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書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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霊界物語 | 01_子_霊界探検/玉の争奪戦 | 17 神界旅行(四) | 第一七章神界旅行の四〔一七〕 神界の場面が、たちまち一変したと思へば、自分は又もとの大橋の袂に立つてゐた。どこからともなくにはかに大祓詞の声が聞えてくる。不思議なことだと思ひながら、二三丁辿つて行くと、五十恰好の爺さんと四十かつかうの婦とが背中合せに引着いて、どうしても離れられないでもがいてゐる。男は声をかぎりに天地金の神の御名を唱へてゐるが、婦は一生懸命に合掌して稲荷を拝んでゐる。男の合掌してゐる天には、鼻の高い天狗が雲の中に現はれて爺をさし招いてゐる。婦のをがむ方をみれば、狐狸が一生懸命山の中より手招きしてゐる。男が行かうとすると、婦の背中にぴつたりと自分の背中が吸ひついて、行くことができない。婦もまた行かうとして身悶えすれども、例の背中が密着して進むことができない。一方へ二歩行つては後戻り、他方へ二歩行つては、又あともどりといふ調子で、たがひに信仰を異にして迷つてゐる。自分はそこへ行つて、「惟神霊幸倍坐世」と神様にお願ひして、祝詞を奏上した。そのとき私は、自分ながらも実に涼しい清らかな声が出たやうな気がした。 たちまち密着してゐた両人の身体は分離することを得た。彼らは大いに自分を徳として感謝の辞を述べ、どこまでも自分に従つて、 『神界の御用を勤めさしていただきます』 と約束した。やがて男の方は肉体をもつて、一度地の高天原に上つて神業に参加しやうとした。しかし彼は元来が強欲な性情である上、憑依せる天狗の霊が退散せぬため、つひには盤古大神の眷族となり、地の高天原の占領を企て、ために、霊は神譴を蒙りて地獄に堕ち、肉体は二年後に滅びてしまつた。さうしてその婦は、今なほ肉体を保つて遠く神に従ふてゐる。 この瞬間、自分の目の前の光景は忽ち一転した。不思議にも自分はある小さな十字街頭に立つてゐた。そこへ前に見た八頭八尾の霊の憑いた男が俥を曳いてやつて来て、 『高天原にお伴させていただきますから、どうかこの俥にお召し下さい』 といふ。しかし「自分は神界修業の身なれば、俥になど乗るわけにはゆかぬ」と強て断つた上、徒歩でテクテク西へ西へと歩んで行つた。非常に嶮峻な山坂を三つ四つ越えると、やがてまた広い清い河のほとりに到着した。河には澄きつた清澄な水が流れてをり、川縁には老松が翠々と並んでゐる実に景勝の地であつた。自分はこここそ神界である、こんな処に長らくゐたいものだといふ気がした。また一人とぼとぼと進んで行けば、とある小さい町に出た。左方を眺むれば小さな丘があり、山は紫にして河は帯のやうに流れ、蓮華台上と形容してよからうか、高天原の中心と称してよからうか、自分はしばしその風光に見惚れて、そこを立去るに躊躇した。 山を降つて少しく北に進んで行くと、小さな家が見つかつた。自分は電気に吸着けらるるごとく、忽ちその門口に着いてゐた。そこには不思議にも、かの幽庁にゐられた大王が、若い若い婦の姿と化して自分を出迎へ、やがて小さい居間へ案内された。自分はこの大王との再会を喜んで、いろいろの珍らしい話しを聞いてゐると、にはかに虎が唸るやうな、また狼が呻くやうな声が聞えてきた。よく耳を澄まして聞けば、天津祝詞や大祓の祝詞の声であつた。それらの声とともに四辺は次第に暗黒の度を増しきたり、密雲濛々と鎖して、日光もやがては全く見えなくなり、暴風にはかに吹き起つて、家も倒れよ、地上のすべての物は吹き散れよとばかり凄じき光景となつた。その濛々たる黒雲の中より「足」といふ古い顔の鬼が現はれてきた。それには「黒」といふ古狐がついてゐて、下界を睥睨してゐる。その時にはかに河水鳴りとどろき河中より大いなる竜体が現はれ、またどこからともなく、何とも形容のしがたい悪魔があらはれてきた。大王の居間も附近も、この時すつかり暗黒となつて、咫尺すら弁じがたき暗となり、かの優しい大王の姿もまた暗中に没してしまつた。ただ目に見ゆるは、烈風中に消えなむとして瞬いてゐる一つのかすかな燈光ばかりである。自分は今こそ神を祈るべき時であると不図心付き、「天照大御神」と「産土神」をひたすらに念じ、悠々として祝詞をすずやかな声で奏上した。一天にはかに晴れわたり、一点の雲翳すらなきにいたる。 祝詞はすべて神明の心を和げ、天地人の調和をきたす結構な神言である。しかしその言霊が円満清朗にして始めて一切の汚濁と邪悪を払拭することができるのである。悪魔の口より唱へらるる時はかへつて世の中はますます混乱悪化するものである。蓋し悪魔の使用する言霊は世界を清める力なく、欲心、嫉妬、憎悪、羨望、憤怒などの悪念によつて濁つてゐる結果、天地神明の御心を損ふにいたるからである。それ故、日本は言霊の幸はふ国といへども、身も魂も本当に清浄となつた人が、その言霊を使つて始めて、世のなかを清めることができ得るのである。これに反して身魂の汚れた人が言霊を使へば、その言霊には一切の邪悪分子を含んでゐるから、世の中はかへつて暗黒になるものである。 さて自分は八衢に帰つてみると、前刻の鬼、狐および大きな竜の悪霊は、自分を跡から追つてきた。「足」の鬼は、今度は多くの眷族を引連れ来たり、自分を八方より襲撃し、おのおの口中より噴霧のやうに幾十万本とも数へられぬほどの針を噴きかけた。しかし自分の身体は神明の加護を受けてゐた。あたかも鉄板のやうに針を弾ね返して少しの痛痒をも感じない。その有難さに感謝のため祝詞を奏げた。その声に、すべての悪魔は煙のごとく消滅して見えなくなつた。 ここで一寸附言しておく。「足」の鬼といふのは烏帽子直垂を着用して、あたかも神に仕へるやうな服装をしてゐた。しかし本来非常に猛悪な顔貌なのだが、一見立派な容子に身をやつしてゐる。また河より昇れる竜は、たちまち美人に化けてしまつた。この竜女は、竜宮界の大使命を受けてゐるものであつて、大神御経綸の世界改造運動に参加すべき身魂であつたが、美しい肉体の女に変じて「足」の鬼と肉体上の関係を結び神界の使命を台なしにしてしまつた。竜女に変化つたその肉体は、現在生き残つて河をへだてて神に仕へてゐる。彼女が竜女であるといふ証拠には、その太腿に竜の鱗が三枚もできてゐる。神界の摂理は三界に一貫し、必ずその報いが出てくるものであるから、神界の大使命を帯びたる竜女を犯すことは、神界としても現界としても、末代神の譴めを受けねばならぬ。「足」の鬼はその神罰により、その肉体の一子は聾となり、一女は顔一面に菊石を生じ、醜い竜の葡匐するやうな痕跡をとどめてゐた。さて一女まづ死し、ついでその一子も滅んだ。かれは罪のために国常立尊に谷底に蹴落され胸骨を痛めた結果、霊肉ともに滅んでしまつた。かくて「足」の肉体もついに大神の懲戒を蒙り、日に日に痩衰へ家計困難に陥り、肺結核を病んで悶死してしまつた。 以上の一男一女は「足」の前妻の子女であるが、竜女と「足」の鬼との間にも、一男が生れた。「足」の鬼は二人の子女を失つたので、彼は自分の後継者として、その男の子を立てやうとする。竜女の方でも、自分の肉体の後継者としやうとして焦つてゐる。一方竜女には厳格な父母があつた。彼らもその子を自分の家の相続者としやうとして離さぬ。「足」の鬼の方は無理にこれを引とらうとして、一人の肉体を、二つに引きち切つて殺してしまつた。霊界でかうして引裂かれて死んだ子供は現界では、父につけば母にすまぬ、母につけば父にすまぬと、煩悶の結果、肺結核を病んで死んだのである。かうして「足」の鬼の方は霊肉ともに一族断絶したが、竜女は今も後継者なしに寡婦の孤独な生活を送つてゐる。 本来竜女なるものは、海に極寒極熱の一千年を苦行し、山中にまた一千年、河にまた一千年を修業して、はじめて人間界に生れ出づるものである。その竜体より人間に転生した最初の一生涯は、尼になるか、神に仕へるか、いづれにしても男女の交りを絶ち、聖浄な生活を送らねばならないのである。もしこの禁断を犯せば、三千年の苦行も水の沫となつて再び竜体に堕落する。従つて竜女といふものは男子との交りを喜ばず、かつ美人であり、眼鋭く、身体のどこかに鱗の数片の痕跡を止めてゐるものも偶にはある。かかる竜女に対して種々の人間界の情実、義理、人情等によつて、強て竜女を犯し、また犯さしめるならば、それらの人は竜神よりの恨をうけ、その復讐に会はずにはゐられない。通例竜女を犯す場合は、その夫婦の縁は決して安全に永続するものではなく、夫は大抵は夭死し、女は幾度縁をかゆるとも、同じやうな悲劇を繰返し、犯したものは子孫末代まで、竜神の祟りを受けて苦しまねばならぬ。 (大正一〇・一〇・一九旧九・一九谷口正治録) |
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霊界物語 | 01_子_霊界探検/玉の争奪戦 | 36 一輪の仕組 | 第三六章一輪の仕組〔三六〕 国常立尊は邪神のために、三個の神宝を奪取せられむことを遠く慮りたまひ、周到なる注意のもとにこれを竜宮島および鬼門島に秘したまうた。そして尚も注意を加へられ大八洲彦命、金勝要神、海原彦神、国の御柱神、豊玉姫神、玉依姫神たちにも極秘にして、その三個の珠の体のみを両島に納めておき、肝腎の珠の精霊をシナイ山の山頂へ、何神にも知らしめずして秘し置かれた。これは大神の深甚なる水も洩らさぬ御経綸であつて、一厘の仕組とあるのはこのことを指したまへる神示である。 武熊別は元よりの邪神ではなかつたが、三つの神宝の秘し場所を知悉してより、にはかに心機一転して、これを奪取し、天地を吾ものにせむとの野望を抱くやうになつた。そこでこの玉を得むとして、日ごろ計画しつつありし竹熊と語らひ、竹熊の協力によつて、一挙に竜宮島および大鬼門島の宝玉を奪略せむことを申し込んだ。竹熊はこれを聞きて大いに喜び、ただちに賛成の意を表し、時を移さず杉若、桃作、田依彦、猿彦、足彦、寅熊、坂熊らの魔軍の部将に、数万の妖魅軍を加へ、数多の戦艦を造りて両島を占領せむとした。 これまで数多の戦ひに通力を失ひたる竹熊一派の部将らは、武熊別を先頭に立て、種々なる武器を船に満載し、夜陰に乗じて出発した。一方竜宮島の海原彦命も、鬼門島の国の御柱神も、かかる魔軍に計画あらむとは露だも知らず、八尋殿に枕を高く眠らせたまふ時しも、海上にどつとおこる鬨の声、群鳥の噪ぐ羽音に夢を破られ、竜燈を点じ手に高く振翳して海上はるかに見渡したまへば、魔軍の戦艦は幾百千とも限りなく軍容を整へ、舳艪相啣み攻めよせきたるその猛勢は、到底筆舌のよく尽すところではなかつた。 ここに海原彦命は諸竜神に令を発し、防禦軍、攻撃軍を組織し、対抗戦に着手したまうた。敵軍は破竹の勢をもつて進みきたり、既に竜宮嶋近く押寄せたるに、味方の竜神は旗色悪く、今や敵軍は一挙に島へ上陸せむず勢になつてきた。このとき海原彦命は百計尽きて、かの大神より預かりし潮満、潮干の珠を取りだし水火を起して、敵を殲滅せしめむと為し給ひ、まづかの潮満の珠を手にして神息をこめ、力かぎり伊吹放ちたまへども、如何になりしか、この珠の神力は少しも顕はれなかつた。それは肝腎の精霊が抜かされてあつたからである。次には潮干の珠を取りいだし、火をもつて敵艦を焼き尽くさむと、神力をこめ此の珠を伊吹したまへども、これまた精霊の引抜かれありしため、何らの効をも奏さなかつた。 鬼門ケ島にまします国の御柱神は、この戦況を見て味方の窮地に陥れることを憂慮し、ただちに神書を認めて信天翁の足に括りつけ、竜宮城にゐます大八洲彦命に救援を請はれた。 このとき地の高天原も、竜宮城も黒雲に包まれ咫尺を弁せず、荒振神どもの矢叫びは天地も震撼せむばかりであつた。 ここにおいて金勝要大神は秘蔵の玉手箱を開きて金幣を取りだし、天に向つて左右左と打ちふり給へば、一天たちまち拭ふがごとく晴れわたり、日光燦爛として輝きわたつた。金勝要神は更に金幣の一片を取欠きたまひて信天翁の背に堅く結びつけ、なほ返書を足に縛りて、天空に向つて放ちやられた。信天翁は見るみる中天に舞ひ上がり、東北の空高く飛び去つた。信天翁はたちまち金色の鵄と化し、竜宮島、鬼門島の空高く縦横無尽に飛びまはつた。今や竜宮島に攻め寄せ上陸せむとしつつありし敵軍の上には、火弾の雨しきりに降り注ぎ、かつ東北の天よりは一片の黒雲現はれ、見るみる満天墨を流せしごとく、雲間よりは幾百千とも限りなき高津神現はれきたりて旋風をおこし、山なす波浪を立たしめ敵艦を中天に捲きあげ、あるひは浪と浪との千仭の谷間に突き落し、敵船を翻弄すること風に木の葉の散るごとくであつた。このとき竹熊、杉若、桃作、田依彦の一部隊は、海底に沈没した。 国常立尊はこの戦況を目撃遊ばされ、敵ながらも不愍の至りと、大慈大悲の神心を発揮し、シナイ山にのぼりて神言を奏上したまへば、一天にはかに晴渡りて金色の雲あらはれ、風凪ぎ、浪静まり、一旦沈没せる敵の戦艦も海底より浮揚り、海面はあたかも畳を敷きつめたるごとく穏かになつてきた。 このとき両島の神々も、諸善竜神も竹熊の敵軍も、一斉に感謝の声をはなち、国常立大神の至仁至愛の恵徳に心服せずにはをられなかつた。広く神人を愛し、敵を敵とせず、宇宙一切の衆生にたいし至仁至愛の大御心を顕彰したまふこそ、実に尊き有難ききはみである。 (大正一〇・一〇・二三旧九・二三桜井重雄録) |
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霊界物語 | 01_子_霊界探検/玉の争奪戦 | 37 顕国の御玉 | 第三七章顕国の御玉〔三七〕 国常立尊の厳命を奉じ、ここに天使稚姫君命、同大八洲彦命、金勝要神の三柱は、高杉別、森鷹彦、田依彦、玉彦、芳彦、神彦、鶴若、亀若、倉高、杉生彦、時彦、猿彦以下の神司を引率し、流れも清き天の安河の源に参上りたまうた。この山の水上にはシオンの霊山が雲表高く聳えてゐる。シオンの山の意義は、「浄行日域といつて天男天女の常に来りて、音楽を奏し舞曲を演じて、遊楽する」といふことである。この山の頂には広き高原があつて、珍しき五色の花が馥郁たる香気をはなつて、春夏秋冬の区別なく咲き満ちてゐる。また種々の美味なる果実は木々の梢に枝もたわわに実つてゐる安全境である。この高原の中央に、高さ五十間幅五十間の方形の極めて堅固なる岩石が据ゑられてある。これは国常立尊が天の御柱の黄金の柱となつて星辰を生み出し給ひしとき、最初に現はれたる星巌である。神業祈念のために最初の一個を地上にとどめ、これを地上の国魂の守護と定めて今まで秘めおかれたのである。 天地剖判の初めより、一週間ごとに十二柱の天人、この山上に現はれて遊楽する時、この星巌を中に置き、天男は左より、天女は右より廻りて音楽を奏し、舞曲を演ずる所である。そのとき天男、天女の薄衣のごとき天の羽衣の袖にすり磨かれて、その星巌は自然に容積を減じ、今は中心の玉のみになつてゐたのである。この玉は直径三尺の円球である。これを見ても天地剖判の初めより幾万億年を経過したるかを想像される。 稚姫君命以下の神司は、天の安河原の渓流に御禊の神業を修したまひ、ただちに雲を起し、これに乗り、シオン山の頂に登りたまひ、山上の高原を残る隈なく踏査し、諸天神の御魂の各自の御座所を定め、地鎮祭をおこなひ、神言を奏上し、永遠に神の霊地と定めたまうた。 この高原の中央には、前記十二柱の天男天女が一個の星巌を中心に、左右より廻り遊んでゐた。ここに稚姫君命以下の神司は、その星巌に近づきたまへば、天男天女ははるか後方に退き、地上に拝跪して太古より今日まで星巌を磨き、かつ守護せしことの詳細を命に進言した。 稚姫君命は多年の労苦を謝し、かつ神勅に違はず、数万年間これを守護せしその功績を激賞し、種々の珍しき宝を十二の天人にそれぞれ与へたまうた。 一見するところ此の円き星巌は地球に酷似してゐる。大地の神霊たる金勝要神は、いと軽々しくその円巌を手にして三回ばかり頭上高く捧げ、天に向つて感謝し、ついでこれを胸先に下し、息吹の狭霧を吹きかけたまへば、円巌はますます円く形を変化し、その上得もいはれぬ光沢を放射するにいたつた。このとき金勝要神はいかが思召けむ、この円巌を山頂より安河原の渓流めがけて投げ捨てたまうた。急転直下、六合も割るるばかりの音響を発して谷間に転落した。稚姫君命以下の諸神司は諸々の従臣と共に、星巌の跡を尋ねてシオン山を下り、星巌の行方いかにと谷間の彼方こなたを捜させたまうた。はるか上流に当つて、以前の十二の天人霧立ちのぼる谷間に面白く舞ひ狂うてゐる姿が目につき、玉の行方は確にそこと見定め、渓流を遡りたまうた。幾百丈とも知れぬ大瀑布の下に、以前の星巌落ちこみ滝水に打たれ、或ひは水上に浮かび、あるひは水中に沈み、風船玉が水の力によつて動くがごとく、あるひは右に或ひは左に旋転して円さはますます円く、光はますます強く金剛不壊の宝珠と化してゐる。この時金勝要神はたちまち金色の竜体と化し、水中に飛びいり両手にその玉を捧げて、稚姫君命の御前に捧呈された。洗ひ晒された此の玉は、表側は紫色にして、中心には赤、白、青の三つの宝玉が深く包まれてゐるのを外部から透見することができる。これを顕国の御玉と称え奉る。 (大正一〇・一〇・二三旧九・二三加藤明子録) |
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霊界物語 | 01_子_霊界探検/玉の争奪戦 | 40 黒玉の行衛 | 第四〇章黒玉の行衛〔四〇〕 竹熊は謀計をもつて、田依彦の持てる玉を手に入れたるより大いに勢を得、今度はすすんで玉彦の持てる黒色の玉を、奪取せむことを企てた。玉彦は名誉欲が強く、つねに衆人の下位に立ち不平満々で日を送つてゐたのである。 しかるに茲に黒玉を得て心中勇気を増し、意気揚々として竜宮城内を濶歩し、他の者たちに対して、 『われは位の低き者なれども、大神より特に選ばれて、黄金水の黒玉を得たり。かならずや時きたらば、われは立派なる上の位地にのぼり、竜宮城の権力を掌握するにいたらむ』 と心ひそかに期待してゐた。 竹熊は醜女、探女を放ちて、玉彦の心中を探り、玉彦の持てる玉を奪らむとすれば、まづ名誉欲をもつてこれにのぞまねばならぬことを知つた。そこで竹熊は大八洲彦命の部下の長彦を誑らかし、長彦の手より玉彦の妻坂姫を説き、坂姫より玉彦の黒玉を得むとした。長彦は十二の玉のうち一個の玉も吾が手に入らざりしを心足りなく思ひゐたる矢さきなれば、玉彦に対しても、やや嫉妬の念の萠してゐた際である。そこへ自分の下位にある玉彦は、玉を得て高慢心を生じ、長彦の命を時どき拒むやうになつた。長彦はいかにもして玉彦の高き鼻をくじかむと、百方焦慮してゐたのである。 そこへ竹熊の間者なる鳥熊は、大八洲彦命の命と佯はり、かつ曰く、 『玉彦のこのごろの行動もつとも不穏なり、彼がごとき者に玉を抱かしむるは、はなはだ危険なり。もしこの玉にして長彦の手に入らば、玉の神力はいやが上にも発揮せむ。何とぞ長彦はわれの内命を諾なひ、かの玉を奪取せよ……との厳命なり』 と、私かに長彦の家にいたつて教唆した。 ここに長彦は一計をめぐらし、玉彦の妻坂姫を言葉たくみに説きつけ、坂姫の手よりこの玉を奪はしめむとした。坂姫は容色端麗なる竜宮城の美人であつた。玉彦は、平素より坂姫の美貌に恋々たる有様で、坂姫の一言一動は玉彦の生命の鍵であつた。そこを窺ひ知つた長彦は、いかにもして坂姫の首を縦に振らしめむとした。坂姫はいたつて舞曲が好きであつた。 そこで長彦と鳥熊は、シオン山において見たる天男、天女の舞曲を思ひだし、ひそかに舞曲の稽古にかかつた。百日百夜の習練の結果は実に妙を得、神に達した。もはやこれならば坂姫の心を動かすに足らむと自信し、坂姫の住まへる室の庭先にいたつて、さかんに舞ひはじめた。坂姫は何心なく押戸を開けて庭先を眺めたが、ふたりの妙をえたる舞踏に胆を奪はれ、しばし恍惚としてこれに見惚れてゐた。つひには自分も立つてその場に顕はれ三巴となつて、たがひに手を取り踊りまはつた。かくしていつの間にか坂姫は、長彦、鳥熊らと無二の親友となつてしまつた。その翌日もまたその翌日も、三人はその庭前に出でて舞曲に余念なく、歓喜の声は四辺にひびき、園内はにはかに陽気となつてきた。 このとき別殿に控へたる玉彦は、最愛の妻の舞ひ狂ふ優美なる姿に見惚れ、玉を奥殿に秘蔵しおき、三人の前に立現はれた。鳥熊、長彦は巧言令色いたらざるなく、玉彦を主座に据ゑ、尊敬のあらむ限りをつくし、玉彦の歓心を求めた。ここに玉彦は、自分の上位にある長彦に尊敬されるのは、全く坂姫の舞曲の妙技の然らしむるところと心中に深く坂姫に感謝した。坂姫は玉彦にむかひ、 『貴下も共に舞ひたまへ』 と無理にその手を取つて舞踏せしめむとした。玉彦には坂姫の一言一句は、常に微妙なる音楽と聞ゆるのである。少しでも坂姫の心に逆らへば、坂姫の顔色はたちまち憂愁に沈む。いかにもして坂姫に笑顔を作らしめむと心を悩ましてゐた。 ここに鳥熊、長彦は、「獅子王、玉を争ふ」の舞曲を演ぜむことを申し込んだ。坂姫は第一に賛成の意を表し、玉彦に黒色の玉を持ちいだし、舞曲の用に供せむことを懇請した。玉彦はいかに最愛の妻なればとて、 『こればかりは許せよ。わが位地昇進のための重宝なれば』 と拒んだ。坂姫はたちまち顔色曇り、地上に倒れ伏し声をあげて夫玉彦の無情に泣いた。玉彦はやむを得ず、坂姫の請を容れて、不安の内にも此の玉を奥殿より取り出した。坂姫は喜色満面に溢れ、ここに四柱は、玉を争ふ獅子王の舞曲を奏しはじめた。四柱はただちに牡丹の園へ出て、各自獅子に変装した。まづ玉を坂姫の獅子に持たせた。鳥熊、長彦の変化獅子は、坂姫を左右より取りまき、鳥熊はその玉を取るより早く、口に含み庭先の湯津桂の樹上高くかけ登つた。つづいて長彦もかけ登つた。このとき鳥熊は足もて、長彦を地上に蹴落した。長彦は、庭先の置石に頭を打ち砕きことぎれた。 玉彦、坂姫は、驚き周章て狼狽ゐる其の間に、西方の天より空中をとどろかして、大虎彦の邪神は天の鳥船に乗りきたり、鳥熊を乗せて遠く西天に姿を没した。鳥熊の持てる黒玉は大虎彦の手に入るとともに、鳥熊の身体は鳥船より蹴落され、シナイ山の深き谷間に落ちて、その肉体はたちまち粉砕の厄に遇うた。 アゝ何処までも巧妙なる邪神の奸策よ。いかに善良なる神人といへども、心中に一片の執着ある時はかならず邪鬼妖神のために犯さるるものである。慎むべきは一切の物に執着の念を断つべきことである。 (大正一〇・一〇・二四旧九・二四加藤明子録) |
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霊界物語 | 01_子_霊界探検/玉の争奪戦 | 41 八尋殿の酒宴(一) | 第四一章八尋殿の酒宴の一〔四一〕 竹熊は奸計を廻らし、やうやく二個の玉を手に入れたが、後にまだ十個の玉が残つてゐるのを手に入れねばならぬ。しかし是はなかなか容易の業ではないと悟つた竹熊一派は、一挙に十個の玉を得むことを企画した。そこで先づ第一に竜宮城の宰相神なる大八洲彦命を誑かる必要に迫られた。竹熊は大虎彦と共に種々の珍しき宝を持ち、大八洲彦命の御前に出で、以前の悪逆犯行の重き罪を、空涙とともに謝罪した。 その時の有様は、土間に両名四つ這となり、地に頭を下げ、もつて絶対的帰順を装うたのである。大八洲彦命は元来仁慈無限の神にして、かつ戦闘を好まず、悪霊を善道にみちびき神界を泰平ならしめむと、日夜焦慮してをられた。そこへ両名の帰順の態度を見て心中深く憐れみ、邪悪無道の敵ながらも気の毒なりと、つひにその請ひを許し、将来は相提携して神業に奉仕せむことを教示せられた。両名は感謝の意を表はし、恭しく礼を陳べこの場を立去つた。 しかして竹熊、大虎彦は門外に出づるや否や、たがひに面を見合せて舌を出し、苦笑した。このとき大八洲彦命は、田依彦、玉彦が竹熊の奸計によりて、玉を奪取されたことを感知してゐなかつた。田依彦、玉彦は己が失策を責められむことを恐れて、たれにも口外せず、ただ独り煩悶してゐたからである。 ここに竹熊、大虎彦は、新しき八尋殿を建てて諸々の珍器を飾り、金銀珠玉をちりばめたる金殿玉楼を造り、平和帰順の目出度記念として大祝宴を張らむとし、第一に大八洲彦命を招待した。大八洲彦命は、玉照彦、大足彦を左右にしたがへ、神彦、芳彦、高杉別、森鷹彦、鶴若、亀若、倉高、時彦、杉生彦、猿彦らと共にこの祝宴に臨まれた。また竹熊の方では、大虎彦をはじめ、玉若、繁若、坂熊、寅熊、桃作、木常姫、中裂彦らが宴に侍した。 大八洲彦命は竹熊らの歓待に満足し、大盃を挙げて祝された。しかして一同にむかひ、 『斯くのごとく互ひに打ち解け帰順和合の上は、もはや世界に敵味方の区別なし。たがひに力を協せ心を一にし、親子兄弟のごとく相和し相親しみ、もつて神業に奉仕せよ』 との訓示を伝へ、かつ竹熊、大虎彦らに厚く礼を述べ、玉照彦、大足彦とともに鳥船に乗りて、竜宮城へ無事帰城された。 大八洲彦命の退座されし後は、もはや少しの気兼なく、たがひに心を打ちあけ無礼講をなさむとて、さかんに飲み食ひ、かつ乱舞に時を移した。時分はよしと竹熊は、田依彦、玉彦より奪ひたる玉に金箔を塗り、玉の一部分に生地を露はし、その生地のところに日月の形を造り、宴席の上座に持出して、 『これは余がかつて天神より賜はりたる金剛水の玉なり、この玉ある時は世界は自由自在なり』 と誇り顔に陳べたてた。竹熊の従臣は、「われにも斯かる珍器あり」とて、円き石に種々の箔を着せ、宴席に持出し、非常に玉の功用を誇つた。高杉別以下の竜宮城の神司は面目を失つた。たちまち負けぬ気になつた芳彦は、懐より紫の玉を取出し、 『諸神よ、あまり軽蔑されな。われにも斯くのごとき宝玉あり』 と席上に持出し、これを机上に据ゑ肩をはり鼻息たかく頤を振つてみせた。ここに神彦は、「われにも玉あり」とて、黄色の玉を持出し、机上に据ゑてその珍宝を誇り、意気揚々として座に復した。 そのとき大虎彦は席上に立ち、 『われ等の部下にはかくの如き数多の玉を有す。然るに竜宮城の神司に玉少なきは如何』 と暗に敵慨心を挑発せしめた。このとき負けぬ気の倉高は、 『貴下らの玉は、吾らの所持する宝玉に比ぶれば、天地霄壤の差あり、天下無双、古今独歩、珍無類の如意の宝珠の玉を見て驚くな』 と酒気にまかして、前後の弁へもなく、鼻高々と机上に据ゑわが席に復つた。竹熊は大ひに笑ひ、 『いかに立派なる竜宮の宝玉とて、ただ三個にては何の用をかなさむ。吾には無数の宝玉あり』 とて、なほ奥の間より一個の偽玉を持出してきた。 一見実に立派なものであるが、その内容は粘土をもつて固められた偽玉である。羨望の念に駆られたる杉生彦、猿彦は負けぬ気になり、 『斯くのごとき宝玉は、いかに光り輝くとも何かあらむ、今わが持ち出づる玉を見て肝を潰すな』 と酒気にまかせて机上に持出し、玉の由来を誇り顔に物語つた。 このとき高杉別、森鷹彦、鶴若、亀若、時彦は苦り切つた顔色をなし、酒の酔も醒め色蒼白めて控へてゐる。竹熊、大虎彦は五柱の神司にむかひ、言葉汚く、 『汝らは竜宮城の従臣なりと聞けども、ただ一個の宝玉も無し。ただ汝の持てるものは大なる肛門の穴か、八畳敷の睾丸のみならむ』 と冷笑した。五柱は怒り心頭に達した。されども深く慮つて、容易にその玉を出さなかつた。 (大正一〇・一〇・二四旧九・二四外山豊二録) |
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霊界物語 | 01_子_霊界探検/玉の争奪戦 | 50 死海の出現 | 第五〇章死海の出現〔五〇〕 鬼熊、鬼姫は竹熊との戦ひに敗れ、ウラル山およびバイカル湖の悪鬼邪霊となり、一時は其の影を潜め、ために竜宮城はやや安静になつてきた。 国常立尊は大八洲彦命および稚姫君命の功績を賞し、ここに霊国天使の神位を授けたまうた。さても竹熊は高杉別、森鷹彦の変心に恨みを呑み、いかにもしてふたりを亡ぼし仇を報ぜむと企てた。ついては第一に又もや天使大八洲彦命を滅ぼすの必要を感じたのである。 今や竹熊はエデンの城塞を回復し、中裂彦、大虎彦を部将とし、牛熊、牛姫を参謀として再び事を挙げむとし、鬼城山に割拠せる木常姫の応援軍を必要とした。木常姫は魔鬼彦、鷹姫、松山彦らの部将を督し、前後より天使大八洲彦命を攻撃せむと計画を回らしつつあつた。 大八洲彦命は猿飛彦、菊姫の密告により竹熊、木常姫の反逆的挙兵の消息を知り、竜宮城は、花照彦、花照姫、香川彦、速国彦、戸山彦、佐倉彦の部将をして城の各門を守らしめた。もはや後顧の憂ひなければ、ここに大八洲彦命は高杉別、森鷹彦、時代彦の部将とともに神命を奉じて、シオン山に向つて出発した。この用務は大神の神勅を諸天神へ報告のためであつた。諸天神は命の報告を聞き、天軍を起して竹熊、木常姫の暴逆を懲すの神策を定めたまうた。時しも天上より天使天明彦命あまたの天軍を従へ、シオン山頂の高原に下り、大八洲彦命に向ひ、 『危機一髪の場合は天軍の応援をなさむ、されど竹熊、木常姫の魔軍は決して恐るるに足らず』 とて金色の頭槌をもつて地上を打ちたまへば、シオン山の地上より瑞気顕はれ天に舞ひ上り再び大八洲彦命の前に降下した。これを頭槌の玉といふ。 かくして三個の玉を鳴り出で給ひ、「この精霊をもつて魔軍を掃蕩せよ」との言葉とともに、天明彦命は群神を率ゐて天使は天に還らせたまうた。大八洲彦命は天を拝し地に伏して、神恩の洪大無辺なるに感謝された。 竹熊、木常姫は全力を尽して前後左右より竜宮城を取り囲んだ。勇猛なる香川彦以下の神司は全力を挙げて之を撃退し、押し寄する敵の魔軍は或ひは傷つき或ひは倒れ、全軍の三分の一を失つた。時に探女あり、「天使大八洲彦命は、シオン山に在り」と密告した。竹熊、木常姫は時を移さず、黒雲を起し風を呼び、シオン山の空をめがけて驀地に攻め寄せた。 この時、大八洲彦命は天明彦命より賜はりし頭槌の玉を一つ取りだし、竹熊の魔軍にむかつて空中高く投げ打ちたまへば、その玉は爆発して数万の黄竜となり、竹熊に前後左右より迫つた。この空中の戦ひに竹熊は通力を失ひ、真贋十二個の玉とともに無惨にも地上へ墜落し、たちまち黒竜と変じ、地上に打ち倒れた。しばらくあつて竹熊は起上がり、ふたたび魔軍を起して防戦せむとする折しも、天上より金勝要神、未姫命の二柱の女神は、天の逆鉾を竹熊が頭上目がけて投げ下したまうた。一個は竹熊の頭にあたり一個は背にあたり、その場に倒れ黒血を吐き、ここに敢なき終焉を告げた。 竹熊の血は溢れて湖水となつた。これを死海といふ。竹熊の霊魂はその後死海の怨霊となつた。死海の水は苦くして、からく粘着性を帯ぶるは、天の逆鉾の精気と血のりの精の結晶である。竹熊の霊はふたたび化して棒振彦となり、天使大八洲彦命を執念深く幾度も悩ました。竹熊部下の悪霊もまた此の湖水の邪鬼となつた。そしてその怨霊は世界に拡まり、後世に至るまで、種々の祟りをなすにいたつた。その方法は淵、河、池、海などに人を誘ひ、死神となつてとり憑き溺死せしめるのである。故にこの湖水を禊身の神業をもつて清めざれば、世界に溺死人の跡は絶たぬであらう。 シオン山の後方の天より襲ひきたる最も猛烈なる木常姫の魔軍に対して、大八洲彦命は第二の頭槌の玉を空中に投げ捨てたまへば、たちまち爆裂し、木常姫の一軍は神威におそれ狼狽の極、死海の周囲に屹立せる禿山の山上に墜落し、岬角に傷つき、最後を遂げた。木常姫の霊はふたたび変じて高虎姫となり、棒振彦とともに、大八洲彦命を絶対的に悩まさむとした一切の径路は、おひおひ述ぶるところによつて判明する。 竹熊の所持せる十個の玉と、二個の偽玉は一旦死海に沈み、歳月を経ておひおひに雲気となつて舞ひ上り、世界の各地に墜落し邪気を散布し、あらゆる生物を困ましめたのである。さしもの黄金水より出でたる十個の宝玉も、竹熊の血に汚されて悪霊と変じ、諸国に散乱して種々の悪事を現出せしむる悪玉と変化したのである。この玉の散布せる地は最も国魂の悪き国土である。 天の一方より村雲押開きて天使の群、幾百千となく現はれ、地上に漸次降りくるよと見るまに、瑞月の身体はたちまち極寒を感じ、ふと眼を開けば、身は高熊山の巌窟の前に寒風に曝されてゐた。 (大正一〇・一〇・二六旧九・二六桜井重雄録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 04 真澄の神鏡 | 第四章真澄の神鏡〔五四〕 ここに天使大八洲彦命は竜宮城の勇神、大足彦、花照姫、道貫彦を添へて、木花姫命の鎮まりたまふ芙蓉山を守らしめたまうた。 不二の山三国一の四方面 汽車の窓半日のぞく不二の峰 ここに美山彦、国照姫は、鷹姫とともに雲霧をおこして芙蓉山に翔けのぼり、大足彦に面会を求めた。大足彦は木花姫命の神務を帯びて、遠く安泰山に行かれた後である。そこで花照姫は道貫彦をして代つて応接せしめた。 美山彦以下二神は「一大秘密あり、願はくは隣神を遠ざけたまへ」と仔細ありげに申しのべた。 道貫彦は乞ふがまにまに隣神を遠ざけ一間に入りて、 『その秘密はいかに』 と反問した。このとき美山彦は声を密めて、 『竜宮城も地の高天原も既に重囲に陥り危機旦夕にせまる。稚桜姫命はわずかに身をもつてのがれたまひ、万寿山に避難し、ここに再挙を図らせたまふ。しかるに大八洲彦命、真澄姫はすでに棒振彦に帰順し、今や魔軍の将として万寿山に押し寄せむとす。高天原の大事を救ふは今この時なり。智略縦横の大足彦きたりて万寿山の主将となり、大勢を挽回し、大神の神慮を慰めよ、との稚桜姫命の御神命なり。貴神の向背いかん』 と気色をはげまし、刀の柄に手をかけ決心の色を見せながらヂリヂリと詰めよつた。 花照姫、道貫彦は始終を聞きて心も心ならず、ただちに天の鳥船をもつて、豊彦をして安泰山の大足彦にこの顛末を報告せしめた。時をうつさず西方の天より、大足彦は豊彦とともに帰山し、すでにすでに安泰山において美山彦命と会見してすべての様子を知りゐたるに、ここにまた美山彦命の来れるを聞きて、何となく怪しみに堪へず、山頂の木花姫命の宮にいたり神示を乞ひたまうた。 木花姫命の神示によりて、天使は心中深く期するところのあるものの如く、花照姫、豊彦その他の神司を芙蓉山に残して守備となし、美山彦一行と共に万寿山に向うた。万寿山には、バイカル湖の邪神となりし鬼姫の再来なる杵築姫は、美々しく変装を凝らして稚桜姫命と化り、大足彦に向つて遠来の労を謝し、かつ地の高天原および竜宮城の回復を命ぜられた。 這ふて出てはねる蚯蚓や雲の峰 大足彦は出発の際、木花姫命よりひそかに賜はりたる真澄の鏡をとりいだし、稚桜姫命を照しみれば、こはそも如何に、今まで優美にしてかつ尊厳なりし稚桜姫命は、見るも恐ろしき鬼姫の後身バイカル湖の黒竜と現はれ、東北の天にむかつて黒雲を捲きおこし、雲を霞と逃げ失せた。美山彦はと鏡に照らして見れば、こはそも如何に、竹熊の再来棒振彦の正体あらはれ、高虎姫を見れば木常姫の再来なる金毛九尾の悪狐と化し、鷹姫の姿は大なる古狸と現はれた。 大足彦は天を拝し地に伏し、芙蓉山にむかつて合掌し神徳の広大無辺なるを感謝した。その後棒振彦、高虎姫は諸方にかけ廻り、このたびは大足彦をいかにもして亡ぼし、真澄の鏡を得むと非常に苦心焦慮した。邪神の去りしあとの万寿山は、実に荒涼たる荒野と化してゐた。あとに大足彦は地を踏み轟かして雄健びしながら、怒りを押さへ直ちに鳥船に乗りて芙蓉山に帰還した。 (大正一〇・一〇・二七旧九・二七加藤明子録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 05 黒死病の由来 | 第五章黒死病の由来〔五五〕 死海の悪霊となりし竹熊、木常姫は、再生して棒振彦、高虎姫と化り、ふたたび初志を貫徹せむため、神界に声望高き美山彦命、国照姫の神名を偽り、種々の謀計をもつて正神界の諸神司を攪乱せむと必死の活動を続けてをる。茲に美山彦命は諸神司の正邪去就の判別に迷はされむことを慮り、稚桜姫命の神命を奉じて言霊別命と改名し、これを諸神司に内報しおかれた。また国照姫も言霊姫と改名されることになつた。したがつて以下述ぶるところの言霊別命は、真の美山彦命のことであり、言霊姫は真の国照姫のことである。さうして美山彦といふのは真の棒振彦のことであり、国照姫といふのは真の高虎姫であることをあらかじめ述べておく。 月の夜にそのに立出でながむれば黄菊白菊一つ色なる 長白山の山腹に古くより鎮まります智仁勇兼備の神将に、神国別命、佐倉姫の二神人があつた。その麾下には豊春彦、猛虎彦ありて一切の神務を掌握し、八百万の神司を集めて天下の趨勢を観望し、鋭気を養ひ、潜勢力を備へて天使の来迎を待ちわびてゐた。この神人は国治立命の御系統にして、木星の精降つてここに顕はれたのである。大八洲彦命は、一旦神界は平穏無事に治まりしといへども、執念深き僣偽の美山彦、国照姫および鬼熊の再生なる鬼猛彦、杵築姫等の、各所に魔軍を集めて、ふたたび世界を撹乱するの気勢明らかとなりたれば、これらの魔軍を殲滅し、世界の憂慮を除かむがために種々の神策をめぐらされた。そこで、言霊別命に滝津彦を副へて長白山にのぼり、神国別命、佐倉姫を地の高天原に招致せむと計りたまうた。神国別命は神命を奉じて豊春彦、猛虎彦をして長白山の神営にとどまつて守備せしめ、みづから進んで地の高天原の部将たるを拝授された。 このとき偽美山彦の一味の邪神は、言霊別命の長白山に到りしことを探知し、あまたの邪鬼悪竜毒蛇を遣はし、八方より言霊別命、神国別命を攻め悩まさむとした。神国別命は三徳兼備の神将なれども、あまりの巧妙なる邪神の戦略にいかんともする能はず、言霊別命とともに非常なる苦境に陥つた。 偽美山彦、国照姫は死海に沈みたる黒玉を爆発せしめ、山の周囲に邪気を発生せしめた。この邪気は億兆無数の病魔神と変じ、神国別命の神軍に一々憑依して大熱を発せしめた。神軍はのこらず、この病魔に冒されて地上に倒れ、中には死滅する者も多数に現はれてきた。この病魔は漸次に四散して世界の各所に拡がり、つひにペストの病菌となつた。 ここに佐倉姫は神軍の惨状を見るにしのびず、天の木星にむかつて救援を請ひ、神言を朗かに奏上された。このとき木星より一枝の榊の枝がくだつてきた。佐倉姫は天の与へと喜び勇んで感謝し、この榊葉に神霊を取懸けて「左右左」と打ちふられた。東風にはかに吹ききたり、長白山の邪気は遠く散逸してロッキー山の方に向かつて消滅した。たちまち神軍は蘇生しその元気は平素に百倍した。ここに神国別命は神恩の深きに感謝し、神授の榊葉を豊春彦に授け、猛虎彦とともに長白山を守らしめ、二神人は地の高天原に参向さるることとなつた。 (大正一〇・一〇・二八旧九・二八谷口正治録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 06 モーゼとエリヤ | 第六章モーゼとエリヤ〔五六〕 言霊別命は稚桜姫命、大八洲彦命の命を奉じ、海原彦命の部下の猛将岩高彦はオコツク海方面にありと知り、これを高天原に招致せむとされた。 言霊別命は天の磐楠船に乗りて、浪風荒き海原を酷烈なる寒気を冒して進まれた。ここに岩高彦は神命を聞きおほいに喜び、われに優渥なる神命の下りしは実に光栄身にあまる次第なり、しかしながら当方は邪神もつとも多く、寸時もわれの不在を許さず、あまたの悪竜神は今やオコツク海を八方より占奪せむとするの真最中なり。ゆえに折角の御神勅なれども命に応ずることを得ず。もしこの一角を魔軍に占領されなば、竜宮城も地の高天原も保ちがたし。われはこの海に隠れて大神のために死力をつくさむ。されども神命を拒否するは心許なければ、部下の神将滝津彦をわれに代つて参向せしめむと答へた。 言霊別命は、 『理義明白なる貴下の御言葉、げにもつともなり。われは帰りて大神に貴下の赤誠を奏上し奉らむ』 と満腔の感謝を述べられた。このとき天の一方より百雷の一時に轟くごとき大音響を発し、黒雲を押分け降りくる巨神人あり。たちまち天上に群がる悪竜邪鬼を、左右の手に鉄棒を振り廻し縦横無尽にうち悩ませ、悠々として降りきたり、岩高彦に向つて、 『今や地上の世界は悪霊のために大混乱に陥らむとするの兆あり。われは天神の命によりて地上の神政を輔翼し、国治立命とともに、天上の制度を地上に布かむがために降れり』 といと厳かに述べられたり。この神再来して後にモーゼの神人となり、すべて神則を定められた。この神の御名は天道別命といひ、また天道坊と仮称する。 ここに遠く西方の海より雲霧立昇り、中天において光茫天地を輝かす明玉となつて、大陸を越えオコツク海に落ち、水煙を立て、かつ海面に渦巻をたて、山岳のごとき波間より現はれ出たる巨神人あり、これを天真道彦命といふ。また天真坊と仮称する。 この神は国治立命の天地剖判のとき、神命を奉じて海中に明玉となつて沈み、神命のくだるを待ちたまうた神である。いまや神界は混乱に混乱を重ね、邪神悪鬼の跳梁跋扈する時機なり、神司は善悪正邪の区別なく右往左往に迷ふのをりからなれば、天地の諸神司にむかつて宇宙一切の道理を説き、因果の神律を開示せむとして現はれたまうた。この神人再生して天下に現はれ、予言警告を発して神人を戒めたまふた。これをエリヤの神といふ。 言霊別命は二神人の出現に力を得、天にも上る心地して四神人相ともなひ竜宮城に目出度く帰城し、ここにいよいよ大神の神慮を遍ねく天上天下に拡充された。 (大正一〇・一〇・二八旧九・二八外山豊二録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 09 タコマ山の祭典その一 | 第九章タコマ山の祭典その一〔五九〕 あるとき言霊別命は神命を奉じて、宮比彦、谷山彦、谷川彦以下あまたの神軍を率ゐてタコマ山に登り、宮比彦をして国魂之神の鎮祭を行はしめられた。谷山彦、谷川彦は大祓の神事を奉仕し、恭しく太祝詞を奏上し、八百万の神々は神集ひに集ひて、盛大なる祭事は執行された。天地六合いよいよ澄み渡り、空中一点の雲翳をもとどめざる、えもいはれぬ朗かな光景であつた。 ここに従臣なる速虎彦、速虎姫、唐玉彦、島田彦の四神は、国照姫、田野姫にひそかに気脈を通じてゐた。この四柱は言霊別命の深き恩恵に浴し、しばしば危難を救はれた関係があつて、命は彼らの恩神である。祭事も目出度くすみて、一行は下山し海岸に出かけられたとき、右の四柱はあまたの者と共に、山野河海の珍味をもつて、言霊別命一行の諸神司を招待した。その理由とするところは、今回言霊別命は首尾よく国魂の鎮祭を了へ給ひ、吾ら諸神司は歓喜に堪へず、さればその御祝として、ここに吾々祝宴を張るは、一は神々に感謝し、他は諸神司の労苦に酬いむがためなりといふのであつた。 宮比彦は速虎彦以下の諸神司の誠意をよろこび、その由を谷山彦、谷川彦とともに諸神司に伝達した。諸神司は大いに喜び、海辺の広場に出でて、宴席に加はり、歓喜のかぎりをつくし、いたく酔つぶれて、前後の区別もなく、あるひは唄ひ、あるひは舞ひ、面白さうに踊り狂うてゐた。 小雀やささのかげにて踊り出し このとき速虎彦、速虎姫、唐玉彦、島田彦は威儀を正し、言霊別命に拝謁を請ふた。さらに美しき神殿に招待し、山野河海の珍味を出して命を饗応せむことを宮比彦を通じて請ふた。ここに言霊別命は何心なくその殿内に入り、四方山の話に打ち耽り、かつ速虎彦らの好意を感謝し、心地よげに一間に入りて休息してをられた。たちまち天の一方に黒煙がたちのぼつた。爆然たる大音響につれて、みるみる一大火柱は天に冲し、岩石の雨を降らし、実に壮観をきはめた。これぞエトナの大火山が爆発したはじまりである。 言霊別命はその光景に見惚れてゐられる。その隙をうかがひ速虎彦、唐玉彦は器に毒薬を投げ入れ、素知らぬ顔をしてゐた。 『まづ一服召し喫られよ』 と、毒薬の入りたる器に湯をそそぎ言霊別命に奉献つた。命は何の気もなく、ただ一口飲まむとする折しも、息せき切つて走りよつたる時野姫はその湯を奪ひ、ただちに自分の口に飲みほした。時野姫はたちまち顔色蒼白となり、七転八倒して苦悶しはじめ、黒血を多量に吐きその場に打ち倒れた。言霊別命も小量ながら口に入りし毒薬の湯に中てられ、言葉を発すること能はず、ただちにその場を逃れ出むと早々に座を立ちかけた。速虎彦以下の三柱は謀計の暴露せむことを惧れて、言霊別命を捕へ隠さむとし、命の跡を追つかけた。 火を出して毒湯すすめる曲津神 万の神司は、前述のごとく、みな残らず酔ひ潰れて足の立つものは一柱もなかつた。言霊別命は、自分が毒にあてられて言語を発することも叶はぬのみならず、時野姫の苦悶昏倒せることを、手真似をもつて衆神司にさとらせむとし、いろいろ工夫を凝らし表情をもつて知らせども、衆神司はその何の意たるか察するものなく、ただ単に言霊別命は酒に酔ひ戯れ踊りをなし給ふものと信じ、己もまた起つて、おなじく手を振り、口を押へ、種々と身振をまねて平気になつてゐる。アゝ言霊別命のもどかしさは、察するにあまりありといふべしである。 速虎彦、唐玉彦以下の叛臣は、さすがに衆神司列座の前なれば、言霊別命を押さへ隠すをえずして時のいたるを待つてゐた。 言霊別命はいかに焦慮するも言語を発することができないので、已むをえず意を決してただ一柱竜宮島さして逃げ帰らうとせられた。さすがの勇神猛卒も今は酒のためにその精神を奪はれ、かかる危急の場合に一柱としてその大将を護るものはなかつた。宮比彦、谷山彦、谷川彦は少しも酒を飲まず、言霊別命の身辺を気づかひ、後よりしたがひ竜宮島に安全に送り奉るべく、その座を立たむとするや、酒に酔ひつぶれ足は千鳥の覚束なく、腰も碌に立ちえざる衆神司は、三神司の手をとり足をとり、かかる芽出度き酒宴に列して神酒を飲まざるは神々にたいし御無礼なり。ゆるゆる神酒をいただきたまへと、寄つてたかつて三神司を遮り離さなかつた。三神司は心も心ならず、言霊別命遭難の実情を告げ、衆神司の酔をさまさむと心を焦つた。されど島田彦、速虎姫が眼を光らせて側を離れざるに心をひかれ、その真相を述ぶることができない。そこで三神司は或ひは喩言を引き、あるひは諷歌を唄ひ、あるひは手真似を用ゐて、速虎彦以下の陰謀と、言霊別命の御遭難の次第を衆神司に悟らせやうとつとめた。いづれも酔ひつぶれてこれを覚る者は一柱もないばかりか、三神司の動作をながめて、喜んで歌を詠み、戯れ踊りをなすものと思ひ違ひ、手をとり足をとり、三神司を席の中央に誘ひゆきて胴上げまでして立ち騒ぐもどかしさ。 言霊別命は万難を排し、からうじて竜宮島にたち寄り、国御柱命に保護されて、やうやく竜宮城に御帰還せられた。この竜宮島の地下は、多くの黄金をもつて形造られてゐるのである。これが今地理学上の濠洲大陸に当るので、一名また冠島といふのである。 (大正一〇・一〇・二九旧九・二九谷口正治録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 10 タコマ山の祭典その二 | 第一〇章タコマ山の祭典その二〔六〇〕 竜宮城には言霊別命の侍臣に田野姫といふのがあつた。田野姫は表面忠実にたち働き、つねに言霊別命の身の廻り一切の世話をしてゐた。田野姫は実は高虎姫の偽名国照姫の探女として入り込んでゐたのである。 田野姫は竜宮城の内事に関し、非常な信任と勢力があつた。ここに田野姫の発案によつてタコマ山祭典の祝祭を行ふことになつた。天使大八洲彦命は、言霊別命の帰城の後に祝祭を執行せよと命ぜられた。そのとき田野姫は命の前に進みいでて、顔色を和げ甘言追従いたらざるなく、 『諺にも善は急げといふことあり、タコマ山の祭典の時間を考へ、同時刻に祭事を行ふには双方一致の真理に適ふべし』 と言辞も滑らかに奏上した。 大八洲彦命はまづ大神に奏上して、その上にて決せむと座をたち奥にいり、稚桜姫命に伺はれた。命は嬉々として直ちにこれを許したまうた。一方田野姫は竜宮城の諸神将にむかつて、一時も早く祝宴を開くべきことの可なるを、言葉たくみに進言した。上下一致の賛成に、城内はにはかに色めきたちて祝祭の準備に着手し、膳部の献立はすべて田野姫が監督することに一決し、神前の祭典は荘厳に開かれ、祭典をはつて諸神司の談話会に移り、ついで直会の宴を開く順序となつた。 梅若彦、正照彦は上座に立ちて言霊別命の功績を賞めたたへ、つぎに田野姫の斡旋努力を激賞した。つぎに梅若彦も双方一時の祭典については、田野姫の斡旋努力おほいに功ありと感謝した。城内は神国別命をはじめ一同の神司手を拍つて賛同した。そのまに田野姫は鴆の羽を取だし、膳部の羹に一々これを浸してゐたのである。様子をうかがひし神島彦は芳子姫に命じ、その羹を呑み試さしめた。たちまち芳子姫は黒血を吐いて七転八倒苦悶しはじめた。諸神司は驚き水よ薬よと騒いだ。芳子姫は羹を指さして、自分の口を苦しきうちに押さへて見せた。神司は芳子姫の心を知らず、羹を要求するものと早合点し、膳部の羹を取りて口を捻開け、無理に飲ました。芳子姫の苦しみはますます激烈になつてきた。そこへ言霊別命は生命からがら遁げ帰つてこられた。しかして自分の口を押さへて、その羹を用心せよとの意を示された。諸神司は羹を要求したまふものと信じて、恭しく机に之をのせて献上した。 言霊別命はその羹を手にとるやいなや、庭園の草木に注ぎかけられた。見るみる草木は白煙を発し枯死してしまつた。ここに諸神司ははじめて気がつき、田野姫の悪逆無道の所為たることを悟り、これを捕へむとした。田野姫は早くも風をくらつて姿をどこかに隠してしまつたのである。 そこへ時野姫はやうやく病気恢復し、宮比彦以下の諸神司とともに、鼇に尻を吸はれたる如き恍惚けた顔つきして帰つてきた。一同はアフンとして、開いた口が塞まらぬばかりであつた。注意すべきは実に飲食物である。 神国別命は驚いてただちに神前に祝詞を奏上して、大神に祈願しをはるとともに、言霊別命、時野姫および芳子姫の病気は、たちまち拭ふがごとく全快した。 (大正一〇・一〇・二九旧九・二九外山豊二録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 22 言霊別命の奇策 | 第二二章言霊別命の奇策〔七二〕 言霊別命は何ゆゑかこの遭難を後にみて、一目散に左の大道を進み、美濃彦の住める紅館にいたり、元照彦とともに種々の計画をたて、万一に備へたのである。小島別以下の神司は竜世姫の急病に心をとられ、言霊別命の影を失ひしに心付かず、種々手をつくして看護した。されど容易に竜世姫の病は癒えずして、多くの時を費やした。 このとき小島別は狼狽のあまり、傍の深き谷間に転落して腰を打ち、谷底にて悲鳴を上げてゐた。一方竜世姫には松代姫看護の任にあたり、竹島彦は谷間に下りて、小島別の看護に尽してゐた。竜世姫はますます苦悶を訴へた。 竹島彦は小島別をやうやく背に負ひて谷を這ひのぼり、ここにふたりの病神に手を曳かれ栃麺棒をふつてゐた。そのとき竜世姫は掌を翻したごとくに病気全快し、大声を出して笑ひだした。 小島別は顔をしかめ、苦痛を訴へてゐたが、種々看護の末やうやく杖を力に歩行しうるやうになつた。ここにはじめて言霊別命の影を失ひしに驚き、竹島彦は大声を発して、「オーイ、オーイ」と呼ばはつた。その声は木精にひびき、山嶽も崩るるばかりであつた。されど言霊別命の声は梨の礫の何の音沙汰もなかつた。 小島別はよろめきつつ杖を力になめくじりの江戸行のごとく、遅々としてはかどらぬのである。にはかに従者に命じ、輿にかつがして行くことになつたが、やがて二股の岐路にさしかかつた。このとき、一行は、言霊別命はいづれの路をとりしやと、しばし思案にくれてゐた。 竜世姫は右の道をとれと勧めてやまなかつた。されど一行は途方にくれていた。 衆議の結果、竹島彦、松代姫は右の道をとつたが、小島別、竜世姫は左道をとつて美濃彦の館の前を何気なく通過した。 言霊別命は小島別の輿をやり過ごして、悠々として協議をとげ、元照彦、美濃彦に策を授け、やがて後より「オーイ、オーイ」と大声を上げて、小島別の輿を呼びとめた。 小島別は輿より這ひいで、 『命はいづれにありしぞ。竜世姫の重病を見捨て、吾らを捨てて自由行動をとられしは、実に不深切にして無道のきはみならずや』 と、腰を押さへながら詰問した。 言霊別命は打ち笑つて、 『竜世姫は平素慢心強し、重病に罹るごときは当然なり。望むらくは途上に倒れ死し、鳥獣の餌食となるべきものなり。しかるに憎まれ児世に羽張るとの譬のとほり、まだ頑強に生ながらへゐたるは不思議なり』 と口をきはめて罵つた。 小島別は言霊別命、竜世姫の心中を知らず、躍起となつて憤り、 『極悪無道の言霊別命、吾いま天に代つて誅伐せむ。泣面かはくな[※「かはく」(かわく)は「する」を罵って言う言葉。広辞苑によると『(「する」をののしっていう語) …しやがる。浄、丹波与作待夜の小室節「盗み―・くは何奴ぢやい」』。]』 と起き上つた。その一刹那に小島別の腰の痛みはたちまち癒え、言霊別命は路上にたふれて、絶息してしまうたのである。小島別は、 『神明恐るべし。罰は覿面なり』 と手を拍つて天に感謝した。 竜世姫はただちに言霊別命を看護した。このとき小島別怒つて曰く、 『彼は命の野倒れ死を希ひし悪逆無道の神なり。何の義務あつて、仇敵を介抱したまふや』 と詰つた。竜世姫は容をあらため、威儀を正し、 『至仁至愛の神慮は汝らのたうてい窺知すべきところに非ず。汝の言こそ実に悪魔の囁きなり。すみやかに悔改め、言霊別命に陳謝し奉れ。しからざれば妾はこれより竜宮城にたち帰り、汝が不信の罪を稚桜姫命に奏上し奉らむ』 と厳しく戒めた。 小島別は大地に平伏し、平蜘蛛のごとくなつて自分の過去を陳謝した。路上に倒れし言霊別命は決して病を発して倒れたのではなかつた。小島別をして自分を輿にのせて舁つぎ行かしめむための奇策であつた。 小島別は竜世姫の厳命により、あまたの輿舁の神あるにかかはらず自ら輿舁となり、不精々々に、あたかも屠所に曳かるる羊のごとく、足並もあまり面白からず進むのであつた。 行くことややしばしにして左右両岐路の出会路にさしかかつた。右の道をたどりし竹島彦、松代姫もここに来り、たがひに無事の会合を祝した。 このとき竜世姫は竹島彦にむかひ、 『吾が厳命なり。汝は後棒となり、この輿を舁ぎて命を常世姫のもとに送り奉れ』 と命令した。竹島彦は心中おだやかならず。されど竜世姫の命を拒むに由なく、つひに輿を舁ぐこととなつた。輿を舁ぎしふたりはとみれば、実に三宝荒神が、竈の上の不動を燃え杭でくらはしたやうな不足相な顔付であつた。 (大正一〇・一一・一旧一〇・二谷口正治録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 28 高白山の戦闘 | 第二八章高白山の戦闘〔七八〕 ここに言霊別命は元照彦と共に、猿世彦の木乃伊にむかひ、前後より神言を奏上し息を吹きかけられた。たちまち猿世彦は体温次第にまし、辛うじて蘇生した。 猿世彦はわが前に、言霊別命以下の神将の姿を見て大いに驚き、ひたすらに生命を救ひ罪を赦されむことを嘆願した。言霊別命は仁義を重んじ生命を救ひしうへ、一片の信書を認め、これを常世姫に伝達せむことを命じた。 猿世彦は唯々として命を拝し、かつ救命の大恩を感謝し、尾をふり嬉々として帰国した。 その信書の文面は、 『言霊別命、元照彦は、勇猛無比の神将をあまた引率れ、スペリオル湖を中心として陣営を造り、大挙して常世城を占領せむとす。汝常世姫すみやかに善心に立帰り、前非を悔い心底より悔い改めよ。しからざれば、われはここに天軍を興して汝を鏖滅せむ』 との意味であつた。猿世彦は虎口を免れ、頭をさげ、腰をまげ尾をふりつつ南方さして遁げかへつた。スペリオル湖畔の陣営は、港彦をしてこれを守らしめ、命は元照彦とともに長駆して高白山に進んだのである。ここは荒熊彦、荒熊姫の二神司があつた。 この二神司は高白山の守将である。 高白山は常世姫一派の魔軍に攻め悩まされ、二神司はすでに捕虜となり、岩窟を掘つて取じこめられてゐた。 このとき言霊別命は、山上より白雲の立上るを見て正しき神司ありと知り、近づき見るに、常世姫の部下駒山彦が包囲してをつた。言霊別命は南方より、元照彦は西方より迂回して北方の背後に出で、前後より高白山を攻撃した。駒山彦は不意の強力なる援軍に背後を衝かれ不覚をとり、はうはうの体にてわづかに身をもつて免がれ、全軍はほとんど四方に潰走した。 言霊別命、元照彦は、南北両面より高白山にのぼり、白雲の立てる岩窟の戸を打砕き、二神司を救ひ出した。 ここに荒熊彦、荒熊姫は再生の恩を謝し、みづから乞ふて従臣となり、高白山の城塞を言霊別命に奉献つた。 言霊別命は元照彦をローマ、モスコーに遣はして、味方の情勢を偵察せしめ、みづからは荒熊彦を部将としてここに根拠を定められた。 高白山は常世の国の北極にして、世界経綸の神策上もつとも枢要なる地点である。 (大正一〇・一一・二旧一〇・三外山豊二録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 34 義神の参加 | 第三四章義神の参加〔八四〕 ここに常世姫は竜宮城に入りて種々の策をめぐらし、巧言令辞をもつて諸神司を薬寵中のものにせむとした。されど城内の諸神の大半は依然として言霊別命、神国別命に心服してゐたのである。されど執拗なる常世姫の魔の手は、油のにじむがごとく暗々裡に拡がつてゆく形勢となつた。 ここに言霊別命は神国別命と謀り、花森彦をして神務を総轄せしめ、二神司は各自に天下の義神を募るべく東西に袂を分つた。 茲にペテロの都に声望高き道貴彦といふ義勇の神司があつた。言霊別命は村幸彦を遣はして味方に参加せしめむとし、大神の御経綸を詳細に説明せしめた。道貴彦は謹んでその神慮を奉じ、ペテロの館を捨て妻葭子姫とともに、村幸彦を介してつひに竜宮城に出仕することとなつた。 これより先き言霊別命はペテロの道貴彦の館にいたり、神界の経綸を逐一説明した。道貴彦はすでに決心を定め、今や竜宮城にむかつて出発せむとするとき、その弟なる高国別きたりて出発を妨害せむとした。高国別は大酒を煽りきたりて道貴彦の愚蒙を罵り、かつ葭子姫をとらへて、 『汝は何ゆゑに夫の館を捨て怪しき竜宮の神人に誑惑され、つひには噬臍の悔を残さむことを知りながらこれを諫止せざるや』 と声も荒く睨めつけた。葭子姫は言葉をつくして、 『神界の一大事は刻々に迫りつつあり、わたくしはこの大事を看過するに忍びず、むしろ妾より進んで夫に勧め、もつて神業に参加せむとしたるなり。貴下も一身の利欲を捨て一切の宝を擲ち、吾らとともに神界のために尽されよ』 と事をわけ理をつくして説き諭した。高国別はますます怒り、 『女神と小神とは養ひがたしとは汝がことなり。女性の世迷言、耳をかすに足らず』 といふより早く盃を取つて葭子姫めがけて打ちつけた。その時、仲国別走りきたりて高国別をとつて押へた。この神司は勇力無比の巨神司であつた。 高国別はこの巨神司に取押へられ、無念の歯を喰ひしばりながらも、口をきはめて言霊別命、道貴彦らを悪罵し、かつ、 『吾はたとひ汝に生命を奪はるるとも、吾精魂は再生して汝らの計画を破壊すべし』 と声を励まして叫んだ。このとき村幸彦は顔色を和らげ、言葉も穏かに仲国別にむかひ、 『まづ高国別を許し、吾言を心静めて聞かれよ』 といつた。 仲国別はその言葉を機に、高国別を捻伏せたる手を放ち、しづかに座についた。高国別は直ちに起きあがり、仲国別にむかつて、血相をかへて死物狂ひの体で飛びついた。村幸彦は襟髪とつて引きもどし、静かに端座せしめ、怒りに狂ふ高国別をなだめて大義名分を説き、かつ、 『貴下の、祖先の館を大切に保護せむとせらるるその誠意は大いに愛するにあまりあり、されど神界は危急存亡の場合に瀕せり。一身をすて総ての執着を葬つて義に殉ずるは、大丈夫の本懐たらずや。吾も今まで住の江の館に、心安く親子楽しき日を送りたるものなるが、今回の神界の大望にたいし、すべてを捨てて神業に参加せしものなり。貴下もいま一つ心を取り直し、想ひをかへ、冷静に天下の大勢を顧みられなば、道貴彦の今回の決心は氷解せむ』 と諄々として説き諭したのである。ここに高国別ははじめて悟り、 『貴下の言葉実にもつともなり。吾はしばしこの館にありて固く守るべし。なにとぞ道貴彦以下の神将、くれぐれも頼みたてまつる』 と顔色をやはらげ心底より感謝した。一場の波瀾は平和に納まり、ここに盛大なる祝宴を開き、道貴彦は言霊別命の諸神司に従ひて、竜宮城にむかつて参向した。 言霊別命は有力なる神将をえて大いに喜び、ここに道貴彦、花森彦をして、新に竜宮城の大門の部将として、入り来るあまたの神々の正邪善悪を審判せしむる重要な職務を命じた。一方、常世姫は魔我彦、魔我姫をして城内の様子を隈なく探らしめ、かつ言霊別命以下の神司の動静を監視せしめおき、みづからは一先づ常世城に帰つた。 (大正一〇・一一・四旧一〇・五加藤明子録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 38 歓天喜地 | 第三八章歓天喜地〔八八〕 清照彦は最愛の妻に死に別れ、厚くこれを葬るのいとまもなく、言霊別命の進退ならぬ厳命に接し、ただちに高白山に向ひ、呑剣断腸の思ひをなして、骨肉の父母両親を討滅するのやむなき窮境にたちいたつた。されど神命辞するに由なく、大義を重んじ、ここに血をもつて血を洗ふ悲惨なる戦闘を開始した。 荒熊彦、荒熊姫は一方血路を開き辛うじて免るることを得た。この時清照彦は、ただちに追撃せばこれを滅ぼすこと実に容易であつた。されど敵といひながら、肉身の情にひかされ、わざとこれを見逃し、心の中にその影を拝みつつ、父母の前途を気遣ひ、いづれへなりとも両親の隠れて安く余生を送らむことを祈願した。親子の情としてはさもあるべきことである。 荒熊彦は、散軍を集めて尚も懲りずまに羅馬城に進み、決死の覚悟をもつて戦ふた。されど天運つたなき荒熊彦は力尽き、つひに大島彦のために捕虜となり、夫婦ともに密に幽閉され、面白からぬ幾ばくかの月日を送つた。 清照彦は、風の共響きに両親の羅馬に敗れ、幽閉され、苦しみつつあることを伝へ聞きて、心も心ならず、煩悶苦悩しつつ面白からぬ月日を淋しく送つてゐた。清照彦は忠義に篤く、孝道深き神司なれば、その心中の煩悶は一入察するに余りありといふべし。清照彦は雨の朝風の夕に空を仰いで吐息を漏らし、われ両親の憂目を見ながら坐視するに忍びず、これを救はむとすれば主命に背き、大逆の罪を重ぬるにいたるべし。あゝ両親といひ妻といひ、今は或ひは幽界に、あるひは敵城に囚はれ、子たるもの如何に心を鬼畜に持すとも忍び難し、いつそ自刃を遂げ、もつて忠孝の大義を全うせむ、と決心せる折しも、また飛報あり、 『荒熊彦夫妻は、羅馬において大島彦のために殺されたり』 と。これを聞きたる清照彦は矢も楯もたまらず、吾は山海の洪恩ある恋しき両親に別れ妻に別れ、生きて何の楽しみもなし、自刃するはこの時なりと、天に向つて吾身の不遇を歎き号泣し、短刀を逆手に持ち双肌脱いで覚悟をきはむるをりしも、天空より光強き宝玉眼前に落下するよと見えしが、たちまちその光玉破裂して、中より麗しく優しき女神現はれたまひ、 『吾は天極紫微宮より来れる天使なり。天津神は汝が忠孝両全の至誠を憐みたまひ、ここに汝を救ふべく吾を降したまへり。汝しばらく隠忍して時を待て、汝がもつとも敬愛する両親および妻に再会せしめむ。夢疑ふなかれ』 との言葉を残して、再び鮮光まばゆき玉と化り天上にその影を隠した。後に清照彦は夢に夢見る心地して、合点のゆかぬ今の天女の言葉、われは憂苦のあまり遂に狂せるには非ざるか。あるひは父母、妻を思ふのあまり、一念凝つて幻影を認めしに非ずやと、みづから疑ふのであつた。されどどこやら心の底に、一道の光明が輝くのを認めた。何はともあれ、吾ここに自刃せば、たれか両親および妻の霊を慰むるものあらむ、と心を取り直し、時節を覚束なくも待つことに決心した。 待つこと幾星霜、山は緑に包まれ、諸々の鳥は春を謳ひ、麗しき花は芳香を放ち、所狭きまで咲き満ち、神司はその光景を見て喜び勇み、あたかも天国の春に遇へるがごとく舞ひ狂うてゐた。されど清照彦の心の空はますます曇り、花は咲けども、鳥は歌へども、諸神司は勇み遊べども、自分に取つては見るもの聞くもの、すべてが吾を呪ふもののごとく、悲哀の涙はかはく術なく、日に夜に憂愁の念は増すばかりであつた。 清照彦は天の一方を眺め、長大歎息を漏らす折しも、天空高く数十の鳥船は翼を連ね高白山めがけて降り来るあり、いづれの鳥船にもみな十曜の神旗が立てられてあつた。清照彦は、かかる歎きの際、又もや竜宮城よりいかなる厳命の下りしならむかと、心を千々に砕きつつ重き頭を痛めた。 鳥船はたちまち清照彦の面前近く下り来りて、内より言霊別命、元照彦、梅若彦は英気に満ちたる顔色にて現はれ来り、言霊別命は第一に進んで清照彦にむかひ慇懃に礼を述べ、かつ容を改め正座に直り、 『われ今、稚桜姫命の神使として、当城に来りし理由は、汝に賞賜のためなり』 と云ひをはつて、数多の従臣に命じ善美を尽した御輿を鳥船よりかつぎおろさしめ、清照彦の前に据ゑ、 『汝は忠孝を全うし、かつ至誠をよく天地に貫徹したり。国治立の大神は深くこれを嘉して汝に珍宝を授与し賜ひたり。謹んで拝受されよ』 と莞爾として控へてをられた。清照彦は不審の念ますます晴れず、とも角もその厚意を感謝した。前方の輿よりは顔色美しく勇気凛々たる男神が現はれた。つらつら見れば思ひがけなきわが父荒熊彦であつた。第二の輿を開いて母の荒熊姫が現はれた。第三の輿よりは自殺せしと思ひし最愛の妻末世姫が現はれ、ただちに清照彦の手を取つてうれし泣きに泣く。清照彦は夢に夢見る心地して何と言葉も泣くばかり、ここに四人一度に声を放つて嬉し涙に時を移した。親子夫婦の目出たき対面に、高白山の木も草も空の景色も、一入光を添へるやうであつた。 ここに言霊別命は懐中より一書を取出し、声も涼しく神文を読み聞かした。その意味は、 『長高山は汝荒熊彦、荒熊姫これを主宰せよ。また高白山は清照彦永遠にこれを主宰せよ』 との神勅である。 附記 末世姫は長高山の城中において自刃せむとしたるとき、たちまちその貞節に感じ、天使来りて身代りとなり、末世姫は無事に言霊別命の傍近く仕へてゐた。 (大正一〇・一一・六旧一〇・七加藤明子録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 41 十六社の祭典 | 第四一章十六社の祭典〔九一〕 シオン山は難攻不落の堅城鉄壁にして、如何なる鬼神といへども、これを攻略するは容易の業に非ず。ここに西方の陣を固むる敵将国照姫は鬼雲彦、清熊らと謀り、謀計をもつてこの目的を達せむと画策した。 しかるにシオン山の本営にては、神明の霊威と、天使大八洲彦命の明察とにより、探女の真相を探知し、危きを免れたる神恩を感謝し、かつ味方の無事を祝福するため、盛大なる祭典が執行された。神軍の過半は祭典に列し、をはつて各もとの守備につき、また半分の余る神軍は交代して、山上の祭典に列する仕組であつた。 十六社の宮にはおのおの八塩折の酒を大なる甕に充して供進された。敵の軍臣に非ざるものは何神といへども、その当日のみは参拝を許さるることとなつた。 ここに数多の女性あり、順礼の姿に身を装ひ麗しき顔したる美姫神続々として山上へ登り、この祭典に列し、かつ神威の無限なるを口をきはめて讃美しつつあつた。時しも十六社の祭典は一時に行はれ、神饌神酒を捧ぐるものは若き女性ならざるべからず。しかるに今は戦場のことなれば女性の影もなく、男臣の武者ぶり勇ましけれど、いづれの男臣も何となくあきたらぬ思ひに沈みつつありし時なれば、麗しきあまたの女性の数奇を凝らして参上り来れる姿を見て、大いに喜び、身心をとろかし、中には眉や目尻を下る軍神さへあらはれた。いづれ劣らぬ花紅葉、色香争ふその態に、並ゐる神将神卒も見惚れつつ、戦ひの庭にあることをも打ち忘れてゐた。 宮比彦はその美しきもつとも年若き女性に向ひ、 『今は戦場のこととて神に仕ふる乙女の一柱だもなし。願はくは汝ら神に至誠奉仕の信仰あらば、直ちに立つて神饌神酒を供せよ。また技芸あるものは立つて神楽を奏し奉れ』 と呼ばはつた。天女に等しき乙女らは一斉に立つて神饌神酒を供し奉り、かつ神楽を奏して神慮を慰め奉つた。祭典の式も無事終了し、諸神司は神卒に至るまで直会の宴に坐し、神饌神酒を拝戴することとなつた。数多の乙女は酒杯の間に往来して盛に取りもつた。酒はおひおひまはつてきた。忽ち呂律の廻らぬ者、眼を剥く者、耳の聞えぬ者、頭の痛む者、手足の痺れる者、吐く者、下痢す者、腹を痛め胸を苦しめ七転八倒黒血を吐く者もできてきた。そこにもここにも石ころのやうに転びまはつて、不思議な手つきをなし虚空を掴んで倒れむとする者も現はれてきた。 たちまち十六社の神殿鳴動し、各宮々の扉は自然に開かれ、中より数多の金鵄現はれて宴席の上を縦横無尽に飛び舞うた。今まで苦しみつつありし一同は残らず元気恢復して一柱の怪我あやまちもなかつた。今まで花顔柳腰の乙女と見えしは魔神の変化にて、見るみる面相すさまじき悪鬼と化し、あるひは老狐と変じ、毒蛇となつて、四方に逃げ散つた。これは国照姫以下の神軍剿滅の残虐なる奸策であつた。 ここにシオン山の全軍は、神助により全部その危難を救はれ、以後戦場に酒と女性を入れぬこととなつた。 (大正一〇・一一・六旧一〇・七桜井重雄録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 50 鋼鉄の鉾 | 第五〇章鋼鉄の鉾〔一〇〇〕 神国別命、神国彦以下の神司は、八王大神の変心せしことは夢にも知らず、数多の神司に囲繞されながら、諄々として国治立命の教示を説き示しつつあつた。 折しもにはかに城内は騒々しく数多の足音は近く迫つてきた。室内の戸を開くやいなや、八王大神は以前にかはる暴悪なる顔色をなし、大刀の柄に手をかけ、神国別命の前に詰めより、 『汝はすみやかに盤古大神に帰順せよ。混乱紛糾をきはめたる現下の世界の情勢は、汝らの主神国治立命の唱ふるごとき、迂遠きはまる教をもつて、いかでか天下を至治太平ならしむることを得む。汝らの唱ふる経綸策は、天下泰平に治まれる世にたいしての遊戯的神策にして、言ふべくして行ふべからざる迂愚の策なり。汝すみやかにその非を悟り常世城の従臣となるか、ただしは兜をぬいで降伏するか、二つとも否認するにおいては、気の毒ながら汝らを門出の血祭り、一刀両断の処置を執らむ』 と打つて変つた狂態を演ずるのである。 神国別命は、じゆんじゆんとしてその非を説き、天下は圧力武力をもつて到底治むべからざるの神理を、言葉をつくして弁明した。されど貪、瞋、痴の三毒をふくめる悪神の主将八王大神には、あたかも馬耳東風のごとく、もはや毫末の効果もなかつた。 八王大神は立ちあがり、 『いらざる繰言耳を汚すも面倒なり』 と真向上段に斬つてかかつた。神国別命以下は身に寸鉄を帯びず、ただ一心に神明を祈るよりほかに道はなかつた。神国別命は天に向つて合掌し、神言を奏上せむとするや、八王大神は一刀を頭上高く振りかざしたるままどつと仰向に倒れた。この光景を目撃したる常世城の神司は、右往左往に周章ふためき、急ぎ常世姫にこの実状を報告した。常世姫は直ちに鉄棒の火に焼けて白熱化したるを提げ来り、あはや神国別命は、焼鉄に打たれてすでに焼き滅ぼされむとするをりしも、東北の空より俄然暴風吹ききたり、常世姫は暴風にあふられて、たちまち地上に転倒した。城内の神司もまた一度にどつと吹き倒された。神国別命は神国彦以下の神司とともに、からうじてその場を逃れ、やうやくにして竜宮城に帰還し、高尾別の変心し、かつ何時魔軍を引率してここに攻め来るやもはかられざることを、国直姫命に奏上した。 ここに地の高天原においては、国直姫命、大八洲彦命、言霊別命以下の神将竜宮城に会し、八王大神の反逆にたいし防戦の議をこらした。このとき国直姫命は、 『いかなる暴悪無道の強敵たりとも、神明の力を信じ、天地の律法を遵守し、悪にたいするに至善をもつてせよ』 との命令を発せられた。神司は神国別命の詳細なる報告に接し、切歯扼腕悲憤の涙を、顋辺にただよはしながら、天地の律法に違反すべからず、あくまで柔和と懇切と信義をもつてこれに対抗せむと、協議一決した。 時しも百雷の一時に轟くごとき音響とともに黒雲に乗じ、西南の天をかすめて入来る数多の鳥船がある。彼らは黄金橋のかたはらに落下し、獅子奮迅の勢をもつてヨルダン河を押しわたり、竜宮城に押しよせ門扉を打破り、暴虎馮河の勢をもつて城内に侵入し、国治立命に面会せむと、大音声に呼ばはつた。 鬼雲彦、清熊を先頭に八王大神その他の魔神が、雲霞のごとく押し寄せているため、城内はにはかに騒ぎたつた。大八洲彦命は周章ふためく神司を制しとどめ、みづから出でて八王大神に面会し、来意を厳かに訊問した。 八王大神は傍若無神の態度にて、諸神将を眼下に睨めつけ、 『汝らのごときやくざ神にいふべき言葉なし。すみやかに国治立命に見参せむ』 と仁王立になつて怒号した。国治立命はこの声を聞くより、たちまち悠然としてその場に出現したまうた。八王大神は声をふるはしながら、 『われは盤古大神大自在天の大命を伝へむために出場せり。汝はみづから国治立命と称すれども、まつたくの偽神なり。国治立命とは国土を永遠に立て守るべき神明なり。かかる天下混乱の際、下らぬ迂遠なる教をもつて、難きを避け安きにつかむとするは心得がたし。汝が唱ふる天地の律法とはそもそも何ぞ。陳腐固陋の世迷言にして唾棄すべき教理なり。すみやかにこの律法を破壊し、汝はこれより根の国底の国に、一時も早く退却せよ。真の国治立命は、大自在天の権威ある神策によつて、初めて顕現せむ。返答いかに』 と詰めよつた。 八王大神の従臣、鬼雲彦は尻馬に乗り、 『汝国治立命と称する偽神よ。八王大神の教示を遵奉せずして、万一違背に及ばば、われは竜宮城の諸竜神を寸断し、地の高天原の神司を、一柱も残らず、刀の錆となし、屍の山を築き、竜宮海を血の海と化せしめむ。返答いかに』 と詰めよつた。国治立命以下の諸神司は、天地の律法をみづから破るに忍びず、いかなる悪言暴語にも怒りをしづめ、博く万物を愛するの律法を遵守し、柔和の態度をもつてこれに向はせ給ふた。 されど八王大神は何の容赦もなく、つひに一刀を抜きはなち、今や狼藉におよばむとするとき、衆神の中より突然現はれたる花森彦は、 『われはただ今戒律を破らむ』 と言ひもはてず、一刀を抜きはなち鬼雲彦の背部に斬りつけた。なほも進んで八王大神に斬つてかかるを、大足彦は、「しばらく待て」とこれを制止した。 大足彦の一言に花森彦も刀ををさめ、元の座に復し、唇をふるはせ、心臓をはげしく鼓動させ、顔色蒼白となつてひかへてゐた。八王大神はこの勢にのまれて、やや躊躇の色が見えた。鬼雲彦は背部の負傷にその場に打倒れ、哀みを乞ふた。 ここに大足彦は、国の真澄の鏡を取出し、八王大神以下の魔軍を射照した。たちまち正体をあらはし、悪竜、悪鬼、悪狐の姿と変じ、自在の通力をうしなひ、身動きも自由ならず一斉に救ひを乞ふた。 この時ふたたび国治立命あらはれ給ひ、 『地の高天原は天地の律法を遵守する、正しき神の神集ひに集ふ聖地である。また広く万物を愛し、禽獣虫魚にいたるまで殺さざるをもつて主旨とす。ゆゑに今回にかぎり汝らの罪を赦し、生命を救ひ、常世城に帰城せしむべし。汝らは一時も早く帰城し、常世姫をはじめ他の神司にわが旨を伝へよ。暴に報いるに暴をもつてせば、何時の日か世界は治平ならむ。憎み憎まれ、恨み恨まれ、殺し殺され、誹り誹られ、世は永遠に暗黒の域を脱せざるべし。常世姫にして、わが教を拒まば是非なし。常世城をすみやかに明け渡し、根の国、底の国に、汝ら先づ退却せよ。しからざればやむを得ず、律法を破り、決死の神司をして、常世姫を屠らしめむ』 との厳格なる神示であつた。 ここに八王大神は、その意を諒し、厚く感謝して部下一同とともに、神国彦に送られ常世城に立帰り、国治立命の神示を常世姫に伝へた。常世姫は聞くより打笑ひ、鼻先に扱ひつつあくまで国治立命に対抗し、大八洲彦命以下の神司を滅ぼし、ふたたび竜宮城を占領せむと力みかへり、かつ八王大神の不甲斐なきを慨歎した。 八王大神は常世姫の大胆なる魔言に動かされ、ふたたび反抗の旗を挙げむとし、魔神を集めて決議をこらす折しも、天上より鋼鉄の鉾、棟をついて降り、八王大神の側に侍する鬼雲彦の頭上に落ち、即死をとげたのである。これは自在天より神国彦に向かつて投げたのが、あやまつて鬼雲彦に中つたのである。 八王大神は驚いて奥殿に逃げ入り、息をこらして鼠のごとく、一隅に身慄ひしつつ蹲踞んでゐた。 このとき、一天にはかに晴れ、天津日の光り輝き渡るよと見えしとたん、身は高熊山の巌窟に静坐してゐたのである。このとき巌上に坐せるわが足は、にはかに苦痛をうつたへ、寒気は身を切るばかりであつた。 (大正一〇・一一・九旧一〇・一〇外山豊二録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 附録 第一回高熊山参拝紀行歌 | 附録第一回高熊山参拝紀行歌 王仁 高熊山参拝者名簿 (大正十年十二月三日) 千引の岩石打破る日本男子の大丈夫と(石破馨) 色香も馨る女丈夫が世界をま森国々の(森国幹造) 助けの幹を造らむと東や西や北南 日出る国のまめ人が善男善女を誘ひて(西出善竜) 竜宮城に参集ひ浦保国を永遠の 珍の住処と歓びて神の啓示を次々に(保住啓次郎) 宣べ伝へ行く言霊は円満晴朗澄の江の 天竜藤に登る如我日の本の権威なる(藤本十三郎) 一と二三四五つと六ゆ七八九つ十り三年 今よりきよく田なびかむ村雲四方にかき別けて(今きよ) 六合兼太る我国土真奈井の海の洋々と(田村兼太郎) 渡も静かに浦靖の国の栄えも九重の(土井靖都) 玉の都や小都会深山の奥も押並べて(小山貞之) 忠勇仁義孝貞之道明らけく治まれる 三十一年如月の梅ケ香匂ふ九日の 月をば西に高熊の神山に深くわけ井りて(高井寿三郎) 聖寿万歳祈らんと三ツ葉つつじの其上に 村肝清く端坐しつ言霊彦の神教を(上村清彦) 耳を澄ませてマツの下吹き来る風もいとひなく(同マツ) 岩窟の前に寛ぎつ心の中の村雲も(同寛) かすみと共に消え行きて稍清新の魂となり(中村新吉) 神の恵みに浴しける今日は如何なる吉日ぞ 吉や屍を原野に曝すとも国常立の大神や(吉原常三郎) 三ツの御魂の教ならなどや厭はむ鈴木野や(鈴木延吉) 深山に足を延ばすとも心持吉き岩清水(水戸富治) 戸閉さぬ国と賑はしく富みて治まる君ケ御代 五十鈴の流れ清くして大川口や小川口(大川ロトク) 水は溢れてトク川の泥にまみれし幕政も 茲に亡びて大小名名主庄司に至るまで(庄司キツ) なキツ倒れつ四方に散るその状実に憐れなり かかる例しも在原の丑寅金神太元に(在原丑太郎) 現はれまして前の世の神と田美との有様を(前田美千香) 説き教へたる三千年の一度に香ふ白梅の 花咲く春の山の根に菊太に目出度神言を(山根菊太郎) 天地の神に奏上し三千世界の改造を チカへ玉ひし雄々しさよ四尾と本宮の山の根に(山根チカヘ) 経と緯との神の機錦の糸の絹枝姫(同絹枝子) 神の助けの有が田や鶴九皐に高く鳴き(有田九皐) 岸に登りし緑毛の亀のよはひの長のとし(高岸としゑ) ゑびす大黒福の神真奈井の上に舞ひ遊ぶ(井上あや) あやに尊き神の苑海の内外別ちなく 山野河海の神々の介けの道も昭々と(外山介昭) 植ゑ拡め行く道芝の盛りの花も隆々と(植芝盛隆) 薫る常磐の神の森良きも悪しきも仁愛の(森良仁) 神の恵みは変りなく竹の御園の下斯芸琉(竹下斯芸琉) 御国の誉れ照妙の綾の高天に北東の(東尾吉雄) 神尾伊都吉て雄々しくも教は広瀬の仁義邦(広瀬義邦) 昇る旭は高橋のその勢ひも常永に(高橋常祥) 開き行く世ぞ祥たけれ誉れもたかき瑞祥の やかたに基いを固めつつ遠津御国も近村も(津村藤太郎) すさぶ曲津を藤太郎秋津島根の田広路に(島田頴) 千頴八百頴実のりゆく稲木の村の中心に(木村研一郎) 霊魂研きを第一と教へ導く白藤の(藤井健弘) 井や栄え行く健げさよ誠の教を遠近に 弘むる時や北の空村雲四方に掻き別けて(北村隆光) 隆々のぼる日の光本宮山や玉の井の(宮井懿子) 空に映え行く御懿徳に浴する魂ぞ浦山し(浦山専一) 霊魂修行を専一と深山の奥に分け入りて 佐とり了ふせし高熊のイワ屋の内も賑はしく(山佐イワ) 朝日夕日を笠として祝詞奏上や神の詩を(日笠吟三) 吟じて進む三ツ御魂藤の仙人芙蓉坊が 穴太の村に伊智はやく現はれ来たりて大神之(藤村伊之吉) 吉き音信を宣り伝へ石より固き信仰を(石井孝三郎) 井や益々も励みつつ忠孝敬神愛国の 三ツの綱領怠らず加たく御魂に納めつつ(加納録平) 心に録して平けくたとへ野山の奥の奥(山口佐太郎) 率土の浜も宣べ伝へ口佐賀あしき悪太郎が そしり嘲り山ぬ内布教伝道厭トイなく(山内トイ) 四方の国中大日本日高の村の佐男鹿の(中村鹿三) 妻呼ぶ如き有様に世人を思ふ三千年の 神の光りは西東村雲四方にかき理けて(西村理) 大海原も平けく波も鎮まる八洲国(海原平八) 神須佐之男の神魂沢田の姫が現はれて(佐沢広臣) 教を広く君臣の中を執持つ一条の(中条勝治郎) 至誠に勝るものはなし明治の廿五年より 佐藤りの開く大善の艮神の四郎し召す(佐藤善四郎) 梅花の開く神の世は老も若きもおしなべて 五六七の御世の活動を汗と油をしぼりつつ 山田の果ても伊藤ひなくくさきり耕やせ三伏の(伊藤耕三郎) 暑さも涼し高野原円く治まる太平の(高野円太) 風に黒雲吹き払ひ四方の沢ぎも静まりて(黒沢春松) さながら春の如くなり常磐の松や白梅の 枝にて造りし神の杖菅野小笠に身を包み(菅野義衛) 仁義の教衛らむと京都をさして谷波より(京谷朝太郎) 出口の教祖は朝まだき綾の太元立出でて 海潮純子諸共に昨日や京屋明日の旅(京屋フク) 風フク山路をすくすくと字司朗も見ずに足早に(同司朗) 飛田つ如く進まるる豊かなそのの梅香り(飛田豊子) 五六七の御代に逢坂のキミの恵みに報いむと(同香) 鞍馬をさして出でて行く出口の守の雄々しさは(逢坂キミ) 日本魂の鏡なり月に村雲花に風(村松タミ) 浮世の常と聞きつれど松の神世のタミ草の 心はいつも春の空深山の奥も仁愛の(山崎珉平) 花崎にほひ王民のなか平けく安らけく 上野おこなひ下ならひ国は豊かに足御代は(上野豊) 業務を伊藤ものも無く正しき男の子女子が(伊藤正男) 大内山の御栄えを春かに祝ひよろこびつ(大山春子) 君に捧ぐる真心の強きは波田野国人の(波田野菊次郎) 菊もまれなる次第なり澆季末法の世の瀬戸に(瀬戸幸次郎) 現はれ玉ひし艮の神の御幸は次々に いやちこまして国民は同じ心のきみが御よ(同きみよ) 四方の山々内外の風も静かに笹川の(山内静) 水にも神光煕り渡る雄々しき清き葦原の(笹川煕雄) 神の御国ぞたふとけれ日本御魂の大丈夫が 勇気も古井現し世の濁りを清め市村野(古井清市) 戸口も佐和に佐和佐和に五六七の御世を松の色(野口佐七) 本つ御魂も幸ひて長閑な春の政事(松本春政) 国常立の分御魂仁義の道を一と筋に(国分義一) 守るや洋の西東山の尾の上に出入る月(西山勝) 光り勝れし大御代に立て直さむと昔より 水野御魂の大御神貞めなき世を弌らんと(水野貞弌) 道も飯田の神の詔千代の松ケ枝澄み渡り(飯田千代松) 昇る月影高橋の夜の守りとありがたき(高橋守) 御代に太田の楽もしや神の御国に伝はりし(太田伝九郎) 九つ花の咲き匂ふ深山の奥の寒村も(奥村芳夫) 大和心の芳ばしき大丈夫須佐の大神を 斎ひ藤とみ惟神御霊幸ひて吉祥の(斎藤幸吉) 聖の御代ぞたふとけれ 道の蘊奥を塞ぎ居る村雲四方にかきわけて(奥村友夫) 心も清き友の夫が至誠を内外に長谷川の(長谷川清一) 清きながれも一と筋に久米ども尽きぬ川水に(米川太介) 濁世を洗ひ太介んと田庭綾辺の政雄等が(田辺政雄) 神の御声をいや高き雲井に告げよほととぎす(雲井恒右衛門) 恒の誠のおこなひはこの右衛門なき神の笑み その身の佐賀も康正の実にも鈴し木忠と孝(佐賀康正) 慈悲を三つ楯戸して田助澄まして国の祖(鈴木孝三郎) 古き昔の神代より高き神徳次ぎつぎに(戸田澄国) かくれて御世を守りつつ忍び玉ひし大神を(古高徳次郎) 斎きまつるぞ藤とけれ吉きもあしきも三吉野の(斎藤吉三) 花と散りしく大八嶋長き平和の夢さめて(大島長和) 西洋の国原見渡せば神を敬ふ人もなし(西原敬昌) 物質文明昌ふとも心の花は散りにけり 谷波の国にあらはれし出口の神の御教は(谷口清満) 清く天地に満ちぬらむ桧杉原かきわけて(杉原佐久) 梅佐久そのを杉の山見当てに進む日本一(杉山当一) 長閑けき風も福の井の大精神は平らかに(福井精平) 神の林に著二郎く鳴り渡るなり高倉の(林二郎) 高き厳に八重むぐら青き苔蒸し小田牧野(林八重子) 蔓さえ光る万世の亀の歓吉て岩の上(牧野亀吉) 鶴さへ巣ぐふ高倉の三ツ葉つつじ之御助に(上倉三之助) 小野が御田間を研きつつ生れ赤子と若がへり(小野田若次郎) 次第々々にたましひを石とかためて世を渡り(石渡たみ) 四方のたみ草同一に神の真道に進ましめ(同進) 御代の栄えを内外に照らすは神の大本ぞ 谷波の国は狭くとも広く賢こき神の道(谷広賢) 雲井の上も海原も神武と仁徳かがやきて(井上武仁) 神の守りの金城は所在神の守りにて(城所守息) 神々安息遂げたまふその聖世美馬ほしと(美馬邦二) 心の清き神人が御邦二つくす真心は 大小高下の差こそあれ林のナカの下木まで(小林ナカ) よろこび祝ふ細し矛千田琉の国の神の徳(細田徳治) 円く平穏に治まりて身椙の元も二三太郎(椙元二三太郎) 広き新道進むより神の大道踏める身は 笹原義登と悉後藤くいと康らか仁進み行く(笹原義登) 無事平安の神の道達るは神の温たかき(後藤康仁) あまき乳房にすがる児の太郎次郎の生命の(安達房次郎) 親の光りと松の御代上田の家に生れたる(松田文一郎) 三文奴の只一人神の御前にぬかづきて(前田茂寿) 世人を田すけ守らんと昼はひねもす夜茂寿がら 愛宕の山の片ほとりつづきが岡のふもとなる(片岡幸次郎) 小幡神社の幸ひに祈願の効もいち次郎く 大河口や小川口教を日々にトク人の(大河口トク) 心の丈けは庄司きにシウジウの苦辛を耐へつつ(庄司シウ) 安く達せん大神の心は清き白ユキの(安達ユキ) 黄金の世界銀世界真鯉の上る滝津瀬の(上滝美祐) さま美はしき神祐に心の垢を洗ひつつ 西山林谷の道作り治めて登り行く(西谷作治) 四十八個の宝座ある高倉山に崎にほふ(山崎耕作) 三ツ葉つつじの花の下耕し作る田男の 中にも邨で新しき由緒を知れる由松の(中邨新助) 道の手引に助けられ万寿神苑立出でて 詣づる信者二百人出口の海潮を先導に 田舎の村の小幡橋金神竜神一同に(村橋金一郎) 渡り田所は宮垣内鹿蔵住むなる松林(田所鹿蔵) 紅葉は散れど青々と茂る木の葉のうるはしき 豊かな冬の木の本に四方の景色を覚めつつも(豊本景介) 婦人子供に至るまで介々しくも谷川を(谷前貞義) 飛び越え前み貞勇き義近藤初めて修業場と(近藤貞二) 神の貞めに一同は第二霊地と感謝しつ 祝詞の声も晴やかに木魂に響く床しさよ 勝又五六七の神政に水野御魂があらはれて(勝又六郎) 久米ども尽きぬ真清水のかはく事なき吉祥の(水野久米吉) 命の親の神心仰ぐも高し田加倉の(高田権四郎) 神の権威は四ツの海珍の国土も井や広に(土井理平) 摂理は届く公平のうましき御世は北村の 人は勇みて神寿ぎの祭祀の道も庄太郎(北村庄太郎) 日本の国は松の国浦安国と日五郎より(松浦国五郎) 御三木清めし神の国善一と筋の世の元の(三木善建) 神の建てたる御国なり外国人に惑はされ 御国の精華も白石の五倫五常の道忘れ(白石倫城) 難攻不落の堅城と神の造りし無比の園(比村中) 心にかかる村雲を払ふて清め腹の中 神の授けし御魂をば汚さむ事を鴛海つつ(鴛海政彦) 国家の政り家政り彦と夜毎にいそしみて たとへ悪魔の襲ふとも少しも鎌はず田力男(鎌田徴) 日本心を微かに照して見せよ三日月の 敏鎌の光り鋤の跡稲田も茂る八百頴野(鎌田茂頴) 間田なき秋にアイの空瑞穂の国の中国の(野間田アイ子) 誉れを西洋までノブエ姫姫氏の国の豊の年(中西ノブヱ) 稔も吉田の花ぞサク清き水穂にフク風の(吉田サク子) 薫りは外に比類なき富貴の草香村肝の(清水フク子) 心の美佐尾芳ばしく続鎌ほしや曇りたる(比村美佐尾) 世を田貞か江て神の世になれば曲事かくろひて(鎌田貞江) 吉きこと斗り村幸の雲間を照らす神のトク(吉村トク) まコトを那須の神人は神にすがりツヤはらぎつ(同コト子) 吾身のことを打捨てて多田道のためクニのため(那須ツヤ子) つくしの果の人々も海河こえて田庭路の(多田クニ) 神の御親の膝元に直子の刀自の跡慕ひ(河田親直) 滋しげ通ふ楽もしさ小柴田間萩米躅躑(同滋子) 茂れる山路ふみ別けて同じ心の一隊は(柴田米子) 神の恵與と勇みつつ清水湧き出る宮垣内(同一與) 上田の家も市々に立出で田渡る野山路(内田市子) 心せきセキヨぢ登る新池馬場を一斉に(田渡セキヨ) 進めば砂止山の神祠の跡を右に見て(馬場斉) 谷の村杉潜りぬけ真の道の友垣は(谷村真友) 山奥見かけ村々と貞めの場所雄さして行く(奥村貞雄) 黄昏近く湯ふ浅の空に出口の王仁が(湯浅仁斎) 岩屋の神を斎ひつつ降雨も知らぬ森の中(雨森松吉) 松葉の露の一雫味はひ吉しと喜びて 呑みし昔の思ひ出に水の冥加を藤とみつ(加藤明子) 天地神明の洪徳を感謝しまつる此一行 折も吉野のときつ風吹かれて顔の湯煙りも(吉野とき子) 御空になびく浅曇り霊魂を研く三柱の(湯浅研三) 神の宝座の大前に東尾さして神吉詞(東尾吉三郎) 拍手三拝上々の坂えの声をきくの年(上坂きく) 山の尾の上を崎わけて昇る旭日のあけの空(山崎あけ子) 小男鹿妻恋ふ高熊の見るも勇まし一つ岩(小高一栄) 栄え久しき神国の牧の柱とまめ人の(牧慎平) 慎み仕え大前に低頭平身祈りつつ 松のお千葉もいと清く月も見五郎の十五日(千葉清五郎) 大山小山の中道をおのが寿美家へ雄々しくも(大山寿美雄) 松岡神使に誘はれて本の古巣へ帰りける(岡本尚市) 尚き教へを市早く上田の炉辺に宣ぶる時(田辺林三郎) 小松林の神憑り三ツの御魂が現はれて 近藤二度目の立替は御国を思兼の神(近藤兼堂) 現はれまして堂々と小畠の宮の山の跡(畠山彦久) 本宮神宮の聖邑に国武彦の大神は 世も久方の天津神月見の神や天照す(佐藤かめ) 皇大神の神言もて世人を佐藤し身をたかめ(平野千代子) 天下太平野千代の基佐藤りて三よしの花の春(佐藤よし) お土の井とく水の恩正しき御木の宮柱(土井とく) 千本高知りてきんぎんや珠玉を飾る三体の(正木きん) 神の御舎殿荘厳に大宮小宮建て並べ(小宮きゑ) 深きゑにしを説き諭す高天原の神の道(原竹蔵) 松のみさをは神の国竹蔵即ち外国に たとへて東尾日の本とさきはひ玉ふぞ尊とけれ(東尾さき) 板り尽せしあがなひの千倉の置戸を負ふ神の(板倉寛太郎) 寛仁太度の胸の内同じ教も寛々と(同寛文) 文化の魁け梅の花御空は清く山青く(青野都秀) 野村も都会も秀れたる神の大道に従ひて 日東帝国安らけく日五郎の信仰現はれて(東安五郎) 安全無事の世の中に到達せしめ聖哲の(安達哲也) 教は四方に響く也同じ天地に生ひ立ちし(同佐右衛門) 草木で佐右衛門色艶を増して歓こぶ君が御代 世は古川の水絶えず万寿の苑は亀岡の(古川亀市) 市中に高く聳えつつ曇れる社会を照らし行く 神の仕組の万寿苑瑞祥閣の芽出度けれ。 ○ 教の花の桜井愛子中野祝子の太祝詞(桜井愛子) 同じく作郎青年も巌の上田に参ゐ詣で(中野祝子) 各自気分も由松の前駈し田るは十四夜の(同作郎) 稲田を照らす月の影風も清けき秋の末(上田由松) 此一行廿二人巻尾に記して証となす。(前田満稲) (以上) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 03 渓間の悲劇 | 第三章渓間の悲劇〔一〇三〕 新高山は花森彦統裁のもとに、高国別、高国姫が天地の律法を厳守し、高砂島一帯の諸神を至治太平に治めゐたりしが、たまたま高国姫は谷間に下りて清泉を汲まむとし、断崕より過つて足を踏み外し、谷間に転落し、神事不省に陥りければ、侍者らは大いに驚きて、これを救ひあげむと百方手をつくしたれども断崕高く、渓流はげしく、いかんとも救助の道なく、侍者は驚きあはてこれの顛末を詳細に高国別に報告せしより、急報を聞きし夫は、たちまち顔色蒼白となり、とるものも取りあへず、職服のまま現場にかけつけたりける。 高国姫は渓間の激流におちいり、激浪につつまれて、浮きつ沈みつ悶え苦しみ救ひを呼びゐたり。その声は次第に細りゆきて、つひには虫の音のごとく衰へきたりぬ。いかに救はむとするも断巌絶壁に隔てられ救助の道なく、ただ手をつかねて神司らは、あれよあれよと絶叫するばかり、傍観するより外に方法とてはあらざりにける。 ここに高国姫の侍者に玉手姫といふ容色優れたる女性ありしが、玉手姫は、 『主神の一大事、吾は生命に替へて救ひまつらむ』 といふより早く着衣を脱ぎすて、数百丈の谷間を目がけ、急転直下、高国姫の溺れ苦しむ前に飛下り、高国姫を小脇にかかへ、辛うじて渓流はるかの下流に泳ぎつきこれを救ひあげたり。高国別夫妻の喜悦と感謝はたとふるに物もなく、玉手姫は高国姫の生命の親として優遇され、つひに玉手姫は二神司の寵愛ふかき神司となりぬ。 高国別、高国姫二神は、玉手姫の奇智と才略と忠勇心に深く信頼し、城中のこと一切は、玉手姫のほとんど指揮を待たざれば何事も決定せざるまでに、漸次権勢を張るにいたりける。 ここに新高山を中心とする高砂島は、玉手姫の水ももらさぬ経綸によつて大いに治まり、よく天地の律法を厳守し、上下一致して神政の模範となり、国の誉も高砂の、千歳の松の永久に、治まる御代と思ひきや、高国姫は渓流に落ちたるとき、身体の一部に障害をきたし、それが原因となりて大病を発し、病床に呻吟し、身体は日に衰へゆくばかりなりける。 ここに高国別は、高国姫の寵愛ふかき玉手姫をして、昼夜看護に尽力せしめたるに、玉手姫の周到なる看護も何の効なく、病は日々重りゆくのみなりける。ここに花森彦は高国別を近く招き、玉手姫を一時も早く追放すべく厳命せられたるにぞ、高国別は天使の命をいぶかり、腑におちぬていにて言葉静に、 『かれ玉手姫は忠勇無比にして真心より懇切なる神司なり。高国姫の危急を救ひたるもまた玉手姫なり。多くの侍者ありといへども、玉手姫のごとき忠実なる者は外に一柱もなし。しかるに天使は何をもつて玉手姫を追ひだせと命じたまふか』 と反問したりけれど、花森彦は、 『今は何事も語るべき時期にあらず、ただ吾命を遵奉せば足れり』 と、鶴の一声を残して殿内ふかく足早に進みいりぬ。しかして高国別は妻および玉手姫にむかつて、花森彦の厳命の次第を物語れば、高国姫は重き病の頭をもたげながら、驚きの眼を見はり、 『わが生命は玉手姫のために救はれ、今また懇切なる看護を受く、妾にとつて命の親なり。たとへ天使の厳命なりといへども、かかる没義道なる命には従ひがたし』 と非常に天使を恨み興奮の結果つひに上天したりける。高国別は妻の憤死を見て大いに悲しみ、かつ花森彦を深く恨むにいたれり。 ここに玉手姫は高国別の心中を察し、熱涙をうかべ、花森彦の無情冷酷を怒り、高国別をして信書を認め天使に捧呈せしめける。その文意は、 『高国姫は天使の冷酷なる命令を恨み憤死いたしたり。また玉手姫は誠意を疑はれ、かつ放逐の命をうけたるを大いに憤慨せり。我はいかに天使の命なりとて盲従するに忍びず、実に貴神を恨みまつる』 と云ふの意味なりし。花森彦はこれを披見してただちに高国別にたいし、天則違反の由を懇諭し、かつ、 『根の国にいたるべし』 と厳命したりける。高国別は天使の神通力を知らず、ただ単に無情冷酷の処置とのみ思惟し、自暴自棄となりて、花森彦の無道を天使長大八洲彦命に進言せむとしたりける。 (大正一〇・一一・一三旧一〇・一四加藤明子録) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 17 岩窟の修業 | 第一七章岩窟の修業〔一一七〕 万寿山は前述のごとく、神界の経綸上もつとも重要なる地点なれば、これを主管する八王神は他の天使八王神に比してもつとも神徳勝れ、かつ神界、幽界の大勢を弁知し、大神の神慮を洞察せざるべからずとし、八王神なる磐樟彦は、単独にて万寿山城をひそかに出城し、霊鷲山の大岩窟にいたりて百日百夜、すべての飲食を断ち、世染をまぬがれ一意専心に霊的修業をはげみ、つひに三ツ葉彦命の神霊に感合し、三界の真相をきはめ、天晴れ万寿山城の王たるの資格を具有するにいたりける。 磐樟彦は、霊鷲山の大岩窟を深く探究したるに、数百千とも限りなき小岩窟ありて、大岩窟の中の左右に散在して、それぞれ受持の神守護されつつありき。この岩窟はいはゆる宇宙の縮図にして、山河あり、海洋あり、種々雑多の草木繁茂し、禽獣虫魚の類にいたるまで森羅万象ことごとくその所を得て、地上の神国形成されありぬ。 三ツ葉彦命の霊媒の神力により、数十里に渉れる大岩窟の磐戸を開き、現はれいでたる気品高き美しき女神は、数多の侍女とともに出できたり、磐樟彦に向ひ軽く目礼しながら、 『汝は神界のために昼夜間断なく神業に従事して余念なく、加ふるに百日百夜の苦行をなめ、身体やつれ、痩おとろへ、歩行も自由ならざるに、どの神司も恐れて近付きしことなき、この岩窟の神仙境にきたりしこと、感ずるにあまりあり。妾はいま、汝の熱心なる信仰と誠実なる赤心を賞て、奥の神境に誘ひ、坤の大神豊国姫命の御精霊体なる照国の御魂を親しく拝せしめむとす。すみやかに妾が後にしたがひきたれ』 といひつつ、岩窟の奥深く進みける。磐樟彦は女神の跡をたどりて、心も勇みつつ前進したりしが、はるか前方にあたりて、眼も眩きばかりの鮮麗なる五色の円光を認め、両手をもつて我面をおほひながら恐るおそる近付きける。女神はハタと立留まり、あと振かへり命にむかひ、 『汝の修業はいよいよ完成したり。ただちに両手をのぞき肉眼のまま、御神体なる照国の御魂を拝されよ。この御魂をつつしみ拝せば三千世界の一切の過去と、現世と、未来の区別なく手に取るごとく明瞭にして、二度目の天の岩戸開きの神業に参加し、天地に代る大偉功を万世に建て、五六七の神政の太柱とならせたまはむ。神界の状勢は、この御魂によりて伺ふときは、必然一度は天地の律法破壊され、国治立命は根の国に御隠退のやむなきに立いたりたまひ、坤の金神豊国姫命もともに一度に御退隠あるべし。しかしてその後に盤古大神現はれ、一旦は花々しき神世となり、たちまち不義の行動天下に充ち、わづかに数十年を経て盤古の神政は転覆し、ここに始めて完全無欠の五六七の神政は樹立さるるにいたるべし。汝は妾が言を疑はず、万古末代心に深く秘めて天の時のいたるを待たれよ。神の道にも盛衰あり、また顕晦あり。今後の神界はますます波瀾曲折に富む。焦慮らず、急がず、恐れず、神徳を修めて一陽来復の春のきたるを待たれよ』 と懇に説き諭したまひて、たちまちその気高き美しき女神の神姿は消えたまひける。 磐樟彦は天を拝し、地を拝し、感謝の祝詞をうやうやしく奏上したまふや、今まで光の玉と見えたる照国の御魂は崇高なる女神と化し、命の手をとり、紫雲の扉をおし明け、宝座の許に導きたまひける。 夢か、現か、幻か。疑雲に包まれゐたるをりしも、寒風さつと吹ききたつて、肌を刺す一刹那、王仁の身は高熊山の岩窟の奥に、端座しゐたりける。 (大正一〇・一一・一七旧一〇・一八土井靖都録) |