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霊界物語 07_午_日の出神のアフリカ物語 49 乗り直せ 第四九章乗り直せ〔三四九〕 折から吹き来る真夏の夜風に面を吹かせながら、船頭は舳に立つて、 竜宮見たさに瀬戸海越せば向ふに見えるは一つ島 と歌ひ出したり。 船は小波の上を静かに辷り行く。空一面に疎の星が輝き、月は中空に水の滴るやうな顔をして海面を覗いてゐる。海の底には竜の盤紆るやうな月影沈ンでゐる。この時前方より艪を漕ぎ舵を操りながら、グーイグーイ、ギークギークと音をさせて、此方に向つて進み来る一艘の船があつた。その船の舳に蓑笠を着し、被面布をつけた男が立つてゐる。北光神は、その船に向つて声を張上げ、 北光神『心を尽し身を尽し天地の神に麻柱の 道を立て抜く宣伝使四方の国々巡り来て やうやう此処に北光の我は目一箇神なるぞ 名告らせ給へその船の舳に立てる宣伝使 舳に立てる神人よ』 と歌へば、その声に応じて向ふの船より、 広道別『天津御神や国津神木の花姫の御教を 四方の国々島々に広道別の宣伝使 汝は何れに坐しますか我はこれより亜弗利加の 熊襲の国に渡るなり熊襲の国は猛くとも 神の依さしの言霊に四方の曲霊を悉く 言向和はせ天教の山に坐します木の花姫の 神の命や黄金の山の麓に現れませる 埴安神の御前に奇しき功を立つるまで 浪路を渡る宣伝使稜威も広き広道別の 神の使は我なるぞ神の使は我なるぞ』 と歌ふ声も幽かになり行く。二人は互ひに立ち上がり、被面布を振つてその安全を祝し合ひける。船中の人々は亦もや雑談を始め出したり。 甲『もう、つい竜宮城が見えるぜ。おとなしくせぬと、竜宮さまが怒つて荒浪を立てられたらまた昨日のやうに八百屋店を出して苦しまねばならぬから、小さい声で話しをしようかい』 乙『お前らこの竜宮の訳を知つてるか、今こそかうして船に乗つて瀬戸の海から竜宮城まで楽に行けるが、昔は竜宮と瀬戸の海との真中に、それはそれは高い山があつて、その山はシオン山というてな、何でもえらい玉が出たといふことだ。それが大洪水のあつた時に、地震が揺つてその山が地の底に沈ンで了ひ、竜宮と瀬戸の海とが一つになつて了うたといふことだよ』 丙『そんな事かい、そんな事は祖父の代から誰でも聞いてゐる事だよ。もつと珍しい話はないのかい』 乙『竜宮城には稚桜姫といふ、それはそれは美しい神様があつて、そこに大八洲彦命とか、大足彦とかいふ立派な神様が竜宮城とヱルサレムの宮を守つて御座つた。さうすると常世の国の常世姫といふ偉い女性が竜宮を占領しようと思うて、何遍も何遍も偉い神様の戦ひが始まつたということだのう。今の竜宮もヱルサレムの宮も昔の話と比べて見ると、本当にみじめなものだ。ヨルダン河というて大きな河があつたのが、その河も洪水の時に埋つて了ひ、今では小さい細い川となつて、汚い水が流れて居る。変れば変る世の中だ。これを思へば何ンな偉い神様でもあかぬものだな。翔つ鳥も落ちる勢の稚桜姫といふ神様も、大八洲彦といふ神様もさつぱり常世姫とかにわやにされて、今は吾々の行く事のできぬ富士とやらへ逃げて行かれたといふ事だよ』 丙『フーン、さうかい。さうすると我々も今豪さうに言つて居つてもどう変るやら分らぬな』 乙『知れた事よ、神様でも時世時節には敵はぬのだもの、我々はなほ更の事だ。併しこの船には立派な宣伝使が乗つて居られるといふ事だが、一遍話を聞かして貰つたら如何だらう』 甲『イヤ最う宣伝使の歌も好い加減なものだよ。神が表に現はれて善と悪とを立別けるなンて、冷飯に湯気が立つたやうな事を吐かすのだもの、阿呆らしくて聞かれたものぢやない。そンな歌は大洪水前の事だ。大洪水のときは善の神様は天教山とか天橋とかに助けられ、悪い者は洪水に漂うたり、百足虫の山や蟻の山に揚げられて、善悪の立別がハツキリあつたさうだ。俺等の祖父の代の話だから詳しい事は知らぬが、今ごろにそんな事を歌ふ奴は、死ンだ子の年を数へるやうなものだ。阿呆らしいぢやないか。これだけ開けた世の中が、さう易々と立替はつて堪るかい。善と悪とを立別けるとか変るとかいふが、俺の処の村の久公のやうな悪人は段々と栄えて来るなり、新公のやうな善人は益々貧乏して、終ひには道具を売つて親子夫婦が生別れして乞食に出たぢやないか。俺はそれを思うと神様を頼む気にならぬがなア。宣伝使の歌なンて古めかしいわい、六日の菖蒲十日の菊だ。併しながら、憂晴しに聞くのは善いが、それをほンまの事だと思つたら、量見が違ふぞ。宣伝使といふものは、方便を使つて吾々に悪い事をせぬやうにするのだが、今日のやうに悪が栄えて善が衰へるやうな暗がりの世の中に、何ほど宣伝使が呶鳴つたところで、屁の突張にもなつたものぢやないよ』 この時、船の一方より、 宣伝使『神が表に現はれて善と悪とを立別る』 甲『それ始まつた、頭が痛い。こいつは耐らぬ。この船には怪体な奴が乗つてけつかるものだ』 宣伝使『この世を造りし神直日心も広き大直日 ただ何事も人の世は直日に見直せ聞直せ 身の過は宣り直せ』 乙『オイ貴様心配せいでもよいわ。宣伝使が今乗り直すと言つてゐた。今其処へ来る船に乗り直して呉れるわい。さうしたらいやな歌は聞かいでもよいわ』 甲『早く乗り直しやがらぬかいな』 宣伝使『神が表に現はれて……』 甲『ソレ亦始めよつた。アイタヽヽヽ』 宣伝使『善と悪とを立別る……』 甲『あゝたゝ怺らぬ怺らぬ』 と言ひながら、甲は立つて、 甲『やいやいやい宣伝使それ来るそれ来る船が来る お前のやうな痛い事囀る奴はあの船に 一時も早く乗り直せ早う乗れ乗れ乗り直せ そら来たそら来た船が来た乗らぬか乗らぬか宣伝使 貴様のお蔭で頭痛がする』 と呶鳴つてゐる。後の方より亦もや乙の宣伝使が立つて、 宣伝使『神が表に現はれて善と悪とを立別る』 甲『また出よつた。一体この船は何だい。もう船の旅は懲り懲りだ』 船頭『お客さま、船が着いた。早く上らつしやれ』 と叫ぶ。甲は頭を抱へて、いの一番に船を飛出し、どこともなく姿を隠したり。この男は果して何者ならむか。 (大正一一・二・二旧一・六桜井重雄録)
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霊界物語 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 13 修羅場 第一三章修羅場〔三六三〕 心も清き清彦は朝日夕日のきらきらと 智利の都を後にして夜はあるとも秘露の国 秘露の都へ進み行く。 清彦の仮の日の出神は、昼夜間断なく三五教の宣伝に務め、都の中央なる高地を選んで宏大なる館を造り、国魂の神なる竜世姫命の御魂を鎮祭し、その名声は四方に喧伝され、あまたの国人は蟻の甘きに集ふが如く、四方八方より其徳を慕うて高遠なる教理を聴問に来るもの、夜に日を継ぐ有様なりける。 仮日の出神は大広前に現はれ、数多の国人に向つて三五教の教理を説き始めたるに、末席より眼光烱々として人を射る黒い顔、しかも弓の様に腰の曲つた男、酒に酔つ払つて捻鉢巻をしながら、渋紙の如き腕を捲りて高座に現はれ、清彦に向ひ大口を開けて、 男(蚊々虎)『ウワハヽヽヽー、貴様よく化よつたなあ、コラ俺の面を知つて居るか』 と黒い顔を清彦の前にぬつと突き出し、妙な腰付して右の手を無性矢鱈に振りながら、 男(蚊々虎)『皆の者、眉毛に唾をつけよ。此奴は日の出神と偉さうに申して居るが、今この蚊々虎が面の皮を引剥いて目から日の出神にしてやらうぞ。ウワハヽヽヽー』 と腹を抱へ腰を叩き頤をしやくりて嘲弄し始めたり。清彦は一切構はず三五教の教を諄々として説き進めゐたり。蚊々虎は蛮声を張り上げて、 蚊々虎『万場の人々よ、この男は旧は地の高天原に鬼雲彦と共に謀反を企み、常世国の鬼城山に姿を隠し、美山彦、国照姫の悪神の帷幕に参じ、常世の国の会議に於て泥田の泥狐に欺され、泣きの涙で又もや鬼城山に逃げ帰り、悪逆無道の限りを尽し、さしもの悪に強き美山彦さへ愛想尽かして放り出したる、鬼とも蛇とも譬へ方無き人非人、数多の神人に蚰蜒の如く嫌はれて、遂には流れ流れて秘露の都へ渡り来たれる、善の仮面を被る外面如菩薩、内心如夜叉、悪鬼羅刹の変化清熊の変名清彦と云ふ奴、此奴が智利の国へ渡つた時、二人の伴を連れて居た。其奴も同じ穴の狐、猿世彦に駒山彦、その猿世彦は今はアリナの滝に庵を結び、三五教の俄宣伝使と化け変り、あまたの国人を誑かす悪魔の変化。駒山彦は秘露の都に現はれて、これまた知らぬが仏の国人を、縦横無尽に誑かす悪魔の再来、その親玉の清熊の成れの果。贋日の出神となつて秘露の国をば闇にする、悪い企の現はれ口、この蚊々虎が見つけた上は、もはや叶はぬ運の尽き。さあさあ清熊白状いたせ、返答は如何ぢや、此場に臨んで何も云はれまい。道理ぢや、尤もぢや。俺が代つて貴様の企を素破抜かうか。智利の都の町端れ、闇の夜に汝ら三人の囁く言葉、すつかり聞いたこの蚊々虎、二人の奴を闇の谷間に放つときぼりを喰はしよつて、一人逃げだし路傍の芝生に腰を下し、有りし昔の懺悔話を、後から追ひつく二人の奴に嗅つけられて甲を脱ぎ、茲に三人腹を合して此高砂島を攪乱せむとする悪の張本人、日の出神とは真赤な偽り、鬼城山の棒振彦の参謀清熊どうぢや、往生したか、早く尻尾を出しよらぬか、ヤアヤア皆の人々一時も早くこの場を去られよ、今に本当の日の出神が竜宮の底から出て来たら、アフンと呆れて馬鹿を見るぞよ。この蚊々虎さまは勿体なくも大国彦の一の家来の醜国別の家来の、そのまた家来のその家来、沢山の家来を連れて居るのは俺ではなうて大国彦様、何処から何処まで、山の谷々、海の底まで、谷蟆のやうに嗅ぎつけ探し廻る自在天の家来の、蚊々虎さまとは俺のことだ、ヤイ清熊まだ強太い白状せぬか、ヤイ皆の奴まだ目が醒ぬか。此処は名に負ふ秘露の国、秘露の都の中央で、夢見る馬鹿があるものか、早う目を醒ませ、手水を使へ、腰抜野郎の屁古垂れ野郎奴』 と口汚く高座より呶鳴りつけたるより、数多の人々は喧々囂々その去就に迷ひ、彼方の隅にも、此方の隅にも激しき争論始まりきたり。場内はあたかも鼎の湧くが如く、雷鳴の轟くが如く、遂には鉄拳の雨処々に降り濺ぎ、泣く、笑ふ、怒る、罵る、叫喚く、忽ち阿鼻叫喚の修羅場と化し去りぬ。清彦は壇上に蚊々虎と共に仁王立となりて此光景を看守り居たり。 声(日の出神)『神が表に現はれて善と悪とを立別ける この世を造りし神直日心も広き大直日 ただ何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ 身の過は宣り直せ』 といふ涼しき宣伝歌が、場内の喧騒の声を圧して、手に取るが如く響きわたり、それと同時に、さしも激烈なりし修羅の光景はぴたりとやみにける。嗚呼この宣伝歌は何人の声なりしか。 (大正一一・二・七旧一・一一加藤明子録)
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霊界物語 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 39 言霊解一 第三九章言霊解一〔三八九〕 『故ここに伊弉諾命詔り給はく「愛くしき我が那邇妹命や、子の一つ木に易へつるかも」と宣り給ひて、御枕べに匍匐ひ御足べにはらばひて、泣き給ふ時に、御涙に成りませる神は、香山の畝尾の木の下にます、御名は泣沢女の神、故其の神去りましし伊弉冊神は、出雲の国と伯伎の国との堺、比婆の山に葬しまつりき』 伊弉諾命は即ち天系霊系に属する神でありまして、総ての万物を安育するために地球を修理固成されました、国常立尊の御後身たる御子の神様でありますが、古事記にある如く、迦具土神が生れまして、即ち今日は、交通機関でも、戦争でも、生産機関でも火力ばかりの世で、火の神様の荒ぶる世となつたのであります。この火の神を生んで地球の表現神たる伊弉冊命が神去りましたのであります。この世の中は殆ど生命がないのと同じく、神去りましたやうな状態であります。 そこで伊弉諾命は我が愛する地球が滅亡せむとして居るのは、迦具土神が生れたからであるが、火力を以てする文明は何程文明が進んでも、世の中がこれでは何にもならぬ。地球には換られぬと宣らせ給はつたのであります。これが『子の一つ木に易へつるかも』といふ事であります。 次に『御枕べに匍匐ひ御足べにはらばひて』といふことは、病人にたとへると病人が腹這ひになつて死んだのを悔む如く、病人と同じく横になつて寝息を考へたり、手で撫でて見たり、又手の脈をとつて見たり、足の脈をとつて見たり、何処か上の方に生た分子がないか、頭に当る所に生気はないか、日本魂が未だ残つては居ないかと調べ見給ひし所殆ど死人同様で上流社会にも、下等社会にも脈はなくて、何処にも生命はなくなつて居る。全く今日の世の中はそれの如くに暖かみはなく冷酷なもので、然も道義心公徳心が滅亡して了つて居るのであります。それで泣き悲しみ給ふ時に、その涙の中に生りませる神の名を泣沢女神というて、これは大慈大悲の大神様が、地上一切の生物を憐み玉ふ所の同情の涙と云ふことであります。今日でも支那の或地方には泣女といふのがあつて、人の死んだ時に雇はれて泣きに行く儀式習慣が残つて居るのも、これに起源して居るのであります。 神去りました伊弉冊命は、之を死人にたとへて出雲の国と伯耆の国の境に葬むられたと書いてありますが、出雲といふのは何処もといふことで亦雲出る国といふことである。 今日の如く乱れ切つて、上も下も四方八方、怪しい雲が包んで居るといふ事であります。伯耆の国といふのは、掃きといふことで雲霧を掃き払うと云ふことである。科戸の風で吹払うと云ふのもさうであります。即ち国を浄める精神と、曇らす精神との堺に立たれたのであります。所謂善悪正邪の分水嶺に立つたものであります。実に今の世界は光輝ある神世の美はしき、楽しき黄金世界になるか、絶滅するか、根の国底の国、地獄の世を現出するかの堺に立つて居るのであります。 『比婆の山に葬し』といふ事はヒは霊系に属し、赤い方で、太陽の光線といふ意義でバと云ふのは、ハとハを重ねたもので、これは悪いことを指したものであります。即ち霊主体従と体主霊従との中間に立て、神が時機を待たせられたと云ふことであります。斯くして伊弉冊命即ち地球の国魂は、半死半生の状態であるが、併し天系に属する伊弉諾命は純愛の御精神から、此地球の惨状を見るに忍びずして、迦具土神即ち火の文明が進んだため、斯うなつたといふので、十拳剣を以て迦具土神の頸を斬り給うたのであります。十拳の剣を抜くと云ふ事は、戦争を以て物質文明の悪潮流を一掃さるる事で、所謂首を切り玉うたのであります。 この首といふことは、近代でいへば独逸のカイゼルとか、某国の大統領とか云ふ総ての首領を指したのである。即ち軍国主義の親玉の異図を破滅せしむる為に、大戦争を以て戦争の惨害を悟らしむる神策であります。 『是に伊邪那岐命、御佩せる十拳剣を抜きて、其御子迦具土神の御頸を斬り給ふ。爾に其御刀のさきにつける血、湯津石村にたばしりつきて、成りませる神の御名は、石拆神、次に根拆神、次に石筒之男神、次に御刀の本につける血も、湯津石村にたばしりつきて成りませる神の御名は、甕速日神、次に樋速日神、次に建御雷之男神、亦の御名は建布都神亦の御名は豊布都神、次に御刀の手上にあつまる血、手俣より漏れ出で成りませる神の御名は闇於加美神、次に闇御津羽神』 十拳剣即ち神界よりの懲戒的戦争なる神剣の発動を以て、自然に軍国主義の露国や独乙を倒し、カイゼルを失脚させ、そのとばしりが湯津石村にたばしりついたのであります。この湯津石村につくといふことは、ユとは夜がつづまつたもので、ツは続くのつづまつたもので、要するに夜ル続くといふことになります。彼方からも此方からも、草の片葉が言問ひを致しまして、彼方にも此方にも、種々の暗い思想が勃発して、各自に勝手な主義なり意見なりを吐き散らしまして過激主義だとか、共産主義だとか、自然主義、社会主義がよいとか、専制主義がよいとか、いろいろなことを言ふ意味になります。又イハといふことは、堅い動かぬ位といふことで、ムラは群がるといふ意義で、岩とは尊貴の意、村とは即ち下の方の人間の群といふことであります。所謂タバシリツクといふのは、鳴り続いて上にも下にも種々雑多の思想や主義が喧伝されて居ることであります。即ちたばしりついて生りませる神といふのは、生れ出ることではなくして、鳴り鳴りて喧ましいといふ事であります。その神の御名を甕速日神といふ。 ミは体、カは輝くといふことで、体主霊従の神であります。樋速日神は霊主体従の神であつて、両者より種々なる思想の戦ひが起るといふ事であります。即ち主義の戦ひであります。次に建御雷之男神は、直接行動と云ふことで、霊主体従国は言向平和神国であるから、滅多にありませぬが、体主霊従国などは皆々建御雷之神であります。即ち露国のやうに、支那のやうに皇帝を退位せしめたり、すべて乱暴をするとか、焼討をするとか、暴動を起すとか、罷業、怠業するとかいふ如うな事であります。 建御雷神は天神の御使でありますが、本文の言霊上から考ふれば、爰はその意味にはとれぬ、争乱の意味になるのであります。亦の名は建布都神、又は豊布都神といふのは善と悪の方面を指したもので、凡て善悪美醜相交はるといふことになります。即ちよき時には苦しみが芽出し、苦しみの時には楽みが芽出して居るといふやうなものであります。 世の中が混乱すればする程、一方に之を立直さむとする善の身魂が湧いて来るといふ意味であります。 十拳剣を握つて居らるる鍔元に集まる血といふのは、各自に過激な思想を抱いて居るといふ事で、血を湧かす事であります。即ち手のまたから漏れ出ることになります。この手のまたから漏れ出ると云ふ事は、厳重な警戒を破つて現はるる事であります。闇於加美神といふことは、世界中の上の方にも非常な過激な思想が現はれるといふことであります。 次に闇御津羽神のみつといふのは、水でありまして、下の方即ち民のことで、これも無茶苦茶な悪思想になつて、世の中が益々闇雲になるといふことであります。 この昔の事を今日にたとへて見ますと独逸のカイゼルが失脚したのも、露国のザーが亡んだのも、支那の皇帝がああなつたのも、皆天の大神が十拳剣を以て斬られたのであります。斯の如く神は無形の神剣を以て斬られるのであります。それで人間が戦ふことになるのであります。この殺された迦具土神のことを現代にたとへますれば、爆弾とか大砲とか、火器ばかりで戦ふのでありまして、弓とか矢で戦ふのではありませぬ。軍艦を動かすのも火の力であります。それで大神に依て火の神が殺されたといふことは、惨虐なる戦争が止んだといふことになるのであります。今回の五年に亘る世界戦争の結果は、迦具土神の滅亡を意味して居るのであります。 (大正九・一一・一於五六七殿講演外山豊二録) (大正一一・二・一〇旧一・一四谷村真友再録)
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霊界物語 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 23 高照山 第二三章高照山〔四一六〕 ヒルとカルとの国境、高照山[※「ヒルとカルとの国境、高照山」はこれから二人が行く場所であって、これは「玉山」の間違いではないかと思われる。第22章a088では「玉山の麓」に居ると記されている。]の山口の、芝生に残されし熊公、虎公の二人は、松代姫一行の姿を影の隠るるまで見送りながら虎公は、 虎公『あゝ三五教の宣伝使一行は、吾々にお供を許されず、温かい言葉を残して、この場をいそいそと立つて行かれた。何うで、吾々のやうな罪の重い人間だから、お供は叶はぬのだらうが、あゝ残念な事をした。せめて三年前に、今のやうな心になつて居れば、立派にお伴を許して下さつたであらうに、思へば思へば、この身の罪が恨めしい』 と声を放つて泣き入る。 熊公『虎公よ。決して決してさうではないよ。俺たちをどうぞ立派な神の柱にしてやりたいと思つて、わざと捨ててお出で遊ばしたのだ。あの獅子といふ奴は、子を生んでから三日目に、谷底へ蹴り落して、上つて来る奴をまた蹴り落し蹴り落し、三遍以上あがつて来たものでないと、自分の子にせぬと云ふ事だよ。谷へ落されてくたばるやうな弱い事では、到底悪魔の世の中に生存する事は出来ない。まして悪魔の様な人間を教へ導く宣伝使だもの、お師匠さまを杖に突いたり頼りにするやうな事では、完全な御用は出来ないから、外へ出る涙を内へ流して、大慈大悲の神心から、吾々を置き去りにして往かれたのだ。人間は到底深い深い神様の御心は判るものでない。それだから三五教の宣伝歌にも、 「この世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ」 とあるのだ。見直しが肝腎だ。繊弱い吾々のやうな智慧の暗い人間は、無限絶対、無始無終の誠の神様に従つて、真心籠めて祈るより外はない。祈ればきつと神様の栄光が吾々の頭上に輝くであらう』 と涙まじりに語る折しも、弓矢を持つた四五人の荒くれ男、犬を引き連れながら坂路を下り来る。一人の男は、熊公、虎公の顔を見て、 男(鹿公)『オー、貴様はこの高砂島でも音に名高い熊公、虎公ぢやないか。貴様の名を聞くと泣く子も泣き止むと云ふ野郎だのに、今日はマアどうしたことか。貴様なんだい、ベソベソと吠面かわいて……』 虎公『ヨーこれは鹿公か。俺はな、すつかり改心したのだ。今まで悪人だと世間の者に言はれて来たが、これからはすつかりと善心に立返つて、自分の罪の懺悔をし、今までの罪亡ぼしに、神様の宣伝歌を歌つて、教へを説き廻り人を助けるのだ。あまり有難うて、今嬉し泣きに泣いて居たところだよ。お前も好い加減に殺生は止めて、三五教の教を聞いて、善人になつて呉れ。虎公が改心の門口、宣伝の初陣だ。貴様が改心して呉れたならば、この高砂島の人間は皆改心するのだ』 鹿公『フフン、何吐かしよるのだ。鬼の念仏見たよな事吐きよつて、何処を押へたらそんな音が出るのだ。この頃の暑さに、一寸心が変になりよつたな。ヘン、とろくさい、世の中は凡て優勝劣敗だ。大魚は小魚を呑み、小魚は虫を食つて互に生活する世の中だ。犬が猫を捕る、猫が鼠をとる、鼠が隠居の茶の子をとる、茶の子が隠居の機嫌とる、隠居が襦袢の虱とる、虱が頭のフケをとる、といつて世の中は廻りものだ。海猟師が魚を捕るのも山猟師が猪を獲るのも、皆社会の為だ。猟師がなければ皮を使ふ事も出来ず、魚を食ふ事も出来やしない。世の中は優勝劣敗、弱肉強食が自然の法則だよ。貴様もそんな女々しい事を言はずに、元の通り鬼虎となつて、売出したらどうだい。ここまで売り出した名を零にするのも惜しいぢやないか』 熊公『あゝ、善と悪とは違つたものだナア。善ほど辛いものはない、否結構なものはない。貴様もそんなことを言はずに、虎公のやうに改心して、神様を祈る気にならぬか』 鹿公『イヤ、俺は神様を祈つてるよ。俺の祈つてる神様はな、そんな腰の弱い、ヘナヘナした水の中で屁を放いた様な、頼りない教をする神さまとは訳が違ふのだ。いま俺はその神様に詣つて来たのだ』 虎公『お前が詣つて来た神様といふのは、そら何ういふ神様だい』 鹿公『貴様、あれ程名高いのに未だ聞かぬのか。随分遅耳だのう。ここをズツと三里ばかり奥へ這入ると、そこに高照山の深い谷がある。そこには長い滝が落ちて居つて、滝壺の右と左に大きな岩の洞穴があるのだ。さうして東の方の穴からは妙な声がするのだ。その岩に向つて、何事でも教へて貰ひに行くのだ。一ぺん貴様も行つて見よ、沢山の人が詣つて居るよ。一寸取り違ひ野郎が行くと、その岩の穴から大きな火焔の舌を出して、身体をチヤリチヤリと焼かれるのだ。貴様のやうな馬鹿な事云つて居る奴が行つたら、きつと岩の穴から出て来る火の舌に舐められて、黒焦になつて了ふだらうよ』 熊公『それは一体、何と云ふ神だい』 鹿公『何といふ神だか、エー、忘れたが、なんでも八岐の大蛇とか聞いたよ』 熊公『一体、何んな事を云ふのだい』 鹿公『委しい事は忘れて了つたが、とも角時代向きのする事を言ひ居る神さまだ。マアかい摘んで言へば、人間は一日でも立派に暮して、天から与へられた甘い物を喰つて、美しい着物を着て、酒でも飲んで元気をつけと云ふのだ。智利の国の鏡の池のやうな、水の中から屁をこいた様な、けち臭い御託宣とはわけが違ふのだ。まあ貴様ら、メソメソ泣いて居らずに一遍行つて来い。目が醒めてよからうぞ』 虎公『鹿公、お前はその教を信じて居るのか』 鹿公『信ずるも信じないもあつたものか。あんな結構な教が何処にあらうかい。さやうなら』 と五人の猟師は歩を速めて坂を下り行く。虎、熊の二人は足を速めてドンドンと谷道を伝ひ、玉川の瀑布に黄昏時に漸く辿り着き見れば、琴を立てたやうな大瀑布が、高く幾百丈ともなく懸つて微妙の音楽を奏でてゐる。東側の大巌窟の前には、沢山の参詣人が合掌して何事か口々に祈願してゐる。二人は素知らぬ顔にて諸人と共に、巌窟の前に端坐し合掌するや、巌窟は俄に大音響を立てて唸り始めたり。一同は大地に頭をピタリとつけ、畏まつてその音響を聴いてゐる。唸りは漸くにして止み、巌窟の薄暗き奥の方より、 声『アハヽヽヽ』 といやらしい笑ひ声が聞え来る。 虎、熊の二人は、顔見合して呆れゐる。巌窟の中より、 声『悪の栄える世の中に、善ぢや悪ぢやと争ふ奴輩。あくまで阿呆の恥曝し、悪をなさねば安楽に世は渡れぬぞ。飽くまで食へ、飽くまで飲め、飽くまで力を現はして、悪魔と言はれようが、力一杯わが身の為に飽くまで尽せ。イヽヽヽ生命あつての物種だ。要らざる教に従うて、善の、悪の、末が怖ろしいのと萎縮け散らしてゐるよりも、威勢よく酒でも飲んで、いつまでも生々として生命を延ばせ。ウヽヽヽ後指を指されようが後を向くな。見ぬ顔をいたして甘い物を鱈腹食ひ、美い酒は酒に浮くほど酔うて、甘い甘いと舌鼓、五月蝿い五月蝿いと肩の凝るやうな三五教の教を聴くな。この巌窟には穴がある。ウヽヽヽと唸る穴があるぞよ。あな面白き穴有り教ぢや。迂濶に聴くな。エヽヽヽ遠慮会釈もなく吾身のためには人は構うてをれぬぞ。得になることならば何処までも何処までも行け。閻魔が怖いやうな事ではこの世に居れぬぞ。地獄の閻魔を味噌漬にして食ふやうな偉い心になれ、笑ぎて暮せ酒飲んで。オヽヽヽ鬼か大蛇の心になつてこの世に居らねば、この世は優勝劣敗、弱肉強食の世の中ぢや。お互ひに気をつけて、吾身の得を図れよ。怖れな、後れな、面白くこの世を渡れ、大蛇の神を朝夕祈れ。オヽヽヽヽ面白い面白い』 虎公はこの声を聞いてむつくと立ち上り、 虎公『三五教の宣伝使、志芸山津見とは吾事なるぞ。悪魔の張本、天足の身魂、八岐の大蛇の再来、善を退け悪を勧むる無道の汝、今に正体現はして呉れむ。アハヽヽヽ、イヒヽヽヽ異端邪説を説き諭す、心の枉んだ大蛇の悪神、ま一度言ふなら言つて見よ、一寸刻みか五分試し、生命を取つて何時までも、禍の根を断つてくれむ。違背あらば返答いたせ。ウフヽヽヽ狼狽者のうつけ者、迂論な教を吐き立てて人心を動かす谷穴の土竜、浮世を乱す汝が悪計、志芸山津見の現はれし上からは容赦はならぬ。得体の知れぬ、奴拍手脱けした声をしぼり、優勝劣敗、弱肉強食の、エグイ心を嗾る奴。オホヽヽヽ大蛇の悪魔、往生いたすまで応対いたすぞ。尾をまいて降参いたせばよし、オメオメと言訳に及ばば、志芸山津見が両刃の剣を以て征伐いたす。奥山の谷底に身をひそめ、この世を乱す八岐の大蛇、返答はどうだツ』 巌窟の中より、 声『カヽヽヽ構ふな構ふな、蛙の行列、闇に烏の向ふ見ず、喧しいワイ。キヽヽヽ斬るの斬らぬのと広言吐くな。貴様のやうな腰抜けに、大蛇が斬れてたまらうか。気の利かぬ奴だなア。クヽヽヽ暗がり紛れに頭から食つてやらうか。くさい顔して苦しさうに俄宣伝使とは片腹痛い、ケヽヽヽ怪我のない間に早くこの場を去つたがよからう。見当の取れぬこの方の言葉、コヽヽヽここな腰抜け共、殺されぬ間にこの場を立去れ、こはい目に遇はぬ内に心を直して、この方の言ひ条につくか、執拗う聞かねばこの方も耐へ袋がきれるぞよ。米喰虫の製糞器奴。ワハヽヽヽ』 熊公『カヽヽ神の使の宣伝使に向つて無礼千万な、覚悟を致せ、体も骨も改心致さねば、グダグダにして遣らうか。キヽヽ気を取り直しキツパリと改心致せばよし、きかぬに於ては宣伝歌を歌はうか、クヽヽ暗い穴にすつ込んで、訳も判らぬ苦情を並べ、苦し紛れの捨てぜりふ、その手は食はぬ、熊公の身魂の光を知らざるか、ケヽヽ怪しからぬ悪逆無道の大蛇の再来、コヽヽここで会うたは優曇華の、花咲く春の熊公が手柄の現はれ口、最早かなはぬ、降参するか、返答は、コラ、どうぢや』 巌窟の中より、 声『サヽヽヽ騒がしいワイ、囀るな、酒を飲め飲め、飲んだら酔へよ、酔うたら踊れ。逆とんぶりになつて踊つて狂へ、扨も扨も酒ほど甘いものはない、酒の味を知らぬ猿智慧の熊公の世迷ごと、坂から車を下すやうに、この谷底へころげ落してやらうか。シヽヽヽ執拗い奴ぢや、しぶとい奴ぢや、しがんだ面して芝生の上に、ほつとけぼりを食はされて、吠面かわいた志芸山津見とは片腹痛い。スヽヽヽ速かに、この方の申す事を聞けばよし、すつた捩じつた理屈をこねると、簀巻に致して谷底へ投り込んでやらうか、セヽヽヽ雪隠虫奴が。宣伝使なんぞと下らぬ屁理屈を言つて廻る馬鹿人足。ソヽヽヽそれでも貴様は神の使か、底抜けの馬鹿とはその方の事だ。そのしやつ面でどうして宣伝使が勤まらうか、そこ退け、そこ退け、この方の邪魔になるワイ』 虎公『サヽヽ逆言ばかり囀る悪神、さあもう容赦はならぬ。シヽヽ志芸山津見が言霊の威力によつて、汝が身魂を縛つて呉れむ。死ぬるか生きるか、二つに一つの大峠、スヽヽヽ速かに返答いたせ。セヽヽ背中に腹は代へられよまい。宣伝使の吾々に兜を脱ぐか、降参するか、ソヽヽそれでもまだ往生いたさぬか、改心せぬか』 巌窟の中より、 声『タヽヽヽ誑け者、叩き潰して食うて了はうか、鼻高神の宣伝使、チヽヽヽちつとばかり改心が出来たと申して、この方様に意見がましい知識の足らぬ大馬鹿者、一寸は胸に手をあてて見よ。ツヽヽヽ捕へ処のない事を吐いて歩く、罪の深い両人共、掴み潰してやらうかい。強さうに言つても、貴様の胸はドキドキして居らうがな、テヽヽヽ天にも地にも俺一人が宣伝使だと言はぬばかりのその面つき、多勢の中で面を剥れてテレクサイことはないか。てるの国から遥々出て来て、扨もさても馬鹿な奴だ。トヽヽヽ虎公のトボケ面、熊公の心の暗い俄改心、迚も迚も衆生済度は六つかしからう』 熊公『ナヽヽ何を吐きよるのだ。タヽヽ他愛もないこと、立板に水を流すやうに、よくも囀る狸の親玉、誰にそんな事教へて貰ひよつたのだ。誑け者。チヽヽ一寸は貴様も考へて見よ。ツヽヽ詰らぬ理窟を並べよつて、テヽヽ手柄さうにトボケきつたことを吐しやがるな』 巌窟の中より、「ウヽヽヽワーワー」と大音響ひびき来る。 (大正一一・二・一五旧一・一九東尾吉雄録)
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霊界物語 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 附録 第三回高熊山参拝紀行歌(二) 附録第三回高熊山参拝紀行歌(二) 王仁作 高熊山参拝者名簿(二) (大正十一年四月十三日旧三月十七日) (三) 頃は弥生の三の月十七日の未明より(日笠吟三) 神の恵を笠に着て各自に神歌を吟じつつ(志摩泰司) 三志摩ひ調へ泰然と神の教の司人(佐藤くめ) 道を佐藤りし信徒等くめども尽きぬ清新の(新井真子) 御井に湧き出す瑞真魂皇大神の教子が(亀田親光) 亀岡さして田どり行く御親の神の御光に(大場徳次郎) 皆照らされて大道場神徳殊に著次郎く(氏家力雄) 永井の氏は家内中誠の道に信仰の(同しげ) 力雄合せ茅しげる深山の霊地に武勇の士(同武勇) 植芝柔術六段に負はれてふみこむ大本の(同ふみこ) 出口瑞月始めとし一行勇み登り行く 湯浅仁斎先導にエチエチ上る胸突の(湯浅仁斎) 目まで窪んだ老人や純雄塗った様な黒い面(上窪純雄) 白い化粧の淑女たち極上品な御園白粉(上園あい) 実にあいらしき美人まで高天原野はるるごと(高野はる) よろこび雨に瓜生身もいとはず高く秀太郎(瓜生秀太郎) 神山さして大木のふも戸掻き別けぐさぐさと(大木戸さと) 四辺美馬はし邦の祖元つ御神二まかせつつ(美馬邦二) 上りて谷底ながむれば瓜や茄子は生えねども(瓜生さち) 溢るる斗りの神のさち魔神は藤井の善太郎氏(藤井善太郎) 遠き国より北村の花咲く山の八重桜(北村八重) 山本惣勢元気吉く小松林や杉林(山本惣吉) 神の祐けに百千太郎家庭赤山小幡川(小林祐太郎) うしとらよりの穴太までやうやう現はれ北の村(赤川とらよ) イラ力も光る祥たさよ高山低山立並ぶ(北村光祥) 景色四方八方朗らかに眼に入るぞ床しけれ(高山八朗) (四) 竹の林に包まれた田舎の村に細々と(竹田たつえ) 静かな煙たつえ並土を力に井そしみて(土井三郎) 太郎次郎や三郎が安く楽しくいと達者(安達儀一郎) 礼儀は一つも知らねども家庭を衛る藤とさよ(衛藤寛治) 心は寛かに治まりて岩城の如き田人等が(岩城由雄) 由りて仕ふる雄々しさよ田中に聞ゆる雅楽の声(田中雅楽治) 治まる御代の尊とさに東の空に朝日子の(東良俊) 光も別けて良俊や月も同じく照り渡る(同佐多之) 世は日佐加多之末長く日々に新に進みゆく(新島船良) 島漕ぎ渡る大船も良とあしとの難波潟(同のし子) 八重のしほ路を乗り子えて加良国迄も開きゆく(加まち) まちに待ったる関森の神と仕へし茂頴が(関森茂) 梅花も薫る宮垣地生れついての馬鹿太郎(宮地鹿太郎) 腕白小僧と世に高く名をたたへ岸太平の(高岸平八) 御代の恵みは八方に潤ひ都も稲村も(稲村寿美) 寿美きり晴れて永遠野千代万代を幸吉と(永野万吉) 祝ひ暮らすも神界に尽せしための報いかな(同ため) 雲霧四方に達麿や枉津の猛ぶ暗の世を(同達麿) 明圭て介くる神の道永いねがひもやうやくに(同圭介・同いね) 叶ひて今日は高熊の神の御山へれい参り(同れい) 心も加藤明らかに前むも嬉し沢々に(加藤明子) 信徒伴なひ治郎右衛門大き小さき山こえて(前沢治郎右衛門) 神の貞め之神霊地ながめ吉野の桜木も(小山貞之) 殊更めでたく光る俊穴太西条の村外れ(吉野光俊) 心の色も新らしく三葉ツツジの謎の山(西村新三郎) 雲井の上に亮かに秀でて高き神の前(井上亮) 沢田の姫の現はれし元の由縁を菊子連れ(前沢菊子) 村々々と多人数亀岡道場あとにして(村岡卯市) 卯市々々と進み来る人も幸村文治郎(幸村文治郎) 深き神慮は白石の善男善女は野辺の道(白石みちき) あれを先にとみちきたる浦安国の太元の(安元務) 誠の道の務ぞと東西南北遠近尾(東尾吉雄) 通じて三百五十人吉き事のみ雄求めつつ 青野ケ原を邦もせず秀た神山の森さして(青野邦秀) 良き仁ばかり詣で行く(森良仁) (五) 世界の浄土と聞えたる天の真奈井の神の園(土井靖都) 浦靖都の中心地世の大本と賀ざまつる(大賀亀太郎) 亀の齢の浦島太郎再びこの世に現はれて 清けき水の魂となり誠心のあり竹を(清水竹次郎) 世にいち次郎くそそぎ行く池沢沼も草原も(池沢原治郎) 原始の神世に克く治め日本御魂の荘園を(本荘宰甫) 神のまにまに宰しつつ教の道を甫めたる 皇大神は押並べて近き藤きの隔なく(近藤桃三) 桃花もかをる三月三日万の苦難も伊藤ひなく(伊藤孫四郎) 孫心尽して四郎しめす黄金世界の和知の川(金川善作) 善の御魂を作らむと四方の村霧吹岡し(村岡つね) 教へつねがひつ鈴木野を開いて輝す吉祥日(鈴木輝吉) 川入れ火弥吉万の罪を払ひて美はしき(同弥吉) 生命のつなを延ばしつつ体主霊従の行動を(同延吉) 互に戒め吉田中心の丈雄打明けて(田中丈雄) 山成す思ひ円次郎大本塚んだ御利益は(山成円次郎) 惣次て世人の夢にだも知らぬ尊とき限りなり(大塚利惣次) (六) 敏鎌の月は中空に田真をかざして日光に(鎌田喜惣治) 光を喜惣ひ治山の高根に上る神人の(山根菊太郎) 珍の声をば菊太郎四方の国まで三五の(四方国達) 教を広く達せむと西洋の村雲かきわけて(西村隆男) 隆々輝く桂男の露にうるほふ村野人(村野滝洲) 落つる滝水洲々と岩石起伏の草原や(石原繁) 木立繁れる山中の森の下蔭つたひつつ(中森篤正) 信仰篤き正人の咽さへ樋々川かせつ(樋川徳太郎) 神徳太かき神の前清郎至浄の春風も 涼しく吹いて北村の隆熊山の花も光る(北村隆光) 伊豆のま森の義一が誠一つの御教を(森義一) 馬鹿西田とて神直日心も広く直詔し(西田直太郎) 聞直し太郎神の道腹も竜田の紅葉の(竜田富太郎) 都は如何に富太郎かも大山小山すみ寿美の(大山寿美雄) 花雄かざして神の世に成田る春は常永に(成田常衛) 清きま衛のさくくしろ五十鈴の滝の稜威たかく(同さく) 鳴り渡り岸神の国八島の彦の三ツ御魂(岸彦三郎) 小松林の現はれて世を安静に治めむと(小林静子) 道も勝れし神人は又もや進む神のいき(勝又いき子) 山の尾ノ上に崎匂ふ花の一りん手折らむと(山崎りん) 勇気を古い汗の川流してことこと登り行く(古川こと) 市間人形の産心克く謙り二心なく(市間謙二郎) 神と道とに誓田中清き人々次々に(田中清次郎) 固き石井の胸の内藤吉加喜の隔てなく(石井藤吉) 心の合うた信徒が神の御徳を御田村の(御田村たく) 目出たく爰に山路を伊藤ことなく正直に(伊藤正男) 男々しく彼岸に渡辺のしづかに同じ道子行く(渡辺しづ) 神は此世に真島して我等を守らせ給ふなり(同道子) 良弥神なき世なりとも心の奥の村雲を(真島良弥) 宮比古とばに詔り直し御国も人も押なべて(奥村宮古・同よしの) 運気よしのの神の国一つ心に城かため(一城溪三) 溪波の国に現はれし三ツの御魂のとう藤井教へ(藤井ちよの) ちよの礎つき固め一同勇み合ふ田中(同勇) 恵の露も沢々二頂く我等は日の本の(田中沢二・同すゑの) 神の御すゑの珍の御子高天原の大橋を(高橋守) 守る誠の神柱峻し木山も健かに(木山健三郎) 三の御魂に誘はれて菅の小笠はなけれども(小笠原のぶ) 青野ケ原にしのぶ身のつまつ田所は神のさと(田所さと) 輔佐する人も沢々に集まり来り末広く(佐沢広臣) 君と臣との大道をちから限りに神の子が(同ちか) こころいそいそ石の上古事記を川水の(同神子) 流るることく説き諭す三ツ葉ツツジの肉の宅(古川こと・三宅たけ) 国たけ彦の大神の伊都の御楯藤村肝の(藤村伊之吉) 伊之知限りに吉々と生井の内の浅吉まで(井の内浅吉) 汲みて呑み込む原の中田寿けの道をたどりゆく(原田寿道) 同じ心のともききて尊き神の御教を(同ともき) 雲井の上までまき上げて天地の真理をはつ揚し(井上まき・同はつ) 谷の川水常永に清く流るる土井の川(谷川常清) 世界を洗ひ限りなき神の御幸雄四方の国(土井幸雄) 鈴木の原や鹿ぞ住む三山の奥の奥までも(鈴木鹿三郎) 世界改造の神界の経綸の由夫開きゆく(同由夫) (以下次巻)
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霊界物語 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 余白歌 余白歌 久方の天の八重雲押し開き地に降ります三柱女神よ〈第1章(三版)〉 五月雨の空鳴き渡る郭公血もかれはてて四方にさまよふ〈第2章〉 言へば言へそしらばそしれ今はただ神の御心に任すばかりぞ〈第2章〉 桃の実は分れて三つの魂となり大海原の波に浮べり〈第3章(三版)〉 大空に雷鳥の声かしましく轟く春を山桜散る〈第4章(三版)〉 山桜今を盛りと咲きほこる庭面に立ちて御代を思へり〈第4章(三版)〉 天地の神に仕へて日の御子に赤き心を尽しまつらな〈第4章〉 乱れたる世を治めむと祈るこそわが大本の教なりけり〈第4章〉 待つ甲斐や有馬の山の松ケ枝に澄み渡りたる望の月影〈第4章〉 大神の道踏み分けて進む身にも醜の曲神時じく障りく〈第5章〉 浪狂ひ船は岩根に砕くとも愛善の神は守り給はむ〈第5章(三版)〉 比類なき神の大道を醜草の蔓延り塞ぐ忌はしの代や〈第7章〉 常世往く烏羽玉なせる暗き世の光とならむ吾願ひかな〈第7章(三版)〉 立替の日は迫りたり吾は今立直しすと静にはかりつ〈第7章(三版)〉 立替は手間いらねどもその後の立直しこそ大謨なりけり〈第7章(三版)〉 言ふてよき事は言はずに言はずともよきことを言ふ醜人あはれ〈第7章〉 大本の金門を破る醜の仇は筆と舌との剣なりけり〈第11章〉 宰相の徳なき人の立つ御代は怨嗟の声に閉されて居り〈第16章(三版)〉 外国の醜の教の本城も棟木に生ける白蟻の群〈第17章(三版)〉 日本の神の教を余所にしてからの教に迷ふたぶれよ〈第17章(三版)〉 春深み桜の花は匂ふ夜の月にとどろく鳥船の音〈第17章(三版)〉 松の葉の心になりて世を渡れ細くかたくて風に破れず〈第18章(再版)〉 伸び縮み心の船のままぞかし神の経綸は人にありせば〈第19章〉 春深み桜の花も匂ふ夜の月に轟く鳥船の音〈第19章〉 大神の教の妨げするがなる醜神つかさ助けたきもの〈第19章〉 葦原や悪木醜草蔓延りて誠の道を塞ぎけるかも〈第19章〉 三五の月の教はうば玉の暗路を照らす光なりけり〈第20章(再版)〉 村雲に包まれて啼く吐血鳥一度は聞け忍ぶ思ひを〈第21章〉 まことある神の誠のとりつぎをはやすけに来よ誠ある人〈第23章(三版)〉 富士といふ謎を覚らず高山の動くと見るは愚なりける〈第25章〉 温かき言葉の花は人皆の荒き心を和ぐるなり〈第26章〉 和田の原浮べる八十島八十の国は皆大神の御秀処なりけり〈第29章(三版)〉 常世往く闇の深きに日月の光包みて風荒るるなり〈第30章(三版)〉 いつ迄も誠心を望月の光りかがやく神の大道〈第30章〉 身も魂も神に捧げて進み行く松竹梅の心たふとき〈第30章〉 むすぼれし心の髪をときほどく奇しき教は神の御言葉〈第36章(再版)〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました]
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霊界物語 10_酉_黄泉比良坂の戦い 23 神の慈愛 第二三章神の慈愛〔四五三〕 大国姫命は、武虎別と共に、此場の怪しき光景に胆を奪はれ、呆然として何の辞もなく佇み居る折しも、日の出神と称する大自在天大国彦は、四五の従者と共に此の場に現はれ来り、 日の出神(に化けた大国彦)『ヤア、ロッキー城は大変な事が起つて来た。常世城常世神王、数多の軍勢を引連れ叛逆を企て、味方に於ては淤縢山津見、固虎彦を以て之に当らしめ居れども、始終の勝利は覚束なし。汝大国姫、今より秘かに黄泉島に渡り伊弉冊尊と称して出陣し、味方の士気を鼓舞し以て大勝利を博し、神軍を追払へよ。然らば如何に広国別勢猛く攻め来るとも、汝が武威に恐れて忽ち降服せむ。本城に立籠り、暗々広国別に滅ぼされむは策の得たるものに非ず。吾は是より本城に止りて、寄せ来る敵を待ち討たむ。汝は一時も早く黄泉島に向へ』 大国姫『委細承知仕りました。併しながら怪事多き此城中、十二分の御注意あれ』 と言ひ棄て、天の磐船に乗りて天空を轟かしながら、四五の従兵と共に、黄泉島に向つて急ぎ進み行く。 この時又もや門外騒がしく、淤縢山津見は、固山彦と共に周章しく入り来り、 淤縢山津見『日の出神に申上げます。ロッキー城は、最早刀折れ矢尽き、遂に敵の占領する所となりました』 日出神(に化けた大国彦)『エヽ腑甲斐なき奴輩奴。吾は是より広国別の軍に向ひ勝敗を決せむ。淤縢山津見、固虎、吾に続け』 と言ひながら、駿馬に跨り、威風凛々として少数の軍卒を率ゐ、ロッキー山城を後に見て、ロッキー城に向つて駆けつくる。 ロッキー城に致り見れば、表門は開放され、一人の敵軍もなければ味方の影もなし。贋日の出神は怪しみながら、将卒を率ゐて四方に心を配りつつ奥深く進み入る。見れば、狐の声四方八方より、 狐の声『狐々怪々』 寂として人影もなし。 日出神(に化けた大国彦)『合点の行かぬ今の鳴声。アイヤ、淤縢山津見、固虎彦、残る隅なく捜索せよ』 淤縢山津見『オー、吾こそは三五教の宣伝使、今まで汝が味方と云ひしは、汝の悪逆無道を懲さむ為なり。サア、斯くなる以上は尋常に降服するか』 日の出神(に化けた大国彦)『エヽ』 固山彦『汝は日の出神と名を偽り、ロッキー城に立籠り、神界の経綸を根底より破壊せむとせし悪鬼羅刹の張本、斯くなる以上は、隠るるとも逃ぐるとも、最早力及ばぬ。覚悟を致せ』 日出神(に化けた大国彦)『ヤー残念至極、大国姫は黄泉島に向つて進軍し、部下の勇将猛卒は、或は出陣し或は遁走し、今はわが身一つの、如何とも術なし。サア、汝等斬るなら斬れよ、殺すなら殺せよ』 淤縢山津見『アイヤ贋日の出神、よつく聴け。天地の神明は愛を以て心となし給ふ。吾々人間として如何ともなし難きは空気と水と死とである。死するも生くるも神の御心だ。徒に汝が如き命を奪ひて何の効かあらむ。仮令肉体は死するとも、汝の霊は再び悪鬼となりて天下に横行し、妖邪を行ふは目に見るが如し。吾は汝の生命を奪ひて以て事足れりとなすものでない。汝が霊魂中に割拠せる悪霊を悔い改めしめ、或は退去せしめ、改過遷善の実を挙げさせむと欲するのみ。三五教は汝らの主張の如き、武器を以て人を征服し、或は他国を略奪するものにあらず。至仁至愛の神の教、よつく耳を洗つて聴聞せよ』 日の出神(に化けた大国彦)『オー、小賢しき汝の言葉、聞く耳持たぬ。斯くなる以上は最早吾等の運の尽、鍛へに鍛へし都牟刈太刀を味はつて見よ』 と言ふより早く、太刀をズラリと引き抜いて、淤縢山津見、固山彦に斬つて掛かるその勢凄じく、恰も阿修羅王の荒れ狂ふが如し。淤縢山津見、固山彦は剣の下をくぐり、一目散に表門指して逃げ出す。 日出神(に化けた大国彦)『ヤア、卑怯未練な奴。ナゼ尋常に勝負を致さぬか』 固山彦『エヽ残念だ、淤縢山津見さま、如何に三五教の玉の教なればとて、斯の如き侮辱を受けながら、旗を捲き鋒を納めて、この場を逃ぐるは卑怯と見られませう。変事に際して剣の威徳を現はすは、神も許し給ふべし』 淤縢山津見『イヤイヤ、至仁至愛の神の心を以て吾は此場を逃ぐるなり。竜虎共に戦はば勢ひ互に全からず。彼を斬るか、斬らるるか、彼も神の子、吾も神の子、神の御子同士傷つけ合ふは、親神に対して申訳なし。暫く彼が鋭鋒を避けて、更めて時を窺ひ悔い改めしめむと思ふ』 固山彦『エヽ三五教は誠に以て行り難い教であるワイ』 と地団駄踏んで口惜しがる。日の出神は見え隠れに後をつけ来り、この話を聞いて大いに驚き、思はず、 日の出神(に化けた大国彦)『ワツ』 とばかり泣き伏しにける。 固山彦『ヤア、なんだか暗がりに泣声が致しますよ』 淤縢山津見『さうだなア、何だか妙な泣声だ、よく似た声だ。ヤア、暗中に泣き叫ぶは何人なるぞ』 暗中より、 日の出神(に化けた大国彦)『私は日の出神と名を偽つた大国彦であります。只今貴方の仁慈に富める御言葉を聞いて、感涙に咽び思はず泣きました。私は今迄の悪を翻然として悔い改めます。どうぞ御赦し下さいませ』 淤縢山津見『ホー、満足々々、斯くならば敵も味方もない、全く兄弟だ。兄弟を助けたさに、吾は宣伝使となつて苦労を致して居るのだ。貴方の知らるる如く、吾も旧は大逆無道の醜国別、神の仁慈の雨に浴し、悔い改めて宣伝使となりし者、かくなる上は貴下と共に是より常世城に進み、常世神王広国別を神の教に帰順せしめむ』 固山彦『ヤア、流石は淤縢山津見さま、本当に感心だ。実地の良い教訓を受けました。サアサア日の出神……ではない大国彦殿、これより常世城に向ひませう』 嚇し上手の淤縢山津見、固い一方の固山彦、目から火の出る日の出神の、意外な憂目に大国彦、今は全く悔い改めて、心の駒も勇み立ち、三人一同に連銭葦毛の駿馬に跨り、魔神の猛る常世の暗の常世城、群がる敵を物ともせず、神を力に信仰を杖に、生死の境を超越し、勇気を鼓して敵の群衆に向つて、馬の蹄の音勇ましく、ハイヨーハイヨと鞭を加へて進み行く。 竹山彦その他の部将は、この光景を見て、抵抗するかと思ひの外、馬上より、 竹山彦『ヤア、大国彦命、ウローウロー、目出度しめでたし、一時も早く奥殿に入らせられよ』 と案に相違の挨拶ぶり、大国彦は怪訝の念に駆られながら、淤縢山津見、固山彦と共に、馬上ゆたかに奥へ奥へと進み行く。今まで雲霞の如き大軍と見えしは、夢幻と消え失せて跡形もなく、奥殿には嚠喨たる音楽響き渡り爽快身に迫る。一同は奥の間に端坐し、天津祝詞を奏上し宣伝歌を唱ふ。 是よりロッキー城も常世の城も、十曜の神旗翻へり、神徳を讃美する声天地に響き、常世国は一時天国楽園と化したるぞ目出度けれ。 (大正一一・二・二五旧一・二九松村真澄録)
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霊界物語 11_戌_コーカス山の大気津姫退治 10 立聞 第一〇章立聞〔四七七〕 梅ケ香姫は時公に送られて、寒風荒ぶ荒野ケ原を勇んで進み行く。勝公以下四五の連中もゴロゴロと後を追うて来る。傍の猪小屋を見つけ一同は此処に休息する事とはなりぬ。 勝公『酒の気もなくて何となくさむしくなつて来た。見渡す限り青い物と云つたら一つもなし、天も地も綿を敷きつめた様な真白な世の中だ、斯うして見ると天地の間に黒い物と云つたら、八公と鴨公の顔だけ位のものだ』 八公『お前の顔は白いからなア』 勝公『定つた事だい、まだ三五教の宣伝使は素人だもの白いのは当然だ』 鴨公『知らぬ者の半分も知らずに俄に白を切りやがつて、白々しい白鷺が孔雀の真似したつて遽に玉は出来はせぬぞ』 勝公『ヤア其孔雀で思ひ出したが、これから少し向ふに行くと、黒野ケ原といふ処がある。今は雪で何も彼も白野ケ原ぢやが、其処には孔雀姫といふド偉い化物が居つて、其処を通ると誰も彼も皆吸ひ込まれて了ふと云ふ評判だ。ウラル教の奴でも三五教の奴でも孔雀姫に一寸睨まれたが最後、皆誑されて一人も帰つて来る者がないと云ふ事だ』 時公『ヤアそれは本当か、孔雀姫といふからには、随分綺麗な女だらう。一体何を食ふのだ』 勝公『それや定つた事よ。人間を喰ふのだ。俺の様な黒い人間でも孔雀姫にかかつたら皆喰はれると云ふ事だ』 時公『そいつは面白い、綺麗な顔をしやがつて人間を喰ふなぞと鬼娘かも知れないよ。「其声で蜥蜴食ふかや時鳥」だ。世の中が斯う物騒になつて来ると、彼方にも此方にも金毛九尾の狐や八岐の大蛇がはばりやがつて、何処にも此処にもさういう鬼が現はれて来るもんだ。俺の様に、人でも取つて喰ひさうな怖い顔した奴には本当の悪はないもんだ。美しい顔した奴に人殺しをしたり人を欺いたりする奴が却て多い、約り悪魔は善の仮面をかぶつて世の中を乱すものだからな』 勝公『時さま、一ツ肝玉をおつ放出して、孔雀姫の正体を調べて見やうか。何が化けて居るのか知れやせぬぜ』 時公『お前は雪隠の端の猿食はずと云ふ柿の様な男だから、滅多に孔雀姫だつて味が悪いから食ふ気遣ひはないわ。猿食はずといふ柿は渋くて汚くて細かくて食へぬ奴だからな』 勝公『コレコレ時さま、宣り直しなさい』 時公『また琵琶の湖へ行つて、綺麗な船に乗り直さうかい、俺の様な味のある男は、一寸険難だ。ナア梅ケ香姫さま、あなたクス野ケ原で高彦さまを食つて下さいと云つたら、イヤイヤ時さんの方が男らしくて色がコツクリ黒くて肉がボテボテして甘さうだから、時さんを食べさして頂戴なんて仰有つた、本当に梅ケ香さんに食つて欲しいわ』 勝公『こんな所で惚けない。余り惚けるとソレ又大蛇の先生がノコノコとやつて来るぞ』 時公『大蛇姫でも明志丸でも何でも構はん、ノロリノロリと考へてゐる抜け目のない兄さまだ。貴様の様な野呂間とは、ちつとは違ふぞ』 勝公『野呂間とは何だ、宣り直せ。人をノロはば穴二つだ』 時公『二つも一つも穴があつて堪らうか、あな有難き三五教の宣伝使だ』 一同『アハヽヽヽヽ』 梅ケ香姫『皆さまは気楽な方ですねえ。貴方方と一緒に歩いて居ると、マルデ天国の旅行見たいだわ』 鴨公『さうでせう。私の様な抜け目のない、程の宜い、痒い処に手の届く男が加はつて居るのですから満雪途上黒一点だからねえ』 時公『アハヽヽヽ笑はしやがる。万緑叢中紅一点の梅ケ香様がござると思つて、此奴顔の皺を伸ばしやがつて、はしやいで居るな』 勝公『そんな雑談は一切りにして行かうかい。これから梅ケ香さまに幾層倍とも知れぬ美しい孔雀姫のお顔拝見だ。こんなくだらぬ話をしやべつて居ると、又ノロノロがやつて来るぞ。此世でさへも限換るとか、立替とかがあるさうだのに限りのない話を止めて愈膝栗毛の立替立直しだ。サア進め進め。何処も彼処も大雪で、ゆきつまりだ、詰りて詰らんのは俺の所計りではない。節季になると俺の処の様なつまらぬ家に詰つてるのは、掛取り計りだ。サアサア、駈け足駆け足。節季になつても払ふものがないから雪でも払つて行かうかい』 勝公は先に立つて道あけをする。梅ケ香姫の一行は雪道を踏みしめながら、転けつ輾びつ孔雀姫の隠家の前に近寄つた。 時公『オイ勝公、サアサアこれからが戦場だ。貴様先陣を承はつて先ず第一に孔雀姫に食はれるのだ』 勝公『ヤア俺は雪隠の端の猿食はず、俺の様な者が行つたつて孔雀姫は肘鉄砲だ。太鼓の様な印を捺した様なものだ。それよりも時さま、梅ケ香さまなら食つて欲しいと云つたでないか。孔雀姫に食はれるのも光栄だぜ』 時公『何が光栄だ。貴様の方が良く肥えてるわ、斯ういふ時には製糞器が調法だ。此頃は雪が降るので人通りが尠いから孔雀姫も飢ゑてかつかつとして待つて居る、誂へ向だ。其処へ勝公がやつて行けば、カツしては盗泉の水を飲むのだ。イヤ茲で一つ梅ケ香さまは除外例として四人が其犠牲者の選挙をやらうかい。当選した奴が犠牲になるのだ』 鴨公『一騎当千の勝さんに、行つて貰はう。人の選挙を頭痛に病んでも仕方がないからなあ』 かく無駄口を言ひながら、孔雀姫の館の前にピタリと行き着いた。梅ケ香姫は手真似で一同を制し、門の戸に耳を当てて中より洩れ来る微な声を聞き不審さうに首を傾けて居る。 勝公『モシモシ宣伝使さま、何を思案して御座る。何ぞ人の骨でも囓る音がいたしますかな』 梅ケ香姫『サア一寸合点がゆきませぬ、聞いた事のある様な声でウラル教の宣伝歌を歌つて居る様です』 勝公『ヤア夫れは妙だ。矢張りウラル彦の手下の曲神だな、ドレドレ勝さまが聞いて見ませう。梅ケ香さま一寸退いて下さい』 と云いながら門の節穴に耳を当てて、 勝公『アヽ聞えた聞えた、オイ、八公、鴨公、偉い事を云つて居るぞ。曲神といふ奴はエライものだ。何でも彼でもちやんと知つて居やがる』 鴨公『どんなことを云つて居るのだ。一寸聞かして呉れ』 勝公『聞かすも聞かさぬもあつたものかい。孔雀姫の奴が尖つた嘴をしやがつて、羽をパアと拡げて、カカカモヽヽ、カモコカモコ、イヤイヤヤツヤツ八公カモカ、八ツ下つて腰が空だ。カモト八とを一緒に食はうかククヽヽヽなんて、ほざいて居やがるのだ。タツタ今門がギーと開いたが最後、貴様二人は苦寂滅為楽、頓生菩提気の毒なりける次第なり』 鴨、八『アンアンアンアン、オンオンオンオン』 勝公『男らしくない、何を吠るのだ。見つともないぞ』 鴨公『天にも地にもたつた一つの御命、定めなき世と云ひながら今此処で命を取られると思へば之が泣かずに居られようか、泣いて明志の捨小舟取りつく島がないワイヤイ。アンアンアンアンアン』 八公『オーンオーンオーンオーンオーン』 勝公『アハヽヽヽヽ嘘だ嘘だ、鰹節が食ひたいと云つて居るのだ。鰹節は、即ち所謂、取りもなほさず、ヘン此勝さんだ。淡雪の様な肌でお月様の様な眉で緑の滴る様な目でオチヨボ口で此勝さまを食ひたいと仰有るんだい、イヤもう時節は待たねばならぬものだ。烏の嫁に孔雀姫だ、アハヽヽヽ』 鴨公『勝公の奴、人の胆玉をデングリ廻しやがつた。よう悪戯をする奴だ』 勝公『俺の言霊は偉いものだらう、悉く玉の宿換へをさす天下無比の言霊だよ』 時公『ドレ俺が一ツ聞いてやらう』 と又もや門口の節穴に耳を当てた。 時公『ヤアこいつは素的だ。鶯の様なハンナリとした涼しさうな、乱れ髪ではないが、云ふに云はれぬ、とくに解かれぬ門内の光景、成る程これでは此門前を通つた奴は、知らず識らずに酔はされて吸ひ付けられるのは当然だ』 (大正一一・三・一旧二・三藤津久子録)
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霊界物語 12_亥_天の岩戸開き 02 直会宴 第二章直会宴〔四九八〕 千歳の老松雲表に聳えて高き万寿山 堅磐常盤の松の世を知す磐樟彦の神 花は紅葉は緑花の都の緑の流れ フサの国をば後にして聖地を越えて茲に兄弟三人は 住江の国を跋渉しイホの都ものり越えて 愈筑紫の島に着く心つくしの益良男が 純世の姫の鎮まりし其国魂を清めむと 神の教を白瀬川一二三四五つ六つの滝 水音高き宣伝歌歌ひ歌ひて進み行く。 高光彦、玉光彦、国光彦の三人は、イホの都に宣伝歌を歌ひながら進み行くのであつた。 日は黄昏れて長き春日の旅に疲れたる三人は、とある森林に蓑を敷き、露を凌ぎ、一夜を明かしけり。 此処には小さき国魂神の祠あり。三人は祠の後に身を横たへ眠つて居ると、夜半と覚しき頃大勢の人声聞え来たり。三人はこの声に目を醒まし、耳を傾け、其話を私かに聞き居る。群集の中より一人の男が選ばれたるが、祠の前に立ち現はれ灯火を献じ、神酒を捧げ何事か祈願を籠め終つて直会の宴に移りしと見え、人々の声は刻々に高くなり、歌ふもの、飲むもの、踊るもの、泣く、笑ふ、怒る、種々様々の活劇が演ぜられつつありける。 三人は祠の蔭より床しげに人々の話を、耳を澄まし、息を殺して窺ひ居る。 甲(春公)『ヨウ、酋長さま、御苦労さまでしたが神様は何と御告げがありましたか』 酋長『有つたでもなし、無かつたでもなし。マアマア皆の者が心を一つにして善と悪とを弁へ、善の方へ進むより仕方がないなア』 乙『膳飽と云つたつて、此頃の様に百日許り日天様の御顔もろくに見えず、お月様は曇り勝ちで夜は殆ンど真の闇、昼と云つた処が今までの朧月夜の様なものだ。これでは五穀も実らず果物は皆虫が入つて食へる様になるまでにバタリと地に落ちる。病気は彼方此方に起る。大勢の人間の食べる米はなし、果物はなし、どうして膳に飽く事が出来るものか』 甲(春公)『オイ、貴様は間違つてゐるよ。善と云へば正直な心を持つて神様を敬ひ、我身を捨てても人の為めになる事をするのだ。悪といへばそれの反対だよ』 乙『そんな事は三歳児でも知つてるワイ。善い事をすれば其時から気分が良くなる。悪い事をすれば何となしに気分が悪い。何物かに叱られる様な心持ちになつて来る。然し乍ら肝腎の生命の親の食物がなくて、可愛い女房や子が、骨と皮とに痩衰へ渇命に及ばうとして居るのに、これを見乍ら何うして人の事処か。どうしてもかうしても利己主義になるのは止むを得ぬぢやないか』 甲(春公)『そこを辛抱して、人を助けるのだ。それでなければ善と云ふ事が出来ぬよ』 乙『さう偉さうに理窟を云ふのなら、貴様の家の倉をあけて町中の者に其米を施してやつたらどうだい。言ふべくして行ふべからざる善は偽善だ。貴様は飢ゑた味を知らぬからそんな気楽な理窟や大平楽を並べるのだ。どうだ善と悪とが解つたか』 一同『賛成々々。初公の云ふ通りだ。神様のお言葉通り善悪を立別けて困つた者を助ける様に、春公さまの倉を開けて町中の者に善の鑑を出して貰はうかい』 春公『イヤ、俺も皆の者を助けてやりたいと思うて、三杯食ふ処は二杯にして貯めてあるのだ。然し乍らこれはまさかの時に助ける為めだ。未だ俺の処の米を出して町中へ分配する時期ではない。今出してやると、誰も彼も宜い気になつて毎日日日飲み食ひに耽り、終ひには喧嘩計りする様になつて、お天道様に冥加が悪いから、反つて善が悪になると俺も困るから、マアマア働ける丈けは働いて、愈世界が真暗がりになる様な事が出て来た其時こそ、世の中は相身互ぢや。お前達が勝手に倉をあけて食ふ様にする』 丙『それも一つの理窟だが持つとる奴は穢いものだ。何の彼のと理窟を付けて出し惜みをするものだ。末の百より今の五十と云ふ事もある。先になつて善をするより善は急げだ。今の内に倉を開け放して町中を助けたら、どれ丈け春公さまの光が輝くか知れまい。ナア春さま、悪い事は云はぬ、人気の立つた時にホツ放り出すのだぜ。それがお前の身の為めだよ』 春公『皆の人達、よう考へて見てくれ。斯う百日余りも日は照らず、闇の夜は続く。山の木は枯れる、毎日々々地響きはする、病人は沢山出来る、先が案じられて仕方がないぢやないか。今の間は、木の葉でも根でも、草でも噛んで生命を繋いで置くのだ。木の葉は枯れ、地の上に何一つ食ふ物がなくなつた時に初めて倉をあけて、米や麦や、粟、黍、稗などを搗いて各自が粥にでもして、世界の大峠を凌ぐ様にしなくては心細いからな』 丁『木を食への、草を食へのと余り人間を莫迦にして呉れるな。虫か牛馬か何ンぞの様に人間が木や草を食はれるものなら誰も働きはしない。ヘン、余り莫迦にするな』 春公『お前達は、難儀だ!困る!と口々に悔んで居るけれど、毎日酒を飲み、米が美味い、味ないと小言云つてる間は駄目だよ』 初公『そンな理窟は止めにして不言実行が大切だ。有る者は無い様な顔をするし、無い者は有る様な顔をしたい世の中だ。兎も角酋長さまに明瞭と神様に伺つて貰つて、春公の倉を開けたが宜いか開けぬがよいか判断して貰はう。モシモシ酋長さま、もう一度神様に右の事を伺つて下さいな』 酋長『神の言葉に二言はない。善悪をよく弁へて正直にするが一番だ』 乙『酋長様は三五教ですか、よう善とか悪とか仰有いますな』 酋長『さうだ、俺は三五教だ。此のイホの人間は八分までウラル教だから秘して居つたが、もう斯うなつては神様に対して畏れ多いから、明瞭と三五教だと言明して置く。お前達が毎日日日ウラル教に呆けて仕事もせずに酒計り飲んで、利己主義を行つて世の中を曇らすものだから、地の上は一面に邪気が発生し、山は枯れる河は干る、五穀は実らず果物は熟さず、日月の光も黒雲につつまれて皆見えぬ様な世の中になつて了ふたのだ。それでもまだ改心が出来ねば、どんな事が出て来るか分つたものぢやない。ちつとは俺の云ふ事も聞いて貰ひたい。お前達の為だ。酋長は床の置物だとか云つて、何時も俺を莫迦扱ひして聞いて呉れぬものだから、天地の神様が吾々を戒める為めにこんな常闇の世界を現はしなさつたのだ。もう今日限り今までの悪い精神を立替へて善に立帰りますと此神前で誓つてくれ』 初公『ヨシ分つた。酋長と春公とは腹を合せて神様を楯に、自分計り安楽に暮して、俺達の苦しむのを高見から見物すると云ふ悪い量見だナ。オイ皆の奴、酋長と春公の首ツ玉を抜くのだ。ヤイヤイ酒に喰ひ酔うて、吠たり笑つたりして居る場合ぢやないぞ。俺達の一身上に関する大問題だぞ』 と呶鳴り付ける。一同は初公の号令の下に立ち上り、酋長と春公を目がけて各自に棍棒を打ち振り乍ら、四方八方より酒の機嫌で打つて掛る。嗚呼この結果は如何に治まらむとするか。 (大正一一・三・六旧二・八藤津久子録)
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霊界物語 12_亥_天の岩戸開き 04 初蚊斧 第四章初蚊斧〔五〇〇〕 三柱の宣伝使は蚊取別の立てる前に現れ、 高光彦『ヤ、これはこれは三五教の宣伝使蚊取別様とやら、初めてお目にかかります。御高名は父から承はりました。神様の御引合せ、思はぬ所でお目にかかりました』 蚊取別『ヤア、貴神等が万寿山の磐樟彦命の御子達ですか。神国の為に御苦労で御座います。あなた方は是から何れの方面にお越しのお考へですか』 高光彦『ハイ我々はイホの都を越えて、筑紫島、豊の国の白瀬川の滝に魔神が潜むで災害をなすと聞き、言向和す為に参る途中で御座います』 蚊取別『それは結構ですナ。白瀬川には六箇の大瀑布があつて、そこには悪竜悪蛇が棲処を構へ、八頭八尾の大蛇と気脈を通じて、此通り天を曇らせ、地を汚して居るといふ事、私も一旦黄金山に帰り、附近の地を宣伝して居ましたが、今度は長駆して白瀬川の魔神を退治る積りで、此処迄やつて来た途中、見れば、前方に炬火の光、人の叫び声、合点行かずと宣伝歌を歌ひながら走つて来て見れば、豈図らむや、御覧の通り立派な人形の陳列会、何処の技師が作つたものか知りませぬが、よくも出来たものです。おまけに此人形は別に仕掛はない様ですが、目の玉を動かし、涙をこぼし、つひ最前までは、酒を喰ふ法螺をふく、歌を唄ふといふ妙な人形です』 三人『アハヽヽヽ』 蚊取別『皆さまどうでせう。一々この人形に魂を入れて、ものを言はせ、立派に立働く様にやつて見ませうか。きつと三五教の教に帰順する様になるでせう』 高光彦『我々は万寿山を立出てより、まだ一回も宣伝を試みた事はありませぬ。何分にも沙漠や野原ばかりを渡つて来たものですから………』 蚊取別『私が一寸手本を出しますから手伝つて下さい』 といひ乍ら、化石の様になつた人々の前に坐り込み、 蚊取別『サアサア人形さま、お前は目ばかり動かして居るが、今口を動く様にしてやる。私の言ふ通りに云ふのだよ……ウンよしよし、承知か、頷いて居るナ……神が表に現はれて』 初、口をモジヤモジヤさせ乍ら、 初公『カメカオモテテニアラワワレテ』 蚊取別『モツト確乎言はぬか。サアも一遍言うた』 初公『カ……カ……敵わぬ、カニして下さい。必ず必ず心を直します』 蚊取別『ヨシ、それは分つたが、神が表に現はれてを歌へ』 初は、 初公『神が表に現はれて善と悪とを立別る 此世を造りし神直日心も広き大直日 ただ何事も人の世は直日に見直せ聞直せ 身の過ちは宣り直せ蚊取の別の神さまよ 聞けばお前も其昔良くもない事沢山して 悪神さまと歌はれて今は偉そに其処ら中 牛から馬に乗り替へて善ぢや悪ぢやと言ひ歩く ホンに世界は広いものわしも昔は自在天 神に仕へた悪神ぢや其時お前は猩々の 様にガブガブ酒喰ひ人を泣かした奴なれど どうした風の吹き廻し今は立派な宣伝使 心の色は変れどもやつぱり変らぬ其姿 茹蛸みた様な姿して人を教へて歩くとは それやマア何とした事かホンに世界は広いもの』 蚊取別『コラコラ何を言ふのだ。昔は昔、改心すれば其日から善の神だ。口だけ自由にして遣れば、直にそれだから………貴様も容易に改心は出来相にもない。マア改心の出来るまで、百年でも千年でも固くなつて鯱こばつて居るが宜いワイ』 初公『お前も昔馴染だ。つひ心安いものだから言つたのだ。そんな意地の悪い事言はずに、身体を旧の通りにせむかい蚊取別』 蚊取別『アハヽ、どこまでも負惜みの強い奴だナア』 初公『弱くて此世が渡れるか。負惜みなつと強くなければ、優勝劣敗弱肉強食の此世の中が渡れるものか。善ぢや善ぢや世の為だ、国の為ぢや、人の為には身命を賭してナンて吐かす奴は、みんな偽善者だ。俺は斯う見えても、悪にも強ければ善にも強いのだ。併し乍らどうしたものか、悪は行りたくない。町の奴が可愛相だから、厭でも応でも悪の仮面を被つて憎まれ者になつて、酋長や物持の春公に掛合つて見たのだ。世間の奴は善に見せて悪を行る、俺は悪に見せて善を行ふのだ。蚊取別、お前も取分けて抜目のない男だつた。常世会議では一寸失敗りよつたが、しかし宣伝使の仮面を被つて相変らず悪い事を行つとるのだらう。顔も知らぬ宣伝使なら、叮寧に頼みもし、謝罪もするが、何分お前の素性を百も承知、万も合点して居る俺としては、チヤンチヤラ可笑しいて、真面目に改心するなぞと言はれたものかい。そんな悪戯をせずに早く霊縛を解け』 蚊取別『解いてやるが、解いたらモウ喋らぬか。三人の若い宣伝使の前で、昔の棚卸しをやられると面目玉を潰して了ふ。どうだ、何も言はぬと誓ふか』 初公『チガフかチガハヌか、そら知らぬが、記憶にある事は、俺が言ふまいと思つても、腹の中から言うて来るのだから仕方がないワ。一寸先の事は分らぬから、堅い約束は出来ぬワイ。俺の身体が自由になつたら、虫の居所に依つては、お前の薬鑵頭をブン擲るかも知れぬ、其時は其時の事だ』 蚊取別『イヤア面白い。貴様見かけに寄らぬ正直な奴だ。中々よく身魂が研けて居るワイ』 初公『ハヽヽヽヽ、さうだらう。大勢の代りになつて、名誉も、生命も、何も投出して、此イホの都でも威勢の高い酋長や、物持の春公に掛合うて居る位だから、何れ明日位には酋長の奴、沢山な家来を連れて俺を召捕りに来るのは、印判で押した様なものだよ』 蚊取別は、 蚊取別『サア、これから霊縛を解いてやる』 といひ乍ら、 蚊取別『ウン』 と一声。初公は旧の身体に復し、 初公『ヤア、有難う。蚊取別大明神、よつぽどお前は御神徳を貰うたなア。私もこれ丈の神力があれば、酋長の三人や五人位ウーンと霊をかけて、対方をウンと堅に首を振らしてやるのだけれどナア』 蚊取別『そンな事は何でもないワ、俺がするのぢやない。神様のお力だ。俺の背後には結構な神様が守護して御座るのだ』 初公『アヽさうか、偉いものだナア。併し俺だけ自由になつたが、他の者は気の毒だ。一つ皆にそのウンを行つて呉れぬか』 蚊取別『お前が俺の行つた様に手を組んで、皆の者にウンと一声かけて見よ。忽ち旧の通りになるのは請合だ。併し神力が現はれても、お前の力だと思つたら違ふぞ。九分九厘まで神様のお力だから、さう心得ろ』 初公『行つても可からうかな。私の様な素人がウンを行つても利くだらうか』 蚊取別『それが悪いのだ。自分が行ると思ふから間違ふのだ。お前は唯神様の機械になる丈だ。サア手を組むで一同に向かつてウンと行つて試い』 初公は不安の念に駆られ乍ら、惟神霊幸倍坐世を二回心細げに唱へて、大勢に向ひ、ウンと鎮魂術を行ふ。不思議にも一同は旧の姿に立復り四人の宣伝使の前に走り来り、跪いて涙を流し合掌し居たりけり。 初公『ヤア皆さま、安心なされ、この初公が御神力を頂いたらこんなものだ。モウモウ明日の事は心配するに及ばぬ。今日の事は今日一生懸命に働いて、取越苦労をせぬ様にするのだ。マアマア揃うて神様にお礼を申上げようかい。酋長や春公は逃げて了つたが、何れ捕手が来るだろう。来たつて構はぬ。この初公が一寸手を組んでただ一声、ウンとやれば、何の事はない。ウンもスンも言はずに往生するのだ。ナンと神様は偉いものだらう』 高光彦『ヤア何事も神様のお蔭です。どうだ初さま、是から酋長や春さまを言向和はしておいて、白瀬川の悪魔退治と出かけたらどうだ。お前のウンの試し時だ』 初公『イヤ有難う、私は神力はないが神様の神力で天晴れ悪神を言向けて見ませう』 群集の中より現はれたる斧公は顔をあげて、 斧公『ヤア初さまよ、お前は本当に偉い奴だ、よう変つたものだナ。昔は悪い男だつたが、義侠心に富んだ人だと町中の評判だよ。どうぞ俺にも其ウンを教へて貰うて呉れぬか。お前が宣伝使のお伴をして此町を立退くとなると、後が寂しいからのう』 初公『それもそうだ…………モシモシ、蚊取別の宣伝使様、此斧公にも許してやつて下さいナ』 蚊取別『私が許すのぢやない。三五教の教が有難いといふ事が分れば、神様が直接に御神徳を授けて下さるのだ。モシモシ斧さまとやら、神様はおのぞみ次第、おのおの身魂相応の御用を仰付けられるのだから、十分に魂を研きなさい。初さまが此町に居るとお前達は気を許してもたれる気になるから可かない。初さまが此町を立去つたが最後、皆の心が引締り、人を杖に突くといふ依頼心がなくなつて了ふ。さうすれば力と頼むのは神様ばかりだ。そこにならぬと御神力は与へて下さらぬ。マア安心して大神様を信仰しなさい。天下の宣伝使は決して嘘や掛値は言はぬ。お前さまは初公さまの代りになつて、町の者等を守つてやつて下さい』 斧公『有難う御座います。何分宜しく……』 と頭を地に着け涕泣し居る。いよいよ四人の宣伝使は初公を伴ひ、酋長の館を指して進み行く。 (大正一一・三・六旧二・八松村真澄録)
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霊界物語 12_亥_天の岩戸開き 16 国武丸 第一六章国武丸〔五一二〕 天に月日の光なく、地に村雲ふさがりて、奇しき神代も呉の海、国武丸に帆を揚げて水夫の操る櫂の音は、波に蛇紋を画きつつ、コーカス山の麓を指して進み行く。 風も無く、油を流したやうな静かな、淋みのある海面を船脚遅く、波掻き分けて北東指して進む。此の海上に漂ふこと旬日、数十人の船客は四方山の話に耽り居るのみ。 甲『斯う毎日日日天は曇り、地は言ふに言はれぬ鼻もむしられるやうな臭気がして来る。若い者の頭までが白髪になる。年も寄らぬに禿頭が彼方にも此方にも殖ゑて来る。五穀は実らず、果物は熟せず、病気は起る、獅子や、虎や、狼や大蛇は所々に現はれて人を害する、困つた世の中になつたものだナア。斯うなつて来ると人間も弱いものだ。吾々を救ふ誠の神様が果して世の中に御一柱でもあるとすれば、斯んな世の中を一日も早く立替へて下さりさうなものだな』 乙『それや神様は屹度有るよ。誠の神様は広い世界に唯一柱より無いのだ。何程偉い神さまだとて一柱では、さう隅から隅まで手が廻りさうなことは無いぢやないか。神様が一方で救け持て往かつしやる後から、又悪魔がドンドンと魅入つて往くのだから仕方が無い。各自に心得て魂を研くより仕様がないわ。さう神さまばかりに凭れて居つても自分から改心せなくては、神様がお出になつても、アー斯んな穢れた奴は屑の方に入れてやれと云つて、屑籠の中へ投り込まれて了ふかも知れない。他力信神も結構だが、他力の中に自力信神が無ければならぬよ』 丙『自力で救かるのなれば別に神様は無くても好いぢやないか』 乙『自力の中に他力が有り、他力の中に自力が有る。神様と人間とは持つ持れつ呼吸が合ねば、御神徳は現はれて来ぬのだ。人間は神様に救けられて世の中に活躍し、神は人間に敬はれて御神徳を現はし給ふのだ。毎日手を束ねて他力ばかりを待つて居た所でさう易々と棚から牡丹餅が落ちて来る様な訳には行かない。人間は尽す可き道を尽し、心を尽し、身を尽し、もう是で自分の力の尽しやうが無いと云ふ所まで行つたとこで、神様が力を添へて下さるのだ。偸安姑息自分許り為べき事もせず楽な方へ楽な方へと、身勝手なことばかり考へて居る奴に、神さまだつてナニ護つて下さるものか。これ丈け世の中が曇つて来たのも、みんな神様の所行ぢやない。吾々人間の心得が悪いからだ。互に憎み、妬み、怨み、譏り、怒り、呪ひ、瞋恚の焔を燃して悪魔道のやうに、優勝劣敗、弱肉強食の悪心悪行が天地を包むで、自然に斯んな日月の光も見えぬ暗黒界が現はれたのだ。詮り人間の口から吹く邪気が凝つたのだよ。何うしても是は善言美詞の言霊を以て直日に見直し聞き直し宣り直し天津神言の伊吹きに依て、この天地の妖雲を払ひ清めねば、天日の光を仰ぐことは何時までも出来ぬ。雨も降らず、風も無し、地上に邪気は蔓延する。一体お前たちは此の世界は何うなると思つてゐるのか』 甲『何うなるつたつて、何うも仕方が無いぢやないか。一人や二人の言霊を清くした所で大海の一滴、何の役に立つものか。神様でさへも御一柱で手が廻らぬのに、况して人間の分際で一人や、半分、何程清い言霊を使つた所で何の足にもなりはせぬぢやないか』 乙『人間は神様の容器だ。神様が人間の身体に入つて下さらば、その身魂は日月の如く輝いて、斯んな暗黒な世の中でも薩張すつかりと浄まつて了ふのだが、何を言つても吾々の肉体には醜の曲津が巣を組んで居るから、神様が入つて下さる隙が無いのだよ。一日も早く心の曲津を投り出して、真如の日月を心の天に輝かすやうにならなくては駄目だ。塵芥の溜つた座敷には、貴いお客さんは据ゑることは出来ない。マアマア身魂の掃除が一等だな』 甲『この呉の海には大変な竜神さまが、この頃現はれたと云ふことだよ。その竜神が現はれた風評の立つた頃から、斯うして天地が真暗気になつたぢやないか』 乙『勿体ないことを云ふな。この呉の海は、昔は玉の井の湖と云ふ水晶の湖水があつて、そこに沢山の諸善竜神様がお住居をしてござつたのだ。その時代は此辺りは世界の楽土と言はれた所であつたが、その玉の井の湖を占領せむとして、大自在天の部下なる牛雲別、蟹雲別と云ふ悪神が、攻めよせ来たり、竜神さまと鬼神との戦ひがあつて、その時に玉の井の湖水は天へ舞ひ上り、二つに分れて出来たのがこの呉の海と、琵琶の湖だよ。さう云ふ因縁の有る此の海に何うして悪神さまが住居を為さるものかい。余り人間が悪賢うなつて悪が盛んになつたが為に、地上の諸善神は残らず天へ昇られ、竜神さまは何れも海の底、即ち竜宮の底へ、身を潜め給うたのだ。この地上には、誠の神様はみんな愛想をつかし見捨てて或は天に昇り、或は海の底に入らるるやうになつたものだから、恐い者無しの悪魔が横行濶歩するやうになつたのだよ』 甲『神様は全能ぢやとか、愛だとか言ふぢやないか。真に吾々を愛し給ふならば、何故飽迄も保護をして下さらぬのだ。斯うなつて見ると神の慈愛も疑はざるを得ぬではないか。要するに神と云ふものは美しい、綺麗なばかりで実力の無いものと見える。心穢き悪魔の跋扈に耐へ兼ねて天へ避けたり、海の底へ隠れるとは、なんと神様も不甲斐無いものだナア。吾々人間でさへも斯うして地上に依然と辛抱してゐるぢやないか』 乙『莫迦を云ふな。「人盛なれば天に勝ち、天定まつて人を制す」と曰ふことがある。何程神様が人間を照してやらうと思召しても、鏡が曇つて居るから神様の御神力が映る途が無いのだ。濁つた泥の池には清き月の影は映らぬ。曇つた鏡には姿は映らない、神様は清浄潔白、光だから斯う云ふ汚い人間には御うつりなさらうと思つてもうつることが出来ないのだよ』 甲『其処が神さまぢやないか。吾々の魂が曇つて居れば、何とかして勝手に磨いて、うつればよささうなものぢやないか。魂を研け、磨いた者には、うつつてやらう、護つてやらう、救けてやらう、磨けぬ者には、うつらぬ、護つてはやらぬ、救けぬと云ふのでは別に吾々と異つたことは無いぢやないか。吾々でも色の白い、年の若い、綺麗な別嬪には不知不識に目がうつり、心がうつり、気分がよくなるし、穢いお多福面の色の黒い、どて南瓜のやうな奴には、何となしに心持が悪くつて、そよそよと吹いて来る風も厭と云ふやうな気になる。其処が人間の心だ。仕方が無いが世界の人民は皆我が児だと仰有る神の親心から見たなれば、極道の児や不具の児は、親の心としてなほ可愛がつて呉れさうなものぢやないか。之を考へると余程吾々の方が慈悲心が深いやうだワイ』 乙『よう理窟を云ふ奴だな。神界の事は人間界の理窟で解るものかい。至大無外、至小無内、千変万化の神様の御働き、そんな人間を標準としての屁理窟を言つたつて、神様の大慈大悲の大御心が解るものかい。各自に身魂を研くが一等だ』 甲『さうすると此の海にござる竜神さまは、善の神と云ふのか。善の神なら一寸姿を現はして吾々に安心をさして下さつてもよかりさうなものだのにナア』 乙『何時でも現はして下さるよ。斯んなことは神様の自由自在だ。併し乍ら吾々のやうな穢苦しい身魂の人間が、竜神さまの頭の上を斯うして船に乗つて穢して渡つて居るのだから、何とも知れないよ。マゴマゴすると大変な御立腹を受けて荒波が立つて、船と一緒に竜宮行きをせにやならぬかも分らぬぞよ』 甲『たとへ船がひつくりかへつても、竜宮へ往けるならば結構ぢやないか。神様ばかり清らかな天や、海の底へ入つて地上の人間を斯んな悪魔の中に放つたらかして置くとは、ちつと量見が解り兼る。竜宮へ遣つて貰つて俺は一つ神様と談判をして地上の人間を守つて貰ふやうにしたいのだ』 乙『何程結構な竜宮へ往つた所で、自分の心の鏡が曇つて居れば、美しいことはないわ、鬼や、大蛇や、醜女、探女が四方八方から取囲むで苦しめに来るだけのものだよ。心相応に神様は現はれ給ふのだ。そこが千変万化の神の御働きだよ』 斯く話す折しも俄に一陣の颶風颯と吹き起つて船をキリキリ廻し、山岳の如き浪を立て数十人の生命を乗せたる国武丸は、今や海中に没せむとするの光景とはなりにける。 (大正一一・三・一〇旧二・一二外山豊二録)
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霊界物語 12_亥_天の岩戸開き 19 呉の海原 第一九章呉の海原〔五一五〕 時置師神は牛公の投身したる海面に向ひて、暗祈黙祷しつつあつた。暫くあつて満面に笑を湛へ、悠々と元の席に返つて行くのであつた。馬公は小声になつて、 馬公『オイ鹿、虎、どうだ。三五教の宣伝使でさへも、牛公が海へ飛込むだのを見て、助けようともせず、愉快さうに、ニタリニタリと笑つて居つたぢやないか』 鹿公『ウン、さうだのう、偉さうに人を助ける宣伝使だと云つた処で、口許りだよ。どうでコンナ世の中になつて来れば……誠の者は薬にする程も無い……と云ふ神様の教通りぢや。大きな声で喋つて居ると、又どんな目に逢はせられるか知れやしないぞ。静にせい、静にせい、云ひたけら黙つてものを云ふのだよ』 馬公『黙つてものを云ふ事が出来るかい、手品師でもあるまいし』 虎公『出来いでかい、そこが以心伝心だ。目は口程にものを云ふと云ふ事がある。霊界物語にも耳で見て目で聞き鼻で物食うて口で嗅がねば物は分らぬ、と出て居る[※第1巻第24章の章末に記されている歌だが、そちらでは「物は」ではなく「神は」になっている。]ぢやないか』 馬公『そんな事はどうでも良いわ。マア静にしようかい。オイオイ時置師神が大きな目をむいて、ギロギロと見廻し出したぢやないか。どうやら御鉢が廻りさうだぞ』 と云ひ乍らクルクルと帯を解きかける。 鹿公『オイ馬公、貴様帯を解いてどうするつもりだ』 馬公『喧し云ふない、是には秘密があるのだ。手廻しだ』 虎公『手廻して何だい』 馬公『牛公の様に着物を着たなりで、飛び込むでもつまらぬから、時置師神が「コラツ」とやつて来よつたら、俺はチヤンと御先に此帯解き置かしの神様となつて、真裸のまま海の中へドブンだ。貴様等も用意せ、用意を』 時置師神は四辺キヨロキヨロ見廻しながら、三人の囁き話を聞き、 時置師『ヤアー、久しく逢はなかつた。御前等は牛公の同役、ウラル教の目附の馬、鹿、虎の三人ぢやないか』 虎公『トラ違ひます、シカと見て下さいませ、決してウマい事人を詐る様な、正直な男ぢや御座いませぬ』 時置師『アハヽヽヽヽ、其狼狽へ様は何だ、裸になつて居るぢやないか』 馬公『裸で物は落しませぬからなア。肝腎の一つより無い命を落しては約らぬから、まさかの時の用意に裸になつて置きませうかい。烈しい時津風が吹いて、舟が覆る様な事があつては耐りませぬから』 時置師『御前は確に牛公の連だらう、人間は正直にするものだぞ』 馬公『ハイハイ、ドウド許して下さいませ。正真の事を云つたら命がありませぬわ。今日の時節は、真実の事を云へば、悪い奴ぢやと云つて、酷い目に逢はされる世の中です。嘘が宝となる世の中、嘘から出た誠、誠から出た嘘、嘘か誠か、雨か風か、そこはそれ好い加減に操つて渡るのが当世の遣り方、決して決して此世の中に逆らう様な、悪い人間ぢや御座いませぬ。時世時節に従ふ善の遣り方、時さまに従ひます』 時置師『アハヽヽヽヽ、どこ迄もウラル教主義だなア』 鹿公『斯様斯う斯うシカジカの因縁によつて、しかも同じ国武丸に一蓮托生、袖振り合ふも他生の縁、躓く石も縁の端、団子食ふのも囲炉裡の框』 時置師『コラコラ何を云ふのだ、貴様の云ふ事は時々脱線するから困る』 鹿公『鹿り鹿り、時にとつての時さんへの御慰み、時世時節は恐いもの、この広い世の中、一つや二つ悪い事をしたつて、まさか時さまに遭遇すとは思はなかつた。アーアー広い様で狭いは此世の中だ、まだまだ狭いのは舟の中、も一つ狭いは腹の中』 時置師『ナカナカ能う囀る奴だなア』 鹿公『泣く鹿よりも泣かぬ螢が身を焦す』 時置師『シカタの無い奴だ。何だビリビリと震ひよつて』 鹿公『身体に憑いたる曲津神を震ひ落して居るのですよ。どうぞもう私の古い罪は、貴方もさつぱりと、是で見直し聞直し、都合がついたら、他の船にでも乗り直して下されば、大変に都合が好いのだがなア』 時置師『貴様は面白い奴だ、イヤ面黒い奴だ。まるで渋紙様の様な男だ。顔に渋味があつて一寸確りした目附役、捕手の役には持つて来いだ』 虎公『モシモシ時様、鹿公は最前から随分云うて居ましたぜ。それはそれは大変に云うてましたよ』 時置師『何を云うて居たのだ』 鹿公『ユフユフ自適、神様の有難い事を云うて居たのです。さうして三五教は結構な教立派な宣伝使が沢山ござる。中にも取り分けて御慈悲深い、神力の強い、男前のよい活神さまの様な宣伝使と云うたら、マー時さまの時置師神さまより外にはあるまい……と云うて御賞め申して居つたのですよ』 虎公『コラ鹿公、ユフユフ云ふない。モシモシ宣伝使様、鹿公のは嘘から出た誠でなくて誠から出た嘘ですよ』 鹿公『構ふない、虎の野郎、貴様は余程卑怯な奴だ。俺等二人はどうなつても好い、貴様一人助かりさへすれば好いと思ふのか。よし、それなら俺にも考へがある。モシモシ宣伝使様、この虎公と云ふ奴、コーカス山の八王から沢山の手当を貰ひよつて、実の処は貴方の後を追従て来よつたのです、其証拠には此奴懐に呑んでますぜ』 時置師『呑んで居らうが呑んで居るまいが、どうでも好いぢやないか』 虎公『モシモシ宣伝使様、私を能く了解して下さいませ』 鹿公『何を吐しよるのだ。そりや了解もして下さるだらう。宣伝使を何々しようと思うて、追従覘うて居る悪い奴だから、懐へ呑んで居ると云う事を、御了解して下さるワイ。蛙は口から、匕首が塞がらぬワイ』 かく話す折しも、舟の前面に見上げる許りの水柱立昇るよと見る間に、巨大なる亀の背に載せられて、牛公は嬉しさうに海面に浮むで来た。馬、鹿、虎一度に、 馬公、鹿公、虎公『ヤアー牛公が……助かつた』 (大正一一・三・一〇旧二・一二岩田久太郎録)
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霊界物語 13_子_フサの国・半ダース宣伝使 10 巌窟 第一〇章巌窟〔五三六〕 日の出別の射放ちたる矢を拾ふべく、鷹彦、岩彦一行は、先を争うて我一に功名せむと、萱野を分けて進み行く。 岩彦『この萱野原へ萱製の矢をたつた一本位射放つて、それを拾つて来いと云うたつて、天然坊の星あたり、何だけ探しても無ければもう駄目だ。失望落胆の淵に沈むとは、コンナことを云ふのだらうかい』 亀彦『際限もなきこの萱野原を、僅に一本の萱製の矢を探すと云つたつて、到底不可能的大事業だ、竿竹をもつて空の星をがらつよりも頼りない話ぢやないか』 鷹彦『また弱音を吹きよる。これが身魂の審めだ。何でも構はない、日の出別の宣伝使のおつしやる通り、唯々諾々として遵奉するのだよ』 駒彦『あまり無理ぢやないか』 鷹彦『親と主人と師匠は無理を云ふものだと思うて居れば好いのだ。滅多に吾々を親や師匠が窮地に陥没さして、痛快を叫ぶと云ふやうな事はなさる気遣ひがない。何処までも徹頭徹尾命のまにまに矢探しをするのだよ』 駒彦『ヤヤコシイ、矢探しだナ。矢矢暫く思案に暮れにけりの為体だ。オイオイ大変だ、火が燃えて来るぞ。これだけ生へ茂つた野原に火をつけられ、吾々は耐つたものぢやないワ、本当に日の出別の宣伝使は無茶ぢやないか、矢張り彼奴は怪しいと思つて居たよ』 鷹彦『吾々を奈落の底に陥穽すると云ふ悪神の企みに乗つたのだ。エヽもう自棄糞だ、焼け死する処まで荒れて、荒れて、暴れ廻してやらうかい』 斯くいふ折しも、火は四方八方より燃え猛り、黒煙濛々として一同を包んで了つた。梅公、音公両人は、 梅彦、音彦『暑いワイ、煙たいワイ、苦しい。如何しよう』 鷹彦『また弱音を吹くな、心頭を滅すれば火もまた涼しと云ふ事があるわ。斯ういふ時に、火に対する水だ。乾く事なく尽る事なき神の尊き水をもつて、猛火を消すのだ。これが吾々の身魂の試錬だよ』 かく言ふ折しも火は足許へ燃えて来た。進退谷まつた一同は一処に集まり互に抱きついて地団駄踏んで居る。忽ち地はバサリと陥落し、土中に一行は陥つた。火はその上を何の容赦もなく咆哮しながら燃え過ぎにけり。 岩彦『アヽこれで分つた。九分九厘叶はぬと云ふ処で神様が助けてやると仰有るのは茲の事だ。火鼠を現はして教へてやるなぞと、本当の赤い鼠が出るのかと思つて居たれば途方途徹もない大きな火鼠だつた。火の通つた跡は焼け殻が皆黒くなつて、炭になりよる。それで火鼠と仰有つたのだな』 鷹彦『ホー中々貴様は悟りがよいワイ。何だ未だブクブクするぢやないか。地獄の底まで陥没しても困る、好加減に止めて貰はぬと、過ぎたるは猶及ばざるが如しだ』 何処ともなく、『ククヽヽヽ』 一同『ヤア、あれは鼠の鳴き声ぢやないか。彼方の方に往つて見ようぢやないか』 と声を尋ねて一同は進んで行く。果して毛の緋色を帯びた古鼠が萱の矢を喰はへてこの処に現はれ、 古鼠『内はホラホラ、外はスブスブ』 と鳴いたきり姿を消して了つた。一同はドンと足踏する途端、ズドンと音がして深い穴に落ち込んだ。見れば其処には六個の巌窟が開いて居る。 鷹彦『ヤア此処だ此処だ、日の出別命もなかなか偉いワイ、矢の落ちた処が矢張この巌窟の入り口だつた。悪魔と云ふものは、本当に注意周到なものだ、コンナ処に入口を拵へておけば誰も気の付く筈はない、至れり尽せりだ。サアこれから約束の通り各自分担して探険に出かけるのだ』 六人は各一個の穴に姿を隠した。比較的高く横巾の広い巌穴である。どうしたものかこの巌窟の中は地中にも拘はらず非常に明い。六人は各一つの穴を目蒐けて進み行く。 日の出別の火鼠荒野に現はれて迷へる人の心を照せり 時々穴と穴との巌壁に風通しが開けてある。六人は六個の穴を二三町進むと其処に非常に広い場所がある。之より先は堅固なる巌の戸が鎖されて進む事が出来ない。六人は期せずして一処に集まり、 鷹彦『ヤア皆の連中、如何だつた。別に変つた事は無かつたか』 亀彦『あつた、あつた、大にあつた』 鷹彦『何があつたのだ』 亀彦『巌壁の両方に覗き穴が沢山あつたのだ』 鷹彦『何を云ふのだ、大層らしい。どの窟にも共通的に空気穴が開いて居るのだよ』 岩彦『之では約らぬぢやないか、相手なしの戦ひは出来やしない。何だ、醜の厳窟に化物が居るナンテ人を馬鹿にして居る。それだから世間の噂は当にならぬといふのだ』 鷹彦『イヤ、これからが正念場だよ。ここはホンの序幕だ。何十里とも知れぬ程あると云ふぢやないか、どこぞこの岩壁を力一杯押して見ようか。何でも沢山の戸があると云ふ事だから、アヽさうだ、一つ押してやらう。オイ皆一度に総攻撃だ』 と。力一杯ウンと押した。亀公の押した岩は、暖簾を押すやうに手もなく開いて、亀の勢あまつて巌穴の中へ飛び込んだ途端に幾丈とも知れぬ陥穽にザブンと音を立てて落ち込んだ。 亀彦『ヤヤ大変だ。皆の奴俺を助けて呉れぬかい』 五人は穴の傍を一足、一足、指に力を入れながらソツと向ふに渡り、 一同『アヽ、思はぬ不覚を取つた。これだから気許しは一寸も出来ないと云ふのだ』 鷹彦『何とかして亀サンを救うて上げて遣らねばなるまい』 亀、井戸の底より、 亀彦『オイ、オイ、何とかして呉れないか』 音彦『お前は名から亀サン、水の中は得意だらう、マア悠乎と水でも呑んで寛ぎたまへ。突差の場合よい智慧も出ないから此井戸の傍で山の神ぢやないが、井戸端会議を開会してお前を助けるか、助けないかといふ決議をやるのだ。マアマア、閉会になる迄辛抱して呉れ』 亀彦『ソンナ気楽な事を云うて居れるかい、一時も早く救ひ上げて呉れ』 岩彦『エヽ、矢釜敷い云うな、手の付けやうが無いぢやないか』 亀彦『手のつけやうどころか、足も頭も体中、浸けて居るぢやないか』 鷹彦『サアサア、臨時議会の開会だ、これから議長の選挙だ。院内総務は誰にしようかな』 亀彦『アヽ辛気臭い、洒落どころぢやないわ、冷たくなつて仕方がない、体も何も氷結して了ふわ』 岩彦『氷結したつて仕方がない、此方は多数決だ。五人を両派に分けて、三人と二人だ。鷹サンは議長といふ格だ』 鷹彦『エヽ諸君、遠路の処よく出席下さいました。今回臨時議会を開会いたしましたに就ては、最も急を要する事件で御座いまして、国家危急存亡の場合、何卒諸君の慎重なる御審議を願ひ度いのです。抑々今回の議案提出の要件は、御存じの通り、元ウラル教のヘボ宣伝使、亀公と云ふ男、醜の巌窟の探険に出かけ、実に短見浅慮にも思はぬ不覚を取り、深く井中に陥没致し、生命旦夕に迫る、と云ふ場合でございます。何卒諸君の箱入の知識を絞り出されて、彼が救済の策を講じ最善の努力を尽されむ事を希望いたします』 四人『ヤア賛成々々』 と、四人は一度に拍手をもつて迎へる。亀公は井戸の底より、 亀彦『ヤーイ、早く助けぬかい。死んでからなら助けても役に立たぬぞ』 鷹彦『何だ。井戸の底から矢釜敷云ふな、議会の神聖を汚すでないか。如何でせう、諸君、先決問題として亀公を救済すべきものなりや、将又このままに見殺にすべきものなりや、起立をもつてお示し下さい』 音彦『皆すでに起立して居るぢやありませぬか』 鷹彦『ヤア、これは間違つた。議員一同そこにお坐り下さい。賛成者は起立を願ひます。亀彦を助けると云ふお心の方は起立して下さい、救はないと云ふ御意見の方はそのまま坐つて居てもらひませう。一二三』 鷹彦『ヤア起立される方は駒サン一人ですか、これは怪しからぬ。然らば議長が起立いたしませう』 岩彦『議長横暴だ。多数決多数決。可とする者二人、否とする者三人』 鷹彦『多数党横暴極まる。議会の解散を命じませうか』 亀、井戸の底より泣き声を出して、 亀彦『ヤイ、馬鹿にするない、洒落どころかい。早く助けて呉れないか』 岩彦『この井戸の周囲は皆この岩サンで固めてあるのだ。岩に手をかけ足をかけ登つて来ればよいのだよ』 亀彦『登れと云つたつて、手も足も引つかかる処がないのだよ』 岩彦『さうだらう、手足が短くて背の甲羅がつかへて登れぬのだらう。モシモシ亀よ亀サンよ、世界の中にお前ほど、体の不自由なものは無い、アハヽヽ』 亀彦『何とおつしやる兎サン』 鷹彦『危急存亡の場合、命の瀬戸際になつて、洒落るだけの余裕があるものなら、サツサと登つて来い』 亀彦『皆サン大きに憚りさま。上から暗くて見よまいが、立派な段梯子が刻んであるわ、アハヽヽヽ』 と笑ひながら悠々として井戸から登つて来た。 岩彦『こいつ一杯喰された。イヤ此方が臨時議会まで開いて大騒動をやつて、沢山の機密費を使つたのは、吾々の方が陥穽に放り込まれたやうなものだ。有もせぬ脳味噌から機密費を絞り出して馬鹿らしい。この度の議会は歳費五割増だ。アハヽヽヽ』 斯く笑ひさざめく折しも、前方に当つて何とも形容の出来ないやうな異声怪音頻りに一同の耳朶を打つ。 不思議や一行の身体はその響と共に、電気にでも感じたやうに、身体の各部に震動を感じ、やや痳痺気味になつて来た。 鷹彦『ヤア、此奴は大変だぞ、オイオイ皆の者、緊褌一番、大に活動すべき時期が切迫した。何はともあれ、神言だ神言だ』 一同は声をそろへて、天津祝詞を奏上する。 (大正一一・三・一七旧二・一九加藤明子録)
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霊界物語 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) 01 三途川 第一章三途川〔五五一〕 大海原に漂へる宝の島と聞えたる 竜宮海の一つ島宝の数もオセアニヤ ウラルの彦の神勅を奉じて来る六人が 信神堅固の守護神元は竜宮に仕へたる 神の力を田依彦魂を研いて飯依彦の 神の司と現はれて善言美詞の言霊に 言向和す勢はウラルの教の宣伝使 三年の苦労も水の泡何の土産もアルパニー 港を後に千万の浮島原を乗越えて 航路も長き鶴の国鶴の港を立出でて フサの海まで帰り来る時しもあれや東北の 風に煽られフサの海三五教の宣伝使 日の出の別に巡り合ひタルの港に上陸し 足さへダルの河の辺を徐々進むシヅの森 神の光に照されて茲に心を翻し 忽ち変る三五の教司に伴なはれ フル野ケ原を打渡り醜の岩窟を探険し コシの峠もいつしかにわたりて茲に猿山の 峠の麓に一同はまどろむ折しも音彦が 眠を醒して眺むれば月は木の間に輝きて 茲に五人の宣伝使影も姿も長の旅 弥次彦与太彦伴なひて寄せ来る敵に追はれつつ 荒野を渡り河を越え曲の関所を乗り越えて 泥田に落ちし裸身の足も軽げに小鹿山 四十八坂に来かかりし時こそあれや前後 数多の敵の襲来に衆寡敵せず音彦は 弥次彦与太彦諸共に千尋の谷間に飛込みて 谷間流るる速川の水の藻屑となりひびく 谷間を渡る荒風は実に凄じき許りなり。 弥『世の中は能くしたものですな。一方には断巌屹立したる山腹を控へ、一方には千仭の谷間、かてて加へて前後より数多の敵に取囲まれ、衆寡敵せず、命を的に溪川目がけて、ザンブと許り飛込みた時の心持と云つたら、何ともかとも知れぬ苦しさであつたが、エーままよ、神様に捧げた生命、一寸先は神の御手にあるのだと覚悟をきわめ、飛込み見れば、都合の好い青々とした淵、素より裸の吾々両人は、水泳には誂へ向だ。宣伝使はドツサリと、ベラベラした装束を身に纏つて居られたものだから、水中へ陥つた時には、大変なお苦みでしたな。幸ひ吾々両人が真裸になつて居つたものだから、溺死もせずに助かつたと云ふもの、斯うなると親譲りの裘で無一物の方が、千騎一騎の時には何ほど楽だか知れぬ。それだから神様が持物を軽くせいと仰有るのだ。裸で物を遺失さぬと云ふ事がある。裸くらゐ結構なものはない。ナア与太公……』 与太彦『ウンさうだなア、泥田へ落ちて赤裸になつた時には、裸で道中がなるものか、アー情ない事だ、せめて褌丈なつと欲しいものだと、執着心が離れなかつたが、斯う言ふ時には生れ赤児の赤裸が一番都合が好い。これも神様のお蔭だ。三人が三人共重い着物を着けて居つたなれば、誰も彼も助からずに、幽界とやらへ旅立をする所であつたにナア』 音公は、 音彦『ソレモさうだ、神の道に荷物は不要ぬ。併し乍ら何とかして、木の葉でも編んで着物を拵へなくちや、この先旅する訳にも行かぬ。風俗壊乱でポリス先生に科料でも取られちや見つともない。ぢやと云つて泥棒する訳にもゆかず、困つたものだ。草でも編みて、一つ着物でも作つたらどうだらう、のう弥次公』 弥次彦『ウン折角裸にして貰つたのだから、これも惟神だ。逆転は御免だ。ナーニ構うものか、面の皮の慣はせとか云つて、何ほど寒くつても、面の皮には薄着一枚着せた事はない、慣れて了へば真裸でも、寒くも暑くも何ともない、身は身で通る裸ん坊だ、裸の道中も面白いよ、音彦君』 音彦『それだと云つて、どうも不恰好だ。吾輩の衣類を分配して、一人は羽織、一人は袴、一人は着物と云ふ風にやつたらどうだらうかナア弥次公』 弥次彦『ヤアそいちア、尚々恰好が悪い、それこそ化物の行列みたやうだ。エー構はぬ、行きませうかい。与太公ドウダイ』 与太彦『日が暮れたと見えて、非常に暗くなつたぢやないか。暗い所を歩くのは、裸でも何でも構はぬ、見つとも良いも、見つとも悪いも有つたものぢやない。一つ大手を拡げてコンパスの続く限り前進せうかい』 と三人は暗の路を当途もなく足に任せて進み行く。音公は、 音彦『ヤア、俄に明くなつて来たぞ。一体此処は何処だらう、大変な大河が南北に流れて居るぢやないか、河向ふには得も言はれぬ金殿玉楼が、雲に浮いた様に見えて来出した。ナンダか気がいそいそとして、一刻も早く行きたい様な心持になつて来たワイ』 弥次、与太両人は、 弥次彦、与太彦『ホンにホンに、立派な建築物が見えますな、是を見ると勝利の都に近付いた様な心持がして来ました、………ヤア有難い有難い、進退維谷まつて、九死一生の谷間に飛込みの芸当をやつたと思へば、豈図らむや、コンナ結構な都に近付いた。是だから怖い所へ行かねば熟柿は食へぬと云ふのだ。有難い有難い、それにしても、鷹公、梅公、岩公、駒公一同は、どうして御座るであらう、猿山峠の急坂を、痩馬の尻を叩いて行軍の真最中だらうか。是だから先へ行つた者が手柄をするとも、後れた者が手柄をするとも分らぬものだ、何事も神のまにまに任すほど安心な事はないなア』 と語りつつ、三人は漸く河幅広き水底深き青々とした流れ岸に着いた。弥次は驚いて、 弥次彦『ヤアこの河は立派な河だナア。大抵の河は、通常は河原ばつかりで、横の方を帯の様に、青い水がホンの形式的に、お条目の様に流れて居るものだが、この河はまた例外だよ、河一面の流れで、しかも青味立つた清水が流れて居る。大抵の河は、河一面に水の流れる時は大雨の時で、泥々の真赤な水だが、コラまた稀代に立派な河だワイ』 与太彦は、 与太彦『河は立派だが、何時まで褒めちぎつて居た所で、橋も無ければ、舟も無いぢやないか、どうして渡つたがよからうかな。これや一つ、何とか工夫をせねばならないぞ』 弥次彦『ナニ、吾々は幸ひ真赤裸だ。水泳の妙を得とるのだから、対岸へ流れ渡りに渡れば良いのだ。斯う言ふ時には、裸一貫の無一物は、大変に都合が好いワイ、唯困るのは音彦の宣伝使様だけだ……………もしもし宣伝使様、一層の事あなたの御衣服を全部この河へ投り込んで、三人共裸になつたらどうですか、牛の子でも附合を致しますで…………』 音彦『それもさうだが、お前はまだ普通の人だ。吾々は三五教の宣伝使といふ重荷を持つて居る。この被面布も大切に致さねばならず、法服を棄てる訳には行かない。アヽこうなると、責任の地位に立つ者は辛い者だ、窮屈不便利至極だわい』 弥次彦『あなたは、宣伝使の法服だとか、被面布だとかに執着心があるから可けないのだ。保護色に包まれて居るから、自由自在の活動が出来ないのだ。裸になれば又裸で立行くものです。カメリオンの様に、青い草に交れば青くなり、赤い葉に止れば赤くなり、白い木にとまれば白くなると云ふ、変幻出没自由の活動を執るのが、宣伝使の寧ろ執るべき手段ではありますまいか。大歳の神は、宣伝使の服を脱いで俄百姓となり、農夫の服を着て農業を手伝ひ、立派に宣伝使の本分を尽されたと云ふ事ですよ。河を渡るのには裸でなくちや駄目だと弥次彦は思ふがナア』 音『さう云へばさうだが、せめてコーカス山にお参詣する迄音彦は、この服は離したくない』 弥次彦『あなたはさうすると、何時迄も此処に、河端柳ぢやないが、水の流れをクヨクヨと見て暮すと云ふ方針ですかい』 音彦『ヤア進退維谷まつた。音彦もどうしたら可からうかなア』 と双手を組み思案に暮れて居る。傍に藁を以て屋根を葺いた小さい家が目に着いた。 弥『ヤア此処に、〆て一戸、村落があるワイ、あまり小さいので、見落して居つた。先づ先づあの館へでも侵入して、ユツクリと河端会議でも開催しませうか』 と先に立つて弥次彦は、藁小屋の中に進み入る。 弥次彦『ヤアこの藁小屋の中には、ナンダか生物が居るぞ。コンコンと咳払をやつて居るワイ、もしもし宣伝使さま、これは後家婆アの隠れ家と見える、マア一服さして貰ひませうかい………』 小屋の中より皺枯れた婆の声で、 婆『誰だ誰だ、この河辺に立つて何を囁いて居るか。此処はどこぢやと思ふて居る、三途の河の縁だぞ』 と聞くより弥次彦は婆々を睨み乍ら、 弥次彦『ナニツ、三途の河の縁だと?全然冥途の旅の様だ。ソンナラ大方着物を脱がす婆ぢやないか。ヤアナンダか気分が悪いワイ。モシモシ宣伝使さま、何をグズグズして居るのだい、早く来て鎮魂をして下さいな、怪しからぬ事を云ふ老婆が居りますで……』 音彦『弥次彦お前は、何を怖さうに言ふのだ。乞食婆アだよ、放つときなさい』 婆『乞食婆とは何だ、三途河の鬼婆だぞ。サアサア娑婆の執着をスツクリ流す為に、真裸にしてやらうかい』 と藁で編みたる押戸を開けて、白髪頭をヌツと出し、渋紙面を曝して現はれて来た。 弥次彦は、 弥次彦『ヤアナント背の高い、小面憎い面をした老婆だな………オイ糞婆、貴様は良い加減に改心をせぬかい。よい年しよつて、何時までも欲の皮をひつぱると、死んだら地獄に落ちるぞ』 婆『わしはお前達の着物を脱がす役だよ。サア綺麗サツパリと脱いで行かつしやれ』 弥次彦『何を吐しよるのだ。貴様は他人の着物を脱がして、沢山に箪笥の中へ仕舞込み置いても、末の短い貴様が、死んだならば冥土とやらへ行かねばなるまい。その時に三途河の鬼婆が、みな脱がして了ふと云ふ事だぞ。あまり欲をかわくない』 婆『その三途川の鬼婆が此方さまだ。愚図々々言はずに脱がぬかい』 弥次彦『ヤア此奴ア盲婆だな、裸の俺に着物を脱げつて吐しよる、良いケレマタ婆も有れば有るものだナ。ワツハヽヽヽ』 婆『お前は先祖譲りの洋服を着とるぢやないか、兎の皮を剥いたやうに、頭からクレクレと剥いてやるのだ。弥次彦覚悟は良いか』 弥次彦『これは裘だぞツ』 婆『河の縁で脱がすのだから、裘は尚結構だよ』 弥次彦『エー洒落ない、婆の癖して………オイ与太公、宣伝使さま、チツト来て下さらぬか、思ひの外シブトい婆だから』 音彦『ヤア、弥次さま、どうやら此処は三途の河らしいぞ。小鹿峠から谷川へ飛込んだ時に、気絶した途端に、どうやら幽界の旅行と急転したらしい、どうも空気が変だ。ナア与太彦、お前はどう思ふか』 与太彦『宣伝使のお考へは違ひますまい。私も何だか、四辺の状況が娑婆とは違ふ様な気が致しますワ………』 婆『コラコラ、お前たち三人の奴は、俺を誰だと思ふて居る、俺の面を見よ』 弥次彦は顎をシヤクリ乍ら、 弥次彦『ツラツラ考ふるに、何とも早、形容の出来ない怪体な面付だナア。ひよつとしたら、宣伝使のお言葉の通り、三途川の鬼婆かも知れぬワイ』 婆『合点が行つたか、親重代の宝物たる黒い土瓶の中へ小便を垂れる様な、汚れた身魂の人足だから、此処で赤裸にして霊の洗濯を為てやるのだよ』 弥次彦『ヤア合点の行かぬ婆アだ。土瓶の事まで吐しよる、貴様はお竹の母親か』 婆『お竹の母親か、父親か、よう考へて見ろ。弥次彦のガラクタ奴』 弥次彦『黒い黒い手で握飯を握りよつて、手鼻汁をかみ、洟を落した握飯を拵へた汚い老婆に比べると、モ一つ汚穢い奴だ。俺の霊が汚いから洗濯せいと言ひよるが、マア貴様の汚い顔から洗濯せい………霊魂を洗濯せい、美しうなれと、口ばつかり他人に言ひよつて、自分の汚い事は知らぬ顔の半兵衛でけつかる。困つた者だなア、自分の尻糞は目に着かぬと見えるワイ。全然三五教の宣伝使の様な事を吐す奴だ。アハヽヽヽヽヽ』 婆『ババはババいから婆と云ふのだ。ヂヂはヂヂムサイから老爺と云ふのだよ。糞は汚い、痰は汚い、花は美しいと、開闢以来定つとるぞ。俺の様な汚い所へ落ちた者は、汚なうして居ればよいのだよ。貴様のやうに、表は立派な、三五教の宣伝使だとか、信者とか言ひよつて羊頭を掲げて狗肉を売る様な罪悪人は、何処までも洗濯をせな可かない。腹の底まで洗濯をしてやるのだ。チツト苦しうても辛抱せい。親譲りの着物を是から脱がして、この老婆が洗濯をして着替さしてやらうかい、コラ弥次彦のガラ奴』 弥次彦『ヤア、此処ア洗濯婆アだな、鬼の来ぬ間に洗濯バタバタ早く身魂を洗ふて下されよ、改心が一等だぞよ、今までの塵芥、流れ川ヘサツパリ流して、水晶の身魂になつて下されよ……といふ筆法だな。ソンナ事は三五教の教祖の教にチヤンと出て居るのだ。事新しく三途河の縁まで来て、言つて貰はいでも、遠の昔に御存じだ。大学卒業生だぞツ。骨董品の様な古い頭をしよつて、文明人種の吾々に意見をするのは、釈迦に経を説く様なものだよ』 婆『お前達は口ばつかり立派な信者だ。舌と耳とは極楽へ遣つて、その外はみな地獄行だ。舌と耳とを俺が預つて、是から高天原へ小包郵便で送つてやらう。マア裘を脱ぐより、第一着手として舌を出せ、舌と耳とを切つてやらうかい、弥次の奴』 弥次彦『エー何処までも婆は婆らしい事を吐しよるワイ。舌切雀の話の様に、舌を切つてやらうの、桃太郎の話の様に、洗濯をするのと、らしい事を言ひよるワイ、アハヽヽヽ。オイ婆、この河には随分桃が流れて来るだらう。二つや三つは貯へて居るだらうから、一つ俺に招伴させぬかい、腹が空つて聊か迷惑の態だ』 婆『お前の食ふのは此処に預つてある、サアサア是なと食つて着物を渡すのだよ』 と真つ黒けの握飯を二つ出す。 弥次彦『ヤア此奴ア、お竹の宅の柴屋で見た握飯だ。コンナ垢の着いた、鼻水だらけの握飯が仮令餓えて死んでも食はれるものかい、渇しても盗泉の水を呑まぬ俺だぞ』 婆『どうしても食はねば、貴様を此鬼婆が代りに食つて了ふがよいか………勿体ない、粒々辛苦になつた結構なお米で拵へた握飯を、黒いの汚いのとは何の事だ。たとへ鼻水が入つて居らうが、百分の一位なものだ、何ほど綺麗な人間でも、百分の八九十までは汚い分子が含蓄して居る。貴様の肉体つたら、九分九厘まで真つ黒けの鼻水握飯の様なものだぞ。俺が辛抱して食てやると言ふのだから、これが冥途の食納め、喜んで食はぬかい』 弥次彦は首を傾けて 弥次彦『オイ与太公、サツパリ訳が分らぬぢやないか、貴様の食ひ残しだ。おれや元から一つも食はないのだから、貴様が食つたらよからう』 与太彦『私はあなた様の分まで頂戴致しまして、スツカリ食べるのは、あまり礼を失すると思ひ、二つ丈残して置きました。決して汚いから残したのぢやありませぬ、此れは弥次彦の領分だと思つて遠慮したのです………もしもしお婆アさま、私は腹一杯頂戴したので、それ以上は食へなかつたのと、弥次彦に愛想に残してやつたのですから、決して決して、汚いの何のといふ、ソンナ冥加の悪い心で残したのでは御座いませぬ。これは弥次彦の食ふべきもので御座います』 弥次彦『エーエー、与太彦までが怪しからぬ議案を出しよつた。河端会議だから握り潰しといふ訳にも行くまい。三途の河へ一瀉千里の勢で、否決流会だ』 と握飯を握つて河に棄てむとするを、婆はその手をグツと握りたり。弥次彦は、 弥次彦『ヤア冷たい冷たい、氷のやうな手をしよつて………手が痺れて了ふワイ』 婆『ヤア不思議だワイ、お前の霊は、遠の昔に痺れて了ふて免疫性の無感覚だと思つたに、冷たいのが分るか、それではチート何処かにまだ息があるワイ、コンナ所へ来るのはチト早いのだけれど、修業の為に、我を折る様に、この河を渡れ、裘を剥ぐ丈は免除してやらう。随分冷たい河だぞ、この河が冷たくなくして渡れる様ならモウ駄目だ。冷たければチツトはまだ人間の息が、霊に通ふて居るのだよ』 弥次彦『オイ婆アさま、お前も随分屁理窟を言ふがそれ丈理窟が分つて居れば、この弥次彦は寒うて困つとるのを、チツトは同情するだらう。亡者の着物を毎日追剥しよつて、沢山に蓄めとるだらうが、俺に似合ふ様な着物を一枚分配して呉れぬか、どうで老若男女色々と風も違ふだらうから、俺に打つて附けた様な着物もあるだらうにのう』 婆『エヽ附上りのした男だなア、お前に着せる様な着物は一枚もありやしないよ。みな河へ脱がしては流し、脱がしては流し、今ここに五枚ある丈だ。それもみな子供の着物だ。一枚は俺が着にやならぬし、五枚の着物を貴様に一枚やれば、モウあとは四枚だよ』 弥次彦『ヤアこの婆、なかなか洒落てけつかる、風流婆アだなア』 婆『定つた事だ、何事も執着心を棄てて、風流で胸の垢を洗濯婆アだ。お前も早う身魂の洗濯をせないと云ふと、腹の中に毛虫がわいて、弥次身中の虫となつて、お前の肉体を亡ぼす様になるぞ』 弥次彦『婆さま、オツト待つた、俺は亡者じやないか、一旦亡びた者が復亡びるといふ事があるかい』 婆『顕幽一致、生死不二だよ。今の娑婆に居る奴は、肉体は生きて居るが、霊はみな死にたり、腐つたり、亡びて了つて居るのだ。併し乍ら、貴様は感心な事には、肉体は亡びたが、まだ霊に生命があるワイ』 弥次彦『定つた事だい、せいめい無垢の生粋の大和魂だもの。万劫末代朽つる事なく亡ぶ事なき霊主体従の弥次彦さまの本守護神は、永世不滅の神の分霊、万劫末代生通しだ。肉体は亡びても、吾々の霊は至極健全だ。これから三途の河を横渡りをして、心の鬼も地獄の鬼も片ツ端から言向和し、地獄を化して天国とする覚悟だ。オイ婆ア、貴様もコンナ所に弱い者苛めをして、亡者に対し剥取強盗をするよりも、早く改心を致して俺のお伴をせないかエーン』 与太彦は、 与太彦『オイ弥次彦、しやうもない事を言ふない。地獄開設以来、三途川の鬼婆と云つて、この河に備へ付の常置品だよ。ソンナ者でも閻魔の庁へ連れて行つたが最後、天則………ドツコイ地獄則違反者だ………と云つて、罪に罪を重ねる様なものだよ』 弥次彦『さうだな、出雲姫の様な美人を連れて、閻魔の庁へ出立するのは気分が良いが、斯う苔の生えた枯木の様になつた骨董品を伴れて行くのは、弥次彦もチツト迷惑だ。……オイ婆ア、お前何時までも此川辺に、コンナ事をやつとるのが面白いのかい』 婆『何が面白からう、これも仕方がないワ、木蓮尊者の母親ぢやないが、罪の塊で、因果が廻り来て、コンナ人の厭がる役を、よい年してやらされて居るのだよ。俺はモウ駄目だ、終身官だから、辞職する訳には行かぬワイ』 弥次彦『それを聞けば、何だかチツト、哀憐の心が起つて来たワイ。一層の事、一思ひにこの川へ、バサンと投げ込みてやらうか。さうすれば、地獄の苦を逃れて、お前も幸福だらうに』 婆『婆サンとやつたつて駄目だよ。善の道を破産した俺だから、到底救はれる予算が立たぬワイ』 弥次彦『アヽ三途がないなア、かはいさうな者だ。ナント詮術なきの川水、ミヅバナ垂らして握飯に固めて、ムスメのお世話になつた御主人様に、有らう事か有るまい事か、食べさそうと致し、おまけに小便茶をも勧めた天罰は覿面に廻り来つて、三途川の鬼婆とまで成り果てしか、アヽ思へば思へばいぢらしや、弥次彦同情の涙に暮にけりだ』 音彦『アハヽヽヽ、面白い面白い、弥次喜多道中は、冥土へ来てもヤツパリ、五十三次気分がするワイ、音彦はまるで大井川の川縁に着いた様な心持がするワイ』 弥次彦『大井川なら、この婆を大井に川いがつてやるのですな、アハヽヽヽ』 この時いかめしい装束をした一人の男、金剛杖をつき乍ら、トボトボと歩み来たりぬ。能く能く見れば、ウラル教の大目付、源五郎なりける。弥次彦は見るより、 弥次彦『ヤア貴様はウラル教の源五郎だナ、俺が猿山峠の麓の森林で、華胥の国に遊楽する折しも、しやうもない夢をば、与太公に見せよつて、驚かしよつた腰抜野郎だらう。馬からひつくり返つて、四足に圧搾されて、背中に腹は替へられぬぢやない、馬の背中で腹を抉られて、蛙をぶつけた様に、目をクルクルと剥きよつて死ばつた代物だらう。サア好い所へ来よつた。こちらは三人貴様は一人だ。娑婆に居つた時は此方は三人貴様の味方は五十人、五十人でさへも敗北した様な腰抜だから、到底叶ふまい。貴様の着物を一切脱ぎ取るのだ、サアサア脱いだり脱いだり』 音彦は、 音彦『オイオイ弥次、婆アサンの職権まで蹂躙すると云ふ事があるかい』 弥次彦『モシモシ、お婆アサン、此所ちよつと代理権を執行致しますから、事後承諾を願ひます』 婆『ハーイハイ、宜しき様に………お前に一任致すぞや』 弥『音彦さま、サアどうだ、是からこの弥次彦が、お婆アサンの代理だ。脱衣婆アといふ職権ができた。婆アサンの片相手は、お弥次サンに定つてるよハヽヽヽ。オイ源五郎、婆アサンのおやぢだ。娑婆に居つた時は弥次彦だが、今は三途川の鬼おやぢだ。キリキリチヤツト脱いで了ヘツ』 源五郎は、 源五郎『ヤア、仕方がない、ソンナラ脱ぎませう。一枚でこらへて下さいや』 弥次彦『エー執着心を持つな、真裸になれ』 源五郎『それでもまだ此先、十万億土も旅をせにやならぬのだから、お慈悲に一枚は残して下さいナ』 弥次彦『エツ一枚脱ぐも三枚脱ぐも、脱ぐのに違ふた事があるか、生れ赤子になるのだよ』 源五郎『ナント、お前さまはエライ権利を持つてますなア』 弥次彦『定つた事だよ、泥棒権利の執行者だ。キリキリチヤツト、裸になつたり裸になつたり』 源『アヽもう斯うなつては源五郎もサツパリ源助だ、娑婆に居る時には、立つ鳥も落す勢であつたが、可愛い女房には別れ、生命より大事と蓄めた財産は弊履の如く打棄てて、身軽になつて此処へ来たと思へば、この薄い着物まで剥がれて了ふのか、アヽ仕方がない。どうしたら宜からうかナア』 弥次彦『エー女々しいワイ、郷に入つては郷に従へだ。娑婆の理窟は冥土には通用せぬぞ。泥棒にも三分の理窟があるのだ。脱衣爺の命令は全部服従……否盲従するのだ。亡者が亡者に従ふのは所謂亡従だよ。アハヽヽヽ』 源五郎『アヽ仕方がありませぬ、脱がして戴きます』 弥次彦『貴様が脱いだ後は、俺も裸で困つて居るのだから、右から左へスツと着替へるのだ。…………オイ与太公、此奴ア、大分沢山に着て居よるから、貴様と分配して、着々歩を進めるのだよ』 源五郎『お前さまも、裸の辛い事は御存じでせう。自分の苦しみにつまされて、私を不憫とは思ひませぬか』 弥次彦『エー八釜しいワイ、暗がりの世の中だ。一々目をあけて居つたならば、一日も生活が出来るものかい。何事も人の憐れは、見ざる、聞かざる、言はざるで…………自分の一身一族を保護するのが当世だよ。まだまだ是では済まぬぞ、貴様の持物をみな脱いで了へ』 源五郎『これ丈褌まで脱いで了つたぢやありませぬか、この上何を脱ぐのですかい……』 弥次彦『定つた事だよ、親譲りの………貴様はまだ洋服を着て居る。靴も、手袋も、頭巾も、何もかも、みな脱ぐのだ。貴様は娑婆に居る時から、彼奴は鉄面皮だと言はれて居つたぢやらう。その鉄面皮を此処で脱がしてやらう。舌も千枚舌だと言ふ事だから、一枚は助けてやるが、九百九十九枚まで此処で抜き取るのだ。コレコレ婆アサン、釘抜を貸しテンかいナ』 婆『ハイハイ、おやぢ彦の言ふ事なら、何でも聞きませう。釘抜がチツト錆びて居るけれど、此奴の舌も錆びてゐるから、合ふたり、叶ふたりだ、ワハヽヽヽ』 弥次彦『ヤア気の利いた婆アだ、流石俺の女房丈あるワイ、………オイ源公、千枚舌を出せ…………口を開け…………』 源五郎『アーア仕方がない、冥途の法律に従はねばならぬか。ソンナラどうぞ、ヤンワリと抜いて下さい』 弥次彦『よしよし』 と云ひつつ、釘抜を以て源公を大地に仰向けに寝させ、右の足を頭にグツと乗せ、 弥次彦『イヨー沢山な舌だワイ………此舌は放蕩を舌、一枚……オイオイ与太公、貴様は勘定役だ。音彦は受取つて下さい。……この舌は違約を舌……オツト二枚……こいつは間女房を舌……オツト三枚……こいつは讒言を舌、オツト四枚だよ、……こいつは失敗を舌、オツト五枚だ………こいつはアフンと舌、オツト六枚………こいつはインチキを舌……道傍でウンコを舌……遠慮を舌……ドツコイ遠慮会釈もなしに乱暴を舌……強欲を舌……ウツカリ舌……スベタに現を抜か舌……姦通を舌……人を監禁舌……苦面を舌……喧嘩を舌……善悪を混同舌……散財を舌……要らぬ心配を舌……狡猾い事を舌……民衆運動を煽動舌……探偵を舌……損を舌……畜生を殺舌……掴まへ損なひを舌……而も三五教の宣伝使を……手癖の悪いことを舌……遁亡を舌……難儀を舌……物に窮迫舌……人を見殺しに舌……憎まれ口を叩いた舌だ……盗みも舌……猫婆も舌……無報酬の飲食を舌……神に反対を舌……貧乏を舌奴を圧迫舌……憤慨も舌……変改も舌……人の金で漫遊を舌……無理も舌……斤量の目盗みも舌……悶着も舌……魂の宿替も舌……それは良心の転宅だ……隠険なことも舌……嘘つきも舌……縁談の妨害も舌……欲な企みも舌……乱痴気騒ぎも舌……悋気も舌……不在の宅を狙つて○○を舌……猟師をして沢山な畜生も捕獲舌……論にも杭にもかからぬ様な議論も舌……忘八苦も舌……意地の悪い事も舌……エー閻魔さまの眼鏡に叶はぬ様な事も沢山舌……人をおど舌……霊界物語の邪魔も舌……俺もモウウンザリ舌…是でまだ六十枚だがモウ良い加減に止めに舌がよからうかアツハヽヽヽ』 音彦『随分沢山な舌ですネー、音彦感心しま舌、ワアツハヽヽヽ』 弥次彦『此奴は、何時も数多の人間を顎で使ひよつて、舌長に物を吐かす舌たか者だから、舌の根も随分強くつて、この三途川の鬼爺も、大変な苦労を舌、アーア舌抜き商売も、懲々舌わい、ワツハヽヽヽ』 婆『これはこれはおやぢ彦、偉い苦労をかけま舌、これで一寸源五郎の制敗も一部落着いた舌と云ふものだ』 源五郎『アーア辛い目に逢ふたものだ。三味線の糸ほど引締められて、撥を当てられ、お前のお好きに紫檀棹、源五郎も是で無罪放免にして貰ひませうか』 婆『まだまだ……此処はこれでよい、この河を渡つて向ふへ行つたら、今度はお前の腕を抜くのだよ』 与太彦は面白さうに、 与太彦『アヽそうかいな、痛いかいな、苦しいかいな』 弥次彦『コラ与太公、ソンナ陽気な事を言ふとる場合ぢやないぞ、改心をせぬか、緊張せぬかい、お弥次彦が舌を抜いてやらうか』 与太彦『オイ弥次彦、よい加減にコンナ殺生な商売は辞職したらどうだい』 弥次彦『八釜し云ふない、モウ少し勤めさして呉れ、……恩給年限が満つるまで……』 与『貴様はどこまでも、徹底的に欲な奴だナ、欲々の体主霊従の性来ぢやと見えるワイ。世の中で他人がよく云はぬのも当然だ』 婆『サアサア弥次彦サン永々お世話だつた。只今限り解職する、速くこの河を渡りしやれ』 弥次彦『ヤア何だ、何時の間にか河が無くなつて了つた。かわい女房に生別れと云ふ場面だナ。オイ婆ア、折角な綺麗な河を何処ヘスツ込めて了つたのだい』 婆『お前の罪が薄らいだから、河はモウ流して了つたのだよ』 弥次彦『河を流すとは妙だな、ヤツパリ現界とはすべての光景が河つて居るワイ……ヤア面白い、茫々たる原野と俄に早替り、活動写真を見とる様だ……是れは是れはお婆アサン、永らく御厄介に与りました。頭の一つもおなぐり惜いが、私も先が急きますから、これで垢の別れを致しませう。これから爺は三人の亡者を連れて、あの世の旅をする程に、おばば、後の供養をしつかり頼むぞや。極楽と言ふ立派な所へ行つて半座を分けて待つて居る、一時もはやく、第二の娑婆を振り棄てて、おやぢの側へやつて来て呉れ、万劫末代、一蓮托生、必ず忘れて呉れるなよ』 与太彦は吹き出して、 与太彦『アハヽヽヽ、何を吐しよるのだ、アンナ老婆と一蓮托生になつて堪るかい』 弥次彦『それでも袖振合ふも他生の縁よ「ヤアおやぢサン、ばばア……」と仮令半時でも縁を結んだ以上は、夫婦には違ない、夫婦の情は門外漢の窺知すべき所でない、色気の無い唐変木の容喙すべき限りにあらずだ』 音彦、与太彦、源五郎も一度にふき出し、 音、与、源『アハヽヽヽ、ウフヽヽヽ、エヘヽヽヽ』 (大正一一・三・二三旧二・二五松村真澄録)
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霊界物語 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) 03 鷹彦還元 第三章鷹彦還元〔五五三〕 鷹彦、梅彦、亀彦は心の堅き岩彦の改心を喜びて、駒彦諸共、駒に鞭打ち堂々と小鹿峠を登り行く。爪先上りの山道を神の教に夜の道、早頂上に登り着いた。 鷹『御蔭で、小鹿峠を見極めました。ご一同ここで馬を休息させて参りませうか』 と一同は鷹彦の提議に満場一致賛意を表はし馬よりヒラリと飛び下りた。 岩『何れも方、余りの急坂でお疲れでしたらう。然し、音彦の宣伝使は居ませんなア』 梅『アヽさうですな、どうしたのでせう。途中に馬でもへたつたのではありますまいか、真逆あれほど大きな声で呼んだのだから聞えぬ筈もなからうし、目の醒めない道理も無い。之は的切り落馬されたのではありますまいか。弥次、与太の二人も居ませぬなア』 岩『ナニ大丈夫ですよ。一人なれば心配もして見なくてはならぬが、三人連だから滅多に紛失する心配もありませぬワ、アハヽヽヽ』 亀『何だか私は気懸りでなりませぬワ、途中でウラル教の目付役に打つかつて苦戦して居られるのではありますまいか。音彦の宣伝使は温順で胆力があるから、如何なる難関も容易に切り抜けられませうが、新参者の弥次彦、与太彦が要らぬ空元気を出して一悶着やつて居るのではあるまいかと気が気でなりませぬ』 駒『亀サン貴方もさう思ふか、私も同感だ、何だか気懸りでなりませぬワ。なんでもこの辺はウラル教の根拠地だと云ふ事です。ウラル山アーメニヤの驍将共は大分フサの国に集まつてゐると云ふ事ですから油断は出来ませぬよ。鷹彦サン、御苦労だが貴方の特能を現はして、一寸鷹に還元して、偵察をして下さるまいか。大丈夫と云つても充分の安心は出来ませぬからナア』 鷹『承知致しました。暫く待つて下さい』 と忽ち霊鷹と変じ中天高く姿を隠した。 後に四人は此処に神言を奏上し、過来し方の物語りに時の移るのも知らなかつた。東の空は茜晒して、日の大神の影、タカオ山脈の頂より登りたまふ。 岩『アヽもう夜が明けた。鷹彦さまはどうだらう。木乃伊取りが木乃伊になつたのではあるまいかなア』 梅『真逆ソンナ事はあるまい。音サンの事だから今に何とか音づれがありませう』 駒『本当に音サンの連がないのは音づれないのと同じ事、道中が淋しい様な気がする』 斯る処へ、四人の男覆面のまま峠を西方より登り来たり、 甲『ヤア居るぞ居るぞ、而も三五教の宣伝使が四人だ。オイ八公、貴様は早く源五郎の大将に報告して沢山の捕手を差し向ける様にして呉れ。吾々はそれ迄此処に彼奴等の遁げない様に監視をして居るから』 と小声に囁いて居る。 岩『オイ其処へ来るのはウラル教の捕手ぢやないか、皆サンお早うから御苦労様だなア、緩り一服なとしなさい。海山の話しを致しませうよ』 梅『斯う峠の頂きから四方を見晴らしもつて、世間話をするのも余り悪くはありませぬよ。さう恟々として落着かない態度をせずに、吾々と一所にどつかと腰を下して御一服なさいませ』 甲『ヤアその方等は紛ふ方なき三五教の宣伝使だなア。吾々は汝等の察する如く、ウラル教の捕手の役人だ。最う斯うなる以上は百年目だ、たとへ神変不可思議の術を使つて天を翔り地を潜る共、此方にはまた此方の不可思議力がある、サア神妙に手を廻せ』 岩『アハヽヽヽヽ、仰有ります哩。鉛で拵へた仁王サンのやうに四角四面な顔をして、さう頑張るものぢあない。同じ天の神様の氏子だ、持ちつ持たれつ、互に助け助けられ、この世に生きて栄えて、誠の神の御用を致す尊い人間同志だ、マア緩りと一服なさるがよかろう』 乙『この期に及んで要らざる繰言、聞く耳持たぬぞ。貴様は三五教といふ邪教を天下に宣伝する曲津神だ、それ丈の悟りがあるなら何故そのやうな教を信ずるのだ。巧言令色致らざるなく、乞食の虱ぢやないが口で殺さうと思つたつて、ソンナ事に迂濶々々乗る六サンぢやないぞ。エヽグヅグヅ吐さずと従順に手を廻せ、ウラル山の砦に拘引してやらうか』 駒『アハハヽヽヽ、マアマア、マアこの日の長いのに朝つぱらから、さう発動をなさると草臥れますよ。マア鎮まつて一服しなさい。吾々が丁寧に鎮魂でもして上げませう』 六『ナヽ何を吐しよるのだ、その鎮魂が気に食はぬのだ。グヅグヅ吐すと貴様の命は瞬く間に沈没だぞ』 亀『何とウラル教といふ教は荒い言葉を使ふ教理だな、恰で雲助サンと間違へられますよ。言霊の幸はふ世の中、尠とは丁寧な言葉をお使ひなさつたら如何ですか』 六『喧しい哩。貴様の様に表は蚤も殺さぬ様な態度を装ふて、鬼か大蛇か狼か獅子か山犬かといふ様な表裏反対の教とは雲泥の相違があるのだ。温和い顔をして悪念を包蔵する奴程、この世の中に危険な者はない。外面如菩薩、内心如夜叉、悪鬼羅刹の化の皮今にヒン剥いてやるから覚悟を致せ。吾々ウラル教の御方は上から見れば荒削りの仁王サンの様だが、心の綺麗な事は竜宮の乙姫サンか天教山の木の花姫が素足で逃げ出す様な綺麗な御霊の持主計りだぞ。余り見違ひをして貰ふまいかい』 岩『それはそれは結構な教ですな、しかしながら霊肉一致といつて心の色が外に表はれるものだ。心が和ぎ美しければ其人の言行はやつぱり柔かく美しくなくてはならぬ。黄金の玉を襤褸で包むと云ふ道理は無い筈だ』 六『エヽ好うツベコベ団子理窟を捏ねる奴だナ。今の世の中の奴は、口許り発達しやがつて、男までが女のやうな言葉を使ひ、髪に油をつけ洒落る時節だ。俺らの様な、天真爛漫素地その儘の人間が鉦や太鼓で探し廻つた処でさう沢山はありはせぬぞ、悪魔は善の仮面を被つて好う誑らかすものだ。貴様等もその伝だらう、言ふべくして行ふべからざるものは教の道だ。グヅグヅ云はずに、もう斯うなつちや仕方が無い、因縁づくぢやと諦めてこの方の仰せに服従致せ』 岩『アハヽヽヽヽ、ウラル教は随分理窟は極めて巧妙に仰有りますな、否、聞いて見なくては分からぬものだ、誰も世の中の人間は食はず嫌ひが多くて困る。お前の云ふのが本当なら吾々もウラル教を信ずるのだ。然し乍らウラル教は言行相反する邪教だ。実の事を云へば吾々は元はウラル教の宣伝使だ、竜宮の一つ島に渡つて宣伝をし乍らつい一月前までウラル教の宣伝使を勤めて居たのだ。然し乍ら吾々は三五教を聞いてウラル教と比較して見れば実に天地霄壤の差ある事を心の底より悟つたのだ。要するに何程教が立派でも行ひが出来なくては却て社会に害毒を流す様になる。三五教は不言実行の教だよ。何ほど立派な教でも宣伝使にその人を得ざれば、折角の金玉を泥濘に埋没した様なものだ。お前たちもどうだ、今から三五教に帰順して了つたが後生の為だらう否この身このまま無限の安心と光栄に浴する事が出来るであらう。三五教は現当利益の教理だよ』 六『ヤイヤイ皆の奴、どう仕様かな。この四人の宣伝使は元はウラル教の宣伝使だと云ふ事だ。吾々も茲に到つて沈思黙考の余地は充分に存するではないか』 甲『今更らしい事を云つたつて仕方がないぢやないか。今に八公の報告に依つて、源五郎の大将が数多の部下を引連れ押し寄せて来るといふ手筈になつて居るのだ。コンナ処で、三五教になろうものなら、それこそ大変だぞ。何、構ふものか、弱音を吹くな、たとヘウラル教が悪の教であらうと、毒食はば皿まで嘗ぶれといふ事がある、行く処まで行くのだよ』 六『アヽ此処はサル山峠の頂上だ、此処へ降る雨は紙一枚の違ひで、一方は東へ流れ落ちる、一方は西へ流れ落ちる、善悪正邪の分水嶺だ。吾々も一つ此処で向背を決せねばなるまい』 この時、天空より舞ひ下つた一羽の霊鷹は見る見る身体膨張し、一丈許りの羽を拡げてバタバタ羽ばたきした。 岩『アヽ鷹様か、音彦の様子は如何に』 鷹彦は羽を納め元の姿となり汗を拭き乍ら、 鷹彦『御連中、大変ですよ。音彦の宣伝使はウラル教の大目付、鷲掴の源五郎の為に包囲攻撃をされ、命からがら小鹿峠の方面に遁れ去つたといふ事です。而うして源五郎は自分の馬の下敷となつて腹を破り悶死したさうです。八といふ男が一隊を引き連れて音彦様の後を追跡したと云ふ事です』 六『そりや大変だ、八といふ名は沢山にあるが源五郎といふ大将の名は一人だ、そうすれば吾々の大将は討死したのか、エヽ残念ぢやない哩、残念なのは源五郎御自身だ。常平生からウラル彦の大将を笠に着よつて、虎の威を藉る古狐に罰は覿面、死様にも種々あるに、自分の乗つた馬の背中に押へられ死ぬとはよくよく因果な者だナア。ヤア最う安心だ、何時もいつも吾々を圧迫しよつた報いだ。モシモシウラル教の元の宣伝使、三五教の新米のヌクヌクの宣伝使の御歴々さま、私も三五教に帰順いたしますワ』 岩『要らぬ事を沢山云ふものぢやない。旧だの新だのホヤホヤだのと、それだからウラル教は口が悪いと云ふのだ。帰順するならするで、ベンベンダラリと前口上を並べなくても好いぢやないか。モシモシ鷹彦さま、この男は今お聞きの通り帰順すると言ひました。貴方のお留守中にコンナ勝利品を得ました、ホンの一服休みに一人の帰順者を得たのですから随分豪勢なものでせう』 鷹『相変らず、喇叭吹きがお上手ですなア』 六『オイオイ皆の奴、小頭の六サンが帰順したのだから、貴様たちも俺に殉死だぞ。異議はあるまいな』 一同『あーりーがー度く存じませぬワイ』 六『なんだ、曖昧ぢやないか、しつかり云はぬかい』 辰『お前の云ふ通り、善悪正邪の分水嶺だ、一雨降るまで待つて呉れ。決着が着かぬ哩』 六『執着心の深い奴だナア、置け置け。人間は淡白とするものだ。三五教の宣伝使の音彦や二人の伴のやうに、吾々に両方から包囲攻撃されて深い谷間に身を躍らして飛び込み冥土の旅をした事を思へば屁でもない事だ。牛を馬に乗り換へる丈の事だ。とかく人間は諦めが肝腎だよ。断の一字は男子たるものの必要欠くべからざる宝だからのう』 岩『モシ六サンとやら、音彦が谷へ飛び込んで死んだと云ふのは、そりや本当かい』 六『私も三五教に帰順した以上は、何、嘘を申しませうか、誠も誠、現に私が実地を目撃したのですもの』 駒『そりや大変だ、こりや斯うして居られぬ哩』 六『モシモシ三五教は刹那心ですよ。過ぎ越し苦労はお止しなさい。もう今頃は三途の川の婆アに着物を強請られて渡す着物は無し当惑して居る最中ですだらう。何ほど泣いても悔んでも、一旦死んだ人は呼べど叫べど何の答へもないぢやくり、泣いて明石の浜千鳥』 岩『オイオイ六、ろくでも無いことを云ふな、冗談処ではないワ』 六『六道の辻で六サンが………と云ふ所ですワイ』 岩『エヽソンナ冗談処かい、神言を奏上してせめては音彦一同の冥福を祈り、幽界宣伝の加勢をして上げねばなるまい。……頓生菩提音彦、弥次彦、与太彦の御魂、神の御国に幸あれよ。アーメン、ソーメン、ドツコイ南無妙法蓮、陀仏、遠神笑みため、惟神祓給へ助け給へ、妙々』 鷹『アハヽヽヽヽ、岩彦サン、ソンナ混雑した祝詞がありますか』 岩『イヤもう親密なる友人の訃を聞いて心も心ならず、何れの神様を祈つたら音彦の御魂サンを守つて下さらうかと一寸麻胡つきました。然し乍ら之が人間の真心ですワ』 亀『岩彦サンは好う麻胡つく方だなア、シヅの窟で私たちの骨なと肉なと拾ふてやろうと仰有つた時のお麻胡つき方そつくりだワ』 岩『アハヽヽヽヽ、一寸余興に洒落て見ました』 駒『これは怪しからぬ、友人の訃を聞いてそれ程可笑しいですか』 岩『アハヽヽヽ、可笑しい可笑しい、苟くも三五教の宣伝使たるもの、尊き神の御守りある以上敵に包囲攻撃されたと云つて、自ら谷へ飛び込んで自殺を遂げると云ふ事がどうしてありませう。屹度助かつて居ると、吾々の何だか琴線に触れる様な心持ちがして来ましたアハヽヽヽ』 遽に聞ゆる人馬の物音、五人の宣伝使は一斉に立ち上り音する方を眺むれば、数百人のウラル教の捕手の役人、各自に柄物を携へて此方に向つて登り来る。 岩『ヨー、お出たお出た』 六公『サア面白い、一行の宣伝使様、此処で六公が三五教に帰順しました心底を現はして見せませう』 と捻鉢巻をしながら、六公は峠の真ん中に大手を拡げ大音声、 六公『其方は悪逆無道の鷲掴の源五郎か、自分の馬に押し潰されて死んだ奴めが。未だ娑婆が恋しいと見えて数多の亡者を引き連れて、三五教の宣伝使を召し捕むとは片腹痛い。サアこれから六サンが三五教に寝返り打つた初陣の活動、吾が言霊の神力に往生いたせ。アーオーウーエーイー』 この声終ると共に、大将源五郎の騎馬の姿も、数多の軍卒の影も忽ち煙の如く消え失せて、後には、尾の上を渡る松風の音が聞ゆるのみ。 六『アハヽヽヽヽ、何と源五郎の奴、執念深い奴だ。亡者になつても未だやつて来よる。しかし乍ら、三五教のお蔭で亡者隊は、モジヤモジヤと煙となつて消え失せたり。ヤア宣伝使御一同様、何卒これを証拠に貴方のお弟子にして下さいませ。お荷物でも持たして頂きませう』 岩『自分の荷物は自分が持つべき物だ。吾々は人の力を借りるといふ事は絶対に出来ない。六サンは六サンの荷物を持つて随いて来なさい』 六『御存じの通り、私の荷物は此の槍一つで御座ります。もう斯うなる以上は槍の必要もござりませぬ。コンナ物は谷底へやり放しにして、是れから大いに、神様の宣伝をやりませう。やり繰上手の六サンは一つ足らぬ許りで何時も七つやの御厄介、是からは、三五教の御厄介になりませう』 岩『アハヽヽヽヽ、滑稽諧謔口を突いて出ると云ふ風流人だナ、面白い面白い。お前の荷物と云ふのは外でもない、まだ一匹残つてゐる、四足の副守護神だよ』 六『エエソンナ物が居りますか』 岩『居るとも居るとも、その副サンが滑稽諧謔の主だ。然し乍らお正月言葉許り使つて居る宣伝使中には、時に取つては副サンも必要だ。或る時機までは大切に背負つて行きなさい』 六『六の身体から一つ取つたら五つになります。五ツの御霊の宣伝使にして下さいな』 岩『宜しい宜しい、もう暫らく副サンを保留して置くんだよ』 遽に一陣の強風吹き来ると見る間に、馬の蹄の音、何処ともなく響いて、木の間に現はれた眉目清秀の宣伝使あり。 鷹『貴方は、日の出別の宣伝使様、能う来て下さいました。一同の者がどれ丈け、憧憬れて居つた事ぢやか知れませぬワ』 日『ホー皆サンご苦労でした。しかし音彦、外二人は、コシカ峠においてウラル教の捕手の為めに包囲攻撃されて、進退維谷まり、千仭の谷間に身を投じて気絶をしてゐます。時遅れては一大事、サアサア皆サン早くお支度をなされ、一鞭当ててコシカ峠の溪間に、宣伝使を救ひに参りませう』 一同『ヨーそれは大変』 と云ふより早くヒラリと馬に跨り、九十九折のサル山峠の坂道さして『ヤア六サン来れ』と一目散に日の出別の神に従ひ走り行く。 (大正一一・三・二三旧二・二五藤津久子録)
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霊界物語 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) 09 空中滑走 第九章空中滑走〔五五九〕 さしも烈しき山颪嵐の後の静けさと 天地は茲に治まれどまだ治まらぬ胸の中 与太彦、六公の両人は小鹿峠の谷々を 木の葉を分けて探せども梢は暗く下柴の 茂り茂りて道もなく遂にその日も暮れにけり 時しもあれや東天に雲押し分けて昇り来る 月の光に照らされて四辺明るくなりければ 二人は声を限りに 与太彦、六公『オーイ、オーイ、弥次公ヤーイ、勝公ヤーイ』 と叫ぶ声も遂に嗄れ果てて、今は心も皺がれの、声も無ければ音もなき、 二人の友が消息を右往左往に踏み迷ひ 尋ね行くこそ哀れなれ。 与太公、六公の二人は老樹鬱蒼として昼なほ暗き谷間に辿り着いた。 与『オイ六公、是丈け尋ねても見当らないのだから、もう断念するより仕方があるまいなア』 六『是ほど広い山の中を、人間の一人や二人が一日二日探して見た処が駄目だなア。然し乍らみすみす友の災難を見捨てて帰る訳にも行かず、吾々は息の続く限り、所在をつき留めて、せめては死骸なりと厚く葬つてやり度いものだ』 与『これ丈け尋ねて、生きて居つて呉れれば結構だが、不幸にして、弥次、勝の両人、敢なき最後の幕を降し、死骸となつて横はつて居るとすれば、本当にそれこそ世話のしがひが無いワ』 六『与太サン、ソンナ与太を云つてる処か、本真剣になつて下さいな』 与『真剣とも真剣とも本真剣だが、余り疲れたので足がヨタヨタ、与太サンだよ』 六『あれ丈け呼んでも、ウンともスンとも答が無いのだから困つたものだ。余り偉い風に吹き付けられて、弥次、勝の両人は、鼓膜を破られて、吾々のこの友情の籠つた悲哀的声調が耳に徹しないのだらうか』 与『何、あれ位の風に、耳の鼓膜が破れるものか、縡の糸が切れたのだよ。綽切れたに間違ひない、困つた事だワイ。ことに草深い山中の事といひ、捜索するのも、殊の外、骨の折れる事だ。是ほど呼んでも叫んでも、コトツとも云はぬのは、どうしたものだイ。この谷のあらむ限り悉く、言霊の発射をやつて見やうと思へど、どうした事か、声は嗄れ、貴重な言霊は忽ち停電と来たものだから、仕様事はない、道中で二人の友達を紛失致しましたと云つて、日の出別の神様にどう断りが立つものか。アヽ困つた事だ、コンナ事と知つたなら随いて来るのぢや無かつたにと云つて、慰藉晴らし愚痴の繰言繰り返し、呼べど叫べど死んだ人は、開闢以来帰つたと云ふ事はまだ一度も聞いた事がないワイ』 六『与太公、アヽお前はようことことと云ふ男だナア、生死不明の両人を捉へて、お前は最早死んだ者と覚悟を決めて居るのか』 与『耳も聞えず、物も言へない奴は死んだ者だ。アヽ六日の菖蒲、十日の菊だ、悔んで返らぬ事乍ら、恋しい弥次サン勝サンは、何処にどうして御座るやら、お前は情ない情ない、都合四人の道連れが、半死半生の目に合ふて、どうして之が泣かずに居られうか。アヽ私も一所に殺して下さんせ、死に度いわいなと許りにて、命惜まぬ武家育ち、シヤンシヤンシヤンか』 六『エヽ与太公、ヨタを云ふにも程がある哩、もつと真面目にならないか』 与『真面目になつても、ならいでも同じ事だよ、死んだ者は、どうしたつて帰つて来る例は無い、俺も余り心淋しく悲しくなつて来たので、気まぐれに、莫迦口を叩いて居るのだ。何処に友達の災難を見て喜ぶ者があらうかい。三五教の教には、取越苦労と過越苦労はいたすなよ、勇んで暮せ、刹那心が大切だ、刹那のその刹那こそ吾々の意志のまま、自由行動の勢力範囲だ。一分間前は最早過去の夢となつて、どうしても逆転させる訳には行かず、一分間後の事は人間の自由になるものではない、何事も神様の自由意志の儘だ。斯う云つて居る間も、無情の風とやらの悪魔は吾々の身辺を絶えず附け狙ふて居るのだ。弥次、勝の二人の友達は実に無情至極の烈風に誘はれて之も生死の程は明かならず、吾々はこうして両人に邂り逅ひ、ヤア居つたか居つたか、結構々々、豆で御無事でお達者で、美はしき御尊顔を拝し吾々身に取つて、恐悦至極に存じ奉ります。やア之は之は与太公か六公か、余が所在を尋ね、よくも難路を踏み越え、探しに来て呉れた、大儀々々、余は満足に思ふぞよ。褒美には、これを遣はすと云つて、鼻糞の万金丹でも、ヱンリンのアンカン丹でも御下賜あるに定つて居ると予算を立てて行つて見た処が、算用合ふて銭足らず、予算外の支出超過で、さつぱり二人の友達は破産申請、身代限りの処分を受けて、可愛い妻子をふり捨て、十万億土の冥途とやらいふ国へ移住でもして居つたら、その時こそ、折角張り詰めし心の綱も、頼みの糸も切れ果てて、泣いても悔んでも返らぬ悲惨な幕に打付かるかも知れやしない。その時なにほど失望落胆したつて駄目だよ。アヽコンナことを思ふよりも、日頃の信仰の力によつて強圧的に刹那心を発揮し、われと吾心の駒に慰藉を与へて居るのだよ。陽気浮気で無駄口が云へるかい。啼く蝉よりも啼かぬ螢が身を焦す。嗚呼それにしても、あの元気な弥次彦の顔がもう一度拝みたい。勝公も勝公ぢや、折角、窟の中から助けられ、僅か半日経ぬ内に、無情の風に誘はれて、木の葉の如く吹き散らされ、煙となつて消ゆるとは、何たる因果な生れ附だらう。想へば想へば矢張悲しいワイ。刹那心の奴、どうやら屁古垂れさうになつて来たワイ。アーンアーンアーンアーンアーン、ウーンウンウンウン』 六『日天様はニコニコと御機嫌好く、山の端をお昇りなさつて吾々の頭を照らして下さるが、心の中は雲に包まれ、涙の雨は夕立と降りしきり、何共云へぬ淋しい事だ。人間といふ者は、あかぬものだな。昨日まで、鬼でも挫ぐ様な元気で、機嫌良うはしやいで居つた二人の友達は、今は生死も分らず九分九厘までは彼の世へ行つたものと諦めねばならぬ破目になつて来た、俺も昨日まで、ウラル教の宣伝使であつたが、漸く三五教に帰順したと思へば、弥次彦、勝公に別れて了ふし、何だか知らぬが昨日から交際ふた人とは何うしても思はれない、十年も二十年も昔から交際ふた様な気がする。知り合ひになつてから、三日も経たぬ俺でさへも之丈け悲しいのだもの、与太公は、長い間の馴染、お前の心も察するよ』 与『アヽ仕方がない。此処で屁古垂れずに、もう一遍、大捜索をやつて見やうか、因縁があれば、神様が両人に逢はして下さるだらう、たとへ死骸なり共、もう一目逢ふて、二人の先途を見届けて置かねばならない。エヽ怪体の悪い烏の鳴き声だ、益々気に懸るワイ』 六『オーほんにほんに向ふの谷間の大木の枝に沢山の烏が止まつて鳴いてゐるなア。ハテ、こいつは怪しいぞ、何だか人間の着物らしい物が、梢に見えるぢやないか、見てみよ』 与太公は両手の親指と人差指にて輪を拵へ乍ら眼鏡の如くに、左右の目にピタリと当がひ、烏の群がり居る樹木の枝に目を注いだ。 与『ヤアあれは的切、弥次公、勝公の着物だぞ。天狗の奴、股から引裂きよつて、着物を木に掛けて置きよつたな、エヽ忌々しい、しかしながら着物でも構はぬ、友達の形見だと思へば宜い、一つ彼の木の根元へ行つて調べて見やう、あの下辺りに、死骸となつて横はつて居まいものでもないワ、彼れが第一、生きて居るのだつたら、烏の声が聞えるだらうから、俺達の言霊も聞える道理だ。一つ力限り叫んで見やうか』 六『叫ばうと云つたつて声の原料が根絶したのだから仕方がない。向ふが烏よりもこちらが声をからすだ、二人で此様な処で、とり留めもない、とりどりの噂をして居るよりも、とり敢ず、手取早く、彼の木の元にとり付いて調べて見やうかい。万一あの木の元に、死骸が一人でも二人でもあつたならば、俺は彼の女房の代り役者となつて、これこれ弥次サン勝サンヘ、逢ひたかつた、見たかつた、と顔や手足に取付いて、前後不覚に嘆きつつ、取乱したるその哀れさ、ヂヤンヂヤンヂヤンヂヤン』 与『俺の真似許りするない。ソンナ処かい、さア駆足だ』 樹木茂れる中を、茨に引掛り、蜘蛛の巣にまとはれ乍ら、漸くにして谷川の縁に着いた。 与『ヤア、折悪しく、川向ふの松の大木だ、この急潭をどうして渡らうかな、アヽ昨日や今日の飛鳥川、変る浮世といひ乍ら、有為転変も、ここまで往つたら、徹底して居る哩、この川の淵瀬がどうして渡られやうぞ。オイ六公、何とか好い考へは出ないかいのう』 六『俺の考へは只刹那心あるのみだ。この谷川へ飛び込んで、土左衛門になつたら、その時はもう仕方が無い。弥次公、勝公の後を追ふて一所に仲宜く、死出三途同行四人だ』 と云ふより早く、六公は着物を着た儘、ザンブと許り谷川へ飛び込んだ。 与『アツ六公め、気の早い奴だ、エヽ俺も破れかぶれだ』 と又もや、ザンブと身を躍らして、青淵目蒐けて飛び込んだ。折よく流れ渡りに向岸に無事に這ひ上る事を得た。 六『アヽお蔭で川渡りは成功した。与太公もやつたのか、偉いなア』 与『偉いの偉くないのつて、鼻から口から、水を充満飲んだものだから、息が止まりさうにあつたよ、然ながら、斯うぬれねずみでは、着物が足に巻り付いて歩く事も出来はしない、一つ大圧搾をやつて、荒水を取つて着替へて行かうか。ヤア六公の奴、早何処かへ行きよつたナ』 六公は一丁許り向ふの樹の茂みから、 六『オーイ、与太公、此処だ此処だ、オーイ、弥次公、勝公、俺は此処だヨウ』 与『何だ幽霊の名まで呼んでゐよる。冥土へ行つた弥次、勝と交ぜて俺の名を呼ばれて堪るものかい。顕幽混交だ、縁起の悪い。併しながら、俺は三途の川へ飛び込んで、最早や娑婆の人ではないのかな。何は兎もあれ、六公は頻りに呼び居るから、ともかく行つて見やう』 と独り言ちつつ声を目当てに上つて来る。 与『ヤア六公、どうだ、目的の主は御健全かな』 六『どうやら、姿だけは残つてゐるらしいぞ。何ぼ呼んでも、返事はせないから、生死の程は確かにそれとは計り兼ねる。上つて見やうと思つた処で、コンナ大木で、どうする事も、斯うする事も出来やしない、末期の水もよう汲んで貰はずに死んだかと思へば今更の様に思はれて、俺はもう悲しいわいやい、アーンアーンアーンアーン』 与『何メソメソ吠面かわくのだい、末期の水はなく共、松ケ枝で死んだのだもの松の露位は飲んで死んだらう、死んで了つてから何を云つたつて仕方がない。これからは、二人で弥次、勝の弔ひ合戦をやるのだ、二人寄つて四人前の働きをすれば、二人の亡者も、冥するであらう。もう斯うなれば、追善の為めに、各自が二人前の働きをするより、二人の霊を慰めてやる方法は無いワ』 松の上より幽かな声で、 弥『オーイ与太公か、六公か、与太六』 与『ヤア、お前は弥次彦か、勝公か、死んだらもう仕方がない、後は俺が引受けて女房までも都合宜う世話してやるワ。迷ふな迷ふな。娑婆の執着心をサラリと去つて極楽参りをしてくれ』 弥『(小声で)オイ勝公、お蔭でこの松の大木に助けられて気が付いたと思へば、与太、六の奴、俺たちを亡者と間違へよつて、アンナ事を云つて居よる。一つ此処まで、軽業の芸当をやつたのだから、このまま下りるのも何だか、変哲がない、一つ亡者の真似でもして、一芝居やつて見やうかな』 勝『お前、よつぽど腹の悪い奴だナ、可愛想に二人の友達が、泣声を出して探しに来て居るのに罪な事をするものぢやないワ』 弥『それでも勝公、既に既に、俺たちを亡者扱ひにして居るのだもの、このまま済しちや、折角の芝居のハネ口が悪いぢやないか。ハネ太鼓が鳴るまで一寸演劇気分になつたらどうだ、オイ勝公、お前芝居が下手なら口上言ひにならぬか、拍子木の代りに、両手を叩いて、お客様に口上を申上げるのだ』 勝『さうだ、一寸口上を云つて見様かな。東西々々、今晩御覧に入れまする狂言芸題の儀は、小鹿峠大風の段より三途の川、死出の山、脱衣婆に弥次彦が談判を試みる一条より後に残つた、与太、六といふ二人の腰抜け野郎が、泣面かはいてその後を尋ね、三途の川の向岸で松の大木の根元において嘆き狂ふ愁歎場を、大切と致しまして御高覧に供しまする。何分遽芝居の事にございますれば、神直日大直日に見直し聞き直し、あれは彼れ位の者、之は之れ位の者とお許し下さいまして、お爺サンもお媼サンもお子供衆も、近所隣誘ひ合せ賑々しく、御来場御観覧下さらむ事を、偏に希ひ上げ奉ります、チヤンチヤン』 与『オイ六公、世の中が変れば変るものだな、芝居といふものは娑婆丈けのことかと思へば、幽界に来ても、やつぱり芝居があると見える哩、なにほど幽界は淋しいと云つても、芝居さへ見せて呉れれば、ちつとは気保養も出来るといふものだ、変性男子の閻魔サンが御代りになつてからと云ふものは、地獄の中も、余程寛大になつたといふ事を、神憑の口を通じて聞いて居たが、如何にも変つたものだ、民権発達といふものは、地獄の底まで影響を及ぼし、今度の閻魔サンは、民主主義になられたと見えるな』 六『与太公、何を云ふてゐるのだい、ここは三途の川じやないぞ、小鹿峠の谷間ぢやないかい、勝の奴、好い気になつて、アンナ亡者芝居の真似をさらしよるのだよ。莫迦莫迦しい哩』 与『否々そう早合点をするものぢやない、俺も一旦、谷底へ飛び込んだ時に沢山な水を飲んで、気が遠くなり、大きな川を泳いだ様な気がする、婆の姿は見えなかつたが何でも深い大きな川だつたよ』 六『惚けない、今この川を渡つたとこぢやないか、俺は決して亡者ではないぞ。貴様も俺と一所に渡つたのだから、矢張り娑婆の人間だ。オイ、松葉天狗の弥次公、勝公、早く下りて来ないかい、ソンナ処で目を剥き、鼻を剥き、芝居をやつて居ると、真逆様に顛倒して、それこそ今度は、真正の亡者にならねばならぬぞ。好い加減に下りて来ないかい。貴様が仕様もない事を吐すものだから、与太公の奴、亡者気分になりよつて困つて了ふワ』 弥『(作り声して)ウラメシヤー、無情の風に誘はれて、小鹿峠の十八坂の上まで来た処が、無惨やナー、花は半開にして散り、月は半円にして雲に包まる、有為転変の世の中とは謂ひ乍ら、思ひもよらぬ冥土の旅、ま一度女房の顔が見たい哩のー。それに就いても恨めしいのは、なぜ与太公や六公を冥土の旅に連れて来なかつただらう。三途川の鬼婆奴の吐す事には、貴様は友達甲斐のない奴ぢや、なぜ与太公、六公を見捨てて来たか、水臭い奴ぢや、も一度帰つて誘ふて来いと吐しよつた。アヽ仕方がない………後に残つた与太公や六公の奴、弥次彦勝彦は情ない奴ぢや、何故に俺達を残して冥途の旅をしたのかー、この恨みは死んでも忘れは致さぬと、小鹿山の森林で娑婆の亡者となつて迷ふてゐるぞよ。早く貴様は娑婆の入口まで引返し、松の木の枝から、招いて来いと云ひ居つた。アンナ頑固な腰抜け野郎と、冥土の旅をしたなれば、嘸や嘸厄介のかかる事であらう程に、エヽ三途の川の鬼婆も聞えぬわいのー、ホーイホーイ』 六『コラ弥次公、何を誣戯けた真似をしよるのだい、死に損ひ奴が、早く下りぬかい』 与『オーイ弥次公、三途の川の婆が何と云ふたのか知らないけれど、与太公は娑婆で大病に罹つて足が立たぬから暫らく猶予をしてやつて下さいと頼んで呉れえやい。俺はその代りに、貴様の冥福を祈つて、朝晩に鄭重な弔ひをしてやる程に、何卒お婆アサンにその処は宜しう取做しを願ふぞやー、ホーイホイホイ』 六『ヤア此奴また怪しうなつて来たぞ、与太公は丸で六道の辻見た様なものだ、エヽ糞ツ、面白くもない、娑婆の幽霊の奴が。オイ弥次公、勝公よい加減に下りぬかい』 勝『ポンポン、東西々々ただ今御高覧に入れましたる一条は、冥土より娑婆の亡者迎への段、首尾よくお目に止まりますれば、次なる一幕を御覧に入れ奉りまーす』 六『エヽ、陰気臭い。下りな下りいで宜いワ、此処に都合の好い竹竿がある、之で貴様の尻をグサと芋ざしに刺してやるから左様思へ。オイ与太公、貴様も手伝はぬかい、たとへ亡者にした処で余りな事を吐す奴だ、突いてやるのだ、恰度竿も二本ある、誂へ向に二本置いてあるワ、オイあの尻を目蒐けてグサツと突くのだぞ』 弥『アナオソロシヤナー、アナオカシヤナー、突かれたらアナ痛やナー、あな畏あなかしこ。ヒユードロドロドロドロドロ』 手を腰の辺りにブラリと下げ、調子に乗つて松の小枝をスルスルと歩いた途端に踏み外してズルズルズルズルズルドターン。 弥『イヽヽイツターイ』 六『流石は弥次彦だ、空中滑走をやつて、御無事御着陸、今度はお次の番だよ。勝公も滑走だ滑走だ』 勝『東西々々、只今は弥次彦が幽霊となつて中空を浮遊し松の根元に着陸いたしました。滑走の芸当、お目に止まりましたなれば、皆サンお手を拍つて御喝采を願ひまーす』 六『コラ勝公、弥次彦が腰を抜いて冥土旅行をしかけて居るのに何をグズグズやつて居るのだ。好い加減に下りて来ぬかい』 勝『東西々々、これから第三段目も御覧に入れまーす。飛行機に乗つて勝彦の無事着陸、お目に止まりますれば今晩は之れにて、千秋楽と致しまする』 と云ふより早く、コンモリとした松の小枝より傍の竹の心を目蒐けて飛び付いた。竹は満月の如く弓となつてフウワリと大地に勝公を下ろした。 勝『お蔭で命だけは、どうやら、此方の者になつたらしいと思ひます。藪竹サン、左様なら』 と掴んだ竹を離せば、竹は唸りを立てて立ち直る。 弥『オイ与太公、貴様こそ本真物か』 与『何だか生死不明の境涯だ』 六『エヽ困つた奴と道連れをしたものだワイ』 弥『アヽどうやら腰が抜けたのでは無かつたさうだ、アハヽヽヽヽヽ』 勝『吾々は不都合な芸当を御覧に入れましたにも抱はらず、神妙に御覧下さいまして、勧進元は申すに及ばず役者一同有難く御礼申上げます、また御暇がございましたら、来年の春、また一座を引きつれて皆サンにお目に掛らうやも知れませぬから、永当々々、倍旧の御贔屓を偏に二重に七重の膝を八重に折り、かしこみかしこみ願ひ上げ奉ると申す、惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 一同『アハヽヽヽヽ、お目出度いお目出度い、甦つた甦つた、千秋万歳万々歳』 (大正一一・三・二四旧二・二六藤津久子録)
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(1624)
霊界物語 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) 14 一途川 第一四章一途川〔五六四〕 小鹿峠の四十八坂をば、一行四人はやつと打越え、見渡す限り茫々たる雑草茂る広野原、足にまかせて進み行く。ピタリと行当つた、水勢轟々として飛沫を飛ばし、渦まき流るる谷川の傍に辿り着いた。 弥『アヽ吾々はやうやうにして、小鹿峠の四十八坂を越え、此処の広野原を一行四人連れ、てくついて来たが、此処にピタリと行詰まつた、偉い川が横はつて居るワイ。これからフサの都へ渡り、コーカス山に行く迄は、随分長い道程だが、それまでには沢山の難所が在るだらう。それにしても絡繹として続く日々の老若男女の参詣者は、一体何処を通つて行くのだらう。この頃街道は雑沓だと云ふ事だのに、吾々の通過する処は人の子一匹居らぬぢやないか。ナンデも之れは小鹿峠の下り終ひから行手に踏み迷ひ、反対の方向に進んで来たのではあるまいかなア』 与『何だか、ご気分の冴えぬ天候と云ひ四辺の状況と云ひ、まるで幽界旅行の様だ。いつやら谷底に落ちて魂が宙に迷ひ、とうとう六道の辻まで行つて銅木像に逢つた時の様な按配式だぞ。どうやら此川も三途の川の兄弟分ぢやあるまいか、何だか変な風が吹いて来るぞ。アヽ此奴は不思議だ、今の今まで泰然自若乙に構へこみて居た山岳の奴、知らぬ間に何処かへ消えて仕舞ひよつた、まるで三途の川のやうな按配式だ、ナア弥次彦、貴様はどう思ふか』 弥『吾々の言霊の御神力に恐縮しよつて、山の奴雲を霞と逃げ散りよつたなア。随分三五教の吾々は豪勢なものだワイ』 勝『オイ此処は冥土を流るる三途の川ぢやなからうかな。何だか娑婆の川に比べて調子が違ふやうだ』 弥『調子が違つたつて御心配なさいますな、この弥次サンはドンドンながらポンポンながら、カンカンながら、前後〆めて弐回までも、幽界探険の実地経験を持つて居るお兄サン。最初与太公と遣つて来た時には、三途の川は実に綺麗な水だつた、それが第二回目に来た時には何とも知れぬ、臭気紛々たる川風が鼻を突くやう、小便大便黒血鼻啖の混合したやうな、汚くるしい物が流水代用の芸当を静かにやつて居た。その時三途の川の渡守兼脱衣婆奴が、世の中の奴が汚れた事をしをるから、この清い川がコンナに汚くなつたと云ひよつた。どうせコンナ汚い娑婆が、さう俄に清潔になるものぢやないから矢張冥土にある三途の川なら、依然として汚濁の水が永久に満ち流れて居る筈だ。之はまた素敵滅法界な清流だ、これを思へば三途の川とは、どうしても受取れないワ』 六『モシモシ皆サン、彼処の枝振の洒落た松の根許に小さい家が現はれて居るぢやありませぬか、あれやきつと三途の川の鬼婆の本宅かも知れませぬぜ』 弥『ナーニ、あれや瓦葺だ。婆の御館と云ふものは、それはそれは立派なものだ。どうしても比較にはならない黄金蔵の様だよ』 与『黄金蔵つて何だい、この前に貴様と旅行した時には見すぼらしい雪隠小屋の様な庵じやなかつたかい』 弥『アハヽヽヽ、頭の悪い奴だナ、雪隠小屋の様だから、当世流に黄金蔵と言霊を詔り直したのだよ』 与『何を吐しよるのだ、然しどうも臭いぞ。一つドンナ奴が居るか訪ふて見やうかい』 弥『マア待て一つ考へものだ。熟思黙考の余地は十二分に存する』 与『ヤア構はぬ当つて砕けだ。一つ善か悪か虚か実か爺か媼か、絶世の美人かおかめか、検非違使の別当与太衛門尉無手勝公が首実検に及ばうかい』 弥『アハヽヽ、又そろそろはつしやぎ出したなア、それほどはつしやぐと、日輪様が御出ましになつたら、貴様の細腕が燻ぼつてしもうぞ』 与『何を言ふのだ、燻つて来たら、この川にザンブと浸れば好いのだ。採長補短、水欠水補だ、ソンナ事に心配するな。自由自在の天地を跋渉する、三五教の宣伝使の候補者だ』 と云ひながら小屋の傍にツツと立寄り妙な腰付きをして、両手を蟷螂の様に構へたまま膝をくの字に曲げ、尻を振りながら、一軒屋の無双窓を覗き、 与太彦『モウシモウシお媼サン一夜の宿を願ひます それはお易い事ながらこれなる部屋を開けまいぞ それは誠に有難う今宵は此処にゆつくりと 足を伸ばして寝るであらうお婆は口を尖らして これなる居間を開けまいぞ言ひつつお婆は谷川に 手桶をさげて水汲みに後に与太彦只一人 今なるお婆の云ふたにはこれなる部屋を開けなとは てつきりおむすの添伏しか何は兎もあれ開けて見よ 左手に襖カラリ開けつらつら見ればこは如何に あちらの隅には手があるこちらの隅には足がある 今宵この家にとまりなば手足も骨もグダグダに 出刄で料理つて塩つけておほかたお婆が喰ふであろ これやたまらぬと泡を吹き裏口指して尻からげ スタコラヨイサノ、ドツコイシヨドツコイサノエツサツサノ、エンサノサ エツササノエササ、エササノサツサイ アハヽヽヽ』 弥『コラこの大馬鹿、何を洒落るのだ、此処はどうやら三途の川だぞ。まごまごして居ると本当に三途の川の鬼婆が、又着物をすつくり取り上げて、親譲りの洋服まで渡せと吐しよるぞ、君子危きに近づかずだ、早くこちらへ逃げてこぬかい』 与『エヽ今回も前回もあつたものかい、カイツクカイのカイカイカイだ。オーイ三途の川の鬼婆、先達来た与太公が又来たぞ。モウ何時ぢやと思ふて居るのだ、好い加減に起きぬかい』 家の中より、中婆の声として、 婆『誰れぢや誰れぢや、折角夜中の夢を見て居るのに、門口であた八釜しい吐す奴は何奴ぢやい』 与『誰でもないワイ、俺様ぢや』 婆『俺様と言つたつて名を言はな分るかい、貴様も智慧の足らぬ奴ぢやなア、目に見えぬ肝腎なものを落として来よつたと見えるワイ』 与『コラコラ三途の川の鬼婆奴、何を愚図々々と言つて居るのだい。早く手水をつかつて与太サンの一行に、渋茶でも汲まないかい』 婆『八釜しい言ふな、病人があるのに病気に障るワイ、ゲンの悪いことを言ふて呉れな、冥土か何ぞの様に三途の川ぢやのと、此処は一途の川ぢやぞ』 与『ヤア時節柄物価下落の影響を受けて、ドツと踏張りよつて二途を引き下げたな、サヽ投げ売り投げ売り、只より安い買ふたり買ふたり。このカリカリ糖は食べれやおいしい、食や美味い、ボロリボロリと歯脆うて歯につかぬ、湿る例しもなし、雨が降つてもカーリカリだ、アハヽヽヽ』 婆『エヽー、アタ八釜しい、お前は何処の奴乞食じや。ソンナ芸位いしたつて一文もやらせぬぞよ』 与『一門残らず討死と、聞く悲しさは嵯峨の奥、泣いてばつかり暮せしに、一途の川の乞食小屋とやらに、鬼婆がお坐しますと、一行四人は手に手を取つて、此処まで来たのがおみの仇、思へば思へばこの与太は、去年の秋の病気に、一層死んでしもうたら、斯うした歎きは在るまいもの、娑婆塞ぎになるとは知りながら、半時なりと生き長らへたいと思ふて来たのが吾身の仇、今の思ひに較ぶれば、なぜに三年も先にこの川へ、エーマ身を投げて死ななんだであらう、アヽヽヽチヤチヤチヤンチヤンチヤンチヤンチヤぢや』 弥『また演劇気分になつて居よるナ、門附芸者の様な、見つともない。洒落は止めたがよからうぞ』 婆『何処の奴乞食か知らぬが、表の戸をプリンと押して這入つて来なさい。田子の宿で飲んだ様な小便茶なと汲んで上げやうかい』 与『オイオイ弥次公、何を怕々して居るのだ、婆アサンが結構な茶をヨンデやらうと云ふて居るぞ。早う来て一杯グツと頂戴せぬかい』 弥『モシ宣伝使様、どうしませうかな』 勝『兎も角這入つて見ませうか』 三人は与太彦の後に随いて門口を跨げた。這入つて見れば外から見たよりは、比較的広き二間造りの座敷に、この家の主人と見え中年増の婆が横はつて居る。その傍に少し若さうな一人の婆が、何かと病人の世話をして居る。 勝『ヤア見れば当家には御病人が、おありなさると見える。是れは是れは御取込みの中に大勢のものが御邪魔を致しました』 婆『ハイハイ、ようマア立寄つて下さつた。此処は一途の川と云つて、お前サン等の身魂の洗濯をする処だ。二人の婆がかたみ代りに、往来の人の身魂の皮を脱がして洗濯をする処だ。サア此処へ来たが幸ひ、真裸にして親譲りの皮を脱がして上げやう。お前の顔は蕪の千枚漬ぢやないか、随分厚い皮だ。サア一枚々々隙がいつても仕様がない、年寄に苦労を掛けて困つた人だな、これもウラル彦の神様の御命令ぢやから仕方がないワ。お前等は三五教の宣伝使や信者であらう、アヽ三五教と云ふやつは、男子ぢやとか女子ぢやとか吐して、俺達の世の中を奪うとする奴ぢや。お前もその乾児だからエーイ出刄でも持つて来て、その厚い皮を剥いて遣らうかい。男子の方はまだしもだが女子と云ふ奴は瑞の御魂で、カメリオンの様な代物だ。アンナ奴の立てた教に呆けて、まだそこら中に開きに往くとは不都合千万、エーイ腰の痛い事だワイ』 と右手に出刄を持ち左手を握り、腰の辺を三つ四つポンポン打ちながら、 婆『アーエーイ、腰の痛いこつちや』 弥『オイ貴様はウラル教の悪神の乾児だな。道理で星の紋の付いた布団を着たり、羽織まで星の紋を着けてゐよるワイ、コラ婆アサン貴様こそ改心したらどうだい』 婆『エーイ八釜しいワイ、常世姫命様のお台サンが病気で寝て御座るのに、何をガアガアと騒ぐのだ。神妙にせぬと十万億土と云ふ処へ、送り届けて万劫末代この世へ上がれぬ様にして遣らうか』 与『何だ出刄を提げよつて、強圧的に矢張りウラル教はウラル式だ、奥州安達ケ原の鬼婆見た様な奴だなア。貴様はかうして此川辺に巣を構へよつて、三五教の宣伝使や信者の身魂を引抜く奴ぢやな。コレヤ、その手は喰はぬぞ、貴様の身魂をこなサンが引抜いてやらうか』 婆『何ほど八釜しく、じたばたしても恟とも動くものかい。俺は善の仮面を被つてヱルサレムの宮に、出入をして居つた常世姫命の一の家来の、木常姫の生れ替りだぞ、酢でも蒟蒻でも往く婆でないぞ』 弥『貴様は木常姫の生れ替りだな、木常姫と云ふ奴は仕方のない奴だ』 婆『仕方がなからう、小鹿峠の二十三峠の上で、この婆が貴様を苦しめた事を覚えて居るだらう、恐かつたか恐れ入つたか』 弥『エー何だか俺の背に虻がとまつたかと思つたら、貴様だつたなア。何をへらず口叩きよるのだ、愚図々々吐すと言霊の発射だぞ』 木『オホヽヽ、仰有るワイ仰有るワイ、あの時に日の出別と云ふ我楽多神が出て来よつて、いらぬチヨツカイを出しよるものだから、戦ひ利あらず、時非なりと断念して、茲に第二の作戦計画を立て、手具脛引いて待つて居たのだ。モウ斯うなつては此方のものだ、袋の鼠も同様、これや此出歯の言霊で霊なしにしてやらうか』 弥『アハヽヽヽヽ、婆の癖に剛情な奴だなア。貴様のやうな奴は屹度死んだら、三途の川の脱衣婆の後任者となつて、終身官に任ぜられる代物だナ』 婆『オホヽヽヽ、脱衣婆の役は俺の姉さまの役だよ、わしは其妹だ、酢でも蒟蒻でも梃でも棒でも、いつかないつかな恟ともせぬ、我の強い岩より堅いカンカンの鬼婆だ。如何に三五教の宣伝使でも此婆には敵ふまい。一遍に行かねば、二度でも三度でも、仮令十年百年千年かかつても、貴様の身魂を抜き取らな置くものかい』 弥『何と執念深い婆ぢやないか、早く修羅の妄執を晴らしよらぬかい。天国に往くのが好いか、地獄に行くのが好いか、此処は一つ思案の仕処ちやぞ』 婆『俺は天国は大嫌ひぢや。天国へ往かうとする奴を片つ端から、霊を抜いて地の底へ送るのが、俺の役だ。偽の変性男子だぞ。此処に寝て居る常世姫の懸る肉体は、偽の日の出神ぢや、竜宮の乙姫もタンマには憑つて来るぞ。三五教の奴は、日の出神を地に致して竜宮の乙姫殿のお活動で、この世を水晶に致すとぬかしよつて威張つてをるが、この世が水晶になつて耐るかい。日の出の世になつたら、俺達の居る処は無くなつてしまうワ、それだから貴様等のやうな馬鹿正直な頓痴気野郎や、腰抜け女を鼠が餅を引くやうに、チヨビリチヨビリと引張り込んで、日の出の神は此処ぢや、竜宮の乙姫も此処に現はれて居ると、三五教の奴を誑かして、女子の霊魂を困らしてやるのだ。アハヽヽヽ、気分の好い事ぢや、心地が好いワイ、イヒヽヽヽ』 勝『ヨウ貴様等は不届至極な婆達ぢや、最早貴様の口から自白致した以上は、弁解の辞はあるまい。曲津と云ふ奴は賢い様でも馬鹿だなア、蛙は口から吾と吾手に白状致し居つた。アハヽヽヽ』 婆『ドウセ貴様は只で帰す奴ぢやないから、俺達の企みを隠す必要もなし、因果腰を定めて、貴様の霊を一々手渡しせい。愚図々々吐すと俺が手づから、貴様の土手腹へ此奴をグサリと突つ込み、一抉りに抉つて取つてやるぞ』 弥『何を吐すのだ。顋太許り叩きよつて、脅したりすかしたり貴様の奥の手は好く分つて居るぞ』 婆『貴様達は三五の月の御教だと吐して居るが、その月は運の尽ぢや、片割月ぢや、ソンナ月が間に合ふか。 十五夜に片割月はなきものを 雲に隠れて此処に半分 と云ふ事を貴様は知つて居るか、本当の真如の月は、此処に半分どころか、丸で隠れて居るのだ、切れてばらばら扇の要だ。三五教は自在天と盤古大神の系統の神に、ばらばらに骨を抜かれよつたぢやないか、肝腎の要は此処に握つて居るのぢや。神の奥には奥があり、その又奥には奥がある、その又奥に奥がある、昔々去る昔、ま一つ昔の其昔、その又昔の大昔から、この世を自由に致さうと思うて、八頭八尾の大神様や、金毛九毛のお稲荷様、酒呑童子のお身魂様が、この一途の川の片傍に、仕組を致して居るのを知らぬか。好い加減に目を醒まして、魂をこちらへ潔く渡して、生れ赤子になつて悪神の眷族にならぬかい』 弥『アハヽヽ、コラ二人の婆、何を劫託ほざきよるのだ。勿体なくも五六七大神様が地の高天原に顕現なされた以上は、何程貴様等が火になり蛇になり猿になり狼になり狸になり、或は大蛇、狐、鬼になつて、黄糞をこいて藻掻いたつて駄目だぞ。一日も早く改心を致したがよからう』 婆『イヤイヤ、誰が何と言うても、仮令百遍や二百遍、生命がなくなつても、誠の道は嫌ひだ。誠の道と見せ掛けて悪を働くのが俺達の身魂の性来だ。金は何処までも金ぢや、瓦は何処迄も瓦ぢや。俺達は善の仮面を被つて、高い処へとまつて、熱さ寒さも知らず顔に、世界の奴を睨み下ろして居る鬼瓦ぢやぞ』 与『こりや鬼婆、イヤ鬼瓦、道理で冷酷な奴ぢやと思うて居つた』 婆『定つた事だ、俺達の眷属や系統のものが世界の奴の霊をスツクリ引抜いて、鬼瓦の霊と入替へをして置いたから、世の中の奴は皆冷酷無残な動物霊になつて、餓鬼修羅畜生の境遇になり、優勝劣敗、弱肉強食の体主霊従的非行を盛んに続けて居るのだ。最早三千世界は九分九厘まで、俺の心の儘に曇つて来居つたが、困るのはモウ一輪の所だ。変性男子の身魂はどうなつとして、チヨロマカして来たが、歯切れのせぬのは金勝要の神魂だ。そこへ我の強い変性女子の御魂や、木の花咲耶姫の御魂が出しやばりよつて、俺達の仕組の邪魔をさらすものだから、多勢の者の難儀と云ふたら、口で言ふやうなものでないワイ。貴様等も変性女子やら木の花姫の、霊主体従の教を開きに廻つて、俺等の邪魔をする奴ぢや。何と云つても貴様の霊を引抜かねば、常世姫命に対して申訳が立たず、第一盤古大神や自在天様に申訳がないワイ。婆アの一心岩をも突貫く、いい加減に因果腰を据ゑたが好からうぞ。イヒヽヽヽヽ』 勝『ヤアこの婆、貴様はよつぽど因縁の悪い奴だ。本当にこの世界がほしいか、執着心のきつい奴だ』 婆『ほしいワほしいワ、欲しい印に星の紋が附けてあるのも知らぬかい。星の紋は米の紋ぢやぞ。それが欲しいばつかりに夜昼なしにやきやきして居るのぢや、オーンオーンアーンアーン、何でもかでも欲しいワイ欲しいワイ。三五教はどうしてもやめてほしい、此方の方へ魂を渡して欲しい、是丈け梅干婆にほしいほしいが重なつて、目にまで星が這入つたワイ。蛙の干乾の様な痩た身体になつても、それでもまだ欲しいワイ。欲に呆けた為に俺の着物も梅雨が来て、アチラコチラに星が入つて来た、早う土用が来てほしいワイ、土用干でもせな星がとれぬワイ』 弥『コラ婆アサン、その星を取つたが好いのか、とらぬが好いか、どつちやか返答が一寸きかしてほしいワイ』 婆『着物の星は取つてほしいが、俺のほしいは取つてはならぬワイ』 与『イヤア此婆、五右衛門風呂の蓋のやうな事を吐きよるな、入るときに要らぬ、入らぬときに要る風呂の蓋だ。オイ風呂蓋婆、梅干婆、貴様も棺桶に片足突込んで居つて、好い加減に我を折つたらどうだい。ほしい、おしい、可愛い、憎い、欲に高慢、恨めしい、苦しい八つの埃と吐かす十九世紀の転理数のやうな奴だな』 婆『エーエー言はして置けば止め度なく、痢病患者のやうにビリビリとよう垂れる奴ぢや。くだらぬ理屈を管々しく垂れ流してエヽ汚苦しいワイ。何も彼も綺麗さつぱり御塵払ひをして、この婆に根こそげ奉納しよらぬかい。愚図々々して居ると、俺の方から行動を開始するぞ。コレコレ常世姫の神、もう起きてもよかろう、サア早く起きて下さい、二人寄つて此奴等四人を真裸にして、ソツと猫糞をキメやうかいな』 伏婆むくむくと起き上り、 婆(常世姫)『ヤア最前から病人と詐はり、様子を考へて居れば、ようマア理屈を垂れる娑婆亡者、此処は三五教の女子の系統の魂がほしさに、寝ても起きても一途の川の脱衣婆アサンぢや、車の両輪、飯食ふ箸、人間の二本のコンパス、両方からばばとばばが狹み打ちをしてやる、サアどうぢや』 四人一度に身構へをなし、 四人『ヤア何と吐いた、サア来い勝負』 と手に唾し、グツと睨み付けた。婆は手に手に出刄をひらめかし、突いて掛るを四人は汗みどろになつて、前後左右に身を躱し、奮戦格闘すること殆ど半時ばかり、勝彦は常世姫の出刄に、腰骨をグサリと突かれた途端に目を覚ませば、豈図らむや一行四人は二十五峠の麓の谷底に風に吹かれて落ちこみ居たりける。 (大正一一・三・二五旧二・二七谷村真友録)
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霊界物語 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) 15 丸木橋 第一五章丸木橋〔五六五〕 二十五番峠の頂上より強烈なる烈風に吹き払はれ、谷間に陥りし勝公一行は、息吹き返し起き上り、互に顔を見合せて、 勝『ヤア、此処はコシカ峠の谷底だ。一途の川とやら云ふ並木の松の茂つた一つ家に於て、常世姫や木常姫の悪霊と格闘をやつて居た積りだに、これは矢張り夢だつたかいなア』 弥『アヽ宣伝使様、貴方もソンナ夢を見たのですか、私も見ましたよ、エグイ顔をした婆アだつたねー。目の周囲から鼻の辺りと云ふものは紫色に腫上つて、随分見つともよくない常世姫の寝姿、一目見るよりゾツとした。それに又、星の紋のついた水色の羽織を着た中婆の嫌らしい顔つたら、今思つても身体中がゾクゾクするやうですワ。それに与太公の奴、一つ家の窓を覗いて、芝居がかりに手踊をやるをかしさ、可笑しいやら、恐ろしいやら、気分が悪いやら、腹が立つやら、疳が立つやら、イヤもう三五教の精神も何処かへ行つて仕舞うて、見直し聞き直し、宣り直しと云ふ余裕がなかつた。オイ与太公、六公、貴様は如何だつた。夢の中の一人だつたぞ』 与『俺もチヨボチヨボだ、一途の川だとか、欲しい一図だとか、婆が吐いて居たよ。余程よい血迷ひ婆アだワイ』 六『鬼婆が出刄をもつて、突つかかつて来よつた時にや、この方は無手だ、先方は獲物を持つて居るのだから一寸ハラハラした途端、目が醒めたのだ。アヽ嫌らしい夢を見たものだ。夢の浮世と云ふからには、何処かにかう云ふ事実があるかも知れないよ』 弥『夢と云ふものは神聖なものだ。吾々が社会的の総ての羈絆を脱して、他愛もなく本守護神の発動に一任した時だから、夢の中の事実はきつと過去か、現在か、未来のうちには実現するものだよ』 六『さうだらうかなア、過去の事だらうか、未来の事だらうかな』 勝『それは、この夢の実現は数十万年未来の事だ。二十世紀と云ふ悪魔横行の時代が来た時、八尾八頭や金毛九尾の悪霊が再び発動しよつて、常世姫や木常姫の霊魂の憑り易い肉体を使つて、行りよる事だよ。天眼通力によつて調べて見ると、何でもこれから艮の方に当つて、神さまの公園地に、夢の中の男子とか女子とかが現はれて、ミロクの世の活動を開始されるのを、何でも変性男子の系統の肉体に懸り、善の仮面を被つて教への子を食ひ殺し、玉取りをやる事の知らせであらう。アヽ二十世紀と云ふ世の中の人間は実に可憐さうだ。それにつけても、厳霊、瑞霊や金勝要の神、木花姫の呑剣断腸の御苦しみが思ひやられる哩。嗚呼惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 与『吾々は過去現在未来の衆生済度のため、この清らかな川辺に落ち込んだのを幸ひに、御禊を修し、神言を奏上してミロク神政の建設の太柱、男子女子をはじめ、金勝要の神、木花姫の霊の鎮まりたまふ肉の宮の為に、祈りませうか。この世の中が万劫末代維持していけるやうに、善ばかりの花の咲くやうに』 勝『大賛成です、皆サン与太彦サンの提案に従つて即時決行致しませう』 弥、六『吾々も賛成です』 と云ひ乍ら、着衣を川辺に脱ぎ捨て、谷川にザンブとばかり飛込んだ。四人は一度に水に浸り身体を清めて居る際、ブルブルブルと音を立てて、六公は水底に姿を隠して仕舞つた。勝公を初め三人は一生懸命に両手を合せ川上に向つて天津祝詞を奏上し終つてフト傍を見れば六公の姿が見えぬ。 勝『ヤア六サンは何処へ行つた。オーイ六サン何処だ』 と呼べど叫べど何の応へもなく、激潭飛沫の音轟々と聞ゆるのみ。弥次彦は、 弥次彦『ヤア大変だ、六公が何処かへ沈没しよつたな、これや斯うしては居られぬ哩、何とかして捜索をせなくてはならぬ、愚図々々して居ると沢山の水を呑んで縡れては取返しがつかぬ。オイ与太公どうせうかなア』 与『どうせうたつて仕方がないサ、大方六公の奴、潜水艇気取りで何処かの水底に暫時伏艇して居るのだらう。彼奴は水練に妙を得た奴だから、決して溺れるやうな気遣ひはないよ。貴様が松の枝に引つ懸つて居た時も、あの着物のまま谷川を泳ぎ渡つて平気で居る奴だから大丈夫だ。吾々を一寸驚かしてやらうと思うて洒落て居るのだよ』 弥『なにほど水泳の達人だと云つても油断は出来ない、さう楽観する訳にもいかない、諺にも、好く泳ぐものは好く溺る、と云ふ事がある。此奴はどうしても俺の考へでは名替をしよつたに相違ない』 与『名替つて何だい、流れの間違ひだらう』 弥『馬鹿云ふな、川底土左衛門と改名したらうと云ふのだ』 与『土左衛門とは怪しからぬ、真に大変だ。それだから道中に四人連はいかないと云ふのだ。オイ六公、生きて居るのか死んで居るか、ハツキリ返事をせぬかい』 弥『死んで居るものが返事をするかい、気を落着けないか』 与『一息を争ふ水の中だ、愚図々々して居る間に息が切れたらどうするのだ。コンナ時に落着き払つて居る奴は非人道的の骨頂だ。これがどうして周章狼狽せずに居られうかい。オーイオーイ、六公、六道の辻を通るのは未だ早いぞ、コーカス参りの途中ぢやないか、早く浮かばぬか浮かばぬか、何処に踏み迷ふとるのだ。オーイオーイ』 勝『エヽ仕方がない、滅多にこの激流を潜つて上る筈もなし、大方渦に巻込まれて流れたのかも知れませぬよ、谷川伝ひに此処を下つて探して見ませうか』 弥『探さうと云つたつて、アレあの通り碧潭激流、何うする事も出来ぬぢやありませぬか。コンナ時に鷹彦サンが居て呉れば捜索隊になつて貰ふのに大変都合が好いけれどなア、追々日も暮れて来る、困つた事だ。愚図々々して居ると吾々迄がドンナ災難に遇ふかも知れぬ、マア六公は六公で仕方がないとして、吾々三人は神様の大事なお使ひ道具だ。あまり足許の暗くならない間に頂上まで、駆けつけませう』 と先に立つて谷辺を駆け登る。二人も後に従ひ辛うじて黄昏頃、二十五番峠の頂上の山道に辿り着いた。 弥『サア宣伝使様、漸く吾々三人は無事に元の地点に凱旋しましたが、六公の奴困つたものですなア。小山村のお婆アサンが聞いたら、嘸歎く事でせう、老爺サンも中風なり、あれ程喜んで居たものを、アヽ世の中と云ふものは残酷なものだ。本当に煩悶苦悩の娑婆世界だ。何とかして万有一切どこ迄も不老不死で悪魔の襲来や不時の過ちの無い完全なる世界を作りたいものですなア』 与『アヽ人間を老少不定とはよく云つたものだ。無常迅速の感益々深しだワイ』 勝『泣いても悔んでもモウ仕方がない、暮れる時が来れば日は暮れる、人間も死ぬ時節が来たら死なねばならない、桜の花は永久に梢に止まらず、頭の髪は何時迄も黒い艶を保つ事が出来ないのは世の中の習はせだ。アーアもう過ぎ越し苦労はサラリと谷川へ流して刹那心を楽しまうかい』 与『実に切ない刹那心だナア。過越し苦労をせまいと思つても、今の今迄ピンピンと噪いで居つた六公の事がどうして忘れる事が出来やうぞ。一昨日も六公と、お前サン等二人の行方を捜した時には六公の美しい心が現はれて居た。見かけによらぬ親切な男だつた。それはそれは宣伝使様、貴方達のお姿が見えなかつた時には、あの男はどれだけ心配をしよつたか知れませぬぜ。二人の友達がもし国替をして居るのなら、私も一緒に川へ身を投げてお伴をしたいと迄云つた位だ。アヽ可憐さうな事をした。僅一日道連になつても十年の知己のやうに親切を尽す六公の心の麗しさ、これを思へば吾々も六公の道連になつてやりたいやうだ。アヽもう此世では彼奴の顔を見る事が出来ぬのか、情ない可憐さうだ』 と涙含み、身の置処なきさまに大地に身を投げた。 弥『コラコラ与太公、しつかりせぬか、失望落胆するのは貴様ばかりぢやない、俺だつて同じ事だよ』 と、又もや涙をハラハラと澪し顔に袖をあて、道の上にべたりと倒れ、身を揺つて遂には両人声をあげて泣き叫ぶ。勝公も涙の目を瞬たたきながら、 勝『コレコレ弥次彦サン、与太彦サン、さう気投げをするものぢやない、チト確りせぬか。男と云ふものは仮りにも涙を澪すものぢやない、あまり女々しいぢやないか』 と自分も亦落つる涙を袖にて拭ふ。 愁歎の幕は漸く神直日大直日に見直し聞き直し幽かに巻上げられた。短き夜は既に明け離れ足許は仄と明かくなつて来た。一同は六公の身の上が矢張り気に懸ると見え東天に向つて合掌し、天津祝詞を奏上し、次で六公の無事生存せむ事を祈り、終つて又もや急坂を西北さして下り往く。 足並早き下り坂にもいつしか暇を告げて、又もや茫々たる原野を走り行くこと数百丁、丸木橋のかけられた辺に辿りついた。 弥『宣伝使様。大分足も草臥れました。此処に腰をおろして一休み致しませうか』 勝『オヽこの川だつた、六公はこの水上で見失ひ、残念な事をしたが、今頃はどうなつて居るだらう』 与太彦は忽ちウンウンと唸り出し、両手を組んで身体を動揺し始めた。 弥『ヤア又しても神憑りになりよつた。モウ悪魔の襲来は懲り懲りだ。オイ与太公の体に憑依つて居る悪霊共、速に退散致さぬか』 与『ロヽヽヽヽクヽヽヽヽ六ぢや六ぢや』 弥『エヽ碌でもない六の奴、貴様土左衛門になりよつて幽世の人間となりながら未だ娑婆が恋しうて迷うて来たか。好い加減に執着心を去つて、一時も早く霊神になれ。貴様はお竹を残して死んだのだから残り惜からう。残念なのは尤もだが、モウ斯うなつては仕方がない、早く神界へとつとと往つてお竹の場所を拵へて待つて居るがよからう。俺だとて三百年か千年の後かは知らぬが、何れ一度は行くのだから、景色のよい場所を取つて置いて呉れ。閻魔さまと相談して俺の場所だけには、契約済の札を立てて置くのだぞ。その代り俺は娑婆に居て、朝晩貴様のため冥福を祈つてやる。三途の川の鬼婆に出遇つたら、俺の云ふ事は何でも聞くのだから、何なら紹介状を書いてやらうか』 与『オヽヽヽレヽヽヽワヽヽシヽヽ、死んで居らぬ』 弥『定つた事よ、死んだものは娑婆に居らぬのは当然だ。居らぬ筈の貴様が何故コンナ処へ踏み迷ふて来るのだ』 与『オヽレヽヽワヽヽマヽダヽイヽ生て居る、決して決して死んで居らぬぞ、今に肉体を引つ張つて来て見せてやらう』 弥『ハア死んで居らぬと云つたのか、よく分つた、さうすると六の生霊だな、今何処に魔胡ついとるのか』 与『イヽ今に判る、此処で半時ばかり三人とも待つて居て呉れ。烏勘三郎に助けられて命は完全に助かつた。安心してくれ』 弥『ヤアそれや本当か、本当なら俺も嬉しい哩。これこれ宣伝使さま、余り甘い話だが、此奴は邪神が誑かして居るのではあるまいか、貴方一つ審神をして見て下さいな』 勝『神に間違ひはありますまい、軈て六サンの肉体に遇はれませう。暫く此処に坐つて神言を奏上し、神様にお礼を申しませう。モシモシ、六サンとやら、モウ判りました、お引き取りを願ひます。一二三四五六七八九十百千万、惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世』 六公の生霊は忽ち肉体を離れた。与太彦は元の如くケロリとしながら、 与『アヽ、矢張り六公は生て居ますなア、とうとう憑依つて来よつて、アンナ事を云ひよつた。余り六公々々と思ひ詰めて居たものだから、此方の一心が届いて六の生霊に感応したと見える、私の口を借つて云つた事が本当なら嬉しいがなア』 三人が橋の袂に端坐して稍沈黙に耽る折しも一人の男を背負うて川から上り、ノソリノソリと上つて来る大男がある。後よりガヤガヤと囁きながら十数人の荒くれ男がついて来る。三人は怪訝な顔をして此男を凝視て居る。 男『ヤア貴方は三五教の宣伝使様』 三人『ヤアお前は烏勘三郎だないか』 烏『ハイ左様で御座います、六サンを連れて参りました』 弥『夫は夫は有難い、御苦労だつた。六サンは物言ひますかな、イヤ未だ生て居りますか』 烏『物も言はず動きもしませぬが、身体の一部に温味がありますので、火でも焚いてあたらしたら、此方のものにならうも知れぬと考へて、ブカブカと流れて来るのを吾々一同が命を的に川へ飛び込み拾つて来ました』 勝『それは有難い、唯今の先、六公が此処にやつて来てタツタ今、お目に懸ると云つて居ました』 烏『妙ですなア、先程此処へ来たとは合点が往かぬ。さうすると此奴は六サンぢやないのかなア、大方化物だらう。エヽ偉い苦労をさせよつて、呶狸奴が、打ちつけて蹂躙つてやらうか』 弥『マアマア待つた待つた、ソンナ手荒い事をしてどうなるものか、夫こそ本当に死んで仕舞はア。そつと其辺におろして呉れ、これから霊よびの神業だ』 烏『アヽ何だかテント、訳が分らぬやうになつて来たワイ。マア仕方がない、下さうかい』 と芝生の上にそつと下した。 弥『オヽ六公、貴様は仕合せものだ、待て待て今に魂返しをやつてやらう。サア宣伝使様、天の数歌を始めませうか』 勝彦は無言つて、首肯きながら拍手を打ち声も細く静に落着き払つて、一二三四五六七八九十百千万と二回繰かへした。六公の体はムクムクと動き出し、直に起上り三人の顔をキヨロキヨロと眺め、 六『アヽお前は弥次公、与太公か、ヤア宣伝使様妙な処で遇ひました。三途の川を渡り損ねてスツテの事で二度目の国替をするところだつたが、烏勘三郎と云ふ男、十数人の弟子と共に身を躍らして川に飛び込み私を救ひ上げ、背に負ふて何処ともなしにトントン走り出したと思つたら丸木橋の袂、お前サンはやはり幽界の旅をして居なさるのか、今度は自分一人だと思つて居たのに何処までも交際のよい御親切なお方だ。持つべきものは朋友なりけりだ。アヽ、惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世』 弥次彦は六公の背を平手で三つ四つ、力を籠めて擲りつけた。 六『アイタヽヽヽ貴様は何をするのだい。驚いたな、娑婆に居る時から乱暴な奴だと思うて居たが、貴様未だ冥途に来ても改心出来ぬか』 弥『此処は冥途ぢやないぞ、二十五番峠を下つて数百丁来たところだ。お前は谷川に溺れて一旦縡れて居つたのだ。それを神様のお引き合せで勘三郎サンの親内の者に助けられ、此処に来たのだ。確りして呉れ』 六公は目を擦りながら今更のやうな顔をして四辺を念入りに見廻し、 六公『ヤア、矢張どうやら娑婆らしい、ヤ、皆サン、偉い御心配をかけました、有難う。これはこれは烏勘三郎サン、その他親内の御一同、よう助けて下さいました。命の親だと思ふてこの御恩は生涯忘れませぬ』 烏『ヤア気がついて何より結構でした。神様にお礼を申しませう』 茲に一同は神言を奏上し、宣伝歌を歌ひ、又もや四人の一行は勘三郎その他に厚く礼を述べ、丸木橋を渡つて二十六番峠を指して進み行く。 (大正一一・三・二五旧二・二七加藤明子録) (昭和一〇・三・一六於嘉義市嘉義ホテル王仁校正)
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霊界物語 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) 跋文 跋文 神の御諭を蒙りて述べ始めたる霊界の 奇しき神代の物語神代許りか幽界も また現界も押並べて神の随に随に口車 現幽神の三界の峠に立ちて三ツ瀬川 三ツ尾峠や四ツ尾の峰の麓にそそり立つ 黄金閣の蔭清き教主館に横臥して 三途の流滔々と瑞の御魂の走り書き 十四の巻のいや終にその真相を示すべし 三途の河は神界と現界又は幽界へ 諸人等の霊魂の行衛の定まる裁断所 八洲の河原とヨルダンの河とも唱ふ神聖場 悪の霊魂が行く時はその川守は鬼婆と 忽ち変じ着衣剥ぎ裸体となりて根の国や 底つ幽世へ落し捨て善の御魂の来る時は 川守忽ち美女となり優しき言葉を使ひつつ 旧き衣服を脱却し錦の衣服と着替へさせ 高天原の楽園へ行くべき印綬を渡す也 善悪未定の霊魂が来たれば川守また婆と 忽ち変り竹箒振り上げ娑婆へ追返し 朝と夕の区別なく川の流れの変る如 千変万化の活動をいや永遠に開き行く 善悪正邪を立別ける是ぞ霊魂の分水河 千代に流れて果もなし抑もこれの川水は 清く流るることもあり濁り汚るることもあり 清濁不定の有様は集まり来たる人々の 霊魂々々に映り行く奇しき尊とき珍らしき 宇宙唯一の流れなり激しき上つ瀬渉るのは 現実界へ生れ行く霊魂や蘇生する人許り 弱き下津瀬渉り行く霊魂は根の国底の国 暗黒無明の世界へと落ち行く悲しき魂のみぞ 緩けく強く清らけく且つ温かく美はしき 中津瀬渉り行くものは至喜と至楽の花開く 天国浄土に登る魂それぞれ霊魂の因縁の 綱に曳かれて進み行く神の律法ぞ尊とけれ 三途の川の物語外に一途の川もあり 抑も一途の因縁は現世に一旦生れ来て 至善至真の神仏の教を守り道を行き 神の御子たる天職を尽し了はせし神魂 大聖美人の天国へ進みて登る八洲の川 清めし御魂も今一度浄めて進み渉り行く 善一途の生命川渡る人こそ稀らしき 一旦現世へ生れ来て体主霊従の悪業を 山と積みたる邪霊の裁断も受けず一筋に 渉りて根底の暗界へ堕ち行く亡者の濁水に 溺れ苦しみ渡り行く善と悪との一途川 実にも忌々しき流れ也アヽ惟神々々 御霊幸へましまして三途の川や一途川 滑稽交りに述べ立てしこの物語意を留めて 読み行く人の霊魂に反省改悟の信念を 発させ給ひて人生の行路を清く楽もしく 歩ませ玉へと天地の神の御前に澄み渡る 大空輝く瑞月が天照し坐す大神の 遍ねく照す光明に照され乍ら人々の 身魂の行衛を明かに説き示し行く嬉しさよ 朝日は照るとも曇る共月は盈つとも虧くるとも たとへ大地は沈む共誠の神の御諭しは 万劫末代いつ迄も天地の続くその限り 変りて朽ちて亡び行くためしは永遠にあらざらめ アヽ惟神々々御魂幸はへましませよ。 ○ 神諭に『松の代弥勒の代神世に致すぞよ云々』とあり、弥勒は至仁至愛の意にして、宇宙万有一切の親也師也主也と説きたまへり。読者の中には、仏教の教典に由りて釈迦の説と引き合せ、ミロクは七仏出生説の中にある一仏にして、大本の神諭にある如き尊き位置にある仏又は神にあらずと云ふ人あり。仏書のみを読みたる人の意見としては、最も至極なる見解と謂ふべしである。王仁は、序を以て本巻の末尾に於て仏典に現はれたる弥勒の位置を茲に掲載して、読者の参考に供して見ようと思ふ。 法華経の序品第一に 前略 菩薩摩訶薩八万人あり。皆阿耨多羅三藐三菩提に於て退転せず、皆陀羅尼を得、楽説弁才あつて不退転の法輪を転じ、無量百千の諸仏を供養し、諸仏の所に於て衆の徳本を植ゑ、常に諸仏に称嘆せらるることを為、慈を以て身を修め、善く仏慧に入り、大智に通達し、彼岸に到り名称普く無量の世界に聞えて、能く無数百千の衆生を度す。その名を、 一文珠師利菩薩 二観世音菩薩 三得大勢菩薩 四常精進菩薩 五不休息菩薩 六宝掌菩薩 七薬王菩薩 八勇施菩薩 九宝月菩薩 十月光菩薩 十一満月菩薩 十二大力菩薩 十三無量力菩薩 十四越三界菩薩 十五跋陀婆羅菩薩 十六弥勒菩薩 十七宝積菩薩 十八導師菩薩 右の如き菩薩摩訶薩八万人と倶也 と記してある。この菩薩も霊界物語を全部通読されなば、何菩薩は何神何命に当たるやといふことは自ら判明することと思ひます。 釈提桓因その眷属二万の天子と与に倶なり。復 一名月天子 二普香天子 三宝光天子四大天王あり、其眷属万の天子と与に倶なり。 四自在天子 五大自在天子 その眷属三万の天子と与に倶なり。 娑婆世界の主 六梵天王 七尸棄大梵 八光明大梵 等その眷属万二千の天子と与に倶なり。 八の竜王あり、 一難陀竜王 二跋難陀竜王 三娑伽羅竜王 四和修吉竜王 五徳叉迦竜王 六阿那婆達多竜王 七摩那斯竜王 八優鉢羅竜王なり。 各若干百千の眷属と与に倶なり。 四の緊那羅王あり 一法緊那羅王 二妙法緊那羅王 三大法緊那羅王 四持法緊那羅王なり。 各若干百千の眷属と与に倶なり。 四の乾闥婆王あり。 一楽乾闥婆王 二楽音乾闥婆王 三美乾闥婆王 四美音乾闥婆王なり。 各若干百千の眷属と与に倶なり。 四の阿修羅王あり 一婆稚阿修羅王 二佉羅騫駄阿修羅王 三毘摩質多羅阿修羅王 四羅睺阿修羅王なり。 各若干百千の眷属と与に倶なり。 四の迦楼羅王あり、 一大威徳迦楼羅王 二大身迦楼羅王 三大満迦楼羅王 四如意迦楼羅王なり。 各若干百千の眷属と与に倶なり。 韋提希の子阿闍世王若干百千の眷属と与に倶なり云々。 と、示されてある。之を以て之を見る時は、大本教祖の筆先なるものは神の道とは云ひながら、最初より仏神一体の神理により、現代人の耳に入り易きやうに仏教の用語をも用ゐられてあることを覚り得らるるのである。明治二十五年正月元日に初めて艮の金神様が出口教祖に神懸された時の大獅子吼は、 三千世界一度に開く梅の花艮の金神の世になりたぞよ。須弥仙山に腰を懸け艮の金神世界を守るぞよ云々。 三千世界も仏教中の用語であり、艮の金神も神道の語ではない。須弥仙山は仏教家の最も大切にして居る霊山である。またミロク菩薩とか竜宮とか竜神とか、天子とか、王とか現はれて居るのは、悉く仏教の語を籍りて説かれたものであります。故に筆先にある王とは、八大竜王及諸仏王の略称であり、天子と云へば明月天子、普香天子、宝光天子、四大天王その他諸天子、諸天王の略称であることは勿論であります。自在天子、大自在天子、梵天王、その他王の名の付いた仏は沢山にあり、仏も神も同一体、元は一株と説いてある。また大自在天子のその眷属三万の天子と与に倶なりとあるを見れば天子とは即ち神道にて云ふ神子又は神使であります。要するに、神の道、仏の道に優れたる信者の意味になるのであります。天子は、また天使エンゼルとキリスト教では謂つて居ます。大本の筆先は教祖入道の最初より仏教の用語で現はせられたのであるから凡て仏教の縁に由つて説明せなくては、大変な間違ひの起るものであります。王仁は弥勒菩薩に因める五百六十七節を口述し了るに際し、仏教に現はれたるミロク菩薩の位置を示すと同時に筆先は一切仏の用語が主となりて現はれて居ることを茲に説明しておきました。 アヽ惟神霊幸倍ませ。 大正十一年十一月四日 (昭和一〇・三・一七於嘉義公会堂王仁校正)
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霊界物語 15_寅_顕恩郷/スサノオの経綸/高姫登場 09 薯蕷汁 第九章薯蕷汁〔五七六〕 千早振る遠き神代のその始め、神の教に背きたる、天足彦や胞場姫の、醜の身魂の凝結し、八岐大蛇や、金毛九尾白面の悪狐となつて、天地の水火を曇らせつ、常世の国に現はれし、常世彦や常世姫、盤古大神の体に宿りて世を乱し、一度は神の御教に、服ひ奉り真心に、立帰りしも束の間の、いや次々に伝はりて、ウラル彦やウラル姫の、又もや体に宿りつつ、天地を乱す曲業の、力も失せて常世国、島の八十島八十国の深山の奥に立籠り、人の身魂を宿として、バラモン教やウラナイの、教を樹てて北山の、鳥も通はぬ山奥に、数多の魔神を呼び集へ、ウラナイ教と銘打つて、又もや国を乱し行く、其の曲業ぞ由々しけれ。 館の主高姫は、安彦、国彦、道彦の宣伝使に危難を救はれ、感謝の意を表はし館に迎へ入れて、鄭重に饗応せむと強て一行を迎へ入れた。 一行五人は美はしき一室に招ぜられ、手足を伸ばし悠々として寛いでゐる。高姫は此の場に現はれ、 高姫『コレハコレハ三人の宣伝使様、能うマア危き所を御救け下さいました。これと云ふも全く妾が日頃信仰するウラナイ教の御本尊大自在天様の御引合せでございませう。神様は三五教の宣伝使に憑依つて、妾の危難を御救ひ下さつたのです。謂はば貴方等は神の御道具に御使はれなさつただけのもの、貴方の奥には大自在天様が御鎮まりでございます。誠に以て御道具御苦労でございました。何もございませぬが悠々と御あがり下さいませ』 と言ひ棄てて徐々と次の間に姿を隠した。 国彦『ナンダ、怪体な挨拶じやないか。われわれは三五教の教理に依つて、敵を敵と致さず生命を的に危険を冒して救つてやつたのだ。それに何ぞや、大自在天の御道具に使はれなさつたなぞと、減ず口を叩きよつて何うも宗旨根性と云ふものは、何処迄も抜けぬものとみえるワイ』 道彦『マアマア何うでも好いぢやないか。彼奴を片端から三五教に兜を脱がしさへすれば好いのだ。何でも好いから言はすだけ言はして置けば、腹の底が自然に解つて来る。さう言葉尻を捉へて、ゴテゴテ言ふものでは無い。洋々たる海の如き寛容心を以て衆生済度に掛らねば、彼れ位なことに目に角を立てて鼻息を喘ますやうなことでは、到底宣伝使どころか、信者たるの価値さへもないと云つても然りだよ』 斯く話す折しも以前の高姫は、縁の欠けたる丼鉢に麦飯を盛り、粘々したものをドロリとかけ、三人の小間使に持たせて入り来り、 高姫『コレハコレハ皆サン、ご苦労でございました。山家のこととて何か御構ひを致さねばなりませぬが、麦飯に薯蕷汁が出来ました。これなりとドツサリ御あがり下さい。俄の客来で沢山の鉢の中から探しましたが、縁の欠けたのは漸く三つよりございませぬ。二人の御供は最前ソツとあがれとも音はぬのに、喜三郎をなさいましたから、どうぞ辛抱して下さいませ。貴方等に出すやうな器は漸う三つ見つかりました。後は立派な完全無欠の器ばつかりでございます。この様に見えても痰なぞは滅多に混入してゐる気遣ひはございませぬ。どうぞタントタント御あがり下さいませ。オホヽヽヽヽ』 と厭らしき笑ひと共に、白い出歯をニユツと出し、のそりのそりと又もや元の居室に姿を隠しける。 国彦『われわれを飽く迄侮辱しよる怪しからぬ奴だ。恰で一途の川の二人婆のやうな面をしよつて、モー堪忍袋の緒が切れた』 と云ひ乍ら、丼鉢の麦飯とろろを座敷一面に投げつける。座敷はヌルヌルととろろの泥田のやうになつて了つた。 又もや二人分の丼鉢を次の室に投げ付け、次の室も亦とろろの泥田となつた。 国彦『さアこれで溜飲が下つた。婆の奴滑り倒けよると一層御愛嬌だがナア』 安彦『オイ国彦、貴様は乱暴な奴だナア。三五教の宣伝使が喧嘩を買うと云ふことがあるものか、如何なる強敵に向つても飽く迄無抵抗主義で、誠で勝つのだよ。ナント云ふ情無いことをして呉れるのだ。今日限り破門を致すから、さう心得ろ』 国彦『それだから三五教は腰抜け教だと云ふのだよ。貴様の方から破門する迄に、こちらの方から国交断絶だ』 と自暴糞になり、捻鉢巻となつてドンドンと四股を踏み鳴らし、荒れ狂ふ此の物音に驚いて、高姫を始め数人の男女此場に現はれ、 高姫『コレハコレハ三五教の宣伝使様、誠に御立派な御教理には感心致しました。口では立派なことを仰有るが、其の行ひは一層見上げたもの、人の座敷に泊り乍ら、吾々一同が心を籠めた御馳走を座敷一面に撒き散らし襖を蹴倒し、障子の骨を折り、イヤもう乱暴狼藉、実に立派な御教理には、ウラナイ教の吾々も、あまり感心の度が過ぎてアフンと致します。開いた口が閉まりませぬ。三五教の御教通り手も足も踏込む所がございませぬ。オホヽヽヽヽ。コレコレ皆の者ども、この宣伝使様の立派な御教をお前達は、能く腹へ入れて置くがよいぞや』 もう一人の婆は口を尖らし、 婆『コリヤお前達は三五教の宣伝使だと云つて偉さうに天下を股にかけて歩く代物だらう。大方三五教は斯んな行ひの悪い宗教だと思つて居つた。やつぱり人の風評は疑はれぬワイ。屹度変性女子の世の乱れたやり方を見倣うて、其処中をとろろドツコイ泥だらけに穢して歩く悪の御用だらう。素盞嗚命は天の岩戸を閉める役だと云ふことだが、悪も其処まで徹底すれば反つて面白い。このウラナイ教は斯う見えても立派なものだぞ。変性男子の生粋の教を守つとるのだぞ。三五教も初めは変性男子の教で立派なものだつたが、素盞嗚命の身魂の憑つた肉体が出て来て、人の苦労で徳を取らうとしよつて、変性男子を押込めて世の乱れた行り方の、女子の教が覇張るものだから三五教もコンナ悪の教になつて了つたのだ。三五教の奴は二つ目には、ウラル教が何うだのバラモン教が悪だのと、お題目のやうに仰有るけれど、今の宣伝使の行ひは何うぢやな。これでも善の立派な教と云ふのかい。この高姫も元は変性男子の御血筋の肉体だ、日の出神の生宮ぢや。竜宮の乙姫さまもチヨコチヨコ御出でになつて、体主霊従国の悪神の仕組を、すつかりと握つてござるのぢや。変性女子と云ふ奴は胴体無しの烏賊上り、三文の大神楽のやうに頤太ばつかり発達しよつて、鰐のやうな口を開けて、其方此方の有象無象を噛んだり、吐いたりする大化物だ。お前達は其の大化物を神様だと思つて戴いて居る小化物ならよいが、小馬鹿者の薄馬鹿者だよ。これからちつとウラナイ教の教を聴きなさい。身の行ひを換へて誠水晶のやり方に立替へねば何時まで経つても五六七の世は来はせぬぞえ』 国彦『エーエ、ツベコベと能う八釜敷く吐す婆だな。貴様は偉さうにツベコベと小理窟を並べよるが、人を招待するに欠けた穢い鉢を選んで出すと云ふことがあるかい。これが抑も貴様の方から俺を焚きつけにかかつてゐよるのだ。三五教だつて、いらはぬ蜂はささぬぞ、釣鐘も叩くものが無ければ音なしいものだ、春秋の筆法で言へば、貴様が丼鉢を投げたのだ。イヤ大自在天がやつたのだ。俺は大自在天の道具に使はれたのだ。此処の大将が最前さう云つたぢやないか。ナント大自在天と云ふ神は乱暴な神だなア。ウラナイ教はコンナ悪魔の乱暴な神を御本尊にして居るのか苟くも三五教の宣伝使は、至粋至純の身魂の持主だぞ』 高姫『オホヽヽヽ、至粋至純の身魂の持主の為さること哩のー。自分のした責任を、勿体無い、大自在天様に塗りつけて、それで自分は知らぬ顔の半兵衛をきめこんでゐるのか。都合の好い教理だなア』 国彦『われわれの魂は水晶魂だ。真澄の鏡も同様だ。それだからウラナイ教の悪がすつかり此方の鏡に映つて居るのだ。アーア水晶の身魂も辛いものだワイ。アハヽヽヽ』 黒姫『団子理窟をこねる日には際限が無い。兎も角行ひが一等だ。立派な御座敷の真ん中に主人の好意で出した麦飯とろろを打ち開けるとは沙汰の限り、やつぱり悪の性来は何うしても現はれるものぢや。ソンナ馬鹿な教の宣伝使になるよりも、一つ改心してウラナイ教になつたら如何だい。誠の変性男子の教は此の高姫さまと、黒姫がチヤント要を握つてゐるのだよ。昔の神代の根本の身魂の因縁から、人民の大先祖のことから又万劫末代のこと、根の国、底の国、なにも彼も知つて知つて知り抜いた世界で、たつた一人の日の出神の生宮ぢや。この黒姫は竜宮の乙姫の守護だぞ。艮の金神様も元は此処から現はれたのだ。本が大事ぢや。「本断れて末続くとは思ふなよ。本ありての枝もあれば、末もあるぞよ」と三五教は教へて居るぢやないか。その根本の本の本の大本は、此日の出神がグツト握つて居るのぢや。神の奥には奥があるぞ。三五教の宣伝使のやうに理窟ばかり言つてこの頃流行る学の力を以て、神の因縁を説かうと思つても、それは駄目ぢや。千年万年経つたとて誠の神の因縁が判つて堪るものか。誠の神の御用が致し度くば、ウラナイ教に改心して随うがよかろう』 国彦『婆アサン、大きに御心配かけました。この国彦は三五教でも無ければ、ウラル教でもない、ウラナイ教では尚更ないのだ。あまり三五教の悪いことばつかり仰有ると、ウラナイ教の化けの皮が現はれるぞえ。左様なら、モシモシ三五教の二人の宣伝使サン御悠くりと下らぬ説教でも聴かして貰つて、眉毛を読まれ、尻の毛が一本も無いとこ迄抜かれなさるがよろしからう。コラ二人の皺苦茶婆、用心せーよ。何処に何が破裂致さうやら判らぬぞよ』 と尻をクリツと捲つて裏門から、一発破裂させ乍ら何処とも無く姿を隠して了つた。 道彦『アハヽヽヽ』 安彦『アーア道彦サン、彼様乞食を伴れて来るものだから、薩張り三五教と混同されて偉い迷惑をした。これから迂濶と何でも無い者を連れて歩くものぢやない』 道彦『アヽ左様ですな、モシモシ高姫サン、黒姫サン、三五教には彼の様な宣伝使は、一人も居りませぬよ。彼の男は途中から道案内に伴れて来たのですから、好い気になつて宣伝使気取りでアンナことを言つたのですよ。アハヽヽヽ』 黒姫『神様の宣伝使は嘘は言はぬもの、誠一つの教を樹てるのは、此のウラナイ教。三五教は矢張り嘘をつきますなア。彼の男は元は与太彦と云うて、貴方等と一緒に宣伝に歩いて居つた人でせう。違ひますかな』 安彦、道彦『サア』 黒姫『サア返答は』 安彦、道彦『サアそれはマアマアマア彼奴は俄に気が違つたのですよ。それだからアンナ脱線した行ひをやるのですワ。アハヽヽヽ』 黒姫『能う嘘をつく人だナ。今お前サンは道案内に途中から雇うて来たと云つたぢやないか。それだから三五教は駄目、ウラナイ教が誠の教と云ふのだ』 安彦『一体此処の館には盲人ばつかり居りますな』 と話を態と横へ転じた。 黒姫『誠の教を聴かうと思へば、目が開いて居つては小理窟が多くつて仕様がないから、みな盲目や聾ばかり寄せてあるのだ。見ざる、聞かざると言うて、盲目聾程よいものは無い。此処へ来る奴は、みな此高姫サンと黒姫が耳の鼓膜を破り、眼の球を抜いて、世間の事がなにも解らぬやうに、神一筋になるやうにしてあるのだ。お前も怪体な目をウラナイ教に、すつくり御供へしなさい。さうしたら本当の安心が出来るぢやらう。昔竜宮城に仕へて居つた小島別は、盲目であつたお蔭で、結構な国魂の神となつて神の教を筑紫の島でやつて居るといふことだ。目の明いた奴に碌な奴が居るものかい。盲目千人に目明き一人の世の中に、十目の視る所十指の指さす所、大勢の盲目の方に附くのが誠だ。サア、これからウラナイ教に帰順さしてやらう』 と高姫、黒姫の二人は、出刃庖丁をひらめかし、安彦、道彦の眼球目蒐けて突いてかかる。二人は、 安彦、道彦『コリヤ大変』 と逃げ出す途端に、座敷一面のとろろ汁に足を、辷らして、スツテンドウと仰向けになつた。 二人の婆も、とろろに足を滑らし、仰向けにドツと倒れた。婆の持つた出刃庖丁は道彦の眼の四五寸側に光つてゐる。 道彦、安彦は一生懸命逃げ出さうとすれど、ヌルヌルと足が滑つて同じ所にジタバタやつてゐる。百舌彦、田加彦は一室から飛んで出て、 百舌彦、田加彦『コラコラ婆の癖に手荒いことを致すな。その出刃渡せ』 と矢庭に引捉へむとして、又もやズルリと滑り、二人は尻餅搗いた途端に、道彦の顔の上に臀をドツカと下ろした。その痛さに気が付けば王仁は、宮垣内の茅屋に法華坊主の数珠に頭をしばかれ居たりける。 (大正一一・四・二旧三・六外山豊二録) (昭和一〇・三・二〇於彰化支部王仁校正)