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(1809)
霊界物語 22_酉_鷹鳥山の鷹鳥姫 14 初稚姫 第一四章初稚姫〔七〇六〕 杢助『神が表に現はれて善と悪とを立別ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ 身の過ちは宣り直す三五教の宣伝使 誠の道を踏み外し心鷹ぶる高姫が 小さき意地に囚はれて錦の宮を守ります 玉照彦や玉照の姫の命や言依の 別の命の御心を空吹く風のいと軽く 聞き流したる身の報い鷹鳥山の頂きに 現はれ給ひし黄金の神の化身が誡めの 礫に谷間へ顛落し苦しみ悶ゆる娑婆世界 心一つの持ちやうで神の造りし此国は 天国浄土地獄道自由自在に開けゆく 吾身の作りし修羅畜生心の中の枉鬼に 虐げられて高姫は清泉忽ち濁り水 湧きかへりたる胸の中聞くも無残な今日の春 花咲き匂ひ風薫り小鳥は歌ひ蝶は舞ふ 花と花とに包まれし常世の春も目のあたり 神の大道を白煙深く包まれ目も鼻も 口さへ利かぬ浅ましさそれに続いて若彦が 血気にはやる雄健びのたけび外して久方の 天津空より降り来る神の礫に身を打たれ 忽ち地上に倒れ伏し息絶え絶えの瞬間に 心の開く梅の花天国浄土の楽園を 初めて覚る胸の中今迄犯せし身の罪や 心の汚れ忽ちに悟りの風に吹き払ひ 初めて此処に麻柱の真の司となりにけり あゝ高姫よ若彦よ娑婆即寂光浄土ぞや 神も仏も枉鬼も大蛇醜女も狼も 心を焦つ針の山身を苦しむる火の車 忽ち消ゆる水の霊神素盞嗚大神の 千座置戸の勲に心の空の雲霧を 払はせたまふ神言を朝な夕なに嬉しみて 尊き恵を忘れなよ神は汝と倶にあり とは云ふものの拗けたる身魂の主に何として 正しき神の坐まさむやあゝ惟神々々 恩頼を蒙りて心の岩戸を押し開き 誠明石の浦風に真帆をあげつつ往く船の 浪のまにまに消ゆるごと一日も早く八千尋の 海より深き罪咎を祓戸四柱大御神 祓はせ給へ神の子と生れ出でたる高姫や 若彦つづいて玉能姫金助、銀公其他の バラモン教に仕へたるスマートボールを始めとし カナンボールや鉄、熊や其他数多の教子よ 早く身魂を立て直せ神が表に現はれて 善と悪とを立て別ける朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 誠一つの神の道幾千代迄も変らまじ 変らぬ誠の一道に向ひまつりて松の世の 光ともなり花となり塩ともなりて世の中の 汚れを清め味をつけ神の柱とうたはれて 恥らふことのなき迄に磨き悟れよ神の子よ 神に仕へし杢助が赤き心を立て通し 初稚姫の命もて玉能の姫の神魂を 此処に伴ひ来りたり汝高姫、若彦よ 神の御声に目を醒ませ心にかかる村雲も 忽ち晴れて日月の光照らすは目のあたり あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひつつ時置師神の杢助は、初稚姫を背に負ひ、玉能姫と諸共に此場を指して現はれた。 此宣伝歌の声に鷹鳥姫、若彦、金、銀の四人は身体元の如く自由となりて立ち上り、杢助の前に嬉し涙に咽びながら両手を合せ、感謝の意を表し、恭しく首を垂れて居る。 杢助『皆さま、大変なおかげを頂きましたなア』 鷹鳥姫『ハイ、有難う御座います。余り吾々の偉い取違ひで、今迄開いた口のすぼめやうが御座いませぬ』 若彦『御神諭の通りアフンと致しました』 杢助『随分沢山な警護の役人が、竹槍を持つて御守護遊ばして居られますな。此方々は何時お出になつたのですか』 鷹鳥姫『ハイ、吾々の心に潜む悪魔を追出しに来て下さつた御恩の深いお方計りです』 若彦『此方々はバラモン教の蜈蚣姫さまの部下の方ださうです。厚いお世話になりました。何卒貴方から宜敷くお礼を云うて下さいませ』 体は棒のやうになつて強直したバラモン教の連中も、首から上は自由が利くので互に首を掉り、顔を見合せ、小声になつて、 スマート『オイ、カナン、嫌らしい事を云ふぢやないか。散々悪口をつかれ、危ない目に遇はされた俺達に向ひ、礼を云つて呉れと吐しやがる。この御礼は中々骨があるぞ。確りして居らぬと、中空より飛行機墜落惨死の幕が切つて落されるかも知れない。困つたものだなア』 カナン『何と云うても、この通り不動の金縛りを食うたのだから謝罪るより仕方がない。抵抗しようと云うた所で、こんな木像では何うする事も出来ぬぢやないか』 と囁いて居る。杢助の背から下された初稚姫は一同の前に立ち、忽ち神憑り[※三版・愛世版では「神憑り」、校定版では「神懸り」。]状態になつて仕舞つた。一同は期せずして初稚姫に視線を向けた。初稚姫は言静に、 初稚姫『三五教の宣伝使鷹鳥姫、若彦其他一同の人々よ、八岐大蛇の猛り狂ふ世の中、暗黒無道の娑婆世界とは云ひながら、汝等が心の岩戸開けし上は暗黒無明の此世も、もはや娑婆世界ではない、天国浄土である。娑婆即寂光浄土の、至歓至楽のパラダイスだ。汝等は八岐大蛇を言向け和し、ミロク神政の神業に参加せむと欲せば、先づ汝が心の娑婆世界をして天国浄土たらしめよ。この世界は汝が心によりて天国ともなり又地獄ともなるものぞ。風は清く山は青く、河悠久に流れ、木々の梢は緑の芽を吹き出し、花は笑ひ小鳥は歌ひ、蝶は舞ひ、自然の音楽は不断に聞え、森羅万象心地よげに舞踏し、吾等の目を楽しましめ、耳を喜ばせ、馨しき匂ひは鼻を養ふ。木の実は実り五穀は熟し、魚は跳ね、野菜は笑を含みて吾等が食ふを待つ。大道耽々として開け、鉄橋、石橋、木橋は架渡され、道往く旅人も夕になれば旅宿ありて叮寧に宿泊せしめ、湯を与へ食を与へ暖かき寝具を提供し、往くとして天国の状況ならざるはない。遠きに往かむとすれば汽車あり、電車あり、郵便電信の便あり、斯くの如き完全無欠の神国に生を託しながら、是をしも娑婆世界と観じ、暗黒無明の世と見るは何故ぞ、汝の心が暗きが故なり、身魂の汚れたる為なり。宣伝歌に云はずや「此世を造りし神直日、心もひろき大直日」と、あゝ斯の如き直日の神の神恩天の高くして百鳥の飛ぶに任すが如く、海の深く広くして魚鼈の踊るに任すが如き、直日の心を以て一切衆生に臨めば、何れも皆神の光ならざるはなく恵ならざるはなし。鬼もなければ仇もなし、暗もなければ汚れもなし。一日も早く真心に省み、一切に対して心静に見直せ聞き直せ、以前の誤解は速かに宣り直せよ。これ惟神なるミロクの万有に与へ給ふ大御恵なるぞよ。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と云ひ終つて初稚姫は元に復し、再び杢助の背に愛らしき幼き姿を托した。 鷹鳥姫、若彦は一言も発し得ず地に噛りつき、感謝の涙止め度なく身を慄はして居た。今迄玉能姫と見えしは幽体にて、かき消す如く消え失せた。杢助父子の姿も、如何なりしか目にも止まらず、スマートボール以下の人々も何時しか消えて、白雲の漂ふ天津日は煌々として此光景を見下したまひつつあつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・五・二七旧五・一加藤明子録)
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(1813)
霊界物語 22_酉_鷹鳥山の鷹鳥姫 18 布引の滝 第一八章布引の滝〔七一〇〕 初稚姫、玉能姫は霊夢に感じ、杢助の庵を立ち出で、青葉も薫る初夏の山路を再度山の山頂目蒐けて登り行く。淙々たる滝の音が間近く聞えて来た。 玉能姫『初稚姫様、あの音は布引の滝に近くなつたのでせう。一つ御禊をしてお夢にお示しの山頂に参り、言依別の教主より玉を預かつて帰りませうか』 初稚姫『小さな声で仰有つて下さい。此辺は曲神の悪霊が充満して居りますから、神界の秘密を探り、又もや妨害を加へられては大変ですから』 玉能姫『アヽさうでしたね。兎も角滝の音を目当てに、霧を分けて参りませう』 と夕霧籠むる谷間を、玉能姫は初稚姫の手を取り労はりつつ谷深く進み入る。 見上ぐる許りの瀑布の傍、飛び散る狭霧の玉は雨の如く降りしきり、周囲の樹木は何れも誕生の釈迦のやうになつて居る。二人は佇み、滝の雄大さを褒めて居る。霧押し分けて現はれ出でたる十数人の荒男、 甲『オイ、カナンボール、此間は山桜の盛りの時だつたがなア、鷹鳥山の清泉まで往つた時、出て来よつたお化の女、玉能姫が現はれたぞ。其時には同じ姿が三人連れとなり俺達を偉い目に遇はしよつたが、今度は手を替へて二人となり、一人はあんなチツポケな小娘に化けて出よつた。さアこれから一方口の此谷間、逃げようと云つたつて逃げられない屈強の場所、一つ彼奴を取捉へて魔谷ケ岳に連れ帰り、蜈蚣姫さまの御褒美に預からうぢやないか』 スマート『貴様の云ふ事は実に名案だ。愚図々々して居ると、又もや三五教の奴が出て来ては大変だ。善は急げだ。早く片付けて仕舞はう。何でも此辺に鷹依姫が持つて居た紫の玉が隠してあると云ふ事だから、彼奴を捉へて詮議すれば明白になるであらう。序に三五教の本山ではモウ二つの玉が紛失したと云うて騒いで居るが、大方玉能姫が何々しやがつて、此処に匿して居るに違ひないと云ふ噂だ。さア今度こそぬかつてはならないぞ。オイ皆の奴、其辺にすつこんで逃げ道を警戒し、万一も三五教の奴が出て来よつたら合図の柴笛を吹くのだぞ』 鉄公『ハイ、承知致しました。皆の奴を監督して違算なきやうに鉄条網となつて、如何なる強敵も、一歩たりとも侵入しないやうに致します。御安心下さい』 と霧に隠れて谷口の樹木の中に姿を隠した。 スマート『オイ、それなる女、汝は鷹鳥山の魔性の女、玉呑姫であらうがな。三つの玉を何処へ呑んだか、否隠したか。キリキリちやつと白状致し、此方に渡せばよし、渡さぬなどと吐すが最後、汝が素首取捉まへて魔谷ケ岳の霊場へ連れ帰り、水責め火責めはまだ愚か、剣の責苦に遇はしてでも白状させる。ならう事なら俺達も神に仕ふる身分だ。苦しめたくはない、早く白状致すが汝の得策だらう。手具脛引いて待つて居た。此処へ来たのは汝に取つて最早百年目、因果を定めて返答せい』 玉能姫『エヽ、誰人かと思へばバラモン教の蜈蚣姫が部下のスマートボールさまにカナンボールの大将さま、私が如何に玉能姫ぢやと云つて、玉を持つて居るとは些と可笑しいぢやありませぬか。それは貴方のお考へ違ひでせう』 カナン『考へ違ひもあつたものかい。三五教の裏返り者。貴様は三つの玉を持ち出して隠し場所に困り、狼狽へて居やがると云ふ事は、聖地へ入り込ましてある天州の報告によつて明かなる処だ。三五教でさへも皆貴様の所作だと目星をつけ、その在処を、四方八方に宣伝使が探ね廻つて居る。貴様は三五教の宣伝使にぶつつかるや否や、笠の台がなくなる代物だ。それよりも綺麗薩張と白状致し、バラモン教に其玉を献上致し、蜈蚣姫様の片腕となり、俺と共に神業に奉仕する気はないか』 玉能姫は微笑しながら、 玉能姫『これは偉い迷惑、三五教の人達までが、さう私を疑つて居るのですか。そりや嘘でせう』 初稚姫は小声で、 初稚姫『嘘です嘘です、玉能姫さま、真実にしちやいけませぬよ。三五教には一人として貴女を疑つて居るものはありませぬ。安心なさいませ。あんな事を云つて気を引くのですからな』 玉能姫『ハヽアさうでせう。油断のならぬ奴ですな』 スマート『こりやこりやコメツチヨ、要らぬ智慧をつけやがるない。何だツ、チンピラの癖に、子供は子供らしくせい。これこれ玉能姫、何と云つても調べ抜いてあるのだから、このスマートボールの云ふ事に間違はあるまい。玉がないならないで、玉呑姫でも連れて帰らねばならない。さア返答はどうだ。今度は化けようと云つたつて化けさせぬぞ』 玉能姫『オホヽヽヽ、貴方等は徹底した没分漢ですな。玉で見当違ひですよ』 スマートボール『見当の取れぬ仕組と云ふぢやないか、その見当を取るものがバラモン教だ。最早矢は弦を離れたも同然、てつきり俺の的は外れつこはない。一度放つた矢は行く処まで行かねば落ちつかないぞ。何と云つても貴様はバラモン教の恨みの的、否目的物だ。さアさア、ゴテゴテ云はずに、俺達の申す通りに包み隠さず云つて仕舞へ。それが却てお前の出世の因だ』 玉能姫『オホヽヽヽ、私は別に出世なんかしたくはありませぬ。そんな執着心は疾うの昔に神様にお供へして仕舞ひました。病気も、罪も、汚れも、一切残らず三五教の大神様に奉納した私、この滝水のやうに綺麗薩張、今では水の御魂の水晶玉。お生憎様、なんにも御座いませぬよ』 スマートボール『何ツ、水晶だと、それさへあれば三つの玉よりも優つて居る。さア其玉此方へ渡せ』 玉能姫『オホヽヽヽ、何処迄も訳の分らぬ玉抜け男だ事。こんなお方にお相手して居つては処方がたまらぬ。御免なさいませ』 と先へ進まうとする。 カナン『コレコレ女、かう見えてもバラモン教の蜈蚣姫が左守、右守の神様だ。玉能姫は三五教で、何れだけ地位をもつて居るか知らないが、到底俺達に比べものにはなるまい。些つとは礼儀を弁へて居るだらう、なぜ解決をつけてゆかないか』 玉能姫『オホヽヽヽ、色のお黒い蜈蚣姫さまの御眷属だけあつてお二人様、お色の黒い事、黒いにかけては天下無類の豪傑でせう。私は根つから、色の黒いのは虫が好きませぬ』 カナンボール『何だツ、善言美詞を使ふと云ふ三五教の信者が、人の顔の品評までやると云ふ事があるものか。他の顔が黒いなんて、女の分際で男を嘲弄致すのか』 玉能姫『ホヽヽヽヽ、貴方は色の黒いのが御自慢でせう。烏は黒いのが重宝、白鷺は白いのが重宝でせう。蜈蚣姫のお気にいる貴方等だから黒いといつたのは、畢竟私が尊敬を払つたのです。悪く取つて貰つちや困りますなア。あのまアお二人様とも揃ひも揃うてお黒い事、何方向いて御座るのか、近よつて見なくては分りませぬ』 カナン『オイ、スマート、なんぼ尊敬を払ふと云つたつて、色が黒いと云はれるのは、根つから有難うないぢやないか』 スマート『何、此奴ア海千、川千、山千の化物だから、尊敬どころか、体のよい辞令を使つて俺達を極端に罵倒して居るのだよ。サアもう斯うなつては俺も承知がならぬ。オイ皆の奴、出て来い。此奴をふん縛つて布引の滝へ投り込むのだ』 『オーイ』 と答へて四辺の樹の茂みより十数人、バラバラと二人の周囲に駆け集まつた。 玉能姫『コレコレ初稚姫さま、確かりして居て下さいや。是から一つ私が奮闘して、皆の奴に一泡吹かせて改心をさせて見せませう。言霊戦も結構だが、彼様な心の盲聾には言霊の効能は覚束ない。先づ第一着手として女の細腕が続く限り、直接行動を開始致しませう』 と懐中より襷を取り出し、十文字にあやどり、裾を高くからげ、大地に四股を踏み、両手をひろげ、 玉能姫『サア来い、来れ、木端武者共。三五教の玉能姫が武勇の試し時』 と両手に唾しながら身構へた。六才の初稚姫も捩鉢巻を凛と締め、襷を十文字にあやどり、袴の股立締め上げ、これ亦両手を拡げ唾しながら、 初稚姫『ヤアヤア、バラモン教を奉ずる小童共、初稚姫が幼の腕力を試すは此時、さア来い、来れ』 と雄健びする其凛々しさ。 スマート『アハヽヽヽ、些つと洒落てけつかる。小さい態をして何だ。オイ皆の奴、こんな女二人位に大勢の男がかかつたと云はれては末代の恥だ。俺一人で沢山だ。貴様等はこの活劇を観覧してをれ。サア女、この腕を見よ。中まで鉄だよ』 玉能姫『腕ばかりか、体一面黒い黒い鉄の様な真黒黒助。水晶玉の玉能姫が、今汝の垢を落してやらう。サア来い、勝負だ』 スマートボール『何ツ猪口才な、其大言後に致せ』 と頑丈な腕をぶんぶん云はせながら玉能姫に打つてかかる。玉能姫はヒラリと体をかはしスマートが足を掬つた途端、滝壺へドブンと真逆様。こりや大変だとカナンは忽ち捩鉢巻し、又もや鉄拳を振うて打ちかかる。初稚姫は、 初稚姫『ホヽヽヽヽホ、ホヽヽ』 と体をしやくつて笑うて居る。玉能姫は、 玉能姫『エヽ面倒な。汝も共に滝壺へ水葬だ。覚悟致せ』 と飛びつき来るカナンボールの首筋に手を掛くるや否や、エイツと一声、中空を二三遍廻転し、滝壺へ又もやザンブと落ち込んだ。十余の荒男は二人の危急を見て、死物狂ひに前後左右より打ち掛かる。玉能姫は右から来る奴は左に投げ、左から来る奴は右へ投げ、前から来る奴は後へ放かし、後から抱きつき喰ひつく奴は身を縮めて前方の谷底へステンドウと放り投げた。初稚姫は飛鳥の如く飛び廻り、 初稚姫『ホヽヽヽヽ、ホヽヽ』 と笑ひ専門の活動をやつて居る。 此時数十人の足音が聞えて来た。近より見れば霧の中より現はれた真黒黒助の蜈蚣姫、 蜈蚣姫『ヤアヤア、汝は三五教の玉能姫なるか、よくも吾等が部下を悩ましよつたな。此蜈蚣姫が現はれた以上はもう叶ふまい。サア尋常に降伏致すか。この谷口は数十人の部下を以て守らせあれば、汝が身は袋の鼠も同然、サア何うぢや。往生致したか』 玉能姫『ホヽヽ、噂に聞き及ぶ蜈蚣姫とは汝の事なるか。聞きしに勝る黒い婆アさま、雪より白い玉能姫が、此滝壺へ放り込んで洗濯してやらう。サア来い』 と手に唾きして身構へすれば、蜈蚣姫はカラカラと笑ひ、 蜈蚣姫『蟷螂の斧を揮つて竜車に向ふが如き、危い汝の振舞ひ。大人嬲りの骨嬲り、神妙に降伏致したが汝の為であらう』 玉能姫『誠一つを貫ぬく三五教の宣伝使、汝が一族の身魂を此滝水にさらし、水晶魂に研いて呉れむ。有難く感謝せよ』 と婆の皺苦茶腕を取らむとすれば、婆もしれ者、その手を引きはづし、玉能姫にウンと一声当身を喰はせた。玉能姫は脆くも其場に倒れてしまつた。後に残つた初稚姫は又もや小さき両手を拡げ、 初稚姫『ヤア、蜈蚣姫、吾は三五教の信者、汝が眷属共を残らず滝壺に放り込み、身魂の洗濯をしてやつて居るのに其御恩も知らず、玉能姫に当身を喰はすとは理不尽千万、もう斯うなる上は初稚姫が了簡ならぬぞや。サア来い、蜈蚣姫』 と手に唾する。 蜈蚣姫『オホヽヽヽ、玉能姫さへも此婆の手にかかつて、一溜りもなく気絶致したではないか、コメツチヨの分際として武力絶倫なる蜈蚣姫に口答へ、否手向ひしようとは不埒千万、道理が分らぬも程がある。ヤア無理もない、何を云うてもまだ子供だからな』 初稚姫『満六才になつた初稚姫の細腕の力を喰つて見よ』 蜈蚣姫『何ツ、猪口才千万な』 と武者振りつく。初稚姫は右へ左へ体を躱し、暫時が程は挑み戦ひしが、遂に蜈蚣姫の為に組み敷かれ、今や息の根を絶たれむとする時しもあれ、滝の上方より宣伝歌の声が聞えて来た。蜈蚣姫は此声に驚き、ハツと滝壺の上を見上ぐる機に手が緩んだ。初稚姫はその虚に乗じ、ムツクと立ち上り、 初稚姫『ヤア蜈蚣姫、もう此上は勘忍ならぬ。覚悟せい』 と小さき拳を固め、又もや打つてかかる。滝の上の二人の男、 (谷丸)『ヤイ滝公、あれは確に初稚姫様ぢやないか』 滝公『思はぬ御遭難、お助け申さねばなるまい。オイ谷丸、俺に続け』 と壁の如き岩に纏へる藤葛、木の枝などを力に、猿の如く下りて来た。谷丸は、 谷丸『ホー、貴女は初稚姫様』 初稚姫『ヤア谷丸、滝公、よく来て下さつた。玉能姫さまは気絶して居られます』 滝公『何ツ、玉能姫さまが』 と両人は玉能姫に向つて滝水を含み、面部に吹きかける。 蜈蚣姫『エヽもう一息と云ふ処へ怪体な奴がやつて来よつて、俺達の邪魔を致すのか、覚悟を致せ』 と婆は谷丸に武者振りつく。谷丸は体を躱した途端に婆の足を浚へた。蜈蚣姫は傍の谷底へ、筋斗うつて顛落し、狐鼠々々と霧に紛れて逃げ出した。スマートボール、カナンボール其他の連中は、思ひ思ひ濃霧を幸ひ四方に散乱してしまつた。 玉能姫は滝公の介抱に初めて正気づき、四辺をきよろきよろ見廻し、 玉能姫『初稚姫様初稚姫様』 と呼び立てる。初稚姫は傍近く寄り添ひ、 初稚姫『玉能姫様、安心して下さい、此通り無事で居ります。蜈蚣姫以下の悪者共は残らず退散致しました。谷丸さまや滝公さまが危急の場合に現はれて、私達の危難を救うて下さつたのですよ。これも全く神様の助け船、お喜びなさいませ』 玉能姫は此言葉にやつと胸撫で下し、 玉能姫『アヽ初稚姫様、御無事で何よりでした。谷丸様、滝公様、有難う、よう来て下さいましたなア』 と嬉し涙に沈む。各滝に身を清め、初稚姫の導師にて天津祝詞を奏上し終つて、二三町許り谷道を下り、稍平坦なる芝生の上に身を横たへ息を休めた。 玉能姫『不思議な所へ貴方等がお越し下さいまして、加勢をして頂き、何ともお礼の申しやうが御座いませぬ。さうしてお二人さま、何御用あつて、此処へお越しになつて居たのですか』 谷丸は、 谷丸『実は貴女だから申上げますが、言依別さまの御供をして再度山の山頂迄参り、教主さまは一生懸命に何事かお祈りをして居られます。何でも大変な神様の御用ださうです。つい今の先教主様は俄に神懸りにお成り遊ばして「汝等両人、吾に構はず布引の滝へこれから参れ、御用がある」と仰せになりましたので、両人は何事ならむと山を駆け下り、滝の上より眺めて見れば今の有様、私の用と申すのは此事で御座いましたでせう』 玉能姫『それは御苦労で御座いました。吾々二人は神様のお夢に感じ、此お山の頂に大変な御用があると承はり、生田の森の杢助さまの館を立ち出で、初稚姫様の手を曳いて滝の麓迄やつて来ました所、バラモン教の一味の者に取り囲まれ、既に危き所で御座いました。これと申すも神様の吾々への御試錬でせう。いつもなら言霊をもつて言向け和すのですが、何だか今日に限つて腕を揮ひたくなつて参りました。実にお恥かしい事で御座います』 滝公は、 滝公『イヤ、何事も神界の御都合でせう。此先幾多の悪者、続出するかも知れませぬ、千騎一騎の時に用ふる武術ですから、強ち罪にもなりますまい』 初稚姫は優し味のある声にて、 初稚姫『是より言依別の教主に面会し、神界経綸上必要なる宝玉をお預り致し、或地点に埋蔵すべく吾等は神務を帯びて居るのです。宝を付狙ふ悪魔は数限りもなく居ますから、武術を応用するも已むを得ませぬ。きつと神様はお許し下さりませう。谷丸、滝公両人、吾等二人を固く守り此山頂に案内致されよ』 と云つて神懸りは元に復した。谷丸、滝公は二人の前後を警護しながら、山頂目蒐けて登り往く。 言依別命は山頂の麗しき巌の上に、十重二十重に包みたる三個の玉を安置し、一生懸命に祈願を凝らす最中であつた。谷丸は、 谷丸『教主さま、唯今帰りました。大変な事が出来致して居ました』 言依別命『それは御苦労であつた。初稚姫様、玉能姫様は御無事であつたかな』 谷丸『ハイ、危機一髪の時両人が参りましたので、先づ生命だけは助かりました、やがて滝公がお守り申して登つて来ませう。私は一足先に御報告のために、途中から急いで帰りました』 言依別命『あゝそれは御苦労であつたなア』 と言依別命はニコニコ嬉しさうに笑つて居る。 滝公『やつとこどつこい、うんとこしよ』 と一歩々々に拍子を取り、急坂を登つて来た滝公は、峰の尾上に立ち、 滝公『サアお二人さま、もう楽です。つい其処に教主が居られます。何でも貴女に結構なものをお渡し遊ばすさうです。御神諭にも「何んな人が、何んな御用をするやら分らぬ」と示されて居ますが、肝腎の幹部のお歴々様には、素知らぬ顔をして、女や子供に御神徳、否肝腎な御用を御命じになるさうです。吾々は実に羨ましう御座います。併し乍ら聖地に於ては門掃き、草むしりばかりやらせられて居つた吾々両人が、肝腎の教主様の御微行の御供をさして頂いたのですから、実に有難いものですよ。神様は公平無私ですから、人間の勝手に決めた階級などに頓着遊ばさない。さうでなければ吾々も耐まりませぬからなア』 と教主の前に一歩々々近寄つて来る。 言依別命『皆さま、よく来て下さいました。随分この山は嶮岨で御困りでしたらう』 玉能姫『イエイエ、神様のお蔭で知らぬ中に登つて参りました。昨夜神様の霊夢に感じ、初稚姫様を伴ひ当山に参ります途中、布引の滝に於てバラモン教の一派に包囲せられ、進退谷丸処へ、布引の瀑布のやうな清い滝公さまを初め、谷丸さまがお越し下さいまして、一切の悶着も滝水の如くさらさらと落着致しました。何か神界の御用を妾達に仰せつけ下さいますのでせうか』 言依別命『貴女は霊夢に感じながら、直ぐさま山頂に登らず、体を清めようなぞと思つて、わき道をなさつたものですから、一寸神様に誡められたのですよ。今後は何事も柔順になさいませ』 玉能姫『有難う御座います』 初稚姫『教主様、御機嫌宜敷う御座います』 と小さき手を地に突いて挨拶する。言依別命も亦大地に手をつき丁寧に応答し、終つて、 言依別命『初稚姫様、玉能姫様、貴方等は是から大望な御用を勤めて頂かねばなりませぬ。それについては心の底迄見抜いた谷丸、滝公の両人をして御供をさせますれば、何卒極秘密にして勤め上げて下さい。金剛不壊の如意宝珠の玉と紫の玉を、瀬戸の海の一つ島に埋蔵する御用をお任せ致します。私が参るのは易い事ですが、余り目立つては却つて秘密が破れますから、此処でお目にかかつたのです』 玉能姫『エヽ、何と仰有います。あの紛失したと云ふお宝物が、これで御座いますか。錚々たる立派な幹部の方々がおありなさるのに、私のやうな女風情が、斯様な大切な御用を承はつては分に過ぎます。何卒幹部の方に仰せつけられますやうに』 言依別命『沢山の宣伝使は居りますが、余り浅薄で執着心が深くて、嫉妬心が盛んで功名心に駆られ、且つ口の軽い連中ばかりで、誠の御用を命ずるものは一人も御座いませぬ。私は此事について日夜憂慮して居りました処、錦の宮の大神様に、玉照彦様、玉照姫様がお伺ひの結果、教主の私をお招きになり、「貴女等にこの御用をさせよ」との厳格なる御命令で御座いました。是非共是は御辞退なされては御神慮に背きます。是非此御用にお仕へ下さいませ』 玉能姫『ぢやと申して、余り畏れ多いぢや御座いませぬか』 初稚姫『玉能姫様、教主様のお言葉の通り、謹んでお受けなさいませ。私も喜んで、御用を承はりませう』 玉能姫『左様ならば不束ながらお使ひ下さいませ』 言依別命『早速の御承知、大神様も嘸御満足に思召すで御座いませう。さア是より谷丸、滝公の両人は、お二方を保護し、二つの玉を埋蔵すべく御供をして神島に渡つて呉れ』 谷、滝両人はハツと頭を下げ、 谷丸『私等の如き卑しき者に、此御用仰せつけ下さいまして有難う存じます』 言依別命『今より谷丸に対し佐田彦と名を与へ、滝公に対し波留彦と名を与ふ。是よりは佐田彦、波留彦となつて大切なる御神業に奉仕されよ』 二人は有難涙に暮れつつ、 谷丸『大切な御用を仰せつけられた上、結構な御名迄賜はりまして、吾々身に取りて此上なき光栄で御座います』 言依別命『お礼には及ばぬ、皆大神様の御命令だ。今日から佐田彦の宣伝使、波留彦の宣伝使と任命する』 二人は夢かと許り打ち喜び、地上に頭を下げ歓喜の涙に暮れて居る。 言依別命『この玉は金剛不壊の如意宝珠、初稚姫さまにお預け申す。是は紫の玉、玉能姫さまにお預け申す。も一つ黄金の玉、これは言依別が或霊山に埋蔵して置きます』 玉能姫『教主様は神島へはお渡りになりませぬか』 言依別命『三十余万年の未来に於て、此宝玉光を発する時、迎へに参ります。それ迄は断じて渡りませぬ。サア四人の方、此峰伝ひに明石の海辺を通り、高砂の浦より、窃かにお渡り下さい。これでお別れ致します』 と言依別命は峰を伝ひ足早に姿を隠した。 此黄金の玉は高熊山の霊山に埋蔵され、ミロク出現の世を待たれたのである。其時の証として三葉躑躅を植ゑて置いた。三個の宝玉世に出でて光り輝く其活動を、三つの御魂の出現とも云ふのである。 (大正一一・五・二八旧五・二加藤明子録)
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霊界物語 22_酉_鷹鳥山の鷹鳥姫 19 山と海 第一九章山と海〔七一一〕 佐田彦は腰帯を解き、幾重にも包みたる玉函をクルクルと両端に包み、肩にふわりと引掛け得るやうに荷造りした。波留彦は驚いて、 波留彦『コリヤ佐田彦、大切な御神宝を、何だ、貴様の肌につけた穢苦き三尺帯に包むと云ふことがあるか、玉の威徳を涜すと云ふことを心得ぬか。さうして其の態は何だ。帯除け裸体になつて、みつともないぞ』 佐田彦『お前の帯を縦に引裂いて、半分呉れなければ仕方がない。藤蔓でもちぎつて帯にしよう』 波留彦『エー、そんなことして道中が出来るか、みつともない。自分の帯は自分がして行け。神玉の御威徳を涜すぞよ』 佐田彦『イヤ波留彦、さうでないよ。此山続きは随分バラモンの連中が徘徊してゐるから、貴重品と見せかけて狙はれてはならぬ。幾重にも包んだ宝玉、滅多に穢れる気遣ひはない。斯うして往かねば剣呑だから』 波留彦『如何に剣呑だと云つて、そりや余りぢやないか』 佐田彦『万劫末代に一度の大切な御用だ。二度目の岩戸開きの瑞祥を祝するため、言依別様が此再度山の山頂で、二度とない結構な御用を仰せつけられたのだ。失策つては大変だから、斯うして往くが安全だよ』 波留彦は、 波留彦『なんだか勿体ないやうな心持がするのだ。併し乍ら肝腎の宝を敵に奪られては一大事だから、そんならお前の言ふ通りにして行かう。サア、俺の帯を半分やらう』 と縦に真中からバリバリと引裂いて佐田彦に渡した。佐田彦は、 佐田彦『イヤ、有難う。これで確かり腹帯が締つて来た。併し乍ら玉能姫さま、初稚姫さま、貴女等はそんな綺麗な服装で御出になつては、悪漢に後をつけられては詮りませぬよ、何とか工夫をなさいませ』 玉能姫『ハイ、吾々二人は着物を裏向けに着て、気違ひの真似をして参りませう』 佐田彦『ヤー、それは妙案だ。流石は玉能姫様だ。サアサア、佐田彦が着替へさして上げませう』 と立ち上らむとするを玉能姫、初稚姫は首を左右に掉り、 玉能姫『イエイエ、滅相な、妾も玉能姫、自分のことは自分で処置をつけねばなりませぬ』 と云ひつつ、クルクルと帯を解き、裏向けに着物を着替へて了つた。 初稚姫も亦着物を脱がうとするを、玉能姫は少し首を傾け、 玉能姫『一寸待つて下さい。気違ひが二人もあつては却つて疑はれるかも知れませぬから、貴方は気違ひの娘になつて下さい』 初稚姫『そんなら気違ひのお母さま。サア、何処なつと参りませう』 玉能姫『オイ佐田公、波留公、貴様は何処の奴だ。余程好いヒヨツトコ野郎だな』 佐田彦『これはしたり、玉能姫さま、姫御前のあられもない、何と云ふ荒いことを仰有りますか』 玉能姫『知らぬ知らぬ、アーア、斯んなヒヨツトコ野郎の莫迦者と道伴れになるかと思へば残念だ。気が狂ひさうだ』 波留彦『玉能姫さま、今から気違ひになつて貰つては波留彦も堪りませぬで』 玉能姫『伊勢は津で持つ、津は伊勢で持つ。大根役者が玉を持つ、コリヤコリヤコリヤ』 佐田彦『玉能姫さま、洒落も可い加減になさいませな。これから未だ沢山な道程、今から気違ひの真似して居つては怺りませぬで』 玉能姫『なに、妾を気違ひとな。エー残念だ。バラモン教に於て其の人ありと聞えたる鬼熊別の妻、蜈蚣姫とはわが事なるぞ。汝は三五教の腰抜宣伝使、この蜈蚣姫が尻でも喰へ。残念なか、口惜しいか。あの詮らぬさうな顔付ワイの。オホヽヽヽ』 と臍を抱へて笑ひ倒ける。 佐田彦『アー、仕方がないなア、あんまり嬉しうて玉能姫さまは本当に逆上せて了つたのだらうかなア、波留公』 玉能姫『定めて逆上せたのであらう。逆上せ切つた蜈蚣姫の再来が、お前の頭をポカンと波留彦だ』 と言ひながら波留彦の横面をピシヤピシヤと撲り、 玉能姫『アハヽヽヽ』 と腹を抱へて笑ひ倒ける。 波留彦『なんぼ女にはられて気分が好いと言つても、キ印に撲られて怺るものか。さア行きませう、玉能姫さま、確かりなさいませ』 玉能姫『ホヽヽ、私は玉能姫ぢやないよ、狸姫だよ』 波留彦『エー、怪体の悪い、肝腎の御神業の最中にやくたいだなア。初稚姫さま、ちつと確かり言つて聞かして下さいな。コリヤ本当に逆上せて居ますで』 初稚姫『お母さま、往きませう』 とすがり付く其の手を取り放し、 玉能姫『エー、お前迄が私を気違ひと思つて居るのかい。アヽ穢らはしい。斯んな所には一時も居れない』 と二つの玉を包んだ帯を肩に引つかけ、山伝ひに雲を霞と走り行く。 初稚姫は負けず劣らず、玉能姫の後に随ひ矢の如く走り行く。佐田彦、波留彦は遁げられては大変と一生懸命に後を追ふ。何時の間にか玉能姫、初稚姫の姿は見えなくなつた。 佐田彦『オイ、波留彦、大変なことが起つたものぢやないか』 波留彦『貴様が確り握つて居らぬから、到頭狸が憑りやがつて持つて去んで了つたのだい。アヽもう仕方がない、神様に申訳がない。此絶壁から言ひ訳のために身を投げて死んで了はうかい』 佐田彦『さうだと言つて、そんな事をすれば益々神界の罪だよ』 と心配さうに悔んでゐる。 向ふの木の茂みから、 玉能姫『オーイ、波留彦さま、佐田彦さま、此処だよ此処だよ』 と玉能姫は呼んでゐる。 波留彦『ヤア、在処が分つた。気違ひ奴、あの禿げた山の横の小松の下に顔だけ出してゐよる、表から行くと又逃げられては大変だ。廻り道をしてそつと捉まへようかい』 と二人は山路を外し、木の茂みの中を蜘蛛の巣に引つかかりながら、漸く玉能姫の間近に寄つた。 玉能姫『あの二人の御方、よう来て下さんした。たまたま御用を仰せつけられながら、玉能姫に玉を奪られて玉らぬだらう。さアさア初稚姫さま、あんなヒヨツトコ野郎に構はず行きませうよ。ホヽヽヽ』 と嘲笑ひと共に掻き消す如く、又もや一目散に木の茂みを脱けて、何処へか姿を隠した。二人は一生懸命に追ひかける。初稚姫の計らひで処々に小柴が折つて標がしてある。 佐田彦『ヤア、流石は初稚姫さまだ。子供に似合はぬ好い智慧が出たものだ。俺達に之を合図に来いと云つて、小柴を所々折つて標をつけて於て下さつた。オイ、之を探ねて走らうぢやないか、のう波留彦』 波留彦『オーさうだ』 と二人は捩鉢巻しながら、小柴の折れを目標に追ひかけて行く。 鷹鳥ケ岳の山麓の松林に七八人の男、胡床を掻き車座になつて、ひそびそ話に耽つてゐる。 甲『オイ、大変に強い女もあればあるものぢやないか。俺達の兄分のスマートボールやカナンボールを苦もなく滝壺へ投げ込み、剰つさへ俺達を谷底へ投り込みやがつて、此通り痛い目に遇はせ、終局の果には蜈蚣姫の教主様まで、あんな目に遇はせよつた。彼奴は何でも偉い神様の再来かも知れないよ』 乙『なアに、彼奴は玉能姫と云つて鷹鳥山の鷹鳥姫の婢奴となり、清泉の水汲をやつて居つた奴だ。あの時は此方は女や子供と思つて油断をして居たから、あんな不覚を取つたのだ。何れ此辺へ迂路ついて来るかも知れない。なんでも彼奴を捉まへて三五教の宝の在処を白状させ、バラモン教へ占領せねば、到底此自転倒島に於ては俺達の教派は拡まらない、なんとかして、まア一度彼奴の行方を探ね、目的を達したいものだ』 丙『そんな危ないことは止しにせエ。生命あつての物種だ。蜈蚣姫さまでさへも彼奴の乾児がやつて来て、谷底へ放り投げたやうな強力が随いてゐるから、うつかり手出しは出来ないよ』 甲『ちよろ臭いことを云ふな。計略を以て旨く引張り込めば何でもない。俺が一つ智慧を貸してやらう』 丙『どうすると云ふのだい』 甲『貴様等二三人が俺と一緒に女に化けて鷹鳥山に乗り込み、三五教の求道者となつて誤魔化すのだ』 乙『貴様の面では女に変装したつて到底駄目だよ。貴様が変装したら、それこそ鬼婆に見えて仕舞ふぞ』 甲『鬼婆でも、鬼爺に見えなければ宜いぢやないか。それで完全な女になつたのだ。善悪美醜は問ふところに非ず。俺は皺苦茶婆さまになつて入り込むから、貴様は皺苦茶爺になつて、杖でもついて腰を屈め、俺の後に踵いて来い』 乙『いつその事、堂々と男の求道者になつて行つたらどうだ』 丙『そんな悪相な面をして行かうものなら、忽ち看破されて了ふぜ』 斯く雑談に耽る折しも、向ふの方より一人の女、何か肩に引つかけ、髪を振り乱し、衣服を裏向けに着ながら、女に似合はず大股にトントンと此方に向つて来る。 七歳ばかりの少女は、 少女(初稚姫)『お母さまお母さま』 と連呼しながら後追ひかけ来る。又もや続いて二人の荒男、 二人の男(佐田彦、波留彦)『オーイオーイ。待つた待つた』 と一生懸命に息を喘ませ進み来る。 甲『アリヤ何だ、あた嫌らしい。髪を振り乱し着物を裏向けに着やがつて、褌に何だか石のやうなものを包んで走つて来るぢやないか。彼奴はてつきり気違ひだよ。気違ひに噛ぶりつかれでもしたら、まるで犬に喰はれたやうなものだ。オイ、皆の奴、すつこめすつこめ』 一同『よし来た』 と林の草の中に小さくなつて横たはる。その前を踏まむ許りに玉能姫、初稚姫は、 玉能姫、初稚姫『キヤアキヤア』 と金切声を張り上げながら通つて行く。二人の男汗を垂らし、 二人の男(佐田彦、波留彦)『オーイ、気違ひ待つた』 と又もや一生懸命西方指して進み行く。一同はやうやう頭を上げ、 甲『ヤー何処の奴か知らぬが、女房が気が狂つたと見えて、偉い勢で追ひかけて行きよつた。可愛相に、あんな娘がある仲で、女房に発狂されては怺つたものぢやない。併しなかなか別嬪らしかつたぢやないか』 乙『さうだなア、可愛相なものだ。先へ行つたのはあれの爺だらう。後から行く奴はヒヨツとしたら下男かなんかだらうよ。何は兎もあれ、どえらい勢だつた。まるきり夜叉明王が荒れ狂うたやうな勢だ。マアマア俺達は無事に御通過を願うて幸ひだつた』 と話してゐる。暫らくすると蜈蚣姫は、スマートボール、カナンボール其他拾数人の部下を引連れ、一生懸命に此場に駆け来り、五六人の姿を見て、 蜈蚣姫『オイ、お前は信州、播州、芸州の連中ぢやないか。なにして居る。今此処へ玉能姫が通つた筈だがお前は知らぬか』 信州『最前から此処で一服して居ましたが、玉能姫のやうな奴は根つから通りませぬで。髪振り乱した気違がキヤアキヤア云つて通つたばかり、後から爺が可愛相に汗をブルブルに掻いて追つかけて行きました』 蜈蚣姫『どうしても此処を通らにやならぬ筈だが、ハテ不思議だなア。それなら大方杢助館へでも廻つたのだらう。一体何処へ行きよるのか。皆の奴、斯うしては居られない。再度山の山麓、生田の森に引返せ』 と慌しく呼ばはつた。スマートボールを先頭に全隊引率れて、東を指して一生懸命バラバラと走り行く。 梢を渡る松風の音、刻々に烈しくなり、瀬戸の海の浪は山嶽の如く吼り狂うてゐる。玉能姫、初稚姫は漸々にして高砂の森に着いた。四辺に人なきを幸ひ、乱れ髪を掻き上げ、顔を立派に繕ひ、着物を脱ぎ替へ、元の玉能姫となつて了つた。息急き切つて走り来つた佐田彦、波留彦は此の姿を見て、 佐田彦『ヤー、玉能姫さま、気がつきましたか。大変心配でしたよ』 玉能姫『オホヽヽヽ、お約束通り上手に気違に化けたでせう。須磨の浜辺の難関を、あゝせなくては通過が出来ませぬからなア』 佐田彦『イヤもう恐れ入りました。流石言依別命様が御見出し遊ばしただけあつて、佐田彦如き凡夫の到底及ばぬ智慧を持つてゐなさるなア』 波留彦『本当に七尺の男子波留彦も睾丸を放かしたくなつて来ました。アハヽヽヽ』 佐田彦『それにしても初稚姫さま、小さいのによく踵いてお出でなさいましたなア。何時もお父さまに甘へて負はれ通しだのに、今日は又どうしてそんな勢が出たのでせう』 初稚姫『神様が私を引つ抱へて来て下さいました。あの大きな神様が御目に止まりませ何だか』 佐田彦『さう聞くと何だか大きな影の様なものが、始終踵いて居たやうに思ひました』 初稚姫『かげが見えましたか。それが神様の御かげですよ。オホヽヽヽ』 佐田彦『子供の癖によく洒落ますなア。シヤレシヤレ恐れ入りましたもので御座るワイ』 玉能姫『サア、これから高砂の浜辺へボツボツ参りませう。幸ひに日も暮れました』 と玉能姫は先に立つ。三人は欣々と後に随ひ、浜に立ち向ふ。 五月五日の月は西天に輝き、薄雲の布を或は被り或は脱ぎ、月光明滅、四人が秘密の神業を見え隠れに、窺ふものの如くであつた。鳴門嵐の暴風は遠慮会釈もなく海面を撫で、山嶽の如き荒浪は立ち狂ひ、高砂の浜辺に押寄せ、駻馬の鬣を振つて噛みついて居る。 佐田彦は、猿田彦気取りで先に進み、船頭の家を叩き、 佐田彦『モシモシ、船頭さま、これから家島へ往くのだから、船を出して下さいな。賃銀は幾何でも出しますから』 船頭は家の中より、 船頭『何処の方か知らぬが、何を呆けてゐるのだ。レコード破りの荒浪に、如何して船が出せるものかい。こんな日に沖に出ようものなら、生命がいくつあつても堪るものでない。マア、二三日風の凪ぐ迄待つたらよからう』 佐田彦は小声で、 佐田彦『ハテ、困つたなア。吾々はどうしても家島へ渡らねばならないのだ。せめて中途の神島までなつと送つて呉れないか』 船頭『なんと言つても此の時化には船は出せないよ。桑名の徳蔵ならばイザ知らず、俺達のやうな普通の船頭では、到底駄目だよ。こんな日に船を出す位なら、家もなんにも要つたものぢやない。そんな分らぬことを言はずと、二三日待つたがよからうに』 佐田彦『どうしても出して呉れませぬか、仕方がない。それなら船を貸して下さいな』 船頭『滅相もないこと仰有るな。船でも貸さうものなら商売道具を忽ち滅茶々々にされて了うて、女房や子の鼻の下が乾上がつて了ふ。一つの船を慥へるにも百両の金子が要るのだ。自家の身代は此の船一つだ。マア、そんなことは絶対に御断り申さうかい』 佐田彦『未だ外に船頭衆はあらうな』 船頭『此の浜辺には二三十人の船頭が居る。併し乍ら開闢以来、この荒浪に船を出すやうな莫迦者は一人も居りませぬワイ。今日は五月五日、菖蒲の節句、神様が神島から高砂へ御出で遊ばす日だから、尚々船は出せないのだ。仮令浪はなくとも今日一日は、此の海の渡海は出来ないのだ。暮六つから神様が高砂の森へお越しになるのだ。モー今頃は神島を御出立遊ばして御座る時分だよ。何としてそんな処へ行くのだい』 佐田彦『俺は家島へ行くのだ。浪の都合で一寸御水を頂きに神島へ寄りたいと思ふのだよ』 船頭は不思議な奴が出て来たものだと呟きながら表に立出で、 船頭『ヤー、見れば若い御女中に娘さま。お前さま等も御一行かな』 玉能姫『ハイ、左様で御座います。どうぞ船を御出し下さいませ』 船頭頻に首を振り、 船頭『アーいかぬいかぬ、途方もないこと云ひなさるな。男でさへも行かれぬ処へ、妙齢の女が渡ると云ふことは到底出来ない。平常の日でも女は絶対に乗せることは出来ませぬワイ』 初稚姫『小父さま、そんなら其の船を売つて御呉れぬか』 船頭『売つて呉れと云つたつて、中々安うはないぞ。百両もかかるのだから』 初稚姫『それなら小父さま、二百両上げるから、お前の船を売つてお呉れ』 船頭『百両の船を二百両に買つて貰へば、船が二隻新調出来るやうなものだ。それは誠に有難いが、併し乍らみすみすお前さま達を海の藻屑となし、鱶の餌食にして了ふのは何程欲な船頭でも忍びない。そんなことは言はずに諦めて帰つて下さい。男の方なら二三日したら船を出して上げよう』 初稚姫『女は何うしていけないのですか』 船頭『アヽ、いけないいけない。理屈は知らぬが、昔から行つたことがない島だから』 佐田彦『船頭さま、そんなら時化が止んでから明日でも俺達が勝手に漕いで行くから、二百両で売つて下さい』 船頭『百両のものを二百両に売ると云ふことは、大変に欲張つたやうで気が済まぬが、併し船を売つて了へば、次の船が出来るまで徒食をせねばならぬから、貯蓄の無い俺達、そんなら二百両で売りませう』 佐田彦『有難い、そんなら手を打ちます。一、二、三』 と船頭と佐田彦は顔を見合せ、手を拍つて了つた。 初稚姫は懐より山吹色の小判を取出し、 初稚姫『サア、小父さま、改めて受取つて下さい』 と突き出す。船頭は検めて見て、 船頭『ヤー、有難う、左様なら。モウ一旦手を拍つたのだから、変換へは利きませぬよ』 と言ひ捨て、恐さうに家に飛び込み、中よりピシヤンと戸を閉め、丁寧に突張りをこうてゐる。波は益々猛り狂ふ。 佐田彦『アヽ此の船だ。サア皆さま、乗りませう。ちつと荒れた方が面白からう』 と佐田彦は先に飛び込んだ。三人も喜んで船中の人となつて了つた。 佐田彦『サア、波留彦、櫂を使つて下さい。俺は船頭だ。艪を漕いで行く。随分高い浪だよ』 とそろそろ捩鉢巻になつて、艪を操り始めた。 月は雲押し開きて利鎌のやうな光を投げ、四人の乗つた神島丸を照して居る。不思議や暴風は忽ち止まり、浪は見る見る畳の如く凪ぎ渡つた。二人は一生懸命に櫂を操りながら、沖に浮べる神島目標に漕ぎ出した。漸くにしてミロク岩の磯端に横付けになつた。 玉能姫『皆さま、御苦労でした。貴方等二人は此処に待つて居て下さい』 佐田彦『イエ私も御供を致しませう。これ丈篠竹の茂つた山、大蛇が沢山に居ると云ふことですから、保護のために吾々両人が御供致しませう。言依別の教主様より「両人の保護を頼む」と云はれたのだから、もし御両人様が大蛇にでも呑まれて了ふやうなことが出来したら、それこそ申訳がありませぬ。是非御供を致します』 初稚姫『その大蛇に用があるのだから、来て下さるな。大蛇は男が行くと大変に腹立てて怒るさうですから』 波留彦『大蛇でも矢張り女が好いのかなア。斯うなると男に生れたのも詮らぬものだ』 玉能姫『さア、初稚姫さま、参りませう。御両人の御方、決して、後から来てはなりませぬよ。用が済んだら呼びますから、それまで此処に待つてゐて下さい』 二人は頭を掻き乍ら、 佐田彦『エー仕方がない。役目が違ふのだから、そんなら神妙に待つて居ます。御用が済んだら呼んで下さい』 玉能姫『ハイ、承知しました。何うぞ機嫌よう待つて居て下さいませ』 と初稚姫の手を把り、篠竹を押分け山上目蒐けて登り行く。 辛うじて二人は山の頂に到着した。五六歳の童子五人と童女三人、黄金の鍬を持つて何処よりともなく現はれ来り、さしもに堅き岩石を瞬く間に掘つて了つた。 初稚姫『アー、貴女は厳の身魂、瑞の身魂の大神様、只今言依別命様の御命令に依つて、無事に此処まで玉の御供をして参りました。さア、何うぞ納めて下さい』 五人の童子はにこにこ笑ひながら、ものをも言はず一度に小さき手を差出す。初稚姫は金剛不壊の如意宝珠の玉函を取り、恭しく頭上に捧げながら五人の手の上に載せた。十本の掌の上に一個の玉函、忽ち五瓣の梅花が開いた。童子は玉函と共に、今掘つたばかりの岩の穴に消えて了つた。 三人の童女は又もや手を拡げて、玉能姫の前に進み来る。玉能姫は紫の宝珠の函を取り上げ、恭しく頭上に捧げ、次で三人の童女の手に渡した。童女はものをも言はず微笑を浮べたまま、玉函と共に同じ岩穴に消えて了つた。玉能姫は怪しんで穴を覗き見れば、童男、童女の姿は影もなく、只二つの玉函、微妙の音声を発し、鮮光孔内を照らして居る。 二人は恭しく天津祝詞を奏上し、次で神言を唱へ、天の数歌を歌ひ、岩蓋をなし、其上に今童女が捨て置きし、黄金の鍬を各自に取り上げ、土を厚く衣せ、四辺の小松を其上に植ゑて、又もや祝詞を奏上し、悠々として山を下り行く。 玉能姫は、 玉能姫『お二人さま、えらう御待たせしました。さア、もう御用が済みました。帰りませう』 佐田彦、波留彦両人は口を揃へて、 佐田彦、波留彦『それは結構で御座いました。御目出度う。これから私等が一度登つて来ますから、暫らく此処に待つて居て下さいませ』 初稚姫『モー御用が済みましたのですから、一歩も上つてはなりませぬ。さア帰りませうよ』 佐田彦『折角此処迄苦労して御供をして来たのだから、埋めた跡なりと拝まして下さいな』 初稚姫は首を左右に振つてゐる。玉能姫を見れば、是亦無言の儘首を左右に振つてゐる。何処ともなく雷の如き声、 声『一刻も猶予はならぬ。これより高砂へは寄らず、淡路島を目標に再度山の麓に船をつけよ。サア、早く早く』 と呶鳴るものがある。此言葉に佐田彦、波留彦は、 佐田彦、波留彦『ハイ、畏まりました』 と玉能姫、初稚姫を迎へ入れ一生懸命に艪櫂を操りつつ、再度山の方面指して帰り行く。 (大正一一・五・二八旧五・二外山豊二録)
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(1822)
霊界物語 23_戌_木山の里/竜宮島へ出発 04 長高説 第四章長高説〔七一六〕 杢助は魔我彦、竹彦二人と共に窃に聖地に帰り、表戸を閉し暫らく外出せず、聖地の様子を窺つて居た。玉治別、若彦、国依別の三宣伝使も密に聖地に帰り、国依別が館に深く忍び、高姫一派の陰謀を偵察しつつあつた。神ならぬ身の高姫は此事は夢にも知らず、鬼の来ぬ間の洗濯するは今此時と、私かに聖地の役員信徒の宅に布令を廻し、緊急事件突発せりと触れ込んで、錦の宮の八尋殿に集めた。 此日は風烈しく急雨盆を覆へす如く、雷鳴さへも天の東西南北に巻舌を使つてゴロツキ出した。斯かる烈しき風雨雷電にも屈せず、緊急事件と聞いて爺も婆も猫も杓子も、脛腰の立つ者は満場立錐の余地なきまでに寄り集まつた。此時高姫は烏帽子、狩衣厳めしく神殿に進み、言依別の教主、尻でも喰へと言ふ鼻息にて斎主を勤め、型の如く祭典を済ませ、アトラスの様な曼陀羅の面を講座の上に曝し、満座の一同に向ひ、鬼の首を篦で掻き斬つた様に得意気に壇上に肩を揺り、腮を上下にしやくり乍ら、 高姫『皆さま、今日は斯くの如き結構なお日和にも拘らず、残らず御参集下さいまして、日の出神の生宮も満足に存じます。言依別の教主は先日より少しく病気の態にて引き籠られ、又杢助の総務殿は何れへかお出でになり、此三五教の本山は首の無い人間の様だ、二進も三進も動きが取れないと、大勢様の中には御心配遊ばしたお方があつた様ですが、日の出神の御神徳は偉いものです。教主が出勤せなくても、杢助其他の幹部宣伝使が居なくても、御神力に依つて、斯くの如く一人も残らず参集して下さつたと言ふのは、未だ天道様は此高姫を捨て給はざる証で御座いませう。杢助総務の召集でも言依別の教主の召集でも、此八尋殿の建設以来、是だけ立錐の余地なき迄お集まりになつた事は御座いませぬ。それだから神力が強いか、学力が強いか、神力と学力との力競べを致さうと神様が仰有るのです。論より証拠、実地を見て御改心なさるが一等です。時に緊急事件と申しまするのは外でも御座らぬ。我々日の出神の生宮、而も変性男子の系統の肉体、及び錚々たる幹部の御連中を差措き、たかの知れたお節の成り上りの玉能姫や、杢助の娘お初の如き者に、ハイカラの教主が大切なる御神業をソツと命令し、吾々始め幹部の御歴々にスツパヌケを喰はすと言ふ事は、如何に御神業とは言へ、吾々一同を侮辱したる仕打ちでは御座りますまいか。幹部役員は申すも更なり此処にお集まりの方々は何れも熱心なる三五教の信者様計りで御座りませう、神様のお仕組の御用を各々に致し度いばつかりで、地位財産を捨てて此処へ来乍ら、訳の分らぬ杢助一派の者に蹂躙されて、指を啣へてアフンとして見て居ると言ふ事がありませうか。斯う見渡す所、大分立派な男さまも居られますが、貴方等は睾丸を提げて居られますか。実に心外千万ではありますまいかな』 加米彦は満座の中よりヌツと立ち上り、 加米彦『高姫さまに質問があります、何事も神界の御経綸は我々人間の容喙すべき所ではありますまい。如何に日の出神の生宮ぢやと仰有つても、神様が高姫さまの命令に服従せよとは、何処の筆先にも書いてはありませぬ。日の出神呼ばはりは廃めて貰ひ度い。貴女こそ聖地及び神界の御経綸を混乱顛覆させる魔神の容器でせう』 高姫は講座より地団駄を踏み、目を釣りあげ、 高姫『誰かと思へば汝は秋山彦の門番加米彦ではないか。世界の大門開きを致す此高姫の申す事、たかが知れた一軒の家の門番が容喙すべき限りでない。すつ込つで居なされ』 と一口に叩きつけ様とする。加米彦は負ず気になり、高姫の立てる壇上に現はれて一同を見渡し、 加米彦『皆さま、私は今高姫さまの仰せられた如く、秋山彦の門番を致して居りました加米彦で御座いますが、然し乍ら高姫さまも大門の番人ぢやと只今自白されたではありませぬか。門番の分際として大奥の事が如何して分りませう。それに就いても私は秋山彦の館、即ち神素盞嗚大神、国武彦命様の御隠れ館の門番を致して居つた者、其時に冠島、沓島の鍵を応答なく盗んで行つて玉を呑み込んだ人があると言ふ事は、私が今申し上げずとも、皆さんは既に已に御承知の事と存じます。斯様なる権謀術数到らざるなき生宮さまの言葉が、如何して真剣に真面目に信ぜられませうか。皆様冷静によく御考へを願ひます』 座中より『尤も尤も』『賛成々々』『ヒヤヒヤ』『ノウノウ』の声交々起つて来る。 高姫は烈火の如く、 高姫『今「ノウノウ」と言つたお方は此日の出神の前に出て来て下さい。吾党の士と考へます。サア早く此処へお越しなされ』 加米彦『恐らく一人もありますまい、私の説に対し「ノウノウ」と言つたお方は賛成の意味を間違つて言はれたのでせう。皆さま、失礼な申し分で御座いますが、中には老人や子供衆も居られますから、一寸説明を致します。「ヒヤヒヤ」と言へば私の説に賛成したと言ふ事、「ノウノウ」と言へば賛成せないと言ふ事です。如何です。尚一度宣り直して貰ひませう。さうして不賛成のお方は「ノウノウ」と言つて下さい』 場の四隅よりは『ヒヤヒヤ』の声計りである。殊更大きな声で『ノウノウ、然し高姫の説にはノウノウだ』と付け加へた。高姫は口角泡を吹き乍ら、 高姫『皆さま、今となつて分らぬと言うても余りぢやありませぬか、大切なるお宝を隠されて、よう平気で居られますな。第一言依別のドハイカラの教主は、杢助の様な奴にチヨロまかされ、系統の生宮の高姫を疎外し、さうして其宝をば何処かへ隠して仕舞つた。皆さまはそんな章魚の揚壺を喰はされた様な目に遇ひ乍ら、平気で御座るとは無神経にも程があるぢやありませぬか。何程言依別の教主が偉くても、杢助の力が強くても、神界の事が学や智慧で分りますか。昔からの根本の因縁、大先祖は如何なる事を致して居つたか、如何なる因縁で此世へ生れて来たか、日の出神の誠のお活動は如何なものか、竜宮の乙姫様の御正体は如何かと言ふ明瞭な答へが出来ますか。モウ是からは錦の宮を始め此八尋殿は、及ばず乍ら此高姫が総監致します。玉能姫や初稚姫の女を選んで、大切な御用をさせると言ふ訳の分からぬ教主に、随喜渇仰して居る方々の気が知れませぬ。チツと皆さん、耳の穴を掃除して日の出神の託宣を聞き、活眼を開いて実地の行ひをよくお調べなされ。根本の要を掴んだ日の出神の生宮を差措いて、枝の神の憑つた肉体に何が分りますか。ここは一つ……誰の事でも無い、皆お前さん等の一身上に関する大問題、否国家の大問題です』 加米彦『只今高姫さまのお言葉に就いて異議のある方は起立を願ひます』 一同は残らず起立し『異議あり異議あり』と叫んだ。 加米彦『皆さまの御精神は分りました。私の申した事に御賛成のお方は何卒尚一度起立を願ひます』 高姫は隼の如き目を睜り、各人の行動を監視して居る。壇下の信者は高姫に顔を睨まれ、起立もせず坐りもせず、中腰で居るものも沢山あつた。 加米彦『皆さまに伺ひますが、教主が神界の御命令に拠つて、玉能姫さま、初稚姫さまに御用を仰せ付けられたのが悪いとすれば、まだまだ横暴極まる悪い事が此処に一つある様に思ひます』 聴衆の中より『有る有る、沢山にある』と呶鳴る者がある。 加米彦『その職に非ざる身を以て、神勅も伺はず、教主の承諾も得ず、部下の役員を任免黜陟すると言ふ事は、少しく横暴ではありますまいか。黒姫様、鷹依姫様、竜国別様、テーリスタン、カーリンスを聖地より追出したのは、果して何人の所為だと思ひますか』 此時高姫は肩を斜に聳やかし乍ら、 高姫『加米彦、そりや何を言ひなさる。系統の生宮、日の出神が命令をなさつて、黒姫以下を海外諸国へ玉探しにお遣り遊ばしたのだ。何程言依別や初稚姫が偉いと言つても、日の出神には叶ひますまい。学や智慧で定めた規則が何になるか。そんな屁理屈は神界には通りませぬぞや』 加米彦『これ高姫さま、お前さまは二つ目には日の出神だと仰有るが、そんな立派な神様なら何故宝玉を隠されて、それを知らずに居りましたか。それの分らぬ様な日の出神なら我々は信頼する丈けの価値がありませぬ』 一同は『ヒヤヒヤ』と叫ぶ。中には『加米彦さま、確り頼みます』と弥次る者もあつた。 高姫『誰が何と言つても日の出神に間違ひはない。そんな小さい事に齷齪して居る様な日の出神なれば、如何して此三千世界の御用が勤まりますか。物が分らぬにも程がある。仮令此高姫一人になつたとて此事仕遂げねば措きませぬぞ』 加米彦『高姫さま、一人になつてもと今言はれましたな。此通り沢山の方々が見えて居つても、只一人も貴女の説に賛成する者が無いのを見れば、既に已に一人になつて居るのではありませぬか』 場の四隅より『妙々』『賛成々々』『しつかり頼む』『孤城落日』等の弥次り声が聞えて来た。 高姫『盲目千人、目明一人の世の中とはよくも言つた者だ。神様の御心中をお察し申す。あゝあ、斯んな分らぬ身魂の曇つた人民計りを、根の国、底の国の苦しみから助けてやらうと思召す大神様や、日の出神様の広大無辺のお心がおいとしい』 と涙を拭ふ。 加米彦『高姫さま、貴女の誠心は我々も認めて居りますが、然し乍ら根本的に大誤解があるのを我々は遺憾に存じます。貴女の肉体は変性男子の系統だから曲津神が抱込んで、国治立大神のおでましを妨害し、再び悪魔の世界にしやうとして居るのですから、ちつとは省みなさつたが宜しからう、我々の様な肉体に憑つた処で悪魔の目的は達しない。断つても断れぬ系統の肉体を応用して日の出神だと誤魔化すのですから御用心なさらぬと、遂には貴女の身の破滅は言ふに及ばず、大神様の御経綸を妨害し天下に大害毒を流す様になりますから、此処は一つ冷静にお考へを願ひたい。寄ると触ると幹部を始め数多の信者は、此事計りに頭を悩めて居りますが、然し貴女が変性男子の系統でもあり、断つても断れぬお方ぢやと言ふので皆遠慮して居るのです。此加米彦なればこそ、職を賭して斯かる苦言を申し上げるのです。決して貴女を排斥しようとか、除け者にしようとの悪い心は少しもありませぬ。第一貴女のお身の上を案じ、大神様の御経綸を完全に成就して頂き、世界の人民もミロクの神政を謳歌し、一時も早く松の世をつくり上げ度いとの熱心から御忠告を申し上げるのです。何卒よくお考へを願ひます』 高姫『秋山彦の門番、加米彦、そりや何を言ふか。ヤツとの事で宣伝使の末席に加へられたと思つて、ようツベコベと其んな屁理屈が言へたものだ。系統を抱き込んで目的を立てると言ふ事は、それは言依別命の事だ。此高姫は正真正銘の変性男子よりも早い神様の御降臨、云はば変性男子よりも高姫の方が先輩と云つても異論はありますまい。打割つて言へば、変性男子よりも此日の出神の生宮が教祖とならねばならぬ者だ。変性男子の肉体は最早昇天されたのだから、後は高姫が教祖の御用をするのが神界の経綸上当然の帰結であります。然し乍ら一歩を譲つて変性女子の言依別を教主にしてやつて置いてあるのは、皆此高姫が黙つて居るからだ。然し最早斯うなつては勘忍袋の緒がきれて来た。日の出神が加米彦の宣伝使を今日限り免職させ、杢助の総務役を解き、言依別命を放逐し、玉治別、国依別の没分暁漢も今日限り免職させるから、今後ノソノソ帰つて来ても皆さまは相手になつてはなりませぬぞ』 加米彦『アハヽヽヽ、何程高姫さまが地団駄踏んで呶鳴らつしやつても、少しも我々に於ては痛痒を感じませぬ。お前に任命されたのではない。言依別神様に任ぜられたのだから、要らぬ御心配をして下さいますな』 高姫『お前等の知つた事ぢや無い。善一筋の誠正直を立て通す妾の仕込んだ魔我彦、竹彦両人こそ、本当に立派な宣伝使だ。是から誰が何と言つても魔我彦を総務にし、竹彦を副総務に神が致すから左様心得なされ。嫌なお方は退いて下され。此錦の宮は高姫が誰が何と言つても総監致すのだから』 此時佐田彦、波留彦の両人は壇上に駆上り、 佐田彦『吾々は言依別命様より或特別の使命を帯び、御神宝の御用を勤めた者であります。何と言つても高姫さまは其隠し場所が分らなくては駄目ですよ。大勢の者が如何しても貴女に畏服するのは、貴方が天眼力で玉の所在を言ひ当なくては日の出神も通りませぬ』 高姫は目を瞋らせ、 高姫『エヽ、又しても門掃の成上りがツベコベと何を言ふのだ。玉の所在が分らぬ様な事で、斯んな啖呵がきれますか。屹度時節が来たなれば現して見せて上げよう』 佐田彦『日の出神も時節には叶ひませぬかな』 波留彦『吾々の心の裡にチヤンと仕舞ひ込んであるのだが、常平生から人の心が見え透くと仰有る日の出神さまに、此胸の中を一寸透視して貰ひませうか』 と襟を両方に開け、胸板を出して稍反身になり、握り拳を固めてウンウンと殴つて見せた。 高姫『ツベコベと神に向つて理屈を言ふ間は駄目だ。誰が何と言つても魔我彦、竹彦位立派な者はありませぬワイ。妾の言ふことが気に喰はぬ人はトツトと尻からげて帰つて下さい。お筆先に此大本は大勢は要らぬ。誠の者が三人さへあれば立派に御用が勤めあがると、変性男子のお筆にチヤンと出て居る。今が立替立直しの時期ぢや、サアサア早う各自に覚悟を成さいませ。此処は大勢は要りませぬ。大勢あるとゴテついて、肝腎の御用の邪魔になる。日の出神の生宮が天晴れ神政成就さして見せるから、其時には又集まつて御座れ。神は我子、他人の子の隔ては致さぬから、其時になつたら、「高姫様始め魔我彦、竹彦の宣伝使、エライ取違ひを致して居りましたから、何卒御勘弁下さりませ」と逆トンボリになつてお詫に来なされ。気好う赦して上げるから、今は御神業の邪魔になるからトツトと帰つて下され。帰るのが嫌なら高姫の言ふ事を聞いて、改心をなさるが宜からう』 斯かる所へ杢助は魔我彦、竹彦両人を従へ、ノソリノソリと人を分けてやつて来た。群集は三人の姿を見て思はず雨霰と拍手した。杢助一行は一同に目礼し乍ら講座に上り、 杢助『アヽ是は是は高姫様、御演説御苦労で御座いました。嘸お疲れでせう。貴女の御信任厚き魔我彦、竹彦の立派な宣伝使が見えました。是から貴女に代つて演説なさるさうです。私も大変に両人さんのお説には感服致しました』 高姫は百万の援軍を得たる如き得意面を曝し、肩を聳やかし稍仰向き乍ら、 高姫『杢助殿、アヽそれは御苦労であつた。よう其処迄改心が出来て結構だ。是から何事も高姫の申す事を聞きなさるか、イヤ改心をなさるか』 杢助『改心の徹底迄いつたものは、最早改心する余地がありませぬ。貴女の様に改心から後戻りをして慢心が出来ると、又改心する機会がありまするが、吾々の如き者は、融通の利かぬ困つた者です。貴女の様に慢心しては改心し、改心しては慢心し、慢心改心、改心慢心と自由自在の芸当は、到底吾々の様な朴訥な人間では不可能事です、アツハヽヽヽ』 と豪傑笑ひをする。群集は手を拍つて笑ふ。 高姫『アヽ魔我彦、竹彦、好い処へ帰つて御座つた。皆さまに合点の往く様に此処で改心の話を聞かして下さい。さうすれば此高姫の日頃教育した力も現はるるなり、お前さまの善一筋の一分一厘歪はぬ日本魂の生粋が証明されるのだから、サア早うチヤツと皆さまに大々的訓戒を与へて下さい。これこれ加米彦、佐田彦、波留彦、余り沢山に講座に居ると窮屈でいかぬ。暫らく下へおりて、魔我彦や、竹彦の大宣伝使の御説教を聞くのだよ。さうすれば、チツトはお前さまの我も折れて宜からう』 と得意満面に溢れ肩を揺りイソイソといきつて居る。魔我彦は大勢に向ひ、 魔我彦『皆さま、私は高姫様の神様に御熱心なる御態度に心の底から感銘致しまして、如何かして高姫様の思惑を立てさし度いと思ひ、御心中を忖度致しまして紀伊の国に罷り出で、実の処は若彦を巧く誑かし聖地へ連れ帰り、杢助さま、言依別の教主を或難題を塗りつけ放逐しやうと企みつつ、大台ケ原の峰続き青山峠までスタスタやつて往つた所、玉治別、国依別の両宣伝使が谷の風景を眺めて、休息して居られました。そこで高姫様の一番お邪魔になるのは言依別命、それについで命の信任厚き玉治別、国依別の両人を、何とかして葬り去らうと思ひ進んで行つた所、折よくも日の暮前両人に出会し、二人の隙を覗ひ千仭の谷間へ突落し、高姫様の邪魔ものを除かむものと考へて居りました。万々一都合よく行けば、あとに残つた言依別命位は最早物の数でもないと、忽ち悪心を起し、思ひきつて谷底へ突き込みました。両人は五体が滅茶々々になつて斃死つただらうと思つて居ましたが、あに計らむや妹図らむや、若彦の館に於て杢助様始め玉、国両宣伝使に出会した時のその苦しさ怖さ、屹度復讎を討たれるに相違ないと思つて心配を致し、生きた心地も無くガタガタ慄へ乍ら、矢庭に庭先の松の樹に駆上り、神憑りの言を信じ雲に乗つて逃げ出さうと思ひ、過つて二人共樹上より大地に向つて真逆様に墜落し、人事不省に陥つて居る所を、玉、国の両宣伝使の手厚き御保護を受け、さうして鵜の毛の露ほども怨み給はず、却て神様から結構な教訓を受けたと喜んで下さつた時の吾々の心、到底高姫さまの教へられる事とは天地雲泥の違ひで御座いました。そこで私は何故此様な善のお方を悪く思つたか知らぬと、懺悔の念に堪へず考へ込んで居りましたが、矢張言依別の教主の教理を聞いて御座るお蔭で、斯んな立派な人格になられたのであらうと深く感じました。又私があの様な悪心を起したのも、矢張高姫さまの感化力がさせた事だとホトホト恐ろしくなりました。如何しても人間は師匠を選ばねばなりませぬ。水は方円の器に随ふとか申しまして、教はる師匠、交はる友によつて善にもなり、悪にもなるものと堅く信じます。私は皆さまに今日迄の取違を此処にお詫致します』 高姫『コレコレ魔我彦、誰がそんな乱暴な事をせいと言ひましたか、それは大方言依別の霊が憑つたのだらう』 竹彦『イヽエ、言依別さまの身魂は余り尊く清らかで、我々の様な小さい曇つた鏡にはおうつりに成りませぬ。全く高姫さまや、黒姫さまの生霊が憑りましてな』 聴衆は手を拍つてドヨメキ渡る。杢助は又もや口を開き、 杢助『皆さま、私は言依別の教主より内命を奉じ、十津川の谷間へ急行せよとの仰せにより行つて見れば、谷川に似合はぬ大滝の下に立派な青い淵がありました。そこで水行して居ると上から二人の男が突然降り来り、ザンブとばかり淵へ落ち込んだ。日の暮紛れに何人か分らねども見逃す訳にも行かぬ、直に淵へとび込んで救ひ上げ色々と介抱した所、二人の男は漸く息を吹き返しました。よくよく見れば、玉治別、国依別の宣伝使で御座いました。それより両人に向ひ如何して斯んな所へ落ち込んだのですかと尋ねて見ましたが、御両人は他人に瑕瑾をつけまいと言ふ誠心から、現在此魔我彦、竹彦につき落された事を一言も発せず隠して居られました。さうして二人に対して毛頭怨みを抱いて居られないのには私も感服致しました。是と言ふのも全く瑞の御霊の大精神を体得して居られるからだと、流石の杢助も感涙に咽び、それより三人は道を急いで若彦の館に行つて見れば、魔我彦、竹彦の両人が何事か善からぬ虚言を構へ若彦を唆かし大陰謀を企まむとして居る所でありました。然し乍ら流石の悪人も誠の心に感じ斯くの如く改心を致して、自分の罪状を逐一皆さまの前に曝け出し真心を示して居られます。之でも言依別様の教が悪と言はれませうか。高姫さまの教は果して完全なもので御座いませうか』 と釘をさされて高姫はグツとつまり、壇上を蹴散らす如き勢で肩を斜に首を左右に振り乍ら、己が館へ足早に帰り行く。 斯かる所へ言依別の教主は莞爾として現はれ、一場の演説を試みた。玉治別、国依別、若彦の三人は此場に悠然として現はれ来り、一同に会釈し、神殿に向ひ天津祝詞を奏上し終つて一同解散したり。今後の高姫は如何なる行動を執るならむか。 (大正一一・六・一〇旧五・一五北村隆光録)
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(1841)
霊界物語 24_亥_豪州物語1(高姫と蜈蚣姫) 01 粉骨砕身 第一章粉骨砕身〔七三一〕 遠き神代の其昔埃及国に名も高き イホの都に現はれしバラモン教の大棟梁 鬼雲彦が片腕と頼む鬼熊別夫婦 イホの館の没落に後晦まして瑞穂国 メソポタミヤの顕恩城に教の射場を立直し 時めき渡るバラモンの勢旭の昇る如 教は四方に輝きて天地自然の楽園に 光を添ふる芽出度さよ鬼熊別と蜈蚣姫 二人の中に生れたる十五の春の小糸姫 一粒種の初愛娘蝶よ花よと育くみて 隙間の風もアテドなく寵愛過ぎて気儘者 父と母との言の葉を尻に聞かして小娘が 年に似合はぬ悪行も直日に見直し聞直し 又宣り直し目の中に飛び入るとても痛からず 悪逆無道の両親も我児の愛にひかされて 眼は晦み耳は聾へ鼻も無ければ口もなし 恋に溺れてお転婆のあらぬ限りを尽したる 小糸の姫の身の果ては初めて知つた初恋の 胸の焔に焦されて人も有らうに出歯男 団栗眼の鼻曲り鼻頭に印した赤痣は 慕うた女の眼より見れば牡丹か桜花 大きな口を打開き笑ふ姿を眺めては 男の中の男ぞと思ひ初めたが病付で 親の許さぬ縁をば人目を忍び結び昆布 濡れてほとびてグニヤグニヤと寝屋の衾の友彦を 此上なき者と思ひ詰め手に手を取つて両親が 館を脱け出でエデン川人目の関や涙川 流し渡りて波斯の国水火を合はして遠近と 三十男に手を曳かれ蜜より甘き囁きに 肝腎要の魂を抜かれて笑壺に入り乍ら 廻り廻りて印度の国錫蘭島に打渡り 小さき庵を結びつつお前と私との其仲は 仮令天地は覆るとも月日は西より昇るとも 千代も八千代も永久にミロクの世までも変るまい 竹の柱に茅の屋根手鍋提げても厭やせぬ ゾツコン惚れた二人仲天地の愛を一身に 独占したる面色に二月三月と暮す内 小糸の姫は漸うに男の臭気が鼻につき 熱き恋路も日を追うて薄れ冷たきあき風に 吹かれて変る冬の空雪にも擬ふ玉の肌 冷えては最早熱もなく隙さへあらば飛び出して 理想の夫に身を任せ社交の花と謳はれつ 時めき渡るも女子の誇りと心機一転し うるさくなつた友彦の酩酊を幸ひ一通の 三行半を遺し置きあとは野となれ山となれ 男旱魃もなき世界如何なり行ことママの川 浮いた心の捨小舟恋のイロハの意気を棄て 櫓を操りて印度洋浪のまにまに漕ぎ出せば 何の容赦も荒海の忽ち船は暗礁に 正面衝突メキメキと砕けて魂は中天に 飛んで出でたる居りもあれ三五教の宣伝使 五十子の姫の神船にヤツと救はれ太平の 洋の真中に泛びたる竜宮島に上陸し 人気の荒き島人に日頃のおキヤンを応用し 鰻上りに島国の女王と仰がれ三五の 神の教に帰順して誠の道を伝へたる 黄竜姫の物語褥の船にウキウキと 身を横たへて太平の洋をばここに瑞月が 男波女波を照しつつ天涯万里の物語 心の色は真澄空北極星座に安臥して 北斗の星に取巻かれ七剣星に酷似せる 鉛の筆で研ぎすまし千代に伝ふる万年筆の ペンペンだらりと述べ立つる手具脛引いて松村氏 唯一言も漏らさじと耳を欹て息こらし 神のまにまに誌し行くあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして二十四巻の物語 いと速やかに編み終せ世人を神の大道に 救ふ栞とならせかし天地四方の大神の 御前に祈り奉る。 海中に浮かべる錫蘭島は、昔はシロの島と云ひけり。バラモン教の鬼熊別が部下に仕へし雉子と云ふ男、世才に長けた所より、巧言令色の限りを尽し、鬼熊別夫婦に巧く取り入り、夫婦の覚え芽出度く、遂には抜擢されてバラモン教の宣伝使となり、名も友彦と改められたり。得意の時に図に乗るは小人の常、友彦は何時しか野心の芽を吹き出だし、追々露骨となりて、夫婦が掌中の玉と愛で慈む一人娘の小糸姫に目をつけたり。友彦の心の中は、夫婦が最愛の娘さへ吾手に入らば、鬼熊別の後を襲ひ、天晴れバラモン教の副棟梁、あわよくば鬼雲彦の地位を奪ひ、野心を充さむと昼夜間断なく心慮をめぐらし居たりける。 ○ 鬼熊別夫婦はエデン河を渡り、対岸の小高き丘に登り、数多の従臣と共に花見の宴を催し、酒に酔ひ潰れ、舌も廻らぬ千鳥足、踊り狂ひつ天下の春を独占せし心地して、意気揚々と、再びエデンの河を渡り此方に向つて帰り来る。鬼熊別は酩酊甚だしく、船中にて手を振り足踏みならし踊り狂ふ悪酒の、無暗に鉄拳振廻し、あたり構はず従臣を擲りつけて興がり居たりしが、一人の従臣は鬼熊別の鉄拳を避けむと、周章狼狽き逃げ廻る機みに、船端に立てる今年十五才の小糸姫の身体に衝突せし途端、小糸姫は『アツ』と一声、渦巻く波に落ち込み、後白波となりにける。 鬼熊別夫婦を初め船中の人々は、初めて酔も醒め『アレヨアレヨ』と立騒げども、小糸姫の姿は見えず、狭き船中を右往左往に狼狽へまはる。此時身を躍らして赤裸の儘、河中に飛び込んだ二人の男あり。一人は小糸姫に衝突した三助、一人は友彦なりき。友彦は水練に妙を得、浮きつ沈みつ、姫の行方を足もて探り探り、立泳ぎしながら流れ行く。漸く姫の姿をみとめたる時は、既に十数丁の下流なりき。友彦は小糸姫を小脇に抱へ込み、河辺を辛うじて攀ぢ登り、水を吐かせ、種々雑多と手を尽し、漸くにして蘇生せしめ、意気揚々として鬼熊別が館に立帰りたり。 是れより先、鬼熊別夫婦は数多の人数を召び集め、小糸姫の陥りし河の辺を力限りに捜索し、到底絶望と諦め、我家に立帰り、夫婦互に我子の不運を歎き悲しみ、涙に暮るる折しも、友彦は小糸姫を背に負ひ、門番に送られ、得意の色を満面に漂はし、揚々として入り来る。鬼熊別夫婦は此態を見て驚喜し、 鬼熊別『ヤア小糸姫、無事なりしか、如何してマアあの激流に生命が助かりしか』 蜈蚣姫は、 蜈蚣姫『アヽ娘、よく帰つて呉れた。是れと云ふも、全く大自在天様のお恵だ。アヽ有難い有難い。………おやぢさま、どうぞモウ此れからは妾が何時も云ふ通り、大酒は廃めて下さい。酒の祟りでコンナ心配をしたのも、全く大自在天様のお気付けであらう……生命の親の大神様……』 と泣き沈む。友彦は怪訝な顔付きにて、 友彦『モシモシお嬢さま、チツト貴女何とか仰有つて下さいませ。神様も神様だが生命の親は誰で御座いましたかなア』 小糸姫『お父さま、お母さま、妾既に縡切れて居りましたのよ。そこへ此友彦が生命を的にして妾を救つて呉れました。沢山な家来はあつても、妾を生命がけになつて助けて呉れた者は友彦一人、生命の親は友彦で御座います。どうぞ褒めてやつて下さいませ』 夫婦は一度に友彦の顔を眺、顔色を和らげ、 鬼熊別『ヤアお前は常々から気の利いた男だと思つて抜擢して宣伝使に命じたが、わしの眼で睨んだ事はチツトも違はぬ。お前ばつかりだよ。これだけ沢山に居つてもマサカの時に間に合ふ奴は一人も有りはせぬ。ようマア働いて呉れた。第一番の手柄者だ』 友彦は志たり顔、 友彦『これしきの事にお褒めの言葉を頂きまして実に汗顔の至りで御座います。今承はれば貴方様は、これだけ沢山の家来があつても、マサカの時に間に合ふ奴は無いと仰せられましたが、第一バラモン教の幹部の役員が分らぬからで御座いますよ。神様のお道は看板、自分の出世することのみを考へて居る連中ばかりで、自分より優つた者が現はれると、何とか彼とか申して物言ひを付け、頭を押へようとするものですから何程立派なバラモン教でも、誠の神柱は皆逃げて了ひます。何時までも世は持切りにさせぬと神様が仰せられるのに、今の幹部は何時までも高い所へ上つて権利を掌握しようと思ふ卑劣な心がありますから、至誠の者や少し間に合ひさうな人物は皆圧迫を加へ排斥を致します故、何時まで経つても幹部の改造をするか、幹部連がモウ些と神心になり、心の立替立直しを行つて呉れぬ事には駄目です。何程天に日月輝くとも、途中の黒雲の為に光は地上に届きませぬ。私の様な立派な至誠の者が隠れて居つても、人格を認める目もなし、又認めても自分の地位を守る為に却て排斥を致すのですから立派な者は皆隠れて了ひ、粕ばかりが浮上つて居るのです。石混りの塵芥を水溜りへ一掴み放かして見ると、重みのある充実した石は忽ち水の底に沈み、落着き払つて居りますが、塵芥はパツと上に浮いて、風のまにまに浮動して居る様なものです。稲の穂の稔るに従ひ頭を下げ俯むく様に、充実した至誠の者は皆謙遜の徳を守り、実の入らぬ稲穂はツンとして空を向いて居る様なもの、是れでは到底バラモン教も発達は致しますまい。併し乍ら、貴方様は賢明なお方で、この友彦が実力をお認め遊ばし、土塊の如く幹部より取扱はれて居た雉子を重用して宣伝使にして下さつたのは、実に天晴れな御鑑識、友彦も……あゝ私は何とした立派な主人を持つただらう。私の様な幸福者は又と世界にあるまい……と存じます。聖人野にありとか申しまして、誠の貴方の御力になり、教の後を継ぐ様な人物……言はば御養子になると云ふ人物は、幹部に是れだけ沢山、表面立派な宣伝使はあつても、滅多に御座いますまい。余程御養子の御選択は……如才は御座いますまいが……御注意を払つて頂きたいもので御座います。何程容貌は悪くても魂さへ立派であれば鬼熊別副棟梁様の後が継げまする』 と調子に乗つて勝手な理屈を並べ立て得意がつて居る。鬼熊別はニコニコし乍ら、 鬼熊別『オイ友彦……お前は顔にも似合はぬ高遠な理想を抱いて居る者だ。吾々とても同じ事、中々棟梁の家来は得られないものだ。たまたま力にならうと思ふ人物が現はれると、忽ち雲が邪魔して光を隠さうとする。今の幹部だつて其通りだ。大自在天様の教に照して見れば、一人として及第する者はあるまい。耳を塞ぎ、目を閉ぎ、口をつまへて、神直日大直日に見直し聞直して居ればこそ、得意になつて幹部面をさらして居るのだが……アヽ是れを思へば人を使ふと云ふ事は難事中の最大難事だ。肩も腕もメキメキする様だ。どうしてこれだけ身勝手な没分暁漢ばかりが、バラモン教の幹部には集つて来るのだろうなア』 と吐息を漏らすを蜈蚣姫は、 蜈蚣姫『屍の在る所には鷲集まり、美味の果物には害虫密集するとやら、蟻の甘きに集ふ如く、良い所へは悪い者が来集つて来るものです。これからは今迄の様な和光同塵式は根本革正して、変性男子的にパキパキと率直に、厳粛にやらねば、何時まで経つてもバラモン教は駄目で御座いますよ。それだから妾も貴方に推薦して雉子を宣伝使にしたのぢやありませぬか。妾が雉子を推薦した時、貴方は何と言はれました。「彼奴は見かけによらぬ間に合ふ男だが、アンナ男を推薦すると幹部の連中の気に入らぬから、雉子の人物は認めてゐるが、どうも仕方がない」……と優柔不断な事を仰有つたぢや御座いませぬか。あの時に御採用になつたればこそ、幹部として今日の花見の宴に同行致したお蔭で、一人娘が生命を拾うたではありませぬか、雉子を雉子の儘に置いてあつたなれば、どうして今日の花見の供が出来ませう。さうすれば忠義を発揮する機会もなし、見す見す可愛い娘を見殺しにせねばならなかつたでは有りませぬか。チト是から確かりやつて下さらぬと駄目ですよ』 鬼熊別『さうだなア、副棟梁の為には何時でも生命をあげますとか粉骨砕身犬馬の労を惜まぬとか云つて居た幹部の連中のあの態、俺も実は呆れて物が言はれないのだ』 友彦は得意顔にて、 友彦『「伸びる程土に手をつく柳かな」……とか言ひまして、地に落ちて居るもの程立派な者が御座いまする。立派な人格者が御座います。「気に入らぬ風もあらうに柳かな」……といふ……幹部が………精神になりさへすれば、バラモン教は旭日昇天の勢で天下無敵の勢力が加はりまする。されど利己主義の猜疑心の深い頭抑への連中計りが幹部を組織して居つては、到底発展の見込みは有りませぬ。現状維持が出来ればまだしも上等、日向に氷の様に、日に日に衰へるは明瞭なる事実で御座いませう。どうぞ副棟梁様、今後は情実に絡れず、適材を適所に抜擢して、神業第一と御心得遊ばして忌憚なく正邪賢愚を御立別けの上、御採用あらむ事を懇願致します』 小糸姫は、 小糸姫『お父さま、妾は大勢の役員信者の中でも、本当に偉いのは友彦一人だと思ひますワ』 蜈蚣姫は、 蜈蚣姫『オホヽヽヽ、子供と云ふものは正直なものだナア。実際の間に合うたのは友彦だけだワ。ナアモシ鬼熊別様』 鬼熊別は俯むいて当り障のない様な返辞で『ウウン』と云つて居る。蜈蚣姫は夫に向ひ、 蜈蚣姫『今日は花見の宴で沢山なお酒を幹部一同戴き、まだ充分の酔も醒めず、此上悦びの酒宴を催すのは妙なものだが、併し乍ら大切な娘の生命を拾つたのだから、神様に御礼のお祭をなし、手軽い直会の宴でも開いて、友彦の表彰会を行はねばなりますまい。どうお考へなさいますか』 と夫の顔を覗き込む。 鬼熊別『アヽさうだナア。何と云つても神様に御礼の祭典を行ひ、次に友彦の手柄を表彰せなくてはなるまい。賞罰を明かにせないと、今後の為にならぬから……ヤア片彦、釘彦の両人、祭典の用意に取かかり、次で直会の宴を開くべく準備して呉れ。そして今日は顕恩郷在住の信徒、老若男女を問はず、残らず八尋殿に集めて酒宴の席に列せしめるのだから……』 片、釘の両幹部は此一言に、又も酒かと雀躍りし乍ら『ハイハイ』と二つ返事で此場を立出で、部下一般に通達したりけり。 祭典は命の如く行はれたり。御祝ひを兼ね、信者は立錐の余地なきまでに、八尋殿に溢れ出した。祭典は無事に済み、直会の神酒は子供の端に至るまで万遍なく配られたり。小糸姫が無事安全を祝ふ声、殿内も揺ぐ許りなりき。小高き壇上に現はれたのは鬼雲彦の棟梁なり。鬼雲彦は一同を見廻し、 鬼雲彦『バラモン教の幹部を初め信者一同と共に小糸姫の無事安全を祝し奉り、鬼熊別御夫婦の御幸運をお悦び致します。つきましては私として少し感想を述べたいと思ひます。大勢の中には少し耳障りの方もお有りなさるかも知れませぬが、バラモン教の教主兼棟梁としては已むを得ない立場で御座いまするから、其処の所は宜しく御諒解を願つて置きます。抑も多士済々たる本教は、開設以来旭日昇天の勢で御座います。これと云ふのも全く幹部を始め信者一同が、有るに有られぬ困難と戦ひ、所在困苦をなして、忍びに忍びて心魂を鍛へて来た結果と私は信じます。常世の国より渡来して、埃及のイホの都に始めて教を開いた時、コーカス山に根拠を構へたる三五教の為に種々雑多の妨害を受け、一時は孤城落日の破目に陥つた所、皆様はよく耐忍び、漸くにしてバラモン教は再び以前に勝る隆盛の域に達しました。併し乍ら艱難の極度に達した時は栄えの種を蒔くものです。今日のバラモン教は稍小康を得、日々隆盛に趣くに連れて人心弛緩し、知らず識らずの間に倦怠の心を生じ、今日では最初の熱烈なる忠誠なる皆様の精神は何処へやら喪失し、幹部は自己を守る為に高遠達識の士を排除し、阿諛諂侫の徒を重用し、各自競うて部下を作り、互に権力を争ふ如き傾向が仄見えて参りましたのは、本教の為に誠に悲しむべき現象と言はねばなりませぬ。現に鬼熊別様の娘子小糸姫様の遭難に対しても、肝腎の幹部は袖手傍観手を下すの術を知らず、実に無誠意、無能力を極端に発揮したでは有りませぬか、斯様な事で如何して神聖なる御神業に奉仕する事が出来ませう。神に仕へ奉るにあらずして、利己心といふ欲心に奉仕するのだと云はれても、弁解の辞はありますまい。今日はバラモン教に対して国家興亡の境で御座います。教主として私の申す事が肯定出来ない方々は御遠慮に及びませぬ。ドシドシと脱会下さつても、少しも痛痒は感じませぬ。否寧ろ好都合だと確信致して居ります。本当の大神の御心が分つた方が一二人あれば沢山です。それを種として立派に教が行はれませう。然し乍ら肝腎の幹部たる者、神意を誤解し、利己主義を強持するに於ては、一匹の馬が狂へば千匹の馬が狂ふ譬の如く、総崩れになつて了ふものです。それだから幹部の改心が先づ第一等であります。源濁つて下流澄むと云ふ道理は御座いませぬ。どうぞ此際皆さまは申すに及ばず、幹部の地位に在る方々から誠心誠意、神業の為寛容の徳を養ひ、清濁併せ呑み己を責め人を赦す大人の態度になつて頂きたいものです』 と諄々として鋭鋒を幹部の面々に指し向けたり。幹部の連中は教主鬼雲彦の此教示に対し、余り快く感ぜざれども、一々胸を刺さるる此箴言に、返す言葉もなく唯冷然として、空吹く風と聞き流し居る者も少くなかりける。 此時得意の鼻を蠢かして壇上に大手を振り乍ら、眼をキヨロキヨロ廻転させ、一同の顔を眺めつつ現はれた一人の宣伝使は、小糸姫の生命を救うた友彦なりき。拍手の声急霰の如く、場の四隅より響き亘りぬ。友彦は満場に向ひ軽く一礼し、稍反り身になりて赤い鼻をピコヅかせ乍ら、無細工な欠げた出歯をニユツと噛み出し、厭らしき笑を湛へて握拳を固め、卓を一つトンと打ち、雷の如き蛮声を張り上げ『皆さま』と一喝し、 友彦『私は只今の教主様の御演説につき感慨無量で御座います。皆様の大多数に置かせられましても、敬神、愛教、愛民の教主の御心中に、嘸嗚咽感激遊ばした事と確信致します。我々は大慈大悲の大神様は申すも更なり、教主様の仁慈無限の御精神に酬い奉り、副教主として、重任の地位に着かせ給ふ鬼熊別様の教を思ひ給ふ御熱情に対し、どこ迄も粉骨砕身、以て微力の有らむ限りを尽さねばならないではありませぬか。然るに今日の幹部は偸安姑息、大事に際して躊躇逡巡、なす所を知らずと云ふ為体では御座いますまいか』 聴衆の中より『賛成々々』と手を拍つ者四隅より現はれ来たりぬ。此声援に力を得て友彦は益々語気を強め、 友彦『現にエデン河の小糸姫様の遭難に対し、幹部の御歴々は如何なる活動をなされましたか、幹部の総統たる片彦、釘彦の御両人は、我より以下の者共早く河中に飛び込み御救ひ致せ……と云ふ様な御態度でいらつしやる。次の幹部は又次へ、又次へ、我々幹部にあつては人を統率すれば良い、命令権を持つて居るのだから、直接活動すれば幹部の沽券を傷つけると云はぬばかり、次から次へ押せ押せに危ない事は塗りつけ合ひ、唯一人として身を挺しお救ひしようとする方々はなかつたぢやありませぬか。日頃のお言葉に似ず、実に冷淡極まる振舞、斯様な事でどうして神業が発展致しませうか。我々は実に遺憾に存じます』 と又もや卓を叩く。場内は『賛成々々』『尤も尤も』の声破るる許りに響き渡り、中には両手をあげて躍る者さへ現はれた。友彦は尚も語を継ぎ、 友彦『皆さま、今日はバラモン教の立替の時機ではありますまいか。上流濁つて下流澄むと云ふ道理はありますまい。舎身的活動をなす至誠の士……例へて見れば九死一生の人の危難に際し、生命を的に助けに行く丈の真心を持つた真人をして、幹部の総統たらしめなば、名実相伴なふ所の立派なるバラモン教が築き上げられ、神政成就の大望も容易に運ぶでせう。抑も幹部たるものは重大なる責任が御座いますから、自己の安全のみに焦慮する如き人物は、この際信者多数の団結力を以て、根本改革を致さねば、迚も完全なる教は立ちますまい。何卒皆様の御熟考を煩はす次第で御座います』 と結んで降壇せむとするや、片彦は怒気を含み、拳を固め、壇上に現はれた。参集者の中より『下がれ』『退却』『無腸漢』『利己主義の張本人』などと、頻りに罵声を浴びせかけ、喧々囂々鼎の湧くが如く、片彦は壇上に立往生の儘一言も発し得ず、唇をビリつかせて居る。鬼雲彦、鬼熊別両夫婦は信者一同に軽く一礼し、館に悠々として立帰る。友彦も続いて退場する。 一同は片彦を壇場に残し、先を争うて各々住家に帰りゆく。あとには幹部の錚々たる者合せて十二人何事かヒソヒソと話に耽りゐる。 忽ち聞ゆる暮の鐘、諸行無常と鳴り響き、八尋殿の屋根に止まつた二羽の鴉、大口あけて『アホーアホー』と鳴きたてゐる。 (大正一一・六・一四旧五・一九松村真澄録) (昭和一〇・三・八於吉野丸船中王仁校正)
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霊界物語 24_亥_豪州物語1(高姫と蜈蚣姫) 15 諏訪湖 第一五章諏訪湖〔七四五〕 玉治別は初稚姫、玉能姫と共にアンナヒエールのタールス郷を三五教の霊場と定め、黒ン坊を残らず帰順せしめ、チルテル以下数十人の者に送られて、イルナの郷の入口に袂を別ち『ウワーウワー』の声と共に東西に姿を消したりける。 三人は谷を幾つとなく越え、森林の中の広き平岩の上に腰打ち掛け、休息し乍ら回顧談に耽つた。玉治別は、ジヤンナの谷底にジヤンナイ教の教主テールス姫と面会せし事や、友彦との挑戯などを面白可笑しく物語り、次で此処を立ち出でアンナヒエールの里に到る折しも、両女の祝詞の声を聞きつけ、谷間に下りて其辺一面に二人の後を探ね廻る折しも大蛇に出会し、猩々の群に救はれて遂にアンナヒエールのタールス教の本山に担ぎ込まれ、意外の待遇を受け居る際、初稚姫、玉能姫に面会せし奇遇談を、大略物語りけり。 玉能姫は静に、 玉能姫『妾は或谷間に御禊をなし祝詞を上げて居ました処、傍の岩穴より鬼武彦は白狐の月日、旭と共に現はれ給ひ、二人の袖を銜へて穴の底に引込んで下さいました。はて不思議と思ひながら曳かるる儘に穴の中に身を没し、小声に宣伝歌を唱へて居ますと、妾の潜んで居る穴の前の谷川の向岸に当つて蜿蜒たる大蛇が現はれ、三四尺もあらうと思ふ長い舌を出して穴を目蒐けて睨んで居たが、鬼武彦以下の御威徳に畏れ、近よりも得せず暫く睨むで居りました。其とき貴方の声として妾共の名を呼んで下さいました。何うしたことか一言も声が出ず、ええヂレツタイ事だと踠いて居りますうち、山岳も崩るる許りの音を立てて、胴の周囲三四丈もあらうかと思はるる長さ数十間の太刀膚の大蛇、尾の先に鋭利な剣を光らせ乍ら、夫婦と見えて二体、谷川を一杯になつて通り過ぎた時の恐ろしさ、今思つても、身の毛がよだつやうに御座います。白狐の姿は忽ち消えて四辺は森閑としたのを幸ひ、貴方に遇はんと岩窟を這ひ出で其辺を探ねましたが、些ともお姿は見えず、あゝ彼の大蛇に何うかされなさつたのだらうかと気が気でならず、もしや其辺に身を潜めて居られるのではあるまいかと思ひ、態と宣伝歌を声高く歌つて通る折しも、タールス教のチルテル初め数多の人々、我々両人を矢庭に担いであの岩窟に連れ参り、貴方に不思議の対面をなし、漸く危険を免がれ、其上神様のお道の宣伝をなし、残らず帰順させる事の出来ましたのも、全く三五教の大神の御守護と今更ながら有難涙に暮れまする……アヽ惟神霊幸倍坐世』 と合掌すれば初稚姫も小さき手を合せ感謝の涙に暮れ居たり。 斯く話す折しもキヤツと息の切れるやうな悲鳴が聞えて来た。三人は此声に思はず腰を上げ耳を澄まして聞き居れば、谷底に当つて蜿蜒たる大蛇、二人の男女をキリキリと捲きながら今や大口を開けて呑まんとする真最中であつた。玉治別是を見るより一目散に夏草の生茂る灌木の中を駆け潜り、近づき見れば此有様、直に天津祝詞を口早に奏上し、天の数歌を謡ひあげ、ウンと一声指頭を突き出し、五色の霊光を発射して大蛇に放射した。大蛇は忽ちパラパラと解けて其場に材木を倒したやうにフン伸びて仕舞つた。二人は最早正気を失ひ、虫の息にて胸の辺りをペコペコと僅かに動悸を打たせて居つた。此間に玉能姫、初稚姫は後追ひ来り、三人力を合せ谷水を汲み来りて面部に吹きかけ、口に喞ませ、いろいろと介抱をなし、天の数歌を謡ひ上げて魂返しの神業を修するや、忽ち息吹き返し二人は両手を合せ、 両人『何れの方かは存じませぬが、危ふき所をよくも助けて下さいました。此御恩は死んでも忘れは致しませぬ』 と涙と共に感謝しける。玉治別は、 玉治別『ヤア、貴方は……久助さま、お民さまぢや御座いませぬか、危い事で御座いました』 と頓狂な声を出して呼びかけたり。夫婦はハツと顔を上げ、久助は、 久助『ヤア、貴方は玉治別様、玉能姫様、初稚姫様、よう来て下さいました。ネルソン山の山頂より烈風に吹き散らされ、各自四方に散乱し、貴方方は何うなつた事かと、今の今まで心配致して居りました。此広い竜宮嶋、仮令三年や五年探しても一旦別れたが最後、面会する事は到底出来ない筈だのに、折好くも斯んな所でお目に懸るとは全く神様のお引合せ、アヽ有難や勿体なや』 と又もや天津祝詞を五人一緒に声も涼しく奏上した。二匹の大蛇も、そろそろ尾の方よりビクリビクリと動き出し、次第々々に元気を増し鎌首を上げ、五人に向つて謝罪するものの如く、両眼より涙を流し居たり。玉治別は大蛇に向ひ、 玉治別『オイオイ大蛇先生、何の因果でソンナ姿に生れて来たのだ。可憐さうなものだ、早く人間に生れ代るやうに神言を奏上してやらう』 大蛇の雌雄は首を揃へて幾度となく首を下げ、感謝の意を表した。五人は幾回となく祝詞を奏上した。大蛇は忽ち白煙となり、大空目蒐けて細長く蜿蜒として雲となり中空に消えて仕舞つた。これ全く誠心誠意、玉治別一行が天津祝詞を奏上したる功徳によつて、大蛇は天上に救はれたるなり。 一行五人はイルナの山中を宣伝歌を歌ひ乍ら、土人の住家を宣伝せむと崎嶇たる山道を足を痛めながら、草鞋を破り跣となつて進み往く。久助は初稚姫を労り背に負ひ最後より随ひ往く。 向ふの方より数十人の一群の荒くれ男、顔一面に嫌らしき文身をしながら此場に現れ来り、眼を怒らせ五人をバラバラと取巻いた。左は断崖絶壁、千仭の谷間には青々とした激流泡を飛ばして流れ居たり。進退維谷まりし五人は如何はせむと案じ煩ふ折しも、久助の背に負はれたる初稚姫は、 初稚姫『玉治別殿、先に立たれよ』 と云ふ。玉治別は先に立ち、荒男の前につかつかと進み寄る。荒男の名はタマルと云ふ。タマルは玉治別の赤き鼻を見て大いに驚き俄に態度を一変し、凶器を大地に抛げ捨て、両手を合せ跪き、 タマル『オーレンス、サーチライス、ウツポツポウツポツポ、アツタツターアツタツター』 と尊敬の意を表した。更たまつたる此態度に一同は柄物を投げ捨て大地に跪き、異口同音に「オーレンス、サーチライス」と繰返し、尊敬の意を表したりけり。玉治別は、 玉治別『アーメーアーメー、自転倒嶋に現はれ給ふ三五教の教主言依別の命を奉じ、此一つ島に神の福音を宣べ伝へむが為めに、遥々渡り来れるものぞ。汝等今より我道を信じ、神の愛児となり、霊肉共に永遠無窮に栄えよ。天国の門は開かれたり、神政成就の時は到れり、悔い改めよ』 と宣示したり。此言葉はタマル以下一同には言語の通ぜざるため何の意味かは分らざりしが、何分尊き救世主の御降臨と信じ切つたる彼等は嬉しげに後に随ひ、険峻なる道を大男の背に五人を負ひながら、大地一面に金砂の散乱せる大原野に導きぬ。此処はアンデオと云ふ広大なる原野にして、又人家らしきもの数多建ち並び、小都会を形成せり。土人の祀つて居る竜神の祠の前に五人を下し、手を拍つて喜び、何事か一同は祈願を籠めたりけり。 社の後には目も届かぬ許りの湖水が蓮の形に現はれ、紺碧の浪を湛へて居る。水鳥は浮きつ沈みつ愉快気に右往左往に游泳し、時々羽ばたきしながら、水面に立ち歩み駆け狂うて居る面白さ。一同は天津祝詞を奏上し終り、此湖水の景色に見惚れ、やや暫し息を休めて居た。玉治別は祠の前に停立し、 玉治別『自転倒島を立ち出でて神の教を伝へむと 南洋諸島を駆け廻り愈ここに竜宮の 一つの島へと到着し厳の都の城下まで 進み来れる折柄に蜈蚣の姫や黄竜の 姫の心を量り兼ね神の経綸か白雲の かかる山辺を十柱の教の御子は攀登り 山の尾上を踏み越えてネルソン山の絶頂に 佇み四方を眺めつつ雄渾の気に打たれ居る 時しもあれや山腹より昇り来れる黒雲に 一行十人包まれて咫尺も弁ぜず当惑し 天津祝詞を声限り奏上なせる折りもあれ 空前絶後の強風に吹き捲くられて各自は 木の葉の如く中天に捲き上げられて名も知らぬ 深き谷間に墜落し息も絶えむとしたりしに 三五教の大神の恵の露に霑ひて 漸く息を吹き返し彼方此方に蟠まる 大蛇の群を悉く天津祝詞の太祝詞 天の数歌謡ひつつ言向け和せ漸うに 数多の人に送られて初めて此処に来て見れば 瞳も届かぬ諏訪の湖千尋の底の弥深き 神の恵の現はれて魚鱗の波は金銀の 花咲く如き眺めなりあゝ惟神々々 御霊の幸を蒙ぶりて我等一行五つ身魂 これの聖地に導かれ心の空も爽かに 天国浄土に上る如嬉し楽しの今日の日は 神の恵の尊さを一層深く知られけり 神が表に現はれて善と悪とを立て別ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ 身の過ちは宣り直す三五教の神の教 宣り伝へ行く楽しさは三千世界の世の中に 是に増したる業はなし三千世界の梅の花 一度に開く木の花の開いて散りて実を結ぶ 時は来にけり時は来ぬ五弁の梅の厳御霊 厳の教を経となし瑞の教を緯として 錦の宮に現れませる国治立大神や 埴安彦や埴安姫の神の御言を畏みて 此世を開く宣伝使暗夜を晴らす朝日子の 日の出神の御守り天教山に現れませる 神伊弉諾大神や地教の山に永久に 鎮まりまして現世を堅磐常磐に守ります 神伊弉冊大神や高照姫の御前に 慎み敬ひ鹿児自物膝折り伏せて願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸倍ましまして 初稚姫や玉能姫玉治別の宣伝使 久助お民の信徒が堅磐常磐の後の世も 神の経綸に漏れ落ちず太しき功績を建てしめよ 神は我等を守ります神に任せし此身魂 天地の間に生けるもの他人もなければ仇もなし 父子兄弟睦じく世界桝かけ引きならし 貴賤揃うて神の世の楽しき月日を送るまで 神に受けたる玉の緒の命を長く守りませ 三五教の御光を三千世界に隈もなく 照らさせ給へ諏訪の湖千尋の底に永久に 鎮まりゐます竜姫の皇大神よ平けく いと安らけく聞し召せ神の教の道にある 厳の御霊の五つ柱慎み敬ひ願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ あゝ惟神々々御霊の幸を給へかし』 と歌ひ終るや、初稚姫は又もや立ち上り、諏訪の湖面に向つて優しき蕾の唇を開き祝歌を歌ふ。 初稚姫『私の父は三五の神の教の宣伝使 天と地とは一時に開き初むる時置師 神の命の杢助ぞ言依別の神言もて 自転倒島の中心地高天原に千木高く 鎮まりゐます綾の里錦の宮の神司 玉照彦や玉照姫の貴の命の御仰せ 畏み仕へまつりつつ我は幼き身なれども 神と神との御教をうなじに固く蒙ぶりて 玉治別や玉能姫教司と諸共に 浪風猛る海原を神の恵に渡りつつ 黄金花咲く竜宮の一つの島に着きにけり 厳の都を後にして山野を渡りネルソンの 高山越えて谷の底アンナヒエールの里を越え 山々谷々数越えて漸う此処に皇神の 社の前に着きにけり思へば深し諏訪の湖 千尋の底に永久に鎮まりゐます竜姫よ 心平に安らかに我が願ぎ事を聞し召せ 天火水地と結びたる言霊まつる五種の 珍の御玉を賜へかし三五の月の御教は いよいよ茲に完成し三千世界の梅の花 一度に開く常磐木の松の神世と謳はれて 海の内外の民草は老も若きも隔てなく うつしき御代を楽しまむあゝ惟神々々 御霊幸倍ましまして十歳にも足らぬ初稚が 万里の波濤を乗り越えて世人を救ふ赤心に 曳かれて此処迄出で来る思ひの露を汲めよかし 神は我等の身辺を夜と昼との別ちなく 守らせ給ふと聞くからは神政成就の御宝 厳の御霊のいち早く我等に授け給へかし 謹み敬ひ願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸倍ましませよ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 誠は神に通ふべし誠一つの三五の 神の教の宣伝使宣る言霊を悉く 完全に委曲に聞し召せ仮令大地は沈むとも 神に誓ひし我魂は如何なる艱難来るとも ミロクの世迄も変らまじミロクの世迄もうつらまじ』 と歌ひ終り拍手して傍の芝生の上に腰打ち下ろし息をやすめた。玉能姫は又もや立上り湖面に向つて歌ふ。 玉能姫『皇大神の勅もて言依別命より 金剛不壊の如意宝珠また紫の神宝を 堅磐常磐の経綸地隠し納むる神業を 仕へまつりし玉能姫初稚姫の両人が 神の教を伝へむと島の八十島八十の国 大海原を打ち渡り暑さ寒さの厭ひなく 虎伏す野辺も狼の狂へる深山も何のその すこしも厭はず三五の神の教の御為に 身も魂も奉げつつ玉治別に従ひて 漸う此処に詣でけり此湖に遠津代の 神代の古き昔より鎮まりゐます竜姫よ 御国を思ふ一筋の妾が心を汲み取らせ 三五教の神の道岩より堅く搗き固め 神界幽界現界の救ひの為に海底に 隠し給ひし五つみたま天火水地と結びたる 大空擬ふ青き玉紅葉色なす赤玉や 月の顔水の玉黄金色なす黄色玉 四魂を結びし紫の五つの御玉を我々に 授けたまへよ矗々に我は疾く疾く立帰り 国治立大神が神政成就の神業の 大御宝と奉り汝が御霊の功績を 千代に八千代に永久に照しまつらむ惟神 御霊の幸を賜はりて我等の願ひをつばらかに 聞し召さへと詔り奉るあゝ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 と歌ひ終つて拍手し、傍の芝生の上に息を休めけり。久助は又もや湖面に向つて、 久助『自転倒島の瀬戸の海誠明石の磯の辺に 生れ出でたる久助は三五教に入信し 玉治別の宣伝使其他二人の神司 導き給ふ其儘に御跡を慕ひ神徳を 蒙りまつり世の為に力の限り尽さむと 大海原を遥々と越えて漸う一つ島 大蛇に体を捲かれつつ九死一生の苦みを 神の御稜威に助けられ漸う此処に来りけり 我は信徒三五の神の司に非ざれど 御国を思ひ大神に仕ふる道に隔てなし 諏訪の湖底に永久に鎮まりゐます皇神よ 我等夫婦が真心を憐み給へ何なりと 一つの御用を仰せられ神の教の御子として 恥かしからぬ働きを尽させ給へ惟神 神の御前に村肝の赤き心を奉り 慎み敬ひ願ぎまつる畏み畏み願ぎ申す あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 と歌ひ終つて同じく芝生の上に息をやすめたり。お民は又もや立上り諏訪の湖面に向つて拍手し、声淑やかに、 お民『尊き国の礎や百姓の名に負ひし 君と神とに真心を麻柱ひ奉る民子姫 神の御前に平伏して国治立大神の ミロク神政の神業に仕へまつらむ事のよし 完全に委曲に聞し召し誠の足らぬ我なれど 神の大道は片時も忘れたる事更になし 守らざる事片時も無きを切めての取得とし この湖底に昔より鎮まりゐます竜宮の 皇大神よ惟神大御心も平けく いと安らけく思召し足らはぬ我等が願言を 見棄て玉はず諾ひて其程々の功績を 立てさせ玉へ諏訪の湖鎮まりゐます御神の 御前に畏み願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 紺碧の湖面は忽ち十字形に波割れて、湖底は判然と現はれたり。殆ど黄金の板を敷き詰めたる如く、一塊の砂礫もなければ、塵芥もなく、藻草もない。恰も黄金の鍋に水を盛りたる如き、清潔にして燦爛たる光輝を放ち、目も眩む許りの荘厳麗媚さなりき。波の割れ間より幽かに見ゆる金殿玉楼の棟実に床しく、胸躍り魂飛び魄散るが如く、赤珊瑚樹は林の如くにして立並み居る。珊瑚樹の大木の下を潜つて、静々と現はれ来る玉の顔容月の眉、梅の花か海棠か、但は牡丹の咲き初めし婀娜な姿に擬ふべらなる数多の女神、黄金色の衣を身に纒ひ、黄金造りの竜の冠を戴き乍ら、長柄の唐団扇を笏杖の代りに左手に突きつつ、右手に玉盃を抱え、天火水地結の五色の玉を各五人の殊更崇高なる女神に抱かせ乍ら、玉依姫命は徐々と湖を上り五人が前に現はれ玉ひて、言葉静かに宣り玉ふ。 玉依姫命『汝は初稚姫、玉能姫、玉治別、信徒の久助、お民の五柱、よくも艱難を凌ぎ辛苦に堪へ、神国成就の為に遥々此処に来りしこと感賞するに余りあり。併し乍ら汝初稚姫は大神よりの特別の思召しを以て、金剛不壊の如意宝珠の神業に参加せしめられ、又玉能姫は紫の宝玉の御用を仰せ付けられ、今や三五教挙つて羨望の的となり居れり。玉治別外二人は未だ斯の如き重大なる神業には奉仕せざれども、汝等が至誠至実の行ひに賞で、竜宮の神宝たる五種の宝を汝等五人に授くれば、汝等尚も此上に心身を清らかにし、錦の宮に捧持し帰り、教主言依別命にお渡し申すべし。今汝に授くるは易けれど、未だ一つ島の宣伝を終へざれば、暫く我等が手に預りおかむ。華々しき功名手柄を現はし、重大なる神業を神より命ぜらるるは尤もなりと、一般人より承認さるる迄誠を尽せ。此一つ島はネルソン山を区域として東西に別れ、東部は三五教の宣伝使黄竜姫守護し居れども、未だ西部に宣伝する身魂なし。汝等五人は此処に七日七夜の御禊を修し、此島を宣伝して普く世人を救ひ、大蛇の霊を善道に蘇へらせ、且黄竜姫、梅子姫、蜈蚣姫其他一同の者を心の底より汝の誠に帰順せしめたる上にて改めて汝の手に渡さむ。初稚姫には紫の玉、玉治別には青色の玉、玉能姫には紅色の玉、久助には水色、お民には黄色の玉を相渡すべし。されど此神業を仕損じなば、今の妾の誓ひは取消すべければ、忍耐に忍耐を重ねて、人群万類愛善を命の綱と頼み、苟且にも妬み、そねみ、怒りの心を発するな。妾はこれにて暫く竜の宮居に帰り時を待たむ。いざさらば……』 と言ひ残し、数多の侍女神を随へ、忽ち巨大なる竜体となりて、一度にドツと飛び込み玉へば、十字形に割れたる湖面は元の如くに治まり、山岳の如き浪は立ち狂ひ、巨大の水柱は天に沖するかと許り思はれた。五人は感謝の涙に暮れつつも、恭しく拍手をなし、天津祝詞や神言を奏上し、天の数歌を十度唱へ、宣伝歌を声張り上げて歌ひ終り、再び拍手し、それより七日七夜湖水に御禊を修し、諏訪の湖面に向つて合掌し、皇神に暇を請ひ、宣伝歌を歌ひ乍ら、荊棘茂れる森林の、大蛇猛獣の群居る中を物ともせず、神を力に誠を杖に進み行くこそ雄々しけれ。あゝ惟神霊幸倍坐世。 玉依姫は空色の衣服にて、玉を持てる五人の女神の後に付添ひ玉ひしと聞く。 (大正一一・七・五旧閏五・一一加藤明子録)
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(1856)
霊界物語 24_亥_豪州物語1(高姫と蜈蚣姫) 16 慈愛の涙 第一六章慈愛の涙〔七四六〕 七十五声の言霊に因みて澄める諏訪の湖 皇大神が三千歳の遠き神代の昔より ミロク神政の暁に厳の御霊と現はして 神の御国を固めむと諏訪の湖底深く 秘め給ひたる珍宝竜の宮居の司神 玉依姫に言依さし三千世界の梅の花 五弁の身魂一時に開く常磐の松の代を 待たせ給ひし畏さよ浪立ち分けて現れませる 玉を欺く姫神は五ツの玉を手に持たし 教の御子の五柱前に実物現はせて 往後を戒め神業の完成したる暁に 手渡しせむと厳かに誓ひ給ひし言の葉を 五人の御子は畏みて夢寐にも忘れず千早振る 神の誠を心とし羊の如くおとなしく 如何なる敵にも刃向はず善一筋の三五の 至誠の道を立て通し人に譲るの徳性を 培ひ育てし健気さよ玉治別や玉能姫 一層賢しき初稚姫の神の命の瑞御霊 久助、お民の五人連諏訪の湖伏し拝み 七日七夜の禊して身も魂も浄めつつ 大野ケ原をエチエチと金砂銀砂を敷詰めし 道芝イソイソ進み行く。向ふの方より馳せ来る 大の男が十五人出会がしらに一行を 目蒐けて拳を固めつつ所かまはず打据ゑて 一同息も絶え絶えに無念の涙くひしばり 笑顔を作り言ひけらく『心きたなき我々は 金砂銀砂の敷詰めし清き大地を進みつつ 心に恥らふ折柄に何処の方か知らねども 吾等が身魂を清めむと心も厚き皇神の 恵の拳を隈もなく汚き身体に加へまし 有難涙に咽びます嗚呼諸人よ諸人よ 汝は吾等の身魂をば研かせ給ふ御恵の 深くまします真人よあゝ有難し有難し 是れより心を改めて足はぬ吾等の行ひを 補ひ奉り三五の神の教の司とし 天地の神や諸人に恥らふ事の無きまでに 身魂を研き奉るべし嗚呼惟神々々 恵の鞭を嬉しみて皇大神の御教を 四方の国々宣べ伝へ世人の為めに真心を 尽さむ栞に致します山より高き父の恩 海より深き母の恩恵は尽きぬ父母の 我子を愛はる真心に優りて尊き御恵み 謹み感謝し奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 我等の命は失するとも神の恵の此鞭の 其有難さ何時迄も忘るる事はあらざらめ 汝は普通の人ならじ諏訪の湖水に現れませる 皇大神の御心を持ちて現れます神ならむ 謹み感謝し奉る嗚呼惟神々々 御霊幸倍ましませよ此世を造りし神直日 心も広き大直日只何事も人の世は 直日に見直し聞直し身の過ちは宣り直す 三五教の吾々は如何なる事も惟神 凡て善意に解釈し只一言も恨まずに 情の鞭を嬉しみて厚く感謝し奉る 水も洩らさぬ皇神の尊き仕組の今の鞭 受けたる此身今日よりは心の駒に鞭ちて 時々兆す悪念を山の尾の上に追ひ散らし 河の瀬毎に追払ひ大慈大悲の大神の 大御心に報ふべし進めよ進めよいざ進め 忍の山に逸早く剣の山も何のその 仮令火の中水の底神の大道の為ならば などか厭はむ敷島の大和心を振おこし 国治立の御前に奇しき功績を立て奉り 目出度神代にかへり言申さむ吉き日を楽しまむ 嗚呼惟神々々御霊幸はひましませよ』 と小声に玉治別は歌ひ終り、打擲された十五人の男に向ひ、一同手を合せて、嬉し涙に咽びける。さしも猛悪なる悪漢も、五人の態度に呆れ返り、感涙に咽び乍ら両手を合はせて大地に平伏し、陳謝の辞を断たざりけり。玉治別は大いに喜び茲に一場の宣伝をなしながら、悠々として此場を立ち去りにけり。 後振り返り見れば障害なき大野原に十五人の荒男は、何れへ消えしか、影も形も見えずなり居たりける。初稚姫は、 初稚姫『皆さま、今の方は誰方と思ひますか』 玉治別『玉治別には、どうも合点が参りませぬ。何処へ行かれたのでせう』 初稚姫『イエイエ、あの方は天教山に現はれ給ひし、木花咲耶姫の御化身で御座いましたよ』 玉能姫はこれを聞くより「ワツ」と計りに声を上げ嬉し泣きしながら、 玉能姫『アヽ神様、有難う御座いました。何処迄も吾々の魂を御守り下さいまして、今度の御神業につきましては不断、御礼の申上げやうなき御心付けを下さいまして、有難う御座います。何とも御礼の申上げ様も御座いませぬ。御蔭を以て漸く忍耐の坂を越える丈けの御神力を戴きました』 と鼻を啜り嬉し涙を絞る。玉治別は啜り泣き一言も発し得ず嗚咽し乍ら、自転倒島に向ひ両手を合せ涙をタラタラと流し、是亦感謝に余念なく、久助、お民も只両手を合せシヤクリ泣きするのみ。初稚姫は、 初稚姫『皆様、大神様の真の御慈愛が解りましたか』 一同は、 一同『ハイ』 と云つたきり涙滂沱として腮辺に滝の如く滴たらし居たり。嗚呼惟神霊幸倍坐世。 一行は感謝の祝詞を奏上し終つて、又もや炎熱焼くが如き原野を汗に着物を浸し乍ら足を早めて宣伝歌を歌ひ進み行く。 折しも小さき祠の前に醜き一人の男、何事か祈願し居るにぞ、玉治別はツカツカと進み寄り、 玉治別『モシモシ貴方は何処の方で御座るか、見れば御病気の体躯と見えまする。何れへお出で遊ばすか』 と尋ぬるに男は玉治別の言葉にフト顔を上げたり。見れば顔面は天刑病にて潰れ、体躯一面得も言はれぬ臭気芬々として膿汁が流れて居る。玉治別は案に相違し突立つた儘、目を白黒して其男を黙視してゐる。 男『私は此向ふの谷間に住む者だが、コンナ醜るしい病を患ひ、誰一人相手になつて呉れるものもなし、若い時より体主霊従のあらん限りを尽し、神に叛いた天罰で、モシ……コレ此通り、世間のみせしめに逢うて居るのだ。最早一足も歩む事は出来ぬ………お前さま、人を助ける宣伝使なれば、此病気を癒して下さいませ。モシ女の唇を以て此膿汁を吸へば、病気は全快すると聞きました。何卒お情に助けて下さるまいか』 初稚姫はニコニコし乍ら、 初稚姫『おぢさま、吸うて癒る事なら吸はして下さい』 と云ふより早く足許の膿汁を「チユウチユウ」と吸うては吐き、吸うては吐き始めたり。玉能姫は頭の方より顔面、肩先き手と云ふ順序に、「チユウチユウ」と膿を吸うては吐き出す。玉治別、久助は余りの事に顔も得上げず、心の中にて一時も早く病気平癒をなさしめ給へと、祈願を凝らして居る。お民は又もや立寄つて腹部を目蒐けて、膿汁を「チユウチユウ」と吸ひ始めたり。暫くの間に全身隈なく膿汁を吸ひ出し了りぬ。男は喜び乍ら両手を合せ、路上に蹲踞んで熱き涙に暮れ居たり。五人は一度に其男を中に置き、傍の流れ水に口を嗽ぎ手を洗ひ天津祝詞を奏上する。男は忽ち嬉しさうな顔をし乍ら、 男『アヽ有難う御座いました。誰がコンナ汚い物を、吾子だとて吸うて呉れませう。お礼は言葉に尽されませぬ』 と一礼し乍ら直に立ちて常人の如く足も健かに歩み出し、終に遠く姿も見えずなりにけり。玉治別は感激の面色にて、 玉治別『三人の御方、ヨウマア助けてやつて下さいました。私も女ならば貴方方の如うに御用が致したいので御座いますが、彼の男が女でなければ不可ぬと申しましたのでつい扣へて居ました。イヤもう恐れ入つた御仁慈、国治立大神、神素盞嗚大神の御心に等しき御志、感激に堪へませぬ』 と又もや熱涙に咽ぶ。三人は愉快気に神徳を忝なみ、 三人『あゝ神様、今日は結構な御神徳を頂きました』 と両手を合せ感謝の祝詞を奏上し、一行五人西へ西へと、金砂銀砂の敷詰めたる如き麗しき野路を、宣伝歌を歌ひ進み行く。 因に云ふ。初稚姫の霊魂は三十万年の後に大本教祖出口直子と顕はれ給ふ神誓にして、是れより五人は西部一帯を宣伝し、種々の試練に遭ひ、終にオーストラリヤの全島を三五教の教に導き、神業を成就したる種々の感ず可き行為の物語は、紙数の都合に依りて後日に詳述する事となしたり。嗚呼惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・七・五旧閏五・一一谷村真友録)
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(1875)
霊界物語 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) 13 握手の涙 第一三章握手の涙〔七五九〕 天恩豊な地恩城春秋冬も夏景色 木々の木の葉は麗しく果物豊に実りつつ 衣食の道に身をもがく難みも要らぬ一つ島 顕恩郷を立ち出でて錫蘭島に立て籠り 閨の友彦後にして大海原を渡り来る 小糸の姫の行先を鵜の目鷹の目つけ狙ひ 三十路に余る男の頃の島に渡りて彼方此方と 行方求めてバラモンの道を開きし友彦が 時の力に助けられ蜈蚣の姫に邂逅ひ 命の瀬戸の海中に堅磐常磐に浮びたる 小豆が島に名も高き国城山の岩窟に 遇ふた嬉しさ恐ろしさ洲本の庄の酋長が 捕手の者に縛られて何の言ひ訳淡路島 東助夫婦の情にて犯せし罪もうたかたの 水泡と消えて釣小舟清武鶴の三人と 馬関の関の浪を越え千引の岩に船をあて 命危ふき折からに三五教の神司 玉治別の一行に惜しき命を救はれて 蜈蚣の姫や高姫の漂着したるアンボイナ 南洋一の竜宮に上陸すればコハ如何に 小糸の姫の生の母蜈蚣の姫に再会し 何の云ひ訳荒波を乗り切り乗り切り沓島や オーストラリヤの浮島に蜈蚣の姫の一行と 命からがら上陸し小糸の姫の住ひたる 地恩の城に来て見れば情を知らぬ国人に 手も無く叩き出だされて傍の林に潜みつつ 黄竜姫の宿の夫嬉し嬉しの再会を 悦ぶ間もなく夢醒めて四辺を見れば岩の上 腰の骨さへ打ち砕き身動きならぬ悲しさに 漸く息を休めつつ三五教の神言を 赤心籠めて宣りつれば神の恵は忽ちに 身もすくすくと風荒き尾の上を伝ひてネルソンの 峰の頂上に辿り着き後振り返り眺むれば 一望千里の雲の奥地恩の城は何処ぞと 眼を見はりつつ憧憬るる時しもあれや烈風に 吹き捲くられて友彦は風にゆられて鷹鳶の 翼無き身は如何にせむジヤンナの郷に墜落し 人事不省の折柄に此地に住める郷人は 不思議と傍に立ち寄りてよくよく見れば昔より 待ち焦れたる救世主曲りながらも赤鼻に 喜び勇み雀躍りしジヤンナイ教の本山に 担ぎ帰りし面白さジヤンナイ教の神司 テールス(照子)姫に思はれてここに夫婦の新枕 月日を重ね往くうちに三五教の感化力 ジヤンナの郷にゆき渡り三五の月の御教は 朝日の昇る勢で四方に拡がり栄え行く 友彦夫婦は意を決し地恩の城に神徳の 花を開かす黄竜姫御許に到り其昔 蜈蚣の姫や小糸姫母娘の者を悩ませし 深き罪をば詫びむとてテールス姫に来し方の 事情細かに物語り漸く妻の諒解を 得たる嬉しさ夫婦連れジヤンナの郷の人々に 暫しの暇を告げながら供をも連れず入り来る 其真心ぞ雄々しけれあゝ惟神々々 神の御幸を蒙りて前非を悔いし友彦が 母娘の前に手をつきて心の曇を晴らしつつ 三五教の柱石と仕へまつりし古き世の 清き尊き物語神と神との御水火より 組み立てられし瑞御霊神の使の瑞月が 粗製濫造の蓄音器把手に撚をかけながら 不整調なるレコードの又もや廻転始めける あゝ惟神々々御霊幸倍ましまして 黄竜姫や友彦の搦みあうたるローマンス 恋の縺れの糸口をサラリサラリと淀みなく 宣らせ給へよ天津神国津御神や大八洲彦 神の命の御前に慎み敬ひ願ぎまつる。 ○ 友彦夫婦は、小糸姫に誘はれ奥殿深く進み入る。友彦の来訪を聞いて胸踊らせた蜈蚣姫、スマートボールや其他の一同は、珍らしさと忌はしさの混乱したる如き面持にて、中腰になりながら出迎ふ。黄竜姫は友彦の手を固く握り、二三回揺ぶり、 黄竜姫『ジヤンナーサール、ウツポツポ、サーチライス、友彦、テールス、テールスヘーム、タープリンスタープリンス、ケーリスタン、イジアン、ノールマン、シールンパーユエーギエル、シユライト』 と宣る。 『ジヤンナの郷に天降りました友彦の救世主よ、妻のテールス姫殿、御無事で御神業によく仕へて下さいました。妾も貴方が今迄の態度を改め、誠の道に御活動遊ばすを仄に聞き、愛慕の念に堪へず、何とかしてお便りを聞き度いものだ、又神様のお許しあれば一度会見をして今迄の御無礼を謝し、互に了解を得て御神業に参加したく思つて居りました。能くマア御遠方の処遥々お入来下さいました』 との意味であつた。(これから解り易いやう日本語を用ふ) 友彦『ハイ有難う御座います。鬼熊別様、蜈蚣姫様の御両親に対し、若気の至りとは申しながら、天にも地にも一粒種の貴方様を、悪魔の為に吾精神を魅せられ、あのやうな不都合な事を致しました私の罪を、お咎めも下されず、唯今の御親切なる打ち解けたる御挨拶、実に痛み入りました。私は過ぎ来し方の御無礼を思ひ出す度に神の光に照らされて、五体をぐたぐたに神様から斬り虐まれるやうな苦痛を感じ、寝ても覚めても居られないので、恥を忍び直接女王様に拝顔を得、心ゆく迄お詫を申上げ、且つお恨みのありたけを酬うて貰ひ、さうして自分の罪を赦され、至粋至純な元の御魂に立ち帰り、安心して御神務に奉仕したく存じまして、女房にも事情を打ち明け、態とに供人も召し連れず、昔の友彦となつてお詫びに参りました。何卒今迄の御無礼を、神直日大直日に見直し聞き直し、お赦し下さらむ事を、偏にお願ひ致します』 と涙をハラハラと流し、真心より詫び入る。黄竜姫は、 黄竜姫『ハイ有難う御座います。罪は却つて私に御座います。お慈悲深い神様に何事もお任せ致しまして、正しき清き御交際をお願ひ申上げます』 と心の底より打ち解ける其殊勝さ。友彦は一同に向ひ歌を詠んで挨拶に代へた。 友彦『沖に浮かべる一つ島地恩の城に現れませる 神威輝き天地の恵も開く梅子姫 三千世界に神徳を隈なく照らす黄竜姫 神の命を始めとし母とまします蜈蚣姫 泥にまみれし世の中をスマートボールや宇豆の姫 千歳祝ぐ松の世の梢に巣ぐふ鶴公の 右守の神の御前に神の教の友彦が 赤き心を打ち明けて居並びたまふ三五の 司の前に敬ひて言解き詫し奉る 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも誠の道は何時迄も 変るためしもあら尊と教の御子と選まれて ミロクの神の神業に仕ふる吾等の頼もしさ 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直し聞き直し 身の過ちは宣り直す神の尊き言霊の 底ひも知れぬ御恵吾人共に大前に 広大無辺の神恩を畏み感謝し奉る あゝ惟神々々御霊幸倍ましまして 地恩の城は永久に朝日の豊栄登るごと 栄え栄えて果も無く輝き渡る天津日の 御蔭蒙りネルソンの山の彼方の国人を 一人も残さず三五の神の恵に救ひ上げ 野蛮未開の魔の郷を開きて進む神の徳 東と西に分れたるネルソン山の頂きに 立たせ給ひて黄竜の姫は雄々しく此島の 救ひの神と現れませよ吾は友彦テールス姫と 力を一つに合せつつ汝が命の神業を 助けまつりて永久に国治立大神の 仁慈無限の御心に酬いまつらむ村肝の 心撓まぬ桑の弓射貫かにや止まぬ鉄石の 胸打ち明けていつ迄も固き心を誓ひ置く あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 梅子姫は総代的に立ち上つて祝歌を歌つた。 梅子姫『無限絶対無始無終仰ぐも高き大宇宙 𪫧怜に委曲に造りたる国治立大神は 仁慈無限の御心を三千世界の万有に 残る隈なく与へむと遠き神代の昔より 心を千々に配らせつ天津神達国津神 百の神達千万の青人草や海川や 草の片葉や鳥獣昆虫の末に至る迄 心を配り給ひつつ大海原に漂へる 泥の世界を清めむと清き御魂を幸はひて 高天原のエルサレム此処を聖地と定めつつ 三五教の御教を四方に開かせ給ひけり 神の最初の出現は珍の都のエルサレム 人の歴史の初まりは埃及国を元となし オリバス神を礼拝し印度の国はクリシユーナ 波斯の国ではミスラスの神を伊仕へ南米の 高砂島の国人はクエルザコールを礼拝す 神の初めのエルサレムは国治立大神を 祀ると云へど其元は清き流れのイスラエル 自転倒島に現れませる神の教も皆一つ バラモン教やウラル教ウラナイ教やジヤンナイの 教と云へど人の世の風土や人情に画されて 其名を異にするのみぞ黄竜姫も友彦も 過ぎし昔はバラモンの神に仕へし身なれども 其根本に立ち帰り此世を造りし神直日 心も広き大直日国治立や豊国姫 神の命の霊の裔埴安彦や埴安姫 貴の命と現はれて教を四方に開きます いとも尊き御恵に如何で隔てのあるべきや いよいよここに三五の神の教に天が下 四方の国々島々を残る隈なく統一し 此世を救ふキリストの神業清くミロク神 十字の架を背に負ひてノアの方舟操りつ 天教地教の山の上に世人を救ふ神の業 其神徳の一滴此処に滴り竜宮の 名に負ふ珍の一つ島メソポタミヤの顕恩郷 聖地に比すべき地恩郷青垣山を繞らして 珍の真秀良場永久に治め給へる黄竜姫 教の御子の友彦が心の底より打ち解けて 東と西を隔てたるネルソン山の青垣を 苦もなくここに打ち払ひ名詮自称の一つ島 一つ心に真実を籠めて仕ふる神の道 三千世界に隈もなく一度に開く梅子姫 心も勇み身も勇み父大神が三五の 清き御旨に叶ひつつ教の道の永久に 開け行くこそ尊けれあゝ惟神々々 御霊幸倍ましまして天は地となり地は天と 変る艱難の来るとも地恩の郷に三五の 厳の御柱弥高に瑞の御柱永久に 顕幽揃うて立つ上は如何で揺がむ国治立の 神の尊の御仰せ心清めて朝夕に 仕へまつれよ諸人よ神の恵は天地と 共永久に変らまじあゝ惟神々々 御霊の幸を賜へかし』 茲に目出度く友彦は黄竜姫と再会し、麻柱の至誠を捧げ、東西相和し相助け、友彦は黄竜姫の忠実なる部下となつて大神の大道を、全島に力の限り拡充する事となつた。いよいよ一同打ち揃ひ、神前に例の如く祝詞を奏上し、宣伝歌を歌ひ終り、十二分の歓喜に満たされて一旦各自の館に帰り、友彦夫婦は貴賓として鄭重なる待遇を受け、数日城内に滞留する事となつた。 (大正一一・七・一一旧閏五・一七加藤明子録)
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(1888)
霊界物語 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 03 真心の花(二) 第三章真心の花(二)〔七六八〕 玉治別は立上り銀扇を拡げて歌ひ舞ひ始めた。 玉治別『吾は玉治別司天と地との三五の 誠を諭す神使宇都山郷に現はれて 樵の業や野良仕事名も田吾作の賤の男が 天の真浦の宣伝使松鷹彦に三五の 誠の道を教へられ国依別と諸共に 三国ケ嶽にバラモンの教の館を構へたる 此処に在れます蜈蚣姫三五教の大道に 救はむものと老木の茂る山路を打ち渉り 岩窟の中に乗り込みてお玉の方に廻り会ひ 蜈蚣の姫の秘蔵せる黄金の玉を発見し 綾の高天原へ持ち帰り意気揚々と宣伝の 使となりて遠近を彷徨ひ歩く其中に バラモン教の其一派鷹依姫の神司 高春山に居を構へ体主霊従の御教を 四方に開くと聞きしより国依別や竜国別の 貴の命と諸共に心の駒に鞭韃ちて 進む折しも津田の湖敵の捕手に囲まれて 生命危き折柄に杢助司や初稚姫の 貴の命に助けられ高春山に立ち向ひ 廻り会うたる天の森竜国別と鬼娘 ヤツサモツサの問答も神の恵みの御光に 煙と消えて潔く神の御稜威を伏し拝み 鷹依姫の割拠せる岩窟の中に立ち入りて 高姫、黒姫両人を救ひ出して鷹依の 姫の命は忽ちにアルプス教を解散し 三五教の大道に仕へまつりて綾錦 高天原に連れ帰り黄金の玉の紛失に 思はぬ濡衣被せられ泣く泣く立つて和田の原 遥々越えて何処となく黄金の玉の在処をば 探らむ為に親と子が海の彼方に出でましぬ あゝ惟神々々神の恵みの幸はひて 一日も早く片時も疾く速けく親と子が 在処を知らせ給へよと玉治別の朝宵に 祈る心ぞ悲しけれ金剛不壊の如意宝珠 紫色の宝玉の在処探ねて高姫が 又もや神都を後にして海の内外の区別なく 探ねて廻る気の毒さ神の仕組を打ち明けて 当所も知らぬ玉探し諦めさせむと玉能姫 初稚姫と諸共に屋根無し小舟に身を任せ 遠き浪路を打ち渡り高姫一行の危難をば 救ひ守りつ竜宮島到りて見れば高姫は 高山彦や黒姫と暗に紛れて逸早く 後白浪となり果てぬあゝ惟神々々 御霊幸はへましまして高姫一行が執着の 心の雲を晴らせかし一日も早く真心に かへらせ給へと太祝詞となふる声も湿り勝ち 玉治別は是非もなく初稚姫と諸共に ネルソン山の高嶺をば西に渉りて山深み 谷底潜り種々と百の艱難に出会ひつつ 神の恵を力とし誠の道を杖として 石の枕に星の夜具猛獣哮ける大野原 夜を日に次いで進みつつ虎狼や大蛇まで 吾三五の言霊に言向け和し玉野原 一眸千里の草分けて諏訪の湖辺に辿り着き 社の前に額きて善言美詞の太祝詞 汗に穢れし身体を清き湖水に禊ぎつつ 拍手の声は中天に轟き渡る折柄に 浪を十字に引き分けて現はれ給ふ百の神 天火水地と結びつつ五づの身魂の御宝 携へ来る女神等吾等一行に立ち向ひ 竜宮海の麻邇の玉汝等五人に授けむと いと厳かに宣らせつつ身魂を研けと言ひ捨てて 後白浪と消え給ふ初稚姫や玉能姫 玉治別は伏し拝み諏訪の湖あとにして 西北指して進みつつ幾度となく皇神の 深き試錬に遇ひながらさしもに広き竜宮島 神の使の霊鳥に救はれ無事に国人を 言向け和し神業を略了へまつる折柄に 神の使の八咫烏黄金の翼拡げつつ 吾等一行五つ身魂其背に乗せて玉依姫の 貴の命の在れませる竜の宮居に送りけり あゝ惟神々々御霊の幸を蒙りて 吾等五人は皇神の教の道に尽すより 外に一つの望みなし執着心の雲晴れて 輝き渡る日月は心の空に永久に 鎮まりいます心地して不言実行の神の業 竜の館に仕へつつ時の到るを待つ間に 梅子の姫を始めとし黄竜姫や蜈蚣姫 テールス姫や友彦が黄金の舟に浮びつつ 黄金の門を潜りぬけ現はれ来ます嬉しさに 互に見合はす顔と顔嬉し涙はせきあへず 言葉を掛くる術もなく無言の儘に奥殿に 進む折柄玉依姫の神の命は悠々と 青人草を救へよと露の滴る青の玉 ものをも言はず玉治別の神の司の掌に 授け給ひし嬉しさを喜び畏み村肝の 心の魂の照るままに黄竜姫の双の手に 漸く渡し胸を撫で不言実行の一端に 仕へまつりし折柄に玉依姫は奥深く 御神姿隠し給ひけり吾等一同勇み立ち 三つの御門を潜りぬけ黄金の浪の漂へる 諏訪の湖辺に来て見れば忽ち飛び来る八咫烏 吾等を乗せて白雲の御空を高く翔上り 翼の音も勇ましく漸く当館に帰りけり あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 三五教の御教は堅磐常磐に松の世の ミロク神政の基礎と仕へまつりて天地の 百の神等百人を浦安国の心安く 守らせ給へ惟神神の命の御前に 玉治別が真心を開いて細さに願ぎまつる 神素盞嗚大神や国治立の御分魂 国武彦大神よ三五教は言ふも更 島の八十島八十の国青雲棚引く其限り 天地百の生物に平安と栄光と歓喜を 与へ給へと願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 と歌ひ終つて自席に着いた。 次に黄竜姫は立ち上り歌ひ始めた。 黄竜姫『大国彦の神霊堅磐常磐に祀りたる バラモン教は常世国大国別の神司 開き給ひし貴の道万里の波濤を乗り越えて イホの都に来りまし教の園を開く折 三五教の宣伝使夏山彦や祝姫 行平別の言霊に鬼雲彦の大棟梁 根城を抜かれ是非もなく数多の部下を引き率れて 天恵洽きエヂプトを見捨てて来る中津国 メソポタミヤの顕恩郷漸く此処に落ち付いて 堅磐常磐に根城をば固めて道を四方の国 布き弘めたる折柄に神素盞嗚大神の 肉の宮より生れませる神姿優しき八乙女が 心の色もいと清く誠の花を開かせて 教の園を作らむと忍び忍びに出で給ふ 鬼雲彦を始めとし鬼熊別や蜈蚣姫 吾足乳根はバラモンの教の道に勤しみて 心のたけを尽しつつ仕へ給へる折柄に 功績も太玉宣伝使現はれ況して言霊の 珍の剣を抜き放ち誠の鉾を振廻し 薙立て斬り立てバラモンの教の疵を正さむと 真心籠めて出で給ふその御心を白雲の 烟に巻かれて大棟梁鬼雲彦を始めとし 従ひ給ふ神司顕恩郷を後にして 波斯の御国へ出で給ふさはさりながら其以前 顕恩郷の神司幹部一同を従へて 花見の宴を開きまし饗応の酒に酔ひしれて エデンの川を渡る折御舟の傍に立ち居たる 十五の春の吾姿酔ひたる人に撥ねられて ザンブとばかりエデン川流れて底に白浪の 生命絶えむとする折に従僕の司の友彦は 身を躍らして川中を潜り潜りて漸くに 妾を抱きて救ひ上げ背に負ひつつ吾父の 館を指して帰りましぬあゝ惟神々々 神の恵みの浅からず二つなき身の生命をば 神の恵みと言ひながら助け呉れたる友彦に 心は移る恋の闇吾垂乳根の目を忍び 闇に紛れて顕恩郷をソツト脱け出で友彦と 手に手を取つて錫蘭の島深山の奥に身を潜め 一年ばかり経る中に妾が心機一転し 何の情もあら男後に残して逃げて行く 錫蘭の浜辺の里人のチヤンキー、モンキーの両人に 艪を操らせ限りなき大海原を打ち渡り 九死一生の苦みを五十子の姫や梅子姫 御供の神に助けられ長き浪路を渡りつつ 昼は終日終夜三五教の御教を 心の底の奥庭に植付けられてバラモンの 迷ひの夢も醒めにけり五十子の姫の一行に 推戴されて竜宮の黄金花咲く一つ島 地恩の郷に顕現しオーストラリヤの新女王 三五教の神司あらゆる名誉を身に負ひて 本末顛倒の境遇を知らず識らずに日を送る 心の中の浅間しさ高山彦や黒姫に 政務教務を打ち任せブランジー、クロンバー相並び 政教一致の神業を開いて国を守る折 三五教の高姫と共に来ませし蜈蚣姫 母の命に廻り会ひ嬉し涙にせきあへず 心を協せ身を尽し教は四方に輝きて 朝日の豊栄昇る如歓ぎ楽しむ折柄に 現はれ来る友彦が夫婦の神の来訪に 喜び驚き一時は心の海に荒浪の 立つ瀬なき迄狼狽し互に過去を語り合ひ ヤツと解けたる胸の裡園遊会になぞらへて 昔の交り温めつ東と西と相応じ 宝の島を治めむと心も勇む時もあれ ネルソン山の空高く現はれ出でし蜃気楼 如何なる事の天啓かよくよく仰ぎ眺むれば 紛ふ方なき諏訪の湖地恩の城に仕へたる 左守神の清公がチヤンキー、モンキー其外の 二人の供と諸共に荘厳美麗の玉の宮 玉依姫の御前に近く仕ふる有様は 手に取る如く見えにけりネルソン山の西の空 尊き神の坐しますと思ひ定めて梅子姫 蜈蚣の姫やテールスの姫の命と諸共に 友彦さまを先頭に旅の枕も数重ね 漸く来る玉野原金砂銀砂を敷きし如 漸く道を進みつつ諏訪の湖畔に建てられし 祠の前に辿り着き湖面に向つて再拝し 天津祝詞を奏上し愈此処に村肝の 心の帳も開け初め梅子の姫の御前に 知らず識らずに犯したる百の罪咎詫びぬれば 木花姫の懸らせて天火水地の大道を 諭し給へば小糸姫蜈蚣の姫や一同は 転迷開悟の蓮花一度に開く梅子姫 尊き神の御教を心の底より正覚し 感謝祈願の折柄に諏訪の湖面に浮びたる 浮島影を悠々と黄金の船に真帆を上げ 此方に向つて進み来るその気高さに驚きて 湖上を看守る折もあれ左守神の清公が 四人の供と諸共にものをも言はず手を挙げて 乗らせ給へと麾く妾一行五人連れ 直に船に打ち乗りて黄金の浪を辷りつつ 西北指して進み行く天国浄土か楽園か 青赤白黄紫の花は梢に咲き乱れ 大小無数の島嶼は彼方此方に永久に 浮べる中を心地よく勇み進んで玉依の 姫命の在れませる竜の宮居に行き見れば 月雪花の御姿に擬ふべらなる姫神の 十二の神姿立ち並び玉治別や初稚姫の 神の命や玉能姫久助お民も諸共に 吾等一行を迎へつつ奥殿深く進み入る 梅子の姫は奥の間の宝座に静に座を占めて 暗祈黙祷なし給ふ時しもあれや高御座 扉を開き悠々と現はれ給ふ貴姿 玉依姫の御神は数多の侍女を従へて 貴の玉器携へつ十曜の紋の十人連れ ものをも言はず目礼し微笑を浮べてそれぞれに 五色の玉を手づからに渡し給へば玉治の 別の命の神司青き玉をば授かりて 直に吾手に微笑みつ渡させ給ふ尊さよ 天火水地と結びたる麻邇の御玉の其一つ 授かり給ひし喜びを私せずに妾の手に 渡し給ひし功績を建てよと示す玉治別の 神の命の志玉を争ふ世の中に 執着心の影もなく月日の如く明けき 其の御身魂々々々感謝の涙せきあへず 感謝は忽ち村肝の心の海に浪起り 進みかねたる恋の海玉治別の真心は 天地の神も嘉すらむ妾は賤しき小糸姫 恵の露に潤ひて今は嬉しき宣伝使 神の司となりぬれど心汚き人の身の いかで誠を尽し得む斯る身魂も省みず 尊き玉の神業を惜しまず妾に譲りてし 清き心は又と世に何処の果を探ぬとも いかで例のあら涙漂ひ浮ぶ一つ島 夫なき身の独身者玉治別の神司よ 妾は切なき恋の闇玉の光の現はれて 照らさせ給へ妹と背の尊き道の誓言 神素盞嗚大神や国武彦大神の 尊き御前を顧みず心のたけを打ち明けて 幾重に願ひ奉る黄竜姫が授かりし 麻邇の御玉を妾のみ私なさず三五の 教司の高姫や高山彦や黒姫の 神の司も諸共に空前絶後の此度の 尊き神業に参加させ心の隔てを除き去り 三五教の御教を月日輝く地上に 照させ給へ厳魂瑞の魂の御前に 黄竜姫が真心を捧げて謹み願ぎ申す あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 神伊弉諾大御神神伊弉冊大神の 撞の御柱右左廻り給ひて千代八千代 誓ひ給ひし其如く妹背の契を結ばせて 神の教を四方の国夫婦の息を合せつつ 身もたなしらに仕ふべし許させ給へ玉治別の 神の司の宣伝使心の底を打ち明けて 完全に詳細に願ぎ奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 神の御前に誓ひたる妹背の道は永久に 変らざらまし松の世の尊き神の御心に 八千代を籠めて願ぎ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 と祝賀と喜悦と恋慕とゴツチヤにして心のたけを歌ひ終り座に着いた。玉治別は聊か当惑し直に立つて黄竜姫の歌に答ふべく、再び銀扇を開いて言葉静かに歌ひ始めた。 玉治別『神の恵に助けられ玉治別と名を負ひて 今は尊き宣伝使三五教の御教を 天地四方に開かむと山の尾渉り川を越え 潮の八百路も厭ひなく進み進みて竜宮の 一つの島に上陸し心も清き諏訪の湖 玉依姫の御神に麻邇の御玉を賜はりて 地恩の城を治めます黄竜姫の玉の手に 渡して神の功績を高き低きの隔てなく 神の御前に現はして教の道を照さむと 心を尽す玉治が清き身魂を臠し 妹背の道を結ばむと語らひ給ふ尊さよ さはさりながら玉治の別の命は其昔 宇都山郷に現はれし国依別が妹なる お勝の姫を妻となし夫婦揃ひて睦まじく 神の神業に仕ふ身ぞ黄竜姫の真心は 己玉治別として無限の感謝に充ちぬれど 皇大神の定めたる一夫一婦の御規則 破らむ由もないじやくり国に残せし若草の 妻の命の心根を思へばいとど哀れなり 宇都山郷の田吾作と蔑まれたる時も時 卑しき身をも顧みず尊き神の御裔もて 吾に仕へし貴の妻吾身に一人ある事を 完全に詳細に聞こし召し此事のみは今日限り 心に放させ給へかし汝が身を思ひ妻の身を 思ふ玉治別神清き心を汲みとりて 必ず怒らせ給ふまじあゝ惟神々々 生命二つとあるならば汝をも娶り又もとの お勝の方と睦まじく仕へむものと吾心 汲ませ給へよ黄竜姫神素盞嗚大御神 国武彦の御前に真心明かし汝が身の 思ひを此処に情なくも科戸の風に打ち払ふ 黄竜姫の神司汝が切なる心根を 仇には捨てぬ玉治別の仇に思はぬ真心を 直日に見直し聞直し弥永久に宣り直し 吾に勝りていと清き夫の命を持たせまし あゝ惟神々々神の御前に玉治が 真心明かし奉る』 と妻のお勝の宇都山郷にありて神業に奉仕し居れば、貴嬢の御心は察すれども、到底夫婦たる事を得ずとの旨を神の前に表白したのである。黄竜姫は愈恋の雲晴れて熱心に神業に奉仕する事となつた。 (大正一一・七・一七旧閏五・二三北村隆光録)
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霊界物語 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 07 鈴の音 第七章鈴の音〔七七二〕 五十子姫はさも嬉し気に満面に笑を湛へ、金扇を開いて満座の中に向つて祝歌を歌ひ、長袖淑やかに舞はせ給うた。 五十子姫『厳の御霊の大御神瑞の御霊の大御神 八洲の国に蟠まる八岐大蛇を言向けて 此世の曲を払はむと国治立大神は 心を千々に砕かせつ雲井の空の弥高き 位を捨てて根の国に尊き御身をしのばせつ 又もや此世を守らむと天教山の火口より 水火の艱苦を凌ぎつつ豊葦原の瑞穂国 隈なく廻り神人の心を包む村雲を 科戸の風に吹き払ひ速川の瀬に浄めむと 百千万に身を窶し悪魔の猛ぶ世の中を 守らせたまふぞ尊けれウブスナ山の頂上に 建ち並びたる斎苑館五十子の姫は父神の 勅を畏み顕恩の郷に下りて三五の 誠の道を楯となしバラモン教の神柱 鬼雲彦や其外の神の司に近寄りて 救ひの道を伝へむと思ひし事も水の泡 是非なく此処を立ち出でて梅子の姫と諸共に エデンの流れを横ぎりつ踏みも習はぬ旅枕 雨や霰に身を曝し醜の魔風に梳り 彼方此方と神の道開く折しもバラモンの 神の司に捕へられ恨は深し海の原 半朽ちたる捨小船主従四人は村肝の 心淋しく天地の神の御前に太祝詞 涙と共に唱へつつ果しも知らぬ浪の上 浮きつ沈みつ竜宮の宝の島に辿りつく 神の御稜威もタカ港御船を捨てて上陸し 鬼熊別の貴の子と生れ出でませる小糸姫 教の道の司とし地恩の郷に現はれて 大宮柱永久に太知り立てて賑しく 教の園の花薫り実を結びたる秋の空 梅子の姫や小糸姫其他の司に暇乞ひ 今子の姫と諸共に神の恵の著く 屋根無し船に身を任せ浪太平の海原を 大小無数の島を縫ひ漸う此処に自転倒の 秀妻の国の神島に辿り着きたる嬉しさよ 自転倒島を西東北や南と駆廻り 三五教の大道を四方に伝ふる折もあれ 思ひも寄らぬ竜宮の一つ島なる秘密郷 黄金の湖の底深く秘め置かれたる麻邇の玉 此処に現はれ北の空打ち眺めつつ綾錦 聖地を指して参下り言依別と諸共に 秋山彦の御館来りて見ればこは如何に 焦れ焦れし吾父の神素盞嗚大神や 国武彦大神の厳の温顔伏し拝み 嬉し悲しの胸の中譬へむよしも泣くばかり あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 父大神の大神業国武彦の御経綸 完全に委曲に成り遂げて堅磐常磐の松の世を 千代に八千代に万代に築かせ給へ久方の 天津御空の神国の日の若宮に永久に 鎮まりいます日の神の御前を慎み畏みて 遥に願ひ奉る瑞の御霊の麗しく 厳の御霊の影清く三五の月の何時迄も 照れよ光れよかくるなよあゝ惟神々々 神の御前に願ぎまつる』 と歌ひ終つて旧の座に着き給うた。 音彦は立ち上つて銀扇を拡げ自ら歌ひ自ら舞ふ。 音彦『ウラルの彦やウラル姫の開き給ひしウラル教 名さへ尊きアーメニヤ教の館を後にして ウラルの道を開かむと波斯の海をば浮びつつ 僅に四五の神司率ゐて進む一つ島 三歳四歳と身を尽し心を尽し皇神の 教を開く甲斐もなくわが信仰の仇花に 実りもせない山吹の黄金花咲く此島も 何の効果も荒浪の上を辷つて帰り来る 時しもあれや波斯の海荒風すさび浪猛り 千尋の海に吾船は早沈まむとする時に 同じ御船に乗りませる三五教の神司 日の出別の神人に危き所を助けられ 始めて悟る神の道タルの港に上陸し 波斯の原野をトボトボと神のまにまに宣伝歌 歌つて進む勇ましさ弥次彦、与太彦両人を 御供の司と定めつつ小鹿峠にさしかかる 時しもあれやウラル教目付の神に取囲れ 進退ここに谷まりて千尋の谷間に身を投じ 人事不省の其儘に三途の川や八衢の 淋しき光景探りつつ日の出別の神人に 呼び生かされて甦り深くも悟る神の道 皇大神の御心を島の八十島八十国の あらむ限りに伝へむと遠き近きの隔てなく 廻り廻りて自転倒の島に漸う辿り着き 大江の山や鬼ケ城バラモン教の神司 堅磐常磐の鉄城と頼みて拠れる真最中 吾言霊に吹き払ひ心いそいそ五十子姫 右と左に別れつつ神の御為道のため 世人の為に赤心を尽す折しも三五の 神の教の貴宝三つの御玉は永久に 神のまにまに納まりて天の御柱いや太く 下津岩根に経緯の機の仕組も近づきて 教の花も遠近に薫り初めたる秋の空 又もや来る五つ御玉天火水地と結ぶなる 五つの御玉の麻邇宝珠綾の聖地に恙なく 集まりますと聞きしより心の駒も勇み立ち 錦の宮の御前に感謝の涙流しつつ 三五教の神司言依別に従ひて 由良の港に来て見れば妻の命の御父と 現はれませる瑞御霊神素盞嗚大神は 聖顔殊に麗しく身も健かに神業に 尽させ給ふ嬉しさよあゝ惟神々々 御霊幸はへましまして三つの御玉の麗しく 五つの御玉の清らかに心の空は日月の 伊照り輝く其如く雲霧もなく永久に 神の光を世に照しミロクの神世の礎を 下津岩根に搗き凝らし上津岩根に搗き固め 三五の月の御教を守る吾等の神業を 守らせ給へ天津神国津神等八百万 埴安彦や埴安姫の伊都と美都との二柱 清き御魂の御前に慎み敬ひ願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ』 (大正一一・七・一八旧閏五・二四加藤明子録)
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(1898)
霊界物語 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 13 三つ巴 第一三章三つ巴〔七七八〕 炎熱火房に坐す如く恰も釜中に居る如し 酷暑の空に瑞月が身を横たへて述べ立つる 廻すハンドル力なく半破れしレコードも 針の疲れにキシキシと鳴り出で兼ねしかすり声 妙音菩薩の山上氏傍に現はれましませど 泣き嗄したる時鳥八千八声も尽き果てて 唇加藤明きかぬる珍の言霊松村氏 真澄の空を眺めつつ此処迄述べて北村の 錦の宮の隆光る三五の月の神教を 守る神人言依別の瑞の命を始めとし 玉照彦や玉照姫の瑞の命の聖顔は 外山の霞掻き分けて豊二昇る朝日子の 日の出神の如くなり五六七太夫の谷村氏 真の友と水火合せ汗に眼鏡を曇らせつ 万年筆と口の先素的滅法に尖らせて 松雲閣の中の間で鼻高姫や黒姫が 御玉探しの大騒ぎ神素盞嗚大神が 帯ばせ給ひし御佩刀の三段に折りし誓約より 現はれませる三女神市杵嶋姫、多紀理姫 多岐都の姫を祀りたる御稜威輝く竹生島 社殿の下に瑞宝の匿されありと国依別の 俄天狗にそそられて此処に三人の玉抜けや ヤツサモツサの経緯を筆に写して止め置く あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ。 ○ 三五教の宣伝使変性男子の系統を 唯一の楯と頼みたる日の出神の肉の宮 嘘か真か知らねども天狗の鼻の高姫が 尊き御魂を持ちながら肝腎要の神業に 取り除かれし妬ましさ言依別が匿したる 玉の在処を何処迄も仮令火になり蛇になり 骨になるとも執拗に探り当てねば置かないと 執着心の鬼大蛇醜の曲津に誘はれて 自転倒島は云ふも更明石の海や淡路島 家島を越えて小豆島波濤に浮ぶ南洋の 蘇鉄の茂る大島やバナヽの薫り香ばしき 南洋一のアンボイナ谷水清く苔青く 竜宮島と聞えたるこれの聖地を後にして 流れ流れて一つ島黄金の島に上陸し 地恩の城に現はれて黄竜姫に玉抜かれ 流石剛気の高姫も胸轟かし黒姫や 高山彦を伴ひて潮の八百路の八潮路の 潮の八百会漕ぎ帰り淡路の島の東助が 鉄門を守る虻蜂に鼻を折られて再度の 山を目蒐けて漕ぎ帰り生田の森に名も高き 玉能の姫の神館執念深くも訪ぬれば 国依別や秋、駒の思ひも寄らぬ三人連れ やつさもつさと争論ひ揚句の果は竹生島 憑依もしない天狗の口に鼻高姫は勇み立ち 今度は願望成就と館の裏口走りぬけ 闇に紛れて細道を進み行くこそ可憐らしき 上野、篠原乗り越えて秋の御空も住吉の 郷に漸く辿り着き東の空を眺むれば 金剛不壊の如意宝珠光争ふ朝日子の 日の出神の御姿両手を合せ伏し拝み 中野の郷もいつしかに葭と芦屋の忙しく 運ぶ歩みも立花や小田郷、柴島、淀の川 漸く道も枚方やいつしか廻り大塚の 此坂道も高槻や山崎越えて美豆の郷 河の流れも淀の町銀波漂ふ巨椋池 宇治の流れに下り立ちて飲み干す水は醍醐味や 小山、大谷早越えて逢坂山の真葛 人に知らされ来る由も嬉しき玉を三井の寺 ミロクの神世に大津辺の幾多の船の其中に 殊更堅固な船を選り高姫艪をば操りて 心は後に沖の島波を辷つて進み行く 向ふに見ゆるは竹生島月西山に傾きて 闇の帳は水の面四辺を包む大空に 閃き渡る星の影船漕ぎ浪を砕きつつ 浅黄に星の紋つけた黒い婆さまがやつて来る 又もや続いて来る船は頭の光る福禄寿さま 弁天さまの此島に女布袋や大黒が 黄金の槌はなけれども土の中より瑞宝を 探り当てむと執着の心の暗に塞されて 星影映る湖の上互に息を凝らしつつ 進み寄るこそ訝かしき。 近江の国の琵琶の湖水は、其形楽器の琵琶に似たるをもつて、此名ありと巷間伝へらる。併し乍ら此湖中に浮べる竹生島に、神素盞嗚大神の佩かせ給ひし十握の剣を、天の安河に於て誓約し給ひし時、瑞の御霊の表徴として、温順貞淑の誉高き三女神現はれ給ひ、此処に其御霊を止めさせられ、時々竜神来りて、姫神の御心を慰め奉るため、琵琶を弾じたるより琵琶の湖と称ふるに至つたのである。又一名天の真奈井とも言霊学者は称へて居る。今の竹生島は湖水の極北にあれども、此時代は湖水の殆ど中央に松の島、竹の島、梅の島の三島嶼相浮び三つ巴となつて其雄姿を紺碧の波上に浮べて居たのである。松の島には多紀理姫神鎮座在まし、竹の島には市杵島姫神鎮まり給ひ、梅の島には多岐都姫神鎮まらせ給ひ、各島各百間許りの位置を保つて行儀よく配列されてあつた。高姫は先ず竹の島の市杵島姫を祀りたる社を指して漕ぎつけた。 黒姫、高山彦も期せずして闇夜の悲しさ、同じ竹の島に船を寄せ、同じ社の床下に玉探しの為め頭を集めた。 神素盞嗚の貴の子と生れ給ひし英子姫 万世祝ふ亀彦は神素盞嗚大神の 厳の神業詳細に遂げさせ給へと朝夕に 天津祝詞を奏上し天の数歌潔く 一二三四五つ六つ七八つ九つ十たらり 百千万と村肝の心を籠めて祈る折 磯の彼方に船繋ぎしとしと来る黒い影 気にも止めずに一向に祈る最中に神の前 忽ち現はれ額きて天津祝詞を奏り上ぐる 暗に確とは分らねど皺嗄れ声は高姫か 執着心に搦まれて当所も知らぬ玉探し 見るも無残と英子姫そつと此場を立ち出でて 己が館に静々と星の光を力とし 闇路を分けて島影の清き館に帰りけり 後に亀彦唯一人声を密めて御扉を そつと開いて中に入り様子如何にと窺へば 神ならぬ身の高姫は社の中に人ありと 知らぬが仏一心に無事の安着感謝しつ 拍手の音も湿やかに金剛不壊の如意宝珠 黄金の玉や紫の珍の宝珠を高姫の 両手に授け給へよと声を震はせ祈り居る 暫くありて高姫は珍の社の床下に 鼠の如く這ひ寄つて黒白も分かぬ闇の中 小声に神名唱へつつ探り居るこそ可笑しけれ 又もや近づく足音は社の前に手を拍つて 心の秘密を語りつつ暗祈黙祷稍暫し 心いそいそ御社の四辺を密かに窺ひつ 土竜の如く床下に又もや姿を匿しける 月の光は無けれども星の光に照らされて 長い頭の唯一つ闇を掻き別け進み来る 入日の影か竿竹か見越入道の大男 又もや社前に手を拍つて感謝の声も口の中 何か細々願ぎ終へて忽ち社殿の床の下 長き頭を匿しけるあゝ惟神々々 迷ふ身魂の三つ巴誠の仕組も白浪の 沖に浮べる神島に胸に荒波打たせつつ 心の鬼に爪立てて無暗矢鱈に掻き廻し 汗をたらたら三人が時々頭を衝突し ピカリピカリと火を出して四辺の闇を照らせども 心の闇は晴れやらず互に顔を不知火の 心砕くる思ひなり高姫心に思ふやう 国依別の云うたには言依別のハイカラが 二人の使を遣はして肝腎要の神宝を 掘り出させてうまうまと再びどこかに埋め置き 初稚姫や玉能姫可愛や二人に鼻明かせ 折角立てた功績をオジヤンにしようとの悪戯か 憎さも悪い言依別の醜の命のドハイカラ 初稚姫や玉能姫思へば思へばお気の毒 吾子の功績を鼻にかけ高天原に参上り 総務々々と敬はれ威張つて御座つた杢助も 今度はアフンと口あけて吠面かわくも目のあたり 嗚呼面白い面白いさはさりながら何者か 此場に二人もやつて来て玉を掘り出し帰らうと 一生懸命探し居る何処の奴かは知らねども 愈玉の出た時は変性男子の系統や 日の出神を楯に取り此高姫が恙なく 大きな顔で受け取らうそれにつけても黒姫や 高山彦は今何処黄金の玉や紫の 宝はもはや分りしか心もとなき吾思ひ 仮令小爪は抜けるとも金輪奈落土の底 土竜蚯蚓にあらねども土掻き分けて探し出し 吾手に取らねば措くものかあゝ惟神々々 叶はぬ時の神頼み南洋諸島へ遥々と 危険を冒して玉探し往た事思へば一丈や 二丈三丈掘つたとて何の手間暇要るものか 国依別の云うたには三角石を取り除けて 下三尺の深さぞと天狗に急かれて已むを得ず 白状致した面白さ天狗の申した其如く 三角形の石はある早三尺も掘り終へて もはや四五尺掘りぬいたされども玉は現はれぬ 是はてつきり三丈の深さのきつと間違ひだ 三丈四丈はまだ愚仮令地獄の底迄も 掘つて掘つて掘り抜いて探し当てねば措くものか 苦労と苦労の塊で尊い花の咲くと云ふ 神の教を聞くからは仮令百年かかるとも 掘らねば措かぬ吾心女の誠の一心は 岩をも射貫くためしありきつと掘り出し見せてやろ 目出度く玉が手に入らば意気揚々と立ち帰り 言依別を始めとし杢助お初やお節等の 顔の色迄変へさせて改心さして救はねば 日の出神の生宮のどうして顔が立つものか あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ。 と心の底に迷ひの雲を起しながら、一生懸命汗を流して火鼠か土竜のやうに砂混りの土を掻き上げて居る。 ○ 黒姫心に思ふやう再度山の大天狗 国依別の口借つて黄金の玉の匿し場所 近江の国の竹生島弁天社の床下と 確に確に云ひよつた国依別が云ふのなら 些しは疑ふ余地もある天狗は心潔白で 些とも嘘は云はぬもの間違ふ気遣ひあるものか 天狗の仰せの其如く言依別のハイカラが あらぬ智慧をば絞り出し此処に匿して置きながら 高姫さまや黒姫の昼夜不断の活動に 肝を潰して狼狽し見付けられない其中に 外へこつそり匿さうと猿智慧絞つて態人を 一足先に此島へ掘らしに来したに違ひない あの熱心な探しやう如何に剛気な黒姫も 呆れて物が云はれない宝探しの神業は 唯一言も言霊を使つちやならない神の告 迂濶言葉を出すならば折角見つけた宝玉も 煙となつて消え失せむ嚔一つ息一つ ほんに碌々出来はせぬ苦しい時の神頼み 祝詞を唱へて神様にお願ひする事は知つて居る 云ふに云はれぬ玉探しこんな苦しい事あらうか 言依別の使等が黄金の玉を発見し 持ち帰らうとした所で竜宮に在す乙姫の 鎮まりいます肉の宮千騎一騎の此場合 黒姫中々承知せぬ仮令地獄の底までも 掘つて掘つて掘つて掘り抜いて光眩き金玉を 再び吾手に納めつつ綾の聖地に持ち帰り 言依別や杢助をアフンとさせてやりませう あゝ惟神々々叶はぬ時の神頼み 頼りもならぬ口無しの息をつまへる鴛鴦の 番離れぬハズバンド高山彦は今何処 紫色の宝玉は何処の島か知らねども もはや手に入れ給ひしか高姫さまは今何処 金剛不壊の如意宝珠首尾よく御手に返りしか あちらこちらと気が揉めるあゝ惟神々々 叶はぬ迄も探し出し初心を貫徹せにやおかぬ 苦労と苦労の塊の花の咲くのはこんな時 又と出て来ぬ此時節琵琶の湖水は深くとも 闇の帳は厚くとも三五教の神司 高山彦や黒姫が言依別に着せられた 恥の衣を脱ぎ捨てて神国魂をどこ迄も 見せねばならぬ此立場何処の奴かは知らねども 高山さまに好く似たる茶瓶頭がやつて来て 又もやがさがさ探し出す欲と欲とのかちあひで 玉の詮議に頭うち火花を散らす苦しさよ 仮令天地が覆るとも黄金の玉は何処迄も 探し当てねば措くものか岩をも射貫く一心は 女たる身の天性だあゝ惟神々々 御霊幸倍ましませよ。 とひそかに思ひ、ひそかに念じながら、汗をたらたら搾り出し、一生懸命に砂を掻き上げて居る。 ○ 高山彦は訝かりつ心の中に思ふやう 再度山の大天狗国依別の口借つて 竹生の島の神社其床下に三角の 石を蓋せて紫の宝玉深く荒金の 土中に埋没せしと聞く三角石は此処にある さはさりながら訝かしや言依別の使とも 思へぬ節が一つある闇の帳は下されて さだかにそれとは分らねど体の恰好動きやう 頭をぶりぶり振る所高姫さまや黒姫に どこやら似て居る気配ぢやぞ天狗は至つて正直と 昔の人も云うて居る滅多に嘘は申すまい 高姫さまや黒姫によく似た者は世の中に 一人や二人はあるだらう何を云うても鴛鴦の 名乗もならぬ玉探し実際俺は言依別の 神の命が神界の仕組によりて匿されし 宝の在処を探そとは夢にも思うた事はない さはさりながら高姫や黒姫までが焦ら立つて 玉よ玉よとやかましく騒ぎ廻るが煩さに 己も何とか工夫して玉の在処を探し出し 二人の婆に執着の雲を晴らさしやらうかと 牛に牽かれて善光寺心ならずも竜宮の 一つ島迄駆廻り地恩の城にブランヂー クロンバー迄も勤めつつ数多の国人使役して 玉の在処を探したがこれ程広い世の中を 土中に深く隠されし玉の分らう筈がない 高山彦も今日限り此処で失敗したならば これきり思ひ切りませう日の出神や竜宮の 乙姫さまかは知らねども俺にはチツと腑に落ちぬ 真日の出神なれば玉の在処は何処其処と ハツキリ知らして呉れるだらう竜宮の乙姫さまならば 猶更玉の匿し場所知らない道理がどこにあろ 同じ名のつく神様も沢山あると見えるわい 高姫さまや黒姫に憑つて御座る神さまは 神力足らぬ厄雑神それでなければどうしても 俺の心にはまらない六十路の坂を見ながらも 五十女に操られ玉を探しに何処迄も 往かねばならぬか情ないあゝ惟神々々 叶ひませぬから高姫や黒姫二人の執着を 科戸の風に吹き払ひ生れ赤子に立てかへて 何卒助けて下しやんせ竹生の島の御神に 心を籠めて願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ。 と心の中に呟きながら、高姫、黒姫の改心を専一と祈願し、紫の玉は殆ど念頭に置かぬものの如くであつた。 (大正一一・七・一九旧閏五・二五加藤明子録)
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霊界物語 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 02 清潔法 第二章清潔法〔七八四〕 西に円山東に小雲山と川とに挟まれし 並木の松の片傍り桧、松、杉、柏木の 丈余にあまる大木は天を封じて立ち並ぶ それの木蔭に瀟洒たる丸木柱に笹の屋根 青、白、赤の庭石もどことは無しに配置よく 敷き並べたる庭の奥幽かに聞ゆる話声 聞くともなしに友彦は思はず門をかい潜り 何かの綱に曳かれしごと何時の間にやら門の口 此処は高姫御館奥には幽かな人の声 何処の客かは知らねども何は兎もあれ戸を叩き 主人の様子を窺はんさうぢやさうぢやと独言 忽ち表戸打ち叩き『教の道の友彦が 久方振にお館へ帰り来ませる高姫に 敬意を表して御挨拶申さんものと取る物も 取らずに尋ね来ましたぞお構ひなくば表戸を 早く開けさせ給へかし』呼べば中より安公が 『折角乍ら友彦よお前は意地久根悪い故 高姫さまの気に合はぬ今も今とて国さまや 秋彦さまがやつて来て何ぢや彼んぢやと駄句りつつ 形勢不穏と見済まして尻を紮げて去にました お前も立派な男なら些とは考へなされませ 奥の一間に高姫や高山彦や黒姫が 夏彦、常彦前に置き秘密の話をして御座る 秘密は何処迄秘密ぢやと高姫さまの常套語 今日は風向悪い故去んだがお前の得だらう 男を下げて帰るより貞操深きテールスの 姫の命と親密に尊き神の御言葉を 調悟つた其上で喧嘩の材料を蓄へて 此場を出直し堂々と捲土重来するがよい 七尺男が高姫や黒姫さまに凹まされ 泡を吹くのも見ともないお前は私の好きな人 お鼻の赤い愛嬌者木花姫の再来と 勝公さまが云うて居た一度に開く蓮花 此処は聖地の蓮華台それの麓の神館 嘘か誠か知らねども系統の身魂に憑られし 日の出神が御座るぞや竜宮海の乙姫も 黒姫さまを機関とし天狗の身魂も引き添うて 高山彦の夫婦連れ三人世の元結構と 済ました顔で御座るのに赤鼻天狗がやつて来て 鼻と鼻とが衝突し又もや悶着起りなば 安公さまも勝公も何うして傍に居られよか 地震雷火の雨もさまで恐れぬ豪傑の 安公さまも高姫のその鼻息にや耐らない 男一匹助けると思うて帰つて下さんせ 肝腎要の性念場秘密話の最中に お前が来たと聞いたなら忽ち起る暴風雨 柱は倒れ屋根剥れ険難至極の修羅場裏 あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 白い玉をば預かつたジヤンナの郷の救世主 此処では詮らぬ宣伝使神の上には上がある 口が悪いと腹立てて怒つて呉れなよ高姫が 今日も今日とて云うて居た俺が云うので無い程に 日の出神の生宮の御霊が憑つて説き明す 斯う云ふ中にも高姫のお耳に入れば大変だ 地異天変は目のあたり早く帰れ』と促せば 友彦フフンと鼻で息『魂ぬけ婆さまの高姫が 四股の雄健び踏み健び何程勢強くとも バラモン教の友彦と世に謳はれた俺だもの 高姫位が何怖い女の一人や十人が 怖くて此世に居られよか腰抜け野郎』と云ひながら 力の限り表戸を押し分け入らんとする所 『千騎一騎の此場合友彦如きに這入られて 何うして門番勤まろか後でゴテゴテ高姫の お小言聞くのが耐らない友彦お前は夫程に 物の道理が分らぬか荒浪凪いだ明朝 又出直して来てお呉れ其時こそは喜んで 𧘕𧘔つけて門口へ私が出迎へ致します 頼む頼む』と泣き声を放てば友彦立ち止まり 平地に浪を起すよな悪戯しても済まないと 心を柔げ声を変へ『お前の云ふのも尤もだ そんなら今日は帰ります高姫さまや黒姫に 友彦さまがやつて来て秘密の話があるさうぢや お邪魔をしてはならないと賢いお方の事なれば 先見つけて我館いそいそ帰つて往きました 万一明日来たなれば高姫さまも黒姫も 高山彦も安公も𧘕𧘔姿でお出迎ひ 必ず粗相あるまいぞ呉れ呉れ申て置く程に 沢山さうに友彦とお前は思うて居るだらう 黄金花咲く竜宮の一つ島にて名も高き ネルソン山の峰続きジヤンナの郷の救世主 小野の小町か衣通かネルソンパテイか楊貴妃か テールス姫かと云ふやうな古今無双のナイスをば 女房に持つた果報者必ず必ずこの言葉 忘れちやならぬぞ高姫に頭を低ふ尻高く 犬蹲踞に身構へし申伝へて呉れよかし 高姫さまも友彦の光来ありしと聞くならば 忽ち顔色青くして待ち兼ね山の友彦が 訪ねて来たのを素気なくも主人の我に無断にて 帰すと云ふ事あるものか気の利いた割に間の脱けた 安公の野郎と頭から雷さまが落ちるだろ 夫を思へば安公がお気の毒にて耐らない 減らず口ぢやと思ふなよ武士の言葉に二言ない 研き悟りし天眼通鏡に映したその如く 一切万事知れて居るあゝ惟神々々 御霊幸倍坐ませよ青垣山は裂けるとも 和知の流は涸れるとも友彦さまの云つた事 一分一厘違はない大地を狙つて打ち下ろす 此棍棒は外れても我一言は外れない 頤が外れて泡吹いて吠面かわいて梟鳥 夜食に外れた時のよな妙な面つきせぬやうに 親切心で友彦が一寸お前に気をつける 教の道の友達の好誼ぢや程に安公よ 決して仇に聞くでない天が下には敵も無く 一人も悪は無い程に心の隔ての柴垣を 早く取り除け世の中の人を残らず仁愛の ミロクの眼で見るならば尊き神の御子ばかり 高姫さまに此事を重ねて云うて置くがよい 別れに望んで友彦が一寸憎まれ口叩く あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ乍ら夕焼の空を打ち仰ぎつつ、いそいそと我家をさして帰り往く。 友彦の帰り往く後姿の見えぬ迄見送つた安公は、 安公『アヽとんでも無い奴がやつて来やがつて、いらぬ気を揉ましやがつた。褒めて去なさうと思へば調子に乗つて這入らうとする。仕方が無いから悪く云つて帰さうと思へば、無理やりに戸を押し開けて這入らうとする。困つた奴だ。あんな男を此の結構な日の出神のお館へ入れやうものなら、又高姫さまが四足身魂が来たから、此辺が汚れたから、塩をふれ、水を撒け、其辺を掃けと矢釜しく仰有るに違ひない。此広い庭前を俺達二人が何程鯱んなつても、お気に入るやうな事は出来はしない。マアマア高姫さまに分らいで掃除だけは助かつた。友彦の奴減らず口を叩きやがつて、𧘕𧘔姿でお出迎ひせよと馬鹿にしやがる。併し俺が一寸其場逃れにお仕着せ言葉を使つたのが誤りだ。……何、変説改論の世の中、日進月歩だ。今日の哲学者の以つて真理となす所、必ずしも明日は真理でない。又夫以上の大真理が発見せられたら、今日の真理は三文の価値も無く社会から葬られて仕舞ふのだ。エヽそんな事考へて取越苦労をするのは馬鹿らしい。刹那心を楽しむのだ。あゝ今と云ふ此刹那の心配と云うたら有つたものでない。併しマア無事に帰つて呉れたので、俺も今晩は足を長うして寝られるワイ』 と口の中で呟いて居たが、いつしか声高になり、高姫が小便に往つた帰りがけ、フト耳に入り、 高姫『これこれ安公さま、お前今大きな声で何を云つて居たの』 安公『ハイ、眼下に瞳を放てば淙々たる小雲の清流老松の枝を浸し、清鮮溌溂たる魚は梢に躍る。実に天下の絶景だ。それにつけても此お庭先、勝公と安公さま両人の丹精により、実に清浄なものだ。実に一点の塵もなく汚れも無い。まるで御主人の身魂に好く似た綺麗な庭先だと、感歎して居た所で御座いますワイ』 高姫『友彦が何とか、……云うて居たぢやないか』 安公『ヘー、……ヘヽヽヽー、左様で御座います。舳解き放ち艫解き放ち、あの水面を漕ぎ渡る船の美しさ。兎も角も何ともかんとも云はれぬ、結構な眺めだと云つて居ましたのですよ』 高姫『これ安公さま、お前は掃除するのが嫌ひだらう』 安公『ハイ、決して決して、身魂の洗濯、心の掃除するために此聖地へ修業に参り、貴女のお館の掃除番をさして頂き、日々身魂を結構に研かして貰うて居ます』 高姫『何うも糞彦の匂ひがする。厠の穴から抜け出た男の友彦が来たのぢやないかな』 安公『何とまア貴女の鼻は能う利きますね。恰でワンワンさまのやうですわ』 高姫『私の云ふ事なれば聞いて下さるかな』 安公『ハイハイ如何なる事でも聞きまする。仮令貴女が死ねと仰有つても背かずに聞きまする』 高姫『耳だけ聞くのぢやないよ。聞くと云ふのは行ひをする事ぢや。サア是から屋敷中隅から隅まで箒で掃き浄め、塩をふり、水を一面に打つて下さい。さうして此雨戸にも何うやら四足の手で押したやうな臭がする、此戸の薄くなる程砂で磨いて擦つて置きなさい』 安公『それや……些と……ぢや御座いませぬか』 高姫『些とで不足なら座敷から厠の中迄掃除をさして上げやう。人間は苦労せなくては神様の事は分りませぬぞエ』 安公『チー……、チツト……、ムヽヽヽですな』 高姫『そんならとつとと今日限り帰つて下さい』 安公『勝公さまと二人で掃除をさして頂くのでせうなア』 高姫『勝公さまは炊事万端、座敷の用もあるし、一息の間も手が抜けませぬ。エヽ何だか汚い臭がする。是から夜が明けても構はぬ、掃除をするのだよ』 安公『アヽ掃除ですか』 と力無げに頸垂れる。 高姫『安公さま、間違無からうなア』 安公『ヘエー……』 と長返辞し乍ら水桶を持つて井戸端に、のそりのそりと進み行く。高姫は細い廊下を伝つて奥の間に姿を隠した。 安公はブツブツ云ひ乍ら、十三夜の月の光を幸に、さしもに広き庭の面に、深い井戸から撥釣瓶に汲み上げては手桶に移し、撒布しながら、小言を云つて居る。 安公『アヽ大変な事が起つて来た。天変地異よりも何よりも俺に取つては大問題だ。大国治立尊様が三千世界をお立替へ遊ばし、綺麗薩張水晶の世になさる以上の大神業だ。併し乍ら折角ちやんと掃除を済まし、高姫衛生委員長の試験にやつと合格して、やれやれと息を入れる時分に、又もや友彦が明日になるとやつて来よる。さうすりや又同じ事を繰返さねばなるまい。高姫も高姫じや、友彦も友彦ぢや、鷹とも鳶とも、鬼とも、蛇とも、馬鹿とも、何とも訳の分らぬ代者の寄合だ。さうぢやと云つて此儘掃除をせずに置く訳にも往かず、是非とも皆やらねばならぬ。旭は照るとも曇るとも、月は盈つとも虧くるとも、仮令大地は沈むとも、友彦の命のある限り、やつて来ぬとも分らない。困つたものだ。同じ神さまの道に居ながら、何故犬と猿のやうに仲が悪いのだらう。共に手を引き合うて往かねばならぬ神のお道、とも角も困つたものだなア、エヽ焼糞だツ。 (安公)『今日は九月の十三夜俺の副守よ能つく聞け 必ず忘れちやならないぞこんな苦しい目に遭ふも 鼻赤男の友彦が来やがつたばかりに肉体も お前も共に苦労する苦労するのがイヤなれば 俺の体を一寸放れ鼻赤天狗に憑依して 又しても友彦が来ぬやうに頭を痛め足痛め 鉄条網を張つて呉れ毎日日日来られては 俺の肉体がつづかないあゝ惟神々々 叶はん叶はん耐らない叶はん時の神頼み 同じ主人を持つならば言依別神さまや 杢助さまのやうな人神さま持たして下しやんせ 鼻高姫の頑固者偏狭な心を出しよつて 気に喰はぬ奴が来たと云ひ汚れて臭いとは何の事 我儘気儘も程がある人を使はうと思つたら 一度は使はれ見るがよい高姫さまのやうな人 弥嫌になつて来た是から此家を夜抜けして 国依別か秋彦の館を指して逃げ込まうか 宇都山郷の破屋の松鷹彦の真似をした 俺は矢張国さまの親の御霊か知れないぞ エヽエヽ思へば高姫が小癪に触つて耐らない 小癪に触つて耐らない小杓を握つた此手さへ びりびり震ひ出して来たエヽ邪魔くさい邪魔くさい』 云ふより早く水桶を頭上に高く差し上げて 庭に並んだ捨て石を睨んでどつと打ちつける 桶は忽ちめきめきと木つ端微塵に潰滅し 水は一度に飛び散つて高姫黒姫其外の 居間の障子に打つ突かる高姫驚き外面をば 眺める途端に安公は『お前は高姫黒姫か 長らくお世話になりましたお前のやうなえぐい人 誰がヘイヘイハイハイと粗末な粗末な椀給で 御用聞く奴がありませうか一先づ御免候へ』と 後を振り向き振り向いて月の光を浴びながら 黍畠深く隠れける。 高姫『エヽ仕方のないものだ。とうとう彼奴は国依別の悪霊に憑かれて仕舞つたな。是から国依別の館に行くと、独言を云うて居た。四つ足身魂が出て来ると、碌な事は一つも出来はしない。……なア黒姫さま、確りしないと貴方も何時悪神に憑依せられるか分りませぬぜ』 黒姫『オホヽヽヽ』 斯かる所へ勝公は、 勝公『もしもし御一同さま、大変に御飯が遅れて済みませぬ。どうぞ此窓を開けて、お月さまを見乍ら、悠くりとお食り下さいませ』 高姫『あゝ夫は御苦労だつた。お前も早う御飯をお食り、安公のやうに飛び出さぬやうにして下されや』 勝公『ヘエ、もう彼奴は飛び出しましたかな。ヤヽ仕舞つた。先立たれたか、残念だ』 高姫『これこれ勝公さま、お前は何を云ふのだ。高姫館が嫌になつたので、抜け出す積りで居たのだらう』 勝公『何だか聖地の方々に対しても肩身が狭いやうな気が致しましてなア。立寄れば大木の蔭とやら、何程此お館に大木が沢山あつても、箸と親分は丈夫なのがよいとか申しましてな。実は一寸思案をして居りますので御座いますワイ』 高姫『宜敷い、旗色のよい方につくのが当世だ。体主霊従の杢助さまにでも引き上げて貰ひなさい』 勝公『今日から此処を出されては実は困ります。何と云つても、○○の留守をして居つた奴だからと云つて、誰も彼も排斥して使つて呉れませぬから、止むを得ず貴方のお宅にお世話になつて居ました。よい口があれば誰がこんな所へ半時でも居りませうか。私の口が出来る迄一寸腰かけに置いて下さい』 高姫『エヽ汚らはしい。そんな心の人はトツトと去んで下さい、反吐が出る』 勝公『神様は反吐の出るやうな汚い者を集めて洗濯をなさるのぢやありませぬか。清らかな者計りなら、別に教を立てる必要はありますまい。高姫さまもよい洗濯の材料が出来たと思つて、も少し私の身魂を洗濯して下さいな』 高姫『もう洗濯屋は廃業しました。洗濯がして欲しければ一本木迄いつて来なさい。サアサアトツトと帰つた帰つた……とは云ふものの、明日から誰が飯を炊いて呉れるだらう。チヨツ、いまいましいが、そんなら暫く置いて上げよう』 勝公『何だか安公が出やがつてから俺も出たくなつた。何ぼう置いてやると云うても居る気もせず、あゝ仕方がないなア』 と小さい声に呟きながら、納戸の方に姿を隠した。 (大正一一・七・二二旧閏五・二八加藤明子録)
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霊界物語 36_亥_シロの島の物語 14 歎願 第一四章歎願〔一〇〇二〕 サガレン王は館をたつて、再び元の岩窟にエームスを従へ立帰り、奥の間に端坐し天津祝詞を奏上し、且神歌を謡ふ、其歌。 サガレン王『あゝ惟神々々広大無辺の天地の 神の慈愛に比ぶれば吾は小さき者なりし セイロン島の浮島に神の司と現れて バラモン教の御教を世人に伝へ居たりしが 已むを得ずして王となり顕幽一致の政治 朝な夕なに仕へつつ天地の神に相対し 尊き清き神業を心の底より仕へしと 思ひ居たりし愚さよ広大無辺の大宇宙 五十六億七千万宇宙の数はありと聞く 僅かに一つの小宇宙照らさせ給ふ天津日や 月の光の照る限り青人草や鳥獣 草木の生ひ立つ葦原の瑞穂の国の片傍り 大海原に漂ひし此神国は大海に 投げ捨てられし一粒の粟より小さき物なりし かかる天地に跼蹐し善ぢや悪ぢやと争ひて 無限の欲に取りまかれ仁慈無限の大神の 大御心も悟らずに来りし吾は愚者 定めし天地の大神は吾等が小さき心根を 嘸や笑はせ給ふらむ仮令宇宙を吾一人 知ろしめすべき世ありとも広大無辺の大宇宙 其現状に比ぶれば例へにならぬ物ぞかし あゝ惟神々々神は宇宙を知ろしめす 其神徳を省みて今より後は村肝の 心を改め信仰の誠の道に服ひて 此身の続かむ其限り吾身に及ぶ麻柱の 誠を捧げ大神の其功績の万分一に 謹み報い奉るべし左守の神と仕へたる タールチンやキングスの姫の命よエームスよ 其他の百の司達汝も今より魂を 清く正しく宣り直し小さき浮世の執着を 科戸の風に払拭し仕へまつれよ惟神 神に誓ひてサガレン王の神の司は宣り伝ふ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 タールチンはサガレン王の歌を聞き嬉しく立ち上り、心欣々として謡ひ舞ふ。 タールチン『あゝ惟神々々神の恵みの深くして 無明の闇は開けにけり水も眠れる丑満の 時刻はたちて寅の刻卯の正刻となりぬれば 東の空を輝かし豊栄昇る日の御影 尊き清き御姿を現し給ひて葦原の 神の御国を照らしまし青人草は云ふも更 鳥獣や虫族や草木の片葉に至る迄 守らせ給ふ珍の国其海原の片隅に 弥永久に浮かみたる七五三を張りたるシロの島 其真秀良場に現れまして神の御代に大国彦の 君の命とあれませる力もわけて自在天 神の御言を畏みて世人の為めにたてられし バラモン教の神司人子の王とあれまして 吾等を治め給ひたる其功績は弥高く 天教山の如く也空ゆく雲も憚りて 影さへかくす王の稜威包ませ給ひて今此処に 珍の言霊宣り給ひ謙譲ります尊さよ 人は神の子神宮と昔の人は宣りつれど 八岐大蛇のはびこりて青人草の身霊をば 千代の棲家と定めたる今の世人は悉く 名ばかり清き神の宮誠は曲の容器ぞ 小さき欲にからまれて憎み争ひ泣き叫び 焦熱地獄や水地獄修羅の巷はまだ愚か 根底の国に陥りて阿鼻叫喚の呻き声 聞えもせずに得々と知らず知らずに魔の道を 辿る世人の憐れさよ吾等も神に朝夕を 仕へ奉れる身なれども心の闇は晴れやらず 身魂の穢れは何時迄も洗ひきれない罪人よ されども神は御心を天より広く神直日 大直日にと見直して許し給へる有難さ 罪や穢れになづみたる卑しき人の身を以て 如何でか神の御心にかなひ奉らむ由もなし 只何事も吾々は神の心を心とし 大慈大悲の神の道普く世人に宣り伝へ 心を筑紫の果て迄も仕へ奉らむ惟神 神の御前に謹みて畏み畏み祈ぎ奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 キングス姫は白扇を開き立ち上り、長袖しとやかに自ら謡ひ自ら舞ふ。 キングス姫『豊葦原の珍の島神の御国と称へたる 四方は海に包まれし清き尊きシロの島 神地の都に現れまして恵みの露に四方の国 青人草に隈もなく注がせ給ひし大君は 如何なる枉の猛びにや尊き九五の身を以て 痛々しくも松浦の小糸の里に下りまし 天津日影も碌々に通ひもはてぬ岩窟に 尊き御身を忍ばせて国の御為め人の為め 心を尽し給ふこそ実に有難き極みなり 何処の空より来りしか心汚き竜雲が 聞くも尊き姫君を醜の手振に誑らかせ 掻き乱したる悲しさよ仮令此身は海原の 藻屑となりて朽つるとも王に仇する曲者を 誠の神の言霊に言向け和し世の中に 騒ぎ渡れる黒雲を払ひ清めで置くべきか あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 吾等夫婦が真心を大御心も平かに 聞し召されてシロの島無事太平に風もなく 曇りも知らぬ神国と守らせ給へ惟神 神の御前に祈ぎ奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも悪魔は如何に強くとも 誠の神の在す限り弥永遠に君ケ代は 安く穏に治まりて百の民草打ち揃ひ 喜び勇みて君ケ代を群がり来る小雀の 千代万代と称へまし上下和楽し神人の 睦び親しむ御代となり国の栄えをミロクの世 厳と瑞との言霊に救はせ給へと祈ぎ奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 エールは立つて謡ふ。 エール『人は神の子神の宮誠一つを立て通し 道にかなひし行ひを朝な夕なに励みなば 天ケ下には恐るべき仇も曲津もあらざらめ さはさり乍らバラモンの王に仕へし神司 アナン、セールやシルレングユーズの友は竜雲が 枉の企みに捕はれて底ひも知らぬ陷穽 陥みたりと聞き及ぶかかる便りを聞く吾等 此まま袖手傍観し朝な夕なに友垣の 艱みを眺めて過さむや天則違反か知らねども 吾等は親しき友の為め生命を的に立ち向ひ 神地の都に蔓れる心汚き竜雲や 枉人達を打ち鞫め四人の友を逸早く 救ひ出さでおくべきか一日も早く片時も 此目的を達成し神の大道に仕へたる 信徒たるの誠をば尽しまつらむ惟神 神の司のサガレン王御心安く聞し召し 吾等が願を許しませ神は吾等と倶にあり 悪を言向け善人を救ひて神の御恵に 霑はせ給へ神司わが大君の御前に 慎み敬ひ祈ぎ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と王に向つて四人の神司を救ふべく、神地の都に遣はされむ事を懇願する。サガレン王を始めとし、タールチンやキングス姫、テーリス、エームスの上司は、エールの言霊に頭を傾け、両手を組んで、稍暫し無念の涙に暮れて居た。 かかる処へ美はしき女の宣伝歌、谷に木霊を響かせつ音楽の如く聞え来る。あゝ果たして如何なる人の宣伝歌であらうか。 (大正一一・九・二二旧八・二北村隆光録)
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霊界物語 36_亥_シロの島の物語 17 一目翁 第一七章一目翁〔一〇〇五〕 神地の城の表門の番人シールは、只一人チビリチビリと酒を傾けながら、奥殿に進み入つたるベスの帰りを今や遅しと待ち居たり。かかる処へニコニコとして立ち帰り来りしベスの顔を見るより噛みつく様に忙しく、 シール『オイ、ベス、如何だつたい。大奥の首尾はイヤ様子は……』 ベス『大山鳴動して鼠一匹だ。何事ならむと身をかため、恐れ気もなく竜雲王の奥殿に忍び入り、ケールス姫様のあの御様子にては何事の大事変突発せしかと窺ひ見れば、豈図らむや、平穏無事、天下太平、国土成就、四民安堵、瑞祥の気が殿内に漲り渡り、床に飾られた福禄寿の置物が……ベスさまお早う……と腰を屈めて挨拶をして居ると云ふ長閑さだつたよ。も早此上は一言も口外は出来ない。先づこれが俺の使命だ。アハヽヽヽ』 シール『そんな事で如何して全権公使が勤まるか。も少し戦況を詳細に報告致さぬかい』 ベス『報告しようにも実の処は仕方がないのだ。サツパリアフンが宙に迷つて了つた。驚異の面相を遺憾なく陳列してある羅漢堂を覗いて来た様なものだつた。されども明智の某、黒雲深く包みたる不可解の事実も、遺憾なく道破して来たのだから偉いものだらう。何と云つても明敏な頭脳の持ち主だから、凡ての事実の核心に触れるのは此ベスに限つて居るワイ、ウフヽヽヽフツフ。アヽ、小便の大タンクが溢れて腎臓が破裂しさうだ』 と云ひ乍ら、エチエチと怪しき足許にて便所に姿を隠す。シールは腕を組み独語。 シール『マア、何と訳の分らぬ事が出来たのだらう。ベスの奴、一向不得要領の返答ばかりを並べ立て肝腎の問題を外さうとつとめて居よる。これには何か深い訳がなくてはならぬ。一つ巧く酒を勧めて酔ひ潰し、泥を吐かしてやらなくちや、一通りの料理では駄目だ。背骨を抜き取り、腹の中迄開きにして、鰌鍋の様に何もかも暴露させてやらうかナ』 と呟き乍ら待つて居る。ベスは漸く小用を済ませ帰り来るを、 シール『オイ、チツと酒でも聞し召したら如何だい。斯う四辺暗雲に包まれ、蒸し暑き無風地帯にあつては、やり切れないぢやないか。ドツと奮発して鯨飲馬食と洒落て、暑さを凌がうぢやないか。ウラル教の古い教にも……飲めよ騒げよ一寸先や暗よ、暗の後には月が出る……と云つてあるからにや、酒さへ飲めば屹度御神慮に叶つて、大空の陰鬱の雲も晴れ、涼風颯々として面を吹き、天青く日は清く、天の岩戸開きが出来るであらうよ。酒なくて何の己がナイスかなだ。何程立派なナイスの給仕でも、飯ばつかりでは機まないからな。酒は百薬の長だ、酒はやつこすだ。薬師如来だ、般若湯だ、甘露水だ、釈迦だ、イエスだ。吾等を天国に救ふ大救世主は盤古神王でもなければ常世神王でもない。飲めば直に心浮き立ち、天国を自由自在に逍遥せしめ給ふ酒の神様だ。現実に天国に救ひ下さる神様は吾前に出現ましますぞよ』 ベス『あまり酒の神の御厄介になると、門番の役が疎そかになつて、免の字に職の字を頂戴せなくては、ならなくなつて了ふぞ。チツと心得ねばなるまい』 シール『酒の用意はもう宜い。これで沢山だ。此上は一滴も飲めない。アヽえらく酔うた……と云ひ出した時が本当の酒の興味を覚えた時だ。強ひられない酒は飲めぬと云ふから、此シールさまが斯うしてお前に酒をシールのだ。アハヽヽヽ』 ベスは喉の虫がキユーキユーと催促をして居る。到頭堪らなくなつてシールの言葉に従ひ、度胸を据ゑてグイグイと飲み始めた。忽ち舌は縺れ出し、近くに居つてさへ其言霊は聞き分け難き迄酔つぱらつて了つた。酔へば如何なる秘密も喋り立てるは小人の常だ。 シールはベスを一寸むかつかせ、其勢に一切の秘密を吐かしてやらうと、稍声を高めて、 シール『オイ、ハベルの塔、貴様は何時までも此門番に仕へハベル名物男で、云つてもよい事はチツとも言はず、云はいでも宜い人の蔭口は能くハベル……オツトドツコイ喋る代物だから、今日は何もかも俺の前で白状するのだ。サア、最前の復命を細さに吾前に陳列するのだぞ』 ベス『あんまり馬鹿らしくて、話すだけの実は価値がないのだよ。テールの青二才奴、サガレン王様が数多の軍勢を引率れ、此館に押し寄せ来り給ひし夢を見よつて、竜雲様やケールス姫に慌てて報告しよつたのが元で、あの様な空騒ぎがオツ始まつたのだ。あまり馬鹿らしいから誰にもこんな事は口外してはならないぞと、ケールス姫様から箝口令を布かれて了つたのだ。然し秘密は何処迄も秘密だから、天機洩らすべからず、此先は諸君の御推量に任すより仕方がないのだ。アハヽヽヽ』 シール『オイ、俺一人に向つて、諸君とは何だ。チト脱線ぢやないか』 ベス『脱線するのも当然だよ。脱線に始まつて脱線に終つたのだからな。こんな事を誰が聞いても皆唖然として笑ふにも笑はれない事になる。共鳴するものは森の烏位なものだ。ケールス姫様があの美しき身体に満艦飾を施して、甲斐々々しくも薙刀を小脇にかい込み、赤い裾をべらつかせ、白き脛を顕はして……強敵御座んなれ……と立現はれ給ひし時の其健気さ、凛々しさ。一目拝んでも、胸に清涼水を注入した様な感じがするぢやないか』 シール『テールの近侍はそんな馬鹿な事を申し上げた以上は、竜雲様の怒りに触れ、屹度お手打ちになるだらうなア』 ベス『ならいでかい、毎日日日お手打ちを得意になつて、姫様とケラケラ云ひ乍ら続行して居られるではないか』 シール『何と俺は今まで知らなかつた。三十万年未来の殷の紂王か姐己の様な悪逆無道を喜んで遊ばすのか。そんな暴君に心を安んじて仕へて居る事はチツと考へねばなるまいぞ。一つ風向が悪ければ、直にお手打ちとやられちや堪らないからな。オイ、ベス、それ丈毎日お手打ちをして後は如何片づけて仕舞はれるのだらう。根つから此門を潜つたお手打者は無い様だがのう』 ベス『何造作があるものか、皆雪隠へ落して了はれるのだ』 シール『雪隠の中は随分沢山な亡者だらうなア』 ベス『何と云つても、竜雲様と姫様が箸の先にひつかけて、ツルツルと口から飲み込んで了はれるのだから埒の宜いものだ、近侍の奴等は目を三角にして、そばから指をくはへて見て居るさうだが、何と気の利かぬウドンな代物ぢやないか』 シール『何だい、手打とは蕎麦の事だつたか。要らぬ事に強う気を揉ましよつた、ウフヽヽヽ。然しベスよ、よく考へて見ると世の中は宜い加減なものだな。神さま神さまと朝から晩まで、下手な調髪師の様に云つて御座つたサガレン王様は、大自在天様の御保護もなく、あんな惨めな目にお遭ひなされ、今に行方も判然せず、何処かの山野を落ちぶれて逍遥うて御座るであらうが、それに引換へ、あんな没義道な事をやつた竜雲が、ヌツケリコと王様気取りになつて、姫様と相対し、朝から晩まで手打をしたり、手を曳き合うたり、抱擁接吻したり、所在体主霊従の限りを尽して脂下つて御座るのは、コレは又何とした世の中は矛盾であらうか。俺ヤもうこれを思へば此世の中に大自在天もなければ、盤古神王も名のみあつて、其実なきものと断定せざるを得なくなつて来たよ。本当に無明暗黒の世の中だ。如何したらこれが誠の世の中になるだらうかな』 ベス『オイ門番の分際としてそんな大それた事を囀つて、若しも竜雲様のお耳に達したら如何する積りだい。チツと嗜まないか。何程貴様が心を苛ち、忙殺的足踏みをして藻掻いた処で、決して其意志の万分一も貫徹するものでない。門番は門番らしく上の方の評定をやめて、おとなしく朝から晩まで此処に沈澱するのが、それが第一の安全弁だよ』 シール『オイ、ベス、お前は竜雲様の将来は如何なると考へるか』 ベス『俺達がそんな事を干渉する丈けの権能は無い。兎も角喉元へ這入つて、お鬚の塵さへ払つて居れば宜いぢやないか。袖の下からも廻る子は可愛いと云ふことがあるよ。テールの奴、力も何もない癖に敏しこく廻りよつて、アレあの通り、竜雲様の丸で懐刀の様な地位に立ち、羽振りを利かして居よるぢやないか。下らぬ道徳論に囚へられて理窟を喋つて居ると、彼奴は頭が古い、時代遅れだ、一つ頭脳のキルクを抜いて古い血をぬき取り、新しく入れ替へて今一度鍛へ上げてやらねば、こんな寝息ものは夜店へ出した処で、乞食も買つて呉れないと云つて、親切に頭脳の解剖をやられて了ふよ。兎も角、人間は自己の生活を安全にするのが第一だ。道の為め、君の為め、世の為め、人の為め等と巧い雅号を表に使つて、何奴も此奴も羊頭を掲げて狗肉を売つてるのだから、世の中が斯う堕落して了つちや、到底昔気質の馬鹿正直では、牛馬にだつて噛み殺されて了ふよ。チツとシツカリせないと社会の無用物となつて了はねばならぬからなア。アハヽヽヽ』 斯く話す折しも、何処ともなく門前近くに宣伝歌の声聞え来る。 (天の目一つの神)『神が表に現はれて善悪正邪を立て別ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直し聞直し 身の過ちは宣り直す尊き神の御教 仮令天地は変るとも誠一つの正道は ミロクの御世の末迄も堅磐常磐に変らまじ 一時の欲に踏み迷ひ焼け朽ち錆びて腐るてふ 形の上の御宝に天より受けたる分霊と 心を曇らせ身を穢し知らず知らずに根の国や 底の国へと落ち行きて吾と吾手に苦しめる 世人の艱みを救はむと天津御神や国津神 此世を救ふ生神の教をもちて四方の国 導き諭す宣伝使此処に現はれ来りけり 勢ひ強き竜雲も今は桜の花盛り 常世の春と楽しみて不義の快楽に耽る折 天津御空は忽ちに黒雲起りて無残にも 嵐となりて吹き散らす明日明後日も来年も 百年千年先迄も此儘栄え行くべしと 思ふ心の徒桜忽ち強き夜嵐に 打ちたたかれて諸人にもて囃されし桜さへ 嵐に散りて老若の足に踏まれる世の習ひ 因果応報忽ちに廻る浮世の有様を 知らず知らずに日を送る曲津の業ぞ悲しけれ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 一日も早く竜雲が心に棲める曲神を 神の御水火の弥高く払はせ給へケールス姫の 君の命の迷ひをば科戸の風のいと清く 払ひ清めて旧の如赤き心となさしめよ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも誠の力は世を救ふ 誠は此世の宝ぞや悪の身魂も一時は 茂り栄ゆる事あるも天地の神の敏き目に 如何でか洩れむ枉の罪亡ぼされむは目の前 早く心を立て直せさすれば神は汝等が 心に潜む曲鬼を罰め給ひて天地の 神の御霊になりませる清き御霊を授けまし 此世の宝となさしめむ神世の柱となさしめむ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と謡ひ終ると共に、早くも歌の主は門前に姿を現はしにけり。 シール、ベスの両人は酔眼朦朧としながら、此宣伝歌の声に胸も刺さるる如き心地して、恐る恐る表門をパツと開き見れば、白髪異様の老人、左手に太き杖をつき、右手に扇を固く握り、儼然として仁王立ちになつて居る。シールは老人の異様の姿に驚いて舌を縺らしながら、 シール『お前は何処の爺さまか知らぬが、今日は此お城の館は公休日だから帰つて下され。明日は又日曜、明後日は国際日、其翌日は王様のお父様の御命日、其又翌日は御誕生日、其又翌日はお姫様の御誕生日だ。さうして其先は役人共の誕生日や両親の命日が続くのだから、何卒其日を除いて来て下され。これ丈機嫌好う般若湯に喰ひ酔うて居る処へ、殺風景な独眼爺さまがやつて来ちや面白くない。何とか竜雲様の悪心を直してやらうと思うて来て呉れたのだらうが到底駄目だ。そんな老爺心は誰も聞くものはないから、可惜口に風引かすよりもトツトと帰つた方が、お前の為めにお得だ。物言へば唇寒し秋の風、サアサア帰んだり帰んだり』 老人(天の目一つの神)『アハヽヽヽ何と面白い門番もあつたものだな。門番にしてこれ丈けの粋人が居る以上は、随分大奥は百花爛漫たる天国の光景が展開されて居るだらう。和気靄々として上下一致、其楽しみを倶にする竜雲のやり方、誠に以て感服の至りだ。イヤもう人は斯うなくては叶はぬ。飲めよ騒げよ一寸先は闇よ、闇の後には月が出る。アハヽヽヽ』 ベス『やア此奴ア面白い死損ひだ。あまり大奥が何々だから、一つ竜雲様に申し上げて、城内の空気を一洗して貰ふ事に取計らふて見ませう。これこれ老爺どの、其処に暫く待つて居ておくれ』 老人(天の目一つの神)『アハヽヽヽ別に竜雲の返答を待つまでもなく、此独眼老爺がどしどしと侵入するであらう』 ベス『アもしもし、そんな事をして貰つてはタヽヽ大変です。此門番も忽ち今日から足袋屋の看板で足上りになつちや堪りませぬ、愚図々々して居れば首が飛びます。何卒大奥のお返事を聞いて来る迄暫時の猶予を願ひます。門番は門番としての職務を固く守らねばなりませぬからな』 老人(天の目一つの神)『アハヽヽヽ、お前達はそれだから現代に容れられないのだ。あまり謹んで門番を勤めるものだから、到頭大将に……彼奴ア門番には最も適当な人物だ……と鑑定されて了ひ、一生一代卑しき門番を勤めて居らねばならないのだ。常世の国の常世城の門番は、失敗の結果抜擢されて右守の神に昇進したことがあるぞよ。此世の中にお前の様な馬鹿正直な者が、如何して生活を完全に続けて行く事が出来るか。さてもさても可憐相な腰抜男だなア。アハヽヽヽ』 と肩を揺つて大きく笑ふ。 シール『ヤア此奴は中々話せる爺さまだ。一々肯綮に中る名論卓説を吐きよる。オイ、ベス、仲々前途有望だ。早く大奥へ報告して来い。屹度ウラル教だぞ……飲めよ騒げよ一寸先は闇よ……と云つたらう』 ベス『オウさうだ。此奴ア面白い!』 とベスは慌しく大奥さして進み入る。 (大正一一・九・二三旧八・三北村隆光録)
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霊界物語 36_亥_シロの島の物語 20 岩窟の邂逅 第二〇章岩窟の邂逅〔一〇〇八〕 松浦の里の天然の岩窟の前に聞えて来た女の宣伝歌。 (君子姫)『神が表に現はれて善と悪とを立て別ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ 身の過ちは宣り直す三五教の神の道 抑も起りを尋ぬれば国の御祖と現れませる 国治立大御神豊国姫大御神 厳と瑞との二柱塩長彦や大国彦の 神の命の枉業に虐げられて一度は 根底の国に下りまし百の艱みを受けさせて 下津岩根の底深く隠れ給ひつ神人を 恵ませ給ふ御心は天津空より尚高く 竜宮海より尚深し野立の彦や野立姫 救ひの神と現れまして厳の霊を分け給ひ 埴安彦や埴安姫の神の命の分霊 神素盞嗚大神の瑞の御霊と諸共に 至厳至重の神界の清き大智を世に照らし 天地四方の神人の身魂を四方に生ませつつ 教司を遠近に配らせ給ふ尊さよ 神素盞嗚大神の御子と生れし君子われは 父の御言を畏みてメソポタミヤの顕恩郷 バラモン教の神館鬼雲彦の側近く 仕へ奉りて三五の清き教を伝へむと 思ひそめしも束の間の今は夢とぞなりにけり 吾等姉妹八人は顕恩郷を後にして 各自々々に宣伝歌謡ひて進む折柄に バラモン教の釘彦が一派のものに捕へられ 悲しや姉妹五人連れおのもおのもに棚なしの 破れ小船に乗せられて波のまにまに捨てられぬ 神の恵みを受け乍ら千波万波を乗り越えて 大海中に漂へる眺めも清きシロの島 ドンドラ岬に安着し夜を日についで大神の 大道を伝へ宣べながら漸く此処に来りけり あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 小糸の館にあれませるシロの神島の神国に サガレン王の神司タールチン司やキングス姫の 貴の命を始めとしテーリス、エームス、ゼム、エール 其外百の司達恵みの露に霑ひて 心汚き竜雲が醜の企みを根底より 顛覆させて元の如王位に復させ給へかし さはさりながら大神の仁慈無限の御心は 決して人をば傷つけず生命をとらず麻柱の 仁慈無限の正道を心の空に照り明かし 救ひ助くる思召必ず大事を過らず 瑞の御霊の貴の子と生れ出でたる君子われ 御供に仕ふる清子姫只今此処に現はれて バラモン教の人々に誠の心を打ち明けて 進め参らす言霊を完美に委曲に聞し召せ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 竜雲如何に強くとも誠の神の現はれて 誠一つの言霊を射放ち給へば曲神も 忽ち神威に相うたれ雲を霞と消え失せむ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と足拍子を取つて勇ましく謡ひ乍ら館の前に進み来る。 エームスは知らず知らずに此宣伝歌に引きつけられ、二人の宣伝使の前に進み寄り丁寧に礼をなせば二人も恭しく答礼し、 君子姫『妾は三五教の若き女の宣伝使で御座います。今此処に伴つて居りますのは清子姫と云ふこれも宣伝使で御座います。妾は或事情の為め、鬼雲彦様の部下に捕へられ、此処まで流されて漸く漂着して来た者で御座います。サガレン王様と申すのは、大国別神様の御子息国別彦様では御座いますまいか。お差支なくば、何卒拝顔が致したいもので御座います』 エームス『ハイ左様ならば暫くお待ち下さいませ。エームスこれより奥へ参り伺つて来ます。何卒それ迄お腰を卸してお休みを願ひます』 君子姫『早速の御承知、有難う厶います。左様なれば清子姫様、暫く休息さして頂きませう』 暫くあつてエームスは恭しく出で来り、君子姫、清子姫の先に立ち、サガレン王の潜みたる岩窟に進み入る。サガレン王は君子姫の姿を見るより今更の如く打ち驚きぬ。其故はメソポタミヤの顕恩郷に於て常に顔を合して居た為に、見覚えが何処ともなくあつたからである。サガレン王は歌ふ。 サガレン王『思へば高し神の恩計り知られぬ顕恩の 郷に潜みてバラモンの教をきはむる折柄に 神素盞嗚大神の御子と生れし君子姫 朝な夕なに健やかに鬼雲彦の側近く 仕へ給ひし神姿をそれとはなしに朝夕に 眺めて暮し居たりける吾は大国別神 教司の貴の御子国別彦命なり 鬼雲彦が暴虐の醜の魔風に煽られて 已むなくお城を脱出しエデンの川を打渡り フサの海原横断し波に漂ひ印度洋 千波万波をかき分けて漸くシロの島影を 認めし時の嬉しさよ神の恵に抱かれて 漸く神地の都路に進みて教を宣りつるが 心正しき国人は一人残らず吾道に 服ひ来りて神館瞬く間に建て終り 要害堅固の絶勝をば選みて此処に城造り 吾は推されてシロの島神地の都の王となり 神を敬ひ民を撫で世は平けく安らけく 治まりかへつて四海波静にそよぐ折もあれ 岩井の里の酋長が娘と生れしケールス姫の 君の命を発見し愈此処に妻となし 厳と瑞とは相並び顕幽一致の政体を 開く折しも腹黒き醜の曲津の竜雲が 何処ともなく入り来り忽ち館を蹂躙し 悪逆日々に募りつつ遂には吾を追ひ出し 今や暴威を揮ひつつ世を乱すこそ悲しけれ あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 三五教の宣伝使天の目一つ神様は 此処に現はれ来りまし顕幽一致の真諦を 完美に委曲に説き給ひ喜ぶ間もなく素盞嗚の 神の命の御裔なる汝の命は今此処に 現はれ給ひし雄々しさよ君子の姫よ清子姫 吾は尊きバラモンの教を奉ずる身なれども 皇大神の御心にもとより変りはあるまじく 思へば思へば有難し汝と吾とは今よりは 心を協せ力をば一つになしてシロの島 四方の国人悉く尊き神の御道に 服へ和し竜雲が心に潜む曲神を 千里の外に追ひ払ひ迷ひきつたるケールス姫の 君の命を善道に導き救ひ麻柱の 誠の道を永久に経と緯との機を織り 治めて行かむ惟神神に誓ひて真心を ここに披瀝し奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と謡へば、君子姫はこれに答へて、 君子姫『あゝ惟神々々尊き神の御裔と 生れ出でませる国別彦の神の命の言霊よ 天教山に現れませる日の出神や木花の 咲耶の姫の神言もて父大神に従ひて 三五教を天ケ下豊葦原の国々に 開き伝ふる宣伝使吾は君子の姫なるぞ 父の御言を畏みてバラモン教の大棟梁 鬼雲彦の側近く仕へまつりて三五の 誠の道を諭さむと心を尽し身を竭し 千々に説けども諭せども霊の曇りし神司 千言万語の言の葉も豆腐に鎹糠に釘 寄り処なき悲しさにあらぬ月日を送る内 太玉神の現はれて厳の言霊打ち出し 雄健び給へば鬼雲彦の神の司は逸早く 見るも恐ろし其姿大蛇となりて黒雲の 中に姿を隠しける妾姉妹八人は 右や左に相別れ流れも清きエデン川 後に見捨ててエルサレムフサの国をば遠近と 彷徨ひ巡りて御教を伝ふる折しもバラモンの 神の司の釘彦が手下の者に捕へられ 無残や五人の姉妹は見るも危き捨小舟 艪櫂もなしに海原につき出されし恐ろしさ 神を力に三五の誠を杖に両人は 潮の八百路を打渡り波のまにまに漂ひて 大海中に浮びたる木草も茂るシロの島 ドンドラ岬に上陸し夜を日に次いで今此処に サガレン王が行末を救はむ為めに来りけり 人は神の子神の宮慈愛の深き大神の 其懐に抱かれて誠一つに進みなば 如何なる曲の猛ぶとも何か恐れむ神心 いざ之よりは汝が命バラモン教や三五の 神の教と云ふ様な小さき隔てを撤回し 互に手を執り助け合ひ此シロ島に蟠まる 八岐大蛇や醜狐曲鬼どもを言向けて 昔の儘の神国に完美に委曲に樹て直し ミロクの御世を永久に開き仕へむ惟神 神の御前に君子姫謹み敬ひ祈ぎ奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と謡ひ終り、茲にサガレン王、君子姫は胸襟を開いて久濶を叙し、相提携して、竜雲始めケールス姫其他の神司達に憑依せる曲津神を打払ひ、本然の心に立ち帰らしめ、再びシロの島の神地の都をして至治太平の楽園と復すべく、王を先頭にタールチン、キングス姫、テーリス、エームス其他の幹部を始め、数多の至誠の男女を引率し、旗鼓堂々として宣伝歌を歌ひながら、馬に跨り都を指して進み行く。惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・九・二三旧八・三北村隆光録)
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霊界物語 42_巳_黄金姫&清照姫の入那の国の物語2 22 別離の歌 第二二章別離の歌〔一一四七〕 黄金姫は別れに臨んで宣伝歌を歌ふ。 黄金姫『朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも誠一つの三五の 教の道は世を救ふ斎苑の館を出でしより 神の恵に守られて虎狼や獅子熊の 伊猛り狂ふ荒野原漸く渉り高照の 珍の岩窟に導かれ神徳無限の北光の 神の薫陶を受けながら親子は勇み入那城 四方に塞がる黒雲を神の力に吹き払ひ セーラン王の危難をば救ひ助けて今は早 天地清明日月は天津御空に輝きて 冬とは云へど花香ふ常世の春の心地しつ 曲津の荒みをさまりて出行く吾こそ楽しけれ セーラン王よ聞し召せ如何なる事のあるとても 天地の神の与へたる妃の君のサマリー姫 必ず見捨て給ふまじ天と地とにたとへたる 夫婦の道はどこまでも厳しく守り進みませ 夫婦は道の大本ぞヤスダラ姫の神司 汝が命の御心にかけさせ給ふ事もなく 科戸の風に執着の雲吹き払ひ天地の 誠を千代に永久に立てさせ給へ惟神 神に誓ひて願ぎまつる吾はこれより天地の 神の恵に助けられ魔神の荒ぶ荒野原 夜を日についで進みつつ歓喜の花咲くハルナ城 大黒主の肉体に巣ぐふ曲神を言向けて 神の司の天職を尽しまつらむ惟神 神は吾等と倶にあり北光神よセーラン王よ 吾往く先を恙なく守らせ給へと神床に 心静めて祈りませ天と地とは清照の 姫の命と諸共に治まる御代もヤスダラ姫の 貴の命の神司三五教の宣伝使 駒彦司のハルマンと茲に一行四人連れ 清き尊き聖城を名残惜しくも後に見て 吾はこれより出でて行くあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 清照姫は又歌ふ。 清照姫『神が表に現はれて善神邪神を立て別ける 三五教の宣伝使清照姫の神司 清き尊き御教に心の駒を立て直し 鞭ち進む膝栗毛心も軽き蓑笠の 草鞋脚絆に身を固め猛虎のたけぶ荒野原 善言美辞の言霊を打ち出しながら堂々と 進み行くこそ勇ましき行手に如何なる曲神の さやりて進路を塞ぐとも何かは恐れむ敷島の 大和心は清く照る仁慈の駒に矢を放つ 醜の曲霊はあらざらめあゝ勇ましや勇ましや 入那の城の黒雲は清く涼しく晴れ渡り 天国浄土の有様を現出したる今日の空 心の残る事もなしいざこれよりは親と子が 心を合せ力をば一つに固め月の国 さやる曲津を悉く瑞の霊に言向けて 進みて往かむ惟神北光神やセーラン王の 君の命に嬉しくも謹み別れを告げまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 ヤスダラ姫は又歌ふ。 ヤスダラ姫『入那の国の刹帝利尊き家系に生れたる 左守司のクーリンス神の司の貴の子と 生れあひたるヤスダラ姫は神命降り今茲に 恋しき父や大君のあれます国を後にして 実にも尊き三五の黄金姫の神司 清照姫に従ひて悪魔の征途に上りゆく あゝ惟神々々御霊幸はひましまして ヤスダラ姫の魂に無限無窮の神力を 濺がせ給へ天地の皇大神の御前に 謹み敬ひ願ぎまつる朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 誠の力は世を救ふ誠一つの三五の 教を守りいつまでもイルナの国を浦安く 守らせ給へ大君の御前に謹みヤスダラ姫が 謹み畏み今此処に別れに臨み願ぎまつる 天国浄土の花も咲くミロクの神世も北光の 天の目一つ神司高照山に帰りなば 汝が妻神の竹野姫御前に対しヤスダラ姫 道の司が種々と恵を受けし嬉しさを 感謝し居たりと委細に伝へたまはれ惟神 神に誓ひて願ぎまつる吾は是より黄金の 姫の命に従ひて荒野ケ原を打ち渉り 嵐に髪を梳り霰や雪に身をそぼち 身なりも卑しき蓑笠のいと軽々と進み行く セーラン王よサマリー姫吾往く後は睦じく 天地の神の神業を互に助け助け合ひ 勤しみたまへヤスダラ姫の神の司が旅立の 別れに臨み願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 ハルマンは又歌ふ。 ハルマン『三五教の宣伝使吾は駒彦神司 言依別の御言もてイルナの国に身を窶し 忍び入りしは三年前上下に時めく右守司 カールチン館に身を寄せて卑しき下僕となり下り バラモン教に迷ひたる曲人達を悉く 誠の道に言向けて神の御前に復り言 申さむものと朝夕に神に祈りし甲斐ありて いよいよ吹き来る時津風吾職責も今は早 漸く尽しあらためて三五教の神柱 黄金姫と諸共に曲津の猛ぶ月の国 ハルナの都に蟠まる八岐大蛇の征服に 進み往くこそ勇ましきコーカス山の聖場を 立ち出で茲に早三年仇に月日を送りしを 心に嘆き居たりしに一陽来復三五の 誠の花は咲き出でて心も勇む春駒の 名もハルマンと改めて正々堂々進み往く あゝ面白し面白し北光神よ大君よ 吾往く後は天地の神の教を朝夕に 照らし給ひて永久に蒼生を平けく いと安らけく守りませ吾は尊き大神の 御霊を背に負ひながら第二の故郷と住みなれし イルナの都を後にして茲に別れを告げまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ。 いざさらば心の駒彦勇み立ち ハルナの都へ立ちて向はむ。 大君よ心安けくましませよ 汝が魂に神ましませば。 北光の神の命に物申す 吾往く先を守らせ給へ』 北光『汝こそは三五教の神司 駒彦なりしかいとも珍らし。 天地の神の経綸はどこまでも ゆき渡りけれ尊しの世や。 ハルマンの神の司を駒彦と 悟り得ざりし吾の愚さ』 清照『清照の姫の司も駒彦も みな化物の類なりしか。 吾こそは小化物なり駒彦は 大化物よ恐ろしく思ふ』 駒彦『清照の姫の命に言問はむ 汝が心は化物ならずや。 吾よりも汝が命こそ恐ろしき 右守の司をもてあそびまし。 吾こそは右守の司に使はれて 下僕の恥を忍び居たりし。 顧みれば吾こそ汝に比べては 実にも小さき化物ぞかし』 黄金『世の終り大化物が現はれて 智者と学者を噛み殺すなり。 現界に時めく人の大方は 大化物の器なりけり。 世の中の大化物を悉[※御校正本では「盡」(尽)に「ことごと」とルビ。]く 言向け和す三五の道』 ヤスダラ『面白し大化物のさやる世に 現はれ出でし神の化物。 化かされて魂を洗ひしカールチン 吾も騙されたくぞ思ひぬ』 カールチン『清照の姫の命に操られ 揉み潰されて真人となりぬ。 世の中は善悪不二正邪一如 その理を今や悟りぬ。 善と云ひ悪と称ふも人の世の 中を隔つる玉垣と知る』 (大正一一・一一・二五旧一〇・七加藤明子録)
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霊界物語 44_未_玉国別と治国別2 03 守衛の囁 第三章守衛の囁〔一一七二〕 浮木が原の陣営にはランチ将軍、片彦、久米彦将軍が、数多の軍勢を集め、幔幕を張り廻し、治国別の進路を要して、手具脛引いて待つて居る。俄作りの陣営の表門にはテル、ハル両人が守衛の役を務めて居る。夜はだんだんと更け渡り雨嵐の声烈しく、立番も漸く飽きが来て、パノラマ式の門側の一間に入り、ポートワインの詰を抜きながら雑談を始めた。 テル『オイ、ハル公、思へば思へば人生が厭になつたぢやないか、僅三百年の寿命を保つ為に、こンなしやつちもない人殺の乾児に使はれ、死ンで地獄の成敗を受ける準備ばかりして居るやうな事では困つたものぢや、些は考へねばなるまいぞ』 ハル『何、吾々は、天の八衢に迷うて居るようなものだよ。此の通り嵐に雨の激しい事、人生の行路を暗示して居る。テルも何とか身の振り方を考へたらよからう。併し乍ら死後の世界は吾々の目に入らないのだから、有るとも無いとも分らないワ、そンな頼りない事を思つて宗教心を出すと、一日も此世が恐ろしうて居る事が出来ないわ。まあワインでも呑ンで、空元気でもつけるのぢやなア』 テル『それでも、バラモン教の大黒主様は、死後の世界が恐ろしいから現在に於て難行苦行を積み、未来の楽園を楽しめと仰有るぢやないか、大黒主様が仰有るのだから決して間違ひはあるまい。吾々は仮令この肉体は現在の此処に置くとも、霊魂の故郷なる天国浄土に復活し、永遠無窮の生命を保ち、無限の歓喜を味はひたいからバラモン教のためだと思うて、テルもこんな人殺の軍人に使はれて居るのだが、こンな事やつて居ても天国へ行けるだらうか、テルは其点が気にかかつてならないのぢや、大雲山に現はれたまふ、大自在天大国彦命様の御気勘に叶うだらうかなあ』 ハル『世の中には裏もあれば表もあるよ。打ち割つて言へば大雲山は荘厳無比の神聖なる神様の霊場だが、併し内実は恐るべき地獄のやうな所で、いろいろと難行苦行を強られ骨を砕き身を破り、荒行の結果中途に死ンだやつは皆骨堂に骨を祀られて居るぢやないか。あの骨堂を有り難がつて拝みに行くやつの気が知れないぢやないか。バラモン教の骨堂と修業場とお札は実に印度人のために大恐怖の源泉だよ。力の弱い無知識の人間に、死と云ふ恐怖心をもたせて生の自由を束縛して居るのだ、大雲山又はハルナの都の大黒主に所謂神権の存在するのは、これあるがためだよ。斯かる虚偽的な空漠な権威をもつて、無知識なる人間の心をとらへ、さうして、宗閥、宣伝使の一統は、多数人民の膏血を絞る手段として居るのだ。バラモンのお札は宗教界の不換紙幣とも云ふべきものだ。バラモン教は恐怖をもつて人類の膏血をしぼる恐るべき社会の地獄と云ふものだ。印度の国民は一人も残らず、この地獄に陥落して居るのだ。それだから三五教と云ふやうな誠の救世教が興つて来たのだ。大黒主は大雲山の骨堂に等しい牢獄とお札に等しい不換紙幣をもつて絶対権威の維持につとめて居るのだから、矢張八岐大蛇の再来と云はれても仕方がないわい。そこを三五教が看破して居るのだから偉いものだよ。河鹿峠の言霊戦に遇つた時には僅か三人の敵に対して三四百の騎馬隊が潰散した事を思へば、到底バラモン教等は三五教の敵で無い事は明白だ、俺等はこンな吹き放しの野営の門番をさせられて居るが、もしや治国別の一行が攻めて来たら一番に正面衝突をするのは、貴様と俺だ。オイここは一つ相談だが大将は皆気楽に寝て居るだらうから、今の中に脱営して治国別の宣伝使に帰順し命を助けて貰ふ方が余程当世流だよ。一つしかない命を捨てた所が、大黒主様の国妾養成所の国妾学校を立派にするやうなものだ。実に馬鹿らしいぢやないか、エーン』 テル『オイハル公、国妾学校と云ふ事があるかい、あれは国立女学校と云ふのだ、立と女と貴様は一つに読むから国妾なぞと読めるのだよ。余程文盲の代物だなア』 ハル『それだから文盲省の許可を受けて立てて居るのぢやないか、妾もない事を云ふない。大黒主の大将は幾十人とも知れぬ程の沢山の女をかかへ、朝から晩まで糸竹管弦の響に心腸を蕩かし酒池肉林の楽しみに耽り利己主義を発揮して居るぢやないかい、テル公』 テル『そりや仕方がないさ、カビライ国の浄飯王の悉達太子でさへも美姫三千人を侍らしたと云ふぢやないか、大黒主が五十人や六十人の女房もつたつて何がそれ程不思議なのだい。今頃の女は一人前の女房にする女が無いから、数十人を集めて初めて一人の仕事をさすのだ。第一に寝間の伽をする奴、炊事を司る奴、裁縫を司る奴、機を織る奴、会計を司る奴、下僕を追ひ廻す奴と云ふやうに、今の女は、専門的だから到底一人で女房の本職が尽せぬからだ。現代の博士だつてさうぢやないか、部分的の専門学より知らないのだからなア、理学なら理学、文学なら文学、法学なら法学、只それ一つを掴へて朝から晩まで頭を痛め、書物と首つ引きで居るものだから遂に頭脳の変調を来し、やつと博士か馬鹿士になるのぢやないか、総て世の中はこンなものだよ、ハル公』 ハル『オイ貴様の名はテルなり、俺の名はハルなり照国別、治国別の三五教の宣伝使の頭字を取つて居るのだから、何か因縁があるのに違ひない。キツと此処を飛び出して行けば許して呉れるに相違ないから行かうぢやないか、行くなら今の中だからなア』 テル『ハル公、貴様余程御幣舁ぎになつたと見えるな、大雲山が余程こたへたと見えるわい、あゝ何だかタンクが破裂しさうだ、売買契約の破棄をやつて来うかなア』 ハル『テル、貴様は軍人で居ながら、内職をやつて居るのか、そんな事が聞えたら大変だぞ』 テル『貴様の薄野呂には俺も感心した、売買契約の破棄と云ふ事は小便すると云ふ事だよ、ハル公』 ハル『アハヽヽ、それなら大ウン山と、キツパリ断つて来い、その方が大便利かも知れないぞ、屁のやうな理屈をブツブツたれて居た処でつまらぬぢやないか、何程偉相に云つたところが、暗黒無明の世界に湧いた人間よ、余程、智者ぢや学者ぢやと云つた所が俺達の百万倍の智慧のある人間でもやつぱり人間は人間だ、人間の暗い知識では一匹の蝗に一瞬間の生命を与へる事すら出来ないのだ、放屁一つでさへ、自分の放らうと思ふ時に註文通り放る事の出来ない不都合極まる人間だからなア、アハヽヽヽ』 テル『ウフヽヽヽ』 かく両人が、他愛もなく笑つて居る。そこへやつて来たのは片彦将軍のお近侍のヨルである。ヨルは雨嵐の音を圧する様な蛮声で、 ヨル『これやこれや両人、守衛も致さず勝手気儘に酒を喰ひ何を喋つて居たのだ。これから片彦様のお耳に入れるから覚悟を致せ』 と声高に罵るにぞ、テル公は頭を掻きながら、 テル『ハイ、一寸小便の話をやつて居つたところです。序に大便も放屁も話頭に上りましたが、別にそれ以外に六ケしい話も厶いませぬ、なあハル公、さうぢやつたぢやないか』 ハル『ウンその通りその通り、いやもう、糞食時に飯の話をしられて、いやどつこい小便呑み時に酒の話をしられて、イヤもう気分の悪い事ぢやわい、エヘヽヽヽ』 ヨル『これやこれや両人、俺を何と心得て居るか、全軍の監督ぢやぞ』 テル『監督はよく分つて居りますわい、燗徳利ぢやとよろしいが、こいつはポートワインだから、冷徳利だ。併しそンな六ケ敷い顔をせずに一つ召上がつてはどうですか、テルが酌をしませう、いや呑みやがつたらどうですか、御神酒上らぬ神はないと云ひますぜ』 ヨルは呑みたくて堪らぬのを耐へて、態と声高に、 ヨル『其方は酒をもつて此方をたぶらかし、悪事の露顕を防がうと致す、憎くき門番、そンな話ぢやなからう。国妾学校について大変な、酷評をして居たぢやないか、事にヨルと貴様の首が危ないぞ』 ハル『それだからテルとハルの首のある中に一杯でも呑ンで置かねば損ですからなア、まあ一つ聞召せ、随分気がはんなりと致しますよ』 と云ひ乍ら鼻の先につきつくれば、ヨルは腹の虫がクウクウと催促をする。 ヨル『これやこれや些心得ぬか、戦陣で酒は禁物だぞ。さうして貴様達は、照国別、治国別に帰順しようと話して居たではないか。その方は隠謀未遂罪だから、これから片彦将軍の前に引き立てる、神妙に手を廻せ』 テル『承知致しました。何時でも手も足も廻しませう。今晩はどうせテルの笠の台が飛ぶのだから、冥土の土産に、も一杯呑まして下さい。そして貴方も生別死別の盃をして下さいな』 ヨル『その方が、この世の別れとあれば役目とは云ひ乍ら呑ンでやるのも一つの情ぢや。よし差支ない、いや苦しうない、注がして遣はす』 ヨルの喉はクウクウと二人の耳に聞える程催促をして居る。二人は瓶のキルクを態とに暇を入れて抜いて居る。ヨルは呑みたくて耐らず、人が居らねば飛びつきたい程になつて居る。 ヨル『これやこれや、何をグヅグヅ致して居るか、早く詰を取らないか』 ハル『そんな殺生な事を云つて下さるな、たつた今首の飛ぶ人間ぢやありませぬか。素盞嗚尊様かなんぞのやうに爪を取るなぞとそんな二重成敗をするものぢやありませぬよ』 ヨル『つめを取ると云ふ事は早くキルクを抜けと申す事ぢや』 ハル『たうとう時節到来、酒瓶の首がキルクと抜けよつた。サアサアお上り遊ばせ、随分いい味がしますよ』 ヨル『早く注がないか、ヨル監督に対しては、別に礼式も何もいつたものぢやない、こんな戦陣にあつては上下の障壁を取り、何事も簡単に手取り早くやるものぢや』 ハル『そんなら、この儘ラツパ呑とお出かけになつたらどうですか』 ヨル『戦陣にあつてラツパのみとはこいつは面白い、ラツパの一声で三軍を自由自在に動かすのだからなア、武道の達人が葡萄酒を呑むのは合つたり叶つたりだ』 と云ひながら、ハルがキルクを抜いた酒瓶を一ダースばかりつづけざまに呑み干して仕舞つた。忽ちヨルは足を失ひヨロヨロとしながら二人の前にドスンと倒れ、 ヨル『あゝ、そこらがなンとはなしにポーとして来た。これだからポーとワインと云ふのだなア、何と酒と云ふものは怪体な代物だナ、俺はもう軍人が嫌になつた。オイ、テル、ハル、このヨルさま等がヨルに紛れて此場をテル、そしてハルバルと、斎苑の館へ帰順と参らうぢやないか、エーン何だか此頃は俺も実の処はバラモン教がいやになつた。三五教の三人や四人の宣伝使に言霊を打ち出され人馬諸共逃げ散るとは実に情なくなつて来た。これを思へば、実に三五教の神様は天のミロク様、バラモン教の神様は大蛇の乾児様位に違ひないよ、こンな事をして居ると終には地獄の釜炙ぢや。テル、ハル貴様も同意見だらう』 テル『そいつは何とも明言し兼ねますわい、人の心は分りませぬからな、ウツカリした事は言へませぬぜ、ヨルさまお前さまは俺達二人をとつ捕まへて片彦将軍の前につき出し手柄をする心算だらう、併し賤しい酒に喰ひよつて身体が自由にならないものだからそンな事をいつて俺達の機嫌を取つて居るのだらう。そンな事にチヨロまかされるやうなテル、ハルさまぢやありませぬぞえ』 ヨル『さう貴様が疑へば仕方がない、併し乍ら俺は決して、酔うては居るが酒呑み本性違はずと云うて嘘は云はない、貴様達二人をとらまへようと思へば何でもない事ぢや、己が懐にもつて居る合図の笛さへ吹けば、何十人でも此場へ出て来るのだから』 テル『さうすると、矢張り本音を吹きよつたのだな、ヨシヨシヨルも矢張り吾がテル党の士だ。これで三人揃うた。天地人、日地月、霊力体だ、御三体の神様だ。三人世の元、結構々々こンな結構が世にあらうか、どうだ三角同盟の成立した祝に土堤切り発動して見ようぢやないか』 ヨル『そいつは一寸待つて呉れ。こンな所で噪いで居ては見つかつては大変だ。オイ今の中に此処にあるだけの酒を背に負ひ、夜に紛れて祠の森迄行つて見ようぢやないか。グヅグヅして居ると大変だからのう』 テル『テルの目からは、ヨルさま、お前其足許であの山路が行けるかい、危ないものだぞ』 ヨル『俺は動けなくても構はないぢやないか、貴様達二人の足さへ達者であれば、山駕籠に乗せて舁ついで行けばよいのだ。幸ここに山駕籠が四五挺ある、これを一挺何々して俺を乗せるのだなア』 ハル『何と甘い事を仰有るわい、併しながら逃げ出すのは今晩に限る、仕方がない、オイ、テルさまヨルさまを舁ついで夜の山道を上つて行かうぢやないか、河鹿峠に往けば最早安全地帯だからなア』 ここに三人は一挺の駕籠を盗み出し、ヨルを乗せテル、ハルの両人は面白可笑しき歌を小声に喋りながら、ソツと浮木が原の陣営を脱出し、河鹿峠の祠の森をさして進み往く。月は黒雲の帳を破つて三人の頭上をニコニコ笑ひながら覗かせたまふ。 (大正一一・一二・七旧一〇・一九加藤明子録) (昭和九・一二・二一王仁校正)
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霊界物語 44_未_玉国別と治国別2 14 思ひ出の歌 第一四章思ひ出の歌〔一一八三〕 治国別一行は、河鹿峠の山口にて親子四人に訣別し、再び足を早めて山口の森に向つた。万公は道々足拍子を取りながら進軍歌を歌つた。 万公『神が表に現はれて善と悪とを立分ける この万公は幼少からあいつは偉い男だと 村人たちにほめられて奇童神童と讃へられ 吾両親も喜びて家の宝が生れたぞ キツト家をば起すだらう天下無双の豪傑に 出世をするに違ないなぞと頻りにほめそやし 蝶よ花よと育てあげ二つの眼へ入つても 痛ない所までかはいがり噛ンだり吐いたり抱いたり 背中におぶつて山路を助けて日夜に甘やかし たうとうこンなガラクタに寄つてかかつて育て上げ 里人達に蚰蜒のやうに嫌はれ痰唾を 吐きかけられて犬のよに杓に水を汲み取つて 追ひかけられるよな浅ましい極道息子にして仕舞つた 親を恨むぢやなけれども可愛がりよが違た故 鼻垂れ小僧の俺達に呑ました甘茶が毒となり 挺子でも棒でも動かないやんちや男に作りあげ 女に溺れる賭博打つ人の物こそ取らないが 酒泥棒のやんちやくれ厄介者にして了うた あゝ惟神々々それでも尊き神さまは 見捨て給はず俺のよな仕様もようもない奴を 仁慈無限の手を延べて可愛がつて下さつた 二人の親の愛よりも神の恵は幾倍か 分らない程有難い仁慈の教を聞いてから 拗け曲つた魂も根本的に改良し 今は嬉しき三五の名さへ目出度き宣伝使 治国別のお伴して悪魔の征討に上りゆく 尊き身とはなりにけり此世を作りし神直日 心も広き大直日直日に見直し聞直し 救ひ玉ひし皇神の恵を思ひ浮べては 涙の露の晴れ間なし俺もこれから赤心を 一生懸命に研き上げ押しも押されもせないよな 神の司と選まれて先祖の御名は云ふも更 吾両親の御名迄も現はしまつり養育の その大恩に報はむと飯食ふ間も忘れない 年の薬と云ふものか此頃親が恋しなり 早く安心させたいと思ひは胸に満ち溢れ 気が気でならぬ吾身魂二人の親に孝行を したい時分にや親はなしそれぢやと云つて石塔に 温い布団も着せられず何程甘い飲食を 供へた処で甘いとも何ともかとも云はぬよに なつて了つたらどうせうぞ三五教の神様へ どンな事でも致しますどうぞ二人の親達の 命をのばして万公が天晴手柄を致すまで 生かして置いて下さンせそれが私の第一の 朝な夕なの願ひぞや森の木蔭で晴公が 恋しき親に廻り会ひ妹と遇うた嬉しさを 眺めた時の吾心飛び立つばかり嬉しうて じつと済まして居れなンだ慌者だと笑はれよが 剽軽者だと誹られよがあの場に臨むでそンな事 構うて居るよな間があろかあゝ惟神々々 私を育てた両親も朝な夕なに神様に 両手を合せ万公が一時も早く改心し 一人前の益良雄になつて故郷に錦をば 飾つて帰り来ますやうと祈つて御座るに相違ない 山より高い父の恩海より深い母の慈悲 それに増してなほ高い深い恵は神の恩 あゝ惟神々々この万公の赤心を 諾なひたまひて吾霊を清く守らせ玉へかし 吾師の君に従ひて旗鼓堂々と神の道 今や進むで出でて往く朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも如何でか忘れむ親の恩 忘れてならうか神の恩神は吾等と倶にあり 人は神の子神の宮こンな嬉しき御教を 聞いたる上は一日も仇に月日は送れない あゝ惟神々々恩頼を願ぎまつる』 治国別は道々歌ふ。 治国別『高天原はいづくなる清く正しき神の国 栄え久しきパラダイス御霊の清き人々の 現世の衣をぬぎすてて常磐堅磐に栄えゆく いと珍しき神の国 ○ 高天原はいづくなる主の御神のあれませる 夜なき清き神の国月日は清く明けく 星の影さへキラキラと地上の世界に比べては 幾百倍の光ありこの楽園に住む人は 皆天人と讃へられ不老と不死の境界に 置かれて主神を信愛し無上の正覚開きつつ いや永久に栄えゆくあゝ惟神々々 神の御国ぞ尊けれ高天原の天界は 茲に二つの区別あり其第一を霊国と 称へて神の在す国第二の国を天国と 称へて清き身霊等の地上を捨てて天人と 成り済ましたる人々の喜び勇み遊ぶ国 霊国、天国諸共に愛と信との日月は 夜昼なしに輝きて金銀瑪瑙瑠璃硨磲 玻璃や珊瑚の殿堂や樹木は野辺に繁茂して 玲瓏玉の如くなる天人男女は永久に 手を携へて神業に勤しみ仕へまつり居る 宇宙唯一の神の国あゝ惟神々々 御霊幸倍ましまして地上に生れし吾々の 身霊を汚す事もなく現世の事皆終へて 御魂となりて天国へ上りし時は主の神の 尊き恵みに包まれて安く楽しく永久に 住まはせ玉へ天津神国治立大神や ミロクの神の御前に畏み畏み願ぎまつる 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 神に任せし吾々は如何でか曲に汚されむ 至粋至純神ながら神に禀けたる御魂をば 信と愛とに培ひて此身此儘天国の 神の御国に神籍を置かさせ玉へ惟神 神の御前に願ぎまつる仁慈無限の大神は 地上に人の種を蒔き肉の宮をば胞衣として 清き御霊を養ひつ成人したる其上は 主神のまします天界へ迎はせ玉ひ天国の 大神業に仕ふべく依さし玉ひしものならば 人と生れし神の子は善をば励み悪を避け 神をば信じ且つ愛し神の御子たる本分を 尽す身霊となるならば如何でか捨てさせ給ふべき 思へば思へば人の身は実に有難いものぞかし 万公さまよ五三公よ竜公さまよ皇神の 仁慈の心汲み取りて神の教をよく守り 小さき欲に囚はれて身霊を汚す事勿れ 限りも知らぬ生命を保ちて栄ゆる天国の 御民となりて地の上の青人草を守るべき 身霊とならば人としてもはや欠点なきものぞ ミロクの神が現はれて現幽神の三界を 立て分け玉ふ世となりぬ斯かる尊き大御代に 生れあひたる吾々は至幸至福の者ぞかし 喜び祝へ神の恩讃へまつれよ神の徳 神は吾等と倶にあり人は神の子神の宮 決して汚す事勿れあゝ惟神々々 みたまの恩頼を願ぎまつる』 斯く歌ひて治国別一行四人は凩荒ぶ荒野を渡り、煌々たる太陽の光を面に受けながら、意気揚々として、又もや山口の森に差かかる。万公は、 万公『先生、夜前の活劇場へ又もや到着致しました。随分夜前はよい獲物がありましたな。今晩もここで一つお宿をかる事に致しませう。今度はひよつとしたら、ヒウドロドロがやつて来るかも知れませぬぜ』 治国別『ハヽヽヽヽ、夜前のやうに蒟蒻の幽霊と早替りせらるると困るからなア。此森は危険だよ、サア今日の中に膝栗毛に鞭を打つて浮木の原まで遠乗りをせうかい』 万公『浮木の森迄は幾等程里程がありますか』 治国別『まアざつと五十里位のものだらう』 万公『それや大変だ。何うしてコンパスが続くものですか』 治国別『又万公弱音を吹き出したなア、神様のお力を借れば五十里位は一息だ、サア往かう』 と山口の森を一寸目礼し、委細構はずスタスタと、南を指して急ぎ行く。 (大正一一・一二・八旧一〇・二〇加藤明子録)
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霊界物語 45_申_小北山の宗教改革1 09 賞詞 第九章賞詞〔一一九九〕 蛇は寸にして人を呑み、栴檀は嫩芽より香ばしとは宜なるかな。 十二の冬を迎へたる侠客育ちの乙女子は 修学院の小雀が千代々々囀る蒙求の 聞き覚えたる白浪言葉今は包んで云はねども どことはなしに小ましやくれ此世の風にもまれたる 老人さへも舌を巻く水も漏らさぬ言葉つき 末頼もしく又恐ろしくはかりかねてぞ見えにける 八尋の殿に詣でむとお千代は父母の許し得て ニコニコしながら階段を気もいそいそと下りゆく。 後見送りて松彦は妻松姫に打ち向ひ 松彦『末恐ろしき吾娘如何なる者となるぢややら 体は生みつけたればとて魂計りは人の身の 力に生れしものでなし皆天地の神様の 御息をかためて人となり此世に生れて来し上は 神のまにまに成人し思ひの儘に魂の 向ふ処に進ましめ打ち遣りおくに如くはなし 性にも合はぬ世の中の業を習はせ麗しき 柱になさむと焦るとも魂計りは人の身の 左右し得べき事ならずあゝ惟神々々 御霊幸倍ましましてお千代の体霊をば 厚く守らせ給ひつつ神の御為め世のために 太しき功績を現はして此世の中の熱となり 光ともなり塩となり花ともなりて世を救ふ 神のみのりをたわたわに結ばせたまへ惟神 三五教を守ります皇大神の御前に 夫婦二人が謹んで畏み畏み願ぎまつる 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも三千世界の世の中に 子に勝りたる宝なし況してや愛しき一人子の 行末思ひ煩ふは親の身として当然よ あゝ松姫よ松姫よ汝と吾とはひたすらに 神の御言を畏みて吾子の事に心をば 案じ煩ふ事もなく神の御前に打ちまかせ 夫婦の息を合せつつ世人を救ひ守るべく 心の限り身の極み誠一つを立て通し 此世の花と謳はれて神の御名を世に照らし 名を万世に照らすべし思へば思へば有り難や 親子夫婦の廻り会ひ小北の山に曲神が 住まうと聞きて来て見れば思ひも寄らぬ今日の首尾 善悪不二の世の様を今更思ひ悟りける 醜神達に囚はれし蠑螈別や魔我彦も 神の御目に見たまへば吾等も同じ神の御子 愛憎の区別あるべきや人の身として同胞を 悪みつ審判きつ悪態に罵り合ふは天界の 尊き神の御心を悩ましまつる醜業ぞ いざこれからは吾々は蠑螈別の神柱 魔我彦さまやお寅さま其外百の司等に 天地の道理を説き明し言葉を尽し身を尽し いと穏かに正道を勧めて神の御恵に 醜の御霊を救ひ上げ助けにやならぬ吾使命 神の御稜威を蒙りて心静に司等に 生言霊の神力を完全に委曲に味はせつ 仁慈無限の御教に仕へまつらむ吾心 諾ひたまへ天地の畏き神の御前に 謹み敬ひ願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 と一生懸命に祈つて居るのは松彦である。お千代は階段を下りながら又もや歌ひ出したり。 お千代『常磐堅磐に限りなく栄ゆる松の松彦や 緑したたる松姫の仲に生れた千代の松 ライオン川の川の辺に生み落されて産声を 上げたる事のゆかしさよ獣の中の王と云ふ 獅子の名を負ふ川の辺で産声あげしも神様の 深い仕組があるのだらう仮令何れの道にせよ 頭となつて世の中に心の光を照らしつつ 普く世人を救ふべし人には百の業あれど いとも尊き神業は憂瀬に落ちて苦しめる 憐れな人や鳥獣救ふに勝りし事はなし 今父母の御前で白浪女になり度いと 答へて父の御心を探つて見れば有難や 汝が心の向ふまに此世を渡れと嬉しくも 宣らせ玉ひし言の葉に情の雨は降りしきり 嬉し涙に吾袖は絞るが如くなりにけり 斯も開けた父母の仲に生れし吾こそは 三千世界の世の中にいと勝れたる幸福者 神の恵と父の恩如何でか忘れむ千代八千代 ミロクの御代の末迄も山より高く海よりも 深き恵を嬉しみて神と親とによく仕へ 瑞の御霊の大神の御旨に叶ひまつるべく 願ふ心を些細に諾なひたまへ惟神 神の御前に願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸倍ましませよ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも星は空より落つるとも 曲に心を曇らさぬ吾魂は永久に 松の梢に宿る月千代の齢の鶴巣くふ 気高き姿を神の前父と母との御前に 照らしまつらむ惟神御霊幸倍ましませよ』 と歌ひながら下つてゆく。松彦松姫は窓の中より涼しき此歌を聞いて初めて娘の本心を悟り、夫婦は互に顔見合はせ嬉し涙に暮れて居る。 松彦『思ひきや気儘な娘と思ひしに 悟りけるかな誠心を』 松姫『皇神の恵の露の霑ひて 松の緑も栄え行くらむ』 松彦『相生の松の生みてし御子ならば 千代も八千代も栄えますらむ』 松姫『小北山尾上に栄ゆる常磐木は 朝日をうけて色勝りゆく』 松彦『松が枝に千代の真鶴巣をくみて 八千代の春を祝ふめでたさ』 松姫『天地の恵の露を浴びながら 風にたわまず水におぼれず』 松彦『雨に濡れ風に吹かれて常磐木の 色優りゆく千代の松が枝』 松姫『妹と背の吾背の君に相生の 月日重ねて松姫の胸。 吾子よと名乗りもあげず小北山 峰の嵐にまかせ居しかな。 さりながらどことはなしに可憐子の 胸にうつるか吾を慕ひし』 松彦『垂乳根の父と母とに廻り会ひ 心いそいそ笑み栄えける。 栄え往くまつの神代は千代八千代 恵の風に靡く百草。 魔我彦の司にいつも親なしと 揶揄れたる子ぞ可憐らしき。 年月を忍び耐へし胸の中 破れて魔我の言霊をのりし。 千代子とて朝な夕なに心をば 父と母とにうつしゐたれば。 父母の行衛を求め迷ふ子の 心の奥ぞ哀れなりけり』 松姫『名乗らむと思ひし事も幾度か あれど後先思ひ浮べて。 年に似ぬ賢しき娘の成す業を 見る度ごとに心迷ひぬ』 松彦『頑是なき乙女なれども神思ひ 親を思へる心めでたき。 魔我彦の醜の罵り耐へ忍び 来りたるこそ雄々しかりけり。 吾子をば褒めるは馬鹿の骨頂と 人は云へども褒めたくぞなる』 松姫『一粒の種と思へば殊更に いとなつかしく愛らしきかな。 両親の此歌ごとを聞くならば 笑み栄えなむ千代の心は。 親となり子と生るるも先の世の 奇きゆかりのあるものと知る。 天地の神の御子を預りて 育て参らす事ぞ楽しき。 吾が生みし子にしあれども天地の 霊の籠りし珍の生宮』 松姫『小北の山の松風はいと穏かに吹き起り フサの御国は云ふも更月の国をば隅もなく 恵の雨を送りゆくさはさりながら産土の 神とあれます神柱皇大神の御息を 送らせたまふ御ためぞ高姫司の開きたる これの教はさかしけど怪しき枝葉を切り棄てて 若芽をはやし新鮮の空気を吸ひて永久の 春の陽気にまかせなば再び開く春の花 珍の聖場となりぬべし蠑螈別や魔我彦の 心に潜む曲神の厳の言霊打ち出し 夫婦心を合せつつ末代日の王天の神 上義の姫の名をかつて誠の教を説き諭し これの霊を天国に堅磐常磐に救ひ上げ 生きては此世の神となり霊主体従の正業を 豊葦原の国中に宣伝せしめ三五の 御稜威を四方に輝かし此地の上に天国を 立てずばおかじ惟神神の御前に相生の 松の夫婦が謹みて千代に八千代に願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 (大正一一・一二・一二旧一〇・二四加藤明子録)
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霊界物語 45_申_小北山の宗教改革1 13 五三の月 第一三章五三の月〔一二〇三〕 お寅はお菊の後について皺枯声を張り上げながら四辺の空気が濁るやうな音調で歌ひ出した。其声は楯に罅が入つたやうにビイビイと一同の耳に不快に伝はり鼓膜を刺戟する事最も甚だし。 お寅『朝な夕なに神様のみまへを謹み敬ひて 山と川との種々の珍らし物を奉り 蓄めて置いたる一万両金迄スツパリ放り出して 此よに沢山宮を立て末代日の王天の神 月の大神大将軍朝日の豊栄昇り姫 義理天上やきつく姫耕し大神地上姫 天若彦や定子姫黄竜姫や金竜姫 金山姫は云ふも更種物神社大御神 へぐれのへぐれのへぐれ武者へぐれ神社迄立て並べ これ程信神して居るに何と思うてか神様は あの悪者がやつて来て千両の金をぼつたくり 肩を怒らしスタスタと帰つて往くのを眺めつつ そしらぬ顔で厶るとは聞えませぬぞ神様よ 私は心で思ふには千両やるのは惜けれど 尊き神の神罰でこの坂道の中程で 罰が当つて金縛り二進も三進もならぬよに なつて熊公が心から前非をくいて改心し 千両どころか一文も入らないこれは神様に お返し申す其かはり私をたすけて下されと 吠面かはいて来るだらうと思うた事も当はずれ みすみす千両の金取つた男を無事にいなすとは ミロク成就の神さまも常世の姫も此頃は 盲聾になつたのか呆れて物が言へませぬ 思へば思へば力の無いガラクタ神だと思うたら 俄に腹が立つて来たこんな事なら平常から 色々ざつたと気をつけてお給仕するのぢや無かつたに 愛想が尽きたユラリ彦末代日の王天の神 上義の姫の松姫もサツパリ宛にはなりませぬ 尊き神と思うたら思ひも寄らぬ狼だ 狼住まう此山に熊公の野郎がやつて来て 四つ足同様な行ひを致してお寅を苦しめた 虎狼や熊のやつ三つ巴になり果てて 何ぢやかンぢやと争ひつ早暮れかかる冬の空 腹が立つのか寒いのか体がブルブル慄て来た 叶はぬから叶はぬから本当に誠に耐らない 力も徳もない神だこれこれ蠑螈別さまよ ものも言はない神さまを何程お給仕した所で カラキシ駄目ぢやありませぬか即座に云ふ事聞いて呉れる 金の神さま奪ひ取られどうして後にぬつけりと 平気な顔で居られよかお寅の腕には骨がある これから熊公の後追うて獅子奮迅の勢で 彼奴の胸倉グツと取り一たんとつた金の神 引き戻さいで置くものかまさかの時に助かろと 思ふが故に朝晩に神のお給仕して居るのだ 盲聾の神さまに何程頼んで見たとこで 聞いて呉れそな事はない何程偉い神ぢやとて ビタ一文も持つて居ぬ貧乏な神様計りだ 朝から晩迄俺達の汗や膏で拵へた お神酒を喰ひ飯を食ひ海河山野くさぐさの 百味の飲食居ながらに頂きながら一言も 何とも彼とも云はぬ奴拝んだところで何になる 吾はこれからスツパリとガラクタ神を思ひ切り 誠の誠の根本の神の教を探ね出し 人に勝れた神徳を貰うて見せにやおきませぬ 思へば思へば馬鹿らしい怪体の悪い事だつた 思へば思ふ程腹が立つ皆さま御苦労で厶いました 此神さまを拝もうと捨てよとほかそと御勝手だ 信仰自由と聞くからは決して邪魔はせぬけれど 肝腎要の此わしが愛想尽かしたよな神を 祭つた所で仕様がない屁のつつぱりにもなりはせぬ 屁なら音なとするけれどブツともスツとも云はぬ奴 今迄迷うて来たものと吾身がボツボツいやになり 馬鹿であつたと気がついて大地に穴を掘穿ち かくれて見たいよな気がしだすあゝ惟神々々 神も仏もあるものか神は吾等と倶にあり 人は神の子神の宮こんな明白な道理をば 悟つて居ながら何として高姫さまの私造した ガラクタ神に現をば抜かして居たのか口惜い サアサアこれから自暴自棄糞だ堤防を切らして酒をのみ 白浪女の意地を出しドンチヤン騒いでやりませう のめよ騒げよ一寸先や暗夜よ暗の後には月が出る 月の光は明かに吾身の上を照らします ここに祭つた神さまは照らす所か暗の夜は 灯明をつけたり蝋燭をつけてやらねば目が見えぬ 困つた盲の神ばかりアイタヽヽタツタアイタヽツタ 余り口が辷り過ぎ奥歯で舌を噛み切つた やつぱり性根のある神かそンならこれから拝みませう あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 五三公はそろそろ歌ひ出したり。 五三公『神が表に現はれて善と悪とを立て分ける 神の中にも善がありまた悪神のあるものぞ 善を表に標榜し此世を救ふ生神と 信仰計り強くして理解し得ざる信徒の 体を宿とし巣をくんだ狐狸や曲鬼が 尊き神の名をかたり世人を欺く事もある 小北の山に祭りたる此神様の素性をば 包まづ隠さず云うたなら生命も魂も捧げたる 信者の方は驚かう私はそれをば知つて居る そんな悪魔に欺されて現を抜かし根の国や 底の国やら畜生道落ち行く人の身の上を 見るにつけても可憐らしく忙しき身をも顧みず 貴重なタイムを空費して此処に滞在して居るも 汝等一同の身魂をば正しき神の大道に 救ひ助けむ其ためぞ思へよ思へよ顧みよ 此神名は高姫が脱線だらけの神憑り みたまが地獄に落ちた時天の八衢に彷徨へる 醜の魔神に取りつかれ肉の宮をば宿にされ 変性男子の系統だ日の出の神の生宮と 吾と吾手に盲信し教を立てて居りたのだ 肝腎要の高姫や黒姫司が自分から 愛想尽かして打ち捨たウラナイ教の神様に どうして誠があるものか茲の道理を考へて 社を残らず潔斎し払ひ清めて天地の 真の神を祭るべくさうでなければ蠑螈別 司の体は曲の巣となつて忽ち身を砕き 魂は曇りて地獄道根底の国へ落ち行かむ 魔我彦さまやお寅さま貴方も確りするがよい 名もなき神に名をつけて拝んだ所で何にする 狐狸の弄びになるより外に道はない 天地の神の御息より生れ出でたる生宮と 名乗りながらも曲神に霊を汚され朝夕に 濁つた言霊奏上し世を乱すとは何の事 これ五三公が天地の神に誓ひて赤心を 汝が命の御前に怯ず臆せず並べ立て 忠告致す次第なり果してこれの神様に 誠の霊があるならば今眼前五三公が 無礼の事を囀つた舌の根とめて命をば とつて呉れても恨みないこれが出来ねばこの神は 霊も力も無い曲津茲で眼を醒まさねば 真の神の御怒りにふれてその身は云ふも更 霊魂までもメチヤメチヤにこはされ無限の苦しみを 万古末代受けますぞ顧みたまへ蠑螈別 百の司の御前に神に誓ひて述べておく あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 (大正一一・一二・一二旧一〇・二四加藤明子録)