| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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霊界物語 | 49_子_祠の森の物語1(高姫と妖幻坊) | 10 添書 | 第一〇章添書〔一二八四〕 治国別は浮木の森のランチ将軍、片彦将軍其他を帰順せしめ道々三五の教理を説き諭し乍らクルスの森迄進んで行つた。さうしてお寅に向ひ、 治国『お寅さま、お前さまはウラナイ教の熱心な肝煎であつたが、かうして三五教に帰順し立派な信者となられたのは実に吾々も大慶です。併し乍ら、之から一度イソの館へ御参拝になり、大神様の御許しを受けて立派な宣伝使となつてお尽しになつては如何です。平の信者となつて行くよりも余程便宜かも知れませぬよ』 お寅『はい、有難う厶ります。私の様な婆でも宣伝使にして頂けませうかな』 治国『婆だつて、何だつて貴方の身魂其者は決して老若の区別はありませぬ。老人は如何しても無垢な者ですから却て吾々よりも立派な宣伝使になれませう。私が手紙を書きますから此を以て河鹿峠を渡りイソの館に参拝し八島主さまに御面会の上、百日ばかりも修行して其上立派なる宣伝使となり神界のためにお尽しなされ。それが何よりの後生の為めですよ』 お寅『私の様な悪たれ婆でも改心さへすれば貴方の爪の垢位な働きが出来ませうかな。それなら之から仰せに従ひ一度参拝をして参りませう』 治国『そんなら今手紙を書いてあげませう。之を以ておいでなさいませ』 と云ひ乍ら、腰の矢立をとり出し一枚の紙にスラスラと何事か書き記した。其文面によると、 (文面)『治国別より八島主命様に御紹介申上げます。私は今や途中に於て種々雑多の神様のお試しを頂き広大無辺の御神徳を蒙り、神恩の深きを感謝し乍ら漸くクルスの森迄安着致しました。さうしてバラモン軍の先鋒隊、ランチ、片彦将軍は今は全く大神様の御神徳によつて三五教に帰順致しました故、何卒大神様へ御奏上の程願上げ奉ります。何れ之等の人々はも少し予備教育を施した上、手紙を以て御館へ参籠致させ修行の結果宣伝使にお取立て下さる様御願ひ致す考へなれば万事よろしく願ひます。扨て此手紙の持参者は小北山のウラナイ教に牛耳を執つて居た、もとは浮木の村の女侠客お寅と云ふ婦人で厶ります。治国別が出征の途中祠の森に於て片彦将軍の秘書役たりし愚弟松彦に巡り合ひ、彼松彦は直に三五の道に帰順致し小北山のウラナイ教の本山に参り蠑螈別、魔我彦及お寅を漸くにして御神徳のもとに帰順せしめたる者で厶ります。就いては此手紙の持参人即ちお寅さまを宜しく願ひます。稍迷信深く脱線の気味が厶りますれど十分御教育下さるれば相当の宣伝使にならうかと存じます。左様ならば』 と書き記しお寅に渡した。お寅は得意の色を満面に泛べ肩を怒らし治国別及び一行に別れを告げイソの館をさして只一人進み行く。 途中小北山の傍を通り兎も角一度立寄つて最愛のお菊に巡り合ひ且松姫、魔我彦其他に面会し自分の悟り得た教義を云ひ聞かし、小北山の聖場をして益々栄えしめむと、参拝の途中意気揚々として立帰つた。小北山の聖場は依然として信者が相当に集まつてゐる。然し乍らお寅の見覚えのある顔は余り沢山に見当らなかつた。何故ならば小北山のヘグレ神社、其他の神々を誠の神と信じてゐたが、サツパリ名もなき邪神たりし事を曝露され、親族朋友知己等より嘲笑さるるのが馬鹿らしさに、前の信者はあまり寄り付かなかつたからである。さうして改革以来何とはなしに前の信者は不平に充たされたからである。今迄尊き神の生宮又は霊魂の因縁を信じ得意になつて信仰してゐたのが、何でもない邪神であつた事をスツパぬかれ大難を小難に救はれ乍ら何とはなしに心面白くなくなつた者もあるからである。 お寅はスツと受付に立寄り見れば文助が依然として一生懸命に画を書いてゐる。よくよく見れば蕪でもなく大根でもなく黒蛇でもない。傍に日の出の守護と書き記し老松の幹に紅の様な太陽が輝いてゐる。かなり立派な画を描いて居た。お寅は突然声をかけ、 お寅『これ文助さま、御機嫌宜しう。相変らず立派な御掛軸が画けますな。竜神様はモウお止しなさつたのですか』 目のうとい文助はお寅とは夢にも知らず、 文助『ようお詣りなさいませ。誰方か知りませぬが奥へ御通り下さいませ。さうして今迄は此聖地もヘグレ神社や種物神社、其外いろいろの神様が祀つて厶りましたが、教祖の蠑螈別さまやお寅さまが逐電されましてから、三五教の大神様を祀り代へました。それで掛軸も亦画き替へねばなりませぬので、大神様のお許しを得て此通り、松に日の出の御掛軸を認めております。貴方も御信仰遊ばすなら上げますから表具をしてお祀りなさい。日の出の世、松の世といつて之さへ祀つて居れば家内安全商売繁昌、霊になつても天国へ行く旅券になりますよ』 お寅『これ文助さま、シツカリしなさらぬか。松に日の出は誠に結構だが、私はお寅ですよ』 文助『何だか聞き覚えのある方だと思つてゐました。アヽお寅さまですか、それはマア、よう帰つて下さいました、お菊さまは申すに及ばず皆さまお喜びでせう。私も何だか気がいそいそして来ました。それでは松姫さまや魔我彦さまに申上げませう。一寸待つてゐて下さい』 お寅『いえいえお前はここに受付をしてゐて下さい。目の悪い人に動いて貰ふよりも此達者なお寅が私の居間へ帰りますから……お菊もゐるでせう。さうすればお菊を以て松姫様や魔我彦に通知をさせますから』 と云ひ乍ら自分の居間をさして急ぎ行く。後に文助は首を頻りにかたげて独言、 文助『あゝお寅さまも大変に人格が上つたものだな。丸で別人の様だつた。物の云ひ様と云ひ何とはなしに身体から光が出る様だつた。之丈長らくつき合ふて居つた私でさへも見違へる位だから、神徳と云ふものは偉いものだな。どれどれお寅さまが帰つて下さつた此嬉しさを神様へお礼申して来う』 と独語つつトボトボと神殿さして進み行く。お寅は吾居間に帰るに先立ち小北山のお宮を一々巡拝し、吾居間に帰つて休息せむとする処へ、何時のまにかお寅さまが帰つたと云ふ噂が立つたので魔我彦、お菊は慌てて松姫館から走り来り、 お菊『お母アさま、貴方は松彦様と宣伝のためにおいでになつてから、未だ幾何も日が経たないのにお帰りになつたのですか。又我でも出して縮尻つたのではありませぬか』 お寅『何、縮尻る処か、結構なお神徳を頂いて来たのだよ。お菊、お前も其後機嫌よう御用をして居たのか』 お菊『はい、機嫌ようしてゐました。何卒私の事は案じて下さいますな。さうして万公さまは機嫌ようしてゐましたかな』 お寅『ホヽヽヽヽ、ヤツパリ万公のことが気にかかるかな。いや頼もしいお前の心掛、私もそれ聞いて安心を致したぞや』 お菊『お母さまの……マア嫌な事、直に妙な処へ気を廻しなさるのだね』 お寅『それだつて、五三公さまは如何だとも、アクさまは如何だとも云はぬぢやないか』 魔我『お寅さま、よう帰つて下さつた。其後は此聖地も極めて円満に御神業が発達してゐますから、安心して下さいませ』 お寅『魔我彦さま、どうか脱線せぬ様に此聖場を守つて下さいや。私は、松彦さまの先生の治国別と云ふ立派なお方から添へ手紙を頂いてイソの館へ参り、百日の行をして立派な宣伝使となつて来る積りだから喜んで下さい』 魔我『それは至極結構です。何卒、不調法のない様に修行して立派な宣伝使となつて帰つて下さい。私もお許しさへあれば一度改心の記念に参拝したいものですがな』 お寅『お前も松姫様の御都合を伺つてお暇を頂き、私と一所に参拝したら如何だい。百聞は一見に如かずと云ふから、ヤツパリ一度ウブスナ山の聖地を拝んで来ねば、満足の教も出来ず、御神徳も貰へませぬぞや』 魔我『さう願へば結構ですがな……』 お菊『お母さま、魔我彦さま、之から私が松姫様に伺つて来ませう。まアゆつくりと魔我彦さまとお茶なと飲つて待つてゐて下さい』 と云ひ捨て足早に細い二百の石の階段を上つて松姫の館へ急ぎ行く。後に魔我彦はお寅に向ひ、 魔我『お寅さま、貴方はスツカリ御人格が変つた様ですな。お顔の艶と云ひ髪の毛迄が黒くなつたぢやありませぬか。本当に声迄が変つてゐるので別人の様ですわ』 お寅『お蔭様で神様の愛の熱に若やぎました。さうして信仰の光に照らされて何処ともなしに身体から光が出る様な気分ですよ、ホヽヽヽヽ、又褒められて慢心をすると谷底へ落ちますから、もう此位でやめておきませう』 魔我『時にお寅さま、蠑螈別さまの持ち逃げしたお金は手に入りましたか』 お寅『魔我彦さま、お金の事なんか、まだ貴方は思つてゐるのかい。此お寅は金なんかは話を聞いても気持が悪うなります。蠑螈別さまも生来が淡白な人だから、あの金をスツカリ人にやつて了ひ、今では無一物ですよ。そしてお民と仲ようして居ります』 魔我『何、お民と一所に居りますか。エーエー』 お寅『これ、魔我彦さま、エーとは何だ。お前はヤツパリお民に対し恋着心が残つてゐるのかな。それでは改心が出来ませぬぞや。何がエーだい』 魔我『エー事をなされましたな、と云ひかけたのですよ。エー、エーン(縁)と云ふものは不思議なものですな』 お寅『エー加減な事を云つて誤魔化さうと思つても駄目ですよ。お民も如何やら目が覚めて蠑螈別さまと、今はホンの教の友として、つき合つてる丈けのものですよ。お民も随分改心が出来ましたからな。何れお前が立派な神徳を頂いたら私が媒介をしてお前と夫婦にして上げたいと思ふて考へてゐるのよ』 魔我『本当に世話をして下さいますか』 お寅『何、嘘を云ふものか。私はお民と蠑螈別さまの様子を気をつけて考へてゐたが、どちらにも未練がない様だ。却て魔我彦さまの方がお民の気に入つてる様だから、マア喜びなさい』 魔我『エーヘツヘヽヽヽ、違やしませぬかな』 お寅『最前のエーとは同じエーでも大変に調子が違ますな。オホヽヽヽ、何と現銀な男だ事』 魔我『お寅さま、お前さまは蠑螈別さまに対する恋着は、最早、とれたのですか。何うも怪しいものですな。貴女の御様子と云ひ、何だか嬉し相に若々してゐられます。之には何か嬉しい事がなくては叶はぬ事だ』 お寅『これ魔我ヤン……』 と肩を平手で二つ三つ叩き、 お寅『馬鹿にしておくれな。此お寅はそんな事が嬉しいのではありませぬよ。一旦誠の道に目が覚めた上は……阿呆らしい……恋の、金のと、よい年をして、そんな馬鹿げた事が夢にも思へますか。あまり人を見下げて下さいますな。お寅はそんな柔弱な女とはチツと違ひますよ。ヘン、自分の心に引き比べて私の心を忖度しようとは、怪しからぬ男だな』 魔我『こりや失礼致しました。雀百迄雄鳥を忘れぬと云ふ譬もありますから……ツイお尋ねしたのです。御無礼の段は何卒、見直し聞直しを願ひます。どうか御機嫌を直して松姫さまの許しがあれば此魔我彦を一度ウブスナ山の聖場へ連れて行つて下さいませ』 お寅『あゝよしよし、井戸の底の蛙で世間見ずでは宣伝使等は出来ないから、一度見聞を広くするために大神の御出現地へ参拝するのは結構だ』 かく話す処へお菊は松姫、お千代と共に帰り来り、 お菊『お母さま、松姫様がお越しで厶りますよ。さア御挨拶なさいませ』 お寅は後ふり返り松姫の姿を見て、さも嬉しげに打笑み乍ら言葉穏かに両手をつき、 お寅『これはこれは松姫様、日々御神務御苦労様で厶ります。お菊のヤンチヤがお世話に預かりまして嘸御迷惑で厶りませう。私は治国別の宣伝使から御手紙を頂いてイソの館へ修行に参る途中、一寸御挨拶旁神様へ参拝致しました。何卒お菊の身の上、宜しくお願ひ致します』 松姫『お寅様で厶りますか、よう御立寄り下さいました。お菊さまの事は御心配下さいますな。貴女が御出立の後はお菊さまも、文助さまも、魔我彦さまも、大勉強で厶ります。其お蔭で信者も日々御参拝なされ御神徳は日に日に上りまして誠に御結構で厶ります。そしてお寅さま、貴女は大変にお顔に艶が出来ましたな。お髪の色と云ひ一寸見ても二十年ばかりお若うお成りなさつた様に厶りますわ。本当に御神徳と云ふものは有難いもので厶りますな』 お寅『はい、何分雪隠の水つきで厶りますからな、ホヽヽヽヽ』 魔我『アハヽヽヽ、さうするとお寅さまは、浮木の森で余程浮いて来たと見えますな』 お寅『オホヽヽヽ、私は恋人が出来ました。それ故此通り若くなつたのですよ』 魔我『アハヽヽヽ、何だか可笑しいと思つてゐたて、到頭本音を吹きましたね』 松姫『お寅さまの恋人と云ふのは瑞の御霊神素盞嗚大神様でせう。それは本当によい恋人をお定め遊ばしましたね。妾も矢張り素盞嗚尊様を唯一の恋人と致して居りますよ、ホヽヽヽヽ』 魔我『これは怪しからぬ、お寅さまはそれで宜いとして、松姫さまは立派な松彦さまと云ふ恋人否二世を契つた夫があるぢやありませぬか。チと不貞腐れぢやありませぬか』 松姫『第一に大神様を恋ひ慕ひ第二に夫を慕つてゐます。それで二世の夫と云ふのですよ』 魔我『ヤア、自惚気をタツプリと聞かして頂きました。魔我彦も之で満足致します。併し一つお願ひが厶りますが、暫く私はお寅さまのお伴してウブスナ山の聖場へ詣り度いのですが許して頂けませぬか』 松姫『それは願うてもなき事、実は妾より一度魔我彦さまに御修行に行つて貰ひたいと思つて居たのです。併し乍ら女の差出口と思はれちやならないと差控へて居りました。それは結構で厶りますが、お寅さま、何卒魔我彦さまをお預けしますから宜しくお願ひ申します』 お寅『はいはい私が預かりました以上はメツタの事はさせませぬ。御安心下さいませ』 魔我『然らば松姫様、暫く御暇を頂戴致します』 松姫『何卒聖地へお詣りになりましたら、松姫が宜しう申上げたと云つて下さいませ』 お寅『はい、承知致しました』 とお寅は暫し休息の上、魔我彦を伴ひ各神社を遥拝し、受付の文助や数多の信者へ挨拶を終り一本橋を打渡り河鹿峠の山口さして老の足もともいと健かに、神文を称へ乍ら、勢ひ込んで進み行く。 (大正一二・一・一八旧一一・一二・二北村隆光録) |
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霊界物語 | 50_丑_祠の森の物語2 | 21 犬嘩 | 第二一章犬嘩〔一三一五〕 イク、サールの両人は、高姫の逃ぐるを追うて、河鹿峠の急坂を下りながら歌ひゆく。 イク『大雲山に蟠まる八岐大蛇のドツコイシヨ 其眷属と現はれし妖幻坊の曲津神 ウントコドツコイきつい坂オイオイサール気をつけよ 義理天上の肉宮と佯る高姫婆の奴 彼方此方の木の株に蔓を引つかけ吾々を すつてんころりとドツコイシヨひつくりかへそと企らみて ウントコドツコイ往きやがつたアイタタタツタ、アイタタタ 矢張此奴は石だつた何程高姫司でも そんな事する間がなかろさうぢやと云つてドツコイシヨ サールの司油断すな敵は名に負ふ妖幻坊 金毛九尾の肉の宮一すぢ縄ではゆかぬ奴 又もや此処を飛び出してどつかの聖場に巣を構へ 鉄面皮にもしやあしやあと日出神を振りまはし 納まりかへつて居るだらうかうなる上は何処迄も 後追つかけて彼奴等をば面ひん剥いてやらなけりや 世界の害は何れ程か分つたものぢやない程に アイタタタツタ躓いた余り先に気を取られ 足許お留守になつたのか尊い神の祀りたる 祠の森へぬつけりと神さま面を提げよつて やつて来るとは太い奴挺でも棒でも動かない 強か者をスマートが厳の雄健び踏み健び ウウウウワンと吠え猛る其猛声に肝つぶし 駆け出すやうな弱い奴何程口が達者でも 直接行動にや叶ふまいサアサア急げ早急げ グヅグヅしとると日が暮れるもしも夜分になつたなら 彼奴等二人を見失ひ残念至極口惜しと 臍を噛むとも及ぶまい急げよ急げ、いざ急げ 神の御為道のため仮令吾等は曲神に 命を取らるる事あるも何かは惜しまむドツコイシヨ ウントコドツコイアイタタツタほんとに危ない坂道だ 女の癖に高姫は大きな尻を振りながら 中々足の早い奴これも矢張り杢助を 思ひつめたる一心が恋の矢玉となり果てて 宙をば飛んで往くのだろ何程俺が走つても 向ふも矢張り走る故ドツコイドツコイコンパスに よつぽど撚をかけなくちや追ひつく事は難しい こりやこりやサール何しとるもちつと早う走らぬか ウントコドツコイドツコイシヨ谷の流れが囂々と 伊猛り狂ふ其音に紛れて俺の云ふ事が お前の耳に入らぬのか思へば思へばジレツたい いざいざ来れいざ来れ敵は早くも逃げ失せた こいつ遁しちや一大事又もや小北の神殿で 主人面をば晒しつつ何を致すか分らない 俺等は早く追つ付いて途中で二人を引掴み 河鹿の流れに打ち込んで三五教の妨害を 根絶しなくちや済むまいぞお前も俺もバラモンの 神の教に仕へつつ悪い事をば遺憾なく 今迄やつて来たものだウントコドツコイ其深き 罪を贖ひ天国の死後の生涯送るべく 改心したる其上は何か一つの功名を 神の御前に立てなくちや斎苑の館の神様に 一つも土産がなからうぞ後ふり返り眺むれば サールの奴は何うしてる来れば来る程後れよる ほんにお前はヤツトコシヨドツコイドツコイ辛気臭い なぜ又足が遅いのかアイタタタツタパツタリコ とうとう向脛打ちましたこれを思へば神様が 後を追ふなと云ふ事かいやいやさうではあるまいぞ 一旦思ひ立つた上はどこどこ迄も後を追ひ 彼が先途を見届けて喉首グツとひん握り もう是からは高姫は改心致して自転倒の 生田の森に帰りますと云はさにやおかぬ俺の胸 心は千々にはやれども肝腎要の向脛 強か打つた其為に心ばかりは急げども 何だか体が動かないアイタタタツタアイタタツタ サールの奴は何してるもうそろそろと追付いて 現はれ来さうなものぢやなアああ惟神々々 肝腎要の正念場何卒足の痛みをば 止めさせ給へ逸早く両手を合せ此イクが 偏に願ひ奉る』 斯く坂道に倒れながら、尚も歌を続けて居る。此処へトントントンと足許覚束なげにやつて来たのはサールであつた。サールはイクの足から血を出して倒れて居るのに吃驚し、頓狂な声を出して、 サール『ヤア、お前はイクぢやないか。どうしたどうした』 イク『何うも斯うもあつたものかい。あまり貴様がグヅグヅして居るものだから、早う来ぬか早う来ぬかと、後を見もつて走つたものだから、大きな石に躓いて倒れたのだ。オイ、サール、俺には構はずに早く走つて呉れ。グヅグヅして居ると二人の奴、日が暮れたら分らぬやうになつて仕舞ふぞ。俺は後から足が直り次第追駆けて往くからなア』 サール『さうだといつて、お前がこんな怪我をして居るのに、これが何うして見捨てて行かりようか。此処は狼が沢山出る所だから、日が暮れるのに間がないから、剣呑で耐らないわ。そんな事云はずに俺に介抱さして呉れ。何とまアえらい怪我だのう』 イク『俺は何うでもよいから、早く往かないと取り逃すぢやないか。俺が大事か、お道が大事か、よく考へて見よ。俺の足が一本位なくなつたつて構ふものか、なくなつたら義足でもつけたらいいぢやないか。さア早く往つて呉れ往つて呉れ』 サール『何ぼなんでも友人として俺は此処を見捨てて去るには忍びない。どうも貴様の顔色が悪いぞ』 イク『ああ貴様も臆病だなア。そんな事云つて彼奴等両人が怖ろしいのぢやないか』 サール『そりやさうだ。貴様と二人行くのなら力強いが、あんな化物や婆アの後を追つ駆けて行つても、一人ぢや反対にやられて仕舞ふからな。実の所は貴様を先へやつて俺が応援にいく積だつた。肝心のイクが倒れて俺だけ行つてみても、完全なイクサールは出来ぬからのう。負けるのは定つて居るから、そんな敗戦なら、行かない方が余程利口だぞ』 イク『貴様は人を当にするからいかぬのだ。人間の五人や十人居つたつて何にならう。神力無辺の神様に頼んで行けば、きつと彼奴等の鼻柱を挫き、きつと御用が出来るのだ。さア、行つて呉れ行つて呉れ。アイタタタタ、どうも俺は息が切れさうだ。到底回復は覚束ないかも知れないぞ』 サール『気の弱い奴だなア、貴様こそ、なぜ神様を祈らぬのだ』 イクは細い声で、 イク『ああ惟神霊幸倍坐世。誠に無調法致しました。併し私はどんなになつても構ひませぬ。何卒サールに神力を与へて下さいまして、臆病風を追ひ払ひ、勇気を出して猪突猛進するやうにお願ひ致します。ああ惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 と祈る折しも、間近の木の茂みから破鐘のやうな声で、 妖幻坊の杢助『アハハハハ、態を見よ。杢助の計略にかかり其有様は何の事、ても扨ても心地よやなア、アハハハハ』 イク『ヤ、居よつた居よつた。オイ、サール、取掴まへて呉れ、俺は此通り足が痛いのだから動けないわ』 サール『俺も何だか体が鯱こ張つて動けないのだ。アアアアどうしようかなア、アイタタタタタ何だか腰までが変になつて来たぞ』 林の中から、 妖幻坊の杢助『ウアハハハハ、こりやイク、サールの両人、今杢助が其方両人を荒料理して喰つてやらう。てもさても不愍なものだなア。オイ高姫、彼奴等両人を此樫の棒をもつて、頭をまつ二つに割つて参れ』 この声の下よりヌツと現はれた高姫は二人の前に立ち現はれ、樫の棒を打ち振りながら、 高姫『こりや両人、此高姫は其方を決して打ち叩きたくも、殺したくもなけれども、わが夫杢助殿のお言葉には背かれぬから、これまでの命と諦めて観念致したがよからうぞ。ても扨ても飛んで火に入る夏の虫、いらざる殺生をしなくてはならないやうになつたわいなア』 イク『こりや高姫、俺が足を傷付いたのを付け込んで殺さうと致すのか。ようし、面白い。殺されてやらう。オイ、サール、貴様も一つ殺して貰へ、吾々は尊き大神様の御守護があるから、滅多に悪魔のために命を捨てるやうな馬鹿ではないぞよ。さア高姫、イヤ妖幻坊、どうなつと致せ』 高姫『それ程殺して欲しければ殺してやらう。併し、イク、サールの両人、一つ改心致して此方の御供致す気はないか。魚心あれば水心ありだ。別に義理天上日出神の生宮は、貴様たちの様な蠅虫を二人位殺したつて仕方がないのだから、何うだ、改心してお供致す気はないか。此神は敵でも助ける神だぞや』 イク『ゴテゴテ云はずに早く殺さぬかい。オイ、サール、貴様は卑怯者だから、妖幻坊や金毛九尾に降参して命だけ助けて貰へ、困つた奴だなア』 サール『イヤ俺も男だ。こりや高姫、妖幻坊の杢助、どうなりと致せ。貴様の喉首にでも齧りついて反対に命を取つてやらう。覚悟を致せ』 高姫『どうも、阿呆になつたら仕方がないものぢや。さう殺して欲しけりや、無益の殺生だが仕方がない。どうだ、覚悟はよいかな』 と樫の棒を振り上げる。 イク『そりや何さらしてけつかるのぢや。蟷螂が藁すべを担いだやうなスタイルをしよつて、さア早くすつぽりとやつて見い』 斯かる所へガサガサガサと大きな音をさせながら、妖幻坊の杢助は巨岩を両手に頭上高く差し上げ、今や二人に向つて投げつけむとする勢である。如何に勇猛な二人も、この岩石をくらつては、忽ち身体は木端微塵になるより仕方がなかつた。二人は進退これ谷まり、観念の眼をつぶつて、一生懸命に大神を念じて居た。忽ち足許から『ウウーウウー、ウーウー、ワウワウワウ』とスマートの声、妖幻坊並に高姫は石を振り上げたまま、棒を振り翳したまま、強直して一生懸命に駆け出し、岩石に躓いて妖幻坊はバタリと転けた。高姫は又もや躓いて棍棒を振り上げた儘、ウンと転げた拍子に、棍棒で妖幻坊の後頭部をパチンと打つた。妖幻坊は『キヤンキヤン』と怪しき声を立てて二声ないた。何うしても人間の声とは聞えなかつた。四辺に暗の幕はおりて咫尺暗澹、唯谷川の水の音のみ淙々と聞えて居る。 因にイクの瘡傷はスマートの声と共に一時に全快した。 (大正一二・一・二三旧一一・一二・七加藤明子録) |
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霊界物語 | 51_寅_浮木の森の曲輪城 | 01 春の菊 | 第一章春の菊〔一三一六〕 足曳の四方の山々春めきて冬枯れしたる梢まで 芽含みそめたる春景色瞬き初めし陽炎の 彼方此方にキラキラと閃めき渡り天国の 御苑も今や開けむと思ふべらなる小北山 小鳥は歌ひ胡蝶舞ひ吹き来る風も何となく ボヤボヤボヤと肌ざはり長閑な庭に立出でて お菊、お千代の両人は咲き誇りたる白桃の 木蔭に戯れヒラヒラと袖翻す胡蝶の遊び 同じ腹から生れたる姉妹の如睦じく 互に愛し敬ひて他所の見る目もいと清く 羨ましくぞ思はれぬかかる所へ急坂を スタスタ登り来る男女雲突く許りの荒男 年増女を引連れ大門の広庭指して現はれぬ。 妖幻坊の杢助、高姫両人は、お菊、お千代の桃の木の下に胡蝶を追ひ、睦じげに遊び戯るるを見て、 高姫『コレ、お前さま達二人は此お館に参拝して厶るのかい』 お菊『どこの小母さまだか知らぬが、ようお参りやしたなア。サ案内して上げませう』 高姫『案内はして貰はなくても、盲ぢやありませぬ。受付位はよく分つて居るのだから……併し私の尋ねたのは、お前は此処の信者か、但は誰か役員の娘か、それが聞きたいのだ』 お菊『それでも小母さま、其大きな男の人、頭を括つてゐるぢやないか。私は又目でも悪いのかと思つたのよ。さう偉さうに、年老りだてら、娘を掴まへて理窟を言ふものぢやありませぬぞえ。ここへ詣つて来る人は皆おとなしい人ばかりだよ。お前さまのやうに、いきなり口を尖らして、理窟がましい事を云ふ人は今が始めてだ。ホンにまア好かぬたらしい小母さまだこと。アタ阿呆らしい、お千代さま、放つといてやりませうかな』 千代『それでもお菊さま、ここへお出になるお方はどんな方でも、鄭重に取扱はねばならないと、魔我彦さまが仰有つたぢやありませぬか』 高姫『ナニツ魔我彦が、ヤツパリ此処にくすぼつてゐよつたのだな。ドレドレ調べて来う。どうせ碌な奴ア居らしようまい。ここは日の出神の生宮に神様からお与へなさつたお館だ。サ杢助さま、私に跟いてお出でなさい』 と受付に立現はれ、高姫は横柄な顔しながら、稍軽蔑気味な声を出して、 高姫『ヘー、御免なさい、一寸物を尋ねます。一体此処には何といふ方が大将をしてゐられますかな』 受付で切りに日の出に松を描いてをつた文助は、絵筆の手を止めて、朧げな目で少しく首をかたげ顔を覗く様にして、 文助『お前さまは、どつかに聞覚えがあるやうなお声だが、何方で厶いましたかな』 高姫『何方も此方もあるものか、義理天上日の出神の生宮の高姫ぢやぞえ。お前は文助ぢやないか。マアマア御壮健でお目出度う』 文助『ヤ、高姫様で厶いましたか。これはこれは久振でお目にかかります。貴女は斎苑の館へ此頃は御越しと承はり、大変な御出世を遊ばしたといふ事で厶います。ヤ、お目出度う厶います。ようマア立寄つて下さいました。そして何処へお出になります?』 高姫『立ち寄つたのぢやない、義理天上の命令によつて、小北山の教祖として来たのだ。サアサア是から何もかも、私の云ふ事を聞くのだよ』 文助『ハテ、妙な事を承はります。此お館は一切斎苑の館の八島主命様の御管掌なれば、貴女様が此処へお越しになるのなれば、前以て御通知があるべき筈になつて居ります。又此館の教主として御出で下さるのなれば、此方にもそれ相当の歓迎準備もせなくてはなりませぬが、何と又火急な事で厶いますなア。教主様の松姫様もヨモヤ御存じは厶いますまい。それでは私もかうしては居られない。御報告を申し上げねばなるまい。一寸待つて下さい。教主様に此由を申上げて来ますから……』 高姫『ナニ、松姫が教主となア。あれは私の家来で、お前も知つてゐる通り、高城山をかまはして居つたのだが、彼奴は腰の弱い奴だから、お節の玉能姫に誤魔かされ、ウラナイ教を捨てて三五教に降参した奴だ』 文助『モシ高姫さま、貴女だつて、三五教の宣伝使ぢやありませぬか。貴女が率先して黒姫さまと一緒に、三五教へ改心帰順なさつたでせう。それだから松姫さまだつて、帰順遊ばすのが当然ぢやありませぬか』 高姫『ホホホホ、そりやさうだ。併しこれは、一寸副守護神が、あんな事を云つたのだよ。此高姫は義理天上日の出神様の、いよいよ身魂の因縁が分つて来ました。高天原の最奥霊国の天人様だ。そして此高姫は稚桜姫命の御系統、常世姫の肉宮だぞえ』 文助『ヤ、そんな事は、耳がタコになる程承はつて居ります。サ、何卒教主館があいて居りますから、そこで一服して下さいませ。其間にいろいろの準備をせなくちやなりませぬから……エー、そして、高姫様、貴女の後に立つて厶るのは、影法師か、但はお連れの方か、私には目が悪くつて分りませぬが、人間なら人間と仰有つて下さいませ』 高姫『ヘン、馬鹿にしなさるな、お前さまのやうな人間とはチツと違ふのだよ。畏くも斎苑館の総務、時置師神又の名は杢助様で厶るぞや。サ、早くお出迎へをなされ、粗忽があつては貴方のお為になりませぬぞえ』 文助『それはそれは、存ぜぬ事とて、誠に御無礼を致しました。此頃は相当に参拝者も厶いますので、斯様な所で御話して居つてもつまりませぬ。サ、教主館へ御案内を致しませう』 妖幻『拙者は噂に高き三五教の三羽烏、杢助で厶います。以後御見知りおかれまして、宜しく御交際を願ひませう』 文助『ハイ、それはそれは、自己広告を承はりまして、尊き杢助様を拝まして戴きました。併し杢助様は三五教切つての言霊の清らかな御方と承はりましたのに、大変なダミ声ぢや厶りませぬか。どうも私には、失礼ながら、イー心の底から尊敬の心が起つて参りませぬ。守護神が腹の中から、違ふ違ふ、と申します。もし間違ひましたら御免下さいませ』 高姫『コレ、文助、何といふ失礼千万な事を云ふのだい、杢助様は、此頃一寸お風邪をめしてお声が変つてゐるのだよ。お前だつて風邪ひいた時にや、満足に祝詞もあがらぬぢやないか』 文助『イヤ、どうも恐れ入りました。それなら、之から教主館へ御案内致します。何卒御神殿で御拝礼をなさつて下さいませ。其間にチヤンと座敷を片付けて用意を致しますから』 高姫は神殿に行くのが、どこともなしに恐ろしいやうな、内兜を見すかされるやうな気分がして気が進まなかつた。そこで又例の詭弁を弄し始めた。 高姫『コレ、文助さま、最前も云つた通り、義理天上日の出神は霊国の天人ぢやぞえ、祭典をしたり拝礼をしたりするのは天国の天人のする事だ。それから又お前たちのやうな八衢人間が、助け給へ救ひ給へと、祈る為に拝礼をしたり、お祀りをするのだよ。吾々は教を伝へるのがお役だ。それぞれ身魂の因縁性来によつて御用が違ふのだからな』 文助『それでも貴女、今迄は一生懸命にお祀りもなさつたり、朝も早うから御祈願を遊ばしたぢやありませぬか』 高姫『それはきまつた事だよ。よく考へて御覧なさい。蛙の子のお玉杓子だつて、鯰の子だつて、小さい時にはヤツパリ同じ姿をして居りませうが。此高姫もお玉杓子の時は、蛙の子と同じやうに、人並に拝礼をしなくちやならぬぢやないか。けれども日日が経つと、同なじ形のお玉杓子でも、霊の性来によつて、手が生え足が生え、糞蛙になる霊と、大きな鯰になる霊と立て別れるぢやないか。例へて言へば、お前はお玉杓子の出世した蛙だ。此高姫は鯰ぢやぞえ。鯰は地の底に居つて、尻尾をプイと掉つても、此大地がガタガタと動くのだ。其因縁がハツキリと分つたのだから、今迄の高姫と同じ様に思うて貰ふと、チツと了簡が違ひますぞや、なア杢助さま、三五教にはかふ言ふ分らぬ受付が居るのですからな、困つたものですよ』 妖幻『さうだなア、ロクな男は一人も居ない。これでは三五教も駄目だ。一つお前が此処で奮発して一働きせなくちや駄目だ。オイ文助殿、これから杢助がここに暫らく出張して、事務を調査し監督致す、そして高姫は筆先の御用を致すによつて、何事も其命令に服従するのだぞや』 文助『ハイ有難う厶います。併しながら此館は変性男子様のお筆先を以てお神徳を頂くやうになつて居りますから、もう日の出神様のお筆先は必要がないかと心得ます』 高姫『オツホホホホ、訳の分らぬガラクタばかりぢやなア。変性男子のお筆先は余りアラごなしで、お前達を始め、人民の腹へは入りにくいによつて、此度誠生粋の水晶霊の根本の日の出神様が、お筆先を書いて、細かう御知らせなさる世が参りたのだぞえ、此筆先を読まなくては、誠の五六七神政は成就致しませぬぞや』 文助『さうかも存じませぬが、私は松姫様の御意見に従はねばならぬ事になつて居りますから、何卒松姫さまにお会ひになつたら、貴女より詳しく其由を仰有つて下さいませ』 高姫『成程お前としては無理もない。さうすれば之から松姫にトツクリと言ひ聞かしてやりませう、サ、兎も角館へ案内して下さい』 文助『承知致しました。サ、かう御出でなさいませ』 と早くも足駄をはいて、杖をつきながら、五六間より隔つてゐない庭を跨げ、蠑螈別、お寅の住まつてゐた教主館へ案内した。 お菊は三人の姿を見て、 お菊『コレ文助さま、そんな喧しい小母さまを、こんな所へ連れて来るのはイヤよ、大広間へ連れて行つて鎮魂をして、四足の霊をのけて上げて下さい。何だか知らぬが、エライ物が憑いてゐますよ』 文助『ハハハハ、どうも仕方のない娘さまだな。モシモシ高姫さま、何卒気にして下さいますな。此方は一人娘で気儘に育つて厶るから、人さまにあんな事を仰有るのです。何卒若い人の云つた事だから、お咎めなく許して下さいませ』 お菊『許していらぬよ。此処は私の留守を預つて居る所だ。お母さまや魔我彦さまがお帰りになるまで、誰も入れることはならぬのだから、帰つて下さい』 文助『そりやさうで厶いますが、此方は又特別のお方だ。お前さまがいつも、それ、憧憬して居つた、ウラナイ教の教主様の高姫さまだぞえ。サアサア、叮嚀にお辞儀をして、御無礼のお詫をするのだよ』 お菊『聞くと見るとは大違ひだネー。蠑螈別さまも、こんな品格のない、ヤンチヤ婆アさまを可愛がつてゐたのかと思ふと、可笑しいワ、ホツホホホホ。モシ蠑螈別さまのレコさま、生憎、来て下さつたけれど、蠑螈別さまは不在なのよ。会ひたけりや浮木の森へ御出なさい。万緑叢中紅一点のお民さまといふ、あたえのやうな別嬪と、手に手を取つて駆落しましたよ。そして、何時も高姫々々と寝言をいつたり、お酒を呑んで朝顔のチヨクを口へあて、これが高ちやまの口によく似てると云つてはキツスをしたり、うちのお母さまと掴み合の喧嘩をしたり、鼻を捻られたり、それはそれは面白い事だつたよ』 高姫『ナニ、蠑螈別がお民といふ女と駆落した?ヤ、其奴は大変……』 といひかけて、杢助の側に居るのに気がつき、 高姫『ホホホホ、何とマア面白い話を聞かして貰うたものだ。高姫といふ名は私ばかりぢやない。広い世間には沢山あるからな、ソリヤ人違ひだ。此高姫とは違ひますぞや』 お菊『それなら、お前は蠑螈別のお師匠さまではないのだなア。ウラナイ教の元を開いた高姫さまとは違ひますね。此小北山は今では三五教だけれど、それまではウラナイ教の神様ばかり祀つてあつたのよ。其ウラナイ教の根本の教祖は高姫さまだと云つて、私達も朝から晩まで、御神体を拵へてお給仕をしてゐたのよ。其高姫さまと違ふのなら、こんな所へ来る資格はない。サアサアトツトと出て下さい』 妖幻『ハハハハ高姫も随分色女だなア、蠑螈別の男つ振りを、此杢助に見せびらかさうと思つて、此処迄つれて来たのだなア。イヤもう其凄い腕前には感心致した。ヤこれで、お前の心もスツカリ分つた、高姫、これまでの縁だと諦めてくれ、左様なら……』 と踵を返し帰り行かむとする気色を見せた。高姫は慌てて袖を控へ、涙を流して、 高姫『コーレ、杢助さま、短気は損気だ、一寸待つて下さい。之には言ふにいはれぬ訳があるのだから……』 妖幻坊の杢助『イヤ、訳を聞くには及ばぬ、何もかもスツクリと判明致した。イヤ杢助は馬鹿だつた。よくマア今まで嬲つて下さつた。眉毛をよまれ、尻の毛の一本もないとこまで、金毛九尾さまにぬかれて了つたかと思へば残念だ。千言万語を費しての弁解も、俺には何の効能もない。高姫、左様ならば……』 と袖ふり切つて行かうとする。 高姫は妖幻坊の足に確かとしがみつき、一生懸命の泣き声を出して、 高姫『コレ杢助さま、短気は損気ぢや、一通り私の云ふ事を聞いて下さい。今となつてお前さまに捨てられて、どうして五六七神政の御用が出来ませうか、義理天上日の出神がお願ひ致します』 お菊は手を拍つて、 お菊『ホツホツホ、雪隠の水つき、婆浮きぢや、イヤイヤ婆泣きぢや。面白い面白い、こんな所をお千代さまに見せて上げたいのだけれどなア。お千代さま、又何処へ行つたの、まるで蠑螈別さまとお母さまとの喧嘩のやうだワ、ホツホツホー』 妖幻坊はお菊の声に、何と思うたか、後ふり返り、二歩三歩近寄つて、 妖幻坊の杢助『ハハハハ、子供は正直だ、面白い面白い。コレお菊さまとやら、蠑螈別の素性から高姫の関係、お前は知つとるだらうな、どうか緩りと聞かして貰ひたいものだ』 お菊『詳しい事は知らないよ。何時も蠑螈別さまとお母さまとが酒を呑んで、喧嘩ばかりしてゐたのよ、其時の話を聞いたばかりだ。高姫さまの顔を、まだ見た事がないのだから分らないワ。其高姫さまはお人が違ふと仰有つたが、口許が朝顔の盃によく似て、唇が妙に反り返り、曲線美をうまく発揮してゐるワ。ホホホ可笑しい顔だネー、コレ小父さま、お前、そんな婆アさまが好きなの、イツヒヒヒヒ、エエ物好だねえ。ドレ是から松姫様に面白い門立芸者が出て来て、いま一幕活劇を演じてゐる、之からが正念場だから……と云つて知らして来う、お千代さまもキツと喜ぶだらう』 と云ひながら、逃げるやうにして二百の階段を登つて行く。 文助『皆さま、何卒気にさへて下さいますな。あの子はお寅さまの娘で、どうにもかうにも仕方のない、侠客娘と綽名を取つてるオキヤンですから、あんな子の云ふ事を耳に入れて居らうものなら、腹が立つて仕方がありませぬ。何時も受付へ出て来て、私の目が悪いのをつけ込み、首に手拭を引掛けたり、ソツと出て来て耳を引張つたり、鼻を摘んだり、熱い茶と水とをすり替へたりして、手を叩いて喜んで居る悪戯盛りだから、何卒貴方等も、広き心に見直し聞直し、許してやつて下さいませ』 妖幻『ハハハハ、何と面白い子だなア。そんな子なら、甘く仕込んだら、すぐに改悪するだらう』 高姫『コレ杢助さま、何と云ふ事を仰有る、改悪するだらう……なんて、チツと心得なさらぬか、なぜ改善するだらうと仰有らぬのだい』 妖幻坊の杢助『改悪といふことは悪を改むる事だ。悪を改むれば善になるぢやないか。改善といふことは善を改むる事だ。善を改むれば悪になるぢやないか』 高姫『成程、さうすると、今迄三五教で言つてゐたのは逆様だつたなア。ハハー、アアそれで分つた、義理天上さまが素盞嗚尊の行り方は駄目だと仰有つたのは……其事だ、流石は杢助さまは偉いわい、改悪と云つたら無上の善だ。之から一つ言霊を改めねばなるまい。流石は高姫の夫だけあつて、仰有る事が違ふワイ。ホホホホ、時置師の大神様、イヤもう、流石の義理天上も感服仕りました。コレコレ文助殿、お前は結構なおかげを頂きましたなア。改悪の因縁が分つたかい』 文助『ハイ、貴女等の仰有る事は余り六つかしうて、文盲な吾々には、どうも解釈が出来ませぬ。何と云つても、逆様の世の中で、悪が善に見えたり、善が悪に見えたりする世の中ですからなア、改悪……否皆目分りませぬ』 高姫『さうだろさうだろ、お前は眼目からして分らぬのだから、皆目分らぬといふのは無理はない、今までは改心といふは善い事、慢心と云ふは悪い事と思うて居つたが、ヤツパリ之も逆様だつた。なア杢助さま、さうぢやありませぬか』 妖幻坊の杢助『ウンさうだ、お前の云ふ通りだ』 高姫『何と義理天上さまも偉いワイ。ヤ、此筆法でゆけば凡ての解決がつく。三五教は善に見せてヤツパリ悪の教だつた。何もかもスカタンばかり言つて、吾々を誤魔化して居つたのだな……義理天上日の出神様、有難う厶います。……コラ金毛九尾、貴様も其積りで、これから活動するのだぞ』 と小声に囁いてゐる。 かかる所へ最前のお菊は慌しく帰り来り、 お菊『高姫さま、松姫様に申上げましたら、大変にお喜びやして、どうか鄭重に、お酒でも出してもてなして上げて下さい。今一寸御用の最中だから、御用済み次第御挨拶に行きますと云つてましたよ。コレ文助さま、徳さまと初さまとを呼んで来て、お酒の用意をさすのだよ』 文助『それなら、これから徳と初とに御飯やお酒の準備をさせますから、一寸待つてゐて下さい』 とまたヨボヨボと受付さして帰り行く。 高姫『コレ杢助さま、松姫といふのは私の弟子だから、一寸も遠慮はいりませぬよ。マ、ゆつくりと寛いでお酒でもあがつて下さい。お気に入りますまいが、此義理天上がお酌をさして頂きますから、ホホホホホ余り憎うもありますまい』 妖幻坊は俄に機嫌を直し、赤い尖つた口をあけて、 妖幻坊の杢助『オツホホホホ』 高姫『何とマア。俄に尖つた口をして、アタ厭らしい。そして、赤い口だこと』 妖幻坊の杢助『ウツフフフフ』 (大正一二・一・二五旧一一・一二・九松村真澄録) |
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霊界物語 | 51_寅_浮木の森の曲輪城 | 02 怪獣策 | 第二章怪獣策〔一三一七〕 初、徳の両人は種々と馳走を拵へ、酒を沢山に燗して二人の前に恭しく並べた。 初『私は此お館の新役員で厶います。魔我彦様にお引立に預りまして、つい此間から幹部に選定されました。今迄はウラル教の信徒で厶いましたが、余り此お館にお祀りしてある神様の御威勢が高いので、ついお参りする気になり、信者として四五日籠つてる中、抜擢されまして、今では魔我彦様の御用を聞いて居ります。炊事なんかするやうな地位では厶いませぬが、今日は特別を以て、文助様の御命令により、料理法の粋を尽して拵へて参りました。どうでお口には合ひますまいが、何卒一つ召上つて下さいますやう御願ひ致します。たまたまのお越し故、可成山海の珍味を以て献立がしたいので厶いますが、余り俄かのお出で材料が欠乏致し不都合で厶います』 高姫『ヤ、お前は魔我彦の家来かな、成程、下り眉毛の、一寸面白い顔だな。之から此高姫が此処の教主だから、其積りで居つて下さい。そしてここの信者は幾ら程あるかな』 初『ヘーお初にお目にかかつて、顔の批評までして頂きまして、イヤもう感服致しました。まだ新任早々の事で、ハツキリは分りませぬが、トツ百ばかり、あるとか、ないとか言ふことで厶います。魔我彦さまも、この調子なら、今にパツ百人ほど殖えるだらうと申して居りました。貴女は噂に……イ……高き、ダカ姫さまで厶いますかな。どうもよくお出で下さいました。そして立派な男様は貴女様の御主人でゐらせられますか、どうも御夫婦打揃ひ、御出張下さいました段、やつがれ身にとりまして、恐悦至極に存じ奉りまする』 高姫『何と面白い男だなア、ヤ御馳走さま、これからお腹もすいたなり、一寸くたぶれたからゆつくりと頂きませう』 初『私で宜しう厶いますれば、一寸お酌をさして頂きませうかな。私も余り、飲めぬ口でも厶いませぬから……』 高姫『ヤ、結構で厶います、何れ用があつたら、此鈴をふりますから来て下さい』 初『承知致しました、それぢやお菊さまにお給仕をして貰ひませう』 お菊『コレ初さま、厭だよ、誰がこんな小父さまや小母さまのお給仕するものかい。私がお給仕するのは万さまだよ。イヒヒヒ、すみませぬなア、お構ひさま』 妖幻『オイお菊とやら、此杢助に一つ注いではくれまいか。お前の若い手で注いで貰ふのは、余り気持が悪うはない。高姫さまといふ天下一の別嬪さまがついて厶るのだから可いやうなものの、又変つたのも、此方の気が変つていいかも知れない』 お菊『いやですよ、之からお千代さまと遊んで来なならぬワ、待合の酌婦ぢやあるまいし……御夫婦さま仲よう、シンネコでお楽しみ……御免よ』 と逃げるやうにして、腮を三つ四つしやくりながら、肩をあげ首をすくめ、両手を前へパツと開き揃へ、 お菊『イツヒヒヒ』 と胴までしやくつて、飛出して了つた。後に二人はイチヤイチヤ言ひながら、酒を汲みかはし始めた。 高姫『コレ杢助さま、松姫だつて、文助だつて、中々さう易々と服従するものぢやありませぬよ。口先では立派な事言つて居つても、心の底は容易に帰順致しませぬよ。あのお菊だつて、中々手に合はぬぢやありませぬか、此奴は一つ、何とか工夫をせなくちやなりませぬよ』 妖幻坊の杢助『兎も角、あの初と徳とを此処へ呼んで、酒でも飲ませ、腸までよく調べて、其上でこちらの味方を拵へておかねば、駄目だと思ふ。何程お前が義理天上だと云つても、杢助だと云つても、松姫の外、俺の顔を知つた者はないのだからな』 高姫『ソリヤさうですな、それなら一つ、初と徳を呼んで酒を飲ましてやりませうかい』 妖幻坊の杢助『ウン、それが可い、就いては、あのお菊も此処へよせて、酌をさせるがよからう。さうでなくちや、彼奴、一すぢ縄ではいかぬ奴だから、甘く手の中へ丸めておく必要があらうぞ』 高姫『貴方は又、お菊に秋波を送つてゐるのですか、エーエ油断のならぬ男だなア、それだから義理天上さまが、お前を目放しするなと仰有るのだ。本当に気のもめる男だな。私の好く人、又人が好く……といふ事がある。こんないい男を夫に持つと、此高姫も気のもめる事だワイ』 妖幻坊の杢助『まるで監視付だなア、高等要視察人みたいなものだ。あああ、こんな事なら、今までの通り、独身生活をして居つたらよかつたに、娘の初稚姫にだつて、何だか恥しくつて、顔さへ合されもせないワ。娘どころか犬にさへ恥しいやうだ。それだから、俺はあの犬は嫌といふのだ』 高姫『お前さまは、二つ目にはいぬいぬと仰有るが、何程いぬと云つても、綱をかけたら帰なしはせぬぞや。いぬなら帰んでみなさい。仮令十万億土の底までも探し求めて、お前さまの胸倉をグツと取り、恨をはらしますぞや』 妖幻坊の杢助『あああ、怖い事だなア。それなら今後はおとなしう御用を承はりませう。義理天上様、金毛九尾様、今日限り改悪致しますから、お許しを願ひます、エヘヘヘヘ』 高姫『何なつと、いつてゐらつしやい、どうでこんな婆アはお菊には比べものになりませぬから』 妖幻坊の杢助『それなら、女王様の御命令を遵奉し、ドツと改悪致して、お菊は入れない事にし、初公と徳公を、ここへ呼んで、ドツサリ酒を飲まさうぢやないか』 次の間から、 初、徳『ヘー、初も徳もここに居ります。お相手を致しませう』 とまだ呼びもせぬ先から、喉がグーグーいつて仕方がないので、襖をあけて、ヌツと顔を出した。 高姫『コレ、初さま、徳さま、お前は最前から私達の話を聞いて居つたのだなア』 初『ヘー、大命一下、時刻を移さず、御用に立たむと、次の間に手具脛引いて控へて居りました。イヤもうドツサリと結構なお二人様の情話を聞かして頂き、有難いこつて厶りました。あれだけ結構な話を聞かして頂いた以上は、一杯や二杯奢つて下さつても損はいきますまい。のう徳公、本当に羨ましいぢやないか』 妖幻『ハハハハ、どうも気の利いた男だ、お前達二人は小北山に似合はぬ立派な者だ。こんな立派な役員が、吾々の来るに先立ち、おいてあるとは、全く神様のお仕組だ。オイ、初公さま、徳公さま、俺の盃を一杯うけてくれ』 初『イヤ、これはこれは御勿体ない、お手づから頂きまして、実に光栄です、なア徳よ』 徳『ウン有難いなア、こんな事が毎日あると尚結構だがなア』 妖幻『朝顔形の盃はないかなア』 徳『ヘー、朝顔形の盃も沢山厶いましたが、前の教主様が、高姫さまの唇に似てると仰有つたので、お寅さまと云ふ内証のレコが、悋気して皆破つて了はれたさうで、今では一つも厶いませぬ』 妖幻坊の杢助『フフフフフ、さうすると、此盃は敗残の兵ばかりだな。打ちもらされし郎党ばかりか、ヤヤ面白い面白い、サ、徳公、一杯行かう』 徳『ヤ、これはこれは誠に以て有難く頂戴いたします。酒といふものは百薬の長とかいつて、いいものですな、かう青々とした春の野を眺めて、一杯やる心持と云つたら本当に譬へやうがありませぬワ、どうぞ之から貴方等御両人の指揮命令を遵奉致しますから、可愛がつて下さいや』 妖幻坊の杢助『ウン、よしよし、併し蠑螈別と此杢助とは、どちらがお前は偉大なと思ふ』 初『ソリヤきまつて居ります。背い恰好と云ひ男振と云ひ、天地の違ひで厶りますワ』 妖幻坊の杢助『どちらが天で、どちらが地だ』 初『そこがサ、テーンと、イー私には分らぬ所です。併し、チーとばかり劣つて居りますなア』 妖幻坊の杢助『どちらが劣つて居るのだ』 初『杢助様、言はいでも分つてるぢやありませぬか。劣つた方が劣つてるのですもの、高姫さまの前だから、何方へ団扇をあげて可いだやら、マア言はぬが花ですなア、夫婦喧嘩をたきつけるやうな事があつては誠にすみませぬから……』 妖幻坊の杢助『ハハハハ、其奴ア面白い、マア言はぬが宜からう』 高姫『コレ初、構はないから言つておくれ、私だつて何時までも、蠑螈別さまの事など思つてはゐやしないよ。あの方は大広木正宗さまの生宮だつたが、今はサツパリ三五教へ沈没したのだから、最早普通の人格者としても認めてゐないよ。何卒蠑螈別さまのこた、言はぬよにして下さい』 初『モシ、高姫さま、ここはウラナイ教ぢやありませぬよ、松彦さまがお出でになつてから、ユラリ彦さまや義理天上さま、ヘグレ神社其外、サーパリ、ガラクタ神をおつ放り出し、残らず三五教の神様と祀り替へてあるのですから、蠑螈別さまが三五教へお入りになつたのが悪い筈はないぢやありませぬか、さうすると今は貴女は三五教ぢやないのですか』 高姫『コレ初さま、お前も野暮な事をいふものぢやない、神の奥には奥があり、表には裏があるのだ。此高姫だつて、表面は三五教になつてるけれど、矢張りウラナイ教だよ。世の中は一通りや二通りでいくものでないから、お前も其精神で居つて下さい。これからお前等二人を杢助さまの両腕として出世をさして上げるから、さうすりや文助さまを頤でつかふやうになるよ、今に受付の命令をハイハイと聞いてるやうぢや詮らぬぢやないか』 初『イヤ、分りました。のう徳公、貴様も賛成だらう』 徳『ウーン、お前が賛成すりや、賛成しない訳にも行かぬワ、併しながら松姫さまは何うだろ、こんな事を御承知なさるだらうかなア』 初『ソリヤ高姫さまの腕にあるのだ、俺達や、只御両人の頤使に従つて居れば可いぢやないか』 お菊は外から、窓へ顔をあて、四人の酒を飲んでゐるのを見て、あどけない声でうたつてゐる。 お菊『天に口あり壁に耳企んだ企んだ陰謀を お菊はソツと両人の腹の中まで推知して 一寸其処まで出て来ると甘くゴマかし戸の外で スツカリ様子を窺へば耳をペロペロ動かして 尖つた口をしながらも高姫さまと意茶ついた 揚句のはてが小北山此神殿をウマウマと 占領せむとの企みごと初公、徳公両人を うまく抱込み酒飲ましさうして之から松姫の 目を晦まして義理天上日の出神の生宮と 居据り泥棒をする積り何程高姫偉いとて どうしてどうして松姫の鏡のやうな魂を 曇らすことが出来ようかそんな悪事を企むより 早く改悪するがよい改心するにも程がある オツトドツコイこりや違うたさはさりながら高姫は 善をば悪と取違へ悪をば善と確信し 改心慢心ゴチヤまぜになさつて厶るお方故 私も一寸其流儀臨時に使用しましたよ コレコレもうし杢さまえ蠑螈別の思ひ者 朝顔猪口の高さまえ何程お前等両人が 初と徳とを抱込んでうまい事をばしようとしても 忽ち陰謀露顕して逃げていなねばならぬぞや 松姫さまがお前等の詐り言を真に受けて 聞かれたとこが此お菊中々承知は致さない 侠客娘と名を取つた浮木の森のチヤキチヤキだ オホホホホホホオホホホホ窓から中を眺むれば あのマア詮らぬ顔ワイナイヒヒヒヒヒヒイヒヒヒヒ 杢ちやま、高ちやま左様ならゆつくり陰謀お企みよ あとからあとから此お菊叩きつぶしてゆく程に 何だか知らぬが杢さまの姿が時々変り出し 耳の動くはまだおろか口までチヨイチヨイ尖り出し 鼻より高うなつてゐる私が一寸首ひねり 考へました結末は虎と獅子との混血児 金毛九尾と御夫婦になつてここまで小北山 貴の聖場を占領し朝から晩まで酒のんで 威張り散らさむ計劃か但はここに網を張り 斎苑の館へ往来する数多の信者を引捉へ 堕落さした上ウラナイの醜の教に引込んで 此世の中を泥海に濁らし汚すつもりだろ 何程弁解したとてもお菊がここにある限り お前の企みは駄目だぞえああ面白い面白い 面白うなつて来ましたよ妖幻坊の杢助や 金毛九尾の義理天上鼻高姫の運の尽 松姫さまの神力とお千代の方の神懸 さとき眼に睨まれて尻尾を出しスタスタと 忽ち此場を駆出すは鏡にかけて見るやうだ 悪魔がそんな扮装をして大日の照るのに吾々を 化かそとしても反対に化けが現はれ舌かんで 旭に打たれて消えるだろそれ故お前杢助は 祠の森にゐた時ゆ日輪様の照る所へ 一度も出たこたないぢやないかたまたま外へ出た時は 日蔭の深き森の中初稚姫の伴ひし スマートさまにやらはれてビリビリ慄うてゐただらう お菊はチツとも知らないが何だか知らぬが腹の中 グルグルグルと玉ころが喉元迄もつきつめて 妙な事をば云ひますぞこれこれ高姫、杢さまよ 初公、徳公両人よ胸に手をあて思案して 臍をかむよな事をすな誠の日の出の義理天上 お菊の体をかりまして四人の獣に気をつける ああ惟神々々目玉飛び出しましませよ アハハハハハハアハハハハオホホホホホホオホホホホ』 と歌ひ了り、一生懸命に青葉の芽ぐむ森林の中へ脱兎の如く身を隠して了つた。 妖幻『オイ高姫、ありや気違ひぢやないか。困つた、此処にはモノが居るぢやないか。あんな事を言はしておきや、数多の信者を迷はすかも知れない。何とかして、窘めてやらねばなるまいぞ』 高姫『本当に、仕方のない奴ですワ、松姫さまも、なぜあんな気違ひを置いとくのだらうなア。コレ初公さま、いつも、あのお菊はあんな事を言ふのかい』 初『ヘー、随分誰にでもヅケヅケといふ女ですよ。併しながら今日みたいな悪口云つたこた、まだ聞きませぬな、あの女の云ふ事は、比較的正確だとの定評があります』 高姫『定評があると云ふからには、お前達は吾々夫婦を怪しいものと観察してゐるのかい』 初『ヘー、別に……怪しいとは思ひませぬ。只貴方等両人の仲は、ヘヘヘヘ、チと怪しくないかと直覚致しました、違ひますかな』 高姫『杢助さまと夫婦になつたのが、何が怪しいのだ。神と神との許し給うた結構な生宮だぞえ。神だとて夫婦がなければ、陰陽の水火が合はないから、天地造化の神業が成功せないぢやないか』 初『ヤ、さうキツパリと承はりますれば、今後は其考へでお仕へ致します。さうすると杢助様は貴女の旦那で厶いますか。よくお似合ひました夫婦で厶います。ヘヘヘヘ、イヤもうお目出度う、それでは今日は御婚礼の御披露の酒とも申すべきものですな、ドツサリ頂戴致しませう。誠に御馳走さまで』 徳『オイ、初ウ、さう御礼を言ふに及ばぬぢやないか、お酒も御馳走の材料も、皆小北山の物でしたのなり、料理も俺達二人がしたのだ。そして新夫婦に、こちらから振舞つてゐるのだから、御馳走さまも何もあつたものかい、先方の方から礼を云つたら可いのだ』 高姫『コレ、徳とやら、お前の云ふ事は一応理窟があるやうだが、それは神界の事の解らぬ八衢人間の云ふ理窟だぞえ。現界の理窟は霊界には通じませぬぞや。かうして御馳走が出来るやうになつたのも、皆天上から日の出神様が御光を投げ与へ、雨露を降らして下さるお蔭で、五穀、さわもの、菜園物一切が出来てるぢやないか、其生神様にお給仕さして頂くお前は誠に結構だ。神の方から御礼申すといふ理窟がどこにあるものかい。チツとお前も神界の勉強をしなさい、さうすりや、そんな小言は云はないやうになつて了ひますよ』 徳『ヘー、何とマア都合の好い教理で厶いますこと』 高姫『コレ、お前は義理天上の云ふ事が、どうしても腹へ入らぬのかなア』 徳『ヘー、さう俄かに入りにくう厶います。何分お酒や御飯で格納庫が充実してゐますから、今の所では余地が厶いませぬ』 高姫『何とマア盲ばかりだなア、そら其筈だ、霊国の天人の霊と、八衢人間の霊とだから無理もない、お前さまもチツと之から日の出神様の筆先を読みなさい。さうすれば三千世界の事が見えすくやうになるだらう、コレ初さまえ、お前はチツと賢さうな顔してるが、高姫のいふ事が分つたかなア』 初『ハイ、仰せの通り、此お土の上に出来たものは皆神様のお力で厶います。何程立派な人間でも、菜の葉一枚生み出すことは出来ませぬ、仰せ御尤もだと考へます』 高姫『成程、お前は偉いわい、之から杢助様の片腕にして上げるから、どうだ嬉しうないか、結構だらうがな。何といつても三五教の三羽烏の一人、時置師神様だぞえ』 初『ハイ、身に余る光栄で厶います。オイ、徳、貴様も改心して、結構だといはぬかい……否改悪して、貴女の仰有る通りだ、と、心はどうでもいい、いつておかぬかい。社交の下手な奴だなア』 徳『それなら高姫さまの御説に、ドツと改悪して賛成致します。何卒宜しう御願ひ申します』 高姫『心からの改心でなければ駄目だぞえ。ウツフフフフ、コレ杢助さま、人民を改心さすのは高姫に限りませうがな』 妖幻坊は俄に体が震ひ出した。窓の外を一寸覗いて見ると、猛犬が矢の如く階段を登つて、松姫館の方へ姿を隠した。高姫はアツと一声、ドスンと腰を下し、目を白黒してゐる。妖幻坊も亦冷汗をズツポリかき、ガタガタと震ひ戦くこと益々甚しい。 (窓外白雪皚々たり大正一二・一・二五旧一一・一二・九松村真澄録) |
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霊界物語 | 51_寅_浮木の森の曲輪城 | 20 狸姫 | 第二〇章狸姫〔一三三五〕 ガリヤ、ケース他四人は大門を潜つた。さうして天女のやうな八人の美人の姿に見惚れて居た。その中で一番年かさと思しき女、揉み手をしながら言葉優しく、 (初花姫)『これはこれは三五教の宣伝使様、ようこそお出で下さいました。妾は如意王の娘初花姫と申します』 ガリヤ『イヤ吾々は宣伝使では厶いませぬ。これより斎苑の館に修業に参り、旨く合格すれば初めて宣伝使になるので厶います。さうして私が三五教だと云ふ事は、どうしてお分りになりましたか』 初花姫『ハイ、四ケ月以前より月の国コーラン国から此処まで国替を致しまして、俄造りの城廓を拵へ住まつて居ります。今まではウラル教で厶いましたが、バラモン教に追立てられ此方に参りました所、三五教の宣伝使初稚姫様がお出になり、いろいろと御教訓下さいましたので、両親は直ちに三五教に帰順し、今は熱心な信者で厶います。さうして初稚姫様が奥殿にお留まりになり、結構なお話を聞かして下さるのだから、城内一般の喜びは譬がたない程で厶います。さうして初稚姫様のお言葉には、三五教の方が三四人見えると云ふ事で厶いましたから、侍女を連れ、此処までお迎へ旁遊びながら参りました。サア御遠慮はいりませぬ、何卒お通り下さいませ』 ガリヤ『ヤアそれは願うてもない事で厶る。初稚姫様は既に宣伝の途に上られ、斎苑の館へ参つても到底御面会は叶ふまいと覚悟をして居ました。此処で御目に懸れるとは全く神様の御引き合せ、イヤ是非ともお世話に預かりませう』 ケース『吾々両人は四ケ月前まで、バラモン軍の棟梁ランチ将軍の副官を致して居りましたガリヤ、ケースで厶ります。何時の間にか立派な建築が出来たぢやありませぬか』 初花姫『昼夜兼行で数万の人夫を使役し、やつと此頃出来上つた所です。御覧の通りまだ壁も乾いて居りませぬ』 ケース『成程さう承はれば、どこともなしに生々しいやうな気分がする。併しながら昨冬此処に陣取つて居た事を思へば、木の芽はめぐみ、草は萌え、まるで地獄から天国へ行つたやうな気が致します』 初花姫『サア皆さま、私が御案内致しませう』 初『もし姫様、折角機嫌よくお遊びの途中になつては済みませぬ。放つて置いて下さいませ。併し一寸物をお尋ね致しますが、このお館には高姫、杢助と云ふ両人が大将となつて頑張つて居ると聞きましたが、如何で厶いませうか』 初花姫『ハイ、杢助様と高姫様がお越しになり、ウラナイ教とやらを非常にお説きになつて居ます。初稚姫様のお話を聞いて、次に御両人のお話を聞きますと、それはそれは詳しう分ります。つまり初稚姫様は、ほんの概略を仰有るなり、杢助、高姫様は噛んで含めるやうに細かう説いて聞かして下さるので、どちらの方にもお世話になつて居ります』 徳『エエ一寸承はりたいですが、此お館に小北山の教主松姫様が、牢獄に打ち込まれお苦しみとの事、それは事実で厶いますか。今ここに松姫の娘、お千代さまと云ふのが、泣いて吾々に頼まれましたから、実否を探らむと参つたのです。何卒包み匿さず事実を仰有つて貰ひたいものですな』 初花姫『ハイ、何でも松姫さまとかが見えまして、大変な、高姫様、杢助様との間に争論が起つて居たやうです。其後は、どうなつたか妾は存じませぬ。大方仲直りが出来たかと存じます』 千代『イエ皆さま、お母さまは牢の中へ打ち込まれたのよ。さうして此初花姫さまに化けて居るのは、妖幻坊の眷族ですから用心なさいませ。私だつてこんなものよ』 と云ふより早く獅子のやうな古狸となつて、ノソリノソリと奥を目蒐けて這ひ込んで了つた。お菊は又もや、 お菊『をぢさま左様なら、私の正体はこれだわ』 と云ふより早く、以前のやうな大狸となつて又もや駆け込んで了ふ。 四人の男は不審に堪へず、初花姫の正体を見届け呉れむと、眼を怒らして目ばなしもせず睨んで居た。 初花姫『ホホホホ、まア皆さまの六つかしいお顔、サウ睨んで頂くと私の顔に穴があきますよ。この浮木の森には古狸が居まして、チヨイチヨイワザを致しますので、それを防ぐために三五教の神様をお祀りして居るので厶いますよ。貴方等の御神力によつてあの可愛らしい女の正体が現はれたのですよ。何が化けて居るのか分つたものぢやありませぬ。ほんに化物の世の中ですからな。妾も何かの変化ぢやないか、よく調べて下さい』 ガリヤ『イヤ決して決して貴女は疑ひませぬ。併し浮木の森は妖怪の巣窟ですから、斯様な所へお館をお建てになれば、随分狸の巣がなくなるから、ワザを致しませう』 初花姫『ハイ父も困つて居ますの、自分の小間使だと思つて居れば、毛だらけの手を出したりして仕方がありませぬ。何卒初稚姫様が居られますから、あの方と力を合せて妖怪退治をして下さい。高姫さま、杢助さまも何だか怪しいやうな気がします。中にも杢助さまなぞは耳がペロペロ動くのですもの』 ケース『成程、吾々も実は狸に化かされ、真裸になつて相撲を取らされて来ましたよ、なア初さま、徳さま、アハハハハハ』 初花姫『ホホホホ、本当に悪い狸が沢山居ますので、何とかして退治せねばならないと申して沢山の家来を四方に遣はし狩立てましたけれど、到底人間の力ではいけませぬ。神力高き御方の法力に依らねば駄目だと申し、俄に信仰を致したので厶います。サア斯様な所で立話をして居ては詮りませぬ。何卒奥へ行つて休息して下さいませ』 ガリヤ『然らば遠慮なく御厄介になりませう』 と幾つかの門を潜つて玄関口についた。 初花姫『サア何卒お入り下さいませ。俄作りで準備も整はず、不都合の家で厶います』 ケース『いやどうも有難う、実に立派な御殿で厶います。以前とは面目を一新し、吾々が駐屯して居た時の面影は少しも厶いませぬ。まるで別世界へ行つたやうで厶います』 ガリヤ『サア皆さま、御免を蒙つて通らして頂きませう』 『ハイ』 と一同は初花姫他七人の美女に後先を守られて、奥へ奥へと進み行く。観音開きの庫のやうな一室に請ぜられた。以前にランチ、片彦両人が請ぜられた居間である。五脚の椅子が丸いテーブルを中にして行儀よく並べてある。さうして随分広い居間であつた。初花姫は四人を案内し各椅子に着かしめた。四人は何とはなしに気分のよい居間だと、満足の体で安全椅子に凭れかかり、欄間の彫刻などを眺めて頻りに褒めちぎつて居る。初花姫は、 初花姫『一寸父に報告を致して来ますから、皆さま此処で御休息を願ひます。左様なら』 と軽く挨拶して七人の侍女を伴ひ此場を立ち去つた。四人は八人の女の綺麗な事や、何ともなしに淑やかな事、どれもこれも優劣のない美人なる事などを涎を垂らして語り合つて居る。初公は思ひだしたやうに、 初『皆さま、吾々はかうして結構な座敷に休んで居るのもよいが、此処へ来た目的は松姫さまを救ひ出す為ではなかつたかなア』 ガリヤ『そりやさうだつた。併しお千代、お菊と云ふ奴、劫経た狸の正体を現はしよつたぢやないか。あれから見ると吾々は一寸狸に騙されよつたのだ。さうすると、あいつの云ふ事は当にならぬ。松姫様の此処に囚はれて居るのは全く嘘だと思ふが、君達はどう思ふ』 『サア』 と三人は首を捻つて居る。そこへ光つたものを衣服一面に鏤めた妙麗の美人が、ドアを開いてニコニコしながらやつて来た。最前見た初花姫以下も美しかつたが、これは又素的滅法界のナイスである。そして背は少し高く、どこともなしに犯すべからざる威厳が備はつてゐる。四人は思はずハツと頭を下げ敬意を表した。美人は一脚の空椅子に腰を下し淑やかに、 (初稚姫)『妾は三五教の宣伝使初稚姫で厶います。よくまアお越し下さいましたなア』 ガリヤ『拙者は治国別様の弟子でガリヤと申します。何卒お見知りおかれまして御指導を願ひます』 ケース『拙者はケースと申します、何分宜敷くお願ひ申します』 初『某は初公別と申します』 徳『拙者は徳公別と申す、未来の宣伝使で厶います。何分宜敷く、万事お引き立てを願上げ奉ります』 と、ド拍子のぬけた声で挨拶をする。 初稚姫『早速ながら貴方等にお願ひ致したい事が厶います。それは外の事では厶いませぬ。杢助、高姫と云ふ三五教に於けるユダがこのお館へ旨く入り込みまして、妾の説を極力攻撃致し、又ランチ、片彦の両人を石牢に打ち込み、その上松姫様まで何処かへ匿して仕舞つたので厶います。彼高姫、杢助は狸を使ひまして人の目をくらまし、変幻出没自在の魔力を発揮致しますれば、妾一人のみにては如何ともする事が出来ませぬ。誰かのお助けを借りたいと大神様を念じて居ました。所が明日は三五教の信者を四人ばかり寄こしてやらうと仰有つたので、首を長くして待つて居ました。城主如意王様も初花姫様も大変な御心配で厶います。どうかお力をお貸し下さいますまいか』 ガリヤ『ハイ、お頼みまでもなく吾々は一旦主人と仰いだランチ、片彦様の御遭難を聞いて、これが黙つて居られませうか。最早義のためには命を捨てます。なあケース、一つ獅子奮迅の活動をやらうではないか』 ケース『イヤやりませう、姫様、御心配なさいますな。きつと悪魔を退治してお目にかけませう。高姫、杢助、如何に妖術を使ひましても、此方には正義の刃がありますから、大神の愛善の徳と信真の光によつて、見事化を現はしてお目にかけませう』 初稚姫『何卒宜しくお願ひ致します』 初『吾々と雖もお師匠様の松姫様を、どうしても取返さなくてはなりませぬ。徳公と両人力を協せて高姫、杢助の魔法を破つて御覧に入れませう』 初稚姫『館の様子はほぼ呑み込んで居りますれば、ランチ、片彦様初め松姫様の在処を力を協せて探し出し救ひ出して頂きませう。唯些し心配なのは松姫様の事で厶います。何でも水牢に放り込んだのではあるまいかと存じます』 初『猪口才な高姫、杢助、今に見よ、思ひ知らして呉れるぞ』 と思はず知らず大音声に呼ばはつた。慌しくドアを押開けて入つて来たのは杢助、高姫の両人であつた。両人は棒千切を振り上げ、初稚姫の左右より目を怒らせながら、 杢助『ヤア初稚姫、よくも吾々が計略の穴に陥つたなア、覚悟致せ』 と打つてかかる。初稚姫は椅子を取つて受け留める、高姫は又棍棒にて空気を切りブンブン唸らせながら、 高姫『ヤア初稚姫、覚悟を致せ、観念せい』 と一人の女に二人の男女が渡り合ひ、互に秘術を尽して戦ふ。四人は黙視するに忍びず、各椅子を取つて、杢助、高姫に打つてかかる。七人は渦をまいて室内を荒れ狂ひ、漸くにして高姫、杢助は隙を窺ひ棍棒をなげつけ、雲を霞と此場を逃げ出した。 初稚姫は涙ながらに四人に向ひ、急場を救はれし事を感謝した。 (大正一二・一・二七旧一一・一二・一一加藤明子録) |
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霊界物語 | 52_卯_小北山の文助の改心物語 | 08 巡拝 | 第八章巡拝〔一三四四〕 イク、サールの二人は、大広前の神殿を拝礼しをはり、蠑螈別が籠りしと云ふ館の前に立つて、 サール『蠑螈別お寅婆さまの古戦場 見るにつけても可笑しくなりぬ』 イク『この館土瓶が踊り徳利舞ひ 盃われし古戦場なり』 サール『魔我彦やお寅婆さまが改心を なしたる場所も此館なり』 イク『酔ひドレの熊公さまが飛込んで 脅し文句で金を千両(占領)。 一段と高く築ける段梯子 登りて行くも姫を訪ねて』 二人は木花姫を祀りたる小さき祠に参拝し拝礼を了り、 イク『木花姫神の恵は目のあたり 開き初めにき木々の梢に』 サール『木の花の姫の命の御前に その鼻高をさらすイクなり。 天教の山より下りし皇神は わが馬鹿面を笑ひますらむ。 イクの奴狸の曲に魅まれて 恥も知らずに大前に来つ』 斯く歌ひ、今度は金勝要神の祠の前に進み拝礼を了り、 イク『縁結ぶ畏き神と聞きしより ゐたたまらずして詣で来にけり』 サール『其面で何程神を拝むとも 妻となるべき人のあるべき』 イク『吾輩の顔を眺めて笑ふより 一寸見て来い水鏡をば』 サール『顔容姿で妻が出来ようか 魂麗しき人でなくては。 此様に見えても俺はをちこちの 女にチヤホヤされる曲者』 イク『其様に慢心ばかりするでないよ 乙女に馬鹿にされた身ながら。 要の神貴の御前にこんな事 囀る奴は鰥鳥かも。 さア行かう大神様に恥かしい 女なんぞと言ふ面でなし アハハハハハ』 と笑ひながら玉依姫(竜宮の乙女)様を祭つたる祠の前に進みよつた。 イク『いろいろの宝をためて海の底に 隠し給ひし欲な神様』 サール『馬鹿言ふな乙姫様は今は早 物質欲に離れた神よ』 イク『これはしたり失礼な事を言ひました 聞直しませ乙姫の神』 サール『神様は宝を以て人々に 与へ給へどお前には列外』 イク『列外か又案外か知らねども 宝なくては世に立つを得ず』 サール『物質の宝求めて何になる 朽ちぬ宝を霊につめよ』 イク『馬鹿云ふな水晶玉も物質よ されど暗夜を照らしましける。 金なくて何のおのれが人間かと 世の人々は相手にもせず。 それ故に俺は金銀財宝を むげには捨てぬ冥加者ぞや』 サール『イクの奴イク地の足らぬ証拠には 宝々と憧れゐるも。 神様は何程宝あるとても 貧乏面にくれるものかは。 サア行かう目の正月をするよりも 宝忘れて宝拾ひに。 俺の云ふ宝といふは金銀や 水晶でない教の宝よ』 かく歌ひ終つて、今度は中段の宮の前に進んだ。此処には日の大神の祠が建つてゐる。 イク『伊弉諾の皇大神を斎りたる この御舎は殊に麗し』 サール『其筈だつくしの日向の立花で 禊ぎ給ひし神に坐しませば』 イク『許々多久の罪や汚れに溺れたる 霊を洗へ神の御前に』 サール『曲神に騙られたる愚さを 許し給へと詫びよイク公』 イク『かもてなや頭打たりよが打たりよまいが お前の知つた事でなければ』 サール『道伴れの一人が狸に叩かれて 吠面かわくを見るつらさかな。 天教の山に天降りし日の神の 宮は殊更高くおはせり』 又此処を去つて、今度は月の大神を斎りたる祠の前に進んだ。 イク『素盞嗚の神の御霊を祀りたる 社の前に月の大神』 サール『古狸梟の奴に馬鹿にされ 乙女にまでも笑はれにけり。 さながらに愛想も月の大神が 貴様の面を笑ひ給はむ』 イク『馬鹿云ふな善言美詞の神様だ 必ずよきに見直しまさむを』 サール『此男世界に稀な馬鹿なれば 守らせ給へ月の大神』 イク『サールこそ馬鹿の証拠にや水晶の 玉をばイクにせしめられける』 サール『イクの奴イク地がないと知つた故 玉を持たせておいたばかりよ』 イク『サア行かう月の光に照らされて 何とはなしに恥かしき宵』 今度は最上段の国常立尊の祠の前に参拝した。 イク『掛巻も畏き神の御前に 詣で来りし吾は罪人。 さりながら悔い改めて大神の 道に仕へしイク身魂なり』 サール『われこそは皇大神の御恵に 与りました未サールの神』 イク『罰当りサールのやうな面をして 坤とはよくもいはれた。 お前こそ世人がサールの人真似と 嘲るとても仕方あるまい』 サール『三五の道にサール者ありと云ふ 此神司知らぬ馬鹿者』 イク『国所立のき彦の狼と 人に言はれた馬鹿者は誰』 斯く二人は拝礼を終り、次いで互に揶揄ひ合ひながら、枝振りのよい松の七八本かたまつた下に、余り広からず狭からざる瀟洒たる一棟が建つてゐる。それが所謂松姫の館であつた。 イク『常磐木の松の木蔭に建てられし 松姫館をなつかしみ思ふ』 サール『吾慕ふ初稚姫のいます上は 一しほ恋しき館なりけり』 イク『小北山要となりし此館は 扇の如くに建てられにける』 サール『常磐木の松の緑は青々と とめどもなしに伸び立てるかも』 イク『初稚姫神の司がますと聞けば 胸轟きて進みかねつつ』 サール『臆病風又吹き荒みイクの奴 イク地のなきを暴露せりけり』 イク『そんな事言ふなら俺が先に立ち 一つ肝をば見せてやらうかい』 サール『面白い初稚姫の前に出て 叱り飛ばされベソをかくだろ』 イク『水晶の玉を抱きしわれなれば 初稚姫も褒め給ふべし。 その時は指をくはへてサールの奴は 恨めしさうに見てゐるがよい』 サール『姫様に会うたら皆素破ぬき 一伍一什を申し上ぐべし。 その時は赤い顔をばせぬがよい 梟鳥にもなぶられる奴よ』 イク『イクらでも人の悪口言ふがよい 首吊りそこねし死損ね奴が』 サール『貴様とて矢張首吊り仲間ぞや 何うして姫に顔があはせよう』 二人は流石に恥かしさに堪へかね、松姫の館の四五間ばかり側までやつて来て、互に「お前から先へ行け」「イヤ貴様から先へ」と、押合ひをやつてゐる。スマートは二人の影を見るより、喜んで走り来り、胸に飛びついたり、背中に抱きついたり、頬をなめたり、勇み出した。 イク『ヤア、スーちやんか、先づ先づ御無事でお目出度う。漸く此処までお後を慕つて参りました。何卒姫様に宜しうお取りなしを願ひますよ』 サール『ハハハハハ馬鹿だなア。此頃の衆議院の候補者のやうに、犬にまで追従してゐやがる、犬がもの言ふかい』 イク『主人に威勢があると、何だか犬に迄頭が下がるやうな気になるものだ。そこが人情の然らしむる所だよ。娘を嫁にやつてある在所へ入ると、其親は野良犬にでも辞儀をするといふぢやないか。貴様も訳の分らぬ奴だなア。そんな事で今日の虚偽万能の世の中に、どうして生存が続けられると思うてるか、時代遅れの骨董品だなア』 サール『ほつといてくれ、何程偉さうに云つても、姫様に叱られるかと思つて、ビリビリしとるやうな腰抜の言葉に、何うして権威があるものか、マア、俺のすることを見てをれ、エヘン』 と云ひながら、思ひ切つて門口に立寄り、怖さうに中を眺めた。初稚姫と松姫は何事か一生懸命に、ニコニコしながら話の最中であつた。サールがガラリと戸を開け、 サール『へーご免なさいませ。松姫様、始めてお目にかかります。私は祠の森のサールと申す者、モ一人の従者はイクと申します。イヤもう意気地のない野郎で厶いますから、何卒可愛がつてやつて下さいませ』 松姫『それはそれはよくマアいらせられました。サ、どうぞお上り下さいませ』 サール『スマートさまも御壮健で、大慶至極に存じます』 と初稚姫に御機嫌を取らうといふ考へか、切りに犬に追従してゐる。イクは不在の家へ盗人が這入るやうな調子で、ビリビリもので、足音もさせず這入つて来た。 初稚姫は二人を見て、言葉静に、 初稚姫『貴方はイクさま、サールさま、神様へお参りで厶いますか』 二人は、 イク、サール『へー、あの、何です』 と頭をかき、モヂモヂとして土間に踞んで了つた。 初稚『妾に何ぞ御用が厶いましたのか、何卒早く仰有つて下さいな』 イクは思ひ切つて、 イク『イヤ実の所は姫様の、何処までもお供をさして頂かうと思ひまして、お後を慕ひ参つたので厶います。吾々両人の真心をお汲み取り下さいまして、是非にお供をさして頂きたう厶います』 初稚姫『貴方、山口の森で何か変つたことは厶いませぬでしたか』 イク『ハイ、イヤもう面白いこつて厶いましたよ。結構な御神力を戴いて鬼の奴、二匹迄遁走させました。それはそれは随分愉快なもので厶いましたよ』 初稚姫『それはお手柄で厶いましたな。そして貴方、何だか神様から頂いたでせう』 イク『ハイ、頂きました』 初稚姫『無事に此処まで、貴方は守護して来ましたか。途中に他の者の手に入るやうなことはありませなんだかな』 イク『へ、此通り、此処に所持して居ります。実に立派な水晶玉で厶います』 初稚姫『それは夜光の玉と云つて、水晶ではありませぬ。筑紫の島から現はれた結構なダイヤモンドですよ』 イク『へーエ、さうで厶いましたか、誠に有難いこつて厶いました』 初稚姫『貴方、途中で妖怪につままれ、一旦ふんだくられるやうな、不都合な事はなさいますまいな』 サール『イヤもう恐れ入りました。実の所は、古狸に騙かされ、取られて了つたのですが、お千代さまのお蔭で再び元へ返つたのです』 初稚姫『其玉は一旦曲神の手に入つた上は、大変に汚れて居りますよ。これは今のうちに禊をなさらぬと、役に立たなくなりますからねえ』 イク『塩水を貰つて清めませうかなア』 初稚姫『貴方の無形の魂をお清めになれば自然に玉は浄まります。そしてお前さまは其玉に執着心を持つてゐるでせう。なぜサールさまに渡さなかつたのですか。一旦貴方の手に入り、妖魅に取られたのだから、貴方は玉に対して、監督権を自然に放棄したやうなものです。今度はサールさまに持たせておくが宜しい。実の所は妾より日の出神様にお願ひ申し、貴方等の熱心に感じて、お二人様の中へ一個をお与へ申したのですから、此玉は二人の身魂が一つになつた証拠です。決して一人が独占すべき物ではありませぬ。即ちイクさまの心はサールさまの心、サールさまの心はイクさまの心、二人一体となり、神界の為に活動なさるやうに仕組まれてあるのです』 サール『オイ、イク州、どうだ。ヤツパリ宝の独占は許されまいがな。貴様が自分の物のやうにして、俺にも碌に見せず、懐へ捻ぢ込んで来よつたものだから、神罰が当つて、狸の野郎に一旦取られて了つたのだよ』 イク『モシ姫様、さうすると此玉は、これからサールに渡すべき物で厶いますか』 初稚姫『誰の物といふ訳には参りませぬ。お二人さまが交代に保護なさるれば宜しい。そして此宝は世界救済の為の御神宝で、人間の私すべき物ではありませぬ。暫く拝借してゐる考へになつて、大切に保存なさいませ。そして其玉が手に入つた以上は、妾について来る必要はありませぬ。一時も早く祠の森に帰つて下さい。貴方の御親切は有難う厶いますが、妾は神様が沢山に守つて下さいますから、決して淋しい事は厶いませぬからな』 サール『それなら、此玉を貴方に御返し致します。何卒、どんな御用でも致しますから、そんな事仰有らずに、サール一人でも、ハルナの都までお供を許して下さいませ。モシ此通りで厶います』 と熱誠を面にあらはして、涙を流しながら頼み込むのであつた。 初稚姫『夜光る宝を神に得し君は 祠の森に帰り行きませ。 この玉は日の出神の賜ひてし 暗夜を照らす珍の御宝。 曲神のたけり狂へる月の国へ かかる宝を持ち行くべしやは。 汝こそは此御宝を守るべく 計り給ひし神の御心 ハルナへは供を連れ行く事ならず 神の厳しき仰せなりせば』 イク『姫様のその御言葉には背かれず さりとて此儘帰るべきやは』 サール『いかならむ仰せ受けさせ給ふとも 許させ給へ見直しまして』 初稚姫『益良夫の心の花は匂へども 手折らむ由もなきぞうたてき』 イク『さりとても此儘これが帰らりよか 仮令死すとも姫に仕へむ』 サール『どうしても許し給はぬ事ならば われは此処にて腹を切るなり』 松姫『姫君の厳の言葉を聞かずして 迷へる人ぞ憐れなりけり。 赤心の溢れ出でたる益良夫が 心はかりて涙こぼるる。 さりながら皇大神の御心に 背くべしやは宣伝使のわれ』 初稚姫『イク、サール二人の司よ村肝の 心鎮めてかへりみませよ』 イク『今暫し思案定めていらへせむ 何は兎もあれ頼み参らす』 サール『姫君の言葉を背くにあらねども 弥猛心を抑ゆるすべなし さりながら暫し彼方に休らひて 身の振方を胸に問ひみむ』 斯く歌を以て姫に答へ、蠑螈別、お寅の住居せし元の教主館に退きて、二人は茶を啜りながら、腕を組み、吐息をもらし、進退谷まつて、涙に暮れてゐた。これより初稚姫は松姫に別れを告げ、二人の隙を窺ひ、スマートを伴ひ、逸早く聖場を立ち出で、征途に上ることとなつた。イク、サールの両人は、依然として初稚姫は松姫館にいます事と確信し、お菊に酒を勧められ一夜を明かした。そして文助の危篤を聞いて、夜中頃館を飛出し、河鹿川に降つて水垢離を取り、一生懸命に其恢復を祈つた。 (大正一二・一・二九旧一一・一二・一三松村真澄録) |
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霊界物語 | 54_巳_ビクの国の物語2(後継者問題) | 08 祝莚 | 第八章祝莚〔一三九四〕 ビクトリヤ城の客殿には刹帝利、ヒルナ姫を始め治国別の一行、及び内事司のタルマン、左守、右守を始めハルナ、カルナ姫、並びに数多の役員が列を正し、結婚式が行はれた。此事誰云ふとなく城下に拡がり、寄ると触るとレコード破りの結婚だと云つて、話の花が長屋の裏迄咲いてゐた。さうして政治大改革の象徴だと国民一同に期待されたのである。ここに治国別の媒介にて神前結婚の式も恙なく相済んだ。 それから刹帝利、ヒルナ姫は治国別に厚く礼を述べ吾居間に帰つた。後に新夫婦を始め一同の祝宴が開かれた。 治国別は祝歌を歌ふ。 治国別『神代の昔伊邪那岐の皇大神は伊邪那美の 神と諸共高天原にて天の御柱巡り会ひ 妹背の道を結びまし山川草木の神までも 完全に委曲に生み玉ひ此世を安く美はしく 造り給ひし雄々しさよその神術に習ひまし ビクトリヤ城の奥の間で時代に目覚めたアールさま 上下の障壁撤回し耕奴の家に生れます ハンナの姫と合衾の式を挙げさせ玉ひしは 之ぞ全く天地の尊き神の御心に かなひ奉りし吉例ぞ尊き卑しき差別をば 神の御子たる人草につけて待遇に差別をば 作ると云ふは皇神の心を知らぬ曲業ぞ 一陽来復時臻り至仁至愛の大神の 大御心のそのままに妹背の道を開きまし 国人等に其範を示させ玉ふ尊さよ かくなる上は国民は王をば誠の親となし 主と崇め師となして心の底より真心を 捧げて仕へまつるべし神が表に現はれて 善と悪とを立別ける此世を造りし神直日 心も広き大直日只何事も人の世は 直日に見直し聞直し世の過ちは宣り直す 皇大神の御前に今まで道に違ひたる 形式差別を撤回し上下心を一にし 御国のために国民が力を協せ心をば 一になして君の辺を弥永久に楽しみて 守り仕へむ惟神神は嘸々此式を 諾ひまして永久に妹背の道を守りまし ビクの国をば弥栄に栄え賑せ玉ふべし ああ惟神々々神の御前に誠心を 捧げて祝ひ奉る』 左守司は金扇を開き自ら踊り自ら謡ふ。 左守(謡曲)『ああ有難や尊やな、掛巻も綾に畏き天地の、皇大神の神勅もて、ビクの国に鎮まり居ます、刹帝利、ビクトリヤ王の、初めての御子と在れませる、王子アールの君に、耕奴の家に生れ玉ひし、心雄々しき才女と、鴛鵞の衾の永久に、睦み親しみ妹と背の、道を開き玉ひたる、これの御式の尊さよ。仮令首陀の家に生れたりとも、誠に明かき賢女を、娶らせ玉ふ若君は、天地開けし其時より、例もあらぬ珍の御子、賢しき御子に在しまして、上と下との隔を絶ち、下国民を憐みまし、美はしき政を開かせ玉ふ、端緒ぞと左守の司を始めとし、右守司は云ふも更、百の司に至るまで、今日の芽出度き御式をば、仰ぎ喜び拍手の声も賑しく、その喜びは天地に、響き渡りて大空の、雲をつきぬき和田の原、水底深く響き渡り、四方八方の国の内外隈もなく、此新しき妹と背の御契を、仰がぬものぞなかるべし。実にも芽出度き君が代の、千代万代も極みなく、鶴は御空に舞ひ遊び、亀は御池に浮びつつ、君が幾代を祝ぎて、仕へまつるぞ芽出度けれ。朝日は照るとも曇るとも、月は盈つとも虧くるとも、天は地となり地は天となるとも、君が誠は幾千代も、変らせ玉ふ事ぞあるべき。実にも尊き三五の、神の教に仕へます、御空も清く治国別の、珍の宣伝使、二人の仲に立たせ玉ひ、神代の例そのままに、婚嫁の道を新しく、始め玉ひし尊さよ、神の御稜威も高砂の、尾上の松の友白髪、積もる深雪の何処迄も、溶けずにあれや妹と背の道、ああ惟神々々、恩頼を喜び勇み願ぎ奉る』 と謡ひ終つて座についた。右守司は又謡ふ。 右守(謡曲)『天なるや乙棚機のうながせる、玉の御統瓊御統瓊に、あな玉はや、みたにふたわたらす、あぢしき高彦根の神の、その御神姿にも比ぶべき、珍の御子なるアールの君、神の恵みに抱かれて、ここに理想の妻と在れませる、ハンナの姫を娶らせ玉ひ、今宵芽出度く合衾を、完全に委曲に挙げさせ玉ひ、四海波風静にて、枝も鳴らさぬ君の代の、その礎と畏くも、婚嫁の道を行はせ玉ひ、天地の神に代らせ玉ひて、吾国民を心安く、治め玉はむ天の御柱、国の御柱とこれの館に並ばして、すみきり玉ふぞ尊けれ。吾は右守の神司、まだ新参の身なれども、君の御為国の為、誠の事と知るなれば、仮令生命は捨つるとも、仕へまつらむ若君の御前、ハンナの姫の御前に、ああ二柱の妹と背の君よ、左守司を始めとし、その外百の司等を、誠の家の奴と思召され、如何なる事も打明けて、吩ひ咐け玉へ宣らせ給へ、上下睦ぶ君が代の、瑞祥示す今宵の空、月の光もさやかにて、星さへ今日は何時もより、光りも強くきらめき渡り、世継の君の行末を、祝ぎ守らせ玉ふなり、荒き風もなく悪き雨もなく、五穀は豊に実のり、天下太平国土成就、天神地祇を崇め祀り、父と母との君によく仕へまし、下国民を憐れみて、美はしき清き政を、布かせ玉へ聖の君と謡はれて、神の賜ひしビクの国を、弥永久に守らせ玉へ、神に誓ひて右守の司、若君二柱の御前に、慎み敬ひ願ぎ奉る。朝日は照るとも曇るとも、月は盈つとも虧くるとも、星は空より墜つるとも、地は震ひ山は裂け、海はあせなむ世ありとも、君に対して二心、吾あらめやも、心の限り身の限り、身を犠牲に奉り、君の御為世の為に、清き尊き三五の、神を拝み仕へまつり、君の御言を畏みて、下万民に臨みまつらむ、二柱の若君心安くましませよ。右守の司が天地の、皇大神の御前に、誠心捧げ今日の慶事を、寿ぎ奉る、ああ惟神々々、御霊幸はひましませよ』 タルマンは又謡ふ。 タルマン『ビクトル山の山麓に大宮柱太知りて 皇大神を奉りつつ国の王と在れませる ビクの御国の刹帝利仁慈の君に仕へたる 内事司のタルマンが今日の慶事を心より 喜び勇み祝ぎ奉る三五教の神司 治国別の宣伝使松彦竜彦万公の 珍の御子をば伴ひて天降りましたるその時ゆ 此城内に塞がれる醜の雲霧あともなく 吹き払はれて千万の艱みは科戸の春風に 散り行くあとは青々と野辺の草木は茂り合ひ 四方の山辺はニコニコと笑ひ初めたる芽出度さよ かかる時しも刹帝利世継の君と在れませる アールの御子を始めとしその外五人の御子等は 恙もあらず大神の恵みに安く帰りまし 吾君始め司等喜び歓ぐ間もあらず 又もや今日は合衾の芽出度き式を挙げられて 千代の礎を築きますその瑞祥ぞ有難き 三千世界の梅の花一度に来る常磐木の 松の緑もシンシンと花咲き匂ふ君が御代 枝も茂りて鬱蒼と巣ぐへる鶴の声さへも いと勇ましく千代と呼ぶ雀雲雀も諸共に 今度の慶事を祝ふ如声勇ましく歌ひけり ああ惟神々々神の恵は目のあたり 今迄悩ませ玉ひたる君の心は春の日の 氷と解けて桜花一度に咲き出す如くなり 花と蝶とに譬ふべき妹背の君の御姿 仰ぐも畏し大空の八重の雲路を掻き別けて 下り玉ひし天人か天津乙女の降臨か 見るも芽出度き御姿喜び勇み御前に 真心こめて祝ぎ奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 誠の力は世を救ふ誠一つを立て通し ビクの御国を何処迄も上下心を協せつつ 守らせ玉へ惟神若君様の御前に 慎み敬ひ願ぎ奉るああ惟神々々 御霊幸ひましませよ』 と歌ひ終つて座に着きにける。 (大正一二・二・二一旧一・六於竜宮館北村隆光録) |
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霊界物語 | 54_巳_ビクの国の物語2(後継者問題) | 12 妖瞑酒 | 第一二章妖瞑酒〔一三九八〕 甲乙丙の三人はベツト、フエルの両人を庫の中へ突つ込みおき、代る代る入口に錠をおろして番をする事となつた。此屋敷は祖先代々から、玉木の村の里庄を勤めてゐる豪農で、庫の数が二十戸前も並んでゐた。ここへ入れへおけば、絶対に気のつく筈がない、窓から水や食料を放り込んで、娘の帰る迄、二人をここに監禁する事としたのである。そして二人のチユーニツクはスツカリはがせ、相当の衣類を与へておいたのである。甲の名はシーナといふ。此男はテームス家の譜代の家来であつて、テームス家一切の家政を司つてゐた。 さて道晴別はシーナに導かれ、テームス、ベリシナ夫婦の前に現はれて、シメジ峠の頂上でベツト、フエルに会うた事や或は其神力に打たれて此処迄引張られて来た事などを、詳しく物語つた。テームス夫婦は非常に喜んで茶菓などを出し、湯を沸せて風呂に案内し、宣伝服を着替させ、客室に請じ、娘の危難の事情を物語つた。 テームス『貴方は音に名高き三五教の宣伝使様、能くマア来て下さいました。併し乍ら何千といふ軍隊の中へ二人の娘が攫はれて参つたので厶いますから、いかに御神力強き貴方様でも、容易に取返して頂く事は難かしう厶いませうなア』 と顔を覗いた。道晴別は少時双手を組んで思案の体であつたが、何か確信あるものの如く微笑み乍ら、 道晴『ああ決して御心配なさりますな。到底一通りや二通りでは行きますまいが、何とか工夫を致しまして、敵中に忍び込み、お嬢さまを連れ帰ることに致しませう。併し乍ら連れ帰つた所で、又もや取返しに来られては何にもなりませぬ、此奴は徹底的に敵を改心させるか、但は追散らすか致さねば駄目でせう』 ベリシナ『どうか、老夫婦が首を鳩めて日夜心配を致して居りますから、神様の御神力に仍つて御助け下さいますやう、御願申します』 道晴『当家はウラル教と見えますが、貴方は三五教を信仰する気はありませぬか』 ベリシナ『ハイ、神様は元は一株、祖先が祭つた神様を俄に子孫が替へるといふのは、何だか先祖に対してすまないやうな気が致します。貴方の信仰遊ばす三五の神様をお祭り致しても神罰は当りますまいかな』 道晴『神様は一株だから、ウラル教にならうが、三五教にならうがそんな小さい事を仰有る神様ぢやありませぬ、そして最も神徳の高い詐りのない誠一つの教を信仰するが祖先へ対しての孝行で厶いませう。先づ第一に三五の神様をお祭り致し、其御神徳に仍つて、お二人様の命が助かるやう、願はうぢやありませぬか。それとも、どうしてもウラル教を改めるのが厭と仰有るならば、それで宜しい、決してお勧めは致しませぬから……』 テームス『婆の意見は何と申すか知りませぬが、これ丈朝から晩迄、ウラルの神様を信仰し乍ら、こんなに苦しい目に会ふので厶いますから、ウラル教の神様も此頃はどうかして厶るだらうと疑つて居ります。現にビクの国のビクトリヤ王様もウラル教でゐらつしやるのに、あの様な大難にお会ひなされ、三五の神様に助けられたとの噂が立つて居りまする。何卒宜しう御願ひ致します。ベリシナ、お前もヨモヤ異存はあるまいなア』 ベリシナ『貴方がさう仰有るのならば、女房の私は決して異議は申しませぬ。どうぞ祀つて貰つて下さいませ』 道晴『然らば三五教の神様と、ウラル教を守護遊ばす盤古神王様を並べて祀る事に致しませう。神様は元は一つで厶いますからなア』 テームス『いかにも仰の通り、実に公平無私なお言葉、先づ第一に神様をお祀り致し、其上娘を救つて頂く事に願ひませう』 とここに愈、夫婦の決心が定まつたので、道晴別は俄に神殿を作り、簡単なお祭をすませ、いよいよ猪倉山に向つて、スミエル、スガールの姉妹を取返さむと進み行く用意に取かかつた。幸、ベツト、フエルの軍服があるので、道晴別とシーナの両人は之を着用に及び、夜に紛れて陣中に進み入る事となつた。 シーナは近くの事とて、猪倉山の地理は能く知つて居つた。谷川の激流を右に飛び越え、左へ渡り、漸くにして東北西の三方深山に包まれた一方口の広い谷間に着いた。三千人許りの兵卒の中へ、同じ軍服を着て紛れ込んだのだから、上の役人ならば目につくが、軍曹や平兵の服では容易に見破られる気遣ひがないのである。 月は東の山の端を覗いて、谷川に光を投げてゐる。彼方此方の若葉の間から時鳥の声が面白く聞えて来る。見上ぐる許りの大岩の麓に四五人のバラモン兵が趺座をかいて夜警を勤めてゐる。何れも皆酒に酔うてゐるらしい。 甲『オイ、敵もないのに、毎日日日夜警計りやらされて居つては、つまらぬぢやないか。夜警も此頃はヤケクソになつて、ヤケ酒でも呑まなくちややり切れない。すつぱい腐つたやうな酒を、カーネル奴、……これは夜警に呑ませ……なんて吐しやがつて、自分等の呑みさし計りをまはして来るのだから、本当にむかつくだないか』 乙『だつて呑まないよりマシだ。別に之を呑まねば軍規に反すると云つて厳命したのでもなし、退屈だらうから、之でも構はねば呑んだらどうだと云つて、カーネルさまが下げて下さつたのだ、チツといたみた酒でも貰はぬよりマシぢやないか』 甲『さうだと云つて、自分達は芳醇な酒にくらひ酔、ホフクー、ゲスラートだと云つて、用もないのに、小田原評定計りやりやがつて、スミエル、スガールの頗る別嬪に酌をさせ、ヤニ下つてゐやがるのだもの、俺達雑兵は殆ど人間扱をされてゐないのだからな』 乙『馬鹿云ふな、そこが辛抱だ。辛抱さへしてゐれば、時節が来たら花が咲くのだ。之からゼネラルの命令に仍つて、猪倉山の城寨が完成した上は、近国を荒し廻り、馬蹄に蹂躙し、大共和国を建設するのだ。さうなれば何うしても人物が必要だ、何程雑兵だつて、汝でもキヤプテン位には登庸されるよ』 甲『ヘン、大尉位になつたつて、何が結構だ、貧乏少尉の、ヤリクリ中尉の、ヤツトコ大尉と云ふぢやないか、そんな事で何うして嬶が養へるか。せめてユウンケル位にしてくれりや、骨折つても可いのだが。三五教の宣伝使の三人や四人に恐怖して、こんな所へ籠城するやうな大将だから、先が見えてゐるワ、何と云つても、鬼春別、久米彦両将軍が馬鹿だからなア』 乙『オイそんな大きな声で云ふな。丙丁戊が居眠つたやうな面して聞いてるぞ。人間の心と云ふものは分つたものぢやない。いつ俺達の裏をかいて、畏れ乍らと、ゼネラルの前へ密告するか分りやしないぞ』 甲『ナニ、こんな奴がそんな事共致してみよれ、忽ちウーンだ』 乙『ウンとは何だい、又糞パツだな、そんな所でウンをやられちや臭くてたまらないワ』 甲『ハハハハ、分らぬ奴だな。三五教の言霊で、ウーンとやつてやるのだい』 乙『汝は元は三五教だな、此奴ア油断のならぬ奴だ』 甲『油断がなるまい。俺はチヤンとビクトリヤ城へ治国別がやつて来た時に、門の外にすくんで、どんな事やりよるかと考へてゐたら、両手を組んで、ウーンとやるが最後、何奴も此奴も体が動けぬやうになつたのだ。そして足計りは自由に動くものだから皆逃げよつたのだ。其呼吸をチヤンと呑み込んでゐる。グヅグヅいふと一寸やつてやらうか』 乙『ソレヤ面白い、一つ此所でやつてみよ』 甲『やらいでかい、マアみて居れ、汝に一つ霊縛をかけてやらう』 と云ひ乍ら、両手を組んで、一生懸命にウンウンと唸つてゐる。余り唸つたので唸つた拍子にブウブウと裏門へ一二発破裂した。 乙『アハハハハ、たうとう屁古垂れやがつたな。大方そんな事だと思うて居つたのだ。余りホラを吹くものぢやないぞ』 甲『俺達は、ヘーたれさまだ、口からホラを吹いて尻からラツパを吹くのが職掌だ』 乙『オイ、丙丁戊、早く起きぬかい。何だか、向ふの方から二人やつてくる様だ。モシや治国別の片割れぢやなからうかな』 治国別といふ声を聞いて、三人の泥酔者は俄に起上り、ソロソロ逃仕度をしかけた。 乙『コレヤ、まだ敵か味方か分らぬ先から逃げ仕度をする奴があるかい。卑怯者だな』 丙『分つてから逃げた所で仕方がないぢやないか、分らぬ先に逃げるのが兵法の奥の手だ。モシ敵でもあつてみよ、抜き差がならぬぢやないか』 乙『モシ敵が出て来たら、俺達が撃退するやうに、一歩も此所より中へ入れないやうに番をしてゐるのぢやないか、肝腎の時に逃げる奴がどこにあるかい。しつかりせぬかい』 かかる所へ道晴別、シーナの両人はチューニック姿で登つて来た。 甲『誰だア、名を名乗れツ』 と呶鳴りつける。 道晴『俺はバラモン軍の軍曹、デクといふものだ』 シーナ『俺はシーナといふ軍人だ。ゼネラル様の命令に仍つて汝達がよく勤めてるか勤めてゐないかを巡検に来たのだ、其ザマは一体何だ』 乙『ヘ、誠に済みませぬ。併し乍ら貴方もウスウス御存じでせうが、ゼネラルから賜つた此お酒、退屈ざましに頂いて居つたのです』 シーナ『頂いた酒なら、呑むなと云はぬが、軍務に差支ないやうに致さぬと困るぢやないか』 乙『ハイ、チツと過ごしましたが、よう考へて御覧なさい、別に敵が来るでもなし、さうシヤチ張つて居つた処で、暖簾と脛押しするやうなものです。私計りぢやありませぬ、皆附近の民家へ行つて、色々のドブ酒を徴発し、勝手気儘に呑んでるぢやありませぬか』 シーナ『かう軍規が紊れては、何うも仕方がない、これからチツと監督を厳重にせなくちやなりませぬなア、デクさま』 デク(道晴別)『ウン、さうだ、チツと之から厳しくやらう。オイ雑兵共、此川に橋を架け』 乙『ヘー、架けないこた厶いませぬが、カーネルさまの御命令に仍れば、……此橋を架けちや可かない……と云つて落されたのですから、一寸伺つた上でなくては、軍曹さま位の命令では聞く事が出来ませぬからなア』 デク(道晴別)『俺は此肩章を見たら分るが、一人は伍長だ。伍長と雖も、汝らの上官だぞ、なぜ上官の命令を聞かないか』 乙『ヘー、そんなら仕方がありませぬ、私達が橋になつて向方へお渡し申しませう。時に軍曹様、マアゆつくりなさいませ。ここに、何ならスツパイ御神酒がチツと計り残つてゐますがなア』 デク(道晴別)『そんな酒は俺は呑みたくない、今玉木村の豪農、テームスの宅へ闖入して、かやうな結構な酒を貰つて来たのだ。何なら、汝、これを一杯呑んだら何うだい』 因に此酒は非常に苛性的な狂乱を起す薬が入つてゐたのである。一寸一口呑むと、何とも知れぬ舌ざはりである。乙は、 乙『ヤア、軍曹殿、話せますなア、ヤツパリ泥棒軍の上官丈あつて、気が利いてますワイ』 デク(道晴別)『上官に向つて、泥坊とは何だ』 乙『それでも、人の内へ入つて、脅かして貰つて来るのは泥坊でせう、ヘヘヘヘ』 デク(道晴別)『マ一杯呑んで見よ、盃を出せい』 乙『盃なんか、気の利いたものはありませぬ、ここに竹製の臨時盃がありますから、何卒これに注いで下さい。竹筒に注いだ酒は又格別に甘いものですよ』 と云ひながら、竹筒をつき出す。デクは瓢からドブドブと注ぎ与へ、 デク(道晴別)『オイ汝一人呑んでは可かないぞ。これは妖瞑酒というて、一口呑めば三十年の命が延びるのだ。二口呑めば三十年の寿命がちぢまるのだ。それだから、之を五人に呑み廻すのだ』 乙『何と難かしい、気のじゆつない[※「じゅつない」とは「術無い」で、為すべき方法がない、という意味。]酒ですなア』 と言ひ乍ら、一口より呑めぬといふので、十分に口にくくんだ。何とも知れない可い味がする、モ一口呑みたくて仕方がないが、三十年の寿命が縮まるのも惜いと思つたか、惜相に甲に渡した。甲は一口呑んで其風味に感じ、又厭相に丙丁戊と呑みまはした。戊の口に廻つた時分は、ホンの舌がぬれる程より無かつた。五人は俄に踊り出し、息苦しくなり、川に飛込んだり、這ひ上つたり、訳の分らぬ事を喋り出して、一目散に陣中に駆込んだ。非常に猛烈な匂がする、此匂を嗅いだものは忽ち感染し、軍服を脱ぎすて、赤裸になつて、川中へ投げ込むのが特色である。次から次へ伝染して、三千人の軍隊の大半は剣を谷川に投すて、チューニックを脱いで、之れ又谷川に放り込み、赤裸となつて、ワイワイと訳の分らぬ事を囀り初めた。次から次へと伝染して、スボスボと赤裸になる者計りなので、カーネルのマルタは之を見て驚き、兎も角将軍に注進せむと本陣指して一目散に駆込んだ、赤裸の沢山の軍人は訳の分らぬ事をガアガアと囀り乍ら、列を作つて、将軍の陣営指して突喊し行く。 (大正一二・二・二二旧一・七於竜宮館松村真澄録) |
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霊界物語 | 54_巳_ビクの国の物語2(後継者問題) | 14 暗窟 | 第一四章暗窟〔一四〇〇〕 鬼春別は双手を組み、失望落胆の色を浮べて何か思案に沈んでゐる。そこへ潔くやつて来たのは久米彦であつた。 久米『将軍殿将軍殿』 と呼ぶ声にハツと気がつき、 鬼春『ヤア久米彦殿、如何で厶つたかな』 久米『いやもう、何うにも、斯うにも仕方のない阿婆摺れ女で実に手古摺りました。止むを得ず最も深い暗窟へ放り込みました。定めて今頃は斃つて居るでせう』 鬼春『それは惜い事を致したものだ。そして姉のスミエルは如何なさつたか』 久米『彼奴も荒縄で括つて暗窟に一緒に放り込みました。扨も扨も心地のよい事で厶いましたワイ。アハハハハ』 鬼春『ヤア、それは惜い事を致したものだ。然しここでは何だか気持が悪い。一度貴殿の御居間へ伺はうと思つてゐた所だ。之から何かの御相談があるから貴殿の室まで参りませう』 久米彦は自分の室に二人の姉妹を隠して置き乍ら、暗き陥穽へ放り込んで殺して了つたと詐つたのだから、鬼春別に来られては忽ち露顕の惧がある。はて困つた事が出来たワイ……と思うたが流石は曲物、故意と平気な顔をして、 久米『吾々の如き者の穢くるしい家へお越し下さるのは、実に恐れ入ります。何うか貴方の御居間で伺はして貰ふ訳には参りますまいかな』 鬼春『いや拙者の居間は男ばかりで、何かにつけて不都合で厶る。貴殿の居間へ参れば女手が二人も揃うてゐるのだから、誠に以て都合が好いと存じ、それで貴殿の居間を拝借しようと申したのだ』 久米彦はハツと顔を赤らめ、……鬼春別は何時の間にか自分の居間に二人が隠してあるのを悟つたのかな、こいつア大変だ……と胸を躍らせ乍ら故意と空恍けて、 久米『ハハハハハ将軍殿は随分疑の深い方で厶るな。吾々もバラモン軍の統率者、左様な卑怯な事は致しませぬ。何卒人格を見損はない様にして頂き度いものですな』 鬼春『ハハハハハ今迄貴殿の人格を見損つてゐたのだ。今日愈人格の程度が分つたので厶る。さう仰せらるるなれば拙者の疑を晴らすために、一度貴殿の居間を明けて見せて貰ひませう』 久米『拙者の居間は拙者の権利の中で厶る。如何に上官だつて捜索する訳には参りますまい。こればかりは平にお断り申します』 鬼春『いや、何と云はれても拙者の権利を以て室内捜索を致す』 と云ひ乍らスタスタと隧道を潜つて久米彦の居間に進み行く。 久米彦は……今露顕れたが最後、一悶錯が起るか、但は自分は首にならねばなるまい。一層の事、鬼春別を後から一思ひにやつつけて了はうか。いやいや将軍にも股肱の家来が沢山ある。うつかり手出しも出来まい、ぢやと云つて吾居間を覗かれたが最後、忽ち露顕するのだ。はて、如何したら宜からうか……と刻々に迫る胸の苦みを抑へて、見え隠れに跟いて行く。 鬼春別は已に已にドアーの入口に着いた。そしてドアーに耳を寄せて中の様子を考へてゐる。スミエル、スガールの姉妹は、そんな事とは夢にも知らず、両親のことや、自分の身の不運を歎いて涙に袖を霑し乍ら、一生懸命に盤古大神救ひ玉へ、助け玉へと祈つてゐる。 鬼春別は鍵を持つてゐないので、開けて這入る訳にも行かず、又部下に命じて開けさしては却て自分の人格や声望を落す虞れがあるので、恋の奴となつた彼は、一生懸命に首を傾けて室内の様子を聞いてゐる。されど何だかワンワンと響きがするばかりで少しも聞きとれなかつた。 久米彦将軍は漸くここに現はれ、 久米『鬼春別様、拙者の室内には何か怪しきものが居る様子ですかな』 鬼春『確に怪しう厶る。さア早く鍵を出してここをお開け召され。さすれば貴殿の疑も晴れ、両人の間の確執も解けて結構で厶らう』 久米『なるほど、それは結構で厶いますが、生憎鍵を落しましたので、這入る訳にもゆきませぬ』 鬼春『鍵がなくても叩き破れば宜いのだ。金鎚か何か持つて来なさい』 久米『之は怪しからぬ。拙者の居間を金鎚を以て叩き破るとは、決して武士の取るべき道では厶るまい。いざ戦場と云ふ場合は兎も角、平常に於て他人の居室を叩き破るとは実に乱暴狼藉と申すもの、之ばかりは如何に上官の命とても、久米彦承知する事は出来ませぬ』 鬼春『さうすると、ヤツパリ疑はしい物臭い事をしてゐられると見える。拙者の命令をお肯きなくば、只今より上官の職権を以て将軍職を免じますから其覚悟をなさい』 久米『拙者は決して貴殿の命令によつて将軍になつたのでは厶らぬ、大黒主様より命を受けて将軍に任ぜられたのだから、いかいお世話で厶る。公務上の事は兎も角、私行上に迄上官を振り廻す理由はありますまい。久米彦、断じて此室内は開けさせませぬ』 かく両人が争ふ所へ、慌ただしく走つて来たのはカーネルのマルタであつた。 マルタ『将軍様、大変な事が出来致しました』 鬼春『大変とは何だ』 マルタ『ハイ、三千の兵士、一人も残らず真裸体となり、何だか訳の分らぬ事を申しまして事務所を叩き破り槍剣を捨て石を投げ乱暴狼藉に及んでゐます。愚図々々してゐれば此室内にも入るかも知れませぬから何卒両将軍様の御威勢によりまして御鎮圧を願ひます、到底吾々の力には及びませぬ。思ふに三五教の奴が魔法を使つて吾軍を悩ますものと考へます』 此注進に鬼春別、久米彦両将軍は私行上の争論はケロリと忘れ、一目散に岩窟の入口に駆け出し、四辺を見れば三千の軍隊は八九分通り真裸体となり、訳の分らぬ事をガヤガヤ囀り乍ら、半永久的の建物を小口から、メリメリメリバチバチバチと叩き潰してゐる。両将軍は大喝一声『コラツ』と云ひ乍ら大勢の中に飛び込んだ。妖瞑酒に侵された一同は両将軍の姿を見るより吾先にと群がり来り、『ヨイシヨヨイシヨ』と云ひ乍ら胴上げをしたり、地上に投げたり、あらむ限りの乱暴狼藉をなし、遂に両将軍は大勢の者に身体中を踏み蹂られ、殆んど息の根も絶えむばかりになつてゐた。 そこへチュウニック姿のデク、シーナの両人は厳しく剣を吊り乍ら悠々として現はれ来り、遠慮会釈もなく岩窟内に忍び入り、スミエル、スガール両人の所在は何処ぞと探してゐる。岩窟内に潜んでゐた数多のバラモン軍は二人の服装を見て別に怪しみもせず、各軍務に従事してゐる。又もや真裸体の半狂乱軍はドヤドヤと岩窟内に入り来り、当るを幸ひ暴狂ふ。漸くにして妖瞑酒の酔ひも醒め、一同の軍人は正気に復し、捨てた剣を拾い上げたり、谷川に流した衣類の彼方此方に掛つてゐるのを拾ひあげ、日光に干し乾かし両将軍を助けて元の居間に送り届けた。一時妖瞑酒の勢で狂態を演じた数多の軍隊も愈目が覚めて一層軍規を厳重にする事となつた。道晴別のデク、及びシーナは漸くにしてスミエル、スガールの所在を探り、門扉を叩き割つて中に押し入り、両人を助けて室内を遁げ出さうとする時、前後左右の隧道より集まり来つたバラモン軍に脆くも縛られ、四人は別々に暗い岩窟の中に落し込まれて了つた。 鬼春別、久米彦を初めスパール、エミシ、シヤム、マルタの幹部連は、岩窟内の最広き将軍事務室に集つて、今度の変事に就き種々と其原因を調べてゐる。 鬼春『三千の軍隊が殆ど九分九厘迄真裸体になり、斯の如き狂態を演じたのは決して普通の事ではあるまい。之には何かの原因があるだらう。汝等よく調査をして、再びかかる不始末がない様に注意して呉れたがよからうぞ』 スパール『左様で厶います。何とも合点の行かぬ事ばかり、大方三五教の治国別一派が、妖術でも使つて吾軍営を攪乱させ、将軍を生捕にする計劃ではあるまいかと存じて居ります』 エミシ『初めの間は僅かの四五人の発狂者でありましたが、次第々々に伝染してあの様になつたのです。三五教には妖術等はありませぬ。恐らく此山に住む妖幻坊の一味がなせしもので厶りませう。先づ第一にバラモン神を祀り一生懸命に祈願を凝らさねば、又斯様の事が出来ては危険ですからな』 久米『あの怪しき二人の軍人、牢獄に投じて置いた奴、もしや三五教の間諜では厶るまいか』 鬼春『ハハハハハ、これだけ沢山の軍隊を以て固めた所へ、一人や二人の間諜が這入つて来た所で何が出来るものか。此方が察する所によれば、玉木村の豪農テームスの家から攫つて来たと云ふスミエル、スガールの二人の女こそ怪しきものだと思ふ。その証拠には彼を牢獄へぶち込んだ最後、味方の兵士の狂態が恢復したではないか』 エミシ『成程、さう承はればさうに間違ひは厶りませぬ。陣中に女を引入れる如きは神の許し給はざる所なれば、大自在天様が戒めの為めに、ああ云ふ手続きを採り吾々一同に気をつけて下さつたのかも知れませぬ。それについても、あの二人の兵士は吾軍の服装をして居りますれど、あれも何だか怪しいものです。此山の主が化てゐるのかも分りますまい』 鬼春『決して彼等四人に相手になつてはならぬぞ。ああして押込めて置けば、再び悪戯は致しますまい。久米彦殿如何で厶る。御意見を承はり度い』 久米『成程、どう考へても合点の行かぬ事で厶る。将軍の仰せの如く彼等はいらはぬ事と致して、兎も角軍隊の緊粛を図り、如何なる敵が寄せ来るとも、天与の要害を扼し之だけの味方があれば大丈夫ですから、軍隊一般に注意を与ふる事と致しませう』 さていろいろと積んだり崩したり、ラートの結果互に相戒めて変つたものが来たら近づけない事に定めて一先づ会議を閉ぢた。それより互に相戒め軍規を厳粛に此要害を上下一致の上死守する事となつた。 (大正一二・二・二二旧一・七於竜宮館北村隆光録) |
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霊界物語 | 55_午_ビクの国の物語3(玉木の里) | 序文 | 序文 (明)けく治まる御代の三十一年春は如月の九日天教山に鎮座したまふ木花姫命の神使斯世を (治)めむと神々の協議の結果をもたらし坐丹波の国曽我部の村に牛飼ふ牧童の辛未の年生れ (三)ツの御魂に因縁ある三葉彦命の再生なる神柱に三千世界の修理固成の神業の先駆を命じ (十)字架を負はしめたまひしより今年大正の十二年正月十八日まで満二十五年間出口王仁は (一)心不乱に神国成就のために舎身的活動を続けて宇宙万有一切の為に心身を焦がし奉り十 (年)一日の如く三千世界の諸天人民に至上の心を持せしめ神の御国に安住せしめむと妙法真 (如)の光明を顕彰し暗黒社会を照破すべく変性男子の精霊と倶に綾の聖場地の高天原に現れ (月)光菩薩の神業に心事し家を捨て欲を棄てて神の僕となり微妙真心を発こし一向に我神国 (九)山八海の諸神を念願し諸の功徳を修して高天原に万人を救はむことを希ふ大国常立大神 (日)の大神月の大神は神を愛し神を理解し信真の徳に充たされたる者を天界に救ふべく最と (高)き神人を率ゐて霊肉脱離の際に来迎し直ちに宝座の前に導きて七宝の花の台に成道し虎 (熊)狼などの悪獣をも恐れざる不退転の地位に住して智慧勇猛神通自在ならしめ玉ふ噫天教 (山)に現はれたまふ木花姫の無上の神心に神習ひ大功徳を修行して顕幽両界の神柱となり人 (の)人たる本分を尽さしめ玉ふ伊都の御魂の大御心の有難さ瑞月は多年の間千難万苦を排し (修)行の効を了え漸く神界より赦されて爰に謹み畏こみ三世一貫の物語を口述するを得たり (行)して神使となること能はずとも当に無上の神心を発し一向に天地の大祖神を祈願し真心 (よ)り可成的善行を修して斎戒を奉持し神の聖社を建立するの一端に仕え神使に飲食を心よ (り)供養し神号輻を祀り灯火を献じ祝詞を奏上し神の御前に拝跪せば天界に生れしめ玉はむ (今)生は云ふも更なり来世に到りて智慧証覚を全ふし愛善の徳に住して身に光明を放射し兆 (年)の久しき第二の天国に安住し得べし又十方世界の諸天人民にして至心ありて天国浄土に (大)往生を遂げむと欲するものは譬え諸の功徳を成す能はずと雖も常にこの物語を信じ無上 (正)覚を得て一向に厳瑞二神を一意専念せば神徳いつとなく身に具足して現幽両界共に完全 (十)足の生涯を楽み送ることを得べしこの深遠なる教理を真解して歓喜し信楽して疑惑せず (二)心を断ち一向に神教と神助を信じ至誠一貫以て天国に復活せむ事を願ふ時は臨終に際し (正)に夢の如くに厳瑞二神即ち日月の神を見たてまつりて至美至楽の第三天国に復活すべし (月)神の信真によりて智慧証覚の光明を受くること第二即ち中間天国の天人の如くなるべし (十)方世界の無量無辺不可思議の聖徳を具有する諸神諸仏如来宣伝天使は大国常立大神の徳 (八)荒に輝き給ふを称讃して其の出現聖場たる蓮華台上に集り給ひ無量無数の菩薩や衆生は (日)月の光を仰ぎ奉りてここに往詣して洪大無辺の神徳に浴し克く恭敬礼拝し供物を献じた (ま)ひて神慮を慰め且つ五六七神政の胎蔵経たる経緯の神諭と聖なる霊界物語を歓喜聴受し (て)顕幽二界の消息に通じ天下の蒼生に至上の神理を宣布し東西南北四維上下を光輝し月光 (満)ちて一切の神人各自に天界の妙華と宝香と無価の神衣とを以て無量の証覚を供養し顕幽 (二)大世界は咸然として天楽を奏し和雅の音を暢発し最勝最妙と大神柱を謳歎し神徳を覚り (十)方無碍の神通力と智慧とを究達して深法界の門に遊入し功徳蔵を具足して妙智等倫無く (五)逆消滅して慧日世間を照らし生死の雲を消除し給ふべし嗚呼惟神の霊光天に輝く月と日 (星)の如くにして荘厳清浄の天国を現じたまふ霊主体従の至上心を発揮し神に奉仕する時は (霜)雪の寒気も忽ち変じて春陽の生気と化し三界一時に容を動かして欣笑の声を発し無限光 (を)出して十方世界を照らさせ玉ふ霊光を以て身を囲繞せしめ円相を具し天人と倶に踊躍し (経)緯の神人に由つて大歓喜の心境に遊入すべし若し人にして善徳なき時は此の神啓の神書 (た)るを覚らず且つ理解し得ざるべし清浄無垢にして小児の如き心境に在る者にして根本よ (り)其真実味を聞くことを獲べし驕慢と悪しき弊と懈怠とは容易く神示に成り就たる是の (霊)語神声を信ずる事能はざるべし心身清浄にして能く神を信じ克く神に仕え神を愛し精霊 (界)の諸消息を探知したるものは歓喜雀躍してこの神言霊教を聴聞し聖心を極めて一切の事 (物)を開導するに至るべし神界の主神たる大国常立大神の愛善の徳と信真の光明は弥広く言 (語)の尽し得る所にあらず二乗の測知し得る限りにあらず只大神自身のみ独り明瞭にこの間 (の)経緯真相を知悉したまふ而已たとへ一切の人にして智慧証覚を具備して道を悟りこれを (口)に手に現はさむと欲するも又本空の真理を知り万億劫の神智を有する共到底これを口に (述)ぶること能はざる可し神の智慧と証覚には辺際なく絶対なりアア愚眛頑固なる人間智を (開)きて最奥第一の天界は云ふも更なりせめて第三の下層天界の消息を覚らしめ無限絶対無 (始)無終の神徳に浴せしめむとする吾人の苦衷何時の世にかこの目的を達し得むや口述開始 (よ)り既に十五ケ月未だ神諭に目覚めたる人士の極めて少数にして偶々信ずる者あるも元よ (り)上根の人にあらざれば僅かにその門口に達したる迄の状態にありアア如何にせむ神将三 (十)三相を具備し玉へる観世音菩薩最勝妙如来の道化の妙法瑞の御魂の千変万化の大活動三 (五)教の大本五六七の仁慈に浴して各自にその智慧を充たせ深く神諭の深奥に分け入りて箇 (箇)の神性を照し神理の妙要を究暢し神通無礙の境地に入りて諸根を明利ならしめたまへと (月)光如来の聖前に拝跪して鈍根劣機の男女をして神意を識らしめ五濁悪世に生じて常に執 (着)の妖雲に包まれ苦しめる蒼生をして清く正しく理解するの神力を与え金剛法身を清め両 (手)に日月の光を握らせ玉え鈍根劣機痴愚の生涯を送りつつある神の僕の瑞月が謹み畏こみ (日)に夜に真心を捧げて天下万民のために大前に祈願し奉る三五教の聖場五六七の大神殿に (数)多の聖教徒日夜に参集して道教を宣伝し妙法を演暢したまふ神使の言に歓喜し心解し得 (は)四方より自然に神風起りて普く松柏の宝樹を吹き鳴らし五大父音の神声を出して天下無 (二)の妙華を降らし風に随つて宇内を周遍し天の岩戸開きの神業は易々として天地主宰神八 (百)万の神と倶に宇都の神業は大成され神示の許になれる是の神書霊界物語を著はしたる連 (日)の辛苦も稍々その光明を輝かし得るに至る可し大聖五六七の神霊地上に降臨して宇宙間 (に)羅列棊布せる一切万有を済度し玉ふその仁慈は大海の如く慧光また明浄にして日月の如 (し)清白の神法具足して円満豊備せること天教山の如く諸の神徳を照らし玉ふこと等一にし (て)浄きこと大地の如し浄穢好悪等の異心なきが故に猶ほ清浄なる泉の如く塵労もろもろの (五)逆十悪を洗除し玉ふが故に猶ほ火王の如く一切煩悩の薪を焼滅し玉ふこと猶大風の如く (十)方世界を行くに障礙なきが故に猶ほ虚空の如く一切の有に於て執着無きが故に蓮の如く (五)濁の汚染なく真に月の皎々として蒼天に輝くが如し之れ月の大神の真相にして霊界物語 (編)述する時の吾人の心境なりアア何時迄も志勇精進にして心神退弱せず世の灯明となり暗 (を)照らし常に導師となりて愛善の徳に住し正しきに処して万民を安んじ三垢の障りを滅し (終)身三界のために大活躍せしめ玉ひて口述者を始め筆録者の真心を永遠に輝かし玉へと祈 (る)も嬉し五十五編の霊界物語茲に慎み畏み神助天祐の厚きを感謝し奉るアア惟神霊幸坐世 大正十二年三月五日旧正月十八日 |
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霊界物語 | 58_酉_イヅミの国1(猩々島) | 24 礼祭 | 第二四章礼祭〔一四九九〕 愈祭典の準備にとりかかるべく三千彦、デビス姫、バーチル、サーベルの二夫婦は下男にも下女にも構はさず、せつせと神饌物の調理に熱中して居る。 三千『もし、バーチルさま、私はお察しの通り三五教のヘボ宣伝使ですが、バラモンの大神様の神饌を拵へるのは今が初めてで厶いますよ。何だか奥歯に物が、こまつた[※「つまつた」の誤字か?]様な気分が致しますわ。ハハハハハ』 バーチル『うつかりして居ましたが如何にも吾々は三五教の宣伝使に助けられ、又三五教の大神様の御神徳を感謝してる者で厶いますから、どうしても三五の神様の祭典を第一に致さねばなりませぬ。如何でせうか』 三千『さうですな。神様はもとは一株ですから、どちらにしても同じ様なものの神代からの歴史を考へて見ますと、三五教は国治立の大神様、其外諸々の神様から押籠められた方の神様で、大自在天様とは、人間同士なら敵同志の様な者ですが、然し神様のお心は人間の心と違つて寛大なもので、少しも左様な事に御頓着なく、大自在天様をお助け遊ばさうと思つて、バラモン教を言向和す為に吾々をお遣はしになるのですからね。然し私では到底決断がつきませぬから、一寸之からお師匠様に伺つて参ります』 バーチル『はい、それは有難う厶います。序に先祖様の霊も三五教で祭つて頂き度う厶いますが、之も差支がないか伺つて来て下さいませぬか』 三千彦は『承知致しました』と此場を立つて玉国別の居間に打通り、バーチルがバラモン教を脱退し、三五教に入信し、三五の大神を祭つて貰ひ度い事、並に祖霊祭を三五教にて営み度い事等の願を告げ、玉国別に対し先づ第一に祖霊祭に就いて教示を乞ふた。 三千『先生、人間は現世を去つて霊界へ行つた時は、極善者の霊身は直ちに天国に上りて天人と相伍し天国の生活を営み、現界との連絡が切れるとすれば、現界にある子孫は父祖の霊祭などをする必要は無いものの様に思はれますが、それでも祖霊祭を為なくてはならないのでせうか。吾々の考へでは真に無益な無意義なことの様に感じられますがなア』 玉国『何程天国へ往つて地上現人との連絡が断たれたと言つても、愛の善と信の真とは天地に貫通して少しも遅滞せないものである。子孫が孝のためにする愛善と信真の籠もつた正しき清き祭典が届かないと云ふ道理は決して無い。天国にあつても矢張り衣食住の必要がある。子孫の真心よりする供物や祭典は、霊界にあるものをして歓喜せしめ、且つその子孫の幸福を守らしむるものである』 三千『中有界にある精霊は何程遅くても三十年以上居ないといふ教を聞きましたが、その精霊が現世に再生して人間と生れた以上は、祖霊祭の必要は無いやうですが、斯ういふ場合でも矢張り祖霊祭の必要があるのですか』 玉国『顕幽一致の神律に由つて、例へその精霊が現界に再生して人間となり霊界に居らなくても、矢張り祭典は立派に執行するのが祖先に対する子孫の勤めである。祭祀を厚くされた人の霊は霊界現界の区別なく、その供物を歓喜して受けるものである。現世に生れて居ながら猶且つ依然として霊祭を厳重に行ふて貰ふて居る現人は日々の生活上においても、大変な幸福を味はふことになるのである。故に祖霊の祭祀は三十年どころか、相成るべくは千年も万年の祖霊も、子孫たるものは厳粛に勤むべきものである。地獄に落ちた祖霊などは子孫の祭祀の善徳に由つて、忽ち中有界に昇り進んで天国に上ることを得るものである。又子孫が祭祀を厚くして呉れる天人は、天国に於ても極めて安逸な生涯を送り得られ、その天人が歓喜の余波は必ず子孫に自然に伝はり子孫の繁栄を守るものである。何んとなれば愛の善と信の真は天人の神格と現人(子孫)の人格とに内流して何処迄も断絶せないからである』 三千『ウラル教や波羅門教の儀式に由つて祖霊を祭つたものは、各自その所主の天国へ行つて居るでせう。夫れを三五教に改式した時はその祖霊は何うなるものでせうか』 玉国『人の精霊や又は天人なるものは、霊界に在つて絶えず智慧と証覚と善真を了得して向上せむことをのみ望んで居るものです。故に現界に在る子孫が最も善と真とに透徹した宗教を信じて、その教に準拠して祭祀を行つて呉れることを非常に歓喜するものである。天人と雖も元は人間から向上したものだから人間の祖先たる以上は、仮令天国に安住するとも愛と真との情動は内流的に連絡して居るものだから、子孫が証覚の最も優れた宗教に入り、その宗の儀式に由つて、自分等の霊を祭り慰めて呉れることは、天人及び精霊又は地獄に落ちた霊身に取つても、最善の救ひと成り、歓喜となるものである。天国の天人にも善と真との向上を望んで居るのだから、現在地上人が最善と思惟する宗教を信じ、且つ又祖先の奉じて居た宗教を止めて三五教に入信した所で、別に祖霊に対して迷惑をかけるものでない。又祖霊が光明に向つて進むのだから決して迷ふやうな事は無いのだ。否却て祖霊は之を歓喜し、天国に在つて其地位を高め得るものである。故に吾々現身人は祖先に対して孝養のために最善と認めた宗教に信仰を進め、その教に由つて祖先の霊に満足を与へ、子孫たるの勤めを大切に遵守せなくてはならぬのである。アア惟神霊幸倍坐世』 三千『はい、有難う厶いました。当家の主人も、それで安心致しませう。それから、も一つお尋ねが厶いますが、バラモンの神様を如何いたしたら宜しいでせう』 玉国『祠の森の聖場でさへも御三体の大神様を初め大自在天様を祀つてあるのだから、別に排斥するに及ばぬぢやないか。今迄此家もバラモン神の神徳を享けて来たのだから、そんな薄情な事も出来まい』 三千『アヅモス山の聖地にはバラモン大自在天様のお宮が建つて居るさうですが、此際主人に吩咐けて祠の森の様にお宮を建てさせ、あの式に大自在天様を脇に祀つたら如何で厶いませうか』 玉国『一度主人を呼んで来て呉れ。宮を建てるとなると、さう軽々しくは行かぬから一応意見を聞いて見る積りだ』 三千『はい、承知致しました。直様呼んで参ります』 と、もとの神饌調理室に引返し、祖霊祭に関する玉国別の教示を伝へ、且……神霊奉斎に就いて師匠様がお尋ねし度いと仰有るから一寸来て下さい……とバーチルを誘ひ、玉国別等の居間に帰つて来た。 玉国『あ、バーチルさま、貴方はアヅモスの森の天王様のお宮を、如何なさるお考へで厶いますか』 バーチル『はい、先祖代々お祀りして来たお宮様なり、又私の精霊が眷族として仕へて居つたのですから、今俄に三五教に這入つたと云つて直に祀り変へる事は如何かと考へます。これに就いては貴方様にゆるゆるお尋ね致し度いと思つてゐました。先生のお考へは如何で厶いませうか』 玉国『私の考へとしてはアヅモス山の森林に新にお宮を二棟建造し、一方は三五の大神様、一方は今の天王様を奉斎し、さうして猩々ケ島に残つて居る小猿を、数十艘の船を用意して迎へ来り、序にバラモン組の三人も助けて帰る様にし度いもので厶います。それが神様に対しても、貴方の守護神に対しても最善の方法だと考へます』 バーチル『有難う厶います。実の所は最前から何卒さう願ひ度いものだと、家内とひそびそ話をして居りました。あの小猿共は皆猩々姫の子で厶いますから、如何しても自分の手近に引寄せ度いのは当然で厶います。私も何だか猩々の親になつた様な、妙な気分が致します。何卒さうして下さらば、これに越したる喜びは厶いませぬ』 玉国『貴方の決心が定れば直様、その準備にかかる事に致しませう。併し乍ら今日は只大神様へ感謝の祭典をする許りですから、三五の大神とバラモンの大神を並べて祭り、下男下女の端に至る迄参拝させておやりなさるが宜しう厶いませう』 バーチル『はい、何から何迄御親切なお気付け、有難う厶います。 人の親は猿より出でしと聞きつるに 猿の親とぞなりにけるかな。 さる昔遠き神代の古より きれぬ縁につながれし吾』 玉国別『天王の森に長らく仕へたる その神徳で人の宿かる。 肉体はよし猩々と生るとも 霊魂は清し神の御使』 バーチル『有難し宣り直したる師の君の 言葉に妻も嘸勇むらむ。 人猿と仮令世人は笑ふとも 罪をとりさる神となりなむ』 かく歌ひ慌ただしく神饌所に引返し、用意万端整へて茲に芽出度く感謝祭を執行する事となつた。玉国別は主人の乞に依つて祭主となり、天津祝詞を奏上し、終つて感謝の歌を奉つた。 玉国別『朝日刺す夕日の照らすアヅモスの、常磐堅磐の森の辺に、弥永久に鎮まり玉ふ、大国彦の大神の、珍の使と仕へたる、猩々彦の精霊の、懸り玉へる館の主人、バーチル司に代り玉国別の神司、三五教の大御神、バラモン教の大神の、珍の御前に慎みて、吾々一行は云ふも更、バーチル初めアンチーが、三年の憂きを凌ぎつつ、漸くここに帰りけるは、皇大神のお計らひと、喜び敬ひ大御恵みの、千重の一重にも報い奉らむとして、山海河野種々の珍味を、八足の机代に、所狭き迄置き並べ、神酒は甕の瓶甕の腹充て並べて、御水堅塩大御饌奉る事の由を、完全に委曲に聞召し、これの館の人々を初め、三五教の神司、スマの里の人々を、厚く守らせ玉へかしと、大御前に摺伏して、畏み畏み仕へ奉る惟神霊幸倍坐世』 と歌ひ終り、感謝祭も無事に終了した。玉国別一行は美はしき閑静な離れ座敷を与へられ、海上の疲労を癒やすべく、師弟五人は足を伸ばして休養する事となつた。 (大正一二・三・三〇旧二・一四於皆生温泉浜屋北村隆光録) |
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霊界物語 | 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 | 05 鎮祭 | 第五章鎮祭〔一五三〇〕 真善美を尽したる二棟の宮殿は玉国別以下一同の丹精によつて漸く完成し、東側の宮には大国常立大神を祀り、西の宮には大国彦命を鎮祭する事となつた。 玉国別は斎主として新調の祭服を身に着け、真純彦以下の宣伝使及び主人側のバーチル夫婦並にバラモンのチルテル以下里人一同と共に荘厳なる遷宮式を挙行した。 大国常立尊の御神体としてはバーチルの家に古くより伝はりし直径三尺三寸の瑪瑙の宝玉に神霊をとりかけ、大国彦命の御神体としてはチルテルが大切に保存せる直径三寸許りの水晶の玉に神霊をとりかけ、これを奉斎する事となつた。 さうしてバーチルは東の宮の神主となり、サーベル姫は西の宮の神主となり、朝夕心身を清めて之に奉仕する事となつた。 玉国別の宣伝使は遷宮式の祝詞を歌に代へて歌ふ。 玉国別『朝日輝くアヅモスのテーヷラージャーの森の中 大峡小峡の木を伐りて清き心の里人が 下津岩根に宮柱太しく造り高天原に 千木高知りて三五の皇大神やバラモンの 教司の神等を斎まつらむ今日の日は 天の岩戸の開くなる生日足日の生時ぞ 此世を造り固めたる大国常立大御神 天王星より下ります梵天帝釈自在天 大国彦の大神の深き恵みを蒙りて 漸くここに宮柱建て了りたる目出度さよ 高天原の霊国の姿を移すスメールの 山は世界の救ひ主天地の神も寄り集ひ 世を常久に守らむと寄り来仕ふる目出度さよ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令天地は覆るとも元津御祖の大神が 此地に鎮まります限り如何なる枉も来るべき 大三災の風水火小三災の饑病戦 煙の如く霧の如朝の風や夕風の 吹き払ふ如影もなく安全無事の霊場と 弥永久に鎮まりて世人を守り玉へかし 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直し聞直し 身の過ちは宣り直す善言美詞の神嘉言 朝な夕なに宣り上げて総ての邪気を拭き払ひ 神の御国の歓楽をこの国人は永久に 味はひまつる有難さアヽ惟神々々 此神床に永久に鎮まりまして常暗の 世界を救ひ玉ひつつ神の御稜威はラシューズダ サハスラバリ・ブールナドヷヂャサルワサットワブリヤダルシャナと 現はれ玉ひて永久に鎮まり居ませと願ぎ奉る この里人の誠心ゆ捧げまつりし海河や 山野の種々珍味物八足の机に弥広く 弥高らかに横山の姿の如く置き足らし 真心こめて大神酒や大神饌御水奉る 此二柱大御神青人草の真心を 完全に委曲に聞し召し今日の喜び永久に 続かせ玉へ惟神尊き神の御前に 三五教の神司玉国別が真心を 籠めて一同になり代はり畏み畏み願ぎ奉る アヽ惟神々々御霊幸はひましませよ』 祭典は無事に終了し、各聖地に処狭き迄群集り居て撤饌の供物により直会の宴を開き、神酒を頂き乍ら思ひ思ひに今日の盛事を祝した。其中重なる人の歌を一、二左に述べて置く。 バーチル『アヽ有難し有難し天の岩戸は開きけり 暗の帳は上りけり四辺の空気は何となく いと爽かに風そよぐ木々の梢は淑かに 自然の音楽相奏で梢は舞踏を演じつつ 今日の盛事を祝ふなり野辺に咲きぬる蓮花 香りも高く吹き送る牡丹芍薬ダリヤ迄 艶をば競ひ香を送る天国浄土も目のあたり 眺むる如き心地なり朽ち果てたりし宮殿も 今は目出度く新まり木の香新に鼻をつく 見るもの聞くもの一として尊き神の御恵の 籠らせ玉はぬものはなし父の犯せし罪科の 吾身に巡り来りてゆ日夜に心を痛めつつ 清めの湖に浮び出で百の鱗族漁りつつ 心を慰め居たりしが神の恵みの引合せ 例もあらぬ颶風に遭ひ猩々の島に助けられ 因縁因果の巡り合ひ猩々の姫とゆくりなく 鴛鴦の縁を契りつつ三年を過ぐる暁に 救ひの神の来りまし吾を助けてイヅミなる スマの館に送りまし今又神の神勅 忝なみて伊太彦の神の司に一族を これの神山に迎へられ霊魂の親子は喜びて スメール山の神殿に朝な夕なに仕へ行く 嬉しき身とはなりにけり吾は之より比丘となり 神の柱となる上は父祖の伝へし吾館 その外山野田畑を天地の神に奉還し 里人各持場をば定めて自由に稲や麦 豆粟黍は云ふも更羊や豚の数限り 知られぬ許りの財産を皆里人の有となし この儘地上の天国を弥永久に築きつつ その神恩に浴されよ神に仕へし上からは 物質的の宝をば塵もとどめず放り出し 神の恵に与りて夫婦親子は聖場に 楽しく仕へ奉るべし諾ひ玉へ天津神 国津神等八百万その生宮と現れませる バラモン軍のキャプテンを始め奉りて部下とます 百の軍も里人も公平無私に吾宝 分配なして穏かに此世を送り玉へかし 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも神の司のバーチルが 言葉は永久に変らまじ心安けく平らけく 思召されよと皇神の御前に誓ひて宣りまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 里人が原野を捜つて集め来りし四種の曼陀羅華を神殿処狭きまで供へまつり、サーベル姫はその花の中心に立つて曼陀羅華を手にし、太鼓、羯鼓、笙、篳篥、翼琴等の微妙の音楽の音に和して歌を歌ひ乍ら舞ひ狂うた。 因に四種の曼陀羅華とは、 一、マーンダーラヷ 二、マハーマンダーラヷ 三、マンヂュシャカ 四、マハーマンヂュシャカ を云ふ。さうして曼陀羅は適意花、成意花、円花、悦音花、雑色花、天妙花とも翻訳され、その色は赤に似て黄色を帯びたり、青に似て紫、紫に似て黒を帯びたり種々雑妙の色がある。マハーマンダーラヷは白華又は大白華となすものがある。マンジュシャカは柔軟草、如意草、赤団華とするものもある。 サーベル姫『天火水地と結びたる青赤白黄紫の 曼陀羅華をば大前に処狭き迄奉り 天地の水火に叶ひたる真善美愛の花束を 里人等が慎みて真心捧げて奉る 皇大神は言霊の天火水地を結びまし 地上の人は曼陀羅華天火水地と結びたる 種々雑妙のこの花を大宮前に立て並べ 至誠を現はし奉る皇大神よ大神よ 吾等を初め里人が清き心を臠し アヅモス山の霊場に大宮柱太しりて 鎮まり居ます珍宮の司と永遠に仕へませ バーチル夫婦が真心をここに現はし願ぎ奉る 吾等夫婦は大神の恵みの露に霑ひて 咲き匂ひたる曼陀羅華一度に開く花蓮 心の空に天界の平和と歓喜の国を建て 神の御為世の為に三五教やバラモンの 一体不二の神教を普く四方に宣べ伝へ 世人を救はせ玉へかし三百三十三体の 此愛らしき猩々は吾身に憑りし猩々姫 神の使の生みませる天地の愛の珍の子と 憐れみ玉ひて永久に身魂を守り平安に この世を渡らせ玉へかし執着心や世染をば 科戸の風に払拭し安の河原に垢離をとり 清浄無垢の魂となり仕へまつらせ玉へかし あゝ惟神々々御霊の恩頼を願ぎまつる』 斯く歌ひ終り一同に拝礼し、数多の猩々に前後を守られて、一先づ元の館へ引返し村人一般に対し財産全部提供の準備をなすべく欣々として嬉しげに立ち帰る。 (大正一二・四・七旧二・二二於皆生温泉浜屋北村隆光録) |
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霊界物語 | 63_寅_伊太彦の物語 | 序歌 | 序歌 此世を救ふマイトレーヤボーヂーサトーヴ現はれて ウヅンバラチャンドラの体を藉りシブカ(苦聖諦)サムダヤ(集聖諦) ニローダ(滅聖諦)マールガ(道聖諦)苦集滅道四聖諦 完美に審細に道説し無明の世界を照波して マハー・ラシミブラバーサマハーヸユーバ(弘大)に開かむと スーラヤ、チヤンドラ世に降しスメール(須弥)山に腰をかけ ジヤムブドヸーバ(全世界)を守らむと アクシヨーバヤ[※校定版はここに括弧書きで「(阿閦如来)」という言葉を挿入している。フリガナは付いていないが一般に「あしゅくにょらい」と読む。]の天使を前後左右に侍らせつ 現はれたまひし尊さよ神が表面に現はれて チャンドラスーラヤヸマラブラバーサ スリー[※校定版はここに括弧書きで「(日月浄明徳仏)」という言葉を挿入している。]、サルヷサトーヴブリヤダルシヤナ[※校定版はここに括弧書きで「(一切衆生喜見菩薩)」という言葉を挿入している。] 完全無欠の神国といと平けく安らけく 治めたまふぞ有難き仰げば高し神の国 大日の下のエルサレム豊葦原の真秀良場と 定め給ひて厳御魂国常立の大御神 豊国主の大御神三五の月日と現れまして 再び清き神の代をこの地の上に建設し 天の下なる神人が暗き御魂を照しつつ 黄金世界を樹て給ふその神業を一身に 担任したる瑞御魂神素盞嗚の大神の 御命畏み伊苑館清く仕ふる宣伝使 マハーカーシヤバ亀彦やヤシヨーダラーの音彦や クンヅルボーヂーサツトワ梅彦がマンジユシリボーヂーサツトワ岩彦と 黄金姫のスヴアラナ神の司や清照姫の スヴルナブラバーシヤ初稚姫と相共に 梵天王のブラフマンサハームバテー祀りて醜の御教を 四方に流布する魔の頭カビラマハールシの大黒主を 言向け和し天界の大荘厳や光明を 斯の土の上に築かむと苦集滅道の荒浪を しのぎて進む物語竜の宮居に現はれて 神の使のウヅンバラチヤンドラ爰に謹みて 世人のために述べ伝ふアヽ惟神々々 御霊幸はへ坐しませよ。 大正十二年五月二十九日旧四月十四日 |
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霊界物語 | 65_辰_虎熊山と仙聖郷の物語/七福神 | 22 均霑 | 第二二章均霑〔一六七八〕 虎熊山の俄の爆発に、仙聖山は云ふも更なり、此郷土の山川草木は激烈に震動し、三千彦を除く外、何れも顔色蒼白となり、慄ひ戦いてゐた。熔岩は七八里隔てた此地点まで遠慮会釈もなく降りくるその凄じさ。されど此大きな家にも拘はらず、只の一個も当らなかつたのは神様の御守護と、何れも感謝の念を催すのであつた。流石の猛悪なるテーラも、キングレスも、部下の小盗人も、俄に怖けつき、思はず知らず両手を合せ、一生懸命に祈願し初めた。その声は一時、裏山の谷々の木精を響かした。 スマナー姫『皆さま、恐ろしい事で厶いましたな。あの様な……一時は巨大な熔岩が雨の如くに降つて参りましたが、お神徳によりまして、吾家には只の一つも当らず、又あの地響で家も倒れず、皆さまも無事に命を拾はれしは、全く尊き神様の御守護で厶いませう』 と云ひ乍ら窓を開いて、村落の家々を眺めて見た。然し乍ら黒煙天に漲つて黒白も分らぬ真の暗となつて居た。実際今日は朝早くより何処ともなく薄暗く、何れも夜分と思つてゐたがその実、まだ昼の最中であつたのである。別に村の家々にも火災も起らず、阿鼻叫喚の声もなきに安心の胸を撫でおろし、 スマナー『皆さま、私の家は村中一度に見下ろせる所で厶いますが、村方はあの騒動に火災も起らず、叫びの声も聞えませぬから、一軒も残らず神様のお神徳を頂いたのでせう。サア之から神様に感謝の祭を致しまして、皆さまに直会を頂いて貰ひませう』 三千『いや、それは結構です。此様な大爆発、雨の如く降り来る熔岩が、此広い家に一箇も当らず、村中安全と云ふのは全く不思議です。此れも神様の御神徳でせう。サア青年隊の方々、御苦労乍らお祭の用意を願ひます』 タークは三千彦の言葉に従ひ、青年隊を率ゐ、いろいろ供物の用意をなし、祭典の準備に取りかかつた。漸く祭典の用意は出来た。ここに三千彦、スマナー姫は新しき祭服をつけ、恭しく神前に祝詞を奏上し、祭典も無事に終了した。それより村中の老若男女は此広き家に集まり来り、キングレスの部下も斎場に列し、直会を頂く事となつた。 スマナー姫は嬉しげに宴席の中央に立つて、自から歌ひ自ら舞ふ。 スマナー姫『此処は名に負ふ秘密郷北に仙聖山を控へ 東に虎熊の山聳え立ち白青黄色紫の 花は芳香薫じつつ胡蝶は高く舞ひ遊び 迦陵嚬伽は涼しき声を放ちて神世を謡ふ 実にも尊き仙聖郷の青人草の喜びは 外の国には例なき中国一の瑞祥ぞ 醜の曲津の時を得て一度は荒び狂ひしが 尊き神の御使人三千彦司があれまして 吾家を初め此里の醜の災除かせ玉ひ 今は全く古の神代に帰りし嬉しさよ 仙聖山の峰高く五色の雲の被衣して 雲をば起し雨降らし五日の風や十日の 雨も時をば違へずに降りしく厚き御恵は 仙聖郷の名に負ひし吾住む郷の喜びぞ 勇めよ勇め里人よ踊れよ踊れ皆の人 今日の生日の喜びは外へはやらじ幾千代も つづかせませと大前に祈る吾等が真心を 神は必ずみそなはし清く諾なひ玉ふべし あゝ惟神々々実にも嬉しき人の世の 誠の道を踏みしめて神の教を守るならば 此世に枉の恐れなし妾も尊き足乳根の 親兄弟や背の君に悲しき別れをなせしより 心は曇り胸痛み身も世もあらぬ思ひにて 一度は此世を去らむかと狭き女の心より 思ひ定めて仙聖の山に立ちたる白骨堂 それの御前に平伏して今や果てむとする時しもあれや 名さへ目出度き三千彦の神の司の御恵みに 果敢なき命を救はれて吾家に帰り窺へば 早くも魔の手は内外に拡げられたる恐ろしさ 闇を幸ひ裏口に立ちて様子を覗へば 従兄と名乗るテーラさま捕手と名乗る人々が 青年隊のタークさまインターさまと何事か 争論つつ妾が命死せしとや思ひ玉ひけむ 百千万の心配り感謝の涙にほだされて 三千彦司と諸共に奥の襖を引開けて 其場に立出で言霊をかすかに宣れば人々の 心の暗は晴れ渡り清く尊き惟神 珍の身魂に帰りたるその喜びや如何許り 感謝の言葉もなきまでに妾は喜び泣き入りぬ あゝ惟神々々神の恵みを何処までも 頂きまして直会の此酒宴を快よく 聞し召されと宣り奉る朝日は照るとも曇るとも 月落ち星は失するとも虎熊山は割るるとも 神に任せし人の身はいかで恐れむ今目の辺り 神の恵を蒙りて笑み栄えたる嬉しさよ あゝ惟神々々神の御前に慎みて 畏み感謝し奉る』 三千彦『諸々の罪や穢を払はむと 爆発しけむ虎熊の山。 虎熊の峰に潜みし枉神も 今は全く逃げ失せにけむ。 仙聖の清けき郷に来て見れば 思ひがけなき事のみぞ聞く。 スマナーの姫の命の真心を 愛玉ひなむ天地の神は。 インターやタークの君の真心に バータラの家は栄え行かなむ』 ターク『思ひきや魔神の猛る此郷に 神の使の来りますとは。 傾きし家の柱を立直す 君は誠の三千彦司よ』 インター『村肝の心の暗は晴れにけり バータラの家の雲を払ひて。 昼さへも暗くなりぬる今日の空 明かさむ為か爆発の声。 吾胸に潜む枉津も逃げ失せぬ かの爆発の強き響に。 獅子熊も虎狼も戦きて 鎮まりにけむ爆発の声に』 三千彦『何事も皆皇神の御心ぞ 仰ぎ敬へ神の御子達。 産土の山を立ち出し師の君の 御身如何にと思ひ煩ふ。 さり乍ら吾師の君は神人よ いと平らけく安くましまさむ』 スマナーは三千彦に盃をさし乍ら、 スマナー『もし宣伝使様、妾の今後の身の振り方に就いては、如何致したら宜しう厶いませうか。何卒お示しを願ひたう厶います』 三千『私が斯うなさいませ……とお指図は致しませぬが、貴女のお心にお感じなされた最善の方法を以ておやりなされたら如何でせう』 スマナー『はい、有難う厶います。左様ならば貴方のお蔭で命のない処を救はれ、又こうして沢山の方も誠の道へ立帰つて下さつたので厶いますから、妾はこれに越した喜びは厶いませぬ。山林も田畑も宝も何も要りませぬ。妾は此家に三五教の神様やウラルの神様をお祀り致し、祖先や、夫の菩提を弔ひ、比丘尼となつて、一生を送りたう厶いますが、如何で厶いませうな』 三千『成程、それは誠に殊勝なお考へです。三千彦、双手を挙げて賛成致します』 スマナー『早速の御承知、有難う存じます。就きましては妾の家は先祖代々の……此界隈での富豪で厶いまするが、もはや比丘尼となつて神様にお仕へする以上は、財産なんか、必要は認めませぬ。何卒バータラ家の財産全部を、社会公共の為に捧げ度いと存じますが、如何で厶いませうか』 三千『それは至極結構です。定めて村人もお喜びになるでせう』 スマナー『全財産を四つに分け、その一部をエルサレムの宮に献じ、一部を神館の維持費に当て、残りの二部を村人に寄贈致しましたら如何で厶いませうかな』 三千『それは至極よいお考へです。さうなさいませ。然し乍ら今ここに改心をせられたキングレス、外十数人の方々は、いま泥棒をお廃めになつた処で、百姓するにも田畑はなし、商売をするにも資本もないと云ふ場合ですから、此方々にも少しなりと山林なり田畑なりお与へになり、農業をおさせになつたら如何で厶いませうか』 スマナー『はい、どうも有難う厶います。キングレス様其外の方々が御承知さへ下されば此村に居つて貰つて正業に就いて貰ひませう』 三千『キングレス様、其他の方々、今スマナー様が貴方等に相当の財産を分配したいと仰有るがどうで厶いませう。改心なさつた以上は、此仙聖郷に於て農業を営み、安全なる生活を送られたら宜からうと思ひますが、貴方のお考へは如何で厶いますか』 キングレスは落涙し乍ら両手をつき、 キング『ハイ、重々の罪を赦された上、夢だにも見る事の出来ないやうな御恵み、あまりの事で、勿体なうて返す言葉も厶いませぬ。何分にも宜しく御願申します』 三千『あ、それは結構々々。これ、スマナー様、これで財産の処分が略落着しました。貴女もこれから重荷が下りたやうなものだから、此家を修繕して神様の御舎となして里人を善に導き善根をお積みなさいませ。私も貴女に会つて思はぬ御用をさして頂きました。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と天に向つて合掌し嬉し涙にくれてゐる。 三千『世の中に醜の枉津はなけれども 只心より湧き出づるかな。 身の内に枉さへなくば獅子熊も 虎狼も物の数かは。 誠ほど世に恐るべき物はなし 鬼も大蛇も逃げ失せて行く。 バラモンの神の教を振捨てて 今日は誠の三千彦となる』 スマナー姫『玉の緒の命危き折節に 待てよとかかる玉の御声。 三千彦の君の現はれ来まさずば 吾は霊界の人なりしならむ。 テーラの醜の言葉に怖ぢ恐れ 死なむとせしぞ愚なりけり。 さり乍らテーラの君のあらばこそ 此喜びの来りしならむ。 世の中に悪きものとて無かるべし 只吾心暗き故なり。 村肝の心の空に雲なくば 月日も清く身を照らすらむ』 ターク『仙聖の郷も今日より古の 花咲き匂ふ園となるらむ。 三千彦の神の司の御恵みに 吾里人は甦りつつ。 スマナーの比丘尼の君によく仕へ 朝な夕なに道を守らむ』 インター『吾とても比丘尼の君の真心の 雨にぬれつつ忍び音に泣きぬ。 嬉しさの涙は胸に充ち溢れ 身も浮く許り勇み立つかな』 キングレス『枉事のあらむ限りを尽したる 吾にも神の恵み賜ひぬ。 虎熊の山に悪事を企らみつ 今もありせば亡びしならむ。 此郷に現はれ来り爆発の なやみ逃れし事の嬉しき』 テーラはノソリノソリと足を痛めて此場に這ひ来り、庭の土間に犬突這となつて、 テーラ『枉神の醜の限りを尽したる 吾今よりは悔い改めなむ。 百人よ吾罪科を赦せかし 村の僕となりて仕へむ』 愈ここにバータラ家の遺産は、スマナーの意志に従ひそれぞれ分配されて、上下貧富の区別なく、郷民は互に業を楽しみ近隣相和し、和気靄々として世を送る事となつた。三千彦は宣伝の旅が急くので、永く留まる訳にも行かず、二三日逗留して里人に神の教を伝へ、タークを館の留守居と頼み置き、スマナーはエルサレムへ参拝せむと、三千彦の許しなければ、見え隠れに後を慕ふて進み行く事となつた。 (大正一二・七・一七旧六・四於祥雲閣北村隆光録) |
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霊界物語 | 68_未_タラハン国の国政改革2 | 19 紅の川 | 第一九章紅の川〔一七四三〕 カーク、サーマンの二人はインデス河の河辺を膝栗毛に鞭うち一生懸命に走り行く。右手の草村より手招きして『オーイオーイ』と叫ぶ者がある。二人は聞覚のある声と立とまつて、息をついでゐた。そこへ萱草を分けて、のそりのそりとやつて来たのは右守司サクレンスが弟エールであつた。二人はエールの顔を見るより、地上に蹲まり、 カーク『これはこれは、エールの君様、思はぬ所でお目にかかりました。貴方は又斯様な所に何をしてゐらつしやるのですか』 エール『イヤ、一寸秘密の用向があつて』 カ『秘密の御用向と仰有るのは、アリナの行衛を捜してゐられるのでせう。貴き御身を以て供をも連れず、只一人なぜ斯やうな所にお出ばりになつてゐられるのですか』 エ『イヤ、アリナの行衛も捜索せなくてはならぬが、王女バンナ姫様のお行衛を尋ねて、此処迄やつて来たのだ。此少し先方に賤の岩屋と云つて岩窟がある。此処はカラピン王様の御先祖の奥津城の跡、それ故若や、バンナ姫様がお参りになつてゐるのではあるまいかと、只一人ワザとに捜しに来たのだ』 カ『姫様は、そしてゐられましたか』 エ『イヤ、お姿が見えないのだ。あゝ困つた事だワイ。併しお前は秋野ケ原の水車小屋の番を仰せつかつてゐた筈だが、どうして又帰つて来たのだ』 カ『之に付いては大変な珍事が突発致しました。それ故御報告がてら、帰つたので厶います』 エ『椿事とは何事だ。民衆救護団でもやつて来て、太子を奪取つたのではないか』 カ『ハイヽヽヽイエヽヽヽー、さうでも厶いませぬが、三五教の宣伝使がやつて参りまして、太子殿下及スバール姫を救ひ出し、たつた今駒に跨つて、ここを通るで厶いませう。太子が城内へ帰られたならば、先づ第一に右守司様の御迷惑、用意を遊ばさねばなるまいと、一生懸命に御注進に帰る途中で厶います』 エ『ヤ、其奴ア大変だ。オイ両人、事成就の上は汝を立派な役に使うてやるから、どうだ、此少し向方に、一方は河、一方は岩山、其処には古ぼけた宮が建つてゐる。之から其宮の後に三人忍び居り、太子の帰るのを待伏せ、太子の命を取つて了ふか、但しは激流へ投込むか、何とかして片付けねば成らぬ、どうだ、俺の命を聞くか』 カ『ハヽヽヽヽイ、貴方の御命令なれば、決して否は致しませぬが、三五の宣伝使といふ奴、到底一筋縄ではゆかぬ奴で厶いますから、用心をせなくちやなりませぬ』 エ『ナアニ、あの地点は攻むるに難く防ぐに易きタラハン国第一の険要の喉首だ。彼処にさへをれば、仮令千万人の敵が来ても大丈夫だよ』 カ『如何にも左様、成程御尤も。オイ、サーマン汝どうだ。御命令を奉ずるかな』 サ『そら……、俺だつて、出世のしたいのは同じ事だ。そんな安全な所なら、俺も御用を承はらうかい』 エ『ヤ、両人共、合点がいたなれば、早く岩山の森迄行かう。軈て太子の一行が帰つて来る時分だらう』 といひ乍ら岩山の森を指して走り行く。 一方アリナは体中、肉付のよいブクブクとした柔らかな背中に負はれ、何となく妙な気分がして来出した。そしてバランスも亦アリナのどこ共なく男らしく、凛々しい姿に、……此男ならば……といふ様な妙な気になつて居た。太子は声も涼しく、馬上豊かに月光を浴び乍ら行進歌を歌ふ。 『あゝ有難し有難し九死一生の苦みを 三五教の宣伝使梅公司に助けられ 妹背の縁も恙なく再びここに相生の 松の緑の色深く駿馬に跨り戞々と 峰の嵐に吹かれつつインデス河の河辺を 勇み進んで上る内心は頓に冴えわたり 神のまします天国の旅路を進む心地せり 月の光は波の上に瞬き初めて麗しく 飛沫の音はタラハンの国家復興を歌ふ如 耳をすまして聞え来るあゝ勇ましや勇ましや 神が表に現はれて善と悪とを立別けて 吾旧国を根底より改め給ひ民衆の 永き平和と幸福を与へ給ふぞ嬉しけれ 吾師の君に従ひて川辺の森に来てみれば 月夜に瞬く篝火の影に寄りそふ数十人 何をなすやと伺へば網にかかりし旅人の 死骸をあぶり肉体の命を救ひ助けむと 民衆団の団長が力限りに介抱し 心を砕く折もあれ吾師の君の言霊に 死人は漸く甦りよくよくみれば吾慕ふ 賢き友のアリナなりアリナは漸く元気づき バランス団長に負はれつつ河辺を伝ひスタスタと 吾等一行に加はりて此処迄無事に帰りけり あゝ惟神々々神の恵の尊さよ 向方に見ゆる岩山の神を祀りし森のかげ 吾等は其処迄駆けつけて一先づ息を休めつつ 神のまにまに城内へ轡を並べて帰るべし あゝ楽もしや楽もしや一陽来復春は来ぬ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 斯く歌ひつつ、駒の足音に大地を響かせ乍ら、漸くにして岩山の森蔭、古き社の前に着いた。太子一行はバランスやアリナの身の疲れを休養さすべく、ワザと此処に駒を止めたのである。梅公別は早くも此古社の後に怪しき者ありと勘付いたが、まさかの時には言霊を以て霊縛せむものとタカをくくつて、何食はぬ顔し乍ら、一行五人一の字形になつて社前の敷石に腰打かけ、煙草を燻らして居た。社の後には三人の囁き声、 エ『オイ、カーク、来たぞ来たぞ。サア俺に忠義を尽すのは今だ。彼の正中に居る奴が太子だ、彼奴を矢庭に此刀を以て袈裟掛に切り捨てるのだ。それさへすれば外の奴アどうでもよいから、サア行け行け』 カ『ハイ、参ります。併し、旦那様、私に跟いて来て下さい。何と云つても向方は五人、そんな所へ私一人行つた所で駄目で厶いますからなア』 エ『エー、気の弱い奴だな、そんならサーマンと一緒に飛出して行け』 サ『ハイ行かぬこた厶いませぬが、何だか手足がワナワナ致しまして、怖くつて堪りませぬワ』 エ『チヨツ、エー口許りの代物だなア。サア俺に跟いて来い。そして俺の手ぎわを見るがよい』 と云ひ乍ら、バラバラと不意に立出で、木下蔭を力に太子を目がけて、暗に閃く白刃の雷、アワヤ太子は真二つと思ひきや、ヒラリと体をかはし、太子は、 『曲者、待てツ』 と大喝したり。バランスは之を見るよりエールの腕を強力に任して撲りつけたる其途端に腕はしびれ、白刃はガチヤリと大地に落ちた。バランスはエールの首筋を掴んで高く差上げ乍ら、川辺に持行き、月に曲者の面を照してみれば、擬ふ方なきエールなりける。 バラ『もしもし、宣伝使様、太子様、一寸御覧なさいませ。此面は右守の弟エールの様に思ひますが、お査べ下さいませぬか』 太子外四人はバラバラとバランスの側に駆けより、曲者の面を眺め、 太『ヤ、如何にも此奴はエールだ。怪しからぬ事を致す、悪党奴』 バラ『殿下の御証明がある以上は、此エール、此世に活かしておく代物では厶いませぬ。此奴の面には剣難の相が現はれてゐます。何れ遠からぬ内、漁業団員に命を取られる奴、エー邪魔臭い、太子様御許し』 といひ乍ら、激流目がけて、小石を投ぐるが如く、ドンブリと投込んだ。エールは投込まれた途端に、川中の突出た石に脳天を打割り川水を紅に染て、ドンドンと流れて了つた。此隙にカーク、サーマンの二人は一生懸命倒けつ転びつ、命あつての物種と右守の館を指して逃げてゆく。 (大正一四・一・七新一・三〇於月光閣松村真澄録) |
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霊界物語 | 70_酉_トルマン国の国政改革 | 09 針魔の森 | 第九章針魔の森〔一七七六〕 東西南の三方に大海原を囲らして 突出したる月の国世界最古の文明地 七千余国の国王は各鎬を削りつつ バラモン教や印度教三五教やウラル教 その外数百の宗教が互に覇をば争ひつ 解脱や涅槃や無よ空よ霊主体従、体主霊従 弥勒成就や神政の再現等といろいろと 主義や主張をふりまはし思想の混乱絶え間なく 中にも大黒主神はハルナの都に割拠して 右手に剣を携へつ左手にコーラン説き乍ら 難行苦行のあり丈けを信者に強ゆる暴状は 天地も許さぬ悪邪教改めしめて国民の 苦痛を除き助けむと主の大神の御言もて 照国別は梅公や照公司を伴ひて 河鹿峠を打渡り葵の沼に立向ひ 十五の月に心胆を洗ひ清めてデカタンの 大暴風に襲はれつ大高原を進み行く デカタン高野の中心地トルマン国は昔より ウラルの教を信奉し神の教のそのままの 政治を布きて来りしが月行き星は移ひて 思想は日に夜に悪化しつウラルの教は日に月に 衰へしより虚に乗じバラモン教やスコ教や 盛に跳梁跋扈して国民性は三分し 国運危くなりければあまり信仰強からぬ トルマン王も目を覚まし漸く神を崇敬し 国人達に模範をば示さむものと思ふ折 スコブツエン宗の教祖と自ら名乗る妖僧が 大黒主の派遣せし大足別と結託し トルマン城を粉砕しスコブツエンの根拠をば 常磐堅磐に固めむとあらゆる手段を回らして 警備少き国情につけ入り暴威を揮ふこそ 実に怖ろしき限りなりガーデン王や千草姫 右守左守の老臣も心を痛めて国防の 協議に頭を悩めしが左守右守の忠臣は 刃の錆となりはててトルマン国の柱石を 失ひたるぞ是非なけれ照国別に守られて チウイン太子の率ゐたる二千と五百の精兵は トルマン城を十重二十重囲みて王城威喝せし 大足別の全軍の背後を衝いて一斉に 総攻撃を初めけるこの有様を見るよりも ガーデン王は雀躍し城兵五百を指揮しつつ 大足別の大軍を前後左右より打ちまくる 驕きつたる敵軍は不意の援兵の襲来に 慌てふためき馬を捨て武器をも捨てて四方八方 命からがら逃げ乍ら彼方此方の家々に 放火し乍ら野良犬の遠吠なして隠れける トルマン城を包みたる醜の村雲漸くに 晴れて天日晃々と輝き玉ふ神世となり 国民上下の歓声は一度に湧きて天地も 揺がむ許りの勇しさ風塵全く治まりて ここにガーデン刹帝利忠義の為に斃れたる 左守右守の英霊を先づ第一に慰めて 感謝の意をば表せむとハリマの森の奥深く 社殿を造りて祀り込みハリマの宮と名づけける 抑此清き森林は幾千年を経たりてふ 苔むす老木鬱蒼と昼尚暗く思ふまで 立並びつつ吹く風にゴウゴウ枝を鳴らしつつ 世の太平を謳ひゐる。ここに照国別司 ガーデン王や太子をば率ゐて祭の長となり 祝詞の声も朗かに唱へ上げむとする時に 千草の姫の寵愛を独占したるキユーバーは 肩で風きり傲然と照国別の前に出で 口を極めて祭礼の儀式に欠点ありとなし 罵詈嘲弄を極むればチウイン太子は腹を立て 妖僧キユーバーを引捕へ縛して籐丸籠に乗せ 城内さして帰りけり千草の姫はチウインが この行動を聞くよりも髪逆立てて怒り立ち 一旦平和に治まりしトルマン城はここに又 再び黒雲塞がりて又もやお家の大騒動 惹起したるぞ是非なけれあゝ惟神々々 神のまにまに瑞月が口述台の浮船に 安臥し乍ら由良湊日本海の怒濤をば 眺め乍らに述べて行く昔の神代の物語 守らせ玉へと主の神の御前に祈り奉る あゝ惟神々々御霊の恩頼を賜へかし。 ガーデン王は、不意に起つたバラモン軍の攻撃に周章狼狽の結果、右守司のスマンヂーを誤つて手にかけ、忠義一途の老臣左守司は陣中に倒れ、幸に敵軍を撃退し、ヤヽ安堵したりとは云へ、ハルナの都の大黒主この報を聞かば、又もや何時捲土重来、吾都城を屠らむも図り難し、一旦は照国別宣伝使の神護とチウイン太子の智謀と、勇将ジヤンクの活動によつて、大勝利を得たるも、かかる戦国に国を立つるは到底武力のみにては叶ひ難し、先づ第一に大神を祀り、次いで忠臣義士の霊魂を斎き国民に信仰の模範を示さむ……と照国別に乞ひ、ハリマの森のウラル彦を祀りたるお宮の傍に「国柱神社」と云ふ祠を建て、左守右守の英霊を鎮祭する事となつた。 ガーデン王、チウイン太子、ジヤンクを初め城内の重臣は各自玉串を献じ、照国別の斎主のもとに無事祭典の式を終らむとするや、キユーバーは三五教の神司照国別が斎主となりし事を非常に憤慨し、千草姫の寵を得たるを力として乱暴至極にも祭壇に駆け上り、照国別の冠を叩き落し、祠の前に立ちはだかり、大音声、 『アツハヽヽヽヽトルマン城の危急を救ひ、神謀鬼策を廻らし王家を救ひたるはバラモン尊天の神力を充したるスコブツエン宗の教祖キユーバーで御座る。抑々このお宮はウラル彦の神、盤古神王を祀りあり、然るに天下を乱す悪神神素盞嗚尊の部下なるデモ宣伝使をして斎主たらしむるとは合点行かず、神明に対し畏れ多からむ。何者の痴漢ぞ、刹帝利の聰明を被ひまつりたる、ウラルの宮はウラル教の宣伝使を以て斎主とすべし。万一異教の宣伝使を以て斎主に当らしむるを得るとすれば、何故今回の殊勲者たる此キユーバーを除外し、神意に反いて不法の祭事を行ひたるか。祭典の主任は何人ぞ。今此場に現はれて其理由を説明せられよ。照国別の冠の脆くも地上に落たるは、神明許させ玉はざる象徴なり。これを霊的に考ふれば、国王殿下の御身の危険を意味し、国家の転覆を意味するもので御座る。一時も早く照国別一派を縛り上げ、彼が生血を大神の前に贄となし、ウラル彦の大神に謝罪致されよ。天来の救世主、キユーバーここに忠告仕る』 と呼はつた。ガーデン王初め居並ぶ重臣等は、あまり大胆なるキユーバーの宣言に呆れはて、照国別の返答如何と固唾を呑んで待つてゐる。 照国別は少しも騒がず、冠を打落されたるまま悠々として玉串を献じ、祭官一同を引具し、トルマン城内さして帰らむとするや、キユーバーは両手を拡げてその進路を遮り乍ら、 『こりやヤイ、デモ宣伝使、首がとんだ以上は最早や城内へ立入る事は罷りならぬぞ。ヤアヤア城内の兵卒共、彼を引捕へて牢獄に投げ込まれよ。彼はトルマン国の仇敵で御座るぞ。神の言に間違ひは御座らぬ』 と呼はれども、ガーデン王やチウイン太子の一言の命令もなければ、誰一人として手を下すものもなく、照国別一行はソロリソロリと進み行く。キユーバーは両手を拡げ乍ら後向けに歩かねばならなくなつた。此時チウイン太子は見るに見かね、 『ヤアヤア、ジヤンク殿、狼藉者のキユーバーをフン縛り城外の牢獄に投げ込めよ』 と下知すれば、ジヤンクの部下は寄り集つてキユーバーを高手小手に縛め、牢獄さして引立てて行く。群集の痛快を叫ぶ声、ハリマの森も裂くる許りに高く聞えて来た。 城内の重臣を初めトルマン市の老若男女も此祭典に参拝してゐたが、妖僧キユーバーが、チウイン太子の命によつて群集の前にて縛めの縄を受けたるを見て大に喜び、口々に罵り合つてゐる。 甲『オイ、何と痛快ぢやないか、何時やらお前と俺と○○○の話をして居つた時、あの妖僧奴、どこからともなく現はれ来り、「いや、その方は今穏かならぬ事を云うて居つたぢやないか。姓名は何と云ふ、住所を聞かして貰ひたい」と云つた糞坊主だよ。ホントに、いいザマぢやのう』 乙『ウン、さうさうあの時、何だつたね、「俺の名は俺だ、友人の名は友人だ、坊主はヤツパリ坊主だ」と吐して一目散に畔道さして逃げた所、執念深くも何処迄も追跡しやがつたぢやないか。大黒主を傘に着て、威張り散らして居つたが、今日のザマつたら、ないぢやないか。こんな事でも見せて貰はなくちや、俺等は胸中に鬱積して居る憤怒の焔が、消える事がないぢやないか、ハツハヽヽヽ』 甲『そいつも痛快だが、あの妖僧奴、一寸噂に聞けば○○○に殊の外寵愛され、刹帝利を眼下に見下し、大変な威勢だと云ふ事だよ。戦争が治まつてから十日もならないのに、最早自分の天下のやうに振舞ふんだから、あんな奴を助けておいたらどんな事をさらすか分つたものぢやない。彼奴は屹度○○○の保護によつて日ならず出獄し、再び城内に暴威を振ひ、吾々国民を層一層苦しめ、生血を搾るやうな事をさらすだらう。吾々は主義のため、同胞の生活安定のため、このままに見逃す事は出来ぬぢやないか』 乙『ウン、そらさうぢや。然し乍ら慌てるには及ばぬよ。又機会が到来するから。其時はその時の手段を廻らしさへすればいいぢやないか、イツヒヽヽヽ』 ハリマの森の社は一直線に王城に続いてゐる。その間の距離二十五丁、道の両方には家屋櫛比し、トルマン市中最も繁華の土地と称せられてゐる。 甲乙二人はいつも、これより此市街に出没し、何事か計画しつつあつた。 (大正一四・八・二四旧七・五於由良海岸秋田別荘北村隆光録) |
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霊界物語 | 72_亥_スガの港(宗教問答所) | 16 東西奔走 | 第一六章東西奔走〔一八二五〕 妖幻坊は別館の戸を開け、ズシンズシンと床を響かせ乍ら現はれ来り、 『ヤア高チヤン、御苦労だつたな、ヤ、信者が最早皆帰んだと見えるな』 高『ハイ、皆帰しましたよ、これから貴方と妾と二人の舞台ですワ、酒でも燗して上ませうか』 妖『ウン一杯つけて貰つても好いが、然し何だか妙な香がするぢやないか、何処ともなしに男臭くて仕方がないがのう』 高姫は素知らぬ顔で、 『ハイ、それやさうでせうよ、此処に猪が一匹絞めて御座いますもの、一寸御覧なさい床の下に放り込んでおきましたよ』 妖『何だ、これや人間ぢやないか、甚い事したものぢやないか』 高『人間の猪(死体)ですよ、此奴はね、妾がトルマン城に居つた時からスコブッツエン宗の教主だと威張り散らし、大黒主を笠に着たり、一方では大足別をかつぎ、何うにも斯うにも仕方が無いので、妾の美貌を幸ひ此奴をちよろまかせ、トルマン城の危急を救うたのですよ』 妖『成程、併し乍ら、スコブッツエン宗の教祖と云へば大黒主様の御片腕だ。大蛇様の兄弟分、……ウン、とどつこい大蛇のやうな勢を持つて居る立派な宣伝使だ。どうだ高姫、この坊主に活を入れて生きかへらし、お前の方から色仕掛で親切に待遇し、此奴を手蔓として大黒主に取り入り、トルマン国の政権を握つて仕舞はうぢやないか。さうすりやスガの宮なんか叩き潰さうと、どうせうと此方の勝手だからなア』 高『遉は杢助様、よい所に気がつきました。どれだけ智慧があるか知れませぬねえ、そんなら此のキユーバーを助けても宜いのですか』 妖『アー、いゝとも好いとも、併し乍ら色をもつて、ちよろまかしてもよいが、要領を得さしては不可ないよ、些と俺も妬るからのう』 高『そんな事は御心配下さいますな、ヘンそれ程安つぽい高姫と思つて貰つちや片腹痛う御座いますワ』 妖『俺が此処に居ると話が仕難いかも知れぬ、別室に入つて休むから、そこはお前の力で旨く取込んでおけ』 高『何程甘つたるい事を云つても決して怒りませぬね』 妖『口先許りなら、どんな事云つてもよい。つまりお前が甘く操つて下僕代りに使ひさへすればよいのだ』 と云ひ乍ら別館に姿を隠して仕舞つた。高姫はキユーバーを床下より引き上げ活を入れ、天の数歌を奏上した。ウンと一声息吹き返し四辺きよろきよろ見廻し乍ら、 キユ『ヤアお前は千草ぢやないか、人の喉を締めたりして気絶さすとは甚いぢやないか』 高『そんな事は当然ですよ、よう考へて御覧なさい。焼餅焼の嫌な嫌な爺が裏に寝て居るのにお前さまが談判するなんて出て行きなさるものだから、喧嘩しては近所になりが悪いと思うて一寸喉に手をあてた丈ですよ。息を止めたの殺さうのと、そんな大袈娑な事をした覚は御座いませぬよ』 キユ『本当にお前は今の夫が嫌なのか』 高『それやさうですとも、好だつたらどうして貴方の目を眩して気絶して居るのを生きかへらしませうか。妾の今の夫は怒るのも甚いけれど又機嫌の直るのも早い、アツサリした人ですからなア。それで今も今とて夫に相談しましたら、俺に心配は要らない、キユーバーさまを可愛がつて上げるが好いと云ふのです、何と今の男は開けて居ませうがな』 キユ『どちらが開けて居るのか、弄ばれて居るのか、テンと訳が分らぬワイ。然し一旦気絶して居た処を呼びいけた所を見れば些しは信用してもよいワイ。そんなら今の夫には済まないが、時々は御無心を云うても宜いか、其時は頼むよ』 高『それやさうですとも、貴方の口で貴方が仰有るのですもの、貴方の御自由ですワ。それはさうと、明日はスガの宮に乗り込み、ヨリコ姫と一生一代の問答をやらうと思ふのですが、妾も些つと許り心許ないやうな気がしてなりませぬ、一つ今晩の間に練習して置きたいと思ひますがなア』 キユ『サア、お前も仲々の雄弁家だが、ヨリコと云ふ奴は又稀代の雄弁家だ。懸河の弁を、振つて滔々とやり出す時は如何なる雄弁家も旗を捲き鉾を収めて逃げ出すのだからのう。一つ夜分の宣伝旁練習するのも宜からう、本町に出てやつて見たら如何だい。俺は見え隠れに跟いて行つてやるからのう』 聞くより高姫雀躍し頭の髪を撫で上げて 顔に塗つたる薄化粧派出な単衣を身に纒い 老海茶袴を穿ちつつ桐の下駄をば足にかけ 神官扇を手に持つてソロリソロリと門の口 太夫の道中宜しくの肩と尻とを振り乍ら 反り身になつて本町の人通り多き十字街 月の光を浴び乍らキユーバーを後に従へて 悠々然と出で来り道の傍に佇んで 鈴を振るよな声絞り 『これこれ申し皆の人ウラナイ教の大教主 千草の姫の演説を一通りお聞きなされませ 妾は元はトルマン国の王妃と仕へし身の上ぞ 衆生済度のその為めに雲を押し分けて天降り 市井の巷に往き来して天地を創り給ひたる 誠の親の御神徳無限絶対無始無終 厚き恵の御由来を世の人々に宣り伝へ 八衢地獄の苦しみを助けて神の永久に 鎮まり居ます天国の高天原の楽園に 救ひ導き永久に変らず動かぬ楽しみを 与へむ為めの此旅出悪く思つたり疑がつて 神をなみしちやいけませぬ妾は王妃の身であれば 此世に何の不自由も不足もないので御座います 大慈大悲の吾心世界の人の苦しみを 見るに忍びず此通り女の繊弱き身をもつて 寒さ暑さの嫌ひなく世の為め神の道の為め 難行苦行をして居ます皆さまお聞きでありませうが 此頃建つたスガ山の神の館に三五の 教の射場が出来ました其処を守れる神司 玉清別と云ふ人は何処の馬骨か知らねども 千草の姫に比ぶればまだまだ苦労が足りませぬ 苦労もなしに真実の香ばし花は咲きませぬ それのみならずスガ館傍に建ちし大道場 預る女はヨリコ姫花香にダリヤと云ふ女 問答所の看板を臆面もなく掲げ出し 世人を煙にまいて居る抑々人間と云ふものは 一寸先の見えぬものどうして宗教の真諦が 分る道理がありませうか天から下つた生身魂 日出神の永久に宿らせ玉ふ肉の宮 高姫でなくては分るまいこれから皆さま見て御座れ 明日は館に乗り込んでヨリコの姫を相手取り 宗教問答おつ始め誠の道に帰順させ 天晴れ勝つて見せませう何程偉そに云つたとて オーラの山に立て籠り泥棒の手下の奴輩に 姉貴々々と立てられて威張つて居つたよな代物が どうして誠の神の道完全に委曲に説けませう 皆さま今から言うておく何程仕事がせわしくも 明日一日は張込んで此方とヨリコの問答を 何方がよいか虚か実か篤くり聞いたその上で よい判断をなさいませ今から予告致します あゝ惟神々々神が表に現はれて 善と悪とを立別けるヨリコの姫もさぞやさぞ 明日一日が断末魔思へば思へば気の毒で 個人としては耐らねどお道の為と人の為め 神の御為め国の為め往かねばならぬ吾思ひ 皆さま察して下さんせ何も好んで争論を やり度い事はなけれども弱きを助け強きをば 挫かにやおかぬ義侠心これが黙つて居られうか 此方の説が勝つたならヨリコの姫を叩き出し その跡釜に千草姫神の司となりすまし 誠の教を宣伝しスガのお宮を祀りかへ ヘグレ神社と致すぞやヘグレのヘグレのヘグレ武者 ヘグレ神社の大神は三十三相は未だ愚か 五十六億七千万ミロクの活動遊ばして 此世の中を天国の常磐堅磐の楽園と 立替遊ばす経綸ぞや喜び遊ばせ人々よ 神の言葉に嘘はないきつと成就さして見せう 此世を創りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直し聞き直し 世の過は宣り直す神の教をかしこみて 此世を乱し世の人を誤らしむるヨリコ姫 それに従ふ奴輩を片つぱしから言向けて 改心さして見せませうあゝ勇ましや勇ましや 明日の吉き日ぞ待たれける』 キユーバーは後の方から蟇が風を引いたやうな響のある声を出して、 『神が表に現はれて善と悪とを立別ける 此世を創造りし神直日心も広き大直日 ただ何事も人の世は直日に見直し聞き直す ウラナイ教の御教皆さま耳を掃除して 一言半句も漏らさずに生宮さまの御託宣 しつかりお聞き遊ばせよ下つ岩根の大ミロク 日出神の生宮と現はれたまひし千草姫 ヘグレのヘグレのヘグレ武者ヘグレ神社の大神と 現はれ此処に下りまし鬼や大蛇の魂に 憑れたる憐なる人の難儀を救はむと 大慈大悲の心もて現はれたまひし有難さ スガの宮居の神館に頑張り暮すヨリコとは 天地雲泥の違ひぞやめつたにこんな生神が 再び下る事はない時は来れり時は今 爺さまも婆さまも孫つれて近所合壁誘ひ合せ 明日の大事な談判をお聞きにお出でなさいませ よい後学になりまするそれのみならず神様に 尊い御縁が結ばれて万劫末代永久に おかげの泉に浸りつつ此世この儘天国の 生存権が得られます必ず疑ひ遊ばすな スコブッツエン宗の大教主キユーバーでさへも尾をまいて 生宮様の後につきお伴に仕へて居りまする これだけ見ても皆さまよ生宮さまの御神徳 ただでないのが分るだろあゝ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 と歌ひ乍ら、スガの町々を残る隈なく東西屋もどきに歩いて仕舞つた。 (大正一五・六・三〇旧五・二一於天之橋立なかや別館加藤明子録) |
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霊界物語 | 73_子_太元顕津男の神の物語1 | 03 天之高火男の神 | 第三章天之高火男の神〔一八三四〕 主の神は高鉾の神、神鉾の神に言依さし給ひて高天原を造らせ給ひ、南に廻りて中央に集る言霊を生み、北に廻りては外を統べる言霊を生み、次ぎ次ぎに東北より廻り給ひて声音の精を発揮し万有の極元となり、一切の生らざる処なき力を生み給ふ。此の言霊は自由自在に至大天球の内外悉くを守り涵し給ひ、宇宙の水火と現れ柱となり、八方に伸び極まり滞りなし。八紘を統べ六合を開き本末を貫き無限に澄みきり澄み徹り、吹く水火吸ふ水火の活用によりて八極を統べ給ふ。此の神力を継承して、以後の諸神は高天原の中心に収まり紫微宮圏層に居を定め、一種の水気を発射し給ひて雲霧を造り、又火の元子を生み給ひ、紫微圏層をして益々清く美しく澄み徹らしめ給ひ、狭依男の神を生み給ひて紫微の霊国を無限に無極に開かせ給ひ、茲に清麗無比の神居を開き給ひぬ。狭依男の神の又の御名を天之高火男の神と言ふ。何れもタカアマハラの言霊より生りませる大神にして神威赫々八紘に輝き給ふ。 天之高火男の神は天之高地火の神と共に、力を合せ心を一にして天の世を修理固成し給ひ、蒼明圏層に折々下りて、天津神の住所を開かむと茲に諸々の星界を生み出で給ひて、昼夜間断なく立活き鳴り鳴りて鳴り止まず坐しぬ。天之高火男の神、天之高地火の神の二神はタカの言霊より天界の諸神を生り出で給ひ、荘厳無比なる紫微宮を造りて主神の神霊を祀り、昼夜敬拝して永遠に鎮まり給ふ。紫微圏界に坐ます万星界の神々は、其数日に月に増し行きて数百億の神人を現し、此の圏層の霊界建設に奉仕し給ふ。 これより数百億万年を経て今日に至りたるを思へば、宇宙創造の年代の遠き実に呆然たらざるを得ざる次第なり。紫微圏層の霊界を称して天極紫微宮界といひ、寸時も間断なくタカタカの言霊輝き、東は西に、西は東に、南は北に、北は南に、上は下に、下は上に鳴り鳴りて鳴り止まざる言霊の元子は、終に七十五声の神々を生み給ふに至れり。主の神は一点のヽより現れ給ひて、終に大虚空に紫微圏層を完成し、次第に五種の圏層を生み給ひて霊国を開き、諸神の安住地と成し給ひしぞ畏けれ。嗚呼言霊の玄妙不可思議力よ。 (昭和八・一〇・四旧八・一五於天恩郷千歳庵森良仁謹録) |
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霊界物語 | 73_子_太元顕津男の神の物語1 | 24 天国の旅 | 第二四章天国の旅〔一八五五〕 眼知男の神は如衣比女の神の遭難を見て驚き且つ歎きつつ、一刻も早く高日の宮の神司、顕津男の神に一伍一什を報ぜむと、猿も通はぬ巌壁や岩の根樹の根をふみさくみつつ、辛うじて高日の宮に帰りつき、轟く胸をおさへ乍ら落着かむとして落着かず、宮の広庭に呆然として立ち給ひ、天を拝し地を拝し、如衣比女の神の冥福を祈る折もあれ、大物主の神を従へて、悠々と顕津男の神は御殿の階段を降り給ひ、目の神の呆然たる姿を見て、 『汝こそは眼知男の神なれや 黙して立たすさまのあやしも』 目の神は初めて此の御歌に心づき、 『復言申さむ術なき今日の吾を おもひて天に祈りてしはや 如衣比女は滔々落つる中滝の 滝壺ふかくかくれましけり 滝壺にひそみて住める大蛇神は 比女の神言を呑みてかくれぬ 言霊の力に救ひ奉らむと 吾がねがひさへ水泡となりぬる 如何にして此の有様を申さむかと われは汀にたたずみ居しはや』 顕津男の神は泰然自若として、色をも変じ給はず、御歌うたはせ給ふ。 『比女神の今の歎きはかねてより 我はさとれり主の神言もて 美玉姫の命を安く産みおきて 天の宮居に昇りし比女神 比女神の高き功に報いむと 我は御霊を祀りて待ちぬ 何事も神の経綸のみ業なれば 泣くも悔むも詮なかるべし 神業を全く終りて御子を産み 天に昇りし比女ぞ尊し さり乍ら滝の大蛇を言向けて この天界の禍を祓はむ』 目の神はこの御歌に、はつと胸を撫で下しながら、 『広きあつき岐美の心に宣直し 見直しますぞ嬉しかりけり 比女神のみ供に仕へただ一人 かへらむつらさ苦しさにをり 比女神の隠れまししを目のあたり 打ち仰ぎつつ心みだれぬ 八千尋の水底ふかく隠れましし 比女の神言の悩みかしこし 今日よりは女神いまさず如何にして 国つくらすとおもひわづらふ』 大物主の神は両神の仲に立ちて、涙ぐみつつ声低に謡ひ給ふ。 『比古神の今日の心の苦しさを おもひて吾は涙にくるる 貴御子と夫神を遺し神去りし 比女の神言の心しのばゆ 如何にして御子を育み奉らむと 大物主のこころなやまし 目の神の心遣ひを聞く身には ふたたび涙あらたなりけり わが涙天に昇りて雲となり 地に降りて雨となるらむ』 斯く謡ひて両眼の涙をスーと拭はせ給ひぬ。目の神も亦悄然として再び謡ひ給ふ。 『二柱神の神言の言霊に 吾は言ふべき言の葉もなし 如何にせむ神の依さしの御使の 吾は女神を見捨ててかへりし この上は滝の大蛇を言向けて み代の禍はらはむとおもふ』 斯く謡ひ終り、三柱の神は奥殿深く入らせ給ひ、祭壇の前に端坐して、生言霊の神言を宣り給ふ。顕津男の神は比女の遭難を神命に依りて前知し、早くも御霊代を造りて祓ひ清め、祭壇の上に納め、いろいろの花を供へ、目の神の帰り来るを待ち給ひたるなりき。目の神は此のさまを見て驚きながら、 『岐美こそは真の神よ瑞の神 比女の遭難前に知りませり 明けき岐美の神霊を今更に 仰ぎぬるかな目の神吾は 語らはむ術なき身ぞと思ひしを 前に知らせるあはれ岐美はも 何事も主の大神のみさだめと おもひさだめて歎かざるべし 滝津瀬の音滔々と吾が耳に 今も聞ゆる恨めしきかな 恨むまじ歎くまじとは思へども 霊代拝せばひとしほ恋ほし』 大物主の神は拍手を終り、声さはやかに謡ひ給ふ。 『八洲河のみ底ゆ安く生れましし 如衣の比女はあはれ世になし 春駒を曳きて仕へし如衣比女 神の神言をおもへば悲しも 幾年を高日の宮に住みまして 御子を生ませし功績おもふ これよりは御子の命にかしづきて 岐美の神業をつがせ奉らむ 比女神の御霊は天津高宮に 帰れど此処にいます如おもふ 比古神の御手代となりいやますに 仕へ奉らむ比女よ安かれ』 比古神の顕津男の神は、儼然として霊代の前に謡ひ給ふ。 『幾年を吾に仕へてつつがなく 御子を生ませる公ぞかしこき 一柱御子の命のある上は 我は力を落さざるべし 比女よ比女あとに心を残さずに 主の大神の大宮にゆけ 汝に逢ひし日を思ひつつ今茲に くやみの涙とどめあへぬも さり乍ら神の定めは詮もなし 我もこころをたて直してむ せめてもの我が志と霊代の 比女神これの供物を召せよ』 八百万の神々は、如衣比女の神の昇天と聞きて吾先にと、高日の宮に集り給ひ、弔ひの歌を次々謡はせ給ふ。遠津御幸の神、 『歎くとも詮なきものか比女神は 天津神国に昇りましぬる 如衣比女天国に帰りましませど 霊は高日の宮を照らさむ 姫御子を後に遺して神去りし 比女神の心いたはしきかも 神の国にかかる歎きのあらむとは おもはざりしよ御幸の神は』 次に大御母の神は、比女神の昇天をいたく悼ませ給ひて、御歌詠ませ給ふ。 『八洲河の清水に生れし比女神は 惜しや天国に昇りましける 主の神の貴の経綸か知らねども われ朝夕のなげかひ絶えず 幾千代も共にみわざに仕へむと わがおもひしは夢なりにけり 顕津男の神の神言のみ心を おしはかりつつ涙しぐるる 白銀の駒にまたがり迎へたる よき日おもへば夢か現か 歎くとも最早詮なしこの上は 美玉の姫を育み仕へむ 比女神の神去りましし此宮は 月日の光もうすら曇りつ 天津日も月も歎かせ給ふらむ 今日の御空はうすらくもれり』 日の本の神は誄歌詠み給ふ。 『高照の山もくもりて比女神の 今日のみゆきを仰ぎおくりつ からたまの神生みましし功績を のこして比女は神去りにけり 神去りし比女の神言のけなげさよ 平然として大蛇に呑まれぬ 吾は今比女の神言の訃を聞きて 日の本山より降り来にけり 諸々の神一柱おちもなく 比女の昇天惜しまざるなし 比古神の心如何にと思ひつつ 空に知られぬ涙の雨降る 主の神の大みよさしにまつろひて 如衣の比女は神去りにけむ』 片照の神はまた謡ふ。 『おもひきや高日の宮の神柱 如衣の比女の神去りますとは 一度は見らくおもひつ比女神に あはで別るる事の惜しさよ 比女神の昇天ききて吾はただ 夢になれよと祈りけるかな 紫微界に姿見えずも比女神は 天の高宮に輝き居まさむ 吾はしも片照の神高地秀の 尾の上をわけて来り弔ふ 主の神の神言畏み今日はしも 比女弔ふと降り来しはや 比女神の神去り給ふは惜しかれど 神の経綸とおもへば尊し』 明晴の神はまた謡ひ給ふ。 『比女神のここに現れましてより この天界は明晴の神 あきらけく晴れ渡りたる天界の 今日は曇りぬ比女いまさねば あけくれを仕へ奉りし比女神の かげだに見えず淋しき今日なり 比古神の雄々しき心きくにつけ わが天界の栄えをおもふ 美玉姫神の命に従ろひて 吾は神国をひらき照らさむ』 近見男の神は謡ひ給ふ。 『中滝の大蛇の神の醜業を 比女神のために退はむと思ふ 愛善の光に満つる天界に 仇報ゆるは如何あるべき さり乍ら世の禍を打ち祓ふ みわざは神も許させ給はむ これに在す百の神達きこし召せ 世のため大蛇の神のぞかばや』 茲に真澄の神は声高々と謡ひ給ふ。 『ます鏡真澄の神の言霊に 切り放るべし滝の大蛇を 天も地も真澄に澄みてある世なり 醜の曲霊を清めずあるべき われここに真澄の神と現れて 比女を弔ひ言はかりすも 天界に禍をなす醜神を 打ちきためずば神世は栄えじ』 斯く滝の大蛇の言向けを提唱し給へば、百神は一度に「オー」と答へて、真澄の神の御謀り事に参じ、これより百の神々は、中津滝に向つて大蛇を言向けやはすべく、さしも難路の高照山の谿間を進ませ給ふぞ畏けれ。 (昭和八・一〇・一六旧八・二七於水明閣内崎照代謹録) |
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霊界物語 | 74_丑_太元顕津男の神の物語2 | 18 玉野の森 | 第一八章玉野の森〔一八八六〕 顕津男の神は、一行の神々に送られ、玉野の森の聖所に駒を進ませ給ふ。 東西十里、南北二十里に渉る玉野森は、老松天を封じて立ち並び、白砂を以て地上を覆はれ、あなたこなたの窪所には、清泉の水を湛へ、自ら清しき神森なり。玉野比女の神の館は、この森の中央の小高き丘の上に、宮柱太敷立て、高天原に千木多加知りて、主の大神の神霊を厳かに祀り給ひて、玉野比女の神自ら斎主となりて、朝な夕なを真心の限りを尽し、仕へ給ふぞ畏けれ。 顕津男の神は、玉野森に駒の蹄を一足二足踏み入れ乍ら、駒を止め御歌詠ませ給ふ。 『見渡せば目路の限は常磐樹の 松の緑の栄ゆる聖所よ 国土稚きこの天界に珍しも 千歳を経にし松繁るとは わがい行く道の先々常磐樹の 松は繁りて美し国原よ 国土生みの神業仕ふと吾は今 この神森を清しみ来にけり 幾千万の田鶴の巣ぐへるこの森の 緑に千代の色をそめたり 老松は野路吹く風を抱へつつ 神代とこしへを歌ふ聖所よ かくの如清しき広き神森の 此処にあるとは知らざりにけり 松清し地又清し水清し 真鶴国の真秀良場にして 玉野比女いづれに在すか御姿 さへも見えなく今日の淋しさ 生代比女御子孕ますと聞きしより 玉野の比女はかくろひ坐ししか』 遠見男の神は御歌うたひ給ふ。 『吾は今駒を止めて緑濃き この神森を清しみ見るも 常磐樹の松の樹蔭に白々と 匂へる花を主の神と見つ 主の神の御霊ゆ生れし白梅の 花と思へば尊かりけり 時じくに白梅匂ふこの森は 主の大神の宮居とこそ知る いざさらば吾前に立ちて御供せむ 馬上ゆたかに御歌うたひつ』 斯く歌ひ給ひ、遠見男の神は一行の前に立ち、白砂青松の清しき森蔭を、駒の蹄の音勇しく、西へ西へと進ませ給ふ。 圓屋比古の神は、馬上より御歌詠ませ給ふ。 『真鶴山玉野湖のり越えて 今日の吉日に聖所に着けり 真砂踏む駒の蹄のさくさくと 音の清しも松の下蔭 わが面を吹くそよ風も香るなり 木の間を飾る白梅の花に 玉野比女います館はいづらなる 岐美の出でまし迎へまさずや 行けど行けど果しも知らぬ森蔭を 果なき思ひもどかしみける 真鶴の国を堅むる国津柱と 生れ出でにけむこれの神森は』 多々久美の神は御歌詠ませ給ふ。 『瑞御霊進ます道に隈もなく 森かげ乍ら天津日は光る 常磐樹の松の梢を射し通し ゆたかにかがよふ天津日の光 右左前も後も常磐樹の 松ケ枝清しく風を孕めり 大空の蒼をうつしてこの森の 松の梢はますます青し 松の青御空の蒼と重なれる 空に飛び交ふ白き真鶴 白妙の真砂を敷ける森蔭を 吾は清しく白馬に跨る 梅匂ふこの神森のほがらかさ 森のあちこち百千鳥啼く 琴の音かはた笛の音か白鳥の 鳴く音清しき玉野森蔭 行けど行けど松のみ繁るこの森の 深きを神の心ともがな』 宇礼志穂の神は御歌詠ませ給ふ。 『久方の天晴れ地は清まりて 常磐の松のしげる聖所よ まだ稚き真鶴の国かくの如 老いたる松の繁る目出度さ 神生みの神業終へましし瑞御霊 また国土生ます尊さを思ふ 行けど行けどまだ現れまさぬ玉野比女の 貴の館はいづらなるらむ この森は主の大神の造らしし 真鶴国の要なるらむ 吾は今瑞の御霊に従ひて はろばろこれの聖所に来つるも 玉野比女御心あらばいち早く 出で迎へませ岐美のお成りを』 美波志比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『あちこちに清き真清水湛へたる この神森は瑞の御霊か 水底の真砂も清く見えにけり 澄みきらひたる水の光に 濁りなきこの真清水を伏し拝み 主の大神の御心悟りぬ 光闇行き交ふ世にもかくの如 清しきものの地に描かれぬ 主の神の絵筆になりし玉野森 緑のながめこよなく清し』 産玉の神は御歌詠ませ給ふ。 『白砂に松の梢の樹漏陽は 水玉の如うつろひかがよふ 白砂は年ふるままにあからみて 樹漏陽白く庭を描けり 白駒の脚に踏みゆく樹漏陽を 吾はおそれみ進み行くなり 天津日の恵は松の樹蔭にも 輝き給ふと思へば畏し 国土生みの神業仕ふと出でましし 岐美乗らす駒の脚早きかも 瑞御霊乗らせる駒の脚早み はや御姿はかくれましぬる 国土生みの神業助けむ吾にして かく後れしは御神の心か 速くしてよき事もあり遅くして よき事もあり神のまにまに 玉野森の真砂を踏みて進み行く 駒の脚音清しき園なり 真鶴の国とこしへに拓かむと 出でます岐美の後姿雄々しも 雄々しかる岐美に仕へて吾は今 これの聖所をたどり進むも』 魂機張の神は御歌詠ませ給ふ。 『主の神の生言霊や幸ひて この神森は生れましにけむ 玉野比女の永久に守らす神苑と 思へば何かつつましくなりぬ 天津空に跼りつつ駒の脚 静に進まむこれの聖所を 駿馬もこれの聖所を畏みて 蹐しつつ進む畏さ 清らけき真砂にのこる蹄跡は 瑞の御霊の通ひ路なりけり 吾は今駒の蹄を辿りつつ 瑞の御霊の御跡追はむか さしこもる梢の繁みところどころ 鶴の巣籠る神苑清しき 穹天に高く聞ゆる真鶴の 声に国原明け渡るらむ』 結比合の神は御歌うたひ給ふ。 『天の水火と地の水火とを結び合せ 生れましにけむこれの神国は 天地の中空にある心地して 鶴の巣籠る松蔭を行くも 生代比女神の神言も白駒の 背に跨りて従ひませり 生代比女神生みの業仕へますと これの聖所に来らす雄々しさ』 生代比女の神は馬上より歌ひ給ふ。 『天と地を結び合せの神とます 汝は吾胸悟りまさずや 御子生みし吾は一入玉野比女 したはしきままここに来つるよ 玉野比女の神にし逢ひてわが胸を 明かし奉らむ真心の水火に 常磐樹の繁れるこれの神森に 吾比女神と永久に住まむか 玉野比女の神業助けて永久に この神森を守らむと思ふ 真鶴の国土稚ければ国土造る 神と議りて世を開くべし 水火と水火結び合せて生れたる 御子はまさしく国の御柱よ』 斯く言挙げし乍ら、生代比女の神は駒に鞭打ち、一行の前に立ちて、雲を霞と駈け出で給へば、瞬くうちにその後姿さへも見えずなりける。結比合の神は、生代比女の神の後姿を見送り乍ら、御歌詠ませ給ふ。 『細女よああ賢女よ生代比女の 神の姿のすぐれたるかも 生代比女は伊向ふ神よ面勝神よ まつ先かけて駆け出し給ふ 吾よりも前に立つべき神乍ら 今まで後につづかせ給へり 上下の序を正し今よりは 国土生みの業に仕へ奉らむ 生代比女神は貴の子孕ませり わが仕ふべき神にましける 前立ちて進ませ給ふ後姿を はつかに見れば光なりけり 松の間を輝かせつついち早く 岐美の御後を追ひ給ひけむ』 美味素の神は御歌詠ませ給ふ。 『行けど行けど果しも知らぬこの森の 真砂に駒の蹄は悩めり さくさくと駒の蹄の音冴えて 行き悩みたる真砂の森蔭 玉野湖の湖水に潜み竜となりし 生代の比女は面勝神なり 生代比女面勝神の功績に なごみ給ひし瑞御霊はも 世の中に女神の強さ悟りけり 進むのみなる神のいさをし いざさらば駒に鞭うち真砂原 急ぎ進まむ岐美をたづねつ』 斯く歌ひ終り、一鞭あて蹄の音も勇ましく、松蔭の真砂路を一目散に打たせ給ふ。いや果に、真言厳の神は御歌うたひ給ふ。 『神々の貴の言霊まつぶさに 吾は聞けるも澄める心に 右左清水たたへし清池の 光れる中を嬉しみ行くも 天なるやスの言霊の鳴り鳴りて かかる聖所は現れにけむ わが生める荒金の地も主の神の 御霊と思へば畏くぞある ざくざくと駒の蹄のひびかひも 神の御声と思へば畏し 今暫し駒に鞭うち進むべし 玉野の比女の御舎近めば 瑞御霊玉野の比女に見合ひまし 言問ひ給はむこの潮どきに 急ぐもよし急がずもよし惟神 神のまにまに進むべきのみ』 斯く各も各も馬上ゆたかに、御歌詠ませ乍ら、玉野森の中央なる小高き丘の上に、広く建てられし玉野比女の神の門前さして進み給ひぬ。 (昭和八・一〇・二七旧九・九於水明閣谷前清子謹録) |