| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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1 (92) |
ひふみ神示 | 3_富士の巻 | 第12帖 | 御土は神の肉体ぞ。臣民の肉体もお土から出来てゐるのぞ、この事分りたら、お土の尊いことよく分るであろがな。これからいよいよ厳しくなるぞ、よく世の中の動き見れば分るであろが、汚れた臣民あがれぬ神の国に上がってゐるではないか。いよいよとなりたら神が臣民にうつりて手柄さすなれど、今では軽石のような臣民ばかりで神かかれんぞ。早う神の申すこと、よくきいて生れ赤子の心になりて神の入れものになりて呉れよ。一人改心すれば千人助かるのぞ、今度は千人力与えるぞ、何もかも悪の仕組は分りているぞ、いくらでも攻めて来てござれ、神には世の本からの神の仕組してあるぞ、学や知恵でまだ神にかなふと思ふてか、神にはかなはんぞ。八月の二十一日、 |
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2 (131) |
ひふみ神示 | 4_天つ巻 | 第24帖 | 今の臣民めくら聾ばかりと申してあるが、その通りでないか、この世はおろか自分の身体のことさへ分りては居らんのざぞ、それでこの世をもちて行く積りか、分らんと申しても余りでないか。神の申すこと違ったではないかと申す臣民も今に出て来るぞ、神は大難を小難にまつりかへてゐるのに分らんか、えらいむごいこと出来るのを小難にしてあること分らんか、ひどいこと出て来ること待ちてゐるのは邪のみたまぞ、そんなことでは神の臣民とは申されんぞ。臣民は、神に、わるい事は小さくして呉れと毎日お願ひするのが務めぞ、臣民近慾なから分らんのぞ、慾もなくてはならんのざぞ、取違ひと鼻高とが一番恐いのぞ。神は生れ赤子のこころを喜ぶぞ、みがけば赤子となるのぞ、いよいよが来たぞ。九月十日、ひつ九のかみ。 |
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3 (252) |
ひふみ神示 | 8_磐戸の巻 | 第16帖 | 世の元からの生神が揃うて現はれたら、皆腰ぬかして、目パチクリさして、もの云へん様になるのざぞ。
神徳貰うた臣民でないと中々越せん峠ざぞ、神徳はいくらでも背負ひきれん迄にやるぞ、大き器もちて御座れよ、掃除した大きいれものいくらでも持ちて御座れよ、神界にはビクともしぬ仕組出来てゐるのざから安心して御用つとめてくれよ。今度はマコトの神の力でないと何も出来はせんぞと申してあろが、日本の国は小さいが天と地との神力強い、神のマコトの元の国であるぞ。洗濯と申すのは何事によらん、人間心すてて仕舞て、智恵や学に頼らずに、神の申すこと一つもうたがはず生れ赤子の心のうぶ心になりて、神の教守ることぞ。ミタマ磨きと申すのは、神からさづかってゐるミタマの命令に従ふて、肉体心すてて了ふて、神の申す通りそむかん様にすることぞ。学や智を力と頼むうちはミタマは磨けんのざ。学越えた学、智越えた智は、神の学、神の智ざと云ふこと判らんか、今度の岩戸開きはミタマから、根本からかへてゆくのざから、中々であるぞ、天災や戦ばかりでは中々らちあかんぞ、根本の改めざぞ。小さいこと思ふてゐると判らんことになると申してあろがな、この道理よく肚に入れて下されよ、今度は上中下三段にわけてあるミタマの因縁によって、それぞれに目鼻つけて、悪も改心さして、善も改心さしての岩戸開きざから、根本からつくりかへるよりは何れだけ六ヶ敷いか、大層な骨折りざぞよ。叱るばかりでは改心出来んから喜ばして改心さすことも守護神にありてはあるのざぞ、聞き分けよい守護神殿少ないぞ、聞き分けよい悪の神、早く改心するぞ、聞き分け悪き善の守護神あるぞ。この道の役員は昔からの因縁によってミタマ調べて引寄せて御用さしてあるのざ、めったに見当くるわんぞ、神が綱かけたら中々はなさんぞ、逃げられるならば逃げてみよれ、くるくる廻って又始めからお出直しで御用せなならん様になって来るぞ。ミタマ磨け出したら病神などドンドン逃げ出すぞ。出雲の神様大切申せと知らしてあること忘れるなよ。子の歳真中にして前後十年が正念場、世の立替へは水と火とざぞ。ひつじの三月三日、五月五日は結構な日ぞ。一月十四日、 |
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4 (297) |
ひふみ神示 | 11_松の巻 | 第6帖 | 今の世に出てゐる守護神、悪神を天の神と思ってゐるから なかなか改心むつかしいぞ。今迄の心すくりとすてて生れ赤子となりて下されと申してあろが。早よ改心せねば間に合はん、残念が出来るぞ。この神示わからんうちから、わかりておらんと、分りてから、分りたのでは、人並ざぞ。地の規則天の規則となる事もあるのざぞよ。六月二十二日、アメのひつ九のかみふで。 |
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5 (440) |
ひふみ神示 | 20_梅の巻 | 第13帖 | 天の岩戸ばかりでないぞ、地の岩戸臣民の手で開かなならんぞ、誠一つで開くのぢゃ、誠のタチカラオの神、誠のウズメの命殿、御用結構ぞ。ダマシタ岩戸開きではダマシタ神様お出ましざぞ、この道理判らんか、取違ひ禁物ぞ、生れ赤子の心になれば分るのぢゃぞ。今の臣民お日様明るいと思ふてゐるが、お日様、マコトの代のマコトのお日様どんなに明るいか見当とれまいがな。見て御座れ、見事な世と致してお目にかけるぞ、神示読みて聞かせてやれよ、嫌な顔する人民後廻しぢゃ、飛び付く人民縁あるのぢゃ、早う読み聞かす神示より分けておいて下されよ、間に合はんぞ、御無礼ない様に致し下されよ。十一月十七日、一二の神。 |
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6 (881) |
ひふみ神示 | 35_極め之巻 | 第15帖 | 右の頬をうたれたら左の頬を出せよ、それが無抵抗で平和の元ぢゃと申してゐるが、その心根をよく洗って見つめよ、それは無抵抗ではないぞ、打たれるようなものを心の中にもっているから打たれるのぞ。マコトに居れば相手が手をふり上げても打つことは出来ん、よくききわけて下されよ。笑って来る赤子の無邪気は打たれんであろうが、これが無抵抗ぞ。世界一家天下泰平ぢゃ、左の頬を出すおろかさをやめて下されよ。 |
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7 (1103) |
霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 附録 第一回高熊山参拝紀行歌 | 附録第一回高熊山参拝紀行歌 王仁 高熊山参拝者名簿 (大正十年十二月三日) 千引の岩石打破る日本男子の大丈夫と(石破馨) 色香も馨る女丈夫が世界をま森国々の(森国幹造) 助けの幹を造らむと東や西や北南 日出る国のまめ人が善男善女を誘ひて(西出善竜) 竜宮城に参集ひ浦保国を永遠の 珍の住処と歓びて神の啓示を次々に(保住啓次郎) 宣べ伝へ行く言霊は円満晴朗澄の江の 天竜藤に登る如我日の本の権威なる(藤本十三郎) 一と二三四五つと六ゆ七八九つ十り三年 今よりきよく田なびかむ村雲四方にかき別けて(今きよ) 六合兼太る我国土真奈井の海の洋々と(田村兼太郎) 渡も静かに浦靖の国の栄えも九重の(土井靖都) 玉の都や小都会深山の奥も押並べて(小山貞之) 忠勇仁義孝貞之道明らけく治まれる 三十一年如月の梅ケ香匂ふ九日の 月をば西に高熊の神山に深くわけ井りて(高井寿三郎) 聖寿万歳祈らんと三ツ葉つつじの其上に 村肝清く端坐しつ言霊彦の神教を(上村清彦) 耳を澄ませてマツの下吹き来る風もいとひなく(同マツ) 岩窟の前に寛ぎつ心の中の村雲も(同寛) かすみと共に消え行きて稍清新の魂となり(中村新吉) 神の恵みに浴しける今日は如何なる吉日ぞ 吉や屍を原野に曝すとも国常立の大神や(吉原常三郎) 三ツの御魂の教ならなどや厭はむ鈴木野や(鈴木延吉) 深山に足を延ばすとも心持吉き岩清水(水戸富治) 戸閉さぬ国と賑はしく富みて治まる君ケ御代 五十鈴の流れ清くして大川口や小川口(大川ロトク) 水は溢れてトク川の泥にまみれし幕政も 茲に亡びて大小名名主庄司に至るまで(庄司キツ) なキツ倒れつ四方に散るその状実に憐れなり かかる例しも在原の丑寅金神太元に(在原丑太郎) 現はれまして前の世の神と田美との有様を(前田美千香) 説き教へたる三千年の一度に香ふ白梅の 花咲く春の山の根に菊太に目出度神言を(山根菊太郎) 天地の神に奏上し三千世界の改造を チカへ玉ひし雄々しさよ四尾と本宮の山の根に(山根チカヘ) 経と緯との神の機錦の糸の絹枝姫(同絹枝子) 神の助けの有が田や鶴九皐に高く鳴き(有田九皐) 岸に登りし緑毛の亀のよはひの長のとし(高岸としゑ) ゑびす大黒福の神真奈井の上に舞ひ遊ぶ(井上あや) あやに尊き神の苑海の内外別ちなく 山野河海の神々の介けの道も昭々と(外山介昭) 植ゑ拡め行く道芝の盛りの花も隆々と(植芝盛隆) 薫る常磐の神の森良きも悪しきも仁愛の(森良仁) 神の恵みは変りなく竹の御園の下斯芸琉(竹下斯芸琉) 御国の誉れ照妙の綾の高天に北東の(東尾吉雄) 神尾伊都吉て雄々しくも教は広瀬の仁義邦(広瀬義邦) 昇る旭は高橋のその勢ひも常永に(高橋常祥) 開き行く世ぞ祥たけれ誉れもたかき瑞祥の やかたに基いを固めつつ遠津御国も近村も(津村藤太郎) すさぶ曲津を藤太郎秋津島根の田広路に(島田頴) 千頴八百頴実のりゆく稲木の村の中心に(木村研一郎) 霊魂研きを第一と教へ導く白藤の(藤井健弘) 井や栄え行く健げさよ誠の教を遠近に 弘むる時や北の空村雲四方に掻き別けて(北村隆光) 隆々のぼる日の光本宮山や玉の井の(宮井懿子) 空に映え行く御懿徳に浴する魂ぞ浦山し(浦山専一) 霊魂修行を専一と深山の奥に分け入りて 佐とり了ふせし高熊のイワ屋の内も賑はしく(山佐イワ) 朝日夕日を笠として祝詞奏上や神の詩を(日笠吟三) 吟じて進む三ツ御魂藤の仙人芙蓉坊が 穴太の村に伊智はやく現はれ来たりて大神之(藤村伊之吉) 吉き音信を宣り伝へ石より固き信仰を(石井孝三郎) 井や益々も励みつつ忠孝敬神愛国の 三ツの綱領怠らず加たく御魂に納めつつ(加納録平) 心に録して平けくたとへ野山の奥の奥(山口佐太郎) 率土の浜も宣べ伝へ口佐賀あしき悪太郎が そしり嘲り山ぬ内布教伝道厭トイなく(山内トイ) 四方の国中大日本日高の村の佐男鹿の(中村鹿三) 妻呼ぶ如き有様に世人を思ふ三千年の 神の光りは西東村雲四方にかき理けて(西村理) 大海原も平けく波も鎮まる八洲国(海原平八) 神須佐之男の神魂沢田の姫が現はれて(佐沢広臣) 教を広く君臣の中を執持つ一条の(中条勝治郎) 至誠に勝るものはなし明治の廿五年より 佐藤りの開く大善の艮神の四郎し召す(佐藤善四郎) 梅花の開く神の世は老も若きもおしなべて 五六七の御世の活動を汗と油をしぼりつつ 山田の果ても伊藤ひなくくさきり耕やせ三伏の(伊藤耕三郎) 暑さも涼し高野原円く治まる太平の(高野円太) 風に黒雲吹き払ひ四方の沢ぎも静まりて(黒沢春松) さながら春の如くなり常磐の松や白梅の 枝にて造りし神の杖菅野小笠に身を包み(菅野義衛) 仁義の教衛らむと京都をさして谷波より(京谷朝太郎) 出口の教祖は朝まだき綾の太元立出でて 海潮純子諸共に昨日や京屋明日の旅(京屋フク) 風フク山路をすくすくと字司朗も見ずに足早に(同司朗) 飛田つ如く進まるる豊かなそのの梅香り(飛田豊子) 五六七の御代に逢坂のキミの恵みに報いむと(同香) 鞍馬をさして出でて行く出口の守の雄々しさは(逢坂キミ) 日本魂の鏡なり月に村雲花に風(村松タミ) 浮世の常と聞きつれど松の神世のタミ草の 心はいつも春の空深山の奥も仁愛の(山崎珉平) 花崎にほひ王民のなか平けく安らけく 上野おこなひ下ならひ国は豊かに足御代は(上野豊) 業務を伊藤ものも無く正しき男の子女子が(伊藤正男) 大内山の御栄えを春かに祝ひよろこびつ(大山春子) 君に捧ぐる真心の強きは波田野国人の(波田野菊次郎) 菊もまれなる次第なり澆季末法の世の瀬戸に(瀬戸幸次郎) 現はれ玉ひし艮の神の御幸は次々に いやちこまして国民は同じ心のきみが御よ(同きみよ) 四方の山々内外の風も静かに笹川の(山内静) 水にも神光煕り渡る雄々しき清き葦原の(笹川煕雄) 神の御国ぞたふとけれ日本御魂の大丈夫が 勇気も古井現し世の濁りを清め市村野(古井清市) 戸口も佐和に佐和佐和に五六七の御世を松の色(野口佐七) 本つ御魂も幸ひて長閑な春の政事(松本春政) 国常立の分御魂仁義の道を一と筋に(国分義一) 守るや洋の西東山の尾の上に出入る月(西山勝) 光り勝れし大御代に立て直さむと昔より 水野御魂の大御神貞めなき世を弌らんと(水野貞弌) 道も飯田の神の詔千代の松ケ枝澄み渡り(飯田千代松) 昇る月影高橋の夜の守りとありがたき(高橋守) 御代に太田の楽もしや神の御国に伝はりし(太田伝九郎) 九つ花の咲き匂ふ深山の奥の寒村も(奥村芳夫) 大和心の芳ばしき大丈夫須佐の大神を 斎ひ藤とみ惟神御霊幸ひて吉祥の(斎藤幸吉) 聖の御代ぞたふとけれ 道の蘊奥を塞ぎ居る村雲四方にかきわけて(奥村友夫) 心も清き友の夫が至誠を内外に長谷川の(長谷川清一) 清きながれも一と筋に久米ども尽きぬ川水に(米川太介) 濁世を洗ひ太介んと田庭綾辺の政雄等が(田辺政雄) 神の御声をいや高き雲井に告げよほととぎす(雲井恒右衛門) 恒の誠のおこなひはこの右衛門なき神の笑み その身の佐賀も康正の実にも鈴し木忠と孝(佐賀康正) 慈悲を三つ楯戸して田助澄まして国の祖(鈴木孝三郎) 古き昔の神代より高き神徳次ぎつぎに(戸田澄国) かくれて御世を守りつつ忍び玉ひし大神を(古高徳次郎) 斎きまつるぞ藤とけれ吉きもあしきも三吉野の(斎藤吉三) 花と散りしく大八嶋長き平和の夢さめて(大島長和) 西洋の国原見渡せば神を敬ふ人もなし(西原敬昌) 物質文明昌ふとも心の花は散りにけり 谷波の国にあらはれし出口の神の御教は(谷口清満) 清く天地に満ちぬらむ桧杉原かきわけて(杉原佐久) 梅佐久そのを杉の山見当てに進む日本一(杉山当一) 長閑けき風も福の井の大精神は平らかに(福井精平) 神の林に著二郎く鳴り渡るなり高倉の(林二郎) 高き厳に八重むぐら青き苔蒸し小田牧野(林八重子) 蔓さえ光る万世の亀の歓吉て岩の上(牧野亀吉) 鶴さへ巣ぐふ高倉の三ツ葉つつじ之御助に(上倉三之助) 小野が御田間を研きつつ生れ赤子と若がへり(小野田若次郎) 次第々々にたましひを石とかためて世を渡り(石渡たみ) 四方のたみ草同一に神の真道に進ましめ(同進) 御代の栄えを内外に照らすは神の大本ぞ 谷波の国は狭くとも広く賢こき神の道(谷広賢) 雲井の上も海原も神武と仁徳かがやきて(井上武仁) 神の守りの金城は所在神の守りにて(城所守息) 神々安息遂げたまふその聖世美馬ほしと(美馬邦二) 心の清き神人が御邦二つくす真心は 大小高下の差こそあれ林のナカの下木まで(小林ナカ) よろこび祝ふ細し矛千田琉の国の神の徳(細田徳治) 円く平穏に治まりて身椙の元も二三太郎(椙元二三太郎) 広き新道進むより神の大道踏める身は 笹原義登と悉後藤くいと康らか仁進み行く(笹原義登) 無事平安の神の道達るは神の温たかき(後藤康仁) あまき乳房にすがる児の太郎次郎の生命の(安達房次郎) 親の光りと松の御代上田の家に生れたる(松田文一郎) 三文奴の只一人神の御前にぬかづきて(前田茂寿) 世人を田すけ守らんと昼はひねもす夜茂寿がら 愛宕の山の片ほとりつづきが岡のふもとなる(片岡幸次郎) 小幡神社の幸ひに祈願の効もいち次郎く 大河口や小川口教を日々にトク人の(大河口トク) 心の丈けは庄司きにシウジウの苦辛を耐へつつ(庄司シウ) 安く達せん大神の心は清き白ユキの(安達ユキ) 黄金の世界銀世界真鯉の上る滝津瀬の(上滝美祐) さま美はしき神祐に心の垢を洗ひつつ 西山林谷の道作り治めて登り行く(西谷作治) 四十八個の宝座ある高倉山に崎にほふ(山崎耕作) 三ツ葉つつじの花の下耕し作る田男の 中にも邨で新しき由緒を知れる由松の(中邨新助) 道の手引に助けられ万寿神苑立出でて 詣づる信者二百人出口の海潮を先導に 田舎の村の小幡橋金神竜神一同に(村橋金一郎) 渡り田所は宮垣内鹿蔵住むなる松林(田所鹿蔵) 紅葉は散れど青々と茂る木の葉のうるはしき 豊かな冬の木の本に四方の景色を覚めつつも(豊本景介) 婦人子供に至るまで介々しくも谷川を(谷前貞義) 飛び越え前み貞勇き義近藤初めて修業場と(近藤貞二) 神の貞めに一同は第二霊地と感謝しつ 祝詞の声も晴やかに木魂に響く床しさよ 勝又五六七の神政に水野御魂があらはれて(勝又六郎) 久米ども尽きぬ真清水のかはく事なき吉祥の(水野久米吉) 命の親の神心仰ぐも高し田加倉の(高田権四郎) 神の権威は四ツの海珍の国土も井や広に(土井理平) 摂理は届く公平のうましき御世は北村の 人は勇みて神寿ぎの祭祀の道も庄太郎(北村庄太郎) 日本の国は松の国浦安国と日五郎より(松浦国五郎) 御三木清めし神の国善一と筋の世の元の(三木善建) 神の建てたる御国なり外国人に惑はされ 御国の精華も白石の五倫五常の道忘れ(白石倫城) 難攻不落の堅城と神の造りし無比の園(比村中) 心にかかる村雲を払ふて清め腹の中 神の授けし御魂をば汚さむ事を鴛海つつ(鴛海政彦) 国家の政り家政り彦と夜毎にいそしみて たとへ悪魔の襲ふとも少しも鎌はず田力男(鎌田徴) 日本心を微かに照して見せよ三日月の 敏鎌の光り鋤の跡稲田も茂る八百頴野(鎌田茂頴) 間田なき秋にアイの空瑞穂の国の中国の(野間田アイ子) 誉れを西洋までノブエ姫姫氏の国の豊の年(中西ノブヱ) 稔も吉田の花ぞサク清き水穂にフク風の(吉田サク子) 薫りは外に比類なき富貴の草香村肝の(清水フク子) 心の美佐尾芳ばしく続鎌ほしや曇りたる(比村美佐尾) 世を田貞か江て神の世になれば曲事かくろひて(鎌田貞江) 吉きこと斗り村幸の雲間を照らす神のトク(吉村トク) まコトを那須の神人は神にすがりツヤはらぎつ(同コト子) 吾身のことを打捨てて多田道のためクニのため(那須ツヤ子) つくしの果の人々も海河こえて田庭路の(多田クニ) 神の御親の膝元に直子の刀自の跡慕ひ(河田親直) 滋しげ通ふ楽もしさ小柴田間萩米躅躑(同滋子) 茂れる山路ふみ別けて同じ心の一隊は(柴田米子) 神の恵與と勇みつつ清水湧き出る宮垣内(同一與) 上田の家も市々に立出で田渡る野山路(内田市子) 心せきセキヨぢ登る新池馬場を一斉に(田渡セキヨ) 進めば砂止山の神祠の跡を右に見て(馬場斉) 谷の村杉潜りぬけ真の道の友垣は(谷村真友) 山奥見かけ村々と貞めの場所雄さして行く(奥村貞雄) 黄昏近く湯ふ浅の空に出口の王仁が(湯浅仁斎) 岩屋の神を斎ひつつ降雨も知らぬ森の中(雨森松吉) 松葉の露の一雫味はひ吉しと喜びて 呑みし昔の思ひ出に水の冥加を藤とみつ(加藤明子) 天地神明の洪徳を感謝しまつる此一行 折も吉野のときつ風吹かれて顔の湯煙りも(吉野とき子) 御空になびく浅曇り霊魂を研く三柱の(湯浅研三) 神の宝座の大前に東尾さして神吉詞(東尾吉三郎) 拍手三拝上々の坂えの声をきくの年(上坂きく) 山の尾の上を崎わけて昇る旭日のあけの空(山崎あけ子) 小男鹿妻恋ふ高熊の見るも勇まし一つ岩(小高一栄) 栄え久しき神国の牧の柱とまめ人の(牧慎平) 慎み仕え大前に低頭平身祈りつつ 松のお千葉もいと清く月も見五郎の十五日(千葉清五郎) 大山小山の中道をおのが寿美家へ雄々しくも(大山寿美雄) 松岡神使に誘はれて本の古巣へ帰りける(岡本尚市) 尚き教へを市早く上田の炉辺に宣ぶる時(田辺林三郎) 小松林の神憑り三ツの御魂が現はれて 近藤二度目の立替は御国を思兼の神(近藤兼堂) 現はれまして堂々と小畠の宮の山の跡(畠山彦久) 本宮神宮の聖邑に国武彦の大神は 世も久方の天津神月見の神や天照す(佐藤かめ) 皇大神の神言もて世人を佐藤し身をたかめ(平野千代子) 天下太平野千代の基佐藤りて三よしの花の春(佐藤よし) お土の井とく水の恩正しき御木の宮柱(土井とく) 千本高知りてきんぎんや珠玉を飾る三体の(正木きん) 神の御舎殿荘厳に大宮小宮建て並べ(小宮きゑ) 深きゑにしを説き諭す高天原の神の道(原竹蔵) 松のみさをは神の国竹蔵即ち外国に たとへて東尾日の本とさきはひ玉ふぞ尊とけれ(東尾さき) 板り尽せしあがなひの千倉の置戸を負ふ神の(板倉寛太郎) 寛仁太度の胸の内同じ教も寛々と(同寛文) 文化の魁け梅の花御空は清く山青く(青野都秀) 野村も都会も秀れたる神の大道に従ひて 日東帝国安らけく日五郎の信仰現はれて(東安五郎) 安全無事の世の中に到達せしめ聖哲の(安達哲也) 教は四方に響く也同じ天地に生ひ立ちし(同佐右衛門) 草木で佐右衛門色艶を増して歓こぶ君が御代 世は古川の水絶えず万寿の苑は亀岡の(古川亀市) 市中に高く聳えつつ曇れる社会を照らし行く 神の仕組の万寿苑瑞祥閣の芽出度けれ。 ○ 教の花の桜井愛子中野祝子の太祝詞(桜井愛子) 同じく作郎青年も巌の上田に参ゐ詣で(中野祝子) 各自気分も由松の前駈し田るは十四夜の(同作郎) 稲田を照らす月の影風も清けき秋の末(上田由松) 此一行廿二人巻尾に記して証となす。(前田満稲) (以上) |
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霊界物語 | 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 | 凡例 | 凡例 一、本巻は現代の海軍制限案討議の華府会議[※大正10年(1921年)11月~翌年2月にワシントンで開かれた国際軍縮会議のこと。]にも匹敵す可き、神代に於ける武備撤廃の常世会議を其の巻頭に掲げ、次に最も悲歎愁傷の念に堪へざる国祖の御隠退及び天文地文学に大立替を促進す可き神示の宇宙観が巻尾に輯録されてあります。元来神示の宇宙は国祖大神を始め奉り、諸正神の御隠退遊ばされし箇所を示さむために口述されたものであります。想へば吾々は木の葉一枚造られぬ身でありますから、洪大無辺の神示に対して云為する資格無きものであります。憖に先入主に執着して居ては雁も鳩も立つた後に後悔し、又耻かしいことがあると思はれますから、素直に神示を肯定する方が上乗であらうと考へます。 一、第一巻より第三巻までに得たるものは、唯執着の二字を心底より取り去らねばならぬと言ふことでありました。然らざれば或は大切な玉即ち日本魂を此の上にも引抜かれることは請合だと思ひます。総ての先入主に執着せずして神に任すといふことが、何より大切だと考へます。誠を以て赤子の心で本巻を味はひ得る人は、国祖大神の御隠退と御仁慈の御心に対し、万斛の涙を注ぐと共に黙つて改心さるることと信じます。 一、本巻第二一章迄と、第二五、二八章及び第四三章より第四五章までは、瑞月聖師自ら執筆されたものであります。 聖師が一度執筆さるるや些の渋滞もなく、淀みもなく、すらすらと書き誌され、しかも一字一句訂正を要せらるることは無いのであります。故に一日に二百頁も原稿を綴らるるので、其の実况を熟視した人々は迚も人間業とは思へぬといふのであります。 一、各章の末尾に筆録者の署名をしてあるのは、其の全文に對して責任を有たねばならぬことに定めてあるのです。兎に角編輯印刷を急ぎますので、種々の点に於て不満に思はれるでありませうが、読者幸に諒せられむことを希望します。 大正十一年二月十九日於瑞祥閣編者識す |
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霊界物語 | 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 | 12 不食不飲 | 第一二章不食不飲〔二一二〕 折しもウラルの山颪、地上を吹きまくり、終には空前絶後の大旋風となつた。あらゆる樹木を吹き倒し、泥田に落ちたる神々を、木の葉のごとく土諸共、中天に捲きあげ、天上をぐるぐると住吉踊りの人形のやうに釣りまはした。そのため何れの神人も、鶴のやうに首が残らず長くなつて了つた。丁度、空中に幾百千とも限りなき首吊りが出来たやうなものである。首吊りでなくて、残らず鶴首になつてしまつた。 風がやむとともに、一斉に雨霰のごとく地上に落下した。腕を折り足を挫き腰をぬかし、にはかに半死半生の者ばかりとなつてしまつた。そのとき何処ともなく、 『八岐の大蛇、八岐の大蛇』 といふ声が聞えた。八百万の腰抜け奴、不具者はぶるぶる唇をふるはせながら、 『八岐の大蛇様、助けたまへ』 と叫んだ。 たちまち天上より美はしき八柱の男女の神人が、神人らの前に降つて来た。さうしてその中の一番大将と思しき男神は、耳まで裂けた紅い口を開いて、 『吾はウラル山を守護する八頭八尾の大蛇である。もはや今日は国祖国治立尊は、わが神力に恐れて根の国に退隠し、その他の神人はいづれも底の国に落ち行き、無限の責苦に遭へり。この世界はもはや吾の自由なり。汝らこのアーメニヤの地に来つて神都を開き、神政を樹立せむと思はば、まづ第一に宮殿を造り、わが霊魂を鎮め、朝夕礼拝を怠るなかれ。また盤古大神をはじめ八王大神その他の神人は、ただ今より百日の断水断食を励むべし』 と言ふかと見れば、八柱の神人の姿は烟のごとく消え、ただ空中を運行する音のみ聞えてきた。その音も次第々々に薄らいでウラル山目蒐けて帰つたやうな気持がした。 不思議にも、大負傷に悩んでゐた神人は手も足も腰も旧のごとくに全快し、ただ首のみは長くなつたままである。神人らは先を争うて、ウラル山方面さして断食をなさむと駆登つた。 ウラル山の中腹には、非常な広い平地がある。この平地は南向きになつて、非常に香りのよい甘さうな果物が枝もたわむばかりになつてゐて、平地に垂れてゐる。 あまたの神人は、やつと此処まで登つてきたが、咽喉はにはかに渇きだし、腹は非常に空いてきた。されど大蛇の厳命によつて、咽喉から手が出るほど食ひたくても食ふことが出来なかつた。ちやうど餓鬼が河の端に立つて、その水を飲むことが出来ぬやうな苦痛である。 盤古大神はじめ八王大神は頻りに口なめしをなし、長舌を出し、この果物をみて羨望の念にかられてゐた。神人は咽喉は焼けるほど渇き、腹は空いて板のごとくなつてゐる矢先、目の前にぶらついたこの美味を食ひたくて堪らず、見るより見ぬが薬と、いづれも目を閉ぶつて見ぬやうに努めてゐた。さうすると何処ともなしに百雷の一時に落下したやうな音響がきこえ、地響がして身体を二三尺も中空に放りあげた。吃驚して思はず目を開くと、目の前、口の前に甘さうな果物がぶらついてゐる。エヽ儘の皮よと四五の従者は、そのまま大きな果物を鷲づかみにしてかぶりはじめた。何とも言へぬ甘さである。濡れぬうちこそ露をも厭へ、毒を食うたら皿までねぶれといふ自棄糞気味になつて、四五人の神人は舌鼓をうつて猫のやうに咽喉をごろごろ鳴らしながら、甘さうに食ひ始めた。傍の神人はその音を聞いて矢も楯もたまらなくなつて、目を閉ぢた上、両方の指で耳を塞いで、顔をしかめて辛抱してゐた。風が吹くと、果物の枝が揺れて、その甘さうな果物は口のあたりに触つてくる。思はず知らず舌がでる。こいつは堪らぬとまた口を閉いだ。ちやうど見ざる、聞かざる、言はざるの庚申さまの眷属が沢山に現はれた。四五の自棄糞になつた神人は腹一杯布袋のやうになつて息までも苦しく、肩で息をするやうになつた。腹の中は得心したが、まだ舌が得心せぬので、無理無体に舌の要求をかなへてやつた。もはや舌も得心をしたが、肝腎の眼玉が得心せぬので無理矢理に取つては食ひ取つては食ひ、大地にドンドンと四肢を踏んで、詰め込まうとした。そのとたんに臍の括約筋がバラバラになつて、果物の赤子が沢山生れた。アイタヽアイタヽと腹を抱へて顰み面しながら大地に七転八倒した。他の神人はまた目をあけてこの光景を見、あり合ふ草の蔓をとつて腹の皮を一処へ集め、これを臍の真中で堅く括り、五柱の神人を神命違反の大罪人として棒にかつぎ、その果物の樹の枝にかけた。 この時、またもや天上から声がした。 『腹が空いたら、神命違反者を食へ』 と言つた。神人は果物は食はれぬが、この五柱の神人でも食つて見たいやうな気がした。このとき早玉彦といふ八王大神の侍者は、天の声のする方にむかひ、 『断食する吾々、この者を食うても神意に反せずや』 と尋ねて見た。 さうすると、また空中に声あつて、 『鬼になりたき者はこれを食へ』 と言つた。いづれの神人も自分の悪は分らず、各自に至善至美の立派な者と自信してゐるので、流石の邪神も鬼になることだけは閉口したとみえ、一柱もこれを食はうとする者もなかつた。さうかうする中に、断食の行も五十日を経過した。何れの神人も声さへも立てる勇気は失せ、目は潤み、耳はガンガン早鐘をつくがごとくになり、ちやうど蛭に塩したやうにただ地上に横たはつて、虫の息にピコピコと身体の一部を動揺させてゐた。このとき、東北の空より、六面八臂の鬼神、あまたの赤、青、黒などの顔をした幕下の鬼を引き連れ、この場にむかつて嬉しさうに降つてくるのを見た。 あゝこの結果は如何なるであらうか。 (大正一一・一・六旧大正一〇・一二・九桜井重雄録) |
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霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 10 仮名手本 | 第一〇章仮名手本〔三六〇〕 鏡の池の唸り声は漸く静まりぬ。此度は荘重なる重みのある声にて、池の底より又もや大なる言葉、次ぎ次ぎに聞え来たる。 『猿の人真似を致す俄宣伝使の猿世彦、神の光も最と清く、智利の国へと渡り来て性に合はぬ三五教の宣伝使とは、よくもよくも吐いたなあ、汝の祈りは、実に立派なものだぞ。これからは大法螺を吹くなよ、知らぬことを知つた顔を致すと、今のやうな苦しき目に遇ふて、耻を曝さねばならぬぞ、何も理屈は云ふ事は要らぬ。ただ私は阿呆で御座います、神様にお祈りをする事より外には、いろはのいの字も存じませぬと謙遜つて宣伝を致すがよいぞよ。生兵法は大怪我の基だ。知らぬと云うても汝はあまり非道いぞ、ちつとは後学のために此方の申す事を聞いて置け。いろは四十八文字で開く神の道ぢや』 猿世彦『もしもし、池の底の神様、私は腰が立ちませぬ。腰を立たして下さいな』 池の底から、 『いヽヽ祈らぬか、祈らぬか、祈りは命の基ぢや。万劫末代生通しの命が欲しくば、いつもかも祈れ祈れ。 ろヽヽ碌でもない間抜けた理屈を捏ねるより、身の行を慎みて人の鏡となれ。 はヽヽ早い改心ほど結構は無いぞよ。裸で生れた人間は、生れ赤子の心になれよ。 にヽヽ俄の信心は間に合ぬ。信心は常から致せよと教へてやれ。 ほヽヽ仏作つて眼の入らぬ汝の宣伝、発根から改心致して、本当の神心になれよ。 へヽヽ下手な長談義は大禁物だ。屁理屈を云ふな、途中で屁太張るな、屁古垂れな。 とヽヽトコトンまでも誠を貫き通せ。神の守りは遠い近いの隔てはないぞ、徳をもつて人を治めよ。 ちヽヽ智慧、学を頼りに致すな。力となるは神と信仰の力ばかりだ。近欲に迷ふな、畜生の肉を喰ふな。 りヽヽ理屈に走るな、利欲に迷ふな。吾身の立身出世ばかりに魂を抜かれて、誠の道を踏み外すな。 ぬヽヽ盗むな、ぬかるな、抜身の中に立つて居るやうな精神で神の道を歩めよ、抜駆けの功名を思ふな。 るヽヽ留守の家にも神は居るぞ。留守と思うて悪い心を出すな。 をヽヽ恐ろしいものは汝の心だ。心の持ちやう一つで鬼も大蛇も狼も出て来るぞ。臆病になるな、お互に気をつけて此世を渡れ。 わヽヽ吾身を後にして人のことを先にせよ。悪い事は塵程もしてはならぬぞ。吾儘を止めよ、私をすな、悪い事をして笑はれるな』 猿世彦『わヽヽ分りました。分りました。貴神のお言葉を聞くと何ともなしに、 かヽヽ悲しうなりました。堪忍して下さいませ、叶はぬ叶はぬ。 よヽヽよく分りました。もうよしにして下さい、欲な事は致しませぬ。世の中の事ならドンナ事でも致します。 たヽヽ助けて下さい、頼みます。誰人だつてコンナに恐い目に遇つたら、起つても居ても坐た怺つたものぢやありませぬ。 れヽヽ連続して水の中から屁をこいたやうな六ケ敷い説教を聞かされても、 そヽヽそれは汲みとれませぬ。そつと小さい声で耳の傍で聞かして下さいな、ソンナ破鐘のやうな声を出したり、竹筒を吹いたやうな声を出して貰つては、一寸も合点が行きませぬ。 つヽヽつまらぬ、つまらぬ、月照彦の神様か何か知らぬが、もうそれだけ仰言つたら、仰有る事はつきてる筈だのに。 ねヽヽ根つから、葉つから合点が行かぬ。お姿を現はして下さいな』 池の底から、 『なヽヽ何を云ふか、泣き事言ふな、汝の如き弱き宣伝使は、もちつと苦労を致さねば、 らヽヽ楽にお道は開けぬぞ。 むヽヽ無理と思ふか、無理な事は神は申さぬぞ。 うヽヽ迂濶々々聞くな、美はしき神の心になつて、神の教を開く宣伝使になれ』 猿世彦『ゐヽヽ何時までもお説教は結構ですが、もう好い加減に止めて下さつたらどうですか、余りつらくて骨にびしびしこたへ、此の のヽヽ喉から血を吐くやうな思が致します』 池の底より、 『退引ならぬ釘鎹、 おヽヽ往生いたせ。よい加減に、 くヽヽ苦しい後には楽しい事があるぞよ。 やヽヽ矢釜敷う云うて聞かすのも、汝を可愛いと思ふからだ。 まヽヽ誠の神の言葉をよく聞け、神の言葉に二言は無いぞ。いま聞き外したら万古末代聞く事は出来ぬぞ。人民の暗い心で誠の神の経綸は、 けヽヽ見当は取れぬぞ、毛筋も違はぬ神の道、汚してはならぬぞ。 ふヽヽ深く考へ、魂を研いて御用に立てよ』 猿世彦『こヽヽこれで、もう結構で御座います。今日はまあ何と云ふ有難い、苦しい、結構なやうで結構に無いやうで、嬉しいやうで、嬉しう無いやうで』 池の中より、 『えヽヽまだ分らぬか、 てヽヽ天地の神の教を伝ふる宣伝使では無いか、 あゝヽ悪を働いて来た猿世彦、これから心を入れ替へて、 さヽヽさつぱり身魂の洗濯いたしてさらつの生れ赤子になり変り、 きヽヽ清き正しき直き誠の心をもつて世人を助け導け、 ゆヽヽ夢々神の申す事を忘れなよ。いつも心を引き締て気は張り弓、 めヽヽ罪障の深い汝の身魂、苦労をさして、 みヽヽ見せしめを致して罪を取つてやらねば、 しヽヽ死んでも高天原へ行けぬぞよ。信心は夢の間も忘るなよ、知らぬ事は知らぬと明瞭云へ、尻の掃除も清らかにいたせ、 ゑヽヽ偉さうに云うでないぞ、この世の閻魔が現はれ高い鼻をへし折るぞ、 ひヽヽ昼も夜も神に祈れよ、 もヽヽもうこれでよいと神が申すまで身魂を磨け。神の目に止まつた上はドンナ神徳でも渡してやるぞ、 せヽヽ狭い心を持つな、広き、温かき神心になつて世人を導け、 すヽヽ澄み渡る大空の月照彦の神の御魂の申す事、無寐にも忘れな猿世彦、吾こそは元は竜宮城の天使長大八洲彦命なるぞ。汝も随分威張つたものだが、これからすつかり心を改めて此国の司となり、狭依彦司となつて世界のために尽せよ。この高砂島は金勝要大神の分霊竜世姫神の御守護なるぞ、此鏡の池は根底の国に通ふ裏門、分らぬ事があらばまた尋ねに来よ』 うヽヽと一声呻ると共に、その声はパツタリ止みけり。狭依彦および一同の腰は始めて立ちぬ。一同は喜び勇みて神言を鏡の池に向つて奏上したりける。 (大正一一・二・六旧一・一〇加藤明子録) |
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霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 43 言霊解五 | 第四三章言霊解五〔三九三〕 『最後に其妹伊弉冊命、身自ら追来ましき』 今迄は、千五百の黄泉軍を以て攻撃に向つて来たのが、最後には世界全体が一致して日の神の御国へ攻め寄せて来たと云ふ事は、伊弉冊命身自ら追ひ来ましきといふ意義であります。是が最后の世界の大峠であります。すなはち神軍と魔軍との勝敗を決する、天下興亡の一大分水嶺であります。 『爾ち千引岩を、其の黄泉比良坂に引塞へて、一日に千頭絞り殺さむと申したまひき』 千引岩とは、非常に重量の在る千万人の力を以てせざれば、微躯とも動かぬ岩といふ意義であります。千引岩は血日国金剛数多といふ意義で、君国を思ふ赤誠の血の流れたる大金剛力の勇士の群隊と云ふことであつて、国家の干城たる忠勇無比の軍人のことであります。また国家鎮護の神霊の御威徳も、国防軍も皆千引岩であつて、侵入し来る魔軍を撃退し又は防止する兵力の意義であります。 『中に置き事戸を渡す』と云ふ事は、霊主体従の国家国民と、体主霊従の国家国民とは、到底融合親睦の望みは立たぬ。堂しても天賦的に、国魂が異つて居るから、神国の行り方、異国(黄泉国)はその国魂相応の行り方で、霊主体従国と体主霊従国とを立別ると云ふ神勅が事戸を渡すと云ふ事であります。 善一筋の政治や神軍の兵法は、体主霊従国の軍法とは根本的に相違して居るから、一切を茲に立別て、霊主体従国は霊主体従国の世の持方、体主霊従は体主霊従の世の治め方と、区別を付けられた事であります。要するに神国の土地へは、黄泉軍の不良分子は立入るべからずとの御神勅であります。人皇第十代崇神天皇様が、皇運発展の時機を待たせ玉ふ御神慮より、光を和げ塵に同はりて、海外の文物を我国に輸入せしめ玉ひし如く、何時までも和光同塵の制度を、墨守する事が出来ないので、断然として、事戸を渡さねば成らぬ現代に立到つた如き有様であります。事は言辞論説の意味で、戸は閉塞するの用であります。要するに日本は皇祖大神の御聖訓を以て、治国安民の要道と決定され、一切体主霊従国の不相応なる言論を輸入されないと云ふ意義が、乃ち事戸を渡し給うと云ふ事であり、之を夫婦の間に譬へますと離縁状を渡して、一切の関係を断つと云ふ事であります。何時までも和光同塵的方針を採るのは我々の今日の処世上に於ても一考せなくては成らぬ。悪思想や貧乏神には、一日も早く絶縁するが、家の為めにも一身上の為にも得策であります。今日の我国家も、一日も早く目覚めて我国土に不相応なる思想や、論説や哲学宗教なぞと絶縁して、所謂事戸を立て渡し度いもので在ります。 『伊弉冊命宣りたまはく愛くしき我那勢命如此為たまはば汝の国の人草、一日に千頭絞り殺さむとまをしたまひき』 黄泉大神の宣言には、我々の愛慕して止まない、神国兄の国の神宣示を以て、斯の如く黄泉国の宗教学説を排斥さるるならば、此方にも一つ考へがある。汝の国の人民の、上に立つて居る所の頭役人どもを黄泉軍の術策を以て、一日に千人即ち只一挙にして、上の方の役人どもを馘つて了つてやる、即ち免職をさせて見せようと云ふ事である。 惟神の大道即ち皇祖の御遺訓に依つて思想界を統一せむとする守護神があれば、直に時代に遅れた骨董品格にして、役人の頭に採用せないのみならず、直に首を馘られて了ふから、伊弉諾命即ち日本固有の大道を、宣伝実行する事を、避けむとする利己主義のみが発達するのであります。 是皆黄泉軍、体主霊従魂の頤使に甘んずる腐腸漢計りに成つて居る現代であります。我々は伊弉諾命の神教、即ち天神天祖の聖訓を天下に宣伝し実行せむとするに当つて、黄泉の軍の体主霊従国魂の守護神から圧迫され、日々千人即ち赤誠の信者を、大本より離れさせむとして、黄泉神の手先が、百方邪魔をひろぐのも同じ意味であります。 たとへ日本の神の教が結構と知り、又大本の出現が、現代を救ふには大必要である事を、充分了解し乍ら世間を憚り且つ又、旧思想家と云はれ、終には現今の位置より馘られ、社会的に殺され葬られて了ふ事を恐れて世間並に至誠貫天的の、社会奉仕の大本を悪評し、かつ圧迫するを以て、安全の策と心得て居る守護神許りで表面上大本の信者たる事を標榜するが最後、直に其の赤誠人は軍人と言はず、教育家と言はず会社員と言はず、馘られ職を免ぜられると云ふ事が『一日に千人絞り殺さむとまをしたまひき』と云ふ事になるので在ります。 『爾に伊弉諾命詔り玉はく、愛くしき我那邇妹命、汝然為たまはば吾はや、一日に千五百産屋立ててむと詔りたまひき。是を以て一日に必ず千人死に一日に必ず千五百人なも生るる』 茲に伊弉諾命は、我愛する那邇妹命よ、思想問題を以て日の御国を混乱せしめ猶ほ亦、今一致して武力を以て、我国を攻め給ふならば、我にも亦大決心がある。吾は惟神の大道を発揮して、以て一日に千五百の産屋を立てて見ませうと仰せられた。御神諭にある産の精神の人民、生れ赤子の心の人民を養成する霊地を、産屋と云ふのであります。 チは血なり赤誠也、霊主体従の意也、父の徳也、乳也、塩也。 イ[※ヤ行イ]は結び溜る也、身を定めて不動也。 ホは、上に顕はる也、太陽の明分也、照込也、天の心也。 ウ[※ア行ウ]は結び合ふ也、真実金剛力也、親の働き也。 ブは茂り栄ふ也、世の結び所也、父母を思ひ合ふ也。 ヤは固有の大父也、天に帰る也、経綸の形也。 以上のチイホウブヤの六言霊を納むる時は、神の血筋因縁の身魂が集り合ひて、赤誠の実行を修め、霊主体従の本領を発揮し、天の父たり、地の母たるの位を保ちて、仁恵の乳を万民に含ませ、大海の塩の如く、総ての汚れを浄め、総ての物に美はしき味を与へ腐敗を防ぎ、有為の人材一団と成りて、我身の方向進路を安定し、以て邪説貪欲に心を動かさず、俗界の上に超然として顕はれ、大神の大御心を宇内に照り込ませ、太陽の明分即ち日の神国の天職を明かに教へ覚し、至真至実の大金剛力を蓄へ、世界の親たるの活動を為し、上下の階級一つの真道に由りて結合し、日々に結びの力を加へ、終には世界を統一結合し、父母として万民慕ひ集まり固有の大父なる国祖大国常立神の御稜威を仰ぎ、天賦の霊性に帰りて世界を経綸し以て、三千世界を開発し、救済する聖場の意義であります。要するに、地の高天原なる綾部の大本の、神示の経綸は、乃ち千五百産屋に相当するのであります。大本の御神諭には『綾部は三千世界の世の立替立直しの地場であるから、日の大神様の御命令によりて、世界の人民を天の大神の誠一とつで此の世を治める結構な地の高天原であるぞよ』と示されてあるも、所謂千五百産屋の意義にして、生れ赤子の純良なる身魂を産み育て玉ふ神界の大経綸の中府であります。故に何程黄泉大神の精神より出でたる、過激的思想も侵略的の体主霊従国軍も、綾部に千五百産屋の儼存する限りは、如何ともする事が出来ないのであります。亦之を文章の侭に解する時は、一日に千人死して千五百人生れ出づる時は、結局人口は年を追うて増進する故に、之を天の益人と謂ふのであります。天の益人は天下国家の為に利益を計る、至誠の人の意味にも成るのであります。我大本の誠の信徒は、皆一同に天の益人とならねば成らぬ。亦日本全体を通じて天の益人たるの行動をとつて、国家を開発進展せしめ、黄泉国なる国々に其の範を垂れ示さねば、神国の神民たる天職を尽す事は出来ぬのであります。今日社会主義や過激派にかぶれた、不良国民が黄泉軍の眷属となり、大官連中に不穏なる脅迫状を送つたり、大本の幹部連中に向つて、同様の脅迫状が舞ひ込んで来るのも、千人を殺さむと白したまひきの意味であります。米国加州の排日案が通過したのも、西伯利亜満洲支那朝鮮の排日行動も、排貨運動の実現も、各地の小吏が大本に極力反対し、且つ我行動を妨害しつつあるのも、皆黄泉軍の一日に千人くびらむ、と白し玉ひきの実現であります。 太陽面に、地球の七八倍もある円形にして巨大なる黒点が出現し、約七万哩の直径を有し、吾人の肉眼を以て明視し得る如くに成つて居るのも、日の若宮に坐す伊弉諾命を、黄泉軍の犯しつつある表徴であります。亦この黒点が現はれると、其の年及び前後数年間は、従来の記録に依つて調べて見ると、第一気候が不順で、悪病天下に蔓延し、饑饉旱魃等は大抵その時に現はれ、人心の騒擾極点に達する時であります。天明の大饑饉も、太陽の黒点と時を同じうして現はれて居る。今日此頃の天候の不順も亦この黒点の影響である。況んや今度の如き、開闢以来未曾有の大黒点に於ておやであります。アヽ一天一日の太陽の黒点、果して何を意味するものぞ。伊弉諾命の持たせ玉へる一ツ火の光も、半ば消滅せむとするには非ざるか、我等は一日も早く千五百産屋は愚、八千五百産屋万産屋を建て、以て君国の為めに大活動を開始せざるべからざるを切に感ぜざるを得ないのであります。 『故其伊弉冊命を、黄泉津大神と謂す。亦其の追及しに由りて、道敷大神と称すとも云へり』 チシキの大神の言霊を解すれば、 チは血也、数の児を保つ也、外に乱れ散る也。 シは却て弛み撒る也、世の現在也。 キは打返す也、打ち砕く也。 之を一言に約する時は、数多の児即ち千五百軍を部下に有し、血脈を保ち外に向つて乱を興し終に自ら散乱し現在の世の一切を弛廃せしめ、以て正道を打返して、邪道に化し、至仁至愛の惟神の、生成化育の道を打砕く、大神と云ふ事であります。現代は国の内外を問はず、洋の東西を論ぜず道敷の大神の最も活動を続行し玉ふ時であります。 『亦其の黄泉の坂に塞れりし石は道反大神とも号し塞坐黄泉戸大神とも謂す』 チカヘシの大神はウチカヘシの大神と云ふ事で在り、又邪道を塞ぎて邪道を通過せしめずと云ふ意義であります。古来町の入口や出口には、塞の神と謂うて巨大なる石が祭つて在つたもので在ります。是も邪悪を町村内に侵入させぬ為の目的であります。吾人の家屋を建つるにしても、礎石を用ゐ、又その周囲に石を積み、又は延べ石を廻らすも、皆悪鬼邪神の侵入を防止するの意義より、起元したもので在ります。今日の思想界にも此の大石が沢山に欲しいものであります。 『故其の所謂黄泉津比良坂は、今出雲国の伊賦夜坂とも謂ふ』 伊賦夜坂の言霊を解すれば、 イ[※ア行イ]は強く思ひ合ふ也、同じく平等也、乱れ動く也、破れ動く也。 フは進み行く也、至極鋭敏也、忽ち昇り忽ち降る也、吹き出す也。 ヤは外を覆ふ也、固有の大父也、焼く也、失也[※「失」は「矢」の誤字の可能性がある。「言霊の大要」(『神霊界』大正7年3月1日号p20)では「矢」でフリガナが無いが、大石凝眞素美の『大日本言霊』では「矢」に「ヤ」とフリガナが付いている。黄泉比良坂の古事記言霊解は大正9年11月1日に綾部の五六七殿で講演した講演録であり、3つの文献に掲載されている。『神の国』大正9年12月1日号(皇典と現代2)p24では「失(うしなふ)」、『霊界物語』第8巻第43章「言霊解五」(大正11年2月9日再録、昭和10年3月4日校正)では「失(しつ)」、『出口王仁三郎全集第5巻』(昭和10年6月30日発行)p59は「失(しつ)」になっている。]、裏面の天地也。 ザ[※以下の活用は「ザ」ではなく「サ」の言霊の活用である。]は騒ぎ乱る也、⦿に事在る也、降り極る也、破壊也。 カは一切の発生也、光輝く也、懸け出し助くる也、鍵也。 イフヤザカの五言霊を約言する時は善悪正邪の分水嶺であります。男神の伊弉諾命と女神の伊弉冊命と、互ひに自分の住し、かつ占有する国土を発展せしめむと、強く思ひ合ひて争ひ賜ふ所は同じく平等にして何の差別もなく、只々施政の方針に大なる正反対の意見あるのみ。然れど女神黄泉神の御経綸は惟神の大道に背反せるが故に、終に海外の某々の如く悉く大動乱大破裂の惨状を露出したのは、近来事実の確証する所であります。 男神の神国は、日進月歩至極鋭敏にして、終に世界の大強国の仲間入りを為したり。されど忽ち昇り忽ち降るの虞れあり。黄泉国の二の舞を演ぜざる様、注意を要する次第であります。ヤは日本にして、何処までも徳を積み輝きを重ねつつ、外面を覆ひ、以て克く隠忍し、天下の大徳を保ちて天下に臨むと雖も黄泉国の八雷神や、千五百の妖軍は何の容赦も荒々しく、焼也、天也、の活動を成し、裏面の天地を生み成しつつあり。故に世界各国は殆ど騒乱の極みに達し正義仁道は地を払ひ、⦿に事の在りし暴国なり。茲に仁義の神の国の一切の善事瑞祥発生して、仁慈大神の神世に復し治め、暗黒界を光り輝かせ、妖軍に悩まされ滅亡せむとする、国土人民に対しては身命を投げだして救助し治国平天下の神鍵を握る可き、治乱興亡の大境界線を画せる、現代も亦これ出雲の国の伊賦夜坂と謂ふべきものであります。(完) (大正九・一一・一午前五六七殿講演外山豊二録) (大正一一・二・一一旧一・一五谷村真友再録) (第三七章~第四三章昭和一〇・三・四於綾部穹天閣王仁校正) |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 19 悔悟の涙 | 第一九章悔悟の涙〔四一二〕 今まで黒雲に包まれたる大空は、所々綻びを見せて天書(星)の光り瞬き始め、十三夜の月は漸く東天に姿を現はし給ひ、皎々たる光りに照されてアタル丸の船中は昼の如く、誰彼の顔も明瞭に見え来る。珍山彦は虎公の話相手なる熊公に向つて霊をかけたれば、熊公は忽ち身体震動して、ここに神憑[※初版・愛世版では「神憑」、校定版では「神懸」。]状態となり口を切つて、 熊公『此方は大蛇彦命である。いま虎公に申渡すべき事あれば、耳を澄まして確と聴け』 と雷の如くに呶鳴りつける。船客一同は熊公に向つて視線を集注し、如何なり行くならむと片唾を呑んで凝視つてゐる。 熊公『悪の企みの現はれ時、何時までも悪は続かぬぞよ。動きのとれぬ汝の自白、閻魔の調べは目のあたり、大蛇彦が今言ひ聞かす、神の教をしつかり聴け。木に餅のなる様な、うまい事ばかり考へて苦労もせずに、他人の苦労の宝を奪ひ、誇り顔に述べ立てる怪しき卑しき汝が魂、心の鬼の囁きを吾と吾手に白状せしは天の許さぬ所、審神者の眼に睨まれて、その本人がこの船に居るともシヽヽヽ知らず知らずに口挙げ致した。悪は永うは続きはせぬぞ。速かに前非を悔い、澄み渡る大空の月の如くに心を洗へ。世界広しと雖も其方のやうな悪逆無道の痴漢は少ない。誰に依らぬ、皆心得たがよい。些の悪でも積み重ぬれば根底の国に行かねばならぬ。強さうな事を言つても、人間の分際として木の葉一枚自由にならぬ、障子一枚先の見えぬ人間、天地の神を畏れよ。虎公ばかりでないぞ、長い間に重ねた罪はわが身を亡ぼす剣の山だ。憎まれ子世に覇張る、西も東も弁へずに、吾さへよけりやよいと申して、人の目をぬすみ、宝を盗み取り、悪の身魂に狙はれて根底の国に連れ行かれ、喉から血を吐く憂き目に遇うて恥を曝し、果敢なき運命に陥るやうな僻事を改めよ。日に夜に行ひを改めて心の雲を科戸の風に吹き払へ。悪は一旦栄えても永うは続かぬ、滅の種子だ。この世に悪を為すほど下手な事はない。生きても死んでもこの世の中は神のまま、長い月日に短い生命、太う短う暮すが得だと日夜吐いた虎公のその吠え面は何のざま、誠の道を踏み外し、身欲に迷うて無理難題を人に吹きかけ、誠の人を誑かしむしり取つたるその金子は、大蛇となつて火焔を吐き、冥途へ送る火の車だ。大勢の中で面目玉を潰されてもがき苦しむのも自業自得だ。八十の曲津よ、僻み根性の虎公よ。夢にも知らぬ三人の娘の前で、偉さうに吾身の悪をべらべらと、ようも喋り居つたな。羅刹のやうな心を以て利欲の山に駆け登り、人を悩ます悪魔の容器、わが身の仇とは知らずして、欲に呆けて何のざま。いよいよ改心いたせばよし、改心いたして生れ赤子の心になり、今までのゑぐたらしい心を立替へよ。鬼も大蛇も追ひ出せよ。虎公、今が改心のよいしどきだ。天国に救はれるか、地獄に墜ちて無限の苦しみを嘗めるか、神になるか、悪魔になるか、二つに一つの境の場所だ。ヤア船中の人々よ。必ず虎公のこととのみ思はれな。めいめい罪の大小軽重こそあれ、九分までは皆悪魔の容器だ、罪の塊だ。大蛇彦命が一同に気をつけるぞよ。今は余が懸つてゐる熊公とても同じことだ』 と言葉終つて神憑り[※初版・愛世版では「神憑り」、校定版では「神懸り」。]は元に復したり。 虎公は船底に畏縮して涙に暮れながら、この教訓を胸に鎹打たるるが如く、呑剣断腸の念に苦しみ、身の置き処もなく煩悶の結果、月照り渡る海原に向つてザンブとばかり身を投げたり。船客一同は、アレヨアレヨと総立ちになり、 一同『誰か救けてやるものはないか』 と口々に叫び合ふにぞ、熊公は堪り兼ね、忽ち真裸体となり、又もや海中に飛沫を立ててザンブとばかり飛び込みぬ。船客は総立ちとなつて立上り、海面に目をさらしてゐる。船は容赦もなく風を孕んで北へ北へと進み行く。 アヽこの二人の運命は如何なりしぞ、心許なき次第なり。 (大正一一・二・一五旧一・一九外山豊二録) |
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霊界物語 | 10_酉_黄泉比良坂の戦い | 序歌 | 序歌 神体詩 (一) 我日の本は神の国天地の神の守護厚く 国運隆々天津日の御空に昇ります如く 開国茲に五十年宇内列強の班に伍し 日清日露の大戦に遭遇したるも日の御子の 神勇不撓の御英断天地神明の御稜威に 敵を排除し帰順はせ国家の進運日に月に 皇威国勢弥振ふ聖の御代の尊さよ。 (二) 斯の神国の民草は無限の神助皇恩を 感謝しまつり責任の重大なるを覚悟して 兵力平和の戦ひに優勝ならむ事を期し 猶又思想新旧の霊的戦争に打勝ちて 天壌無窮の神国を赤誠籠めて守るべし 皇祖皇宗の御神勅大本神の御神諭を 遵守し奉り人格を高めて更に神格も 進め神威を顕彰し神洲国土を平安に 守りて子孫に至るまで常世の暗の世界をば 修理固成る天職と神の御子たる使命をば 直霊の御魂に反省し赤誠籠めて祈るべし。 (三) 豊栄昇る旭日影東の空に輝きて 万邦光りを仰ぐなる日出づる国の日の本は 神の初めて造らしし珍の神国美し国 神代よりして青雲の棚引く極み白雲の 墜居向伏し塩沫の致り留まる其の限り 狭けき国は弥広く嶮しき国は平けく 遠けき国は八十綱を打懸け結び引寄せて 我皇室の御稜威を仰ぎ敬まひ大君の 仁慈に靡き服ひて赤子の慈母を慕ふ如 八十島国の果までも漏れ遺つるなく安国と 知食します御天職発揮し給ふ尊さよ 東洋文明を代表し西洋文明を調和して 更に世界の文明を醇化し美化し人類の 真の平和を促進し人道完美の瑞祥を 図るは神国の神民の天職使命と覚悟して 神の教を克く守り国の光を輝かせ。 |
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霊界物語 | 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) | 01 三途川 | 第一章三途川〔五五一〕 大海原に漂へる宝の島と聞えたる 竜宮海の一つ島宝の数もオセアニヤ ウラルの彦の神勅を奉じて来る六人が 信神堅固の守護神元は竜宮に仕へたる 神の力を田依彦魂を研いて飯依彦の 神の司と現はれて善言美詞の言霊に 言向和す勢はウラルの教の宣伝使 三年の苦労も水の泡何の土産もアルパニー 港を後に千万の浮島原を乗越えて 航路も長き鶴の国鶴の港を立出でて フサの海まで帰り来る時しもあれや東北の 風に煽られフサの海三五教の宣伝使 日の出の別に巡り合ひタルの港に上陸し 足さへダルの河の辺を徐々進むシヅの森 神の光に照されて茲に心を翻し 忽ち変る三五の教司に伴なはれ フル野ケ原を打渡り醜の岩窟を探険し コシの峠もいつしかにわたりて茲に猿山の 峠の麓に一同はまどろむ折しも音彦が 眠を醒して眺むれば月は木の間に輝きて 茲に五人の宣伝使影も姿も長の旅 弥次彦与太彦伴なひて寄せ来る敵に追はれつつ 荒野を渡り河を越え曲の関所を乗り越えて 泥田に落ちし裸身の足も軽げに小鹿山 四十八坂に来かかりし時こそあれや前後 数多の敵の襲来に衆寡敵せず音彦は 弥次彦与太彦諸共に千尋の谷間に飛込みて 谷間流るる速川の水の藻屑となりひびく 谷間を渡る荒風は実に凄じき許りなり。 弥『世の中は能くしたものですな。一方には断巌屹立したる山腹を控へ、一方には千仭の谷間、かてて加へて前後より数多の敵に取囲まれ、衆寡敵せず、命を的に溪川目がけて、ザンブと許り飛込みた時の心持と云つたら、何ともかとも知れぬ苦しさであつたが、エーままよ、神様に捧げた生命、一寸先は神の御手にあるのだと覚悟をきわめ、飛込み見れば、都合の好い青々とした淵、素より裸の吾々両人は、水泳には誂へ向だ。宣伝使はドツサリと、ベラベラした装束を身に纏つて居られたものだから、水中へ陥つた時には、大変なお苦みでしたな。幸ひ吾々両人が真裸になつて居つたものだから、溺死もせずに助かつたと云ふもの、斯うなると親譲りの裘で無一物の方が、千騎一騎の時には何ほど楽だか知れぬ。それだから神様が持物を軽くせいと仰有るのだ。裸で物を遺失さぬと云ふ事がある。裸くらゐ結構なものはない。ナア与太公……』 与太彦『ウンさうだなア、泥田へ落ちて赤裸になつた時には、裸で道中がなるものか、アー情ない事だ、せめて褌丈なつと欲しいものだと、執着心が離れなかつたが、斯う言ふ時には生れ赤児の赤裸が一番都合が好い。これも神様のお蔭だ。三人が三人共重い着物を着けて居つたなれば、誰も彼も助からずに、幽界とやらへ旅立をする所であつたにナア』 音公は、 音彦『ソレモさうだ、神の道に荷物は不要ぬ。併し乍ら何とかして、木の葉でも編んで着物を拵へなくちや、この先旅する訳にも行かぬ。風俗壊乱でポリス先生に科料でも取られちや見つともない。ぢやと云つて泥棒する訳にもゆかず、困つたものだ。草でも編みて、一つ着物でも作つたらどうだらう、のう弥次公』 弥次彦『ウン折角裸にして貰つたのだから、これも惟神だ。逆転は御免だ。ナーニ構うものか、面の皮の慣はせとか云つて、何ほど寒くつても、面の皮には薄着一枚着せた事はない、慣れて了へば真裸でも、寒くも暑くも何ともない、身は身で通る裸ん坊だ、裸の道中も面白いよ、音彦君』 音彦『それだと云つて、どうも不恰好だ。吾輩の衣類を分配して、一人は羽織、一人は袴、一人は着物と云ふ風にやつたらどうだらうかナア弥次公』 弥次彦『ヤアそいちア、尚々恰好が悪い、それこそ化物の行列みたやうだ。エー構はぬ、行きませうかい。与太公ドウダイ』 与太彦『日が暮れたと見えて、非常に暗くなつたぢやないか。暗い所を歩くのは、裸でも何でも構はぬ、見つとも良いも、見つとも悪いも有つたものぢやない。一つ大手を拡げてコンパスの続く限り前進せうかい』 と三人は暗の路を当途もなく足に任せて進み行く。音公は、 音彦『ヤア、俄に明くなつて来たぞ。一体此処は何処だらう、大変な大河が南北に流れて居るぢやないか、河向ふには得も言はれぬ金殿玉楼が、雲に浮いた様に見えて来出した。ナンダか気がいそいそとして、一刻も早く行きたい様な心持になつて来たワイ』 弥次、与太両人は、 弥次彦、与太彦『ホンにホンに、立派な建築物が見えますな、是を見ると勝利の都に近付いた様な心持がして来ました、………ヤア有難い有難い、進退維谷まつて、九死一生の谷間に飛込みの芸当をやつたと思へば、豈図らむや、コンナ結構な都に近付いた。是だから怖い所へ行かねば熟柿は食へぬと云ふのだ。有難い有難い、それにしても、鷹公、梅公、岩公、駒公一同は、どうして御座るであらう、猿山峠の急坂を、痩馬の尻を叩いて行軍の真最中だらうか。是だから先へ行つた者が手柄をするとも、後れた者が手柄をするとも分らぬものだ、何事も神のまにまに任すほど安心な事はないなア』 と語りつつ、三人は漸く河幅広き水底深き青々とした流れ岸に着いた。弥次は驚いて、 弥次彦『ヤアこの河は立派な河だナア。大抵の河は、通常は河原ばつかりで、横の方を帯の様に、青い水がホンの形式的に、お条目の様に流れて居るものだが、この河はまた例外だよ、河一面の流れで、しかも青味立つた清水が流れて居る。大抵の河は、河一面に水の流れる時は大雨の時で、泥々の真赤な水だが、コラまた稀代に立派な河だワイ』 与太彦は、 与太彦『河は立派だが、何時まで褒めちぎつて居た所で、橋も無ければ、舟も無いぢやないか、どうして渡つたがよからうかな。これや一つ、何とか工夫をせねばならないぞ』 弥次彦『ナニ、吾々は幸ひ真赤裸だ。水泳の妙を得とるのだから、対岸へ流れ渡りに渡れば良いのだ。斯う言ふ時には、裸一貫の無一物は、大変に都合が好いワイ、唯困るのは音彦の宣伝使様だけだ……………もしもし宣伝使様、一層の事あなたの御衣服を全部この河へ投り込んで、三人共裸になつたらどうですか、牛の子でも附合を致しますで…………』 音彦『それもさうだが、お前はまだ普通の人だ。吾々は三五教の宣伝使といふ重荷を持つて居る。この被面布も大切に致さねばならず、法服を棄てる訳には行かない。アヽこうなると、責任の地位に立つ者は辛い者だ、窮屈不便利至極だわい』 弥次彦『あなたは、宣伝使の法服だとか、被面布だとかに執着心があるから可けないのだ。保護色に包まれて居るから、自由自在の活動が出来ないのだ。裸になれば又裸で立行くものです。カメリオンの様に、青い草に交れば青くなり、赤い葉に止れば赤くなり、白い木にとまれば白くなると云ふ、変幻出没自由の活動を執るのが、宣伝使の寧ろ執るべき手段ではありますまいか。大歳の神は、宣伝使の服を脱いで俄百姓となり、農夫の服を着て農業を手伝ひ、立派に宣伝使の本分を尽されたと云ふ事ですよ。河を渡るのには裸でなくちや駄目だと弥次彦は思ふがナア』 音『さう云へばさうだが、せめてコーカス山にお参詣する迄音彦は、この服は離したくない』 弥次彦『あなたはさうすると、何時迄も此処に、河端柳ぢやないが、水の流れをクヨクヨと見て暮すと云ふ方針ですかい』 音彦『ヤア進退維谷まつた。音彦もどうしたら可からうかなア』 と双手を組み思案に暮れて居る。傍に藁を以て屋根を葺いた小さい家が目に着いた。 弥『ヤア此処に、〆て一戸、村落があるワイ、あまり小さいので、見落して居つた。先づ先づあの館へでも侵入して、ユツクリと河端会議でも開催しませうか』 と先に立つて弥次彦は、藁小屋の中に進み入る。 弥次彦『ヤアこの藁小屋の中には、ナンダか生物が居るぞ。コンコンと咳払をやつて居るワイ、もしもし宣伝使さま、これは後家婆アの隠れ家と見える、マア一服さして貰ひませうかい………』 小屋の中より皺枯れた婆の声で、 婆『誰だ誰だ、この河辺に立つて何を囁いて居るか。此処はどこぢやと思ふて居る、三途の河の縁だぞ』 と聞くより弥次彦は婆々を睨み乍ら、 弥次彦『ナニツ、三途の河の縁だと?全然冥途の旅の様だ。ソンナラ大方着物を脱がす婆ぢやないか。ヤアナンダか気分が悪いワイ。モシモシ宣伝使さま、何をグズグズして居るのだい、早く来て鎮魂をして下さいな、怪しからぬ事を云ふ老婆が居りますで……』 音彦『弥次彦お前は、何を怖さうに言ふのだ。乞食婆アだよ、放つときなさい』 婆『乞食婆とは何だ、三途河の鬼婆だぞ。サアサア娑婆の執着をスツクリ流す為に、真裸にしてやらうかい』 と藁で編みたる押戸を開けて、白髪頭をヌツと出し、渋紙面を曝して現はれて来た。 弥次彦は、 弥次彦『ヤアナント背の高い、小面憎い面をした老婆だな………オイ糞婆、貴様は良い加減に改心をせぬかい。よい年しよつて、何時までも欲の皮をひつぱると、死んだら地獄に落ちるぞ』 婆『わしはお前達の着物を脱がす役だよ。サア綺麗サツパリと脱いで行かつしやれ』 弥次彦『何を吐しよるのだ。貴様は他人の着物を脱がして、沢山に箪笥の中へ仕舞込み置いても、末の短い貴様が、死んだならば冥土とやらへ行かねばなるまい。その時に三途河の鬼婆が、みな脱がして了ふと云ふ事だぞ。あまり欲をかわくない』 婆『その三途川の鬼婆が此方さまだ。愚図々々言はずに脱がぬかい』 弥次彦『ヤア此奴ア盲婆だな、裸の俺に着物を脱げつて吐しよる、良いケレマタ婆も有れば有るものだナ。ワツハヽヽヽ』 婆『お前は先祖譲りの洋服を着とるぢやないか、兎の皮を剥いたやうに、頭からクレクレと剥いてやるのだ。弥次彦覚悟は良いか』 弥次彦『これは裘だぞツ』 婆『河の縁で脱がすのだから、裘は尚結構だよ』 弥次彦『エー洒落ない、婆の癖して………オイ与太公、宣伝使さま、チツト来て下さらぬか、思ひの外シブトい婆だから』 音彦『ヤア、弥次さま、どうやら此処は三途の河らしいぞ。小鹿峠から谷川へ飛込んだ時に、気絶した途端に、どうやら幽界の旅行と急転したらしい、どうも空気が変だ。ナア与太彦、お前はどう思ふか』 与太彦『宣伝使のお考へは違ひますまい。私も何だか、四辺の状況が娑婆とは違ふ様な気が致しますワ………』 婆『コラコラ、お前たち三人の奴は、俺を誰だと思ふて居る、俺の面を見よ』 弥次彦は顎をシヤクリ乍ら、 弥次彦『ツラツラ考ふるに、何とも早、形容の出来ない怪体な面付だナア。ひよつとしたら、宣伝使のお言葉の通り、三途川の鬼婆かも知れぬワイ』 婆『合点が行つたか、親重代の宝物たる黒い土瓶の中へ小便を垂れる様な、汚れた身魂の人足だから、此処で赤裸にして霊の洗濯を為てやるのだよ』 弥次彦『ヤア合点の行かぬ婆アだ。土瓶の事まで吐しよる、貴様はお竹の母親か』 婆『お竹の母親か、父親か、よう考へて見ろ。弥次彦のガラクタ奴』 弥次彦『黒い黒い手で握飯を握りよつて、手鼻汁をかみ、洟を落した握飯を拵へた汚い老婆に比べると、モ一つ汚穢い奴だ。俺の霊が汚いから洗濯せいと言ひよるが、マア貴様の汚い顔から洗濯せい………霊魂を洗濯せい、美しうなれと、口ばつかり他人に言ひよつて、自分の汚い事は知らぬ顔の半兵衛でけつかる。困つた者だなア、自分の尻糞は目に着かぬと見えるワイ。全然三五教の宣伝使の様な事を吐す奴だ。アハヽヽヽヽヽ』 婆『ババはババいから婆と云ふのだ。ヂヂはヂヂムサイから老爺と云ふのだよ。糞は汚い、痰は汚い、花は美しいと、開闢以来定つとるぞ。俺の様な汚い所へ落ちた者は、汚なうして居ればよいのだよ。貴様のやうに、表は立派な、三五教の宣伝使だとか、信者とか言ひよつて羊頭を掲げて狗肉を売る様な罪悪人は、何処までも洗濯をせな可かない。腹の底まで洗濯をしてやるのだ。チツト苦しうても辛抱せい。親譲りの着物を是から脱がして、この老婆が洗濯をして着替さしてやらうかい、コラ弥次彦のガラ奴』 弥次彦『ヤア、此処ア洗濯婆アだな、鬼の来ぬ間に洗濯バタバタ早く身魂を洗ふて下されよ、改心が一等だぞよ、今までの塵芥、流れ川ヘサツパリ流して、水晶の身魂になつて下されよ……といふ筆法だな。ソンナ事は三五教の教祖の教にチヤンと出て居るのだ。事新しく三途河の縁まで来て、言つて貰はいでも、遠の昔に御存じだ。大学卒業生だぞツ。骨董品の様な古い頭をしよつて、文明人種の吾々に意見をするのは、釈迦に経を説く様なものだよ』 婆『お前達は口ばつかり立派な信者だ。舌と耳とは極楽へ遣つて、その外はみな地獄行だ。舌と耳とを俺が預つて、是から高天原へ小包郵便で送つてやらう。マア裘を脱ぐより、第一着手として舌を出せ、舌と耳とを切つてやらうかい、弥次の奴』 弥次彦『エー何処までも婆は婆らしい事を吐しよるワイ。舌切雀の話の様に、舌を切つてやらうの、桃太郎の話の様に、洗濯をするのと、らしい事を言ひよるワイ、アハヽヽヽ。オイ婆、この河には随分桃が流れて来るだらう。二つや三つは貯へて居るだらうから、一つ俺に招伴させぬかい、腹が空つて聊か迷惑の態だ』 婆『お前の食ふのは此処に預つてある、サアサア是なと食つて着物を渡すのだよ』 と真つ黒けの握飯を二つ出す。 弥次彦『ヤア此奴ア、お竹の宅の柴屋で見た握飯だ。コンナ垢の着いた、鼻水だらけの握飯が仮令餓えて死んでも食はれるものかい、渇しても盗泉の水を呑まぬ俺だぞ』 婆『どうしても食はねば、貴様を此鬼婆が代りに食つて了ふがよいか………勿体ない、粒々辛苦になつた結構なお米で拵へた握飯を、黒いの汚いのとは何の事だ。たとへ鼻水が入つて居らうが、百分の一位なものだ、何ほど綺麗な人間でも、百分の八九十までは汚い分子が含蓄して居る。貴様の肉体つたら、九分九厘まで真つ黒けの鼻水握飯の様なものだぞ。俺が辛抱して食てやると言ふのだから、これが冥途の食納め、喜んで食はぬかい』 弥次彦は首を傾けて 弥次彦『オイ与太公、サツパリ訳が分らぬぢやないか、貴様の食ひ残しだ。おれや元から一つも食はないのだから、貴様が食つたらよからう』 与太彦『私はあなた様の分まで頂戴致しまして、スツカリ食べるのは、あまり礼を失すると思ひ、二つ丈残して置きました。決して汚いから残したのぢやありませぬ、此れは弥次彦の領分だと思つて遠慮したのです………もしもしお婆アさま、私は腹一杯頂戴したので、それ以上は食へなかつたのと、弥次彦に愛想に残してやつたのですから、決して決して、汚いの何のといふ、ソンナ冥加の悪い心で残したのでは御座いませぬ。これは弥次彦の食ふべきもので御座います』 弥次彦『エーエー、与太彦までが怪しからぬ議案を出しよつた。河端会議だから握り潰しといふ訳にも行くまい。三途の河へ一瀉千里の勢で、否決流会だ』 と握飯を握つて河に棄てむとするを、婆はその手をグツと握りたり。弥次彦は、 弥次彦『ヤア冷たい冷たい、氷のやうな手をしよつて………手が痺れて了ふワイ』 婆『ヤア不思議だワイ、お前の霊は、遠の昔に痺れて了ふて免疫性の無感覚だと思つたに、冷たいのが分るか、それではチート何処かにまだ息があるワイ、コンナ所へ来るのはチト早いのだけれど、修業の為に、我を折る様に、この河を渡れ、裘を剥ぐ丈は免除してやらう。随分冷たい河だぞ、この河が冷たくなくして渡れる様ならモウ駄目だ。冷たければチツトはまだ人間の息が、霊に通ふて居るのだよ』 弥次彦『オイ婆アさま、お前も随分屁理窟を言ふがそれ丈理窟が分つて居れば、この弥次彦は寒うて困つとるのを、チツトは同情するだらう。亡者の着物を毎日追剥しよつて、沢山に蓄めとるだらうが、俺に似合ふ様な着物を一枚分配して呉れぬか、どうで老若男女色々と風も違ふだらうから、俺に打つて附けた様な着物もあるだらうにのう』 婆『エヽ附上りのした男だなア、お前に着せる様な着物は一枚もありやしないよ。みな河へ脱がしては流し、脱がしては流し、今ここに五枚ある丈だ。それもみな子供の着物だ。一枚は俺が着にやならぬし、五枚の着物を貴様に一枚やれば、モウあとは四枚だよ』 弥次彦『ヤアこの婆、なかなか洒落てけつかる、風流婆アだなア』 婆『定つた事だ、何事も執着心を棄てて、風流で胸の垢を洗濯婆アだ。お前も早う身魂の洗濯をせないと云ふと、腹の中に毛虫がわいて、弥次身中の虫となつて、お前の肉体を亡ぼす様になるぞ』 弥次彦『婆さま、オツト待つた、俺は亡者じやないか、一旦亡びた者が復亡びるといふ事があるかい』 婆『顕幽一致、生死不二だよ。今の娑婆に居る奴は、肉体は生きて居るが、霊はみな死にたり、腐つたり、亡びて了つて居るのだ。併し乍ら、貴様は感心な事には、肉体は亡びたが、まだ霊に生命があるワイ』 弥次彦『定つた事だい、せいめい無垢の生粋の大和魂だもの。万劫末代朽つる事なく亡ぶ事なき霊主体従の弥次彦さまの本守護神は、永世不滅の神の分霊、万劫末代生通しだ。肉体は亡びても、吾々の霊は至極健全だ。これから三途の河を横渡りをして、心の鬼も地獄の鬼も片ツ端から言向和し、地獄を化して天国とする覚悟だ。オイ婆ア、貴様もコンナ所に弱い者苛めをして、亡者に対し剥取強盗をするよりも、早く改心を致して俺のお伴をせないかエーン』 与太彦は、 与太彦『オイ弥次彦、しやうもない事を言ふない。地獄開設以来、三途川の鬼婆と云つて、この河に備へ付の常置品だよ。ソンナ者でも閻魔の庁へ連れて行つたが最後、天則………ドツコイ地獄則違反者だ………と云つて、罪に罪を重ねる様なものだよ』 弥次彦『さうだな、出雲姫の様な美人を連れて、閻魔の庁へ出立するのは気分が良いが、斯う苔の生えた枯木の様になつた骨董品を伴れて行くのは、弥次彦もチツト迷惑だ。……オイ婆ア、お前何時までも此川辺に、コンナ事をやつとるのが面白いのかい』 婆『何が面白からう、これも仕方がないワ、木蓮尊者の母親ぢやないが、罪の塊で、因果が廻り来て、コンナ人の厭がる役を、よい年してやらされて居るのだよ。俺はモウ駄目だ、終身官だから、辞職する訳には行かぬワイ』 弥次彦『それを聞けば、何だかチツト、哀憐の心が起つて来たワイ。一層の事、一思ひにこの川へ、バサンと投げ込みてやらうか。さうすれば、地獄の苦を逃れて、お前も幸福だらうに』 婆『婆サンとやつたつて駄目だよ。善の道を破産した俺だから、到底救はれる予算が立たぬワイ』 弥次彦『アヽ三途がないなア、かはいさうな者だ。ナント詮術なきの川水、ミヅバナ垂らして握飯に固めて、ムスメのお世話になつた御主人様に、有らう事か有るまい事か、食べさそうと致し、おまけに小便茶をも勧めた天罰は覿面に廻り来つて、三途川の鬼婆とまで成り果てしか、アヽ思へば思へばいぢらしや、弥次彦同情の涙に暮にけりだ』 音彦『アハヽヽヽ、面白い面白い、弥次喜多道中は、冥土へ来てもヤツパリ、五十三次気分がするワイ、音彦はまるで大井川の川縁に着いた様な心持がするワイ』 弥次彦『大井川なら、この婆を大井に川いがつてやるのですな、アハヽヽヽ』 この時いかめしい装束をした一人の男、金剛杖をつき乍ら、トボトボと歩み来たりぬ。能く能く見れば、ウラル教の大目付、源五郎なりける。弥次彦は見るより、 弥次彦『ヤア貴様はウラル教の源五郎だナ、俺が猿山峠の麓の森林で、華胥の国に遊楽する折しも、しやうもない夢をば、与太公に見せよつて、驚かしよつた腰抜野郎だらう。馬からひつくり返つて、四足に圧搾されて、背中に腹は替へられぬぢやない、馬の背中で腹を抉られて、蛙をぶつけた様に、目をクルクルと剥きよつて死ばつた代物だらう。サア好い所へ来よつた。こちらは三人貴様は一人だ。娑婆に居つた時は此方は三人貴様の味方は五十人、五十人でさへも敗北した様な腰抜だから、到底叶ふまい。貴様の着物を一切脱ぎ取るのだ、サアサア脱いだり脱いだり』 音彦は、 音彦『オイオイ弥次、婆アサンの職権まで蹂躙すると云ふ事があるかい』 弥次彦『モシモシ、お婆アサン、此所ちよつと代理権を執行致しますから、事後承諾を願ひます』 婆『ハーイハイ、宜しき様に………お前に一任致すぞや』 弥『音彦さま、サアどうだ、是からこの弥次彦が、お婆アサンの代理だ。脱衣婆アといふ職権ができた。婆アサンの片相手は、お弥次サンに定つてるよハヽヽヽ。オイ源五郎、婆アサンのおやぢだ。娑婆に居つた時は弥次彦だが、今は三途川の鬼おやぢだ。キリキリチヤツト脱いで了ヘツ』 源五郎は、 源五郎『ヤア、仕方がない、ソンナラ脱ぎませう。一枚でこらへて下さいや』 弥次彦『エー執着心を持つな、真裸になれ』 源五郎『それでもまだ此先、十万億土も旅をせにやならぬのだから、お慈悲に一枚は残して下さいナ』 弥次彦『エツ一枚脱ぐも三枚脱ぐも、脱ぐのに違ふた事があるか、生れ赤子になるのだよ』 源五郎『ナント、お前さまはエライ権利を持つてますなア』 弥次彦『定つた事だよ、泥棒権利の執行者だ。キリキリチヤツト、裸になつたり裸になつたり』 源『アヽもう斯うなつては源五郎もサツパリ源助だ、娑婆に居る時には、立つ鳥も落す勢であつたが、可愛い女房には別れ、生命より大事と蓄めた財産は弊履の如く打棄てて、身軽になつて此処へ来たと思へば、この薄い着物まで剥がれて了ふのか、アヽ仕方がない。どうしたら宜からうかナア』 弥次彦『エー女々しいワイ、郷に入つては郷に従へだ。娑婆の理窟は冥土には通用せぬぞ。泥棒にも三分の理窟があるのだ。脱衣爺の命令は全部服従……否盲従するのだ。亡者が亡者に従ふのは所謂亡従だよ。アハヽヽヽ』 源五郎『アヽ仕方がありませぬ、脱がして戴きます』 弥次彦『貴様が脱いだ後は、俺も裸で困つて居るのだから、右から左へスツと着替へるのだ。…………オイ与太公、此奴ア、大分沢山に着て居よるから、貴様と分配して、着々歩を進めるのだよ』 源五郎『お前さまも、裸の辛い事は御存じでせう。自分の苦しみにつまされて、私を不憫とは思ひませぬか』 弥次彦『エー八釜しいワイ、暗がりの世の中だ。一々目をあけて居つたならば、一日も生活が出来るものかい。何事も人の憐れは、見ざる、聞かざる、言はざるで…………自分の一身一族を保護するのが当世だよ。まだまだ是では済まぬぞ、貴様の持物をみな脱いで了へ』 源五郎『これ丈褌まで脱いで了つたぢやありませぬか、この上何を脱ぐのですかい……』 弥次彦『定つた事だよ、親譲りの………貴様はまだ洋服を着て居る。靴も、手袋も、頭巾も、何もかも、みな脱ぐのだ。貴様は娑婆に居る時から、彼奴は鉄面皮だと言はれて居つたぢやらう。その鉄面皮を此処で脱がしてやらう。舌も千枚舌だと言ふ事だから、一枚は助けてやるが、九百九十九枚まで此処で抜き取るのだ。コレコレ婆アサン、釘抜を貸しテンかいナ』 婆『ハイハイ、おやぢ彦の言ふ事なら、何でも聞きませう。釘抜がチツト錆びて居るけれど、此奴の舌も錆びてゐるから、合ふたり、叶ふたりだ、ワハヽヽヽ』 弥次彦『ヤア気の利いた婆アだ、流石俺の女房丈あるワイ、………オイ源公、千枚舌を出せ…………口を開け…………』 源五郎『アーア仕方がない、冥途の法律に従はねばならぬか。ソンナラどうぞ、ヤンワリと抜いて下さい』 弥次彦『よしよし』 と云ひつつ、釘抜を以て源公を大地に仰向けに寝させ、右の足を頭にグツと乗せ、 弥次彦『イヨー沢山な舌だワイ………此舌は放蕩を舌、一枚……オイオイ与太公、貴様は勘定役だ。音彦は受取つて下さい。……この舌は違約を舌……オツト二枚……こいつは間女房を舌……オツト三枚……こいつは讒言を舌、オツト四枚だよ、……こいつは失敗を舌、オツト五枚だ………こいつはアフンと舌、オツト六枚………こいつはインチキを舌……道傍でウンコを舌……遠慮を舌……ドツコイ遠慮会釈もなしに乱暴を舌……強欲を舌……ウツカリ舌……スベタに現を抜か舌……姦通を舌……人を監禁舌……苦面を舌……喧嘩を舌……善悪を混同舌……散財を舌……要らぬ心配を舌……狡猾い事を舌……民衆運動を煽動舌……探偵を舌……損を舌……畜生を殺舌……掴まへ損なひを舌……而も三五教の宣伝使を……手癖の悪いことを舌……遁亡を舌……難儀を舌……物に窮迫舌……人を見殺しに舌……憎まれ口を叩いた舌だ……盗みも舌……猫婆も舌……無報酬の飲食を舌……神に反対を舌……貧乏を舌奴を圧迫舌……憤慨も舌……変改も舌……人の金で漫遊を舌……無理も舌……斤量の目盗みも舌……悶着も舌……魂の宿替も舌……それは良心の転宅だ……隠険なことも舌……嘘つきも舌……縁談の妨害も舌……欲な企みも舌……乱痴気騒ぎも舌……悋気も舌……不在の宅を狙つて○○を舌……猟師をして沢山な畜生も捕獲舌……論にも杭にもかからぬ様な議論も舌……忘八苦も舌……意地の悪い事も舌……エー閻魔さまの眼鏡に叶はぬ様な事も沢山舌……人をおど舌……霊界物語の邪魔も舌……俺もモウウンザリ舌…是でまだ六十枚だがモウ良い加減に止めに舌がよからうかアツハヽヽヽ』 音彦『随分沢山な舌ですネー、音彦感心しま舌、ワアツハヽヽヽ』 弥次彦『此奴は、何時も数多の人間を顎で使ひよつて、舌長に物を吐かす舌たか者だから、舌の根も随分強くつて、この三途川の鬼爺も、大変な苦労を舌、アーア舌抜き商売も、懲々舌わい、ワツハヽヽヽ』 婆『これはこれはおやぢ彦、偉い苦労をかけま舌、これで一寸源五郎の制敗も一部落着いた舌と云ふものだ』 源五郎『アーア辛い目に逢ふたものだ。三味線の糸ほど引締められて、撥を当てられ、お前のお好きに紫檀棹、源五郎も是で無罪放免にして貰ひませうか』 婆『まだまだ……此処はこれでよい、この河を渡つて向ふへ行つたら、今度はお前の腕を抜くのだよ』 与太彦は面白さうに、 与太彦『アヽそうかいな、痛いかいな、苦しいかいな』 弥次彦『コラ与太公、ソンナ陽気な事を言ふとる場合ぢやないぞ、改心をせぬか、緊張せぬかい、お弥次彦が舌を抜いてやらうか』 与太彦『オイ弥次彦、よい加減にコンナ殺生な商売は辞職したらどうだい』 弥次彦『八釜し云ふない、モウ少し勤めさして呉れ、……恩給年限が満つるまで……』 与『貴様はどこまでも、徹底的に欲な奴だナ、欲々の体主霊従の性来ぢやと見えるワイ。世の中で他人がよく云はぬのも当然だ』 婆『サアサア弥次彦サン永々お世話だつた。只今限り解職する、速くこの河を渡りしやれ』 弥次彦『ヤア何だ、何時の間にか河が無くなつて了つた。かわい女房に生別れと云ふ場面だナ。オイ婆ア、折角な綺麗な河を何処ヘスツ込めて了つたのだい』 婆『お前の罪が薄らいだから、河はモウ流して了つたのだよ』 弥次彦『河を流すとは妙だな、ヤツパリ現界とはすべての光景が河つて居るワイ……ヤア面白い、茫々たる原野と俄に早替り、活動写真を見とる様だ……是れは是れはお婆アサン、永らく御厄介に与りました。頭の一つもおなぐり惜いが、私も先が急きますから、これで垢の別れを致しませう。これから爺は三人の亡者を連れて、あの世の旅をする程に、おばば、後の供養をしつかり頼むぞや。極楽と言ふ立派な所へ行つて半座を分けて待つて居る、一時もはやく、第二の娑婆を振り棄てて、おやぢの側へやつて来て呉れ、万劫末代、一蓮托生、必ず忘れて呉れるなよ』 与太彦は吹き出して、 与太彦『アハヽヽヽ、何を吐しよるのだ、アンナ老婆と一蓮托生になつて堪るかい』 弥次彦『それでも袖振合ふも他生の縁よ「ヤアおやぢサン、ばばア……」と仮令半時でも縁を結んだ以上は、夫婦には違ない、夫婦の情は門外漢の窺知すべき所でない、色気の無い唐変木の容喙すべき限りにあらずだ』 音彦、与太彦、源五郎も一度にふき出し、 音、与、源『アハヽヽヽ、ウフヽヽヽ、エヘヽヽヽ』 (大正一一・三・二三旧二・二五松村真澄録) |
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霊界物語 | 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) | 02 銅木像 | 第二章銅木像〔五五二〕 音彦、弥次彦、与太彦、源五郎の一行四人は、三途川の脱衣婆に別れを告げて、際限もなき雑草の原野を西へ西へと進み行き、ピタツと行き当つた禿山、三方山に囲まれ進路を失ひ当惑の態、 音『サア、ピタツと行き詰つた、これで冥土の旅も行き詰りだ、何とか一つ考へねばなるまい』 弥『宣伝使さま、サア天津祝詞の言霊だ、斯う云ふ時に使用するのが言霊の活用ぢやありませぬか』 音彦『アヽさうだつたナア』 と手を拍ち、声厳かに天津祝詞を奏上する。忽ち行当つた禿山は雲の如く数十里の彼方に急速度を以て遁走した。 弥『アヽ言霊の威力と云ふものは偉いものだナア。信仰の力は山をも動かすと云ふことを聞いて居る、流石は宣伝使だ、貴方の信仰の威力は確かなものだ。もうかういふ経験を得た以上は、焦熱地獄であらうが、八寒地獄であらうが、何の恐るる所あらむやだ。地獄のドン底まで浸入して、吾々一行は幽政の大改革を断行するのだなア』 音『オイ余り油断をするな、油断すると知らず識らずに慢心が出て思はぬ失敗を演ぜないとも限らぬ。隅々までも気を付けて進まねばならぬぞ』 斯く云ふ中忽然として見上ぐる許りの銅木像が地中よりヌツと現はれて来た。 弥『イヨー出よつたなア、矢張り幽界は幽界だ。一つの特徴があるワイ。オイコラ幽界の化物、吾々の通路を遮る不届きもの、スツコメスツコメ。現界の化物とは違つて幽界の化物はよつぽど形式が違つて居るワイ。コラ化物返答せぬかい、銅木像奴が』 銅木像『グワツハヽヽヽー、グウツフヽヽヽー、ギエツヘヽヽヽー、ギヰツヒヽヽヽー』 弥次彦『ナンダ、ガヽヽ、ギヽヽと、濁音のみを使ひよつて、吾々を何と心得て居るのだい、三途川の脱衣婆でさへも、ヘコまして来た弥次彦さまだぞ』 銅木像『俺は銅と木とで造つた機械な化物だ。愚図々々吐すと頭から呑みてやらうか』 弥『アハヽヽヽ、貴様は大蛇の化物だな、呑ましてやりたいが、生憎何にもないワイ、田子の宿のお竹の家で飲まされた小便茶なと呑まして遣らうか』 銅『イヤ俺は茶は呑みたくない。裸の奴が呑みたいのだ』 弥『ウンさうか、よしよし御註文通り此処にウラル教の源五郎といふ奴が、真裸になつて来て居るワイ、これが呑みたいのだらう』 銅『ガーバー』 弥『ホンに、御機嫌の好いお顔だことわいのう。サア源チヤン、御苦労ながら一つ呑みて貰ひ給へ』 源五郎『裸はお前の事だよ、その着物は皆俺の着物だ。モシモシ銅木像さま、弥次彦、与太彦は小鹿峠の手前で、真裸になりました。裸の道中を続けて来た経験のある奴です。俺は三途の川の渡場で此奴等二人に泥棒されたのですから、之等二人をとつくりと呑みて遣つて下さいませ』 銅『ギヰツヒヽヽヽ、オーさうだらう、弥次彦、与太彦が味が好ささうだのう』 弥『コラ源公、貴様は真正の真裸だ、俺は脱衣婆の承認を得て着物を着て居るのだよ。モシモシ銅木像さま、それはお考へ違ひぢやありませぬか』 銅木像『俺は機械だ、モウこれ切りで物は言はぬ。お前たち勝手に俺の腹へ這入つて機械を使ふたが好からう。腹へ這入れば色々の機械の装置が完備して居るから、一々使用法が記してある。その綱をひくと此銅木像が大活動を演ずるのだ、ガハヽヽヽヽ』 弥『ヤア此奴面白いぞ、吾々が十万億土の旅をすると思つて、閻魔の奴退屈ざましにコンナ副産物を拵へて置いたのだらう。ヤアもう文明の空気と云ふものは何処までも行き渡つたものだワイ、一つ俺が這入つてこの機械を使つて見やうかなア』 源『お前等は俺の着物を追剥をしたのだから、罪が加重して居る、到底この機械を使用する権利はなからう。俺は裸だから着物の代りにこの銅木像の中へ潜入して、一つ使つて見るから、お前等は力一杯相手になつて見たらどうだ。ウラル教の大目付役と、三五教の宣伝使や信者との問答も面白いかも知れないぞ』 与『オイ弥次彦、源五郎の云ふ通りにさして見たらどうだ。ナア音彦さま、それが好いぢやありませぬか』 音『好からう、ソンナラ源チヤン、あなた這入つて下さいナ』 源『コレは有難い、一つ操つり人形の様に自由自在に動かして見ませうかい。ヤア入口は何処だ、アハア大きな鼻の孔を開けて居よる、此処から一つガサガサと這入つてやらうか』 と言つて銅木像の身体を杣人が山にでも登るやうに杖をつきながら登り行く。 弥『イヨー面白いな。まるで牛に蝿がたかつたやうに小さく見える。よつぽど大きな銅木像だワイ』 源五郎はとうとう鼻の孔から這入つて了つた。 与『ヤア、とうとう這入つて了ひよつた、これから面白いのだ、オイ早く芸当を始めぬかい』 銅『ウヽヽヽヽ、ウラル教の大目付役鷲掴の源五郎とは俺の事だ。サアサア三五教の豆宣伝使、モウかうなる以上は大丈夫だ、銅木像の合羽を被つた源五郎だ。ウーフヽヽヽ』 弥『ヤア怪体な銅木像だ、源五郎気取りになりよつて怪しからぬ。ヤイ銅木像、洒落た事をするない』 銅『洒落たも洒落ぬもあつたものかい』 とグルグルグルと蛇の目傘の如き目玉を急速度を以て廻転させる。 弥『ヤア乙な事をやりよるワ。多寡が機械だ、輪転機でも使ひよつて目玉を廻転させて居るのだらう。コラ余り目玉を剥くと目がモーターになつてへコ垂れるぞ』 銅『この目が恐いか、冥途の旅ぢや、お前たちの目を醒まして遣る為めに先づ俺から目を剥いて見せたのだ、序に鼻を剥いて遣らうか』 弥『剥いて見よ、俺は此処で緩りと春風に吹かれて花見見物をやつて遣らう。ヨウ小山のやうな鼻をピコツカせよるぞ、無恰好な鼻だなア。ヤア剥いた剥いた、何だベンチレーターのやうな鼻をしよつて、天井を嗅ぐやうな調子で鼻の孔を上向けて居やがる。天井が燻香したと思ひ違へよつたなア、オイ化像、チツト勘考して見い』 銅『俺の鼻息で吹き散らしてやろうか、このベンチレーターは猛烈に噴煙を吐くから用意を致せ』 与『アハヽヽヽ、変れば変るものだ、機械が物云ふ時節だから、これも形式の変つた蓄音器だなア。オイ蓄音器先生、レコードが破れぬ様に静かに廻して見よ、余り虐使すると使用期間を短縮するぞ』 化像は右の手をガタガタガタガタと動かし、機械的に指を以て一方の小鼻を押へ、左の直径一丈位の大鼻孔より黒煙を頻りに噴出し、四辺は真暗闇になつて了つた。 弥『コラコラ化像、程度を知らぬかい、治安妨害だぞ。モ少しソツと吹かぬか』 銅『吹かいでかい吹かいでかい、吹いて吹いて吹き捲つてやるのだ』 弥『此奴は思ひ違ひだ、意想外だ。モシモシ宣伝使さま、言霊だ言霊だ』 音『弥次彦さま、緩りなさいませ、吹く丈け吹いたら原料が無くなるから大丈夫だ、何ほど大きいと云つたつて、さう無尽蔵に続くものぢやないからナア』 化像は又もや左の腕をガタガタガタガタと音をさせ、機械的に左の小鼻を押へ、右の手を元の位置にチント直し、招き猫のやうな恰好にし、今度は右の孔から吹くわ吹くわ滅茶やたらに、二百十日の暴雨のやうにブウブウ粘つたミヅバナを四方八方に吹散らす。 弥『アーア、コリヤたまらぬ、涕だらけだ、何処もかもニチヤニチヤになつてしまつた。まるで紙雛を噛みて吐き出したやうな御面相になつたワイ、オイ化像、もう好い加減に中止せぬかい、しぶとい奴ぢやなア』 銅『俺はしぶとい、貴様の様な淡泊な人間とは違ふ、粘着性を持つて居るのだ、まだまだまだまだ粘つく奴を噴出するぞ。宿が無くてお竹の家に泊めて貰つて、結構な握飯を頂戴して婆の鼻汁が混つたの、混らぬのと小言をほざきよつたその報い、身体中を鼻啖でこね廻して遣るのだぞ』 弥『コレコレ音彦様、イヤ宣伝使さま、コンナ時こそ、それ科戸の風の天の八重雲を吹放つ事の如く、大津辺に居る大船を屁こき放ち糞こき放ちて、大和田の原に鼻垂れる事の如く、払ひ給へ清め給へをやつて下さいな、かう汚れてはどうにも、こうにも仕方がない』 音『マヽじつくりとするのだよ。芸者でさへも花が欲しいと云ふて眠ぶた目をこすりながら、ボンボラ三味線を弾きよる。何もせないで此丈け沢山のはなを頂戴すれば結構だ。お化さま又来て頂戴、はなの切れ目が縁の切れ目、おはなを沢山持つて又来て下さい………ナンテ云つて背中をポンと叩いた。さうすると弥次彦が蒟蒻の様になつてグニヤグニヤとなるまでには大分資本が要る、コンナに沢山はなを頂戴して、不足を言ふ所か』 弥『モシモシ宣伝使さま、貴方はどうかして居ますなア、芸者の花代と混線して居やしませぬか』 音『天混線を空うする勿れ、時に鼻汁の泣面に当るを、アハヽヽヽヽ』 弥『ドウモ、尾籠な事だワイ、鼻振、紙也、屁の雨だ、ヤアもう結構々々、花見だと思つて居つたに落花狼籍、開闢以来の粘ンばりとした花見遊山だ。オイ源公、イヽ加減に悪戯を止めたらどうだい』 銅『今度は小便の竜吐水だ、田子の宿に於て土瓶の中に小便を垂れたを覚えて居るだらう。折悪く土瓶の持ち合せがないから貴様の薬鑵頭を、土瓶代用として注入してやらう、チツト熱い小便茶だぞ』 与『是れはこれはめつそうな、沢山お花を頂戴いたしまして其上に、結構なお茶を頂戴しましては、却てお気の毒さまで御座います、私も迷惑いたします、どうぞお茶丈はまた外のお客に振れ舞つて下さい。生憎裸に一旦されたものだからお茶代も御座いませぬからお茶の出し損、それでは商売の資本が続きますまい。閻魔の庁から執達吏がやつて来て、破産申請をやられては却てお家の迷惑、後はさつぱり家計紊乱共に苦辛の為体、マアマアお茶丈はお引き下さつたが好ろしからう』 銅『この芸者は茶を引く事は大々々々の嫌ひで御座んす。お茶位はエヽ遠慮なしにあがつて下さい。本当の番茶なら宜いが小便茶で、あまり原料も要りませぬ。茶つとおあがりなさい。サ薬鑵の蓋を開けて下さい』 与『イヤもう沢山、此方の薬鑵も茶を沸して居りますから、この上頂いた所で塔の上に塔を積むやうなもの、倹約流行の世の中、無駄な費用を省いて、それを社会事業にでも投資した方が何ほど娑婆の人間が喜ぶ事か分りませぬぞ』 銅『ヤアそれでも、もうすでに準備が出来て居ます』 と大竜吐水の如く小便茶を虹のやうに吐き出した。 与『コリヤ、熱い熱い、何程厚い志と言つても、コー茶にされては有難くもないワ、然し一利あれば一害あり、鼻だらけの身体の洗濯には持つて来いぢや、腹も立つが茶腹も立つ、然し小便丈は閉口だ』 銅『それは見本だ、本物は之れから幾何でも大洪水が出たほど御馳走して上げませう』 弥『お香水なら結構だが、この見本ではねつから気に入らぬ、破約だ。もう此方からこの代物は小便しますワ』 銅『アハヽヽヽヽ』 弥『オイオイ源五郎のサツク奴が、好い加減に悪戯を止めたらどうだい』 銅『貴様は脱衣婆の上前をハネよつて、源五郎の着物を無理に掠奪した怪しからぬ奴だ、今此処で裸になれ。その着物をすつかりと源五郎さまに返上するのだ』 弥『エヽ穢苦しい、鼻汁だらけの小便茶の浸みたコンナ着物は、誰が着たいものかい。サア何時でも返してやるワ』 銅『洗濯をして元の通りに綺麗に乾かして返すのだぞ』 弥、与『洗濯せえと言つたつて河もなし婆ぢやあるまいし、ソンナ無理な註文はするものぢやないワ、返してやつたら結構だ』 とムクムクと裸になり、 二人『サアこれでスイとした生れ赤子だ』 銅『ウワハヽヽヽヽ、見事裸になりよつたなア、これから俺の口から万本針を吐いて遣らう、貴様の身体に皆ささつて毛がはへた様にしてやるワ、キツヒヽヽヽ』 弥『エヽ仕様もない針合のない事だ、愚図々々抜かすとハリ倒すぞ。モシモシ宣伝使さま何して御座る、吾々二人が之れほど苦しみて居るのに、貴方は傍観して居つて、それで人を助ける宣伝使と言へますか』 音『ヨー結構な花見だ。桜花爛漫として雲の如く、そこへ日光七色の映じた虹の麗しさ、後から針の様な霧雨ビシヨビシヨと降つて来るこの風情と言つたら、何とも譬へ様のない気候、与太彦、弥次彦の二人は花見踊をして見せるし、操り人形は色々の曲芸を演じて観覧に供すると云ふ体裁だから面白くて堪らぬワイ。霊界物語の第一巻にあつた通り、苦中楽あり、楽中苦ありだ。天国と云つても苦しみあり、地獄と云つても楽みがあると云ふは能く言つたものだ、心の持ちやう一つで地獄となり、極楽となる。嗚呼有難いものだ』 弥『アヽ薩張り駄目だ。力に思ふ宣伝使はこの通り知覚神経が麻痺しちまつて、コンナ苦しい場面が極楽浄土に見えるとは何とした事だらう』 銅『サア是からだ、右の足で俺が一つ四股を踏みたら小鹿峠がガタガタガタガタ、左の足をウンと踏みたら貴様等は天上目がけてプリンプリン、泥田の中へ真逆様にヅドンキューの一言冥土の旅路、アハヽヽヽ』 弥『何だ、小鹿峠の事まで並べよつて、オイ源五郎、好い加減に出て来ぬかい、今度ア俺の番だ』 銅木像はムクムクと立ち上り四股をドンドンと踏みながら、さしも高い禿山を一足に跨げ、のそりのそりと歩み出し、 銅木像『ヤアヤア太陽が余り低いものだから、頭に行き当りよつて仕方がないワ、あすこにも月がぶら下つて居る、腰でもしやがめて通つてやらうかい』 と雷のやうに咆え呶鳴りつつ西の方へと進み行く。 弥『ヤアヤア化像の奴、源五郎も一緒に腹の中に入れて何処へか往つてしまひよつた、アヽ仕方がない、真裸だ、誰か来ぬかいな、着物の用意をせなくちや閻魔の庁へ行く迄に、ポリスに出会つたらまた監禁だ』 与『オイオイ向ふを見よ、日の出別の宣伝使が先に立ち鷹彦、岩彦、梅彦、亀彦の面々が遣つて来るぢやないか、祝詞の声が聞え出したぞ』 弥『ヤア来た来た、彼の宣伝使も何処へ往つたかと思へば、矢張り大蛇に飲まれて冥土の旅をやつてゐるのだなア、然しまア道連が出来て賑やかで好いワイ』 日の出別の一行は馬の蹄の音カツカツと此方に向つて進み来る。 弥『モシモシ、私の頭は小便だらけだ、水でも吹いて清めて下さいませぬか』 日『ヤア鷹彦サン、岩彦サン、貴方がた一同は谷川の水でも、汲みてかけてやつて下さい』 鷹、岩『畏まりました』 と谷に下りて口に水を含み三人の顔に向つて伊吹をした。ウヽーンと唸ると共にハツと気が付けば、小鹿峠の麓の河辺に三人は気絶して居たるなり。 日『ヤー結構々々、吾々の来るのが少し遅かつたら、とうとう冥土の旅をする所だつたなア、マア命があつて何より結構、サア是れからフサの都へ着いて、それからコーカス山に進む事にしよう』 (大正一一・三・二三旧二・二五谷村真友録) |
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16 (1622) |
霊界物語 | 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) | 12 復縁談 | 第一二章復縁談〔五六二〕 勝彦の宣伝使を始め、弥次彦、与太彦、六公の一行は、烏勘三郎の一軍を言向和し、意気揚々として峠の幾つかを越えて、又もや一つの部落に着いた。 此処は二三十軒斗り彼方此方に家の散在せる小部落で小山村と云ふ。 弥『ヤーまた此処にも一小天地が形造られてあるワイ。どこにか都合の好い家を探して休息をさして貰はうかい』 と先に立つてキヨロキヨロと適当の家を探してゐる。小さき草葺の家の門口に一人の婆アが立つてゐる。 弥『モシモシお婆アサン、どうぞ一服さして下さるまいか』 婆『わしは盲目だから、どなただかお顔が分らない。お前サンは一体何処へ行く旅人だい、伴の衆は有るのかい』 弥『ハイハイ、伴の者は一行四人、山坂をいくつも跋つて来たのだから、脚が棒のやうになつて知覚精神は何処やらへ転宅したと見え、チツトも吾々の命令に足の奴服従せないやうになつて来ました。どうぞ此縁側を一寸貸して下さらぬか。儂はこれからコーカス山へ参拝するものですから』 婆『アーさうかな。それは能う御信心が出来ます。私もコーカス山の神様を信心して居る信者の一人だ。ウラル教なら平に御断りだが、コーカス参りをする方なら、きつと三五教だらう。マア悠くりと休んでゐて下さい』 弥『三五教も三五教、チヤキチヤキだ』 勝『モシモシお婆アサン、私は三五教の勝彦と云ふ宣伝使でございます』 与『私は与太彦と云ふ信者でございます。どうぞ宜しう御願ひ致します』 婆『今お前サン等四人と云はつしやつたが、お声は三人ぢやないか。モウ一人の方は何処へ行かれたのだい』 六は作り声して、 六『わたくしはロークと申す吝な野郎でごんす程に、どうぞよろしう御見知り置かれまするやうに』 婆『見知り置けと云つても私は盲目だ。お声を聞知り置くより仕方がないワ。アハヽヽヽヽ』 弥『比較的広い家にお婆アサン、たつた一人かい』 婆『ナニ老爺ドンは中風に罹つて、裏の離棟で今年で三年振り、床に就いたきり困つて居ります』 弥『お婆アサン、お子サンは無いのかい』 婆『子は二人あるが、兄は此間から女房を伴れて私の眼が癒るやうにと、コーカス詣りをしたのだ。モウ二三日したら帰つて来ませう。それに一人の妹があるのだが彼奴は運が悪うて、一旦嫁いた亭主が俄にウラル教の捕手の役人になり、酒を喰ふ賭博を打つ、女にはづぼる、どうにも斯うにも仕方が無い男だ。そこで私の娘のお竹と云ふのを嫁にやつてあつたけれども、お竹は三五教の信者なり、何時も家内がゴテゴテして到頭夜中に逃出して帰つて来よつたのだ。何程勤めてもアンナ極道亭主の所へは仮令死んでも帰らぬと云ふて頑張るものだから、仕方無しに十九番坂の麓の山田村の松屋といふ家へ奉公にやつたのだ。年が寄つてから彼奴の為に偉い苦労をしとるのだ。お前サンも三五教の宣伝使サンなら、一つ神様に祈つて下さらぬか』 弥『ハイハイ承知致しました。御祈念さして貰ひませう。さうしてその娘は年でも切つたのか、ホンの当座奉公か、何方だい』 婆『縁談があれば何処か嫁けねばならぬから、年は切つては居らぬのだ。お前サンもさうして世界を歩きなさるのなら適当な所があつたら世話してやつて下さい。親の口から褒めるぢやないが、お竹と云ふ奴は、夫は信心の強い正直な気の優しい女だ。私もお竹の婿がきまる迄は爺サンも共に死んでも死なれぬと云ふて居るのだ。どうぞ良い縁の有るやうに神様に、とつくりと祈念して下さい』 与『お竹サンの今迄の婿サンと云ふのは、何と云ふ人だな』 婆『それはそれは意地の悪さうな顔をした根性の曲つた六と云ふ男だ。碌でも無い奴だと見える。どうした因縁か、アンナ心の良いお竹が、げぢげぢのやうに嫌はれて居る碌でなしの六助に縁付くとは、神サンもチト胴欲ぢやと、毎日日日爺と婆とが悔んで居るのだ。アーア今頃はお竹はどうして居るか知らぬが、可愛想に、アーンアーン、アンアン』 弥次彦は六の顔を一寸見て、顋をしやくり、 弥『オイ、ロークサン、どうだい。チツトお前も御祈念して上げぬかい』 六『ハーイ、ゴーキネンシテ、アゲマシヨカイ』 弥『アハヽヽヽ、妙な声だ』 婆『お竹の奴は亭主マンが悪うて、其の六公の前にも一度嫁いだのぢやが、其奴がまた酒喰ひで、しかも大泥坊で村ばねに会ふたものだから、泣きの涙で帰つて来て悲しい月日を送つて居つた。其処へ仲人が出て来て、盲目の私にツベコベと、木に餅がなるやうなことを云つて六公の家へ嫁にやつたのだが、その六公が最前も言つた通り、棒にも箸にもかからぬ仕方の無い奴だから、娘も可愛想なものだ。三五教の教には二度迄は縁付きは止むを得ぬから神は大目に見るが、三度になれば天の御規則に戻るとかと云つて、それは八釜敷い教だから可愛想に娘も若後家を立てると云ふて決心はして居るものの、親の心として仮令天の御規則は破れても、モー一遍私の生命を捨ててでも好い夫を持たしてやり度いと思ふのが一心ぢや。お前サンも三五教のお方ぢやさうながどうだらうなア。一遍神様に伺つて下さいますまいか』 弥『ヤアこれは難題だ。吾々には到底解決が付かない。モシモシ勝彦の宣伝使様、何とか解決を与へて下さいな』 勝『三五教の教に親子は一世、夫婦は二世と教へてある。此事に就て随分信者の中にも迷ふ人があるが、之を明瞭と解釈すれば、夫婦といふものは、夫でも女房でも二度より替へられないのが不文律だ』 婆『さうすると先の夫なり、女房なりの片一方が死ぬ。止むを得ないから又後の夫なり、女房を迎へる。さうなると死んでからは夫が二人あつたり、女房が二人あつたりするやうなことが出来るぢやないか。それでは何うも神界へ行つて何方の女房と一所に暮したら本当だか判らぬと云ふて、皆のものがいろいろと評議をして居るのだが、お前サンは如何思ひますか』 勝『夫婦と云ふものは無論身魂の因縁で結ばれるものではあるが、身魂と云ふものは、いくらにも分れて此世へ生れて来て居るものだ。併し余程神力の有る神の身魂なれば四魂と云つて四つにも分れて此世に生れて来るものだが、一通りの人間は先づ荒魂とか和魂とか二魂が現はれて来るのが普通だ。それだから二度迄は同じ身魂の因縁の夫婦が神の引合はせで、不知不識に縁を結ぶ事となる。それだから三人目の夫や、女房は身魂が合はぬから、どうしても御神業が勤まらないのみならず、神界の秩序を紊し身魂の混乱を来す事になるから厳禁されて居るのだ。また霊界に行つた夫婦は肉体欲がチツトも無い、心と心の夫婦だから幽体はあつても此世の人間のやうな行ひは、チツトもする必要も無く、欲望も起らぬから綺麗なものだ。中には執着心の強い身魂は此世に息ある動物を使ふて、ナントか、かとか云ふてわざをする奴がある。けれどもコンナのは例外だ。恰度幽界へ行つてからの夫婦と云ふものは、仲の好い兄弟のやうなものだ。肉体の夫婦は肉体の系統を繋ぐための御用なり、神界の身魂の夫婦は神界に於ける経と緯との御用をするのが夫婦の身魂の神業だ』 婆『コレハコレハ御親切によく教へて下さいました。アヽさうすればあのお竹は最早縁付くことは出来ませぬか。アヽ可愛想に可愛想に、オンオンオン』 勝『ヤアお婆アサン、御心配なされますな。その六とやらの精神を、全然焼き直して、三五教の信者にさせ、酒も、賭博も、道楽も全然止めさして元の通りの夫婦に請合つてして上げやうか。改心すればお前サンも娘の婿にするのは不服ではあるまいな』 婆『アンナ真極道は芝を被らな到底治りつこはないと、お竹が云ふて居りました。それでも神様の御諭しで立派な人間になりませうか。煎豆に花咲く時節も来ると云ふことだから、何とも知れぬけれど迚も迚もあきますまい』 勝『悪に強いものは善にも強いものだ。生れ赤子の真人間に、其の六公サンがなつたらお前どうする考へぢや』 婆『ソンナ結構なことがあれば、爺も婆も兄も喜んで大賛成を致します』 勝『お婆アサン、その六公サンは此頃は三五教の信者となつて、それはそれは立派な人間になつて居ますよ。どうです、私に仲人をさして元の鞘に収めさして下さらぬか。さうすれば三世の夫に嫁いで天則を破る必要も無いのだから』 婆『エーそれは本当ですか』 勝『苟くも神の教を伝ふる宣伝使、なにしに嘘偽りを曰ひませうか』 婆『どうぞさうして下さい、頼みます』 勝『実はその六サンを改心させて、此処へ伴れて来たのだ』 婆『ヤーナンダか聞き覚えのある声だと思ふたが、六、お前来て居るのか。ソンナら夫れで何故早く名乗つて呉れないのだ』 六『お母サン、誠に心配をかけて済みませぬ。今は全然改心を致しまして三五教の宣伝使のお伴を致し、コーカス詣りの途中でございます。山田村の松屋で一寸一服した時に、お竹に思はず一寸出会ひましたが、お竹は私の面を見るなり、裏口ヘ遁げ出しました』 婆『アヽさうであつたか、併し六、心配して呉れな。お竹もお前の改心したことが分つたら、どれ位喜ぶことか知れたものぢやない。善は急げだ、早く誰か使を立てお竹を呼んで来て、まア一度改めて祝言の杯をさし度いものだ』 六『有り難うございます。誠に合す顔もございませぬ。偉い悪魔にとつつかれて居りました。モウ此後はチツトモ御心配はかけませぬから安心して下さい』 婆『アヽ六、よう言ふて呉れた。その一言を聞いたら私はモウ何時国替へしても、この世に残ることは無い、安心して高天原へ行きます』 勝『早速の和談まとまつて重畳々々、併し乍ら此処の息子サンもコーカス詣りの留守中なり、お竹サンも奉公の身の上、吾々も六サンもコーカス詣りの道中、一度参拝を終つてから悠くりと婚礼をしたらどうでせうか』 婆『ハイハイ有り難う。一日や二日に何うといふことは有りませぬ。六サンの精神さへきまれば、それでモウ何も彼も落着だ。どうぞ早く機嫌よく参詣を了つて一日も早く帰つて下さい』 一同『めでたいめでたい、ウローウロー』 (大正一一・三・二四旧二・二六外山豊二録) (昭和一〇・三・一六於台南高雄港口官舎王仁校正) |
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17 (1624) |
霊界物語 | 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) | 14 一途川 | 第一四章一途川〔五六四〕 小鹿峠の四十八坂をば、一行四人はやつと打越え、見渡す限り茫々たる雑草茂る広野原、足にまかせて進み行く。ピタリと行当つた、水勢轟々として飛沫を飛ばし、渦まき流るる谷川の傍に辿り着いた。 弥『アヽ吾々はやうやうにして、小鹿峠の四十八坂を越え、此処の広野原を一行四人連れ、てくついて来たが、此処にピタリと行詰まつた、偉い川が横はつて居るワイ。これからフサの都へ渡り、コーカス山に行く迄は、随分長い道程だが、それまでには沢山の難所が在るだらう。それにしても絡繹として続く日々の老若男女の参詣者は、一体何処を通つて行くのだらう。この頃街道は雑沓だと云ふ事だのに、吾々の通過する処は人の子一匹居らぬぢやないか。ナンデも之れは小鹿峠の下り終ひから行手に踏み迷ひ、反対の方向に進んで来たのではあるまいかなア』 与『何だか、ご気分の冴えぬ天候と云ひ四辺の状況と云ひ、まるで幽界旅行の様だ。いつやら谷底に落ちて魂が宙に迷ひ、とうとう六道の辻まで行つて銅木像に逢つた時の様な按配式だぞ。どうやら此川も三途の川の兄弟分ぢやあるまいか、何だか変な風が吹いて来るぞ。アヽ此奴は不思議だ、今の今まで泰然自若乙に構へこみて居た山岳の奴、知らぬ間に何処かへ消えて仕舞ひよつた、まるで三途の川のやうな按配式だ、ナア弥次彦、貴様はどう思ふか』 弥『吾々の言霊の御神力に恐縮しよつて、山の奴雲を霞と逃げ散りよつたなア。随分三五教の吾々は豪勢なものだワイ』 勝『オイ此処は冥土を流るる三途の川ぢやなからうかな。何だか娑婆の川に比べて調子が違ふやうだ』 弥『調子が違つたつて御心配なさいますな、この弥次サンはドンドンながらポンポンながら、カンカンながら、前後〆めて弐回までも、幽界探険の実地経験を持つて居るお兄サン。最初与太公と遣つて来た時には、三途の川は実に綺麗な水だつた、それが第二回目に来た時には何とも知れぬ、臭気紛々たる川風が鼻を突くやう、小便大便黒血鼻啖の混合したやうな、汚くるしい物が流水代用の芸当を静かにやつて居た。その時三途の川の渡守兼脱衣婆奴が、世の中の奴が汚れた事をしをるから、この清い川がコンナに汚くなつたと云ひよつた。どうせコンナ汚い娑婆が、さう俄に清潔になるものぢやないから矢張冥土にある三途の川なら、依然として汚濁の水が永久に満ち流れて居る筈だ。之はまた素敵滅法界な清流だ、これを思へば三途の川とは、どうしても受取れないワ』 六『モシモシ皆サン、彼処の枝振の洒落た松の根許に小さい家が現はれて居るぢやありませぬか、あれやきつと三途の川の鬼婆の本宅かも知れませぬぜ』 弥『ナーニ、あれや瓦葺だ。婆の御館と云ふものは、それはそれは立派なものだ。どうしても比較にはならない黄金蔵の様だよ』 与『黄金蔵つて何だい、この前に貴様と旅行した時には見すぼらしい雪隠小屋の様な庵じやなかつたかい』 弥『アハヽヽヽ、頭の悪い奴だナ、雪隠小屋の様だから、当世流に黄金蔵と言霊を詔り直したのだよ』 与『何を吐しよるのだ、然しどうも臭いぞ。一つドンナ奴が居るか訪ふて見やうかい』 弥『マア待て一つ考へものだ。熟思黙考の余地は十二分に存する』 与『ヤア構はぬ当つて砕けだ。一つ善か悪か虚か実か爺か媼か、絶世の美人かおかめか、検非違使の別当与太衛門尉無手勝公が首実検に及ばうかい』 弥『アハヽヽ、又そろそろはつしやぎ出したなア、それほどはつしやぐと、日輪様が御出ましになつたら、貴様の細腕が燻ぼつてしもうぞ』 与『何を言ふのだ、燻つて来たら、この川にザンブと浸れば好いのだ。採長補短、水欠水補だ、ソンナ事に心配するな。自由自在の天地を跋渉する、三五教の宣伝使の候補者だ』 と云ひながら小屋の傍にツツと立寄り妙な腰付きをして、両手を蟷螂の様に構へたまま膝をくの字に曲げ、尻を振りながら、一軒屋の無双窓を覗き、 与太彦『モウシモウシお媼サン一夜の宿を願ひます それはお易い事ながらこれなる部屋を開けまいぞ それは誠に有難う今宵は此処にゆつくりと 足を伸ばして寝るであらうお婆は口を尖らして これなる居間を開けまいぞ言ひつつお婆は谷川に 手桶をさげて水汲みに後に与太彦只一人 今なるお婆の云ふたにはこれなる部屋を開けなとは てつきりおむすの添伏しか何は兎もあれ開けて見よ 左手に襖カラリ開けつらつら見ればこは如何に あちらの隅には手があるこちらの隅には足がある 今宵この家にとまりなば手足も骨もグダグダに 出刄で料理つて塩つけておほかたお婆が喰ふであろ これやたまらぬと泡を吹き裏口指して尻からげ スタコラヨイサノ、ドツコイシヨドツコイサノエツサツサノ、エンサノサ エツササノエササ、エササノサツサイ アハヽヽヽ』 弥『コラこの大馬鹿、何を洒落るのだ、此処はどうやら三途の川だぞ。まごまごして居ると本当に三途の川の鬼婆が、又着物をすつくり取り上げて、親譲りの洋服まで渡せと吐しよるぞ、君子危きに近づかずだ、早くこちらへ逃げてこぬかい』 与『エヽ今回も前回もあつたものかい、カイツクカイのカイカイカイだ。オーイ三途の川の鬼婆、先達来た与太公が又来たぞ。モウ何時ぢやと思ふて居るのだ、好い加減に起きぬかい』 家の中より、中婆の声として、 婆『誰れぢや誰れぢや、折角夜中の夢を見て居るのに、門口であた八釜しい吐す奴は何奴ぢやい』 与『誰でもないワイ、俺様ぢや』 婆『俺様と言つたつて名を言はな分るかい、貴様も智慧の足らぬ奴ぢやなア、目に見えぬ肝腎なものを落として来よつたと見えるワイ』 与『コラコラ三途の川の鬼婆奴、何を愚図々々と言つて居るのだい。早く手水をつかつて与太サンの一行に、渋茶でも汲まないかい』 婆『八釜しい言ふな、病人があるのに病気に障るワイ、ゲンの悪いことを言ふて呉れな、冥土か何ぞの様に三途の川ぢやのと、此処は一途の川ぢやぞ』 与『ヤア時節柄物価下落の影響を受けて、ドツと踏張りよつて二途を引き下げたな、サヽ投げ売り投げ売り、只より安い買ふたり買ふたり。このカリカリ糖は食べれやおいしい、食や美味い、ボロリボロリと歯脆うて歯につかぬ、湿る例しもなし、雨が降つてもカーリカリだ、アハヽヽヽ』 婆『エヽー、アタ八釜しい、お前は何処の奴乞食じや。ソンナ芸位いしたつて一文もやらせぬぞよ』 与『一門残らず討死と、聞く悲しさは嵯峨の奥、泣いてばつかり暮せしに、一途の川の乞食小屋とやらに、鬼婆がお坐しますと、一行四人は手に手を取つて、此処まで来たのがおみの仇、思へば思へばこの与太は、去年の秋の病気に、一層死んでしもうたら、斯うした歎きは在るまいもの、娑婆塞ぎになるとは知りながら、半時なりと生き長らへたいと思ふて来たのが吾身の仇、今の思ひに較ぶれば、なぜに三年も先にこの川へ、エーマ身を投げて死ななんだであらう、アヽヽヽチヤチヤチヤンチヤンチヤンチヤンチヤぢや』 弥『また演劇気分になつて居よるナ、門附芸者の様な、見つともない。洒落は止めたがよからうぞ』 婆『何処の奴乞食か知らぬが、表の戸をプリンと押して這入つて来なさい。田子の宿で飲んだ様な小便茶なと汲んで上げやうかい』 与『オイオイ弥次公、何を怕々して居るのだ、婆アサンが結構な茶をヨンデやらうと云ふて居るぞ。早う来て一杯グツと頂戴せぬかい』 弥『モシ宣伝使様、どうしませうかな』 勝『兎も角這入つて見ませうか』 三人は与太彦の後に随いて門口を跨げた。這入つて見れば外から見たよりは、比較的広き二間造りの座敷に、この家の主人と見え中年増の婆が横はつて居る。その傍に少し若さうな一人の婆が、何かと病人の世話をして居る。 勝『ヤア見れば当家には御病人が、おありなさると見える。是れは是れは御取込みの中に大勢のものが御邪魔を致しました』 婆『ハイハイ、ようマア立寄つて下さつた。此処は一途の川と云つて、お前サン等の身魂の洗濯をする処だ。二人の婆がかたみ代りに、往来の人の身魂の皮を脱がして洗濯をする処だ。サア此処へ来たが幸ひ、真裸にして親譲りの皮を脱がして上げやう。お前の顔は蕪の千枚漬ぢやないか、随分厚い皮だ。サア一枚々々隙がいつても仕様がない、年寄に苦労を掛けて困つた人だな、これもウラル彦の神様の御命令ぢやから仕方がないワ。お前等は三五教の宣伝使や信者であらう、アヽ三五教と云ふやつは、男子ぢやとか女子ぢやとか吐して、俺達の世の中を奪うとする奴ぢや。お前もその乾児だからエーイ出刄でも持つて来て、その厚い皮を剥いて遣らうかい。男子の方はまだしもだが女子と云ふ奴は瑞の御魂で、カメリオンの様な代物だ。アンナ奴の立てた教に呆けて、まだそこら中に開きに往くとは不都合千万、エーイ腰の痛い事だワイ』 と右手に出刄を持ち左手を握り、腰の辺を三つ四つポンポン打ちながら、 婆『アーエーイ、腰の痛いこつちや』 弥『オイ貴様はウラル教の悪神の乾児だな。道理で星の紋の付いた布団を着たり、羽織まで星の紋を着けてゐよるワイ、コラ婆アサン貴様こそ改心したらどうだい』 婆『エーイ八釜しいワイ、常世姫命様のお台サンが病気で寝て御座るのに、何をガアガアと騒ぐのだ。神妙にせぬと十万億土と云ふ処へ、送り届けて万劫末代この世へ上がれぬ様にして遣らうか』 与『何だ出刄を提げよつて、強圧的に矢張りウラル教はウラル式だ、奥州安達ケ原の鬼婆見た様な奴だなア。貴様はかうして此川辺に巣を構へよつて、三五教の宣伝使や信者の身魂を引抜く奴ぢやな。コレヤ、その手は喰はぬぞ、貴様の身魂をこなサンが引抜いてやらうか』 婆『何ほど八釜しく、じたばたしても恟とも動くものかい。俺は善の仮面を被つてヱルサレムの宮に、出入をして居つた常世姫命の一の家来の、木常姫の生れ替りだぞ、酢でも蒟蒻でも往く婆でないぞ』 弥『貴様は木常姫の生れ替りだな、木常姫と云ふ奴は仕方のない奴だ』 婆『仕方がなからう、小鹿峠の二十三峠の上で、この婆が貴様を苦しめた事を覚えて居るだらう、恐かつたか恐れ入つたか』 弥『エー何だか俺の背に虻がとまつたかと思つたら、貴様だつたなア。何をへらず口叩きよるのだ、愚図々々吐すと言霊の発射だぞ』 木『オホヽヽ、仰有るワイ仰有るワイ、あの時に日の出別と云ふ我楽多神が出て来よつて、いらぬチヨツカイを出しよるものだから、戦ひ利あらず、時非なりと断念して、茲に第二の作戦計画を立て、手具脛引いて待つて居たのだ。モウ斯うなつては此方のものだ、袋の鼠も同様、これや此出歯の言霊で霊なしにしてやらうか』 弥『アハヽヽヽヽ、婆の癖に剛情な奴だなア。貴様のやうな奴は屹度死んだら、三途の川の脱衣婆の後任者となつて、終身官に任ぜられる代物だナ』 婆『オホヽヽヽ、脱衣婆の役は俺の姉さまの役だよ、わしは其妹だ、酢でも蒟蒻でも梃でも棒でも、いつかないつかな恟ともせぬ、我の強い岩より堅いカンカンの鬼婆だ。如何に三五教の宣伝使でも此婆には敵ふまい。一遍に行かねば、二度でも三度でも、仮令十年百年千年かかつても、貴様の身魂を抜き取らな置くものかい』 弥『何と執念深い婆ぢやないか、早く修羅の妄執を晴らしよらぬかい。天国に往くのが好いか、地獄に行くのが好いか、此処は一つ思案の仕処ちやぞ』 婆『俺は天国は大嫌ひぢや。天国へ往かうとする奴を片つ端から、霊を抜いて地の底へ送るのが、俺の役だ。偽の変性男子だぞ。此処に寝て居る常世姫の懸る肉体は、偽の日の出神ぢや、竜宮の乙姫もタンマには憑つて来るぞ。三五教の奴は、日の出神を地に致して竜宮の乙姫殿のお活動で、この世を水晶に致すとぬかしよつて威張つてをるが、この世が水晶になつて耐るかい。日の出の世になつたら、俺達の居る処は無くなつてしまうワ、それだから貴様等のやうな馬鹿正直な頓痴気野郎や、腰抜け女を鼠が餅を引くやうに、チヨビリチヨビリと引張り込んで、日の出の神は此処ぢや、竜宮の乙姫も此処に現はれて居ると、三五教の奴を誑かして、女子の霊魂を困らしてやるのだ。アハヽヽヽ、気分の好い事ぢや、心地が好いワイ、イヒヽヽヽ』 勝『ヨウ貴様等は不届至極な婆達ぢや、最早貴様の口から自白致した以上は、弁解の辞はあるまい。曲津と云ふ奴は賢い様でも馬鹿だなア、蛙は口から吾と吾手に白状致し居つた。アハヽヽヽ』 婆『ドウセ貴様は只で帰す奴ぢやないから、俺達の企みを隠す必要もなし、因果腰を定めて、貴様の霊を一々手渡しせい。愚図々々吐すと俺が手づから、貴様の土手腹へ此奴をグサリと突つ込み、一抉りに抉つて取つてやるぞ』 弥『何を吐すのだ。顋太許り叩きよつて、脅したりすかしたり貴様の奥の手は好く分つて居るぞ』 婆『貴様達は三五の月の御教だと吐して居るが、その月は運の尽ぢや、片割月ぢや、ソンナ月が間に合ふか。 十五夜に片割月はなきものを 雲に隠れて此処に半分 と云ふ事を貴様は知つて居るか、本当の真如の月は、此処に半分どころか、丸で隠れて居るのだ、切れてばらばら扇の要だ。三五教は自在天と盤古大神の系統の神に、ばらばらに骨を抜かれよつたぢやないか、肝腎の要は此処に握つて居るのぢや。神の奥には奥があり、その又奥には奥がある、その又奥に奥がある、昔々去る昔、ま一つ昔の其昔、その又昔の大昔から、この世を自由に致さうと思うて、八頭八尾の大神様や、金毛九毛のお稲荷様、酒呑童子のお身魂様が、この一途の川の片傍に、仕組を致して居るのを知らぬか。好い加減に目を醒まして、魂をこちらへ潔く渡して、生れ赤子になつて悪神の眷族にならぬかい』 弥『アハヽヽ、コラ二人の婆、何を劫託ほざきよるのだ。勿体なくも五六七大神様が地の高天原に顕現なされた以上は、何程貴様等が火になり蛇になり猿になり狼になり狸になり、或は大蛇、狐、鬼になつて、黄糞をこいて藻掻いたつて駄目だぞ。一日も早く改心を致したがよからう』 婆『イヤイヤ、誰が何と言うても、仮令百遍や二百遍、生命がなくなつても、誠の道は嫌ひだ。誠の道と見せ掛けて悪を働くのが俺達の身魂の性来だ。金は何処までも金ぢや、瓦は何処迄も瓦ぢや。俺達は善の仮面を被つて、高い処へとまつて、熱さ寒さも知らず顔に、世界の奴を睨み下ろして居る鬼瓦ぢやぞ』 与『こりや鬼婆、イヤ鬼瓦、道理で冷酷な奴ぢやと思うて居つた』 婆『定つた事だ、俺達の眷属や系統のものが世界の奴の霊をスツクリ引抜いて、鬼瓦の霊と入替へをして置いたから、世の中の奴は皆冷酷無残な動物霊になつて、餓鬼修羅畜生の境遇になり、優勝劣敗、弱肉強食の体主霊従的非行を盛んに続けて居るのだ。最早三千世界は九分九厘まで、俺の心の儘に曇つて来居つたが、困るのはモウ一輪の所だ。変性男子の身魂はどうなつとして、チヨロマカして来たが、歯切れのせぬのは金勝要の神魂だ。そこへ我の強い変性女子の御魂や、木の花咲耶姫の御魂が出しやばりよつて、俺達の仕組の邪魔をさらすものだから、多勢の者の難儀と云ふたら、口で言ふやうなものでないワイ。貴様等も変性女子やら木の花姫の、霊主体従の教を開きに廻つて、俺等の邪魔をする奴ぢや。何と云つても貴様の霊を引抜かねば、常世姫命に対して申訳が立たず、第一盤古大神や自在天様に申訳がないワイ。婆アの一心岩をも突貫く、いい加減に因果腰を据ゑたが好からうぞ。イヒヽヽヽヽ』 勝『ヤアこの婆、貴様はよつぽど因縁の悪い奴だ。本当にこの世界がほしいか、執着心のきつい奴だ』 婆『ほしいワほしいワ、欲しい印に星の紋が附けてあるのも知らぬかい。星の紋は米の紋ぢやぞ。それが欲しいばつかりに夜昼なしにやきやきして居るのぢや、オーンオーンアーンアーン、何でもかでも欲しいワイ欲しいワイ。三五教はどうしてもやめてほしい、此方の方へ魂を渡して欲しい、是丈け梅干婆にほしいほしいが重なつて、目にまで星が這入つたワイ。蛙の干乾の様な痩た身体になつても、それでもまだ欲しいワイ。欲に呆けた為に俺の着物も梅雨が来て、アチラコチラに星が入つて来た、早う土用が来てほしいワイ、土用干でもせな星がとれぬワイ』 弥『コラ婆アサン、その星を取つたが好いのか、とらぬが好いか、どつちやか返答が一寸きかしてほしいワイ』 婆『着物の星は取つてほしいが、俺のほしいは取つてはならぬワイ』 与『イヤア此婆、五右衛門風呂の蓋のやうな事を吐きよるな、入るときに要らぬ、入らぬときに要る風呂の蓋だ。オイ風呂蓋婆、梅干婆、貴様も棺桶に片足突込んで居つて、好い加減に我を折つたらどうだい。ほしい、おしい、可愛い、憎い、欲に高慢、恨めしい、苦しい八つの埃と吐かす十九世紀の転理数のやうな奴だな』 婆『エーエー言はして置けば止め度なく、痢病患者のやうにビリビリとよう垂れる奴ぢや。くだらぬ理屈を管々しく垂れ流してエヽ汚苦しいワイ。何も彼も綺麗さつぱり御塵払ひをして、この婆に根こそげ奉納しよらぬかい。愚図々々して居ると、俺の方から行動を開始するぞ。コレコレ常世姫の神、もう起きてもよかろう、サア早く起きて下さい、二人寄つて此奴等四人を真裸にして、ソツと猫糞をキメやうかいな』 伏婆むくむくと起き上り、 婆(常世姫)『ヤア最前から病人と詐はり、様子を考へて居れば、ようマア理屈を垂れる娑婆亡者、此処は三五教の女子の系統の魂がほしさに、寝ても起きても一途の川の脱衣婆アサンぢや、車の両輪、飯食ふ箸、人間の二本のコンパス、両方からばばとばばが狹み打ちをしてやる、サアどうぢや』 四人一度に身構へをなし、 四人『ヤア何と吐いた、サア来い勝負』 と手に唾し、グツと睨み付けた。婆は手に手に出刄をひらめかし、突いて掛るを四人は汗みどろになつて、前後左右に身を躱し、奮戦格闘すること殆ど半時ばかり、勝彦は常世姫の出刄に、腰骨をグサリと突かれた途端に目を覚ませば、豈図らむや一行四人は二十五峠の麓の谷底に風に吹かれて落ちこみ居たりける。 (大正一一・三・二五旧二・二七谷村真友録) |
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霊界物語 | 15_寅_顕恩郷/スサノオの経綸/高姫登場 | 15 山の神 | 第一五章山の神〔五八二〕 此世を澄す素盞嗚の神の命に従ひて 御稜威も高き高国別は奇の岩窟に陥りし 老若男女の生命を一人も残さず助けむと 地底の洞に飛び込みて神に願をかけまくも 雄々しき姿すたすたと声する方を辿りつつ 往き当りたる岩の戸に又もや両手を組みながら 進退茲に谷まりて暫し思案に暮れ居たる。 時しもあれや何処よりか、閃光輝き高国別が前に火玉となりて進み来るものあり。 高国別は剣の把に手をかけて、寄らば斬らむと身構へす。巨大なる火の玉は、高国別が四五間前に万雷の一時に落つるが如き音響と共に落下し、白煙となつて四辺を包み咫尺を弁ぜざる靄の中、高国別はきつと腹を据ゑ臍下丹田に息を詰め、天津祝詞を奏上しければ、今迄咫尺を弁ぜざりし猛煙は拭ふがごとく消え失せて、優美なる一人の女神、莞爾として佇立して居たまふ。 高国別は、 高国別『ヤア汝は何者なるぞ、察する所此岩窟に蟠まる金毛九尾の悪狐の眷属ならむ、吾が両刃の長剣に斬り捨てむ』 と云ふより早く剣光閃く電の早業、斬つてかかれば女神は中空に舞ひ上り、飛鳥の如く右に左に上に下に体を躱し、遂には又もや以前の火弾と化し、唸りを立てて岩窟の内を矢を射る如く逃げ去りにける。 油断はならじと高国別は附近キヨロキヨロ見廻す折しも、身の丈一丈五六尺もあらむと思はる大男、異様の獣を引きつれながら此場に現はれ、高国別に一寸会釈したり。高国別は又もや魔神の襲来ならむと眼を配り身構へする。大の男は大口開けて高笑ひ、 男『アハヽヽヽヽ、汝は高天原より下り来れる俄造りの似非審神者、吾正体を見届けよ』 と鏡の如き眼を見開き、かつと睨めつけたり。高国別は両手を組み、鎮魂の姿勢を取り、ウンと一声言霊を発射したるに、大の男は忽ち体を変じ優美なる女神となりぬ。 高国別は、 高国別『千変万化の悪神の悪戯、今に正体を現はして呉れむ』 と両刃の長剣を閃かし、女神に向つて骨も通れとばかり突きかかる。女神は手早く体をヒラリと躱した途端、勢余つて高国別は岩窟の中の隧道を、トントントン、と七八間許り行き過し、底ひも知れぬ陥穽に真逆さまに転落し、高国別は其儘息絶え、最早此世の人にはあらざりけり。 高国別は唯一人、天青く山清く百花爛漫たる原野を神言を奏上しながら何処を当ともなく、足の動くままに身を任せ進み行く。 前方に屹立する雲の衣を半被りたる高山が見えて来た。高国別は山に引つけらるる如き心地して、足に任せて進み行く。パタリと行き当つた峻坂、仰ぎ見れば鮮花色の男女の群四五人、何事か面白可笑しく囁きながら、此方に向つて悠々と進み来る。高国別は両手を組んで独言、 高国別『アヽ吾は素盞嗚尊の大神の御伴仕へまつり、カナンが一家に休息し給ふ尊の命によつて諸人の後を追ひ、不思議の岩窟に忍び入りしと思ひきや、天空快濶一点の雲霧風塵もなき大原野を渡り、今又此山口に来るこそ合点がゆかぬことである哩』 と後振返り四方の光景を眺めて思案に暮れて居る。五人の男女は此処に現はれて一斉に恭しく目礼しながら、 五人『貴下は高国別の宣伝使、活津彦根神に在さずや、吾等は神伊邪諾大神の使者として貴下を迎への為に罷越たり、イザイザ御案内申さむ』 と先に立つて進み行く。高国別は何心なく、いそいそと五人の後に従ひ急坂を登り行く。漸う坂の絶頂に達した。二男三女の神人は口を揃へて、 五人『これはこれは高国別様、お疲れで御座いませう。此処は珍の峠の絶頂、先づ御休息下さいませ』 高国別は、 高国別『アヽ思ひも寄らぬ一人旅、何となく此麗しき山野を跋渉するにも話相手もなく稍寂寥を感じて居ました。然るに此坂の下より麗しき貴方等の御迎へ、一円合点が参り申さず、珍の峠とは何国の山で御座るか』 五人は、 五人『ハイ』 と云つたまま、ニコニコと笑つて答へぬ。折しも得も云はれぬ涼しき風徐に吹き来り、高国別の顔を撫で颯々たる声を立て、幅広の木葉を翻しながら過ぎて行く。 高国別『オー恰で天国浄土のやうな心持が致す、百鳥は空に謡ひ百花爛漫として咲き乱れ、風は清く香ばしく、幽かに聞ゆる微妙の音楽、曇り果てたる葦原の国にもかかる麗しき郷土のあるか、アヽ心持よや』 と芝生の上にどつかと坐し、言葉涼しく一同に向ひ、 高国別『合点の行かぬ今日の旅行、貴方等は何れの神に坐し在すか、名乗らせたまへ』 一人の男は恭しく、 男『私は三五教の宣伝使たりし亀彦で御座います。これなる女は菊子姫と申し、神素盞嗚の大神の第六の御娘、今は大神の御心により千代も変らぬ宿の妻、此処は地底の国の天国、珍の峠で御座います』 高国別『アヽ、貴方は音に名高い亀彦の宣伝使、貴方は大神の御娘菊子姫様か、思はぬ処でお目に懸りました。してして父素盞嗚の大神は今何処くに在すか、聞かま欲しう存じます』 菊子姫は涙をはらはらと払ひながら、 菊子姫『申すも詮なき事ながら、父大神は天地諸神人のために、千座の置戸を負はせたまひ今は味気なき漂泊の一人旅、何処の果に在すらむ、せめては其御消息なりとも聞かま欲し』 と涙ぐみ芝生の上に泣き伏しにけり。 梅彦は、 梅彦『これはこれは菊子姫殿、此処は地底の天国で御座る。天国に涙は禁物、歓喜の花の開くパラダイスで御座るぞ。いや高国別様、吾々は三五教の宣伝使たりし梅彦と申す者、これなる妻は菊子姫の姉幾代姫で御座います。大神の内命に依つて夫婦の約を結びました。此後宜敷くお願ひ致します』 高国別『アヽ左様で御座つたか、思ひも寄らぬ不思議の対面、全く大神様のお引き合せ、アヽ有難し。斯くも麗しき山上にて大神の姫御子に御目に掛る事望外の仕合せで御座る』 梅彦『貴神はペテロの都に於て驍名隠れなき御神様、幾度か生死を往来遊ばされ、此処に活津彦根神と現はれ給ひし天下無双の忠勇義烈の神様と承はる。天の太玉命の仲介により、素盞嗚の大神の御許しを得て第一の御子たる、此愛子姫様を貴下の妻と神定めさせ給へば、今より愛子姫様を妻となし、神国のためにお尽し下されば有難う存じます。貴方にお渡し申す迄吾等は日夜の気懸り、之にて吾願望も成就致しました』 と梅彦は心落ち付きし様子なり。 愛子姫『これはこれは、音に名高き高国別様、夫となり妻となるも神の結びたまひし身魂の因縁、千代も八千代も妾と共に、手を携へて神業に尽させたまへ』 と顔に紅葉を散らしつつ優しき手を膝にあて語り出るは愛子姫なり。高国別は、夢か現か幻か合点行かぬと、暫し茫然として大空打ち仰ぎ思案に暮れ居たり。 梅彦はモドかしがり、 梅彦『高国別様、何を御思案なさいます、何事も結びの神の御定め、直に御承諾なさいませ』 高国別『アヽ、有難し有難し、思ひも寄らぬ山上の見合ひ、山の神様の御仲介、草の筵に雲の天井、風の音楽に木々の木の葉の舞ひ踊り、イヤもう有難う承知仕りました』 と高国別は笑顔をもつて迎へゐる。これより世俗は妻を山の神と云ふのである。愛子姫は立ち上り、高国別に向つて、南方の諸山を圧してそそり立てる高山を指さし、 愛子姫『雲の彼方の黄金の山は我等が永久の故郷、いざいざ御一同進みませう』 と先に立つて急坂を南に下る。一同は一歩一歩力を入れながらアブト式流に坂を下り行く。雲表に屹立せる彼方の遠き高山の山頂に何時の間にやら達してゐた。三夫婦は山頂に衝立ち天津祝詞を奏上するや、山を包みし五色の雲は扉を開きし如く、颯と左右に開けた。目の届かぬ許りの青野原、白き、赤き、青き、黄色き、紫色の三重五重十重二十重の塔は、眼下の青野が原の部落の中に幾百ともなく屹立し、其絶景譬ふるに物なく、遠く目を放てば紺碧の波を湛へたる大海原、浪静に純白の真帆片帆、右往左往に走り行くさま、画伯の手に成れる一幅の大画帳の如く、時の移るも忘れて一同は絶景を見守つて居た。此時山頂の麗しき祠の中より、黄金の扉を開き現はれ出でたる一柱の女神、二人の侍女を伴ひ悠々と六人が前に現はれて、 女神『妾は木花姫なり、汝等は忠勇義烈至仁至愛の神人なれば、汝が永久に住むべき国は此聖域なり。併しながら未だ現界に於て勤むべき事あれば、再び現界に引き返されよ。今後は心を緩ませ玉ふな。体主霊従の魔風に誘はれなば、再び此処に来る事能はざるべし、今より速かに現界に帰り給へ』 と優美にして荘重なる言葉を残し、黄金の扉を閉ぢて、侍女と共に又もや祠の中に姿を隠したまうた。 忽ち四辺暗黒となり、身体に寒冷を覚ゆると見る間に甦り見れば、高国別は岩窟内の深き井戸の底に倒れ居たるなり。 高国別『アヽ夢であつたか、併し乍ら吾を活津彦根と仰せられしは不審の一つ、吾身の守護神を知らずして憖に審神を行ひしため、大神の御仁慈によつて教へたまひしか、アヽ有難し有難し』 と、合掌し声も涼しく天津祝詞を奏上したりける。フト空を仰ぎ見れば窟の周囲に麗しき二男三女の夢に見し神人が立ち現はれ、井底を覗きて何事か囁き居るあり。高国別は夢に夢見る心地して、又もや両手を組み心の縺れを手繰り居る。稍ありて高国別は井底より空を仰ぎながら、 高国別『もしもし亀彦様、梅彦様、その他三人の女性様、私は高国別で御座います。人の命を救はむために、地中の岩窟に忍び入り、過つてかかる古井戸の底に陥ちました。何とかして私をお救ひ下さいますまいか』 亀彦『ヤア噂に聞き及ぶ高国別様か、それは嘸お困りでせう、何とか一つ工夫をしてお救ひ申さねばなりませぬ。併し乍ら斯る岩窟の中にある古井戸には階段があるものです。この亀彦も一度フサの国の醜の岩窟の古井戸に陥ち込んだ時、如何はせむかと心を痛めましたが、フト傍を見れば階段が刻まれてありました。よくよく調べなさいませ』 高国別『有難う御座います、少しの手がかりも足がかりも御座いませぬ。恰度竹筒の中に落ちたやうなものです』 梅彦は、 梅彦『アヽ、困つたな、吾々も一度古井戸に陥ちた経験があるが、階段がないとは意外だ、何とか工夫をせねばなりますまい。亀彦サン、貴方の褌と帯を外して下さい、吾々も帯と褌とを解きます。これを繋いで井底に釣り下しませう』 と云ひつつ、くるくると帯を解き、褌を外し手早く繋いだ。亀彦も同じく帯と褌を取り外し、手早く繋ぎ合せ井戸に下げ降して見た。 梅彦は、 梅彦『モシモシ、高国別様、この帯にお掴まり下さい』 高国別『イヤ、有難う、折角の思召ながらどうも届きませぬ。加ふるに怪しき臭気が致します』 梅彦は、 梅彦『アヽ、何と云ふまわしの悪い事だらう。エヽ仕方がない、三人のお女中、貴女方の帯を解いて下さいませ』 愛子姫『ハイ、如何致しませう。菊子さま、幾代さま』 二女『さうですなア、吾裸体になるのは恥かしいワ』 梅彦『恥かしいの何のと云つてゐる所か、人命に係はる大事だ。サアサアコンナ時には恥も糞もあつたものでない、帯をお解きなさい』 愛子姫『それでも余り残酷ですワ』 亀彦『これこれ愛子姫さま、何を仰有るのだ、貴女こそ残酷だ。高国別様が危急存亡の場合、サアサア、キリキリとお解きなさい。もしもし高国別さま、何うも仕方がありませぬ、吾々が帯を解き褌を解き、三人の女神の帯を繋ぎ合して、今垂下致しますからね、少々臭くても御辛抱下さいませ、女の匂ひと云ふものは却つて床しいものですよ、アハヽヽヽ』 高国別『夫計りは御免蒙り度い、ヤア神様の宿り給ふ頭の上で、ソンナ物をべらべらさして貰つては有難迷惑だ。どうぞ早く手繰り上げて下さい』 亀彦『エヽ、無理計り云ふ神様だな、此場に及んでどうも仕方がありませぬワ。些とは鼻を摘んで御辛抱なさいませ。異性の匂ひは却つてよいものですよ』 高国別『アハヽヽヽ、ヤア皆さま、御心配をかけました。何うやら梯子が刻まれてあるやうに思ひます』 亀彦『アハヽヽヽ、矢張り三五教の宣伝使は洒落が上手だなア、此処迄洒落ると、洒落も徹底して面白い。もしもし三人の姫御前、御安心なさいませ、帯を解くのだけは赦して上げませう』 三女『ホヽヽヽ、誰が帯ども解きますものか、帯を解く時間にはも些と早いぢやありませぬか、ホヽヽヽヽ』 亀彦『また貴女方も洒落るのか、モシモシ高国別さま、早くお上りなさらぬか』 高国別『アヽ矢張り間違ひだつた、些とも手係りがありませぬワ。誠に済みませぬが私の一命を助けると思召し、どうぞお慈悲に三人の女性様の帯を解いて、繋ぎ合して助けて下さい、お願ひぢやお願ひぢや』 亀彦『エヽ、何だ矢張り虚言だつたか、これは仕方がない。サアサア三人の女性様、ちつと時間は早いが夫の云ふ事だ、女房が聞かぬと云ふ事があるものか、早く解いたり、解いたり。エヽ何、恥かしいと。何が恥かしい、水も漏らさぬ夫婦仲ぢやないか』 菊子姫『それでも姉さまに恥かしいワ』 亀彦『何、姉さまのお婿さまを助けるのだ。ソンナ遠慮が要るものか』 愛子姫『ホヽヽヽヽ、エヽ仕方がありませぬ、妾が率先して模範を示しませう』 と帯を解きかける。井戸の底より陽気な声で、鼻歌を謡ひながら、トン、トンと上つて来る。 高国別『ヤア皆様、種々と御心配をかけました。お蔭で梯子段が俄に出来ました。兎も角咄嗟の場合急造したものですから、実にやにこいものです。アハヽヽヽ』 梅、亀『何だ、裸体になり損をしたワイ』 高国別『人間は生れ赤子にならねば神様の御神徳は頂けませぬよ、赤子の時には裸体で生れたのだもの、アハヽヽヽ』 高国別は拍手を打ち合掌しながら天津祝詞を奏上し始めた。一同は声を揃へて合唱する、其声音朗々としてさしもに広き岩窟に響き渡り、天地開明の気分漂ふ。 愛子姫『貴方は父の許せし吾夫、活津彦根の神様、ようマア無事で居て下さいました』 高国別『ヤア合点の行かぬ事もあればあるものだなア、お前が珍の峠でお目にかかつた山の神さまだなア。ヤア有難い有難い、三夫婦揃うた瑞霊の夫婦連れ、二三が六人手を携へて睦まじく、此処で結婚の式を挙げませうか』 亀彦『結婚の式を挙げやうと云つた所が、此様な岩窟の中、何うする事も出来ないぢやありませぬか』 高国別『イヤ、御霊と御霊の結婚、心の盃の取り替はし、千代も八千代も末長く、睦びて進む六人連、栄の花を三夫婦が、天地人揃うて岩窟の探険、三つの御霊の父大神の御引合せ、アヽ有難し有難し、目出度し目出度し、一度に開く梅彦さま、万代祝ふ亀彦さま、嬉しき便りを菊子姫、幾代変らぬ幾代姫、神の恵の愛子姫、睦び合うたる三夫婦が、身魂の行末こそは楽しけれ』 といそいそ神歌を謡ひながら、又もや奥へ奥へと進み行く。 (大正一一・四・三旧三・七加藤明子録) (昭和一〇・三・二三於花蓮港分院王仁校正) |
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霊界物語 | 16_卯_丹波物語1 大江山/冠島沓島/丹波村 | 06 石槍の雨 | 第六章石槍の雨〔五九六〕 大空碧く澄み渡り山河清くさやかにて 静かに流るる和知の川枝も鳴らさぬ音無瀬の 川の流れは緩やかに幾千丈の青絹を 流すが如くゆらゆらと水瀬も深き由良の川 神代も廻り北の風真帆を膨らせ登り来る 深き恵を河守駅や河の中央に立ち岩の 関所を越えて漸うに足許早き長谷の川 水の落合右左左手に向ひ舵をとり 上る河路も長砂や幾多の村の瀬を越えて 此処は聖地と白瀬橋下を潜つて上り来る 臥竜の松の川水に枝を浸して魚躍り 月は梢に澄み渡る向方に見ゆるは稲山か 丹波の富士と聞えたる弥仙の山は雲表に 聳えて立てる雄々しさよ敵も無ければ味方郷 味方平に船留めて四方の国形眺むれば 青垣山を繞らせる下津岩根の竜宮館 此処は名におふ小亜細亜地上の高天と聞えたる 昔の聖地ヱルサレム橄欖山や由良の 景色に勝る聖地なり。 神素盞嗚大神、国武彦命其他三人は、桶伏山の蓮華台上に登らせ給ひ、天神地祇八百万の神を神集へに集へ給へば、命の清き言霊に先を争ひ寄り来る百の神等、処狭きまで集まりて、皇大神の出でましを、祝ひ寿ぐ有様は、蓮花の一時に、開き初めたる如くなり。 神素盞嗚大神は、国武彦命に何事か、密に依さし給ひ、ミロク神政の暁迄三十五万年の其後に再会を約し、忽ち来る丹頂の鶴にヒラリと跨り、中空高く東を指して飛び去り給ふ。国武彦命は亀彦を始め、英子姫、悦子姫に何事か囁き乍ら万司に向ひ厳格なる神示を与へ、茲に別れて只一柱、四王の峰の彼方に雄々しき姿を隠したまひける。 後に残されし一男二女の宣伝使は二神の依さしの神言を心の底に秘め置きて、又もや此処を立ち出でて、大江の山を目蒐けて、いそいそ進み行く。嗟此の山上の五柱は、如何なる神策を提議されしぞ。神界の秘密容易に窺知すべからず、月は盈つとも虧くるとも、仮令大地は沈むとも誠の力は世を救ふ、誠の神が出現し再びミロクの御代となり、世界悉く其堵に安むじて、天地の神の恵みを寿ぎ、喜び、勇む尊き神代の来るまで、云うてはならぬ神の道、言ふに言はれぬ此仕組、坊子頭か、禿頭、頭かくして尻尾の先を些し許り述べて置く。もとより物語する王仁も、筆執る人も聞く人も、何だか拍子の抜けたやうな心いぶせき物語、今は包みてかく言ふになむ。 秋山彦の門前に数多の魔人を引連れて、現はれ出でたる鬼彦は、第一着に秋山彦の口に石を捻込み、猿轡を箝ませ、高手小手に縛め置き、尚も進みて奥殿深く、神素盞嗚の大神を始め、国武彦、紅葉姫、英子姫、亀彦諸共、高手小手に踏ン縛り、勝鬨あげて悠々と大江山の本城を指して勇み帰り行く。 千歳の老松生茂れる山道を、網代の駕籠を舁つぎながら、川を飛び越え岩間を伝ひ、やつと出て来た魔窟ケ原、一同網代の駕籠を下ろし周囲の岩に腰打ち掛け、息を休めながら雑談に耽る。 甲(熊鷹)『オイ鬼虎、貴様は竜灯松の根本に於て、さしも強敵なる二人の女にちやつちや、もちやくにせられ、鬼雲彦の御大将に目から火の出るやうなお目玉を頂戴致して真青になり、縮上つて居よつたが、何うだい、今日は大きな顔をして帰れるだらう、帰つたら一つ奢らにやなるまいぞ』 鬼虎『オヽさうだ、熊鷹、貴様らも同じ事だ、あの時の態つたら見られたものぢやなかつたよ。何分此方様の御命令通り服従せないものだから、ハーモニイ的行動を欠いだ為めに思はぬ失敗を演じたのだ。それにしても慎むべきは酒ではないか、あの時に吾々は酒さへ飲みて居なかつたら、アンナ失敗は演じなかつたのだよ』 熊鷹『ナニ、決して失敗でもない、二人の女を取り逃がした為に却て素盞嗚尊の所在が分り、禍転じて幸となつたやうなものだ。何事も世の中は人間万事塞翁が馬の糞だ、併し今日は鬼彦の指揮宜しきを得たる為に、かういう効果を齎したのだ、何事も戦ひは上下一致ノーマル的の活動でなくては駄目だワイ、何程ジヤンジヤヒエールが沢山揃つて居たところで総ての行動に統一を欠いだならば失敗は目前だ。総て何事も大将の注意周到なる指揮命令と、吾々が大将に対する忠実至誠のベストを尽すにあるのだ、サテ鬼彦の御大将、今日の御成功お祝ひ申す、之で鬼雲彦の御大将も御安心貴方も安心皆の者も安心、共に吾々も御安心だ、アハヽヽヽ』 此時頭上の松の茂みよりポトリポトリと石の団子が雨の如く降り来り、鬼彦始め、鬼虎、熊鷹其他一同の体に向つて叩きつけるやうに落ち来たり。一同はアイタヽ、コイタヽ、イヽイタイと逃げようとすれども、石雨の槍襖に隔てられ、些しも身動きならず頭部面部に団瘤を幾つとなく拵へけり。石熊は頭上を仰ぐ途端に鼻柱にパチツと当つた拳骨大の石に鼻をへしやがれ、血をたらたらと流し、目をしかめ、ウンと其場に倒れたり。網代駕籠の中に囚はれたる神々は、金城鉄壁極めて安全無事、此光景を眺めて思はず一度に高笑ひ、アハヽヽヽ、オヽホヽヽヽ。 石の雨はピタリとやみぬ。神素盞嗚尊を始め、一同七人はヌツと此場に現はれたりと見れば猿轡も縛の縄も何時の間にか解かれ居たりける。 悦子姫『オー皆様気の毒な事が出来ましたナア。此峻嶮の難路を吾々を駕籠に乗せて、命辛々汗水垂らして送つて来て呉れました博愛無限な人足を、頭部面部の嫌ひなく、支店を開業して団子販売営業を盛に奨励致して居ります。何うか皆さま腹も減いたでせう、あの出店の団瘤を一つ宛買つてやつて下さい、アハヽヽヽ』 亀彦『吾々も大変腹が減きました。支店の売品では面白くない、一層の事本店の背から上の目鼻の附いた団瘤を捩ちぎつて頂戴致しませうか。アハヽヽヽ』 一同『ホヽヽヽヽ』 鬼虎は顔を顰めながら、 鬼虎『ヤイヤイ皆の奴確りせぬかい、石の雨が降つたつてさう屁古垂れるものぢやない。俺は除外例だが、貴様達は早く元気をつけて此奴を踏ン縛つて仕舞はねば、ドンナ事が出来致すも分らぬぞ。エイ、何奴も此奴も腰抜けばかりだナア、鬼掴の奴、敵と味方と感違ひを仕よつて、味方の頭上に石弾を降らしよつたのだ。敵の石弾に打たれたと云ふのならまだしもだが、味方の石弾に打たれてこの谷川の露と消えるかと思へば、俺ア死ンでも死なれぬ哩。アヽヽ何うやら息が切れさうだ、オイ貴様達、俺の女房を呼ンで来て呉れ、最後の際に唯一目会うて死にたい顔見たい、そればつかりが黄泉の迷ひだ。アンアンアン』 熊鷹『ヤイヤイ何奴も此奴も確りせぬかい、何ぢや、地獄から火を取りに来たやうな真青な顔をしよつて、ソンナ弱い事でこの役目が勤まらうか、確りせぬかい、アイタヽヽ、矢張り俺も苦しい哩、苦しい時の鬼頼みだ、南無鬼雲彦大明神様、吾等が精忠無比の真心を憐れみ給ひ、一時も早く痛みを止め、其反対に素盞嗚一派の奴の頭の上に鋼鉾の雨でも降らして滅ぼし給へ。それも矢張貴方の為ぢや、一挙両得自分が助かりや家来も助かる、コンナ好い事が何処にあるものか、エヽナンボ頼みても聞き分けのないバラモン教の大神様だワイ』 此時又もや鋭利なる切尖の付いた矢は雨の如く降り来り、鬼彦以下の魔神の身体に遠慮会釈もなく突き立ちにける。 熊鷹(か?)『アヽまたか、大神様は感違をなされたか、敵はあの通り無事、味方には激しき征矢の集注、好く間違へば間違ふものだなア、アイタヽヽヽ耐らぬ真実に此度は息が切れるぞ、仕方が無い死ンだら最後地獄の鬼となつて此奴共の来るのを待ち受け、返報がへしをしてこます、ヤイ素盞嗚尊、其他の奴等覚えて居れ、貴様が死ンだら目が潰れるやうに、口が利けぬやうに、びくとも動けぬやうにしてやるぞや』 亀彦『アハヽヽヽ、吐くな吐くな、目が潰れる口が利けぬ、体が動かぬやうにしてやらうとは好くも言へたものだワイ、天下一品の珍言妙語だ、モシモシ英子姫さま、悦子姫さま、舞でも舞うたらどうでせう、コンナ面白い光景は滅多に、大江山でなくては見られませぬよ』 英子姫、悦子姫『ホヽヽヽヽ』 秋山彦は両手を組み、声も涼しく一二三四と天の数歌を唱ふるや、一同の魔神の創所は忽ち拭ふが如くに癒え来たり、彼方にも此方にも喜びの声、充ち充ちにける。 『アヽ助かつた』 『妙だ』 『不思議だ』 『怪体の事があるものだワイ』 と囁き始めたり。秋山彦は一同に向ひ声も涼しく宣伝歌を謡ふ。 秋山彦『朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 鬼雲彦は強くとも大江の山は深くとも 数多の部下はあるとても虱の如き弱虫の 人の生血を朝夕に漁りて喰ふ奴ばかり 沢山絞つて蓄へた身体の中の生血をば 吐き出すための神の業頭を砕く石の雨 血を絞り出す征矢の先潮の如く流れ出でぬ 吾は此世を救ふてふ人子の司三五の 神の教のまめ人ぞ鬼や悪魔となり果てし 汝が身魂を谷川の清き流れに禊して 天津御神のたまひたるもとの身魂に立て直し 今迄犯せし罪咎を直日に見直し聞き直し 百千万の過ちを直日の御霊に宣り直す 神素盞嗚の大神の恵も深き御教 胆に銘じて忘れなよ石熊、熊鷹、鬼虎よ 心猛しき鬼彦も此処で心を取り直せ 如何なる敵も敵とせず救ひ助くる神の道 誠の力は身を救ふ救ひの神に従ふか 曲津の神に心服ふか善と悪との国境 栄え久しき天国の神の御魂となり変はり 誠一つの三五の教にかへれ百人よ 元は天地の分霊善もなければ悪もない 善悪邪正を超越し生れ赤子の気になりて 天地の法則に従へば鬼や大蛇の荒ぶなる 魔窟ケ原も忽ちにメソポタミヤの顕恩郷 栄えの花は永久に木の実は熟し味もよく 心を砕いて世の人を苦しめ悩め吾身亦 苦しむ事は要らぬものサア諸人よ諸人よ 心の底より改めて真の道に帰るなら 神は救の御手を延べ栄に充てる永久の 高天に救ひ玉ふべし応は如何にサア如何に 心を定めて返り言声も涼しく宣れよかし 神は汝の身に添ひて厚く守らせ給ふらむ あゝ惟神々々霊幸倍坐世よ』 と謡ひ終れば、鬼彦始め一同は大地にはたと身を伏せて、感謝の涙に咽びつつ山岳も揺ぐばかりに声を放つて泣き叫びける。 (大正一一・四・一四旧三・一八加藤明子録) |
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霊界物語 | 16_卯_丹波物語1 大江山/冠島沓島/丹波村 | 20 思はぬ歓 | 第二〇章思はぬ歓〔六一〇〕 竜灯松の麓に落下し爆発したる大火光団は大小無数の玉となり、見る見る容積を減じ遂には小さき、金、銀、水晶、瑠璃、瑪瑙、硨磲、翡翠の如き光玉となり、珠数繋ぎとなつて悦子姫の全身を囲繞し忽ち体内に吸収されし如く残らず浸潤し了りける。其刹那悦子姫は得も云はれぬ神格加はり優しき中に冒すべからざる威厳を備へ、言葉さへ頓に荘重の度を加へて、一見別人の如く思はれ、無限の霊光を全身より発射するに至りぬ。一同は驚異の眼を見張り頭を傾け口を極めて讃嘆する。悦子姫は儼然として立上り、 悦子姫『ハア一同の方々、妾は日の出神の神霊を身に浴びました。之より真名井ケ嶽に向つて進みませう。前途には大江山の魔神の残党、処々に散在し居れば、何れも十二分の御注意あれ、妾は之より一足先に参ります、左様なら』 と云ふより早く、矢を射る如く見る見る姿を隠したりける。 後見送つて一同は、アーアーアーと歎息の息を漏すのみなりき。 音彦『折角此処迄同道申して来たのに、悦子姫さまは無限の神徳を身に浴び、吾々を後に残して御出発になつた。随分拍子抜けのしたものだ。万緑叢中紅一点のナイス、花を欺く悦子姫さまに放つとけぼりを喰はされて好い面の皮だ、七尺の男子殆ど顔色なしで御座る哩』 岩公『本当にさうだなア、せめて岩公だけなりともお伴につれて行つて下さりさうなものだのに、余り水臭いなア』 音彦『お前のやうな純朴な人間は間に合はないから、連れて行つて下さらないワ、音彦でさへも、置去りに遇うたのだもの』 岩公『生れ赤子のやうな、貴方の仰の通り純朴な吾々を何故連れて行つて下さらないのだらうなア』 鬼虎『岩公、貴様は余程お目出度い奴だ、音彦さまが純朴と仰有つたのは、間の抜けた人と云ふ事を婉曲に善言美詞に宣り直されたのだよ。約り純朴と云ふのは社会の訓練を経ない、元始的の犬猫同様の人間と云ふ事だよ』 岩公『馬鹿云ふな、音彦さまは蹴爪の生えた宣伝使だ、三五教の骨董品的苔の生えた、洗錬に洗錬を加えた、押も押れもせぬ宣伝使様ぢや。滅多の事を仰有るものか、オイ鬼虎、それはお前の僻み根性と云ふものだよ。この岩公は斯う見えても、何事も善意に解釈するのだ、物事を悪意に取れば何も皆悪になつて仕舞ふワ、貴様は改心の坂が越えられぬと見えるワイ』 鬼虎『それでも岩公、よく考へてみよ、不思議千万の事許りぢやないか、火の玉が幾つとも数限りなく分離して、終の果には容貌の麗しき悦子姫さまに、皆染着して仕舞つたぢやないか、神様の御霊でも矢張吾々のやうな形の汚い、魂の美しい奴よりも、姿の綺麗なナイスがお好だと見える、あゝコンナ事ならなぜ女に生れて来なかつたらう、エヽ天地の神様も聞えませぬ哩、父さま、母さま、何故私を絶世のナイスに生みて下さらなかつたのです、お恨めしう御座います、オンオンオン』 鬼彦『アハヽヽヽ、何を吐すのだい鬼虎の奴、お岩の幽霊の様な面をして、神様は申すに及ばず、大江山のお化だつて貴様の御面相を見たら、二の足も三の足もふむに極つて居るワイ、ソンナ謀反気を出さずに、神妙に、醜面児は醜面児らしくして居るのだよ』 鬼虎『エヽ一つ云うては一つかち込まれ、俺の身になつて見て呉れてもよいぢやないか。隣のお多福には肱鉄砲を喰ひ、お八には尻をふられ、嬶にや逃げられ、何とした因果な生れ付だらう、俺が三五教の信者になつたのもどうぞして美しい男になり、天下のナイスをして、此鬼虎に視線を集注させようと思ふばかりに入信したのだ。アーアー、神さまも顔や姿ばかりは何うする事も出来ぬのかなア、情ない、コンナ事なら死ンだが増だワイ』 一同『アハヽヽヽ』 鬼虎『ヤイヤイ、お前達は何を笑ふのだ、俺はこれでも真剣だぞ、一生懸命になつてるのだ、余り馬鹿にして貰ふまいかい』 鬼彦『憂愁煩悶の権利は貴様の自由だ、俺達は別に圧迫もせなければ干渉もせないよ、力一ぱい愁歎場の幕を開いて吾々一同に、永当々々御観覧に供するのがよからうよ、観覧するのもせぬのも吾々の、これ又自由権利だ、アハヽヽヽ』 音彦『ヤア、からりと夜が明けた、サア日輪様を背に負うて、又テクの継続事業をやらうかなア』 加米彦『サア、竜灯松を基点として岩滝迄、マラソン競争だ。腹帯を確り締めて、草鞋を確り結び、中途に落伍しないやうに、駆歩だ。オイチ二三』 一同は岩滝目蒐けて膝栗毛に鞭打ち、一目散に走り行く。岩公、後方より、 岩公『オイオイ待つて呉れ、俺一人遺して行くのか、折角神様がお造り遊ばした大切な人間様を、粗末にして道の端に零して置くと云ふ事があるものかい、オイオイ人間一匹袂にでも入れて一緒に走つて呉れい、俺は何うしたものか交通機関の何処かに損傷を来したと見えて、テクれない哩』 一同(?)『エイ喧しい云ふな、愚図々々して居ると決勝点を人にしてやられる哩』 と一生懸命に後をも見ず雲を霞と駆け出したり。 岩公『アヽ、馬鹿ぢやなア、為いでも好い辛労をしよつて、此処から船に乗つて天の橋立を越え岩滝へお先にご安着だ。一つ皆の奴を威嚇して度肝を抜いてやらうかな』 と云ひつつ岩公は松の下に繋ぎある船の綱を解き、鱸を操りながら岩滝指して悠々と辷り行く。船は漸く岩滝に着きぬ。 岩公『アヽ智慧の足らぬ奴は可憐さうなものだワイ、この岩公は昔船頭をして居つたお蔭で地理に精しい。弓と弦程違ふ道程、何程走つたつて追ひ着きつこがあるものか、マア悠くりと成相山にでも登つて股覗きでもしてやらうかい』 斯かる所へ音彦一行は息せき切つて走り来り、 音彦『サアサア皆さま、一寸一服致しませう、随分走りましたなア』 鬼彦『随分汗が出ましたよ、それにつけても岩公の奴、今頃は途中で屁古垂れてオイオイ俺を零して行くのかなぞと怨言を並べて居るぢやらう。足弱を連れて居ると却つて迷惑だ、彼奴は性来跛者だから、マラソン競争は不適任だ』 鬼彦『岩公の奴、片方の足が短いものだから、彼奴を走らすと恰で蛸が芋畑から逃げ出すやうなスタイルだ、随分奇妙奇天烈なものだナア、アハヽヽヽ』 岩公、木の茂みの中より頭ばかり突き出して、 岩公『岩公の足は片方が短いのじやない、片方が長いのじやぞ』 鬼彦『ヤ、怪体な、岩公の声じやないか、何時の間に来よつたのだ、化物見たやうな奴じやなア』 岩公『ヘン、馬鹿にするない、片方の足が長いのだけ、それだけ貴様等とは行進が早いのだ。おまけに悦子姫さまがソツと俺の懐中へ玉を入れて下さつたものだから、宙をたつやうに此処迄無事御安着だよ。アハヽヽヽ』 鬼彦『ヤア岩公、嘘を云ふな、貴様はマラソン競争の規則を破つて窃と船に乗つて来よつたのだらう、竜灯松の下に繋いであつた船が此処に着いて居るぢやないか、条約違反だ、貴様はこれから三五教を除名するからさう心得ろ、ナアもし音彦さま、加米彦の宣伝使さま、吾々の提案は条理整然たるものでせう』 音彦、加米彦『アハヽヽヽ、オイ岩公司、アヽ結構々々、吾々は智慧の文珠堂に休みながら、其智慧を使ひ忘れた、お前は偉いものだ、アヽこれから、文珠の岩公司と名を呼ぶ事にして遣らう』 岩公肩を聳やかしながら、 岩公『ハイハイ有難う御座います、オイ鬼彦、鬼虎其他の端武者共、あの言葉を聞いたか、文珠の智慧の文珠の岩公司だ、之から何でも岩公司に智慧を借るのだぞ、オホン』 鬼彦『これだから馬鹿者には困ると云ふのだ、一寸褒めて貰へば直に興奮して、華氏の百二十度以上に逆上よる、一つ逆上の下るやうに海水でも呑ましてやらうか、ア、ドンブリコとやつて遣らうか』 岩公『大きに憚りさま、又今度お世話に預ります、サアサア音彦の宣伝使様、之から先は勝手知つたる道程だ、私が猿田彦の御用を勤めませう』 音彦『ヤアそれは調法だ。先頭は岩公司にお願ひ致さう』 岩公『これはこれは不束な岩公司に対し格外の抜擢をして下さいました。此上は恩命に報ゆるため粉骨砕身と迄は行きますまいが、可成道案内に対して可及的のベストを尽します。何うぞ御安心下さいませ』 鬼虎『岩公司の御先頭か、ねつから葉から安心なものだ。アハヽヽヽ』 岩公の案内につれ音彦一行は黄昏前、比治山の手前に辿り着きける。 音彦『何うやら今日も之でお終ひらしい、何処かの家へ入つて一夜の宿を願ひ、明日早朝真名井ケ原の豊国姫様の御降臨地を探しませう、悦子姫さまも定めしお待ちかねでせうからねえ』 岩公『少し手前に幽かな火が見えませう、彼処に行けば大きな藁葺きの家が御座います。戸を叩いて一夜の宿を貸して貰ふ事にしませう、サアもう一息です』 と先に立ち潔く駆け出し、一同漸くとある一つ家の前に着きたり。岩公は門口に立ち、 岩公『もしもしお爺さま、お婆アさま、私は比沼の真名井や比治山の神様に参詣する者で御座います、竜灯松から此処迄テクつて来ましたが、日はすつぽりと暮れ、膝坊主は吾々の命令を肯ぜなくなりました。何うぞ庭の隅でも宜敷いから一夜の雨露を凌がせて下さいませ』 爺『これお楢、何だか門口に人声がするやうだ、門を開けて調べてお出で』 お楢『平サン、お前あれだけ酒を呑みてもまだ買うて来いと云ふのかい、かう闇くなつてから私だつて堪らないぢやないか、去年のやうに大江山の鬼雲彦の家来の鬼虎にでも出遇つたら、ドンナ目に遇ふか分つたものぢやない、家の娘もとうとう鬼虎に攫はれて仕舞つたぢやないか、オンオンオン』 平助『アヽ、年が寄つて耳の聞えぬ奴も困つたものだ。アヽ仕方がない、私が行つて開けてやらうかな、ドツコイシヨ、アイタヽヽ、腰の骨が強ばつていやもう庭を歩くのも大抵の事ぢやないワイ』 と傍の杖を取りエチエチと表に出て戸をガラリと開け、 平助『この闇いのにお前さま達は何用あつて御座つた』 音彦『ハイ、吾々は比治山の神様に参詣を致すもので御座います、御覧の通り日も暮れました、何うぞ庭の隅つこでも宜敷いから一夜だけおとめ下さい、お弁当も持参致して居ります、唯とめてさへ貰へばそれで宜敷い』 平助『見れば随分沢山の同勢だが野中の一つ家だと思つて当て込みて来たのだな、とめる事は金輪際出来ませぬ哩、サアサアとつとと帰つて下さい、爺と婆と二人暮しの家ぢや、不都合だらけ平にお断り申ます』 音彦『左様で御座いませうが、折入つてお頼み申す、吾々は決して怪しいものでは御座いませぬ』 平助『去年の此頃だつた、お前のやうな日が暮れてから家の門口に立ち、庭の隅でもよいからとめてくれと云うて二人の旅人が出てきよつた、其奴が又どえらい悪魔で大江山の鬼雲彦の家来とやらで何でも鬼彦、鬼虎と云ふそれはそれは悪い奴ぢや、其奴めが爺と婆とが爪に火を点して蓄めた沢山のお金を掠奪り、天にも地にも掛け替へのない一人の娘を掻攫うて、今に行方が分らぬのだ、お前さまも大方ソンナ連中だらう、皺の寄つた爺と婆とが細い煙を立て暮して居るのだが、婆は爺が頼り爺は婆が頼りだ、婆とは云ひながら矢張女だ、昔の別嬪だ。もし婆でも夜の間に掻攫へられて仕舞ふものなら、この爺は蟹の手足をもがれたやうなものだ、エヽ気分の悪い、帰りて下され』 とピシヤツと戸を締める。 音彦『アヽ困つたなア、何うしたら宜からうか、今晩は野宿でもして一夜を明かさねば仕方があるまい』 岩公『もしもし音彦さま、千本桜の鮓屋の段ぢやないが、愛想のないが愛想となると云ふ事がありますが、此処の爺さまは一旦此鬼彦、鬼虎に偉い目に遇つたものだから、人さへ見れば怖い怖いと思うて居るのですよ、日の暮に宿を頼む奴は人奪りだと云ふ先入思想に左右されて居るものぢやから、アンナ事を云ふのでせう、誠の力は世を救ふと云ふから、も一つ頼みて見ませう』 と又もや戸を叩き、 岩公『もしもし、お爺さま、吾々は三五教の宣伝使のお伴して来た誠一つの人間で御座います。何卒一晩だけとめて下さいな』 平助『ナニツ、三五教だと、ソンナ教は未だ聞いた事もないワ、穴が無うて彼岸過の蛇のやうに探して歩いとるのか、ソンナ人には尚更宿つて貰ふ事はお断りぢや、一人よりないお楢を掻攫つて去なれては耐らぬからなア、ゴテゴテ云はずにお帰りなさい』 岩公『アヽ、仕方がない、これ程事をわけてお頼みするのに聞いて下さらぬ、世界に鬼はある。鬼と悪魔の世の中だ、慈悲も情も知らぬ奴許りだ。オイ鬼彦、鬼虎の両人、偉う沈黙して居よるな、貴様の古疵が物を云うて今晩の難儀だ、貴様一つ謝罪らぬかい』 鬼彦『もしもし音彦様、一晩位寝なかつたつて好いぢやありませぬか、これも修業だと思つて野宿を致しませうかい』 鬼虎『アヽさうだ、一晩や二晩野宿して斃ばるやうな事では三五教の信仰は出来ない、ねえ宣伝使様、如何で御座いませう』 音彦『ソンナラマアさうするかなア』 岩公『ヘン旨い事を云つて居やがらア、爺婆に会はす顔があるまい、旧悪露見の恐れがあるから、貴様としては無理もないが、綺麗薩張と爺様婆様にお断りを申たら何うだ、何時迄も悪を包みて居ると罪は取れぬぞ、罪と云ふ事は包みと云ふ事だ、何卒改心の証拠に爺さまに一つお詫をして思ふざま十能で頭を打いて貰つたら、ちつとは罪が亡びるだらうよ』 鬼彦、鬼虎、両手を組み首を傾け、大きな息を漏らし居る。此時前方より二人の女走り来るあり。一同は目を円くし、よくよく見れば、悦子姫と一人の娘なりけり。 娘『これはこれはお姫様、いかいお世話になりました、これが妾のお祖父さま、お祖母さまの家で御座います、サア何卒お入り下さいませ、嘸や祖父や祖母が喜ぶ事で御座いませう』 悦子姫『ヤア妾は此処迄送り届けたならばこれで安心してお暇致しませう』 娘『何卒さう仰有らぬと見苦しい破家なれど、渋茶なりと上げたう御座います、一寸でも宜敷いからお入り下さいませいナ』 闇の中より、 男(音彦)『ヤア貴女は悦子姫様では御座いませぬか』 悦子姫『さう云ふお声は音彦さま。この闇がりに何をして居らつしやるの』 音彦『余り暗くなりましたので一夜の宿をお強請りして居るのですが、お爺さま仲々許して呉れないのですよ』 悦子姫『ヤア、委細の様子は此娘さまから聞きました、済みた事を云ふぢやないが、随分鬼彦さまも鬼虎さまも罪な事をなさつたものぢやナア、お爺さまが泊めて呉れないのも無理はありませぬ、妾がこれからお爺さまに此娘を渡し、願つて見ませう』 娘『お祖父さま、お祖母さま、節で御座います、神様に助けられ無事に帰つて来ました。何卒開けて下さいませ』 平助此声に驚き、 平助『ヤア何、節が帰つた。オイオイお楢、節が帰つたといなア』 お楢『爺さま耳が確り聞えぬが、節が帰つたと云うたのか、ハテ合点の行かぬ事だ、大方大江山の悪神の眷族奴が節の作り声をして此家に入り込み、一つ家を幸ひに吾等夫婦の者を引つ張つて去ぬ計略かも知れぬ、迂闊り開けなさるなや』 門口より、お節は優さしひ声で、 お節『お祖父さま、お祖母さま、何卒開けて下さい、節で御座います』 平助『何吐しよるのだ、其手は食はぬぞ、作り声をしよつて、お祖父さま、お祖母さま、節で御座います……ナアーンテ大江山に捕へられて鬼の餌食になつた娘が戻つて来て耐るかい、これやこれや門口の奴共、ソンナ計略に乗る平助ぢやないぞ、入れるなら入つて見よ、陥穽が拵へて釘が一面に植ゑてあるから、命が惜く無ければ無理に入つて来い』 娘は無理に戸を押し破り飛び込みたるを、爺は、これを見て、 平助『ヤア紛ふ方なき娘のお節、好うまア帰つて呉れた。オイ、ぢつとしてぢつとして、動くと危ないぞ、一つ踏み外せば陥穽に陥る、大江山の鬼の来た時の用意に陥穽が拵へてあるのぢや、今お祖父が指揮をしてやるから、其外は歩く事はならぬぞや』 と云ひながら杖をもつて庭に線を引張つた。お節は線の上を歩いて、爺の居間に進み入る。 お楢『ヤア、お前はお節、好う帰つて下さつたナア』 と嬉し泣きに泣き伏しぬ。平助もお節の体に獅噛みつき、 平助『ヤア戻つたか、どうして居つた』 お節『お祖父さま、お祖母さま、会ひたかつた哩な』 と三人一度に声を放つて泣き崩れける。 (大正一一・四・一六旧三・二〇加藤明子録) |