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霊界物語 35_戌_黒姫のアフリカ物語2 13 山颪 第一三章山颪〔九七七〕 白山峠の絶頂で普通選挙の其結果 三五教の宣伝使孫公別と名のりつつ 意気揚々と勇み立ち肩肱怒らし宣伝歌 歌うて勇む折柄にいづこともなく神の声 われは玉治別司一寸先の見えもせぬ 凡夫の身にて宣伝使選挙するとは何事ぞ 早く心を直せよと云はれて孫公は悄気かへり 肩をすぼめてすたすたと白山峠の峻坂を 東北さして下りつつ足の拍子を取りながら 「ウントコドツコイドツコイシヨ」倒けなよ倒けなよ気を付けよ 言あげしながら下り行く。 孫公別は足許覚束なく爪先に力を入れながら、坂道を下りつつ歌ひ出したり。 孫公別『白山峠の絶頂で「ウントコドツコイ危ないぞ」 言霊戦に出陣の其統帥を得むものと 虎、三、お愛の三人が鳩首謀議の其結果 「ウントコドツコイ」又辷る俺をば尊い宣伝使 神の使にして呉れた世の諺にも云ふぢやないか 「ウントコドツコイ」名は実の賓ではなうて実の主と 瑞の御霊の言の葉を一同遵奉仕り 互に心を合せあひ選むだ処を「ウントコシヨ」 「ドツコイ」頭の天辺から玉治別だと云ひながら 雷のやうなる声をして「ドツコイ」叱りつけられた こりや又如何した事だらう大蛇の奴めが化けて来て 俺等が肝を挫かうとあんな狂言したのだらう 虎、三、お愛の三人よ必ず心配するでない 曲津の神にだまされて如何して御用が勤まろか 悪の御霊と云ふものは隅から隅まで気を配り 水も漏らさぬ仕組して手具脛引いて待つて居る 其処の処を考へて「ウントコドツコイ」軽々に 進んで行つちやならないぞ互に足許気をつけて 大蛇の吐いた口車石の車に乗らぬよに 注意をせなくちやなるまいぞさはさり乍ら俺も亦 何だか気分が悪なつて「ウントコドツコイ」張合が サツパリコンとなくなつた「ドツコイドツコイ」待て暫し これも矢張神様が俺等の心をためす為め あゝ云ふ手段を取られたか凡夫の身では何ぢややら 薩張り様子が分らない唯何事も人の世は 神の心に任すのだ任せきつたる暁は 如何なる事かならざらむ大蛇は如何に猛くとも 三五教を守ります仁慈無限の皇神の 威力に敵する者はない私は確信ある程に 皆さま心をシヤンと持て「ドツコイシヨードツコイシヨー」 思うたよりもきつい坂「ガラガラガラガラアイタツタ」 あんまり喋つた天罰で「ドツコイドツコイドツコイシヨ」 すつてんころりと転倒し強か背骨を打つたぞよ こいつは耐らぬ「ドツコイシヨ」さはさり乍ら「ウントコセ」 今から俺が屁古たれてどうして成就するものか 常住不断に信仰した其神力の「ウントコシヨ」 現はれ出づる今や時神が表に現はれて 善悪正邪を立て別ける其御言葉が実ならば 決して心配「ドツコイシヨ」皆さま喜べ要らないぞ あゝ惟神々々国魂神の純世姫 月照彦の御前に三五教の孫公が 孫公別と現はれて「ウントコドツコイ」選まれて 今は尊き宣伝使心を平に安らかに 諾ひたまひて鼈の湖水の大蛇を悉く 言向け和す神力を授けたまへよ惟神 神の御前に誠心を捧げて祈り奉る 「ウントコドツコイドツコイシヨ」レコード破りの風が吹く 「ウントコドツコイ」散らされなウカウカしとると笠が飛ぶ 笠ばつかりか体まで木の葉のやうに散りさうだ 「ウントコドツコイ」力瘤体に一面「ウントコシヨ」 神徳ばかりを充実しこの難関をやすやすと 貫通さして下さんせ偏に願ひ奉る 畏み畏み願ぎまつる』 と歌ひながら、風に吹かれつつ急坂を下り行く。 お愛の方は声も静かに歌ひ出す。 お愛『熊襲の国に名も高き白山峠の峰よりも 誉の高き三五の道に仕ふる宣伝使 黒姫さまの供となり現はれ来ます孫公が 皇大神の御心も悟らせたまはず山の上 上りつめたる慢心の雲に包まれ自分より 名さへめでたき宣伝使孫公別と名乗りつつ 意気揚々と勇み立ち喜び給ふ折柄に 天津御空に神の声忽ち聞ゆる恐ろしさ 名利の欲にかられたる孫公さまは気が付かず 宣伝使をば笠にきて白山峠を下り行く あゝ惟神々々三五教の孫公よ どうぞ心を取り直し執着心を払拭し 矢張元の孫公で大蛇退治に行くがよい 恋路の欲に離れたるお前は又もや宣伝の 司の名誉に憧れて天地の神の許さない 雅号をたてに進み行く其心根ぞいぢらしき あゝ惟神々々お前の心が一時も 早く誠にかへるよにお愛が祈る胸の中 些つとは推量してお呉れもうしもうし皆さまよ お足に気をつけなされませ此処には蜈蚣が沢山居る あゝ惟神々々神の許さぬ宣伝使 大蛇の退治が何として旨く出来るで御座いませう 私は案じて耐らない左様な野心を起すより 今の間に改めて元の心に立ち帰り 天津御空に跼まり大地に蹐なしながら 謙遜りつつ三五の道を歩むで下さんせ これぞお愛が孫公に対する誠の親切よ 悪うは思うて下さるなあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして吾等四人の一行が 神の御前に功績を太しく立てて故郷に 一日も早く帰るべく守らせたまへよ天津神 国津神達百の神国魂神の御前に 誠心籠めて願ぎまつる』 と歌ひつつ静に下り行く。 三公は坂を下りつつ歌ひ出す。 三公『「ヤツトコドツコイウントコシヨ」向ふに見える湖水は 父と母とが其昔八岐の大蛇の片割と 人の怖るる曲神に命を取られた「ドツコイシヨ」 思ひ出深き仇の湖水三五教の御教を 聞いて心を取り直し心平に安らかに 敵を言向け和さむと一たん心に決めたれど どうしてこれが「ウントコシヨ」恨を晴らさで置かれうか 熊襲の国に名を売つた屋方の村の三公が 顔にも係はる一大事親の敵を前に見て 無抵抗主義の御教がどうして実行出来ようか 思へば思へば腹が立つ年が年中大蛇奴を 亡ぼしくれむと思ひ詰め大蛇々々と口癖に 「ウントコドツコイ」云ひ通し世界の奴らが「ドツコイシヨ」 大蛇の三公と呼び出した皆さま足許用心だ 蜈蚣や蠑螈がのそのそと其辺あたりを這うて来る 孫公さまの宣伝使何程神力あるとても 何だか影が薄いよだこんな事なら黒姫を 無理に頼んで「ドツコイシヨ」来て貰つたらよかつたに 後で気の付く「ドツコイシヨ」癲癇病者の馬鹿思案 後の祭ぢや仕方ないもうこれからは俺達は 天地の神を一心に祈りて神の御守り 「ウントコドツコイ」守られて亡ぼすよりも道はない あゝ惟神々々純世姫の御前に 心を籠めて願ぎまつる朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも湖水の大蛇は猛ぶとも 地震雷火の雨が一度に襲ひ来るとも 誠一つの言霊の御息に大蛇を言向けて 凱旋せなくちや「ドツコイシヨ」数多の乾児に三公の 男が立たない「ドツコイシヨ」今迄作つた罪悪の 報いは忽ち顕はれて黒姫さまには見離され 力の足らぬ孫公の「ウントコドツコイ」手に余る 勁敵前に控へつつ進み行く身ぞ悲しけれ 此世を造りし神直日心も広き大直日 今迄尽くせし身の咎を直日に見直し聞直し 「ウントコドツコイ」宣り直し許させたまへや天津神 国津神達国魂の御前に願ひ奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひながら下り行く。 虎公は又もや歌ひ出す。 虎公『「ウントコドツコイドツコイシヨ」此山道は些と酷い うつかりしとると谷底へ転むで頭を割る程に 「ウントコドツコイ」気をつけよ「アイタタタツタ」躓いた 彼方此方に「ドツコイシヨ」高い石奴がゴロゴロと 遠慮もなしに転げてるこんな手合に出遇つたら 武野の村の侠客も到底頭が上らない 獅子狼や虎熊や鬼や大蛇も恐れない 此虎公も「ドツコイシヨ」此坂道にや耐らない 何時辷つて「ウントコシヨ」真逆様に顛倒し 頭を割るか分らない孫公さまに神徳が 十分に具はり居るならばこんな心配ないけれど 俄作りの宣伝使「ウントコドツコイ」鼻糞で 的張つたやうな心持ま一つ安心出来難い あゝ惟神々々師匠を杖につくでない 人をば力に致さずに誠の神を力とし 「ウントコドツコイ」行くならばどんな守護もしてやると 大神様の神勅俺はこれから「ドツコイシヨ」 孫公さまの宣伝使力になさず村肝の 心の誠を発揮して威猛り狂ふ曲神の 陣屋に忽ち突進し勝鬨あげて世の人の 「ウントコドツコイ」禍を根本的に除却して 武野の村の侠客と云はれた誉を弥高に 筑紫の島に輝かし三五教の道のため 尽さにやおかぬわが願ひ完美に委曲に聞し召し 守らせ給へ天津神国津神達八百万 産土神の御前に畏み畏み願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひながら、漸くにして下り三里の山坂も、其日の真昼頃麓に下りつきにけり。 (大正一一・九・一六旧七・二五加藤明子録)
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霊界物語 36_亥_シロの島の物語 02 川辺の館 第二章川辺の館〔九九〇〕 神地の城は東北西の三方、美しき青山に囲まれ、南方は稍展開し、城の東西に余り広からねども、水清く流れ深き清泉が通つて居る。奇石怪岩最も多く、奇勝絶景の地点を選んで、ケールス姫の別宅が建てられてあつた。東の河は別館の西を流れ、河の中には種々雑多の形をしたる大小無数の岩石が点在し、其間を淙々と流るる水音、聞くも見るも壮快の思ひに満たされる。 ケールス姫は、ウラル教の神司竜雲を此処に招き、朝夕となく不義の快楽に耽つて居た。サガレン王はいつも神地の館にあつて政務を見、バラモン教の大自在天を祭りたる神殿に、殆ど閉ぢ籠り祈願に余念なく、信仰をもつて唯一の楽みとして居た。 ケールス姫『竜雲さま、どうして又王様は此のやうな結構なウラル教の教が分らないのでせう。何とかしてウラル教を信奉さるるやうに、貴方の神力を以て悦服さして下さる事は出来ますまいかなア』 竜雲『盤古神王の御威勢、天ケ下に何一つ御自由にならない事はありませぬ。王様をウラル教に入信させるのは朝飯前の事で御座いますが、これには何か深き神様の思召があつて、吾々に一つの決心を与ふべく仕組まれたので御座いませう。バラモンの如き、人の血を見なくては到底承知せないと云ふやうな神様を祭り、これを信仰すると云ふは、一身上の不幸のみならず、延いて国家国民の大不幸です。併し乍ら、この錫蘭島にて誰一人指をさへるものなき王様の事ですから、吾々人間としては、何程教理を申上げた処で、いやと一口首をお振りになつたが最後、もはや申上げる事は出来ますまい』 ケールス姫『本当に困つたことで御座いますなア。何とかよい分別が貴方にありますまいか。かうして互に親しうなつた二人の仲、何も遠慮は要りますまい。どうぞ貴方のお考へを、包まず匿さず私に打ち明けて下さいませ』 竜雲『何と仰せられても、是許りは口に頬張つて、如何に親密な貴女様にでも申上げる事は出来ませぬ』 ケールス姫『竜雲さま、貴方は随分冷静な方ですなア。未だ私の心が分らないのですか、イヤ信用して下さらないのですか』 竜雲『決して決して信用せない処か、貴女より外に、此世の中に私の力になつて呉れる方はありませぬ。私は貴女の為めには一つより無い生命迄も捧げて居ります』 ケールス姫『それなら何故云つて下さらないのですか』 竜雲『是計りは暫く御猶予を願ひます』 ケールス姫『ハイ、宜敷う御座います、貴方はタールチンの女房キングス姫には何でも仰有る癖に、信用のない私にはお隠しになるのでせう、宜敷う御座います。それならそれで私にも一つの考へが御座いますから……』 竜雲『さう悪気を廻されては大変に困るぢやありませぬか。どうぞ冷静に胸に手をあてて、今日の私の地位と境遇とをお考へ下さいませ』 ケールス姫『貴方は今日の地位がお気に入らないのですか。そりやさうでせう。私だつて貴方を真の夫と仰ぎ、この錫蘭の島をして、ウラル教の教に立替へ、島民を安く楽しく暮さしてやりたいのは胸に一ぱいで御座います。併し乍ら貴方が、エツトキング、サーチ、エール、アイ、シエール、ビーベツトになると云ふ事は一つ考へものです。うつかり遣り損ふものなら、それこそ、大変ですからなア』 竜雲『第一邪魔になるのはタールチン、シルレング、ユーズの頑固派です。あれを何とかせなくては、到底此目的は達成する事は不可能です』 ケールス姫『そんな事は御心配には及びますまい。併しながら蟻穴堤防を崩すとか云つて、些とも油断はなりますまい』 竜雲は、ケールス姫の耳に口を寄せ、 竜雲『エールベツト、キング、シヤームン、デー、イツクス、バー』 と囁いた。此言葉は如何なる意義を含んで居るか、読者の判断に任す事とする。 かかる処へ、ベールは泥まぶれとなつて慌しく馳帰り、 ベール『モシモシ、ケールス姫様に申上げます。大変な、プロテスタントが現はれ、竜雲さまをベツトすると云つて、計劃おさおさ怠りなき有様です。愚図々々して居れば、今に竜雲様は申すに及ばず、ケールス姫様の御身辺が危くなりますから、命からがら御注進に参りました』 ケールス姫『シルレング、ユーズの両人が、竜雲様をベツトせむと云ふ計劃を廻らして居るのでは無いか』 ベール『ハイ、其通りで御座います。貴女さまの御命令により、蓮の花見に事よせ、娑羅双樹の森に両人を誘き出し、彼が心底を探りみたる処、蛙は口から、何も彼も酒に酔つて喋つて仕舞ひました。さうして私を貴女様の間者に相違ないと云つて、両人は双方より私に飛びかかり、ベツトせむと息巻き来るを、死物狂の力を出して格闘の結果、漸く夜に紛れてここ迄逃げて帰りました。あなた方も斯様な処にお出で遊ばしては、生命が危く御座います。どうぞ早く神地の館にお引き取り下さいませ。何時彼等は徒党を組んで押し寄せ来るかも図られませぬ』 竜雲『それは大変だ。姫様一先づ城内へ立ち帰る事と致しませう』 ケールス姫『別に驚くには及びますまい。盤古神王様が吾々の信仰をお認めになつた以上はキツト御保護をして下さいませう。かう云ふ時に騒がないやう胆力を練るために平常から信仰を励んで居るのではありませぬか。竜雲様、もしシルレング、ユーズの押し寄せ来るとも、神変不思議の貴方の霊力をもつて打ち懲してやれば、すぐ埒のつく事では御座いませぬか』 と迷信しきつたるケールス姫は、竜雲の神力を過信して平然と構へて居る。 ベール『モシモシ姫様、何程竜雲様に御神力があればとて、非は理に勝たず、理は法に勝たず、法は権に勝たずと云ふことが御座います。身に寸鉄も帯びざる貴方方に対し数多の反逆者共が凶器を携へ闖入し来る事あらば、時と場合に寄つては、いかなる運命に陥るやも分りませぬ。又貴女と竜雲様との、トツチケーアイの一伍一什を、彼等は看破して居ますから、何時サガレン王様に、貴女の御不在を窺ひ上申するやも分りませぬ。さうならば、ますますもつて事が面倒となります故、どうぞ一時も早く此処を立ち去り、お館へお帰りになつた上、姫様の御口より王様に向ひ、シルレング、ユーズの一派は、クーデターを企劃し、日ならず館へ侵入し来るべければ、早く王様に其御処置を遊ばすやうと、申上げて下さいませ。先んずれば人を制す、愚図々々して居て彼等に計られては御身の一大事、竜雲様の御身辺も気づかはしければ、何卒ベールの申上げる事をお聞きとどけの程を願上げ奉ります』 と顔色迄変へて述べ立てた。竜雲は顔色をサツと変へ、 竜雲『兎も角、姫様一刻の猶予もなりますまい。サア早く帰城致しませう』 と惶てて座を立つ。ケールス姫も稍不安の念にかられながら、城内さして立ち帰り、奥深く艶姿を隠したり。 (大正一一・九・二一旧八・一加藤明子録)
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霊界物語 36_亥_シロの島の物語 06 意外な答 第六章意外な答〔九九四〕 アナンはサール、セール、ウインチの同志に別れを告げ、テーリスに会つて内外相呼応し、一挙に竜雲を捕へむと計画を定め、ブラリブラリと神地城近く現はれた。メール、ヨールの両人は忽ちアナンを捕へ獄に投じた。 アナンはテーリスが依然として牢獄の監督たるべしと確信して居たが、豈図らむやベールの悪人が何時の間にか代つて居る。竜雲もテーリスを固く信じ吾股肱と頼み、大切なる牢獄の監督を命じて居たが、彼も悪者、万一正義派に款を通じ如何なる事を仕出かすやも計り難しと、奸智に長けた竜雲は、ベールをして之に代らしめたのである。アナンは斯うなつては恰も飛んで火に入る夏の虫も同様であつた。凡ての計画はこれにてサツパリ齟齬して了ふ事を非常に恐れざるを得なかつた。アナンは獄中にて私かに謡ふ、其歌、 アナン『天と地とを造らしし誠の神のいます世は 如何なる事か恐るべき天に煌めく星の影 地は青々と生茂り山河清く美はしく 蓮の花は遠近に咲き匂ひたる神の国 吾等は神の子神の宮いかでか曲のをかすべき 如何なる艱みに遇ふとても心も身をも皇神に 任せ奉りて信仰の誠を尽す吾こそは 神も照覧遊ばさむ一度は敵に悩まされ 百の責苦に遭ふとてもいつしか開く神の門 此シロ島はサガレン王の君の命の永久に 鎮まり居まして国民をいと平けく安らけく 知ろし召すべき神の国ウラルの道の神司 竜雲いかに暴力を揮ふといへど曲神の いかでか正義に敵し得む籠に飼はれし鳥さへも いつしか破れて天地の広き御園に悠々と 春をば謡ふ時あらむあゝ惟神々々 神の霊の幸はひてサガレン王を始めとし 忠義に厚きタールチンキングス姫やゼム、エール エームス、ユーズ、シルレング尊き正しき人々の 身魂を安く守りませアナンは敵に捕へられ 苦しき月日を送るとも君の御為め国の為め 世人の為めとなるならば如何でか命を惜まむや いかなる敵の現はれて水責め火責めはまだ愚か 剣の責苦に遭ふとても君に捧げし此生命 心も広きシロの島神地の獄舎に囚はれて 身は儘ならぬ籠の鳥なれども心は清々と 天地四方の国原を自由自在に逍遥し 皇大神の御光は吾身の上を照しまし 歓喜は胸に湧き満ちぬ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 八岐大蛇の憑りたる醜の司を言向けて 此神国を永久に守らにやおかぬ吾心 生きては御国の楯となり死しては護国の鬼となり 誠一つを天地に貫き通す楽しさよ ベールの眼は光るとも夜は見えない人の身の いかでかわれ等の心根を探りあてむや惟神 神の教に背きつつ一時の栄華に憧れて 魔神に媚びつ諂ひつ吾身一つの栄達を 計らむとする卑劣さよ思へば思へばベールこそ 実にも憐れな者ぞかしあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 エームスは又獄中にありて、私に述懐を述べて居る、其歌。 エームス『天地を造り固めたる国治立大御神 大地の力と現れませる神素盞嗚大御神 大地の霊と現はれし金勝要大神の 守らせ給ふ瑞穂国中にも尊きシロの島 此神国は天地の殊更深き御恵に 栄えて進む珍の国此神国を知ろしめす サガレン王は民草の主と居まし師と居まし 親とまします厳の神高き御稜威はヒマラヤの 山も物かは行く雲も伊行き憚る珍の王 ウラルの道の竜雲が非望の企みに乗せられて 今は苦しみ給へども如何でか神は許さむや ケールス姫や竜雲の悪逆無道の振舞は 天地容れざる逆罪ぞあゝ惟神々々 神が表に現れまして善悪正邪を分ちまし 魔神を亡ぼし善神を救はせ給ふは目の当り 吾等は獄舎に投げ込まれ無限の苦痛に遭ふとても 心は広き天の原空行く鳥の如くなり 如何に無道の竜雲も吾等が清き魂を 縛り苦しむ枉業は如何に心を尽すとも 到底行ひ得ざらまし心の空に日月の 輝き渡る正義の士如何でか獄舎を恐れむや 神は吾等と倶に坐すバラモン教の自在天 大国彦の御前に心を清め身を浄め 一日も早く吾王の心を安んじ苦しみを 救はせ給へ惟神神の御水火に生れたる サガレン王の側近く右守神と仕へたる 道の司のエームス[※初版は「エームス」、普及版・校定版・愛世版はいずれも「エールス」。文脈上は初版の「エームス」が正しい。]がひそかにひそかに祈ぎ奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と謡ふ折しも、ベールは足音高く此場に現はれ来り、獄舎の外より、 ベール『エームスさま、只今竜雲殿より、貴方に対する疑ひは全く晴れたから、許してやれとの御言葉で御座います。貴方は竜雲様の危難を救うた殊勲者だから、何卒早く此処を出て下さい』 と声を和げて、慇懃に打つて変つた態度で言ひ渡すにぞ、エームスは頭を左右に振り、 エームス『それは誠に以て有難う御座います。然し乍ら私は最早社会へ出て働かうとは思ひませぬ。それ故此別荘が殊の外気楽で御座いますれば、何卒永く獄において下さる様竜雲殿にお願ひをして下さい。折角居馴ずんだ処で御座いますから、出るのが惜しくなりました。アハヽヽヽ』 ベール『これはしたり、エームスさま、獄舎の中が結構だとは、そりや本心でおつしやるのですか』 エームス『私は此処で一生を送り度く希望して居ります。到底竜雲さまに許され、或はお役に使はれましても、不運な者は何処迄も不運、又候、人を助けて牢獄に打ち込まれる様な事が出来致しても詰りませぬから、此処に斯うして居れば、罪を作らず心を悩まさず結構で御座います。何卒私を解放して此上苦労をさせぬやうに許して下さいませ。どうも私の性質として、悪い事は出来ませぬ。悪い事を平気で巧くやつて除ける人間は竜雲様の御引立によりましてズンズンと御出世遊ばすなり、命をお助け申して善事をなしたる私は獄に投ぜらるると云ふ様な逆様の世の中ですから、到底社会へ出て活動する場所が御座いませぬ。何時までも此処に置いて貰ひ度いと申すのは左様の次第でありますから、悪からず竜雲殿に此由をお伝へ下さいませ』 ベール『これは又変つた御意見、ベールも一向合点が参りませぬ。何は兎もあれ、一応竜雲様にお伺ひ致して参りませう』 と云ひ乍ら、スタスタと此場を立ち去る。 (大正一一・九・二一旧八・一北村隆光録)
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霊界物語 36_亥_シロの島の物語 08 悪現霊 第八章悪現霊〔九九六〕 アナン、セールの一隊は館に向ひ、サール、ウインチはタールチン、キングス姫、ゼム、エール、シルレング、ユーズを救ひ出さむと、牢獄の方に猛進した。 ベールは部下の獄卒と共に死力を竭して戦うたが、つひにコリヤ叶はぬと思ひしか雲を霞と姿を隠して了つた。 サール、ウインチは一同の忠臣を首尾よく救ひ出だし、次にアナン、セールの隊に合すべく王の館を指して進み行く。竜雲、ケールス姫は奥の間に顔の色を変へ、手鎗を小脇に抱へ、寄らば突かむと身構へしてゐる。 真先に進んだアナン、セールを始め、シルレング、ユーズは不運にも、館の中の俄作りの深き陥穽におち込んで了つた。 サール、ウインチを始め、タールチン、キングス姫、ゼム、エールは、此上深入りするは如何なる羽目に陥るやも計り難しと、大事をふんで後へ引返し、表に出でて再び戦ひを継続しつつあつた。 ケリヤ、ハルマは采配を打ふり打ふり、所在精鋭の武器を揃へて、命限りに防ぎ戦ひ寄せ手の人数は殆ど三分以上瞬く間に斬り倒されて了つた。サール、ウインチは止むを得ず、タールチン、キングス姫、其他と共に一先づここを退却し、再び捲土重来の策を構ぜむと、バリーの館に軍を返した。 竜雲は味方の将卒を集め、今日の防戦の偉勲を口を極めて賞揚し、城の外部を念入りに警護せしめた。そしてサガレン王を始め、信用し切つたるエームス、テーリスの姿の見えざるに驚き、再びケリヤ、ハルマに命じ、捕手を四方に遣はして、王、外二人の所在を厳しく捜索せしめた。併し乍ら、王の行方は到底分らなくなつて了つたのである。 竜雲は部下の将卒を労ふべく、城の広庭に草蓆を布き、四方を警戒し乍ら、大祝宴を開いた。其席上にて竜雲は声高々と歌ふ。 竜雲『此世の御祖とあれませる塩長彦大神の 御稜威は今や輝きてウラルの教の世となりぬ 大国彦の系統と世に誇りたるサガレン王の 醜の魔神は竜雲が広大無辺の神徳に 吹き払はれて影もなく煙となつて消え失せぬ われは是よりシロ島の司となりて百司 百人達を悉くウラルの神の御教に まつろひ合せ御恵の露を普くうるほさむ あゝ惟神々々塩長彦の御威勢は 今に始めぬ事乍ら四方の草木も悉く 片葉もとめず伏しなびくかかる尊き大神の 教にまつろふ竜雲は天津神たち八百万 国津神たち国魂の神の力を身に受けて 月日の如く永久に輝きわたるわが御稜威 称へまつれよ百司ケールス姫を始めとし 左守右守の神司ケリヤ、ハルマは云ふも更 ベールやメール、ヨール迄吾神徳にまつろひて 清く仕へよ吾前にわれは此世を平けく 治むる救ひの神なるぞ此シロ島に竜雲の 納まる限り鬼大蛇いかなる曲津の攻め来共 恐るる事はなき程に上と下とは睦び合ひ 心を合せ力をば一つになしてわが治らす 此神国を守れかしあゝ惟神々々 神の御前に真心をささげて祈り奉る』 と悪にも三分の理屈があるとやら、一かどよい気になつて、臆面もなく大勢の前に厚かましくも其千枚張りの面の皮をさらし、得々としてゐる。 ケールス姫は其尾に付けて機嫌よく自ら歌ひ、自ら舞ひ、竜雲の武運と其幸福を祈りたる、其歌。 ケールス姫『高天原に現れませる塩長彦の大神の 守り玉へるウラル教神の司の竜雲師 広大無辺の御神徳現はれまして今ここに シロの島をば平けくいと安らけく治めます 聖の世とはなりにけり喜び勇めよ百司 国人達も諸共に竜雲司の神徳を 心の底より喜びて称へまつれよ惟神 神の力は目のあたり心の弱きサガレン王の 君の命は汚れたるバラモン教を朝夕に 命の如く崇めつつ此世を紊し玉ひけり 曲津の神の猛びにて神地の城は日に月に 衰へ行きて刈ごもの乱れ果てたる有様を 治むる由も泣きね入り苦み切つたる折柄に ウラルの道の神司神徳高き竜雲が 天津御空の雲にのりはるばる茲に下りまし 千変万化の神力を現はし玉ひて吾々を 神の大道に導きつ尊き神の御国に 救ひ玉ふぞ尊けれあゝ惟神々々 妾はいかなる仕合せか今まで曇りし胸のやみ 科戸の風に影もなく吹き払はれて村肝の 心の空に月は照り星の光はキラキラと 輝きわたる身となりぬケリヤ、ハルマを始めとし 其他の百の司たち吾言霊を諾なひて 今より先は真心の限りを尽し身を尽し 竜雲司の御教を心に放さずよく守り 天ケ下なる民草を救ひ助けて永久に ゆるがぬ朽ちざる御世となし天津誠の大道に まつろひまつれよ惟神塩長彦の御前に ケールス姫が真心のあらむ限りを打あけて つつしみ敬ひねぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と陽気になつて歌ひ舞ひ納め、竜雲の手を曳いて、奥の間深く進み入る。 ケリヤは一同の司及び雑役等に向つて、鼻高々と歌を以て宣り伝へた、其歌。 ケリヤ『げにも目出たき御世なるか天の河原にさをさして あもりましたる竜雲師広大無辺の神力を 発揮し玉ひて今ここに神地の都の君となり ケールス姫と諸共に普く仁政を布かむとて 言あげ玉ひし尊さよ尊き君に見出だされ 吾は左守神となり此城内の一切は わが身一つに責任を負はせ玉ひて天ケ下 四方の民草撫で玉ふげに有難き珍の御代 われ等は尊き御恵の万分一に報いむと 心の限りを尽しつつ朝な夕なに大神と 君の御前にいそしみて仕へまつらむ覚悟なり 右守神を始めとし其外百の司たち 青人草に至る迄天より降りし此君の 御稜威を畏み敬ひて只一言も叛くなよ さはさり乍ら腹黒きタールチンやエームスや テーリス、ゼムやエール等が再び軍を整へて 攻め来らむも計られず其時汝等一同は 怯めず臆せず大神の力を楯に君の為 世人の為に玉の緒の命を惜しまず戦へよ 仮令生命はすつる共神の御為君の為 捨てし生命は天国の神の御前に行きし時 珍の宝座を与へられ其魂は永久に 安く楽しく喜びの園に楽しく救はれむ あゝ惟神々々神の御前に真心を 捧げてケリヤが今ここに心の丈を誓ひおく われと思はむ人々は一日も早く村肝の 心を研き体を練り此土を守るつはものと なりて尽せよ惟神神は汝を守りつつ 千代に八千代に亡びなき高きほまれを現はして 栄えの身魂となさしめむケリヤが今宣る言霊を 心に刻みて片時も決して忘るる事勿れ 左守神が今茲に竜雲司に成り代り 一同に向つて述べておくあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と宣示し、悠々として座につく。 右守神のハルマを始め、其他の人々の脱線的歌は沢山あれ共、余りくだくだしければ省略する事とする。 (大正一一・九・二一旧八・一松村真澄録)
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霊界物語 36_亥_シロの島の物語 09 濃霧の途 第九章濃霧の途〔九九七〕 常世の国の自在天大国別の珍の子と 生れ出でたるサガレン王は顕恩郷を後にして ペルシヤの国を横断し印度の国を遠近と さまよひ廻り漸くにシロの島へと安着し バラモン教の御教を朝な夕なに宣り伝へ 漸く茲に時を得て神地の都のバンガロー 青垣山を三方に清くめぐらす絶頂の 地点に館を立て並べシロ一国の主権者と 仰がれここにケールス姫を娶りて御代を治めしが 漸次に悪魔のつけ狙ふ其有様は味のよき 木の実に虫のわく如く八岐大蛇の醜霊 いろいろさまざま身を変じ妖術使ふ竜雲と 現はれ来りてバンガロー神地の館に侵入し あらゆる手段をめぐらしてケールス姫の側近く 進み寄りたる凄じさ蟻穴は遂に堤防を 崩すの比喩に漏れずしてさしもに固き神館 サガレン王の居城をば苦もなく茲に占領し 暴威を揮ふ憎らしさ忠臣義士に助けられ やうやく危難を免れて九五の位に立ち乍ら 其身を以て逃れたるサガレン王は大野原 吹き来る風にも心魂を痛めながらも河森の 河辺を伝ひてスタスタとテーリス、エームス両人と セムの里へと忍び来る深き谷間に霧こめて 水音ばかり淙々と響き渡れる川の辺に 進み来れる折もあれ心汚き竜雲が 差まはしたる目附役数人許りの若者は 一方口の谷路に霧に紛れて身を隠し 手具脛ひいて待ちゐたりかかる企みのあることは 夢にも知らぬ主従が声も静かに宣伝歌 歌ひながらにシトシトと下り行くこそ危ふけれ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ。 テーリスは路々歌ふ。 テーリス『天津御空の雲分けてあもりましたる世の元の 神の御祖と現れませる常世の国の自在天 大国彦の其御裔国別彦の神司 サガレン王の吾君は神地の都、バンガロー 珍の館に現れまして天の下なる人草を 恵み守らせ玉ひつつ仁慈無限の政事 開かせ玉ふ折柄に此世を紊す曲津神 醜の大蛇の現はれてケールス姫を誑惑し 遂に進んで王位をば占領せむと村肝の 心を砕き朝夕に名利にはやる曲人を 説きつ諭しつ知らぬ間に同気求むる悪党の 団結強くつき固め忠誠の士を悉く 無辜の罪名負はせつつ一人も残らず牢獄に 投込みおきて竜雲はおのれが非望を達せむと 企み居たりし恐ろしさ吾は始めて竜雲が 神地の都に来りしゆ怪しき者と推量し 彼が心を探らむと心にもなき阿諛を 会ふ度毎に並べ立て漸く彼に見出され すべての計画一々にそれとはなしにあちこちと 探り得たりし嬉しさよさはさり乍ら徒に あばき立てなば悪神の仕組の罠に陥らむ 心は千々に逸れどもヂツと胸をば抑へつつ 尚も進みて竜雲が腹を叩けば案の定 レール、キングス、ベツトする其謀計はありありと 手に取る如く見えにけるあゝ惟神々々 大国彦大御神何卒彼が計略を 根本的に覆やし心の底より曲神を 改めしめてバラモンの誠の道に降服し サガレン王の御前に清き正しき真心を 捧げまつりて誠忠の臣となさしめ玉へよと 祈りし事も水の泡悪心益々増長し ケールス姫を踏台に種々の画策日に月に 進みて茲にクーデターの大惨劇を演じけり さはさり乍ら天地に正しき神のます限り 善を助けて悪神をこらさせ玉ふは目のあたり 只今日の身は是非もなし暫く姿を山奥に 隠して時を松風の尾の上を吹きて竜雲を 打ち払ふべき神策を心静かにめぐらせつ 捲土重来バンガロー再び王の都とし 吾等二人が忠誠を現はし君の御心を 慰めまつらむ今暫し忍ばせ玉へサガレン王 テーリス、エームス両人が心の限り身のきはみ 千変万化の大秘術尽して御身を始めとし 之の御国を泰山の安きに救ひまつるべし あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と霧込むる河森川の谷道を伝ひ伝ひて、セムの里を越え、松浦の里の小糸の館を指して、忍び行かむと道を急ぎぬ。 エームスは又歌ふ。 エームス『渺茫千里の海原に浮びて清きシロの島 神の司や国の君二つを兼ねて治しめす 国別彦のサガレン王其仁徳は天ケ下 四方の草木に至るまで恵の露を垂れ玉ひ 君のほまれは大空を輝きわたる天津日か 夜の守りとあれませる月の如くに輝きて きらめき渡る星の如まつろひ来る神人も 数ある中に黒雲は忽ち中空に巻き起り 雲入道と現はれし曲の変化の竜雲が 月日を隠し諸星の光を包みて此国は 暫しは常夜の闇となり天の岩戸は閉ざされて 八岐大蛇や醜狐曲鬼探女醜女等は 五月蠅の如く湧きみちて黒白も分かぬ世となりぬ 曲に組する悪神のケリヤ、ハルマを始めとし ベールやメール、ヨール迄名利の欲に晦まされ 大恩深き吾君を見棄つるのみか危害まで 加へて一味の欲望を立てむとしたる愚さよ 御空は雲に包まれて星さへ見えぬ世ありとも 神の伊吹の神風は何時迄吹かであるべきぞ 天地は元より活物と神の教を聞くからは 又もや吹かむ時津風満天墨を流す如 包みし醜の黒雲も拭ふが如く晴れわたり 光輝赫々万物を伊照らし玉ふ日月の 光を見むは目のあたり神の司よ大君よ 必ず心を悩まして身をば弱らせ玉ふまじ テーリス、エームス始めとしサール、ウインチ、シルレング ユーズ、アナンやゼム、エールセールの司の真心は 必ず天に貫徹し誠の花の咲き出でて 再び君の御治世の実りを結ぶは惟神 神の心にましまさむ吾等は之より大君を 松浦の里のバラモンの小糸の館に導きて 茲に神示を奉戴し時節を待つて竜雲が 醜の望みを根底より顛覆させむ待て暫し 神の御水火に現れませる科戸の風の空高く 吹きすさぶまで日月の再び此世に現はれて 悪魔の頭をてらすまであゝ惟神々々 神のまにまに村肝の心を洗ひ身を清め サガレン王の御為に仮令生命はすつるとも 忠義に固き武夫の誠を徹さでおくべきや 赤き心のいつ迄も輝きわたらでおくべきか あゝ惟神々々大国彦大神の 御前に慎み願ぎまつる御前に畏み願ぎまつる』 と声も静かに祈りつつ、轟々たる激流の音を便りに川辺伝ひに霧の中を進み行く。 此谷川には常に濃霧立ちこめ、数多の大蛇、猛獣などの好適の棲息所と自然になつてゐた。山賊などの白昼出没するも、大部分此道筋である。王の一行は竜雲の捕手の追及を恐れて、心ならずも此難路を選まれたのである。 (大正一一・九・二二旧八・二松村真澄録)
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霊界物語 36_亥_シロの島の物語 10 岩隠れ 第一〇章岩隠れ〔九九八〕 サガレン王は路々歌ふ。 サガレン王『常世の国の自在天大国彦の裔の子と 生れ出でたる吾こそは国別彦の神司 イホの都をやらはれてメソポタミヤの顕恩郷 鬼雲彦と諸共に教を伝ふる折柄に 三五教の神司太玉神が現はれて 善言美辞の言霊を放ちたまへばバラモンの 大棟梁と僣称する鬼雲彦はおぢ恐れ 其醜体を暴露していづくともなく逃げ失せぬ 大国別の子と現れし幼き吾を奇貨となし 朝な夕なに虐げて暴威を振ひし天罰の 誡めこそは畏ろしき吾は夫より顕恩の 郷を逃れてフサの国月の国をば逍遥し あらゆる山河を跋渉し千辛万苦を忍びつつ ボーナの海峡打ち渡り錫蘭の島根に安着し 沐雨櫛風の難をへて漸くここにバンガロー 神地の都に進み入り御祖の神の開きてし バラモン教を遠近と布き拡めたる甲斐ありて 万民悉悦服し遂に推されて王となり サガレン王と呼ばれつつケールス姫と諸共に 神の教や祭り事朝な夕なに大神に 誓ひて仕ふる折もあれ雲を起して下り来る 醜の曲津の竜雲が剣の舌に屠られて 姫は全く捕虜となり吾に向つてウラル教 信仰せよと責め来るあゝ惟神々々 大国彦大神の御裔とあれし吾身魂 如何でかウラルの御教に仕へまつらむ事を得む 神の怒りもおそろしと心を極めて唯一人 教を守り居たりしが魔神の勢ひ日に月に 栄え来りて今此処に吾はつれなき草枕 寄る辺渚の捨小舟頼む蔭とて立ちよれば 猶袖ぬらす常磐木の松の下露冷たけれ さはさりながら皇神の恵の露は乾かずに 吾身を霑したまひつつテーリス[※初版では「テーリス」、三版(御校正本)・校定版・愛世版では「テームス」。テームスという人物は第36巻には登場しないのでテーリスが正しいはず。]、エームス両人が 誠忠無比の真心に漸く危難を助けられ 此身一つはやすらかに此処迄落のび来りけり 思へば思へば有難や三五教を奉じたる テーリス、エームス両人がわれに仕へし時よりも バラモン教を奉じつつ心の中は麻柱の 誠一つを立て通し吾を助けて今此処に 誘ひ来りし真心は天地の神も明かに 知ろしめすらむ惟神神の御前に真心を 捧げて感謝し奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも魔神は如何に猛るとも 誠の力は世を救ふ誠一つを立て通し 唯身を神に打任し過去を憂へず将来を 案じ過さず今のみをやすく守りて神の道 この瞬間に善を云ひ善を行ひ善思ふ これぞ天地の神の子と生れ出でたる人の身の 朝な夕なに慎みて尽しまつらむ道ならめ あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 松浦の里に至るまで如何なる曲もさはりなく 心平にやすらかに進ませたまへ惟神 国治立大御神大国彦大神の 御前にかしこみねぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 一行は嶮岨な谷道を、夜を日についで逃れ来りしこととて、足も疲れ体も何となく倦怠の気分になつて来た。もはや此処迄落ち延ぶれば一安心と、谷道の傍に土から生えたるが如く現れたる大巨岩の傍に休息して、一昨夜の騒動を追懐しながら、窈々と話に耽りつつあつた。 早くも竜雲の部下の捕吏は、ヨールに引率され、名自鋭利なる手槍を提げ、装束もいと軽々しく、草鞋、脚絆の扮装にて、黒頭巾を被り黒の衣を甲斐々々しく纒ひながら、サガレン王一行の落ち延び来るを今や遅しと待つて居た。此谷道は東西に嶮しき山、壁の如くに屹立し、其谷間を流るる河森川の細道伝ひに霧籠む中を下り来たのである。濃霧のため、二三間先の人影はどうしても見る事は出来なかつた。 三人は漸くにして身体の疲れも回復し、又もや立つて谷道を下らうとする時、些しく下手に当つて怪しき人声が聞えて来た。テーリスは其声にどこともなく聞き覚えがあつた。テーリスは小声になり、 テーリス『もし王様、あの声は確に竜雲の部下ヨールの声で御座います。悪に抜目のなき竜雲奴、王様を道にて捕へむと、すばしこくも此処に先廻りをして待たせて居ると見えまする。コリヤうつかりしては居られますまい。先づ暫し声を潜めて……幸ひ霧の中、彼等が通過するのを待つ事に致しませうか?』 王『どこ迄も水も漏らさぬ彼等が計略、実に呆れたものだ。汝が云ふ如く、暫く此処に潜むで彼等が動静を窺ふ事と致さう』 エームス『もし王様、アレあの通り四五人の声がザワザワと近よつて参りました。早く此の岩の後に隠れませう』 王はうなづきながら、大岩石の後に二人と共に身を隠した。直径四丈許りもあらうと思ふ大岩石である。三人は濃霧に包まれ、其岩の後に忍んで、ヨールの部下の通過するのを待つ事とした。 ヨールはサガレン王の一行が此岩の後に隠れ居るとは夢にも知らず、何事か小声に囁きながら大岩の前に来り、 ヨール『サア皆の者、此処で暫く息をやすめ鋭気を養ひ、サガレン王、テーリス、エームスの悪人共が落ちのびて来るのを待つ事にしよう。此地点は実に絶好の場所だ。東西に岩山は屹立し、一方は細き喉首のやうな谷道、北は胸突く許りの急坂、此処へやつて来るに相違ない。さうすれば袋の鼠も同様だ。マア悠りと水でも飲んで鋭気を養ひ、首尾克く三人を生擒り、竜雲様にお誉めの言葉を頂かうぢやないか。今が出世のしどきだ。この期を失しては、いつの日か抜群の巧妙を現はす事が出来よう。思へば思へば実に幸運が向いて来たものだワイ』 レツト『ヨールさま、万々一サガレン王が此道へ来なかつたらどうしませう。それこそ薩張駄目ですなア。屹度南下して来るには限つて居りますまい。もしも王が道を北に採り、遠くボーカ湾を越えて、印度のデカタン高原の方へでも逃げて居たら、それこそ骨折損の疲労まうけ、どうする事も出来ないぢやありませぬか』 ヨール『そこが運否天賦だ。吾々に幸福の神が守つて居れば、キツと王の一行は此道を採るに違ひない。もしも又カールの一行に幸福の神が宿つて居るならば、キツと王の一行は、ボーカ海峡を渡つて印度に走る道を採るに違ひない。それだと云つて、一つの体で両方へ行く訳にも往かず、諺に……二兎を追ふものは一兎をも得ず……と云ふ事がある。吾々は神の思召しのまにまに遵奉するに若くはない。さすれば神様は吾々の至誠を御照覧遊ばして、キツと手柄をさして下さるに違ひないわ。それよりも計略が漏れては一大事だ。ここ暫く沈黙を守つて、王の一隊の近づくのを待ち受ける事にしよう。今迄は随分各自に発言機関を虐待して来たが、もはや戦場に向つたも同様だから、言霊の停電を厳命する。皆の奴、静にものを云へ。イヤ、だまつてものを云ひたければ云つたがよい』 ビツト『もはや膝栗毛も疲れ果て、言霊も亦原料が欠乏し、止むを得ず口脚共に停電の余儀なき羽目に陥つて了つた。どうでせう皆さま、胃の腑の倉庫が、余程空虚になつたと見え、喉が汽笛を吹き出しました。一つ此処で弁当を胃の腑へ格納して鋭気を養ひ、時期を待つ事にしませうか』 ヨール『それもよからう。サア早く掻き込め掻き込め』 と各自に、握飯を出して甘さうに頬張つて居る。 王の一行は息を凝らして、此話を一言も漏らさじと聞き耳立てて居た。 レツト『もう是れで腹は出来た。腹の虫奴が頻りに催促の矢を放射し居つたが格納庫の所有者たる吾々も、もはや是で責任が果せたと云ふものだ。悠々自適、国家の興亡われ関せず焉と云つたやうな気分になつて来た。おいビツト、其瓢箪をこちらへ借せ。何と云つても神徳の高きサガレン王に向ふのだから、一杯機嫌でなくては到底刃向ふ事は出来ないからなア』 ヨール『おいビツト、一つ此処で元気をつけて敵を待つ事にしよう。其酒をここへ出せ。併し乍ら、こいつは余程酒精がきついから沢山飲んではいけない。第一足を先に取られるから用心して飲め。決して度を過してはいけないぞ』 と、先づ自分から五升許り入る瓢の口から、グウグウとラツパ呑みを始め、瓢をレツトに渡し終り、両方の手で自分の額をピシヤツと叩き、 ヨール『アヽ何と云ふ酒だ。こんな甘い酒は生れてから飲んだことはない。どうしてまアこれ程甘くなつたのだらう』 ビツト『そりやさうでせうとも。瓢箪酒と云つて、特別酒の味がよくなるものです。さうして今日で三日間も、ドブドブドブと揺つて来たのだから、本当に呑み加減になつて居ます。そこへ体がどことはなしにホツとして居ますから、一入味がよくなつたやうに見えるのですよ。……喉のかわいた時や泥田の水も、飲めば甘露の味がする……と、都々逸にもあるぢやありませぬか』 ヨール『おいレツト、貴様計り独占して居らずに早く俺の方へも廻さぬか』 ビツト『もしもしヨールの大将、そりやちつと御無理です。あなたは先に一口お飲りになつたぢやありませぬか。今レツトが飲んだのだから次が私の番だ。それからランチ、ルーズの両人にも分配してやらねばなりますまい。一順まはる迄まつて下さい。最前から喉の虫がゴロゴロ云つて催促をして居ますから……』 レツト『そんなら早く呑め。さうして早く一順すまして、ヨールさまに渡すのだぞ』 ビツト『承知致しました』 と云ふより早く、逢うた時に笠ぬげ主義で、ガブガブと瓢箪の口から口呑をはじめた。それからクルリクルリと廻り呑にして、いつしか自分の使命も忘れてしまひ、瓢の酒をすつぱりと空にしてしまつた。五人は漸く酒が廻り足を取られ、互に大きな声で管をまき始めた。 (大正一一・九・二二旧八・二加藤明子録)
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霊界物語 36_亥_シロの島の物語 12 無住居士 第一二章無住居士〔一〇〇〇〕 松浦の谷間小糸の里は、一方は千丈の深き谷間、南北に流れ、岩山の斜面に天然の大岩窟が穿たれてゐる。此岩窟に達せむとするには、細き岩の路を右左に飛び越え漸くにして渡り得る実に危険極まる場所である。一卒これを守れば万卒越ゆる能はずと云ふ天然的要害の地点である。かつてバラモン教の友彦が小糸姫と共に草庵を結び、教を開きゐたる場所は、此岩窟より四五丁手前の、極平坦な地点であつて、そこには細谷川が流れてゐる。 サガレン王は此平地に俄作りの館を結び、テーリス、エームスなどに守らしめ、自らは岩窟内深く入りて、回天の謀をめぐらしてゐた。谷路の大岩の傍に王の一行を捉へむと手具脛引いて待つてゐた竜雲の部下、ヨール、ビツト、レツト、ルーズの改心組を初め、サール、ウインチ、ゼム、エール、タールチン、キングス姫は此館と岩窟の間を往復して、暫し此処に足を止め、王の為に心身を悩ましつつあつた。 テーリス、エームスの両人は平地の館に於て、数多の部下を集め、武術を練り、竜雲討伐の準備にかかつてゐる。其処へ白髪異様の老人只一人、コツコツと杖の音をさせながら岩路を登り来り、館の前に立つてバラモン教の神文を一生懸命に称へてゐる。エームスは一目見るより慇懃に其老翁を館に引入れ、湯を与へ食を供し、四方山の話に夜を更かしながら、遂には其老翁が来歴を尋ぬる事となつた。 エームス『モシ、あなたの様な御老体として、此山路を登り来り、且又道伴れもなく行脚をなされるのは、何か深き御様子のある事でせう。どうぞ差支へなくば、概略御物語りを願ひたう御座います』 老翁(無住居士)『私は無住居士といつて、生れた所も知らねば、親も知らず、子もなし、つまり言へば天下の浮浪人だ。途中にて承はれば、此お館にはバラモン教の立派な方々がお集まりになり、武術の稽古をなさると云ふ事、私も斯う年は老つて居れども、武術が大の好物、一つ其お稽古場を拝見したいもので御座る』 エームス『無住さま、あなたは遥々と此処へお越しになつたのは、只単に武術の稽古を見たい為ではありますまい』 無住居士『武術の稽古を見せて貰ひたいと云ふのは、ホンのお前達に対する体好き挨拶だ。実の所はサガレン王様の御危難と承はり、此館にお隠れ遊ばすと聞き、はるばると尋ねて来たのだ』 エームス『其王様を尋ねて何となさる御所存か、それが承はりたい!』 と稍気色ばんで、声を知らず知らずに高め問ひかける。 無住居士『アハヽヽヽ、竜雲如き悪神に蹂躙され、金城鉄壁とも云ふべき牙城を捨てて、女々しくも二人の部下と共に斯様な所まで生命惜しさに逃げ来り、岩蜂か何ぞの様に岩窟の中に身を潜め、捲土重来の準備をなすとは、甚以て迂愚千万なやり方では御座らぬか。此方に準備が整へば、向方にも亦それ相当の準備が出来るはずだ。目的を達せむとすれば、先づ第一に間髪を容れざる底の早業を以て、短兵急に攻めよせねば、到底勝算の見込みはない。今や竜雲は勝ちに乗じ、心おごり、殆ど常識を失つてゐる場合だから、此際に事を挙げねば、曠日瀰久、無勢力なる味方を集め居る内には向方も亦漸く目が醒め、一層厳重な警備もし、防禦力も蓄へ、まさか違へば雲霞の如き大軍を以て、一挙に攻め来るやも計り難い。何程要害堅固の絶処なればとて、敵に長年月包囲されようものなら、水道は断たれ、糧食は欠乏し、居乍らにして降服せなくてはなろまい。これ位な考へなくして、如何して奸智に長けたる竜雲を討伐する事が出来ようぞ。又味方の中にも敵がある世の中、能く気をつけたがよからうぞや』 エームス『如何にも御説御尤も、併し乍ら吾々同志は王に対しては、誠忠無比の義士ばかりの集団なれば、外は知らず、決して左様な醜類は混入してゐない筈で御座ります。あなたのお目にはさう映りますかな』 無住居士『アハヽヽヽ、若い若い、現に此中には間者が交つて居る。それが気もつかぬやうな事では、如何なる目的を立つるとも九分九厘にて、顛覆させられて了ふであらう』 エームス『其間者といふのは誰々で御座いますか』 無住居士『それは今茲では申しますまい。其間者を看破する丈の眼識がなくては到底駄目だ。此館に出入する人々の目の使ひ方、足の歩き方、体の動かし方などを、トツクと御考へなされ!一目にして正邪が分るであらう』 エームスは歎息の色を表はし、双手を組み、さし俯むいて思案にくれてゐる。 テーリスは始めて口を開き、 テーリス『無住さま、今回の吾々の計画は完全に成功するでせうか。何卒御神策があらば御教授を願ひたい』 無住居士『アハヽヽヽ、成功するかせないか、知らしてくれと云ふのかな。左様な確信のないアヤフヤな事で、如何して大事が遂げられるか。第一お前達は心の置き所が違つてゐる。サガレン王に忠義の為に心身を用ゐるは、実に臣下として感ずるの至りである。が、併し乍ら、サガレン王以上の尊き方のある事は知つて御座るか。それが分らねば今度の目的は、気の毒乍ら全然画餅に帰すだらう。否却て大災害を招く因となるにきまつてゐる。それよりも今の内に甲をぬぎ、竜雲の膝下に茨の鞭を負ひ、降伏を申し込む方が近道だ。アハヽヽヽ』 と肩をゆすつて、大きく笑ふ。テーリスは少しも無住の言が腑におちず、たたみかけて息もせはしく問ひかける。 テーリス『吾々は此シロの国に於て、サガレン王よりも尊い者はないと心得て居ります。王以上の尊き者とは如何なる方で御座いますか。どうぞ御教諭を願ひます』 無住居士『其方はバラモン教の神司、兼、王の臣下であらう。三五教に信従し乍ら、時の天下に従へと言つたやうな柔弱な考へより、吾身の栄達を計る為、サガレン王の奉ずるバラモン教に入信つたのであらうがな。どうぢや、此無住の申す事に間違があるか』 テーリス『ハイ、仰せの通りです。併し乍ら決して決して心の底より三五教を捨てては居りませぬ。何れの神の道も元は一株だから吾々の行動に付いては神さまに対し、少しも矛盾はないと心得ますが……』 無住居士『何れの道に入るも誠の道に変りはない。其事は別に咎めもありますまい。さり乍らそこ迄真心を尽して王の為に努めむとするならば、至上至尊の神さまの為に、なぜ真心を尽さないのか。神第一といふ教の真諦を忘れたのか。左様な心掛では何程千慮万苦をなすとも到底駄目だ。神の御力にすがり奉りて、サガレン王を助けむとする心にならば、彼の竜雲如き曲者は、物の数でもあるまい。誠の神力さへ備はらば、竜雲如きは日向に氷をさらした如く、自然の力に依りて自滅するは当然の帰結である。何を苦しんで、数多の同志を集め、殺伐なる武術を練習するか。武は如何に熟練すればとて一人を以て一人に対するのみの働きより出来まい。無限絶対の神の力に依り、汝が霊魂の上に真の神力備はらば、一人の霊を以て一国の霊に対し又は億兆無数の霊に対しても恐るる事はなき筈、又霊力さへ完全に備はらば、汝一人の力を以て億兆無数の力に対し、又汝一人の体を以て億兆無数の体に対抗し、よく其目的を貫徹する事を得るであらう』 テーリス『重ね重ねの御教訓、身にしみ渡つて有難う存じます。就いては奥の岩窟にサガレン王が居られますから、御案内致します。どうぞ一度御面会を願ひます』 無住居士『別に王に面会する必要も認めぬ。王に於てわれに面会を望むとあらば、暫時の間タイムをさいてやらう』 エームス『何れの御方かは知りませぬが、さう固く仰有らずに、どうぞ王さまの前までお越し下さいませ。王は定めてお喜び遊ばす事でせうから……』 無住居士『アハヽヽヽ、そこが矛盾してゐるといふのだ。われは天下の宣伝使、五大洲を股にかけて万民の不朽不滅の魂に永遠無窮の命を与ふる神の使の宣伝使だ。僅にかかる小国を治めかぬる如きサガレン王に対して、われより訪問するとは、天地転倒も甚しきものだ。サガレン王は単に此島国の人間の肉体の短き生命を保護し監督するだけの役目だ。霊魂上の支配権は絶無だ。かかる体主霊従的精神の除れざる内は、いかに神軍を起すとも、悪魔の竜雲を言向和す事は思ひも寄らぬ事である。最早われは此場に用なし、さらば……』 と云ふより早く、いそいそとして立去らむとするを、テーリス、エームス両人はあわてて袖を引とめ、 テーリス、エームス『もしもし無住居士さま、暫くお待ち下さいませ。只今承はれば、あなたは天下の宣伝使と仰有いましたが、宣伝使ならば、何卒吾等が誠忠を憐み、最善の方法を教へ下さいませ。そして貴方は何教の宣伝使で御座いますか。それが一言承はりたう御座います』 無住居士『別に竜雲の如き悪魔を言向和すに就いては議論もヘチマもあつたものでない。只汝が心にひそむ執着心と驕慢心と自負心を脱却し、只々惟神の正道に立返りなばそれで十分だ。一つの計画も何も要つたものでない。アハヽヽヽ』 と言ひ棄て、又もや袖ふり切つて立去らむとする。テーリスは泣かぬ許りに跪き、無住の杖をグツト握りながら、 テーリス『エームスよ、早く王さまをここへお迎へ申して来よ。無住居士に今帰られては、吾々は暗夜に航海する舟の艫櫂を失うたやうなものだ。サア早く早く……』 と急き立つれば、エームスは打頷きながら、急いで危き岩の壁を伝ひ岩窟さして急ぎ行く。 無住『貴重なタイムを、仮令一息の間も空費するは、天地の神さまに対して、誠にすまない。最早無住の用はなき筈、よく本心に立帰り、直日に見直し聞直し、自分の心と相談をなされ』 テーリス『ハイ、重ね重ねの御教訓、誠に有難う御座います。就いては今暫くの間御待ちを願ひます。王さまの此処へお出でになる迄……』 無住居士『サガレン王が今の如き精神にてわれに面会が叶ふと思うてゐるか。取違するにも程があるぞよ。われの正体を感知する事が出来るか』 テーリス『ハイ神様とも宣伝使とも見分けがつきませぬ。何卒々々暫くの御猶予を御願申します』 と合掌し、熱涙を頬に流し乍ら頼み入る。 無住居士は声爽かに、老人にも似ず、勇ましき声音にて歌ひ出したり。 無住居士『あゝ惟神々々神が表に現はれて 善と悪とを立別けるとは云ふものの世の中は 顕幽一致善悪不二善もなければ悪もない 心一つの持ちやうぞサガレン王に仕へたる テーリス、エームス両人よ神を力に誠を杖に 朝な夕なに真心を洗ひ浄めてサガレン王の 君の命は云ふも更此世の祖と現れませる 皇大神の御前に天地自然の飾りなき 誠の心を捧げつつ祈れよ祈れ国の為 天地の間に生ひ立てるすべての物になり代り 罪を贖ひ千万の悩みをわが身に甘受して 神の大道にまつろひし其真心を現はせよ 神は汝と倶にありとは云ふものの汝が心 いかでか神の守らむや神の守らす身魂には 塵もなければ曇りなし心の空は日月の 光さやけく照りわたり平和の風は永遠に吹き 花は匂ひ鳥歌ひ実りゆたけき神の国を 心の世界に建設し宇宙の外に身を置いて 森羅万象睥睨し元の心に帰りなば 汝は最早神の宮神の身魂となりぬべし あゝ惟神々々神の大道をつつしみて 進めよ進めバラモンの教を奉ずる神司 それに従ふ人々よ此老翁が一言を 別れに臨みてのこしおくあゝ惟神々々 われの姿を村肝の心を定めてよく悟れ サガレン王の来る迄待ちてやりたく思へども タイムの力は何時迄も元へ返さむ由もなし いざいざさらばいざさらば二人の誠の神司 ここにて袂を別つべし』 といふかと見れば、飛鳥の如く老躯を物の苦にもせず、足を速めて、早くも濃霧の中に消えて了つた。此老人は果して何神の化身であらうか? (大正一一・九・二二旧八・二松村真澄録)
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霊界物語 36_亥_シロの島の物語 14 歎願 第一四章歎願〔一〇〇二〕 サガレン王は館をたつて、再び元の岩窟にエームスを従へ立帰り、奥の間に端坐し天津祝詞を奏上し、且神歌を謡ふ、其歌。 サガレン王『あゝ惟神々々広大無辺の天地の 神の慈愛に比ぶれば吾は小さき者なりし セイロン島の浮島に神の司と現れて バラモン教の御教を世人に伝へ居たりしが 已むを得ずして王となり顕幽一致の政治 朝な夕なに仕へつつ天地の神に相対し 尊き清き神業を心の底より仕へしと 思ひ居たりし愚さよ広大無辺の大宇宙 五十六億七千万宇宙の数はありと聞く 僅かに一つの小宇宙照らさせ給ふ天津日や 月の光の照る限り青人草や鳥獣 草木の生ひ立つ葦原の瑞穂の国の片傍り 大海原に漂ひし此神国は大海に 投げ捨てられし一粒の粟より小さき物なりし かかる天地に跼蹐し善ぢや悪ぢやと争ひて 無限の欲に取りまかれ仁慈無限の大神の 大御心も悟らずに来りし吾は愚者 定めし天地の大神は吾等が小さき心根を 嘸や笑はせ給ふらむ仮令宇宙を吾一人 知ろしめすべき世ありとも広大無辺の大宇宙 其現状に比ぶれば例へにならぬ物ぞかし あゝ惟神々々神は宇宙を知ろしめす 其神徳を省みて今より後は村肝の 心を改め信仰の誠の道に服ひて 此身の続かむ其限り吾身に及ぶ麻柱の 誠を捧げ大神の其功績の万分一に 謹み報い奉るべし左守の神と仕へたる タールチンやキングスの姫の命よエームスよ 其他の百の司達汝も今より魂を 清く正しく宣り直し小さき浮世の執着を 科戸の風に払拭し仕へまつれよ惟神 神に誓ひてサガレン王の神の司は宣り伝ふ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 タールチンはサガレン王の歌を聞き嬉しく立ち上り、心欣々として謡ひ舞ふ。 タールチン『あゝ惟神々々神の恵みの深くして 無明の闇は開けにけり水も眠れる丑満の 時刻はたちて寅の刻卯の正刻となりぬれば 東の空を輝かし豊栄昇る日の御影 尊き清き御姿を現し給ひて葦原の 神の御国を照らしまし青人草は云ふも更 鳥獣や虫族や草木の片葉に至る迄 守らせ給ふ珍の国其海原の片隅に 弥永久に浮かみたる七五三を張りたるシロの島 其真秀良場に現れまして神の御代に大国彦の 君の命とあれませる力もわけて自在天 神の御言を畏みて世人の為めにたてられし バラモン教の神司人子の王とあれまして 吾等を治め給ひたる其功績は弥高く 天教山の如く也空ゆく雲も憚りて 影さへかくす王の稜威包ませ給ひて今此処に 珍の言霊宣り給ひ謙譲ります尊さよ 人は神の子神宮と昔の人は宣りつれど 八岐大蛇のはびこりて青人草の身霊をば 千代の棲家と定めたる今の世人は悉く 名ばかり清き神の宮誠は曲の容器ぞ 小さき欲にからまれて憎み争ひ泣き叫び 焦熱地獄や水地獄修羅の巷はまだ愚か 根底の国に陥りて阿鼻叫喚の呻き声 聞えもせずに得々と知らず知らずに魔の道を 辿る世人の憐れさよ吾等も神に朝夕を 仕へ奉れる身なれども心の闇は晴れやらず 身魂の穢れは何時迄も洗ひきれない罪人よ されども神は御心を天より広く神直日 大直日にと見直して許し給へる有難さ 罪や穢れになづみたる卑しき人の身を以て 如何でか神の御心にかなひ奉らむ由もなし 只何事も吾々は神の心を心とし 大慈大悲の神の道普く世人に宣り伝へ 心を筑紫の果て迄も仕へ奉らむ惟神 神の御前に謹みて畏み畏み祈ぎ奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 キングス姫は白扇を開き立ち上り、長袖しとやかに自ら謡ひ自ら舞ふ。 キングス姫『豊葦原の珍の島神の御国と称へたる 四方は海に包まれし清き尊きシロの島 神地の都に現れまして恵みの露に四方の国 青人草に隈もなく注がせ給ひし大君は 如何なる枉の猛びにや尊き九五の身を以て 痛々しくも松浦の小糸の里に下りまし 天津日影も碌々に通ひもはてぬ岩窟に 尊き御身を忍ばせて国の御為め人の為め 心を尽し給ふこそ実に有難き極みなり 何処の空より来りしか心汚き竜雲が 聞くも尊き姫君を醜の手振に誑らかせ 掻き乱したる悲しさよ仮令此身は海原の 藻屑となりて朽つるとも王に仇する曲者を 誠の神の言霊に言向け和し世の中に 騒ぎ渡れる黒雲を払ひ清めで置くべきか あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 吾等夫婦が真心を大御心も平かに 聞し召されてシロの島無事太平に風もなく 曇りも知らぬ神国と守らせ給へ惟神 神の御前に祈ぎ奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも悪魔は如何に強くとも 誠の神の在す限り弥永遠に君ケ代は 安く穏に治まりて百の民草打ち揃ひ 喜び勇みて君ケ代を群がり来る小雀の 千代万代と称へまし上下和楽し神人の 睦び親しむ御代となり国の栄えをミロクの世 厳と瑞との言霊に救はせ給へと祈ぎ奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 エールは立つて謡ふ。 エール『人は神の子神の宮誠一つを立て通し 道にかなひし行ひを朝な夕なに励みなば 天ケ下には恐るべき仇も曲津もあらざらめ さはさり乍らバラモンの王に仕へし神司 アナン、セールやシルレングユーズの友は竜雲が 枉の企みに捕はれて底ひも知らぬ陷穽 陥みたりと聞き及ぶかかる便りを聞く吾等 此まま袖手傍観し朝な夕なに友垣の 艱みを眺めて過さむや天則違反か知らねども 吾等は親しき友の為め生命を的に立ち向ひ 神地の都に蔓れる心汚き竜雲や 枉人達を打ち鞫め四人の友を逸早く 救ひ出さでおくべきか一日も早く片時も 此目的を達成し神の大道に仕へたる 信徒たるの誠をば尽しまつらむ惟神 神の司のサガレン王御心安く聞し召し 吾等が願を許しませ神は吾等と倶にあり 悪を言向け善人を救ひて神の御恵に 霑はせ給へ神司わが大君の御前に 慎み敬ひ祈ぎ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と王に向つて四人の神司を救ふべく、神地の都に遣はされむ事を懇願する。サガレン王を始めとし、タールチンやキングス姫、テーリス、エームスの上司は、エールの言霊に頭を傾け、両手を組んで、稍暫し無念の涙に暮れて居た。 かかる処へ美はしき女の宣伝歌、谷に木霊を響かせつ音楽の如く聞え来る。あゝ果たして如何なる人の宣伝歌であらうか。 (大正一一・九・二二旧八・二北村隆光録)
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霊界物語 36_亥_シロの島の物語 21 火の洗礼 第二一章火の洗礼〔一〇〇九〕 サガレン王に真心を捧げて仕へまつりたる 誠忠無比の神司アナン、セールを始めとし ユーズの司シルレング数多の同志と諸共に 義勇の軍を召集し夜陰に乗じて竜雲が 秘む神地の城塞に破竹の勢凄じく 侵入するや竜雲が深き企みの陥穽 ありとも知らず軽進し思はぬ奇禍に陥りて 高手や小手に縛せられ無残や四人は牢獄に 投入れられて朝夕にサガレン王の身の上を 案じ煩ひまちまちの噂をなして日を送る 時しもあれや曲津神牢番頭のベール奴が 曲津の神の命令を固く守りて朝夕に 四人の司の身辺を監視するこそ恐ろしき 如何はしけむ竜雲は俄に心機一転し 四人の司を牢獄より一時も早く解放し 救ひ出せよと下知すれば醜のベールはブツブツと 小言タラタラ面をば南瓜の如くふくらせて スタスタ来る牢の前いろいろ雑多と押問答 四人は一同口揃へ竜雲如き悪神の 指図をうけて吾々はいかで此場を動かむや それより汝を初めとし曲津の憑りし竜雲が 一時も早く悔悟して誠の道を表白し 尻尾を下げて吾前に来るにあらずば何時迄も 出獄ばかりは拒絶すとやり返したる健げさよ ベール司は怪しがり固き鉄扉を引あけて 思はず知らず中に入り一言二言言霊の 征矢を放ちし間もあらず無残やベールはアナン等が 同士に拳固の雨霰所構はず打撲され 悲鳴をあげて救ひをば求むる折しも牢獄を 見まはり来りし獄卒の敏くも耳に轟きて 靴音高く駆来るヤツトは驚きベールをば 救ひ出さむと戸を開き一足二足進み入り あたり見まはす折もあれアナン、セールやシルレング ユーズの四人は二人をば高手や小手に縛しめて 悠々牢獄を立出でぬ二人は歯がみをなしながら 目を剥き口を尖らして曲者今や逃れたり 数多の獄卒逸早く彼等四人を縛せよと 声を限りに呼ばはれど何の響もなくばかり 吠え面かわくを一同は尻目にかけて嘲笑ひ 悪の報いは此通り早く改心現はせと 言葉を残してどことなく思ひ思ひに城内の あなたこなたに隠れける俄に吹来る山颪 大木を倒し枝を裂き無残に家屋を滅茶々々に 吹飛ばすこそ物凄き風の力に城内の 建築物の中よりは炎々濛々噴き出す 煙の中よりペロペロと紅蓮の舌をばはき出して 瞬く間に館をば将棋倒しに嘗めつくす 数多の男女は右左うろたへ廻りて泣き叫ぶ 阿鼻叫喚の地獄道見るも無残の次第なり ○ ケールス姫や竜雲は火焔の舌に包まれて 息もふさがり闇雲にうろたへ騒ぎ息の根の 今や切れむとする所忽ち聞ゆる宣伝歌 ゴウゴウガラガラバタバタと館の棟のおつる音 勢猛き風の鳴り老若男女の声限り 救ひを叫ぶ叫喚の声を圧して聞え来る 其言霊の勇ましさ甦りたる心地して 尊き神の御救ひと仰ぎ喜ぶ胸の内 咫尺弁ぜぬ所迄煙に包まれ苦しみし ケールス姫は意外にも俄に心をおちつけて 館の棟のバチバチと燃え行くさまを打眺め 覚悟をきはめ居たりしが之に反して竜雲は あわてふためき右左前や後とかけめぐり 柱に頭を打つけてアイタヽヽツタあゝ苦しい 息はふさがる血は滲む誰か忠義の人が来て われをば救ひ出せよともがき苦しむ憐れさよ。 ○ 間近く聞ゆる宣伝歌其言霊を調ぶれば サガレン王を始めとし瑞の御霊の君子姫 タールチン司や清子姫キングス姫を始めとし エームス、テーリス、ゼム、ルーズヨール、レツトやターレンの 涼しき声と聞えたり。 (サガレン王たち一同)『あゝ惟神々々神が表に現はれて 善悪正邪を立て別ける此世を造りし神直日 心も広き大直日只何事も人の世は 直日に見直し聞き直し竜雲司の過ちは 只今ここで焼き直す三五教やバラモンの 教に仕ふる宣伝使吾は君子の神司 吾は国別彦の神神の力を身に受けて 神地の城に立て籠る曲津の魂を焼き直し 火の洗礼を施してすべての汚れを焼き清め 焦熱地獄は忽ちに高天原と一変し 仁慈無限の大神の教を伝へ仁政を 布き施して国民を安きに救ひ助けむと 吾等はここに向うたり曲のかかれる竜雲や ケールス姫を始めとしテール、ハルマや其外の 醜の醜人悉く汝が胸に秘みたる 八十の曲津を追ひ出し誠の道に帰れよや 神は至愛にましませばいかに心の曲りたる 汝等なりとて徒に命は取らせ玉ふまじ あゝ惟神々々神の恵を尊みて 一日も早く村肝の心を直せ身を清め 元つ身魂になれよかし神地の城は今日よりは サガレン王のしろしめす珍の聖場となりにけり 牢獄の中に繋がれしアナン、セールやシルレング ユーズの司は今何処早く此場に現はれて 彼等曲津の逃げまどひ苦しみ悩む友輩を 煙の中に飛び込んで一人も残さず救ひ出せ 神は吾等を守りまし尊き清き汝等を 厚く守らせ玉ふらむ進めよ進めいざ進め 紅蓮の舌を吐き出す火焔の中も何のその 神に叶へる吾々は火にさへ焼けず水にさへ 溺るる事なき強者ぞあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 サガレン王は黒焔の中に立つて、宣伝歌を歌ひ乍ら、数多の部下を指揮し、城内の老若男女を救ひ出さしめむと努力して居る。 君子姫、清子姫は奥殿深く猛火の中に進み入り、死を決し、観念の臍を固めて、泰然自若たるケールス姫を小脇に抱へ城の馬場に救ひ出し、清子姫は甲斐々々しく、度を失うて狂ひ居る悪魔の張本人竜雲を引抱へ、君子姫に従ひて、城の広場に救ひ出しぬ。其外数多の人々を一人も残さず、サガレン王の率ゐ来れる至誠の勇士、煙の中をかけ巡り、無事に人命を救ひたるこそ、全く神の御助けと知られける。どこともなしに又もや聞ゆる宣伝歌、敵と味方の区別なくいと殊勝げに耳に入る。 (天の目一つの神)『此世を造り固めたる誠の神が現はれて 善悪正邪を立別けるわれは北光神司 神素盞嗚大神の神言畏み斎苑館 後に眺めてはるばるとフサの国原横断し 月の国中南行し海を渡りてシロの島 サガレン王や君子姫竜雲司やケールスの 姫の命を助けむと雲路を分けて下り来し 天の目一つ神なるぞ火の洗礼は恙なく 神のまにまに終りけり此城内に立籠る 八岐大蛇や醜狐曲鬼共の眷族は 火の洗礼に怖ぢおそれ黒雲起し雨を呼び 風のまにまに逃げ散りぬ今や神地の聖場は 汚れも曲も払拭し水晶の如く清まりぬ あゝ惟神々々神の御水火を授かりて 此世に生れ出で来る万の物の霊長と 称へられたる人の身は神に等しきものなれば いかでか曲のあるべきぞ名位寿富の正欲に 清き心を悩まされ遂には体主霊従の 悪魔の風にそそられて利己一辺の魂となり 清き身魂は忽ちにそこなひ破れ汚れはて 曲の棲処となるものぞ曲津の巣くふ竜雲も 心に悔悟の花咲きて今は罪なき神の宮 汚れも咎めも更になしケールス姫を始めとし 竜雲司に諂ひて体主霊従をきはめたる 百の司や下人よ老若男女の嫌ひなく 心を安らに平かに吾身の前に現はれて 今迄犯せし過ちを皇大神の御前に 早く謝罪し奉れ大恩受けしサガレン王の 神の命は今ここに魂の光りを現はして 清く現はれ玉ひけり神素盞嗚大神の 八人乙女の其中に目立ちて健げな君子姫 御供に仕ふる清子姫タールチン司やキングス姫の 貴の命やエームスの清き司も今ここに 汝等百の人々を救はむ為に現れましぬ あゝ惟神々々かくなる上は天ケ下 四方の国には仇もなく曇りも汚れもなきものぞ 老若男女の隔てなく上と下との分ちなく 城の馬場のいや広く心を清めて一所に 集まり来れよ惟神神に誓ひて目一つの 神の司が今此処に汝の為に宣り伝ふ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ了ると共に、天の目一つの神は煙を分けて、コツコツと杖をつき乍ら、一同が避難の場に微笑を浮べつつ現はれにける。 (大正一一・九・二四旧八・四松村真澄録)
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霊界物語 36_亥_シロの島の物語 24 三六合 第二四章三六合〔一〇一二〕 キングス姫は立上り、銀扇を拡げて歌ひ舞ふ。 キングス姫『白雲山の山麓にそそり立ちたる神館 天地を包みし黒雲も今や全く晴れわたり 正義の光は日月の輝く御代となりにけり タールチンの吾夫はサガレン王に見出され 左守の神と任けられて朝な夕なに真心を 尽して仕へゐたりしが何処ともなく降り来る 曲の司の竜雲が舌の剣に貫かれ 其身も危くなりければバラモン教の大神に 朝な夕なに真心を捧げて祈りし時もあれ 心傲ぶる竜雲が妾に向つて恐ろしや 天地許さぬ恋雲の心汚き其艶書 吾背の君の目を忍びいらへをなせと迫り来る 余りの無道に呆れ果て天地に神はなきものか 誠の神のいますなら此黒雲を逸早く 晴らさせ玉へと祈る折吾背の君は側近く 進ませ玉ひて竜雲が艶書を見せよと恥かしや 迫りますこそ是非なけれ顔赤らめて竜雲が 心乱れし艶書を吾背の君に相渡し 夫婦和合の謀計茲に返書を認めて 恋に迷ひし竜雲を夏風涼しき藤の森 大木の下に誘ひつ企みも深き陥穽 道の真中に相穿ち今や遅しと待つ内に 神ならぬ身の竜雲はかかる企みのある事を 夢にも知らず夜に紛れ館を一人立出でて 恋しき女の只一人空を眺めてわれ待つと 思ひ詰めたる愚さよ竜雲忽ち坂路に 吾背の君の穿ちたる無残や穴におち込めば 木蔭に潜みしタールチン君の仇をば滅すは 今此時と勇み立ちかねて用意の鍬をもち 苦しみ悶ゆる竜雲の頭の上よりバラバラと 岩石交りの土塊を蔽ひかぶせて何気なく 吾家をさして帰りけり悪運尽きざる竜雲は 思ひ掛なくエームスの神の司に助けられ 命カラガラ城内に慄ひ慄ひて立帰り あくるを待つてエームスを吾側近く呼び出し 汝はわれの危難をば救ひし功績はよみすれど タールチンやテーリスと心を協せて吾身をば ベツトせむとの企みなりかくなる上は一時も 容赦はならぬと言ひ放ち情容赦も荒縄に 手足を縛りて牢獄に投込みけるぞ無残なれ あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 吾等夫婦は牢獄に捕へられたる身乍らも 少しの苦痛も感じなく神の賜ひし吾魂は 天地を広く逍遥し東雲近く旭かげ 昇らせ玉ひて六合を照らさむ時を待つ内に アナン、ユーズの神司義兵を起して城内に 鬨を作つて攻め来る其勢ぞ勇ましき 吾等夫婦は忠勇の神の司に助けられ サガレン王の隠れます小糸の里の岩窟に 暫しかくれて竜雲を誅伐せむと謀計 めぐらす折しも三五の神の司の宣伝使 北光神の現れまして神の誠の御心を 完美に委曲に説き諭し心にかかりし村雲を 洗ひ玉ひし嬉しさよサガレン王を始めとし 君子の姫や清子姫吾背の君やエームスや テーリス、ウインチ、ゼム、エール百の司と諸共に 言霊軍を編成し風に旗をば翻し 旗鼓堂々と山路を単縦陣をはり乍ら 攻めよせ来りし勇ましさ又もや北光彦神 ここに現はれましまして善悪正邪の道を説き 敵と味方の隔てなく心の空の村雲を 伊吹払ひて救ひまし神人和楽の瑞祥を 八尋の殿に集まりて祝ぎまつるぞ嬉しけれ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令命はすつるとも神の御為国の為 心尽しの大丈夫が神と君とに捧げたる 其真心は永久に千引の岩のいや固く 千代も八千代も動かざれ神は吾等を守ります 吾等は神の子神の宮神に等しき行ひを 現はしまつり世の人を神の大道に導くは 神の司と任けられし吾等の尊き務めなり 国治立大神や塩長彦大御神 大国彦の御前に真心捧げて願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 エームスは立上り祝歌を謡ふ。 エームス『常世の国の自在天大国彦を祀りたる バラモン教の神館顕恩城にあれませし 大国別の貴の御子国別彦の吾君は 心汚き曲神に虐げられて聖地をば 後に見すててはるばると百の悩みに堪へながら 大海原を乗越えて波に浮べるシロの島 珍の御国に着き玉ひバラモン教の大道を 心をつくして遠近に開かせ玉ふ有難さ セイロン島の国人は君の御徳を慕ひつつ 遠き近きの隔てなく集まり来りて大神の 恵に浴し吾君の其仁徳に感激し 遂には君を王となし大峡小峡の木を伐りて 珍の館を建設しサガレン王と奉称し 主師親三徳兼備せる神の司よ大君と 上下一般喜びて仕へまつれる時もあれ 醜の魔風のふきすさび隙行く駒の恐ろしく 城内深く侵入しケールス姫を手に入れて ウラルの教を隈もなく此国内に拡めむと 企みし曲津の竜雲が天運ここに相尽きて 今は全く旧悪を吾大君の御前に つつまずかくさず言上し救ひを求むる世となりぬ 思へば思へば過ぎし夜半月見をせむと藤の森 峰に上りて吹き来る夜風に汗を拭ひつつ 月の光をほめながら坂道下る折柄に 辷り落ちたる陥穽訝しさよと窺へば 思ひもかけぬ人の声こは何者の悪業か おちたる人は何人と供を家路に走らせて 鋤や鍬をば数多く使ひて漸く救ひ上げ 月にすかして眺むれば豈計らむや朝夕に 君に仇する曲津神心汚き竜雲と 悟りし時の残念さ斯うなる上は是非もなし 天地の神の御心に任さむものと断念し 家路に帰り一夜さを明かす間もなく竜雲が 捕手の奴に捕へられ案に相違の牢獄に 投込まれたる無念さよあゝさり乍らさり乍ら 神は至愛にましませばいかでか悪魔の竜雲を 見のがし玉ふ事やあるあゝ待て暫し待て暫し 心を清め身を清め尊き神の御救ひに これの牢獄をぬけ出しサガレン王の御為に 八岐大蛇の宿りたる醜神たちを悉く 神の伊吹に吹き払ひ清明無垢の聖場と 立直さむは目のあたりあゝ惟神々々 大国彦の御神よわれらが尽す誠忠を 憐み玉へと祈る折アナン、セールやウインチや ゼムの司が時を得て義勇の軍を編成し 進み来りて吾々を救ひ玉ひし嬉しさよ 勇気はここに百倍し勢込んで竜雲が 居室をさして進み行くあはれやユーズを始めとし アナン、セールやシルレング誠の司は室内の 俄作りの陥穽におち入り玉へば諸人は 曲の巣くへる此館深入りするは虞あり 一先づここを引返し再び軍備をととのへて 彼竜雲が輩を剣の威徳に斬りはふり 殲滅せむといひ乍ら軍を返すもどかしさ あゝ惟神々々神の此世にましまさば 悪を退け善神を何故助け玉はざる などと愚痴をばこぼしつつ思ひ思ひに一同は 一先づ姿をかくしけるサガレン王はテーリスや エームス二人に助けられ河森川の坂道を 下りて時を松浦の小糸の里に至りまし 正義の勇士を駆り集め再び竜雲誅伐の 準備をすすませ玉ふ折北光彦の神司 鳩の如くに降りまし続いていでます君子姫 清子の姫の宣伝使吾大君と諸共に 心を協せ御力を一つになして宣伝歌 歌ひて進む勇ましさ神の恵の幸はひて 今日の喜び松の世の堅磐常磐の礎を 築き玉ひて永久に白雲山の雲もはれ 神地の都の庭固く千引の岩の其上に 千代の住処を固めつつ神を敬ひ民を撫で 治め玉はむ今日の日は五六七の御代の開け口 一度に開く木の花の咲耶の姫の御姿 蓮の花の一時に匂ひ出でたる目出度さよ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 此の外数多の神司の祝歌は沢山あれども、紙面の都合に依りて省略したり。 因にサガレン王は天の目一つの神の媒酌に依り、君子姫を娶つて妃となし、シロの島に永久に君臨する事となりぬ。又エームスは目一つの神の媒酌にて清子姫を娶り、サガレン王が側近く右守神となつて、顕幽一致の神政に奉仕し、ケールス姫は悔い改め、天の目一つの神の弟子となり、宣伝使を許されて天の下四方の国々を巡教し、竜雲は此島を放逐され、本国印度に帰り、心を改めて大道の宣伝に従事せしといふ。惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・九・二四旧八・四松村真澄録)
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(2205)
霊界物語 38_丑_出口王仁三郎自叙伝2 01 道すがら 第一章道すがら〔一〇三八〕 『天帝一物を創造す。悉く力徳による。故に善悪相混じ美醜互に相交はる』 これ道の大原の初発に示されたる聖句である。つらつら考ふるに、蒼空を仰望しても海原を見ても、山川虫魚を見ても、悉く善悪美醜の区別が様々あつて、『此世界は至善至美の神様がお造りになつた以上は、悪といふ事は微塵もなく、至善至美の物ばかりであらねばならぬ』と云ふ人がありますが、決してさうはゆきませぬ。或人が、喜楽に向つて詰問して曰く、 『天帝果して全智全能にして、万物を造りかつ真善美を好むものならば、何故其全智全能の神徳によつて、美なるもの善なるもののみを拵へて、醜悪なるものを拵へぬ筈である。神の意志果して真善美を愛するならば、元より善ばかりを拵へて置けば、別に悪を造つておいて悪を改めしめむとて宣伝に努力するの必要は無いではないか。要するに天帝は自分から醜悪なるものを造り、其醜悪を嫌ふと云ふのは自家撞着も甚だしい矛盾である。吾等はここに至つて全智全能の神を疑はざるを得ず』 と云つた人が沢山にあつた。然し乍ら何人と雖も今日迄の諸々の宗教、倫理、道徳説が貧弱なる頭悩に浸み込んで居る人の考へから見れば、実に尤も至極の疑問である。喜楽等も少年の頃から此問題には大変に心を砕いて来たものである。時の古今を問はず、洋の東西を論ぜず、凡ての哲学者、宗教家も此問題については頻りに研究をして居た様である。世界皆善論を唱へるものもあれば、世界皆悪論を唱へるものも現はれて居る。又『此世は夢の浮世ぢや』と云つて厭離穢土と称し、『未来の天国浄土を楽しむのが人生の大目的だ』などと区々の説を立て、所説紛々として落着く所を知らず、宙に迷ふて居る姿である。古今の学者が一人として今日に至る迄、大宇宙の本体を捉え、人生の真目的を諒解したる者は無い様である。仏教にしても儒教にしても、現代我国の十三派の神道宗教にしても、其他種々雑多の宗教にしても、決して宇宙の真相を解決し得た者は無い。然し乍ら尊い事には、我国には皇祖皇宗の御遺訓なる古事記、日本書紀其他の古書が伝はり、言霊の明鏡が歴然として輝き、宇宙の真理を解決すべき宝典に乏しくはなけれども、闇黒なる今日の思想界に於ては、此真理を諒解する丈けの偉人も賢哲も学者も現はれて居ないと云ふ事は、国家社会の為めに実に慨嘆の至りである。 喜楽は幼時より我国体の淵源を極めむとし、且明治卅一年以後今日に至る迄、殆ど廿五年間、艱難辛苦を積み神界の真相の一端を極めた結果、宇宙真理の一部を『霊界物語』として発表する事となつたのである。道の大原の聖句にも、天地間の万物に善悪美醜の混交せるは、全く力徳の塩梅によるものと断定を下してあるのは、実に万古不易の真理である。 偖此力徳と云ふ事は、一朝一夕に説き明す訳には行かぬ。約言すれば、動、静、解、凝、引、弛、合、分の八力の活動の如何によつて、善悪美醜大小強弱が分れるのである。『人は天地の花、万物の霊長』と称へられて居るが、大本では一歩進んで、 『神は万物普遍の霊にして人は天地経綸の司宰者なり』 と断定を下して居るのである。これも出口教祖の廿七年間の筆先の大精神を通観して得た所の断案である。斯くの如く尊き天地経綸の司宰者たる人間にも、亦善悪美醜大小強弱の区別があつて、中には天地経綸の司宰者どころか、却て天地経綸の妨害をなす人間が沢山に出来て居る。斯くの如き人間が現はれて来るのは、要するに一つは教育の如何にもよるのは無論だが、真の原因は決してさうでは無い。肝賢の大原因は天賦の力徳の過不及による処の結果で、お筆先の所謂身魂の因縁性来によるものである。概して人間の肉体の善悪強弱は、凡て力徳の過不及により生ずる所の結果である。人の心の善悪智愚は元より教育によつて其一部分は左右せらるるものである。然し人は神様に次での尊きもので、世界を善に進め美に開くべき天職を天賦的に持つて居るものである。人間は小なる神として又神の生宮として此世に生れ出でたる以上は、終生神の御旨を奉戴し天地の御用を助け奉らねば、人と生れ出でたる本分が尽せないのである。人間は裸体で生れて来たのであるから、又裸体で死ねば宜いと云ふ様な棄鉢根性では、人生天賦の職責が遂げられぬのみならず、折角神界より選まれて神の生宮として世に生れさして頂いた、大神の御聖旨に背く罪人となるのである。 人生の本分としては、第一に天地神明の大業に奉仕し、政治をすすめ、産業を拓き、且真の宗教を宣伝し、道義心の発達を助けて世界の醜悪を駆追し、真善美の天地に進めて行かねばならぬのである。他人は如何でも構はぬ、自分のみ清く正しければ宜いのだと云つて、聖人気どりで済まして居る様な事では、人間としての天職を全くしたものと云ふ事は出来ないのである。喜楽は常に政教慣造の進歩発達を祈願し、且完成せしむるを以て人たるものの天職だと考へて居る。皇祖天照大神様が建国の御趣旨は、政教慣造の四大主義の実行であつて、 一、政は万世一系也 一、教は天授の真理也 一、慣は天人道の常也 一、造は適宜の事務也 即ち此四大主義を実践躬行するのが人生の本分であつて、特に我神国に生れたものは、一層責任の重且つ大なるものである事を忘れてはならぬ。吾人は何れも此主義に向つて、最も忠実に勤め奉らねばならぬのである。吾人は人生の重大なる責任を感じ、如何しても肉体の安楽のみを貪る事は出来ない。人生の本分を幾分なりとも遂行し得ざる内は、如何なる栄華も歓楽も自分の心を満たす事は出来ない。美衣美食財宝なども到底天授の心魂を喜ばすに足らぬ。只天下公共の為めに自分としての天職を尽し得る事が肝賢である。一寸先の見えない様な不完全なる、罪に穢れたる吾人の身を以て、到底重大なる天職を完ふする事は出来ずとも、其幾分にても奉仕し得たならば、これに過ぎたる人生の幸はないのである。 今日の瑞月としては、浅薄なる肉体上の観察から見るならば、実に安楽なものの様であるが自分としては実に一日も安んじては居ないのである。数多の役員や信者は親の様に崇め『先生々々』と云つて厚く遇して呉れて居る様であるが、自分の為めには、却てそれが苦痛の種となるのである。何故なれば役員信者の親切や好意は大に有難迷惑を感ずる事があるからである。自分の真の使命を諒解するのでもなく、只単に出口教祖のお筆先によつて、色々と私に対する空想を描いて居る人が多いからである。又如何なる立派な事を話しても説いてもそれは教祖の筆先に出てゐないから用ゐられないとか云つて、如何なる真理も無造作に葬つて了ふので、何程筆先の精神を縦横無尽に説いても、十分に感得せしむる事が出来ぬのが実に遺憾である。又自分の肉体に対し、役員信者が非常に気をつけて好意を表して呉れられるが、肝賢要の真実の精神を汲みとつて呉れるものが少いのは最大の苦痛である。今迄の役員信者は自分を妙な事に過信して、堅実な教理等は頭から耳に入れぬのみか、今に世界の救ひ主にでもなる様に、身魂も研かずに騒ぎ廻つて居るのは実に残念であります。自分に少しにても権謀術数的の精神があるならば、十年以前の大本は、役員信者等とも折合がうまくついて、極めて平和であつたでせう。役員や信者の迷信を利用して猫を被つて居やうものなら、物質的方面の事などは如何な事でも出来たでありませう。然し乍ら自分の天授の良心が如何しても、そんな事を許さない。今の世の中の様に神の道は方便や手段では行かぬ。方便や手段を以てした事は何時しか化の皮が剥げるものである。況んや至誠至直の神に仕ふる身分としては、夢にだにも良心の許さぬ事は出来ない。自分は天地と共に亡びざる大真理即ち神の大道より外の道を歩む事は出来ぬ。真理の為めには一身を献げて悔いないのである。今日の場合は如何にしても社会一般の誤解を正し、大本を正解させることが必要であると感じたから、茲に天下修斎のため真理の旗幟を翻し、神様に一身を献げて口を藉し、茲に愈此物語を発表する事となつたのである。混濁せる社会のため一身を捧げて五六七の御世に奉仕せむと云ふ誠の人は、一日も早く此物語の精神に目を醒まし天下万民の為めに誠を尽して頂き度いものである。 選まれし神の使の甲斐もなし 人を導く力なき身は (大正一一・一〇・一四旧八・二四北村隆光録)
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(2207)
霊界物語 38_丑_出口王仁三郎自叙伝2 03 帰郷 第三章帰郷〔一〇四〇〕 心なき人の誹も何かあらむ 神に任かせし吾身なりせば 上谷の修業場で、二十有余人の幽斎修業者の審神者に奉仕しつつある処、自分の郷里から『老母危篤すぐ帰れ』との電信が着いた。祖母の急病と聞いた以上は、是非共一度は帰つて見舞うて来ねばならぬ。併しながら一方の修業者の様子を見れば、一日片時も目をはなすことが出来ぬことになつてゐる。ぢやと云つて祖母の病気を孫として、そ知らぬ顔に打すてておく訳にも行かず、修業者を見放しすれば、又しても以前の如く邪神が襲来して、修行場をかき乱すに違ひない、喜楽が失敗するのを、鵜の目鷹の目で待構へ、欠点を捜して、機会だにあらば放逐せむとして居る某々がある。喜楽は神さまの御道と祖母の危急の場合を思ふと、如何決心したら良いか、進退谷まつて途方に暮れてゐた。兎にも角にも神界へ伺つて見た所、神様のお告に依れば、 『ここ四五日の間に修業場へ帰つて来れば余り大した邪魔は在るまい……』 との事であつた。そして、 『祖母の病気は余程重態ではあるが、生命には別状はない、とは言ふものの祖母のことであるから、近所の人々に対しても、帰らずにはおかれまい、早く行つて来るがよい、一心になつて鎮魂をすれば、八九分通りは平癒する』 とのことであつた。無論出口教祖さまのお口を通してのお示しである。そこで四方藤太郎を不在中の審神者に依頼しおき、喜楽の帰郷中、修行者一同を托して、一先づ穴太へ行くことになつた。喜楽は出立に際し、四方氏に命じたのは、 喜楽『不在中に、綾部から教祖さまが迎へに来られても、福島が来ても、又誰が何と云つて来ても此処の修行者は一人も綾部へやつてはならぬ。わけて四方春三、塩見せい子、黒田きよ子には十分気をつけて貰ひ度い』 と頼んでおいた。四方藤太郎氏は喜楽の言をよく守つて厳格に審神者を奉仕してゐた。さうすると二三日たつて、教祖さまから神の御命令だからと云つて、右三人の修行者を綾部の金明会へ連れて帰られた。四方氏も教祖の命令には抗弁しかねて、やむを得ず三人を渡して了うた。三人の修行者は、教祖がワザワザ自分でお迎いに来られる位だから、自分等三人は大変に神界の思召に叶うてゐるに相違ないと、直様慢心をした為に、又もや妖魅が急激に襲来して、恰も気違芝居のやうなことを演じ出し、金明会の広間は、発狂者の巣窟の様になつて了つたのである。 ○ さて喜楽は綾部から只一人で、十四里の山路をボツボツ徒歩で行つて見ると、吾家の軒まで差かかつた時、何とも形容の出来ない一種の悲哀の感じが胸に浮かんで来た。 『あゝ祖母の身の上は如何だらう。まだ玉の緒の命は切れずにあるだらうか。母は如何して居るだらう……』 とくさぐさの思ひに胸は張裂けるやうであつた。急いで吾家に入り見れば、母は縁先の障子を一枚開けて涼しい風を入れつつ、今年八十六歳になつた祖母の看病をしてゐる処であつた。祖母も今日は殊の外気分が良いといつて、庭の若い松の木を眺めて、勢のよい枝振りなどを褒めて居られた。喜楽の妹の君といふ八歳の幼女が学校から帰つて来て枕許で何だか無理を言つて、母を困らして居る所であつた。 祖母は喜楽の帰つて来たことを知らずに、又何時とはなしにスヤスヤとよく寝入つて居られた。折角寝て居られるのを、目をさましては却て病気の障りになつてはならぬと、母は自然に目のさめる迄、喜楽の帰つて来たことを知らさぬ様にしてゐた。喜楽は先づ母に不在中の辛労を謝したり、祖母の病気の様子などを尋ねて居た。 折しも今迄楽相に眠つて居られた祖母は、何者にか襲はれたやうに、恐ろしい悶絶の声を出し、稍苦みの心が見えた。母も喜楽もあわてて側へ寄り、よくよく見れば、祖母は今正に何者にかうなされて居る様子である。母と喜楽とが左右の手を取つて、静かに起し、背をなでさすりなどして居ると、やうやう目をさまし、正気にかへられた。老の身のやせ衰へた病人の事とて、額も足も手も冷汗にビシヨぬれになつて、見るからにいぢらしく、自然に喜楽の目にも涙が一杯にあふれて来た。稍あつて祖母は力なき目を見ひらき、 祖母『あゝ不思議な夢をみたものだ。お米、そこにゐるか。よう聞いてお呉れ、吾家の御先祖様が、只今の先、孫の喜三郎を殺して了うと仰有つて、長い刀を引ぬいて追かけまはして居られる。喜三郎は一生懸命に逃げまはす。見るに見かねて私が御先祖様に対し、暫くの御猶予をと、泣いてお頼みしたら、御先祖さまも少し顔色を和らげて、……そんならお前から喜三郎に諭してやるがよい。上田の家は藤原の鎌足の末である。うつり行く世の慣ひ、家の系図は幾つにも別れてゐるが、中には今に歴然として時めいてゐる子孫もあり、大商人になつてゐる子孫もあり、百姓になつたのも沢山ある。又中途にして家の断絶したのもあるが、吾家こそは百姓になつた人の家筋で、先祖から代々お国の為になることを勤めて来たのである。併しモウ斯う百姓に成り下つて了うては、如何することも出来ぬと幽界から歎いてゐたのである。併しながら有難き御代になつて、百姓でも誠があり力さへあれば、どんなことでも出来るやうになつたのだから、どうかして吾子孫から世の為になる者を現はしたいと思ひ、神界の御許しを受けて、神様の尊きお道を明かに世界へ現はし、此世を安楽な神の世にしたい為に、喜三郎を神様のお使として、一身を捧げて世の為に尽さしたいと思ひ、其身辺を昼夜に守護致して居るのである。かかる重き使命を有つてゐる者が、祖母の病気のために心を紊し、肝賢の神界の御用をすてて、のめのめと吾家に帰り来るとは不届き千万な奴だ。神界へ対して申訳が立たぬから、一層のこと切り捨てて了ふと仰有つて、大変な御立腹、そこで私がいろいろとお詫をして、暫くの御猶予を願うたと思ふ折、不意に誰にか揺起されたと思ふたら、ヤツパリ夢であつた。アー併し乍ら御先祖さまのお言葉は夢とはいふものの、等閑にすることは出来ぬ。喜三郎も其心得で世の為に、神さまの御用を一心に勤めて貰へば、先祖さまに対して申訳が立つから、中途に気をくぢかぬやうに頼むぞ。妾は老木の末短き身の上、お前はまだ血気盛り、半時の間も無益に日を送ることは出来ぬから、妾に構はずお道の為に潔く尽して呉れ。併し乍ら人間は老少不定だから、これが別れになるかも知れぬ。ズイ分身体を大切にせよ』 と後は言葉もなく、其目には涙が泛んでゐた。喜楽の目にもいつの間にやら涙が漂ひ、腮辺を伝ふのを押かくし、 喜楽『お祖母アさま、そんならこれから綾部へ行つて来ます。どうぞ達者にしてゐて下さい』 と門口を出やうとする時、いつの間にか母は株内の次郎松やお政後家サンを伴うて帰り来り、 母『喜三郎、お前に一寸相談があるから、今帰ることは出来ぬ。どうぞ二三日待つて貰はねばならぬ』 と引とめられた。……サア了つた。モウ仕方がない。せめて二三分間母の帰宅が遅かつたならば、甘く此場をぬけて帰られたのに、又もや母や次郎松サンから、沢山の苦情をかまされることだらう……と思ふたが、最早仕方がない。先づ二人に時の挨拶や、不在中お世話になつた好意を陳謝し、座につくや否や、次郎松サンがいきなり、目をむいて、 次郎『コレ喜三ヤン、お前は一体全体、何をト呆けて居るのだ。こんな老人や母親を見すてて、如何に百姓が嫌ぢやとて、勝手気儘にいなごの様に、朝夕そこらを飛あるくとは、余り物が分らぬすぎるぢやないか。それとも如何しても内を出て極道がしたいと思うなら、毎月金を送つて来なさい。其金でお前の代りに人足を雇うて百姓さすから、如何ぢや、分つたかなア。一体お前が家を出てから、一年余りになるが、金一文送つて来るでもなし、たより一ぺんするでもなし、生きて居るのか死んで居るのか、但は家を忘れて帰つて来る処が知れなんだのか、訳が分らぬといふても余りぢやないか。私は上田家の為に先祖に成り代つて意見しに来たのだから、私の忠告をも聞かずに、綾部へ行くなら行つて見なさい。不在中の此家の御世話は私はお断り申す。私計りか株内も近所も皆其通りだ。どんなことが出来しても構はぬから、今ここでキツパリと返答をしてくれ』 と真赤な顔して呶鳴つて居る。又一人の別家のお政といふ後家サンが、喧しう泣くやうに綾部へ行くなと口説きたてる。二人共神界のことはテンで頭にない。只肉体上から見て、上田家の前途を案じての親切から云ふてくれるのであるから、二人の心情を察してみると、帰りもならず、それぢやと言ふて穴太に居る訳にも行かず、退引ならぬ仕儀となり閉口をした。 (大正一一・一〇・一四旧八・二四松村真澄録)
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霊界物語 38_丑_出口王仁三郎自叙伝2 28 金明水 第二八章金明水〔一〇六五〕 明治三十四年旧五月十六日[※新暦だと1901年7月1日]、出口教祖始め、上田会長、出口澄子、四方平蔵、中村竹造、内藤半吾、野崎宗長、木下慶太郎、福林安之助、竹原房太郎、上田幸吉、杉浦万吉ら一行十五人は、皐月の曇つた空を目当に徒歩にて出雲の大社へ神明を奉じて参拝することとなつた。此参拝が無事に済めば、何もかも神界の因縁が判り、大望が成就するものだと、役員一同の考へであつたらしい。 先づ立原で一宿し、それから十里程歩いては泊りなどして、漸く但馬の八鹿へ着いた。さうすると道々役員連の空想的談話が始まつて来た。そこで喜楽は、 喜楽『そんな事思うて居るとあてが違ふ』 と一口云つたら大変に役員の機嫌を損じ、喜楽に対して余程冷淡な扱ひをするやうになり、『ナアニお前等がそんなことが分るものか、御筆先に出雲へいつたら因縁が分ると書いてある』……と威張りちらす。教祖は教祖で、出雲へさへいつてくれば皆の改心が出来る……とすましたものである。途中で四方春三の亡霊が役員にうつつて、澄子と会長との間を不和ならしめやうとかかり、両人は其亡霊の為に非常に悩まされ、途々議論を衝突させ乍ら、日を重ねて鳥取に着いた。それから千代川を汚い舟に乗つて加露ケ浜に出で、加露ケ浜から舟に乗つて三保の関に着かうと計画したのである。 恰度海が荒れて三日間船を出す事が出来ず、加露ケ浜の旅館で一行十五人が泊り込み海上の凪ぎ渡るのを待つこととした。其時恰も海軍中将伊東祐亨氏が山陰沿海視察の為にやつて来て同じ宿屋に泊つてゐた。教祖が筆先を一枚書いて、伊東中将に宿屋の亭主の手から渡され、よく査べてくれ……といはれたが、それきりで何の返答も聞かなかつた。 喜楽は夜中頃に妙な夢を見た。それは海潮が際限もなき原野に立つてゐると、東の方から大きな太陽とも月とも分らぬが、昇られてだんだんこちらへ近付き、澄子の懐へ這入られた夢を見て目がさめた。此月すでに澄子は妊娠してゐたのである。それから翌年の正月二十八日[※新暦3月7日]に女子が生れたので、朝野に立つてゐた夢を思ひ出し、朝野と名をつけた。これは在朝在野の人々を済度する子になるだろうといふ考へと二つをかねて命けたのであつた。さうすると朝野が四つになつた年、自分から……わしは朝野ぢやない直日ぢやと言ひ出したので、直日と呼ぶやうになつたのである。三日目の朝、又もや磯端を伝ひに十里許り西へ進んで一泊し翌朝船を仕立てて、三保の関に渡り神社に参拝し、中の海宍道湖を汽船に乗つて平田に上陸し、徒歩にて大社の千家男爵の門前の宮亀といふ旅館に一行十五人投宿した。 二三日逗留の上神火と御前井の清水、社の砂を戴き、二個の火縄に火をつけて帰途につき、稲佐の小浜から松江丸といふ汽船に乗つて境港につき、それから徒歩にて米子に至り、一日計り歩いて又もや今度は帆船に乗り、加露ケ浜の少し東、岩井の磯ばたにつき、行がけに泊つた駒屋の温泉場に再一泊し、又もや山坂を越えて旧六月の四日福知山まで、数百人の信者に迎へられ、漸く綾部へ帰つて来た。途中澄子は産婦に免がれがたきツワリで非常に苦み、石原から時田や其外の大男の背中に負はれて帰つて来た。 それから其火を百日間埋み火として役員二人が昼夜保存し、百日目に十五本の蝋燭に火を点じ、天照大御神さまへ捧げることとした。又砂を本宮山や竜宮館の周囲に撒布し三四ケ所の井戸に水を注ぎ、大島の井戸へ天の岩戸の産盥の水を一所にしてほり込み、金明水と名をつけたのである。其水を竹筒に入れ其年の旧六月の八日[※新暦だと7月23日]に教祖は会長、澄子其他四十人計りの信者と共に沓島へ渡り、其水を海に投じ、此の水が世界中を廻つた時分には日本と露国との戦争が起るから、どうぞ大難を小難に祭りかへて貰ふやうに、元伊勢の御水と出雲の御水と、竜宮館の御水と一所にして竜神さまにお供へするといつて祈願をこめて帰つて来られたが、それから丁度三年目に日露戦争が起つたのである。 出雲参拝後は教祖の態度がガラリと変り、会長に対し非常に峻烈になつて来た。そして反対的の筆先も沢山出るやうになつて来た。澄子が妊娠したので、最早会長は何程厳しく云つても帰る気遣はないと、思はれたからであらうと思ふ。それ迄は何事も言はず何時も役員が反対しても弁護の地位に立つて居られたのである、いよいよ明治卅四年の十月頃から、会長が変性男子に敵対うといつて、弥仙山へ岩戸がくれだといつて逃げて行つたりせられたので、役員の反抗心をますます高潮せしめ、非常に海潮、澄子は苦心をしたのであつた。それから大正五年の九月九日まで何かにつけて教祖は海潮の言行に対し、一々反抗的態度をとつてゐられたが、始めて播州の神島へ行つて神懸りになり、今迄の自分の考が間違つてゐたと仰せられ、例の御筆先まで書かれたのである。 今日迄の経路を述べ立つれば際限がなけれ共只霊界物語を口述するに当り、大本の大要を述べておくのも強ち無用ではないと信じ、ここに其一端を古き記憶より呼び出し、述ぶることとした。まだまだ口述したきことは沢山あれ共、紙面の都合に依つて本巻にて止めおくことにする。後日折を見て詳しく発表するかも知れぬ。 惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一〇・一九旧八・二九松村真澄録) (昭和一〇・六・一〇王仁校正)
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霊界物語 39_寅_大黒主調伏相談会/言霊隊の出発 02 評定 第二章評定〔一〇六七〕 バラモン教の教主大黒主の暴状を懲らし、言向和して天下の害を除き、八岐大蛇や醜神の身魂を清むべく、ここにウブスナ山脈の頂上斎苑の館の八尋殿にて神素盞嗚大神の命により厳格なる相談会が開かれた。素盞嗚大神は高座に現はれ一同に向つて歌を以て宣示された。其御歌、 神素盞嗚大神『天と地との神々の 水火を合してなりませる 三五教の御教は 島の八十島八十の国 隈なく光り渡れども 八岐大蛇の醜神は 未だ全く服はで 山の尾の上や河の瀬に 潜みて枉を朝夕に 拓き行くこそうたてけれ 三五教の神司 清けき明き真心を 力限りに振り起し 天地四方の神人を 救はむ為めに現身の 身を粉になして遠近と 荒野を渡り海を越え 雪を踏みしめ暑さを耐へ 雨にはそぼち荒風に 煽られ乍ら進み行く 其神業ぞ雄々しけれ。 時しもあれや顕恩の 郷に現はれ蟠かまる バラモン教の大棟梁 鬼雲彦は三五の 誠の道に怯ぢ恐れ 自転倒島に立籠り 悪しき教を四方の国 伝へむとする其時に わが遣はせし神司 正しき人の言霊に 恐れをなして逃げ帰り 再びフサの国に入り 彼方此方と徜徉ひて 今しも印度の国の都 ハルナに現はれ岩窟を 穿ちて魔神を呼び集へ 其勢は日に月に 侮り難くなりにけり 八岐大蛇は悉く これの都に集りて 我三五の大道を 覆がへさむと図りつつ 早くも斎苑の館まで 攻め来らむず勢ひに 四方の曲神勇み立ち 振ひ居るこそ健気なれ 野立の彦や野立姫 埴安彦や埴安姫の 神の命とあれまして 開き給ひし此道は 天と地との神々の 堅磐常磐に動きなき 珍の御楯となりつれば 如何に魔神の騒るとも いかで倒るる事やあらむ さはさりながら曲神の 伊猛り狂ふ世の中は 心を許すこと勿れ いざこれよりは神司 神の光りを身に浴びて 大黒主が潜みたる ハルナの都に立向ひ 仁慈無限の大神の 清き正しき大道に 言向和し来るべし これに就いては諸々の 神の司は真心の 限りを尽して相図り 大黒主を懲戒の 神の司を選めかし われはこれより奥殿に 進みて天地の大神に 厳の言霊宣り上げて 我神軍の成功を 祈り奉らむいざさらば 百の司よ神人よ 謹み畏み此度の 言向戦を各自に 心の底より打ち明かし 選みて神の御心に 仕へまつれよ惟神 神の御前に瑞霊 心を清めて宣りまつる』 と宣示し終つて奥殿に姿を隠し給ふた。 思兼神(議長)の格に控へたる日出別神は一同に向ひ、 日出別『惟神斎苑の館に集まりて 魔神討伐の神議りせむ。 大神の珍の御言を畏みて 並み居る司言議りせよ。 バラモンの大黒主の神司 ハルナの都に事謀ゆらし。 はかゆとも何かあらむや曲神の 醜の企みは神許すまじ。 素盞嗚の神の尊の御教は 月日の如く冴え渡るなり。 冴え渡る三五の月の御教に 言向和せ大黒主を』 東野別命は立つて之に答へた。 東野別『言霊の斎苑の館の神司 東の別は言問ひまつる。 大黒主曲の司を言向くる 神の司は何人とせむ。 聞かまほし日出の別の御心を 重き使を定めかねつつ。 この使あまり多くは要るまじと 東野別は思ひ居るなり』 日出別命はこれに答へて、 日出別『日出別東の空を分け昇る 三五の月の照らすまにまに。 何人もわれと思はむ人達は 心のたけを宣り伝へませ』 東野別はこれに答へて、 東野別『日出別神の仰せぞ尊けれ 神言のままに選み合ひせむ』 時置師神は起ち上り、 時置師『この使黄竜姫や蜈蚣姫 先づ遣はして瀬踏みせしめよ。 二柱神の命はバラモンの 教にゆかり居ます身なれば。 顕恩の郷を立ち出で給ひてゆ 久しく会はせ給はぬ身故に。 三五の神の司の行くよりも 蜈蚣姫には心許さむ。 蜈蚣姫黄竜姫は雄々しくも 大黒主を言向和さむ』 黄竜姫は、立つて歌ふ。 黄竜姫『黄竜姫神の命は三五の 道に入りしと彼は知るらむ。 足乳根の母の命は今暫し 斎苑の館に仕へますべし。 年老いし身をもちながら敵城に 進まむ事の危く思へば』 蜈蚣姫はこれに答へて、 蜈蚣姫『天地の神に捧げし此命 いかで恐れむ水火の中も。 大黒主たとへ如何なる力あるも わが言霊に言向けて見む。 黄竜姫弱き言霊吹き放ち 母の名までも汚すまじきぞ。 吾こそはハルナの都に立ち向ひ 鬼熊別の夫を諭さむ。 大黒主神の司を始めとし 吾背の君を救はむとぞ思ふ。 勇ましき此御使に仕へなば 吾は死すとも悔ざらましを』 黄竜姫はこれに答へて、 黄竜姫『健気なる母の命の御言葉よ 神の尊さ今更ぞ知らるる。 吾母は如何に雄々しき神ならむ 冴え渡りたる今の言霊。 いざさらば母の命と諸共に ハルナの都に向はむとぞ思ふ』 蜈蚣姫はこれに答へて 蜈蚣姫『健気なる黄竜姫の言葉かな 吾は勇みて敵城に行かむ』 素盞嗚尊の第二の娘幾代姫の夫となりし照国別(元の名は梅彦)は起ち上り、歌を以て所感を述べた。 照国別『神素盞嗚大神のいと厳かな御宣言 其御心を細さに受け入れ給ひし神司 日出別や八島主東野別や時置師 尊き神が在しながら神の力を身に魂に 満ち足らはせし梅彦を他所に皆して黄竜姫 蜈蚣の姫を推薦し給ひし事の恨めしさ 吾は照国別の神尊き神名を賜はりて 勇気は日頃に百倍し心は勇み腕はなり はや堪へ難くなりにけり並び給へる神司 吾を選ませ給ひなば大黒主の立て籠る ハルナの都に立向ひ千変万化の言霊を 縦横無尽に発射して魔神を一人も残さずに 言向和し神徳を月日の如く天地に 輝かさむは目のあたり三千世界の梅の花 一度に開く梅彦をこれの使に選まずば 如何に尊き黄竜姫蜈蚣の姫の両人が 何程秘術を尽すともいかで思ひを達せむや 直日に見直し聞き直し宣り直しつつ梅彦を 加へて三人月の国ハルナの都へ大神の 使とよさし給へかし吾胸中は早已に 大黒主の神司服へ和す心算の 数限りなく確立し命令一下忽ちに 此神業を完成し八岐大蛇や醜神を 言向和すかさもなくば根底の国へ追ひ落す 神算鬼謀は胸にあり只願はくは梅彦の 照国別を正使とし二人の女神と諸共に 進ませ給へ惟神神に誓ひて乞ひまつる』 幾代姫は起ち上がり、 幾代姫『雄々しくも吾が背の君の宣らすこと 許させ給へ百の司等。 願はくは幾代の姫も諸共に ハルナの都へ行かまほしさよ。 照国別神の命と名を負ひし 吾背の君の勇ましきかも。 日出別神の命に物申す 吾等夫婦を印度に遣はせ。 東野別神の教の司たち 吾等夫婦の乞ひを許せよ。 時置師神の命も梅彦や 吾願言を聞し召しませ』 時置師神は又歌もて、 時置師『汝が君のその言の葉は清けれど 見合せ給へ夫婦の出立。 三五の神の使の夫婦連れ 神世も聞かぬ例なりせば』 幾代姫『神国を思ふ誠のあふれてぞ 吾言霊のいとも恥かし。 いざさらば吾背の君を只一人 使はせ給へ印度の御国へ』 日出別は答へて、 日出別『照国別神の命は印度の国 いと雄々しくも進み行きませ』 日出別命の宣示によつて茲に照国別は愈印度の国へ出張することとなつた。 (大正一一・一〇・二一旧九・二北村隆光録)
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霊界物語 39_寅_大黒主調伏相談会/言霊隊の出発 03 出師 第三章出師〔一〇六八〕 照国別の梅彦は日出別の教主より月の国のハルナの都へ向ふ事を許され、意気揚々として座につき、 照国別『有難し神の心に叶ひしか 月の国をば照国別と行く。 いざさらばこれより吾は幾代姫 やかたを清く後に守れよ』 幾代姫は歌ふ。 幾代姫『照国別の吾夫は日出別の教主より 月の御国に潜みたる大黒主の神司 其外百の醜神を尊き神の御教に 言向和し救ふべく斎苑の館を立出でて 出でます今日の雄々しさよ妾は後に止まりて 神の教を守りつつ力限りに世の人を 皇大神の大道に導き救ひまつるべし わが背の君よ一時も早く館を立出でて 天地百の神人の苦み悩む災を 払はせ玉へ惟神神の御前に願ぎまつる』 と歌ひ了るや、照国別は、 照国別『いざさらば曲津の運も月の国 頭ハルナの都に進まむ。 大黒主斎苑の館の神軍に 驚くならむ今日の出立ち。 八尋殿並びいませる司たちよ 吾はハルナの都に立たむ』 時置師神は立つて歌ふ。 時置師『照国別神の命はとく行かせ われは館に止まり守らむ』 これより黄竜姫、蜈蚣姫は、日出別命の承諾を得、数多の司に讃嘆され乍ら、母娘は普通の旅人に身を変じ、フサの国を横断し、フサの海より舟に乗りて、ハルナの都へ進み行くこととなつた。又梅彦は直ちに宣伝使の服装を整へ、照公、国公、梅公の従者と共に河鹿峠をこえ、フサの国を東南さして進み、月の国へ進むこととなつた。 此時玉国別の音彦は立上つて歌ひ出した。 玉国別『三五教に仕へたる玉国別の宣伝使 音に聞えし音彦はペルシヤの国を宣伝し 海に泛びて自転倒の島に渡りて遠近と 神の教を宣べ乍ら大江の山に立こもる バラモン教の大棟梁鬼雲彦や鬼熊別の 魔神に向つて言霊の戦を開き曲神を 追ひ散らしたる強者ぞ梅彦いかに勇あるも 音彦司に及ばむや日出別の大教主 照国別を遣はして大黒主の曲神を 言向和し玉はむと計り玉ふはいぶかしも いかに神徳充実し天地をゆるがす言霊を 身に受けゐるとは云ひ乍ら敵にも鋭き刃あり いかでかこれの大敵を一人や二人の力にて 言向和し了せむや此音彦の心中は 実に不安の雲掩ひ前途を案じやられけり あゝ惟神々々神の心に見直して 玉国別を今一人遣はし給へ真心を こめてぞ祈り奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 三五教の御教を決して汚す事あらじ 月日の如く明けく道の光を現はして 神の御前に復言申しまつらむ惟神 早く許させ玉へかし』 と歌を以て希望を述べた。日出別神は、歌を以てこれに答ふ。 日出別『玉国別神の司は言霊の 清くいませば悩むことなし。 さり乍ら数限りなき八十の国 只一柱にてせむ術もなけむ。 玉国別神の司よ心して 曲津の荒ぶ月へ出でませ。 月照彦神命をあがめつつ 夜を日についで進みませ君』 玉国別は欣然として立上り、又も歌にて答ふ。 玉国別『千早ふる神の光の現はれて 玉国別の玉を照らさむ。 月照彦神命の御光に 暗路を安く渡らむと思ふ。 イソイソと斎苑の館を立出でて 進む吾こそ楽し嬉しき。 東野別司の前に物申す 守らせ玉へ妻の身の上』 東野別はこれに答へて、 東野別『五十子姫清く雄々しくましまさば 音づれなくも安く行きませ。 素盞嗚の神尊の愛娘 瑞の御霊とあれし君はも。 此君のこれの館にゐます限り 安く楽しく道は栄えむ。 村肝の心残さず印度の国 ハルナの都にとく進みませ』 音彦は又歌ふ。 玉国別(音彦)『有難し心にかかる雲もなく 道伝へ行かむ印度の御国へ。 時置師神命よ昼夜を 守らせ玉へこれの館を。 いざさらば並ゐる司を後にして 神の随々別れて行かむ。 五十子姫玉国別が勇ましく 復言する日をこそまてよ』 五十子姫は歌ふ。 五十子姫『勇ましき吾背の君の御姿を 隠るるまでに眺め守らな。 村肝の心を残し玉はずに 神のまにまに進みませ君』 玉国別は一同に向ひ会釈し乍ら宣伝歌を歌ひつつ、三人の随行と共に、これ又河鹿峠を踏み越え、フサの国の原野を渉りて、印度を指して進み行かむとする。 治国別の亀彦は立上つて歌もて自分の希望を述べた。 治国別『神素盞嗚大神の隠れ玉ひし斎苑館 教司と現れませる日出別に物申す ウラルの道を奉じたる醜の司の吾なれど フサの海にて巡り会ひ汝が命の薫陶を 受けて誠の人となり名さへめでたき宣伝使 喜び勇んで四方の国自転倒島まで打渡り 醜の魔神を言向けて再びこれの斎苑館 皇大神に従ひて功績を立てしわが身魂 見向きもやらず梅彦や音彦二人を抜擢し 大黒主をいましめの任務を依さし玉ひたり あゝ恨めしし恨めししわれも神の子神の宮 いかでか彼に劣らむや直日に見直し聞直し 宣直しまし亀彦を印度の御国へ遣はして 八岐大蛇のかかりたる醜の司を悉く 三五教の大道に救ひ助くる神使 任けさせ玉へ逸早く神の御前に伺ひて わが言霊の神力を照らさせ玉へ惟神 菊子の姫と諸共に謹み敬ひ祈ぎ奉る』 と歌ひ了つた。日出別命は、これに答へて、 日出別『勇ましき治国別の言あげを 心涼しく頼もしく思ふ。 いざさらば汝が命は印度の国 すみずみ迄も巡り救へよ。 言霊の幸はふ国の神司 勝鬨あげて早帰りませ』 と歌もて印度の国への出陣を許した。治国別は勇み立ち、 治国別『かけ巻も綾に畏き皇神の 御言のままに進みて行かむ。 日出別神の命よ今しばし わが復言待たせ玉はれ。 東野別司の前に物申す 百の司を恵ませ玉へよ。 われは今印度の国へと進みゆく 守らせ玉へ菊子の姫を。 残しおく妻の命もつつしみて 神の教を宣べ伝へせよ』 東野別は之に答へて、 東野別『みづみづし益良武夫の亀彦は 名を万世に伝へますらむ。 千代八千代万代までも亀彦が 治国別の名をや照らさむ。 治国別神の命のいさをしを 仰ぎて待たむ唐土の空』 菊子姫は又歌ふ。 菊子姫『けなげなる尊き便りを菊子姫 待つ間の永き真鶴の首。 一足の歩みも心配らせつ 進み行きませ吾背の君は。 山を越え荒野をわたり雨にぬれ 進み行く君見れば雄々しも』 初稚姫は立上り、金扇を開いて、自ら歌ひ自ら舞ひ、五人の神司が出陣を祝した。 初稚姫『久方の天津御空の限りなく照り渡るなる三五の 月の教に四方の国青人草や鳥獣 草の片葉に至るまで恵の露に霑ひて 尊き神の御光を仰ぎ楽しむ葦原の 八洲の国の其中に如何なる神の仕組にや 取残されし印度の国七千余りの国々に 王と現れます刹帝利八岐大蛇の醜霊に 惑はされつつ日に月によからぬ事のみ行ひつ 世の常暗となりて行く時しもあれやバラモンの 道に仕ふる神司大黒主が現はれて ハルナの都を根拠としバラモン族を庇護しつつ 刹帝利族を押込めて暴威を揮ふぞうたてけれ それに付いては毘舎首陀の三種階級の民族も バラモン族の暴虐に苦み悶へ国原は 怨嗟の声にみちみちぬあゝ惟神々々 神の御霊の幸はひて神素盞嗚大神は 時を計らひ瑞御霊発揮し玉ひて印度の国 ハルナの都へ三五の神の司を遣はして 世人を救ひ玉はむと御計り在りし尊さよ 日出別の教主より此大業を命ぜられ 黄竜姫や蜈蚣姫尊き司を初めとし 心も明き照国別神の命や玉国別 治国別の三柱をおのもおのもにこと任けて 神の御為世の為に遣はし玉ふぞ有難き われも初稚姫神年端も行かぬ身なれ共 神素盞嗚大神の遣はし玉ひし八乙女が 清き御業に神傚ひ大黒主の館まで 忍び参りて三五の誠の道に曲神を 言向和させ玉へかし日出別や東野別 神の司の御前に謹み敬ひ祈ぎまつる 父とあれます時置師神の司は初稚が 願を必ず許すべし神の御言の幸はひて われを遣はし玉ひなば如何なる悩みも堪へ忍び わが大神の御心をうまらにつばらに説きさとし 時節を待つて大黒主を誠の道に帰順させ 神の御前に復言申し奉らむいざ早く 許させ玉へ惟神神の御前に祈ぎまつる』 と歌つて、自分も単独にて、大黒主の館に忍び込み、曲神を帰順せしむべく、出陣を許されむ事を請願した。日出別は歌を以てこれに答ふ。 日出別『勇ましき初稚姫の言霊よ 聞く度毎に涙こぼるる。 さり乍ら初稚姫は独り御子 いかでか印度に遣はすを得む』 初稚姫はこれに答へて、 初稚姫『いぶかしき日出別の言霊よ 神に捧げし吾身ならずや。 時置師父の命も初稚が 誠の言葉を愛で許しませ』 時置師神は歌もて答ふ。 時置師『天地の御霊にあれし吾娘 神のまにまに仕へまつれよ。 時置師神の司は只一人 いでゆく汝を雄々しくぞ思ふ』 日出別命は又歌ふ。 日出別『勇ましき親子二人の心根を 神は喜び玉ふなるらむ。 いざさらば初稚姫の神司 神のまにまに進み行きませ』 東野別は立上りて歌ふ。 東野別『年若き初稚姫の御姿を 見るにつけても涙ぐまれつ。 さり乍ら尊き神の守ります 司にませば心痛めず。 いざ早く御言のままに出でまして 神の御前に復言せよ』 初稚姫は嬉しげに又歌ふ。 初稚姫『日出別東野別や垂乳根の 父の言葉は妾を生かせり。 有難き神の恵を受け乍ら 印度の御国へ吾が進みゆかむ』 かく歌ひて、一同に別れを告げ、瓢然として只一人供人をもつれず、万里の山河を越えて、印度の国へ進み行く。 神界の御経綸にて最初より印度の国のハルナの都に現はれたる大黒主を言向和す為出張を命ぜらるべき神司は、略決定されてゐたのである。併し乍ら神素盞嗚大神は吾娘の夫が三柱迄も加はり居る事とて、明さまに言ひ出でかね玉ひ、日出別神に命じて、相談会を開かせ、随意に此使に奉仕する事の手続をとられたのであつた。又初稚姫は神素盞嗚大神が八人の乙女を一柱も残さず、敵の牙城に使はし玉ひし尊き清き大御心に感激し、如何にもして、八人乙女の尽し玉ひたる如き神務に従事せばやと、時の至るを待ちつつあつたのである。時置師神の杢助も、初稚姫の健気なる心に感じ、吾子乍らも天晴れなる者よと、ひそかに感涙に咽んでゐた。 斯くの如くにして、愈印度の国の大黒主に対する言霊戦の準備は全く整うたのである。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一〇・二一旧九・二松村真澄録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 01 大雲山 第一章大雲山〔一〇八五〕 空すみ渡る初秋の風も涼しき月の国 花は散れどもハルナの都バラモン教を開設し 大雲山の岩窟に館を構へて鬼雲彦は 大黒主と改名し梵天王の直胤と 此世を偽る曲津業数多の軍隊引連れて 左手に教書を捧げつつ右手に剣をぬきかざし 七千余国の印度の国刹帝利族の大半を おのが幕下に従へつ飛ぶ鳥さへも落すよな 其勢の凄じさ時しもあれやウラル彦 ウラルの姫の御教を宣伝しゆく神司 常暗彦は月の国デカタン高原に現はれて 教の旗をひらめかしこれ又左手にコーランを 捧げつ右手に剣持ちバラモン教の向ふ張り 勢やうやう加はりてバラモン教の根底は 危殆に瀕し来りけりかてて加へてウブスナの 山に建てたるイソ館神素盞嗚大神の 教を伝ふる日の出別八島の主の声望は 東の空に天津日の豊栄昇る如くにて 気が気でならぬバラモンの教司は岩窟に 集まり来りいろいろと対抗戦を開かむと 鳩首謀議の折柄に早馬使ひのテルヂーが 勢込んで馳せ帰り神素盞嗚大神の 部下の面々イソ館味方を集めて迫り来る 其勢はライオンの速瀬の如く急がしく 旗鼓堂々と攻め来る気配と確に覚えたり 今此時に躊躇して月日を仇に送りなば 臍をかむとも及ぶまじ早く精鋭の軍卒を さし向け彼が計画を根本的に覆へし 一泡吹かしてこらさねばハルナの都は忽ちに 土崩瓦解の虞あり用意めされと息早め 虚実交々取混ぜて注進すれば神司 大黒主は驚いて左守右守に相対し 如何はせむと謀る折又もや入り来る足音に 何人ならむと眺むればカルマタ国に遣はせし 斥候隊のケリスタン汗をタラタラ流しつつ カルマタ国に割拠する常暗彦は日に月に 猛虎の勢加はりつ数多の軍勢を引率し 山野をわたりはるばると月の都に攻めよせて 一挙に城を覆へしバラモン教を根底より 絶滅せむと計りゐる其計画はありありと 手に取る如く見えにけり今此時に此時に 一挙に彼を討ちすてて国の災払はねば 臍をかむとも及ぶまじ一日も早く片時も 勇敢決死の軍卒を差向け給へと汗拭ひ 風声鶴唳におぢ怖れ注進するこそ可笑しけれ 大黒主は色を変へ大足別に打向ひ 如何はせむと尋ぬれば大足別は肱を張り われは武勇の神将ぞ神素盞嗚大神や 常暗彦が現はれて獅子奮迅の勢に 本城に攻めかけ来るとも何かは恐れむバラモンの 教の神力身に受けて刃向ふ奴輩ことごとく 追つかけちらし薙ぎ倒し敵を千里に郤けて 君の危難を救ふべし何は兎もあれ諸々の 神の司と謀らひて其上着否を決せむと 苦り切つたる顔付にドカリと其場に胡坐かき 豪傑笑ひに紛らしぬ。 鬼雲彦を始め左守の鬼春別、右守の雲依別、石生能姫、鬼熊別其他四五の幹部連、大雲山の岩窟、大黒主の隠家に集まつて、三五教、ウラル教に対し取るべき手段を首を鳩めて謀議しつつあつた。鬼雲彦は鬼熊別の其妻子が[※初版・三版・愛世版は「鬼熊別は其妻子が」だが、校定版・八幡版では「鬼雲彦は鬼熊別のその妻子が」に直してある。主語が鬼熊別だと、それ以降の文章の意味が通じなくなるため、霊界物語ネットでも校定版と同じように直した。]三五教に帰順し、宣伝使となつてバラモン教の教線を攪乱せりとの急報を屡々耳にし、猜疑の眼を怒らし、いつとはなしに二人の中には大障壁が築かれ、大溝渠が穿たれ、鬼熊別も怏々として楽まず、遂には自ら左守の職を辞し、部下の神司と共に、己が館に潜みて、梵天王を祀りたる神殿に端坐し、何卒一日も早く大黒主の教主が善道に立帰り、大自在天の教を完全に発揮し、且つ大国別の御子国別彦の所在の分りて、ハルナの都に大教主として臨まるる日の一日も早かれ……と祈りつつ、一方には妻子の所在を探ねむと、日夜祈願に余念なかつたのである。然るに今日は大黒主の珍しき使に依つて、心ならずも主命もだし難く、此席に面を現はしてゐたのである。今此処に集まれる幹部は、何れも大黒主の股肱と頼む部下のみで、信任最も厚き人物ばかりであつた。そこへ鬼熊別が列席したのは恰も白米に籾の混つた如く、油に水を注したやうなもので、何とはなしに意思の疎隔を来したのも免れ難き所であつた。 大黒主は立上つて一同に向ひ、 大黒主『今日一同をここに召集したのは一日も看過す可らざる緊急事件が突発したからである。抑も吾バラモン教は常世の国の常世城より、大国別は神命を奉じて埃及に渡り、神徳を四方に輝かし給ふ際、憎き三五教の宣伝使、吾本城を攻撃して、神の聖場を蹂躙し、吾等も衆寡敵せず、大国別の教主と共に、メソポタミヤの顕恩郷に居を転じ、漸く神業の端緒を開きし折、執念深き三五教の宣伝使輩は、言霊軍を引率し、神素盞嗚尊の命と称し、短兵急に攻めよせ来り、内外相応じて、再びバラモンの本城を破壊し去り、吾等は已むを得ず、涙を呑んで親子夫婦の生別れ、漸く忠勇義烈なる部下と共に自転倒島に渡り、又もや神業を開始する折しも、三五教の神司の言霊に破られ、無念やる方なく再び残党を集めて、此都に来り、月の国の七千余ケ国の大半を征服し、今や旭日昇天の勢となり、神業を葦原の瑞穂国全体に拡充し、バラモンの威力を示さむと致す折しも、天の岩戸を閉鎖したると云ふ悪神の張本素盞嗚尊、再び部下をかりあつめ、黄金山、コーカス山、イソ館と相俟つて、再び吾本城を覆へさむず計画ありと聞く。今に及んで敵の牙城に迫り、之を殲滅せざれば、バラモン教は風前の灯火の如し。汝等の忠勇義烈に依頼して、吾は此災を芟除せむと欲す。左守を始め、一同は吾旨を体し、最善の方法を講究すべし』 と宣示し、軽く一瞥を与へて、奥の間に姿を隠した。 石生能姫は、大黒主の立去りし後の席に儼然として立現はれ、いとおごそかに、 石生能姫『只今大教主の仰せの如く、本教は危急存亡の機に瀕せり、速に評議を凝し、至誠を吐露して、大教主の御心に応へ奉れよ』 と宣示するや、左守は立上つて、 鬼春別『吾々はバラモン教の為、大黒主の御為ならば素より身命を惜まぬ覚悟で厶る。就ては慎重に審議を致さねば、此大問題を軽々に決することは出来ませぬ。私は断言します。今に至りて考ふれば、此城内には二心ある有力なる幹部の伏在して、三五教やウラル教に款を通じ、内外相応じて本教を転覆せむとたくらむ曲者が厶います。第一此悪人を取調べなくては、如何なる妙案奇策も敵に漏洩する虞があり、到底目的は達せられますまい』 と目を瞋らし、ワザとに鬼熊別の面体を睨みつけた。鬼熊別は平然として顔の色をも変へず控へてゐる。 右守の雲依別は立上り、卓を叩いて声を励まし、 雲依別『鬼春別様の仰せの如く、敵の巨魁は此城中に潜み居るは一目瞭然たる事実で厶いませう。さうでなくては今日まで世界の秘密国として自由自在にバラモンの教を拡張し、無人の野を行く如き有様でありしもの、俄に各地方の刹帝利は反旗を翻し、尊きバラモン神に向つて不順の色あり、人心恟々として安からず、天下の騒擾将に勃発せむとする兆ある時、ウブスナ山、カルマタ城より、数多の神軍を引連れ押寄せ来らむとの注進は、決して虚言ではありますまい。いざこれより、城内に潜む巨魁を誅伐し、首途の血祭となして、怨敵調伏の出師をなさむ、列座の面々如何思召さるるや』 鬼熊別は立上り、 鬼熊別『怪しき事を承はるものかな。バラモン教の本城に敵に款を通ずる巨魁ありとは、そは何人の事で厶るか。左様な悪神は一時も早く誅伐し、国家の災を根底より除かねば、バラモン教は、いかに神力強くとも未だ安心する所へは参りますまい。左守殿のお言葉によれば、確に其巨魁は此城中に潜みゐる事を御承知のやうに聞きました。其悪人は何人なるか、速に御発表を願ひます』 と言はせも果てず、鬼春別はクワツと目を見ひらき、声を荒らげ、顔を真赤に彩どりながら、 鬼春別『お黙り召され、鬼熊別どの、其張本人と申すは鬼熊別といふ悪虐無道の侫人ばらで厶る。言はずと知れた、鬼熊別は此城内に一人より厶るまい。速に事情を逐一白状致して其赤誠を現はすか、さなくば吾々が面前に於て男らしく切腹めされよ』 鬼熊『こは心得ぬ左守殿の御言葉、何を証拠に、左様な事を仰せらるるか。痩せても枯れても、バラモン教の柱石鬼熊別、めつたな事を申さるると、聞き捨はなりませぬぞ』 鬼春『アハヽヽヽ悪人猛々しいとは此処の事、よくもマア、ヌツケリと白々しい其言葉、ハルナの城には盲は一人も居りませぬぞ。左様な事が看破出来ないやうな事で、如何して大切な左守が勤まらうか』 鬼熊別『確な証拠あつての仰せか。サアそれが承はりたい。サア如何で御座る』 鬼春別『サアそれは』 鬼熊別『サアサア如何で厶る、御返答を承はりませう』 鬼春別『サアそれは』 『サアサアサア』 と二人は両方より意気まいてゐる。右守はツと立つて、 雲依別『アイヤ両人暫らく待たれよ』 と制すれば、二人は不承々々に己が座につき、互に睨み合つてゐる。 雲依『左守の仰せは数多の斥候どもの種々の注進を綜合して、これは正しく鬼熊別が、敵方に款を通ずる者ならむとの推定に過ぎますまい。私が考へますには鬼熊別様の斯かる嫌疑を受けられたのも二三の原因があるだらうと思ひます。今茲に羅列すれば、先づ第一に鬼熊別殿の妻蜈蚣姫殿は今は三五教に帰順し、堂々たる宣伝使となつて天下を布教し居らるる事、これが第一大黒主さまの御気勘に叶はぬ点で疑惑の起る導火線で厶る。……又第二は小糸姫殿が竜宮の一つ島へ渡り、地恩城に於て女王となり三五教を拡め、部下の友彦までも三五教に帰順せしめたるとの噂、これが第二の疑の原因。次には妻子は三五教に心酔し、最早バラモン教に復帰する形勢もなきに、何時までも独身生活を続け、悪虐無道の妻子と再び家庭を作らむとの御所存と見える、これが第三の疑をまく種。次には大黒主さまが鬼雲姫さまの不都合を詰り、別宅を造りて退隠を命じ給うた時、之に対して極力反抗的態度を用ひ、新夫人の石生能姫に対し悪感情を抱き居らるる事、これも亦疑惑の種。大黒主と鬼熊別との間には深き溝渠が穿たれ、意思の疎通を欠きし事。……次には兵馬の権を握り、片手に教権を掌握し玉ふ大黒主よりも、武力なき身を以て、数多の国人の信用を受け居らるる事。これ亦疑惑の種となつて居るのだらうと私は推察致します。併し乍ら神に仕へ給ふ身を以て左様な疑惑の種を蒔く如き御精神では厶いますまい………と私は信ずるのであります。今は斯様な内紛を繰返す時では厶らぬ。一時も早く外に向つて敵の襲来に備へ、且つ敵を根底より滅亡させねばならぬ国家の危機だから、小異を棄て、大同に合し、協心戮力して此国家の大事に備へようではありませぬか。これ右守が偽らざる至誠の告白否忠告で厶る』 と堂々として鬼熊別の寃罪を弁護しつつ説き来り説き去り座に着いた。鬼春別は不機嫌顔にて再び立上り、 鬼春別『如何にも心得ぬ右守の御言葉、吾々は一向合点が参らぬ。然らば右守どの、鬼熊別の一身に就ては、貴殿に一任しますから、キツト過ちのなき様に御監督を願ひます』 雲依『神徳高き鬼熊別さまの御監督とは思ひもよらぬ大役なれど、今日の場合止むを得ませぬ、仰に従つて監督を承はりませう』 鬼熊『これは心得ぬ、御両人の御言葉、悪虐無道の叛逆者ならばいざ知らず、吾々如き忠臣義士に対して、何の為に御監督を遊ばすか。あらぬ嫌疑をかけられ、憤慨の至りに堪へねども、国家の一大事を慮り、陰忍自重しつつある吾に、其心遣ひは御無用に願ひませう』 石生『此問題はどうぞ妾に任して貰ひませう。イヤ鬼熊別さま、エライ気を揉ませました。今の世の中は誠の者が虐げられ、疑はれ、大悪人の時めく時代なれば、あなたもそれだけの御疑を受けさせられる半面にはキツト善い事があるでせう。どうぞ御機嫌を直して、今日以後は日々国家の為に、教の為に、御登城御出勤を願ひますよ』 鬼熊別は石生能姫の言葉に感謝の涙を秘かに流しながら、 鬼熊別『ハイ有難う厶います。然らば御言葉に従ひ、明日より出勤致すことにきめませう。今迄の不都合は平にお赦しを願ひます』 石生能姫は儼然として言葉を改め、 石生能姫『イソの館へは左守鬼春別殿、部下の軍卒を引連れ出発さるべし。又大足別は軍勢を引率して、カルマタ国のウラル教が本城へ向つて攻め寄せらるべし。鬼春別が目出度く凱旋ある迄は元の如く鬼熊別殿、左守となつて奉仕されたし。右守は従前のまま、何れも神妙に心を併せ、手を引合ひ神務に従事されよ。大教主の命に依りて、石生能姫、代理権を執行致す』 一同は此言葉に、 一同『ハハア』 と首を傾け、承諾の意を示した。 因に右守の雲依別は時の勢に抗し難く、左守と表面バツを合せてゐたが、其実鬼熊別の美はしき心と日夜の行動に感激し、心中潜かに鬼熊別を畏敬尊信してゐた。それ故鬼熊別の無辜を憐れみ弁解的弁論をまくしたてたのである。又石生能姫は鬼熊別のどこともなく男らしく、威儀備はる容貌に、心私かに恋着してゐた。それ故大黒主の余り好まぬ鬼熊別を代理権を執行して左守となし、鬼熊別に同情をよせつつある右守を止め、常に鬼熊別を讒言する鬼春別、大足別を出陣させて了つたのであつた。女の美貌は城を傾くるとか云ふ。実に女位恐ろしきものはない。大黒主も此石生能姫には恋愛の雲に包まれて、善悪に関らず、一言半句も背いた事はなかつたのである。 (大正一一・一一・一旧九・一三松村真澄録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 08 使者 第八章使者〔一〇九二〕 ケーリス、タークス両人は照国別の命令を 喜び勇み守りつつ栗毛の駒に跨りて クルスの森を駆け出し一目散に大野原 吹き来る風に頭髪を梳りつつ驀地 谷を飛び越え山渉り秋野にすだく虫の声 いと悲しげに聞ゆなる荒野ケ原を辿りつつ 勢ひ込んで村肝の心も勇み魂も 清春山の岩窟に進み行くこそ健気なれ 清春山の麓にて駒を乗りすて両人は 崎嶇たる坂を登りつつ三五教の宣伝歌 歌ひ歌ひて進み行く。 ケーリス、タークス両人は清春山の山麓に駒をつなぎ、烈しき山颪に当りながらエイヤエイヤと一歩々々力をこめて登るのであつた。ケーリスは道々歌ふ。 ケーリス『神が表に現はれて善神邪神を立分ける 人は神の子神の宮とはいひながら人の身の いかでか神を審きえむ三五教の神司 神素盞嗚大神は仁慈無限の御聖徳 五六七の神と現れましぬバラモン教を統べ給ふ 大黒主の神司尊き神と聞ゆれど 其源をたづぬれば常世の国に生れませる 常世神王自在天大国彦の御裔なる 大国別の神司開き給ひし御教 此正統は貴の御子国別彦が現はれて バラモン教を守りまし統べさせ給ふ道なるに 鬼雲彦が現はれて国別彦を放逐し 自ら教主となりすまし大黒主と名を変へて 月の都に威勢よく現はれ来りし曲津神 善と悪とは明かにこれにて思ひ知られけり ウラルの教を奉じたるウラルの彦も源を 詳しくたづね調ぶれば此世を開き給ひたる 塩長彦の神柱盤古神王の正系を 疎外しながら傲然と八王大神の御裔なる ウラルの彦やウラル姫その正系と詐りて 枉の教を遠近に拓いて此世を乱し行く 其やり方の物凄さあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして三五教やウラル教 バラモン教の障壁を一時も早く撤回し 天地を造り固めたる国治立大神の 一つの教に服ひて神の御為め世の為めに 世界揃うて一日も早く誠を尽すべく 守らせ玉へ三五の尊き神の御前に ケーリス、タークス両人が慎み敬ひ願ぎまつる 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも誠一つの三五の 教を守る事ならば如何なる事か成らざらむ 如何なる枉も恐れむや神は吾等と倶にあり 人は神の子、神の宮これの尊き御諭は 三五教の御教バラモン教に比ぶれば 天地霄壌の違ひあり月日は空に明かに 輝き渡り吾々が頭を照らし給ひつつ 心にかかる村雲を神の息吹に払ひ除け 清く照らさせ給ひけり此世を造りし神直日 心も広き大直日只何事も人の世は 直日に見直せ聞き直せ身の過ちは宣り直せ かく明けき御教を守り給へる神司 照国別は吾々の百の罪をば赦しまし 生命を助け労りてまだホヤホヤの信徒をば 少しも疑ひ給はずにかくも尊き御使を 任さし給ひし有難さ心は海の如くなり 魂は空の如くなりあゝ惟神々々 神の守りの深くして今まで迷ひしバラモンの 胸は全く覚め来り至仁至愛の大神の 教に仕ふる嬉しさよあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひながら清春山の峻坂を登りつつあつた。最早山の三合目迄登りついた。これより坂は益々険しく道悪しく容易に登る事は出来ない難路である。タークスは一歩々々指先に力を入れながら、息を喘ませ登りつつ拍子をとつて歌ひ出した。 タークス『ウントコドツコイ、ハアハアハアフウフウフウフウ息苦し 断崕絶壁きつい道こんな処で倒けたなら 体は忽ち千仭の谷間にドツコイ転落し 頭はめしやげ腕は折れ手足も五体もグタグタに なつて猛獣のウントコシヨうまい餌食になるだらう ウントコドツコイ、ハアハアハアコリヤコリヤケーリス気をつけよ これから先が難関だ照国別の御命令 首尾よく御用をウントコシヨ済まして目出度く復り言 申し上げねば命をば助けて貰うたウントコシヨ 御恩報じが出来まいぞ又もや烈しい風が吹く そこらの樹木をしつかりと掴まへながら指先に 力をこめて登らうかこんな烈しいドツコイシヨ 凩風に吹かれては俺の体は散りさうだ ポーロやシヤムの連中は嘸今頃はドツコイシヨ 目玉の光つたウントコシヨ大足別の司等が カルマタ国へ出陣し主人の留守の間鍋焚き 奥の一間に胡坐かきウントコドツコイ、ドツコイシヨ 味よい酒を取り出して鱈腹飲んで管を巻き ウントコドツコイ、ヘベレケになつて頭を右左 張子の虎のウントコシヨ様にプリプリふりながら 駄法螺を吹いて居るだらう照国別の御手紙に 如何なる事がドツコイシヨ書いてあるかは知らねども ポーロの奴はドツコイシヨ定めて驚く事だらう ウントコドツコイ其顔が今目のあたり見るやうに 思ひなされて仕様がない雨か霰か又風か 地震雷火の雨か何れはドツコイ悶錯が 起つて来るに違ひない其時ケーリス、ドツコイシヨ シツカリ致して曲神にちよろまかされてはならないぞ 一旦誠の御教を悟つた上はウントコシヨ ハアハアハアハア後返りしてはならない神の道 登り難きは坂道だ誠の道を進むのは 此坂道をのぼるやうなウントコドツコイものだらう チツとの油断があつたならガラガラガラガラ後戻り 鋭く尖つたガラ石の車に乗つて谷底へ 落ちてはならぬドツコイシヨ神が表に現はれて 善悪邪正を立分ける其功績はドツコイシヨ 天地に広く鳴り渡る雷の如ドツコイシヨ 眠れる人の目を覚まし心の枉を追ひやりて 水晶玉の神の宮救はせ給ふ有難さ あゝ惟神々々ドツコイドツコイ御霊 幸はひ給ひて吾々が堅き心を弥固に 練らせ給へよ三五の神の司の太柱 神素盞嗚大神の御前に願ひ奉る 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも ウントコドツコイ山は裂け海はあせなむ世はありとも 一旦悟つた三五の神の教は忘れなよ あゝ惟神々々ケーリスしつかり肝玉を 据ゑてかかれよ今暫し登つて行けば岩窟だ ポーロやシヤムの顔を見てもとの如くに撥返り バラモン教に堕落して神の怒りに触れざらめ 俺はお前の親友だお前を思ふ心から くどい事とは知りながら一寸此処にて気をつける ウントコドツコイ、ドツコイシヨアイタタタツタ、アイタツタ あんまり喋つて足許に眼を配るを忘れたか 尖つた石のウントコシヨ坂の車に乗せられて したたか打つた膝頭赤い血潮がドツコイシヨ タラタラタラと流れ出す此血の色を眺むれば 余程俺の魂は清められたに違ひない 鮮血淋漓と迸り東の空に茜さす 日の大神の如くなり誠の道に服ひて 朝な夕なに肉体を活動させて居るならば 筋肉次第に活動し血液流通よくなつて ウントコドツコイ、ドツコイシヨ鬱血するよな憂ひない 体をヂツと遊ばせて体主霊従の事ばかり 考へ暮す枉神の血潮の色は真黒気 ヤツトコドツコイ小人は閑居しながらウントコシヨ 不善を為すと聞くからは人と生れし此上は 月日の如く朝夕にタイムを惜んで活動し ウントコドツコイ光陰を空しく費やすウントコシヨ 不道理至極の事をせず朝から晩まで道のため 誠のために働けばこんな美しい血が循る あゝ惟神々々三五教の神様の 貴の御前に真心を捧げて感謝し奉る』 漸くにしてポーロ、シヤム等が守つて居る岩窟の前に両人は辿りついた。岩窟の口に二人はソツと佇み、中の様子を密に窺へば、奥には何となく騒々しい阿鼻叫喚の声が聞えて居る。ケーリス、ターリス両人は腕を組み頭を傾けながら、 『はてな』 (大正一一・一一・二旧九・一四北村隆光録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 10 衝突 第一〇章衝突〔一〇九四〕 レーブ『初秋の風はザワザワと峰の尾上を吹きまくる 玉山峠の坂道を黄金姫を初めとし 清照姫の母娘連れ神素盞嗚大神の 御言畏み月の国ハルナの都に蟠まる 八岐の大蛇に憑かれたる大黒主の枉神を 言向和し天地の尊き神の御光に 救はむものと両人は険しき山川打渡り 雨にはそぼち荒風に吹かれながらもやうやうに 此処迄進み来りけり険しき坂の傍に スツクと立てる千引岩これ幸ひと立寄つて 母娘二人は腰をかけ息を休むる折もあれ 矢を射る如く峻坂を地響きさせつトントンと 下り来れる男ありよくよくすかし眺むれば 玉山峠の登り口思はず出会うた神司 レーブの姿と見るよりも母娘は声をはり上げて 手招きすれば立止まり行き過したる坂道を 再び登りて両人が側に近寄りシトシトと 流るる汗を押拭ひ貴方は母娘の神司 私はレーブで厶ります尊き神の引合はせ 思はぬ処で会ひました貴方に別れた其時は 酷いお方と心にてきつく怨んで居りました 一人の男は森林へ姿を隠し行衛をば 尋ぬる折しも河渡り向ふへ越えた釘彦の 手下の武士二騎三騎再び河を打渡り レーブの前に現はれて今居た母娘の巡礼は 蜈蚣の姫に小糸姫テツキリそれに違ひない 後追つかけて引捕へ大黒主の御前に 引連れ行かむと呶鳴る故ハツと当惑しながらも 早速の頓智此レーブそしらぬ顔の惚け面 馬の轡を引掴みこりやこりや待つた、こりや待つた 鬼熊別に仕へたる私はレーブの司ぞや 吾も汝等と同様に母娘二人の巡礼は 蜈蚣の姫の母娘ぞと疑ひながら近寄つて よくよく顔を調ぶれば似ても似つかぬ雪と墨 片目婆さまの皺苦茶に痘痕をあしらふ御面相 娘は如何にと眺むればこれ亦偉いドテ南瓜 下賤の姿の母娘づれ決して探ぬる人でない くだらぬことに骨を折り貴重な光陰潰すより 一時も早くカルマタの都に進み抜群の 功名手柄をしたがよい何ぢやかんぢやと口極め 罵り散らせば釘彦の手下の騎士は首肯いて 再び河を打渡り帰り行くこそ嬉しけれ つらつら思ひ廻らせば貴女が私を捨てたのは 深い仕組のありしこと前知の明なき此レーブ 今更の如感嘆し勢込んでスタスタと お後を慕ひ玉山の峠を越えて後を追ひ 此処に目出度く面会しこれほど嬉しい事はない あゝ願はくば両人よレーブの司を月の国 ハルナの都に伴ひて鬼熊別の館まで 進ませ給へ惟神神に誓ひて願ぎまつる 途中に如何なる枉神の現はれ来りて騒やるとも 神に任せし此レーブ命を的に投げ出して 無事に貴女の目的を達成せしめにやおきませぬ 何卒お供を許されよあゝ惟神々々 神の御前に祈ぎまつる』 と歌に代へて所感を述べ、ハルナの都まで随行を許されむ事を懇願した。黄金姫は言葉厳かに、 黄金姫『折角の其方の親切な願なれど吾々母娘は日の出別の神様の特命を受け、もとより供を許されなかつたのだから、今になつて何程お前が頼んでも連れて行く事は出来ない、さうだと云つて貴方を排斥するのではない程に、何卒悪くとらぬ様にしてお呉れ』 レーブ『さう仰せらるれば、たつてお頼み申すわけには参りませぬ。それなら私も是非が御座いませぬから単独行動をとり、貴女方母娘の前後を守つて参りませう』 清照『何卒吾々母娘の目に見えない範囲内で行つて下さいや。もしもお供をつれて行つたと云はれては吾々母娘の申訳が立ちませぬからな』 レーブ『左様なれば、たつて無理にはお願を申しませぬ。私は之より不離不即の態度を保ち、兎も角もハルナの都へ参ります、どうぞハルナの都へおいでになつたら私を一度御引見下さる様に御願を致しておきます。私も貴女様お二人の所在を尋ぬべく御主人様に命令を受けたもので厶いますから、貴方等の所在さへ分れば、それで宜いので厶います。それなら之から見え隠れにお供をしますから、こればかりはお含みを願ひます』 黄金『あゝ仕方がない。お前の勝手にしたが宜からう』 レーブ『はい、有難う』 と落涙に咽んでゐる。此時谷底より聞え来る法螺貝、陣太鼓、鐘の音、矢叫びの声、木谺を驚かして響き来る。 黄金姫、清照姫『素破こそ一大事、バラモン教の大黒主が部下の者ならむ。彼に捕まつては大変』 と母娘は岩の後に身を隠し、一隊の通過を待たむとした。レーブは勇み立ち、 レーブ『やあ、愈忠義の現はし時、もしもし御両人様、貴女は此岩影に身を忍びお待ち下さいませ。此軍隊をイソの館へ進ませてはなりませぬ。これより私が力限り戦つて敵を退却させて見ませう』 黄金『決して敵を傷つけてはなりませぬよ。善言美詞の言霊を以てお防ぎなさい。此細谷道、而も急坂、何程数多の敵が攻め上り来るとも、一度にドツとかかる事は出来まい。片端から言向和すが神慮に叶うたやり方、先づ其方が第一戦を試みたが宜からう。とても叶はぬと見てとつた時は此黄金姫が立ち代つて言霊戦を開いて見ようから』 レーブ『承知致しました。一卒これに拠れば万卒進むべからずと云ふ此難所、私一人で大丈夫です』 と武者振ひして勇み立つた。 かかる処へブウブウと先登に立つた武士は法螺貝を吹き陣容を整へ登り来る。旗指物、幾十となく風に翻り単縦陣を作りて進む其光景、恰も絵巻物を見る如くであつた。レーブは千引の岩の上に直立し、此光景を眺め敵軍の近づくのを今や遅しと待つてゐる。 先頭に立つた武士は急坂を上りつつ勇ましく軍歌を歌つてゐる。 『東西南の三方に青海ケ原を巡らせる 世界で一の月の国神の御稜威も明かに 照り輝きしバラモンの教の柱は畏くも 大黒主と現れましぬ此度イソの神館 神素盞嗚の枉神が手下の者共集まりて 朝な夕なに武を練りつ一挙に月へ攻め寄せて バラモン教の本城を覆へさむと企み居る 其曲業を前知して吾等が奉ずる神柱 大黒主は畏くも鬼春別を将となし ランチ将軍片彦の大武士を任け給ひ 悪魔の征途に上ります其神業に仕へ行く 吾等の身こそ楽しけれ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 三五教の本城を覆へさずにおくべきか 常世の国の自在天大国彦の御守り 愈深くましませば如何なる枉の猛ぶとも 鬼神を挫ぐ勇あるもなどか恐れむバラモンの 教に鍛へし此体刃向ふ敵はあらざらめ 進めよ進めいざ進め神素盞嗚の曲神の 手下の残らず亡ぶまで枉津の軍の失するまで』 と歌ひながら旗鼓堂々と進み来る物々しさ。 ランチ将軍の部下は早くもレーブの立てる岩の麓まで進んで来た。レーブは大音声を張り上げながら、 レーブ『ヤアヤア、吾こそはバラモン教の神司、鬼熊別が身内の者、只今大自在天のお告げにより汝等一行此処に来る事を前知し、今や遅しと待ち構へ居たり。汝も亦バラモンの部下に相違はない。云はば味方同士だ。案内するは本意なれども、汝等は今の軍歌によつて聞けば仁慈無限の神素盞嗚大神の館に押寄するものと聞えたり。かう聞く上は少しも猶予はならぬ。片端から神変不思議の言霊を発射して一人も残らず言向和し呉れむ。暫く待て』 と呼ばはつた。先頭に立つた武士はカルと云ふ一寸気の利いた小頭である。カルはレーブの此声を聞くより立ち止まり、 カル『ハテ、心得ぬ汝の言葉、汝バラモン教の神司でありながら、何を血迷うて左様な事を申すか。大方発狂致したのであらう。そこ退け、邪魔になるわい』 と進まむとするをレーブは早くも尖つた石を何時の間にか岩の上に幾十となく積み重ね、一歩たりとも前進せば、此岩を以て脳天より打挫かむと右手に岩をささげて睨めつけてゐる。カルは目を瞋らし、 カル『こりや、こりやレーブ、左様な石を捧げて如何致す心算だ。チツと危険ではないか』 レーブ『ハヽヽヽチツとも、やつとも危険だ。何程汝の味方は沢山押寄せ来るとも此一条の難路、一人も残らず討滅すに何の手間暇要るものか。一時も早くここを引き返せよ』 カルはレーブの顔を睨めつけ、互に無言のまま睨みあつて居ると、後の方より、 『進め進め』 と登り来る其勢にカルもやむなく後より押されて前進せむとする時、レーブは無法にも其岩をとつて一つ嚇かし呉れむと、敵に中らぬ様にと狙ひを定めて投げつくれば、岩はカツカツと音をたてて谷底へ転落して了つた。 カル『こりやこりや危ないわい。何を致すか』 レーブ『何も致さない。其方等を片端から殲殺しに致さねば俺の心が得心せぬのだ』 と云ひながら今度は両手に二つの石を引掴み、又もや登り来る敵に向つて投げつけむとする気色を示した。ランチ将軍は稍後の方より、 『進め進め』 と下知をする。已むを得ずしてカルは前進せむとするを、レーブは道の真中に立ちはだかり、第一着にカルの首筋を掴んで谷底目がけて投げつけた。又来る奴を引掴み十人ばかりも谷川目蒐けて投げつくる。かかる処へ遥か下の方より数多の軍卒を押し分けて登り来る大の男、忽ちレーブの前に現はれ、 若芽の春造『何者ならばわが行軍を妨害致すか。吾こそはランチ将軍の懐刀と聞えたる若芽の春造だ』 と云ひながらレーブの素首引掴み、谷川目がけてドスンとばかり投げ込んで了つた。此態を窺ひ見たる黄金姫、清照姫は、 黄金姫、清照姫『今は最早是までなり、天則違反かは知らね共、何とかして敵を追ひちらし、只一人も此峠を越えさせじ』 と腕に撚をかけ金剛杖を前後左右に打振り打振り、単縦陣を張つて登り来る敵に向つて打込めば、素破一大事とランチ将軍は弓に矢をつがえ、二人を目がけて発矢と射かけた。続いて数多の軍勢は弓を背より下し雨の如く二人に向つて射かける。其間を杖を以て避けながら獅子奮迅の勢を以て前後左右に母娘が荒れまはる。二人は遂に坂道より足踏み外し、谷底にヅデンドウと母娘一時に転落した。流石の黄金姫、清照姫は武術の心得あれば少しも体に負傷をなさず、谷底の真砂の上にヒラリと体を下し敵軍来れと手に唾して待つてゐる。ランチ将軍は母娘両人を逃すなと下知すれば、数多の軍卒は都合よき谷川の下り口を探し求めて、雲霞の如く二人を取囲み弓を頻りに射かけ出した。二人は進退惟谷まつて最早運命尽きたりと覚悟の臍をかたむる折しもあれ、谷底よりウーウーと狼の呻声聞ゆると共に、幾百とも知れぬ狼軍はランチ将軍に向つて牙を剥き目を瞋らして暴れ入る。其勢に辟易し、ランチ将軍を始め一同は玉山峠を雪崩の如くバラバラバツと逃げて行く。 黄金姫、清照姫は前後に心を配りながら、数十の狼に送られて玉山峠を宣伝歌を歌ひながら悠々として下り行く。谷口に到り見れば、ランチ将軍の部下は如何なりしか、影だにも見えずなつて居た。これは玉山峠を登れば余程の近道なれども、危険を恐れて道を東に向ひて進軍したものと見える。黄金姫、清照姫は無人の野を行く心地して悠々と進み行くのであつた。 (大正一一・一一・二旧九・一四北村隆光録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 18 沼の月 第一八章沼の月〔一一〇二〕 十五夜の満月は水清き可なり広き葵の沼に浮いてゐる。空には円満清朗の月、池の面にも亦月影をうつして、小波にゆらいでゐる。そこを通りかかつた二人の宣伝使があつた。これは黄金姫、清照姫の二人である。 黄金『今日の御機嫌のよいお月さまの御かむばせ、まるで黄金色のやうだ。一つ此池の畔で月を賞翫しながら休息致しませうか』 清照『お母アさま。お月様の色は黄金姫で厶いますなア、そして清く照り輝き給ふ所は清照姫といつてもいいやうですなア。さうするとヤツパリ貴方が体で私が用といふやうなもの、一日も早く此娑婆世界をして黄金世界に化せしめ、清く照り渡る三五の教を天下に輝かしたきもので厶います。此沼は何といふ沼で厶いませうか』 黄金姫『何でも葵沼とかいふ事だ。青空が映つて、星の影さへ浮んでゐる。何ともいへぬ景色だ。一つここで歌でもよみませうか』 清照姫『ハイ宜しからう、お母アさまから一つ出して下さい、私が下の句をつけますから』 黄金……大空も水底までも葵沼 清照………黄金色に月は輝く。 黄金姫黄金の玉の姿は天と地に 清照姫輝きわたり清く照りぬる。 黄金姫清くてる月の光の一しほに 清照姫沼に映りていとどさやけし。 黄金姫月うかび星さへ浮ぶ此沼は 清照姫高天原の姿なるらむ。 黄金姫三五の月の教をまつぶさに 清照姫上と下とに照らしゆかなむ。 黄金姫照りわたる此池水を眺むれば 清照姫雲井の空にまがふべらなり。 黄金姫風さへも凪ぎわたりたる池の面に 清照姫黄金の月清く照るなり。 黄金姫望の夜の月の姿を眺むれば 清照姫心持よき沼の面かな。 黄金姫沼の月波に砕けてなみなみと 清照姫動く姿を見れば飽かぬかも。 黄金姫今宵こそ沼の畔に熟睡して 清照姫身魂の疲れ休めむとぞ思ふ。 黄金姫吾魂は今見る月の如くなり 清照姫砕けむとしていかな砕けず。 黄金姫大空に澄み渡りたる月影は 清照姫清照姫の姿ならまし。 黄金姫清く照る月の姿は素盞嗚の 清照姫神の尊の光なるらむ。 黄金姫月読の神の姿や瑞御霊 清照姫沼の底まで照りわたる哉。 黄金『オホヽヽヽ清さま、中々お上手ですこと、黄金姫も如何やら歌の種が切れました』 清照『お母アさま、それなら私が始めますから、どうぞ後の句をつけて下さい』 黄金『それも面白からう、やつて見なさい』 清照……われは今葵の沼の月を見る 黄金………月の教を開く道にて。 清照姫月見れば此世の中も楽しけれ 黄金姫みちかけ繁き人の世なれど。 清照姫清く照る月に心をあらはめや 黄金姫天が下をば照らし行く身は。 清照姫此沼の主は幸も多からむ 黄金姫夜な夜な清き月を眺めて。 清照姫日の光打仰ぐ度に目は晦む 黄金姫月のみ独り眼養ふ。 清照姫日の光隅なく照らす世の中に 黄金姫又もや月の光めでたし。 清照姫日も月も世人の為に大空に 黄金姫輝き給ふ神の御恵。 清照姫有難し三五の月の御教の 黄金姫旭の如く照りわたる世は。 清照姫日も月も波間に浮ぶ葵沼 黄金姫心も赤きわれは眺めつ。 清照姫母と娘が葵の沼を打眺め 黄金姫月の光をめづる今日かな。 清照姫バラモンの神の教は晦日の 黄金姫暗夜の如き姿なるらむ。 清照姫暗の夜を照らし清むる黄金の 黄金姫月の光ぞ雄々しかりけり。 清照姫晦日の大空遠く眺むれば 黄金姫大黒主の暗夜なりけり。 清照姫鬼熊の別の命の魂は 黄金姫空行く雲に包まれし月。 清照姫大空もやがてハルナの神館 黄金姫三五の月の清く照るらむ。 清照『オホヽヽヽ私もこれで小出しが切れました。又暇な時、倉庫よりドツサリ出してお目にかけませう』 黄金『オホヽヽヽヽ清さま、お前さまも随分杢助さまの側に居たおかげで、滑稽が上手になりましたな』 清照『コツケコと東雲つぐる鶏の声 やがて日の出の神や昇らむ』 黄金『オホヽヽ早速の滑稽が始まつた。ドレ此母も一つ旅の疲れを慰むる為、駄句つて見ませう。 葵沼に赤い心の神司 白い三五の月を見る哉。 黄金の姫の司が現はれて 葵の沼のわれた月みる』 清照『われた月そりや母さまの事ですよ 私の月はまん丸い月』 黄金『オツホヽヽヽ手にも足にも合はぬお嬢さまだなア』 清照姫『われぬ月とは言ふものの友彦の 波に砕けし半われの月』 黄金姫『うまうまと母の前にて嘘をつき つき通さむとするぞ可笑しき』 清照姫『片われの月さへ望の夜となれば どこもかけない黄金の月』 黄金『オホヽヽヽヽ余り月々云うてると、月がひつくり返つて、キズが出て来ます。モウいい加減に歌の材料もつきだ。サアサアここでゆつくり寝ツキませう』 清照『私もツキ合ひにお側にツキ添うて、寝ツキませう。オホヽヽヽ』 と笑ひながら、月の光を浴びつつ、蓑を布いて沼の畔にたわいもなく横はる。 斯かる所へ、沼に浮んだ月を砕いて、バサバサバサと波を蹴破り、走つて来た七八人の黒い影、 エル『あゝあ、ドテライ目に会うた。蜈蚣姫、小糸姫の両人に、テツキリと玉山峠の南坂で出会し、カルの大将の命令で、遮二無二攻めかけた所、苦もなく谷底へ取つてほられ、気絶して一途の川まで鬼に引きゆかれ困つてゐる所へ、三五教の宣伝使がやつて来やがつて、何とも知れぬ甘露水を呑ませて呉れやがつたと思へば、谷底にブツ倒れて夢を見てゐたのであつた。本当にこはい夢だつたが、気がついて見ると馬鹿らしい、それにも拘らず、カルの大将奴、安眠中に起されて、命の御恩人だなどと、御追従を百万陀羅並べ、胸糞が悪くつてたまらない、とうと彼奴ア三五教に沈没して了ひやがつた、猫の目の玉程よく気の変る奴だ。俺達はどこ迄も初心を変ぜず、大黒主神様の為に身命を捧げたのだから、あんな柔弱な事は出来ない、なあキル公、本当に約らぬ腰弱ぢやないか』 キル『オヽさうだ、おれも余りケツ体が悪くて、あんな宣伝使に………ハイハイおかげで命を助けて貰ひました………などと、馬鹿らしい、其場逃れにお世辞を云つてやつたが、何だか打たぬ博奕に負けた様で、気色が悪くて堪らない。一つは仇討の為、一つは大黒主様の前に功名を立てる為、皆の奴の寝息を考へて、ソツと宣伝使の腰に綱をつけ、一ぺんにグイと引張つて喉のしまる仕掛をしておいた所、宣伝使の奴、大変な古狸だから、寝真似をしてをつたと見えて、いつの間にか魔法を使ひ、あべこべに俺達をフン縛り、レーブに綱を引かしやがつた時の苦しさ、今度こそ本当に幽界旅行をせねばならぬかと心配したよ。一体貴様達ア気の利かぬ奴だから、大きな声を出しやがつて………命の御恩人に恩を仇で返すよな事をしたら神罰が当るなんて吐しやがるものだから、とうとう計略が外れ、虻蜂取らずになつて了つたぢやないか。今度から気をつけぬと、どんな目に会はされるか知れやしないぞ。本当に馬鹿だなア。今にも蜈蚣姫や小糸姫が此沼を迂回して、ここに来るに違ないから、今度はぬかつちやならないぞ。おれ達や貴様達は大黒主様のおかげで、女房子を安楽に養うてゐるのぢやないか。よう考へて見い、果物ばかり食つて命をつなぐ訳にもゆくまい。大黒主様から御扶持を頂かなかつたら、家内中が皆かつゑて死なねばならない。それ程大恩深き御主人様の事を打忘れ、たつた自分一人の命を助けてくれた宣伝使が、ナニそれ程有難いか、而も安眠してゐる所を起されたと云つていい様なものだ。大勢の命を常住不断につながして下さる大黒主様に、如何して替へる事が出来ようか。皆の奴、さうぢやないか』 一同『さう事を分けて説明して貰へば、大黒主さまは有難いなア。此御恩に酬ゆるには如何しても蜈蚣姫、小糸姫の二人を捜して連れ帰るのが第一の御恩報じだ。最早将軍はイソ館へ進軍され、遠く行かれたに違ないから、俺達は到底本隊をはなれて、此小部隊では険呑で進む事も出来ないから、せめては母娘二人の行方を捜して、彼奴を捕縛して凱旋する方が、何程手柄になるか知れたものぢやないぞ。浅い沼ではあるが、時々泥深い所があつて、睾丸も褌もズクタンボー[※但馬地方の方言で「ずぶ濡れ」を意味する「ずくたんぼ」のことだと思われる。]になりよつた。何とかして此奴を早く干かさぬと、気分が悪くて仕方ない。月は照つてゐるが、彼奴はあつてもなうてもよい奴だから、俺の褌一つよう乾かす力を持つてゐやがらせぬワイ。其事思へば、日輪さまはエライものだなア。三五教は月の教だとか吐して居るが、夜の守護だから、サツパリ駄目だ。サア皆の奴、ここで一つ一服致さうかい』 黄金姫は草の中から、 黄金姫『われこそは一途の川の鬼婆だぞよ、其方は此処を葵の沼と思うて居るか、ここは冥途の関所だ。サア早く其衣を脱げ』 キル『オイ皆の奴、ヤツパリ此奴ア夢かも知れぬぞ。宣伝使が助けよつたと思うたのは嘘だつたかいな。一途の川のヤツパリここは連続だ。エヽもう斯うなつてはヤケクソだ。どつかここらの草の中に脱衣婆の声がして来た。サア突貫々々』 と号令する。黄金姫、清照姫は草を分けて八人の前にスツクと立現はれ、 黄金『バラモン教の悪人共、サア之から蜈蚣姫が武勇の試し時、覚悟いたせ』 キル『ナヽ何だあ、蜈蚣姫だ、甘い事吐すない、一途の川の星々婆ア奴、ガキも人数だ。八人と一人では叶ふまい。サア突貫々々』 清照『妾は三五教の宣伝使小糸姫だ。バラモン教の悪人共、一人も残らず冥途の旅立をさしてやらう。サア覚悟はよいか』 キル『ヤア此奴は又若い脱衣婆アだ。コリヤ両人、蜈蚣姫や小糸姫の名をかたつても駄目だぞ。一イ二ウ三ツ』 といひながら、八人は二人に向つて武者振りつくを、 『エヽ面倒』 と母娘二人は首筋つかんで葵の沼の真中へ、一人も残らず、バサリバサリと投げ込んだ。八人は此勢に辟易し、一生懸命に再び沼の真中をバサバサバサと北を指して逃げて行く。 八人の奴は驚きの余り、照国別の休んでゐる所へ、以前の怖さを忘れて又もやバサバサバサと命からがら上つて来た。レーブは此姿を見て、 レーブ『アハヽヽヽ、コリヤ八つの蛙、如何したのだ。いかにカヘルだと云つて、再び元の所へ逃げカヘル奴があるかい』 キル『ヤア…………此奴アしまつた、余りビツクリして忘れてゐた。前門の狼、後門の虎だ。オイ、レーブ、こらへてくれ。向ふへ渡ると蜈蚣姫、小糸姫の名をかたつて婆や娘がヒユードロドロと出やがるなり、こつちへ来れば又此通り、進退これ谷まるだ。モウ改心するから許してくれ。頼む頼む』 レーブ『たとへ宣伝使がお赦しになつても、貴様の様な不都合な奴は此レーブが赦さぬのだ。オイ、カル、貴様も一つ手伝つてくれ。この八匹の蛙を元のドブ池へ突込んでやるのだから』 カル『ヨシ来た』 とカルは立上り、手に唾して、片つぱしからドブンドブンと沼を目がけて投込んだ。八人は又もやバサバサバサと浅き沼を命カラガラ南を指して逃げて行く。 春公『モシ宣伝使様、ヒヨツとしたら、黄金姫様、清照姫様は此沼の向方あたりにお休みになつてるのかも知れませぬぜ』 照国『いかにもさうかも知れない、一つ此沼を渡つて、追つついて査べてみよう。サア一同用意だ』 と云ひながら、早くも照国別は裾をからげ、浅き沼をバサバサと歩み出した。照、梅、春、レーブ、カルの一行は照国別の後に従ひ、月照り渡る沼の中をバサリバサリと、波に円を描きながら急ぎ行く。 (大正一一・一一・四旧九・一六松村真澄録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 20 入那の森 第二〇章入那の森〔一一〇四〕 黄金姫は照国別一行と葵沼の畔で東西に別れ、西へ西へと進み行く。日も漸く黄昏れて、百鳥は塒を求め、彼方此方の森に帰り行く、其羽音の騒がしさ。一行四人はハタとつき当つた相当広い川辺に着いた。比較的水が少くて徒渉するにも余り困難を感じない様に見えて居る。一行は薄暗がりに裾をからげて流れを渡り、二三丁西に当るコンモリとした森蔭を目当に辿り着いた。後の夜の月はまだ姿を現はさぬ宵暗である。森の中には古ぼけた相当に大きい祠が建つてゐた。 黄金『秋の日は暮れ易く、余り足も草臥れない内に又休まねばならぬ様になりました。幸ひ此森の祠の中で一休み致しませう』 清照『お母アさま、今晩は斯様な所で休まずに、やがて月も出ますから、それまでここで月待をして進むことにしませう。夜半頃迄歩けば、余程里程がはかどりませうから………』 黄金『長い道中のことだから、夜が明けたら歩き、何程楽でも日が暮れたら泊つてゆくことにしませう』 清照『それでも何だか気がせいてなりませぬ。ハルナの都にましますお父さまの身の上に何か変事でも起つてゐるやうに思はれて、気が気でなりませぬ』 黄金『何程焦つた所で遠い里程、何事も神様にお任せして、ボツボツ行きませう。草臥れて道で倒れるやうな事があつては、悪神の跋扈する世の中、困りますから』 レーブ『お二人さま、ここで今晩は御一宿なさつたらどうです。吾々両人は互に交代で不寝番を致しますから………』 黄金『それなら何神様の祠か知らぬが先づ天津祝詞を奏上し、此お宮を拝借することに致しませう。清照姫………さうが善いぢやないか』 清照『お父さまの身の上の事は、ここでトツクリ神様に御願ひ致しまして、寝むことに致しませう』 黄金姫は軽くうなづきながら、型の如く祝詞を奏上し、祠の中に進み入り、蓑を布いて母娘枕を並べ寝に就いた。レーブ、カルの両人は祠の床下に横はりつつあつたが、何時の間にか、ウトウトと眠つて了つた。 ここへスタスタとやつて来た二三人の男がある、足音を忍ばせながら祠の前に立寄り、 アルマ『オイ、テク、何でもここらあたりの祠の中らしいぞ』 テク『オイ、アルマ、こんな所に何が居るものかい』 アルマ『それでも何だか妙な響が聞えて来るぢやないか、メツタに鼠の鼾ぢやあるまいぞ。イルナの刹帝利さまから聞いたには、キツと黄金姫の一行は此処を通るに違ひないと仰有つた。マアマア黙つて様子を考へたら如何だ。彼奴さへ捉まへたなら、結構な御褒美が頂けるのだからなア。小さい国の一つも貰つてハムとなつて威張らうと儘だよ』 テク『併し乍ら黄金姫といふ奴は中々の豪傑で、俺達の手には合はないぞ。只所在さへ分れば黙つて報告し、強い奴に掴まへさせばいいのだ。それが余程利口な行方ぢやからなア、おい、テム、貴様はどつちにするか』 テム『俺はどつちかといへば中立だ。併し乍ら同じことなら生擒にしたいものだ。オイオイどうやら本真物の人間の鼾がして来だしたぞ』 レーブ、カルの両人は床下から三人の話を息をこらして聞いてゐた。三人は床下に二人がひそんでゐるとは夢にも知らず、ドシドシと階段を登り、 アルマ『ヤア此縁側は数百年来の風雨の侵害に依つて、余程老朽してると見えるワイ。気をつけぬと底がぬけて、脛でもかすつたら、又此間の様に吠面かわいて、負うてくれの何のとダダをこねねばならぬやうになるぞ。気をつけたり気をつけたり』 レーブは床下から、そこらの石を拾つて、古板を下からガンガンと力をこめてなぐり立てた。三人は此声に驚き、飛上がつた途端に、階段から真逆様に祠の前に転落し、 三人『アイタヽヽ、ウンウン』 と唸り出した。 テク『オイ、貴様等チトしつかりせぬか。あれ位な声にビツクリしやがつて、挙措其度を失し、こんな所からヒツクリ返るといふことがあるものか。そんな臆病なことで如何して吾々の御用が勤まると思ふか』 アルマ『テク、お前もヤツパリ落ちたぢやないか。人を責むること急にして、己の失敗は口角につかねて知らぬ顔の半兵衛とはチツと虫がよすぎるぢやないか』 テク『貴様等二人が転げやがつたものだから、俺も一緒について落されたのだ。いはば俺は被害者だ。貴様等両人は証拠充分なる加害者だから、刹帝利様に報告して相当の処分をやつて貰ふから、さう思へ』 アルマ『アハヽヽヽ旃陀羅成上がり奴、エラさうに吐すない。俺はかう見えても、チヤキチヤキの首陀の家柄だ。貴様等とは人種が違ふのだからなア』 テク『コリヤ俺が旃陀羅なんて、無礼なことを言ふな、勿体なくもバラモン族だぞ』 アルマ『バラモンが聞いて呆れるワイ、のうテム、此奴は今日も道の真中で旃陀羅に会ひやがつて、心安さうに何だか囁いてゐたぢやないか。彼奴に近よつて物をいふ奴は矢張其系統でなければ、汚らはしくて寄り付く者はないからのう』 テク『コリヤ両人、上官に対して何といふ無礼なこと申す。吾々捕手の役人は旃陀羅であらうが首陀であらうが、一々出会ふ奴の面を検めねばならず、物も言はして見ねば人間の程度が分らないから、仕方なしに職務を重んじて物を言つたのだ。そんな冷淡なことで此役目が勤まるか、万々一蜈蚣姫が此捜索の厳しいのを悟つて、人のいやがる旃陀羅に化けて通るかも知れない。さうだから、此方が職務忠実に勤めてゐたのだ。馬鹿野郎だなア。左様な不心得な奴は只今限り暇をくれてやるから、さう思へ』 テム『オイ大将、口ばかりエラさうに言つてるが、お前の腰は立つのかい』 テク『貴様の知つてゐる通り、腰が立ちやこそ此処までやつて来たのぢやないかい。訳の分らぬことを吐すものぢやないワイ。サア只今限り暇をくれる、どつこへなりと、天下に放ち飼ひだ。うせたがよからうぞ』 アルマ『どこへ行けと云つても、俺達は両人共ビツクリ腰が抜けたのだから、暫く免職丈は保留してゐて呉れ。同じ免職なれば、依願免職といふ形式でやつて貰はねば、今後の就職口に付いて迷惑だから、貴様を旃陀羅と云つた位で、此結構……でもない職を免ぜられて堪るものかい。のうテム公』 テク『武士の言葉に二言はないぞ。いひ出したら後へは引かぬテクさまの気性を知つてゐるだらう』 アルマ『ヘン、テクテクと何だテクせの悪い、泥棒上り奴が、モウ斯うなつては、破れかぶれだ。オイ、テム公、貴様はテム公だから、テクの奴がかぶりついて来たら、手向ふ役となつて格闘するのだ。万々一形勢危しと見たら、俺が助太刀をする、併しモウ少し経たぬと駄目だ。まだ抜けた腰が元の鞘へ、少しばかり納まつてゐないからのう。併しテクの奴もきつく腰を打ちやがつたに違ない、あの声の色を見い、大分に痛さうだぞ。大体旃陀羅がこんな尊い御神前へ土足のまま昇るものだから、神罰が当り、俺達迄がマキ添ひに会うたのだ』 かく話す時しも、又もや床下から一層大きな怪しい声が聞えてきた。先のはレーブ一人が石で床板をコツいたのであつたが、今度は両人が力一杯石にて床下を叩いたのだから、四五層倍の響音に聞えて来た。三人はキヤツと悲鳴をあげ、逃げようとして手ばかりもがいてゐるが、チツとも腰が立たない。さうかうしてゐる間に、月は容赦なく下界を照らし、森の隙間から強き光がさして、三人の体を照らした。 レーブ、カルは床下よりニタリと笑ひながら這ひ出し、階段の上にツカツカと登り、あたりに響く大音声にて歌ひ出した。 レーブ『神が表に現はれて善と悪とを立別ける 刹帝利浄行畏舎首陀や旃陀羅族の素性をば 立別け給ふ時は来ぬ此世を造りし神直日 心も広き大直日唯何事も人の世は 直日に見直し宣直し大黒主は知らずして 唯惟神に刹帝利の流れのはてとあやまりつ 旃陀羅族のテク公を神の司の供人と 使ひ居たりし可笑しさよかかる矛盾を見るにつけ バラモン教の神司大黒主の盲神 ぢやといふ事はハツキリと今や隈なく知れわたる 三五の月の御光に照らされ苦む三人連 中にも賤しきテク公は天地の間も恐れずに 勿体なくもバラモンの鬼熊別の奥さまや 小糸嬢をば馬に乗せお供に仕へしさへあるに 冥加知らずのテク公は怪しき眼を光らして 心に何か企むてふ容子の色に見えければ 神に斉しき黄金の姫の命や清照の 姫の司はそれとなく玉山峠の麓にて レーブにかこつけ暇やると言はれた時の天眼通 これぞ誠の生神と敬ひ慕ひ後を追ひ いろいろ雑多と苦労してここ迄従ひ来りしぞ 此床下にひそみ居て汝等三人の囁きを 残らず聞いたレーブ、カル最早叶はぬ百年目 腰の抜けたを幸ひに弱目をみかけて俺達が つけ込むのではなけれども耳をさらへてよつく聞け 汝は鬼熊別の神下僕とならむといろいろに 手をかへ品を変へながら頼み込んだが明察の ほまれも高き神司鬼熊別は忽ちに 看破なされて御首を左右りとふり給ひ 男を下げてベソをかき大黒主の下僕等に うまく取り入り漸くに下僕の数に加へられ よからぬ事のみ行ひつ又もや此処に現はれて イルナの国の刹帝利と心を合せ奥様や 嬢様たちを捉へむと向ひ来るぞ可笑しけれ 命知らずの馬鹿者よ心の鬼に責められて チヨツとの音に胆ひやし階段上から転落し 腰を痛めて吠面をかわき苦む憐れさよ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 悪に返つた旃陀羅のテクの心を立直し 仁慈無限の三五の神の教に逸早く 進ませ給へ天地の尊き神の御前に 慎み敬ひ願ぎまつる朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 摂取不捨の御誓ひ人間界に交こりて 賤しき身分とさげしまれ排斥されし旃陀羅も 其源を尋ぬれば天地の神の御分霊 御分体ぞと聞くからは一切平等神の御子 大慈大悲の御心に見直しましてテクの罪 許させ給へと願ぎまつる』 カルはレーブの後について又歌ふ。 カル『おつたまげたか、たまげたかテクにアルマにテムの奴 天に口あり壁に耳汝等三人の悪だくみ 残らず聞いた床の下コリヤ面白い面白い 一つおどして胆玉を試してやらうとレーブさま カルの二人が二つの目見合しながら床下の 石を拾ひて古板をドヽヽヽドンと打叩き おどしてみれば面白や汝等三人は胆潰し 道路神にさいなまれつまみ出された其如く 階下にドーツと打倒れ腰をぬかしてウンウンと 吠面かわき愚痴並べ旃陀羅族だ刹帝利と 味方同志が内乱を起し居るこそ馬鹿らしい あゝ惟神々々神の神罰立どころ 悪の企みの年の明き大黒主に仕へたる おれは名高きカルさまよ今床下で聞き居れば アルマやテムの両人を只今限り免職と エラさうにほざいて居つただろおれは貴様に比ぶれば 十三四段上役だ此カルさまが神様に 代つてテクを免職し息の根とめて根の国や 底の国なる地獄道派遣してやるテクの奴 双手を合せ感謝せよ大慈大悲のカルさまが お前の好きな底の国青赤黒の鬼共が 手具脛ひいて待つてゐる焦熱地獄のドン底へ 紹介状をつけるから安心致して行くがよい アハヽヽハツハオホヽヽヽ誠に誠に気味がよい それに引替へテムアルマ二人の奴はカルさまが 抜擢致して今よりは改心次第で三五の 司のお供に任けてやろサア嬉しいか嬉しいか 二人の奴らよ返答せよ返答次第で天となり 或は地獄と早変り極楽地獄の境目ぢや あゝ惟神々々祠の中にひそみます 黄金姫や清照の姫の司の御前に カルが真心捧げつつ只今仲裁仕る あゝ惟神々々叶はぬならば逸早く 両手を合せ尻をふり頭を下げつ四つ這ひに 三べん廻つてワンワンと吠えて改心したと云ふ 証拠を早く見せてくれそれをばシホにカルさまが 神の司に取持つてお前を許し結構な これから役目にする程に昇る身魂と又降る 身魂とさばく神の道テク公は降る両人は 天国浄土に昇るよな心一つの持様で ハツキリ区別がつく程にメソメソ吠えずに確かりと 早く改心した上で感謝の誠を現はせよ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 三人は体の身動きもならぬままに、両手を合せ、 三人『お助けお助け』 と叫んでゐる。此騒ぎに黄金姫、清照姫は目を覚まし、何事ならむと祠の戸を開いて外に現はれ見れば、三人の男の此惨状、 黄金『コレ、レーブ、カル両人、ここにどうやら三人の男が倒れてゐるやうだ。早く神様にお詫をしてやつて下さい。先づ鎮魂を施して、腰を立たしてやらねばなるまいぞや』 レーブ『ハイ、畏まりました。併し乍ら此奴はテームス峠を登る時、清照姫様の馬の口を取つて、玉山峠の麓迄送つて来たテクといふ悪者で厶います。外の二人は助けてやつても宜しいが、此奴丈はみせしめの為に此儘に捨ておき、頭から糞でもひつかけてやつた方が将来の為かも知れませぬぜ』 テク『モシモシ、レーブさま、そんな殺生なことをいはずに、わしも今日から改心しますから、どうぞ助けて下さいな』 レーブ『何と云つても此レーブさまとしては許すことが出来ないワ。今日こそ思ふ存分貴様をいぢめてやるのだ。貴様もチツと小手の利いてる代物だから、こんな時に仕返しをしてやらぬと、千載一遇の機会を逸するといふものだ。いつやら俺の頭をなぐりやがつて、其為に俺は治療二週間を要する傷を負うたのだ。それでも長いものには巻かれ主義で、今日迄辛抱して来たのだから、今日は仇討ちの時節が到来したのだ。エヘヽヽヽ、神が仇をうつてやるぞよと仰有るのはここの事だ、こりやテク、観念致せ』 黄金『コレ、レーブ、お前も無抵抗主義と忍耐と慈悲との三五教へ入つたのだから、今までの恨みはサラリと川へ流し赦してやりなさい』 レーブ『奥様の御言葉なれど此奴に限つて赦すことは出来ませぬ。恨み骨髄に徹してる不倶戴天の仇敵ですから、どうぞ仇を討たして下さいませ』 黄金姫『お前は神様の御言葉を忘れたのかな』 レーブ『イエイエどうして、忘れてなりますものか、片時の間も、尊き三五の教は忘却致しませぬ』 黄金姫『それなら何故仇を赦してやらないのか、チツとお前の信仰と、矛盾しては居ないかなア』 レーブ『矛盾か撞着か知りませぬが、此奴ばかりは赦す事は出来ませぬ。普通の人間に擲られたのなら辛抱も致しますが、こんな旃陀羅にやられたと思へば残念で堪りませぬ。こんな奴に擲られて其儘にしておいては出世の時節がありませぬから、どうぞ頭を一つカチ割らせて下さいませ。何と仰有つてもこれ丈は思ひとまる訳には参りませぬ』 と手頃の石を拾ひ、そこに倒れて居るテクの頭を打割らうとするのを、黄金姫は大喝一声、 黄金姫『レーブ、暫く待てツ。これ程事を分けて申すのに、女宣伝使と侮つて、吾言を用ひないのか。只今限り免職を致すから、さう思うたがよからうぞや』 レーブは頭を掻きながら、 レーブ『あゝ又免職が伝染したと見えますわい。エヽ仕方がない、それなら奥さまの御命令に従ひませう』 テク『コレ、レーブ、さうしたがよいぞや。人を免職させると、又自分が免職になるぞや』 レーブ『エヽ貴様まで人を馬鹿にするない、アタ忌々しい』 黄金『オホヽヽヽ』 清照『ウフヽヽヽあのマア、レーブさまの悄気た顔わいのう』 カル『エツヘヽヽヽ、コリヤ面白い面白い』 黄金『三人の者共、黄金姫が赦すから、何処へなと勝手に行つたがよからう。今度は決してこんな割のわるい商売は致す事はなりませぬぞ』 三人『ハイ有難う』 と涙声に感謝してゐる。不思議や三人の腰は忽ち旧に復し、喜び勇んで匆々に此森を後に逃ぐるが如く姿を隠した。 黄金姫一行は夜の明くるを待ち、悠々として此場を立出で、イルナの国の都を指して進み行く。 (大正一一・一一・五旧九・一七松村真澄録)