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(2039)
霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 02 猛獣会議 第二章猛獣会議〔八九三〕 鷹依姫、竜国別の一行は宣伝歌をうたひ乍ら、数百万年の秘密の籠りたる南岸の森林に進み入る。併し乍ら人跡なき此森林も、思ひの外雑草少く、空はあらゆる大木に蔽はれて、日月の光を見る事甚だ稀であつた。 一本の大木と云へば周囲百丈余りもあり、高さ数百丈に及び、樹上には猩々、猅々、野猿の類群をなし、果物を常食として可なりに安心な生活をつづけ、其種族を益々繁殖させ、至る所に猿の叫び声は耳をつんざく許り怪しく聞えて居る。 二三尺許りの大蜥蜴は時々一行が路を遮り、開闢以来見た事もなき人の姿を見て、驚いて逃げ隠るるもあり、中には飛付き来るもあり、其他異様の爬虫族、先を争うて逃げ隠るる音、ザワザワと谷川の水流の如くに聞え来る。此時白毛の兎の一群、大なるは現代の牛の如きもの、ノソノソと一行の前に宣伝歌を尋ねて来り、両足を前に行儀よく並べて涙を流し乍ら、 兎『私は此森林に神代の昔より永住致しまする兎の長で厶います。此通り数多の種族を引連れ、あなた様一行の御降りを月の大神様より御示しに預り、ここに謹んでお迎へに参りました。あなたは三五教の宣伝使鷹依姫様、竜国別様の御一行で厶いませう。何卒この森林を御踏査下さいまして、吾々の安逸に一生を送り得らるる様、御守りの程偏に願ひ上げ奉ります』 と慇懃に頼み入るにぞ、竜国別は、 竜国別『ヤア始めて御目にかかります。あなたは此森林に長らく御住居なさると聞きましたが、大変に険呑な所で厶いますなア』 兎『ハイ御存じの通り、此時雨の森は、其昔吾々共の種族が月の大神様より千代の棲処として与へられたもので厶いますが、アダム、エバの霊より発生したる八岐の大蛇の一族を始め悪鬼悪狐の子孫益々跋扈して、遂にはモールバンドやエルバンドの如き怪獣と成り変り、吾々一同のものを餌食と致し、今は殆ど亡ぼされて了ひ、此数百里の大森林の棲処に於て、実に数千頭の影を止むるのみ、実に吾々は悲惨な生活をつづけ、戦々兢々として、一時の間も安楽に生活を送る事が出来ないので厶います。加ふるに、虎、狼、獅子、熊、大蛇、鷲などの連中が、常世の国のロツキー山方面より、常世会議のありし後、此森林に逃げ来り、吾等が種族を餌食と致し、暴虐無道の其振舞、実に名状す可らざる惨状で厶います。何卒あなた方の御神力を以て此森林の悪獣、悪蛇、悪鳥を言向和し、動物一切相和し相親しみ、天与の恩恵を永遠に楽しむ様、お執りなしを偏に希ひ奉ります』=兎は月神を祭る民族の意= 竜国別『委細承知致した。然らば、是より其方は吾々の先導になつて、第一に猛獣の棲処へ案内致せ。惟神の神法を以て、彼等を善に導き、悪を悔い改めしめ、此森林をして忽ち天国の楽園と化せしめむ。あゝ面白し面白し……母上様、妙なことになつて参りました。サア兎殿、案内召されよ』 兎『ハイ、早速の御承知、吾々一族は実に蘇生の思ひを致します』 と云ひ乍ら、大兎は数多の団体を率ゐ、鷹依姫一行の前後を警護しつつ森林深く進み行く。 数多の兎に送られて、鷹依姫一行は天を封じて樹てる森林の中を、意気揚々と半日許り進み行く。此処には稍展開された樹木のなき空地がある。殆ど十里四方の間は余り太き樹木もなく、針葉樹の小高き丘四方を包み、恰も青垣山の屏風を引廻せし如き安全地帯である。 兎の一族は僅に此地帯を永住処となして生活を続けてゐる。謂はば兎の都である。其殆ど中心に、聖地に於ける桶伏山の如き美はしき岩石を以て自然に造られたる霊場があり、そこには兎の最も尊敬する月の大神の宮が儼然として建てられてある。 此清き宮山を繞る清鮮の水を湛へた広き湖の辺には、大小無数の鰐=鰐は武人の群=が棲息し、鰐と兎の両族は互に相提携して天与の恩恵を楽んでゐる。つまり此鰐は森林の持主たる兎の眷属とも云ふべきものにして、兎の国の軍隊の如き用務に従事してゐるのである。 モールバンド、エルバンドの怪獣は兎を食する事を最も好み、日夜其事のみに精神を傾注して居る。されど兎は最早此安全地帯に集まりし事とて、巨大なる肉体を有するモールバンドは、数多の密生したる樹木に遮られて、ここに侵入するを得なくなつて了つた。如何にエルバンドと雖も、アマゾン河の岸より首を伸ばし、ここ迄届かす事は到底出来ない。それ故止むを得ず、余り好まざる肉ながら虎、狼、熊、獅子等を捕喰ひ、僅かに其餓を凌ぎつつあるのである。 或時モールバンドはエルバンドを使者として、猛獣の集まる森林の都、獅子の巣窟に向つて使ひせしめ、ここに談判を開始する事となつた。其談判の要領は左の通りである。 獅子王『あなたはモールバンド様の御使者エルバンド様、能くこそ御入来下さいました。就いては今日の御用の趣、何卒詳さに御話し下さいませ』 エルバンド『吾々今日使者として獅子王の都へ参りしは、余の儀では御座らぬ。吾統領のモールバンド様、アマゾン河に数多の眷族を御連れ遊ばし、兎を捉へて常食となし給ふ。吾々も亦、兎を以て最上の美味と致して居るもの、然るに此頃は兎の影も見せ申さず、甚以て吾々一族は困窮致して居る次第で御座います。就いては獅子王殿に一つの談判があつて、ワザワザここに使者として、エルバンド出張仕りました。其理由とする所は、獅子王の手を以て、熊、虎、狼を使ひ、兎の都に侵入し、彼等を生捕にし、日に数百の兎をモールバンド様に御献上ありたし。然らざれば熊、鹿、虎、狼、止むを得ざれば、獅子の一族をも、手当り次第捕喰ふべしとの厳命で御座いますれば、速かに否やの御返答を承はりたう御座います』 獅子王『これはこれは、何事かと思へば、思ひもよらぬ御仰せ、吾々一族は虎、狼、熊、獅子の区別なく、日夜モールバンド様の部下に捉へられ、日に幾百となく生命を断たれ、捕喰はれ、実に困憊の極に達して居りまする。就ては吾々四足一族は茲に大軍隊を組織し、北岸の森林の同志と相謀り、川を差挟んでモールバンド、エルバンドの軍隊を一匹も残らず殲滅し呉れむと日夜肝胆を砕き、今や協議の真最中で御座れば、早速に此返答は致し難し。御返事は、追つてアマゾン河の岸に使者を遣はし、御答へ申さむ。此場は一先づ御帰りあらむ事を希望致します』 エルバンド『然らば是非に及ばぬ。一時も早く協議を遂げ、御返事あらむことを希望致します』 と云ひ捨て、長大なる巨躯を蛭の如く伸縮させ、のそりのそりと獅子王の都を後に、アマゾン河のモールバンドの本陣と聞えたる寝覚の淵を指して帰り行く。 あとに獅子王は数多の四つ足族を獅子の都に召集し、一大会議を開催する事となりぬ。 獅子王はエルバンドの使者の帰つた後、直ちに使獅子を森林の各処に派遣し、熊王、狼王、虎の王、大蛇の頭、鷲の王などを代表者として召集し、獅子王の館に於て大会議を開く事となつた。日ならずして各獣の代表者は集まり来る。 山桃の林の下に大会議は開かれた。獅子王は先づ開会の挨拶をなし終つて、 獅子王『モールバンドの使者の齎した申込みに対し、各自の意見を吐露し、最善の方法を協議されむ事を望む』 と云ひ乍ら、諄々として一伍一什の経緯を物語れば、茲に熊王は進み出て、手に唾し憤然として雄猛びし、巨大なる目を瞠りつつ、 熊王『皆様、如何で御座いませう。吾々四つ足族は、今日迄互に反噬を逞しうし、優勝劣敗、弱肉強食の戦闘を続けて参りました。処が仁愛深き獅子王様の御威勢と御尽力に依り、互に其範囲を犯さず、熊は熊の団体、狼は狼、豹は豹、大蛇は大蛇、虎は虎と各部落を作り、此森林は漸く無事太平に治まり、辛うじて猿を捕り、兎を捕獲し、吾々獣族は漸く其生命を保つて来たのである。然るに此頃モールバンド、エルバンドの一族、アマゾン河より這ひ上り来り、吾等が部落を犯す事一再ならず、吾種族は夜も枕を高くし安眠する事も出来ない惨状で御座います。然るに何ぞや、悪虐益々甚だしく、日に数百頭の兎を貢せざれば、吾々が種族を捕り喰ふべしとの酷烈なる要求、どうして是が吾々として応じられませうか。吾々は仮令種族全滅の厄に遭ふとも、撓まず屈せず一戦を試み、勝敗を決せむ覚悟で御座る。皆様の御考へは如何で御座いますか』 と息も荒々しく述べ立つる。狼王は直ちに口を開き、 狼王『熊王様の御意見、実に御尤も至極では御座いまするが、どう考へても強者に対する吾々の如き弱者として、戦ふなどとは思ひも寄らぬ拙劣なる策では御座いますまいか。常世会議に於て吾祖先は翼をそがれ、最早空中飛行の自由を失ひし吾々四つ足族、如何に獅子奮迅の勢にて攻撃致すとも、暴虎馮河の勇あるとも、豺狼の奸策を弄するとも、到底及び難き議論だと考へます。若かず彼が要求を容れ部下を駆使して兎を捕獲し、モールバンドに日々これを貢ぎ、吾等一族の大難を免れるが、第一の策かと考へます。勝敗の数分かり切つたる此戦闘に従事するは策の得たるものではありますまい。皆様如何で御座いませうか』 と首を傾け、前足を腕の如くに組みながら、心配げに述べ立てる。 虎王は腕を組み、髭に露をもたせ、巨眼をクワツと見開き、言葉も重々しく、 虎王『吾々の考ふる所に依れば、如何に弱肉強食を恣にするモールバンドなればとて、吾々の種族を殲滅することは出来ますまい。吾々も天地の神の水火を以て生れ、神の精霊の宿りしものなれば、如何に悪虐無道のモールバンドなればとて、妄りに暴威を逞しうし、此森林を吾物顔に占領する事は到底不可能でせう。要するに彼等が如何なる事を申込み来るとも虎耳狼風と聞流し、相手にならず、打棄ておく方が獅子(志士)の本分で御座らう。……熊王殿、豹王殿、大蛇の頭殿、諸君の御意見は如何で御座りますか』 大蛇の頭『吾々如何に剽悍決死の勇ありとも、モールバンドの一族、完全無欠の武器を備へ攻来るに於ては到底敵する事は出来ますまい。飽く迄も豺狼の欲を逞しうし、獅子奮迅の勢を以て猛虎の如く攻め来る敵軍、何程準備は熊なく整ふとも、到底防戦する豺も覚束なき吾々の境遇、なまじひに強者に向つて弓を引くよりは、モールバンドの命に従ひ、兎の都に攻めのぼり、残らずこれを捕獲し、モールバンドの前に貢物として捧げなば、彼が歓心を買ひ且つ同情を得、吾等の種族を捕喰ふことを免じて呉れるでせう。弱を以て強に当るは吾々の虎ざる所、一刻も早く兎の都に進撃し、彼等を悉く捕獲して貢物となし、吾等種族の安全を保つに鹿ず、議長獅子王殿、御意見如何がで御座るか』 と詰めよる。獅子王は暫し首を傾け獅案にくれてゐたが、やがて頭を擡げ、大きく唸り乍ら、 獅子王『左様で御座る。到底勝算なき敵に向つて戦を挑み、部下の者共を亡されむよりは、弱小なる兎の都に攻め入り彼等を引虎へ、戦の危害を除くに若かず。鹿らば諸窘と共に時を移さず一族を引率し、兎の都を繞る四辺の山より一斉に攻め入り、鬼虎堂々として湖を渡り、兎の王を降服せしめ、一族が犠牲に供さむ』 と憤然として宣示する。一同は獅子王の宣示に返す言葉もなく、直に軍備を整へ数多の部下を引率し、兎の都を指して進撃することとなりぬ。 兎王は斯かる敵軍の襲来せむとは神ならぬ身の知る由もなく、鷹依姫、竜国別、テー、カーの四人の賓客に珍しき物を饗応し、数多の部下を集めて舞ひ踊り狂ひつつ四人の旅情を慰めむと全力を尽し居たりき。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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(2040)
霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 03 兎の言霊 第三章兎の言霊〔八九四〕 兎の都にては、一族此処に集まり来り、形ばかりの月の大神の宮の前に、芭蕉の葉を数多敷き並べて筵となし、バナナ、林檎、梨、山桃、苺などの果物を数多並べ立て、鷹依姫の一行を神の如くに敬ひつ、茲に歓迎の宴会を開きたり。 兎の王は立上がり、恰も天上より天津神の降臨せし如く打喜び、吾等を救ふ王者は現れたりと、歌をうたつて祝意を表しぬ。もとより兎の言語なれば、其真意は判然と分り兼ぬれども、其動作形容表情と言葉の抑揚頓挫に依つて、大体の意味は解さる。 其歌を訳すれば左の如し。 (兎の王)『昔の昔の其昔天に輝く月の大神様の 恵の露に霑ひてアマゾン河の北南 広袤千里の森林を吾等が千代の棲処ぞと 依さし給ひて永久に与へ給ひし楽園地 天津御空の星の如浜の真砂の数の如 吾等が種族は日に月に生めよ栄えよ育てよと 神の恵の言の葉は弥益々に幸はひて 時雨の森を吾々が玉の命の繋ぎ所と 喜び暮す折柄に天足の彦や胞場姫の 醜の魂より現れし八岐大蛇の成れの果て アダムの霊を受けつぎし大蛇の魂はモールバンド エバの霊を受けつぎし悪狐の霊はエルバンド さも恐ろしき悪神と生まれ変りてアマゾンの 河の上下隈もなく数多の子孫を生み生みて 蟠まりつつ吾々が種族を彼等が餌食とし 旦に五百夕べに五百日々に千兎を捕り喰ひ 吾等は悲しき今の身よ千代の棲処を失ひし 兎族一同止むを得ず仁慈の深き鰐族に 固く守られ青垣山を四方に繞らす此島に 清けき湖を隔てつつ僅に生を保ちけり。 さはさりながら吾々は此湖をうち渡り 鰐の子供に守られて青垣山を打越えて さも香しき餌食をば探ね求めつ行く度に モールバンドは来らねどさも恐ろしき獅子熊や 虎狼は云ふも更醜の大蛇や禿鷲に 貴き命を奪はれて日々に減り行く吾種族 心淋しき折柄に天津御空の雲わけて 神の使の神人が天の河原に船浮べ アマゾン河の河口に降り給ひて悠々と 貴き歌をうたはせつ上り来ませる嬉しさよ 吾等が救ひの神とます天津御空の月の神 汝が命を遣はして此苦みを救はむと 降させ給ひしものならむ思へば思へば有難し 恵の露は草の葉に浮びて月の御姿 宿らせ給ふたふとさよあゝ惟神々々 神の御霊の幸はひて此月島は永久に 神の守りの弥深く栄え栄えて瑞御霊 神素盞嗚大神の恵も開く教の花 紅緑こき交ぜて吾等が赤き心根を 神の御前に表白し救はせ給へ神司 鷹依姫よ竜国別よ御供の神と仕へます テーリスタンやカーリンス此四柱の御前に 兎一同代表し謹み敬ひ願ぎまつる 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むともモールバンドは猛くとも 虎狼や獅子熊の醜の猛びは烈しとも なぞや恐れむ吾々は救ひの神を得たりけり 守りの王を得たりけり喜び勇めわが子供 これより後は永久に月の社と諸共に 尽きせぬ千代の喜びを味はひまつり神国の 其楽しみを味はひて此世を造り給ひたる 国治立大神はすべての罪を赦しまし 百の災打払ひ此世を洗ひ清めます 神素盞嗚大神の御稜威を尊み敬ひて 此世のあらむ極まで朝な夕なに神恩を 称へ奉らむ惟神御霊幸はひましませよ』 と歌ひ了り、兎の王は四人の前に平伏し、 兎の王『誠に不調法な不完全な歌をうたひ、舞曲を演じまして、さぞお困り遊ばしたで御座いませう』 と耳を打振り打振り、さも慇懃に挨拶をする。鷹依姫は立上り、兎の群に向つて、手を拍ち体を揺り、面白可笑しき身振りしながら、うたひ始めた。 鷹依姫『豊葦原の瑞穂国波に浮べる五大洲 何れの山も海河も皆大神の御水火より 生れ出でたるものぞかし神の宮なる人の身は 云ふも更なり鳥獣魚虫草木に至るまで 国治立大神や金勝要大神の 御水火に依りて世の中に現れ出でしものなれば 神の御目より見給へば何れも尊き貴の御子 恵に隔てあるべきや天津日光は人の身も 木草の上も鳥獣虫族までもおし並べて 光り輝き給ふなり天地の間に人となり 獣となりて生るるも皆大神の御心ぞ 神の慈眼に見給へば尊き卑きの区別なし 吾も神の子汝も又神の尊き貴の御子 御子と御子とは睦び合ひ弱きを助け強きをば なだめすかして睦まじく此世を渡り祖神の 大慈悲心に酬ゆべしモールバンドは云ふも更 虎狼や獅子熊の猛き獣に至るまで 神の授けし言霊の恵の水火の幸はひば 服従ひ来らむ事あらむあゝ惟神々々 神の御子と生れたる汝の一族兎ども 天津神たち国津神国魂神の御恵を 朝な夕なに嬉しみて清き此世を送りつつ 凡ての曲に打勝ちて月の御神の依さします 汝が天職を尽すべしわれも一度は村肝の 心曇りて豹狼の獣に劣らぬ醜の道 朝な夕なに辿りたる人の衣を被りたる モールバンドとなりたれど尊き神の御光りに 照らされ今は執着の雲霧晴れて惟神 神の身魂となりにけり三千世界の梅の花 一度に開く時来り神の仕組か白波の 上漕ぎ渡り漸うに高砂島の土を踏み アリナの滝に身を浄め再び玉の執着に 心を濁り曇らせつ慈愛の笞に叩かれて 漸く神に立帰り大海原を乗り切りて やつと此処まで着きにけり広袤千里果てしなき 時雨の森の此霊地いや永久に鎮まりて 汝が一族云ふも更虎狼や獅子熊の 猛き獣を始めとし大蛇猩々禿鷲の 醜の魔神を言霊の清き御水火に服従はせ モールバンドに至る迄悪虐無道の行ひを 改めしめて神国の五六七の神世を建設し 所在生物親しみて常世の春を楽まむ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 鷹依姫を始めとし竜国別やテー、カーの 神の司を悉く皇大神の御心に 叶はせ給へ天津神百千万の神等の 御前に祈り奉る旭は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも高砂島は亡ぶとも アマゾン河は涸くとも時雨の森は焼けるとも 神に従ふ真心は幾千代迄も変らまじ あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて これの兎のおとなしく服従ひまつりし其如く 猛獣毒蛇を始めとしモールバンドやエルバンド 其外百の獣をば尊き神の言霊に 言向け和せ給へかし黄金の玉は見えずとも 神に受けたる吾魂は金剛不壊の如意宝珠 紫玉か黄金の玉の如くに照り渡る 此御威徳をどこ迄も発揮し奉りて御恵の 露おく間なく禽獣の上に注がせ給へかし 神の恵に目醒めたる鷹依姫の此願ひ 完美に委曲に聞し召せあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終りて座に着けば、兎の王を始めとし、湖より此言霊歌を聞いて喜び勇み集まり来れる鰐の群は、嬉しげに耳を澄ませて聞き終り感謝するのみ。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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(2041)
霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 04 鰐の言霊 第四章鰐の言霊〔八九五〕 鰐の頭はツカツカと四人の前に現れ来り、さも嬉しげに頭を垂れ感謝の意を表し且つ歌ふ。 鰐の頭『仰げば尊し天地の神の恵は目のあたり 天の河原に棹さしてアマゾン河の河口に 降り給ひし神の御子鰐の一族喜びて 赤き心を捧げつつ茲に現はれ参ゐ来り 祝ぎ仕へ奉るあゝ惟神々々 尊き神の御恵吾等が上に降りけり 吾等のすさむ魂も一度に開く木の花の 薫るが如く栄えけり鷹依姫の神様よ 竜国別の神様よはるばる此処に天降りまし 吾等が王と仕へたる兎の君の鎮まれる 霊地に現れ給ひしは天地の神の御恵みか 譬方なき喜びにこれの湖水を包みたる 青垣山の草木迄色美しく生々と 甦りたる如き思ひなり吾等は月の大神の 貴の御子なる兎族尊み敬ひ朝夕に 心を尽し身を尽しモールバンドやエルバンド 虎狼や獅子熊の襲ひ来れる災禍を 防ぎて守る永の年さはさりながら吾々は 神の御水火を受けながら昔の罪の消えやらず げに浅間しき此境遇如何に心を尽すとも 神の御水火の言霊を照らす事さへ白波の 中に漂ふ悲しさに月日を送る甲斐もなく これの湖辺を棲処とし十里四方の霊地をば 僅に守る計りなりさはさりながら吾々が これの湖辺に棲む間は如何なる猛き獣類も 容易に犯し得ざるべしあゝさりながらさりながら 猛獣毒蛇と生れたる彼の身魂は憐れにも 神の御子にて御子ならず優勝劣敗罪重ね 弱肉強食日に月に行ひ続け生命を 僅に保てる憐れさよあゝ惟神々々 神の御霊の幸はひて天が下なる生物は 互に愛し助け合ひ争ひ猛ぶ事もなく 神の恵を平等に受けて身魂を磨き上げ 賤しき殻を脱ぎすてて再び魂は天国の 神の御許に立帰り万の物の長として 権威のこもる言霊を自由自在に使用する 神となさしめ給へかし鷹依姫の神司 竜国別の御前に鰐族一同を代表し 清く磨きし言霊の恵の光に天地の すべての生物救ひませあゝ惟神々々 神の司の御前に誠の限りを現して 慎み敬ひ願ぎ奉る』 と唄ひ終り、堅牢なる甲を以て包まれたる長大なる身体を左右に揺りながら、満足の意を表し、数多の鰐と共に前後左右に舞ひ踊り、歓迎の意を示したり。竜国別は立上り、兎と鰐の愛らしき群に向つて、さも嬉しげに歌をうたふ。 竜国別『天地の水火をうけつぎて生れ出でたる神司 三五教の宣伝使鷹依姫の体を借り 肉の宮をば建造し生れ出でたる神司 竜国別は今此処に大空伝ひ照り渡る 月大神の宮の前貴の神徳拝しつつ 兎や鰐のともがらに稜威の言霊宣り上げて 心の丈を宣べ伝ふあゝ惟神々々 神の恵を蒙りて稜威の聖地と聞えたる 綾の高天に聳り立つ錦の宮を後にして 黄金の玉の所在をば探ねむものと高砂の 島に渡りていろいろと心の駒のはやるまに 醜の企みを立てながら再び神の御声に 眼をさまして美はしき元津身魂となりにけり 神の恵は隈もなく青人草は云ふも更 鳥獣や魚に虫草木の片葉に至るまで 恵の露を垂れ給ふ公平無私の神心 漸う悟り今茲に現はれ来る吾々は 知らず識らずに大神の仕組の糸に操られ 進み来りし者ならむ誠の神の御使と 定められたる四人連れ今は汝が親となり 兄ともなりて天地の神の恵をこまやかに 時雨の森の果てまでも隈なく広め御恵みの 雨降り注ぐ楽園と堅磐常磐に守るべし あゝ惟神々々神の御霊に生れたる 兎や鰐の一族よ必ず歎く事勿れ 吾等四人の神人がここに現れ来た上は モールバンドは云ふも更如何なる猛き獣類も 神の恵の御水火より生れ出でたる言霊に 言向け和し敵もなく争ひもなく永久に 平和の森となさしめむあゝ惟神々々 神の御水火に生れたる吾等を始め汝が群 仮令天地は変るとも尊き深き御恵みを 一日も忘れず朝夕に神の御前にひれ伏して 其神徳を称へかし神は吾等と倶にあり 神は汝らの身を守る神の恵に開かれし 天が下なる生物は仮令如何なる曲者も いかでか恐るる事あらむ心を清め身を浄め 神のまにまに真心を尽せよ尽せ諸々よ 竜国別が改めて汝等が群に宣り伝ふ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 テーリスタンは面白き歌をうたつて興を添ふ。 テーリスタン『鷹依姫や竜国別の教の司の御後に カーリンスと諸共に広袤千里の荒野原 草を分けつつ進み来てアルの港に安着し 大海原を船に乗り渡つて来る折柄に 俄に烈しき荒風に浪立ち狂ひ鷹依姫は 真逆様に海中へザンブとばかり陥りて 姿見えなくなつて来た孝心深き竜国別は 吾身を忘れて海中に飛込み姿を失ひぬ テー、カー二人は驚いて最早叶はぬ百年目 殉死なさむと意を決し一イ二ウ三ツで飛込めば 後白浪に呑まれつつ竜宮海を探険と 思うた事の的外れ亀の背中に乗せられて ゼムの港に漂着し天祥山に立向ひ モールバンドに出会し吾言霊の神力に 「オツトドツコイ」こら違うた鷹依姫の言霊に 言向け和し荒男二人の命を救ひつつ 天祥山の谷を越え果てしも知らぬ荒野原 涼しき風に送られてチンの港に安着し 船を造りてアマゾンの河口さして進み来る 音に聞えしモールバンドエルバンドの此処彼処 怪しき頭を擡げつつ吾等一行の顔を見て 何が怖いか知らねども水勢強き河の瀬に 姿を隠し失せにけるあゝ惟神々々 神の恵を蒙りて教司の神力に 恐れ戦き逃げたるか何は兎もあれアマゾンの 河の岸をば攀上り此森中に来て見れば 幾千年とも限りなき年の老いたる兎の王 数多の眷族引きつれて吾等一行を慇懃に 迎へに来たる嬉しさよ広袤千里の森林の その中心に斯の如聖き霊地のあらむとは 夢にも悟り得ざりしが豈計らむや天伝ふ 空に輝く月の神形計りの宮居をば 清けき水を繞らせる此霊場に鎮祭し 兎の王の一族が朝な夕なに真心を 捧げて祈るゆかしさよあゝ惟神々々 神の宮居と生れたる人は尚更神の道 清く守りて天地の深き恵を感謝しつ 皇大神の御心に叶へ奉らであるべきや いよいよ茲に三五の神の司と現はれて 仮令獣と云ひながら其源を尋ぬれば 何れも同じ神の御子救ひまつらでおくべきか 兎の群よ鰐の群必ず心を悩めまじ 鷹依姫の一行が現はれ来りし上からは 如何なる魔神の災も旭に露の消ゆる如 払ひ清めて禍の根を絶ち神の御恵の 露に霑ふ花園と開き守らむ惟神 神の御稜威を嬉しみてこれの聖地を能く守れ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 とうたひ終り、社の前に端坐し、神恩を感謝し、且つ一時も早く此森林の災を除き、再び綾の聖地に帰し給へと祈願なしける。惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 05 琉球の光 第五章琉球の光〔八九六〕 カーリンスは三人の宣伝使の歌を聞き、吾も亦歌をうたひ、兎、鰐の一族に対し、巾を利かさねばなるまいと思つたか、直に立上り、妙な手附をして踊りながら、歌ひ始むる。 カーリンス『此処は名に負ふハルの国アマゾン河に沿ひて樹てる 大森林の時雨の森と人も言ふモールバンドやエルバンド 其外百の獣たち堅城鉄壁千代の棲処と 天日に怖ぢず地に憚らず月の光に恐れず 自由自在に咆哮怒号の魔窟ケ原 優勝劣敗弱肉強食の修羅の巷を 数百万年の昔より世界の秘密国として 汝が一族に与へられたる此森よ 森の主は兎の王と誇りし夢も何時しか消えて 今は悪魔の棲処と成り果てぬ 変れば変る現世の例に洩れぬ兎の身の上 鰐一族の淋しき生活広袤千里の森林に 十里四方の地点を選び要害堅固の鉄城と 頼みて暮す霊場も今は危くなりにけり 八岐の大蛇醜狐曲鬼共の霊の裔 激浪猛る奔流の深き河瀬に身を潜め 汝が一族悉く命の綱の餌食にし 根絶せむと附け狙ふモールバンドやエルバンド 斯かる仇敵のある中に虎狼や獅子に熊 大蛇禿鷲猿の群汝が一族狙ひつつ 眼を配る時もあれ国治立大神の 守り給へる三五の神の司鷹依姫を始めとし 竜国別の宣伝使テーリスタンやカーリンス 四人の貴の神の子が救ひの神と現はれて 此処まで降り来りしは枯木に花の咲きしが如く 大旱に雨を得たるが如くなるべし勇み喜べ兎よ鰐よ 吾等は是よりハルの国アマゾン河の森林を 神の御水火に言向け和し尚も進んで珍の国 旭のテルやヒルの国カルの国まで天降り 八岐大蛇の一族を言向け和し神の世の 畏き清き政事布き施すは目のあたり 仮令悪神アマゾンの河底深く潜むとも 猛き獣の徒に汝が群をば攻むるとも 吾等が此処に来りし限りビクともさせぬ神力を 固く信じて朝夕に喜び勇み神の前 瑞の御霊と現れませる月の御神の御前は 云ふも更なり国魂の神と現れます竜世の姫を 厚く祀れよ敬へよ吾も神の子亦汝も 同じく神の御子なれば何の隔てのあるべきや 神は万物一切に平等愛を垂れ給ふ あゝ惟神々々兎の都に現はれて 心も固き鰐の群集まり守る聖場に 三五教の神の国堅磐常磐に限りなく 基を建つる頼もしさあゝ惟神々々 神の恵を嬉しみて兎や鰐の群等よ 喜び勇め神の前森の谺の響くまで 歌へよ祈れ神の恩あゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 是より鷹依姫外三人は数多の兎を使嗾し、兎の都の王となつて、殆ど一年の日子を此別世界に楽しく面白く送りたり。 或夜、月皎々と光りを湖面に投ぐる折しも、四方の丘の上より、一斉に『ウーウー』と咆哮怒号突喊の声、耳も引裂くるばかり聞え来りぬ。兎の王は驚きて鷹依姫の前に走り来り、 兎の王『鷹依姫様に申上げます。只今四方の山々を取囲み、虎、狼、獅子、大蛇、熊王、数多の一族を呼び集め、雲霞のごとく此霊地を占領し、吾等が部下を捉へむと勢猛く攻め寄せました。鰐の頭は数多の眷族を呼びあつめ、死力を尽して闘つて居るでは御座いませうが、何を云つても目に余る大軍、容易に撃退することは不可能なれば、何とか御神力を以て彼等寄せ来る魔軍を言向け和し給はむ事を、偏に一族に代り御願ひ申上げます』 と慌ただしく息を喘ませ頼み入る。鷹依姫はウツラウツラ眠りつつありしが、忽ち身を起し、月の大神を祀りたる最も高き地点に登り、四辺をキツと見詰むれば、四方を包みし青垣山の彼方此方に炬火の光煌々と輝き、咆哮怒号の声、万雷の一時に聞ゆる如く、物凄さ刻々に激烈となり来る。 鷹依姫は直に拍手しながら天津祝詞を奏上し、天地に向つて言霊を宣り上げたり。 鷹依姫『天津神等八百万国津神等八百万 国魂神を始めとし取分け此世を造らしし 国治立大御神豊国姫大御神 天照らします大御神神素盞嗚大神の 貴の御前に三五の神の司と任けられし 鷹依姫が真心をこめて祈りを捧げます あゝ大神よ大神よ高砂島のハルの国 アマゾン河の両岸に幾万年の星霜を 重ねて樹てる大森林中に尊き此霊地 千代の棲処と定めつつ身魂も清く美はしき 兎の群や鰐の群いや永久に棲居して 神の恵を喜びつ天伝ひます月の神 朝な夕なに伏し拝み天地の恵を感謝する 尊き心を憐みて寄せ来る魔神を大神の 稜威の御水火に吹き払ひ安全地帯となし給へ あゝ惟神々々神の恵に包まれし 兎の都の此聖地千代も八千代も永久に 曲津の神の一指だも触るる事なく恙なく 常世の春のいつまでも喜び勇みの花咲かせ これの聖地を元として時雨の森に棲ひたる 猛き獣や大蛇まで神の恵に漏るるなく 救はせ給へ惟神神の御前に願ぎ奉る 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 敵の勢猛くとも神より受けし言霊の 吾等四人が御稜威をば天津御空の日の如く 照らさせ給ひて功績を千代に八千代に永久に 建てさせ給へよ惟神神の御前にひれ伏して 言霊称へ奉る』 斯く歌ふ折しも、西南の隅に当つて、屏風山脈の最高地点、帽子ケ岳の方面より、二つの火光、サーチライトの如く輝き来り、四方を囲みし魔軍は光りに打たれて声を秘め、爪を隠し、牙を縮め、眼を塞ぎ、大地にカツパとひれ伏して、震ひ戦き居たりける。 竜国別は立上り、火光に向つて再拝し、拍手しながら歌ふ。 竜国別『青垣山を繞らせるこれの聖地に永久に 棲ひなれたる兎の子等が魔神の災遁れむと 朝な夕なに月の神斎きまつりて誠心の 限りを尽し仕へ居る其誠心に同情し 八尋の鰐は湖の辺に集まり来りて夜昼の 区別も知らず聖場を守り居るこそ畏けれ 時しもあれや三五の道を伝ふる神司 自転倒島を後にして現はれ来る吾々が 一行四人は恙なく神の仕組の経糸に 引かれて此処に来て見れば兎の都は永久に 八尋の鰐に守られて天国浄土を目のあたり 見るが如くに栄えけりあゝ惟神々々 神の恵と嬉しみて吾等はここに大神の 禽獣虫魚の端までも恵み給へる御心を 信仰ひまつりて王となり兎や鰐の一族に 神の恵を間配りつ守る折しも青垣の 山を踏み越え攻め来る虎狼や獅子熊や 大蛇の霊諸共にこれの霊地を蹂躙し 兎や鰐の一族を滅亡させむと迫り来る 其災害を遁れむと朝な夕なに言霊の 稜威の祝詞を奏上し漸く無事に来りけり 然るに又もや四方の山峰の尾の上に曲津神 雲霞の如く攻め来り此聖場を奪はむと 息まき来る物凄さ吾等四人は村肝の 心の限りを尽しつつ暗祈黙祷やや暫し 勤むる折しも西北の空を隔てし屏風山 帽子ケ岳の頂上より琉と球との霊光は 電火の如く輝きて魔神の咆哮一時に 跡形もなく止みにけりあゝ惟神々々 如何なる神の御救ひか如何なる人の救援か げに有難き今日の宵竜国別は謹みて 皇大神の御前に心を清め身を浄め 遥に感謝し奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 斯く感謝の言霊を宣り上げ、再び月の大神の神前に向つて拍手を終り、兎の王に一先づ安堵すべき事を宣示した。兎の王は喜び勇んで此旨を部下に伝達せり。 鰐の頭此処に現はれ来り、大に勇みて、 鰐の頭『斯く天祐の現はれ来る限りは、吾等は湖辺に陣を取り、虎、狼、獅子、熊、大蛇の群、仮令幾百万襲ひ来るとも、これの湖水は一歩も渡らせじ、御安心あれ兎の王よ』 と勇み立ち、帽子ケ岳より輝き来る霊光に向つて感謝し、一同は歓声を挙げて天祐を祝し、其夜は無事に明かす事とはなりぬ。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 06 獅子粉塵 第六章獅子粉塵〔八九七〕 兎の王の側近く仕へたる左守の位置にある大兎は、立上つて感謝の意を表し、又もやうたひ始むる。 左守の兎『暗夜を照らす琉の玉吾等を救ふ球の玉 二つの玉は大空の月日の如く輝きぬ 青くしぼみし吾々の曇りし顔も忽ちに 二つの玉の御威光に喜び栄え輝きぬ あゝ惟神々々神の救ひか神人の 吾等を救ふ真心の魂の光の現はれか 南と北に立並ぶ屏風ケ峰の山脈に 雲を圧して聳え立つ帽子ケ岳の頂上より 瑞の御霊の神司言依別の大教主 国依別の真人が琉と球との神力を 発揮し給ひて吾々が此苦しみを詳さに 救ひ給ひし事の由月大神の御前に 額づく折しも示されぬいよいよ吾等は天地の 神の教を相守り互に他をば犯さずに 睦び親しみ皇神の大慈大悲の御心に 叶へまつらであるべきや皇大神の任けのまに 百の艱みを凌ぎつつ心の岩戸を打開けて 遥々此処に来りまし吾等が救ひの神となり 百の艱みを科戸辺の風に隈なく吹払ひ アマゾン河の急流に流し給ひし有難さ 神徳高き鷹依姫の貴の命の神司 竜国別を始めとし心の色もさやさやに テーリスタンの真人よ森に茂れる雑草を カーリンスなる神司茲に四柱並ばして 時雨の森の中心地十里四方の霊場に 降り給ひて湖の清き泉の御教を 開き給へる尊さよあゝ惟神々々 神の御徳を蒙りて吾等も早く執着の 衣を脱いで天津国神の御側に参ゐ詣で 幸ある人と生れ来て青人草は云ふも更 禽獣虫魚の端までも三五教の御教に 漏れなく落ちなく救ひ上げ功を樹てて神の子と 清く仕へむ惟神神の御前に願ぎまつる 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も現し世は直日に見直し聞直し 宣り直しませ天津神国魂神の御前に 兎一同を代表し救ひの御手の一時も 早く降らせ給ひまし獣とおちし身魂をば 救はせ給へ惟神神かけ祈り奉る 旭は照るとも曇るとも仮令天地は変るとも 月は盈つとも虧くるともおのが身魂のある限り 皇大神や世の為に心を清めて三五の 大道に仕へ奉りなむ救はせ給へ天津神 恵み給へよ国津神国魂神の竜世姫 御前に願ひ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 斯かる所へ兎の一群、鰐の背に乗せられ、気息奄々として帰り来るあり。見れば四五の兎は手を咬まれ、傷つけられ、腹をえぐられ、殆ど瀕死の状態に陥れり。 之を見るより竜国別は忽ち側に寄り添ひ、天の数歌を声高く歌ひ上げながら、右の手を伸べて各自其傷所を撫でさすり、懇に労はり且つ天津祝詞を奏上し、一刻も早く傷所の痛みを止めさせ給へと、暗祈黙祷を続けたるに、不思議なるかな、神徳忽ち現はれて四五の兎は一斉に痛み鎮まり、疵口は見る間に癒えにける。兎は跪いて、竜国別に感謝の意を表し涙を流して俯伏せり。 兎の王は一同に向ひ、一刻も早く遭難の顛末を言上せよと迫れば、其中にて最も大なる兎は、兎王に向ひ、前膝をつき、詳さに戦況を物語る。 大兎『申すも詮なき事ながら吾々は一行五十の兄弟と共に ターリスの峰を越え獅子王の棲処近き アラスの森に進まむと峻しき坂を登る折しも 俄に聞ゆる猛獣隊の唸り声驚破一大事と 四辺の木蔭に身を忍び様子を窺ふ時もあれ 現はれ出でたる熊の群吾等が一隊に向つて 勢猛く攻め来り強力に任せて 或は生首引きぬき手足をもぎ取り 或は捕虜となし山のあなたに引立てて行く 吾等はもとより強力なる熊の群に向つて 対抗するの力もなく負傷をしながらも逃げまはる 今や吾等は熊の爪牙にかかりて 亡びむとする時しもあれ眩きばかりの霊光 帽子ケ岳の方面より鏡の如く射照らし給へば 流石強力無双の熊の一隊も眼眩みて忽ちに 其場に倒れて伏しました此機を窺ひ吾々一隊のもの共は 命カラガラ湖の畔に漸く逃げ帰り 湖辺を守る鰐共に救はれ此処に帰りました 此戦況を王様に完全に委曲に申上げ 敵に向つて膺懲の戦を起し悪神の 心を改め以後は必ず無謀の戦を起さざらしめむ事の用意を 遊ばされたしと心計りは張弓の 思ひ迫つて帰りましたしかるに尊や有難や 日頃尊み仕へたる三五教の神司 竜国別の神様に危き命を助けられ 痛みも忽ち全快しこれ程尊い嬉しこと 又と世界にありませうかあゝ惟神々々 神の恵を目のあたり授かりました吾々は 是より月の大神に感謝の祝詞を奏上し 兎の都の霊地をば堅磐常磐に守りませう 鷹依姫の神様よ竜国別の神様よ 其外二人の神司千代に八千代に此里に 鎮まりまして吾々の身魂を守り給へかし 海より深き大恩を感謝しまつり行末の 守りを茲に願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と嬉し涙を流しながら、心の底より神恩を感謝し、且竜国別の親切を打喜び、親の如くに慕ひける。 ○ 雲霞の如く押し寄せたる猛獣の一隊は、琉と球との霊光に照らされ、命カラガラアラスの森の獅子王が陣屋へ、転けつ輾びつ帰り行く。 獅子王は此度の兎の都攻めに対し、勝利は如何にと首を伸ばして待ちゐたり。かかる所へ速力早き禿鷲は、三丈ばかりの翼をひろげ、空中を翔つて矢の如く獅子王の前に翔せ帰り来る。獅子王は早くも之を認めて、 獅子王『汝は禿鷲の王ならずや。今日の一戦、味方の勝敗詳さに語れ!』 と待ちかねし如く慌しく問ひかくる。禿鷲は羽搏きしながら、さも恨めしげに獅子王に向つて戦闘の模様を陳弁する。 禿鷲『狼の王は青垣山の南より熊王北より進みより 虎王西より突進し豺王は東の谷間より 大蛇は巽乾より鷲の一隊艮や 坤に陣を取り兎の都を十重二十重 包みて一度に鬨の声ドツと挙げつつ進む折 湖辺に潜む数万の鰐は忽ち立上り 波を踊らせ水を吹き其勢は中々に 近寄り難く見えけるが獅子奮迅の勢を 発揮しながら驀地に命を的に攻めよつて 漸く兎の一部隊四十有五を捕獲して ヤツト一息それよりは尚も進んて湖を 一瀉千里に打渡り月の聖地に立向ひ 兎の王を捕虜となし愈目的達せむと 伊猛り狂ふ折柄に帽子ケ岳の頂上より 不思議の霊光現はれて吾等の軍を射照らせば 眼はくらみ手はしびれ足わななきて進み得ず 命カラガラ青垣の山を再び攀登り 東西南北一時に恨を呑んで引返し 味方は四方に散乱し熊王虎王狼王 大蛇の王の行方さへ今に至りて判明せず 無念ながらも只一機空中翔りてやうやうに 報告旁帰りし』と 語れば獅子王腕を組み悲憤の涙にくれけるが どこともなしに宣伝歌風のまにまに響き来る 其声聞くより獅子王は頭を抱へ目を塞ぎ 忽ち其場にドツと伏し悶え苦しみ居たりける あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 13 平等愛 第一三章平等愛〔九〇四〕 高姫外七人は鰐の橋を渡り、南の森林に数多の兎に迎へられ、漸くにして、青垣山を繞らせる森林の都、月の大神の鎮祭しある霊場に辿り着いた。鷹依姫は白髪の冠を頂き、凡ての猛獣を子の如くなつけ、普く獣の霊の済度に全力を尽してゐる。 高姫は久し振りに鷹依姫に面会し、固く手を握りものをも言はず、嬉しさと懐しさに涙を両頬より垂らしてゐる。ここに愈高姫一行八人と、鷹依姫の一行四人を加へ十二の身魂は、天地に向つて七日七夜の間断なき神言を奏上し、すべての猛獣を悉く言向け和し、肉体を離れたる後は必ず天国に到り、神人となつて再び此土に生れ来り、神業に参加すべき約束を与へ、所在猛獣をして歓喜の涙に酔はしめたり。 如何に猛悪なる獅子、虎、狼、熊、大蛇、豺、豹と雖も、口腹充つる時は、決して他の獣類を犯す如き暴虐はなさないものである。只飢に迫り、其肉体の保存上、止むを得ずして他の動物の生命を奪り食ふのみである。 然るに万物の霊長たる人間は、倉廩満ちても猶欲を逞しうし、他人を倒し、只単に自己の財嚢を肥し、吾子孫の為に美田を買ひ、決して他を憐み助くるの意思なき者、大多数を占めてゐる。併し乍ら、神代は社会上の組織、最も簡単にして、物々交換の制度自然に行はれ、金銭と雖も珍しき貝殻、或は椰子の実の種をいろいろの器になし、之を現今の金に代用し、又は砂金などを拾ひて通貨の代用にしてゐたのである。さうして一定の価格も定まつてゐなかつた。それ故神代の人は最も寡欲にして、如何に悪人と称せらるる者と雖も、只々情欲の為に争ふ位のものであつた。時には大宜津姫神現はれて、衣食住の贅沢始まり、貧富の区別漸く現はれたりと雖も、現代の如き大懸隔は到底起らなかつたのである。 大山祇、野槌の神などの土地山野を区劃して占領し、私有物視したる者も出で来りたれども、これ亦現代の如くせせこましき者にあらず、実に安泰なものであつた。 高姫、鷹依姫、竜国別は、茲に猛獣に対し、神に許しを受けて、律法を定め、彼等をして固く守らしめた。其律法の大要は、 一、熊は熊、虎は虎、狼は狼、獅子は獅子、蛇は蛇、兎は兎として或地点を限り、其処に部落を作り、互に他獣の住所を侵さざる事 一、各獣族は一切の肉食を廃し、木の実又は草の葉、木の芽などを常食とし、而も身体少しも痩衰へず、性質温良になり、互に呑噬の争ひをなさざる事 一、時々各獣団体より代表者を兎の都に派遣し、最善の生活上の評議をなす事 一、鰐をして、モールバンド、エルバンドの襲来に備へ、且つアマゾン河の往来の用に任ずる事 一、鰐を獅子王の次の位と尊敬し、年々、各獣、月の大神の社前に集まりて、懇談会を開き鰐を主賓となし、年中の労苦を犒ふ事 一、右の律法に違反したるものは、獅子王の命により、其肉体は取り喰はれ、其子孫永遠に獣類の身体を受得して、地上に棲息するの神罰を与へらるる事 等の数ケ条の律法を定め、獅子王を始め各獣の王をして、之を其種族一般に布告せしめた。 これより其律法を遵守し、月の大神の宮に詣でて赤誠を捧げたるものは、一定の肉体の期間を経て帰幽するや、直に其霊は天国に上り、再び人間として地上に生れ来ることとなりぬ。 又此律法に違反したる各獣は、其子孫に至る迄、依然として祖先の形体を保ち、今に尚人跡稀なる深山幽谷森林などに、苦しき生活を続けてゐるのである。あゝ尊き哉、月の大神の御仁慈よ。 国治立大神は、あらゆる神人を始め禽獣虫魚に至る迄、其霊に光を与へ、何時迄も浅ましき獣の体を継続せしむることなく、救ひの道を作り律法を守らしめて、其霊を向上せしめ給へり。故に禽獣虫魚の帰幽せし其肉体は、決して地上に遺棄することなく、直に屍化の方法に依つて天に其儘昇り得るは、人間を措いて他の動物に共通の特権である。猛獣は云ふも更なり。烏、鳶、雀、燕其外の空中をかける野鳥は、決して屍を地上に遺棄し、人の目に触るる事のなきは、皆神の恵に依りて、或期間種々の修業を積み、天上に昇り、其霊を向上せしむる故なり。只死して其体躯を残す場合は、人に鉄砲にて撃たれ、弓にて射殺され、或は小鳥の大鳥に掴み殺され、地上に落ちたる変死的動物のみ。其他自然の天寿を保ち帰幽せし禽獣虫魚は残らず神の恵によりて、屍化の方法に依り天上に昇り得る如きは、天地の神の無限の仁慈、偏頗なく禽獣虫魚に至る迄、依怙なく均霑し給ふ証拠なり。只人間に比べて、禽獣虫魚としての卑しき肉体を保ち、此世にあるは、人間に進むの行程であることを思へば、吾人は如何なる小さき動物と雖も、粗末に取扱ふ事は出来ない事を悟らねばならぬ。其精神に目覚めねば、真の神国魂となり、神心となることは到底出来ない。又人間としての資格もない。 斯く曰はば人或は云はむ、魚を捕る漁師なければ吾等尊き生命を保つ能はず、獣を捉ふる猟夫なければ日常生活の必要品に不便を感ず、無益の殺生はなさずと雖も、有益の殺生は又已むを得ざるべし。斯かる道を真に受けて遵守することとせば、社会の不便実に甚しかるべしとの反対論をなす者がキツト現はれるでありませう。併し各自にその天職が備はり、猫は鼠を捕り、鼠は人類の害をなす恙を捕り喰ひ、魚は蚊の卵孑孑を食し、蛙は稲虫を捕り、山猟師は獅子、熊を捕り、川漁師は川魚を捕り、海漁師は海魚を捕りて、其職業を守るは皆宿世の因縁にして、天より特に許されたるものである。故に山猟師の手にかかる禽獣はすでに天則を破り、神の冥罰を受くべき時機の来れるもののみ、猟師の手に掛つて斃れる事になつてゐるのである。海の魚も川魚も皆其通りである。 然るに現代の如く、遊猟と称し、職人が休暇を利用して魚を釣り、官吏その他の役人が遊猟の鑑札を与へられて、山野に猟をなすが如きは、実に天則違反の大罪と云ふべきものである。自分の心を一時慰むる為に、貴重なる禽獣虫魚の生命を断つは、鬼畜にも優る残酷なる魔心と云はなければならぬ。人には各天より定まりたる職業がある。之を一意専心に努めて、士農工商共神業に参加するを以て、人生の本分とするものである。 ペストが流行すると云つては、毒薬を盛り鼠を全滅せむと謀る人間の考へも、理論のみは立派なれども到底之を全滅する事は出来ない。又鼠が人家になき時は人間の寝息より発生する邪気、天井に凝結して小さき恙虫を発生せしめ、其虫の為に貴重の生命を縮むる様になつて了ふ。神は此害を除かしめ、人の為に必要に応じて鼠を作り給うたのである。鼠は恙虫を最も好むものである。故に其鳴声は常に『チウチウ』と云ふ。チウの霊返しは『ツ』となる。併し乍ら鼠の繁殖甚しき時は、食すべき恙少き為、止むを得ず、米櫃を齧り、いろいろと害をなすに至る。故に神は猫を作りて、鼠の繁殖を調節し給うたのである。猫の好んで食するものは鼠である。鼠の霊返しは『ニ』となる。猫の鳴声は『ニヤン』と鳴く、『ヤ』は退ふこと、『ン』は畜生自然の持前として、言語の末に響く音声である。故に『ニヤン』と云ふ声を聞く時は、鼠の『ニ』は恐れて姿を隠すに至るは言霊学上動かすべからざる真理である。人試みに引く息を以て、鼠の荒れ廻る時、『ニヤン』と一二声猫の真似をなす時、荒れ狂ひたる鼠は一時に静まり遠く逃げ去るべし。『ニヤ』の霊返しは『ナ』となる。故に猫の中に於て、言霊の清きものは『ナン』と鳴くなり。 すべて禽獣虫魚は引く息を以て音声を発し、神国人は吹く息を以て臍下丹田より嚠喨たる声音を発し、又引く息、吹く息の中間的言語を発する人種もあることを忘れてはならぬ。 又鳥の中にも、吹く息、引く息の中間的の声音を一二声発するものが、たまにはあるものである。馬は陽性の動物なれば、『ハヒフヘホ』と声音を発し、牛は陰性の動物なれば、『マミムメモ』の声音を発す。其他一切の動物、各特有の音声を有し、完全に其意思を表示することは発端に述べた通りである。 馬は陽性の獣類なれば、人其背に跨り、『ハイ』と声をかくれば、忽ち無意識に前進す。『ハ』は開き進むの言霊であり『イ』は左右の息である。即ち左右の脚を開きて進めと云ふ命令詞となる。牛は陰性の獣類なれば、人あり、後より『シイ』と言へば前進す。『シ』は水にして且つ俯むき流れ動くの意である。『イ』は前に述べた通りである。馬は頭をあげて、陽の息を示して進み、牛は頭を下げて陰の水火を示して進む。陽性の馬は『ドー』と言へば止まり、陰性の牛は『オウ』と云へば止まる。『ド』は陽的不動の意味であり、『オー』は陰的不動の言霊の意味である。 之を以て之を見れば、禽獣虫魚一切、惟神的に言霊によりて動止進退することは明白なる事実である。其他の禽獣皆然りである。 或古書にミカエル立ちて叫び給へば、山川草木、天地一切これに応ずとあるも、言霊の真意活用を悟りたる真人の末世に現はれて、天地を震撼し、風雨雷霆を叱咤し又は駆使し、山川草木を鎮定せしめ、安息を与ふる言霊の妙用を示されたものである。あゝ偉大なる哉、言霊の妙用! ○ 是より高姫、鷹依姫、竜国別、外九人は月の大神の御前に恭しく拝礼を了り、兎の王をして厚く仕へしめ、アマゾン河の畔に出でて、モールバンドを始めエルバンドの一族に向ひ、善言美詞の言霊を与へて、彼等を悦服せしめ、遂にモールバンド、エルバンドは言霊の妙用に感じ、雲を起し、忽ち竜体となつて天に昇り、風を起し、雨を呼び、地上の一切に雨露を与へ、清鮮の風を万遍なく与へて、神人万有を安住せしむる神の使となりたり。 併し乍ら、まだ悔い改めざる彼等怪獣及猛獣の一部は、今尚浅ましき肉体を子孫に伝へて、或は森林に或は幽谷に潜み、海底、河底に潜伏などして、面白からぬ光陰を送つてゐるものもあるのである。 古の怪しき獣は、今日に比ぶれば、其数に於て其種類に於て最も夥しかつた。併しながら三五教の神の仁慈と言霊の妙用によつて、追々に浄化し、人体となつて生れ来ることとなつた。故に霊の因縁性来等に於て、今日と雖も、高下勝劣の差別を来たすこととなつたのである。併しながら何れも其根本は天御中主大神、高皇産霊神、神皇産霊神の造化三神の陰陽の水火より発生したるものなれば、宇宙一切の森羅万象は皆同根にして、何れも兄弟同様である。 同じ人間の形体を備へ、同じ教育をうけ、同じ国に住み、同じ食物を食しながら、正邪賢愚の区別あるは、要するに霊の因縁性来のしからしむる所以である。 或理窟屋の中には、総ての人間は同じ天帝の分霊なれば、霊の因縁性来、系統、直系、傍系などの区別ある理由なしと論ずる人がある。斯の如き論説は、只一片の道理に堕して、幽玄微妙なる霊魂の経緯を知らざる人である。人の肉体に長短肥瘠、美醜ある如く、霊魂も亦これに倣ふは自然の道理である。要するに人間の肉体は霊魂のサツクのやうなものであるから、人間各自の形体は霊魂そのものの形体であることを悟らねばならぬ。霊魂肉体を離れ、霊界に遊ぶ時は、其脱却したる肉体と同様の形体を備へ居る事は、欧米霊学者の漸く認むる所である。 物質文明の学は泰西人に先鞭をつけられ、霊魂学の本場たる我国は亦泰西人に霊魂学迄先鞭をつけられつつあるは、天地顛倒、主客相反する惨状と云はねばならぬ。我々は数十年来霊魂学の研究につき、舌をただらし、声をからして叫んで来た。されど邦人は如何に深遠なる真理と雖も、泰西人の口より筆より出でざれば、之を信ぜざるの悪癖がある。故に如何なる高論卓説と雖も、一旦泰西諸国に輸出し、再び泰西人の手を借りて、輸入し来らざれば、信ずること能はざる盲目人種たることを、我々は大に歎く者である。此物語も亦一度泰西諸国の哲人の耳目に通じ、再び訳されて輸入し来る迄は、邦人の多数は之を信じないだらうと予想し、且つ深く歎く次第であります。惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二三旧七・一松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 17 悔悟の歌 第一七章悔悟の歌〔九〇八〕 松若彦は銀扇を拡げて、自ら歌ひ自ら舞ひ祝意を表しぬ。其歌、 松若彦『珍の都の神司時めき給ふ桃上彦の 神の命のみまつりを麻柱ひまつりし吾父の 後を襲ひて神館心を清め身を浄め 謹み守り来る折天の八重雲かき分けて 天降りましたる末子姫捨子の姫と諸共に これの聖地に来りまし神の教を遠近に 開き給ひて国人に恵の露を隈もなく 与へ給ひし尊さよ松若彦は素盞嗚の 神の尊の貴の御子末子の姫に朝夕に 仕へまつりて三五の教に侍らふ折柄に 言依別の神司自転倒島の中心地 高天の原より降りまし神の教はますますに 茂り栄えて木の花の一度に匂ふ如くなり かかる例しは古より夢にも聞かぬ瑞祥の 光は清く日月と御稜威を争ひ給ひつつ 再び降り来ります神素盞嗚大神の 清き御姿畏くも拝みまつりし嬉しさよ 松若彦は云ふも更百の司を始めとし 四方の国人喜びて御徳を慕ひまつりつつ 鼓腹撃壤の神の世を寿ぎまつる折柄に アマゾン河の曲神を神の教に言向けて 帰り来ませる言依別の瑞の命の一行を 目出度く迎へ奉り枯木に花の咲く如く 灸りし豆に紫の花咲き出でし如くなる 千代の歓び永久の春の楽み末永く 高砂島の永久にあらむ限りは忘れまじ あゝ惟神々々神の御水火の幸はひて 末子の姫の守りますアルゼンチンの神国は 大三災の憂ひなく小三災の曲もなく いや永久に松の世の五六七の神の御恵に うるはせ給へ惟神神の御前に千歳経る 松若彦が謹みて心の丈を立直し ひたすら念じ奉る只管祈り奉る あゝ惟神々々御霊の幸を賜へかし』 と歌ひ終り、蒼惶として一同に拝礼し、又もや奥殿に姿を隠しぬ。 鷹依姫は銀扇を開き、自ら歌ひ自ら舞ひ祝意を表する。其歌、 鷹依姫『豊葦原の中津国メソポタミヤの顕恩郷 バラモン教の本山に大国彦を奉斎し バラモン教を開きたる鬼雲彦に従ひて 教を四方に伝へつつ自転倒島に渡り来て 高春山の岩窟に又もやアルプス教を立て テーリスタンやカーリンス百の司を呼び集へ 紫色の宝玉を斎きまつれる折柄に 三五教の神司高姫、黒姫両人が 天の鳥船空高く轟かせつつ出で来り 給ひし折を奇貨として手段をめぐらし岩窟の 中に押し込めゐたる折玉治別や杢助が 国依別や竜国別を先頭に立てて出で来り 年端も行かぬ愛娘初稚姫の言霊に 厳しく打たれアルプスの教を棄てて三五の 神の教に服従ひつ竜国別は吾子ぞと 悟りし時の嬉しさよ綾の聖地に送られて 錦の宮に朝夕に謹み仕へ居たりしが 黄金の玉の保管役托されゐたる黒姫が 思はず玉を紛失しヤツサモツサの最中に 高姫司が現はれて思ひもよらぬ御難題 黒姫さまを始めとし鷹依姫は竜国別の 教司を伴ひて尊き聖地を立ちはなれ テーリスタンやカーリンス五つの身魂は名自に 黄金の玉の在処をばあく迄捜し求めむと 大海原を打渡り竜宮島や常世国 高砂島の果て迄もさまよひ巡りて探ぬれど 探ぬる由もなき寝入りアリナの滝に現はれて 四方の国より種々の大小無数の品玉を 手段を以て呼び集め時を待ちつつありけるが テーナの里より黄金の貴の御玉の納まりて ヤツト心を治めつつ黄金の玉を逸早く 錦の袋に納め込み一行四人は烏羽玉の 暗に紛れてアリナ山漸くわたりてウヅの国 荒野ケ原に来て見れば木の花姫の化身なる 神に出会ひて村肝の心の駒を立直し 広袤千里の大原野辿りてアルの港まで 駒を進むる膝栗毛折柄出で来る帆船に 身を任せつつ海原を渡る折しも過ちて 一度は海に陥落し大道別の分霊 琴平別の化身なる八尋の亀に救はれて ゼムの港に上陸し天祥山を乗越えて チンの港やアマゾンの河瀬を舟にて上りつめ 時雨の森の南側兎の王の都なる 珍の聖地に安着し月の大神まつりたる 清き湖水をめぐらせる霊地に足を止めつつ 数多の猛き獣を神の御水火の言霊に 言向け和しアマゾンの兎の司と成りをへて 恵のつゆを隈もなくうるほし与ふる折柄に アマゾン河を打渡り探ね来ませる高姫が 一行八人と諸共に不思議の再会祝ふ折 帽子ケ岳のあなたより無限の霊光発射して 霊を照らし給ひけり是より一同勇み立ち アマゾン河に立出でて醜の魔神を征服し 神の恵に言向けて一行喜び勇みたち 十二柱の神の子は不思議の霊光探ねつつ 帽子ケ岳によぢ登り言依別の瑞御霊 国依別と諸共に無事の凱旋ことほぎて 天地の神に太祝詞となへ了りて一行は 山野を渉り坂を攀ぢ清き流れの谷を越え 深き恵もアルゼンチンのウヅの都に恙なく 凱旋したる嬉しさよウヅの館に来てみれば 神素盞嗚大神や八人乙女の貴の子と 生れ出でませる末子姫松若彦と諸共に 神の尊き御教を世人に広く伝へつつ 鎮まりいます尊さよ心にかかる村雲も 拭ふが如く晴れわたり真如の日月心天に 輝き給ひて三五の誠を悟り一同が 皇大神の御前に額づきまつる今日の幸 あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 国治立大神や豊国姫大神の 仕組み給ひし松の世の錦の機の神業に 仕へまつりて天地の貴の御子と生れたる 清き務めを永久に尽させ給へ惟神 神の御前に願ぎまつり今日の喜び心安く 神の御前に祝ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終りて、座に着き、一同に向つて、叮嚀に挨拶をする。 次に高姫は金扇を開いて、自ら歌ひ自ら舞ふ。其歌、 高姫『われは高姫神司フサの国なる北山の 隠れし里に神館造り設けてウラナイの 神の教を立てながら瑞の御霊の大神の 御心疑ひ怪しみていろいろ雑多と気をいらち 国治立大神の経の教を主となし 緯の教をことごとく損ひ破り松の世の 五六七の神世を来さむと思ひし事も水の泡 瑞の御霊の真心を取違ひたる愚かさに 前非を悔いて三五の神の教に立帰り 変性男子の御教や変性女子の教をば 経と緯とに織りなして尊き神の神業に 仕へまつりし折柄に金剛不壊の如意宝珠 紫色の宝玉を失ひ心は顛倒し あらゆる島根をまぎ求め遂には竜宮の一つ島 地恩の郷迄あらはれて心を砕き身をくだき 捜しまはれど影さへも波の上渡り自転倒の 又もや島に立帰り執念深くもさまざまと 再び玉の行方をば捜し求むる時も時 竜宮島より現はれし玉依姫の御宝 天火水地と結びたる青赤白黄紫の 麻邇の宝珠の点検に又もや不審を起しつつ 言依別の後を追ひ高砂島に来て見れば 鏡の池の片畔架橋御殿に黄金の 玉は更なり如意宝珠紫玉や麻邇の玉 隠しあらむと気をひがみいろいろ雑多と争ひつ 常彦、春彦伴ひてテルとウヅとの国境 アリナの山を乗越えて荒野ケ原に来て見れば ポプラの上にブラブラと黄金の玉は輝きぬ 天の与へと雀躍し喜び勇む折もあれ 木の花姫の御化身日の出姫の現はれて 天地の道理をこまごまと教へ給ひし嬉しさに いよいよ迷ひの夢醒めて執着心を脱却し 荒野を渡り河を越え湖水をめぐりて漸うと アルの港に安着し折柄来る帆船に 乗りて海原渡る折ふとした事より船中の ヨブの真人に巡り会ひ師弟の約を結びつつ ゼムの港に上陸し天祥山やチン港 アマゾン河を横ぎりて時雨の森の北野原 鷹依姫の在処をば探ねてさまよひゐたりしが さも恐ろしきモールバンド勢猛く攻め来り 命からがら常磐樹の梢に難を避けながら 天津祝詞を奏上し厳の言霊宣る折に 秋山別を始めとしモリス、安彦、宗彦が 三五教の宣伝歌声も涼しく歌ひつつ 此方に向つて進み来る時しもあれや西北の 雲押分けて光り来る琉と球との霊光に モールバンドは驚きてスゴスゴ逃げ出す嬉しさよ 茲に一行八人は無事の奇遇を祝しつつ アマゾン河の岸の辺に森林分けて辿りつき 鰐の架橋打渡り南の森に現れませる 鷹依姫や竜国別の珍の住家に立向ひ ここに一行再会を祝し合ひつつ大神の 御前に祝詞を奏上し虎狼や獅子に熊 其外数多の禽獣に稜威の律法制定し 固く守らせおきながら再び岸辺に立出でて モールバンドやエルバンドさしもに猛き曲神を 言向け和し十二人琉と球との霊光を 目当てに進み帰り来る心の駒の勇ましさ 言依別や国依別の貴の命に迎へられ 感謝祈願も胸の中嬉し涙に暮れながら 一行ここに十八の神の司は勇み立ち 夜を日についでウヅの国これの館に立向ひ 数多の人に迎へられ八尋の殿に来て見れば 五六七の神世の救主神素盞嗚大神や 貴の御子なる末子姫その他数多の神司 天つ御空の星の如居並び給ふ尊さよ あゝ惟神々々神の恵を蒙りて 心曇りし高姫も真如の月日に照されて 身魂も清き増鏡伊照り輝く身となりぬ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令天地は覆るとも天津御空に日月の 輝く限り大神の深き恵みは忘れまじ 尊き神の御教を朝な夕なに麻柱ひて 今迄犯せし罪科を悔い改めて惟神 尊き神の御前に功を立てむ永久に 松の五六七の末迄もあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終り、莞爾として座に着く。 (大正一一・八・二三旧七・一松村真澄録)
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霊界物語 37_子_出口王仁三郎自叙伝1 21 参綾 第二一章参綾〔一〇三三〕 旧六月の暑い最中であつた。老祖母や修業者に無理に別れを告げて、只一人穴太を離れ北へ北へと進み行く。道程殆ど二里ばかり来た処に、南桑田、船井郡の境界の標が立つて居る。其処には大井川の清流をひいた、有名なる虎天関と云ふのがある。虎天関の傍に枝振りよき並木を眺めて小さき茶店が建つて居た。喜楽は何気なく其茶店に立寄つて休息をして居た。 三十あまりのボツテリと肥えた妻君が現はれて渋茶を汲んで呉れた。さうして喜楽の異様な姿を眺めて、 女『貴方は神様の御用をなさる方ぢや御座いませぬか』 と云ふ。喜楽は即座に、 喜楽『私は神様の審神をする者で御座います。随分其処ら中の教会を調べて見ましたが、狐や狸のお台サンばつかりでした。アハヽヽヽ』 と手もなく笑つて居る。此女は畳みかけた様に、 女『モシ先生、私が一つ頼み度い事があります。私の母は今綾部に居りますが、元は金光様を信神して居ましたが、俄に艮の金神さまがお憑りなさつて沢山の人が御神徳を頂き、金光教会の先生が世話をして居られますが、母に憑つた神様の仰有るには、私の身上を分けて呉れる者は東から出て来る。其御方さへ見えたならば出口直の身上は判つてくると仰有いましたので、私等夫婦は態と此道端に茶店を開いて往来の人さまに休んで貰ひ、母の言つたお方を探して居りました。大方貴方の事かと思はれてなりませぬ。何卒一度母の身上を調べてやつて下さらぬか。これが母の神様がお書になつたお筆先で御座います』 と出して来たのが、バラバラの一枚書きの筆先であつた。 喜楽は此筆先を見て、高熊山の修業の中に於て霊眼にて見聞したる事の或部分に符合せるに驚き、婦人の依頼を受けて近々に上綾する事を約し、園部の広田屋と云ふ旅館に落着き、あちらこちらと知己を訪問して霊学の宣伝に従事しつつあつた。 旧八月二十三日[※明治31年(1898年)旧8月23日は新10月8日]、初めて綾部裏町の教祖の宅を訪問し、二三日滞在して居た。然るに金光教の教会の受持教師なる足立正信を始め、世話係の中村竹造[※霊界物語における中村竹造の名前に「竹造」と表記している場合と「竹蔵」と表記している場合があるが、霊界物語ネットでは「竹造」に統一した。詳しくはオニペディアの「霊界物語第37巻の諸本相違点」を見よ]、村上清次郎、西村文右衛門等に、極力反対運動をされ、時機未だ至らずとして教祖に暇を告げ、綾部の地を去つて園部村の字黒田、西田卯之助の座敷を借つて神の道を宣伝しつつあつた。種々の神憑りに関する面白き話は此地方に於ても沢山目撃したり遭遇したる事あれども、岐路に入る虞ある故此処には省略して置く。園部の上本町に奥村徳次郎と云ふ熱心な信者があつた。あまり沢山な信者が喜楽を訪ねて来るので、園部町の有志は信仰は兎も角土地繁栄の一策として園部の公園内に立派なる布教所を建設し、喜楽を、此処に永住せしめむと、土地の有志が東西に奔走し、話も大方纏まつて居る所へ、綾部から出口教祖のお使として、四方平蔵氏が遥々訪ねて来た。 其時喜楽は園部川の大橋の下流で漁遊びをして居た。其処へ平蔵氏がやつて来て、河の堤から、 平蔵『モシモシ、上田さまは此辺に居られませぬか、只今黒田のお宅へ参りましたら、園部の河原へ魚取りに行かれたとの話故、此川縁を伝うて此処迄来ました』 と云つて居る。喜楽は川の中から、 喜楽『ハイ、上田は私です。貴方は先頃手紙を呉れた綾部の四方サンですか。綾部はもう懲々しましたから行くのは止めますわ。今面白い最中だから、モチツと魚をとつて帰りますから、日の暮に来て下さい』 と云へば四方氏は堤の上から、 平蔵『そんなら仕方がありませぬ。私は園部の扇屋で今晩泊りますから、又お訪ね致します』 と云ひ乍ら、四方氏は大橋を渡つて扇屋をさして行つて了つた。喜楽は漁を終り、黒田の宅へ帰り着物を着換へ、園部の扇屋に四方氏を訪ねて見た。さうして今度は足立、中村其他の役員には極内々で、教祖と自分とが相談の上、喜楽を迎へに来た事が分つた。斯うなると自分も敵の中へ飛込む様なものである。余程の覚悟をせなくてはならぬと思ひ乍ら、早速綾部へ行く事を承諾し、往復八里の夜の道を穴太へ帰り、老祖母や母に愈綾部に行く事を云ひ、産土の大神に祈願をこらし、夜の明くる前漸く園部の扇屋へ帰つて来た。されど四方氏は喜楽が穴太へ帰つて来た事はチツとも分らなかつた。 それより四方氏と共に黒田の宅へ帰り、種々と支度をなし、五時頃から黒田を立ち出で、漸くにして檜山迄着いた。日はズツポリと暮れて来た。少し目の悪い四方氏は最早歩く事が出来なくなつて来た。止むを得ず樽屋と云ふ宿屋へ投宿した。忽ち大雨降り来り、雷鳴さへも轟いて実に物凄き天地となつて来た。樽屋の裏の離座敷を与へられ、喜楽と四方氏は四方山の話に耽り乍ら、夜の一時頃になつて漸く寝に就いた。朝の四時頃に四方氏は目を覚まし早くも天津祝詞を奏上して居た。喜楽は其声に目を覚まし、慌て起き出で見れば、相変らず車軸を流す様な大雨である。四方氏は、 四方『先生、お目覚めですか。早うから八釜しく申しましてお目を覚まして済みませぬ。昨夜は何とはなしに気が欣々しまして一睡も出来ませなんだ。神様が大変にお勇みだと見えます。併し乍ら昨夜から引き続いて偉い大雨です。これでも止みませうかな』 と心配相に尋ねる。喜楽は一寸目を塞ぎ伺つて見て、 喜楽『九時になればカラリと晴れます。それまで、マアゆつくり話を承りませう。貴方は綾部から来たといはれましたが、お宅は大変な山家の様に思ひますが違ひますか。家の裏に綺麗な水が湧いた溜池があり、前は一尺ばかりまはつた枝振りの面白き松の樹がある。さうして少し右前の方の街道に沿うて小屋の様なものがあり、其処に菓子なんかの店が出してあり、六十位のお婆アサンが見えますが違ひますか』 と尋ねて見た。四方氏は吃驚して、 四方『ハイ、其通りです。そんな事までよく見えますか。あんたは、さうすると稲荷でも使ふて居られるのですか』 と不思議相に顔を覗く。喜楽は首を振り、 喜楽『イエイエ、そんな事はありませぬ。霊学の一部、天眼通で見たのです。誰でも真心にさへなれば、天眼通位は直に判る様になりますよ』 四方『アヽそれで安心しました。私は金光教の古い信者で御座いましたが、こんな処から五里も六里もある処が見える様なものは、狐か狸だと金光教の先生が云ひました。モシ先生が綾部へ行つて、そんな事でもなさらうものならサツパリ狐使ひだと云つて、ボツ帰されて了ひますから、綾部へ御いでになつたら、其魔法だけは暫くやらぬ様にして下さい。疑を受けては貴方の御迷惑ですからなア』 喜楽『そんな分らぬ奴ばかり居る所なら、もう私は御免蒙つてこれから帰りますワ』 四方『そんな短気を出さずに兎も角教祖様の御内命で来たのですから、一度綾部を見ると思ふて来て下さい。此頃は和知川の鮎が沢山にとれますから、鮎食ひに行くと思うて、マアマア兎も角一遍来て下さい。私も今此処で先生に帰られては教祖様に対し申訳が御座いませぬ』 喜楽『第一貴方に霊学を諒解して貰ふておかなくてはなりませぬから、狐を使ふか、使はぬかと云ふ事を一遍此処で実地を見せませう。さうして貴方に承知が行つたら行く事にしませう。そんな処まで鮎食ひに行かなくても園部で沢山ですから……』 四方『私の様な素人にでも、そんな天眼通が行へますだらうか』 喜楽『マア其処に坐つて目を塞ぎ、両手を組んで見なさい』 四方『そんなら頼みます』 と四方氏は素直に座敷の真中に正座し、手を組み目を塞いだ。喜楽は、 喜楽『サアこれから四方サン、天眼通を授けます。今私が……ソレ見い……と云つたが最後、何かの姿が映りますから、それを話して御覧……』 四方『ハイ……』 と云ひ乍ら、一生懸命に目を塞ぎ早くも霊感者になつて、少し鼻息を荒くし体をピリピリと慄はせて居る。喜楽は、 『それ見い!』 と大喝一声した。 四方『ハイ、見えました。小さい古き藁葺の家が一軒、前横の方に又一つ汚い家があつて、其処に美しい水の湧いた池があります。さうして裏の方には榧の木や、椋の大木が見えます。細い綺麗な河が道の下を流れて居ます』 喜楽『アヽそれで愈天眼通が開けました。それは私の生れた家ですよ。もう宜しい』 と云へば、四方氏は組んだ手を離し目を開き、 四方『何とマア、結構な神様ですな。イヤもう感心致しました。流石教祖様も偉いわい。多勢の役員や信者に隠れてお迎へして来いと仰有つた丈けの価値があります。こんな事が分れば、三千世界一度に見え透くと仰有る神様の御用が充分に勤まりませう』 と無性矢鱈に喜んで居る。それから病気の伺ひや天眼通の試験を色々として、四方氏に先づ霊学の尊い事を悟つて貰ひ、朝飯を食ひ愈これから出立しようとする時、さしもの大雨もピタリと止まり、ガンガンと日本晴れの空に太陽が照り輝き出した。四方氏は、 四方『ヤア、仰有つた通り九時になつたらカラリと霽れました。ほんに霊学と云ふものは結構なものですな。これから綾部へ帰りましたら、金光教の先生や役員どもが愚図々々云ふと面倒で御座いますから、ソツと裏町の教祖さまの宅へ参りませう』 と云ひ乍ら六里の山坂を越えて其日の午後四時頃、漸くにして裏町の教祖の宅へ安着した。 誰が喋つたのか早くも信者の四方与平、黒田清子、四方すみ子、塩見じゆん子を始め七八人の信者が集まつて来て、 『平蔵サン、結構な御神徳を頂きなさつた。よい先生を迎へて来て下さいました』 などと喜び勇み、金光教の旧信者へ通知に各自廻つて了つた。此勢に足立正信氏は吃驚して中村竹造を裏町へ遣はし、色々と水をさし妨害を加へた。されど出口教祖を始め、四方平蔵氏の勢があんまり猛烈なので、到頭中村竹造も我を折り教祖の命に服従して了つた。 四方源之助、西岡弥吉、西村文右衛門、村上清次郎、西村庄太郎、四方伊左衛門等と云ふ世話係は裏町の宅へ集まり来たり、平蔵氏と教祖の説明によつて非常に共鳴し、艮金神様の金の字をとり、日の大神様、月の大神様の月日を合せて金明会と云ふ団体を組織し、信者は日に夜に遠近より集まり来り、裏町の狭い倉の中では身動きもならぬやうになつたので、本町の中村竹造の本宅へ金明会を移して了つた。四方氏は得意の天眼通を振りまはし神占をしたり、病気平癒を祈つたりして非常な人気である。只の一回位、霊学を教へて貰ふて、四方平蔵サンはあれ丈け御神徳を貰ふたのだから、修行さへしたら誰でも神徳が頂けるだらうと、幽斎修行の希望者が瞬く内に二十人あまりも出来て来た。喜楽は向側の西村庄兵衛と云ふ信者の裏の離家を借つて其処に寝泊りをしたり、世話方に色々と神の話を聞かして居た。金光教会の足立正信氏は最早策の施すべき所なく、村上清次郎、中村竹造、四方すみ、塩見じゆん、黒田清などの宅を訪問して、いろいろの反対運動を試みたけれども、到底効を奏する事が出来なくなつて来た。 教祖は足立氏の境遇を気の毒に思ひ、小遣銭や米等を贈つて金光教を脱退し、教祖の教に従へと信者を交る交る遣はして勧められた。けれども足立氏は頑固として応ぜず、陰に陽に反対の気勢を挙げ、 足立『上田と云ふ狐使ひをこんな処へ引張つて来て、山子を始め出したから騙されない様にせよ』 と中村竹造や村上房之助等を遠近の信者の宅に遣はし、色々と非難攻撃を始めた。中村は自分の家を金明会へ貸しておき乍ら、足立の命令に従つて反対運動を昼夜の区別なくやつて居た。併し乍ら時の勢には抗すべくもあらず、一人も信者が行かなくなり、手も足もまはらぬ破目に足立氏は陥つて了つた。そこで止むを得ず足立氏は我を折つて、 足立『何卒改心するから金明会へ使つて下さい』 と頼みに来た。金明会の役員連は速に協議会を開いた結果、 『足立正信氏は信者の受けも悪し、○○や○○と醜関係をつけ、神の名を汚して居るから、此際絶対に金明会へ這入る事は謝絶するがよい』 と云ふ事に協議が纏まつて了つた。足立氏が尾を振つて来たのは、心の裡から金明会へ心従して居るのではない。老母や子供が忽ち糊口に窮する処から、一時の窮策として表面心従したと見せかけ時機を見て金明会を転覆させ、喜楽先生を放り出す計略なる事は、今迄の足立氏の行動に徴して明白だから、今度の好い機会を幸ひに一切の関係を絶つ方が上分別だと、今まで同氏の熱心な教養をうけたものさへ、極力排斥を主張する様になつて来た。喜楽は足立氏の境遇を憐れみ、且又今迄金光教を信じて居た役員や信者の人情の浮薄冷酷なるに呆れ果て、 『今日は人の身の上、明日は吾が身の上と云ふ事がある。こんな薄情な人間の処へ居つては到底駄目だ。自分さへ此処を立ち去つたならば足立氏親子の困難は除かれるだらう。世人の困難を救ふべき神の取次が人を困らせてはならない』 と思つたから、四方氏を始め重なる役員に向ひ、 上田『私が此処へ来たために、足立氏親子が困難を来すべき結果を生じたのだから、私は同氏に対して済まないから今日から帰ります。何卒足立氏と仲良うして神様の御用をして下さい』 と申し込んだ。そこで数多の役員は大に狼狽し、鳩首謀議の結果、 役員たち『足立氏の処置に就いては上田先生に一任しますから、是非とも教祖様の側に居て、大本の宣伝に力を尽して下され』 と異口同音に頼み込む。 そこで喜楽は足立氏を金明会の副会長に任じ、金明会の名の許に仲良く神務に奉仕する事となつた。出口教祖も足立氏の身の上につき心密かに非常な心痛をして居られたが、喜楽の同情ある処置に対し、非常に安心をしたと云つて感謝せられた。足立氏は大変に喜び、役員信者も喜楽の赤誠に感じ、直に今迄の態度を改め、教祖に次いで喜楽を師匠と尊敬し出した。一時は大争乱が勃発しさうの模様のあつた金光教対金明会も、茲に円満な解決が出来て、双方とも心持克く勇んで和合の裡に神様の御用に尽す事を得たのである。 (大正一一・一〇・一二旧八・二二北村隆光録)
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霊界物語 41_辰_黄金姫&清照姫の入那の国の物語1 01 入那の野辺 第一章入那の野辺〔一一〇五〕 木枯すさぶ秋の空野辺の木草も黄金姫の 神の命の神司四方に清照姫命 レーブやカルを従へて天津日の神西山に 入那の国の小都会ヨルの都へ進み行く 暗の張はおろされて森の小烏がやがやと 鳴く音も寂しき田圃路脚下みたり四人が こころいそいそ進み行く忽ち森の木蔭より 現はれ出でし黒い影母娘二人を引抱へ 暗に紛れて何処となく足音忍ばせ矢の如く 忽ち姿を隠しけりレーブとカルの両人は 母娘の姿の消えしより打驚きて忍び足 声もひそかに彼方此方と宵暗の空すかしつつ 力泣く泣く探しゆく。 レーブ『オイ、カル、困つたなア、こんな処でお二人様を見失ひ、どうしてハルナの都の鬼熊別様に申訳が立つものか。われわれ両人は草を分けてもお後を慕ひ、その御在処を尋ねて、御主人様にお渡し申上げねばならぬぢやないか』 カル『そりや貴様の言ふ通りだ。吾々も斯うして依然として手を束ね惟神に任すと云ふ訳には行かないなア。神界旅行の際にも生魂姫命様から惟神中毒をしてはならないといふことを大変に戒められたのだからなア』 レーブ『オイ、カルよ、熟々考へて見ると黄金姫様、清照姫様は吾々から見れば幾十段とも知れない神格者でもあり、神様の直接の御神力を戴いて居られるのだから、余り心配は要るまいと思ふよ。併し乍ら此の儘放任して置く訳には行かないから、吾々としてのベストを竭して見ようぢやないか。あの黒い影は、どうやら狼か獅子の群のやうだつたが、それならば吾々は、決して心配は要らない。御両人様には狼が守護して居るのだから大丈夫だよ』(狼、獅子は皆比喩なり。蔭武者又は強者の意) カル『何は兎もあれ、神様に祝詞を奏上して、御両人様の御無事を祈ることに致さうぢやないか』 レーブ『アヽそれが善からう』 と茲に両人は森蔭の暗に跪坐して天地の神明に祈願を凝らし、夜の明くるを待つこととせり。何処ともなく空中に声あり、 声『レーブ、カルの両人、必ず心配致すに及ばぬ。黄金姫、清照姫は神の都合に依つて二三日の間神界から御用に使うて居るから、汝は明朝未明にここを出立いたして入那の都へ一足先へ参れ。母娘両人は後より追付くべければ、両人に心配なく今夜は此処で夜を明かしたが宜からうぞよ』 と雷の如き声聞え来る。両人はこの声こそは全く天声なり、神の御示しなりと、喜び勇み森の大木の根に腰打ちかけて、四方山の話に夜を更かし、取留もなき雑談の花を咲かしつつありけるが、レーブはそろそろカルに向ひ揶揄ひ始めたり。 レーブ『オイ、カル、貴様は大切な女房に肱鉄の乱射を浴せかけられた挙句の果は、近所のセムの背虫男に横奪りされたといふ評判を薄々聞かぬでもないが、其後どうしたのだい。あの儘に泣き寝入りらしいが、それではカルの男振も駄目ぢやないか。何故貞操蹂躙の訴訟を提起せないのか』 カル『ソンナ事が何ぼ何でも男として出来るものかい。貞操蹂躙の訴訟は女からするものぢやないか』 レーブ『女に限つて貞操蹂躙の訴へを起すことを得た時代は、今後三十余万年後の廿世紀の体主霊従の時代の事だ。今日は最早廿世紀より三十余万年の過去の神代だ。男子だつて貞操蹂躙の訴訟が提起出来ない道理があるかい。貴様は未来の法律のみに迷従して、現代の法律を忘れて居るのか、アーン』 カル『それでも婆羅門教では女子の貞操といふことはあるが、男子の貞操といふ事は聞かないからのう』 レーブ『婆羅門教では教主の大黒主さまから一夫多妻主義ぢやから、婦人は丸切り機械扱ひにされて居るやうなものだよ。婦人の立場として貞操蹂躙の訴へでもする権利がなくては堪らないからだよ。然し一夫一婦の道を奉ずる三五教では妻の方から貴様の女房のやうに夫を捨て他の男と情を通じたり、夫を盲目にしよつた時は、男だつて矢張貞操を蹂躙された事になるのだ。男の方からその不貞腐れの女房に対して、貞操蹂躙の訴訟を提起するのは当然だ。女ばかりに貞操蹂躙の訴訟権があるのは未来の廿世紀といふ世の中にて行はれる制度だ。併し婆羅門教は文明的進歩的宗教だと見えて、三十五万年も凡ての規則や行り方が進歩して居るわい。アハヽヽヽヽ』 カル『さうすると、鬼雲姫様は永らく夫の大黒主様と苦労艱難して、彼処までバラモンの基礎を築き上げ、ヤレもう楽ぢやといふ間際になつて、大黒主さまから追出され、其後へ立派な若い石生能姫さまを女房に入れられて、自分は年を老つてから、アンナ残酷な目に合されて居ながら、何故貞操蹂躙の訴訟を提起なさらないのだらうかなア』 レーブ『そこが強食弱肉の世の中だよ。大黒主さまより上のお役もなし、之を制御する法律もないのだから、是計りは致し方がない。司法、行政、立法の三大権力を握つて居るのが大黒主だから、これを制御し懲戒する権利ある者は大自在天様より外にはないのだ。思へば下の者はつまらぬものだよ。鬼雲姫様は随分お道の為には沐雨櫛風、東奔西走して、漸くあれだけの土台を築き上げ、今一息といふ所で放逐とは余り残酷ぢやないか。それだから婆羅門教は無道の教団だといふのだ。是が○○教であつたら大変ぢやないか。部下の宣伝使や信徒が承知せないからなア』 カル『それでも三五教の神柱神素盞嗚尊様は一夫多妻ぢやないか。八人同じやうな年配の女の子があつたぢやないか』 レーブ『神素盞嗚尊様は月の大神様ぢや。元より女房はない。八人乙女の出来たのは肉体の御子ではない。霊魂の美はしき乙女を八人も方々から拾ひ集めて、その乙女の霊魂に対し自ら厳の御息を吹きかけて我子と為したまうたのだ。吾々のやうに暗がりで夫婦が拵へたのとは違ふのだ』 カル『それならあの八人乙女を生んだ肉体の親はあるだらうな』 レーブ『ソリアあるとも、併し乍ら八人乙女とも皆捨児を拾つて自分の子に遊ばしたのだから、両親は尊様には御分りになつて居ても、八人乙女の方では矢張真の父上と思つて居られるやうだ。肝腎要の御精霊を分与されて居るのだから、仮令肉体の児でなくとも肉体以上の近い親しい御児になるのだ。おれ達も矢張神素盞嗚尊様の孫位なものだ。今迄は大黒主の孫だつたが俺も今度いよいよ尊様の孫になつたのだ。貴様も昨日あたりから尊様の曾孫位になつて居るかも知れないよ』 カル『さうか、有難いなア、アヽ惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 レーブ、カルの両人は森林に囀り始めた諸鳥の声に目を覚まし、あたりの明くなつたのに打驚いて、 レーブ『オヽ、カル、もう夜明けだ。よく草臥れてグツと一寝入りやつてしまつた。サア是から両人が力を合はして奥様等の所在の捜索しようぢやないか』 カル『さう慌るには及ばぬぢやないか。たつた今主人になつた所だ。言はば二日月さまのやうなものだよ………。現はれて間もなく隠るる二日月………そんな水臭い主人を捜した所で仕方がないぢやないか。来るものは拒まず、去る者は追はず式で此世を渡つて行かねば、何程石に根つぎをするやうな案じ方をしたつて、会ふ時が来な会はれるものぢやないワ。マアマア気を落付けて惟神に………オツトドツコイ、此奴は言はれぬワイ………お目にかかる時を待つことにしようかい』 レーブ『貴様最早変心しかけよつたな。怪しからぬ奴だ。さういふ冷やかな根性で居ると、又今度は八万地獄へ真逆様に落ちるぞ』 カル『冷やかなといふが、晩秋初冬の境目だ。冷やかなのは当然だ。人は天地に習ふのが惟神ぢやないか。男心と秋の空、曇るかと思へば直に照る、照るかと思へば曇る、天地を以て教となし、日月を以て経とするのだから、貴様のやうな偽善者とは此カルさまはチツと違ふのだ』 レーブ『貴様は森で転寝をして居る間に、又もや大黒主の眷族共に憑依されたのだな。何程秋の空だと云つても、余りキツイ変り様ぢやないか』 カル『代と云ふ字はかはると書くから、刻々に変るのが世の中だ。道端の岩のやうに常磐に堅磐に動かなくては、世界の進歩も天地の経綸も出来るものぢやない。世の中は三日見ぬ間に桜哉………と云ふだらう。それが天地の真理だ』 レーブ『さうするとカル、貴様は大黒主の孫に逆転したのだな』 カル『別に逆転したのでも何でもないよ。鞘を抜き出た刀がキチンと元の鞘へ納まつただけのものだ。矢張俺はかうなつて来ると大黒主の方が偉いやうな気がするワイ』 レーブ『ハハア、さうすると貴様は黄金姫様、清照姫様が側にゐられる間だけは、野良犬のやうに尾を振つて居よつて、表面帰順を装ひ、お二人が何者かに攫はれて見えなくなつたので、又もやそんなズルイ考へを起しよつたのだなア』 カル『面従腹背、長いものにまかれるのが当世だよ。ウツフヽヽヽ』 レーブ『ハハー、此奴ア、ヤツパリ大黒主の眷族が憑依しよつたと見えるワイ。どうやら俺も大黒主気分になつて来よつたぞ。吾ながら吾の心がテンと善か悪か分らなくなつて来たワイ。それなら俺もこれから大黒主様に服従し、黄金姫母娘の所在を注進して、入那の国のセーラン王様の御前に手柄を立てようかなア』 と両人は目と目を見合はしながらワザと大声に呶鳴つてゐる。道端の草の中からムクムクと近よつて来た七八人の男、其中の頭と覚しき目のクルツと光つた、どこともなしに威厳のある男は、セーラン王の左守の司と仕へてゐるクーリンスの家来で、テームスといふ男である。 テームス『今ここに於て様子を聞けば、其方等両人はバラモン教の大黒主様の御家来と見えるが、黄金姫、清照姫の所在を知つてゐるさうだが、吾々に言つてくれまいかなア。左守の司クーリンス様の命令に依つて、吾々は数多の家来を引連れ、黄金姫母娘がここを通過するとの或者の注進に依つて、土中の関所に待つてゐたのだ』 レーブ『ハイ、実の処は其黄金姫母娘に甘く取入り、入那の森まで何とか彼とか云つて連れて参り、セーラン王様に御手渡しして、王様の御手柄にしたいと存じ、イヤ王様の力を借り、共々に手柄をさして頂かうと思ひまして参りました処、狼の群が沢山やつて来て、二人を喰へてどつかへ参りました。併しながらこれには深い秘密があります。只今此処で申上げる訳には行きませぬ。クーリンス様の御前に於てハツキリと申上げますから、どうぞ案内して下さい』 テームス『秘密とあらば強つて聞かうとは申さぬ。それなら入那の都まで案内するから従いて来て下さい』 カル『オイ、レーブ、甘くやつたなア』 と言ひかけて、俄に自分の口を押へ、 カル『イヤ、レーブ、甘いことになつて来たなア。吾々両人の手柄の現はれ時、アヽ勇ましし勇ましし、宝の山は眼前に横はつて来た様なものだ。モシ、テームスさま、吾々両人を大切にせなくちや、黄金姫母娘の所在は口を噤んで申しませぬぞや。吾々の口を開くか開かぬかに依つて、お前さま達や左守の司様の成功不成功が分るるのだから、御機嫌を損ねない様に特別待遇を願ひますよ』 テームス『よくマア恩にきせる男だなア。エヽ仕方がない、余り威張られてもチツとは迷惑だけれど、クーリンス様の命令には代へられない』 レーブ『今は兎も角、何とでも云つて此奴等両人をたらかし、館へつれて帰るが最後、四方八方から槍襖の垣を造り、両人を否応なしに白状さしてやろといふお前さまの下心だらうがな。アハヽヽヽ』 テームス『何と悪気のまはる男だなア。マアどうでも良い。来る所まで来てみなくては分らぬぢやないか』 カル『何せよ、騙し合ひの狸ばかりの世の中だから、このレーブだつてカルだつて、何を吐してるか分りませぬぞや。ウツフヽヽヽ本当のこと言へば、レーブ、カルの両人は、お前さま等の為にドテライ目に会はされるのが怖さに、三五教で居ながら俄にワザと聞えよがしに、お前さまが岩窟にゐるのを前知して喋つたのだから当にはなりませぬぞや。イツヒヽヽヽ』 テームスは声を尖らし、 テームス『コリヤコリヤ両人、今からそんなことを申しても駄目だぞ。偽りを申すな、三五教だと云へば此テームスが驚くかと思うて、左様なことを申すのだろ。そんなことに一杯喰はされるやうな此方ぢやないワイ。自分の心の秘密を吾々に喋る奴があらう道理がない。貴様はヤツパリ、バラモン教の生粋だ。左様なことを申して此テームスやクーリンスに揚壺を喰はせ、直接セーラン王様の前に出て、自分等二人の手柄にしようと思ふのだろ。其手は喰はぬぞ』 と目を剥き出し呶鳴りつける。 レーブ『ハヽヽヽヽ、何が何だか、レーブもサツパリ混線してしまつた。それならマア黄金姫母娘の行方を知つてゐることにしておかうかい』 テームス『ナマクラなことを申すな、正直に申上げるのだぞ。クーリンス様の前で今の様な訳の分らぬことを申すと、お赦しはないぞ』 レーブ『お赦しがなければなくていいワ。肝腎要の三五教の秘密や黄金姫の所在を申し上げぬまでのことだ。アハヽヽヽ、それよりも俺達が直接に大黒主様へ注進致したら、すぐに一国の王位にはして貰へるのだからなア、イツヒヽヽヽ、ボロイボロイ、甘い物は小人数で食へだから、こんな所で博愛慈善主義を振りまいて居つても、あまり引き合ないワ、のう、カル公』 カル『オイ、レーブ、いい加減に意茶つかしておかぬか、テームス様は吾々とは違つて左守の司様の秘書役だから、御機嫌をとつておきさへすれば、どんな出世をさして下さるかも知れないぞ。ねえテームスさま、さうでげせう』 テームス『カルの申す通り、魚心あれば水心あり、水心あれば魚心ありだ。決して悪くは取計らはないから、安心して来てくれ』 レーブ『それなら一つ、どつと安心して、来て呉れてやらうかな。イヤ、テームスさま、何分宜しく御頼み致しやす』 テームス『それなら、左守の司様も大変にお急きだから、サア急いで都へ帰らう』 かく話してゐる所へ、テク、アルマ、テムの三人捻鉢巻をしめ、足腰の痛みも直つたと見え、大変な勢で、 三人『エーサツサエーサツサエーサツサエーサツサ』 と掛声しながら通り過ぎようとする。テームスは之を見て、 テームス『オイオイ、三人の奴共、暫く待てえ』 此声に驚いて三人は立ち止まり、 テク『あゝテームス様で厶いましたか。余り急いだので、ここのお関所も気がつかず通り越さうと致しました。あゝ余り走つたので息苦しい、目がまはるのか天地が廻転するのか知らないが、貴方のお声を聞くにつけ、ガタリと気が弛んで参りました。どうぞ一つ背中を打つて下さいな。ハアハアハア』 と三人はグタリとなつて深傷を負うた軍人のやうに道の上にベタリと平太つてしまつた。 テームス『大声で呶鳴りつけ、叱りつけてやらねば気が弛んでは駄目だ。ヤア家来の者共、三人の気をつけてやれ』 七八人の捕手はバラバラと三人の側に寄り、背中を打つやら、頭から水をぶつかけるやら、大変な大騒動をやつてゐる。漸くにして次々に正気づき、テクは息も苦しげに物語る。 テク『テームス様の仰せにより、吾々三人は猛獣荒ぶ荒野原を入那の森まで進み行く折しも、祠の中に怪しの物音、ハテ不思議と立寄り、様子を窺ひ見れば、当の目的物たる恐ろしき武勇の聞えある黄金姫、清照姫、それに従ふレーブ、カルの両人、吾等一行に打向ひ言霊戦を開始し、吾々三人は息ふさがり、足はなえ、腰を抜かして大地にドツと倒れ伏す、進退維れ谷まり居る折しも、雲押分けて現はれ来る大空の月の影、大自在天大国彦命、天馬に跨がり、悠々として入那の森近く下り給へば、流石の黄金姫、清照姫は其神徳に辟易し、雲を霞と南方指して逃げゆく可笑しさ。レーブ、カルの両人は、吾々三人が神徳に怖ぢ恐れ、ウンと一声其場に倒れ、敢なき最後を遂げにけり。かかる小童武者には目もかけず、黄金姫、清照姫の後を追ひかけ、ここまで来り候。母娘二人は既に既に此一筋道を通りしならむ、テームス様、キツと掴まへ遊ばしたで厶いませうなア。それさへ承はらば吾々三人は仮令此場で相果つるとも、決して恨とは存じませぬ』 と息もせきせき述べ立つる。 レーブ『オイ、テク、随分駄法螺を吹きよるなア。レーブさまもカルさまも貴様より一足お先に此処へ来て居るのだ。テームス様と万事交渉を遂げ、目出度く締盟の済んだ所だ、確かり致さぬか。其方は驚きの余り狂気致したなア』 テク『ヤア、貴様はレーブ、カルの両人か。何時の間に生返りよつたのだ』 カル『オイ、テク、何を言つてるのだ。ソリヤ俺の方から言ふべきことだよ。貴様こそ何時の間に生返つたのだ』 テク『あゝカルか、さうすると貴様はヤツパリ此方の味方だつたのかなア』 レーブ『見方に依つては味方でもあり、敵でもあるワイ。敵の中に味方あり、味方の中に敵のある世の中だ。自分の心の中でさへも敵味方の衝突が絶えず起つてゐるのだからなア。アハヽヽヽ』 テームスは立ち上り、 テームス『何は兎もあれ、左守の司様の館まで急ぐことに致さう』 茲に一行十三人膝栗毛に鞭ちながら入那の都を指して進み行く。 (大正一一・一一・一〇旧九・二二松村真澄録)
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霊界物語 42_巳_黄金姫&清照姫の入那の国の物語2 11 河底の怪 第一一章河底の怪〔一一三六〕 墓場に迷ひ込み、怪物に荒肝をとられて二度ビツクリをしながら、息を喘ませ、イルナ城のヤスダラ姫に会はむものと、宵暗の路を駆け出した。十五夜の満月は、ソロソロ地上に光を投げ始めた。カールチンは月の光に漸く安心し、立止まつて、両手を合せ、月神を拝しながら独言、 カールチン『あゝあ、恋の闇が何うやら明るくなつて来たやうだ。むすびの神は月下氷人とか言ふさうだから、恋路の暗を照らすお月様は、俺にとつては助け神のやうなものだ。あゝ月なる哉月なる哉。これからヤスダラ姫の居間にツキ、いろいろ雑多と意茶ツキ、粘りツキ、武者ぶりツキ、終ひには悋気の角を生やして咬みツキ、食ひツキといふ段取になるかも知れないぞ。エヘヽヽヽ』 と涎をたぐりつつ入那川の橋詰迄やつて来た。不思議や深さ一丈余りもある川底が水晶の如く透き通り、月夜にも拘らず、小魚の泳ぐの迄がハツキリと見えて来た。カールチンは、 カールチン『不思議な事があるものだ。昼でさへも此川はうす濁りで底の見えた事はないのに、今日は又何うしたものだらう、透きとほつた水晶の水が流れてゐるワイ。ヤツパリ之も月の大神様が、俺達の恋の前途を祝して下さるのだらう』 と独言ちつつ、覗き込んでゐる。そこへ水底をもがきながら、流れて来たのがテーナ姫であつた。 カールチン『ヤア、テーナの奴、この川上で落馬して川へはまり、此処まで流れて来よつたと見えるワイ。何だか、まだ川の底で動いてゐるやうだ。ヤア、此処で、とうとう沈澱するらしいぞ』 どこともなく声ありて、 (ユーフテス)『テーナ姫は其方の女房ではないか。なぜ命を的に河中に飛込み救うてやらぬのか。ホンに水臭い男だなア』 と叫ぶ者がある。後ふり返り見れば、ユーフテスであつた。 カールチン『コリヤ、ユーフテス、どこから来たのだい。救はうと救ふまいと、俺の女房だ。貴様等の敢て干渉する範囲ぢやないわい。黙つて居よう』 テーナ姫は川底に坐り込み、何だか手をあげて救ひを叫ぶ。其声は残らず水の泡となつて、ブクブクブクと屁の玉が風呂の中で行列して浮き上る様になつて居る。 ユーフテス『旦那さま、あんた俄に水臭くなりましたなア。何程恋の邪魔になると云つても、女房を見殺しにするのは、チツト不道徳ぢやありませぬか』 カールチン『どうで不道徳だらうよ、併し事の成行ならば仕方がないぢやないか』 かく話してゐる所へ、又もや川底をゴロリゴロリと流れて来る女の姿が手に取るやうに見える。二人は目を見はつて、よくよく見れば、妙齢の美人ヤスダラ姫が綺麗な着物を着飾つた儘、髪を垂らして流れて来た。そしてテーナ姫の沈んでゐる所へ折よく沈澱した。 カールチン『ヤア、此奴ア大変だ、肝腎の目的物が身投をしたと見える。此奴ア、助けにやなるまい』 と赤裸にならうとするのを、ユーフテスは其手をグツと握り、 ユーフテス『モシモシ旦那さま、危ない危ない、こんな所へ飛び込まうものなら、それこそテーナ姫さまと情死するやうなものだ。おきなさいな』 カールチン『ナーニ、俺はヤスダラ姫と心中するのだ。かもてくれない』 と赤裸になり、飛込まうとするのを、グツと襟髪をつかみ、 ユーフテス『待てと申さば、先づ先づお待ちなさいませ』 カールチン『エヽ邪魔ひろぐな、グヅグヅしてると、ヤスダラ姫の息の根が切れてしまふぢやないか』 川の底では二人の女が、組んづ組まれつ、力限りに格闘を始め出した。カールチンは、 カールチン『コラ、テーナ姫、何をする、俺が了簡せぬぞ』 と云ふより早く、着物を着たまま、ザンブと飛込んだ途端に、ブルブルブルと石を投込んだ様に沈んで了つた。橋の袂には凩が笛を吹いて通つてゐる。ユーフテスと見えた男は忽ち巨大な白狐となり、のそりのそりと橋を渡つてイルナ城さして進み行く。 テーナ姫の出陣の後、館の守備に任ぜられ、ハルナの応援軍から取残された大男、ハルマンは此頃カールチンの挙動の常ならぬのに不審を起し、日が暮れても主人の帰りなきを案じて橋詰迄やつて来た。川の面は月の光でキラキラと光つてゐる。忽ちムクムクと川底から浮上つた黒い影がある。ハルマンは透かし見て、 ハルマン『ヤアやこれは誰かが川へはまつて死にかけてゐるのだ。助けにやならぬ』 と衣類を脱ぎ捨て、身を躍らしてザンブとばかり飛込み、黒い影を矢庭に引掴み、抜き手を切つて一方の手で水をかき分け、泳いで岸に取りつき、救ひ上げ、いろいろと介抱して呼び生かし、よくよく見れば右守司のカールチンであつた。ハルマンは二度ビツクリ、言葉もせはしく、 ハルマン『ヤア、貴方は旦那様ぢや厶いませぬか。危ないこつて厶いました。チと確かりして下さいませ』 カールチンは漸くにして気が付き、 カールチン『あゝお前はヤスダラ姫か、危ない事だつた。俺も一生懸命にお前の命を助けてやらうと思うて飛込んだのだ、マアよかつた。サア之から城内へ行かう、こんな所にグヅグヅして居つて、人に見付けられちや大変だから』 ハルマン『モシモシ旦那様、確りなさいませ。ここは何処だと思つて厶るのですか』 カールチン『ここは入那川の堤ぢやないか、サア早く行かう。ヨモヤ又目を剥いたり、妙な手付をして俺をおどかす狸村喜平ぢやあろまいな、エーン』 ハルマン『モシモシ旦那様、私はヤスダラ姫ぢや厶いませぬよ、家来のハルマンですがな。チと確かりして下さいな』 カールチン『ヤスダラ姫の命は助かつたか、何うだ。早く様子を聞かしてくれないか』 ハルマン『そんな人は如何なつたか、私や分りませぬ。只貴方さへ助ければ私の役がすむのぢやありませぬか。ヤスダラ姫なんて、テルマン国から逃げて来たやうなアバズレ女に構ふことがあるものですか。あんな奴ア、死なうと生きようと放つときやいいのですよ。貴方もヤスダラ姫を大変に憎んで居らつしやつたぢやありませぬか。サマリー姫様が此頃の貴方の御精神が変つて、如何やらヤスダラ姫を王様の女房にしさうだと云つて、大変に疳を立てて泣いてばかりゐられますよ。私はそれが気の毒で見て居れないので、かうして捜しに来たのです。何で又こんな川へ、盲でもないのに落込みなさつたのですか』 カールチン『今は何時だ、テンと訳が分らぬやうになつて来たワイ』 ハルマン『夜の五つ時、あの通りお月様が東の空へお上りになつてるぢやありませぬか。サア、私がお供して帰りませう。お召物もズクズクになり、風に当つてお風邪でも召したら大変です』 と言ひながら、無理にカールチンを引抱へ、大力無双のハルマンは右守司の館を指して、トントントンと地響させながら帰つて行く。 (大正一一・一一・一六旧九・二八松村真澄録)
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霊界物語 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) 04 玉眼開 第四章玉眼開〔一一五五〕 伊太公『思ひきやきやきやきやと泣く猿に キヤツといふ目に会はされるとは』 道公『コリヤコリヤ伊太公、気楽相に狂歌所かい。宣伝使様が今日か明日か知らぬよな目に会はされて苦んで厶るのに、何を呆けてゐるのだ。サ、早く谷川へでも下りて清水を汲んで来い。俺は御介抱を申上げるから……』 伊太公『そんならお前達両人に、先生の御介抱を頼む事にしよう。俺はこれから谷水を汲んで来るワ』 といひ乍ら、水筒をブラブラブラ下げ、谷川さしておりて行く。 伊太公『ヤア此所に綺麗な水が流れてゐる。之を汲んで洗つて上げたらキツと癒るだろ。 山猿に掻きむしられて何もかも 水の御霊の救ひ求むる。 この水は神の恵の露なれば 今日は見えると言ひたくぞある。 谷川に落ち込み水を汲みに来た 深き心を汲ませ玉へよ。 此みづは眼ばかりか命まで 救ひ助くる恵の露ぞ。 惟神神の光の現はれて 玉国別の眼照らせよ。 みず知らず懐谷の山猿に 掻きむしられし事の悔しさ。 さり乍ら神の使命をおろそかに いたせし罪の報い来しにや。 時置師神の命が現はれて 心の眼開き玉へり。 待てしばしぐづぐづしてるとこぢやない 早く眼をあらはにやならぬ。 伊太公の目は大丈夫さり乍ら 師の君見る目いたいたしく思ふ』 と口ずさみ乍ら、清冽なる秋の谷水を水筒に盛り、一刻も早く玉国別を助けむと、小柴や茨を掻きわけ、息をはづませ登り行く。玉国別は両眼より血を垂らし乍ら、布にて血糊を拭き取り、手の掌を両眼にあてて痛さをこらへて俯いてゐる。道公、純公は、 道公、純公『サア大変々々』 と慌てふためき、うろたへ廻つて、チツとも間しやくに合はない。 玉国別『道公、水はまだか。伊太公はまだ帰らぬか』 道公『ハイ山路をタツタツタと下つて行たきり、今に至り姿を見せませぬ。先生が是程傷で困つて厶るのに……エヽ気の利かぬ奴ですワイ。オイ純公、貴様何をウロウロしてゐるのだ。早く伊太公の水の催促に伊太々々』 純公『エヽ洒落どころかい。大変な目に会うて吾々は進路に迷うてゐるのだ。一寸先は真暗やみだ。そんな気楽なことどこかいやい』 かかる所へ伊太公はフースーフースーと鼻息荒く登り来り、 伊太公『アヽ大変遅くなつてすみませぬ。一刻の間も早く帰りたいと思ひ、気をあせればあせる程、キツい坂で足がずり、漸くここ迄到着致しました』 道公『オイ早く水筒を出さぬかい。根つから持つてゐないぢやないか』 伊太公は腰のあたりを探り乍ら、『アツ』と一声打驚き、 伊太公『ヤア大変だ。余り慌てて、谷底へ水を汲んだなり忘れて来たのだ。オイ道公、貴様早く取つて来てくれぬかい。先生の痛みが気の毒だから、早く目を冷さぬと段々腫れて来ちや大変だ』 道公『エヽ慌者だなア、どこらに置いておいたのだ。それをスツカリ言はぬかい』 伊太公『谷川と云つたら、山の谷を流れる川だ。其水を汲んでチヤンと砂の上においてあるのだ。サア早く行かぬかい。一分間でも先生の苦痛を助けにやなるまいぞ』 純公『オイ伊太公、貴様が置いといたのだから、貴様が行かなグヅグヅ捜してゐる間がないぢやないか。本当に困つた奴だな。丸で雉子の直使だ。水を汲みに行つたつて、持つて帰らにや何になるものか』 伊太公『貴様、水を汲んで来いとぬかしたぢやないか。別に持つて帰れと迄は言はぬものだから忘れたつて仕方がないワイ。オイ純公、貴様も来てくれぬかい。実の所はどこで落したか分らぬのだ。二人よつて鵜の目鷹の目で、小柴の中や枯草の間を捜し求めて見つけて来うぢやないか、……モシモシ先生様、モウ暫くの御苦痛、どうぞ御辛抱下さいませ。誠に気の利かぬ男で厶いまして、御心中お察し申します。コラ、道公、何を呆けてゐるのだ、早く御介抱を申さぬかい』 道公『介抱せいと云つたつて、仕方がないぢやないか。俺やここで猿の再襲来を防禦してゐるから、貴様等両人、水筒捜しに行つて来い』 伊太公、純公両人はブツブツ呟き乍ら、小柴を分けて水筒の落ちた場所を探しに行く。漸くにして一丁ばかり下つた所に、水筒は落ちて居た。併し乍ら入口を下に尻を上に落したのだから、一滴も残らず吐き出して了ひ、空水筒となつて、天下太平気分で横はつてゐる。 伊太公『エヽ気の利かない水筒だな、落ちるのなら何故上向けに落ちないのだ。折角俺が呑ましてやつた水を、皆吐き出して……何と都合の悪い時にや、都合の悪いものだなア。オイ純公、仕方がない。マ一度谷底まで一走り行つて来うかい』 純公『さうだなア。水筒が見つかつた以上は貴様一人でいいのぢやけれど、元来が慌者だから、又道で落しよると何にもならぬ。俺が監視役として従いて行てやらう』 純公は水筒を懐にねぢ込み、急坂を小柴を分け、草に辷り乍ら、伊太公と共に深き谷底に下り立ち、清泉をドブドブドブと丸い泡を立てさせ、口まで満たした。 純公『すみ切りし此谷水を水筒に 呑ませて帰る身こそ嬉しき。 伊太公が折角汲んだ谷水は 水泡となりて消え失せにける』 伊太公『俺だとて落す心はなけれ共 目に見ぬ智慧を落したるらむ。 落したる瓶を拾うて音彦の 眼を洗ふわれおとましき』 純公『さア早う伊太公の奴よついて来い 眼伊太公と待つて厶るぞ』 と云ひ乍ら、又もや急坂を攀ぢ登り、漸くにして玉国別の傍に着き、水筒の水を手にすくひ、玉国別の両眼を念入りに洗滌した。 玉国別『アヽ有難い、これでスツカリ目の痛みが止まつたやうだ』 伊太公『先生、痛みが止まりましたか、それは何より嬉しい事で厶います。併し明りは見えますかな』 玉国別『イヤ痛みは余程軽減したやうだが、チツとも見えないワ』 道公『エヽ何と仰有います、お目が見えませぬか、コリヤ大変だ。大西洋の真中で蒸気船の機関が破裂したよなものだ、これから俺達は如何したら良からうかなア』 玉国別『心配してくれな。物のあいろは分らぬが、ボンヤリとそこら中が明く見えるやうだ。何れ熱が下つたら、元の通りになるだらう。これといふのも吾身の安全を第一として烈風に恐れ、肝腎の神様に祈願することや言霊を以て風神を駆逐することを忘れてゐた其罪が報うて来たのだ。実によい教訓を受けたものだ。せめて北光神様のやうに一眼なりと開かして下されば、結構だがなア』 道公はつくづくと玉国別の両眼を打ち眺め、 道公『ヨウこれは思つたよりも大疵だ。モシ先生、右の目はサツパリ潰れて了つてゐますよ。まだも見込のあるのは左の目ですよ』 玉国別『左の目は日の大神様、右の目は月の大神様だ。月の国へ魔神の征服に出陣の途中、月の大神に配すべき右の目を猿に取られたのは、全く神罰に違ない。まさしく坤の大神様が、吾目をお取上げになつたのだらう、あゝ惟神霊幸倍坐世』 道公『オイ伊太公、純公、コリヤ斯うしては居られまい、これから三人は谷底へ下つて一生懸命に水垢離を取り、先生の目の祈願をさして頂かうぢやないか』 斯く話す折しも、下の谷道を宣伝歌を歌ひつつ東北指して登り行く一隊があつた。これはケーリス、タークス、ポーロの一行が照国別の信書を携へ、斎苑館に修行に向ふのであつた。 道公『ヤアあの声は三五教の宣伝歌ぢやないか。モシ先生、キツとあれは吾々の味方に違ありませぬ。一つ後追つかけて、貴方の眼病を鎮魂して貰ひませうか』 玉国別『苟くも宣伝使の身を以て、山猿に眼を掻きむしられ、どうしてそんな事が、恥しうて頼めるものか。何事も神様にお任せするより道はないのだから、御親切は有難いが、それ丈はどうぞ止めてくれ』 道公『それだと申して、危急存亡の場合、そんな事が言うてゐられますか。今となつては恥も外聞もいつたものぢや厶いませぬ。何程神徳高き宣伝使でも、怪我は廻りものですからそれが恥になると云ふ事はありますまい。オイ伊太公、純公、何をグヅグヅしてるのだ。千危一機の此場合に泣く奴があるかい。早く宣伝歌の声を尋ねて頼んで来ぬか』 伊太公『それもさうだ。オイ純公、お前も御苦労だが、俺に従いて来てくれ』 純公『ヨーシ、合点だ。急かねばならぬ、急いては事を仕損ずる。気をおちつけて、ゆるゆる急いで行かう』 道公『何卒さうしてくれ。サアサア早う早う、手を合はして、今日は俺が頼むから』 玉国別『コリヤ三人、どうしても俺のいふ事を聞かぬのか、俺に恥をかかす積りか』 道公は頭を掻き乍ら、 道公『ダツて貴方、これが如何して安閑として居られませうか』 玉国別『神様の教に、人を杖につくな、身内を力にするな……といふ事がある。俺の目は俺が神様に祈つて何とかして貰ふから、どうぞそれ丈はやめてくれ、頼みだから』 道公『オイ伊太、純、どうも仕方がないぢやないか』 伊太公『俺達の先生だもの、俺達三人が神様に祈つて直して貰へばいいのだ。外の宣伝使に先生の恥を曝すのも済まないからなア』 玉国別は天に向つて合掌し、天津祝詞を奏上し、……国治立大神の神名を称へて、罪を謝した。其詞、 玉国別『高天原の主宰にして、一霊四魂三元八力の大元霊にまします大国治立大神様、私は貴神の尊き霊力体を賦与せられ、此地上に生れ来て、幼少の頃よりいろいろ雑多の善からぬ事のみ致しまして、世を汚し、道を損ひ、人を苦め、親を泣かせ、他人に迷惑をかけ、しまひの果にはウラル教の宣伝使となり、日の出別神様に救はれて一人前の宣伝使として頂きました。かかる罪深き吾々をも捨て玉はず、きため玉はず、広き厚き大御心に見直し聞直し詔直し下さいまして、尊き宣伝使にお使ひ下さいました事は、罪深き吾々に取つては、無上の光栄で厶います。かかる広大無辺なる御恩寵に浴し乍ら、知らず知らずの間に慢心を致し天下の宣伝使気分になつて、世の中の盲聾唖躄などを癒やし助けむと、勇み進んで此処迄参りました事を、誠に恥かしく存じます。今日只今山猿の手を借つて、吾々の両眼を刔出し、汚れたる心を清め、曇りたる心の眼を開かせ、身霊を明きに救ひ玉ひし其御恩徳を有難く感謝致します。人間の体は神様の生宮とある以上は何処迄も大切に此肉体を守らねばならないので厶いますが、自分の心の愚昧より大切なる肉の宮を損ひ破り、吾々の霊肉を与へ下さいました貴神様に対してお詫の申上げやうも厶いませぬ。誠にすまない無調法を致しました。仮令玉国別両眼の明を失する共、せめては心の眼を照らさせ下さいますれば神素盞嗚大神様より依さし玉ひし吾使命を飽迄も果たし、斎苑の館に復命をさして頂く考へで厶います。此上は御無理な願は決して致しませぬ。何卒々々惟神の御摂理に依りて、御心の儘にお取成し下さいます様に謹んで御願を申上げます』 と願ひ終り、両眼より雨の如く涙を流してゐる。三人も此有様を見て、思はず落涙にむせび、大地にかぶり付いて感謝の祈願を凝らしてゐる。玉国別は尚も一生懸命に、天地の大神に対し、懺悔の告白をなしつつあつた。不思議や左の目は俄に明くなり、四辺の状況は手に取る如く見えて来た。玉国別は嬉し涙に咽び乍ら、又もや拍手再拝して神恩を感謝する。 玉国別『イヤ道公、伊太公、純公、喜んでくれ。どうやら片眼が見え出したやうだ。神様は罪深き玉国別を助けて下さつた。あゝ有難し有難し』 と又もや合掌。三人は此言葉に驚喜し、 三人『あゝ有難し勿体なし』 と一斉に合掌し、勢込んで再び天津祝詞を奏上し始めた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一一・二六旧一〇・八松村真澄録)
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霊界物語 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) 09 輸入品 第九章輸入品〔一一六〇〕 月照り渡る森の木蔭に小声で話し合つて居る二人があつた。これは玉国別、純公の二人なる事は云ふ迄もない。今迄銅色の雲の衣をかぶつて居た円満具足の望の月は心ありげに二人の対話を窺くものの如くであつた。数十間隔たつた祠の森の辺りには二三人の男の笑ひ声が聞えて来た。 純公『先生、此殺風景な魔軍の通つた後に、何とも知れぬ砕けたやうなあの笑ひ声、修羅道の後へ歓楽郷が開けた様な光景ぢやありませぬか。極端と極端ですなア』 玉国別『ウン、窮すれば達す、悲しみの極は喜びだ。喜びの極みは又悲しみだ。祠を中心に何か喜劇が演ぜられて居ると見える。あの笑ひ声を聞くと私の頭痛も拭ふが如く消え散つて仕舞つたやうだ。凡て病に悩む時は笑ふのが一番ぢや。大口をあけて他愛もなく笑ひ興ずるその瞬間こそ無上天国の境涯ぢや。ヤア私も何となく面白くなつて来た。アハヽヽヽ』 純公『ヤア初めて麗しき月の大神様のお顔を拝したかと思へば又もや先生の玲瓏玉の如き温顔に笑ひを湛へられた所を拝みました。何だか私も嬉しく勇んで参りました。アハヽヽヽ』 玉国別『あの大きな笑ひ声は、どうやら道公の声のやうだつたなア』 純公『似たやうな声でしたな。あの男があれだけ大きな声で笑つたのは今が聞初めです。併し、なぜ貴方の御命令通り手を拍たないのでせうか。察する処バラモン教の奴、酒にでも酔つぱらつて凱旋気分になり哄笑して居るのぢやありますまいかな』 玉国別『さうではあるまい。道公も矢張笑ひの渦中に投じて居るのだらう』 純公『かう平和の風が祠の近辺に吹いて居るのに、いつ迄此処に楽隠居して居た処で仕方がありますまい。バラモン教の軍隊が治国別様の言霊に打たれて遁走して来るのにもう間もありますまい。兎も角もあの祠を指して参りませうか。ヤア手が鳴りました。あれはキツと道公の合図でせう。サア参りませう』 玉国別『そんなら行かう』 と立ち上り、二つの笠は空中に二本の杖は白く月に照り乍ら地を叩いて下つて往く。 祠の前には、ニコニコした顔を月光に曝し、道公が唯一人踞んで居る。 純公『オイ道公さま、お前一人だつたか』 道公『ウン合計〆て一人だ。何も居ないよ。あいさに木の葉がそよ風に吹かれて何だか訳の分らぬ事を、舌を出してペラペラと喋つて居よるが、俺の耳には植物の声はトンと聞えないわ』 純公『お前一人で二人も三人もの声を一時に出したのか、余程器用な男だねえ、先生様のお越しだ。挨拶をせぬか』 道公『今其処で別れた計りぢやないか。師弟の間柄、十間や二十間分れたつて七六ケ敷う挨拶が要るものか。そんな繁文縟礼の事をやつて居ると埒は明かないぞ。先生、貴師は私の心を御存じでせうね』 玉国別『ウンよく分つて居る。時に道公誰も居なかつたか、二人計り居つただらう』 道公『ハイ、猿の子孫が〆て二人計り祠の前に犬踞ひになつて唸り合つて居りましたよ。私の神力で、とうとう笑ひ散らしてやりました。アハヽヽヽ』 玉国別『アヽ月の光を浴び乍ら此祠の御前を借用して敵軍の帰り来るのを待つ事にしよう』 と云ひながら祠前の恰好の石に腰打ちかけた。 道公『オイ、今二人の奴の話を聞けば伊太公はどうやら敵の捕虜になつたらしいよ。併し乍ら、今となつては悔んでも及ばぬ事だ。此後吾々は伊太公を救ふため、友人の義務を尽さうではないか』 純公『さうだなア、仕方がないなア。神様が伊太公にも御守護を遊ばすからさう悲観するにも及ぶまい』 道公『これから半時以上も、こんな所でチヨコナンとして狛犬然と待つて居るのも気が利かぬぢやないか。月の光を浴びながら、谷川へ下りて水でもいぢつて来るか、さうでなければ昔話でもして時の到るを待つたらどうだ』 純公『それでも先生様が沈黙を守れと堅く仰有つたぢやないか』 道公『モシ先生、あんまり黙言て居ますと、口の中で蜘蛛の巣が張ります。又耳の穴にも棚蜘蛛が巣をかけますから蜘蛛払ひのために少し昔話でもさして下さいな。手なと足なと、口なつと赤坊のやうに始終動かして居らねば虫の納まらない厄介の奴だから、どうか広き心に見直し聞直し、ここは一つ宣り直しを願ひます』 玉国別『ウンそれも差支へはない。併し言霊戦の準備は整うて居るかな』 道公『プロペラーも、余り長らく使用しないと錆がついて思ふやうに円滑に回転しませぬから、言霊戦の予行演習だと思つてチツと発声機関を使用さして下さい』 玉国別『ウンよしよし、もう暫くすれば実戦期に入るのだから夫れ迄何なりと話したがよからうぞ』 道公『オイ純公、忽ち願ひ済みだ。サア最早誰人に遠慮も要らぬ、天下唯一の雄弁家道公さまが布婁那の弁を縦横無尽にまくし立てるから、聞き役になつて呉れ。そして間さには、ウンとか、なる程とか、其次はどうなつたとか云うて呉れなくては旨く話の結末がつかないから頼むよ。先づ俺の若い時のローマンスでも陳列してお慰みにお耳に入れることにしよう』 純公『オイ、道公、お前のやうな青瓢箪に目鼻をつけたやうな男でも矢つ張りローマンスはあるのか、妙だねえ』 道公『余り馬鹿にして貰ふまいか、蛇の道は蛇の道の道公様だ。種々の素晴しい歯の浮く様な道行話が胸中に満ち溢れて居るのだ。俺計り宝の持ち腐りをして居ても天下国家のためにならないから、一つ此処で祠の森の神様に奉納の積りで余興に昔語りをやつて見るから謹んで拝聴せよ。エヘン抑此道公さまの御年十八才の頃、俺の生れ在所にホールと云ふ素的滅法界の美人があつたのだ。そした所が、其ホールさまが、乳母と一緒にオペラパツクを細い腕にプリンと提げ、シヨールに蝙蝠傘を携へ裾模様に梅の花を散らした素晴しい衣装をお召しになり桜見物にお出なさつたのだ。その時俺はまだ十八の色盛り顔の艶も好く、ブラリブラリと公休日を幸ひ片手を懐に入れ握り睾丸をしながら桜のステツキの乙に曲つたやつを小脇に挟みやつて行つたと思ひ給へ。さうすると彼方にも此方にも、瓢箪酒を呑んで居る三人五人七人の団隊があつたと思ひ給へ。ウラル教の奴も、バラモン教の奴も沢山居たと見えて「飲めよ騒げよ一寸先は闇よ、闇の後には月が出る。月は月でも縁のつき」だなんてぬかしやがつて、ヘベレケに酔つて居る。そこへホールさまが花も恥らふ優姿、乳母に手を曳かれ天教山の木花姫様のやうなスラリとした姿でお出なさつた。そこへ又道公さまが最前いつた様な意気な姿でブラついて居た様は実に詩的だつたネー。まるで画中の人のやうだつたよ。ホールさまは、何奴も此奴も妙な顔をして酒に酔ひ喰つて居るのを打ち眺め、梅花の露に綻ぶやうな優しい口許で「ホヽヽヽヽ」と笑ひたまうたと思ひたまへ。さうすると酒喰ひの奴、そろそろお嬢さまを見て喰つてかかつたのだ』 純公は道公の話に釣り込まれ、思はず知らず膝を寄せ目を丸くしながら、 純公『エ、それから其後はどうなつたのだ、早く云はないか』 道公『この先は天機漏らすべからずだ。これからが肝腎要の正念場だからな。オイ袖の下の流行する世の中だ。こんな神秘的の話を聞かうと思ふなら、些酒代をはり込め、ハルナの大劇場だつてこんな実歴談は聞く事は出来ないぞ』 玉国別『アツハヽヽヽ』 純公『サア早く次を云はぬかい。もどかしいぢやないか』 道公『後はどうなりますか。又明晩のお楽しみと云ふべき処だが、どつと張り込んでこの後を漏らさうかなア、エヘヽヽヽヽあゝ涎の奴、主人公の許しも得ずに自由自在に迸出せむとする不届きの奴だ。エヘヽヽヽもう云ふまいかな。イヤイヤ矢張祠の森の神様に奉納すると云うたから出惜みをしては済むまい。エヘヽヽヽ然り而うして泥酔者の中から顔一面に熊襲髯を生し、目と鼻とのぐるり計り赤黒い肌を現はした大男がムツクと立ち上り、姫様の首筋をぐつと鷲掴み「コリヤ阿魔つちよ、何だ失礼な、此方が折角機嫌よく酩酊して居るのに何がをかしいのだ、エーン俺の面を見て笑うたが笑ふに付けては何か訳があらう。サア貴様の手で俺に一杯酒をつげ」とかう大きく出やがつたのだ。ホールさまは忽ち顔色を変へ「アレ恐い乳母どうしようか」とおろおろ声を出して狼狽廻つて厶るのだ。大の男は益々威猛高になり「俺を誰だと思つて居る。おれこそは月の国にても名の売れた色の黒い純公だぞ、繊弱い阿魔つちよに嘲弄されてどうして男が立つか。サア神妙に酌をせい」と吐かすのぢや、ホールさまは一生懸命「アレ恐い助けて助けて」と悲しさうな声を出して叫ばれたのだ。さうすると其辺中に酒に酔つて居た泥酔者が「ヤ何だ何だ、喧嘩だ喧嘩だ」と姫様と純公の廻りを取り巻く、其光景と云つたら実に物々しいものだつた。殆ど蟻の這ひ出る隙もない迄に、寄つたりな、寄つたりな、人の山。そこで此道公は「まつたまつた、暫く待つた」と大手を拡げ、捻鉢巻をグツと締め、二人の中に割つて入る。純公は怒り立ち「どこの何者か知らないが、邪魔をするとお為にならないぞ」と白浪言葉で睨めつける。俺もさる者日頃覚えた柔道百段の腕前で純公の素つ首引とらへ、空中目蒐けて、プリンプリンプリンと投げやれば、遉の大男も草原へドスンと転落し、痛いとも何とも云はず、恨めしげに後を眺めてスゴスゴと帰つて往つた愉快さ、心地よさ。今思うてもなぜあんな力が出たかと不思議のやうだ。そこでホールさまはどうして厶るかと四辺を見れば、乳母に手を引かれ人込を押わけサツサと逃げて往かれる。後姿を見て俺も何となく、人の居るのも構はず、指を銜へ伸びあがつて見て居たよ』 純公『アハヽヽヽ、骨折り損の疲労儲けと云ふ幕が下りたのだな。大方そんな事だらうと思うて居た。お気の毒様、ウフヽヽヽ俺だつたら、も一つ進んで優しい姫様の口からお礼を云はすのだが、お前は矢張気が弱いと見えるのう。ウフヽヽヽ』 道公『何これで終極ぢやないよ、これからが正念場だ。エヘヽヽヽ、それからな、俺も何となく聊か恋慕の心が起り、も一度天女のやうなホールさまのお顔が見たいと、どれだけ気を揉んだか分らない。併し名に負ふ富豪、隙間の風にさへ当てられないで育つて居るお嬢さまだからどうしても遇ふことは出来はしない。いろいろと考へた結果俺はそこの風呂焚に入つたのだ。即ち三助に入り込んだのだ。さうすればいつか姫様のお顔を拝する事が出来るであらうと思うたから、エーン』 純公『何と気の弱い奴だな。俺だつたら、「先日は甚いお危ない事で厶いましたね。別にお身体にお障りは厶いませぬか。花見の時お嬢様が悪漢にお遇ひなされた時お助け申した私は道公だ」と両親に名乗り優しい姫様の手からお茶の一杯も汲んで貰つて来るのだに、貴様は薄惚だから殆ど掌中の玉を失うて来たのだ。そんな失恋話は好い加減に切り上げぬかい。徒に時間を空費する計りぢや』 玉国別『オツホヽヽヽ』 道公『是からが三段目だ。確かり聞かうよ。風呂焚きの三助に入り込んで丸に十字のついた法被を着用に及び、姫様が今日は入浴か、明日は入浴かと待つて居たが、豈図らむやその風呂は上女中の入る風呂で、姫様は根つから覗きもしない。其時の俺の失望と云つたらあつたものぢやない。エーン』 純公『アハヽヽヽ、梟の宵企み、夜食に外れたと云ふ光景だな。ウフヽヽヽ』 道公『コリヤ、あまり軽蔑すな、まだ先があるのだ。斯の如くにして、三助を勤むる事満一年に及んだ暁、お嬢様は隣国のペンチ国の或富豪の家へお嫁入りと云ふ事になつたのだ。「アヽしまつた。こんな事なら一年も三助をするのぢやなかつたに、お声も聞かねばお姿も見ず杜鵑よりも酷い」と歎き悲しんだのも夢の間、番頭のテンプラ奴が「一寸三助お前に用があるから此方へ来い」と云うて来よつた。何事ならむと稍望みを抱きながら、恐る恐るテンプラの前に罷りつん出ると思ひも掛けなく、「お嬢様のお嫁入りだから貴様駕籠舁にいつて呉れないか」とお出なさつた。「ヤレ嬉しや、願望成就時到れり」と二十遍も首を縦に振り「御用を承はりませう」と云つた処、其翌日いよいよお嫁入りの段となつた。駕籠にお這りの時のお姿を見た時は魂奪はれ、魄消えむと思ふばかり、殆ど卒倒しかけたよ。それからお姫様の駕籠を相棒の奴と舁ぎながら歌うて見たのだ。その歌がまた奇抜だつたよ。 俺は十八お嬢さまは十七の花盛り一人の乳母に手を曳かれ 梅を散らした裾模様黒縮緬の扮装で ぞろぞろぞろと桜見にお越しなさつた其時に 彼方に五人此方には又七人と酒を呑み 呑めよ騒げよ一寸先暗夜闇の後には月が出る 月はつきだが縁のつきウントコドツコイドツコイシヨ 髯武者男の純公が花も恥らふお嬢さまを とつ捕まへて酌せいと駄々を捏ねたる最中に 飛んで出たのは俺だつた純公の奴めが腹を立て 武者振りつくのをとつかまへ習ひ覚えた柔道で ウンと一声なげやつた空中二三度回転し 命辛々逃げて往く後振りかへり眺むれば ホールの姫は逸早く乳母にお手を引かれつつ 館をさして帰り往くあれ程美しいお姫さま も一度お顔が拝みたい何とか工夫はないものか 手蔓を求めて三助となつて月日を待つ中に 思ひも掛けぬ御結婚あゝ是非もなし是非もなし 爺が鳶に油揚もつていなれた心地して せめては駕籠の御供をさして貰つたを幸ひと 此処迄ウントコついて来たウントコドツコイドツコイシヨ と足に合せて唄つたら、駕籠の中から細い涼しいホールさまの声として、「この駕籠一寸待つた。俄にお腹が痛み出したから、今日の結婚嫌だ嫌だ帰る」と仰有つてお聞きにならぬ。サア大変だ、結婚の途中お姫様が引返したのだから、どつちの家も大騒動、それからとうとう駕籠は家に帰り、奥の間にサツサとお姫さまは腹痛も忘れて入つて仕舞つた。よくよく聞けば「あの駕籠舁きと夫婦にして呉れねば妾は死ぬ」と駄々を捏ねたと思ひ給へ。サアこれからがボロイのだ。とうとう俺はホールさまの座敷に呼び入れられ、山野河海の珍肴、姫の細い白い手でお酌をして貰ひ、初めて結婚の式を挙げて夫婦となり、沢山の財産を与へて貰ふ事になつたのだ。さうすると、月に村雲花に嵐、姫様と俺と盃を交はして居る所へ、阿修羅王の荒れ狂ふが如く入つて来たのは純公だつた。サア此方の襖は叩き毀す、火鉢をなげつける。乱暴狼藉、そこで俺も、も一度姫に吾手並を見せておく必要があると思ひ、「サア来い来れ」と手を拡げた途端、目が醒めたら、何の事だ、破れ小屋の二畳敷で汗ビツシヨリかいて夢を見て居たのだつた、アハヽヽヽ』 玉国別『ウツフヽヽヽ』 純公『ワハヽヽヽ、馬鹿にするない』 道公『何、バラモン国から直輸入した計りの舶来品の卸し売りだ、アハヽヽヽ』 (大正一一・一一・二七旧一〇・九加藤明子録)
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霊界物語 44_未_玉国別と治国別2 07 山口の森 第七章山口の森〔一一七六〕 五三公は急坂を下り乍ら稍緩勾配になつたのを幸ひ、真先に立ちて歌ふ。 五三公『高天原の霊国に現はれ玉ふ主の神は 天が下なる民草のみたまを清め愛信の 道を体得せしめむと三五教を開きまし 悪にくもりし人々の心に真如の日月を 照らさせ玉ふぞ有難き斎苑の館に名も高き 五三公さまは選まれて治国別の伴となり 烈風すさぶ河鹿山峠を難なく打渡り 曲の軍を追散らしさしもに嶮しき下り坂 易々渡り玉国別の神の命がこもりたる 祠の森に辿りつきここに二夜を明しつつ バラモン教の人々を数多言向け和し置き 又もやのり出す膝栗毛心の駒も勇み立ち 吾身をのせて進み行くあゝ惟神々々 尊き神の御恵みに人と生れし天職を 完全に委細に尽し了へ皇大神の御前に 復命したるその上は高天原のみのりにて 霊の迷ふ八衢や根底の国に落さずに 此身此儘天国の夜なき国へ導きて 第二の吾れを末長く守らせ玉へ惟神 神は吾等と共にあり神の御子と生れたる わが身の上の頼もしさ朝日は照る共曇る共 月は盈つ共虧くる共仮令大地は沈む共 三五教の皇神の守らせ玉ふ言霊を 無上唯一の武器となし八岐大蛇のわだかまる 醜の教を悉く言向け和し地の上に 高天原の楽園を開き奉らでおくべきか 吾は賤しき身なれども神の光に照らされて 奇しき功を立てし上えり立てられて宣伝使 仕へ奉るも遠からじランチ将軍片彦の 軍勢は如何に強くともわが言霊を打出せば 雲霞の如き大軍も風に木の葉の散る如く 鷹に逢ひたる小雀の戦き騒ぎ逃ぐる如 言向け散らすは目の当りあゝ惟神々々 祠の森に残されし玉国別の一行は 神の恵みの幸はひて谷間をひろげ土をかき 善をば尽し美を尽し大宮柱太しりて 高天原に千木高く瑞の舎仕へまし 国家鎮護の霊場と開かせ玉へ惟神 神の御前に五三公が赤心こめて祈ぎ奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 ○ 松公『ウラルの神のこもりたるその名も高きアーメニヤ 大気津姫の一族がコーカス山の神人に 追はれて常世へ逃げしよりバラモン教は虚に乗じ 数多の兵士引率れて城の周りに火を放ち 焼き尽したる悲しさに一人の兄を尋ねむと 暗にまぎれてアーメニヤ立出で四方の国々を さまよひ居たる折もあれバラモン教の捕手等に 思はぬ所で見つけられ危き生命を救けられ 隙を窺ひ虎口をば漸く逃れて駆け出し 月の国々巡歴しウラルの教の聖場を 兄は居ぬかと尋ねつつ二年三年経つ内に バラモン教の神司エール、オースに見出され 抜擢されて片彦が秘書役までも上りつめ 大黒主の命を受け斎苑の館へ攻めよする 軍の中に交はりて駒に跨りイソイソと 河鹿峠に来て見れば三五教の神司 治国別の言霊に打なやまされ散々な 憂目に出逢ひ片彦や部下の軍兵悉く 雲を霞と逃げ散りぬ後に残りし吾々は 薄の穂にも怖れつつ足をしのばせ山神の 祠の前に来て見れば豈はからむや兄さまの 亀彦さまは言霊の妙力得たる宣伝使 治国別と相分り狂喜の涙やるせなく 道公さまのもてなしで治国別に対面し 名乗り玉へと訪へどバラモン教に仕へたる 汝の如き弟はわが身に持てる覚えなし なぞと首を横にふり剣もほろろの御挨拶 頼みの綱も切れはてて取つく島も泣ジヤクリ わが捕へたる伊太公を玉国別の御前に 返し奉らにやどうしても兄弟名乗は出来よまいと 早くも胸に悟りしゆ竜公さまを伴ひて 清春山の岩窟へ到りて伊太公救ひ出し 漸く兄の怒りをば解いたる時の嬉しさよ それにまだまだ嬉しいはハルナの都に蟠まる 八岐大蛇の征討に参加なさしめ玉ひたる 神の尊き御恵み幾千代迄も忘れまじ 仮令天地はかへるともわが魂は永久に 巌の如く動かさじ短き此世に存らへて 有らむ限りの力をば尽し了りて神の身の 夜なき国の楽みに浴し奉らむ嬉しさよ 治国別の宣伝使此松公が言の葉を 完全に委曲にきこし召せ皇大神の御前に 祈らせ玉へ惟神神かけ念じ奉る』 と歌ひつつ行くのは、治国別の弟松公にぞありける。 竜公は又歌ふ。 竜公『朝日は照る共曇る共月は盈つ共虧くる共 仮令大地は沈む共バラモン教の悪神を 言向和し神国の栄えを世界に輝かし 生きては此世の神となり死しては高天の天人と なりて常世の花の春を歓ぎ楽しむ霊にと すすませ玉へ惟神われ等は神の子神の宮 肉の宮をば脱出し夜なき国へ行く時は 吾一代の功名を神はうべなひ玉ひつつ 数多の乙女を遣はして歌舞音楽を奏しつつ 芳香四方にくゆらせつ栄え久しき天国に 歓び迎へ給ふまで心を尽し身を尽し 善と真とを地の上に輝き渡し三五の 神の御むねに叶ふべく守らせ玉へ天地の 畏き神の御前に竜公司が謹みて 一重に願ひ奉る此世を造りし神直日 心も広き大直日唯何事も人の世は 過ち多きものならば広き心に宣り直し 又もや見直し聞き直し許させ玉へ惟神 神の御前に願ぎ奉る』 斯く歌ひ乍ら漸くにして山口についた。谷川は左にそれて水音さへも聞えなくなつて来た。此処には可なり大きな老樹の茂つた森がある。之を山口の森といふ。一行六人は夜露を凌がむと宵暗の中を足さぐりし乍ら進み入る。古い祠の跡と見えて台石ばかりが残つてゐる。此処に一行は蓑をしき一夜を明す事となりける。 治国別『山口の時雨の森に来て見れば 鳥さへ鳴かぬ暗の静けさ。 此先はバラモン教の戦士 われを討たむと待ち構ふらむ。 如何程の猛き魔人の攻め来とも わが言霊に伊吹き払はむ』 万公『月かげもなきくらがりの木下暗 明かして通る吾師の一行。 河鹿山漸くここに下り来て 神の恵みに一息するなり。 御恵みの露は辺りに光れども 月なき夜半は見るすべもなき。 やがて又東の空をてらしつつ 月の大神上りますらむ』 晴公『星かげは真砂の如く輝けど 木の葉のしげみに隠れましぬる。 よをてらす月の御神の功は 天照る神に劣らざるなり。 天伝ふ月日の神の御めぐみに 人はさらなり万物栄ゆく』 五三公『斎苑館しづまりゐます素盞嗚の 瑞のみかげを今ぞしのばゆ』 松公『道のため世のため尽す赤心は 暗夜を照らす月にあらずや。 暁の空をてらして紅の 雲を押分け上る日の神。 夕暮の空に輝く三日月に 天の岩戸の開けしかとぞ思ふ。 月見れば百のうきごと消えて行く 瑞の霊の洗ひますらむ。 人皆の行く可き道は惟神 神の心に叶はむがため。 此森に一夜を明かし明日は又 浮木の森に雨やどりせむ』 竜公『バラモンの醜の司の此処彼処 伺ひよらむ心しませよ。 片彦の目付の神は河鹿山 山口四辺に彷徨ふと聞く』 治国別『何事も神の心に任すこそ 人の行く可き大道なるべし』 此処に一行は蓑を布き夜露を冒して安々眠りに就きにける。 (大正一一・一二・七旧一〇・一九外山豊二録) (昭和九・一二・二六王仁校正)
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霊界物語 44_未_玉国別と治国別2 16 怯風 第一六章怯風〔一一八五〕 冷たき初冬の凩に吹かれて降り来る村時雨 治国別の一行は珍彦親子を河鹿山 登り口まで送りつけ万公五三公竜公や 松彦引つれ大野原時雨を冒して進み行く 歩みも早き山口の森をば右手に眺めつつ 草野を分けてやうやうに野中の森に到着し 怪しき声に木の茂み身を忍びつつ窺へば 鬼をもひしぐ荒男一人のか弱き女をば 捉へて無体の打擲をなし居れるこそ歎てけれ 治国別は木蔭より此惨状を一瞥し 其成行に任す内女は忽ち白煙と なつて消えしと思ふ間に思ひもよらぬ白狐 のそりのそりと這ひ出し野中を指して逃げて行く 七八人の荒男互に棍棒ふりかざし 眼くらみて同士打挑み戦ふ可笑しさに 万公さまは吹きいだす治国別も松彦も 五三公竜公もこらえかね思はず知らず吹き出せば 男は驚き雲霞森の奥へと一散に 命からがら逃げて行く治国別の一行は 月日の白狐の出現に驚異の眼を見はりつつ 白狐の後を伏拝み森の広場に蓑を布き 天津祝詞を奏上し生言霊を唱へつつ 一夜を茲に明かさむと肱を枕に横たはる 冷たき風は容赦なく森の梢を揺がして ザワザワザワと鳴り立てる彼方此方にキヤツキヤツと 聞ゆる声は山猿か但は魔神の襲来か 只事ならじと万公は一人胸をば躍らせて 眠りもえせずパチパチと目を繁叩き座りゐる。 万公は何となく、心淋しく、思ふ様に寝つかれねば、横になつて見たり、坐つて見たり、一行の寝息を窺つたりなどして、夜の明けるのを一時も早かれと待つてゐる。 万公『先生と言ひ、松彦さまと云ひ、肝玉の太い方計り、斯う他愛もなく寝て了はれては淋しい事だわい、俺や又何うして寝られぬのか知らぬがなア、昨夜のやうに又もや楓の化者がやつて来よつたなら、おらモウ、仮令真人間であらうと辛棒が出来ないワ。七八分迄肝玉をどつかへやつて了つたのだから、強相に言うてるものの、実際はビクビクものだ、誰か起きて下さらぬかいなア。折角の安眠を揺り起してお目玉頂戴してはたまらないし、何だか首筋元がゾクゾクして来だした。誰か物云ふ奴が一人あると、互に語り合うて此淋しさを紛らすのだけれど鼾計りでは根つから有難くないわい。五三公の奴、怪体な鼾を出しよつて、何だ。がらがらがらがらといふ鼾がどこにあるかい。グツグツグツグツと鼻を鳴らしてゐるのは、コリヤ竜公だろ、丸でお粥をたいた様な声を出しよる。エヽ、こンな声を聞くと益々淋しうなつて来た。一つ鼻でも摘まンで起してやろかな、怒つたら罪のない喧嘩を始める迄の事だ。何とかして紛らさなくちや、仕方がないワ。オウさうださうだ、言霊を忘れて居つた。夜前の先生に聞いた言霊を一つ打出して見よう。さうすれば、陰鬱な空気がどつかへ退散し、俺の気分もさえるだろ。エーエ、副守の奴、早から泣き声を出しよる。おりやそンな弱い男だないが、怪体の悪い、弱つたらしい守護神がくつついてると見えるわい』 五三公は昨夜の夢を見たと見え、いやらしい声を出して、 五三公『キヤア、幽霊だア、鬼娘だア、オイ万公、ウニヤウニヤウニヤ』 万公『アヽア、又ビツクリさしよつたナ、此奴ア一つ揺り起してやろ、襲はれてけつかるのだろ。オイオイ五三公、起きたり起きたり、万公さまだぞ、大変魘されてるぢやないか』 五三公『あ……、恐ろしことだつた。よう起してくれた。万公、お前又無事で居つたのか。マアそれで安心だ』 万公『無事で居つたかて、……妙な事を云ふぢやないか、俺の夢でも見たのかい』 五三公『ウーン、見た見た、貴様はなア、昨夜会うた楓さまの変装以上の……厭らしい怪物が現はれて、赤黒い痩た手を出して、貴様の素つ首をグツと握り、山奥へひつ攫へて行つた夢を見たのだ。其時にキヤアキヤアとお前の泣く声が何とも知れぬ厭らしかつたよ。まだ誰かキヤアキヤア言つてるぢやないか』 万公は身慄ひし乍ら、 万公『貴様は身魂が曇つて居るから、そンなケヽ怪体な、悪夢に魘はれるのだ。キヤツキヤツ云うてるのは猿の声だよ。オイちとしつかりせぬかい。エヽー、万公だつて気味が悪て、たまらぬぢやないか。せうもない夢を聞かされて……』 五三公は不安さうに、 五三公『先生は此処に居られるかなア』 万公『居られえでかい。現に此通り鼾がしてるぢやないか。余り暗くつてお姿はハツキリせぬが、大抵鼾で分つてるわ』 五三公『さうだらうかなア。俺の夢には、貴様が化物に引掴まれ、キヤアキヤア言つて逃げた時、治国別の先生と松彦さまとが、後追つかけて行つて了はれた夢を見たのだ』 万公『そら夢だ。現に此処に鼾をかいて居られるのだからマア安心せい。時に竜公を一つ揺り起してくれぬか、貴様と二人で面白うない話をしてゐると、だんだん体が縮まるやうになつて来るワ、何とマア陰気な夜さぢやな』 五三公『それ程淋しければ、俺に喰ひついて居れ。言うても五三公さまは肝つ玉が太いからなア』 万公『さうだらう、夢見てもビツクリするやうな男だからな、ヘン』 二三間傍に何かヒソヒソと人声が聞えて来る。万公、五三公は俄に口をつめ、抱ついた儘、耳を傾け出した。 アク『オイ、テク、昨夜は随分驚いたねえ、今晩もこンな所で休むのはいいが、又ホツホヽなンて仰有ると、モウ此上はアクさまも居たたまらないから、小声で大自在天様を拝まうぢやないか』 テク『コリヤ、アク、貴様も悪人に似合はぬ気の弱い奴だなア。人に相談しなくつても、自分の口で神様に願つたら何うだい』 アク『俺だつて余りビツクリしたので、神さままでが怖うなつて、連がなくては拝めぬぢやないか。どうだ、三人声を揃へて御祈願せうぢやないか。又ホツホヽヽがやつて来さうだぞ。どうも陰欝になつて来た。僅か二十里の道を猫の様に、草原計りやつて来たのだから、枯芒で手も足も顔も疵だらけだ。何だかピリピリと体中が痛くて仕方がないワ』 テク『さうだから、当り前の道を俺の名のやうにテクらうといふのに、貴様が臆病風に誘はれて、道もない所を四這になつて歩きよるものだから……自業自得だよ』 アク『それだと云つて、うつかり立つて歩かうものなら、俺達の体が見えるぢやないか。もしも三五教の宣伝使にでも見つけられてみよ。それこそ大変だ。アクさまの提案を遵奉したお蔭に依つて、やうやう、此処まで安着したではないか。オイ、タク、何だ、糞落着きに落つきよつて、チと何か話でもせぬかい、淋しうて仕方がないワ』 タク『おりやモウ腰が痛タクて、話どころかい。気息奄々だ。随分四足の真似も苦しいものだなア』 アク『貴様はコンパスが長くて、手の方が比較的短いから、四足になるのもえらかろ、ソリヤ尤もだ。併し足の長いのは手の長いのよりもマシだ。手が長いと交番所の前が通れぬからのオ』 テク『何だか知らぬが、俄に此森へテクリ込んでから淋しくなつたぢやないか。そこらあたりに死屍累々と横たはつてるやうな怪体な気分がするぢやないか』 タク『ヒヨツとしたら、ここは墓場ぢやあるまいかな。鼾が聞えるやうだ、幽霊がタク山に寝てけつかるのだなからうかな』 テク『馬鹿言へ。幽霊が鼾をかくかい。大方狸が寝てゐるのだらう。確に野中の森だ、墓場の気遣ひないワ、マア安心せい、テクが保証するよ』 タク『何だかお粥でもタク否ナ、炊いてるやうな音がするぞ』 アク『オイ、そんな怪体な話はやめて、トツクリと寝やうぢやないか。寝さへすれば怖い事も何にも忘れて了ふからな。疑心暗鬼を生ずとか云つて、此暗の晩にそンな事計り云うてると、又それ、アク魔がホツホヽヽぢや』 万公、五三公は二三間側で、三人の話を聞き終り、万公は声低くに、 万公『オイ五三公、此奴アバラモン教の臆病者だで。昨夜晴公や楓さまに脂をとられた奴と見えるワイ。オイ一つ俺が晴公になるから、五三公お前楓になつたらどうだ、お前の声は女に似てゐるからなア』 五三公『ウン、そら面白い。そンなら俺から一つ戦闘を開始しようかな。貴様と俺とは余程臆病者だと思つてゐたら、モウ一段と臆病者が現はれよつた。上には上のあるものだのオ』 と小声に囁いてゐる。三人はそンな事とは知らず、暗がりに手を繋ぎ合せ、慄ひ慄ひ小声で囁いてゐる。 アク『オイどうも形勢不穏だぞ。キヤツキヤツと吐す猿の声が、何とはなしにアク魔否ナ幽さまの声のやうに聞えて来るぢやないか。こンな時には腹帯をしつかり締て居らぬと、ヒユードロドロドロとやられちや、おたまり小坊子がないからなア』 五三公は暗がり乍らも、両手を前にニユツと伸ばし、手首をペロツと下げ、少し立膝をして、蟷螂の様に体を前へつき出し、 五三公『ヒユードロドロドロドロ、ホツホヽヽ』 アク『ソーレアク、幽だ、逃げろ逃げろ』 テク『逃げろと云つたつて、テクろと云つたつて駄目だよ、又脱けた』 タク『あゝあ、俺もぬけた。アク、俺達二人をかたげてのいてくれ、タヽタクが頼む』 アク『俺もチヨボチヨボだ、アクものは口斗りだ』 五三公『ホツホヽヽ、アツハヽヽ』 アク『ヤア昨夜の化州だ、執念深い、どこ迄もついて来よるのだな。オイ、タク、テク、かう幽霊に魅入られては仕方がない、アク胴を据ゑようぢやないか』 斯く話す内十九日の夜の月は東天をこがして一層鮮かな光を地上に投げた。丁度此処は木の疎な所で、東がすいてゐるので、一同の顔はパツと明かになつた。 万公『アハヽヽヽ、これで天地開明の気分になつて来た、ヤツパリ月の大神様のお蔭は有難いものだな。肚の底まで光つたやうな気がする。モウ大丈夫だ。オイ竜、起きぬかい、万公さまだよ』 「ウン」と云つて起きて来たのは松彦である。 松彦『ヤア良い月だな。治国別様竜公の姿が見えぬぢやないか、何処へ行かれたのだろ』[※治国別と竜公はこっそり浮木の森へ向かった。第47巻第1章を見よ] 万公『ヤア、マンマンマンマン大変だ。知らぬ間に何者か先生を拐はかしよつたなア』 五三公『ナアニ芋でもイソイソ埋けに行かれたのだよ。何俺達を捨てて勝手に往くなンて、そンな不親切な事をなさるものかい。なア松彦さま』 松彦『ソリヤ何とも分らぬなア。何程兄弟だつて、心の中迄分らぬからなア、松彦には』 五三公『ヘーン、もしもそンな事だつたら大変ですがな、あイソを尽されたのか』 松彦『師匠を杖につくな、人を頼りにすなと神様は仰有るぢやないか、一丈二尺の褌をかいた男がそンな弱音を吹くものぢやない、之から各自単独で、ランチ将軍の陣営へ突撃せよと命ぜられたら何うするか。それでも行かねばなるまい。お前達は生の執着が強いから恐怖心が起るのだ。捨身になれば何も恐ろしい事はないぢやないか。最前から随分臆病風に吹かれて居たなア、松彦が聞いて居れば何だホツホヽヽなンてせうもない余興をやるぢやないか』 万公『何程恐怖心にかられたといつても、流石に万公さまは三五教の信者ですわい。余裕綽々として滑稽を演ずるのですからなア。あれ御覧なさい、あこに三匹の四足がへたつて居りますわ』 松彦『ウン、あれはバラモン軍の斥候を勤めてるアク、タク、テクの三人だ、楓さまに脂を取られた連中だらう』 万公『松彦さま、貴方は鼾をかき乍ら聞いてゐたのですかい』 松彦『ウン、鼾は鼾、聞くのは聞くのだ、鼻は休ンで居つても、耳は起きてゐるからなア』 アクは手を合せ、 アク『モシモシ、三五教の先生、私はお察しの通り、アク、タク、テクの三人で厶います。決して貴方方に仇をするものでは厶いませぬから、どうぞ宜しく頼みます……とは申しませぬが、いぢめぬやうにして下さい、構うてさへ貰はねば、何うなつと処置をつけますから、本当に貴方の家来には意地の悪い方がありますなア。吾々三人の腰を抜いて了つたのですから本当に困りますワ』 松彦『それは気の毒だ。併し乍ら二十里の道を四這になつて来るのは、随分苦しかつたでせうなア、松彦は感心したよ』 アク『何もかも皆御存じですな。其通り暫く四足の修行をアク迄やつてみましたが、随分苦しいもので厶いますよ』 松彦『コンパスの長い手の短いタクさまは余程お困りだつたさうですねえ』 タク『手の短いのは正直者の証拠ですから、どうぞ大目に見て下さいナ、松彦さまとやら』 松彦『アハヽヽヽ、マア此方へお出なさい、ゆつくり話を交換しませう』 アク『オイ、タク、テク三五教の大将は余程開けてるぢやないかエヽー、バラモン教の司だつたら、随分威張る所だがなア。ヤツパリ平民主義と見えるワイ、俺や平民主義が大好きだ……三五教の先生、そンなら一切の障壁を除いて御昵懇に預かりませう』 松彦は、 松彦『ハア、お互に御心安う頼みますよ』 と軽くうなづく。 万公『モシモシ先生、あンな事を言つて、様子を考へてゐるのですよ、万公は気懸りですワ。モ一つホヽヽヽヽでおどかして逃がしてやりませう』 アク『ホツホヽヽ、モシモシ万公さま、正体が現はれた以上は、ホヽヽもアハヽヽヽも笑ひの種にこそなれチヨツとも恐ろしくありませぬよ。アク迄も得意のホヽヽヽヽをやつて御覧なさい』 万公『オイ、五三公、最う駄目だ、仕方が無いなア』 五三公『松彦さまがあゝ仰有るのだもの、俺達は泣き寝入かな。無条件降服だ……否無条件還附だ。之から臥薪嘗胆、十年の苦をなめて、捲土重来復讐戦をやるのだなア、アツハヽヽヽ』 と始めて愉快げに五三公は笑ひ出した。此笑ひ声は四辺の陰鬱を破つて一同は俄に陽気となり、敵も味方も声を揃へて、「ワハヽヽヽ」と高笑ひする、今迄吾物顔に梢に飛び交ひ、キヤツキヤツ囁つてゐた猿は一度に声を潜めて了つた。 (大正一一・一二・九旧一〇・二一松村真澄録) (昭和九・一二・二九於湯ケ島王仁校正)
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霊界物語 44_未_玉国別と治国別2 21 小北山 第二一章小北山〔一一九〇〕 松彦一行は暫く休憩の後、一町計り峻坂を登り、細い階段を二百計り刻み乍ら漸く小北山神館の門口に着きける。そこには白髪の老人が机を前に据ゑ、白衣に白袴で置物の様にキチンと坐つてゐる。奥の方にはザワザワと祈念の声が聞えて居る。松彦は、 松彦『お爺イさま、私は旅の者ですが、結構な神様がお祀りになつてあると承はり参拝をさして頂きました、ここの教は何と申しますか』 老人(文助)『お前さまはどこの方か知らぬが、ようマア、御参詣になりました。私は目が見えぬので、かうして受付けをやつてゐるのだが、それでも有難いもので、人の声を聞けば、男か女か年寄か若い者か心のよい人か悪い人か、よく分るのだから有難いものだ。そしてチヨコチヨコ人に頼まれて、此通り絵を書いてるのだ』 松彦『何と妙ですなア、一寸見せて御覧』 老人『ハイハイ見て下さい、これでも信者の人が喜ンで額にしたり、掛地にしたりするのだから……』 松彦『なる程、目の見えぬ人の書いた絵にしては感心なものだ。ヤア松に竜神さまが巻きついたり、蕪に大根、円山応挙でも跣で逃げ相だ。オイ万公さま、お前蕪に大根は好物だないか、一つ頂いたら何うだ』 万公『松彦さま、あなたも余程身魂が悪いと見えて、此絵を御覧なさい、お前さまの名の松に一本の角の生えた黒蛇が巻いてるぢやありませぬか』 老人『何処の方か知らぬが、これは竜宮の乙姫さまの御神体だ。黒蛇なぞと勿体ない事をいひなさるな』 万公『それでも大きな口があつて黒い縄が引ついとるぢやないか。それで私は黒い口縄だといつたのだ』 老人『アハヽヽヽ、お前さまは絵を見る目が無いから困つたものだナア』 万公『此方に目の無いのは当然だ。目の無いお爺イさまの書いたのだもの、こら大方冥土の竜神さまかも知れぬぞ』 老人『お前さまは此お館へ冷かしに来たのだな、そンな人は帰ンで下さい、アタ万の悪い』 松彦『お爺イさま、此奴ア、チと気が触れてますから、何卒了見してやつて下さい。実の所は此気違ひを直して頂かうと思つて連れて来ましたのぢや、田圃の中へ這入つて、大根や蕪の生を噛つたり、薩摩芋を土のついたなり、ほほばるのですから、困つた癲狂院代物ですわい。何とか直して頂く工夫はありますまいかな』 老人『成る程さう聞けばチツと此方は気が触れてると見えますわい、どうも私の霊に其様に始めから感じました。気の毒で厶いますなア。この気違ひは容易に直りますまいから、暫く気の鎮まる迄、石の牢がして厶いますから、お預かり申して三週間計り暗い所へ突つ込ンでおきませうよ』 万公『イヤもうお爺イさま結構です。貴方のお顔を拝ンでから、次第々々に気分がよくなり何うやらモウ正気になりました。モウ結構で厶います』 老人『それでも再発したりすると困るから、二三日入れて見ませうかな。松彦さまとやらお考へは何うですか』 万公は松彦の袖を頻りに引ぱつてゐる。 松彦『ヤア之位なら大した事はありますまい。マア暫く容子を見た上でお願する事に致しませう』 老人『そンなら貴方の御意見に任しませう。何時でも御預かり致しますから』 松彦『ハイ有難う厶います。何卒宜しう頼みます』 五三公は小声で万公の袖をチヨイチヨイと引ぱり、 五三公『オーイ松に黒蛇、大根に蕪計り書いてるぢやないか、丸で二十世紀の三五教の五六七殿に居る四方文蔵さまの様なお爺イさまだねえ』 万公『ウフヽヽオイあこに髭の生えた人が居るぢやないか。あの人こそ本当の神さまみた様だなア。あの先生に拝ンで貰うたら、有難いに違ひないぞ』 五三公『ナアにあれは謡の先生だ。大分に酒が好きだと見えて、あの顔の色みい、ホテつてるぢやないか』 万公『コリヤ大きな声で言ふな。聞えるぞ』 松彦は、 松彦『此教会の縁起が聞たいものですなア』 と云へば、老爺は心よく、 老人『ハイ此小北山のお広間は元はフサの国の北山村にあつたのだ。高姫黒姫といふ立派な宣伝使があり、高姫さまが教祖で、黒姫さまが副教祖であつた。たうとうあの人も惜い事になつたものだ。アブナイ教とかへ首を突込ンで了ひ、今はどうならしやつたか、便りもなし、実にアブナイ事をしたものだ。そこで総務をして厶つた蠑螈別さまが魔我彦といふ弟子を連れてここへお出になり、小北山の神殿というて、高姫の遺鉢を受け、ここで教を開かれたのだ。随分沢山の神様が集まつて厶る地の高天原ぢやぞえ。お前さまも神様の因縁があればこそ引寄せられなさつたのだよ』 松彦は、 松彦『有難う厶います。其蠑螈別さまはゐられますかなア』 老人『ハイ大奥にゐられますが、余りいろいろの神様が御出入り遊ばすので、お忙しうてお酒の接待計りしてゐられます』 松彦『蠑螈別様の一つの体にさう大勢お集まりになるのですかなア。ソリヤ大抵ぢやありませぬなア』 老人『今はかむづまり彦命と仰有いましてな、ウラナイ教の教祖で厶いますぞ。それだから随分沢山の神様が御出入り遊ばし、お神酒をあがるので、朝から晩まで本性はチツとも厶いませぬ、本当に妙ですワ。今仰有つた事と、少し後で仰有つた事とは、クレリツと違ふのですから、そこが所謂八百万の神様のお集まりなさる証拠です。何と偉いお方もあつたものですワイ』 松彦『さうするとお憑りになる神様は何と申しますかな』 老人『余り沢山で早速には数へる事も出来ませぬが、何を言つても、八百万の神さまですからな。先づ第一神集ひ彦の神、神議姫命様、葦原の瑞穂彦命様、八洲国平姫命様、言依さしまつりの命様、荒ぶる神様、言問し姫命様、神払彦命様、岩根木根立彦命様、片葉言止め姫命様、天の岩座放ちの命様、天の八重雲姫命様、厳の千別彦命様、四方の国中彦命様、下つ岩根彦命様、宮柱太しき立ての命様、天の御影彦、日のみかげ姫、益人姫、過ち犯し彦、くさぐさの罪の姫、畔放ち彦、みぞうめ姫、ひ放ちしきまき姫、串さし様……といふ様な立派な神様が沢山に祀つて厶います』 万公はあきれ顔で、 万公『丸で三五教の祝詞そつくりぢやないか。妙な名のついた神さまもあつたものぢやなア』 爺イは真面目な顔して、 老人『神様は其お働きに依つてお名が現はれて居るのだから、お名さへ聞けば何を御守護下さるといふ事がよく分るやうに、蠑螈別の教祖がおつけ遊ばしたのだ。元より神様に御名はない、人間が皆お名を差上げて称へまつるのだからなア』 松彦『成る程、如何にも御尤も。流石は蠑螈別の教祖様ですなア、お爺さま、一つ松彦に神様の因縁を聞かして下さいな、今仰有つた神様はどこに祀られて厶いますか』 老人『其神様は神言殿といふ御殿を立てて祀らねばならぬのだが、まだ準備中だ。かうして山のどてつ辺まで沢山の宮が建つてゐるが、一番下の大きな御殿が大門神社と云つて、世界根本の生えぬきの神様が祀つてあるのだ』 松彦『そして其神様の名は御存じですか』 老人『アハヽヽヽ、肝腎の御仕へしてる神様の名が分らいで何うなりますか、お前さまも余程分らずやだなア』 松彦『分らないからお尋ねしとるのぢやありませぬか』 老人『一番此世の御先祖さまが、国治立命様、それから左のお脇立がゆらり彦命、右のお脇立が、上義姫命様だ。そしてゆらり彦命様の又の御名末代日の王天の大神様と申しますのだ。それから日照す大神さまといふのが祀つてある、其神様の御分霊が羊姫様、羊姫の妹様が常世姫命様だよ。そして稚姫君命様は艮の金神様坤の金神様の御娘子だ』 松彦『一寸待つて下さい。ソリヤ少し配列が違はしませぬか』 老人『お黙りなさい。神様の戸籍調べをしてゐるのに、勿体ない何をグヅグヅ云ひなさる。気にいらな聞いて下さるな。モウいひませぬぞや』 松彦『イヤこれはこれは不調法申しました。どうぞ御教訓を願ひます』 老人『それなら聞かして上げやう。確り聞きなされ。此大門神社にはそれ丈の神様と、まだ外に沢山の神様がお祀りしてあるのだ。稚姫君命様が天地から御預かり遊ばした八人の結構な神様がある。第一に義理天上日出神様、第二に青森白木上の命様、次に天地尋常様、これ丈が男の神様、次に常世姫様、次が金竜姫様、次が大足姫様、次が琴上姫様、其次が金山姫様此三男五女が変性男子の系統で厶いますぞや。それから又常世姫様が天地の神様から始めてお預かりになり育て上げられた神様が八柱、これは五男三女だ、第一に地上大臣様、次がたがやし大臣様、次が地上丸様、次がきつく姫様、次が旭子姫様、次が花依姫様、此神様の霊が猿彦姫と変化、又変化遊ばしてみのり姫とやがてお成り遊ばすさうだ。それから早里姫、地上姫、以上十六柱が魂の根本の元の誠の生粋の大和魂の因縁の神様で厶います。これを合して四々十六の菊の神様と申します。それから又、義理天上さまが預つて育てた神様が七人厶る。第一に天照彦、天若彦、次が八王大神、大野大臣、それから道城よしのり、大広木正宗、柔道行成、都合二十三柱の神様が天地根本、生粋の霊の元の神様だ。これ位結構な神様の教を聞き乍ら、第一の教祖の高姫さまはアブナイ教へ沈没して了つたのだから惜いものですわい』 万公『もし松彦さま、サツパリ支離滅裂ぢやありませぬか。親かと思へば子になつたり、子かと思へば親になつたり、なンと訳の分らぬ神さまですな。マンマンマンマー』 老人『コレ、支離滅裂とは何を云ふのだ。ヤツパリお前は気違ひだな、黙つて聞かつしやらぬかいな』 万公『ハイ万々聞かして貰ひませぬワイ』 松彦『此奴あキ印ですから、どうぞ気にさえずに居つて下さい。松彦はお詫します』 老人『ヨシヨシ、今言うた二十三柱の神様が天地をお造り遊ばし、人間の姿を現はして、現界の政治を遊ばしたが大将軍様、常世姫様の夫婦で厶います。それが又、大将軍御夫婦が余り我が強いので、折角の神政が破れ、御退隠なされ、第二の政治をなされたのが、地上大臣様、耕し大臣様、そこへ地上丸様が御手伝遊ばして、三人世の元結構な世が開きかけてをつたが、又もや慢心が出て現界の政治が潰れ、止むを得ず又大将軍様が変化てサダ彦王となり、常世姫様が変化てサダ子姫となり、きつく姫、旭子姫、花依姫といふ三人の子をお生み遊ばしたが、又其政治が潰れ高天原は大騒動が始まりました。それから今度は四代目の天下の政治を遊ばしたのが、八王大神様と王竜姫様、王竜姫は後に大鶴姫とおなり遊ばした。又其政治がつぶれ、五代目の政治をなさつたのが大野大臣様、大野姫のお二方、此時は非常に盛であつて、世界中が一つに治まり、後にも先にもないやうな世の中の政治が行はれた。そして青森行成さまや、義理天上さま、天地尋常さまがお手伝ひをなさつたので、非常な勢になつて来た。そした所が余り世が上りつめて又大野大臣さまの政治がメチヤメチヤに破れ、第六番目には道場美成様と事足姫の御夫婦が御政治を遊ばし、大広木正宗、柔道行成といふ二人のお子さまが出来、いよいよ神政成就が成上がつたと思へば少しの間に又もや、慢心を遊ばし、八岐大蛇や金毛九尾曲鬼の悪霊に蹂躙されて、世の中がサーパリわやになつて了ひ、そこへ変性女子の素盞嗚尊が現はれて、悪の鏡を出したものだから、今日のやうな強い者勝の世界が出来たのだ。此ウラナイ教は御覧の通り天下太平上下一致だが三五教にバラモン教、ウラル教などは戦ばかりしてゐるぢやないか。神様が喧嘩なさるといふ事はある可からざる事だ、お前さまもそンな喧嘩好の神様を信仰せずにウラナイ教の神様を信仰をなされ、昔の昔のさる昔の因縁から、根本の根本から、大先祖の因縁、霊魂の性来、手に取る如くに分りますぞや。あゝ惟神霊幸倍坐世』 万公『アハヽヽヽ万公は満口が閉さがらぬワ、イヒヽヽヽ』 松彦『又気が違ひ出した、困つた奴だなア、ウツフヽヽ、松彦も困りますよ』 老人『これで此大門神社の神様の因縁はあらまし分つたでせう』 松彦『ハイ、よく分りました。有難う厶いました。貴方は随分詳しいお爺さまだが、お名は何と申しますかな』 老人『私はおちたきつ彦と申しますよ』 松彦『ヘー、長いお名ですな』 老人『蠑螈別様に頂いた神名だから、長くても仕方がありませぬ。名が長い者は長生をするとかいひますから、モ少し長くてもいいのですが、まだ修行が足らぬので、ここらで止められて居るので厶います。私の修行が積みた上は、おちたきつ速川の瀬にます彦命といふ名をやらうと仰有いました』 一同『ウツフヽヽ、エツヘヽヽ』 と一同は笑ふ。 老人『サア是から、種物神社へ案内致しませう』 松彦『老爺さま、目のお悪いのにすみませぬなア』 老人『目が悪いと云つても、神様の御用ならば何でも出来るのだ。サアついて来なさい。きつい山だぞえ、辷りこけて向脛を打つたり、腰をぬかさぬやうになさいませや』 と云ひ乍ら、種物神社の前へエチエチと登りつめた。 松彦『ここには石造りの宮と木造の拝殿が建つて居りますなア。何とマア偉い断岩絶壁を開いて建てられたものですなア』 老人『ハイ之は大将軍様の生宮と地上丸さまの生宮が鶴嘴の先が擂粉木になる所迄岩をこついてお造り遊ばしたのだ。何と感心なもので厶いませうがなア。此神様に地の世界の大神様と日の丸姫の大神様が祀つてある。そして右の方に義理天上さまと玉乗姫様と祀る事になつて居ります。左の方には大将軍様と常世姫様のお宮が建つのです。これは世界の万物の種物をお始め遊ばした結構な結構な根本の神様ですから、よく拝みておきなさい。お前さまも若いからどうせ種まきをせにやならぬのだろ。神の生宮をポイポイと拵へるのが神の役目だから、今こそ男と女が暗がりで、かが安う生宮を拵へるやうになつたが、昔は人間一人仲々並や大抵で作れたものでありませぬぞや。其お徳にあやかる為に種物神社に祭つてあるのだ』 松彦『ハイ有難う』 と松彦はうつむく。 老人『サア之から、おちたきつ彦がモ一つの上のお宮様を御案内致しませう』 万公は、 万公『モシモシお爺イさま、そンなきつい岩石を目の悪いのに登つて、何卒谷底へ落ちたきつ彦にならぬ様に願ひますで。サア五三公、アク、タク、テク、お爺イさまのお伴だ。何とマアきつい坂だなア』 老人『あゝあ、人に改心さそうと思へば仲々の苦労だ。ソレ御覧なさい、ここに木造りの宮が三社建つてをるだろ。中央が生場神社の大神様、岩照姫の大神様、此御夫婦が祀つてある。右のお社はりんとう美天大臣様、木曽義姫の大神様の御夫婦が祀つてあるのだ。そして左の方の宮には五六七上十の大神様、旭の豊栄昇りの大神様御夫婦が祀つてあるのだ。モ一つ上に三社あるけれど、これから上は道がないから、ここからお話しておかう。石の宮が三社あつて、正中が月の大神様、日の大神様御夫婦が祀つてある。右の石の宮は末代日の王天の大神様上義姫大神様御夫婦がお祀りになつてゐる。左の方が日照らす大神様、大照皇大神宮様御夫婦が御祀りだ。何と結構な地の高天原が開けたものでせうがな』 松彦『モウ此外に神様の祀つてある所はありませぬかナ』 老人『まだない事はないが、さう一遍にお話しすると、話の種が切れるから、又今度にのけておきませうかい。お前さまも一遍に食滞しては困るからなア』 万公『アツハヽヽヽお爺イさま、御苦労でした。実の所は私は三五教の宣伝使、治国別命の片腕の万公さまだ。気違でも何でもないのだから、さう思うて下さい。随分怪体な神さまばかり、能う拝まして下さつた。これも話の種になりますわい。『霊界物語』にのせたら、キツと大喝采を得ませう。お前さまの方では種物神社だが、此万公さまは種取り神社だ。義理かき天上の神様となつて、これからウラナイ教を一生懸命に信神しませぬワ。オツホヽヽ』 老人『この年寄を此処迄連れて来て、何と云ふ愛想づかしを云ふのだい。それだから三五教は悪の教といふのだよ。大方お前も変性女子の廻し者だろ、油断のならぬ代物だなア』 松彦『此奴ア、お爺イさま気が違うてるのですから、どうぞ気に触へて下さいますな』 老人『あゝさうださうだ、気の触れた方だつたなア。何ぼ気違でも余りな事云ふと気の宜うないものだ。併し気違ひとあれば咎める訳にもゆかぬ、見直し聞直しておかう』 松彦『ハイ有難う厶いました。お年寄に高い所迄御苦労になりまして申訳が厶いませぬ』 老人『お前さま達、下の大広間で今晩はお泊りなされ、女ばかり百人あまりも鮨詰になつて寝て居ります』 五三公はにやりとしながら、 五三公『オイ、アク、タク、テク、泊めて貰はうかなア』 アク『なンだ、女ばかり鮨詰になつてると、爺さまが言つたら、顔の紐迄解きよつて、アタ見つともない、女の側は険呑だ。サア松彦さま、遅れちやなりませぬ、折角のお爺さまの御親切だが、今日はマア御免被つて、又改めてお世話になりませうか』 松彦『あゝそれがよからう、お爺イさま、どうぞ蠑螈別さまに宜しう言つて下さい。今日は急ぎますから、これで御免を蒙ります』 老人『万さまとやらを気を付けて上げて下さいや、危ない一本橋がありますから、川の中へでも、気の触れた人は飛込むかも知れませぬからな』 松彦『ハイ御親切に有難う厶います。サア一同の者、お暇乞ひして急がう。発車時間に遅れちや今夜中に万寿山へ帰れぬからなア。お爺さま左様なら』 万公『おちたきつ速川の瀬にます彦の神さま、万々々公有難う厶いました』 老人『アハヽヽヽ、気を付けてお帰りなさい、万公さまとやら』 (大正一一・一二・九旧一〇・二一松村真澄録) (昭和九・一二・二九於湯ケ嶋王仁校正)
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霊界物語 45_申_小北山の宗教改革1 02 神木 第二章神木〔一一九二〕 お寅婆アさまは松彦に向ひ河鹿川の川岸に枝振りのよい老松が蜒々として枝を四方に広げ川の上にヌツと突き出て居るのを指し、 お寅『もし、末代日の王天の大神の生宮様、あの松を御覧なさいませ。立派なものぢや厶りませぬか』 松彦『成る程、川の景色と云ひ、あの枝振りと云ひ青々とした艶と云ひ、実に云ひ分のない眺めですな。随分鶴が巣籠りをするでせうな』 お寅『ハイハイ、鶴どころか、あの松には日の大神様、月の大神様を初め八百万の大神様がお休み遊ばす世界一の生松で厶ります。末代日の王天の大神様の、あれが御神体で厶ります』 松彦『さうすると、あの松は私の御霊の変化ではあるまいかな』 お寅『滅相な、変化どころか、あれが貴方の本守護神ですよ。時節と云ふものは恐いものですな。たうとう生神様の貴方様がお越しなさる様になつたのだから、ウラナイ教は朝日の豊栄昇り彦命になります。蠑螈別の教祖が仰有つた事は一分一厘違ひませぬがな』 万公『アハヽヽヽ松彦さま、貴方は不自由な体ですな、いつもあの川辺に水鏡ばつかり見て鳶鷹鷲等に頭から糞を引つかけられ泰然自若として川端柳を気取つて厶るのですな。道理で足が重いと思うて居た。本守護神があの松の大木だと分つての上は、松彦さまの無精なのも、あながち責る訳にも行きますまい。エヘヽヽヽ』 お寅『これこれブラリ彦、又口八釜しい。左兵衛治をするものぢやない』 万公『これ婆さま、わしは左兵衛治なんて、そんな老爺めいた名ぢやありませぬぞ。万古末代生通しと云ふ生々した万公さまだ。余り見損ひをして貰ひますまいかい』 お寅『オホヽヽヽ何と頭の悪い男だな。左兵衛治と云つたら差出物と云ふ事だ。何でもかンでもよく差出て邪魔ばつかり致すから、左兵衛治と云つたのだよ。大松のお前が差出る処ぢやない、芋掘奴めが』 万公『俺や、あんな大松とはチツと違ふのだ。なんぼ大松だつて松の寿命は千年だ。此方は万年の寿命を保つ万公さまだ。あんまり安う買うて貰ひますまいかい』 お寅『エーエ、何から何まで教育してやらねば訳の分らぬ困つた男だな。大松と云ふ事は大喰人足と云ふ事の代名詞だ。野良へやれば蕪をぬいて食ふ、大根をかじる、人参を喰ふ、薩摩芋から南瓜の生まで、噛じる喰ひぬけだから、それで大松と云ふのだ』 万公『大喰ひするものを大松と云ふのは可笑しいぢやないか。其言葉の起源を説明して貰ひたいものだな』 お寅『エーエ、合点の悪い代物だ、ライオン川の杭は、みんな長い大きな奴が要るので、それで大杭の長杭と云ふのだ。その大杭の長杭は大松ぢやなければ出来ぬのだから大松と云つたのだよ』 万公は妙な手付をして、 万公『あゝさうでおまつか、ヘーン、松彦さまもさうすると松に因縁があるから大松でせうね』 お寅『お前の松は杭になつた松だ。此お方の松は、あの通り生々した生命のある松だよ。万古末代生通しの松と、幹を切られ枝を払はれ、年が年中頭を削られて逆トンボリにされ尻を叩かれて、突つ込まれて居る大松とは、松が違ふのだ。善悪混淆して貰うては大変困りますわい。然し松彦さま、あの松の木の根元に結構な御守護がしてあるのだから大門神社に行く迄に一寸そこの神様に参拝して貰ひたいのです』 松彦『あの松の根元に神様が祀つてあるのですかな』 お寅『ハイハイ、あそこが肝腎な御仕組場だ。あの因縁が分らねば小北山の因縁が分りませぬ。是非共来て貰ひ度いものです』 万公『さうすると、まだ外に神さまが祀つてあるのか。一遍に見せると食滞すると受付の爺さまが云ふた神さまだな。一つ見るも二つ見るも同じ事だ。序に観覧して来ようかな。おい、五三公、アク、タク、テク、何うだ、貴様も一つ見物する気はないか』 一同『ウン、面白からうな。参考の為にお寅さまの、亡者案内で見物して来ようかい。お寅さま、亡者案内賃は安うして置いてくれや、見掛どりをやられると此頃吾々はチツとばかり手許不如意なのだから困りますぞえ』 お寅『観覧だの、見物だのと、何と云ふ勿体ない事を仰有るのだ。見に行くのだない、参拝に行くのだ。何故参拝さして頂きますと云はぬのだ』 万公『三杯どころか、もう之丈け沢山に誤託宣を聞かして頂いた上は腹一杯胸一杯だ、アハヽヽヽ』 お寅『サア、末代様、御案内致しませう。何卒此婆について来て下さいませ』 松彦はいやいや乍ら婆アの後に一行と共に枝振りのよい大松の麓まで進んで行つた。 見れば途方途徹もない大きな岩が玉垣を囲らし切口の石を畳んで置物の様にチヨンと高い処に立派に祀つてある。さうして傍に案内石が立ち蠑螈別の筆跡で、 「さかえの神政松の御神木」 と記してある。 五三『もしお婆さま、此大きな岩は一体何だい。さうして御神木と記してあるが、こりや木ぢやない、岩ぢやないか』 お寅『そんな事は気にかけいでも、理屈いはいでも、いいぢやないか。お前達が神木する様に「さかえの神政松の御神木」と書いてあるのだよ。ここは善と悪との境だから小北山の地の高天原へ悪神の這入つて来ぬ様に千引岩が斯うして置いてあるのだ。表向きは弥勒様の御神体だと云つて居るのだ。さうして十六柱の神様がお祀りしてある標だと云つて十六本の小松が此通り植ゑてあるのだ。然し乍ら之は表向き、実の処は素盞嗚尊の生魂をここへ封じ込んで動きのとれぬ様に周囲八方石畳を囲らし、上から千引の岩を載せて、万古末代上れぬ様に封じ込めておいたのだ。そのために瑞の魂の素盞嗚尊は八方塞がり同様で、二ツ進も三ツ進もならぬ様になり困つてゐやがるのだ。此石をここへ運ぶ時にも随分苦労をしたのだよ。第一蠑螈別さま、魔我彦さま、大将軍さま、此お寅等の奮励努力と云つたら大したものだつた。夜も昼も二十日ばかり寝ずに活動して到頭素盞嗚尊の悪神を封じ込めてやつたのだ。三五教の奴は何にも知らずに馬鹿だからヤツパリ素盞嗚尊が此世に現はれて居る様に思うてゐるのだよ。斯うしておけば三五教の信者を鼠が餅ひく様に皆小北山に引張込むと云ふ蠑螈別さまの御神策だ。何と偉いものだらうがな』 万公、五三公の両人はクワツと腹を立て両方から婆の手をグツとひん握り、 万公『こりや糞婆、もう量見ならねえ。此川へ水葬してやるから、さう思へ。怪しからぬ事を吐す』 五三『こりや、お寅、蛙は口から、吾と吾手に白状致した上からは、もはや量見ならぬぞ。サア覚悟せい。おい万公、其方の足をとれ、俺も此足を持つて川の深淵へ担いで行つて放り込んでやるのだ』 お寅『オホヽヽヽ、地から生えた木の様なものだ。此婆がお前達三人や五人に動かされる様なヘドロい婆か。竜宮の乙姫さまの御神力を頂いた上に艮金神様の分け魂のお憑り遊ばした丑の年生れの寅さまだ。丑寅婆アさまを何と心得てるのだ』 万公『おい、五三公、随分重い婆だな。本当にビクともしやがらぬわ』 アク『アハヽヽヽ、ビクともせぬ筈だよ。婆アさまは其処に居るぢやないか。お前達は、岩を一生懸命動かさうとしたつて動くものかい。それが婆アさまに見えたのか』 五三『いや、ほんにほんに岩だつたな。おけおけ馬鹿らしい。お寅婆は彼処にけつかるぢやないか』 お寅『オホヽヽヽ三五教の信者の眼力は偉いものだな。お寅さまとお岩さまと取違へするのだから』 万公『エー』 アク、タク、テク三人『アハヽヽヽ、又いかれやがつたな』 お寅『あまり疑うて居ると真逆の時に眩惑がくるぞよ、足許の深溜が目に見えぬ様になるぞよ。ウフヽヽヽ』 松彦『お婆さま、いや如何も感心致しました。これから一つ大門神社へ参りませう』 お寅『あ、お前さまは末代様だ。身霊が綺麗だと見える。あんなガラクタは後廻しで宜しい。お寅さまの後から跟いて来なさい。竜宮の乙姫さまが末代さまを御案内致しませう』 松彦『ありがたう。然し乍ら此連中を捨てて置く訳にも行かぬから連れて行かう』 お寅『それは貴方、末代さまの御都合にして下さい。サア斯うおいで成さいませや』 と頭をペコペコさせ頻りに媚を呈し乍ら、もと来し道に引返し急坂を一行の先に立つて上り行く。 急坂を二三丁ばかり登つた処にロハ台が並んでゐる。 万公『もし松彦さま、一寸ここで休息して行きませうか』 松彦『ウン、よからう』 と腰をかけ息を休める。お寅は怪嫌な顔をし乍ら後ふり返り、 お寅『逆理屈ばかり囀る万公が 坂の中央で屁古垂れにけり。 偉相に腮をたたいて居た万公 此弱り様は何の事だい。 鼈に蓼食はした様な息づかひ 万々々公も休むがよからう』 万公『迷信の淵に沈んだお寅さま 底知れぬ淵へバサンとはまつて。 之程にきつい坂をばスタスタと 登るは狐狸なるらむ。 登り坂上手な奴は馬兎 丑寅婆さまの十八番なるらむ』 お寅『糞垂れて婆さまの登る山道を 屁古垂れよつた万公の尻。 芋蕪大根人参あつたなら 万の野郎に喰はせ度きもの。 大根や蕪がきれて息つまり 何と茄子の溝漬け男』 万公『臭い奴吾一行の先に立つ 腋臭とべらの婆の尻糞』 お寅『こりや万公、臭い奴とは何を云ふ 貴様は臭い穴探しぞや。 彼岸過ぎになつても穴の無い蛇は そこら辺りをのたくり廻る。 穴ばかり探して歩く万公を 岩窟の穴へ入れてやり度い』 万公『何吐す丑寅婆の尻糞奴 尻が呆れて雪隠が踊る』 松彦『ロハ台に腰打ち掛て万公が 尻のつぼめの合はぬ事言ふ』 五三公『ロハ台に尻を下した万公さま 糞落ちつきのないも道理よ』 アク『アクアクと互に誹り妬み合ひ 無性矢鱈に口をアクかな』 タク『いろいろとタクみし証拠は千引岩 松の根元に沢山にある』 テク『山坂をテクる吾身は何となく 足腰だるくなりにけるかな。 面白もない婆さまに導かれ 登るも辛し針の山坂』 お寅『万公よアク、テク、タクの御一同 此坂道は神の坂だよ。 神になり鬼になるのも此坂を 越えぬ事には分るまいぞや』 アク『登りつめアクになつたら何とせう 丑寅婆さまに欺かれつつ』 お寅『疑を晴らして竜宮の乙姫が 後に来る身は大丈夫だよ』 松彦『サア一同、もう行つてもよからう。乙姫さま、宜しう頼みます』 お寅『ホヽヽヽヽ末代様、サア参りませう』 万公『ヘン、馬鹿にして居やがる。婆の乙姫さまも見初めだ。なア五三公』 五三『きまつた事だ。逆様の世の中だもの、乙姫さまだつて世界のために御心配遊ばして厶るのだもの、チツたあ年も寄らうかい。アハヽヽヽ』 一同『ウフヽヽヽ』 (大正一一・一二・一一旧一〇・二三北村隆光録)
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霊界物語 45_申_小北山の宗教改革1 13 五三の月 第一三章五三の月〔一二〇三〕 お寅はお菊の後について皺枯声を張り上げながら四辺の空気が濁るやうな音調で歌ひ出した。其声は楯に罅が入つたやうにビイビイと一同の耳に不快に伝はり鼓膜を刺戟する事最も甚だし。 お寅『朝な夕なに神様のみまへを謹み敬ひて 山と川との種々の珍らし物を奉り 蓄めて置いたる一万両金迄スツパリ放り出して 此よに沢山宮を立て末代日の王天の神 月の大神大将軍朝日の豊栄昇り姫 義理天上やきつく姫耕し大神地上姫 天若彦や定子姫黄竜姫や金竜姫 金山姫は云ふも更種物神社大御神 へぐれのへぐれのへぐれ武者へぐれ神社迄立て並べ これ程信神して居るに何と思うてか神様は あの悪者がやつて来て千両の金をぼつたくり 肩を怒らしスタスタと帰つて往くのを眺めつつ そしらぬ顔で厶るとは聞えませぬぞ神様よ 私は心で思ふには千両やるのは惜けれど 尊き神の神罰でこの坂道の中程で 罰が当つて金縛り二進も三進もならぬよに なつて熊公が心から前非をくいて改心し 千両どころか一文も入らないこれは神様に お返し申す其かはり私をたすけて下されと 吠面かはいて来るだらうと思うた事も当はずれ みすみす千両の金取つた男を無事にいなすとは ミロク成就の神さまも常世の姫も此頃は 盲聾になつたのか呆れて物が言へませぬ 思へば思へば力の無いガラクタ神だと思うたら 俄に腹が立つて来たこんな事なら平常から 色々ざつたと気をつけてお給仕するのぢや無かつたに 愛想が尽きたユラリ彦末代日の王天の神 上義の姫の松姫もサツパリ宛にはなりませぬ 尊き神と思うたら思ひも寄らぬ狼だ 狼住まう此山に熊公の野郎がやつて来て 四つ足同様な行ひを致してお寅を苦しめた 虎狼や熊のやつ三つ巴になり果てて 何ぢやかンぢやと争ひつ早暮れかかる冬の空 腹が立つのか寒いのか体がブルブル慄て来た 叶はぬから叶はぬから本当に誠に耐らない 力も徳もない神だこれこれ蠑螈別さまよ ものも言はない神さまを何程お給仕した所で カラキシ駄目ぢやありませぬか即座に云ふ事聞いて呉れる 金の神さま奪ひ取られどうして後にぬつけりと 平気な顔で居られよかお寅の腕には骨がある これから熊公の後追うて獅子奮迅の勢で 彼奴の胸倉グツと取り一たんとつた金の神 引き戻さいで置くものかまさかの時に助かろと 思ふが故に朝晩に神のお給仕して居るのだ 盲聾の神さまに何程頼んで見たとこで 聞いて呉れそな事はない何程偉い神ぢやとて ビタ一文も持つて居ぬ貧乏な神様計りだ 朝から晩迄俺達の汗や膏で拵へた お神酒を喰ひ飯を食ひ海河山野くさぐさの 百味の飲食居ながらに頂きながら一言も 何とも彼とも云はぬ奴拝んだところで何になる 吾はこれからスツパリとガラクタ神を思ひ切り 誠の誠の根本の神の教を探ね出し 人に勝れた神徳を貰うて見せにやおきませぬ 思へば思へば馬鹿らしい怪体の悪い事だつた 思へば思ふ程腹が立つ皆さま御苦労で厶いました 此神さまを拝もうと捨てよとほかそと御勝手だ 信仰自由と聞くからは決して邪魔はせぬけれど 肝腎要の此わしが愛想尽かしたよな神を 祭つた所で仕様がない屁のつつぱりにもなりはせぬ 屁なら音なとするけれどブツともスツとも云はぬ奴 今迄迷うて来たものと吾身がボツボツいやになり 馬鹿であつたと気がついて大地に穴を掘穿ち かくれて見たいよな気がしだすあゝ惟神々々 神も仏もあるものか神は吾等と倶にあり 人は神の子神の宮こんな明白な道理をば 悟つて居ながら何として高姫さまの私造した ガラクタ神に現をば抜かして居たのか口惜い サアサアこれから自暴自棄糞だ堤防を切らして酒をのみ 白浪女の意地を出しドンチヤン騒いでやりませう のめよ騒げよ一寸先や暗夜よ暗の後には月が出る 月の光は明かに吾身の上を照らします ここに祭つた神さまは照らす所か暗の夜は 灯明をつけたり蝋燭をつけてやらねば目が見えぬ 困つた盲の神ばかりアイタヽヽタツタアイタヽツタ 余り口が辷り過ぎ奥歯で舌を噛み切つた やつぱり性根のある神かそンならこれから拝みませう あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 五三公はそろそろ歌ひ出したり。 五三公『神が表に現はれて善と悪とを立て分ける 神の中にも善がありまた悪神のあるものぞ 善を表に標榜し此世を救ふ生神と 信仰計り強くして理解し得ざる信徒の 体を宿とし巣をくんだ狐狸や曲鬼が 尊き神の名をかたり世人を欺く事もある 小北の山に祭りたる此神様の素性をば 包まづ隠さず云うたなら生命も魂も捧げたる 信者の方は驚かう私はそれをば知つて居る そんな悪魔に欺されて現を抜かし根の国や 底の国やら畜生道落ち行く人の身の上を 見るにつけても可憐らしく忙しき身をも顧みず 貴重なタイムを空費して此処に滞在して居るも 汝等一同の身魂をば正しき神の大道に 救ひ助けむ其ためぞ思へよ思へよ顧みよ 此神名は高姫が脱線だらけの神憑り みたまが地獄に落ちた時天の八衢に彷徨へる 醜の魔神に取りつかれ肉の宮をば宿にされ 変性男子の系統だ日の出の神の生宮と 吾と吾手に盲信し教を立てて居りたのだ 肝腎要の高姫や黒姫司が自分から 愛想尽かして打ち捨たウラナイ教の神様に どうして誠があるものか茲の道理を考へて 社を残らず潔斎し払ひ清めて天地の 真の神を祭るべくさうでなければ蠑螈別 司の体は曲の巣となつて忽ち身を砕き 魂は曇りて地獄道根底の国へ落ち行かむ 魔我彦さまやお寅さま貴方も確りするがよい 名もなき神に名をつけて拝んだ所で何にする 狐狸の弄びになるより外に道はない 天地の神の御息より生れ出でたる生宮と 名乗りながらも曲神に霊を汚され朝夕に 濁つた言霊奏上し世を乱すとは何の事 これ五三公が天地の神に誓ひて赤心を 汝が命の御前に怯ず臆せず並べ立て 忠告致す次第なり果してこれの神様に 誠の霊があるならば今眼前五三公が 無礼の事を囀つた舌の根とめて命をば とつて呉れても恨みないこれが出来ねばこの神は 霊も力も無い曲津茲で眼を醒まさねば 真の神の御怒りにふれてその身は云ふも更 霊魂までもメチヤメチヤにこはされ無限の苦しみを 万古末代受けますぞ顧みたまへ蠑螈別 百の司の御前に神に誓ひて述べておく あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 (大正一一・一二・一二旧一〇・二四加藤明子録)
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霊界物語 46_酉_小北山の宗教改革2 11 変化神 第一一章変化神〔一二二一〕 万公『アク公さまが演台に登るや否や小北山 変化神社の種あかし怯めず臆せず滔々と 数多の信者の目の前で喋り立てたが仇となり 上を下へと大騒動乱痴気騒ぎが始まりて 五六七成就の生宮と自ら信じ人も亦 許して居たる竹公が獅子奮迅の勢で 攻めかけ来るをアク公が[※「攻めかけ来るをアク公が」の「を」は、初版には有るが、三版以降は無い。「を」が有った方が意味的には正しくなる。オニペディアの「第46巻の諸本相違点」を参照。]タクを犠牲に立てながら 敏くも其場を立ち出づる此時万公は只一人 ヘグレ神社を一々に調べて廻り頂上の 月の大神日の御神社の前に突つ立つて 蠑螈別が奴狐につままれよつてこんな神 勿体らしくも祀りこみ馬鹿を尽すも程がある 狐狸に騙されて出て来る信者の顔見れば 一人も碌な奴はない目玉の一つ無い奴や 聾に躄、肺病やみ横根、疳瘡、骨うづき 陰睾、田虫で苦しんだガラクタ人間蜘蛛の子が 孵化つたやうにウヨウヨと此世で役に立たぬ奴 固まり居るこそ可笑しけれそれ故こんなガラクタの お宮を立てて古狐八畳敷の古狸 厳めしさうな名をつけて末代日の王天の神 上義の姫や常世姫大将軍と斎ひこめ 祀つて居やがる馬鹿らしさ闇の世界と云ひながら これ程阿呆が世の中に沢山居るとは知らなんだ さアこれからはこれからは松彦さまや松姫が 被つて居つた猫の皮すつぱり脱いで曲神の 素性を露はし諸人の眼をさましやるならば 如何に驚く事だらうこの万公は精神が 確りして居る其お蔭狐狸の曲神に 騙されないのが不思議だよ世界の奴は尊きも 富めるも卑きも賤しきも欲に心を眩ませて 知らず知らずに迷ひ込み曲神どもの玩弄に されて居るのが気の毒ぢやこれを思へば一日も 早く三五教をして暗き此世の光とし 暗夜を照らして救はねば三千世界は忽ちに 荒野ケ原と変るだらうあゝ惟神々々 御霊幸倍坐しませよ』 かかる所へお菊はスタスタ登つて来た。 お菊『もし万公さま、私最前からどれだけ探したか知れないのよ。こんな寒い所に一人何してゐらしたの』 万公『お前には肱鉄をかまされ竹公さまには怒られ、身を置く所がないので、ユラリ彦さまのお宮の前まで避難のためにやつて来たのだ。お前は又、こんな強い山をどうして一人登つて来たのだ』 お菊『私だつて足がありますわ。況してスヰートハートした万公さまがゐらつしやるのだもの、思ひの外足が軽くて知らぬ間に此処に登つて来たのよ』 万公『馬鹿にするない、年端も行かないのに男に調戯ふと云ふ事があるものか。随分酷い目に会はしたねえ』 お菊『そりや極つた事ですわ。親の前や人さまの前で、何程好きだとて好きな顔が出来ますか、恥かしいから嫌ひだと云つたのよ』 万公『それでも昨夜大変俺に恥をかかしたぢやないか。あの時こそ誰も居なかつたのに、ありや余り念が入り過ぎるぢやないか』 お菊『何を言つてゐらつしやるの、あの時も暗がりに、アク、テク、タクさまが隠れて、私と貴方との立ち話を聞いて居たぢやありませぬか。それだから私あんな事を云つたのよ』 万公『成程さうだつたな、お前は随分細かいとこへ気がつくな』 お菊『そらさうですとも、前後に気をつけにや人に発見されては大変ですもの』 万公『発見されてもよいぢやないか、何れ夫婦になるのぢやもの』 お菊『それだつて、野合夫婦なんか云はれては末代の恥だわ』 万公『それなら、何故こんな処へ来たのだ。夜分なら兎も角も、誰が見とるか分らぬぢやないか』 お菊『夜分なら疑はれても仕方がないが、昼の最中だもの、誰が怪しみませう。却つて物事は秘密にすると人に感づかれるものですよ。此処なら何しとつたて大丈夫だわ』 万公『エヘヽヽヽ、オイお菊、お前は小さい時から可愛い奴だと思うて居たが、ほんとに可愛いものぢやな、それ程私を思うて呉れてるのか』 お菊『極つた事ですよ。あれ程目許で知らして居るのに、万さまは一寸も気がつかないのだもの、ポンポン怒つて居らつしやるのだから本当に焦つたかつたわ』 万公『なんと本当に分らぬものだな。恐れ入つたよ。そこまで念が入らなくては恋愛の趣味がない、併しお寅さまが承知せなかつたらどうする心算だ』 お菊『何れ容易に承知しては呉れますまいよ。それだから私も一つ考へがあるのよ。万さまはこんな所へ来て、神様の悪口ばかり云つて居ましたでせう』 万公『ウン、余り業腹だから、小口から狐の神に引導を渡してやつたのだ』 お菊『そんな悪戯せいでもよいに、狐が怒つて魅んだらどうします』 万公『ハヽヽヽヽ、そんな心配して呉れるな、狐に騙されるやうな精神ぢやない。狐の奴、俺の顔を見ると尾を巻いて忽ち十里位逃げ出すのだから大したものだよ』 お菊『時に万さま、喜んで下さい。二十七万両の金を手に入れました』 万公『そんな金を何うして手に入れたのだ』 お菊は耳に口をあて、 お菊『今蠑螈別が三十万両の金をもつて野中の森から帰つてきたのよ。そして三万両をお母アさまに与へ、二十七万両の金をグヅと懐に入れて酒を飲みだしたから、私が酒を飲まして酔ひ潰し、二十七万両の金を引つたくつて、そつと此処まで逃げて来たのよ』 万公『女に似合はぬ豪胆者だな、そんな金何にするのだ』 お菊『ホヽヽヽヽ、この金もつて山越しにお前と私と駆落をする積りで逃げて来たのよ。サア足のつかない間にこの山を南に渡つて月の国へ逃げようではありませぬか』 万公『ヤアまア待つて呉れ、私は神様の御命令で月の国へ往く者だが、今は治国別さまのお供してアーメニヤにゆくのだから、其間はお前と一緒に居る訳にはいかない』 お菊『これ万さま、好い加減に呆けて置きなさい。それならお前はこのお菊は本当に可愛いのぢやないのだな』 万公『可愛くなうてかい』 お菊『それなら私の云ふ事聞いて下さいな』 万公『ウン、聞くの段ぢやないが、御用の済むまで待つて呉れ』 お菊『エヽ好かぬたらしい、神様の御用なんかどうでもよいぢやないか。サアこれから私と行きませう、二十七万両の金さへあれば、どんな立派な家も建つし、そんな危ないバラモン教を征伐するため、宣伝使のお供して野宿したり、乞食のやうな真似するよりも、茲は一つ考へ所だ。サア往つて下さい、頼みぢやから』 万公『困つたなア、エヽ仕方がない、自暴だ、それならお前と手に手を取つて此山越しに行かう』 お菊『そりやまア有難う厶います、よう云つて下さいました。私もあんなやんちや親にひつついて居るのは嫌だし、こんな神様の所へ居るのは猶ほ嫌だし、兄様と知らぬ他国で苦労するのなら、こんな嬉しい事はないわ』 万公『そんな事言つて又中途で俺を放かすやうな事はすまいなア』 お菊『滅相な、変り易いは男の心だから、万さまこそ心を変へないやうにして下さい。ねえ貴方、私好きで好きで仕方がないわ』 万公『エヘヽヽヽ』 と涎を繰りながら、 万公『サア、それなら松彦さまや五三公に済まないけれど、二十七万両の金を有つて弥高飛びぢや』 お菊は山の尾の上を伝ひながら、万公の先に立ち歌ひつつ進んで行く。 お菊『此世の中に生れ来て何楽しみに人は生く 浮世の中の楽みは酒と博奕と色ばかり これに越したる楽みは人間界にはあらうまい それに治国別さまは窮屈至極の三五の 教のお道に耽溺し乞食のやうにブラブラと 可愛い女房を家におきお道のためとは云ひながら そこらあたりをウロウロとうろつき歩くをかしさよ 万公さまも神様の教に些つと陥りこみ 河鹿峠の峻坂を越えて漸く小北山 ウラナイ教の広間までやつて来たのは面白い 私がいつも恋ひ慕ふ大事の大事の殿御ぞや 何とか工夫を廻らして万公さまを銜へ込み 日頃の思ひを達成し知らぬ他国で水入らず 一つ苦労をして見よと思うて居たらアラ不思議 一本橋の袂にて結びの神の引き合せ お目にかかつた嬉しさよさはさりながら何うかして 母の蓄へおかれたる一万両のそのお金 盗み出して万さまと駆落するまで親の前 嫌な男と云ひはつて油断をさして目的を 達せむものと思ふ中降つて湧いたる儲けもの 蠑螈別が沢山のお金をもつてニコニコと 帰り来るを見るにつけ心の中に雀躍りし 頻りに酒を勧めつつ思ふ存分酔ひ潰し 内懐にしめ込んだ二十七万両の金 旨く手に入れ小北山頂上の宮の御前に 登りて見れば万さまがたつた一人で待つて居る こんな結構な事あろか早速情約締結し 山の尾の上を渡りつつ吹く凩も何のその 温いポツポに勢を得たる嬉しさ恋人と 手に手を取つて何処となく逃げ往く身こそ嬉しけれ あゝ惟神々々御霊幸倍坐しませよ』 (大正一一・一二・一五旧一〇・二七加藤明子録)
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霊界物語 47_戌_治国別の天国巡覧1 総説 総説 最上天界即ち高天原には、宇宙の造物主なる大国常立大神が天地万有一切の総統権を具足して神臨し給ふのであります。そして大国常立大神の一の御名を天之御中主大神と称へ奉り、無限絶対の神格を持し、霊力体の大原霊と現はれ給ふのであります。この大神の御神徳の完全に発揮されたのを天照皇大御神と称へ奉るのであります。そして霊の元祖たる高皇産霊大神は、一名神伊邪那岐大神又の名は日の大神と称へ奉り、体の元祖神皇産霊大神は一名神伊邪那美大神又の名は月の大神と称へ奉るのは、此物語にて屡述べられてある通りであります。又高皇産霊大神は霊系にして厳の御霊国常立大神と現はれ給ひ、体系の祖神なる神皇産霊大神は、瑞の御魂豊雲野大神又の名は豊国主大神と現はれ給うたのであります。この厳の御魂は再び天照大神と顕現し給ひて天界の主宰神とならせ給ひました。因に天照皇大御神様と天照大神様とは、その位置に於て神格に於て所主の御神業に於て大変な差等のある事を考へねばなりませぬ。又瑞の御魂は、神素盞嗚大神と顕はれ給ひ、大海原の国を統御遊ばす神代からの御神誓である事は神典古事記、日本書紀等に由つて明白なる事実であります。然るに神界にては一切を挙げて一神の御管掌に帰し給ひ宇宙の祖神大六合常立大神に絶対的神権を御集めになつたのであります。故に大六合常立大神は独一真神にして宇宙一切を主管し給ひ厳の御魂の大神と顕現し給ひました。扨て厳の御魂に属する一切の物は悉皆瑞の御魂に属せしめ給うたのでありますから、瑞の御魂は即ち厳の御魂同体神と云ふ事になるのであります。故に厳の御魂を太元神と称へ奉り、瑞の御魂を救世神又は救神と称へ又は主の神と単称するのであります。故に此物語に於て主の神とあるは、神素盞嗚大神様の事であります。主の神は宇宙一切の事物を済度すべく天地間を昇降遊ばして其御魂を分け、或は釈迦と現はれ、或は基督となり、マホメツトと化り、其他種々雑多に神身を変じ給ひて天地神人の救済に尽させ給ふ仁慈無限の大神であります。而して前に述べた通り宇宙一切の大権は厳の御魂の大神即ち太元神に属し、この太元神に属せる一切は瑞の御魂に悉皆属されたる以上は神を三分して考へることは出来ませぬ。約り心に三を念じて口に一をいふことはならないのであります。故に神素盞嗚大神は救世神とも云ひ、仁愛大神とも申上げ、撞の大神とも申し上げるのであります。この霊界物語には産土山の高原伊祖の神館に於て神素盞嗚尊が三五教を開き給ひ数多の宣伝使を四方に派遣し給ふ御神業は、決して現界ばかりの物語ではありませぬ。霊界即ち天国や精霊界(中有界)や根底の国まで救ひの道を布衍し給うた事実であります。ウラル教やバラモン教、或はウラナイ教なぞの物語は、大抵顕界に関した事実が述べてあるのです。故に三五教は内分的の教を主とし其他の教は外分的の教を以て地上を開いたのであります。故に顕幽神三界を超越した物語と云ふのは右の理由から出た言葉であります。主の神たる神素盞嗚大神は愛善の徳を以て天界地上を統一し給ひ、又天界地上を一個人として即ち単元として之を統御したまふのであります。譬へば人体は其全分に在つても、其個体にあつても千態万様の事物より成れる如く天地も亦同様であります。人間の身体を全分の方面より見れば肢節あり機関あり臓腑あり、個体より見れば繊維あり神経あり血管あり、斯くて肢体の中にも肢体あり部分の中に部分あれども個人の活動する時は単元として活動する如く、主神は天地を一個人の如くにして統御し給ふのであります。故に数多の宣伝使も亦主神一個神格の個体即ち一部分として神経なり繊維なり血管なりの活動を為しつつあるのであります。天人や宣伝使のかく部分的活動も皆主神の一体となりて神業に奉仕するのは恰も一個の人体中に斯の如く数多の異様あれども、一物としてその用を遂ぐるに当り、全般の福祉を計らむとせざるはなきに由る如きものであります。即ち全局は部分の為に、部分は全局の為に何事か用を遂げずと云ふ事はありませぬ。蓋し全局は部分より成り部分は全局を作るが故に、相互に給養し相互に揖譲するを忘れない。而して其相和合するや部分と全局とに論なく何れの方面から見ても統一的全体の形式を保持し且つ其福祉を進めむとせないものはない。是を以て一体となりて活動し得るのである。主神の天地両界に於ける統合も亦之に類似したまふのである。凡て物の和合するは各其為す所の用が相似の形式を踏襲する時であるから、全社会のために用を為さないものは天界神界の外に放逐さるるのは当然である。そは他と相容れないからであります。用を遂ぐると云ふ事は総局の福祉を全うせむために他の順利を願ふの義であり、そして用を遂げずと云ふは、総局の福祉如何を顧みず、只自家の為の故に他の順利を願ふの義である。此はすべてを捨てて只自己のみを愛し、彼はすべてを捨てて只主神のみを愛すと云ふべきである。天界にあるもの悉く一体となりて活動するは之が為である。而して斯の如くなるは主神よりするのであります。諸天人や諸宣伝使自らの故ではない。何となれば、彼等天人や宣伝使は主神を以て唯一となし、万物の由りて来る大根源となし、主神の国土を保全するを以て総局の福祉と為すからであります。福祉といふは正義の意味である。現世に在つて、国家社会の福祉(正義)を喜ぶこと私利を喜ぶより甚しく、隣人の福祉を以て自己の福祉の如くに喜ぶものは、他生に於ては主神の国土を愛して之を求むるものである。そは天界に於ける主神の国土なるものは、此世に於ける国家と相対比すべきものだからである。自己の為でなく、只徳の故に徳を他人に施すものは隣人を愛することに成るのである。天界にては隣人と称するは徳である。すべて此の如きものは偉人であつて、即ち高天原の中に住するものである。三五教の宣伝使は皆、善の徳を身に備へ、且つ愛の善と信の真とを体現して智慧と証覚とを本具現成してゐる神人計りである。何れも主の神の全体または個体として舎身的大活動を不断に励みつつある神使のみで、実に神明の徳の広大無辺なるに驚かざるを得ない次第であります。願はくは大本の宣伝使たる人は神代に於ける三五教の宣伝使の神業に神習ひ、一人たりとも主の神の御意志を諒解し、国家社会の為に大々的活動を励み、天国へ永住すべき各自の運命を開拓し、且つ一切の人類をして天国の楽園に上らしむべく、善徳を積まれむことを希望する次第であります。太元神を主神と云つたり、救世神瑞の御魂の大神を主神と云つたりしてあるのは前に述べた通り太元神の一切の所属と神格そのものは一体なるが故であります。読者幸に諒せられむことを。 附けて言ふ 主の神なる神素盞嗚大神は神典古事記に載せられたる如く大海原を知食すべき御天職が在らせらるるは明白なる事実であります。主の神は天界をも地の世界をも治め統べ守り給ふと言へば、大変に驚かるる国学者も出現するでせう。然し乍ら天界と言つても天国と云つても矢張り山川草木其他一切の地上と同一の万類があり土地も儼然として存在して居るのであるから、天界地球両方面の守宰神と言つても余り錯誤ではありますまい。天界又は天国と云へば蒼空にある理想国、所謂主観的霊の国だと思つてゐる人には容易に承認されないでせう。天国とは決して冲虚の世界ではありませぬ。天人と雖も亦決して羽衣を着て空中を自由自在に飛翔するものとのみ思つてゐるのは大なる誤解であります。天国にも大海原即ち国土があるのです。只善と真との智慧と証覚を得たる個体的天人の住居する楽土なのであることを思考する時は、主の神の天地を統御按配し給ふといふも決して不可思議な議論ではありませぬ。故に大海原の主宰たる主の神は天界の国土たると地上の国土たるとを問はず守護し給ふは寧ろ当然であります。 大正十二年一月八日 王仁識
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霊界物語 47_戌_治国別の天国巡覧1 09 愛と信 第九章愛と信〔一二四二〕 大本開祖の聖言には愛の善と信の真とを骨子として説かれてある事は神諭を拝読した人のよく知る所なれば、今更口述者が改めて述ぶる迄もないから、其聖言は略する事とする。 善とは即ち此世の造り主なる大神の御神格より流入し来る神善である。此神善は即ち愛其ものである。真とは同じく大神の御神格より流入し来る所の神真である。此神真は即ち信である。さうして其愛にも善があり悪がある。愛の善とは即ち霊主体従、神より出でたる愛であり、愛悪とは体主霊従と云つて自然界に於ける自愛又は世間愛を云ふのである。今口述者が述ぶる世間愛とは決して世の中の所謂博愛や慈善的救済を云ふのではない。己が種族を愛し、或は郷里を愛し、国土を愛する為に他を虐げ、或は亡ぼして自己団体の安全を守る偏狭的愛を指したのである。それから又信仰には真と偽とがある。真の信仰とは心の底から神を理解し、神を愛し、神を信じ、且つ死後の生涯を固く信じて神の御子たる本分を尽し、何事も神第一とする所の信仰である。又偽りの信仰とは所謂偽善者共の其善行を飾る武器として内心に悪を包蔵しながら、表面宗教を信じ神を礼拝し、或は宮寺などに寄附金をなし、其金額を石又は立札に記さしめて、自分の器量を誇る所の信仰である。或は商業上の便利のために、或はわが処世上の都合のために表面信仰を装ふ横着者の所為を称して偽りの信仰と云ふのである。要するに神仏を松魚節として自愛の道を遂行せむとする悪魔の所為を云ふのである。斯くの如き信仰は神に罪を重ね自ら地獄の門扉を開く醜行である。真の神は愛善と信真の中にこそましませ自愛や偽信の中にまします筈はない、斯る自愛や偽信の中に潜入する神は所謂八岐大蛇、悪狐悪鬼餓鬼畜生の部類である。高天原の天国及び霊国にあつては人の言葉皆其心より出づるものであるから、其云ふ所は思ふ所であり、思ふ処は即ち云ふ所である。心の中に三を念じて口に一つを云ふ事は出来ない。是が高天原の規則である、今天国と云つたのは日の国の事であり、霊国と云つたのは月の国の事である。 真の神は月の国に於ては瑞の御霊の大神と現はれ給ひ、日の国に於ては厳の御霊の大神と現はれ給ふ。さうして厳の御霊の大神のみを認めて瑞の御霊の大神を否むが如き信条の上に安心立命を得むとするものは、残らず高天原の圏外に放り出されるものである。斯くの如き人間は高天原より嘗て何等の内流なき故に次第に思索力を失ひ、何事につけても正当なる思念を有し得ざるに立ち至り、遂には精神衰弱して唖の如くなり、或は其云ふ所は痴呆の如くになつて歩々進まず、其手は垂れて頻りに慄ひ戦き、四肢関節は全く力を失ひ、餓鬼幽霊の如くなつて仕舞ふものである。又瑞の御霊の神格を無視し、其人格のみを認むるものも同様である。天地の統御神たる日の国にまします厳の御霊に属する一切の事物は残らず瑞の御霊の大神の支配権に属して居るのである。故に瑞の御霊の大神は大国常立大神を初め日の大神、月の大神其外一切の神権を一身にあつめて宇宙に神臨したまふのである。此大神は天上を統御したまふと共に、中有界、現界、地獄をも統御したまふは当然の理である事を思はねばならぬ。さうして厳の御霊の大神は万物の父であり、瑞の御霊の大神は万物の母である。総て高天原は此神々の神格によつて形成せられて居るものである。故に瑞の御霊の聖言にも『我を信ずるものは無窮の生命を得、信ぜざるものは其生命を見ず』と示されて居る。又『我は復活なり、生命なり、愛なり、信なり、道なり』と示されてある。然るに不信仰の輩は高天原に於ける幸福とは、只自己の幸福と威力にありとのみ思ふものである。瑞の御霊の大神は、総ての神々の御神格を一身に集注したまふが故に、其の神より起り来る所の御神格によつて高天原の全体は成就し、又個々の分体が成就して居るのである。人間の霊体、肉体も此神の神格によつて成就して居るのは無論のことである。さうして瑞の御霊の大神より起り来る所の神格とは即ち愛の善と信の真とである。高天原に住める天人は、総て此神の善と真とを完全に摂受して生命を永遠に保存して居るのである。さうして高天原はこの神々によつて完全に円満に構成せらるるのである。 現界の人間自身の志す所、為す所の善なるもの又思ふ所、信ずる所の真なるものは、神の御目より御覧したまふ時は、其善も決して善でなく、其真も決して真でない、瑞の御霊の大神の御神格によりてのみ、善たり真たるを得るものである。人間自身より生ずる善又は真は、御神格より来る所の活力を欠いで居るからである。御神格の内流を見得し、感得し、摂受して茲に立派なる高天原の天人となる事を得るのである。さうして人間には一霊四魂と云ふものがある。一霊とは即ち真霊であり、神直日、大直日と称するのである。さうして神直日とは神様特有の直霊であり、大直日とは人間が神格の流入を摂受したる直霊を云ふのである。さうして四魂とは和魂、幸魂、奇魂、荒魂を云ふのである。この四魂は人間は云ふに及ばず、高天原にも現実の地球の上にも夫々の守護神として儼存しあるのである。そして荒魂は勇を司り、和魂は親を司り、奇魂は智を司り、幸魂は愛を司る。さうして信の真は四魂の本体となり愛の善は四魂の用となつて居る。さうして直霊は瑞の御霊の大神の御神格の御内流即ち直流入された神力である。故に瑞の御霊の御神格は総ての生命の原頭とならせたまふものである。此大神より人間に起来するものは神善と神真である。故に吾々人間の運命は此神より来る神善と神真を、如何に摂受するかによつて定まるものである。そこで信仰と生命とにあつて是を受くるものは其中に高天原を顕現し、又之を否むものは已むを得ずして地獄界を現出するのである。神善を悪となし、神真を偽りとなし、生を死となすものは又地獄を現出しなくては已まない。現代の学者は何れも自然界の法則や統計的の頭脳をもつて不可測、不可説なる霊界の事象をおほけなくも測量せむとなし、瑞の御霊の神示を否むものは暗愚迷妄の徒にして所謂盲目学者と云ふべき厄介ものである。到底霊界の事は現実界の規則をもつて窺知し得べからざる事を悟らないためである。神は斯の如き人間を見て癲狂者となし、或は痴呆となして救済の道なきを悲しみ給ふものである。斯かる人間は総て其精霊を地獄の団体に所属せしめて居るのである。斯かる盲学者は神の内流を受けて伝達したる霊界物語のある個所を摘発して吾知識の足らざるを顧みず、種々雑多と批評を加へ、甚だしきは不徹底なる自己の考察力をもつて之を葬り去らむとする罪悪者である。高天原の団体に其籍を置き、現代に於て既に天人の列に列したる人間の精霊は吾人の生命及び一切の生命は瑞の御霊の御神格より起来せる道理を証覚し、世にある一切のものは善と真とに相関する事を知覚して居るものである、斯かる人格者の精霊を称して地上の天人と云ふのである。 人間の意思的生涯は愛の生涯であつて善と相関し、知性的生涯は信仰の生涯にして真と相関するものである、さうして一切の善と真とは皆高天原より来るものであり、生命一切の事又高天原より来る事を悟り得るのが天人である。故に霊界の天人も、地上の天人も右の道理を堅く信ずるが故に、其善行に対して他人の感謝を受ける事を悦ばないものである、もし人あつて是等の諸善行を彼の天人等の所有に帰せむとする時は天人は大に怒つて引退するものである。人の知識や人の善行は皆其人自してしかるものと信ずる如きは悪霊の考へにして到底天人共の解し得ざる所である。故に自己のためになす所の善は決して善ではない、何となれば夫れは自己の所為なるが故である。されど自己のためにせず善のためになせる善は所謂神格の内流より来る所の善である。高天原は斯の如き善即ち神格によつて成立して居るものである。 人間在世の時に於て自らなせる善、自ら信ずる真をもつて、実に自らの胸中より来るものとなし、又は当然自分の所属と信じて居るものはどうしても高天原に上る事は出来ない、彼の善行の功徳を求めたり、又自ら義とするものは斯の如き信仰を有して居るものである。高天原及び地上の天人は斯の如きものをもつて痴呆となし、俗人となして、大に忌避的態度を取るものである。斯の如き人間は不断に自分にのみ求めて、大神の神格を観ないが故に、真理に暗き痴呆者と云ふのである。又彼等は元より大神の所属となすべきものを己に奪はむとするが故に神より天の賊と称へらるるのである。所謂人間は大神の御神格を天人が摂受するとの信仰に逆らうて居るものである。瑞の御霊の大神は高天原の天人と共に自家存在の中に住みたまふ、故に大神は高天原に於ける一切中の一切である事は云ふ迄もない事である。 (大正一二・一・八旧一一・一一・二二加藤明子録)