| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 序文 | 序文 艮の金神出現以後三十年の立替は、いよいよ明治五十五年、すなはち大正の十一年、三千世界一度に開く梅の花の機運に到達したのである。つぎに坤の金神出現以後二十五年、桃李もの言はずして桃李ものとなりし神の教示も、いよいよ開く桃の春、五十二歳の暁に、月の光に照らされて、霊界探険物語り、ももの千草も、百鳥も、百の言問ひ言止めて、三月三日五月五日の神の経綸を詳細に、悟る神代の魁となつたのも、まつたく時の力といふべきである。明治三十三年九月八日の神筆に、 『出口直は三千世界の根本の因縁から末の世のことまで書かす御役なり、それを細かう説いて聞かせるのが海潮の役であるから、一番に男子が現はれて、次に女子が表はれたら、大本の中の役員も、あまり思ひが違ふてをりたと申して、きりきり舞をいたして喜ぶ人と、きりきり舞をして苦しむ人と、力一杯われの目的のために、男子女子を悪くまをすものとができるぞよ。神を突込みておいて我で開いて、まだ悪く申して歩行く、取次がたくさんにできるぞよ。云々』 大本の筆先は、どうしても男子女子でなければ真解することはできぬのは神示のとほりである。しかるに各自の守護神の御都合の悪いことがあると、「女子の筆先は審神をせなそのままとつてはいかぬ」と申す守護神が現はれてくる、困つたものだ。九月八日にいよいよ神示のとほり女子の役となり、隠退して霊界の消息を口述するや、またまた途中の鼻高がゴテゴテ蔭で申し出したのである。女子の帰神の筆を審神者する立派な方が沢山できて、神様も御満足でありませう。 また、明治五十五年の三月三日五月五日といふ神の抽象的教示にたいして、五十五年は大正十一年に相当するから、今年は女子の御魂にたいして肉体的結構があるとか、大本の神の経綸について花々しきことが出現するかのやうに期待してをる審神者があるやうにきく。されど、神の御心と人間の心とは、天地霄壌の相違があるから、人間の智慧や考へでは、たうてい、その真相は判るものでない。五十五年といふことは、明治二十五年から三十年間の神界経綸の表面に具体的にあらはれる年のいひである。 三月三日とは三ツの御魂なる月の大神の示顕が、天地人三体に輝きわたる日といふことである。日は「カ」と読む、「カ」はかがやくといふことである。今まで三十年間男子の筆先の真意が充分に了解され、また従道二十五年に相当する女子の御魂の光が、そろそろ現はれることを暗示された神諭である。二十五年間、周囲の障壁物にさまたげられた女子の御魂の神界経綸の解釈も、やや真面目になつて耳をかたむくる人が出現するのを、「女子にとりて結構な日である」と示されたものである。あたかも暗黒の天地に、日月の東天を出でて万界を照らすがごとき瑞祥を、五月五日といふのである。五は言霊学上「出」であつて、五月五日は出月出日の意味である。二十五年の天津風、いま吹きそめて経緯の、神の教示も明らけく、治まる御代の五十五年(出神出念)、いよいよ神徳出現して、神慮の深遠なるを宇宙に現出すべき時運にむかふことを慶賀されたる神示であります。 月光世に出でて万界の暗を照破す、これ言霊学上の五月五日となるのであつて、けつして暦学上の月日でないことは明白である。三月三日と五月五日に、変つたことがなければ信仰をやめるといふ無明暗黒の雲が、遠近の天地を包むでゐるやうに思はれましたから、一寸略解をほどこしておきました。これでもまた女子の御魂の言は審神者をせなくてはいかぬと、唱ふる豪い人々が出現するかもしれませぬ。これが暗黒の世の中といふのでせう。 神諭に「女子にとりて結構な日である」云々は微々たる五尺の肉体にたいしての言ではない。神霊そのものの大目的の開き初むるを慶賀されたる意味であることを了解すべきである。千座の置戸は、瑞の御魂の天賦的神業たることを承知してもらひたい。 霊界物語を読ンで、初めて今日までの神諭の解釈にたいする疑雲は一掃され、心天たちまち晴明の日月をうかべ、霊体力に光輝をそへ歓喜と了解の日月出現していはゆる三月三日五月五日の瑞祥を神人ともに祝することになるのである。 五月五日は男子の祝日、菖蒲の節句である。三月三日は女子の祝日で、桃の節句である。女子の御魂聖地に出現してより二十五年の間桃李物言はず自ら蹊をなせしもの、ここに目出度く世にあらはれて苦、集、滅、道を説き、道、法、礼、節をはなばなしく開示することとなつたのも、神界経綸の神業成就の曙光をみとめ、旭光照破の瑞祥にむかつたので、神人界のともに祝福すべき年であります。 ○ この物語のうちに大自在天とあるは、神典にいはゆる、大国主之神の御事であつて、大国彦命、八千矛神、大己貴命、葦原醜男神、宇都志国魂神などの御名を有したまひ、武力絶倫の神にましまして国平矛を天孫にたてまつり、君臣の大義を明らかにし、忠誠の道を克く守りたまふた神であります。本物語にては大自在天、または常世神王と申しあげてあります。 大自在天とは仏典にある仏の名であるが、神界にては大国主神様の御事であります。この神は八代矛の威力をふるつて、天下を治めたまうた英雄神である。皇祖の神は、平和の象徴たる璽と、智慧の表徴たる鏡とをもつて、世を治めたまふのが御神意である。故に我皇孫命の世界統御の御神政は、飽く迄も道義的統一であつて、武断的ではないのである。故に天津日嗣天皇の世界御統一は、侵略でも征伐でもない、併呑でも無い、皇祖大神の大御心を心とし玉ふたのである。劍を用ゐ玉ふは、変事に際してのみ其神聖不可犯の御威力を発揮し玉ふので、是又止むを得ざるに出でさせ玉ふ御神業であります。決して大自在天的武力統一ではない、御仁慈の御政治であります。[※「故に我皇孫命の」から「御仁慈の御政治であります。」までは、戦前の版・聖師御校正本には書いてあるが、戦後の版からは削除されている。霊界物語ネットでも削除されていたが、2020/4/27に追加した。] また盤古大神塩長彦は一名潮沫彦と申し上げる、善良なる神にましますことは、前篇に述べたとほりであります。この神を奉戴して荒ぶる神人等が色々の計画をたて、神界に活動して国治立命の神政に対抗し、種々の波瀾をまきおこしたことはすでに述べたとほりである。そこでこの世界を救ふべく、諾冊二神がわが国土を中心として天降りまし、修理固成の神業を励ませたまふこととなつた、ありがたき物語は篇を逐うて判明することであらうと思ひます。惟神霊幸倍坐世 大正十一年一月三日 王仁識 |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 15 神世の移写 | 第一五章神世の移写〔一一五〕 万寿山には八王神として磐樟彦、磐樟姫の夫妻居住し、赤色の玉を荘厳なる神殿に鎮祭し、瑞穂別八頭神となり、瑞穂姫妻となりて内助の功もつとも多く、天地の律法は完全におこなはれ、神人一致して至治太平の神世はおごそかに樹立され、加ふるに忠実無比なる大川彦、清川彦、常立彦、守国別、その他の諸神司は綺羅星のごとく集まり、地の高天原につぐの聖場となつた。 万寿山の神殿は月宮殿と称へられ、赤玉の精魂幸はひたまひて、神人の心は赤誠丹心よく神に仕へ、長上を尊み下を憐み、各自の顔はいつも春のごとく、心は常に洋々として海のごとく、満山の紅葉は黄紅赤緋色を競ひ、春は紅の梅、香ひ芳ばしき白梅樹々の間に点々し、蒼々たる常磐の松は、紅葉のあひだに天を摩して栄え、千年の鶴は樹上に巣を組み神政の万寿を謳ふ。城廓を廻れる池の清泉には万代の亀、幾千万とも限りなく、神世を寿ぎ、右往左往に遊びたはむるその光景は、五六七神教成就後の神代の移写とも称すべき瑞祥なりける。かかる目出度き万寿山は、実は霊鷲山の神霊三ツ葉彦命の内面的輔佐の神徳の功、あづかつて力ありしが故なりといふ。 ここに万寿山の八王、八頭の神司をはじめ、部下の諸神司は霊鷲山をもつて第二の高天原と崇め、三ツ葉彦命の神跡を慕ひて神人修業の聖場と定め、美しき神殿を山下の玉の井の邑に造営し、坤金神豊国姫命の安居所となし奉仕せむとし、ここに荘厳なる大神殿を宮柱太敷立て、高天原に千木高知りて日の大神、月の大神、玉照姫命、国治立命鎮座したまひて洪大無辺の神徳は四方に輝き、地の高天原と相まつて神界経綸の大聖場となりぬ。これを玉ノ井の宮といふ。 玉ノ井の宮は真道姫真心をもつて大神に仕へ、かつ霊鷲山に日夜かよひて神慮を伺ひ、つひに三ツ星の神霊に感じて三ツ葉彦命を生み、これを地の高天原の国治立命に献じ奉り、神政維新の神柱となさしめたまひける。三ツ葉彦命は、天の三ツ星の精魂の幸はひによりて地上に降り、真道姫の体に宿りて玉ノ井の邑に現はれける。玉ノ井の邑には玉ノ井の湖といふ清泉をたたへたる湖水あり、この湖水は神界経綸上必要の神泉なれば、自在天の一派は、この湖水を占領せむと百方手をつくし、つひに三ツ葉彦命と争ひけるが、結局は目的を達するを得ずして退却したりしなり。 自在天の一派なる蟹雲別、牛雲別、種熊別、蚊取別、玉取彦らは、一斉に玉ノ井の湖水に押寄せきたり、あまたの魔神をして前後左右より取り巻き、第一着に玉ノ井の宮を破壊し真道姫を捕へむとしたりしが、三ツ葉彦命の神威に恐れて遁走し、二度押し寄せ初志を達すべく奮闘せし顛末は、次席に於て略述せむとす。 (大正一〇・一一・一七旧一〇・一八加藤明子録) (第一四章~第一五章昭和一〇・一・一六於みどり丸船室王仁校正) |
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霊界物語 | 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 | 44 虎の威 | 第四四章虎の威〔一九四〕 美山彦、国照姫は天下万生の代表と自称し、かつ八王大神および大自在天の勢力を笠に着ながら、虎の威を藉る野狐の尾を掉り廻し、傲然として聖地の国祖大宮殿に数多の神人を引率し、常世城の大会議における諸神司の信任と希望とを担ひて、勧告使に選抜されしことを居丈高に吹聴し、ただちに国祖の御前に進み進言すらく、 『今日の美山彦、国照姫は前日のごとき微々たる美山彦、国照姫にあらず、勢望仁徳天下に並びなき、畏くも八王大神常世彦、権勢天下の神人を圧する神力無双の、大自在天大国彦の代表者にして、八百万の神司の代表たる勧告使の重職を担へる美山彦、国照姫なれば、国祖大神におかせられても、必ず粗略の取扱ひあるべからず』 と傍若無人の言辞を弄しながら、 『先づ第一に大八洲彦命以下の頑迷固陋なる神々を、神界平和のため、八王大神の聖意に答ふるため、国祖の神権をもつて御側を追放し、神界攪乱者として根の国底の国に退去を命じたまへ』 と無礼千万にも強力なる後援者あるを楯にして強硬に迫りける。国祖は美山彦にむかひ、 『汝の言果して八王大神および、大自在天その他一般の意見なりとせば、アヽ余また何をか云はむ。至正至直の神人も、天下の平和のためには涙を呑んで馬謖を斬らざるべからざるか』 声涙交々降らせたまひ、感慨無量の御面色に、近く仕へたてまつれる神人らも、美山彦らの従臣らも、涙の袖を絞らぬはなかりける。心弱くては今回の使命は果しがたしとや思ひけむ、やや憂愁に沈まむとせる美山彦を励ましながら、国照姫は国祖の返答をしきりに促したり。国祖も事ここに至りては如何ともなしたまふの余地なく、その請求を容れて大八洲彦命、言霊別命、神国別命、大足彦を根の国に追放したまふことを承認されたりける。 ここに右の四神司は、国祖の厳命によりて、夜見の国なる月界に神退ひに退はれ、四魂合同して国大立命となり、月の大神の精霊に感じてふたたび地上に降り、千辛万苦を嘗め、五六七神政の基礎的活動を開始されたれど、体主霊従の八王大神および大自在天一派の神人は、一柱として此の間の消息を知るもの無かりけり。 次に高照姫命、真澄姫、言霊姫、竜世姫は、大地の底深く地汐[※オニペディア「霊界物語第4巻の諸本相違点」の「地月・地汐・汐球」参照。]の世界に神退はれたまひ、地汐の精霊に感じて大地中の守護神と現はれ、四魂合同して金勝要之神となり、時を得て地表の世界に出現し、五六七神政の基礎的神業に尽力されつつ太古より現代に至るまで神界にあつて、その活動を続けられつつありしなり。 されど八王大神系の神司らも、大自在天系の神司らも、一柱としてこの神業を知了し居る者は絶対にあらざりしなり。神諭に、 『昔の神代が環り来て、元の昔の神代に立替るぞよ、三千世界一度に開く梅の花』 などの神示を十分味はふべきなり。 さて美山彦、国照姫の二人は、右の諸神人を国祖の御神権によつて、追放せしむべきことを、面を犯して強硬に進言し、さいはひにその目的は達したるが、肝腎かなめの国祖の自発的御退隠の勧告に対しては、さすがの邪神も口籠り発言を躊躇し居たり。大神は矢つぎ早に、 『汝の進言はこれにて終れりや』 と問はせたまふに、二使者は大神の威厳に討たれて何心なく、 『もはや申し上ぐることこれ無く候』 と、思はず答申したりける。国祖大神は二使者の答を合図に、ツト立ちて玉の襖を手づから閉ぢ奥殿深く隠れさせたまへり。二柱の使者は奥歯に物の挟まれる如き心地しながら勢なく、その結果を八王大神に奏上したり。八王大神は肝腎の国祖大神に対する自発的御退隠を勧告し能はざりし二人の卑怯を怒り、直ちにこれに蟄居を厳命したれば、夜食に外れた梟鳥面ふくらせながら悄然として退場したりける。 (大正一〇・一二・二九旧一二・一出口瑞月) |
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霊界物語 | 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 | 45 あゝ大変 | 第四五章ああ大変〔一九五〕 ここに八王大神は諸神人と図り、その一致的意見を集めて、天上にまします日の大神、月の大神、広目大神に、国祖の頑強にして到底地上世界統理の不適任なることを奏上すべく、天地を震動させながら数多の神人を率ゐて、日の若宮に参上り大神に謁し、国祖御退隠の希望を口を極めて奏上したり。 天上の大神といへどもその祖神は、国祖国治立命なれば、大いに驚きたまひ、如何にもして国祖の志を翻さしめ、やや緩和なる神業神政を地上に施行して、万神の心を和めしめ、従来のごとく国祖執権の下に諸神人を統一せしめむと、焦慮せられたるは、骨肉の情としては実にもつともの次第なりといふべし。 ここに天の若宮にます日の大神、広目大神および、月界の主宰神月の大神は、八王大神以下の神人に対し、追つて何分の沙汰あるまで下土に降りて命を待つべしとの神命に、唯々諾々として降り来たりける。[※「~命を待つべし」との神命を与えた。それを聞いた八王大神以下の神人は唯々諾々として降った──という意味だと思われる。霊界物語ネットでは御校正本・愛世版の文章の通りにしたが、校定版・八幡版では「ここに八王大神以下の神人は、天の若宮にます日の大神、広目大神および月界の主宰神月の大神から「追つて何分の沙汰あるまで下土に降りて命を待つべし」との神命に、唯々諾々として降り来たりける」と修正している。] アヽ国祖国治立命は、大宇宙の太祖大六合治立尊の神命を遵奉し、天地未分、陰陽未剖の太初より、大地の中心なる地球世界の総守護神として、修理固成の大業を遂行し、久良芸那す漂へる神国を統轄し、律法を厳行したまひける。されど大神の施政[※校正本では「施設」]たるや、あまりに厳格にして剛直なりしため、混沌時代の主管神としては、少しく不適任たるを免がれざりき。ゆゑに部下の諸神人は、神政施行上、非常なる不便を感じゐたるなり。さいはひ和光同塵的神策を行はむとする八王大神および、大自在天の施政方針の臨機応変にして活殺自在なるに、何れの神人も賛成を表し、つひに常世城に万神集合して、国祖の退隠されむことを決議するに至れるなり。 三柱の大神は地上世界の状況やむを得ずとなし、涙を呑ンで万神人の奏願を聴許せむとせられたり。されど一旦地上世界の主宰者に任ぜられたる以上は、神勅の重大にして、軽々しく変改すべきものに非ざることを省みたまひて、容易に万神人の奏願を許させたまはず、直ちに国祖に向つて少しく緩和的神政を行ひたまふべく、種々と言をつくして、あるひは慰撫し、あるひは説得を試みたまひける。 されど、至正、至直、至厳、至公なる国祖の聖慮は、三体の大神の御命令といへども容易に動かしたまはざりける。 三体の天の大神は、ほとんど手を下すに由なく、ここに、国祖の御妻豊国姫命を天上に招きて、国祖に対し、時代の趨勢に順応する神政を施行さるるやう、諫言の労を取らしめむとなしたまひぬ。豊国姫命は神命を奉じて聖地に降り、百方言を尽して、天津大神の神慮を伝へ、涙とともに諫言したまひたれど、元来剛直一途の国祖大神は、その和光同塵的神政を行ふことを好みたまはず、断乎として妻の諫言を峻拒し天地の律法の神聖犯すべからざるを説示して寸毫も譲りたまはざりける。 ここに豊国姫命は止むを得ずふたたび天上に上りて、三体の大神に国祖の決心強くして、到底動かすべからざることを奏上されたり。 時しも八王大神は、豊国姫命の後を追ひて、天上に登りきたり、天の若宮にます日の大神の御前に恭しく奏問状を捧呈して裁許を請ひぬ。日の大神は、八王大神の奉れる奏問状を御覧遊ばされて、御面色俄に変らせたまひ、太き息をつきたまひける。その文面には、 『国祖国治立命は、至厳至直にして律法を厳守したまふ神聖者とはまをせども、その実は正反対の行動多く、現に前代常世彦命、常世城に大会議を開催するや、聖地の従臣なる、大江山の鬼武彦にみづから秘策を授け、権謀術数の限りをつくして、至厳至聖なる神人らの大会議を混乱紛糾せしめ、つひに根底より顛覆せしめたまへり。吾らをはじめ、地上世界の神人は、もはや国祖を信頼したてまつる者一柱もなし。速やかに国祖を退隠せしめ、温厚篤実にして名望天下に冠たる盤古大神塩長彦命をして、国祖の神権を附与したまはむことを、地上一般の神人の代表として奏請し奉る。以上敬白』 地上の世界一般の神人らは、幾回となく天上に上りきたり、国祖大神の御退隠を奏請すること頻にして、三体の大神はこれを制止し、慰撫し、緩和せしむる神策につきたまひ終に自ら天上より三体の大神相ともなひて、聖地に降らせたまひ、国祖大神をして、聖地ヱルサレムを退去し、根の国に降るべきことを、涙を呑み以て以心伝心的に伝へられたりける。国祖大神は、三体の大神の深き御心情を察知し、自発的に、 『我は元来頑迷不霊にして時世を解せず、ために地上の神人らをして、かくのごとく常暗の世と化せしめたるは、まつたく吾が不明の罪なれば、吾はこれより根の国に落ちゆきて、苦業を嘗め、その罪過を償却せむ』 と自ら千座の置戸を負ひて、退隠の意を表示したまひける。 アヽ国祖は、至正、至直、至厳、至愛の神格を発揮して、地上の世界を至治太平の神国たらしめむと、永年肝胆を砕かせたまひし、その大御神業は、つひに万神人の容るるところとならず、かへつて邪神悪鬼のごとく見做されたまひ、世界平和のために一身を犠牲に供して自ら退隠の決心を定めたまひたる、その大慈大悲の大御心を拝察したてまつりて、何人か泣かざるものあらむや。 神諭に曰く、 『善一と筋の誠ばかりを立貫いて来て、悪神祟り神と申され、悔し残念、苦労、艱難を耐り詰めて、世に落とされて蔭に隠れて、この世を潰さぬために、世界を守護いたして居りた御蔭で、天の御三体の大神の御目にとまり、今度の二度目の天の岩戸を開いて、また元の昔の御用を致すやうになりたぞよ』 と示されたるごとく、数千万年の長き星霜を隠忍したまひしは、実に恐れ多きことなり。 さて三体の大神は国祖にむかつて、 『貴神は我胸中の苦衷を察し、自ら進ンで退隠さるるは、天津神としても、千万無量の悲歎に充たさる。されど我また、一陽来復の時を待つて、貴神を元の地上世界の主権神に任ずることあらむ。その時来らば、我らも天上より地上に降り来りて、貴神の神業を輔佐せむ』 と神勅厳かに宣示したまひけり。 ここに国祖大神は、妻の身に累を及ぼさむことを憂慮したまひて、夫妻の縁を断ち、独り配所に隠退したまひけり。国祖はただちに幽界に降つて、幽政を視たまふこととなりぬ。されど、その精霊は地上の神界なる、聖地より東北にあたる、七五三垣の秀妻国に止めさせたまひぬ。諸神は国祖大神の威霊のふたたび出現されむことを恐畏して、七五三縄を張り廻したり。ここに豊国姫命は、夫の退隠されしその悲惨なる御境遇を坐視するに忍びずして、自ら聖地の西南なる島国に退隠し、夫に殉じて世に隠れ、神界を守護したまひける。ここに艮の金神、坤の金神の名称起れるなり。豊国姫命が夫神の逆境に立たせたまふをみて、一片の罪なく過ちなく、かつ一旦離縁されし身ながらも、自ら夫神に殉じて、坤に退隠したまひし貞節の御心情は、実に夫妻苦楽をともになすべき、倫理上における末代の亀鑑とも称したてまつるべき御行為なりといふべし。 アヽ天地の律法を国祖とともに制定したる天道別命および、天真道彦命も八王大神のために弾劾されて、ここに天使の職を退き、恨を呑ンで二神は、世界の各地を遍歴し、ふたたび身を変じて地上に顕没し、五六七神政の再建を待たせたまひける。惟神霊幸倍坐世。 国祖大神以下の神々の御退隠について、その地点を明示する必要上、神示の宇宙を次章に述べ示さむとす。 (大正一〇・一二・二九旧一二・一出口瑞月) (第四四章~第四五章昭和一〇・一・二三於佐賀市松本忠左氏邸王仁校正) |
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霊界物語 | 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 | 46 神示の宇宙その一 | 第四六章神示の宇宙その一〔一九六〕 我々の肉眼にて見得るところの天文学者の所謂太陽系天体を小宇宙といふ。 大宇宙には、斯くの如き小宇宙の数は、神示によれば、五十六億七千万宇宙ありといふ。宇宙全体を総称して大宇宙といふ。 我が小宇宙の高さは、縦に五十六億七千万里あり、横に同じく、五十六億七千万里あり、小宇宙の霊界を修理固成せし神を国常立命といひ、大宇宙を総括する神を大六合常立命といひ、また天之御中主大神と奉称す。 小宇宙を大空と大地とに二大別す。而して大空の厚さは、二十八億三千五百万里あり、大地の厚さも同じく二十八億三千五百万里ある。 大空には太陽および諸星が配置され、大空と大地の中間即ち中空には太陰及び北極星、北斗星、三ツ星等が配置され、大地には地球及び地汐[※オニペディア「霊界物語第4巻の諸本相違点」の「地月・地汐・汐球」参照。]、地星が、大空の星の数と同様に地底の各所に撒布されあり。大空にては之を火水といひ、大地にては之を水火といふ。大空の星は夫れ夫れ各自光を有するあり、光なき暗星ありて凡て球竿状をなしゐるなり。 大地氷山の最高部と大空の最濃厚部とは密着して、大空は清く軽く、大地は濁りて重し。今、図を以て示せば左の如し。 [#図第一図小宇宙縦断図] 大空の中心には太陽が結晶し、その大きさは大空の約百五十万分の一に当り、地球も亦大地の約百五十万分の一の容積を有せり。而して太陽の背後には太陽と殆ど同形の水球ありて球竿状をなし居れり。その水球より水気を適宜に湧出し、元来暗黒なる太陽体を助けて火を発せしめ、現に見る如き光輝を放射せしめ居るなり。故に太陽の光は火の如く赤くならず、白色を帯ぶるは此の水球の水気に原因するが故なり。 太陽は斯くの如くして、小宇宙の大空の中心に安定し、呼吸作用を起しつつあるなり。 [#図第二図大空の平面図] 又、地球(所謂地球は神示によれば円球ならずして寧ろ地平なれども、今説明の便利のため従来の如く仮りに地球と称しておく)は、四分の三まで水を以て覆はれあり。水は白色なり。この大地は其の中心に地球と殆ど同容積の火球ありて、地球に熱を与へ、且つ光輝を発射し、呼吸作用を営み居るなり。而て、太陽は呼吸作用により吸収放射の活用をなし、自働的傾斜運動を起しゐるなり。されど太陽の位置は大空の中心にありて、少しも固定的位置を変ずることは無し。 [#図第三図大地の図] 地球は大地表面の中心にありて、大地全体と共に自働的傾斜運動を行ひ、その傾斜の程度の如何によりて、昼夜をなし春夏秋冬の区別をなすものなり。自働的小傾斜は一日に行はれ、自働的大傾斜は四季に行はる。彼岸の中日には太陽と地球の大傾斜が一様に揃ふものなり。又六十年目毎にも約三百六十年目毎にも、夫々の大々傾斜が行はれ、大地および地球の大変動を来す時は即ち極大傾斜の行はるる時なり。 太陽は東より出でて西に入るが如く見ゆるも、それは地上の吾人より見たる現象にして、神の眼より見る時は、太陽、地球共に少しも位置を変ずることなく、前述の如く、単に自働的傾斜を行ひてゐるのみなり。 天に火星、水星、木星、金星、土星、天王星、海王星その他億兆無数の星体ある如く、大地にも亦同様に、同数同形の汐球が配列されありて、大空の諸星も、大地の諸汐球も、太陽に水球がある如く、地球に火球がある如く、凡て球竿状をなしゐるものにして、各それ自体の光を有しゐるなり。なほ、暗星の数は光星の百倍以上は確かにあるなり。 太陰は特に大空大地の中心即ち中空に、太陽と同じ容積を有して一定不変の軌道を運行し、天地の水気を調節し、太陽をして酷熱ならしめず、大地をして極寒極暑ならしめざるやう保護の任に当りゐるものなり。 而して太陰の形は円球をなし、半面は水にして透明体なり。而てそれ自体の光輝を有し、他の半面は全く火球となりゐるなり。今図を以て示せば次の如し。(第四図参照) [#図第四図太陰の図] 太陰は大空大地の中心を西より東に運行するに伴ひ、地汐をして或ひは水を地球に送らしめ、或は退かしむるが故に満潮干潮の現象自然に起るものなり。神諭に、 『月の大神様は此の世の御先祖様である』 と示しあるは、月が大空と大地の呼吸作用たる火水を調節するの謂なり。火球は呼気作用を司り、地汐は吸気作用を司る。 『富士と鳴門の仕組が致してある』 といふ神示は、火球の出口は富士山にして、地汐は鳴門を入口として水を地底に注吸しゐることを指示せるものなり。火球及び地汐よりは、なほ人体に幾多の血管神経の交錯せる如く、四方八方に相交錯したる脈絡を以て、地球の表面に通じゐるものなり。 (大正一〇・一二・一五旧一一・一七桜井重雄録) |
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霊界物語 | 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 | 13 神憑の段 | 第一三章神憑の段〔二一三〕 東北の天より降りきたれる六面八臂の鬼神は、あまたの部下を引率し、盤古大神以下の飢餓に迫りて身体痩衰へ、あたかも葱を煮たやうにヘトヘトになつて、身動きも自由ならぬこの場に現はれ、鉄棒をもつて疲れ悩める神々を突くやら打つやら、無残にも乱暴狼藉のかぎりを盡し、連木で味噌でもするやうな目に遇はしてゐる。盤古大神以下の神人は、抵抗力も防禦力も絶無となつてしまつて、九死一生、危機一髪の悲境に陥る折しも、またもや忽然として暴風吹き起こり、岩石の雨は邪鬼の群にむかつて打ちつけた。あまたの鬼どもは周章狼狽しながら、雨と降りくる岩石に打たれて、頭を割り、腰骨を挫き、脚を折り、這々の態にて、負傷した鬼どもを各自小脇に抱へながら、東北の空さして雲を霞と逃げ失せた。しかるに不思議なことには、盤古大神部下の神人は一柱も負傷するものがなかつた。何れも顔を見合して、眼前の奇怪千万な光景に呆れるばかりであつた。 このとき、一陣の風サツと音して吹き来たるよと見るまに、大地に平臥して苦悶せし盤古大神も常世彦、常世姫も俄に顔色紅を呈し、元気は頓に回復し、立上つて両手を組みながら上下左右に身体を動揺させ、躍り上つて遠近を狂気のごとくに飛び廻つた。これは八頭八尾の大蛇と金毛九尾の悪狐の邪霊が、心身の弱り切つたところを見澄し、一度に憑依したからである。次々に他の神人も同様に元気を回復し、手を振り足を踏み轟かせ、遠近を縦横無尽に駈廻るその有様、実に雀の群に鷹の降りたる時のごとき周章かたである。彼方にも此方にも、ウンウン、ウーウーと呻るかと見れば、ヤヽヽヽヤツヤツヤツ、カヽヽヽヽシヽヽヽヽラヽヽヽヽヤツヤツカヽヽヽシヽラヽヽ、ヤツカシラヤツヲノ、ヲヽヽヽヽロヽヽヽヽチヽヽヽヽ、ヲロチヲロチと叫ぶのもあり、キヽヽヽヽキンキンキンキンモヽヽヽヽヽヽモウモウキユキユキユビヽヽヽヽキキキンモモモウキユキユキユウビヽヽヽキンモウキユウビのキヽヽヽヽツヽヽヽヽネヽヽヽヽキツネキツネキツネキツネと叫ぶ神人もできてきた。また一方にはクヽヽヽヽニヽヽヽヽトヽヽヽヽコヽヽヽヽタヽヽヽヽチヽヽヽヽノヽヽヽヽミヽヽヽヽコヽヽヽヽトヽヽヽヽ、クヽニヽノトヽコヽタヽチヽノヽミヽ、コヽトヽとどなる神人もあれば、ケヽヽヽヽケンゾクケンゾクケヽヽヽヽケンゾクケンゾクタヽツヽヤヽヽマワヽヽケヽヽ、ノヽヽミヽコトと口走つて、両手を組み、前後左右に跳ね廻り飛走るさま、百鬼の昼行ともいふべき状況である。常世姫は俄然立ちあがり、 『部下の神人たちよ、われこそは日の大神の分魂にして玉津姫大神なるぞ。このたび地の高天原をこのアーメニヤに移されしについては、世の初発より大神の経綸であつて、万古不易の聖地と神定められたり。盤古大神夫婦は、今日よりこの方の申すことに誠心誠意服従すべきものなり。只今より常世姫の肉体は玉津姫大神の生宮なるぞ。一日も早く立派なる宮殿を造営し、神定の地に神政を行へ、ウーン』 と呻つて天にむかひて打ち倒れた。 聖地ヱルサレムの天使言霊別の長子なる竜山別といふ腹黒き神人は、始終野心を包蔵してをつた。それゆゑ今回のヱルサレムにおける変乱にも、自己一派のみは巧みに免れ、邪神常世彦の帷幕に参じてゐた。彼は今また、このアーメニヤにきたり、神々とともにウラル山の中腹に登つて断食断水の仲間に加はつてゐた。たちまち身体震動し、顔色火のごとくなつて神憑りとなつた。彼には八頭八尾の大蛇の眷属、青竜魔が憑りうつり、 『アヽ有難いぞよ、勿体ないぞよ、この方こそは日の大神、月の大神であるぞよ。神人ども、頭が高い、頭が高い、大地に平伏いたせ、申し渡すべき仔細こそあれ。今日は実に天地開闢以来の目出度き日柄であるぞよ。眼を開いてこの方を拝んだならば、たちまち眼が潰れてしまふぞ。これからこの方の仰せを背いた神は、神罰立ちどころに致ると思へよ。この方は日の大神、月の大神に間違ひないぞよ』 と怒鳴つた。その声は百雷の一度に鳴り轟くごとくであつた。神人らは、一斉に、アヽヽヽヽリヽヽヽヽガヽヽヽヽタヽヽヽヽヤヽヽヽアリーガーターヤヽヽヤーと声を震はせながら涙を流して嬉しがつた。 中空に声あり、 『邪神に誑されなよ。今に尻の毛が一本もないやうに抜かれてしまふぞよ』 と聞えた。盤古大神は何思ひけむ、この場を逃げ去らむとするを、常世姫の神憑は、大手を拡げて、 『アヽ恋しき吾が夫よ、妾の申すことを一々聞かれよ』 と涙声になつて抱止めた。盤古大神は袖振払ひ、 『無礼もの』 と叱咤した。常世姫は柳眉を逆だて、 『畏くも日の大神の御分魂なるこの方にむかつて、無礼ものとは何事ぞ。汝こそは盤古大神とエラソウに申せども、この生宮のために今日神人らより崇敬さるるやうになりしを知らざるか、その方こそ無礼ものなり』 と毒づいた。ここに盤古、常世二神の格闘が始まつた。組んづ組まれつ互ひに挑み合ひ、互に上になり下になり、咆哮怒号した。あまたの神人は残らず邪神の容器となり、常世姫の肩を持ち、 『邪神の盤古盤古』 と一斉に叫びながら立上つた。アヽこの結果はどうなるであらうか。 (大正一一・一・七旧大正一〇・一二・一〇外山豊二録) |
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霊界物語 | 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 | 14 審神者 | 第一四章審神者〔二一四〕 このとき竜山別はたちまち神憑りして、小高き丘陵に飛び上り、眼下に神人らを梟鳥の円き目玉に睨めつけながら、 『吾こそは日の大神、月の大神、国治立の大神なるぞ。ただいま常世姫に神憑りしたる玉津姫命の託宣を馬耳東風と聞きながし、剰つさへ雑言無礼を恣にしたる盤古大神塩長彦ははたして何者ぞ。汝は六面八臂の鬼神の魔軍に襲撃され、危急存亡の場合を八頭八尾の大蛇の神に救はれしに非ずや。神力無辺なる八頭八尾の大蛇の神の憑りきつたる常世彦の妻神常世姫の生宮にたいして、今の雑言聞き捨てならず。神界の規則に照らし盤古大神はこの場かぎり神界総統者の職を去り、その後任に八王大神を据ゑたてまつりなば、万古不易の神政は完全無欠に樹立さるべし。満座の神人ども、大神の言葉を信ずるや否や、返答聞かむ』 と呶鳴りつつ物凄き目をむき出し、口を右上方につり上げ、水ばなを長く大地に垂れながら、さも厳かに宣言した。あまたの神人は審神の術を知らず、日の大神はじめ尊き神の一度に懸らせたまひしものと信じ、頭を得上ぐるものも、一言の答弁をなすものもなかつた。盤古大神は空嘯きて満面に冷笑を湛へ、常世姫の面体を凝視し、鎮魂の姿勢を取つてゐた。 盤古大神の眼光に睨みつけられたる常世姫の神憑りは、左右の袖に顔をかくし、泣き声をふりしぼり、 『八王大神常世彦よ。いま盤古大神には、常世の国に年古く棲める古狸の霊、憑依してこの尊き神の生宮を無礼千万にも睨めつけをれり。神力をもつて速やかに彼を退去せしめ、貴下は盤古大神の地位に就かるべし。神勅は至正至直にして寸毫も犯すべからず、満座の神人異存あるや、返答聞かむ。かくも大神の言葉をもつて神人に宣示すれども、一言の応へなきは、汝ら諸神人は神の言葉を信ぜざるか、ただしは神を軽蔑するか。かよわき常世姫の生宮として、歯牙にかけざるごとき態度をなすは無礼のいたりなり。アーラ残念や、口惜しやな』 と云ひつつ丘陵上を前後左右に飛んだり、跳ねたり、転んだり、その醜態は目もあてられぬ有様であつた。常世彦は、やにはに常世姫の倒れたる前に進みいで、襟首を無雑作に猫でも提げたやうに引掴みて、右の片腕に高くさしあげ、大地に向つて骨も砕けよとばかり投げつけた。常世姫はキヤツと一声叫ぶと見る間に、邪神の神憑りはにはかに止んで、又もや、もとの優美にして温和なる常世姫と変つてしまつた。 かくのごとく種々の悪神たち、大神の御名を騙つて神人らに一度にどつと憑依せしは、数十日の断水断食のため身体霊魂ともに疲労衰耄の極に達し、肉体としては殆ど蚤一匹の力さへなくなつた。その隙をねらつて霊力弱き邪神が憑依したのである。すべて邪神の憑依せむとするや、天授の四魂を弱らせ、肉体を衰へさするをもつて憑依の第一方便とするものである。ゆゑに神道または仏道の修業者などが深山幽谷に分け入り、滝水にうたれ火食を断ち、あるひは断水の行をなし、または百日の断食などをなすは、その最初よりすでに妖魅邪鬼にその精神を蠱惑されて了つてゐるのである。ゆゑに神がかりの修養をなさむとせば、まづ第一に正食を励み、身体を強壮にし、身魂ともに爽快となりしとき、初めて至真、至美、至明、至直の神霊にたいし帰神の修業をなし、憑依または降臨を乞はねばならないのである。 総て神界には正神界と邪神界との二大別あるは、この物語を一ぺん読みたる人はすでに諒解されしことならむ。されど正邪の区別は人間として如何に賢明なりといへども、これを正確に審判することは容易でない。邪神は善の仮面を被り、善言美辞を連ね、あるひは一時幸福を与へ、あるひは予言をなし、もつて審神者の心胆を蕩かし、しかして奥の手の悪事を遂行せむとするものである。また善神は概ね神格容貌優秀にして、何処ともなく権威に打たるるものである。されど中には悪神の姿と変じ、あるひは悪言暴語を連発し、一時的災害を下し、かつ予言の不適中なること屡なるものがある。これらは神界の深き御経綸の然らしむる処であつて、人心小智の窺知し得べき範囲ではないのである。ゆゑに審神者たらむものは、相当の知識と経験と胆力とがもつとも必要である。かつ幾分か霊界の消息に通じてゐなければ、たうてい正確な審神者は勤まらないのである。世間の審神者先生の神術にたいしては、ほとんど合格者はないといつても過言に非ずと思ふのである。 却説、盤古大神の注意周到なる審神はよくその効を奏し、邪神はここに化の皮をむかれ、一目散にウラルの山上目蒐けて雲霞のごとく逃げ帰つた。されど一度憑依せし悪霊は全部脱却することは至難の業である。ちやうど新しき徳利に酒を盛り、その酒を残らず飲み干し空にしたその後も、なほ幾分酒の香が残存してゐるごとく、悪霊の幾部分はその体内に浸潤してゐるのである。この神憑りありしより、常世彦、常世姫、竜山別も、日を追ひ月を重ねて、ますます悪神の本性を現はし、つひには全部八頭八尾の大蛇の容器となり、神界を大混乱の暗黒界と化してしまつたのである。あゝ慎むべきは審神の研究と神憑りの修業である。 (大正一一・一・七旧大正一〇・一二・一〇加藤明子録) |
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霊界物語 | 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 | 29 神慮洪遠 | 第二九章神慮洪遠〔二二九〕 天道別命、月照彦神以下の宣伝神選定され、各地に配置されてより、今まで天空を廻転しゐたる金銀銅の天橋の光は、忽然として虹のごとく消え失せ、再び元の蒼天に復し、銀河を中心に大小無数の星は燦然たる光輝を放射し出した。 時しも東北の天にあたつて十六個の光芒強き大星一所に輝き始めた。その光色はあたかも黄金のごとくであつた。又もや西南の天にあたつて十六個の星光が一所に現はれた。その光色は純銀のごとくであつた。地上の神人は、この変異に対して或は五六七聖政の瑞祥と祝し、あるひは大地震の兆候となして怖れ、あるひは凶年の表徴となし、その観察は区々にして一定の判断を与ふるものがなかつた。 忽ちにして蒼天墨を流せしごとく暗黒となり、また忽ちにして満天血を流せしごとく真紅の色と変じ、あるひは灰色の天と化し、黄色と化し、時々刻々に雲の色の変り行く様は、実に無常迅速の感を地上の神人に与へたのである。地は又たちまち暴風吹き荒み、樹木を倒し、岩石を飛ばし、神人を傷つけ、妖気地上を鎖すと見るまに、たちまち光熱強き太陽は東西南北に現出し、暑熱はなはだしく、地上の草木、神人その他の動物はほとんど枯死せむとするかと思へば、寒風俄に吹き来り、雹を降らし、雷鳴満天に轟き、轟然たる音響は各所に起り、遠近の火山は爆発し、地震、海嘯ついで起り、不安の念にかられざるものはなかつた。 「かなはぬ時の神頼み」とでも云ふのか、今まで神を無視し、天地の恩を忘却しゐたる地上の神人は、天を仰いで合掌し、地に伏して歎願し、その窮状は実に名状すべからざる有様であつた。烈風の吹き通ふ音は、あたかも猛獣の咆哮するがごとく、浪の音は万雷の一斉に轟くがごとく、何時天地は崩壊せむも計り難き光景となつて来たのである。 かくのごとき天地の変態は、七十五日を要した。このとき地上の神人は、神を畏れて救ひを求むるものあれば、妻子、眷属、財産を失ひて神を呪ふものも現はれた。中には自暴自棄となり、ウラル彦神の作成したる宣伝歌を高唱し、 『呑めよ騒げよ一寸先や暗よ 暗の後には月が出る 月には村雲花には嵐 嵐過ぐれば春が来る ヨイトサ、ヨイトサ、ヨイトサノサツサ』 と焼糞になつて踊り狂ふ神は大多数に現はれた。 そもそも七十五日間の天災地妖のありしは、野立彦神、野立姫神を始め、日の大神、月の大神の地上神人の身魂を試したまふ御経綸であつたのである。このとき真の月日の恩を知り、大地の徳を感得したる誠の神人は、千中の一にも如かざる形勢であつた。 大国治立尊は、この光景を見て大に悲歎の涙にくれたまうた。 『アヽわが数十億年の艱難辛苦の結果成れる地上の世界は、かくも汚れかつ曇りたるか。如何にして此の地上を修祓し、払拭し、最初のわが理想たりし神国浄土に改造せむや』 と一夜悲歎の涙にくれ給うた。大神の吐息を吐き給ふ時は、その息は暴風となつて天地を吹きまくり、森羅万象を倒壊せしむるのである。大神の悲歎にくれ落涙し給ふ時は、たちまち強雨となりて地上に降りそそぎ、各地に氾濫の災害を来す事になるのである。 大神はこの惨状を見給ひて、泣くにも泣かれず、涙を体内に流し、吐息を体内にもらして、地上の災害を少しにても軽減ならしめむと、隠忍し給ふこと幾十万年の久しきに亘つたのである。大国治立尊の堪忍袋は、もはや吐息と涙もて充され、何時破裂して体外に勃発せむも計りがたき状態となつた。 されど至仁至愛の大神は、宇宙万有を憐れみ給ふ至情より、身の苦しさを抑へ、よく堪へ、よく忍び、もつて地上神人の根本的に革正するの時機を待たせ給ふのである。されど御腹の内に充ち満ちたる神の涙と慨歎の吐息は、もはや包むに由なく、少しの感激にも一時に勃発破裂の危機に瀕しつつあつた。アヽ宇宙の天地間は、実に危機一髪の境に時々刻々に迫りつつある。 大神は多年の忍耐に忍耐を重ね給ひしより、その御煩慮の息は、鼻口よりかすかに洩れて大彗星となり、無限の大宇宙間に放出されたのである。一息ごとに一個の大彗星となつて現はれ、瞬くうちに宇宙間に数十万の彗星は、宇宙の各所に現はれ、漸次その光は稀薄となつて宇宙に消滅した。 されどその邪気なる瓦斯体は、宇宙間に飛散し、遂には鬱積して大宇宙に妖邪の空気を充満し、一切の生物はその健康を害し、生命を知らず識らずの間に短縮する事となつた。ゆゑに古来の神人は、短くとも数千年の天寿を保ち、長きは数十万年の寿命を保ちしもの、漸次短縮して今は天地経綸の司宰者たる最高動物の人間さへも、僅かに百年の寿命を保し難き惨状を来すことになつた。 アヽ無量寿を保ち、無限に至治泰平を楽しむ五六七出現の聖代は、何時の日か来るであらう。吾人は霊界における大神の御神慮と、その仁恵を洞察し奉る時は、実に万斛の涙のただよふを感ぜざるを得ない。 神諭に、 『恋し恋しと松世は来いで、末法の世が来て門に立つ』 と述懐されたる大国治立尊の御聖慮を深く考へねばならぬ。 (大正一一・一・一一旧大正一〇・一二・一四外山豊二録) |
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霊界物語 | 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 | 40 紅葉山 | 第四〇章紅葉山〔二四〇〕 露の弾霜の劔を幾たびか、受けて血潮に染むる紅葉の、丹き心を照らしつつ、錦の機のこの経綸、織りなす糸の小田巻や、真木の柱のいと高く、高天原の神国に、築き上げむと神人の、四方に心を配りつつ、苦しき悩みを物とせず、沐雨櫛風数かさね、草の枕の悲しげに、天津御空の月星を、褥に着つつ進みくる。心も丹き紅葉山の、紅葉の大樹のその下に、腰うち掛けて宣伝の、神の姿の殊勝にも、彼方こなたの山の色、日々に褪せ行く有様を、見る目も憂しと青息や、吐息を月の大神に、祈る心の真澄空、忽ち吹きくる木枯しの、風に薄衣の身体を、慄はせながら又もや起つて出でて行く。行くはいづくぞモスコーの、都をさしてさし上る、東の山の端出る月の、影も円かなその身魂、月照彦の宣伝使、春日の姫の生れたる、道貫彦の神館、息急き切つて進みける。 折から降りしく村雨に、草鞋脚袢に身をかため、菅の小笠や草の蓑、この世の末をはかなみて、涙の雨の古布子、袖ふりあうも多生の縁、つまづく石も縁のはし。 走つて馳け来る三柱の神人は、この宣伝使の謡ふ宣伝歌に引きつけられ、たちまち前に現はれて、大地に頭を下げながら、 『貴下は地中海の西南岸にて御目にかかりし月照彦神にましまさずや、吾らはそのとき天地の神の懲戒を受け、道踏み外す躄の、旅に徜徉ふ折からに、天地も動ぐ言霊の、三千世界の梅の花、一度に開くと言挙げし、東を指して御姿を、隠したまひし現し神、吾らは御後を伏し拝み、その再会を待つほどに、天の時節の到来か、思はずここに廻り会ひ尊顔を拝するは、盲亀の浮木、浮木はまだおろか、枯木に花の咲きしが如く感きはまりて言の葉の、散り布く紅葉顔あからめて、耻を忍びつつ出で迎へ申したり。わが父道貫彦は幸にして今に健全に月日を送り候へど、素より頑迷不霊にして、天教山に現はれし神の教をうはの空、空吹く風と聞き流し、塞がる耳は木耳の、気苦労おほき吾らが夫婦、いかに教示を諭すとも、ただ一言も聞かばこそ、日に夜に荒ぶ酒の魔の、擒となりし両親の、心浅まし常暗の、岩戸を開き救はむと、朝な夕なに身を尽くし、心を竭し諫むれど、馬耳東風の浅ましさ、鳥は歌へど花は咲けども吾心、父の心を直さむと、暗路を辿る憐れさを、推し測られて一言の、教示を頼み奉る』 と涙と共に嘆願したりける。 モスコーの奥殿には、道貫彦あまたの侍者と共に、八尋殿において大酒宴の真最中である。神人らは一統に声を揃へて、 『飲めよ騒げよ一寸先や暗よ 暗のあとには月が出る 暗のあとには月が出る』 とさうざうしく謡ひ狂ふ声は、殿外に遠く響き渡りける。 たちまち道貫彦は顔色蒼白と変じ、座上に卒倒した。数多の神人の酔は一時に醒め、上を下への大騒ぎとなつた。道貫姫は大いに驚き、鷹住別は何処ぞ?春日姫……と、狂気の如くに叫び狂ふ。 神人らは二神司の所在を探さむと、鵜の目鷹の目になつて、城内くまなく駆け廻つた。されど何の影もない。 このとき城門外にどやどやと数多の神人の囁く声が聞えた。そして三柱の怪しき宣伝使は、涼しき声を張りあげて、 『飲めよ騒げよ一寸先や暗よ暗のあとには月が出る 月が出るとは何事ぞ月は月ぢやがまごつきよ 息つきばつたり力つき今に命もつきの空 空行く雲を眺むれば東や西や北南 酔うた揚句は息つきの道貫彦の憐れなる 最後を見るは眼のあたり冥加につきし今日の月 曇る心は烏羽玉の暗路を照す月照彦の 神の命の宣伝使月は御空に鷹住別や 長閑な春の春日姫命の瀬戸を救はむと 心一つの一つ島神の鎮まる一つ松 堅磐常磐の神の法法を違へし天罰の 報いは忽ちモスコーの道貫彦の身の果か 果しなき世に永らへて果なき夢を結びつつ 心の糸の縺れ合ひ乱れに乱れし奇魂 照れよ照れてれ朝日の如く澄めよ澄めすめ月照彦の 神の教に目を覚まし再び息を吹き返し 救ひの司と現はれよ救ひの司と現はれよ』 と門前に佇み、数多の神人に囲まれて大音声に呼ばはつてゐる。 この声は胸を刺すが如く道貫姫の耳に入つた。姫は従臣に命じ、三柱の神司を招いて奥殿に進ましめた。 三柱の神司は簑笠のまま遠慮会釈もなく奥殿に進み入り、又もや三千世界の宣伝歌を謡ひ、手を拍つて踊り始めた。 息も絶えだえに卒倒しゐたる道貫彦は、俄然として起ち上り、両手を拍ち踊り始めた。神人はあまりの不思議さに、アフンとして開いた口も塞がらなかつた。 三柱の神司は目配せしながら、身に纏へる簑笠を脱ぎ捨て、宴席の中央に三つ巴となつて鼎立した。見れば大八洲彦命初め鷹住別、春日姫の三柱である。 是よりさしも頑迷なりし道貫彦も前非を悔い、月照彦神の教示に従ひ、顕要の地位を捨てて、月照彦神の従者となり、天下救済のために諸方を遍歴する事となりたり。 (大正一一・一・一三旧大正一〇・一二・一六井上留五郎録) |
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霊界物語 | 07_午_日の出神のアフリカ物語 | 19 無心の船 | 第一九章無心の船〔三一九〕 船は纜を解いて、国治立大神の御冠になりませる竜宮島に向つて進み行く。暗礁点綴の間、何時船を打破るかも知れぬ難海路なり。日の出神は海上の無事を沫那芸沫那美の二神に祈りつつ、又もや宣伝歌を歌ひたまふ。 日の出神『国の御祖とあれませる国治立大神は 蓮華台上に現はれてその御冠をとりはづし 海原目がけて投げ給ふ御魂は凝りて一つ島 冠島となりにけり冠島は永遠に 鎮まりゐます豊玉姫の神の命や玉依姫の 貴の命の御恵みに御船も安く進み行け 荒浪猛る海原も闇より暗き世の中も 朝日夕日の照り映えて神の御魂の凝りて成る 天と地との大道の教を開く宣伝使 日の出神と現はれて恵を頭に冠嶋 天地をまつる祝姫辛き憂き世を面那芸の 神の御心に憐れみて常世の国に恙なく 渡らせ給へ天津神神伊弉諾の大御神 月の大神野立彦野立の姫やあら金の 土を守らす要の神浪路を守る綿津神 常世の闇を晴らせかし常世の闇を晴らせかし』 と、歌ひつつ進み行く。田依彦は、 田依彦『オイ、時彦、早く日の出神様にお詫をせぬか。「一生お酒は飲みませぬ。目出度い時に限つてお神酒を頂かして貰ひます」と言つて、お辞儀をせぬかい。芳彦貴様もその通りだぞ』 時彦『俺アもう雪隠の火事だ。やけくそだ。嬶アよりも飯よりも好きな酒を止めるなら、誰がこンな常世の国へ行くものかい。アヽ飲みたい飲みたい』 芳彦『時彦、貴様は如何しても改心できぬのかなア、困つたものだよ』 時彦『貴様も改心すると吐してから、一体何年になると思ふ。八尋殿の酒宴に、酔ひ潰れて、竹熊の計略に罹り、イの一番に玉を奪られて、それからと云ふものは、アヽ酒は慎まねばならぬ、俺は酒で縮尻つたと吐かして、毎日日日蒼い顔して、小さくなつてゐたのも、僅かに二月か三月、ソロソロ地金をほり出して、今の今まで酒を喰つてよい程酔うて、舌もロクに廻らぬやうになつた上に、俺は改心したもないものだ。また酔が醒ると、貴様の喉がヂリヂリと焼きついて、太い腹の中から結構な副守護神が飛び出して、「オイ芳彦、酒は飲みてもヨシ彦ぢや、規則は破つてもヨシ彦、飲めよ騒げよヨシ彦、一寸先あ暗でもヨシ彦、暗の後から月が出りや尚々ヨシ彦だ」と吐してな、勧めるのだろ。そこで貴様の喉は焼けるし、元から口汚い、口卑しい性来だから、何でもヨシヨシと吐かして又しても食ふのだ。今一寸のあひだ改心したつて、何にもなりやしない。改心するなら、万古末代変らぬやうに改心せい……俺らはそんな柔弱な事は嫌ひだ。一生涯酒だけは改心せぬ心算だよ』 田依彦『エヽ貴様たちは仕様のない奴らだナ。何でそンな辛い、えぐい物が好きなのだい。貴様も最前船客の言つてゐた雪隠の蟲か蓼喰ふ虫の仲間だナ』 時彦『オイオイ、よい加減にせぬか、日の出神様に聞えるぞ』 田依彦は大きな声を出して、 田依彦『聞えるやうに云ふのだ。如何しても止まぬか、ウラル彦の処へどうしても行きたいか』 と故意と大声に呶鳴り立てる。時彦と芳彦は両方の耳を閉いで縮こまりゐる。 田依彦『貴様は自分の耳を押へて何をするのだい』 時、芳『日の出神に聞えぬやうに、蓋してるのだい。貴様があまり大きな声を出すからナ』 田依彦『耳を蓋して鈴を盗むやうな馬鹿な真似をしたつて、日の出神さまの耳にはよく分つてるぞ。ソレソレこつちを今向いて恐い顔してゐらつしやる。綺麗、サツパリと改心すると吐せ』 この時、傍の船客のなかに幽かな声を搾つて、 船客『飲めよ騒げよ一寸先や暗よ暗の後には月が出る とかく此の世は色と酒酒が無ければ世の中は 面白可笑しく暮せない泣いて暮すも一生なら 笑つて暮すも一生ぢや一升徳利首に懸け 二生も三生も夫婦ぢやと誓うた女房も何のその お酒は私の女房ぢや酒より可愛妻あろか 酒より甘いものあろか酒を嫌ひと吐す奴 変チキチンの馬鹿者かこの世に生れて来た上は 酒と肴と心中して死ンで地獄へ落ちたとて 酒の嫌ひな鬼はない恐い鬼めに徳利を 見せてやつたらニーヤリと忽ち相好を崩すだろ この世もあの世も神の世も酒でなければ渡られぬ お神酒あがらぬ神はない酒を嫌ひと吐す奴 神には非で狼か顔色悪い貧乏神 シミタレ神の腐れ神日の出神とはそりや何ぢや 酒が無くては日が照らぬ肴無くては夜が明けぬ ドツコイシヨのドツコイシヨドツコイシヨのドツコイシヨ トツクリ思案をして見れよさした盃やクルクル廻る 廻る浮世は色と酒ドツコイシヨのドツコイシヨ』 と、小声に歌ひ出したるものあり。 時彦、芳彦は耐らなくなり、情なささうな声を出して、 時、芳『あゝア、酒は止めなら止めもしよ飲まぬとおけなら飲みもせぬ それでも天地の神さまはお神酒あがるが俺ア不思議 酒を飲むのが悪いなら俺はこれからサツパリと 改心いたして神酒を飲む改心いたして神酒を飲む』 と調子に乗つて歌ひ始め、踊り狂ふ。 田依彦は眼を丸くし、又もや鉄拳を振つてポンポンと続け打ちに二人の横面をイヤといふほど喰はしける。 無心の船はこの囁きを乗せてドンドンと竜宮島指して進み行く。 (大正一一・一・三一旧一・四桜井重雄録) |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 17 甦生 | 第一七章甦生〔四一〇〕 駒山彦は唯一人、闇の谷間に残されて稍決心の臍も固まり初めたり。暗中に何神の声とも知らず、五十音歌聞え来る。 声『あたまの上から足の裏いつも心を配りつつ うかうか暮すな世の人よえい耀栄華の夢醒まし おのおの業を励めよやかみの恵みは天地に きらめき渡り澄み渡りくまなく光り照すなり けしき賤しき曲道にこころの玉を穢すなよ さん五の月の大神がしきます島の八十島は すみずみ迄も照り渡るせ界一度に開くなる そのの白梅薫るなりたか天原に現はれて ち機百機織りなせるつきの御神や棚機の てる衣、和衣、荒衣のとばりを上げて天津神 な落の底まで救ふなりにしや東や北南 ぬば玉の夜は暗くともね底の国は暗くとも のぞみは深き神の道はな咲く春の弥生空 ひかり輝く皇神のふみてし道を漸々と へに来し神の分霊ほろびの道を踏み変へて まことの道に進み行くみちは二条善と悪 むかしも今も変りなきめ出度き神の太祝詞に ももの罪咎消えて行くやまと島根に何時までも いや栄え行く桃の花ゆ津玉椿の色紅く えだ葉も茂り蔓りてよを永久に守るなり わが高砂の神島はいづの霊や瑞霊 うべなひまして麗しき神の依さしの宝島 ゑだ葉も茂る老松のをさまる御代ぞ目出度けれ この神国に渡りきて心卑しき宣伝使 三五教を開くとは愚なりける次第ぞや 愚なりける次第ぞや』 駒山彦はこの谷間に百日の行をなし、心魂清まつて茲に羽山津見神となり、身体も健に、声も涼しく宣伝歌を歌ひつつ、カルの都をさして嶮しき山を越え谷を渉り、暑さと戦ひ、飢を凌ぎながら進み行く。 駒山彦『智利の御国の奥山の深き谷間につれ行かれ 百千万の苦しみを嘗めさせられて様々の 神の戒め言霊の教を聞きて身は光る 心も光る智利の国身霊にかかる村雲も 吹き払はれて夏の夜の洗ふが如き月影に 照らされ進む嬉しさよ月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも智利の深山の山奥の 深き谷間に洗ひたる吾霊魂は永久に 千代も八千代も曇らまじ黒雲四方に塞がりて 世は常暗となるとても駒山彦の真心に 常久に澄みぬる月影は光り眩ゆく惟神 道は三千三百里三五の月に照されて 心は光る真寸鏡摂取不捨の真心の 剣を右手に執り持ちて左手に神の太祝詞 宣るも尊き神の道横さの道を歩むなる 体主霊従の身魂を言向けて常世の闇を照らしつつ 心も足もカルの国霊魂の光る目の国や ロッキー山を踏み越えて醜女探女の猛ぶなる 黄泉の島に打ち渡り神伊邪那岐の大神の 尊き御業に仕ふべし奇しき御業に仕ふべし この世を造りし神直日心も広き大直日 直日の神の御恵に身魂も清く照り渡る 神の経綸ぞ尊けれ神の御稜威ぞ尊けれ』 と昼夜の区別なく、数多の国人に神の教を伝へつつカルの国を指して進み行く。 (大正一一・二・一四旧一・一八北村隆光録) |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 21 志芸山祇 | 第二一章志芸山祇〔四一四〕 七日七夜の月日を浴びて、折からの南風は真帆にアタルの港に着き見れば、正に月照十三夜、海中に身を投げたる熊公、虎公の二人は埠頭に立ち、松代姫の一行を嬉しげに迎へて居る。船客は二人の顔を見て、 船客『ヤアヤア、ヨウヨウ』 と驚きの声を放つにぞ、虎公は船客一同に向ひ、 虎公『皆さま、私は罪の深い、この高砂島に鬼の虎公と綽名を取つた悪人でございます。天網恢々疎にして漏らさず、三笠丸の船中において今此処にまします三人の娘の下人を佯り沢山の金を騙り取つて逃げ去りました。この広い高砂の島は人も多く、再びこの方に会はうとは思ひませぬでしたのに、怖ろしや誑した人と同じアタル丸に乗り合せ、暗夜とて些しも心づかず、吾顔の見えぬを幸ひ、酒の微酔機嫌で知らず知らずに毒を吐かされました。時しも、麗しき松代姫様の御声として誡めの宣伝歌を聞かされた時は、穴にでも這入りたいやうな心地が致しました。十三夜のお月様は、雲間を分けて私の顔をお照し遊ばしたその時の怖ろしさ。忽ちわが友の熊公に大蛇彦とやらが神懸りし給ひ、皆様の知らるる通り、私の旧悪をすつかり摘発かれ、立つても居ても居られなくなつて、今まで犯せし罪の恐ろしさに、心密かに月の大神様に向つて懺悔を致し、堪り兼ねて千尋の海の藻屑となり、罪を贖はむと覚悟を決めて渦まく浪に飛び込みました。この時何処ともなく巨大な亀が現はれて、罪重き私を救うて呉れました。又もやざんぶと身投げの音、何人なるかと月の光にすかして見れば、豈図らむや、親しき友の熊公で、又もやこの亀に救はれたのです。さうして熊公は又もや神懸となり、亀の背にて日に夜に尊き教訓を与えて呉れました。吾々のやうな利己主義の人間が、どうして神の御心に叶ひませう。却つてこの世の汚れとなるから、どうぞ死なして下さいと、又もや海中に身を躍らして飛び込まむとする時、熊公は神懸のままに、私の首筋を掴んで亀の背中に捻伏せ「こら虎公、汝はすでに救はれた、汝の刹那の祈りは真剣だつた。天地神明に感応した。今の汝は今までの悪逆無道の虎公でない、この世を清むる明礬の様なものだ。百石の濁り水も、一握りの明礬を投ずれば清水となる。神の栄光に浴した汝は、これより悪魔の猛り狂ふ泥水の世を、塩となり明礬となつて清めよ、澄ませよ、すべての物に味を与へよ」と厳しく教訓されました末、忝なくも「汝はこれより志芸山津見命と名を賜ふ。カルの国に到つて宣伝使となれ」と、思ひがけなき有難きお言葉を頂き、夢かとばかり吾心で吾身を疑はざるを得なかつたのです。さうして何時の間にか、亀の背中に救はれた吾々二人は、アタル丸に先立つて、無事にこの港に到着して居ました。されど身体は石の如く、首より下はこの通り強直して、身体の自由を失つて居ります。どうか三人の宣伝使様、照彦様、この私の深き罪を許して下さいませ。また船の諸人たちよ、私の改心を鑑として真心に立ち帰り、心から神に祈りを捧げて下さい、幸ひ宣伝使がおいでなされば、神言を教はつて、朝な夕なに神を讃美し、誠の心に立ち帰つて祈願をなされませ』 と諄々として自分の来歴を述べ、かつ改心の尊き事を告げ終るや否や、虎公の身体は霊縛を解かれて再び自由の身となりぬ。数多の船客はこの話の終ると共に先を争うて上陸し、行くゆく神徳話に耽り居たり。 (大正一一・二・一五旧一・一九加藤明子録) |
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霊界物語 | 10_酉_黄泉比良坂の戦い | 27 言霊解一 | 第二七章言霊解一〔四五七〕 皇典美曽岐の段 『是を以て伊邪那岐大神宣り玉はく』 『是を以て』とは前の「黄泉大神と事戸を渡し玉ひ」云々の御本文を受けて謂へる言葉であります。 イザナギの命の御名義は、大本言霊即ち体より解釈する時は、イは気なり、ザは誘ふなり、ナは双ことなり、ギは火にして即ち日の神、陽神なり。イザナミのミは水にして陰神なり、所謂気誘双神と云ふ御名であつて、天地の陰陽双びて運り、人の息双びて出入の呼吸をなす、故に呼吸は両神在すの宮である。息胞衣の内に初めて吹くを号けて天浮橋と云ふ。その意義はアは自らと曰ふこと、メは回ることである。ウキはウキ、ウクと活用き、ハシはハシ、ハスと活用く詞である。ウは水にして㎞也。ハは水にして横をなす、即ち㎎である。水火自然に廻り、浮発して縦横を為すを天浮橋と云ふ。大本神諭に『此の大本は世界の大橋、この橋渡らねば世界の事は判らぬぞよ。経と緯との守護で世を開くぞよ。日の大神月の神様は、此世の御先祖様であるぞよ』とあるは此の意味に外ならぬのであります。 天地及び人間の初めて気を発く、之を二神天浮橋に立ちてと云ふのである。孕みて胎内に初めて動くは、天浮橋であり綾の大橋である。是の如く天地の気吹き吹き、人の息吹き吹きて、其末濡りて露の如き玉を為す、是れ塩累積成る島である。水火はシホであり、シマのシは水なり、マは円かと云ふ事で、水火累積て水円を成し、息の濡をなす、その息自づと凝り固まる、之を淤能碁呂嶋と云ふのである。要するに伊邪那岐、伊邪那美二神は、地球を修理固成し、以て生成化々止まざるの御神徳を保有し、且之を発揮し、万有の根元を生み玉ふ大神である。併し一旦黄泉国の神と降らせ玉へる時の伊邪那美の大神は、終に一日に千人を殺さむ、と申し玉ふに立到つたのであります。更に日本言霊学の用より二神の神名を解釈すれば、伊邪那岐命は万有の基礎となり土台となり、大金剛力を発揮して修理固成の神業を成就し、天津神の心を奉体して大地を保ち、万能万徳兼備し⦿の根元を定め、永遠無窮に活き徹し、天津御祖の真となり、善道に誘ふ火水様である。次に伊邪那美命は、三元を統べ体の根元を為し、身体地球の基台となり玉となりて暗黒界を照し玉ふ、太陰の活用ある神様であつて、月の大神様であり、瑞の御霊である。斯の如き尊貴円満仁慈の神も、黄泉国に神去ります時は、やむを得ずして体主霊従の神と化生し給ふのである。此処には御本文により男神のみの御活動と解釈し奉るのであります。 『吾は厭醜悪穢国に到りて在りけり』 アの言霊は天也、海也、自然也、○也、七十五声の総名也、無にして有也、空中の水霊也。これを以て考ふれば、吾とは宇宙万有一切の代名詞である。この宇宙万有一切の上に醜悪汚穢充満して、実に黄泉国の状態に立到つたと曰ふ事である。現代は実に天も地も其他一切の事物は皆イナシコメシコメキキタナキ国と成り果てて居るのである。政治も外交も教育も実業も道義も皆悉く廃れて、神の守り玉ふてふ天地なるを疑ふばかりになつて来て居るのであります。 『故に吾は御身の祓為なと詔りたまひて、筑紫の日向の立花の小門の阿波岐原に到りまして美曽岐祓ひたまひき』 大々的宇宙及び国家の修祓を断行せむと詔りたまうたのである。御神諭に、『三千世界の大洗濯、大掃除を天の御三体の大神の御命令に依りて、艮の金神が立替立直しを致す世になりたぞよ』と示されたるは、即ち美曽岐の大神事であります。 ツは実相真如決断力也、照応力也。 クは暗の交代也、三大暦の本元也、深奥の極也。 シは世の現在也、皇国の北極也、天橋立也。 ノは天賦の儘也、産霊子也、無障也。 ヒは顕幽貫徹也、無狂也、本末一貫也。 ムは押し定む也、国の億兆を成す也、真身の結也。 カは晴れ見る也、際立ち変る也、光り暉く也。 ノは続く言也。 タは対照力也、平均力也、足り余る也。 チは溢れ極まる也、造化に伴ふ也、親の位也。 ハは太陽の材料也、天体を保つ也、春也。 ナは火水也、真空の全体也、成り調ふ也、水素の全体也。 アは大本初頭也、大母公也、円象入眼也。 ハは延び開く也、天の色也、歯也、葉也。 ギは霊魂の本相也、天津御祖の真也、循環無端也。 ハは切断力也、フアの結也、辺際を見る也。 ラは高皇産霊也、本末打合ふ也、無量寿の基也。 以上の言霊を約むる時は、筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原は、実相真如の顕彰にして一切の事物を照応し、決断力を具有して、暗黒界を照変し、神政を樹立し、御倉棚の神なる宇宙経綸の三大暦即ち恒天暦、太陽暦、太陰暦の大本元を極めて、深甚玄妙の極を闡明し、現在の世を済する為に天橋立なる皇国の北極に天賦自然の産霊子を生成化育して、障壁なく狂ひなく顕幽貫徹、本末一貫、以て万象を押定め、真身の結に依りて国の億兆を悉皆完成し、光輝以て神徳を発揚し、青天白日の瑞祥を照して、宇宙一切の大変革を最も迅速に敢行し給ひ、上下一致、顕幽一本、平均力を以て、善悪美醜清濁を対照し、全智全能にして、親たるの位を保ち、溢れ極まる霊力を以て造化に伴ひ、太陽に等しき稜威を顕彰して天体を保有し、春の長閑なる松の代を改立し、真空の全体たる霊魂球を涵養し、水素の本元たる月の本能を照して、宇宙一切を完成調理し、万有を結びて一と成し、天地を祭り人道を守り、国家を平けく安らけく治め幸はひ、男性的機能を発揮し、大仁大慈の神心を照し、造化の機関たる位を保ち、元の美はしき神世に突き戻し、円象入眼、総ての霊と体に生命眼目を与へ、大母公として世の大本となり、初頭と現はれ、無限に延び無極に開き、蒼天の色の如く清く、且つ高く広く、生成化育の徳を上下の末葉に及ぼし、天津御祖神の真を体得し、循環極まりなく、各自霊魂の本相を研ぎ尽し、妖邪を切断し世の辺際を見極め、言霊力を以て破邪顕正し、本末相対して世を清め洗ひ、一切無量寿たるの根基を達成すべき霊系高皇産霊の神業を大成する霊場と曰ふことである。現代の世に於て、斯の如き霊場たる神界の経綸地が、果して日本国に存在するであらう乎。若し存在せりとせば、其地点は何国の何れの方面であらう乎、大本人と云はず、日本人と云はず、世界の人類は、急ぎ探究すべき問題であらうと思ふのであります。 次に美曽岐の言霊を解釈すれば、 ミは水也、太陰也、充也、実也、道也、玉と成る也。 ソは風の種也、身の衣服也、⦿を包裏居る也。 ギは活貫く也、白く成る也、色を失ふ也、万に渡る也。 要するに、所在汚穢を清め塵埃を払ひ、風と水との霊徳を発揮して、清浄無垢の神世を玉成し、虚栄虚飾を去り、万事に亘りて充実し、活気凛々たる神威を顕彰し、金甌無欠の神政を施行して、宇内一点の妖邪を留めざる大修祓の大神事を云ふのである。現代の趨勢は、世界一般に美曽岐の大神事を厳修すべき時運に遭遇せる事を忘れては成らぬ。大本の目的も亦、この天下の美曽岐を断行するに在るのであります。 『故投棄つる御杖に成りませる神の御名は衝立船戸神』 御杖の言霊、ツは大金剛力決断力で玉の蔵であり、ヱは中腹に成就し行き進み玉を保つことであつて、即ち神の御力添へをする役目であります。然るに神は、この杖までも投げ棄て玉うたと云ふことは、よくも汚れたものであります。現代で曰へば大政を補弼する大官のことであります。 衝立船戸神の名義は、上と下との中に衝立ち遮り、下情を上に達せしめず、上の意を下に知らしめざる近親の神と云ふことである。現代は何事にも総てこの神様が遮り玉ふ世の中であります。杖とも柱とも成るべき守護神が、却て力に成らず邪魔になると曰ふので、伊邪那岐大神は、第一着に御杖を投げ棄て賜うたのであります。 『次に投棄つる御帯に成りませる神の御名は道の長乳歯の神』 御帯の言霊は、オは霊魂、精神を治め修むることで、亦神人合一の連結帯である。ビは光華明彩、照徹六合の意である。即ち顕界の政を為すに当りては、必ず精神的に天地人道を説き諭し、以て億兆をして帰依せしめ、顕界の政治に悦服帰順せしめねば成らぬのである。是が所謂神の御帯であります。神は此御帯も穢れて使へなく成つたから投げ棄て玉うたのであります。 道の長乳歯の意義は、天理人道を説く宗教家、教育家、倫理学者、敬神尊皇愛国を唱ふる神道家、皇道宣伝者、演説説教家等の大家と曰ふ事である。この帯を投棄て給ふと云ふ事は、総ての教育、宗教、倫理の学説を根本より革正し給ふと曰ふ事であります。 (大正九・一・一五講演筆録谷村真友) |
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霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 22 一島攻撃 | 第二二章一島攻撃〔五一八〕 大空に雲立ち塞ぎ海原に霧立ち籠めて四方の国 神の恵の露もなく山川草木泣き干して 黒白も分かぬ暗の夜を今や照さむ瀬戸の海 百の神たち百人を松の神代の末長く 救はむために素盞嗚の神の御言を畏みて 思ひは積る深雪姫解くるよしなき真心の 誠一つの一つ島熱き涙の多気理姫 コーカス山に現れませる十握の剣の威徳にて 雲霧四方に切り払ひ醜の曲津を除かむと 高杉別の籠りたるこの神島に宮柱 太敷立てて世を偲ぶ瑞霊の深雪姫 吹き来る風も腥く人馬の音は絶間なく 矢叫びの声鬨の声世は騒がしく群鳥の 群れ立つばかり沖つ鳥沖の鴎の声さへも いと佗しげに聞ゆなりここは名に負ふサルジニヤ 神の守りもアルプスの鋼、鉄取り出でて 百の兵器造りつつ珍の御魂と仕へたる 心も猛き兵士は雲の如くに集まれり。 コーカス山の珍の宮に、御巫子として仕へたる、月雪花の姉妹の一人、深雪姫は、尚武勇健の気質に富み、十握の剣の威徳に感じて、アルプス山の鋼鉄を掘出し、種々の武器を造り備へて、国家鎮護の神業に奉仕せむと、天下の英雄豪傑を此島に集め、悪魔征討の準備に備へつつあつた。 宮殿の屋根は千木、勝男木を高く、千木の先は鋭利なる両刃の剣を以て造り、勝男木もまた両端を剣の如く尖らせ、館の周囲には剣の垣を繞らし、曲津の侵入を許さず用心堅固の金城鉄壁なりける。 武勇の神は先を争うてこの一つ島に集まり来り、天下の邪神を掃蕩し、遍く神人を安堵せしめむと昼夜間断なく武術の稽古に余念なく、剣戟射御に勤む声は瀬戸の海を越えて、遠く天教山に鎮まります撞の御柱の神、天照大神の御許にも、手に取るが如く轟き渡りぬ。 天照大御神は、善言美詞をもつて世の曲業を、見直し聞き直し詔り直すべき天地惟神の大道を無視して、殺伐なる武器を造り武芸を励むは弟神素盞嗚命の高天原を占領せむとする、汚き心のあるならむと、内心日夜不快の念に駆られ給ひつつあらせられた。 四五の勇士は武術の稽古を終り、眺望よき一つ島の山巓に登り、諸々の木実を漁り、瓢の酒を傾けながら雑談に耽り居る。 甲『我々はかうして昼夜の区別なく太刀打の稽古、槍の稽古に体も骨もグダグダになつて仕舞つた。太刀と槍との稽古が済めば、また弓の稽古、馬乗りの稽古をと強られるのだ。敵も無いのに此離島で、これだけ武芸を励まされるのは何のためだらう』 乙『平和の時に武を練るのが武術の奥義だ。サア戦争が勃発したからと云つて、俄に慌てたところが、何の役にも立たない。武士は国を護るものだ。常から武術の鍛練が必要だから、それで日々稽古をさせられるのだよ』 丙『かう毎日日日空は曇り、地は霧とも靄とも知れぬ物が立ち籠めて、一間先が碌々見えぬやうになつて来たのだから、此世の中が物騒で、安心して暮されぬやうになつたので、各自護身のために、大慈大悲の神様が武術を奨励なさるのだよ』 甲『三五教の教には……神は言霊をもつて言向け和すのであるから、武器をもつて征伐を行つたり、侵略したり、他の国を併呑するやうな体主霊従的の教でない。道義的に世界を統一するのだ……と仰せられて居るではないか、何を苦しむで武備を整へ、平地に浪を起すやうな事をなさるのだらう。まるでウラル教のやうぢやないか』 乙『さうだなア、三五教の教理とは名実相反して居るやり方だ。大声では言はれぬが、これや何でも深雪姫の神様に八岐の大蛇か、鬼が憑いて為せるのだらうよ』 丙『実際それだつたら我々は実に約らぬものだ。一生懸命骨身を砕くやうな辛い稽古をさせられて、天則違反の大罪を重ねるやうでは約らぬじやないか』 丁『神様が武を練り、数多の武器を蓄へ給ふのは変事に際して天下万民を救うためだよ。大慈大悲の神様が何しに好むで殺伐な修業を遊ばすものかい。悪魔は剣の威徳に恐れ、武術の徳によつて心を改め、善道に帰順するものだ。如何に善言美詞の言霊と雖も、曇り切つたる悪神の耳には入るものでない、そこで神様が大慈大悲心を発揮して、眼にものを見せて、改心させると云ふお経綸だ。素盞嗚命様は一寸見たところでは、実に恐ろしい、猛しい戦好きの神様のやうだが、決して殺伐な事はお好みにはならぬ。それ故に此世に愛想を尽かして、円満具足温和なる月の大神の世界へ帰り度いと云つて、日夜御歎き遊ばし、慈愛の涙に暮れて居られると、そこへ御父神が天よりお降りになつて、お前のやうな気の弱い事ではどうして此世が治まるか、勇気絶倫の汝を選むで、悪魔の蔓る海原の国を修理固成せよと命令を下してあるに、その女々しいやり方は怪しからぬ、と云つて大変に御立腹遊ばしたので、素盞嗚命様は、姉君の天照大神にお暇乞のために、高天原にお上りになつたと云ふ事だ。其御魂を受け継いだる珍の御子深雪姫様は、尚武勇健なる女神に在す故にまさかの時の用意に武を練つて居らるるのであらうよ。武術は決して折伏のためではない、摂受のためだ。悪魔を払ひ万民を救ふ真心から出でさせられた御神策に違ひないワ』 甲『お前はよく詳しい事を知つて居るなア、一体何処から来たのだ。此道場へ来てから未だ間もないに、武術は中々立派なものだなア』 丁『俺か、俺は元は百姓だ。御年村の虎公と云ふ男だよ』 甲『ヤア、お前があの名高い自称艮の金神だな、道理で大きな男だと思つたよ』 虎公『アア、確に夫とは分らぬが、何だか館は騒動がおつ始まつたやうだ。サア皆の連中、愚図々々しては居れない。早く館へ駆けつけよう』 と虎さまを先頭に一同は丘を下り、館を指して一散走りに駆けり行く。 (大正一一・三・一一旧二・一三加藤明子録) |
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霊界物語 | 18_巳_丹波物語3 玉照姫の誕生 | 04 四尾山 | 第四章四尾山〔六三二〕 天と地との神の水火うまらにつばらに大八洲 天の沼矛の一雫自転倒島の真秀良場や 青垣山を繞らせる下津岩根の貴の苑 此世を治むる丸山の神の稜威は世継王山 力隠して桶伏の丸き姿の神の丘 黄金の玉の隠されし貴の聖地の永久に 動かぬ御代の神柱国武彦の常永に 鎮まりまして天翔り国かけります神力を 潜めて茲に弥仙山木の花姫の生御魂 埴安彦や埴安姫の神の命の建てましし 神の都の何時しかに開けて栄ゆる梅の花 薫り床しき松の世の弥勒の御代に老松の 茂る川辺や小雲川清き流れの底深く 四方の神々人々の霊魂を洗ふ白瀬川 神の仕組に由良のほまれを流す生田川 イクタの悩み凌ぎつつ神素盞嗚大神は 天と地との神柱堅磐常磐に建て給ふ 暗を晴らして英子姫万代寿ぐ亀彦が 鶴の巣籠る松ケ枝に千代の礎固めつつ 此世を紊す曲津神鬼雲彦を言向けて 四方に塞がる叢雲を神の伊吹に吹払ひ 清めにや山家の肥後の橋神子坂橋の手前まで スタスタ来る宣伝使朧にかかる月影を 透して向ふを眺むれば虫が知らすか何となく 心にかかる春霞シカと見えねど陽炎の 瞬く間もなく宣伝歌耳さす如く聞え来る ツと立止まり道の辺に様子窺ふ折もあれ 夜目にシカとは分らねどどこやら気分が悦子姫 床しき影とおとなへば案にたがはぬ麻柱の 神の司の悦子姫川瀬も響く音彦や まだシーズンは来らねど名は夏彦や加米彦の 随従の影は四人連れ情無き浮世に揉まれたる 心の底のつれづれを徒然草を褥とし 互にあかす物語神徳照らす一イ二ウ三四 五の御霊の六人連れ七度八度九十 百度千度万度亀と加米との呼吸合せ 顕幽二界に出没し五六七の御代を来すまで 心の帯を堅く締め尽くさにや山家の道の辺に 深き思ひを残しつつ東と西へ別れ路の 積る願ひの山坂をさらばさらばの声共に 別れ行くこそ雄々しけれ悦子の姫はスタスタと 三人の益良夫伴ひて胸突坂を辿りつつ 心の空に浮かぶ雲英子の姫の御言葉 由縁ありげに味はひつ霞を辿る心地して いと勇ましくかけて行く山の老樹は大空を 封じて月日を隠しつつ深き仕組を包むなる 躑躅の花のここかしこ胸もいろいろ乱れ咲く 咲耶の姫を祀りたる木の花匂ふ神の山 恵も高き須弥仙の山の麓に来て見れば アヽ天国か楽園か山と山とに挟まれし 青麦畑菜種花紫雲英の花も咲きみちて 心持よき花むしろ蝶舞ひ遊ぶ神苑に 心も赤き丹頂の鶴の下りたる如くなる 景色眺めて賤の屋の細き煙も豊彦が 雪を欺く白髯を折柄吹き来る春風に いぢらせ乍らコツコツとあかざの杖にすがりつつ 神の使ひか真人かやつれし人に似もやらず 威風備はる翁どの頼むとかけし言の葉の 刹那の風に煽られて心もそよぐ悦子姫 神にひかるる思ひにて伏屋の前に来て見れば 三月三日の菱餅に擬ふべらなる門の戸に 驚き乍ら何気なう表戸開く音彦が 悦子の姫を伴なひてしけこき小屋の上り口 休らふ折しも老夫婦蝶よ花よと育みし 生命と頼む掌中の娘のお玉が病気の 心にかかる物語うまらにつばらに宣りつれば 慈愛の権化の悦子姫真玉手玉手さし延べて 娘のお玉を撫でさすり首を傾けとつおいつ 老の夫婦に打向ひ豊彦豊姫お玉さま 必ず心配遊ばすな一生癒らぬ脹れ病 生命にかかる気遣ひはないた涙を晴らしませ 厳の御霊の大神が五六七の御代の礎と 神の水火をば固めましお玉の方の体を藉り 三つの御霊の睦み合ひ宿りましたる神の御子 人の呼吸にて固めたる曇りの多き魂でない 水晶玉のミツ御霊厳の御霊を兼ねませる 三五の月の大神の教を守る神人の 今日は嬉しき誕生日黒白も分かぬ暗の夜も 愈開き春の空アヽ惟神々々 御霊幸はひましませと祈る折しも忽ちに ホギヤアホギヤアと産の声爺と姿アは云ふも更 おつたま消たるお玉まで妊娠がしてから十八月 神の恵に恙なく生み落したる音彦や 万代祝ふ加米彦が手の舞足の踏む所 知らぬ許りに雀躍し芽出度い芽出度いお芽出たい 千代に八千代に伊勢蝦の曲つた腰の夏彦が 百の齢を重ねつつピンピンシヤンと跳ねまはる 此瑞祥のミツ御霊悦子の姫の計らひに 玉照姫と命名し述ぶる挨拶そこそこに 口籠りたる涙声涙の雨を凌ぎつつ 門口出づる四つの笠四ツつの杖は地を叩き 春の霞に包まれて笠は空中に揺ぎ行く 夜は烏羽玉と暮れ果てて一夜を明かす森の中 鴉の声と諸共に又もや進む四つの杖 弥仙の山の絶頂に四足の草蛙に恙なく 七尺余りの身を乗せて神の御声を笠の内 厳の御前のいと清く鬼も大蛇もコンパスの 谷間を指して下り行く茲に四人の一行は 峰の嵐に送られて老木茂る谷路を 流れに沿ひて逸早く進み進みて檜山 神の恵の木の花も一度に開く梅迫や 道も直なる上杉の郷を後に味方原 深き仕組は白瀬川浪音高き音彦が 加米と夏とを伴なひて悦子の姫を守りつつ 綾の聖地に上り来る珍の御言を蒙りし 悦子の姫の胸の内うちあけかねし苦みは 神より外に世の人の計り知られぬ仕組なり アヽ惟神々々御霊幸はひましませよ。 悦子姫は、世継王山の麓に、神の大命を被りて、加米彦、夏彦、音彦に命じ、些やかなる家を作らしめ、ここに国治立命、豊国姫命の二神を鎮祭し、加米彦、夏彦をして之を守らしめ、自らは音彦を伴なひ、神素盞嗚大神の隠れ給ふ近江の竹生島に出立せむとする折しも、悦子姫の在処を尋ねて来る四人の男女、日は漸く西山に没れし黄昏時、門の戸を叩いて、 女『モシモシお尋ね申します。此お家は悦子姫様のお館では御座いませぬか』 と優しき女の声。 加米彦『ヤアどこやらで聞いた事の有る様な声だ……おい夏彦、表を開けて見よ』 夏彦『此木の生え茂つた山の裾の一軒家、薄暗くなつてから、女の声を出して尋ねて来るよな者は、どうせ本物であるまい……加米彦、御苦労だが開けて下さらぬか。私は又弥仙山の様な声がすると困るからなア』 加米彦『エー気の弱い男だなア。昼になるとビチビチはしやいで、夜になると悄気て了ふ加米彦……オツトドツコイ夏彦の様な男だなア』 夏彦『ハヽヽヽ、オイ加米彦、チツト勘定が違ひはしませぬか、ソンナ計算をやつて居ると、一年も経たずに破産の運命に陥り、身代限りの処分を受けますぞ』 加米彦『ナーニ、一寸神霊術に依つて、人格交換をやつたのだ。お前の肉体には加米彦が憑り、加米彦の肉体にはお前の霊が憑つて居るのだから、所謂、お前が戸を開けるのは畢竟加米彦が開けるのだ。……オイ加米彦の代表者、夏彦が命令する、……早く開けないか』 夏彦『エー何とかかとか言つて、責任を忌避する事ばつかり考へて居やがる。……アヽ仕方がない、ソンナラ准加米彦が戸を開けてやらうかい』 と小声に囁き乍ら、ガラリと開けた。 夏彦『ヤアあなたは紫姫様、……ヤア青彦さま、馬さま、鹿さま、久し振だ。サア這入つて下さい。……オイオイ夏彦の代理、紫姫様の御光来だ。悦子姫様に御取次を申さぬか』 加米彦『モウ人格変換だ。併し悦子姫様に申上げるのは、矢張加米彦の特権だ』 と一間に入り、 加米彦『モシモシ悦子姫さま、紫姫さま一行が見えました』 悦子姫『それは良い所へ来て下さつた。実は夜前から、一寸、神界の御用があるので、鎮魂をかけて置いたのです。青彦、馬公、鹿公さんも来ましたでせう』 加米彦『ヤアあなたは変な事を仰有いますネ』 悦子姫『天眼通、自他神通の妙法を以て、人の霊魂を自由自在に使うたのです、ホヽヽヽ』 加米彦『ヤアそンな事があなたに出来るとは、今迄思はなかつた。人は見掛に依らぬものですネー』 悦子姫『紫姫さまを一時も早く、私の居間へお連れ申して下さい』 加米彦『承知致しました』 と加米彦は、次の間に下り、 加米彦『アヽやつぱり女は女連れだ。モシモシ紫姫さま、悦子姫様が特別待遇を以てあなた一人に限り、拝謁を許すと仰せられます。どうぞ奥へお通り下さい』 紫姫『ハイ有難う御座います』 と奥の一間に姿を隠したり。 悦子姫『コレ音彦さま、加米彦さま、あなた暫く、妾の声の聞えぬ所に居て下さい。少し御相談がありますから……』 加米彦『女は曲者とはよく言つたものだ、ナア音彦さま、今迄は音彦々々と仰有つたが、紫姫さまがお出でになるが早いか、一寸相談があるから、聞えぬ所へ往て下さい……なンテ本当に馬鹿にされますなア』 音彦『何は兎も角、皆さま、暫く林の中へでも往つて、面白い話でも致しませう。何時吾々は斯うやつて居つても、悦子姫女王から、ドンナ御命令が下つて、何処へ出張を命ぜられるやら分つたものぢやない。今の内に一つゆつくりと、芝生の上で打解けて話を致しませうかい。青彦さま、馬さま、鹿さま、サア参りませう』 と音彦は先に立ち、半丁許り離れたる木下闇に、探り探り進み行く。 加米彦『アヽ暗い暗い、丸で弥仙山に野宿した時の様だ』 夏彦『キヤツキヤツ、ザアザア、ウンウン、バチバチ、ガラガラ……ガ、サアこれから幕開きと御座い』 加米彦『エーしやうもない事言ふな。言霊の幸はふ国だ。併し乍ら夏彦、貴様は紫姫さまに電波を、チヨイチヨイ送つて居るが、長持の蓋だ、片一方はアイても、片一方はアク気遣ひはないワ。モウ今日限り、執着心を棄てたが宜からうぞ』 夏彦『何を言ひよるのだ。蛙は口から、……それや貴様の事だよ』 加米彦『ナーニ、貴様の霊が俺の肉体に始終出入しよつて、ソンナ心を出しよるのだ。貴様の霊が憑依した時の恋の猛烈さ……と云つたら、九寸五分式だ、まだも違へば軋死式、首吊り式、暴風雨地震式の恋の雲が包ンで来よつて、暗澹咫尺を弁ぜずと云ふ……時々幕が下りるのだよ。もう良い加減に改心をして、俺の肉体を離れて呉れ。其代りに小豆飯を三升三合、油揚を三十三枚買つて、四辻まで送つてやる、斯れでモウさつぱりと諦めるのだよ』 夏彦『何を言やがるのだ。勝手な熱ばつかり吹きよつて、……弥仙山の極秘を、音彦さまの前で暴露しようか』 加米彦『どうなつと勝手にしたが宜いワい。大胆不敵の加米彦は梟鳥式だ。斯う云ふ暗夜になればなる程、元気旺盛となつて来るのだ。弥仙山に野宿した時は、貴様の副守護神が俺の肉体に憑依しよつて、臆病な態を見せたぢやないか。他人の事ぢやと思うて居れば、皆吾が事であるぞよ、改心なされ……』 夏彦『どこまでも厳重な鉄条網を張りよつて、攻撃する余地がなくなつた。まつ四角な顔に四角い肩を聳やかし、四角四面な、冗談一つ言はぬ様な風を装うて居乍ら、ぬらりくらりと、まるで蛸入道の様な代物だなア。カメと云ふ奴ア、六角の甲を着て居る奴だが、此奴は二角程落して来よつた。カメと鼈との混血児だなア。……オーさうさう混血児で思ひ出した。コンコン鳴く奴ア、やつぱり、ケツだ。小豆飯に油揚式の霊魂だ。其勢か、能く口が滑らかに辷る哩』 音彦『オイ加米彦、充分に今日は気焔を吐いて聞かして呉れ。明日はお別れせにやならぬかも分らないからなア』 加米彦『エーそれや音彦さま、本当ですか』 音彦『どうやらソンナ気配がする様だ。どうも悦子姫さまのお顔色に現はれて居る様だ』 加米彦『アハー、あなたは、間がな隙がな、あの美しい別嬪を見詰めて御座る丈あつて違つてますなア。男を怪しい笑靨の中に巻き込みて了ふ丈の魔力を保有して御座る女王さまだから、何時の間にか音彦さまも恋縛を受けなさつたと見えるワイ……ヤアお芽出たう、おウラ山吹さま、……併し乍ら道心堅固の悦子姫様だ。太田道灌ぢやないが「七重八重花は咲けども山吹の、実の一つだになきぞ悲しき」とウツカリ秋波でも送らうものなら、三十珊の巨弾で撃退されて了ふよ。自惚と梅毒気の無い者は滅多にないから、音彦さま、能う気を付けなさい』 音彦『アハヽヽヽ、加米彦さま、それは、例の人格交換ぢや有りませぬか。音彦でなくて実際は加米彦さまの事でせう。お芽出たいお方ですネ』 一同大声を挙げて笑ふ。 加米彦『モウ密談も済みただらう。宜い加減に気を利かして帰りませうか、コンナ暗がりへ放り込まれて、夜分に目の見えぬ人間は、聊か迷惑だ。斯う云ふ暗い晩に得意な奴はアマ夏彦一匹位なものだ、ワツハヽヽヽ』 と仇笑ひつつ先に立ち帰つて行く。加米彦、門口より、 加米彦『モシモシ悦子姫様、モウ御安産は済みましたかな、男でしたか女でしたか、……何と云ふお名をおつけになりました。……玉照彦ですか……』 悦子姫『ホヽヽヽ、加米さまですか。エライ失礼を致しました。サア皆さまと一緒にお這入り下さいませ』 加米彦『お役目なれば、罷り通るツ。悦子姫殿、紫姫殿、許させられえ』 とワザと体を角立て、紙雛の様なスタイルで、稍反り気味になつて、悦子姫の居間にズーツと通る。 悦子姫『加米さま、冗談も良い加減にして置きなさらぬか。妾は明早朝、音彦さまと此処を立出で、或る所へ参ります。加米彦さまと夏彦さま、どうぞ留守をシツカリ頼みます』 加米彦『ヘー、ヤツパリ……ヤツパリですなア』 悦子姫『エツ、何ですと』 加米彦『ヤア、何でも有りませぬ。ヤツパリあなたは神界の大切な御用をなさるお方、到底吾々ヘツポコの計り知る可らざる御経綸が有ると見えますワイ』 悦子姫『ホヽヽヽ』 紫姫『ホヽヽヽ』 音彦『唯今承はれば、私はあなたと共に、どつかへ参るのですか』 悦子姫『ハイ御苦労様乍ら、どうぞ妾に従いて来て下さいませ』 音彦『ハイ承知仕りました。どこまでも、神様の為ならば、お伴致しませう』 加米彦『ヤア音彦の命、万歳々々』 と、度拍子の抜けた大声で呶鳴り立てる。 音彦『加米彦さま、永らく御昵懇になりましたが、暫くお別れせなくてはなりませぬ。どうぞ機嫌よく留守をして居て下さいませや』 加米彦『ハイハイ畏まりました。あなたも、悦子姫さまと御機嫌よく、相提携して、極秘的神業に御参加下されませ』 と意味有りげに、ニタリと笑ふ。 夏彦『悦子姫様、私はお伴は叶ひませぬか』 悦子姫『ハイ有難う御座います。併し乍ら神様の御命令で、あなたは暫く、妾の帰るまで、加米彦さまと留守をして居て下さいませ』 加米彦『アハヽヽヽ、態を見い、サア明日からは此加米彦の、何事も指揮命令に服従するのだぞ。……モシモシ悦子姫さま、どうぞあなたのお留守中は、夏彦が吾々の命令に服従致します様に、厳しく命令を下しておいて下さい。上下の区別がついて居ませぬと、凡ての点に於て矛盾撞着、政治上の統一を紊しますから……』 悦子姫『加米彦さま、あなたお年は幾歳でしたかネー』 加米彦『ハイ私はザツト二十才で御座います』 悦子姫『違ひませう……』 加米彦『イエ別に……さう沢山も違ひませぬが……精神上から申せば、先づ二十才……現界に肉体を現はしてからは三十三年になります』 悦子姫『それは大変な違算ぢやありませぬか』 加米彦『何分亡父が貧乏暮しをして居たものですから、素寒貧で、十三(仰山)な遺産も御座いませぬ、アハヽヽヽ』 悦子姫『夏彦さまは幾才ですか』 夏彦『ハイ私は見た割とは、ひね南瓜で御座います。精神は兎も角も、肉体は四十八になりました』 悦子姫『アヽそれなら年長者を以て上役と定めます。加米彦さま、妾が此家を出立するが最後、何事も夏彦さまの指揮命令に従つて、神妙に留守をして下さいや』 加米彦『ヘエ………』 悦子姫、稍顔色を変へ、 悦子姫『加米彦さま、お嫌ですか』 加米彦『イヤイヤ滅相もない、何事もあなたの御命令に従ひます』 悦子姫『夏彦さまの命令は即ち妾の命令、どうぞ宜しうお頼み申します』 とワザと両手をついて叮嚀に下から出る。 加米彦『エー実の所は、夏彦の下に従くのは虫が好きませぬが、其処まで仰有つて下さいますれば、謹みてお受致します。……悦子姫様のお代理夏彦様、どうぞ宜しう、何事も御指導下さいませ』 夏彦『お互様に宜しうお願致します』 悦子姫『どうぞお二人さま、公私混同せない様に頼みますで……』 二人一度に、 夏彦、加米彦『ハイハイ承知致しました』 と両手を突き、今度は真面目になつてお受をする。 紫姫『青彦さま、馬さま、鹿さま、これから妾は、悦子姫様の神様より重大なる使命を蒙りました。明朝未明に此処を立出で、妾の行く所へ、御苦労乍ら従いて来て下さい。さうして青彦さまと云ふお名は、一寸都合の悪い事が有りますから、今日限り名を改めて、日の出神様より若彦とお改へになりましたから、其お積もりで居て下さいや』 青彦『ハイ承知致しました。何だか天の稚彦命様に能く似たよな名ですなア。嬉しい様でもあり、悲しい様な気持も致します。併し乍ら、何事も神命のまにまに、絶対服従を致します。どうぞ宜しう……』 紫姫『ハイ、不束な妾、どうぞ宜しう御指導を仰ぎます。……まだ夜明けまでには間が御座いますれば、皆さま一休眠致しませう』 音彦『それや結構です。サア皆さま、お休眠なさいませ。お先へ失礼』 と横になつて、早くも高鼾をかく。 加米彦『ナント罪のない男だなア。今物を言つて居つたかと思えば、早高鼾だ。人間も茲まで総てに超越すれば、モウ占たものだ、悦子姫様の眼力も偉いワイ』 夏彦『コレコレ加米彦さま、皆様のお就寝の御邪魔になります。あなたも早く、おとなしくお睡眠なさい』 加米彦『コレハコレハ上官の御命令、確に遵守し奉る、恐惶頓首、アツハヽヽヽ』 と笑ひ転けた儘、呼吸不整調な高鼾をかく。一同は之れに倣うて、残らず寝に就きたり。 鶏の声に目をさまし、悦子姫は音彦を伴ひ、綾の大橋打渡り、山家方面を指して進み行く。紫姫は、由良川の川辺伝ひに、西北指して三人の男を伴ひ、行先をも告げずトボトボと下り行く。嗚呼、紫姫は今後如何なる活動をなすならむか。 (大正一一・四・二五旧三・二九松村真澄録) (昭和一〇・六・一王仁校正) |
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霊界物語 | 19_午_丹波物語4 玉照姫と玉照彦 | 03 千騎一騎 | 第三章千騎一騎〔六四八〕 高山彦は魔窟ケ原の岩窟を後にし、一生懸命に聖地を指して進み行く。漸く白瀬川の畔に着けば、降り続く五月雨に河水汎濫し、波堆く渡川は絶対に不可能となりぬ。 高山彦は川の岸を下りつ、上りつ、地団太踏みて口惜しがり、現在目の前に聖地世継王山を眺め、玉照姫の御座所は彼方かと憧憬の念に駆られて狂気の如くなり居たり。斯る処へ息せき切つて馳来りしは、妻の黒姫なりける。 高山彦『ヤーお前は黒姫か、何しに出て来たのだ』 黒姫『高山さま、ソラ何を言はつしやる。此儘にして置く訳には行きますまい。あれ彼の向ふに見ゆるは世継王の神山、三五教の隠れ場所、玉照姫様は彼の森のしげみに御座るであらう。サアサア早く渡りなさい』 高山彦『渡れと云つたつて此の激流が、どうして渡れやうか』 黒姫『生命を的に渡るのだよ。それだから男は真逆の時に間に合ぬと云ふのだ。お前さまも鼻高の守護神の御厄介になつて中空高く渡りなさい』 高山彦『ソンナことを言つたつて、さう易々と元の体に還元することは出来ないよ』 黒姫『還元出来ないと云ふ道理があらうか、貴方の信仰が足らぬからだ。火になつても蛇になつても、此の川渡らな置くものか』 と云ふより早く、見るも恐ろしき大蛇の姿となり、激流怒濤の真ン中を目蒐けて、ザンブとばかり飛び込み、漸く対岸に渡り付きたり。 高山彦は此の気色に恐れ戦き、ガタガタ慄ひの最中、蛇体の身体より黒雲起り一団となりて、川の上空を此方に渡り高山彦の身体を包むよと見る間に、高山彦は川の対岸にバタリと落ち来たりぬ。蛇体は忽ち元の黒姫と変じ、 黒姫『サア高山さま、コンナ放れ業は一生に一度より出来ないのだが、千騎一騎の此場合、黒姫が信念の力が現はれたのだ。サアサアこれに怖れず、今後は斯様なことは無い程に、妾に続いてお出でなさい』 高山彦は慄ひ声で、 高山彦『ナント女と云ふ奴は恐ろしいものだなア』 黒姫『コレ高山さま、お前はモーこれで愛想がつきただらうな。愛想をつかすなら、つかして見なさい、此方にも一つ考へがありますよ』 と冷やかに笑ふ。高山彦は眼を瞬たき、高き鼻を手の甲で擦り乍ら、 高山彦『イヤ何事も黒姫さまに御任せする、此後は一切構ひ事は致さぬ。貴女のお好きの様に御使ひ下さいませ』 黒姫『大分改心が出来ましたナア、それでこそ妾の立派なハズバンドだ。サアサア往きませう、エヽなンとした足つきじやいな、確りしなさらぬか、此川を渡るが最後、油断のならぬ敵の縄張りだよ』 高山彦『さうだと云つて、ナンダか脚がワナワナして歩けないのだもの』 黒姫『エー何とした卑怯な人だらう。誰が恐いのだい。たかが知れた紫姫、青彦の連中ぢやないかいナ』 高山彦『青彦、紫姫も、ナンニも恐くはない。恐いのはお前の性念だよ』 黒姫『高山さま、斯う見えても矢張女は女だよ。御心配なさるな。これでも又大事にして可愛がつて上げますワ』 高山彦はブルブル慄ひ乍ら、 高山彦『ヤーもう可愛がつて貰はいでも結構です。私の様なものは貴女のお側に寄るのは勿体ない。畏れ多い。どうぞ草履持になつとして下さいな』 黒姫『エー此人は又何とした卑怯なことを云ふのだらう。アヽもうすつかり愛想が尽きちやつた、嫌になつて了ふワ』 高山彦『どうぞ愛想をつかして下さいな。嫌になつて貰へば大変に好都合です』 黒姫は声を尖らし、 黒姫『ソリヤ何を云ふのだい、嫌になつて呉れと言つたつて、今となつて誰がソンナ軽挙なことをするものかいな。蛇に狙はれた蛙ぢやと思つて諦めなさいよ』 高山彦『ハイ諦めます。何事も因縁づくぢやと思つて、コンナ悪縁も辛抱致しませう。前生の悪い因縁が報うて来たのだから』 黒姫『何が悪縁だへ。お前さまは男の心と秋の空、直に飽縁だらうが、妾は何処迄も秋の空で、何処々々迄も好いて好いてすき透つてゐますよ、ホヽヽヽヽ』 高山彦『モシモシ黒姫様、何卒人を一人助けると思つて私の罪を赦して下さいな』 黒姫『そりや又何を言ふのだえ、モー斯うなる上は赦してたまるものか。竜宮の海の底まで伴れて行つて呑みたり、噛みたり、舐つたり大事にして上げようぞへ』 高山彦『モー大事にして貰はいでも結構です。何卒其の御心遣ひは御無用になさつて下さいませ。返礼の仕方がありませぬワ』 黒姫『エーわからぬ男だ。話は後で悠くりして上げよう。サア一時も早く往かねばなるまい。恰度日も暮れて来た』 と高山彦を先に立たせ、夏草茂る露野ケ原を世継王の山麓指して辿り行く。 五月十三夜の月は、楕円形の鏡を空に照してゐる。馬公、鹿公は月の光を眺め、 馬公『アヽ何といい月ぢやないか、のう鹿公』 鹿公『ソリヤ馬公、きまつた事だ。五月五日の宵に玉照姫様がお越し遊ばし、記念すべき月だもの。古往今来コンナよい月があるものかい。それに就ても可哀相なのは黒姫ぢやないか。この通り御空に水晶の玉照姫様が輝き渡り、この又屋内にもお玉さまに、玉照姫さまぢや、之を三つ合せて三つの御魂と云つても宜いワ。アヽ、 濡れて出たやうに思ふや雨後の月 とは如何だ』 馬公『ヤー鹿公、貴様俳句を知つて居るのか』 鹿公『ハイ句でも、歌でも、何でも知らぬものは無い。何なと言うて見よ。当意即妙、直に作つて御目にかける鹿公だよ』 馬公『ソンナラ今彼のお月さまに黒雲がさしかかり、今や隠さうとして居る。彼れを一つやつて見よ』 鹿公『黒姫に玉照姫は包まれて馬鹿を見むとす青彦の空』 馬公『何と云ふ縁起の悪い歌を詠むのだ。宣り直さぬかい、鹿公奴』 鹿公『大方馬公がさうお出ると思つて居た。今度が真剣だよ。 青彦や紫姫の大空に月の玉照姫ぞ輝く とは如何だ』 馬公『ヨーシモー一つやれ』 鹿公『いくらでも、月を題にするのなら月は先祖よ。月の大神様が此世の御先祖様であるぞよ。馬公志つかり聞けよアーン、 月に叢雲花には嵐東に旗雲箒星 天の河原は北南星の流れは久方の フサの御国に落ちて行く高山彦や短山の 嶺より昇る月影も今日は芽出度き十三夜 たとへ黒姫かかるとも伊吹の狭霧に吹き散らし 忽ち変る大御空紫姫や青彦の 清き姿となりにけり。 とは如何だ』 馬公『随分長い歌だのう、鹿公』 鹿公『長いとも長いとも、今に長い奴が黒い顔してやつて来るのだ。横に長い奴と、縦に長い高山彦の青瓢箪だ。うまくやらぬと馬鹿を見るぞよ。変性男子の申す事は一分一厘違ひはないぞよ』 馬公『何を吐すのだ、モー好い加減に止めて貰はうかい。オイオイ彼れを見よ、二つの影が蠢いて居るぢやないか、鹿とは判らぬけれど』 鹿公『ヨオ来居つたぞ、太い短い奴と細い長い奴だ。ヤー此奴は高山彦に黒姫だ。愚図々々して居ると空のお月さまの様に、黒姫に呑まれて了つちや、玉照姫様が一大事だ、サアサア戸を締めろ』 と云ふより早く、鹿公は飛込みてピシヤリと錠を下ろしたり。 馬公『オイ俺も入れて呉れないか』 鹿公『エー邪魔臭い。貴様は何処か叢の中へ潜伏して居れ、馬じやないか。俺は中から此の関所を死守するのだ』 二つの影は段々近寄つて来る。鹿公は何うしても開けぬ。馬公は已むを得ず茅のしげみに身を隠して慄ひ居る。 二人の影は戸口に現はれたり。一人は女、一人は男、 女(黒姫)『モシモシ一寸此処を開けて下さいな』 鹿公『ナンダ、暮六つ下つてから他の家を訪れる奴があるかい。夜は魔の世界だ、用があれば明日出て来い。此門口は鹿公は絶対に開けることは出来ないぞよ』 女(黒姫)『左様で御座いませうが、ホンのチヨイトで宜しい、一尺許り開けて下さい。申し上げ度い一大事がございます』 鹿公、戸口に立つて、 鹿公『其方で一大事があつても此方も亦一大事だ。ナント言つても開けないよ。モシモシ青彦さま、貴方一寸来て下さいな。どうやら黒姫がやつて来たやうですワ』 青彦は奥の間より、 青彦『誰がなんと言つても開けられないぞ』 鹿公『さうだと言つて馬公が外に、這入り損ねて隠れて居ますがな』 黒姫は此の声を聞き、辺りの叢を尋ね、 黒姫『ヤアお前は馬公ぢやな。サアもう大丈夫だ。コレコレ高山さま、用意の綱をお出しなさい。エー何をビリビリ地震の様に慄ふて居なさる。気の弱い獣だな』 と云ふより早く自分の細帯を解いて、馬公を縛つて了ひ、 黒姫『サア馬公、此方へ来るのだよ。此戸を開ける迄、お前は人質だ。若し開けなかつたら此黒姫が正体を現はして、一呑みに呑みて了はうか』 馬公『エーコンナことだと思つて居つた。それだから神様が言霊を慎めと仰有るのに、鹿公の奴、黒姫が何うだの斯うだのと言ひよるものだから、コンナ破目に陥るんだ。オイ馬公は括られたよ、鹿公開けて呉れないか』 鹿公『貴様は括られる役だ、俺は中で長くなつてグツスリ休む役だ。マア夜が明ける迄、其処で立往生するがよいワ。お優しい黒姫さまと、色男の高山さまとのお伴れだもの、あまり淋しくもあるまいがな』 馬公『ソンナ冷酷なことを言ふものぢやないよ、お前もちつとは朋友の道を弁へて居るだらう』 鹿公『マア待て、今これから紫姫様が十八番の言霊の発射を為さるところだ。さうすれば黒姫だつて高山彦だつて風に木の葉の散る如く、悲惨な目に会つて滅て了ふのだ』 馬公『さうしたら俺は何うなるのだ』 鹿公『貴様の事まで、未だ研究はして居らぬ哩。オイ黒姫の奴、誠に以てお気の毒千万、御心中御察し申す。高姫様に嘸お叱言を頂戴なさつたでせう。併し乍ら何程お前さまが玉照姫様をお迎へしようと思つてもモー駄目だから足許の明るい間に、トツトと帰りなさい。其処に馬が一匹居るから、ソレに乗つてお帰りなさいよ』 馬公『コラ鹿公、無茶ばつかり言ふない、俺は決して黒姫さまの馬ではないぞ』 黒姫『どうしても開けませぬか、開けな宜しい。黒姫は道成寺の釣鐘ぢやないが此の家を大蛇となつて、十重二十重に取捲き、熱湯にして見せうか』 鹿公『モシモシ紫姫さま、青彦さま、確りして下さい。トツケもないことを言ひますぜ』 紫姫は言葉静に、 紫姫『ホヽヽヽヽ、御心配なさいますな。鹿さま、確かりと戸を締めて置きなさいや、モシモシ黒姫さま、誠に貴女には御気の毒でございますが、神界の為め、世の中の為には貴女に対して不親切なことを致すのも已むを得ませぬ。どうぞ帰つて下さいませ』 黒姫『何と云つても帰らない。青彦と紫姫の素首を引抜いて、フサの国の高姫様にお目にかけ、玉照姫様を御迎へ申さねば置きませぬぞや』 青彦『何と執念深い婆アさまぢやな、青彦も呆れたよ。いい加減に執着心を放棄したらどうだい』 黒姫『執着心はお前のことだよ。お前から除つたがよからう。さうして玉照姫さまと、お玉さまを此方へ渡しなさい』 青彦『此の執着心だけは何処までも放されない。決して個人の私有すべきものでない、神政成就の大切な御宝だ。たとへ天地が覆へるとも、こればかりは承諾は出来ない、どうぞ早くお帰りになつて下さい』 黒姫『何と云つても黒姫は帰りませぬ』 紫姫『玉照姫様は三五教に於ても無くてはならぬ結構な神様でございます。又ウラナイ教にも必要な神様でございます。さうだと申して両方の欲求を充すと云ふ事は、到底出来ませぬから、いつその事貴方が御改心をなさつて、三五教にお入り下さつたら如何ですか。貴方が御改心なさつた以上は、高姫さまも自然御改心になりませうから、紫がさう云つたと高姫さまに伝へて下さいませ』 黒姫『権謀術数を弄し折角妾が望みた玉照姫様を計略を以て、横領なさつたお前さまこそ改心を為され。どちらが善か、悪か、心の鏡に照して御覧なさい。貴方の行り方は三五教の精神を破壊する行り方、つまり優勝劣敗利己主義ではありませぬか』 鹿公『エー八釜敷い云ふない、黒姫の奴、貴様こそ利己主義ぢやないか。此の玉照姫様は三五教の神様が御経綸遊ばして悦子姫様が取り上げまでなさつた因縁があるのぢや。何と云つても正義だ、先取権があるのだ。他の宝に垂涎して要らぬ謀叛を起し煩悶をするよりも、すつかりと思ひ切つて気楽になつたら如何だ、鹿公は腹が立つワイ』 黒姫『何と云つても是れ許りは貫徹させなくては置くものか。仮令千年万年かかつても祈つて祈つて祈り勝つて見せよう。ヤアコンナ馬公を人質に取つたところが、何の役にも立たない。サア馬公、世界中放し飼だ。何処なと勝手にお出でなさい』 と縛を解けば、馬公は、 馬公『ヤアヤア黒姫さま有難う。ヤアどつこい、お前に縛られて、お前に解かれたのだ、有難うと云ふ筋が無い。エー取返しのならぬ失策をやつたものだ。馬鹿々々しい』 此時紫姫の涼やかな声にて、天の数歌が轟き渡りける。忽ち黒姫は頭部真白と変じ、高山彦の手を引き雲を霞と西北指して逃て行く。 馬公『オイ鹿公、モー黒姫夫婦は逃て了つたよ。どうぞ開けて呉れないか』 鹿公『ヨシヨシ』 と戸をガラリと引き開け、 鹿公『オイ馬公どうだつたい、貴様縛られて居つたぢやないか』 馬公『ウン縛られたよ。併しチツトモ痛くはなかつた。黒姫の奴、俺を縛るときに一生懸命に小声になつて、「大神様済みませぬ、赦して下さい。罪も無い馬公を縛ります、これも御道の為ですから、神直日、大直日に見直し、聞直して下さいませ」と念じて居つた。人の性は善なりとは、よく言うたものだなア』 青彦はこれを聞いて両手を組み、頭を首垂れ思案に沈む。紫姫は直に神前に感謝の祝詞を奏上する。玉照姫は俄にヒシるが如く泣き出し給ひける。お玉は驚きあはてて玉照姫の背を撫で擦り、慰め居たり。 空には白き魚鱗の波を湛へた雲の切れ目に月は朧に輝き、悲しげに山杜鵑の声峰の彼方に聞え居る。 (大正一一・五・六旧四・一〇外山豊二録) |
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37 (1776) |
霊界物語 | 21_申_高春山のアルプス教 | 03 月休殿 | 第三章月休殿〔六七七〕 竜国別、玉治別、国依別の三人は珍の館の奥の室に打通り、梅照姫が調理せし晩餐に舌鼓を打ち、主客打ち解けて四方八方の話に耽る。 梅照彦『最前の玉治別様のお歌に依つて、津の国の高春山へお出でになる事を承知致しました。然し乍ら此方から御出でになるのは、少し迂回ではありませぬか』 玉治別『少しは迂回ですが是には理由があるのです。実は福知山の方面から柏原を通り鬼の懸橋を渡つて参る積りでしたが、出発の前夜に大変な夢を見まして……それで此方へ途を変へたのです。さうして玉照彦様のお出ましになつた高熊山の岩窟を拝して行くのが順当だと気がついたのです。悪魔に対し言霊戦を開始するのですから、余程修業をして参らねばなりませぬ。高姫、黒姫の宣伝使は、不覚にも飛行船に乗つて只一息に苦労も無しに高い所から敵を威喝しようと思つて出たものですから、三ケ月有余も経つた今日何の消息も無し、それが為めに言依別命が我々を密かにお遣はしになるのです。聖地の人々は我々三人以外、誰一人知つて居ないのです。バラモン教やアルプス教の間者が沢山に信者となつて化込んで居りますから、うつかりした事は言はれないのです。又仮令異教の間者が居らないにしても幹部の連中や信者に知らせますと、直に如何な大切の事でも喋つて仕舞ひますから困つたものですよ。何故あれだけ秘密が守れないのかと不思議な位です。三人の外に誰にも言ふなと仰有つたのですから、秘密は何処迄も守らねばなりませぬからなア』 国依別『オイ、玉治別、お前は幹部が喋舌ると今言つたが、我々両人が何も言はないのに、お前は斯んな秘密を門前で大きな声で歌つたぢやないか。猿の尻笑ひと言ふのはお前の事だよ』 竜国別『ハヽヽヽヽ、到頭秘密が曝れて仕舞つたぢやないか。「これは秘密だからお前さまより外には言はないから、誰にも言つて下さるな」と口止めする。聞いた人は「諾々決して言はぬ」と言ひ乍ら、又次の人に「此奴ア秘密だから誰にも言はれぬ。お前だけに言つたのだから、屹度他言はして呉れるな」と口止めする。又次から次へと其通り繰返されるものだ。そして一人より言はないと言つた者が、会ふ人毎に尋ねもせぬのに「お前一人だけだ」と言つて、終には秘密の方が拡がるものだ。表向広告的に言つたのは誰も耳に止めないから却て拡まらないものだよ。「お前一人と定めて置いて、浮気や其日の出来心」式だから困つたものだ。なア国依別』 国依別『そうだなア、此筆法を宣伝に応用したら如何でせう。不言講とか言つて「お前丈けに結構な事を聞かしてやるのだから、主人にでも……仮令我子にでも女房にでも言ふ事はならぬ」と口止めをして置くと、其男は「俺は身魂が立派だから、誰も知らぬ事を神様から彼の口を通して言つて下さつたのだ」「俺の身魂は立派だから、神慮に叶つて居るから、斯う言ふ大切な事を知らして貰へるのだ」と思つて自慢相に人々に秘密々々と言つては喋り散らす、それが却て能く拡まる様なものだ。三五教の宣伝使も、その筆法を応用したら、却て良いかも知れないぞ、アハヽヽヽ』 玉治別『然しそれは……さうとして、梅照彦さまはそんな軽薄な御方ぢや無いから、屹度秘密を守られるでせう』 梅照彦『私は守る積りですが、女房や下男が……余り大きな声で仰有つたものだから……全部聞いて居りませう。そいつア何うも請負ふ事は出来ませぬなア』 玉治別『困つた事だ。何卒成就するまで他へ洩れない様に……喋舌られては困るから……どうか暫時奥さまと下男とは座敷牢にでも入れて、人に会はさない様にして下さいますまいかなア』 梅照姫『オホヽヽヽ、妾は滅多に言ひませぬが、貴方言はぬ様になされませ。屹度道々秘密を開け放しにして、何も彼もみんな仰有るでせう』 玉治別『イヤイヤ決して決して、余りむかついたものですから、つい門口で脱線したのですよ』 梅照姫『余程言霊鉄道の敷設工事が請負と見えて、粗末な事がしてあると見えてますなア、ホヽヽヽヽ』 竜国別『何分宇都山村の田吾作時代には、随分狼狽者の大将だといふ評判でしたから、矢張三才児の癖は百歳迄とか言つて、仕方の無いものですワイ』 玉治別『そんな昔の事をさらけ出して、人の前で言ふものぢやない。竜国別、私が出立の際に「何卒誰にも玉治別は宇都山村の田吾作だと云つて下さるな、秘密にして下さい」と頼んだ時「俺も男だ、ヨシ、言はぬと云つたら首が千切れても言はない」と言明し乍ら、三日も経たぬ間に秘密を明すとは何の事だい。余り人の事を云ふものぢやありませぬぞ。自分の過失は分らぬものと見えますわい』 竜国別『ヤア此奴ア縮尻つた。然し乍らお前が田吾作だつたと言つた所で、今回の作戦計画に齟齬を来す様な大問題ぢや無いから……マア大目に見るのだなア』 玉治別『小さい事だと云つて秘密を洩らしても良いのですか。小さい事を洩らすやうな人は、矢張大事を洩らすものですよ。蟻穴堤防を崩すとか言つて、極微細な事から大失敗を演ずるものだ。如何ですか』 竜国別『ヤア大変な速射砲を向けられて……イヤもう恐れ入りました。只今限り屹度慎みませう』 梅照彦『皆さま、お疲労でせうから、もうお寝みなさいませ』 玉治別『何時迄も攻撃計り受けて居つても詮らない。ア、お迎ひが出て来た様だ。アーアツ』 と口の引裂ける様な欠伸をなし、目を擦つて居る。 梅照姫『サア、お寝みなさいませ。奥の室に寝床が敷いて御座いますから』 玉治別は、 玉治別『皆さま、お先へ』 と奥の室に入るや否や、雷の如き鼾をかいて他愛もなく寝入つて了ふ。二人は続いて、 竜国別、国依別『左様なれば寝ませて頂きませう』 と奥の室に入る。玉治別の粥を煮る大きな鼾が耳に這入つて二人とも寝つかれず、そつと裏口を開けて、月を賞め乍ら庭園を逍遥してゐる。 竜国別『アヽ佳い月だな。秋の月も佳いが、冬の月も又格別綺麗な様だ。あの月の中に猿と兎が餅を搗いて居ると云ふ事だが、一つ我々に搗落して呉れさうなものだなア』 国依別『アハヽヽヽ、八日日が来たら落して呉れますワイ』 竜国別『卯月八日、花より団子と言つて、あれや餅ぢやない、団子ぢや』 国依別『団子でも餅でも、矢張搗かねばならぬよ』 竜国別『団子は月が落すのぢや無い。此方から搗いて上げるのだよ。竹の先に躑躅の花と一緒に括つてな……』 国依別『その上げた団子を揺すつて落して喰つて呉れるのだ。十五の月は望月(餅搗)と云ふから、屹度十五日になれば餅搗するに違ひない』 竜国別『良い加減に洒落て置かぬか。お月さまに恥かしいぞよ』 国依別『三五の月の御教を開く我々宣伝使は、何……月に遠慮する事があらうかい。子がお母アさまになんぞお呉れと言つて、駄々と団子をこねるやうな心餅で居るのだよ、アハヽヽヽ』 竜国別『あのお月さまの顔には痘痕が出来て居るぢやないか。円満清朗、月の如しと言ふけれど、余りあの痘痕面では立派でも無い様だ。月は玉兎と云ふからには、ドコか玉治別の円い御面相に似た所がある様ぢや無いか』 国依別『玉治別の面の様に見えてるのは、矢張あれは地球の影が映つて居るのだ。白い所は水、黒い所は陸地だ。天体学の事なら、何でも俺に尋ねたら聞かしてやらう、オホン』 竜国別『アハヽヽヽ、瑞月霊界物語の第四巻を読んだのだらう』 国依別『そんな本が何処にあるのだ』 竜国別『三十五万年の未来に活版刷で天声社から発行せられた単行本だ。それに出て居るぢやないか。貴様はまだ見た事が無いのだなア。あれだけ名高い名著を知らないとは余程時代遅れだ。それでも宣伝使だからなア』 国依別『未来の著述は見ても見ぬ顔をして居るものだ。世の中が開けて来ると種々の学者とやら、役者とやらが出て来て、屁理屈を言つて飯食ふ種にする奴があるから、……それを思うと俺も愛想が月さまだよ。まア現在の事でさへも分らないのに、未来の事までも研究は廃めて置かうかい。三五教の其時代の宣伝使でさへも、読んで居ないものがある位だからなア』 竜国別『未来の宣伝使は無謀なものだなア。しかし大分に夜露を浴びた様だが、もう徐々帰つて寝床に横はらうぢやないか』 国依別『俺はもう少時散歩する。却て一人の方が都合が好いから……お前は先へ寝たが宜からう。又肝腎の時になつて眠むたがると困るからなア』 竜国別『そんならお先へ御免を蒙る。お前は、ゆつくりお月さまとオツキ合ひ話でもするが良いわい。近い所に御座るからよく聞えるだらう』 国依別『きまつた事だ。お月様の分霊が……これ見い、此通り……草の上にも玉の如く輝いて御座る。貴様の鬚にも沢山に天降つて御座るぢやないか。神様の御威徳は斯んなものだ。貴様はお月様は只御一体で大空ばつかりに居られると思つて居るやうだが、仁慈無限の弥勒様だから、草の片葉に至る迄此通り恵みの露を降して、輝き給ふではないか』 竜国別『成る程、さう言へば……そうだ。是だけは国さまの嘘月でも間誤月でもない、併し雨露月だなア』 国依別『分つたか、「月二つ担うて帰る水貰ひ」と云つて、一荷の桶水の中にも御丁寧に一ツづつお月様は御守護して下さるのだ』 竜国別『よく分りました。モウ之位で御中止を願ひます』 国依別『馬鹿云ふな。此処は月の名所、月宮殿の御境内だ。これ丈け結構な月の光を拝んで此儘寝ると云ふ事があるものか。サア今の間に月宮殿へ参拝して、その上で寝まうぢやないか』 竜国別『ウン、それもそうだ。そんなら一つ是からお参詣して来うか。天には寒月、地には迂露月の影ふるふだ、アハヽヽヽ』 両人『サア行かう』 と両人は鬱蒼とした森影に建てられたお宮の前にすたすたと進み行く。 二人は月の森の月宮殿の階段を登りながら、 竜国別『結構な月だが、斯う鬱蒼と樹木が茂つて居ると、肝腎の月宮殿は、暗も同様ぢやないか。此月宮殿は暗宮殿だ。これ程綺麗なお月様が祀つてあるのに、何故此森が明くないのだらう』 国依別『馬鹿言ふな。之は晦の月宮殿といつて、お月様のお休み遊ばす御殿だ。宮と云ふ字は休と云ふ字に改めさへすれば、名実相適ふのだ、イヤ明月相反すと言ふのだ。アハヽヽヽ』 神殿の何処ともなく、 『ガサガサグヽヽヽ』 と怪しき物音が聞えて来る。 竜国別『ヤア此宮は余程古いと思へば、貂か鼬が巣をしてると見えて、大変に暴れて居るぢやないか。「月は天に澄み渡る」と詩人が言つて居るが、貂は月の宮に棲み渡り頭から糞、小便を垂れ流すぢやないか。之を思へば月宮殿も薩張愛想が月の宮ぢや。此宮も貂や鼬の棲処となつては最早運の月だなア』 国依別『人間の運命にも栄枯盛衰がある。潮にも満干がある。此宮さまは今は干潮時ぢや。それだからかう見窄らしく荒廃して居るのだ。之でも五六七の世に成れば、此お宮は金光燦然として闇を照し、高天原の霊国にある月宮殿の様になるのだが、何程結構な弥勒さまのお宮でも時を得ざればこんなものだ。信真の徳の失せたる世の中の姿が遺憾なく此お宮に写されてあるのだ。嗚呼如何にせんやだ』 竜国別『そうだなア、社会の時代的反映かも知れないなア。神様が頭から四足に糞や小便をかけられ、四足と同居して御座る様では御神徳も何もあつたものぢやない。御神徳さへあれば、こんな失敬な……神様の頭の上へ上つて糞や小便を垂れる奴に、罰を当てて動けない様に霊縛なさりさうなものぢやないか』 社の中より、 (玉治別)『此方は月の大神であるぞよ。汝三五教の宣伝使、竜国別、国依別の盲目ども、否魔誤月、嘘月、キヨロ月人足、神の申すことを耳を浚へてよつく聞け。神は人間の信真の頭に宿る、決して畜生等には神の聖霊は宿らないぞ。畜生には人間の副霊が宿つて居るのだ。それだから神殿に鼬や貂等が小便を垂れ様が、糞を垂れ様が、放任してあるのだ。元来が畜生の因縁を以て生れて来て居るからだ。神は人間らしき人間が無礼を致した時は即座に神罰を与ふるぞ。只今の世の中は獣が人間の皮を被り白日天下を横行濶歩する暗の世だ。今、此処へ人一化九の妖怪が二匹も現はれて来よつたが、之も人間で無いから神罰は当てないで差赦してやらう。サア如何ぢや、人間なれば人間と判然申せ。四足の容器なれば容器で御座いますと白状致せ。神の方にも考へがあるぞよ』 国依別は小声で竜国別に向ひ、 国依別『オイ、何だらうな。えらい事を言ふぢやないか』 竜国別『あんまり神様の悪いことを言つたものだから、神さまが怒つて御座るのかも知れないよ』 国依別『罰が当る様なことは出来はしまいかな』 竜国別『サア、其処ぢやて。俺も一つ如何言はうか知らんと思つて心配をして居るのだ。結構な神の生宮たる万物の霊長、大和魂の人間で御座いますと言へば、直に神罰を当てられて如何な目に逢はされるか知れないし、四足の容器と言へば、お咎めは無いけれど本守護神に対して申訳が立たぬなり、自分も何だか阿呆らしくて、卑怯未練にもそんな事は断然、アヽもう良う言はんワ』 宮の御殿より、 (玉治別)『人間か、四足か、早く返答致せ。四足と有体に白状すれば今日は断然赦して遣はす。人間と申せば此儘汝の生命を取つて、根の国、底の国へ追ひやつてやらう。サア早く返答を致さぬか』 竜国別『ハイ、一寸待つて下さいませ。今鳩首謀議の最中で御座います。相談が纏まつた上御返事を申上げます』 宮の中より、 (玉治別)『エー、これしきの問題に凝議も何もあつたものか、一目瞭然だ、早く返答致せ。四足に間違ひあるまいがな』 両人『へ……そ……それは……あんまり……殺生で御座います……』 宮の中より、 (玉治別)『それなら誠の人間と申すのか』 国依別『ハイ……まア人間が半分……畜生が半分で人獣合一の身魂で御座います』 宮の中より、 (玉治別)『然らば獣の分だけは赦して遣はす。半分の人間を之から成敗致す。耳一つ、眼玉一つ、鼻一つ、下腮を取り、手一本、足一本引き抜いてやらう。有難う思へ』 竜国別『ヤア、もう何卒今度に限り大目に見て下さいませ』 宮の中より、 (玉治別)『何、大目に見て呉れと申すか、蛇の目の唐傘の様な大きな目で睨んでやらうか』 国依別『イエイエ滅相な、そんな目で睨まれては此方も……めゝゝゝゝ迷惑を致します』 宮の中より、 (玉治別)『此方も時節の力で斯の如く屋根は雨漏り、鼬、貂の棲処となり、些か迷惑をいたして居る。どうか此方の片腕が欲しいと思つて居た矢先だ。いやでも応でも其方達の片腕を取つてやらう』 竜国別『滅相もない、片腕どころか、弥勒様の為なら、両腕を差上げて粉骨砕身して尽しますから、お頼み申します』 と泣き入る。宮の中より、 (玉治別)『よしよし、粉骨砕身は註文通り赦してやらう。サア脇立、眷族共、両人の骨を粉にし身を砕いて参れ。粉骨砕身して尽さして呉れえと願ひよつたぞよ』 竜国別『モシモシ、その粉骨砕身の意味が断然違ひます。さう早取りをしてもらつては困ります』 宮の中より、 (玉治別)『粉骨砕身とは読んで字の如しだ。神は正直だから誤魔化しは、些も聞かぬぞよ』 国依別『オイ竜、此奴アちつと怪しいぞ』 竜国別『そうだなア、田吾作の声に似ては居やせぬかなア』 宮の中より、 (玉治別)『コラコラ両人、其方はまだ疑ふのか。此方は空に輝く月の玉治別命、又の御名は田吾作彦の大神であつたぞよ。ワツハヽヽヽ』 竜国別『あんまり馬鹿にすない。俺の胆玉を大方潰して仕舞ひやがつた』 国依別『こら、悪戯けた真似をしやがると承知をせぬぞ』 玉治別『胆玉ばかりぢや無からう。睾丸が潰れかけただらう、アハヽヽヽ』 と笑ひ乍ら、ドシンドシンと朽ちはてた階段を降つて来る。三人は笑ひ乍ら梅照彦の館を指して、月を仰ぎつつ門前に着いた。梅照彦、梅照姫は、 梅照彦、梅照姫『モシ貴方等、何処へ行つて居られました。俄に三人様のお姿が見えぬので、何かお気に障つてお帰りになつたかと思ひ、大変に胆を潰しましたよ』 玉治別『睾丸は大丈夫ですかな、アハヽヽヽ』 竜国別『実は我々両人はあんまり月が佳いので、つい浮かれて散歩をし……月宮殿に参拝して……』 玉治別『胆玉を潰しました』 竜国別『お前、黙つて居れ。人の話の尻を取るものぢやない』 玉治別『何、尻は取りたくないが睾丸が取り度いのだ、アハヽヽヽ』 国依別『月宮殿と云ふ所は妙な処ですな。貂がものを言ひましたよ。而も神さまの声色を使つて……てんと合点のゆかぬ事ですわい』 梅照彦『エ、貂がものを言ひましたか、それや聞き始めだ。何と云ふ貂でせう』 国依別『何でも田吾作とか言ふ貂で、鼬の成上りださうです。随分気転の利かぬ馬鹿貂の水転でしたよ、アハヽヽヽ』 一同腹を抱へて『アハヽヽヽ』と笑ひ転ける。 (大正一一・五・一六旧四・二〇北村隆光録) |
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霊界物語 | 24_亥_豪州物語1(高姫と蜈蚣姫) | 06 アンボイナ島 | 第六章アンボイナ島〔七三六〕 高姫、蜈蚣姫を乗せたる船は、波のまにまに大小無数の嶋嶼を右に左に潜りつつ進み行く。俄に包む濃霧に咫尺を弁ぜず、此儘航海を続けむか、何時船を岩石に衝き当て破壊沈没の厄に会ふも知れざる破目になつて来た。流石の両婆アも船中の一同もはたと当惑し、何となく寂寥の気に充たされ、臍の辺りより喉元さして舞ひ上る熱き凝固は、螺旋状を為して体内を掻き乱すが如く、頭部は警鐘乱打の声聞え、天変地妖身の置き処も知らぬ思ひに悩まされた。何ともなく嫌らしき物音、鬼哭啾々として肌に粟を生じ心胆糸の如く細り、此上少しの風にも、玉の緒の糸の断絶せむ許りになり来たり。何処ともなく嫌らしき声、頭上に響き渡りぬ。 声『アヽヽ飽迄我を立て徹す高姫、蜈蚣姫の両人、天の八衢彦命の言葉を耳を浚へてよつく聞け。汝は悪がまだ足らぬ。悪ならば悪でよいから徹底的の大悪になれ。大悪は即ち大善だ。汝の如き善悪混淆、反覆表裏常なき改慢心の大化物、是こそ真の悪であるぞよ。悪と云ふ事は万事万端、神界の為めに埒があく働きを言ふのだ。 イヽヽ嫌らしい声を聞かされて慄ひ上り、意気銷沈の意気地無し。今此処で慣用手段の日の出神を何故現さぬか。大黒主命は如何したのだ。因循姑息、悪魔の我言に唯々諾々として畏服致すイカサマ宣伝使。てもいげち無い可憐らしい者だなア』 高姫は直ちに、 高姫『何れの神様か存じませぬが、 アヽヽ悪をやるなら大悪をせいとはチツトと聞えませぬ。善一筋の日本魂の生粋を立て貫く此高姫。 イヽヽいつかないつかな、変性女子的貴女の言葉には賛成出来ませぬ。なア蜈蚣姫さま、お前さまもチツト、アフンとしていぢけて居らずに、アヽヽイヽヽアイ共に力を協せ、相槌を打つたら如何だい。斯んな時こそ誠の神の御神力を現はさいで何時現はすのだ、アヽヽ、イヽヽ意気地のない人だなア』 空中より怪しき声、 声『ウヽヽ、煩さい代物だ。何処までも粘着性の強い高姫の執着、有為転変の世の中、今に逆とんぼりを打たねばならぬぞよ。言依別の教主に反抗致した酬い、眼は眩み波にとられた沖の船、何処にとりつく島もなく、九死一生の此場合に立ち到つて、まだ改心が出来ぬか。 エヽヽ偉相に我程の者なき様に申して世界中を股にかけ法螺を吹き捲り、誠の人間を迷はす曲津神の張本人、鼻ばかりの高姫が今日は断末魔、扨ても扨ても可憐想な者だ。浮世に望みはないと口癖の様に申し乍ら、其実、浮世に執着心最も深く、偉相に肩臂怒らし大声で嚇す夏の雷鳴婆ア……。 オヽヽ鬼とも蛇とも悪魔とも知れぬ性来に成りきりて居りても未だ気がつかぬか。恐ろしい執着心の鬼が角を生やして其方の後を追つ掛け来り、今此処で往生させる大神の御経綸、尾を捲いて改心するのは今であらう。返答は如何だ』 高姫は負けず、又もや、 高姫『ウヽヽ煩さい事を仰有るな。 エヽヽえたいの知れぬ声を出して、 オヽヽ嚇さうと思つても日の出神の生宮はいつかないつかな、ソンナチヨツコイ事に往生は致しませぬぞ。一つ島の女王と聞えたる黄竜姫を、お産み遊ばした蜈蚣姫の姉妹分とも言はれたる此高姫、何れの神か曲津か知らねども、チツトは物の分別を弁へたが宜からうぞ』 空中より、 声『カヽヽ重ねて言ふな、聞く耳持たぬ。蛙の行列向ふ見ず、此先には山岳の如き巨大な蛙が現はれて、奸智に長けたる汝が身も魂も、只一口に噛み砕き亡ぼして呉れる仕組がしてあるぞ。叶はん時の神頼みと言つても、モウ斯うなつては駄目だ。神は聞きは致さぬから左様心得たが宜からう。 キヽヽ危機一髪、機略縦横の高姫も最早手の下し様もあるまい。気違ひじみた気焔を吐いた其酬い、気の毒なものだ。聞かねば聞く様にして聞かすと申すのは此事であるぞよ。 クヽヽ黒姫と腹を合せ、変性男子の系統を真向に振り翳し、神界の経綸を無茶苦茶に致した曲者、苦労の凝りの花が咲くと何時も申して居るが、神の道を砕く苦労の凝りの花は今愈咲きかけたぞよ。 ケヽヽ見当のとれぬ仕組だと申して遁辞を設け、誤魔化して来た其酬い。 コヽヽ堪へ袋の緒がきれかけたぞよ。聖地の神々を困らしぬいた狡猾至極の汝高姫、我と我心に問うて見よ。心一つの持ち様で善にも悪にもなるぞよ。 サヽヽ探女醜女の両人、よくも揃うたものだ。サア是からは蜈蚣姫の番だ。逆様事ばかりふれ廻り天下万民を苦しめた蜈蚣姫の一派。 シヽヽ思案をして見よ。神の申す言葉に少しの無理もないぞよ。皺苦茶婆アになつてから、娑婆に執着心を発揮し、死後の安住所を忘れ、獅子奮迅の勢を以て種々雑多の悪計を廻らし乍ら、至善至美至真の行動と誤解する痴者。 スヽヽ少しは胸に手を当てて見よ。素盞嗚大神の御精神を諒解せぬ間は、何程汝が焦慮るとも九分九厘で物事成就は致さぬぞよ。 セヽヽ背中に腹が代へられぬ様な此場の仕儀、それでも未だ改心が出来ぬか。雪隠虫の高上り、世間知らずの大馬鹿者。 ソヽヽ其方達二人が改心致さぬと、総ての者が総損ひになつて、まだまだ大騒動が起るぞよ。早々改心の実を示せ。そうでなければ今此処でソグり立ててやらうか』 蜈蚣姫『ソヽヽそれは、マア一寸待つて下さい。それ程妾の考へが違つて居ますか。此蜈蚣姫は明けても暮れても、神様の為め、世界の為め、人民を助ける為めに、苦労艱難を致して居る善の鑑と堅く信じて居ります。それが妾の生命だ。何れの神か悪魔か知らねども、我々の心が分らぬとは実に残念至極だ。粗忽しい、観察をせずに、もうチツト真面目に妾の腹の底を調べて下さい』 空中より、 声『タヽヽ叩くな叩くな、腹の中をタヽヽ断ち割つて調べてやらうか。高姫も同様だぞ、汝の腹の中は千里奥山古狸の棲処となつて居る。日の出神と名乗る奴は銀毛八尾の古狐の眷族だ。大黒主と名乗る奴は三千年の劫を経たる白毛の古狸だ。又蜈蚣姫の腹中に潜む魔神はアダム、エバの悪霊の裔なる大蛇の守護神だ。 チヽヽ違ふと思ふなら、今此処で正体を現はさうか。地の高天原を蹂躙せむと、汝等両人の体内を借つて仕組んで居るのだ。汝はそれも知らずに誠一つと思ひつめ、自分の身魂に自惚し、最善と感じつつ最悪の行動を敢へてする、天下の曲津神となつて居るのに気がつかぬか。 ツヽヽつまらぬ妨げを致すより、月の大神の心になり、心の底より悔悟して。 テヽヽ天地の神にお詫を致せ。 トヽヽトンボ返りを打たぬうち、トツクリと思案を致し、トコトン身魂の洗濯を励むが肝腎だぞよ。 ナヽヽ何と申しても其方等は曲津の容器。弥勒神政の太柱は地の高天原に、神世の昔より定められた身魂が儼然として現はれ給ふ。何程其の方が焦慮つても、もう駄目だ。 ニヽヽ二階から目薬をさす様な頼りのない法螺を吹き廻るより、生れ赤子の心になつて言依別の教主の仰せを守れ。 ヌヽヽヌーボー式の言依別だと何時も悪口を申すが、其方こそは言依別の神徳を横奪せむとする、ヌースー式の張本人だ。 ネヽヽ熱心な信者を誤魔化し、蛇が蛙を狙ふ様に熱烈なる破壊運動を致す侫人輩。 ノヽヽ野天狗、野狐、野狸の様な野太い代物。喉から血を吐きもつて、折角作り上げた誠の魂を攪乱致す野太い代物。下らぬ望みを起すよりも良い加減に往生致したら如何だ』 高姫は、 高姫『もうもう十分です。 ハヽヽハラハラします。腹が立つて歯がガチガチしだした。早くしようも無い事は、もうきりあげて下さい。 ヒヽヽ日の出神の生宮が堪忍袋の緒を切らしたら、何程偉い神でも堪りませぬぞ。 フヽヽ不都合千万な、此方の行動を非難するとは何れの神だ。 ヘヽヽ屁でもない理屈を並べて閉口さそうと思うても……ン……此高姫さまは一寸お手には合ひませぬワイ。 ホヽヽほんに訳の分らぬ廻しものだ。斯んな海の中へ我々を引張り出し、一寸先も見えぬ様な濃霧に包んで置いて、暗がりに鶏の頸を捻ぢる様な卑怯な計略、其手は喰はぬぞ。 マヽヽ曲津の張本。 ミヽヽ身の程知らずの盲目神。 ムヽヽ蜈蚣姫と高姫が。 メヽヽ各自に神力のあらむ限りを発揮して。 モヽヽ耄碌神の其方を脆くも退治して見せよう。 ヤヽヽ八岐大蛇だの、狐だの、狸だのとは何たる暴言ぞ。 イヽヽ意地気根の悪い。 ユヽヽ油断のならぬ胡散な痴呆もの。 エヽヽえー邪魔臭い。 ヨヽヽよくも、ヨタリスクを並べよつたな、ようも悪魔の変化奴。 ラヽヽ乱臣賊子、サア正体を現はせ、勇気凛々たる日の出神の生宮、大自在天の太柱、グヅグヅ吐すと貴様の素首を引き抜いてラリルレロとトンボリ返しを打たしてやらうか』 空中より一層大きな声で、 声『ワヽヽ笑はせやがるワイ。我身知らずの馬鹿者共、手のつけ様のない困つた代物だ。 ヰヽヽ何程言うても合点の往かぬ歪み根性の高姫、蜈蚣姫。 ウヽヽ煩さくなつて来たワイ。艮の金神国治立尊の御前に我は是より奏上せむ。 ヱヽヽ襟を正して謹聴して待つて居らう。やがて御沙汰が下るであらう。 ヲヽヽ臆病風に誘はれてヲドヲドし乍ら、まだ。 ガヽヽ我の強い。 ギヽヽぎりぎりになる迄。 グヽヽ愚図々々致して居ると。 ゲヽヽ現界は愚か。 ゴヽヽ後生の為めに成らないぞ。 ザヽヽ態さらされて。 ジヽヽジタバタするよりも。 ズヽヽ図々しい態度を改め。 ゼヽヽ前非を悔い改心致して。 ゾヽヽ造次にも顛沛にもお詫を致せ。 ダヽヽ騙し歩いた。 ヂヽヽ自身の罪を。 ヅヽヽ津々浦々まで白状致して廻り、玉に対する執着心を只今限り綺麗薩張此海に流して仕舞へ。さうして仕舞へば又神の道に使つてやるまいものでもない。 デヽヽデンデン虫の角突き合ひの様な小さな喧嘩を致し。 ドヽヽ如何してそんな事で神界の御用が勤まると思ふか。 バヽヽ婆の癖に馬鹿な真似を致すと終には糞垂れるぞよ。 ビヽヽ貧乏揺ぎもならぬ様になりてから。 ブヽヽブツブツと水の中に屁を放いた様な小言を申しても。 ベヽヽ弁舌を何程巧に致しても。 ボヽヽ木瓜の花だ、誰も相手になる者はないぞよ。 パヽヽパチクリと目を白黒致して。 ピヽヽピンピン跳ねても、キリキリ舞ひを致しても。 プヽヽプンと放いた屁ほどの効力も無いぞよ。 ペヽヽペンペン跳ねても。 ポヽヽポンポン言つても、もう日の出神も通用致さぬから覚悟をしたが宜からう。汝果たして日の出神ならば、此濃霧を霽らし、天日の光を自ら浴びて船の方向を定め、アンボイナの聖地に渡れ。其時又結構な教訓を授けてやらう』 高姫、蜈蚣姫は返す言葉も無く、船の中に両手を合せ、負けぬ気の鬼に妨げられて謝罪り言葉も出さず、俯向いて謝罪と片意地との中間的態度を執つて居た。何時しか濃霧は霽れた。よくよく見れば船は何時の間にやら南洋一の聖地、竜宮島と聞えたるアンボイナの港に横着けになり居たりける。 (大正一一・七・二旧閏五・八北村隆光録) |
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39 (1873) |
霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 11 風声鶴唳 | 第一一章風声鶴唳〔七五七〕 蒼空一点の雲なく、星光疎にして中秋の月は中空に懸り、鏡の如き温顔をもて下界を照し給ふ。地恩城の棟に鏤めたる十曜の金紋は、月光に映じて目も眩きばかりなり。 地恩城の女王黄竜姫は、梅子姫、蜈蚣姫、左守のスマートボール、宇豆姫を始め右守の鶴公、貫州、武公其他を従へ、高殿に登り月見の宴を開いて居る。果物の酒は芳醇なる香を放ち、柑子、バナナ、桃其の他の木の実を麗しき器に盛り、一同歓を尽して月光を仰ぐ折しも、黄竜姫は忽ち顔色蒼白ざめ、身体頻りに動揺して、心中不安の雲に包まれし如き容態となれり。 梅子姫、其他の人々の目には、中秋の月皎々と輝き、紺碧の空は愈高く、風は涼しく何とも云へぬ気分に包まれて居る。独り黄竜姫の眼に映じたるは、ジヤンナ郷のテールス姫の夫となり、三五の道をネルソン山以西に布き、旭日昇天の勢ありと称せらるる友彦を先頭に、数多の鬼の如き土人、怪しき黒雲に乗り、幾十万とも限りなく鋭利なる鎗を携へ、中空より地上を眺め、黄竜姫の頭上に向つて鋼鉄の矛を驟雨の如く降らせ、火の車を挽き連れ、青、赤、黒の鬼、虎皮の褌を締め、牛の如き角を生やし攻め来る恐ろしさに、身体忽ち震動して、高殿より終に顛落、人事不省に陥りける。 蜈蚣姫は驚きてものをも言はず、老の身も甲斐々々しく階段を降り行く。されど梅子姫、スマートボール其他の面々には、黄竜姫の姿並に蜈蚣姫の姿は依然として高殿に月を賞するかの如く見え居たり。それ故蜈蚣姫の周章て階段を降り行きし事も、黄竜姫が高殿より墜落せし事も夢にも知らざりし。要するに黄竜姫、蜈蚣姫の本守護神は、依然として此高殿に其儘の体を現はし、嬉々として月を賞しつつありしなり。二人が身体に残れる執着心の鬼の為めに斯くの如き幻覚を起し、又其罪悪の凝固より成れる肉体は、副守護神の容器として高殿の下なる千仭の谷間に突き落されたるなりき。 後に残つた黄竜姫の姿は、恰も鼈甲の如く身体半ば透き通りて一層の美を加へ、言葉も俄に涼しく且つ荘重を帯び来たりぬ。 梅子姫『黄竜姫様、不思議な事があるもので御座いますな。今迄の貴女のお姿とうつて変り、一入立派な御顔色、お身体の恰好までも、何処ともなく威厳の加はつた様に思ひます。変ると言つても、斯う迅速に向上遊ばすと言ふ事は、不思議でなりませぬ』 黄竜姫『ハイ、妾は勿体なくも三五教の神司となり、且地恩城の女王と迄上りつめ、稍得意の色を浮べ安心の気にうたれて、勿体なくも月の大神様を玩弄物か何かの様に、酒肴を持ち出し月見の宴だと、花見か雪見の様な畏れ多い事を何とも思はず始めましたが、忽ち大空の月光菩薩の御威勢に照らされハテ、済まない事をした、妾は今こそ飛つ鳥も落す様な威勢で斯うして此処に安楽に暮して居るが、月の鏡に妾の古い傷がスツカリ写つた様な心持になり、月見どころか、穴でもあらば這入り度い様な心持になり、悔悟の念に苦しむ時しも、満天の星は黒雲に包まれ月光は影を隠し四面咫尺暗澹となりしと思ふ間もなく、ジヤンナの郷に三五の道を伝ふる友彦は妾が昔彼に与へた凌辱の怨みを復さむと数多の鬼を従へ、天上より鋼鉄の矛を雨の如くに降らせ、火の車を以て我肉体を迎へ来る其恐ろしさ。罪にかたまつた肉体の衣を神様の御恵に依つて剥ぎ取られ、又母上も子の愛に溺れ給ふ執着心の衣は、此谷間に落ちて白烟となり消え失せました。アヽ斯くなる上は最早妾の肉体には一点の雲霧も無く、正に此中秋のお月様の如き身魂と生れ変つた様で御座います。それに就いては皆様、只今より月見の宴を廃し、神様にお詫を致しませう』 との物語りに梅子姫は感じ入り、自ら導師となつて高殿に端坐し、月光に向つて感謝祈願の神言を奏上し、月見に用ゐたる総ての器を此高殿より眼下の谷底目蒐けて一品も残らず投げやり、今後は決して月見の宴を為さざる事を神明に約し、悄然として地恩城の奥殿に姿を隠し、再び一同打揃ひ天津祝詞を奏上する事となりぬ。 地恩城の黄竜姫を始め、重だちたる幹部は奥殿に入り、祝詞を奏上し了つて神酒を頂き居る際、慌しく奥の間目蒐けて駆入り来る貫州、武公の両人は、息も絶え絶えに後鉢巻グツと締め、各自茨の鞭を握つた儘、 貫州、武公『申し上げます。タヽヽヽ大変で御座います。御用意を遊ばしませ』 と息もつき敢ず泣声になつて言上する。 スマートボール『其方は貫州、武公の両人、大変とは何事だ。苦しうない、近く寄つて細さに物語つたが宜からうぞ』 貫州は両手にて胸を打ち乍ら、稍反身になつて、 貫州『我々両人、地恩城の城門を、スマートボールの命令に依り数多の部下を監督し、用心堅固に守る折しも遥に聞ゆる鬨の声、何事ならむと高殿に一目散に駆登り、月の光に照らして向ふをキツと眺むれば、十曜の紋の旗印、瓢箪形の馬標は幾十百とも無く樹々の間に間に出没し、赤鉢巻に赤襷、数多の駒に跨りて鬨を作つて攻め寄せ来る其勢ひの凄じさ、敵は何者ならむと斥候を放ち、よくよく見れば豈図らむや、曩に城外に投げ出されたる元のバラモン教の友彦、ジヤンナの荒武者共を引率れ、黄竜姫に厳談せむと呼ばはり乍ら、猛虎の勢にて攻め来る。味方は薄衣綾錦、数万の敵軍は甲冑に身を固め小手脛当て、鋭利の武器を携へ旗鼓堂々と攻め寄せ来る物々しさ。吾々両人は、味方の奴輩残らず駆り集め、寄せ来る敵に向つて言霊戦を開始し、天の数歌歌ひ上げて両手を組み、指頭より五色の霊光を発射し敵の魔軍に向つて防ぎ戦へ共、彼も強者、言霊を以て応酬し、其上鋭利なる武器を携へ、時々刻々に近寄り来る危さ。日頃無抵抗主義の地恩城なれども、斯くなる上は最早詮なし、武器に代へて所在小石を引掴み、押し寄せ来る敵軍に向つて雨霰と乱射すれば、敵は雪崩をうつて一二丁ばかり一旦ドツと引き上げしが、又もや鬨を作つて、暴虎憑河の勢恐ろしく、口より火焔を吹き乍ら、青、赤、黒の鬼神共先頭に立ち、雷の如き怪声を放ちて攻来る。味方は僅に三百有余人、死力を尽して挑み戦へども、敵は名に負ふ大軍、瞬く間に縦横無尽に薙立てられ、無念乍らも我々両人、敵を斬り抜け漸く此場に立ち帰り候程に、この処に御座あつては御身辺危ふし、一時も早く裏門より、山伝ひにシオン山の方面指して落ち延び給へ。サア、早く早く』 と身を慄はし、左右の手を打ち振り打ち振り注進に及ぶ其怪しさ。スマートボールは合点往かず、 スマートボール『只今まで高殿に於て月見の宴を催し居たりし我々、敵の押寄せ来る気配あれば何とか神界より御示しあるべき筈、扨ても合点の往かぬ事であるワイ。……もうし黄竜姫様、梅子姫様、如何思召し給ふや、合点の往かぬ両人が注進』 と二人の顔を打ち守り、稍不安の面持にて胸を躍らせて居る。黄竜姫は悠揚迫らず、 黄竜姫『あいや、スマートボール、……貫州、武公の両人を我前に伴ひ来れ』 との厳命にスマートボールは両人の手を引き、黄竜姫の膝下に導いた。二人は頭を垂れ、猫に追はれし鼠の如く畏縮して慄ひ上つて居る。 黄竜姫『あいや、貫州、武公両人、只今汝が注進せし事は過去の出来事なりや、将未来の事なるか、但は現在の事か、明瞭に答弁せよ』 武公『ハイ、過去の事や未来の出来事ならば我々は決して斯様な心配は致しませぬ。既に城内の者共は殆ど滅亡致し、我々両人も斯くの如く顔に手疵を負ひし以上は、只今の事、今や……アレアレあの通り間近くなつた声、人馬の物音、今に友彦、鋼鉄の矛を打振ひ此場に攻め寄せ来りますれば、何卒一時も早く裏門より逃げ延びて下さいませ』 黄竜姫『あいや、スマートボール、其方は表門に行つて実否を調査し来れ』 スマートボールは『ハイ』と答へて立ち上らむとする。貫州は其裾を掴んで、 貫州『モシモシ左守様、お待ち下さいませ、衆寡敵せず、飛んで火に入る夏の虫、決して悪い事は申しませぬ。……黄竜姫様、早く早く御用意遊ばしませ』 梅子姫『今武公の言葉におひおひ近づく鬨の声、人馬の物音と申したが、天地は至つて静寂、何の声も無いではありませぬか』 武公『ソヽヽそりや何を仰有います。あの声が分りませぬか』 と顔色変へて落ち付かぬ気に、震ひ震ひ答へる。 スマートボールは貫州の手を振り放し、一目散に表門に現はれ見れば、月は皎々と輝き猫の子一匹其辺に見えぬ。『ハテ不思議』と高殿に登り四方をキツと見渡せば山はコバルト色に蒼ずんで一点の白雲もなく、山の尾の上の輪画は一入瞭然として、淋しき中に得も言はれぬ雅味を漲らして居る。スマートボールは悠々として奥殿に帰り来り、二人の前に立現はれ、矢庭に平手を以て貫州、武公の横面を二つ三つピシヤピシヤと打てば、二人は初めてポカンとした様な面を曝し、 両人『ヤア……これはこれは不躾千万にも女王様の御殿に何時の間にか侵入致し、実に申し訳なき事で御座います。何卒お許し下さいませ』 と平伏する。 蜈蚣姫『ほんにほんに、妾の荒肝を取りかけよつた。お前は一体何と言ふ事を言つて来るのだ。大方夢を見て居つたのだらう』 両人『ハイ、今考へて見ますれば、夢の連続的行為で御座いました。あまり友彦が出て来る出て来ると心配して居つたものですから、ドエライ夢を見たので御座いませう……あゝ惟神霊幸倍坐世』 と両手を合せ、 両人『マアマア夢で結構で御座いました。……皆さま、お目出度う、お祝ひ申します』 黄竜姫、梅子姫、宇豆姫一度に吹き出し、 三人『プツフヽヽヽ、オホヽヽヽ』 館の外には皎々たる明月輝き、松虫、鈴虫、蟋蟀、螽斯の声賑しく聞えて居る。 (大正一一・七・一〇旧閏五・一六北村隆光録) |
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霊界物語 | 31_午_南米物語3 国依別の旅 | 23 化老爺 | 第二三章化老爺〔八八九〕 秋山別は烈風に吹き散らされ、力と頼みしモリスには別れ、止むを得ず只一人、屏風山脈の帽子ケ岳を目当てに登りつつ、又もや日を暮らして、老木茂る木蔭に立寄り、身を横たへて茲に夜の明くるを待つ事とせり。 満天の星光は燦然として金色の光を放ち、紺碧の空は、何となく爽快を覚え、天を仰いで神徳を讃美しつつありし折、俄に山岳も崩るる計りの大音響聞え来り、一天忽ち曇りて、大粒の雨バラバラと降り出でぬ。 秋山別は止むを得ず、老木の蔭に立寄り雨を避けむとする折しも、忽然として現はれたる白髪異様の大怪物、鏡の如き巨眼を剥き出し、鼻高く、口大きく、銅の如き面相にて、秋山別を睨めつけにける。秋山別は轟く胸を押へ、臍下丹田に神を納め、怪物の顔を瞬きもせず睨めつけゐたり。怪物も又、ビクともせず、地上より生えたる樹木の如く突立つて、赤、青、白、黒、黄、紫と幾度も顔色を変じ、爪の長き毛だらけの巨腕をヌツと前につき出し、今や秋山別を、一掴みにひン握り、投げ捨てむとするの勢を示しけるにぞ、秋山別は心の中にて……国治立大神、豊国姫大神、国大立大神、日の出神、木の花姫神、金勝要大神、守り玉へ幸はひ玉へ……と祈願をこらし居たりしが、怪物は大口をあけて、雷の如き巨声にて笑ひ出しぬ。 怪物『アツハヽヽヽ、秋山別の宣伝使、能つく聞け!吾こそはアマゾン河の森林に永住致す八岐大蛇の化身であるぞ。 イヽヽー如何に汝、勇猛なりとて吾等が一族に向つて言霊線を発射し、吾等が永年の棲処を荒さむと致す憎き奴原、 ウヽヽーうつかり森林に向うものならば、某が神変不思議の術を以て、汝が身体を寸断し呉れむ。万一汝改心をなし、是より引返すに於ては、汝が罪を許し、生命を助け遣はすべし。返答は如何に』 と呶鳴り立てけるを、秋山別は不退転の信念を固め、 秋山別『エヽヽー面倒な、某は国治立大神の教の御子、三五教の神司、汝が如き曲神の言を用ゐて、のめのめ引返す様な腰抜武士ではないぞ。 オヽヽー恐ろしき其面構へを致し、活神の宣伝使を脅しつけようと致しても到底駄目だ。早く姿を隠せ』 怪物『ヤイ秋山別、良つく聴け。 カヽヽー神々と申すが、国治立尊が神ならば、八岐大蛇も亦神であるぞよ。神と云ふ点に於て何処に違つた所があるか。此方はウラル教を守護致す元の神にして、世界の先祖と聞えたるアダム、エバの霊より現はれ出でたる者なるぞ。言はば汝ら人民の祖神である。子が親に対してたてつくと云ふ道理は何処にあるか、 キヽヽ鬼門の金神とはそりや何の囈言、八岐大蛇が悪神なれば、鬼門の鬼の字は又鬼ではないか、 クヽヽ下らぬ事を申すより、早く往生致せば、苦労なしに神徳が頂けるではないか、 ケヽヽ見当の取れぬ神界の模様、人間の分際として如何して分らうぞ、 コヽヽ是位神が言葉を分けて申したら、如何な頑迷な其方でも、合点が往つたであらう。 サヽヽさつぱりと今迄の心を取直し、大蛇の神に帰順致すか、 シヽヽしぶとう致して居ると最早量見はならぬぞ、 スヽヽ好だ嫌ひだと、神に区別を立て、世界をうろたへまはる腰抜共、 セヽヽせせこましい事を思はずに、天地一体の真理を弁へ、早く此方に帰順せよ、 ソヽヽそれが其方に取つて最も安全な道であるぞ、 タヽヽ高天原の聖地錦の宮の神司だとか、イソの館に鎮まる素盞嗚尊の部下だとか、 チヽヽ小さき隔てを立てて、自ら小さき穴に迷ひ込み、 ツヽヽ月の大神許りを持て囃し、 テヽヽ天に輝く日の大神を次に致し、 トヽヽ十曜の神紋を閃かし、世界を宣伝使面さげて、うろたへ廻るとは何のたわ事、早く此方の傘下に集まり来つて、吾神業に奉仕するか、さもなくば汝が身体は風前の燈火だ。ハヽヽヽヽ』 と四辺に響く高笑ひ。秋山別は暗夜、此深山に於て、斯かる怪物に出会ひ、胸轟き、身の毛もよだつ計りに恐ろしくなり来たりぬ。されど飽く迄も、一旦心にきめた信仰を翻さじと、臍下丹田に息をこめ『一二三四五六七八九十百千万』と辛うじて、天の数歌を奏上すれば、怪物の顔は漸くに和ぎ少しく笑を湛へ居るにぞ、秋山別は吾言霊の非常に効力ありしことを心中に打喜び、怪物に向つて、 秋山別『オイお爺イさま、随分偉い勢で、吾々を威喝したぢやないか。そンな事を怖がる様な者は只の一人もないぞよ。俺の怖いと云ふのはそンな化州でも何でもないワ』 怪物『ワツハヽヽヽ、それなら其方は何が一番怖いと思ふか。此爺は恐ろしくないか』 秋山別『ヘン、何が恐ろしいのだ。夜になればそンな偉相な面をして出て来るが、お日様がお出ましになると、すぐに消えて了ふ代物が恐ろしくて、此世の中が生きて行けるかい。コリヤ此方は三途の川を渡り、焦熱地獄へ往き、地獄の底まで探険して、実地修養を経た秋山別の宣伝使だぞ。お前達が怖くて堪らうかい』 怪物『そンなら、一つ怖い者があると云つたのは何の事だい。俺の怖いと云ふのは誠と云ふ一字許りだ』 とウツカリ怪物は口を辷らしたるを、秋山別は之を聞いて、 秋山別『ハヽー此奴、誠が怖いと云ひよつたなア。大方言霊に恐れてゐるのだらう。ヨシ、之からグヅグヅ吐しよつたら、言霊を連発してやるのだナア』 と腹の中で決定て了つた。 秋山別『オイ爺、モウしめたものだ。貴様は誠が一番怖いと云ひよつた。誠生粋の大和魂の言霊をこれから発射してやるから、其積りで居れ。 ナヽヽ何と申しても、此言霊は俺の口から出るのだから、貴様の力でとめる訳にも行こまい、早く改心を致さぬと、 ニヽヽ二進も三進も行かさぬ様に、秋山別がここで封じて了つてやるぞ』 怪物『ヌヽヽ吐すな吐すな。強盗猛々しいとは其方の事だぞ。主人の娘を盗み出さうと致した痴者奴、 ネヽヽ佞け曲つた其方の言霊が、此方に対して応用が出来て堪るものかい、 ノヽヽ野天狗、野狸、野狐の様な厄雑神の容物となり、言霊を発射するのなンのと、 ハヽヽ腹が撚れるワイ、余り可笑しうてのウ。 ヒヽヽ姫の後を野良犬の様に嗅ぎまはる、 フヽヽ不束者奴が、 ヘヽヽ屁でも喰つたがよからうぞ、 ホヽヽ呆け野郎奴、 マヽヽ誠が怖いと申せば直に附け上り、言霊を発射してやらうなどと、心の中で北叟笑みを致して居るぞよ。この方は余りの可笑しさに、 ミヽヽ見つともない、其面付で女に対し、恋の鮒のと、ソリヤ何のたわ事。 ムヽヽ昔から無理往生の恋が遂げられた例しはないぞ。 メヽヽ盲滅法界に、 モヽヽ盲目的に、 ヤヽヽやり切らうと思うても、 イヽイ行きは致さぬぞよ。 ユヽヽ幽冥界へ落されて、焦熱地獄に迷ひ込み、火の車に乗せられ、 エヽヽえぐい、熱い苦みに会ひ、 ヨヽヽヨウもヨウも幽界の探険をして来たなどと、口幅の広い事を云はれたものだ、 ラヽヽらつちもない、 リヽヽ悋気喧嘩を致したり、 ルヽヽ坩堝の様な黒い洒つ面をして、 レヽヽ恋愛の恋慕のと、ソリヤ何を吐くのだい、 ロヽヽ碌でなし奴。 ワヽヽ吾れの身分を考へて見よ。 ヰヽヽいたづら小僧の分際として、 ウヽヽ囈言のような恋を語り、 ヱヽヽ縁があるの、ないのと、 ヲヽヽ可笑しいワイ。貴様の怖いのは大方女だらう。女の為に、シーズン河へ投込まれ、有るに有られぬ苦労を致し、地獄の八丁目迄落されて来よつたのだから、女にはコリコリ致したと見えて、元気のない其面付は何だい』 秋山別『ヨシ待て、糞爺、今に秋山別が神力無双、円満清朗なる生言霊の弾丸を其方の面体に向つて乱射してやるから覚悟を致せ。コリヤ取つときの言霊だぞ。最前のは鉛の玉だつたが、今度は銀の玉と金の玉だ。化物に向つて金の玉を発射すれば、化者は滅亡するのは昔から定まつてゐる。サア良いか』 怪物『アハヽヽヽ、睾玉を発射するのも面白からう。其方は最早女に絶縁し来た以上は、睾玉は不必要だ。サア何ぼなと発射せい。受取つてやらう。併乍ら只の二つより有ろまい。其代り、其二つを発射したが最後、其方の勇気はなくなり、言霊戦はモウ駄目だぞ』 秋山別『馬鹿だなア。そんな睾の玉とは違うのだ。一言天地を震憾し、一声よく風雨雷霆を叱咤する黄金の言霊だ』 と云ひ乍ら、 秋山別『一二三四五六七八九十百千万』 と四五回も繰返せば、流石の怪物も追々其容積を減じ、遂には二三尺の童子の姿となり、小さき声にて、 童子(怪物)『コリヤ秋山別、其方は俺の一番怖がる誠の言霊を発射して攻めよつたな。ヨシ此方にも考へがある。今日はこれで別れてやるが、明晩キツと仇を打つてやるから其積りで居れ。ウーーツ』 と唸りを立ててパツと其儘消え失せにけり。 (大正一一・八・二〇旧六・二八松村真澄録) |