふなれど、神の信頼者に成ろうと思へば、ソンナ小さい気心では十分の事は為て与れんぞよ。此の神業神経神綸は神世の始まりで在るから、大事業で在るぞよ。ナカナカ皆御苦労で在れども、モウ世界には仕組の致して在る事で在るから、是の事を拡めて下されば結構で在るぞよ。 出口直と言ふ人、昔から此の世の変り目に御役に立てる身魂で在るから、苦労斗りが命して在るぞよ。神威発揚の時代に成れば、神の信頼者に致す取り次ぎで在るぞよ。此の直は昔からの苦労と云ふものは、此の世には先づ無い苦労致した直で在るぞよ。此の世の苦労が一番軽いので在るぞよ。此の直は此の世の亀鑑と致す身魂で在るぞよ。此の人を見て神の御用を聞て下されよ。直の苦労は別の苦労が命して在るぞよ。他の取次は普通の苦労で在るぞよ。苦労無しには誠は無いぞよ。貫ぬけたらば誠に結構に致して御礼申すぞよ。此の神業は大望で在るから、御苦労で在れども後は結構で在るぞよ。モウ自然的に拡まるぞよ。モウ段々と世界から判て来るから、拡めるのには左程苦労は無けれども、何でなりとも此御道は苦労無しには行かぬ御道で有るぞよ。改心次第で出世の出来る世に成りたぞよ。改心致せば結構な御用に、此の神の力の取次と致すぞよ。取次は色々要る広間で在るぞよ。因縁の在る身魂は皆引き寄せて、夫れ夫れの御用を申し付ける艮の金神の神延は、他の教会の広間とはチト違ふ広間で在るぞよ。昔は神功皇后殿が御大将で御出で成されたなれど、今度は艮で有るから、神功皇后殿は御ン供で御出で遊ばすぞよ。大分大望な戦ひで在るから用意を成されよ。此の戦ひが治まりたら、今迄とは打って変っての光明界と成るぞよ。戦かひで世を覆すと申して在ろうがな。外国に何程人民が在りても、日本は神が出て活動くから、神の無き国は往生致さすぞよ。万劫末代敵対うて来ん様に致すぞよ。此の神が表に成りたら、如何なる者も往生致さな成らんぞよ。 ○ 永らくの間神は苦労を致したが、大望が成就致す時節が参りて、皆の神々おん善びで在るぞよ。世の変り目になりて、天で集会致して、新改[*ルビ「さら」ママ]りて皆の神様御用が変るぞよ。此の艮の金神の広間は、世の建替を致すに付いて、末代の事が定まる神廷で在るから、他の様な事には致されんから、誠の者が心を一致致して、神の御用を聞いて下されよ。仲能う致して相談致して、悪き事は気を附け相うて、一時も早く拡て下さらぬと、近々によき目覚しが始まるぞよ。疑ひは限り無し、疑ふて居るものアフンと致す事が今出て来るぞよ。
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大本神諭 神諭一覧 明治31年旧7月16日 明治三十一年旧七月十六日 艮の金神が出口直に書した筆先であるぞよ。艮の金神は政を更えて、世界を良く致す神で在るから、世界の人民の心を洗濯いたすから、今が二度目の天の岩戸開き、天も地も世が変りて、神政の基となりて居るぞよ。世界の人民に此の事がチットも判りて居らんから、此の理由を世界の人民に承知をさして置かねば改心は出来ず、改心いたして神に従がふ心に上下が揃ふて成りて呉ねば、斯世は思ふやうには行かんぞよ。神無きものと思ふて居るから、此の日本は到底治まりは致さんぞよ。日本は神の国であるから、神が手伝はねばチットも行けぬ国であるぞよ。日本の人民にはヒト一人に夫れ夫れの神が付けて守護さして在るぞよ。その事が今の日本の人民にチットも判りて居らんぞよ。その事が明白に判る時節が参るぞよ。艮の金神は是だけ体主霊従の強い世の中でも水晶に立替て見せるぞよ。チット大望ではあれども、斯の金神の申す事は、毛筋も間違いの無い事で在るぞよ。世界の物事は漸々と日増しに変りて、一旦は悪く成りて来ても、復た神が手伝ふてやるから、漸々と良く成るぞよ。良く致すに就ては、世界の人民が一日も早く改心洗濯を致して、神国の行状を致して下さらぬと、水晶の世には成らぬぞよ。一つは大望が無いと世が変らぬから、大望治まりたら、天下泰平に世を治めて、中でも日本の国は結構に致すぞよ。廻りて来た筆先(吉崎仙人の筆先)に、後で一つに成ると云ふ事が書いて在ろうがな。斯世の来るのは神は能く判りて居りての経綸であるぞよ。斯の大望な事があるのに、未だに判らぬやうな事で、神の教の取次ぎが出来ると思ふて居るか、金光殿の宣教師よ、余程改心を致さんと、何時までも疑ふて居ると、指を啖えて跡へ寄りて居らんならん事が出来て来るぞよ。気を附けて在る御方、まことに気の毒なものじゃぞよ。金光どのの取次茲迄に神が気を附けて置いたなら神の役はモウ済みて居れども、気の毒ながら執念深う気を附けておくぞよ。綾部には龍門館があるから、珍らしき事を致すのであるぞよ。舞鶴福知山は外囲いであるぞよ。綾部にはチト大望な事を致すから、綾部は世界にない良き処になるぞよ。大望であるから布教師も中々骨が折れるぞよ。世界で一番良き所に致すので在るから、出口が第一に大望な御用であるぞよ。足立殿御苦労であれども改心が出来たなれば、艮の金神が何事も力を添えてやるから、左程の苦労は致さいでも良き様になるぞよ。出口直は因縁のある事であるから、別の苦労がさして在りたが、直も結構であるぞよ。直が結構になれば皆が揃ふて結構に成るぞよ。大分神から綱がかけて在れども、何も判らぬので気の毒なものじゃ。何を言い聞かしても能う別けぬから、良き事を悪きことに取りて、取越し苦労を致すのが気の毒であれ共、今の取次人民に判らんから、時節を待つより仕様がないぞよ。誰にも皆良き事を致して与るのを悪く取りて、心を病む人改心を成されよ。改心を致して神に従がへば何事も心労いたさいでも良き事に成るぞよ。神のツナ掛られた御方は何のやうに焦慮たとても、我身の身体が我身の儘にはチットも成らぬぞよ。早く改心を致したら速く良く成るのじゃぞよ。何時までも神の道に敵対へば敵対うた丈、永う苦しむ丈の事であるぞよ。仕組の致して在る事を、何のように申しても改心いたさねば神は赦さんぞよ。人民が何のやうに敵たうて来たとても、神には叶はぬから、往生いたすが良いぞよ。艮の金神は後へ引く事と負ける事は致さぬ神であるから、帰順いたすが一等であるぞよ。今ではモチト判らぬから、色々と取次ぎが心配をいたせども、此の事が分りて来たなれば此の世には未だ無き事であるぞよ。判らぬので心配を致せども、金銀を何程積んでも出来ぬ事であるぞよ。神の神慮に叶はねば此の御用は命かさぬぞよ。色々と迷ふ人は、気の毒なもので在るぞよ。永う苦しむのが可愛想であるぞよ。また元へ戻らねば誠の事は出て来んぞよ。今言い聞かしても疑ふて居るから、誠に致さぬから気の毒なもので在るぞよ。何にも知らぬ人民に知らぬ事を知らすので在るから、疑ふのは最もの事であるぞよ。斯世が初まりてから無き事を致すので在るから、無理は無いぞよ。是迄とは世が違ふから、物事は速いぞよ。是迄は暗雲の世で○○から何も変るが早いぞよ。モウ時節が来て居るから、金神がおもてに成りたならば物事は速いぞよ。綾部には龍門館があるから、今度の大望の経綸が致して在るぞよ。誰も知らぬ事であるぞよ。其龍門館が天地の元の大神の宮屋敷に成るぞよ。明治二十五年に、出口直に守護が致さしてあるぞよ。龍宮の七堂伽藍を建て増て、乙姫様はソコえ御鎮り成さるぞよ。昔から無い珍らしき事が綾部には出来るぞよ。八百万の金神さま、艮の金神は金光どのが名前だけを世に出して下されたが、未だ沢山に、世に落ちて居り成さる神様を世に出して上げませぬと、未だ斯世には○○事があるから、金神がお知らせ申すぞよ。金光どのの取次ぎ是で良いと思ふて居ると慮見が違ふぞよ。是から激しく成るぞよ。今迄は金光どのを開いた斗りで、金神の道は開ひてをらんから、是から金神の誠の道を開いて、三千世界の立替立直しにかかるぞよ。世界にはこの大望があるゆえに、艮の金神が金光殿に憑りて先導の御用を命したなれど、後の取次ぎ慢神を致して、神を商法にいたして、香具師にも劣りた行り方を致したり、忠宗どのの教を盗みて神商法の道具に致したり、日天子の艮の金神、月天子坤の金神、禁闕金の神と申す大地の大金神の名を隠して了ふて、金神は金山彦命じゃと詐り、日の神、月の神、金の神の三柱を、天地金の神なぞと取次が勝手な名を附けて、天地の眼を眩まそうと致して、沢山に神の嫌いな教会場を国々に建て、神を松魚節に致して、神は名を汚されて了ふて、何も知らぬ人民を欺まして居るから、真正の艮の金神の教までも、日本の人民が疑ふやうに成りたのは、皆金光どのと取次ぎの行状が悪いからであるぞよ。神の邪魔斗り致して居るぞよ。世の元の誠の艮の金神が表われるとチト烈しく成るぞよ。是から神は教会の審査を致すぞよ。宣教師を調めてそぐり立るぞよ。今苦労して居る誠の者は神の御用に使ふぞよ。今の苦労が先で結構になるぞよ。何事も苦労せずには、誠の事は成就いたさんぞよ。神の道は猶更苦労が足らぬと、神界の間に合はんぞよ。此大本は未だ未だ良く成らぬが、良くなりかけたら此中の一切の事を心配り致さんと、怠惰ものが集りて来て結構ばかり待ちて、人の苦労で徳を取ろうと致して、大本を喰物に致す守護神やら悪神が出て参るぞよ。出口直の血筋をねろうて、悪神の頭が掛りて来て、大本の一厘の仕組を横奪に来るぞよ。来て見て目的が立たぬと見たら、出口直を悪く申して引裂うと致すから、其覚悟を致して居ざれよ。天地開けてから未だ後にも先にも言置きにも、紋も形も無い大望な神業を命すので在るから、出口直はエライ気苦労を致すなれど、天地の間に二人と無い御用が任してあるから、御苦労な御役で在るぞよ。然る代りに勤め上げたなれば斯世には二つと無い結構な事になるぞよ。是を世界の人民に鏡と致して出すから、世に出て居れる神様も守護神も人民も、斯の誠の人を見て改心いたされよ。先は現世に於ては外に一人と無い苦労人であるぞよ。普通の苦労致した位では誠の神の御用は奉仕んぞよ。出口直も、大分罪障が亡減たぞよ。世界の人民にも罪障といふものが在るから、是が取れぬ間は何一つでも思ふやうには行かんぞよ。天地の大神様、八百万の金神さま、艮の金神を頼みたならば、艮の金神が天の祖神様へ謝罪を申してやれば天地の祖神の御赦免があるやうに成りたぞよ。 艮の金神は元の神世には、月日様の親任の守護神でありたぞよ。余り覇張るからと、八百万の神々に目論見れて、艮へ押込められて居りたが、時節を待ちて亦元の神世が参りたから、元の主護を命してお貰ひ申すぞよ。何事も時節を待てば斯んな結構が出来るから、何事も物事急かずと身魂を研ひて時節を待って下されよ。艮の金神は何事も時節を待って御礼申すぞよ。仏事斗りが栄えて、神界の神力弱く成りて居りたのが、時節を待ちた御蔭で元の神世へ立帰りて、永らくの間の本望を遂げたぞよ。何事も時節を待てば嬉しき事が出て来るから、物事を急かずと時節を待ちて御礼を申すが良いぞよ。神世に成れば人民の寿命も永くなるから、心を穏やかに持ち出すぞよ。今の人民は我の心で寿命を縮めるのであるぞよ。神は斯んなセツロ[*「セツロ」は底本通り。「節臘(せつろう)しい」のことか?「慌ただしい、気ぜわしい」という意味。]しき世の世界には住む所は無いぞよ。世を替て広き世界に致すぞよ。打って代りての世に致すぞよ。世界中神国に致すに就いては中々大望であるぞよ。今度外国を帰順いたさせねば世界中が神国に成らんから、大分大望であれども、艮の金神が表になりたならば、世界自由に致すぞよ。今度は外国人に日本の国は如何にも結構な国じゃと申して往生いたさすぞよ。誠の神は人民の眼には明白には見せぬなれど、ドンナ守護も致すから、神には勝てぬから、改心を致されよ。神世になれば是までの世とは代りて神力が強くなるぞよ。是から追々と世界の人民に改心を致さすぞよ。改心致さねば、斯世に居れぬ事になるから、人民が自づと改心いたすやうに成るぞよ。是が神の神徳であるぞよ。外国も改心次第で直ぐに良く致してやるぞよ。日本の人民には一人に一柱づつ神が附いて居るから、改心さえ出来たならば、直ぐに聞済みあるぞよ。外国と同じ事になりて居るから、洗濯が大望であるぞよ。水晶の世にいたすまでに、日本にも外国にも激しき事件が湧いて来て、一旦は、世界中の智者も学者も守護神も、手の附けやうが無きやうな事業が出来いたすから、日本の人民から早く改心いたして、世界の人民の鏡に成りて、世界を助けて与らん事には、何時までも世界の苦説が絶えるといふ事は無いぞよ。肝心の神の容器になるべき日本の人民の身魂が汚れて了ふて居るので在るから、日本の人民から、水晶に成りて呉れねば成らぬなれど、今の日本の守護神も人民も、外国の人民よりもムゴイ事になり切りて居るから、物事が一日ましに後れる斗り、神も迷惑を致して居るから、攻めて此の大本へ立よる人だけなりと早く改心いたして、誠の心に立返りて、誠の行為をいたして下されよ。何事も天地の神の教に任せば、気が楽に思ふた通りに行く世であれども、我の力や智慧で行ろうと致すから、此の世の中の事業が一寸も思ふやうに行かぬのであるぞよ。一旦まぐれ当りで金銀を積んで見ても、人民力で致した事は一寸も先が見えぬから、永うは続かん亦た後え戻るぞよ。人民と申すものは今一寸都合が良ければ何時迄も良き事斗りあるやうに思ひ、慢神をいたして、我の一力で行けたやうに考へて、向ふ見ずにいたすから、スコタンを喰ふて、ヂリヂリ悶えを致すやうになるのじゃぞよ。神世になりて人民の身魂が水晶に研き上りたら、何事も神の申す通りに人民が致すから、箱さしたやうに、キチリキチリと行くやうに成りて、皆が嬉し嬉しで勇んで暮らすやうになりて来るぞよ。 今は世の変り目であるから、此の大本の中も辛いなれど、皆の改心一つで、早く良くなるぞよ。跡に成りたら我の心が可笑うなりて、今まで何んと云ふ思い違いを致して居ったじゃろうと気が附いて、笑ひが止まらんやうになりて来るぞよ。今は世が曇りて居るから、今の大本の中の役員も、世に連れられて何も神の申す事が解らぬなれど、水晶の世になれば何事も見え透くやうになりて、世界の人民が改心いたして喜こぶ時分に早ふから改心せいと、大本で教えて貰ふて居りた役員信者の方が、後廻しになりて、反対に世界から意見しられるやうな事がありては、良い神の面汚しで在るから、一日も早く改心して、此の大本から世界へ神の申す教を遵奉て、善一つの行状いたして、世界へ鏡を出して貰ふために、早ふから神は因縁の身魂を曳きよして、誠の神言を噛んで呑むやうに申し聞かしたり、出口直に実地の行為を命して見せて在りても、余り心が曇りて居るので、今に恥かしき事が出来いたすから、神が何時までも気を附けるので在るぞよ。 出口直は因縁ありて、明治二十五年からお直の体内を借りて世の変る事や、世界に在る事を何も言はして在ろうがな。何も違はぬことで在るぞよ。出口直は態とに零落して在るのを知らずに侮りて、未だ疑ふて御座る御方気の毒なものじゃぞよ。人を見下げると神の気障りになるぞよ。表服は今日でも変るぞよ。御魂は中中変らぬぞよ。身魂が良く研けて居らぬと、此金神は神界の真実の御用には使はんぞよ。金光殿はモウ日本だけは拡まりたから、是からは艮の金神が、世界中を神国の行り方に致すぞよ。チト金神は企みが違ふぞよ。金光どのだけならば其れで良いなれど、此の金神は病気直しでは無いぞよ。三千世界を引くり返して良く致すので在るぞよ。それで小さい心の者は神の間に合はんぞよ。この金神が世に出たなれば、世界の物事が薩張変るぞよ。艮の金神の布教いたそうと思ふたら、中々金光殿の方とは幾倍も骨が折れるぞよ。艮の金神は斯世始りてから未だ無き大きな事をいたすぞよ。金光殿の布教師、是でも結構が解りて来たら就いてきて下されよ。元は同じ神の御道であるのを、布教者の心が小さいから何時までも疑ふて、一番早ふ分からねば成らぬ御取次ぎが邪魔を致して、物事が遅くなるから、神に気障りが在るぞよ。神に気障りがあれば何事も思ふやうには行かぬぞよ。此金神は真直ぐに来た人民には良き神であるぞよ。誰に由らず敵対うて来たなれば、忽ち手の掌を覆して改心させる神であるぞよ。 外国には酷き見示が在ると云ふ事は、明治二十五年から申さして在るが、外国の不思議を見て日本の人民も余程の改心を致さんと、日本の内にも見示が出て来るから、日本だけはと思ふてクドウ出口直に言はして、人民の守護神に気が附けて在るぞよ。今度の懲戒は厳しいぞよ。早う神に鎚りて御詫を致すが結構であるぞよ。第一番に、出口直が御苦労な御役であるぞよ。この中の取次も御苦労であれども、力に成る御方を引きよして何彼の事を分けさすから、改心さえ出来たならば楽に御用が出来るぞよ。 神の経綸の御用をきかす取次は、是から沢山に要るなれど、金光どのの取次のやうな行り方のものは一人も用ゐられんから、三千世界を神国に致す御用であるから、身魂が水晶にならぬと、誰でもと云ふ事は出来ぬぞよ。身魂の研けた守護神人民から、神界の御用に使ふて、其人も結構にいたすから、早う御用の勤まるだけの身魂に研いて下されよ。神は大変に急いで居るぞよ。明治二十五年から三十年の世の立替と申してあるが、肝心の取次が改心が後れる丈は経綸が延びるから、又神が嘘を申したと不足を云はねばならぬぞよ。何程不足を申しても神の申す事を背いて居る人民には相手にはならんぞよ。神が違はすので無いぞよ。取次の改心が後れるから、神も止むを得ず後らさねば仕様がないので在るぞよ。何時でも経綸の蓋は明けるなれど、訳の分らぬ取次や信者の中へ現はした所で、トチ面貌を振りて狼狽る斗りで、肝腎の神の御用どころか、我身一人を持て余す者斗りであるから、神が日時を延ばして時節を待つより仕様はなく、後れると不足を人民は申すなり、訳の分らぬ人民には神も降参であるぞよ。神の傍へ早うから参りて居りても、何も分らぬやうな事では世間の人にも申訳がないぞよ。信心をする丈けの事が在ると、人から言はれるやうに成らぬと神徳は貰えんぞよ。然る代りに人から眼に付く様な信心を致したならば、思ふやうの御蔭を与るぞよ。ドンナ神徳でも授けるぞよ。心得違いの信心は日参いたしても、チットも思ふやうには行らさんぞよ。神の名が汚れてはならぬから、誰に由らず其心得で信心いたして下されよ。神が直の手で気を附けさすぞよ。出口直は精神を病みて居れ共、心配は致して下さるなよ。チットも違いの無い事であるぞよ。余り大望な事であるから、チットは延びるので在れども、世が代るので在るから、何事も無しには世が代らぬぞよ。世界には段々と不思議があるから、日本の人民よ世界を見て改心を致さぬと、神の在る国と無い国とを解けて見せるので在るから、日本の人民よ、チットは其心がないと、神も耐忍ぶくろが切れるぞよ。神は日本と世界とを助けたさに、人民の知らぬ苦労をいたして居るぞよ。なんぼ先が見えぬと申しても万物の長では無いか、神に次での人民であるぞよ。神ありての人民なり人民ありての神であるから、持つ持たれつで行かねば成らぬ世であるが、モウ少し神界の様子が分らぬと、早うから信心致した功能が無いぞよ。神も人民も同じ事になる世が参りたのじゃぞよ。神が是だけに世界の為に苦労を致して居る事が、モチト人民にも分らぬと、天地の大神さまへ畏れ多いから、金神が気をつける事は誠に聞いて下さらぬと、後で地団太を踏みて残念がりても取返しは出来んから、同じ事を何時までも気をつけるぞよ。
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大本神諭 神諭一覧 明治33年旧8月5日 明治三十三年旧八月五日 艮の金神の筆先は世界の事を、何も彼も皆前に書き置かせるから、昔の筆先をセングリ出して見て下さりたら、其の通りが世界から出て来るのじゃぞよ。世界の混雑、今では治まりたやうなが、中々治まりたのじゃないぞよ。是れは神界の様子の在る事、人民と申すものは利口に在れど、先途の判らんものゆえ、先途の見え透く神が気を附けて与るが、世界は今が三番叟じゃぞよ。其の心得で居らんと、世界の人民は難渋致す事が在るぞよ。世界の大望は未だ是から初段が始まるので在れど、コンナ経綸は万の神様も御存じ無いこと、チョットの戦ひでは治まらんぞよ。今度の世界の大望と申すは、天で調査致して在る事を、地の高天原でモウ一度調査致して、世界中が其の通りに成りて来て、世が水晶に治まるやうに成る事であるが、世界のものは皆神の所有物ゆえ、世の洗らひ替を致すと、大分混雑が在るぞよ。ヲドスのじゃ無い、世界の神さまに警告すのじゃぞよ。此の世界の万有何一種人民の力で造りたものは無いぞよ。大海山、大河、小川、草木、人民は申すに及ばず、畜類、鳥類、虫族も、皆天地の道具に造りて在るのじゃぞよ。苦労致して世界を造りた神は、天地の守護を末代致さなならん世界の守護神で在るなれど、一旦は悪が栄えて、此の神は蔭から苦労を致して、世界を助けて居りたと云ふ事は、判りたものは在ろまいがな。是の事が判りたら、神を是れ丈け粗末には出来やうまい。是れから昔からの因縁を説いて聞して与るから、判りて改心の出来る人民は結構なり、出来ん人民は其のやうの誡めを致して、世界の身魂の整頓を致して、世界のものは一旦天地へ薩張り引き上げて了ふぞよ。夫れに異背申すもの有るなら、此の艮の金神の大本へ、智慧でなりと学でなりと、誰でも申して出て下されよ。此の世界の事は何一色でも、人民の力で出来て居る様に思ふて居るから、薩張り何彼の取違がいが出来て、天地が暗雲の世に成りて了ふので在るぞよ。大本の変性男子の因縁はナカナカ判らん事じゃ。何も知らんものが大望な真似致しても、パケが露はれて恥かしき事が出来るから、此の大本は世界に他にコンナ粗末な神の祭り様は無いので在るが、是れも都合の在る事じゃぞよ。是で信徳を外づす人は、誠の利益は無いぞよ。是の大本の様子を見判ける人で在りたら、結構が出来るので在るぞよ。艮の金神、元は月の象徴じゃぞよ。日に日に変るぞよ。世変えの事は万の神も判りて居るなれど、肝腎の本源の仕組は判らん勝で在るから、事が六ケ敷いのじゃぞよ。変性男子の因縁を説いて聞かして、判らなんだ神に改心が出来たら、御用に使ふなれど、今は判りて居らんから、我れが大将を致そうと為るので在れど、ソンナ小さい仕組で無いぞよ。此の事が判りて来たら如何ものも吃驚致すなれど、判らん中に心得て居らんと、恥かしき事が出来ると気の毒なから、誰に依らず、是から神界は激しく成るから、皆に気を附けて置くぞよ。
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大本神諭 神諭一覧 明治33年旧8月6日 明治三十三年旧八月六日 艮の金神の筆先、末代名の残る筆先であるぞよ。昔からの因縁、化けて世界へ聞して与るが、是れ丈日本の国が悪く為るのを、誰一人気の附くものが無いやうな事に成るのは、外国人に自由に服りて居るからで在るぞよ。日本の国が悪く化りて、神の住居が出来ぬやうな畜類の世、強いものが覇張りて、我れさえ好けりや親兄弟とでも公事を致すやうな、悪道な世に成りて居るが、此んな世で万劫末代続きは致さんが、此れと申すのも此の世を持ちて行かねば成らぬ神を、押込めて了ふて居るからであるぞよ。神が蔭から見て居れば、内地雑居と云ふやうな許可を制定して、神が苦労を致してこしらへた国を、畜生の自由に為られて、尻の毛まで引き貫かれて、行きも戻りも成らぬ事が出来るが、此難渋が出て来る事が判りて居るか。先の戦争も今度の戦ひも、日本の人民の力で何も出来たやうに思ふて居るのか。コレが判らんやうな事では、神が許さんぞよ。先戦も勝ち今度も勝ちて、エライ御手柄で結構で在るが、ドウして此の小さい国が人民の力で勝ちたと思ふて居るか。何程幸運が良くても神が守護な、此の小さい国は、人民同志で外国と戦ひ致しても一コロじゃ。ソレが判らんようでは、是れからの戦ひは、一旦は日本の国が危ぶない所迄行く程きつく成るぞよ。神の手伝ひが判らんと、日本の兵は気の毒が在るぞよ。戦争中には変な人が手伝ふて御座ろうがな。人の力ばかりと思ふて居ると、目覚しの為の戦、ドコへ飛沫が致さうも知れんぞよ。人民は今さえ好けりゃ、何時迄も平和が続く様に思ふて、先途の事は何も見えぬ、世界は今治まった様でも、仕組が致して在る事で在るから、ナンドキ何が起ろうやら判らんから、神界の消息の判りた御方から、其の用意を致して下されよ。先途の見え透く、申した事の違はん艮の金神、世界救助の為に気を附けるぞよ。屠裂れたとて、タタキ潰されたとて、微躯とも致さん神、世界から何と申しても、一寸も応へは致さんぞよ。今は世の変り目で、善悪の境界の所で在るから、此の御用は誠に辛い事で在れども、変らぬ心で神にすがりて居りて下さりたら、誠の人は判るぞよ。今では世界が曇りて居るから、何結構な事を申して聞かしても、やう判けんから、出口直に筆先に書かせ置くから、前途に成りたら違ひ無く出て来るので在るぞよ。今の人民は我欲斗りで目の前の欲が強いから、思う事が皆罪ばかり、世界の事物が一ツも成就せずに、何時に成りても乱れ勝ちじゃぞよ。皆天地へのオソレで斯う成るので在るぞよ。天地の神の思ひが判らんと、世界に誠の事が出て来んから、夫れで世の立替の御用は、神の苦労が判る様に成らんと、誠の神の用には使はれんぞよ。教祖教主の気苦労を助[*底本では「たす」ではなく「す」]ける位ひでないと、誠の神徳は頂けんぞよ。神は心丈けの報酬より与らんぞよ。教親は喉から血の出る程気苦労を致して居るが、其の心も判らいで、まだ其の上に教親を悪く申してでも、自分さえ好れば良いと云ふ様な心では、ナカナカ此の神は腹の中まで見貫かぬと、誠の御用は為せんぞよ。一寸とした試金石に遭ふて信仰を止める様な浅い心の器は、到底力に成らんから、ソレじゃと申して今度は力に成る身魂を揃へねば成らんから、神も中々気苦労を致すぞよ。此の気苦労の判りたものが誠の力に成るのじゃぞよ。余り大望な事を用命せるので、出口、上田の胸の中は辛いぞよ。化かして御用を命せて居れば、教親を見下げて、教親に不調法がありたら、我が大将に成りたいと云ふ様な精神の者が在るが、ソンナ者は神が夫れだけの応酬を命すぞよ。教親を敬ふ心なれば結構が出来るし、初発から鏡が出して在るが、いづれは善し悪しの身魂を整理ぞよ。皆心得て下され、筆先に別けて見せるぞよ。誰一人失意逆境には落さぬ神、信心致せば夫れ夫れ霊徳丈けの天慶は与るぞよ。何と申すも、世の立替と云ふ大きな事であるから、取次役員にも判らん様な事であるから、皆御苦労で在れど、実地の神が何も知らすから、御安心して下されよ。
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大本神諭 神諭一覧 明治33年旧8月16日 明治三十三年旧八月十六日 艮の金神国武彦命と顕現て、出口の手で書き置くぞよ。筆先、霊学腹に入りたなれば、皆改心致して、出て来出すぞよ。 出口の、本字も知らんものが、書き放題に書いたものが、世界から皆出て来るが、是が誠が凝固りたのじゃ。それが神徳じゃぞよ。 誠を貫きたら世界は見え透く如うになるのじゃぞよ。 千疋猿の譬へで、多勢と一人は叶はんなれど、一人になりても神の申す神言なら随従て来る精神であるぞよ。 斯の神も此取次がありたなら、大丈夫であるぞよ。 此の身魂で無いと、世の立替の真実の御用は聞けんのぢゃ。変性女子も同じことじゃぞよ。男子の如うには無けれども、上田は気苦労が行じゃぞよ。何も心配は致さいでも良いぞよ。 世界混雑になるに付いて、結構判りて、世界一旦は顔が蒼白くなることが、一寸の間あるぞよ。 其処になりたら、今神の世話して苦しみて居る誠の人が判るぞよ。 親が御神徳戴きて居りても、子に誠が無くては、誠の御神徳が貰へんから、誠を尽して揃て神徳貰うが良いぞよ。夫婦でも其の通りじや。夫は神に一心でも、家内が神どまと思ふ如うな精神では、誠の事が出て来んぞよ。 此の艮の金神の大本に居りての御用して下さるのは、因縁の有る身魂ばかりであるから、皆気苦労致せども、苦労致して御用聞いて下さりたら、神夫れ丈けの御礼申すぞよ。 苦労無しには、誠、結構は出来んから、誠の人は判らんうちに、誠を尽して下されよ。 何事も筆先に一度出した神言、毛筋も違はん神勅じゃぞよ。 種々様々と取越苦労致さいでも良いぞよ。 此の経綸は永らくかかりて仕組みたなれど、判り掛けたら速いぞよ。 神は何事も判るが速いぞよ。神に和合が出来たなれば、人民に判り掛けて、誠の人から良く致すぞよ。 誠の無き人は御神徳が遅くなるぞよ。中には気の毒な人も出来るぞよ。 世の立替を致すと日本は日本の神宝を日本に治めんと良くならんぞよ。 此の神言は人民では判らんことじゃぞよ。神が良く致すぞよ。皆が欣ぶ如うに成るのじゃぞよ。 出口には未来にある神事前つに書すぞよ。よい筆先が出たと申して早速来ると思ふと、また嘘じゃったと申さんならんから、気を付けて置くぞよ。 斯様して筆先に出したら、チット遅いことと速く出て来ることと有る依って、種々様々と申して出て来るが、人民は前途の見えぬものであるから、皆筆先に書いて置くぞよ。 上田出口は、未来の事を知らす役じゃぞよ。 出口上田は経緯じゃ。機織に譬へて仕組てあるぞよ。申してある誠に結構な旗が出来るぞよ。 誠の人は其の機織の中に入るのじゃから、結構な事になるのであるから、心魂を錬磨て下されと申すのじゃぞよ。余り近慾ばかり思うて居ると、善き事でも悪き事に思うて、取越苦労致すぞよ。 今日の真相から太古からの経過、未来の出来事の判る大本であるぞよ。 今は疑うて居るもの斗りであるから、斯様な神言申すと、また気違ひと申すであらうなれど、艮の金神の大本に居るもの、狂人やら化物やら斗りじやぞよ。 此の狂人や化物の申した神言皆出て来るぞよ。
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大本神諭 神諭一覧 明治33年閏8月2日 明治三十三年閏八月二日 昔から世界の事が、是だけ細かく解る所は無りたが、時節参りて霊学と云ふて、帰神で見え透く如うに成りたのじゃぞよ。艮の金神が世に落ちて居りて仕組たことじゃぞよ。世界に在る事は何で在ろうと、皆元は此ほうの経綸た事じゃが、斯んな仕組を相談してする如うな事では、世の立替は成就いたさんぞよ。斯う申すとエラサウに申す神じゃと思ふで在ろうなれど、このほうは力が有り過ぎて縮尻た神で在るから、何んな事でも致すぞよ。何程力のある神でも、そねまれたら辛い目を致さんならんから、○○○、人民は利巧にあれど、神の真似は出来んから、色々と慢心の出ぬやうに気を付けるのじゃぞよ。今迄は神憑と云ふ事が廃りて居りたので、神が路頭に立ちたなれど、時節参りて神の思ふ事が、人民の口を籍りて申される世が参りて、誠に神は満足で在るが、それに就いての苦労いたすのは、神ばかり有りたとて、人民に改心さして、上下も揃へて元の神代へ立帰る、守護いたしての、此の苦労を致したり、さしたり、神は先きは斯うなる、彼いふ事になると承知はして居れど、人民は先きの見えんものであるから、申してやりても誠に致さんから、結構な御蔭を取外して、ヂリヂリ舞ふても叶はん事が出来て来るから、明治二十五年から種々と申して気を付けたなれど、誰一人誠に致さなんだなれど、仕組の致して在る上田を引寄して、チト解りかけたので在るから、上田が参りてから、此の結構が判りたなり、出口が永らくの苦労の固まりであれど、今度の世の立替の神の力の取次じゃぞよ。出口直は婦人に化して在れど男子じゃ。上田は男子で女子であるぞよ。この因縁が解るぞよ。何事も前に書して在るぞよ。今度参るのも気が付いては居ろまいがな。皆其のとほり、前に書いて見せて在ろうがな。筆先を出しても、誰も何んにも腹へ這入りて居ろまいがな。それで筆先を見んと、此の元は何も解らんと申して在れど、化して居れば侮りて誠にいたさねど、眼の舞ふ人やら、フン延る人も出来ると申して在ろうがな。皆出て来るぞよ。神はげしく成るぞよ。出口安心いたされよ。何も先に見せて置くぞよ。出口に申して在る事は違はんぞよ。九人の写真を腹に持ちておじゃれよ。今迄は斯世に無き苦労人で在りたなれど、世界にある事が解るほど、出口が良くなるぞよ。是から解りかけて来るぞよ。悪は千里も走るなれど、善の判るのは中々に骨が折れるぞよ。是だけ結構な事を致して居りて、是だけに悪るく言はれて居るのも、是も因縁なり都合の事じゃ、是から判りて来るぞよ。昨年の十月に申して在らうがな。十月になりたらエライ悪く申したが、打って変りて結構な事で在りたと、云ふ如うに成ると申してあろうがな。是から敵対うて悪く申して居りたもの、段々と目が醒めるやうに、そろそろと見せて遣るぞよ。目醒ましも悪るい事に限らんぞよ。良き眼醒ましもあるぞよ。世界に在る事は綾部の大本から為て見せるが、此広間の中の事や神の祭りやうから、一切の事解りて居るか、皆見せて在るぞよ。神の祭りやうから、布教師の行為から、何も彼も見せて在れど分かろまい。是を分ける人が出て来んと、誠の事が出て来んなれど、今度因縁の在る四人の身魂が御苦労に成りたら解るぞよ。結構が分るから往て下されよ。金銀では行けん処じゃが、人民は金が無くては、一寸も前へ行けよまいがな。此神は金無しに何処までも連れ行くぞよ。世界の加賀美に成るのは、人の能うせん事を致し、又昔から無き珍しき苦労を致さねば、世界の鏡には成れんぞよ。綾部から何も為て見せるぞよ。世の立替の世の元に成る処であるから、手間が要りたのじゃぞよ。モウ解るが速いぞよ。