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(No.)
書籍 内容
41

(1949)
霊界物語 28_卯_台湾物語(日楯と月鉾) 21 喰へぬ女 第二一章喰へぬ女〔八二一〕 タルチールの船長室には、言依別命、国依別三人鼎座して、神界の経綸談に就いて、熱心に意見を戦はして居た。 船長『只今三五教の宣伝使高姫と申す者、甲板上にて、取りとめもなき事を申して居りましたが、如何にも教主様の御言葉の通り、執着心の深い偏狭な人物ですなア。何とかして彼を救うてやる訳には参りませぬか。何でもあなた様を非常に恨み且つ疑ひ、麻邇の宝珠を御両人が懐中にして、高砂島へ逃げたに違ひないから、どこまでも追つかけて取返さなならぬと、それはそれは大変な逆上方で御座いましたよ。あなたも良い加減に実を吐いて、あの高姫を安心さしておやりになつたら如何でせう』 言依別『麻邇宝珠の替玉事件は全く大神様の御経綸に出でさせられたものでありまして、吾々としては其一切を高姫に対し、明示することは出来ない事になつて居ります。又高姫は吾々の申すことは決して信ずる者ではありませぬ。何程誠の事を言ひ聞かしましても、心の底からひがみ切つて居りますから、到底本当には致しませぬ。どうも困つたものです』 船長『あなたで可かなければ、国依別様を通してお示しになつたら如何ですか』 言依別『到底物になりませぬ。国依別は随分高姫に対し、幾回となくからかひ、且つ玉の所在を知らせて失敗をさせた事がありますから、なほなほ聞く道理は御座いませぬ』 船長『其玉は一体如何なつてゐるのですか』 言依『何人にも口外することは出来ないのですが、あなたに限つて他言をして下さらねば申上げませう。如意宝珠の天火水地の宝玉は、自転倒島の中心地、冠島、沓島に大切に隠してあります。それを高姫が、吾々が持逃したものと思ひ、私の後を追うて此処までやつて来たのでせう。御存じの通り吾々両人は玉などは一個も所持してはゐませぬでせう』 船長『仰せの通り何も御持ちになつて居られませぬ。一層の事、高姫に直接御会ひになつて、これ此通り、吾々は玉なんか持つてゐない、と御示しになつたら如何でせう』 国依別『それは駄目ですよ。ここに持つてゐなくても、どつかに隠したのだらうと、どこどこ迄も疑つて、尚更手きびしき脅迫を致しますから、自然に気のつく迄棄てておく方が利益だと思ひます』 言依『吾々両人が何程誠を申しても、高姫に限つて信用してくれませぬから、あなた、誠に御苦労をかけますが、高姫をソツと何処かへ御招きになつて、高砂島には決して玉なんか隠してない、自転倒島を探せよ……と云つて貰つた方が、却て信用するかも知れませぬ。下らぬことに無駄骨折らすも、可哀相でたまりませぬから……実の所は其玉は高姫に探させ今迄の失敗を回復し、天晴れ聖地の神司として恥かしくない様にしてやりたいとの、神素盞嗚大神の思召に依り言依別が持逃したことに致し、私は犠牲となつて聖地を離れ、これより高砂島、常世国を宣伝し、遂にフサの国ウブスナ山脈の斎苑の館に参り、コーカス山に至る計画で御座います。どうぞあなたより、高姫に対して、無駄骨を折らない様に能く諭して下さいませぬか』 船長『ハイ、私もあなたより宣伝使の職を命ぜられたる上は、高姫さまに対し、宣伝の初陣を試みませう。もしも不成功に終つたならば、宣伝使を辞職せねばなりませぬか』 言依『そんな心配は御無用です。成るも成らぬも惟神ですから、成否を度外に置いて、一つ掛合つて見て下さい』 船長『ハイ左様ならば、一つ初陣をやつて見ませう』 茲に船長は、高姫を吾一室に招き、私かに高姫に向つて注意を与ふる事とした。 船長は繁忙なる事務を繰合せ、真心より顔色を和げ、言葉もしとやかに高姫に向つて話しかけた。 船長『高姫さま、先程は、誠に尊き御身の上とも知らず御無礼を致しました。今更めて御詫をいたします』 高姫『お前は高島丸の船長、それ位なことが気がつかねばならぬ筈だ。何故に今迄此日の出神の生宮が分らぬのだらうかと、実は不思議でたまらなかつた。併し賢明なるお前、滅多に分らぬ筈がないのだが、つまりお前にバラモン教の悪神が憑依してゐて、あのような下らぬ事を云はしたのですよ。日の出神がチヤンと一目睨んだら能う分つてゐます。流石の曲津神も、日の出神の威勢に恐れて、波を渡つて逃て了ひよつたのです。今のお前の顔と、最前の顔とは丸で閻魔と地蔵程違つてゐます。あなたも之れから此高姫の教を聞いて、三五教の信者におなりになさつたら、益々御神徳が現はれて立派な人格者におなり遊ばし、これから先、高砂島の国王にもなれまいものでも御座いませぬ。同じ一生を暮すなら、船頭になつて、日蔭者で了るよりも、チツとは気苦労もあれど、あの広い高砂島の国王になつて、名を万世に轟かしなさるが、何程結構ぢや分りますまい』 船長『ハイ有難う、私は御察しの通りバラモン教の信者で御座います』 とワザと空呆けて、言依別命より宣伝使の職名を与へられたことを絶対に包みかくしてゐる。 高姫『バラモン教なんて駄目ですよ。あんな邪教に首を突込んで何になりますか。あなたも立派な十人並秀れた男と生れ乍ら、その様な教にお這入りなさるとは、チト権衡がとれませぬ。早く三五教にお這入りなさい。キツと御出世が出来ますぞえ』 船長『私は国王なんかにならうとは夢にも思ひませぬ。船長は船長として最善の努力を尽し、吾使命を完全に遂行すれば、これに勝つた喜びはありませぬ、又三五教とか、バラモン教とか云ふやうな雅号に囚はれてゐては、本当の真理は分りますまい。雨霰雪や氷とへだつ共、おつれば同じ谷川の水……とやら、大海は細流を選ばずとか云つて、真理の光明は左様な区別や雅号に関係なく皎々と輝いて居ります。善とか、悪とか、三五とか、バラモンとかに囚はれて宗派心を極端に発揮してゐる間は、却て其教を狭め、其光を隠し、自ら獅子身中の虫となるものです。三五教は諸教大統一の大光明だとか聞いて居りました。然るに貴女は世界を輝きわたす三五教の宣伝使の中でも、一粒よりの系統の御身魂而も日の出神さまの生宮であり乍ら、偏狭な宗派心に駆られて他教を研究もせず、只一口に排斥し去らうとなさるのはチツと無謀ではありませぬか。猪を追ふ猟師は山を見ず……井中の蛙大海を知らず……富士へ来て富士を尋ねつ富士詣で……とか云ふ諺の通り、余り区別された一つの物に熱中すると、誠の本体を掴むことは出来ますまい。如何がなもので厶いませうか。併し私は未だバラモン教の教を全部究めたと云ふのでは厶いませぬ。未成品的信者の身分を以て、錚々たる宣伝使の貴女に斯様なことを申上ぐるは、恰も釈迦に向つて経文を説き、幼稚園に通ふ凸坊が大学の教頭に向つて教鞭を執る様な矛盾かは存じませぬ。どうぞ不都合な点は宜しく御諭し下さいまして御訂正を御願ひ致します』 と極めて円滑に言依別仕込みの雄弁を揮ひ、下から低う出て、高姫の心を改めしめむと努めて居る。 高姫『何とお前さまはお口の達者な方ですなア。丁度三五教にもあなたの様なことを申す、ドハイカラが厶いますワイ。其ドハイカラが而も教主となつてゐるのですから、幽玄微妙なる神界の御仕組を、智慧学や理屈で探らうと致すから、何時も細引の褌であちらへ外れ、こちらへ外れ、一つも成就は致しはせぬぞよと、変性男子のお筆に出てをる通り、失敗だらけになつて了らねばなりませぬぞや。お前もそんな小理屈を云はないやうになつたら、それこそ誠の信者ですよ。ツベコベと善悪の批評をしたり、日の出神の生宮に意見をするやうな慢神心では、誠の正真は分りませぬぞえ。智慧と学と理屈と嘘とで固めた世の中の身魂が、変性女子の言依別に映写して居る様に、お前も人間としては、実に立派なお方だが、神の方から見れば、丸で赤ん坊のやうな事を仰有る。人間の理解力で、如何して神界の真相が分りますか。妾の様に生れ赤子のうぶの心になつて、神さまの仰有る通りに致さねば、三五教の一厘の御仕組は到底分りはしませぬぞや』 船長『成程、言依別さまに……ウン……オツとドツコイ言依別さまと云ふ方は、私の様な理屈言ひで御座いますか。さぞお道の為にお困りでせうなア』 高姫『さうです共、言依別は有名な新しがりで、ドハイカラで、仕舞の果には大それた麻邇の玉迄チヨロまかし、今頃は高砂島で何か一つ謀叛を企んでゐるに違ひありませぬ。それだから言依別の思惑がチツとでも立たうものなら、それこそ世界は暗雲になつて了ひ、再び天の岩戸をしめねばなりませぬから、日の出神が活動して、言依別のなす事、一から十迄、百から千まで、茶々を入れて邪魔をしてやらねば世界の人民が助かりませぬ。ホンにホンに神界の御用位気の揉めたものは御座いませぬワイ』 船長『あなたは日の出神の生宮だと仰有いましたが、世界のことは居乍らにして、曽富登の神のやうに、天が下のことは悉くお知りで御座いませうなア』 高姫『三千世界のことなら、何なつと聞いて下され。昔の世の初まりの根本の、大先祖の因縁性来から、先の世のまだ先の世の事から、鏡にかけた様にハツキリと知らしてあげませう』 船長『さうすると、貴女の天眼通力で言依別命、国依別のお二方は今何処に御座ると云ふ事は御存じでせうなア』 高姫『ヘン、阿呆らしい事を仰有るな。モツトらしい事を御尋ねなされ。言依別は今テルの都に、国依別と二人、何か大それた謀叛を企んで、四つの玉を飾り、山子を始めて居りますよ』 船長『あゝ左様で御座いますか。実に日の出神様と云ふお方は偉いお方で御座いますなア。ソンならこれからテルの都へ私を連れて行つて下さいませ。そして、言依別命様に御会ひ申して、あなたの教を以て御意見を致して見ませう。キツト、テルの都に御座るに間違はありませぬなア』 高姫『神の言葉に二言ありませぬ。今日只今の所は、テルの都に居りますが、此船が向うにつく時分には又、向うも歩きますから、テルの都には居りますまい。こちらが歩く丈、向うも歩きますから、今どこに居ると云つた所で、会ふことは出来ませぬよ』 船長『そんなら神様の御神力で、言依別さまを、テルの都を御立ちなさらぬ様に守つて頂くことは出来ますまいか』 高姫『その位なことは、屁の御茶でもありませぬが、言依別は妾の嫌ひなドハイカラで厶いますから、どうも妾の霊が感じにくいので気分が悪うてなりませぬから、言依別や国依別に対しては例外と思うて下さいませ。あゝモウ此事は言つて下さいますな、胸が悪うなつて来ました。オツホヽヽヽ』 船長『あゝそれで分りました。言依別の教主に関する事は御気分が悪くなつて、身魂がお曇り遊ばし、何事も御分り憎いと仰有るのでせう。実の所は此少し前、私の船に図らずも、言依別さま、国依別さまが乗つて下さいまして、仰有るのには、実は此通り立派な麻邇の玉を四つ迄聖地から持出して来たが、どうも高姫と云ふ奴、執念深く附け狙ふので、高砂島へ往つても又追かけて来るだらうから、ヤツパリ自転倒島の冠島沓島へ隠しておかうと、慌だしく私の船から他の船へ乗替へ自転倒島へ引返されましたよ。キツと其処に隠してあるに違ありませぬぜ。お前さまも其玉を探す積りならば、高砂島へ御出でになつても駄目ですよ。それはそれは美しい、青赤白黄の四つの立派な、喉のかわく様な宝玉でした』 高姫『エヽ何と仰有る。言依別にお会ひになりましたか。そして本当に玉を持つてゐましたか』 船長『それはそれは立派な物でしたよ。現に此船に乗つてゐられたのですもの、モウ今頃は余程遠く台湾島附近を航海して居られるでせう』 高姫暫く首をかたげ、思案にくれてゐたが、俄に体をビリビリと振はし、 高姫『船長さま、あなた言依別に幾ら貰ひましたか。コン丈ですか』 と五本の指を出して見せる。 船長『言依別さまに別に口止め料を貰ふ必要もなし、只実地目撃した丈の事を、お前さまに親切上御知らせした迄の事だ。貰うのなら高姫さまから貰ふべきものだよ』 高姫は船長の顔を穴のあく程眺め、いやらしき笑を浮かべ乍ら、 高姫『何とマア悪神の仕組は、どこから何処まで、能う行届いたものだなア。言依別が自転倒島へ帰つたと見せかけ、外の船に乗替へ、キツと高砂島に渡つたに相違ない、どうも高姫の天眼通には彷彿として見えてゐる。……コレ船頭さま、イヽ加減になぶつておきなさい。外の者ならいざ知らず、日の出神の生宮がさう易々とチヨロまかされるものですかいな。そんなアザとい事を仰有ると、人が馬鹿に致しますで、ホヽヽヽヽ』 と首を肩の中に埋めて、頤をしやくり乍ら、両手を垂直に下げ、十本の指をパツと開いて腰を前後に揺り乍ら笑うて見せた。 船長『高姫さま、マアゆるりと貴女の御席へ帰つて休息して下さい。又後程ゆるゆると御話を承りませう』 高姫は舌を巻出し、目をキヨロツと剥いて、 高姫『ハーイ』 と云つた限り、チヨコチヨコ走りに船長室を出でて行く。 (大正一一・八・一〇旧六・一八松村真澄録)
42

(1966)
霊界物語 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 11 日出姫 第一一章日出姫〔八三三〕 高姫は矢庭に神前に駆け上り、扉に手をかけた。忽ち頭の光つた脇立の狭依彦神、煙の如く朦朧と現はれ、高姫の首筋をグツと握つて壇上より、蛇を大地に投げつけた様に、ポイと撥ね飛ばした。高姫は暫く虫の息にてそこに打倒れ、何事か切りに囈言を言つてゐる。国、玉は驚いて『水ぢや水ぢや』と立騒ぐを、常彦は制し止め、 常彦『モシモシ皆さま、構立をせずに、少時放つといて下さいませ。御存じの通御神前の脇に朦朧として御神体が現はれ、こらしめの為に高姫を取つて投げられたのですから、余り高姫を構うと、又へらず口を叩き慢心を致しますから、十分改心する所迄放つといてやつて下さいませ。高姫の身の為ですから……一人前の誠の宣伝使にしてやらうと思召さば、十分に苦ましておく方が高姫に対する慈悲になりまする』 と真心から語り出したるを、一同は常彦の言に従ひ、高姫が自然正気に復る迄、そこに放任しておき、各自別間に入つて、神徳を戴き、昼飯などを喫し、悠々として世間話に耽つてゐた。暫くすると神殿に於て、高姫の金切声が聞えて来た。常彦、春彦、国、玉等一同は此声に驚いて、神殿に駆けつけ見れば、高姫は何とも知れぬ大きな男に、毬つく様に、放り上げられたり、おとされたり、なぶりものに会はされ、悲鳴を上げゐたりける。 常彦、春彦の姿を見るより、大の男は煙の如くに消えて了つた。此大の男と見えしは、鏡の池に現はれました月照彦命の出現であつたとの事なり。 高姫は真青な顔をし乍ら、懸橋の御殿を表に駆け出し、一生懸命にアリナの山を指して登つて行く。常彦、春彦は見失うては大変と、高姫の後を一生懸命に追つかけて行く。国玉依別命の命令によつて、竜、玉の両人は常彦、春彦の後より、『オーイオーイ』と呼ばはり乍ら、アリナの峰を駆け登り行く。 高姫は漸くにして、鷹依姫一行が野宿したる白楊樹の傍まで駆け着いた。何とはなしに身体非常に重たくなり、疲労を感じ、グタリと横になつて、大蜥蜴の沢山に爬行して居る草原に横たはり、他愛もなく寝て了つた。 夜半に目を醒まし、そこらあたりをキヨロキヨロと見廻し、 高姫『ハテナア、ここは何処だつたいなア。鏡の池の懸橋御殿の中だと思つてゐたのに、そこら中が萱野原、人の子一匹居りはせぬ。アハー、やつぱり鏡の池のスツポン奴、此野原を、あんな立派な御殿と見せて、騙しよつたのだな。悪神と云ふものは油断のならぬものだ。禿頭の神が出て来て、取つて放かしたり、大きな男が現はれて、此高姫を毬つくやうにさいなめよつたと思つたが、ヤツパリ騙されて居たのかなア。昔常世会議の時にも、八百八十八柱の立派な国魂神が、泥田の中で狐に魅まれ、末代の恥をかいたと云ふことだが、ヤツパリ此高砂島も常世の国の陸つづきだから、居ると見えるワイ。アヽドレドレ眉毛に唾でも付けて、しつかり致しませう。……時に常や春の周章者は、どこへ沈没しよつたのか、テンで影も形も見えなくなつて了つた』 と独語を云つて居る。 俄に大粒の雨パラパラパラと降り出して来た。満天黒雲に包まれ、次第々々に足許さへ見えなくなつて来た。獅子、虎、狼の吼えたける様な怪しき唸り声は、暴風の如く耳をつんざく。寂寥刻々に加はり、流石の高姫も茫々として際限もなき原野の中に只一人投げ出され、足許さへ見えなくなり、心細さに目を塞ぎ、腕を組み、大地に胡坐をかき思案に暮れて居る。 パツと雷光の如き光が現はれたと思ふ途端に、雲突く計りの白髪の怪物、耳迄引裂けた口から、血をタラタラと垂らし乍ら、高姫の前にのそりのそりと浮いた様に進み来り、 怪物『アハヽヽヽ、人肉の温かいのが一度食つて見たいと、常がね希望して居たが、アヽ時節は待たねばならぬものだ。少し古うて皺がより、肉が固くなり、骨も余り軟かくないが、これでもひだるい時にまづい物なし、辛抱して食つてやらうかな。イヒヽヽヽ、ウフヽヽヽ、エハヽヽヽ、オホヽヽヽ。甘いぞ甘いぞ』 とニコニコし乍ら、高姫の髻をグツと握つた。高姫は猫に掴まつた鼠の如うに、五体萎縮し、ビリビリと震ひ戦いて居る。此時何処ともなく、嚠喨たる音楽の音が聞えて来た。此声の耳に入ると共に、高姫は俄に心晴れ晴れしくなり、強力なる味方を得たやうな気分に充された。怪物は高姫の髻を握つた手をパツと放した。目をあけて見れば、容色花の如く、水のしたたる様な黒髪を背後に垂らし、梅の花を片手に持ち、片手に白扇を拡げて持つた女神、厳然として現はれ、言葉静かに宣り玉ふやう、 女神『其方は高姫であらうがな。今迄我情我欲の雲に包まれ、少しも反省の念なく、日の出神の生宮を標榜し、随分大神の御神業に対し妨害を加へ来りし事を悟つて居るか。其方は力一杯神界の御用を努めた積りで、極力神界の妨害を致し、神の依さしの教主言依別命に対し、悪言暴語を以て向ひ奉り、黒姫を頤使して今迄聖地を混乱致した其方の罪、山よりも高く、海よりも深し。さり乍ら、汝今茲にて悔い改めなば、今一度其罪を赦し、身魂研きし上、神界の御用に使うてやらう。高姫、返答は如何であるか』 と宣らせ玉ひ、高姫の顔を熟視し給ふ。高姫は女神のどこともなく身体より発する光輝に打たれ、 高姫『ハイハイ、今日限り改心致しまする。どうぞ今迄の罪はお赦し下さいませ。如何なる事でも、神様の仰せとあらば承まはりませう』 女神『然らば汝に申し付くる事がある。此白楊樹の空に、錦の袋止まりあり、其中には、テーナの里の酋長が鏡の池に献りたる黄金の宝玉あり。今これを汝の手に相渡す。汝が手より明朝茲に現はれ来る懸橋御殿の神司、玉、竜の両人に相渡し、持帰らしめよ。金色燦爛たる此玉を眺めて、再び執着心を起す如きことあらば、最早汝は神界の御用には立つ可らず。能く余が言葉を胸に畳みて忘るるな』 高姫『ハイ、決して決して忘れは致しませぬ。今日限り、玉に対する執着心は放棄致します』 女神は白楊樹に向ひ、 女神『来れ来れ』 と招き玉へば、不思議や、白楊樹は暗の中に輪廓明く現はれ、錦の袋はフワリフワリと女神の前に降り来たりぬ。 女神『高姫、此錦の袋の中には黄金の如意宝珠が包まれあり。披見を許す。早く撿め見よ』 高姫は、 高姫『ハイ』 と云ひ乍ら、袋の紐を解き、中を覗き見てハツと計り、其光に打たれ居る。 女神『どうぢや、其玉は欲しくはないか』 高姫『イエもう決して、何程立派な玉でも、形ある宝には少しの未練も御座いませぬ。無形の心の玉こそ、最も大切だと御神徳をとらして頂きました。決して決して今後は、玉に対して、心を悩ます様なことは致しませぬ』 女神『又後戻りを致さぬ様に気をつけて置く。就いては、汝これより常彦、春彦と共に此原野を東へ渉り、種々雑多の艱難を嘗め、アルの港より海岸線を舟にて北方に渡り、ゼムの港に立寄り、そこに上陸して、神業を修し、再び船に乗り、チンの港より再び上陸して、アマゾン河の口に出で、船にて河を遡り、鷹依姫、竜国別の一行に出会ひ、そこにて再び大修業をなし、言依別命、国依別命の命に従ひ、直様自転倒島に立帰り、沓島、冠島に隠されてある、青、赤、白、黄の麻邇の珠を取出し、錦の宮に納めて、生れ赤子の心となり、神業に参加せよ。少しにても慢神心あらば、最前の如く、鬼神現はれて、汝が身魂に戒めを致すぞよ。ゆめゆめ疑ふ勿れ。余れこそは言依別命を守護致す、日の出姫神であるぞよ。今日迄其方日の出神の生宮と申して居たが、其実は金毛九尾白面の悪狐の霊、汝の体内に憑りて、三五の神の経綸を妨害致さむと、汝の肉体を使用してゐたのであるぞや』 高姫『ハイあなた様から、さう承はりますと、何だか、其様な心持が致して参りました。それに間違は御座いますまい』 女神『最早夜明けにも近ければ、妾は天教山に立帰り、日の出神、木花姫神に汝が改心の次第を申し上げむ。高姫さらば……』 と言ふより早く、五色の雲に乗り、天上高く昇らせ玉うた。高姫はホツと一息し乍ら、あたりを見れば、夜は既に明け放れ、東の空は麗しき五色の雲靉き、太陽は地平線を離れて、清き姿を現はし給ふ間際なりけり。 (大正一一・八・一二旧六・二〇松村真澄録)
43

(1970)
霊界物語 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 15 ヨブの入信 第一五章ヨブの入信〔八三七〕 高姫の偽らざる告白に船客の一人は、今迄の憤怒の情は何処へやら消え失せ、今度は全く高姫に対する同情者となつて了つた。丙は高姫に向ひ、 丙(ヨブ)『私はカーリン島(今のフオークランド)のヨブと云ふ者で御座います。去年の此頃、此カーリン丸に乗り、ゼムの港に往来する途中、最前話しました様な、親子主従の溺死を目撃し、夫から何となく憐れを催し、能く探つて見れば、自転倒島の高姫さまから追ひ出されて、ここまで遥々やつて来た憐れな人だと聞いてから、おのれ高姫見つけ次第素首抜かずにおくものかと、親の仇敵ででもあるかの様に、力瘤を入れて憤怒の情に堪へ兼ねてゐましたが、今御本人の高姫さまに出会ひ、聞くと見るとは大変な違ひ、あなたの潔白なる御精神には、此ヨブも感嘆致しました。話と云ふものは両方聞かねば一方計り聞いては分らぬものです。どうぞ高姫さま、不思議な御縁で此船の中でお目にかかりました。これを機に私を貴女の御弟子にして下さいませぬか。私は両親もあり、兄も妹も御座いますが、幸ひ部屋住の身で何処まで行つても、神さまの為なら親兄妹も何も申しませぬ。どうぞ私を何処までもお供をさして下さいませ。又路銀に御困りなら、二年や三年の路銀は丁度ここに携帯致して居りますから、どうぞお供にお願致します』 高姫『それは誠に結構な思召しで御座いますが、まだ貴方には執着心がありますから、到底御辛抱は出来ますまい。又御縁がありましたら、其時に御世話になりませう。併しどうぞ三五の道の信者におなり下さいませ』 ヨブ『私は素より三五教の信者で御座いますよ。別に教会とか、教典とか又は経文とか、形式的の道は踏んで居りませぬが、誠の宗教は決して教会や儀式などから生れるものでは御座りませぬ。どうぞ左様な結構なお道を世界に宣伝し、同じ人間と生れて、一生を暮すならば、世界の人民を助け、喜ばれて此世を過ごし度う御座います。どうぞお気に入りますまいが、貴女のお弟子にして下さいませ』 高姫『一寸御様子を見れば、随分あなたは新しい学問をしてゐるお方のやうだ。余程お悧巧な方とみえますから、到底私のやうな無学文盲な昔人間の云ふことはお気に入りますまいから……』 ヨブ『誠の道は学問や智慧で分るものではありませぬ。私は貴女の言心行一致の誠に感心をしたので御座います。今の世の中は口と心と行ひと全然反対な者ばかり、どうぞ誠の人を見つけて、世界の為に尽し度いと、寝ても醒めても神様に祈願を籠めてゐました。今日も今日とて大悪人と思ひつめてゐた、貴女の言心行一致の執着心のない信仰心の強いのを実地拝見致しまして、何とも愉快でたまりませぬ。貴女の弟子になることが出来ませねば、せめて荷持になりと連れて行つて下さいませ。此宇都の国から巴留の国(現今のブラジル)の海岸は、私は詳しく存じてゐますから、どうぞ道案内旁御供をさして下さる様に御願致します』 高姫『私一量見では参りませぬ。ここに同行致してをります常彦、春彦の御意見を伺ひまして、其上で御返事を致しませう。……なア常彦、春彦、あなたも今お聞きの通り、此方の仰有ること如何思はれますか。どうぞ御意見を腹蔵なく今此処で仰つて下さいませ』 常彦『それは誠に結構だと思ひます。……なア春彦、お前も賛成だらう』 春彦『私もズツト賛成です。ヨブさまがここへ加はつて下されば、丁度神様を一霊とし、吾々が四魂となつて、御用を致しますのに、大変な好都合で御座います』 高姫『あゝ御二人共御同意下さいましたか、それは誠に喜ばしいこつて御座います。……モシモシヨブ様、お聞の通りで御座いますから、どうぞ宜しくお願ひ致します』 ヨブ『ハイ早速の御聞済み、これに越したる悦は御座いませぬ。どうぞ末永く御使ひの程御願致します』 高姫『併し乍らあなた最前路銀を沢山持つてると仰せられましたが、吾々宣伝使は余り沢山の路銀は必要が御座いませぬ。どうぞ夫を難儀な人に、ゼムの港へ御上陸になつたら分けてお上げ下さい。さうでないと誠の御神徳を頂けもせず、本当の御用も勤まりませぬ。身魂の因縁性来で、神様の御用が出来るので御座いますから、宣伝使として決してお金なんか必要が御座いませぬ、野に寝たり、山に臥たり、辻堂に寝たり、種々修業致して、世界の人民に安心立命を与へ、天下泰平の祈願を致すのが宣伝使の職責で御座いますから……夫とも綾の聖地とか、波斯の国斎苑の館の御普請とかにお献げ下さるのなら結構で御座いますが、併し其お金は如何して御手にお入れ遊ばしたのですか。まだお年も若いし、お金の儲かる塩梅も御座いませぬが、大方両親の財産でも分けてお頂きになつたのでせう』 ヨブ『ハイ、御察しの通り、両親から各自に財産の分配を受て居りまする。夫だから決して怪しき金でも、盗んだ物でも御座いませぬから、そんならどうか神様の御普請にお使ひ下さいませぬか』 高姫『あなたが汗脂を絞つて苦労の塊で蓄めたお金なら、神様もお喜びでせうが、親譲りの財産で、自分の手も汚さず、懐にしたお金は苦労がしゆんでゐませぬから、神様にお上げしても御喜びにはなりませぬ。どうぞそれは慈善的に、難儀な人にお与へ下さいませ。世界の人民は皆神様の尊い霊の宿つたお子様で御座いますから、言はば人民同志は兄弟も同様、兄弟を大切にするのは、親神様は大変お喜びで御座いますからなア』 ヨブ『イヤ能く分りました。左様ならば其考へに致します。金銭などは実のところ煩くて堪らないのですが、これが無くては旅も出来ませぬので、せう事なしに重たいものを腹に巻いて歩いて居ります』 船客の一人甲は此話しを聞いて側に寄り来り、 甲『モシモシヨブさま、あなたは愈此方のお弟子になる積りですか』 ヨブ『お察しの通りです。どうぞ国へお帰りになつた時には、私の両親始め兄弟親類、村中の方々に宜しく云つて下さいませ』 甲『ハイ承知致しました。併し乍ら今承はれば、あなたは所持金を一切慈善的に難儀なものに施すと云はれましたなア。同じ人を助けるのならば、カーリン島にも沢山な難儀な人民が居りますから、国を立つたお土産に島人の難渋なものにお与へになつては如何です』 ヨブ『あゝさう願ひませうか』 甲『オイ、ヤコブ、お前も一緒にヨブさまから今お金を受取つたら証人になつて呉れ、若し間違うと困るからなア』 ヨブ『タールさまの正直正道のあなた、決して間違ひはありますまい。最早あなたのお手に渡した以上は、私のお金ではありませぬ、あなたの御自由になさつたらいいのです。別にヤコブさまを、七むづかしい、証人なんかに立てる必要はありますまい。併しヤコブさまが同意して下さらば、お二人に分けて預つて貰ひませう』 ヤコブ『どちらなりと、あなたの御意に従ひます』 ヨブは懐より沢山の小判を取出し、其一部分はまさかの用意と後に残し、九分迄両人に托し、 ヨブ『どうぞ難渋な人に、お前さまから与へて下さい。決してヨブの金だとは言つて下さいますな。人に施す時は、右の手にて施すのを、左の手に知れない様にせよ……との神様の御示しも御座いますから、どうぞ其お積りでお願ひ致します』 両人は感心し乍ら、其金を受取り帰国の後、ヨブの依頼の如く、数多の貧しき人々に、一文も残らず正直に与へて了つた。 高姫、常彦、春彦もヨブの恬淡無欲なるに感じ入り、大に其行為を賞揚した。常彦は立ち上り、歌を謡つてヨブの入信を祝した。 常彦『神が表に現はれて善と悪とを立別ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直し聞直し 過りあれば宣り直す三五教の神の道 高姫司が今迄は正邪の道に踏み迷ひ 我情我欲を立通し下を虐げ上押へ 変性男子の系統と日の出神の生宮を 真向上段に振翳し三五教の人々を 朝な夕なに威喝して鳥なき里の蝙蝠と 成りすましたる愚さよ心の暗はいや深く 黒白も分かぬ黒姫が黄金の玉を紛失し 心痛むる折柄に高姫司が嗅ぎつけて 悪鬼のやうな顔色で小言八百並べ立て 黒姫さまを始めとし鷹依姫や竜国別の 教の司やテー、カーの五人の司を無残にも 綾の聖地を追ひ出し海洋万里の竜宮島 高砂島迄追ひ出し自分も玉を紛失し 再び心の暗雲に包まれ聖地を後にして 南洋諸島や高砂の島に又もや渡り来て 金剛不壊の如意宝珠紫玉や黄金の 珍の宝玉麻邇の玉言依別の教主等が 着服なして海外へ姿を隠し三五の 神の元なる厳御魂変性男子に楯をつき 謀叛を企むに違ひないこりや斯うしては居られぬと 夜叉のやうなる勢で霊界現世の瀬戸の海 馬関海峡アンボイナニユージランドやオセアニヤ 高砂島の奥までも探り探りて鏡池 懸橋御殿に侵入し又もうるさい玉騒ぎ 月照彦の化身等に散々脂を絞られて 命からがら逃げ出しアリナの峰を乗り越えて アルゼンチンの大野原櫟ケ原の真中に ポプラの茂みを宿となし一夜を明かす其中に 木の花姫の化身なる日の出姫の深遠な 神示を受けて改心し執着心を払拭し 生れ赤子になりければ隙を覘つて憑いてゐた 金毛九尾の悪狐奴がゐたたまらずに肉体を 後に残して雲に乗り常世の空に逃げて行く それから後の高姫は日の出神の生宮か 木の花姫の再来かたとへ方なき善良の 忽ち身魂となり変り昨日の鬼は今日の神 実にも尊き神柱心の空につき固め アイルの激しき荒河を神の造りし鰐の橋 易々渡りて玉の湖の畔に漸く辿りつき 高姫司を始めとし常彦、春彦諸共に 椰子樹の森に横たはり一夜を明かし目を醒まし あたりキヨロキヨロ見廻せば鷹依姫や竜国別の 教の司やテー、カーの四人の姿を刻みたる 石を眺めて拝礼し悔悟の涙せきあへず ここに全く改心の開悟の花は満開し 森羅万象悉く至善至楽の光景と 変りたるこそ面白き吾等三人は玉の湖の 錦の魚に教へられ経と緯との経綸を 隈なく悟りやうやうにアルの港に来て見れば 折よく船は出帆の間際なりしを幸ひに 嬉しく乗りて今此処に胸凪ぎ渡る海の上 タールや、ヤコブ、ヨブさまの世間話に花が咲き 聞くともなしに聞き居れば鷹依姫や竜国別の 教の司の一行が大和田中に落ち入りて みまかり玉ひし物語吾等の胸に轟きつ 涙を抑へて聞く中に高姫さまの物語 鷹依姫が一行の奇禍にあひしも其元を 詳しく探れば高姫が我情我慢の結果ぞと 聞いて吾等は胸痛め如何ならむと思ふうち 身魂も清き高姫は打つて変つて正直に おのが前非を告白し捨身の覚悟をなし玉ふ 其雄々しさにヨブさまも日頃の怒りは氷解し 打つて変つた機嫌顔不言実行の行動に 感じ玉ひて高姫が御弟子にならむと請ひ玉ふ あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 高姫さまの今日の胸旭の如く澄みわたり 照り輝くぞ雄々しけれ高姫さまの改心が 若しや遅れてゐたならばカーリン丸の船中で ヨブに素首引抜かれ吾等は悲しき長旅の 何と詮術波の上泣けど叫べど甲斐もなく 悲しき別れせしならむ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 誠一つは身を救ふ誠の道の御教を 只一筋に是れからは脇目もふらず進みなむ 神は吾等を守ります神の御旨に叶ひなば 如何なる事か恐れむや茲に常彦謹みて 高姫さまの御改心入信されたヨブさまの 目出度き今日の生日をば喜び勇み祝ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終り、腰を下した。高姫を始め、ヨブ其他の船中の人々は常彦が現在高姫を前におき、露骨に其経路を語りたる公平無私の態度に感嘆の舌を巻くのであつた。 (大正一一・八・一二旧六・二〇松村真澄録)
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(1971)
霊界物語 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 16 波の響 第一六章波の響〔八三八〕 常彦が祝を兼ねたる佯らざる告白歌に励まされ、ヨブは立上がり、入信の祝歌を歌つた。 ヨブ『高天原と定まりし貴の聖地のエルサレム 国治立大神は三千世界を救はむと 神の御言を畏みて教を開き玉ひつつ 天地の律法制定し世は平安に治まりて 神人和楽の瑞祥を楽み玉ふも束の間の 隙行く駒の曲神に天の御柱国柱 転覆されて葦原の瑞穂の国の守護権 常世の国に生れたる曲の頭に渡しつつ 天教山の火坑より根底の国におりまして 忍びて此世を守ります其功績ぞ尊けれ 斯かる尊き皇神のいかで此儘根の国や 底の御国にましまさむ時節を待つて天教の 再び山に現はれて野立の彦と名を変じ 埴安彦と現れまして迷へる四方の人草を 安きに救ひ助けむと仁慈無限の心より 三五教を建設し神の司を四方の国 間配り玉ひて川の瀬や山の尾の上に至る迄 尊き御教を布き玉ふあゝ惟神々々 神の心を白波の天足彦や胞場姫が 罪より現れし醜神の醜の叫びに化されて 世人の心日に月に曇り行くこそ忌々しけれ 厳の御霊の大神は国武彦と現れまして 四尾の山の神峰に此世を忍び玉ひつつ 五六七の御世の経綸を行ひ玉ひ素盞嗚の 神尊の瑞御霊コーカス山や産土の 斎苑の館に現れまして八洲の国にわだかまる 八岐の大蛇や醜狐曲鬼共を言向けて 天地にさやる村雲を神の伊吹に払はむと 心を配らせ玉ひつつ言依別を現はして 自転倒島の中心地綾の高天と聞えたる 錦の宮に神司清き神務を命じつつ 世人を救ひ玉ひけり。旭日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 高砂島は亡ぶ共誠の神の御教に いかでか反きまつらむや大和田中に浮びたる カーリン島の神の御子ヨブは今より高姫が 清き心を諾なひて仮令野の末山の奥 虎狼や獅子大蛇如何なる曲津の棲処をも おめず臆せず道の為心を尽し身を尽し 皇大神や世の中の青人草の其為に 仕へまつらむ惟神神の恵の幸はひて ヨブが身魂を研き上げ尊き貴の御柱と 依さし玉へよ天津神国津神達八百万 国魂神の御前に謹み敬ひ願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終つて座に着いた。春彦は又もや歌ひ出したり。 春彦『綾の聖地を後にして変性男子の御系統 高姫さまに従ひて瀬戸内海を打渡り 南洋諸島を駆けめぐり如意の宝珠を探ねつつ 高砂島の手前まで小舟を操り来る折 隠れた岩に突当り当惑したるをりもあれ 高島丸に助けられ漸くテルの港まで 到着するや高姫は数多の船客かきわけて 先頭一に上陸し吾等二人をふりまいて 暗間の山の松林姿を隠し玉ひしが 綾の聖地に現れませる杢助さまに高姫の 監督役を命ぜられ居乍らのめのめ見失ひ 如何して言訳立つものか急げ急げと一散に 尻ひつからげ大地をばドンドン威喝させ乍ら 暗間の山の麓迄来りて様子を窺へば 高姫さまの独言常彦、春彦両人の 半鐘泥棒や蜥蜴面間抜男を伴うて 高砂島の人々に軽蔑されてはたまらない 何とか立派な国人を甘く操り弟子となし 千変万化の一芝居打つて見ようと水臭い 吾等二人を放棄して甘い事のみ考へる 其蔭言を灌木の茂みに隠れて聞き終り 余りに腹の立つままにガサガサガサと飛出せば 高姫さまの曰くには油断のならぬ世の中ぢや 仮令獣といひ乍ら今の秘密を聞きよつた 神の霊を授かりし四つ足なれば一言も 聞かれちや都合がチト悪い天に口あり壁に耳 謹むべきは口なりと後悔遊ばす可笑しさよ 常彦、春彦両人は足音隠して二三丁 山の麓に忍び足それから足音高めつつ テル[※校定版・八幡版では「ヒル」。オニペディアの「霊界物語第29巻の諸本相違点」を見よ]の国王のお側役私はカナン[※御校正本・愛世版では「アンナ」。オニペディアの「霊界物語第29巻の諸本相違点」を見よ]と申す者 暗間の山に如意宝珠隠してあると聞いた故 私は捜しに行きましたされど遅れた其為に 後の祭りと春彦[※御校正本・愛世版では「常彦」。オニペディアの「霊界物語第29巻の諸本相違点」を見よ]が声高々と話する そこで私はヒル[※校定版・八幡版では「テル」。オニペディアの「霊界物語第29巻の諸本相違点」を見よ]の国国王様のお側役 アンナ[※御校正本・愛世版では「カナン」。オニペディアの「霊界物語第29巻の諸本相違点」を見よ]と申す男ぞと八百長話を始むれば 猫が松魚節見た如うに高姫さまが飛びついて もうしもうし旅の人暫くお待ちなされませ 変性男子の系統で日の出神の生宮と 世に謳はれた高姫ぢやお前も中々偉い人 私の話を聞きなされ昔の昔の根本の 尊き因縁聞かさうとお婆アの癖に小娘の やうな優しい作り声吹出すように思へども ここで笑うては一大事大事の前の小事ぢやと 脇のあたりでキユーキユーと笑ひの神をしめつけて 足音低く高くして遥向うから後戻り して来たように作りなしどこの何方か知らね共 私に向つて何御用早く聞かして下されと 吾から可笑しい作り声流石の高姫嗅ぎつけて お前はアンナと云ふけれど半鐘泥棒の常彦だ カナンと名乗る蜥蜴面春彦さまにきまつたり 余り人を馬鹿にすな声を尖らし怒り出す 暴風襲来低気圧二百十日の風害も 来らむとする其時に私がアンナと云うたのは お筆先にもある通り神の仕組はアンナ者 こんな者になつたかと世界の人がビツクリし アフンとさせるお仕組ぢやカナンと云うて名乗つたは 春彦さまの平常は赤子のやうな人なれど 神が憑つた其時は誰でもカナン身魂ぢやと 言はして人を大道に導くお役と逆理窟 一本かましてやつたれば高姫さまは腹を立て 私等二人を振すてて又も逃げよとする故に 高島丸の船中で国依別に面会し 金剛不壊の如意宝珠其他珍の御宝を 拝見さして貰うたとカマをかけたら高姫が 玉にかけたら夢うつつ忽ち機嫌を直し出し ホンにお前は偉い人気の利く男と思うてゐた さうして如意の宝玉は国依別が如何したか 知らしてお呉れと云ふ故に此春彦は知らねども 狐のやうに常彦が眉毛に唾をつけ乍ら 三千世界の神宝は高砂島にコツソリと 言依別や国依の神の司が出て参り 何々々に何々し絶対秘密ぢや云はれない 国依別のお言葉にお前を男と見込んでの 肝腎要の秘密をば明かした上は高姫に 決して云ふちやならないぞ私も常彦宣伝使 言はぬと云つたらどこ迄も首がとれても云はないと 約束したから如何しても高姫さまには済まないが これ許りは御免だとキ常彦口から出任せに からかひまはす可笑しさよとうとう喧嘩に花が咲き 常彦私の両人は高姫さまを振すてて 今度は二人が逃げ出した高姫さまは驚いて 吾等二人を引捉へ玉の所在を白状させ 綾の聖地に持帰り日の出神の生宮の 天眼通は此通り皆さまこれから吾々の 言葉に反いちやならないと法螺吹き立てる御算段 そんな事には乗るものか三十六計奥の手を 最極端に発揮して雲を霞と駆け出せば 高姫さまは道の上の高い小石に躓いて 大地にバタリと打倒れ額を打破り膝挫き 生血を流してアイタタと頭を撫でたり膝坊主 押へて顔をしかめゐる此時四五の若者は どこともなしに出で来り高姫さまを介抱して 抱き起して助くればいつも変らぬ減らず口 結構なおかげをお前等は頂きなさつた神様に 御礼なされよ私にも御礼を仰有れ神の綱 私がかけて上げましたなどと又もや世迷言 玉の所在を知ると云ふ一人の男に騙されて アと云つては金一両リと聞いては金一両 ナーと云つては金取られ滝と云つては二両取られ 鏡の池と六つの口又もや六両はぎ取られ 呑み込み顔で高姫が吾々二人が路端に 憩ふ所をドシドシと肩肱いからし高姫は 日の出神の御告げにて玉の所在を知つた故 これから独り行く程に間抜男は来るでない 神の仕組の邪魔になる必ず従いて来てくれな 言葉を残してドンドンとテル国街道を走せて行く 吾等二人は高姫が後を追ひつつ駆出して 牛のお尻に衝突しヤツサモツサと争ひつ 牛童丸に横笛で首が飛ぶ程横ツ面 やられた時の其痛さ常彦さまが行つた事 私は傍杖くわされてあんなつまらぬ事はない 牛童丸に牛貰うて常彦さまは牛の背 私は綱を曳き乍ら小川を伝うて杉林 十間許り遡り高姫さまが他愛なく 休んで厶る其前に牛引つれて往て見れば モウモウモウと唸り出す其大声に目を醒まし 高姫さまはうるさがり又も二人を振棄てて アリナの滝に只一人玉を占領せむものと 行かうとしたので吾々はお前はアリナの滝の上 鏡の池に行くのだろ吾等二人は牛に乗り お前さまより二三日先にアリナへ到着し 玉を手にして帰ります左様ならばと立出づる 高姫さまは又しても猫撫声と早変り コレコレ常公春公へ私の心を知らぬのか 海山越えてはるばるとこんな所迄やつて来て お前に別れて如何ならう一緒に行かうぢやないかいと 相談かけて呉れた故モウモウモーさん帰んでよと 牛に向つて言霊を発射致せばアラ不思議 煙となつて消えにける夫れより三人手を引いて テルの街道ドシドシと大西洋を眺めつつ アリナの滝のほとりなる鏡の池に来て見れば 数千年の沈黙を破りて池はブクブクと 泡を立てたりウンウンと厭らし声にて唸り出す 高姫さまは玉どこか肝腎要の魂抜かれ 焼糞気味になりまして月照彦神さまと いろはにほへとちりぬるの四十八文字の掛合に 奴肝を抜かれて失心し人事不覚となられける 懸橋御殿の神司現はれまして高姫を 助け玉へば高姫は相も変らぬ憎い事 百万ダラリと並べ立て側に控えた吾々も 余り憎うて横ツ面擲つてやりたいよに思うた 夫程分らぬ度し太い高姫さまもどうしてか 櫟ケ原の真中で天教山に現れませる 木の花姫の御化身日の出姫の訓戒に 心の底から改心し虎と思うた高姫が サツパリ猫と早変りそれから段々おとなしく もの言ひさへも改まり誠に可愛うなつて来た 玉の湖水の畔にて椰子樹の森に夜を明かし 鷹依姫や竜国別の神の司やテー、カーの 姿を刻んだ石地蔵眺めて高姫手を合し コレコレ四人のお方さま此高姫が悪かつた どうぞ勘忍しておくれ黒姫さまの過ちを お前さま等に無理云うて綾の聖地を放り出し 苦労をかけたは済みませぬ罪亡しに今日からは お前等四人の姿をば刻んだ重たい此石を 背中に負うて自転倒の島迄大事に連れ帰り 祠を建てて奉斎し朝晩お給仕致します どうぞ許して下されと心の底から善心に 立返られた健気さよ余り早い変りよで 私も一寸疑うたアルの港で船に乗り 高姫さまが偽らぬ其告白に感歎し ヨブさま迄が驚いて高姫さまの弟子となり 入信されたお目出度さあゝ惟神々々 神の恵は目のあたりこんな嬉しい事はない 高姫様の御改心入信なされたヨブさまの 前途益々健全に渡らせ玉ひて神徳を 世界に照らし玉ふ日を指折数へ待ちまする あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 最後に高姫は改心と入信の悦びの歌を唄ひけり。 高姫『あゝ惟神々々尊き神の御恵に 常夜の暗も晴れわたり真如の月は村肝の 心の空に輝きて金毛九尾の曲神に すぐはれ居たる吾身魂今は漸く夢醒めて 曲津の神の影もなく神の賜ひし伊都能売の 霊の光輝きて心の悩みも消え失せぬ 旭は照る共曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも一旦改心した上は 身魂の此世にある限り天地に誓うて変らまじ 此高姫の改心が一日遅れて居つたなら 此船中でヨブさまに命取らるるとこだつた 変性男子の筆先に何よりかより改心が 一番結構と云うてある改心すれば其日から 敵もなければ苦労もない早く改心なされよと 幾度となく書いてあるあゝ改心か改心か 木の花姫の御言葉で始めて悟つた改心の 誠の味は此通り私を仇と狙うたる カーリン島のヨブさまが打つて変つて高姫を 師匠と仰いで入信し無事に此場の治まりし 其原因を尋ぬればヤツパリ私の改心ぢや 改心入信一時に善い事計りが降つて来た こんな嬉しい事はないさはさり乍ら海中に 陥り玉ひし四人連思へば思へばいぢらしい せめては霊を慰めて朝な夕なに奉斎し 叮嚀にお給仕致しませう鷹依姫や御一同 広き心に見直して私の罪を赦しませ あゝ惟神々々神の御前に慎みて 今日の慶び永久に感謝しまつり鷹依姫の 教の司や三人の冥福祈り奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 斯く歌ひ了りて、莞爾として座に着いた。船は三日三夜さ海上を逸走し、漸くゼムの港に安着した。高姫一行四人はここに上陸し、ゼムの町を二三里許り隔てたる天祥山の大瀑布に御禊をなすべく、意気揚々として、宣伝歌を歌ひ乍ら山深く進み入りにける。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・一二旧六・二〇松村真澄録)
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(1984)
霊界物語 30_巳_南米物語2 末子姫と言依別命の旅 05 下坂の歌 第五章下坂の歌〔八四七〕 一行四人は初夏の炎天に曝され乍ら、吹き来る涼風に衣の袖を翻しつつ、岩石起伏の急坂を、アブト式に一足々々爪先に力を入れ乍ら降り行く。 少しく緩勾配の山路に差かかつた。新に帰順したる石熊はテル山峠の山上にて末子姫、捨子姫の驥尾に附し述懐歌を歌はむと、心中深く期する所ありしが、意外にも末子姫の休息を早く切り上げて坂を降り始めしより、止むを得ず沈黙を守り、急坂を降りつつあつた。今しも稍緩勾配の安全なる坂道に差かかりたるを機会に、歩み乍ら足拍子を取り、石熊は述懐の歌を唄ひ始めたり。 石熊『あゝ面白い面白いテル山峠の頂上に 古今無双の二人のナイス天津乙女の降来か 木の花姫の出現か木石ならぬ石熊も バラモン教の御教を固く守りて今迄は 巌の如く頑強に教を楯にバラモンの 神の教の信徒等に化石したかと笑はれた 此堅蔵も三五の神の教に入信し 優しき姿顔容に心の動いた恥かしさ さはさり乍ら吾々は素より賤しき身の上ぞ 高根に咲ける松の花如何に憔れ慕うとも 天津御空の星影を竿の先にてがらつよな 極めて至難の事であろあゝ惟神々々 御霊の頼を蒙りて三五教に服従ひし 此石熊が心根を厳しく鞭撻なし玉ひ 怪しき怪しき恋の暗忍びて来る曲鬼を 早く征服させ玉へバラモン教の神の法 別に変りしこともなしさは去り乍ら三五の 神の教に比ぶればどこやら一つ物足らぬ 吾がバラモンの主唱する霊主体従の御教は 神に貰うた肉体を損ひ破ること許り 普く世界の人々を大事の大事の神徳に 助くる道に欠けてゐるあゝ惟神々々 神の教は皆一つ只実行と不実行の 差別に依りて変るのみ高天原を退らはれし 此世を救ふ生神の尊き御子と現れませる 心も澄める末子姫世人の為に身を捨てて 教を開く捨子姫か弱き女の身乍らに 遠き山河踏みさくみ長き潮路を打渡り はるばるここにテル山の雲突く峰に現はれて 神の御為世の為に尽させ玉ふ尊さよ 吾は常世の目の国に生れて茲にバラモンの 神の教に入信し鬼熊別に導かれ バラモン教の御教を誹り走りに聞き覚え 高照山の山麓に教の館を造りつつ 天地の間此道に優りし教はあらざらむ 実にも尊き教ぞと心も身をも打任せ 身もたなしらに朝夕に沐雨櫛風の労を積み 教は日々に天津日の豊栄昇ります如く 月日と共に栄えけりさはさり乍らバラモンの 教に一つ疵がある生血を出して大神の 御目に示し犠牲の誠と思ひ謬りし 其醜業に信徒は朝日に氷の解くる如 次第々々に衰へて法灯消えむとなしければ 茲に一計案出しテル山峠に名も高き 大蛇の棲処と聞えたるさも恐ろしき大瀑布 人の恐れて近よらぬ乾の瀑に朝夕に しげしげ通ひて水垢離取りて身魂を清めつつ 二年計り荒行を励み居たるを何時しかに 四方の国々知れ渡り吾熱誠に感歎し 又もや枯木に花咲きて教は高く照りわたる 高照山の聖場は残枝忽ち花開き いと賑はしくなりにけり此機を逸せずバラモンの 教を四方に伝へむと珍の国まで教線を 張らむとすれば国彦の御子と生れし神司 松若彦の熱誠に三五教の信仰は 雷の如鳴り渡りバラモン教に相対し 侮り難き教敵と今は全くなりにけり 三五教が倒れるかバラモン教が倒れるか 生死の境と肝胆を砕いて茲に一計を ひねり出して神司ウヅの都の三五の 教の館にさし廻し三五教の信徒と 佯らせつつ日に夜に内外の様子を窺ひつ 善らぬ事と知り乍ら権謀術数の有り丈を 今迄尽し来りける神素盞嗚大神の 珍の御子と現れませる末子の姫の主従が テルの国へと出でましてテル山峠を打渉り 進み来ますとバラモンの道の根本霊場より 無言霊話をかけ来る容易ならざる出来事と 信任厚き神司イサク、カールを始めとし シーナ、チールやネロ五人テル山峠の西麓に 差遣はして両人の道を遮り高照の 山の館に連れ帰り其目的を達せむと 乾の滝に現はれて何時も慣れたる水垢離 一心不乱に祈る折忽ち身体強直し ビクともならぬ苦さに空を仰いで滝の上 見上ぐる途端に恐ろしき醜の大蛇が口を開け 目を怒らして眺めゐる心戦き体縮み 進退維に谷まりて覚悟の臍を固めたる 時しもあれや末子姫二人の伴を引連れて 現はれ来まし三五の清き尊き言霊を 宣らせ玉へば曲神は雲を霞と消え失せぬ あゝ惟神々々末子の姫の来らずば 吾れは蛇腹に葬られ漸く茲まで築きたる バラモン教は忽ちに嵐に木葉の散る如く 崩壊せむは目のあたり吾は尊き生命を 実にも畏き大神の珍の御子に助けられ 天下無二なる果報者思へば思へば三五の 神の教は大空に輝き亘る日月の 光に優る如くなりあゝ惟神々々 今迄犯せし罪悪を乾の滝の水清く 洗ひ清めて永久に生れ赤子と成り変り 命の続く其限り皇大神の御道に 使はせ玉へ天津神国津神たち八百万 国魂神の御前に謹み敬ひ願ぎまつる 末子の姫や捨子姫何卒吾等が佯はらぬ 此告白を平かにいと安らかに聞し召し 汝が命の従僕とし千代も八千代も末永く 伴ひ玉へ惟神神かけ祈り奉る 神かけ祈り奉る』 と歌ひ終り、潔く急坂を降り行く。再び山路は峻しくなつて来た。一行は一歩々々、坂路に起伏せる岩の頭に足を踏みしめ乍ら下り行く。カールは此山路に相当したる、声調も碌に整はぬ歌を唄ひ乍ら、三人の後に従ひ下り行く。 カール『ドツコイシヨウドツコイシヨウテル山峠は高い山 岩石起伏の谷道を危ない危ないアブト式 力を入れる指の先まかり違へば転倒し 虻蜂取らずになるだらう皆さま気をつけなさりませ 敵の中にもドツコイシヨ味方が隠れて居りまする オツト辷つた危ないぞ味方の中にもドツコイシヨ 敵が隠れて居るであろ人間万事塞翁の 馬と聞いたがドツコイシヨコラ又危い石車 乗つて怪我をばなさるなやドツコイドツコイ災の 後にはキツと福が来る福が来たとて油断すな 油断をすれば此通りキツい坂道ドツコイシヨ 下つて行くよな者ぢやぞえ三五教の神司 松若彦の命令で高照山の神館 飛ぶ鳥までも落すよな勢強き石熊の ドツコイドツコイドツコイシヨオツト危い石車 お側仕ひとなりすまし一伍一什を偵察し 隙行く駒のドツコイシヨ悪の企みを細々と 珍の館に報告し今迄来たのはドツコイシヨ 天の与へに違ひない罷り違へばバラモンの 石熊さまに嗅出され五体も何もグタグタに バラモン教とバラされて惜しき命の安売りを やつて居つたか分らないドツコイシヨウドツコイシヨウ 知らぬが仏の石熊さまバラモン教に一心に なつて御座つた其為か間者となつて入り込みし カールとネロの両人をオツト危い、又辷る 此上なき者と愛しつつ重く用ゐて下さつた 深い情に絆されて三五教の信仰も 時々怪しくなつて来た一向私もバラモンの 神の教に入信し一つ腕をば研き上げ 珍の都の人々をアフンとさしてやらうかと 副守護神が囁いてドツコイシヨドツコイシヨ 危い危い誘惑の手を伸ばしたる事もある あゝ惟神々々神に貰うたドツコイシヨ 直日の霊魂が輝いてオツトドツコイそりや悪い 誠の神の御教と偽り神の教とを 神に貰うたドツコイシヨ稜威の霊に省みて 必ず迷ふこと勿れ天国地獄の国境 胸に手を当て思案せと何か知らぬが囁いた アイタタ、ドツコイ躓いた拇指小指をしたたかに 尖つた岩に突きあてて千尋の谷間に危くも 辷りおちむとドツコイシヨドツコイドツコイドツコイシヨ 傾く身体を手を広げ中心取つてドツコイシヨ おかげで体が立直りヤツと命を取り止めた あゝ惟神々々神程尊い方はない モウシ末子のお姫さま捨子姫さまお二方 足許用心なさりませズイ分高い石熊が ゴロゴロゴロと坂道に転かしてやらうと待つてゐる ドツコイ油断は大敵ぢや人の心は分らない とは云ふものの石熊さまお前の事ではない程に 気を悪なさつて下さるな躓く石も縁の端 一樹の蔭の雨宿り一河の流れを汲むさへも 深い因縁あればこそお前の館に住み込んで 朝晩同じ物を食ひ水も洩らさぬ親切を 尽して貰うた其時の私の心の苦しさは 口で言ふよな事でない一層お前に真実を 心の底から打明けて白状せうかと思うたが ドツコイドツコイ待て暫し松若彦の神司 私を男と見込んでの最上破格の御信任 無にしちやならぬとドツコイシヨ再び心を立直し 猫を被つてやつて来たカールは腹のドツコイシヨ 汚い奴ぢやと思はずに今迄お前を詐つた 心の罪を赦してよドツコイドツコイ其代り お前の深い計らひでウヅの都に遣はした 間者は幾人あるとても末子の姫の御前に 俺が代つてお詫して綺麗に綺麗に帳消しと 流れ勘定にして貰ふ皆さま危い足許に 気をつけなされよ坂路はますます急になつて来た ウツカリ辷つて谷底へ転落したら大変だ 胸がドキドキ騒ぎ出す三五教の神様よ どうぞ一行四人連れ此急坂を恙なく あなたの厚き御守りに通過をさせて下さんせ 偏に御願申しますドツコイドツコイドツコイシヨ アイタタ、ドツコイ又転けたあんまり調子に乗り過ぎて 知らずに乗つた石車背中は少し打つたれど 生命は別状はない程に皆さま安心しておくれ ウントコ、ドツコイドツコイシヨ降れば広きウヅの国 青野ケ原の右左青葉の蔭に身を休め ゆつくり一服致しませうホントに長い峠ぢやなア グヅグヅしてると日が暮れるさうだと云つて無茶苦茶に 走つて降れば又転ける坊主と尼ならケがないが 俺等の様な長髪は中々此道や物騒な あゝ惟神ドツコイシヨ御霊幸はひましませよ 旭は照る共曇る共月は盈つ共虧くる共 仮令大地は沈むとも再びこんな山路を 私は通ろと思はない本当に危ない坂道ぢや 神の御為世の人を助ける道と思やこそ 音に名高き此坂を登りつ下りつ致すのだ 天地の神も吾々が此真心を御照覧 遊ばしまして世に高く誉を残させ玉へかし 淤縢山津見や駒山の彦命や珍山の 神の司の通りたる此山坂を改めて 二人の美人に導かれ黄金の橋を渡るよな 危ない気分で下りゆく天教山ではなけれ共 木の花匂ふウヅの国花の都にドツコイシヨ ドツコイドツコイドツコイシヨ上り行くこそ楽しけれ あゝ惟神々々早言霊の油きれ 停電するより仕様がない二人の親が遺みとて 残して呉れた膝栗毛どうやら怪しくなつて来た そこには丁度恰好な腰掛岩が並んでる 皆さま一服せうぢやないか叔母が死んでも直休み 暑中休暇の避暑旅行青葉の蔭に横たはり 息をついだら如何であろあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と一歩々々、九十九折りの石だらけの危なき急坂を下つて来たが、稍少し計り緩勾配の坂の左側に腰掛の如く並んでゐる天然椅子に一行四人は腰を卸し息をつぎ、汗を涼風に拭ふ。 (大正一一・八・一四旧六・二二松村真澄録)
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霊界物語 31_午_南米物語3 国依別の旅 20 脱皮婆 第二〇章脱皮婆〔八八六〕 二人は漸く広き河の辺に辿り着いた。見れば非常な広い河で而も急流である。橋もなければ容易に渡る事は出来ない。後へ引返さむとすれば、岩石の炎は盛に燃えひろがり、道を塞ぎ、グヅグヅしてゐると、煙に包まれさうな勢である。『アヽ如何にせむ』と川端に二人は地団駄をふみ、遂には泣声を出して藻掻き出した。どこともなしに厭らしき声が聞えて来る。フツと見れば、渋紙の様な肌をした赤裸の人間が肋骨を一枚々々表はしたガリガリ亡者である。一目見てもゾツとする様な、厭な姿であつた。此亡者は赤裸ではあるが、男とも女とも少しも見分けがつかなかつた。只骸骨の上に渋紙の様な色した薄ツペらな皮が、義理か役かの様に包むでゐるのみである。 秋山別は心の中に思ふ様……どうせ、こンな訳の分らぬ所へ来たのだから、ロクな奴は出て来る筈はない。余り気を弱く持つて居たならば、先繰り先繰りいろいろな奴が出て来て、何をするか分らない、強くなくては……と俄に決心の臍を固め、声も高らかに、 秋山別『オイ我利坊子、貴様は現世の奴か幽界の奴か、返答をせい。現世には貴様の様な奴はメツタに見た事はないが、大方娑婆に居つて吾れよしの有り丈を尽した我利我利亡者の連中が、欲の川へ落込み濁流を呑ンで、こンな態になつたのだらう。一つ旅の慰みに貴様の来歴を聞かしてくれないか』 亡者(欲皮)『俺は剛欲ハルの国、身勝手郡、吾れよし村の欲皮剥右衛門と云ふ男だよ。一人の男は同国同郡同村の金借踏倒しといふ亡者だよ。今冥途へ来てから、名を替へて、骨皮痩右衛門、墓原の骨左衛門となつたのだ。お前はアノ自称色男の秋山別、モリスの両人に違いあるまいがな』 秋山別『貴様どうして俺の素性を知つてゐるのだ』 欲皮『きまつた事よ。余り貴様が此川上で立派なナイスの様な化者を捉まへて、現を抜かしてゐるから、俺も金と色とにかけては、現界に居つた時から、天下無双の豪傑だつたが、俺の目の前で、余り巫山戯たことをしよるものだから、チツと計り癪にさはり、ナイスが川の中へとつて放つたのを幸ひ、河童となつて、貴様の睾丸を引ちぎり、冥途の旅をさしてやつたのだ。アツハヽヽヽ』 秋山別『オイ、モリス、此奴が俺達の命を取つた餓鬼だと見えるワイ。サウもう斯う白状致した以上は、了見ならぬ。バツチヨ笠のやうな、骨と皮との体をしよつて、洒落たことを致す亡者だナア。これから両人が踏みにじつて呉れるから覚悟を致せ』 欲皮『アツハヽヽヽ、女に捨られ、命迄棄てた腰抜亡者の分際として、何を吐すのだイ。コリヤ此欲皮は貴様の見る通り、壁下地が表はれて、ニクもない可愛い男だが、併し俺の体は満身骨を以て固めてあるのだぞ。亡者なぶりの骨なぶり、見事相手になるなら、なつて見よ』 モリス始めて口を開き、 モリス『コリヤ、我利々々亡者、欲皮剥右衛門とやら、俺を何と心得てゐるか』 欲皮『何とも心得て居らぬワイ。失恋狂の川はまり、土左衛門の成れの果て、恋の焔におひかけられて、其情熱を消すべく、此川辺迄逃げて来よつたモリスぢやない、亡者だらう。亡者々々致して居ると、此欲川はモウ容赦はならぬぞ。女の手を引張つて、都見物の亡者引の様に、見つともない何の態だイ。チツとは恥を知つたが良からうぞ』 モリス『何を吐しよるのだイ。貴様は欲の皮を剥いで、現界に居つた時は、人鬼と云はれて来た代物ぢやないか。其天罰が廻つて来て、河鹿か何ぞの様に、川住居をしよつて、ガアガア吐すと、本当の蛙になつて了うぞ。蛙の行列向う見ずと云ふ事があるぢやないか。蒸せ損ひの饅頭の様に、かは許りにへばりつきよつて、現界でも喰へぬ奴だつたが、ヤツパリ茲へ来ても骨だらけで、味もシヤシヤリもない喰へぬ代物だなア。併し乍ら貴様も何時迄もこンな所に居つても仕方がないぢやないか。モリスさまに従いて来ないか。結構な結構な針の山か、血の池か、茨の林へ連れて行つて、蜥蜴の丸焼でも振れ舞うてやるからのウ』 金借『そんならこの金借も伴れて行つてくれないか。只で貰う事なら蜥蜴だつて、蛙だつて構うものか、又只で案内してくれるのなら、仮令針の山でも血の池地獄でも構やせぬワイ。兎も角俺は貰ふ事が好きな性分だい。出す事なら舌を出すのも手を出すのも嫌ひな亡者さまだよ。サア早く行かう』 モリス『こりや嘘だ、貴様の様な者を道伴れにして如何なるものかい。紅井姫がシーズン河へ飛込ンで、冥途の道に待つてゐるのだから、其様な者を連れて行かうものなら、それこそモリスの男前が下がつて了うワイ』 金借『貴様は冥途へ来て迄二枚舌を使うのだな。徹底的な大悪人だ。ヨシ今金借さまが其二枚舌を抜いてやらう』 と云ふより早く、川縁の手頃の石をクレツとめくると、其下から、沢山の釘抜がガチヤガチヤする程現はれて来た。金借亡者は、矢庭に之を手に取り、モリスに向つて襲ひ来る猛烈な勢に、流石のモリスも堪りかね、忽ちザンブと激流に飛込み、 モリス『秋山別早く来れ』 と云ひ乍ら、抜手を切つて、流れ渡りに向う岸へヤツと取りつき、着物を脱ぎ棄て、力一杯圧搾し始めた。秋山別も辛うじて泳ぎ着き、之れ亦衣類を絞り、二人は川向うの二人の亡者に、腮をつき出し拳骨を固めて空をなぐり、十分に嘲弄し乍ら、一生懸命に何者にか引かるる様な心地して、北へ北へと走り行く。 何とも譬へ様のない不快な血腥い風が吹いて来る。油で煮られる様な熱さを感じて来た。二人はヘタヘタになつて、どつか木の蔭があれば、休まうと、目をキヨロつかせ、そこらあたりを眺めて居ると、何とも形容の出来ない一本の木が枯葉を淋しげに宿して立つて居る。せめては此木蔭にと立寄つて見れば、厭らしい種々の毛虫がウジヤつてゐる。二人は肝を潰し乍ら、又もや焼きつく様な大地の上を歩み出した。少しく前方に萱を以て葺いた小さい家が、珍しくも只一軒建つて居る。これ幸ひと立寄つてソツと草で編ンだ戸の隙間から、中を覗くと、爺とも婆とも見当のつかぬ老人が唯一人、水涕をズーズーと垂らし乍ら、切りに草鞋を作つてゐる。秋山別は外から、 秋山別『モシモシお爺イさまかお婆アさまか、どちらかは知りませぬが、吾々は旅人で御座います。余り暑いので、最早やり切れなくなりました。どうぞあなたの涼しい御宅で、暫く休まして下さいな』 小屋の中より皺枯れた声で、 (脱皮婆)『ここは焦熱地獄の八丁目だ。能うマア踏み迷うて御座つた。閻魔大王様から、お前達二人が茲へ来るから、茲に待伏せして居れと御命令を受けて、二三日前から待つてゐたのだよ。好い所へ来て呉れた。サアゆつくりと這入つて休息さつしやい。やがて赤鬼や黒鬼が火の車を持つて、お前達二人を迎へに来るから、マア楽みて待つてゐるがよからう。一度は火の車に乗つて見るのも面白からうぞや』 秋山別『モシモシそりやちつと困るぢやありませぬか。如何して吾々がそンな火の車に乗らねばならぬ様な悪い事を致しましたか。そりや大方人違ひぢや御座いますまいかなア』 (脱皮婆)『儂は焼野ケ原の脱皮婆アと云ふ者だ。三途の川には脱衣婆と云ふ者が居つて着物を脱がすが、そこを通る奴は罪の軽い連中だよ。この焦熱地獄の旅行する奴は最も悪い罪人が出て来る所だ。それだから、お前の肉の皮をスツカリ剥ぎ取つて、剥製にして黄泉の都の博物館に陳列し、皮を剥いだ後の肉体は火の車に乗せて、閻魔の庁へ送り、鬼共が喜びて、塩焼にして食て了うのだから、心配することはない。今となつて心配した所で駄目だよ。チヤンときまり切つた運命だから……』 モリス『お婆アさま、そりや本当ですかい。チツとモリスには合点が往きませぬがなア』 脱皮婆『合点が往かぬ筈だよ。合点の往かぬ事計りやつて来たのだから、無理はなけね共、もういい加減に因縁づくぢやと合点をせなきやならなくなつて来たよ。お前を迎へに来る火の車は自惚車といふ妙な脱線し転覆する車で危ないものだが、紅井の様な赤い顔をして、目を剥いた女の鬼が一人、又少し年増のエリナと云ふ女鬼が一人、火の車を二つ持つて、お前を迎へに来る段取がチヤンと出来てゐるのだから、今の間なりと気楽に歌でも唄つておかつしやい。火の車が来たが最後、お前の体は不動さまのように、恋の情火が燃え立つて、熱い目に会はねばならぬのだからな。あゝ思へば思へば不愍なものだワイ。 火の車別に地獄にやなけれ共 己が作つて己が乗り行く とか云つて、お前が作つた完全無欠な火の車だから、誰に遠慮も要らぬ。ドンドンと乗つて行かつしやれや。何事も世の中は自業自得だ。善因善果、悪因悪果、蒔かぬ種は生えぬとやら、自分が蒔いた種が成長して、花が咲き実がのり、又自分が収穫をせなくちやならぬ天地自然の法則だからなア』 秋山別『エー、秋山別は別に女に対し、恋慕は致しましたが、まだ生れてから、女一人犯したことは御座りませぬ。何が為にそれ程重い罪を科せられるのでせうか。是れ位な微罪を、さう喧かましく詮議立てをし、処罰をして居つたならば、地獄の牢屋もやり切れますまい』 脱皮婆『軽い罪は皆見のがして、三途の川で衣を脱がし、それから生れ赤子の赤裸にして、霊の故郷へ帰してやるのだが、お前の様な罪人は何うしても帰す事が出来ないよ。又何程立派な審判の鬼だとて、中には盲もあるから、お前の罪は俺が聞いても、ホンの軽い様に思ふが、火の車に乗せられて、焦熱地獄へ落してやらうと判決されたのだから、此婆アの力ぢや如何する事も出来ない。閻魔さまだつて直接に調べるのぢやないから、疎漏もあるだらうし、無実の罪で来て居る憐れな人間もチヨイチヨイあるやうだ。何程冥途の規則が立派に出来上つて居つても、それを運用する審判の鬼が盲だつたら駄目だからな。マア諦めるより仕方があるまいぞよ。上の大将からして、盲の幽霊計りだから困つたものだよ。此婆アもお前には満腔の同情を表してゐるけれど、上から押へられるのだから、どうする事も出来やしない。お前の言訳を一つでもせうものなら、それこそ大変だ。下の役の癖に上役の裁いた事を、何ゴテゴテ言ふかと云つて、一遍に免職さされて了うのだ。さうすればお前が今渡つて来た欲の川に居つた我利々々亡者の様に骨と皮とになつて了はねばならぬ。アーア暗がりの世の中と云ふものは情ないものだわい』 と婆アさまは鼻をすすり、そろそろと泣き出した。 斯かる所へガラガラガラとけたたましき音を立て、いかめしき面した赤鬼、青鬼、金平糖を長うした様な金棒を携へ、二台の火の車を引つれて、此場に向つて勢よく駆けつけ来る。二人は『アツ』と驚き其場に倒れ伏しける。 (大正一一・八・二〇旧六・二八松村真澄録)
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霊界物語 33_申_玉の御用の完了/高姫と黒姫の過去 20 昔語 第二〇章昔語〔九三五〕 桶伏山の東麓に小雲川を眺めた風景よき黒姫の館には、主人側の黒姫を初めとし、高山彦、東助、高姫、秋彦、友彦、テールス姫、夏彦、佐田彦、お玉、鷹依姫、竜国別の面々が親子対面の祝宴に招かれ静に酒汲み交はし、色々の話に耽つて居る。 高姫『黒姫様、長らく筑紫の島へ御苦労で御座いました。第一の御目的は高山彦様の後を慕つてお出で遊ばしたのだが、何が経綸になるのか分りませぬなア。肝腎の目的物たる高山彦さまは、灯台下は真暗がり、足許の伊勢屋の奥座敷にかくれて居られましたのも御存じなく、御苦労千万にも遥々と波濤を越えてお出で遊ばし、気の毒な事だと思ひましたが、不思議の縁にて、玉治別が貴方のお子様だと云ふ事が分つて参りましたのも、実に不思議の神様のお引合せ、何が御都合になるか分つたものぢや御座いませぬなア』 黒姫『ハイ、本当に嬉しい事で御座います。私の伜がこんな立派な宣伝使になつて居るとは夢にも知りませなんだ。ほんに因縁者の寄り合だと神様が仰有るのは争はれないお示しで御座います……改心致せば御魂だけの御用を指してやる、改心致さねば親子の対面も出来ぬやうになるぞよ……と、お筆に出て居りますが、私は余り身魂の曇りが甚かつたために、今まで吾子に遇ひながら知らずに居りました。こんな嬉しい事は御座いませぬ。年が寄ると何を云うても子が力で御座いますからなア。親子は一世と云つて切つても切れぬ深い縁のあるもので御座います。それにつけても夫婦二世とはよくいつたもの、親子の関係に比ぶれば夫婦の道は随分水臭いもの、少し気にくはぬ事を云つたと仰有つて、高山さまのやうに姿をかくし、女房に甚い心配をさせる夫もありますからなア』 高山彦『モウ、その話は中止を願ひます。一家の政治上の治安妨害になりますから……』 黒姫『ホヽヽヽヽ、何とマア都合のよい事を仰有いますワイ。よい年をして居つて伊勢屋の下女と何とか彼とか……真偽は知りませぬが、私の留守中噂を立てられなさつた好男子だから、本当に水臭いハズバンドだ。アヽ併しもう云ひますまい。立派な伜の前だから恥かしうなつて来ます』 高山彦『お前は実の伜に遇うて嬉しうなつたと見えて俄に燥ぎだし、ハズバンドの私に対して非常に冷やかになつて来たぢやないか。私もかうなつて見ると子が欲しくなつて来た。併し乍らお前のやうな婆では到底子を生むと云ふ望みもなし、もう諦めるより仕方がない。玉治別さまはお前の子だ。そしてお前は私の女房だ。さうすれば私も万更他人ではない。玉治別さまのお世話になるより仕方がないなア。併し乍ら、お前はいつの間に誰と夫婦になつて玉治別さまを生んだのだ。差支なければ皆さまの居られる中だけれど、一つ話して呉れないか』 黒姫は、 黒姫『これも私の罪滅し、恥を曝して罪を神様に取つて貰はねばなりませぬから、懺悔のために申上げます』 と云ひながら一紘琴を引き寄せて歌ひ出したり。 黒姫『ペルシヤの国の柏井の里に名高き人子の司 烏羽玉彦や烏羽玉姫の長女と生れ育ちたる アバズレ娘の黒姫が柏井川にかけ渡す 橋の袂を夕間暮れ一人トボトボ川風に 吹かれて空を打ち仰ぎ天の河原の西東 棚機姫が御姿を仰ぐ折しも向ふより 二八許りの優男粋な浴衣を身に纏ひ ホロ酔機嫌でヒヨロヒヨロと鼻歌謡ひ進み来る 声の音色は鈴虫か松虫、蟋蟀、螽斯 秋の夕べの肌寒き魔風恋風さつと吹き 顔と顔とは相生の実にも気高き男よと 此方に思へば其人も摩擦つ縺れつからみあひ 松と梅との色深く露の契を人知れず 四辺の木蔭に忍び入り暗さは暗し烏羽玉の 星の影さへ封じたる森の木蔭の草の上 白き腕淡雪の若やる胸を素抱きて たたきまながり真玉手玉手さし捲きもも長に 寝る折しも恥かしや忽ち来る人の足音 吾は驚き身を藻掻き恋しき男と右左 あはれや男は何人と尋ぬる間さへ夏の末 果敢なき露の契にて三十五年の昔より 夢や現と日を送り今に夫の行方さへ 知らぬ妾の身のつらさその月よりも身は重く 不思議や妾は懐胎し厳しき父や母上に 何と応へもなきままに暗に紛れて柏井の 父の館を脱け出し赤子を抱へさまざまと 苦労も絶えぬ黒姫が心は忽ち鬼となり 哀れや赤子に富士咲と名をつけ道の四辻に 捨てて木蔭に立ち乍ら如何なる人の御恵に 吾子は拾い上げらるかあはれみ給へ天津神 国津神達国魂の神よ守らせ玉へかしと 心に祈る折柄にカチリカチリと杖の音 子の泣き声を聞きつけていづくの人か知らねども かかるいとしき幼児を此処に捨てしは云ひ知れぬ 深き仔細のあるならむ何は兎もあれ拾ひあげ 救ひやらむと云ひ乍らその旅人は富士咲を 労り抱き懐にかかへて橋を渡り行く 妾は後より伏し拝み拾ひし人の幸福や 捨てた吾子はスクスクと成人なして世の中の 花と謳はれ暮せよと涙と共に立ち別れ 四方を彷徨ふ折柄に又もや父に廻り合ひ 再び吾家に立ち帰り厳しき父母の膝下で 月日を送る十年振り捨てた吾子が苦になつて 朝な夕なに気を焦ち案じ過ごせど手係りも 泣きの涙で日を送りメソポタミヤの顕恩郷に 鬼雲彦の現はれてバラモン教を開きますと 聞くより妾は両親の眼をぬすみ遥々と 顕恩郷に参上り神の教を聞きながら 吾子を思ひ恋人を慕ふ心の執着は 未だ晴れやらぬ苦しさに高姫さまの立て給ふ ウラナイ教に身を寄せて朝な夕なに海山の 恩顧を受けて三五の誠の道に入信し 黄金の玉の行方をば尋ね彷徨ひ高山彦の 夫の後を尋ねつつ火の国都に来て見れば 高国別の神司高山彦と名乗らせて 住まはせ玉ひし尊さよ神の恵の幸はひて 茲に吾子と名乗りを上げ玉治別に導かれ 漸く海を乗り越えて由良の港に来て見れば 思ひも寄らぬ高姫さまが高砂島より帰りまし 互に無事を祝しつつ思ひがけなき麻邇宝珠の 珍の神業につかはれて聖地に帰り来りたる 此嬉しさは何時の世か身魂の限り忘れまじ 玉治別の宣伝使御魂の曇りし黒姫が 身を卑下すまずいつ迄も親子の睦びいや深く 続かせ玉へ惟神神の御前に平伏して 真心尽して願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 玉治別は黒姫の後に続いて歌ひ初めたり。 玉治別『思へば昔フサの国高井ケ岳の山麓に 其名も高き人子の司高依彦や高依姫の 夫婦が情に育まれ十五の年の春までも 吾子の如く労はりて育て玉ひし有難さ 時しもあれや真夜中頃覆面頭巾の黒装束 五人の姿は表戸を蹴やぶり座敷へ侵入し 有無を云はせず両親を高手や小手に縛めて 凱歌を奏して帰り往く吾は子供の痩力 山より高く海よりも深き恵を蒙りし 育ての親の危難をば眺めて居たる苦しさに 父の秘蔵の守り刀取るより早く荒男が 群に向つて斬り込めど何条もつて耐るべき あなたも強者隼の爪磨澄まし小雀を 掴みし如く吾体又もや高手に縛りつけ 山奥さして親子三人あへなくも連れ往かれたる悲しさよ 吾は隙をば窺ひて高井ケ岳の山寨を 後に見捨てて逃げ出し父母二人を救はむと 心を千々に配る折二人の義親は木の花の 姫の命に助けられ此世に無事に居ますぞと 聞いたる時の嬉しさよ高井の村に立ち帰り 高依彦や母君に出会ひて無事を祝しつつ 暫く此処に居る中に二人の仲に生れませる 玉をあざむく男の子玉春別と命名し いよいよ茲に育ての親は誠の御子を生みしより 両親様の許し得て真の父母を探らむと フサの国より月の国漸く越えて自凝の 島にいつしか漂ひつ人の情に助けられ 宇都山村の春助が子無きを幸ひ養子となり 土かい草切り稲麦を作りて其日を暮らす中 天の真浦や宗彦が此処に現はれ来りまし 不思議の縁の廻り合ひ妹のお勝を吾妻に 娶りて神の道に入り玉治別と宣伝使 清けき御名を授けられ三五教を遠近に 開き伝ふる折もあれ三十五年の時津風 吹き廻り来て村肝の心筑紫の火の国で 真の母に廻り遇ひ天にも昇る心地して 今日の生日を祝へどもまだ気にかかる垂乳根の 父の命は今いづこ遇はま欲しやと朝夕に 祈る吾こそ悲しけれあゝ惟神々々 御霊幸倍ましまして一日も早く吾父に 遇はせ玉へよ天津神国治立大御神 神素盞嗚大神の御前に畏み願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 と、母に遇うた嬉しさと、父に遇はれぬ苦しさと悲喜交々混はりたる一種異様の声調にて歌ひ了り、悄然として項垂れ居たりける。 (大正一一・九・一九旧七・二八加藤明子録)
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霊界物語 33_申_玉の御用の完了/高姫と黒姫の過去 22 高宮姫 第二二章高宮姫〔九三七〕 高姫は、心の底より悔悟の色を現はし、一切の秘密を自ら暴露すべく、立つて歌を歌ひ始めたり。 高姫『三五教の宣伝使厳の御霊の系統で 日の出神の生宮と今まで固執して来たが 思へば思へば恐ろしい誠の素性を明すれば コーカス山に現れませるウラルの彦やウラル姫 二人の中に生れたる吾は高宮姫命 神素盞嗚大神の使ひ玉へる宣伝使 松竹梅を初めとし石凝姥の東彦 高彦などが現はれて言霊戦を開きてゆ 母と現れます大気津の姫命は逸早く アーメニヤへと帰りまし其時妾は小娘の 詮術もなく暮す折御伴の神を引つれて 高天原のエルサレム三五教の本城を 探らむ為と往て見れば眉目秀れし青年が 花の顔色麗しく向ふの方より進み来る 茲に妾は何となく其青年を慕はしく 後を追はむとしたりしが御伴の神が邪魔になり 甘く之をばまかむとて千思万慮の其結果 事を構へて追ひ散らし木かげに見ゆる恋人を 慕ひて進む山の路男は足もいと早く いつの間にやら山蔭に姿をかくし玉ひけり かよわき女の足を以て追つく術も泣き倒れ 助けてくれと呼ばはれば恋しき人は驚いて わが傍へスタスタと帰り来ませる恥かしさ これこれ旅の女中さま只今助けを叫んだは お前の声ではなかつたか訝かしさよと尋ねられ 答ふる由もないじやくり「ハイハイ誠に有難う あなたのお蔭で悪者は雲を霞と逃げました」 「何卒用心なされませ女の危い一人旅」 「あなたも若い身を以て此山路を只一人 お行きなさるは如何しても危険が体に迫りませう なる事ならば妾を何卒連れて此坂を 向ふへ越えて下さい」と二つの睫毛に唾をつけ 泣き真似すれば恋人は稍同情の念に暮れ 「ホンに危ない山路よ私も貴女も一人旅 願うてもなき道づれだそんなら一緒に行きませう」と 答へてくれた嬉しさよ人も通らぬ山路を 若き血汐に燃え立つる二人の男女が手を引いて 嬉しく楽しく話しつつ貴の聖地へ行く途中 いつとはなしに四つの目がピタリと合うた恋鏡 燃ゆる思ひが如何にして互の心に映らめや 忽ち妥協は成立し水も洩らさぬ仲となり 黄金山下に身を忍び庵を結びて暮す中 日に夜に吾身が重くなり月を重ねて腹太り 生れおとした男の子名も金太郎と与へつつ 二月三月暮す中三五教の宣伝使 北照神が現はれて信仰調べを始めかけ 恋しき人は筑紫国都に居ます神人の 尊き御子と見破られ親の恥をば曝すのは 辛いと云つてあわて出しコリヤ高姫よ高姫よ 聞けばお前はウラル教大気津姫の御腹より 生れ出でたる御子なれば如何して永く添はれうぞ 神の咎めも恐ろしい二人の縁はこれ迄と 諦めここで別れよかと藪から棒の言の葉に 妾は心も転倒し泣いつくどいつ頼め共 袖ふり切つてスタスタと暗に紛れて逃げましぬ 後に残つた一振の守り刀に「東」の字 「高」の印を刻みたる剣を記念と残しおき 雲を霞と消え失せし男の無情を歎ちつつ 幼児抱へし女の身いかに詮術なき儘に 守刀に綾錦守袋に金太郎と 名をば書き添へ四辻に不憫乍らも捨子して なくなく此処を立別れメソポタミヤの顕恩郷 バラモン教を探らむと尋ね詣でて暫くは 神の教を聞きつるが夫の君の守りたる 三五教を守りなば神の恵の幸はひて 恋しき夫に何時の日か巡り合ふ世もあるならむ 三五教に若くなしと系統の身魂と詐りて フサの御国に居を構へ教を開く折柄に 変性女子の行方が心に合はぬ所より ウラルの教と三五の教を合はしてウラナイ教と 大看板を掲げつつ北山村に立籠り 教を開き居たりけるそれより進んで自凝の 神の島なる中心地由良の港に程近き 魔窟ケ原に黒姫を遣はし教の司とし バラモン教の大棟梁鬼雲彦や三五の 教の道を根底より改良せむといら立ちて 心を千々に砕きしが神素盞嗚大神の 仁慈無限の御心が身に浸みわたり三五の 誠の道に入信し教司に任けられて 茲まで仕へ来りけり思へば思へば罪深き われは此世の曲津神今まで積み来し塵芥 清むる由もないじやくり心に恥づる折柄に 黒姫さまの物語筑紫の島の熊襲国 建日の館の神司建国別の身の上を 思ひ廻せば紛れなき吾子に相違あらざらむ あゝ惟神々々神の恵の深くして 錦の宮の聖場でいとしき吾子の所在をば 探り得たりし嬉しさよさはさり乍ら其時の 夫の命は今何処此世に生きていますなら 定めて吾子の行先を行く年波と諸共に 思ひ出して朝夕に心を痛めますならむ あゝ惟神々々国治立大御神 神素盞嗚大御神金勝要大御神 一日も早く親と子の憂き瀬にさまよふ憐れさを 救はせ玉へ惟神神の御前に高姫が 慎み敬ひ願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と力なげに歌ひ、恥かしげに其場に俯く。 黒姫は少しく笑を含み、いそいそとして、 黒姫『高姫さま、あなたの素性を承はりました。何とマア、時節といふものは恐ろしいもので御座いますなア。私は今まで稚姫君尊様の孫さま位に信じて居りましたが、マア恐ろしいウラル彦、ウラル姫の腹から生れなさつた貴女とは、夢のやうで御座いますワ。さうしてマア随分と私と同じ様に、若い時は勝手気儘を遊ばしたと見えますなア。互に人が悪いと思へば皆吾が悪いのだと、神様が仰有いますが、ようマア屑人間ばかり是れだけ引よせて、大切な御用をさして下さつたものです。之を思へば本当に大慈大悲の神様の大御心が有難くて堪りませぬ。神素盞嗚大神様、国武彦命様は申すに及ばず、言依別の教主様も確に御存じであつた筈、何時やら言依別神さまが私に向ひ、高姫さまは決して厳の身魂の系統ではない、あれは大気津姫の腹から生れた女だと仰有つた事が御座いました。その時に私はドハイカラの教主が訳も知らずに、何を言ふのだ、人の悪口を云ふにも程があると思ひ、腹が立ち、それから一層あなたを思ふやうになり、言依別命が癪に障つてなりませなんだ。誹る勿れと云ふ律法を守らねばならぬ、併も教主とあるものが、何といふ情ないことを仰有るのか、ヤツパリ悪の霊の守護に相違あるまいと、心の中に蔑んで居りましたが、今思へばホンに言依別命様も偉いお方だ。どんな悪の霊でも、魂を研いて改心さして結構な御用に使うてやらうとの思召、私は有難うて、今更の如く涙が止まりませぬワイナ、オンオンオン』 と声を放つて泣き立てる。一同は黒姫の話を聞いて、今更の如く大神を初め、言依別命の広き心に感歎するのみであつた。 高姫『そんな事が御座いましたか。私も此れでスツパリと改心を致します。生れ赤子になつて、今後は何事も英子姫様、東助様の指図に従ひ、御用の端に使つて頂きませう。かやうな身魂の悪い素性の人間と知り乍ら、麻邇宝珠の御神業迄さして下さつた、其御高恩は何時になつても忘れませぬ。ホンに今まで言依別命の美はしき優しき御心を知らなんだか、エヽ残念な、定めて高姫ははしたない女だと、心の奥で笑うてゐられたであらう。実に情ない事で御座います。斯様な母親があつたかと、伜が聞いたら、どれだけ悔むでせう。又私の若い時の掛合の男が此世に居つて、私の脱線振りを聞いたなら、さぞやさぞ愛想をつかして、折角廻り会うても、逃げて了はれるでせう。ホンに私には矢張悪霊が守護してゐたに違ありませぬ……あゝ神様、どうぞ赦して下さいませ。誠に今日迄は済まぬ事を致しました。今度こそ本当に改心を致します。今までは改心々々と申して、掛値を申上げて居りました』 秋彦は思はず吹き出し、 秋彦『ウツフヽヽヽ高姫さま、改心の掛値といふのはどんな事ですか、私には分りませぬがなア』 高姫『秋彦、どうぞ堪忍して下さい。恥かしうて何にも言へませぬから、恋しい吾子にさへも会ふのが恥かしうなつて来たのだから……』 秋彦『さうすると、今日のあなたの改心は生中も掛値のない、ネツトプライス[※ネットプライスとは英語で net price 原価(製造原価や仕入原価)のこと。]の正札付の改心ですか、オツホヽヽヽ』 東助『コレ秋彦、お黙りなさい。此愁歎場が俄に晴やかになつては、薩張興がさめて了ふぢやないか。サア是からこの東助が罪亡ぼしに、一つ愁歎場をお聞きに達しようアツハヽヽヽヽ』 (大正一一・九・一九旧七・二八松村真澄録)
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霊界物語 34_酉_黒姫のアフリカ物語1 13 行進歌 第一三章行進歌〔九五四〕 房公、芳公の二人は虎公外三人を伴ひ、建日の館をさして、道々無駄口を叩きながら進み行く。 房公は声を張り上げて謡ひ出したり。 房公『三五教の宣伝使真黒々の黒姫が 夫の所在を探ねむと孫、房、芳の三人を 自転倒島から連れて来て建日の別の旧蹟地 岩窟のすこし手前にて孫公さまが躓いた 房、芳二人は仰天し水よ気付と狼狽へて 介抱するにもかかはらず黒姫さまは何故か ニヤリニヤリと笑つてる冷酷非道の鬼婆と 心の中にて憤慨しオツトドツコイ危ないぞ そこには尖つた石があるどいつも此奴も気を付けよ 孫公のやうに躓いて怪我を致しちや堪らない オツトドツコイ脇道へ俺の歌奴が脱線し 分らぬやうになつて来た黒姫さまは何故か 悪垂口を叩きつつ痛さに苦しむ孫公を 見向きもやらず捨てて往く吾等二人は是非もなく 黒姫さまに随うて岩窟の前に往て見れば 闇の帳は忽ちに引き下されて目も鼻も 口の所在も分らない茲に一行三人は 天津祝詞を奏上し憩ふ折しも岩窟の 中より響くドウラ声ハテ何者の出現と 心を配る折もあれ岩窟の中より黒姫を 悪垂婆アと呶鳴り出す黒姫さまは腹をたて 何だかんだと争ひつ腰折だらけの歌をよみ やつとその場のごみ濁し命からがらドツコイシヨ 夜明けを待つて逃げ出せば胸つき坂の右左 草ぼうぼうと生え茂る細谷道をハアハアと 息をはづませ来る中に喉をかわかせ両人が 苦しむ折しも傍に滾々として湧き出づる 甘き清水に喉湿し黒姫様にいろいろと 小言八百並べられ湧いた水より劫わかし 横にごろりと長くなるどうしたものか両人の 尻は大地に吸ひついてビクともしない苦しさに 黒姫さまに誤解され放ときぼりを喰はされた 吾等二人の腑甲斐なさ黒姫さまは吾々を 後に見捨てて登り行く二人は後を見送つて 悪垂婆アの黒姫と呟く折しも忽ちに レコード破りの暴風雨巨石を飛ばし木を倒し 礫のやうな雨が降るこりや堪らぬと一心に 天地の神を祈る折忽ち聞ゆる宣伝歌 玉治別の玉の声聞ゆる間もなく荒れ狂ふ 風雨は忽ち鎮静し平和の雲は中天に 揺ぎ初めたる嬉しさよそれより吾等は黒姫の 後を追ひかけ来る折高山峠の下り坂 岩石崎嶇たる峻坂にふと出遇した四人連れ 此奴はテツキリ泥棒と早合点の両人は 天狗の孫と偽つて威してやらむと思ふ間 思ひもかけぬ虎公が草鞋をやらうと吐す故 いやいやながら受け取つてお気に召さねどドツコイシヨ 此処迄はいて来てやつた芳公の痩相撲漆山 鬼ケ嶽との相撲話面白をかしく喋り立て 茲に六人は兄弟の気取りとなつて火の国[※熊襲の国の間違いか?火の国にあるのは高国別(建能姫の父。別名・高山彦)の館である。]の 建日の館に出でて往く嘸今頃は黒姫は 建国別に面会しお前は吾子か母さまか 逢ひたかつた見たかつた尊き神の引き合せ こんな嬉しい事あろか何は兎もあれ第一に 天津祝詞を奏上し感謝祈願を申上げ 館の上下打揃ひドツサリ祝ひを致さうと 嘸今頃は神館上を下へと騒がしく 喜び勇む事だらうあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして黒姫さまも今迄の 我情我慢を改めて誠の神の司とし 三五教の御光を照らす真人となさしめよ』 と謡ひ乍ら、房公は虎公の後に随いて往く。虎公は此歌に引出されてか又もや謡ひ出したり。 虎公『武野の村の玉公がどうしたものか此頃は 家の秘蔵の水晶玉黒点出来たと気を焦ち こいつア全く黒姫と云ふ曲神が此島に やつてうせたに違ひない今から急ぎ山頂に 登つて待てば黒姫が登つて来るに違ひない オイ虎公よ俺のため嶮しい坂ではあるけれど どうぞ送つて呉れないかお前を男と見込んでの 俺の頼みぢやと吐す故忙し中を繰合し 乾児の奴を引き連れて高山峠の絶頂で 三五教の黒姫が登り来るをドツコイシヨ 今や遅しと待つ間に玉公さまの発起にて 白と黒との石集め勝負を初むる折柄に 待つ間程なく黒姫が草鞋脚絆に身を固め 金剛杖に蓑笠の軽き扮装スウスウと 息をはづまし登り来る此奴アてつきり黒姫に 相違あるまいドツコイシヨ皆々気をつけ危ないぞ 一つ辷れば谷底ぢや黒姫さまの物語り 耳を澄まして聞く中に火の国都にかくれなき 高山彦の女房と聞いて五人は吃驚し 合点の往かぬ事だなアうつかり手出しは出来ないと 初めの勢ひどこへやら勇みきつたる虎公も 忽ち猫と早変りこらまア何と云ふ事だ 合点のゆかぬ節があるそれにモ一つ不思議なは 黒姫さまの若い時捨子をしたのが武野村 神の館のドツコイシヨ建国別ではあるまいか 一つ訪ねて見ようかと心ありげに云ふ故に 玉公さまは呑み込んで案内の役と早替り 悪魔と思うた黒姫の唯一の力となり果てて 神の館へ導いた黒姫さまが云ふ事にや 房、芳二人の伴の奴後から来るに違ひない 虎公さまよお前達此処に待ち受け両人を 否応云はさず捕まへて建日の館へ連れて来い キツと頼み置くぞよと黒い顔して云ふた故 ウンと呑み込み男達虎公さまもドツコイシヨ 一度人に頼まれて後へは引けぬ此気質 房公、芳公両人の力の弱い蛆虫を 今か今かと待つ間に房公さまが真跣足 血潮を足から流しつつ天狗の孫だと空威張り 坂道下るをかしさよそこで虎公が声をかけ 尋ねて見れば黒姫のお後を慕うて来た二人 社会奉仕の積りにて草鞋一足放り出して 是を穿けよと云つたらば二人の奴は喜んで 女子の腐つた奴のよにべそべそ涙を流しつつ ハイハイ頂戴致しますどこの誰人か知らねども 見知らぬ他人の此私価も無しに頂くは 私の心が済みませぬ価を取つて下されと 遉律義の申分こいつア矢張麻柱の 道を奉ずる信徒と思うた故に虎公は 元気をつけてやつたれば忽ち変る空威張 肩肱怒らす面白さ芳公さまが図に乗つて 俺でも元は芳野川自転倒島にて名をあげた 負た事なき相撲取鬼ケ嶽とドツコイシヨ 二番勝負をした時に先には俺が負たれど 後は先方が勝ちよつた何の彼のと負惜み ドツコイドツコイドツコイシヨ減らず口をば叩きつつ 終の果にや房公に薩張実状あばかれて 芳野川とはドツコイシヨ隣に住んだ相撲取 褌持のドツコイシヨ握り飯をば喰ふやつ 取つたら仰むく鍋蓋と名乗りを上げた痩相撲 触ればまけるウントコシヨ漆山だと打ち名のり 其場のごみを濁しつつ此処迄やつと従いて来た 芳公さまの罪のなさあゝ惟神々々 御霊幸倍坐しまして建国別の宣伝使 黒姫さまの生みの子でどうぞあつて欲しいもの ドツコイドツコイさうなれば黒姫さまも落ち付いて 爺の後を探ねまい吾等が信ずる宣伝使 高山彦の御前で何だかんだと痴話喧嘩 ごてごて云はれちや堪らない俺ばつかりか愛子姫 其他数多の人々も定めし迷惑するだらう 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも黒姫さまが三五の 真の道に猛進し恋の妄執相晴らし 建国別の館にて母子夫婦の睦み合ひ いやとこしへに神の道四方に照らして呉れるやう 純世の姫の御前に武野の村の男達 虎公さまが真心をこめてぞ祈り奉る 嗚呼惟神々々御霊幸倍ましませよ』 と歌ひ終るや、芳公は又虎公の歌に引かされて坂道を歩みながら駄句り初めたり。 芳公『あゝ惟神々々神が表に現はれて 善と悪とを立て別ける此世を造りし神直日 心も広き大直日直日のみたま幸はひて 黒姫さまが探ね来る高山彦との関係を 事なく納めたまへかしウントコドツコイ危ないぞ どいつも此奴も気をつけよそこには深い谷がある 黒姫さまが又しても高山さまに口答へ 金切声を絞り上げ呶鳴り散らされドツコイシヨ 荒れ狂はれては堪らない第一神の名を汚し 三五教の面汚し高山彦の面目は 茶ツ茶無茶苦になるだらう俺はそいつが気にかかる 何とかドツコイ穏かに納めて見たいと朝夕に 神に念じて居る哩のさはさりながら此度は 都合のよい事出来てきた三十五年の其昔 赤襟姿の黒姫が粋な男とドツコイシヨ 人目を忍んでこしらへたドツコイドツコイドツコイシヨ 赤子を無残に四つ辻に捨てた思案の後戻り やうやう此頃気がついて血道をあげてほれきつた 高山さまよりドツコイシヨ吾子の方が可愛なり 火の国行を後にして建日の館に往たさうな 是も尊き神様の仁慈無限の引き合せ ほんに目出度いお目出度いさはさり乍らひよつとして 建国別の宣伝使黒姫さまの子でなうて ドツコイシヨウドツコイシヨウ人の捨子であつた時 どうして心が納まろかそれ計りが気にかかる ウントコドツコイドツコイシヨ国魂神の純世姫 金勝要の大神の御守護を願ひ奉る あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 と謡ひながら建日の館をさして進み行く。 (大正一一・九・一三旧七・二二加藤明子録)
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霊界物語 37_子_出口王仁三郎自叙伝1 15 盲目鳥 第一五章盲目鳥〔一〇二七〕 五月雨の空低うして、四辺の山は雲に包まれ、杜鵑の鳴く声遠近に聞える、穴太宮内垣の賤が伏家も、今は犬の手も人の手と称する田植の最中、片時を争ふ農家の激戦場裡で、遠近の人々は植付、麦刈などに忙殺されて、教の門を潜る人々の足も杜絶えた折柄、身なり賤しい一人の婦人、両眼のあたりを白き布にて繃帯し乍ら、杖を力に、 婦人(小末)『先生はお在宅ですか?』 と尋ねて来た。婆アサンが案内とみえて、一人付いて居る。此頃は参拝者がないので、神殿に於て心ゆく迄、幽斎の修行にひたつて居た喜楽は、此声を聞いて、 喜楽『マアマア』 と狭い座敷へ通し、来意を問へば、眼病を治して欲しいので、はるばる参拝したとの事であつた。どことなく何時かは見たことのある様な女と、訝かり乍ら住所姓名や、来歴を問うて見た。女は恥かしげに顔を赤らめ、稍俯むき気味になつて語る。 婦人(小末)『私は西別院村の小末と申す者で御座います。見るかげもなき貧乏人で、屋根はもり、壁はおち、明日の糧を貯ふるの余裕もなき貧しい暮しの中に、私の夫は長の病になやまされ、私は産婦の重き身の上、働きすることさへも叶はねば、朝夕の糊口に差支へ、銭となるべき物は売り払ひ、質におき尽くして、今は最早何もなき極貧の身の上、医薬の手だてさへなく、夫は無残にも死を待つより仕方のない身の上となりました。草根木皮を食ひ、一時の命をつないで居りましたが、何の因果か、夫婦の体は水腫れを起し、夫は遂に幽界の人となつて了ひました。取りのこされた私は、まだ出産後僅に一週日、血の若い身で、赤児をかかへて、形許りの弔ひをすませ、さむしい日をおくる内にも、村の人達の無情さ、米屋は米代を払へとせめてくる、醤油屋は醤油代を渡せときびしい催促に、如何することも出来ませず、一層の事私も夫の後を逐ふて此世の暇乞ひをせうかと思案に沈み乍ら、五つになつた先妻の子や、一人の赤子の愛にひかれて、死ぬことも出来ず、心弱いは女の常とて、何の考へもなきまま、大阪に嫁入つて居る姉を便つて一時の急場をのがれやうと、去る日の夜中頃、赤子を背に五つの子の手を曳いて、吾家を後に山路を辿り、出て行きました、其途中、亡夫を葬つた墓が御座いますので、暇乞の為に立寄り水を供へ、幸ひ傍に人影もなければ、心の行く丈愚痴の繰言をくり返し、心を残して墓場を立去る、時しも夫の墓の畔から現はれ出でたる怪しき物かげに、思はず知らず母子は声を揃へて泣き叫びました。不思議にも其怪しの人影は、夫の亡霊であつたか、何だか分らぬことを大声に叫び乍ら、吾家の方へ走せ行きました。そこで私の思ひますには、墳土まだ乾かず、五十日もすまぬのに夫の墓の土地を離れむとしたのは誠にすまぬことであつた。夫の霊は私等の大阪へ行くのを嫌うて居るのであらうと心を取直し、力なげに再吾家へ帰つて来ました。其時の驚きが災禍となり、遂に斯の如く両眼を失ひ、其上昼夜疼痛に苦しむこと限りなく、一人の赤子も亦十日以前に、乳のとぼしい勢か身体が痩衰へて、亡き人の数に入りました。先妻の子は私が盲になつたので親類が預つてくれました。私は最早夫や子に別れ、此世に生きて何の望みもありませぬから、せめては夫や吾子の霊を弔うて、善根を尽くすより途は御座りませぬが、何をいうても盲目の不自由な身の上、どうぞお助け下さいませ』 と涙を流して泣き叫ぶ。此物語の始終を聞いた喜楽の心は、一節一節胸に釘鎹を打たるる如くであつた。あゝ心に当るは過ぎにし春の月の夜半の出来事、大阪より帰りの途次、眠けにたへずして、とある墓場に石枕、計らず会せし妖怪変化と疑うた影は、正しく此婦人であつたか、逐一事情をきくにつけ、気の毒にも此女が眼病にかかつた原因は、自分が突然墓から逃出した其姿を見て、亡き夫の幽霊と誤解し、驚愕の余り、若血の身の上とて逆上して目にあがつて、こんな不具者となつたのであるか、吁気の毒だ。何とかして生命に代へても此眼病を直してやらなくては、神さまに対して済まない。又自分の責任がすまぬと、直に荒菰を大地に布き、井戸端に端坐して、頭からザブザブと水ごりを取り、拍手再拝祈願の祝詞を奏上し、一心不乱に勤行した。其至誠に畏くも神明感じさせ玉ひけむ、今まで苦痛に悩みし両眼の痛みは忘れた様に鎮静し、あたりをじつと見まはし乍ら、思ひがけなき此世の光明に飛び立つ許り打喜び、 小末『先生お蔭で目があきました。アヽ勿体ない辱ない!』 と伏し拝む。此場の奇瑞に祈願者の喜楽も打驚き、即時の霊験と、又不思議の邂逅に、神界の深甚微妙なる御経綸に敬服したのである。 此女は石田小末といふ。これより幽斎を日夜に修業し、神術大いに発達し、遂に小松林、松岡などの高等眷族の神霊懸らせ玉ひて、いろいろ幽界の有様を表示し、其後百余日の後再び大阪の姉の家に行かむと、喜楽に別れを告げて出て行つた儘である。 大本の神の教を伝へむと 山路遥に越ゆる津の国。 浪速江のよしも悪きも神術と 知らずに下る淀の流れを。 千早ぶる神の教を畏みて 駒立て直し元の丹波へ。 足曳の山路を夜半に辿る身は 御空の月ぞ力なりけり。 ゆくりなく巡り会ひたる嬉しさに 誠の神の恵悟りぬ。 惟神神の御霊の幸はひて 此物語世にてらしませ。 (大正一一・一〇・一〇旧八・二〇松村真澄録)
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霊界物語 42_巳_黄金姫&清照姫の入那の国の物語2 15 帰城 第一五章帰城〔一一四〇〕 天の目一つ神司竹野の姫の鎮まれる 高照山の岩窟を後に見捨ててスタスタと 狼猛ぶ山道を黄金姫を初めとし 四方の景色も清照姫の神の命や竜雲や テームス、レーブ、カル、リーダー数多の供人従へて セーラン王やヤスダラの姫の命は悠々と 駒に跨り荒野原吹く凩にさらされつ 照山峠も乗り越えて轡を並べ帰り来る 其御姿の雄々しさよイルナの都の入口に 帰り来れる折もあれ左守の司のクーリンス 家の子郎党引き連れていと慇懃に出迎へ セーラン王の帰館をば悦び勇み前後 兵士共に守らせて旗鼓堂々と城内に 漸く帰り来りけり奥の一間に黄金の 姫の命は立て籠りセーラン王の声色を 使つて右守の神司縦横無尽に操りつ 清照姫はヤスダラの姫の命と仮名して 言霊剣ふりかざし恋に狂ひし右守をば いとサンザンに悩ませる時しもあれや受付に 慎しみ畏み仕へたる腰の曲りしミル司 右守の司の前に出でセーラン王の一行が 数多の供人諸共にいよいよ只今御帰館と 其報告に肝潰し四辺キロキロ見廻しつ 両手を組んでドツと坐し摩訶不思議なる出来事に 煩慮するこそをかしけれあゝ惟神々々 御霊幸はへましまして縺れに縺れし物語 いとながながと説いてゆく此有様を諾ないて いとスクスクと口車辷らせまたへ麻柱の 神の御前に瑞月が謹み敬ひ願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ。 セーラン王一行は、奥の間に進み入り、見れば清照姫、カールチンの二人が黙然として俯向いて居る。セーラン王は、直に三十一文字をもつて怪しみ問ふ。 セーラン王『思ひきや右守司のカールチン 千代に栄ゆるわが居間にありと。 何事の起りし事か知らねども 清けき居間を犯す痴者。 逸早く右守の司わが居間を 清めて去れよ神のまにまに。 怪しかもイルナの城の内外を 包む魔神の声さやぐなり』 ヤスダラ『なれこそは妾が身をば虐げし 右守司のカールチンかも。 カールチンよ一日も早く村肝の 心清めて誠にかへれ。 ヤスダラ姫神の命は一柱 二人あるとは思はざりけり』 清照『ヤスダラ姫神の命の魂は 清照姫と輝きませば。 今しばし尊き御名を借りにけり 醜助けむと思ふばかりに』 ヤスダラ『黄金の姫の命は今いづこ その御消息の聞かまほしさよ』 清照『黄金の姫の命は奥の間に セーラン王の声音つかひつ。 カールチン醜の身魂を洗はむと 母娘二人は心砕きつ』 カールチン『吾こそは恋の擒となり果てて 恥をかくとは思はざりけり。 兵士をハルナの国に遣はして 翼とられしやもめ鳥あはれ。 かくならば最早右守の神司 君の御前に命捧げむ。 いざさらば命を召せよセーラン王 欲と恋とに迷ひし吾を』 セーラン『何程の罪や汚れのあるとても 直日の神は許しますらむ。 いろいろと恋の魔神に操られ 汝が司の目や醒めにけむ』 黄金姫は奥の間より、隔ての襖を押しあけて微笑しながら出で迎へ、セーラン王、ヤスダラ姫に向ひ、会釈しながら三十一文字を詠む。 黄金姫『有難しいと畏しと思ふかな 尊き君の無事の帰城を。 大君の御後を守る親と子が 摩訶不思議なる夢を見しかな。 カールチン、ユーフテス等がいろいろと 恋路に迷ふ様のをかしさ。 腸も破るるばかりの可笑しさを こらへて今日が日をば待ちける』 カールチン『二世までと契りし妻を振り捨てて 思はぬ方に心寄せつつ。 思はざる人に思はれ恋はれしと 思ひし事を悲しくぞ思ふ。 今ははや心の闇も晴れ渡り 真如の月の光見るかも』 竜雲『吾とても右守の司に相似たる 醜業仕へし事もありけり。 さりながら御恵深き大神は 咎め給はず吾を生かしつ。 カールチン神の司よ聞し召せ 悔い改めは人の宝ぞ』 カールチン『畏しや竜雲司の御言葉は 救ひの神の声と響きぬ。 今よりは生れ赤子になり変り 神と王とに誠捧げむ』 テームス『イルナ城内外を包みし村雲も 晴れて嬉しき今日の空かな』 リーダー『遥々とテルマン国を立ち出でて 今日は嬉しき夢を見しかも』 レーブ『吾とても元よりめでたきものならず 君に叛きし曲津神なる。 さりながら尊き神の御光に 照らされ今は真人となれるも』 カル『大黒主神の軍に従ひて 道踏み外し谷間に倒れぬ。 此世をば照国別の現はれて 救ひたまひし事の嬉しさ』 清照『有難し忝なしと大前に 朝な夕なに太祝詞宣れ。 セーランの君の命はイルナ城の 誉も高き元の刹帝利。 いろいろと曲を企みし右守をば 見直しまして救はせ給へ。 清照姫神の命の悪戯を 怒らせ給ふな右守の司よ』 セーリス姫は王の帰城と聞きて慌しくかけ来り、 セーリス姫『珍らしやセーラン王と姉の君 百の司の帰城を祝はむ。 ヤスダラの姉かへりますと聞きしより 高照山の空を仰ぎつ』 (大正一一・一一・一六旧九・二八加藤明子録)
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霊界物語 42_巳_黄金姫&清照姫の入那の国の物語2 19 野襲 第一九章野襲〔一一四四〕 入那城の奥の一間には、黄金姫、清照姫、ヤスダラ姫、セーリス姫の四人は火鉢を中に囲みながら、神話に耽り、話は転じてカールチンの身の上に移つた。 黄金『右守司も種々雑多として刹帝利の位にならうと思ひ、工夫に工夫を廻らしてゐたが、とうとう清さまの美貌に迷ひ、欲と恋との二道を歩まむとして、一も取らず二も取らず、しまひの果には諦めたと見え………兵士をハルナの国へ遣はして、翼奪られしやもめ鳥あはれ………なぞと王様の前で泣言をいつて帰つて了つたが、併しあれは本気で改心をしたのではありますまい。キツと今晩あたり、失恋組を語らうてむし返しに来るかも知れませぬから、皆さま、決して油断はなりませぬぞや』 セーリス『左様な御心配は要りますまい。………かくならば最早右守の神司、君の御前に命捧げむ………と云つたのですから、ヨモヤそんな事は出来ますまい。三百騎の味方は既にハルナの国へ派遣し、武力は既に既に根底から削がれてゐるのだから、何程向ふ見ずの右守だつて、そんな馬鹿なことは致しますまいよ。………いざさらば命をめせよセーラン王、欲と恋とに迷ひし吾を………と云つて、命まで差出したのですからな』 清照『さう楽観は出来ますまいよ。恋の意地といふものは恐ろしいものですからなア。私がヤスダラ姫様になりすまして、力一杯翻弄したのだから、男の面を下げて、どうしてあのまま泣き寝入りが出来ますものか。お母アさまの仰有る通り、キツと今晩あたり、失恋組が暗殺隊を組織してやつて来るに違ひありませぬ………思はざる人に思はれ恋はれしと、思ひしことを悲しくぞ思ふ………と云つて、未練らしく愚痴をこぼしてゐましたもの、キツと此儘で泣き寝入りは致しますまい』 セーリス『それでも右守司は………今よりは生れ赤子になり変り、神と君とに誠捧げむ………と王様の前で言明したではありませぬか。あの時こそ私は右守司の心の底から出た言葉と感じました』 ヤスダラ『如何してマア此入那の城は暗闘が絶えないのでせう。昔から左守、右守は犬猫同様ぢやと聞いてゐました。仲の悪い者同志の標語は犬と猿とではなくて、入那城の左守、右守と云ふ用語迄出来てゐるではありませぬか。何とかしてかういふことのないやうに守つて貰ひたいものでありますなア』 黄金『ヤア是も誠の道の開ける径路かも知れませぬ。イヤ之が却て神様の尊き御守護ですよ。王者争臣五人あれば其位を失はず、諸侯争臣三人あれば其国を失はず、大夫争臣二人あれば其家を失はずとかいひまして、如何しても争ひといふものは根絶するものではありませぬ。又争ひの根絶した時は国家の亡ぶる時ですから、動中静あり、静中動ありといふ惟神の御経綸でせう。右守司の陰謀があつた為、セーラン王様も御威勢が天下に輝くのでせう。いつもかも平穏無事であれば、王様を始め人心弛緩して国家はますます衰頽し、政治を怠り、遂には国家自滅の悲運に陥るものです。これを思へば右守司だつてヤツパリ入那の国の柱石、心の企みは憎むべきであるが、彼が謀反を企んだ為に王の位置はますます鞏固となり、入那城の弛んで居つた箍は緊張し、国家百年の基礎を造つたやうなものですから、右守司にして改心した以上は、何処までも許してやらねばなりますまい。なア、ヤスダラ姫様、貴女は如何に思召しますか』 ヤスダラ姫『何事も善悪正邪は神様が御審判遊ばすのですから、吾々としては右守司の罪を糺弾することは出来ますまい。又自分に省みて見れば、罪に汚れた吾々同志が、如何にして人を審判く事が出来ませうぞ。只惟神に御任せするより仕方はありませぬ』 黄金姫『さうですなア。右守司だつて吾々と同じ神様の分霊、もとより悪人ではありませぬ。悪神に憑依されて、良心の許さぬ野心を遂行しようとしたのですから、其悪神を憐れみ肉体を憐れんで、善道に立帰るやうにせなくては、吾々宣伝使の職務が勤まりますまい。同じ神様の氏子だから、只の一人でもツツボにおとしては神界へ済みませぬ。右守司は春秋の筆法を以て論ずれば、右守司王位を守る入那城に忠勤を励むと見直し聞直すことも出来ませう。言はば入那城に対する救ひの神ですワ。あの鷹といふ鳥は、生餌ばかり食つて生きてる猛鳥だが、冬になると爪先が冷えて、吾身が持てないので、温め鳥といつて、小鳥を捕獲し、両足の爪でソツと握り、吾爪を温め、ソツと放してやるといふことだ。そして其小鳥の逃げて行つた方向をよく認めておいて、三日が間は其方面の小鳥を捕へないといふぢやありませぬか。鳥でさへもそれ丈の勘弁があるのだから、いはば王様は鷹で、右守司は温め鳥のやうなものだ。キツと賢明な王様は右守司の罪をお赦し遊ばすでせう。どうで今宵は夜襲に来るでせうが、大江山の眷族旭、月日、高倉明神様がお守りある以上は、キツと目的を得達せず、改心を致すでせう』 かく話す所へ、セーラン王は竜雲其他の忠実なる臣下を従へ現はれ来り、黄金姫に向ひ、 セーラン王『いろいろ雑多の御心配りに依つて、入那城も稍安泰の曙光を認めました。全く黄金姫様母子の御守護の賜物で厶います。返す返すも有難く存じます』 と感謝の意を述べ立てる。黄金姫は歌を以て之に答ふ。 黄金姫『月も日も入那の城に現はれて 三五の月の教照らせり。 三五の神の教を畏みて これの大道を守りませ君。 世の中に善しも悪しきも分ちなく 守らせ給ふ神の御稜威は』 セーラン『今となり神の教の尊さを 悟りし吾ぞ愚なりけり。 愚かなる心に智慧の御光を 照らさせ給ひし三五の神』 ヤスダラ『大君の御為国の御為と 思ひ悩みて神を忘れつ。 神なくて如何でか国の治まらむ われはこれより神に一筋。 神と君仰ぎまつりて国民に 誠を教へ諭し行かなむ』 竜雲『三五の大道を進む身なりせば 醜の曲津もさやるべきかは。 村肝の心ねぢけし竜雲も 神に照らされ真人となりぬ。 神を知り教を知るは人の身の 先づ第一の務めなるらむ』 清照『皇神の御稜威は空に清照姫の 神の司も心輝く。 今ははや入那の城を包みたる 雲霧払ひし心地こそすれ』 黄金『今しばし醜の雲霧包むとも 神の伊吹に払ひよけなむ。 セーランの王の命よきこしめせ 今宵は右守のすさびあるべき』 セーラン『よしやよし右守司の荒ぶとも 神の守りの繁き吾身ぞ。 惟神神の教に任してゆ 心にかかる村雲もなし。 悲しみも亦戦きも消え失せぬ 神の光に照らされし吾は』 セーリス『大君よ心ゆるさせ給ふまじ ひまゆく駒の繁き世なれば』 レーブ『われは今神の司に従ひて 高天原に住む心地なり。 さりながら高天原も苦しみの 交らふ世ぞと心許さず』 カル『かけまくも畏き神の御光を 仰ぎ敬ふ身こそ安けれ。 黄金姫貴の命に従ひて 入那の城に来りし嬉しさ』 テームス『照りわたる尊き神の御教に 常世の国の暗を照らさむ。 常世ゆく天の岩戸に隠れます 皇大神を引出しまつれ。 今は早天の岩戸の開け口 イルナの国もやがて栄えむ』 清照『大神と君と国との其為に 心尽しの果までゆかむ』 セーリス『よからざる事と知りつつユーフテスを あやつり来りし心恥し。 さはいへど神と君との為ならば 許させ給へ三五の神』 清照『われも亦よからぬ事と知りながら 右守の司をあやなしにけり。 カールチン右守の司よ赦せかし 清照姫のいたづら事を。 右守をばもとより憎しと思はねど 道の為には是非もなければ』 竜雲『何事も皇大神は許すべし 身欲の為のわざにあらねば』 かく歌ふ時しも、俄に玄関口の騒がしさに、レーブは一同の許しを受け、視察のために表へ駆け出した。レーブは息を凝らして外の様子を窺ひ見るに、右守司を始めユーフテス、マンモス其他十数人は、庭に敷物も敷かずドツカと坐し、携へ持つた瓢の酒をグビリグビリと呑みながら、手を拍つて切りに歌つてゐる。かと思へば、大刀を引抜き空を切り、右へ左へかけまはりつつ、バタリと倒れては起上り、一種異様の狂態を演じてゐる。レーブは不審晴れやらず、直に奥殿に引返し、王の前に復命した。 レーブ『申上げます、庭先の騒々しさに、命に依つて何事ならむと覗ひみれば、豈はからむや、右守司、門先に十数人の部下と共にドツカと坐し、酒を汲み交し、歌つて居るかと見れば、長刀を引抜き、前後左右に切り捲つて居りました。察する所、白狐さまに騙されて、月照る土の上によい気になつて酒宴を催してゐるのでせう。右守司は大変ないい声で詩吟をやつてゐました………月卿雲客或は長汀の月に策をあげ、或は曲浦の波に棹をさし給へば、巴猿一度叫んで舟を明月峡の辺に停め、胡馬忽ち嘶いて道を黄沙磧の裏に失ふ………なんて意気揚々と剣舞をやつてゐましたよ。あの詩から考へて見ますれば、畏くも王様を放逐し、あとの天下を握つた夢を見てゐるらしう厶います。実に乱痴気騒ぎといつたら見られたものぢや厶いませぬ』 セーラン王『軈て目が醒めるだらうから、明日の朝まで打ちやつておくがよからう。折角天下を取つた夢を見て喜んでゐるのに、中途に醒してやるのは気の毒だ。夢になりとも一度天下を取つて見たいといふ者がある世の中だから、一刻も長く目の醒めぬやうに楽ましてやるがよからう。アハヽヽヽ』 黄金『オホヽヽヽ王様も余程仁慈の心が発達しましたねえ。其御心でなくては、人の頭にはなれませぬぞ。サア皆さま、明日の朝まで、ゆつくりと就寝致しませう。明日は又面白い芝居が見られませうからなア』 清照姫『お母アさま、御願ですが、私だけ一寸其場へ出張させて頂く訳には行きませぬか。メツタに心機一転して、右守司様に秋波を送るやうなことは致しませぬから………』 黄金姫『オホヽヽヽ何と云つても剣呑で堪らないから、清さまは母の側を一寸も離れちやなりませぬ、猫に鰹節だからなア。オホヽヽ』 清照姫『お母アさまの御心配なさらぬやうに、セーリス姫様、貴女と二人参りませうかねえ。さうすりや、お母アさまだつて心配はなされますまい』 セーリス姫『イエイエ、それでも貴女はカールチンさまに、私はユーフテスさまに揶揄つた覚えがあるのだもの、袖ふり合ふも多生の縁と云つて、万更の他人ではありませぬからねえ。ヒヨツとして出来心が起つたら、又お母アさまに要らぬ気を揉ませねばなりますまい。モウやめませうか』 清照姫『だつて貴女、此儘寝るのも、何だか気が利きませぬワ』 黄金姫『コレ清さま、腹の悪い。又しても老人に気を揉まさうと思つて揶揄つてゐるのだなア。モウ何時だと思つてゐなさる。山河草木も眠る丑満の刻ですよ』 清照姫『王様の前だから………左様ならば、今晩はドツと譲歩しまして、お母アさまの提案に盲従致しませう。盲従組のお方は起立を願ひます。オホヽヽヽ』 セーラン王は微笑を泛べながら独り寝室に入る。黄金姫其他一同も微笑しながら、それぞれ設けられた寝室に入つて夜を明かす事となつた。 (大正一一・一一・二四旧一〇・六松村真澄録)
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霊界物語 46_酉_小北山の宗教改革2 07 妻難 第七章妻難〔一二一七〕 お覚は歌ふ。 お覚『高姫司の開きたる北山村の本山を 蠑螈別や魔我彦の司に従ひ喜久さまと これの聖地に来て見れば思ひもよらぬ神憑 思ひがけなや吾魂は古き昔の因縁で 木曽義姫の守護神尊き神の御裔と 聞いたる時の驚きは何に譬へむものもなく 其驚きと嬉しさの雲に包まれゐたりけり 尊き神の命令は反くに由なく喜久さまと 三年を越えし今日迄も身を慎みて褥さへ 別にいく夜の淋しさを涙と共にしのびつつ これも昔の神代から世を持ちあらした天罰が 酬うて来たのに違ひないかうして身魂の借銭を つぐなひ下さる事ならばこんな結構な事はない 限りもしれぬ罪悪を直日に見直し聞き直し 百目の質に編笠を一介出してすますよな ボロイ尊い話ぢやとここまで教をよく守り 神に仕へて参りました其おかげやら今日は又 結構な事が分り出し半信半疑の雲はれて げに爽快な魂とスツパリ生れ変りました これもヤツパリ小北山鎮まりいます曲神の 一つはおかげに違ひない吾身に憑つた神様は 木曽義姫といふ事ぢやどこの狐か知らねども ようマア人の肉体をうまく使うたものだなア これぢやに依つて人間は注意をせなくちやならないと 三五教の神様が赤子の口にそら豆を かみくくめるやう親切に諭して下さる御仁愛 其お言葉をいつとなく忘れて了ひウラナイの 教司の高姫が水も漏らさぬ弁舌に 迷うた為に肝腎の尊き親を袖にして 訳の分らぬ神様に迷うて来たのが情ない 大きな顔して家の外どうしてこれが歩けよか とは云ふもののこれも亦仁慈無限の神様の お試しならむと見直せば見直されない事もない あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 此神山に天地の誠の神の降りまし 世人を普く善道に教へ導き吾身魂 救ひ給ひて天国の栄えを与へ給へかし 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも星は天より下るとも 山さけ海はあするとも三五教の神徳に 眼を覚した上からは如何なる事の来るとも 決して邪教にや迷はない曇つた眼は今あけて 真如の光明ありありと心の海に照り出した 仁慈無限の神様よ天の誠の五六七様 何卒々々吾々が汚い心を憐れみて 誠一つの三五の教を完全に委曲かに さとらせ給へ惟神珍の御前に願ぎまつる』 お福はまた歌ふ。 お福『さだ子の姫の肉宮と鈴野の姫をかね給ふ 内事司のお寅さま吾家に現はれ来りまし ウラナイ教の信仰をお勧めなさつた時もあれ 不思議や妾の身体は地震の如く震動し 胸苦しくもなつて来た此奴ア不思議とわれながら 怪しみ疑ふ時もあれ腹の底からウンウンと 唸り出したる玉ゴロが漸く喉へ上りつめ 口を切らうとした時は後にも先にもないやうな 苦しい思ひを致しましたお寅さまが吾家へ来るや否 不思議な事が出来たのは偉い神徳ある人だ 只のお方ぢやあらうまい尊き神の御化身と 信じて拝む折もあれ息は追々楽になり 旭の豊栄昇り姫これからお前は因縁で 俺が肉体かる程に小北の山へ罷り出で 信仰せよとおごそかに自分の口から宣り伝ふ かうなる上は夫婦とも疑ふ余地もあらざれば お寅婆さまの云ふままに屋財家財を抛つて これの館に転住し吾身に持てる財産は 櫛笄に至るまで売代なして神様の お宮の御用に立てましたそれから私は何となく 心驕りて知らぬ間に旭の豊栄昇り姫 霊肉一致の神柱何たる結構な体よと 夫婦が朝夕会ふ毎に一人笑壺に入つてゐた 然るに何ぞ計らむや皆さまのお話聞くにつけ 愛想もコソもつきました何程神の仕組でも 私をこんな目に会はすとは余りヒドイ神様ぢや 私はこれからスツパリと思ひ切ります神いぢり 御幣をかついで笑はれてどうして此世が渡れませう コレコレもうし竹さまえお前は五六七成就の 神のお宮ぢやなかつたかまるで狐につままれた やうな思ひがすぢやないか思ふ所か正真正銘の 坂照山のド狐が騙してゐたのに違ひない コレコレもうし竹さまえ思ひ切るのは今だらう グヅグヅしてると松姫や松彦さまに又しても 眉毛をよまれ尻の毛を一本もないまで抜かれますぞや あゝ怖ろしや怖ろしや神を表に標榜し 正しき此世の人間を騙して食はうとする奴は 虎狼の眷属だ長居は恐れ逸早く ここをば立つて帰りませう竹さまそれが不承知なら 私は勝手に帰にますよコレコレもうし春さまえ お前と私と平常から互に心が解け合うて しつぽり話をしたぢやないか私が信仰やめたなら お前もやめると云ふただろサアサア早く帰りませう トチ呆け爺の竹さまはまだまだお目がさめませぬ サアサア早う』と言ひながら春公さまの手を取つて 太い女がひんにぎりトントントンと広前を 夜叉の如くに駆け出し坂道さして帰りゆく 竹公驚き立上りお福の後を追駆けて 竹公『旭の豊栄昇り姫暫く待つた一寸待つた お前に言ひたい事がある短気は損気ぢや待てしばし 待てと申さば待つがよい之には深いわけがある』 声を限りに叫びつつ坂道指して追うてゆく。 お福は半狂乱の如くになり、河鹿川の川べりにある笠松の麓の堺の神政松の神木としるしてある千引岩の傍に走りより、 お福『コリヤ、神政松の神木、よう今迄おれを騙したなア。此普請は俺が蠑螈別に騙されて拵へたのだ。モウ今日から信仰をやめた上は、叩き潰さうと何うしようと私の勝手だ、エヽ怪体の悪い』 と力一杯押せども引けども、数十人を以て引張つた此巨岩、ビクとも致さばこそ、泰然自若、平気な顔でお福の繰言を冷笑してゐる。お福は十六柱の神になぞらへて植ゑておいた十六本の小松をグイグイと引抜きながら、 お福『エヽ神政松もへつたくれもあつたものか、アタいまいましい、奴狐め、騙しやがつた』 と言ひながら、握つては川へ流し、握つては川へ流し猛り狂ひ、 お福『コリヤ神政木、元の金にならぬか、性念があるなら、せめて一寸なと動いて見せよ。コラよう動かぬか、ド甲斐性なし奴、貴様は神だと申すが、まるで躄のやうな奴だ』 と云ひながら、あたりの石を拾つて、千引の岩にバラバラと打ちかけてゐる。そこへ春公、竹公は走り来り、 竹公『コリヤコリヤお福、マア気をしづめたら何うだ。サウお前のやうに一徹に怒つてくれると話が出来ぬぢやないか』 お福『エヽエ腰抜男が何を言つてるのだい、笑ふ門には福来る、お前の名はお福さまだから、三年先になれば一粒万倍にして福を返して下さると、蠑螈別や魔我彦が言ひやがつて、人の金を残らず巻上げよつた。丸三年になつた時、今日は万倍にしてくれるかと思つて待つてゐたら、一文も、どこからもくれやせぬ。それでも神政成就に近付いたら、百万倍にして返してくれるだろと待つてゐたのだ。最前から聞いてみれば、坂照山のド狐に騙されて居つたと云ふぢやないか、阿呆らしい、どうしてあんな処に居れるものか、今まで大勢の信者に旭の豊栄昇り姫様といつて崇められてゐたのに、大勢の前でスツパぬかれて、どうして此お福の顔が立ちますか。お前さまは気のきかぬ頓馬だから、私が人に顔が会はされないやうにして了つたのだ。此儘泣寝入りをしては世間へ会はす顔がないから、仮令何時までかかつても、此岩をひつくり返し潰さねば承知をせないのだよ。竹さま、春さま、何だ、ヒヨツトコ面して、何青い顔してるのだい、さうだから意気地なしと言はれるのだ』 竹公『貴様がせうもない神憑をするものだから俺までが巻き込まれたのだ。罪は貴様にあるのだ、俺に不足をいふ筋は一つもあるまい』 お福『それだから頓馬といふのよ。何程嬶が勧めても、夫は夫の権利があるぢやないか、なぜ其時に一言気をつけてくれないのだ。お前も一緒に賛成をするものだから、此お福も怪しいとは思うては居つたが、竹さまが男の身で居ながら一番に賛成したものだから、ヤツパリ私の守護神は結構な神様だと思うて賛成したのだ。それがサツパリ当が外れて、世間へ顔出しが出来ぬ事になつて了つたぢやないか。本当にいまいましい、アンアンアン、返せ戻せ、私の出した金を』 竹公『俺だつて、怪しいとは思つて居つたが、お前が一寸も怪しまないものだから、ヤツパリ本真かと思つたのだ。つまりどちらの魂も間が抜けとつたのだから、責任は両方にある。マア俺の云ふ事を聞いて、マ一遍大広間まで出て来てくれ、結構な話を聞かして貰つてやるから……』 お福『ヘン、責任は二人にあるなんて、何とマア卑怯な男だ事、女は蔭者、表には立ちませぬぞや。家長権の執行者はお前ぢやないか、何と云つてもお前が悪いのだよ。馬鹿野郎の頓痴気野郎だよ』 竹公はムツとして、つかみつく、茲に夫婦は組んづ組まれつ、互に髪をつかみ合ひ、キヤアキヤア犬の噛み合ひのやうに云ひ出した。春公は中に割つて入り、 春公『マアマア待つて下さい、五六七成就の大神様、旭の豊栄昇り姫の大神様、神様の生宮が人間なみに喧嘩するといふ事がありますか、みつともないぢや厶いませぬか。これから五六七神政成就して旭の豊栄昇りに栄える松の神代が出て来うとしてゐるのに、肝腎の神柱がそんな事で如何なりますか。どうぞ三千世界を助けると思うて、春公に免じてお鎮まりを願ひます』 お福『何、春さま、お前はヤツパリわたしを旭の豊栄昇り姫と思つてゐるのかい』 春公『ヘーヘー、誰が何と云つても私は飽くまで信じます。そして竹さまは何処迄も五六七成就の大神様です、こんな事が違うてなりますものか。私はお寅婆アさまにタク、テク、お菊さまの云ふ事が気に喰はないのです。ドタマをカチ割つてやろと、腕が鳴り肉が躍つて仕方がなかつたのに、神様の前だと思つて涙を呑み辛抱してゐたのだ。誰が何と云つても、五六七成就の大神様、旭の豊栄昇り姫の大神様に間違はありませぬ』 春公の言に二人はケロリと喧嘩を忘れ、ニコニコしながら、 お福『ソラさうでせうねえ、そんな事があつてたまりますものか。コレ竹さま、春公さまが証明してくれるのだから安心しなさい。これから二人が小北山を背負つて立たねばなりませぬで、三千世界の為ですからね』 竹公『ウーン、さうだな、大変だな、これから』 お福は腹立紛れに引きむしつて川へ流した松の事を思ひ出し、忽ち大地に平伏し、拍手をうつて涙声、 お福『栄えの神政松、ミロク神代の御神木様、十六本の柱神様、真にすまない事を致しました。どうぞ許して下さいませ、其代りにすぐ十六本の松を植ゑてお返し申します、あゝ惟神霊幸倍坐世』 春公『竹さまの胸の村雲晴るさまは 松の根元でキン言をふく』 竹公『アハヽヽヽお目出度う』 お福『神様、真にすみませぬ、有難う厶います、それなら之から、マ一度大広間へやらして頂きませう』 (大正一一・一二・一五旧一〇・二七松村真澄録)
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霊界物語 47_戌_治国別の天国巡覧1 13 下層天国 第一三章下層天国〔一二四六〕 高天原の天国の東と西との団体に 住む天人は信愛の其善徳に居るものぞ 東はいとも分明に愛の善徳感得し 西には少しおぼろげに感ずるもののみ住めるなり 南と北との団体は愛信の徳より出で来る 智慧証覚に居れるものいや永久に住居せり 中にも南に住むものは証覚光明明白に 北は証覚おぼろげに光れるもののみ住めるなり 高天原の霊国にある天人と天国に ある天人は皆共に右の順序を守れども 少し相違の要点は一つは愛の善徳に 従ひて進み又一つは善の徳より出で来る 信の光に従うていや永久に住めるなり 此天国にある愛は神に対する愛にして 之より来る真光は全く智慧と証覚ぞ 又霊国にある愛は隣人に対する愛にして 之を称して仁と云ふ此仁愛より出で来る 真の光は智慧なるぞ或は之を信と云ふ ○ 久方の高天原の神国には 時間空間春夏秋冬の区別なし 只天人各自が 情態の変化あるのみ 現し世に於けるが如く、天界の 万事に継続あり進行もあり されど天人は 時間と空間との 概念なし 久方の高天原には 年もなく 月日もあらず時もなし 只情態の変移あるのみ 情態の変移の ありし所には 只情態ばかりあるなり 現界の 凡ての人は 時間てふ 其概念を離るる能はず 天人は 皆情態の 上より之を思惟すれば 人の想念の中に於て 時間より 来れるものは 天人の間に入りては 皆悉く 情態の想念となるものぞ 春と朝は 第一情態に於ける 天人が居る所の 愛の善及び 証覚の境涯に対する 想念となるものぞ 夏と午時は 第二情態にある天人が 居る所の愛善及び 証覚の境涯に対する 想念となるものぞ 秋と夕べとは 第三情態に於ける 天人が居る所の愛善及び 証覚の境涯に対する 想念となるものぞ 冬と夜とは 地獄におちし精霊が 之等の境涯に対する 想念となるものぞ 言依別命は治国別に向つて尚も天国団体の説明を続けて居る。 治国『実に天国と云ふ所は、吾々の想像意外に秩序のたつた立派な国土ですな。到底吾々如き罪悪に充ちた人間は将来此国土に上る見込はない様ですな』 言依別『決して決して左様な道理はありませぬ、御安心なさいませ。此処は最下の天国で、まだ此上に中間天国もあり、最高天国もあるのです。猶其外に霊国と云ふのがあつて、それ相応の天人が生活を続けて居ます』 治国別『其最高天国へ上り得る天人は、非常な善徳を積み、智慧証覚の勝れたものでなければ参る事は出来ますまいな』 言依別『厳の御霊の聖言にもある通り、生れ赤子の純粋無垢の心に帰りさへすれば、直ちに第一天国と相応し、神格の内流によつて案外容易に上り得るものです』 治国別『成程、然し吾々は如何しても赤子の心にはなれないので困ります。然し天国にも矢張り自然界の如き太陽がおでましになるのでせうな』 言依別『アレ、あの通り東の天に輝いて居られます。貴方には拝めませぬかな』 治国別『ハイ、遺憾乍ら未だ高天原の太陽を拝する丈けの視力が備はつて居ないと見えます』 言依別『さうでせう。貴方には未だ現実界に対するお役目が残つて居ますから、現界から見る太陽の様に拝む事は出来ますまい。天国の太陽とは厳の御霊の御神格が顕現して、茲に太陽と現はれ給ふのです。故に現界の太陽とは非常に趣が違つて居ります。霊国にては瑞の御霊の大神月と現はれ給ひ、天国にては又太陽と現はれ給ふのであります。さうして霊国の月は現界から見る太陽の光の如く輝き給ひ、又天国の太陽は現界で見る太陽の光に七倍した位な輝き方であります。さうして日は真愛を現はし、月は真信を現はし、星は善と真との知識を現はし給ふのであります。故に瑞の御霊の聖言には[※以下の6つの聖言はキリスト教聖書に書いてある文言がベースになっている。]、 一、月の光は日の光の如く、日の光は七倍を加へて七つの日の光の如くならむ。[※参考イザヤ書30:26「さらに主がその民の傷を包み、その打たれた傷をいやされる日には、月の光は日の光のようになり、日の光は七倍となり、七つの日の光のようになる。」〔口語訳聖書〕] 一、我汝を亡ぼす時は空を覆ひ其星を暗くし雲を以て日を蔽はむ。月は其光を放たざるべし。[※参考エゼキエル書32:7「わたしはあなたを滅ぼす時、空をおおい、星を暗くし、雲で日をおおい、月に光を放たせない。」〔口語訳聖書〕] 一、我、空の照る光明を汝等の上に暗くし汝の地を暗となすべし。 一、我は日の出づる時之を暗くすべし。又月は其光を輝かさざるべし。[※イザヤ書13:10「天の星とその星座とはその光を放たず、太陽は出ても暗く、月はその光を輝かさない。」〔口語訳聖書〕] 一、日は毛布の如く暗くなり、月は地の如くなり、天の星は地に落ちむ。 一、之等の艱難の後、直ちに日は暗く月は光を失ひ、星は空より落つべし。[※参考マタイ福音書24:29「しかし、その時に起る患難の後、たちまち日は暗くなり、月はその光を放つことをやめ、星は空から落ち、天体は揺り動かされるであろう。」。マルコ福音書13:24-25「その日には、この患難の後、日は暗くなり、月はその光を放つことをやめ、星は空から落ち、天体は揺り動かされるであろう。」〔口語訳聖書〕] とありませう。此聖言は愛と信との全く滅亡したる有様を、お示しになつたのでせう。今日の現界は自然界の太陽や月は天空に輝き渡つて居りますが、太陽に比すべき愛と、月に比すべき信と星に比すべき善と真との知識を亡ぼして居ますから、天国の移写たる現実界も今日の如く乱れ果てたのです。かかる事を称して聖言は……之等の諸徳、亡ぶる時、之等の諸天体暗くなり其光を失ひて空より落つ……と云はれてあるのです。大神の神愛の如何に大なるか又如何なるものなるかは現界に輝く太陽との比較によつて推知する事が出来るでせう。即ち神の愛なるものは頗る熱烈なる事が窺はれませう。人間にして実に之を信ずる事を得るならば、神様の愛は現実界の太陽の熱烈なるに比較して層一層強いと云ふ事が分りませう。大神様は又現実界の太陽の如く直接に高天原の中空に輝き給はず、その神愛はおひおひ下降するに従つて熱烈の度は和らぎ行くものです。此和らぎの度合は一種の帯をなして天界太陽の辺を輝き亘り、諸々の天人は又此太陽の内流によつて自らの身を障害せざらむが為め、適宜に薄い雲の如き霊衣を以て其身を覆うて居るのです。故に高天原に於ける諸々の天国の位置は其処に住める天人が神の愛を摂受する度合の如何によつて大神の御前を去る事或は遠くなつたり、或は近くなつたりするものです。又高天原の高処即ち最高天国に居る天人は愛の徳に住するが故に、太陽と現はれたる大神の御側近く居るものです。されど最下の天国団体にあるものは信の徳に住するものなるが故に、太陽と現はれ給うた大神を去る事最も遠きものであります。ここは即ち其高天原の最下層第三天国の中でも最も低い所ですから、太陽と現はれました大神の御光を拝する事が余程遠くて現界の太陽を拝する如く明瞭に分らないのです。さうして最も不善なるもの、例へば暗国界の地獄に居るものの如きは、大神様の目の前を去る事極めて遠く且つ太陽の光に背いて居るものである。さうして其暗国界に於ける神と隔離の度合は善の道に背く度合に比するものである。故に極悪の者は到底少しの光も見る事が出来ず無明暗黒の最低地獄におつるものであります』 治国別『やア有難う厶いました。吾々はまだ善と真よりする智慧証覚が足りませぬから、大神の御姿を仰ぐ事が出来ないのでせう』 言依別『第三天国の天人等の前に神其儘太陽となつて現はれ給ふ時は、各眼晦み頭痛を感じ苦みに堪へませぬ。それ故大神様は一個の天人となつて、善相応、真相応、智慧証覚相応の団体へお下り遊ばし、親しく教を垂れさせ給ふのであります』 治国別『いや大に諒解致しました。私も之から現界へ帰りますれば、其心得を以て善の為め真の為めに活動をさして頂きませう。あゝ惟神霊幸倍坐世』 言依別『サア之から天人の団体へ御案内致しませう』 治国別、竜公は、 治国別、竜公『ハイ、有難う』 と感謝しながら言依別の後に従ひ欣々として進み行く。 二三丁ばかり丘を下り行くと、忽ち巨大なる火光と化し言依別は天空さして其姿を没し給うた。二人は暗夜に灯をとられし如き心地し、大地に跪き感謝に咽びながら、 治国別『あゝ有難し、勿体なし、吾々の愛と善の徳、全からず信真の光明らかならず、従つて智慧と証覚の光弱き為めに、畏れ多くも皇大神は天国の太陽と現はれ給はず、言依別命と身を現じ、此処迄導いて下さつたのだらう。あゝ有難し有難し、仁慈無限の大神の御神徳よ』 と感謝の涙に暮れてゐる。 竜公『もし先生、之から如何致しませうか。斯様な処に捨てられては如何行つてよいか、少しも分らぬぢやありませぬか。あれ程最前明瞭に見えて居つた東西南北の天人の部落も、何時の間にか吾々の視線内を外れて了つたぢやありませぬか』 治国別『獅子は三日にして其子を谷底へ捨てるとやら、これ全く神様の仁慈無限の御摂理だ。これだから三五教の聖言にも「師匠を杖につくな、人を力にするな、只神のまにまに活動せよ」と仰有るのだ。言依別様の御案内下さるに甘え、気を許し、凭れかかつて居つたが吾々の過ちだ。それだから神様は吾々の想念中より遠ざかり給うたのだ。吾々はまだまだ愛と信とが徹底しないのだ。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と合掌し感涙に咽びつつ主神に祈りを凝すのであつた。 (大正一二・一・九旧一一・一一・二三北村隆光録)
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霊界物語 47_戌_治国別の天国巡覧1 19 化相神 第一九章化相神〔一二五二〕 天国人の祭典を行ふのは、天国団体の重要なる務めの一となつてゐる。天国の天人は愛の善に居るが故に、大神を愛し且同僚を愛し、天地惟神の法則に従つて宇宙の創造主たる神を厳粛に斎り、種々の珍らしき供物を献じ、而して後神の愛に浴するを以て唯一の歓喜となし、唯一の神業としてゐるのである。而して天国人は決してエンゼルになつたり、或は宣伝使にはならないのである。エンゼルや宣伝使になる天人は、すべて霊国天人の任務である。何とならば霊国は信の真に充ちたる者多く、天国は愛の善にみちたる者多き国土なるが故である。祭典がすむと、霊国よりエンゼル又は宣伝使出張し来つて愛善を説き、信真を諭し、円満なる天人の智慧と証覚をして益々円満ならしめむと務めるのである。又天人は其説教を聞いて自分の人格を円満ならしめ、処世上の福利を計らむとするものである。そして天国の団体は大なるものに至つては十万も集まつて居り、少いのは五六十人の団体もある。之は愛と信より来る想念の情動如何に依つて相似相応の理により団体を形成するからである。 治国別、竜公は珍彦に伴はれ、神の家と称する、天人が祭典を行ひ霊国宣伝使が説教を行ふ木造の殿堂に導かれた。いつまでも木の香新しく薫り、幾年経ても新築した時の想念に依つて建てられてあるから、決して腐朽したり或は古くなつたりするものではない。 珍彦夫婦は光沢にみちた赤の装束をつけ、神の家に悠々と進み入つた。団体の天人は赤子に至る迄此処に集まり、祭典に与らむと、えも言はれぬ歓喜に充ちた面貌を表はして控へてゐる。この天人も智慧証覚の如何に仍りて、幾分か差等はあれども、大抵は相似の面貌をしてゐる。現界の形式的祭典に比ぶれば、実に荘厳と云はうか、優美と言はうか、華麗と言はうか、譬方のない情態である。此団体中にて、最も証覚の秀れたる者が、祓戸や神饌係や祭典に関するいろいろの役目をつとめ、珍彦は団体長として斎主の役に当ることとなつた。凡て天国は清潔主義、統一主義、進取主義、楽観主義であるから、何とも云へぬ良い気分に充たされるものである。此祭典に依つて、神人は和合の極度に達し、歓喜悦楽に酔ふのである。而して天国の祭典は神に報恩謝徳の道を尽すは言ふも更なれど、又一方には其団体の円満を祈り、天人各自の歓喜を味はひ、悦楽に酔ふ為である。故に現界の祭典の如く四角張らず、小笠原流式もなく、実に円滑に自由自在に、愛善より来る想念の儘に情動するのであるから、何とも云へぬ完全な祭典が行はれる。法なくして法あり、式なくして式あり、到底現界にて夢想だもなし能はざる光景である。而して祝詞はやはり現界の如く天津祝詞や神言を奏上して、神慮を慰め、且天人各自の心を喜ばせ、一切の罪汚れ過失を払拭する神業である。天国に於ても時に或は少々の憂ひにみたされ、悲みや驚きに遭遇することは絶無とは言へない、故に天人は日を定めて、荘厳なる祭典式を行ひ、其生涯に対して福利を得むことを祈るのである。 祭典の式も漸く済み、八尋殿に於て直会の宴が開かれた。大抵此祭典は午前中に行はるるものである。併し天国に於ては時間空間など云ふものはなく、従つて午前午後昼夜などの区別はない。併しながら情動の変異に依つて、朝たり夕べたるの感覚が起るものである。而して朝は太陽の愛に相応し、天国の愛善に和合するものである。又夕べは信真に相応し、月に相応するものである。故に天国人の祭典は午前中に行はれ、霊国即ち月の国から出張し来る宣伝使は午後に至つて説教を初むるのが例となつてゐる。現代に於ける各宗教の儀式も祭事に関することは凡て午前に行ひ、説教などは午後に行はるるのは、知らず知らずに天国の情態が地上に映つてゐるのである。 各天人は思ひ思ひの歌を歌ひ、舞を舞ひ、音楽を奏し、祭典後一切を忘れて面白可笑しく茶番狂言なども交へて、時の移るのも知らず、遊び狂ふのである。 天人の歌や演舞の状況は茲には省略して、後日又時を得て述ぶることとする。さて直会の宴も無事終了し、各天人の情動は初めて午後に相応する感覚になつた時、霊国の宣伝使が何処ともなく嚠喨たる音楽に送られて、四辺を輝かしながら、二人の侍者と共に神の家に向つて進んで来た。諸天人は此宣伝使を『ウオーウオー』と、愛の声を注ぎながら迎へ入れる。宣伝使は莞爾としてさも嬉しげに、諸天人に目礼を施し、団体長なる珍彦の案内に連れて、半円形に組立てられた演壇上に悠々と座を占めた。而して其左右には証覚の光明稍劣つた者が控へてゐる。これは宣伝使の侍者である。諸天人は半月形に演壇の前に席を取り、宣伝使の視線を外さない様にして、其教示を嬉し気に聴聞してゐる。宣伝使の天国に於ける説教は大神の御神格を徹底的に理解すべく、且愛善と信真の何たるかを、極めて微細に説きさとし、天人が処世上の利便を計らしむるべく努むるより外にはないのである。 治国別、竜公は天国の言葉を解し得ず、特別の席に黙然として耳を傾け、其教示を一言なりとも会得せむと努めてゐる。されど此等の両人は未だ第二天国の天人の言葉さへ聞分くる丈の智慧証覚も備はつてゐないのだから、此等の天人を説き諭す幽遠美妙なる説教などは到底聴取れる筈はない。従つて感得することは出来ない。デクの棒然として、其美妙なる声調や言語の抑揚頓挫曲折などの巧妙ぶりや、顔面筋肉の動き振り、形容身振などを考へて、略其何事を語り居るかを、おぼろげに窺知し得るのみであつた。殆ど一時ばかり経つたと思ふ時、宣伝使は説教の終結を告げた。各天人は頻りに拍手し、讃嘆しながら、ウオーウオーと叫びつつ神の家を立つて各自の住所に帰り行く。珍彦夫婦は宣伝使の先頭に立ち、己が館を指して迎へ帰る。治国別、竜公も後に従ひ、珍彦の館に入る。 宣伝使は奥の間に進み、冠を取り、法服を着替へ、くつろいで主客対坐し、茲に少時雑談に耽るのが例となつてゐる、珍彦夫婦は珍らしき果物を並べ、葡萄酒を注いで宣伝使に勧めた。宣伝使は栄えにみちた面貌を珍彦に向けながら、一口グツと呑み珍彦にさした。珍彦は恭敬礼拝しつつ押戴いてグツと呑み、其残りを珍姫にさした。珍姫も同じく押いただいて之を呑み終り、宣伝使に返し、宣伝使は二人の侍者に盃を与へ、手づから葡萄酒をつぐ。二人の侍者は何事か解し難き歌を歌ひ出した。治国別、竜公は宣伝使の面貌の高尚優美にして光明に充てるに眼くらみ、容易に面を向くることが出来なかつた。之は智慧と証覚の度に非常の相違があるが故である。あわてて被面布を取出し、治国別、竜公は之をかぶつた。そして宣伝使の顔をよくよくみれば、豈計らむや野中の森で別れた治国別の徒弟五三公であつた。宣伝使の五三公は、治国別、竜公のここに来り居ることを一目見て看破してゐたけれど、二人が自然に吾を認めるまでワザと名乗らなかつたのである。治国別は心の中に、 治国別『あゝ似たりや似たり、よく似たり、吾徒弟の五三公にソツクリだ。只どこともなく、肌の色合が透き通つてみえるばかりで、どこに一所違つた所がない。名乗つて見ようか、イヤイヤ五三公如き者が何うして霊国の宣伝使になり得るものか、なまじひに質問をして無礼になつてはすまない』 と心にとつおいつ、煩悶をつづけて居る。竜公も亦被面布の中から宣伝使の姿をためつすかしつ、首を切りにかたげ、或は右に左にふりながら、 竜公『ハテナ、よく似てゐる、妙だなア、ヤツパリ違ふかなア、イヤイヤ違ひはしようまい。何は兎もあれ不思議千万なことだ。何うしても合点の虫が承知せぬ。何程天国には相似の面貌があると云つても、これ丈似た顔は二度とあるまい』 などと四辺かまはず、無垢の心より、遠慮会釈もなく喋つてゐる。宣伝使は輝きの面貌を両人に向け、ニコニコと笑つてゐる。竜公は構はず、 竜公『モシ先生、あの宣伝使の顔を御覧なさい。三日月眉毛に頬のゑくぼ、目のつき方から、鼻の格好、口のチヨンモリした所、五三公にそつくりぢやありませぬか』 治国別は始めて口を開き、 治国別『よく似てゐられるなア』 竜公『先生、似るも似ぬもありますか。本真者の五三公ですよ。オイ五三公、何だ偉相に、俺だ俺だ、俺は被面布を被つてるから分らぬだらうが、竜公さまだ。そして一人はお前の大切な先生治国別さまだ。座を下つて挨拶をせないか、エヽーン、いつの間に夫れ程出世したのだ』 宣伝使はますますニコニコと笑つてゐる。 治国別『これはこれは木花姫命様、よくもマア私如き者の徒弟となり、化相の術を以て今迄此愚鈍な治国別をよくもお導き下さいました。有難く感謝致します』 宣伝使は始めて口を開き、 宣伝使(言霊別)『治国別様、竜公様、失礼を致しました。併し私は月の大神の御側に仕へまつる言霊別命で厶います。此度大神の命に依り、地上に降り、五三公の精霊を充たし神国成就の為に、貴方と共に活動をしてゐた者で厶います。夫れ故私と五三公とは全く別個の人間です。併しながら私の神格の全部が、五三公の精霊をみたしたる為、面貌までが能く似てゐるのでせう。今後に於ても時々五三公の精霊に下り、地上に天国を建設する為、化相を以て活動を致しますれば、五三公はヤハリ貴方の徒弟としてお使ひを願ひます』 治国別は此物語に打驚き、 治国別『ハイ』 と言つたきり、神の恵の広大無辺なるに感謝の涙をこぼしてゐる。 竜公『モシ宣伝使様……否言霊別命様、私が現界へ帰りました時は、五三公さまに対し、今迄の通りの交際振をやつて居ればいいのですか、之を伺つておかねば、今後の都合が厶いますからなア』 言霊別『化相を以て現はるれば、ヤハリ五三公です。従前の通り交際を願ひます』 竜公『ヤ、五三公、承知した。お前がこんな偉い者になることを思へば、俺だつてヤツパリ友達だ。何程智慧証覚があるといつても、現界へ出れば、俺とチーと偉いか、少し劣つた位なものだ。俺が一升でお前が九合か、お前が一升で俺が九合か位なものだ。なア五三公、さうだらう』 言霊別はパツと上衣を脱いだ。忽ち現界で見た五三公と、風体まで変らないやうになり、言葉もなれなれしくなつて来た。 五三公『天国の法衣をぬいで、暫く気楽に又お前と天国の旅行をしようぢやないか。治国別の先生、これから五三公が第二天国は云ふも更也、第一天国まで御案内を致しませう』 治国別『何卒宜しく御願致します』 竜公『コレ先生、融通の利かぬ人だな。ヨシ五三公、お供を許すと何故仰有らぬのだ。なア五三公、さうぢやないか』 五三公『ウン、化の皮をぬいだら、ヤツパリ元の五三公だ。ヤア珍彦様、珍姫様、有難う厶いました。之から天国の巡覧を致しますから、之でお別れ致しませう』 珍彦夫婦は意外の此問答に呆れ果て、黙然として三人の顔を見つめてゐる。二人の宣伝使の侍者はどこへ行つたか、影も形も見えなくなつて居た。 茲に治国別は五三公、竜公を伴ひ珍彦、珍姫に厚く礼を述べ、宣伝歌を歌ひながら、五三公の案内につれて、南方さして進み行く。 (大正一二・一・一〇旧一一・一一・二四松村真澄録)
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霊界物語 49_子_祠の森の物語1(高姫と妖幻坊) 02 大神人 第二章大神人〔一二七六〕 前節に述べたる如く、霊国や天国の諸団体に籍をおいたる天人及地上の天人即ち神を能く理解せし人間の精霊は、即ち地上の天人なるを以て、人間肉体の行為に留意することなく、其肉体を動作せしむる所の意思如何を観察するものである。故に人間の吾長上たると吾下僕たるとを問はず、其行為に就て善悪の批判を試むるが如き愚なことは、決してせない。天人の位地に進んだものは、其人格を以て意思に存し、決して行為其物にあらざる事を洞察するが故である。其智性も亦人格の一部分なれ共、意思と一致して活動する時に限つて人格と見なすのである。意思は愛の情動より起り、智性は信の真より発生するものである。故に愛のなき信仰は決して人格と見なすことは出来ない。愛は即ち第一に神を愛し、次に隣人を愛する正しき意思である。只神を信ずるのみにては到底神の愛に触れ、霊魂の幸福を得ることは不可能である。愛は愛と和合し、智は智と和合す。神に心限りの浄き宝を奉り、或は物品を奉納するは所謂愛の発露である。神は其愛に仍つて人間に必要なるものを常に与へ玉ふ。人間は其与へられたるものに仍つて生命を保ち、且人格を向上しつつあるのである。神は無形だとか、気体だとか、無形又は気体にましますが故に決して現界人の如き物質を要求し玉はず、金銭物品を神に献つて神の歓心を得むとするは迷妄の極なり、只神は信仰さへすればそれで可い、其信仰も科学的知識に仍つて認め得ない限りは、泡沫に等しきものだ。故に神を信ずるに先だち科学的原則の上に立脚して、而して後信ずべきものだ……などと唱ふる者は、すべて八衢人間にして、其大部分は神を背にし光明を恐れ、地獄に向つて内底の開けゐる妖怪である。 霊国天国の天人が天界を見て一個の形式となすのは、其全般に行わたつてのことではない。如何なる証覚の開けた天人の眼界と雖も、高天原の全般を測り知ることは出来ない。されど天人は数百又は数千の天人より成れる団体を遠隔の位地より見て、人間的形式をなせる一団と感ずる事がある位なものである。故に未だ中有界に迷へる八衢人間の分際としては到底、天人の善徳や信真や証覚に及ばないことは無論である。 斯の如く如何なる天人と雖も、高天原の全体を見極め、神の経綸を熟知し、且他の諸団体を詳しく見聞し能はざる位のものであるに、自然界の我利我欲にひたり、自愛と世間愛のみを以て最善の道徳律となし、善人面をさげ、漸く神の方向を認めたる位の八衢人間が到底神の意思の測知し得らるべき道理はないのである。天国の全般を総称して大神人と神界にては称へらるる理由は、天界の形式は凡て一個人として統御さるるからである。故に地の高天原は一個の大神人であり、其高天原を代表して愛善の徳と信真の光を照らし、暗に迷へる人間に智慧と証覚を与へむとする霊界の担当者は、即ち大神人である。神人の大本か大本の神人か……と云ふべき程のものである。之は現幽相応の理より見れば、決して架空の言でもない。又一般の信徒は所謂一個の大神人の体に有する心臓、肺臓、頭部、腰部、其他四肢の末端に至る迄の各個体である。 天界を大神は斯の如く一個人として、即ち単元として之を統御し玉ふのである。故に人間は宇宙の縮図といひ、小天地と云ひ、天地経綸の司宰者と云ふ。人間の身体は、其全分にあつても、其個体に在つても、千態万様の事物より組織されたるは、人の能く知る所である。即ち全分より見れば、肢節あり、気管あり、臓腑あり、個体の上より観れば、繊維あり、神経あり、血管あり、かくて肢体の内に肢体あり、部分の中に部分あれ共、一個人として活動する時は、単元として活動するものである。故に個体たる各信者は一個の単元体たる大神人の心を以て心となし、地上に天国を建設し、地獄界の片影をも留めざらしむる様、努力すべきものである。大神が高天原を統御し玉ふも亦之と同様である。故に地上の高天原たる綾の聖地には、大神の神格にみたされたる聖霊が予言者に来つて、神の神格に仍る愛善の徳を示し、信真の光を照らし、智慧証覚を与へて、地上の蒼生をして地的天人たらしめ、且又地上一切をして天国ならしめ、霊界に入りては、凡ての人を天国の歓喜と悦楽に永住せしめむが為に努力せしめ玉ふたのである。其単元なる神人を一個人の全般と見做し、各宣伝使信者は個体となつて、上下和合し、賢愚一致して此大神業に参加すべき使命を有つてゐるのである。 斯の如くして円満なる団体の形式を造り得る時は即ち全般は部分の如く、部分は全般の如くにて其両者の相違点は、只其分量の上にのみ存するばかりである。今日の聖地に於ける状態は、すべて個々分立して活躍し、全体は分体と和合せむとしてなす能はず、分体たる個人は各自の自然的観察を基点として、思ひ思ひに光に反き愛に遠ざかり、最も秀れたる者は中有界に迷ひ、劣れる者は地獄の団体に向つて秋波を送る者のみである。故に此等の人間は大神の聖場、地の高天原を汚す所の悪魔の影像であり、且個人としては偽善者である。偽善者なる者は時としては善を語り、又善を教へ、善を行へども、何事につけても自己の愛を先にするものである。大神の御神格及高天原の状態、愛の徳及信の道理並に高天原の将来などに付いて、人に語り伝ふること、最深く、天人の如く、聖人君子の如く、偶には見ゆるものあり、又其口にする所を心言行一致と云つて、行為に示さむとし、能く其行ひを飾つて、人の模範とならむとする者あれ共、其人間が実際に思惟する所のものは必ずや人に知られむ為、或は褒められむ為にする者が多い。此等は未だ偽善者の中でも今日の処では、余程上等の部分にして、俗眼より見れば真に神を理解し、言心行の一致の清き信者と見得る者である。次に今綾の聖地に於ける最上等の部分に属する人の心性を霊眼によつて即ち内的観察に仍つて見る時は、未だ天界の消息にも詳ならず、其自愛及世間愛と雖も、未だ徹底せず、天人の存在を半信半疑の態度を以て批判し、或は死後の生涯などに就て語る共、只真理に明き哲人と人に見られむが為に、真実に吾心に摂受せざる所を、能く知れるが如くに語り伝ふる位が上等の部分である。而して口には極めて立派なことを言つても、其手足を動かし、額に汗し、以て神に対する真心を実行せない者が大多数である。斯の如き人は神の教を伝へ、又は神に奉仕する祭官などは、俗事に鞅掌し或は田園を耕し、肥料などの汚穢物を手にするは、所謂神を汚すものと誤解してゐる八衢人間や、或は怠惰の為、筋肉労働を厭うて、宣伝使又は祭官の美名にかくるる横着者である。此等は何れも神の前にあつて、天人の一人をも霊的に認むることなく、又体的にも感ずる能はず、遂には神仏を種にして、自利を貪る地獄道の餓鬼となつてゐる者である。かくの如き心性を以て神の教を説き、神に近く奉仕するは、全く神を冒涜する罪人である。 斯くの如き人間は神の言葉を売薬の能書位に心得、何事をも信ぜず、又自己を外にして徳を行ふの念なく、人の見ざる所に於て善をなすことを忌み、悪を人の前に秘し、善は如何なる小さきことと雖も、必ず人の前に現はさむことを願ふ。故に彼等がもし万一善なる行ひをなしたりとせば、それは皆自己の為になす所あるによる。又他人の為に善を行ふことあれば、それは他人及世間より聖人或は仁者と見られむことを願ふに過ぎない。斯の如き人のなすことはすべて自愛の為である。自愛は所謂地獄の愛である。 心ならずも五六七殿に此物語を聞きに来てゐる偽善者も偶にはあるやうだ。それは折角昼夜艱苦して口述編纂した『霊界物語』を毎夜捧読して、霊界の消息を、迷へる人々に説き示さむとする口述者の意思を無視したと思はれてはならないから……といふ位な考へで、厭々聞きに来る人もあるのである。決して左様な御気遣は無用である。何程内底の天に向つて閉塞したる人々の身魂に流入し或は伝達せむとするも、到底駄目である。故にどうしても此物語の気にくはぬ人は、かかる偽善的行為を止めて、所主の愛に仍り、身魂相応の研究を自由にされむことを希望する。決して物語の聴聞や購読を強るものではない。 経の神諭は拝聴すると、涙が出る様だが、緯の物語を聞くと少しも真味な所がなく、可笑しくなつてドン・キホーテ式の物語か又は寄席気分のやうだと云つてゐる立派な人格者があるさうだ。之れも身魂相応の理に仍るものだから、如何ともすることは出来ない。併し乍ら悲しみの極は喜びであり、喜びの極は悲しみであることは自然界学者もよく称ふる所である。而して悲しみは天国を閉ぢ歓びは天国を開くものである。人間が他愛もなく笑ふ時は決して悲しみの時ではない、面白可笑しく歓喜に充ちた時である。神は歓喜を以て生命となし、愛の中に存在し玉ふものである。赤子が泣いた時は其母親が慌てて乳を呑ませ、其子の笑顔を見て喜ぶのは即ち愛である。吾子を泣かせ、又は悲しましめて快しと思ふ親はない。神の心はすべて一瞬の間も、人間を歓喜にみたしすべての事業を楽しんで営ましめむとし玉ふものである。此物語が真面目を欠いて笑はせるのが不快に感ずる人あらば、それは所謂精神上に欠陥のある人であつて、癲狂者か或は偽善者である。先代萩の千松の言つたやうに……お腹がすいてもひもじうない……といふ虚偽虚飾の態度である。かくの如き考へを捨てざる限り、人は何程神の前に礼拝し、神を讃美し、愛を説くと雖も、到底天国に入ることは出来ない。努めて地獄の門に押入らむとする痴呆者である。 凡て綾の聖地に、神の恵に仍つて引つけられたる人、及此教に信従する各地の信者は、すべて大神の神格の中にあるものである。然るに灯台下暗しとか云つて、之を認め得ざるものは天人(人間と同様の形態)の人格を保つことは出来ないものである。富士へ来て富士を尋ねつ富士詣で……と云ふ様に、富士山の中へ入つて了へば、他に秀れて尊き霊山たることを知らず、普通の山と見ゆるものである。併し遠くへだてて之を望む時は、実に其清き姿は雲表に屹立し、鮮岳清山を圧して立てる其崇高と偉大さを見ることを得る様に、却て遠く道をはなれ、教に入らざりし者が、色眼鏡を外して見る時は、其概要を知り全般を伺ふことが出来る様に、却て未だ一言も教を聞かず、一歩も圏内に足をふみ入れざる人の方が其真相を知る者である。又大神は時によつて一個の天人と天国にては現じ玉ひ、現界即ち地の高天原にては一個の神人と現じ玉ふ。されど斯の如く内分の塞がつた人間は神人に直接面接し且其教を聴き乍ら、之を普通の凡夫とみなし、或は自分に相当の人格者又は少しく秀れたる者となし、或は自分より劣りし者となして、之を遇するものである。かくの如き人間は八衢所か、已に地獄の大門に向つて、爪先を向けてゐるものである。真の智慧と証覚とを欠いた者は、総て地獄に没入するより道はない。故にかかる人間は天人又は神人の目より見る時は、何程形態は立派に飾り立て、何程人品骨格はよく見えても、殆ど其内分は人間の相好が備はつてゐないのである。彼等は罪悪と虚偽とに居るを以て、従つて神の智慧と証覚に反いてゐる。恰も妖怪の如く餓鬼の如く、其醜状目も当てられぬばかりである。斯の如き肉体の人間を称して、神界にては生命といはず、之を霊的死者と称ふるのである。又は娑婆亡者或は我利我利亡者ともいふ。 斯の如き大神の愛の徳に離れたる者は生命なるものはない。而して大神の愛又は神格に離れた時は、何事もなし能はざるものである。故に大本神諭にも……神の守護と許しがなければ、何事も成就せぬぞよ。九分九厘いつた所でクレンとかへるぞよ。人間がこれ程善はないと思ふて致して居ることが、神の許しなきものは皆悪になるぞよ。九分九厘で手の掌がかへり、アフンと致すぞよ……と示されてあるのを伺ひ奉つても、此間の消息が分るであらう。人間は自然界の自愛に仍つて、或程度までは妖怪的に、惰性的に出来得るものだが、決して有終の美をなすことは出来ない、今日自愛と世間愛より成れる、すべての銀行会社及其他の諸団体の実状を見れば、何れも最初の所期に反し、其内部には、魑魅魍魎の徘徊跳梁して、妖怪変化の巣窟となり、目もあてられぬ醜状を包蔵してゐる。そして強食弱肉優勝劣敗の地獄道が、遺憾なく現実してゐるではないか。 現代に於ても心の直なる者の胸中に見る所の神は、太古の人の形なれ共、自得提の智慧及罪悪の生涯に在つて天界よりの内流を裁断したる者は斯の如き本然の所証を滅却し了せるものである。斯かる盲目者は見る可らざる神を見むとし、又罪悪の生涯にて所証を滅却せし者は、神を決して求めない者である。故に現代の人間は神にすがる者と雖も、すべて天界よりの内流を裁断したる者多き故に、見る可らざる神を見むとし、又物質欲のみに齷齪して、本然の所証を滅却した地獄的人間は、神の存在を認めず、又神を大に嫌ふものである。すべて天界よりして先づ人間に流入する所の神格其者は実に此本来の所証である。何となれば、人の生れたるは、現界の為にあらず、其目的は天国の団体を円満ならしむる為である。故に何人も神格の概念なくしては天界に入ることは出来ないのである。 高天原及天国霊国の団体を成す所の神格の何者たるを知らざる者は、高天原の第一関門にさへも上ることを得ない。かくの如き外分のみ開けたる人間がもし誤つて天国の関門に近付かむとすれば、一種の反抗力と強き嫌悪の情を感ずるものである。そは天界を摂受すべき彼の内分が未だ高天原の形式中に入らざるを以て、すべての関門が閉鎖さるるに仍るからである。もし強て此関門を突破し、高天原に進み入らむとすれば、其内分はますます固く閉ざされて如何ともす可らざるに至るものである。信者の中には無理に地の高天原に近付き来り、神に近く仕へ親しく教を聞いてからますます其内分が固く閉ざされて、心身混惑し、信仰以前に劣りし精神状態となり、且又其行ひの上に非常な地獄的活動の現はるるものがあるのは此理に基くのである。大神を否み、大神の神格に充されたる神人を信ぜざる者は、凡てかくの如き運命に陥るものである。人間の中にある天界の生涯とは即ち神の真に従ひて、棲息せるものなることを知悉せる精神状態をいふのである。惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・一・一六旧一一・一一・三〇松村真澄録)
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霊界物語 50_丑_祠の森の物語2 02 照魔燈 第二章照魔灯〔一二九六〕 高天原の最奥に於ける霊国及び天国の天人は、すべて愛の善徳を完備し、信の真善を成就し、智慧証覚に充ち居るを以て、中間天国以下の天人の如く、決して信を説かず、又信の何たるかも知らないのである。又神の真に就いて論究せないのである。何故ならば、斯かる霊的及び天的最高天人は、大神の神格に充たされ、愛善信真これ天人の本体なるが故である。故に他界の天人の如く、これは果して善なりや、悪なりや、などと言つて真理を争はない。只争ふものは中間及び下層天界の天人の内分の度の低いものの所為である。又最奥の天人は視覚によらず、必ず其聴覚によつて、即ち宇宙に瀰漫せるアオウエイの五大父音の音響如何によつて、其証覚をして益々円満ならしむるものである。大本神諭に『生れ赤子の心にならねば、神の真は分りは致さぬぞよ……』とお示しになつてゐるが、すべて赤子の心は清浄無垢にして水晶の如きものであるから、仮令智慧証覚は劣ると雖も、直ちに其清浄と無垢とは、最奥天界に和合し得るからである。又社会的覊絆を脱し、すべての物欲を棄て、悠々として老後を楽しみ、罪悪に遠ざかり、天命を楽しむ所の老人を以て、証覚ありて無垢なる者たることを現はし給ふのである。大本開祖が世間的生涯を終り、夫を見送り、無垢の生涯に入り給うた時、始めて神は予言者として、これに神格の充されたる精霊を降し給ひ、天国の福音を普く地上に宣伝し給うたのは、実に清浄無垢の身魂に復活し、精霊をして天国の籍におかせ給うたからである。故に開祖の如きは、生前に於て已に霊的復活をせられたのである。此復活を称して霊的人格の再生といふのである。大神は人間をして其齢進むに従ひ、之に対して善と真とを流入し給ふものである。先づ人間を導いて善と真との知識に入らしめ、これより進んで不動不滅の智慧に入り、最後に其智慧より仏者の所謂阿羅耶識(八識)即ち証覚に進ませ給ふものである。之を仏教にては、阿耨多羅、三藐三菩提心(無上証覚)といふのである。併しながら現代の人間は、其齢進むに従つて、益々奸智に長け、表面は楽隠居の如く世捨人の如く、或は聖人君子の如く装ふと雖も、その実益々不良老年の域に進むものが大多数である。優勝劣敗、弱肉強食を以て社会の真理と看做してゐる現代に立ち、多数の党与を率ゐて政治界又は実業界に跋扈跳梁し、益々権謀術数を逞しうし、僅に其地位を保ち、世間的権勢を掌握して無上の功名と看做してゐる人物の如きは、実に霊界より之を見る時は憐れむべき盲者である。斯の如き現界に於ける権力者よりも、無智にして其日の労働に勤しみ、現代人の無道の権力に圧倒され、孜々として之に盲従し、不遇の生活を生涯送りし人間が、霊界に至つて神の恩寵に浴し、其霊魂は智慧相応の光を放ち、善と真との徳に包まれて、生前の位地を転倒してゐる者が沢山にあるのである。故に霊的観察よりすれば、権勢ある者、富める者、智者学者といはるる者よりも、貧しき者、卑しき者、力弱き者、現界に於ていと小さき者として、世人の脚下に踏み躙られたる人間が、却つて愛善の徳に住し、信真の光に輝いて、天国の団体に円満なる生涯を送るものである。故に神には一片の依怙もなく偏頗もない事を信じ、只管神を愛し神に従ひ、正しき予言者の教に信従せば、生前に於ても、仮令物質上の満足は得られずとも、其内分に受くる歓喜と悦楽とは、到底現界の富者や権力者や智者学者の窺知し得る所ではないのである。此物語の主人公たる初稚姫は再び天の命を受け、地上に降誕して大本開祖となり、世間的務めを完成し、八人の子女を生み夫々神界の内的事業に奉仕せしむべく、知らず知らずの間に其任を果し、微賤に下りて、溢るる許りの仁愛と透徹したる信の智を発揮して、暗黒無道の地獄界を照破する神業に奉仕し、其任務を了へて、後事を瑞霊に充されたる予言者に托し、茲に目出度く昇天復活されたのである。故に開祖は生前より其容貌恰も少女の如く、其声音は優雅美妙にして、又少女の如く、玲瓏玉の如き顔容を抱持し給ひ、開祖に接近する者は、何時とはなしに其円満なる霊容に感化され、霊光に照され、善人は之を信従し尊敬し、悪人は之を嫌忌し恐怖したのである。開祖の前身たる初稚姫も亦神代に於ける神格者にして、大予言者であつた。その容貌及び全身より金色の光明を放射し、悪魔をして容易に近づき得ざらしめたのである。されど初稚姫は、其霊徳と霊光を深く秘し給ひ、和光同塵の態度を以て普く万民を教化し天国に救はむため、ワザと其神相を隠し給ひて、霊的及び自然的活動を続け給うたのである。開祖は常に云はれた……出口直が正体を現はしたなれば、人民は眼くらみ、到底側へは寄りつくことは出来ない、故にワザとに世におちぶらし、今まで衆生済度の為に化してあつたのだ……と物語られた事は屡々である。此時側に親しく侍してゐた役員共は、開祖の平素の人格には敬服してゐたが、併し其お言葉の余りに高調的なるに対し、開祖が慢心をされたものとのみ思うてゐた者も沢山にあつたのである。神は必ず順序を守らせ給ひ、相応の理に依りて和合の徳を表はし給ふが故に、其対者に向つて余り懸隔なき様に現はれ給ふのである。故に対者の徳と智慧の如何によつて、神又は開祖を見る所の目に非常の差等があるのは、已むを得ないのである。神は瑞月を呼んで大化物と予言者を通じて宣らせ給うた。現代人は大化物の名を聞いて、大悪人の代名詞の如く或は権謀術数家の別称の如く、又巧言令色、表に善を飾り虚偽を行ひ、世人を誑惑する悪人と認むる者も少くないのである。併し神格に充されたる者を、頑迷不霊の地獄界に籍を於ける人間の目より見るときは、忽ち眼眩み頭痛み、息苦しくなり、癲狂痴呆と忽ち変じて、恐怖心に駆られ、その真相を看取することは出来ないものである。故にかかる人間の地位に立ちて予言者を仰ぎ見る時は、大怪物とより見ることが出来ないのである。吁斯の如き頑迷の徒をして、神の光明に浴せしめ、愛善の徳に住せしめて、永遠無窮の天国の生涯を生きながらに送らしめむとするは、実に最大難事である。大正五年の事であつた。口述者は役員室に在つて神諭を繙く折しも、慌しく入り来りしは開祖の娘なる高島久子であつた。彼は前節に述べたる如き肉体的兇霊に心身を占領されて、吾居間に走り入りて、恭敬礼拝し言ふ。『瑞の御霊様、一大事が突発致しました。一厘の秘密をお知らせ申します』と言ふより早く、吾耳の側に口をよせ、歯のぬけた口から、臭い息と唾を、吾顔面にふきかけながら、下らぬ不合理に充ちたことを喋々と弁じ立てた。そこで瑞月は儼然として、『誠の道に秘密のあるべき道理なし、秘密の秘は必ず示すといふことである。決して隠蔽すべきものでない。耳もとに囁く如きは神人のなすべき所でない。これは体主霊従的人獣の敢へてする行為である』と云ふや否や、高島久子の精霊は大いに怒つて、わが耳たぶを左の手にて引張り、右の手を以てわが頬をピシヤピシヤと叩きつけ『義理天上日出神の秘密の忠告を聞かねば、地の高天原は大騒動が起りますぞ。何うなつても日出神は知らぬぞよ』とわめき立て、狂ひまはつた。そこで瑞月は兇霊の憑依せるものなることを本人に懇々と諭してみたが、もはや兇霊に霊肉全く占領された彼女には何の効能もなかつた、のみならず大いに怒つて、吾喉元に飛びかかり、咬みつかむとした。そこで瑞月は已むを得ず、右の人指を前に向けて『ウン』と一声、神に祈つて、其面体を霊光に照すや否や、忽ちパタリと倒れて了つた。そこで瑞月は直に神に彼が為に謝罪をなし、お許しを請うた。彼女はムクムクと立上り、口を極めて『変性女子の糞奴、糞先生の奴先生、小松林の悪魔奴』と喚き立てながら、長い廊下を韋駄天走りに開祖の居間に侵入した。 忽ち久子に憑依せる兇霊は、開祖の容貌を拝するや、アツと仰向けに倒れ、キヤアキヤアと喚きながら、長廊下を毬の如くころげて、再びわが居間に逃げ帰り来り『奴開祖の糞開祖奴、これから俺が誠の艮の金神ぢや、変性男子も女子も此処を出て行け、これから地の高天原は、高島久子が艮の金神変性男子と現はれて、日出神を地に致し、大広木正宗殿の霊を御用に使うて、神政成就の神業に奉仕するから、此方の申す事が耳に入らぬ奴は、一人も残らず出てゆけ。金勝要神の身魂は我が強いぞよ。木花咲耶姫の生宮も訳が分らぬぞよ。これから此高島久子の体を借つて、誠の事を知らすぞよ』などと狂態を演じ、身体を頻りに震動させて、猛悪の相を現はし、座敷の中央に仁王立ちとなつて睨めつけてゐた。そこへ開祖は梅の杖をつきながら、障子をあけて一寸覗かれると、又もやキヤツと叫んで其場に顛倒し、毬のやうになつて表へ駆け出して了つた。後に至つて高島久子に聞けば、彼は云ふ……開祖の居間の障子を開くや否や、開祖の全肉体は金色燦爛たる光明にみち、そのお姿を熟視する能はず、忽ち恐ろしくなつて、妾の守護神が一生懸命に駆け出しました……と答へたのである。又彼女が自筆の筆先にも此事を明記してゐる。それから久子は表へまはり、金竜殿に侵入した。そこには数多の役員や修業者が幽斎の最中であつた。久子は矢庭に暴れ出していふ……汝等盲役員、幽斎の修業などとは以ての外だ、この生宮の申す事を聞け……と呶鳴りながら、修業に来てゐた河井芳男といふ青年を引捉へ、殿中に於て馬乗となり、其青年の首にジヤウジヤウジヤウとぬくい小便をたれかけ……汝の如き者は之にて結構だ……と喚き立て、狂態を演じてゐた。この事も高島久子の精霊が書いた筆先に自慢さうに記してある。すべて兇党界の悪霊は順序を弁へず又善悪美醜の区別がつかないから、神聖なる金竜殿内に於て、人の首に小便をかけ、得意となつてゐるのである。而して彼女はいふ……わが守護神は実に偉大なものだ、あの様な聖き御殿に於て、外の者が小便をこかうものなら、忽ち守護神も肉体も神罰が当るのであるが、何をいつても神格が高いから、あの通りチツとも罰が当らなかつたのだ……と誇つてゐるのは実に済度し難き難物である。丁度猫や鼠が大神の鎮座まします神聖なる扉の中に巣をくみ、或は糞尿をたれても、神は畜生として看過し給ひ、之を懲め給はざると同様の理である事を知らない癲狂痴呆者である。自愛心強く世間愛のみを以て唯一の善事と思惟しゐたる人間は、却つて斯かる奇矯なる行為を以て、神秘の行為となし、之を随喜渇仰していふ……全くあの行ひは人間ではない、人間心で、何うして殿内に於て、而も人間の首に跨がり、小便がかけられようか、全く神様の証拠である……と、斯う云つて感心するのである。彼等の云ふ如く決して人間ではない。併しながら神だと思つたら大変な間違である。スツカリ肉体的兇霊、悪魔が彼女の全身を支配して行うた所の狂態であるのである。 其後かれ悪霊は久子の肉体に対し、いろいろと幻覚を示し、益々誑惑の淵に陥れ、或は一ケ月間の断食を与へ、地獄の有様を眼前に髣髴せしめ……汝わが言を用ゐざる時は、斯の如き無間地獄に陥落すべし。又わが言を信従し、わが頤使に従つて活動する時は、汝をして将来斯の如き結構なる位地につかしむべし……と、或はたらし或は威し、漸くにして開祖の身内たる肉体を、わが自由に駆使する事を得たのである。彼等が悪業を遂行せむとすれば、現界人の浅薄なる識見より見て、開祖の血統と生れし人間なれば、大丈夫、決して悪神の憑依すべきものでないと信用させ得るの便宜があるからである。かれ兇霊は無智なる久子の霊肉を完全に占領した上、地の高天原の霊光にゐたたまらず、二三の迷へる信者を引連れ、一目散に八木へさして逃げ帰り、ここに久子の記憶と信仰を基礎として、其想念中に深く入り込み、兇党界の団体をして益々大ならしめ、大神の神業を極力妨害せむと企みつつあるのである。さりながら久子其人は元来開祖を思ふ事最も深く且無智にして比較的其心も清ければ、遉の兇霊も開祖の神諭を非難することを得ず、且又厳の御霊、瑞の御霊を極力排斥し、誹謗しては其目的を完成し得ざるを知るが故に、表面に厳瑞二霊を尊敬し信従する如く装ひ、先づ久子を誑惑し其口と手を以て世人を魔道に引入れむと企みつつあるのである。之は決して瑞月が卑しき心より述ぶるのではない。大神の御子たる可憐なる精霊や人間をして、一人なりとも邪道に陥らざらしめむが為の慈愛心に外ならぬのである。かれ精霊は久子の肉体を綾部の停車場に仰向けに倒し、陰部を曝して大呼して云ふ……われは地の高天原の変性男子出口直の肉体をかりて生れた日出神の生宮であるぞよ。皆の者、これを見て、大本の教を悟れよ……と呶鳴り立てた。精霊が久子に斯かる衆人環視の前にて狂態を演ぜしめた其底意は、要するに神の名を冒涜し、世人をして大本を信用せしめざらむが為の悪計であつた。されど暗愚なる信者は、そんな所に少しも注意せずしていふ……ああ吾々が改心が足らぬ故に神様が変性男子の系統の肉宮をかつて、お戒め下さつたのであらう、お前達の心は此通り醜いのだ、お前達が神界より罰せられ、地獄の釜のドン底へ落されるのだが、高島久子に千座の置戸を負はして助けてやつて居るぞよ、との深き思召であらう……などと妙な所へ曲解して益々随喜渇仰し、精霊の誑惑に乗せられて、遠近の神社を調査するといつて、或は其費用を献じ、或は随伴してゐる者も沢山現はれて来たのは、実に神界の為悲しむべきことである。されど神は決して斯の如き兇霊に汚され給ふものでもなく、又如何に妨害せむとするも聊かの痛痒も感じ給はないのである。只々可憐なる神の御子が彼等兇霊に心身を誑惑され邪神界に引入れられ、無間地獄に陥落しゆくを悲しみ給ふのみである。かかる仁慈無限の大神の御心も知らず、男子が何うだとか、女子の言行がなんだとか云つて、その光明に反き、醜穢極まる地獄に転移するは、実に仁慈の目より見て忍び難き所である。かれ精霊は久子を又もや八木の停車場に連れ行き、大声叱呼して云ふ……此女は元を糺せば、丹波国何鹿の郡綾部町、本宮新宮坪の内、変性男子の身魂出口直の体をかり、出口政五郎といふ父を持ち、若い時から男女と呼ばれたる、ヤンチヤ娘の出口久子、今は神の因縁に依つて、八木の高島寅之助が妻となり、あの山の、山のほでらのあばらや住居、今はおちぶれて居れども、結構な身魂が世におとしてあるぞよ。侮りて居りたものは、アフンと致してあいた口がすぼまらぬぞよ。今に天地がかへるぞよ。欲を致して沢山の金をためて居りても、其宝は持切には出来ぬ宝であるぞよ。此神の申した事には一分一厘間違ひはないぞよ。先をみてゐて下されよ、と前をまくつて大音声……と自ら呼ばはり、停車場に集まる人々を驚かせ、之を鎮定せむと入り来りし長左といふ男の腕にかぶりつき、狂態を演じ、大本の教を破壊せむと企んだ事もあつたのである。兇霊は此筆法を以て、或時は変性男子を極力賞讃し、また対者の心の中に男子女子を否むと認むる時は、声を秘そめて切りに誹謗し、吾薬籠中のものとなさむと企むものである。 さて、初稚姫と高姫との今後の活動は之に類するもの多ければ、巻頭に引証することとしたのである。 追伸=霊界物語の読者の中には凡て、斯様であります……とか、斯う考へます……とかいふ謙譲の言葉がなく、かうである……どうである……などと断定的に、且高圧的に口述してあるのは、所謂口述者が慢心した結果、かかる不遜の言辞を弄するのだと非難する人が間々あるさうです。併しながら『あります』と云へば活字を四字用ひなくてはなりませぬ。『ある』といへば二字で事がすみます。それ故にかかる洪瀚な物語には一字なりとも冗言を省き、可成数多の意味を読者に知らさむが為の忠実なる意思より出でたのであります。而して口述者自身は只神格にみたされたる聖霊に霊と体を任せきつてゐるのでありますから、口述者が之を改めようと致しましても、肝腎の局に当る聖霊が聞かなければ是非ない事であります。一寸茲に一言断つておく次第であります。 (大正一二・一・二〇旧一一・一二・四松村真澄録)
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霊界物語 59_戌_イヅミの国2(キヨの港) 22 五葉松 第二二章五葉松〔一五二二〕 伊太彦司に従ひて猩々迎ひの副官と 選み出されたアンチーは船頭に立ちて勇ましく 凱旋歌をば歌ひ出す数多の猩々は勇み立ち 一声々々手を拍つてキヤツキヤツキヤツとなきながら 拍子を取るぞ面白き。 アンチーは歌ひ初めた。其歌、 『猩々の島に来て見ればこの湖の底深く 潜みし海竜王が猩々王の帰幽をば 見済し海より躍り出で島の固めと聞えたる 大岩山に蟠まり長い首をば垂れ下ろし 大きな口をパツとあけ毒焔吐いて此島に 集まり居たる猩々を唯一匹も残さずに 丸呑みなして吾腹を肥さむとする怖ろしさ 斯る所へ三五の神の使の伊太彦が 二十の船を引きつれて現はれ給ひ数歌を 声も涼しく宣りつれば遉の海竜王も 進退茲に谷まりて体一面焦熱の 悩みにたへずペラペラと紅蓮の舌を吐き出し グレングレンとのた打つて苦しみ悶へ湖原に 落ち込み逃れし可笑しさよキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツ ドンドコドンドコドコドコドンバーチルさまと諸共に 湖水の魚を漁らむと三年前に館をば そつと抜け出し怖ろしき大海風に出会して 船諸共に水中に沈みて苦しみ悶へつつ 神の恵に救はれし事を思へば今は早 地獄を出でて天国に登りし如き心地なり キヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツドンドコドンドコドコドコドン 呑めよ呑め呑めどつさり飲めよ二十戸前の酒の倉 蓄へおいた此酒は猩々さまに飲ます為 バーチルさまはお前等の身魂の親である程に 猩々姫はお屋敷のサーベル姫に憑依り 二重生活して厶る三百三十三人の 猩々無垢のお客さま決して心配要りませぬ お前の父と母さまの常磐堅磐に現れませる アヅモス山の南麓の広き館に帰るのだ 悦び勇め猩々よキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツ ドンドコドンドコドコドコドンこれだけ沢山船客が あつても人語を発せないキヤツキヤ連中許りで 何だか気乗が致さないさはさりながら天地の 間に生きとし生けるもの何れも神の分け御霊 言葉かよはぬ外国の人を乗せたと諦めりや それで心は済むなれど頭の多い割合に 話の相手がやつと無いあゝ惟神々々 常夜の闇の現世は万の曲のさやぎたて 岩の根木の根も立ち騒ぎ草の片葉も言問ひて 普通選挙ぢや社会主義四民平等なにかにと 騒ぎ廻つて治まらぬ其惨状に比ぶれば キヤツキヤツキヤツキヤツと云ふ許り自分の意見を主張せぬ お方の制統は易いものキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツ ドンドコドンドコドコドコドン三五教の筆先に 誠の神徳備はらば人は黙つて俯むいて 小理窟云はず神徳を頂くものだと云ふてある これを思へば猩々さま天地の神の御恵を 霊に受けて厶るのかほんに秩序の整うた 猩々の群を眺むれば人間界が嫌になる 人間なればよいけれど人の皮被る狼や 狐狸の化物と暮して居るかと思ふたら ほんに怖ろしうなつて来たあゝ惟神々々 人は神の子神の宮天はいつ迄物云はず 地はどこ迄も言問はぬ人は天地に神倣ひ 下らぬ事を喋舌より心に神徳頂いて いつも確り口をつめ人の譏や蔭言を 決して言ふべきものでない言はぬは言ふにいや勝る 言葉を知らぬ猩々もやつぱり天地の御恵で 生活するを窺へば言葉の必要は無いだらう 神の玉ひし真善美善言美詞を外にして 人を怒らせ恨ませる礼無き言葉は云はぬもの 猩々さまがよい鑑ほんとに感じ入りました キヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツドンドコドンドコドコドコドン 私もこれからスマの里無事に帰つた事ならば 生れ赤子になりかはり無言の行を致しませう あゝ勇ましや勇ましや浪もをさまる湖の上 風も涼しき湖の上百鳥翼を打ち拡げ いと楽しげに舞ひ遊ぶ神の御国か海の上 大小無数の魚族は吾等の船を送りつつ ピンピンシヤンシヤン跳廻り無事泰平を祝ぎて 吾等の一行を送るなりあゝ惟神々々 神の恵の有難きキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツキヤツ ドンドコドンドコドコドコドン』 ○ 物は云ふまい物云ふた故に 父は長良の人柱 雉も鳴かねば打たりよまい。 歌を歌ふなら快く歌へ 歌は天地の神の声。 船を並べて猩々ケ島に 進むアンチーの身の冥加。 五十九の巻真善美愛 猩々潔白物語り。 霊界のありのままをば委細に 説いて教ゆる神の教。 物言はにや遠き神世の有様を 今の世人に知らされぬ。 加藤明子口を尖らし万年筆の 首筋掴むでかきなぐる。 大山の雪の衣をはぎながら 高麗の峰をば瞰下する。 一点の曇りさへなき弥生空 船に臥しつつ空を行く。 方舟は口述台の又の御名 床に飾りし五葉の松。 千年の齢保てる五葉の松 万年筆の針のやうに 五の御霊の葉も茂る。 (大正一二・四・三旧二・一八於皆生温泉浜屋加藤明子録) (昭和九・一二・一王仁校正)
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霊界物語 59_戌_イヅミの国2(キヨの港) 25 歓呼 第二五章歓呼〔一五二五〕 太陽は漸く西の浪間に沈むと共に、大空には金銀の星光瞬き初めた。数多の小猿は、夜の海上を眺めて稍不安の念を起したと見え、三百有余匹の口からキヤツキヤツキヤツと一斉に叫び出した。此声に圧せられて、欵乃の声も話声も船底を打つ浪の鼓の音も、闇と共に包まれて仕舞つた。伊太彦は勢を見せ、小猿等の心を安むぜむと舷頭に立ち、手を左右にふり乍ら面白可笑しく、歌ひ踊つて見せた。夜目の光る猩々は此姿を見て稍安心しながら、俄に陽気立ち、いづれも手を振り、嬉しげにキヤツキヤツキヤツキヤツと踊り出した。船頭は船の動揺を制すべく、頻りに櫓を握つて其平衡を保ちつつ北風に帆を揚げて海面を辷り行く。 伊太彦『夜の帳は下されて漸く四辺は静まりぬ 天津御空を眺むれば大小無数の星影は 金銀瑪瑙瑠璃硨磲ダイヤモンドも啻ならず おのもおのもに丹精をこらして光り輝きぬ 浪の底をば眺むれば大小無数の鱗族が 前後左右にゆき通ふその度毎に燦々と 光り輝く星影を遮り隠す床しさよ 船の中には猩々さま赤子のやうな声あげて キヤツキヤツキヤツと歌ひつつ恋しき母の御許へ 知らず知らずに進み行く吾は伊太彦宣伝使 デビスの姫を救はむと三千彦さまを伴ひて キヨの港の関守が館をさして夜に紛れ 足音忍ばせ進み入りデビスの姫を救ひ出し 逃げ行く途端に曲神の企みの罠に引つかかり 奈落の底に転落し因果を定め度胸据ゑ 心の中の煩悶を湮滅せむと惟神 神に吾身を任せつつホテルの番頭と洒落込みて 悲運を歎つ折もあれ落ち込み来るバラモンの ヘール司のユゥンケルチルテル司のキャプテンが 褌一つの真裸体落ち込み来るぞ怪しけれ 滑稽諧謔並べ立て奥の一間に案内し 又もや帳場に居坐つて客を待ちける折もあれ ドカドカドカと大勢が雪崩の如く落ちて来る 千客万来大繁昌なぞと洒落つつ煩悶を 紛らし居たる時もあれ思ひがけなき三五の 玉国別の宣伝使真純の彦やアンチーや テクの司と諸共にドスドスドスと辷り込む 思ひもよらぬ此奇遇敵も味方も一場に 首を鳩めて神界の尊き教の物語り 互に心打解けて皇大神の神恩を 涙と共に崇め居る鼓膜に響く犬の声 はて訝かしと疑へば思ひも寄らぬ助け舟 初稚姫の神司猛犬スマート引き連れて 醜の岩窟の入口の鉄戸を開けて来りまし 吾等一同を恙なく尊き地上に救ひまし 忽ち尊き御姿を隠し給ひし不思議さよ 玉国別の一行とバーチル館に立ち帰り 海川山野種々の清き待遇し受け乍ら 嬉しく楽しく神恩を崇め居る折サーベルの 姫の命の神懸猩々の姫が現はれて 島に残せし眷族を唯一刻も速に これの館に迎へとり救ひ給へと悲しげに 頼み入るこそ可憐らしき玉国別の許可得て 二十の船を呼び集め準備全く整うて 命のまにまに猩々島浪路も安く到着し 使命を全く相果し漸く此処に帰りけり 最早湖路も十四五里朝日の豊栄昇る頃 日出にスマに着くだらう思へば思へば勇ましや 天地百の大御神吾師の君の御前に 謹み感謝し奉る朝日は照るとも曇る共 仮令大地は沈むともバラモン教のヤッコスや ハール、サボール三人は恨みず憎まずどこ迄も 神のまにまに救ふべし心安かれ三人共 真善美愛の神の道如何でか人を損はむ 勇めよ勇め皆勇め猩々でさへもあの通り 喜び勇むで舞ひ踊るましてや人の身をもつて この瑞祥を祝はずば神に対して済まないぞ 勇めや勇め諸共に伊太彦司が赤心を 籠めて汝を救ふべく神に誓ひて宣り伝ふ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 かく歌ひ終るや否や、東の空は茜さし、浪の中より金覆輪の太陽は、鮮麗なる光輝を放つて覗き玉ふた。前方を見ればスマの浜に数百千の老若男女が鉦や太鼓を鳴らし、鬨の声を造りて、船影を認め、どよめき渡つて居る。此光景を見るよりヤッコス、サボールの両人は俄に怖気づき、身を躍らして海中に飛び込み姿を隠した。磯辺に立つた群衆は二人の入水を見て、アレヨアレヨと手を振り、声を限りにぞよめき出した。かかる所へ矢を射る如く、一艘の小舟現はれ来り、二人の飛び込むだ波上を目蒐け進み行く。これは真純彦、三千彦の操る船であつた。 ○ 日月の恵をうけて委曲に 説き明したる此物語。 いそのかみ古き神代の出来事を 今新しく説き明すなり。 (大正一二・四・三旧二・一八於皆生温泉浜屋加藤明子録) (昭和一〇・二・一八於彦根楽々園王仁校正)
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霊界物語 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 序文 序文 凡て教法には大乗小乗の区別がある。一般民衆に理解し易く説示するを小乗[※「小乗」と「大乗」と間違えている可能性がある。一般的には民衆にわかりやすく説示することが大乗である。]と曰つて、卑近な例を引いたり、何人にも解し易き言語を以て示すの類をいふ。多数一般の人々に対して神の教を説く時はどうしても小乗でなければ駄目である。哲学的思索に耽つて居るやうな所謂知識階級に対しては、又小乗では馬鹿にして耳を傾けないものである。何事も難解的の経典を以て、唯一成道の大法と心得て居る自称先覚者には、霊界の事情は容易には解されない。自然界と全く相反する所の神霊界の消息に対して、科学を基礎とせなくては駄目だと思惟して居る知識階級の人々は、何れも九十五種外道の全部を完備して居ると云つても良い位なものである。大乗を究めむとして不知不識の間に外道に陥落し一も取らず二も取らず、終には昏迷と愚痴とのみを取得するに至る。 凡て天国に昇るものは小乗を聞いて、直ちに神霊界の消息を感知し得る神的知識者である。現界にあつて学者と謂はるる人々も神的知識なるものを欠く時は、決して神霊界を窺ふ事は出来ない。凡て大乗教義なるものは、上根者、宣伝使等の所業の教理であつて、一般学者の到底感得し能はざる神秘である。大乗とは一に法大、二に心大、三に解大、四に浄大、五に荘厳大、六に時大、七に具足大、以上の七大乗は神に選まれたる神知識の所有者でなければ、到底今日勃興しつつある学者間の科学的研究態度にては、仮令数百年を経るとも其真相を究むる事は不可能事である。神を信ぜず、その存在を認めず、神を愛せざるものは決してその関門さへも窺ふことは許されない。而して大乗は歯に合はず、小乗は馬鹿にして耳を傾けず、暗中摸索の境涯に迷ふものは、科学本能主義の学者の通常辿る処の経路である。之を神諭には途中の鼻高と称へられてゐる。神を外にして霊界を知らむと如何に焦慮するとも、決してそのアナンタニルデーシャ・ブラテスターナ(無量義処)に達することは出来ない。カルバシャーヤ(劫濁)クレーシャガシャーヤ(煩悩濁)サッドワカシャーヤ(衆生濁)ドルスチカシャーヤ(見濁)アーユシカシャーヤ(命濁)の五濁を清め去り、清浄無垢赤子の心境に立ちて初めて神霊界の真義に歩を向くることが出来るものである。この物語も亦神示の所作なれば五濁を除去し、以て之に向ふ時は、神命垂示のマハービジニヤーナーヒアー(大通智勝)を感受し、マハービューバ(大荘厳)の神理を味はひ、神霊のラトナーヷ・バーサ(宝音)に接し、無等々正覚を得て人生の本分を全ふし、不老不死天国の生涯を生き乍ら楽しむ事が出来る案内書となるのであります。 アヽ惟神霊幸倍坐世。 大正十二年四月