🏠 トップページへ

📖 キーワード検索

番号
(No.)
書籍 内容
1

(136)
ひふみ神示 4_天つ巻 第29帖 この方オホカムツミノ神として書きしらすぞ。病あるかなきかは手廻はして見れば直ぐ分かるぞ、自分の身体中どこでも手届くのざぞ、手届かぬところありたら病のところ直ぐ分るであろうが。臣民の肉体の病ばかりでないぞ、心の病も同様ぞ、心と身体と一つであるからよく心得て置けよ、国の病も同様ぞ、頭は届いても手届かぬと病になるのぞ、手はどこへでも届くやうになりてゐると申してあろが、今の国々のみ姿見よ、み手届いて居るまいがな、手なし足なしぞ。手は手の思ふ様に、足は足ぞ、これでは病直らんぞ、臣民と病は、足、地に着いておらぬからぞ。足地に着けよ、草木はもとより、犬猫もみなお土に足つけて居ろうがな。三尺上は神界ぞ、お土に足入れよ、青人草と申してあろうがな、草の心に生きねばならぬのざぞ。尻に帆かけてとぶようでは神の御用つとまらんぞ、お土踏まして頂けよ、足を綺麗に掃除しておけよ、足よごれてゐると病になるぞ、足からお土の息がはいるのざぞ、臍の緒の様なものざぞよ、一人前になりたら臍の緒切り、社に座りて居りて三尺上で神につかへてよいのざぞ、臍の緒切れぬうちは、いつもお土の上を踏まして頂けよ、それほど大切なお土の上堅めているが、今にみな除きて了ふぞ、一度はいやでも応でも裸足でお土踏まなならんことになるのぞ、神の深い仕組ざからあり難い仕組ざから喜んでお土拝めよ、土にまつろへと申してあろうがな、何事も一時に出て来るぞ、お土ほど結構なものないぞ、足のうら殊に綺麗にせなならんぞ。神の申すやう素直に致されよ、この方病直してやるぞ、この神示よめば病直る様になってゐるのざぞ、読んで神の申す通りに致して下されよ、臣民も動物も草木も病なくなれば、世界一度に光るのぞ、岩戸開けるのぞ。戦も病の一つであるぞ、国の足のうら掃除すれば国の病直るのぞ、国、逆立ちしてると申してあること忘れずに掃除して呉れよ。上の守護神どの、下の守護神どの、中の守護神どの、みなの守護神どの改心して呉れよ。いよいよとなりては苦しくて間に合はんことになるから、くどう気つけておくのざぞ。病ほど苦しいものないであらうがな、それぞれの御役忘れるでないぞ。天地唸るぞ、でんぐり返るのざぞ、世界一どにゆするのざぞ。神はおどすのではないぞ、迫りて居るぞ。九月十三日、一二
2

(172)
ひふみ神示 5_地つ巻 第35帖 日本の国はこの方の肉体であるぞ。国土おろがめと申してあらうがな、日本は国が小さいから一握りに握りつぶして喰ふ積りで攻めて来てゐるなれど、この小さい国が、のどにつかえて何うにも苦しくて勘忍して呉れといふやうに、とことんの時になりたら改心せねばならんことになるのぞ。外国人もみな神の子ざから、一人残らずに助けたいのがこの方の願ひと申してあらうがな、今に日本の国の光出るぞ、その時になりて改心出来て居らぬと臣民は苦しくて日本のお土の上に居れんやうになるのぞ、南の島に埋めてある宝を御用に使ふ時近づいたぞ。お土の上り下りある時近づいたぞ。人の手柄で栄耀してゐる臣民、もはや借銭済しの時となりたのぞ、改心第一ぞ。世界に変りたことは皆この方の仕組のふしぶしざから、身魂みがいたら分るから、早う身魂みがいて下されよ。身魂みがくにはまつりせねばならんぞ、まつりはまつらふことぞと申して説いてきかすと、神祭りはしないでゐる臣民居るが、神祭り元ぞ、神迎えねばならんぞ、とりちがへと天狗が一番恐いのざぞ、千匁の谷へポンと落ちるぞ。神の規則は恐いぞ、隠し立ては出来んぞ、何もかも帳面にしるしてあるのざぞ、神の国に借銭ある臣民はどんなえらい人でも、それだけに苦しむぞ、家は家の、国は国の借銭済しがはじまってゐるのぞ、済ましたら気楽な世になるのぞ、世界の大晦日ぞ、みそかは闇ときまってゐるであらうがな。借銭返すときつらいなれど、返したあとの晴れた気持よいであらうが、昔からの借銭ざから、素直に苦しみこらへて神の申すこと、さすことに従って、日本は日本のやり方に返して呉れよ、番頭どの、下にゐる臣民どの、国々の守護神どの、外国の神々さま、人民どの、仏教徒もキリスト教徒もすべての徒もみな聞いて呉れよ、その国その民のやり方伝へてあらうがな、九十に気つけて用意して呉れよ。十月十日、ひつ九のか三。
3

(334)
ひふみ神示 12_夜明けの巻 第14帖 あら楽し、すがすがし、世は朝晴れたり、昼晴れたり、夜も晴れたり。あらたのし、すがすがし、世は岩戸明けたり、待ちに待ちし岩戸開けたり、此の神示の臣民と云ふても、人間界ばかりでないぞ。神界幽界のことも言ふて知らしてあると、申してあろが。取違ひ慢心一等恐いと申してあろが。祭典、国民服 もんぺでもよいぞ。天明まつりの真似するでないぞ。役員まつりせい。何も云ふでないぞ。言ふてよい時は知らすぞよ、判りたか。仕へる者無き宮、産土様の横下にいくら祀ってもよいぞ。天明は祈れ。祈れ。天に祈れ、地に祈れ、引潮の時引けよ。満潮の時進めよ。大難小難にと役員も祈れよ。口先ばかりでなく、誠祈れよ。祈らなならんぞ。口先ばかりでは悪となるぞ。わかりたか。今度は借銭済しになるまでやめんから、誰によらず借銭無くなるまで苦し行せなならんぞ、借銭なしでないと、お土の上には住めん事に今度はなるぞ。イシの人と、キの人と、ヒの人と、ミヅの人と、できるぞ。今にチリチリバラバラに一時はなるのであるから、その覚悟よいか。毎度知らしてあること忘れるなよ。 神示腹の腹底まで浸むまで読んで下されよ。神頼むぞ。悟った方神示とけよ。といて聞かせよ。役員皆とけよ。信ずる者皆人に知らしてやれよ。神示読んで嬉しかったら、知らしてやれと申してあらうが。天明は神示書かす役ぞ。アホになれと申してあろが、まだまだぞ、役員気付けて呉れよ。神示の代りにミ身に知らすと申してある時来たぞ。愈々の時ぞ。神示で知らすことのはじめは済みたぞ。実身掃除せよ。ミ身に知らすぞ。実身に聞かすぞ、聞かな聞く様にして知らすぞ。つらいなれど、がまんせよ。ゆめゆめ利功出すでないぞ。判りたか、百姓にもなれ、大工にもなれ、絵描きにもなれ。何にでもなれる様にしてあるでないか。役員も同様ぞ。まどゐつくるでないぞ、金とるでないぞ。神に供へられたものはみな分けて、喜ばしてやれと申してあろが。此の方喜ぶこと好きぞ、好きの事栄えるぞ。いや栄へるぞ。信者つくるでないぞ。道伝へなならんぞ。取違へせん様に慢心せん様に、生れ赤児の心で神示読めよ。神示いただけよ。日本の臣民皆勇む様、祈りて呉れよ。世界の人民皆よろこぶ世が来る様祈りて呉れよ、てんし様まつれよ。みことに服ろへよ。このこと出来れば他に何も判らんでも、峠越せるぞ。御民いのち捨てて生命に生きよ。 鳥鳴く声す夢さませ、 見よ あけ渡るひむかしを、 空色晴れて沖つ辺に、 千船行きかふ靄の裡 いろは、にほへとち、りぬるをわかよ、 たれそ、つねならむ、うゐのおくやま、 けふこ、えてあさき、ゆめみしゑひもせすん。 アオウエイ。カコクケキ。サソスセシ。タトツテチ。ナノヌネニ。ハホフヘヒ。マモムメミ。ヤヨユエイ。ラロルレリ。ワヲウヱヰ。 アイウエオ。ヤイユエヨ。ワヰヱヲ。カキクケコ。サシスセソ。タチツテト。ナニヌネノ。ハヒフヘホ。マミムメモ。ヤイユエヨ。ラリルレロ。ワヰウヱヲ。 五十九柱ぞ。此の巻夜明けの巻とせよ。この十二の巻よく腹に入れておけば何でも判るぞ。無事に峠越せるぞ。判らん事は自分で伺へよ。それぞれにとれるぞ、天津日嗣皇尊弥栄いや栄。あら楽し、あら楽し、あなさやけ、あなさやけ、おけ。 一二三四五六七八九十百千卍。秋満つ日に、アメのひつ九かみしるす。
4

(468)
ひふみ神示 21_空の巻 第13帖 我が勝手に解訳してお話して神の名汚さん様にしてくれよ、曇りた心で伝へると、曇りて来る位 判って居ろがな、神示通りに説けと申してあろが、忘れてならんぞ。履物も今に変って来るぞ、元に返すには元の元のキのマヂリキのない身魂と入れ替へせねばならんのぢゃ、が違って居るから世界中輪になっても成就せん道理分るであろがな、一度申した事はいつまでも守る身魂でないと、途中でグレングレンと変る様では御用つとまらんぞ、人力屋、酒屋、料理屋、芸妓屋、娼妓、無く致すぞ、世つぶす基ざぞ、菓子、饅頭も要らんぞ、煙草もくせぞ、よき世になったら別の酒、煙草、菓子、饅頭出来るぞ、勝手に造ってよいのざぞ、それ商売にはさせんぞ。 旧五月五日からの礼拝の仕方書き知らすぞ。朝は大神様には一拝、二拝、三拝、八拍手。ひふみゆらゆら、ひふみゆらゆら 々々 、ひふみゆらゆら 々々 々々。 ひふみ祝詞のりてから、 御三体の大神様弥栄ましませ弥栄ましませ、 天之日月の大神様弥栄ましませ弥栄ましませ、 地の日月の大神様弥栄ましませ弥栄ましませ 八拍手 御三体の大神様七回のれよ。終りて大神様のキ頂けよ、 八拍手一拝二拝三拝せよ。 夜は同じ様にしてひふみ祝詞の代りにいろは祝詞のれよ。三五七に切りて手打ち乍らひふみ祝詞と同じ様にのりて結構ぞ。 昼は大地に祈れよ、 黙祷せよ。時に依り所によりて、暫し黙祷せよ、 お土の息頂けよ、 出来れば、はだしになってお土の上に立ちて目をつむりて足にて呼吸せよ、 一回、二回、三回せよ。神々様には 二拝四拍手。ひふみゆらゆら、々々々々 、 々々 々々々々 。 天の数歌三回唱へ。神々様弥栄ましませ弥栄ましませ とのりて四拍手せよ。誓は時に依りてよきにせよ。霊の宮には一拝、二拍手、 天の数歌一回 弥栄ましませ弥栄ましませ 二拍手、一拝。でよいぞ、ひふみゆらゆら いらんぞ、誓はその時々に依りてよきにせよ。各々の先祖さんには今迄の祝詞でよいぞ。当分これで変らんから印刷してよく判る様にして皆の者に分けて取らせよ、弥栄に拝みまつれよ。三月三日、ひつ九のしるす。
5

(1158)
霊界物語 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 岩井温泉紀行歌 附録岩井温泉紀行歌 瑞月作 岩井温泉紀行歌 瑞の御魂に縁由ある壬戌の一月の 雪降りつもる銀世界黄金閣をあとにして 八日午前の巳の刻に身魂の垢を清めむと 岩井温泉さして行く湯浅篠原植芝や 松の大本の竹下氏恵みの風も福島の 近藤の湯治を送らむと信仰かたき石の宮 家並は古く朽ちぬれど名は新町の正中を 足並速き自動車に揺られて綾部の駅につく 汽笛一声汽車の窓記者の外山氏加藤女史 西村徳治を伴ひて心も勇む石原の駅 煙をあとに初瀬の橋飛びたつばかり進み行く 科戸の風の福知山聞くも恐ろし鬼ケ城 見捨てて走る山間の上川口や下夜久野 降り来る雪を突破して安全守る上夜久野 梁瀬を渡りゴウゴウと輪音も高き和田山や 篠竹しげる養父の駅八鹿江原を打ち過ぎて 外山に包みし豊岡の昇降客のいと多く 但馬名所の玄武洞右手にながめて城ノ崎の 温泉場を振り返へり竹野や佐津の駅も過ぎ 日本海をながむれば雪雲とほく香住駅 山腹包む鎧田の雪つむ景色面白久 谷を埋むる白雪は山陰寒気の表徴と ながめて走る汽車の窓煙草正宗菓子饅頭 お茶お茶弁当の売声に空しき腹を満たすとは ま坂思はぬまうけもの車のすみに居組つつ いよいよ汽車も申の刻岩美の駅に降りけり 雪より白きお梅さま雲井の上の雪の空 緩高梅の田舎道ホロの破れし自動車に 一行六人ぶるぶると自身神也屁の車 廻る駒屋の温泉宿湯治々々と月代の 一同夕餉も相済みて腹もポンポコ湯冠りの ヤレヤレヤレの拍子歌いと面白き雪の庭 なが夜を茲に明しける大正十年十二月 十の二日の未明新暦一月九日に 激しき吹雪降りすさみ寒さに凍えた瑞月は 炬燵の中の侘住居横に立ちつつ千早振 神世の奇しき物語外山加藤井上氏 筆を揃へてかくの通り ○  来訪者名読込歌 温泉の神と現れませる出雲に坐す大己貴(出口王仁三郎) 岩井の湯口細くとも薬の王と聞えたる 神の仁慈の三ツ御魂心地も日々に朗かに 病の根まで断り払ふ効験は岩美に名西負ふ(西村徳治) 田舎の村の湯の御徳療治を加ねて藤くより(加藤明子) 明々つどひ遊び来る男子と女子の宿りたる これの駒屋の温泉は外に又なき客の山(外山豊二) 豊二暮す玉の井のこの上もなき御神徳(井上留五郎) 留る三階に五郎々々とねころびながら霊界の ありし昔の物語石より堅き信仰の(石渡馨) 丹波に馨る神の道常磐堅磐の岩よりも(岩淵久男) かたき誠の教の淵汲取るものは久方の 天より降る変性男子この世の峠や嵯峨の根に(嵯峨根民蔵) さまよふ民蔵救はむと誓ひ出ます神の世に 生れ大野は只ならじ深き因縁の著次郎く(大野只次郎) 田づね来て見よ神の村天地を兼太郎大神の(田村兼太郎) 黄色の色や白梅の佐和に佐木たる神の苑(佐々木清蔵) 清き蔵昔のそのままの紙より白くすがすがし(紙本鉄蔵) 世の大本の金鉄の身魂蔵めし万代の 亀のよはひの本宮山二代教主にかかりたる(亀山金太郎) 金勝要の太み神肌への色は山吹の 清郎比ぶるものもなき景色も藤や田子の浦(藤田武寿) よはひも今は武寿の古き昔を田どる時(古田時治) 治まる波路を加露ケ浜船にて越え来し三保の関(船越英一) 英米須の神を祭りたる山陰一の神霊地 稜威も高嶋あとに見て浪路を進むゆかしさよ(高嶋ゆか) 神の御魂を迎遠藤綾部に居ます牛虎の(遠藤虎吉) 神の吉詞をかしこみてやうやう平田にたどりつき 田植の中の道芝を神のま盛りに踏みて行く(植芝盛隆) 降々昇る旭影竹はなけれど松梅の(竹下斯芸琉) 御杖を下げて道草の斯芸琉野路を勇ぎよく 東の空の色良しと俊老いたまふ大教祖(東良俊) 桑原田原の道別けて喜び一行幽世を(桑原道善) 知食します大社栄ゆる松や神の田の(松田政治) 尊き政治を偲びつつ苔むす藤のいと高く(藤松良寛) からむ社の千代の松心持良く胸寛く 進む小林神の森秀づる尾の上の弥仙山(小林秀尾) 鶴山亀山右左神威を保つ一の鳥居(小林保一) 稲田の姫の命をば救ふて得たる村雲の(稲村寿美) 劔の光寿美渡り須賀の宮居を建了へて 横暴無道の悪神の山田の大蛇を斬放り(横山辰次郎) ひの川上に辰雲の光も殊にいち次郎く 神の功ぞ尊とけれ諸木の下を潜りたる(木下泉三) 谷の泉も素鵞の川三山の奥村芳りつつ(奥村芳夫) 夫婦はここに八雲立出雲八重垣つまごめに 八重垣作る八重垣の誉れは今にコン近藤(近藤繁敏) 栄えて繁る長の敏我日の本のあななひの 道を教へし大己貴浦安国の田のもしく(安田武平) 武力絶倫国平の鉾を皇孫に奉り 君の御尾前仕へなむこれの誓ひは万代も 田賀へじものと手を拍つて青紫垣にかくれたる(田賀鉄蔵) 事代主の金鉄の堅き御言蔵尊とけれ すぎ西むかしの物語神有村の老人に(西村菊蔵) 詳しく菊蔵ありがたき地の高天原にあれませる(原祐蔵) 神の祐蔵うれしみて詣でし一行十五人 神徳岡さぬ皇神の重き御命を拝しつつ(徳岡重光) 神の光を照さむと藤き山路や原野越え(藤原勇造) 勇み来る造艮の神の生宮直子刀自 社の前に田知よりて祈る誠の美千香る(前田美千香) この音づれを久方の雲井の空や土の上に(井上敏弘) いと敏やかに弘めかし神の真毛利は八洲国(毛利八弥) 弥常永に伝はりて栄え目出度瑞穂国 秋の足穂の御田代は太田の神に神習ひ(田代習) 教の苗を植付ける国常立大神の 高木勲を寿ぎて三柱神の神の教(高木寿三郎) 田中も山も佐嘉栄吉し五六七の御代に住山の(田中嘉栄吉) 人の心は泰平蔵雲井の上も葦原も(住山泰蔵) 熊蔵なき迄住渡る清けき富士の高山に(上原熊蔵) 金銀竜の二柱世人を真森田すけむと(住山竜二) 御心くまらせ玉ひつつ大矢嶋国栄えゆく(森田くま) 祥たき御代を松の世の浦安国の磯輪垣の(矢嶋ゆく) 秀妻の国蔵尊とけれ元気も吉田の一行は(松浦秀蔵) 身魂勝れて美はしく聖地を西にあとに見て(吉田勝美) 町や山村伝ひつつ又蔵降り来る五月雨を(西村伝蔵) おかして伊佐み田庭路の福知へ帰り喜一郎(伊佐田喜一郎) 途上つはりの心地して二代スミ子は澄渡る 石原の小泉すくひ上げ教祖手づから清泉を(小泉熊彦) 口に富熊せ玉ひつつ国武彦の真森田る(森田勘太郎) 綾の勘部の太元に雨の中尾ば六月の(中尾豊弘) 四日に豊かに弘前に神徳高く山の如(山本惣吉) 頭にいただき帰ります大本役員惣一同 今日の生日の吉き日をば祝ひ納むる吉祥の(同納吉) 宴を平木て大神の御稜威かしこ美山川の(平木稜威美) 供物を献じ石の上古き太初の皇神の(山川石太郎) 直なる武の田ぐひなき誉れを今に伝へける(武田なを) 大正三年の春の頃十三才の直霊嬢 瑞月柳月の三人が出雲大社へ礼参り 其往きがけに岩美駅馬車にゆられて晃陽の やかたに再び逗留しいよいよ三度の入浴に 身魂の垢を洗ひつつ五ツと六との霊界の 昔語りを新らしく天地宇宙の外に立ち 言葉も清くいさぎよくまはる駒屋の温泉場 心の垢をあらひつつあらあらかくは識しけり 皇道発祥の霊地日向国宮崎市の公会堂に於て昭和神聖会支部の発会式を盛大に挙行したる翌朝七時四十分、同市神田橋旅館の二階の間大淀河の名橋や清流を眺めつつ誌し置く。いよいよ霊主体従寅の巻の校正を終る。 (昭和一〇、一、一九早朝) 附言 明治三十四年旧五月十五日、教祖様神勅を受けて、八雲立出雲の国の天日隅の宮に御参拝の節、山陰道を徒歩し一行十五人、岩井温泉駒屋に一泊せられ、帰路ふたたび同家に宿泊されたる、大本にとつて由縁浅からざる温泉なり。瑞月は大正三年の春、三代直霊、梅田信之氏とともに一泊したることあり。今回にて三度目の入浴なり。静養かたがた霊界物語の口述をなすも、神の御仁恵と歓びのあまり、筆記者および信者の訪問して色々と御世話下されし其の厚意を感謝するため、諸氏の芳名を読込み、長歌を作りて第三巻の巻尾に附する事となしぬ。
6

(1623)
霊界物語 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) 13 山上幽斎 第一三章山上幽斎〔五六三〕 醜の魔風や様々の、世の誘惑に勝彦の、神の使の宣伝使は、弥次彦、与太彦、六公の三人を伴なひ、小山の郷を打過ぎて、二十の坂を三つ越えし、峠の頂きに漸く登り着いた。 この峠の頂きは今迄過来し各峠の頂上に引換へて大変に広い高原になつて居る。小鹿川の流れは眼下の山麓を、白布を晒した如く、岩と岩とにせかれて飛沫を飛ばして居る。山腹は殆んど岩を以て蔽はれ、灌木の其処彼処に青々として、岩と岩の配合を、優美に高尚に色彩つて居る。 弥『小鹿峠も漸く二十三坂を跋渉したが、この頂上くらゐ広い所は無かつた。東西南北の遠近の山、茫漠たる原野は一望の下に横たはり、風は清く、何となく春の気分が漂ふて来た。此処で吾々はゆつくりと休養して参る事に致しませうか』 勝『アヽそれは宜からう、この頂上より四方を眺めた時の気分は、実に雄渾快濶にして、宇宙を我手に握つたやうな按配式だ。ゆるゆると神界の話でもさして頂かうか、斯う云ふ清い所では、何程神界の秘密を話した所で、滅多に曲津神の襲来する虞もなからう』 と言ひ乍ら、青芝の上に腰を下した。三人も同じく、芝生の上に横たはつた。 与『アヽ良い気分だ。何時見ても、頂上を極めた時の心持はまた格別だが、今日は殊更に気分が良い。斯う云ふ時に一つ幽斎の修業を始めたら、キツト善い神様が感合して下さるでせう、………もし宣伝使様、一同此処で三五教の鎮魂帰神の神法を施して下さいませぬか』 勝『それは結構だが、生憎高地の事とて、水も無し、手を洗ひ口をすすぎ、水を被ると云ふ事が出来ないから……第一此れには閉口だ』 弥『神様の教にも、「身の垢は風呂の湯槽に洗へ共、洗ひ切れぬは魂の垢なり」と示されてある、たとへ水が無くとも、神様に一つ御免を蒙つて、身魂の洗濯をして貰ふ訳にはゆきますまいか。水は肉体の垢を洗ひ落す丈のもの、鎮魂は精神の垢を落すものですから、今日は肉体は已を得ずとして、霊丈の洗濯をして貰ひませうか……ナア与太彦、六公』 与『それも一つの真理だ……もしもし勝彦の宣伝使、あなたは古参者だ、吾々は新参者、どうぞ一つ鎮魂を願つて下さいな』 勝『霊肉一致、現幽一本だから、理屈を云へば、別に水行をせなくつても、霊さへ洗へば良いと云ふ様なものだが、矢張汚い肉体には美しい霊の神が憑る事は、到底不可能だらう。コンナ所で漫然と幽斎でもやらうものなら、ウラル教の守護を致して居る悪神が、何時憑依するかも知れたものでない。此頃は霊界に於て、往昔国治立の大神、その他の神々に対し、極力反抗を試み、遂には大神をして退隠の已むなきに至らしめたと云ふ大逆無道の常世姫や木常姫、口子姫、八十枉彦の邪霊連中が、少しでも名望のある肉体に憑依し、再び神界混乱の陰謀を企てて居るのだから、愚図々々して居ると、何時憑依されるか分つたものでない。宇宙一切は大国治立尊の御支配だから、到る所として正しき神の神霊は、充満し給ふとは云ふものの、また盤古系統、自在天系統の邪神も天地に充満して居るから、此方の霊をよほど清浄潔白にして掛らねば、神聖の神の降臨を受けるといふ事は、到底不可能なが原則だ。水が一滴もないのだから、肉体を清める訳にも行かないから、また滝壷の在る所か、清き流れの水に禊をするとかして、その上で幽斎の修業にかかつたが宜しからう』 弥『アヽ融通の利かぬものだな、全智全能の根本の神様でも、ソンナ窮屈な意見を以て居られるのだらうか。善悪相混じ、美醜互に交はつて、天地一切の万物は、茲に初めて力を生じ、各自の活動を開始するのでは有りませぬか。世の中には絶対の善もなければ、また絶対の悪もない。如何に水晶の身魂だと云つても、大半腐敗せる臭気に包まれた人間の体に宿らねばならぬのだから、何程表面を水位で洗つた所で、五臓六腑まで洗濯しきれるものでない、物を深く考へれば、手も足も出せなくなつて了ふ。何事も神直日大直日に見直し聞直し詔直して、ここで一つ神聖なる幽斎の修業を、是非々々開始して下さい。ナンダカ神経が興奮して、神懸の修業がしたくつて、仕方がなくなつて来た』 勝『幽斎の修業は心身を清浄にする為、第一の要件として、清潔なる衣服を纏ひ、身体を湯水に清めて掛らねばならぬのだが、さう言へば仕方がない、神様に御免を蒙つて幽斎の修業をさして頂く事にしやうかなア』 弥『イヤー有難いありがたい……ナア与太彦、六公、貴様は今迄まだ神懸の経験がないのだから、この弥次彦サンの神懸を、能つく拝め、心を清め、肝を錬れ、……サア勝彦の宣伝使様、早く審神をして下さい。ナンダカ気がイソイソとして堪まらなくなつて来ました、……ウンウンウンウン、ウーウー』 と忽ち惟神的に両手は組まれ、身体忽ち前後左右に動揺し始めた。 与『ヨー弥次彦の奴、独り芝居を始め出したナ、ナンダ、妙な恰好だな、目を塞ぎよつて両手を組み、坐つたなりに飛上がり、宙にまいまいの芸当を始め出した。大方松の大木から滑走しよつた時の亡霊が、まだ体のどつかに残留して居つたと見える……オイ六公、面白いぢやないか、……コレコレ勝彦サン、今日はモウ口上丈はやめて下さい、頼みますぜ』 勝『アハヽヽヽ』 弥次彦は夢中になつて、汗をブルブル垂らし乍ら、蚋が空中に餅搗した様に、地上一尺以上を離れ、五六尺の間を昇降運動を開始して居る。神懸に関しては素人の与太彦、六公の二人は、口アングリとして大地に倒れた儘、 与、六『アーアー、ヤルヤル、妙だ妙だ、オイ弥次彦、貴様はそれ丈の隠し芸を持つて居つたのか、重宝な奴だ、宙吊りの芸当は珍らしい。ワハヽヽヽ、モシモシ宣伝使さま、どうとかして、御神力で弥次彦の体を、猿廻しの様に使つて見せて下さいな』 勝彦は両手を組み、天津祝詞を声も緩やかに奏上し終り、一二三四五六七八九十百千万と、天の数歌を歌ひ終り、右の食指の指頭より五色の霊光を発射し、弥次彦の身体に向つて、空中に円を描いた。弥次彦の身体は勝彦の指の廻転に伴れて、空中に円を描き、指の向ふ方向に、彼が身体は回転する。勝彦は、今度は思ひ切つて腕を延べ、中天に向つてブンマワシの如くに円を描き、弥次彦の体は勝彦の指さす中空に向つて舞上り舞ひ下り、また舞ひ上り舞下り、空中遊行の大活劇を演ずる面白さ。 与『オイ六公、あれを見い、弥次彦の奴、漸々熱練しよつて、体が小さくなつて、見えぬやうな高い所まで、空中を滑走し、上つたり下りたり、上になつたり下になつたり、大変な大技能を発揮しよるぢやないか、……モシモシ宣伝使さま、あなたの指の動く通りに、弥次彦の奴、動きますなア。あれなら軽業師になつても大丈夫食へますナ』 勝『アハヽヽヽ、あれは霊線の力に操られて、体を自由に使はれて居るのだ。俺の指の通りになるであらうがな』 与『ハハア、さうすると弥次彦が偉いのじやなくて、あなたの指が偉い神力を具備して居るのだなア……あなたはヤツパリ魔法使だ、恐ろしい油断のならぬ宣伝使ぢや、私丈はアンナ曲芸は、どうぞ遣らさぬ様に願ひますで、喃六公、アンナ事をやられたら、息も何も切れて了うワ』 六『アヽ恐ろしい事だのう』 斯く云ふ中、弥次彦の身はスーと空気を分ける音と共に、三人の前に下つて来た。勝彦は又もや両手を組んで、『許す』と一声、弥次彦は常態に復し、目をギロつかせ乍ら、 弥『アヽやつぱり二十三峠の頂上だつた、ヤア怖い夢を見たよ、天へ上がるかと思へば地へ下つて、地へ下つたと思へば又天へ引上げられる、目はまわる、何ともかとも知れぬほど苦しかつた、アヽやつぱり夢だ夢だ』 与、六『エ、なアに、夢所か実地誠の正味正真だ。現に俺達は今ここで貴様の大発明の軽業を、無料観覧した所だ。貴様もよつぽど妙な病気があると見える、親のある間に治療をして置かないと、親が無くなつたら、到底一生病だ。不治の難症と筍医者に宣告されるが最後、芝を被つて来ない限り、迚も此世では駄目だぞ、……モシモシ勝彦さま、コラ一体何の業ですか』 勝『弥次彦には、悪逆無道の木常姫と云ふ奴が、タツタ今油断を見すまして、くつつきよつたのだ。そこで私が鎮魂の力を以て木常姫の悪霊を縛つたのだ。悪霊は私の指の指揮に従つて、あの通り容器と一所に、宙を舞ひ狂うたのだよ、モウ今の所では、木常姫の邪霊も往生致して逃げよつたから、弥次彦も旧の通り、常態になつたのだ、ウツカリして居ると、貴様等も亦何時邪霊の一派に襲はれるか知れやしないぞ。夫れだから、至貴至重至厳なる幽斎の修業は、肉体を浄めもせず、汗だらけの、垢の付いた衣服を纏ふて奉仕する事は出来ないと、私が説諭したのだ。それにも拘はらず、私の言葉を無にして聞かないものだから、修業も始めない中から、邪霊に誑惑され、忽ち木常姫の容器となりよつたのだ、……オイ弥次彦、しつかりせないと、又もや邪神が襲来するぞ』 弥『智覚精神を殆んど忘却して居ましたから、何が何だか私としては、明瞭を欠きますが、仮令邪神にもせよ、宙を駆けるナンテ、偉い力のあるものですなア』 勝『馬鹿を言ふな、胴体なしの凧といふ事がある。悪魔と云ふ者は、大体が表面ばかりで、実地の身がないから、恰度、言へば風の様なものだ。その邪霊が人間の肉体へ這入つたが最後、人間の体は風船玉が人間を宙にひつぱり上げる様な具合になつて、体が飛び上がるのだ。人間は大地を歩む者、鳥かなんぞの様に、宙を翔つ奴は、最早人間としての資格はゼロだ、貴様たちも中空が翔つて見たいのか』 与、六『ヘイヘイ邪神だらうが、何だらうが、人間として天空を翔ると云ふ様な事が出来るのなら、私は一寸一遍、ソンナ目に会ふて見たいですな。世界の人間は驚いて……「ヤア与太彦、六公の奴、偉い神力を貰ひよつた、生神さまになりよつた」と云つて、尊敬して呉れるでせう。そうなると、「ヤア彼奴は三五教の信者だ、三五教は神力の強い神だ、俺も三五教に帰依する」と云ふて、世界中の人間が一遍に改心するのは請合です。神様も吾々にアンナ神力を与へて、世界の奴をアツと言はして下さつたら一遍にお道が開けて、世界の有象無象が改心するのだけれどなア』 勝『正法に不思議なし、奇蹟を以て人を導かむとする者は、いはゆる悪魔の好んで執る所の手段だ。吾々は神様の貴重な生宮だ、充分に自重して、肉の宮に重みを付け、少々の風にまで飛あがり、宙をかける様な事になつては、最早天地経綸の司宰者たる資格はゼロになつたのだ。何処までも吾々はお土の上に足をピツタリと付け居るのが法則だ』 与『それでも、鷹彦の宣伝使は宙を翔つぢやありませぬか』 勝『鷹彦は半鳥半人の境遇に居るエンゼルだ。彼は時あつて空中を飛行し、神業に参加すべき使命を持つて居るのだから、羽翼が与へられてあるのだよ。羽翼は空中を飛翔するための道具だ。羽もない人間が、今弥次彦の様な事を行るのは変則だ、悪魔の翫弄物にせられて居るのだよ』 六『さうすると、悪魔の方がよつぽど偉い様ですな。誠の神様は土に親しみ、悪魔は天空を翔るとは、実に天地転倒の世の中とは言ひ乍ら、コラ又あまり矛盾ぢやありませぬか。仮令邪神でも何でも構はぬ、一遍アンナ離れ業を演じて見たいワ』 勝『コラコラ六公、言霊の幸はふ国だ、ソンナ事を言ふと、貴様には、竜宮城から鬼城山に使ひした、一旦大神に叛いた口子姫の霊が、貴様の身辺を狙つて居るぞ、シツカリ致せ』 六『ヤアそいつは一寸乙でげすな、何時も憑り通しにされては困るが、一遍位は憑つて呉れても御愛嬌だ、……ヤイ口子姫とやら、俺の肉体を貸して与るから、一遍アツサリと憑つて呉れぬかい』 弥次彦口をきつて 弥次彦『クヽヽヽチヽヽヽコヽヽヽヒヽヽヽメヽヽヽ口子…口子…ヒヒメメメメ口子姫命只今より六公の肉体を守護致すぞよ』 六『有難う御座います』 と云ふや否や、身体を上下左右に動揺し始めた。地上より四五尺許りの所を、上りつ下りつ、石搗の曲芸を演じ始めた。遂には足は地上を離れ、最低地上を距ること一尺余、最高二三丈の空中を上下し、廻転し始めた。 弥『ヤア六公の奴、偉い神力を貰ひよつたぞ、羨りい事だ、俺も一遍アンナ事が有つて見たい。俺にアヽ言ふ実地が現はれたら、それこそ一も二もなく神の存在を、心底から承認するのだが、どうしても俺には、霊が曇つて居ると見えて、神が憑つて呉れぬワイ』 与『オイ弥次公、貴様ア、アンナ事所かい、殆ど日天様の所へ行きよつたかと思ふほど高う、空中をクルクルクルと廻転しよつて、まるで鳥位小さく見える所まで……貴様は現に大曲芸を演じよつたのだよ、それを貴様は記憶して居らぬか』 弥『アヽさうか、ナンダかソンナ夢を見たやうな記憶が朧げに残つて居る様だ。ヤアヤア六公の奴、追々と熟練しよつて、ハア上るワ上るワ……殆ど体が小さく見える所まで上りよつたナ、……モシモシ勝彦さま、アラ一体全体どうなるのですか』 勝『あまり慢心をすると、体の重量がスツカリ無くなつて、邪神の容器となり、風船玉のやうに吹き散らされるのだ、幸に今は無風だから好いが、一昨日の様な風でも吹いた位なら、夫れこそ、どこへ散つて仕舞ふか分りやしないぞ。それだから俺が此処では幽斎の修業は行られぬと云ふたのだ、……吁、困つた病人が二人も出来よつた、愚図々々して居ると、与太公、貴様にも伝染の兆候が見えて居る、病菌の潜伏期だ。何とかして、免疫法を講じたいものだが、此附近には避病院もなし、消毒薬も無し、困つた事だワイ』 与『消毒薬とは何ですか』 勝『生粋の清浄なお水だ、お水で体を清めて、神様の霊光の火で、黴菌を焼き亡ぼすのだ。吁、困つた事だ、……オイ与太公、しつかりせぬか、貴様には八十枉彦が附け狙ふて居るぞ、……何だ其態度は……またガタガタと震ひ出したぢやないか』 与『強度の帰神状態で、……イヤもう神人感合の妙境に達するのも、余り遠くはありますまい、……南無八十枉彦大明神、何卒々々この与太彦が肉体にどこどこまでもお見捨てなく、神懸り下さいませ、惟神霊幸倍坐世』 勝『また伝染しよつた、病毒の伝播と云ふものは、実に迅速なものだ、アヽ仕方がない、此奴等は皆奇蹟を好んで神を認めやうとする偽信者だから、谷底へ落ちて目を覚ますまで打遣つて置かうかなア。大火事の中へ、一本や二本のポンプを向けた所で仕方がないワ。エ、ままよ、これ丈熱くなつて燃え来つた火柱の様な、周章魂は、最早救ふの余地はない、……吁、国治立の大神様、木花姫の神様、日の出神様、モウ此上は貴神の御心の儘になさつて下さいませ、惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世』 勝彦の祈り終るや、六公は上下動を休止し、芝生の上にキチンと双手を組んだ儘端坐し、真赤な顔をし乍ら、汗をタラタラと垂らして居る。与太公は又もや唸り出した。法外れの大声で、 与太彦『ヤヤヤヤヤア、ヤソ、ヤソヤソヤソ、ママママ、ガヽヽヽ、マガマガマガ、ヒヒ、ココ、ヒコヒコ、八十枉彦だア……腐り切つたる魂で、三五教の宣伝使とは能くも言ふたり、勝彦の奴、……俺の審神が出来るなら、サア、サアサアサア、美事行つて見よ……』 勝『ナニツ、此世を乱す悪神、退却致せ』 と双手を組んで霊線を発射した。 八『アハヽヽヽヽ、ワツハヽヽヽヽ、可笑しいワイ、イヤ面白いワイ、小鹿峠の二十三坂の上に於て、審神者面を致した其酬い、数多の魔神を引きつれて、貴様の肉体を八裂に致してやらう、覚悟を致せ、……ヤツ…ヤツ…』 と矢声を出し乍ら、勝彦が端坐せる頭上を、前後左右に飛びまわり出した。勝彦は全身の力と霊を籠めて、右の食指より霊光を、八十枉彦の憑れる与太彦の前額部目掛けて発射した。 八『ワツハヽヽヽ、オツホヽヽヽ、猪口才な腰抜審神者、吾々を審判するとは片腹痛い。サアこれよりは其方の素つ首を引き抜いてやらう、覚悟を致せ』 と猿臂を延ばして掴みかかる。勝彦は『ウン』と一声言霊の発射に、与太彦の身体は翻筋斗うつてクルクルと七八廻転し乍ら、傍の木の茂みに転げ込んだ。又もや弥次彦は容色変じ、目を怒らせ、歯をキリキリと轢る音、……暫くあつて大口を開き、 弥次彦『コヽヽヽツヽヽヽネヽヽヽヒヽヽヽヒメ、コツコツコツ、ネヽヽヽヒヒヒ、メメメメ、コツコツ、コツネヒメのミコト、……其方は三五教の宣伝使と申し、変性男子埴安彦の神、変性女子埴安姫の神の神政を楯に取り、吾々の天下を騒がす腰抜野郎、この二十三峠は、吾々が屈強の関所だ。二十三坂、二十四坂の間は、ウラル彦の神に守護いたす、八岐の大蛇や、金狐、悪鬼の縄張地点、此処へ来たは汝が運の尽き、これから其方の霊肉共に木葉微塵にうち亡ぼし呉れむ、カカ覚悟をせよ』 と弥次彦の肉体は、拳骨を固めて、勝彦目がけて迫つて来る。勝彦は又もや『ウン』と一声言霊の水火を発射した。弥次彦の肉体は二三間後に飛び下がり、大口を開けて、 弥次彦『オホヽヽヽヽ、汝盲宣伝使の分際と致して、この木常姫を言向和さむとは片腹痛し、思ひ知れよ。汝が身魂の生命は、最早風前の灯火だ。この谷底に蹶り落し、絶命させてやらうか、ホヽヽホウ、愉快千万な事が出来たワイ。貴様を首途の血祭りに、祭りあげ、夫れよりは尚も進んでコーカス山を蹂躙し、ウラルの神に刄向ふ変性女子の身魂を片つ端から喰ひ殺し、平げ呉れむは瞬く間、オツホヽヽホウ、嬉し嬉し喜ばし、大願成就の時節到来だ、………ヤアヤア部下の者共、一時も早く勝彦が身辺に群がり来つて、息の根を止めよ、ホーイホーイホーイ』 と云ふかと見れば、ゾツと身に沁む怪しの風、縦横無尽に吹き来り、四辺陰鬱の気に閉され、数十万の厭らしき泣き声、笑ひ声、叫び声、得も言はれぬ惨澹たる光景となつて来た。勝彦は最早これ迄と、一生懸命、両眼を閉ぢ、天津祝詞を奏上し、天の数歌を歌ひ始めた。与太彦の身体は前後左右に脱兎の如く、駆け廻り始めた。続いて弥次彦の身体は四つ這となつて猛虎の荒れ狂ふが如く、口より猛火を吐きつつ、勝彦の居所を中心に猛り狂ひ飛廻る。六公は忽ち頭上の中空に跳上がり、勝彦が頭上を前後左右に駆けめぐり、何とも譬難き悪臭を放ち始めた。四辺は刻々に暗黒の度を増した。最早勝彦の身辺は烏羽玉の闇に包まれて了つた。 (弥次彦)『八十枉彦、木常姫、口子姫の神の神力には恐れ入つたか、イヤ恐れ入らずに居られうまい、ワツハヽヽヽ、オツホヽヽヽ、ホツホヽヽヽ』 と暗がりより、怪体な声切りに響き渡る。虎嘯くか、獅子吼ゆるか、竜吟ずるか、但しは暴風怒濤の声か、響か、四辺暗澹、荒涼、魔神の諸声は五月蝿の如く響き渡る。怪また怪に包まれたる勝彦は、一生懸命、滝の如き汗を絞り乍ら、神言を生命の綱に、声の続く限り奏上しかけた。この時闇を照して、中空より、馬に跨り下り来る四五の生神があつた。見る見る此場に現はれ、金幣を打振り打振り、前後左右に馬を躍らせ、駆け巡れば、流石の邪神も度を失ひ、先を争ふて二十四坂の方面指して、ドツと許り動揺めき渡り、怪しき声と共に煙の如く逃げ散つた。与太彦、弥次彦、六公は忽ち元の覚醒状態に復帰した。 勝『アヽ有難し有難し、悪魔の襲来を払ひ清め給ひし、大神の御神徳有難く感謝仕ります』 と大地に頭をすりつけて、嬉し涙に咽ぶ。弥次彦、与太彦、六公の三人も、同じく芝生に頭を着け、何となく驚異の念に駆られ、一生懸命に神言を奏上して居る。四人の身体は虹の如き鮮麗なる霊衣に包まれた。芳香馥郁として四辺に薫り、嚠喨たる音楽の響は、四人の身魂に沁み込むが如く聞ゆるのであつた。四人は漸く首を挙げて眺むれば、こはそも如何に、日の出別の宣伝使は、鷹彦、岩彦、梅彦、亀彦、駒彦、音彦と共に、馬上豊に此場に立つて居る。 勝『ヤア是れは是れは日の出別の神様、能くも御加勢下さいました。思はぬ不調法を致しまして、重々の罪御宥し下さいませ。此上は決して決して、斯かる不規律なる幽斎の修業は断じて行ひませぬ。何事も、我々が不覚無智の致す所、知らず識らずに慢心仕り、お詫の申様も御座いませぬ』 日の出別の神は一言も発せず、首を二三回肯かせ乍ら、一行の宣伝使を引連れ、再び天馬空を駆つて、雲上高く姿を隠した。無数の光輝に冴えたる霊線は、虹の如く彗星の如く、一行の後に稍暫く姿を存しける。 峰の尾の上を吹き亘る春風の声は、淑やかに聞えて来た。百鳥の春を唄ふ声は長閑に四人が耳に音楽の如く聞え始めた。 弥『モシ勝彦の宣伝使さま、大変な大騒動がおつぱじまつて、天の岩戸隠れの幕が下りましたな、あの時の私の苦しさと云つたら、沢山な青面、赤面、黒面の兎や、虎や、狼、大蛇が一時に遣つて来て、足にかぶり付く、髪の毛を引つぱる、耳を引く、腕をひく、擲る、それはそれは随分苦しい目に逢はされました。イヤもう神懸は懲り懲りでした。咫尺暗澹として昼夜を弁ぜず、苦しいと云つても譬様のない、えぐい、痛い、辛い、臭いイヤもう惨々なきつい目に会ひました。その時に…アヽ宣伝使様がウンと一つ行つて下さると好いのだけれど、あなたは霊眼が疎いと見えて、敵の居ない方ばつかり、一生懸命に鎮魂をやるものだから、鼻糞で的貼つた程も効能は無く、聾ほども言霊の神力は利かず、イヤモウ迷惑千万な事でしたよ』 勝『アヽさうだつたか、そらさうだらう、何分曇り切つた肉体で、俄審神者を強ひられて無理に行つたものだから、審神者の肉体に神様が完全に宿つて下さらぬものだから失敗をやつたのだ。然しチツトは鎮魂も効能が現はれただらう』 弥『千遍に一度位まぐれ当りに、私を責めて居る悪霊の方に霊光が発射したのは確かです。イヤモウ脱線だらけで、必要な所へはチツトも霊の光線が発射せないものだから、悪魔の奴益々付け込んで、武者振りつき、えらい苦みをしました。アーア斯うなると立派な大将が欲しくなつて来たワイ』 勝『惟神霊幸倍坐世』 与『私もえらい目に遭はされた、人の首を真黒けの縄で、悪魔の奴、幾筋ともなく縛りよつて、古池の水を両方から、釣瓶の綱をつけて替揚げる様に、空中を自由自在に振り廻しよつた時の苦さと言つたら、何遍息が絶えたと思つたか分りませぬ、アヽコンナ苦い責苦に会ふのなら、一層の事、一思ひに殺して欲しいと思ひましたよ。熱いと思へば又冷たい谷底へ体を吊り下ろされ、今度は又焦つく様な熱い所へ吊り上げられ、夏と冬とが瞬間に交代をするのだから、体の健康は台なしになるなり、手足は散り散りバラバラになつて了つた様な苦みを感じた。その時に審神者の勝彦サンは、どうして御座るか、ここらでこそ助けて呉れさうなものだと思つて、あなたの方を眺めて見れば、あなたの背後には、常世姫の悪霊が、貧乏団扇をふつて、悪霊の指揮命令をやつて居る、お前さまは、その常世姫の手の動く通りに、操り人形の様に活動し………否蠢動して居るものだから、却てそれが此方の助け所か、邪魔になつて、益々苦しさを加へ、イヤモウ言語に絶する煩悶苦悩、目の球が一丁ほど先へ飛出すやうな悲惨な目に遇はされました』 勝『それだから、コンナ所で幽斎の修業は廃せと言ふのに、貴様が勝手に悪魔の方へ行きよつたのだ。仮令邪神でも、あの弥次彦の様に、空中滑走がしたいの曲芸が演じたいのと、熱望的気焔を吐くものだから、魔神の奴得たり賢し、御註文通り何でも御用を承はります、私の好物、手具脛引いて待つて居ました、何のこれしきの芸当に手間もへツチヤクレも要るものか、遠慮会釈にや及ばぬ、悪神の容器には持つて来いして来いぢや、ヤツトコドツコイして来いナ、権兵衛も来れ、太郎兵衝も来れ、黒も来い、赤も来い、大蛇も来い、序に狐も、狸も、野天狗も、幽霊も、あらゆる四つ足霊もやつて来いと、八十枉彦の号令の下に集まり来つた数万の魔軍、千変万化の魔術を尽して攻め来る仰々しさ、目ざましかりける次第なりけりだ。アツハヽヽヽ』 与『モシモシ勝彦の宣伝使さま、あまり法螺を吹いて貰ひますまいか、………イヤ法螺ぢやない業託を並べて嘲弄して貰ひますまいかい。この天地は言霊の幸はふ国ぢやありませぬか、ソンナ事を言つて居ると、又もや私の様に、軽業の標本に、魔神の奴から使役されますぜ。労銀値上の八釜しい今の世の中に、破天荒の………否廻転動天の軽業を生命からがら、無報酬で強制され、汗や脂を搾られて、墓原の骨左衛門か骨皮の痩右衝門の様な、我利々々亡者の痩餓鬼にならねばなりますまい、チツト改心なされ』 勝『惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 六『コレコレ立派な審神者の勝彦さま、あなたの御神力には往生致しましたよ、イヒヽヽヽ』 勝『みなが寄つて、さう俺を包囲攻撃しても困るぢやないか。俺だつて誠心誠意、有らむ限りのベストを尽したのだ。これ以上吾々に望むのは、予算超過と云ふものだ。国庫支弁の方法に差支へて了ふ。又復増税なんて、人の嫌がる事を言はねばならぬ。お前等はさう言つて、吾々当局の審神者を攻撃するが、当局者の身にもチツトはなりて見るが宜い。国家多事多難のこの際ぢや、金の要るのは底知れず、増税、徴募あらゆる手段を尽して膏血を絞り、有らむ限りの智慧味噌の臨時支出までして、ヤツトこの場を切抜けたのだ。さう八釜しく責め立ると、勝彦内閣も瓦解の已むを得ざる悲運に立到らねばならなくなる。さうなれば、貴様等も一蓮托生、連袂辞職と出かけねばなるまい。今度の責任を俺一人に負担させやうと云ふのは、あまり虫が好過ぎるワイ。共通的の責任を持つのが、いはゆる一蓮托生主義だよ、アハヽヽヽ』 弥『イヤ仰る通りだ、御尤もだ、モチだ。スツテの事で勝彦内閣も崩解するとこだつた。併し乍ら、人間は老少不定、何時冥土の鬼に迎へられて、欠員が出来るか知れたものぢやない、その時には、弥次彦が後釜に坐つて、この弥次喜多内閣でも組織し、お前サンの政綱を維持して行く、つまり連鎖内閣でも成立させて、居すわる積りだから、後に心を残さず、白紙の三角帽を頭に戴いて、未練残さず旅立なされ。何れ新顔の一人や二人は入れても構はぬ、居坐り内閣をやつて居る方が、党勢維持上都合が好いから、アハヽヽヽ。併しコンナ所に長居は恐れだ、グズグズしとると、冥土から角の生えた鬼族院がやつて来られちや、一寸閉口だ。これや一つ、研究会でも開いて、熟議をこらすが道だけれど、余り同じ処にくつついて居るのも気が利かない。二十四番峠も踏破し、二十五番の峠の上で、善後策をゆつくり講究致しませうか、アハヽヽヽ』 一同『ワハヽヽヽ』 勝『まだ笑ふ所へは行かないぞ、何時瓦解の虞があるかも知れやしない。常世姫命が、遠く海の彼方に逃げ去つて、盛に空中無線電信で合図をして居るから、一寸の隙も有つたものぢやない、気を付けツ、進めツおいち二三四ツ』 と道なき路をアルコールに酔ふた猩々の如く、無闇矢鱈に二十五番峠の上まで、漸く辿り着いた。 勝『アーア、ヤレヤレ危ない事だつた、中空に高き一本の丸木橋を渡つて来るやうな心持だつた』 弥『地獄の釜の一足飛といふ曲芸も、首尾能く成功致しました。皆様、お気に入りましたら、一同揃ふて拍手喝采を希望いたします』 勝『ヤア賛成者は少いなア、……、ヤア一つも拍手する奴がない、全然反対だと見えるワイ』 与『それでも勝彦さま、あなたの身の内に簇生して居る寄生虫は、ソツと拍手して居ましたよ。その声が……ブン……と云つて、裏門から放出しました。イヤもう鼻持のならぬ臭い事だつた、ワハヽヽヽ』 この時忽然として、東北の天より黒雲起り、暴風忽ち吹き来つて、峠の上に立てる四人の体は中空に舞ひ上り、底ひも知れぬ谷間目がけて天上より、岩をぶつつけた如く、一瀉千里の勢を以て、青み立つたる淵に向つて、真逆様にザンブと落込んだ。 その途端に夢は破られ附近を見れば瑞月が近隣の三四人の男、藪医者を招いて脈を執らせて居る。 藪医者は、一寸首を捻つて、 医者『アー此奴ア、強度の催眠状態に陥つて居る、自然に覚醒状態になるまで、放任して置くより途はなからう……非常な麻痺だ、痙攣だ……』 と宣告を下し居たりける。 (大正一一・三・二五旧二・二七松村真澄録)
7

(1679)
霊界物語 16_卯_丹波物語1 大江山/冠島沓島/丹波村 19 文珠如来 第一九章文珠如来〔六〇九〕 ヤンチヤ婆アの黒姫は、性来の聞かぬ気を極度に発揮し、青彦、音彦其他に向つて舌端黒煙を吐き、一人も残さず紅蓮の焔に焼き尽さむと凄じき勢なり。 黒姫『コレコレ、最前から其処に、男とも、女とも、訳の分らぬ風をして居る三五教の宣伝使、良い加減に此世に暇乞ひをしても悦子姫の阿婆擦れ女、沢山の荒男を引きつれて、女王気取りで、傲然と構へて御座るが、チト此婆アが天地の根本の道理を噛みて啣める様に言ひ聞かしてやるから、ソンナ蓑笠をスツパリと脱いで、此処へ御座れ、滅多にウラナイ教の為に悪い様な事は申さぬ。問ふは当座の恥、知らぬは末代の恥だ、此山の中で結構な神徳を戴いて、又都会へ出たら、自分が発明した様に、宣伝使面を提げて歩かうと儘ぢや。何でも聴いて置けば損は往かぬ。サアサア婆アの渋茶でも呑みて、トツクリと身魂の洗濯をしなされ。チツト此頃はお前も顔色が悪い。此黒姫が脈を執つて上げよう。……どうやら浮中沈、七五三の脈膊が混乱して居る様ぢや、今の間に療養せぬと、丸気違になつて了ふぜ。今でさへも半気違ぢや。神霊注射を行つてあげようか。それが利かなくば、モルヒネ注射でもしてやらうかい。サアサアトツトと前へ来なさい』 悦子姫『それはそれは、何から何まで御心を附けられまして、御親切有難う御座います』 黒姫『有難いか、ウラナイ教は親切なものだらう。頭の先から足の爪先、神経系統から運動機関は申すに及ばず、食道、消化機関から生殖器、何から何迄、チヤンと気をつけて、根本から説き明かし、病の根を断る重宝な教ぢや。お前も神経中枢に多少異状があると見えて、三五教の木花姫の生宮の様に、女だてら、男の風采をして、男を同伴つて、そこら中を歩きまはすのは、普通ではない。此儘放つとくと、巣鴨行をせなければならぬかも知れやしない。………サアサア此黒姫は耆婆扁鵲も跣足で逃げると云ふ義理堅い義婆ぢや。世間の奴は訳も知らずに、黒姫を何の彼のと申すけれども、燕雀何ンぞ大鵬の志を知らむやだ。三千世界の立替立直しの根本を探ると云ふ、大望なウラナイ教を、三五教の宣伝使位に分つて堪るものか。お前が此処へ来たのも、みなウラナイ教を守護し給ふ、尊き大神様の御引合せぢや。躓く石も縁の端と言つて、世界には道を歩いて居ると、沢山な石が転がつて居る。其幾十万とも知れぬ石の中に、躓く石と云つたら、僅に一つか二つ位なものだよ。これも因縁が無ければ蹴躓く事も出来なければ、蹴躓かれる事も出来やしない。同じ時代に生れ、同じお土の上に居つても、コンナ結構なウラナイ教を知らずに、三五教にとぼけて一生を送る様な事は本当に詰らぬぢやないか。何事も神様のお引合せ、惟神の御摂理、縁あればこそ、斯うしてお前は此山の奥に踏み迷ひ……イヤイヤ神様に引つ張られて来たのだ。決して決して黒姫の我で云うと思つたら量見が違ひますデ、竜宮の乙姫さまが仰有るのだ。今迄永らく海の底のお住居で、沢山の宝を海の底に蓄へて居られたのぢやが、今度艮の金神様が世にお上りなさるに就て、物質的の宝よりも、誠の宝が良いと云つて、五六七神政成就の為に、惜しげも無く綺麗サツパリと、艮の金神さまに御渡しなされると云ふ段取りぢや。併し人間は誠の宝も結構ぢやが、肉体の有る限り、家も建てねばならず、着物も着ねばならず、美味いものも食はねばならず、あいさには酒もチヨツピリ飲みたいと云ふ代物だから、形のある宝も必要ぢや。三五教の奴は「この世の宝は、錆、腐り、焼け、溺れ、朽果つる宝だ、無形の宝を神の国に積め」なぞと、水の中で屁を放いた様な屁理屈を言つて、世界の奴を誤魔化して居るが、お前等も大方其部類だらう……イヤ其通り宣伝して歩くのだらう。……能う考へて見なされ。お前だつて食はず飲まずに、内的生活ばかり主張して居つて、堂して神の道の宣伝に歩行けるか。これ程分り切つた現実の道理を無視すると云ふ教はヤツパリ邪教ぢや。瑞霊の吐す事は、概して皆コンナものだ。言ふ可くして行ふ可らざる教が何になるものか。体主霊従と霊主体従の正中を言ふのが当世ぢや。当世に合ぬ様な教をしたつて誰が聴くものか。神の清き御心に合むとすれば、暗黒なる世の人の心に合ず、俗悪世界の人の心に合むとすれば、神の心に叶はず……なぞと訳の分り切つた小理屈を、素盞嗚尊の馬鹿神が囀りよつて、易きを棄て難きに就かむとする、迂遠極まる盲信教だから、根つから、葉つから、羽が生えぬのぢや。ウラナイ教は斯う見えても、今は雌伏時代ぢや。軍備を充実した上で、捲土重来、回天動地の大活動を演じ、それこそ開いた口が塞がらぬ、牛の糞が天下を取る、アンナ者がコンナ者になると云ふ仕組の奥の手を現はして、天の御三体の大神様にお目にかける、艮の金神の仕組ぢや。三五教は艮の金神の教を樹てとる様な顔して居るが、本当は素盞嗚尊の教が九分九厘ぢや。黒姫はそれがズンとモウ気に喰はぬので、変性男子の系統の肉体の、日の出神の生宮を力と頼み、竜宮の乙姫さまの生宮となつて、外国の行方を、隅から隅迄調べあげて、今度の天の岩戸開に、千騎一騎の大活動をするのぢや。お前も、三五教の宣伝使と云ふ事ぢやが、名はどうでもよい、お三体の大神様と艮の金神様の御用を聴きさへすれば宜いのだらう。サアサア今日限り化物の様な奴の吐す事を、弊履の如く打棄てて、最勝最妙、至貴至尊、無限絶対、無始無終の神徳輝く、ウラナイ教に兜を脱いで、迷夢を醒まし、綺麗サツパリと改心して、ウラナイ教を迷信なされ、悪い事は申しませぬ、ギヤツハヽヽヽ』 悦子姫『ホヽヽヽ、アハヽヽヽ、あのマア黒姫さまの黒い口、……妾の様な口の端に乳の附いてる様な者では、到底あなたの舌鋒に向つて太刀打は出来ませぬ。あなたは何時宣伝使にお成りになりましたか、随分円転滑脱、自由自在に布留那の弁、懸河の論説滔々として瀑布の落ちるが如くですナ』 黒姫『定つた事だよ。入信してからまだ十年にはならぬ。夫れでも此通りの雄弁家だ、是れには素養がある。若い時から諸国を遍歴して、言霊を練習し、唄であらうが、浄瑠璃であらうが、浪花節であらうが、音曲と云ふ音曲は残らず上達して鍛へたのぢや。千変万化、自由自在の口車、十万馬力を掛けた輪転機の様に、廻転自由自在ぢや、オホヽヽヽ』 加米彦『モシモシ悦子姫さま、コンナ婆アに、何時までも相手になつとると、日が暮れますで、一時も早く真名井ケ原に向ひませうか』 悦子姫『アヽさうだ、折角の尊いお説教を聞かして貰うて、お名残惜しいが、先が急きますから此処らで御免蒙りませうか』 鬼虎『アーア、最前から黙つて聴いて居れば、随分能く囀つたものだ。一寸謂はれを聞けば、根つから葉つから有難い様だが、執拗う聞けば、向つ腹が立つ……お婆アさま、ゆつくり、膝とも談合、膝坊主でも抱へて、自然に言霊の停電するまで、馬力をかけ、メートルを上げなさい。アリヨース』 黒姫『待つた待つた、大いにアリヨースだ、様子あつて此婆アは、此魔窟ケ原に仮小屋を拵へ、お前達の来るのを待つて居たのだ。往くと云つたつて、一寸だつて、此婆が、是れと睨みたら動かすものか』 鬼虎『まるで蛇の様な奴ぢやナア。執念深い……何時の間にか、俺達に魅入れよつたのぢやナ』 黒姫『さうぢや、魅を入れたのぢや、お前もチツト身入れて聞いたが宜からう、蛇に狙はれた蛙の様なものぢや、此処をかへると云つたつて、帰る事の出来ぬ様に、チヤーンと霊縛が加へてある。悪霊注射も知らず識らずの間に、チヤアンと行つて了うた。サア動くなら動いて見よれ』 鬼虎『アハヽヽ、何を吐すのだ。動けぬと云つたつて、俺の体を動かすのは、俺の自由権利だ。……ソレ……どうだ。これでも動かぬのか』 黒姫『それでも動かぬぞ。お前が今晩真名井ケ原に着いて、草臥れて、前後も知らず、寝ンだ時は、ビクとも体を動かぬ様にしてやるワイ』 鬼虎『アハヽヽヽ、大方ソンナ事ぢやろと思うた。……ヤイヤイ黒姫、三五教は起きとる人間を、目の前で霊縛して動けぬ様にするのぢやぞ。一つやつてやらうか、……一二三四五六七八九十百千万……』 黒姫『一二三四五六七八心地よろづウ……ソラ何を言ふのぢや、それぢやから三五教は体主霊従と云ふのぢや。朝から晩まで、算盤はぢく様に数を数へて、一から十まで千から万まで……取り込む事につけては抜目のない教ぢや。神の道は無形に視、無算に数へ、無声に聞くと云ふのぢやないか、…何ンぢや、小学校の生徒の様に、一つ二つ三つと勿体らしさうに、……ソンナことは、三つ児でも知つてるワイ。……大きな声を出しよつて、アオウエイぢやの、カコクケキぢやのアタ阿呆らしい、何を吐すのぢやい……白髪を蓬々と生やしよつた大の男が見つともない、桶伏山の上へあがつて、イロハからの勉強ぢやと云ひよつてな、……小学校の生徒が笑うて居るのも知らぬのか、…良い腰抜だなア、それよりも天地根本の大先祖の因縁を知らずに神の教が樹つものか、三五教の様な阿呆ばつかりなら宜いが、世の中には三人や五人、目の開いた人間も無いとは謂はれぬ。其時に、昔の昔のサル昔からの因縁を知らずに、どうして教が出来るか、馬鹿も良い加減にしといたが宜からう。鎮魂ぢや、暗魂ぢやとか云ひよつて、糞詰りが雪隠へでも行つた様に、ウンウンと汗をかきよつて、何のザマぢやい、尻の穴が詰つて穴無い教と云ふのか、阿呆らしい、進むばつかりの行方で、尻の締りの出来ぬ素盞嗚尊の紊れた教、何が夫程有難いのぢや、勿体ないのぢや、サア鎮魂とやらをかけるのなら、懸けて見い、……ソンナ糞垂腰で鎮魂が掛つてたまるかイ。グヅグヅすると、妾の方から、暗魂をかけてやらうか』 加米彦『ヤア時刻が移る、婆アさま、又ゆつくりと、後日お目にかかりませう』 黒姫『後日お目にかからうと云つたつて、一寸先は闇の夜ぢや。逢うた時に笠脱げと云ふぢやないか、此笠松の下でスツクリと改心して、宣伝使の笠を脱ぎ、蓑を除り、ウラナイ教に改悪しなさい。一時も早う慢心をせぬと、大峠が出て来た時に助けて貰へぬぞや』 加米彦『アハヽヽヽ、オイ婆アさま、お前さま本気で言つてるのかい、お前の言ふ事は支離滅裂、雲煙模糊、捕捉す可らずだがナア』 黒姫『定つた事だイ、広大無辺の大神の生宮、竜宮の乙姫さまのお宿ぢや、捕捉す可らざるは竜神の本体ぢや、お前達の様な凡夫が、竜宮の乙姫の尻尾でも捉へようと思ふのが誤りぢや、ギヤツハヽヽヽ』 音彦『アヽ是れは是れは、加米彦さま、久し振ぢやつたナア』 加米彦『ヤア聞覚えのある声だが、……その顔はナンダ、真黒けぢやないか、炭焼の爺かと思つて居た、……一体お前は誰だ』 音彦『音彦だよ、北山村より此婆アの後に従いて、ドンナ事をしよるかと思つて、ウラナイ教に化け込み伴いて来たのだ。イヤモウ言語道断、表は立派で、中へ這入ると、シヤツチもないものだ、伏見人形の様に、表ばつかり飾り立てよつて、裏へ這入ればサツパリぢや。腹の中はガラガラぢや。ウラナイ教は侮る可らざる強敵と思つて今日迄細心の注意を怠らなかつたが、噂の様にない微弱なものぢや、何程高姫や、黒姫が車輪になつても、最早前途は見えて居る。吾々もモウ安心だ。到底歯牙に掛くるに足らない教理だから、わしもお前の後に伴いて、今より三五教の宣伝使と公然名乗つて行く事にしよう。此婆アさまは、如何しても駄目だ。改心の望みが付かぬ、縁なき衆生は済度し難し、……エー可憐相乍ら、見殺しかいなア』 黒姫『アーア音彦も可憐相なものだナア。如何ぞして誠の事を聞かしてやらうと思ふのに、魂が痺れ切つて居るから、食塩注射位では効験がない哩、アーア気の毒ぢや、いぢらしい者ぢや……それに付けても青彦の奴、可憐相で堪らぬ。……コラコラ青彦モ一遍、直日に見直し聞直し、胸に手を当てて能う省みて、ウラナイ教に救はれると云ふ気はないか。此婆はお前の行先が案じられてならぬワイ』 青彦『アーア、黒姫婆アさま、お前の御親切は有難い、併し乍ら、個人としては其親切を力一杯感謝する、が、主義主張に於ては、全然反対ぢや、人情を以て真理を曲げる事は出来ぬ、真理は鉄の棒の如きもの、曲げたり、ゆがめたり、折つたりは出来ない、公私の区別は明かにせなくては、信仰の真諦を誤るからナア、……左様なら…御ゆるりと御休みなされませ、私は是れから、悦子姫様のお後を慕ひ、一行花々しく、悪魔の征討に向ひます。ウラナイ教が何程、シヤチになつても、釣鐘に蚊が襲撃する様なものだ。三五教は穴が無いから大丈夫だ。水も洩らさぬ神の教、御縁が有つたら又お目に掛りませう』 黒姫『アーア、縁なき衆生は度し難しか、……エー仕方がないワイ………ウラナイ教大明神、叶はぬから霊幸倍坐世、叶はぬから霊幸倍坐世、……ポンポン』 魔窟ケ原の黒姫が伏屋の軒に暇乞ひ 日は西山に傾いて附近を陰に包めども 四方の景色は悦子姫松吹く風の音彦や 秋山彦の門番と身をやつしたる加米彦が 顔の色さへ青彦を伴なひ進む九十九折 鬼の棲処と聞えたる大江の本城左手に眺め 鬼彦、鬼虎、岩、市、勘公引連れてさしも嶮しき坂路を 喘ぎ喘ぎて登り行く地は一面の銀世界 脛を没する雪路を転けつ転びつ汗水を 垂らして進む岩戸口折柄吹き来る雪しばき 面を向くべき由もなく笠を翳して下り行く 夜の帳はおろされて遠音に響く波の音 松の響も成相の空吹き渡る天の原 天の橋立下に見て雪路渉る一行は 勇気日頃に百倍し気焔万丈止め度なく 文珠の切戸に着きにけり。 青彦『アーア、日も暮れたし、前途遼遠、足も良い程疲労れました。アヽ文珠堂の中へ這入つて一夜を凌ぎ、団子でも噛つて休息致しませうか』 悦子姫『何れもさま方、随分御疲労でせう。青彦さまの仰有る通り、あのお堂の中で、兎も角休息致しませうか』 一同此言葉に『オウ』と答へて、急ぎ文珠堂に向つて駆けり行く。 鬼虎『ヤア此処へ来ると、何時やらの事を連想するワイ、恰度今夜の様な晩ぢやつた。此様に雪は積つて居らぬので、あたりは真暗がり、鬼雲彦の大将の命令に依つて、あの竜灯松の麓へ、悦子姫さま達を召捕に行つた時の事を思へば、全然夢のやうだ。昨日の敵は今日の味方、天が下に敵と云ふ者は無きものぞと、三五教の御教、つくづくと偲ばれます。其時に悦子姫さまに霊縛をかけられた時は、どうせうかと思つた。本当に貴女も随分悪戯好の方でしたなア』 悦子姫『ホヽヽヽヽ』 鬼彦『オイオイ鬼虎、貴様はお二人の中央にドツカリ坐りよつて、良い気になつて居たのだらう』 鬼虎『馬鹿言へ、何が何だか、柔かいものの上に、ぶつ倒れて、気分が悪いの、悪くないのつて、何分正体が分らぬものだから、ホーズの化物が出たかと思つて気が気ぢやなかつたよ、それに就けても、生者必滅会者定離、栄枯盛衰、有為転変の世の中無常迅速の感愈深しだ。飛ぶ鳥も落す勢の鬼雲彦の御大将は、鬼武彦の為に伊吹山に遁走し、吾々は四天王と呼ばれ、随分羽振を利かした者だが、変れば替はる世の中だ。あの時の事を思へば、長者と乞食程の懸隔がある。三五教の宣伝使の卵になつて悦子姫さまのお供と迄、成り下つたのか、成上がつたのか知らぬが、モ一度、あの時の四天王振が発揮したい様な気もせぬ事はない。アーア誠の道は結構なものの、辛いものだ。 あひ見ての後の心に比ぶれば昔は物を思はざりけり だ。善悪正邪の区別も知らず、天下を吾物顔に、利己主義の自由行動を採つた時の方が、何程愉快だつたか知れやしない、吁、併し乍ら人間は天地の神を畏れねばならぬ、今の苦労は末の為だ。アーアコンナ世迷言はヨウマイヨウマイ。神直日大直日に……神様、見直し聞直して下さい。私は今日限り、今迄の繰言を宣り直します。アヽ、惟神霊幸倍坐世』 青彦『因縁と云ふものは妙なものですな、同じ此竜灯の松の下蔭に於て、捉へようとした宣伝使を師匠と仰いで、お伴をなさるのは、反対に悦子姫様の擒となつた様なものだ。アハヽヽヽ、吾々も全く三五教の捕虜になつて了つた。それに就けても、執拗なのは黒姫ぢや、何故あれ程頑固なか知らぬ、どうしても彼奴ア改心が出来ぬと見えますなア』 音彦『到底駄目でせう。私もフサの国の北山のウラナイ教の本山へ、信者となり化け込みて、内の様子を探つて見れば、何れも此れも盲と聾ばつかり、桶屋さまぢやないが、輪変吾善と思つてる奴ばつかり、中にも蠑螈別だの、魔我彦だのと云ふ奴は、素的に頑固な分らぬ屋だ。高姫黒姫と来たら、酢でも蒟蒻でもいく奴ぢやない。どうかして帰順さしたいと思ひ、千辛万苦の結果、黒姫の荷持役とまで漕ぎつけ、遥々と自転倒島まで従いて来て、折に触れ物に接し、チヨイチヨイと注意を与へたが、元来が精神上の盲聾だから、如何ともする事が出来ない。私も加米彦さまに会うたのを限として、此処迄来たのだが、随分ウラナイ教は頑固者の寄合ですよ』 加米彦『フサの国で、あなたが宣伝をして居られた時、酒を飲むな酒を飲むなと厳しい御説教、私はムカついて、お前サンの横面を、七つ八つ擲つた。其時にお前サンは、痛さを堪へて、ニコニコと笑ひ、禁酒の宣伝歌を謡うて御座つた、その熱心に感じ、三五教を信じて、村中に弘めて居つた処、バラモン教の捕手の奴等に嗅付けられ、可愛い妻子を捨てて、夜昼なしに、トントントンと東を指して駆出し、月の国まで来て見れば、此処にもバラモン教の勢力盛ンにして、居る事が出来ず、西蔵を越え、蒙古に渡り、天の真名井を横断つて暴風に遭ひ、船は沈み、底の藻屑となつたと思ひきや、気が附けば由良の湊に真裸の儘横たはり、火を焚いて焙られて居た。「アーア世界に鬼は無い、何処の何方か知りませぬが、生命を御助け下さいまして有難う」と御礼を申し見れば秋山彦の御大将、生命を拾つて貰うた恩返しに、門番となり、馬鹿に成りすまし勤めて来たが、人間の身は変れば替はるものぢや、世界は広い様なものの狭いものぢや。フサの国で、あなたを虐待した私が、又あの様な破れ小屋でお目にかからうとは神ならぬ身の計り知られぬ人の運命だ…………アヽ惟神霊幸倍坐世、三五教の大神様有難う御座います、川の流れと人の行末、何事も皆貴神の御自由で御座います。どうぞ前途幸福に、無事神業に参加出来まする様、特別の御恩寵を垂れさせ給はむ事を偏に希ひ上げ奉ります』 悦子姫『サアサア皆さま、天津祝詞を奏上致しませう』 一同は『オウ』と答へ、声も涼しく奏上し終る。 悦子姫『サア皆さま、坊主は経が大事、吾々は又明日が大切だ。ゆつくりとお休みなされませ。妾は皆さまの安眠を守る為、今晩は不寝番を勤めませう』 鬼虎『ヤア滅相な、あなたは吾々一同の為には御大将だ。不寝番は此鬼虎が仕りませう。どうぞお休み下さいませ』 悦子姫『さうかナ、鬼虎さまに今晩は御苦労にならうか』 と蓑を纒うた儘、静かに横たはる。一同は思ひ思ひに横になり、忽ち鼾声雷の如く四辺の空気を動揺させつつ、華胥の国に入る。鬼虎は不寝番の退屈紛れに雪路をノソノソと歩き出し、何時の間にやら、竜灯の松の根元に着き、ふつと気が付き、 鬼虎『あゝ此処だ此処だ、悦子姫に霊縛をかけられた古戦場だ。折から火光天を焦して竜灯の松を目蒐けて、ブーンブーンと唸りを立てて遣つて来た時の凄じさ、今思つても竦然とするワイ。あれは一体何の火だらう。人の能く言ふ鬼火では有るまいか。鬼虎が居ると思つて、鬼火の奴、握手でもせうと思ひよつたのかナア。霊魂もお肉体もあの時はビリビリのブルブルぢやつた。どうやら空の様子が可笑しいぞ、真黒けの鬼が東北の天に渦巻き始めた。今度こそ遣つて来よつた位なら、一つ奮戦激闘、正体を見届けてやらねばなるまい。是れが宣伝使の肝試しだ。オーイ、オイ、鬼火の奴、鬼虎さまの御出張だ、三五教の俄宣伝使鬼虎の命此処に在り、得体の知れぬ火玉となつて現はれ来る鬼火の命に対面せむ』 とお山の大将俺一人気取になつて、雪の中に呶鳴つて居る。忽ち一道の火光、天の一方に閃き始めた。 鬼虎『ヤア天晴々々、噂をすれば影とやら、呼ぶより譏れとは此事だ。鬼虎の言霊は、マアざつと斯くの通りぢや。一声風雲を捲き起し、一音天火を喚起す。斯うなつては天晴れ一人前のネツトプライス、チヤキチヤキの宣伝使ぢや、イザ来い来れ、天火命、此鬼虎が獅子奮迅の活動振り……イヤサ厳の雄猛び踏み健び御覧に入れむ』 言下に東北の天に現はれたる火光は、巨大なる火団となりて、中空を掠め、四辺を照し、竜灯の松目蒐けて下り来る。 鬼虎『ヨウ大分に張込みよつたな、此間の奴の事思へば、余程ネオ的だとみえる。容積に於て、光沢に於て天下一品だ……否天上一品だ。サア是れから腹帯でもシツカリ締て、捻鉢巻でも致さうかい、腹の帯が緩むとまさかの時に忍耐れぬぞよと、三五教の神様が仰有つた。サアサア鬼虎さまの肝玉が大きいか、天火の命の火の玉が大きいか、大きさ比べぢや』 火団は竜灯の松を中心に、円を描き、地上五六尺の所まで下り来り、ブーンブーンと唸りを立て、ジヤイロコンパスの様に、急速度を以てクルクルと回転し居たり。 鬼虎『ヤイヤイ火の玉、何時までも宙にぶら下がつて居るのは、チツト、ノンセンスだないか、良い加減に正体を現はし、此方さまと握手をしたらどうだい。お前は天の鬼火命、俺は地の鬼虎命だ、天地合体和合一致して、神業に参加せうではないか。是れからは火の出の守護になるのだから、貴様のやうな奴は時代に匹敵した代物だ……イヤ無くて叶はぬ人物だ。サアサア早く、天と地との障壁を打破して、開放的にならぬかい。お前と俺と互にハーモニーすれば、ドンナ事でも天下に成らざるなしだ』 火団は忽ち掻き消す如く、姿を隠しけるが、鬼虎の前に忽然として現はれた白面白衣のうら若き美女、紅の唇を開き、 女『ホヽヽヽヽ、お前は鬼虎さまか、ようマア無事で居て下さつたナア』 鬼虎『何ぢやア、見た事も無い、雪ン婆アの様な真白けの美人に化けよつて、雪に白鷺が下りた様に、白い処へ白い者、一寸見当の取れぬ代物だナア。俺を知つて居るとは一体どうした訳だ、俺は生れてから、お前の様な美人に会つた事は一度も無い、何時見て居つたのだ』 女『ホヽヽヽヽ、モウ忘れなさつたのかいなア、覚えの悪い此方の人、お前は今から五十六億七千万年のツイ昔、妾が文珠菩薩と現はれて、此切戸に些やかな家を作り、一人住居をして居つた所へ、年も二八の優姿、在原の業平朝臣の様な、綺麗な顔をして烏帽子直垂で、此処を御通り遊ばしただらう。其時に妾は物書きをして居つたが、何だか香ばしき匂ひがすると思つて、窓から覗けば、絵にある様な殿御のお姿、ホヽヽヽヽおお恥し……其一刹那に互に見合す顔と顔、お前の涼しい……彼の時の眼、何百年経つても忘られようか、妾が目の電波は直射的にお前の目に送られた。お前も亦「オウ」とも何とも言はずに、電波を返した……。あの時のローマンスをモウお前は忘れたのかいなア。エーエ変はり易きは殿御の心、桜の花ぢやないが、最早お前の心の枝から、花は嵐に打たれて散つたのかい……、アーア残念や、口惜しや、男心と秋の空、妾は神や仏に心願掛けて、やつと思ひの叶うた時は、時ならぬ顔に紅葉を散らした哩なア、オホヽヽヽ、恥しやなア』 鬼虎『さう言へば、ソンナ気もせぬでも無いやうだ。何分色男に生れたものだから、お門が広いので、スツカリ心の中からお前の記憶を磨滅して居たのだ。必ず必ず気強い男と恨めて呉れな。是れでも血も有り、涙も有る。物の哀れは百も承知、千も合点だ。サア是れから互に手に手を取かはし、死なば諸共、三途の川や死出の山、蓮の台に一蓮托生、弥勒の代までも楽みませう』 女『ホヽヽヽ、好かぬたらしいお方、誰がオ前の様な山葵卸の様な剽男野郎に心中立するものかいナ。妾は今其処に、天から下りて御座つた日の出神様にお話をしとるのだよ。良い気になつて、お前が話の横取りをして、色男気取りになつて……可笑しいワ、ホヽヽヽ』 鬼虎『エーツ何の事だ。人を馬鹿にしよるな、まるで夢のやうな話だワイ』 女『ホヽヽヽ、夢になりとも会ひたいと云ふぢやないか。妾の様な女神を掴まへて、スヰートハートせうとは、身分不相応ですよ。馬は馬連れ、牛は牛連れ、烏の女房はヤツパリ烏ぢや。此雪の降つた白い世界に烏の下りたよな黒い男を、誰がラブする物好があるものか。自惚も程々になさいませ。オツホヽヽヽ、おかしいワ……』 鬼虎『エー馬鹿にするな、俺を何と思つて居る。大江山の鬼雲彦が四天王と呼ばれたる、剛力無双のジヤンヂヤチツクのジヤンジヤ馬、鬼虎さまとは俺の事だよ。繊弱き女の分際として、暴言を吐くにも程が有る。サアもう量見ならぬ。この蠑螺の壺焼を喰つて斃ばれ』 と力限りに、ウンと斗り擲り付けたり。 悦子姫『アイタタタ…誰だイ、人が休眠みてるのに、……力一杯頭を擲ぐるとはあまりぢやありませぬか』 鬼虎『ヤア、済みませぬ。悦子姫さまで御座いましたか。ツイ別嬪に翫弄にしられた夢を見まして、力一杯擲つたと思へば、貴女で御座いましたか。ヤア誠に済まぬ事を致しました。真平御免下さいませ。決して決して、悪気でやつたのぢや御座いませぬ』 悦子姫『ホヽヽヽ、三五教に這入つても、ヤツパリ美人の事は忘れられませぬなア』 鬼虎『ヤアもう申訳も御座いませぬ。世の中に女がなくては、人間の種が絶えまする。日の出神も素盞嗚尊も、世界の英雄豪傑は、みな女から生れたのです。 故郷の穴太の少し上小口ただぼうぼうと生えし叢 とか申しまして、女位、夢に見ても気分の良い者は有りませぬワ、アハヽヽヽ』 鬼彦『ナヽ何ンぢや、夜の夜中に大きな声で笑ひよつて、良い加減に寝ぬかイ。明日が大事ぢやぞ。貴様は、……今晩私が不寝番を致します……なぞと、怪体な事をぬかすと思つて居たが、悦子姫さまの綺麗な顔を、穴の開く程覗いて居よつただらう。デレ助だなア』 鬼虎『馬鹿を言ふない。俺は職務忠実に勤める積りで居つたのに、何時の間にか、ウトウト睡魔に襲はれ、竜灯松の下へ行つて別嬪に逢うた夢を見て居つたのぢや。聖人君子でなくてはアンナ愉快な夢は見られないぞ。貴様のやうな身魂の曇つた人間は、到底アンナ夢は末代に一度だつて見られるものかい』 鬼彦『アツハヽヽヽ、その後を聞かして貰はうかい。他人の恋女に岡惚しよつて、色男気取りになつて、肱鉄を喰つた夢を見よつたのだらう。大抵ソンナものだよ、アハヽヽヽ。早く寝ぬかい、夜が明けたら又、テクつかねばならぬぞ』 此の時天の一方より、今度は真正の火団閃くよと見る間に、竜灯松を目蒐けて、唸りを立て矢を射る如く降り来り、一同の前にズドンと大音響を発し、爆発したり。火光はたちまち、花火の如く四方に散乱し、数百千の小さき火球となつて、地上二三丈許りの所を、青、赤、白、紫、各種の色に変じ、蚋の餅搗する如くに浮動飛散し始めたる。其壮観に一同魂を抜かして見惚れ居る。吁、此火光は何神の変化なりしか。 (大正一一・四・一六旧三・二〇松村真澄録)
8

(1719)
霊界物語 18_巳_丹波物語3 玉照姫の誕生 08 蛙の口 第八章蛙の口〔六三六〕 黄金の峰と聞えたる弥仙の山の麓辺に 此世を忍ぶ豊彦が娘お玉の訝かしや 去年の秋よりブクブクと息も苦しく日に月に むかつき出した布袋腹豊彦夫婦は日に夜に 心を痛め木の花の神に願を掛巻くも 畏き神の夢の告げ真名井ケ原に現れませる 豊国姫の大神の御許に綾彦お民をば 一日も早く参らせよ天地かぬる大神の 貴の御霊の御心と諭し給ふと見るうちに 忽ち夢は破られて雨戸を叩く雨の音 秋の木の葉の凩に吹かれて落つる騒がしさ 夜も漸くに明けぬれば兄の綾彦妻お民 二人に命じて逸早く時を移さず豊国姫の 珍の命の御前に参向せよと命ずれば 正直一途の孝行者親の言葉を大地より 重しと仰ぎ夫婦連れ草蛙脚絆の扮装に 若草山を乗り越えて空も真倉の谷径を 進み進みて一本木田辺、丸八江、由良の川 息も切戸の文珠堂天の橋立右に見て 親の言葉に一言も小言は互に岩淵や 広野を過ぎて五箇の庄比治山峠の峰続き 比沼の真名井の神霊地瑞の宝座に参拝し 草の枕も数重ね普甲峠の麓まで すたすた帰る二人連れ忽ち暮るる秋の空 黒雲低う塞がりて心は暗に怖々と 帰り来れる道の上思はず躓く人の影 忽ち五人の荒男前後左右に立ち上り 殺して呉れむと呶鳴りつつ打つやら蹴るやら殴るやら 綾彦お民は声限り助けて呉れえと叫ぶ声 聞くより忽ち暗がりに現はれ出でた大男 ウラナイ教の言霊に悪者共を追ひ散らし 綾彦お民を伴ひて魔窟ケ原の岩窟に 意気揚々と帰り行く道に出会うた五人連れ 手柄話の花咲かし土産沢山黒姫が 隠家指して帰り行く。 浅、幾の両人は例の岩蓋を剥つて一行十人と共に滑り入る。 浅公『高山彦様、黒姫様、只今帰りました』 黒姫『ヤア、お前は浅公か、ヤ、幾公、梅公、えらう遅いぢやないか、何をして居つたのだい、何時までも日が暮れてから其処らをブラブラ歩いて居ると、大江山の鬼の眷族と間違へられるから、日が暮れたら直に帰つて来るのだよ、今日は又えらい遅い事ぢやないか、ヤ、今日は見馴ぬ方がお二人、これや又如何ぢや、えらう頭の髪も乱れて居る、何かこれには様子でもあるのかな』 幾公『これに就いて色々の苦心話が御座います、それが為に今日は吾々一同の者が遅くなりました、三五教の宣伝使数多の人民を迷はすに依つて、吾々は三五教の宣伝使を見つけ出し、天地の道理を説き聞かせ帰順させむものと普甲峠を降つて来ました。暗さは暗し、風はピユーピユーと吹いて来る、浪立ち騒ぐ海原は太鼓の様な音をたててイヤもう凄じい光景、忽ち騒がしい物音、何事ならむと吾々一同は耳をすまして聞き居れば「人殺し人殺し、助けて呉れえ」との嫌らしい声が聞えて来る、ア、これや大変だ、人を助けるのがウラナイ教の神の教、吾身は如何なつても構はぬ、仮令大江山の鬼の餌食にならうとも神に仕ふる吾々、此悲鳴を聞いて如何して捨てて帰れようか、人を助くるは宣伝使の役と、生命を的に声する方に窺ひ寄り見れば、案に違はぬ百人近くの鬼雲彦が眷族の者共、覆面頭巾の扮装、槍、薙刀に棍棒、刺股氷の刃、暗に閃かし十重二十重に取り囲み、中で二人の男女を捕へて四五人の男、打つ蹴る殴るの乱暴狼藉、大江山の砦に連れ帰りバラモン教の神の贄にせむとの企み、と覚つた吾々は矢も楯も堪らず、一生懸命熱湯の汗を絞り、ウラナイ教の大神様、何卒々々この旅人が生命を救はせ玉へ、吾々の生命はたとへ無くなつても、と幸魂を極端に発揮し暗祈黙祷すれば、アーラ不思議や吾身体に忽ち降り給ふ天津神国津神八百万の神等、日の出神を先頭に竜宮の乙姫、吾々三人が肉体に懸らせ給ひ、天地に轟く言霊の声、一二三四と皆まで言はずに、さしも強力無双の鬼雲彦が手下共、朝日に露の消ゆるが如く、魂奪はれ骨は砕けて生命惜しさに涙と共に頼み入る。思へば憎つくき奴なれど、彼等と雖も元は神の分霊、善を助け悪を許すは大神の慈悲、と心の裡に見直し宣り直せば、百に余る豪傑どもは、チウの声も能う立てず足音を忍ばせ乍ら、風の如く魔の如く水泡と消えてやみの中、そこで吾々八人は予ての計略、オツト、ドツコイ……計略を以て旅人を苦しめむと致す鬼共に、言霊の鉄鎚を加へ今後を戒め置き二人のこれなる夫婦を救ひ花々しく立ち帰つて候』 黒姫『ヤア、それは御苦労であつた、人間と云ふものは目前の時になれば神様がお使ひ下さるもの「腐り縄にも取りえ」と云ふ事がある、私もお前の様な穀潰しを沢山に養つて置いてつまらぬ者ぢや、棄かすにも棄かされず、大根の葉にねちが着いた様なものぢやと思つて居つたが、目前の時にそれ丈の神力が出れば万更捨てたものぢや無い。ヤ、御苦労だつた、サアサア一服して下され、然し乍ら丑、寅、辰外二人の男は今迄何をして居つたのだ、浅、幾の様にお前もチツと活動をせなくては神様に済むまいぞや』 寅公『吾々は御神前に於て……否無形の神殿に向つて祈願する折しも、忽ち吾々の天眼通に映じた普甲峠の突発事件。やれ可憐相な二人の旅人、神力を以て助けてやらむと心は千々に焦慮れども、何を云つても遠隔の地、アヽ仕方が無い、遠隔神霊注射法を実行せむかと思ふ折、又もや吾々が天眼に映じたのは浅、幾、梅の三人、これや良い霊代だと五人一度に三人の身体に神懸りし、群がる魔軍に向つて、言霊の神力は申すに及ばず、あらゆる霊力を尽して戦へば、敵は蜘蛛の子を散らすが如く、散り散りパツと花に嵐の当りし如く、霞となつて消え失せたりツ』 浅公『アハヽヽヽ』 黒姫『何は兎もあれ、藪医者が手柄をした様なものだ、篦で鬼の首とつたも同然、今日は離れの室で御神酒でも沢山頂いてグツスリと寝たが良い、コレコレ旅の方、神様の尊い事が分りましたかな』 綾、民『ハイ、何とも有難うて申し様が御座いませぬ、只もう此通り……』 と夫婦は両手を合せ黒姫の顔を伏し拝み、熱い涙をボロボロと零すのみである。 黒姫『お前は真に幸福な御夫婦ぢや、結構な御神徳を頂きなさつた、袖振り合ふも多生の縁、躓く石も縁の端と云うて、コンナ結構な神様の教の取次に助けて貰うとはよくよく深い昔からの果報が現はれたのぢやぞえ、私も何ぢやか始めて会うた人の様な気がせぬ、之からは総ての娑婆心を捨てて神界の為に千騎一騎の活動をしなされや、就いては夫婦ありては御用の出来ぬ神のお道ぢやから、お前は明日から夫婦別れて御用をするのだ、死ンで別るるのは辛いけれど、此世に生きて居れば矢張り同じウラナイの道に御用するのだから会ふ機会は幾らもある、お前は何と云ふ名だ』 綾彦、お民『ハイ、綾彦と申します。妾はお民と申します』 黒姫『アヽさうか、綾彦は俺の側で御用をするなり、お民は矢張りウラナイ教の支所で高城山と云う処、そこには意地くねの………悪くない松姫が控へて居る、お民は松姫の側へ行つて御用をなさるのだ、御承知がゆけば明日から、幾公に送らしてあげよう』 お民『ハイ、如何なる事でも神様の御為めなれば否とは申しませぬ、然し何卒三四日許り一緒に置いて下さいますまいか、とつくり夫婦の者が相談を致し度う御座いますから……』 黒姫『アヽ其相談がいかぬのだ、人間心で取越苦労をしたつて何になるものか、何事も神様に絶対にお任せするのだ、夫婦別るるのが辛いかな、それはお若い身の上だから無理も無い、年寄りの私でさへも夫婦は無ければならぬ者ぢやと思うて居る位ぢや、然し年寄りは又例外ぢや、末が短いから……、若い者は何程でも会う機会が、長い月日には有るものぢや。あの木貂と云ふ奴は、夫婦仲の良いものぢやが決して夫婦は一緒に棲まひはせぬ、雄の方が東の山の木の洞に棲みて居れば、雌の方は屹度谷を隔てて、西の山の木の洞に棲居をし、西からと東からと互に見張をして居るさうぢや、若し雌の棲みて居る大木の麓へ猟師でも出て来たら、灯台元暗がり、近くに居る雌に気がつかいでも遠くから見て居る雄がチヤンと之を悟つて、電波を送つて雌に知らせ、雄に危険が迫つた時は又遠くから見て居る雌が電波を以て雄に知らせると云う事だ。その通りお前も両方に分かれて互に妻は夫を思ひ、夫は妻を思ひ、偶々会うた時のその嬉しさは何とも云へぬ味が出るぞえ、之だけ若い者ばかり沢山居るのだからお前の様な若夫婦を一緒において置くと、いろいろと若い者が修羅を燃やしてごてつき、お前も亦辛いであらうから、明日は直にお民は高城山へ行つて御用をして下さい』 綾彦、お民『何事も神様にお任せした以上は、何卒貴女の思召の通りお使ひ下さいませ』 黒姫『ア、さうかさうか、結構結構、本当に聞訳の良い人ぢや、サアサ今晩は奥へ行つて寝みなされ、俺も大変草臥れたから今晩は之で寝みませう、然しこれこれお若いの、神様に手を合せお礼を申して寝みなされや、必ず必ず神様の祀つてある方に尻を向けたり足を向けてはなりませぬぞえ』 夫婦『ハイ有難う御座います、然らば寝まして頂きます』 と奥を目蒐けて両人は徐々進み行く。 黒姫『アーア、世の中は思ふ様にいかぬものだなア、今斯う云うて若夫婦に生木を裂く様な命令をしたが、思へば思へば可憐相な者だ。俺とても其通り、高山彦さまが二三日他所へ行つてお顔が見ええでも淋しくて仕方が無いのに、鴛鴦の様な仲の良い若夫婦が別れて御用するのは、私に比ぶれば幾層倍辛いだらう。ウラナイ教の双壁といはれた竜宮の乙姫の此生宮でさへも、高山彦さまを夫に持つたのが露見れてより、夏彦や常彦は直に飛び出し、それから後は毎日日日何とか、かとか云つて、岡餅を焼いて法界悋気の続出、コンナ事では折角築き上げたウラナイ教も崩解するかも知れない、何ほど一旦綱かけたらホーカイはやらぬと、色の黒き尉殿が鈴を振る様に矢釜しく云つても駄目だ、アヽいやいやいやオンハと、三番叟もどきに逃げて去ぬ奴が踵を接するのだから、法界悋気の深い連中の中へ、何ほど可憐相でも若夫婦を交へて置く事は出来ぬ。アーア若夫婦、必ず必ず黒姫は邪慳な奴ぢやと思うて呉れな、口先では強う云うては居るものの、涙もあれば血もある、アヽ可憐相だ、青春の血に燃ゆる二人の心、察しのない様な黒姫ぢや御座いませぬ』 と独語ちつつ同情の涙に暮れて居る。 かかる所へ高山彦現はれ来り、 高山彦『ヤア黒姫か、夜も大分更けた様だ、もうお寝みになつたら如何です』 黒姫『ハイ、只今寝みます』 高山彦『お前に一つ相談がある、聞いて呉れまいか』 黒姫『之は又改まつたお言葉、相談とは何事で御座いますか』 高山彦『外でも無い、俺は一つ大に期する処があるのだ、之からフサの国へ一先づ立ち帰り、大に高姫さまの後援をして大々的活動を仕様と思ふ、お前は此処に居つて自転倒島を征服して下さい、明日からすぐ出立しようと思ふから…』 黒姫『エ、何と仰しやいます、夫婦は車の両輪、唇歯輔車の関係を保たねばなりませぬ、例へば男は左の手足、女は右の手足も同様、片手片足では大切な神業に奉仕する事は出来ますまい、ちつとお考へ直しを願ひます』 高山彦『黄貂[※一般的には「木貂」と書く。]、一名雷獣と云ふ獣は随分仲の良いものだが、夫婦は決して一緒に居ないものだ』 黒姫『エヽ措いて下され、妾の模像ばつかりやるのですな、ソンナ玩弄物の九寸五分を突きつけた様な同情ある恐喝手段にのる様な黒姫とは違ひますわいな、ヘン……いい加減に揶揄つて置きなさいよ、ホヽヽヽ』 高山彦『ヤア真剣だ、強つてお暇を願ひ度い』 黒姫『まつたくですか、ハヽア、宜しい、御勝手になさいませ、外に増花が出来たと見えます、もの云ふ花は此黒姫一人だと妾が心で自惚して居つたのは妾の不覚、薊の花に接吻をして来なさいよ』 高山彦『そう怒つて貰つては困るぢやないか、二つ目には妙な処へ論鋒を向けるのだな、昼演壇に立つて滔々と苦集滅道を説くお前の態度と今の態度とは丸で別人の様な、声の色まで変つて居るぢやないか』 黒姫『ヘンきまつた事ですよ』 と肩を高山彦の方へニユツと突き出し、首を斜にし目を細うし、 黒姫『野暮な事仰しやるな、こゑは思案の外ぢやないか、ホヽヽヽ』 と鰐口を無理におちよぼ口に仕様とつとめる。巾着を引き締めた様に縦の皺が一所に集中し、牛蒡の切り口の様に口の辺りが見えて居る。 高山彦は、 高山彦『アヽもう寝まうか』 と黒姫の背中をポンと叩く。 黒姫『勝手に一人寝やしやンせいな』 と黒姫は、故意とピーンとした顔を見せ、向返つて背中を向ける。 高山彦『ハヽヽヽ、非常な逆鱗だ、どれどれ今晩は山の神さまに巨弾を撃たれて、只一人赤十字病院に収容されるのかな、アハヽヽヽ』 と寝室に帰り行く。黒姫は水鏡を灯火に照し顔の修繕をなし、羽ばたきし乍ら四辺を見まはし目を細うし、 黒姫『どれ夫の負傷を、女房としてお見舞申さねばなるまい』 と又もや一室にいそいそ走り行く。 ○ 黒姫が許可を得て浅公、幾公、梅公、その他十数名の老壮連は御神酒頂戴の名の下に、「会うた時に笠脱げ」式にガブリガブリと酌いでは飲み酌いでは飲み、酔が廻るにつれ徳利の口から「火吹き竹飲み」を初め出しける。 甲『オイ、梅の大将、随分よく飲むぢやないか』 梅公『きまつた事だ、大蛇の子孫だもの、飲む事にかけたら天下一品だ、親譲りの山を呑み田を呑み家まで呑みて、酒の肴に親の脛を噛り、此奴手に負へぬ奴ぢや、七生(升)までの勘(燗)当ぢやと云つて放り出されたと云ふ阿哥兄さまだ。親爺が七升の燗をせいと云つた時は流石の俺も一寸弱つたね、朝九一合、昼九一合、晩九一合、夜中に九一合、夜明け前に九一合、マア一寸ゴシヨゴシヨ(五升)とやつた処で、それ以上は腹の虫が「梅公、あまりぢや、もう此上は六升だ、七升(七生)迄怨み升」と副守の奴でさへも弱音を吹いたのだからな』 甲『随分酒豪だな』 梅公『酒豪な守護神だ、然し之だけ、酒飲みの梅公も此頃はずつと改心して、滅多に飲みた事はあるまいがな、偉い者だらう』 浅公『アハヽヽヽ、飲み度いと云つたつて飲ます者がないものだから気の毒なものだ』 梅公『酒の酔い本性違はずだ、何程酔つた処で足がひよろつくの、頭が痛いの、眩暈が来るの、八百屋店を開業するのと云ふ様な不始末な事は、ちつとも、無いのだからな、それで今日の様な妙案奇策を捻り出すのだ、今晩斯うして貴様達が甘い酒に舌鼓を打つ様にしてやつたのは俺のお蔭ぢやないか、随分うまくいつたぢやないか』 寅公『あの暗がりに飲まぬ酒に酔うた気になつて、冷い土の上に横はり、向うから一歩々々近づいて来る足音、何処を踏まれるか分つたものぢやない、其時の心のせつなさ、腰をトウトウ土足で踏まれ、睾丸を踏まれた時の痛いの痛くないのつて一生懸命の放れ業だ、随分俺も骨を折つた、何ほど梅公が賢うても俺達が実行せなくては今夜の芝居は打てやしない、あまり威張つて貰うまいかい』 辰公『俺だつて臍の上をギユツと踏まれた時の苦しさ、早速ベランメー口調で業託を云はうと思つても満足に声も出やがらぬのだ、皆の奴、気が利かぬ者だから暗がり紛れに旅人だと思つて俺の頭と云はず背中と云はず、幾ら叩きよつたか分つたものぢやない、コオこれを見い、背中が青くなつて居るワ』 梅公『アハヽヽヽ、何ぬかしよるのだ、蛙ぢやあるまいし背中の青くなつたのが如何して分るかい、兎角芝居は幕開きはしたものの馬の脚や猪になる大根役者が、うまくやつて呉れるかと思つて随分気を揉みたよ、マアマア木戸銭取らずの奉納芝居だから、あれ位で観客も何とも云はぬが、下足賃でも徴つて見よ、それこそ一人も這入る者はありやせないぞ、然し寅公、辰公、鳶公、貴様等五人は如何しやがつたかと思つて心配して居つたら、何時の間にか先に行きよつて天眼通だの、何のと甘い事を云ひよつたね』 寅公『当意即妙、神謀奇略の智勇兼備の大将だ、知識の源泉たる吾々、何処に抜け目があるものかい、サアサ良い加減に寝まうぢやないか』 浅公『オヽ、寝みても宜からう、膝坊主でも抱いて寝エ、アーア、今晩の女は随分素敵な奴ぢやないか、アンナ良い女房を持つたハズバンドは随分に幸福だらうな、エー怪体の悪い、あれ程堅苦しい事云つて居た黒姫の大将は婿を持つ、やもめばつかりの俺達は指を啣へて、見て居るより仕方が無い、そこへ又うら若い綺麗な夫婦がやつて来やがつて、随分貴様達も気が揉める事だらう、アハヽヽヽ』 と酔ひに乗じて四辺構はず罵つて居る。綾彦、お民は黒姫の命に依り、一室に行つて寝に就かむと廊下を通る折、思はぬ酒の酔ひの笑ひ声、立ち聞きは不道徳とは知り乍らも、つひ気にかかりフツと耳を傾け聞いて居れば、どうやら自分の事らしい、二人は顔見合せ何事かひそひそ囁き乍ら一睡もせず其夜を明かしける。 (大正一一・四・二六旧三・三〇北村隆光録) (昭和一〇・六・一王仁校正)
9

(1764)
霊界物語 20_未_丹波物語5 錦の宮の発足 09 童子教 第九章童子教〔六七一〕 九重の花の都の山背畏き神代に近江路や 色も若狭に丹波の三国に跨る三国ケ嶽 木立の茂みは大空の月日を封じて物凄く 昼さへ暗き大高峰鬼か大蛇か魔か人か 見るさへ凄き婆一人聳えて高き岩の根に 仮の庵を結びつつ蛇や蛙を捕喰ひ 其日を送る物凄さ此山麓に立並ぶ 形ばかりの破れ家の小さき棟も三四十 浮世離れし別世界老若男女は谷川の 蟹や蛙を漁りつつ餌食となして日を送る 鬼婆一人を棟梁と仰いで遠く夜に紛れ 山城丹波近江路や若狭能登まで手を延ばし 赤児の声を探しつつ隙さへあらば引捉へ 山の尾伝ひに逃げ帰り婆の餌食に奉る 此曲津見は何者か言向け和し世の中の 悩みを払ひ救はむと神素盞嗚大神の 御言畏み高天の原に現れます言依別は 聖地に上り来りたる心も清き宗彦に 依さし玉へば喜びて一も二もなく承諾し これぞ布教の初陣と親兄妹に暇乞 明石峠を乗越えて道の熊田の一つ家 病に悩む原彦が心の迷ひ吹き払ひ 奇しき御稜威を現はして里の老若男女をば 三五教の大道に一人も残らず帰順させ 少時足をば休めつつ原彦、田吾作、留公の 三人の信者を伴ひて青垣山を繞らせる 平野の里や山国の一本橋を打渡り 宮村、花瀬を後にして三国ケ嶽の山麓に 四人は漸く着きにける。 さしも三国に渡る大高山、杉の木立は鬱蒼として風を孕み、咆哮する声、数百千の獅子狼が一度に雄猛びする如く聞えて来る。夏とは言ひ乍ら何となく底冷たき空気漂ひ、谷川の音も何処となく物凄く、悪魔の囁くが如く耳を打つ。猿の群は梢を伝ひて、キヤツキヤツと鳴き叫ぶ。四人は山麓を流るる深谷川の畔にドツカと坐し、旅の疲れを休め乍ら、ヒソビソ話に耽つて居る。 留公『随分薄気味の悪い谷間だないか。山国の丸木橋を越えてからと云ふものは、人の子一人出会つた事もなし、時々左右の密林から怪しの声、どうしても此処は大江山以上の魔窟らしい。オイ田吾作、此処までは喜び勇んでやつて来たものの、首筋がゾウゾウとして、何んとも言へぬ気分になつて了つたぢやないか』 田吾作『宇都山村で、魚を漁つたり、麦畠に鍬杖ついて、雲雀の糞を頭から浴びせられて居るのとは、そりやチツとは骨が有るワイ。こんな山奥へ悪魔退治に来たのだもの、どうせ満足に生命を持つて帰れないのは、出発の際から定りきつた話だ。貴様宅を出る時の勢はどうだつた。鬼でも大蛇でも虎でも、狼でも、何でも来い。此留公の腕には骨が有ると、力味返つた時の事を考へて見よ。こんな所でそんな弱音を吹いて宣伝使のお伴が出来ると思ふか』 留公『そらそうだ。併し乍らモウ少し暖かい山ぢやと思うて居たに、夏の最中に斯う寒くつては耐れないぢやないか。斯んな事と知つたなら、袷の一枚も持つて来るのだつたが、薄い単衣一枚では堪へられない。俺は一つ、宇都山村まで引返して、着物を着替て出直して来るから、お前御苦労だが、宣伝使の御伴をしてボツボツ登りかけて呉れ』 田吾作『ハヽヽヽ、隣近所か何ぞの様に、さう着々と着替に帰ねるものか。巧い辞令を作つて、態よく遁走するつもりだらう。口程にもない代物だなア。ヨー今からビリビリ慄うて居よるなア』 留公『何程留めようと思つても、ガチガチと歯が拍子木を打つものだから仕方がないワ。モシモシ宣伝使様、私を此処から……実際の事言へば、帰らして貰ひたいのです』 宗彦『それだから伴れて行かぬと言ふのに、お前が無理に来たのぢやないか。宣伝使は一人旅、決して同伴はならぬのだ。私に相談は要らぬ、自由行動を取つたがよからう』 留公『ハイ有難う御座います。お蔭で命が助かりました。あなた方も、どうぞ無事で帰つて下さいませ。キツと、私は此処でお別れしても、あなたの事は忘れませぬ。お茶湯でも献げて冥福を祈ります』 田吾作『オイ留公、冥福を祈るとは何だ。死ぬに定つた様な事を言ひやがつて、吾々の首途を祝する事を措いて、貴様は弔ふのだな』 留公『弔ふのか、呪ふのか、祝ふのか、どつちか一つの内だ。エー長居は恐れ、こんな生臭い風が吹くからには、太い長い奴がノロノロと今にやつて来るだらう。宣伝使は一人と仰有つた。遠慮は要らぬ、原彦、お前は先へ行け。さうして田吾作は俺の尻に従いて帰るのだ。サアサア帰つたり帰つたり』 原彦『私は生命を助けて貰つた御恩返しに、御案内役となつて来たのですから、宣伝使の為に生命を棄てた所で、別に欠損にもなりませぬ。元々です。此場に及んで男らしくもない、帰れますものか』 留公『生命の安い奴は行つたが宜からう。……オイ田吾作、貴様は生命が大事だらう。お勝の事もチツとは思うてやれ』 田吾作『お勝がなんだ。神様の御用のお伴をするのに、そんなことを気に掛けて居つて勤まるものかい。貴様勝手にしたがよからう』 留公は、 留公『蛙の行列向う見ず、生命知らずの馬鹿者』 と口ぎたなく罵り乍ら、坂路指して韋駄天走りに、霧の中に姿を没した。 田吾作『ハヽヽヽ、宣伝使様、随分妙な活劇否悲劇が演ぜられましたなア。何れ彼奴は今言つた様な臆病者ぢやないから、先駆けの功名手柄をやらかさうと思つて、キツト単騎登山と道を変へて出かけやがつたのでせう。途中でアツと言はせる様な芸当を演ずるのかも知れませぬから、怪しき者が出たら油断をなさいますなや。キツト留公の化者に定つてゐます。彼奴は何時でもああ云ふ事をして喜ぶ癖があるのです。それで私も勝手に帰んだがよからうと、あなたの御言葉を幸ひに帰なしてやりました』 宗彦『面白い男ですな。何れ岩窟の附近まで往つたら、鬼婆の真似でもして現はれるのでせう。原彦さん、サア案内を頼みませう』 原彦『私も御案内とは申しましたが、実は初めての事で一向不案内です。併し私の通る所は貴方も通れるでせう。露払や蜘蛛の巣払に、先へ行きますから、従いて来て下さい』 と不案内の路を谷に沿うて、トントンと登り行く。二人は後を追ふ。前途に激潭飛沫の谷川が横たはつて居る。四五人の男女が熊の皮を洗ひ晒らして木の梢に架け渡し風を当てて乾かして居る。さうして何れも此れも皆、黒い熊の皮や、赤い猪の皮を身に纏うて立働いて居た。 原彦『オーイ、オイ、其処に居る五六人の御連中さま、三国ケ嶽の婆アの岩窟は、どつちやへ行つたら良いのかな』 川向ひの男、無言の儘、指先で……此谷川を渡り、東へ指して行け……と手真似で知して居る。 原彦『アヽ此奴ア唖と見えるワイ。併し乍ら此谷川を渡つて東の方へ行けと云うたのだらう。……モシモシ宣伝使様、私が一寸瀬踏みをして見ませう。大変流れも急なり、水量も多いから、万一私が死ぬ様な事があつたら、キツト渡らない様にして下さい。先づお毒見……否お水見を勤めませう』 と尻を捲つて早くも谷川を渡らうとする。 田吾作『オイ原彦、死ぬのはチツと惜しいぢやないか。お水試なんかせなくとも分つてる。どれ程水の達者な河童の兄弟分でも、此急流がどうして渡れるものか。マア危きに近寄らんがよからうぞ』 原彦『私は命を既に宣伝使様に差上げてあるのだから、運を天に任して渡つて見る』 と無理無体に川瀬を横ぎり、漸く辛うじて対岸に着いた。五人の男女は之を見て驚き、『ア、ア、アー』と声を立て、一目散に歩み慣れし山の細路を伝うて、霧の林に姿を没した。 原彦『ヤア有難い。沢山な熊の皮が並べてある。乾いた奴も相当に有るワイ。サア此奴を一つ身に纏うて登つてやらう。……オイオイ田吾作、早う渡つた渡つた。割とは浅かつた。大丈夫だよ』 田吾作『サア宗彦さま、お渡りなさいませ。私が後から従いて行きます。もしも誤つて水の藻屑にならしやつた所が、義理の兄弟の私が、決して棄てては置きませぬ。キツト死骸は拾つてあげます。サアあなたからお先へお渡りお渡り』 宗彦『そこまで徹底的に受合つて貰へば、私も安心だ』 と戯談半分に喋舌り乍ら、尻を捲つて漸く対岸に着いた。田吾作は手を拍つて、 田吾作『アハヽヽヽ、本当の登り路は此方にあるのだ。そんな方へ行かうものなら、近江の国へ往つて了ふぞ』 原彦は川の向うから大きな声を出して、 原彦『コレ田吾作、そんな事が分つて居るのなら何故早くに知らして下さらぬのだ』 田吾作『知らしてなるものか。俺のお土産に其猪の皮を全部ひつ抱へて此方へ渡るのだ。宣伝使様も四五枚掻攫へてお帰りなさい。其為に此田吾作が計略で、向ふへ渡らしたのだ』 宗彦『ハヽハア、一杯喰はされましたな。併し失敗が幸ひになるとは茲の事だ。何れ他人にも要るだらうし、原彦さま、お前と二人、持てる丈持つて向ふへ渡らうかな』 と大きな熊の皮をひん抱き谷川に足を入れる。原彦も体一面に熊の皮をくくりつけ、漸くにして再び谷川を渡り、田吾作の前に引返して来た。 田吾作『皆さま大い御苦労で御座いました。お土産に一番飛切の上等を頂戴致しませう』 原彦『イエイエ是れは私の分丈だ。生命も危ない此谷川を、どうして二人前も背負うて渡れるものか、お前の分はチヤンと向ふに、屑ばつかり残してある。人の苦労で徳を取るといふ事は、神様の大変に戒め玉ふ所だ。サアサア自分の物は自分で処置をつけるのだよ』 田吾作『そんな事は、遠の昔から御存じの田吾作だ。釈迦に経を説く様な事を言うて貰ふまいかい』 早くもザブザブと対岸へ渡り、洗ひ立ての選り残りのヅクヅクばつかり引抱へ、 田吾作『ヤア重い奴ばつかり除けて置きやがつた。併し己れの欲する所能く人に施せ。欲せざる所は人に施す勿れと云ふ事が有るなア』 とワザと大音声に呼はり乍ら、藤蔓に残らず縛りつけ、自分の腰に結ひ、ザアザアと引ずり乍ら帰つて来た。 田吾作『宣伝使さま、私の智慧は大したものでせう。神智神策、水も洩らさぬ所まで水を利用し、此通り沢山の獲物を占領して来ました。ヤツパリ役者が七八枚も上だ。千両役者だからなア』 と独り悦に入つて居る。 原彦『チツと絞つてあげませうか。こりや干さねば重たくて持つて往けますまい』 田吾作『不言実行だよ』 原彦『不言実行とは初めて聞きますが、どう云ふ意味ですか。言つて下さいな』 田吾作『言はないのに気がついて実行するのが不言実行だ。言つてやるとよいが、天機を洩らすと雨が降る。不言の教無為の化だ。マアマア考へて社会奉仕を励むが、御神徳の入口だな、アハヽヽヽ』 原彦『宣伝使様、不言実行の訳を聞かして下さいませぬか』 宗彦は黙々として、濡れた皮を取り上げ、一生懸命に絞つては木の枝に引つかける。原彦も黙つて見て居る訳にも行かず、同じく皮を絞つては懸け、絞つては懸けて風に乾かさうと、車輪の活動を行つて居る。田吾作は、 田吾作『アヽそれが不言実行だよ。分つたか』 原彦『まだ分りませぬ』 田吾作『分らなくても、実地さへ出来ればよいのだ。現今の奴は宣伝だけは立派だが少しも実行が伴はない。併しマアマア漸く及第点に達した。宗彦様は率先して不言実行をやられたから六十五点、お前は漸く四十五点だ。五点の事で落第点になる所だよ』 原彦『ますます分りませぬ』 田吾作『原の腹が暗くつて、胸が開けぬから、実地の事が目が有つても見えず、田吾作の立派な生きた教が耳へ這入らず、嗅出す事も出来ず、舌は有つても味はふ事が出来ないのだ。斯う思へば何にも知らずに実行する者位幸福な者はないワイ』 宗彦『有難う御座いました。お蔭で田吾作の宣伝使より六十五点頂戴しました。サア是れでモウ三十五点頂戴致しませうか』 と一番立派な熊の皮を選り出して、田吾作の背中に着せる。 田吾作『ヨシヨシ、モウ試験済だ。希望通り三十五点を与へる。これで満点だ。満天下に神教を宣伝しても恥ぢることなき大宣伝使だ。お芽出たう。銀のセコンドでも賞与に与りたいのだが、生憎持つて居ないから、親譲りのヘソンドで辛抱するのだなア、これでも十二時が来るとよく知つて居る』 原彦『私にも、せめて二十点下さいな』 と自分の攫へて来た中より、最も優れたる毛皮を取り出し、田吾作の背中に乗せる。 田吾作『ヨシヨシ、物品一点俺に呉れたから、一点を増してやらう。総計四十六点だ、アハヽヽヽ』 田吾作は原彦の顔を眺め乍ら、又もや、 田吾作『不言実行不言実行不言実行』 と節をつけて謡ふ様に繰返して居る。原彦は狼狽へて、彼方の皮をかやして見、此方の皮を嬲つて見、田吾作の背中を撫でて見るやら、宣伝使の足許の草鞋が切れて居るのではなからうかと、キリキリ舞ひをして居る。田吾作は一層大きな声で、節をつけて、 田吾作『不言実行不言実行不言実行』 を又もや繰返して居る。原彦はハツと膝を叩いて、片方に落ちてゐた棒の様な木切を拾ひ、毛皮を両端に括りつけ、肩に担いで、 原彦『サア私が不言実行のお伴を致します。不言菩薩に実行菩薩様、サアお出でなさいませ』 田吾作『普賢菩薩は聞いた事があるが、実行菩薩は聞き始めだ』 原彦『実行菩薩といへば、ミロク様の事だよ。瑞の御霊の大神さまだ。本当に月光(結構)な神さまと云ふ事だよ』 田吾作『アハー月光菩薩の洒落だな。洒落所かい、是から先は不言実行で勝つのだ。最前の五人の男女を見い。一口も言はず、不言実行の標本を示して、手早く逃げやがつたぢやないか。あれ位慈悲深い奴は有つたものぢやない。其お蔭で吾々は月光な恩恵に浴したのだ、アハヽヽヽ、ドレ田吾作も不言実行菩薩と出かけようかい』 と先に立ちて羊腸の小径を辿り辿り進んで行く。田吾作は歩み減らした細い路を、曲々と舞ひ乍ら、先に立ちて稍平坦な地点に着いた。 田吾作『アヽ不言実行組は何をして居るのか。足の遅い事だなア』 と呟いて居る。そこへ横合から三人の五六才と覚しき男の子、一人は赤裸となり顔に手を当てて泣いて居る。一人は裸の儘で面ふくらして怒つて居る。一人はニヤニヤと笑ふ。 田吾作『ヤア此奴ア三国ケ嶽の化物だな。こんな所で三人上戸が出て来やがつて、酒でも有つたら不言実行してやるのだが。生憎酒もなし……ハヽハ赤裸だ。ヨシヨシ考へがある。早く原彦の奴、毛皮を持つて来やがると良いのだけれどなア』 と云ふ折しもハアハアと息を喘ませ、両人は登つて来た。田吾作は物をも言はず、原彦の担いで居る荷をボツタクり、手早くほどいて、其中の小ささうな皮を選り別け出した。原彦は、 原彦『不言実行だつて、泥棒まで実行して良いのか』 と脹れる。田吾作は三人の童子を指し示した。宗彦、原彦は見るより『ヤア』と倒れむばかりに驚いた。よくよく見れば三人の童子の背後から五色の光明が輝き、麗しき霊衣に包まれて居る。田吾作は少しも気が付かず、慌てまはして、適当の毛皮を取り出し、三人に一々着せて廻つた。三人は黙つて毛皮を取り外し、大地にパツと敷いて、各自其上に行儀よくキチンと坐つた。 宗彦『これはこれは何神様かは知りませぬが、よくマア現はれて下さいました。私は是れより山頂の岩窟に割拠する鬼婆を言向け和す為に参ります。どうぞ御守護を御願ひ致します』 笑童子『アハヽヽヽ、七尺の男子が……而も宣伝使の肩書を持ち、岩窟の鬼婆を退治せむと、此処まで勇み進んで登り来乍ら、人の助けを借らうとするのか。ハツハツハ可笑しい可笑しい、依頼心の強い男だなア』 宗彦『恐れ入りました。モウ決して依頼は致しませぬ。何れの神様か知りませぬが、ついお頼み申すとか、御守護を願ひますとか云ふ事が、吾々の常套語になつて居ますので心にもなき卑怯な事を申したので御座います。どうぞ見直し聞直して下さいませ』 泣童子『アンアンアン、情無い宣伝使ぢやなア。三人も荒男が、たつた一人の婆アを当に出て来よつて、何の態ぢや。斯んな事でどうして三五教の神徳が現はれようぞ。思へば思へば厭になつて来た。これでは国治立大神様、素盞嗚尊様が何程骨を折り、心を砕かしやつても、こんなガラクタ宣伝使ばつかりでは、神政成就も覚束無いわいの、……オンオンオン』 宗彦『どうぞモウ見直し聞直し下さいませ。是からキツと勇猛心を発揮し、婆アの千匹や万匹は、善言美詞の言霊の神力に依つて吹き散らしますから、どうぞ泣いて下さいますな』 泣童子『捕らぬ狸の皮算用をしよつて、当もない事に威張つて居る……其心根が可憐らしい。一寸先は暗の世ぢや。なんにも知らぬ人民は、足許に火が燃えて来る迄分らないのか。アヽア可哀相なものぢや。どうして人間は是れ丈、物が分らぬのだらうな……オンオンオン』 宗彦『誠に汗顔の至りで御座います。さう仰しやれば……さうですが、何事も神様にお任せ致して進むので御座います』 怒つた顔の童子、面ふくらし目を剥き、 童子『惟神、惟神と口癖の様に言ひやがつて、難を避け易きに就き、自分の責任を神様に転嫁し、惟神中毒病を起し、大きな面をして天下を股にかけ、濁つた言霊の宣伝歌を謡ひ、折角の結構な世の中を濁す奴は貴様の様な代物だ。チツとも足元に目が付かず、尻が結べぬ馬鹿者だ。それでも誠の道の宣伝使かい。貴様の様な穀潰しが沢山に世の中に、ウヨウヨと発生やがるものだから、世界の人民が苦むのだ、エーエー腹立たしい。神を笠に着たり、杖に突いたり、尻敷にしたり、汚らはしい、盗んで来た熊の皮を俺達の背中に乗せよつて、ケツケツけがらはしいワイ。尻敷にしてやつてもまだ虫が承知せないのだ。コラ斯う小さい子供の様に見えても、至大無外、至小無内、千変万化の結構な神様のお使ひだぞ。貴様の量見次第で、閻魔ともなれば、鬼ともなり、大蛇ともなつて喰て了うてやらうか。イヤ背筋を立ち割り鉛の熱湯を流し込んで、制敗をしてやらうか。三国ケ岳に大蛇が居るの、鬼婆が居るのと吐して、言向け和すの、征服するのとは何の事だい。鬼婆も大蛇も、鬼も悪魔も、貴様の胸に割拠して居るのを知らぬのか。鬼婆を言向け和さうと思へば、貴様達の腹の中の鬼婆から先へ改心さして出て行きやがれ。大馬鹿者奴。ウーン』 と目を剥き出し、大きな口を開け、咬り付く様な勢で、突つ立ち上り、三人の顔をギヨロギヨロと睨めまはす。三人は一度に大地に頭を下げ、 三人『誠に取違ひを致して居りました。イヤもう結構な御神徳を戴きました。モウこれから改心を致します』 笑童子『アハヽヽヽ、一寸よいと得意がつて無暗に噪やぎ、一寸叱言を聞いては直に悄気返るカメリヲンの様な男だな。大きな図体をして、こんなチツポケな子供に叱られて、それが怖いのかい。神界にはそんな妙な弱い弱い人足は一人も居りはせぬぞや。神界の喜劇よりも、よつぽど面白い面白い。アハヽヽヽアハヽヽヽ』 と臍を抱へて笑ひ転ける。 泣童子『アーア情無い事を見せられたものだ。これでも現界では選りに選つて選まれた特別選手ぢやさうなが、其他は推して知るべしだ。瑞の御霊の祖神様も嘸御骨の折れる事だらう。オイオイオイ。あまり悲しうて涙も出やせぬわいなア。宣伝使と云ふ者は、何とした腑甲斐ないものだらう。蛸の様に骨も何も有りやせぬワ。こんな事で、どうして八岐の大蛇が退治が出来るものか、世の中は益々悪鬼羅刹の横行濶歩を擅にさせるのみだ。どうして現界には誠らしい者が無いのだらうか、アンアンアン』 田吾作『モシモシ子供の神さま、さうお歎きなさいますな。広い世界には一人や二人は立派な者が無いとも言へませぬ。現に此処に唯一人有るぢやありませぬか。さう取越し苦労をして、泣くものぢやありませぬ。世の中は何事も善言美詞に宣り直すのが天地の御規則だ。泣いて暮すも一生なら、笑つて暮すも一生だ。結構な此世の中に、何が不足でメソメソと泣くのだ。わしは「悔み事と泣き事は大の嫌ひであるぞよ。勇んで暮して下されよ」と云ふ神様の教を守つて、世の中を大楽観して活動して居るのだ。お前さまもチツとは思ひ直して改心なさつたらどうだ。「悔めば悔む事が出来て来るぞよ」……と云ふ事を知つとりますか。ヤ、まだ子供だから分らぬのも無理はない』 泣童子『わしも朝から晩まで泣いて暮した事はない。今日初めて泣かねばならぬ事が出来たのだわいのう…アンアンアンアン…折角骨折つて、生命懸けで熊を捕り、皮を綺麗に洗ひ、爺さま婆アさまの着物にしようと思つて、楽しんで居つた人間の物品を、横奪した泥棒根性の宣伝使に説教を聞かされるかと思へば、残念で残念で、是が泣かずに居られようか。モウどうぞ今日限り泥棒根性はやめて下さい……アンアンアン…それに付けても言依別神様から、大切な御命令を受た宗彦のデモ宣伝使、二人の奴が盗人をするのに、なぜ黙つて居つたか、…イヤ自分から率先して泥棒の手本を見せよつたぢやないか。斯んな事でどうして誠の道が開けると思ふか。アーア日暮れて道遠しの感益々深しだ。どうしたら人間らしい人間が、一人でも出来るだらう。泥棒に聖山を汚されて取返しのならぬ事をした哩……アンアンアンアン』 宗彦『イヤ決して決して泥棒をすると云ふ様な考へはチツとも有りませぬ。あの様な所に棄てておいては、又泥棒が攫へて行つちやならない………それよりも吾々が暫く拝借して、又帰りがけにや、旧の所へ御返しをして帰る積りだつた。世の中は相身互だからと思つて、一寸借つたのですよ。心の底から泥棒する根性は有りませぬ』 怒童子『エーつべこべと此期に及んで卑怯未練な言ひ訳をするのが気に喰はぬワイ。貴様は女殺しの後家倒し、其上嬶泣かせの家潰し、沢山な人を泣かして来た揚句、不知不識とは云ひながら、平気の平三でお勝と〇〇になつて居た汚れた人足だ。何程言依別神様から大任を仰せ付けられたと言つて、一も二もなく御受けして来ると云ふ事が有るものか。貴様はそれでも清浄潔白な人間だと思うて居るのか。此の岩窟の鬼婆よりも、モ一つ悪い奴だ。心の底から改心すればよし、マゴマゴして居ると、天狗風を吹かして吹き飛ばしてやるぞ。天下の娑婆塞ぎ奴。ここを何処だと心得てゐる。貴様の目には悪神の巣窟と見えるであらうが、誠の神の目から見れば、どこもかしこも皆天国浄土だ。貴様の心に地獄が築かれ、鉄条網が張られ、鬼が巣を組んで居るのが分らぬか』 三人は頭を鉄槌にて打砕かるる様な心地し、一言も発し得ず、大地にピタリと鰭伏し、暫くは頭を得上げず、慄ひ戦いて居た。半時ばかり経ちしと思ふ頃、得も謂はれぬ美はしき天然の音楽耳を澄まして響きわたる。三人はフト頭を擡げ四辺を見れば、童子の影もなく又一枚の獣皮も無くなつて居る。 田吾作『神様から大変なお目玉を頂戴したものだ。原彦の奴率先して不言窃盗をやるものだから、斯んな目に遭つたのだよ。併し乍らマアマア結構な教訓を受けたものだ。先づ自分の心の中の鬼婆を征服して掛らねば、何程努力しても駄目だワイ』 原彦『三人の愁笑怒の神様が現はれて、噛んで呑む様に、詳細に堂々と教へて下さるのに、お前が口答へをするものだから、到頭怒鳴りつけられ、縮みあがつて、大きな七尺の男が斯んな馬鹿な態を見たのだ。チツト是れから言霊を控へて貰はねば、此先はどんな事が突発するか分つたものぢやありませぬワイ。ナア宗彦の宣伝使様』 宗彦『何事も神様のなさる事。惟神に我々は任すより仕方が有りませぬ』 田吾作『それ又覚えの悪い、今惟神と云つて怒られたぢやありませぬか。惟神中毒をすると、怒り神さんが又現はれますぞや。貴方こそ慎んで貰はねばなりませぬ』 宗彦『さうだと云つて、我々は惟神の道に仕へて居る者だ。惟神を言はなければ、宣伝も何も出来ぬぢやないか。鶏にコケコーと鳴くな、烏にカアカア囀るな、釣鐘になんぼ敲かれてもゴンゴンと鳴らずに沈黙せよと云ふ様な註文だないか。そんな天地不自然な事がどうして実行出来るものかい』 田吾作『惟神、不言実行さへすれば良のですよ。何事も心と行ひを惟神にして、口だけは暫く言はない方が宜しかろ。材木でもカンナがらをかけて見なさい、一遍々々細くなるぢやないか。あまり執拗うカンナがらを使つて居ると、結局にや糸の様になつて、結構な宣伝使神柱の資格が消滅して了ひますワ』 宗彦『ハヽヽヽ、余程怒り神様の御言が感応へたと見えるワイ。ありや一体どこから来た神様だと思つて居るのだ』 田吾作『神界の事は我々に分るものぢや有りませぬが、マア天から天降られたと云ふより仕方が有りますまい』 宗彦『馬鹿言ふな、あの怒り神さまは宗彦さまの本守護神だ。泣神さまが貴様の本守護神、笑ひ神さまが留公の守護神だ。チツト貴様改心せぬとあの通り守護神がベソを掻いて居るぢやないか』 田吾作『そりやチト違ひませう。笑つて居るのが私の守護神、怒つて居るのがあなたの守護神、泣いとる奴が留公の守護神に違ひありませぬワイ。結構な御用を仰せ付かり乍ら、お前さまはまだ腹の底に曇りがあると見えて、本守護神が怒つて居るのだ。良い加減に改心をしなさらぬと、どんな地異天変がおこつておこつて、おこりさがすか知れませぬぞ。お前さまの大将面して威張つて歩くのがあまり可笑しうて、田吾さんの本守護神が笑つて居るのだ』 宗彦『どうでも良いぢやないか。怒る神もあれば笑ひ神もあり、泣き神もある。実際のこたア、三柱の神共共通的に守護して御座るのだ』 原彦『モシモシ私丈は本守護神がどうなりました』 田吾作『お前の本守護神はまだ現はれる幕ぢやない、地平線下の身魂だから、土の上へ出る所へは往かぬ。併し乍ら孟宗竹でさへも土を割つてニユーと首を突出すのだから、どつか其辺に頭をあげかけてゐるかも分らぬぞ。チツト探して見たらどうだ』 原彦『アハヽヽヽ、身魂と筍と一つに見られちや、原彦も迷惑だ。丸でドクトルの身魂の様に、田吾さんが仰しやいますワイ。疑ふのぢやありませぬけれど、随分道理に違うた事を言ふお方ですな。 「竹の子の番人見れば藪にらみ」 アハヽヽヽ、オイ藪にらみの田吾竹さま』 田吾作『議論は後にせい。筍の身魂と云ふ事は、モウつい、日日薬で竹々と分つて来る。チクと身魂を練薬して、俺の言ふ事を膏薬(後学)の為に聞いて置くのだな。……エー何を薬々と笑ふのだい。薬価い(厄介)者奴、それよりも身魂の煎薬(洗濯)が一等だぞ』 原彦『これはこれはイカい(医界)お世話になりました。漸く医師(意思)が疎通しました。モウ此上決して、医(異)議は申しませぬ』 田吾作『キツト医薬(違約)をするでないぞ。俺の云ふ事を守れば、キツト薬九層倍の報いが出て来る。力一杯薬(約)を守つて、此上は口答へをしてはならぬぞ。俺の云ふ事はチツトは苦い事もある。併し良薬は口に苦しだ。薬(厄)雑魂を下痢させて、神霊の注射を為し、身体一面何の医(異)状もないとこまで清めて、是れから悪魔征伐に向ふのだ。心に煩ひのある時は病が起ると云ふ、其病の問屋が山の神を置去りにして、斯んな深い山い(病)あがつて来るものだから、到頭逆上して不健窃盗病が勃発するのだ、アハヽヽヽ』 宗彦『サアもう行こう。グヅグヅして居ると、中途で日が暮れて薬鑵が風を引いて了ふぞ』 二人は黙つて座を立ち、宗彦の後よりエチエチと小柴を分け、這ふ様にして胸突坂を掻きあがる。忽ち右方の谷間に当つて女の悲鳴が聞えて来た。 田吾作『イヨー怪しい声がするぞ。婆アの声にしては少し若い様だ。併し婆ア許りぢやない、沢山な女も居るであらうから、一つ声を当に実地検分と出かけたらどうでせう。ナア宗彦さま』 宗彦『追々と叫び声が高くなつて来るやうです。何か此には秘密が伏蔵されて居るでせう。私は此処に原彦さまと待つて居るから、一寸偵察して来て貰へませぬかなア』 田吾作『ハイ診察して参ります。探険家のオーソリチーの田吾作ですよ』 と早くも小柴の中に姿を隠した。宗彦は、 宗彦『アハヽヽヽ、口も達者な男だが、随分足も達者だ…ヨウヨウ、一人の声かと思へば大勢らしいぞ。こりや安閑としては居られない。私も行つて調べて見ようかな』 と首を傾げて居る。原彦は、 原彦『マア少時御待ちなさいませ。今に田吾さまが帰へつて来れば、様子が分りませうから、大方最前出た泣きの守護神が極端に泣きの本性を発揮してるのかも知れませぬぜ。最前の様なお叱言を頂戴すると困りますから、マアゆつくりと此処に待ちませうかい』 宗彦『そうだな。待つてもよいが、併し何だか気がイライラして来た。田吾作一人遣つて置くのも心許ない。………そんなら此処に待つて居るから、原さま、お前往つて来て呉れないか』 原彦『ハイ、そりやモウさうです。あまり何ですから、何となく気分が何しませぬ。ならう事なら、何々様と御一緒に願ひたいものですなア』 宗彦『分つたやうな分らぬやうな事を云ふぢやないか。ハツキリと言つたらどうだ』 原彦『現在私の心が、あなたには分りませぬか。天眼通、天耳通、漏尽通、宿命通、自他神通、感通に天言通、七神通の阿羅耶識を得たと云ふ宣伝使ぢやありませぬか、「一を聞いて十を知る身魂でないと、誠の御用は出来ぬぞよ」……と神様が仰有いませう。さうすれば貴方は最前の百点を返上なさらねばならぬ破目に陥りますよ』 宗彦『俺は天言通はお神徳を戴いて居るが、どうもまだ人語通は得て居ないのだ。況して曇つた身魂の囁きは尚更判別がつきかねる。何程近くに居つても、御神諭の通り「灯台下は真暗がり、遠国からわかりて来るぞよ」……と云ふのが本当だからなア』 原彦『左様か、左様ならばあなたも何々の割とは何々ですな。私は今迄チツト許り八丁笠を買ひ被つて居りました』 宗彦『さうだらう、御互様だ。お前もモウチツト勇気が有るかと思へば、実に脆いものだ、田吾作でさへも、一人で探険にいつたのに、わしの側にくつついて、慄うて居るとは実に見上げたものだ。生命を宣伝使に差上げると云つた癖に、ヤツパリ生命が惜いと見えるワイ。きつく俺も買ひ被つたものだワイ』 原彦『初めに言つたのは、アラ見本ですよ。見本通の物品を製造して輸出でもしようものなら、海関税を沢山取られて、今日の烈しい商業戦争に零敗を取りますワ』 宗彦『アハヽヽヽ、お前は口ばつかりの男だなア』 原彦『さうですとも、ハラから出口の神が表に現はれて、此世を悪に立直し、善の身魂を改心させるお役ですもの……』 宗彦『悪に立直し、善の身魂を改心さすとは、そら何を言ふのだ』 原彦『イヤ一寸違ひました。「ニ」と「ヲ」との配置を誤つたのです。悪を立直し、善の身魂に改心させるのです。上に付くか、下に付くか、「に」……にか、「を」にか、どつちやにせよ、チツト許りの間違ひだ。さう一字や二字配置が違つたと言つて、気の小さい事を言ふものぢやありませぬワ。アハヽヽヽ』 俄に傍の小柴の中よりガサガサと音を立て、現はれて来たのは田吾作であつた。 宗彦『ヤア田吾作か、様子はどうだなア』 田吾作『最早讐敵は攻め寄せて候へば、あなたに代つて一戦、御身は早く此場を遁れて下さりませ……と口には言へど御名残……チヽヽヽヽヽヽチンチンだ』 宗彦『ハヽヽヽヽ、そんな冗談言つてる所ぢやなからう。どんな事が起つて居つたか、早く聞かして呉れい』 田吾作『ハイ申上げます。一方の大将は大岩石を楯に取り、一丈有余の大木の小枝に甲冑を鎧ひ、一生懸命に阿修羅王の如く荒れ狂ひ、采配採つて号令をなすあり、此方の谷間よりは、又古今無双の豪傑樹上に陣取り、負ず劣らず声を限りにキヤツキヤツキヤツキヤツの言霊戦、勇ましかりける次第なり、ハアハアハアハアだ。ウツフツフツウツフツフツフウ』 宗彦『なアンだ、ちツとも分らぬぢやないか』 田吾作『ソラさうでせうとも。実地目撃した私でさへも、テンと了解の出来ない、猿芝居、否猿合戦ですもの……』 宗彦『ハヽヽヽヽ、千匹猿の喧嘩だつたのか。なアーンだ、しやうもない。……サアサア愚図々々しては居られまいぞ。此前途で又々大蛇の芝居か、熊のダンスでも開演されて居るだらう、面白い無料観覧と出かけよう』 (大正一一・五・一四旧四・一八松村真澄録)
10

(1868)
霊界物語 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) 06 三腰岩 第六章三腰岩〔七五二〕 大蛇の尻尾に跳ね飛ばされた清公は、広言を吐いたチヤンキー、モンキーの二人の目の前に腰を抜かし、醜態にも顔を顰め、大腿骨を痛め、苦虫を噛んだやうな、六ケしい顔をして気張つて居る可笑しさ。腰の立たぬ三人は、口ばかりは相変らず達者である。 チヤンキー『モーシモーシ清公さまお前は余つ程偉い奴 竜宮嶋の地恩郷左守神まで登りつめ 雪隠の虫の高上り漸う大地へ這ひ上り カンピンタンになつた上蠅に孵化して王さまの 頭の上まで登らうと企んだ事も水の泡 小便垂れて糞垂れて宇豆姫さまに撥かれて ドン底迄も顛落しいよいよ此処に改心の 実を示さうと我々を言葉巧にちよろまかし 相も変らぬ悪い事続けるつもりでスタスタと タカの港までやつて来て誰の船かは知らねども 屋根無し船を何々し吾物顔に悠々と 浪を渡つて夜のうち人目を忍んでヒル港 改心したとは何の事大事の大事の他人の船 代価も遣らずにぼつたくり三五教を此郷に 開かうとしたのが運の尽俺まで矢張盗人の そのお仲間に引き込んで大将顔を提げ歩き クシの雄滝の手前まで口と心のそぐはない 宣伝歌をば歌ひつつ同じ教の道の子の 我々二人を頤の先チヤンキーモンキーと口の先 汚い言葉で扱き使ひ主人面してやつて来た その天罰は目のあたり大蛇の尻尾に撥ねられて 左守神になつたやうに一旦高く舞ひ上り スツテンドウと土の上忽ち変る地獄道 腰弱男が腰抜かしお尻の骨を打ち砕き 吠面かわくは何の事お尻の仕末のつかぬ人 そんなお方と知らずして従いて来たのが我々の 不覚と悔んで見たとこが六日の菖蒲十日菊 改慢心の清公[※初版・愛世版では「虎公」になっているが、校定版・八幡版では「清公」に直している。「虎公」という人物はここには登場せず、文脈上「清公」が妥当である]の猫の眼球のお招伴 こんな約らぬ事はないチヤンキーモンキー騒いでも お腰が立たねば仕方ない私等二人をこんな目に 遇はして置いて清公さま何うする積りで御座るのか 余りと云へばあんまりぢやお前の腰は何うなろが お尻の骨は砕けやうが私は些とも構やせぬ お傍杖をば喰はされた私等二人は此儘に 此処で死んだら化けて出てお前の影身に附添うて 生首かかねば置かぬぞやあゝ惟神々々 目玉飛び出るやうな目に私は遇はされ耐らない 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも清公の奴は死ぬるとも 私にとつては大蛇ない早く改心した上で 我等二人が壮健でお前を見捨てて帰るやうに どうぞ祈つて下さんせ此世を造りし神直日 心も広き大直日唯何事も人の世は 直日に見直せ聞き直せ身の過ちは宣り直せ さはさりながら我々は清公の奴にこんな目に 遇はされ何うして此儘に恨み返さでおかれやうか 尻尾の毛迄一本も無い処迄抜かれたる チヤンキー、モンキーは云ふも更肝腎要の清公は 肝を抜かれて腰を抜き悲惨極まる為体 お互一様に身の上は気の毒なりける次第なり』 と自暴自棄になりて、出放題を喋り立てて居る。清公も此滑稽な揶揄半分の歌に痛さを忘れてクツクツ笑ひ出す。 清公『セイロン島の土籠黒ン坊人種の成れの果 チヤンキーモンキー両人が小糸の姫に頼まれて 可愛い妻子を後に置きお金の欲に目が眩み 義理も人情も打ち忘れ海洋万里の浪の上 汗もたらたら漕ぎ廻る時しもあれや天狗風 魔島に船は打ちあたり木端微塵となつた時 肝腎要のお客さま小糸の姫を顧みず 船は無けれど黒い尻帆をかけ登る岩の上 三年三月も雨風や天日に曝され泣き面を 乾かし蟹や貝を採り食つて漸々惜しからぬ 命をながらへ時を待つ高姫さまや蜈蚣姫の 船が来たのを幸ひに玉を匿した匿さぬと やつさもつさの押問答囀る折しもテンカオの 島は忽ち海底に沈んだお蔭で魔の神[※初版・愛世版では「魔の神」だが、校定版・八幡版では「魔の島」に直している。]は 浪に呑まれて大勢が蚊の啼くやうな情けない 声を絞つて居たところ玉治別の一行に 安い命を助けられニユージランドの玉森で エツパツパーを喰はされて泣く泣く竜宮の一つ島 タカの港に上陸し地恩の郷に登りつめ チヤンキーモンキーと呼び捨てに皆の奴等に馬鹿にされ 雪隠の中の掃除までやつて居たるを見た俺は 可愛さうだと慈悲心を起してタカの港より 黙つて船を拝借し鳥無き郷の蝙蝠に 出世をさせようと連れて来て働かさうと思つたら 卑怯未練の馬鹿者が大蛇の姿に腰抜かし 中にもチヤンキーの腰抜けは話を聞いて胴慄ひ 脛腰立たぬその態で俺に向つて屁理窟を 云ふとは些と両人の見当違ひぢやあるまいか 大馬鹿者の腰抜けが二人揃うた岩の上 愚図々々すると最前の大蛇の奴が飛んで来て 今度は深き谷底へ尻尾の先で振り落し 身を砕かれて冥途往き三途の川の鬼婆に 何ぢやかんぢやと虐められ末には血の池針の山 焦熱地獄に墜落し鬼に喰はれて仕舞ふぞよ あゝ惟神々々叶はぬからの神頼み 哀れなりける次第なりアハヽヽハツハ阿呆面 ウフヽヽフツフ呆つけ者イヒヽヽヒツヒ因果者 オホヽヽホツホ大馬鹿よエヘヽヽヘツヘエーやめて置かう』 と喋り終つた途端に、清公の腰はヒヨツコリと立つた。続いてチヤンキーの腰も亦立ち上つた。 チヤンキー『ヤア、余り清公がしようも無い事を云ふものだから、言霊の口罰が当つて、堅磐常磐に鎮座ましました石座を離れ、又徐々働かねばならぬやうになつて仕舞つた。……モンキー、貴様は幸福者だ。何処迄も泰然自若として、安楽に岩の上に暮らせる身分だ。我等両人はそろそろ是から活動に這入るのだ。何卒貴様、生神様になつて其処に胴を据ゑ、俺等両人の幸を守つて呉れ。南無モンキー大明神、叶はぬなら立ち上りませだ。アハヽヽヽ』 と二人は面白さうに足が立つた嬉しさに妙な手つきで踊つて居る。モンキーは業を煮やし、立つて見ようと焦慮れど藻掻けど、ビクともしない。たうとう自棄気味になつて下らぬ歌を喋り始めた。 モンキー『清公チヤンキーよつく聞け俺は誠の生神ぢや 岩に喰ひつき獅噛みつき胴は据わつて動かない ビクとも致さぬ大和魂貴様の腰は浮き調子 又々悪魔に導かれ大蛇の尻尾に撥かれて 再び天上するがよい俺は貴様の墜落を 空を仰いで待つて居る雪隠虫の高上がり 名は清公と申せども心の色は泥公が チヤンキーチヤンキーと偉さうに口では云へど何一つ チヤンキーチヤンキーと埒明かぬ困つた奴が唯一人 此世の中の穀潰し娑婆に居つても用はない 俺は何にも岩の神万劫末代動き無き 下津岩根に腰据ゑて貴様等二人の行末を アーイーウーエーオホヽヽヽ嘲笑ひつつ見て暮らす 四つ足身魂に汚された碌な事せぬ二人連れ 一日も速く此場をば離れて往けよお前達 愚図々々してると其辺中空気の色迄悪くする あゝ惟神々々目玉の飛び出るやうな目に 遇はせて下さい三五の皇大神の御前に 二人の為に祈りますエヘヽヽヘツヘ得体の知れぬ オホヽヽホツホ大馬鹿者奴カヽヽヽカツカ空威張り キヽヽヽキツキ気に喰はぬクヽヽヽクツク糞奴 ケヽヽヽケツケ怪しからぬコヽヽヽコツコ困り者 サヽヽヽサツサ逆とんぼシヽヽヽシツシ強太い奴 スヽヽヽスツス好ん平野郎セヽヽヽセツセ雪隠虫 ソヽヽヽソツソそぐり立てたタヽヽヽタツタ高上り チヽヽヽチツチちんちくりんツヽヽヽツツツ聾者盲人 テヽヽヽテツテ天狗面トヽヽヽトツト呆け野郎 ナヽヽヽナツナ泣きツ面ニヽヽヽニツニ憎まれ子 憎まれにくまれ世に覇張るヌヽヽヽヌツヌヌーボ式 ネヽヽヽネツネ鼠の子ノヽヽヽノツノ野天狗野狐豆狸 ハヽヽヽヽツハ薄情者ヒヽヽヽヒツヒ非常識 フヽヽヽフツフ戯けた事をしやがつて ヘヽヽヽヘツヘ屁理窟ばかり叩きよる ホヽヽヽヽツホほうけ野郎マヽヽヽマツマ曲津御霊の張本よ ミヽヽヽミツミ蚯蚓土竜の土潜り ムヽヽヽムツム蜈蚣姫臭い婆さま腰巾着 メヽヽヽメツメ盲目聾者の腰抜け野郎 モヽヽヽモツモ耄碌魂の二人連れ ヤヽヽヽヤツヤ奴野郎の イヽヽヽイツイ意地くね悪い ユヽヽヽユツユ幽霊腰 エヽヽヽエツエえぐたらしい ヨヽヽヽヨツヨ妖魅面提げて ワヽヽヽワツワ悪い事毎日毎夜考へよつて ヰヽヽヽヰツヰ一寸先は暗の夜だ ウヽヽヽウツウ迂路々々と其辺あたりを魔胡つき出だし ヱヽヽヽヱツヱ偉さうに ヲヽヽヽヲツヲ大失策を致したる大馬鹿者の臆病者………… 大腰抜けの狼野郎、お目出度い変り者だ。サア何処へなりと勝手に往け。その代りに盗んで来た船を元の所へ返して来い。さうで無ければ三五教の宣伝に歩いても亦此通りだ。脛腰が立たぬやうに致してやるぞよ。ウンウンウン』 と体を揺り、そろそろ発動し初め、岩の上で餅を搗くやうに体を上げたり下げたり、十数回繰り返し、何時の間にやら抜けた腰はちやんと元の通りに納まり、そろそろ歩き出した。 清公『ヤア、モンキー、貴様、何時の間に腰が立つたか』 モンキー『俺は初めから、決して貴様等のやうに腰は抜かしては居ないぞ。余り偉さうに家来扱ひに致すから、一寸芝居をしてやつたのだ。ウフヽヽヽ』 と肩を揺る。 チヤンキー『アレアレ、追々騒がしく聞えて来る老若男女の叫び声、こりや斯うしては居られない。いづれ三人の中一人は船を返しに帰らねばならないが、先づ神様に御猶予を願つて、大蛇の征服を済す事にしようかい』 清公『それもさうだ。余り大蛇に気を取られて祝詞奏上を忘れて居た。其罰で腰が立たなくなつたのだ。……アヽ神様、何卒お赦し下さいませ』 と三人は一所に集まり来り、高らかに天津祝詞を奏上し、天の数歌及び宣伝歌を歌ひクシの滝壺を目蒐けて進みゆく。 (大正一一・七・八旧閏五・一四加藤明子録)
11

(1928)
霊界物語 28_卯_台湾物語(日楯と月鉾) 総説歌 総説歌 三千世界の人類や禽獣虫魚に至る迄 救ひの舟を差向けて誠の道を教へ行く 神幽現の救世主太白星の東天に きらめく如く現はれぬ一切万事更世の 誠の智慧を胎蔵し世間の所在智者学者 権威と智慧に超越し迫害苦痛を一身に 甘受し世界を助け行く歓喜と平和を永遠に 森羅万象に供給し至幸至福の神恵の 精神上の王国を斯土の上に建設し 無限の仁慈を経となし無窮の知識を緯として 小人弱者の耳に克く理解し易き明教を 徹底的に唱導し如何なる悪魔も言霊の 威力に言向け和しつつ寄せ来る悲哀と災厄を 少しも心に掛けずして所信を飽く迄貫徹し 裁、制、断、割、道極め神人和合の境に立ち 悪魔の敵に遇ふ毎に益々心は堅実に 信仰熱度を日に加へ三千世界に共通の 真の文明を完成し世界雑多の宗教や 凡ての教義を統一し崇高至上の道徳を 不言実行体現し暗黒無道の社会をば 神の教と神力に照破し尽し天津日の 光を四方に輝かすマイトレーヤの神業に 奉仕するこそ世を澄す大真人の神務なれ アヽ惟神々々御霊幸はひましませよ。 大正十一年八月十日(旧六月十八日)於竜宮館
12

(1990)
霊界物語 30_巳_南米物語2 末子姫と言依別命の旅 11 言霊の妙 第一一章言霊の妙〔八五三〕 言霊の妙用は一声よく天地を震動し、一音よく風雨雷霆を駆使し叱咤する絶対無限の権力あれ共、之を使用する人々の正邪に依りて、非常なる径庭のあるものである。昨日迄バラモン教を開き、誤りたる信仰を続け、心は拗け、魂は曇り、言霊の曇りたる者は、如何に完全に、能弁に善言美詞を述べ立つればとて、万有一切に対し毫末も、其感動を与へざるは、実に神律の厳として冒す可らざる所以である。又魂よく研け慈愛に富み、心中常に寛容の徳ある捨子姫の言霊は、前者に比して極めて簡単なものであつた。されど暴悪無道の醜の大蛇も、厳として動かす可らざる捨子姫の清明無垢の臍下丹田より迸れる万有愛護の至誠より出でたる言霊には、如何に頑強なる邪神と雖も、到底之れに抵抗するの余地なく、漸く心和らぎ、浪静まり、雨は止みあたりを包む黒雲も次第に、言霊の権威に依つて払拭されて了つたのである。これにしても神界の最大重宝たる言霊の神器は、混濁せる身魂の容易に使用し得可からざる事を知らるるであらう。あゝ惟神霊幸倍坐世。 末子姫は厳然として立上り、漸く凪渡りし水面に向ひ言葉さわやかに歌ひ始めた。其歌、 末子姫『誠の神の造らしし此天地の不思議さよ 天津御空は青雲の底ひも知らぬ天の川 森羅万象睥睨し清く流れて果てしなく 星の光はキラキラと永遠に輝く美はしさ 天津日の神東天に昇りましては又西に 清き姿を隠しまし夜は又月の大御神 清き光を投げ玉ひ下界の万有一切に 恵の露を垂れ玉ふ月日は清く天渡り 浜の真砂の数の如光眩ゆき百星の 或は白く又赤く淡き濃き色取交ぜて 際涯も知らぬ大空を飾らせ玉ふ尊さよ 眼を転じて葦原の瑞穂の国を眺むれば 山野は青く茂り合ひ野辺の千草はまちまちに 青赤白黄紫と咲き乱れたる楽しさよ 河の流れはいと清く稲麦豆粟黍の類 所狭きまで稔りつつ味よき木実は野に山に 枝もたわわに香りけり天津御空の神国を 此土の上に相写し四方の神人木や草や 鳥獣や虫族の小さきものに至る迄 神の御水火をかけ玉ひ尊き霊を配らせて 天と地とは睦び合ひ影と日向は抱き合ひ 男子女子は相睦び上と下とは隔てなく 互に心を打明けて暮す此世は神の国 高天原の活映し天地の合せ鏡ぞや あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 風吹渡り荒波の巽の池に現れませる 神の御水火に生れたる大蛇の神よ活神よ 汝は神の子神の宮吾れも神の子神の宮 汝と妾とのみならず山河木草鳥獣 大魚小魚虫族も神の恵に漏れざらめ 况して尊き汝が姿人の体にいや優り いよいよ太くいや長く陸にも棲めば水に棲み 雲にも乗りて大空を翔りて昇る神力を 生れ乍らに持たせつつ何故狭き此池に 鎮まりまして世の人に悪き災なし玉ふや 神素盞嗚大神が八洲の国に蟠る 八岐大蛇や醜神を稜威の言霊宣べ伝へ 伊吹の狭霧吹棄ててすべての物に安息を 与へ給はる大神業此神業の一つだも 補ひ奉り万有に恵の乳を含ませて 救はむものと末子姫捨子の姫を伴ひて まだ十六の莟の身をば雨に曬され荒風に 梳づりつつ霜をふみ雪を渉りてやうやうに 浜辺に着きて荒波に猛り狂へる和田の原 漸く越えてテルの国テル山峠の急坂を 登りつ下りつ膝栗毛鞭うち進む二人連れ かよわき女の身を持つて天涯万里の此島に 渡り来るも何故ぞ顕幽神の三界の 身魂を助け救ふ為あゝ惟神々々 神の水火より生れたる末子の姫の言霊を 完美に委曲にきこしめし一日も早く此池を 見すてて天に昇りませ如何なる罪のあるとても 千座の置戸を負ひ玉ふ神素盞嗚の贖ひに 忽ち消ゆる春の雪花は紅、葉は緑 吾言霊に汝が命感じ玉はば今直に 此れの古巣を振棄てて元つ御座に返りませ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終つた。不思議や池水は左右にパツと開けて、白竜の姿忽然として現はれ、末子姫が側近く進み来り、感謝の涙をハラハラと流し、頭首を垂れ、暫しは身動きもせず俯伏しゐる。 稍あつて白竜は其体を縮小し、遂には目に止まらなくなつて了つた。──頭上に聞ゆる音楽の声、一同空を仰ぎ眺むれば、竜神解脱の喜びに数多の天人舞ひ下り来り、さも麗しき女神の姿と化したる巽の池の竜神を守りつつ、天空高く消えて行くのであつた。 (大正一一・八・一五旧六・二三松村真澄録)
13

(1995)
霊界物語 30_巳_南米物語2 末子姫と言依別命の旅 16 荒しの森 第一六章荒しの森〔八五八〕 頭に淡雲を頂き腰に霞の帯を引まはし ヒルとテルとの国堺大山脈の其中に 屹然として立ち青葉の衣纏ひたる 御倉山の麓の渓流は淙々として天然の琴を弾じ 涼風常に新鮮の空気を送る天国浄土の此仙境も 百日百夜雨降らず風吹かず木々の梢は萎れて 恰も枯葉の如しあゝ如何なる天の戒めか 国魂神の御怒りに出でたるか実に恐ろしき残酷の中に 陥りし如き国人の悲哀の声晨に父に死に別れ 夕べに母を見えぬ境に送る幼児はかわける慈母の乳にすがり 悲しげに泣き叫ぶあゝ天地の間に 神はまさずや、おはさずや御倉山の谷川水清く 魚は溌溂として激流を泳ぎ人間の此苦める惨状を 夢にも知らぬ人の身のあゝ神の子と生れし人間の 饑餲の幕に包まれて餓鬼道の巷に迷ひ 苦める此憐れさ人は飢に苦み 魚は洋々として清流に遊ぶ果して何の天意ぞや あゝ此矛盾、あゝ此悲惨よ天地の神も見そなはせ 国魂神も国人を守りまさずや朝夕に 空打仰ぎ地に俯し祈りし甲斐もあらざりしや 今は手を束ね眼は閉ぢて黄泉の国よりうとび来る 死の手に任すより詮術もなき此悲惨さよ。 国人は老若男女の隔てもなく国魂の社を指して 家路を後に竜世姫谷川の辺に跪き 声も弱りて虫の音の秋野にすだく如くなる 目も当られぬ悲惨の幕切つて下ろした時しもあれや 時を窺ひ隙狙ひ待ちに待ちたるウラル教の 神の司のブールアナン、ユーズの三人 外に二三の伴人と共に忽ち此場に現はれて 軽生重死の教理を説きぬされどされど人々は 今目のあたり飢に泣き玉の緒の命も切れなむとする 今や此時この際は如何に尊き神の教なればとて パンを離れて神の慈愛の心いかで肯定し得む 否定の暗は谷川の空気を濁して物凄し あゝ天道は人を殺さず人生一期の九分九厘 早玉の緒の切れなむとする其時もあれ 仁慈に充てる神の司言依別の大教主 国依別を伴ひて鳩の如くに降りまし あゝ死か生か大神の心老若男女の胸の内 谷川の水音ならで胸のとどろき 喜びの飛沫、悲しみの波漲りおつる滝津瀬の 否定の涙ぞ憐なる。ウラルの教の神司 熱弁を揮ひ口角飛沫をとばし 切りに天国の福音を宣示す神は霊なり人はパンのみにて 活くるものにあらず。あゝ霊なる哉霊なる哉 生命の水にかわける者よかわく事なく尽くる事なき 霊の真清水に活きよ天国は汝のものなり 大三災や小三災こもごも来る暗の世に 暇を告げて神の御国に今や救はれむとする 審判の御手は下されたりあゝ汝等神の慈愛に活き 混濁せる下界に心を置くなと教ゆ あゝ何たる悲惨ぞ残酷ぞ人はパンのみにて生る者に あらざると共に又人の身は霊のみにて活くる者にあらず 霊と肉とは陰陽の如く夫婦の如し ウラル教は霊を偏重し天に堕落し、神に苦む 現幽一致、霊肉同根の教理を説き 先づ肉の悩みを救ひ霊を救ふ 三五教は是れ救世の真理瑞の御霊と現れませる 言依別の神司国依別の慈愛の言葉 同情の涙にかわきたる人は甦り 其肉は栄え、霊は笑ひ枯野の如く地獄の如く 荒みし土の上も此谷川の水にうるほひ 肉に飽き忽ち地獄は天国と化する 神は必ずしも遠きにまさず高きにあらず 天国の楽みは眼前にあり身の内にあり 心の内に法悦の花は開き歓喜の水は永久に湧く あゝ何たる神の慈愛ぞ御恵ぞ 言依別の慈愛の涙暗澹たる天地の暗をてらし 国依別の世を思ふ赤き心は森羅万象を 天津日の光りに染むあゝ惟神々々 目のあたり天国を眺め浄土を楽しむ 三五教が善かウラルの教が善か 霊に活きむとして体に死し体に生きむとして霊に死す かかる悲惨を天地の神はいかでか看過せむ 霊に生き肉に活き霊肉一致、顕幽一本の真諦を説く 経と緯との綾錦織り成し玉ふ栲幡姫の 操る糸のいと長くいや永久に神の栄光と 恵は神の御子と生れ神の生宮と現れます 人々の上に下れかしあゝ惟神々々 神の御前に鰭伏してまだ来ぬ先の世の中の 世人の為に祈り奉る。国依別は御倉山の渓間に 神の教を説きさとし飢に苦む国人の命を救ひ 永久に変らず動かず悩みもなく滅びもなき 神の御国の真相を説き娑婆即寂光浄土の真諦を 人々の眼前に顕示し神の威徳と慈光に浴せしめ 国人の中よりいとも秀れたる パークスなる男に詳しく教を説き示し 名も足彦と改めさせ御倉の宮司として 数多の人々に暇を告げ宣伝歌を歌ひ乍ら 山伝ひに惟神に身を任せやうやうチルの村 荒しの森に差かかる折りしもウラル教の神司 御倉の山の谷川にて言依別や国依別に 神退ひに退はれたる意恨を晴らさむと 宣伝使ブールを先頭にアナン、ユーズの神司 数多の信徒を使嗾し天国の破壊者として 十重二十重に取巻き玉の緒の命を奪はむと 猛り狂ふ其可笑しさ国依別は鍛え切つたる魂の 光に加へて球の玉其霊光に身を浸し 今や神徳の現はれ時と衆に向つて右手の指頭より さも強烈なる五色の霊光を発射したれば ブール、アナンユーズを始めとし 生命カラガラ逃げて行く。 国依別はウラル教の寄せ手の、蜘蛛の子を散らすが如く、四方に散乱した間に、暫く息を休め、荒しの森の木蔭に腰打かけて、しばし瞑想に耽りつつ、国依別は独語、 国依別『アヽ宣伝使も実に愉快な者だワイ。三五教の御教に、宣伝使は一人の者と定められてある。言依別様が御倉の谷間に於て、すげなくも袂を別ち玉ひし時、何となく淋しみを感じ、且つ命の冷酷を恨んだ。併し乍ら、大教主の言葉を深く謹み、只一言の反問さへせなかつた。併し乍ら今になつて見れば、実に一人旅位愉快なものはない。否々決して吾は一人旅にあらず、神は汝と倶にありとの神示は、炳乎として日星の如く輝き給ふ。正義に敵する仇もなく、誠を傷つくる刃もなし。あゝ面白き哉宣伝の旅!あゝ勇ましき哉宣伝使の職掌!広大無辺の大宇宙を住処とし、天地の間を跋渉する心の愉快さ!ねぢけ曲れるウラル教の神司、信徒を、いざ是れよりは救ひ助けて、娑婆即寂光浄土の真諦を説きさとし、現代を面白く、楽しく勇ましく、過させ、又霊魂に喜びと安きを与へ、以て神の御国を地上に建設せむ。アヽ惟神、御霊幸はひましまして、天が下の青人草を、夏の木草の青々と栄ゆるが如く、笑み栄えしめ玉へ!国依別、天に跼まり、地に蹐して、大神の御前に祈願し奉る』 と両手を合せ、法悦の喜びを味はふ。 此時慌だしく此場に向つて走り来る二つの影があつた。国依別は此影を星明りにすかし眺め、 国依別『ヤアそれなる人よ、吾れは三五教の宣伝使国依別なり。慌だしく何れに向つて行き玉ふか?』 と突然に森の木蔭より声をかけられ、二人は忽ち大地に蹲がみ乍ら、 キジ、マチ『ハイ私はあなたに救はれました、キジと申す者で御座います、……私はマチと申す者で御座います。……両親は餓死し、妻子亦饑餓に迫られて帰幽、今は吾々両人共、両親妻子を失ひし不運の身の上、最早此世に活きて何の楽しみもなしと死を決し、御倉の山の谷川に横はり死を待つ内、有難くも、あなた様御二人、何処よりか現はれ玉ひ、吾々国人の生命を助け玉ひし有難さ。かかる尊き神恩に浴し乍ら、其御恩も報ぜず、のめのめと酔生夢死するに忍びず。吾々が救はれし如く亦世の人を救ひまつり、神恩を報ぜむと、お後を慕ひ遥々参つた者で御座います。どうぞあなた様の従僕となし、お伴をさして頂きたう存じまして、ここまで参りました。幾重にも宜しく御許しの程を御願ひ致します』 国依別は心の中に、 国依別『ハテ困つたなア、折角一人旅の愉快を覚り、天空海濶何の気遣ひもなく、自由自在に神の国を跋渉せむと喜び勇んだのも束の間だ。……折角ここまで遠き山坂を越え、慕うて来た二人の男、無下に断る訳にも行こまい。アヽ仕方がない。これも神様の大御心だらう……』 と口の内に呟やき乍ら、思ひ切つた様に、国依別は二人に向ひ、 国依別『三五教の宣伝使は一人旅するのが、神の掟である。されど今回に限り許しませう』 キジ『早速の御許し、有難う存じます』 マチ『何卒不束な者で御座いますが、宜しく御願ひ致します』 と嬉し涙に暮れる。之より国依別は、キジ、マチの若者を引連れ、ヒルの都を指して進み行く。 (大正一一・八・一六旧六・二四松村真澄録)
14

(2034)
霊界物語 31_午_南米物語3 国依別の旅 25 会合 第二五章会合〔八九一〕 国依別は安彦、宗彦両人と共に、樹木鬱蒼たる森林を越え、谷を渉り、小山を幾つか越えて、漸くに屏風山脈の最高所と聞えたる帽子ケ岳の頂上に登りつき、秋山別、モリス両人の此処に来り会するを待ちつつ、榧の木の根元に神言を奏上し乍ら待合せ居たりけり。 此時山の背後より宣伝歌の声聞え来たれり。 (言依別命)『神が表に現はれて善と悪とを立わける 此世を造り玉ひたる国治立大神は 豊国姫と諸共に豊葦原の瑞穂国 青人草を始めとし鳥獣や魚に虫 草の片葉に至るまで生たる命を与へつつ 各其処を得せしめて此世に清く美はしく 茂らせ玉ふ有難ささは去り乍らブラジルの 此神国は広くして高山三方に立ちめぐり 東に荒波狂ひ立つ大海原を控へたる 人跡稀なる国なれば酷の曲津は各自に 先を争ひ寄り来りアマゾン河を始めとし 時雨の森に集まりて牙を光らせ爪を研ぎ 時々山を乗り越えてアルゼンチンやテルの国 ヒル、カル其他の国々へ現はれ来り曲の業 青人草の安全を破りて此世を脅かす 其曲神を三五の清き御水火に言向けて 天が下には鬼もなく醜の大蛇や曲神の 影をば絶ちて千早振る神の依さしの神業に 清めむものと葦原の中津御国を後にして 荒波猛る海原を国依別と諸共に 進み進みてテルの国テル山峠を乗越えて 神素盞嗚大神の八人乙女の末子姫 鎮まりゐますウズ国の神の都に現はれて 暫し蹕を止めしが神素盞嗚大神は はるばる浪路を打わたりイソの館を後にして 珍の御霊の宇都の国現はれ来り宣たまはく 一日も早くアマゾンの河に沿ひたる森林に 汝言依別神二三の伴を引連れて 進めや進め早進め屏風の如く南北に 立ち並びたる青垣の大山脈の最高地 帽子ケ岳に国依別の教の司の一行が 来りて汝を待つならむ此神言を畏みて 数多の月日を閲しつつ山野を渡り川を越え 漸く此処に来りけりあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして国依別に巡り会ひ 力を合せ村肝の心を一つに固めつつ 神の依さしの神業に仕へ奉りてアマゾンの 時雨の森に迷ひたる鷹依姫の一行や 高姫、常彦、春彦の危難を救ひ森林に 蟠まりたる悪神を伊吹の狭霧に吹き散らし 生言霊の神力に悪魔を善に宣り直し 言向和し一日も早く神業成し遂げて 神素盞嗚大神の御前に復命させ玉へ 旭はてるとも曇るとも月はみつともかくるとも 時雨の森の悪神はいかに勢猛くとも 厳の御霊の大神が依さしの言をどこ迄も 楯に飽く迄戦はむあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 帽子ケ岳の東方を登り来る宣伝使は、此歌に現はれたる言依別命の一行にぞありける。 国依別は此宣伝歌を聞いて、大に喜び、百万の援軍を得たる如き心地して、襟を正して待ち居たり。安彦は嬉しげに、 安彦『宣伝使様、今の宣伝歌は何とも知れぬ清涼な言霊で、大変な強味のある音声では御座いませぬか。此様な高山へ三五教の宣伝使が出て来うとは夢にも思ひませぬが、誰がやつて来るのでせうかなア』 国依別『誰だかチツとも分らぬが、大方神様が御越しになるのだらう。サー行儀よくして、ここに坐つて、御迎へしたがよからうぞ』 安彦『ハイ、畏まりました。併乍ら、秋山別、モリスの両人は大変に遅いぢやありませぬか。大方一昨日の烈風に吹きまくられて、どつかへ散つて了つたのぢや御座いますまいかな。実に案じられた者です。宣伝使様は如何御考へなさいますか』 国依別『あの二人はまだ十分の改心が出来てゐないから、故意とに南の谷を登らせたのだよ。キツといろいろの神様の試練に会うて魂を研き、立派な人間になつて、ここへやつて来るから、お前達二人も余程しつかりせないと、恥しいことが出て来るよ』 宗彦『しつかりせいと仰有つても宗彦は、是以上如何したらよいのですか。あれ丈猛獣の声が聞えても、又襲来されても、レコード破りの大風が吹いてもビリともせず、一生懸命に御神力に依つて胴をすゑて来た吾々ぢや御座いませぬか』 国依別『まだどこやらに、胴のすわらない所が、国依別の目から見れば沢山あるよ。これから時雨の森へ行かねばならぬが、あれ位の事が何ともなかつたと云つて、自慢をするやうな事では、到底、ドエライ奴に出会した時には、怺へ切れないやうなことが出て来るよ。お前が胴をすゑて居つたといふのも、吾々が居つたからだよ。単独であの坂を越えて、胴が据わつてをつたなら、モウ大丈夫だが、三人の真中に立つて、やうやうここまでやつて来たお前の腕前、案じられたものだよ』 と話して居る折しも、モリスは秋山別の手を引いて漸く此処に登り来り、国依別の一行を見るや、余りの嬉しさに嗚咽涕泣久しうし、漸くに口を開いて、 モリス、秋山別『国依別様、誠に有難う御座いました。南の谷間を、汝等両人通つて行け……と仰せられた時は、何とも云へぬ淋みしさを感じ、又幾分か貴方を恨ンで居りましたが、イヤ実に結構なお神徳を頂きまして、始めて、神様や貴方の御仁慈の御心が分りました。吾々両人は未だ身魂に曇が多く、到底アマゾン河の言霊戦に参加する資格は御座りませなかつたが、どうやら、斯うやら、やツと及第点を得られた様な感じが致します。今更めて厚く感謝し奉ります』 と両人は土の上に手をついて、嬉し涙にくれてゐる。 宣伝歌の声は追々近付きしと見る間に、言依別命は先頭に、二三人の伴人と共に、国依別が端坐し待ち居たる榧の大木の側近く進み来る。 是より言依別命、国依別の両将はここを策源地となし、いよいよ時雨の森の魔神に対し、言向戦を開始することとはなりぬ。此物語は紙面の都合に依り、未の巻に口述する事とせり。 惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二〇旧六・二八松村真澄録) (昭和九・一二・一九於北陸路王仁校正)
15

(2219)
霊界物語 38_丑_出口王仁三郎自叙伝2 15 怒濤 第一五章怒濤〔一〇五二〕 教祖や会長に反対の連中がヒソビソと首を集めて、冠島丈けは幸ひに教祖の一行五人が無事に参つて来よつたが、到底沓島へは教祖のやうな婆アさまが行けるものでない、キツと神の怒にふれて、舟が転覆し、海の藻屑になつて了ふか、但は不成功に了つて中途から引返して帰るに相違ないとタカをくくつて嘲笑を逞しうしてゐた所が、見事今回又もや沓島開きが出来たといふ成功談を聞き、負ぬ気になり、『ナニ教祖のやうな婆アさまや娘が行く所へ行けないといふ事があるものか』と、二十人の頑固連中が沓島参拝を企て、大暴風雨に遭ふて命カラガラ、冠島に辛うじて避難し、一命を拾うた物語を述べておく。 対岸の清国では団匪の騒乱で、各国の政府が居留民保護の為に聯合軍を組織して北京城へ進軍中であつた。茲に出口の教祖は東洋の前途を気づかひ、神命のまにまに、二度までも無人島へ渡り、冒険的の企図をこらして、艱難辛苦を嘗め玉ふにも拘はらず、足立其他の役員に誑惑された信徒等は、利己一片に傾き、おのれが卑劣心より口々に、今回の教祖一行の冒険的渡海を非難し、好奇心にかられたり、一方には信者集めの手段を講じたものだなどと、盛に熱罵を逞しうしてゐる者のみである。判事ハリバートンの言に曰く『権威のある所には自然に不従順の傾向あり』と。宜なる哉、近来教祖及上田の名声の漸く大ならむとするを嫉妬し、いろいろと排斥防害運動に余念なき連中が二度までも孤島に参拝の成功に益々嫉視反抗の気勢を高め、今度は是非共会長を案内者として沓島へつれ行き、鐘岩の断岩へ登り、いろいろとよからぬ望みを遂げむと、某々等数名は鳩首謀議の結果、今一度勝手を知つた会長に同行参拝せむ事を強請して止まなかつた。万一にも否まうものなら、卑怯者と誹るであらう、今まで、屡彼等が奸計に乗せられ、九死一生の難に遭遇したる記憶の新なる一身上に取つては、恰も狼虎の道づれも同様である。何時間隙があつたら、咬殺されるやら計り知られぬ危険極まる島詣でであつた。然し乍ら敵を恐れて旗を捲くのも、神の道を宣伝する者の本意でないと、確く決心し、日夜沐浴斎戒心身を清め、神の加護と教祖の御神徳に倚信して、彼等と共に出舟参拝する事を承諾した。 万一を慮つて平素熱心なる信者、竹原房太郎、木下慶太郎、森津由松、福林安之助、時田、四方安蔵、甚之丞等の面々を引つれ、心の合はない敵味方合せて廿一名は明治三十三年七月二十日を卜し、いよいよ決行することとなつた。 二十一日の未明、四隻の漁舟は罪重き一行を乗せて、舞鶴港を漕ぎ出し、海上七里許り、冠島は手に取るやうに近く見えて来た。モウ一息といふ所で俄に東の空が変な色になつて来た。四人の船人はあわてふためき、口を揃へて、 『サア皆サン、覚悟をなされ大変なことになつて来た。あの雲の様子では大颶風だ』 と叫んでゐる。見る間に東北の空に真黒の妖雲がムラムラと湧きだした。追々風が荒くなつたと思ふ間もなく、颶風襲来、潮を蹴り飛ばし、波濤怒り狂ひ、勃乎たる海風の声は轟々と、南に北に東に西に猛び廻る。騒然たる声裡、山岳のやうな波、堅乎たる巌のやうな波浪が来る、其物凄きこと筆舌の尽す限りではなかつた。小舟を木の葉の如くに中天にまき上げるかと見れば、直に千仭の波の谷間につき落し、無遠慮に舟玉の神の目も恐れず、勝手気儘に奔弄し出した。波と波との間にかくれた一行の舟は、どうなつて了つたか、其影さへも見ることが出来ぬので、互に胸を轟かしつつあつた。恰も地獄の旅行をしてゐるやうで、何れも青息吐息の為体、蛭に塩、猫に出合ふた鼠の如く、舟底にかぢりついて縮かんでゐる。誰もかれもウンともスンとも得言はぬ弱り方、中にも松井元利といふ京都の信者は、因果を定めたか、生死の外に超然として動ぜざること岩石の如く、頭から潮を浴び乍ら、泰然自若として只天の一方のみを眺めて居る。時田金太郎が小便のタンクが破裂し相なと云つて、激浪目がけてコワゴワ乍ら放尿する。舟人が……そんな大男が立つては危険だ……と喧しく叱りつけるやうに叫ぶ。それに引替へ、臆病風に襲はれた中村は震ひ戦き、始めて口を開き、 中村『会長さん、一体どうなりますぢやいなア、今あんたの頭の上の所に大きな海坊主がいやらしい顔で、長い舌を出して、私をつかんで海へ投込むやうな手つきをし乍ら……それ今其処に睨んで居りますわいな、どうぞ坊主をいなして下され、あゝ小便がしたくて堪らぬ、どうしたらよからうか』 と周章狼狽のさま実に見るも気の毒であつた。小便がこらへきれなくなつたので、とうとう自分の飯碗の中へ放尿して、それを海へコワゴワ投げ込んでゐる。中村は驚愕の余り弱腰が抜けたと見えて、チツとも身動きが出来なくなつてゐたのである。 烈然たる颶風はよく千里の境域に達し、猛然たる旋風は万里の高きに依つて廻るかと怪しまれ、竜ならずして竜吟じ、虎ならずして虎嘯く如き光景である。一波忽ち来りて漁舟に咬つく、其度毎に潮水を沢山において行く、又次の一波のお見舞迄にと、一同が力限り命が惜さに、平常にはこけた箒もロクに起さぬやうな不精男が桶や茶碗や杓などで、一生懸命に潮水をかへ出してゐる、又一波来つて、潮水を頭といはず、背中といはず、無遠慮に浴びせて通る、忙しさ恐ろしさ、到底口で言ふやうな事ではない。 会長は一生懸命に天津祝詞を奏上し始めた。天の助けか地の救ひか、少し許り風がやわらいで来た。従つて波も稍低くなつた。此一刹那に、舟人は手早く四隻の舟を二ケ所へ漕ぎ寄せて、二隻づつからくんでみた、かうすれば舟の覆没を免れるからである。……サア是で一安心だと思ふ間もなく、今度は一層激烈な大颶風の襲来となつた。 雨は沛然として盆を覆すが如く、車軸を流すが如く、手きびしく頭の上から叩きつけるやうに降つて来る。漂渺として際限なき海原も今は咫尺弁ぜざる迄に暗黒に包まれた。怒れる浪は揉つもまれつ、荒磯の岩をも粉砕せずんばやまぬ猛勢である。白き鬣を振ふて立てる浪は真一文字に舟に組みつく、其度毎に小舟がグラつき転覆せむとする危さ、かくある以上は、平素から教祖を非難してゐた連中も、会長を嫉視してゐた小人もチウの声一つ得上げず、震ひ戦き、今は只神に依り、教祖に従ひ、会長に依頼して、命の安全を計るより外途なきに至つたのである。 人間といふものは斯うなつては実に弱い者である。神のおいましめを蒙つたと各自が思ふたのか、腹の中に企んでゐたごもくたを悉皆吐き出して前非を悔悟する、誰も彼も叶はぬ時の神頼みといふ調子で、一心頂礼口々に神文を唱へ、神にお詫を申してゐる。村上清次郎といふ男は天から四十三本の御幣が吾舟にお下りになつて、吾等を保護して下さるのが拝めますから、私は有難い事だと思ふて安心してゐます……と嬉し相に感謝してゐる。これは信仰の力に依つて、目ざめ、神のお守りあることを天眼通で見せて貰ふたものである。森津歌吉は何ともかとも得言はず、目をむき口を閉ぢて、波許り恐ろし相にながめ、時々扇子を以て波を片方へ押のけるやうな気取で、妙な手附をして拝んでゐる。舟に酔ひ、泡をば福林安之助が八百屋店をたぐり上げ苦しんでゐる。会長は聖地を出立の際、教祖より、 教祖『今度は余程神さまを頼んで気をつけて参らぬと、先日の参拝のやうに楽には行きませぬぞや、罪の塊計りだから、万々一危急の場合、命に関するやうなことのあつた時には、之を開いて見るがよい……』 と密封した筆先をお授けになつたのを、大切に肌の守りとしてつけてゐたが、披見するは今此時だと、懐中より取出し、押しいただいて披いて見れば、中には平仮名計りで、何事かが記されてある。其筆先の大要は、 『艮の金神が出口の手をかつて気をつけるぞよ、慢心は大怪我の元ぢやぞよと毎度筆先で知らしてあるが、今の人民は知恵と学計りにこり固まり、途中の鼻高になりて、神の教を聞く精神の者がなきやうになりて、天地の御恩といふことを知らぬ故、世の中に悪魔がはびこり、世が紊れる計りで、此地の上がむさ苦くて、神の住居いたす所がないやうになりたので、誠の元の活神は此沓島冠島に集まりて御座るぞよ、それ故に余程身魂の研けた者でないと、此島へは寄せつけぬぞよ、此曇りた世を水晶にすまして、元の神国に立直さねばならぬ大望がある故に明治廿五年から、神は出口の手をかり、口をかりて、いろいろと苦労をさして、世間へ知らせてゐるなれど、余り世におちぶれて居る出口直に御用をさす事であるから、今の人民は誠に致す者がないぞよ、人民は此結構なお土の上に家倉を建て青畳の上で、安心に月日を送らして貰ひ乍ら、天地の御恩を知らぬ計りか、神は此世になきものぢやと思ふて居るものがちであるから、神の守護がうすかりたなれど、人間は神がかまはねば、一息の間も生て居る事は出けぬぞよ、人間の此世を渡るのは、丁度今此小舟に乗り、荒い海を、風と波にもまれて渡るよなものである、誠に人の身の上ほど危いはかないものはない、もし此舟に一人の舟人と艪櫂がなかりたならば、直に行きも戻りもならぬよになり、舟を砕くか、ひつくり返るか、人も舟も海の藻屑とならねばなるまい、人民も神の御守護なき時は少時も此世に居ることは出来ぬ、此世の中は、人を渡す舟のようなもので、神の教は艪櫂である、出口直は此舟を操る舟人のよな者である。今の困難を腹わたにしみ込ませて、いつ迄も忘るる事なく、神さまの恵を悟つて信心を怠るなよ、何事も皆信心の力によつて、成就するのであるから、神の御子と生れ出でたる人民は、チツとの間も神を離れるな、道をかへるな、欲に惑うな、誠一つで神の教に従へ、災多き暗がりの世は誠の活神より外にたよりとなり力となる者はないぞよ云々』 といふ懇切なる神示であつた。あゝ神は吾等一行の我慢を戒め、邪念を払ひて、誠の道に導き至幸至福ならしめむが為に、此荒き海原へ連れ出し、かくも懇切なる教訓を垂れさせ玉ひしかと、悪鬼邪神の如き連中も、ここに始めて神の厚恩を悟り、教祖の非凡なる神人たるに舌をまくのみであつた。 又其筆先の終りの所に一段と細い字を以て、 『上田の持ちて居る巻物は、此際披き見よ』 と示されてあつた。此巻物は本田親徳先生より、長沢豊子の手を通じて授けられたる無二の宝典である。片時も肌を離さず、危急存亡の場合、神のお許しあるまで、決して開くなとの教を確守し、今迄大切に肌の守りにしてゐたのであるが、今や一行の精霊を救はねばならぬ場合に当り、始めて開く玉手箱、何が記してあるかと、恐る恐る押頂き伏し拝み、披き見れば…… 尊きかも、畏きかも、救世の神法、霊学の大本と数十百に亘る神業、其大要は喜楽が高熊山の霊山にて見聞したる事実と符合し、神秘に属し、他言を許されぬもののみであつた。会長は此一巻に納めたる、神法を実行する時機正に到来したりと、天にも昇るが如く勇み立ち、心鏡正に玲瓏たり、百折撓まず屈せず、暴風強雨何者ぞ、水火何者ぞ、満腔の精神は益々颶風と戦ひ、言霊の神力を以て、どこまでも之に打克たむとの勢頓に加はり来る、欲を離れ、利をはなれ、家を離れ、自己を離れ、社会を離れて只神あるのみ、全く神の御懐に抱かれゐる身は、如何なる事も恐るるに及ばず、大丈夫大安心なり、怒れよ狂瀾、躍れよ波濤、吹けよ強風、荒べよ暴風、汝の怒りは雄大なり、壮烈なり、我は今汝の怒りに依つて生ける誠の神の教を受けたり、今の会長は以前の会長に非ず、今は全く神の生宮となれり。暴風強雨来れと、十曜の紋の記されし、神官扇を差上げて、天の御柱の神、国の御柱の神、天の水分神、国の水分神、大和田津見神静まり玉へ……と宣る言霊に、不思議や風やみ雨やみ波従つて静まりぬ。舟人はおどろいて、 『先生は神さまで御座いませう』 と舌をまいて感嘆してゐる。抑も我国は神の御国なれば、惟神の道と称し、幽玄微妙の神教あり、神力無限の言霊あり、実に尊き天国浄土である。舟は漸くにして冠島へ避難する事を得た。第一着に老人島神社に供物を献じ救命謝恩の祝詞を奏上し、次いで綾部本宮を遥拝し、一行の罪重き者の沓島参拝は到底神慮に叶はざるべしと再び帰路の安全を祈りつつ厚き神の守りの下に漸く舞鶴に帰着し一同茲に一泊することとなつた。 大丹生屋の二階の一間に横臥して所労を休めてゐる、会長の枕許へ杉浦万吉といふ男出で来り、手をつかへ、面に改悛の色を現はし、涙をハラハラと流し乍ら、 杉浦『先生にお詫を致さねばならぬ事があります。申上ぐるのも畏きことなれど、実の所は吾々数名は相談の上、先生の懐にある巻物を預り、其上○○せむと○○をなし、本会の為に雲霧を払ひ清め、其後釜には四方春三サンを据ゑて、吾々が思惑を貫徹せむと欲し、其手段として先生に対し、沓島参拝を無理に御願したので御座います、乍併神様の厳しきおさばきにより、命辛々の目に会ふたのは、全く神さまより吾々に改心せよとの御戒めで御座いませう、何うぞ自分等の罪を赦して下さいませ』 と平身低頭して聞くも恐ろしい物語をするのであつた。会長は前日より略探知してゐたので、今更余り驚きもなさず、笑うてこれを許した。暫くあつて綾部の本部より教祖の命令によつて四方平蔵が四方春三を伴ひ、沓島行きの一行を迎ひに来り、一同の無事を祝し、冥土の旅から帰つたやうに小をどりして喜んだ。四方春三も杉浦の改悟を聞いて包むに包みきれず、陰謀を逐一自白し、 四方『あゝ私の心には悪神が潜んでゐたのでせう、これからキツと改心致します』 と真心から涙を流して有体に謝罪するのを見ると、却つて可哀相になつて来た。雨降つて地固まるとやら、今度の遭難にて誰も彼れも一時に悔ゐ改め、道の曙光を認めるやうになつたのも、全く神の深遠なる思召によることと、会長は益々其信念を鞏固ならしめた。 二十二日の夕方無事に館に帰り、神前に一同拝礼し各々家に帰つた。 (大正一一・一〇・一七旧八・二七松村真澄録)
16

(2324)
霊界物語 42_巳_黄金姫&清照姫の入那の国の物語2 18 酊苑 第一八章酊苑〔一一四三〕 表門の潜りの開いて居たのを幸ひ、カールチン、ユーフテス、マンモスの失恋党は十数人の部下と共に玄関の戸を蹴破り、大刀をズラリと引き抜き、セーラン王の居間に闖入し、ヤスダラ姫を除くの外、王を初め黄金姫、清照姫、セーリス姫其他の近侍共を手当り次第に斬り捨てむと、王の居間近く進み寄り、カールチンは大音声にて、 カールチン『吾こそは、右守の司、カールチンで厶る。日頃の目的を達せむ為、夜陰に乗じ、右守の司、御首頂戴せむ為立向ふたり。最早叶はぬ所、尋常に割腹あるか、但はカールチンが手を下さうか、返答承はらむ……黄金姫、清照姫の魔神を使うてイルナ城を攪乱し、人を迷はす悪神の張本、最早叶はぬ百年目、覚悟せよ』 と呶鳴りつけた。此声に驚いて黄金姫、清照姫、セーリス姫其他の近侍は、槍、薙刀を各自に引提げ、 『何猪口才な反逆人共、この神譴を食へ』 と云ふより早く突いてかかる。カールチン、ユーフテスは「何猪口才な」と獅子奮迅の勢凄じく、松明を打ち振り打ち振り斬つてかかる。一上一下、上段下段と火花を散らす其凄じさ。漸くにして王を始め黄金姫、清照姫、ヤスダラ姫、セーリス姫其他は一人も残らず打たれて仕舞つた。カールチン一派の持てる刃は、或は折れ或は鋸の歯の如くになつて居た。カールチンは死骸を部下に命じ一々門外に持ち運ばしめ、イルナ河の激流目蒐けてザンブとばかり水葬をなし、先づ凱旋の酒宴を張らむと再び奥殿に進み入り、酒汲み交はし、自慢話、成功話に時を移し、ゲラゲラと笑ふ其高声は門外にまで響き渡つて来た。 正座にはカールチン、王者然として脇息に凭れ、酒倉より秘蔵の美酒を取り出さしめ、十五六人の一隊は、胡坐をかいて無礼講の雑談に耽る。 ユーフテス『右守さま、いやいや刹帝利様、随分神変不思議の御活動を遊ばしましたなア。先づこれで一安心でございます。どうぞ今日はお目出度い日だから、十分お過し下さいませ。このユーフテスも、何だか気分がいそいそ致します』 カールチン『何と云つても智謀絶倫の某、作戦計劃に些しの違算もないのだから、今日の成功は前以て分つて居たのだ。ハヽヽヽヽ、此カールチンに向つて、夜叉の如く突かけ来るヤスダラ姫、こいつばかりは助けたいと何程焦つたか知れなかつたが、扱うて居れば遂には己の命が危なくなつたものだから、手練の槍先、ヤツとかけた一声に、ヤスダラ姫の首は宙に舞ひ上つた時の嬉しさ惜しさ、こればかりは千載の恨事だよ、エーン』 ユーフテス『どうせこんな大望を遂行せむとすれば、多少の犠牲は払はなくてはなりますまい。併しながら此ユーフテスだつて、セーリス姫をバラした時の残念さ、愉快さ、何と云つてよいか、思へば思へば愛恋の涙が零れますわい、アーン』 マンモスは早くも舌を縺らせながら、 マンモス『エヘヽヽヽ、誠に掌中の玉を無残に砕いた御両人様、お察し申します。サモア姫はお蔭様で此処へ出て来なんだものだから、命が助かつて居ります。それを思へば、このマンモス位幸福な者はありませぬなア』 ユーフテス『ウフヽヽヽ、何を云ふのだ。肱鉄を喰はされたサモア姫に、まだヤツパリ執着心をもつて居るのか、困つた代物だなア。貴様のやうに不幸なものはない。カールチン様もいや刹帝利様も、このユー様も恋の敵、肱鉄をかました女をバラしたのだから、もはや執着心はとつて仕舞つたのだから、こんな幸福はない。貴様はまだサモアが此世に残つて居るのだから、嘸気の揉める事だらう。エヘヽヽヽ、云うと済まぬが、サモア姫は、キツト俺にホの字とレの字だ。そんな事はチヤンと此間面会した時に黙契してあるのだ。このユーさまに向つて放つた視線は、誠に至誠が籠つて居たよ。俺の目が眩しい程電波を送つたのだ。もうかうなつちや、マンモス、貴様も好い加減に見切つたら……いや断念したらよからうぞ』 かかる所へ、サマリー姫、サモア姫、ハルマンの三人慌しく入り来り、此体を見て、 サマリー『お父様、セーラン王様は定めて御健全にゐらせられませうなア』 カールチン『ウン、まアまア何処かの国で御健全であらうよ』 サマリー姫『よもや、貴方は不軌を謀つたのぢやありますまいな。万々一左様な事をなされたとすれば、妾はセーラン王の妃、王の仇を討たねばなりませぬ。時あつて親子主従斬り合ひ争ふは武士の道、其覚悟は十分厶りませうなア』 カールチン『如何に夫の為だとて、親に刃向ふ奴が何処にあるか。不孝者奴、下り居らう』 と、勝ち誇りたる心より叱りつけるやうに云ひ放つた。 此時茫然として煙とも霧とも分らぬモヤモヤの中から、白装束でパツと現はれたのは王の幽霊であつた。王は幽かな声で、 セーラン王『カールチンに夜襲せられ、命を取られたワイ……汝サマリー姫、夫を大事と思へば、カールチンの命を取つて呉れよ』 サマリー姫『ヤア、さては其方カールチン、王様を殺したのだな。もう此上は了簡致さぬ。このサマリー姫が刃の錆、覚悟めされ』 と其所に落ちてあつた薙刀を取るより早く、水車の如く振り廻し荒れ狂ふ。カールチンも死物狂ひ、大刀をスラリと引き抜き、サマリー姫に向つて斬りつくれば、無残やサマリー姫は肩先を七八寸ばかり斬り下げられ、タヂタヂと七八歩後しざりして打ち倒れ、無念の歯噛をなし、其場に息絶えて了つた。 カールチン『アハヽヽヽ、女童が大事の場所へ出しやばつて、此方の大望の邪魔をなし、天罰忽ち到つてこの惨い態、吾子ながらも愛想がつきたわい。アハヽヽヽ』 と豪傑笑ひに紛らして居れど、何となく悲しみの籠つた声であつた。サモア姫は又もや薙刀を小脇に掻い込み、 サモア姫『姫様の敵、思ひ知れよ』 と云ひも終へず、カールチンに斬つてかかる、カールチンはヒラリと体をかはし、前後左右に飛びまはり、 カールチン『まづまづ待つた』 と声を限りに制しつつ逃げ廻る。サモア姫は耳にもかけず、カールチン目蒐けて斬りつくる。遉のカールチンも逃げ場を失ひ、井戸の中にざんぶとばかり落ち込んで了つた。ユーフテス、マンモスは、 ユーフテス、マンモス『狼藉者、容赦はならぬ』 と左右よりサモア姫に向つて斬つて掛る。サモア姫のキツ先の冴えに二人は肝を潰し、大地に太刀を投げ捨て、両手を合せて救ひを求むる腑甲斐なさ。ハルマンは井戸の底に落ち入りたるカールチンを漸くにして救ひ上げ、サモア姫に向つて言葉激しく、 ハルマン『暫く待てエー』 と一喝した。此時カールチンに斬り殺されたサマリー姫は、いつの間にか元の姿となり、又もや薙刀を水車の如く振り廻し、カールチン目蒐けて斬り付ける。カールチンも、 カールチン『もう此上は破れかぶれだ』 と云ひながら、再び薙刀を振り翳し、カチンカチンと刀を合せ、火花を散らして戦ふ。十二三人の従者は瞬く間にサマリー姫、サモア姫の薙刀に斬り倒されて仕舞つた。かかる所へ何所ともなく宣伝歌の声が聞えて来た。 (北光神)『神が表に現はれて善と悪とを立別ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ 身の過ちは宣り直す誠の神の御教 バラモン教の神館イルナの城の刹帝利 夜陰に乗じて襲撃し打ち亡ぼして其後を 掠奪せむと企みたる心汚きカールチン 其運命も月の国イルナの城の庭先で 血で血を洗ふ親と子の無残至極の活劇は 何れも心の迷ひより突発したるものぞかし 欲に心の眩みたる右守の司よ、よつく聞け 天地は神の造らしし貴の聖所と聞くからは 仮令深山の奥までも神の在さぬ処なし 恋と欲とに踏み迷ひ直日の魂を曇らして 自ら地獄に落ちて往く其惨状を救はむと 高照山を後にして漸く此処に北光の 吾は目一つ神司右守の司のカールチン 恋に迷へるユーフテスマンモス諸共よつく聞け 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも誠一つは世を救ふ 誠一つの麻柱の道に外れて世の中に どうして人は立つものか一日も早く片時も 悔い改めよ三人共至仁至愛の大神は 汝三人の悪心を洗ひ清めて天国へ 救はむ為に朝夕に心を配らせたまひつつ 汝が身辺を守ります其御心を知らずして 私欲や恋に踏み迷ひ根底の国の門口を 朝な夕なに開かむと焦せるは愚の至りなり あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 此三人の曲霊を洗ひ清めて天地の 神より受けし大本の厳の御霊となさしめよ あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ』 此声にカールチン、ユーフテス、マンモスはフト気がつき見れば、サマリー姫もサモア姫も影も形もなく、又ハルマンの姿もない。月冴え渡る城内の庭先の土の上に、何れもドツカと坐して居た事が分つた。かく幻覚を見せられたのは、全く神の御経綸であつて、旭、月日、高倉明神の活動の結果であつた。併し酒を飲んだことだけは、矢張事実であつて、何れも目はチラつき、足腰も立たないばかりに泥酔して居た。さうかうする中、東天紅を呈し、夜はガラリと明け放れ、煌々たる冬の太陽は斜に下界を照らしたまうた。 門番のミル、ボルチーは目を醒まし、庭先の土の上に右守の司以下の泥酔して居るに打ち驚き、奥殿さして駆入つた。 (大正一一・一一・二四旧一〇・六加藤明子録)
17

(2325)
霊界物語 42_巳_黄金姫&清照姫の入那の国の物語2 19 野襲 第一九章野襲〔一一四四〕 入那城の奥の一間には、黄金姫、清照姫、ヤスダラ姫、セーリス姫の四人は火鉢を中に囲みながら、神話に耽り、話は転じてカールチンの身の上に移つた。 黄金『右守司も種々雑多として刹帝利の位にならうと思ひ、工夫に工夫を廻らしてゐたが、とうとう清さまの美貌に迷ひ、欲と恋との二道を歩まむとして、一も取らず二も取らず、しまひの果には諦めたと見え………兵士をハルナの国へ遣はして、翼奪られしやもめ鳥あはれ………なぞと王様の前で泣言をいつて帰つて了つたが、併しあれは本気で改心をしたのではありますまい。キツと今晩あたり、失恋組を語らうてむし返しに来るかも知れませぬから、皆さま、決して油断はなりませぬぞや』 セーリス『左様な御心配は要りますまい。………かくならば最早右守の神司、君の御前に命捧げむ………と云つたのですから、ヨモヤそんな事は出来ますまい。三百騎の味方は既にハルナの国へ派遣し、武力は既に既に根底から削がれてゐるのだから、何程向ふ見ずの右守だつて、そんな馬鹿なことは致しますまいよ。………いざさらば命をめせよセーラン王、欲と恋とに迷ひし吾を………と云つて、命まで差出したのですからな』 清照『さう楽観は出来ますまいよ。恋の意地といふものは恐ろしいものですからなア。私がヤスダラ姫様になりすまして、力一杯翻弄したのだから、男の面を下げて、どうしてあのまま泣き寝入りが出来ますものか。お母アさまの仰有る通り、キツと今晩あたり、失恋組が暗殺隊を組織してやつて来るに違ひありませぬ………思はざる人に思はれ恋はれしと、思ひしことを悲しくぞ思ふ………と云つて、未練らしく愚痴をこぼしてゐましたもの、キツと此儘で泣き寝入りは致しますまい』 セーリス『それでも右守司は………今よりは生れ赤子になり変り、神と君とに誠捧げむ………と王様の前で言明したではありませぬか。あの時こそ私は右守司の心の底から出た言葉と感じました』 ヤスダラ『如何してマア此入那の城は暗闘が絶えないのでせう。昔から左守、右守は犬猫同様ぢやと聞いてゐました。仲の悪い者同志の標語は犬と猿とではなくて、入那城の左守、右守と云ふ用語迄出来てゐるではありませぬか。何とかしてかういふことのないやうに守つて貰ひたいものでありますなア』 黄金『ヤア是も誠の道の開ける径路かも知れませぬ。イヤ之が却て神様の尊き御守護ですよ。王者争臣五人あれば其位を失はず、諸侯争臣三人あれば其国を失はず、大夫争臣二人あれば其家を失はずとかいひまして、如何しても争ひといふものは根絶するものではありませぬ。又争ひの根絶した時は国家の亡ぶる時ですから、動中静あり、静中動ありといふ惟神の御経綸でせう。右守司の陰謀があつた為、セーラン王様も御威勢が天下に輝くのでせう。いつもかも平穏無事であれば、王様を始め人心弛緩して国家はますます衰頽し、政治を怠り、遂には国家自滅の悲運に陥るものです。これを思へば右守司だつてヤツパリ入那の国の柱石、心の企みは憎むべきであるが、彼が謀反を企んだ為に王の位置はますます鞏固となり、入那城の弛んで居つた箍は緊張し、国家百年の基礎を造つたやうなものですから、右守司にして改心した以上は、何処までも許してやらねばなりますまい。なア、ヤスダラ姫様、貴女は如何に思召しますか』 ヤスダラ姫『何事も善悪正邪は神様が御審判遊ばすのですから、吾々としては右守司の罪を糺弾することは出来ますまい。又自分に省みて見れば、罪に汚れた吾々同志が、如何にして人を審判く事が出来ませうぞ。只惟神に御任せするより仕方はありませぬ』 黄金姫『さうですなア。右守司だつて吾々と同じ神様の分霊、もとより悪人ではありませぬ。悪神に憑依されて、良心の許さぬ野心を遂行しようとしたのですから、其悪神を憐れみ肉体を憐れんで、善道に立帰るやうにせなくては、吾々宣伝使の職務が勤まりますまい。同じ神様の氏子だから、只の一人でもツツボにおとしては神界へ済みませぬ。右守司は春秋の筆法を以て論ずれば、右守司王位を守る入那城に忠勤を励むと見直し聞直すことも出来ませう。言はば入那城に対する救ひの神ですワ。あの鷹といふ鳥は、生餌ばかり食つて生きてる猛鳥だが、冬になると爪先が冷えて、吾身が持てないので、温め鳥といつて、小鳥を捕獲し、両足の爪でソツと握り、吾爪を温め、ソツと放してやるといふことだ。そして其小鳥の逃げて行つた方向をよく認めておいて、三日が間は其方面の小鳥を捕へないといふぢやありませぬか。鳥でさへもそれ丈の勘弁があるのだから、いはば王様は鷹で、右守司は温め鳥のやうなものだ。キツと賢明な王様は右守司の罪をお赦し遊ばすでせう。どうで今宵は夜襲に来るでせうが、大江山の眷族旭、月日、高倉明神様がお守りある以上は、キツと目的を得達せず、改心を致すでせう』 かく話す所へ、セーラン王は竜雲其他の忠実なる臣下を従へ現はれ来り、黄金姫に向ひ、 セーラン王『いろいろ雑多の御心配りに依つて、入那城も稍安泰の曙光を認めました。全く黄金姫様母子の御守護の賜物で厶います。返す返すも有難く存じます』 と感謝の意を述べ立てる。黄金姫は歌を以て之に答ふ。 黄金姫『月も日も入那の城に現はれて 三五の月の教照らせり。 三五の神の教を畏みて これの大道を守りませ君。 世の中に善しも悪しきも分ちなく 守らせ給ふ神の御稜威は』 セーラン『今となり神の教の尊さを 悟りし吾ぞ愚なりけり。 愚かなる心に智慧の御光を 照らさせ給ひし三五の神』 ヤスダラ『大君の御為国の御為と 思ひ悩みて神を忘れつ。 神なくて如何でか国の治まらむ われはこれより神に一筋。 神と君仰ぎまつりて国民に 誠を教へ諭し行かなむ』 竜雲『三五の大道を進む身なりせば 醜の曲津もさやるべきかは。 村肝の心ねぢけし竜雲も 神に照らされ真人となりぬ。 神を知り教を知るは人の身の 先づ第一の務めなるらむ』 清照『皇神の御稜威は空に清照姫の 神の司も心輝く。 今ははや入那の城を包みたる 雲霧払ひし心地こそすれ』 黄金『今しばし醜の雲霧包むとも 神の伊吹に払ひよけなむ。 セーランの王の命よきこしめせ 今宵は右守のすさびあるべき』 セーラン『よしやよし右守司の荒ぶとも 神の守りの繁き吾身ぞ。 惟神神の教に任してゆ 心にかかる村雲もなし。 悲しみも亦戦きも消え失せぬ 神の光に照らされし吾は』 セーリス『大君よ心ゆるさせ給ふまじ ひまゆく駒の繁き世なれば』 レーブ『われは今神の司に従ひて 高天原に住む心地なり。 さりながら高天原も苦しみの 交らふ世ぞと心許さず』 カル『かけまくも畏き神の御光を 仰ぎ敬ふ身こそ安けれ。 黄金姫貴の命に従ひて 入那の城に来りし嬉しさ』 テームス『照りわたる尊き神の御教に 常世の国の暗を照らさむ。 常世ゆく天の岩戸に隠れます 皇大神を引出しまつれ。 今は早天の岩戸の開け口 イルナの国もやがて栄えむ』 清照『大神と君と国との其為に 心尽しの果までゆかむ』 セーリス『よからざる事と知りつつユーフテスを あやつり来りし心恥し。 さはいへど神と君との為ならば 許させ給へ三五の神』 清照『われも亦よからぬ事と知りながら 右守の司をあやなしにけり。 カールチン右守の司よ赦せかし 清照姫のいたづら事を。 右守をばもとより憎しと思はねど 道の為には是非もなければ』 竜雲『何事も皇大神は許すべし 身欲の為のわざにあらねば』 かく歌ふ時しも、俄に玄関口の騒がしさに、レーブは一同の許しを受け、視察のために表へ駆け出した。レーブは息を凝らして外の様子を窺ひ見るに、右守司を始めユーフテス、マンモス其他十数人は、庭に敷物も敷かずドツカと坐し、携へ持つた瓢の酒をグビリグビリと呑みながら、手を拍つて切りに歌つてゐる。かと思へば、大刀を引抜き空を切り、右へ左へかけまはりつつ、バタリと倒れては起上り、一種異様の狂態を演じてゐる。レーブは不審晴れやらず、直に奥殿に引返し、王の前に復命した。 レーブ『申上げます、庭先の騒々しさに、命に依つて何事ならむと覗ひみれば、豈はからむや、右守司、門先に十数人の部下と共にドツカと坐し、酒を汲み交し、歌つて居るかと見れば、長刀を引抜き、前後左右に切り捲つて居りました。察する所、白狐さまに騙されて、月照る土の上によい気になつて酒宴を催してゐるのでせう。右守司は大変ないい声で詩吟をやつてゐました………月卿雲客或は長汀の月に策をあげ、或は曲浦の波に棹をさし給へば、巴猿一度叫んで舟を明月峡の辺に停め、胡馬忽ち嘶いて道を黄沙磧の裏に失ふ………なんて意気揚々と剣舞をやつてゐましたよ。あの詩から考へて見ますれば、畏くも王様を放逐し、あとの天下を握つた夢を見てゐるらしう厶います。実に乱痴気騒ぎといつたら見られたものぢや厶いませぬ』 セーラン王『軈て目が醒めるだらうから、明日の朝まで打ちやつておくがよからう。折角天下を取つた夢を見て喜んでゐるのに、中途に醒してやるのは気の毒だ。夢になりとも一度天下を取つて見たいといふ者がある世の中だから、一刻も長く目の醒めぬやうに楽ましてやるがよからう。アハヽヽヽ』 黄金『オホヽヽヽ王様も余程仁慈の心が発達しましたねえ。其御心でなくては、人の頭にはなれませぬぞ。サア皆さま、明日の朝まで、ゆつくりと就寝致しませう。明日は又面白い芝居が見られませうからなア』 清照姫『お母アさま、御願ですが、私だけ一寸其場へ出張させて頂く訳には行きませぬか。メツタに心機一転して、右守司様に秋波を送るやうなことは致しませぬから………』 黄金姫『オホヽヽヽ何と云つても剣呑で堪らないから、清さまは母の側を一寸も離れちやなりませぬ、猫に鰹節だからなア。オホヽヽ』 清照姫『お母アさまの御心配なさらぬやうに、セーリス姫様、貴女と二人参りませうかねえ。さうすりや、お母アさまだつて心配はなされますまい』 セーリス姫『イエイエ、それでも貴女はカールチンさまに、私はユーフテスさまに揶揄つた覚えがあるのだもの、袖ふり合ふも多生の縁と云つて、万更の他人ではありませぬからねえ。ヒヨツとして出来心が起つたら、又お母アさまに要らぬ気を揉ませねばなりますまい。モウやめませうか』 清照姫『だつて貴女、此儘寝るのも、何だか気が利きませぬワ』 黄金姫『コレ清さま、腹の悪い。又しても老人に気を揉まさうと思つて揶揄つてゐるのだなア。モウ何時だと思つてゐなさる。山河草木も眠る丑満の刻ですよ』 清照姫『王様の前だから………左様ならば、今晩はドツと譲歩しまして、お母アさまの提案に盲従致しませう。盲従組のお方は起立を願ひます。オホヽヽヽ』 セーラン王は微笑を泛べながら独り寝室に入る。黄金姫其他一同も微笑しながら、それぞれ設けられた寝室に入つて夜を明かす事となつた。 (大正一一・一一・二四旧一〇・六松村真澄録)
18

(2326)
霊界物語 42_巳_黄金姫&清照姫の入那の国の物語2 20 入那立 第二〇章入那立〔一一四五〕 サマリー姫は父カールチンの夜更けて帰り来らざるに心を痛め、サモア姫、ハルマン其他二三の家僕を従へ、イルナ城の表門を潜つて広庭迄やつて来た。東雲の空漸く紅く、霜柱の立つてゐる庭の芝生や土の上にぶつ倒れて、カールチン始め十数人の家の子はふんのびてゐる。サマリー姫は眉をひそめながら、 サマリー姫『エヽ情ない、何として又斯様な処に、父を始めユーフテス、マンモスが倒れてゐるのだらう。ハルマン、一つ揺り起してくれないか』 ハルマン『ハイ承知致しました』 と云ふより早く、捻鉢巻に襷をかけ、まづ第一にカールチンを抱き起した。カールチンは目をこすりながら、あたりをキヨロキヨロ見廻し、 カールチン『ヤア其方はサマリー姫、サモア、一体ここは何処だ。俺が酒に酔つたと思つて、屋外へ放り出しよつたのだなア。怪しからぬ事を致す、ヨーシ、此方にも考へがある』 と立上らうとする。何人の悪戯か知らぬが、庭先の巨大なる捨石に紐を以て腰から括りつけられ、動く事が出来ぬ。 サマリー姫『カールチンさま、しつかりなさいませ。ここは入那城内の大広庭で厶いますよ。貴方は昨夜よからぬ事を考へて、城内へ闖入し来たのでせう。神罰立所に当つて、こんな態の悪い乞食のやうに野天で倒れてゐたのでせう。コレ、ユーフテス、お前もシツカリせないか、何といふ黒い顔をしてゐるのだ。顔中墨が一杯ぬつてあるぢやないか』 ユーフテス『ヘー、兎も角、旦那様のお供を致しまして、うまく敵を殲滅し、いよいよ刹帝利になられた御祝にお酒を頂戴致し、余り酔うた揚句、こんな所まで、副守護神が肉体を伴れて、酔ざましに出張したと見えます。イヤもう、ラツチもないことで厶いました。アツハヽヽヽ』 サマリー姫『ナニ、其方はカールチンと共に、セーラン王様を暗殺しよつたのだなア。モウかうなる上は王様の仇敵、覚悟をしたがよからう』 と懐剣をスラリと抜いて逆手に持ち、ユーフテスに向ひ斬つてかかるを、ハルマンは後より姫の両腕をグツとかかへ、 ハルマン『先づ先づお待ちなさいませ。これには何か様子のある事で厶いませう。狼狽て仕損じてはなりませぬ』 マンモス『ヤアここは城の馬場だつた。サツパリ狐にやられたと見えるワイ。モシモシカールチン様、陰謀露顕に及んでは大変です、サア早く逃げませう。オイ、ユーフテス、お前も早く逃げたり逃げたり』 カールチン『コリヤコリヤ、両人、何も騒ぐ事はない。先づ俺の綱をほどいて、俺が逃げたあとで逃げるのだ。主人を捨てて、貴様ばかり自由行動をとるといふ事があるか、エーン』 サマリー『オホヽヽヽヽ、何とマア、とぼけ人足ばかり集つたものだなア』 サモア『見れば旦那様にユーフテスにマンモスの三人、失恋党の領袖連ばかりが、お揃ひで………何と面白い夢を見られたものですなア』 カールチンは目に角を立て、 カールチン『コリヤコリヤサモア、失恋党とは何だ。マ一度言つて見よ。了簡致さぬぞ』 サモア姫『誠に御無礼なことを申しましたなア。余り可笑しいものですから、ツイ脱線しました。オホヽヽヽ』 かかる所へ竜雲、レーブ、カル、テームスの四人、館の玄関をパツと開き現はれ来り、 竜雲『ヤア、カールチン殿、サマリー姫様、先づ奥へお越し下さいませ。王様がお待兼で厶います』 サマリー姫は嬉しげに、 サマリー姫『ハイ、お前さまは竜雲さまとやら、此カールチンの悪人をよく戒めて帰して下さい。妾は一時も早く王様に御面会を願ひませう。コレ、ハルマン、案内をしておくれ』 と云ひながら、サマリー姫は王の居間をさして、ハルマンと共に進み行く。 カールチン『到頭酒に食ひ酔うて、知らず知らずに登城の途中、斯様な所でくたばつたと見える。何者か悪戯をしよつて、某が腰に紐を括りつけよつたと見える。兎も角も竜雲殿、拙者の紐をほどいて下され。手も一緒に括られてゐるやうだ』 竜雲『アハヽヽヽ、念の入つた泥酔だなア』 と云ひながら、手早く縛めをほどいた。これはレーブが昨夜ソツと悪戯をしておいたのである。ユーフテスの顔の黒くなつたのも、矢張りレーブの副守の悪戯であつた。 カールチン『ヤア有難い、サア、是から館へ帰らう。オイ、ユーフテス、マンモス、後につづけ』 テームス『待つた待つた、さうはなりませぬぞ。今王様が右守司に面会したいと仰有つて奥に待つてゐられます。一つ御礼を申上げたい事があると言はれますから、サア遠慮なしに奥へお通りなされませ。ユーフテスさまも手水を使つて一緒に拝謁をなさいませ。マンモスも同様だ』 ユーフテス『イヤ、滅相もない、王様に御礼を云はれるやうな悪い事は致して居りませぬワイ。此場はこれで御見逃しを願ひます』 テームス『さう心配を致すな、案じるより生むが易い。マア行く所まで行つて見な、善か悪か吉か凶か分つたものぢやない。一つ悪い気がした所で、たつた一つの首をとられると思やいゝぢやないか。首の一つ位何ぢやい。アーン』 ユーフテスは首のあたりを手で探りながら、 ユーフテス『ヤア、ヤツパリ俺の首は依然として密着してゐるワイ、どうぞ今日は大目に見逃してくれ。命の親だから』 テームス『何と云つても勅命だ。綸言汗の如し。一度出づれば之を引込める訳には行かぬ。サア行かう』 と素首をグツと引掴んだ。ユーフテスは弥之助人形のやうに、ビツクリ腰をぬかし、手も足もブラブラになつた儘、テームスに引張られて、奥殿へ運ばれた。竜雲はカールチンを引抱へ、これ亦奥へ進み入る。レーブ、カルはマンモスを二人して引担ぎながら、これ亦奥殿へ運び入れた。 失恋党の三人は王の前に引出され、色青ざめ、唇を紫色に染めてガチガチと歯を鳴らしてゐる。 セーラン王『右守司殿、随分昨夜は御愉快で厶つたらうなア』 カールチン『ハイ、夢の中で夢を見まして、イヤもう何とも申上げやうが厶いませぬ』 と訳の分らぬ事を恐る恐る答へた。 セーラン王『アハヽヽ、天下をとると云ふ事は、随分愉快なものだらうなア。どうだ、是から其方は刹帝利の後をついでくれる気はないか』 カールチン『メヽ滅相もない、何事も王様の御意に任します。王様のお言葉とあらば、一言も背きは致しませぬ』 セーラン王『余が言葉ならば一言も背かぬと申したなア。それに間違はないか』 カールチン『ハイ、武士の言葉に二言は厶いませぬ』 セーラン王『然らば汝右守司、叛逆未遂の罪に依つて割腹仰せ付ける』 カールチンは此言葉に肝を潰しひつくり返り「アツ」と叫んだ。 セーラン王『割腹仰せ付けるといふは表向き、其方は今日限りテーナ姫が凱旋あるまで、閉門仰せ付ける。有難く思へ』 カールチンはヤツと胸を撫で下し、 カールチン『ハイ、割腹に比ぶれば、閉門位は何とも厶いませぬ。私一人で厶いますか』 セーラン王『イヤ、ユーフテス、マンモスも同様だ。一人々々別個に閉門する時は、妙な心を出し、悲観に陥つては却て為にならぬから、其方等三人は右守の館に同居閉門を命ずる。勝手に酒でも飲んで失恋会議でも開いたがよからうぞ』 ユーフテス『ハイ、何と粋の利いた王様、誠に以て重々の御厚恩、御礼の申上げやうも厶いませぬ』 セーラン王『汝等三人、男ばかりにては炊事其外万端に支障を来すであらう。これよりヤスダラ姫、セーリス姫、サモア姫をお給仕として百日間共々に汝の側に侍らすから、有難く思へ』 カールチンは不思議さうな顔をして、王の面体を打眺め、呆然としてゐる。 セーラン王『アハヽヽ、今日より、この入那城は三五教の教理を遵奉し、喜ばして改心をさせる方針だから、汝等も満足であらう。イヤ清照姫殿、セーリス姫殿、サモア姫殿、御苦労ながら百日間閉門を致す、三人の失恋党を満足させてやつて貰ひたい』 清照『王様、お戯談を仰有るも程があります。苟くも王者として、戯談を仰有るといふ事はありますまい』 セーラン王『決して戯談は申さぬ。清照姫殿は王の危難を救ひ、入那城の安泰を計つて下さつた殊勲者である。さりながら三五教の道に在りながら、権謀術数を以て敵を籠絡するは大道に違反するもの、是非々々カールチン、ユーフテス、マンモスの仮令百日なりとも、閉門中の世話をなし、彼等三人を心の底より満足して改心致すやうになさるのが、そなたの罪亡ぼしだ。黄金姫殿、左様では厶らぬか』 黄金姫『オホヽヽそれ見なさい、清さま、余り智慧が走ると、こんな天罰を受けねばなりませぬぞや。これだから誠正直で行かねばならぬといふのだ、自分の美貌を看板に男をチヨロまかし、王の危難を救ふのはよいが、其権謀術数が宣伝使としての行ひに反してゐるのだから仕方がありませぬ。サア清さま、セーリス姫さま、サモアさまも、男をチヨロまかした神罰が酬うて来たのだから、百日の閉門の間、三人の方に虫の得心する所まで親切を尽すのだよ。オツホヽヽ、エライことになつたものだ。王様のお言葉には、一言も反かうと思うても、背く余地がありませぬワイ』 清照『ハイ有難う厶います。三人閉門の処へ又三人の女が附添ふとは、何とマア都合の好い事でせう。お母アさま、百日も一緒に居りますと、どんな気になるかも知れませぬから予め御承知を願つておきますよ。なア、セーリス姫さま、貴女だつて、フトした機みから、本当にユーフテスさまがゾツコンお好きになられるかも知れませぬわねえ。サモアさまだつて其通りでせう。オホヽヽ』 黄金姫『エヽ仕方がない、男女の道は何程親が目を光らして居つても、防ぐことは出来ない、まして百日も離れて居れば、如何ともすることが出来ないから、清さまの自由意思に任しませう』 セーラン王『右守司殿、サア三人の女と共に男女六人、早くここをお立ちなされ』 カールチン『閉門は確にお受け致しました。併しながら、今の王様のお言葉にて満足致しました以上は、清照姫様のお附添ひは御無用で厶います。私が悪いので厶いますから、清照姫様が私をいろいろと操り遊ばしたのも、決して恨みとも無理とも思ひませぬ。かへつて清照姫様に来て貰つては迷惑を致します。又百日の閉門中に心の悪神を放り出し、誠の精神に立復りたく存じますれば、異性が側に居りましては、満足に修行も出来ませぬから、何卒こればかりは御取消を願ひます。ユーフテス、マンモスも私と同意見だと思ひますから、何卒宜しくお取上げを願ひます』 セーラン王『然らば汝の望みに任す』 カールチン『ハイ有難う厶います。心の曇つた吾々、悪逆無道をお咎めもなく、閉門位でお許し下さるとは御礼の申し様も厶いませぬ。今後は何処までも誠を尽し、王様の御恩に報ずる考へで厶いますれば、何卒々々御見捨てなく、百日後は下僕の端になりとお使ひ下さらば有難う存じます』 サマリー姫は声も涼しく三十一文字を歌ふ。 サマリー姫『大君の恵の露にうるほひて 野べの醜草も甦りける。 重々の罪汚れをもカールチン 宣直します君ぞかしこき。 カールチン父の命よ今よりは 二心なく君に仕へませ』 カールチン『有難しセーラン王の勅言 千代も八千代も忘れざらまし。 罪深き吾を見直し聞直し 宣り直します三五の神。 恋雲も今や全く晴れにけり 三五の月の光見しより』 ユーフテス『いろいろと恋の魔の手にあやつられ よからぬ事を企みてし哉。 村肝の心に住める鬼大蛇 今は全く消え失せにけり』 セーリス『ユーフテス神の司よ聞し召せ 恋と欲との二道は立たず。 欲に迷ひ恋に迷ひていろいろと あやつられたる人ぞいぢらしき。 われも亦よからぬことと知りながら 君迷はせし心は恥し』 サモア『マンモスを舌の先にていろいろと 弄びたる吾ぞうたてき』 マンモス『恥しや恋の囚となり果てて 思はず恥をさらしける哉。 大君の恵の露の深くして 重き罪科赦されにけり』 竜雲『月も日も入那の城の暗雲も 晴れて日の出の御代となりけり』 黄金『三五の神の光の現はれて 入那の城に旭かがやく』 セーラン『有難き神の御稜威に守られて 入那の城に月は輝く』 ヤスダラ『はるばるとテルマン国を逃げ出して 尊き君に会ひにけるかな。 さりながら神の光に照らされて 吾恋雲は消え失せにけり。 サマリー姫貴の命よ今よりは セーラン王に仕へましませ。 ヤスダラ姫貴の命は黄金姫の 教に従ひ神の道行かむ』 テームス『四方八方を深く包みし雲霧も はれて嬉しき今日の空哉』 カル『足曳の山野も清く晴れにけり 入那の城の神の伊吹に』 レーブ『何事もなくて治まる君が代は さながら神代の心地せらるる。 われも亦黄金姫に従ひて ハルナの空に向ふ嬉しさ』 茲にいよいよヤスダラ姫は神の教に照らされて、セーラン王を恋ひ慕ふ心を転じ、天下万民の為に誠の道を四方に宣伝せむことを誓ひ、黄金姫の一行と共にハルナの都に進むこととなつた。セーラン王は今まで忌み嫌うてゐたサマリー姫を深く愛し、夫婦相並びて入那の城に三五の教を布き、国家百年の基礎を固むる事となつた。そしてカールチンは改心の結果、右守司と元の如く任ぜられ、テーナ姫の凱旋を待つて夫婦睦じく王に仕へた。セーリス姫は王の媒酌によつてユーフテスの妻となり、又サモア姫も王の媒酌に依つてマンモスの妻となり、入那城に仕へて子孫繁栄した。黄金姫は清照姫、ヤスダラ姫及びハルマンと共にハルナ城に向つて進むこととなり、レーブ、カル、テームス、竜雲は別に一隊を組織し、三五教の宣伝歌を歌つて各地を巡教しつつ、ハルナの都を指して進み行くこととなつた。リーダーは王の忠実なる臣下となつて側近く仕ふる事となつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一一・二五旧一〇・七松村真澄録)
19

(2340)
霊界物語 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) 05 感謝歌 第五章感謝歌〔一一五六〕 玉国別『大神の恵み開きぬ詳細さに 清き目の玉国別の司。 あり難し神の恵みに照らされて 常夜の暗も晴れ渡りたり。 北光の神の司になれとてや 一つの眼とらせ給へり。 これからは心を片眼身を片眼 神の光を照らし行くべし。 盲ひたる人の沢なる世の中に 吾は嬉しき目一箇の神か。 玉国別神の司は今よりは 身魂を磨き道に尽さむ。 玉しひを神と御国に捧げつつ 道別進まむ荒野ケ原を。 常夜往く闇夜も晴れて吾眼 一入清く光り初めたり。 山猿に掻きむしられし吾眼 玉国別の魂を救ひつ。 昔より良からぬ事をなし遂げし 吾身の仇を悔しと思ふ。 吾魂は神の御国に甦り 不可知世界の光見たりき。 肉の眼を失ひたりし其時ゆ 悟り得にけり神の世界を。 天ケ下四方の国々隈もなく 照らし行くなり片目司は。 万代のかためと神は定めけむ 心にたちし国の御柱。 吾は今一つの眼失ひて 所存の臍をかためたるかな。 逸早く神の大道に進み行かむ 行手にさやる枉言向けて。 三五の神の教ぞ有難き 心の盲目救ひ行く道』 道公『玉国別神の命は吾々の 弱き心をかためますらむ。 河鹿山渡りて来れば猿の群 吾等三人の眼さましつ』 伊太公『いたいたし君の眼を見るにつけ 吾目の中に涙こぼるる。 時置師神の命はライオンに 跨り来たり吾を救ひぬ』 玉国別『目の光失ひゐたる吾身には 神のいでまし悟らざりけり。 あな尊と吾等四人を救はむと 現はれますか時置師神。 天地の神は吾等を守りまし 助け給ひし事の尊さ』 純公『大空の澄み渡りたる秋の日も 暫しは雲に包まることあり。 水筒を道に落して伊太公が 狼狽へ騒ぎし事の可笑しき。 谷川に下りて汲みとる岩清水に なやみ去りけり水の魂。 瑞御霊神素盞嗚の神徳は 谷の底まで流れけるかも。 瑞御霊幸はひまして世の明り 五六七の神の救ひ尊し』 道公『道を行く人に会ふごと三五の 神の教を宣べ伝へばや。 今となり神の稜威を悟りけり 吾師の君の目の開きしより。 目も鼻もあかざる事が来るぞよとの 神の教をいまさら悟りぬ。 惟神神に従ひ行く身には 何か恐れむ世の中の道』 玉国別『天地の神の光を拝みてゆ 吾身魂さへあかくなりぬる。 照国別神の命は今何処 大御恵みに安く居まさむ。 黄金姫清照姫の便りをも 聞かま欲しけれ旅なる吾は。 吾罪を赦し給ひし大神の 心畏み御世を教へむ。 罪深き吾身なりとは今の今 目を破るまで悟らざりけり。 省れば吾身は枉の容器と なりゐたりしかいとも恥かし』 道公『千早振る天の岩戸は開けたり 吾師の君の眼清けく。 村肝の心を神に任せつつ 進み行くべし荒野ケ原を。 大道に迷ひし人を悉く 導き行かむ神の御国へ』 伊太公『ゆくりなく吾師の君の遭難に 伊太公今や眼覚めたり。 幸ひに二つの眼光れども 吾心眼の闇きを悲しむ』 純公『すみ渡り大空伝ふ月見れば 心恥しくなりにけるかも。 月も日も下界を照らし給へども 時に黒雲さやる忌々しさ』 玉国別は左の目の光を得たるを打喜び、三人を従へ山を下りて坂道に出で、宣伝歌を歌ひ乍ら下り行く。 玉国別『三千世界の梅の花一度に開く木の花の 咲耶の姫の御守護杢助司と現はれて 獅子の背中に跨りつ伊猛り狂ふ猿の群 峰の彼方に追ひ散らし吾等が盲目の一行を 救はせ給ひし有難さ右の眼は失せたれど 吾等が運命まだ尽きず神の司と選ばれて 伊猛り狂ふ枉神を言向和す宣伝使 許させ給ふ神の愛辱なみて今よりは 百の艱難もいとひなく天地の神の御為めに 誠一つの三五の教を楯に四方の国 勇み進んで開き行くあゝ有難し有難し 神は吾等と倶にあり神の御子と生れたる 青人草は云ふも更草木の片葉に至るまで 恵みの露を施しつテームス峠やライオンの 激流渡り玉山の胸突坂も乗り越えて 神の任しの神業に仕へまつらむ四人連れ あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 完全に委細に神業を遂げさせ給へと天地の 尊き神の御前に玉国別が真心を 捧げて祈り奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 神の恵みの深きをば如何でか忘れむ敷島の 大和男子の魂は岩をも射ぬく桑の弓 ひきて返さぬ金剛心空照り渡る日月の 光も清き玉国別は一切万事打捨てて 神の御為世の為に誠を筑紫の果てまでも 勇み進んで出でて行く道公伊太公純公よ 汝も神の子神の宮吾に従ひ何処までも 至仁至愛の大神の大御心に神習ひ 清き司と成りおほせ四方の国々島々を 隈なく照らし救へかしあゝ惟神々々 河鹿峠の峻坂を神に守られ下りつつ 玉国別の赤誠を披瀝し慎み願ぎまつる』 道公は足拍子をとり乍ら歌ひ出した。 道公『河鹿峠の急坂を玉国別に従ひて 懐谷の麓までやつと来かかる折もあれ 前代未聞の烈風に吹き捲られし腑甲斐なさ 吾師の君を初めとし吾等弱虫三人は 木の根に確としがみつき冷き風に煽られて 戦き居たる浅間しさ夜は森々と更け渡り キヤツキヤツキヤツと猿の声瞬く間に数千匹 四方八方より取巻いて威喝したのが吾々の 小癪にさはり腹を立て睨み佇む折もあれ 猿の奴め増長しておひおひ近より攻めかかる 伊太公さまが鼻高く長い口上並べ立て 呂律も合はぬ宣伝歌無性矢鱈に歌ひ出す 流石の猿奴も呆れ果てザワザワザワと騒ぎつつ チクチクチクと攻め寄する伊太公の奴は無謀にも 猿の一匹掴まへて力を籠めて突倒す サアそれからが大変だ小人数連れと侮つて 衆を恃んで四方から爪を尖らせ迫り来る 中に勝れた大猿は玉国別の後より キヤツとも何とも吐さずに二つの眼を掻き潰し 勝鬨あげて逃げて行く其外数多の小猿奴は 各自に石を拾ひ上げ雨や霰と投げつける 危険刻々迫り来て如何はせむと思ふ折 かすかに聞ゆる宣伝歌間もなく獅子の唸り声 衆を恃みし猿共もキヤツと一声背を向けて 雲を霞と山の尾を伝つて逃げ行く面白さ 四辺を見れば此は如何に玉国別の神司 眼を押へ紅の血潮をトボトボ落しつつ 痛さを堪へて草の上に蹲みますこそ悲しけれ 吾等三人は狼狽し一先づ伊太公を谷川へ 水筒を持たして水汲みに遣はしやれば慌者 道に水筒を遺失して手持無沙汰に帰り来る 肝腎要の此時に間に合はないとぼやきつつ 純公添へて谷底へ再び水を汲みにやる 何ぢや彼ぢやと大騒ぎ吾師の君は土の上に 両手を合せ天地の神に向つて詫び玉ふ 神徳忽ち現はれて眼の痛みは軽減し 漸く片目は助かりて再び此世の明りをば 拝み給ひし嬉しさよあゝ惟神々々 神の恵は目のあたり吾もそれより皇神の 深き恵を覚り得て心境たちまち一変し 挺でも棒でも動かない信神堅固の信徒と なり変りたる尊さよ神が表に現はれて 善と悪とを立別ける尊き道の御教 今更思ひ知られたり如何に罪科深くとも 誠心に祈りなば広き心に宣り直し 見直しまして速けく許させ給ふ神の愛 伊太公純公両人よ此処は名に負ふ急坂だ 足の爪先気をつけて何卒怪我などして呉れな 俺もこれから気をつけて板を立てた如うな坂道を いと悠々と下り行くこれも全く皇神の 尊き恵と知るからは寸時も神を忘れなよ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ一行の後について下り行く。 (大正一一・一一・二六旧一〇・八北村隆光録)
20

(2457)
霊界物語 48_亥_治国別の天国巡覧2 04 雪雑寝 第四章雪雑寝〔一二五八〕 蠑螈別は次の神殿の間に進んで一生懸命に祈願を凝らしてゐる。後にはランチ将軍、お民、アーク、タールの四人が冷やかな笑を泛べて、暫く沈黙の幕を下ろしてゐた。アークは口を開いて鼻柱の両方を右の手でクレリクレリと擦り上げながら、 アーク『モシ将軍様、今承はれば実に御愉快な事で厶つたさうですな。何処ともなしに御雄壮なる………否歓喜に充たされた御尊顔を拝し奉り、アーク身にとり恐悦至極に存じ承ります。古より英雄色を好むとか伝へ聞いて居りまする、之にて将軍様も初めて英雄の英雄たる器量を発揮遊ばしたと云ふもの、いかでか之を祝せずに居れませう。然しお祝には酒がつきものです。酒がつかなければあまり縁起がよくないものです。将軍様の此お祝をして永遠無窮に益々幸あらしめむために、お酒を一杯頂戴する訳には行きませぬか。幸ひお民殿がここに居られますれば、お酌は合うたり叶うたり、万事惟神的に出来て居ります。如何で厶りませう』 ランチ『アーク、其方は気の利いた奴だ。やはり俺が幕僚に栄転させて使つたのは、要するに先見の明ありと云ふべしだ。よし、其方の言葉が気に入つた、何程なりと酒は飲み放題、然しながら軍規紊乱の恐れあれば、あまり部下の者には知らさぬ様に幕僚のみ私かに酒宴を催すであらう』 アーク『早速の御承知、流石は明智の大将、吾意を得たりと云ふべしだ。エヘン、おいタール、如何だ、俺の言霊は其功力忽ちだ、恐れ入つたか』 タール『うん、斯ふ云ふ時にや貴様は最適任だ。その代り敵陣に向つちや一番がけに逃げる奴だからな。弱い敵と見りや無性矢鱈に追駆けて行きよるが、少し許り敵が強いと見たら尻に帆かけてスタコラ、ヨイヤサと一目散だから大したものだよ。アハヽヽヽ』 ランチ『コリヤコリヤ両人、此目出度い時に、左様な争ひは不吉だ。七六かしい戦なんかの話はやめてくれ。それよりも話は止めてお民に酌をさせ、二人の珍客に舞ひつ踊りつ、お慰みに供するのだな。エヘヽヽヽ、サア早く将軍の命令だ、用意!一、二、三!』 アーク、タールは早速此場を外し、酒の用意を整ふべく出て行つた。あとにランチ将軍とお民は差向ひとなつて、一つの火鉢を隔て小さい声で何事か囁いて居る。 お民『将軍様、貴方は軍人がお好きで厶りますか、但は理想の女と民間に下つて楽しくお暮し遊ばすがお好きですか、承はりたいものですな』 ランチ『ウン、俺はもとはお前の知つてる通りバラモン教の大宣伝使兼大将軍だ。右の手に剣を持ち、左の手にコーランを携へて臨み、教を聞くものは之を善人と見做し、教を聞かないものは之を魔物と見做して斬り捨つるのが将軍の役だ。是位愉快な事があらうか。将軍の権威を以てすれば、何事も意の如くならぬ事はないのだから、何処迄もバラモン教の宣伝将軍は止められないのだ。実に吾々の威勢は空に輝く日月の如きものだ。其方も吾前に近く侍り、実に光栄だらう』 お民『ハイ、光栄に存じます。然し軍人と云ふものは天下泰平の時には必要がないものですな、斯ふ云ふ乱世になれば無くては叶ひますまい。其点になれば軍人さまは国家の柱石、平和の守り神様で厶ります。併しながら貴方等の神力と武力によつて世界が平定され、真善美の平和が建設されたならば、軍人はおやめになりませうな、否必要がありますまいな』 ランチ『ウン、それもさうだ。併しそれは云ふべくして行ふべからざるものだ。徒に高遠な理想世界を夢みた所で、所詮此世の中は戦ひの世の中だ。弱い者は到底頭の上らない娑婆世界だ。さうして不幸にして世界が平和に治まり善人ばかりになつたら、俺達軍人はサツパリ商売が出来ない。敵が現はれて各所に動乱が起ればこそ俺達の威勢も出るなり、又安楽に生活が出来るのだ。世の中は善悪混淆だよ、芝居だよ。虚偽と罪悪とを擅にする世の中だ。よく考へて見よ、瀬戸物屋は瀬戸物の割れる事を好み、坊主は死者の多からむ事を願ひ、医者は病人の多からむ事を望み、スパイは小盗人の多からむ事を欲し、役人は罪人の最も多きを以て自分の商売の繁栄として喜ぶのだ。何程三五教とやらが此世の中を水晶にすると云つても五六七の世を建設すると云つても、それは口先ばかりだ。要するに商売の能書だ、広告手段だ。お前もチツと時代に目を醒し社会の潮流に遅れない様にしたがよからうぞ。之が人世の径路だ。さうして悪を喜ぶのは人間の本能だ。己を安全にし己の幸福を得むとすれば、必ずや他を亡し他を圧迫し他の利益を掠奪せなくちや、到底世に時めき渡り、貴人となり富豪となり紳士紳商となることは出来ない。お前のくはへて来た蠑螈別も余程薄野呂だな。あれ見よ、泡沫に等しき経文を楯に、此ランチ将軍の命を祈りによつてとらう等と、アハヽヽヽ……扨ても扨てもうぶな考へだ。殆ど今日の時代より一万年ばかりおくれて居る。チツと脳味噌の詰替をしてやらなくちや此陣中でも使ひ様がないわ』 と調子に乗つて体主霊従主義をお民に向つてまくし立ててゐる。お民は善悪に迷ひ、只俯向いて考へ込んでゐる。 お民『もしランチ将軍様、夜前のお二人の美しいお方は何方へ行かれました。一度拝顔を願ひ度いもので厶りますな』 ランチ『ウン、あまり話に実が入つて、肝腎のナイスを念頭より遺失して居た。オー、さうだ、斯んな事してる時ぢやない、ヒヨツと片彦にでも占領されちや大変だ。いやお民殿、其方は蠑螈別に対し某が今申した言葉、トツクリと云ひ聞かしたがよからう、それが合点が行つたら、お前と二人此陣中に大切にしておいて上げよう』 お民『ハイ有難う厶ります。御存じの通りの男で厶りますから、お気に障る事をチヨイチヨイ申しませうが、何卒大目に見てやつて下さい。蠑螈別は少々ばかり精神上に欠陥が厶りますから』 ランチ『ウン、ヨシヨシ、精神病者ならば又その積りで、つき合うて上げよう、随分気をつけてやつたが宜からう』 お民『ハイ、お情深いお言葉、お民の肝に銘じて、何時の世にかは忘れませう。将軍さま、有難う厶ります』 と手を組んで涙を流し感謝してゐる。 アーク、タールの両人は酒房へ振舞酒をとり出すべく欣々として進みやつて来た。見れば一人の男が壺に杓を突つ込みグビリグビリと飲んでゐる。よくよく見れば同僚のエキスであつた。アークはエキスの後から足音を忍ばせながら近く進み寄り、 アーク『オイ』 と一声呶鳴ると共に背中を三つ四つ喰はした。エキスは不意を打たれて杓をパツと放し、呂律も廻らぬ舌で、 エキス『ダヽヽヽ誰ぢやい、エーン、人が折角いい気分になつてるのに、後から来やがつて脅かしやがつたな。マア待て、今に将軍様に訴へてやらう』 アーク『コリヤ、貴様はエキスぢやないか、エーン、俺の方から訴へてやらう。酒泥棒奴、誰の許しを得て此処に来たのだ』 エキス『エーン、八釜しう云ふない。同じ穴の狐ぢやないか。貴様だつて今酒を盗んで喰はうと思つて来やがつたのだらう。俺が一足先に来たばかりだ。やはり酒を盗む心は同じだ。俺の事を云ふと貴様の事を素破抜くぞ』 アーク『馬鹿云ふな。俺は将軍様の命令によつて今日お祝があるのでお酒をとりに来たのだ、なあタール、さうだらう。それにエキスの奴、俺達迄自分の卑しき心に比べて盗人呼ばはりをするとは怪しからぬ奴だ。こりやエキス、違ふと思ふなら将軍様に聞いて見よ』 エキス『酒の上でした事は罪はないわい。そんな野暮な事を云ふものぢやない。マア貴様も一杯やつたら如何だ』 アーク『アハヽヽヽ、到頭折れて来よつたな。それでは御酒宴に先立つて毒味をして見よう。もし味が悪けりや直して置かんならぬからな』 エキス『アハヽヽヽ、到頭地金を出しよつたな。オイ、鍍金先生、偉さうに云つても、塗つた金箔は剥げるから仕方がないわ。エー』 タール『オイ、アーク、ここで飲んぢやいけない、樽にドツと詰め込んで将軍様の前に持つて行かう。そしてエキスの事をスツパぬいてやらう。さうぢやないと、成上り者の癖に威張りよつて仕方がないからな』 エキス『ヘン、貴様も成上がり者ぢやないか、俺ばつかりぢやないぞ。人の事を云はうと思へば自分の蜂から払うてかかれ。人を呪はば穴二つだ、本当に馬鹿だな』 アーク『エー、何だか喉の虫が頻りに汽笛を吹き出した。飲みたい事はないけど、機関に油を注すと思うて、ホンの三升ばかり喉を潤はして見ようかい。オイ、タール、そんな七六かしい顔せずに、つきあうたら如何だ。なあエキス、さうだらう』 エキス『ウン、さうだ。気に入つた。人間はさうなくちやいけない、タールの様な唐変木は社会の落伍者だ。可憐さうなものだな』 タール『ヘン、馬鹿にすない』 と腹立ち紛れに杓をグツと取り、酒壺にグツと突つ込み鯨飲をはじめた。 エキス『アハヽヽヽ、到頭、俺の舌に捲き込まれよつたな。然し吾党の士だ。えらいえらい』 と凡ての紛紜はケロリと忘れ、三人は交る交る杓に口をつけてガブガブと飲みさがし、前後不覚になつて其場に倒れて了つた。蠑螈別、お民はヒヨロリヒヨロリと何気なう此場に現はれ来り、三人の打ち倒れてゐる姿を見て打驚き、 お民『マアマア、此方はアークさま、タールさま、エキスさまぢやありませぬか。マア何うしてこんな処に倒れて厶るのだらう。家がないものかなんぞの様に土の上に倒れて、みつともない処を丸出しにして、エーマアいやな事』 蠑螈別『此奴ア盗み酒に喰ひ酔うて倒れてゐるのだ。何と酒の酔と云ふものは見つともないものだな』 お民『貴方だつて何時もお酒にお酔ひになると、もつともつと見つともないですよ。そんな時の姿を見ると三年の恋もゾツとして醒ましますよ。私なりやこそ、貴方を今迄愛して来たのですよ。本当に男と云ふものは卑しいものだな。吾身の正念がなくなる処まで意地汚い、本当に嫌になつて了ふわ。蠑螈別さま、之を見て酒をこれつきり止めて下さい』 蠑螈別『ウン、側から見て居りや見つともないが、酔うて居る本人になつたら愉快だよ。俺や如何しても止められない。死んだら如何か知らぬが、息のある間は止められないよ』 お民『それなら、貴方は酒と私と、どちらか止めなならぬと云つたら、何方をお止めになりますか』 蠑螈別『ウン、さうだな、小豆餅食たか、島田と寝るか、小豆餅食て島田と寝ると云ふ事があるだらう。酒も好きだ、お前も好きだ。何方と云ふ事は出来ないね』 お民『米を潰して拵へた植物の液汁と神様の生宮たる人間と同様に見られちや堪りませぬわ。そんな水臭いお方なら今日限りお暇を下さい。さうして貴方は腸の腐る所までお酒をお上りなさいませ』 蠑螈別『アーア、酒は飲みたし、女には別れともなし、えらいヂレンマに罹つたものだな。アヽもう堪らぬ。此香を嗅いぢや立つても居ても居れない』 と云ひながら鏡のぬいた酒を見ながら、両手で樽を抱へながらグウグウと鯨飲し初めた。忽ち蠑螈別は其場に酔ひ倒れ、此処に四人の泥酔者の雑魚寝が初まつた。お民は逸早く此場を立去り、奥の間さして進み行く。 凩が持て来る雪しばきは遺憾なく四人が地上に倒れた上に降り注ぎ、次第々々に雪はこまかくなり来り、ザアザアと砂を撒く様な声を出して、四辺雪襖を立てた様になつて来た。忽ち四人の身体は積雪に包まれて了つた。 (大正一二・一・一二旧一一・一一・二六北村隆光録)