| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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81 (1992) |
霊界物語 | 30_巳_南米物語2 末子姫と言依別命の旅 | 13 都入 | 第一三章都入〔八五五〕 巽の池の曲神を神の伊吹の言霊に 言向け和し末子姫捨子の姫を従ひて 焼きつく如き炎天をかよわき足を運びつつ 春、幾、鷹に送られて草野をわたり河をこえ 再び山を乗越えて又もや谷間を辿りつつ 旅の枕も数重ね桃上彦の鎮まりし 三五教の神館ウヅの聖地の間近まで 漸く進み来りける。松若彦は馬に乗り 御輿二挺を舁つがせつ数多の国人引率し 神素盞嗚大神の珍の御子なる末子姫 捨子の姫を迎へむと威儀を正して白旗に 赤き十曜の紋を染め風に靡かせ堂々と 長蛇の陣を張り乍らウヅの都の町外れ カリナの里に現はれぬ松若彦の一行は 末子の姫の一行とカリナの里に出会し 忽ち馬を飛び下りて末子の姫の前に寄り 松若彦『珍の都の国彦が御子と生れし神司 松若彦は今茲に瑞の御霊の末の御子 末子の姫や捨子姫御二方の御出ましを 神の御告に知らされて新に御輿を造り上げ 茲にお迎へ申したり殊更暑きウヅの国 尊き御身を持ち乍ら神の御為道の為 世人の為とは云ひ乍らよくも御出まし下さつた 指折り数へて国人が瑞の御霊の御降臨 今か今かと待佗て喜び勇んで居りまする 尊き珍の姫様よ従ひませる捨子様 茲にてお休み願ひます』 いと慇懃に宣りつれば末子の姫も会釈して 末子姫『噂に高きウヅ館松若彦は汝が事か 吾等一行を親切にテル山峠の麓まで 春、幾、鷹の御三方迎への為に遥々と よくも遣はし玉ひしぞおかげで道中恙なく いよいよ此処へ着きましたあゝ惟神々々 尊き神の引合せはてしも知らぬ白雲の メソポタミヤを立出でて教を開く折柄に 吾等が姉妹主従はバラモン教の司等に[※御校正本・愛世版では「メソポタミヤを立出でてバラモン教の司等に教を開く折柄に吾等が姉妹主従は虐げられて棚無しの」だが、それでは「末子姫がバラモン教の司らに対して三五教を開いた」と読めてしまう。校定版・八幡版では「バラモン教の司等に」の位置が変更され、「メソポタミヤを立ち出でて教を開くをりからに吾らが姉妹主従はバラモン教の司らに虐げられて棚無しの」になっている。霊界物語ネットでも読者の混乱を避けるため校定版と同様に「バラモン教の司等に」の位置を変えた。] 虐げられて棚無しの寄るべなぎさの捨小舟 さも恐ろしき荒波につき放されし苦しさよ 妾は幸ひ天地の神の恵を蒙ぶりて 捨子の姫と諸共にハラの港に安着し テル山峠を乗越えて巽の池に潜みたる 大蛇の神を服従はせ心も勇み身も勇み 松若彦の現れませるウヅの都を当途とし いよいよ此処に現はれぬ松若彦の神司 妾は未だ手弱女の力少なきまな娘 何卒宜しく頼み入るあゝ惟神々々 神の教に服従へる教司の御前に 始めて述ぶる御挨拶完美に委曲に聞し召せ』 言葉静かに宣りつれば松若彦は腰屈め 揉手し乍ら喜んで末子の姫の御手を取り 力の限り握りしめ 松若彦『あゝ姫様よ姫様よいよいよ是よりウヅの国 汝が命の降臨にいと平けく安らけく 戸ざさぬ御世と治まりて鬼も大蛇も荒風に 吹かれて散りて影もなく神の御稜威はいやちこに 輝き渡り玉ふべしあゝ惟神々々 神の御末の末子姫珍の身魂の御前に 松若彦が赤誠を捧げて感謝し奉る』 と互に挨拶を終り、麗しき森蔭に立入りて、少時息を休むる事となつた。 松若彦は詞丁寧に、末子姫、捨子姫に向ひ、腰を屈め乍ら、 松若『噂に高き瑞の御霊、神素盞嗚大神様の珍の御子と現れませる末子姫様、並にお付添ひの捨子姫様、よくマア遥々と此熱国へ御降臨下さいました。私は申すに及ばず、ウヅの都の神殿に仕へ奉る神司を始め、数多の国人はどんなに喜ぶことで御座いませう。全く私は救世主の御降臨と欣喜雀躍の余り、二三日以前から、余りの嬉しさに夜も碌々に休むことも出来ませなんだ。余り俄に拵へました此御輿、お粗末では御座いますが、どうぞ是から、これにお乗し下さいまして、御入城の程偏に希ひ上げ奉ります』 と頼み入る。末子姫は首を左右に振り、 末子『折角の思召、無に致すは誠に済まない訳で御座いますが、勿体ない、結構な神様より、足を頂戴致し乍ら、どうして輿なんかに乗ることが出来ませう。折角乍ら是計りはお許し下さいませ』 捨子『姫様もあの様に仰せられまするから、どうぞ是計りは御無用にして下さいませ。又妾は姫様の侍女として、お側近く、朝な夕なに御奉公致す婢女なれば、仮令姫様が御召しになつても、妾は左様な勿体ないことは、到底出来ませぬから、悪しからず御収め下さいませ』 松若『左様では御座いませうが、あなた様の御降臨を国人が喜び、寄つて集つて昼夜の別なく作り上げた御輿で御座いますれば、どうぞ国人の至誠に免じ御乗用し下さいます様、一同に代り、たつて御願申上げます』 末子『頑固のようで御座いますが、妾の様な若い女、神徳もない者が、如何して此様な立派な、神様の御召し遊ばす御輿に乗せて頂くことが出来ませうか』 松若『貴女様は神様の御経綸に依つて、ウヅの国の司として御出で遊ばしたので御座いませう。貴女様に取つては左様な事は御考へ遊ばさないでせうが、正鹿山津見の神様が、黄泉比良坂の戦ひに、御出陣の際、私の父の国彦に向つて仰せらるる様……神素盞嗚大神様の姫御子が此国へ降臨遊ばして、宇都の国一円をお治め遊ばす時が来るから、それ迄は汝国彦、吾館を預り能く守り居れよ、珍の御子降臨の時は、是を奉じて国の司となし、汝は左守右守の神となつて、神業に奉仕せよ……との御教示で御座いました。吾父は最早国替を致しましたが、其後を継いだ此松若彦、父の言葉を無寐にも忘れず、珍の御子の降臨あるまでは、大切に守らねばならぬと、今日まで力の及ぶ限り守つて参りました。貴女はいよいよ此国の女王となつて、国民を治め、又教主となつて国人を尊き神の御道に教へ導き下さらねばならぬ御役目で御座います』 末子『及ばぬ乍ら、其使命は妾も父大神より承はつて居りました。何卒宜しく御輔導の程を御頼み申します』 松若『御勿体ない其お言葉……松若彦身に取り、実に無上の光栄に存じます。至らぬ愚者なれ共、宜しく御指導下さいまして、永くお使ひ下さりませ。偏に願奉ります』 末子『御互様に宜しく願ひます』 松若『あなた様は父大神より、此国の女王とならせ玉ふことを御存じとあらば猶更の事此御輿に御乗し下さらねばなりますまい。決して御輿にお召し遊ばすのは贅沢の為でも、又は楽に道中を遊ばす為でも御座いませぬ。此世界は天地の御恩に依つて造られた以上は、天はさて置き、地には至る所に国魂神の神霊宿らせ玉へば、大地の上を踏み歩くも、吾々人民は恐れ多い次第で御座います。ぢやと申して、国人一般が大地を踏むことを恐れて居りましては、道行くことも出来ず、耕し一つすることも出来ませぬ道理、そこで国の司と現はれます女王様は、万民に代り、天に跼まり、地に蹐して、神祇を尊敬遊ばし、国民の代表となつて、お土を御踏み遊ばさないのが御天職で御座いますから、どうぞ此処の道理を聞分け下さいまして、これより先は城下で御座いますれば、せめて城下丈なりと、お土をふまない様に、吾々に代つて御苦労に預りたう存じます。又捨子姫様も御近侍の役、どうぞ姫様に御伴遊ばすので御座いますれば、此御輿に是非是非御乗しを願はねばなりませぬ。此儀偏に御願申し上げます』 末子『さう承はらば、否むに由なきことで御座います。左様ならば仰せの通り、御世話になりませう。……捨子姫殿、妾が許します、否命令します、あの輿に乗つて妾が後に従ひ来られよ』 と漸く末子姫の言葉は何処となく権威を帯びて来た。捨子姫は否むに由なく、素直に『ハイ』と答へて、末子姫の輿の後より外の輿に乗せられ、数多の国人の歓呼の声に送られ、賑々しく入城することとなつた。 ウヅの都の入口には非常な立派な門が建てられてある。末子姫は此表門より輿に舁つがれ、行列勇ましく本城さして進み入る。通路は白砂を布き詰め、道の左右には数多の国人、地上に跪き、救世主の降臨と涙を流し、感喜の真情に暮れてゐる。いろいろの音楽の音に送られ黄昏前、奥殿に安着した。 カールは途中に石熊に追つ付かれ、茲に両人は手に手を取つて、白砂の布きつめたる道を、息もせきせき城内指して進み入る。 (大正一一・八・一五旧六・二三松村真澄録) |
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82 (2001) |
霊界物語 | 30_巳_南米物語2 末子姫と言依別命の旅 | 22 大蜈蚣 | 第二二章大蜈蚣〔八六四〕 マチとキジとの両人は三五教の宣伝使 国依別に従ひて夜道を辿りやうやうに 夜も明け放れ露の道勢込んでスタスタと 下らぬ歌をうたひつつアラシカ山の麓まで 来りてここに息休め又もや乗出す膝栗毛 険しき坂を潔くやうやう頂上に登りつめ 涼しき風を浴び乍らあゝ面白い面白い 四方の国原見渡せば山野は青く河清く 西南方に屹然と雲の冠を頂きて 聳り立ちたる日暮シの山の麓の聖場を 指さし乍らウラル教ブールの教主が立籠る 霊地は彼処と国依別の貴の司に指し示し 問はず語を始めつつ又もや東北指さして 広袤千里の平原に長く築きしヒルの町 楓の別の鎮まりて三五教を開きます 神の館は目の下に甍も高く聳えつつ 確にそれと分らねど風に閃く旗印 勝利の都は足許に近寄りたりと勇み立ち 心のままに涼風を味はふ折柄国依別の 貴の司は先に立ち早く行かうと駆出せば 二人は名残を惜しみつつ是非なく後に従ひて 険しき坂を下りゆく路の片方に楠の木の 老木茂りウラル教教の祖を祀りたる 神王祠を発見し近寄り見れば妙齢の 女が一人面やつれ髪もおどろに手を合せ 祠の前に俯いて何かヒソヒソ祈り居る 怪しき様子にキジ公は側に寄り添ひ背をなで 言葉優しく労はりて事の様子を尋ぬれば 女は漸く顔をあげアラシカ山の山麓に ウラルの教の宣伝使と仕へまつれるエスの子よ 妾が父は三五の神の司を呼止めて 吾家に泊めし罪に依り日暮シ山の聖場に 引立てられて仄暗き残酷無情の水牢に 閉され玉ひ朝夕に苦しみ歎き玉ひつつ 此世を果敢なみ玉ふらむ父の災聞くよりも 妾の母は驚いて持病の癪気再発し 水さへ飲めぬ重態に痩衰へて玉の緒の 命尽きむとする場合いかで妾は此儘に のめのめ眺めて居れませうウラルの教を開きたる 教祖の神の御前に父の危難を逃れしめ 母の病を一日も早く治させ玉へよと 心の誠を捧げつつ一心不乱に神の前 朝夕祈る吾心推量あれと答ふれば キジ公涙に暮れ乍ら心配なさるなエリナさま 神に仕へしキジ公がとつとき力を現はして お前の父のエスさまをキツと助けて上げませう マチ公お前は此方に従ひエスの家に行き 病に苦む母親を鎮魂帰神の神業で 早く助けて上げて呉れ国依別の神様は 一時も早く楓別神の司の鎮まれる ヒルの館に出でましてキジが凱旋する間 ゆるゆる御待ち下されと勇み切つたるキジ公の 言葉にマチは擦りよつてオイオイキジ公そりや無理だ 何程弱い敵だとてお前一人ぢや険呑だ 国依別の命令に従ひ俺もついて行く 国依別の神様よ次いではエリナの娘さま 天晴れ凱旋した上で後日にお目に掛りませう 云ふより早くマチ公は尻ひつからげアラシカの 峠を上り下りつつ一目散に駆出せば オイオイ待つたマチ公とキジ公も尻をひつからげ 韋駄天走に進み行くあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 キジ、マチの両人は漸くにして、日暮シ河の丸木橋の袂に辿り着いた。 キジ『オイ、マチ公、夜前のキジ公が奮戦激闘の結果、大功名を現はしたる古戦場へやつて来た。此辺は死屍累々として横たはり、地下一尺を掘れば、白骨現はれ、夜は鬼哭啾々として寂寥身に逼ると云ふ記憶すべき印象の深き地点だ。一つ敵の亡霊を弔[※御校正本では「吊」]つてやらうぢやないか。アハヽヽヽ、南無アナン、ユーズ大居士、頓生菩提だ、どうだ一つ宣伝歌でも手向けてやらうぢやないか?』 マチ『何を云ふのだ。古戦場所か、極めて新戦場だ。吾々が大勝利を得た聖地だから、神様に御礼の為神饌を献るべき神饌場だよ。あゝ新鮮の空気は水の如く流れ来り、吾等が汗を拭ふ。勇なる哉。壮なる哉。どれどれ一服仕らう』 と云ふより早く、芝生の上に大の字を描いた。 キジ『ヤア、早から大勝利を祝つて、大の字になつてゐるのか。さう背部を下にして居ると、キツと大敗の憂目に会はなくてはならないよ』 マチ『何、敵をして大敗せしむると云ふ縁起を祝つてゐるのだ。俯むいて見れば敵を大に屈伏さすると云ふ大腹となるのだ。アハヽヽヽ』 と罪なき事を喋り散らし乍ら、余り勢込んで走つて来た体の疲れに、何時の間にか両人共熟睡して了つた。 何処よりともなくガサガサと這うて来た大蜈蚣に、耳の一方を刺され、痛さに目を醒まし起上つたキジ公は、矢庭に蜈蚣に向つて唾を吐きかけた。蜈蚣に対し大禁物の唾に忽ち、大蜈蚣はピンと体を伸ばし、青くなつて其場に倒れて了つた。キジ公は耳の痛さに何気なく、唾を指につけ、之を疵所に塗つた。不思議や痛みは忽ち止まり、耳の腫も瞬く間にひすぼつて了つた。マチ公は此騒ぎに目を醒まし、四辺を見れば、大蜈蚣が唾の毒にあてられて、殆ど虫の息になつてゐる。マチは之を眺めて、 マチ『オイ、キジ公、殺生のことをするない。貴様は蜈蚣の敵薬たる唾をかけたのだな、生物を殺すと云ふ事は天則違反だぞ。早く蜈蚣を助けてやらないか』 キジ『俺だつて別に無益の殺生を好んでする者ではない。安眠中を窺ひ、俺の耳を咬よつた悪い奴だから、此奴こそ唾棄すべき悪虫だと思つて吐きかけたのだ。俺の唾は偉いものだらう。一口吐くが最後、こんな大蜈蚣が忽ち寂滅為楽、頓生菩提となるのだからなア。アハヽヽヽ、武士と云ふ者は変つたものだらう』 マチ『グヅグヅして居ると、蜈蚣公、本当に縡切れて了ふぢやないか。早く川へ連れて行つて水を呑ましてやれ。さうすれば忽ち全快して、元の通りシヤンシヤンと活動する様になるワ』 キジ『此蜈蚣の歩く姿を見ると、夜前アナンの奴、沢山の竹槍隊を連れ、単縦陣を作つてやつて来た時の姿にソツクリだ。これも何かの前兆だ。此儘に捨てておかうぢやないか。蜈蚣が蘇生した様に、ブールの奴、余り元気付きよると、一寸此方は少数党だから険呑だよ』 マチ『アハヽヽヽ、ヤツパリどつかに不安を抱いてゐると見えるなア。国依別様の前ではズイ分吹いたぢやないか。こんな所でこんな弱音を吹く位だつたら、肝腎要の戦場に向つては、如何することも出来なくなつて了ふよ』 キジ『何さ、働く時に働きさへすれば宜いのだ。今は斯う弱さうにして力を蓄へ、潜勢力を養つておくのだ。エヽ邪魔臭い、蜈蚣の奴、助けてやらう』 と云ひ乍ら、川の中の流れを目がけて、手に掴んで投げ込んだ。蜈蚣は水に陥ると共に、毒は消ゑ、水中を辛うじて泳ぎ乍ら、岸に登り、二人が足許に勢能く、百本の足に馬力をかけ、大速力で突進し来る。二人は何となく、怖気つき、トントンと逃げ出した。不思議や蜈蚣は何処までもと云ふ調子で追つかけ来る、厭らしさ、とうとうウラル教の霊地と聞ゑたる日暮シ山の岩窟の前迄追つかけ来り、忽然として姿を消して了つた。此蜈蚣は言依別命が球の玉の霊力を以て、二人の出陣を励ますべく顕現せしめたのであつた。 (大正一一・八・一六旧六・二四松村真澄録) |
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83 (2010) |
霊界物語 | 31_午_南米物語3 国依別の旅 | 01 主一無適 | 第一章主一無適〔八六七〕 千早振遠き神代の昔より珍の都のエルサレムに 天津御神の神言もて国治立大神は 普く世人を救はむと野立彦と現はれまし 豊国姫の神御霊は野立姫と現はれて 天と地とを兼ね玉ひ百の神人草木まで 安きに救ひ助くべく心を千々に配りまし 埴安彦や埴安姫の貴の命と現はれて 黄金山下に三五の神の教を樹て玉ひ 救ひの道を宣り玉ふ此御教を朝夕に 守り玉へる天教山の木の花姫を始めとし 日の出神の珍御子が神素盞嗚大神の 瑞の御霊の神業を輔け玉ひて世に広く 開き玉ふぞ尊けれ豊葦原の瑞穂国 根別の国と名に負ひし自転倒島の中心地 綾の高天の霊場に国治立大神は 暫し隠れて四尾山国武彦と名を替へて 五六七の御世を来さむと桶伏山の片ほとり 厳と瑞との神御霊玉照彦や玉照姫を 錦の宮の神司と定め玉ひて三五の 教の庭を開かせつ言依別の瑞御霊を 錦の宮の教主とし西の神都はエルサレム 東の神都は桶伏の霊山会場の神の山 太く建てたる神柱緯の御霊と聞えたる 言依別命をば道の教主と任け玉ひ 神の司を養ひて自凝島を初とし 国の八十国八十島を皇大神の御恵みの 光りに照らし露あたへ曇り切つたる現世を 寂光浄土の天国に造り成さむと千万に いそしみ玉ふ有難さ教司の其一人 中にも清き神司国依別の宣伝使は 教主の後に従ひて自凝島を出立し 神のまにまに和田の原荒浪分けてやうやうに 海に浮べる高砂のテルの港に上陸し 夜を日に継いで三倉山の国魂神を祀りたる 祠に二人は参拝し飢に迫りし国人を 救ひ助けて人々に救ひの神と崇められ 教主言依別命は袂を分ちウヅの国 末子の姫の現れませる都をさして出でて行く。 後に残りし国依別は軽生重死のウラル教が 無道極まる迷信を打破し尽して潔く 此場を立ちてヒルの国桜の花もチルの里 夜の荒シの森蔭に辿りて息を休め居る 時しもあれやウラル教乱れ散りたる信徒を 集めて再び出で来り国依別を十重二十重に 囲みて生命を奪ひ取り三五教を根底より 殲滅せむと襲ひ来る醜の魔神を悉く 珍の神術に蹴散らし皇大神の御前に 感謝し奉る折もあれキジとマチとの二人の男 国依別の神徳を慕ひて茲に走せ来り 師弟の約を結びつつ日暮シ河の土堤の辺に 進む折しもウラル教のアナン、ユーズの両人は 数多の部下を引率し剣や竹槍を携へて ヒルの都に三五の教を伝ふ神司 楓別命の霊場を夜陰に紛れて蹂躙し 打破らむと進み来る此一隊に出会し キジとマチとの両人は国依別の司より 鎮魂帰神言霊の幽玄微妙の神力を 完美に委曲に授けられ勇み進むで河の辺を 進みて来る魔軍に向つて言霊打出せば 不意を打たれて敵軍は雲を霞と逃げて行く 茲に三人は夜の道をスタスタ進みアラシカの 険しき峠を攣登り東北指して降り行く 道の片方の古社楠の古木の天を摩し 聳り立ちたる木下蔭額づき拝む人影を 認めて近づき伺へばウラルの道の神司 エスの娘と聞きしよりキジは言葉も柔かく 親切こめて問ひ糺し茲に様子を詳さに 明め尽し両人は国依別に相別れ 日暮シ山の岩窟に囚はれ苦しむエスの身を 一日も早く助けむと勇み進むで出でて行く 国依別の神司エスの娘に従ひて アラシカ山の麓なるエスが館に立ち向ひ 暫くここに逗留し神の教を宣べ伝へ ヒルの都に立寄りて楓別に面会し キジ、マチ二人を助けむと日暮シ山の岩窟に 進みてブールの神司言向け和し驍名を 高砂島は云ふも更豊葦原の国中に 轟かしたる物語狩野の渓流眺めつつ 初秋の風を浴び乍ら安楽椅子に横はり 敷島煙草をくゆらしつ浄写菩薩と立向ひ いよいよ霊界物語三十一の巻始め 言霊車転ばしぬあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 国依別はエリナに導かれ、エスの家に漸く着きぬ。エリナの母は思ひの外の重病にて、殆ど人事不省の体なり。国依別は取る物も取敢ず、草鞋をとくとく座敷に駆上り、直に天津祝詞を奏上し、天の数歌を称へあげ、鎮魂を施し、いろいろ雑多と丹精をこらして、病気回復の途を謀りける。されど如何にせしか、病人は少しも快方に向はずして、日に日に衰弱甚だしく、最早絶望の域に進みたり。エリナは一生懸命に水垢離を取り……、 エリナ『三五教の大神国治立命様、常世神王様、何卒々々父の危難を遁れさせ玉へ、母の難病を今一度救はせ玉ひて、夫婦親子が仮令一日なり共、嬉しく楽しく、互に顔を見合せ、恵の露にうるほひまする様……』 と、我れを忘れて祈願を凝らし居る。されどエリナの心中は未だ主一無適の精神には成り得ず迷ひあり。其理由は、国治立命は果して善神なりや?但は常世神王の方が善神なるや?国治立神を念じなば、常世神王の神怒に触れて、益々母の病は重り、父の大危難は愈深くなり行くには非ざるかとの疑念が、頭脳の中に往来しゐたるが故なり。 国依別はエリナの心の中を推知し、四五日茲に逗留して、いろいろ雑多と善悪不二、顕幽一本の真理を説き諭したれども、父母の災厄に周章狼狽したる若き娘の事とて、千言万語を尽しての国依別の教示も、容易に頭に入らず、唯一日も早く父の危難を救はれ、母の重病の癒やされむことにのみ余念なく、一心不乱になり乍ら、信仰上の点に於て非常に迷ひ苦しみ居たり。それ故に神徳充実したる国依別命の鎮魂も、言霊も功験を現はすには至らざりける。 凡て信仰は迷ひを去り、雑念を払ひ、理智に走らず、只何事も神意に任せ奉り、主一無適の心にならなくては、如何な尊き神人の祈念と雖も、如何に権威ある言霊と雖も、容易に其効の顕はれざるは当然なり。要するにエリナの信仰は二心にして、悪く言はば内股膏薬的信仰に堕し居たり。幼少の頃より宇宙間に於て常世神王に優る尊き神はなく、又常世神王に勝るべき権威はなし、万一常世神王の忌憚に触れむか、現界は云ふも更、霊界に於ても無限の苦しみを受け、且つ厳罰に処せらるべしとの信仰を深く心の底より植ゑ付けられ居たるが故に、誠の神の教を喜びて聴聞し乍らも、不安の雲に包まれ、煩悶苦悩を続け居たるなりける。 国依別は容易にエリナの信仰の動かざるを悟り、且つ彼の母の病気は到底救はれざることを悟りて、いよいよ此処を立去り、ヒルの都に向う決心なしたりける。 国依別はエリナに向ひ、 国依別『エリナさま、永らく御世話になりましたが、貴女の御信仰は何うしても徹底致しませぬ。それも無理のなき事でせう。就いてはお母アさまの御病気も最早絶望ですから、其お積りで居て下さい。又エスさまを救ひ出さむとして、日暮シ山の霊場に向つたキジ公、マチ公の両人が未だ帰つて来ないのも、何か神界に於て深き思召しのある事でせう。父を救ひ、母を救はむとのあなたの真心は実に感服の至りですが、斯かる場合には、あなたの日頃信ずる常世神王様に、主一無適の真心を捧げて御願ひなさる方が却て御神力が現はれるでせう。三五教の主神国治立命様は、あらゆる万民の苦みを助け下さる有難き神様なれど、あなたの信念力が二つに割れて居りますから、神様も救ひの御手を伸べさせ玉ふ事が出来ませぬ。斯う申せば、国治立神は余程気の狭い偏狭な神様だと思はれるでせうが、決して左様な不公平な神様ではありませぬ。只あなたが神様は元は一株だから、常世神王様を念じても、国治立の神様は決して御怒りなく、又国治立命を何程一心に念じたとて、常世神王様が御立腹遊ばすものでないと云ふ事が御分りにならなくては、信仰は駄目です。神様の方では左様な小さい障壁や区画はありませぬが、貴女の心の中に区画をつけたり深き溝渠を穿つたり、いろいろと煩悶の雲が包んでゐるから、何程神様が御神徳を与へやうと思召しても、お前さまの方に感じないのだから仕方がありませぬ。それ故あなたの最も信ずる、常世神王様に御祈願をなさつた方が、却て御安心でせう。私は是から御暇を致します。ここ暫くの間は、ヒルの都の楓別命の神館に逗留の考へで厶いますから、御用があつたら、国依別と云つてお訪ね下さいませ。何時でもお目にかかります。又幸ひにエスさま始めキジ、マチの両人が帰つて来られたら、国依別はヒルの都に逗留して居るからと、伝言を願ひます。左様ならばエリナさま、御病人様を大切になさいませ』 と立出でむとするを、エリナは周章て引とめ、 エリナ『モシモシ宣伝使様、どうぞさう仰有らずに、暫く御逗留遊ばして下さいませ。これから心を入れ替へて、あなた様の仰せに従ひ、信仰を致しますから……』 国依別『心の底から発根と分つての信仰でなければ到底駄目です。神様は仁慈無限の御方故、別に頼まず共、助けてやりたいと思召し、種々と力を御尽し遊ばして厶るのですが、あなたの心の中の執着と云ふ曲鬼が神徳を遮つて居るのです。其曲鬼をあなた自ら追出さねば到底駄目ですよ。国依別が別れに臨むで、御注意申上げておきます。左様ならば……』 と後に心を残しつつ、国依別は此家を立出でヒルの都を指して進み行く。 (大正一一・八・一八旧六・二六松村真澄録) |
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霊界物語 | 31_午_南米物語3 国依別の旅 | 02 大地震 | 第二章大地震〔八六八〕 国依別の立去つた後のエリナは、掌中の玉を何者にか奪はれたるが如き心地し乍ら、門に立出でて、宣伝使の姿の広き原野に見えなくなる迄打見まもり、 エリナ『アヽ御親切な御方であつたナ。どうぞモウ暫く居て下さればよかつたのに……俄に御機嫌を損ねたと見えて、とうとう帰つて了はれた。最早此上は三五の神様に見放されたに違ない。ヤツパリ昔から信仰して来た常世神王様を、一心不乱に信仰致しませう。お父さまが日暮シ山の牢獄に囚はれて、あるにあられぬ責苦に会ひ、お苦しみ遊ばすのも、其元を尋ぬれば、ウラル教の神司であり乍ら、ブールの教主様が常に異端とし、外道としてお嫌ひ遊ばす三五教の宣伝使を吾家に泊めたり、又ウラル教の信者に対し、異端外道の教を御勧め遊ばした天罰が酬うたのであらう。何程誠の教でも、常世神王様に仕へて居る以上は、二心を出して他の神様を信仰すれば、神罰が当るのは当然だ。アヽ是から心を改めて、常世神王様に対し、心の底よりお詫びを致し、主一無適の信仰を捧げませう。……あゝ常世神王様、吾々教子の重々の罪、何卒御赦し下さいませ』 と言ひ乍ら、家に入り、母親の枕許に進み寄り見れば、母親は少しく頭を擡げ、ニコニコと笑ひ初めた。 エリナ『アヽお母アさま!大変に御気分がよささうに御座いますなア。こんな嬉しい事は御座いませぬ』 母(テール)『お前は余り両親を大切に思ふ真心より、遂にウラル教の有難い事を忘れ又お父さまの様に三五教の宣伝使を吾家に連れ帰り、外道の神様を信仰なさるものだから、私も又もやブールの大将に睨まれ、お前と私とが、再びお父うさまの様に、水牢の責苦に会はねばならぬかと、それが心配になつて、病気はだんだん重る計り、心の中で……常世神王様、どうぞ一時も早く宣伝使が帰つて呉れます様……と、祈願をこらして居りました。おかげに依つて外道の宣伝使、吾家を立出で、姿を見せなくなつたので、ヤツと安心し、俄に気分も良くなつて来たのよ。モウ是からどんな事があつても、外道の宣伝使を吾家へ連れて帰ることはなりませぬぞや。お前は親を助けようと思うて焦り、却て、外道に迷ひ、親を苦しめる様な事になるから、どうしても斯うしても常世神王様の教を疎外し、外道に迷はぬ様に心得て下されや。おかげは忽ち此通りだから、神様が種々として、吾々親子の信仰の厚薄を御試し遊ばすのだから、チツとも油断はなりませぬぞえ』 エリナ『ハイ、現当利益と言ひ、お母アさまのお言葉といひ、只今限りスツパリと心を改め、決して外の道へは迷ひませぬから、御安心下さいませ』 母『あゝそれを聞いて母も安心しました。サア早く常世神王様に御礼を申上げてお呉れ!』 エリナ『ハイ、只今直に感謝の詞を捧げませう』 と直ちに、庭先を流るる細谷川に身を清め、衣類を着替へ、恭しく感謝祈願の祝詞を奏上し居る。 かかる所へ日暮シ山のブールの使として、アナンは四五人の部下を引つれ、此家に荒々しく入来り、いとも声高にエリナに向ひ、 アナン『オイ、エリナとやら、貴様は又しても、三五教の神司を吾家に引入れ、朝夕……親の病気を直さうとか、父の危難を遁れさせ玉へとか云つて、祈らして居つたではないか?近所の者の注進によつて、何も彼もスツカリと教主の耳に這入つてゐるぞ!それにも拘はらず、三五教の乱暴者キジ、マチの両人を差向け、聖場を蹂躙せむと致した図太き代物……サア教主の命令だ、尋常に手を廻せ。日暮シ山の館に連れ帰り、其方もエスの様に水牢に投込み、戒めてやらねばならぬ』 と鼻息荒く呶鳴りつける。母親はアナンの声を聞いて又もや心を痛め、猛烈なる癪気を起し、其場に『ウン』と倒れて人事不詳の体なり。エリナは身も世もあられぬ心地し乍ら、こわごわ手を仕へ、 エリナ『これはこれはアナンの大将様、能くこそ御入来下さいました。御存じの通り、父は館に囚はれ、跡に残つた一人の母は此通りの大病、今私が引つ立てられて参りますれば、あとに誰が母の世話を致す者が御座いませう。是非行かねばならぬ者なれば潔く参りますが、どうぞ此母の病気が直りますまで、御猶予を願ひます』 アナンは烈しく首を左右に振り、 アナン『あゝイヤイヤ、其事許りは罷り成らぬ。一時も早く汝を召捕来れよとの厳命、到底吾々の独断にて其方に猶予を与へる事は出来ない。何と云つても引捉へて帰らねば、此方の役目が済まぬ。そうして三五教の宣伝使は何時此処を立つたか?』 エリナ『只今御立ちになりました』 アナン『さうだらう。最前歌を歌つて行きよつたのが、神力無双の国依別だらう。彼奴が居やがると、チツと此方も都合が好くないのだ。二三日前から、此家を遠巻に巻いてゐたのだ。サアもう斯うなる上は、泣いても悔むでもおつつかぬ。キリキリと手をまはさぬか』 エリナは自棄気味になり、容を改め、悪胴を据ゑ、 エリナ『コレ、アナンさま!お前さまも余程良い腰抜だなア。日暮シ河では脆くも一人の宣伝使に追ひまくられ、又たつた一人の国依別が恐ろしうて、二晩も三晩も、此暑い、蚊の喰うのに、頼みもせぬ私の家の夜警をして下され、渋茶の一杯も進ぜるのが道かは知りませぬが、餓鬼にやる茶があつても、お前さま等に呑ます茶はありませぬワ。そこに谷川の水が流れてゐるから、それなつと呑むで、モウ一きり御講演を願ひます。ラツパ節でも法螺貝節でも構ひませぬワ。お母アさまの冥途の土産に、一つ力一杯吹き立て下さい』 アナンはクワツと怒り、巨眼を見開き、 アナン『コリヤ女!譬へがたなき汝の雑言無礼、最早聞捨はならぬぞ』 エリナ『お父うさまはお前達悪人の為に囚へられ、お母アさまは此通りの重病、たつた今の先、余程快方にお向ひ遊ばし、ヤツと安心する間もなく、お前がここへふみ込んで大声を出し、お母アさまを最早取返しのならぬ様な重態におとして了ひよつた以上は、お母アさまの御寿命も今日一日が保ちかねる。さうならば此エリナは最早自棄くそだ。たかが男の五匹や十匹、何が恐ろしい……国依別の宣伝使より神変不思議の神力を授かり、最早立派な三五教の女宣伝使だ。指一本でも触へるなら、見事触へて見よ』 と呶鳴り立て、睨み付けたる。其権幕に流石剛情我慢のアナンも辟易し、エリナの顔を見つめて稍不安の念に沈みゐる。母親は『キヤツ』と一声悲鳴をあげた儘、縡切れにける。エリナは驚いて、 エリナ『お母アさま!モ一度物を言うて下さいませ……エリナで御座います』 と死骸に取付き、あたり構はず泣き叫ぶ。アナンは今こそと、手早く捕縄を取出し、エリナの首にひつかけようとする一刹那、俄に轟々ガタガタと凄じき物音聞え来たりければ、アナンを始め一同は驚き戸外に駆出す刹那強烈なる大地震起り、アナンを始め一同は生命カラガラ、転けつまろびつ、常世神王の祠の前を指して、四這となり逃げて行く。 地震は益々烈しさの度を加へ来たる。エリナは母親の死体を抱へて外へ飛出さうとする途端、家はメキメキメキと音を立て、バサリと打ち倒れける。エリナは止むを得ず、身を以て逃れたるが、忽ち火を失ひ、エリナの家は火煙濛々として立上り、母親の死体は惟神的に火葬に附せられ了りぬ。上下動の激震は刻々に烈しく、エリナは松の木の株にシカと抱付き、目を塞ぎ、地震の歇むのを待ち乍ら、一心不乱に『国治立大神守り玉へ幸はひ玉へ……』と祈念をこらしける。……漸くにして地震は止まり、エリナはホツと一息し乍ら、ここに居つては又何時捕手の襲ひ来るやも計られずと、俄に国依別の宣伝使が恋しくなり、ヒルの都を指して一目散に走り行く。 ヒルの都を遠く見下ろせば、大激震の為火災起り、火は天に冲し、空の雲迄真赤に染まり、所謂雲焼志居たりける。 (大正一一・八・一八旧六・二六松村真澄録) |
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霊界物語 | 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 | 01 万物同言 | 第一章万物同言〔八九二〕 国治立大神が再び地上に現はれて 至仁至愛の五六七神真善美なる神の世を 堅磐常磐に樹て給ふ其経綸の神宝と 尊重されし珍宝金剛不壊の如意宝珠 紫色の霊玉や黄金の玉を三五の 神の聖地に納めつつ時待ちたまふ折柄に 錦の宮の黒姫が保管なしたる黄金の 珍の宝を紛失し日の出神と自称する 系統の身魂高姫に追放されて黒姫は 竜宮洲なるオセアニア一つの洲に打渡り 玉の所在を探ねむと進み行くこそ憐れなれ アルプス教を開きたる鷹依姫も高姫の 嫌疑を受けて止むを得ず竜国別を伴ひて 浪路を遥に浮びつつ数多の島を捜索し 心筑紫の果て迄も駆け巡りつつ探せども 行方は更に白波の舟漕ぎ渡りやうやうに そば立つ波も高砂の旭もテルの港まで テーリスタンやカーリンス二人を加へて四人連れ 漸々此処に安着しテル国街道をスタスタと 南に向つて行進し蛸取村を乗越えて アリナの滝の其ほとり鏡の池の岩窟に 一行四人は居を構へあらぬ知識を搾り出し テルの国をば振出しに夜昼なしにヒルの国 足許さへもカルの国ブラジル国の果て迄も 鏡の池の神霊に玉と名のつく物あらば 惜しまず隠さず献り宏大無辺の神徳を 早く受けよと宣伝の其効空しからずして 鏡の池の聖場は種々様々の厄雑玉 山の如くに積まれけるさはさりながら一として 鷹依姫の求め居る黄金の玉の神宝は 容易に現はれ来らずてテー、カー二人は張詰めし 心の箍もいつしかに緩みて厭気はさしにけり あゝ惟神々々神の心に叶はぬか 一日も早く此国を後に見捨ててハルの国 清き霊地を選択しふたたび玉の収集に 着手せばやと鷹依姫の教司に献策し いろいろ雑多と村肝の心を悩ます折柄に テーナの里の酋長が家の秘蔵の金玉を 御輿に乗せて献り神の御前に三五の 心の誠を捧げける鷹依姫の一行は 忽ち玉を取出し夜に紛れてアリナ山 駆登りつつウヅの国荒野ケ原に遁走し 神の化身に散々と不言実行の懲戒を 受けていよいよ改心し一行四人は荒野原 東へ指して進み行くアルの港を船出して 百の艱みに遇ひながらゼムの港に漂着し 天祥山に立向ひモールバンドの危害をば 救ひてチンの港より岩樟船を造りあげ アマゾン河を溯り時雨の森に潜みたる 八岐大蛇や醜鬼を言向け和し三五の 神の恵を照らさむと心をきはめて進み行く。 目の届かぬ許り川幅広く、うす濁りのした水底の深き大激流、飛沫を飛ばし、何物の制圧をも恐れざる勢を以て、自由自在に奔流するアマゾン河の河口に、鷹依姫の一行は、帆に風を孕ませ漸くに安着しぬ。 此処には水陸両棲動物のモールバンドと云ふ怪獣がすべての猛獣の王として覇を利かして居る。象の体を十四五許り集めた様な太さの長き図体をなし、爬虫族の様に四本の足の先に水掻きあり、爪の長さ七八尺にして、剣の如く光り且つ尖つて居る。頭部は鰐の如く、口は非常に大きく、鹿のやうな角を生し、角の尖より何時も煙のやうなものを噴出してゐる。目は常に血走り、尻は蜥蜴の尾の如く、必要に応じ四五十間迄伸ばす事が出来る。さうして尾の先には鋭利な両刃の剣の如き凶器を持つてゐる。此モールバンドに対しては、如何なる大蛇も猛獣も恐れ戦き、森林深く姿を隠して、モールバンドの害を免れむとして居る。 又此アマゾン河には長大なる蛇数多棲息し、或時は森林に或時は水底に潜んで獣を呑み且つ人々の此地点に迷ひ来る者あらば、先を争うて出で来り呑み喰はむと待ち構へ居るなり。 又外にエルバンドと云ふ、鰐でもなく大蛇でもなく、鱗は鉄の如く固く、竜の如き髯を生じ、四本の足ある動物あり。エルバンドの頭は玉の如く丸く、其目は比較的小さい。エルバンドは其丸い頭部を必要に応じ、細く長く伸ばし、動物の血を吸ひ生き居る怪物なり。 モールバンドは猛獣を取り喰ふにも、男性的に敵をグツと睨めつけ、尻尾を打振り、尾端の剣を以て敵を叩きつけ、切り殺し、其後に自分の腹に入れて了ふ。又エルバンドは之に反し、其働きは極めて女性的で、動物の寝てゐる隙を考へ、柔かき蛸のやうな頭を、どこ迄も細く長く延長し、動物の肛門に舌の先や口の先を当てがひ、生血を搾る恐ろしき動物なり。只モールバンドにしてもエルバンドにしても、彼の最も恐るる敵は、アマゾン河の畔に棲息してゐる巨大なる鰐の群ばかりなりといふ。 鷹依姫一行は、かかる怪物の棲息するアマゾン河の河口に辿り着き、危険刻々に身に迫り来る為に、船を乗り捨て、アマゾン河の南岸に上陸し、時雨の森に向つて宣伝歌をうたひながら、竜国別、テーリスタン、カーリンスを伴ひ、樹蔭を縫ひて、西へ西へと進み行く。 宇宙の森羅万象は一として、陰陽の水火によつて形成されざる物はない。従つて神人は云ふも更なり、禽獣虫魚、山川草木に至る迄、何れも言霊の水火を有し、言語を発せざるものはないのである。中臣の祓にも『草の片葉をも言止めて云々』の文句あり、古の人は凡て禽獣草木の言語迄も能く諒解したるものなり。 又禽獣は人語を解し、人は又禽獣草木の言葉を能く解する事を得たり。されど世は追々と降り、人の心は佞け曲り、遂に罪悪の塊となり、一切の語を解する能はざる迄、不便極まる人間と堕落し了せたるなり。又同じ人間の中に於ても、国々所々言語の相違するは、第一国魂神の霊魂の関係及風土寒暑の関係に依るものなるが、之を一々聞分け其意を悟る事が出来ぬまでに人間の耳が鈍り来りぬ。幸に言霊学を体得する時は、別に英語とか仏蘭西語、露西亜語などと、せせこましい語学を研究せなくとも、其声音の色並に抑揚頓挫等にて悟り得らるる筈なり。従つて禽獣虫魚山川草木の言葉も、容易に解し得べきものなり。 例へば無生機物たる三味線を引き鳴らして、いろいろの音律を発し、浄瑠璃、唄などに合はして物を言はしむるに、聞き慣れたる耳には、其音の何を語り居るやを弁別し得るが如し。其他縦笛、横笛、笙、ひちりき、太鼓、鼓に至るまで、僅かに五音、或は七八音を以て、能く其用を達する如く、禽獣虫魚等の声音は、其数少しと雖も、我耳を清くして聞く時は、禽獣草木の声を明かに悟る事が出来得る。例へば、喇叭は僅にタチツテトの五音を以て数多の軍隊を動かし、三味線はパピプペポ、タチツテトの十音を以て一切を語り、牛はマミムメモ、馬はハヒフヘホ、猫はナニヌネノ、犬はワヰウヱヲと云ふやうに、各特定の言霊を使用し、自分の意思を完全に表示し、尚及ばざる所は、目を働かせ体の形容を以て之を補ひ、且つ声の抑揚頓挫にて、其意思を明かに表示するものなり。 日本人は円満清朗なる七十五声を完全に使用し得る高等人種である。之れ全く国魂の秀れたる所以にして、人種として又優等なる所以である。人種に依つては二十四五声或は三十声内外より言語を使用し得ざるものあり。而して其声音は拗音、濁音、鼻音、半濁音、獣畜音等が混入してゐる。されど神と同じく七十五声を使用し得る人種も今は全く心の耳塞がり、心の眼閉ぢたれば、到底神諭にある如く、一を聞いて十を悟るが如き、鋭敏なる心の耳目を欠き、百言聞いて僅に一二言を悟り得る位の程度まで耳目活用の能率が低下し、他の動物と殆ど選ぶ所なき迄に到れるなり。実に天地経綸の司宰者たる人として浩歎すべきの至りならずや。 鷹依姫、竜国別、テー、カーの四人は此森林に進み虎、熊、獅子、狼、大蛇、鷲、狐、兎、其外一切の動物の声音を聞き、能く其意を諒解し、茲に猛獣を使役して森の王となり、モールバンド、エルバンドの征服に従事する事となりぬ。併し乍ら古の人は現代の如く、余り小ざかしき円滑な辞令を用ゐず、又数万言を並べて喋々喃々する必要もなし。それ故アとウとの息にて禽獣草木と能く其意思を交換する事を得たりしなり。 併し乍ら現代人は、到底簡単なる言語にて其意思を諒解する丈の能力なし。故に此口述も現代人の耳に諒解し易からしむる為、大蛇、熊、鹿、虎、狼、狐、兎、其他の鳥類に至るまで、現代の人間の言語を以て話したる如く訳して口述せむとす。古事記にも大己貴命、気多の岬にて因幡の白兎に出会ひ、いろいろと問答し給ふ神文がある如く、鳥獣草木の声音と雖も、真の神国魂に返りなば、よく諒解し得らるるものなり。 禽獣草木は今日に至る迄、朧げながら人語を解するに、人間として禽獣草木の声音を聞く事を得ざるは、実に万物の霊長たる権威はいづこにありや。斯かる不完全なる五感を以て、いかでか、神の生宮として万有に安息を与へ、天地経綸の司宰者たる其職責を全うする事を得む。思へば思へば実に遺憾の極みなり。 口述者は外国語を学びし事なく、又横文字を一字も解し得ない。されど各国人の談話を傍に在りて、耳をすませて聞く時は、其意の何たるかを、言霊の原則上、諒解し得らるるなり。此物語も亦古代の土人の言語を所々に羅列し、或は現代の外国語を使用したる所もあり。併し今日の世界の語学は、言霊学上其原則を乱しゐる為に、現代人の言語は諒解し難き点多々あり。如何なる国の言語と雖も、今の禽獣草木の如く言霊の原則を誤らざるに於ては、世界共通的に通ずべきが言霊の妙用、宇宙の真理なり。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録) |
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霊界物語 | 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 | 02 猛獣会議 | 第二章猛獣会議〔八九三〕 鷹依姫、竜国別の一行は宣伝歌をうたひ乍ら、数百万年の秘密の籠りたる南岸の森林に進み入る。併し乍ら人跡なき此森林も、思ひの外雑草少く、空はあらゆる大木に蔽はれて、日月の光を見る事甚だ稀であつた。 一本の大木と云へば周囲百丈余りもあり、高さ数百丈に及び、樹上には猩々、猅々、野猿の類群をなし、果物を常食として可なりに安心な生活をつづけ、其種族を益々繁殖させ、至る所に猿の叫び声は耳をつんざく許り怪しく聞えて居る。 二三尺許りの大蜥蜴は時々一行が路を遮り、開闢以来見た事もなき人の姿を見て、驚いて逃げ隠るるもあり、中には飛付き来るもあり、其他異様の爬虫族、先を争うて逃げ隠るる音、ザワザワと谷川の水流の如くに聞え来る。此時白毛の兎の一群、大なるは現代の牛の如きもの、ノソノソと一行の前に宣伝歌を尋ねて来り、両足を前に行儀よく並べて涙を流し乍ら、 兎『私は此森林に神代の昔より永住致しまする兎の長で厶います。此通り数多の種族を引連れ、あなた様一行の御降りを月の大神様より御示しに預り、ここに謹んでお迎へに参りました。あなたは三五教の宣伝使鷹依姫様、竜国別様の御一行で厶いませう。何卒この森林を御踏査下さいまして、吾々の安逸に一生を送り得らるる様、御守りの程偏に願ひ上げ奉ります』 と慇懃に頼み入るにぞ、竜国別は、 竜国別『ヤア始めて御目にかかります。あなたは此森林に長らく御住居なさると聞きましたが、大変に険呑な所で厶いますなア』 兎『ハイ御存じの通り、此時雨の森は、其昔吾々共の種族が月の大神様より千代の棲処として与へられたもので厶いますが、アダム、エバの霊より発生したる八岐の大蛇の一族を始め悪鬼悪狐の子孫益々跋扈して、遂にはモールバンドやエルバンドの如き怪獣と成り変り、吾々一同のものを餌食と致し、今は殆ど亡ぼされて了ひ、此数百里の大森林の棲処に於て、実に数千頭の影を止むるのみ、実に吾々は悲惨な生活をつづけ、戦々兢々として、一時の間も安楽に生活を送る事が出来ないので厶います。加ふるに、虎、狼、獅子、熊、大蛇、鷲などの連中が、常世の国のロツキー山方面より、常世会議のありし後、此森林に逃げ来り、吾等が種族を餌食と致し、暴虐無道の其振舞、実に名状す可らざる惨状で厶います。何卒あなた方の御神力を以て此森林の悪獣、悪蛇、悪鳥を言向和し、動物一切相和し相親しみ、天与の恩恵を永遠に楽しむ様、お執りなしを偏に希ひ奉ります』=兎は月神を祭る民族の意= 竜国別『委細承知致した。然らば、是より其方は吾々の先導になつて、第一に猛獣の棲処へ案内致せ。惟神の神法を以て、彼等を善に導き、悪を悔い改めしめ、此森林をして忽ち天国の楽園と化せしめむ。あゝ面白し面白し……母上様、妙なことになつて参りました。サア兎殿、案内召されよ』 兎『ハイ、早速の御承知、吾々一族は実に蘇生の思ひを致します』 と云ひ乍ら、大兎は数多の団体を率ゐ、鷹依姫一行の前後を警護しつつ森林深く進み行く。 数多の兎に送られて、鷹依姫一行は天を封じて樹てる森林の中を、意気揚々と半日許り進み行く。此処には稍展開された樹木のなき空地がある。殆ど十里四方の間は余り太き樹木もなく、針葉樹の小高き丘四方を包み、恰も青垣山の屏風を引廻せし如き安全地帯である。 兎の一族は僅に此地帯を永住処となして生活を続けてゐる。謂はば兎の都である。其殆ど中心に、聖地に於ける桶伏山の如き美はしき岩石を以て自然に造られたる霊場があり、そこには兎の最も尊敬する月の大神の宮が儼然として建てられてある。 此清き宮山を繞る清鮮の水を湛へた広き湖の辺には、大小無数の鰐=鰐は武人の群=が棲息し、鰐と兎の両族は互に相提携して天与の恩恵を楽んでゐる。つまり此鰐は森林の持主たる兎の眷属とも云ふべきものにして、兎の国の軍隊の如き用務に従事してゐるのである。 モールバンド、エルバンドの怪獣は兎を食する事を最も好み、日夜其事のみに精神を傾注して居る。されど兎は最早此安全地帯に集まりし事とて、巨大なる肉体を有するモールバンドは、数多の密生したる樹木に遮られて、ここに侵入するを得なくなつて了つた。如何にエルバンドと雖も、アマゾン河の岸より首を伸ばし、ここ迄届かす事は到底出来ない。それ故止むを得ず、余り好まざる肉ながら虎、狼、熊、獅子等を捕喰ひ、僅かに其餓を凌ぎつつあるのである。 或時モールバンドはエルバンドを使者として、猛獣の集まる森林の都、獅子の巣窟に向つて使ひせしめ、ここに談判を開始する事となつた。其談判の要領は左の通りである。 獅子王『あなたはモールバンド様の御使者エルバンド様、能くこそ御入来下さいました。就いては今日の御用の趣、何卒詳さに御話し下さいませ』 エルバンド『吾々今日使者として獅子王の都へ参りしは、余の儀では御座らぬ。吾統領のモールバンド様、アマゾン河に数多の眷族を御連れ遊ばし、兎を捉へて常食となし給ふ。吾々も亦、兎を以て最上の美味と致して居るもの、然るに此頃は兎の影も見せ申さず、甚以て吾々一族は困窮致して居る次第で御座います。就いては獅子王殿に一つの談判があつて、ワザワザここに使者として、エルバンド出張仕りました。其理由とする所は、獅子王の手を以て、熊、虎、狼を使ひ、兎の都に侵入し、彼等を生捕にし、日に数百の兎をモールバンド様に御献上ありたし。然らざれば熊、鹿、虎、狼、止むを得ざれば、獅子の一族をも、手当り次第捕喰ふべしとの厳命で御座いますれば、速かに否やの御返答を承はりたう御座います』 獅子王『これはこれは、何事かと思へば、思ひもよらぬ御仰せ、吾々一族は虎、狼、熊、獅子の区別なく、日夜モールバンド様の部下に捉へられ、日に幾百となく生命を断たれ、捕喰はれ、実に困憊の極に達して居りまする。就ては吾々四足一族は茲に大軍隊を組織し、北岸の森林の同志と相謀り、川を差挟んでモールバンド、エルバンドの軍隊を一匹も残らず殲滅し呉れむと日夜肝胆を砕き、今や協議の真最中で御座れば、早速に此返答は致し難し。御返事は、追つてアマゾン河の岸に使者を遣はし、御答へ申さむ。此場は一先づ御帰りあらむ事を希望致します』 エルバンド『然らば是非に及ばぬ。一時も早く協議を遂げ、御返事あらむことを希望致します』 と云ひ捨て、長大なる巨躯を蛭の如く伸縮させ、のそりのそりと獅子王の都を後に、アマゾン河のモールバンドの本陣と聞えたる寝覚の淵を指して帰り行く。 あとに獅子王は数多の四つ足族を獅子の都に召集し、一大会議を開催する事となりぬ。 獅子王はエルバンドの使者の帰つた後、直ちに使獅子を森林の各処に派遣し、熊王、狼王、虎の王、大蛇の頭、鷲の王などを代表者として召集し、獅子王の館に於て大会議を開く事となつた。日ならずして各獣の代表者は集まり来る。 山桃の林の下に大会議は開かれた。獅子王は先づ開会の挨拶をなし終つて、 獅子王『モールバンドの使者の齎した申込みに対し、各自の意見を吐露し、最善の方法を協議されむ事を望む』 と云ひ乍ら、諄々として一伍一什の経緯を物語れば、茲に熊王は進み出て、手に唾し憤然として雄猛びし、巨大なる目を瞠りつつ、 熊王『皆様、如何で御座いませう。吾々四つ足族は、今日迄互に反噬を逞しうし、優勝劣敗、弱肉強食の戦闘を続けて参りました。処が仁愛深き獅子王様の御威勢と御尽力に依り、互に其範囲を犯さず、熊は熊の団体、狼は狼、豹は豹、大蛇は大蛇、虎は虎と各部落を作り、此森林は漸く無事太平に治まり、辛うじて猿を捕り、兎を捕獲し、吾々獣族は漸く其生命を保つて来たのである。然るに此頃モールバンド、エルバンドの一族、アマゾン河より這ひ上り来り、吾等が部落を犯す事一再ならず、吾種族は夜も枕を高くし安眠する事も出来ない惨状で御座います。然るに何ぞや、悪虐益々甚だしく、日に数百頭の兎を貢せざれば、吾々が種族を捕り喰ふべしとの酷烈なる要求、どうして是が吾々として応じられませうか。吾々は仮令種族全滅の厄に遭ふとも、撓まず屈せず一戦を試み、勝敗を決せむ覚悟で御座る。皆様の御考へは如何で御座いますか』 と息も荒々しく述べ立つる。狼王は直ちに口を開き、 狼王『熊王様の御意見、実に御尤も至極では御座いまするが、どう考へても強者に対する吾々の如き弱者として、戦ふなどとは思ひも寄らぬ拙劣なる策では御座いますまいか。常世会議に於て吾祖先は翼をそがれ、最早空中飛行の自由を失ひし吾々四つ足族、如何に獅子奮迅の勢にて攻撃致すとも、暴虎馮河の勇あるとも、豺狼の奸策を弄するとも、到底及び難き議論だと考へます。若かず彼が要求を容れ部下を駆使して兎を捕獲し、モールバンドに日々これを貢ぎ、吾等一族の大難を免れるが、第一の策かと考へます。勝敗の数分かり切つたる此戦闘に従事するは策の得たるものではありますまい。皆様如何で御座いませうか』 と首を傾け、前足を腕の如くに組みながら、心配げに述べ立てる。 虎王は腕を組み、髭に露をもたせ、巨眼をクワツと見開き、言葉も重々しく、 虎王『吾々の考ふる所に依れば、如何に弱肉強食を恣にするモールバンドなればとて、吾々の種族を殲滅することは出来ますまい。吾々も天地の神の水火を以て生れ、神の精霊の宿りしものなれば、如何に悪虐無道のモールバンドなればとて、妄りに暴威を逞しうし、此森林を吾物顔に占領する事は到底不可能でせう。要するに彼等が如何なる事を申込み来るとも虎耳狼風と聞流し、相手にならず、打棄ておく方が獅子(志士)の本分で御座らう。……熊王殿、豹王殿、大蛇の頭殿、諸君の御意見は如何で御座りますか』 大蛇の頭『吾々如何に剽悍決死の勇ありとも、モールバンドの一族、完全無欠の武器を備へ攻来るに於ては到底敵する事は出来ますまい。飽く迄も豺狼の欲を逞しうし、獅子奮迅の勢を以て猛虎の如く攻め来る敵軍、何程準備は熊なく整ふとも、到底防戦する豺も覚束なき吾々の境遇、なまじひに強者に向つて弓を引くよりは、モールバンドの命に従ひ、兎の都に攻めのぼり、残らずこれを捕獲し、モールバンドの前に貢物として捧げなば、彼が歓心を買ひ且つ同情を得、吾等の種族を捕喰ふことを免じて呉れるでせう。弱を以て強に当るは吾々の虎ざる所、一刻も早く兎の都に進撃し、彼等を悉く捕獲して貢物となし、吾等種族の安全を保つに鹿ず、議長獅子王殿、御意見如何がで御座るか』 と詰めよる。獅子王は暫し首を傾け獅案にくれてゐたが、やがて頭を擡げ、大きく唸り乍ら、 獅子王『左様で御座る。到底勝算なき敵に向つて戦を挑み、部下の者共を亡されむよりは、弱小なる兎の都に攻め入り彼等を引虎へ、戦の危害を除くに若かず。鹿らば諸窘と共に時を移さず一族を引率し、兎の都を繞る四辺の山より一斉に攻め入り、鬼虎堂々として湖を渡り、兎の王を降服せしめ、一族が犠牲に供さむ』 と憤然として宣示する。一同は獅子王の宣示に返す言葉もなく、直に軍備を整へ数多の部下を引率し、兎の都を指して進撃することとなりぬ。 兎王は斯かる敵軍の襲来せむとは神ならぬ身の知る由もなく、鷹依姫、竜国別、テー、カーの四人の賓客に珍しき物を饗応し、数多の部下を集めて舞ひ踊り狂ひつつ四人の旅情を慰めむと全力を尽し居たりき。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録) |
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霊界物語 | 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 | 04 鰐の言霊 | 第四章鰐の言霊〔八九五〕 鰐の頭はツカツカと四人の前に現れ来り、さも嬉しげに頭を垂れ感謝の意を表し且つ歌ふ。 鰐の頭『仰げば尊し天地の神の恵は目のあたり 天の河原に棹さしてアマゾン河の河口に 降り給ひし神の御子鰐の一族喜びて 赤き心を捧げつつ茲に現はれ参ゐ来り 祝ぎ仕へ奉るあゝ惟神々々 尊き神の御恵吾等が上に降りけり 吾等のすさむ魂も一度に開く木の花の 薫るが如く栄えけり鷹依姫の神様よ 竜国別の神様よはるばる此処に天降りまし 吾等が王と仕へたる兎の君の鎮まれる 霊地に現れ給ひしは天地の神の御恵みか 譬方なき喜びにこれの湖水を包みたる 青垣山の草木迄色美しく生々と 甦りたる如き思ひなり吾等は月の大神の 貴の御子なる兎族尊み敬ひ朝夕に 心を尽し身を尽しモールバンドやエルバンド 虎狼や獅子熊の襲ひ来れる災禍を 防ぎて守る永の年さはさりながら吾々は 神の御水火を受けながら昔の罪の消えやらず げに浅間しき此境遇如何に心を尽すとも 神の御水火の言霊を照らす事さへ白波の 中に漂ふ悲しさに月日を送る甲斐もなく これの湖辺を棲処とし十里四方の霊地をば 僅に守る計りなりさはさりながら吾々が これの湖辺に棲む間は如何なる猛き獣類も 容易に犯し得ざるべしあゝさりながらさりながら 猛獣毒蛇と生れたる彼の身魂は憐れにも 神の御子にて御子ならず優勝劣敗罪重ね 弱肉強食日に月に行ひ続け生命を 僅に保てる憐れさよあゝ惟神々々 神の御霊の幸はひて天が下なる生物は 互に愛し助け合ひ争ひ猛ぶ事もなく 神の恵を平等に受けて身魂を磨き上げ 賤しき殻を脱ぎすてて再び魂は天国の 神の御許に立帰り万の物の長として 権威のこもる言霊を自由自在に使用する 神となさしめ給へかし鷹依姫の神司 竜国別の御前に鰐族一同を代表し 清く磨きし言霊の恵の光に天地の すべての生物救ひませあゝ惟神々々 神の司の御前に誠の限りを現して 慎み敬ひ願ぎ奉る』 と唄ひ終り、堅牢なる甲を以て包まれたる長大なる身体を左右に揺りながら、満足の意を表し、数多の鰐と共に前後左右に舞ひ踊り、歓迎の意を示したり。竜国別は立上り、兎と鰐の愛らしき群に向つて、さも嬉しげに歌をうたふ。 竜国別『天地の水火をうけつぎて生れ出でたる神司 三五教の宣伝使鷹依姫の体を借り 肉の宮をば建造し生れ出でたる神司 竜国別は今此処に大空伝ひ照り渡る 月大神の宮の前貴の神徳拝しつつ 兎や鰐のともがらに稜威の言霊宣り上げて 心の丈を宣べ伝ふあゝ惟神々々 神の恵を蒙りて稜威の聖地と聞えたる 綾の高天に聳り立つ錦の宮を後にして 黄金の玉の所在をば探ねむものと高砂の 島に渡りていろいろと心の駒のはやるまに 醜の企みを立てながら再び神の御声に 眼をさまして美はしき元津身魂となりにけり 神の恵は隈もなく青人草は云ふも更 鳥獣や魚に虫草木の片葉に至るまで 恵の露を垂れ給ふ公平無私の神心 漸う悟り今茲に現はれ来る吾々は 知らず識らずに大神の仕組の糸に操られ 進み来りし者ならむ誠の神の御使と 定められたる四人連れ今は汝が親となり 兄ともなりて天地の神の恵をこまやかに 時雨の森の果てまでも隈なく広め御恵みの 雨降り注ぐ楽園と堅磐常磐に守るべし あゝ惟神々々神の御霊に生れたる 兎や鰐の一族よ必ず歎く事勿れ 吾等四人の神人がここに現れ来た上は モールバンドは云ふも更如何なる猛き獣類も 神の恵の御水火より生れ出でたる言霊に 言向け和し敵もなく争ひもなく永久に 平和の森となさしめむあゝ惟神々々 神の御水火に生れたる吾等を始め汝が群 仮令天地は変るとも尊き深き御恵みを 一日も忘れず朝夕に神の御前にひれ伏して 其神徳を称へかし神は吾等と倶にあり 神は汝らの身を守る神の恵に開かれし 天が下なる生物は仮令如何なる曲者も いかでか恐るる事あらむ心を清め身を浄め 神のまにまに真心を尽せよ尽せ諸々よ 竜国別が改めて汝等が群に宣り伝ふ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 テーリスタンは面白き歌をうたつて興を添ふ。 テーリスタン『鷹依姫や竜国別の教の司の御後に カーリンスと諸共に広袤千里の荒野原 草を分けつつ進み来てアルの港に安着し 大海原を船に乗り渡つて来る折柄に 俄に烈しき荒風に浪立ち狂ひ鷹依姫は 真逆様に海中へザンブとばかり陥りて 姿見えなくなつて来た孝心深き竜国別は 吾身を忘れて海中に飛込み姿を失ひぬ テー、カー二人は驚いて最早叶はぬ百年目 殉死なさむと意を決し一イ二ウ三ツで飛込めば 後白浪に呑まれつつ竜宮海を探険と 思うた事の的外れ亀の背中に乗せられて ゼムの港に漂着し天祥山に立向ひ モールバンドに出会し吾言霊の神力に 「オツトドツコイ」こら違うた鷹依姫の言霊に 言向け和し荒男二人の命を救ひつつ 天祥山の谷を越え果てしも知らぬ荒野原 涼しき風に送られてチンの港に安着し 船を造りてアマゾンの河口さして進み来る 音に聞えしモールバンドエルバンドの此処彼処 怪しき頭を擡げつつ吾等一行の顔を見て 何が怖いか知らねども水勢強き河の瀬に 姿を隠し失せにけるあゝ惟神々々 神の恵を蒙りて教司の神力に 恐れ戦き逃げたるか何は兎もあれアマゾンの 河の岸をば攀上り此森中に来て見れば 幾千年とも限りなき年の老いたる兎の王 数多の眷族引きつれて吾等一行を慇懃に 迎へに来たる嬉しさよ広袤千里の森林の その中心に斯の如聖き霊地のあらむとは 夢にも悟り得ざりしが豈計らむや天伝ふ 空に輝く月の神形計りの宮居をば 清けき水を繞らせる此霊場に鎮祭し 兎の王の一族が朝な夕なに真心を 捧げて祈るゆかしさよあゝ惟神々々 神の宮居と生れたる人は尚更神の道 清く守りて天地の深き恵を感謝しつ 皇大神の御心に叶へ奉らであるべきや いよいよ茲に三五の神の司と現はれて 仮令獣と云ひながら其源を尋ぬれば 何れも同じ神の御子救ひまつらでおくべきか 兎の群よ鰐の群必ず心を悩めまじ 鷹依姫の一行が現はれ来りし上からは 如何なる魔神の災も旭に露の消ゆる如 払ひ清めて禍の根を絶ち神の御恵の 露に霑ふ花園と開き守らむ惟神 神の御稜威を嬉しみてこれの聖地を能く守れ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 とうたひ終り、社の前に端坐し、神恩を感謝し、且つ一時も早く此森林の災を除き、再び綾の聖地に帰し給へと祈願なしける。惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録) |
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霊界物語 | 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 | 05 琉球の光 | 第五章琉球の光〔八九六〕 カーリンスは三人の宣伝使の歌を聞き、吾も亦歌をうたひ、兎、鰐の一族に対し、巾を利かさねばなるまいと思つたか、直に立上り、妙な手附をして踊りながら、歌ひ始むる。 カーリンス『此処は名に負ふハルの国アマゾン河に沿ひて樹てる 大森林の時雨の森と人も言ふモールバンドやエルバンド 其外百の獣たち堅城鉄壁千代の棲処と 天日に怖ぢず地に憚らず月の光に恐れず 自由自在に咆哮怒号の魔窟ケ原 優勝劣敗弱肉強食の修羅の巷を 数百万年の昔より世界の秘密国として 汝が一族に与へられたる此森よ 森の主は兎の王と誇りし夢も何時しか消えて 今は悪魔の棲処と成り果てぬ 変れば変る現世の例に洩れぬ兎の身の上 鰐一族の淋しき生活広袤千里の森林に 十里四方の地点を選び要害堅固の鉄城と 頼みて暮す霊場も今は危くなりにけり 八岐の大蛇醜狐曲鬼共の霊の裔 激浪猛る奔流の深き河瀬に身を潜め 汝が一族悉く命の綱の餌食にし 根絶せむと附け狙ふモールバンドやエルバンド 斯かる仇敵のある中に虎狼や獅子に熊 大蛇禿鷲猿の群汝が一族狙ひつつ 眼を配る時もあれ国治立大神の 守り給へる三五の神の司鷹依姫を始めとし 竜国別の宣伝使テーリスタンやカーリンス 四人の貴の神の子が救ひの神と現はれて 此処まで降り来りしは枯木に花の咲きしが如く 大旱に雨を得たるが如くなるべし勇み喜べ兎よ鰐よ 吾等は是よりハルの国アマゾン河の森林を 神の御水火に言向け和し尚も進んで珍の国 旭のテルやヒルの国カルの国まで天降り 八岐大蛇の一族を言向け和し神の世の 畏き清き政事布き施すは目のあたり 仮令悪神アマゾンの河底深く潜むとも 猛き獣の徒に汝が群をば攻むるとも 吾等が此処に来りし限りビクともさせぬ神力を 固く信じて朝夕に喜び勇み神の前 瑞の御霊と現れませる月の御神の御前は 云ふも更なり国魂の神と現れます竜世の姫を 厚く祀れよ敬へよ吾も神の子亦汝も 同じく神の御子なれば何の隔てのあるべきや 神は万物一切に平等愛を垂れ給ふ あゝ惟神々々兎の都に現はれて 心も固き鰐の群集まり守る聖場に 三五教の神の国堅磐常磐に限りなく 基を建つる頼もしさあゝ惟神々々 神の恵を嬉しみて兎や鰐の群等よ 喜び勇め神の前森の谺の響くまで 歌へよ祈れ神の恩あゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 是より鷹依姫外三人は数多の兎を使嗾し、兎の都の王となつて、殆ど一年の日子を此別世界に楽しく面白く送りたり。 或夜、月皎々と光りを湖面に投ぐる折しも、四方の丘の上より、一斉に『ウーウー』と咆哮怒号突喊の声、耳も引裂くるばかり聞え来りぬ。兎の王は驚きて鷹依姫の前に走り来り、 兎の王『鷹依姫様に申上げます。只今四方の山々を取囲み、虎、狼、獅子、大蛇、熊王、数多の一族を呼び集め、雲霞のごとく此霊地を占領し、吾等が部下を捉へむと勢猛く攻め寄せました。鰐の頭は数多の眷族を呼びあつめ、死力を尽して闘つて居るでは御座いませうが、何を云つても目に余る大軍、容易に撃退することは不可能なれば、何とか御神力を以て彼等寄せ来る魔軍を言向け和し給はむ事を、偏に一族に代り御願ひ申上げます』 と慌ただしく息を喘ませ頼み入る。鷹依姫はウツラウツラ眠りつつありしが、忽ち身を起し、月の大神を祀りたる最も高き地点に登り、四辺をキツと見詰むれば、四方を包みし青垣山の彼方此方に炬火の光煌々と輝き、咆哮怒号の声、万雷の一時に聞ゆる如く、物凄さ刻々に激烈となり来る。 鷹依姫は直に拍手しながら天津祝詞を奏上し、天地に向つて言霊を宣り上げたり。 鷹依姫『天津神等八百万国津神等八百万 国魂神を始めとし取分け此世を造らしし 国治立大御神豊国姫大御神 天照らします大御神神素盞嗚大神の 貴の御前に三五の神の司と任けられし 鷹依姫が真心をこめて祈りを捧げます あゝ大神よ大神よ高砂島のハルの国 アマゾン河の両岸に幾万年の星霜を 重ねて樹てる大森林中に尊き此霊地 千代の棲処と定めつつ身魂も清く美はしき 兎の群や鰐の群いや永久に棲居して 神の恵を喜びつ天伝ひます月の神 朝な夕なに伏し拝み天地の恵を感謝する 尊き心を憐みて寄せ来る魔神を大神の 稜威の御水火に吹き払ひ安全地帯となし給へ あゝ惟神々々神の恵に包まれし 兎の都の此聖地千代も八千代も永久に 曲津の神の一指だも触るる事なく恙なく 常世の春のいつまでも喜び勇みの花咲かせ これの聖地を元として時雨の森に棲ひたる 猛き獣や大蛇まで神の恵に漏るるなく 救はせ給へ惟神神の御前に願ぎ奉る 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 敵の勢猛くとも神より受けし言霊の 吾等四人が御稜威をば天津御空の日の如く 照らさせ給ひて功績を千代に八千代に永久に 建てさせ給へよ惟神神の御前にひれ伏して 言霊称へ奉る』 斯く歌ふ折しも、西南の隅に当つて、屏風山脈の最高地点、帽子ケ岳の方面より、二つの火光、サーチライトの如く輝き来り、四方を囲みし魔軍は光りに打たれて声を秘め、爪を隠し、牙を縮め、眼を塞ぎ、大地にカツパとひれ伏して、震ひ戦き居たりける。 竜国別は立上り、火光に向つて再拝し、拍手しながら歌ふ。 竜国別『青垣山を繞らせるこれの聖地に永久に 棲ひなれたる兎の子等が魔神の災遁れむと 朝な夕なに月の神斎きまつりて誠心の 限りを尽し仕へ居る其誠心に同情し 八尋の鰐は湖の辺に集まり来りて夜昼の 区別も知らず聖場を守り居るこそ畏けれ 時しもあれや三五の道を伝ふる神司 自転倒島を後にして現はれ来る吾々が 一行四人は恙なく神の仕組の経糸に 引かれて此処に来て見れば兎の都は永久に 八尋の鰐に守られて天国浄土を目のあたり 見るが如くに栄えけりあゝ惟神々々 神の恵と嬉しみて吾等はここに大神の 禽獣虫魚の端までも恵み給へる御心を 信仰ひまつりて王となり兎や鰐の一族に 神の恵を間配りつ守る折しも青垣の 山を踏み越え攻め来る虎狼や獅子熊や 大蛇の霊諸共にこれの霊地を蹂躙し 兎や鰐の一族を滅亡させむと迫り来る 其災害を遁れむと朝な夕なに言霊の 稜威の祝詞を奏上し漸く無事に来りけり 然るに又もや四方の山峰の尾の上に曲津神 雲霞の如く攻め来り此聖場を奪はむと 息まき来る物凄さ吾等四人は村肝の 心の限りを尽しつつ暗祈黙祷やや暫し 勤むる折しも西北の空を隔てし屏風山 帽子ケ岳の頂上より琉と球との霊光は 電火の如く輝きて魔神の咆哮一時に 跡形もなく止みにけりあゝ惟神々々 如何なる神の御救ひか如何なる人の救援か げに有難き今日の宵竜国別は謹みて 皇大神の御前に心を清め身を浄め 遥に感謝し奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 斯く感謝の言霊を宣り上げ、再び月の大神の神前に向つて拍手を終り、兎の王に一先づ安堵すべき事を宣示した。兎の王は喜び勇んで此旨を部下に伝達せり。 鰐の頭此処に現はれ来り、大に勇みて、 鰐の頭『斯く天祐の現はれ来る限りは、吾等は湖辺に陣を取り、虎、狼、獅子、熊、大蛇の群、仮令幾百万襲ひ来るとも、これの湖水は一歩も渡らせじ、御安心あれ兎の王よ』 と勇み立ち、帽子ケ岳より輝き来る霊光に向つて感謝し、一同は歓声を挙げて天祐を祝し、其夜は無事に明かす事とはなりぬ。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録) |
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霊界物語 | 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 | 13 平等愛 | 第一三章平等愛〔九〇四〕 高姫外七人は鰐の橋を渡り、南の森林に数多の兎に迎へられ、漸くにして、青垣山を繞らせる森林の都、月の大神の鎮祭しある霊場に辿り着いた。鷹依姫は白髪の冠を頂き、凡ての猛獣を子の如くなつけ、普く獣の霊の済度に全力を尽してゐる。 高姫は久し振りに鷹依姫に面会し、固く手を握りものをも言はず、嬉しさと懐しさに涙を両頬より垂らしてゐる。ここに愈高姫一行八人と、鷹依姫の一行四人を加へ十二の身魂は、天地に向つて七日七夜の間断なき神言を奏上し、すべての猛獣を悉く言向け和し、肉体を離れたる後は必ず天国に到り、神人となつて再び此土に生れ来り、神業に参加すべき約束を与へ、所在猛獣をして歓喜の涙に酔はしめたり。 如何に猛悪なる獅子、虎、狼、熊、大蛇、豺、豹と雖も、口腹充つる時は、決して他の獣類を犯す如き暴虐はなさないものである。只飢に迫り、其肉体の保存上、止むを得ずして他の動物の生命を奪り食ふのみである。 然るに万物の霊長たる人間は、倉廩満ちても猶欲を逞しうし、他人を倒し、只単に自己の財嚢を肥し、吾子孫の為に美田を買ひ、決して他を憐み助くるの意思なき者、大多数を占めてゐる。併し乍ら、神代は社会上の組織、最も簡単にして、物々交換の制度自然に行はれ、金銭と雖も珍しき貝殻、或は椰子の実の種をいろいろの器になし、之を現今の金に代用し、又は砂金などを拾ひて通貨の代用にしてゐたのである。さうして一定の価格も定まつてゐなかつた。それ故神代の人は最も寡欲にして、如何に悪人と称せらるる者と雖も、只々情欲の為に争ふ位のものであつた。時には大宜津姫神現はれて、衣食住の贅沢始まり、貧富の区別漸く現はれたりと雖も、現代の如き大懸隔は到底起らなかつたのである。 大山祇、野槌の神などの土地山野を区劃して占領し、私有物視したる者も出で来りたれども、これ亦現代の如くせせこましき者にあらず、実に安泰なものであつた。 高姫、鷹依姫、竜国別は、茲に猛獣に対し、神に許しを受けて、律法を定め、彼等をして固く守らしめた。其律法の大要は、 一、熊は熊、虎は虎、狼は狼、獅子は獅子、蛇は蛇、兎は兎として或地点を限り、其処に部落を作り、互に他獣の住所を侵さざる事 一、各獣族は一切の肉食を廃し、木の実又は草の葉、木の芽などを常食とし、而も身体少しも痩衰へず、性質温良になり、互に呑噬の争ひをなさざる事 一、時々各獣団体より代表者を兎の都に派遣し、最善の生活上の評議をなす事 一、鰐をして、モールバンド、エルバンドの襲来に備へ、且つアマゾン河の往来の用に任ずる事 一、鰐を獅子王の次の位と尊敬し、年々、各獣、月の大神の社前に集まりて、懇談会を開き鰐を主賓となし、年中の労苦を犒ふ事 一、右の律法に違反したるものは、獅子王の命により、其肉体は取り喰はれ、其子孫永遠に獣類の身体を受得して、地上に棲息するの神罰を与へらるる事 等の数ケ条の律法を定め、獅子王を始め各獣の王をして、之を其種族一般に布告せしめた。 これより其律法を遵守し、月の大神の宮に詣でて赤誠を捧げたるものは、一定の肉体の期間を経て帰幽するや、直に其霊は天国に上り、再び人間として地上に生れ来ることとなりぬ。 又此律法に違反したる各獣は、其子孫に至る迄、依然として祖先の形体を保ち、今に尚人跡稀なる深山幽谷森林などに、苦しき生活を続けてゐるのである。あゝ尊き哉、月の大神の御仁慈よ。 国治立大神は、あらゆる神人を始め禽獣虫魚に至る迄、其霊に光を与へ、何時迄も浅ましき獣の体を継続せしむることなく、救ひの道を作り律法を守らしめて、其霊を向上せしめ給へり。故に禽獣虫魚の帰幽せし其肉体は、決して地上に遺棄することなく、直に屍化の方法に依つて天に其儘昇り得るは、人間を措いて他の動物に共通の特権である。猛獣は云ふも更なり。烏、鳶、雀、燕其外の空中をかける野鳥は、決して屍を地上に遺棄し、人の目に触るる事のなきは、皆神の恵に依りて、或期間種々の修業を積み、天上に昇り、其霊を向上せしむる故なり。只死して其体躯を残す場合は、人に鉄砲にて撃たれ、弓にて射殺され、或は小鳥の大鳥に掴み殺され、地上に落ちたる変死的動物のみ。其他自然の天寿を保ち帰幽せし禽獣虫魚は残らず神の恵によりて、屍化の方法に依り天上に昇り得る如きは、天地の神の無限の仁慈、偏頗なく禽獣虫魚に至る迄、依怙なく均霑し給ふ証拠なり。只人間に比べて、禽獣虫魚としての卑しき肉体を保ち、此世にあるは、人間に進むの行程であることを思へば、吾人は如何なる小さき動物と雖も、粗末に取扱ふ事は出来ない事を悟らねばならぬ。其精神に目覚めねば、真の神国魂となり、神心となることは到底出来ない。又人間としての資格もない。 斯く曰はば人或は云はむ、魚を捕る漁師なければ吾等尊き生命を保つ能はず、獣を捉ふる猟夫なければ日常生活の必要品に不便を感ず、無益の殺生はなさずと雖も、有益の殺生は又已むを得ざるべし。斯かる道を真に受けて遵守することとせば、社会の不便実に甚しかるべしとの反対論をなす者がキツト現はれるでありませう。併し各自にその天職が備はり、猫は鼠を捕り、鼠は人類の害をなす恙を捕り喰ひ、魚は蚊の卵孑孑を食し、蛙は稲虫を捕り、山猟師は獅子、熊を捕り、川漁師は川魚を捕り、海漁師は海魚を捕りて、其職業を守るは皆宿世の因縁にして、天より特に許されたるものである。故に山猟師の手にかかる禽獣はすでに天則を破り、神の冥罰を受くべき時機の来れるもののみ、猟師の手に掛つて斃れる事になつてゐるのである。海の魚も川魚も皆其通りである。 然るに現代の如く、遊猟と称し、職人が休暇を利用して魚を釣り、官吏その他の役人が遊猟の鑑札を与へられて、山野に猟をなすが如きは、実に天則違反の大罪と云ふべきものである。自分の心を一時慰むる為に、貴重なる禽獣虫魚の生命を断つは、鬼畜にも優る残酷なる魔心と云はなければならぬ。人には各天より定まりたる職業がある。之を一意専心に努めて、士農工商共神業に参加するを以て、人生の本分とするものである。 ペストが流行すると云つては、毒薬を盛り鼠を全滅せむと謀る人間の考へも、理論のみは立派なれども到底之を全滅する事は出来ない。又鼠が人家になき時は人間の寝息より発生する邪気、天井に凝結して小さき恙虫を発生せしめ、其虫の為に貴重の生命を縮むる様になつて了ふ。神は此害を除かしめ、人の為に必要に応じて鼠を作り給うたのである。鼠は恙虫を最も好むものである。故に其鳴声は常に『チウチウ』と云ふ。チウの霊返しは『ツ』となる。併し乍ら鼠の繁殖甚しき時は、食すべき恙少き為、止むを得ず、米櫃を齧り、いろいろと害をなすに至る。故に神は猫を作りて、鼠の繁殖を調節し給うたのである。猫の好んで食するものは鼠である。鼠の霊返しは『ニ』となる。猫の鳴声は『ニヤン』と鳴く、『ヤ』は退ふこと、『ン』は畜生自然の持前として、言語の末に響く音声である。故に『ニヤン』と云ふ声を聞く時は、鼠の『ニ』は恐れて姿を隠すに至るは言霊学上動かすべからざる真理である。人試みに引く息を以て、鼠の荒れ廻る時、『ニヤン』と一二声猫の真似をなす時、荒れ狂ひたる鼠は一時に静まり遠く逃げ去るべし。『ニヤ』の霊返しは『ナ』となる。故に猫の中に於て、言霊の清きものは『ナン』と鳴くなり。 すべて禽獣虫魚は引く息を以て音声を発し、神国人は吹く息を以て臍下丹田より嚠喨たる声音を発し、又引く息、吹く息の中間的言語を発する人種もあることを忘れてはならぬ。 又鳥の中にも、吹く息、引く息の中間的の声音を一二声発するものが、たまにはあるものである。馬は陽性の動物なれば、『ハヒフヘホ』と声音を発し、牛は陰性の動物なれば、『マミムメモ』の声音を発す。其他一切の動物、各特有の音声を有し、完全に其意思を表示することは発端に述べた通りである。 馬は陽性の獣類なれば、人其背に跨り、『ハイ』と声をかくれば、忽ち無意識に前進す。『ハ』は開き進むの言霊であり『イ』は左右の息である。即ち左右の脚を開きて進めと云ふ命令詞となる。牛は陰性の獣類なれば、人あり、後より『シイ』と言へば前進す。『シ』は水にして且つ俯むき流れ動くの意である。『イ』は前に述べた通りである。馬は頭をあげて、陽の息を示して進み、牛は頭を下げて陰の水火を示して進む。陽性の馬は『ドー』と言へば止まり、陰性の牛は『オウ』と云へば止まる。『ド』は陽的不動の意味であり、『オー』は陰的不動の言霊の意味である。 之を以て之を見れば、禽獣虫魚一切、惟神的に言霊によりて動止進退することは明白なる事実である。其他の禽獣皆然りである。 或古書にミカエル立ちて叫び給へば、山川草木、天地一切これに応ずとあるも、言霊の真意活用を悟りたる真人の末世に現はれて、天地を震撼し、風雨雷霆を叱咤し又は駆使し、山川草木を鎮定せしめ、安息を与ふる言霊の妙用を示されたものである。あゝ偉大なる哉、言霊の妙用! ○ 是より高姫、鷹依姫、竜国別、外九人は月の大神の御前に恭しく拝礼を了り、兎の王をして厚く仕へしめ、アマゾン河の畔に出でて、モールバンドを始めエルバンドの一族に向ひ、善言美詞の言霊を与へて、彼等を悦服せしめ、遂にモールバンド、エルバンドは言霊の妙用に感じ、雲を起し、忽ち竜体となつて天に昇り、風を起し、雨を呼び、地上の一切に雨露を与へ、清鮮の風を万遍なく与へて、神人万有を安住せしむる神の使となりたり。 併し乍ら、まだ悔い改めざる彼等怪獣及猛獣の一部は、今尚浅ましき肉体を子孫に伝へて、或は森林に或は幽谷に潜み、海底、河底に潜伏などして、面白からぬ光陰を送つてゐるものもあるのである。 古の怪しき獣は、今日に比ぶれば、其数に於て其種類に於て最も夥しかつた。併しながら三五教の神の仁慈と言霊の妙用によつて、追々に浄化し、人体となつて生れ来ることとなつた。故に霊の因縁性来等に於て、今日と雖も、高下勝劣の差別を来たすこととなつたのである。併しながら何れも其根本は天御中主大神、高皇産霊神、神皇産霊神の造化三神の陰陽の水火より発生したるものなれば、宇宙一切の森羅万象は皆同根にして、何れも兄弟同様である。 同じ人間の形体を備へ、同じ教育をうけ、同じ国に住み、同じ食物を食しながら、正邪賢愚の区別あるは、要するに霊の因縁性来のしからしむる所以である。 或理窟屋の中には、総ての人間は同じ天帝の分霊なれば、霊の因縁性来、系統、直系、傍系などの区別ある理由なしと論ずる人がある。斯の如き論説は、只一片の道理に堕して、幽玄微妙なる霊魂の経緯を知らざる人である。人の肉体に長短肥瘠、美醜ある如く、霊魂も亦これに倣ふは自然の道理である。要するに人間の肉体は霊魂のサツクのやうなものであるから、人間各自の形体は霊魂そのものの形体であることを悟らねばならぬ。霊魂肉体を離れ、霊界に遊ぶ時は、其脱却したる肉体と同様の形体を備へ居る事は、欧米霊学者の漸く認むる所である。 物質文明の学は泰西人に先鞭をつけられ、霊魂学の本場たる我国は亦泰西人に霊魂学迄先鞭をつけられつつあるは、天地顛倒、主客相反する惨状と云はねばならぬ。我々は数十年来霊魂学の研究につき、舌をただらし、声をからして叫んで来た。されど邦人は如何に深遠なる真理と雖も、泰西人の口より筆より出でざれば、之を信ぜざるの悪癖がある。故に如何なる高論卓説と雖も、一旦泰西諸国に輸出し、再び泰西人の手を借りて、輸入し来らざれば、信ずること能はざる盲目人種たることを、我々は大に歎く者である。此物語も亦一度泰西諸国の哲人の耳目に通じ、再び訳されて輸入し来る迄は、邦人の多数は之を信じないだらうと予想し、且つ深く歎く次第であります。惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二三旧七・一松村真澄録) |
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霊界物語 | 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 | 18 竜国別 | 第一八章竜国別〔九〇九〕 竜国別は銀扇を開き、自ら歌ひ自ら舞ふ。其歌、 竜国別『われは竜国別司ウラナイ教の高姫が 教を尊み畏みて心の駒を立直し 高城山の麓なる松姫館の門番と 仕へまつりて朝夕に鉄門を守る折柄に 三五教の教の御子馬と鹿との両人が 訪ね来れる様を見て門番共は猛り立ち いろいろ雑多の乱暴を加へて懲せど両人は 忍耐強く何事も神の心に任せゐる 其真心に感動し傲慢無礼を恥ぢながら 忽ち竜の真似をなし奥殿深く這ひ込めば 神罰忽ちめぐり来て吾々一同は畜生の 体と忽ち変じけり神の御国に生れたる 凡ての人は言霊や身の行ひを慎みて 清き人格保てよと示させ給ふ神教に 迷ひの雲も晴れ渡り松姫、お節の目の前で 神の使の神人に天地自然の真理をば 説き示されて三五の神の教に入信し 竜若司と呼ばれたる昔の名をば改めて 竜国別と名を賜ひ茲に尊き宣伝使 玉治別や国依別の教の司と諸共に 高春山に捉はれし高姫、黒姫両人を 救ひ出さむと立向ひ杢助、お初の応援に アルプス教の神司鷹依姫を言向けて 紫色の宝玉や高姫、黒姫両人を 此方に受取り鷹依姫の神の司をよく見れば 思ひ掛なき垂乳根の生みの母ぞと判明し 驚き喜び神恩を感謝しながら親と子が 三五教の人々と手を携へて綾錦 高天原の霊場に大宮柱太知りて 建ち並びたる神床に赤き心を捧げつつ 朝な夕なに親と子が心の限り身の限り 仕へまつれる折もあれ黒姫さまの保管せし 黄金の玉はいつの間か行方も知らず消え失せぬ 黒姫さまに疑はれ高姫さまに追ひ出され 親子は悲しきさすらひの旅に上りて宝玉の 在処を捜し高姫の疑念をはらし清めむと 棚無し船に身を任せ当所も波の上を漕ぎ 広袤千里の海原を難行苦行の末遂に 高砂島のテルの国テーリスタンやカーリンス 茲に四人の一行は恙もあらず上陸し 玉の在処を捜せども果てしも知らぬ大国を 仮令百年探るともいかでか捜し得べけむや 親子は首を傾けつ千思万慮の其結果 見込はアリナの滝の上親子の心を照らすなる 鏡の池に現はれて猿世の彦の旧蹟地 岩窟の側に草庵を結びて神を祀りつつ 鷹依姫の吾母を岩窟深く忍ばせて 権謀術数の悪業と心を悩ませ痛めつつ 一つの策をねり出してわれは審神者の役となり 母は月照彦となりテーリスタンやカーリンス 二人を言触れ神となし高砂島の全体を 月照彦大神に玉を献ぜし者あらば すべての願を叶へむと宣らせ給ふと触れまはし 其効空しからずして遠き近きの国々の 種々の玉をば携へて詣で来れる可笑しさよ 心の底は何となくウラ恥かしく思へども 黄金の玉の行方をば探らむ為の此手段 吾真心を天地の神も照覧ましまさむ あゝ惟神々々広き心に宣り直し 善きに見直し聞直し黄金の玉を一日も 早く取寄せ給へよと祈る折しもヒルの国 テーナの里の酋長が献りたる黄金の 玉に喉をば鳴らしつつ夜陰に紛れてアリナ山 一行四人打ちわたり荒野ケ原に露の宿 借る折もあれ木の花の神の命の御化身に 戒められて改心し原野を渉り海を越え アマゾン河を溯り時雨の森の南森 兎の一族住まひたる青垣山の聖場に 立現はれて諸々の鳥獣に三五の 誠を諭し言霊の威力を示す折柄に 帽子ケ岳のあたりより輝き来る霊光に 吾等一同勇み立ち月大神の御前に 感謝祈願をなせる折三五教の高姫が 数多の司を従へて波立ち狂ふ激流を 鰐の族に助けられ厳言霊を宣りながら 進み来るぞ嬉しけれここに吾等は雀躍し 大森林の禽獣に神の教を蒙りて 一定不変の律法を制定しながらアマゾンの 河辺に潜む怪獣を言向け和し天国の 恵の光りを与へつつ茲に一行十二人 琉と球との霊光を目当となして西北の 雲間に近き大高山帽子ケ岳に駆け登り 言依別や国依別の神の命に面会し 嬉し涙に暮れながら互に無事を祝しつつ 前途の光明楽みて茲に一行十八の 身魂は山野を打渉り日数を重ねて漸くに ウヅの館に来て見ればげに有難き末子姫 捨子の姫と諸共に遠き浪路を打渡り ここに降臨ましまして治め給へる尊さよ 国彦司の貴の御子松若彦が忠実に いそしみ給ふ功績は月日の如く輝きて 怪しき雲の影もなく国人歓ぎ睦びつつ 高砂島の名に恥ぢずウヅの都の名も清く 栄えいませる其中に言依別の大教主 はるばる此処に下りまし神徳ますます赫灼に 輝きわたり給ひけりアマゾン河に迷ひたる 吾等一行助けよと神素盞嗚大神の 清き尊き神懸り[※初版・愛世版では「神懸り」、校定版では「帰神(かむがか)り」。]其御教を畏みて 自ら言依別神帽子ケ岳に登りまし 吾等一行は云ふも更アマゾン河や森林に 潜む曲津に無限なる仁慈の恵を垂れ給ひ 其神徳はいや高く帽子ケ岳の頂上に 光り輝き給ひけり頃しもあれや現世の 救ひの神と現れませる神素盞嗚大神は 高砂島に蟠まる醜の霊を言向けて 安きに救ひ助けむと天降りましたる尊さよ 思へば思へば罪深き吾等親子がはしなくも 尊き神にめぐり会ひ御影を拝する嬉しさは 仮令天地は変るとも千代に八千代に忘れまじ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 今日の親子が喜びを幾千代迄も変りなく 恵ませ給へ惟神神の御前に願ぎまつる 神の御前に願ぎまつる』 と歌ひ終り、自席に着きぬ。 (大正一一・八・二四旧七・二松村真澄録) |
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霊界物語 | 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 | 22 橋架 | 第二二章橋架〔九一三〕 国依別、高姫、鷹依姫、竜国別其他の宣伝使は各休息室を与へられ、夜は其処に眠り、筋骨を休ませて居た。翌朝早々国依別の一室に松若彦は訪ね来り、 松若彦『国依別様、御早う御座います。就いてはあなたに折入つて御相談が御座いまして、早くから御邪魔を致しました』 と心ありげに笑を含んでゐる。国依別は、 国依別『これは又改まつた御言葉、私に対し、御相談とはどんな事で御座いますか。明智の言依別様が居らせられる以上は、どうぞ命様に御相談下さつたら、如何でせうかなア』 松若彦『実の所は夜前神素盞嗚大神様の御召しに依り、言依別様及び私と三人三つ巴になつて、御相談あつた結果、私が特命全権公使に選まれて参りましたので御座います。万一此使が、不成功に終るやうな事があれば、此松若彦は海外旅行券を交附された手前、腹を切らねばならないのです』 国依別『そりやマア大変な御使命と見えますが、どうぞ早く仰有つて下さいませ。私の力の及ぶ事ならば、神様に捧げた此体、如何なる御用も承はるで御座いませう』 松若彦『実は私の父国彦は、正鹿山津見神様が五月姫様と共に黄泉比良坂の戦ひに御出陣の砌、ウヅの国の人民は申すも更なり、此神館を御預け遊ばし、やがて時来らば、神素盞嗚大神様の瑞の御霊の貴の御子、此国に降り給ふことあるべし。それ迄汝は我命を守つて、此国及び神館を預り呉れよとの厳命で御座いました。父は幸か不幸か、最早幽界に参りましたが、後に残つた私が父の後を継ぎ、此館を守つて居ります所へ、正鹿山津見の神様の御仰せの如く、瑞の御霊の大神様の御娘子、末子姫様が御越し遊ばしたので、直ちに御館を姫様に御渡し申し、此国をも御渡しをして、私は御存じの通り総司として仕へて参りました。然るに此度、御父君神素盞嗚尊、突然天降り給ひ、大変に御悦び遊ばし、且つ末子姫も最早良い年頃であるから、適当な夫を持たせたいのだが……との御尋ね、招かれた吾々始め言依別命様は、言下に国依別様を御婿様になされましたら如何でせうと申上げし処、大神様は大変に御悦び遊ばされ、実は其事に就て、はるばるとここまで出て来たのだ。どうぞ神徳の強き国依別を末子姫の夫になつて呉れる様、其方は取り持てよ……との御命令取る物も取り敢ず、あなたに於ても御異存は御座いますまいと思ひまして……ヘヽヽヽ、一寸全権公使の役を拝命し、御伺ひに参つた次第で御座います。どうぞ善は急げですから、早く善き御返事を御願ひ申します』 国依別は案に相違の面持にて首を傾け、双手を組み、太き息をつきながら、ものをも言はず両眼より涙さへ滴らしつつ居る。 松若彦『モシ国依別さま、あなたは何それ程御思案なされますか、見れば涙を御垂らしになつてゐるやうですなア。如何しても御気に入らないのですか?』 国依別『イエイエどうしてどうして気に入らぬ所か、余りの事で、勿体なくて、申上げる言葉も御座いませぬ。私は若い時より道楽の有丈を尽し、沢山の女殺し、御家倒し、家潰しをやつてきた罪の塊で御座います。今日は三五教の宣伝使として、女と一切の関係を絶ち、生涯独身生活を続ける覚悟を致して居るので御座います。如何に大神様の思召しなればとて、私の様な横着者の成れの果て、何程魂が研けたと申しても、白い布に墨が浸んだのと同様に、いくら洗つても元の白い生地にはなりませぬ。つまり霊魂上の疵者で御座います。斯様な疵者が水晶身魂の生の処女なる末子姫様の夫になるなぞと云ふ事は、どうしても良心が咎めてなりませぬ。冥加の程が恐ろしうなつて参りました。どうぞ右様の次第で御座いますから、悪しからず、大神様に私の素性を素破ぬいた上、宜しく御断り下さいませ』 松若彦『左様な御遠慮はチツとも要りませぬ。神素盞嗚大神様は、あなたがバラモン教の信者であつた事も、女泣かしの御家倒し、家潰しをなさつた事も、大の悪戯者で居らつしやつた事も、松鷹彦様のお宿を知らず識らずに訪ね、お勝殿といろいろのローマンスのあつた事、それから真浦様の弟なる事、一切万事御取調の上の事で御座いますから、決してそんな御遠慮は要りませぬ。言依別様も口を極めてあなたの美点をあげ、又悪い癖を一つも残らず、大神様に申上げられました。所が大神様は大変な御機嫌で……あゝ其奴は益々面白い男だ、気に入つた、どうぞ早く末子姫の夫にしたいものだ……との思召しで御座いましたよ……国依別様、あなたは言依別様から承れば、随分からかひの上手な御方ぢやさうですから、私がこんな事をいつて、あなたをからかつてゐると思はれるか知りませぬが、今日は真剣ですから、どうぞ真面目に聞いて下さい』 国依別『から買ひも豆腐買も、厄介も喧嘩買も、法螺貝もドブ貝も心霊研究会も、大日本修斎会も、議会も日本海も皆目ありませぬワイ。正真正銘の偽りなきあなたの御言葉、国依別、実に光栄に存じます。併しながら貴族と卑族との結婚は提灯に釣鐘、釣合はぬは不縁の元ですから、要らぬ苦労をさせずに、どうぞ体よく断つて下さい』 松若彦『エヽ国依別さま、真剣ですよ。又例の癖を出して、正直な私をじらしなさるのですか。あなたの本守護神はキツト契約済の実印を押捺して御座るに間違ありませぬよ。又世の諺にも、恋に上下の隔てなしと云ふぢやありませぬか。隔のないのが所謂恋の神聖なる所以です』 国依別『私は一旦婦人との関係を心の底より断念して居ますから、恋なんか心に起した事はありませぬ。鯉が滝上りをし、夕立に乗つて天上する様な険呑な結婚問題は、どうぞ御頼みですから、早く撤廃して下さい』 松若彦『又しても鮒々と埒のあかぬ、あなたの御言葉、末子姫様があの飯鞘、尻目で、お前さまの後姿を睨んで、あの男を鰌なとして、私のオツトセイに持ちたいものだと、明けても暮れても、つばすを呑みこんで、あかえ年だから、鯉の炎をもやして御座るのだから、どうぞ色よいあぢのよい返事をして下さい。あなたも鱒々鯖けた人間だと云つて、鱶はまりしてゐられるのだ。それにお前さまが尾をふり、鰭をピンとはねるやうな事をなさつたら……あゝ私も折角の鯉が叶はねば、一層の事、ちぬ鯛、小鮒な浮世に生鰕したかて、サヨリがないからと云つて淵川へ身を投げて了はれたら、お前さま何程魚々とうろついて悔んでもあとの祭り、大神様からは、是程事を分けて言ふのに、鯉の様にはねつけるとは、ギギシイラぬ奴だと御立腹遊ばすかも知れませぬ。私はこれ程白魚もやさして、お前さまはそれでも気が済むの貝な。マア厭でも添うて見なさい。仕舞にやすすきになりますぞや、ヤマメで暮すより鮎らしい奥さまとガザミに手を引いて、山野を時々跋渉なさるのも乙ですよ。これ程私に八カマス鰯ておいて、だまつてゐるとは、余りぢやありませぬか。今日は大神様の思し召だから、瓢箪鯰では通りませぬぞや』 国依別『エエハモ鰈ヤガラ腥い厄介坊主の自堕落上人で御座いますから、どうぞ今日限りそんな事を言つて下さるな。女のスキ身も刺身もモウ若い時から食ひあいて来ました。夜も昼もレコ貝に蛤だつたものだから、どうぞ、カマスにおいて下さい。此事に付ては、イカナゴとも飯蛸致す訳には参りませぬ。アハヽヽヽ』 松若彦は国依別の背中を、後へまはつてポンと叩き、 松若彦『コレ国依別さま!又しても、あなたは、からかひ病が起りましたね』 国依別『カラカギでも、鯰でもフンゾクラヒでもありませぬよ。小雲川で石の魚を釣つてフンゾクラヒだと云つて、高姫さまに贈つた事があります。随分固い魚でした。其通り私は今は鯉の欲が化石して了ひ、石地蔵の様な冷酷な人間ですから、到底此縁談は温まりますまい。鯉と云ふ奴は水の中に常住してゐますから、随分体が冷えてゐますからね、アハヽヽヽ』 松若彦『コレ国依別さま、大国主の神さまの妻呼びの歌を知つてますだらう、男子たる者はさうなくては到底世に立つことは出来ますまい。情を知らずして、どうして宣伝使が完全に勤まりますか。八千矛の神さまを御覧なさい。はるばると出雲の国から越の国まで、腰弁当でお出でになつたぢやありませぬか。其時のお歌に、 八千矛の神の命は八洲国妻求ぎかねて 遠々し越の国に賢し女をありと聞かして 麗し女をありと聞こしてさよばひにありたたし 結婚にあり通はせ太刀が緒も未だ解かずて 襲ひをも未だ解かねば乙女の鳴すや板戸を 押そぶらひ吾が立たせれば引こずらひ吾が立たせれば 青山に鵺は鳴き野鳥雉子は響む 庭つ鳥鶏は鳴く慨たくも鳴くなる鳥か 此の鳥も打ち悩めこせねいしたふや天はせづかひ ことの語り言もこをば と歌はしやつて、越の国の沼河姫様の板の戸を、夜の夜中に押開け這入らうと遊ばす、沼河姫さまは這入られては大変と、男と女が押そぶらひ、引こづらひを永らく遊ばした末、遂に大国主命さまの熱心なる恋に感じ、沼河姫さまは戸の中から、 八千矛の神の命軟え草の女にしあれば 吾が心浦渚の鳥ぞ今こそは千鳥にあらめ のちわ和鳥にあらむをいのちはな死せ給ひそ いしたふや天はせづかひ ことの語り言もこをば 青山に日が隠らば烏羽玉の夜は出でなむ 旭の笑み栄え来て栲綱の白き腕 沫雪の弱かやる胸をそ叩き叩き拱がり 真玉手玉手さしまき股長に寝はなさむを あやに勿恋聞こし八千矛の神の命 ことの語り言もこをば と歌つて沼河姫がたうとう降参つて了ひ、実に神聖なローマンスが行はれたぢやありませぬか。それに何ぞや、お前さまは、八千矛の神一名大国主の神さまとは反対で沼河姫様よりズツと綺麗な賢女麗女にラバーされて、それを何とも思はず、すげなくもエツパツパを喰はす考へですか。本当に人の悪い唐変木だなア……オツトドツコイ、余り一心になつて、ツイ言霊が濁りました。どうぞ早く、 綾垣のふはやが下に虫衾柔やが下に 栲衾亮ぐが下に沫雪の弱かやる胸を 栲綱の白き腕そ叩き叩き拱がり 真玉手玉手差纏き股長に寝をし宿せ 豊御酒献らせ と云ふやうに御返事をして下さい。外の方の御使と違ひ、大神様の思召だから、これ計りは邪が非でも聞いて貰はなくちや、松若彦の男が立ちませぬ』 国依別『大神様を始め末子姫様に於て、御異存なければ御世話になりませう。其代りに古疵だらけの国依別ですから、何時持病が再発して、御姫様に眉気を逆立てさしたり、牙をむかせたり、死ぬの走るの、ひまをくれのと乱痴気騒ぎをさすかも知れませぬから、それが御承知なら、宜しく御取持願ひます』 松若彦『アハヽヽヽ、面白い面白い、私もそれがズンと気に入つた……国依別さま、いよいよ御結婚が整へば、あなたはウヅの国の司、私は御家来で御座いますから、どうぞ末永くお召使ひ下さいませ。今迄の御無礼な申し様、只今限り御忘れの程を願ひます』 国依別『サア忽ちさうなるから、窮屈でたまらぬ。それだから独身生活がしたいのだよ。あんたはん(阿弥陀はん)、ぶつたはん(仏陀はん)、大将さんと皆の連中にピヨコピヨコ頭を下げられ、敬遠主義を取られるやうになつて了つちや、根つから世の中が無味乾燥で、面白くも何ともなくなつて了ふ。あゝ折角自由の世界へ解放されたと思つたら、又もや窮屈な、お慈悲の獄屋に繋がれねばならぬのかいなア。エヽこんな事なら紅井姫でも伴らつて来て、自分の女房のやうに見せて居つたら、こんな問題は起らなかつただらうに、エヽ有難迷惑とは此事だ。女が男にお膳を末子姫と来てゐるのだから、さう無下に無愛想に捨子姫する訳にも行こまい、アハヽヽヽ』 松若彦『なるべく、お気楽な様に持ちかけますから、どうぞ取越苦労をなさらずに、決心をして下さいませ』 国依別『ハイ、是非に及びませぬ。大神の御言葉、あなたの御取持、謹んで御受け致します』 とキツパリ答ふれば、松若彦はニコニコしながら軽く一礼し、急ぎ奥殿指して進み入る。 (大正一一・八・二四旧七・二松村真澄録) |
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霊界物語 | 33_申_玉の御用の完了/高姫と黒姫の過去 | 02 灰猫婆 | 第二章灰猫婆〔九一七〕 カールは高姫の無遠慮にも奥の間にかけこみしを怒り乍ら、自分も奥の間に到つて見れば、豈計らむや、松若彦、高姫の姿が見えない。ふと開け放つた窓より外を覗き見れば、一丁許り距離を保つて、二人はマラソン競走の真最中であつた。 カール『何とマア、我の強い婆アだなア!後追つかけて引つ掴まへ、散々に懲らしめてやりたいは山々だが、俺が今ここを飛出せば、サツパリ不在となつて了ふ。あれ丈距離を保つて居る以上は、ヨモヤ追つ着きはせまい。其間に松若彦様はどつかへ隠れられるだらう。俺も臨時留守番を頼まれて来た以上は一刻の間も、此家を空にしておく訳には行くまい。アヽ残念だ……』 と呟き乍ら、玄関口に帰つて来た。そこへ慌ただしく常彦、春彦の両人、駆け来り、 常彦『ヤア是はカールさまですか。一寸御尋ね致しますが、ウチの高姫さまは御越しにはなりませぬか』 カール『ハイ、お越しか怒りか知りませぬが、随分に妙な事が起りましたよ。今裏の広道で、松の木と鷹とのマラソン競走が行はれて居ますワイ』 春彦『鷹は羽があつて空中を翔るでせうが、松が走るとはチツト合点が往かぬぢやありませぬか』 カール『今日は余りお目出たい日だから、山川草木皆踊り狂うて、喜んでゐます。私だつて常彦……オツトドツコイ、常の日とは違ひ、春彦……又違うた……春の花咲くやうな陽気な気になつて、勇んで居ります。常は尻の重い私でも、今日は何となしに気もカール、足もカールになりました。アハヽヽヽ』 常彦『それはさうと、私方の大将、高姫さまは如何なりましたか』 カール『どうも斯うもなりませぬワイ』 春彦『お出でになつたか、ならぬか、ハツキリ言つて下さいな』 カール『ハイ、お這入りになりまして、すぐ裏口から御出になりました。大島が入口、出口が元で、竜宮館が高天原と定まりたぞよ。アツハヽヽヽ』 常彦『まるでキツネ彦が狐にだまされたやうな心持になつて来た』 カール『松若彦の世になるぞよ、末広き末子姫、国依別命と今夜は、愈々夫婦におなり遊ばすぞよ、霊と霊の因縁が寄合うて、此の身魂は此身魂、あの身魂はあの身魂、これとこれと夫婦、あれとあれと夫婦と、身魂の因縁性来を検めて、結婚な結婚な結婚式が今晩は始まり、高砂や此浦舟に帆をあげて、と云ふ所だアハヽヽヽ。イヤもう目出たいの、目出たうないのつて、開闢以来の御目出たさだ……コレ常彦、春彦、御両人、お前さま達は何と心得ますか』 常彦『本当に結構な事ですなア。併し乍ら結構だとは申されませぬワイ……ナア春彦、一寸面倒いからなア』 カール『あなた方御両人は、今度の結婚が御気に容らないのですか』 常彦『イエイエどうしてどうして、大賛成です。併し乍ら夜前も、夜中時分に高姫さまに叩き起され……お前の感想はどうだ……と尋ねられたので、国依別さまもエライ人だと思うて居つたがヤツパリ偉い御方だと、うつかり蝶つた所、それはそれはエライ権幕で大変な不機嫌でした。それから高姫さまは夜の明ける迄一目も寝ず、奥の間でブツブツと独言を云つて言依別がどうの、松若彦がどうのと、ハツキリは分らぬが、大変にこぼしてゐました。私も夜明け前になつてからグツと寝て了ひ、目をあけて見れば、高姫さまのお姿が見えない、コリヤ大方、松若彦様の御宅へ出て来て、又もや生れつきの持病を起し、鉈理屈をこねて困らせてゐるに違ひない、こんな目出たい事にケチつけてはたまらないから、何とか吾々両人が、高姫さまに出会つて、御意見を申したいとの一心から、手水もつかはず、朝飯も食はず、周章狼狽、取る物も取りあへず此処まで駆けつけた次第で御座いますワイ』 春彦『本当に困つたお婆アですワイナ。私も永らく自転倒島から此処までついて来ましたが、それはそれは随分でしたよ』 カール『アハヽヽヽ、ずいぶんジヤジヤ馬ですなア。併し乍らあの儘にして置いたら、此の目出たいお日柄を目出たくない様な事に潰して了ふか分りませぬから、コリヤ斯うしては居られますまい……常彦さま、お前はここの留守をして居て下さい。私は松若彦様の後を追つて行く、春彦は高姫さまの後を追つて行くと云ふ事にしてカール、春彦両人が第二のマラソンをつづけませうかい』 常彦『何分宜しう頼みますよ……カールさま、春彦さま、サア早く往つて下さい。キツト捨子姫様か、言依別様の御宅に間違ひないから……』 両人は「合点だ」と尻ひつからげ、裏口より大股に大地をドンドンドンと威喝させ乍ら、一生懸命に駆出した。 二人は二三丁許り駆出した。そこには横幅三間許りの深い川が流れてゐる。さうして丸木橋が架つて居た。川は深い割には水は少く、ほとんど向脛の半分許り没する位な浅き流れであつた…………フト見れば一本橋は脆くも落され、高姫は川底に大の字となつて、フン伸びてゐる。これは松若彦が高姫の追ひ来るのを防がむ為に、臨時に一本橋を落しておいたのである。高姫は頭を前にして、力一杯走つて来た其惰力で、俄に立とまる事を得ず、止むを得ず、橋なき川と知り乍ら、落込んで了つたのであつた。二人は、 カール、春彦『ヤア、コリヤ大変だ』 と辛うじて川に下りたち、高姫の人事不省となつてゐる体を引かたげ高姫の臨時館へ送り届け、いろいろと介抱をし、祝詞を奏上し、鎮魂を施した。漸くにして高姫は息を吹き返し、あたりをキヨロキヨロ眺めてゐる。 カール『モシモシ高姫さま、お気がつきましたか、大変なお危ないこつて御座いました。マアマア私や春彦、両人が、後から従いてゐたものだから、あなたの貴重な命が御助かり遊ばし、こんな目出たい事は御座いませぬワイ』 高姫『ハイ、それは有難う御座います……と御礼を申したらお前さまのスツカリ壺にはまるだらうが、ヘンさうは往きませぬぞや。何だか後から人が突くやうに走つたと思うて居つたら、カール、お前は私の後を追つかけて来て、あの丸木橋の下へ突込んだのだな。此高姫だとて橋のない川を渡らうとするやうな馬鹿ぢやありませぬワ。何だか余り後から突きよつたものだから、とうとう其勢ひに落込んで了つたのだ。あんな深い川へはまつたのが分つたと云ふのは怪しいぢやないか、お前は松若彦の御贔屓を志て、私を突きはめたのだらう。オツホヽヽヽ、悪を企んでも忽ち露はれませうがな』 春彦『高姫さま余りぢやありませぬか、現に私が証拠人です。折角命を助けて貰ひ乍ら、何と云ふ無茶な事を仰有るのですか』 高姫『オツホヽヽヽ、同じ穴の狐同志が同盟して、甘い事を仰有いますワい。何程あの川の様な深い企みをしても、知慧の流が浅いのだから、直に底が見えましてな、ホツホヽヽヽ』 カール『何とマア小面憎い婆アだなア。俺も最早愛想が尽きて来た』 高姫『さうだらうさうだらう、小面憎い婆アで愛想がつきたものだから、突き落したのだな。カールは口から、吾と吾手に白状しましたねエ』 春彦『アーア、モウ情ない……これ、カールさま、どうぞ私に免じて、御腹が立つだらうが怺へて下さいや』 高姫『コレ春公、怺へてくれと云ふのは、ソリヤ見当違ひぢやありませぬか。大それた日の出神の生宮………とも云ふべき、此高姫をこんな目に合せておいて、なぜ低頭平身、おわびをせないのか、チツト方角違ひぢやありませぬか』 春彦『知りませぬワイ。お前の様な疑ひの深い悪垂れ婆アは、今日限り絶交だ、カールさまに対して申訳がないから……人の命を助けてやつて、あやまらねばならぬ法がどこにあるものか、おまけに吾々が突き落したなどと、無理難題を云ふにも程がある』 高姫『謝罪らな、あやまらぬでよい。殺人未遂罪で告発するから其積りでゐなさいや』 カール『高姫さま、あなたは余り俄にあんな所から転倒なさつたものだから、精神が逆上してるのでせう。マア気を落ち着けて能く物の道理を考へて御覧なさい。私は是から御暇いたします』 高姫『ヘン、口と云ふものは重宝なものですなア、甘い事云つて逃げようとしても、逃がしませぬぞや。人殺し奴が!』 春彦『エヽもう俺も堪忍袋の緒が切れた。たとへ天則違反になつても、カールさまに対して申訳がない、覚悟せい!』 と云ひ乍ら、其処にあつた木株の火鉢を取るより早く、高姫目がけてブチつけようとする。此時カールはあわてて、 カール『ヤア春さま、まつたまつた』 と抱きとめる。春彦は、 春彦『オイ、カールさま、構うてくれな。おりやモウ死物狂ひだ』 と火鉢を両手に、頭上高くふり上げた儘、目を怒らしてゐる。高姫は、 高姫『ヘン、春の野郎、何をするのだ。そんな事でビクつく様な高姫ぢやありませぬぞえ。悪い事をした言訳のテレ隠しに、そんな狂言を、二人が腹を合せてやつた所で、計略の奥の奥まで、チヤンと見えすいた高姫、そんな威喝は駄目ですよ。オホヽヽヽ』 春彦益々怒り、 春彦『モウ了見ならぬ』 と高姫の頭に投げつけようとする。カールは力一杯春彦の捧げた両手を握つてとめやうとする。火鉢はいつの間にかひつくり返り、三人の頭の上は灰だらけになり、真黒けの黒猫になつて、目も見えぬ儘に金切声を張り上げ掴み合うてゐる。此所へ言葉も静に、 (言依別命)『御免なさい』 と云ひ乍ら、門口の戸を開けて入り来る一人の立派な男ありき。是は言依別命なりける。 (大正一一・八・二四旧七・二松村真澄録) |
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霊界物語 | 33_申_玉の御用の完了/高姫と黒姫の過去 | 05 神寿言 | 第五章神寿言〔九二〇〕 末子姫、国依別の結婚問題も、高姫の不同意的了解を得て、漸く執行はるる事となつた。珍の館の大広前に於て祭壇を設け、言依別命は斎主となり、松若彦、竜国別は其他の神務に奉仕し、茲に芽出度く、神前結婚の祭典は済んだ。愈直会の宴に移り、十二分の歓喜を尽し、各歌を唄ひ、舞ひ、踊りなどして、今日の慶事を祝することとなつた。 言依別命は恭しく神殿に拝礼し、礼服を着けたる儘、声淑やかに歌ひ始めたり。 言依別命『仰[※ルビ「おほ」は原文通り。オニペディア「霊界物語第33巻の諸本相違点」参照。]げば高し久方の天の八重雲かき分けて 筑紫の日向の立花の青木ケ原に天降りまし 撞の御柱巡り合ひ妹背の契を結びたる 神伊弉諾大御神神伊弉冊大神の 其古事に神ならひ瑞の御霊と現れませる 神素盞嗚大神の御子とあれます末子姫 心の色も紅の誠一つの神司 珍の御国に天降りまし神の教を楯となし 四方の民草安らかに治め玉ひし功績は 皇大神の御心に叶ひまつれるものぞかし 三五教の神司言依別は自凝の 秀妻の国を後にして心も清き宣伝使 国依別と諸共に神の教を開かむと 波かき分けてテルの国高砂島に名も高き テル山峠を乗越えてウヅの都に来て見れば 五風十雨の序よく五穀は稔り果物は 豊に熟する神の国あゝ惟神々々 神の恵の幸はひて末子の姫の御神力 月日と共に輝きぬかかる折しも素盞嗚の 神尊ははるばるとウブスナ峠の斎苑館 立出でここに来りまし末子の姫に巡り会ひ 喜び勇み玉ふ折言依別の伴ひし 国依別を見そなはし末子の姫の夫となし 此神国を守れよと宣らせ玉ひし尊さよ 言依別は畏みて松若彦や捨子姫 其外数多の人々に皇大神の言の葉を 宣べ伝ふれば悉く喜び勇み此度の 慶事をあななひ玉ひけり。あゝ惟神々々 結びの神の引合せ魂と魂との睦び合ひ 魂の納まる肉宮に尊卑高下はありとても その源を尋ぬれば同じ御神の分霊 時世時節につれられて高くも生れ又低く 生るる事は神界の幽玄微妙の御経綸 霊魂と霊魂の系統を分け清く結びし此縁 千代も八千代も限りなく高砂島のいつ迄も 栄え尽きせぬ松の世の色も褪せざれ永久に 波も静かに二柱鴛鴦の衾の暖かに 浮びて進む和田の原深きは民の心かな 深きは神の御恵みぞ月日は清く明かに 空澄み渡る今日の宵心も勇み身も勇み 此慶びは此処よりは外へはやらじと真心を 神の御前に誓ひつつ嬉しみ尊み祝ぎまつる 嬉しみ尊み祝ぎまつる』 と歌ひ終り、元の座に着きぬ。松若彦は立上り、銀扇を開いて祝歌を歌ひ且つ自ら舞ひ踊りける。 松若彦『豊葦原の瑞穂国島の八十島八十の国 隈なく巡り救ひます神素盞嗚大神の 末の御子と生れませる末子の姫のくはし女に 浮瀬に沈みて悩み居る世人を普く救ひ行く 三五教の宣伝使国依別の神司 汐の八百路を打渡り奇しき功績を遠近に 現はし玉ひて今ここにウヅの都に出で玉ひ 神素盞嗚大神の御言畏みましまして 末子の姫と妹と背の契を結ぶ今日の宵 天津御空に照りわたる日影は明かく月清く 星の影さへキラキラといつもに変る空の色 天祥地瑞の吉祥日言依別の神司 斎主となりて神前に結婚式を挙行し いよいよ茲に妹と背の道を結びて永久に 此神国を守ります今日は初めとなりにけり いよいよこれよりウヅ館月日並びて皓々と 輝き玉ふ高砂の常磐の御世となりぬべし あゝ惟神々々松若彦が真心を 述べて芽出度き今日の日を寿ぎまつり瑞御霊 神素盞嗚大神の千代の齢を祈りつつ 夫婦が幸を皇神の御前に祈り奉る 朝日は照るとも曇るとも月は盈つ共虧くる共 国依別や末子姫さかし女くはし夫相並び 現はれゐます上からは高砂島は何時までも 珍の御国と称へられ常世の春の永久に 花咲き乱れ鳥歌ひ山川清く風清く 野は青々と茂り合ひ青人草は大空の 星の如くに生み殖えて栄え久しき松の世の 嬉しき姿を瑞御霊神の御前に言霊の 清き限りを捧げつつ畏み畏み願ぎまつる 畏み畏み願ぎまつる』 と歌ひ了つて座に着いた。捨子の姫は立上り、銀扇を開いて自ら歌ひ自ら舞ひ、今日の慶事を祝ぎ奉りける。其歌、 捨子姫『久方の高天原を出でまして四方の国々巡りまし 八岐大蛇や醜神の伊猛り狂ひ民草を 苦しめ悩ます曲津見を仁慈無限の大神は 生言霊の神力に言向け和し玉ひつつ 百の悩みを嘗め玉ひ心も辛き潮沫の 凝りて成るてふ島々を巡らせ玉ひ御恵の 露をば与へ玉ひつつ草木も靡く御威勢に 高天原の空清く大海原の底あかく 波に泛べる国土は清くさやけく茂り合ひ 三千世界の万有は君の威徳を畏みて 仕へまつれる尊さよかかる目出度き大神の 珍の御子と生れませる八人乙女の末子姫 年端も行かぬ中よりも神の御為世の為に 神の誠の御恵を草の片葉に至るまで うるほはせむと思召し顕恩郷に現れまして バラモン教の鬼雲彦が館に入らせ玉ひつつ 醜の魔人の惟神誠の道に服従ふを 待たせ玉へる折柄に太玉神の現れまして 鬼雲彦は逸早く雲を起して逃げ去りぬ 末子の姫は是非もなく姉の命と諸共に 流れも清きエデン川渡りて四方に神の道 開かせ玉ふ折もあれ鬼雲彦が部下共に 嗅ぎつけられて妾まで半朽ちたる釣舟に 乗せてすげなく和田の原つき放されし苦しさよ 神素盞嗚大神の雄々しき清き霊をば 受けさせ玉ふ末子姫少しも驚き玉はずて 妾の心を励ませつ荒波猛る海原を かいくぐりつつ漸くに神の御稜威もテルの国 ハラの港に上陸しテル山峠を乗越えて 御霊の力を現はしつバラモン教の神司 石熊カールの両人を言向和せ急坂を 登りつ下りつ人々の命を狙ふ曲神を 稜威の言霊宣り玉ひ言向和してウヅの国 神の館に出でましぬ妾も姫に従ひて ここに現はれ来る身の嬉しさ楽しさ如何許り 国の司となり玉ひ世人を導き玉ふ折 三五教の神司言依別の神人が 雲霧分けて降りまし此処に止まり玉ひつつ 教を開き玉ひしが神素盞嗚大神の 瑞の御霊は捨子姫此現身にかからせて アマゾン河に向ひたる鷹依姫や高姫の 危難を救ひ言霊の御稜威に百の曲神を 言向和せと宣り玉ふ言依別の神人は 其神言を畏みて時を移さず供人を 従へ都を立出でて帽子ケ岳に向ひまし アマゾン河を見下して微笑み玉ふ折柄に 国依別の宣伝使仕組の糸に引かされて 四人の供を従へつここに登りて来ましける。 琉と球との宝玉の御稜威に充てる両人は アマゾン河の南北に展開したる森林の 醜の曲津を射てらせば神の御稜威は目のあたり 鷹依姫や高姫も光を慕ひて屏風山 帽子ケ岳に集まりぬかくも尊き神徳を 負はせ玉へる宣伝使国依別の真人が ウヅの都に現れまして末子の姫の夫となり 幾久しくも末永く契を結ばせ玉ふこそ 実にも尊き限りなれ。加之瑞御霊 神素盞嗚大神は遠く波路を打わたり これの慶事に臨みまし親子夫婦の契をば 依さし玉へる有難さあゝ惟神々々 神の恵は目のあたり永く仕へし捨子姫 やうやう心もおちつきて雪積む山の冬の木の 花咲く春に会ふ心地あゝ惟神々々 結ぶの神のいつ迄も二人の仲は睦じく 変ることなくましまして神の御稜威も高砂の 尾の上の松の色深く千年の鶴の末永く 亀の齢の万世もいと平けく安らけく 鎮まりゐませ二柱捨子の姫は今よりは 尚も心を励まして力の続く其限り 誠一つを楯となし神と君とに仕へなむ あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ』 と歌ひ了り、悠々として吾座に着きける。 (大正一一・八・二六旧七・四松村真澄録) |
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霊界物語 | 33_申_玉の御用の完了/高姫と黒姫の過去 | 07 心の色 | 第七章心の色〔九二二〕 鷹依姫は立上り、嬉しげに銀扇を開き、少し曲つた腰を伸ばせる様な心持にて、おとなしく歌ひ始めた。 鷹依姫『常世の国の自在天斎きまつりしバラモンの 神の教を諾ひて此上なきものと思ひつめ 自凝島に打わたりアルプス教と銘打つて 高春山にたてこもりテ、カ、二人を司とし 教を伝ふる折柄に思ひがけなき三五の 神の司の方々が言霊戦を開くべく 登り来ませし其時に竜国別の吾伜 巡り会うたる嬉しさよ国依別の神様は 竜国別や玉治別の教司や杢助さま お初の姫と諸共にいと懇ろに三五の 教を諭し玉ひつつ錦の宮に伴れ帰り 朝な夕なに神の前使はせ玉ひし嬉しさよ 黒姫様が預りし黄金の玉ははしなくも いつの間にやら紛失し黒姫さまが驚いて ヤツサモツサと修羅もやし吾等親子を疑ひて 詰めよせたまふ恐ろしさ此事忽ち高姫の 耳に聞えて親と子は黄金の玉の捜索を 言ひつけられて是非もなく高砂島にふみ迷ひ いろいろ雑多と憂苦労嘗めたる御かげに神様の 誠の道を心より悟りて親子はテ、カの 二人と共にアマゾンの速瀬を渡りて空を蔽ふ 時雨の森に立向ひ獣の王となりすまし 神の御言を宣べ伝ふ時しもあれや琉球の 玉の力を身に受けし言依別の神司 国依別の神人が吾等一同を救ひ上げ アルゼンチンの都まで伴ひ玉ひ帰りける。 吾等親子は勇み立ち来りて見れば末子姫 神素盞嗚大神の此処に現はれましまして 御稜威を照させ玉ひつつ大恩受けし国依別の 神の命に末子姫千代の契を今日の宵 結ばせ玉ふと聞きしより心も勇み気も勇み 有難涙にくれました国依別の神様よ 末子の姫を末永くいつくしみつつウヅの国 ウヅの館に永久に鎮まりゐまして世の人を 安きに導き玉へかしあゝ惟神々々 尊き神の御恵を感謝しまつり妹と背の 身も健かに幸かれと国治立大御神 豊国姫大御神其外百の神達の 御前に祈り奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ了つて、重き体をゆすり乍ら、元の座に着いた。竜国別は立上り、銀扇を開いて、自ら歌ひ自ら舞ふ。 竜国別『高姫さまや黒姫の鋭き眼に睨まれて 思はぬ嫌疑をうけ乍ら親子は悲しき旅の空 自凝島を後にして荒波猛る海原を 命カラガラ渡り来て高砂島に上陸し 鏡の池に居を構へ親子二人が玉捜し 心の鬼に責められて夜陰に紛れてアリナ山 スタスタ登り下りつつアルゼンチンの荒野原 ポプラの蔭にて皇神の清き尊き御教 かかぶり茲に親と子は初めて迷ひの夢もさめ 曠野を渉り海を越え艱難辛苦の其果ては アマゾン河の森林に兎の王の神となり 言依別や国依別の教司の神人が 光に照され屏風山帽子ケ岳に攀登り 茲に一行十八の身魂と共にやうやうに ウヅの都に来て見れば思ひがけなき末子姫 捨子の姫と諸共に降りゐますぞ有難き 吾等親子は朝夕に神の恵を嬉しみて 仕へまつれる折もあれ救ひの神とたよりたる 神素盞嗚大神は又もや此処に天降りまし げに温かき言の葉を下させ玉ふ尊さよ 自凝島をあちこちと手を引き合うて巡りたる いとも親しき道の友国依別の神司 球の御玉の光もてウヅの御国の神柱 司となりて末子姫妻に持たせつ永久に 鎮まり玉ふ妹と背の今日の御式を親と子が 心の底より感激し祝ひ奉るぞ嬉しけれ 国依別よ若草の妻の命と末永く 鴛鴦の衾の夢さめず身も健かに栄えませ あゝ惟神々々神の恵は目のあたり 現はれますぞ尊けれ現はれますぞ尊けれ』 と極めて簡単なる歌なれども、竜国別が国依別に対する友情の籠りあるに、何れも感歎せざる者はなかつた。石熊は立上り、銀扇を開いて、自ら歌ひ自ら舞ふ。 石熊『高照山の山麓にバラモン教の神館 太しく広く立て並べ朝な夕なに大国彦の 神の命の神霊を斎きまつりて諸人を 教へ導きゐたりしがアルゼンチンのウヅ都 三五教の勢ひは旭の豊栄昇る如 四方に輝きわたりしを心の中の曲者に そそのかされていろいろと神の大道のさまたげを 致せしことの恥かしさ乾の滝にあらはれて 命危き所をば末子の姫に助けられ 巽の池に向ひ立ち足を痛めていろいろと 悩む折柄側近く添ひて仕へしカールさまが 心配りの神徳に足の病も癒やされて 心も勇み身も踊りウヅの都に来て見れば 教の花は日に月に梅花の如く薫りける かかる所へ三五の錦の宮の大教主 言依別の出でましに再び喜悦の花は咲き 上下睦びて惟神教を伝ふる折もあれ 神素盞嗚大神のいと厳かな神懸 アマゾン河に向ひたる鷹依姫や高姫の 司を救ひて逸早く珍の都に帰れよと 宣らせ玉ひし神言に言依別の大教主 吾等四人を従へて帽子ケ岳に向ひまし めでたく凱旋なし玉ひ帰りて見れば素盞嗚神の 瑞の尊は日月の御空に輝く御姿 天降ります尊さよ斯くも尊き神人の 集まり玉ふ珍館国依別や末子姫 妹背の契を月清き今宵の空に結びます 其嬉しさに石熊も皇大神の底知れぬ 深き仕組を拝察し心の限り身の限り 誠を捧げまつりつつ天地百の神達に 誓ひて仕へ奉るあゝ惟神々々 神の御霊の幸はひて心濁れる石熊を 千代に八千代に永久に使はせ玉へ国依別の 神の命や末子姫珍の御前に願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 (大正一一・八・二六旧七・四松村真澄録) |
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霊界物語 | 33_申_玉の御用の完了/高姫と黒姫の過去 | 10 神歌 | 第一〇章神歌〔九二五〕 神素盞嗚大神が末子姫の婚姻を祝し玉ふ御歌。 神素盞嗚大神『八雲立つ出雲八重垣妻ごみに 八重垣造る其八重垣を 神代の昔高天原にて 日の大御神神伊邪諾尊 月の大御神神伊邪冊尊 自転倒島におり立ちて 天教山の中腹に 撞の御柱つき固め 左右りと巡り会ひ あなにやし好男 あなにやし好乙女よと 宣らせ玉ひて妹と背の 婚嫁の道を開き玉ひし 其古事に神傚ひ 三五教の神司 心も清き国依別命 瑞の御霊の末の子と 神の依さしの末子姫 今日の佳き日の吉き時に 妹背の契永久に 結び終へたる芽出たさよ 朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも 仮令天地は変るとも 国依別と末子姫 夫婦の契は永久に 変らざらまし高砂の 松の緑の色深く 鶴の齢の千代八千代 亀の齢の万世も 変らであれや惟神 皇大神の御前に 瑞の御霊の神柱 神素盞嗚尊 畏み畏み願ぎまつる あゝ惟神々々 御霊幸はひましまして 三五教の神司 言依別命を初めとし 松若彦や高姫や 鷹依姫や竜国別 其外百の神司 信徒達に至るまで 今日の佳き日の吉き時を 喜びまつり集ひ来る 其真心の麗しさ 心の色はまちまちに 高姫のごと変れども 神の大道と世の為に 尽す心は皆一つ 一つ心に睦びあひ 神の心を推し量り 堅磐常磐に神の代の 柱となれよ礎と なりて尽せよ惟神 神は汝と倶にあり 清き畏き真心に 鎮まりゐます月と日の 神の恵は目のあたり 立ちさやぎたる荒波の 早なぎ渡る和田の原 深き恵の底知れず 高き恵は天の原 限り知られぬ青雲の 広く高きは皇神の 大御心ぞ永遠に 変らず動かず真心を 捧げて祈れよく祈れ 大国治立大御神 高皇産霊大御神 神皇産霊大御神 天照します大御神 国治立大御神 豊国主大御神 其他百の神たちの 深き恵を畏みて 千代も八千代も永久に 大御前に能く仕へ 五六七の御世の末迄も 清き心を濁らすな あゝ惟神々々 神に誓ひて今日の日を 喜び敬ひ行先の 夫婦の幸を寿ぎつ 神の司や信徒や 国人達に惟神 神の心を誓ひおく あゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終り、欣然として其儘奥殿に神姿を隠し玉ひけり。 (大正一一・八・二七旧七・五松村真澄録) |
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霊界物語 | 33_申_玉の御用の完了/高姫と黒姫の過去 | 13 帰途 | 第一三章帰途〔九二八〕 アルゼンチンの神の国都を後に竜国別や 鷹依姫や高姫やテーリスタンやカーリンス 常彦一行六人は国依別や末子姫 松若彦に送られて互に前途を祝しつつ 焼きつく如き炎天を何とはなしに自転倒の 島根に帰る嬉しさに心も勇み足並も いと軽さげに帰り行くあゝ惟神々々 神の恵を蒙りて玉に対する執着を 弊履の如く打棄てて心の色もテル山の 峠の麓にさしかかる坂の麓の樟の森 此処に一夜の雨宿り烏の声に起されて 細谷川に身を清め携へ持てるパンを出し 朝餉をすまし膝栗毛駒に鞭ち登り行く 岩石起伏の峻坂を聞くも勇まし三五の 教の道の宣伝歌歌ひ歌ひて登り行く 足の運びもいつしかに風吹きすさぶテル山の 峠にやうやう辿りつきここに一行六人は 一先づ足を休めける。 竜国別『皆さま、此涼しい風を浴び乍ら、暫く休息を致し、ウヅの国に別れを告げませうか』 一同『宜しからう』 と異議なく賛意を表し、荒き息を吐き出しながら、頂上に枝振面白く立つてゐる常磐木の蔭に腰を下し、息を休むる事となつた。 竜国別『この山は桃上彦命様がウヅの都に五月姫と鎮まりまして、神業にお仕へ遊ばした時、黄泉比良坂の戦ひに、大加牟津見命と現はれ玉へる松竹梅の姉妹が、宣伝使の初陣の時、ここ迄登つて来て、ウヅの都の空を打仰ぎ、訣別の歌をうたはれた名高い所です。末子姫様も、捨子姫、カール、石熊の三人を従へ、ここに暫く息を休め歌を歌つて、ウヅの都へお越しになつた由緒の深き場所です。吾々も一つ何とか各自に歌をうたつて、後世に伝えなくてはなりますまい。一つ高姫さま、貴女が此一行中の棟梁株だから、何とか歌つて聞かして下さいませぬか』 高姫『仰せ迄もなく、何か歌を歌つて見ようと思つてゐた所です。どうせ俄作りの出放題だから笑つちや可けませぬよ』 と前置きし、ウヅの都を瞰下し乍ら歌ひ始めたり。 高姫『向ふに見えるはウヅの国アルゼンチンの神館 青野ケ原にピカピカと光り輝く白い壁 国依別の神司末子の姫と諸共に さぞ今頃は睦まじく誰憚らず水入らず 互に顔を見合してニタリニタリと恵比須顔 さぞやさぞさぞお楽しみ其有様がありありと 目に見る様に思はれるあゝ惟神々々 神の仕組か知らねども此炎天をはるばると 喘ぎ喘ぎて胸を突く嶮しき坂を攀登り 汗や膏をしぼりつつ世人の為に尽す身に 比べて見れば雲泥の実に相違があるものだ 上に上ある世の中に下に下ある世の中だ 暑い涼しい言ひ乍らうちわは丸く末広く 扇を開いてバタバタと風を起しつ二人連れ 治まり返つて御座るだろそれに吾等は何とした 因果な生れつきだらうテル山峠をエチエチと 登つて荒き息をつき僅に吹き来る山風を 浴びて涼しい涼しいと云うては居れど国依別の 神の命に比ぶれば月に鼈雪に炭 涼しと云つても涼しさが天と地と程違うてゐる あゝ惟神々々御霊幸はひましまして テル山峠を下るまで雲を起して天津日の 御影をかくしさやさやと涼しき風の吹くように 国魂神の竜世姫どうぞ守つて下さんせ 竜国別や鷹依姫の神の司は云ふも更 テーリスタンやカーリンス常彦までが泡吹いて 一目見るさへお気の毒仁慈の心に照されて 目あけてこれが見られうか皆さま本当に暑からう 暑うても御辛抱なされませ神の手あつき御恵と 思へば暑さも涼しうなる心の中に燃えしきる 火熱も瑞の御霊にて恵の雨を注ぎなば 火も亦涼しうなるだらうさはさり乍ら高姫は どうしてこれ程暑いだろ国依別の若夫婦 涼しき北の窓あけて水も曳らさぬささやきを 思ひまはせばウヅの空羨望の念にかられます 此高姫もモウ少し年若ければどうかして 残りの花の返り咲き立派な夫を迎へ取り 四尾の山の山麓にたち並びたる八尋殿 朝な夕なに参上り涼しき夫婦が宮仕へ する身にならば何程か心楽しき事だらう 只今までは如意宝珠玉に心を奪はれて 夫の事など夢にだに思ひそめたる事はない 玉に心を悩ませし夢も醒めたる今日こそは 一つの望みが湧いて来たあゝ惟神々々 結びの神の御恵に老さらばひし高姫が[※「老(おい)さらばひし」…語根の「老いさらばふ」(または「老いさらぼふ」)(新仮名遣いだと「老いさらばう」または「老いさらぼう」)とは「年をとってよぼよぼになる。甚だしく老衰する」〔広辞苑〕の意。つまり「老さらばひし高姫」とは「老いてよぼよぼになった高姫」の意。] 心の友となる人を授け玉へよ天津神 国津御神の御前に慎み敬ひ願ぎまつる 謹み敬ひ願ぎまつる』 常彦『アハヽヽヽ、高姫さま、チツト暑さが酷いので、逆上してますねい。併し今の御述懐は本当かも知れませぬ。なる事ならば此処にも一羽やもめ鳥がおちてゐますが、併し乍らさうは甘く問屋が卸しませぬワイ』 鷹依姫『オツホヽヽヽ』 高姫『ヘン、常彦、馬鹿にしなさるな。如何に高姫だとて、お前の様な気の利かぬ男を、誰がハズバンドにする者がありますかい。自惚も良い加減にしておきなさいよ』 テーリスタン『アハヽヽヽ常彦、やられやがつたな。末子姫さまのやうな若いナイスにやられるのなれば、まだしもだが、歯の半分落ちた冬の初めの木の如うな冷たい御方に、肱鉄をくはされては最早男として世の中に出す顔はあるまいぞ』 常彦『馬鹿言ふな。俺の事を言つたのぢやない。竜国別様をお世話しようと思つて、一寸口をむしつて見たのだ。それに高姫さまが気をまはして、早取りをなさるものだから、こんな事に誤解されて了ふのだ。モシ竜国別さま、思召しは御座いますかな』 竜国別『御親切は有難う御座いますが、私のやうな者は到底、高姫さまのお気には入りませぬ。又私としてもお気に入らぬのですからな、アハヽヽヽ』 高姫『コレ竜国別さま、此暑いのに能い加減に馬鹿にしておきなさい。お気に入らぬもの同志なら丁度よいぢやないか。要らぬ口を叩くものぢやありませぬぞえ』 竜国別『これはこれは思ひがけなき御逆鱗、どうぞ神直日大直日に見直し聞直して下さい』 高姫『お前さまが何か歌つたらどうだと、発起したのぢやありませぬか。サア一つ歌つて御覧。何れもお前さまの事だから、御立派な歌が出るでせう』 竜国別は歌ひ出したり。 竜国別『珍の館を立出でて一行六人漸くに テル山峠の頂上に登りて見れば極楽の 余り風かは知らねども吾等の面を吹払ふ その涼しさよ心よさ松竹梅の桃の実が 立たせ玉ひてウヅの国都にいます父神に 名残を惜み玉ひたるほまれも高き此峠 遠く彼方を見わたせば大西洋の波高く 目下に見ゆるはテルの国山川清く野は青く 天津御空も海原も真澄の鏡の如くなり ウヅの都に永久に鎮まりいます神司 国依別や末子姫その外百の司達 信徒達にテル山の峠に立ちて名残をば 再び惜む六人連れ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 高砂島に渡り来ていろいろ雑多と道の為 身を尽したる経歴は五六七の御世の末までも 語り伝へて忘れまじあゝ惟神々々 神の御霊の幸はひて竜国別が行末を 厚く守らせ玉ひつつ太しき功績を後の世に 立てさせ玉へ惟神神の恵の弥深き ウヅの御国を去るにつけ心の限り身の限り 誠心を捧げつつ謹み敬ひ願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終り、再び腰を芝生の上に下す。これより鷹依姫、テー、カー、常彦等の歌あれども、余りくどければ、省略する事と致します。 高姫一行は此峠を下り、石熊が大蛇に魅入られ、苦みゐたる際、末子姫に救はれたる乾の滝に立寄り、各々此処に御禊を修し、天津祝詞を奏上し、数歌を歌ひ上げ、一日一夜此処に費やして、一行六人峻坂を下り、漸くハラの港に進み、船を待ち合せ、又もや高島丸に乗つて帰国する事となりける。 (大正一一・八・二八旧七・六松村真澄録) |
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霊界物語 | 33_申_玉の御用の完了/高姫と黒姫の過去 | 18 神風清 | 第一八章神風清〔九三三〕 秋山彦は東助、玉治別其他一同の集まる広間に現はれ、 秋山彦『皆様、御苦労で御座いました。高姫様初め黒姫、鷹依姫、竜国別の御一行は漸く惟神の御経綸に依り、私の館までお帰り下さいまして、実にこれ位喜ばしい事は御座いませぬ。就いては言依別命様が責任を負うて、聖地をお立退きになりました大事件の根源たる麻邇の宝珠の所在が、高姫様以下御一同の熱誠に依つて、判明致しましたに付いては、軈て近き内に麻邇の宝珠を持つてお帰りになることで御座いませう。皆様はどうぞ、これより聖地に帰り、歓迎の御準備を願ひます。国治立命様、豊国姫命様を初め、神々様の御仁慈は到底吾々の語り尽すべき所では御座いませぬ』 と嬉し涙に湿つた声を張上げて挨拶をするのであつた。東助、玉治別其他の一同は、秋山彦の案に相違の言葉に驚き且つ怪しみ乍ら、高姫以下の此場より何処ともなく消えたるに拍子抜したる面色にて、急ぎ聖地を指して帰り行くのであつた。 聖地の錦の宮の八尋殿には、玉照彦、玉照姫、英子姫は、紫姫と共に数多の幹部を従へ、一行の帰り来るを待ちつつあつた。東助は三人の神司の前に恭しく進み寄り、頭を下げ両手をつかへ、 東助『由良の港の秋山彦の館へ、高姫一行を迎への為参りました所、竹島丸に乗込み、高砂島より一行八人お帰りになりました。それより秋山彦館にお迎へ致し、一夜を明かし、いろいろの款待に預り、無事の帰国を祝して居る際、黒姫もお帰りになり高姫一行四人の方々は麻邇の宝珠の所在が分つたとかで、ソツトどこかへ御出でになりました。就いては近日其玉を得て聖地へお帰りになるから、早く帰つて歓迎の準備をせよとの事で御座いました。何が何だか、私には一向要領を得ませぬが、是非なく此処まで帰つて参りました。如何致せば宜しいので御座いませうか。紫姫様、どうぞあなたより三柱の神司へ宜しく言上を願ひます』 と云つた。紫姫は『ハイ』と答へて高座にのぼり、三柱の前に額づき、東助の言葉を一々言上した。英子姫、玉照彦、玉照姫の三柱の神司はニコニコし乍ら、頭を縦に振つてゐられる。其の様子がどこやらに深き確信あるものの如く見られた。三柱の神司は神前に向ひ、恭しく祝詞を奏上し終つて、一同の神司及び信徒に目礼を施し乍ら館の奥深く忍び入り給うた。 紫姫は東助に向ひ、 紫姫『只今三柱の大神司より承はりますれば、高姫様は明日四人連れにてお帰りのはずで御座いますから、どうぞ歓迎の準備を遊ばして下さいませ』 東助『ハイ委細承知仕りました』 と此場をさがり、歓迎の準備に全力を尽し、高姫の帰るを今や遅しと待ちつつあつた。 明くれば九月八日、高姫、鷹依姫、黒姫、竜国別の四人は嬉々として、麻邇の宝珠を捧じ、錦の宮の八尋殿指して帰り来り、直に神殿の前に進み、各玉を捧持して、無言の儘控へて居る。紫姫は此体を見て、直に三柱の大神司に奉告した。 茲に玉照彦、玉照姫、英子姫、紫姫は礼装を調へ、四人の前に無言の儘現はれ、玉照彦は高姫の手より青色の麻邇の宝珠を受取り、玉照姫は黒姫の手より赤色の宝珠を受取り、英子姫は鷹依姫の手より白色の宝珠を受取り、紫姫は竜国別の手より黄色の麻邇の宝珠を受取り、頭上高く捧げ乍ら悠々として錦の宮の神前に進み、案上に恭しく安置され、再び八尋殿に下り来り、高姫外三人の手を取り、殿内に導き感謝祈願の祝詞を共に奏上し、八人相伴ひて、教主殿の奥の間さして進み入り、互に歓を尽して、無事の帰国と其成功を祝し玉うたのである。 英子姫『皆様、随分御苦労で御座いましたなア。神界の御経綸は到底、人間共の量り知る所で御座いませぬ。只何事も神様の御命令に従ふより外に途は御座いませぬ』 高姫『ハイ、有難う御座います。私も余り神様の御道を大事に思ふ余り、言依別命様の行方を見て、大神様の御経綸を妨害し、再び天の岩戸をとざす悪魔の所為と思ひつめ、いろいろ雑多と誤解を致し妨害のみ致して参りました。今日となつて顧みれば実に恥かしう御座います。私の改心が遅れた計りで、皆様にいろいろの御苦労をかけ騒がしました。言依別の教主様も、私の為に大変な御艱難を遊ばし、実に申訳が御座いませぬ。大化者だとか、体主霊従の身魂だとか、世界悪の映像だとか、いろいろ雑多と云ひふらし、邪魔計り致して来ましたが、顧みれば私こそ悪神の虜となり、知らず識らずに体主霊従の行ひをなし、世界悪の根本を敢てしながら人の事計り喧しく申上げて来ました。私の迂愚迂濶、今更弁解の辞も御座いませぬ。大化者と云ふ事は、決して悪い意味では御座いませなんだ。余り人物が大き過ぎて、吾々の身魂では測量することが出来なかつた為に、訳の分らぬ教主だと思ひ、大化者だと云つて罵つたので御座いました。仁慈の深き、到底吾々凡夫の知る所ではないことを、深く深く身に沁み渡つて感じまして御座います。何程あせつても、身魂の因縁だけの事より出来るものでは御座いませぬ。どうぞ今迄の不都合をお許し下さいまして、身魂相応の御用を仰せ付け下さいますれば、有難う存じます』 英子姫『其お言葉を聞いて、妾も安心致しました。玉照彦様、玉照姫様、さぞお喜びで御座いませう。第一、国治立大神様の御化身国武彦命様、神素盞嗚大神様は貴女の御改心をお聞き遊ばして、さぞ御満足に思召すで御座いませう。貴女の御改心が出来て、身魂の御因縁が御了解になれば、三五教は上下一致して御神業に参加し、五六七神政の基礎が確実に築き上げられる事と喜びに堪へませぬ』 高姫『ハイ、何から何まで、御注意下さいまして有難う存じます』 黒姫『私は最早何にも申上げる事は御座いませぬ。只感謝より外に道は御座いませぬ。どうぞ万事宜しく、今後とても不都合なき様、御注意を願ひます』 鷹依姫『私も高姫様に聖地を追ひ出され、いろいろと艱難苦労を致しまして、一時は高姫様をお恨み申したことさへ御座いましたが、今となつて考へて見ますれば、何事も皆神様の御仕組で、曇つた魂を研いて、神界の御用に立ててやらうとの御取りなしであつたことを、今更の如く感じました。実に申上げ様もなき有難き瑞の御霊の思召し、言依別命様のお心遣ひ、お礼は口では申上げられませぬ』 と嬉し涙にかき暮れる。 竜国別『神恩の高き深き、感謝の外御座いませぬ。何卒万事不束な者、宜しくお願ひ致します』 玉照彦、玉照姫は四人に向ひ鎮魂を施し、悠々として我居間に帰り玉うた。高姫は初めて今迄の我を払拭し、青色の麻邇の宝珠の玉に対する神業に参加することを決意し、金剛不壊の如意宝珠の御用の吾身に添はざることを深く悟ることを得たのである。 ○ 茲に金剛不壊の如意宝珠の御用を勤めたる初稚姫は初めて錦の宮の八尋殿の教主となり、紫色の宝玉の御用に仕へたる玉能姫は生田の森の神館に於て、若彦(後に国玉別と名を賜ふ)と夫婦相並びて、生田の森の神館に仕ふることとなつた。 又黄金の玉の神業に奉仕したる言依別命は少名彦名神の神霊と共に斎苑の館を立出で、アーメニヤに渡り、エルサレムに現はれ、立派なる宮殿を造り、黄金の玉の威徳と琉の玉の威徳とを以て、普く神人を教化し玉ふこととなつた。 又梅子姫は父大神のまします斎苑の館に帰り、紫の麻邇の玉の威徳に依つてフサの国の斎苑館に仕へて神業に参加し、高姫は八尋殿に大神司を初め紫姫の部下となつて神妙に奉仕し、黒姫、鷹依姫、竜国別もそれぞれの身魂だけの神務に奉仕し、神政成就の基礎的活動を励む事となつたのである。 此等の神々の舎身的活動の結果、いよいよ四尾山麓に時節到来して、国常立尊と現はれ、現幽神三界の修理固成を開始し玉ふことを得るに至つたのである。これが即ち大本の教を国祖国常立尊が変性男子の身魂、出口教祖に帰懸し玉ひて神宮本宮の坪の内より現はれ玉うた原因である。又言依別命の舎身的活動に依つて黄金の玉の威霊より変性女子の身魂、高熊山の霊山を基点として現はれ、大本の教を輔助し且つ開くこととなつたのである。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二九旧七・七松村真澄録) |
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霊界物語 | 33_申_玉の御用の完了/高姫と黒姫の過去 | 21 峯の雲 | 第二一章峯の雲〔九三六〕 高姫『今承はれば、実に黒姫さまも奇妙な運命を辿られたものですな。随分貴女も若い時は引手数多の花菖蒲、若い男に随分チヤホヤされたでせう。何処ともなしに床しい花の香が未だに備はつて居ますよ。オホヽヽヽ……然し乍らこんなお目出度い事は御座いませぬ。私も自分の子に会うた様に嬉しうなつて来ました。……高山彦さま、貴方も若い時に子でも生みつけて置きなされば、今頃はさぞ神様のお蔭で親子の対面が出来御愉快で御座いませうがな』 黒姫『ハイ、誠に恥かしい事で御座います。畏れ多い……神様から頂いた吾子を捨てたり、こんな罰当りの私でも神様はお許し下さいまして、斯んな嬉しい親子の対面をさして下さいました。随分彼方此方と気儘の事をして廻り、両親の事は左程にも思はず、夫の事や吾子の事ばかり尋ねて居りました。私の両親も最早此世に居るか居らぬか知りませぬが、私が子に恋ひ焦れる様に私の両親も嘸や嘸私の事を気にかけて居られるでせう。本当に親の心と云ふものは何処まで慈愛の深いものか分りませぬ。斯うなつて来ると両親の身の上も案じられ、又伜の玉治別が折角母親に会うて喜んで居りますが、屹度父親の所在を知りたいと思うて居るに違ひ御座いませぬ。何事も皆私の不心得から、一人の伜までに切ない思ひをさせます。あゝ玉治別、何卒許して下さい。屹度私がお前のお父さまを草を分けても探し出し、お会はせしませうから……』 玉治別『勿体ない事を云つて下さいますな。此広い世の中、何時まで探しても分りさうな事は御座いませぬ。神様が会はして下さらうと思召したら屹度会はして下さいますから……そんな事に心を悩まさず、一心に母子が揃うて神様の御用を勤めさして頂きませうか』 黒姫『左様で御座いますな。母子手を引き合うて神様の御用を致しませう』 東助は両手を組み頭を項垂れ、時々太い息を吐き、物をも言はず此光景を打看守つて居る。 高山彦は歌ひ出した。 高山彦『コーカス山に現はれし大気津姫の八王と 仕へまつりし千代彦や万代姫の其中に 生れし吾は珍の御子隙間の風にも当てられず 蝶よ花よと育まれ栄耀栄華に育ちしが 松、竹、梅の宣伝使石凝姥や高彦や 其他数多の神司コーカス山に現はれて 言霊戦を開きてゆ老たる父母は大気津姫の 神の命に従ひて逃げ行く先はアーメニヤ 館の奥に隠れましウラルの神の御教を 朝な夕なに守りつつ世人を導き給ひけり 吾には三人の兄弟がいと健やかに生ひ育ち 父の家をば嗣ぎまして暮し玉へど弟と 生れ出でたる吾こそは自由自在の身なりとて 夜な夜な館を抜け出し若き女と手を曳いて 都を後にフサの国逃げ行く折しも両人は 新井の峠を越ゆる折谷に架けたる丸木橋 危く之を踏み外し二人は千尋の谷底に 落ちて果敢なくなりにけりかかる処へ杣人が 現はれ来りて吾身をば種々雑多と介抱し 吾は危き生命を助かりたれど吾恋ふる 女のお里は影見えず深谷川の激流に 流されたるは是非もなし最早此世に永らへて 一人暮すも詮なしと柏井川に架け渡す 橋の袂に来て見れば夜目には確と分らねど お里の顔によく似たり何れの人の情にて 危き生命を免れしか不思議なことと擦り寄つて よくよく姿を眺むれば女はお里に非ずして 色香勝れし真娘心の裡の曲者に 取り挫がれて懊悩の雲はいつしか晴れ渡り 再び陽気に立ち帰り擦れつ縺れつ顔と顔 眺めて忽ち恋の糸搦まるままに傍の 林の中に立ち入りて○○○の折柄に けたたましくも出で来る人の足音耳につき パツと驚き立ち別れ雲を霞と逃げ去りぬ 吾はそれよりフサの国彼方此方と逍遥ひつ 若やお里は現世に生永らへて居はせぬか 飽まで探し求めむと雲をば掴む頼りなき 詮議に月日を送りしが今黒姫の物語 聞いて驚く胸の裡柏井川の橋の上で 会うたる女は黒姫かさすれば玉治別神 全く吾の珍の御子あゝ惟神々々 神の恵は山よりも勝れて高く海よりも いやまし深く思はれて感謝の涙は雨となり 降り注ぐなる今日の宵玉治別よ黒姫よ 高山彦は汝が父ぞ汝が昔の夫ぞや 親子の縁斯くの如月日の如く明かに なりたる上は今よりは親子心を協せつつ 錦の宮の御前に誠を捧げて朝夕に 力限りに尽くすべし昔の罪が廻り来て 色々雑多と世の中の憂目を忍び迷ひたる 夫婦の仲も皇神の恵の鞭の戒めか 今は心も打ち解けて天津御空は殊更に 弥明けく地の上は弥清らけくなりにけり 吹き来る風も今までの悲哀の音は何処へやら 千代を祝する歓ぎ声小雲の流れもサヤサヤと 吾等親子の行末を祝ふが如く聞ゆなり あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 黒姫、玉治別は高山彦の物語に二度吃驚り、……あの時の青年は高山彦様であつたか……吾父であつたか……と双方より取縋り嬉し涙にかき暮れる様、実に割なく見えて居る。 高姫『黒姫さま、目出度い事が重なれば重なるものですな。お前さまも全く今迄の罪障がとれたと見えて、神様が親子の対面をさして下さつたのですよ。そして高山彦さまは露の契と云ひ乍ら、若い時の貴方のラバーしたお方、なんとまア夢に牡丹餅を喰つた様な甘い話で御座いますなア。それにつけても此高姫はまだ神様のお許しがないと見えまして、心の中に大変な悩みを持つて居ます。あゝ如何かして一時も早く、此悩みの雲が晴れ、青天白日、今日の空の様にサラリとなり度いものです。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と涙声になつて両手を合せ祈りゐる。 黒姫『貴女も何時かのお話の序に一寸承はりましたが、妾の様に捨児をなされたさうですが、貴方の様な気丈なお方でも矢張り気にかかりますか』 高姫『親子の情といふものは誰しも同じ事です。年が寄れば寄る程子が恋ひしくなるものです。アーア、黒姫様が元の親子夫婦の対面を遊ばしたに就いて、一入昔の事が思ひ出され、吾子に一度会ひ度くなつて堪りませぬ。其時の夫は今は何処に如何して居られますやら……今日となつては其夫と出会つた処が、夫婦となる訳には行きませぬなれども、せめて……お前はあの時の妻であつたか、夫であつたか、子であつたか……と名乗り合つて見たう御座います』 と云ひ放つて泣き沈む。黒姫は確信あるものの如くニツコリと笑ひ乍ら、 黒姫『高姫さま、あまり迂濶して居つて貴女のお話を十分に記憶して居りませぬが、何でも貴女のお捨てになつたお子さまには、守刀に真珠で十の字の印を入れ柄元に「東」と「高」との印をお入れになつたぢや御座いませぬでしたかな』 高姫『ナニ、黒姫さま、そんな詳しい事を私は申上げた様な記憶はありませぬが、左様の事を申上げた事が御座いますかな』 黒姫『そのお子さまの名は金太郎とは申しませなんだか、丁度今年で私と同じ様に三十五年になるのぢや御座いませぬか』 東助の顔の色が之を聞くよりサツと変つた。高姫の顔も亦俄に変り、目は円くなり口先が尖つて来出した。 高姫『何とまあ、詳しい事を御存じで御座いますな。私はそこ迄お話した覚えは御座いませぬが、如何してまアそんな詳しい事がお分りで御座いますか。これには何か御様子のある事でせう。何卒明らさまに仰有つて下さいませ』 黒姫は歌を以てこれに答へける。 黒姫『高山彦の後を追ひ筑紫の島に立ち向ひ 建日の港を後にして筑紫ケ岳の大峠 高山峠を登り行く其頂上となりし時 傍に五人の荒男玉公、虎公面々の 人の噂を聞きつれば熊襲の国の神司 建日別の御息女建能姫の夫として 誉も高き建国別の神の命は何人の 捨てたる児とも分らずに三十五才の今年まで 父母両親の所在をば尋ね居ますと聞きしより 遥々館に立ち寄つて夫婦の神に面会し もしや吾子にあらぬかと昔の来歴物語り 種々調べ見たりしに建国別の宣らす様 吾は如何なる人の子か未だに分らぬ悲しさに 朝な夕なに三五の神に仕へて父母の 行方を尋ね求めつつ其日を送る悲しさよ 汝の命は遠近と神の教を伝へつつ 出でます身なれば父母にもしもや会はせ給ひなば 一日も早く吾許に知らさせ給へ幼名は 聞くも目出たき金太郎吾身に添へたる綾錦 守袋に名を記し守刀に真珠にて 十字の印を描き出し鍔元篤と眺むれば 「東」と「高」の印あり人の情に哺まれ 漸く成人なせしもの誠の生みの父母が 此世に居ます事ならば一目なりとも会ひたやと 嘆かせ給ふを聞くにつけ此黒姫も胸迫り 名乗り上げむかと思へどもいや待て暫し待て暫し 高姫様に面会し詳しき事を更めて 承はらずは軽々に名乗りもならずと口許へ 出かけた言葉を呑み込んで素知らぬ顔を装ひつ 此処まで帰り来りけりまさかに汝の生みませし 御子にはあるまじさり乍ら合点の往かぬは三年前 高姫様の物語朧気ながら思ひ出し 半信半疑に包まれて名乗りも得ざりしもどかしさ あゝ惟神々々神の恵の幸はひて 高姫さまが愛し子に目出度会はせ給ふべき 時こそ来れるなるべしと何とはなしに勇ましく 心の空も晴れにけり高姫さまよ黒姫が 此物語諾ひてお心当りのあるならば 人を遥々遣はして今一度調め給へかし あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 玉治別『屹度建国別命は高姫様の御子息に間違ひありますまい。如何も私はその様な気が致します。さうであつたならば、実に此上ない目出たい事で御座いますがな。私は久し振りで両親に邂逅ひ、斯んな嬉しい事は御座いませぬ。高姫様も、一度遠方なれども私が御案内致しますから、熊襲の国までお調べにお出でになつたら如何でせう』 高姫『ハイ、御親切に有難う御座います』 と言つたきり稍少時頭を垂れ吐息を洩らし居る。東助も亦顔色を変へ高姫の顔を穴のあく程見詰め居たり。 (大正一一・九・一九旧七・二八北村隆光録) |
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霊界物語 | 34_酉_黒姫のアフリカ物語1 | 08 暴風雨 | 第八章暴風雨〔九四九〕 房公、芳公の二人は、どうしたものか、尻が大地に吸ひついたやうになつて、ビクとも動けなくなつて了つた。黒姫は『早く早く』と急き立てる。されど二人の身体はビクとも実際動かなくなつてゐるのだ。黒姫はそんなこととは少しも気がつかず、余りのジレツたさに声を尖らし、 黒姫『コレコレ両人、お前はこんな所へ来て、此黒姫を困らす所存だな。あれ程事をわけて言ふのに、何故立たないのかい』 房公『黒姫さーま、何と仰有つて下さつても、如何したものか、チツとも足が立ちませぬワ、……なア芳公、お前はどうだ。チツと動けさうかなア』 芳公『おれも如何したものか、チーツとも動けないよ。地の底から鼈でも居つて吸ひつけるやうに、どうもがいたとて、動きがとれぬのだよ。あゝ困つたことが出来た。……モシモシ黒姫さま、一つ鎮魂をして下さいな』 黒姫『ヘン、今迄あれ丈能く喋り、あれ丈無花果を食つておき乍ら、そんな元気な顔をして居つて、足が立たぬの、腰が動かぬのと、能う云へたものだ。動けな動けぬで、私は先に失礼致します』 とピンと身体をふり、不足そうな顔をし乍ら、エチエチと登つて行く。瞬く中に黒姫の姿は木の茂みに隠れて了つた。 芳公『オイ黒姫も余程水臭い奴だないか……落ぶれて袖に涙のかかる時、人の心の奥ぞ知らるる……と云ふ古歌があつたねえ、黒姫に依つて、此歌の意を実地に味はふことが出来たぢやないか』 房公『オウさうだ……腰ぬけて涙に曇る山の路黒姫さまの心知らるる…… 黒姫が何時もベラベラ口先でチヨロマカしたる尾は見えにけり…… だ。アハヽヽヽ』 芳公『此様に脛腰立たぬ身を以て人の事共誹る所か…… どうしても脛腰立たぬ其時は野垂死より外はあるまい……』 房公『オイ、芳、そんな気の弱いことを言ふものぢやないよ。神様が何かの御都合で、吾々に少時休養を与へて下さつたのかも知れないよ。大方此向うあたりに、大きな大蛇が居つて、俺たち一行を呑まうと待ち構へてをるのを、大慈大悲の神様が助ける為に、ワザとに足が立たないやうにして下さつたのか知れぬ。何事も善意に解釈し、神直日大直日に見直し聞直し、何事が出て来ても、神様の恵を感謝し、災に会うても神を忘れず、喜びに会うても神を忘れぬ様に、誠一つを立てぬきさへすれば、神様が助けて下さるに違ひない、サア是から神言を奏上し、病気平癒の祈願をしようぢやないか』 芳公『それもさうだ。併し黒姫さまが、一人先へ行つたやうだが、其大蛇に呑まれるやうなことはあるまいかな。俺はそれが心配でならないワ。何程憎いことをいふ婆アさまでも、ヤツパリ可哀相なからな』 房公『それが人間の真心だよ。俺だつて、あゝ喧しく、黒姫さまを捉へてからかつてはゐるものの、はるばると夫の後を尋ねて、こんな所までやつて来る女と云ふものは、滅多にあるものぢやない。実に女房としては尊い志だ。俺はモウ黒姫のあの心に、実の所は感服してゐるのだ。どうぞ途中に災のない様、怪我のない様に先づ第一に御祈願し、其次に自分たちの病気の平癒を御祈りすることにしようかい』 芳公『ヤツパリお前もさう思ふか、それは有難い、どうしても人間の性は善だな』 房公『そこが人間の万物に霊長たる所以だ。神心だ。サア斯うして腰は立たないが、其外は何ともないのだから、まだしも神様の御恵だ。先づ感謝の詞を捧げて、次に祈願することにしよう』 と云ひ乍ら、二人は天津祝詞を奏上し了り、静かに祈願をこらし始めた。 房公『あゝ天地を造り固め、万物を愛育し玉うたる、宇宙の大元霊たる大国治立大尊様を始め奉り、天津神、国津神、八百万神々様、私はあなた方の尊き御威光と、深きあつき御恵に依りまして、此尊い地の上に生れさして頂き、何不自由なく、尊き日を送らして頂きました。そうして知らず識らずに重々の罪科を重ね、人間としての天職を全う致さず、不都合なる吾々をも御咎め玉はず、いたはり助けて此世を安く楽しく送らせ玉ふ、広きあつき御恩寵を有難く感謝致します。……此度三五教の宣伝使、黒姫様の御伴を致しまして、万里の海洋を渡り、恙なく此筑紫の島に渡らして頂き、此処迄無事に神様の懐に抱かれて登つて参りました。乍併、如何なる神様の御摂理にや、吾々両人は此木蔭に息を休めますると共に、不思議にも腰が立たなくなつて了ひました。これと云ふのも、全く吾々の重々の罪が酬うて来たので御座いませう。神様の広大無辺の大御心を、吾々として計り知ることは到底出来ませぬが、乍併、神様は吾々人間をどこ迄も愛し玉ふ尊き父母で御座いまする以上、何か吾々に対して手篤き御保護の為に斯の如く吾が身をお縛り下さつたことと有難く感謝致します。つきましては黒姫様は一足先に御立腹遊ばして、此坂路を登られました。何卒途中に於て、悩み災の起りませず、どうぞ恙なく火の国の都へお着きになりますやう、特別の御恩寵を与へ玉はむことを懇願致します。又吾々両人は如何なる深き罪科が御座いませうとも、大慈大悲の大御心に見直し聞直し、宣り直し下さいまして、何卒一時も早く、此身体に自由を御与へ下さいますやう、慎み敬ひ祈り上げ奉りまする、あゝ惟神霊幸倍坐世』 と合掌し、感謝の涙をハラハラと流してゐる。何程祈つても、如何したものか、二人の身体はビクともせない。 日は追々と西山に傾き、一天俄に黒雲起り、礫のやうな雨パラパラとマバラに降り来る。雷鳴か暴風雨か将た地震の勃発か、何とも云へぬ凄惨の気が四面を包むのであつた。 二人は撓まず屈せず、一生懸命に……三五教を守り玉ふ皇大神、吾等両人を始め、黒姫の身辺を守らせ玉へ……と主一無適に祈願をこらしてゐる。山の老木も打倒れむ許りの強風、忽ち吹き来り、巨石を木の葉の如く四方に飛ばせ、木を倒し、枝を裂き其物音の凄じさ、何に譬へむものも泣く計りなりき。 此時何処よりともなく風のまにまに、宣伝歌が聞え来たりぬ。 玉治別『神が表に現はれて善と悪とを立別ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直せ聞直せ 身の過ちは宣り直せ三五教の宣伝使 吾は玉治別司三五教の黒姫が 筑紫の島に渡りたる高山彦を探ねむと 棚なし舟に身を任せ渡り来ますと聞きしより 斎苑の館を立出でてメソポタミヤを打わたり ヨルダン河に棹さしてフサの海をば横断し いよいよ此処に来て見れば思ひもよらぬ山嵐 げに凄じき光景ぞさはさり乍ら吾々は 誠の道の宣伝使如何なる事も恐れむや 朝日は照る共曇る共月は盈つ共虧くる共 仮令大地は沈む共岩石雨をふらす共 筑紫ケ岳はさくる共神に任せし此身体 玉治別の真心に如何なる風もおし鎮め 天ケ下なる人草の百の災吹き払ひ 助けてゆかむ吾心あゝ惟神々々 神の御霊の幸はひて国霊神と現れませる 純世の姫の神柱吾れに力を添へ玉へ 吾れは是より火の国の都に出でて黒姫が 暗路に迷ふ恋雲を伊吹払に払ひのけ 誠の魂を光らせて自転倒島の中心地 四尾の山の山麓に大宮柱太知りて 鎮まりませる神の前導き帰り助けなむ 神の御霊の幸ありて此山嵐速に 鎮め玉へば玉治別の教司は逸早く 三五教の黒姫に出会ひて神の御詞を 一日も早く伝へなむあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ふ声、二人の耳に響き来たりぬ。 房公『オイ芳公、あの宣伝歌を聞いたか、どうやら玉治別の宣伝使が間近く見えたらしいぞ、神様は有難いものだなア。黒姫様にすてられた吾々両人は、脛腰立たず、苦み悶えている矢先、レコード破りの暴風雨に出会し、神様の御守りは信じ乍らも、戦々兢々として、如何なることか、今も吾が身を案じて居たが、神様の御恵といふものは実に尊いものだ。神徳高き玉治別命様にこんな所でお目にかからうとは、神ならぬ身の知らなかつた。あゝ有難い……神様、早速御神徳を吾々両人の目の前に下し賜はりました。何とも御礼の詞が御座いませぬ』 と涙と共に感謝する。芳公もはなを啜りしやくり泣きし乍ら、両手を合せ感謝の意を表してゐる。宣伝歌の声がピタリと止まつたと思へば、今迄山岳も吹き散れよと許り荒れ狂うて居た暴風雨も、拭ふが如く払拭され、空には雲の綻びより青雲の肌をチラチラと現はすやうになつて来た。雲の帳をあけて、天津日は漸く二人の頭上を斜に照らし始めた。 芳公『神様、有難う御座います。重ね重ねの御恵み、どうぞ今の宣伝歌の主に一目会はして下さいませ、御願ひで御座います』 と両手を合せ、又もや祈願に耽つてゐる。不思議や二人の腰は知らぬ間に、自由が利くやうになつてゐた。 房公『あゝ有難い、足が立つた、腰が直つた。オイ芳公、お前は如何だ。チと立つて見よ、俺は此通りだ』 と四股ふみならし、嬉しげに踊り狂ふ。芳公も案じ案じソウと腰を上げてみた。 芳公『ヤア俺もいつの間にか、神様に直して貰つた、あゝ有難し勿体なし、……サア房公、是からあの宣伝歌の声のした方を捜してみようぢやないか』 房公『どうも不思議だなア。つい間近に聞えた宣伝歌の声、斯うして登つて来た坂路を遠く見はらしてみても、人らしい影は見えない。乍併あの声は此坂の下から聞えて来た様だ。不思議なことがあるものだなア。確に吾れは玉治別司と歌はれた様に聞えたがなア』 芳公『確に俺もさう聞いた。ヒヨツとしたら、あの宣伝使が最前の蜂の巣の下で、休息され、あの猛烈な青蜂に目でもさされて、苦んで御座るのだあろまいかな』 房公『ヨモヤそんなヘマなことはなさる気遣ひもあるまい、又あれ丈神力のある宣伝使のことだから、蜂の布も大蛇のヒレも持つて御座るに違ない。そんな取越苦労はせなくてもよからうぞよ』 芳公『そうだらうかなア。そんなら、これからボツボツ此坂を登ることとしよう。黒姫様も最前の暴風雨で、嘸お困りだらうから、一つ追つついて御慰問を申上げねばなろまいぞ。玉治別の宣伝使も、或は此坂の上に御座るのかも分らない。風の吹きまはしやら、木谺の反響で、下の方から声がしたやうに聞えたのだらうも知れぬ。サア行かう』 と言ひ乍ら、両人は金剛杖を力に急坂を又もや登り行く。惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・九・一二旧七・二一松村真澄録) |
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霊界物語 | 35_戌_黒姫のアフリカ物語2 | 11 野宿 | 第一一章野宿〔九七五〕 孫公が一生懸命になつて夜中に祝詞をあぐる声に、目を覚まされて起き上つたお愛は、孫公の此姿を見て怪しみ、ツカツカと側に寄つて来た。其時は已に祝詞を終つてヤツと一息をついた時である。 お愛『孫公さま、もう何時で御座いませうかな。まだ夜明には間がある様ですが、えらい早く目が覚めたと見えますなア』 孫公は星月夜にお愛の姿を眺めて驚愕し、両手を打振り打振りながら、 孫公『もしもしお愛さま、其処にジツとして居て下さい。お前さまに来られると恋の糸に縛られて、身体がビクともせない様になつて了ひます。もう何卒々々彼処で結構で御座います。何なりと御用を云つて下さい。近寄つて来ても私はスツパリ改心しましたから、何程可愛いお愛さまが秋波を送つて下さつても、孫公の鉄石心はお生憎様、梃子でも棒でも動きませぬぞや。女と云ふものは魔だからな。世界中の男を雁字り捲きにして身動きもならない様にする奴だからなア。あゝ若し若しお愛さま、さう此方へ近寄つて貰つちや堪りませぬわ、何だかいけ好かない臭がしますから……』 と今見た夢の受売を一生懸命にやつてゐる。 お愛『ホヽヽヽヽ、あのまア、孫公さまの恐さうな様子、お前さまも男ぢやありませぬか、チツとシツカリなさいませ』 孫公『最前の夢の見直しかいな。同じ様な事を言ひよるワイ』 お愛『これ孫公さま、夢でも見なさつたのか。ほんに気楽な方ですな』 孫公『気楽どころか、チツとも寝られないのですよ。お前さまが出て来ては私を罵つたり引括つたりするものだから、如何しても寝られやしない。宜い加減悪戯をせずに寝んで下さいな。今晩の中にチツと身体を休めておかないと、明日の言霊戦に元気が抜けちやなりませぬからな』 お愛『何とまア訳の分らぬ寝言を云ふ人だ事、チツとシツカリなさいませ』 と言ひ乍らお愛は頬辺を一寸抓つた。 孫公『アイタヽ痛いなア。アヽ併しながら温かい柔かい白い細い手で抓られるのも、何処ともなしに愉快なものだ。モシモシお愛さま、一寸も遠慮は入りませぬ。顔なつと尻なつと腕なつとお前さまに任しますから、何卒自由にして下さい』 お愛『ホヽヽヽこれ孫公さま、虎公さまが居られますよ。あんまりの事は云はないで下さい』 孫公『アーア又怪しくなつて来た。如何やら俺の腹の中から再び最前の化女が生れさうになつて来たわい……あゝ惟神霊幸倍坐世。何卒天地の大神様、此孫公が恋の執着心を科戸の風の天の八重雲を吹き払ふ如く伊吹き払ひに払ひ除けて下さいませ、偏にお願ひ致します』 虎公は此話にフツと目を覚まし、 虎公『お愛お前其処に何して居るのだ。早く寝ないと明日は大活動をせなくちやならないぞ』 お愛『孫公さまが下らぬ事を云つて騒いで居るものですから如何しても寝られないのですよ』 虎公『孫公さま、早くお寝みなさらぬか』 と虎公がきめつける。 孫公『何だか知りませぬが、お愛さまが夢か現か分らないが二度迄も私の側にやつて来て、引張つたり抓つたり意茶つくものだから、チツとも寝られないのですよ。チツと虎公さま、女房に説諭をして置いて貰はぬと、色男の孫公も本当に迷惑致しますわい』 虎公『アハヽヽヽ気楽な男だなア。……これお愛、孫公さまをよく寝入る様に、お前の乳でも飲まして「寝んね」でも歌つて寝ましてやつて呉れ。俺達やモ一寝入りしたいからな』 お愛『オホヽヽヽ虎公さま、そんな事云つて下さると困りますわ。孫公さまの前で……』 孫公『オツと占めた、御亭主の許可が下つたのだからもう大丈夫だ。これこれお愛さま、遠慮は要らぬ、苦しうない、近うおぢや』 お愛『オホヽヽヽ、又女の臭い香がすると御迷惑だから遠慮しておきませうか、なあ、妾は男の側へ寄ると鼻を捩ぢたり、目玉をくり抜いたり、乳を噛み切つたり、抓りたいのが病ですから……それでも御承知ですならお傍へ寄せて頂きませう』 孫公『虎公さまは随分辛抱のいい男だと見えるなア。こんな剣呑な女を如何してまア平気に一緒に寝て居るのだらう。矢張意茶つかれるのが気分が好いのかなア』 お愛『虎公さまなら一度だつて抓るの、齧りつくの、そんな乱暴な事はしませぬよ。肩から足の先まで撫でて可愛がつて寝かして上げるのですからね』 孫公『そんなら私もさう願ひたいものだなア』 お愛『エヽ好かんたらしい。天ン若だから抓つたり噛んだり、可愛がつてやると云ふのですよ。オホヽヽヽ』 孫公『はい有難う。それで何もかも私の胸が開けました。実の処はお前さまが私の顔を一寸覗き込んで、意味ありげな笑ひ様をなさつたと思ひ、此奴ア俺にチヨイ惚だなアと早合点し、それを根にしてお前さまを密かに恋する様になつたのだ。併し今の言葉によればお前さまは此孫公に対し、吾不関焉の御心底だと云ふ事が今初めて分りました。是で私もスツカリ諦めます。何卒安心して下さいませ。此上は決して穢しい量見は出しませぬから……』 お愛『吾不関焉位ですか。本当の事を云へば孫公さまは鈍な男だ、虫の好かぬ男だと思つて居るのですよ。お前さまの方から吹いて来る風でさへも胸が悪いのだもの、本当にいけ好かない野郎だと心の底から思つて居ますのよ』 孫公『ハイ、有難う。ようそこ迄嫌つて下さいました。それで私も真人間になつて助かります。アヽ神様、有難う御座います』 と愛想尽かしを云はれて、孫公は心の底から打ち喜び、拍手をうつて大神に感謝の詞を捧げて居る。 三公は又もや目を覚まし、 三公『皆さま、えらうお話が機んでる様ですが、もう夜明けに間もありますまいな』 孫公『烏羽玉の暗夜はここに晴れ渡り 心の空に照る月の影。 来て見れば白山峠の登り口 登りつめたる恋の曲者。 曲者は今や何処へ去りにけむ 心の空に懸る雲なし。 草原を分けて怪しの物影は 吾を目当に攻め寄せにける。 その影は何者ならむわが胸に 潜み居たりし恋の曲者。 何時迄も胸の悪魔の去らざれば 吾は根底の国に落つべき。 皇神の深き恵みに包まれて 草野にやすく夜を眠りたり。 惟神神のまにまに進み行く 大蛇退治の身こそ尊き』 虎公『小夜更けて砧の声もとどまりぬ 早く寝ねませ孫公司よ』 孫公『沸き返る恋の焔に包まれて 心苦しく眠られざりける』 お愛『ほのぼのと東の空も白山の 麓に明かす神の道芝』 三公『騒がしき声聞きつけて起き上り 四辺を見れば恋の曲者』 孫公『まごまごと恋路の暗をさまよひて 一目も寝ずに泣き暮しける。 泣き暮す恋の虜は吾ならじ 今は昔の三公親分よ』 三公『晴れ渡る大空の如きわが胸に 恋の黒雲かかるべしやは』 お愛『人はいざ知らず妾は何処迄も 恋と道とを立て別け行かむ』 虎公『迷ひ行く恋の坂道漸くに 踏み越えましし三公の君』 孫公『まごまごと白山峠の山麓に まごつき恋の夢を見しかな。 夢に見て恋しきものを現身の 君に添ひなば如何に楽しき。 まて暫し心猿意馬は又狂ふ 心の手綱かたく結ばむ。 惟神神の教の道をふみ 恋の曲者斬りて屠らむ。 迷ひけり覚めけり又も迷ひけり 夢に夢見る浮世なりせば』 夜は漸くに白み初めた。四人はムツクと起き谷川に手水を使ひ身を清め、天津祝詞を奏上し、携へ来りし弁当を食ひ、赤禿だらけの白山峠を登り行く。孫公は道々足拍子を取つて歌ひ出す。 孫公『「ウントコドツコイ」きつい坂今行く坂は恋の坂 善か悪かは白山の峠を渡るわが恋路 知らず識らずに村肝の心の曲者跳梁し お愛の方に目をくれて「ウントコドツコイ」きつい坂 及ばぬ事のみ思ひつめ心を苦しめ居たりしが 「ウントコドツコイハアハアハア」油断をすれば危ないぞ 危ない危ない恋の闇寝られぬままに起き上り 彼方此方と「ドツコイシヨ」夜霧の中を逍遥うて 恋の焔を消すうちにザアザアザアと音たてて 「ウントコドツコイ」又滑る怪しの女が只一人 薄の中から手を伸ばし「ウントコドツコイ」嫌らしい 妙な声をばふりしぼりモシモシこれこれ旅の人 「ドツコイドツコイ」私はお前に願ひがありまする 何卒此方へ来てお呉れお頼み申すと云ふ故に 寝られぬままに「ドツコイシヨ」孫公司が跟いて行く やさしい女の顔に似ず口を極めて荒男 神の司を捉まへて口を極めて嘲弄する こりや怪しからぬ女奴と眼を据ゑて「ウントコシヨ」 睨めば女は打笑ひ女に「ドツコイ」魂抜かれ 荒野を逍遥ふ「ドツコイシヨ」腰抜男のお前さま お愛の方を恋しいと迷ふ心の執着が 妾の身体を生みましたほんに困つた男だと 散々小言を並べ立て孫公凹ます折柄に 何処ともなしに宣伝歌闇を通して響き来る 「ハアハアハアハア」えらい坂「如何にも息が絶れさうな」 玉治別と名乗りつつ孫公司を誡めの 手痛い意見の宣伝歌こりや堪らぬと首おさへ 眼を閉ぢて居る間に以前の女は何処へやら 煙となつて「ドツコイシヨ」姿を隠した訝しさ 折から吹き来る夜嵐に面を撫でられ気がつけば 執着心の恋の犬主人の寝たのを幸ひに 跋扈跳梁して居つたあゝ惟神々々 思へば思へば馬鹿らしい別に恋しと「ドツコイシヨ」 俺は思うたぢや無けれども心に潜む曲者が 此肉体を左右して「ウントコドツコイヤツトコシヨ」 あんな心にしたのだらうあゝ惟神々々 神の尊き御光に心の闇も晴れ渡り 夜も白々と白山の峠を越えてスツポンの 湖に潜める曲津見の大蛇を言向け和さむと 進み行くこそ楽しけれあゝ惟神々々 神の助けを蒙りて吾等一行四人づれ 協心戮力「ドツコイシヨ」臍を固めて曲神の 醜の砦に立ち向ひ善言美詞の言霊に 大蛇の霊を解脱させ天国浄土に救ひつつ 皇大神の御教を禽獣虫魚に至るまで 開き行くこそ雄々しけれあゝ惟神々々 御魂幸へましませよ』 と歌ひ乍ら、四人は漸くにして白山峠の絶頂に辿りつけり。 (大正一一・九・一六旧七・二五北村隆光録) |