| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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1 (1) |
ひふみ神示 | 1_上つ巻 | 第1帖 | 二二は晴れたり、日本晴れ。神の国のまことの神の力をあらはす代となれる、仏もキリストも何も彼もはっきり助けて七六かしい御苦労のない代が来るからみたまを不断に磨いて一筋の誠を通して呉れよ。いま一苦労あるが、この苦労は身魂をみがいて居らぬと越せぬ、この世初まって二度とない苦労である。このむすびは神の力でないと何も出来ん、人間の算盤では弾けんことぞ、日本はお土があかる、外国はお土がさかる。都の大洗濯、鄙の大洗濯、人のお洗濯。今度は何うもこらへて呉れというところまで、後へひかぬから、その積りでかかって来い、神の国の神の力を、はっきりと見せてやる時が来た。嬉しくて苦しむ者と、苦しくて喜ぶ者と出て来る |
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2 (354) |
ひふみ神示 | 14_風の巻 | 第3帖 | 愈々の大建替は国 常立の大神様、豊雲野の大神様、金の神様、竜宮の乙姫様、先づ御活動ぞ。キリギリとなりて岩の神、雨の神、風の神、荒の神様なり、次に地震の神様となるのざぞ。今度の仕組は元のキの生き神でないとわからんぞ、中津代からの神々様では出来ない、わからん深い仕組ざぞ、猿田彦殿、天 鈿女 命殿、もとのやり方では世は持ちて行けんぞ。今一度悪栄えることあるぞ、心して取違ひない様にいたされよ。口と心と行ひとで神示とけよ、堂々説けよ。一月四日、一二のかみ。 |
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3 (356) |
ひふみ神示 | 14_風の巻 | 第5帖 | 我が名呼びておすがりすれば、万里先に居ても云ふこときいてやるぞ、雨の神、風の神、岩の神、荒の神、地震の神、と申してお願ひすれば、万里先に居ても、この世の荒れ、地震のがらせてやるぞ、神々様に届く行で申せよ。こんなよき世は今迄になかりたのぢゃ、膝元に居ても言葉ばかりの願ひ聞こえんぞ、口と心と行と三つ揃った行い、マコトと申して知らしてあろが。時節来てゐるなれど、わからん人民多い故物事遅くなりて気の毒なるぞ、今暫くの
辛抱なるぞ、
神は
人民に手柄立てさしたいのぢゃ、許せるだけ許してよき世に致すのぢゃ、ここまで開けたのも神が致したのぢゃ、今の文明なくせんと申してあろうが、文明残してカスだけ無にいたすのぢゃ、取違ひ慢心致すなよ。日本の国いくら大切と申しても、世界中の臣民とはかへられんから、くにひっくりかへること、まだまだあるかも知れんぞ、くにの軸動くと知らしてあろがな。此の神示キの儘であるから心なき人民には見せるでないぞ、あまりきつくて毒になるから、役員薄めて見せてやれよ、一日も早く一人でも多く助けてやりたいのぢゃ、神まつり結構ぞ、神まつらいでいくら道説いても肚にはいらんぞ、肚に入らん道は悪の道となるのぢゃ、頭ばかりで道歩めん道理わからんか、改心足らんぞ。二月十六日、一二 |
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4 (435) |
ひふみ神示 | 20_梅の巻 | 第8帖 | 口と心と行と三つ揃ふたら今度は次に |
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5 (976) |
ひふみ神示 | 39_月光の巻 | 第44帖 | この道に入ると損をしたり、病気になったり、怪我をすることがよくあるなれど、それは大難を小難にし、又めぐりが一時に出て来て、その借銭済しをさせられてゐるのぢゃ。借りたものは返さねばならん道理ぢゃ。損もよい、病気もよいぞと申してあろうが。此処の道理もわきまへず理屈申してゐるが、そんな人民の機嫌とりする暇はなくなったから、早う神心になって下されよ。そなたは祈りが足らんぞ。祈りと申すのは心でゐのり願ふことでないそ。実行せねばならん。地上人は物としての行動をしなければならんぞ。口と心と行と三つ揃はねばと申してあること、忘れたか。 |
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6 (1415) |
霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 35 一二三世 | 第三五章一二三世〔三八五〕 樹々に囀る百鳥の声、眠気なる油蝉の声に送られて、夏の炎天を喘ぎ喘ぎ嶮しき坂を登り行く。汗は滝の如く流れ、彩られた顔はメチヤメチヤになつて赤い汗さへ流るる無状さ。一行は汗を拭ひ拭ひ、漸くに山頂に達したり。山頂には格好の岩が程よく散布されてありぬ。宣伝使一行は、各自に岩に腰打かけ息を休めたり。 蚊々虎『ままになるなら此涼風を、母の土産にして見たい』 駒山彦『オイ、蚊々虎、殊勝らしい事を云ふね。「ままになるなら此涼風を母の土産にして見たい」随分孝行者だなア。夫れほど親孝行の貴様が放蕩ばかりやりよつて、両親に心配をかけ、子が無うて泣く親は無いが、子のために泣く親は沢山あるとか云つてな、ソンナ優しい心があるのなら何故親を放つたらかして其辺中を迂路つき廻るのだ。口と心と行ひと一致せぬのは、神様に対してお気障りだぞ』 蚊々虎『人間の性は善だ。誰だつて親を思はぬ子があらうか。浮世の波に漂はされて止むを得ず、親子は四方に泣き別れと云ふ悲惨の幕が下りたのだよ。親子は一世、夫婦は二世、主従は三世と云ふ相なからのう』 駒山彦は、 駒山彦『ヘン、うまい事を云ひやがらア。親は如何でも良いのか、夫婦は二世なんて、死んでまで添うと思ひよつて二世も三世も夫婦だと思つて居るから情ない。如何に五月姫ぢやとてお前の様な腰屈りに、誰が心中立をするものかい』 蚊々虎は 蚊々虎『故郷の空打眺め思ふかな、国に残せし親は如何にと』 駒山彦は 駒山彦『オヤオヤ又出たぞ。何だ貴様、今日に限つて殊勝らしい事を並べ立よつて、一角詩人気取りになつて「アヽ、蚊々虎さまはああ見えても心の底は優しいお方だ。たとへ腰は曲つてもお顔は黒うても、男前はヒヨツトコでも、チツとくらゐ周章者でも、心の底のドン底には両親を思ふ優しい美しい心の玉が光つて居る。アンナ人と夫婦になつたら嘸や嘸、円満なホームが作れるであらう。おなじ夫を持つなら、あの様な優しい男と夫婦になつて見たい」などと五月姫さまに思はさうと思ひよつて、貴様よツぽど抜目のない奴だワイ。アハヽヽヽ』 淤縢山津見は、 淤縢山津見『ヤア感心だ、人間はさう無くてはならぬ、山よりも高く、海よりも深い父母の恩を忘れる奴は人間でない。お前もまだまだ腐つては居らぬ、頼もしい男だよ』 駒山彦は、 駒山彦『オイ鼻を高うすな、貴様は直に調子にのる男だから余り乗せられるとヒツクリ返されるぞ。天教の山ほど登らせておいてスツトコトントン、スツトコトンと落される口だぞ。貴様、親よりも女房が大切だらう。親子は一世、夫婦は二世なぞと云ひよつて、之ほど大切な親よりも「五月姫殿、お前が女房になつたらモツトモツト大切にするぞ」と遠廻しにかけよつて、うまい謎をかけよるのだ。本当に巧妙なものだね』 蚊々虎はしたり顔にて、 蚊々虎『オイ、駒、貴様わけのわからぬ奴だナ。俺がいま宣伝してやるから尊い御説教を謹聴しろよ。親子一世と云ふ事は、何ほど貴様の様な極道息子の親泣かせでも、親が愛想をつかしてモウ之つきり親の門口は跨げる事はならぬ。七生までの勘当だと云つた処で、矢張り親子は親子だ。お前が俺に勘当するなら勘当するでよい、又外に親を持ちますと云つた処で生んで呉れた親は矢張り一つだ。親子は一世と云ふ事は、泣いても笑つても立つても転んでも一度より無いのだ。それだから親子は一世と云ふのだ。断つても断れぬ親子の縁だよ。貴様の考へは大方生てる間は親子だが、死んで仕舞へば親でも無い子でもない、赤の他人だと云ふ論法だらう。ソンナ訳の分らぬ事で宣伝使が勤まるか』 駒山彦『能う何でも理屈を捏る奴だな、夫婦は二世とは何のことだい。親よりも結構だ、死んでからでも又互に手に手をとつて三途の川を渡り、蓮の台に一蓮托生、百味飲食と夫婦睦じう暮さうと云ふ虫の良い考へだらう。さう甘くは問屋が卸すまい。貴様極楽に行つて、蓮の台に小さくなつて夫婦抱合つて、チヨコナンと泥池の中で坐つて見い。どうせ碌な事はして居らぬ奴だから、「貴様が金城鉄壁だ、お前と俺との其仲は千年万年はまだ愚五十六億七千万年の後のミロクの世までも、お前と俺と斯うして居れば之が真実の極楽だ、ナア五月姫さま、現界に居つた時は駒山彦の意地悪に随分冷かされたものだが、斯うなつちやア、もう占たものだ」なぞと得意になつてゐると、娑婆に残つて居る貴様の旧悪を知つた奴が噂の一つもせぬものでも無い。噂をする度に嚔が出てその途端に、蓮の細い茎がぐらついて二人は共に泥池の中へバツサリ、ブルブルブル土左衛門になつて仕舞ふのだよ。一旦死んだ奴の、もう一遍死んだ奴の行く処は何処にもありはせない。さうすると又娑婆へ生れよつて、ヒユー、ドロドロ怨めしやーと両手を腰の辺りに下向けにさげて出て来るのが先づ落だな。夫婦は二世だなぞとソンナ的の無い事は、まあ云はぬが宜からう』 蚊々虎『エーイ、喧しい、俺のお株を取つて仕舞ひよつて、能うベラベラと燕の親方の様に喋る奴だナ。この蚊々虎さまの説教を謹んで聴聞いたせ。夫婦は二世と云ふ事は、貴様の考へてる様な意味で無い。夫婦と云ふものは陰と陽だ。「鳴り鳴りてなり余れる処一処あり、鳴り鳴りてなり合はざる処一処あり、汝が身の成り余れる処を我身の成り合はざる処に、さしふたぎて御子生んは如何に」と宣り給へば「しかよけむ」と応答し給ひきと云ふ事を知つてるかい。夫婦と云ふものは世の初めだ。誰の家庭にも夫婦が無ければ、円満なホームは作れないのだ。さうして子を生むのだよ。其子がまた親を生むのだ』 駒山彦『オツト待て待て、脱線するな。親から子が生れると云ふ事はあるが、子が親を生むと云ふ事が何処にあるかい』 蚊々虎『貴様、分らぬ奴だな。男と女と家庭を作つたのは夫は夫婦だ。そこへ夫婦の息が合つて「オギヤ」と生れたのだ。生れたのが即ち子だ。子が出来たから親と云ふ名がついたのだ。子の無い夫婦は親でも、何でもありやしない。此位の道理が分らないで宣伝使になれるかい。さうして不幸にして夫が死ぬとか、女房が夭折するとかやつて見よ。子が出来てからならまだしもだが、子が無い間に女房に先だたれて仕舞へば、天地創造の神業の御子生みが出来ぬでは無いか。人間は男女の息を合して、天の星の数ほど此地の上に人を生み足はして、神様の御用を助けるのだ。そこで寡夫となつたり寡婦となつたり、其神業が勤まらぬから、第二世の夫なり妻を娶るのだ。之を二世の妻と云ふのだい。貴様の様に此世で十分イチヤついて、又幽世に行つてからもイチヤつかうと云ふ様な狡猾い考へとはチト違ふぞ。さうして二世の妻が、又もや不幸にして中途で子が出来ずに先に死んで仕舞つたら、夫はもう天命だと諦めるのだ。三回も妻を持つと云ふ事は、神界の天則に違反するものだ。それで已を得ざれば、二人目の妻までは是非なし、と云つて神様が御許し下さるのだ。其を夫婦は二世と云ふのだよ。あゝあ一人の宣伝使を拵へ様と思へば骨の折れる事だ、肩も腕もメキメキするワイ』 淤縢山津見は感じ入り、 淤縢山津見『ヤア、蚊々虎は偉い事を云ふね。吾々も今まで取違をしてゐた。さう聞けばさうだ。正鹿山津見さま、如何にもさうですね。何でも無い事で気のつかない事が、世の中には沢山ありますなあ。三人寄れば文殊の智慧とやら、イヤもう良い事を聞かして貰ひました。南無蚊々虎大明神』 駒山彦は、 駒山彦『親子は一世、夫婦は二世、そいつは貴様の、オイ蚊々虎先生の懇篤なる、綿密なる、明細なる、詳細なる、正直なる……』 蚊々虎『馬鹿、人をヒヨツトくるか、蚊々虎大明神だぞ』 駒山彦『ヒヨツトコヒヨツトコ来る奴もあれば、走つて来る奴もあるワイ』 蚊々虎『困つた奴だなア、主従三世だ。今日から貴様は蚊々虎の家来で無いぞ』 駒山彦『家来で無いもあつたものかい、誰が貴様の家来になつたのだ。ソンナ法螺を吹かずに主従は三世の因縁を聞かして下さらぬかイ』 蚊々虎『下さらぬかなら、云うてやらう。人に物を教へて貰ふ時には矢張り謙遜るものだ。からだに徳をつけて貰ふのだからな。オホン、主従三世と云ふ事は、例へて云へば此蚊々虎さまは、もとは此処にござる淤縢山津見様が醜国別と云うて悪い事計りやつて居る時に俺が家来であつた。然しコンナ主人に仕へて居つては行末恐ろしいと思つたものだから、如何かして暇を呉れて与らうと思うたのだ。さうした処がネツカラ良い主人が見つからぬのだ。探してゐる矢先に日の出神と云ふ立派な宣伝使が現はれたのだ。それで此方さまは、第二世の御主人日の出神にお仕へ申して居るのだ。さうして淤縢山さまは、蚊々虎々々々と云つて家来扱ひをされても、俺の心は五文と五文だ。その代り一旦主人ときめた日の出神の前に行つた位なら、ドンナ者だい。臣節を良く守り、万一日の出神様が俺の見当違ひで悪神であつたと気がついた時は、其時こそ弊履を捨つるが如くに主人に暇を与るのだ。さうして又適当な主人を探して、それに仕へるのだ。それを三世の主従と云ふのだよ。三代目の主人は醜国別よりも、もつともつと悪い奴でも、もう代へる事は出来ない。そこになつたら、アヽ惟神だ、因縁だと度胸を据ゑて、一代主人と仰ぐのだ。三回まで主人を代へ、師匠を代へるのは、止むを得ない場合は神様は許して下さるが、其以上は所謂天則違反だ。主従四世と云ふ事はならぬから「主従は三度まで代へても止むを得ず」と云ふ神様が限度をお定めになつて居るのだよ。どうだ、駒、俺が噛んでくくめるやうな御説教が、腸にしみこみたか、シユジユと音がして浸み込むだらう。賛成したか、それで主従三世だよ』 一同は声を揃へて、 一同『アハヽヽヽ、オホヽヽヽ』 (大正一一・二・一〇旧一・一四北村隆光録) |
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7 (1617) |
霊界物語 | 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) | 07 難風 | 第七章難風〔五五七〕 小鹿峠の急阪を、弥次彦、与太彦、勝彦、六公の一行は、岩根に躓き、木の根に足を掻き、右に倒れ左に転けどつくりの口から出任せ、野趣満々たる俄作りの宣伝歌を謳ひ乍ら、爪先上りの雨に曝され掘れたる路を、千鳥の足の覚束なくも、喘ぎに喘ぎ上り行く。塵も積れば山となる、一尺一尺跨げた足も、始終休まぬ四十八坂を、心ばかりの勝彦が、自慢お箱の十八番の阪の上に、やつと上つて、鼈に蓼を噛ました様な荒息を継ぎ乍ら親も居らぬにハア(母)ハアと息をはづませ辿り行く。 勝『皆サン、此見晴らしの佳い所で、暫くコンパスの停車をして、浩然の気を養つたらどうですか』 弥『サア誰に遠慮会釈もありませぬワ、公然と休養致しませう、天洪然を空しうする勿れだ。しかし休養序に一つ石炭の積込をやりませうかい、斯う云ふ適当な港口は、この先には滅多に有りますまい、どうやら機関の油が涸れさうになつて来ました』 勝『何分アンナ堅い所へ格納されて居たものだから、サツパリ倉庫は空虚になつて了つた、何をパクついて可いか、肝腎の原料はないのだから仕方がありませぬワ、腹の虫が咽喉部まで突喊して来て、切りに汽笛を吹きます、せめて給水なりとやつて、芥を濁したいが、生憎谷は深し、起臥進退維谷まると云ふ腹具合ですワイ、何とか良い腹案はありますまいかな』 弥『オー此処にお粗末な、火にも掛けぬのに焦げた様な色のした握飯が、〆て二個ありますワイ、三途川の鬼婆アサンから記念の為に貰つて来た、形而上の弁当だ、噛む世話も要らねば、五臓六腑にお世話になる面倒も無い。これなつと食つて、唾液でも呑み込んで、食つた気分になりませうかい』 与『オイオイ弥次彦、あた汚い、貴様はまだ娑婆の妄執………オツトドツコイ幽界の妄執が除れぬと見えて、婆アだの、ハナ飯だのと、不潔い事を囀る奴だ、可い加減に思ひ切つたらどうだい』 弥『山に伐る木は沢山あれど、思ひ切るきは更にない………あの婆アサンの、厭らしい顔をして、歯糞だらけのくすぼつた歯を、ニユーツと突出し「親譲りの着物をこつちやへ渡せ」と吐しよつた時の面付を、どうして思ひ切る事が出来るか、飯食ふたびに握り飯のことを思ひ出して、ムカムカして来るワイ』 与『どこまでも弥次式だな、夫れほど恐ろしい婆アに、なぜ貴様は一蓮托生だとか、半座を分けて待つて居るとか、ハンナリとせぬ、変則的なローマンスをやりよつたのだ、得体の知れぬ唐変木だなア』 弥『そこは、外交的手腕を揮つたのだよ。燕雀何ぞ大鵬の志を知らむやだ、至聖大賢の心事が、朦昧無智の人獣に分つてたまるものかい』 与『人獣とは何だ、俺が人獣なら貴様は人鬼だ』 弥『定つた事だよ、天下一品の人気男だもの、それだから、閻魔サンでさへも跣足で逃げる様な、あの鬼婆アが、俺にかけたら、蛸か、豆腐のやうに骨無しになつて仕舞ひよつて目まで細くして、ミヅバナの混つた涎を垂れよつた位だもの………貴様は俺の人気男を実地目撃した正確な保証人だ、勝彦や、六公にも吹聴せぬかい、俺の戦功を報告するのは貴様の使命だ、縁の下の舞と埋没されては、吾々が苦心惨憺の神妙鬼策も何時の日か天下に現はれむやだ』 与『アハヽヽヽ、貴様どこまでも弥次式だな』 弥『定つた事だ、シキだよ、天下一品の色魔だよ。老若男女、貴賎貧富の区別なく、猫も杓子も、鼬も鼈も、蝸牛もなめくぢりも、牛も馬も、この弥次サンに向つては皆駄目だ。アヽ人気男と言ふものは随分気の揉めるものだ。冥土へ行けば行くで、優しうもない脱衣婆アまでが、強烈なる電波を向けるのだから、人気男の色男といふ者は変つたものだよ、古今にその類例を絶つと云ふチーチヤーだ、チーチヤー貴様もこの弥次彦にあやかつたらどうだ』 勝『アハヽヽヽ、ナント面白い人足………オツトドツコイ人気男に出会したものだナア』 弥『ヤア勝サン、お前は私の知己だ、英雄の心事を知る者は、君たつた一人だよ。人気応変、活殺自在、神変不思議の、赤門出のチヤキチヤキのチーチヤアだからネ』 与『アハヽヽヽ、開いた口が塞がらぬワイ』 弥『開いた口が塞がるまい、牛糞が天下を取るぞよ、コンナお粗末な弥次の弥次馬でも、馬糞の天下を取る時節が来るのだから、あまり軽蔑して貰ふまいかい、アンナものがコンナものになつたと云ふ仕組であるぞよ』 与『イヤー吹いたりな吹いたりな、三百十日の大風のやうだのう』 弥『三百十日と云ふ事があるかい、二百十日だらう』 与『馬鹿言へ、貴様は三百代言をやつておつた男だ、十人十日口だと吐して、その日暮しの貧苦の生活に苦しみ、三つ違の兄サン………と云ふて暮して居るうちに』 弥『何を吐しよるのだ、そりや貴様の事だよ、俺ん所は人も知る如く、高取村の豪農だ、下女の一人も使ひ、僕の半人も使つた門閥家だぞ』 与『アハヽヽヽ、半人の僕とは、そらナンダイ』 弥『きまつたことよ、允請ポリスを置いた事だよ』 与『ポリスでも判任官か……判任官の目下ぢやないか』 弥『その点はしつかりと判任せぬワイ、マアどうでも好いワ、貴様も一人前の人間になるのだ。一人一党主義で、快活に誰憚る所もなく、無限の天地に活躍するのが人間の本分だ』 与『エーソンナ雑談は中止解散を命じます』 弥『聴衆一時に立ち、喧々囂々収拾す可らずと云ふ幕だな、アハヽヽヽ』 勝『何と云つても、吾々は米喰ふ虫だ、腹が減つては戦が出来ない、何とか兵糧を工面せなくてはなりますまい』 六『御心配なされますな、今日の兵站部は私が担任致しませう、お粗末な物であなた方等のお口には合ひますまいが、大事なければ、召あがつて下さいませ』 と背中の風呂敷から固パンを出した。 勝『アー有難い、腹がカツカツして殆ど渇命にも及ばむとする所だつたよ』 弥『コラコラ六でもない事を言ふない、六公、人様に物を上げるのに、粗末だとか、お口に合ひますまいとか、そら何んだ、チツト言霊を慎まないか。これは美味しいから献げませう、うまいから食つて見て下さいと言ふのが礼儀ぢやないか……、ナンダ失敬な、食はれぬ様な物や、粗末なものを人に進上するといふ事があるかい。神様に物を献げるのにも、蜜柑の五つ位のピラミツドを拵へて、蕪や大根人参位をあしらひ、千切や昆布、和布、果実、小鮎、ジヤコ位をチヨンビリ奉つて、海河山野種々の美味物を、八足の机代に横山の如く置足らはして奉る状を、平けく安らけく聞し召せ、ポンポン………とやるぢやないか』 六『ハイハイ、あなたの御趣意は徹底しました。併し乍ら私の本心は、この麺包は美味しい結構なものだと思つて居るのだが、一寸遠慮をして、お粗末だとか、お口に合ふまいと言つたのですワ』 弥『口と心の違ふ横道者だナア、虚偽虚飾パノラマ式の生活を続けて、得々然として居るとは、何と云ふ心得ちがひだ。ソンナ事を言ふ奴は、五十万年未来の十九世紀から二十世紀の初期にかけて生れた、人三化七の吐く巧妙な辞令だ、チツト確乎せぬかい』 六『益々以て不可解千万、合点の虫がどうしても検定済みにして呉れませぬワイ』 弥『まだ貴様は分らないのか』 六『日本や支那の道徳を混乱して言つたつて和漢乱は当然ぢやないか、神様は正直と誠実の行ひをお喜びなさるのに、ナンダ、お粗末の物を、ホンの後家婆アの世帯ほど八百万の神様に奉つて、相嘗めに聞し召せとか、海河山野の種々の美味物だとか、横山の如く置足らはしてとか、現幽一致に御透見遊ばす神様の前に、虚偽を垂れて、商売繁昌、家運長久、子孫繁栄、無病息災、願望成就、天下泰平、国土成就、五穀豊穣なぞと、斎官共が吐すぢやないか、一体全体この点が腑に落ちないのだよ』 弥『分らぬ奴だなア、この天地は言霊の幸はふ国だ、悪い物でも善く詔直すのだ。少い物でも沢山なやうに宣り直すのだ、貴様の様に、善い物を悪いと言ひ、美味い物をまづいと云ふのは、言霊の法則を破壊すると云ふものだ。世は禁厭と言つて、勇んで暮せば勇む事が、とつかけ引つかけ現はれて来る、悔めば悔むほど悔み事が続発するものだ、それだから人間は、言霊を清くせなくてはならないのだよ』 六『モシモシ弥次彦サン、チツトの物を沢山だと言ひ、味無い物を美味い物と云ふのは、いはゆる羊頭を掲げて狗肉を売るといふものぢやないか。ソンナ事をすると、現行刑法第何条に依つて詐欺取財の告発を為られますよ。訳の分らぬ盲ばつかりの人間が集つてたかつて拵へた法律でさへも、是丈に条理整然として居るのだ、况して尊厳無比なる神様の御前に、詐欺をやつて良い気で済まして居れると思ふのか、無感覚にも程が有るぢやないか』 弥『定つた事だい、人間は神様の水火から生れた神の子だ、少しでも間隔があつて堪らうかい、無かんかくが当然だよ』 六『ヤア妙な所へ脱線しよつたな、本当に脱線もない………』 弥『脱線は流行ものだい、工事請負人と○○と結托して○○をやるものだから、広軌鉄道であらうが、電鉄だらうが、直に脱線転覆する世の中だ、善人は悪人と見做され、悪人は脱線して善人になると云ふ暗がりの世の中だ、吁脱線なる哉脱線なる哉だ、アハヽヽ』 勝『広軌鉄道とか電鉄とか云ふものは、それや何処に敷設されてるものですか』 弥『ヤア此れから数十万年後の、餓鬼道の世の中の、文明の利器と云ふ名の付く化物のことだよ。アハヽヽヽ』 六『随分あなたの滑車は能く運転しますな、万丈の気焔を吐いて、我々を煙に巻き、雲煙糢糊として四辺を包む態の鼻息、イヤモウ恐縮軍縮の至りですよ』 与『随分巨大なクルツプ砲が装置されて有ると見えますワイ、ホー砲、砲、砲、ホー』 弥『定つた事だよ、与太公や六公の様な、与太六とはチツト原料が違ふのだ、特別大極上等の、豊富なる原料を以て、鍛錬に鍛錬を加へ、製造したる至貴至重なる身魂の持主だ、古今に類例を絶つと云ふ逸物だから、何と言つたつて、弥次彦の足型をも踏めさうな事はないのだ』 勝『モシモシ弥次彦サン、あなたは余程自尊心の旺盛強烈なる御人格者ですネー、自分を称して弥次彦サンと敬語を使ひ、友人に対しては、与太公だの、六公だのと、恰も君王が僕に対する様な傲慢不遜の御態度、三五教の信者にも似合はぬお振舞、どこで勘定が違つたのでせう。これもやつぱり脱線の世の中の感化をお受けになつたのぢやありますまいかな』 弥『ソンナラ是から与太彦サン、六公サンと詔り直しますが、しかしよく考へて見なさい、神を敬する如く人を敬し、我身を敬すべしと云ふ信条が三五教の何処に有つたやうに思ひます。我々は無限絶対力の至貴至尊の大神様の水火を以て生れ出で、天地経綸の司宰者たる特権を賦与されて居る者ではありませぬか、人は神なり、神は人なり、神人合一して茲に無限の権力を発揮するのでせう。吾々の霊肉共に決して私有物ではありませぬ、みな神様の預り物です、さうだから、弥次彦サンと云つたつて別に少しの矛盾も撞着もないぢやありませぬか。神素盞嗚尊様は、大蛇を退治て、串稲田姫と芽出度く偕老同穴の契を結び給ふた時に、自分の胸を抑へて「あが御心すがすがし」と、自分が自分の心を敬はせ給ひ、天照大神様は「われは天照大神なり」と自ら敬語をお使ひになつた。昔の帝様は葛城山に狩猟をなされた時にも、その御腕に虻が食ひ付いた、その時に「あが御腕虻かきつき」と詔らせ給ふたぢやありませぬか、これを見ても敬語と云ふものは、どこまでも使用せなくてはなりませぬよ、決して等閑に附すべき問題ではなからうと拝察するのです。今の奴は、君主でもない友人に対して、君とか、賢兄とか言ひ、僕でもないのに僕だとか拙者だとか云つて、虚偽の生活を送り得意がつて居る逆様の世の中だ、自分の父ほど賢い者は無い、母ほど偉い者は無いと心の中で褒めて居乍ら、愚父だとか、愚母だとか言ひ、自分の息子は悧巧だ、他家の息子は馬鹿だ、天保銭だと心に思ひ乍ら、自分の子を称して、愚息だとか、拙息だとか豚児だとか吐き、他人の馬鹿息子や、鼻垂小僧を御賢息だとか、御令息だとか言つて、嘘で固めてゐる世の中だ。本当に冠履転倒とはこの事だ。女郎の言ひ分ぢやないが、「口で悪う言ふて心で褒めて、蔭ののろけが聞かしたい」と云ふ様な、娼婦的奴根性の人間許りだから、世の中は逆様ばつかり出来るのだ。一日も早く三五教の教理を天下に宣明して、第一着手として、この言霊の詔直しを始めなくては、何時までも五六七の神政は樹立さるるものではありませぬワイ』 勝『イヤア是は是は結構な御託宣を承はりました、斯う云ふお話は度々教へて下さいませ。私も宣伝使となつて、この通り変幻出没、自由自在の活動を続けて来ましたが未だその点に気が付いて居なかつたのです…………吁、何処にドンナ人が隠れて居るやら、何時神様が口を藉つて、戒めて下さるやら、分つたものぢやない。アヽ有難い有難い、惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世』 与『コレコレ弥次彦サン、お前は又、日頃の言行にも似ず、今日に限つて何故ソンナ深遠な教理を説いたのだい』 弥『ナニ、ナンダカ口が辷つて、中から何者かが言ひよつたのだい、弥次彦の知つた事かい、アハヽヽヽ』 勝『ヤア六サン、結構なお弁当を沢山頂戴いたしました、これで元気も快復しました。サア徐々御一同様、テクル事に致しませうかな』 弥『コレコレ勝彦サン、表は表、裏は裏だ、この道中にソンナ几帳面な挨拶は免除して下さいな、互に無駄口の叩き合で、われ、俺で行きませうかい、何だか肩が凝つて疲労の度を増す様だから…………のう勝公、与太六』 与『与太六とはあまり酷いちやないか』 弥『面倒臭いから、与太公と六公とを併合したのだ、会社でもチツト左前になると併合するものだよ』 与『今俺はパンを鱈腹食つたのだ、空腹前所か、これ見い、この通りの太つ腹だ』 弥『ホンにホンに、全然鰒の横飛見たやうな土手つ腹だな、蟇の行列か、鰒の陳列会か、イヤモウ何んともかとも形容の出来ないお姿だ、コンナ所を三面記者にでも見つけられた位なら、直に新聞の材料だよ。アハヽヽヽ』 折から小鹿山の山颪、木も倒れ岩も飛べよと許りに吹き来る。 弥『ヨー風の神、一寸洒落てゐよるなア。吹くなら吹け、大砲の弥次彦がご通行だ、反対に吹飛ばしてやらうか』 与『アハヽヽヽ、偉い元気だのう、しかし何ほど弥次サンが黄糞をこいて、金の目を剥いて気張つた所で、的サンは洒々落々、風馬牛といふ御態度だから、如何ともする事は出来まいかい』 弥『ヨーヨーこれや意外の強風だぞ、二人づつ肩と肩とをから組んで進まうかい…………与太六、貴様は一組だ、弥次彦は勝公と手を組んで、単梯陣を張つて、驀地に進軍だ。小舟に乗つて大海を渡る時にも、暴風怒濤に出会つた時には、舟と舟と二艘一所に合はして連結んで置くと、容易に顛覆せないものだ。舟じやないけれど、吾々は風に対する風船玉の難を避ける為に、連結んで風の波を漕ぎ渡る事とせうかい。グヅグヅして居ると小鹿峠の渓谷へ顛覆沈没の厄に遭ふかも知れない。サアサア早く早く、連結んだ連結んだ』 四人は二人づつ肩と肩とを組み合せ、風に向つて強圧的に、前方三十五度の傾斜体で坂路を跋渉する。 与『イヨー此奴ア猛烈だ、今日に限つて風の神の奴、どう予算を狂はせよつたのか、勿体なくも、天地経綸の司宰者たる人間様が御通行遊ばすのに、恐れ気もなく前途を抗塞するとは、不都合千万だ。ヤア六公、しつかりせぬかい、吹き飛ばされるぞ』 六『これ位な風に吹飛ばされる気遣はないが、弥次彦サンの気焔には随分吹飛ばされさうだ。アハヽヽヽ』 弥『コラコラ、貴様何をグヅグヅ言つて居よるのだい、この烈風に確乎勇気を出して進まないと、内閣の乗取は不可能だぞ、グヅグヅしてると、九分九厘行つた所で流産内閣になつて了ふかも知れないぞ』 与『エー八釜しう言ふない、如何に神出鬼没の勇将でも、ハヤこの風に向つて、どうして突喊が出来るものかい、千引の岩でさへも中空に巻きあげると云ふ様な風の神の鼻息だ、チツト風の神も、聞直して呉れさうなものだな、この谷間へでも落ちて見よれ、又候幽界の旅行をやらねばならぬぞ』 弥『そら何を幽界、悲観するな、モツト愉快になつて、風を突いて突進するのだ』 与『何と云つても貴様のやうな無茶な事は、俺には到底不可能だ。如何に人間が賢いと云つてもコンナ記録破りの暴風に出会しては、人間としては到底不可抗力だ、………オイ一寸そこらで一服したらどうだい』 弥『三五教に退却の二字はないぞ、どこ迄も唯進むの一事あるのみだ。一度に開く梅の花、何時までも風の神だつて、さう資本が続くものぢやない。グヅグヅ吐かすと足手纏ひになるから、貴様と俺とは最早国交断絶だ、旅券を交附してやるから、サツサと本国へ引返したが宜からうぞ』 与『アーア仕方のない頓馬助だナア……オイ六公、マア見とれ、向意気ばつかり強いが、タツタ今風に煽られて、再幽冥界の探険と出かけるのが落だぞ』 この時山岳も崩れ、蒼天墜落するかと思はるる許りの音響と共に、最大強烈なる暴風吹き来るよと見る間に、弥次彦の羽織袴の袂に風を含んで、勝彦と手を組んだまま、中空に吹あげられ、空中飛行の曲芸を演じつつ、風に追はれて谷間の彼方に、悠々として姿を隠した。不思議や烈風は、嘘をついた様にケロリと歇んだ。 与『ヤア大変だ、意地の悪い風だないか、弥次彦を吹飛ばして置きよつて、それを合図にピタリと休戦の喇叭をふきよつた様なものだ』 六『あまり弥次公は大法螺をふくものだから、風の神の奴、一つ懲しめてやらうと思つて、何でも早うから作戦計画をやつて居つたのに違ないぞ、何だか夜前から雲行が悪いと思つて居つた。ヤア夫れにしても吾々はこの儘に放任して置く訳には行かず、滅多に天上した気遣はなからうから、吾々両人は此処で一つ捜索をせなければなるまいぞ』 与『ナアニ、彼奴ア風に乗つて、コーカス山へお先へ失礼とも何とも言はずに、参詣しよつたのだらうよ。アハヽヽヽ』 六『ソンナ気楽な事を言ふて居る場合じやあるまい、是から両人協心戮力して、両人が在処を探さうじやないか』 与『探すもよいが、拙劣に間誤つくと、冥土の道伴にならねばならないかも知れないぞ、俺はモウ冥土の旅は一度経験を積んだのだから、余り苦しいとも思はぬが、貴様は初旅だから勝手も分らず、随分困るだらうよ』 六『エーろくでもない事を言ふものじやないワ、言霊の幸はふ世の中だのに』 与『風玉の災する世の中だ、アハヽヽヽ』 二人は弥次彦、勝彦の散りて行つた方面を指して、顔の色を変へ乍ら、急いで元来し道に引返し、二人の所在を捜索することとなつた。吁、二人の行衛はどうなつたであらう。 (大正一一・三・二四旧二・二六松村真澄録) |
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8 (1696) |
霊界物語 | 17_辰_丹波物語2 丹波村/鬼ケ城山 | 08 蚯蚓の囁 | 第八章蚯蚓の囁〔六一九〕 黒姫、高山彦の発議により、愈真名井ケ原の瑞の宝座を蹂躙し、あはよくば占領せむとの計画は定まつた。黒姫夫婦は婚礼の後片付に忙殺を極めて居る。三軍の将と定つた夏彦、常彦、岩高、菊若の四人は入口の間に胡坐をかき、出発に先だち種々の不平談に花を咲かし居たりける。 常彦『人間と云ふものは身勝手のものぢやないか、石部金吉金兜押しても突いても此信仰は動かぬ、神政成就する迄は男のやうなものは傍へも寄せぬ、三十珊の大砲で男と云ふ男は片端から肱鉄砲を喰はすのだ、お前達も神政成就迄は若いと云うても決して女などに目を呉れてはならぬぞ、若い者が女に目を呉れるやうな事では神界の経綸が成就せぬと、明けても暮れても口癖のやうに、長い煙管をポンと叩いて皺苦茶面をして、厳しいお説教を始めて御座つたが、昨夜の態つたら見られたものぢやない、雪達磨がお天道様の光に解けたやうに、相好を崩しよつて、「モシ高山彦の吾夫様」ナンテ、団栗眼を細うしよつて何を吐しよつたやら、訳の分つたものぢやない、俺やもう嫌になつて仕舞つたワ』 岩高『定つた事ぢや、女に男はつきものだ。茶碗に箸、鑿に槌、杵に臼、何と云つたつて此世の中は男女が揃はねば物事成就せぬのだ、二本の手と二本の足とがあつて人間は自由自在に働けるやうなものだ、三十後家は立つても四十後家は立たぬと云ふ事があるぢやないか』 常彦『四十後家なら仕方が無いが彼奴は五十後家ぢやないか、コレコレ常さま、お前は因縁の身霊ぢやによつて、何うしても三十になるまで女房を持つてはいけませぬぞえ、人間は三十にして立つと云ふ事があるなぞと云よるが、此時節に三十にして立つ奴は碌なものぢやない、俺等は既に既に十六七から立つて居るのぢや、今思うと立つものは腹ばかりぢや』 夏彦『貴様等は何を下らぬ事を云うて居るのだ、高姫さまだつて余り大きな声では云はれぬが、何々と何々し、又○○と○○し、夫は夫は口でこそ立派に道心堅固のやうに云うて居るが、口と心と行ひの揃つた奴はウラナイ教には一匹もありやしないワ、俺も魔我彦や、蠑螈別や高姫に限つてソンナ事はあるまい、言行心一致だと初の程は信じて居たが、此の頃は何うやら怪しくなつて来たやうだ、本当に気張る精も無くなつて了つた。今迄は二つ目には黒姫の奴、夏彦何うせう、常彦何うせう、岩高、菊若、斯うしたら好からうかなアと吐しよつて、一から十迄、ピンからキリ迄相談をかけたものだが、昨日から天候激変、ケロリと吾々を念頭から磨滅しよつて、箸の倒けた事まで、ナアもし高山さま、これもしこちの人、何うしませう、斯うした方が宜敷くは御座いますまいかと、皺面にペツタリコと白いものをつけよつて、田螺のやうな歯を剥き出し、酒許り飲ひよつて、俺達には一つ飲めとも云ひよりやせむ、かう天候が激変すると何時俺達の頭の上に雷鳴が轟き、暴風が襲来するか分つたものぢやない、俺はホトホトウラナイ教の真相が分つて愛想が尽きたよ。今更三五教へ入信うと云つた所で、力一ぱい高姫や黒姫の言葉の尻について、素盞嗚尊の悪口雑言をふれ廻して来たものだから、どうせ三五教の連中の耳へ入つて居るに違ひない、さうすれば三五教へ入信る訳にも行かず、ウラナイ教に居ても面白くはなし、厄介者扱のやうな態度を見せられ、苦しい方へ許り廻されて本当に珠算盤があはぬぢやないか、何時迄もコンナ事をして居ると身魂の身代限をしなくてはならぬやうになつて了ふ、今の中に各自に身魂の土台を確り固めて置かうではないか。よい程扱き使はれて肝腎の時になつてから、お前は何うしても改心が出来ぬ、身魂の因縁が悪いナンテ勝手な理屈を云つてお払ひ箱にせられては約らぬぢやないか』 常彦『それやさうだ。高姫は変性男子の系統ぢやと聞いた許りに、変性女子の身魂より余程立派な宣伝使日の出神の生宮だと思うて今迄ついて来たのだ。併し日の出神もよい加減なものだ。各自ウラナイ教脱退の覚悟をしやうではないか』 菊若『オイ、ソンナ大きな声で云うと奥へ聞えるぞ、静にせぬかい』 夏彦『ナニ、今日は何程大きな声で云つたところで俺達の声は黒姫の耳に入るものか、耳へ入るものは高山彦の声許りだ、俺達の声が耳に入る程注意を払つて呉れる程親切があるなら、もとよりコンナ問題は提起しないのぢや、乞食の虱ぢやないが口の先で俺達を旨く殺しよつて、今迄旨く使つて居たのだ、随分気に入つたと見え、枯れて松葉の二人連、虱の卵ぢやないが彼奴ア死ンでも離れつこは無いぞ、アハヽヽヽ』 岩高『併し、そろそろ真名井ケ嶽に出発の時刻が近よつて来たが、お前達は出陣する考へか』 夏彦『否と云つたつて仕方が無いぢやないか、ウラナイ教に居る以上は否でも応でも出陣せねばなるまい、併しながら根つから葉つから気乗がしなくなつて来た、仕方が無いから形式的に出陣し、態と三五教に負けて逃げてやらうぢやないか、さうすれば黒姫は申すに及ばず、高姫もちつとは胸に手を当てて考へるだらう、高山彦だつて愛想をつかして黒姫を捨てて去ぬかも知れぬぞ。今こそ花婿が来たのだと思つて上品ぶつて、大きな鰐口を無理におちよぼ口をしやがつて、高尚らしく見せて居るが、暫くすると地金を出して、又女だてら大勢の中で、サイダーやビールの喇叭飲みをやらかすやうになるのは定つてゐる。鍍金した金属が何時迄も剥げぬ道理はない、俺達もウラナイ教の信者と云ふ鍍金を今迄塗つて居たが、もう耐らなくなつて、そろそろ剥げかけたぢやないか、アハヽヽヽ』 斯る所へ虎若と富彦の両人現はれ来り、 虎、富『ヤア四天王の大将方、高山彦、黒姫様の御命令で御座る、一時も早く真名井ケ原に向つて出陣の用意めされ』 と云ひ捨てて此場を急ぎ立ち去りにけり。 夏彦『エヽ何だ、馬鹿にしてゐる。昨日来た許りの虎若、富彦を使つて吾々に命令を伝へるナンテ、あまり吾々を軽蔑し過ぎて居るぢやないか、如何に気に入つた高山彦の連れて来た家来ぢやと云つて、古参者の吾々を放つて置き勝手に新参者に命令を下し、吾々を一段下に下しよつたな、これだから好い加減に見切らねばならぬと云ふのだよ』 常彦『アヽ、仕方がない、兎も角も形式なりと出陣する事にしやうかい』 黒姫は突然此場に現はれて、 黒姫『これこれ夏彦、常彦、お前今何を云つてゐらしたの』 常彦『ハイ、真名井ケ嶽に出陣の用意をしやうと申て居りました』 黒姫『それは御苦労ぢやつたが、其次を聞かして下さい、其次は何と仰つた』 常彦『ハイハイ、次は矢張其次で御座いますナ』 黒姫『天に口あり、壁に耳と云ふ事をお前達は知らぬか、最前から四人の話を初めから終迄、次の間に隠れて聞いて居りました。随分高山さまや黒姫の事を褒めて下さつたな』 四人一時に頭を掻いて、 四人『イヤ何滅相も御座いませぬ、つい酒に酔うて口が辷りました、どうぞ神直日大直日に見直し聞き直して下さいませ』 黒姫『お前酔うたと云ふが、何時酒を飲みたのだい』 夏彦『ハイ、酒を飲みたのは貴女と高山さまと祝言の杯をなされました時……ぢやから其為に酔が廻つてつい脱線致しました』 黒姫『馬鹿な事を云ひなさるな、酒も飲まぬに酔が廻り、管捲く奴が何処にあるものか、それやお前達、本真剣で云つたのだらう、サアサアウラナイ教はお前さま達のやうな没分暁漢に居て貰へば邪魔になる、サアサア今日限り何処へなりと行つて下さい。エイエイ、お前達のしやつ面を見るのも汚らはしい』 夏彦『そらさうでせう、好きな顔が目の前にちらついて来たものだから、吾々のしやつ面は見るのも嫌になりましただらう』 黒姫『エヽ入らぬ事を云ひなさるな、サアとつとと去んだり去んだり、ウラナイ教では暇を出され、三五教では肱鉄を食はされ、野良犬のやうに彼方にうろうろ、此方にうろうろ、終には棍棒で頭の一つも撲はされて、キヤンキヤンと云うて又元のウラナイ教に尾を振つて帰つて来ねばならぬやうにならねばならぬ事は見え透いて居るわ、ウラナイ教の太元の大橋越えてまだ先に行方分らず後戻り、慢心すると其通り、白米に籾の混つたやうに、謝罪つて帰つて来ても隅の方に小さくなつて居るのを見るのが気の毒ぢや、今の中に改心をしてこの黒姫の云ふ事を聞きなされ、黒姫は口でかう厳しく云つても、心の中は、花も実もある誠一途の情深い性来ぢや、誠生粋の水晶玉の選り抜きの日本魂の持主ぢやぞえ、サアどうぢや、確り返答しなさい、夏彦の昨夜の歌は何ぢや、目出度い時だと思うて辛抱して居れば好い気になつて悪口たらだら、大抵の者だつたらあの時に摘み出して仕舞ふのぢやけれど、神様のお道の誠の奥を悟つた此黒姫は、心が広いから松吹く風と聞き流して許して居たのだ、それに又もや四人の大将株が燕の親方のやうに知らぬ者の半分も知らぬ癖に何を云ふのだい。お前達に誠の神の大御心が分つて耐るものか、知らにや知らぬで黙言つて居なさい』 夏彦『ハイハイ、誠に申訳がありませぬ、何卒今度に限り見直し聞き直して下さいませ』 黒姫『此度に限つて許して置く、此後に於て、一口でも半口でも、高山さまや黒姫の事を云はうものなら、夫こそ叩き払にするからさう思ひなさい、サアサア常彦、菊若、岩高愈出陣の用意だ、高山彦の御大将はもはや出陣の準備が整うたぞへ』 四人一度に、 四人『ハイ確に承知仕りました』 茲に黒姫、高山彦は一族郎党を集め、旗鼓堂々と真名井ケ原に向つて進撃したが、加米彦、青彦の言霊に脆くも打ち破られ、蜘蛛の子を散らすが如く四方に散乱したりけり。 ウラナイ教の鍵鑰を握つて居た黒姫の部下四天王と頼みたる夏彦、岩高、菊若、常彦の閣僚は黒姫結婚以来上下の統一を欠ぎ、自然三五教に向つて其思想は暗遷黙移しつつありき。其の為め、折角の真名井ケ原の攻撃も味方の四天王より故意と崩解し、黒姫が神力を籠めたる神算鬼謀の作戦計画も殆ど画餅に帰し終りたるなりき。嗚呼人心を収攪せむとするの難き、到底巧言令色権謀術数等の虚偽行動をもつて左右すべからざるを知るに足る。之に反して三五教は一つの包蔵もなく手段もなく、唯々至誠至実をもつて神業に奉仕し、ミロクの精神を惟神的に発揮するのみ。されば人心は期せずして三五教に集まり、日に夜に其数を増加し、何時とはなしに天下の大勢力となりぬ。ウラナイ教は広い大八洲国に於て直接に信徒を集めたるもの唯一人もなく、唯々三五教に帰順したる未熟の信者に対し、巧言令色をもつて誘引し、且つ変性男子の系統より出でたる高姫を唯一の看板となし世を欺くのみにして、根底の弱き事、砂上に建てたる楼閣の如く、其剥脱し易き事炭団に着せたる金箔の如く、豆腐の如く、一つの要もなく唯弁に任し表面を糊塗するのみ、其説く所恰も売薬屋の効能書の如く、名のみあつて其実なく、有名無実、有害無益の贅物とは、所謂ウラナイ教の代名詞であらうと迄取沙汰されけり。されど執拗なる高姫、黒姫は少しも屈せず……女の一心岩でも突貫く、非が邪でも邪が非でも仮令太陽西天より昇る世ありとも、一旦思ひ詰めたる心の中の決心は、幾千万度生れ代り死代り生死往来の旅を重ぬるとも、いつかないつかな摧けてならうか……との大磐石心、固まりきつた女の片意地、張合もなき次第なり。 黒姫は力と頼む青彦の三五教に帰順せし事を日夜に惜み、如何にもして再びウラナイ教の謀主たらしめむと、千思万慮の結果、フサの国より高山彦に従ひ来れる虎若、富彦に命じ、青彦が日夜に念頭を離れざるお節を説きつけ、お節より青彦が信仰を落させむものと肝胆を砕きつつありける。 (大正一一・四・二二旧三・二六加藤明子録) |
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9 (1868) |
霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 06 三腰岩 | 第六章三腰岩〔七五二〕 大蛇の尻尾に跳ね飛ばされた清公は、広言を吐いたチヤンキー、モンキーの二人の目の前に腰を抜かし、醜態にも顔を顰め、大腿骨を痛め、苦虫を噛んだやうな、六ケしい顔をして気張つて居る可笑しさ。腰の立たぬ三人は、口ばかりは相変らず達者である。 チヤンキー『モーシモーシ清公さまお前は余つ程偉い奴 竜宮嶋の地恩郷左守神まで登りつめ 雪隠の虫の高上り漸う大地へ這ひ上り カンピンタンになつた上蠅に孵化して王さまの 頭の上まで登らうと企んだ事も水の泡 小便垂れて糞垂れて宇豆姫さまに撥かれて ドン底迄も顛落しいよいよ此処に改心の 実を示さうと我々を言葉巧にちよろまかし 相も変らぬ悪い事続けるつもりでスタスタと タカの港までやつて来て誰の船かは知らねども 屋根無し船を何々し吾物顔に悠々と 浪を渡つて夜のうち人目を忍んでヒル港 改心したとは何の事大事の大事の他人の船 代価も遣らずにぼつたくり三五教を此郷に 開かうとしたのが運の尽俺まで矢張盗人の そのお仲間に引き込んで大将顔を提げ歩き クシの雄滝の手前まで口と心のそぐはない 宣伝歌をば歌ひつつ同じ教の道の子の 我々二人を頤の先チヤンキーモンキーと口の先 汚い言葉で扱き使ひ主人面してやつて来た その天罰は目のあたり大蛇の尻尾に撥ねられて 左守神になつたやうに一旦高く舞ひ上り スツテンドウと土の上忽ち変る地獄道 腰弱男が腰抜かしお尻の骨を打ち砕き 吠面かわくは何の事お尻の仕末のつかぬ人 そんなお方と知らずして従いて来たのが我々の 不覚と悔んで見たとこが六日の菖蒲十日菊 改慢心の清公[※初版・愛世版では「虎公」になっているが、校定版・八幡版では「清公」に直している。「虎公」という人物はここには登場せず、文脈上「清公」が妥当である]の猫の眼球のお招伴 こんな約らぬ事はないチヤンキーモンキー騒いでも お腰が立たねば仕方ない私等二人をこんな目に 遇はして置いて清公さま何うする積りで御座るのか 余りと云へばあんまりぢやお前の腰は何うなろが お尻の骨は砕けやうが私は些とも構やせぬ お傍杖をば喰はされた私等二人は此儘に 此処で死んだら化けて出てお前の影身に附添うて 生首かかねば置かぬぞやあゝ惟神々々 目玉飛び出るやうな目に私は遇はされ耐らない 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも清公の奴は死ぬるとも 私にとつては大蛇ない早く改心した上で 我等二人が壮健でお前を見捨てて帰るやうに どうぞ祈つて下さんせ此世を造りし神直日 心も広き大直日唯何事も人の世は 直日に見直せ聞き直せ身の過ちは宣り直せ さはさりながら我々は清公の奴にこんな目に 遇はされ何うして此儘に恨み返さでおかれやうか 尻尾の毛迄一本も無い処迄抜かれたる チヤンキー、モンキーは云ふも更肝腎要の清公は 肝を抜かれて腰を抜き悲惨極まる為体 お互一様に身の上は気の毒なりける次第なり』 と自暴自棄になりて、出放題を喋り立てて居る。清公も此滑稽な揶揄半分の歌に痛さを忘れてクツクツ笑ひ出す。 清公『セイロン島の土籠黒ン坊人種の成れの果 チヤンキーモンキー両人が小糸の姫に頼まれて 可愛い妻子を後に置きお金の欲に目が眩み 義理も人情も打ち忘れ海洋万里の浪の上 汗もたらたら漕ぎ廻る時しもあれや天狗風 魔島に船は打ちあたり木端微塵となつた時 肝腎要のお客さま小糸の姫を顧みず 船は無けれど黒い尻帆をかけ登る岩の上 三年三月も雨風や天日に曝され泣き面を 乾かし蟹や貝を採り食つて漸々惜しからぬ 命をながらへ時を待つ高姫さまや蜈蚣姫の 船が来たのを幸ひに玉を匿した匿さぬと やつさもつさの押問答囀る折しもテンカオの 島は忽ち海底に沈んだお蔭で魔の神[※初版・愛世版では「魔の神」だが、校定版・八幡版では「魔の島」に直している。]は 浪に呑まれて大勢が蚊の啼くやうな情けない 声を絞つて居たところ玉治別の一行に 安い命を助けられニユージランドの玉森で エツパツパーを喰はされて泣く泣く竜宮の一つ島 タカの港に上陸し地恩の郷に登りつめ チヤンキーモンキーと呼び捨てに皆の奴等に馬鹿にされ 雪隠の中の掃除までやつて居たるを見た俺は 可愛さうだと慈悲心を起してタカの港より 黙つて船を拝借し鳥無き郷の蝙蝠に 出世をさせようと連れて来て働かさうと思つたら 卑怯未練の馬鹿者が大蛇の姿に腰抜かし 中にもチヤンキーの腰抜けは話を聞いて胴慄ひ 脛腰立たぬその態で俺に向つて屁理窟を 云ふとは些と両人の見当違ひぢやあるまいか 大馬鹿者の腰抜けが二人揃うた岩の上 愚図々々すると最前の大蛇の奴が飛んで来て 今度は深き谷底へ尻尾の先で振り落し 身を砕かれて冥途往き三途の川の鬼婆に 何ぢやかんぢやと虐められ末には血の池針の山 焦熱地獄に墜落し鬼に喰はれて仕舞ふぞよ あゝ惟神々々叶はぬからの神頼み 哀れなりける次第なりアハヽヽハツハ阿呆面 ウフヽヽフツフ呆つけ者イヒヽヽヒツヒ因果者 オホヽヽホツホ大馬鹿よエヘヽヽヘツヘエーやめて置かう』 と喋り終つた途端に、清公の腰はヒヨツコリと立つた。続いてチヤンキーの腰も亦立ち上つた。 チヤンキー『ヤア、余り清公がしようも無い事を云ふものだから、言霊の口罰が当つて、堅磐常磐に鎮座ましました石座を離れ、又徐々働かねばならぬやうになつて仕舞つた。……モンキー、貴様は幸福者だ。何処迄も泰然自若として、安楽に岩の上に暮らせる身分だ。我等両人はそろそろ是から活動に這入るのだ。何卒貴様、生神様になつて其処に胴を据ゑ、俺等両人の幸を守つて呉れ。南無モンキー大明神、叶はぬなら立ち上りませだ。アハヽヽヽ』 と二人は面白さうに足が立つた嬉しさに妙な手つきで踊つて居る。モンキーは業を煮やし、立つて見ようと焦慮れど藻掻けど、ビクともしない。たうとう自棄気味になつて下らぬ歌を喋り始めた。 モンキー『清公チヤンキーよつく聞け俺は誠の生神ぢや 岩に喰ひつき獅噛みつき胴は据わつて動かない ビクとも致さぬ大和魂貴様の腰は浮き調子 又々悪魔に導かれ大蛇の尻尾に撥かれて 再び天上するがよい俺は貴様の墜落を 空を仰いで待つて居る雪隠虫の高上がり 名は清公と申せども心の色は泥公が チヤンキーチヤンキーと偉さうに口では云へど何一つ チヤンキーチヤンキーと埒明かぬ困つた奴が唯一人 此世の中の穀潰し娑婆に居つても用はない 俺は何にも岩の神万劫末代動き無き 下津岩根に腰据ゑて貴様等二人の行末を アーイーウーエーオホヽヽヽ嘲笑ひつつ見て暮らす 四つ足身魂に汚された碌な事せぬ二人連れ 一日も速く此場をば離れて往けよお前達 愚図々々してると其辺中空気の色迄悪くする あゝ惟神々々目玉の飛び出るやうな目に 遇はせて下さい三五の皇大神の御前に 二人の為に祈りますエヘヽヽヘツヘ得体の知れぬ オホヽヽホツホ大馬鹿者奴カヽヽヽカツカ空威張り キヽヽヽキツキ気に喰はぬクヽヽヽクツク糞奴 ケヽヽヽケツケ怪しからぬコヽヽヽコツコ困り者 サヽヽヽサツサ逆とんぼシヽヽヽシツシ強太い奴 スヽヽヽスツス好ん平野郎セヽヽヽセツセ雪隠虫 ソヽヽヽソツソそぐり立てたタヽヽヽタツタ高上り チヽヽヽチツチちんちくりんツヽヽヽツツツ聾者盲人 テヽヽヽテツテ天狗面トヽヽヽトツト呆け野郎 ナヽヽヽナツナ泣きツ面ニヽヽヽニツニ憎まれ子 憎まれにくまれ世に覇張るヌヽヽヽヌツヌヌーボ式 ネヽヽヽネツネ鼠の子ノヽヽヽノツノ野天狗野狐豆狸 ハヽヽヽヽツハ薄情者ヒヽヽヽヒツヒ非常識 フヽヽヽフツフ戯けた事をしやがつて ヘヽヽヽヘツヘ屁理窟ばかり叩きよる ホヽヽヽヽツホほうけ野郎マヽヽヽマツマ曲津御霊の張本よ ミヽヽヽミツミ蚯蚓土竜の土潜り ムヽヽヽムツム蜈蚣姫臭い婆さま腰巾着 メヽヽヽメツメ盲目聾者の腰抜け野郎 モヽヽヽモツモ耄碌魂の二人連れ ヤヽヽヽヤツヤ奴野郎の イヽヽヽイツイ意地くね悪い ユヽヽヽユツユ幽霊腰 エヽヽヽエツエえぐたらしい ヨヽヽヽヨツヨ妖魅面提げて ワヽヽヽワツワ悪い事毎日毎夜考へよつて ヰヽヽヽヰツヰ一寸先は暗の夜だ ウヽヽヽウツウ迂路々々と其辺あたりを魔胡つき出だし ヱヽヽヽヱツヱ偉さうに ヲヽヽヽヲツヲ大失策を致したる大馬鹿者の臆病者………… 大腰抜けの狼野郎、お目出度い変り者だ。サア何処へなりと勝手に往け。その代りに盗んで来た船を元の所へ返して来い。さうで無ければ三五教の宣伝に歩いても亦此通りだ。脛腰が立たぬやうに致してやるぞよ。ウンウンウン』 と体を揺り、そろそろ発動し初め、岩の上で餅を搗くやうに体を上げたり下げたり、十数回繰り返し、何時の間にやら抜けた腰はちやんと元の通りに納まり、そろそろ歩き出した。 清公『ヤア、モンキー、貴様、何時の間に腰が立つたか』 モンキー『俺は初めから、決して貴様等のやうに腰は抜かしては居ないぞ。余り偉さうに家来扱ひに致すから、一寸芝居をしてやつたのだ。ウフヽヽヽ』 と肩を揺る。 チヤンキー『アレアレ、追々騒がしく聞えて来る老若男女の叫び声、こりや斯うしては居られない。いづれ三人の中一人は船を返しに帰らねばならないが、先づ神様に御猶予を願つて、大蛇の征服を済す事にしようかい』 清公『それもさうだ。余り大蛇に気を取られて祝詞奏上を忘れて居た。其罰で腰が立たなくなつたのだ。……アヽ神様、何卒お赦し下さいませ』 と三人は一所に集まり来り、高らかに天津祝詞を奏上し、天の数歌及び宣伝歌を歌ひクシの滝壺を目蒐けて進みゆく。 (大正一一・七・八旧閏五・一四加藤明子録) |
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10 (1913) |
霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 06 玉乱 | 第六章玉乱〔七八八〕 玉照姫、玉照彦は口を揃へて、 玉照姫、玉照彦『英子姫殿、紫の玉を我前に持来られよ』 と宣示された。英子姫は「ハイ」と答へて紫の玉を柳筥に納めた儘、恭しく捧持して二神司の前に奉らむとする時しも、高姫は、 高姫『一寸待つて下さい。又紛失すると大変だから、此玉は日の出神が保管致しておきます』 国依別『コリヤ高、又腹の中へ呑んで了ふ積りだらう。何程日の出神が偉くとも、玉照彦、玉照姫の御命令を反く訳には行くまい。……サア英子姫さま、お二方の御命令です、躊躇逡巡するに及びませぬ。早く献上なさいませ』 高姫『エー又しても又しても、邪魔計り致す男だ。今日只今限り、国依別を除名する』 国依別『エー又しても又しても、玉を呑まうと致す偽日の出神、今日只今より、国治立命、国依別の口を通し、高姫を除名する。ウンウンウン』 高姫『ヘン、おいて貰ひませうかい。何程国依別でも、国治立命様のお懸りなさる筈がありますかい。サア一時も早く国処立ち退きの命となつて帰つて貰ひませう』 玉照姫、高座より声しとやかに、 玉照姫『高姫、国依別両人共、お控へめされ』 国依別『ハハー』 と畏縮して其場に平伏する。高姫、 高姫『エーエ、日の出神の生宮さへあれば良いのに、無用の長物……でもない。何と言うても二つの頭が並んで居るのだから、行りにくいワイ。両頭蛇尾と云つて、善悪両頭使ひの高姫も芝居が巧く打てませぬワイ』 と小声で呟いて居る。 国依別『高姫さま、玉照姫様の御命令もだし難く、貴女の除名を、国依別茲に取消し致します』 高姫は舌をニヨツと噛み出し、あげ面し乍ら、二三遍しやくつて見せ、右の肩を無恰好に突起させ、 高姫『ヘン、……能う仰有いますワイ。日の出神が更めて国依別を外国行と定めるから、喜んでお受けをなさるがよからう』 国依別『お前さまに命令して貰はなくとも、言依別神様、杢助様、国依別は三人世の元となつて、チヤンと外国で仕組がしてあるのだ。七つの玉もお先に海外の或地点に隠してあるのだから、要らぬ御世話で御座います』 高姫『そんなら国依別、お前は早くから三人腹を合せて企んで居つたのだな』 国依別『どうでも宜しいワイ。虚実の程は世界の見えすく日の出神様が御存じの筈だ』 玉照姫『国依別、改めて申し渡すべき事あれば、暫く汝が館に立帰り、命を待たれよ』 国依別『ハハー、承知致しました』 と丁寧に挨拶をなし、終つて、 国依別『ヤア、テールス姫、玉能姫、玉治別、久助、お民さま、竜宮の女王黄竜姫、蜈蚣姫其他一統の方々、高姫、黒姫に対して、充分の防戦をなされませや。此国依別が此場を立去るや否や、そろそろと又吹き出しますからなア』 玉治別『ヤア有難う、あとは我輩が引受ける、安心して帰つて呉れ。さうして言依別様に宜しく申上げて呉れ。……オツト失敗つた、言依別様は最早どつかへ御不在になつた筈だなア』 高姫『今の両人が話振を聞けば、玉治別も同類と見える。お前もトツトとここを退場なされ。日の出神が命令する』 玉治別『高姫さま、大きに憚りさんで御座います。済みませぬが、私の進退は私の自由ですから、余り御親切に構うて下さいますな』 高姫、杢助の方にギヨロリと目を転じ、 高姫『お前さまは総務を辞職した以上は、そんな高い所に何時迄も頑張つて居る権利はありますまい。トツトと御下りめされ。サア是からは、言依別は逐電致すなり、杢助は辞職をするなり、ヤツパリ此八尋殿は高姫が教主となつて行らねばならぬかなア。時節は待たねばならぬものだ』 玉治別『コレハしたり、高姫さま、誰の命令を受けて貴女は教主になるのですか。誰もあなたを教主として尊敬し、且つ服従する者はありますまいぞ』 高姫『コレコレ田吾さま、お黙りなされ。天地開闢の初から系統の身魂、日の出神の生宮が教主になるのは、きまり切つた神界の御経綸だ。それだから日の出神の守護に致すぞよと、お筆先にチヤンと書いてあるのだ。……今までは悪の身魂に結構な高天原をワヤにしられて居たが、世は持切には致させぬぞよ。天晴れ誠の生神が表に現はれて日の出の守護となつたら、今迄上へあがりて偉相に申して居りた御方アフンとする事が出来るぞよ。ビツクリ致して逆トンボリを打たねばならぬぞよ。それを見るのが神は辛いから、耳がたこになる程知らしたが、チツとも聞入れないから是非なき事と諦めて下されよ。決して神を恨めて下さるなよ。我身の心を恨めるより仕様がないぞよ。……と現はれて居りませうがな。誰が何と云つても三五教は日の出神の生宮が表に立たねば、神界の仕組は成就致しませぬぞエ。誠の者が三人あれば立派に立替が成就すると仰有るのだから、イヤな御方は退いて下されよ。誠一つの生粋の水晶玉の大和魂の根本の、地になる日の出神の生宮と竜宮の乙姫の生宮と、高山彦と三人さへあれば、立派に神業は成就致しますワイな。グツグツ申すと帳を切るぞえ』 玉治別『アハヽヽヽ、よう慢心したものだなア。……コレコレ波留彦さま、秋彦さま、お前と私と三人世の元となつて、高姫軍に向つて一つ戦闘を開始したらどうだ』 波留彦『それは至極面白い事でせう。……なア、秋彦さま』 高姫『コレコレ滝、鹿、田吾作、お前達は何程三角同盟を作つても駄目だよ。モウ今日から宣伝使なんか、性に合はないことをスツパリ思ひ切つて、紫姫さまの門掃きになつたり、宇都山郷に往つて芋の赤子を育てたり、ジヤンナの郷へ帰つて土人にオーレンス、サーチライスと持てはやされる方が御互に得策だ。(高姫は逆上の余り滝と友と同うして喋つてゐる)いよいよ日の出神が教主となつた以上は何事も立替だ。今更めて教主より除名するツ』 玉照姫高座より、 玉照姫『三五教の教主は言依別命、神界の御経綸に依りて高砂島へ御渡り遊ばした。又杢助は神界の都合に依り筑紫の島へ出張を命ずる。淡路の島の人子の司東助を以つて三五教の総務に任じ、且つ臨時教主代理を命ずる。高姫、黒姫は特に抜擢して相談役に致す。玉治別、秋彦、友彦、蜈蚣姫、黄竜姫、玉能姫は以前の儘現職に止まるべし』 と宣示し玉うた。 高姫『玉照姫さまもチツと聞えませぬワイ。玉照彦様は何とも仰有らぬに、女のかしましい差し出口。何程結構な身魂でも、此三五教は艮の金神、坤の金神、金勝要神、竜宮の乙姫、日の出神の生魂で開いて行かねばならぬお道、お玉の腹から生れて出た変則的十八ケ月の胎生……言はば天下無類の畸形児ぢやないか。何と仰有つても今度計りは命令を聞きませぬぞ』 玉照姫『汝高姫、四個の麻邇の玉の所在を尋ね、それを持帰りなば、始めて汝を教主に任じ、高山彦、黒姫を左守、右守の神に任ずべし。誠日の出神又玉依姫の身魂なれば、其玉の所在をつきとめ我前に奉れ』 高姫『其お言葉に間違ひはありますまいな。宜しい。言依別と杢助の両人、腹を合せて隠しよつたに、間違ひない。証拠は……これ……此教主の書置き、立派に手に入れてお目にかけます。其代りにこれを持帰つたが最後御約束通り此高姫が教主ですから、満場の皆様もよつく聞いておいて下されや。日の出神の神力をこれから現はしてお目にかける。其時には玉能姫、蜈蚣姫、黄竜姫、玉治別、友彦、テールス姫、久助、お民、佐田彦、波留彦……其他の連中は残らず馘首するから覚悟なさいませ、とはいふものの、玉の所在を知つてる者があれば、そつと此高姫に云つて来い……でもよい。兎に角以心伝心無声霊話でもよいから……』 玉治別、両手を拡げ、体を前後ろにブカブカさせ乍ら、 玉治別『アツハツハヽ、アツハツハヽヽ』 と壇上で妙な身振をして笑ひ出した。 高姫『オイ田吾さま、そろそろ守護神が現はれかけたぢやないか。其態は何ぢやいな。コレコレ皆さま、御覧の通り、日の出神が表になると、皆の身魂が現はれて恥しい事が出来ますぞえ。今の所は言依別や東助さまが表面主権を握つて居る様だが、実際の所は床の間の置物だ。実地誠の権利は日の出神の生宮にあるのだから、取違をなされますなや。日の出神も中々大抵ぢやない。遥々と高砂島や筑紫の島まで行くのは並や大抵ぢや御座らぬ。魚心あれば水心だ。出世をしたい人は誰に拘はらず、我れ一とお働きなされ。お働き次第で日の出神が御出世をさして上げますぞえ』 波留彦一同を見まはし乍ら、 波留彦『皆さま、今高姫の仰有つた通り、手柄のしたい人はお手を上げて下さい……一、二、三……ヤア唯の一人も手を上げる人がありませぬなア』 玉治別『それで当然だよ。地位も財産も名誉も捨てて、一心に神界の為に尽さうと云ふ誠の人計りだから、そんな人欲に捉はれて、三五教へ入信つた者は一人もありませぬワイ。人欲の雲に包まれてるのは高姫さまに黒姫さま、高山彦位なものだなア』 一同手を拍つて「賛成々々」と呼ぶ。 高姫『口と心とサツパリ裏表の体主霊従計りがよつて来て、すました顔して御座るのが見えすいて可笑しう御座いますワイの、オツホヽヽヽ』 高山彦『高姫さま、私は今日限りお暇を頂きまして、竜宮の一つ島へ帰り、元のブランヂーとなつて活動致します。仮令貴女が目的を達して教主になられても、私はあなたの麾下につくのは真平御免ですよ。……黒姫もこれから充分竜宮の乙姫さまを発揮して、日の出神さまと御一緒に御活動なされませ。左様なら……』 と云ひすて、玉照彦、玉照姫の方に向つて丁寧に辞儀をなし、 高山彦『英子姫、五十子姫、梅子姫、初稚姫、其外御一同様、御機嫌よく御神業に御奉仕遊ばされん事を高山彦祈り上げ奉ります。御一同の方々、此高山彦は今日限り高姫様と関係を解き、皆様の前にて公然黒姫に暇を使はします。どうぞ其お心組で高山彦を可愛がつて下さいませ』 玉治別『それでこそ高山彦さまぢや。感心々々』 一同は「万歳」と手をあげて歓呼する。高山彦は、 高山彦『皆さま、左様ならば之より一つ島へ参ります。高姫殿、黒姫殿、さらば……』 と立出でんとする。黒姫は周章て裾をひき止め、 黒姫『マアマア待つて下さんせいな。最前からのあなたの御言葉、残らず承知いたしました。……とは云ふものの情なや、過ぎし逢う夜の睦言を、身にしみじみと片時も、思ひ忘るるひまもなう、年月重ぬる其内に、うつり易いは殿御の心と秋の空、もしや見捨はなさらぬかと、ホンにあらゆる天地の神さまや、竜宮さまに願かけて、案じ暮した甲斐もなう、今日突然離別とは、余りムゴイ御仕打、これが如何して泣かずに居られませうか、オンオン』 とあたりを構はず、皺くちや顔に涙を夕立の如くたらして泣沈む。 玉治別『悔んで帰らぬ互の縁、中をへだつる玉治川。……サアサア高山彦さま、思ひ切りが大切だ。グヅグヅして居ると、又もやシヤツつかれますよ。あとは此玉治別が、全責任を負うて引受けますから、一切構はず勝手にお越し遊ばせ』 高山彦『何分宜しく御頼み申す』 と立出でんとする。 黒姫『高山さまも聞えませぬ。お前と二人の其仲は、昨日や今日の事ではありますまい。私をふりすてて帰のうとは、余り聞えぬ胴欲ぢや。厭なら嫌で、無理に添はうとは言ひませぬ。生田の川の大水を渡つた時の私の正体[※第19巻第3章で黒姫は蛇体に還元して、水が氾濫した川を渡っているが、生田川ではなく白瀬川と呼ばれている。(どちらも由良川の別名と思われる)]、よもや忘れては居りますまいな』 高山彦『一度還元した以上は再び還元出来ぬ大蛇の身魂、もう大丈夫だ。日高川を蛇体になつて渡つた清姫[※平安時代の安珍・清姫伝説で、道成寺に逃げた安珍を追い駆け、清姫は蛇体に変じて日高川を渡ったことを指す。]の様に太平洋を横切つて、高山彦の色男を尋ねて来なさい。地恩の郷の大釣鐘を千代の住家として、高山彦は安逸に余生を送る考へだ。さうすれば極安珍なものだ。何程お前が地団駄ふんで道成寺かうせうじなどといつて、藻掻いた所でモウ駄目だよ。アハヽヽヽ』 と大きく肩をゆすり乍ら悠々として出でて行く。黒姫は夜叉の如く、あと追つかけんと、婆さまに似合はず捩鉢巻をし、裾を太腿の上あたりまで引あげて、大股にドンドンとかけ出しかけた。玉治別は追ひすがつて黒姫の後よりムンヅと許り帯をひつつかんで力に任せ、グツと引戻す。黒姫は金切声を出して、 黒姫『千危一機の此場合、どこの何方か知らねども、必ずとめて下さるな。妾にとつて一生の一大事、アヽ残念や口惜しや、そこ放しや』 と振向く途端に見合す顔と顔、 黒姫『ヤアお前は意地くね悪い田吾作殿、ここは願ぢや、放しておくれ』 玉治別『意地くね悪い田吾作だから放さないのだよ。雪隠の水つき婆うきぢやと人が笑ひますよ。まあチツと気をおちつけなされ。高山さま計りが男ぢやありますまい。男旱魃もない世の中に、コラ又きつう惚たものだなア』 黒姫は、 黒姫『エー放つといて』 と力限りふり放し、群衆の中を無理に押分け人を押倒し、ふみにじり乍ら、尻まで出して一生懸命高山彦の後を追つかけ走り行く。 (大正一一・七・二四旧六・一松村真澄録) |
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11 (1970) |
霊界物語 | 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 | 15 ヨブの入信 | 第一五章ヨブの入信〔八三七〕 高姫の偽らざる告白に船客の一人は、今迄の憤怒の情は何処へやら消え失せ、今度は全く高姫に対する同情者となつて了つた。丙は高姫に向ひ、 丙(ヨブ)『私はカーリン島(今のフオークランド)のヨブと云ふ者で御座います。去年の此頃、此カーリン丸に乗り、ゼムの港に往来する途中、最前話しました様な、親子主従の溺死を目撃し、夫から何となく憐れを催し、能く探つて見れば、自転倒島の高姫さまから追ひ出されて、ここまで遥々やつて来た憐れな人だと聞いてから、おのれ高姫見つけ次第素首抜かずにおくものかと、親の仇敵ででもあるかの様に、力瘤を入れて憤怒の情に堪へ兼ねてゐましたが、今御本人の高姫さまに出会ひ、聞くと見るとは大変な違ひ、あなたの潔白なる御精神には、此ヨブも感嘆致しました。話と云ふものは両方聞かねば一方計り聞いては分らぬものです。どうぞ高姫さま、不思議な御縁で此船の中でお目にかかりました。これを機に私を貴女の御弟子にして下さいませぬか。私は両親もあり、兄も妹も御座いますが、幸ひ部屋住の身で何処まで行つても、神さまの為なら親兄妹も何も申しませぬ。どうぞ私を何処までもお供をさして下さいませ。又路銀に御困りなら、二年や三年の路銀は丁度ここに携帯致して居りますから、どうぞお供にお願致します』 高姫『それは誠に結構な思召しで御座いますが、まだ貴方には執着心がありますから、到底御辛抱は出来ますまい。又御縁がありましたら、其時に御世話になりませう。併しどうぞ三五の道の信者におなり下さいませ』 ヨブ『私は素より三五教の信者で御座いますよ。別に教会とか、教典とか又は経文とか、形式的の道は踏んで居りませぬが、誠の宗教は決して教会や儀式などから生れるものでは御座りませぬ。どうぞ左様な結構なお道を世界に宣伝し、同じ人間と生れて、一生を暮すならば、世界の人民を助け、喜ばれて此世を過ごし度う御座います。どうぞお気に入りますまいが、貴女のお弟子にして下さいませ』 高姫『一寸御様子を見れば、随分あなたは新しい学問をしてゐるお方のやうだ。余程お悧巧な方とみえますから、到底私のやうな無学文盲な昔人間の云ふことはお気に入りますまいから……』 ヨブ『誠の道は学問や智慧で分るものではありませぬ。私は貴女の言心行一致の誠に感心をしたので御座います。今の世の中は口と心と行ひと全然反対な者ばかり、どうぞ誠の人を見つけて、世界の為に尽し度いと、寝ても醒めても神様に祈願を籠めてゐました。今日も今日とて大悪人と思ひつめてゐた、貴女の言心行一致の執着心のない信仰心の強いのを実地拝見致しまして、何とも愉快でたまりませぬ。貴女の弟子になることが出来ませねば、せめて荷持になりと連れて行つて下さいませ。此宇都の国から巴留の国(現今のブラジル)の海岸は、私は詳しく存じてゐますから、どうぞ道案内旁御供をさして下さる様に御願致します』 高姫『私一量見では参りませぬ。ここに同行致してをります常彦、春彦の御意見を伺ひまして、其上で御返事を致しませう。……なア常彦、春彦、あなたも今お聞きの通り、此方の仰有ること如何思はれますか。どうぞ御意見を腹蔵なく今此処で仰つて下さいませ』 常彦『それは誠に結構だと思ひます。……なア春彦、お前も賛成だらう』 春彦『私もズツト賛成です。ヨブさまがここへ加はつて下されば、丁度神様を一霊とし、吾々が四魂となつて、御用を致しますのに、大変な好都合で御座います』 高姫『あゝ御二人共御同意下さいましたか、それは誠に喜ばしいこつて御座います。……モシモシヨブ様、お聞の通りで御座いますから、どうぞ宜しくお願ひ致します』 ヨブ『ハイ早速の御聞済み、これに越したる悦は御座いませぬ。どうぞ末永く御使ひの程御願致します』 高姫『併し乍らあなた最前路銀を沢山持つてると仰せられましたが、吾々宣伝使は余り沢山の路銀は必要が御座いませぬ。どうぞ夫を難儀な人に、ゼムの港へ御上陸になつたら分けてお上げ下さい。さうでないと誠の御神徳を頂けもせず、本当の御用も勤まりませぬ。身魂の因縁性来で、神様の御用が出来るので御座いますから、宣伝使として決してお金なんか必要が御座いませぬ、野に寝たり、山に臥たり、辻堂に寝たり、種々修業致して、世界の人民に安心立命を与へ、天下泰平の祈願を致すのが宣伝使の職責で御座いますから……夫とも綾の聖地とか、波斯の国斎苑の館の御普請とかにお献げ下さるのなら結構で御座いますが、併し其お金は如何して御手にお入れ遊ばしたのですか。まだお年も若いし、お金の儲かる塩梅も御座いませぬが、大方両親の財産でも分けてお頂きになつたのでせう』 ヨブ『ハイ、御察しの通り、両親から各自に財産の分配を受て居りまする。夫だから決して怪しき金でも、盗んだ物でも御座いませぬから、そんならどうか神様の御普請にお使ひ下さいませぬか』 高姫『あなたが汗脂を絞つて苦労の塊で蓄めたお金なら、神様もお喜びでせうが、親譲りの財産で、自分の手も汚さず、懐にしたお金は苦労がしゆんでゐませぬから、神様にお上げしても御喜びにはなりませぬ。どうぞそれは慈善的に、難儀な人にお与へ下さいませ。世界の人民は皆神様の尊い霊の宿つたお子様で御座いますから、言はば人民同志は兄弟も同様、兄弟を大切にするのは、親神様は大変お喜びで御座いますからなア』 ヨブ『イヤ能く分りました。左様ならば其考へに致します。金銭などは実のところ煩くて堪らないのですが、これが無くては旅も出来ませぬので、せう事なしに重たいものを腹に巻いて歩いて居ります』 船客の一人甲は此話しを聞いて側に寄り来り、 甲『モシモシヨブさま、あなたは愈此方のお弟子になる積りですか』 ヨブ『お察しの通りです。どうぞ国へお帰りになつた時には、私の両親始め兄弟親類、村中の方々に宜しく云つて下さいませ』 甲『ハイ承知致しました。併し乍ら今承はれば、あなたは所持金を一切慈善的に難儀なものに施すと云はれましたなア。同じ人を助けるのならば、カーリン島にも沢山な難儀な人民が居りますから、国を立つたお土産に島人の難渋なものにお与へになつては如何です』 ヨブ『あゝさう願ひませうか』 甲『オイ、ヤコブ、お前も一緒にヨブさまから今お金を受取つたら証人になつて呉れ、若し間違うと困るからなア』 ヨブ『タールさまの正直正道のあなた、決して間違ひはありますまい。最早あなたのお手に渡した以上は、私のお金ではありませぬ、あなたの御自由になさつたらいいのです。別にヤコブさまを、七むづかしい、証人なんかに立てる必要はありますまい。併しヤコブさまが同意して下さらば、お二人に分けて預つて貰ひませう』 ヤコブ『どちらなりと、あなたの御意に従ひます』 ヨブは懐より沢山の小判を取出し、其一部分はまさかの用意と後に残し、九分迄両人に托し、 ヨブ『どうぞ難渋な人に、お前さまから与へて下さい。決してヨブの金だとは言つて下さいますな。人に施す時は、右の手にて施すのを、左の手に知れない様にせよ……との神様の御示しも御座いますから、どうぞ其お積りでお願ひ致します』 両人は感心し乍ら、其金を受取り帰国の後、ヨブの依頼の如く、数多の貧しき人々に、一文も残らず正直に与へて了つた。 高姫、常彦、春彦もヨブの恬淡無欲なるに感じ入り、大に其行為を賞揚した。常彦は立ち上り、歌を謡つてヨブの入信を祝した。 常彦『神が表に現はれて善と悪とを立別ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直し聞直し 過りあれば宣り直す三五教の神の道 高姫司が今迄は正邪の道に踏み迷ひ 我情我欲を立通し下を虐げ上押へ 変性男子の系統と日の出神の生宮を 真向上段に振翳し三五教の人々を 朝な夕なに威喝して鳥なき里の蝙蝠と 成りすましたる愚さよ心の暗はいや深く 黒白も分かぬ黒姫が黄金の玉を紛失し 心痛むる折柄に高姫司が嗅ぎつけて 悪鬼のやうな顔色で小言八百並べ立て 黒姫さまを始めとし鷹依姫や竜国別の 教の司やテー、カーの五人の司を無残にも 綾の聖地を追ひ出し海洋万里の竜宮島 高砂島迄追ひ出し自分も玉を紛失し 再び心の暗雲に包まれ聖地を後にして 南洋諸島や高砂の島に又もや渡り来て 金剛不壊の如意宝珠紫玉や黄金の 珍の宝玉麻邇の玉言依別の教主等が 着服なして海外へ姿を隠し三五の 神の元なる厳御魂変性男子に楯をつき 謀叛を企むに違ひないこりや斯うしては居られぬと 夜叉のやうなる勢で霊界現世の瀬戸の海 馬関海峡アンボイナニユージランドやオセアニヤ 高砂島の奥までも探り探りて鏡池 懸橋御殿に侵入し又もうるさい玉騒ぎ 月照彦の化身等に散々脂を絞られて 命からがら逃げ出しアリナの峰を乗り越えて アルゼンチンの大野原櫟ケ原の真中に ポプラの茂みを宿となし一夜を明かす其中に 木の花姫の化身なる日の出姫の深遠な 神示を受けて改心し執着心を払拭し 生れ赤子になりければ隙を覘つて憑いてゐた 金毛九尾の悪狐奴がゐたたまらずに肉体を 後に残して雲に乗り常世の空に逃げて行く それから後の高姫は日の出神の生宮か 木の花姫の再来かたとへ方なき善良の 忽ち身魂となり変り昨日の鬼は今日の神 実にも尊き神柱心の空につき固め アイルの激しき荒河を神の造りし鰐の橋 易々渡りて玉の湖の畔に漸く辿りつき 高姫司を始めとし常彦、春彦諸共に 椰子樹の森に横たはり一夜を明かし目を醒まし あたりキヨロキヨロ見廻せば鷹依姫や竜国別の 教の司やテー、カーの四人の姿を刻みたる 石を眺めて拝礼し悔悟の涙せきあへず ここに全く改心の開悟の花は満開し 森羅万象悉く至善至楽の光景と 変りたるこそ面白き吾等三人は玉の湖の 錦の魚に教へられ経と緯との経綸を 隈なく悟りやうやうにアルの港に来て見れば 折よく船は出帆の間際なりしを幸ひに 嬉しく乗りて今此処に胸凪ぎ渡る海の上 タールや、ヤコブ、ヨブさまの世間話に花が咲き 聞くともなしに聞き居れば鷹依姫や竜国別の 教の司の一行が大和田中に落ち入りて みまかり玉ひし物語吾等の胸に轟きつ 涙を抑へて聞く中に高姫さまの物語 鷹依姫が一行の奇禍にあひしも其元を 詳しく探れば高姫が我情我慢の結果ぞと 聞いて吾等は胸痛め如何ならむと思ふうち 身魂も清き高姫は打つて変つて正直に おのが前非を告白し捨身の覚悟をなし玉ふ 其雄々しさにヨブさまも日頃の怒りは氷解し 打つて変つた機嫌顔不言実行の行動に 感じ玉ひて高姫が御弟子にならむと請ひ玉ふ あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 高姫さまの今日の胸旭の如く澄みわたり 照り輝くぞ雄々しけれ高姫さまの改心が 若しや遅れてゐたならばカーリン丸の船中で ヨブに素首引抜かれ吾等は悲しき長旅の 何と詮術波の上泣けど叫べど甲斐もなく 悲しき別れせしならむ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 誠一つは身を救ふ誠の道の御教を 只一筋に是れからは脇目もふらず進みなむ 神は吾等を守ります神の御旨に叶ひなば 如何なる事か恐れむや茲に常彦謹みて 高姫さまの御改心入信されたヨブさまの 目出度き今日の生日をば喜び勇み祝ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終り、腰を下した。高姫を始め、ヨブ其他の船中の人々は常彦が現在高姫を前におき、露骨に其経路を語りたる公平無私の態度に感嘆の舌を巻くのであつた。 (大正一一・八・一二旧六・二〇松村真澄録) |
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12 (2003) |
霊界物語 | 30_巳_南米物語2 末子姫と言依別命の旅 | 24 陥穽 | 第二四章陥穽〔八六六〕 アナン、ユーズの領袖連はヘベレケに酔ひ、足も碌に立たず、舌もまはらぬ連中を数多引率し、石門のふちに現はれ、 アナン『其方は昨夜、丸木橋の畔に於て吾々に抵抗至した三五教の奴だらう。サア、良い所へ来やがつた。今貴様と戦争したおかげで凱旋祝の酒宴を催うし、俺達は酔が廻つて気分が好い最中だ。何用があつて来たのか知らぬが、そんなむづかしい顔をしないで、酒でもくらつてゆつくりと談判をせうぢやないか?固苦しいこと許り言つてると命が縮まるワ。たまには命の洗濯や睾玉の皺伸ばしをやらないと、人間の様な気持がせぬワイ。そんな野暮な顔しないで、トツトと中へ這入つて機嫌よく一杯やらぬかい』 キジ『昨夜は脆くも泡を食つて逃げ失せ、到底正面の戦ひにては、われわれを如何ともすることが出来ないと思ひ、毒酒を呑まして俺達をよわらせる猾き考へだらう。そんな策に乗る此方ぢやないぞ。ゴテゴテ吐かさずに、其方等が押込めて居る宣伝使のエスを牢獄から出して、俺たちに渡せ!グヅグヅ吐かすと、岩屋退治を始めようか』 マチ『サア、アナン、ユーズ其他の奴原、早くエスを此処へ連れて来い!』 アナン『ヤイヤイ喧かましう言ふない。そんなことどこかい。今日は貴様に負たおかげで、結構な酒を鱈腹のんで、精神恍惚とし、何にもかも忘れて了つて、極愉快になつてる所だ。天が下に酒さへあれば、別に敵だの味方だのと、せせこましいことは要らない。酒程親密なものはない。マア一杯這入つてやらぬかい。どんなエライ喧嘩でも和睦には酒だい。人と交際するのに小むつかしい牆壁を設けるものぢやない。世界同胞主義を盛に称へられる今日だ。マア、エスはエスでエスとしておいて、奥へトツトと通つて呉れ』 キジ『貴様はどこまでもヅーヅーしい奴だなア。余程俺達二人が恐ろしいと見えるな』 アナン『そりやヅイ分恐ろしいよ。閻魔が亡者の帳面を繰るよな面付をして、やつて来るのだからなア。オイ、キジ公とやら、何と云ふ七六つかしいシヤツ面をして居るのだ。今の内に美顔術でも施しておかぬと、年が老つて皮が固くなり、皺が深くなつてからは駄目だぞ』 キジ『エヽ、要らぬことを云ふな。これから俺が岩窟内へふみ込んで直接にエスの所在を調べてやらう。邪魔いたすと為にならぬぞ。サア来い、マチ公!』 と云ひ乍ら、アナン、ユーズを始め、其他の者共を押分け、突倒し、窟内深く進み入り、遂には教主ブールの居間に侵入し、ブルブル慄ひて居るブールの素首をグツと握り、 キジ『サア、モウ斯うなつては駄目だ。何をブールブール慄うてゐるのだ。早く宣伝使のエスをここへ出さぬか』 マチ『ウラル教の親方、グヅグヅして居ると生首を引抜かれて了うぞ。お前は何時も此娑婆を穢土だと云ひ、霊の国を天国浄土と云つて、憧憬してゐるのだから、今首を引抜かれて霊になり、天国へ行くのは満足だらうが、何程天国でも、首がなくては駄目だ。サア早くエスの所在を白状せぬか』 ブールは慄ひ乍ら、 ブール『ハイ今出させますから、一寸待つて下さい』 マチ『早く出せ、出し次第天国へ褒美として、昇れる様にしてやらう。どうだ首を持つたなり、天国へ死んで行くのは嬉しかろ、アハヽヽヽ。何と妙な教だなア。人には死んでからの世界が結構だと云ひ乍ら、サア自分が死ぬと云ふ段取りになると、ヤツパリ厭だと見えて、ビリビリ慄うて厶るワイ。さうすりやヤツパリ、口と心と裏表のことを言つてゐるんだなア。俺達も今迄はウラル教の熱心な信者であり、二度もここへ参り、お前をこんな腰抜とは知らずに、活神さまだと思つて跪き拝んで居つたかと思へば、馬鹿らしうなつて来た。サア俺達の案内をしてエスの所在を知らせ。隠し立てをすると最早了見はならぬぞ。俺達二人に夜前の様に数百人もやつて来て泡を吹き逃げ散る様な弱虫計り、幾万人連れて居つたつて、何なるか。どれもこれも酒にヘベレケに酔ひ、今のザマは何だ。肝腎のアナンやユーズ迄が碌に舌も廻らず、腰はフラフラになつて、ひよろついてるぢやないか。こんな事で、三五教の吾々に対し、挑戦するとは片腹痛い』 ブール『仕方がありませぬ。吾々の命さへ助けて下さらば、エスを渡しませう』 と先に立つて行く。二人はブールを見失はじと飛耳張目十二分の注意を払つて岩窟内を進んで行く。向うよりアナン、ユーズの両人はヒヨロヒヨロし乍ら巻舌になり、アナンはキジ公に、ユーズはマチ公にワザとにぶつかつた。其途端に、二足三足ヒヨロヒヨロとひよろつき、深き企みの陥穽に脆くも落込んで了つた。 『サア失敗つた!』とキジ、マチの二人は陥穽の中で無念の歯がみをなし、一生懸命に神言を唱へて居る。ブールは陥穽を覗き込み、さも愉快げに、 ブール『アハヽヽヽ、気の毒乍ら、万劫末代、穴の底で木乃伊になる所まで辛抱したがよからう』 アナン、ユーズの両人は二人の落ちた穴を互に覗き込み、 アナン、ユーズ『ワハヽヽヽ、ても心地よいことだなア』 と罵詈嘲笑を逞しくして居る。エスを始めキジ、マチの三人の運命は果して如何なり行くならむか。 (大正一一・八・一六旧六・二四松村真澄録) |
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霊界物語 | 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 | 11 人の裘 | 第一一章人の裘〔九〇二〕 アマゾン河の南岸に展開せる大森林は、猛獣毒蛇の公然として暴威を逞しうするのみなれば、却て之が征服には余り骨を折らなくてもよかつた。只表面的神力を発揮さへすれば獅子、狼其他の猛獣をも悦服させ得たのである。 鷹依姫、竜国別は兎の都の王となり、暫く此処に止つてゐた。然るに屡々、獅子、熊、虎、狼、大蛇、禿鷲、豺其他の獣、群をなして兎の都を包囲攻撃し、大いにそれが防禦に艱みつつありし処に、帽子ケ岳の山頂より危急存亡の場合は、不思議の霊光、猛獣の頭を射照らし、遂に流石の猛獣大蛇も我を折り、鷹依姫、竜国別の許に鷲の使を派遣し帰順を乞ひ、時雨の森の南森林は、全く鷹依姫女王の管掌する所となりぬ。 之に反し北の森林はすべての獣類、奸佞にして妖怪変化をなし、容易に其行動、端倪すべからざるものあり。そこへ動もすれば執着心を盛返し、心動き易き高姫を主として一行四人、鷹依姫を助けむと出で来りたるが、到底北の森林は、一通や二通で通過する事さへ出来ない事を大江山の鬼武彦が推知し、茲に白狐の高倉、月日、旭の眷族を遣はし、先づ第一に高姫の執着心を根底より除き、我を折らしめ、完全無欠なる神の司として、森林の探険を了へしめむと企画されたるが、果して高姫は玉と聞くや、執着心の雲忽ち心天を蔽ひ、斯の如き神の試みに遇ひたるぞ浅ましき。 ○ 高姫は泥田圃の葦の中にアフンとして、夢から醒めたやうな面をさらしてゐる。常彦、ヨブの両人は、鼈に尻をぬかれた様な、ド拍子の抜けた面をさげて、高姫の体を不思議さうに、頭の先から足の先まで、まんじりともせず眺めながら黙然として立つて居る。春彦は何時の間にやら、身体自由になつて居た。 春彦『高姫さま、私の云つた事は如何でした。違ひましたかなア』 高姫『違はぬ事もない、違ふと云つたら、マア違ふやうなものだ。チツトお前さま改心なさらぬと、私迄がこんな目に遇はなくちやなりませぬよ』 春彦『アハヽヽヽ、何とマア徹底的に強いこと、世間へ顔出しがならぬ様になりて来るぞよ、われ程の者はなき様に申して、慢心致して居ると、眉毛をよまれ、尻の毛が一本もない所迄抜かれて了うて、アフンといたし、そこになりてから、何程神を頼みたとて、聞済はないぞよ……と三五教の御教にスツカリ現はしてあるぢや御座いませぬか……スゴスゴと姿隠して逃げていぬぞよと』 高姫『コレコレ春彦、お前そりや誰に云つてるのだえ。そんなこた、チヤンと知つてゐる者計りだ。高姫はそんな事は百も千も承知の上の事だから、モウ何にも云うて下さるな。エヽこんな男の側に居つて、ひやかされて居るよりも、どつかの木の下で一つ沈思黙考と出掛けようか』 と云ひながら、一生懸命に尻ひきまくり、森林の奥深く駆入る。 常彦は高姫の姿を見失はじと、是亦尻ひつからげ、後を慕うて従いて行く。 春彦、ヨブの二人は、二人の姿を見失ひ、 春彦『又何れどつかで会ふ事があるだらう。吾々は鷹依姫一行を早く捜し求めて救ひ出し、自転倒島へ早く帰らねばならぬ』 と春彦は先に立つて高姫が走つて行つた反対の方向へワザとに歩を進めた。半時許り森林の中をかきわけて、西北を指して進み行くと、そこに真黒けの苔の生えた、目鼻口の輪廓も碌に分らぬ様な三尺許りの石地蔵が、耳が欠けたり、手が欠けたり、頭半分わられたりしたまま、淋しげに横一の字に立つてゐる。 ヨブ『春彦さま、一寸御覧、此石地蔵を……耳の欠けたのや、頭の欠けたの、手の欠けたのや、而も三体、能くも不具がこれ丈揃うたものですな。一寸此辺で一服致しませうか』 春彦『サアもう一休みしてもよい時分だ。併し此石地蔵は決して正真ぢやありますまいで。気をつけないと、又高姫さまの二の舞をやらされるか知れませぬワイ。神さまに吾々は始終気を引かれて修業をさせられますからな』 ヨブ『春彦さま、私はモウ三五教が厭になりましたよ。高姫さまの正直な態度に、船中に於て感歎し、本当に好い教だと思うて入信し、一切の欲に離れて財産迄人に呉れてやり、ここ迄発起してワザワザついて来ましたが、どうも高姫さまの執着心の深い事、あの豹変振り、ホトホト愛想がつきて、三五教がサツパリ厭になつて了つたのですよ』 春彦『あなたは神様を信ずるのですか、高姫さまを信じてるのですか……人を信じて居ると、大変な間違ひが起りますよ。肝腎要の大神様の御精神さへ体得すれば、高姫さまが悪であらうが、取違ひをしようが、別に信仰に影響する筈はないぢやありませぬか』 ヨブ『さう聞けばさうですなア。併し高姫さまの行ひに惚込んで入信した私ですから、何だか高姫さまがあんな事を言つたり、したりなさるのを実地目撃しては、坊主憎けら袈裟迄憎いとか云つて、神様迄が信用出来なくなつて来ましたよ』 春彦『そらそんなものです。大抵の人が百人が九十九人迄導いて呉れた人の言行を標準として信仰に入るのですから、盲が杖を取られたやうに淋しみを感ずるのは当然です。どうでせう、是から吾々両人が高姫さまに層一層立派な神柱になつて貰ふやうに努めようぢやありませぬか。神様から吾々に対する試験問題として提供されたのに違ひありませぬよ』 ヨブ『兎も角入信間もなき私ですから、先輩のあなたの御意見に従ひませう。私もあなたには感心しました。高姫さま以上の神通力をお持ちになり、吾々三人が今の今迄神様の試みに会ひ、泡を吹いて苦しむ事を、先へ御存じの春彦さま、高姫さま以上ですワ』 春彦『イエイエ、決して高姫さまの側へも寄れませぬ。併しながら如何したものか、私の体が余程霊感気分になり、あんな事を言つたのです。つまり神様から言はされたのです』 と話して居る。後の石地蔵はソロソロ歩き出し、二人の前に胡坐をかき始めた。ヨブはビツクリして、 ヨブ『アヽ春彦さま、大変ですよ。石地蔵奴、そろそろ動き出して、此処に胡坐をかいて笑つてるぢやありませぬか』 春彦『アハヽヽヽ是ですかいな。コリヤオホカミ様ですよ。獣としては優良品ですよ。一つの奴はアークマ大明神と云ふ奴、一つの奴はシシトラ大明神と云ふ化神さまだから、用心なさいませや』 ヨブ『何と能う化州の現はれる所ですなア』 春彦『元より妖怪の巣窟だから、いろいろの御客さまが現はれて、面白い芸当を見せてくれますワイ……オイ熊公、獅子、虎、狼、なんぢや猪口才な、石地蔵や人間の姿に化けやがつて、四ツ足は四ツ足らしうしたがよからうぞ。勿体ない、人間様の姿に化けると云ふ事があるかい、僣越至極にも程があるワ』 石地蔵『ホツホヽヽ、俺達が人間の姿や仏の姿をするのが、夫程可笑しいのかい。又夫程罪になるのか。よう考へて見よ、今の人間に四足の容器になつて居らぬ奴が一人でもあると思ふか。虎や狼、獅子、熊、狐、狸、鷲、鳶、大蛇、鬼は云ふも更なり、下級な器になると、豆狸や蛙までが人間の皮を被つて、白昼に大都市のまん中を横行濶歩して居る世の中だよ。 これはしも人にやあるとよく見れば あらぬ獣が人の皮着る と云ふ様な今日の世界だ。そんな野暮な分らぬ事を云ふものでないよ。今の人間は神様の真似をしたり、志士仁人、聖人君子、学者、宗教家、教育家などと、洒落てゐやがるが、大抵皆四足のサツクだ。どうだ、チツト合点がいつたか』 春彦『お前がさう云ふとチツト考へねばならぬやうな気分がするワイ。全くの悪口でもないやうだ。併し、お前の目から俺の肉体を見ると、神さまのサツクの様に見えはせぬかな』 石地蔵『見えるとも見えるとも、スツカリ神様だ』 春彦『四足の容器のやうにはないかなア』 石地蔵『四足所かモツトモツト○○だ。神は神ぢやが渋紙の様な面をし、心の中は貧乏神、弱味につけ込む風邪の神、疱瘡の神に痳疹の神、おまけに顔はシガミ面、人情うすき紙の如き破れ神……と云ふ様な神様のサツクだなア』 春彦『そら、余り酷評ぢやないか』 石地蔵『どうでも良いワ。お前の心と協議して考へたが一番だ。お前は高姫を見棄てる精神だらうがな』 春彦『イヤア決して決して見すてる考へぢやない。一日も早く改心をして貰つて、立派な神司になつて欲しいのだから、それでワザとに高姫さまが苦労をする様に、二人こちらへ別れて来たのだ。此春彦が従いてゐると、高姫さまがツイ慢心をして、折角の改心が後戻りをすると約らないからなア』 石地蔵『アツハヽヽヽ、腰抜神の分際として、高姫さまに改心をして貰ひたいなどとは、よう言へたものだ。お前の心の曇りが、みんな高姫さまを包んで了ふんだから、折角改心した高姫が、最前の様な試みに遇うたのだぞよ。今高姫はモールバンドに取囲まれ、大木の幹を目がけて、常彦と共に難を避けてゐるが、上には沢山な猅々猿が居つて、高姫に襲撃して来る。下からはモールバンドが目を怒らして、只一打ちと狙つてゐる最中だ。オイ春彦、ヨブの両人、是から高姫を救ひに行くと云ふ真心はないのか』 春彦『そりやない事はないが、此春彦、ヨブの両人が往つた所で、モールバンドのやうな、強い奴が目を怒らして待ち構へとる以上は、吾々二人が救ひに行つた所で、駄目だ。否駄目のみならず、吾々の命迄、あの尻尾で一つやられようものなら、台なしになつて了ふ。人間の体は神様の大切なる御道具だから、さう易々と使ふ訳には行きますまい。何分にも、お前の云ふ通り、人情うすき紙の様な神や、腰抜神の容器だからなア』 石地蔵『アツハヽヽヽ、口計り立派な事を云つて居つても、まさかの時になつたら尻込みを致す、誠のない代物計りだなア。それでは三五教も駄目だよ』 春彦『喧しう云ふな。春彦の精神が石地蔵のお化けに分つて堪らうかい。俺は高姫さまの様に有言不実行ではないのだ。不言実行だ。どんな事をやるか見て居つて呉れい。モールバンドであらうがエルバンドであらうが、誠と云ふ一つの武器で言向け和し、見ン事二人の生命を助けて見ようぞ。サア、ヨブさま、春彦に従いてお出でなさい』 とあわてて、高姫の走つた方へ行かうとする。石地蔵は、 石地蔵『アツハヽヽヽ、たうとう俺の言に励まされて、直日の霊に省みよつたなア。人に言うて貰うてからの改心は駄目だよ。心の底から発根と改心した誠でないと役には立たぬぞよ。今にアフンと致して腮が外れるやうな事がない様に気をつけたがよいぞよ。石地蔵が気を付けておくぞよ。此方はアキグヒの艮の神、それに、良き獣の使はし女を沢山抱へて居る狼又アークマ大明神と云ふ立派な御方だ。ドレ、是から石地蔵に化けて居つても本当の活動は出来ない。うしろから、お前の腕前を、実地見分と出かけよう。口と心と行ひの揃ふやうな誠を見せて貰はうかい』 春彦『エヽ喧しい、化州、俺の御手際を見てから、何なと吐け。サア、ヨブさま行かう』 と尻ひつからげ、以前の谷川を兎の如くポイポイポイと身軽く打渡り、転けつ輾びつ、 春彦『オーイオイ、高姫さまはどこぢやアどこぢやア、モールバンドのお宿はどこぢや、春彦さまの御見舞だ、俺がこれ程ヨブのに、何故春彦ともヨブさまとも返答をせぬのか。高姫、お前は聾になつたのか。オーイ、オイ』 と声を限りに叫び乍ら、ドンドンドンと地響きさせつつ、草原を無性矢鱈に大木の茂みを指して走り行く。 (大正一一・八・二三旧七・一松村真澄録) |
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霊界物語 | 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 | 04 珍客 | 第四章珍客〔一〇八八〕 鬼熊別の館に午前の五ツ時[※朝8時頃]、妙齢の美人が深編笠を被り、面を包み門前に現はれた。これは読者の耳には新たなる石生能姫たることは間違ひのない事実である。石生能姫は涼しき細き声にて、 石生能姫『もしもし門番さま、一寸此門をあけて下さい。早く早く』 とせき立てる。門番の朝寝坊は漸く起き上り、まだ手水もつかはず、寝ぶた目を擦つてゐた所であつた。 門番(捨公)『エー何だ。やもめの御主人の家へ、なまめかしい女の声で「もしもし門番さま、此門をあけて下さい。早く早く」なんて馬鹿にしてけつからア』 と云ひながら門の節孔から一寸外を覗き、 門番(捨公)『やあ何だ。深編笠を被つてゐるから、どんな御面相か拝見する事は出来ないが、あの姿のいい事、花顔柳腰とは此事、「窈窕嬋娟たる美人門を叩いて恋しの君を訪ふ」と云ふ幕だな。家の主人も余程堅造だと思つたが、こんな代物が訪ねて来るとは油断のならぬものだ。三五教が世が変るとか何とか云つてるが、本当に、こんな事があると世が変るかも知れない。どれどれ開けてやらうか』 と起き上らうとする。一人の門番は寝そばつたまま、 門番(権公)『オイ捨公、無暗に此門をあけちやならないぞ。夜前、遅う家老職の熊彦様が俺を呼んで、此門は寝ずに警戒して居れ。まして此二三日は特に注意しろと云ひ渡した。トツクリ調べてからでないと無暗に開けてはならないぞ。捨公、すてておけ』 捨公『それでも権さま、あんな立派なシヤンが鈴の様な声で頼んで居るのだもの、これが開けずにをれようかい。男なら又剣呑と云ふ案じも要るが、あんな繊弱い女一人位、門を通してやつた処で剣呑な事があるものか。あまり取越苦労をせないでも俺はもう堪らぬ様になつた。開けてやるわ』 権公『待てと云つたら待たぬかい。上官の命令に服従せぬか』 捨公『上燗の命に服従して昨夜も余程酔払つたぢやないか。お前は、あれほどの上燗を「こりや、一寸熱燗だ」なんて、人に燗させやがつて、あつかましい叱言ほざきやがつて、二日酔で肝腎の使命を忘れやがつて頭も上らぬ癖に、何俺の職権を干渉するのだ。俺は俺の特権を以て開門するのだ』 とふりきつて行かうとするのを、権公はグツと引き戻し、 権公『待て待て、俺が一つ調べてやらう』 捨公『こりや着物が破れるぢやないか。お前等の様な荒くれ男に袖を引つ張られても、根つから葉つから勘定が合ひませぬわい。同じ引かれるならあのシヤンに引つ張つて破つて貰ふわい……ヘヽヽヽやア、ぼろいぼろいぼろけつぢや。これだから門番は止められぬと云ふのだよ。あのスタイルでは随分美人だらう。あの風体の高尚、言辞の尽すべき限りに非ずと云ふ代物だ。エヘヽヽヽ』 権公は委細構はず門戸の節孔から外を眺め、 権公『ヤア此奴ア大変だ。ウツカリ開ける事は出来ない。どうも合点の行かぬ風体だ。そしてどこかに見覚えのある風体だ。兎も角、御家老様に伺つて来る迄此処に待つて居てくれ。それまで決して何程外から請求しても開けちやならないぞ』 と言ひすてて奥をさして権公は駆け出した。門の外より、 石生能姫『もしもし門番さまエ、ジレツタイ、早く開けて下さい。鬼熊別様に折入つて急ぎの用があるのだ。サア早う早う、人に見られちや大変だから』 捨公『何、人に見られちや大変だと、愈以て怪しいわい。然し無理はない。家の御主人も奥様の行衛は知れず、たつた一人のお嬢様も永らく何処へお出で遊ばしたか行衛は知れず、こんな立派なお身の上になつても唯一人空閨を守つてゐらつしやるのだから、感心なお方だ……と思うてゐたが、矢張何処かへあんなものが囲うてあつたものと見えるわい。油断のならぬ御主人だ。磁石が鉄をひきつける様に何と云つても男と女とは遠いやうで近いものだな。エヘヽヽヽ、もしお女中さま、あなたの腕前は大したものですな。私も木石漢ではありませぬよ。チツとは恋を語る資格のある男、そんな粋の利かぬ、私ぢや厶いませぬわい。当家の家老の熊彦といふ不粋の男や権助の門番奴が無茶苦茶に糊付物の様に固ばりやがつて「此門は許しがなけりや勝手にあけちやならないぞ」なんて吐しやがるのですよ。御主人だつてお前さまのやうなシヤントコセのシヤンがおいでになつても、心の中ではお喜びでも表向は故意と七むつかしい顔して「当家の主人は一人暮しだから女に用はない、一時も早く追ひ払へよ」なんて口と心と正反対の事を仰有る事はキマつた生粋だ。そこを御主人様とお前のために粋を利かしてやるのが、家の隅にも捨てておけぬ此捨さまだ。捨てる神さまもあれば拾ふ神もあると云ふ世の中に、拾ふばかりで一寸も捨てぬと云ふ捨さまだ。すつての事で此捨さまが居らなかつたならば権公の奴が、ゴーンと肱鉄砲をかまし、膠も杓子もなく榎で鼻を擦つた様な惨い挨拶でおつ放り出しでもされようものなら、それこそステテコテンのテンツクテンだ。さうなれば折角お前さまも「山野を越えて遥々と訪ねて来て捨てられようとは知らなんだ。エーもう捨鉢だ、捨てて甲斐ある吾命だ」と自暴自棄を起し、スツテに自害と見えけるが「アイヤ暫く待たれよ。死は一旦にして易し、死にたくば何時でも死ねる、死んで花実が咲くものか」と鼻の下の長い男が飛んで出る幕だが、此捨さまは捨身になつて、職を賭してもお前さまを通過さしてあげませう。あまり捨てた男ではありませぬぞや』 と捨台詞を振りまきながらガラガラと門を開いた。石生能姫は会釈もせず、ツツと門を跨げるや否や、捨公は小袖をグツと引掴み、 捨公『まゝゝゝ待つて下さい。お前さま、何処の女郎衆か知らぬが、門番にこれだけ厄介をかけて心配をさせながら目礼もせず、御苦労だとも云はず這入らうとはあまり無躾ぢや厶いませぬか。卑しい門番だと思つて軽蔑なさるのか知らぬが、神様のお目から見れば人間として貴賤の別は御座りませぬぞや』 石生能姫『ヤアこれは門番さま、済まなかつた。まア許して頂戴、さア早く鬼熊別のお側へ案内しや』 捨公『案内を申上げたいは山々なれど、私には此門を守るだけの役で、大奥まで御案内する権限は厶りませぬ』 石生能姫『何とまア、人種平等の唱へられる世の中へ頑迷固陋な御家風だこと……』 捨公『これこれ女中さま、何仰有います。御無礼千万にも門口を這入るや否や御家風までゴテゴテ云ふ事が厶いますか。サアサアトツトと自由に奥へ行かつしやい。熊彦の家老が屹度居りませうから、それと交渉をした上、御主人様にトツクリと積る海山の話を遊ばし、久し振りに泣き満足をなさいませや』 石生能姫『これ門番の捨とやら、お前は何と云ふ嫌らしい事をいふのだい。チと心得なされや』 捨公『チヨツコと仰有いますわい。ヘン』 と鼻の先で笑つてゐる。そこへ羽織袴厳めしくバサバサと袴の音をさせながら権助を伴ひやつて来たのは熊彦であつた。熊彦は一目見るより腰をかがめ叮嚀に会釈し、 熊彦『あゝ貴女はイ……』 と云ひかけて、 熊彦『何処の御女中か知りませぬが、何卒奥へ御通り下さいませ。さア私が御案内を致しませう。オイ権助、捨造、門番を確かり致せよ。さア御案内致しませう。失礼ながらお先へ参ります。私の後について御出で下さい。主人もさぞお喜びで厶りませう』 といそいそとして石生能姫を伴ひ、館の奥深く姿をかくした。 捨公『オイ権、権さま、一体ありや何だい。家のレコぢやあるまいかな』 と親指と子指とを出して見せる。 権公『ウン』 捨公『(熊彦の声色)これはこれはハイ、貴女はイ……いやお女中さま、さぞさぞ御主人様がお喜びで厶りませう。サア私が御案内致しますから失礼ながらお先へ……なんて吐しやがつて、お竈の不動を焼木杭でたたかれた様な顔をしてゐる熊彦さまの顔の紐がサツパリ解けて了ひ、奥へ這入りやがつた時の態は見られたものぢやないな。男ばつかりの此館へ偶に女が出て来ると騒がしいものだ。万緑叢中紅一点だから、此お館もチツとは春めき渡るだろう。今迄はあまり陰気なものだから、此お屋敷の梅まで何となく陰気に咲き、鶯までがド拍子のぬけた鳴き声をしやがると思つてゐたが、これからは天国浄土が出現するだらうよ。アーア俺も俄に女房が欲しくなつて来たわい』 権公『ウフヽヽヽ馬鹿だなア』 捨公『馬鹿は貴様の事だよ。あんなナイスを見てニツコリともせぬ奴が何処にあるかい。無情無血漢奴、恋の味を知らぬ人情を解せぬ奴だ。あゝ困つた奴と同じ門番をさせられたものだな。朝から晩まで酒ばつかり喰つて、お前は門を開くことと酒を喰ふことより芸がないなア』 とまだ昨夜の酒の残りが祟つて無性矢鱈に吐いてゐる。権助は物も言はず拳骨を固めて捨の頭を三つ四つカツンカツンと殴りつけ、悠々として門の傍の番所に帰り行く。 館の大奥には宣伝歌が聞えて来た。 (鬼熊別)『バラモン教の御教を開き給ひし常世国 大国別の神様は普く世人を救はむと 心を尽し身を竭し遠き海原乗り越えて 筑紫の島やイホの国埃及都に現れまして 教を開き給ひしが三五教の言霊に 打ちはじかれて顕恩の郷に数多の郎党を 率ゐて世をば忍びまし教の基礎を開く折 フトした事より幽界の神とはならせ給ひけり 教司を初めとし信徒等も悲しみて 上を下へと騒ぎしが鬼雲彦の神司 漸う之を鎮めまし自ら代つて後をつぎ 大棟梁と自称して大国彦の神霊に 仕へ居たりし折もあれ神素盞嗚大神の 生ませる八人乙女等太玉神の司等が 又もや現はれ来りまし生言霊を発射して きため給へば大棟梁鬼雲彦を初めとし 一同此処を立ち逃れ天ケ下をば遠近と 彷徨ひ巡りし悲しさよ鬼雲彦と吾々は 心を協せ力をば一つになしてバラモンの 再起を図りし甲斐ありて空照り渡る月の国 花咲くハルナの都にて再び開くバラモン教 七千余国の大半は残らず教に帰順して 稍安心と思ふ折油断を見すまし曲津神 大黒主の体に入り神の司にあるまじき 悪逆無道の振舞を日に夜に勧め給ひつつ 道を汚すぞうたてけれ側に仕ふる悪神の 輩の者に遮られ二人の仲に溝渠をば 穿たれたるぞ嘆てけれあゝ惟神々々 バラモン教の厳霊幸はひまして逸早く 大黒主の身魂をば払ひ清めて真心に かへらせ給へ惟神神の御前に祈ぎまつる』 と一絃琴を弾きながら声も静かに歌ひゐるのは、此家の主人鬼熊別であつた。かかる処へ熊彦の案内につれて恥かしげに静々と入り来る女は石生能姫である事は云ふまでもない。 熊彦は襖を押開け両手を支へ、 熊彦『旦那様、遥々と石生能姫様が只一人御訪問になりました。何事か起つたのでは御座いますまいか。何卒詳しくお話をお聞き下さいませ』 と云ひながら吾居間に下る。鬼熊別は一目見るより驚いて、 鬼熊別『よう、貴方は石生能姫様、どうして又お一人、拙宅をお訪ね下さいましたか。何は兎もあれ、そこは端近、先づ先づこれへお直りを願ひます』 石生能姫『ハイ、突然お邪魔を致しまして申訳が御座りませぬ。左様なれば御免蒙りまして通らして頂きませう』 (大正一一・一一・一旧九・一三北村隆光録) |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 18 冥歌 | 第一八章冥歌〔一二七二〕 浮木の森の陣営には主客打ち解けて、幽冥旅行無事終了の祝宴が開かれた。而して又敵味方和睦の宴を兼ねられたのは云ふまでもない。ランチ、片彦両将軍を初め、治国別は正座に直り、アーク、タール、エキス、蠑螈別、お民、お寅、竜公、万公、松彦、アク、タク、テク、ガリヤ、ケースの面々、可なり広き居間に円陣を作り、山海の珍味を集めて、土手を切らして歌ひ舞うた。勿論それ以前に、三五教の大神を祭り、感謝祈願の祝詞を奏上し了つた事は断つておく。 治国別は声調ゆるやかに歌ふ。 治国別『高天原は何処なる清き尊き神の国 栄えの花の永久に咲きみち匂ふ神の国』 竜公『高天原は何処なる八重棚雲をかき分けて 清き尊き神人の常磐堅磐にのぼりゆき 無限の歓喜に打たれつつ喜びゑらぎ遊ぶ国』 治国『高天原の神国は愛の善徳充ち充ちて 住む天人は悉く神の恵に包まれつ 日々の業務を謹みて神の御国の御為に 心を一つに固めつつ円満具足の団体を ますます清く麗しく開き進むる天人の 喜び勇み住まふ国』 竜公『高天原の霊国は月の御神の永久に 鎮まりいます瑞の国山川清く野は茂り 春と夏とのうららかな景色に充てる珍の国 百の木の実はよく実り名さへ分らぬ百鳥は 常世の春を祝ひつつ喜びゑらぎ遊ぶ国 顔面清く照りわたる姿優しくニコニコと 憂ひを知らぬ神の国人と生れし吾々は 此世に生きて大神の道の御為世の為に 心を研き身を尽し霊肉分離の其後は 天の八衢関所をば越えずに直に天国へ 上る御霊に進むべく今より心を研くべし 神は吾等と倶にあり人は神の子神の宮 いかでか神に帰らざらむあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 ランチ『根底の国は醜の国八十の曲津や醜魂の ウヨウヨ群がり住まふ国塵や芥に汚されて 鼻つくばかり臭い国常世の暗の前後ろ 足元さへも見えぬ国暗き隧道下りゆき 頭を岩に打ちつけて血潮は流れ滝の如 苦み痛む醜の国危き橋の細長く 深谷川に架けられて身を切る計りの寒風が いや永久に吹きまくる冷たき寒き醜の国 ガリガリ亡者の此処彼処秋の夕の虫の如 悲しみ歎き聞え来る胸の塞がる暗の国 あゝ惟神々々吾等は神の御光に 照らされここに救はれて再び此世の人となり 月日の光を委曲に拝する身とはなりにけり 思へば思へば天地の神の恵は何時の世か かよわき人の身を以て酬いまつらむ時やある 心を尽し身を尽し如何なる悩みに遇ふとても 神の尊き御恵に比べまつれば吾々が 尽す誠は九牛の一毛だにも及ぶまじ 許させ給へ惟神神の御前にわびまつる』 片彦『中有界の八衢に知らず知らずに迷ひ込み 此世に生れて今日までも体主霊従の悪業を 尽せし事を一々に伊吹戸主の門番に スツパぬかれた其時は身も世もあらぬ思ひして 穴があるなら逸早く消えたきやうな心持 何とも云へぬ苦しさに根底の国に墜されて 汚穢の臭気に充されし暗き岩穴腰屈め 足を傷つけ頭打ち漸く橋の袂まで 来りて見れば沢山の冥官達が立並び コハイ顔して睨みつけ叱り飛ばした恐ろしさ それさへあるに四方より骨と皮とに窶れたる ガリガリ亡者が蜂の巣をつついた如く現はれて 吾等の体に喰ひつき手足にまとひし厭らしさ 吹来る風は腥く自然に鼻のゆがむよな 臭気は四辺を吹きまくる如何なる深き罪あるも かやうな所におとすとは大国彦の神様も 聞えませぬと心中に恨みし事も幾度か 呼べど叫べど祈れども何の証も荒涙 苦み悶ゆる折もあれ幽かに聞ゆる宣伝歌 聞くより我利々々亡者たち煙の如く消え失せぬ 鬼のやうなる面さげた冥官共もチクチクと 姿を隠し漸くに四辺は少しく明くなり あゝ嬉しやと思ふ折許しの雲に打乗りて 悠々下る女神あり女神は二人の侍女を連れ 吾等が前に現はれていとも優しき御声に 汝はランチ将軍かお前は片彦将軍か 高天原の最奥の日の若宮に現れませる 皇大神の御言もて汝が苦念を助けむと 下り来れる紫の姫の命のエンゼルと 宣らせ給ひし嬉しさよ地獄に仏といふ事は かかる事をや云ふならむ甦りたる心地して ハツと頭をさぐる折紫姫は淑に 神の御言を宣り給ひ金勝要大神の 御心伺ひ奉らむと侍女を伴ひ雲に乗り 北方の空をいういうと渡りて姿を隠しまし 間もなく来る宣伝使治国別や竜公や 松彦司其他の真人たちに救はれて 再び此世の明りをば拝みし時の嬉しさよ 此大恩に酬うべく吾は之より真心を 神の御為道の為世人の為に捧げつつ 常世の暗の現界を一日も早く大神の 珍の光に照らすべく治国別に従ひて 月の御国はまだ愚か百八十国の果までも お道の為に雨露を冒して仕へ奉るべし あゝ惟神々々神の御前に真心を 捧げて祈り奉る』 松彦『バラモン軍の秘書官と仕へまつりて河鹿山 数多の軍勢と諸共に進む折しも三五の 神徳無限の宣伝使治国別の一行に 珍の言霊打出され総隊崩れ逃出す 其みじめさに憤慨し吾は竜公と諸共に 懐谷に身を隠し善後の策を講じつつ 逃げ遅れたる馬ともにトボトボ坂を降りつつ 祠の森に来てみれば三五教の宣伝使 二人の家来が頑張つて見張りしてゐる恐ろしさ 漸く此場のゴミにごし不思議の縁で兄弟の 目出度く対面相済ませ治国別に従ひて 野中の森に来て見れば忽ちドロンと消え給ふ 後に残りし吾々は数人連れにて小北山 ユラリの彦の神殿に進みて蠑螈別さまや お寅婆さまに出会し妻と娘に巡り会ひ 漸くここに来て見れば前後左右に人の声 小山の如く集まりてウヨウヨウヨと騒ぎゐる われを忘れて陣中に一行と共に走り入り 河辺に立ちて眺むればここに四人の川はまり コリヤ大変と進みより数多の軍兵にかつがせて 物見櫓の下の間に四人を運び惟神 神の授けし言霊を声淑かに宣りつれば 神の恵は目のあたり四人一度に甦り 目を開きたる嬉しさよ今まで捜し索めたる 治国別の師の君も竜公も此処に現はれて 互に手に手を握り合ひ無事を祝せし嬉しさは 天の岩戸の開きたる百神たちのゑらぎ声 それにも勝る思ひなりあゝ惟神々々 神の光の現はれてバラモン教の宣伝使 軍の思ひも今は早矛逆しまに立直し 剣を扇子に持ちかへて神の御前を伏拝む 目出度き仕儀となりにけりこれぞ全く素盞嗚の 神の尊の御威徳が表はれ給ひし証なり 謹み敬ひ皇神の御稜威を感謝し奉る あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ』 お寅『小北の山に現はれし其名も高きウラナイの 教主の君の蠑螈別其お身分に似もやらず 信者の娘を唆し臍繰金をまき上げて おまけにお寅の頭まで叩いて逃げる強の者 憎き奴と思ひつめ一度は腹が立つたれど 金剛杖に叩かれた其為私は神徳を 腕もたわわに頂いてスツカリ迷ひの夢も醒め 三五教の御教を此上なく信じ奉り 松彦司に従ひて浮木の森に来てみれば 右往左往と人の影只事ならじと近寄りて よくよく見ればお民さま大地に蛙を投げたよに 早縡切れてゐなさつたコリヤ大変と万公や アク、テク、タクの一同は人工呼吸を施して 天津祝詞を奏上し祈り奉ればアラ不思議 神徳忽ち現はれて息ふき返した嬉しさよ 之も全く神様の吾等を導き給ふべく 計り給ひし御業ぞと尊み敬ひ今ここに 無事の対面遂げながら以前の恨を打忘れ 一切万事神様に御任せ申した気楽さよ いざ之よりは吾々も心の腹帯締め直し 魔神の猛ぶ荒野原よぎりて神の御為に 力限りに仕ふべしあゝ惟神々々 天地を造り給ひたる皇大神よ大神よ お寅が微衷を愍みて此大業を詳細に 遂げさせ給へと願ぎまつる』 万公『ヤア皆さま、幽冥組も元気恢復し、言霊車の運転も随分盛なものでした。之から一つお民如来さまに、何か面白い歌を歌つて頂きませうか、ナアお民さま、あなたも随分○○の道にかけては、剛の者だからなア』 お民『ホヽヽヽヽ、私は余り慢心して高い所まで上り、神罰を被つて、階段から顛落し、サツパリ幽冥旅行を致しました。其時後頭部をシタタカ打つたと見え、何だか頭が変になつて、到底歌なんか出ませぬ、何卒御免下さいませ』 万公『コレコレお民さま、吾々はお前さまの命の救ひ主だ。チツとは恩にきせるぢやないけれど、歌位歌つてくれたつて、余り罰が当りもせまいぞや。蠑螈別さまの前だつて、さうテラすものぢやないワ。歌つたり歌つたり』 お民『エヽさういはれちや仕方がありませぬ、何れ死ぞこなひですから、生命のあるやうな歌は歌へませぬ、何でも宜しいか』 万公『何でも宜しい、お前さまの声さへ聞けばそれで満足だ。チツとは幽霊気分が交つても差支ありませぬ。現界の歌は随分聞いてるが、幽界の歌はまだ聞いた事がないから、チト位、いやらしてもいいから、幽界で覚えて来た事を歌つて下さいな』 お民『ハイ、お恥かしう厶いますが、それなら歌はして貰ひませう』 と云ひながら、両手をニユツと突き出し、掌をベロリとさげ、舌を出したり入れたりしながら、一口言つては踊る其可笑しさ、一同は思はず吹出し、俄に興を添へた。 お民『あゝ恨めしや恨めしや私は蠑螈別さまの 悪性男に騙されて浮木の森まではるばると 心ならずもついて来たワイなヒユーヒユードロドロヒユー、ドロドロ 恨めしや…………恨めしわいな足の裏に おまんまがひつついてウラ飯いこんな所につくよりも なぜに表の鼻の先天晴ついては下されぬ そしたら私と蠑螈別さまは誰憚らずママになる と思うてゐたのは今までだ冥土の旅をやつてから 白鬼さまに頼まれて審判の役となつたわいな ホツホツホツホヽヽヽあた厭らしい声がする 此奴ア不思議とよく見れば蠑螈別の副守さま 化物みたよな女をば沢山背に負ひながら エチエチエチと走りゆく後姿を眺むれば 青赤白や萠黄なすさも厭らしい鬼の顔 アーアこんな男とは私は夢にも知らなんだ お寅婆さまはさぞやさぞこれ程沢山曲鬼の 憑いた男をさらはれてホンに仕合せなお方だと 天の八衢の関所から打驚いてみてゐましたよ ヒユーヒユードロドロヒユー、ドロドロホヽヽホツホ、ホーホーホー ハテ恨めしやアな、恨めしや私はこれから蠑螈別の 後には従いて行きませぬ石塔の横から細い手を ニユツと前の方へ突き出して万公さまの首筋を 冷たい手々にてグツと掴みキヤツといはさにやおきませぬ ホヽヽヽホツホ恨めしやヒヽヽヽヒツヒ気味がよいや こんな女子に睨まれたが最後の錠観念なされや万公さま メツタに助かりつこはない程にイヒヽヽヒツヒ、イヒヽヽヽ』 万公『コリヤお民……ドン、やめてくれ、何を云ふのだ、アタ厭らしい』 お民『それだつて、冥土土産に唄へと云つたぢやありませぬか、私が修業して来たのは、こんなものですよ、ホツホヽヽヽ』 万公『エヽ気味の悪い、首筋がゾクゾクし出した。コレお寅さま、一杯ついでくれ、そしてお民さまを暫く、あつちの方へ送つて行つて下さい……本当に飲んだ酒がしゆんで了つたやうだ』 松彦『万公さまお民幽霊におどされて ブルブル震ひ汗をかくなり』 万公『われとてもお民位は恐れねど あの言霊が気にくはぬなり』 お民『万公さま恐ろしいないとは云はれまい 其顔色はホヽヽヽヽヽヽ』 万公『またしても厭らし声を出しよるな 早く此場を立つてゆけかし』 お民『立ちたくは山々なれど肝腎の 蠑螈別がおもひ切られず』 万公『何吐す貴様は口と心とが 裏表故うらめしといふ……のだらう』 お民『本当に恨めし人は蠑螈別 表にめすは万公さまなり』 万公『気にくはぬお民の奴よ一時も 頼みぢや程に退いてくれかし』 お民『幽霊に一旦なつた私ぢやもの お前の首を抜かにや離れぬ』 お寅『万公さま、コレお民さま、お互に 心得なされ、ここは陣中』 蠑螈『お民といひお寅といつて騒ぐとも 高姫司にまさる者なし』 お寅『さうだらう高姫さまは若い故 お民さままで厭になるのだ。 なアお民、お前の年はまだ二十 五十婆さまを若う見るとは。 それ故に夢の蠑螈別さまと 人が言ふのも無理であるまい』 ランチ『ヤア皆さま、面白く祝はして頂きました。最早夜も更けましたなれば、御寝み下さいませ。又明日ゆつくりと尊き御話を伺はして頂きませう』 此挨拶に一同は上機嫌で各居間に帰り、寝に就いた。 (大正一二・一・一四旧一一・一一・二八松村真澄録) |
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霊界物語 | 56_未_テルモン山の神館1 | 05 鷹魅 | 第五章鷹魅〔一四三五〕 此世を造りし元津祖弥勒の神は高姫が 肉のお宮に憑りたる日の出神とこじつけて 金剛不壊の如意宝珠其外百の神宝に 執着強く四方の国海洋万里の波渡り 騒ぎまはりし其結果仁慈無限の瑞御霊 神素盞嗚の大神の水も洩らさぬ執成に 心の底から悔悟して誠の道に生き復り 暫らく聖地に現はれて教を伝へ居たりしが 淡路の里の東助が昔馴染と聞きしより 再び狂ふ心猿意馬の止め度もなしに躍動し 生田の森を後にして長の海山打渡り 心いそいそ斎苑館ウブスナ山の聖場に 詣で来りて東助に過ぎし昔の物語 シツポリなして旧交を回復せむと恋愛の 雲に包まれ村肝の心は暗となりにけり 信心堅固の東助は恋に狂へる高姫に 只一瞥もくれずしていと素気なくも刎ねつける 心曇りし高姫も愈自暴自棄となり 又もやもとの悪身魂再発なして河鹿山 嵐に面を曝しつつ恥も名誉も知らばこそ 玉国別の築きたる祠の森に立寄りて ここに教主となりすまし館の主人珍彦を 眼下に見下し居たる折大雲山に蟠まる 八岐大蛇の片腕と兇党界にて名も高き 妖幻坊に操られ斎苑の館の時置師 杢助総務と誤解してうまく抱き込み一旗を 挙げて聖地に立籠もる東野別の向ふ張り 恋の意趣を晴らさむと企み居たりし折もあれ 初稚姫が現はれて千変万化の活動に 居堪りかねて妖幻坊高姫諸共森林を 潜つてスタスタ逃げ出し小北の山の神殿に 夫婦気取で進み入り神の光に照らされて 曲輪の玉を落しつつ高姫諸共逃げ出す 妖幻坊の杢助は高姫司と諸共に バラモン軍の屯せし浮木の森に現はれて あらゆる魔法を行ひつ世人を悩め居たる折 三五教に名も高き天女に等しき神司 初稚姫やスマートの声に驚き妖幻坊 黒雲起し高姫を小脇に抱へ空中を 逃げ行く折しもデカタンの大高原の中央に 高姫司を遺失して雲を霞と逃げて行く 高姫空より墜落し人事不省に陥りて 霊肉脱離の関門を漸く越えて遥々と 八衢関所に来て見ればさも勇ましき赤白の 守衛に行途を遮られ三歳の間中有の 世界に有りて精霊を研き清むる身となりぬ さは去り乍ら高姫の身魂は地獄に籍を置き 高天原の霊光を畏れ戦き忌み嫌ひ 一歳経ちし今日の日も中有界をブラブラと 彷徨ひ巡り迷ひ来る百の精霊に相対し 現実界にありし如脱線だらけの宣伝を つづけ居たるぞ愚なれエリシナ谷に隠れたる ケリナの姫やバラモンの軍人なるヘル、シャルや 六造の四人が道の辺の草に隠るる姿をば 目敏く眺め立止まり皺枯声を張上げて 日出神の義理天上弥勒の神の御先達 高姫司の生宮が汝等四人に気をつける 早く草原飛び出して吾生宮の前に出よ 如何に如何にと呼び立てる其スタイルぞ可笑しけれ ああ惟神々々迷ひ切つたる霊魂は 神の力も如何とも救はむ手段もなかりけり。 高姫は道の辺の長い草の中に隠れてゐる四人の男女に向ひ声を尖らし乍ら、言葉の尻口をピンとあげて口角泡を飛ばし、アトラスの様な顔を前にニユツと出し二つ三ツつ腮をしやくり肩を揺り、招き猫の様な手つきをして二つ三ツつ空を掻き乍ら、 高姫『これこれ、何処の方か知らぬが此原野は此高姫の管轄区域だ。何故こんな処まで黙つて来たのだい。まア、ちつと此方へ来なさい。結構な話をしてやらう。エーエー、辛気臭い。早う出なさらんかいな。蟋蟀か螽斯の様に草の中に何時迄すつこんで居つても埒は明きませぬぞや』 四人は怖々草を分けガサガサと高姫の二三間手前まで現はれて来た。さうして不思議相に稍俯向気味になつて高姫の顔をチラチラと偸む様に見てゐた。 高姫『これ皆さま、お前がここへ来る途中に一つの家があつただらう。何故そこを黙つて通つて来たのだい。此高姫はもとは三五教の宣伝使、今はウラナイ教のエンゼルだぞえ。天の弥勒様の根本の根本の大柱の大弥勒様で、義理天上日出神の生宮で厶るぞや。あんまり現界の人間が身魂が曇つてゐるので、どうぞ助けて天国へやつてやり度いと思つて化身の法を使ひ、高姫の肉宮を使つて此大野ケ原を往来する人民を片端から取ツ捉まへて、誠の教を聞かしてゐるのだ。さア早く出て来なさい』 六造『お前さまは音に名高い高姫さまで厶いましたか。お名は承はつてゐましたが、お目にかかるのは初めてです』 高姫『うん、さうかな。妾の名は何と云つても宇宙根本の大神様の生宮だから津々浦々迄響いてゐる筈だ。三人のお方、お前等も妾の名を聞いて居つただらうな』 ヘル『ハイ、根つから聞いた事は厶いませぬ。私は初稚姫さまだとか、清照姫とか云ふ立派な方の名は聞いて居ますが、高姫さまと云ふ名は今日が初めてです』 高姫『さうかいな。何とまア遅れ耳だこと。天地の間に義理天上日出神の生宮の名を知らぬものは一人も無い筈だが、矢張身魂の因縁がないと、雷の様な声で呼ばつても耳に這入らぬと見えるわい。さア此処で会ふたを幸ひ、高姫の姿を拝見しお声をよく聞いておきなさい。決して高姫が云ふのぢやありませぬぞや。底津磐根の根本の大弥勒様が仰有るのだから仇に聞いては罰が当りますぞえ』 ヘル『何だか知りませぬが、貴方のお声を聞くと頭が痛くなりますわ。お顔を見ても気分がよく厶いませぬわい』 高姫『そら、さうだらう。霊国天国を兼ねた天人の身魂だから、身魂の曇つた悪の守護神は高姫の光明に照らされて、目が眩み善言美詞の言霊にあてられて、耳が鳴り頭が痛むのだよ。チツと確りしなさらんか。今ここで取違ひしたら、万劫末代浮ばれませぬぞや』 ヘル『ヘイヘイ、畏まりました。又御縁が厶いましたらお世話になりやせう』 高姫『ホホホホホ訳の分らぬ癲狂痴呆だこと。あああ大慈大悲の根本の大弥勒さまも、こんな没分暁漢を済度なさらなならぬのか、ホンにおいとしいわいのう、オーンオーンオーン、然し乍ら此男はヘルとか聞いたが、余程馬鹿な奴と見える。おい、そこに居る、も一人の男、お前は高姫の名位は聞いてゐるだらうな』 シャル『ハイ、聞いて居りますが、私の聞いてる高姫は貴女では厶いますまい。世界に同じ名は沢山厶いますからな』 高姫『お前の聞いてる高姫と云ふのは如何な性質の人だ。一寸云つて御覧なさい』 シャル『ヘイ、吾々の親方にして宜い様なお方ですわ。何でも三五教とやらに這入つて金剛不壊の如意宝珠に現を抜かし大勢の者に嫌はれ、屁の出の神とか糞出の神とか云つて自ら触れ歩き、終ひの果には婆の癖に恋に落ち、妖幻坊と云ふ古狸につままれて何処かへ攫はれて行つたと云ふ事です。その高姫なら聞いてゐますが随分私の村では悪い婆だと云ふ評判が立つて居りますよ』 高姫『さうかな。矢張妾の名に似た婆があると見えるワイ。余り妾の名が高いものだから悪神が現はれて高姫の名を騙り、三五教へ這入つて、又もや日出神の名を騙り、色々の事を致したのだらう。どうも油断のならぬ時節だ。然し妾は同じ高姫でも、そんな者とは違ひますぞや。月と鼈、雪と墨、同じものと見られましては……ヘン……此高姫も根つから引合ひませんわい。オホホホホホ』 シャル『私は今は斯うして泥坊商売に変りましたが、今迄はバラモン教の軍人で鬼春別の部下に仕へたものです。その時に三五教の幹部連の人相書や絵姿が廻つて来ましたが、妖幻坊に騙されたと云ふ高姫に、お前さまそつくりですよ。よもや其高姫では厶いますまいな。彼奴の云ふ事なら口と心が裏表だから決して聞いてはならないと、バラモン教は云ふに及ばず三五教のピユリタンでさへも云つて居ますよ』 高姫『ホホホホホ、盗人の分際として高姫の真偽が判つて堪らうか。あの高姫と云ふ奴は実の所はバラモン教に居つた蜈蚣姫と云ふのだよ。それが妾の名を騙つて、あんな事をやつたのだ。三五教の奴は馬鹿だから、あまり御光が強いので見分けがつかず贋者を掴んで居つたのだ。何は兎もあれ、この高姫の隠れ家迄いらつしやい。決して利益にならぬ事は云はぬ。皆天国へ助けてやるのだからな』 シャル『オイ、ヘルにケリナに、六公、如何しようかな。一つ此婆アの話を聞いてやらうか』 六造『うん』 高姫『エー、そりや何を云ふのだ。此婆の話を聞いてやらうも、糞もあつたものかい。底津磐根の弥勒様の生宮だ。何と云つても助けにや措かぬ、さア来なされ来なされ。これ、其処な若いお女中、お前は一寸見た所で仲々気が利いて居る。事と品とによつたら妾の脇立に使つてやらうまいものでもない。何せよ、曇りきつた霊が直に天国に行くと云ふのは余り気が良すぎる。中途で墜落る様な事をしてはならず、苦労の花が咲く世の中だから……天国紫微宮から人間の姿となつて降つて来たのだ。そして苦労の手本を見せて皆に改心させる役だぞえ。お前も出て来て苦労をしなさい』 ケリナ『ハイ、有難う厶います。実の所は八衢の関所迄参りました所、まだ生命が現世に残つて居るから帰れ、と仰有つたから帰つて来たのです。最早此処は現界で厶いますか』 高姫『きまつた事だよ。此処は現界も現界、大現界だ。現幽神三界の救ひ主だから先づ現界の人間から助けてやるのだよ』 ヘル『あああ、何が何だか訳が分らなくなつて来た。然しさう聞くと現界の様にもあるし、も一つ心の底に疑念も残つて居る。こんな道端に立つて居た所が仕方が無い。先づお婆アの後に跟いて何でも可いから探らして貰ふ事にしようかい。のう二男一女の御連中』 高姫『探らして貰ふなんて、そりや何を云ふのだい。神の教は正真一方だ。水晶の様につきぬけて居るのだぞえ。スパイか何ぞの様に探るなんて、心の穢い事を云ふのぢやありませぬわい。さアさア来なさい』 と羽ばたきし乍ら欣々と東を指して小径を歩み出した。四人は兎も角、婆さまの館に行つて休息せむと重い足を引摺り乍ら跟いて行く。 谷川の辺に萱で葺いた二間作りの小かな家が建つて居た。これが高姫の中有界に於ける住家である。ヒヨヒヨした板の一枚橋を危く渡り乍ら漸くにして四人は高姫の館にやつと着いた。 (大正一二・三・一四旧一・二七於竜宮館北村隆光録) |
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霊界物語 | 67_午_ハルの湖/タラハン国の国政改革1 | 07 武力鞘 | 第七章武力鞘〔一七〇九〕 ヨリコ姫は甲板に立つて、平和な湖面を打眺め、声も涼しく歌ふ。 『久方の大空高く聳えたるオーラの山は霞けり 常夜の暗もハルの湖うつ小波の音も清く 吾船舷に皷うつ千波万波の皺の湖 伸べ行く波切丸の上天より高く咲く花の 聖き御教を聞き乍ら彼方の岸に進み行く 心曇りしヨリコ姫も村雲はらす時津風に 心の暗を払はれて澄わたりたる湖の上 小鳥は千代を唄ひつつ翼拡げてアンボイナ 神に輝く頭上をば前後左右に飛びかへて 吾行手をば守る如見ゆるも床し波の上 大き小さき島々はパインの木蔭を宿しつつ 彼方此方に漂ひて眺めも清き今日の旅 忽ち来る夜嵐の猛びに船は中天に 捲き上げられて暗礁の苦難を逃れ玉の緒の 命を無事に保ちしも三五教に仕へたる 梅公の君の御恵神の稜威の目のあたり 顕はれませし尊さよ船は行く波は静に立並ぶ 魚鱗は静かにまたたきて天津日影を宿しつつ 世の太平を謳ふなり類稀なる師の君の 優しき言葉に導かれ根底の国を後にして 常磐の花咲く天津神鎮まりゐます御国へ 進みて行かむ心地こそ吾身此世に生れてゆ まだ例なき喜びの涙に袖はうるほひぬ あゝ惟神々々神の守らす此船は スガの港に渡るてふげにスガスガし吾心 何に譬む物もなし二八の春の花盛り 心の嵐吹きすさびよからぬ人と手を引いて 枉の醜業企らみつオーラの山の砦をば 千代の住家と定めつつ罪を重ねし悔しさよ 神の恵の浅からず吾身の運の尽きずして かくも目出たき神教に進み入りしは天地の 神の恵と畏みて朝な夕なに怠らず 其御徳を感謝しつ晴渡りたる胸の空 大日は清く照り渡り月影清く澄みきりて 星の瞬きいと妙に風は不断の音楽を 奏でまつりて神々の深き稜威を現はせり 時しもあれや大高島如何なる神の計らひか 下津岩根の底深くつき立ちたりと聞えしが 何の苦もなく見るうちに水泡と消えて跡もなく 其頂きに永久に立並びたる夫婦岩 俄に獣と身を変じ高き岩座相放れ 屠所に曳かるる羊なす憐な姿トボトボと 岩の虚隙を伝ひつつ猿捕荊に身を破り 或は転げ又倒れ頭を下に尾を上に 漸く磯辺に降りつき波を渡つて逃失せぬ あゝ惟神々々オーラの山に永久に 神を詐り世の人を欺き悩め吾威勢 四方に張らむと思ひしを思ひ返せば愚なる 企みとこそは知られけり遠き神代の昔より 常磐堅磐に此湖の光ともなり花となり 湖中の王と敬はれ万民憧憬の的となり 時めき渡りし岩島も忽ち天の時到らば かくも無残に失せにける之を思へば人の身は 尚更果敢なきものならむ大黒主の勢は 天地に貫く威あり共神の戒め下りなば 旭に霜の消ゆる如夏の氷の解くる如 はかなく消えむ惟神神の力の恐ろしや シーゴーの司は幸ひに神の大道に進み入り 曲の関所を乗越えて今は高天の花苑に 通ふ旅路となりにけり吾妹の花香姫 教の君に伴はれ千里の波濤を打渡り 万里の広野を跋渉して神の御為世の為に 尽さむ身とはなりにけり吾れも妹も惟神 尊き神に救はれて旭のただ刺す神国へ 勇み行くこそ嬉しけれあゝ惟神々々 神の御前に慎みて吾等が前途に幸あれと 天地に向つて願ぎ奉る畏み敬ひ願奉る』 花香姫『湖の面を飛び交ふ鳥の翼こそ 花か蝶かと見まがひにける。 大高島音さへ立てず湖底に 沈みしを見て世の移るをさとる。 うつり行く御代に扇の末広く 栄ゆる春の花香をぞ待つ』 シーゴー『島々は泰然自若波に浮くを 大高島の憐はかなさ。 行かひの船を悩めし岩島も あへなく失せて水泡となりぬ。 吾胸に巣ぐひし曲も岩島の あはれを見ては水泡ときえぬ。 天地の中はら渡る此船は 神の救ひの御梯とぞ思ふ。 常世行く暗を照せし島山も 今は根底に沈みけるかな。 高きより低きにおつる世のならひ 吾もオーラの山を下りつ。 水平の波漕ぎ渡る此船は 皇大神の御姿なるらむ。 惟神水平線を辷り行く 波切丸の姿勇まし』 梅公『見わたせば波間にきらめく御光は 千々に砕くる神影なるらむ。 四海波いとも静におさまりて 大高山の影だにもなし。 大高山雲間に高く波の上に うかびて人を悩ませにける。 日も月も大高山の頂きに 蔽はる悩みなきぞ嬉しき』 梅公、ヨリコ姫、花香姫、シーゴーは階段を下り、各自の船室に入つて肱を枕に横たはつた。デッキの上には色々の雑談が始まつてゐる。見るからに目のくるりとした色の黒い、一癖有さうな大男、十数人の船客の中に胡坐をかき傍若無人的に武術の自慢話をやつてゐる。 バラック『もし、お前さまは一見した所、中々の豪勇と見えるが、お角力さまですか、但しは武術家ですか』 ドラック『俺かい、俺は若い時や、角力も随分取つたものだ。そして日下開山横綱を、一度は張つたものだよ。ハルナの都の大相撲の時にや随分面白かつたね。十日の角力に十日迄地つかずで、大変な人気だつたよ。数万の見物人の血を躍らせた事といつたら、前古未曽有といふ評判だつた。お前も聞いて居るだらうが、日下開山ドラック山といふのは俺の事だ。之見玉へ、俺の腕は丸で鉄のやうだ。何程強い男でも、グツと一つ握るが最後、息がつまり胸がつかへ、青くなつて了ふのだ。そして物が云へなくなるのだ。余り力が強いので、どの力士も此力士もドラック山にかかつちや勝目がないといふので、終ひの果にや相手がなくなつたのだ。相手なしに一人角力とる訳にもゆかず、止を得ず力士を廃業して、今は剣道の師範兼柔術の師範になつたのだよ』 バラ『成程、いかにも強さうな腕つ節ですなア。併し乍ら夫程強いお前さまが、海賊の親分コーズが襲来した時に、なぜ彼奴をとつつめて下さらなかつたのですか。所謂宝の持ぐさりぢやありませぬか』 ドラ『其時にや、自分の船室で安楽な夢を見てゐたものだから、チツとも知らなかつたよ。腕がなつて、血が湧いて、相手がほしくつて、脾肉の歎にたえない俺だもの、海賊の親玉が襲うて来たと聞きや、どうして俺が見逃すものか。あとから、本当に人の噂を聞いて、取返しのつかない末代の損をしたものだと、心私かに悔んでゐたのだよ』 バラ『貴方の様な豪勇と同船して居れば、私も、此航海は安心致しますワ。之も全く神様の御恵だと感謝せざるを得ませぬ』 ドラ『ウン、何も心配はいらぬ。剣術は世界中俺に勝つ者は、マア、現代では一人もなからうよ。角力では、雷電為右衛門、小野川、谷風、梅ケ谷、常陸山位は束にゆふて来ても、てんで、角力にならぬのだからな。又剣道や柔術にかけたら、ゴライヤスに宮本武蔵、塚原卜伝、野見の宿弥に塙団右衛門、岩見重太郎、荒木又右衛門などが束に結て来ても足許へもよりつけぬのだから大したものだよ。併し乍ら余り強すぎて相手のないのも淋しいものだ。何とかして強い相手にブツつかりたいものだが、タカが海賊の親分位では、実際の事いふと、歯ごたえがしないのだからな』 バラックは呆気にとられ、怪訝な顔して舌をまいてゐる。大勢の船客はドラックの大法螺を真にうけ、肩をいからし乍ら豪勇談に興味を有ち、チクリチクリと膝をにじりよせ、何時の間にか、ドラックを取巻いて貝細工で作つた洋菊の花のやうにして了つた。 チエックといふ一人の商人風の男は恐る恐る、ドラックに向つて、 『モシ、先生それ程強いお方なら、世の中に恐るべき者は一つもないでせうな』 ドラ『そらさうだ。弓でも鉄砲でも、大砲でも何でも彼でも、俺にかかつちや駄目だ。此拳骨で、一つグワンと、此帆柱でもなぐらうものなら、根元からポクリと折れて了ふよ。それだから、天下に敵なしといふのだ。マア君達も安心し玉へ。俺が此船に乗つてゐる以上は、仮令千人万人の海賊が来たつて、屁一つひつたらしまひだ。ドラックの名を聞いてさへも縮み上つて了ふからな』 チエック『何とマア、私達は仕合せなものでせう。それ程力の強い、武術の達者なお客さまと同船するとは、全く先祖様のお手引でせう。安心して国許へ帰らして頂きます。本当に貴方は活神さまのやうなお方ですな。併し夜前コーズの頭目が此船に上つて来た時、うす暗がりの中から、繊弱い女が現はれて、恐ろしい海賊を、皆湖中へ投込んで了ひ、吾々の着物を取返して下さつたのは、本当に有難い事でした。あの方は貴方のお弟子ぢや厶いませぬか』 ドラ『ウン、総て少し手の利いた奴ア、皆俺の教育をうけてるのだ。余り沢山な弟子だから、スツカリ、顔も名も覚えてゐないが、月の国七千余国の武術家は皆俺の部下と云つても差支なからうよ。各取締所の捕手連は全部俺に剣術や柔術を学んだのだからな。そして其女といふのは何者だか、お前達は知つてゐるだらうな。名は聞いておいたか』 バラック『何でも天から俄に下つて来た女神さまが吾々の危難を救つて下さつたのだらうと、一般の噂だ。何程武術が達者だと云つても、人間なれば、女の分際として、あんな離れ業は出来ないからな』 チエ『それでも、バラックさま、暫くすると暗の中に現はれた美人と同じやうなスタイルの女が、甲板の上へあがつて来て、ヨリコ姫だとか何とか云つて、自分が助けたやうな事を唄つてゐましたよ』 バラ『ナアニ、人の手柄を横取せうと思ふ奴の多い時節だから、あんな事云つて、吾の信用をつながうとしよつた奸策だよ。今の世の中の奴ア、口では立派な強さうな事を吐す奴許りで、サア鎌倉となつたら、手足はガタガタ胸はドキドキ唇ビルビル、ヘコタレ腰になつて、逃げまわすといふ代物許りだからな。兎も角大言壮語のはやる時節だ。そして今日は昔と違ひ、……桃季物いはざれ共、自ら小径をなす……といふやうな、まどろしい事は誰も考へてゐない。自家広告を盛んにやる時節だから、お手際を拝見しなくちや、誰だつて信用するこた出来やしないワ、アツハヽヽヽ』 ドラ『コレコレ、バラックさま、俺の前で、そんな悪口をつくといふ事があるものか。お前は俺の最前いつた事を大言壮語だと思つてゐるのだなア。俺達は、言心行一致だから、決して嘘は云はないよ。嘘と思ふなら、一寸其腕を貸し玉へ、一つ握つて見せてやらう』 バラ『イヤもう、恐れ入りました。決して決して、お前さまを信用せないのぢやありませぬ。言心行一致のお前さまとは実に見上げたものだ。今日の世の中は口と心がスツカリ反対になつて居る者許りだから、せめて言心一致ならまだしもだが、詐と高慢との流行する悪社会ですからな』 ドラ『俺の豪勇たる事がお前達に合点がいつたとあらば許してやる。毛筋の横巾程でも、疑惑をさし挟むのなら、論より証拠言心行一致と出かけて、腕なり肩なり、一握り握つてみせてやる積だつたが、先づ骨の砕けるのが助かつて、お前も仕合せだつたよ、アツハヽヽヽ』 と傍若無人に笑ふ。 かく話す折しも数隻の海賊船、島影より現はれ来り、波切丸を前後左右より取囲み縄梯子を投げかけ、兇器を携へ乍ら、コーズが指揮の下に、数十人、バラバラと甲板に上つて来た。 チエ『ヤ、先生、海賊がやつて来ました。どうか天下無双の豪力を出して、海賊を懲しめて下さい』 バラ『サア、先生、今が先生のお力の現はれ時です。私もお手伝ひしますから、やつて下さいな』 ドラ『アイタヽヽヽヽ。あ、俄に腹痛が致し、腰が立たなくなつたワイ。運の悪い時や悪いものだ。エ、残念だな。肚さへ痛くなくば、海賊の百疋や千疋ひねりつぶしてやるのだけどなア』 とガタガタと唇を紫色に染て慄ひ戦いてゐる。 コーズは数十人の手下を指揮し乍ら、先づ甲板より逃げ惑ふ船客を引つつかまへて赤裸となし、ドラックも亦同様に、持物一切を掠奪され、赤裸にむかれて了つた。コーズは勢に乗じ、階段を降つて、船室に進み入つた。デッキの上は老若男女が右往左往に駆けまわり阿鼻叫喚の地獄道を現出してゐた。 (大正一三・一二・二新一二・二七於祥雲閣松村真澄録) |
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霊界物語 | 68_未_タラハン国の国政改革2 | 11 宮山嵐 | 第一一章宮山嵐〔一七三五〕 タラハン城より正南に当つて三千メートル許りの地点に千年の老木鬱蒼として生え茂る風景のよき小高き独立したる山がある。是を国人はタラハンの大宮山と称へて居る。山の周りに深い池が廻つて居て碧潭を湛えて居る。此山にはウラル教の祖神盤古神王が宮柱太敷建て、開闢の昔より鎮祭されタラハン王家の氏神として王家の尊敬最も深く市民は此地を唯一の遊園地として公園の如くに取り扱かつて居た。八日の月は楕円形の姿を現はして宮山の空高く輝いて居る。幾百とも知れぬ時鳥の鳴き声は何とも云へぬ雅趣を帯び、文人墨客の夜な夜な杖を曳くもの引きも切らない有様である。然るにタラハン市の大火災が起つてからは時鳥を聞きに行くやうな閑人もなく、又あつた所が世間を憚かつて足を踏み込む者も無かつた。左守ガンヂーの悴アリナは取締所の捜索隊を避けて、盤古神王を祭りたる古き社殿の中に身を忍び時の至るを待つて居た。民衆救護団の団員として聞えたるハンダ、ベルツの両人は、目付の鋭鋒を避けて社の階段の中程に腰打ちかけヒソビソと囁いてゐる。 ハンダ『オイ、ベルツ、惜しい事をしたぢやないか。も些し目付連の出動が遅ければ、右守の館も遣つ付けて仕舞ふのだつたのに、取返しの付かぬ事を遣つて了つたぢや無いか。彼の際に遣り損ねたものだから目付の奴、四方八方にスパイを廻し、危くつて手も足も此頃は出す事が出来ない。何とかして彼奴を片付けねば、到底吾等の目的は達せられないだらうよ』 ベルツ『今となつて死んだ子の年を数えるやうに愚痴つて見た所で仕やうが無いぢやないか。まアまア時節を待つのだなア。併し乍ら惜しい事には左守のガンヂーを取逃したのが残念だ。彼の夜さ彼奴は玉の原の別荘に居やがつたので、死損ひの命を助かりやがつたのだ。も些と彼奴の居処を調べてから遣つたら宜かつたのだけれどもなア』 ハンダ『何あんな老耄爺、放つて置いても、もう爰三年と寿命は有るまい。手を下さずに敵を亡ぼさうと儘だ、放つとけば自然死ぬる代物だ』 ベルツ『俺だつて年が寄つたら死ぬるぢやないか。是丈国民の苦しむで居る世の中に、彼んな奴を一日でも生かして置けば一日丈でも国家の損害だ、彼奴が、一日早く死ねば、少くとも千人位の人が助かるのだ。彼奴が十日此世に居れば万人の人が饑餓て死ぬる勘定だ。夫れだから俺は「一刻も猶予ならぬ」と主張したのだが、大体貴様のやり方が緩漫だから蜂の巣を突いたやうな事をやつて仕舞つて、二進も三進も仕やうのないやうな事になつて了つたぢやないか。大頭目のバランス女史は取締所へ引かれると云ふ有様、先づ吾々の計画が甘く図に当つて漸く取返しは仕たものの、其後と云ふものは七八人のスパイが尾行して居るから、何程英雄豪傑のバランス親分だつて、手の出しやうが無いぢやないか』 ハ『まアさう慌てるものぢやない。親分はあゝして尾行付として置けば、取締所の奴は凡暗だから、安心して段々と目配線を緩めるに相違ない。其時はバランス親分に成り代り、俺とお前が国内の団員を煽動して水も漏らさぬ計画の下に、クーデターを決行しようぢや無いか。今日のやうにスパイが迂路つき圧迫を受けて居ては、如何に智謀絶倫の俺だと云つても手の着けやうが無い。まアまア時節を待つ事だなア』 ベ『左守右守を取り逃がしたのは残念だが、併し彼の左守の悴アリナと云ふ奴は、今はあゝして居るけれど、実際は吾等の味方だよ。今度事を挙げても彼奴ばかり、助けねば成るまい』 ハ『ウンさうかも知れない。此頃は大目付に憎まれて何処かへ逃げたと云ふ事だ。鳶が鷹を生むと云ふ譬があるが、本当に彼のアリナと云ふ奴は、吾々に取つては頼母しい人物かも知れない。此間からサクレンスの屋敷を四五人の部下に交る交る伺はして居るが、彼の大火災以来警戒が厳になり、屋敷の周囲には数十人の目付を以て固め、外出の時には侍に鉄砲を担がせて登城すると云ふ厳重の目配振りだから、マア暫くの間は彼奴の命も預かつて置くより仕方が無いワ』 ベ『左守の悴、アリナは何処かへ逃げたと云ふ事だが、噂に聞けば妙法様も亦行衛が不明だと云ふ事ぢや無いか、彼の太子も余程新らしい思想を以て居るらしい。彼のアリナを唯一の寵臣として使つて居た事を思へば、カラピン大王のやうな没分暁漢では有るまい。俺達は別に妙法様が世に出て立派な政治をさへして下されば、何所までも喜んで従ふのだ。唯憎らしいのは君側を汚す右守、左守、其他の重臣共だ。そして第一気に喰はないのは大小名や物持ちの奴等だ。是丈け民衆の声が彼奴等の奴聾の耳には通ら無いのだから、寧ろ憐むべき代物だ。地雷火の伏せて有る上に安閑として睡つて居る代物だよ』 ハ『オイ、ベルツ、何だか階段を登つて来る影が見えるぢやないか』 ベ『成る程、あの提灯は左守家の印が這入つて居る。左守の奴、沢山の守侍を連れて遣つて来たのだ。何うやら俺達を取り押へに来らしいよ。オイ、油断は大敵だ、逃げろ逃げろ』 と云ひ乍ら二人は階段を上り、社殿の後へ廻り一生懸命に下樹の生ひ茂つた森の中を倒けつ転びつ茨にひつかかれ顔と手とを傷つけながら森を潜り宮山の南麓の一本橋を渡つて一生懸命に並山の方面さして逃げて行く。左守のガンヂーは太い杖を突き乍ら漸く階段を昇り来り、二十人の護衛兵に四方を取り巻かせ祠の前に坐り込み、拍手の音も静に一生懸命に祈願を籠め初めた。 『掛巻も畏き大宮山の上つ岩根に宮柱太敷き立てて永久に鎮まります盤古神王塩長彦命の大前にタラハン城の柱石と仕へまつる左守の司ガンヂー謹み敬ひ畏み畏み祈り奉ります。如何なる曲神の曲禍にや、カラピン王様は思ひがけない重病に罹らせたまひ、お命の程も計られず、お蔭様によつて殆んど御臨終かと大小名一同が憂ひに沈みましたが、漸く此頃は少しく御快よき方にならせられましたなれど、何を云つても御老体、到底此儘では平年の御寿命も難からうと存じます。今やタラハン国は、各地に暴動起り国家の危急目前に迫り居ります際、国の要のカラピン王殿下が万一御昇天でも遊ばすやうな事が御座いましては、吾々大名を初め国民の歎きは如何ばかりか計り知られませぬ、何卒々々大王殿下の御病気が大神様の御神徳に依りまして、一日も早く御全快遊ばしますやう、偏に祈り奉ります。次には妙法太子様、先日の火災の有りし日より、踪跡を晦まし給ひ今に御行衛も分明ならず、大名共は日夜殿内に集まり種々と協議を為し、目付連を四方に派遣し捜索に勤めて居りますが、今に何の頼りも御座いませぬ。何卒々々一日も早く太子のお行衛が分りまして城内へお迎へ申す事が出来ますやうに、お祈り申します。不幸にして大王殿下が御昇天遊ばす様な事が御座いましたら、直様王位を継承遊ばさねばならぬ太子様のお行衛が知れぬやうな事では此乱れたる国家を治める事は到底不可能で御座います。どうぞ太子様が御無事でいらせられまして、一時も早く城内へお帰り下さいますやう、大神様の御守護を祈り上げ奉ります。又私の悴アリナと申すもの、去る五日の火災の夜より行方不明となりまして厶いますれば、是も恐れ乍ら無事に帰つて参りますやう、さうして彼は太子様を唆し種々の好からぬ智慧をつけましたもので厶いますから、彼を一時も早く捕縛致しまして、民衆の前で重き刑に処さねば、何時までも此国は治りませぬ。盤古神王様、何卒々々此老臣が願ひをお聞き下さいますやう、王家の為め国家の為め赤心を捧げて祈り奉ります』 アリナは社の中に身を潜め乍ら、父ガンヂーの祈願を残らず聞き終り、 『や、こいつは大変だ。爺までがグルに成つて俺を探し出し民衆の前で殺す積りだな。よし一人より無い子を殺さうと云ふ鬼心なら、此方も此方だ。父々たらずんば子々たらずとは聖者の金言、よし一つ神様の仮声を使つて爺の肝玉を挫いて呉れむ』 と独り諾き乍ら、社殿もはじける許りの唸り声を出し、臍下丹田に息を詰めて、 『ウーウー』 と唸り出した。左守のガンヂーを初め守侍共は殿内の唸り声に肝を潰し、体を慄はせ乍ら大地に蹲まつて仕舞つた。 アリナ『此方は大宮山に斎き祭れる盤古神王塩長彦大神の一の眷族天真坊で厶るぞよ。汝ガンヂーとやら、其方は不届至極にも十年の昔モンドル姫を唆かし悪逆無道を敢行せしめ、カラピン王の精神迄も狂はせ、無二の忠臣左守のシャカンナを城内より追ひ出し、己取つて代つて左守となり、国民を苦しめ、国家を乱せし悪逆無道の張本人だ。去る五日の城下の大騒動も元を糺せば汝がため。なぜ責任を悟つて自殺を遂げ、王家及び国民に其罪を謝さないのか、不届至極の痴漢奴。其皺腹を掻き切る位が惜しいのか、否命が惜しいのか。痛さに怯えてよう切らないのか。てもさてもいい腰抜野郎だなア』 ガンヂーは慄ひ声を出し乍ら、 『いやもう恐れ入つて厶います。老先短かき吾命、決して惜しみは致しませぬが、今此際私が目を眠りますればタラハン国は瞬く間に滅亡致し、王家は滅び、遂に赤色旗が城頭に立てらるる様に成るで御座りませう。是を思へば大切な私の命、国家の為を思へば死ぬ事は出来ませぬ』 ア『其方が此世にある事一日なれば一日国家の損害だ。国家の滅亡を早めるのは其方が生て居るからだ。真に国家国民を救はむとする赤心あらば、一時も早く自殺を致すか、それがつらいと思はば一切の重職を王家に返上し、焼け残つた別荘も国家に献じ民衆の娯楽場と為し、其方は罪亡ぼしの為め乞食となつて天下を流浪致し、下万民の生活状態を新しく調べて見るがよからう。どうだ合点が行つたか』 ガン『ハハ、ハイ、左様心得まして厶います。併し乍ら私は乞食になつても国家の為めなら厭いませぬが、あの悴奴を代りに助けて下さいませ。さうして細々乍らも左守の家を継ぎますやう、御守護を願ひ奉ります』 ア『これやこれや老耄、汝は狼狽たか、血迷うたか。「悴のアリナを一時も早く捕縛し、民衆の面前にて重き刑に処せなくては民心を治める事が出来ない」と唯今申したではないか。汝は神の前に来つて口と心の裏表を使ふ不届至極の奴だ。待て、今に神が手づから成敗を致してくれむ、ウー』 と社殿も割る許りの大音声にて唸り立てた。守侍はガンヂーを捨てて吾先にと階段を下り、武器を捨て命辛々逃げて行く。ガンヂーも亦、怖さ淋しさに居耐まらず百二十段の階段を毬の如く転げ乍ら落ち下り、数ケ所に打ち創を負ひ、はふはふの体にて玉の原の別荘さして杖を力に帰り行く。アリナは父ガンヂー其他の逃げ帰りしを見て、やつと胸を撫で下し、宮山を南に下り危げな一本橋を渡つて山と云はず河と云はず、膝栗毛に鞭ちて月照る夜の途を、薄の穂にも怖乍ら、もしや追手に出遇ひはせぬかと安き心もなく西南の空を目当てに逃て行く。 父と子が内と外との掛合を 聞きて御神は笑ませたまはむ。 赤心は確かアリナの悴とは 知りつつ爺御前に訴ふ。 或時は吾子を憎み或時は いとしと思ふ親心かな。 タラハンの城の曲神も大宮の 佯り神に恐れて帰りぬ。 守侍は吾職掌を打ち忘れ 主をすてて帰る卑怯さ。 (大正一四・一・六新一・二九於月光閣加藤明子録) |
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霊界物語 | 70_酉_トルマン国の国政改革 | 03 恋戦連笑 | 第三章恋戦連笑〔一七七〇〕 千草姫はキユーバーを一室に伴ひ行き、あらゆる媚を呈し彼の心胆を蕩かし、凡ての秘密の泥を吐かしめむと百方尽力してゐた。キユーバーは千草姫の美貌を見て天津乙女かエンゼルか、ネルソンパテーか楊貴妃か、小野の小町か照手姫か、平和の女神かとドングリ目を細うし眉毛や目尻を七時二十五分過にさげおろし、口角よりねばつたものをツーツーと、ほし下しの芸当を演じ、ハンカチーフにてソツト拭ひ乍ら、茹章魚のやうになつてその美貌に見惚れてゐる。もう、かうなる上は千草姫の一顰一笑はキユーバーの命さへも左右する力があつた。キユーバーは自分の目的や大足別との経緯もスツカリ忘れて、只宇宙間、神もなく仏もなく、大黒主もなく、天も地もなく、只、目にとまるものは、艶麗なる千草姫、耳に聞ゆるものは姫のなまめかしい玉の声のみとなつて了つた。 千草姫『もうし、救世主様、貴方は何とした立派なお方で御座りませう。何程盤古神王様が御神力があると申しても、大国彦様がお偉いと云つても、已に既に過去の神様で御座ります。どんなに手を合せても、ウンともスンとも云つて下さいませぬ。それに何ぞや、天来の救世主の君に親しくお目にかかり、天の御声をそのまま聞かして頂く妾は、何と云ふ幸福でせう。貴方の御姿を霊的に窺はして貰ひますれば、玲瓏玉の如く、金剛石の如く御身体一面にキラキラと輝いてゐます。妾は目も眩みさうで御座りますわ。そして貴方の玉の御声、一言聞いても皆、妾の肉と力になつて了ふのですもの。何と云ふ立派な神様が現はれなされたものでせう。どうかキユーバー様、この結構な玉のお声を妾以外のものに聞かして貰つちやいやですよ。この結構なお姿を世界の人間の目に入れちや困りますよ。アーア儘になるなら三千世界の人間を皆盲にして了ひたいわ。そして世界中の人間の耳を木耳にし度う御座りますわ。ねーあなた、恋しきキユーバー様』 とあらむ限りの追従を並べたて、蕩けた奴を尚々蕩かさうとする。恰も骨のない章魚に蕎麦粉をかけたやうにズルズルになつて了ひ口から涎を出す、オチコからはなを垂れる、千草姫の玉の肌に触れぬ中から、キユーバーは五つの穴から体の肥汁を搾取され、秋の夕暮れの霜をあびたバツタのやうになつて了つた。 キユーバー『これ千草姫、俺を、どうしてくれるのだ。これでもスコブツエン宗の教祖大黒主の片腕、三千世界を一目に見透すマハトマの聖雄だ。俺の骨迄筋迄グニヤグニヤにして了ふとは、本当に凄い腕前ぢやないか』 千草『ホヽヽヽヽヽ、あの、マア、キユーバー様の仰有いますこと。大黒主の片腕だとか、救世主だとか、そんなちよろこい霊では、貴方は御座りませぬわ。棚機姫の化身として、玉の御舟黄金の楫を操りトルマン国へ、天降つて来たこの千草姫を、マルツキリ蒟蒻のやうにして了ふと云ふ、貴方は凄い御腕前、否立派な男前、女殺しの罪なお方、妾は昼とも夜とも、西とも東とも判別がつかなくなりました。惚れた弱味か知れませぬが、貴方の鼻息の出やうによつて妾の生命に消長があるのですもの。妾が可愛いと思召すなら、どうぞ長生をさして下さいや。刃物持たずの人殺しは嫌ですよ。スコブツエン宗の法力によつて、貴方と一緒に千年も万年も不老不死で暮したう御座りますわ』 キユ『エツヘヽヽヽヽヽ、よしよし、お前と俺とさへ幸福にあれば、世の中は暗にならうと、潰れやうと、そんな事は頓着ないわ。天下無双の美人だと思つてゐたらその筈、お前は棚機姫の天降りだつたのか。いかにも、どこともなしに気品の高いスタイルだ。天下の幸福をお前と俺と二人して独占すればいいぢやないか。もう、かうなれば大黒主もヘツタクレもない。俺の決心は動かないから安心してくれ。千草姫、あまり俺だつて憎うはあるまいがな、エツヘヽヽヽヽヽ』 千草『オツホヽヽヽヽヽ』 と高く笑ひ、 『此夫にして此妻あり、お日さまにお月さま、お天道さまにお地球さま。キユーバーさまに千草姫。猫に鰹節。これ丈けよう揃ふた夫婦が三千世界に御座りませうかね』 キユ『アツハヽヽヽヽヽ、此奴は面白い。人間も一生に一度は幸運に出会すと云ふ事だ。此キユーバーも大神の御利益によつて初めての安心立命を得た。其方は俺に対して大救世主だ。弥勒如来だ、メシヤだ、キリストだ、瑞の御霊だ。お前をおいて救世主が何処にあらう。お前と俺と二柱、天上高く舞ひ上り、天の浮橋に乗り、大海原に漂へる国々の民を安養浄土に助けてやらうぢやないか。どうだ姫、よもや異存はあるまいな』 千草『いやですよ。最前も云つたぢやありませぬか。貴方の姿は妾以外に見せるのは嫌ですよ。玉の御声は妾以外に聞かしちや嫌ですよ。貴方は気の多いお方だから、三千世界の蒼生にまで、この尊いお姿を拝ましてやり、そして慄いつき度い程味のある、天人の音楽にも勝る玉の御声を、万人にお聞かせ遊ばすお考へでせうが、その御声は妾一人が聞かして頂く約束ぢや御座りませぬか』 キユ『これ、千草姫、お前も仲々したたか者だな。やさしい顔をして居つて、あまり欲が深過るぢやないか。このキユーバーは天下万民を救ふため天降つて来たのだ。それでは、少し天の使命に反くと云ふものだがな』 千草姫は故意とプリンと背を向け、 『ヘン勝手にして下さいませ。妾は、もう死ますから、(泣声)オーンオーンオーンオーンオーン』 キユ『これこれ千草姫殿、さう怒つて貰つちや困る。お前の悪い事云つたのぢやなし、マア、トツクリと俺の云ふ事を聞いてくれ。世界万民に対して愛を注がうと云ふのぢやないからな』 千草『エー、知りませぬ。妾のやうなお多福は到底、お気に入りますまい。ウオーンウオーンウオーン』 キユ『アツハヽヽヽヽヽ、丁度芋虫のやうだ。プリンプリンと右と左へ、お頭をお振り遊ばすわい。これ姫さま、さう悪く思つちやいけない。マア、トツクリと俺の腹の底を聞いて下さい』 千草姫は又もやプリンと体を廻し、ペタリと地上に倒れ、左右の袂で顔を被ひ乍ら、 『ハイ芋虫で御座ります。芋虫は芋助の厄介になればよいのです。分相応と云ふ事が御座りますからね、アーンアーンアーンアーン』 キユ『何とマア、ヒステリックだな。芋虫と云つたのが、それ程お気に触つたのか』 千草『ハイ妾は芋虫で御座りませう。貴方の目から御覧になつたら、雪隠虫のやうに見えませう。エーくやしい、アーンアーンアーンアーンもう知りませぬ知りませぬ。妾のやうな者は此世にをりさへせなかつたら、いいんですわ。気の多い貴方のやうなお方に恋慕して、悩殺されるよりも、体よう舌をかんで死んだがましで御座りますわい、ウオーンウオーン』 キユ『コーレ、姫さま、トツクリと聞いて下さい。このキユーバーを可愛いと思召すなら、さう気をもまさずにおいて下さい。どうやら俺の方が悩殺されさうになつて来た。エー、泣き度くなつて来た。一つ惚れ泣きを思ふ存分し度いと思つたのに、姫から先鞭をつけられたので大変な損をした。此方から御機嫌を取らにやならぬやうになつて来たわい。アーア、恋も仲々並や大抵で成立しないものだな』 千草『キユーバーさま、貴方本当にひどい人ですわ。妾を泣かして泣かして焦れ死さそうと思つてゐなさるのでせう。サアどうぞ殺して下さい。頭の先から爪の先迄、貴方に任したのですから、もうかうなりやお屁一つ弾じる勇気も御座りませぬわ』 キユ『俺だつて、お前のために鰻の蒲焼ぢやないが、背骨を断ち割られて了つたやうだ。これ丈けの心尽しをチツともお前は汲みとつてくれないのか』 千草『ヱー残念やな残念やな。貴方こそ、妾の心を汲みとつて下さらないのだもの』 と云ひ乍らキユーバーの顔を目がけて一寸斗りも伸ばした爪を、無遠慮に額から胸先かけて、ゲリゲリと二三べん掻き下ろした。 キユ『アイタツタヽヽヽヽヽ、これ姫、無茶をすない。顔一面に蚯蚓脹れが出来るぢやないか。こんな事されちや外分が悪くて、外出出来はせぬわ』 千草『そりやさうですとも。外の女に顔を見せないやうに意茶つき喧嘩の印を、尊き尊き可愛いお顔につけておいたのですもの。これでも妾の心底が分りませぬか』 キユ『アハヽヽヽヽヽ、アイタツタヽヽヽ、笑ふと顔の筋が引張つて、アツハヽヽヽヽ、アイタツタヽヽヽヽヽ、ひどい事をする女だな、お前は』 千草『そらさうでせうとも。相見互ひですわ。妾の命を貴方に捧げたのですもの、貴方だつて妾に生命を呉れるでせう。薄皮位むいたつてそれが何です。小指一本貰ひませうか』 キユ『そりや小指の一本位お前の為にや、やらぬ事はないが、神さまから与へられた完全の体を傷つけるには及ばぬぢやないか。それよりも俺の魂を受取つてくれ。魂が肝腎だからのう』 千草『貴方の魂をやらうと仰有つたが、どうしたら下さいますか』 キユ『俺の魂と云ふのは真心だ。言心行の一致だ』 千草『そんなら、どうか真心を表はす為に、何でも云ふ事、聞いて下さるでせうな』 キユ『ウン、聞いてやる。お前の為にや、生命でも何時でもやるのだ』 千草は嬉しさうな顔してニタニタ笑ひ乍ら、 『キユーバー様、貴方の真心が分りました。嬉しう御座りますわ。これで暗が晴れました』 と何とも云へぬ愛嬌の滴る、眼光に露を含んでキユーバーを注視した。キユーバーはこのニコリと笑つた千草姫の顔に益す夢現となり、垂涎滝の如く『エツヘヽヽヽヽ』と顔の紐まで解いて、清水焼の布袋の出来損ひのやうな面になつて了つた。 千草『サア、キユーバー様、今妾に何時でも命をやらうと仰有いましたね』 キユ『ウン、確に云ふた。俺も男だ、やると云ふたらやる。お前の事だつたら何でも聞いてやる。仮令大黒主の命令に反いてもお前の命令には反かぬからのう』 千草『アヽそれ聞いて安心しました。サア早速命を頂戴しませう』 と懐剣をスラリと引抜き身構へする。流石惚けきつたキユーバーも短刀を見るや、本当に命をとられるのかと蒼くなり慄い声を出し乍ら、 キユ『待つた待つた、ソウ気の早い、お前に命をやつてどうするのだ。俺が死んだら俺の綺麗な顔を見る事も出来ず、俺の玉の声を聞く事も出来ぬぢやないか。恋に逆上せるのもいいが、そこまで行つちやいけないよ、マア、チツト気を落ちつけたらどうだ』 千草『恋愛の真の味ひは生命を捨てる処にあるのですよ。涙から真の恋愛が生れるのですもの、貴方は命をやらうと云ひ乍ら、何故実行をして下さらないのですか。言心行一致と申されましたが、ヤツパリ妾を、かよわき女だと思つて、お嬲遊ばしたのですか、エー悔しい悔しい、残念やな残念やな』 と短刀を、其場に捨てて泣き伏す。 キユーバーはヤツト安心し、胸を撫で下ろし乍ら、 『アツハヽヽヽヽヽ、面白い面白い、恋愛もここ迄出て来ぬと、神聖味が分らぬわい。何と可愛いものだな』 千草『貴方は妾を騙してそれ程面白う御座りますか。そら、さうでせう。三千世界の女を皆、済度しようと仰有るやうな気の多いお方ですもの。言心行一致が聞いて呆れますわ』 キユ『今の人間は心に思はぬ事でも口で云ふぢやないか。このキユーバーは三千世界の救世主だ。決して心にない事は云はない。今の人間は口と心と行ひが一致せぬのみか、心と口とが一致してゐない。俺は心に思ふた事を口へ出して、お前に云つたのだから言心一致だよ、ハツハヽヽヽヽヽ』 千草『言心一致なんて、そんな誤魔化しは喰ひませぬ。も一つの行ひの実行を見せて下さい』 キユ『なんとむつかしい註文だな。さうむつかしう云はなくても、いいぢやないか。俺の心を買つてくれ。千年も万年も、生永らへてお前を楽ましてやらうと思つてこそ命を惜むのだ。これもヤツパリお前の為だ』 千草は故意とニコニコし乍ら、 千草『ア、それで分りました。どうか、エターナルに可愛がつて頂戴ね。外に心を移すことは、いやですよ』 キユ『ハツハヽヽヽヽヽ、ヤア之で先づ先づ平和克復だ。象牙細工のやうな白いお手に瑪瑙の爪、縦から見ても横から見ても、ホントに棚機姫に間違ないわ。オイ姫、どうか一つ握手してくれないか』 千草『ハイ、お安い事で御座ります』 と毛ダラケの岩のやうな真黒気の手をソツと握る。 キユ『オイ、姫、モチト確り握つてくれ。どうも頼りないぢやないか。そんなやさしい握り方では、どうしても恋愛の程度が分らないわ』 千草『ハイ、そんな事仰有いますと、お手が砕ける程握りますよ』 キユ『ヨーシ俺の息がとまる所迄握つてくれ、ハツハヽヽヽヽヽ』 と又もや口から粘液性の、きつい糸を垂らしてゐる。千草姫は柔道の手を以て脈処を力限りにグツと握り〆た。キユーバーはウンと一声真蒼になつて、その場に平太て了つた。 千草姫はニツコと笑ひ、 『ホヽヽヽヽヽ、この悪魔奴、かうして置けば暫らく安心だ。たうとう気絶した様だわい、ホツホヽヽヽヽヽ』 城の内外には激戦が初まつてゐると見え、ドンドンキヤアキヤア、と陣馬の犇く声、飛道具の音、刻一刻と高まり来る。 (大正一四・八・二三旧七・四於由良秋田別荘北村隆光録) |
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大本神諭 | 神諭一覧 | 明治31年旧11月5日 | 明治三十一年旧十一月五日 艮の金神の御用を聞かせるのは、老人でも行かず、我の有る位で無いと行かず、我が在りても神の道では行かず、御用に使ふ者が無いぞよ。口と心と行いと違はぬ者でないと、此の神の御用は聞けんぞよ。誠を貫らぬくもので無いと、神の御取次は出来んぞよ。我身が可愛い様な事では、此の取次は出来んぞよ。誠を貫ぬく御方が出来てこんと斯御道は拡まらぬぞよ。大勢無くても誠の者さえ在りたら、直ぐに拡まるぞよ。誠の在る者には神が力を附けるぞよ。誠の者は神が拵えてあるぞよ。グズグズして居ると後の烏が前に成りて、残念な事が出来るぞよ。万の神を皆御苦労に成りて居るから、物事が速く解るぞよ。今の綾部の取次が、アフンと致す事が在るぞよ。夫れでは金光殿へ気の毒な事が在るぞよ。神は気を附けた上にも気を附けるぞよ。是は慢神からじゃぞよ。気緩るしは少とも成らぬ御道であるぞよ。上の御神様下たへ降りて御守護を成さるから、何も物事が速いぞよ。天も地も世界が平均のであるから、今迄の行いを致して居ると、大失敗を喰ふぞよ。全部物事が変るぞよ。今迄覇張りて居りた御ん方、チト気の毒が在るぞよ。御用意を成さらんと、慮見が違ふ事が出来るぞよ。何に由らず物事代るから、斯世は誰に依らず、世を持ち切りには致させんぞよ。何時までも続くとは思ふなよ、世が代るぞよ。信心も同じ事、後の烏が前に成るぞよ。慢心いたすと誰に由らず、大怪我が出来るぞよ。神の道では慢心と慾とが一番気障りで在るぞよ。金神の世に成れば、慾を捨て神にもたれた成らば、何も不自由は致さねども、何程申しても聞かしても、誠の者が無き故に、チットも物事が思ふ如うに行かんのは、我身の心が悪いのじゃぞよ。我を出し慢心を致して、思ふやうに行かんと、神の業のやうに申して居るが、此の金神は一言申したならば、何に由らず違いは無い神で在るぞよ。神が申した事も、チット延びる事が在るなれど、延びるのも神界の都合のある事ぞよ。人民を一人なりと助けたさに延ばすのであるぞよ。世界の人民の改心が出来たなれば、早く良く成るし、改心出来ずば永く苦しむだけじゃぞよ。改心一つ、是からは世界の洗濯致して、良く致すのであるから、人民の心から直さぬと、神の心と同じ事に成らんから、神の心に成りたなら、斯世は思ふやうに成るぞよ。早く改心致されよ。何程言ひ聞かしても聞かねば、聞くやうに致すぞよ。茲まで開けた斯世界、何んでも此儘で人民を助けたいのが願いで在るから、助けたいと思へども○○○○○○○○○ 今の世界の人民は、神の申す事を誠に致さず、神を何時までも敵対うなら、天災で何の様な事が在りても、神を恨めなよ。神は明治廿五年から、毎日お直に言はして在るぞよ。是に落度は無かろうぞよ。是程に言ひ聞かしても聞かねば、世界には何事が在ろうやら判らんぞよ。何事も神を恨めなよ。今度斯世の立替であるから、世界の改めを致すぞよ。昔から斯世始りてから無き、世の立替で在るから、大望な世替じゃぞよ。人民の知らぬ事じゃぞよ。改心致せと申すのは、神は身魂の改めが致してあるから、改心が出来ぬと出直しを致さな成らぬ事があるから、金神がクドウ申すのじゃぞよ。現世で御役に立てる身魂と、国替さして使ふ霊魂と、又た神へ引取る霊魂と在るよって、改心致せば天地の大神様へ、御詫を致して遣れば御赦あるから、改心いたせと申すのじゃぞよ。今度の世の立替は、新つに致さねば成らぬから、慾は要らぬぞよ。慾を致して貯めて居りても、新つの世に成るので在るから、神気を附けるぞよ。心次第、改心次第で宜く成るぞよ。今の人民何にも知らずに居るから、神がクドウ申すのじゃぞよ。今迄は足立殿も酷い御疑いで在りたが、モウ解りて来るぞよ。直の身上も判りて来るぞよ。是から金神表になりて守護致すから、物事が速いぞよ。日本の国は結構な国で在るから、日本の人民よ改心致して誠の心を持てよ。日本の国は、誠を尽さな成らぬ国で在るから、誠を尽す人なれば、誠の花が咲く国で在れども遅くなるぞよ。誠の人は是からは、日本の国は鏡に出すぞよ。鏡を見て改心を致されよ。今では誠の者が無けれども見ておじゃれよ、世が変れば誠の人を拵えて、神の思わくを立て、世界を良くいたすぞよ。世界の人民よ一日も早く改心なされよ。それに附ては、日本の人民の改心が第一で在るぞよ。日本の人民さえ改心致せば、世界は良い世になるのじゃぞよ。綾部の九ツ花は、誠から咲く花で在るから、誠の人が集りて来んと開かんから、○○○綾部は燈台下暗しでは、此結構な花が咲くのに、誠が無き故に、余所から御神徳を取りに来るぞよ。此事が判りかけたなれば、我れも私しもと申して皆集りて来るが、今の内に気が附かぬと、誠のおかげは余所へ取られるぞよ。 この世話早う致したなれば結構で在れども、モチト解らぬので、誰も見合はして、手を出せば損のやうに今では思ふて居れども、今世話を致さねば誠の世話でないぞよ。是が判りて来たなれば、元の世話掛は、高見から見物いたして居りても、良いやうに成るので在れども、人民といふものは疑いが在るから、神が申しても、誠には能う致さねども、世界の政教の立替であるから、中々大望であるから、延びるのじゃぞよ。日本の国を大事に思ふから延ばすのじゃぞよ。日本の脚場を余程強固いたして置かんと、兵糧が尽きる如うな事が在りては成らんから、豊作を取らしてかかるぞよ。金神の世に成りたら世年は良く成るが、此の大望が治まりたならば、誠に都合に成るから○○○○○ 開いた口も閉まらぬ如うな事が出て来るぞよ。世が代るのであるから、是迄に無かりた事が出来るぞよ。日本の国は是位い尊とい国といふ事を、今度世を切替に致して、表に現はれて、三千世界の政教を立替て、金神が世に出るぞよ。此の誠は九つ花の元じゃぞよ。九つ花は誠から咲せる花で在るから、三千年経綸を致した、誠の花の本で在るから、誠の人の世話でないと、此の御世話は出来んぞよ。近慾な事では出来ぬぞよ。是でも神の経綸いたした事で在るから成就いたさすぞよ。 |