| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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61 (1867) |
霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 05 酒の滝壺 | 第五章酒の滝壺〔七五一〕 神の恵も開け行く世は太平の洋中に 堅磐常磐に浮びたる神の造りし冠島 黄金花咲く竜宮の一つの島と名を負ひし 日の出神の御遺跡醜女探女を祝姫[※初版や愛世版では「祝部」だが、校定版・八幡版では「祝姫」に直している。文脈上は「祝姫」が正しい]の 三五教の宣伝使風凪ぎ渡る波の上 辷り来りし面那芸の神の命の詣でたる 竜の宮居は今も尚御稜威輝くヒル港 屋根無し船に身を任せ力限りに漕ぎ来る 三五教の神司地恩の郷を後にして 魂を洗ひし清公がチヤンキーモンキー引連れて 進み来るぞ健げなれあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして心ねぢけし清公も 胸の帳を引きあげて輝き初めし厳御魂 瑞の御霊に神習ひ天津祝詞を宣り乍ら 御船を浜辺に繋ぎつつ身装も軽き蓑笠の 金剛杖に送られて山奥指して進み入る。 地恩城に一切の教権を掌握したる高山彦の後を襲ひ、左守となりすまし居たる清公は茲に地恩城のブランジーとして権威を振ひ、宇豆姫をクロンバーの位置に据ゑ、我勢力を扶植せむと種々の権謀術数を弄したるも、天は清公が邪曲に組せず、遂に左守を自ら辞し、スマートボールをしてブランジーの職を専らにせしむるの余儀なきに立到つたのも、全く我が利己主義の罪の致す処と自覚したる清公は、転迷開悟の梅花の香に心の眼も清まり、如何にもして神界の御用を身魂相応に勤め、名誉を恢復せばやと、チヤンキー、モンキー両人の賛同を得て黄竜姫以下の承認の上、タカの港を漕ぎ出でて屋根無し船に身を任せ、嘗て日の出神一行が上陸したるヒルの港に船を止め、竜宮の宮に詣でて前途の無事を祈り、飯依彦、久々神、久木神の遺跡を巡拝し進んでクシの滝の間近まで、茴香の薫に送られ乍ら夏風そよぐ急坂を喘ぎ喘ぎ宣伝歌を歌ひ漸くにして、風景最も佳き谷川の傍に立てる岩石の上に腰打掛け、旅の疲れを休めつつ話に耽る。 チヤンキー『アヽ何と良い景色だなア。谷間は斯う両方より山と山とに圧搾されて、非常に狭隘ではあるが、清き渓流が飛沫を飛ばし淙々と水音を立て、岩に噛みつき、佐久那太理に落ち行く光景は、到底地恩城附近にては見る事も出来ない絶景だ。我々も清公さまの失敗のお蔭で、天下を自由自在に宣伝する事を許され、何だか籠の鳥が宇宙に放たれた様な気分になつて来た。斯うなると人間も一度は失敗もし、慢心もやつて見なくては、本当の天地、人生の真実味が分らないものだ。……南無清公大明神、チヤンキー、モンキー両手を合せ有難く感謝致します。アハヽヽヽ』 とそろそろ地金を現はし、洒落気分になつて、駄句り出した。 清公『世の中は一切万事惟神の御経綸に左右されて居るものだ。俺が地恩城で大野心を起し、宇豆姫を得むとして終生拭ふ可らざる大恥を掻いたのも、今になつて省みれば、実に仁慈無限の大神様の御恵であつた。己に出づるものは己に帰る。悪い事をすればキツト悪い酬いが来るのは当然だ。然るに何ぞや。あれ丈け体主霊従的陰謀を組立て、其結果斯様な結構な宣伝使となり、此冠島に自由自在に開放的に宣伝せよとの許しを受けたのは、悪が自然に善の結果を齎した様なものだ。これと云ふのも全く神様が神直日大直日に見直し聞直し、活かして働かして下さる有難き思召し、逆境に立ちて初めて神の慈愛を知り、宇宙の真善美を味はふ事を得た。左守神となつて日夜心を痛め、下らぬ野心の鬼に駆使されて居るよりも、斯う身軽になつて、何の束縛もなく、自由自在に活動し得る機会を与へられたと云ふ事は、実に我々として無上の幸福だ。アヽ辱なし、勿体なし、惟神霊幸倍坐世』 と有難涙に声を曇らす。 チヤンキー『神も仏も鬼も蛇も悪魔も、残らず自分が招くのだ。決して外から襲来するものでない。盗賊の用意に戸締りをするよりも、心に盗賊を招かない様にするのが肝要だ。一切万事残らず自分の心から招くものだからなア』 モンキー『清公さま、此処はその昔、日の出神様が竜宮城の従神たりし、田依彦、時彦、芳彦と云ふ玉抜かれ神を引連れ、酒飲みの副守護神を追ひ出し給うた名高い酒の滝壺の附近ではありますまいか。竜宮様が天然に造つて置かれた酒壺が有ると云ふ事ですが、未だに相変らず其お酒は湧いて来るでせうか。一度拝見したいものですな』 清公『サア、必要があれば湧いて居るだらうが、……世の中に不必要な物は一つもないのだから、今日となりては何とも分らないなア』 斯く話し合ふ中、何処ともなく二三丁許り上流の谷間より、数多の老若男女の鬨の声が聞えて来た。 チヤンキー『ヤア、清公さま、不思議な声がするぢやありませぬか。一つ探検と出かけませうか』 清公『一寸待てよ、何事も慎重の態度を執らねば、軽々しく進んで取返しの付かぬ失敗を演じてはならないから、よくよく様子を窺つた上出かける事にしよう。それに就いては……モンキー、お前は斥候として声する方を探ね、そつと様子を考へ、報告をして呉れ。それまで我々両人は此巌の上に於て時期を待つ事とするから』 モンキー『畏まりました。どんな事が突発しても、此処を一寸も動いてはなりませぬぞ』 清公『ヨシ合点だ。サア木の茂みに身を隠しつつ、偵察隊の任務を尽して呉れ』 モンキー『承知致したぞよエヘン』 とモンキーは茴香の花の得も言はれぬ薫に包まれ乍ら、酒の滝壺の間近に忍び寄り、少時あつてモンキーは息をはづませ帰り来り、震ひ声になりて、 モンキー『キ……キ……清公さま、タ……タ……大変で御座います。モウ帰りませう。斯んな所を宣伝したつて、あちらに一軒、こちらに二軒と、バラバラに家が建つて居る……モウ斯んな所で労して効少き活動をするよりも、マ一遍ヒルの港へ引返し、少しく人家稠密な地点へ行かうぢやありませぬか』 清公『そんな話はどうでもよい。お前の探検して来た次第を逐一注進せぬかい』 モンキー『イヤ……モウ、思ひ出してもゾツとする。どうぞそればつかりは御量見下さい』 チヤンキー『何だか周章たモンキーの様子、日頃の臆病が突発したのだな。何時も口癖の様に仮令天地は覆るとも、誠の力は世を救ふ……と云つて居つたぢやないか。一体何んな事があつたのか。斥候が報告をせないと云ふ事があるものか。大蛇に狙はれた蛙の様に小さくなつて、何の態ぢや』 モンキー『ヤイヤイ、大蛇の事はモウ言うて呉れな。俺は体が縮み上る様だ』 清公『ハヽア、噂に聞いたクシの滝の、酒呑大蛇を見て来よつたな。ヨシ、其奴ア面白い。一つ生命懸けの活動をして、三五教に言向け和すか。さもなくば生け捕にして、地恩城へ持つて帰るか。兎も角それを聞けば、何だか胴がすわつた様な心持がするワイ』 チヤンキー、モンキーは蒼白な顔して、腰をワナワナ慄はせ乍ら、 両人『ワ…ワ…ワ…私はド…ド…どうやら胴が据り……ませぬワイ。如何しませう』 清公『貴様の腰は何だ。胴体無しの凧、いかにも卑怯未練な腰抜野郎だな。奴腰抜奴、モウ貴様は免除してやるから、勝手にヒルの港へ逃げ帰つたがよからうぞ』 チヤン、モン二人は、 チャンキー、モンキー『それは有難う御座います。併し送つて頂かぬと、途に又あんな奴がやつて来たら如何する事も出来ませぬワイ』 清公『チヤンキー、貴様は話を聞いた丈で震うてるぢやないか。モンキーの恐怖心に駆られた精神作用で、そんな幻覚を起したのだらう。貴様此処に待つて居れ。動いちや可けないぞ。俺が実地探検をやつて来るから……』 両人『ハイどうぞ、御無事に帰つて下さい。動けと仰有つても動けませぬワ。斯う足部に菎蒻の幽霊が憑依しては、如何ともする事は出来ぬ』 清公『アーア勇将の下に勇卒なし。俺もヤツパリ因縁が悪いと見える。斯んな奴を連れて来なかつた方が、何程よかつたか知れやしない。まさかの時に骨を拾うてやる面倒も要らず、エーエ良い穀潰しだな』 と二人を残し、木の茂みを分けて近寄つて見れば、数十人の真黒けの男、滝壺の前に堵列し一生懸命に何事か祈つて居る。白衣を着けた神主らしい男三人、大麻を前後左右に頻りに振廻し、片言混りの宣伝歌を歌ひ土人は其声に従れて、汗をタラタラ流し乍ら合唱して居る。よくよく見れば、周囲一丈も有らむと思はるる大蛇、赤い蛇腹をダンダラ幕の様に見せた儘、二三間許り鎌首を立て、頻りに毒気を吹いて居る所であつた。 昔は此滝に自然の清酒湧き出で、山の竜神時々来つて是れを呑みつつあつたが、日の出神が初めて此島に渡られし時より、次第々々に酒の湧出量を減じ、遂には一滴も出なくなつて了つた。傍の滝は淙々として昔に変らず流れ落ちて居る。此水上に棲息せる大蛇は、酒を呑まむと来て見れば、一滴もなきに業を煮やし、夜な夜な人間の子を呑み喰ふ事となつた。附近の郷人は此害を防がむ為に、飯依彦神の末裔たる飯依別に神宣を請はしめた。此時、大蛇の霊、憑依して云ふ…… 大蛇の霊『汝等、愛児の生命を取らるるを悲しと思はば、所在果物を以て酒を醸り、彼の滝壺に満して我に献ぜよ。さすれば汝等が愛児を呑む事を止めむ』 と云つた。それより郷人は数多の果物を集め酒を造り、此山坂を登り来つて、此滝壺に酒を満たす事を仕事の如くにして居た。大蛇は月に一回づつ現はれ来り、滝壺の酒を一滴も残らず呑み干す事が例となつて居た。 一年に一回位ならば如何なつと仕様もあるが、数十石を満す此滝壺に、毎月果物の酒を充さねばならぬと云ふ事は、余り多からぬ郷人に取つては、此上なき大苦痛であつた。一ケ月にても之を怠りし時は、大蛇忽ち来りて郷の児を呑み喰ひ、足らざる時は若き妙齢の女を片ツ端から呑んで了ふ。此惨状を如何にもして逃れむと郷人諜し合せ酒に茴香の粉末を混じ、香よき酒となし、此滝壺に充し置き、大蛇の来り呑むを、木蔭に潜んで息をこらして待つて居た。 大蛇は二三日前より此処に現はれ、数十石の酒を悠々として呑み干し、最早半分許り三日間に呑み終り、毒が廻つて悶え苦みつつあつた。そこへ飯依別、久木別、久々別の神司は、数多の郷人と共に、大蛇を中に四方を取囲み、一時も早く毒が大蛇の全身に廻り、亡びます様と祈願をこめつつあつたのである。大蛇は一丈許りの大口をパツと開いて、首をシヤクリ乍ら死物狂になつて、郷人を目蒐けて噛みつかむとする。飯依別外二人は、其度毎に大蛇の比礼と称する、大麻を打振り打振り大蛇を悩ませて居た。 されど巨大なる蛇体に茴香の毒位にては、人間が悪酔した時の様なもので、生命に関はる丈の効果はない。そこで酔が醒めたる上は、此大蛇再び来りて如何なる復讐をなすかも知れずと、心も心ならず、数多の郷人は寄つて集つて、大蛇退治の祈願を凝らしつつあつたのである。斬れども突けども鱗堅くして鋼鉄の如く、到底人間としては如何ともする事が出来なかつた。此村の土人にしてタリヤと云ふ力強の男、大鎌を携へ大蛇にワザと呑まれ、腹中にて鎌を以て臓腑を斬り破り、大蛇を殪さむと試み、二三日以前にワザと呑まれて了つたのだが、今に其男は如何なつたか、唯大蛇は少しく目の色を変へて苦しげに狂ふ計りである。されどさう急に死にさうにもなし、人間が酒の酔に少々酩酊して首を振つてる位な態度とよりか見えないので、飯依別始め一同の心配は容易でなかつた。唯此上は神の力に依りて大蛇を退治し貰はむと祈るより外に道がなかつたのである。 清公は木蔭に潜み、稍胸を躍らせ乍ら此態を熟視して居た。何時の間にか身体の各部に痳痺を感じ、一寸も自由の利かぬ様になつて居る事に気が付いた。大蛇は今度はノソリノソリと人垣を破つて広く這ひ出し、尾を頻りに振つて、四辺の樹木をしばき倒し暴れ狂ふ。郷人は尾の先に叩かれて死する者刻々に殖えて来る。大蛇は益々暴れ狂ふ。茴香の毒が全身に廻つたのと、蛇体に最も有毒なる鉄製鎌の悩みとに依つて、流石の大蛇も死物狂ひになり、苦しみ出したのである。清公は其尾に振られて二三丁許り中空に捲上げられ、チヤンキー、モンキーの腰を抜かして待つて居る岩石の傍にドサリと降つて来た。愈此処に三人の躄が揃つた訳だ。嗚呼、大蛇の身体を始め此三人の運命は如何なるであらうか。 (大正一一・七・八旧閏五・一四松村真澄録) |
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62 (1868) |
霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 06 三腰岩 | 第六章三腰岩〔七五二〕 大蛇の尻尾に跳ね飛ばされた清公は、広言を吐いたチヤンキー、モンキーの二人の目の前に腰を抜かし、醜態にも顔を顰め、大腿骨を痛め、苦虫を噛んだやうな、六ケしい顔をして気張つて居る可笑しさ。腰の立たぬ三人は、口ばかりは相変らず達者である。 チヤンキー『モーシモーシ清公さまお前は余つ程偉い奴 竜宮嶋の地恩郷左守神まで登りつめ 雪隠の虫の高上り漸う大地へ這ひ上り カンピンタンになつた上蠅に孵化して王さまの 頭の上まで登らうと企んだ事も水の泡 小便垂れて糞垂れて宇豆姫さまに撥かれて ドン底迄も顛落しいよいよ此処に改心の 実を示さうと我々を言葉巧にちよろまかし 相も変らぬ悪い事続けるつもりでスタスタと タカの港までやつて来て誰の船かは知らねども 屋根無し船を何々し吾物顔に悠々と 浪を渡つて夜のうち人目を忍んでヒル港 改心したとは何の事大事の大事の他人の船 代価も遣らずにぼつたくり三五教を此郷に 開かうとしたのが運の尽俺まで矢張盗人の そのお仲間に引き込んで大将顔を提げ歩き クシの雄滝の手前まで口と心のそぐはない 宣伝歌をば歌ひつつ同じ教の道の子の 我々二人を頤の先チヤンキーモンキーと口の先 汚い言葉で扱き使ひ主人面してやつて来た その天罰は目のあたり大蛇の尻尾に撥ねられて 左守神になつたやうに一旦高く舞ひ上り スツテンドウと土の上忽ち変る地獄道 腰弱男が腰抜かしお尻の骨を打ち砕き 吠面かわくは何の事お尻の仕末のつかぬ人 そんなお方と知らずして従いて来たのが我々の 不覚と悔んで見たとこが六日の菖蒲十日菊 改慢心の清公[※初版・愛世版では「虎公」になっているが、校定版・八幡版では「清公」に直している。「虎公」という人物はここには登場せず、文脈上「清公」が妥当である]の猫の眼球のお招伴 こんな約らぬ事はないチヤンキーモンキー騒いでも お腰が立たねば仕方ない私等二人をこんな目に 遇はして置いて清公さま何うする積りで御座るのか 余りと云へばあんまりぢやお前の腰は何うなろが お尻の骨は砕けやうが私は些とも構やせぬ お傍杖をば喰はされた私等二人は此儘に 此処で死んだら化けて出てお前の影身に附添うて 生首かかねば置かぬぞやあゝ惟神々々 目玉飛び出るやうな目に私は遇はされ耐らない 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも清公の奴は死ぬるとも 私にとつては大蛇ない早く改心した上で 我等二人が壮健でお前を見捨てて帰るやうに どうぞ祈つて下さんせ此世を造りし神直日 心も広き大直日唯何事も人の世は 直日に見直せ聞き直せ身の過ちは宣り直せ さはさりながら我々は清公の奴にこんな目に 遇はされ何うして此儘に恨み返さでおかれやうか 尻尾の毛迄一本も無い処迄抜かれたる チヤンキー、モンキーは云ふも更肝腎要の清公は 肝を抜かれて腰を抜き悲惨極まる為体 お互一様に身の上は気の毒なりける次第なり』 と自暴自棄になりて、出放題を喋り立てて居る。清公も此滑稽な揶揄半分の歌に痛さを忘れてクツクツ笑ひ出す。 清公『セイロン島の土籠黒ン坊人種の成れの果 チヤンキーモンキー両人が小糸の姫に頼まれて 可愛い妻子を後に置きお金の欲に目が眩み 義理も人情も打ち忘れ海洋万里の浪の上 汗もたらたら漕ぎ廻る時しもあれや天狗風 魔島に船は打ちあたり木端微塵となつた時 肝腎要のお客さま小糸の姫を顧みず 船は無けれど黒い尻帆をかけ登る岩の上 三年三月も雨風や天日に曝され泣き面を 乾かし蟹や貝を採り食つて漸々惜しからぬ 命をながらへ時を待つ高姫さまや蜈蚣姫の 船が来たのを幸ひに玉を匿した匿さぬと やつさもつさの押問答囀る折しもテンカオの 島は忽ち海底に沈んだお蔭で魔の神[※初版・愛世版では「魔の神」だが、校定版・八幡版では「魔の島」に直している。]は 浪に呑まれて大勢が蚊の啼くやうな情けない 声を絞つて居たところ玉治別の一行に 安い命を助けられニユージランドの玉森で エツパツパーを喰はされて泣く泣く竜宮の一つ島 タカの港に上陸し地恩の郷に登りつめ チヤンキーモンキーと呼び捨てに皆の奴等に馬鹿にされ 雪隠の中の掃除までやつて居たるを見た俺は 可愛さうだと慈悲心を起してタカの港より 黙つて船を拝借し鳥無き郷の蝙蝠に 出世をさせようと連れて来て働かさうと思つたら 卑怯未練の馬鹿者が大蛇の姿に腰抜かし 中にもチヤンキーの腰抜けは話を聞いて胴慄ひ 脛腰立たぬその態で俺に向つて屁理窟を 云ふとは些と両人の見当違ひぢやあるまいか 大馬鹿者の腰抜けが二人揃うた岩の上 愚図々々すると最前の大蛇の奴が飛んで来て 今度は深き谷底へ尻尾の先で振り落し 身を砕かれて冥途往き三途の川の鬼婆に 何ぢやかんぢやと虐められ末には血の池針の山 焦熱地獄に墜落し鬼に喰はれて仕舞ふぞよ あゝ惟神々々叶はぬからの神頼み 哀れなりける次第なりアハヽヽハツハ阿呆面 ウフヽヽフツフ呆つけ者イヒヽヽヒツヒ因果者 オホヽヽホツホ大馬鹿よエヘヽヽヘツヘエーやめて置かう』 と喋り終つた途端に、清公の腰はヒヨツコリと立つた。続いてチヤンキーの腰も亦立ち上つた。 チヤンキー『ヤア、余り清公がしようも無い事を云ふものだから、言霊の口罰が当つて、堅磐常磐に鎮座ましました石座を離れ、又徐々働かねばならぬやうになつて仕舞つた。……モンキー、貴様は幸福者だ。何処迄も泰然自若として、安楽に岩の上に暮らせる身分だ。我等両人はそろそろ是から活動に這入るのだ。何卒貴様、生神様になつて其処に胴を据ゑ、俺等両人の幸を守つて呉れ。南無モンキー大明神、叶はぬなら立ち上りませだ。アハヽヽヽ』 と二人は面白さうに足が立つた嬉しさに妙な手つきで踊つて居る。モンキーは業を煮やし、立つて見ようと焦慮れど藻掻けど、ビクともしない。たうとう自棄気味になつて下らぬ歌を喋り始めた。 モンキー『清公チヤンキーよつく聞け俺は誠の生神ぢや 岩に喰ひつき獅噛みつき胴は据わつて動かない ビクとも致さぬ大和魂貴様の腰は浮き調子 又々悪魔に導かれ大蛇の尻尾に撥かれて 再び天上するがよい俺は貴様の墜落を 空を仰いで待つて居る雪隠虫の高上がり 名は清公と申せども心の色は泥公が チヤンキーチヤンキーと偉さうに口では云へど何一つ チヤンキーチヤンキーと埒明かぬ困つた奴が唯一人 此世の中の穀潰し娑婆に居つても用はない 俺は何にも岩の神万劫末代動き無き 下津岩根に腰据ゑて貴様等二人の行末を アーイーウーエーオホヽヽヽ嘲笑ひつつ見て暮らす 四つ足身魂に汚された碌な事せぬ二人連れ 一日も速く此場をば離れて往けよお前達 愚図々々してると其辺中空気の色迄悪くする あゝ惟神々々目玉の飛び出るやうな目に 遇はせて下さい三五の皇大神の御前に 二人の為に祈りますエヘヽヽヘツヘ得体の知れぬ オホヽヽホツホ大馬鹿者奴カヽヽヽカツカ空威張り キヽヽヽキツキ気に喰はぬクヽヽヽクツク糞奴 ケヽヽヽケツケ怪しからぬコヽヽヽコツコ困り者 サヽヽヽサツサ逆とんぼシヽヽヽシツシ強太い奴 スヽヽヽスツス好ん平野郎セヽヽヽセツセ雪隠虫 ソヽヽヽソツソそぐり立てたタヽヽヽタツタ高上り チヽヽヽチツチちんちくりんツヽヽヽツツツ聾者盲人 テヽヽヽテツテ天狗面トヽヽヽトツト呆け野郎 ナヽヽヽナツナ泣きツ面ニヽヽヽニツニ憎まれ子 憎まれにくまれ世に覇張るヌヽヽヽヌツヌヌーボ式 ネヽヽヽネツネ鼠の子ノヽヽヽノツノ野天狗野狐豆狸 ハヽヽヽヽツハ薄情者ヒヽヽヽヒツヒ非常識 フヽヽヽフツフ戯けた事をしやがつて ヘヽヽヽヘツヘ屁理窟ばかり叩きよる ホヽヽヽヽツホほうけ野郎マヽヽヽマツマ曲津御霊の張本よ ミヽヽヽミツミ蚯蚓土竜の土潜り ムヽヽヽムツム蜈蚣姫臭い婆さま腰巾着 メヽヽヽメツメ盲目聾者の腰抜け野郎 モヽヽヽモツモ耄碌魂の二人連れ ヤヽヽヽヤツヤ奴野郎の イヽヽヽイツイ意地くね悪い ユヽヽヽユツユ幽霊腰 エヽヽヽエツエえぐたらしい ヨヽヽヽヨツヨ妖魅面提げて ワヽヽヽワツワ悪い事毎日毎夜考へよつて ヰヽヽヽヰツヰ一寸先は暗の夜だ ウヽヽヽウツウ迂路々々と其辺あたりを魔胡つき出だし ヱヽヽヽヱツヱ偉さうに ヲヽヽヽヲツヲ大失策を致したる大馬鹿者の臆病者………… 大腰抜けの狼野郎、お目出度い変り者だ。サア何処へなりと勝手に往け。その代りに盗んで来た船を元の所へ返して来い。さうで無ければ三五教の宣伝に歩いても亦此通りだ。脛腰が立たぬやうに致してやるぞよ。ウンウンウン』 と体を揺り、そろそろ発動し初め、岩の上で餅を搗くやうに体を上げたり下げたり、十数回繰り返し、何時の間にやら抜けた腰はちやんと元の通りに納まり、そろそろ歩き出した。 清公『ヤア、モンキー、貴様、何時の間に腰が立つたか』 モンキー『俺は初めから、決して貴様等のやうに腰は抜かしては居ないぞ。余り偉さうに家来扱ひに致すから、一寸芝居をしてやつたのだ。ウフヽヽヽ』 と肩を揺る。 チヤンキー『アレアレ、追々騒がしく聞えて来る老若男女の叫び声、こりや斯うしては居られない。いづれ三人の中一人は船を返しに帰らねばならないが、先づ神様に御猶予を願つて、大蛇の征服を済す事にしようかい』 清公『それもさうだ。余り大蛇に気を取られて祝詞奏上を忘れて居た。其罰で腰が立たなくなつたのだ。……アヽ神様、何卒お赦し下さいませ』 と三人は一所に集まり来り、高らかに天津祝詞を奏上し、天の数歌及び宣伝歌を歌ひクシの滝壺を目蒐けて進みゆく。 (大正一一・七・八旧閏五・一四加藤明子録) |
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霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 15 改心の実 | 第一五章改心の実〔七六一〕 黄竜姫、梅子姫、友彦、テールス姫、蜈蚣姫の五人は共に、地恩城を後に数百里、山路を越えて玉野原の諏訪の湖の竜宮城に進むこととなつた。後には左守、スマートボール夫婦を初め右守鶴公、貫州、武公、マール、ミユーズの幹部連をして留守師団長とし、草の蓑、竹の小笠の軽き扮装、タロの木の枝をつきながら、岩石起伏せる羊腸の小径を上りつ下りつ、谷を飛び越え谷間を伝ひ漸くにして、ジヤンナの友彦が割拠せし郷に着いた。 鬼の様な荒男、赤銅の様な顔に青い黥を、顔一面に彩りし者を先頭に、老若男女が六ケ敷い顔して黄竜姫の一行を『ウワーウワー』と鬨の声を挙げ乍ら歓迎した。昼尚暗き森林に包まれたる此郷は、一見鬼の様な人種計りであるが、至つて質朴で且つ正直で信仰心に富んで居た。曲つた鼻の赤い友彦を、天来の救世主と仰いで、尊敬した程の郷人は、天女の如き黄竜姫、梅子姫の玉を欺く清き姿を眺めて、天の河原よりネルソン山に鳥船に乗じ天降り給ひしを、ジヤンナの郷の救世主友彦夫婦が奉迎して帰りしものと固く信じ、一斉に砂糖屋の十能見た様な、大きな黒い手を拡げ、 土人『ウツポツポウツポツポ、オーレンス、サーチライス、ターレンス、チーターチーター』 と叫び乍ら歓迎の意を表した。此意味は、『神様か、天の御使か、但は吾等を救ふ光明の神か、実に立派な大救世主が、此郷に御降り遊ばした。吾々は最早絶対に悩みに遇ふこともなく、永遠無窮に天国浄土の楽みを味はうことが出来るであらう。木の実は豊に実り、鼓腹撃攘の恵みに浴することは火を睹るよりも明瞭だ。有難い、勿体ない、貴い、嬉しい。吾々郷人は力の限り心の極みを、此生神様に捧げませう』と言ふ事である。……ジヤンナの郷の救世主と仰がれたる友彦は、郷人に向ひ、 友彦『ターリスト、テールターイン、ハールエース、オーレンス、サーチライス、カーテル、ライド』 と叫ぶ。此声に一同は大地に平伏し嬉し涙を流して歓喜した。友彦は又もや、 友彦『ハールハール』 と手を挙げて叫ぶや、大勢の土人は一行を手車に乗せ、三五の神を祭りし稍広き館の中に、御輿を舁ぐ様な塩梅式で何事か分らぬ事を喋り乍ら奥深く送り行く。 黄竜姫一行は友彦の館の奥深く招かれ、色々珍らしき果物を饗応され、且つバナヽの味に舌鼓打ち乍ら、一二日此処に逗留し、郷人に対して黄竜姫、梅子姫よりバプテスマを施し、宣伝歌を教へた上、数十人の郷人に送られ、一行五人は漸くにして玉野ケ原の広場に無事安着することとなつた。 途々木の実を喰ひ、谷水を飲み、芭蕉の葉を褥となし乍ら、猛獣、大蛇の群に言霊を授け帰順悦服させつつ愈此処に金銀の砂輝く広野ケ原に辿りつく。一行は諏訪の湖の畔に建てたる小さき祠の前に端坐し、天津祝詞を奏上し、傍の椰子の樹の森に一夜を明かすこととなりぬ。 エスタン山の後方を覗いて現はれたる大太陽は、諏訪の湖水の魚鱗の波に映じ、金銀の蓆を敷き詰めたる如く、其麗しさ譬ふるにものなく、一行五人は湖水に身体を清め、七日七夜此処に禊を修し神恩を感謝せり。 早や夕陽も傾いて得も言はれぬ麗しき鳥の声、塒を求めて各密林に帰り行く。純白の翼の大鳥は暗を縫うて低く黄昏時より現はれ来り、湖面を縦横無尽に翺翔する。其数幾千万羽とも数へ難く、月無き夜半も明るき許りの光景なり。是は信天翁の祖先でアンボリーと言ふ大鳥なりける。 一行五人は椰子の樹下に身を潜め、天津祝詞を奏上し夜の明くるを待つ。夜明けに間近くなりたる時しも、頭上にバタバタと鳥の羽ばたき激しく聞え来たる。見れば両翼の長さ三丈許りのアンボリー、椰子の樹上にとまつて、一同の頭を被ふて居る、それが夜明けに間近くなつたので一時に立ち上つた音である。一同は鳥の飛び行く方面を目も放たず打看守れば、ほんのりと薄紅くうす白く大空を染めながら、際限もなき大原野を西北の空を指して、一羽も残らず飛去れり。 ○ ジヤンナの郷に三五の神を祀りし友彦が 館に一行夜を明かし一日二夜を逗留し タイヤ、ブースを初めとし数多の土人に皇神の 誠の道を説き諭し鎮魂やバプテスマ 一人も残らず施して昼なほ暗き森林の 小径を伝ひ郷人に賑々しくも送られて 漸くセムの谷間に辿り来れる折柄に 黄竜姫は皇神の珍の命の霊借りて 送り来りし郷人に厚く言葉をかけながら 東と西に別れつつ露の枕も数多く 重ねて此処に玉野原金銀輝く途の上 勇み進んで諏訪の湖の辺にやうやう安着し 祠の前に端坐して一行五人が安穏に 訪ね来りし神恩を感謝し終り清鮮の 湖水に身をば浸しつつ七日七夜の魂洗ひ 椰子樹の蔭に身を潜め夜明けを待てる折柄に 樹上に聞ゆる羽ばたきの音に驚き眺むれば 雪を欺く白翼のパツと開いた大鳥の 空を封じて数多く西北指して飛んで行く 一行五人は空中を仰ぎ見つむる折もあれ 黄金の翼に乗せられて此方に向つて飛び来る 四五の神人悠々と湖水を目蒐けて降り来る 其光景の崇高さに五人は思はず手を合せ 祝詞を唱へつ眺め居る黄金の鳥に乗せられし 男女五人の神人は波の上をばスレスレに 北に向つて進み行くこれぞ玉治別宣使 初稚姫や玉能姫久助お民の五人連 神の御言を畏みて貴の教を隈もなく 伝へ導く神の業𪫧怜に委曲に宣り了せ 玉依姫の御使の黄金色の霊鳥に 救はれ御空を翔りつつ帰り来れる生神の 通力得たる姿なり嗚呼惟神々々 神の教の尊さよ。 翼を一文字に拡げた金色の霊鳥は、神の使の八咫烏である。玉治別一行を乗せた五羽の八咫烏は、日光に照り輝きて中空にキラリキラリと光を投げながら、地上までも金光を反射させ、諏訪の湖辺に飛び来り、紺碧の波の上を辷つて際限もなき湖水を、北へ北へと進み行く。 梅子姫、黄竜姫は飛び立つばかり此姿を見て驚き且つ喜べり。一行の胸の裡は譬へがたなき崇高にして且壮快の思ひが漂うたからである。 友彦『黄竜姫様、梅子姫様、地恩城に於て園遊会の時、天空高く現はれた蜃気楼の光景、紺碧の湖水現はれ、四方を包む青山の崇高なる姿は、今此湖面を見ると寸分の差も無い様ですな、大方清公、チヤンキー、モンキー等の、女神に導かれ結構な御用を仰せつけられて居た所も、此聖地で御座いませうかなア』 黄竜姫『妾もそれに間違ひないやうな感じが致します。昔から人跡絶えしオセアニアの秘密郷、斯様な立派な湖があらうとは、夢にも知りませなんだ。何とかして神様の御力を借り、此湖水を渡つて見たいものですなア』 梅子姫『蜃気楼で拝見した時には純白な白帆が沢山に航行して居ましたが、船は一隻も見えないぢやありませぬか。大方アンボリーの飛交ふ影が船のやうに見えたのでせうかな』 友彦『サアさうかも知れませぬ。……黄竜姫様、船が無ければ渡る訳には行きませぬ。玉治別や初稚姫様の様に、黄金の鳥が迎ひに来て下さらば実に結構だが、船も無ければ鳥船もなく未だ吾々は御神慮に叶ふ所迄身魂が磨けて居ないのでせう』 黄竜姫『神様は一点の曇りなき水晶魂でなければ、肝腎の神業にはお使ひ下さいませぬ。折角此浜辺まで参つたものの、斯の如く三方は壁を立てた様な岩山、何程足の達者な者でも鳥類でない以上は越す事は出来ますまい。然しながら此処まで無事に着いたのも全く神様のお恵み、此処でもう一層徹底的の心の修業を励みませう。地恩城の女王だとか、ジヤンナの郷の救世主などと言はれて得意になつて居るのが、これが第一神様の御心に叶はないのでせう。同じ天地の恵に生れた人の子、善悪美醜の区別はあつても神様の愛には些つとも依怙贔屓はありますまい。こりやもう一つ身魂を立て直さなくては駄目でせうよ。勿体なくも神素盞嗚大神様の御娘御、梅子姫様を蔭の御守護とし、賤しき妾の身を以て地恩城の女王と呼ばれ、神司と言はれて、勿体なくも直々の御血筋の上位に立つて居たのは、恰度頭が下になり、足が上になつて居るやうな、矛盾撞着の遣り方であつた。……アヽ梅子姫様今までの御無礼を何卒お赦し下さいませ。決して貴女を押込め私が上に立つて覇張らうなどと云ふやうな、賤しい心はチツトも持つて居ませなんだ。然し乍ら名誉心に駆られ、本末自他公私の別を、不知不識の間に犯して居りました。貴女と吾々は天地霄壌の懸隔がございます。尊卑の別も弁へず甚だもつて不都合の至り、今改めてお詫を仕ります。さうして地恩城の女王たる地位を神様にお返し申し、生れ赤子の平の信者となつて御神業に奉仕し、貴女様を女王とも教主とも仰いで、忠実にお仕へ致しますから、不知不識の御無礼御気障、何卒神直日大直日に見直し聞直し下さいますように、黄竜姫が真心よりお詫仕ります』 と涙を滝の如く両眼より滴らし、悔悟の念に堪へざるものの如く涕泣嗚咽終に其場に泣き伏した。梅子姫は儼然として、 梅子姫『黄竜姫どの、貴方は結構な御神徳を頂きました。妾は神素盞嗚大神の生みの子と生れ、木の花姫の生宮として今日迄、貴方のお傍に身を下し、神業を輔佐して参りました。貴方の御言葉を今日只今迄、実の所は待つて居たのでございます』 と微笑を浮かべて曰りつれば、友彦は又もや両眼に涙を浮かべ乍ら、 友彦『私は生れついての狡猾者、到る所に悪事を働き、まぐれ当りに鼻の赤きを取得にてジヤンナの郷に持て囃され、救世主と呼ばれ乍ら好い気になり、心にも無き尊敬を受け、天来の救世主と化け済まして居た心の汚さ、イヤもう塵埃に等しき吾等の身魂、どうして肝腎要の御用にお使ひ下さいませう。……何卒々々梅子姫様、貴女様より大神様に重々の罪お赦し下さいます様お取成し願ひ上げ奉ります。又私は決して今後は、人様以上に結構な御用をさして頂かうとは夢にも思ひは致しませぬ。如何なる事にても構ひませぬから、どうぞ神様のお綱の切れぬ様に、大神様にお詫のお取次偏に希ひ上げ奉ります』 梅子姫『貴方の心の園の蓮花、転迷開悟の音を立て開き初めました。アヽいい所で改心して下さいました。これで梅子姫も父大神より命ぜられたる御用の一端が出来たと申すもの、私の方より貴方に対して感謝致します』 と嬉し涙を両眼に浮かべ、述べたつれば友彦は嬉しさ身に余り、大地にひれ伏し顔も得上げず、歓喜と悔悟の涙に咽び返つて居る。 蜈蚣姫は梅子姫の前に手をつかへて、 蜈蚣姫『梅子姫様、今迄の御無礼何卒々々お許し下さいませ。私は貴女様の御存じの通り悪逆無道の限りを尽した、鬼婆の様な悪人で御座いました。地恩城に参りまして娘の出世を見るにつけ、不知不識に高慢心が起り、且つ愛着の念に駆られ、肝腎の大神を第二に致し、且つ貴女様に対し、平素軽侮の目を以て向つて居りました心盲で御座います。地恩城に於て友彦が為め園遊会を開いた折、貴女様は紫の蓮華岩の上に立たせ給ひ、私の素性を歌つて下さつた時の私は、心の中にて非常な不満を抱きました。今思へばあの時のお言葉の中には、大神様の大慈大悲の救ひの御心……なぜ其時に私は気が附かなかつたでございませう。森羅万象に対し一切色盲の私、不調法ばかり致しまして神様に対し、又貴き貴女様に対してお詫申上げる言葉もございませぬ。どうぞ母子の者も憫み下さいまして、今迄大神様に敵対申した深い罪を、お詫下さいますようにお願ひ申します』 とワツとばかりに声をあげ泣き伏するにぞ、梅子姫は莞爾として、 梅子姫『アヽ蜈蚣姫様、貴女は今日只今初めて誠の神柱になられました、結構でございます。どうぞ此後とても妾と共に三五の大神様の御用に誠心誠意御尽力あらむことを希望致します。如何なる罪穢れ過も梅子姫が代りて千座の置き戸を負ひますれば御安心下さいませ』 蜈蚣姫は『有難うございます』と言うたきり、大地にかぶりつき有難涙に咽び入る。テールス姫は又もや梅子姫の前に両手をつき、 テールス姫『何分罪多き私、不知不識の御無礼お気障が何程ございませうとも、何卒お赦し下さる様、神界へお願ひ下さいませ』 と合掌して頼み入る。 梅子姫『貴女は此中でも最も罪軽き、身魂の清らかな神の子です。今日神界に対し差したる不調法もございませぬ。今後も今迄通り過ち無き様、神の御用に御奉仕あらむことを希望致します』 と答ふれば、テールス姫も梅子姫が慈愛の言葉に、有難涙をしぼるのみであつた。 梅子姫は湖面に向ひ合掌しながら何事か暗祈黙祷する事暫し、忽ち何処ともなく微妙の音楽聞え、西北の空を封じて、此方に向つて一瀉千里の勢にて飛び来る以前のアンボリー、幾百ともなく、翼を並べ、湖上目蒐けて飛び帰る其麗しさ、絵にも写せぬ眺めなり。 (大正一一・七・一一旧閏五・一七谷村真友録) |
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霊界物語 | 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 | 14 大変歌 | 第一四章大変歌〔七七九〕 折から吹き来る夜嵐に湖水の面は波高く 島の老木の根本より吹きも倒さむ勢に 神さび建てる神社風にゆられてギクギクと 怪しき音を立て初めぬこれ幸ひと亀彦は 社の扉を打開きそろそろ階段下り来て 玉に魂をばぬかれたる三つ巴の玉奴 身辺近く進み寄り白衣の着物を頭より フワリと被り吹く風に長き袖をばなぶらせつ 声も女神の淑かに宣り出せるぞ面白き 天教山に現はれしわれは木花姫神 その御心を汲みとりて汝等三人の迷人に 玉の在処を説き示すあゝ惟神々々 御霊幸はへましまして三五教やバラモンの どちらか知らぬが宣伝使三人ここに現はれて 憑依もせない天狗の宣示を誠と思ひつめ 長途の旅をエチエチと暗かき分けて波の上 三つの御霊の鎮まれる竹生の島に漕ぎつけて 隠してもない神宝を下らぬ意地に絡まれて 探しに来る愚さよ鼻高姫や村肝の 心の暗の黒姫や頭の光る福禄寿面 揃ひも揃うた大馬鹿の社殿の下の玉探し たとへ百丈掘つたとて金輪奈落その玉は 出て来る気づかひあるまいぞ日の出神や竜宮の 乙姫さまの生宮と威張つて居たが何の態 女神の癖に荒い事吐くと思ふか知らねども 決して女神が云ふでない三人の心に憑りたる 副守の鬼が吐くのだ要らぬ苦労をするよりも 吾身の行ひ省みて玉の詮索思ひ切り 一日も早く大神の誠の道を世の中に 懺悔さらして仕へ行け先に来たのは高姫ぢや 次に出て来た黒姫が言依別の遣はせし 玉掘神と誤解して吾劣らじと暗雲で 指の先まですりむきつオチヨボのやうに砂を掘り いよいよ味噌を摺鉢の糠喜びの砂煙 何時迄お前が掘つたとて隠してないもな出ては来ぬ 高山彦のハズバンド婆さまのお尻をつけ狙ひ 六十面を下げながらようも天狗に欺された あゝ惟神々々訳の解らぬ奴ばかり こんなお方が三五の教の幹部に坐るなら それこそ勿ち聖場は地異天変の大騒動 亀彦ドツコイ亀の背に乗つて波間に浮び来る 木花姫の御心を承はりて現れた 玉の在処を守り居るわしは誠の女神ぞや 三つの玉は神界の御経綸なれば高姫が 何程日の出神ぢやとて現はれ来る筈はない そんな謀反は諦めて一時も早く三五の 綾の聖地に立帰り神に御詫をするがよい 九月八日の秋の空黄金花咲く竜宮の 一つ島なる諏訪の湖玉依姫の御宝 天火水地と結びたる麻邇の宝珠は由良港 秋山彦の庭先に鳩の如くに下りまし 言依別を始めとし梅子の姫や五十子姫 お前の嫌ひな玉能姫初稚姫も諸共に 神輿に乗せて悠々と由良の川瀬を遡り 嬉しき便りを菊の月今日は九日四尾の 山の麓の八尋殿たしかに納まる日なるぞや お前もグヅグヅして居ると後の祭の十日菊 恥の上塗りせにやならぬ生田の森の館から 直様聖地に帰りなば前代未聞の盛典に 首尾よく列して五色の麻邇の宝珠を拝観し 尊き神業の末端に奉仕出来たであらうのに 執着心に煽られて憑依もせない天狗に だまされぬいて遥々と探ねて来る盲神 気の毒なりける次第なりあゝ惟神々々 それが叶はぬと思ふなら一時も早く立帰れ 玉守姫が親切で一寸誠を明し置く そろそろ風も強なつた嵐に吹かれて何時迄も ここに居つては堪らないウントコドツコイ高姫さま ヤツトコドツコイ黒姫さま高山彦の福禄寿さま そんならお暇申しますドツコイシヨのドツコイシヨ ウントコドツコイドツコイシヨヤツトコセーのヨーイヤナ アレはのせーコレはのせーヤツトコドツコイ玉探せ。 と歌ひ了り、暗に紛れてクツクツ噴出しながら英子姫の館を指して帰り行く。 ○ ここに三人の玉探し汗をタラタラ流しつつ 無言のままで一心に側目もふらず土掘りの 真最中に亀彦が俄に女神の作り声 高姫、黒姫、高山彦の福禄寿頭の三人と 図星を指されて高姫はハツと驚き立上り よくよく見れば黒姫や高山彦の二人連れ アヽ残念や口惜しや国依別の極道奴 日の出神や高姫や竜宮さまの生宮を マンマとよくも騙したな馬鹿にするのも程がある 十里二十里三十里痛い足をば引ずつて いよいよ今度は如意宝珠その外二つの宝をも うまく手に入れ年来の願望成就と思ひきや 又だまされて玉探しわしより若い奴輩に 馬鹿にしられて口惜しい黒姫さまもこれからは チツとしつかりするがよい高山彦も余りぢや 朝から晩までニヤニヤと黒姫さまの面計り 眺めて居るからこんな事流石に尊い竜宮の 乙姫さまも腹を立て遠くの昔に魂ぬけの あとは盲の守護神今までお前を生宮と 思うて居たのが情無い思へば思へば腹が立つ それぢやに依つて初から神の誠の御道は 夫婦あつては勤まらぬわしがあれ程言うたのに 馬耳東風と聞き流し肝腎要の竜宮の 乙姫さまにぬけられてその面付は何の事 暗夜でお面は分らねど定めて夜食に外れたる 梟のやうな面付でアフンとしてるに違ひない 私も愛想がつきました何程日の出神ぢやとて こんな分らぬ守護神憑いた御身を伴にして どうして神業が勤まらうチツとは改心なされませ 性懲もなく又しても油揚鳶にさらはれた 高山彦の親爺さま六日の菖蒲十日菊 きくさへ胸が悪くなる再度山の大天狗 身魂の曇つた国公にサツと憑つて世迷言 吐いた言葉を真にうけてここ迄来たのは情無や あゝ惟神々々神の御都合と諦めて これから大きな面をして正々堂々陣を張り 言依別のハイカラに恨みを晴らす逆理屈 御二人しつかりしなされよ神の教を次にして 親爺の事や女房の身の上計り気にかけて 現を吐すと此通りこれこそ神の御戒め これで改心なさつたか思へば思へば馬鹿らしい お前のやうな没分暁漢黄金の玉を盗まれて 在処探ねてはるばると竜宮島に二三年 留まりながら何の態お前の帰つたその後で 初稚姫や玉能姫玉治別や友彦に 又もや麻邇の如意宝珠尊い御用を占領され 天地の神の御前に何うして顔が立ちますか 胸に手を当てつくづくと考へなさるがよからうぞ 何程泣いて悔んでももう斯うなれば是非は無い サアサア皆さま帰りませう一度に開く梅の花 開いて散りて実を結ぶ平助お楢の両人が 腹から生れたお節等に馬鹿にしられて堪らうか 高姫ぢやとて骨があるお前のやうなグニヤグニヤの 蒟蒻腰では無い程に見違ひなさるな高姫が 岩より堅い大和魂日の出神の生宮に お前のやうな盲神何うしてついて来たであろ うまい果実にや虫がつく賢い人には魔が来る お前の忠告真に受けて今迄出て来た高姫も 余り偉そにや言はれねど大将は素より看板ぢや 側に付添ふ副柱こいつに力の無い時は 何程偉い生宮も策を施す余地がない 持つべきものは家来ぢやが持つて困るは馬鹿家来 こんな事なら初からお前を使ふぢや無かつたに 悔みて返らぬ今日の首尾諦めようより仕様が無い あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ。 と、流石の高姫も焼糞になつて、黒姫、高山彦に八当りの歌をうたひ、胸の焔を消さむとして居る。 ○ 星の明りに黒姫は高慢強き高姫の 歌を聞くより腹を立て暗をすかして眺むれば 前歯のぬけた膨れ面汗をブルブルかきながら 蟹の様なる泡を吹き眼を怒らして睨み居る 黒姫見るより腹を立てこちらも劣らぬムツと顔 声の色まで尖らして日の出神の生宮と 当てすつぽうな名をとなへ世界が見え透く見え透くと 何時も仰有るその癖にたかの知れたる再度の 山に隠れた野天狗にうまく騙され泡を吹き 何程腹が立つたとて私に当るといふ事は お前さまそれはチト無理ぢや口に税金要らぬとて 業託言ふにも程がある私も女の端くれぢや 日の出神の生宮が高姫さまなら黒姫は 矢張竜宮の乙姫ぢや日の出神と引添うて 竜宮さまの御手伝これで無ければ神界の 経綸は成就せぬぢや無いかあなたは何時も言うただろ その言霊を夢の如ケロリと忘れて黒姫に 熱を吹くとは余りぢや私もチツトは腹が立つ 私丈なら何うなりと悔しい残念堪らうが 二世を契つたハズバンド高山さままで引出して 悪口言ふとは虫がよい神のお道を世の中に 伝へて歩く高姫の仰有る事とは受取れぬ 真の日の出神さまは余り偉い慢神に 愛想をつかして御帰りのあとに曲津が巣をくみて お前の御口を自由にしそんな悪口吐くのだろ 油断も隙も無い御道一寸慢神するや否 八岐の大蛇の醜魂にのり憑られて眼はくらみ 魂は捻けて此の通り国依別や秋彦の 身体に憑つた野天狗にチヨロマカされてはるばると 夜を日についで三十里琵琶の湖までやつて来て 寄辺渚の離れ島隠してもない玉探し お腹が立つのは尤もぢやさはさりながらお前さま 胸に手をあてトツクリと考へなさるが宜しかろ 真の日の出神ならば玉の在処は居ながらに 判然分らにやなるまいに海洋万里の島々を うろつき廻る玉探しそれから可笑しと思て居た 何うしても斯うしても腑に落ちぬ口先ばかり偉さうに 頬桁叩くやくざ神早く帰すがよいわいな これから心改めて三五教の神司 言依別の命令にハイハイハイと箱根山 痩馬追うて登る様に神妙に御用を聞きなされ 私はこれで三五の神の御道は止めまする 聖地へ帰つて人々に何うして面が合はされよう 鉄面皮なる黒姫も今度計りは何うしても 面向け致す術が無い変性男子の筆先に 慢神致すと面の皮引きめくられて家の外 歩けぬやうに成り果てて頭抱へて奥の間に 潜みて居らねばならないと御示しなさつてあるものを 日の出神の生宮を無性矢鱈に振り廻し せつぱつまつた今日の空思へば思へば御気の毒 私は同情いたしますこれから聖地へ立帰り 心の底から改めて今迄とつたる横柄な 態度をすつかり止めにして小猫のやうになりなされ 仁慈無限の神様の尊き試練に遇ひました あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ 叶はぬから帰りませう。 ○ 高山彦はムツとして薬鑵頭に湯気を立て ドス声頻りに張りあげて高姫さまよ黒姫よ 日の出神や竜宮の乙姫さまを楯にとり 一丈二尺の褌を締めた男を馬鹿にした 俺は元からお前等の言うとる事が怪しいと 思うて居たがまさかにもこんな馬鹿とは知らなんだ 男の顔に泥を塗り返しのつかぬ恥かかせ 日の出神もあるものか尻が呆れて屁も出でぬ お前の様な年寄を女房に持つのは厭なれど 尊い竜宮の乙姫が肉の宮ぢやと聞いた故 高姫さまの媒介で波斯の国から遥々と 天の鳥船空高く乗つて来たのは馬鹿らしい 白い頭に黒い汁コテコテ塗つて誤魔化して 枯木に花の咲きほこりこんな事だと知つたなら お前と添ふのぢや無かつたに日の出神も竜宮の 乙姫さまも此頃はねつから当にはならないぞ 執着心にそそられて国々島々かけめぐり 玉の在処を探し行く二人の婆の馬鹿加減 俺は愛想が尽きたぞよ国依別や秋彦の 若い男の憑霊に眉毛をよまれてこんな態 どうして聖地へ帰られうか女子供に到る迄 俺の顔見りや馬鹿にするかうなり行くも高姫や 黒姫二人の為す業ぞあゝ惟神々々 玉の詮議は今日限りすつぱり思ひ諦めて 誠心に立帰り三五教の神司 玉照彦や玉照姫の貴の命の神人が 御言畏みよく仕へ必ず自我を出すでない 高山彦が両人に真心こめて気を付ける あゝ惟神々々神のまします此島に 何時迄居つても仕様がない恥をばしのび面被り 兎も角聖地へ立帰り心の底から今迄の 誤解慢神悉く神の御前に御詫して 赤恥さらせばせめてもの罪滅しとなるであろ それが嫌なら高姫も女房の黒姫今日限り 三行半の離縁状すつぱり書いて渡さうか 今迄男を馬鹿にした天罰忽ち報い来て こんな憂目に遇うたのだ改心するのは結構だ 高天原の門開き慢心すると此通り 世間の人に顔向けのならない様な事が来る 今日からサツパり心をば洗ひ直して惟神 うぶの心になるがよいサアサア帰のうサア帰のう 吹き来る風は強くとも高波如何に猛ぶとも 仁慈無限の大神の大御守を力とし 杖と頼みて帰らうぞあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ。 (大正一一・七・一九旧閏五・二五外山豊二録) |
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霊界物語 | 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 | 16 三五玉 | 第一六章三五玉〔七八一〕 金剛不壊の如意宝珠黄金の玉や紫の 三つの御玉の御神業あらまし此処に述べておく 天津御神の永久に現幽神の三界を 永遠無窮に治めます天壤無窮の神宝は 金剛不壊の宝珠なり経済学の根本を 岩より固くつきかため地上の世界を円満に 融通按配治めゆく金銀無為の政策を 実行致すは黄金の厳の宝珠の永久に 変らぬ神の仕組なり又紫の宝玉は 天下万民悉く神の御稜威に悦服し 神人和合の其基礎を永遠無窮に守ります 神の定めし神宝ぞ抑も三つの御宝は 天津御神や国津神天国浄土の政治をば 豊葦原の瑞穂国五つの島に隈もなく 神の助けと諸共に伊照り透らし万民を 安息せしむる神業に最大必要の宝なり あゝ惟神々々深遠微妙の神界の 万世不磨の御経綸太き御稜威も高熊の 山に隠せし黄金の晨を告ぐる鶏や 波間に浮ぶ神島の常磐の松の根底に かくし給ひし珍宝金剛不壊の如意宝珠 天火水地と結びたる紫色の神宝も 愈此世に現はれて光を放つ神の世は さまで遠くはあらざらめ此世を造りし大神の 水も漏らさぬ御仕組竜宮城の乙姫が 玉の御手より賜ひたる浦島太郎の玉手函 それに優りて尊きは三つの御玉の光なり あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 一日も早く片時もとく速けく世の為に 現はれまして艮の果てに隠れし元津神 坤なる姫神の経と緯との水火合せ 神世安らけく平らけく治め給はむ時はいつ 待つ間の永き鶴の首亀の齢の神の世を 渇仰翹望なしながら静かに待つぞ楽しけれ 波に漂ふ一つ島黄金花咲く竜宮の 秘密の郷と聞えたる果物豊な玉野原 一眸千里の其中に青垣山を三方に いと美はしく繞らせる金波漂ふ諏訪の湖 玉依姫の永久に水底深く鎮まりて 守り給ひし麻邇の玉天火水地と結びたる 青赤白黄紫の玉の功績を述べつれば 世界統治の礎を堅磐常磐につきかため 天の下をば安国と治むる王者の身魂こそ 紫玉の功績ぞ王者に仕へ民治め 中執臣と勤しみて世界を治むる大臣の 稜威の活動其ものは心も赤き赤玉の 天地自然の功績ぞ国魂神と現はれて 百の民草治めゆく小さき臣の活動は 臣の位の水御玉上を敬ひ下を撫で 臣の位を能く尽し上は無窮の大君に 下は天下の民草に心の限り身を尽し 誠を尽す活動は水の位の白玉の 天地確定の功績ぞ神を敬ひ大君を 尊び奉り耕しの道に勤しみ工業や 世界物質の流通に只管仕ふる商人の 誠の道を固め行く天地自然の功績は 土に因みし黄金の稜威の御玉の天職ぞ さはさり乍ら今の世は心の赤き赤玉も それに次ぐべき白玉も黄色の玉も悉く 光なきまで曇り果て何の用なき団子玉 天火水地を按配し此神玉の活用を 円満清朗自由自在照らして守るは紫の 神の結の玉ぞかし紫色の麻邇の玉 今や微光を放ちつつ心の色も丹波の 綾の聖地にチクチクと其片光を現はして 常世の暗を隈もなく照らさせ給ふ光彩は 厳の御霊の神司瑞の御霊の神柱 経と緯との御玉もて世界十字に踏みならし 一二三四五つ六つ七八つ九つ十たらり 百千万の神人の救ひの為に千万の 悩みを忍び出で給ふあゝ惟神々々 御霊幸はへましまして誠の神の御教に 服従ひ来る信徒よ綾の高天に古くより 仕へ奉りし神司変性女子の瑞御霊 又もや副守が発動して訳の分らぬ気焔吐く 皆々一同注意して審神をせなくちやならないぞ 近くに侍る盲信者甲乙丙丁戊の様に 迎合盲従はならないぞ気を付け召されと鼻高が 少しの学識鼻にかけいろいろ雑多の小理屈を 並べて神の経綸を紛乱せむと企みつつ 副守の悪霊に駆使されて空前絶後の神業に 外れる人も偶にある同じ教の信徒は 神の心を汲み取りて互に気を付け助け合ひ 慢心鉄道の終点に行詰りたるアフン駅 何のエキ無き醜態を暴露させない其間に 世人を思ふ真心の凝り固まりし瑞月が ここに一言述べておくあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 誠の力は世を救ふ誠を知らぬ智恵学者 此物語見るならば軽侮の念を起すあり 脱線文章と笑ふあり卑近の俗語を列ねたる 半狂乱の悪戯と初からこなす人もある 冷笑悪罵は初から百も承知の瑞月が 神の御言を畏みて三五教の真相を 学と知識の評釈で取違ひたる過ちを 直日に見直し聞直し宣り直させて神界の 誠の道を知らさむと悪罵熱嘲顧みず 口の車の転ぶまに筆者の筆のつづくだけ 繰返し行く小田巻のいと長々と記しおく。 (大正一一・七・二〇旧閏五・二六松村真澄録) |
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霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 04 教主殿 | 第四章教主殿〔七八六〕 松の老木、梅林楓の紅葉、百日紅 木斛、木犀、樅、多羅樹や緑紅こきまぜて 幽邃閑雅の神苑地魚鱗の波を湛へたる 金竜池に影映す言霊閣は雲表に 聳りて下界を睥睨し神威は四方に赫々と 轟き亘る三五の神の教の教主殿 八咫の広間に寄り集ふ梅子の姫を始めとし 神の大道に朝夕にいそしみ仕ふる五十子姫 闇をはらして英子姫万代寿ぐ亀彦や 五十鈴の滝の音彦や心も光る玉能姫 玉治別を始めとし初稚姫や杢助は 言依別と諸共に奥の広間に座を占めて 玉依姫の賜ひたる麻邇の宝珠の処置につき 互に協議を凝らし居る時しもあれや玄関に 現はれ来る三人連れ御免々々と訪へば 玉治別は出迎へ一目見るより慇懃に 笑顔を作り腰屈め高姫さまか黒姫か 高山彦の神司ようこそお入来下さつた 言依別の神司其他数多のお歴々 今朝からひどう御待兼ねサアサア御通りなさいませ 高姫軽く会釈してそれは皆さまお待兼ね 奥へ案内願ひませう黒姫さまや高山彦の 神の司のお二方サアサア共に参りませう 黒姫夫婦は黙々とものをも言はず足摺りし 静々あとに従うて奥の間さして進み入る。 高姫『ヤア是は是は言依別様を始め、英子姫様其他のお歴々様方の御前も憚らず、賤しき高姫、恐れ気もなく御伺ひ致しまして、さぞ御居間を汚すことで御座いませう。何事も神直日大直日に広き御心に見直し聞直しまして、此老骨をお咎めなく可愛がつて下さいませ』 一同は一時に手をついて、礼を施した。 言依別『高姫様、そこは端近、ここにあなた方お三人様のお席が拵へて御座います。どうぞこちらへお坐り下さいませ』 高姫『何分にも身魂の研けぬ、偽日の出神の生宮や、体主霊従の身魂計りで御座いまするから、そんな正座につきますのは畏れ多う御座います。庭の隅つこで結構で御座いますが、御言葉に甘えて、お歴々様の末席を汚さして頂くことになりました。どうぞ左様な御心配は下さいますな』 玉能姫『高姫様、さういふ御遠慮には及びますまい。教主様の御言葉、どうぞお三人様共快くお坐り下さいませ』 高姫『コレお節、御歴々様の中も憚らず、何をツベコベと……女のかしましい……口出しなさるのだ。チツと御慎み遊ばせ。もう少し神様の感化に依りて淑女におなりなさつたかと思へば、ヤツパリお里は争はれぬもの、平助やお楢の娘のお節丈あつて、名は立派な玉能姫さまでも、ヤツパリ落付きがないので、かういふ時には醜態もない。高姫がかう申すと、猜疑心か、意地悪かの様に思ふでせうが、決して私はそんな心は毛頭も持ちませぬ。お前さまの身魂を立派なものに研き上げて、神業に参加なさつた手前、恥しくない様に、終始一貫した神司にして上げたい計り、お気に障る様なことを申しますワイ。必ず必ず三五教の教は、悪意に取つてはなりませぬぞ。序に初稚姫にも云うておきますが、お前もチツとは我慢が強い。何程杢が総務ぢやと云つて、親を笠に被り年端も行かぬ癖に肩で風を切り、横柄面を曝してはなりませぬぞ。金剛不壊の如意宝珠を何々したと思つて慢心すると、又後戻りを致さねばなりませぬから、慈母の愛を以て行末永きお前さまに注意を与へます』 玉能姫『ハイ何から何まで御心をこめられし御教訓、猜疑心などは少しも持ちませぬ。此上、何事も万事足らはぬ玉能姫、御指導を御願ひ致します』 高姫『お前さまはそれだから可かぬのだ。ヘン、言依別の教主さまから、紫の玉の御用を仰せつけられ、何々へ何々したと思つて、鼻にかけ、玉能姫なんて、傲慢不遜にも程があるぢやありませぬか。そんな保護色は綺麗サツパリと払拭し去り、何故お節と仰有らぬのだ。かう申すと又お前さまは平助でもない、お楢でもない様な、お節介ぢやと御立腹なさるだらうが、人は謙遜と云ふ事が肝腎ですよ。今後はキツと玉能姫なぞと大それた事は御遠慮なさつたがよからう。何から何まで、酢につけ味噌につけ、八当りに当つて根性悪を高姫さまがなさるなぞと思つちや大間違ですよ。……これお節さま、わたしの申すことに点の打ち所がありますかなア』 玉能姫『ハイ、実に聖者のお言葉、名論卓説、玉能姫……エー否々お節、誠に感服仕りました。其剛情……イエイエ御意見には少しも仇は御座いませぬ、併し乍ら個人としてはお節でも、お尻でも少しも構ひませぬが、神様の御用を致します時は、教主様から賜はつた玉能姫の職掌に奉仕せねばなりませぬから、公の席に於ては、どうぞ玉能姫と申すことをお許し下さいませ』 高姫『女と云ふ者はさう表に立つて、堂々と神業に参加するものではありませぬ。オツトドツコイ……それはエー、ある人の言ふ事、私とても女宣伝使、女でなくちや、天の岩戸の初から夜の明けぬ国、言依別の教主様もヤツパリ女に……綺麗な女の言葉は受取易いと見えますワイ。オツホヽヽヽ、もう斯う皺が寄つて醜うなると、到底若い教主様のお気に入らないのは尤もで御座います。こんなことを申すと、又高姫鉄道の脱線だと仰有るかも知れませぬが、決して脱線でも転覆でも御座いませぬぞ。皆日の出神さまが私の口を借つての御託宣、冷静に聞き流されては高姫聊か迷惑を致します。お節計りでない、お初も其通り、初稚姫なぞと大それたことを言つちやなりませぬぞ。本末自他公私を明かにせなならぬお道、神第一、人事第二ぢやありませぬか。私は系統の身魂、四魂の中の一人、日の出神の生宮、言依別さまが何程偉くても人間さまぢや。人間の言ふことを聞いて、此生神の言葉を冷やかな耳で聞き流すとは、主客転倒、天地転覆も甚しいと云はねばなりませぬぞえ。……コレ田吾作、お前も余程偉者になつたなア。竜宮の一つ島へ行つて、玉依姫様に玉を頂き乍ら、スレツからしの黄竜姫に渡したぢやないか。ヤツパリ田吾作はどこ迄も田吾作ぢや、どこともなく目尻が下つて居る。何程顔が美しくても……其声で蜴喰ふか時鳥……、心の奥の奥まで、なぜ見抜きなさらぬ。そんな黄竜姫の様な若い方に渡すのならば、なぜスツと持つて帰つて、立派な生宮にお渡しせぬのぢやい。お節だつて、お初だつて、皆量見が間違つて居るぢやないか。あんまり甚しい矛盾で、開いた口が塞がりませぬワイな。……コレコレ英子姫さま、梅子姫さま、五十子姫さま、お前さまは変性女子の系統、天の岩戸を閉めた身魂の血筋だから、よほど遠慮をなさらぬと可けませぬぞえ。人がチヤホヤ言うと、つい好い気になるものだ。何程立派な賢い人間でも、悪くいはれるのは気の好くないもの、寄つてかかつて持上げられると、つい好い気になり、馬鹿にしられますぞえ。表で持上げておいて、蔭でソツと舌を出す世の中で御座いますからな』 英子姫『ハイ、有難う御座います。御懇切な御注意、今後の神界に奉仕する上に於ても、あなたのお言葉は私の為には貴重なる羅針盤で御座います。併し乍ら面従腹背的の人間は、此質朴なる今の時代には御座いますまい。善は善、悪は悪とハツキリ区劃が立つて居りまする。左様な瓢鯰的の行動をとる人間は、三十万年未来の二十世紀とか云ふ世の中に行はれる人間同志の腹の中でせう』 高姫『過去現在未来一貫の真理、そんな好い気な事を思つて居らつしやるから、無調法が出来ますのだ。エ、併し大した……あなた方に不調法は出来て居らないから、先づ安心だが、併し三五教は肝腎要の日の出神の生宮は誰、竜宮の乙姫即ち玉依姫の生宮は誰だと云ふ事が分らなければ、どこまでも御神業は成就致しませぬぞ。それが分らねば駄目ですから、今後は私の云ふ事を聞きますかな』 玉治別『モシ英子姫様、決して何事も高姫さまが系統だと云つて、一々迎合盲従は出来ませぬぞ。婆心乍ら一寸一言申上げておきます』 英子姫『ハイ有難う御座います』 高姫『コレ田吾、お前の出る幕とは違ひますぞ。日の出神が命令する。此場を速に退席なされ』 玉治別『ここは言依別様の御館、御主人側より退席せよと仰せになる迄は、一寸も動きませぬ。我々は神様の因縁はチツとも存じませぬ。只言依別の教主に盲従否明従して居るのですから、御気の毒乍ら貴女の要求には応じかねます。何分頻々として註文が殺到して居る、今が日の出の店で御座いますから、アハヽヽヽ』 高姫『コレ黒姫さま、高山彦さま、お前さまは借つて来た狆の様に、何を怖ぢ怖ぢしてるのだ。日頃の鬱憤………イヤイヤ蘊蓄を吐露して、お前さまの真心を皆さまの前に披瀝し、諒解を得ておかねば今後の目的……否神業が完全に勤まりますまい』 黒姫『あまり貴女の……とつかけ引つかけ、流暢な御弁舌で、私が一言半句も申上げる余地がなかつたので御座います』 高姫『アヽさうだつたか、オホヽヽヽ。余り話に実が入つて気がつきませなんだ。そんなら黒姫さま、発言権を貴女にお渡し致します』 黒姫『ハイ有難う御座います。私としては別にこれと云ふ意見も御座いませぬが、只皆様に御了解を願つておきたいのは、竜宮の乙姫様即ち玉依姫様の肉のお宮は、黒姫だと云ふことを心の底より御了解願ひたいので御座います』 杢助『アハヽヽヽ』 黒姫『コレ杢さま、何が可笑しいのですか。チト失敬ぢやありませぬか』 と舌鋒を向けかける。 杢助『黙して語らず……杢助の今日の態度、さぞ貴女にも飽き足らないでせう。杢助は総務として、責任の地位に立つて居る以上、成行きを見た上で、何とか申上げませう』 黒姫『コレ玉治別さま、玉能姫さま、一番お偉い初稚姫さま、お前さまはあの玉を誰に貰つたと思うて居ますか』 初稚姫『ハイ、竜の宮居の玉依姫様から……』 玉能姫『竜宮の乙姫さまから………』 黒姫『そらさうに違ひありますまい。そんなら私を何とお考へですか』 初稚姫『あなたは怖いお婆アさまの黒姫さまだと思ひます。違ひますかな』 玉能姫『竜宮の乙姫様の生宮だと聞いて居りまする』 黒姫『さうか、お前さまはヤツパリ年とつとる丈で、どこともなしに確りして居る。併し乍ら聞いた計りで、信じなければ何にもなりませぬぞ。信じて居られますか、居られませぬか、それが根本問題です』 玉能姫『ハイ、帝国憲法第二十八条に依つて、信仰の自由を許されて居りますから、信ずるも信じないも、私の心の中にあるのですから……』 黒姫『成るべくはハツキリと言つて貰ひたいものですな』 玉能姫『ハツキリ言はない方が花でせう。……ナア初稚姫さま、あなた如何思ひますか』 初稚姫『私は黒姫さまを厚く信じます。併し乙姫様の生宮問題に就ては不明だと信ずるのです』 黒姫『誰も彼も歯切れのせぬ御答弁だな。女童の分る所でない、神界の御経綸、どんな人にどんな御用がさせてあるか分らぬぞよ……とお筆に出て居ります。マアそこまで分れば結構だ。……コレコレ玉治別さま、お前さまの御意見はどうだな』 玉治別『私の御意見ですか。私の御意見はヤツパリ御意見ですな。灰吹から蛇が出たと申さうか、藪から棒と申さうか、何が何だかテンと要領を得ませぬワイ』 黒姫『さうだろさうだろ、分らな分らぬでよい。分つてたまる事か。広大無辺の神界のお仕組を、田吾作さま上りでは分らぬのが本当だ。これから私が神界の事を噛んで啣める様に教へて上げるから、チツと勉強なされ』 玉治別『お前さまに教へて貰ひますと、竹生島の弁天の床下に隠してある三つの宝玉が出て来ますかな。私も其所在さへつきとめたら、竜宮の乙姫の生宮だと云つて、羽振を利かすのだけれどなア。序に日の出神にも成り澄すのだが、……黒姫さま教へて下さいますか』 高姫『コレコレ黒、黒、黒姫さま、タヽ田吾に相手になんなさんな。……コレ田吾さま、お前さまは我々を嘲弄するのですか』 玉治別『滅相もない、神様から御神徳をタマハルワケを聞かして下さいと言つて居るのですよ。何分私の身魂が黒姫で、慢心が強うて、鼻が高姫で、おまけに頭が高うて、福禄寿の様に延長し、神界の御用だと思つて一生懸命になつてお邪魔を致して居りまする田吾作で御座いますから、どうぞ宜しく執着心の取れますよう、慢心の鼻が折れますやう、守り玉へ幸ひ玉へ、アヽ惟神霊幸倍坐世』 高姫『ヘン仰有るワイ。黒姫さま、高山彦さま、サア帰りませう。アタ阿呆らしい。お節やお初、田吾や杢に馬鹿にせられて、日の出神様も、竜宮の乙姫さまも、涙をこぼして居やはりますぞえ。何と云つても優勝劣敗、弱肉強食だ。善の分るのは遅いぞよ、其代り立派な花が咲くぞよとお筆に出て居ります。皆さま、アフンとなさるなツ。是から是からサア是れから獅子奮迅の勢を以て、三五教を根本から立替いたすから、あとで吠面かわかぬようになされませや。ヒン阿呆らしい』 と座を立つて帰らうとする。英子姫は、 英子姫『モシモシ高姫様、一寸お待ち下さいませ。それは余りの御短慮と申すもの、十人十色と申しまして、各自に解釈が違つて居りまするが神様は一つで御座います。さうお腹を立てずに、分らぬ我々、充分納得のゆく様にお示し下さいませ。誠の事ならばどこまでも服従いたします』 高姫はニヤリと笑ひ乍ら、俄に機嫌をなほし、 高姫『流石は八乙女の随一英子姫様、お前さま丈だ。目のキリツとした所から口元の締つた所、ホンにお賢い立派な淑女の鏡だ。お前さまならば、此高姫の申すことの分るだけの素養はありさうだ。そんならモ一度坐り直して、トツクリと御意見を伺ひませう』 と一旦立つた膝を、又元の座にキチンと帰つた。 英子姫『私は御存じの通り、まだ世の中に経験少き不束者、どうぞ何から何まで御指導をお願ひ致します。就きましては御聞き及びでも御座いませうが、此度竜宮の一つ島、諏訪の湖より五色の貴重なる麻邇の宝珠が無事御到着になりまして、言依別様が兎も角お預り遊ばして、一般の信徒等に拝観をさせ、それから一々役を拵へ、大切に保管をいたさねばなりませぬ。何分……貴女始め黒姫さま、高山彦さまの肝腎の御方が御不在でありましたので、今日まで拝観を延期して居りました次第で御座います。先づ第一に其玉の御点検を、高姫様、黒姫様に御願ひ致しまして、それぞれ保管者を定めて頂かねばなりませぬ。……今日は言依別様始め皆様と御協議で御足労を煩はした様な次第で御座いますから、どうぞ日をお定め下さいまして、御点検を願ひ、其上で保管者をお定め願はねばなりませぬ』 高姫ニツコと笑ひ、 高姫『流石は英子姫さま、言依別さまも大分によく分つて来ました。併し乍ら、梅子姫様、五十子姫、杢助さまの御意見は……』 英子姫『何れも私と同意見で御座います』 高姫『それならば頂上の事、日の出神の生宮が先づ麻邇の宝珠を受取り、竜宮の乙姫の生宮が玉を検めて、其上、各自日の出神、竜宮の乙姫の指図に従つて一切万事取行ふことと致しませう。此玉が無事に納まつたのも、此高姫が神界の命に依つて、黒姫さまを一つ島へ遣はしたのが第一の原因、次に黒姫は高山彦さまと共に竜宮島の御守護を遊ばされ、肝腎要の結構な玉を他に取られない様に、其身魂をお分け遊ばして玉依姫命となし、此玉を大切に保管しておかれたからだ』 英子姫『ハイ………』 玉治別『黒姫さまの分霊は又大変に立派なものだなア。其神格と云ひ、御精神といひ、容色と云ひ、御動作と云ひ、実に天地霄壤の相違があつた。これが本当なら、雀が鷹を生んだと云はうか、途方途徹もない事件だ。此玉治別も竜宮の玉依姫様から玉を受取つた時の心持、一目拝んだ時の気分と云ふものは、中々以て黒姫さまの前へ行つた時とは、月と鼈ほど違つた感じが致しましたよ』 高姫『コレ田吾さま、黙つて居なさい。新米者の分る事ですかいな』 玉治別『さうだと云つて、其玉に直接に関係のあるのは私ですからなア』 五十子姫『玉治別さま、何事もお年のめしたお方の仰有ることに従ひなさる方が宜しからう』 玉治別『ヘーエ、そらさうですな』 と煮え切らぬ返事をし乍ら頭をかいて居る。 梅子姫『今迄の経緯は何事もスツパリと川へ流し、和気靄々として御神業に奉仕することに致しませう。……高姫様、黒姫様、高山彦様、従前の障壁を除つて、層一層神界のため、親密な御交際をお願ひ致します』 高姫『ヨシヨシ、結構々々』 黒姫『お前さまも少々話せる方だ』 玉治別『何だか根つからよく分りました。何は兎も有れ、日をきめて頂きませう。信者一般に報告する都合がありますから……』 言依別は杢助の方を看守つた。杢助は厳然として立上り、 杢助『かくも双方平穏無事に了解が出来ました以上は、来る二十三日を以て、麻邇の宝珠を一般に拝観させることに定めたら如何でせう。先づ第一に高姫様、黒姫様の御意見を承はりたう御座います』 高姫ニコニコし乍ら立上り、 高姫『何事も此件に付ては、杢助さまの総務に一任致しませう』 黒姫『私も同様で御座います』 高山彦『どちらなりとも御都合に願ひます』 杢助『左様ならば愈九月二十三日と決定致します。皆さま、御異存あらば今の内に御遠慮なく仰有つて下さい』 一同『賛成々々』 と言葉を揃へる。折柄吹き来る秋風に十二分の涼味を浴び乍ら各自に退場する事となつた。アヽ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・七・二三旧閏五・二九松村真澄録) |
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霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 05 玉調べ | 第五章玉調べ〔七八七〕 仰げば高し久方の高天原の若宮を 地上に写し奉り大宮柱太知りて 高天原に千木高く仕へ奉りし珍館 錦の宮に連なりし稜威も広き八尋殿 英子の姫を始めとし梅子の姫や五十子姫 初稚姫や玉能姫音彦亀彦始めとし 杢助総務其外の役員信者は粛々と 八尋の殿に寄り来り早くも殿の内外に 溢るるばかりなりにけり。 かたの如く祭りも無事に終了した。上段の間には杢助の総務を始めとし、英子姫、五十子姫、梅子姫、初稚姫、玉能姫、お玉の方、最高座には玉照彦、玉照姫扣へられ、亀彦、音彦、国依別の幹部連、秋彦、夏彦、常彦を始め、英子姫と相並んで黄竜姫、蜈蚣姫、テールス姫末端に扣へ、友彦は幹部の上席に顔を並べて居た。群集を分けて意気揚々と登り来る高姫、黒姫、高山彦の三人は、今日玉調べの神務奉仕の役として、盛装を凝らし、英子姫よりも一段と上座に着いた。 杢助『私は素より鈍魂劣器至愚至痴なる身魂の持主で御座いまして、総務なぞをお勤め申す柄ではありませぬが、神命黙し難く心ならずも拝命致し、皆様のお助けに依つて御用の一端を勤めさして頂いて居りますは、是れも全く皆様の御同情のお蔭と厚く感謝致します。就ては私も少しく思ふ所あつて、神界の為めに、もう一働き致したう御座いまするので、後任者を推薦致して置きました。教主様は今日は急病でお引籠もりで御座いますから、御意見を伺ふ事は出来ませぬが、私の後任者として淡路島の東助様を、御苦労に預りたいと思うて、内々伺ひは出して御座います。就きましては、今日は実にお目出度い日柄で御座いまして、竜宮島より、お聞及びの通り、五色の麻邇宝珠納まり、言依別命様が兎も角御主管なされて居られましたが、今日、高姫、黒姫のお取調を願ひ、信者一同に拝観をさせよと、教主のお言葉で御座いますから、其お心算で、ゆつくりと御拝観を願ひます。再び拝観する事は出来ぬので御座いますから、此際充分御神徳を戴かれる様に、一寸一言申上げて置きます』 一同は雨霰のごとく拍手する。杢助は初稚姫、玉能姫、五十子姫、梅子姫を伴ひ、社殿の奥深く進み、黄金の鍵をもつて傍の宝座を開き、各一個の柳筥を、頭上高く差し上げながら、静々と八尋殿の高座に現はれ、五個の柳筥は、段上に行儀好く据ゑられた。 高姫は段上にスツクと立ち、一同を見廻し乍ら、 高姫『皆さま、今日は誠に結構なお日柄で御座います。今迄は瑞の御霊の三種の神宝此処に納まり、今日又厳の御霊の五色の神宝無事に納まり、皆様が拝観の光栄に浴さるる空前絶後の第一吉祥日で御座います。神様は引掛け戻しのお経綸をなさいますから、肝腎の厳の御霊の経を後に出し、瑞の緯を先に出したり、変幻出没究極す可らざる事を遊ばすのは、皆様御承知の事で御座いませう。今日迄三つの御玉を私共南洋あたりまで、捜索に行つたと申すのは、決して左様な緯役の玉を求めに行つたのではありませぬ。玉には随分モンスターの憑依するものでありますから、此高姫等は三つのお宝を探す様に見せて、其方に総ての精神を転じさせ、其時に日の出神、竜宮の乙姫の礎になるお方様が、一つ島に人のよう往かない如うな秘密郷の諏訪の湖に深く秘し、さうして仕組を遊ばして御座る事は、最初から我々両人の熟知する所、否仕組んで居る所で御座います。今日初稚姫、玉能姫、黄竜姫、梅子姫、蜈蚣姫其他五人の神司に、此御用をさせたのも日の出神の仁慈無限のお取計らひと、竜宮の乙姫様の御慈悲ですよ。それが分らぬ様では、三五教の五六七神政の仕組は到底、分るものではありませぬ。幸ひに賢明なる英子姫、稍改心の出来た言依別命の神務奉仕の至誠が現はれて、竜宮の麻邇の宝珠が聖地へ納まる事が出来る様になり、夫を受取り且つ調べるお役は特に此高姫、黒姫両人が致すべきもので御座います。依つて只今より御玉の改めを致しますから、皆さま、謹んで拝観なさるが宜しい。三つの御玉はどうならうとも私は知りませぬ。今度の五つの御玉こそ肝腎要な大望な御神業大事のお宝、就ては玉治別や其他の半研けの身魂が取扱つたのですから、少しは穢れて居ないかと心配を致して居るので御座います。身魂相応に玉の光が現はれるのですから、実に恐いもので御座いますよ。サアサ是れから、お民が預つてテールス姫に手渡した、黄色の玉を函から出して調べる事と致しませう。……黒姫さま、御苦労ながら一寸これへお越し下さい。さうしてお民さま、テールス姫さま、貴女は直接の関係者、此処にお扣へなされ』 『ハイ』と答へて両人は高姫の傍に立寄る。高姫は口をへの字に結び、柳筥の桂馬結びの紐を解き、恭しく玉函を捧げ、八雲琴の調子に合して体躯を揺り、手拍子を取りながら、機械人形の如うに柳筥の蓋を、シヤツチンシヤツチンと取つて見た。黄色の玉が出るかと思ひきや、中より団子石がゴロリと出た。よくよく見れば何か文字が記してある。高姫は眉を顰め光線にすかし見て「高姫、黒姫の身魂は此通り、改心致さねば元の黄金色の玉にはならないぞ」と記されてあつた。高姫は顔色烈火の如く、声を震はせ、 高姫『コレお民さま、テールス姫さま、お前さま達は偉さうな面をして、海洋万里の一つ島まで何しに往つて居つたのだ。アタ阿呆らしい。コンナ玉なら小雲川には邪魔になるほどあるぢやありませぬか』 お民『ハイ、何んな玉で御座います』 高姫『何んな玉もこんな玉もありますかい。お前の身魂の感化に依つて、折角の玉もこんな事になつて仕舞つた。……コレ、ジヤンナの土人の阿婆摺女テールス姫とやら、何の態だ、これは……阿呆らしい、早く改心なされ』 テールス姫『ハイハイ改心を致します。どうしてマアこんな玉になつちやつたのだらう、いやな事』 黒姫『それだから瑞の御霊は憑り易いと言ふのだ』 玉治別『瑞の御霊は憑り易いと仰有つたが、これは五の御玉ぢやありませぬか』 黒姫『何れも憑り易い身魂だ』 玉治別『そんなら貴女の身魂が憑つたのでせう。どれどれ、私が調べて見ませう』 高姫『お構ひなさんな。お前さまの如うな瓢六玉が見ようものなら、ただの玉になつて終ひます』 群集はワイワイと騒ぎ出した。 国依別は段上に立つて、 国依別『皆さま、お騒ぎなさるな。今日の玉調べは高姫さま、黒姫さまの身魂調べも同様ですから、決してテールス姫やお民さまの身魂が黒いのではありませぬ。最前も高姫さまが仰有つた通り、何と云うても御両人が、自分でお仕組なさつたのですから心配は要りませぬ。皆見る人の心々に写りますから……如意宝珠、又見る人の随意々々替はるから麻邇の宝珠といふのです。之が本物に違ひありませぬ。どうぞお騒ぎなさらない様に願ひます。一度高姫さまのメンタルテストをやる必要がありますからなア』 高姫『コレ国さま、お前さま、ゴテゴテ言ふ資格がありますか』 国依別『ありますとも、そんなら何故私に生田の森で、玉の所在を知らせ知らせと云つたのですか』 高姫『お前さまの言ふ事は、チツトより信用が出来ぬ。ブラツクリストに登録されて居る注意人物だ。お黙りなさい』 国依別『高姫署のブラツクリストに記されて居る私でも、チツト位信用が出来るのですか。私は又大いに信用が出来ぬと仰有ると思つたに……それはさうとして次の白色の玉を早く調べて見せて下さい』 高姫『八釜しう云ひなさるな。お前さまがツベコベ嘴を容れると、又玉が変化するかも知れませぬぞ。エヽ穢はしい。其方に往つて下さい。……サア今度は久助さま、友彦さま、お前さま達の責任だ。早く此処へお入来なさい』 両人は「ハイ」と云ひながら高姫の左右に寄り添うた。高姫は又もや以前の如く、恭しく柳筥を開いて見た。中には前同様の団子石に同様な事が書いてある。高姫はへの字に結んだ口をポカンと開けて暫し見詰めて居た。群集は又もやワイワイ騒ぎ出した。国依別は又もや段上に押し上り、 国依別『皆さま、お騒ぎなさいますな。コリヤこれも屹度以前の通り団子石ですよ。丸で狐につままれた如うですが、これも心の随意々々変化する玉ですから、驚くに及びませぬ。小人玉を抱いて罪ありと云うて、どんな立派な玉でも小人物が扱うと、其罪が直に憑つて団子石になるのですから、団子石だと言うて力を落してはなりませぬぞ。これでも身魂の磨けたお方が見れば本真物になります』 黒姫『コレコレ国さま、いらぬ事を仰有るお前こそ小人だ。お前の様な小人が居るものだから、此通り玉が変化する。私が竜宮で久助に渡した時は、こんなものぢや無かつた。久助と友彦の慢心の身魂が憑つてこんなに変化したのですよ。大勢の前に、此様身魂ですと曝されて、誠に誠にお気の毒様ですけれどもお諦めなされ』 友彦は大いに怒り目をつり上げながら、黒姫の頸筋をグツと握り締め、 友彦『コラ黒姫、失敬な事を言ふか、大勢の前で人の身魂の悪口を云うと言う事があるものか』 爪の延びた手で頸筋をグツと喰ひ入る程掴み押へつける。黒姫は「キーキー」と言ひ乍ら其場に蹲踞む。側に居た高山彦は友彦の襟髪をグツと取り、段上から突き落さうとした途端に、友彦は体をパツとかはした。高山彦は二つ三つ空中廻転をして、群集の中に唸りを立てて落ちて来た。「サア大変」と大勢は寄つて掛つて介抱をし乍ら、痛さに唸く高山彦を担いで、黒姫館にドヤドヤと送つて行く。 国依別『黒姫さま、誠にお気の毒な事で御座いました。貴女も嘸お腹が立ちませう。又高山彦も思はぬ御災難で誠に御心配でせう。然し乍ら此処は神様の前、滅多な事は御座いませぬから御安心なさいませ』 黒姫『何から何まで、何時もお構い下さいまして、……ヘン……お有難う御座いますワイなア』 と肩と首をカタカタと揺つて居る、其容態の憎らしさ。 杢助『友彦殿、今日は職権を以て退場を命じます』 友彦『仕方がありませぬ。御命令に従ひ自宅へ控へ命を待ちまする。立腹の余り、ツイツイ粗怱を致しました』 と帰り行く。後見送りて黒姫は肩の中に首を耳の辺りまで石亀の如に突込んで仕舞ひ、頤を出したり引込めたり、舌を唇でチヨツと噛んで、何とは無しに嘲弄気分を表はして居た。 高姫『杢助さま、どうも怪しからぬぢやありませぬか。折角の如意宝珠の玉をこんな事にして仕舞うとは、一体全体訳が分らぬぢやありませぬかい。此責任は誰にありますか。……久助さま、お民さま、テールス姫さま、こんな不調法をして置いて、よう安閑として居れますな。此高姫が三人に対し退場を命じます。よもや杢助さま、是に向つて違背は有りますまいな』 杢助『何事も責任は私に有りますから、三人のお方はどうぞ此処に動かずに居て下さい』 三人一度に「ハイ」と俯向く。 高姫『エヽそんなら時の天下に従へだ、もう何も言ひますまい。是から青玉だ。……サア玉治別、黄竜姫様、此処にお出でなさい。さうして久助さま、元の座にお帰りめされツ』 と稍甲声を張り上げながら、又もや例の如く調査し、恭しく玉筥の蓋を取つて見た。高姫の顔は又もや口が尖り出した。舌を中凹に巻いて二三分ばかり唇の外に出し、首を右の方に傾げて目を白黒させ、両手を開いて乳の辺りで行儀好く、扇を拡げた様にパツとさせ、腰を二つ三つ振つて居る。玉治別は是れを眺めて、 玉治別『これ高姫、黒姫、矢張お前さまお二人は改心が足らぬ。海洋万里の竜宮の一つ島の、秘密郷の諏訪の湖水から聖地高天原迄、万里の天空を八咫烏に乗せられ捧持して帰つた結構な玉を、黒鷹の身魂が憑つて斯んなに変化さしよつたのだ。玉治別承知致しませぬぞツ』 と今度は反対に高姫に喰つて掛る。 高姫『へー甘い事を仰有いますワイ。肝腎要の水晶玉の高姫が覗いて、玉が変化する道理が何処に有りますか。お前さまがあんまり慢心して御用した御用したと、法螺を吹くものだから斯んな事になつたのだ。……コレ小糸どん、此醜態は何だいな。これで立派に御用が勤まつたのですかい。本当に呆れてものが言へませぬワイ。これ小糸どん、どうして下さる。結構な玉に悪身魂を憑して、お前さまは神界のお邪魔を致す曲者だよ。童女の癖に大の男をアフンとさせる様な悪党者だから、玉の御用が出来さうな道理がない。妾は初めから、お前が玉の御用をしたと聞いた時、フフーと惟神的に鼻から息が出ました。日の出神が腹の中から笑うて御座つたのだ』 黄竜姫は屹となり、『高姫さま』と声に力を入れ、 黄竜姫『ソレは余りの御言葉ではありませぬか。貴女の御身魂さへ本当にお研けになれば、本当の玉がお手に入るのですよ。屹度、神様がお隠しになつたのだが、御自分の心から御立替遊ばせ。さうすれば、本当の麻邇の宝珠がお手にお入り遊ばすのでせう』 高姫『何と云つても立派な御弁舌、高姫も二の句が次げませぬ。オホヽヽヽ』 と肩を揺り又も腮をしやくる。 玉治別『モシモシ黄竜姫さま、斯様な没分暁漢のお婆アさま連に相手になつて居つても詰りませぬから、もう止めて置きませう』 黄竜姫はニタリと笑ひながら、 黄竜姫『ハイ、さう致しませう』 と元の座に帰る。 高姫『アノマアお仲の好い事ワイの。ホヽヽヽヽ、若い男と女には監視を付けて置かにや険難だワイ』 杢助は苦虫を噛み潰した如うな顔をして、厳然として無言の儘扣へて居る。 高姫『コレ杢助さま、お前も偉さうに総務面をして御座つたが、今日は目算ガラリと外れただらう。アノマア恐い顔ワイなア』 杢助『アハヽヽヽ、何だか知らぬが面白い事で御座るワイ。アハヽヽヽ』 高姫『コレ黒姫さま、確りなさらぬかいな。一向元気が無いぢやないか。お前の竜宮の乙姫が玉の持主ぢやないか。此奴等に三つまで此様な事にしられて、それを平気でようまア、居られますな』 黒姫『ハイ何分心配が御座いますので』 高姫『ウン、さうだともさうだとも、高山彦さまがエライお怪我をなさつたから、御心配になるのも御無理と申しませぬが、もう暫らくだ、辛抱して下さい。さうしたら無事解放して上げます。……コレコレお節、お前の持つて帰つた赤玉を是から調べるのだから、蜈蚣姫さまも此処へ御出でなさい。お前さまも随分魔谷ケ岳で私に対して弓を引いたり、国城山で悪口を言ひました。先へ申して置きますよ。若し此赤玉が団子石になつて居つたら、どうなさいますか』 蜈蚣姫『何事も惟神に委した私、どうすると云ふ訳に行きませぬ。神様の御処置を願う迄です。乍併高姫さまの指図は断じて受けませぬ。左様御心得を願ひます』 と一つ釘を刺す。高姫は又も口をへの字に結び桂馬結びの紐を解き、 高姫『サアお節、地獄の釜の一足飛だ。お前が長らくの苦労も花が咲くか、水の泡になつて了うか、禍福吉凶幸禍の瀬戸の海ぢやぞい。瀬戸の海で思ひ出したが、ようも馬鹿にして下さつた。助けてやつたなぞと決して思つては居ますまいな。エー何をメソメソと吠えて居るのだ。善い後は悪い、悪い後は善いと云う事があるから、何月も月夜計りは有りませぬぞ。チツとばかし都合が悪いと言つて顔を顰める様では、どうして立派に玉能姫と言はれますか』 と口汚く罵り乍ら、柳筥の蓋をパツと開けた。 高姫『黒姫さま、一寸御覧、何だか此玉は黒いぢやありませぬか』 黒姫は一寸覗き込む。 黒姫『ホンニホンニ、蜈蚣姫さまの如うに黒い玉だなア。コリヤ大方蜈蚣の身魂が憑つて、赤い筈の玉が黒くなつたのだらう』 玉能姫『黒姫さまも随分お白くありませぬから、どちらのがお憑り遊ばしたか分りますまい。オホヽヽヽ』 高姫『又しても又しても碌でもない、コリヤ消炭玉だ。道理で、ちと軽いと思つて居つた。アカ阿呆らしい。モウ玉調べは御免蒙りませうかい』 とプリンプリン怒つて居る。 杢助『御苦労ですがモウ一つ紫の玉をお調べを願ひます』 高姫『エー杢助さま、又かいなア』 と煩さ相に言ひ乍ら、万一の望みを最後の紫の玉に嘱して居た。国依別は一同に向ひ、 国依別『モシモシ皆さま、モウ一つになりました。何を言つても手品上手の高姫さまで御座いますから、水を火にしたり火を水にしたり、石を玉にして呑んだり吐いたり、終ひには天を地にしたりなさいます。天一の手品よりはお上手ですから、其お心算で確りとお目にとめられます様に願ひまアす。東西々々』 高姫はクワツと怒り、 高姫『神聖なる八尋殿に於て何と言ふ事を言ふのか。此処は寄席では有りませぬぞい。尊き尊き神様のお鎮まり遊ばす錦の宮の八尋殿では有りませぬか』 国依別『八尋殿だからといつて、手品が悪い道理が有りますか。現にお前さま手品をして居る途中です。そんな事を言うと自縄自縛に落ちますぞ。二十世紀頃の三五教の五六七殿でさへも劇場を拵へてやつて居るぢやありませぬか。訳の分らぬ事を言ふものぢや有りませぬ』 高姫『それだから瑞の御霊の遣り方は、乱れた遣り方だと神様が仰有るのだよ。アアモウ此玉は調べるのが嫌になつた。又初稚姫や梅子姫さまに恥をかかすのが気の毒だから、こりやもう開けない事にして置かう』 杢助『此玉は是非調べて頂きたい。神様は我子、他人の子の隔ては無いと仰有るのだから、神素盞嗚尊の御娘御の梅子姫様と、杢助の娘の初稚姫、依估贔屓したと言はれてはなりませぬから、どうぞ此場でお調べを願ひませう』 高姫『エーエー仕方がないなア。本当にイヤになつちまつた。そんなら、マアマも一苦労致しませう。……梅子姫さま、お初さま、サア早く此処へ来るのだよ』 と稍自棄気味になり言葉せはしく呼び立てる。言下に梅子姫、初稚姫は莞爾として高姫の側に寄り添うた。高姫は又もや柳筥の蓋をチヤツと開いた。忽ち四方に輝くダイヤモンドの如き紫の光り、流石の高姫もアツと驚いて二足三足後に寄つた。黒姫は飛び上つて喜び、思はず手をうつた。一同の拍手する声、雨霰の如く場の外遠く響いた。 高姫『お初、イヤ初稚姫さま、梅子姫さま、お手柄お手柄。矢張りお前等は身魂が綺麗だと見えますワイ。……杢助さま、お前さま中々好い子を持つたものぢや。ヤレヤレ是で一つ安心、後の四つは四足魂に汚されて了うた。瑞の御魂のやうに憑る麻邇の珠だから、田吾作、久助、お民、友彦、黄竜姫、蜈蚣姫、テールス姫、お節も是から、百日百夜小雲川で水行をなさい。さうすれば元の玉に還元するだらう。嫌といつても此高姫が行をさせて元の光りを出さねば措くものかい』 七人はアフンとして頭を掻いて居る。其処へ走つて来たのは佐田彦、波留彦両人であつた。 佐田彦『杢助さまに申上げます。今朝より言依別命様は御病気と仰有つて、御引籠りになつておいでなさいましたが、余りお静かですから、ソツと障子を開けて中へ這入つて見れば、萩の机の上に斯様な書き置きがして御座いました』 と手に渡す。杢助開いてこれを見れば、 『此度青、赤、黄、白の四個の宝玉を始め三個の玉、三つ四つ併せて都合七個、言依別命都合あつて、或地点に隠し置いたり、必ず必ず玉能姫、玉治別、黄竜姫其他此玉に関係者の与り知る所に非ず。然し乍ら杢助は願ひの如く総務の職を免じて、淡路の東助を以て総務となす。言依別は何時聖地に帰るか、其時期は未定なり。必ず我後を追ひ来る勿れ』 と書いてあつた。杢助は黙然として涙をハラハラと流し、千万無量の感に打たるるものの如くであつた。 (大正一一・七・二三旧閏五・二九谷村真友録) |
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霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 06 玉乱 | 第六章玉乱〔七八八〕 玉照姫、玉照彦は口を揃へて、 玉照姫、玉照彦『英子姫殿、紫の玉を我前に持来られよ』 と宣示された。英子姫は「ハイ」と答へて紫の玉を柳筥に納めた儘、恭しく捧持して二神司の前に奉らむとする時しも、高姫は、 高姫『一寸待つて下さい。又紛失すると大変だから、此玉は日の出神が保管致しておきます』 国依別『コリヤ高、又腹の中へ呑んで了ふ積りだらう。何程日の出神が偉くとも、玉照彦、玉照姫の御命令を反く訳には行くまい。……サア英子姫さま、お二方の御命令です、躊躇逡巡するに及びませぬ。早く献上なさいませ』 高姫『エー又しても又しても、邪魔計り致す男だ。今日只今限り、国依別を除名する』 国依別『エー又しても又しても、玉を呑まうと致す偽日の出神、今日只今より、国治立命、国依別の口を通し、高姫を除名する。ウンウンウン』 高姫『ヘン、おいて貰ひませうかい。何程国依別でも、国治立命様のお懸りなさる筈がありますかい。サア一時も早く国処立ち退きの命となつて帰つて貰ひませう』 玉照姫、高座より声しとやかに、 玉照姫『高姫、国依別両人共、お控へめされ』 国依別『ハハー』 と畏縮して其場に平伏する。高姫、 高姫『エーエ、日の出神の生宮さへあれば良いのに、無用の長物……でもない。何と言うても二つの頭が並んで居るのだから、行りにくいワイ。両頭蛇尾と云つて、善悪両頭使ひの高姫も芝居が巧く打てませぬワイ』 と小声で呟いて居る。 国依別『高姫さま、玉照姫様の御命令もだし難く、貴女の除名を、国依別茲に取消し致します』 高姫は舌をニヨツと噛み出し、あげ面し乍ら、二三遍しやくつて見せ、右の肩を無恰好に突起させ、 高姫『ヘン、……能う仰有いますワイ。日の出神が更めて国依別を外国行と定めるから、喜んでお受けをなさるがよからう』 国依別『お前さまに命令して貰はなくとも、言依別神様、杢助様、国依別は三人世の元となつて、チヤンと外国で仕組がしてあるのだ。七つの玉もお先に海外の或地点に隠してあるのだから、要らぬ御世話で御座います』 高姫『そんなら国依別、お前は早くから三人腹を合せて企んで居つたのだな』 国依別『どうでも宜しいワイ。虚実の程は世界の見えすく日の出神様が御存じの筈だ』 玉照姫『国依別、改めて申し渡すべき事あれば、暫く汝が館に立帰り、命を待たれよ』 国依別『ハハー、承知致しました』 と丁寧に挨拶をなし、終つて、 国依別『ヤア、テールス姫、玉能姫、玉治別、久助、お民さま、竜宮の女王黄竜姫、蜈蚣姫其他一統の方々、高姫、黒姫に対して、充分の防戦をなされませや。此国依別が此場を立去るや否や、そろそろと又吹き出しますからなア』 玉治別『ヤア有難う、あとは我輩が引受ける、安心して帰つて呉れ。さうして言依別様に宜しく申上げて呉れ。……オツト失敗つた、言依別様は最早どつかへ御不在になつた筈だなア』 高姫『今の両人が話振を聞けば、玉治別も同類と見える。お前もトツトとここを退場なされ。日の出神が命令する』 玉治別『高姫さま、大きに憚りさんで御座います。済みませぬが、私の進退は私の自由ですから、余り御親切に構うて下さいますな』 高姫、杢助の方にギヨロリと目を転じ、 高姫『お前さまは総務を辞職した以上は、そんな高い所に何時迄も頑張つて居る権利はありますまい。トツトと御下りめされ。サア是からは、言依別は逐電致すなり、杢助は辞職をするなり、ヤツパリ此八尋殿は高姫が教主となつて行らねばならぬかなア。時節は待たねばならぬものだ』 玉治別『コレハしたり、高姫さま、誰の命令を受けて貴女は教主になるのですか。誰もあなたを教主として尊敬し、且つ服従する者はありますまいぞ』 高姫『コレコレ田吾さま、お黙りなされ。天地開闢の初から系統の身魂、日の出神の生宮が教主になるのは、きまり切つた神界の御経綸だ。それだから日の出神の守護に致すぞよと、お筆先にチヤンと書いてあるのだ。……今までは悪の身魂に結構な高天原をワヤにしられて居たが、世は持切には致させぬぞよ。天晴れ誠の生神が表に現はれて日の出の守護となつたら、今迄上へあがりて偉相に申して居りた御方アフンとする事が出来るぞよ。ビツクリ致して逆トンボリを打たねばならぬぞよ。それを見るのが神は辛いから、耳がたこになる程知らしたが、チツとも聞入れないから是非なき事と諦めて下されよ。決して神を恨めて下さるなよ。我身の心を恨めるより仕様がないぞよ。……と現はれて居りませうがな。誰が何と云つても三五教は日の出神の生宮が表に立たねば、神界の仕組は成就致しませぬぞエ。誠の者が三人あれば立派に立替が成就すると仰有るのだから、イヤな御方は退いて下されよ。誠一つの生粋の水晶玉の大和魂の根本の、地になる日の出神の生宮と竜宮の乙姫の生宮と、高山彦と三人さへあれば、立派に神業は成就致しますワイな。グツグツ申すと帳を切るぞえ』 玉治別『アハヽヽヽ、よう慢心したものだなア。……コレコレ波留彦さま、秋彦さま、お前と私と三人世の元となつて、高姫軍に向つて一つ戦闘を開始したらどうだ』 波留彦『それは至極面白い事でせう。……なア、秋彦さま』 高姫『コレコレ滝、鹿、田吾作、お前達は何程三角同盟を作つても駄目だよ。モウ今日から宣伝使なんか、性に合はないことをスツパリ思ひ切つて、紫姫さまの門掃きになつたり、宇都山郷に往つて芋の赤子を育てたり、ジヤンナの郷へ帰つて土人にオーレンス、サーチライスと持てはやされる方が御互に得策だ。(高姫は逆上の余り滝と友と同うして喋つてゐる)いよいよ日の出神が教主となつた以上は何事も立替だ。今更めて教主より除名するツ』 玉照姫高座より、 玉照姫『三五教の教主は言依別命、神界の御経綸に依りて高砂島へ御渡り遊ばした。又杢助は神界の都合に依り筑紫の島へ出張を命ずる。淡路の島の人子の司東助を以つて三五教の総務に任じ、且つ臨時教主代理を命ずる。高姫、黒姫は特に抜擢して相談役に致す。玉治別、秋彦、友彦、蜈蚣姫、黄竜姫、玉能姫は以前の儘現職に止まるべし』 と宣示し玉うた。 高姫『玉照姫さまもチツと聞えませぬワイ。玉照彦様は何とも仰有らぬに、女のかしましい差し出口。何程結構な身魂でも、此三五教は艮の金神、坤の金神、金勝要神、竜宮の乙姫、日の出神の生魂で開いて行かねばならぬお道、お玉の腹から生れて出た変則的十八ケ月の胎生……言はば天下無類の畸形児ぢやないか。何と仰有つても今度計りは命令を聞きませぬぞ』 玉照姫『汝高姫、四個の麻邇の玉の所在を尋ね、それを持帰りなば、始めて汝を教主に任じ、高山彦、黒姫を左守、右守の神に任ずべし。誠日の出神又玉依姫の身魂なれば、其玉の所在をつきとめ我前に奉れ』 高姫『其お言葉に間違ひはありますまいな。宜しい。言依別と杢助の両人、腹を合せて隠しよつたに、間違ひない。証拠は……これ……此教主の書置き、立派に手に入れてお目にかけます。其代りにこれを持帰つたが最後御約束通り此高姫が教主ですから、満場の皆様もよつく聞いておいて下されや。日の出神の神力をこれから現はしてお目にかける。其時には玉能姫、蜈蚣姫、黄竜姫、玉治別、友彦、テールス姫、久助、お民、佐田彦、波留彦……其他の連中は残らず馘首するから覚悟なさいませ、とはいふものの、玉の所在を知つてる者があれば、そつと此高姫に云つて来い……でもよい。兎に角以心伝心無声霊話でもよいから……』 玉治別、両手を拡げ、体を前後ろにブカブカさせ乍ら、 玉治別『アツハツハヽ、アツハツハヽヽ』 と壇上で妙な身振をして笑ひ出した。 高姫『オイ田吾さま、そろそろ守護神が現はれかけたぢやないか。其態は何ぢやいな。コレコレ皆さま、御覧の通り、日の出神が表になると、皆の身魂が現はれて恥しい事が出来ますぞえ。今の所は言依別や東助さまが表面主権を握つて居る様だが、実際の所は床の間の置物だ。実地誠の権利は日の出神の生宮にあるのだから、取違をなされますなや。日の出神も中々大抵ぢやない。遥々と高砂島や筑紫の島まで行くのは並や大抵ぢや御座らぬ。魚心あれば水心だ。出世をしたい人は誰に拘はらず、我れ一とお働きなされ。お働き次第で日の出神が御出世をさして上げますぞえ』 波留彦一同を見まはし乍ら、 波留彦『皆さま、今高姫の仰有つた通り、手柄のしたい人はお手を上げて下さい……一、二、三……ヤア唯の一人も手を上げる人がありませぬなア』 玉治別『それで当然だよ。地位も財産も名誉も捨てて、一心に神界の為に尽さうと云ふ誠の人計りだから、そんな人欲に捉はれて、三五教へ入信つた者は一人もありませぬワイ。人欲の雲に包まれてるのは高姫さまに黒姫さま、高山彦位なものだなア』 一同手を拍つて「賛成々々」と呼ぶ。 高姫『口と心とサツパリ裏表の体主霊従計りがよつて来て、すました顔して御座るのが見えすいて可笑しう御座いますワイの、オツホヽヽヽ』 高山彦『高姫さま、私は今日限りお暇を頂きまして、竜宮の一つ島へ帰り、元のブランヂーとなつて活動致します。仮令貴女が目的を達して教主になられても、私はあなたの麾下につくのは真平御免ですよ。……黒姫もこれから充分竜宮の乙姫さまを発揮して、日の出神さまと御一緒に御活動なされませ。左様なら……』 と云ひすて、玉照彦、玉照姫の方に向つて丁寧に辞儀をなし、 高山彦『英子姫、五十子姫、梅子姫、初稚姫、其外御一同様、御機嫌よく御神業に御奉仕遊ばされん事を高山彦祈り上げ奉ります。御一同の方々、此高山彦は今日限り高姫様と関係を解き、皆様の前にて公然黒姫に暇を使はします。どうぞ其お心組で高山彦を可愛がつて下さいませ』 玉治別『それでこそ高山彦さまぢや。感心々々』 一同は「万歳」と手をあげて歓呼する。高山彦は、 高山彦『皆さま、左様ならば之より一つ島へ参ります。高姫殿、黒姫殿、さらば……』 と立出でんとする。黒姫は周章て裾をひき止め、 黒姫『マアマア待つて下さんせいな。最前からのあなたの御言葉、残らず承知いたしました。……とは云ふものの情なや、過ぎし逢う夜の睦言を、身にしみじみと片時も、思ひ忘るるひまもなう、年月重ぬる其内に、うつり易いは殿御の心と秋の空、もしや見捨はなさらぬかと、ホンにあらゆる天地の神さまや、竜宮さまに願かけて、案じ暮した甲斐もなう、今日突然離別とは、余りムゴイ御仕打、これが如何して泣かずに居られませうか、オンオン』 とあたりを構はず、皺くちや顔に涙を夕立の如くたらして泣沈む。 玉治別『悔んで帰らぬ互の縁、中をへだつる玉治川。……サアサア高山彦さま、思ひ切りが大切だ。グヅグヅして居ると、又もやシヤツつかれますよ。あとは此玉治別が、全責任を負うて引受けますから、一切構はず勝手にお越し遊ばせ』 高山彦『何分宜しく御頼み申す』 と立出でんとする。 黒姫『高山さまも聞えませぬ。お前と二人の其仲は、昨日や今日の事ではありますまい。私をふりすてて帰のうとは、余り聞えぬ胴欲ぢや。厭なら嫌で、無理に添はうとは言ひませぬ。生田の川の大水を渡つた時の私の正体[※第19巻第3章で黒姫は蛇体に還元して、水が氾濫した川を渡っているが、生田川ではなく白瀬川と呼ばれている。(どちらも由良川の別名と思われる)]、よもや忘れては居りますまいな』 高山彦『一度還元した以上は再び還元出来ぬ大蛇の身魂、もう大丈夫だ。日高川を蛇体になつて渡つた清姫[※平安時代の安珍・清姫伝説で、道成寺に逃げた安珍を追い駆け、清姫は蛇体に変じて日高川を渡ったことを指す。]の様に太平洋を横切つて、高山彦の色男を尋ねて来なさい。地恩の郷の大釣鐘を千代の住家として、高山彦は安逸に余生を送る考へだ。さうすれば極安珍なものだ。何程お前が地団駄ふんで道成寺かうせうじなどといつて、藻掻いた所でモウ駄目だよ。アハヽヽヽ』 と大きく肩をゆすり乍ら悠々として出でて行く。黒姫は夜叉の如く、あと追つかけんと、婆さまに似合はず捩鉢巻をし、裾を太腿の上あたりまで引あげて、大股にドンドンとかけ出しかけた。玉治別は追ひすがつて黒姫の後よりムンヅと許り帯をひつつかんで力に任せ、グツと引戻す。黒姫は金切声を出して、 黒姫『千危一機の此場合、どこの何方か知らねども、必ずとめて下さるな。妾にとつて一生の一大事、アヽ残念や口惜しや、そこ放しや』 と振向く途端に見合す顔と顔、 黒姫『ヤアお前は意地くね悪い田吾作殿、ここは願ぢや、放しておくれ』 玉治別『意地くね悪い田吾作だから放さないのだよ。雪隠の水つき婆うきぢやと人が笑ひますよ。まあチツと気をおちつけなされ。高山さま計りが男ぢやありますまい。男旱魃もない世の中に、コラ又きつう惚たものだなア』 黒姫は、 黒姫『エー放つといて』 と力限りふり放し、群衆の中を無理に押分け人を押倒し、ふみにじり乍ら、尻まで出して一生懸命高山彦の後を追つかけ走り行く。 (大正一一・七・二四旧六・一松村真澄録) |
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69 (1947) |
霊界物語 | 28_卯_台湾物語(日楯と月鉾) | 19 高島丸 | 第一九章高島丸〔八一九〕 三五教の神司変性男子の系統と 日の出神の生宮を唯一の武器とふりかざし 我意を立て貫く高姫は神素盞嗚大神の 公平無私の御心に感謝の涙流しつつ ウラナイ教を解散し股肱と頼む黒姫や 高山彦や魔我彦を伴ひ聖地に立帰り 三五教に帰順して金剛不壊の如意宝珠 紫色の宝玉の其監督を命ぜられ 鼻高々と諸人を眼下に見おろす慢心の 心の鬼に遮られ再び魔道へ逆転し 執着心を再発し玉の在処を探らむと 西や東や北南万里の波濤を乗越えて 力を尽す玉探し聖地を見捨て遠近と 彷徨ふ中に竜宮の天火水地と結びたる 麻邇の宝珠は梅子姫蜈蚣の姫や黄竜姫 テールス姫や友彦の五つの身魂に神業を 占領されて気を苛ち聖地に帰りていろいろと 怒りをもらし駄々を捏ね麻邇の宝珠の監督を おためごかしに命ぜられ八尋の殿に現はれて 高山彦や黒姫と衆人環視の壇上に 玉検めを始めける此時五つの麻邇の玉 紫玉を除く外残りの四つはあら不思議 珍の宝と思ひきや見る価値もなき団子石 何処の誰が何時の間に摺変へたるかと高姫は 口を尖らし目をみはり呆れ居る折言依別の 珍の命が宝玉を抱いて聖地を遁走し 国依別と諸共に高砂島に渡りしと 聞くより高姫気をいらち又もや聖地を立出でて 乗るか反るかの瀬戸の波常彦、春彦諸共に 棚無し舟に身を任せ艪擢を操り荒波を 乗切り乗切り和田中に青く泛べる琉の島 那覇の港に安着し常楠翁の住処なる 槻の大木の洞穴に現はれ来り言依別の 神の命は琉球の玉を手に入れ逸早く 高砂島に渡りしと聞くより心もいら立ちて 再び舟に身を任せ山なす波を乗り切りて 大和田中に浮びたる高砂島に渡らむと 進み行くこそ健気なれ。 高姫は常彦、春彦に舟を操らせ、夜を日に継いで、漸くにしてテルの国の山々仄に霞の如く目に入る地点まで漕ぎ着けた。舟は忽ち暗礁に乗上げ、メキメキと粉砕して了つた。此頃の海面は塩分最も多く、波なき時は海上と雖も、直立して歩むに僅かにこぶらを没する位で、水の抵抗力強く、一里二里位は容易に徒歩にて渡る事を得たのである。併し乍ら、暴風吹き来り、波立つ時は忽ち波に包まれ、生命を失ふ危険があつた。 高姫一行は船を破り、已むを得ず、尻をからげて霞の如く現はれたるテルの国を目当てに海上を徒渉し始めた。俄に風が吹いて来た。そろそろ波は荒れ出した。酷熱の太陽は焼きつく如く照り出した。流石大胆不敵の高姫も、到底此儘にては、高砂島に渡ることは出来ないと、心中不安の念に駆られ、声を限りに天津祝詞を奏上し天の数歌を唱へ、 高姫『国治立大神様、神素盞嗚大神様、玉照彦様、玉照姫様、言依別神様、時置師神様、国依別様、どうぞ、此危難をお助け下さいませ。高姫も只今限り我を折りまして、あなた方の教通り堅く守ります』 と今迄反対側に立つた役員の名まで呼び出して祈願する、其心根余程往生したと見える。常彦、春彦は高姫の此祈りを聞いて、俄に心細くなり、泣き声となつて、 常彦、春彦『惟神霊幸倍坐世』 と蚊の鳴く様に唱へて居る。 折柄波を蹴立てて進み来る高島丸は、三人の波上に漂ひ困難の態を見て、直に船を近寄せ、これを救ひ上げた。高島丸には筑紫の国、竜宮の一つ島などより常世の国に渡らむとする者、殆ど二百人許り乗込んで居た。船長はタルチールと云ふ骨格秀れた大の男であつた。 三人は船長室に招かれて、いろいろと取調べを受けた。 船長『お前は何国の方で、何と云ふお名前で、何国へ何用あつてお出でになるのか、船中の規則として調べておかねばなりませぬ。ハツキリと茲で、国、所、姓名、用向の次第を仰つて下さい』 高姫『ハイ私は自転倒島の中心地、錦の宮の八尋殿に三五教の宣伝使の頭として奉仕する変性男子の系統、日の出神の生宮と世界に有名な高姫で御座います。人民の分際として、神の生宮がどこへ行かうと、行かうまいと、別に取調べる必要はありますまい。神の事は何程賢い人間でも、到底見当の取れぬものですよ』 船長『神様は神様として、吾々は人間としての高姫を監督する必要があるから、其用向を尋ねて置くのだ。キツパリ言つて貰はねば此船に乗つて貰ふことは出来ませぬ』 高姫『それだから人間は困ると云ふのだ。蕪から菜種迄教へて上げねばならぬのかなア。日の出神の生宮が行く所ならば、大抵分りさうなものだのに…………エー仕方がない、秘密を守つて下さるなら申しませう。実の所は三五教の教主言依別命が、国依別のガンガラ者と大切な玉を盗み、高砂島へ逃げて行きよつた。それ故、三千世界の御宝、あの様なドハイカラやガンガラ者に持たせておいては、世が乱れる許り、いつまでも五六七の世は出て来は致さぬから、三千世界の人民を助ける大慈大悲の日の出神の生宮が、其玉を取返さむと、神変不思議の術を使ひ、自転倒島よりはるばると、舟にも乗らず、二人の家来を引き連れ、波の上を渡つて来た生神の高姫で御座る。お前も此高姫の因縁性来が、言うて貰はねば分らぬような事で、如何して船長が勤まりますか。これから此生宮の云ふ事を聞いて、宏大なる神徳を頂きなさい。際限もなき万里の波濤を乗越える船頭としては、チツと神力がないと、大勢の人間の生命を預つて海を渡ると云ふ事は中々荷が重たい。何程人間が力がありたとて、智慧がありたとて、神力には叶はぬから、早く我を折つて改心なさるが宜しいぞや』 船長口を尖らし、 船長『コリヤ高姫とやら、吾々を罪人扱に致し、改心せよとはチツと無礼ではないか。改心と云ふ言葉は、悪人や罪人に対して、審判司の申すべき言葉であるぞよ。汝如きに改心呼ばはりをされる様な汚れたタルチールでは御座らぬぞ。余りな無礼を申すと、了見致さぬ』 と稍怒気を含み、顔色を変へて大声に呶鳴り立てた。 高姫『コレ船頭、お前は高姫の言葉がお気に入りませぬか、腹が立ちますか、神様の御戒めに、怒る勿れと云ふ事が御座いますぞや。怒ると云ふ事は最も神界より見れば重き罪で御座いますぞ。お前は現に今、怒つた顔をして尖つた声を出し、神界の罪を犯した罪人です。それ故改心をなされと高姫が云つたのだよ。ヘン………コレでも返答が出来るならして見なさい。そんな高い声をしておどしたつて、いつかないつかな、ビクつく様な日の出神の生宮とは違ひますぞえ。ヘン……』 と鼻を手の甲でこすり上げ乍ら嘲笑ふ。 船長『コリヤコリヤ其方は此高姫の同行者であらうなア』 両人『ハイ仰せの通りで御座います。何を云つても、高姫さまは、逆上して居りますから、どうぞお気に障へないでゐて下さいませ。吾々両人は側に聞いて居ても、ハラハラ致します。否腹が立つて来ます。況してやあなた様のお腹立は御尤もと存じます』 船長『あゝさうだらう。何でも一通りではないと思つた。余程変つてゐさうだなア』 高姫『ヘン、そりや何を仰有るのだ。変つて居らいで何とせう。日の出神の生宮とガラクタ人間と一緒にしられてたまるものか。凡夫の目から神様を見れば、そりやモウ変つた様に見えるのは当前だ。一通でないなんて、能うマアそんな馬鹿な事が云へたものだ。一通や二通所か、神の階級は百八十一通ある。そして其一番上の大神こそ天御中主大神、又の御名は大国治立尊と云つて、始無く終なく、無限絶対独一の誠の独り神様だ。其次には国治立尊、其次には日の出神、それから段々と枝の神があり、人民は神の次だ。百八十通りも隔てがあるのだよ。さうだからテンデお前達は、此日の出神の申すことが分らぬのだ。人民は人民らしくおとなしく致して神に口答へを致すでないぞや。コレ船長殿、此生宮の申すこと、チツとは御合点が参りましたかなア』 船長『常彦、春彦の両人、お前さまは此女を如何考へてゐますか。随分エライのぼせ方だ。まだ高砂島へは三日や五日では到着するのは六つかしい。海へでも飛び込まれては大変だから、一つ手足をしばり、頭から水でもかけておくか、頭のてつぺんに穴でもあけて、逆さまに吊り下げ、少し血でも抜いてやらねば、此病気は本復致すまい。お前達二人は此船に乗つた以上は、何事も船長の命令をきかねばならないのだから、お前の手で此高姫を縛り上げ、船底へ伴れて往つて呉れ。吾々もついて往つて血を出して逆上を引下げてやるから……』 常彦、春彦は驚いて、 両人『モシモシ船長様、此高姫には吾々両人が附添ひ、決して御迷惑になる様な事は致させませぬから、頭を割つて血を出したり、縛り上げる事丈は何卒許して下さいませ』 船長『…………』 高姫パツと怒り、 高姫『盲の垣覗き、猫に小判とはお前のことだ。此生宮は金鉄も同様、指一本触へることは出来ませぬぞ。勿体ない、日の出神様の生宮を、仮令蚤の口程でも傷つけてみよれ。神の御立腹は忽ち、此船は瞬く間に岩に打つかり沈没致し、日の出神に敵対うた者は海の底へ突落され、真心になつて頼んだ人民は、天から抓み上げて、善悪の立別けをハツキリ致して見せるぞや』 船長『ヤア此奴は如何しても駄目だ。……常彦、春彦、お前は今迄先生と仰いで来たのだから、何程船長の命令でも、高姫を縛る訳には行くまい、師弟の情として無理もない。これから此タルチールが直接に荒料理をしてやるから、お前達両人は、下の船室に控へて居れ』 高姫『コレコレ常、春、日の出神の生宮を、チツとの間も、目放し致すことはならぬぞや。此肉体は、尊き神のお役に立てねばならぬ系統の生宮だ。船長に付くか、日の出神に従くか。サア二つに一つの返答を承りませう』 船長は『エー面倒』と強力に任せ、高姫を後手に縛り、両足を括り、太縄を帆柱にかけ、キリキリと絞り出した。高姫は足を空に頭を下にした儘、チクチク帆柱目がけて吊り上げられた。常、春の両人は地団駄ふんで、ワイワイと泣き叫ぶ。 此船に折よくも乗つてゐた言依別、国依別の宣伝使は慌て此場に走り来り、船長に何事か目配せした。船長は驚いた様な顔して、慇懃に腰を屈め、直に高姫を吊りおろした。常彦、春彦の両人は、余りの事に肝を潰し、此場に言依別、国依別の現はれ来りし事に気がつかなかつた。高姫も亦苦しさに両人の現はれて吾れを助けて呉れたる事をチツとも知らなかつた。 船長のタルチールは、言依別命、国依別の時々の説教を聞き、スツカリと三五教の信者となり、言依別の高弟となつて、既に宣伝使の職名を与へられてゐた。それ故タルチールは言依別命を高砂島へ送り届けると共に、自分は宣伝使となつて、高砂島や常世の国を宣伝すべく決心してゐたのである。さうして高姫の事も略、国依別より聞かされてゐた。 言依別、国依別は手早く船長の寝室の間に姿を隠した。船長も亦言依別命に従ひ、おのが寝室に這入つて、三人鼎座し、高姫話に時を遷した。 (大正一一・八・一〇旧六・一八松村真澄録) |
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霊界物語 | 28_卯_台湾物語(日楯と月鉾) | 22 高砂上陸 | 第二二章高砂上陸〔八二二〕 高姫は大勢の船客の中に只一人、面をふくらして坐つて居たが、余り気分がすぐれぬので、再び見晴らしよき甲板に姿を現はした。そこには常彦、春彦の両人が切りに手をつないで、歌を歌ひ踊り狂うて居る。 高姫は目に角を立て、大きな声で、 高姫『コレ常公、春公、千騎一騎の此場合、何を気楽さうにグヅグヅ踊つて居るのだい。チト確りしなさらぬかい』 常彦『ハーイ、何分五六七の世の末迄勘当を受けたり、勘当をした祝に、空散財をやつて居りますのだ。お前さまもそこで一組、品よう踊つて御覧なさい。随分見晴らしのよい此甲板の上で、ソヨソヨ風を受け乍ら踊つてゐるのは素的滅法界面白いものですよ。アハヽヽヽ』 春彦『高姫さま、そんな六かしい顔をせずに、長い海の上の道中だ。チツとは気楽になりなさい。苦んでくらすのも、喜んでくらすのも、泣くのも怒るのもヤツパリ一日だよ。ヤア面白い面白い、ヤア常彦、サア踊つたり踊つたり』 と又もや無茶苦茶に、妙な手つきし乍ら、ステテコ踊を始め出した。高姫は目に角を立て足ふみならし、 高姫『コレ常公、春公、誰が勘当すると云ひました。決して高姫は申しませぬよ。あれはお前に憑依してゐた副守護神が、妾の口を借つてあんな事を云つたのだ。海洋万里の航海に杖柱と頼むお前達を勘当して如何なるものか。よう考へて御覧なさい』 春彦『何と云つても、こつちは荒男の二人連、お前さまは何程強相な事を云つても、大体が女だから、心淋しくなつて来たので、又そんな事を云つて旧交を温めようとするのだらう。其手には吾々だつて、さう何遍も乗りませぬよ、御生憎さま、 今は他人ぢやホツチツチ一家になつたらかもてんか ウントコドツコイ高姫さまヤツトコドツコイ常彦さま ゴテゴテ云ふと鬼の蕨がお見舞申す頭のてつぺを春彦さま アヽドツコイドツコイドツコイシヨ』 と調子に乗つて踊り狂ひ、春彦は甲板をふみはづし、逆まく波にザンブと許り落込んで了つた。常彦は甲板の上を右に左に真青な顔をして、キリキリと狂ひ廻つた。高姫は、 高姫『コレ常彦、何程キリキリ舞を致しても、此荒波に落ち込んだが最後、到底命は助かりませぬ。諦めなさいよ。それだから、余り慢心をいたすと、先になりてからジリジリもだえを致し、キリキリ舞ひをして騒いでも後の祭り、そこになりてから何程神を祈りたとて、神はモウ知らぬぞよとお筆に書いてありませうがなア。これを見て御改心なされ。日の出神の生宮に腮をはづきなさるから、こんな目に会うのですよ、サアこれから私に絶対服従をなさるか。お気に入らねば又春彦の様に神様に取つて放られますよ』 常彦は耳にもかけず、一生懸命に気をいらち、声を限りに、 常彦『助けてやつてくれーい』 と叫んで居る。船客の一人は長き綱に板片を括りつけ、春彦の波に漂ひ居る方に向つて、ハツシと投げた。春彦は手早く其板に喰ひ付いた。船客は力限りに其綱を引寄せ、漸くにして春彦を船中に救ひ上げた。常彦は大に喜び、直に甲板を下り、春彦を救ひ上げたる船客の側に走り寄り、心の底より涙を流して感謝する。よくよく見れば、其船客は国依別であつた。 常彦『ヤアあなたは国依別さま、よくマア助けてやつて下さいました』 国依別、手を振り乍ら、 国依別『モウチツと小声で言つて下さい。高姫さまの耳に這入ると困るから………サア春彦をお前に任すから、介抱して上げて呉れ。そして高姫に国依別が此船に乗つてゐると云ふ事は云ふでないぞ』 常彦『決して決して、これ丈御世話になつたあなたの御頼み、首が千切れても秘密を守ります。サア早くあなたの居間へ御隠れ下さい。高姫が下りて来て見つかると、又一悶錯が起りますから………』 国依別は怱々に姿を隠した。そこへ高姫がノソリノソリと現はれ来り、矢庭に春彦の横面を三つ四つ打叩き、 高姫『コリヤ春彦、しつかりせぬか。気を確かに持て、日の出神の生宮が綱をかけて助けてやつたぞよ。モウ大丈夫だ』 春彦は波にさらはれ、半死半生の態になつてゐたが、高姫に擲り付けられて、漸く気を取直し、 春彦『ヤア高姫さま、ヨウマアお助け下さいました。オウお前は常彦、エライ御世話になりましたなア』 常彦『ナアニ、俺が助けたのぢやない。あの国イ……ドツコイ国人が俄に綱を投げて、お前を救つて下さつたのだよ』 春彦『其お方はどこに居られるか、命の親の恩人、御礼を申さねばならぬから、一寸知らして呉れ』 常彦『其方はどつかへ姿を御隠しになつた。キツト神様に違ない。神様にお礼を申せば良いのだよ』 高姫『春彦を助けた方は、お姿は見えなくなつただらう。そら其筈よ。日の出神様が人間に姿を現はし、竜宮の乙姫さまが海の底からお手伝ひ遊ばして、高姫の家来だと思つて、春彦を助けて下さつたのだ。甲板の上から此高姫はヂツとして調べて居つた。それに間違ひはあろまいがな。……常彦、それだから、どこまでも此生宮に従うて居りさへすれば、どこへ往つても大安心だと、いつも云うて聞かしてあるぢやないか』 常彦『ヘン、甘い事を仰有りますワイ。春彦を救けて呉れたのは日の出神ぢや有りませぬぞ。国……国……国治立尊様が御眷属を使うて救けて下さつたのだ。日の出神の生宮は神の罰が当つたのだからと云つて、袖手傍観の態を取つてゐ乍ら、日の出神さまと竜宮さまがお助け遊ばしたなどと、甘い事仰有いますワイ。自分の悪い事は皆人にぬりつけ、人の手柄は皆自分の手柄にせうと云ふ、抜目のない高姫さまだから、恐れ入ります。アハヽヽヽ』 春彦『どちらに助けて貰うたのか、テンと訳が分らぬよになつて来た。兎も角どちらでもよい、助けて呉れた神様に、これからは絶対服従をするのだ』 高姫『日の出神に救はれたのだから、其生宮たる高姫にこれからは唯々諾々として、一言の理屈も言はず、仮令水火の中をくぐれと云つても、命の恩人の云ふ事、神妙に聞きなされよ。又慢心して一言でも口答へをするが最後、取つて放かされますで……』 常彦『アハヽヽヽ、どこ迄も高姫式だなア。言依別様や、国依別さまが愛想をつかして、聖地を脱け出しなさつたのも無理はないワい。本当に我の強い悪垂れ婆ぢやなア』 高姫、常彦の胸倉をグツと取り、 高姫『コラ常、云はしておけば際限もない雑言無礼、モウ了見は致さぬぞや』 と喉をギユウギユウとしめつける。数多の船客は総立となつて……乱暴な婆アもあるものだ……と呆れて見てゐる。常彦は苦しき声を絞り乍ら、 常彦『ハヽ春彦、タヽヽヽ助けて呉れ』 と声もきれぎれに叫んだ。春彦は矢庭に高姫の両足をさらへた。高姫はモンドリ打つて、海中にザンブと計り落ち込んだ。 常彦は最前国依別が残しておいた板片に括つた綱を高姫目蒐けてパツと投げた。高姫は手早く板子にすがりついた。春彦、常彦は一生懸命に綱を手ぐり、漸く救ひ上げた。 高姫『アヽ日の出神さま、ようマアお助け下さいました。有難う御座います』 と手を拍つて拝んでゐる。 常彦『コレコレ高姫さま、日の出神ぢやない、吾々両人が此綱を投げて、お前の生命を助けたのだよ』 高姫『ソリヤ何と云ふ大それたことを云ふのだい。人間がすると思うてゐると、量見が違ひますぞえ。皆神からさされてをると云ふお筆を何と心得なさる。日の出神さまが臨時にムサ苦しいお前の肉体を使うて御用をさして下さつたのだ。其日の出神様は直に此高姫の肉体へお鎮まり遊ばして御座るから、此高姫の肉の宮を拝みなさい。アーア神界の事の分らぬ宣伝使は困つた者だ。何から何まで実地教育をしてやらねばならぬとは、此の高姫も骨の折れた事だワイ』 常彦、春彦は余りの事に呆れ果て、両人口をポカンと開けて、 常彦、春彦『アハー』 と頤が外れるような欠伸をしてゐる。 高姫『コレコレそんな大きな口を開けると、頤が外れますぞえ。余りの大きなお仕組で、開いた口がすぼまらず、頤が外れたり、逆様になつて、そこらあたりをのたくらねばならぬぞよと、変性男子のお筆に立派に書いてあるだないか、チト改心なされ。神様の結構な御用をさせられ乍ら、高姫を助けてやつたなぞと、夢にも慢神心を出してはなりませぬぞ。罪の重いお前等二人が沈む所を、此の高姫の肉体を神が使うてまぢなうて下さつたのぢや。高姫を助けたのぢやない。つまり高姫の犠牲的行動に依つて、お前達の海におちて死ぬ所を助けて頂いたのだ。あゝ何と、神界の御仕組は人民では見当の取れぬものだワイ。サア常彦、春彦、是れで改心が出来たでせう。此上は何事も高姫の云ふ通りにするのですよ』 常彦『ヘン』 春彦『ヒン、馬鹿にしてゐるワイ。俺が両足をかつさらへて放り込んでやつたのだ。余り憎らしいから……それに神がしたのだなどと、都合の良い弁解して呉れるワイ。斯う云ふ時には高姫さまの御託宣も満更、無用にはならぬ。ハヽヽヽヽ』 高姫『蛙は口から、とうとう白状しよつたなア。お前が此の生宮の足をさらへて、海へ投げ込んだのだなア。まてまて、懲しめの為制敗してやらう』 と又もや胸倉をグツと取り、締めつけようとする。 常彦『オイ高姫さま、日の出神が憑つたぞよ。お前の両足をさらへて、海の中へ放り込んでやらうか、それが厭なら、胸倉を放してお詫をしたがよからうぞ』 高姫は此の言葉に驚き、胸倉取つた手を放し、面ふくらし乍ら、又もや甲板さして上り行く。船は漸くにしてテルの港に安着した。高姫は衆人を押分け、厚かましく、いの一番に船を飛び出した。春彦、常彦は稍遅れて上陸した。高姫は一生懸命にテルの都を指して走り行く。常彦、春彦の両人は見えつ隠れつ、高姫の後を追うて行く。 船長のタルチールは副船長たる吾子のテルチルに船を与へ、且つ之を船長となし、言依別命、国依別と共に宣伝歌を謡ひ乍ら、高砂島の何処ともなく、進み入つた。惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・一〇旧六・一八松村真澄録) |
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霊界物語 | 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 | 07 牛童丸 | 第七章牛童丸〔八二九〕 高姫は長途の旅を思ひ切つて駆け出し、喉は渇き、身体は疲れ、止むを得ず、路傍の樹蔭に身を横たへ、細谷川に喉をうるほし、蔓苺をむしつて食ひ、一夜をここに明さむと、小声になつて、天津祝詞を奏上しゐたり。 常彦、春彦の二人は十丁計り遅れた儘、一生懸命に身体をはすかひに、余り広からぬテルの街道を南へ南へと走つて行く。里の童が夕暮に牛を川に入れ、其背に跨つて、横笛を吹き乍ら帰つて行く。常彦は一生懸命に吾前に牛の居ることも気がつかず、ドスンと牛の尻に頭突を持つて行つた。牛は驚いて飛び上り、背に乗つてゐた童は忽ち地上に顛落し、ムクムク起上り、牛の綱をグツと握り乍ら、 童児『オイ、どこの奴か知らぬが気をつけぬかい。貴様の目玉は節穴か』 と、小さき童に似ず大胆にも大の男に向つて呶鳴りつけたる。 常彦『これはこれは誠に日の暮の事と云ひ、チツと気が急きましたので、牛の尻餅を突きました。どうぞ御勘弁下さりませ』 童児『コリヤ謝つて事が済むと思ふか。人を牛々云ふ様な目に合はしやがつて、只一言の断り位で此場を逃ようとしても、牛叶はぬぞ。オイ、そこに一寸平太れ!』 常彦『ハイ、そんなら平太りますワ。どうぞこれで勘忍して下さい』 童児『お前計りでは可かぬ。モ一人の蜥蜴のような顔した奴、そいつも坐れ!』 春彦『なんとマア、小つぽけなザマして、大人に向ひ御託をほざく奴だなア。俺は別に突当つたのぢやない。俺迄が謝つてたまるかい』 童児『お前も同類だ。グヅグヅ云ふと牛にケシをかけ突殺してやろか。俺は身体は小つこうても、俺の家来の牛は大分に大きいぞ』 常彦『モ牛モ牛、童児さま、モウいゝ加減に了見して下さいなア』 童児『俺の正体を誰ぢやと思うてるか。それを当たら許してやらう』 常彦『ハイ、確かにお前は牛童丸さまぢや御座いませぬか。高砂島には、えてしては、牛童丸と云ふ神さまが現れて、牛に乗つて横笛を吹いてゐられると云ふことを聞きました』 童児『牛童丸は何神の化神か、知つて居るだらうなア』 常彦『ハイ、知つて居ります。御年村の百姓、自称艮の金神さま……とは違ひますか』 童児『私は百姓の神だ。大歳の神の化身だよ』 春彦『ハアそれで常彦があなたの牛にぶつかり、背中から童児を大歳の神さまですか、アハヽヽヽ。但は小つこいザマして、大きな人間をオウドシの神さまだらう』 童児『お前は春彦と云ふ男だなア、一寸ここへ来い。お前にやりたい物がある』 春彦『ハイ有難う。出すことなら、舌を出すのも、手を出すのも嫌だが、貰ふ事なら、犬の葬連でも、牛の骨でも頂きます』 と子供だと思ひ、からかひ半分に童児の前にすり寄つた。童児は横笛を逆手に持ち、春彦の横面を目蒐けて、牛の背中から、 牛童『大歳の神が横笛を以て、お前の横面を力一杯春彦だよ』 と首がいがむ程叩きつけ、 牛童『モ一つやらうか』 と平然として笑つて居る。 春彦『モウモウ沢山で御座います。随分お前さまは小さい癖に、エライ力だな。これ丈の腕があれば、大の男を捉まへて嘲弄するのも無理はないワイ。それだから神さまが何程小さい者でも侮ることはならぬ、どんな結構な方が化けて御座るか知れぬぞよ……と仰有つたのだ。……オイ常彦、モウいゝ加減にこらへて貰つて、行かうぢやないか』 常彦『さうだな。……モ牛モ牛牛童丸様、そんならこれでお別れ致します』 牛童『待て待て、お前達両人にモ一つ大きな物をやりたいのだ』 春彦『イヤもう結構で御座います。モウあれで沢山で御座います。此上頂きますと、笠の台が飛んで了ひます』 牛童『イヤ心配するな。此牛をお前にやるから、アリナの滝迄乗つて行け。大変に足も草疲れてゐる様だから……。そして高姫はこれから十丁計り南へ行くと、小川がある。其小川を左にとつて十間計りのぼると、そこに高姫が休んで居るから、此牛に乗つて、川をバサバサと上つて行け。左様なら……』 と云ふかと見れば、最早童児の姿は見えなくなり居たり。 常彦『オイ春彦、どうだ。俺が突当つた計りで、こんな結構な乗物を頂戴したぢやないか。サア是れから二人共此牛の背中に跨つて往かうぢやないか』 春彦『お前は結構だが、俺は横笛でなぐられ、痛くて仕方がないワ』 常彦『ナニ、神の恵の鞭だよ。牛童丸様になぐられたのだから、余程貴様も光栄だ。これが高姫にでも撲られたのだつたら、それこそ腹が立つてたまらぬけれど、何しろ神様が、春彦モウ別れるのか、おなぐり惜しいと云つて、お撲り遊ばしたのだよ。サア早く乗らう。牛と見し世ぞ今は恋しき……と云つて、今が一番結構かも知れぬぞ。据膳食はぬは男の中ぢやない。サア早く乗つたり乗つたり』 春彦『コシカ峠の弥次、与太の夢の様に又牛に乗つて、牛の奴から小言をきかされるやうな事はあろまいかな』 常彦『心配するな』 と云ひ乍ら、ヒラリと背に跨つた。春彦は牛の綱を引き乍ら、南へ南へと進み、遂に童児の教へた細谷川を左に取り、川を溯りて、高姫の休んでゐる二三間側まで進み、『オウオウ』……と牛を制し、ヒラリと飛び下り、 春彦『モシモシ牛さま、エライ御苦労で御座いました。モウどうぞお帰り下さいませ』 牛『ウンウンウンウウー』 と山もはぢける様な声を出して唸り立てる。高姫はウツラウツラ夢路を辿つてゐたが、此声に驚いて目を覚まし、巨大の牛の両側に常彦、春彦二人の立つてゐるを見て、 高姫『お前は常、春の二人ぢやないか。何だ、そんな大きな物を引つぱつて来て……又道中で百姓の宝を何々して来たのだらう。どこ迄も泥棒根性は直らぬと見えるワイ。さうぢやから此高姫がお前の様な者を連れて歩くと、神徳がおちると云うたのだよ。エヽ汚らはしい、トツトと帰つて呉れ。ツユーツユーツユー』 と唾を吐き出して、二人にかける真似をする。 常彦『高姫さま、心機一転もそこまで行けば、徹底したものですなア。モウ私はお前さまになんにも言ひませぬ。玉の所在もお前さまの心を見抜いた上で知らしてあげたいと思つてゐたが、さう猫の目のやうにクレクレクレと変るお方は険呑だから、これきり秘密は云ひませぬから、其の積りでゐて下さい』 高姫『オイ常、ソラ何を言ふのだい。大それた日の出神の生宮に向つて、言うてやるの、言うてやらぬのもあるものか。妾が知らぬやうな顔して気を引いて見れば、エラソウに恩に着せて、序文や総論計りを並べ、肝腎の中味は水の中で屁を放いたやうな掴まへ所のないことを云ふのだらう。日の出神様から、玉の所在はチヤンと聞いたのだ。モウお前さまに用はない、一生頼みませぬ。トツトと妾の目にかからぬ所へ往つてお呉れ』 常彦『高姫さま、さう啖呵を切るものぢやありませぬよ。腐り縄にも亦取得と云つて、私にでも頼まねばならぬことが、たつた今出て来ますから、余りエラソウなことは云はぬが宜しからうぜ』 高姫『エヽうるさい』 常彦『そんなら、此牛に乗つて、一口一両の、ア、リ、ナーへお先へ失礼致しますワ。私は途中で牛童丸さまに一伍一什教へられ、お前さまのここに居ることも、チヤンと知らして貰ひ、結構な四足の乗物まで頂戴して来たのだから、一寸も草疲れはせぬ。モウ十日計りアリナーまでかかるけれど、これで乗つて行けば三日計りで行ける。……ぢやお先へ、高姫さま……アバヨ』 又もや牛に跨がらうとする。高姫はコリヤ大変と、慌しく起上り、常彦の腰をグツと引掴み、 高姫『待つたり待つたり常彦、妾が悪かつた。さう腹を立てて下さるな。一寸お前が如何云ふか知らぬと思つて気を曳いて見たのだよ』 常彦『又何時もの筆法ですかな。其手は食ひませぬワ。……サア春彦、お前も乗つて呉れ。……高姫さま、お先へ、如意宝珠、其他の御神宝を頂いて帰ります。アリヨース』 高姫『コレ常公、春公、待てと言つたら、待ちなさつたら如何ぢや、さう高姫を嫌つたものぢやないぜ』 と円い目をワザと細うし、おチヨボ口を作つて機嫌をとる。月夜でスツカリは分らねど、言葉の云ひ方から、スタイルでそれと肯かれた。 高姫『モウ牛は帰つて貰つたら如何です。却て修業にならぬかも知れませぬで』 常彦『アヽさうだなア。そんなら牛さま、モウ帰つて下さい』 牛は常彦の一言に泡の如く其場に消え失せけり。高姫は之れを見て、稍安心の胸を撫で下し、ソロソロ又強いことを言ひかけた。 高姫『何程お前の足が達者でも、私には従いて来られますまい。それだから慢心はなさるなと始終教訓してゐるのだよ』 常彦『又高姫さまは弱味をつけ込んで、そんなことを仰有る。アヽこんな事なら、牛に帰つて貰ふのぢやなかつたに。……モシモシ牛さま、モ一遍こちらへ帰りて下さい。そして牛童丸の仰有つた様に、アリナの滝迄連れて行つて下さいな』 と当途もなく叫んだ。呼べど叫べど梨の礫の何の音沙汰もない。 常彦『アヽ折角牛さまに助けて貰うたと思へば、明日は又砂つぽこりの道を、親譲りの交通機関に油でもかけてテクらねばならぬかいな。……牛と見し世ぞ今は恋しき……と云ふ歌の心が、今は事実となつて来たワイ』 高姫『オツホヽヽヽ、そら御覧、驕る平家は久しからず、……と云つて、何時迄も柳の下に鰌は居りませぬぞや。お前のやうな人を連れてゆくのは手足纏ひだが仕方がない。そんならドツと張込んで、お供を許してあげよう。サアゆつくりと此処で休みなさい』 春彦『そんな事を言つて、俺達がグウグウ休んでる間に、ソツと高姫さまが抜け出し、先へ行つて、玉をスツカリ取つてしまはつしやるのだなからうかな』 常彦『ウン、まさか、そんなこともなさるまいかい。兎も角私の聞いて居るのは又外にあるのぢやから、さう心配したものぢやないワイ』 高姫『お前達はそれだから可かぬと云ふのぢや。心を疑ふといふ事は神界で大変な罪ですよ。疑を晴らして、綺麗さつぱりと改心なされ、改心が出来ねば御供は許しませぬぞや』 常彦『ハイ改心致します』 高姫『春彦もさうだらうな』 春彦『尤も左様で御座います』 斯く話す所へ大杉の枝の梢から何者とも知れず、 声『高姫々々、常彦コツコ、春ヒコツココ』 と梟鳥のような声でなき出した。 高姫うす気味悪くなり、スゴスゴと座を立ちて、元来し道へ逃出した。二人も薄気味悪く高姫の後に従ひ、テルの街道へ出て、三人は一生懸命に南へ南へと眠い目を俄にさまし、トボトボと歩み行く。 草を褥に木株を枕に芭蕉の葉をむしつて夜具に代用し乍ら、七日計りを経て漸く、猿世彦の奇蹟を残した蛸取村の海岸に出た。此時既に日は西山に没し、二日の月は西方の波の上近く浮いた様に見えてゐる。三人は月に向つて合掌し、天津祝詞を奏上し、天の数歌をうたひ乍ら、夜中をも屈せず、アリナの滝を目当にトボトボと進み行く。 (大正一一・八・一一旧六・一九松村真澄録) (昭和一〇・六・七王仁校正) |
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霊界物語 | 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 | 08 高姫慴伏 | 第八章高姫慴伏〔八三〇〕 高姫一行は漸くにしてアリナの滝に着いた。四五人の信者らしき者滝壺の前に赤裸のまま跪いて何事か一生懸命に祈願してゐる。されど轟々たる瀑布の音に聞き取ることは出来なかつた。高姫一行は身を浄め、それより、瀑布の右側を攀登り、漸くにして鏡の池に着いたのは恰度夜明けであつた。群鴉は前後左右に飛交ひ、『カアカア』と潔く鳴いてゐる。 因に云ふ、朝なく烏は最も冴えたる声にて、『カアカア』と鳴く、之を鵲と云ふ、少しく普通の烏よりは矮小である。夕べに鳴くのを之を真の烏と云ふ。夕べの烏は鵲に比べては余程体格も大きく、どこともなしに下品な所があり、鳴声は『ガアガア』と濁つて居る。又百人一首の歌に……鵲の渡せる橋におく霜の白きを見れば夜ぞ更けにける……とある鵲の橋は大極殿の階段を指したものである。カと云ふ言霊は輝き照る意、ササギは幸ひと云ふ意義である。天津日継天皇様の御昇降遊ばす、行幸橋と云ふ意味である。又帝陵をみささぎと云ふのは、水幸はふと云ふ意味であつて、神霊の脱出し給ひたる肉体は即ち水である。それ故、崩御して行幸遊ばす所を御陵と云ふのである。鵲のカは火の意義であり御陵のミは水の意義である。今鳴いた烏は即ち鵲の声であつた。 鏡の池の傍には狭依彦命の神霊が新しき宮を立てて斎られてあつた。さうして、岩窟の前方左側の方に鏡の池に向つて、竜国別等の住まつてゐた庵が残つてゐる。そこには国、玉の両人が鏡の池の番を兼ね、狭依彦神社の奉仕にかかつて居た。諸方より献上したる種々の玉石や瑪瑙などの玉は山の如くに積み重ねられてある。少しく上の方には例の懸橋の御殿が新造され、木の香香ばしく、あたりに漂ひゐたり。 高姫は鏡の池に向ひ、拍手し乍ら、うづ高くつまれたる種々の玉に早くも目をつけ、如意宝珠、麻邇の宝玉などはなきかと、隼の如き眼を光らせ乍ら眺め入つた。鏡の池は俄に永年の沈黙を破つて、 声『ブクブクブク、ウンウンウン』 と唸り出した。国、玉の神司は顔色を変へて、懸橋御殿へ国玉依別の神司の前に報告の為に走つて行く。池の中より、 声『アヽヽ、綾の聖地をあとにして、玉の所在を尋ねむと、執着心の魔につかれ、ここまで出て来たうろたへ宣伝使。 イヽヽ、意久地なしの常彦、春彦を力と致し、海原を渡り、漸うここまでやつて来た意地悪同志の三人連のイカサマ宣伝使。 ウヽヽ、うろたへ騒いで南洋諸島はまだ愚、高砂島まで、小さき意地と欲とに絡まれて、ド迷ひ来る高姫のデモ宣伝使。 エヽヽ、遠慮会釈もなく人の門戸を叩き、沓島の鍵を盗み出し、如意宝珠の玉を呑み込み、ウラナイ教を立てて三五教の瑞の御霊に刃向ひたる没分暁漢の宣伝使。 オヽヽ、大江山の山麓魔窟ケ原に土窟を作り、又庵を結び、庵の火事を起してうろたへ騒いだ肝の小さい、口許り立派なデモ宣伝使。 カヽヽ、烏の鳴かぬ日があつても、玉に執着心の離れた日のない執念深き、高、黒、二人の宣伝使。 キヽヽ、鬼城山の木常姫の再来、金毛九尾の悪狐に憑依された外面如菩薩、内心如夜叉のイカサマ宣伝使。 クヽヽ、国依別の偽天狗に誑かされ、三人連にて竹生島迄玉捜しに参り、よい恥を曬して、スゴスゴ聖地へ帰つて来た高、黒、宣伝使。 ケヽヽ、見当の取れぬ仕組ぢやと申して、行つまる度に逃げを張るズルイ宣伝使。 コヽヽ、小面憎い程自我心の強い、困り者の宣伝使。今日限り直日の身魂に立帰り、我を折らねば、其方の思惑は何時になつても成就致さぬのみか、万劫末代の恥を曬さねばならぬぞよ』 高姫『あゝゝ、何れの水神さまか知りませぬが、こう見えても私は日の出神の生宮、水神さま位に御意見を受けるやうな高姫とは一寸違ひますワイ。 いゝゝ、意見がましい事を云つて威張らうと思つても、いつかないつかな其様なイカサマ宣示はいつになつても、聞きませぬぞや。 うゝゝ、うさんな声を出して、ウヨウヨと水の中から泡を吹くよりも、天晴れと正体を現はして言ひなされ。日の出神が審神をして、善か悪かを調べて改心さして上げませうぞや。 えゝゝ、得体の知れぬ神の云ふ事は、高姫の耳には這入りませぬぞや。 おゝゝ、鬼でも蛇でも悪魔でも、誠一つの生粋の大和魂で改心させる此高姫で厶いますぞ。余り見違をして下さるなや。 かゝゝ、かけ構へのないことを、傍から干渉して貰ふと癇癪玉が破裂致しますぞ。 きゝゝ、鬼城山だの、金毛九尾だのと何を証拠に、そんな悪口雑言を仰有るのです。 くゝゝ、苦労なしのヤクザ神では誠のお仕組は分りませぬぞや。 けゝゝ、気もない間から世界の事を神、仏事、人民に説いてきかす変性男子の系統の生宮で御座いますぞ。見当違ひをして下さるな。 こゝゝ、ここまで言うたら、お前も曲津か何か知らねど、チツとは合点がいつたでせう。今後はこんな馬鹿な真似はなさらぬが宜しいぞや』 池の中より、 声『サヽヽ、逆理窟計りこねまはす、探女醜女の宣伝使、サアサア今日よりサツパリと了見を直し、月照彦神の命令を奉ずるか、さなくば其方の職名を剥奪せうか』 高姫『さゝゝ、何ぼなつと、勝手に喋つておきなされ。審神の随一と聞えたる此高姫、指一本さへる者は、神々にも人民にも御座いませぬぞえ』 池の中より、 声『シヽヽ、渋とい執着心のどこ迄も取れぬ、負けぬ気の強い女だのう。何程言うても、其方の耳は死人も同様だ。叱つてもたらしても、どうにも斯うにも仕様のない厄介者だ』 高姫『しゝゝ、知りませぬワイナ。お前こそしぶといぢやないか。これ丈誠一筋の神の生宮が分らぬやうなことで、エラソウに知つた顔をなさるな。百八十一通りの神様の階級の中でも、第三番目の日の出神の生宮で御座いますぞ。お前さまは百八十段以下の神様だから、こんな池の底に何時までもひつ込んで……ヘン月照彦なんて、愛想が尽きますワイ。大方運がつきてる彦だろ。オホヽヽヽ』 池の中より、 声『スヽヽ、すつたもんだと理窟計りこねまはし、そこら中を飛まはり、法螺をふきまはし、玉に現を抜かす、玉抜宣伝使。チツと胸に手を当てて考へたらどうだ』 高姫『すゝゝ、好かんたらしい。いい加減に水の中で庇こいたやうな事を云うておきなさい。こつちの方から愛想が月照彦だ。何程月がエロウても日の出神の日に叶ふまい。日は表、月は裏ぢやぞえ。そんな事を云ふのなら、モツト外の没分暁漢の人民に言つたが宜しい。酸いも甘いも透きとほつた程知りぬいた高姫に向つて言ふのは、チツと天地が逆さまになつて居る様なものですよ』 常彦『コレコレ高姫さま、余りぢやありませぬか。神様に向つて何と云ふ御無礼な事を仰有るのです。チツと心得なさい』 高姫『エーお前は常か、こんな所へ口嘴を出すとこぢやない。すつ込んで居なさい』 池の中より、 声『セヽヽ、先生顔を致して、何時もエラソウに申して居るが、牛童丸の牛に乗つて、常彦、春彦がアリナの滝へ先へ参ると申した時には、随分せつなかつたであらうのう。せんぐりせんぐり屁理窟を並べて、ようマア良心に恥しいとは思はぬか。雪隠虫の高上がり奴』 高姫『せゝゝ、精出して、何なつと仰有れ。そんな事聞いて居る様な暇人ぢや御座いませぬワイ。三千世界の立替立直しの御神業に対し、千騎一騎の此場合、チツト改心して、お前さまも池の底にカブリ付いて居らずに、私の尻へついて、世界の為に活動なさつたらどうだ。神、仏事、人民、餓鬼、虫ケラまで助ける神だぞえ』 池の中より、 声『ソヽヽ、そんな事は其方に聞かいでも、よく分つて居る。どこ迄も改心を致さねば神は止むを得ず、そぐり立ててツツボへ落してやらうか』 高姫『そゝゝ、ソリヤ何を吐すのだ。うるささを怺へて相手になつて居れば、どこ迄も伸し上つて、粗相な事を申す厄雑神、大方池の中に居る神だから、ドン亀か、スツポンがめ、ズ蟹の劫経た奴だろ。其奴が神の真似して、昔の月照彦さまの芝居をしてをるのだろ。グヅグヅ申すと此団子石を池の中へ放り込んでやらうか』 池の中より、 声『タヽヽ、玉盗みの高姫、又玉を隠されて、玉騒ぎを致す魂抜女、其方の尋ねる玉は自転倒島の中心地に隠してあるぞえ。其方が改心さへ致せば麻邇の玉の所在が知らして貰へるのだが、まだ中々其方へ教へてやる所へは行かぬワイ。早く魂を研いて改心を致せよ』 高姫『たゝゝ、叩くな叩くな頬桁を、高天原の神司、誰が何と云つても、日の出神の生宮に楯つかうと思うても駄目だから、お前こそ改心を致し、高姫の申す事を神妙に聞きなされ。玉の所在は自転倒島の中心にあるなんて、……ヘン知らぬ者の半分も知らぬ癖に、何を云ふのだ。此んな池の中にすつ込んでゐるスツポンのお化に、そんな事が分つて堪るものかい』 池の中より、 声『チヽヽ、血筋だ系統だと申して、それを鼻にかけ、威張りちらすものだから、お山の大将おれ一人式だ。誰一人として其方の力になる者は一人もあるまいがな。 ツヽヽ、月照彦神が申す事、心の波を静めてよつく承はれ。其方の心の海の波さへ静まらば、真如の月は皎々として、心の空に照りわたり、玉の所在位は一目に見え透き、天晴れ神界の御用が出来るやうになるのだ。 テヽヽ、天狗の様に鼻許り高くして、天狗の鼻の高姫と皆の者が譏つてゐるが、気がつかぬか。天地の道理をチツとは弁へて見よ。 トヽヽ、トボケ面して遠い国迄玉捜しにウロツキ廻り、何時も失敗計り致して居るではないか』 高姫『ちちち、近くの者より遠くから分りてくる仕組だ。燈台下暗がりと云ふことを、お前さまは井中の蛙……ではない…スツポンだから、世間が分らぬので、そんな時代遅れのことを云ふのだよ。 つゝゝ、月並式のそんな屁理窟を並べたつて、聞くやうな者は広い世界に一人もありませぬぞえ。 てゝゝ、テンで物にならぬ天地顛倒のお前の世迷言。 とゝゝ、トンボリ返りを打たねばならぬことが出て来ますぞや。チト日の出神の御託宣を聞きなさい。途方もない訳の分らぬ、トツボケ神だな』 池の中より、 声『ナヽヽ、男子の系統を楯に取り、何でもかでも無理を押し通し、人に難題を吹つかけ、何遍も何遍も人に生命を助けられて、反対に不足を申す難錯者。 ニヽヽ、西東北南と駆まはり、憎まれ口の限りを尽し、二進も三進もゆかぬ様になつては改心を標榜し、又しても執着心の悪魔に縛られて、悪に逆転し、 ヌヽヽ、糠喜びばかり致して、一度も満足に思惑の立つた事はあるまいがな。 ネヽヽ、年が年中、日の出神の生宮を楯に取り、ねぢけ曲つた小理窟を云うて、人を困らす奸佞邪智の其方の行方。 ノヽヽ、野天狗に脅かされ、安眠も能うせず、テル街道をスタスタと痛い足を引ずつてここまで出て来た口の大きい、肝の小さいデモ宣伝使。 ハヽヽ、早く改心致さぬと、誰も相手がなくなるぞよ。 ヒヽヽ、日の出神の生宮も、世界の人民がウンザリして居るぞよ。モウそんな黴の生えたコケおどしは使はぬが能からう。 フヽヽ、古臭つた文句を百万ダラ並べて新しがつてゐる其方の心根が愛しいワイ。 ヘヽヽ、下手に魔誤付くと命がなくなるぞよ。 ホヽヽ、時鳥喉から血を吐きもつて、国治立命は其方の慢心を朝夕直したいと思つて御苦労を遊ばして御座るぞよ。 マヽヽ、曲津の容物となつて居乍ら、誠の日の出神ぢやと思うて見たり、時には疑つて見たりし乍ら、どこ迄も日の出神でつつぱらうと致す横着者。 ミヽヽ、蚯蚓の這うた様な文字を列ねて、長たらしい日の出神の筆先だと申して、紙食ひ虫の墨泥棒をいたし、世界の経済界を紊す身の程知らず奴。 ムヽヽ、昔の昔の去る昔、まだも昔のその昔、ま一つ昔のまだ昔、大先祖の根本の、誠一つの生粋の大和魂の御種、変性男子の系統、日の出神の生宮とは、能うも云へたものぢやぞよ。 メヽヽ、冥土の鬼迄が愛想をつかし、腹を抱へて、其方の脱線振りを笑つてゐるぞよ。 モヽヽ、百千万の身魂の借銭を、日日毎日つみ重ね、地獄行きの用意許り致してをる其方、今の間に神の申すことを聞いて、心を洗ひ替へ立直さぬと、未来が恐ろしいぞよ。 ヤヽヽ、ヤツサモツサと朝から晩迄、騒ぎまはり、 イヽヽ、意久地を立通し、威張り散らし、己一了見で教主の意見も聞かず、可愛相に黒姫や鷹依姫、竜国別、テーリスタン、カーリンスに対し、国外に放逐致した横暴極まる其方の行方。 ユヽヽ、雪と墨と程違つてゐる瑞の御霊を、酢につけ味噌につけ悪く申し、自分の勢力を植付けようと致す横着者。 エヽヽ、エライ慢心を致したものぢやのう。 ヨヽヽ、世の中に吾程エライ者はない様に申して独り燥いでも、世の中は割とは広いぞよ。お前の云ふやうな事は二十世紀の豆人間の没分暁漢の中には、一人や二人は一度や二度は聞いて呉れるであらうが、四五遍聞くと、誰も彼れも内兜をみすかし、愛想をつかして逃げて了うぞよ。 ラヽヽ、楽な道へ行きよると道がテンと行き当つて、後戻りを致さねばならぬ変性女子の行方を見よれ、人の苦労で徳を取らうと致し、楽な方を行きよるから、あの通りだと、自分が後から潰しに廻つておいては、愉快相にふれ歩く、悪垂れ婆の宣伝使。 リヽヽ、悧巧相な事ばかり申して居るが、テンで理窟にも何にも、お前の云ふ事はなつて居らぬぢやないか。 ルヽヽ、留守の家へ剛情ばつて押入らうとし、生田の森に玉能姫に剣突をくわされて往生致したヘボ宣伝使。 レヽヽ、連木で腹を切れと云ふやうな、脅し文句を並べて信者を引込まうと致しても、そんな事を食ふやうな馬鹿者は此広い世界に只の一人もありはせぬぞよ。 ロヽヽ、碌でもない真似をするよりも、一時も早く聖地へ立帰り、改心致して神妙に神の御用を致すがよからう。 ワヽヽ、分り切つたる団子理窟を並べて、人を煙に巻く ヰヽヽ、イカサマ宣伝使。そこら中を ウヽヽ、ウロつき廻つて、いつも糞をたれ ヱヽヽ、枝の神と知らずに、根本の日の出神ぢやと誤解を致し ヲヽヽ、おめも恐れも致さず、世界を股にかけて、法螺吹きまはる、ガラクタ宣伝使、口の悪い神ぢやと申すであらうが、昔からスツポンに尻を抜かれた様だと云ふ事があらうがな。其方が池の底のスツポンと認めた此方が、其方が悪事の一切をスツポ抜いてやりたぞよ。ウヽヽ、ブルブルブルブル』 高姫『なゝゝ、何でも碌な奴ぢやないと思うて居つたら、とうとう鼈ぢやと白状致しよつた。 にゝゝ、二人の家来共、此高姫の眼力を見て感心したであらうなア。 ぬゝゝ、抜かつた面付では到底こんな時に出会したら、到底審神は出来ませぬぞえ。 ねゝゝ、熱心にお筆先を研究なさいと云ふのは、斯う云ふ時に間に合す為ぢやぞえ。常公、春公、どうだえ、分つたかなア。 のゝゝ、野天狗の生宮に仕られておつてはサツパリ駄目ですよ。 はゝゝ、早く改心致して、高姫の云ふ通りにしなさいや。 ひゝゝ、日の出神の生宮に間違ひないぞえ。 ふゝゝ、不足があるなら、何ぼなつと仰有れ、どんな事でも説き聞かして、得心さして上げる。 へゝゝ、返答は如何だえ、常公、春公。 ほゝゝ、呆け面して何うつそりして居るのだ。池の底のスツポン神がそれ程恐ろしいのかい。 まゝゝ、まさかの時の杖となり、力となるのは誠信仰の力ぢやぞえ。 みゝゝ、身欲信心計り致して居ると、肝腎の時になりて、アフンと致さねばならぬぞえ。 むゝゝ、昔からの根本の因縁を知つた者は、此広い世界に高姫丈よりないのだから、今日からスツパリと心を立直して、絶対に服従するのだよ。 めゝゝ、めつたに神は嘘は申さぬぞえ。これが違うたら、神は此世に居らぬぞえ。世の変り目、世界の事を人民に説いてきかさねばならぬから、此高姫は昔からの尊い因縁があつて筆先を書かせ、口で言はせ、人民を改心さす役に、神がお使ひ遊ばして御座るのだ。しつかり聞いておきなされや。 メヽヽ、目から鼻迄つきぬけるやうな、先の見えすく神の生宮、メツタに間違はありませぬぞえ。 もゝゝ、盲碌神を誠の神と信じて盲従して居ると、取返しのならぬ事が出来ますぞえ。 やゝゝ、大和魂の生粋の身魂の申す事に一事でも横槍を入れて見よれ、其場で見せしめを致すとお筆に現はれて居るぞえ。 ゐゝゝ、幾ら云ひ聞かしても、生れ付の魂が悪いのだから、云ひごたへがないけれど、云ふは云はぬにいやまさる。お前が可愛相だから、チツト計り改心の為に言うておくぞえ。 ゆゝゝ、幽霊のやうにあちらへブラブラ、此方へブラブラと能う気の変る、落つかぬ身魂では到底三千世界の御神業の一端に加へて貰ふ事は六かしいから、余程腹帯をしつかりしめなされ。 ゑゝゝ、えぐたらしい、高姫の言葉と思はずに、大慈大悲の大神様の救ひの言葉だと有難く思つて戴きなさい。 よゝゝ、余程お前は身魂が曇つて居るから、一寸やソツとに研きかけが致さぬので、此高姫も骨が折れるぞえ。 らゝゝ、楽の方へ行かうとお前はするから、牛童丸とやらに気を引かれて、牛に乗せられたのだよ。 りゝゝ、理窟云ふのは今日限り止めなされや。これ丈、神力を受けた能弁家の高姫に対しては、何と云うても駄目だからなア。 るゝゝ、累卵の如く危くなつた此暗雲の世の中を、万劫末代潰れぬ松の世に立直さねばならぬ神界の御用だから、並や大抵の艱難や苦労では勤め上りませぬぞえ。 れゝゝ、蓮華の花はあの汚い泥の中から、パツと一度に開いて、香ばしい香を現はすぢやないか。それに能く似た身魂は誰ぢやと思うて居なさる。 ろゝゝ、論より証拠、池の中のスツポン神でもへこました、此高姫さまの事ぢやぞえ。 わゝゝ、吾身良かれの信心許り致して居ると、神の御きかんに叶はぬ事が出来て、ジリジリ舞を致して逆トンボリを打たねばならぬ事が出来るから、早く改心なされよ。 ゐゝゝ、威張りちらして、意地くね悪く、国依別から玉の所在をきかして貰ひ乍ら、いつ迄もイチヤイチヤと申して、日の出神に報告せぬ様ないけ好かない、奴根性は綺麗サツパリと立直して、これから素直に白状するのだぞえ。 うゝゝ、売言葉に買言葉と云ふ様に、此高姫が一口お気に入らぬ事を申せば、すぐに何だかんだと小理窟を申すが、これから其態度をスツクリと改めなされや。 ゑゝゝ、偉相に云ふぢやなけれど、誰が何と云つても、ヤツパリ日の出神の生宮に楯つく者は、此広い世界に一人もなからうがな。 をゝゝ、お前も、今日が善になるか、悪になるかの境目だ。善になりたければ、国依別から聞かして貰つた玉の所在をチヤツと言ひなされ。渋とう致すと万劫末代帳面につけておきますぞえ。常彦はこれこれの事を致し、神に叛いた悪人だと、日の出神の筆先に末代書残しますぞや』 常彦『アハヽヽヽ、黙つて聞いて居れば、随分あなたも池の中の神の真似が上手ですな。とうとう五十音を並べなさつた。それ程の頬桁を持つて居れば、世界中に阿呆らしうて、一人も楯突く者はありませぬワ。ウツフヽヽヽ、……のう春彦、お前も感心しただらうのう』 春彦『イヤもう、ズツトズツト感心しました。ホンに能うまはる口車だなア。……時に高姫さま、これ丈沢山のお玉がつみ上げてあるのに、目的の御宝はないやうですな』 高姫『ここはホンの露店だから、どうで良い物はこんな所に雨曬しにしてあるものか。キツと懸橋御殿の中に隠してあるにきまつてゐる。これから高姫が懸橋御殿へ行つて取調べて来るのだ』 池の中より、 『ブクブクブクブク』 と泡立ち上り、大きな声で、 声『アツハヽヽ、阿呆らしい、そんな物があつてたまるかい。 イヒヽヽ、何時までも何時までも執念深い婆アだなア。 ウフヽヽ、うるさい婆アだ。モウいゝ加減に此処を立退かぬか』 高姫『エー、やかましいワイナ。スツポンはスツポンらしくスツ込んでゐなさい。オヽヽお前達の嘴を容れる所ぢやありませぬぞえ』 常彦『モシモシ高姫さま、いゝ加減にしておきなさらぬかいな。神様に怒られたら仕方がありませぬで』 高姫『怒る勿れと云ふ神界の律法がチヤンとありますワイナ。ここで怒る様な神なら、それこそ悪神ですよ』 常彦『さうすると、貴女はヤツパリ、悪神ですか』 高姫は目を釣り上げ面をふくらし、 高姫『コレ、常彦、何と云ふ事を仰有る。私がどこが悪神だ。モウ了見しませぬぞえ』 と胸倉をグツと掴む。 常彦『それだから悪神ぢやと云ふのですよ。直に怒るぢやありませぬか』 高姫『私がどこに怒りました。チート体を急に動かしたり、声を高うした丈の事ぢやありませぬか。これでもお前の目から見ると怒つたやうに見えますかな』 春彦『アハヽヽヽ』 高姫『コレ春彦、何が可笑しいのだ。チト心得なされ』 春彦『アハヽヽヽ、イヒヽヽヽ、ウフヽヽヽ、エヘヽヽヽ、オホヽヽヽ、怒つた怒つた。面白い面白い。恐ろしい御立腹だ』 高姫『コレ春彦、シツカリしなさらぬかいな。池の底のスツポン神の世迷言が伝染しかけましたよ』 春彦『タヽヽヽヽ、高姫さまの世迷言が、チヽヽチツと計り伝染致しました、ウフヽヽヽ』 斯かる所へ、国、玉の両人は国玉依別の神司を守りつつ、此場に現はれた。 国玉依別『お前さまは何処の方か知りませぬが、此鏡の池へお参りになるのならば、一応懸橋御殿に伺つた上の事にして下さらぬと、池の底の神様が、大変に御立腹遊ばしては困りますから、チト心得て下されや』 高姫『お前は懸橋御殿とやらの神司だと、今仰有つたが、此池の底の神が、それ程恐ろしいのかい。此奴アお前、偉相に月照彦神だなんて言つて居るが、池の底の劫を経たスツポンのお化けだよ。いゝ加減に迷信しておきなさい。これから懸橋御殿へ行つて、天地の道理を、昔の根本から説いて聞かして上げませうぞ。コレ御覧なさい。今此石を一つ池の底へぶち込んで見ませうか。キツとスツポンが浮上つて来ますよ』 国玉依『何んと云ふ乱暴なことを、お前さまは宣伝使であり乍ら言ふのですか。チツと御無礼ではありませぬか』 高姫『マア論より証拠だ。御覧なさい』 と言ひ乍ら、堆く積みあげたる玉の形したる石を右手に握り、ドブンと計り投げ込んだ。忽ち池の底より烈しき唸り声、大地は大地震の如く震ひ出し、高姫は真青な顔になり、ビリビリと慄ひ乍ら、叶はぬ時の神頼みと云つた様に、一生懸命に両手を合せ、其場に平太張つて了つた。国玉依別を始め、国、玉の従者並に常彦、春彦は平気の平左で、此音響を音楽を聞く様な心持で、愉快気に両手を合し感謝し居たり。高姫は益々慄ひ出し、歯を喰ひ締め、歯の間から赤い血をにじり出し、慄ひ戦き居たりける。 (大正一一・八・一一旧六・一九松村真澄録) (昭和一〇・六・八王仁校正) |
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霊界物語 | 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 | 10 国治の国 | 第一〇章国治の国〔八三二〕 高姫は一同の不思議さうな顔をして高姫を見つめ居るに、何となく気分面白からず、又もやソロソロ憎まれ口を叩き出した。 高姫『あのマア折角言依別や国依別と腹を合せ、ウマウマとこんな御殿を造りて、三千世界のお宝を隠し、よもや高姫はこんな所迄、後追ひかけて来る筈はないと安心をして厶つたのに、梟鳥が夜食に外れたやうな、皆さまのあのむつかしい顔ワイの。ホヽヽヽヽ、……悪は一旦は思惑が立つやうなけれど、九分九厘まで行つた所でクレンと返してやるぞよと、変性男子のお筆先に出てゐませうがな。善は苦労が永くて分るのが遅いけれど、分りて来たら、万劫末代しほれぬ花が咲くぞよと、変性男子のお筆先に出て居りますぞえ。チツト四股を入れてお筆先をいただきなさい。何程われ程偉い者はない、甘く高姫を瞞してやつた、ここに納めておけば、堅城鉄壁と思うて居つても、神様は遠近、明暗、広狭の区別なく、一目に見すかして御座るから、到底悪の企みは長続きは致しませぬぞえ。素直に改心するのが、お主のお得策だ。サア、早く玉番さま、素直にお出しなされ。素直にさへすれば、どう云ふ深い罪科でも、大慈大悲の神様がお赦し下さいますぞや』 国玉依別『これはこれは存じもよらぬ迷惑で御座る。私はヒルの国テーナの里の酋長アール、アルナと云ふ夫婦者で御座いまして、祖先代々三五教の教を信じ、朝夕に神様のお給仕を致して居る者で御座いました。所が鏡の池に月照彦神さまが再び現はれ玉うて、玉を献じたき者は、一日も早く持来れよと御宣示あらせられると聞き、先祖代々より大切に保護致して居つた黄金の玉を献上せむと、鏡の池へ来て見れば、竜国別と云ふ審神者様や、テーリスタン、カーリンスと云ふお側付、それに又月照彦神様は勿体ない、お婆アさまの姿となり、現はれ玉うて、吾々夫婦に尊き名を賜はり、それより朝夕神のお道を宣伝致し、遂には信者の真心に依つて、かような立派な御殿迄出来上り、吾々は朝夕に真心をこめて神前にお仕へいたしてをる者で御座います。玉と申せば鏡の池の傍に積み重ねてあるもの許り、そして吾々の献つた黄金の玉は竜国別様がお持帰りになり、其代りに瑪瑙の玉を御神体とし、此御神殿に祀つて御座います。金剛不壊の如意宝珠とか麻邇の玉とかは、此処に祭つてをりませぬ。又私共は拝んだこともありませぬ。もし其玉をお捜しならば、外をお捜し下さい。ここには決して決して左様な玉は一個もありませぬ』 高姫『何、竜国別が黄金の玉を持つて帰つたとは、ソラ何時のこつて御座いますか。そして、テー、カー、の両人が従いて来て居りましたかなア。お前の目に婆アの生神と見えたのは、そりやキツと竜国別の母親で鷹依姫と云ふ身魂の大変に悪い婆ですよ。ヨウお前も騙されたものだなア。オツホヽヽヽ』 国玉依別『鰯の頭も信心からと申しまして、何程だまされても、神徳さへ立てば結構で御座います。私の様な者は一通や二通で神界へ入れて貰ふことは出来ませぬから、いろいろと神様が人の手をかり、口をかつて導いて下さつたのだと、朝夕神様に感謝いたしてをります。併し乍ら鷹依姫さまは悪人かは知りませぬが、こう申してはすみませぬが、お前さまに比ぶれば、幾層倍と知れぬ人格の高いお婆アさまでした。あの人ならば、私は月照彦神だと仰有つても誰一人疑ふ者はありませぬ。お前さまは何程日の出神の生宮だと自家広告をなさつても、私のやうな素人の目より見れば、如何しても金毛九尾の容物とより見えませぬ。すべて縁は合縁奇縁と申しまして、虫の好く方と虫の好かぬものと御座います。アハヽヽヽ』 と円滑な辞令を以て、高姫を罵倒して居る。 高姫『ヘン、あなたのお目は偉いものですな。悪魔は光明を忌み、悪人は善人を嫌ふとやら、世の中はようしたものだ。……お前嫌でも又好く人が、なけりや私の身が立たぬ、捨てる神があれば、拾ふ神もある。お気に入らねばモウ日の出神は居つてやりませぬぞえ』 国玉『ハイどうぞお願ひで御座います。一時も早く居つてやらぬ様になさつて下さいませ。御願致します』 高姫『ナニ、お前は変性男子の系統の此高姫を追ひ出さうと云ふのかい。此懸橋御殿は三五教の神様の物、三五教の大神様は国治立命様、変性男子と現はれて、世界の御守護を遊ばす、其系統の高姫を追ひ出さうとは、ソリヤ又、何と云ふ心得違だ。左様な量見では三五教の取次は許すことは出来ませぬ。今日限り系統の生宮が免職を言ひつけます。サアトツトと早く、三五教の神の館を、夫婦共立退いて下さい。これから高姫がここに居すわり、そして、立派に立派に日の出神の神力を現はし、三千世界の大立替大立直しを致しますぞ。訳の分らぬガラクタ役員が沢山居ると、足手纏ひになつて御神業がはかどりませぬ。誠の分りた者が、三人ありたら、神の仕組は立派に成就致すもので御座いますぞや』 国玉『誠の分つた方は、モウ三人揃ひましたか』 高姫『確に揃ひました』 国玉『其お方の御名は何と申しますか』 高姫『変性男子の系統が一人、日の出神の生宮が一人、三五教の神司高姫が一人、三位一体の世の元の大神の御用を致す、三人世の元、結構な結構な神柱さへあれば、ガラクタ神は一人も居なくても、宜しいわいな。ホヽヽヽヽ……余り盲聾の世の中で、神も骨が折れますワイ』 国玉依別は高姫の勝手気儘な議論に愛想をつかし、こんな連中に掛り合つてゐては、却て馬鹿を見なくてはならない、又国、玉、竜、別、依などの幹部に対しても、信用を落す訳だと、玉竜姫を伴ひ、 国玉『高姫様、暫く失礼を致します。どうぞユルリと遊ばしませ。御思案が付きましたら、一時も早く御退場を御願致します。……常彦さま、春彦さま、あなたも大抵ぢや御座いますまいが、どうぞそこは宜しき様に御取計らひを願ひます』 と云ひ捨て、逃げる様にして、玉竜姫の手を取り、睦じげに別館に立つて行く。高姫は少しく目の上の瘤の様に迷惑がつてゐた夫婦が別館に姿をかくしたのに、ヤツと胸を撫でおろし、ソロソロ言霊の連発を始めかけた。 高姫『コレコレ懸橋御殿に御奉公致す皆さま達、是れから誠生粋の大和魂の因縁を説いて聞かしますから、私の云ふ事が分つたら、此館に隠してある金剛不壊の如意宝珠を始め、麻邇の宝の所在を綺麗サツパリと、素直に白状しなされや。……アレ御覧なさい、宮番夫婦は日の出神の御威勢に恐れて、別館へコソコソと逃げてゐたぢやありませぬか』 常彦『モシ高姫さま、自惚するにも程がありますよ。御夫婦の方々は貴女の御威勢に恐れて逃げられたのぢやありませぬ。余り脱線だらけの事を、ベラベラと際限もなく、お前さまがまくし立てるので、うるさがつて逃げて行かしやつたのですよ。慢心すると嫌はれて居つても、恐れて逃げられた様に見えますかいな。いかに善意に解する教だと云つても、高姫さまの善意は一寸趣が違ふ。……コレコレ皆様方、必ず気にさへて下さいますな、御存じの通の代物ですから……』 高姫『コレ常、ソラ何を言ふのだ。人民のゴテゴテ云ふ幕ぢやありませぬぞや。世界のことは隅から隅まで、イロハ四十八文字で解決のつく三五教の教ですよ。此高姫は、人民共の作つた学は知りませぬが、正真正銘の神直々の知慧が、無尽蔵に湧いてくるのだから、皆さま、心を清め身を謹んでお聞きなさい。 いゝゝ一番此世の中で尊い宝は誠と云ふ一つの大和魂ですよ。それさへあれば三千世界の物事はキタリキタリと何の躊躇もなく、成就致しますぞや』 国『いゝゝ一番尊いお宝が大和魂なら、なぜお前さまは無形の魂を尊重せずに、高砂島三界まで金剛不壊の如意宝珠を捜しに来たのだい。ヤツパリ形ある宝の方がお前さまにはお気に入ると見えますな』 高姫『ろゝゝ碌でもない理窟を云ふものでない。金剛不壊の如意宝珠は、神様の御宝、大和魂は人間の宝だよ。神と人とを一緒にしてはなりませぬぞえ』 国『ろゝゝ論より証拠、お前さまは何時も神人合一と云ふことを称へてゐるぢやありませぬか。神人合一は神さまと人と一緒になつた事ぢやありませぬか』 高姫『はゝゝはしたない人間の知慧を以て、神の申す事をゴテゴテと云ふものぢやありませぬワイ。花は桜木人は武士と云つて、潔うするものだ。女の腐つた様に何をツベコベと小理窟を云ひなさる。何とか、彼とか云つて、如意の宝珠を渡そまいとしても駄目ですよ』 国『はゝゝゝゝ腹がよれるワイ。これ丈脱線されては、安心して汽車に乗る事も出来ませぬワイ』 高姫『にゝゝ日本の神の道さへ歩いてをれば脱線する気遣ひはありませぬ。……走り行く汽車の足許眺むれば、ヤハリにほんの道を行くなり。……日本の道を大切に守り、外国の教をほかしさへすれば脱線所か一瀉千里の勢で希望の都へ達しますぞや。外国とは外れた国と書きませうがな。脱線は即ち外れるのだ。分つたかなア』 国『にゝゝ二本の道か四本の道か知らぬが、お前さまの仰有る事は、どうも四本足が云うとる様に聞えますぞや。四本足は所謂四つ足だ。ゴテゴテと六でない事を七むつかしく、八かましう、九ちから出任せにこきちらし、十りとめもなく、百千万遍喋り立てる、百舌鳥か雲雀の親方が此頃一匹高砂島へ飛んで来たと云ふ事だ。百舌鳥かと思へば小鳥を取つて食ふ目玉の鋭い鷹ぢやさうな。ワツハヽヽヽ』 高姫『ほゝゝ吐くな吐くな、深遠無量の神の御経綸がお前たちに分るものか。不言実行だ、ゴテゴテ云はずに、ホヽヽ宝玉を早く渡して、素直に改心なさるが第一の得策ぢやぞえ。お前はここの総取締ぢやないか。お前から改心せねば皆の者が助かりませぬぞや。一人さへ改心いたしたら外の者は皆一度に改心致す仕組だから、人間界の理窟はやめて、神の生宮の言ふ事に絶対服従しなさい。ゴテゴテと理窟の云ひたい間は、まだ御神徳が充実してゐないのだよ』 国『ほゝゝ放つといて下され、私には立派な国玉依別様と云ふお師匠さまが御座います。別にお前さまに下らぬ事を教へて貰ふ必要もなければ、仮令宝玉が有つたとしても、お前さまに渡す義務がありませぬ。オツホヽヽヽ』 高姫『へゝゝ屁理窟許り、能く垂れる男ぢやな。流石は国依別の仕込み丈あつて、偉いものだワイ』 国『へゝゝ臍が茶を沸かしますワイ。如何に私の名が国ぢやと云つて、見た事もない国依別さまとやらの仕込みぢやなどとは、能くも当推量したものだ。私の国は国依別さまの国ぢやありませぬぞ。此世の御先祖の国治立命様の国で御座いますワイナ。ヘン……ちつと済みませぬが、秀妻国と常世国と程国が違うのだから、余り人の事までクニ病んで下さいますな。余りクニクニ思うと寿命がちぢまりますぞえ。早くクニ替へをせにやならぬ事がないようにクニクニも気をつけておきますぞよ』 高姫『とゝゝとへうもない事を言ひなさるな。国治立命様の国ぢやなんて、慢心するにも程がある。慢心は大怪我の元ぢやぞえ』 国『とゝゝ途方途徹もない駄法螺を吹く、唐変木、トチ呆けの尻切蜻蛉の捉へ所のない、団子理窟を囀る、常世姫の身魂の性来を受けた罪人の身魂の宿つた肉の宮を日の出神の生宮ぢやなんて、とつけもない法螺を吹いてをると、今に化が現はれて、栃麺棒を振り、途方に暮て吠面かわかねばならぬことが出来致しますぞや。 ちゝゝちつと胸を手を当て考へて御覧。 りゝゝ理窟許り並べたつて、神徳のない者に誰が往生するものか。 ぬゝゝ糠に釘、豆腐に鎹だ。 るゝゝるるとして千万言を連らねても誰も聞き手がありませぬぞや。 をゝゝをどし文句を並べ立てて、我意を立通し、玉を吐き出さそうとしても、お前さま等の口車に乗る馬鹿はありませぬワイ』 高『わゝゝ吾よしの守護神奴、人の言霊を横取して、先言うと云ふ事があるものか。今言うたチリヌルヲ如何して呉れるのだ。訳が分らぬと云うても程があるぢやないか、此高姫が言うた後で力一杯、辻褄の合はぬ言訳を致すのならまだしもだが、人より先へ先へ行かうと致す、其我慢心が所謂四つ足根性ぢやぞえ。本当に性来の悪い男だなア』 国『わゝゝ悪かろが善かろが自由の権、放つといて下され。 かゝゝ構立にはして下さるなや。 よヽヽ善からうが悪かろが、誠の神様が裁いて下さるぞや。 たゝゝ高姫の干渉する問題ぢやありませぬぞ。 れゝゝ礼儀も作法も知らずに そゝゝそそつかしい、人の館へ這入つて来て、挨拶も碌に致さず つゝゝ月照彦神様に戒めをくひ乍ら ねゝゝねぢけ曲つた魂は何時までも直らず なゝゝ何も分らぬ癖に、三千世界の事はどんな事でも知つてをるとか、知つて居らぬとか、駄法螺を吹き、 らゝゝ乱脈振と云つたら、到底御話しのしかけが出来ませぬ。 むゝゝ六かしい面をして、人が聞いても うゝゝウンザリする様な、身勝手な事許り並べ立て ゐゝゝ意地の悪い事許りまくし立て のゝゝ野天狗、野狐、野狸の囀る様な脱線理窟を喋々と弁じ おゝゝ恐ろしい執着心を極端に発揮し くゝゝ国さまに向つて玉の所在を知らせと何程云つても、駄目ですよ。そんな馬鹿な事は やゝゝ止めておきませうかい。八岐の大蛇の金毛九尾の狐の霊の憑つた、どこやらのお方には、仮令天地がかへる共、此玉許りは渡す事は罷りなりませぬワイ。 まゝゝ誠一つの心の持様で、手に入らぬ玉も手に入る事があり、罷り誠をふみ外せば、目の前にある玉でも握れぬやうな事が出てくるし、 けゝゝ毛筋の横巾でも、此国さまの御機嫌を損ねたら、立派な玉を上げたいと思うても、中途でひつこめて了ひますぞ。 ふゝゝふくれ面して威張つてをる間は、高姫さまも駄目ですよ。 こゝゝ是丈道理を解き聞かしても分らぬやうな御方なら、トツトと帰つて下され。 えゝゝ枝の神や末の神の分際として、此御殿に納まつてをる御神宝を、持帰らうとは身の程知らずと云ふものだ。 てゝゝテンから物にならぬ企みをするより あゝゝアツサリと思ひ切つて さゝゝサツサと帰つて下さい。 きゝゝ気分が悪なつて来た。アハヽヽヽ、イヒヽヽヽ、ウフヽヽヽ、エヘヽヽヽ、オホヽヽヽ』 と体を面白くゆすつて、キヨくつて見せる。 高姫『ゆゝゝ言はしておけばベラベラと際限もなく、こけ徳利のよに、口から出任せに、泥水を吐く醜魂だな。 めゝゝ盲の垣覗きと云ふ事はお前の事だ。盲万人目明一人の世の中だから、日の出神の様な目明は又と二人、三千世界にないのだから、無理はないけれど、盲なら盲らしうして居なさい。盲蛇におぢずと云うて、恐い事知らぬ奴になつたら、仕方のないものだ。お前さまの様な盲に、手引せられる盲信者こそ気の毒なものだ。今の取次盲聾許り、其又盲が暗雲で、世界の盲の手を引いて、盲めつぽに地獄の暗へおちて行く……と神様のお筆に出てをりますぞえ。チツとしつかり目を醒ましなさい。 みゝゝ見えもせぬ節穴の様な団栗目をキヨロつかしても、足許の溝が分りますまいがな。 しゝゝしぶといどうくづの身魂程、改心さしてやりたいと思うて大慈大悲の神様が御心配をなさる、其お心根がおいとしいわいの、勿体ないわいの。オンオンオン』 国『ゑゝゝゑらう御心配遊ばして下さいますな。併し乍ら、泣くの丈は止めて下さいませ。 ひゝゝ日の出神の生宮ともあらうものが、余り見つともよくありませぬぞ。 もゝゝ諸々の邪念を去つて、今日限り此館に納めてある、結構な御神宝に対する執着心を綺麗サツパリと脱却なさいませ。 せゝゝ雪隠で饅頭食うたよな顔をして、人の苦労で得をとり、自分が発見したやうな顔して聖地へ帰り、威張りちらさうと思うても駄目ですよ。 すゝゝ澄み渡る月照彦神の申す事、能く耳へ入れて、高砂島を一日も早く立去り、自転倒島の中心地、冠島沓島に麻邇の宝玉隠しあれば、其方は、鷹依姫、竜国別等と共に其玉を掘出し、錦の宮に持帰り、言依別命の留守番を神妙に致すがよからう。ウンウンウン』 ドスンと飛び上り…… 国『あゝ何だか随分、喧しう囀つた様ですなア。皆さま、私はどんな事を云ひましたな。覚えて居つて下さいますやらうねエ』 高姫『コレ、国さまとやら、人を盲にしなさるのか。本当の神様か神様でないか、世界一の此審神者が見届けたら間違ひありませぬぞえ。そんな嘘の神懸をして、国依別が生田の森で私を騙さうとしたやうな、古い手は食ひませぬぞえ。ホヽヽヽヽ、若し誰が何と云つても是から家探しして、玉の所在を捜すのだ。……サア常、春、ここが千騎一騎の性念場だ』 と云ひ乍ら、つかつかと神殿目がけて走せ上りけり。 (大正一一・八・一二旧六・二〇松村真澄録) |
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霊界物語 | 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 | 11 日出姫 | 第一一章日出姫〔八三三〕 高姫は矢庭に神前に駆け上り、扉に手をかけた。忽ち頭の光つた脇立の狭依彦神、煙の如く朦朧と現はれ、高姫の首筋をグツと握つて壇上より、蛇を大地に投げつけた様に、ポイと撥ね飛ばした。高姫は暫く虫の息にてそこに打倒れ、何事か切りに囈言を言つてゐる。国、玉は驚いて『水ぢや水ぢや』と立騒ぐを、常彦は制し止め、 常彦『モシモシ皆さま、構立をせずに、少時放つといて下さいませ。御存じの通御神前の脇に朦朧として御神体が現はれ、こらしめの為に高姫を取つて投げられたのですから、余り高姫を構うと、又へらず口を叩き慢心を致しますから、十分改心する所迄放つといてやつて下さいませ。高姫の身の為ですから……一人前の誠の宣伝使にしてやらうと思召さば、十分に苦ましておく方が高姫に対する慈悲になりまする』 と真心から語り出したるを、一同は常彦の言に従ひ、高姫が自然正気に復る迄、そこに放任しておき、各自別間に入つて、神徳を戴き、昼飯などを喫し、悠々として世間話に耽つてゐた。暫くすると神殿に於て、高姫の金切声が聞えて来た。常彦、春彦、国、玉等一同は此声に驚いて、神殿に駆けつけ見れば、高姫は何とも知れぬ大きな男に、毬つく様に、放り上げられたり、おとされたり、なぶりものに会はされ、悲鳴を上げゐたりける。 常彦、春彦の姿を見るより、大の男は煙の如くに消えて了つた。此大の男と見えしは、鏡の池に現はれました月照彦命の出現であつたとの事なり。 高姫は真青な顔をし乍ら、懸橋の御殿を表に駆け出し、一生懸命にアリナの山を指して登つて行く。常彦、春彦は見失うては大変と、高姫の後を一生懸命に追つかけて行く。国玉依別命の命令によつて、竜、玉の両人は常彦、春彦の後より、『オーイオーイ』と呼ばはり乍ら、アリナの峰を駆け登り行く。 高姫は漸くにして、鷹依姫一行が野宿したる白楊樹の傍まで駆け着いた。何とはなしに身体非常に重たくなり、疲労を感じ、グタリと横になつて、大蜥蜴の沢山に爬行して居る草原に横たはり、他愛もなく寝て了つた。 夜半に目を醒まし、そこらあたりをキヨロキヨロと見廻し、 高姫『ハテナア、ここは何処だつたいなア。鏡の池の懸橋御殿の中だと思つてゐたのに、そこら中が萱野原、人の子一匹居りはせぬ。アハー、やつぱり鏡の池のスツポン奴、此野原を、あんな立派な御殿と見せて、騙しよつたのだな。悪神と云ふものは油断のならぬものだ。禿頭の神が出て来て、取つて放かしたり、大きな男が現はれて、此高姫を毬つくやうにさいなめよつたと思つたが、ヤツパリ騙されて居たのかなア。昔常世会議の時にも、八百八十八柱の立派な国魂神が、泥田の中で狐に魅まれ、末代の恥をかいたと云ふことだが、ヤツパリ此高砂島も常世の国の陸つづきだから、居ると見えるワイ。アヽドレドレ眉毛に唾でも付けて、しつかり致しませう。……時に常や春の周章者は、どこへ沈没しよつたのか、テンで影も形も見えなくなつて了つた』 と独語を云つて居る。 俄に大粒の雨パラパラパラと降り出して来た。満天黒雲に包まれ、次第々々に足許さへ見えなくなつて来た。獅子、虎、狼の吼えたける様な怪しき唸り声は、暴風の如く耳をつんざく。寂寥刻々に加はり、流石の高姫も茫々として際限もなき原野の中に只一人投げ出され、足許さへ見えなくなり、心細さに目を塞ぎ、腕を組み、大地に胡坐をかき思案に暮れて居る。 パツと雷光の如き光が現はれたと思ふ途端に、雲突く計りの白髪の怪物、耳迄引裂けた口から、血をタラタラと垂らし乍ら、高姫の前にのそりのそりと浮いた様に進み来り、 怪物『アハヽヽヽ、人肉の温かいのが一度食つて見たいと、常がね希望して居たが、アヽ時節は待たねばならぬものだ。少し古うて皺がより、肉が固くなり、骨も余り軟かくないが、これでもひだるい時にまづい物なし、辛抱して食つてやらうかな。イヒヽヽヽ、ウフヽヽヽ、エハヽヽヽ、オホヽヽヽ。甘いぞ甘いぞ』 とニコニコし乍ら、高姫の髻をグツと握つた。高姫は猫に掴まつた鼠の如うに、五体萎縮し、ビリビリと震ひ戦いて居る。此時何処ともなく、嚠喨たる音楽の音が聞えて来た。此声の耳に入ると共に、高姫は俄に心晴れ晴れしくなり、強力なる味方を得たやうな気分に充された。怪物は高姫の髻を握つた手をパツと放した。目をあけて見れば、容色花の如く、水のしたたる様な黒髪を背後に垂らし、梅の花を片手に持ち、片手に白扇を拡げて持つた女神、厳然として現はれ、言葉静かに宣り玉ふやう、 女神『其方は高姫であらうがな。今迄我情我欲の雲に包まれ、少しも反省の念なく、日の出神の生宮を標榜し、随分大神の御神業に対し妨害を加へ来りし事を悟つて居るか。其方は力一杯神界の御用を努めた積りで、極力神界の妨害を致し、神の依さしの教主言依別命に対し、悪言暴語を以て向ひ奉り、黒姫を頤使して今迄聖地を混乱致した其方の罪、山よりも高く、海よりも深し。さり乍ら、汝今茲にて悔い改めなば、今一度其罪を赦し、身魂研きし上、神界の御用に使うてやらう。高姫、返答は如何であるか』 と宣らせ玉ひ、高姫の顔を熟視し給ふ。高姫は女神のどこともなく身体より発する光輝に打たれ、 高姫『ハイハイ、今日限り改心致しまする。どうぞ今迄の罪はお赦し下さいませ。如何なる事でも、神様の仰せとあらば承まはりませう』 女神『然らば汝に申し付くる事がある。此白楊樹の空に、錦の袋止まりあり、其中には、テーナの里の酋長が鏡の池に献りたる黄金の宝玉あり。今これを汝の手に相渡す。汝が手より明朝茲に現はれ来る懸橋御殿の神司、玉、竜の両人に相渡し、持帰らしめよ。金色燦爛たる此玉を眺めて、再び執着心を起す如きことあらば、最早汝は神界の御用には立つ可らず。能く余が言葉を胸に畳みて忘るるな』 高姫『ハイ、決して決して忘れは致しませぬ。今日限り、玉に対する執着心は放棄致します』 女神は白楊樹に向ひ、 女神『来れ来れ』 と招き玉へば、不思議や、白楊樹は暗の中に輪廓明く現はれ、錦の袋はフワリフワリと女神の前に降り来たりぬ。 女神『高姫、此錦の袋の中には黄金の如意宝珠が包まれあり。披見を許す。早く撿め見よ』 高姫は、 高姫『ハイ』 と云ひ乍ら、袋の紐を解き、中を覗き見てハツと計り、其光に打たれ居る。 女神『どうぢや、其玉は欲しくはないか』 高姫『イエもう決して、何程立派な玉でも、形ある宝には少しの未練も御座いませぬ。無形の心の玉こそ、最も大切だと御神徳をとらして頂きました。決して決して今後は、玉に対して、心を悩ます様なことは致しませぬ』 女神『又後戻りを致さぬ様に気をつけて置く。就いては、汝これより常彦、春彦と共に此原野を東へ渉り、種々雑多の艱難を嘗め、アルの港より海岸線を舟にて北方に渡り、ゼムの港に立寄り、そこに上陸して、神業を修し、再び船に乗り、チンの港より再び上陸して、アマゾン河の口に出で、船にて河を遡り、鷹依姫、竜国別の一行に出会ひ、そこにて再び大修業をなし、言依別命、国依別命の命に従ひ、直様自転倒島に立帰り、沓島、冠島に隠されてある、青、赤、白、黄の麻邇の珠を取出し、錦の宮に納めて、生れ赤子の心となり、神業に参加せよ。少しにても慢神心あらば、最前の如く、鬼神現はれて、汝が身魂に戒めを致すぞよ。ゆめゆめ疑ふ勿れ。余れこそは言依別命を守護致す、日の出姫神であるぞよ。今日迄其方日の出神の生宮と申して居たが、其実は金毛九尾白面の悪狐の霊、汝の体内に憑りて、三五の神の経綸を妨害致さむと、汝の肉体を使用してゐたのであるぞや』 高姫『ハイあなた様から、さう承はりますと、何だか、其様な心持が致して参りました。それに間違は御座いますまい』 女神『最早夜明けにも近ければ、妾は天教山に立帰り、日の出神、木花姫神に汝が改心の次第を申し上げむ。高姫さらば……』 と言ふより早く、五色の雲に乗り、天上高く昇らせ玉うた。高姫はホツと一息し乍ら、あたりを見れば、夜は既に明け放れ、東の空は麗しき五色の雲靉き、太陽は地平線を離れて、清き姿を現はし給ふ間際なりけり。 (大正一一・八・一二旧六・二〇松村真澄録) |
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霊界物語 | 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 | 13 愛流川 | 第一三章愛流川〔八三五〕 高姫は常彦、春彦と共にアルゼンチンの大原野、櫟ケ原を東へ東へと進み行く。アルの港迄は殆ど三百七八十里もある。何程あせつても一ケ月の日数を費やさねば、アルの港へは行かれない。沢山の蜥蜴のノロノロと這つてゐる草野原を、萱の株を右に左に潜りつつ、天恵的に野辺一面に赤くなつて稔つて居る味の良き苺を食ひ乍ら、草の枕も五つ六つ重ねて、稍樹木の茂れる地点迄出て来た。 此処には相当に広い河が清く流れて居た。河の岸には行儀よく大王松や、樫などが生えて居る。河辺には桔梗の花女郎花の花などが時ならず咲き乱れてゐた。丁度内地の秋の草野の如うであつた。三人は河の辺に下り立ち、清泉に喉をうるほし、あたりの風景を眺めて、過来し方の蜥蜴や虻、蜂、金蠅のうるさかつたこと、苺の味の美味なりしと、黄紅青白紫其他いろいろの美はしき草花の処狭きまで咲き満ちて、旅情を慰めてくれたことなどを追懐し、神の恩恵の深きを感謝しつつあつた。 其処へのそりのそりと草蓑を着け、編笠を被り、竹の杖をついた七十許りの婆アがやつて来た。三人は……ハテ斯様な所に人が住んで居るのかなア……と不審相に、婆アの顔を眺め入つた。婆アは三人を手招きし乍ら、一二丁上手の小さき草葺の家に身を隠した。 常彦『モシ高姫さま、あの婆アは何でせうなア。あの松の木の根元の小さな家へ這入つて了ひましたが、吾々三人を嬉し相な顔して手招きして居たぢやありませぬか。何でもあの婆アの配偶者が病気にでも罹つて居るので、吾々を頼みに来たのかも知れませぬよ。何は兎もあれ一寸立寄つて見やうではありませぬか』 高姫『あゝあ、玉公、竜公に別れてから、今日が日迄六日の間、人の姿を見たことはなかつたが、今日は珍しい、人間に会ふことが出来ました。兎も角あの婆アの庵迄往つて見ませう。併し乍ら神様が如何して御試しなさるか分りませぬから、決して腹を立てはなりませぬよ』 常彦『ハイ承知致しました。絶対に腹などは立てませぬワ。安心して下さい。……なア春彦、お前もさうだろな』 春彦『ウン、私もその通りだ。高姫さま、サア参りませう』 三人は漸くにして婆アの庵に着いた。婆アは嬉しさうに三人を出迎へ、 婆『これはこれは三五教の宣伝使様、能うこそ斯様な醜い茅屋を御訪ね下さいました。就いては折入つて御頼み申したい事が御座いますのぢや。何と人を一人助けると思うて、お聞き下さる訳には参りますまいかなア』 高姫『ハイ妾達の力に叶ふことならば、如何様なことなり共仰有つて下さいませ』 婆『それは早速の御承知、有難う御座います。実の所は宅の爺さまは最早八十の坂を七つも越え、来年は桝掛の祝ひをせうと思うて、孫や子供が楽んで居りましたが、とうとう今年の春頃から、人の嫌がる病気に取付き、あの爺は天刑病だから、村には置くことは出来ぬと云つて、此様な一軒家の淋しい川の畔に形ばかりの家を造り、雨露を凌ぎ乍ら、年の老つた婆アが介抱を致して居りまする。いろいろと百草を集め、薬を拵へて呑ましたり、附けたり致しましたが、病は日に日に重る計り、体はずるけ、何とも言へぬ臭い匂ひが致し、沢山蠅が止まつて、女房の妾が見てさへもゾゾ髪が立ちまする。併し乍ら、四五日以前から妙な夢を続けて見ますのぢや。其夢と申すのは、あのアイル河の畔に三五教の宣伝使が現はれて来るから、其お方を頼んで癒して頂けとの女神さまの夢のお告げ、それが又毎晩々々同じ夢を、昨夜で五つ夜さも見まするので、此茅屋から翡翆の様に川計り眺めて待つて居りました。所が神様の仰有つた通り、三人連れで立派な宣伝使様が御越しになり、川でお休みになつてる其姿を拝んだ時の嬉しさ、思はず熱い涙がこぼれました。就いては神様の仰せには、此ずるけた病気でも、三五教の宣伝使がやつて来て、体の汁や膿を、スツカリ舐めて呉れたならば、其場で全快すると仰有いました。誠にかやうな事を御願申すは畏いことで御座いますが、神様の夢のお告げで御座いますから、お気に障るか存じませぬが、一寸申上げました』 高姫暫く差し俯むいて腕を組み、考へて居たが、 高姫『あゝ宜しい宜しい、どんな膿でも汁でも、御註文通り吸ひ取つて上げませう。竜宮の一つ島で、初稚姫や玉能姫の一行が、癩病患者の膿血を吸うて助けた例しもある。サアお爺さまのお座敷へ案内して下さいませ』 婆『ハイ有難う、案内しませう』 と立あがり、奥の間へ進んで行く。奥の間と云つても只萱草の壁を仕切つた丈で、二間作りの小さき家であつた。常彦、春彦も高姫と共に奥の間に従いて行く。見れば金色の蠅が真黒にたかつて居る。爺は仰向けに骨と皮とになつて、体一面膿汁を流し、蠅に吸はれた儘、半死半生の態で苦しんで居る。高姫は直に天津祝詞を奏上するや、数多の金蠅は一匹も残らず、ブンブンと唸りを立てて、窓の外へ逃出して了つた。高姫は爺の体に口を当て、胸の辺りから膿血を吸ひ始めた。常彦は足から、春彦は頭から、汚な相にもせず、此爺さまを助けたい一杯に、吾れを忘れて、臭気紛々たる膿汁を平気で吸うて居る。 爺イは『ウン』と云つて撥ね起来た。見れば不思議や、紫摩黄金の肌を現はしたる妙齢の美人となり、 美人『ヤア高姫、汝の心底見届けたり。我れこそは天教山に鎮まる木の花姫命の化身なるぞ。いよいよ汝は是れより天晴れ神柱として神業に仕ふることを得るであらう。まだまだ幾回となく神の試しに会ふことあらむ。そこを切抜けなば、真の汝の肉体は日の出神の生宮となりて仕ふるも難き事にあらざるべし。必ず慢心してはなりませぬぞ。又常彦、春彦も三五教の教を間違はない様に、不言実行を第一とするが宜しいぞ。木の花姫が三人の為に斯の如く仕組んだのであるから、必ず今後とても油断を致してはなりませぬぞや』 高姫外二人は『ハイ』と答へて平伏した。 何処よりともなく、香ばしき匂ひ薫じ来り音楽の響き嚠喨として冴え渡り、涼しき風は窓を通して、三人の面を払ふ。 不図頭をあぐれば、こは如何に、茅屋もなければ、爺婆の姿も女神の姿もなく、依然として、河の辺にウツラウツラと昼船を漕いで居た。 高姫は吐息をつき乍ら、 高姫『あゝ今のは夢であつたか、大変な結構な御神徳を夢の中で頂きました。夢なればこそ、あんな事が出来たのだらう。イヤイヤ実際にあの心にならなくてはなりますまい。あゝ有難い有難い』 と切りに独言を云つて居る。 常彦『高姫さま、私も夢を見ましたよ。随分虫のよい夢でした。春彦と三人、それはそれは汚い病人の介抱をさせられ、膿血を吸はされましたが、何ともかとも知れぬ甘露の様な味がして、夢中になつて吸ひ付いて居ると、汚い爺だと思つたら、天教山の木の花咲耶姫様、醜の極端から美の極端迄見せて頂きました。……高姫さま、貴女もさういふ夢でしたか、……春彦、お前の夢は如何だつたい』 春彦『イヤもうチツトも違ひはない。三人が三人乍ら同様の夢を見たと見える。不思議なこともあるものだなア。あの汚い病人はキツと俺達の心の映像かも知れないよ。あの如うな汚いむさくるしい吾々の身魂を、木の花咲耶姫大神様が、俺達が病人の膿血を吸うた様に、身魂の汚れを吸ひ取つて下さるに違ひないワ。あゝ実に畏いことだ。コリヤキツと人のこつちやない、吾々の魂を見せて戴いたのだらうよ。なア高姫さま、さうぢや御座いますまいか』 高姫『それはさうに間違御座いませぬワ。神様から御覧になつたら、妾の身魂は汚れ腐り、ズルケかけて居るでせう。あゝ惟神霊幸倍坐世。諸々の罪穢れを払ひ玉ひ清め玉へ』 と一生懸命に俄に合掌する。 常彦『高姫さま、貴女は何と云つても、変性男子の系統だから、汚れたと云つても、ホンの一寸したものですよ。あの汚れやうは吾々の身魂の映写に違ありませぬ』 高姫『モウ変性男子の系統などと言つて下さるな。妾のやうな者を系統だなぞと申さうものなら、それこそ変性男子様の御神徳を傷つけます。此後は決して変性男子の系統なぞとは申しませぬから、あなたもどうぞ、其積りで居つて下さい』 春彦『それでも事実はヤツパリ事実だから仕方がありませぬワ』 高姫『系統なら系統丈の行ひが出来なくては恥かしう御座います。妾が天晴れと改心が出来、誠が天に通じ、大神さまから、系統丈の事あつて、何から何まで行ひが違ふ、誠の鑑ぢや……と仰有つて下さるまでは、妾は系統所ぢやありませぬ。変性男子様の御徳を傷つける様な者ですから、どうぞ暫く系統呼はりは止めて下さいませ』 春彦『変れば変るものですな。毎日日日系統々々の連発を御やり遊ばしたが、改心と云ふものは恐ろしいものだなア。そんなら私も是から貴女に対し、態度を変へませう』 高姫『ハイ妾からも変へますから、どうぞ上下なしに、教の道の姉弟として交際つて下さい。今迄のやうに弟子扱をしたり、家来扱は決して致しませぬ』 常彦『私も其積りで交際さして頂きます。併し日の出神の生宮の件は如何なさいましたか』 高姫『モウどうぞそんな事は云うて下さいますな。日の出神さま所か、金毛九尾が、妾の肉体に憑いてをつて、あんな事を言はしたり、慢心をさしたのですよ。櫟ケ原の白楊樹の下で、スツカリ妾の肉体から正体を現はして脱けて出ました。それ故、今日の妾は誠の神様の生宮でもなければ、悪神の巣窟でも御座いませぬ。これから、本守護神にしつかりして頂いて、天晴れ神様の御用に立たねばなりませぬ』 常彦『あゝそれは結構ですな。私がアリナ山の頂きから東の方を眺めて居りましたら、櫟ケ原から、金毛九尾の悪狐が、黒雲に乗り、常世の国の方を目蒐けて、エライ勢で逃げて行きました。大方あの時に貴女の肉体から退散したのでせう』 高姫『あゝさうでしたか。恐ろしいものですなア。妾の肉体を離れる時にチラツと姿を見せましたが、それはそれは立派な八畳の間一杯になる様な長い裲襠を着て真白な顔を致し、ヌツと妾の前に立ちましたから、……おのれ金毛九尾の悪狐奴と睨みますと、忽ち金毛九尾となり、尾の先に孔雀の尾の玉のやうな光つた物を沢山につけて天へ舞上り、北の空目蒐けて逃げて行きました。大方其時の事を御覧になつたのでせう。あゝ恐ろしい、ゾツとして来ました。惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 常彦『時に高姫さま、此大河を如何して渡りませうか。橋もなし仕方がないぢやありませぬか。翼があれば飛んで行けますが、此広い深い流川、而も急流と来て居るのだから、泳ぐ訳にも行かず、困つたものですワ。如何しませう』 高姫『神様に御願するより途はありませぬ。これも一つは神様のお試しに会うとるのですよ。兎も角神を力に誠を杖に、渡つて見ませう。惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 と高姫は一生懸命に川の面に向つて祈願をこらした。不思議や幾丈とも分らぬ大の鰐数多重なり来り、見る見る間に鰐橋を架けた。三人は天の与へと雀躍し『惟神霊幸倍坐世』を一心に唱へ乍ら、鰐の背を踏み越え踏み越え、漸くにして向うの岸に達した。 常彦『あゝ有難い、おかげで楽に渡して貰うた。斯うなつて見ると、余り鰐さまの悪い事も言へませぬな』 高姫『ホヽヽヽヽ』 春彦『祝部の神さまが、どこやらの海を渡る時に仰有つたぢやないか。鰐が無[※御校正本・愛世版では「無(む)」だが、校定版・八幡版では「悪(わる)」に直している。]けりや、甘鯛鱒から蟹して下さい、ギニシイラねばドブ貝なとしなさい……とか何とか云つて、魚尽しを唄はれたといふ事が、霊界物語に書いてあつただらう[※第5巻第38章参照]』 常彦『ソリヤお前違ふぢやないか、鰐が悪けりや……だない、鰐に悪けりや、甘鯛鱒からと云ふのだ。甘鯛鱒とは魚の名だが、実際は謝罪りますと云ふことを、魚にもぢつたのだよ。アハヽヽヽ』 高姫『サア皆さま、行きませう』 と先に立つて、青草の茂れる野を東へ東へと進んで行く。今迄執着心に捉はれて居た高姫の眼には、森羅万象一切悪に映じてゐたが、悔悟の花が心に開いてから見る天地間は、何もかも一切万事花ならざるはなく、恵ならざるはなく、風の音も音楽に聞え、虫の音も神の慈言の如く響き、野辺に咲き乱れた花の色は一層麗しく、楽しく且つ有難く、一切万事残らず自分の為に現はれて呉れたかの如くに、嬉しく楽しく感じられた。 三人は宣伝歌を歌ひ乍ら、焼きつくような空を、草を分けつつ苺の実をむしり喰ひ、神に感謝し、殆ど七八里計り、知らぬ間に面白く楽しく進んで来た。ハタと行詰つた原野の中の大湖水、人も居らねば舟もない。又もや三人は茲で一つ思案をせなくてはならなくなつた。紺碧の水を湛へた此湖は幾丈とも計り知られぬ底無し湖の如くに感ぜられた。 常彦『一つ逃れて又一つとは此事だ。此前は何と云つても、向う岸の見えた河なり、そこへ沢山の鰐さまが現はれて橋を架けて下さつたので、無事に此処まで面白く楽しく旅行を続けて来たが、此奴ア又際限のない大湖水、湖水の周囲を廻つて行くより仕方がありますまい。高姫さま、如何致しませう。此湖を真直に渡れば余程近いのですが、さうだと云つて、湖上を渡ることは出来ますまい。急がば廻れと云ふ諺もありますから、廻ることに致しませうか』 高姫『さう致しませう。無理に神様にお願をして最前の様に橋を架けて貰ひ、御眷属さまに御苦労をかけてはなりませぬ。自分の事は自分で埒を能うつけぬような事で、到底世を救うと云ふ神聖な御用は勤まりませぬからなア』 春彦『そんなら、右へ行きませうか、左へ行きませうか』 高姫『進左退右と云ふ事がありますから、左へ廻つて行くことに致しませう。警察の交通宣伝だつて、左側通行を喧しく云つて奨励しとるぢやありませぬか。サア斯うおいでなさいませ』 と高姫は先に立ち、草野を分けて進んで行く。それより殆ど一里計り前進すると、天を封じた椰子樹の森があつた。日は漸く暮近くなつた。此処で三人は足を伸ばし、蓑を敷き、ゴロリと横たはつて一夜を明かす事としたりける。 執着心の権化とも人に言はれた高姫が 転迷開悟の花開き天教山の木の花姫の 神の命の隠し御名日の出姫の訓戒に 心の駒を立直し誠の道に乗替へて 草野ケ原を進み行く。森羅万象悉く 濁り汚れて吾れ一人天地の中に澄めりとて 鼻高々と誇りたる高姫司も鼻折れて 見直す世界は天国か浄土の春と早替り 草木の色も美はしく風の声さへ天人の 音楽かとも感ぜられ草野にすだく虫の音も 神の慈音となりにけり高姫常彦春彦は 草鞋脚絆に身をかため心も急ぐ膝栗毛 アイルの河の岸の辺に暫し息をば休めつつ 清き流れを打眺め天地の神の御恵を 讃美しゐたる折柄に見るも汚なき蓑笠に 身を包みたる婆アさまが忽ち茲に現はれて 三人の前に手を伸ばし差招きつつ川上の 松の根元に建てられし醜けき小屋に入りにける。 茲に高姫一行は老婆の後に従ひて 賤が伏屋に来て見れば老婆は喜び手を合せ 妾が夫は八十の坂道七つ越えました 人の厭がる天刑の病に罹り村外れ 淋しき河辺に追ひ出され老の夫婦の憂苦労 天教山に現れませる木の花姫の夢枕 夜毎々々に立ち玉ひ三五教の宣伝使 日ならず此処に来るらむ汝は彼を呼び寄せて 夫の悩む膿汁を吸うて貰へば忽ちに 本復するとの神の告げ誠に済まぬこと乍ら 老の願を聞いてよと誠しやかに頼み入る 高姫、常彦、春彦は何のためらふ事もなく 膿に汚れし老人の身体全部に口をつけ 天津神たち国津神憐れ至極な此人を 何卒救ひ玉へよと心に祈願をこめ乍ら 力限りに吸ひ取れば豈計らむや悪臭の 鼻さへ落むと思はれし其膿汁は甘露の 露の如くに香ばしく麝香の匂ひ馥郁と 実に心地よくなりにける。不思議と頭を擡ぐれば 天刑病と思ひたる爺は何時しか霊光の 輝き亘る神人と姿を変じこまごまと 三五教の真髄を説き諭しつつ忽然と 煙の如く消え玉ふ高姫、常彦、春彦は ハツと驚き目をさまし見れば以前の川の辺に 眠り居たるぞ不思議なれ。夢の中なる教訓を 吾身に省み宣り直しアイルの河を如何にして 向うの岸に渡らむと神に祈れる折柄に 祈りは天に通じけむ八尋の鰐は幾百とも 限りなき迄川の瀬に体を並べて橋作り 三人をここに安々と彼方の岸に渡しける。 天地の恵に咲出でし百花千花の香に酔ひつ 足も軽げに七八里進みて来る前方に 紺青の波を湛へたる思ひ掛なき大湖水 茲に三人は立止まり協議の結果高姫の 差図に従ひ湖畔をば左に取りて一里半 椰子樹の蔭に身を休め神の恵の有難き 話に一夜を明しけるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 (大正一一・八・一二旧六・二〇松村真澄録) |
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76 (1987) |
霊界物語 | 30_巳_南米物語2 末子姫と言依別命の旅 | 08 露の道 | 第八章露の道〔八五〇〕 久方の天津御空の月も日もいとうららかにテル山峠の 山の麓の樟の森露の宿りの夢枕 夜は漸くに明け放れ鵲の声、小雀の 囀る声に目を醒ましあたりを見れば草も木も 神の恵の露にうるほひ昼の暑さに萎れたる 姿も水のしたたりて涼味うるほふ夏の朝 気もサヤサヤと勇み立ち神素盞嗚大神が 八人乙女の末子姫旦の風にゆらぎつつ デリケートなる山百合の花の色こそ床しけれ 百合の花にも擬ふなる乙女の姿ユラユラと 楠の森の下蔭に佇む姿は芍薬か牡丹の花か 菖蒲も薫る五月空見るも涼しき優しの姿よ 末子の姫に近く侍りてまめまめしくも朝夕に 心の有らむ限りを尽し身もたなしらに主の為 舎身の活動続けたる神の教の司人 捨子の姫のあだ姿何れ劣らぬ花と花 色香も淡き濃きあり雲突く計りの荒男の子 心も固く骨節の巌の如き石熊が 足の運びもカールの司心も口も身も共に カールカールと鳴く烏羽の色にも擬へたる 日に焼きつけられし黒面あゝされどされど神の御前に只管に 尽す心も血も赤く雲焼けしたる東の空に 日の大神の豊栄昇りに昇ります如く清き心ぞ雄々しけれ アルゼンチンの宇都の国其名も高き正鹿山津見の神の 永久に鎮まりゐましける教の館を預りし 従僕の神の国彦が御子と生れし松若彦は 主の君に三五の教の道を任けられて 謹み仕へまつりつつ日々に栄ゆる言霊の花芳ばしく 教の林も日に月に茂り合ひたる宇都の国 道のほまれも高砂の花と歌はれ来りける あゝ惟神々々誠の神の功績に 集まり来る撫子の汚れに染まぬ神心 誠一つに身を固め松若彦の教司に 左守の神と仕へたる心も清き正純彦や 魂も直なる竹彦の朝な夕なの起伏にも 心を配り大神の御為世人の為に村肝の 心尽すぞ雄々しけれ宇都の館の松若彦が 山海万里を越えさせ玉ひはるばる茲に出でませし 珍の乙女の神司迎へむ為に遥々と 春、幾、鷹の三人を心も厚き出迎へ 赤き心は提灯の明りの如く十曜の神紋唐紅の色に見えにける 末子の姫は捨子姫石熊司、春、幾、鷹の大丈夫を 或は前或は後に守らせ乍らしづしづと 晨の露を踏み分けて宇都の国にて名も高き 巽の池に荒ぶる神を皇神の生言霊に言向け和さむと か弱き女の身にも似ずいそいそ進み出で給ふ 実にも尊き神人の厳の雄健び言霊の 如何に照るらむ如何に輝き渡るらむあゝ惟神々々 皇大神の御経綸仰ぐも尊し三十余万年の 清き神代の物語厳の御霊の名に負へる 伊豆の神国田方の郡狩野の川の激流を 眺めて茲にあらあらと述べ伝ふこそ楽しけれ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ。 樟の森を立出でて、巽の池の大蛇の魔神を帰順せしめむと、末子の姫に従ひて、一行は心もいそいそ、三里の道程を朝露をふみしめ乍ら、涼しき朝風に送られ、霧こむる山野を、南へ南へと進み行く。 カールはコンパスの長短の醜さを隠す為、又もや歌を謡ひ、ヤツコス踊りをし乍ら、大地をドンドン威嚇させつつ、先頭に立つて進み行く。 カール『悪魔の大蛇が潜むなる池の堤に立出でて 動きの取れぬ言霊を遠慮会釈も荒波の おのもおのもに発射して神の力を発揚し 霧立昇る魔の池を隈なく払ひ清めつつ 汚れ切つたる曲霊魂心の底より帰順させ 栄え久しき松の世を治し召します大神の 神素盞嗚の神の水火世界の曲を払ひつつ 底ひも知れぬ此池に立籠りたる醜大蛇 力と頼む三五の尽きせぬ神の御光に 照らし清めて潔く艮めを刺さむ此カール 七人揃ふ其中に二人のナイスを別にして 抜き出て偉い此男根底の国に潜むとも 望みの通り口鉾に屠り散らして暗の世を 日の出の御代と立直し古き司や新しの 隔て構はぬ吾れ先に屠り散らさむ今日の旅 魔神の猛ぶ此池を見すてて是が帰られうか 昔の神の神力に目出たく大蛇を言向けて 百の人々平けく安らかなれと只管に 祈る誠の宣伝使雪より清き神心 選りに選りたる七人が世人の為に今茲に ラリルレローと濁りたる悪神共の棲処をば 一時も早く掃き清め珍の国なる人々の 疫病災禍平らけく鬼も大蛇も打払ふ あゝ惟神々々五十鈴川の言霊に 汚れを洗ふ勇ましさ神が表に現はれて 善と悪とを立別ける巽の池に潜みたる 醜の大蛇を逸早く誠の道の言霊に 服従ひ和し世の人の曲をことごと払拭し カール司の腕前は先づ先づ斯くの通りだと 宇都の都に立帰り松若彦の御前に 法螺吹き立てる頼もしさあゝ惟神々々 神の御霊の幸はひて石熊さまの言霊に 必ず兆のなき様にカールが願ひ奉る 乾の滝に現はれた大蛇の牡に狙はれて 此世乍らの活不動思ひ廻せばまはす程 あんな恥し事はないそれでもヤツパリ石熊は 早慢心の登り口末子の姫に打向ひ 巽の池の醜神に向つて宣らむ言霊は 私に任して下されと頼んだ心の可憐らしさ それ程任して欲しければ遠慮は要らぬドシドシと 大蛇に巻してやりませうまかれて石熊舌を巻き 尾を巻き乍ら鉢巻を前に結んでスタスタと 生命カラガラ一散に逃げて行くのは目のあたり カールの歌ふ言霊を聞いて恨むでない程に お前の大事と思ふから悪い事は言はないぞ 末子の姫の御座るのに力も足らぬ石熊が 虎の威を仮る古狐池の大蛇を言霊に 服従へますとは何の事身の上知らずも程がある 早く心を改めて謙遜りつつ姫様の 御後に従ひ来るが良い何程弱そに見えたとて お前は大蛇に相対し服従ひ和す資格なし あゝ惟神々々神の心に省みよ 昨日が日迄三五の神の教に敵対うて 千変万化の計略を包み来れる曲津神 お前の放つた醜犬は珍の館にヤツと居る 改心したとは云ひ乍らお前は神の罪人ぞ 如何に末子の姫様がお許しありとて鼻高く 先頭に立つは何事ぞお前の前途が案じられ 口がカールか知らね共友達甲斐に言うておく 俺の誠の親切がチとでもお前に分つたら 今日は遠慮をするが良い呉れ呉れ気を付けおきまする あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ。 旭は照る共曇る共月は盈つとも虧くる共 仮令大地は沈むともお前の様な魂で 大蛇が言向け和されよか控えて居るが第一だ くどい乍らも気を付ける必ず必ず俺のこと 悪くは取つて呉れるなよ神々様も見そなはせ カールの赤き胸の内あゝ惟神々々 神の心に立帰れ神の心に通へよや』 と歌ひつつ足拍子を取り進んで行く。石熊はカールの此歌に首を傾け、手を組み、思案に暮れ乍ら、力なげに従ひ行く。 (大正一一・八・一五旧六・二三松村真澄録) |
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77 (1991) |
霊界物語 | 30_巳_南米物語2 末子姫と言依別命の旅 | 12 マラソン競争 | 第一二章マラソン競争〔八五四〕 茲に末子姫は捨子姫、カール、春公、幾公、鷹公、石熊の一行と共に芽出たく巽の池の大蛇を言向け和し、解脱せしめ、池に向つて感謝の詞を述べ、向後決して此池に、従前の如き竜蛇神の棲居して、世人を苦めざる様と深く鎮魂を修し、災を封じおき、いよいよ珍の都に向つて進むこととなりにけり。 此時不思議にもカールの足の長短は何時の間にか両足相揃ひ、行歩極めて容易になつてゐた。されどカールは少しも気付かず、依然として跛の不具者と信じてゐるものの如くであつた。末子姫は天津祝詞を奏上し、天の数歌を歌ひ上げ、一同に向ひ、 末子姫『サア皆様、御苦労で御座いました。これからボツボツと参りませう』 と先に立つて進み行く。 石熊『モシモシ皆様!待つて下さい。どうしたものか、チツとも足が動かなくなりました。どうぞ鎮魂をして下さいませ。何だか締つけられる様で、仕方が御座いませぬ』 カール『もし、末子姫様、石熊の大将、足が立たないと云つてゐます。困つた者ですなア』 末子『イエイエ決して御心配には及びませぬ。キツと時節が参れば、立つ様になります……なア、カールさま、不言実行と云ふことを御存じですか?』 カール『ハイ、分りました。どうぞ、そんなら姫様、一足お先へお越し下さいませ。捨子姫様も御一緒に御願致します……オイ春、幾、鷹の三公、お前はお二人様のお伴して帰つて呉れ。俺は少し石熊の大将の足を直してから帰るから……』 春『オイ、カール、いい加減にしとかぬかい。余り今迄悪党なこと計りやつて来た酬いで神罰が当つたのだ。お前がどれ丈言霊が上手でも御祈りが立派でも駄目だよ。神様が御許しがなければ到底足が立つ筈がないワ。余り汚れた身魂だから、神様がウヅの聖地へ来ないようと、不動の金縛りをかけて御座るのだよ。いい加減に帰つたらどうだ』 カール『そんな訳に行くものか。人の難儀を見て、それを救はずに帰る様なことで、如何して神様の取次が出来るものか。何は兎もあれ姫様の御命令だ。グツグヅ云はずに早く姫様の御伴をして帰つて呉れ。すぐに俺は追ひ付くから……』 春『さうか、ソリヤ実に感心な心になつたものだなア』 と嘲る様に言ひ乍ら、二人の後に従ひ、ウヅの都をさして帰り行く。 後に二人は稍少時、水面に向つて暗祈黙祷を続けて居た。 カール『オイ石熊の大将!今迄俺はお前の弟子となつて、エライお世話になつたものだ。今日は其御恩返しと罪亡ぼしの為に、邪が非でもお前の足を直して、やらねばならぬ。如何しても足が立たなければ、俺が背中に負うてでもウヅの都へ連れて行く覚悟だからマア安心せよ』 石熊『ソリヤどうも有難い。苦労をかけて済まぬなア』 カール『世の中は相身互だ。さう病気も直らない内から礼を云つてくれると、如何云つて良いやら、俺も返答に困つて了ふ。マアゆつくりと気をしづめたが良からう。マア待て、俺が是から新規蒔直しの言霊を奏上するから、キツとお前の足が巽の池となるのは受合だ。さうなつたら二人手に手を取つて潔く宣伝歌を謡ひ、ウヅの都をさしてサツサと乾の池だよ。水も洩らさぬ二人の仲だ。池ないことは互に堤かくさず、打明けて、兄弟の如く親切を尽し合はうぢやないか。此池の様に水がタツプリ過ぎて、水臭い交際は最早改めねばならないよ。サア是から一つカールさまの生言霊だ。マアそこへ足をニヨツと出せ。一つ鎮魂を御願してやらう。さうして言霊歌を奏上することにせう。笑ふなよ!』 石熊『勿体ない、祈念をして貰つて笑ふ奴があるものか。併し乍ら病気が直つたら、余り嬉しくて、笑ひ泣きをするかも知れないから、夫丈は前以てお断りをしておく』 カール『嬉し笑ひなら、ドツサリ笑つて呉れ。俺も手を拍つて嬉し笑ひをするからなア』 石熊は池の畔の芝生の上に足をヌツと揃へ、突出してゐる。カールは例に依り、叮嚀に大腿骨の辺りから爪先まで、天の数歌を謡ひ乍ら、幾回となく撫でおろし、そろそろ祈願の歌を謡ひ始めた。其歌、 カール『天津神様八百万国津神様八百万 此奴は余り悪が過ぎた故最早運命は月照彦の 神様どうぞ此足をカールに直して下さんせ 高砂島を守ります生国魂の神様よ 石熊さまの両足が一時も早く竜世姫 立つて踊つてシヤンシヤンとウヅの国へと喜んで 勇んで参ります様にお守りなさつて下さりませい 一時も早く此躄巽の池の竜神の 罪はほどけて天上に立帰りました其如く 忽ち平癒さしてたべ腰から上はどうもない なぜ此足が悪いだろヤツパリあしき事をした 深いめぐりが来たのだろ悪きを払うて助け玉へ 転輪王ではなけれ共天にまします神様よ 地にまします神様よカールが代つて御願 完美に委曲にきこし召し早く助けて下さりませい 私もこんな男をば連れにするのは厭なれど 旅は道伴れ世は情神の戒め恐い故 せうことなさに介抱するオツトドツコイ石熊さま これは私の冗談だ瓢箪からは駒が出る 冗談からは隙が出る灰吹きからは蛇アが出る 一時も早く石熊に憑依致した悪霊が 出る様に守つて下さんせ此奴の体に這入つた以上 キツと入口あるであろ出口の神さま一時も 早く追ひ出し下さんせ百人一首ぢやなけれ共 足を痛めた足引の山鳥の尾のしだり尾の 長々しくも何時迄も斯うしてゐては堪らない どうで罪をば重ねた男御無礼の数々いつとなく 尽しましたで御座いませうお腹の立つのは尤もぢや 併し神様私の願を容れて腹立てず 足の立つよにしてお呉れ夜明けに立つは○○ぢや 親と一度に生れたる伜は見ん事立つなれど 此奴の足はどうしてか容易に立たうと致さない 如何なる罪があらうとも今度計りはお助けを たつて御願申しますこりや又不思議何時の間に 俺の一方の長い足誰が盗んで帰んだのか いつの間にやら両足が高低なしに揃うてゐる かうなる上は俺とても採長補短の融通は コレから利かすこた出来ぬいやまて暫し待てしばし そんな不足は云はれないこれも尊き神様が 一方の足を縮めたか但は一方を伸ばしたか 何ぢや知らぬが嬉しいぞ心もカールなつて来た 石熊さまよ!これ見やれ誠が天地に通じたら 一生病のド跛もいつの間にやら神さまが 頼みもせぬのに気を利かしチヤンと直して下さつた お前の足は真直に長い短いない足だ こんな所で腰ぬかし立つも立たぬもあるものか 気を引立てて立つてみよ三五教の御教に 経と緯との御仕組艮鬼門金神の 気勘に叶うたことなれば錦の綾の機をあげ 天晴れ神の太柱下つ岩根に立て通し 上つ岩根につきこらし信仰の徳をつむならば どんな悪魔もたてつかぬ立てよ立て立て早く立て 立てと云うたら立たぬかいお前は余程腰抜だ 巽の池の竜神のあの勢に辟易し 肝玉つぶして腰をぬきアタ恥かしい荒男 腰をぬかして何とする俺のぬかすは口計り 何時もグヅグヅ吐す奴黙つて居れよと何時の日か 俺を叱つたことがあろあゝ惟神々々 叶はぬなれば立あがれ性のよくない此病 耆婆扁鵲が現はれて忽ち直して呉れまいか 俺の言霊立所に御兆候がなければならぬ筈 恥し乍ら是程に言霊車を運転し きばつて見れどまだ立たぬ立つた立つた立つた立つたラツパ節 法螺貝吹いた其酬いこんな憂目に合ふのだろ 竜世の姫の神さまよお前の水火に生れた子 なぜに立たして下さらぬ私は痛うも痒ゆもない さは去り乍ら心の中はホンに歯痒い痛ましい いたつて口のやかましい此石熊も今は早 往生致して居りまする最早慢心致すまい 改心記念に今一度足が立つよに頼みます 衝き立つ船戸の神様の御名を負へる此杖を 力にチヨツと立つて見よあゝ惟神々々 どうして是程お前の病しぶとう直らぬ事だらう 末子の姫の御一行立つて行かれた其跡で 気が気でならぬ二人連れ神さまたつて頼みます オイオイ石熊立つて見よ立つて立てない事はない お前の心を引立てて誠の道を立て通し 猜疑の心を絶つならばキツと此足立つだらう たつからお前を眺めても横から見ても気にくはぬ ハラの立つよなスタイルだこれでは役に立つまいぞ ヤレ立てソラ立て早う立てドツコイドツコイドツコイシヨ 転けつ輾びつ気を引立つてカールの後に跟いて来い 最早俺さまは立つ程に石熊さまよ御ゆつくり そこで御隠居なされませお腹が立つかは知らね共 立たねばならぬ此場合早く帰りて姫様の お役に立つが俺の役サアサア行かうサア行かう ドツコイドツコイドツコイシヨウントコ立つたり石熊さま 気張つて立つたり石熊さま左のお足を一寸屈め 右の御足を一寸屈め神さま力に立つて見よ 立つに立たれぬことはない心一つの持様だ さらばさらば』と立帰る後に石熊只一人 石熊『オイオイカール待つて呉れ俺達一人をこんな所に 捨てておくのは胴欲ぢやこんな無情な事されて 腹が立たずにおかうかい腹が立たずに済むものか 残念至極思ひ知れ』無念の歯がみし乍らも 怒りにまぎれて両足の痛を忘れて立上がり 『コラコラカール一寸待て貴様は誠に済まぬ奴 コレから素首引抜いて命を取らねばおかうか』と 尻ひつからげドンドンとカールの後を追うて行く。 あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて カールの願も竜世姫完美に委曲に聞し召し 助け玉ひし有難さ足の立つたる石熊は 始めて天地の神徳を悟ると共に逃て行く カールの心を能く悟り忽ち両手を合せつつ 『コレコレカール待つて呉れお前のおかげで立ちました 忽ち神徳現はれて俺の体は此通り 決してお前を恨まない一口お前に追ひついて 今の御礼が申したいたつて頼みぢや待つて呉れ』 声を限りにドンドンと後おつかけて走り行く カールは後を振返り カール『ここまで厶れ早厶れ甘酒飲まして上げませう ウヅの都に末子姫捨子の姫の両人が 首を伸して待つて御座るお前の様なヒヨツトコに 話する間があるものか用があるなら従いて来い ウヅの都でトツクリとお前の合点が行く様に 詳しう説明してやらうあゝ惟神々々 御霊幸はひましませ』と二人はマラソン競争の 決勝点を競ふよに大地を威喝させ乍ら 阿修羅の荒たる勢で進み行くこそ勇ましき。 これぞカールが大神に教へられたる神策を 実地に活用致したる千変万化の働きぞ いよいよ茲に両人はウヅの都に安着し 互に胸を打割つて慈愛の神の御心を 涙と共に語り合ひ感謝するこそ畏けれ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ。 (大正一一・八・一五旧六・二三松村真澄録) |
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霊界物語 | 30_巳_南米物語2 末子姫と言依別命の旅 | 19 蜘蛛の児 | 第一九章蜘蛛の児〔八六一〕 幾十旒とも分らぬ白旗を夜の風に翻し、旗鼓堂々と、川の堤の両方より進み来る数百の集団を眺めて、国依別は打笑ひ、 国依別『アハヽヽヽ、マチさま、キジさま、面白くなつて来たぢやないか。昨夜荒しの森で数百人のウラル教の連中、吾々一人を十重二十重に取巻乍ら、脆くも国依別の言霊に吹散らされて、雲を霞と逃去つたウラル教の手合が、今度はどうやら武装を整へ捲土重来の挙に出よつたらしい。なんと愉快な事が出て来たものだ。お前達両人は、入信記念の為に一つ南北に分れて、両方の敵に当り、縦横無尽にかけ悩まして見たら如何だ。其代りに国依別が無限の神力を与へるから、万々一お前達の不利を見たならば、球の玉の神力を以て、敵を射倒して了ふ成算が十分にあるから、試験的にやつて見やうではないか?』 キジ『願うてもなき其お言葉、私もテルの国に於ては相当に、神力はなけれ共、腕力並ぶ者なしと言はれて居る豪傑ですから、こんな面白い機会はありますまい。如何なる武器を以て攻め来る共、此腕一つあれば大丈夫です。何卒私を其任に当らして下さい』 マチ『私はキジの様な力は有りませぬが、気転を利かす段に於ては、決して人後におちない積りです。そんなら両人が此川の南北に分れ、一つ奮戦激闘をやつて見ませう。あゝ面白い面白い、天運循環し来つて、優曇華の花咲き匂ふ春に会うたる心地がする』 と力瘤だらけの腕をまくり、ブンブンと振りまはし、撚をかけて居る。 国依『そんなら両人、一つやつて見よ……国依別は司令長官になつて、此丸木橋の上から戦況を調べる事にせう。あゝ良い月だ。こんな愉快な事は、滅多にあるものぢやない。併し乍ら成るべくは、両人敵の生命をとらない様にしてくれ』 キジ『宜しい、一人も残らず此空川へ放りこみ、人間の山を築いてお目にかけませう』 斯く云ふ間、ウラル教の大部隊は最早間近くなつて来た。マチは北側を、キジは南側の草の中に身を潜めて、敵の近付くのを今や遅しと、腕を唸らせ、片唾を呑んで控えてゐる。 南の一隊はアナン之を率ゐ、北側の一隊はユーズ之に将として、勢ひ凄まじく川辺を下り来る物々しさ。マチは忽ち敵前に塞がり大音声、 マチ『ヤアヤア、ウラル教の宣伝使、それに従ふ小童共、よつく聞け!吾こそは三五教の宣伝使、言依別命、御倉山の谷間に於て、此方が言霊の神力に泡を吹き、脆くも逃げ去つたる弱武者共、サア吾々は神勅に依つて、汝が茲に数多の人々を引きつれ、武器を携へ、攻め下り来る事を前知せしを以て、汝等一人も残らず素首を引抜き、汝の最も希求する霊の国、天国へ引導を渡してくれむ。覚悟を致せ!』 と呶鳴り立てた。ユーズは藪から棒の、どこともなく権威に充された此言霊に辟易し、数多の部下を率ゐ、堂々とここまで進み来れる手前退却もならず、轟く胸を無理に押へ、 ユーズ『ナヽヽ何と申す。汝は体主霊従の邪教を奉ずる言依別命なるか。如何に獅子王の勢あればとて、雲霞の如き大軍に向つて、如何に孤軍奮闘すればとて、汝の力の及ぶ所にあらず、要らざる事を致して、命をすてるよりも、神妙に吾軍門に降れ』 マチ『ナニ猪口才千万な、汝こそ某が前に閉口頓首して罪を謝し、貴重なる生命を無事に持つて帰れ。汝等は天国に至る事を無上の光栄とする者ならば、一人も残さず、霊の国へやつてやるのはいと安き事なれ共、さう致しては懲戒にならぬ。汝の最も忌み嫌ふ娑婆世界に置いて苦めてやらむ、覚悟を致せ。アハヽヽヽ』 ユーズ『何と其方は妙な事を申す奴、人間は生命が大切だ。肉体なくして神業が勤まると思ふか。馬鹿を申せ、汝こそ今某が、生命をとり、地獄の引導を渡してくれむ、覚悟致せ……ヤアヤア者共、言依別に向つて斬つてかかれよ』 と采配ふつて下知すれば、数多の部下はマチ一人を取まき、斬つてかかる。向うは大勢、此方は只一人、すばしこくも体を躱して、草の茂みに隠れて了つた。大勢はあわてふためき、互に刃に火花を散らし、ケチンケチンと同士打を始めてゐる其可笑しさ。 又一方南岸に向うたキジは、アナンの引率せる一部隊に向ひ、叢より忽然と現はれ、大音声、 キジ『ヤア其方はウラル教の宣伝使であらう。吾こそは三五教の神司国依別なるぞ。飛んで火に入る夏の虫、能くマア出て来よつたなア。サア是より此方の発射する言霊の弾丸を浴びて、汝の最も忌み嫌ふ現界を棄て天国に救ひ与へむ。どうぢや嬉しいか』 と呶鳴り立て、大声で人もなげに笑ひ出した。アナンは国依別と聞いて、心戦き乍ら、空元気を出し、 アナン『アハヽヽヽ、何と申す、国依別、敗けたと見せかけ御倉山の谷川に於て逸早く姿をかくし、又荒しの森に於てワザと敗軍を装ひ、汝をここにおびきよせむとの吾等が計略、うつかりと出てうせた痴呆者。モウ斯うなる上は百年目、神妙に吾軍門に降るか、ゴテゴテ吐さば、汝が素首引抜いて天下の害を絶ち、汝が身魂を地獄に追ひおとしくれむ……サア部下の者共、国依別に向つて斬りつけよ』 と下知すれば『オウ』と答へて数多の人数、竹槍をすごき、キジ一人を目当に突込み来る。キジは大手を拡げ、来る奴来る奴、ひつ掴んでは日暮シ川にドツと許り投げ込み、瞬く間に数十人の人山を築いた。 此方のユーズの部下は何れも長剣を以て戦ひ、南方のアナンの部下は何れも竹槍を以てキジ一人に向つて戦つてゐる。されどキジの手に掛つて、最早数十人は河中に投込まれ、腰を打ち、足を摧き、痛さに身動きも得せず、慄ひ戦いてゐた。国依別は丸木橋の上より指をさし伸べ、サーチライトの如き霊光を発射して、此域を射照らしてゐる。アナンは最早叶はじと思ひきや、采配を打ふり打ふり、 アナン『退却!退却!』 と連呼し乍ら、散り散りバラバラに算を乱して敗走する。 此方ユーズは味方の同士打に度を失ひ、止むを得ず采配を打振り、又もや南方のアナンに傚つて『退却!々々!』と号令する。此声にユーズの部下は思ひ思ひに元来し道を先を争ひ逃げて行く其可笑しさ。マチは之を眺めて高笑ひ、 マチ『アハヽヽヽ、脆いものだなア。俺もこれ丈の神力が出るとは思はなかつたが、実に不思議だ。これも全く三五教の神様の御神徳、次いでは神様のお使ひになる神魚を食つた為でもあらう。実に有難いものだなア。ドレドレ国依別様に戦況を詳さに報告せねばなろまい。それに付いても何処ともなく、強烈なる光の現はれた時、敵の光に打たれて狼狽する様は実に痛快であつた』 と独言ちつつ、国依別の傍に意気揚々として帰つて来た。 南方に向うたキジも亦勝ち誇つたる面色にて、力瘤だらけの腕を打ふり乍ら帰り来り、 キジ『宣伝使様、実に有難う御座いました。生れて以来、斯様な愉快な事は御座いませぬ。戦ひの最中、あなたより強烈なる霊光を送つて下さつた時の其気強さ、面白さ、いやモウ終生忘る可らざる愉快な印象を与へられました。アハヽヽヽ』 国依『ヤア両人共、天晴れ天晴れお手柄だつた。あれ丈の勇気があれば、最早三五教の布教者としても大丈夫だ。国依別も幸福だ。何と良い弟子が出来たものだなア』 キジ『本当に仰有る通り、古今独歩の神力充実せるあなたに対し、斯様な英雄豪傑がお弟子になるのも全く神様のお引合せでせう』 国依『アハヽヽヽ、随分吹く事も吹きますねえ。ヤア面白い面白い、それ丈の気概がなくては駄目だ』 マチ『私だつて、ヤツパリあなたの御家来として余り不適当な者ではありますまい。どうです宣伝使様、あなたの御感想は……』 国依『アハヽヽヽ、何ちらも担いだら棒が折れる様だ。力に甲乙が無くて面白い。マア是からは慢心をせない様に心得て、神界の為にドシドシと尽して貰はうかなア』 両人『ハイ承知致しました。今日の腕試しに依つて、最早神の御加護ある事を悟つた以上は、天下何者をか恐れむやで御座る』 と腕を揺つて雄健びする其可笑しさ。国依別は……妙な奴が降つて来た者だ……と心秘かに微笑み乍ら二人を伴ひ、明けかかる夜の道を、河を渡つて、北へ北へと足を早め宣伝歌を声高く歌ひ乍ら、ヒルの都を指して進み行く。 空に輝きし月は漸く光り褪せ、星は次第に影を没し、絵絹を拡げた様な東の空は、紅を潮し始めたり。 (大正一一・八・一六旧六・二四松村真澄録) |
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霊界物語 | 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 | 09 岩窟女 | 第九章岩窟女〔九〇〇〕 三人の娘の後から高姫は期する所あるものの如く、体をゆすり、どことなく春駒の勇んだやうに、シヤンシヤンとして従いて行く。常彦、ヨブの二人はせう事なさに従いて行くといふ様な足元で、莽々と草の生え茂つた中を、一歩々々探る様にしてゐる。春彦は殿をつとめながら、何となく心の底より可笑しくなり、 春彦『時雨の森に現はれた魔性の女にだまされて 欲の熊高姫さまが又も持病を再発し 金剛不壊の如意宝珠数限りなく吾宿に 隠してあるから出ておいでお気に入るのがあつたなら いくらなりとも上げませうと茨に餅のなるやうな 甘い話を聞かされて心の中はうはの空 我欲の雲にとざされて一寸先は真の暗 旭が出てるが分らない月日の姿も目につかぬ 高倉暗の高姫がドツコイ一杯喰はされて 又も吠え面かわくだらうあゝ惟神々々 なぜにこれ程高姫の心がグラグラするのだらう 勢込んであの通り玉ぢや玉ぢやと勇み立ち 狐の穴につれ込まれコレコレまうし高姫さま 如意の宝珠はこれですとさらけ出したる玉手箱 開いて見ればこはいかに如意の宝珠と思ひきや 狸の睾丸八畳敷オツたまげたよたまげたよ コリヤたまらぬと尻からげ一目散にかけ出して 底ひも知れぬ谷川へドンブリコンと墜落し 水の泡程泡をふきアフンとするに違ひない それを見るのが春彦は気の毒さまでたまらない あれほど意見をしたけれど玉にかけたら魂を 奪はれ切つた高姫は口角泡をば飛ばしつつ 神の仕組は人民の容喙致す事でない 神の仕組は神が知るお前の様な人民が 神の仕組をゴテゴテと横槍入れるこたならぬ だまつて厶れとはねつけてありもせないに宝玉を 手に握らむと進み行く猿猴が水に映つたる 月の影をば掴むやうに水に溺れてブルブルと 泡を吹いては八当り二百十日に吹きまくる 風ぢやなけれど吾々は蕎麦の迷惑思ひやる そばに見てゐる俺達も高姫さまの吹く粟を 黍がよいとは思やせぬ狐の七化け、ド狸、豆狸 八化けと更に知らずして玉を手に入れ其上に 鷹依姫の在処をば知らして貰ふと暗雲に 糠よろこびの気の毒さ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 如意の宝珠の宝玉は高砂島にあるものか 言依別の大教主初稚姫や玉能姫 二人の身魂にコツソリと離れの島にかくさせて 誰も在処は分らないとは云ふものの自転倒の どつかの島に隠しある其事だけは確ぢやと 錦の宮の杢助が私に話してをつたぞや お気の毒なは高姫ぢやモウよい加減に諦めて 玉の執着捨てなさいお前が玉に執着し 心を曇らすものだからこんな苦労をせにやならぬ 日の出神の生宮か系統の身魂か知らねども 俺は愛想がつきて来た改心したかと思や又 又もや慢心あと戻り改慢心をくり返し 神さまだとて気の毒ぢやこんな身魂を元のやうに 研き直すは大変だ俺が神さまであつたなら 遠くの昔に棄ててをるホントにホントに気が長い 尊き神の思召し誠に感じ入りました 先へ出て行く三人は高倉稲荷を始めとし 月日、旭の明神だ神が姿を現はして 高姫さまの改心を試してござるも知らずして 従いて行くのか情ないあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして高姫さまの執着を 一日も早く晴らしませ私も真に困ります あんな御方の供をして居るものならば何時迄も 自転倒島へは帰れない鷹依姫の一行は アマゾン河の南岸兎の王にかしづかれ 尊き霊地を守りつつ高姫さまの到るのを 待つてゐるのに違ひない早く改心させてたべ 高姫一人の為ならず常彦、春彦、ヨブの為 神かけ念じ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひながら、後より厭々ついて行く。 高子姫は草路を分けつつ、此森林に見た事もない大岩石十町四面許り、洋館の如くに屹立し、岩の面には白苔が所斑に生えてゐる。そして岩の凹所には小さき樹木の割には年を寄つて、植木のやうな面白き枝振りで、彼方此方に点々として生えてゐる。其下の方に縦一丈横八尺許りの真四角な穴が穿たれ、入口には頑丈な岩の戸が閉てられてあつた。高子姫は高姫に向ひ、 高子姫『これが妾の住家で御座います。どうぞ皆さま、御遠慮なしに御這入り下さいませ。お茶なつと差上げますから、ゆるゆる御休息下され。鷹依姫様にも御面会下さらば、真に有難う存じます』 高姫は余り立派なる岩窟の入口に肝をつぶし舌を巻きながら、 高姫『これはこれは思ひがけなき立派な御住居、此岩窟は何時築造になりましたか。斯様な森林内に立派な館が立つて居らうとは夢にも知りませなんだ』 高子『何分此辺は大蛇や悪獣の跋扈甚だしく、夜分は斯様な処でなければ、到底安眠する事も出来ませぬので、天然の岩山を幸ひ、掘り付けまして、漸く此頃仕上つたばかりで御座います。貴女が始めてお客さまとして、御這入り下さるかと思へば、実に光栄に存じます』 春彦『モシモシ高姫さま、確りせぬと出られぬやうな目に会はされますよ。決して這入つちや可けませぬ。ここは立派な岩窟の様に見えて居つても、シクシク原の泥田圃で御座いますよ。チト確りなさらぬか』 高子『ホヽヽヽヽ』 高姫『コレ春!お前はどうかしてゐるぢやないか。曲津に憑依されて結構な御用をゴテゴテと邪魔する事計り考へてゐるのだなア』 春彦『アイタヽヽヽ、俄に足が引きつつて来ました。どうやら化石しさうになつて来たぞ。モシ高姫さま、鎮魂をして下さいな。こんな所で石仏になつちや堪りませぬからなア』 高姫『それ見なさい。余り御神業の邪魔計りするものだから、神罰が立所に当つて其通り固められて了つたのだ。マア暫くそこに門番を勤めて居なさい。此高姫は常彦、ヨブの二人と共に奥殿に案内され結構な玉を拝見し、其都合に依つて頂戴して来る考へだから、それ迄お前はそこに立番してゐる方がよからうぞ。又してもゴテゴテ差出られると、御主人の御機嫌を損ね、折角見せて貰へる玉まで拝む事が出来ない様になつちや困るから……あゝ神様といふ御方は何とした気の利いたお方だらう。実はお前を連れて、此館へ這入るのは真平だと思うてゐた所、都合よく神様が御繰合せをして下さつた。慢心致すと、にじりとも出来ぬやうになるぞよと、お筆先に出て居りませうがな。チト改心なされ。左様なら、春さま御苦労……』 と云ひ捨て、高子姫に手をひかれ岩窟内に潜り入らうとする。春彦は声を限りに、 春彦『高姫さま、シツカリしなさい、違ひますよ。オイ常彦、ヨブの両人、俺の言ふ事を聞いて高姫さまを引止めて呉れ。大変な目に遭はねばならないぞ。俺はかう見えても、天眼通が利いて居るのだから……』 高姫『エヽ喧しい、体も動かぬ癖に、天眼通もあつたものかい……サア常彦、ヨブ参りませう』 と三人の女に手を曳かれ、奥深く進み入る。後に春彦は呆然として三人の後姿を眺め、 春彦『ハテ困つた明盲ばかりだなア。高姫さまも是ではサツパリ駄目だワイ』 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録) |
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霊界物語 | 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 | 10 暗黒殿 | 第一〇章暗黒殿〔九〇一〕 外から見た割とは非常に広い岩窟と見え、二間幅の隧道が高く穿たれて居る。そこを二三丁許り雄大なる岩窟に呆れつつ、三人の後に従つて行く。 高子『ここが妾の住居で御座います。どうぞ御遠慮なく御上り下さいませ』 高姫『ハイ有難う。何とマア綺麗な青畳を敷きつめ、立派な壁掛がかかつて居りますなア。どうしてマア此不便な土地に、こんな立派な行届いたことが出来たでせう。熱心と云ふものは怖いものですね。こんな固い岩を穿つて、こんな館を拵へるには、随分時日が掛つたでせうな』 高子姫『ハイ、私の生れた時から、私の父がそろそろ開掘にかかりました。丁度今年で五十六億万年になりますよ、ホヽヽヽヽ』 高姫『何と仰有る。お前さまが生れた時に掘りかけた此岩窟、五十六億万年とは、チト勘定が合はぬぢやありませぬか。お前さまの年はまだ十七八才の花の蕾ぢやないか』 高子姫『イエイエ、私はそんな若い女では御座いませぬよ。芝居の役者ぢやないが、どないにでも女と云ふものは化けられますからなア。顔の皺に白粉を一杯埋めて、其上に鬢つけ脂をコテコテと蝋のやうにぬり、其上に又白粉を白壁のやうにぬつて一寸紅をあしらひ、白髪には黒い汁をぬつて、此通り若く見せて居るのですよ。ここは陸の竜宮で、妾は乙姫で御座います。そして私の夫日の出神は奥に高鼾をかいて休んで居ります。いつも貴女の御肉体を借用致しますさうで御座いますが、随分貴女も御困りでせう。私は貴女の家来の黒姫さまの体内をチヨイチヨイ拝借致す竜宮の乙姫で御座います。竜宮の乙姫はいつ見ても若い顔をして居ると、世界の人間が思うて居りますが、此通り化けて居るのですからなア。お前さまも大化物の容器だから、随分おめかしやうによつては若く見えますよ。ホヽヽヽヽ』 高姫『何と合点の行かぬ事を仰有るぢやありませぬか。チト私は合点が往きませぬがなア』 高子姫『そらさうでせう。此処は五里夢中郷といふ暗黒世界の中心地点、高姫村の黒姫御殿と名が付いて居る怪体な処ですよ』 高姫『貴女は私をこんな所へうまくだまし込んで、玉をやらうなぞと云つたのは、何か一つの企みがあるのでせう』 高子姫『ハイ、勿論のこと、大いに目的があつての事で御座いますワ』 高姫『其目的とは何ですか、聞かして下さい。返答次第に依つては、此高姫にも一つ了見がありますぞや。化物なんかに化されて、おめおめして居るやうな高姫とは違ひますぞや!』 と大声に呶鳴り立てた。お月、お朝の両人はおチョボ口を尖らし、 お月、お朝『ホヽヽヽヽ……』 と笑ひ嘲る。高子姫の姿は俄に白髪と変じ、皺だらけの渋紙のやうな面をヌツと前につき出し、尖つた牙を下唇より一寸許り、下まではみ出し、 高子姫『イヒヽヽヽ、イツ迄もイツ迄も執着心の取れぬ婆アさまだのー。 ウフヽヽヽ、ウロウロと世界中をうろたへまはる玉捜し、 エヘヽヽヽ、エヽ加減に諦めたらどうだ。改心したかと思へば、玉の声聞きや、すぐ慢心する困つた高姫婆アさま、 オホヽヽヽ、オソロしい負惜みの強い、疳のきいた婆アさまだのー、 カヽヽヽヽ、カんで食てやらうか。イヤサ、咬んで呑んで吐き出してやらねば、まだ本当の改心は致すまい。何と云つても常世姫の身魂の継承だから、しぶといのも無理はないわいのう』 高姫『如意宝珠の玉を見せると云つたぢやありませぬか。そんな婆顔をしてだまさうと思つたつて、だまされもおどろかされも致しませぬよ。サアこれから高姫が岩窟退治の幕開きだ。……オイ常彦、ヨブの両人、何をおぢおぢと慄うてゐるのか、千騎一騎の此場合、チツト気を付けなされ』 常彦『高姫さま、此草つ原で貴女何を一人、喋くつて居るのですか』 高姫『お前も余程好い呆け人足だなア。此立派な岩窟がお前の目にはつかぬのか』 ヨブ『高姫さま、向ふの森蔭にモールバンドのやうな怪獣が此方を向いて睨んで居ますよ。チトしつかりして下さい』 高姫『お前こそしつかりして呉れなくちや困るぢやないか。そんなとぼけた事、千騎一騎の場合になつて、云うてるやうなことではどうなりませう。何の為にお前をはるばる連れて来たのだい。こんな時に足手纏ひにならうとは、如何な高姫も思はなかつた。……オイオイ高子姫と吐す化物婆ア、早く金剛不壊の如意宝珠を出して来ないか。日の出神を偽ると、八万地獄へ落として、水責火責の成敗にあはしてやるぞよ。三千世界の救主を何と心得て居るか!』 高子『オホヽヽヽ、玉が見たければ、自転倒島の附近の小島を捜しなさい。さうして麻邇の宝は雄島雌島にかくしてあるぞえ。早く鷹依姫に廻り会ふて、麻邇の宝珠の御用を天晴れ勤め上げ、スツパリ改心致して、玉照彦、玉照姫様に心の底から御仕へ致し、我情我慢を出さぬ様にしなさいよ』 高姫『おいて下さい、お前さま等に意見を受けずとも、チヤンと此高姫が胸にあるのだ。雄島雌島に隠してあるなんぞと、そんな馬鹿を云ふものでない。何奴も此奴も云ひ合はした様に、麻邇の宝珠は、雄島雌島に隠してあると異口同音に言ひくさる。そんな古い文句はモウ聞きあいた。サア約束通り、玉がなければ許してやるから、鷹依姫に面会さしたがよからうぞ。それをゴテゴテ言ふならば、此高姫も千騎一騎の活動だ』 高子姫は白髪の醜き婆アさまの姿になつた儘、 高子姫『高姫さま、こちらへ御座らつしやれ。鷹依姫、竜国別、テーリスタン、カーリンスの四人の御方に面会させてあげませう』 と先に立つて岩窟を右に廻り左に廻り、うす暗い奥の方まで連れて行く。 高子『サア高姫さま、ここに四人共居られます。ゆつくり御話し下さいませ』 見ればガラスの如く透き通つた隔ての中に、鷹依姫を始め一同は兎と鰐に取巻かれ、嬉しさうに果物の酒を飲んだり、唄つたり、踊つたり、愉快さうに戯れて居る。高姫は之を見るより、隔てのガラスのあるとは知らず、 高姫『コレ鷹依姫さま、何の事だい。千騎一騎の此場合、お前さまは気楽さうに、こんな魔神の岩窟に這入つて、兎や鰐を相手に酒を飲んで、踊り狂うて居るといふ事がありますかいな。私はお前の後を尋ねて、お前の難儀を助けたいと思つたから、危険を冒してここまでやつて来たのだ。それ程気楽に暮して居るのなら、アタ阿呆らしい、ここまで来るのぢやなかつたに』 と飛び込み、鷹依姫、竜国別を引摺り出さうとする刹那、ガラスに顔を打ちつけ、 高姫『アイタヽヽヽ、此高姫と同じ奴が向方に一人這入つてゐる、コラ化物!』 と腕を振上げると、向ふも腕を振り上げる。此方が目を剥けば、向ふも目を剥く。高姫は初めて鏡を見たのである。 高姫『コレコレ常彦、ヨブさま、これ御覧!私に寸分違はぬ化物が居やがる。一寸も油断はなりませぬぞや。蜃気楼の様に私の姿をソツクリ其儘に現はして居やがる。油断のならぬ化物だぞ。一寸ここまでお出でなさい』 二人は『ハイ』と答へて、高姫の側にすりよつた。又もや常彦、ヨブの同じ姿が立つて居る。高姫は二人を見比べて又もや頓狂な声を出し、 高姫『又しても化けよつたなア。コレコレ常彦、ヨブさま、しつかりせぬか。お前迄が模型をとられて了つたぢやないか。是からキツト此化物奴、高姫、常彦、ヨブと姿を変じ、其処等あたりを、だまし歩くに間違ひないから、今の間に亡ぼしておかねばなりませぬぞや。サア高姫が力一杯、此奴と格闘してこらしめてやるから、お前はお前の模型と、一つ力比べをしなさい。……コレコレ鷹依姫、竜国別、お前は化物の後に居るのだから、一つ加勢をしてお呉れ。さうすりや、私の姿の化州を前と後からはさみ討ちに、こんな化物は一人と一人は到底互角の勢で勝負がつくまい。人が口を動かせば動かす真似をさらす、稀有とい奴、……コレコレ常彦、ヨブ、お前は後まはしにして、私の模型から叩きつけて御呉れ』 常彦、ヨブの両人は、 常彦、ヨブ『ハイ承知致しました』 と鏡に映つた高姫の頭を目がけて、力一杯になぐりつけた。高姫はビツクリ仰天、 高姫『アイタヽヽヽ、コレ両人何をする、私ぢやない、向方の化州ぢやがな』 二人は鏡の顔を目当に力一杯なぐりつける。 高姫『又しても私をなぐるのんかいな。ソレ向方の奴ぢや』 常彦『向方の奴を擲つて居るぢやありませぬか。あれを御覧なさいよ。化州をなぐると思へばお前が知らぬ間になぐられたのだ』 高姫『エヽ鈍な男だなア。それだから、まさかの時に間に合はぬと、何時も云ふのだ。……痛いがなア、モウおいておくれ』 常彦『そんなら措きませうか』 高姫[※初版、校定版、愛世版いずれも話者名が「ヨブ」になっているが文脈上「高姫」のセリフだと考えるのが妥当なのでそのように修正した。]『何だかチツとも合点が往かぬぢやないか。エヽ仕方がない、何と云つても、鷹依姫、竜国別の奴、酒に魂を取られやがつて、兎や鰐を相手に遊んで居やがる。モウかうなる上は第一の魔性の女を制敗致せ』 常彦、ヨブ『さうぢやさうぢや』 と両人は高子姫の後を追つかけて行く。高姫はブツブツ呟き乍ら、自分と同じ姿に向つて睨めつけ乍ら、サツサと岩窟の入口指して走せ帰る。外に仁王の如く立つて居る春彦は大口あけて、 春彦『アハヽヽヽ、オホヽヽヽ』 と哄笑してゐる。高姫は之を眺めて、 高姫『コレコレ春彦、お前は余程馬鹿ぢやなア。何を気楽さうに笑うてゐるのだい。常彦、ヨブの両人は、行方が分らなくなつて了つたよ。お前もチツトしつかりせないと、どんな事が此悪魔の岩窟には起るか知れぬ。エーエ腑甲斐なや、足が立たないのかや』 春彦『アハヽヽヽ、高姫さま、最前から随分泥水の葦原で能く踊りましたな。二人はあこに転げて居るぢやありませぬか』 斯かる所へ以前の三人の女、美しき姿となつて現はれ来り、 女『高姫さま、誠に済みませなんだねえ』 高姫『エヽ化物奴、思ひ知れ!』 と拳を固めて、三人目がけて、打たむとする其刹那、パツと三人は煙となつて消えて了つた。白狐の姿目の前に三つ、のそりのそりと這ひ出し、あなたの森林目がけて一目散に逃げ去り「コンコンカイカイ」と鳴き立てて居る。高姫は始めて気がつき、あたりを見れば、シクシク原に泥まぶれとなつて、立つて居る事が分つて来た。是より高姫は翻然として悟り、玉の執着心を悉く心の底より払拭し去り、遂に時雨の森の邪神を言向け和し、目出度く自転倒島をさして帰国の途に就けり。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録) |