| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
|---|
|
41 (2627) |
霊界物語 | 54_巳_ビクの国の物語2(後継者問題) | 余白歌 | 余白歌 天恩郷の花 経綸の花の香匂ふ春は来ぬ燃ゆる陽炎殊にうるはし〈序文(初版)〉 新しき御代の開くる心地していそしみ仕ふわが身嬉しも〈総説(初版)〉 万代をことほぎ奉る亀山の下津岩根に立つる礎〈総説(初版)〉 梓弓春立ち初めて信徒の心の園に白梅かをる〈総説(初版)〉 遠寺の鐘の響きも何処となく淋しく聞えぬ天恩の郷〈総説(初版)〉 古の大英雄の住みしてふ城跡に千代の礎固む〈総説(初版)〉 戦ひの激しき暗の世の中の光とならむ三五の月〈総説(初版)〉 言さやぐ醜のものしり多き世にかくれて説かむ救世の御教 (大正十四年二月、於亀岡万寿苑)〈総説(初版)〉 草の葉の露に等しき醜の世は月光にさへ恐れをののく〈第2章(初版)〉 朝日影草葉の露に照り初めてもろくも散らむ高山の雲〈第5章(初版)〉 常世往く暗世を照らす月光を蔽はむとする高山の雲〈第6章(初版)〉 久方の大空わたる三五の月の姿を世人さげしむ〈第6章(初版)〉 風荒び雨しきりなる今の世に雷なくば如何で晴れなむ〈第6章(初版)〉 濁流を逆しまに妨ぐ手力男神の出でずば御世はとこやみ〈第6章(初版)〉 天地を吾ものとして楽しめば心の園に常永の花咲く〈第6章(初版)〉 神の国聖界霊語読みながらあつき一日を今日も送りつ〈第8章(初版)〉 根の国や底の国をば幾度も探険したる吾面白きかな〈第8章(初版)〉 衣は裂け手足は霜に破れつつ御用いそしむ尊き献労〈第8章(初版)〉 身も魂も捧げて高天の聖場を守るは神子のつとめなりけり〈第9章(初版)〉 からやまと月の国まで言霊の光を放つ三五の月〈第11章(初版)〉 天地に唯一つなる神苑に千年の松の一本茂れる〈第11章(初版)〉 蒙古野に一度隠れし月影の再び空にかがやく御代かも〈第11章(初版)〉 花もかをれ蝶も来て舞へと朝夕に望み抱へて待つ人のあり〈第12章(初版)〉 日の国の御空を包む黒雲も何時かは晴れなむ神の稜威に〈第12章(初版)〉 言さやぐ君が御代こそ忌々しけれ山川海の神もなげきて〈第12章(初版)〉 功験録 世以七年人示盛衰果人胆以三年世示進退 世与人関係五年之後心然興新陳代謝要求 諺日十年星霜是一昔有祥慶有変遷有後悔〈第14章(初版)〉 空顕録 大正辛酉九月八日晨沐浴斎戒待神命降下 弥勒神聖忽感応来格宣日爾速説苦集滅道 可開示道法礼節本義瑞月謹発表霊界真相 ○ 文芸講談其他諸雑誌日夜耽読反覆養神気 惜哉其程度為極低級不適進取的男子趣味 回首覩神諭霊界聖語光照赫燿有照暗夜思〈第14章(初版)〉 惟神教かしこみ進み行く誠の道に障る曲なし〈第15章(初版)〉 今は只神の心にまかすのみ人の心の儘にならねば〈第15章(初版)〉 天の下四方の国々和め行く吾が玉の緒の在らむ限りは〈第17章(初版)〉 櫟原きり開きつつ常磐木の千年の小松植ゑて楽しむ〈第18章(初版)〉 限りなき希望に充ちて天恩の郷に静かに時臻る待つ〈第18章(初版)〉 天の下四方の国々乱れ行く様をながめて立つ人もあり〈第20章(初版)〉 地獄にも堕す術なき曲人の醜の叫びの耳を打つかも〈第20章(初版)〉 もろこしも西洋も大和も押並べて靡き伏しなむ神の御旗に〈第21章(初版)〉 何となく心急ぎぬ天地の神の御業に尽す吾が身は〈第21章(初版)〉 ある時は死なましくおもひ或時は活きむと思ふ救世のために〈第21章(初版)〉 天恩郷 幗松森々茂満山神苑清浄無俗塵 祝詞言霊洗乾坤月高風薫亀城跡。 巨石掘出亀城跡献労集来悉信徒 高壁堅三五道場青松繁茂天恩郷。 千歳青松鶴来遊万寿苑内充瑞気 億兆慕集天恩郷神教宣伝大道場。 蒙古帰来無寧日神務多端百事忙 得小閑遊万寿苑畳巨石築天恩城。 乙丑如月九日朝当陽暦三月三天 三時三十三分開鶏鳴明美交子領。〈巻末(初版)〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました] |
|
42 (2661) |
霊界物語 | 56_未_テルモン山の神館1 | 07 高鳴 | 第七章高鳴〔一四三七〕 七重八重言葉の花は咲きぬれど実の一つさへなき山吹の 花にも擬ふ教へ草インフエルノのどん底に 霊魂の籍をおきながら底津岩根の大神の 誠一つの太柱此世を救ふ義理天上 日の出神の生宮と信じ切つたる高姫は 如何なる尊き御教も吾魂に添はざれば 一々これを排斥し変性男子の生御霊 書かせ給へる御教を所まんだら撰り出し 自が曇りし心より勝手次第に解釈し 其身に憑る曲霊に身も魂も曇らされ 唯一心に神の為め世人のためと村肝の 心を尽すぞ果敢けれ妖幻坊の杢助に 魂を抜かれて中空より印度の国のカルマタの 草茫々と生え茂る原野に危く墜落し 其精霊は身体を首尾よく脱離しブルガリオ 八衢関所に到着し赤白二人の門番が 情によりて解放され天の八衢遠近と 彷徨ひ廻りて岩山の麓に庵を結びつつ 冥土へ来る精霊を三途の川の脱衣婆の 気取になつて点検し一々館へ連れ帰り 支離滅裂の教理をば口角泡を飛ばせつつ 一心不乱に説き立てる其熱心は天を焼き 地を焦がさむず勢に遉慈愛の大神も 救はむよしもなきままに三年の間高姫が 心のままに放任し眼を閉ぢて自ら 眼醒むる時を待ち給ふかくも畏き大神の 大御心を覚り得ず吾身に憑る精霊は 至粋至純の神霊日の出神の義理天上 底津岩根の大神と曲の霊に騙られ 信じ居るこそ憐れなり八衢街道の真中で ふと出会した四人連れ言葉巧に誘ひて 己が館へ連れ帰り心をこめて天国へ 救ひやらむと気を焦ち力を尽す高姫が 心を無にしてバラモンのヘルやケリナが反抗し 互に顔を睨み鯛小さき部屋に燻つて 白黒眼をつり居たる時しもあれや表戸を 叩くは水鶏か泥坊か但は嵐の行く音か 何は兎もあれ門口に現はれ実否を探らむと 四人の男女を睨みつつ庭に下り立ち表戸を ガラリと開ればこは如何に髯茫々と生え茂る バラモン教の落武者が泥坊仲間の親分と 聞くより高姫目を瞠り神の教の言霊に 誠をさとし助けむと心を定めて誘ひ入れ 四人の前に引き来るああ惟神々々 神の御霊の幸倍ひて一時も早く高姫や 其外五人の精霊を一日も早く大神の 誠の教に服はせ救はせ給へと願ぎまつる 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも誠の力は世を救ふ 誠の道を誤りし虚偽に満ちたる高姫が 教を如何に布くとても正しき神の在す限り 如何でか目的達すべきさはさりながら善人は 愛と善との徳に居り真と信との光明に 浴し仕ふるものなれば善悪正邪は忽ちに 心の空の日月に映ろひ行けど曲津見に 心を曇らす精霊は却て悪を善となし 虚偽をば真理と誤解して益々狂ふ憐れさよ 三五教のピユリタンと救はれきつた精霊は 如何でか曲の醜言に尊き耳を傾けむや 眼は眩み耳ふさぎ霊の汚れし精霊は 霊と霊との相似より蟻の甘きに集ふごと 喜び勇み集まりて虚偽と不善の教をば こよなきものと確信し随喜渇仰するものぞ ああ惟神々々神の大悲の御心を 量りまつりて万斛の涙は河と流れゆく 此河下は三途川脱衣婆々と現はれて 現幽二界の精霊が心を洗ふヨルダンの 流れを渡るぞ憐れなる此惨状を逸早く 救はせ給へと瑞月王仁が謹み敬ひ三五の 神の御前に赤心を捧げて祈り奉る。 高姫は今来た男に向ひ、穴のあく程其顔を打ち見守りながら、 高姫『ヤアお前の面体には殺気が溢れて居る。大方泥坊でもやつて居るのぢやないかな』 男(ベル)『是はしたり、此処へ這入るや否や泥坊とは恐れ入ります。成程貴女の仰有る通り、吾々は元からの泥坊では厶いませぬ。月の国ハルナの都に現はれたまふ大黒主の御家来、鬼春別のゼネラルのお伴を致し、斎苑の館へ進軍の真最中、将軍の部下片彦、久米彦が三五教の宣伝使治国別の言霊に脆くも打ち破られ、浮木の森に引き返し来りたれば、此処に軍隊を二つに分ち、一方は鬼春別、一方はランチ、各三千騎を引き率れ、ビクの国を蹂躙し、次で猪倉山に陣営を構へ、武威を八方に輝かす折しも、又もや治国別の神軍に踏み破られ、鬼春別、久米彦の両将軍は三五教に帰順致され、吾々は解散の厄に遇ひ、心にも無き剥ぎ取り泥坊を彼方此方でやつて居るもので厶る。併し私が泥坊だと云つてお前さまに咎めらるる道理はありますまい。泥坊は泥坊としての最善を尽し、其商売の繁昌を計つて居るのだから泥坊呼ばはりはやめて貰ひませうかい。此方が泥坊なら此処に居る四人も泥坊だ。其外世界の奴は直接間接の違ひこそあれ泥坊根性の無いものはない。いや泥坊根性の無いものは無いのみならず、藁すべ一本なりと泥坊せないものは何奴も此奴もありますまい』 高姫『オホホホホ。泥坊にも三分の理窟があるとか云つて、どうでも理窟の付くものだなア、併し乍らお前のやうに泥坊を自慢らしく云ふものは聞いたことがない。些と恥を知りなさい。それだから神様が「今の人間は天の賊だ、泥坊の世の中だ」と仰有るのだ。遠慮してコソコソやつて居るのなら可愛らしい所もあるが、大きな声で泥坊だと威張り散らすやうになつてはもう世も末だぞへ。そこで底津岩根の大神様が今度立替を遊ばし、鬼も大蛇も賊もないやうになさるのだよ。お前も好い加減に改心なさらぬと未来の程が怖ろしいぞへ』 ベル『アハハハハ。諺にも「猿の尻笑ひ」と云ふ事がありますぞや、吾々は泥坊といつても、唯金銭物品を泥坊する許りだ。それよりも大泥坊、否天の賊が此処に一人あるやうだ。鬼の念仏はこのベル、根つから聞きたうは厶いませぬわい』 高姫『天の賊が此処に一人居るとはそれや誰の事だい。お前は私の顔を睨めつけながら天の賊と云ふた以上は、誠生粋のこの生宮を取り違ひして天の賊と云つたのだらうがな』 ベル『勿論お前の事だよ、よく考へて御覧なさい。変性男子厳の御霊の生宮が、大国常立尊の伝達遊ばした神示を、そつと腹に締め込み、それを自分の物として横領して居るぢやないか。そして自分は義理天上だとか、底津岩根の大神の生宮だとか云つて得意になつて居るのは実に天地容れざる大罪悪、大虚偽もこれに越したるものはあるまい。それだからこのベルが大泥坊天の賊と云つたのが、どこに間違ひが厶るかな、不服とあらばベルの前で説明をして貰ひませう』 と胡床をかき言葉鋭く詰よつた。 高姫『ホホホホホ。ても扨ても分らぬ男だな、善一つの誠生粋の日本魂の、根本の根本の此世の御先祖様の憑らせたまふ生宮に対し泥坊呼ばはりをするとは無智にも程がある、お前のやうな盲聾が娑婆を塞いで居る以上は何時になつても神政成就は出来ませぬわい。何と云ふても霊が地獄に堕ちて居るのだから、人の眼についている塵は目についても己の眼にある梁は目に入らぬと見える、これシャル、六造、この二人の男を見て改心なされや。今が肝腎の時で厶いますぞえ。人民の分際として善ぢやの悪ぢやのとそれや何を云ふのぢや。三五教の教にも「神が表に現はれて、善と悪とを立て分ける」とお示しになつて居るぢやないか。神様の外に善と悪とを立て分けるものは無い。それも根本の弥勒様より外に立分ける者は無い、枝の神では出来ない、それだから根本の神様の御用をする此高姫の言ふことは大神様の御心だから、お前の心に合はなくてもこの高姫の云ふ通り素直になして行ひを改めさへすれば、現界、神界、幽界、ともに結構な御用が出来ますぞや』 六造『高姫さま、何と仰有つても私にはテンと信用が出来ませぬがな、お前の御面相を最前から考へて居るが、ちつとも神様らしい所が現はれて居りませぬ。表向にはニコニコとして厶るが、その底の方に何とも云へぬ険悪な相や、憎悪の相が現はれて居りますぞや。「人間の面貌は心の索引」とか云ひまして、何うしても内分は包む事は出来ませぬ、きつと外分に現はれて来るものですからなア』 高姫『アーアー、何れもこれも分る霊は一人も無いわい。神様も仰有つた筈だ「誠の人が三人あつたら三千世界の立替立直が出来る」との事、今更其お言葉を思ひ出せば実に感歎の外はない。私も長らくこれ程一生懸命に神様の為め、世人の為め、粉骨砕身の活動をして来たが未だ一人の知己を得る事が出来ないのか、情なや情なやほんに浮世が嫌になつて来たわい』 シャル『もし高姫様、私はどこ迄も貴女のお言葉を信じます。貴女は本当の根本の大神様の生宮様に間違ひはありませぬ。何卒私を貴女のお弟子にして下さいますまいか』 高姫『オホホホホ。成程お前は何処ともなしに気の利いた男だと初から見込んで置いた。矢張り日の出の神の目は違はぬわい。これ皆の泥坊共、高姫の申す事でも誠さへ心にありたら、このシャルの通り一遍に腹へ入りますぞや。分らぬのはお前の心が曇つて居るからであるぞや。ちと御改心なされ、足許から鳥が立つぞや』 斯る所へ何処ともなく、ブーウブーウと山彦を轟かす法螺貝の声近づき来る、ああ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・三・一四旧一・二七於竜宮館二階加藤明子録) |
|
43 (2742) |
霊界物語 | 59_戌_イヅミの国2(キヨの港) | 09 暗内 | 第九章暗内〔一五〇九〕 玉国別、真純彦は長途の海路に草臥れきつた上、振舞酒にグツタリ酔ふて其夜は潰れた様に熟睡して了つた。先づ手洗を使ひ口をすすぎ、東天を拝し、次いで神殿に進み祝詞を奏上し、暫らく休息して居る。そこへバーチルは顔色を変へて出で来り、 バーチル『もし先生様、大変な事が出来致しました。誠に申訳のない事で厶います』 玉国『大変とは何事で厶いますか』 バーチル『はい、私もグツタリと草臥れて、よく寝込んで了ひましたので、夜中の出来事は少しも存じませぬが、三千彦様、伊太彦様、デビス姫様のお三方が、何程そこらを探しても行衛が分りませぬ。里人の話によりますと裏門口を開いてバラモンの軍人が三人様をフン縛り帰つたとの事、実に申訳のない事を致しました』 玉国『何、三人がバラモン軍に誘はれたと、やア、それは大変だ。真純彦、こりやかうしては居られまい。之から両人がバラモンの関所に押掛けて行つて様子を探つて見ようぢやないか』 真純『如何にも大変な事が出来致しました。さア参りませう』 バーチル『もし先生様、一寸お待ち下さいませ。バラモンの関所には一中隊の勇猛なる兵士が抱へて厶いますから、お二人様では険難で厶いませう。幸ひ斯うして村中の者が昼夜の別なく、祝に来て居りますから此中から強い者を選むで数十人お連れになつてはどうでせう。私も命を助けて貰つた御恩返しに今度は命を捨てます。何卒さうなすつて下さいませぬか』 玉国『いや、決して御心配下さいますな。又宣伝使が貴方等の助力によつて多数を恃むで押掛けたと云はれては済みませぬ。又一方は武器を持つたもの、里人に怪我でもあつては済みませぬから吾々両人が直接に出掛けませう』 バーチル『さう仰有れば是非が厶いませぬ。代りに私がお伴を致しませう』 玉国『いや、それには及びませぬ。然し乍ら僅かに二人、敵の中へ参るので厶いますから之がお顔の見納めになるかも知れませぬ。何卒貴方は神様の御心をよくお覚りなさつて、此里人を導き可愛がつておやりなさいませ』 かかる所へサーベル姫は襖をソツと押開き涙と共に転げる様にして入り来り、 サーベル『玉国別様、真純彦様、大変な事が出来致しました。何卒神様の御神徳によつて御三方を救ひ出し、無事にお帰り下さいませ。妾は神様を念じ無事の成功を祈ります』 玉国別『有難し君が情の厚衣 身に纒ひつつ進み行くべし。 真心を深く包みし衣手に 薙ぎて屠らむ醜の輩を』 真純彦『曲神に苦しめられし吾友を 助けに行かむ神のまにまに。 大神の御前に額き願ぎ申す 此首途を真幸くあれよと』 バーチル『真心を籠めて打出す言霊に 刃向ふ仇の如何であるべき。 さり乍ら心配りて出でませよ 企みも深き陥穽あれば』 サーベル姫『玉国別神の命よ真純彦よ 仇の館に気を配りませ』 玉国別『有難し神に捧げし吾命 よし捨つるとも如何で恐れむ』 真純彦『皇神の縁の糸に結ばれし 身ながら今は解けむとぞする』 バーチル『吾僕アンチー連れて出でませよ 彼は力の強き益良夫』 玉国別『吾道は人を頼らず杖につかず 只真心に進むのみなり。 折角の思召をば無みするは 心済まねど許し玉はれ。 三千彦は嘸今頃は仇人と 厳の言霊打ち合ひ居るらむ』 真純彦『言霊の戦ひなれば恐れまじ 兇器を持ちし敵の陣中も。 曲神の憑りきつたる仇人を 言向和す日とはなりぬる』 アンチー『神司吾れを召し連れ出でまして 真心の限りを尽させ玉へ。 よしやよし命を敵に渡すとも いかで悔いなむ捨てし此身は』 玉国別『玉の緒の命に代へて嬉しきは 汝が心の誠なりけり』 斯く互に歌を取交し、玉国別、真純彦は今や宣伝使の服を脱ぎ、バーチルの与へたる衣服と着替へ乍ら立出でむとする所へ、泥酔者のテクはツカツカと現はれ来り、 テク『ヘー、御免なさいませ。私は今日迄はバラモン教の目付役の下を働くスパイで厶いました。一方には海賊の張本人ヤッコスと兄弟分となり、種々雑多と、よくない事許りやつて居ましたが、玉国別様に何とも知れぬ般若湯を頂き、それから心に潜む鬼が私の身内から逐転しまして、今は全く人間心に立帰りました。就きましてはチルテルの邸には沢山の陥穽が厶いますれば此テクが御案内を致しませう。うつかり行かうものならえらい目に会ひます。その秘密を知つてるのは外には厶いませぬ。関所を守つてる軍人の外は誰も知りませぬからお危う厶います』 玉国『おう、お前はテクさまだつたな。や、有難う、それ程沢山に陥穽が拵へてあるかな』 テク『ヘーヘー、彼方にも此方にも陥穽許りで厶います。あんな所へ落ちたが最後、上る事は出来ませぬ。さうして此頃は何とも知れぬ美しい女の方が離家に只一人居られます。さうして其お名は初稚姫様だとか云ふ事で厶います。関守のキャプテンがその女に現を抜かし、それが為に夫婦喧嘩がおつ初まり、いや、もう内部の醜態と云つたら話になりませぬ』 玉国『なに、初稚姫様が厶ると云ふのか。どんな年格好なお方だ』 テク『はい、明瞭は分りませぬが一寸見た所では十七八才かと思ひます。然し何処ともなく十五六才の幼い所も厶いますし、体中宝石を以て飾つて居られます。それはそれは綺麗なお方ですよ』 玉国『はてな、初稚姫様は、そんな宝石等を身に飾る様なお方ぢやないと聞いて居る。大方同名異人だらう。なア真純彦』 真純『そら、さうで厶いませう。世間に同じ名は何程も厶いますからな』 玉国『あ、そんなら屋敷の案内をお願ひしようかな』 テク『いや早速の御承知、有難う厶います。大抵の所は皆私が知つて居りますから、私の後に跟いて来て下さいますればメツタに不調法はさせませぬ。そして彼の女に一度お会ひになれば真偽が分るでせう。大方貴方のお弟子は陥穽に落ち込みなさつたかも知れませぬ。うつかりして居ると命が怪しう厶います。沢山な兵士が寄つて上から石を投げ込むのですから、堪つたものぢやありませぬわ』 バーチル『テクさま、お前さまはアキスから聞けば宅の番頭になつたと云つて居られたさうだが本当に番頭になつて呉れますか。アンチーも暫く休まして下さいと云つてるから、お前さまが番頭頭になつて下さらば大変都合が宜しいがな』 テク『承知致しやした。貴方からお言葉のかからぬ中から已に番頭と一人で定て居りますから何の異議が厶いませう。もとは悪人で厶りましたが神様の光に照らされて最早悪が恐しくなり、その罪亡しに一つでも善事を行ひ度いと決心をして居りますから何卒宜しくお願ひ申します。サア玉国別様、真純彦様、参りませう』 アンチー『是非とも私をお伴に願ひます』 玉国『それ程仰せらるるなれば御同行を願ひませう』 とバーチル夫婦に暇を告げ、裏口より一行四人キヨの関守チルテルが館を指して進み行く。テクは先頭に立ちヤッコス踊をし乍ら心イソイソ歌ひ初めた。 テク『バラモン教のキャプテンが部下に使はれ犬となり 彼方此方と湖辺をば尋ねまはりて三五の 神の司や信徒を一人も残さずフン縛り キヨの関所へ連れ行きて褒美の金を沢山と 頂き好きなお酒をば飲んで浮世を面白く 暮さむものと心をば鬼や大蛇と変化させ 悪の道のみ辿りたる悪党無頼の此テクも 玉国別の神様の厚き心に感服し 迷ひの夢も覚め果ててバーチルさまの家の子と 仕ふる身とはなりにけりバラモン教の関守が 如何程神力あるとても如何で及ばむ三五の 誠一つの言霊に敵する事は出来よまい 屋敷の中に沢山の陥穽をば穿ちつつ 三五教やウラル教道の教のピュリタンを 否応云はさずフン縛り皆悉く陥穽に 落して喜ぶ悪神の醜の器となり果てし チルテル司は魔か鬼か思ひ廻せば恐しや かかる悪魔を逸早く亡ぼし尽し世の人の 災難を早く救はねばイヅミの国の人々は 枕も高く眠れない吾も元より悪人の 種ではなけれど止むを得ずバラモン教の勢力に 刃向ひ其身の不幸をば招かむ事を恐れてゆ 心にもなき間諜となり吾良心に責られて 苦しき月日を送りつつせつなき思ひを消さむとて 朝から晩まで酒を飲み浮世の中を夢現 三分五厘に暮さむと金さへあれば自棄酒を 呻つて過す浅間しさあゝ惟神々々 神の恵みの幸ひて愈今日は三五の 貴の司の先走り今迄犯せし罪科を 償ひまつる今や時皇大神よ大神よ テクの心を憐れみて今度の御用を恙なく 遂げさせ玉へ惟神仮令天地は変るとも 一旦神の御前に罪を悔いたる此テクは 汚き心を露持たじ敵は如何なる謀計を 廻らし吾等を攻むるとも何か恐れむ神心 振ひ起して何処迄も神の御為世の為に 悪魔の棲ひしチルテルの醜の司を懲しめて 世人の為に災を除かせ玉へ惟神 御伴に仕へし此テクが真心捧げて願ぎ奉る あゝ惟神々々御霊幸ひましませよ』 アンチーは又歌ふ。 アンチー『三年振りに吾主人バーチルさまに廻り会ひ 喜び勇む間もあらず命の親の神司 危き敵の館へと出でます君を案じつつ 主人の君の許し受けお伴に仕へ進む身は 如何なる曲の企みをも如何で恐れむ敷島の 大和男子の魂を現はしまつりて高恩の 万分一に報ふべしキヨの港は遠けれど 勝手覚えし抜け道を進むで行けば一時の 間には容易く達すべしさはさり乍ら真昼中 敵の館へ進み行くこれが第一険難だ 日暮れを待つてボツボツと隅から隅まで探索し 三千彦さまの所在をば探し求めた其上で あらむ限りのベストをば尽すもあまり遅からじ 玉国別の宣伝使真純の彦の神司 新番頭のテクさまよ貴方の御意見詳細さに お知らせなさつて下されや敵にも深い企みあり 軽々しくも進みなば臍を噛むとも及ぶなき 大失敗を招くべし省み玉へ神司 此アンチーは意外にも卑怯な男と皆さまは 思召すかは知らねども注意の上に注意して 行かねばならぬ敵の中あゝ惟神々々 何れにしても大神の力に頼り進むべし 玉国別の御前に更め伺ひ奉る』 と歌ひ終り、玉国別の意見を求めた。玉国別はアンチーの言葉に一理ありとなし、途上に佇みて暫し思案を廻らして居る。テクは無雑作に口を開いて、 テク『もし、皆様、私は幸い種々の関係上チルテルに接近せなくてはなりませぬ。それについては色々とチルテルの腹を探り、又敵の様子や三千彦様以下の所在を探索するに余程便宜を持つて居りますから、貴方は暫らく此密林に日の暮るる迄御休息を願ひ、私が一応取調べた上、日が暮れてからお出掛けになつた方がよからうと在じますが貴方等のお考は如何で厶いませうか』 玉国『成程、却つて夜分の方が宜いかも知れない。御神諭にも「今迄は日の暮が悪いと申したが之からは日の暮に初めた事は何事もよい」とお示しになつて居る。そんならテクさま、御苦労乍らチルテルの館に罷越し、能ふ限りの偵察をして下さい。それまで此の森蔭に祈願をして待つて居りませう』 テク『いや、早速の御同意、有難う厶います。それなら此テクがうまく様子を探つて参ります。何卒此森の奥で悠りと休息をして待つて居て下さい。左様なら』 と云ひ乍ら尻引紮げトントントンと夏草茂る細い野道を駆け出した。三人は森の木蔭に腰を下し、時の至るを待つて居る。 (大正一二・四・一旧二・一六於皆生温泉浜屋北村隆光録) |
|
44 (2781) |
霊界物語 | 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 | 20 三五神諭(その一) | 第二〇章三五神諭その一〔一五四五〕 明治二十五年旧正月…日 三ぜん世界一度に開く梅の花、艮の金神の世に成りたぞよ。梅で開いて松で治める、神国の世になりたぞよ。この世は神が構はな行けぬ世であるぞよ。今日は獣類の世、強いもの勝ちの、悪魔ばかりの世であるぞよ。世界は獣の世になりて居るぞよ。邪神にばかされて、尻の毛まで抜かれて居りても、未だ眼が覚めん暗がりの世になりて居るぞよ。是では、世は立ちては行かんから、神が表に現はれて、三千世界の天之岩戸開きを致すぞよ。用意を成されよ。この世は全然、新つに致して了ふぞよ。三千世界の大洗濯、大掃除を致して、天下泰平に世を治めて、万古末代続く神国の世に致すぞよ。神の申した事は、一分一厘違はんぞよ。毛筋の横巾ほども間違ひは無いぞよ。これが違ふたら、神は此の世に居らんぞよ。 何れの教会も先走り、とどめに艮の金神が現はれて、天の岩戸を開くぞよ。岩戸開きのあるといふ事は、何の神柱にも判りて居れど、何うしたら開明になるといふ事は、判りて居らんぞよ。九分九厘までは知らしてあるが、モウ一厘の肝心の事は、判りて居らんぞよ。三千世界の事は、何一つ判らん事の無い神であるから、淋しく成りたら、綾部の大本へ出て参りて、お話を聞かして頂けば、何も彼も世界一目に見える神徳を授けるぞよ。 神となれば、スミスミまでも、気を附けるが神の役、かみばかり好くても行けぬ、かみしも揃はねば世は治まらんぞよ。不公平では治まらん、かみしも揃へて人民を安心させて、末代潰れぬ神国の世に致すぞよ。用意を為されよ、脚下から鳥がたつぞよ。 天地までも自由に致して、神は残念なぞよ。今の人民、盲者聾者ばかり、神が見て居れば、井戸の端に茶碗を置いた如く、危ふて見て居れんぞよ。サタンよ。今に艮の金神が返報返しを致すぞよ。 根に葉の出るは虎耳草、上も下も花咲かねば、此世は治まらぬ。上ばかり好くても行けぬ世。下ばかり宜くても此世は治まらぬぞよ。 天使は綾部に出現されてあるぞよ。至治太平の世を開いて、元の昔に返すぞよ。神柱会開きは人民が何時までかかりても開けんぞよ。神が開かな、開けんぞよ。開いて見せうぞよ。世界をこの儘おいたなら暗黒に成るぞよ。永久は続かんぞよ。今に気の附く人民ないぞよ。神は急けるぞよ。此世の鬼を往生さして、邪神を慈神神也慈悲の雨降らして、戒めねば、世界は神国にならんから、昔の大本からの神の仕組が、成就致す時節が廻りて来たから、苦労はあれど、バタバタと埒を付けるぞよ。判りた守護神は一柱なりと早く大本へ出て参りて、神界の御用を致して下されよ。さる代りに勤め上りたら、万古末代の大事業完成者であるから、神から結構に御礼申すぞよ。世界中の事で在るから、何程知恵や学がありても、人民では判らん事であるぞよ。此の仕組判りては成らず、判らねば成らず、判らぬので、改信が出来ず、岩戸開きの、末代に一度の仕組であるから、全然、学や知恵を捨てて了ふて、生れ赤児の心に立返らんと、見当が取れん、六ケ敷仕組であるぞよ。今迄の腹の中の、垢塵をさつぱり、放り出して了はんと、今度の実地まことは、分りかけが致さん、大望な仕組であるぞよ。 氏神様の庭の白藤、梅と桜は、出口直の御礼の庭木に、植さしたのであるぞよ。白藤が栄えば、綾部宜くなりて末で都と致すぞよ。福知山舞鶴は外囲ひ、十里四方は宮垣内、綾部はまん中になりて、黄金世界に世が治まるぞよ。綾部は結構な所、昔から神が隠して置いた、真誠の仕組の地場であるぞよ。 世界国々所々に、岩戸開きを知らす神柱は沢山現はれるぞよ。皆艮之金神国常立尊の仕組で、世界へ知らして在るぞよ。大方行き渡りた時分に、高天原へ諸国の神、守護神を集めて、それぞれの御用を申付ける、尊い世の根の世の本の、竜門館の神屋敷地上の高天原であるから、何を致しても大本の教を守らねば、九分九厘で転覆るぞよ。皆神の仕組であるから、吾が吾がと思ふて致して居るが、皆艮の金神が化して使ふて居るのであるぞよ。此の神は、独り手柄をして喜ぶやうな神でないぞよ。仕組の判る守護神でありたら、互に手を曳き合ふて、世の本の御用を致さすから、是までの心を入替へて、大本へ来て肝腎の事を聞いて、御用を勤めて下されよ。三千世界の神々様、守護神殿に気を附けるぞよ。谷々の小川の水も大川へ、末で一つに成る仕組。此処は世の本。誠の神の住ひどころ。 神と悪魔との戦ひがあるぞよ。此いくさは勝ち軍、神が蔭から、仕組が致してあるぞよ。神が表に現はれて、善へ手柄致さすぞよ。邪神の国から始まりて、モウ一と戦があるぞよ。あとは世界の大たたかひで、是から段々判りて来るぞよ。この世は神国、世界を一つに丸めるぞよ。そこへ成る迄には、中々骨が折れるなれど、三千年余りての仕組であるから、うへに立ちて居れる守護神に、チツト判りかけたら、神が力を附けるから、大丈夫であるぞよ。世界の大峠を越すのは、神の申す様に、素直に致して、何んな苦労も致す人民でないと、世界の物事は成就いたさんぞよ。神はくどう気を附けるぞよ。此事判ける身魂は、東から出て来るぞよ。此御方が御出になりたら全然日の出の守護と成るから、世界中に神徳が光り輝く神世になるぞよ。中々大事業であれども、昔からの生神の仕組であるから別条は無いぞよ。 一旦たたかひ治まりても、後の悶着は中々治まらんぞよ。神が表に現はれて、神と学との力競べを致すぞよ。学の世はモウ済みたぞよ。神には勝てんぞよ。 ○ 明治二十六年…月…日 お照しは一体、世界一つに治める経綸が致してあるぞよ。この世は神の国であるから、汚食なぞは成らぬ国を、余り汚して、神は此の世に居れんやうに成りたぞよ。世界の人民よ、改信致されよ。元の昔に戻すぞよ。ビツクリ箱が明くぞよ。神国の世に成りたから、信心強きものは神の御役に立てるぞよ。今迄は内と外とが立別れて在りたが、神が表に現はれて、カラも天竺も一つに丸めて、万古末代続く神国に致すぞよ。艮の金神は此世の閻魔と現はれるぞよ。 世界に大きな事や変りた事が出て来るのは、皆此の金神の渡る橋であるから、世界の出来事を考へたら、神の仕組が判りて来て、誠の改信が出来るぞよ。世界には誠の者を神が借りて居るから、漸々結構が判りて来るぞよ。善き目醒しも有るぞよ。亦悪しき目醒しも有るから、世界の事を見て改信致されよ。新たまりての世になるぞよ。今迄宜かりた所はチト悪くなり、悪かりた所は善くなるぞよ。上へお土が上る所もあるぞよ。お土が下りて海となる所もあるぞよ。是も時節であるから、ドウも致しやうが無いなれど、一人なりと改信を為して、世界を助けたいと思ふて、天地の元の大神様へ、艮の金神が昼夜に御詫を致して居るぞよ。 この神が天晴表面に成りたら、世界を水晶の世に致すのであるから、改信を致したものから早く宜く致すぞよ。水晶の神代に成れば、何事も世の中は思ふ様になるぞよ。水晶の霊魂を調査めて神が御用に使ふぞよ。身魂の審判を致して、神が綱を掛けるぞよ。綱掛けたら神は離さぬぞよ。元は神の直系の分霊が授けてあるぞよ。 是から世界中神国と神民とに致して、世界の神も仏も人民も、勇んで暮さすぞよ。神、仏事、人民なぞの世界中の洗濯致して、此世を直すぞよ。信心強き者は助けるぞよ。信心なきものは気の毒ながら御出直しで御座るぞよ。神は気を附けた上にも気を附けるぞよ。モ一ツ世界の大洗濯を致して、根本から世を立直すから、世界が一度に動くぞよ。世界には何でなり共、見せしめがあるぞよ。天地の神々のお宮を建てて、三千世界を守るぞよ。世界がウナルぞよ。世界は上下に覆るぞよ。此世は神国の世であるから、善き心を持たねば、悪では永うは続かんぞよ。金神の世になれば何んな事でも致すぞよ。珍らしき事が出来るぞよ。 ○ 明治二十七年旧正月三日 燈台下は真暗黒。遠国から判りて来てアフンと致す事が出来るぞよ。綾部は世の本の太古から、神の経綸の致してある結構な所であるから、誠の者には流行病は封じてあるぞよ。此事知りた人民は今に一人も無いぞよ。余り改信を致さんと世が治まりたら、万古末代悪の鏡と致すぞよ。出口を引き裂きに来るものも出来るぞよ。本宮坪の内出口竹造、お直の屋敷には金の茶釜と黄金の玉が埋けてあるぞよ。是を掘出して三千世界の宝と致すぞよ。黄金の璽が光出したら、世界中が日の出の守護となりて、神の神力は何程でも出るぞよ。開いた口が閉まらぬぞよ。牛の糞が天下を取ると申すのは、今度の事の譬であるぞよ。昔から未だ斯世が始まりてから無き珍らしき事であるぞよ。大地の金神様を金勝要の神様と申すぞよ。今度艮の金神が表に成るに就いて、此神様を陸地表面へお上げ申して、結構に御祭り申さな斯世は治まらんぞよ。昔から結構な霊魂の高い神様ほど、世に落ちて御座るぞよ。時節参りて煎豆にも花が咲きて上下にかへりて、万古末代続く世に成りて、神は厳しく人民は穏かになるぞよ。是を誠の神世と申すぞよ。神世になれば人民の寿命も長くなるぞよ。世界中勇んで暮す様に成るぞよ。今の人民は斯んな結構な世は無いと申して居れど、神から見れば、是位悪い世は斯世の元から無いのであるぞよ。人民と申すものは目の前の事より何も判らんから無理も無いぞよ。 ○ 明治二十九年旧十二月二日 昔の初りと申すものは、誠に難渋な世でありたぞよ。木の葉を衣類に致し、草や笹の葉を食物に致して、刃物一つ在るでなし、土に穴を掘りて住居を致したもので有りたが、天地の神々の御恵で段々と住家も立派になり、衣類も食物も結構に授けて戴く様になりたのは、皆此世を創造た、元の活神の守護で人民が結構になりたのであるぞよ。人民は世が開けて余り結構になると、元の昔の活神の苦労を忘れて、勝手気儘に成りて、全然世が頂上へ登りつめて、誠の神の思ひを知りた人民は漸々に無くなりて、利己主義の行方ばかり致して、此世を強い者勝ちの畜生原にして了ふて、神の居る所も無い様に致したから、モウ此儘にして置いては、世界が潰れて、餓鬼と鬼との世に成るから、岩戸を開かな成らん事に、世が迫りて来たのであるぞよ。邪神が覇張りて神の国を汚して了ふて、此世は真暗闇であるぞよ。神が表に現はれて、神力を現はして、三千世界を日の出の守護と致して、世界を守るぞよ。この世は一旦泥海に成る所であれども、金神が天の大神様へ御詫を申して、助けて戴かねば、世界の人民が可哀相であるから、何んでも人民を助けたさに神が永らく艱難苦労を致して居れども、知りた人民は読む程より無いので、神の経綸は延る許りであるから、此大本へ立寄りて神の御話を聞かして貰ふた人民だけなりと、改信[※三五神諭には約70ヶ所で「改信」が使われているが、校定版・愛世版では第20章a343と第22章a311の2ヶ所だけ「改心」になっている。初版では全て「改信」であり「改心」は使われていない。したがって誤字と判断し、霊界物語ネットでは「改信」に修正した。]を致して、元の水晶魂に立復りて下されよ。世が迫りて来たから、モウ何時始まるか知れんから、後でヂリヂリ悶え致しても、モウ仕様が無いから、何時迄も気を附けたが、モウ気の附け様が無いぞよ。解りた人民から改信をして下さらんと、世界の人民三分になるぞよ。 (大正一二・四・二五旧三・一〇北村隆光再録) |
|
45 (2783) |
霊界物語 | 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 | 22 三五神諭(その三) | 第二二章三五神諭その三〔一五四七〕 明治三十四年旧六月三日 斯世の行く先の解るのは、綾部の大本の竜門館でないと、何んぼ知識で考へても何程学がありたとて、学があるほど利口が出て、解りは致さんぞよ。永くかかりて仕組んだ此の大望、解りかけたら速いから、改信が一等であるぞよ。変性男子の因縁の解る世が参りて来たから、世界にある事を先繰に、前途の事を知らせる御役であるぞよ。今度は世に落ちておいでる神々を皆世に上げねばならん御役であるから、順に御上りに成るぞよ。それに就いては世に出て御いでます万の神様に、明治二十五年から申付けてあるが、是迄のやうな世の持方では行けんから、岩戸を開くに就いては、高処から見物では可けませんぞえと申して置いたが、時節が参りたから、一旦は世界に言ふに言はれん事が出来いたすぞよ。 ○ 明治三十五年旧七月十一日 永らく筆先に出して知らしてやりても、今の人民は疑強き故に真に致さぬから、此中に実地を為て見せてあるから、能く見て置かんと肝腎の折に何も咄しが無いぞよ。霊魂の調査いたして、因縁ある身魂を引寄して御用に使ふと申して、筆先に出してあらうがな。今度の二度目の天の岩戸開と申すのは、天の岩戸を閉める役と、開く役とが出来るのであるが、神の差添の種は、自己が充分苦労をして人を助ける心でないと、天地の岩戸は却々開けんぞよ。差添の種に成るのは、二十五年からの筆先を腹へ締込みて置いたら宜いのであるぞよ。此中の結構な経綸が判りて来かける程、世界から鼻高が出て来るから、筆先で何麼弁解も出来るやうに書してあるから、調戯心で参りて赤恥かいて帰るものも出来るし、又誠で出て来るものもあるぞよ。目的を立てようと思ふて出て来るものもあるし、世間に解る程忙しくなるから、此寂しく致して誠を細かう判るやうに書してあるから、他の教会とは精神が違ふと申すのぢやぞよ。世界の鏡の出る所であるから、是迄に何程云ふて聞かしたとて、余り出口を世に墜して御用が為してありたから、疑ふ者計りで、此中の行ひがチツトも出来んゆゑ、誠の教も未だ今にさして無きやうな事であるから、此の闇の世に夜の明ける教を致しても、誰も真に致さねど、もう夜の明けるに近うなりたぞよ。夜が明けると神の教通りに世界から何事も出て来るから、世界は一旦は悪なるから、喜ぶものと悲しむものとが出来るから、大本さへ信神致して居りたら善き事が出来るやうに思ふて、薩張り嘘ぢやつたと申してゐるなれど、出口の日々の願で、大難を小難にまつり替へた所で、何なりと神国の中にも夫々の見せしめは在るぞよ。是から先になりたら、斯様な事が在るのに何故知らせなんだと小言を申すなり、知らせねば不足を申すであらうし、亦知らせて遣れば色々と疑うて悪く申すし、人民の心が薩張り覆つてゐるから、善き事は悪く見えるし、悪きこと致すものは却つて今の時節は善く見えるが、全然世が逆さまであるぞよ。今の世界に立つ人は、一つも誠の善の事は致して居らんぞよ。艮金神が表に現はれて世界の洗ひ替をいたすから、是からは何事も神から露見れて来るぞよ。今の世界の落ちてゐる人民は、高い処へ土持計り致して、年が年中苦しみてゐるなり。上に立ちてゐる神は悪の守護であるから、気儘放題好き寸法。強い者勝の世の中でありたなれど見て御座れよ、是から従来の行方を根本から改正さして了ふて、刷新の世の行方に致すから、今迄に上に立ちて居りた神は大分辛う成りて来るから、初発から出口直の手と口とを藉りて、色々と世界の霊魂に申聞したら、近所の者が驚いて、出口を警察へ連れ参りた折に、警察で三千世界の大気違ひであると申してあるぞよ。それでも気違ひが何を申す位により取りては居らんぞよ。何でもない手に合ふ者ほか能う吟味を致さんのか、モチト大きな者を吟味いたして世の潰れんやうに致さねば、此儘で置いたら、警察の云ふ事共聞く者が無きやうになるぞよ。艮金神が現はれて守護をしてやらねば、神の国は此状態で置いたら、全部悪神に略取れて了ふぞよ。斯様な時節が参りてゐるに、上に立ちておる守護神が先が解らんから、岩戸を開いて先の判る世に致すから、自己の心から発根と改信を為るやうに成るぞよ。艮金神が表になると物事速いぞよ。 ○ 明治三十六年旧七月十三日 悪神の国から始まりて、大戦争が在ると申してあるが、彼方には深い大きな計画をいたして居るなれど、表面からは一寸も見えん、艮金神は日の下に経綸が致して在るぞよ。日の下は神国で結構な国ぢやと云ふ事は、判りて居れど、何を申しても国が小さいので、一呑に為ておるから、今の精神では、戦争が始まりたら神国魂が些とも無いから、狼狽て了ふぞよ。是から段々と世が迫りて来て、世界中の大戦争となりて、窮極まで行くと、悪魔が一つになりて、皆攻めて来た折には、兎ても敵はんといふ人民が、神から見ると九分まであるが、日の下はモウ敵はんと申す所で、神国魂の生神の本の性来を、出して見せて遣ると、神国魂は胸に詰りて呑めぬから悪神の守護神が、元の霊魂の力はエライものぢや、誠ほど恐いものは無いと申して、往生する所まで神国の人民は堪忍な、今度悪神が強いと見たら、皆それへ属いて了ふから、ソコデ此の本に仕組てある事を、神国の人民が能く腹へ入れて、御用を致さす身魂が二三分出来たら、其処で昔からの経綸の神が現はれて、世界を誠一つの神力で往生致さして、世界中の安心が出来るやうに致して、昔の元の神代に復すぞよ。邪神の侵略主義はモウ世が終結ぞよ。何程人民に智慧学力が在りても、兵隊が何程沢山ありても今度は人民同志の戦争でありたら、到底敵はんなれど、三千年余りての経綸の時節が来たので在るから、世界中から攻めて来ても、誠には敵はん仕組が為てあるなれど、艮金神、竜宮乙姫どの、日出の神が表はれんと、其処までの神力は見せんから、此の大本には揃ふて神力を積ておかんと如何為様にも激烈うて、傍へは寄附かれん様な事が出来てくるから、身魂を能く磨いておけと申すのであるぞよ。身欲信仰して居る人民、そこへ成りてから助けて呉れと申ても其様な人民は醜しいから、傍へは寄せ附けんぞよ。能く神の心を汲取らんと、大本は天地の誠一つの先祖の神の経綸の尊い場所で在るから、迂濶に出て来ても、チト異う所であるから、其処にならんと眼が覚めんから、眼醒しの在るまでに、腹の中の埃を出して置かんと、地部下に成るから、執念言ふて気を附るぞよ。 ○ 明治三十七年旧正月十日 艮金神稚日女岐美命が、出口の守と現はれて、変性男子の身魂が全部現れて、斯世を構ふと余り速に見透いて、出口の傍へは寄れん様に成ると申して在るが、何彼の時節が参りたから気遣ひに成るぞよ。水晶の身魂でありたら、岩戸開きの折にも安心で何も無いなれど、一寸でも身魂に曇りがありたり、違うた遣方いたしたり、混りがありたり致したら、直ぐその場で陶汰られて、ザマを晒されるぞよ。人民からは左程にないが、神の眼からは見苦しきぞよ。変性男子は大望な御役であるから、今度の御用をさす為に、神代一代の苦労がさしてありての事であるから何程でも此筆先は湧いて来るぞよ。岩戸開きの筆先と立直しの筆先とを、世が治まる迄書かすなり、斯世一切の事を皆書かせるから、何麼事も皆解りて来るから、誰も恥かしうなるから、改信いたせ、身魂の洗濯いたせよと、出口直の手で知らしてあるのを、疑うて居りた人民気の毒が出来て来るぞよ。斯世が末に成りて、一寸も前へ行けんやうになりて、変性男子と女子とが現はれて、二度目の天の岩戸を開く大望な御役であるぞよ。今迄の教は魔法の遣方で金輪際の悪き世の終りであるぞよ。 ○ 明治三十七年旧七月十二日 今の役員信者は、今度の戦争で世が根本から立替るやうに信じて、周章てゐるなれど、世界中の修斎であるから、さう着々とは行かんぞよ。今度の戦争は門口であるから、其覚悟で居らんと、後で小言を申したり、神に不足を申して、折角の神徳を取外す事が出来いたすぞよ。変性女子の筆先は信用せぬと申して、肝腎の役員が反対いたして、書いたものを残らず一所へ寄せて灰に致したり、悪魔の守護神ぢやと申して京、伏見、丹波、丹後などを言触に廻りて神の邪魔を致したり、悪神ぢやと申して力一杯反対いたして、四方から苦しめてゐるが、全然自己の眼の玉が眩んでゐるのであるから、自己の事を人の事と思うて、恥とも知らずに、狂人の真似をしたり、馬鹿の真似を致して一廉改信が出来たと申してゐるが、気の毒であるから、何時も女子に気を附けさすと、悪神奴が大本の中へ来て何を吐すのぢや、吾々は悪魔を平げるのが第一の役ぢやと申して、女子を獣類扱ひに致して、箒で叩いたり、塩を振掛けたり、啖唾を吐きかけたり、種々として無礼を致しておるぞよ。是でも神は、何も知らぬ盲聾の人民を改信さして、助けたい一杯であるから、温順しく致して誠を説いて聞かしてやるのを逆様に聞いて居れど、信者の者に言ひ聞かして邪魔を致すので、何時までも神の思惑成就いたさんから、是から皆の役員の目の醒める様に、変性女子の御魂の肉体を、神から大本を出して経綸を致すから、其覚悟で居るがよいぞよ。女子が出たら後は火の消えた如く、一人も立寄る人民無くなるぞよ。さうして見せんと此の中は思ふ様に行かんぞよ。明治四十二年までは神が外へ連れ参りて、経綸の橋掛をいたすから、後に恥かしくないやうに、今一度気を附けて置くぞよ。この大本の中の者が残らず改信いたして、女子の身上が解りて来たら、物事は箱差したやうに進むなれど、今のやうな慢心や誤解ばかりいたしておるもの許りでは、片輪車であるから、一寸も動きが取れん、骨折損の草臥儲けに成るより仕様は無いから、皆の役員の往生いたすまでは神が連出して、外で経綸をいたして見せるから、其時には又出て御出で成されよ、手を引き合ふて神界の御用をいたさすぞよ。今度の戦争で何も彼も埒が付いて、二三年の後には天下泰平に世が治まる様に申して、エライ力味やうであるが、其麼心易い事で天の岩戸開は出来いたさんぞよ。今の大本の中に唯の一人でも、神世に成りた折に間に合ふものがあるか。誤解するも自惚にも程があるぞよ。まだまだ世界は是から段々と迫りて来て、一寸も動きの取れんやうな事が出来するのであるから、其覚悟で居らんと、後でアフンとする事が今から見透いて居るぞよ。今一度変性女子の身魂を連出す土産に、前の事を概略書き残さして置くから、大切にいたして保存して置くが宜いぞよ。一分一厘違ひは無いぞよ。明治五十年を真中として前後十年の間が岩戸開きの正念場であるぞよ。それまでに神の経綸が急けるから、何と申しても今度は止めては下さるなよ。明治五十五年の三月三日五月五日は誠に結構な日であるから、それ迄はこの大本の中は辛いぞよ。明治四十二年になりたら、変性女子がボツボツと因縁の身魂を大本へ引寄して、神の仕組を始めるから、気の小さい役員は吃驚いたして、逃出すものが出来て来るぞよ。さうなりたら世界の善悪の鏡が出る大本で在るから、色々の守護神が肉体を連れ参りて、目的を立てやうといたして、又女子の身魂に反対いたすものが現はれて来るなれど、悪の企謀は九分九厘で掌が覆りて、赤恥かいて帰るものも沢山あるぞよ。今の役員は皆抱込まれて了ふて、又女子に反対をいたすやうになるなれど、到底敵はんから往生いたして改信[※三五神諭には約70ヶ所で「改信」が使われているが、校定版・愛世版では第20章a343と第22章a311の2ヶ所だけ「改心」になっている。初版では全て「改信」であり「改心」は使われていない。したがって誤字と判断し、霊界物語ネットでは「改信」に修正した。]いたしますから、御庭の掃除になりと使うて下されと、泣いて頼むやうになるぞよ。腹の底に誠意が無いと欲に迷ふて大きな取違をいたして、ヂリヂリ悶えをいたさな成らんから、今の内に胸に手を当てて考へて見るが宜いぞよ。もう是限り何も申さんから、此筆先も今度は焼捨てぬやうに後の証拠にするが宜いぞよ。何方が取違であつたか判るやうに書かして置くぞよ。盲目聾が目が明いた積り、心の聾が耳が聞える積りで居るのであるから、薩張り始末が附かんぞよ。力一杯神界の御用をいたした積りで、力一杯邪魔をいたしておるのであるから、何うも彼うも手の出し様が無いから、止むを得ず、余所へ暫くは連参りて、経綸をいたすぞよ。今の役員チリヂリバラバラに成るぞよ。 ○ 明治三十七年旧八月十日 天も地も世界中一つに丸め、桝掛ひいた如く、誰一人つづぼには落さぬぞよ。種蒔きて苗が立ちたら出て行くぞよ。苅込になりたら、手柄をさして元へ戻すぞよ。元の種、吟味致すは今度の事ぞよ。種が宜ければ、何んな事でも出来るぞよ。 (大正一二・四・二六旧三・一一於竜宮館北村隆光再録) |
|
46 (2784) |
霊界物語 | 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 | 23 三五神諭(その四) | 第二三章三五神諭その四〔一五四八〕 明治三十八年旧四月十六日 艮金神国常立尊出口の守と現れて、二度目の天の岩戸開きを致すに就いては、昔の世の本から拵へてある因縁の身魂を引寄して、夫々に御用を申付けるぞよ。今度の御用は因縁無くては勉まらんぞよ。先になりたら金銀は降る如くに寄りて来るから、さうなりたら吾も私もと申して、金持つて御用さして下されと申して出て来るなれど、因縁なき身魂には何程結構に申しても一文も使ふ事は出来んぞよ。是から先になると金銀を積んで神の御用を致さして欲しいと、頼みに来るもの計りであれど、一々神に伺ひ致してからでないと、受取る事は成らんぞよ。金銀に目を掛る事は相成らんから、何程辛くても今の内は木の葉なりと、草なりと食べてでも凌ぎて御用を致して居りて下さりたら、神が性念を見届けた上では何事も思ふやうに、金の心配も致さいでも善きやうに守護が致してあるぞよ。今が金輪際の叶はん辛いとこであるから、茲を一つ堪りて誠を立抜きて下さりたら、神が是で善いと云ふやうに成りたら、楽に御用が出来るやうにチヤンと仕組てあるから、罪穢のある金は神の御用には立てられんぞよ。 いつも筆先で気を附けてあるが、大本は艮金神の筆先で世を開くところであるから、余り霊学ばかりに凝ると筆先が粗略になりて、誠が却て解らんやうに成りて、神の神慮に叶はんから、筆先を七分にして霊学を三分で開いて下されよ。帰神ばかりに凝ると、最初は人が珍らしがりて集りて来るなれど、余り碌な神は出て来んから、終には山子師、飯綱使、悪魔使と言はれて、一代思はくは立たんぞよ。思はくが建たんばかりか、神の経綸を取違ひ致す人民が出来て来て、此の誠の正味の教をワヤに致すから、永らく気を附けて知らしたなれど、今に霊学が結構ぢや、筆先ども何に成ると申して一寸も聞入れぬが、どうしても諾かな諾くやうにして、改信さして見せるぞよ。神の申す事を反いて何なりと行りて見よれ、足元から鳥が飛つやうな吃驚が出て来るぞよ。世間からは悪く申され、神には気障と成るから、何も成就いたさずに大きな気の毒が出来るのが見透いておるから、其れを見るのが可哀相なから、毎度出口の手で神が知らせば、肉体で出口直が書くのぢやと申して御座るが、茲暫く見て居りたら解りて来て、頭を逆様にして歩かんならん事が出来するぞよ。誰も皆帰神で開きたいのが病癖であるから、一番にこの病癖を癒して遣るぞよ。心から発根と癒せば宜いなれど、如何しても肯かねば激しき事をして見せて眼を開けさしてやるぞよ。狐狸野天狗などの霊魂に嘲弄にしられて、夫で神国の御用が出来ると思ふのか。夫でも神国の人民ぢやと思ふて居るのか。畜生の容器にしられて夫を結構と思ふのか、神界の大罪人と成りても満足なのか。訳が解らんと申しても余りであるぞよ。斯うは言ふものの是の霊魂は何時も申す通り、世界一切の事が写るのであるから、此大本へ立寄る人民は是の遣方を見て、世界は斯んな事に成りておるのかと改信を為るやうに、神からの身魂が拵へて在るのであるから、誤解をいたさぬやうに御庇を取りて下されよ。他人が悪い悪いと思ふて居ると、全部自己の事が鏡に映りておるのであるから、他人が悪く見えるのは、自己に悪い所や霊魂に雲が掛りて居るからであるから、鏡を見て自己の身魂から改信いたすやうに、此世の本から御用の霊魂が拵へてありての、今度の二度目の天の岩戸開きであるから、一寸やソツトには解る様な浅い経綸でないから改信いたして身魂を研くが一等であるぞよ。世の本の誠の生神は今迄は物は言はなんだぞよ。世の替り目に神が憑りて、世界の事を知らせねば成らぬから、出口直は因縁ある霊魂であるから、憑りて何事も知らせるぞよ。世が治まりたら神は何も申さんぞよ。狐狸や天狗ぐらゐは何時でも誰にでも憑るが、この金神は禰宜や巫子には憑らんぞよ。何程神憑に骨を折りたとて、真の神は肝腎の時でないと憑らんぞよ。何も解らん神が憑りて参りて、知つた顔を致して種々と口走りて、肝腎の仕組も解らずに、天の岩戸開の邪魔をいたすから、一寸の油断も出来んから、不調法の無いやうに気を附けてやるのを、野蛮神が何を吐す位により解りて呉れんから、誠の神も苦労をいたすぞよ。神懸で何も彼も世界中の事が解るやうに思ふて居ると全然量見が違ふぞよ。神の申す中に聞いて置かんと、世間へ顔出しが出来んやうな、恥かしき事が出来いたすぞよ。この神一言申したら何時になりても、一分一厘間違はないぞよ。髪の毛一本程でも間違ふやうな事では、三千年かかりて仕組んだ事が水の泡になるから、そんな下手な経綸は世の元から、元の生神は致して無いから、素直に神の申す事を肯いて下されよ。世界の神、仏事、人民を助けたさの永らくの神は苦労であるぞよ。誰に因らず慢心と誤解が大怪我の元と成るぞよ。 ○ 大正元年旧八月十九日 大国常立尊が天晴表面になりて守護にかかると、一旦は神の経綸通りに致すから、改信致して神心に成りて居らんと、これから、人気の悪い所は何処でも飛火がいたすから、今度は是迄の見苦しき心を全然捨てて了ふて、産の精神に成りたらば、安全な道が造り替へてあるから、霊魂を研いて善い道へ乗り替へるやうに仕組んであれども、霊魂に曇りが在りては善い道へ乗替へたとて、辛うて御用が出来んから、発根の改信、腹の底からの改信でないと、誠の御用は出来んぞよ。竜宮様を見て皆改信をいたされよ。昔から誠に欲な見苦しき御心で在りたなれど、今度の天の岩戸開には欲を捨てて了はねば、神界の御用が勤まらんといふ事が、一番に早く御合点が参りたから、竜門のお宝を残らず艮金神に御渡し遊ばして、活溌な御働きを神界で一生懸命になりて、力量も充分に有るなり、此の方の片腕に成つて、今度の天の岩戸開の御用を遊ばすから、他の守護神も竜宮様の御改信を見て、一日も早く自己の心の中を考へて改信なされよ。大国常立尊が今表になりた所で、神界の役に立てる霊魂は一つも無いが、能くも是だけ曇りたものであるぞよ。もう神は構はんから、何彼の事を急速にいたして後の立直しに掛らんと、世界中の大事であるから、解らぬ守護神に何時までもかかりて居りたら、世界の人民が皆難渋をいたして、往きも戻りも成らんやうに成りて、戦争も済みたでも無し、止めも刺さん事になりて、世界中の大難渋と成るから、是迄耳に蛸が出来る程注意てあるが、何彼の時節が迫りて来て、動きもにじりも出来ん事に世界中が成るから、諄う守護神人民に気を附けるぞよ。 神国の人民に元の神国魂が些とありたら、茲までの難渋は無いなれど、誠一つの御魂により明されず、肝腎の事を任して為せる事も出来ず、テンで経綸が解りて居らんから、神が使ふ身魂が無いぞよ。此の方が世界中の事をいたさなならんから、何彼の事が一度になりて忙しうなると申すことが、毎度筆先で知らしてあらうがな。艮に成りたら神霊活機臨々発揮日月と現はれて、三千世界の艮を刺すぞよ。其折りに間に合ふやうに、早うから有難がりて、大本へ来て辛い修行をして居りても、肝腎の処が能く解りて居らんと、善い御用は出来んぞよ。何うなりとして引着いて居りたら、善い御用が出来ると思ふて居ると、大間違であるぞよ。艮金神が初発から一言申した事は一分一厘違はんぞよ。途中から変るのは矢張り霊魂に因縁が無いのぢやぞよ。因縁のある身魂は截りても断れん、如何な辛い目をいたしても左程苦しい事は無いぞよ。因縁性来と申すものは、エライものであるぞよ。それで今度は因縁の在る身魂が集りて来て、辛い辛抱をいたして、天地の光を出して呉れんならん。変性男子と変性女子との身魂を、茲まで化して神の御役に立てるぞよ。変性男子と女子の身魂が誰も能う為ぬ辛抱をいたして、此世には神は無きものと、学で神力をないやうに仕て居りたのを、此世に神が有るか無いかと云ふ事を、三千世界へ天晴と天地の神力を表はせて見せて、此の先は神力の世に致すから、是からは学力で、何麼事を致しても、世の本の根本の生神の神力には敵はんから、今の中に悪神のエライ企みを砕いて了ふから、一日も早く往生いたすが得であるぞよ。 今度の戦争は人民同志の戦争ではないぞよ。国と国、神と邪神との大戦争であるから、悪神の策戦計画は人民では誰も能う為ん仕組であれど、世の本の生神には敵はんぞよ。充分戦ふた所で金の要るのは程知れず、人の減るのも程は判らんぞよ。けれども出かけた船ぢや。何方の船も後方へは退けんから、トコトンまで行くぞよ。今迄の悪の守護神よ、神の国を茲までに自由にいたしたら、是に不足はもう在ろまいから、充分に敵対うて御座れよ。神力と学力との力較べの大戦争であるから、負たら従うて遣るし、勝つたら従はして、末代手は出しませぬと申すとこまで、往生をさせてやるぞよ。何程学力がエラウても、神力には勝てんぞよ。大きな見誤ひを為て居りたと云ふ事が後で気が附いて、死物狂を致さうよりも、脚下の明い中に降伏致す方が宜いぞよ。永引く程国土はチリヂリと無く為りて了ふぞよ。邪神の企謀は何麼計略も為てゐるなれど、悪では此世は立ては行かんぞよ。神の経綸は善一つの誠実地の御道に造り代へてあるから、気の附いた守護神は、善の道へ立帰りて安心なされよ。悪の身魂は平げて了ふから、早う覚悟を致さんと、もう一日の日の間にも代るから、是迄のやうに思ふておると、みな量見が違ふぞよ。毎度出口直に兵糧をとつて置かねば成らんといふ事が、諄う申して在らうがな。米が有ると申して油断をいたすで無いぞよ。人民は悧巧なもので在るなれど、先のチツトモ解らんもので在るから、筆先で何も知らすから、此筆先を大切にいたさんと、粗末にいたしたら、其場で変るやうに厳しくなるぞよ。この筆先は世界の事を、気もない中から知らしてあるから、疑うておると後で取返しの出来ん事になるぞよ。後の後悔は間に合はんぞよ。 ○ 大正三年旧七月十一日 大国常立尊が表に現はれて日出の守護となるから、人民が各自に力一杯気張りて為て来た事が、皆天地の神から為せられて居りたと申す事が、世界の人民に了解る時節が参りて来たぞよ。日出の守護になると変性男子の霊魂が、天晴世界へ現はれて次に変性女子が現はれて、女島男島へ落ちて居りた昔からの生神ばかりが揃うて天晴世に現はれて、この泥海同様の世界へ水晶の本の生神が揃うて、三千世界の岩戸開を致すから、天地の岩戸が開けて松の世、神世と相成るぞよ。綾部の神宮坪の内の本の宮は出口の入口、竜門館が高天原と相定まりて、天の御三体の大神が天地へ降り昇りを為されて、この世の御守護遊ばすぞよ。この大本は地からは変性男子と変性女子との二つの身魂を現はして、男子には経糸、女子には緯糸の意匠をさして、錦の旗を織らしてあるから、織上りたら立派な模様が出来ておるぞよ。神界の意匠を知らぬ世界の人民は色々と申して疑へども、今度の大事業は人民の知りた事では無いぞよ。神界へ出てお出ます神にも御存知の無いやうな、深い仕組であるから往生いたして神心になりて神の申すやうに致すが一番悧巧であるぞよ。まだ此先でもトコトンのギリギリ迄反対いたして、変性女子を悪く申して、神の仕組を潰さうと掛かる守護神が、京、大阪にも出て来るなれど、もう微躯とも動かぬ仕組が致して神が附添うて御用を為すから、別条は無いぞよ。変性女子の霊魂は月と水との守護であるから、汚いものが参りたら直に濁るから、訳の解らぬ身魂の曇りた守護神は傍へは寄せんやうに、役員が気を附けて下されよ。昔から今度の天の岩戸開の御用致さす為に、坤に落してありた霊魂であるぞよ。此者と出口直との霊魂が揃ふて御用を致さねば、今度の大望は、何程悧巧な人民の考へでも物事出来は致さんぞよ。此大本は世界に在る事が皆映るから、大本に在りた事は大きな事も小さい事も、善き事も悪しき事も、皆世界に現はれて来るから、変性女子をねらふものが是からまだまだ出来て来るから、確りと致して居らんと此中は治まらんぞよ。大事の仕組の身魂であるから、悪の霊がねらひ詰めて居るから、何処へ行くにも一人で出す事は成らんぞよ。変性女子は人民からは赤ン坊なれど、神が憑りたら誰の手にも合はん身魂であるぞよ。昔の元から見届けてありての、今度の大望な御用がさして在るぞよ。人民は表面だけより見えんから、何時も大きな取違ひを致すが、是も尤もの事であるぞよ。永らく大本へ来て日々御用に使はれておるものでも、女子の事は取違ひ致して、未だに反対致しておる位であるから、何にも聞かぬ世界の人民が取違ひをいたすのは、無理も無いぞよ。斯う申すと亦訳の解らぬ守護神の宿りてゐる肉体の人民が、肉体心を出して、出口は変性女子に抱込まれて居ると申すであらうが、其様な事の解らぬ艮金神出口直でありたら、三千年余りての永らくの苦労が水の泡に成るから、滅多に見違ひはいたさんぞよ。人民の智慧や学や考へで判るやうな浅い仕組は致してないぞよ。何方の身魂が一つ欠けても、今度の経綸は成就いたさんのであるから、世の本の根本から仕組て、色々と化かしてをれば、自己の霊魂が汚いから、竪からも横からも汚う見えるのであるぞよ。変性男子の身魂も変性女子の身魂も、三千世界の大化物であるから、霊魂に曇りの有る人民には見当が取れんぞよ。此大化物を世界へ現はして見せたら、如何に悪に強い守護神も人民も、アフンとして吃驚いたして、早速には物も能う言はん事が出来するぞよ。昔の根本の世の本から末代の世まで、一度あつて二度ないと言ふやうな、大望な神界と現界の岩戸開きであるから、アンナものがコンナものに成りたと申す経綸であるから、人民では見当は取れん筈であれども、改信いたして神心に立復りた人民には、明白に能く判る仕組であるぞよ。世の変り目には変な処へ変な人が現れて、変な手柄をいたすぞよと、明治三十一年の七月に筆先に書いて知らしてありたぞよ。時節が近寄りたぞよ。 (大正一二・四・二六旧三・一一於竜宮館北村隆光再録) |
|
47 (2870) |
霊界物語 | 63_寅_伊太彦の物語 | 19 仕込杖 | 第一九章仕込杖〔一六二六〕 イク、サールの両人は伊太彦の路傍の石に腰打掛、俯向いてる姿を見て、月影にすかし乍ら、 イク『貴方は旅人とお見受け申しますが、一寸物をお尋ね申します。天女のやうな綺麗な綺麗な姫様が犬を連れてお通りになつたのを御覧になりませぬか』 伊太彦はハテ不思議な事を尋ねるものだと思ひ乍ら、二人の顔をツラツラ眺めて、 伊太『イヤさう聞く声は何だか聞き覚えがあるやうだ。拙者は三五教の宣伝使、伊太彦と申すもの、左様なお方はお通り遊ばしたのは見た事は厶らぬ』 サール『やアお前は伊太彦さまぢやないか。清春山の岩窟では随分管を捲いたものだな、其後玉国別さまに跟いてハルナの都へ進まれた筈だが、まだ斯んな処へ迂路ついて厶つたのか』 伊太『うん、君はイク、サールの両人だな。これはこれは珍らしい処で会ふたものだ。そして又初稚姫様の後を何処迄も慕うて行く考へかな。初稚姫様がよくまアお伴を許された事だな』 サール『何と云つてもお許しが無いものだから、強行進軍と出掛け、見えつ隠れつ、後になり前になり、ここ迄ついて来たのだが、エルの港からサツパリお姿を見失ひ、前になつてるのか、後になつてるのか分らぬので心配してるのだ』 伊太『あ、さうだつたか。拙者も初稚姫様に一度会つてお礼を申し度いのだが、あの方は神様だから変幻出没自在、何方へおいでになつたか皆目分らぬのだ。まアゆつくり一服し玉へ。まだ此阪道は随分あるさうだから、慌た処で仕方がない。チツとは人間の身体も休養が大切だ。休んでは歩き、休んでは歩きする方が、身体の為にも何程よいか分らないよ』 イク『久し振りに伊太彦さまに面会したのだから、先づ此処で、ゆつくりと話して行かうぢやないか』 サール『久振りだと云ふけれど、スマの関所でお前が宿屋をやつて居た時に入口に守衛然と控へて居つたぢやないか。云はば伊太彦司等の救ひの神さまだ』 イク『成程、あの時に伊太彦司も居られたのかな。あまり沢山のバラモン軍で見落して居たのだ。そして初稚姫様に叱られるものだから、スマの里を一目散に駆け出し姫様を待ちつつ、彼方此方とバラモンの泥棒を言向和して来たものだから今になつたのだが、伊太彦さま、之から三人一緒にハルナの都へ行かうぢやないか。どうしたものか姫様はハルナへ行かずに、エルサレム街道の方へ足を向けられたものだから、跟いて来たのだが一体どうなるのだらうな』 伊太『神様のなさる事は到底吾々には分らないよ。吾師の君の玉国別様だとて、テームス峠を向ふへ渡り、直にハルナに行かれる都合だつたが、いろいろ神様の御用が出来たり、事件が突発して、何者にか引かるる様に此方へおいでになつたのだ。之も何かの神様の御都合だらう。然し乍ら三人一緒に行く事は到底出来ない。宣伝使は一人と定つてるさうだから初稚姫様も伴をつれないのだ。それで私も玉国別の師匠から途中から、突放されて一人旅をやつてゐるが、一人旅は辛いものの又便利なものの気楽なものだ。何は扨て置き、神様の命令だから君等と一緒に行く事は出来ないわ。何れエルサレムで一緒にお目にかからうぢやないか』 イク『それでも照国別、治国別、黄金姫様等は一人でおいでになつたのでは無からう。あの方々はどうなるのだ』 伊太『それも何か御都合のある事だらう。俺等には解らないわ』 サール『おい、イク、そんな事云ふ丈け野暮だよ。初稚姫様は只一人おいでになつたのも独立独歩、一人前の宣伝使になられたからだ。黄金姫、清照姫が二人連れで行つたのは、半人前づつの二つ一で行つたのだよ。其外の宣伝使は皆三人連れ四人連れだからまア三分の一、四分の一の人間位なものだ、アツハヽヽヽ』 イク『さうすると伊太彦さまは偉いぢやないか。到頭一人前になられたと見えるわい。俺等も二つ一かな』 サール『きまつた事だよ。二人に一つの玉を頂いて居るのを見ても分るぢやないか』 イク『それでも伊太彦さまは一人でゐ乍ら玉がないぢやないか。そりや又どうなるのだ』 サール『改心の出来たお方は心の玉が光つてるのだから、形の上の玉は必要ないのだ。玉を持つて歩かなくちやならぬのは、ヤツパリ何処かに足らぬ処があるのだ。夜道が怖いと云つて仕込杖を持つて歩くやうなものだ。なア伊太彦さま、さうでせう』 伊太『さう聞かれるとお恥かしい話だが、実の所はスーラヤ山の岩窟に入り、ウバナンダ竜王の玉を頂いて此処に所持して居るのだ。ヤツパリ私も仕込杖の口かな』 サール『ヤア其奴ア不思議だ。あの八大竜王の中でも最も険難な所に棲居をしてゐる死の山と聞えたスーラヤ山へ駆け上つて玉をとつて来るとは豪気なものだ。そして其玉は今持つて居られるのか。一つ見せて貰ひ度いものだな』 伊太『ヤア折角だが神器を私する訳には行かぬ。丁寧に包んで懐に納めてあるのだから、エルサレムに行つて言依別の神様にお渡しする迄は拝む事は出来ないのだ。そしてお前達の持つて居る玉と云ふのは誰から頂いたのだ』 イク『勿体無くも日出神から直接に拝戴したのだ。此玉のお蔭で沢山な泥棒にも出会ひ、色々の猛獣の原野を渡り、大河を越えて無事で来たのも、此水晶玉の御神徳だ。伊太彦さまが玉が大切だと云へば、此方も大切だ。絶対的に見せる事は出来ませぬわい』 伊太『それでは仕方がない、売言葉に買言葉だ。自分の玉を隠しておいて、人の玉を見せろと云ふのが此方の誤謬だ。さアここで別れませう。エルサレムに行つて何れ十日や二十日は吾師の君も御修業遊ばすから、其間には一緒になるであらう。左様なら』 と伊太彦はスタスタと下り行く。 二人は伊太彦の言葉に従ひ後をも追はず、ゆつくりと路傍の岩に腰打掛け話に耽つてゐる。 イク『おい、サール、伊太彦が松彦に捕へられ、清春山の岩窟にやつて来た時は随分面白い奴だつた。滑稽諧謔口を衝いて出ると云ふ人気男が、あれ丈けの神格者にならうとは予期しなかつた。何と人間と云ふものは変れば変るものぢやないか。吾々二人は初稚姫様のお伴も許されず、日蔭者となつて、斯う春情のついた牡犬が牝犬を探すやうに後を嗅つけてやつて来たものの公然とお目にかかる訳にも行かず、ハルナの都へ行つてから、「不届きな奴だ、何しに来た」と叱られでもしたら、それこそ百日の説法屁一つにもならない。何とか立場を明かにせなくては、「名正しからざるは立たず」とか云つて、マゴマゴして居ると其処辺四辺の奴に泥棒扱ひをされて、其上虻蜂とらずになつては詮らぬぢやないか』 サール『何、神様は心次第の御利益を下さるのだから、吾々の真心が姫様に通らぬ道理が何処にあらう。姫様は千里向ふの事でも御承知だから、自分等が斯うして跟いて来るのも御承知だ。之を黙つて居られるのは表面は何とも云はれないが、実は跟いて来いと言はぬ許りだ。そんな取越苦労はするな。さア行かうぢやないか』 イク『道の辺に憩ふ二人は尻あげて またもや先へ行かうぞとする』 サール『此場をばサールの吾は何処へ行く 蓮花咲くハルナの都へ。 今先へ一人伊太彦宣伝使 逃げるやうにして玉抱へ行く』 イク『泥棒のやうな顔した吾々を 恐れて逃げた伊太彦司』 サール『馬鹿云ふな此世の中に住む奴は 皆泥棒の未製品なる』 イク『バラモンの軍の君に従ひて 泥棒稼ぎし吾等二人よ』 サール『そんな事夢にも云ふて呉れるなよ 吾等は最早神の生宮。 泥濘の泥の中より蓮花 咲き出づる例あるを知らずや』 イク『蓮花如何に清けく匂ふとも 散りては泥の埋草となる。 一度は祠の前で咲き充ちし 蓮なれども今は詮なし。 神の道聞く度毎に村肝の 心の垢の深きをぞ知る。 吾胸にさやる黒雲吹き払ひ 照らさせ玉へ水の光に。 伊太彦の神の司を規範として 魂研かまし道歩みつつ』 二人は半時ばかり経つて又もや宣伝歌を謡ひ乍ら足拍子をとり下り行く。 『月の国にて名も高き百の花咲き匂ふなる ハルセイ山の大峠三日三夜をてくついて 漸くここに来て見れば思ひも寄らぬ三五の 伊太彦司が道の辺に旅の疲れを休めつつ 眠らせ玉ふ不思議さよ思へば思へば恥かしや 高春山の岩窟に伊太彦司と諸共に 酒酌み交はし夢の世を酔ふて暮せし吾々も 心の駒を立て直し祠の森に屯して 珍の宮居の神業に仕へまつりし嬉しさよ 初稚姫の御後をば慕ひてここ迄来て見れば 姫の姿は雲霞行衛分らぬ旅の空 大空渡る月見れば雲の御舟に乗らせつつ 西へ西へと進みますハルナの都に姫様が 進ませ玉ふと聞きつれど月の御後を従ひて 一旦珍のエルサレム進ませ玉ふが天地の 誠の道に叶ふのか思へば思へば神様の 遊ばす事は吾々の曇りきつたる魂で 測り知らるる事でない只何事も惟神 誠の道を一筋に行く処までも行つて見よ 神は吾等と共にあり人は神の子神の宮 いかでか枉の襲はむと教へ玉ひし御宣言 頸に受けて逸早く水晶の玉を守りつつ 伊太彦司の後を追ひいざや進まむエルサレム 守らせ玉へ天地の皇大神の御前に 慎み祈り奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 誠の道は世を救ふ誠一つの三五の 道行く吾は惟神月の御神の後追ふて 神の集まるエルサレム黄金花咲く神の山 黄金山に参上り橄欖樹下に息休め 神の恵の涼風に心の塵を払ふべし 進めや進めいざ進め勝利の都は近づきぬ 深き恵にヨルダンの川の流れに御禊して 生れ赤子となり変り初稚姫の御許しを 受けて尊き神司栄えに充てる御顔を 伏し拝みつつツクヅクとエデンの川を舟に乗り フサの入江に漕ぎ出して何のなやみも波の上 ハルナの都へ進むべし勇めよ勇めよよく勇め 神は吾等と共にありあゝ惟神々々 御霊の恩頼を玉へかし』 かく謡ひ乍ら、イク、サールの両人はハルセイ山の西阪を勢込んで下り行く。 (大正一二・五・二九旧四・一四於天声社楼上北村隆光録) |
|
48 (2886) |
霊界物語 | 64_上_卯エルサレム物語1 | 10 追懐念 | 第一〇章追懐念〔一六三九〕 その翌日も亦、スバツフオード及びマリヤと共にブラバーサは自動車を雇つて、死海、ヨルダン、エリコ等の地方見物に出かけたりける。 ジヤツフアの門からダマスカスの門、ヘロデの門の前を通つてキドロンの谷からエリコの道へと出た。自動車がしばらく走ると、橄欖山の東南ベタニヤの村を通る。ベタニヤはアラブの名ではエル・アザリエと云つて居る。この名はラザロから来たので、アラブはラザロのLを冠詞と認めて省略したのだといふことである。ラザロは回教徒の間に於ても聖者として尊敬されて居るのである。ベタニアの村はキリストに関する種々の美しい物語で充ちて居て、その名を聞いただけでも心が暖かく成つて来る。癩者シモンの家、そこで昔マグダラのマリヤがキリストの足を涙にて湿し、頭髪を以てぬぐひ香油をこれに塗つた。マルタ、マリヤの姉妹の家も爰にあつたと云ふ。ラザロが死後四日を経て蘇へらせられた所も亦ここで在つたといふ。今はミゼラブルな四五十の回教徒の家が、其処此処に散在して居るに過ぎないのである。 三人は下車してラザロの墓やシモン、マルタ、マリヤの家の廃趾と称せられて居るものを見物した。ラザロの墓と云はれて居るものは非常に大規模なもので、滑りさうな階段を地下へ向かつて二十二段も下つて行かねばならぬ。内部は穴蔵のやうに真つ暗で、持つて行つた蝋燭で照して見なければ成らなかつた。丁度桶伏山麓の神苑内の地下の修行室をブラバーサは思ひ出さずには居られ無かつた。村のアラブの子供等が「バクシツシユ」(小銭のこと)と叫びながら、車の周囲に群がつて来てブラバーサ一行の興を醒ますのであつた。 ベタニアの南でこれに対して居る丘の上にベツフアージエの村がある。ここで使徒たちがキリストの指示のままに木につながれた一頭の牡の驢馬を見付け、キリストはそれに乗つて都へのり込んだと伝ふる所である。 ベタニアを出て少しばかり歩むと、路傍に小さいチヤペルが建つて居る。馭者は主を迎へに来たマルタが爰で彼に逢つた所だと説明する。道は段々と谷に下つて行く。到る処岩の山ばかりで薄く覆はれた土は橄欖は勿論灌木や草類さへも生じない。自然は全く死んだ様でその光景は物すごい位である。所々に駱駝の群が飼放しにしてあるのは、今まで他所で見受けなかつた光景である。マリヤはよくエルサレムと聖者キリストとの関係を熟知せるものの如く、頻りに新約の文句を引出して説明して居る。 三人はエリコとエルサレムとの中間まで出て来た。道路は再び上り坂となる。自然は全く荒れ果てて居て、生物らしきものは何一つ見当らない。伝説によれば良きサマリア人の話は此あたりだとか、小山の頂にサマリア人の旅宿と名の付いた、小さい建物のルインが寂し気に立つて居る。 それより前は道路が山々の中腹を縫ふて死海の谷へと急転直下するばかりである。道で時々羊の群に逢つた。その群の中には、今生れたばかりの二三匹の羊の児を荒いメリケン粉の袋に入れて、背負はされた驢馬が交つて居るのは、何となく可憐な光景であつた。下の方に時々谷の木の間から死海の面が輝いて見えて来る。 三人は遂にヨルダンの谷に下つた。両側の山は削つた様に屹立して居るが、中は広々として居て、これが地中海面以下四百メートルの谷底にあるとは到底受けとれない位である。葦草が所々に生えて泥路と砂地の中を死海の浜へと向かつた。野生の鶴や放ち飼の駱駝に途々出会ふ。 浜に近く塩を採るための水溜りがあつて、端には真白の結晶が附着して居る。そして二三の見すぼらしいアラブの小屋が荒い砂の上に立つて居るばかりで、驢馬や駱駝の縛ぎ場になつて居るので恐ろしい程不潔で厭な臭気が鼻を突く。水面は全く波浪なく朝の麗かな日光にかがやいて居て、死海と云ふ恐ろしい名称は応はしく無いやうに思はれる。水には強度の混和物が在るために多少の濁りを帯びて居る。水を指頭につけて味はつて見ると強烈な苦みがかつた塩辛い鉱物質を含蓄して居る。鉱物質の割合は百分の二十四乃至二十六で塩分は百分の七だと云ふことである。水が重いので泳がうとしても、身体が全部水面に浮かみでて了つて泳ぐことが出来ぬのである。生卵子でも三分の一は水面に浮かみ出ると云ふ事である。死海の水は一種の滑かな膚ざはりを与へるが、容易に一旦人の身に触れた以上は塩気が離れないので気持が悪い。 三人はそれよりヨルダン河へと向かつて進んだ。広い平野は一面に黒ずんだ土で、一見した処非常に豊饒らしく思はれるが、土地は含まれて居る塩分のために全然不毛の地となつて耕作物は駄目なのである。 しばらくあつて三人は、身の丈以上もある葦の中をすれずれに通りながらヨルダンの河畔マハヂツト・ハヂレと云ふポプラや柳の生えて居る渡船場の様な場所に到着した。細い木の枝を組合せ葦で屋根をふき、湿気を防ぐため細い材木で一丈ばかりを床を高め、梯子様の階段でのぼつて行くやうにした南洋風の土人の原始的の小屋と木蔭に旅客の休憩のため二三のベンチとがある。イタリー語を話すスペイン人の二三のフランチエスカンの坊さまが、そこで休憩して居た。今日は日曜日の事とて、朝早くからここへ来て野天でメスをしましたと話して居た。 木立ちの下から河の水面が見える。平常から濁つて居る筈の水は昨日の大雨のために猶更黄色になつて居た、水量は多くして併も流れは急である。有名なのに似気なく小さいと聞いて居た通りで、河の幅は一百尺前後の程度である。ここは巡礼の人々の浴場になつて居てキリストが洗礼者のヨハネから洗礼を受けられた所と伝へられて居る。昔のキリスト教徒の間にはヨルダン河で洗礼を受ける事を非常に大切な事とし、多勢の巡礼者はアラブの案内者に引率されて羊の群の様にヨルダンの谷をここ迄下つて来たものである。それから当時この場所は河岸が大理石でおほはれて居たと云ふことだ。 馭者は特にロシアよりの巡礼者の敬虔な態度に就いて話した。彼等は所在窮乏を忍んで茶とパンとのみで旅行を続け、その持つて来た金を全部寺々に捧げて了ふのだと云ふ。ブラバーサはエルサレムの方々の寺でロシア人の奉献したと云ふ金銀や宝玉づくしの聖母の像を見受けた事を思ひ出して、高砂島の聖地に於ける信者の態度に比較し長大嘆息を禁じ得ないので在つた。三千世界の救世主厳の御魂瑞の御魂の神柱に現在に面会の便宜ある高砂島のルートバハーの信徒の態度は、このロシア人の信仰に比べては実に天地霄壤の差ある事を深く嘆じたのである。ヨルダン河及び死海から程遠からぬ所にエリコがある。現在のものは旧新約時代のエリコとは違つてゐる。是から多少ヨルダンの中央部の方へ離れて居る。見すぼらしい小さい村落で、土人の家屋と質素な教会やモスクが二三見えるばかりである。谷底に位して居るので気温は非常に高く、蒸し暑く植物は皆准熱帯的のものである。無花果や棗や芭蕉実の外、黄色の香りの良いミモザが咲き頻つて居る。 三人は新エリコの村落を通つて西方の山の近くの発掘された新約のエリコを見に行つた。爰にヘロデ王が其宮殿を建てたとの話がある。その一角は今より十余年前ドイツ人の手によつて発掘されて居た。旧約のエリコの所在は其処とは違つて、現在のエリコから東北の方徒歩二十五分ばかりの所にある。 エリコからエルサレムの方角の断崖になつて居る岩山の眺望は物すごい様である。中腹にギリシヤ正教の一僧院が建つて居る。その背後の山はそこでキリストが悪魔の誘惑を受けた所から「誘惑の山」と云ふ名が付いてゐる。四十日四十夜の断食の荒野もこの先の方にあると馭者の話しであつた。 三人は帰路についた途中、橄欖山の麓にあるゲツセマネの園と聖母の寺とを訪れて見た。ゲツセマネの園は三方が道で囲まれ不規則な四角形を為し、厚い石壁を以て囲らされて居てフランチエスカンの所有に成つてゐる。ここを新約のゲツセマネと定めたのは四世紀以前のことだと云ふ。門の外には自然の岩の頭が地上に現はれてゐてその上でペテロ、ヤコブ及びヨハネが眠つたのだと伝へられてゐる。園内には非常に古い数本の橄欖の老樹が植わつて居て、その時からの物だと云われてゐる。橄欖樹は人間が触れさへしなければ幹が枯れた後でも、其根から新しい芽生が出て斯して世紀から世紀へと生延びると云ふ事であるから、この伝説は或は事実に近いものかも知れない。其他ユダがキリストに接吻した地点まで明示されて居る。エルサレムや橄欖山の地位からしてゲツセマネの園が此辺りに在つたことは事実らしい。併し七十歩四方ばかりの狭い土地を重くるしい石垣で囲んで其中を墓地のやうに、また近代的の庭園のやうに飾つて是をゲツセマネの園と為すことは、無限の大きさと深さを持つたものを無残にも限り有るものの中に閉ぢ込めて置くことは実に残念である。ブラバーサは凡ての在来の法則を破つて霊のみで画かれた様なロンドンのナシヨナル・ガラリーにあるエル・グレコの筆を思ひ浮かべて、此の物足りない感じを補つて居た。 聖母の寺はゲツセマネの園に対して居る紀元五世紀以来存在してゐる古い寺院である。その主要部分は地下に成つて居て大理石の階段を四五十下つて行くとマリアの棺、その両親の棺、ヨセフの墓、キリストの血の汗を流された場所等がある。 ケドロンの谷をシロアムの村の方へ少しばかり下ると、山の麓に奇妙な三つの建築物が並んで居てアラブが住んでゐる。 ブラバーサは初めて此の地に来たり、親切なるアメリカンコロニーの人々に沢山の聖書上の由緒ある場所を案内され満足の態であつた。アヽ聖地エルサレムそれは学者とパリサイ人の都、死せる儀礼の中枢また死海及びヨルダン、それは荒野に叫ぶ洗礼者ヨハネの国すべてが単調で乾き切つて死んで居る国、ルナンをして世界に於て最も悲しき地方と云はしめたエルサレムの近郊よ。一時も早くキリストの再臨を得てこの聖地を太古の光栄の都に復活し、神政成就の神願を達成せしめ度きものであるとブラバーサは内心深く祈願を凝らしつつ一先づ三人はアメリカンコロニーへと帰り行く。 その翌日又もやブラバーサはマリヤに案内されて、湖の水清き山々に翠の影濃く美しく花咲き小鳥の声の絶えない自然全体が笑つて居る、さうして其湖のほとりでキリストが黙想し祈祷し且つ教を垂れられたガリラヤの地へと進んだ。エルサレムとガリラヤ、それはキリスト教の示す二元主義の象徴である。死を経験すること無しに生の恩恵は分らない、律法に依りて死し信仰によりて生ること、この転換こそ宗教そのものの奇蹟的力であるべきものなり。 (大正一二・七・一一旧五・二八加藤明子録) |
|
49 (2912) |
霊界物語 | 64_下_卯エルサレム物語2 | 06 金酒結婚 | 第六章金酒結婚〔一八一二〕 守宮別はお花と共に、お寅の霊城を逃げ出し七八町来た横町のカフエーに入り、此処迄落ち延びれば先づ安心と、コツプ酒をきこし召すべく、嫌がるお花の手を引いて無理に奥座敷へ通り、 守宮別『オイ、女房、イヤお花、肝腎の祝言の盃の最中に、お寅の極道が帰つてうせたものだから、恰度百花爛漫と咲き匂ふ花の林に、嵐が吹いたやうなものだつた。殺風景極まる。折角お前の注いで呉れた酒を膝の上に澪して仕舞ひ、気分が悪くて仕様が無いから、改めて此処で祝言の心持で一杯やらうぢやないか』 お花『如何にも、妾だつて貴方の情のお汁のお神酒があまり慌てたものだから皆口の外に溢れて仕舞ひ、三分の一も入つてをりませぬわ。ここ迄来れば大丈夫です。悠くりとやりませうか。一生一代のお祝ですからなア。併しお寅さまが後追つかけてでも来たら、一寸困りますがなア』 守宮別『ナアニ、尻餅ついて気絶して居るのだもの、滅多に来る気遣ひは無い。もし来たつて何んだ。夫婦が盃をして居るのにゴテゴテ云ふ権利もあるまい。そんな事に心配して居ては悪魔の世の中だ、一日もぢつとして居られ無い。神様のお道もお道だが、人間は衣食住の道も大切だから、吾々も夫れ相当にやらねばならぬからなア』 斯く話して居る所へカフエーの給仕が真白のエプロンを掛け、コーヒーを運んで来て、 女中(給仕)『モシお客さま、何を致しませうかなア』 守宮別『ウン、先づ第一にお酒を一本つけて呉れ。さうして鰻の蒲焼に鯛の刺身、淡泊した吸物に猪口を一つ手軽う頼むよ』 女中『芸者はお呼びになりませぬか、何なら旦那さまに適当な別品が厶いますよ』 守宮別『ウーン、さうだなア』 女中『モシお母さま、粋を利かして上げて下さいな。何と云つても、まだお若いのですからな。芸者が無いとお酒が甘く進みませぬからなア』 お花『ヤ、また必要が有つたらお願ひしませう。兎も角お酒を願ひませう』 と稍プリンとして居る。女は足早に表へ立ち去つた。お花の顔には暗雲が漂ふた。 お花『これ守宮別さま、一本だけ呑んで此処を立ち去りませうか、本当に馬鹿にして居るぢやないか。奥さまとも云はず、お母さまなぞと、馬鹿らしくて居られませぬワ』 守宮別『マア好いぢやないか、お母さまと見られたなら尚ほ結構だよ。人は老人に見える程価値があるのだからなア』 お花『それだと云つて余り人を馬鹿にして居ますわ』 かく話す所へ以前の女は酒肴の用意を調へ運び来り、 女中『お客様甚うお待たせ致しました。御用が厶いましたら何卒手を拍つて下さい』 守宮別はこの女の何処とも無しに色白く、目許涼しく、初い初いしい所があるのに気を取られ、口角から、粘つたものを二三寸許り落しかけた。此道へかけては勇者のお花、何条見逃すべき、女の立ち去るを待つて守宮別の胸倉をグツと取り、三つ四つ揺すり、 お花『これや、妄を馬鹿にするのかい、見つともない目尻を下げたり涎を繰つたり、アンナ売女がそれ程気に入るのか、腐つた霊魂だなア、サア此短刀で腹を切つて貰ひませう』 守宮別『まあまあ待つてくれ、さう取り違をしてくれると困るよ。涎を繰つたのは喉の虫が催足して待つて居つた酒を呑みたい為めだ。目を細うしたのも矢張り酒が呑みたいからだ。何の立派な立派な、神徳の満ち充ちた、何ぬけ目のないお花さまの顔を見て居て、何うして外に心が散るものか。お前は些とヒステリツクの気があるから困るよ。さう一々疑つて貰つては困る。お寅だつて其処迄の疑惑は廻さなかつたよ』 お花『さうでせう、矢張りお寅さまがお気に入るでせう。私は余程よい間抜だからお前さまに欺されてこんな所迄釣り出されたのですよ。オヽ怖や怖や、こんな男にうつかり呆けて居らう者なら、折角国許から送つて来た金を皆飲み倒され、売女の買収費に取られて了ふのだつた。あゝいい所で気が付いた。これも全く、竜宮の乙姫様が此男は油断がならぬぞよ、何程口で甘い事申ても乗るでないぞよ、後の後悔間に合はぬぞよ、とお知らせ下さつたのだらう。あゝ乙姫様有難う厶います。私は本当に馬鹿で厶いました。オンオンオン』 と泣き沈む。 守宮別『こりやお花、さうぷりぷりと怒つて呉れては困るぢやないか。疑もよい加減に晴らしたら好いぢやないか。酒の上で云ふた事を目のつぼに取つて、さう攻撃せられちや、如何に勇猛な海軍中佐でも遣り切れぬぢや無いか。酒の上で云ふた事はマアあつさり見直し聞き直すのぢやなア』 お花『まだ、一口も呑みもせぬ癖に酒の上とは能う云へたものです哩』 守宮別『「顔見た許りで気がいくならば……酒呑みや樽見て酔ふだらう」といふ文句をお前が何時も唄つて居るだらう。併しあの文句は実際とは正反対だ。私はお前の顔を見ると気が変になつて了ふのだ。それと同じに燗徳利を見ると恍惚として微酔気分になつて了ふのだから、如何かさう御承知願ひたい。さう矢釜しく云はれると酒の味が不味くなつて仕方がない』 お花『それやサウでせうとも、カフエーの白首を見た目で皺苦茶の妾の顔を御覧になつたつて、お酒の美味しい筈が厶いませぬわ。サアサア貴方悠くりとお酒を召上つて代価を払つてお帰りなさい。妾はもう斯んな衒される所で一時も居るのが苦痛ですわ。貴方はまるで、妾の首を裁ち割るやうな、えぐい目に会はして下さいます。あゝこんな事なら約束をせなかつたら宜かつたになア』 守宮別は自暴自棄糞になり一万両の金を放る積りで、態と太う出て見た。 守宮別『お花さま、夫婦約束を取り消したいと仰有るのですか、何程私が可愛と思つても、お前さまの方から約束するぢやなかつたにと云ふやうな愛憎尽かしが出る以上は取り消し度いと云ふお考へでせう。守宮別もお花さまに海洋万里の空で見棄てられ愛憎尽かされるのも結句光栄です。サアどうぞ縁を切つて下さい。些とも御遠慮は要りませぬからなア』 お花『これ気の早い守宮別さま、誰が縁を切ると云ひましたか、今となつて縁を切るやうな浅い考へで約束は致しませぬよ。そんな事云つて貴方は此お花が嫌になつたものだから逃げ出さうとするのでせう』 守宮別『馬鹿云ふな、お前の方から此処を逃げ出すと云つたぢやないか。売女とお楽しみなさいなぞと散々悪口をつき、此夫に対し愛憎尽しを云つたらう。俺も軍人だ、女々しい事は云はない。嫌なものを無理に添ふてくれとは要求せぬ。此縁が繋がると繋がらぬとはお前の心一つぢやないか』 お花『やあ、それで貴方の誠意が分りました。何処迄も妾と添ふて下さるでせうなあ、本当に憎い程可愛いわ』 と守宮別の肩にぶら下る。 守宮別『これや無茶をすな、お酒がこぼれるぢやないか、余り見つとも好くないぞ。それそれカフエーの女中の足音が聞えて来た』 お花『ヘン、来たつて何です、天下晴れての夫婦ぢやありませぬか。カフエーの女中にこのお目出たいお安うない所を見せつけてやるのが痛快ですわ。ほんとにお母さまなどと人を馬鹿にして居るぢやないか。ねえ守宮別さま、妾と貴方とは仮令天が地となり地が天となり、三千世界が跡形もなく壊滅しても、心と心のピツタリ合ふた恋の花実は永久に絶えませぬわネエ』 守宮別『ウン、それやさうだ、お寅が嘸今頃にや死物狂になつて俺の後を探して居るだらうが、実に痛快ぢやないか』 お花『お寅の事は一生云はぬといつたぢやありませぬか。矢張り未練があると見えて、ちよいちよい言葉の先に現はれますなあ。エヽ悔やしい』 と力一ぱい頬辺を抓ねる。 守宮別『これや無茶をするな、放せ放せ放さぬか』 お花『この頬辺がチ切れる所迄放しませぬよ』 と益々引つ張る。守宮別は目から鼻から口から液を垂らして、『アイタヽヽヽ』と小声で叫んで居る。其処へ女中の足音がしたのでお花はパツと放した。 守宮別『あ怖ろしいお前は女だなあ、今迄コンナ女とは知らなかつたよ。本当に猛烈なものだなア』 お花『さうですとも、人殺しのお花と異名を取つた強者ですよ。若い時は妾のレツテルで刃物持たずと幾人を殺したか分りませぬもの』 と意茶づいて居る。そこへ女中が、 女中『お客様、お代りは如何ですか』 と云ひつつ入り来たる。守宮別は慌ててハンカチーフで顔の涙や鼻液を拭きながら、 守宮別『アヽ何でも宜いからどつさり持つて来い、兵站部は此処に女房が控へて居るからな……』 お花『どうか熱燗で沢山淡泊したものか何か持つて来て下さい。お金は構ひませぬから、その代り芸者などは駄目ですよ、女房の妾がついて居ますから』 女中はビツクリして、 女中『あゝこれはこれは奥さまで厶いましたか。先刻はお母さまなぞと見そこないしまして失礼しました。それでは芸者などの必要は厶いますまい。ホヽヽヽ』 と笑ひ乍ら出て行く。 守宮別『これお花、気の利かない事夥しいではないか。お前と私とは年が母子程違ふのだから、女中がさう云へば夫れでよいぢやないか。俺の目になんぼ十七八に見えても世間から見れば六十の尻を作つたお婆アさまだからなア』 お花『母子だナンテ、そんな偽りを云ふものぢやありませぬ。又夫婦だと云ふて置けば、芸者なぞ煩さい世話をせうと申しませぬからなア』 守宮別『如何にも御尤も、どうしてもお花は俺とは一枚役者が上だわい、エヘヽヽヽ』 表には労働者が、コツプ酒をあふりながら四辺かまはず喋つて居る。 労働者(テク)『オイ、トンク、ぼろい事をやつたぢやないか。あのお寅婆アさまを助けに行つて大枚二十円づつ。これで十日や廿日は気楽に酒が呑めると云ふものぢや。時にあのお寅について居る、蠑螈とか蜥蜴とか云ふ男、あれはテツキリお寅のレコかも知れないよ。お寅の奴、何時も自分の弟子だ弟子だと吐してけつかるが、あれは屹度くつついてけつかるのだらう。その証拠を押えて一つ強請つてやつたら又二十円や三十円は儲かるだらうからなア』 トンク『これテク、ソンナ勿体ない事を云ふな。先方は神様ぢやないか、おまけに吾等三人はお寅さまの神力に一耐りもなく打つ倒され、命の無い所を助けて貰ひ、其上重大の使命迄仰せつかつて居るのぢやないか。金が欲しかつたらお寅さまに云へば幾何でも呉れるよ。あの時も金が欲しけれや幾何でもやると云つたぢやないか』 テク『それやさうぢや、まあ悠くりとポツポツに絞り取る事にせうかい。時にツーロは何処に行きよつたのだらうかなア』 トンク『彼奴は何だか、ヤクの跡を追ふておつかけて行つたぢやないか。ヤクを捉まへて、お寅さまの前に引きずり出し、褒美の金に有り付かうと思つて、抜目なく駆け出しよつたのだよ』 テク『併し、裏の座敷に一寸俺が最前小便しに行つた時、チラツと目についた客は、どうも守宮別とお花さまのやうだつたが、箸まめの守宮別さまの事だから、お寅さまの目を忍んで、お花さまと内証で、○○をやつて居るのぢやなからうかな』 トンク『何、お花さまと守宮別が裏に居ると云ふのか、あゝそいつは面白い。サア復二十円だ』 と云ひ乍ら、トンク、テクの両人は裏座敷を指して忍び行く。 (大正一四・八・一九旧六・三〇於由良秋田別荘加藤明子録) |
|
50 (2914) |
霊界物語 | 64_下_卯エルサレム物語2 | 08 擬侠心 | 第八章擬侠心〔一八一四〕 四、五人の労働者『僕の人生はどこにある朝から晩までタラタラと 汗水しぼつて金儲けしようと思つて人並に 苦しみ悶え汗膏殆ど尽きた此体 膏のやうに絞られて身体頓に骨立し 悲鳴をあぐるその中に君と僕との人生は 深く潜んでゐるのだらう思へよ思へ友の君 資本主義なる世の中はキヤピタリズムを唱ふれば 大罪悪の酵母だよ殺人強盗強姦や 詐偽に窃盗脅喝やまだあるまだある沢山に これもヤツパリ吾々が人生に処する余儀なき手段であるだらう このやうな事になつたのもキヤピタリズムの賜だ 不労所得者の賜だガンヂガラミに縛つてる その方法は警察だ裁判所だ刑務所だ も一つひどいのは絞首台おまけに憲兵だ軍隊だ まだまだ無数に手段ある蜘蛛の巣よりも巧妙に 鋼鉄よりも頑強に無数の吸盤で吾々の 生血を吸ふたり膏をばねぶつて喰ふ資本主義 制度の此世にある限り君等も吾等も助からぬ 抑人生のおき所が悪かつた為に吾々は 膚は寒く腹は餓ゑ終にや縛られ殺される 何とかせねばならうまい悪逆無道の此制度 打てや、こらせやブル階級振へよ、起てやプロレタリヤ 立つべき時は今なるぞ政治宗教法律や 倫理や修身何になる吾等は命を的にかけ 子孫のために悪制度破壊せなくちや人生の 大本分が尽せない打てや懲せやブルジョアを』 と四五人の労働者が赤い旗を立てて橄欖山麓を歩んで来る。待ち構へて居た数名の警官は有無を云はせず一人も残らずフン縛つて了つた。 警官『コリヤ、その方は今何を歌つてゐた。不穏と認めるから捕縛したのだ。調べる事があるからエルサレム署迄キリキリ歩め』 その中の一人は盛に首を振り乍ら、 トロッキー『オイ、ポリス、馬鹿にすな、俺達はもとより主義の為めに生命を捨ててゐるものだから、拘引位は屁の茶とも思つてゐないが、然し乍ら、人民の声を聞いて省たがよからうぞ。貴様は何だ、僅かな目くされ金を貰ひやがつて人民の怨府になり、時代錯誤の張本人の部下となつて、その日を暮すとは実に憐れつぽいものだのう。俺は、かう見えても世界で有名なトロッキーだ。どうだ、今此際俺の云ふ事を聞いて一同の縛を解くか、それとも時代に目醒めずして俺等を拘引するか。忽ち汝が頭上に災の来るは電光石火よりも速かだぞ。此聖地には俺の部下が殆ど七八分ある筈だ。それだから何程法律を喧しく云つても、宗教を叫んでも駄目だ。覚醒するなら今だが、どうだ、返答を聞かう。それまでは一寸だつて吾々は動かないぞ』 警官は互に顔を見合せ、トロッキーと聞いて、稍恐怖心に懸られてゐる。警官は各耳に口を寄せ善後策について協議をやつてゐる。そこへ守宮別、お花の両人がホロ酔機嫌で現はれ来たり、 守宮『オ、これはこれは誰かと思へば警官、こなたで厶るか。さてもさても沢山な得物が厶つたものだな。エー、併し乍ら、御忠言で恐れ入りますが、一寸、私の言ふ事も聞いて下さい。永くお暇はとりません。何のために労働者をお縛りになつたのですか、労働者は抑も国家生産機関の基礎で厶いますよ』 トロッキー『イヤ、お前さまが噂に高い日出島の守宮別さまだな、そして、そこにゐるのは有名なお寅さまかい』 守宮『イヤ、お寅さまは、一寸様子があつて此頃霊城に神界のため立籠もつてゐられますよ。私はお寅さまのお弟子と、……エー……、神界の御用でお山に詣る途中ですが、貴方等が縛られとるのを見て、どうも、黙過する訳にも行かず、今警官とかけあつてゐる処ですよ。又何のために、こんな目にお会ひになつたのですか』 トロッキー『今日は全国の農民が労働を祝福すると共に、暴逆極まる資本主義の搾取と圧制に対し、一斉に抗議を投げつけるため、世界の無産階級のために友情を示し、又吾々団体の決意と団結の一層強固ならむ事を誓ふために、示威運動を全国一斉に行ふ日です。農民組合員は一人も洩れ落ちなく、婦人も少年も、これに加はつて吾々の無産階級団体を作るための運動最中、わからずやのポリスに引かかつたのですよ。警官が何と云ふか知りませぬが一同に農民歌を歌はせますから、それを聞いて農民の苦境をお覚り下さい』 『農民歌始め』と号令するや縛られた六人を初め、その附近に立つて居た人々も口を揃へて歌ひ出した。警官は呆気にとられて黙つて聞いてゐる。 一同『農に生れて農に生き土を耕し土に死す 痩たる土の香りにも汗と涙に生きむとす 吾生活の悲愴さはブルジョア階級の夢にだに 感知し得ざる悲惨さよアヽ吾生命に力あれ 吾運動に力あれ。 ○ 春幾度か廻れども富みおごれるは農民の 吾々老若男女等が汗と膏の賜物ぞ 汗とあぶらを盃に汲んでは花にたわむれつ 秋の月をば慰めに酒汲み交すブル階級 寒く餓ゑたる同胞を蔑み笑ひ鞭てり 鬼か大蛇か狼か悪魔のはばる此世界 立替せずにおくべきか吾等が生命に力あれ 吾等が運動に力あれ。 ○ たぎるが如き小山田の真夏真昼も孜々として 滝なす汗をしぼるのも来らむ秋の八百穂の 稲の実のりの肥料ぞと苦熱を凌ぎ草とれば 高楼絃歌にさんざめく吾等は命を的として 此悪風を根絶し吾等の未来を救ふべし 未来は吾等のものなるぞ吾活動に力あれ 吾生命に力あれ ○ 曙白く星寒く刃の如き秋の風 山野の草は枯れ尽し地上一面霜をおき 鎌を握れる此手先霜ふみしめし足の先 罅凍傷に血走れど憩はむ暇さへなかりしが その収穫は大部分地主の倉に収まりて 淋しく泣ける寒狐住む家さへも壁は落ち 見るも悲惨な光景ぞあゝ人生はかくの如 悲惨で一生を通すのか否々決してさうでない 天の与へし田種物働くものの所有ぞや 不労所得者の権力がどこに一点あるものか 吾等の運動に力あれ未来は吾等のものなるぞ。 ○ 汗と涙と血を捧げ地上に画がく芸術の 誇りも空しく夢と消え汗と涙に汚れたる 吾等が辛苦の結晶は奢侈逸楽の犠牲となり 飢と寒さに子等は泣くあゝこの惨状をいかにして いつ迄看過出来やうか吾等の命に力あれ 未来は吾等のものなるぞ。 ○ 咄何者の奸策ぞ正義の刃に血は煙 自由の剣をとりて立つ雄々しき勇士といたはしき 妻子の上に迫害の魔の手は下れり爪先を 敏鎌の如く研すまし吾等が大切の玉の緒を 斬らむと企むブル階級倒さにやならぬ吾々は この世この儘置いたなら彼等の為に亡ぼされ 子孫断絶するだらう吾等の生命に力あれ 吾等の運動に力あれ未来は吾等のものなるぞ。 ○ 壁落ち軒は傾けど五尺の体を休養する 為には自由の誇りあり吾等貧しく疲れしも 抱く真理に光あり永き搾取と圧制に 反逆すべく起てるなり未来は吾等のものなるぞ 打てよ懲せよブル階級。 ○ 君よ見ざるや農民を全土を覆ひし団結を 君聞かざるや農民を来れよ友よと呼ぶ声を あゝ今吾等起たずんば混沌の世を如何にせむ 起てよ振へよ怒れよ狂へ未来は吾等のものなるぞ』 トロッキー『先づ吾々の主義は此通りで厶います、永らくの間、農民は地主資本家のために生血を絞られ、痩衰へて参りました。その為国家の大本たるべき農民は身体骨立し満足な働きも出来ないのです。これに反して不労所得者たるブル階級は豚の如く、象の如く肥太つて居ります。これも皆貧民の生血を搾取した結果です。神の子と生まれたる吾々人間が、どうして此惨状を真面目に見てゐる事が出来ませうか。如何に宗教が倫理を説くとも、天国を説くとも、法律が八釜しく取締つても、パンなくして人は世に生活する事は出来ますまい。そのパンの大部分を搾取する鬼や大蛇の階級を蕩滅し、平等愛の世界に作り上げるのは、吾々志士たるものの天職ではありませぬか。無論宗教は精神的に人類を救ふでせうが、焦眉の急なる衣食住の問題を閑却しては、宗教の権威も有難味も厶いますまい。そんな手ぬるい手段では、今日の世を救ふ事は駄目だと思ひます』 守宮『成程尤も千万だ、僕は大賛成を致します。もし警官どの、どうか此憐れな労働者を解放して下さい。その代り拙者が代人となり括られませう』 お花『これ、守宮別さま、何と云ふ事を、お前さまは仰有るのだい。人の罪迄引受けると云ふ事が、何処にありますか。私をどうして下さるおつもりですか』 守宮『ナザレのイエス・キリストでさへも世界万民のため十字架にかかられたぢやないか。俺がいつも酒を飲んで浮世を三分五厘で暮してゐるのも、社会人類のため命を投げ出してゐるからだ。ブラバーサやお寅さまの様に口ばつかり云つて居つても誠が無けりや駄目だ。俺は之から無産階級者の代表となつて処刑を受けるつもりだ』 お花『それも、さうで厶いませうが、これ守宮別さま、お前さまが、そんな処へ行つた後は、妾はどうするのですか』 守宮『お前は、精出してお酒の差入をするのだ』 お花『酒なんか差入は出来ますまい』 守宮『出来いでかい。今の役人は皆飢る腹をかかへてブリキを佩つて威張つてゐるから、ソツと金さへやれや何でも、云ふ事を聞くよ』 かかる所へ俄かに四辺騒々しく数百人の、暴漢が現はれて警官を十重二十重にとりまき袋叩きにして了つた。トロッキーと名乗る男、及び縛されて居た連中は、この隙に各縄目をとき凱歌をあげ何処ともなく消えて了つた。守宮別お花は得意になり、鼻歌を歌ひ乍ら橄欖山上目がけて登り行くのであつた。 (大正一四・八・一九旧六・三〇於丹後由良北村隆光録) |
|
51 (3015) |
霊界物語 | 68_未_タラハン国の国政改革2 | 07 茶火酌 | 第七章茶火酌〔一七三一〕 向日の森の片辺に住む茶湯の宗匠タルチンは、思はぬ福の神の御来臨と笑壺に入り、茶室は太子とスバールの自由歓楽場となし、スバール姫に茶の湯を教へると云ふのはホンの表向、実は両人の恋を完成せむ為アリナに頼まれて沢山の心付を貰ひ、ホクホクもので天下太平を謳つてゐる。彼は中庭を隔てた古ぼけた母屋の一室に胡坐をかき乍ら、大布袋然たる女房の「ふくろ」と共に酒汲み交し舌鼓を打ち乍ら、 タルチン『オイ、袋、人間の運と云ふものは不思議なものぢやないか。俺等も親の代から茶湯の宗匠として彼方此方の大家に御贔屓になり、僅に家名を継いで来たが、世の不景気につれ大家の盆正月の下されものも段々と少くなり、頭は禿山となり髭には霜がおき、懐は寒く財布は凩が吹き荒び、爐の炭さへも碌に買へないやうになつてゐたのに、あの弁才天が山奥から御出現遊ばしてより御霊験あらたかになり、畏れ多くもスダルマン太子様までお忍びでお越しになるやうになつたのは何たる幸運の事だらう。まだ運命の神は吾々をお見捨遊ばさぬと見えるわい。のう袋、お前はいつも奴甲斐性なし奴甲斐性なしと俺を罵詈嘲笑なし、お暇を下さいとチヨコチヨコ駄々を捏ねよつたが、どうだお暇をやらうかの』 袋『ヘーヘー、何ですか、たまたまお金が這入つたとて、さうメートルを上げるものぢやありませぬよ。お前さまは仔細らしく茶の湯の宗匠などと云つてすまし込んで厶るが、女房の私から見れば余り立派な人間様ぢやありませぬよ。浮世を三分四厘、四分五裂、五分々々五厘々々に茶化して通る鈍物坊主の夜這星だから、あまり気の利いたらしい事を云はないがよろしい。太子様だつてお忍びの身、何時化が現はれて城内から呼び戻されなさるか知れませぬよ。さうしてお歴々の御家来衆が太子の外出を防がうものなら、再び甘い汁を吸ふ事は出来ぬぢやありませぬか』 タル『何心配するな、太子様が、よしんば家来共に妨げられ、お出ましになる事が出来ないにした所で、左守の息子さまのアリナさまが控へて厶る。アリナさまは自由の利く身だから、どんな便宜でも取計つて下さるよ』 袋『さう楽観は出来はすまい。アリナさまだつて外出差止めとなられたら、それこそ取つく島がないぢやありませぬか。その上山奥の美人を囲つて太子様に合引させ、堕落させたと云つて重い罪にでも問はれたら、それこそ笠の台が飛ぶぢやありませぬか。お前さまは大体利口に出来てゐないから、女房の心配は一通りぢやない。チツト気をつけて下さいや、お金がよつた時、さうムチヤに費つては、マサカの時にどうしますか。お前さまはヒネ南瓜だから何時国替してもよろしいが、此年の若い女房をどうして下さるつもりですか。今日はお銚子は二本でおいて下さい。お前さまが酒に酔うと梯子酒ぢやからヒヨロヒヨロと宅を飛び出し、裏町辺の待合にでも惚気込んで、ありもせぬ金を費はれちや、宅の会計がやりきれませぬからな』 タル『エー、酒が理におちて甘くないわ。今日は機嫌よく飲ましてくれ。しやうもない世帯の話を聞かしてくれては流石茶人の俺も、いささか閉口だ。さう石に根つぎするやうに心配するものぢやない。俺の宅は御先祖さまの余慶で、之から一陽来復の気分に向ふのだ。よう考へて見よ。山奥から生捕つて厶つた、あのスバール姫さまは弁才天様。さうして太子様は毘沙門天様だ。お前は云ふに及ばず布袋和尚なり、俺は頭が長いから福禄寿だ。そこへ恵比須や大黒のついた金札が此通り懐に納まつて厶るなり、チヤンと六福神は揃つてゐるのだ。も一つの事で七福神となるのだから心配するな。言霊の幸はふ国だから、こんな時は目出度い事云つて祝ふに限るよ。チヤンと六福神が揃つてる所へ、お前の名が袋だから丁度揃つて七福神だ。芽出度い芽出度い酒喰はずんばあるべからずだ。飯飲まずんばあるべからずだ、エツヘヽヽヽ』 袋『何とまア気楽な事をいい年して居つて云へたものですな。お前さまの宅に後妻に入つてから已に三年にもなるぢやありませぬか。着換の一枚も買つてくれた事もなし、足袋一足買つてくれた事もないのに、いつも亭主面さげて、偉相に何ですか。その金こつちにお渡しなさい、私が預つておきます。お前さまにお金を持たしておくと剣呑だ。チツト許り渋皮のむけた女を見ると直グニヤグニヤになつて家も女房も忘れて了うと云ふ奴倒しものだからな。ほんとにいけすかない薬鑵爺だよ』 タル『こらこら何を云ふか。貧乏はして居つても俺はタラハン城に歴仕する茶の湯の宗匠さまだよ。俺の女房にならうと思へば、余程茶の湯、生花、歌、俳諧等の諸芸は一渡り嗜んでおかねばならず、言葉使も高尚につかはねばならぬぢやないか。お前のやうに大きな図体をして蛙のやうな声を出し、ひびきの入つた釣鐘のやうにガアガア云つて貰ふと、名門の恥辱だ、エーン。此夫にして此妻ありと云ふ事があるから、俺の女房ならチツト女房らしう、品行を謹んで貰はねば困るぢやないか。何時だつて女の癖に囲爐裏の側に胡坐かき、煙草ばかりをパクつかせ、飯を焚かすれば焦げつかす、タマタマ焦なかつたと思へば半焚きの心のある飯を喰はせやがるし、何時だつて飯らしい飯を喰わした事があるか。アーア、俺も、せう事なしにこんな女房を持つたのだが、かう懐が暖かになつて来ると、もつとした…………』 袋は胸倉をグツととり、 『こりや薬鑵爺、もつとの後を聞かせ、俺を追出すつもりか。お前の方から追ひ出されるよりも私の方から追ひ出てやるのだ。今迄も幾度か見込みが立たないから、飛び出さう飛び出さうと思つたが先立つものは金だ。此薬鑵奴、之でもいつか懐をふくらしやがる事があるだらう。その時こそは懐の金をスツカリ奪ひとつてドロンと消えてやるつもりだつた。こんな険呑な暗雲飛び乗りの芸当をやるものについて居つては袋の生命が険呑だ』 と云ひ乍ら懐の札束をむしりとり、強力に任して老爺の尻を二つ三つ蹴り乍ら、腮をしやくり、 袋『お蔭さまで一千両のお金にありつきました。永らくお世話になりました。タルチンさま、三年に一千円は安いものでせう。精出しておまうけなさいませ。貯つた時は、又頂きに出ますよ。アバよ』 と牛のやうな尻をクレツと引捲り、 『薬鑵爺尻でも喰らへ』 と云ひ乍ら一目散に逃出したり。 タルチンは無念の歯がみをなし、後追つかけむとすれども、大女の力強に力一杯尻こぶたを蹴られた為、大腿骨に痛みを感じ、顔をしかめて逃げ行く女房の後を怨めしげに見送つてゐる。 『アー、袋の奴、馬鹿にしやがる。折角マンマとせしめた千両の金を自分一人で占領して、おまけに手厳しく毒つき乍ら帰つて行きやがつた。アヽ、又俺は元の木阿弥だ。文なしの素寒貧だ。よくよく金に縁のない男と見えるわい。然し俺も一つ考へねばなるまい。万々一、太子様をかくまつて逢引さしてゐる事がお歴々の耳にでも這入らうものなら、お出入差止めは申すに及ばず、お袋の云つたやうに俺の笠の台が飛ぶかも知れない。又幸に命だけは助かつたとした所で、太子様のお出入もなくなり、アリナさま迄も来られないやうな破目になつたら、此茶坊主はどうしたらよいかな。どうも心配になつて来た。家宝伝来の名物道具よりも大切にしてゐる此頃の珍客、金剛不壊の如意宝珠を、もしも老臣共に見つけ出され、吾館から連れ帰られるやうな事があつたとしたら、それこそ俺も身の破滅だ。地獄と極楽へ往復する茶柄杓の中折れ。今日迄の湯加減も、俄に足茶釜の底ぬけ騒ぎをやらねばなるまい。アーア、何とかいい工夫はあるまいかな。干からびた頭脳から何程絞り出しても、よい智慧は出て来ず、どうしてマサカの時の準備をしようかな』 と腕を組み、胡坐をかいて、燗徳利を前に転がしたまま思案にくれてゐる。 暫らくしてタルチンはニツコと笑ひ、 『イヤ、流石は茶湯の宗匠だ。いい智慧が浮かんで来たぞ。万々一不幸にして太子さまがお出入遊ばさぬやうになつても構はぬ。よもやノメノメとあのスバール姫を殿中へ、連れて帰られる筈はない。さうすればキツト此タルチンが、どつかへお隠し申さねばなるまい。太子もキツト、さうして呉れと仰有るに定まつてる。何程考へても、それより外に方法手段はないもの。太子さまだつて、アリナさまだつて、実の所は内所でやつて厶る事だから弱味がある。そこを甘くつけ入つて、あの名玉を処分するのは処世上の奥の手だ。捨売にしても二万や三万の価値はある玉だ。僅に千円や二千円のつまみ金を貰つてヒヤヒヤとして暮してゐるよりも、さうなりや二三万円にでも売り飛ばしトルマン国にでも逃げ出し、立派な女房でも貰つて此世を栄耀栄華に気楽に暮すが一等だ。俺には何とした幸運が見舞うて来たのだらう、エツヘヽヽヽ』 と一人笑壺に入つて居る。折から聞ゆる、警鐘乱打の声、タルチンは足をひきずり乍ら窓の戸をあけて外を眺むれば、タラハン城下に当つて、火災を起し炎の舌は高く大空を舐て居る。 タル『ヤア、此奴ア大変だ。御得意先が火事にでも会ふやうな事があれば、俺等の懐に大影響を来す所だ。そして日頃お出入の情誼として火事見舞に行かねばなるまい。どうやらあの勢では容易に火事もおさまりさうにはないわい。太子様には済まないが一つ留守を頼んで火事見舞に出かけようかな』 と太い杖をつき大女の袋に蹴られて痛んだ足をチガチガさせ乍ら、離室の茶室に入り来り、 『もしもしお二人様、タラハン城下は大変な火災が起つて居ります。ここは町を余程離れてゐますから、メツタに飛火もしませぬから、安心で厶いますが、私は一寸お出入先へ見舞に行つて参りますから、どうぞ火事を見物し乍ら留守をしてゐて下さいませ』 太子『成程、大変な大火事と見えるな。此調子では、どうやら城内も危険が迫る恐れがある。然し乍ら余はここに神妙にスバールと留守をして居るから、余に構はず行つて来るがいいわ』 タル『ハイ、宜しうお願ひ申します。そんなら之から急ぎ見舞に行つて参ります』 と云ひ乍ら漿酸提灯をぶらつかせ、片手に杖をつき、チガチガと泥濘に満ちた悪道を尻きれになつた下駄を穿ち出て行く。 太子『これ、スバール、随分壮観ぢやないか。余はまだあんな大きな火事を生れてから見た事はない。火事と云ふものは本当に勇ましいものだな』 ス『仰せの如く実に火事は人気のいいものです。此通り地上に蟻の這うてゐるのさへもハツキリ見えます。然し乍ら火災にあうた人は可愛さうぢやありませぬか。どうか人命に関するやうな事がなければよう厶いますがな』 太子『ウン、さうだな。どうか無事にをさまればいいが。あれあれだんだん火が燃え拡がつて来た。あのスツと高く白く光つてゐる壁は城内の隅櫓だ。火は隅櫓を舐出したぢやないか、こいつア大変だ。さうして大変な鬨の声が聞えて来る。余が城内に帰つて居つたならば、又何とか工夫したらうに城内へ飛火がしたりするやうな事あれば、忽ち俺の所在を老臣共が尋ねまはるに違ひない。アリナが甘くやつてくれればいいが、アヽそれ許りが気にかかる』 と、うなだれる。 ス『太子様貴方はお心が弱いぢやありませぬか。夜前何と仰有いました、「お前の側に居るならば、仮令天は落ち、地はくだけタラハン城は焼けおちても敢て意に介せない。お前と俺との恋愛さへ、完全に維持されたら何よりの幸だ。余は王位も富も城も捨てた」と仰有つたぢやありませぬか。チツとお落ち付きなさい。見つともないぢやありませぬか』 と大胆不敵の事を云ふ。太子はスバールの言葉に肝を冷し乍ら、さあらぬ体にて、 『アツハヽヽヽ如何にも尤も千万、火災なんか意に介するに足らないよ。サア夜分を幸ひ、お前と二人手をひいて郊外の散歩に出かけ火事の見物をしようではないか』 警鐘乱打の声は四方八方より聞え、民衆の叫ぶ鬨の声は鯨波の如く聞え来りぬ。 (大正一四・一・六新一・二九北村隆光録) |
|
52 (3018) |
霊界物語 | 68_未_タラハン国の国政改革2 | 10 宗匠財 | 第一〇章宗匠財〔一七三四〕 取締所を中心とし附近に於ける民衆と侍との闘争は、一時酣となつて来たが民衆の救主、貧民の慈母と尊敬されて居る大頭目のバランスを取返さむとして、民衆一般は爺も婆も、脛腰の立つもの、猫も杓子も刻々に集まり来り其の勢凄じく、目付隊も侍も如何ともすべからず、遂に大目付頭も我を折つてバランスの縄を解き、民衆との妥協を図り且つ、諫言申上げる事となし、茶坊主を召喚して事の実否を調査した上、左守の悴アリナを民衆の前にて重刑に処す事を誓ひ、茲に漸く大騒動も鎮定するに至つた。目付頭は逸早く部下に命じて茶坊主を拘引せしめた。茶坊主が拘引されたのを見るや、スバール姫は大に驚き、折柄労働服姿にて忍び来りし恋人と共に暗に紛れて都を遠く姿を隠した。アリナも亦形勢の容易ならざるを覚り、忍と共に暗に紛れて城内を逸走して了つた。茶坊主のタルチンは厳しく縛られたまま、大目付頭の前に引出され訊問を受けた。 大目付役『其方の姓名は何と申すか』 タルチンは長い禿頭を二つ三つ振り乍ら、やや腰をかがめて、 『ハイ、私は向日の森の傍に住む茶の湯の宗匠タルチンと申すもので厶います。何ぞ折入つた御用が御座りますかな。罪も無い私をお役人さまが突然遣つて来て、斯んな処へ連れて来られる覚えは御座りませぬ。爰は悪人の来る処ぢや御座りませぬか、清浄無垢の私、神妙に茶の湯をお歴々方に伝授し淋しく大人しく余世を送つてゐるもので厶います。それに三年も連れ添うて居つた大切の大切の嬶に逃られ、心配の最中、斯んな処へ連れて来られては一向、日当も取られず、誠に貧民の私、明日から腮櫃が上つて了ひますがな。どうか相当の日当を頂戴致し度い者で御座ります。そして罪もない私をお縛りに成りましたのだから、賠償品を頂き度う御座ります。冤罪者賠償法が、発布されむとする今日、どうか、其所は、あんまり高い事は申しませぬから、私の価値相当に御支給を願ひ度いもので御座ります』 大目付『貴様は馬鹿だな。お歴々の家庭に出入し茶の湯の伝授でもしようと云ふ身であり乍ら、斯様な処へ引連れられて、左様の請求をすると云ふ事があるものか、エーン』 タルチン『如何なる処へ参りましても、ヤツパリ日当は請求致します。左守の司の邸へ参つても、又畏多くもタラハン城内の茶寮に参りましても、相当のお手当を頂いて居りますから、仮令半時でも、それ丈けのお手当を頂かなくちや渡世が出来ませぬ。お前さまの様に沢山の子分を使つて朝の九時頃から出勤して、椅子に凭れ面白さうに新聞を見ながら彼是する間に十二時が来る、さうすりや料理屋弁当を取つて強たかお食りなされ、又一時間ばかり食後の運動だと云つて面白い処を廻り、夫から読み残りの新聞を読み、盲判を二つ三つポンポンと押して、サツサと宅に帰り大小名の待遇を受けて、沢山の月給を取るお方と同じに見て貰つては、チツと割りが悪う御座ります。私のやうに高い炭を爐にくべ、「ヘーコラ、ハイコラ」とお辞儀許りして、ヤツトの事で糊口を凌ぐ許りのものと同日に語る事は出来ませぬ』 大目付『その方は女房に逃げられたと申したが、その女房は何と申すものか』 タル『ハイ、私の女房は思ひの外のドテンバで厶いますが、どうしても名を申しませぬので袋と申してゐます。その袋に千両の金を持つて逃げられ、私は梟が夜食に外れたやうな失望落胆の淵に沈んでゐます。貴方も人民保護のお役なら私の女房を捜して下さい。そして女房と金とを取返して貰ひ度いものです。実は保護願をしようと思ひましたが、何分珍客さまがおいで遊ばすので目放しが出来ず、其処へあの大火事と来てゐますのでツヒ遅れてゐました』 大目付『其方は、その日暮しと申してゐるが、どうして其千両の金を所持致して居つたのだ』 タル『之は又妙な事を仰せられます。お金と云ふものは人間の持つべきものです。人間が金をもつているのが、どこが不思議ですかな』 大目付『持つてゐるのが悪いとは云はぬ、どうして拵へたかと云ふのだ』 タル『之は又大目付頭にも似合はぬお言葉、どうして拵へたかとは私をも紙幣偽造犯人とお思ひですか。彼の紙幣は兌換だか不換だか知りませぬが、貴方がたが経営して御座る印刷局から刷り出された物ぢや御座りませぬか。キューピーさまや福助さまが付いて御座る彼のお札ですよ。私は紙幣を拵へるやうな器用なものでは厶いませぬ。茶の湯では十二手前を本とし、それから分れて三百十六手前となり、又茶の湯の綱目としては初段から七段迄の手前を存じて居ります。茶の湯の事なら、いくらでもお答へ致しますが、金を拵へる事はチツとも存じませぬ。之はお役人さまの、お眼鏡違ひで御座りませう、オツホン』 大目付『エー、分らぬ奴だな。その金を、どうして儲けたかと聞いてゐるのだ』 タル『之は亦妙なお尋ねで御座りますな。私は茶の湯の宗匠が稼業で厶ります。如何して儲けようと、商売の上で、儲けた事をお叱めを蒙る訳も有るまいし、又夫を貴方に説明する義務も無し、又貴方も人の儲けた金を彼是言ふ権利も御座りますまい、そんな事は要らぬお節介ですよ。私もチヨコチヨコお前さまの御親類内へ茶の湯で出入りを仕て居ますが、お親類の方の話を聞けば、大目付さまは沢山な賄賂を取つて町の真中へ待合を許し、其所へ妾を抱へて御座るとの事、此話は決して違ひますまい。何と云つても、貴方の御親類、しかも、貴方のお妹御の嫁入先で聴いたのですから』 大目付『こりやこりや、外聞の悪い何を云ふのだ。沢山の目付が、其所に聞いて居るぢや無いか。其方は神法を心得ぬか、「事の有無に拘らず、人を公衆の前にて誹謗した者は知計法第八百条にて刑鉢に処す」と書いて有る。メツタの事を云ふものではないぞ』 タル『ヘツヘヽヽ、御都合が悪う御座りますかな。チツト茶の湯加減が過ぎましたので、熱い汗をかかせました。ハツハヽヽ』 大目付『お前の宅に、エー、珍客が居られたと云ふ事だが、本当か』 タル『ヘーヘー、居られましたとも、まだ現にゐられるでせう。畏れ多くもスダルマン様が、元の左守の娘子スバール姫と云ふ、夫は夫は天女のやうな美人をかくまつて呉れと云ふ事で、夜な夜なお通ひで御座ります。本当に素敵な美人ですよ。何と言つてもスダルマン様の御身、御意見申すも恐れ多いと謹んで御意に応じました。何分取締所あたりから御褒美でも頂け相なものと、首を長うして待つて居りますよ。妙法様のお心を慰め奉り、無上の歓喜をお与へ申した此タルチンは、正に勲一等功一級の価値は確にあるでせう。夫にも拘らず、タラハン国に於て雷名隠れなき最大権力者、左守のガンヂー様の一人息子アリナの君様に頼まれて、未来のお妃様のスバール嬢様に、お茶の手前を伝授申し上げて居るのです。何程偉相に申してもお前さまとしては、妙法様を直接にお世話したり、お妃さまに尊い茶道を伝授すると云ふ事は出来ますまい。マアそんな小難しい顔せずにお考へなさいませ。今に妙法様が、大王の跡を継がれましたならば、私は大王様のお師匠様と成つて、殿内深く、すまし込み、殿下の耳を嗅ぐ役に抜擢されますよ。夫だからお前さまも出世が仕度くば今の中、此タルチンを十分待遇して置きなさい。葡萄酒の一打位贈つても可し、金平糖の一斤位はチヨイチヨイ贈つて下さい。此方も茶菓子の足しにも成り、誠に好都合だ。お前さまも、私に取り入るのは今の中ですよ、オツホン』 と豪然としてすまし込んでゐる。 大目付『オイ、ハルヤ、タルチンの縄目を解いて遣れ』 『ハイ、承知致しました』 タル『イヤ、ならぬならぬ、此縄目は此儘にして置いて呉れ。妙法様に、お前等が寄つて集つて、斯んな目に会はしやがつたと云つて、具さに言上して遣る。さうすると、屹度タルチンの贔屓をなさつて、お前等は直ぐ様免職だ。お気の毒様の事だ、愚図々々して居ると大目付頭様に飛火が致しますよ。此縄が解し度ければ、解かして遣らう。幾等機密費を出しますかな』 大目付『アツハヽヽヽヽ此奴ア、どうも、キ印だ。キ印を捉まへて法律で罰する事は出来ぬ。身心喪失者と認める。オイ、タルチン、唯今より放免する、有難う思へ』 タル『ヘン、さう、うまくは問屋が卸しませぬよ。妙法様の御覚え目出度き寵臣を縛り上げ乍ら、放免も糞も有つたものか、チツとお前さまの遣り方は方面が間違つて居るぢや無いか。いつかないつかな此処を立退いて成るものか。今に妙法様がタルチンの所在を尋ねて、最新調の自動車を以て迎へに来られるに違ひない。夫迄は誰が何と云つても、此処は一寸も動きませぬぞ』 大目付『アヽ困つたものを引張つて来たものだな。オイ、ハルヤ、兎も角、此狂人の縄を解き、彼が館に送つて遣れ。さうして妙法様が御在宿かいなかと云ふ事を、よく調べて来るのだぞ。必ず不都合の無いやうに気を注けて行け』 と云ひ乍ら大目付は懐から時計を出して、 『ヤア、もう退出時間だ』 と云ひ乍ら逃ぐるが如く、ドアを開けて妾宅さして帰り行く。 タルチンは、大声を張上げ乍ら、 タル『コリヤ、大目付の奴、逃ると云ふ事があるか。待て、貴様に一つ灸を据ゑて遣る事が有る。俺の言ふ事を聞かずに逃て行けば、明日から免職だぞ』 と呶鳴り立てて居る。 漸くにして数多の目付が持て余しもののタルチンをいろいろと納得させ、葡萄酒や菓子等を与へて機嫌をとり、ヤツとの事で彼の家に送り届ける事となつた。 タルチンは目付連に護送され乍ら吾家に帰り行く道々、葡萄酒の酔がまはつて、謡ひ出した。 『あゝ面白い面白いこの世の中は何として 馬鹿に面白うなつたのか妙法の君は吾家に タラハン城と間違へて妃の君と諸共に 朝から晩まで意茶付いて涎を垂らしてお在します それに左守のガンヂーの悴のアリナがチヨコチヨコと 横目を使つて遣つて来るさう斯うする中タラハンの 町に響いた鐘の音窓押し開けて眺むれば ドンドンドンと町中の民家は燃える人は泣く 瞬く間にタラハンの街の半は黒土と 成つて了つた気の毒さ今迄贅沢三昧を 尽して居よつた富者等の今日の惨めの態見れば ホンに愉快な世の中だ大目付頭と云ふ奴は 俺を態々引張つて下らぬ事を尋ね上げ 理窟に負けて泡を吹き屁古垂れよつてブルブルと 菎蒻のやうに慄ひ出し懐中時計を取出して もはや退出時間だと甘い辞令を浴びせかけ コソコソコソと逃げよつた斯んな瓦落多役人が 都大路の真中に頑張つて居るやうな世の中は 如何して吾々人民が枕を高く寝られよか さはさり乍ら是も皆大神様の仕組だろ 零落れ果てた俺さへも妙法の君のお見出しに 預りよつて姫様のお手をとつての指南役 茶の湯のお蔭でこの俺も薬鑵頭が霑うた エヘヽヽエツヘエヘヽヽヽさつてもさても世の中は 人間万事一切は皆塞翁の馬の糞 糞でも喰へ大目付よ俺がもうツヒ出世して 貴様の頭を抑へたろかエヘヽヽエツヘエヘヽヽヽ お嬶の袋は逸早く俺を見捨てて逃げよつた 之も矢張り神様の俺を助ける思召 お尻の大きい嬶貰へや向ふの方から逃げ出して 行つて了つたその訳は後の悶錯なきやうと ウラルの神の御計らひ天女のやうな妻を持ち 結構に結構に世の中を面白可笑しう暮すため 之ほどボロイ事はないエヘヽヽエツヘ葡萄酒に 酔た酔た酔た酔たよた助の呉れた酒でも味がある ほんに浮世は斯うしたものか三分五厘に茶化して通る 茶の湯の師匠のタルチンは天下に無比の幸福者だ 向ふに見えるは吾住める館の側の向日の森だ オイオイ皆の御連中少時待つてゐるがよい 俺が出世の暁はキツト引立ててやるほどに 必ず必ず世の中を悲観なさるな善い後は 必ず悪い悪いあとは必ず善い芽が吹くものだ エヘヽヽエツヘエヘヽヽヽ これこれ皆の衆御苦労で厶つた。もう之から去んで下さい』 (大正一四・一・六新一・二九北村隆光録) |
|
53 (3043) |
霊界物語 | 69_申_南米ウヅの国の国政改革 | 12 悪原眠衆 | 第一二章悪原眠衆〔一七五七〕 松若彦は吾館の奥の間に捨子姫と共に、七むつかしい面をさらしてブツブツ小言を云ひ乍ら、愚痴つて居る。 『コレ捨子姫、お前の教育があまり放縦だから、悴の松依別は日日毎日変装して、悪原遊廓へ通ふなり、妹の常盤姫はお転婆になり、姫様の御用だとか云つて、家を外なる此頃の行状、之では清家の権威も保たれまい。チとしつかりして呉れぬと困るぢやないか。俺は政務が忙しいので子供の教育などにはかかつて居られない。子供の悪化するのは皆母親の教育が悪いからだ』 捨子『仰迄もなく、妾は充分の教育を施して居りますが、別に清家の悴、娘として恥しい様な育て方はして無いと考へて居ります』 松若彦は声を尖らし、 『悪原遊廓へ夜な夜な通ふ様な育て方をしておいて、それでも其方は良いと申すのか。非常識にも程があるぞよ』 捨子『悴も年頃の身分、最早妻帯をさせねばならぬ年頃で厶いますのに、貴方が何時も家庭が何うだの、資格が何うだのと、古めかしい事を仰有りますので、悴も失恋の結果自棄気味になつてるので厶います。悴の愛してる女は、貴方も御存じの饂飩屋の娘お福と云ふ者、其福の神を貴方は地位が釣合はぬとか云つて、家来を廻し圧迫的に縁をお切りになつたぢやありませぬか。それ故悴は失恋の結果、如何なる事を仕出かすかと、心配で夜の目も寝られ無かつたので厶います。世間にある慣ひ、失恋の結果淵川へ身を投げて無理心中をしたり、鉄道往生、或は鉄砲腹、首吊りなど失恋者の最後は色々厶います。それ故悴は如何するであらうかと心配致し三五の大神様に祈願をして居ました所、悴も神直日大直日に見直し聞直しが出来たと見えて、いきりぬきに悪原遊廓に通ふ様になつたのでせう。失恋者の行くべき結果としては最善の方法を選んだものだと感心を致して居ります』 松若『コレ捨子、イヤ婆ア殿、お前そんなこと正気で云つてるのか。家名を毀損する悴、手討に致しても飽き足らぬ奴、それに其方は賛成と見えるな、怪しからぬぢやないか。吾家は正鹿山津見様の御時代より珍一国の代理権を任され、権門勢家として今日迄伝はつて来た立派な家筋だ。其家筋に汚点を印する者ならば、何程大切な悴でも許すことは出来ないではないか』 捨子『それは数十年前の道徳律で厶いませう。道徳も政治も宗教も人情風俗も日進月歩の世の中、さういふカビの生えた思想は、今日では通用致しますまい。貴方は一国の宰相であり乍ら、さういふ古い頭で、良く衆生が納得する事だと、何時も不思議がつて居るので厶いますワ。幸に悴なり娘が時代相応の魂に生れてくれたので、まだしもそれを老後の楽みと致しまして、不平でならぬ月日を送つて居ります』 と何と思つたか、捨子姫も今日は捨鉢気味となつて、怯めず臆せずやつて退けた。松若彦は数十年添うて来た柔順な女房が、こんな思ひ切つた事を云はうとは夢にも知らず、始めての事なので、若や狂気したのではあるまいかと案じ出し、先づ何よりも逆らはぬが第一だ、先づ少し許り熱の冷める迄、彼の云ふ様にしてやらうかと心を定め、猫撫で声を出して、背を撫で乍ら、 松若『コレ捨子姫殿、お前の云ふ通りだ。テモ扨も明敏な頭脳だな。お前はチト激して居る様だから、今日はモウ何も云はない。ゆつくりと奥へ行つて静かに休んだが良からう』 捨子姫は松若彦の心を早くも読んで了つた。自分を逆上して居ると信じて居るのを幸ひ、日頃鬱積して居る自分の意見を全部此所で喋り立てて松若彦の決心を促さむと覚悟をきはめ、ワザと空とぼけて、 『ホヽヽヽ、あのマア御前様のむつかしいお顔わいの。妾は之から淵川へ身を投げて永のお別れを致しますから、どうぞ暇を下さいませ。暇をやらぬと仰有つても、妾が覚悟を定めた以上は舌を噛んでも死んで見せませう。マア死にたいワ、ホヽヽヽ。霊肉脱離の境を越え、一刻も早く天国に上り、清く楽しく第二の生活に入り度う厶います。アレアレ、エンゼル様が、黄金の扇を披いて妾に来れ来れと招いて居らつしやる。あゝ早く行き度いものだなア』 松若彦は益々驚いて、……あゝ此奴ア丸気違ひだ。仕方が無い、先づ機嫌を損じ無い様にせなくちやなるまい……と、 『アイヤ捨子姫殿、其方の云ふ通り、此松若彦はどんな事でも聞いて上げるから、天国なんか行かぬやうにして呉れ。年が老つてから女房に先立たれちや、淋しいからなア』 捨子『妾の云ふ事を、ハイハイと云つて、一言も反かず聞いて下さいますか』 松若『ウン、何でも聞いてやらう。遠慮なしに云つて見たが良からう』 捨子『そんなら申上げます。先づ第一に大老職を返上し、どうぞ妾と一緒に民間に下つて、衆生の怨府を遁れて下さいませ。そして衆生に政権をお渡し下さいますれば、衆生はキツト国司家を中心として立派な政治が行はれるで厶いませう』 松若彦は迷惑の体で面を顰めたが、エー併し乍ら逆らうて発動されちや堪らない。何でもいい、気違ひの云ふ事だから、ウンウンと云ふて置けば良い……とズルイ考へを起し、 松若『ウン、ヨシヨシ、何時でも返上する積りだ』 捨子『あゝ嬉しい事、流石は松若彦様、それでこそ妾の夫で厶いますワ。どうぞ御意の変らぬ内、大老職の辞表を認め、実印を捺して下さいませ。さうでなければ、妾は死んで天国へ参ります』 松若『チエ困つた気違ひだなア。先書いてやらねば治まらない。書いた所で出さなければ良いのだ』 と文机から料紙を取出し墨をすつて筆に墨し、大老の辞表をスラスラと書き認め、捨子姫の前で実印を押捺し、 松若『サア捨子姫、之で得心だらうなア』 捨子『ハイ得心で厶います。どうぞ其辞表を、妾に御渡し下さいませ』 松若『イヤイヤ斯うしておけば何時でも出せるのだ。若しお前に持たしておいて、そこらへ落とされては大変だから、先づ渡すこと丈は止めておかう』 捨子『それでは貴方は妾を詐つて居らつしやるのでせう。政権や顕職に恋々として居らつしやるのでせうがな』 松若彦は癪にさへて、 『エ、やかましい、きまつた事だ。今日の地位は決して此松若彦が得たのでない。言はば祖先の名代も同じ事だ。軽々しく俺一了見では左様な事が出来るものか。御先祖様を地下から呼び起し、お許しを受けずばなるまい。其方には八岐の大蛇が魅入つて居るのであらう。汚らはしい、そちらへ行けツ』 と焼糞になつて呶鳴りつけた。捨子姫は……老人を余り腹立てさすのも気の毒だ、ここらで幕の切所だ……と従順に沈黙に入つて了つた。松若彦は杖をつき乍ら、憂さ晴らしの為庭先の花を見むとて、二足三足外へ出た所へ家僕の新公が慌しく帰り来り、 『御前様へ申上げます』 松若彦は驚いて、 『ヤ、お前は新ぢやないか。其慌てた様子は何事ぞ。又プロ運動でもおつ始まつたのか』 此親爺、プロ運動が気に懸かると見えて、二つ目にはプロ運動が突発したのではないかと尋ねるのが此頃の習慣となつて居た。 新公『仰の如く、たつた今、赤切公園に於て、プロ階級演説会が始まり、大変な取締と衆生との衝突で、血まぶれ騒ぎが勃発致しました』 松若『ナアニ、プロ階級演説会?、そして血まぶれ騒ぎ、其後は何うなつた』 と云ひ乍ら、驚いて庭の敷石の上にドスンと尻餅をつき……『アイタタツタ』と面顰めて居る。 新公『お蔭で、其騒も鎮静致しましたが、不思議な事には、エンゼルだと云つて、白馬に跨り、妙齢の美人が現はれ……松若彦も悪いが、衆生も悪い……テな事を歌ひましたら、不思議な者でげすな、ピタリと争闘が止まりました。然しながら其エンゼルの顔が当家のお嬢様にソツクリでした。お乗り遊ばした馬も、お邸のに寸分違はぬ白馬で厶ります。若しも、お嬢様も宅に居られず白馬も居ないとすれば、テツキリ常磐姫様に間違ひ厶いますまい』 松若『今朝から姫も居らず、馬も居ないから、あのお転婆娘どつかの公園に散歩に行つたと思つて居たが、プロ運動に加はり居つたか。そして衆生の前に松若彦が悪いなどと云へば、火の中へ薪に油をかけて飛込む様なものだ。益々プロ運動を熾烈ならしめ、国家の基礎を危くする事になる。新公、若しも姫が帰つて来ても松若彦が許さぬ限り、一歩も入れてはならぬぞ。あーあ、子が無くて心配する親は無いが、子の為に親は心配せねばならぬか』 新公『御前様、子が有る為に御心配になりますか。さうすればお金のある為、爵位のある為には一入御心配で厶いませうな』 松若『爵位が有る為、黄金が有る為の心配は心配にはならぬ。此老体もそれある為に息をして居るのだ。アツハヽヽヽ』 と冷やかに笑ひ乍ら、杖を力にエチエチと奥の間さして進み入る。 新公は箒を手にし乍ら、独り呟いて居る。 『よい年をして執着心の深い老耄爺だな。国司様から貰つたお菓子も葡萄酒も、又沢山な政治家連や出入の者や乾児共から病気見舞だと云つて持つて来るサイダーにビール、林檎や菓子、一つも自分も喰はず人にも能う呉れやがらず、皆金にして郵便局に預け、金のたまるのを唯一の楽みとして居る欲惚け爺だから、サツパリ駄目だワイ。俺達にビールの一本も振舞つてよかりさうなものだのに、毎日日日車力に積んで売りにやりあがる。本当に吝な爺だ。それだから良うしたものだ、親辛労子楽、孫乞食と云つて、三代目になれば、此財産もスツカリ飛んで了ふのは今から見えて居る。松依別さまの此頃の悪原通ひと云つたら、本当に痛快だ。印形を盗み出しては銀行から金を出し、金銭を湯水の如くに使ひ、大尽遊びをやつて居らつしやるのに、欲に目が眩んで、何も知らずに居るとは可哀相なものだな。金を拵へて番する身魂と、金を使ふ身魂とがあると見えるワイ。アツハヽヽヽ』 と独り笑つて居る。其処へ馬に跨つて、悠々と帰つて来たのは盛装を凝らした常磐姫であつた。 新公『ヤ、お嬢さま、お帰りなさいませ。貴方はオレオン星座からお降りになつた、エンゼルの松代姫さまぢや厶りませぬかな』 常磐『ホヽヽヽ新さま、お前見て居たのかえ』 新公『ヘーヘー貴女のお芝居は此新公、目敏くも看破して居りましたが、然しながら衆生があれ丈不思議がつて居るのに、素破抜いちや面白うないと思つて、黙つて帰つて来ました。そして御前様に一寸話ました所、大変な御立腹で、……清家の娘がプロ運動の煽動をする様なことでは、此内へは入れられぬ、門前払を喰はせ……とそれはそれはえらい勢で厶いましたよ。マア一寸此門潜るのは見合はして頂きませう。御前様の代理権を持つて居りますから断じて入れませぬ』 常磐『ホヽヽヽ、大分面白うなつて来たね。さうすると父上は今日限り、お暇を下さるのだらうか。さうなれば、妾も願望成就だワ。そんなら、父上に、之つきり、お目にかかりませぬから、……随分御身を大切になさいませ……と云つたと伝へて呉れ、左様なら』 と駒の頭を立直し、出行かむとするを、新公は驚いて、 『あゝ、若し若しお嬢様、少時お待ち下さいませ。何程厳しく仰有つても、子の可愛ゆう無い親は厶いませぬ。貴方が御改心下さらば、キツトお許し下さいますから、御前様に伺つて来る迄、マアマア一寸御待ち下さいませ』 常磐『オイ新さま、折角解放された妾を、再び苦める様な事はして下さるな。父上の其伝言を聞く上は、妾も世界晴のしたやうな心持がして来た……左様なら、父上母上に宜しう云つてお呉れ』 と言ひ残し手綱かいくり、館の門前の階段を、『ハイハイ』と馬をいましめ乍ら降つて行く。其処へヅブ六に酔ふて、兄の松依別が懐手をし乍ら、三尺帯を尻のあたりに締め、自堕落な風をして、頬冠りを七分三分に被り、 『失恋したとて短気を出すな 悪原廓に花が咲く……と。 日々毎日悪原通ひ 早く親爺に死んで欲しい……と。 家の親爺は雪隠のそばの柿よ 渋うて汚うて細こてくはれない……と』 と千鳥足になつて、階段を昇つて来ると、妹の馬とベタリ出会し、 松依『こんな狭い所を馬に乗りやがつて、ドヽ何奴だい。見た所、一寸渋皮の剥けたナイスと見えるが、一寸馬から下りて来い。握手の一つもやつてやらア。エー、ゲー、アツプー、エー苦しい苦しい。なんぼ苦しいても美人の顔見りや気分が悪くないものだ』 常磐姫馬上より、 『あゝ見つともない、兄さまぢや厶いませぬか。妾は常磐姫で厶いますよ』 松依『時は今、親爺の亡ぶ間際哉……とか何とか仰有いましてね、……あゝ面白い面白い、これから帰んで、薬鑵頭のお小言を頂戴するのかな』 常磐『コレ兄さま、しつかりなさいませ。妹で厶いますよ』 松依『妹でも何でも構ふものか、……妹と背の中を隔つる吉野川……(唄)悪原通でいきりぬく』 常磐姫は止むを得ず、馬からヒラリと飛下り松依別の背を叩き乍ら、 『兄さま、しつかりして下さいませ、妾は之から父の怒に触れ、家出を致します。貴方はどうぞ両親に心を直して、良く仕へて下さいませ。之が此世の別れにならうも知れませぬから……』 と流石気丈の常磐姫も、涙に湿つた声を絞つて居る。松依別は始めて妹と悟り、俄に気がついた様に、 『ヤア妹か、一体何処へ行くのだ』 常磐『ハイ、父に勘当されましたので、之から誰憚らず、プロ運動にでも出かける積りで厶いますワ』 松依『ナアニ、プロ運動?結構々々、それも結構だが、悪原通ひも結構だらう。親爺の奴衆生の膏血を絞り、沢山の金を蓄て置きやがつたものだから、死ぬにも死ねず、行く所へも行けず苦んで居るから、チツと其金を浪費し、深い罪をチツトでも軽うしてやらうと思つて、今頻りに孝行運動の最中だ。お前も之からプロ運動をやり、親爺の内閣を倒し、チツと罪を取つてやれ。お前も之から親孝行を励むがよいぞ、左様なら……』 と又もや門をくぐり、 松依別『兄は悪原妹の奴は プロ運動で孝行する……と』 新公は箒を持つた儘、庭園の隅つこから走つて来て、 『若様、御前様が大変な御立腹で厶います。どうぞ着物を着替へて、お這入り下さいませぬと、其ザマでお這入りになつては、大な雷が落ちます。すると吾々迄が迷惑致しますから、チツと低い声でものを仰有つて下さいませ』 松依『エツヘヽヽヽ、面白いな、胸がスイとする様な雷に一遍落ちて貰ひたいものだ。……地震雷火事親爺、親爺が恐くて大神楽が見られぬ……と、アーア碌でもない酒を無茶苦茶に、お里の女奴強ひるものだから、内へ帰つても未だ酒の気が残つてけつかる。あ然し愉快だ、……オイ親爺、妹を放り出して、どうする積りだ。妹を放り出すのなら、何故兄から放り出さぬのぢやい。よう放り出さぬのか、俺の方から放り出てやらうか』 とダミ声を振上げて呶鳴つて居る。松若彦は何だか妙な声が屋外に聞えるので、杖をついて現はれ来り、窓からソツと覗いて、松依別の姿に肝を潰し、『アツ』と云つた儘其場に倒れ、したたか腰を打つて、ウンウンと唸つて居る。館の中は上を下への大騒動、水よ薬よ医者よと、家令や家扶家従の面々が自動車や自用俥を飛ばして大活動を始め出した。松依別は懐手をし乍ら、ブラリブラリと又もや門口指して出て行く。 (大正一三・一・二三旧一二・一二・一八伊予於山口氏邸、松村真澄録) |
|
54 (3057) |
霊界物語 | 70_酉_トルマン国の国政改革 | 01 信人権 | 第一章信人権〔一七六八〕 往古文化の中心、仏祖の出現地なる七千余ケ国をかためて一団となしたる印度は浄行、刹帝利、首陀、毘舎其他各種の階級が設けられて居た。殊に印度はバラモン教の根元地とも云ふべき国である。さうしてウラル教はデカタン高原の一角に、相当に勢力を保ち、バラモン教の本城ハルナの都に向つて、ややもすれば教線を拡張し、大黒主の根底を覆へさむとするの慨があつた。茲に大黒主は宣伝将軍を四方に遣し、殊にこの方面は大足別将軍に数千の兵を与へて討伐のみを主たる目的にて出発せしめたのである。扨てデカタン高原内の最も土地肥たるトルマン国は余り大なる区域ではないが、相当に沢山な人が住んで居る。さうして地理上の関係からウラル教を奉じて居た。トルマン国の王の名はガーデンと云ふ。ガーデンはウラル教を信ずるでもなく、又排斥するでもなく、祖先伝来の宗教として、弔ひの儀式にのみ用ふる位の観念を持つて居た。然るに国民の過半数はウラル教を奉じ、一部分はバラモン教に入り、二三分通りはスコブツエン宗に新に入信する事となり、其勢ひは燎原を焼く火の如くであつた。ハルナの都の大黒主はバラモン教の宣伝使を遣はして、トルマン国を全部バラモンの勢力範囲になさむものと、いろいろ苦心の結果、到底バラモンの名にてはこの国の人心に投じない事を悟り、狡猾にして万事抜目のない大黒主は、日頃手慣けおいた、寵臣のキユーバーに命じ、バラモン教の名を避けて、スコブツエン宗と云ふ、変名同主義の宗教を築かせ、先づ第一にトルマン王を帰順せしめむと百方尽力して居たのである。トルマン王のガーデンには千草姫と云ふ王妃があり、太子はチウイン、王女はチンレイと云つた。左守の司をフーランと云ひ、妻モクレンとの中にテイラと云ふ一人娘があつた。右守の司はスマンヂーと云ひ妻は已に此世を去り、ハリスと云ふ一人の娘をもつて居た。然るに王を初め、左守右守はバラモン教はもとより、スコブツエン宗には何程勧められても入信せず、体的方面の政治のみに没頭して居たのである。茲にバラモン軍の大足別が、俄にトルマン城の攻撃を開始した経緯について、其大略を述べて見ようと思ふ。 トルマン城を去る十数里を隔てた、或小さき山里の古ぼけた祠の前で、二人の首陀が何事か頻に囁き合つて居た。春の初とは云へど、未だ風は寒く青草の芽は去年の記念物たる長い枯草の間から細長く空を覗いて居る。 レール『信仰的に自覚した吾々の擡頭を見て、バラモン階級の鬼畜どもは周章狼狽し、尠からず戦慄し恐怖を感じたものと見える。彼奴等は自分等の占有せる支配の地位たる宗教上、経済上より顛覆しつつある己れ自身を解し、哀れ至極にも泣き面をかわき、勃興せる三五運動の大征伐に向つて今や死物狂ひになつて居る。溺れむとするものは毒蛇の尻尾でも生命限りに掴まむとするものである、諺通りの彼奴等の狂態は、噴飯の価値以外には全くゼロだ』 マーク『さうだねー、浪速節語の屁放爺……………に奏任待遇を与へたり、若衆に僧服を纒はせたり、老衆に民風作興を卸売りしたり、糞造機の似而非宗教家に思想善導の元売捌きを許したのを見ても、愈彼奴等が境遇を暴露せるもので、思へば実に哀れな次第ではないか。是を見ても今迄に虐げられた吾々三五教徒に取つては溜飲が下がる様だ、痛快千万だアハヽヽヽ。併し乍ら今日の場合吾々は毫も油断は出来ない。尚ほ層一層この運動に大努力を要する天下別目の時期だ。バラモン教徒の滅亡は自業自得の結果として拱手傍観すべきでは無い。自業自得の必然性を認むればこそ、且つ鼬の最期屁の害毒の甚大なるを悟ればこそ、吾々は最善の戦法を選んで一刻も早く宗教戦の勝利を得るやうに、奮闘努力せなければならぬ。彼奴等のこの自業自得の収獲こそ人類史上、最大罪悪の裁判の結果で、一点の恕すべき所はないのだ。只吾々は彼奴らの滅亡を一日も早く断行し、促進することが寧ろ彼奴等に対してせめてもの優遇だ、弔ひだ、ハナムケともなるべき慈善だ。アハヽヽヽ』 レ『俺等仲間の第一癪に障る事は暴利の権化とも云ふべきブル的宗教家の今日のやり方だ。好景気時代に、己れ先づシコタマ信徒の油を搾り懐中をふくらせやがつて、最後にお義理的に申訳的に、渋々吾々三五教信者へホンの鼻糞ほどのお守り札を呉れよつて、恩情主義だの何のと臆面もなく誤託を吐き、俺等の汗や油を搾つて妾宅を造り、栄華の夢に酔ひ潰れ、一朝不景気風が吹き初めると、何は扨て置きイの一番にお札の値下げだの、お払ひ箱だのと大鉈を振り上げ、人間の生命を制し、ミイラを製造しておき乍ら、己れは依然として甘い汁をシコタマ吸収し、そして吐すことを聞けば………宗教界に不景気風が吹き荒み、真価は日を追ふて暴落として来た。こんな悪現象を招来した原因は信仰律低下と、教義の余りに高尚に過ぐるからだ………と吐きやがるのだ。そして洒々として澄まし込んで居やがる。ブル宗教家連中も矢張り吾々同様に白い米を喰つて黄色い糞を垂れる人間の片割れだ。こんな奴が覇張つて居る宗教界は何時になつても駄目だないか』 マ『そりや其の通りだ、俺も同感だ。併し今日の僧侶共は実に怪しからぬ代物ではないか。俺等の仲間に対して吐すことには、「お前等の如うな悪信仰の没分暁漢連が八釜敷云つて飛び廻るものだから、宗教は日に月に悪化し混乱状態に陥るのだ」と吐きやがる。こんな僧侶の盲目共は、梵鐘を鳴らしたから火事が起つたと吐かす没分暁漢だ。更に又「人間社会に貧乏と云ふ怪物が現はれるのは、食物の生産力に比して人口の加増率が一層多き為だから、是を救済する唯一の良法は貧乏人等が節制して、余り沢山な子を産まない様にするのが、社会救治策の最善なる方法手段だ」と主張する馬鹿な学者も現はれて来た。さて何れも理窟は抜きにして、斯の如き坊主が社会に公然として生存し得るのも、畢竟宗教家第一主義の社会なればこそだ、思へば涙の溢れる程有難きお目出度き次第だ。 バラモン主義の現代の社会に於て横綱たる、ブル宗教家力士の土俵入りに従ふ雑僧の太刀持や、露払ひを勤むる御用学者の出場なぞは、実に見物人の吾々に取つては立派で見事である。此土俵入りを拝見する為には、随分種々の美はしい名目で、過重な見料を否応なしに徴集されるのだから、吾々の貧弱な骨と皮との痩肉には錦上更に花を飾ると云ふお目出度い状態だ。アヽ吾々信徒はこのお目出度に対して祝福の言を述べねばならぬ。一層声を大きくして、横綱力士の今に土俵の外に転げ出て、手足を挫き吠面を曝らす幕切りを見たいものだ、アハヽヽヽ』 レ『一日も早くその土俵入りの盛観と幕切りを拝見したいものだ。腕を撫し固唾を呑み拳骨でも固めて………』 マ『それはさうとして、僕の友人なる首陀のバリー君に大喇嘛が「貴様は首陀の分際であり乍ら、浄行の言語を使用し、頭髪を長くしやがつて怪しからぬ奴だ」と云ふ罵詈雑言の末、如意棒をブラ下げた髯のある立派な番僧に散々つぱら毒付かれたのだ、「首陀のくせに浄行の語を使ひくさる」とは、首陀と浄行とは別国人だ。印度人では無いと云ふ以上に軽蔑の意味が充分に含まれて居るのだ。此番僧が大喇嘛から「浄行語を使ふ首陀は用捨なく蹴り倒せ、擲り付けよ」との命令を受けて居たか否かは別問題として、首陀向上運動の煽動者であることだけは君も知つて居るだらう。故に吾々は不逞首陀団と目されて居る憐れな運動者よりも、先づ所謂番僧連を、信徒安定の上から見て厳粛に取締らねば成るまいと思ふのだ。実に思ふても馬鹿々々しい問題だが、番僧連は片手で浄首融和会と云ふ魔酔薬を突出し、片手では「浄行語をエラソウに使ひくさるから」とて拳骨を突出して居るのだ。併し首陀向上団の連中から聞いて見ると、幸か不幸か魔酔薬も拳骨も余り好感を以て迎へられて居ないさうだ』 レ『僕はそれだから、近頃途上では成るべく浄行の番僧には会はない様にと注意してゐるのだ。「貴様は首陀階級の癖に俺の顔を見るとは生意気千万な奴だ」と直ぐに擲られるのが嫌だからだ。ホントに馬鹿々々しいぢや無いか』 マ『馬鹿らしい事と云つたら、一夕俺の亡妻の追悼会を催した事があつたが、数日の後に婆羅門総本山から、番僧が御出張遊ばされて「お宅の追悼会を少しも知らなかつた所、今日本山から散々に小言を云はれ、大に目玉の飛び出る程叱られた。それでお宅様の追悼会には誰々が集まつたか、どんな弔辞があつたか聞かして呉れろ」との仰せだ。僕は葬婚の礼儀さへ弁へ知らぬ番僧連にはホトホト呆れ返つて、開いた口が早速に閉まらなかつた。そこで余り業腹が立つので「幾ら番僧だつて葬式や婚儀にまで干渉する権利はありますまい。宗権を蹂躙するものだから、そんな事は答弁の限りでは御座らぬ」とキツパリ温順に云つて退けてやつた。さうすると斯の頓馬番僧、其翌朝から毎日六ケ敷御面相を遊ばして宅の表に如意棒をブラ下げ乍ら頑張つて御座るが、何れの目的がお在り遊ばすのか俺には合点が行かない。又その番僧の非常識なやり方を遊ばすのは、何の理由だか知る由もないが、大喇嘛から叱られた時は尚ほ「一層酷しく首陀向上会をヤツつけろ」と云ふ約束が番僧間の金科玉条とされて居るのか、兎にも角にも不都合な話だ。実に吾々には迷惑の至りだ。ウラナイバラニズムの好い見本だ。キヽヽヽだ』 レ『兎も角一日も早く吾々の向上運動を進めて、根本的に大運動、否荒料理のメスを振はなくては駄目だ。吾々首陀信徒は自滅するより外に進むべき道は無いのだ。何と云つても黴菌を怖れ、難病を避ける医学博士、毒蛇や毒草を避けて通る博物学者、テンデ貧乏人には接近しない活仏や、弱い者を虐める牧師の公々然として頭を擡げる暗黒世界だもの、況んや俗の俗たる婆羅門僧侶に於てをやだ。吾々は飽くまでも婆羅門どもの根城を根本の土台から転覆させん事には、信仰独立権を保持することさへ六ケしからうよ』 二人の三五信者なる首陀が盛に森蔭に腰を下ろして談じて居る所へ、錫杖をガチヤつかせて悠然と現はれたのは、婆羅門教の宣伝使キユーバーであつた。二人は宣伝使の姿を見るより又もやバラスパイが来よつたなーと、俄に話頭を転じて、 レール『この間死んだ俺の倅から幽冥通信があつたが、その音信に「地獄界は僧侶や牧師ばかりで満員だ。普通の人間では殺人、放火ぐらいなもので、余り罪が軽すぎて滅多に地獄に入れては呉れない。併し坊主や牧師なら其名称だけでも幾人でも割り込む事が出来る」とのことだつたよ』 キユーバー『君たちは今何を話して居ましたか、穏かならぬ事を喋つて居た様だなア。お前の姓名は何と云ふか、聞かして貰ひたいものだ』 レール『俺の名は俺だ、友人の名は友人だ。坊主は何処までも坊主だ。オイ兄弟、サア行かう』 と尻に帆かけて一目散に逃げ出した。キユーバー(急場)に迫つた時は三十六計の奥の手だと、頭を抱へてトントントンと畔路を倒けつ転びつ走り行く。 彼れ婆羅門教の宣伝使はスコブツエンと云ふ一派の宗旨を開いた新婆羅門の教祖であつて、婆羅門の大棟梁大黒主が意を承け、私に第二の準備に取りかかつたのである。大黒主は万々一婆羅門教が、ウラル教又は三五教に潰された時は、スコブツエン教に身を托すべく、彼れキユーバーに数多の機密費を与へ、且つ特殊の権利と地位を与へて、隠密の役目を申付けて居たのである。故に彼れキユーバーは何の不自由も感ぜず、傲然として高く止まり、官民を睥睨しつつ天下を横行濶歩して居たのである。大足別将軍も、彼れが特殊の地位に居ることと、絶大なる権威を大黒主に授与されて居る事を知つて居るので、抜目の無き大足別はキユーバーに対しては色々と媚びを呈し、且つ彼の前に出でては、殆ど従僕の如き態度を以て望み、維れ命維れ従ふのみであつた。 扨てキユーバーが東地の都の大黒主の内命を受けて開いて居る婆羅門教の別派、スコブツエン宗は由来難行苦行を以て神に奉仕の誠を捧ぐるものと為し、聞くだに恐ろしき苦行の教団である。百千の苦行を信徒に向つて強る点は、婆羅門教と少しも異りはないが、殊に甚だしき苦行は婦人がヱマスキユレート即ち男性化の修業で、変性男子の願を立てて女性たることを脱せむとする事が、最も重要とされて居る。其方法には卵巣除去法と乳房除却法とがあつて、卵巣除去法の修業になると、百人の中九十九人迄生命を殞すに至る、実に惨酷なる修業であり、乳房除却法に至つては、白熱せる火箸を以て婦人の乳房を焼き切るのである。斯くした者に対して教主及び重役人が婆羅門大神へ奉仕を標章するため焼印を押す。之を熱火の洗礼と称へて居る。斯くして切り落された乳房は聖壇に供へられ、之を捧げたる犠牲者は聖座に安置されて、神の如くに崇敬されるのである。そして聖晩餐の食物中には、乳房の断片が混ぜられ、会衆一同之を喫し終るや、犠牲者の周囲に熱狂せる舞踏が演ぜられるのである。その光景は実に凄惨極まるもので、正しき神々の所為でないことは之を見ても判るのである。抑も乳房は女性のシンボルであり、美のシンボルであり、又婦人生殖器の一部とさへ考へられて居た。畢竟、婦人を代表さるものは乳房だと云ふ観念の下に立てられた邪教なのである。印度に興つた宗教の説は概して、自我の世界は纒綿の世界であるとか、出纒の行と述ひ、無我と道ひ、空と謂ひ、解脱と曰ひ、涅槃と説つて所謂転迷開悟に専らなる諸々の宗教が発生するだけあつて、土地と気温の関係の然らしむる為か、印度と曰ふ国は恐ろしく美しい、且つ物凄く壮大な自然に包まれた、何百種かの人間が幾百種の階級を作り、幾百種の言語を使つて居る国だけあつて、樹上に三年、石の上に十年も立つたり坐つたりして居たり、穴の中の逆立を三ケ月間も続けて修行するとか、水ばかり呑んで生きるだけ生きるとか、木乃伊となるために氷雪の裡、岩角の上に飲食物を絶つて坐つて修行すると云ふやうな迷信、妄信、愚信、悪邪信の醗酵地であり、持戒、精進、禅定、忍辱などと八釜敷く叫び乍らも、淫靡、不浄、惰弱で始末に了へない国民性である。それ故に自然の結果としてスコブツエン宗の如きものが発生し得たのである。 彼れ教祖のキユーバーは凄い眼をギヨロつかしながら、レール、マークの二人の談話を耳敏くも聴き取つて、大黒主の国家を覆へすものと憂慮し、二人の逃げ行く姿を追跡せむと金剛杖を力に、一生懸命に焦慮出したのである。然るに彼の二人は逸早くも山林に姿を隠し、谷川の水を掬つて咽喉を潤しながら、 レール『オイ、マーク大変な奴に出会したものだないか。彼奴は大黒主の邸内に数年前まで出入して、大黒主の御覚え目出度かつたと云ふスコブツエン宗の親玉ぢやないか、下手に魔誤付いて居たら大黒主より重罰に処せられる危ない処だつた。彼んな坊主が何故あれほど威張り散らしよるのだらう。何故あんな不完全極まる宗教が亡びないのだらうか』 マーク『印度七千余国には幾百の小さい宗教があるが、何れの宗教も完全なものは一つも無いにきまつて居るよ。殊に彼の宗教は殊更不完全極まる未成品宗だから、命脈を保つて居るのだ。凡て不完全なものには将来発達すべき余地があり、未来があるのだ。完全は行詰りを意味し、結局滅亡の代名詞に外ならないのだ、アハヽヽヽ』 レ『さうすると吾々の運動も成功せない未完成の間が、花もあり、香もあり、実もあり、世人からも注目されるのだな。アハヽヽヽ』 マ『ナアニ俺達はブルジョア宗教やラマ階級に圧迫され苦しめられ、明敏な頭脳が滅茶苦茶になつたので、チツト許り小理窟を覚えて居るのを利用して、実は滅茶苦茶な革正運動をやるやうに成つたのだ。然し斯う曰ふ頭悩でなければ、創意創見は生れて来ないのだ。復古を叫ぶ人間は必ず覚明家だ。石火坊子団は即ち石下坊主団だ。日露協約の結果は白雪までも赤化したぢやないか、アハヽヽヽ。それだから吾々は天の表示を確信して驀地に進まむとするのだ。アヽ一日も早く吾々の目的を達成せなくては、到底吾々三五信者兼首陀向上会員は身の置き所がなくなつて了ふわ。「白雪も日露協約で赤く化し」』 かくて両人は又もやキユーバーの悪口に花を咲かせ、不平の焔を燃やす折しも、執念深いキユーバーの窺ひ寄る姿が木の間を透かしてチラチラと見え出したのに肝を潰し、尻はし折つて山林深く逃げ出して了つた。 (大正一四・二・一三旧一・二一加藤明子録) |
|
55 (3063) |
霊界物語 | 70_酉_トルマン国の国政改革 | 07 妻生 | 第七章妻生〔一七七四〕 軒は傾き屋根は破れ、蝶も蜻蛉も蜂も雀も雨も、屋根から降つて来る所迄茅葺の屋根が煤竹の骨を出して居る。雨戸は七分三分に尻からげたやうに風に喰ひ取られ、障子はづづ黒く棧毎に瓔珞を下げ、風吹く度に自由に舞踏をやつて居る。湿つぽい畳は、表はすつかり破れ、赤ずんだ床許りが僅に命脈を保ち足踏み入るるも身の毛のよだつやうに見苦しい。さうして何とも仮令やうのない異様な臭気が鼻を衝く。されど、高姫やキユーバーの目には此茅屋が金殿玉楼の如くに見え、異様な臭気は麝香の如くに、想念の情動によつて感じ得らるるのも妙である。牛糞の味も牡丹餅の如く感じ、馬糞の臭もお萩の如く、いと満足に喉を鳴らしてしやぶるのだから耐らない。口の欠けた燻ぼつた土瓶に籐の蔓の柄をつけ、屋根から釣るした煤だらけのてんどりに引つかけ、牛糞を焚いて茶を温め乍ら、二人は嬉々として他愛もなくふざけて居る。御霊の相応と云ふものは実に不思議なものである。 此高姫さまは、キユーバーの目には、一寸見た時には婆さまのやうに見えたが、何時の間にか、トルマン国の王妃千草姫のやうな美人に見えて来た。又高姫の目では団栗眼の烏天狗のやうな、口の尖つた不細工なキユーバーの顔が何とも知れぬ凛々しい、時置師の杢助に見えて耐らない。高姫は鼠髯のやうに皺のよつた口をつぼめ乍ら、しよなしよなと体をゆすり、 高『これ杢助さん、否高宮彦殿、ようまあ化けたものですなあ。あの四つ辻で会つた時は、左程でもない遍路だと思ふて居たに、かうさし向うて篤くりとお顔をみると、まぎれもない高宮彦様だわ。もし私は高宮姫で御座いますよ。何ですか他々しい。他人らしい其振舞は措いて下さい。何程貴方が出世して偉くなつたつてやつぱり私の夫ですよ』 キユ『お前は高宮姫と改名したのか、何でも千草姫と云ふ名だつたと思ふがな』 高『あのまあ杢チヤンの白々しい事。それ貴方とあの御殿でお約束して高宮姫と改名したぢやありませぬか。貴方だつて其時高宮彦と改名されたでせう』 キユ『ハテナ、お前はどうしても千草姫に違ひない。妙な事を云ふぢやないか。併し乍ら、名はどうでもよい。心と心さへぴつたり合うて居ればそれで十分だ』 と二人は互ひ違ひに主をかへ、嬉々として意茶つき始めた。 高『もし貴方、あれから私に別れて何処を歩いてゐらしたの。私どれ程尋ねて居たか知れませぬわ』 キユ『私はな、デカタン高原のトルマン国へ根拠を構へ、お前を一目見てから目にちらついて耐らず、何とかして会ひたい会ひたいと心を焦して居る矢先、お前がトルマン王の妃になつて居るものだから手の附やうがなく、百方手段をもつてたうとうお前に近よる事が出来、永らくの恋の暗を晴らす事を得たのだ。サアこれからお前と私と心を合せ、トルマン国を手に入れ、七千余国の月の国を蹂躙して見ようぢやないか。到底科学的文明の極点とも云ふべき現代を救ふのには、単なる説教や演説や祈祷のみにては功を奏しにくい。自ら王者の位置に立ち軍隊を片手に握り、一方には剣、一方にはコーランをもつて人心を治めなくては宗教も政治も嘘だ』 高『成程、貴方のやうな智勇兼備の神人は世界に御座いますまい。あゝ三年が間、此の山のほてらで苦労したのも貴方に会ひたい許り、いよいよ時節が来たのかなあ』 と互に辻褄の合はぬ勝手な応答をし乍ら、八味の幕を下して抱擁したまま睡りについて了つた。外に立つて居たトンボはやけて耐らず、小石を拾つて戸の破れから幾つともなくボイボイと投げ込んだ。小石は釣り下げてある土瓶の腹を割つて、二人の寝て居る足の上にパツと小便を垂れた。高姫は驚き跳起き乍ら声を震はせて、 『これや、天下の救世主が種を蒔きよるのに何をするか。何者だ、名を名乗れ』 と呶鳴り立てる。トンボは外から、 『ワハヽヽヽヽヽ石を投げたのは此トンボさまだ。これや婆々、今にこの家を叩き壊してやるからさう思へ。俺も一つは性念が有るぞ』 と又もや雨の如く両手に小石を掴んで投げ込む危ふさ。石は戸棚や水屋にぶつかつて、カチヤカチヤパチパチガランガランと瀬戸物迄が滅茶々々になる。高姫、キユーバーの二人は危くて成らず、表戸を引きあけ『コレヤー』と呶鳴る勢に、トンボは骨と皮との体を、尻をまくりながら、ドンドンドンと逃げ出す。高姫とキユーバーは追ついて素首引掴み懲して呉むと真裸の儘、トンボの後を息をはづませ、青い火の玉となつて追つかけ行く。 トンボは八衢の関所の門口に来り、慌てて黒門にどんとつきあたり、アツと云つた儘其場に倒れた。キユーバー、高姫の二人は皺枯声を張上げ乍ら、ホーイホーイ、ホイホイホイとド拍子もない声を張上げて追かけ来り、トンボの倒れて居る姿を見て痛快がり、 高『ホヽヽヽヽヽこれ杢チヤン、天罰と云ふものは怖ろしいものでは御座いませぬか、ねえ貴方。私と貴方が神代から伝はつた、青人草の種蒔の御神楽を勤めて居るのを岡焼して、石を投げ込んだトンマ野郎ぢや御座いませぬか。これやトンマ、確りせぬかい、生宮さまの御神力には畏れ入つたか』 トンボは漸く気がつき、 『お前さまは生宮さまぢやないか。こんな役所の門前迄来て人の恥をさらすものぢやありませぬぞや。何卒悪口だけは耐へて下さい。私だつてまだ末の長い人間、これからまた世に立つて一働きせなくてはなりませぬ。お役人の耳へ私の悪口が入つたら最後、何処へ行つても頭は上りませぬからねえ』 高『ヘン、これやなーにをぬかして居るのだい。自業自得ぢやないか。お前のやうなものを此世の中に頭を上げさせておこうものなら、世界は暗雲になつて了ふぢやないか。それだからお役人に聞えるやう、一入大きな声で云つたのだよ。何とまあ情なささうな顔わいのう』 ト『これや婆々、もう俺も破れかぶれだ、何なりと悪口をつけ。その代り貴様の秘密をお役人の耳に入るやう大声で素ツ破ぬいてやる』 キユ『これやこれやトンボとやら滅多な事は云ふまいぞ。貴様のやうな三文やつこなら、仮令よく云はれても悪く云はれても余り影響はない筈だ。然し乍ら吾々如き救世主の、仮令嘘にもせよ悪口を申すと、世界救済の事業の妨害になるのみならず、其罪は忽ち廻り来つて吊釣地獄に墜ちるぞや』 ト『ヘン放つといて下さい。お前さまは此婆々と炉の辺で、とんでもない種蒔行事を演じて居たぢやないか。それあの醜体を……もしもしお役人様、此奴等二人は天則違反の大罪人で御座います。何卒か御規則に照し、地獄へ打ち込んで下さい。さうしてウラナイ教とか、スコ教とか云つて悪神の教を天下に拡めようとする餓鬼畜生で御座います。私が証拠人になります。何卒此奴等二人を厳しく調べて下さい』 と力一ぱい呶鳴り立てる。 キユ『これやこれやトンボとやら、教主や生宮を罵る罪は軽けれど、教の道を罵る罪は万劫末代許されないぞ。謗法の罪の重い事を知つて居るか』 ト『ヘン偉さうに云ふない。謗法の罪なんて俺やどこでもやつた事は無いわ。貴様等両人こそ方々で悪い事をやつて来た代物だ。もしお役人様、大罪人を二人茲へ引張つて来ました。早く来て下さらないととんぼう(遁亡)致します。早く早く』 と呶鳴つて居る。赤白両人の守衛は此声に訝り乍ら、門を左右に開き外に出て見るとこの体裁、 赤『これやこれや今日は公休日だ。なぜ矢釜しく申すか。訴へ事があるなら明日出て来い、聞いてやらう』 ト『もしお役人さまに申し上げます。天下を乱す彼様な大悪人を現在目の前に眺め乍ら、公休日だから調べないなぞと、そんなナマクラな事を云うてお役人が勤まりますか。日曜迄月給は頂いて居られませう。一寸でよいからお調べ下さいませ』 赤『や、お前はバラモンのリユーチナントではないか。未だ修養も致さず、八衢に迷ふて居るのか、困つた奴だなあ』 ト『もしお役人さま、面白い事を仰有いますなあ。冥途かなんかのやうに現界に八衢が御座いますか』 赤『ここは冥途の八衢だ。其方は鬼春別将軍の一旦部下となり、軍隊解散の後、泥棒となつて四方を徘徊致し、或勇士の為に殺され、精霊となつて此所へ来て居るのだ。それが未だ気が附かぬのか』 ト『ヘン、余り馬鹿にしなさるな。些と真面目になつて下さい。私は狂者ぢや御座いませぬよ。死んだ者がこの如うにものを云ひますか。目も見えず耳も聞えず、口もたたけず、手足も動けなくなつてこそ死んだのでせう。ヘン馬鹿にして居る。こんな酒を喰つて顔色迄まつ赤にした奴の酒の肴になつて居てもつまらない。今日は帰つてやらう。その代り明日は見ておれ、貴様の上官に今日の事を一伍一什訴へるぞ。さうすると貴様は忽ち足袋屋の看板足あがり、妻子のミイラが出来るぞや、ハヽヽヽヽヽ』 と捨台詞を残し、道端の石を掴んでキユーバー、高姫目当に打かけ乍ら、入陽の影坊師見たやうな細長い骸骨を宙に浮かせ、北へ北へと逃げて行く。 赤『ヤ、そこに居るのは高姫ぢやないか。お前は時置師の杢助さまに頼まれ、三年間この八衢に放養して置いたが、未だ数十年の寿命が現界に残つて居る。到底霊界の生活は許されない。お前の宿る肉体はトルマン王の妃千草姫の肉体だ。サ一時も早く立ち去れ。又キユーバー、汝は天下無比の悪党であるが、まだ生死簿には寿命がのこつて居る。一時も早く現界へ立ち帰れ。グヅグヅ致して居ると肉体が間に合はなくなるぞ』 と厳しく言ひ渡した。二人はハツと思ふ途端に気がつけばトルマン城内、千草姫の一室に錠前を卸して倒れて居た。どことも無く騒々しい人馬の物音、矢叫びの声、大砲小銃の音手に取る如く聞え来る。是より千草姫の言行は一変し、又もや脱線だらけの行動を取る事となつた。八衢に居た高姫の精霊は己が納まるべき肉体を得て甦つたのである。 (大正一四・八・二三旧七・四於由良海岸秋田別荘加藤明子録) |
|
56 (3065) |
霊界物語 | 70_酉_トルマン国の国政改革 | 09 針魔の森 | 第九章針魔の森〔一七七六〕 東西南の三方に大海原を囲らして 突出したる月の国世界最古の文明地 七千余国の国王は各鎬を削りつつ バラモン教や印度教三五教やウラル教 その外数百の宗教が互に覇をば争ひつ 解脱や涅槃や無よ空よ霊主体従、体主霊従 弥勒成就や神政の再現等といろいろと 主義や主張をふりまはし思想の混乱絶え間なく 中にも大黒主神はハルナの都に割拠して 右手に剣を携へつ左手にコーラン説き乍ら 難行苦行のあり丈けを信者に強ゆる暴状は 天地も許さぬ悪邪教改めしめて国民の 苦痛を除き助けむと主の大神の御言もて 照国別は梅公や照公司を伴ひて 河鹿峠を打渡り葵の沼に立向ひ 十五の月に心胆を洗ひ清めてデカタンの 大暴風に襲はれつ大高原を進み行く デカタン高野の中心地トルマン国は昔より ウラルの教を信奉し神の教のそのままの 政治を布きて来りしが月行き星は移ひて 思想は日に夜に悪化しつウラルの教は日に月に 衰へしより虚に乗じバラモン教やスコ教や 盛に跳梁跋扈して国民性は三分し 国運危くなりければあまり信仰強からぬ トルマン王も目を覚まし漸く神を崇敬し 国人達に模範をば示さむものと思ふ折 スコブツエン宗の教祖と自ら名乗る妖僧が 大黒主の派遣せし大足別と結託し トルマン城を粉砕しスコブツエンの根拠をば 常磐堅磐に固めむとあらゆる手段を回らして 警備少き国情につけ入り暴威を揮ふこそ 実に怖ろしき限りなりガーデン王や千草姫 右守左守の老臣も心を痛めて国防の 協議に頭を悩めしが左守右守の忠臣は 刃の錆となりはててトルマン国の柱石を 失ひたるぞ是非なけれ照国別に守られて チウイン太子の率ゐたる二千と五百の精兵は トルマン城を十重二十重囲みて王城威喝せし 大足別の全軍の背後を衝いて一斉に 総攻撃を初めけるこの有様を見るよりも ガーデン王は雀躍し城兵五百を指揮しつつ 大足別の大軍を前後左右より打ちまくる 驕きつたる敵軍は不意の援兵の襲来に 慌てふためき馬を捨て武器をも捨てて四方八方 命からがら逃げ乍ら彼方此方の家々に 放火し乍ら野良犬の遠吠なして隠れける トルマン城を包みたる醜の村雲漸くに 晴れて天日晃々と輝き玉ふ神世となり 国民上下の歓声は一度に湧きて天地も 揺がむ許りの勇しさ風塵全く治まりて ここにガーデン刹帝利忠義の為に斃れたる 左守右守の英霊を先づ第一に慰めて 感謝の意をば表せむとハリマの森の奥深く 社殿を造りて祀り込みハリマの宮と名づけける 抑此清き森林は幾千年を経たりてふ 苔むす老木鬱蒼と昼尚暗く思ふまで 立並びつつ吹く風にゴウゴウ枝を鳴らしつつ 世の太平を謳ひゐる。ここに照国別司 ガーデン王や太子をば率ゐて祭の長となり 祝詞の声も朗かに唱へ上げむとする時に 千草の姫の寵愛を独占したるキユーバーは 肩で風きり傲然と照国別の前に出で 口を極めて祭礼の儀式に欠点ありとなし 罵詈嘲弄を極むればチウイン太子は腹を立て 妖僧キユーバーを引捕へ縛して籐丸籠に乗せ 城内さして帰りけり千草の姫はチウインが この行動を聞くよりも髪逆立てて怒り立ち 一旦平和に治まりしトルマン城はここに又 再び黒雲塞がりて又もやお家の大騒動 惹起したるぞ是非なけれあゝ惟神々々 神のまにまに瑞月が口述台の浮船に 安臥し乍ら由良湊日本海の怒濤をば 眺め乍らに述べて行く昔の神代の物語 守らせ玉へと主の神の御前に祈り奉る あゝ惟神々々御霊の恩頼を賜へかし。 ガーデン王は、不意に起つたバラモン軍の攻撃に周章狼狽の結果、右守司のスマンヂーを誤つて手にかけ、忠義一途の老臣左守司は陣中に倒れ、幸に敵軍を撃退し、ヤヽ安堵したりとは云へ、ハルナの都の大黒主この報を聞かば、又もや何時捲土重来、吾都城を屠らむも図り難し、一旦は照国別宣伝使の神護とチウイン太子の智謀と、勇将ジヤンクの活動によつて、大勝利を得たるも、かかる戦国に国を立つるは到底武力のみにては叶ひ難し、先づ第一に大神を祀り、次いで忠臣義士の霊魂を斎き国民に信仰の模範を示さむ……と照国別に乞ひ、ハリマの森のウラル彦を祀りたるお宮の傍に「国柱神社」と云ふ祠を建て、左守右守の英霊を鎮祭する事となつた。 ガーデン王、チウイン太子、ジヤンクを初め城内の重臣は各自玉串を献じ、照国別の斎主のもとに無事祭典の式を終らむとするや、キユーバーは三五教の神司照国別が斎主となりし事を非常に憤慨し、千草姫の寵を得たるを力として乱暴至極にも祭壇に駆け上り、照国別の冠を叩き落し、祠の前に立ちはだかり、大音声、 『アツハヽヽヽヽトルマン城の危急を救ひ、神謀鬼策を廻らし王家を救ひたるはバラモン尊天の神力を充したるスコブツエン宗の教祖キユーバーで御座る。抑々このお宮はウラル彦の神、盤古神王を祀りあり、然るに天下を乱す悪神神素盞嗚尊の部下なるデモ宣伝使をして斎主たらしむるとは合点行かず、神明に対し畏れ多からむ。何者の痴漢ぞ、刹帝利の聰明を被ひまつりたる、ウラルの宮はウラル教の宣伝使を以て斎主とすべし。万一異教の宣伝使を以て斎主に当らしむるを得るとすれば、何故今回の殊勲者たる此キユーバーを除外し、神意に反いて不法の祭事を行ひたるか。祭典の主任は何人ぞ。今此場に現はれて其理由を説明せられよ。照国別の冠の脆くも地上に落たるは、神明許させ玉はざる象徴なり。これを霊的に考ふれば、国王殿下の御身の危険を意味し、国家の転覆を意味するもので御座る。一時も早く照国別一派を縛り上げ、彼が生血を大神の前に贄となし、ウラル彦の大神に謝罪致されよ。天来の救世主、キユーバーここに忠告仕る』 と呼はつた。ガーデン王初め居並ぶ重臣等は、あまり大胆なるキユーバーの宣言に呆れはて、照国別の返答如何と固唾を呑んで待つてゐる。 照国別は少しも騒がず、冠を打落されたるまま悠々として玉串を献じ、祭官一同を引具し、トルマン城内さして帰らむとするや、キユーバーは両手を拡げてその進路を遮り乍ら、 『こりやヤイ、デモ宣伝使、首がとんだ以上は最早や城内へ立入る事は罷りならぬぞ。ヤアヤア城内の兵卒共、彼を引捕へて牢獄に投げ込まれよ。彼はトルマン国の仇敵で御座るぞ。神の言に間違ひは御座らぬ』 と呼はれども、ガーデン王やチウイン太子の一言の命令もなければ、誰一人として手を下すものもなく、照国別一行はソロリソロリと進み行く。キユーバーは両手を拡げ乍ら後向けに歩かねばならなくなつた。此時チウイン太子は見るに見かね、 『ヤアヤア、ジヤンク殿、狼藉者のキユーバーをフン縛り城外の牢獄に投げ込めよ』 と下知すれば、ジヤンクの部下は寄り集つてキユーバーを高手小手に縛め、牢獄さして引立てて行く。群集の痛快を叫ぶ声、ハリマの森も裂くる許りに高く聞えて来た。 城内の重臣を初めトルマン市の老若男女も此祭典に参拝してゐたが、妖僧キユーバーが、チウイン太子の命によつて群集の前にて縛めの縄を受けたるを見て大に喜び、口々に罵り合つてゐる。 甲『オイ、何と痛快ぢやないか、何時やらお前と俺と○○○の話をして居つた時、あの妖僧奴、どこからともなく現はれ来り、「いや、その方は今穏かならぬ事を云うて居つたぢやないか。姓名は何と云ふ、住所を聞かして貰ひたい」と云つた糞坊主だよ。ホントに、いいザマぢやのう』 乙『ウン、さうさうあの時、何だつたね、「俺の名は俺だ、友人の名は友人だ、坊主はヤツパリ坊主だ」と吐して一目散に畔道さして逃げた所、執念深くも何処迄も追跡しやがつたぢやないか。大黒主を傘に着て、威張り散らして居つたが、今日のザマつたら、ないぢやないか。こんな事でも見せて貰はなくちや、俺等は胸中に鬱積して居る憤怒の焔が、消える事がないぢやないか、ハツハヽヽヽ』 甲『そいつも痛快だが、あの妖僧奴、一寸噂に聞けば○○○に殊の外寵愛され、刹帝利を眼下に見下し、大変な威勢だと云ふ事だよ。戦争が治まつてから十日もならないのに、最早自分の天下のやうに振舞ふんだから、あんな奴を助けておいたらどんな事をさらすか分つたものぢやない。彼奴は屹度○○○の保護によつて日ならず出獄し、再び城内に暴威を振ひ、吾々国民を層一層苦しめ、生血を搾るやうな事をさらすだらう。吾々は主義のため、同胞の生活安定のため、このままに見逃す事は出来ぬぢやないか』 乙『ウン、そらさうぢや。然し乍ら慌てるには及ばぬよ。又機会が到来するから。其時はその時の手段を廻らしさへすればいいぢやないか、イツヒヽヽヽ』 ハリマの森の社は一直線に王城に続いてゐる。その間の距離二十五丁、道の両方には家屋櫛比し、トルマン市中最も繁華の土地と称せられてゐる。 甲乙二人はいつも、これより此市街に出没し、何事か計画しつつあつた。 (大正一四・八・二四旧七・五於由良海岸秋田別荘北村隆光録) |
|
57 (3100) |
霊界物語 | 71_戌_玄真坊と千種の高姫 | 18 金妻 | 第一八章金妻〔一八〇七〕 大日山の麓の森林に大日如来を祭つた古ぼけた祠がある。其祠の中には蟇の鳴き損ねたやうな面構へをした玄真坊と、天つ乙女のやうな気高い姿の千草の高姫と云ふ美人の二人が、無遠慮に寝そべつて互に頬杖をつき乍ら囁いて居る。 玄『オイ、女房』 千『厭ですよ、女房なんて』 玄『そんなら妻にしておこう。オイ妻』 千『妻なんてつまらぬぢやありませぬか。もつと高尚な名を呼んで下さいな』 玄『そんなら細君にしておこうか、それが嫌なら御内儀にしておこうか』 千『妻君だの内儀だのと女房扱ひは真平御免ですよ』 玄『それや約束が違ふ、お前は俺の嬶アになると云つたぢやないか』 千『そりや云ひましたとも、あの時はあの時の場合で仕方なしに云つたのですよ。一生女房になると約束は為ませぬからなア。仮令半時でも女房になつて上げたら光栄でせう』 玄『そいつは頼りないなア、一生俺の女房になつてくれないか』 千『そりやならない事はありませぬが、貴方の心が心ですもの。そんな水臭いお方に一生を任して堪りますか』 玄『今日会つたばかりで水臭いのからいのとそんな事が分るものか、そりやお前の邪推だらう』 千『それだつて貴方は本当に水臭いワ。沢山の黄金を所持し乍ら、女房の私に任して下さらないのですもの。女房は家の会計万端をやつて行かなければならぬぢやありませぬか、金無しに如何して会計をやつて行く事が出来ますか、よう考へて御覧なさい』 玄『そりやさうだ、だがまだ斯うして旅の空ぢやないか、こんな重い物を女房のお前に持しては気の毒だ。家を持つた上でお前に支出万端任すから、まアまア安心してくれ給へ』 千『貴方はどこ迄も私を疑つてゐらつしやるのですな。私だつて人間ですもの、金位持つたつて途中で屁古垂れるやうな弱い女ぢやありませぬよ。さアすつぱりと此方へお渡しなさい。命迄拾つて上げた私ぢやありませぬか。仮令夫婦でなくても命を拾つてあげた恩人ぢやありませぬか』 玄『そりやさうだ、お前のお世話になつた事はよく覚えて居る。併し乍ら一夜の枕も交さぬ中からさう気ゆるしは出来ないからなア』 千『何とまア下劣な事を仰有いますな。それ程貴方はお金に執着心が強いのですか』 玄『別に金に執着は無いがお金と云ふものは物品の交換券だから、神様に次いで大切にせなければならないものだ。小判の百両も出せばどんな美人でも自分の女房に買ふ事が出来るのだ。これ丈の金があれば、何処かの都で高歩貸しをして居つても、一生安楽に暮す事が出来るからな』 千『ヘン馬鹿にして貰ひますまいかい、遊女と一つに見られては第一霊国の天人もつまりませぬワ。そんな分らぬお前さまならこれで御免を蒙りませう。誰がこんなヒヨツトコ野郎に秋波を送り女房だの嬶だのと云はれて耐るものか、左様なら、これ迄の御縁だと諦めて下さい』 と、ツと立上がり帰らうとする。玄真坊は慌てて千草姫の腰をぐつと抱へ、 玄『ても柔い肌だなア。これさう短気を起すものぢやない。魚心あれば水心あり、俺だつて木石ならぬ血の通ふた人間だ。そんなら三分の一だけお前に渡しておくから、暫くそれで辛抱してくれないか。三分の一だつてザツと一万両あるのだからなア、初めから全部ぼつたくらうとは余り虫がよすぎるぢやないか』 千草姫はペロリと舌を出し乍ら、 『玄真さま人を見損ひして下さいますな。私はお金に惚て貴方に跟いて来たのぢやありませぬよ。エヽ汚らはしい。金等は水臭いワ、金が仇の世の中と云ひますからナ、そこ迄お心が分つた以上は金なんか要りませぬ。貴方が持つて居て下されば、私の要る時には出して下さるのだから、そんな重い物はよう持ちませぬワ』 玄『なる程お前の真心は能う分つた。そんな心なら全部任してもよい、サア重くて済まぬがお前の腰につけてやらう』 千『嫌ですよ、そんな重い物……。男が持つものですよ。女なんか重たくて旅も出来ませぬもの』 千草姫は或地点迄重たいものを玄真坊に持たせ、此処と云ふ所で睾丸を締めて強奪らうと云ふ企を以て居た。恋に惚けた玄真坊は、千草姫の心の奥の企も知らず茹蛸のやうになつて、低い鼻や尖つた口や、ひんがら目を一所に寄せ声の色迄変へ、 玄『遉は千草姫だ。偉い偉い俺もコツクリと感心した。さアかう定まつた以上はお前はどこ迄も私の女房だなア』 千『さうですとも、今更そんな事云ふだけ野暮ですワ。初から女房と定つとるぢやありませぬか』 玄『それでも最前のやうに暫くの女房だの、一生女房にならうとは云は無かつたのと云はれると困る。一生なら一生とハツキリ云ふてくれ、金のある中だけの女房では困るからのう』 千『これ玄真さま、そんな下劣な事を云ふて下さいますな。二つ目には金々と仰有るが、金なんか人間の持つものですよ。私の美貌と天職は他には御座いますまい。天下に唯一人の救世主と云ひ、美人と云ひどうして金銭づくで手に入りますか、よく考へて御覧なさい。妾は金が欲しけりやトルマン国の王妃ですもの、幾何でも持つて来るのです。お前さまは泥棒の親分をやつて居たのだから、人の金を奪る事許り考へて居たのだから、女房が金を奪るか奪るかとそんな事許り考へて居られるのだからそれが私は残念です。も少し人格を向上して貰はなくては、大ミロクの添柱と云ふ所には行きませぬよ』 玄『いやもう恐れ入つた。今後一切お前さまにお任せ申す。いや女房に一任する。併し乍ら何時迄もこんな所で二人がコソコソ話しをやつても芽のふく時節がない。何所かスガの里へでも飛び出して立派な家屋を買求め、それを根拠として天下統一の大業を計画せうぢやないか』 千『ホヽヽヽ、小さい男にも似ず、随分肝玉の太い男だこと。妾それが第一気に入つてよ。さアこれからお前さまは言触れとなつて、そこら界隈を廻つて下さい。私は救世主となつて、この大日山の奥深く社を建て、其処に控へて居りますから、ドシドシと愚夫愚婦を集めて来るのですよ』 玄『ヤアそれも一策だが俺の顔は大抵の奴がこの界隈では知つて居る。万一オーラ山の山子坊主だと悟られては折角の計画が画餅に帰するから、そんな事云はずにスガの里迄行かうぢやないか。兎に角この風体では仕方がない、相当な法服を誂へ身につけて行かねば人が信用せぬからのう』 千『そんなら兎に角、夫殿の仰せに任せスガの里迄参りませう』 弥々これより玄真坊、千草の高姫は、大日の森を立ち出で、スガの港をさして大陰謀を企てむと進み行く事となつた。玄真坊は先づ歌ふ。 『出た出た出た出た現はれた雲井の空から現はれた 月日は照るとも曇るとも仮令大地は沈むとも 此世を救ふ生神は今現はれた千草姫 それに付き添ふ天真坊この二柱ある限り 世は常暗と下るとも案じも要らぬ法の船 ミロク菩薩が棹さして浮瀬に沈む人草を 彼方の岸にやすやすと救ひ助けて安国と 治めたまはる時は来ぬ勇めよ勇めよ諸人よ 祝へよ祝へよ千草姫千草の高姫ある限り 此世は末代潰りやせぬ三五教の奴原は 仮令大地は沈むとも誠の力は世を救ふ 等と業託並べたて世間の愚民を迷はせる 口先計りの山子神こんな奴等が何千人 出て来た処で何になる有害無益の厄介ものよ 倒せよ倒せよ三五の神の教の宣伝使 斎苑の館を根底からデングリ返してやらなけりや 吾等の望みは達せないウラナイ教の大教主 千草の高姫此所に在り仰げよ仰げよ諸人よ 慕ひまつれよ国人よ命の清水が汲みたくば 天真坊の前に来よ天帝の化身と名のりたる 第一霊国天人の内流うけたるこの身霊 またと世界に二人ないそれに加へて此度は 天より下りし千草姫凡ての権利を手に握り 天降りたる月の国天国浄土に開かむと 宣せ給ひし尊さよアヽ惟神々々 恩頼がうけたくば天真坊の前に来よ 天真坊が取り次いで千草の姫の御前に 事も委曲に奏上し如何なる罪をも穢をも 早川の瀬に流し捨て天国浄土の楽みを 此世ながらに授くべし下つ岩根の大ミロク 神の教の太柱弥々現はれました上は 四方の民草一人もツツボに墜とさぬ御誓 喜び勇めよ国人よアヽ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 玄『もし千草姫、いや女房殿、この宣伝歌はお気に召しましたかなア』 千『ホヽヽヽヽ、遉は玄真坊様だけあつて、甘く即席によい文句が出ますこと、私も大に感じ入りましたよ。どうかこの調子で町へ出たら力一ぱい歌つて下されや』 玄『よしよし、歌つてやらう、其代りお前も俺の女房だから、俺の歌も作つて歌つてくれるだらうなア』 千『そりや、玄真さま、天地顛倒も甚だしいぢやありませぬか、神界の御用と現界の御用と混同してはいけませぬよ。神界となればこの千草姫が大ミロクの太柱、玄真さまは眷族も同様ですよ。肉体上からこそ夫よ妻よと云ふて居りますが、神界の事となつたら此の千草の高姫は一歩も譲りませぬからなア』 玄『大変な権幕だなア。恰で大日山の山の神様見たやうだワイ』 千『そりやさうですとも、大日山の山の神は私ですよ。それだから嬶天下の女房を山の神と云ひませうがな』 玄『なる程、お前の云ふ通り俺の聞く通りだ、フヽヽヽヽ』 千『玄真さま、も一遍今の歌を歌つて頂戴な』 玄『よしよし、歌はぬ事はないが、何だか女房の讃美歌を歌ふのは些つと計りてれ臭いやうな気がして困るがなア』 千『エヽ頭の悪い、女房の讃美歌ぢやありませぬよ。下つ津岩根の大ミロクさまの讃美歌を歌つて下さいと云ふのですがな』 玄『ウンウンそりや分つて居る。よしよしそんなら慎んで歌はして頂きませう。オイ併し乍らスガの里迄はもう十五六里あるから到底足が続かない。この向に入江村と云ふ所がある。其所はハルの海がズツと入り込むで居る処で、大変景色も佳い。其所の宿で今晩は宿つたら如何だらうかなア』 千『里程は其所迄幾何程ありませうかな』 玄『三里半計りある。そこ迄行つておけば明日は船で楽に行けるからなア』 千『成程そりやよい事を思ひ付いて下さつた。さア、之から入江の里迄急ぎませう』 と両人は足に撚をかけ、一生懸命に駆け出したり。 (大正一五・二・一旧一四・一二・一九於月光閣加藤明子録) |
|
58 (3143) |
霊界物語 | □_特別編-入蒙記 | 14 トウ南の雲 | 第一四章洮南の雲 当地の家屋は内地に比して非常に変つてゐる。何れの民家も皆家の周囲に高き土塀をめぐらし、馬賊の襲来に備へ、屋内は室毎に入口のみあつて一方口である。中から鍵をかけて寝る構造となつてゐる。一尺以上もある様な厚い壁で間を仕切り、そして鰻の寝所のやうな細長い間取になつてゐる。冬季は昼夜温突に火を入れてあるから室内は暖かい。之に反し一歩屋外に出づれば寒気厳しく身に迫り、うつかりしてゐると、直ぐに咽喉を害して了ふ。それから道行く車馬を見ると、例の支那式の床の低い梶棒の篦棒に長い人力車は見られないが、不恰好な牛車や馬車が灰の様な道路を駆け廻り、防砂眼鏡をかけねば一歩も先を通行することが出来ない。何れの家も入口に赤い紙を張り、富貴だとか幸福だとか、瑞祥だとか、目出度さうな文字を誌してゐる。そして夕方から城門を固く閉し、夜分は他の地方へ出られない事になつてゐる。当城内に居る数千の兵士も数多の巡警も大部分馬賊上りだから、夜の帳がおりると同時に、平気の平左で、軍服の儘泥棒をやると云ふのだから、生命財産の保証などは到底駄目である。そして城内の三分の一迄は馬賊の頭目や小盗児連が大小各店を開いてそ知らぬ顔してゐるのだからこれ程危険極まる話はない。此附近の馬賊の団体は三十人或は五十人の小勢で村落に入り来り、三日間位其村に逗留して、能く食ひ、能く飲み、女と見れば老若の別なく強姦をなし、飲食物がなくなると、悠々として又次の村へ行つて同じ事を繰返すといふ呑気千万な泥棒団が横行し、蒙古の住民は実に枕を高くする事が出来ないと云ふ有様である。それから東蒙古地方の俗称活仏の名望と信用は全然地に墜ち、蒙古人の信仰が動き出したといふ。現にパインタラの活仏は麻雀に負けて十万余の負債が出来、広大な土地は支那人にボツたくられ、且つ婦女子を小口から引つかけて、今は梅毒に罹り苦しんでゐるといふ有様だ。王爺廟の活仏も又いろいろ面白からぬ評判が立つてゐる。昨年の三月十四日満鉄の上村某が当地にて馬賊に擲り殺された一周忌に当るといふので、其追悼会が日本人間で行はれた。上村は剣道の達人であつたが、暗夜に後から棍棒で脳天を擲りつけられて一堪りもなく斃れたとの事である。 寒風烈しく吹きまくり、黄塵万丈の巷をいろいろの鳴物入りで葬式の行列が通つて行く、窓内より眺むれば喇嘛僧が二十人許り、黄や赤の衣を着け、面白い旗を沢山押立て、死骸を輿に載せ、五六間もあるやうな長い棒でかついで、チワチワさせ乍ら、馬車数台に豚や羊などを縛りつけて長い行列を作つて通る。恰も氏神の祭礼の神輿渡御の様な光景である。斯る立派な葬式は此土地でも余程名の売れた人士だと云ふことだ。 岡崎は日出雄の手から運動費を受取りニコニコし乍ら、洮南府知事の縁類なる将校と共に五六人の支那官吏を招き底抜散財をやり、且つ小遣を与へて彼等の歓心を買ひ、まさかの時の用意にと極力運動をやつてゐた。日出雄の宿泊してゐる平馬氏と同じ邸内に洮南府の将校某連長が住んでゐる。岡崎は此連長と懇意になり、互に往復してゐた。連長夫婦が大喧嘩をおつ初め、死ぬの走るの、暇くれの、殺すの殺せのと、悋気喧嘩が起る度毎に、下女が驚いて岡崎を呼びに来るといふ深い仲になり、遂には兄弟分となつて了つた。岡崎は得意然として大きな声で辺り構はず、遂には洮南府を○○しようと云ふやうな事まで主張し出し、それが支那官憲の耳に這入つたとか、日本官憲の耳に這入つたとか云ふので、日本人側は非常に気を揉んだ。それでなくても排日思想の烈しい洮南府に潜伏してゐるのだから、こんな事が仮令冗談にもせよ、日本人の口から出たと云ふ事が支那官憲に聞えようものなら、何んな事になるかも知れないと、岡崎の失言が奉天の同志に伝はつたので、唐国別、佐々木、大倉は顔色を変へ、狼狽し、岡崎君を奉天に返さないやうにして貰ひたい。そして一日も早く日出雄先生が岡崎を引張つて公爺府へ行つて貰ひたいなどと言ふ手紙を坂本広一に持たせて依頼して来た。岡崎はそんな事には少しも頓着なく……国家の為、社会の為に吾々は最善の方法を講じてゐるのだ。大体佐々木、大倉の奴肝玉の小さい腰抜けだから、何でもない事を心配しよつて、そんな事で、こんな大事が成就するものか、ヘン、馬鹿馬鹿しい……と鼻の先で吹き散らしてゐる。日出雄は岡崎に向つて……『今の場合は可成秘密を守り、余り大事なことは口外せないよう』……と注意すると、誰のいふことも聞かない岡崎も二三日間は神妙に沈黙を守つてゐた。すると一日四平街の奥村幹造氏が倉皇としてやつて来た。岡崎の大言壮語が祟り、日支官憲の耳に這入つた様なので日出雄一行の身の上を案じ、親切に見舞に来たのである。其処へ岡崎が這入つて来て、支那の各将校と前夜青楼に上り一緒に麻雀や散財をして彼等を全く買収しておいたからモウ安心だと、意気揚々として語る。奥村は岡崎の平気な顔を見て意外の感に打たれてゐた。 日出雄一行は愈蒙古奥地へ入るに付て、万事便宜の為支那の家屋を王元祺の名義にて一ケ年百五十円の家賃で借入るることとなつた。温突付四間の家屋で、長栄号と命名し表面は貿易商といふことになし、軍器や糧食の中継場とした。 日出雄が守高と共に平馬氏の宅に書見をしてゐると、日本領事館員月川左門氏がやつて来た。そして猪野敏夫と長い間種々の談話を交換し、結局日本と支那との関係を円滑ならしむるには日本の実力を示すより仕様がないと、満蒙経営談に耽つてゐた。日出雄は次の間から両人の談話を聞いてゐた。暫時すると支那将校がやつて来て、一つの卓子を囲み、嬉し相に笑ひ乍ら、麻雀と云ふ博奕を深更迄やつてゐる。平馬氏夫人の二葉子も一緒に麻雀に耽つてゐた。文学趣味を有つた日出雄は幾日間一室に閉籠つてゐても少しも苦痛を感じないのみならず、いろいろな思想の泉が湧いて来ると云つて、面白く楽しく日を送り詩歌などに耽つてゐる。其中の数首を左に、 十二夜の月見る度に思ふかな我生れたる夜半はいかにと 日の本を立出で再び十二夜の月を蒙古の空に見るかな 大空に月は慄ひて風寒しされど我身は神懐[※2ヶ所「我」があるが校定版や愛善世界社版では「吾」に直している。] 鈴の音いと賑はしく聞えけり又もや馬車の路を行くらむ 潜竜の潜む此家は神界の深き仕組の館なるらむ 三月十六日(旧二月十三日)満鉄社員の山崎某が四平街の日本憲兵隊へ、日出雄一行が洮南府へ来た事を密告したので、支那側の官憲が活動を始め出したと云ふ噂が耳に入り、一行は薄氷を踏むが如き思ひに悩んでゐた。そして月川書記生や満鉄の佐藤某が代る代る平馬氏の宅を窺つてゐた。 洮南へ来りて安心する間もなく又もや深き悩みするかな と日出雄は口誦んだ。併し彼は、危険なる家に留まり居るも却つて安全なるべし、窮鳥懐に入れば猟夫も之を殺さずとの金言と神力とを頼みとして日を送つて居たのである。其当時の日出雄の述懐に左の如き一節がある。 (日出雄)『日出雄が天下万民の為に正々堂々と天地に愧ぢざる行動を採つて居ながらも、斯くの如く身を忍ばせ、秘密の行動を採らねばならないといふのは、要するに上に卑怯なる為政者が居るからである。内強外弱唯々諾々として外人の鼻息のみを伺つて居る日本外交官及内閣員の少しでも心配せない様との慮りからである。其癖日本の官憲は支那や朝鮮、露国に対しては、随分鼻意気荒く凡てが威圧的であるに拘らず、英米に対しては、頭から青痰を吐きかけられても小言一つ言ひ得ない腰抜けばかりだ。皇道大本の勢力が大きいと云つて、所在圧迫を加へ遂には純忠無二の大思想家に、無理槍に冤罪を被らせたり、天地の大神の宮を毀つたり、色々雑多の悪政暴虐を加へ、正義の団体を見るに悪逆無道を以てする、実に呆れ果てたるものである。而も東洋の君子国、浦安国と自惚れて居るのだから堪らない。自分が警戒線を悠々と破つて、神界の経綸を行ふべく、遥々やつて来たのに対して、上下狼狽、一千円の懸賞附で捜索を始めかけたと云ふ、実に気の毒なものだ。然し決して心配下さるな、滅多に諸君等の為にならない様な拙劣な事はせないから、世界平和共栄の大理想を実行実現の為だ。君等の様な尻の穴や睾丸で、一体今日の世の中に於て何が出来ると思ふか、どうして万世一系の国家が守つて行けるか、不義と罪悪との淵源たる君等から、少しは眼を覚まして呉れねば、東洋に国を安全に建てて行く事は不可能だ、現に今日の状態は何んだい……』 又張作霖に関しては左の如く評してゐた。 (日出雄)『東三省の張作霖も随分支那人としては豪い男だ、コソコソと画策を廻らすのも中々上手だ。そして自分は肝心の金を出さず、人に苦労さして自分がそつと甘い汁を吸はふといふのだから堪らぬ。併し資本なしの商売は結局駄目に了るだらう。利は元にありだ。資本主が最後の勝利だ。盧氏果して永遠に張の頤使に甘んずるで在らうか、直奉間の引掛合も久しいものだが、何れ遠からぬ中に何とか一幕の芝居が打たれるだらう云々』 (大正一四、八、筆録) |
|
59 (3273) |
霊界物語 | 76_卯_世界の神話/朝香比女の神の物語 | 波斯の宇宙創造説 | 波斯の宇宙創造説 世界の初めにアフラ・マズダと言ふ尊い神とアングラ・マイニウと言ふ邪悪な精霊とがあつた。アフラ・マズダは限りなき光明の世界に住んで居り、アングラ・マイニウは涯もない暗黒の深淵に住んでゐた。そして其の光明の世界と暗黒の深淵との間は、何一つも存在しない空の空であつた。 アフラ・マズダは種々の生物を造り出した。併し始めは目に見える形を持つてゐなかつた。この尊い神は、自分が造り出した総ての生物を、三千年の間考へることも無ければ、動くことも無い無形の霊の姿にして置かうと思つたのであつた。邪悪なアングラ・マイニウはアフラ・マズダが色々な生物を造り出したと言ふことを聞き込むと、 『何を小癪な、おれがアフラ・マズダの世界に行つて何もかも叩きつぶしてやる』 と言つて暗黒の深淵から脱け出して光明の世界にやつて来た。併しいよいよアフラ・マズダの所に来て見ると、威儀堂々として力が強く徳が高かつたので、 『これは驚いた、とてもおれなんか敵ひさうにない』 と始めの凄じい勢ひはどこへやら、這々の体でもとの暗黒世界に逃げ帰つた。そして、 『アフラ・マズダがあんなに偉くては、おれ一人の力では何うする事も出来ぬ。よし、おれを助けてくれるものを造ることにしよう』 と言つて数々の悪魔をこしらへた。 アフラ・マズダは早くも光明世界からそれを見てとつて、 『今のうちに何とか片を付けて置かねばならぬ』 と思つた。そこでわざわざ暗黒世界に降つて行つてアングラ・マイニウに会つて、 『お前や、お前がこしらへた生物は寿命に定まりがあるだろう』 と言つた。 アングラ・マイニウは口惜しさうな顔をして、 『さうだよ、それがどうしたと言ふのかね』 と言つた。 『どうぢや、わしが造り出した総ての生物を助け讃へて呉れないか、さうしたら、お前にも、お前のこしらへた生物にも、不滅の命を与へることにしてやるが……』 とアフラ・マズダが温順しく相談を持ちかけると、アングラ・マイニウは凄まじい声で唸り出して、 『それは御免を蒙むらうかい。わしはお前のこしらへた生物を助けたり讃へたりすることは出来ぬ。わしは彼等を滅ぼして了ふか、それともお前の許を離れて、わしの心に靡くやうにするつもりだ』 とどこまでも挑みかかつた。併しアフラ・マズダは落ちついた様子で、 『それでは、わしたちはめいめい自分の好きなやうにするより外は無い、わしたちはお互に争ひ合ふまでぢや。併しいつまで争つてゐても仕方がない。どうぢや、争ひの期限をきめようではないか』 と言つた。よからうとアングラ・マイニウが応じた。 『では其期限を九千年としようではないか』 とアフラ・マズダが言つた。よかろうと又アングラ・マイニウが答へた。 アングラ・マイニウは九千年を過ぎても自分の勢力がまだ続くものと思つて、ウカと斯んな約束をしてしまつたのだが、尊い神にはチヤンと未来の見透しが付いてゐるのであつた。始めの三千年の間はアフラ・マズダの思ふことが何でも叶ふのであつて、邪悪の霊はこれを妨ぐることが出来ぬ。次の三千年の間は二人の思ふことが互にかち合つて、どちらもうまく行かぬ。そして最後の三千年の間に、邪霊アングラ・マイニウは全然アフラ・マズダに征服されてしまふのを看破つてゐるのは尊い神だけであつた。 始めの三千年が間はアフラ・マズダが拵へた生物は、何の害も受けないで、無形の霊潜める力として生き続けた。その時期がをはるとアフラ・マズダは形のある種々の物を造り始めた。彼は先づ天空を造り、次に星を造つた。星の数は六百四十八万に及んだ。アフラ・マズダは、それらの星を夫れ夫れ大空の四方に配つて、四人の首領に司配させることにした。東の方の首領はチシュトリアと呼ばれ、西の方の首領はサタヴェースと呼ばれ、南の方の首領はヴァナンドと呼ばれ、北の方の首領はハブトーク・リングと呼ばれる。星くづが出来上ると、アフラ・マズダは次に月を拵へて、それから太陽を拵へた。 その間邪霊アングラ・マイニウは昏々として眠り続けて居た。ジャヒと呼ばれた女性の悪魔がそれを見て、 『どうも仕方が無いナア。アフラ・マズダはどしどし色々の物を造り出してゐるのに、うちの首領は暢気に眠りこけてゐる』 と頻りに気を揉んでゐたが、たうとうたまり兼てアングラ・マイニウの側に駈けつけて、 『お首領お起き下さい、わたしたちは、この世界に騒動を起さうではありませんか』 と叫んだ。 併しアングラ・マイニウは内心アフラ・マズダが恐いので、女魔の呼ぶ声に目を覚ましても依然眠つたふりをして居た。ジャヒは気を苛つて、 『お首領、早く起きて下さい。アフラ・マズダが勝手なことをして居ますよ。早く邪魔をしてやりませう』 と叫んだ。そして女魔が三度叫ぶと、三度目にアングラ・マイニウがむつくと起き上つた。そしてジャヒの頭に接吻をしながら、 『そなたは、わしに、何か望むことがあるのかね』 と尋ねた。 『エエさうですよ、若い男の姿が見たいのですよ』 と女魔が答へた。と、其の言葉が終るか終らないうちに、魔王アングラ・マイニウの姿は十五歳位の男に変じた。女魔は大に喜んで、 『サア、直ぐに天界に行つてアフラ・マズダの仕事の邪魔をしてやりませう』 と言つた。 『よし、承知ぢや』 アングラ・マイニウは斯う叫んで、数多の悪魔どもを引き連れて、まつしぐらに天界目ざして駈け出した。彼は天空を見ると、 『ほう、おれの知らぬ間に変なものが出来たな』 と言つて蛇のやうにそこに躍り込んで行つた。空は狼に襲はれた羊のやうに、顫ひ戦いた。勢ひに乗つたアングラ・マイニウは、アフラ・マズダが造り出した総てのものに飛びついて行つて、片端からそれを傷つけ汚した。見る間に世界が暗黒になつた。 『ウマイウマイ、今度は斯うしてくれるぞ』 とアングラ・マイニウは数多の惑星を拵へてアフラ・マズダの任命した星座の首領たちに対抗させた。惑星は凄まじい勢ひで、神が造つた星くづにぶつつかつて行つたので、満天の星どもは駭き畏れて、右往左往に逃げ惑うた。アフラ・マズダに率ゐられた天使の群アメシヤ、スペンタやヤザタたちは天下の一大事と、必死となつて邪霊に率ゐられた悪魔の群と戦つた。そして大小の悪魔どもを引つ掴んでは、天界から暗黒の深淵へと投げ落し続けた。 全世界を揺り動かすほどの激しい戦ひが昼を九日、夜を九夜行はれた。さうしてゐるうちに大空に堅固な塁壁が築き上げられたので、さすがの悪魔軍も最早手の出し様がなくなつて、スゴスゴ暗黒世界に引返して了つた。 戦ひが止むとアフラ・マズダは復創造の仕事を続けた。尊い神は、今度は数多の水の流れを拵へた。是等の流れは一所に集まつてヴールカシヤ(広大なる深淵)と言ふ海となる。ヴールカシヤ海はアルブールズ山の南の果に当つて大地の三分の一を占めてゐる。それは一千の湖の水を含んでゐると信じられた。 世界の所在水はアルドヴイ、スーラー、アナーヒタ(潤ひて強く且つ汚れ無きものの義)といふ泉から流れ出る、その流れ出た水は数多の河となつて大地をうるほすのであつた。 邪霊アングラ・マイニウは是を見ると、復むらむらと悪気を起して、旱魃の悪魔アバオシヤを呼び出して、 『お前、天界に上つて、水の流れの邪魔をしてやれ』 と言ひつけた。アバオシヤは直ぐに天界に上つて行つた。そして夏の間大地に水を恵むことを司どつてゐるチシュトリアの所に来て、流れを堰き止めようとして、二人の間に烈しい争ひが起つたが、たうとうアバオシヤの力が尽きて天界から投り出された。 アフラ・マズダは更に創造の仕事を続けて、今度は新たに大地を造ることにした。尊い神は先づチシュトリアに言ひ付けて、古い大地の上に大雨を降らせた。忽ち大地は一面の水となつて、邪悪な生物の毒をすつかり洗ひ浄めた。水が減くにつれて三十三種の陸地が造られた。尊い神はこれを七つの部分に分けることにした。それを見た邪霊アングラ・マイニウは、 『アフラ・マズダ奴、色々の物を造り出すな、癪にさはる奴だ、一つ邪魔をしてやらう』 と言つて、大地の腹の奥に潜り込んだかと思ふと、内側から激しく之を揺り動かしたので、今まで平坦であつた大地の所々に大きな山が出来た。真先に出来上つたのが、アルブールズ山であつた。この山が現はれると、大地の所々がそれにつれてムクムクと動き出して、さながら大きな樹のやうに雲を貫くほど聳え立つた。 次にアフラ・マズダは種々の草木を拵へることにした。天使の群アメシヤ、スペンタの一人である、アメレタートが尊い神の仰せを受けて、ありとある植物を細かに搗き砕いて、それを水に溶かすと、狼星がその水を普く大地に撒き散らしたので、やがて人間の頭に髪の毛が生えるやうに到る所に草木が芽を出した。その中の一万の草木は、邪霊アングラ・マイニウが生物を苦しめるために造り出した一万の病気も逐ひ退けるに足る力を持つてゐた。 大海ヴールカシヤのただ中には特に『あらゆる種を含む樹』が生え出した。大地に現はれた総ての草木が、いつまでも絶え果てないやうにと言ふアフラ・マズダの有難い考へからである。それから又『あらゆる種を含む樹』の側に尊い神はガオケレナ(牛角の義)と言ふ植物を生ひ出でしめた。この植物はあらゆる草木の首領で、これを口にするものは悉く不滅の命を得るのであつた。尊い神は宇宙をいつまでも生々とさせて置かうと思つて、此の霊樹を造り出したのであつた。 之を見て邪霊アングラ・マイニウは甚く機嫌を悪くして、 『アフラ・マズダの奴、ほんたうに癪にさはる事ばかりしでかすな。よし、おれがあの樹を枯らしてやるぞ』 と言つてヴールカシヤ海の水底深く一匹の魔の蜥蜴を造り出した。 蜥蜴はガオケレナの根を咬んで、いつかはそれを枯らさうとしてゐたのを、尊い神は早くもそれを悟つて、カルと言ふ魚を十尾拵へて魔の蜥蜴に当らせることにした。十尾のカル魚は、交る交る蜥蜴の側を泳ぎ廻つて、ガオケレナの根の咬まうとすると直ぐに飛びかかつて行くのであつた。 次にアフラ・マズダは火を拵へて世界を喜ばした。良いものの現はれるのが大嫌ひの邪霊アングラ・マイニウは復ひどく腹を立てて、 『アフラ・マズダの奴、また変なものを造つたな。よし、今度だつて邪魔をしないでは置かないぞ』 と言つて火が燃える時には、いつも厭な煙が出るやうにした。 次にアフラ・マズダは種々の動物を造ることにした。尊い神は素晴らしく強くて美しい一頭の牛を拵へた。この牛には総ての動物の種が含まれてあつた。邪霊アングラ・マイニウは、それを見ると目の色を変へて、 『また厭なものを造りをつたな、こりや依然としては居られないぞ』 と直にこの牛の側にノコノコやつて来た。アフラ・マズダは彼の姿を見ると、 『あの男、またわしの仕事の邪魔をしに来たな』 と思つて、大急ぎでビーナークと言ふ霊妙な果実を摺り潰して牛に食べさせた。果実の不可思議な力によつてアングラ・マイニウの邪悪な災を防がうとしたのである。併しアングラ・マイニウが牛の側にやつて来て、凄い目でじつと見据ゑて居ると、牛はやがて病に罹つて次第に痩せ衰へて、遂に最後の息を引き取つて終つた。と思ふと、牛の霊魂ゲーウシュ・ウルヴァンが、その体からスルスルと脱け出して、アフラ・マズダの許にやつて来た。そして一千の人間が一度に叫び出したやうな大きな声で、 『邪悪なアングラ・マイニウが勝手なことをしてゐるのに、あなたはどうしてぢつとして居られるのです。いつぞやあなたは、偉い男を拵へて、すべてのものを保護させてやると仰せられたが、その男はどこに居るのです。今のやうにアングラ・マイニウが悪いことをしてゐては、わたしは種々の動物を養ひ育てて行くことは出来ませぬ』 と言つた。 これを聞くとアフラ・マズダは眉をひそめて、 『わしは確に偉い男を拵へてやると言つたが、まだ時が来ないのぢや』 と答へた。併し牛の霊魂は、この答に満足することが出来なかつたので、星の世界に歩いて行つて、先のやうに大きな声で叫び続けた。 余りにその声が大きいので、月や太陽のゐる所までガンガン鳴り響いた。さうして居る間にたうとう時機が来たので、アフラ・マズダは牛の霊魂に対つて、 『モウ安心するがよい、ゾロアステルと言ふ偉い予言者を、この世に送り出すことにしたから』 と言ふと、ゲーウシュ・ウルヴァンはやつと安心して、ありとある動物を養ひ育てて行くやうになつた。 暫くすると、死んだ牛の体から五十五種の穀物と十二種の薬草が生え出した。アフラ・マズダがそれを月の許に送ると、月はおのが光でその種を浄めた。その種子から一匹の牡牛と一匹の牝牛とが生れ、それから二百八十二種の動物が生れた。アフラ・マズダは獣を大地に棲ませ、鳥を空中に棲ませ、魚を水中に棲ませることにした。此の如くにして、尊い神アフラ・マズダは邪霊アングラ・マイニウに度々仕事の邪魔をされながら、たうとう宇宙創造の大事業を完成した。 |
|
60 (3437) |
大本神諭 | 神諭一覧 | 明治29年旧12月2日 | 明治二十九年旧十二月二日 昔の初りと申すものは、誠に難渋な世でありたぞよ。木の葉を衣類に致し、草や笹の葉を食物にいたして切物一つ在るで無し、土に穴を堀りて住居を致したものでありたが、天地の神々の御恵で、段々と住家も立派になり、衣類も食物も結構に授けて頂く様になりたのは、皆此世を創造た、元の生神の守護で、人民が結構になりたのであるぞよ。人民は世が開けて、余り結構になると、元の昔の生神の苦労を忘れて、勝手気儘に成りて、全然世が頂上へ登りつめて、誠の神の思いを知りた人民が、漸々に無くなりて、利己主義の行方ばかり致して、此世を強者がちの、畜生原にして了ふて、神の居る所もないやうに致したから、モウ此儘にして於ては、世界が潰れて餓鬼と鬼との世に成るから、立替を致さな成らん事に、世が迫りて来たので在るぞよ。四足の守護神が覇張りて、上へ上りて、日本の神国を汚して了ふて、此世は真暗黒であるぞよ。神が表に現はれて、神力を現はして、三千世界を日の出の守護と致して、世界を守るぞよ。この世は一旦泥海に成る所であれども、金神が天の大神様へ御詫を申て助けて戴かねば、世界の人民が可愛相で在るから、何んでも人民を助けたさに、神が永らく艱難苦労を致して居れども、知りた人民は読む程より無いので、神の経綸は延びる斗りで在るから、此大本へ立寄りて、神の御話を聞かして貰ふた人民だけなりと改心を致して、元の日本魂に立復りて下されよ。世が迫りて来たから、モウ何時立替が初まるか知れんから、後でヂリヂリ悶へ致しても、モウ仕様が無いから、何時迄も気を付けたが、モウ気の付けやうが無いぞよ。日本の人民から改心をして下さらぬと、世界の人民三分になるぞよ。 |