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(1971)
霊界物語 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 16 波の響 第一六章波の響〔八三八〕 常彦が祝を兼ねたる佯らざる告白歌に励まされ、ヨブは立上がり、入信の祝歌を歌つた。 ヨブ『高天原と定まりし貴の聖地のエルサレム 国治立大神は三千世界を救はむと 神の御言を畏みて教を開き玉ひつつ 天地の律法制定し世は平安に治まりて 神人和楽の瑞祥を楽み玉ふも束の間の 隙行く駒の曲神に天の御柱国柱 転覆されて葦原の瑞穂の国の守護権 常世の国に生れたる曲の頭に渡しつつ 天教山の火坑より根底の国におりまして 忍びて此世を守ります其功績ぞ尊けれ 斯かる尊き皇神のいかで此儘根の国や 底の御国にましまさむ時節を待つて天教の 再び山に現はれて野立の彦と名を変じ 埴安彦と現れまして迷へる四方の人草を 安きに救ひ助けむと仁慈無限の心より 三五教を建設し神の司を四方の国 間配り玉ひて川の瀬や山の尾の上に至る迄 尊き御教を布き玉ふあゝ惟神々々 神の心を白波の天足彦や胞場姫が 罪より現れし醜神の醜の叫びに化されて 世人の心日に月に曇り行くこそ忌々しけれ 厳の御霊の大神は国武彦と現れまして 四尾の山の神峰に此世を忍び玉ひつつ 五六七の御世の経綸を行ひ玉ひ素盞嗚の 神尊の瑞御霊コーカス山や産土の 斎苑の館に現れまして八洲の国にわだかまる 八岐の大蛇や醜狐曲鬼共を言向けて 天地にさやる村雲を神の伊吹に払はむと 心を配らせ玉ひつつ言依別を現はして 自転倒島の中心地綾の高天と聞えたる 錦の宮に神司清き神務を命じつつ 世人を救ひ玉ひけり。旭日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 高砂島は亡ぶ共誠の神の御教に いかでか反きまつらむや大和田中に浮びたる カーリン島の神の御子ヨブは今より高姫が 清き心を諾なひて仮令野の末山の奥 虎狼や獅子大蛇如何なる曲津の棲処をも おめず臆せず道の為心を尽し身を尽し 皇大神や世の中の青人草の其為に 仕へまつらむ惟神神の恵の幸はひて ヨブが身魂を研き上げ尊き貴の御柱と 依さし玉へよ天津神国津神達八百万 国魂神の御前に謹み敬ひ願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終つて座に着いた。春彦は又もや歌ひ出したり。 春彦『綾の聖地を後にして変性男子の御系統 高姫さまに従ひて瀬戸内海を打渡り 南洋諸島を駆けめぐり如意の宝珠を探ねつつ 高砂島の手前まで小舟を操り来る折 隠れた岩に突当り当惑したるをりもあれ 高島丸に助けられ漸くテルの港まで 到着するや高姫は数多の船客かきわけて 先頭一に上陸し吾等二人をふりまいて 暗間の山の松林姿を隠し玉ひしが 綾の聖地に現れませる杢助さまに高姫の 監督役を命ぜられ居乍らのめのめ見失ひ 如何して言訳立つものか急げ急げと一散に 尻ひつからげ大地をばドンドン威喝させ乍ら 暗間の山の麓迄来りて様子を窺へば 高姫さまの独言常彦、春彦両人の 半鐘泥棒や蜥蜴面間抜男を伴うて 高砂島の人々に軽蔑されてはたまらない 何とか立派な国人を甘く操り弟子となし 千変万化の一芝居打つて見ようと水臭い 吾等二人を放棄して甘い事のみ考へる 其蔭言を灌木の茂みに隠れて聞き終り 余りに腹の立つままにガサガサガサと飛出せば 高姫さまの曰くには油断のならぬ世の中ぢや 仮令獣といひ乍ら今の秘密を聞きよつた 神の霊を授かりし四つ足なれば一言も 聞かれちや都合がチト悪い天に口あり壁に耳 謹むべきは口なりと後悔遊ばす可笑しさよ 常彦、春彦両人は足音隠して二三丁 山の麓に忍び足それから足音高めつつ テル[※校定版・八幡版では「ヒル」。オニペディアの「霊界物語第29巻の諸本相違点」を見よ]の国王のお側役私はカナン[※御校正本・愛世版では「アンナ」。オニペディアの「霊界物語第29巻の諸本相違点」を見よ]と申す者 暗間の山に如意宝珠隠してあると聞いた故 私は捜しに行きましたされど遅れた其為に 後の祭りと春彦[※御校正本・愛世版では「常彦」。オニペディアの「霊界物語第29巻の諸本相違点」を見よ]が声高々と話する そこで私はヒル[※校定版・八幡版では「テル」。オニペディアの「霊界物語第29巻の諸本相違点」を見よ]の国国王様のお側役 アンナ[※御校正本・愛世版では「カナン」。オニペディアの「霊界物語第29巻の諸本相違点」を見よ]と申す男ぞと八百長話を始むれば 猫が松魚節見た如うに高姫さまが飛びついて もうしもうし旅の人暫くお待ちなされませ 変性男子の系統で日の出神の生宮と 世に謳はれた高姫ぢやお前も中々偉い人 私の話を聞きなされ昔の昔の根本の 尊き因縁聞かさうとお婆アの癖に小娘の やうな優しい作り声吹出すように思へども ここで笑うては一大事大事の前の小事ぢやと 脇のあたりでキユーキユーと笑ひの神をしめつけて 足音低く高くして遥向うから後戻り して来たように作りなしどこの何方か知らね共 私に向つて何御用早く聞かして下されと 吾から可笑しい作り声流石の高姫嗅ぎつけて お前はアンナと云ふけれど半鐘泥棒の常彦だ カナンと名乗る蜥蜴面春彦さまにきまつたり 余り人を馬鹿にすな声を尖らし怒り出す 暴風襲来低気圧二百十日の風害も 来らむとする其時に私がアンナと云うたのは お筆先にもある通り神の仕組はアンナ者 こんな者になつたかと世界の人がビツクリし アフンとさせるお仕組ぢやカナンと云うて名乗つたは 春彦さまの平常は赤子のやうな人なれど 神が憑つた其時は誰でもカナン身魂ぢやと 言はして人を大道に導くお役と逆理窟 一本かましてやつたれば高姫さまは腹を立て 私等二人を振すてて又も逃げよとする故に 高島丸の船中で国依別に面会し 金剛不壊の如意宝珠其他珍の御宝を 拝見さして貰うたとカマをかけたら高姫が 玉にかけたら夢うつつ忽ち機嫌を直し出し ホンにお前は偉い人気の利く男と思うてゐた さうして如意の宝玉は国依別が如何したか 知らしてお呉れと云ふ故に此春彦は知らねども 狐のやうに常彦が眉毛に唾をつけ乍ら 三千世界の神宝は高砂島にコツソリと 言依別や国依の神の司が出て参り 何々々に何々し絶対秘密ぢや云はれない 国依別のお言葉にお前を男と見込んでの 肝腎要の秘密をば明かした上は高姫に 決して云ふちやならないぞ私も常彦宣伝使 言はぬと云つたらどこ迄も首がとれても云はないと 約束したから如何しても高姫さまには済まないが これ許りは御免だとキ常彦口から出任せに からかひまはす可笑しさよとうとう喧嘩に花が咲き 常彦私の両人は高姫さまを振すてて 今度は二人が逃げ出した高姫さまは驚いて 吾等二人を引捉へ玉の所在を白状させ 綾の聖地に持帰り日の出神の生宮の 天眼通は此通り皆さまこれから吾々の 言葉に反いちやならないと法螺吹き立てる御算段 そんな事には乗るものか三十六計奥の手を 最極端に発揮して雲を霞と駆け出せば 高姫さまは道の上の高い小石に躓いて 大地にバタリと打倒れ額を打破り膝挫き 生血を流してアイタタと頭を撫でたり膝坊主 押へて顔をしかめゐる此時四五の若者は どこともなしに出で来り高姫さまを介抱して 抱き起して助くればいつも変らぬ減らず口 結構なおかげをお前等は頂きなさつた神様に 御礼なされよ私にも御礼を仰有れ神の綱 私がかけて上げましたなどと又もや世迷言 玉の所在を知ると云ふ一人の男に騙されて アと云つては金一両リと聞いては金一両 ナーと云つては金取られ滝と云つては二両取られ 鏡の池と六つの口又もや六両はぎ取られ 呑み込み顔で高姫が吾々二人が路端に 憩ふ所をドシドシと肩肱いからし高姫は 日の出神の御告げにて玉の所在を知つた故 これから独り行く程に間抜男は来るでない 神の仕組の邪魔になる必ず従いて来てくれな 言葉を残してドンドンとテル国街道を走せて行く 吾等二人は高姫が後を追ひつつ駆出して 牛のお尻に衝突しヤツサモツサと争ひつ 牛童丸に横笛で首が飛ぶ程横ツ面 やられた時の其痛さ常彦さまが行つた事 私は傍杖くわされてあんなつまらぬ事はない 牛童丸に牛貰うて常彦さまは牛の背 私は綱を曳き乍ら小川を伝うて杉林 十間許り遡り高姫さまが他愛なく 休んで厶る其前に牛引つれて往て見れば モウモウモウと唸り出す其大声に目を醒まし 高姫さまはうるさがり又も二人を振棄てて アリナの滝に只一人玉を占領せむものと 行かうとしたので吾々はお前はアリナの滝の上 鏡の池に行くのだろ吾等二人は牛に乗り お前さまより二三日先にアリナへ到着し 玉を手にして帰ります左様ならばと立出づる 高姫さまは又しても猫撫声と早変り コレコレ常公春公へ私の心を知らぬのか 海山越えてはるばるとこんな所迄やつて来て お前に別れて如何ならう一緒に行かうぢやないかいと 相談かけて呉れた故モウモウモーさん帰んでよと 牛に向つて言霊を発射致せばアラ不思議 煙となつて消えにける夫れより三人手を引いて テルの街道ドシドシと大西洋を眺めつつ アリナの滝のほとりなる鏡の池に来て見れば 数千年の沈黙を破りて池はブクブクと 泡を立てたりウンウンと厭らし声にて唸り出す 高姫さまは玉どこか肝腎要の魂抜かれ 焼糞気味になりまして月照彦神さまと いろはにほへとちりぬるの四十八文字の掛合に 奴肝を抜かれて失心し人事不覚となられける 懸橋御殿の神司現はれまして高姫を 助け玉へば高姫は相も変らぬ憎い事 百万ダラリと並べ立て側に控えた吾々も 余り憎うて横ツ面擲つてやりたいよに思うた 夫程分らぬ度し太い高姫さまもどうしてか 櫟ケ原の真中で天教山に現れませる 木の花姫の御化身日の出姫の訓戒に 心の底から改心し虎と思うた高姫が サツパリ猫と早変りそれから段々おとなしく もの言ひさへも改まり誠に可愛うなつて来た 玉の湖水の畔にて椰子樹の森に夜を明かし 鷹依姫や竜国別の神の司やテー、カーの 姿を刻んだ石地蔵眺めて高姫手を合し コレコレ四人のお方さま此高姫が悪かつた どうぞ勘忍しておくれ黒姫さまの過ちを お前さま等に無理云うて綾の聖地を放り出し 苦労をかけたは済みませぬ罪亡しに今日からは お前等四人の姿をば刻んだ重たい此石を 背中に負うて自転倒の島迄大事に連れ帰り 祠を建てて奉斎し朝晩お給仕致します どうぞ許して下されと心の底から善心に 立返られた健気さよ余り早い変りよで 私も一寸疑うたアルの港で船に乗り 高姫さまが偽らぬ其告白に感歎し ヨブさま迄が驚いて高姫さまの弟子となり 入信されたお目出度さあゝ惟神々々 神の恵は目のあたりこんな嬉しい事はない 高姫様の御改心入信なされたヨブさまの 前途益々健全に渡らせ玉ひて神徳を 世界に照らし玉ふ日を指折数へ待ちまする あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 最後に高姫は改心と入信の悦びの歌を唄ひけり。 高姫『あゝ惟神々々尊き神の御恵に 常夜の暗も晴れわたり真如の月は村肝の 心の空に輝きて金毛九尾の曲神に すぐはれ居たる吾身魂今は漸く夢醒めて 曲津の神の影もなく神の賜ひし伊都能売の 霊の光輝きて心の悩みも消え失せぬ 旭は照る共曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも一旦改心した上は 身魂の此世にある限り天地に誓うて変らまじ 此高姫の改心が一日遅れて居つたなら 此船中でヨブさまに命取らるるとこだつた 変性男子の筆先に何よりかより改心が 一番結構と云うてある改心すれば其日から 敵もなければ苦労もない早く改心なされよと 幾度となく書いてあるあゝ改心か改心か 木の花姫の御言葉で始めて悟つた改心の 誠の味は此通り私を仇と狙うたる カーリン島のヨブさまが打つて変つて高姫を 師匠と仰いで入信し無事に此場の治まりし 其原因を尋ぬればヤツパリ私の改心ぢや 改心入信一時に善い事計りが降つて来た こんな嬉しい事はないさはさり乍ら海中に 陥り玉ひし四人連思へば思へばいぢらしい せめては霊を慰めて朝な夕なに奉斎し 叮嚀にお給仕致しませう鷹依姫や御一同 広き心に見直して私の罪を赦しませ あゝ惟神々々神の御前に慎みて 今日の慶び永久に感謝しまつり鷹依姫の 教の司や三人の冥福祈り奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 斯く歌ひ了りて、莞爾として座に着いた。船は三日三夜さ海上を逸走し、漸くゼムの港に安着した。高姫一行四人はここに上陸し、ゼムの町を二三里許り隔てたる天祥山の大瀑布に御禊をなすべく、意気揚々として、宣伝歌を歌ひ乍ら山深く進み入りにける。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・一二旧六・二〇松村真澄録)
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(1994)
霊界物語 30_巳_南米物語2 末子姫と言依別命の旅 15 花に嵐 第一五章花に嵐〔八五七〕 言依別命、国依別の宣伝使の理解に依りて、此地方一帯の住民は殆ど全滅せむとしたるを、御倉魚を食することを許されてより、忽ち元気恢復し、且つ言依別命を始め国依別の宣伝使を神の如く尊敬し、直に救世済民の教は三五教に若くものなしと、数十万人の人々はウラル教を脱退して悉く三五教に入信して了つた。併し乍ら言依別命は早くも此地を去りたれば、跡に国依別只一人、御倉の社を中心として教勢忽ちに振ひ、猫も杓子も、三五教にあらざれば救はれ難し、又正しき人間には非ざるべしとまで崇拝するに到りける。 国依別は三五教の教理を諄々として説きさとし、且つ天津祝詞や神言を教へ、御倉の社に国治立命、豊国姫命其他の諸神霊を合祀し、崇敬の的と定めた。国依別は、又一種の宣伝歌を作り、国人に平素高唱すべく教へ導きける。 国依別『高天原に現れませる国の御祖の大御神 国治立大神は普く世人を救はむと 天の御柱つき固め国の御柱つきこらし 瑞の御霊と現れませる豊国姫大神と 力を合せ玉ひつつ神世を開かせ玉ひけり 天足彦や胞場姫の醜の霊に現れませる 八岐大蛇や醜狐曲鬼共がはびこりて 世は常暗となり果てぬ皇大神は是非もなく 千座の置戸を負ひ玉ひ天教山の火坑より 根底の国に落ち玉ひ豊国姫と諸共に 深く其身を忍ばせつ此世を守り玉ひけり。 ウラルの彦やウラル姫大国彦や大国の 姫の命の枝神は天地四方の国々を 醜の煙に包まむと曲の教を開きつつ 世を曇らせし忌々しさよ天津御空に現れませる 神伊弉諾大神は妹伊弉冊の大神と 大空高く渡したる天浮橋に立ち玉ひ 泥に沈みし海原をコオロコオロに掻き鳴らし 神生み国生み人を生み天教山にましませる 日の出神や木の花姫の貴の命に神業を 授け玉ひて葦原の瑞穂の国を開きけり あゝ惟神々々神の御稜威のいや高く 教の道のいや広く埴安彦や埴安姫の 神の命と身を変へて黄金山下に出現し 三五の月の御教を完美に委曲に説き玉ふ これぞ誠の三五の錦の機の御教ぞ あゝ諸人よ諸人よ尊き神の御光りに 一日も早く目を覚ませ朝日は照る共曇る共 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 三五教の御教を夢にも忘るること勿れ 神を忘れし其時は身に苦しみの来る時 心の悩みの来る時ぞ如何なる事のありとても 神を忘れな三五の道の誠に離れなよ 神は汝と倶にあり神の御水火を受つぎし 人は神の子神の宮神に次での第一に 尊き者ぞ人の身は決して賤しき者ならず 曇り汚れし人の身と教へて諭す御教が ありと知るなら逸早く互に心を注ぎ合ひ 邪道に陥ること勿れ国魂神を斎りたる 御倉の山の竜世姫大地の主と現れませる 金勝要大神の珍の御霊の分霊 高砂島に永久に鎮まりゐまして国人の 幸を守らせ玉ふなり如何なる教の来る共 国魂神を余所にして心を曇らす事勿れ 竜世の姫を祀りたる御倉の山の社こそ 国治立大神に次で尊き神なるぞ あゝ惟神々々神の心に立返り すべての物を慈み互に争ふこと勿れ 神を尊び国の君敬ひまつり世の人に 神の恵を隈もなく輝き渡すは神の子と 生れ出でたる人草の朝な夕なに守るべき 誠一つの務めなり三五教の神司 国依別が此地をば去るに臨んで国人に 記念の歌を作りおくアヽ国人よ国人よ 暇ある毎に読み慣ひ歌に踊りに音楽に 合して心を慰めつ此世を守り玉ひます 皇大神の御心を和めまつれよ此歌に 歌は天地の神霊を感動さする神秘ぞや 世間話や無駄話云ふ暇あらば一時も 夢にも忘れず此歌を神の御前は云ふも更 山の上行くも又河へ浸る時しも村肝の 心長閑に歌へかしあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ此世を造りし神直日 心も広き大直日只何事も人の世は 直日に見直せ聞直せ過ちあれば宣り直す 三五教を呉々も忘れざらまし何時迄も 世人の為に残しおく』 斯く歌を作りて、最も熱心なる信者の中にて気の利いたるパークスと云ふ男に、足彦と云ふ名を与へ、宣伝使の列に加へ御倉の社を守りつつ、国人に三五の教理を説き諭すべく命じおき、国依別は又もやここを立出でて、ヒルの国の都を指して進み行く。 チルの里の荒しの森に差かかる時しもあれや、黄昏の暗に紛れて現はれ出でたる四五人の男、国依別の前に大手を拡げ、 甲『其方は三五教の宣伝使、よくも吾々に恥を見せよつたなア。かく申さば別に名乗らずとも、此方の名は分つて居る筈、サアどうぢや。如何に其方、弁舌巧なりとて、実行力には叶ふまい。尋常に手をまはすか、但はチルの渓谷に、吾々監視の下に身を投げて自滅いたすか、それも不服とあらば、吾々一同気の毒乍ら、剣の錆となし呉れむ。いかに汝勇猛なればとて、数百人の味方を以て、十重二十重に取巻あらば、いつかないつかな、身を逃るるの余地なかるべし。吾れは云はずと知れたウラル教の宣伝使、ブール、ユーズ、アナンの面々だ。御倉の谷間に於て神の禁じた神魚を食ひ、剰つさへ国人に残らず食はしめたる憎くき天則違反の張本人!ウラル教が数百年の努力を一朝にして水泡に帰せしめたる悪人輩、サア覚悟を致せ!』 と呼ばはる声に、自然に集まる数十人の人影、『ワーイワーイ』とどよめき来る騒々しさ。国依別大口あけて高笑ひ、 国依別『アツハヽヽ、卑怯未練な汝等が振舞、御倉山の谷あひに於て、猫に追はれし鼠の如くチウの声さへ得あげず、コソコソと逃げ帰りたる卑怯者、かかる為体にて、いかで神の御子たる人草を教化せむ事、思ひもよらず。汝等卑怯にも衆を恃んで、只一人の宣伝使を苦めむとする腰抜共、見事、相手になるならなつて見よ。吾言霊の神力に依つて一人も残さず誠の道に言向け和し、汝が奉ずるウラル教を根底より改革しくれむ。あゝ面白し面白し』 と又もやカラカラと打笑ふ。ブール、ユーズ、アナンの大将連は寄り来れる数十人の味方に何事か合図をなすや、一斉にバラバラと国依別に向つて武者ぶり付かむとする其可笑しさ。国依別は『ウン』と一声息をこめ、右手の示指を以て、彼等一同に速射砲的に左から右へ振りまはせば、球の玉の神力を身に納めたる国依別の霊光は一しほ光強く、何れも眼眩み這う這うの体にて逃げ去るもあり、其場に打倒れて苦悶するもあり、恰も嵐に花の散る如く、ムラムラパツと逃げ散る可笑しさ。国依別は此浅ましき敵の姿を見て、又もや大声に、 国依別『アツハヽヽ、面白い面白い』 (大正一一・八・一五旧六・二三松村真澄録)
23

(2040)
霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 03 兎の言霊 第三章兎の言霊〔八九四〕 兎の都にては、一族此処に集まり来り、形ばかりの月の大神の宮の前に、芭蕉の葉を数多敷き並べて筵となし、バナナ、林檎、梨、山桃、苺などの果物を数多並べ立て、鷹依姫の一行を神の如くに敬ひつ、茲に歓迎の宴会を開きたり。 兎の王は立上がり、恰も天上より天津神の降臨せし如く打喜び、吾等を救ふ王者は現れたりと、歌をうたつて祝意を表しぬ。もとより兎の言語なれば、其真意は判然と分り兼ぬれども、其動作形容表情と言葉の抑揚頓挫に依つて、大体の意味は解さる。 其歌を訳すれば左の如し。 (兎の王)『昔の昔の其昔天に輝く月の大神様の 恵の露に霑ひてアマゾン河の北南 広袤千里の森林を吾等が千代の棲処ぞと 依さし給ひて永久に与へ給ひし楽園地 天津御空の星の如浜の真砂の数の如 吾等が種族は日に月に生めよ栄えよ育てよと 神の恵の言の葉は弥益々に幸はひて 時雨の森を吾々が玉の命の繋ぎ所と 喜び暮す折柄に天足の彦や胞場姫の 醜の魂より現れし八岐大蛇の成れの果て アダムの霊を受けつぎし大蛇の魂はモールバンド エバの霊を受けつぎし悪狐の霊はエルバンド さも恐ろしき悪神と生まれ変りてアマゾンの 河の上下隈もなく数多の子孫を生み生みて 蟠まりつつ吾々が種族を彼等が餌食とし 旦に五百夕べに五百日々に千兎を捕り喰ひ 吾等は悲しき今の身よ千代の棲処を失ひし 兎族一同止むを得ず仁慈の深き鰐族に 固く守られ青垣山を四方に繞らす此島に 清けき湖を隔てつつ僅に生を保ちけり。 さはさりながら吾々は此湖をうち渡り 鰐の子供に守られて青垣山を打越えて さも香しき餌食をば探ね求めつ行く度に モールバンドは来らねどさも恐ろしき獅子熊や 虎狼は云ふも更醜の大蛇や禿鷲に 貴き命を奪はれて日々に減り行く吾種族 心淋しき折柄に天津御空の雲わけて 神の使の神人が天の河原に船浮べ アマゾン河の河口に降り給ひて悠々と 貴き歌をうたはせつ上り来ませる嬉しさよ 吾等が救ひの神とます天津御空の月の神 汝が命を遣はして此苦みを救はむと 降させ給ひしものならむ思へば思へば有難し 恵の露は草の葉に浮びて月の御姿 宿らせ給ふたふとさよあゝ惟神々々 神の御霊の幸はひて此月島は永久に 神の守りの弥深く栄え栄えて瑞御霊 神素盞嗚大神の恵も開く教の花 紅緑こき交ぜて吾等が赤き心根を 神の御前に表白し救はせ給へ神司 鷹依姫よ竜国別よ御供の神と仕へます テーリスタンやカーリンス此四柱の御前に 兎一同代表し謹み敬ひ願ぎまつる 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むともモールバンドは猛くとも 虎狼や獅子熊の醜の猛びは烈しとも なぞや恐れむ吾々は救ひの神を得たりけり 守りの王を得たりけり喜び勇めわが子供 これより後は永久に月の社と諸共に 尽きせぬ千代の喜びを味はひまつり神国の 其楽しみを味はひて此世を造り給ひたる 国治立大神はすべての罪を赦しまし 百の災打払ひ此世を洗ひ清めます 神素盞嗚大神の御稜威を尊み敬ひて 此世のあらむ極まで朝な夕なに神恩を 称へ奉らむ惟神御霊幸はひましませよ』 と歌ひ了り、兎の王は四人の前に平伏し、 兎の王『誠に不調法な不完全な歌をうたひ、舞曲を演じまして、さぞお困り遊ばしたで御座いませう』 と耳を打振り打振り、さも慇懃に挨拶をする。鷹依姫は立上り、兎の群に向つて、手を拍ち体を揺り、面白可笑しき身振りしながら、うたひ始めた。 鷹依姫『豊葦原の瑞穂国波に浮べる五大洲 何れの山も海河も皆大神の御水火より 生れ出でたるものぞかし神の宮なる人の身は 云ふも更なり鳥獣魚虫草木に至るまで 国治立大神や金勝要大神の 御水火に依りて世の中に現れ出でしものなれば 神の御目より見給へば何れも尊き貴の御子 恵に隔てあるべきや天津日光は人の身も 木草の上も鳥獣虫族までもおし並べて 光り輝き給ふなり天地の間に人となり 獣となりて生るるも皆大神の御心ぞ 神の慈眼に見給へば尊き卑きの区別なし 吾も神の子汝も又神の尊き貴の御子 御子と御子とは睦び合ひ弱きを助け強きをば なだめすかして睦まじく此世を渡り祖神の 大慈悲心に酬ゆべしモールバンドは云ふも更 虎狼や獅子熊の猛き獣に至るまで 神の授けし言霊の恵の水火の幸はひば 服従ひ来らむ事あらむあゝ惟神々々 神の御子と生れたる汝の一族兎ども 天津神たち国津神国魂神の御恵を 朝な夕なに嬉しみて清き此世を送りつつ 凡ての曲に打勝ちて月の御神の依さします 汝が天職を尽すべしわれも一度は村肝の 心曇りて豹狼の獣に劣らぬ醜の道 朝な夕なに辿りたる人の衣を被りたる モールバンドとなりたれど尊き神の御光りに 照らされ今は執着の雲霧晴れて惟神 神の身魂となりにけり三千世界の梅の花 一度に開く時来り神の仕組か白波の 上漕ぎ渡り漸うに高砂島の土を踏み アリナの滝に身を浄め再び玉の執着に 心を濁り曇らせつ慈愛の笞に叩かれて 漸く神に立帰り大海原を乗り切りて やつと此処まで着きにけり広袤千里果てしなき 時雨の森の此霊地いや永久に鎮まりて 汝が一族云ふも更虎狼や獅子熊の 猛き獣を始めとし大蛇猩々禿鷲の 醜の魔神を言霊の清き御水火に服従はせ モールバンドに至る迄悪虐無道の行ひを 改めしめて神国の五六七の神世を建設し 所在生物親しみて常世の春を楽まむ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 鷹依姫を始めとし竜国別やテー、カーの 神の司を悉く皇大神の御心に 叶はせ給へ天津神百千万の神等の 御前に祈り奉る旭は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも高砂島は亡ぶとも アマゾン河は涸くとも時雨の森は焼けるとも 神に従ふ真心は幾千代迄も変らまじ あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて これの兎のおとなしく服従ひまつりし其如く 猛獣毒蛇を始めとしモールバンドやエルバンド 其外百の獣をば尊き神の言霊に 言向け和せ給へかし黄金の玉は見えずとも 神に受けたる吾魂は金剛不壊の如意宝珠 紫玉か黄金の玉の如くに照り渡る 此御威徳をどこ迄も発揮し奉りて御恵の 露おく間なく禽獣の上に注がせ給へかし 神の恵に目醒めたる鷹依姫の此願ひ 完美に委曲に聞し召せあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終りて座に着けば、兎の王を始めとし、湖より此言霊歌を聞いて喜び勇み集まり来れる鰐の群は、嬉しげに耳を澄ませて聞き終り感謝するのみ。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 16 回顧の歌 第一六章回顧の歌〔九〇七〕 ウヅの神館の八尋殿に、末子姫の発起として大歓迎会は開かれ、言依別命は立つて、簡単なる祝歌を歌ひ給ふ。 言依別命『此世を造り固めたる 厳の御霊とあれませる 国治立の大神は 百八十国の神人を おいずまからず永久に 五六七の神世に救はむと 天地の律法制定し 清き教を立て給ひ 豊国姫の大神は 瑞の御霊と現はれて 錦の機を織らせつつ 天教地教の神の山 堅磐常磐に鎮まりて 貴の聖地と諸共に 教を開き給ひける 時しもあれや天足彦 胞場姫二人の霊より 生れ出でたる曲津神 八岐大蛇や醜狐 曲鬼共の現はれて 豊葦原の瑞穂国 隈なく荒び猛りつつ 神の依さしの八王神 八頭神まで籠絡し 追々勢力扶植して 塩長彦を謀主とし 国治立の大神が 此世を遂に退隠の 余儀なきまでに至らしめ 世は刈菰の乱れ行く あゝ惟神々々 神の主なる厳御霊 国治立の大神は 天教山の火口より 身を跳らして根の国に 一度は落ちさせ給へども 此世を思ふ真心の 凝り固まりて身を下し 野立の彦と現はれて 豊国姫の化身なる 野立の姫と諸共に 天教地教の両山に 現はれ給ひて三五の 教を開き給ひけり 再び厳の御霊を 分けさせ給ひて埴安彦の 厳の御霊や姫命 時節をまちてヱルサレム 黄金山下に現はれて 救ひの道を宣べ給ふ 其御心を畏みて 国大立の大神の 四魂の神とあれませる 御稜威も殊に大八洲彦 神の命や大足彦の 神の命の神司 神国別や言霊別の 瑞の御魂と現はれて 茲に再び三五の 清き教を四方の国 開き給ひし尊さよ 国大立の大神は 神素盞嗚の大神と 現はれまして許々多久の 罪や汚穢を一身に 負はせ給ひて天地の 百神等の罪科を 我身一つに引き受けて 八洲の国に蟠まる 八岐大蛇や醜神を 天津誠の大道に 言向け和して助けむと いそしみ給ふぞ尊けれ ウブスナ山の斎苑館 此処に暫く現れまして 日の出別の命をば 後に残して皇神は いろいろ雑多に身をやつし 島の八十島八十の国 大海原を打ちわたり 自転倒島に出でまして 貴の霊場と聞えたる 綾の聖地に上りまし 四尾の山に潜みます 国治立の御化身 国武彦の大神と 互に心を合せつつ 経と緯との糸筋を 整へ給ひて世を救ふ 錦の機を織り給ふ 錦の宮の神司 玉照彦や玉照姫の 貴の命にかしづきて 八尋の殿に三五の 神の教を開きつつ 教主の役を任けられて 教を開きゐたりしが 厳の御霊や瑞御霊 経と緯との大神の 御言畏み聖地をば 後に眺めて和田の原 渉りてここに来て見れば 思ひがけなき瑞御霊 神素盞嗚の珍の子と 生れ給ひし末子姫 桃上彦の鎮まりし 教の館に現はれて 神の教を楯となし 恵の露を民草の 頭に下し給ひつつ 五六七の神世の有様を 今目のあたり開きます 斯かる尊き霊場に 参り来りし楽しさよ 時しもあれや素盞嗚の 神の尊ははるばると これの館に出でまして 捨子の姫に神懸り[※初版・愛世版は「神懸り」、校定版は「帰神(かむがか)り」。] アマゾン河の曲神を 言向け和し救へよと 宣らせ給ひし言の葉を 謹み畏み屏風山 帽子ケ岳に立向ひ 国依別に巡り会ひ 琉と球との霊光に 数多の魔神を言向けて 目出度く凱歌を奏しつつ 十八柱の神の子は ウヅの館に安々と 帰りて見れば有難や 神素盞嗚の大御神 はるばる此処に出でまして 憩はせ給ふ嬉しさよ あゝ惟神々々 御霊幸はひましまして 高砂島は云ふも更 豊葦原の瑞穂国 百八十島の果て迄も 恵の露に潤ひて 世は泰平の花開き 梅の香りの五六七の世 松の操のいつ迄も 色も変らず永久に 栄えましませ惟神 神の御前に願ぎまつる 朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも 誠の力は世を救ふ 誠の神は今ここに 現はれ給ひし上からは 天地と共に永久に 神の言葉は失せざらむ 厳の御霊や瑞御霊 金勝要の大御神 日の出神や木の花の 咲耶の姫の神力は 竜宮海の底深く 天教山の空高く 千代に八千代に揺ぎなく 輝き渡り天地の 光となりて輝かむ あゝ惟神々々 神の尊き御恵を 謹み感謝し奉り 神の司を始めとし 四方の民草悉く 神の恵を嬉しみて 常磐の松のいつ迄も 変らざらまし高砂の 島根に生ふる青松の 梢に鶴のすごもりて 名さへ目出度き尉と姥 亀の齢のどこ迄も 大海原の波清く 吹く風さへも朗かに 静まりませと祝ぎまつる あゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ了り、末子姫の後を逐ひて、神素盞嗚大神の休ませ給ふ奥殿指して進み入る。 国依別は立上り、金扇を開いて祝歌を歌ひ且つ舞ひ始めた。其歌、 国依別『錦の宮を立出でて言依別の大教主 高砂島に出でませる御供に仕へまつりつつ 波間に浮ぶ琉球の宝の島に上陸し 琉と球との玉を得て棚無し船に身を任せ 伊猛り狂ふ荒浪を乗り切り乗り切り高砂の 島の手前に来て見れば高姫一行暗礁に 船を乗上げ浪の上渡りて進む時もあれ 山なす浪に襲はれて命危く見えければ 高島丸の船長に命じて船に救はしめ テルの港に来て見れば先頭一に高姫は 常彦、春彦伴ひて姿を早く隠しける 言依別の神司われを伴ひ三座山[※御倉山のこと] 国魂神を祀りたる竜世の姫の神霊地 集まり来る国人の霊と肉とを救ひつつ 暫く此処に止りて誠の道を宣り伝へ それより進んでヒルの国楓の別の永久に 鎮まりいます神館に出で行く折しも天地は 震ひ動きて山は裂け河は溢れて人々の 住家は砕け諸人は水と炎に包まれて 苦み悶ゆる憐れさよ楓の別の妹なる 紅井姫の命をば艱みの中より救ひ出し ヒルの館に立向ひ稜威の言霊宣り上げて 天変地妖を鎮定し館を立ちてアラシカの 峠を越えて日暮しの館に教を開きたる ウラルの道の神司ブール其他の人々に 神の教を宣り伝へ紅井姫やエリナ姫 二人の女性を預けおき又もやここを立出でて 安彦、宗彦従へつブラジル峠に差しかかり 丸木の橋を危くも生命カラガラ打ちわたり シーズン川を乗越えて帽子ケ岳に立向ひ 別れて程経し神司言依別に巡り会ひ 手を握りたる楽しさよ琉と球との霊光に アマゾン河や森林の数多の魔神を言霊の 御水火に助けしづめつつ凱歌をあげて十八の 神の柱は潔くウヅの館に来て見れば 思ひ掛なき末子姫捨子の姫と諸共に 貴の教をひらきまし松の神代と栄えゆく 其目出度さは言の葉の尽す限りにあらじかし 心静かな国彦が御子の松若彦の神 主の君に能く仕へ治まるこれの神館 来りて見れば瑞御霊神素盞嗚大神は はるばるここに出でまして我等が言霊軍をば 遥に守り給ひつつ光り輝き給ふこそ 実に尊さの限りなれあゝ惟神々々 国依別の神司厳の御霊や瑞御霊 日の出神や木の花姫の貴の命の御前に 国魂神を通しつつ嬉しみ尊み祝ぎまつる 畏み尊み祝ぎまつる』 と歌ひ終り、欣然として奥殿に進み入る。 (大正一一・八・二三旧七・一松村真澄録)
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霊界物語 36_亥_シロの島の物語 22 春の雪 第二二章春の雪〔一〇一〇〕 神地の城は、天恵的に火の洗礼を施され、城内の悪魔は残らず退散し、すべての建造物は烏有に帰し、天清く風爽かに、土また総ての塵芥を焼き尽し、天清浄、地清浄、人清浄、六根清浄の娑婆即寂光土を現出した。 サガレン王の率ゐ来れる正義の人々をはじめ、城内に止まりて竜雲の頤使に甘んじ、知らず知らず邪道に陥り居たる数多の人々も残らず目を醒し、広き城の馬場に集まつて、何れも身に微傷だにも負はざりし神徳に感謝の涙を流しつつ、天の目一つの神の導師の下に、国治立大神、塩長彦大神、大国彦大神を斎くべく、俄作りの祭壇の前に、天津祝詞を奏上し、神徳を讃美し、悔い改めの祈願を凝らし、敵と味方の障壁もなく、宗教の異同も忘却して只管神恩を感謝するのみにして忽ち地上の天国は築かれけり。 神地の城は火の洗礼によりて、地上に一物も止めず烏有に帰したれども、サガレン王がまさかの時の用意にと、新に造り置きたる河森川の向岸の八尋殿は、未だ一人の住込みたるものもなきままに、完全に残されありしかば、サガレン王は一同の人々を率ゐて新しき八尋殿に立入り、都下の人々が先を争うて、火事見舞として奉りたる諸々の飲食を並べ一同を饗応し、且つ天の目一つの神、君子姫、清子姫を主賓として、感謝慰労の宴会を開く事とはなりぬ。 ケールス姫も竜雲も亦悄然として、此席に恥かしげに小さくなつて片隅に控へ居る。人の性は善なりとは宜なるかな、ケールス姫は一時、妖邪の気に迷はされ、心汚き竜雲が計略の罠に陥り、恐れ多くもわが夫たり君たる国別彦の神司を無視し、且つ放逐したる其悪業を心の底より悔い、身も世もあられぬ思ひにて、良心に責められながら、つつましやかに片隅に息を殺して畏まり居る。又竜雲も一時の欲に搦まれ、悪鬼邪神の捕虜となり、悪逆無道の醜業を繰返したることを深く悔い、今迄犯せし罪の恐ろしく心の呵責に身の置き処もなく、人々に顔を向ける勇気もなく、頭を下げて片隅に縮こまり居る。今迄の竜雲は大兵肥満にして、一見温良の神人の如く見え居たりしが、己が悪事を悔悟すると共に、深く身魂に浸み渡り居たる曲神の、身内より脱出し終りたる彼の身は、忽ち縮小し、萎微し、以前の如き気品もなければ、打つて変つた痩坊主の見るもいぶせき姿となりしぞ憐れなり。 これを思へば、総ての人は憑霊の如何によつて其身魂を向上せしめ、或は向下せしめ、善悪正邪、種々雑多の行動を知らず知らずに行ふものなるを悟らるるなり。神諭にも、 『善の神が守護致せば善の行ひのみをなし、悪の霊が其肉体を守護すれば悪の行ひをなすものだ』 と示されてあるは宜なりと謂ふべし。又悪魔は決して悪相をもつて顕現するものではなく、必ず善の仮面を被りて人の眼を眩ませ、悪を敢行せむとするものである。一見して至正至直の君子人と見え、温良慈悲の聖者と見ゆる人々にも、また柔順にして女の如く淑やかに見ゆる男子の中にも、悪逆無道の行ひをなすものがあるのは、要するに悪神の憑依して、其人の身魂を自由自在に使役するからである。又一見して鬼の如く、悪魔の如く恐ろしく見ゆる人々の中に、却て誠の神の身魂活動し、善事善行をなすものも非常に沢山あるものである。故に人間の弱き眼力にては到底人の善悪正邪は判別し得らるるものでない。人を裁くは到底人の力の能くし能はざる処、これを裁く権力を享有し給ふものは、只神様計りである。故に三五教の宣伝歌にも、 『神が表に現はれて善と悪とを立て別ける』 云々と宣示されてあるのである。漫りに人の善悪正邪を裁くは所謂神の権限を冒すものであつて、正しき神の御目よりは由々しき大罪人である。又心魂の清く行ひの正しき人が一見して其心の儘が現はれ、至善至美至直の善人と見ゆる事もある。又心の中の曲り汚れて悪事をなす人の肉体が、一見して悪に見え卑劣に見える事もある。総ての人の容貌は心の鏡であるから諺にも云ふ通り、 『思ひ内にあれば色必ず外に現はる』 の箴言に漏れないものも沢山にある。然るに凶悪獰猛なる邪神は容易に其醜状を憑依せる人の容貌に現はさず、却つて聖人君子の如き面貌を表はし、悪を行ひ世人を苦しめ、以て自ら快しとする者も沢山にある。故に徒に人の容貌の善悪美醜を見て其人の善悪や人格を品評する事は到底不可能なる事を考へねばならぬ。 千変万化、変幻出没極まりなく、白昼に悪事を敢行するは悪魔の得意とする処である。悪魔は清明を嫌ひ、暗黒を喜び、暗にかくれて種々雑多の罪悪を喜んで行ふものである。然しこれは一般的悪魔の為すべき働きである。大悪魔に至つては然らず、却つて清明なる天地に公然横行し、万民を誑惑し、白日の下正々堂々と其悪事を敢行し、却つて心暗き人々より、聖人君子英雄豪傑の尊称を与へられ、得々として誇り、世人与し易しと蔭に廻つて、そつと舌を吐き出す者も沢山ないとは云へない世の中である。 一旦悪魔の容器となつて縦横無尽に暴威を振ひ、旭日昇天の勢を以て数多の部下に臨みたる竜雲も、悪霊の神威に恐れて雲を霞と脱出したるより、今迄威風堂々たりし彼も今は全く別人の如く、身体の各部に変異を来し、非力下劣の生れながらの劣等人格者となつてしまつた。されどもこの竜雲にして、再び正義公道を踏み、信仰を重ね、神の恩寵に浴しなば、以前に勝る聖人君子の身魂を授けられ、温厚篤実の君子人と改造さるるは当然である。ケールス姫は竜雲に一歩先んじて心の妖雲を払ひ、心魂に真如の日月を輝かし、前非を悔ゆるに至りしかば、今此場になつても比較的身魂を動揺せしめず、自若として神に一身を任せつつあつた。 竜雲は恥かしげに立ち上り一同に向つて懺悔の歌を謡ひ、天地の神明に謝罪の誠を尽した。其歌、 竜雲『天と地とは古の無限絶対無始無終 神徳無辺の大神が陰と陽との息をもて 造り固めし御国なり国治立大神は 天津御神の勅もて尊き御身を顧みず 豊葦原の瑞穂国下津岩根にあもりまし 大海原に漂へる島の八十島八十国を 完美に委曲に造り終へ百の神人悉く 守らせたまふ有難さ神世はやすく平けく 治まりまして吹き荒ぶ醜の魔風の跡もなく 罪も汚れも無かりしが神の御息に生れたる 蒼生の親とます天足の彦や胞場姫の 天地の道を踏み外し皇大神の御心に 背きたるより天ケ下四方の国には汚れたる 妖邪の息は充満し其息凝りて鬼となり 八岐大蛇や醜狐醜女探女を発生し 世は常闇となりにけりそれより漸く世の中に 悪魔は盛に蔓りて天地曇らせ現身の 世人の身魂を蹂躙し尊き神の生宮と 生れ出でたる人の身をいつとはなしに曲神の 珍の住家となし終へぬ吾も神の子神の宮 恵に漏れぬ身なれどもいつとはなしに曲神に つけ狙はれて由々しくも天地容れざる大罪を 重ね来りし恐ろしさ至仁至愛の大神は 吾等が汚き行ひを憐みたまひて忽ちに 各自に洗礼与へまし心に潜む曲神を 苦もなく追ひ出し給ひけりあゝ惟神々々 御霊幸倍ましましてサガレン王に背きたる 吾等が罪を許させよケールス姫を朝夕に 汚しまつりし醜業は天地容れざる罪なれど 神の尊き御心に清く見直し聞き直し 宣り直しませ天地の尊き百の神の前 罪に沈みし竜雲が今迄犯せし罪を悔い 心を清めて大前に慎み敬ひ詫びまつる 天の目一つ神司君子の姫や清子姫 其外百の人々の尊き今日の働きを 喜びゐやまひ心より慎み讃美し奉る 斯くなる上は竜雲が今迄悩みし村肝の 胸の曇りも晴れ渡り黒雲遠く吹き散りて 大空渡る日月の光を拝む心地よさ 国別彦の神様よケールス姫よ竜雲が 今迄汝に加へたるきたなき罪や曲業を 広き心に宣り直し許させ給へ惟神 神に誓ひて将来のわが改心を開陳し 身を退きて天の下四方の国々駆廻り 命の限り身の限り世人を救ひ身の罪を 亡ぼしまつるわが覚悟安く諾ひたまへかし あゝ惟神々々神の御前に願ぎまつる』 ケールス姫は又謡ふ。 ケールス姫『醜の魔神に迷はされ神の末裔と現れませる 国別彦の神司わが背の君に相背き 曲のかかりし醜人に心の限り身の限り 媚び諂ひて何時となく罪の淵へと沈淪し あらむかぎりの罪悪を尽し来りし恐ろしさ 大慈大悲の大神の霊の光りに照らされて 曇りし胸も晴れ渡り眩みし眼も明かに 輝き渡りて身の罪を直日に見直し聞き直し 顧みすれば恐ろしや天地の神の許さざる 重き罪をば知らずして重ね来りしうたてさよ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 日の出神や木の花の咲耶姫の神言もて 神素盞嗚大神が世人を普く救はむと 三五教の御道を四方の国々島々に 開かせ給ふ神司数ある中に取りわけて 清き尊き北光の神の司や君子姫 清子の姫を下しまし火の洗礼を施して 神地の都に蟠まる醜の魔神を吹き払ひ 清めたまひし尊さよ心の闇は晴れ渡り 元つ御霊に嬉しくも立ち帰りたる吾なれど 一度魔神に汚されし吾身体を如何にせむ 寄辺渚の捨小舟取りつく島もなく涙 いづれに向つて吐却せむサガレン王の御心は 仮令吾等を許すとも重ねし罪の吾が体 如何でか元に帰るべき妾は是より聖城を 後に眺めて葦原の瑞穂の国を隈もなく 風雲雷雨をしのぎつつ三五教の御教を 開きて世人を善道に導きまつり皇神の 恵の露の万分一報いまつらむ吾心 許させたまへ天津神国津神達八百万 国魂神の御前にケールス姫が誠心を 誓ひて願ひ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と謡ひ終り、恥かしげに片隅に身を潜めて蹲まり居る様、人の見る目も哀れげに感ぜられ、一同は期せずして同情の涙にかき暮れにける。 (大正一一・九・二四旧八・四加藤明子録)
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霊界物語 39_寅_大黒主調伏相談会/言霊隊の出発 01 大黒主 第一章大黒主〔一〇六六〕 遠き神代の昔より天地の神の大道を 説きさとしゆく諸々の教は千ぐさ万種 数限りなき其中に天地を造り固めたる 元つ御祖の御教を誠の神の現はれて 説きさとすなる三五教天教山や地教山 貴の都のエルサルム黄金山下を初めとし 霊鷲山や万寿山自転倒島に渡りては 綾の聖地の四尾山其外百の国々に 教司を間配りて安く楽しき神の世を 立てて五六七の御教に世人を助け守らむと 百の司を任け玉ひ千々に心を配ります 三大教や五大教経と緯との水火合せ 固め玉ひし三五の教を損ひ破らむと 八岐の大蛇や醜狐曲鬼共の醜霊 天が下をば蹂躙し此世を曇らせ汚さむと 醜女探女を数多く四方に遣はし闇雲に 猛びめぐるぞうたてけり天足彦や胞場姫の 汚れし魂になり出でし曲神共は村肝の 心も清き神司塩長彦の体を藉り 或は大国彦の神其外百の神人と 世に現はれてウラル教バラモン教を開設し 三五教に対抗し神の光に照されて メソポタミヤを遁走し或はコーカス山館 見棄てて逃げ行くウラル姫性懲りもなくどこ迄も 千変万化の妖術を使ひて正道を紊さむと 狂ひ廻りし醜神の常住不断の物語 いよいよここに述べ初むるあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ。 常世の国の常世城にあつて三葉葵の旗を押立て、自ら常世神王と称して羽振を利かし居たる大国彦は、三五教の為に其悪虐無道を警められ、部下の広国別をして常世城を守らしめ、ロツキー山に日出神と偽称して大国姫をば伊弉冊命と偽称せしめ、黄泉比良坂の戦ひに、部下の軍卒は大敗北し、遂にはロツキー山の鬼となり、茲にバラモン教を開設することとなつた。 大国彦命の長子大国別はバラモン教の教主となり遠く海を渡つて、埃及のイホの都に現はれ、其教は四方に旭の豊栄昇るが如く輝き渡り、人心を惑乱して、正道将に亡びむとせし時、三五教の夏山彦、祝姫、行平別外三光の神司の為に、其勢力を失墜し、遂に葦原の中津国と称するメソポタミヤの顕恩郷に本拠を構へ、小亜細亜、波斯、印度等に神司を数多遣はして、バラモンの教を拡充しつつあつた。 神素盞嗚尊は天下の人心日に月に悪化し、世は益々暗黒ならむとするを憂ひ玉ひて、八人の珍の御子を犠牲的に顕恩城に忍び入らしめ、バラモン教を帰順せしめむとし玉ひたれ共、大国別命帰幽せしより、左守と仕へたる鬼雲彦は、忽ち野心を起し、自ら大棟梁と称して、バラモン教の大教主となり、大国別の正統なる国別彦を放逐し、暴威を揮ひ居たりしが、天の太玉の神現はれ来りて、神力無辺の言霊を発射し帰順を迫りたれども、素より暴悪無道の鬼雲彦は、一時顕恩郷を脱け出し、再び時機を待つて、捲土重来、三五の道を顛覆せしめむと、鬼雲姫、鬼熊別、蜈蚣姫其他百の司と共に黒雲を起し、邪神の本体を現はしつつ、顕恩城を立出で、それよりフサの国、月の国を横断し、磯輪垣の秀妻の国と名に負ひし安全地帯、自転倒島の中心大江山に立籠り、徐に天下を席巻すべく劃策をめぐらしつつあつた。 然るに又もや三五教の神司の言霊に辟易し、再び海を渡りてフサの国に向ひ、残党を集めて、バラモンの再興を謀りつつ、私かに月の国、ハルナの都にひそみ、逐次勢力をもり返し、今は容易に対抗す可らざる大勢力となり、月の国を胞衣として、再び天下を掌握せむとし、最早三五教もウラル教も眼中になきものの如くであつた。 此ハルナの都は月の国の西海岸に位し、現今にてはボンベーと称へられてゐる。 鬼雲彦は大国彦命の名を奪ひて、自ら大国彦又は大黒主神と称しつつ、本妻の鬼雲姫を退隠せしめ、妙齢の女石生能姫といふ美人を妻とし、数多の妾を蓄へて、バラモン教の大教主となり、ハルナの都に側近き兀山の中腹に大岩窟を穿ち、千代の住家となし、門口には厳重なる番人をおき、外教徒の侵入を許さなかつた。 ハルナの都には公然と大殿堂を建て、時々大教主として出場し数多の神司を支配しつつあつた。夜は身辺の安全を守る為、兀山の岩窟に隠れて居た。此兀山は大雲山と名づけられた。 鬼雲彦の大黒主命は自ら刹帝利の本種と称し、月の国の大元首たるべき者と揚言しつつあつた。 月の国の七千余ケ国の国王は、風を望むで大黒主に帰順し、媚を呈する状態となつて来た。神素盞嗚大神の主管し玉ふコーカス山、ウブスナ山の神館に集まる神司も、此月の国のみは何故か余り手を染めなかつたのである。それ故大黒主は無鳥郷の蝙蝠気取になつて、驕心益々増長し、今や全力を挙げて、三五教の本拠たる黄金山は云ふも更コーカス山、ウブスナ山の神館をも蹂躙せむと準備を整へつつあつた。而して西蔵と印度の境なる霊鷲山も其山続きなる万寿山も、大黒主の部下に襲撃さるること屡々であつた。 神素盞嗚大神は自転倒島を初め、フサの国、竜宮島、高砂島、筑紫島等は最早三五教の御教に大略信従したれ共、まだ月の国のみは思ふ所ありましてか、後廻しになしおかれたのである。それ故大黒主は思ふが儘に跋扈跳梁して、勢力を日に月に増殖し、遂に進んで三五教の本拠を突かむとするに立至つたのである。 茲に斎苑の館の八尋殿に大神は数多の神司を集めて、大黒主調伏の相談会を開始さるる事となつた。日出別神(吾勝命)、八島主神(熊野樟日命)、東野別命(東助)、時置師神(杢助)、玉治別、初稚姫、五十子姫、玉国別(音彦)、幾代姫、照国別(梅彦)、菊子姫、治国別(亀彦)、浅子姫、岩子姫、今子姫、悦子姫、黄竜姫、蜈蚣姫、コーカス山よりは梅子姫、東彦、高彦、北光神、高光彦、玉光彦、国光彦、鷹彦、秋彦等を初め数多の神司が集まつて鬼雲彦の大黒主神を言向和すべく協議をこらされた結果、梅彦の照国別、音彦の玉国別、亀彦の治国別並に黄竜姫、蜈蚣姫が直接に、ハルナの大黒主の館に立向ふ事となつたのである。 (大正一一・一〇・二一旧九・二松村真澄録)
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霊界物語 41_辰_黄金姫&清照姫の入那の国の物語1 13 夜の駒 第一三章夜の駒〔一一一七〕 イルナの都、セーラン王の館の奥の間には、王を始め黄金姫、清照姫、テームス、レーブ、カルの六人、上下の列を正し、対坐しながら、ひそびそ話が始まつてゐる。 王『黄金姫様、遠方の所夜中にも拘らず、よくお越し下さいました。これで私も一安心致します。貴女は鬼熊別様の奥様蜈蚣姫様、小糸姫様で厶いますなア』 黄金姫『ハイ、恥しながら運命の綱にひかれて、とうとう夫と別れ、神様の為に三五教の宣伝使になりました。世の中は思ふ様にゆかないもので厶います』 セーラン王『左様で厶いますなア、私も夫婦の道に就いて、非常に悲惨な境遇に陥つて居ります。これでも何時か又神様の御恵に依つて、思ふ様に身魂の会うたもの同士添ふ事が出来ませうかなア。貴女様は最早鬼熊別様と仲よく元の夫婦となつて、神界にお仕へ遊ばすことが出来ませう。私は到底望みがありますまい』 黄金姫『親子夫婦が一緒に神界に仕へる位、結構な事はありませぬが、私の夫は御存じの通り、バラモン教の柱石、私始め娘は三五教の宣伝使、何程神様は一つだと申しても、むつかしい仲で厶います』 セーラン王『決して御心配なさいますな。鬼熊別様は、キツト貴女のお説に御賛成遊ばすで厶いませう。私の今日の身の上は実に言ふに言はれぬ境遇に陥つて居ります。許嫁のヤスダラ姫は奸臣の為に郤けられ、心に合はぬ妻を押付けられ、一日として楽しく暮した事はありませぬ。其上奸者侫人跋扈し、私の身辺は実に危急存亡の場合に陥つて居ります。就いては貴女様をお迎へ申上げ、此危急を救うて頂きたいと存じまして、北光の神様の夢のお告げに依つて、数日前より貴女様の此方へお出ましになるのをばお捜し申して居りました。よくマア来て下さいました。今後は貴女のお指図に従ひ身を処する考へですから、何分宜しく御願ひ致します』 黄金姫『貴方は三五の教を信じますか』 セーラン王『ハイ、別に信ずるといふ訳では厶いませぬが、大自在天様も世界の創造主、国治立尊様も矢張り世界の創造主、名は変れども元は同じ神様だと信じて居ります』 黄金姫『国治立尊様は本当の此世の御先祖様、盤古神王や自在天様は人類の祖先天足彦、胞場姫の身魂から発生した大蛇や悪狐悪鬼の邪霊の憑依した神様で、言はば其祖先を人間に出して居る方ですから、非常な相違があります。神から現はれた神と、人から現はれた神とは、そこに区別がなければなりませぬよ』 セーラン王『あゝさうで厶いますかなア。私は三五教の奉斎主神たる国治立大神様も、盤古神王様も、大自在天様も同じ神様で、名称が違ふだけだと聞いて居ります。私も固くそれを信じて居りましたが、さう承はれば一つ考へねばなりますまい。チヨツト貴女様母娘に見て頂きたいものが厶りますから、どうぞ私の籠り場所へお越し下さいませ。妻でも左守の司でも誰一人入れたことのない神聖な居間で厶います。テームスよ、レーブ、カルと共にここに暫く待つてゐてくれ』 テームスは、 テームス『ハイ畏まりました』 とさし俯むく。王は母娘を伴なひ、籠りの室へ進み行く。行つて見れば、可なり広い室が二間並んでゐる。そこには立派に斎壇が設けられ、いろいろの面白き骨董品などが、陳列されてあつた。床の間の簾を王はクリクリと捲上げ、手を拍ち、祝詞を奏上し始めた。母娘も同じく頭を下げ、小声に祝詞を奏上し、終つて斎壇をよくよく見れば、一幅の掛軸が床の間の正面にかけられ、神酒、御饌、御水等がキチンと供へられてある。これは常に王が潔斎して神慮を伺ふ秘密室であつた。 掛物の神号をよく見れば、天一神王国治立尊……と正面に大字にて記し、其真下に教主神素盞嗚尊と記し、中央の両側に盤古神王塩長彦命、常世神王大国彦命と王の直筆で記されてあつた。黄金姫母娘は此幅に目をとめ、何とも言へぬ爽快さと驚きの念にうたれ、呆然として其神号を眺めてゐる。 セーラン王『私の信仰は此通りで厶います。お分りになりましたか』 黄金姫『思ひもよらぬ御神徳を頂きました。これではイルナの城も大丈夫、御安心なさいませ。併し乍ら此世の御先祖様でも時世時節には対抗し難く、一度は常世彦、常世姫一派の為に、根底の国までお出でなさつた位だから、決して油断は出来ませぬ。貴方の信仰が大黒主の方へでも分らうものなら大変だから、今暫くは発表せないが宜しいぞや』 セーラン王『ハイ、左守の司にさへも此室は覗かせた事はありませぬ。誰も知る者はないのですから、大丈夫で厶います』 黄金姫『仮令此室を覗かぬとも、貴方の信仰が斯うだとすれば、何時とはなしに、貴方の声音に現はれ、皮膚に現はれ、遂にはかん付かれるものです。如何しても心の色は包む事は出来ませぬから』 セーラン王『貴女様が此処へお越し下さつた以上は、余り心配する事も要りますまい。一寸これを御覧下さいませ』 と次の間に二人を導く。見ればここにも一寸した床の間があつて、二幅の絵像が掲げられてあつた。黄金姫、清照姫はアツとばかり驚かざるを得なかつた。それは日頃心にかけてゐる夫鬼熊別の肖像と一幅は神素盞嗚尊の御肖像であつた。清照姫は思はず、 清照姫『あゝこれはお父様、大神様』 と言はうとするを、黄金姫は口に手を当て、 黄金姫『コレコレ清照姫殿、何を仰有る。これはキツト大黒主様と自在天様の絵姿だ。そんな大きな声を出すと、悪魔の耳に這入つては大変ですよ』 清照姫『父上によう似た御肖像で厶いますなア。ホヽヽ』 セーラン王『私は今までバラモン神を信仰して此国を治めて居りましたが、或夜の夢に神素盞嗚大神様、鬼熊別命様と二柱現はれ給ひ、いろいろ雑多の有難き教訓を垂れさせ下さいまして、それより神命に従ひ、私一人信仰を励み、時の到るを待つて居りました。私の夢に現はれたお姿を思ひ出して、自ら筆を執り、ソツとお給仕を致して居ります。鬼熊別様は神界にては神素盞嗚尊様のお脇立になつてゐられます。キツト其肉体も三五のお道へお入り遊ばすでせう。只時間の問題のみが残つてゐるのだと感じて居ります』 黄金姫母娘は物をも言はず感に打たれ、嬉し涙にかきくれてゐる。セーラン王は、 セーラン王『天地の神の恵を目のあたり 拝みし今日ぞ尊かりけり。 素盞嗚神の尊に服ひて 教を守る鬼熊別の神司よ。 鬼熊別神の命は今暫し ハルナの都に忍びますらむ。 時機来ればやがて表に現はれて 三五教の司となりまさむ。 あゝ嬉し黄金姫や清照姫 神の司に会ひし今宵は』 黄金『来て見れば思ひもよらぬ王の居間に わが背の君の姿拝みし。 バラモンの教の御子と思ひしに 摩訶不思議なる今宵なりけり』 清照『千早振る神の光の強ければ 父の命の心照りつつ 吾父は最早国治立神の 教の御子となりましにけむ。 セーランの王の命よ今暫し 時を待ちませ神のまにまに。 清照姫教の司も今宵こそ 積る思ひの晴れ渡りける』 黄金『北光の神の命のかくれます 高照山にとく進みませ。 高照の山は世人の恐ろしく 噂すれども貴の真秀良場。 百千々の狼の群従へて 北光の神は王を待ちつつ。 いざさらばテームス、レーブ、カル三人 後に従へとく出でませよ』 王『黄金姫神の御言に従ひて とく立出でむ高照山へ。 吾行きし後の館は汝命 暫し止まり守り給はれ』 清照『大神の稜威の光に照らされて 道も隈なく安く行きませ。 母と娘が心を協せ身を尽し 入那の城を暫し守らむ』 王『鬼熊別神の命の賜ひてし 生玉章を汝に奉らむ。 心して披き見給へ鬼熊別 神の命の真心の色を』 と言ひながら、鬼熊別より王に遣はしたる密書を黄金姫に恭しく手渡した。黄金姫は手早く封じ目を切り、押披いて読み下せば、左の文面であつた。 『鬼熊別よりセーラン王に密書を送る。 一、これの天地は天一神王大国治立尊の造り給ひし神国にして、決して大国彦、塩長彦の神等の創造せし天地にあらず。又大黒主はバラモン教の大棟梁として兵馬の権を握り、大教主の仮面を被り居らるれども、天は何時迄も斯かる虚偽を許し給はず、必ずや本然の誠に立ち返り、三五教を信従する時あるべし。それに付いては神素盞嗚大神の御摂理に依り、吾妻子近々の中に王が館に訪問すべければ、一切万事を打明け、国家の為に最善の努力をなさるべし。ハルナの都は今や軍隊の大部分は遠征の途に上り、守り最も少なくなり居れり。然るに王に仕ふる右守より王を廃立せむとの願書、大黒主の許に来り、大黒主は数千の騎士を近々差向くる事となりをれば、イルナ城は実に風前の灯火なるを以て、貴王は吾妻子と共に善後策を講じ、一時何れへか避難さるべし。鬼熊別はハルナの都に止まつて、大黒主を悔ひ改めしめ、其身魂をして天国浄土に救はむと朝夕努めつつあり。吾妻子に面会の日を期し、一刻の猶予もなく、安全地帯へ一時身をかくさるべく呉々も注意致します。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と記されてあつた。黄金姫、清照姫は久しぶりに鬼熊別の肉筆の手紙を見て、夫に直接会ひし如く、父に面会せし如く、心勇み、感涙を落しながら、 黄金『あゝ之にて何もかも分りました。北光の神様が一時も早く貴方を狼の岩窟へ誘ひ来れとの御命令も、此手紙の文面にて氷解しました。あゝ、何と神様はどこまでも注意周到なお方だなア』 清照『お父様に直接お目にかかつた様な心持が致します。神様、有難う厶います』 と両手を合せ、神素盞嗚尊の聖像に向つて、感謝の詞を捧げた。 黄金『サアかうなる上は、一刻も早く高照山へ夜の明けない中にお越し遊ばせ。申上げたき事は山々あれど、今はさういふ余裕も厶いませぬ。サア早く早く』 とせき立つれば王は、 セーラン王『左様ならば、万事宜しく願ひます』 と先に立ち、テームス等が控へてゐる居間に姿を現はした。王は母娘と共に表の居間に立現はれ、テームスに打ち向ひ、 セーラン王『テームス、御苦労だが、早く駒の用意をしてくれ。これから高照山へレーブ、カルを伴ひ、出発致すから』 テームス『ハイ承知致しました。併し乍ら黄金姫様の御命令に依り、馬の用意はチヤンと整へておきました。何時なりともお供を致しませう』 セーラン王『あゝそれは有難い。それなら、黄金姫様、清照姫様、あとを宜しく御願ひ致します』 黄金『君ゆきて如何にけながくなるとても われは館を守りて待たむ。 うら安く進み出でませ高照の 山の岩窟に神は待たせり。 三五の教司の北光の神は 君のいでまし待たせ給はむ』 王『いざさらば黄金姫や清照姫 神の命よ惜しく別れむ』 と歌ひながら、慌しく表に出で、裏門口より駒引き出し、暗の道を辿りて、高照山の岩窟指して一行四人は雲を霞と駆り行く。 (大正一一・一一・一二旧九・二四松村真澄録)
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霊界物語 54_巳_ビクの国の物語2(後継者問題) 22 凱旋 第二二章凱旋〔一四〇八〕 頻りに門戸を叩く声にテームスの僕二人は又バラモンの雑兵が、何か徴発に来よつたに違ひない、うつかり開けてはならぬと、目と目を見合せ、何程叩いてもウンともスンとも云はずに、閂のした大門を御叮嚀に中から支へて居る。治国別は止むを得ず邸内に聞ゆる大音声にて宣伝歌を歌ひ出した。 治国別『高天原に現れませる皇大神は御心を 千々に悩ませたまひつつ天地を造りたまひしが 天足の彦や胞場姫の神の教に背きしゆ 其罪咎は邪気となり凝り固まりて鬼となり 八岐大蛇や醜狐百の魔物となり果てて 地上に住める人々の霊を曇らせ汚しつつ 神の御子と生れたる尊き人の体をば 曲津の住処となしにけりバラモン教の神柱 大黒主の曲神の頤使に従ひ産土の 珍の聖地に攻め来るバラモン教の大軍は 河鹿峠の要害で三五教の宣伝使 治国別の言霊に打ちやぶられて遁走し 浮木の森やビクトルの山の麓に陣をはり 悪虐無道のありだけを尽しゐたりし折もあれ 神の使の宣伝使治国別の一行が 又もや此処に現はれて醜の軍を追ひ散らし ビクの国家を救ひたり鬼春別や久米彦は 三千余騎を従へて雲を霞と逃げ散りて 猪倉山の岩窟に住所を構へ遠近の 人家を掠め人を取り悪虐無道の振舞を 為せしと聞くより吾々は世人の害を除かむと 木花姫の神勅もて此家の娘両人や 道晴別を救はむと此処迄急ぎ来つれども 間抜きつたる門番が吾等を敵とあやまりて 力限りに拒みつつ開門せざるぞうたてけれ 此家の主テームスよ三五教の宣伝使 治国別に相違ない唯一息も速かに この門開き給へかしああ惟神々々 神に盟ひて偽りのなき言霊を宣り伝ふ』 この歌に二人の門番は顔を見合せ、半信半疑の雲に包まれ乍ら、一人は門を守らせ置き、一人はテームスの居間をさして進み行く。 テームス、ベリシナ夫婦は三五教の道晴別が、番頭のシーナと共に二人の娘を救ひ出さむと勢込んで行つてから今日で三日目になるのに、何の音沙汰もないので頻りに神を念じたり、神籤を引いたりして心配して居た。其処へ慌ただしく門番のビクが走り来り、 ビク『旦那様に申上ます。表門に当つて敵か味方か存じませぬが、三五教だとか治国別だとか、此処の娘を助けに来たとか云つて大きな声で歌つて居ますが、如何致しませうか。うつかり開けて又もやバラモンの奴だと大変だと思ひ、拒むだけ拒むで見ましたが、私ではとんと善悪が分りませぬ。どうぞ旦那様、貴方御苦労様ながらお調べ下さいますまいか』 テームス『何、三五教の治国別様が見えたと仰有るか、それは間違ひはあるまい。何は兎もあれ門口迄行つて考へて見よう』 とビクを先に立て、大刀を腰に挟み、すたすたと現はれ来り大音声にて、 テームス『唯今吾門前に佇み歌はせたまふ御仁はいづくの何人で厶いますか。御名を聞かせて下さらば、此門を開けるで厶りませう』 万公は此声を聞きつけ大声にて、 万公『吾こそは三五教の宣伝使治国別の家来万公で厶る。一時も早く此門をお開けなされ』 治国『拙者は治国別と申す者、決して怪しき者では厶らぬ。木花姫様の御神勅に依り、拙者の徒弟道晴別が、当家の二人の娘御をバラモン軍に攫はれ給うたのを取り還さむため猪倉山に向ひし様子、拙者は一同の命を救はむ為、取るものも取り敢ず此処迄参つたもので厶る。一時も早く此門をお開けなされ』 テームスは門内より治国別の声を聞いて、どこともなしに威厳のある言葉、さうしてどうしても偽りとは思へないので、静に閂をはづし、門扉をパツと開き、怖々覗けば四人の宣伝使が立つてゐる。テームスは打ち喜び叮嚀に辞儀をしながら、 テームス『是れは是れはお慕ひ申て居りました治国別様で厶いますか、誠に失礼を致しました。サア何卒お入り下さいませ』 治国『ハイ有難う、然らば御免蒙りませう』 と一行四人は大門を潜り入る。 テームス『これビク、何時バラモンの奴が来るかも知れぬから此門を確り閉ぢて置くのだ。さうしてお前はここを守つて居るのだ』 と言ひつけ一行の先に立ち奥に導き行く。治国別は夫婦の居間に請ぜられ、茶を薦められながら挨拶もそこそこにして、 治国『承はれば当家のお嬢様はお二人迄猪倉山のバラモンの巣窟に拐されてお出になつたさうですな』 テームス『ハイ有難う厶います。実の所は三日前に治国別の徒弟だと仰有つて、道晴別と云ふ立派な宣伝使がお出で下さつて、番頭のシーナと共に軍服姿に身を窶し、二人を取り返して来ると言つてお出なさつたきり、今に何の便りも厶いませぬので、夫婦の者が心配致して居ります。何卒貴方の御神力によつて助けて下さるわけには参りますまいかな』 治国『アア其事について急ぎ参つたので厶います。余り愚図々々致して居れば、何だか深い陥穽に放り込まれて居るさうですから、命が危う厶いませう。拙者はこれより時を移さず猪倉山に立ち向ひ、千騎一騎の言霊を発射し敵を帰順させ、四人を立派に救ひ出して帰る心算です。私に確信が厶いますれば必ず必ず御心配なされますな』 テームス、ベリシナの両人は、 テームス、ベリシナ『ハイ有難う厶います』 と両手を合せ涙に声も得あげず泣き伏して居る。 これより治国別一行はテームスの門を出で足にまかせて、日の西山に舂き給ふ頃、足を速めて進み行く。 谷を飛び越え岩間を伝ひ、漸くにして、昼猶ほ暗き森林を神の恵に守られて黒白も分ぬ闇の道、却てこれ幸と息を凝らしながら漸くにして岩窟の前に辿りついた。夜分の事とて、数多の兵士は何れも武装を解きテントの中や仮小屋の中に転がつて居た。馬は彼方此方の木に繋がれ盛に嘶いて居る。治国別一行は其処辺に脱ぎ捨てある軍服を手早く闇を幸ひ身につけ、素知らぬ顔をしながら、足音を忍ばせ、四辺に気をつけ、長き隧道を辿つて行く。不思議にもこの時計り神の御守りで暗夜の道がよく目についたのである。 傍の岩窟の中に何だか人声がするので、岩壁に耳を当て考へて居ると、鬼春別が久米彦其外の幕僚を集めて、ひそびそ相談会を開いて居る。 鬼春『久米彦殿、折角の美人を無雑作にあのやうな所へ放り込むと云ふ事があるか、何とかして助けやうが無いものかなア』 久米『到底駄目でせう。今日で二日目ですから屹度死んでゐるでせう』 鬼春『貴殿にも似合ぬ残酷な事を致すぢやないか。貴殿は、カルナ姫に説き立てられ未来が怖ろしいと云うて、ビクトリヤ王迄も救うて、置いた身でありながら、人の命を取るやうな、なぜ残酷の事を致さるるのか』 久米『実の所は四人の体の周囲に鉄板を廻して放り込みましたから、怪我は致して居りますまい。さうしてその鉄板は桶のやうになつて居り、太い綱が通してあります。何程深い井戸の底でも綱さへ手操れば容易に救ひ上げる事が出来ます。幸ひ此処には岩より湧き出る起死回生の薬がありますから、これを含ますれば二日や三日息が絶へて居ても回復は大丈夫でせう』 鬼春『何と貴殿も腹が悪いぢやないか。よもや貴殿が左様な殺伐な事は致すまいと睨んで置いたのだ。サア一時も早く四人の者を救ひ出し此処へ連れて厶れ』 久米『それに先だつて将軍に一つ相談が厶ります。外でも厶らぬが、きつとスガールを拙者にお渡し下さるでせうなア』 鬼春『アハハハハ又しても左様な我慢な事を云ふものではありませぬぞ。久米彦殿はスミエルで暫く御辛抱なされ、スガールは拙者が世話を致すで厶らう。オイ、スパール其方は早く、男は兎も角も女二人を救ひ出し、スミエルは久米彦殿の居間に送り置き、スガールの方を此方に連れて来い。鬼春別が手づから気付を遣はし呼び生けてやらう』 スパールは、 スパール『ハイ承知致しました』 とドアを押し飛び出さうとするのを久米彦はグツと襟を掴み、 久米『アハハハハ拙者が隠して置いたる以上は、これだけ沢山の陥穽貴殿が何程気張つた所で、見当ることは厶らぬ。やつぱり拙者が放り込んだのだから拙者が行かねば駄目だ。まづ気を落付けなされ、そのかはり先づスガールは屹度拙者がお預り申す』 鬼春別は気を焦ち、 鬼春『オイ、スパール、久米彦の言葉を聞くに及ばぬ。サア早く救ひ出して来い。久米彦殿スパールの襟を放しておやりなさい。上官の命令をお聞なさらぬか』 久米『然らば拙者が救ひ上げて参りませう。オイ、エミシ某に続け』 と云ひ乍ら、ドアを押し開け飛び出した。隧道の所々には肥松を焚き乍ら明をとつてある。パツと写つた四人の顔、久米彦は声を尖らし、 久米『ヤア其方は番兵ではないか、最前から吾々の話を立ち聞き致して居つたのだな。不都合千万の奴だ。サア一時も早く彼方に立去れ』 治国『拙者は三五教の宣伝使治国別の一行で厶る。拙者の徒弟道晴別を初めシーナ、及スミエル、スガールが大変なお世話になつたさうだ。一言お礼を申さなくてはならないと思ひ、態々お尋ね申しましたのだ。アハハハハハ』 久米『イヤ、これはこれは治国別様で厶いましたか。何卒言霊は一寸暫くお見合せを願ひます。唯今直にお渡し申しますから、一寸此処に待つて居て下さいませ』 治国『イヤイヤ決して決して左様な御心配は入り申さぬ。拙者が自ら救ひ出さねばならぬ義務が厶る。貴方方はマア悠りと御休息をなされませ。四人の所在はビクトル山から既に霊眼で見て置きました』 久米『イヤどうも治国別様の慧眼には恐れ入りました。今日限りバラモンの将軍職をやめますから、どうぞ命計りは御救助を願ひます』 万公『先生、こんな事云つて又計略にかけるのですよ。四人放り込みやがつた穴へ鬼春別も久米彦も何奴も此奴も放り込んでやりませうか、アハハハハ、面白い面白い、エヘン。どんなものだ、鬼春別、久米彦両将軍、この万公が現はれた以上は到底駄目だぞ』 松彦『万公、何を云ふのだ。お前は篏口令を布かれて居るぢやないか』 万公『万公末代云はない心算だつたが、あまりむかづくのでつい口が辷りました。それよりも早く四人を救ひ出さうぢやありませぬか……これや久米彦、貴様が放り込んだのだから貴様が救ひ出して来い。万一一人でも命がなくなつて居たら、先生が何と仰有つても、この万公が承知せぬぞ。ヘン馬鹿にして居やがる、将軍も何もあつたものか。先生の前に来たら猫に出会うた鼠のやうな塩梅式ぢやないか。醜態を見やがれ、イヒヒヒヒ』 松彦『万公さま又忘れたのか、エエ久米彦殿早く案内なされ』 万公『これや早く案内を致さぬか、何を愚図々々して居るのか、そして鬼春別はどこに居るのか』 と虎の威をかる糞喰ひ狐のやうに無暗矢鱈に噪いで居る。竜彦は此の間に天眼通により四人の所在を知り、手早く一人々々を穴の底から引き上げ、鎮魂を施し、漸く四人共息を吹きかへさせた。 茲に鬼春別、久米彦両将軍は土下座をしながら、慄ひ慄ひ治国別に罪を謝した。治国別はいろいろと誠の教を説き諭し、且つ鬼春別、久米彦、スパール、エミシの高級武官に一人づつ態と背負はしめ、凱歌を奏しつつ一先づ玉木村のテームスの家をさして神恩を感謝しながら帰り行く。 (大正一二・二・二三旧一・八於竜宮館加藤明子録) (昭和一〇・六・一三王仁校正)
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霊界物語 56_未_テルモン山の神館1 15 猫背 第一五章猫背〔一四四五〕 三千彦『厳の御霊と現れませる高皇産霊の大御神 瑞の御霊と現れませる神皇産霊の大御神 珍の御水火に現れませる三五教の大神は 埴安彦や埴安姫の神の命を世に降し 天地百の神人の霊を浄め天国の 清き聖場に救はむと心を配らせ玉ひつつ 神素盞嗚の大神に其神業を任け玉ひ 茲に瑞の大神は神漏岐神漏美二柱 神の御言を天地に麻柱奉り常暗の 世を平けく安らけく治めて松の御世となし 日出の守護に復さむと百の司を養成し 豊葦原の中津国国の八十国八十の島 残る隈なく巡らせて天国浄土の福音を 拡充せしめ玉ひけり天足の彦や胞場姫の 曲のすさびにつけ入りて此世を紊す曲津神 八岐大蛇や醜狐曲鬼共は天の下 治むる国の司人其外百の人々に 憑りて所在曲わざを縦横無尽に敢行し 日に夜に世界を汚し行く醜のすさびぞうたてけれ 斎苑の館の宣伝使玉国別の弟子となり 神の教を四方の国伝へむものと真心の 思ひは胸に三千彦がライオン河を渡りてゆ 広野の中に日をくらしやむなく眠る露の宿 暗路を辿る折柄にバラモン教の落武者が 幾百人とも限りなく手に手に兇器を携へて 三五教の宣伝使鏖殺せむといきり立ち 吾一行の身辺を十重や二十重に取囲み 剣をかざし石を投げ勢猛く攻め来る 玉国別の師の君や真純の彦は言霊を 力限りに打出して防戦したる折もあれ 敵の突出す槍先に股をさされて伊太彦が 其場にドツと倒れ伏す見るより驚き真純彦 伊太彦小脇にかい込んで敵の重囲を切りぬけつ 何処ともなく逃げ行きぬ吾師の君も大勢に 取囲まれて何処となく姿を隠し玉ひける 後に残りし三千彦は俄に言霊渋りきて 詮術もなき悲しさに命カラガラ囲をば 突破し乍ら漸くに吾師の跡を尋ねつつ 此処迄進み来りけりああ惟神々々 尊き神の御守吾師の上に顕れまして 神に受けたる使命をば完全に委曲に果すべく 恵の露を賜へかし真純の彦は今何処 伊太彦司の槍創は最早癒えしか或は又 深手に悩み山奥に隠れて病を養ふか 聞かまほしやと思へども曇りし霊の吾々は 神に伺ふ由もなく道の行手を気遣ひつ バラモン教の籠もりたるテルモン山の近く迄 知らず知らずに着きにけり油断のならぬ敵の前 企みの穴の陥穽数多拵へ三五の 教司の来るをば手具脛ひいて待つと聞く ああ惟神々々尊き神の御前に 吾師の君を始めとし吾等一行の幸運を 謹み敬ひ願ぎまつる』 と密々唄ひ乍ら、テルモン山より流れ落つるアン・ブラツク河の川辺に着いた。頃しも夏の半にて半円の月は西天にかかり、利鎌のやうな鋭い光を投げてゐる。三千彦は日の暮れたのを幸、川堤に腰をおろし、小声になつて天津祝詞を奏上し、終つて独り言、 三千『ああ、水の流れと人の行末、変れば変るものだなア。玉国別の師の君のお伴をなし、去年の冬斎苑の館を立出でてより、浮つ沈みつ、種々雑多の艱難苦労、其中にも吾師の君は、懐谷に於て猿に眼を破られ玉ひ、止むを得ず祠の森に立て籠り、御神勅のまにまに、祠の宮を建設遊ばし、吾等三人の弟子と共に潔く月の国ハルナの都へ、神の依さしのメツセージを果たさむと、勇み進んで来る折しも俄の雨にライオン河の大激流、目も届かぬ許りの川巾を水馬に跨り、命カラガラ此方へ渡り、日を暮らして、広野の中に一夜を眠る時しも、バラモン教の残党数多襲ひ来り、吾友の伊太彦は敵の鋭き手槍に刺され、生死の程もさだかならず、師の君を初め真純彦は今何処へ行かれたか、何の便りも夏の夜の、月に向つてなく涙、乾く由なき袖の露、憐れみ給へ月照彦の神』 と述懐を述べ、一生懸命に祈つて居る。 三千彦は漸くにして、川の堤の青草の上に眠に就いた。沢山の蚊が人間の匂ひを嗅ぎつけて、珍らしげに集まり来り、ワンワンワンと厭らしい声を立て、三千彦の体一面に折重なつて喰ひついてゐる。此時俄にレコード破りの川風吹き来り、堤上に眠つてゐた三千彦の体を鞠の如く転がして、あたりの泥田の中へ吹き込んで了つた。三千彦は驚いて立ち上らうとすれ共、泥深くして腰のあたりまで体がにえこみ、何うする事も出来ず、チクチクと身は泥田に没し、最早首丈になつて了つた。此儘にしておけば全身泥に没し、三千彦の生命は既に嵐の前に灯火の如き運命に陥つて了つた。三千彦は一生懸命に天津祝詞を奏上し、せめて肉体は泥田の中に埋めて死す共、吾精霊を天国に救はせ玉へと、声を限りに祈つてゐる。斯かる所へ黒い四つ足の影、何処ともなく現はれ来り、三千彦の体の囲の泥土をかきのけ、泥のついた着物を喰わへて、自分も亦体を半分以上泥土に没し乍ら、漸く堤の上に救ひ上げた。三千彦は如何なる獣か知らね共、自分を助けてくれたのは、全く神様の使に違ひあるまいと、双手を合せて、黒い獣を一生懸命に拝み、泥だらけの着物を着けたまま川の浅瀬に飛入り、ソロソロ洗濯を始め出した。黒い影の獣は復川中にバサバサと飛込み、自分の体を洗つてゐる。 三千彦はザツと衣類の洗濯をなし、夏の事とて、白く焼けた河原の砂利の上に着物を干し、自分は蚊を防ぐ為に、全身を水に浸けて夜を明かすこととなつた。獣の影は何時しか見えなくなつてゐる。夏の一夜を漸く明かし、能く能く自分の衣類を見れば、着物一面に毛の生えた如く、厭らしい蛭が喰付いて居る。粘着性の強い蛭で容易におちない、手を以て落とさうとすれば手に喰付き、どこ迄も離れてくれぬ。『エー一層の事、此着物は川へ棄て、裸の道中で、行く所迄行つてやらうか』と思案を定めてみたり、『いやいや待て待て、夜分になれば、又蚊の襲撃を防ぐ事は出来ぬ、ぢやと云つてこれ丈沢山の蛭のついた着物を身につけば又血を吸はれる、ハテどうしたらよからうか』と身の不遇を嘆き、再び堤に上つて、涙にくれてゐた。 遙向方の方より夜前見た黒い獣が矢を射る如く此方に向つて走つてくる。これは初稚姫が三千彦の難儀を前知して、スマートに言ひ含め、救援に向はしめ玉うたのである。スマートは、立派なバラモン教宣伝使の服を喰わへて来た。そして三千彦の前に二声三声、ワンワンと吠乍ら、尾を振つて、之を着よとすすむる如き形容を示した。三千彦は感涙に咽び乍ら、 三千『ああお前は畜生にも似ず、賢い犬だなア、よう助けてくれた。キツと神様のお使に違ひなからう。ついては此服は私が頂戴する。併し乍らバラモン教の宣伝使服だ。之も何か神様の深い思召があるだらう。之を幸、バラモン教の宣伝使と化け込んで、此テルモン山を向方へ渉つてみようかなア』 と独ごちつつ、手早く服を身に纒うた。フツと足許を見れば、最早犬の影はなくなつてゐた。遙向方の禿山を駆け登る犬の影、猫ほどに見えてゐる。三千彦は浅瀬を渡つて西岸へ着き、ワザとバラモンの宣伝使気取になつて、経文を唱へ乍ら進んで行く。 六十許りの白髪交りの婆々アが二人の侍女を伴ひ、杖をつき乍ら此方に向つて進み来る。三千彦は道の片方に立止まり、『ハテ不思議な婆々アだ。毘舎や首陀とは違つて、どこ共なしに気高い所がある。之は大方小国別の奥方ではあるまいか』と独ごちつつゐる所へ早くも三人は近づき来り、 婆『お前さまはバラモン教の宣伝使と見えるが、私はテルモン山の館を守る小国別の妻小国姫で厶います。何卒むさ苦しい所で厶いますが、一寸立よつて下さいますまいか、そしてお名は何と申しますか』 と矢つぎ早に尋ねられ、三千彦は俄に仮の名を思ひ出す訳には行かず、 三千『ハイ私はお察しの通り、バラモン教の宣伝使で厶います。此度、鬼春別将軍様の陣中に交はり、宣伝使専門の役を勤めて参りました所、お聞及びも厶いませうが、鬼春別様は敵の為に手いたく敗北遊ばし、やむを得ず私は只一人で此処まで参つたので厶います。テルモン山の御旧蹟を拝したいと存じ、ヤツとのことで夜を日についで、霊地へ足を踏み入れたとこで厶います』 と長い口上を云つて、其間に自分の名を考へ出さうとしてゐる。もしもバラモン教の宣伝使や錚々たる人物の名に匹敵した事を喋つては直に看破さるる虞があると気遣ひ、どう云つたら無難であらうかと考へた末、今渡つて来た川の名を思ひ出し、俄に元気よく、 『私は宣伝使と云つても、ホンのホヤホヤで厶いますから、名のあるやうな者では厶いませぬ、アン・ブラツクと申すヘボ宣伝使で厶いますが、何卒一度お館に参拝をさして頂きたいもので厶います』 姫『あ、左様で厶いますか、貴方のお名はアン・ブラツク様でしたか、何と目出たいお名で厶いますなア、此アン・ブラツク川は昔から濁つた事のない清川で厶いますが、其名を負はせ玉ふ宣伝使に出会うとは、何といふ結構な事でせう。之でテルモン山の館も、万世不動の基礎が固まるでせう。実の所は夢のお告に「アン・ブラツク川の岸辺に行け、さうすればお前を助ける真人が現はれる」との事で厶いましたので、信頼ない夢を力として参りましたが、矢張り神様のお告げと見えて、尊い名の宣伝使に会ふ事が出来ました。ああ有難い有難い』 と嬉し涙をたらし乍ら合掌する。三千彦は真面目な顔して、 三千『ハイ承知致しました。然らばお世話に与りませう』 姫『早速の御承知、満足に存じます。……コレ、ケーや、セミスや、宣伝使のお荷物を持たして頂きなさい』 ケー『ハイ何でも持たして頂きますが、別に何もお持になつてはゐないぢや厶いませぬか』 姫『それでもお背に沢山の荷物を負うてゐらつしやるぢやないか』 ケー『奥様、あれは荷物ぢや厶いませぬ、宣伝使様が猫を負うてゐらつしやるのですよ。なア、セミスさま、さうぢや厶いませぬか』 三千彦は何時の間にやら背中にブクブクとした瘤が出来てゐたが、背中の事とて少しも気がつかなかつた。 三千『アハハハハ、猫に見えますかな、どうで犬に……』 と云ひかけて俄に口をつぐみ、 三千『犬か猫のやうな霊ですから、仕方がありませぬ。まアさう仰有らずに可愛がつて下さいませ』 小国姫は『サア参りませう』と先に立つて行く。三千彦は半安半危の面持にて門内深く進み入り、小国姫と共に直ちに神殿に至つてバラモン教の経文を称へた。三千彦は只聞き覚へに経文のそしり走りを知つてゐる許りで、余り大きな声を出し、間違つた事を言つては、忽ち看破さるる事を恐れ、ワザと小声になり、教服に添へてあつた数珠を爪繰り乍ら、一生懸命に念じてゐる。何時の間にやら三千彦の猫背は元の通りに痕跡もなく直つてゐた。これはスマートの霊が三千彦を無事に館内に送り且つ其身辺を守らむが為であつた。スマートは館の床下に隠れて守つてゐる。 (大正一二・三・一七旧二・一於竜宮館松村真澄録)
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霊界物語 58_酉_イヅミの国1(猩々島) 16 聖歌 第一六章聖歌〔一四九一〕 初稚丸に帆をあげて潮のまにまに辷り行く 玉国別の一行は前途に当る島陰を 眺めて何か心中に朧げ乍ら望みをば 抱きていそいそ湖風に吹かれて進む波の上 月は漸く中天に昇らせ玉ひ清涼の 空気はおひおひ身に迫る何とも云へぬ心持 思はず知らず苫の屋根立出で来り舷頭に 遠くに霞む島陰を打仰ぎつつ独言 玉国別『際限もなき湖原の彼方に見ゆる浮島は 如何なる人の住みけるか但しは人無き孤島か 猩々島の片割れか波に呑まれて船を割り バーチルさまの二の舞を演じて漸う漂着し 猩々の姫を妻に持ち浮世離れし別世界 其日を暮す人あらば又もや悲しき生き別れ 救ふも辛し救はねば神に対して相済まず 何は兎もあれ波の間に進みて実地を探り見む ああ惟神々々御霊幸ひましまして 神の賜ひし此御船波路も安く渡らせよ 国治立の大御神豊国主の大御神 斎苑の館に在れませる瑞の御霊の御前に 三五教の宣伝使玉国別を初めとし 神の稜威も三千彦やその外百の神司 遠き海路を恙なく進ませ玉へと願ぎ奉る 初稚姫の神司此荒波を乗り切りて 猛犬スマートに跨りて波のまにまに出で玉ふ その扮装の勇ましさもしも彼方の島陰に 休らひ玉ふ事あれば実に嬉しき限りなり 初稚姫の逸早く船を見棄てて犬に乗り 出で行き玉ひし心根は何かは知らねど重大の 使命の在すと覚えたり吾等一同の行先に 又もや曲の現はれて如何なる仇をなさむやも 図られ知らぬキヨの湖只何事も惟神 大御心に任せつつ天津祝詞を奏上し 天の数歌歌ひ上げ一同声を相揃へ 神の御名を称ふべしああ惟神々々 御霊幸ひましませよ』 と歌ひ了り、一同と共に型の如く恭しく祝詞を奏上し、数歌を歌ひ終つて宣伝歌を節面白く称へ初めた。 玉国別『地水火風空の大本を造り玉ひし神御祖 大国常立大御神宇宙の外に在しまして 天地日月星辰を完全に委曲に造り終へ 青人草や鳥獣虫族初め草や木の 片葉の露に至るまで厳の恵みを垂れ玉ひ 此美はしき世の中を守らせ玉ふ有難さ 先づ第一に日の御神高皇産霊の大御神 月の御神と現れませる神皇産霊の大御神 水火の業を受持ちて天地万有按配し 各その所を得せしめて無限の歓喜を与へつつ 弥勒の聖代を細に築かせ玉ふ尊さよ 先づ第一に人を生み天足の彦や胞場姫を 青人草の祖先としエデンの園に下しまし 神の形に造られし人の子数多生み終はせ 此世の中を開かむとかからせ玉ふ時もあれ 天足の彦や胞場姫が皇大神の御心に 反き奉りし邪心より天地に妖邪の空気充ち 八岐大蛇や醜狐曲鬼などの生れ来て 益々此世を乱し行く高皇産霊の大神の 厳の御霊と在れませる国治立の大神は 天津御神の御言もて遥々天より降りまし 此地の上の万有をいと安らけく平けく 治めむものと千万の掟を定め神々を 生みなし玉ひて三界を救はむ為めに種々に 心を悩ませ玉ひけり神皇産霊の大神の 瑞の御霊と在れませる豊国姫の大神は 厳の御霊の神業を助け玉ひて遠近の 山野海河悉く心を配り守りまし 八岐大蛇の憑りたる常世の彦や常世姫 金毛九尾曲鬼の醜の魅魂に霊魂を 攪乱されて大神の大神業を妨害し 遂には枉の集まりて天津御国に在しませる 元津御祖の大神に厳と瑞との二柱 神の掟を悪しざまに申上げたる枉業に 皇大神は止むを得ず熱き涙を湛へまし 弥勒の聖代の来る迄国治立の大神を 地上の世界の艮に長く浮べる自転倒の 根別けの島に押込めて時節を待たせ玉ひつつ 豊国姫の大神はメソポタミヤの瑞穂国 境を限りて今暫し弥勒の聖代の来るまで 時節を待てと厳かに宣らせ玉ひし悲しさに 厳と瑞との大神は涙を呑んで潔く 各自々々の隠遁所にその身を忍ばせ玉ひしが 一度に開く蓮葉の開いて薫御代となり 神素盞嗚の大神は千座の置戸を負ひ乍ら 斎苑の館やコーカスの山に姿を隠しまし 島の八十島八十の国隈なく教を垂れ玉ひ 世人を教へ曲神を言向和し天地を 清めて元の神国に立直さむと宣伝使 数多養ひ育てつつ彼方此方に派遣して 曇りきつたる世の中を照らさせ玉ふぞ有難き 神の使の数多く在します中にいと勝れ 神徳強き神柱初稚姫は只一人 魔神の猛ぶ荒野原山川海を乗り越えて 猛犬スマートと諸共に神変不思議の神力を 現はし玉ふ畏さよ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 誠の力は世を救ふ誠の道の御教を 教へられたる吾々は皇大神の御為に あらゆる艱難を凌ぎつつ道の御為世の為に 尽さにやならぬ宣伝使ああ有難し有難し 斎苑の館を出でしより種々雑多と大神の 恵みの試しに遭ひ乍らその度毎に神力を いと爽かに与へられ所々に功勲を 現はしまつり今此処に清めの湖に浮びつつ 仁慈無限の大神の教の御船に棹さして 進み行くこそ楽しけれ真純の彦よ三千彦よ デビスの姫よ伊太彦よいざ之よりは腹帯を 下津岩根に締め直し上津岩根に締め固め バラモン教やウラル教神の館に蟠まる 醜の曲津に打向ひ善言美詞の言霊や 堪へ忍びの剣もて吾身を厭はず進むべし 神は吾等と倶にあり人は神の子神の宮 如何なる敵の攻め来とも恐るる事のあるべきぞ ハルナの都に蟠まる八岐大蛇や醜神を 神の賜ひし言霊に言向和し斎苑館 皇大神の御前に勝鬨あげて帰る迄 心を弛さぬ此旅路守らせ玉へ惟神 皇大神の御前に玉国別が一行を ここに代表仕り畏み畏み願ぎ奉る ああ惟神々々御霊幸ひましませよ』 船頭のイールは、櫓を操り乍ら又もや歌ひ出した。 イール『(喇叭節)風はそよそよ吹き渡る 清めの湖には百鳥が 彼方此方と翻る 天国浄土も目のあたり。 向ふに見えるは猩々の島か 猩々島ならもう行かぬ 波に浮べるあの島陰は 吾をまつ風フクの島。 (琉球節)フクの島には真水が厶る 真水許りか洞がある。 洞の中には大蛇が棲むと 云ふて恐れる一つ島。 いやが応でも此潮流は フクの島へと船流す。 もしも大蛇が出て来たなれば 厳の言霊頼みます。 厳の言霊打ち出すなれば 鬼も大蛇も丸跣足。 私はイヅミのスマ里生れ 若い時から船の上』 と唄ひ乍ら一生懸命に櫓を操つて居る。 (大正一二・三・二九旧二・一三於皆生温泉浜屋北村隆光録)
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霊界物語 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 04 木遣 第四章木遣〔一五二九〕 霊山会場のスメール山天を封じて鬱蒼と 立ち並びたる老木を大峡小峡に求めつつ 宮の柱を造らむと玉国別の宣伝使 数多の信徒伴ひて昼夜を分たず伐採に いそしみ励むぞ勇ましき。 アンチーは采配を振つて木遣歌を唄ひ、彼方此方の谷間より、作事場に向つて運搬を始めかけたり。 『天は清浄地清浄人の心も清浄に 猩々の宮を造らむとスマの村人打揃ひ 御酒に心を浮かませつ汗を絞りて木を運ぶ ヨーイヨーイヨーイトセ此処は名に負ふキヨの湖 南に連なるアヅモスの神の集ひの霊場と 数千年の昔より世に響きたるスメールの 清浄無垢の鎮守なり旭は空に煌々と 輝き亘り西に入る旭の直射す神の森 夕日の日照らす珍の山此頂に一本の 世界に稀な樟の木は囲は三百三十丈 幹の高さは五百丈梢は四方に拡がりて 三百三十三体の眷族様の御住所 ヨーイトセーヨーイトセー鷹も梟も荒鷲も 其外百の鳥翼常磐堅磐に棲み乍ら 互に睦び親しみて他をば犯さず太平の 目出度き証を昔より示し来たりし長閑けさよ ヨーイトセーヨーイトセーバラモン天を斎りたる 猩々の宮も永年の雨と風とに曝されて 棟は雨もり梁は歪みて柱は虫がくひ 見るも無残な有様と時の力か知らね共 荒廃したるぞ歎てけれバーチルさまが改めて 神の教を遵奉し此聖場に目出度くも 三五教の珍の宮バラモン教の宮殿を 新に建造ましまして三千世界の鎮台と まつらせ玉ふぞ有難きヨーイトセーヨーイトセー 旭は照る共曇る共月は盈つとも虧くる共 仮令大地は沈むともアヅモス山の霊場は 常磐堅磐に変らまじ遠き神代の昔より 天足の彦や胞場姫が霊の御末裔と現れませる タクシャカ竜王の出生地見るも厳し九頭竜の 其猛勢は見る人の眼を潰し毒を吐き 人の命を取り喰ふ其悪業を懲めむと 高天原に現れませる月照彦のエンゼルが 厳の言霊打出し此霊場の岩が根に 封じおきしと伝へたる世界に名高き地点なり 十万年の其間心を鍛へ魂を錬り 清浄無垢の霊身に立直りたる暁は 又もエンゼル現はれてタクシャカ竜王を救ひ出し 五風十雨の調節を守らせ玉ふ御誓ひ 此竜王の永久に地底に潜み在す限り 荒風すさび大雨は十日二十日と降しきり 地上に住める人畜や草木の片葉に至る迄 此苦みは癒えざらむヨーイトセーヨーイトセ 三五教の宣伝使月照彦の流れをば 汲ませ玉へる玉国別の地上のエンゼル今此処に 現はれませしを幸に天地を浄め澄ますてふ 天津祝詞や神言を宇宙の神霊に奏上し 千代に八千代に封じたるこれの竜王を速に 救はせ玉へば国人はいかに喜ぶ事ならむ 五穀は稔り草や木の花の色香も麗しく 実りも殊に豊やかに地上の生物一切は 鼓腹撃壌神国の真善美愛の祥徴を 堅磐常磐に楽しまむあゝ惟神々々 御霊の恩頼を願ぎ奉るヨーイトセーヨーイトセ 三千世界の梅の花一度に開く蓮華花 スメール山と聞えたる自転倒島の高原地 天教山に現れませる木花姫の御守護 いよいよ茲に現はれて暗に包みしスマの里 芽出度く日出の御代となり神の光を朝夕に 歓ぎ楽しむ世とならむ勇めよ勇め里人よ ヨーイトセーヨーイトセ幾千年も荒金の 土に埋もれ石となる此楠の良材は 神の御代をば永久に不変不動と献る 厳の恵の祥徴か此楠の重量の 外に秀れて雄々しきは万古不動の神の代の これ又珍の祥徴ぞ思へば思へば有難や 村人勇みて曳いてくれヨーイトセーヨーイトセ 此大木を引出す御用に仕ふる人びとは 神の恵の深くして身体一所怪我もせず 又草臥れぬ不思議さよ神の守りは目のあたり 喜び勇みて曳いてくれヨーイトセーヨーイトセ 此宮柱いや太く雲をつき出て立つならば 千木勝男木はキラキラと黄金の光輝きて 月の御国やフサの国カラもヤマトも一時に 月日の如くに輝かむあゝ勇ましや勇ましや 爺々も婆々も孫伴れて夜を日についで日の寄進 夜も休まぬ夜の寄進人の心に昼夜の 区別も知らぬ天界の花咲く春の如くなり ヨーイトセーヨーイトセ』 伊太彦『天津御空に摩訶不思議微妙の音楽聞え来る 高天原の霊国と楽み深き天国の エンゼル天人現はれて高天原を地の上に 築き仕ふる此神業助けむ為に羽衣の 袖をば微風に翻し寿ぎ祝ひ玉ふなり 地上に住める人々は善言美詞の言霊に 救はれ曲の影もなく心も一つ身も一つ 只何事も皇神の心のままに勤勉みて 世界に輝く神の宮其御普請に仕へゆく 浄行毘舎や首陀其他賤しき十二の姓族も 種々差別を撤廃し水平線上に相立つて 三五教やバラモンの神の御為世の為に 赤心尽す目出度さよかかる例は昔より 夢にも聞かぬ太平のなみなみならぬ慶事なり 青人草は云ふも更此霊場に永久に 住みなれたりし猩々姫其外百の御子達も 天国浄土の春に会ひ目出度く元の棲処へと 無事に帰りし喜びは天地開けし初めより 例も知らぬ次第なり産土山を立出でて 清き心の玉国別の珍の司に従ひて 漸く此処に月の国音に名高きアヅモスの 聖地に来り未曾有の大神業に奉仕する 吾魂の歓びは旱の稲田に夕立の 降注ぎたる如くなりヨーイヨーイヨーイトセ 力を揃へ声合せヨイヨイヨイと曳いとくれ 古今未曾有の神業に誠心を現はして 仕へまつれる人々は神の恵の幸ひて 身も壮健に其家は月を重ねてよく栄え 御子孫曾孫つぎつぎに父祖の神業を喜びて いや永久に神徳を尊みまつり末の世の 語り草にとなすならむ勇めよ勇め皆勇め 天地に代る功績を皆平等に立比べ アヅモス山の聖場を真善美愛の根本と 造らせ玉へ惟神神に誓ひて伊太彦が 此スマ人の諸々に代りて願ひ奉る ヨーイトセーヨーイトセ』 大小無数の樟、桧、欅、松、杉、楢等の良材は一ケ月ならずして作事場に無事持運ばれた。而して只一人のカスリ傷を負うた者も現はれなかつたのは全く神の深き御守りと一同感謝の念に駆られ、猫も杓子も脛腰の立つ者は、寝食を忘れ、熱狂して、宮普請にのみ心力を傾注した。諸人の丹精によつて、荘厳なる宮殿は東西に並んで南向に千木高く建ち上つた。あゝ惟神霊幸はへませ。 (大正一二・四・七旧二・二二於皆生温泉浜屋松村真澄録)
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霊界物語 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 09 夜光玉 第九章夜光玉〔一五三四〕 エルは怪物に肝玉を取られ、色青冷め、臆病風に誘はれて、そろそろ慄ひ出した。 ワックス『オイ、エルの奴、些と確りせぬかい、睾丸を提げた一人前の男が、蜘蛛の化物位に驚いて、どうして此探険が出来ようか。今迄俺達が所在悪業を尽した罪を償ふ為に今度は抜群の手柄を現はさにやならぬぢやないか、本当に腰抜ぢやなア』 エル『さう叱るものぢやないワ、今迄の俺ならもつと勇気を出すのぢやけれど、ブラ下げる睾丸が無くなつて居るのぢやから、サウ註文通りにゆかないワ。そこは一つ同情して呉れないと困るぢやないか』 ワックス『何だ、その間抜た面は、僅の顔面に、免役地や、未開墾地や、荒蕪地が沢山現はれとると思へば矢張り間に合はぬ代物だつたワイ。モシ伊太彦さま此んな奴、これから奥へ連れて行かうものなら、吾々の迷惑ですから、此処から一層帰してやつたらどうでせうか』 伊太彦『それも好からう。サアエル是から免役だ。トツトと帰つたら好からうぞ』 エル『ハイ有難う。そんなら何卒、入口迄送つて下さいますか』 伊太彦『そいつは些と困つたなア』 ワックス『オイエル確りせぬかい、人は心の持ちやう一つだ。サア一人帰つたがよからう。此金剛杖一本あれば大丈夫だから』 エル『そンなら仕方がない、三人の中間になつて跟いて行く事にしよう』 ワックス『ハヽア、たうと屁古垂れやがつたな。そンなら、伊太彦さま、悪にも強けりや善にも強い此ワックスが先頭に立ちませう、こいつは面白い』 と、四股踏み乍ら、燐光に光る岩窟の隧道を、一歩々々探るやうにして進み入る。向の方から二三個の光つた玉が地上三尺許りの所を浮いたやうに此方に向つて進んで来る。よくよく見ればその青白い玉の中には、嫌らしい顔がハツキリと現はれて居る。エルは腰を屈め、ワックスの背に顔を当て乍ら、足もワナワナ跟いて行く。青白い火団は強大なる音響と共に三個一度にワックスの一二間前の所で爆発した。エルはキヤツと叫んでワックスの肩を掴んだ儘倒れた。止を得ずワックスも其場にドンと倒れて仕舞つた。 伊太彦『オイ、ワックスさま、エルさま、起きた起きた、敵は粉砕の厄に遭つて消え失せて仕舞つた。もう大丈夫だ。神様の御威光に怖れ脆くも滅亡したと見える、アハヽヽヽ』 ワックス『これしきの事に驚くワックスぢやありませぬが、エルの奴人の首筋を掴ンだまま倒れやがつたものだから、可惜勇士も共倒れの厄に遭ひました。オイ、エル確りしやがらぬか』 エル『イヤもう確りする。哥兄お前確りして居て呉れよ。お前と伊太彦さまとさへ強ければ大丈夫だからなア』 ワックス『何と云うても数千年来密閉されてあつた魔の岩窟だから、種々の奇怪千万な珍事が勃発するのは覚悟の前だ。サア行かう、タクシャカ竜王に対し吾々は赦免のお使だから、さう無暗に悪魔が俺達を困める筈がない。エルが怪物に手を噛まれたのも矢張りエルが悪いのだ、弄はぬ蜂は螫さぬからなア。サア一つ機嫌を直して宣伝歌でも歌つて元気をつけようぢやないか。俺が歌ふから後から共節について来い。何だか何処ともなしに気分の好い、事はない魔の岩窟だ。 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 岩窟の蜘蛛は化けるとも何か怖れむ三五の 神の使と現はれし伊太彦司を始めとし ワックス、エルの三柱だ三千世界の其間 アヅモス山の底津根に封じ込まれた竜王の 罪をば赦し救ひ上げ尊き神の御使と なさむがために来りけり仮令如何なる怪物が 雲霞の如く潜むとも神の力を身に浴びて 進む吾身は金剛不壊如意の宝珠の玉なるぞ 水に溺れず火に焼けず錆ず腐らず曇らずに 幾万年の後迄も天地の宝と光りゆく 来れよ来れ曲津神蜘蛛も蛙も虫族も 神力無双の吾々に手向ふ事は出来よまい 今現はれた三つの玉怪しき面を晒しつつ 吾等が前に進み来て木つ端微塵に粉砕し 煙と消えし哀れさよ吾神力は此通り 岩窟に潜む曲神よ吾言霊を聞きしめて 決して無礼をするでない洒落た事をば致すなら 決して許しはせぬ程にワックスさまの身魂には 鬼も大蛇も狼もライオン迄も棲んで居る さうかと思へば天地を完全に委曲に固めなし 造りたまひし大御祖尊き神が神集ひ 無限の神力輝かし控へて厶るぞ気をつけよ あゝ惟神々々息が塞がりそになつた 伊太彦司よ今此処で一寸休息仕り 天津祝詞や神言を奏上なして岩窟の 妖気を払ひ参りませうあゝ惟神々々 叶はぬ時の神頼み誠に済まぬと知り乍ら 斯うなりやもはや仕様がない此処で一服仕る』 伊太彦一行は又もや隧道をドンドンドンと下り行く。其処には雷の如き音が聞えて居る。ハテ不思議と、一町許り又平坦な隧道を下つて行くと、相当に広い河があつて岩から出て岩に吸収さるる如く氷の如き冷たい水が流れて居る。三人は流れを渡つて向うへ着いた。此処には大小無数の色々の形をした岩が、キラキラ光つて立つて居る。さうして何処ともなしに岩の隙間から明がさして居るのは一つの不思議である。ハテ不思議と三人は四辺を見廻せば、鐘乳石の一丈も有らうといふ立柱の上に、夜光の玉が輝いて居るのが目についた。伊太彦は此処にて天津祝詞を奏上し、神慮を伺つて見た。神示に依れば此玉は夜光の玉であつて、タクシャカ竜王が宝物である。されど此玉を彼に持たせ置く時は、再び天地の間に跋扈跳梁して風水火の天災を誘起するをもつて月照彦の神がこれを取り上げ、此処に安置しおき、岩窟の底深く竜王を封じ置かれたとの事であつた。さうして此玉は伊太彦が自ら持ち帰り玉国別に渡せとの神示である。伊太彦は大に喜び、種々と工夫を凝らして其玉を手に入れ恭しく懐に納め、又もや天の数歌を歌ひながら、地底の岩窟をさして際限もなく進み行く。懐に蔵せし玉の光によつて地底の岩窟も明くなり、崎嶇たる、或は細く、或は狭き岩穴を潜つて最低の岩窟についた。此処には岩蓋が施して、タクシャカ竜王、即ち九頭竜が堅く封じ込めてあつた。 伊太彦は佇立して神示を宣り伝へたり。 『神代の昔高天にて天地の主と現れませる 大国常立大神は宇宙万有造りなし 神の形の生宮を最後に造りなさむとて 天足の彦や胞場姫の珍の御子をば生みたまふ かかる所へ天界の海王星より現はれし 汝タクシャカ竜王は神の御国を汚さむと 胞場の身魂に憑依して神の教に背かしめ 蒼生草を悉く罪の奴隷と汚したる 悪逆無道を矯めむとて皇大神の勅もて 月照彦の大神は汝を此処に封じまし 世の禍を除かれぬさはさりながらタクシャカの 霊の邪気が世に残り八岐大蛇や醜狐 曲鬼数多現はれて神の造りし御国をば 汚し曇らす果敢なさよ此世の曲を清めむと 厳の御霊の大御神瑞の御霊の大神は 千座の置戸を負ひたまひ汝が犯せし罪科を 宥して地上に救ひ上げ尊き神の御使と なさせたまはむ思召汝タクシャカ竜王よ 吾が宣り伝ふ言の葉を心の底より悔悟して 喜び仰ぎ聞くならば今こそ汝を救ふべし 善悪邪正の分れ際完全に委曲に復命 申させたまへ惟神神の御言を蒙りて 茲に誠を述べ伝ふ一二三四五つ六つ 七八九つ十百千万の神はアヅモスの 此聖場に集まりて三千世界を水晶の 世に立直し天地の一切衆生を救ひます 畏き御世となりけるぞあゝ惟神々々 此処に伊太彦現はれて汝が清き返答まつ』 と宣り終れば、タクシャカ竜王は、見るも怖ろしき九頭一体の巨躯を現はし、各二枚の舌を吐き出し乍ら、口許から、青、赤、紫、白、黄、橄欖色などの煙を盛んに吐き出し、忽ち白髪赤面の老人となり、赤色の衣を全身に纒ひ、岩窟の戸をパツと開いて伊太彦の前に進み恭しく目礼しながら、歌をもつてこれに答へた。 タクシャカ『三千年の古より月照彦の大神に 押し込められし吾こそはタクシャカ竜王魔の頭 暴風起こし火を放ち豪雨を降らして天地を 自由自在に乱したる吾は悪魔の霊ぞや 罪障深き吾こそは八千万劫の末迄も 常暗なせる岩窟に捨てられ苦しむものなりと 覚悟を極め居たりしが茲に一陽来復し 仁慈の神の御恵に再び吾を世に出し 救はむ為の御使謹み感謝し奉る いざ此上は一日も早く地上に救はれて 天地の陽気を調節し蒼生草や鳥獣 草木の末に至る迄神のまにまに守るべし 救はせたまへ神司今迄犯せし罪を悔い 茲に至誠を吐露して改心誓ひ奉る あゝ惟神々々御霊の恩頼を給へかし』 と言葉も爽かに答へた。伊太彦は、 伊太彦『タクシャカの神は心を改めて 服ふと云ひし言の葉尊き。 いざさらば早く此場を出でまして 登らせたまへ地の表に』 タクシャカ『有難し花咲く春に廻り会ひ 君に遇ひたる今日の嬉しさ。 今迄の悪しき行改めて 誠一つに神に仕へむ』 伊太彦『此頃の知辺なしとも地の上に 因縁ありせば安くかへらせ』 斯く互に歌を交換し、タクシャカ竜王を従へ、ワックス、エルの両人に先頭をさせ乍ら、隧道を、或は登り、或は下り、左右に屈曲し乍ら漸くにして、元の入口に登りついた。 (大正一二・四・七旧二・二二於皆生温泉浜屋加藤明子録)
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霊界物語 63_寅_伊太彦の物語 01 玉の露 第一章玉の露〔一六〇八〕 天地万有悉く霊力体の三元を 与へて創造なし給ひ各其所を得せしめし 国の御祖の大御神国常立の大神は 大国治立大神の貴の御言を畏みて 大海原の中心地黄金山下にあれまして 天地百の生物をいと安らけく平けく 守らせ給ひ厳かに珍の掟を定めまし 神と人との踏みて行く道を立てさせ給ひしが 日は行き月たち星移り世はくれ竹のおひおひに 天足の彦や胞場姫の醜の身霊ゆなり出でし 八岐大蛇や醜神のいやなき業に畏くも 珍の聖地を後にして神の仕組と云ひ乍ら 大海中に浮びたる自転倒島にかくれまし 国武彦と名を変へて此世を忍び曙の 日の出の御代を待ち給ひ女神とあれし瑞御霊 豊国姫の大神は夫神の命のなやみをば 居ながら見るに忍びずと豊葦原の中津国 メソポタミヤの山奥に永く御身を忍びまし 五六七の御代を待ち給ふ大国常立大神は 厳の御霊と現はれて四方久方の天盛留向津媛 御稜威も殊に大日婁女貴女神となりて諾冊の 二神の間に生れまし豊国姫の大神は 神素盞嗚の大神と現はれ給ひ天地を おのもおのもに持ち分けて守らせ給ふ折もあれ 魔神の猛り強くして岩の根木根立百草の 片葉も言向ひ騒ぎ立て豊葦原の瑞穂国 再び常世の暗となり神素盞嗚の大神は この惨状を如何にして鎮めむものと村肝の 御心千々に砕かせつ朝な夕なに憂ひまし 山河草木枯れ果てて修羅の巷となりにけり 父とあれます伊邪那岐の皇大神は大空ゆ 下らせ給ひて素盞嗚の珍の御子に打向ひ 憂ひ歎かすその理由を尋ね給へば瑞御霊 完全に詳細に世の状を語らせ給ひ我は今 母のまします月の国罷らむものと思ひ立ち この世の名残に泣くなりと答へ給へば父の神 いたく怒らせ給ひつつ胸に涙を湛へまし 大海原を知食す権威なければ汝が尊 根底の国に至れよといと厳かに宣り給ふ 千万無量の悲しみを胸に湛へて父神は 日の若宮にかへりまし神素盞嗚の大神は 姉大神とあれませる厳の御霊の大日婁女 天照神の御前に此の世の名残を告げむとて 上らせ給へば山河は一度に動み地は揺り 八十の枉津の叫ぶ声天にまします大神の 御許に高く響きけり天照します大神は 此有様をみそなはし弟神の来ませるは 必ず汚き心もて吾神国を奪はむと 攻め寄せたるに間違ひなし備へせよやと八百万 神を集へて剣太刀弓矢を飾り堅庭に 弓腹振り立て雄猛びし待ち問ひ給へば素盞嗚の 瑞の御霊の大神は言葉静に答へらく 我は汚き心なし父大神の御言以て 母の御国に行かむとすいとも親しき我姉に 只一言の暇乞ひ告げむが為に上りしと 云はせも果てず姉神はいと厳かに宣らすやう 汝の心の清きこと今この場にて証せむ 云ひつつ弟素盞嗚の神の佩かせる御剣を 御手に執らせつ安河を中に隔てて誓約ます この神業に素盞嗚の神の尊は瑞御霊 清明無垢の御精神いと明かになりにけり 神素盞嗚の大神は姉のまかせる美須麻琉の 玉を御手に受取りて天の真名井に振り濺ぎ 奴那止母母由良に取由良し狭嚼みに咬て吹き棄つる 伊吹の狭霧に五御魂現はれませしぞ畏けれ 姉大神の御心は初めて疑ひ晴れぬれど 天津神等国津神容易に心治まらず 高天原は忽ちにいと騒がしくなりければ 姉大神は驚きて天の岩戸の奥深く 御姿かくし給ひけり六合忽ち暗黒と なりて悪神横行し大蛇曲霊のおとなひは 狭蠅の如く充ち沸きぬここに神々寄り集ひ 岩戸の前に音楽を奏でまつりて太祝詞 宣らせ給へば大神は再び此世にあれまして 六合ここに明け渡り栄光の御代となり初めぬ 斯くもかしこき騒ぎをば始めし神の罪科を 神素盞嗚の大神に千座の置戸を負はせつつ 高天原より神退ひ退ひ給ひし歎てさよ 天地一時は明けくいと穏かに治まりし 如く表面は見えつれど豊葦原の国々は 魔神の健び猛くして再び修羅の八巷と なり変りたる惨状を見るに忍びず瑞御霊 国武彦と相共に三五教を開きまし 深山の奥の時鳥八千八声の血を絞り この土の上に安らけき五六七の御代を建設し 八岐大蛇や醜神を生言霊に言向けて 姉の御神に奉り世の災を除かむと コーカス山やウブスナの山の尾の上に神館 見立て給ひて御教を開き給ひし尊さよ 八岐大蛇の分霊かかりて此世を乱し行く ハルナの都の悪神を先づ第一に言向けて 此世の枉を払はむと心も清き宣伝使 数多派遣し給ひしが瑞の御霊の御娘 五十子の姫の夫とます玉国別の音彦に 心の空も真純彦教を伝ふる三千彦や 伊太彦司を添へ玉ひハルナの都に遣はして 神の恵を人草の身魂に照らし給はむと 任け給ひしぞ尊けれ。 ○ 玉国別の宣伝使三人の司と諸共に 河鹿峠を打渡り懐谷の山猿に 苦しみ乍ら神力に守られ祠の神の森 とどまり病を養ひつ珍の宮居を建て終り 祝詞の声も勇ましく御前を立ちて山河を 渡り漸くテルモンの館に入りてデビス姫 親と妹との危難をば救ひて神の御名を挙げ デビスの姫を三千彦の妻と定めてテルモンの 湖水を渡り種々の珍の神業なし遂げて アヅモス山のバーチルが館に立ち寄りアヅモスの 山に隠れしタクシャカの竜王始め妻神の サーガラ竜王救ひつつ夜光の玉や如意宝珠 竜王の手より受取りて真澄の空の夏の道 草鞋に足をすり乍ら伊太彦デビス四柱の 御供と共にエルサレム聖地を指して進み行く 日も黄昏れて道の辺の祠の前に立寄れば 思ひも寄らぬ法螺の貝鬼春別の治道居士 比丘の司に廻り会ひここに一行六人は スダルマ山の山麓を右に眺めて辿りつつ 声も涼しき宣伝歌四辺の山河轟かし 空気を清めて進み行く。 (大正一二・五・一八旧四・三於竜宮館北村隆光録)
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霊界物語 65_辰_虎熊山と仙聖郷の物語/七福神 19 谿の途 第一九章谿の途〔一六七五〕 神の教の三千彦は行き疲れたる折柄に 白骨堂の大前に見知らぬ女に廻り遇ひ 悲しき女の境遇に同情し乍らスタスタと センセイ山の谷間を冷たき風に吹かれつつ 右に左に飛び越えて漸く広き田圃道 チヤムバカ(黄色花)バータラ(重生花)バールシカ(夏生花) ナワマリカー(雑蔓花)やスマナー(悦意花)の 所狭きまで匂ひたる野道をスタスタ進み往く。 三千彦『何と此辺は珍らしい花が咲き、馨しい香を放つて居るぢやありませぬか。まるで第一天国の原野を旅行して居るやうで厶いますなア』 スマナー『ハイ、此処は仙聖山の麓の仙聖郷と申まして、此世の楽土と称へられた秘密郷で厶いますが、今は薩張人間の心が悪化して了ひ、油断も隙もならない修羅道となつて仕舞ひました。此の道にいろいろの香ばしき花は艶を競ふて咲いて居りますが、村人の心の花はいつの間にか薊の花となり、刺だらけでうつかり手出しも出来ないので厶います。村の名は仙聖郷でも、人の心は修羅道ですから、其積りで居て下さい。油断も隙もならない所で厶いますからなア』 三千『物質万能主義の空気が、斯様な仙郷迄襲ふて来たと見えますな。世の中も是では終りで厶いますわい。大神様のお言葉には「神のつくつた結構な神国が指一本入れる所も、片足踏み込む所もない」と大国治立の神様のお歎きですが、いかにもすみずみ迄もよく汚れたもので厶いますなア』 スマナー『あまり村人の同情心が無いので、妾もこの仙郷が嫌になつたので、お恥かし乍ら夫の後を追ふて、冥途往きをせうと思ふたので厶います。私の従弟に、テーラと云ふ、それはそれは意地の悪い男が厶いまして、両親、夫の無くなつたのを幸ひ、朝から晩迄吾家に平太り込み、酒をつげ、肩をうて、足をもめ、○○○を○○○と無体の事を申ますので、夫れが嫌さに家を飛び出し、死を決したので厶います。何れ吾家へ帰ればテーラが主人顔をして頑張つて居りませうから、其お積りで来て下さいませや』 三千『ハイ承知致しました。これから宣伝使の武器と頼む、言霊の宣伝歌を謡ひ乍ら参りませう』 スマナー『どうかお願ひ申ます。歌と云ふものは何となく心の勇むもので厶いますからなア』 三千彦は声を張り上げて謡ひ出した。 三千彦『天地万有悉く霊力体の三元を もつて創造なし給ひ蒼生や山川の 御霊を守りたまはむと千々に心を砕きまし 海月の如く漂へる陸地を造り固めつつ 神人和楽の天国を地上に建設なしたまひ 教を開きたまふ折天足彦や胞場姫の 醜の身魂になり出し八岐大蛇や醜神の 曲の猛びに世の中は日に夜に月に曇り果て 常世の暗となりにけり荒ぶる神の訪なひは 五月蠅の如くわきみちて山の尾上や河の瀬に うらみ歎きの声許り醜神達は時を得て いとも尊き皇神を世の艮に逐ひ下し 吾物顔に世の中を乱し行くこそ憎らしし 音に名高き仙郷も醜の曲霊の醜魂に かき紊されて修羅道の現出したるか浅ましや 斎苑の館を立ち出でて曲の征討にたち向ふ 三千彦司此処にありいかなる曲の猛びをも 生言霊の神力に言向け和し仙郷の 御空を包む雲霧を伊吹払ひに払ひのけ 神代乍らの仙郷にねぢ直さむは案の中 確に胸にしるしあり喜びたまへスマナー姫 三千彦現はれ来る上は仮令テーラの三五人 万人一度に攻め来とも如何で恐れむ敷島の 神国魂打ち出して郷の空気を一洗し 小鳥は謡ひ花匂ふ昔の儘にかへすべし あゝ惟神々々神は吾等と共にあり 人は神の子神の宮大御心に叶ひなば 地獄畜生修羅道も天国浄土の心地にて やすやす浮世を渡り得む喜びたまへスマナー姫』 と謡ひ乍ら、稍広き原野を、家の棟の見ゆる所迄進んで来た。スマナーは後振り返り、 スマナー『もし宣伝使様、あの山の麓にバラバラと家棟が見えるで厶いませう。そして一番高い所の山のほでらに可なり大きな家が見えるで厶いませう。あれが妾の住家で厶います』 三千『成程黄昏の事とてハツキリは分りませぬが、余程大家と見えますな』 スマナー『イエイエお恥かしい、破屋で厶います。サアもう一息で厶いますが、貴方も随分お疲れのやうで厶いますから、此処で一休みして帰る事に致しませうか。何れ心の悪いテーラが頑張つて居りませうから、日が暮れてからの方が様子を考へるに都合がよいかも知れませぬからなア』 三千『成程なア、夫がいいでせう。都合によつては一つ面白い芝居が出来るかも知れませぬからなア』 茲に二人は半時許り雑談に耽り、黄昏の暗を幸ひ、村中で一番高い屋敷に建つた、スマナーの館をさし帰り往く。 (大正一二・七・一七旧六・四於祥雲閣加藤明子録)
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霊界物語 65_辰_虎熊山と仙聖郷の物語/七福神 21 仙聖郷 第二一章仙聖郷〔一六七七〕 スマナー『花は紅葉は緑錦の山の尾めぐらせる 中国一のパラダイス仙聖郷は永久に 天国浄土の楽みを味はひゐたる郷なれど 天足彦や胞場姫の醜の魔神の血筋らが いつとはなしに窺ひて人の心は日に月に 荒び行くこそうたてけれ虎熊山の山砦に 巣を構へたる盗人の手下の奴等が襲来し 吾たらちねの父母をいとも無残に斬殺し あが背の君や兄弟の命を奪ひ有金を 掠めて帰りし悲しさに妾は跡に只独り 親と夫と兄弟の菩提を弔ひゐたりしに 人の悪事を剔抉し誣告を以て業とする テーラの曲が現はれて朝な夕なに口説き立て 耳の汚るる世迷言聞くに堪へかねスマナーは 此世の中が厭になり亡き父母や吾夫の 後を慕ひて天国に上らむものと胸定め 遺書を認め吾家を二日以前に立出でて 白骨堂に勤経しいよいよ茲に昇天の 覚悟を定むる折もあれ三五教の宣伝使 神力無双の三千彦が現はれましてスマナーが 迷ふ心の無分別うまらに委曲に諭しまし 神の教を宣らせしゆ俄に胸も晴れ渡り 真如の日月輝きて今は全き神の子と 生れ変りし嬉しさよ三千彦司に従ひて 吾家に来り眺むればいとど騒がし人の声 様子あらむと裏口ゆ一間に入りて窺へば 悪逆無道のテーラさま妾が家の財産を 占領せむと狂ひ立ちターク、インター其外の 青年隊の人々と争ひゐるこそ歎てけれ 最早妾は健在に命を保ちて帰りなば テーラさまの御心配必ず無用に遊ばせよ 捕手の役人キングレス其他百の人達に はるばる来り玉ひたる好意を感謝し奉る 神が表に現はれて善と悪とを立分ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直し聞直し 世の過ちは宣り直す神の教を聞きしより 妾はテーラの計画を決して決して憎まない 早く此場を立帰り身の潔白を示されよ 青年会長其外の清き身魂の人達は 少時後に残りませ妾が為に御心を 配らせ玉ひし慰安の御酒御饌仕へ奉り 妾が寸志を現はさむ暫く待たせ玉へかし 三千彦司と諸共に帰り来れる上からは いかに捕手の数多く吾家に迫り来る共 テーラが如何に騒ぐ共物の数にはあらざらめ あゝ有難し有難し天地に誠の神まして 吾家を守り吾身をば厚く恵ませ玉ひけり あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ 旭は照る共曇る共月は盈つ共虧くる共 仮令大地は沈む共誠一つは世を救ふ 誠の道に外れたるテーラの如き行ひは いかでか神の許すべき省み玉へテーラさま スマナー姫が赤心をこめて忠告仕る あゝ惟神々々御霊のふゆを賜へかし』 と歌ひ乍ら、三千彦の後に従ひ、しづしづと奥の方から現はれて来た。逃腰になつてゐたテーラは、「コリヤたまらぬ」と上り口より慌てて庭にひつくり返り、向ふ脛を打ち四這となつて裏口の闇に紛れて逃出して了つた。キングレス其他の面々は何れも真の捕手にあらず、テーラが虎熊山の盗人をワザとに変装させ、此狂言を描いたのであつた。そして二週間以前に躍り込み、家内を殆ど全滅の厄に会はせた泥棒も、又キングレスの部下の者であつた。キングレスはスマナー姫の言霊と三千彦の神力に圧倒され、五体俄に戦慄し、其場にドツと尻餅をつき、口許りポカンとあけて、慄うてゐる。捕手に化けてゐた十数人の小泥棒も同じく、其場に腰を抜かし、ふるひ戦いて居る。 三千彦は厳然として座敷の中央に座を構へ、青年隊並に泥棒組に向つて、宣伝歌を挨拶に代へて謡つた。 三千彦『人は神の子神の宮神に斉しき者ならば 天地を経綸すると云ふ尊き神の御使ぞ 小さき欲に捉はれて広き此世を自ら 身の置所もなき迄に狭め行くこそ歎てけれ 限りも知らぬ天地の清けく広き世の中に 安養浄土の楽しみを得させむ為にウブスナの 斎苑の館にあれませる此世の垢を洗ふてふ 瑞の御霊の神柱神素盞嗚の大神は 神の司を四方の国放ち玉ひて曲神の 虜となれる人々を安きに救ひ助けむと 計らせ玉ふ尊さよ吾れは三千彦宣伝使 神の力を身に受けてフサの国をば横断し 漸く茲に来て見れば音に名高き仙聖郷 高天原の楽園も怪しき雲霧立こめて 常夜の暗と成さがり悪鬼羅刹は縦横に 跳梁跋扈なしにける此惨状を一瞥し 神の使の身を以ていかでか看過すべけむや 吾宣る教は皇神の聖き尊き勅言ぞ 心を清め耳すませ謹み畏みきこしめせ 弱味につけ込む風の神寄るべ渚の未亡人 スマナー姫の留守宅へをどり込みたるテーラこそ げにも憐れな曲津身の醜の虜となり果て 重き罪をば知らずして犯したるこそうたてけれ キングレスや其外の捕手と称する人々よ 汝は真の捕吏ならずどこかの山に山砦を 構へて旅人をおびやかす大泥棒と覚えたり 誠捕手の役ならば繊弱き姫の言霊に いかでか打たれて倒るべき心に弱味のある者は 只一言の言霊もきつく恐るるものぞかし 許しがたなき奴なれど吾等も同じ神の子の 同胞なれば咎めずて誠の道にまつろはせ 救ひやらむと思ふこそ吾赤心の願ぞや 心を直し魂清め今迄尽せし罪科を 皇大神の大前に包まずかくさずさらけ出し 今後を戒め善道にいづれも揃うて立帰れ 吾れも汝も神の御子いかに曇れる魂も 研き上ぐれば元の如水晶魂となりぬべし あゝ惟神々々神に誓ひて宣り伝ふ 旭はてる共曇る共月は盈つ共虧くる共 仮令大地は沈む共誠の力は世を救ふ 誠にまさる力なし此世の主権を握る共 誠の道を欠くならばこれ風前の燈火ぞ 省み玉へ諸人よ神の教の三千彦が 一同に向ひ大神の神心審さに宣べ伝ふ あゝ惟神々々御霊幸ひましませよ』 と繰返し繰返し宣伝歌を以て一同に説き諭した。キングレスは涙をハラハラと流し、犬突這となつて三千彦に向ひ、 キング『三五教の宣伝使三千彦司の前に、私は一切の罪悪を打あけて白状を致します。モウ此上はあなたの御教に従ひ、善道に立帰りまするから、今迄の罪をお赦し下さいませ。私の如き悪人は又と世界に厶いますまい。実の所は虎熊山の山砦に立籠もり、十里四方の村々を劫やかし、旅人を苦め居りましたる所、バラモン教の軍人たりし、セール、ハールの両人、沢山の部下を引つれ、虎熊山に登り来り、私等の部下二十人と共に高手小手に縛られ、止むをえず降服致し、彼等の乾児となり、此方の方面へ働きに出て居る者で厶います。そして此郷のテーラといふ男は、吾々仲間と常に気脈を通じ、家尻切、庫破りの手引きをしてをつた者で厶いますが、二週間以前に当家を鏖殺し、此財産を横領せむと、彼れテーラの献策に仍り、抜刀を以て押入り、家族を全滅させむと計りました所、天罰忽ち酬い来て、只一人のスマナー姫さまを打漏らし、それが為に忽ち陰謀露顕致し、身動きもならぬ神罰にあてられ、懺悔の情に堪へませぬ。何卒々々赦しがたき吾々なれ共、今の宣伝歌のお詞の通り、心も広き大直日に見直し聞直し宣直し下さいまして、命丈はお助けを願ひます。たつて許さぬと仰有れば、是非も厶いませねば、私の命をお取り下され、部下十数人の命をお助け下さいまして、彼等に誠の教をお伝へ下さつた上、神様のお道に御救ひ下さいますやう』 と面に誠を現はして、心の底より謝罪する。 三千『人間界から云へば赦しがたない大罪人、お前達は今日の法律に依れば、強盗殺人罪として首のない代物だが、神様は大慈大悲にまします故、改心さへすればキツとお許し下さるだらう。併し此三千彦は人を審判く権利もなければ、許す権利もない。従つてお前達を苦しめる権能もない。どうか誠の道に立帰り、朝な夕なに神さまにお仕へして、神の御子たる誠の人間に立帰つて貰ひたい。それが神の御子たる三千彦の希望である。其処にゐるキングレスの部下の人達、拙者の云ふ事が心にはまつたならば、今茲で神様にお詫をなさるがよからう。又青年会の人達も此郷はウラル教の教を奉ずると聞いてゐるが、どうか神様の御心を誤解せぬ様、誠の道を歩んで下さい。真にウラル教の教が拡まつてゐるならば、此仙聖郷は昔の儘に、天下の安楽郷として、太平無事でなければならぬのだ。然るにかかる惨事の突発するといふのは、神の御心に反いた点があるのではあるまいかと、此三千彦は愚考致します。そしてスマナー姫様は親兄弟夫に別れ、心淋しく暮してゐられるのだから、青年の方々は陰に陽に、親切に守つて上げて下さい。そしてどこ迄も父母祖先の霊に対し孝養を尽し、亡き夫に、貞操を固く守られるやう、保護して下さる様、願つておきますよ』 タークは感涙に咽び乍ら、 ターク『有難し誠の神のあれまして 亡ぼし玉ひぬ醜の曲津を。 御詞を朝な夕なに能く守り 神の大道に仕へ進まむ』 インター『われも亦教司の言の葉を 肝に銘じて忘れざるらむ』 三千彦『みちのくの山の奥にも皇神の 守りありせば安くましませ。 古の仙聖郷に立直し 笑み栄えつつ永久にあれよ』 スマナー姫『三千彦の神の司に助けられ 今日は嬉しくゑみ栄えける。 おそひ来る醜の曲津の影もなく 亡びし今日ぞいとど嬉しき』 斯かる所へ村の中老、各自に得物を携へ、裏口表口より慌しく走り来る。又スマナー姫を捜しに行つた青年は、比較的遠路の為、一人も未だ帰つて来ない。裏口の水門壺の中にアブアブして苦しんでゐる男を見れば、逃げしなに過つて落込んだテーラであつた。俄に大地はビリビリと震動し、四辺の山岳は轟々と唸り出したとみるまに、轟前たる爆音、天地もわるる許りに響き来り、水門壺におちて居た、テーラは其震動にはね飛ばされて、二三間飛上り、どんと大地に投げ付けられ、苦しげに泡をふいてゐる。此音響は虎熊山の火山が一時に爆発した響であつた。 (大正一二・七・一七旧六・四於祥雲閣松村真澄録)