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霊界物語 37_子_出口王仁三郎自叙伝1 21 参綾 第二一章参綾〔一〇三三〕 旧六月の暑い最中であつた。老祖母や修業者に無理に別れを告げて、只一人穴太を離れ北へ北へと進み行く。道程殆ど二里ばかり来た処に、南桑田、船井郡の境界の標が立つて居る。其処には大井川の清流をひいた、有名なる虎天関と云ふのがある。虎天関の傍に枝振りよき並木を眺めて小さき茶店が建つて居た。喜楽は何気なく其茶店に立寄つて休息をして居た。 三十あまりのボツテリと肥えた妻君が現はれて渋茶を汲んで呉れた。さうして喜楽の異様な姿を眺めて、 女『貴方は神様の御用をなさる方ぢや御座いませぬか』 と云ふ。喜楽は即座に、 喜楽『私は神様の審神をする者で御座います。随分其処ら中の教会を調べて見ましたが、狐や狸のお台サンばつかりでした。アハヽヽヽ』 と手もなく笑つて居る。此女は畳みかけた様に、 女『モシ先生、私が一つ頼み度い事があります。私の母は今綾部に居りますが、元は金光様を信神して居ましたが、俄に艮の金神さまがお憑りなさつて沢山の人が御神徳を頂き、金光教会の先生が世話をして居られますが、母に憑つた神様の仰有るには、私の身上を分けて呉れる者は東から出て来る。其御方さへ見えたならば出口直の身上は判つてくると仰有いましたので、私等夫婦は態と此道端に茶店を開いて往来の人さまに休んで貰ひ、母の言つたお方を探して居りました。大方貴方の事かと思はれてなりませぬ。何卒一度母の身上を調べてやつて下さらぬか。これが母の神様がお書になつたお筆先で御座います』 と出して来たのが、バラバラの一枚書きの筆先であつた。 喜楽は此筆先を見て、高熊山の修業の中に於て霊眼にて見聞したる事の或部分に符合せるに驚き、婦人の依頼を受けて近々に上綾する事を約し、園部の広田屋と云ふ旅館に落着き、あちらこちらと知己を訪問して霊学の宣伝に従事しつつあつた。 旧八月二十三日[※明治31年(1898年)旧8月23日は新10月8日]、初めて綾部裏町の教祖の宅を訪問し、二三日滞在して居た。然るに金光教の教会の受持教師なる足立正信を始め、世話係の中村竹造[※霊界物語における中村竹造の名前に「竹造」と表記している場合と「竹蔵」と表記している場合があるが、霊界物語ネットでは「竹造」に統一した。詳しくはオニペディアの「霊界物語第37巻の諸本相違点」を見よ]、村上清次郎、西村文右衛門等に、極力反対運動をされ、時機未だ至らずとして教祖に暇を告げ、綾部の地を去つて園部村の字黒田、西田卯之助の座敷を借つて神の道を宣伝しつつあつた。種々の神憑りに関する面白き話は此地方に於ても沢山目撃したり遭遇したる事あれども、岐路に入る虞ある故此処には省略して置く。園部の上本町に奥村徳次郎と云ふ熱心な信者があつた。あまり沢山な信者が喜楽を訪ねて来るので、園部町の有志は信仰は兎も角土地繁栄の一策として園部の公園内に立派なる布教所を建設し、喜楽を、此処に永住せしめむと、土地の有志が東西に奔走し、話も大方纏まつて居る所へ、綾部から出口教祖のお使として、四方平蔵氏が遥々訪ねて来た。 其時喜楽は園部川の大橋の下流で漁遊びをして居た。其処へ平蔵氏がやつて来て、河の堤から、 平蔵『モシモシ、上田さまは此辺に居られませぬか、只今黒田のお宅へ参りましたら、園部の河原へ魚取りに行かれたとの話故、此川縁を伝うて此処迄来ました』 と云つて居る。喜楽は川の中から、 喜楽『ハイ、上田は私です。貴方は先頃手紙を呉れた綾部の四方サンですか。綾部はもう懲々しましたから行くのは止めますわ。今面白い最中だから、モチツと魚をとつて帰りますから、日の暮に来て下さい』 と云へば四方氏は堤の上から、 平蔵『そんなら仕方がありませぬ。私は園部の扇屋で今晩泊りますから、又お訪ね致します』 と云ひ乍ら、四方氏は大橋を渡つて扇屋をさして行つて了つた。喜楽は漁を終り、黒田の宅へ帰り着物を着換へ、園部の扇屋に四方氏を訪ねて見た。さうして今度は足立、中村其他の役員には極内々で、教祖と自分とが相談の上、喜楽を迎へに来た事が分つた。斯うなると自分も敵の中へ飛込む様なものである。余程の覚悟をせなくてはならぬと思ひ乍ら、早速綾部へ行く事を承諾し、往復八里の夜の道を穴太へ帰り、老祖母や母に愈綾部に行く事を云ひ、産土の大神に祈願をこらし、夜の明くる前漸く園部の扇屋へ帰つて来た。されど四方氏は喜楽が穴太へ帰つて来た事はチツとも分らなかつた。 それより四方氏と共に黒田の宅へ帰り、種々と支度をなし、五時頃から黒田を立ち出で、漸くにして檜山迄着いた。日はズツポリと暮れて来た。少し目の悪い四方氏は最早歩く事が出来なくなつて来た。止むを得ず樽屋と云ふ宿屋へ投宿した。忽ち大雨降り来り、雷鳴さへも轟いて実に物凄き天地となつて来た。樽屋の裏の離座敷を与へられ、喜楽と四方氏は四方山の話に耽り乍ら、夜の一時頃になつて漸く寝に就いた。朝の四時頃に四方氏は目を覚まし早くも天津祝詞を奏上して居た。喜楽は其声に目を覚まし、慌て起き出で見れば、相変らず車軸を流す様な大雨である。四方氏は、 四方『先生、お目覚めですか。早うから八釜しく申しましてお目を覚まして済みませぬ。昨夜は何とはなしに気が欣々しまして一睡も出来ませなんだ。神様が大変にお勇みだと見えます。併し乍ら昨夜から引き続いて偉い大雨です。これでも止みませうかな』 と心配相に尋ねる。喜楽は一寸目を塞ぎ伺つて見て、 喜楽『九時になればカラリと晴れます。それまで、マアゆつくり話を承りませう。貴方は綾部から来たといはれましたが、お宅は大変な山家の様に思ひますが違ひますか。家の裏に綺麗な水が湧いた溜池があり、前は一尺ばかりまはつた枝振りの面白き松の樹がある。さうして少し右前の方の街道に沿うて小屋の様なものがあり、其処に菓子なんかの店が出してあり、六十位のお婆アサンが見えますが違ひますか』 と尋ねて見た。四方氏は吃驚して、 四方『ハイ、其通りです。そんな事までよく見えますか。あんたは、さうすると稲荷でも使ふて居られるのですか』 と不思議相に顔を覗く。喜楽は首を振り、 喜楽『イエイエ、そんな事はありませぬ。霊学の一部、天眼通で見たのです。誰でも真心にさへなれば、天眼通位は直に判る様になりますよ』 四方『アヽそれで安心しました。私は金光教の古い信者で御座いましたが、こんな処から五里も六里もある処が見える様なものは、狐か狸だと金光教の先生が云ひました。モシ先生が綾部へ行つて、そんな事でもなさらうものならサツパリ狐使ひだと云つて、ボツ帰されて了ひますから、綾部へ御いでになつたら、其魔法だけは暫くやらぬ様にして下さい。疑を受けては貴方の御迷惑ですからなア』 喜楽『そんな分らぬ奴ばかり居る所なら、もう私は御免蒙つてこれから帰りますワ』 四方『そんな短気を出さずに兎も角教祖様の御内命で来たのですから、一度綾部を見ると思ふて来て下さい。此頃は和知川の鮎が沢山にとれますから、鮎食ひに行くと思うて、マアマア兎も角一遍来て下さい。私も今此処で先生に帰られては教祖様に対し申訳が御座いませぬ』 喜楽『第一貴方に霊学を諒解して貰ふておかなくてはなりませぬから、狐を使ふか、使はぬかと云ふ事を一遍此処で実地を見せませう。さうして貴方に承知が行つたら行く事にしませう。そんな処まで鮎食ひに行かなくても園部で沢山ですから……』 四方『私の様な素人にでも、そんな天眼通が行へますだらうか』 喜楽『マア其処に坐つて目を塞ぎ、両手を組んで見なさい』 四方『そんなら頼みます』 と四方氏は素直に座敷の真中に正座し、手を組み目を塞いだ。喜楽は、 喜楽『サアこれから四方サン、天眼通を授けます。今私が……ソレ見い……と云つたが最後、何かの姿が映りますから、それを話して御覧……』 四方『ハイ……』 と云ひ乍ら、一生懸命に目を塞ぎ早くも霊感者になつて、少し鼻息を荒くし体をピリピリと慄はせて居る。喜楽は、 『それ見い!』 と大喝一声した。 四方『ハイ、見えました。小さい古き藁葺の家が一軒、前横の方に又一つ汚い家があつて、其処に美しい水の湧いた池があります。さうして裏の方には榧の木や、椋の大木が見えます。細い綺麗な河が道の下を流れて居ます』 喜楽『アヽそれで愈天眼通が開けました。それは私の生れた家ですよ。もう宜しい』 と云へば、四方氏は組んだ手を離し目を開き、 四方『何とマア、結構な神様ですな。イヤもう感心致しました。流石教祖様も偉いわい。多勢の役員や信者に隠れてお迎へして来いと仰有つた丈けの価値があります。こんな事が分れば、三千世界一度に見え透くと仰有る神様の御用が充分に勤まりませう』 と無性矢鱈に喜んで居る。それから病気の伺ひや天眼通の試験を色々として、四方氏に先づ霊学の尊い事を悟つて貰ひ、朝飯を食ひ愈これから出立しようとする時、さしもの大雨もピタリと止まり、ガンガンと日本晴れの空に太陽が照り輝き出した。四方氏は、 四方『ヤア、仰有つた通り九時になつたらカラリと霽れました。ほんに霊学と云ふものは結構なものですな。これから綾部へ帰りましたら、金光教の先生や役員どもが愚図々々云ふと面倒で御座いますから、ソツと裏町の教祖さまの宅へ参りませう』 と云ひ乍ら六里の山坂を越えて其日の午後四時頃、漸くにして裏町の教祖の宅へ安着した。 誰が喋つたのか早くも信者の四方与平、黒田清子、四方すみ子、塩見じゆん子を始め七八人の信者が集まつて来て、 『平蔵サン、結構な御神徳を頂きなさつた。よい先生を迎へて来て下さいました』 などと喜び勇み、金光教の旧信者へ通知に各自廻つて了つた。此勢に足立正信氏は吃驚して中村竹造を裏町へ遣はし、色々と水をさし妨害を加へた。されど出口教祖を始め、四方平蔵氏の勢があんまり猛烈なので、到頭中村竹造も我を折り教祖の命に服従して了つた。 四方源之助、西岡弥吉、西村文右衛門、村上清次郎、西村庄太郎、四方伊左衛門等と云ふ世話係は裏町の宅へ集まり来たり、平蔵氏と教祖の説明によつて非常に共鳴し、艮金神様の金の字をとり、日の大神様、月の大神様の月日を合せて金明会と云ふ団体を組織し、信者は日に夜に遠近より集まり来り、裏町の狭い倉の中では身動きもならぬやうになつたので、本町の中村竹造の本宅へ金明会を移して了つた。四方氏は得意の天眼通を振りまはし神占をしたり、病気平癒を祈つたりして非常な人気である。只の一回位、霊学を教へて貰ふて、四方平蔵サンはあれ丈け御神徳を貰ふたのだから、修行さへしたら誰でも神徳が頂けるだらうと、幽斎修行の希望者が瞬く内に二十人あまりも出来て来た。喜楽は向側の西村庄兵衛と云ふ信者の裏の離家を借つて其処に寝泊りをしたり、世話方に色々と神の話を聞かして居た。金光教会の足立正信氏は最早策の施すべき所なく、村上清次郎、中村竹造、四方すみ、塩見じゆん、黒田清などの宅を訪問して、いろいろの反対運動を試みたけれども、到底効を奏する事が出来なくなつて来た。 教祖は足立氏の境遇を気の毒に思ひ、小遣銭や米等を贈つて金光教を脱退し、教祖の教に従へと信者を交る交る遣はして勧められた。けれども足立氏は頑固として応ぜず、陰に陽に反対の気勢を挙げ、 足立『上田と云ふ狐使ひをこんな処へ引張つて来て、山子を始め出したから騙されない様にせよ』 と中村竹造や村上房之助等を遠近の信者の宅に遣はし、色々と非難攻撃を始めた。中村は自分の家を金明会へ貸しておき乍ら、足立の命令に従つて反対運動を昼夜の区別なくやつて居た。併し乍ら時の勢には抗すべくもあらず、一人も信者が行かなくなり、手も足もまはらぬ破目に足立氏は陥つて了つた。そこで止むを得ず足立氏は我を折つて、 足立『何卒改心するから金明会へ使つて下さい』 と頼みに来た。金明会の役員連は速に協議会を開いた結果、 『足立正信氏は信者の受けも悪し、○○や○○と醜関係をつけ、神の名を汚して居るから、此際絶対に金明会へ這入る事は謝絶するがよい』 と云ふ事に協議が纏まつて了つた。足立氏が尾を振つて来たのは、心の裡から金明会へ心従して居るのではない。老母や子供が忽ち糊口に窮する処から、一時の窮策として表面心従したと見せかけ時機を見て金明会を転覆させ、喜楽先生を放り出す計略なる事は、今迄の足立氏の行動に徴して明白だから、今度の好い機会を幸ひに一切の関係を絶つ方が上分別だと、今まで同氏の熱心な教養をうけたものさへ、極力排斥を主張する様になつて来た。喜楽は足立氏の境遇を憐れみ、且又今迄金光教を信じて居た役員や信者の人情の浮薄冷酷なるに呆れ果て、 『今日は人の身の上、明日は吾が身の上と云ふ事がある。こんな薄情な人間の処へ居つては到底駄目だ。自分さへ此処を立ち去つたならば足立氏親子の困難は除かれるだらう。世人の困難を救ふべき神の取次が人を困らせてはならない』 と思つたから、四方氏を始め重なる役員に向ひ、 上田『私が此処へ来たために、足立氏親子が困難を来すべき結果を生じたのだから、私は同氏に対して済まないから今日から帰ります。何卒足立氏と仲良うして神様の御用をして下さい』 と申し込んだ。そこで数多の役員は大に狼狽し、鳩首謀議の結果、 役員たち『足立氏の処置に就いては上田先生に一任しますから、是非とも教祖様の側に居て、大本の宣伝に力を尽して下され』 と異口同音に頼み込む。 そこで喜楽は足立氏を金明会の副会長に任じ、金明会の名の許に仲良く神務に奉仕する事となつた。出口教祖も足立氏の身の上につき心密かに非常な心痛をして居られたが、喜楽の同情ある処置に対し、非常に安心をしたと云つて感謝せられた。足立氏は大変に喜び、役員信者も喜楽の赤誠に感じ、直に今迄の態度を改め、教祖に次いで喜楽を師匠と尊敬し出した。一時は大争乱が勃発しさうの模様のあつた金光教対金明会も、茲に円満な解決が出来て、双方とも心持克く勇んで和合の裡に神様の御用に尽す事を得たのである。 (大正一一・一〇・一二旧八・二二北村隆光録)
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霊界物語 38_丑_出口王仁三郎自叙伝2 18 鞍馬山(一) 第一八章鞍馬山(一)〔一〇五五〕 世は浮薄に流れ、人は狡猾に陥り剛毅昂直の気淪滅し、勇壮快濶の風軟化して因循姑息となり、野鄙惰弱と変じ、虚誕百出詐偽自在に行はれ、或は囁嚅笑談他の意に投合するを勉め、巧言令色頭を垂れ腰を曲げ、以て其欲を満たさむとするの卑劣と無節操は、社会の全体に瀰漫し、我神洲神民たるの高尚優美の気骨雅量を存せず、国民の基礎たるべき青年は概ね糸竹管絃の響きに心耳を蕩かし、婀娜嬋妍たる花顔柳腰に眩惑せられ、奢侈淫逸の欲を逞ふして空しく有為の歳月を経過する者のみ。国家の前途如何を思ふの志士仁人無く、世は将に常暗ならむとするを深く憂慮し、神示のまにまに大本の教祖は抜山蓋世の勇を振ひ、百折不撓の胆を発揮し、世道人心を振起せむと、上田海潮、出口澄子、四方春三の三名を従へ菅の小笠に茣蓙蓑、手には芳しき白梅の枝にて作りたる杖をつき草鞋脚絆に身を固め、明治卅三年閏八月八日の午前の一時、正に広前の門口を立出でむとする時、前夜より集まり来りし数多の役員信者等は各教祖の袖に縋り異口同音に『何卒途中までなりと見送らせ下さい』と泣きつつ頼む者ばかりであつた。教祖も役員等が、しほらしき真心はよく推知し居られたけれど、只管神様の命令を畏みて一人も許されなかつた。生別離苦の悲しさに何れも袖を絞りつつ、教祖が平素に於ける温言厚諭の情は、人を動かし、人を感ぜしめたのである。別れに臨んで、今更の如く其温容を慕ひ和気に懐き恰も小児の慈母に別るる如く焦れ慕ふたのである。さて教祖は梅の杖、海潮は雄松、澄子は雌松、春三は青竹の杖をつき乍ら、何処を当ともなく従ひ行く。秋すでに深く木葉は色を変じて四尾の神山は漸く紅に黄雲十里粛然たるさまである。和知の清流は淙々として脚下に白布を曝し一行の前途を清むる如くに思はれた。須知山峠の峻坂を苦もなく登り、狭き山道を辿りつつ行けば川合の大原神社、一行恭しく社前に跪坐し、前途の幸運を祈願しつつ、枯木峠も漸く踏み越えて、今や榎木峠の絶頂に差しかからむとする時、前途にあたつて怪しき火光のチラチラと燃ゆるを見とめた。海潮は盗賊どもの焚火をなして旅客の荷物を掠めむとして待ち構へ居るには非ずやと心も心ならず、不安の念に包まれ乍ら近づき見れば、豈図らむや、会員の一人なる福林安之助が数多の役員信者を出し抜いてソツと旅装を整へ、梅の杖まで用意して先へ廻つて待つてゐたのである。教祖一行の姿を見るや忽ち大地に慴伏し、 福林『何卒今度のお伴をさして下さい。私は猿田彦となつて此処にお待申して居りました。願はくば異例なれども猿田彦と思召、特別を以てお伴をお許し下さい』 と頻りに懇願して居る。教祖は、 教祖『何事も神様の御命令なれば此三人の外には如何なる事情があるとも随行して貰ふ訳には行きませぬ』 と固辞して動き玉ふ気色だになかつた。福林は詮方なくなく腹の底から湧き出す涙と共に嘆願し、 福林『今此処で仮令死ぬとも此まま家へは帰らぬ』 と容易に初心を変ずべくも見えなかつた。海潮は其真心を推し量りて気の毒に堪へ兼ね、教祖にいろいろと頼んだ上、 海潮『今度に限つて破格を以て随行と云はず荷物持ち人足として連れて行つて上げたら如何でせうか』 と頼んで見た。教祖も其の誠意と熱心に感じられ漸く随行を許された。福林は天にも登るが如く喜び勇み、雀躍し乍ら四人の荷物を棒もて肩に担ぎ、一行の後に跟いて行く事となつた。老の御足も健かに早くも、質志、三の宮に到れば東天明く旭日燦々たる処なれども、音に名高き丹波船井の霧の海に天地万有包まれて、天の原射照り透らす日の大神の御影を拝する能はず、前途朦々として何と無く物悲しき心地がした。行程六里、檜山に達し会員坂原氏宅に暫時息を休め、須知、蒲生野や水戸峠を上りつ下りつ、観音坂の頂上に辿り着き見れば、丹波名物の霧の海原何時しか拭ふが如く晴れ渡り、船井郡の一都会、花の園部や小向山、天神山は一眸の下に横たはり、佐保姫の錦織りなす麗しさは、筆舌の克く尽す所にあらず、上村、浅田氏等の同居する木崎の川原町に達した。偶一行の出修を知りて急ぎ出迎へ是非一夜泊りて旅の御疲労を休められよと請ふ事最と懇なりし為め彼の家に入る。間もなく中田、辻村の両会員入り来り、教祖の居らるる前をも憚らず、何の挨拶も会釈も碌々せず、開口一番上村氏が平生の処置甚だ不公平なり、依つて吾々は退会せむなどと不平を訴ふるので、座上の上村氏は大に怒り、これ又口を極めて彼が不謹慎にして予てより深き野心を蔵し、現在今お供の列に加はる四方春三等と気脈を通じ、本会の瓦解を企てつつありなど、双方意外の事のみ言ひ争ひ、はては四方、中田を速かに除名せられ度し、然らざれば小子より退会すべし等、得手勝手の難問題を提出する。中田、辻村の両人は一層憤激し、 『否、上村こそ今回の瓦解の謀主にして、生等は只相談を受けたる迄にて始めより斯る反逆には賛成し難し、と一言の許に跳つけた。それ故今日其真相の暴露せむ事を怖れ、先んずれば克く人を制すとの兵法を以て、反対に彼より生等を誣告するのである』 と逆捻に一本参る。互に負ず劣らず、争論の何時果つべしとも見えざれば、海潮は苦々しき事に思ひ、種々と理非を噛分けて諭せども、固より敬神愛民の思想を有せざる頑迷不霊の製糞器、只神を估りて糊口の資に供するより外、他に一片の希望なきもの共なれば、済度するには此上なく骨を折らざるべからざる、最も困つた厄介極まる代物であつた。 折柄庭前に嬉々として四頭の犬遊び、其状誠に親睦にして羨ましい程である。何と思はれしか教祖は懐中より一片の食物を取出し、犬に投げ与へられしに、犬は忽ち争奪搏噬を初め、恰も不倶戴天の親の仇に出会せしが如くである。教祖はこれを見て、人心の奥底は大抵斯くの如しと微笑みし乍ら、匆々に此家を立出でむとせらるる時、上村は大に恐縮して曰く、生等の心は実に此犬のやうだと稍反省の意を表はしたが中田、辻村は却々承知せず、益々暴言を逞しふし、是非々々教祖の御入来を幸ひ、正邪黒白を判別されむ事を強請して止まなかつた。これには海潮もほとほと持て余し、本会の主義精神は一身一家の栄達名聞を企図するに止まらず、国家的観念を養ふにあるのに、汝等会員たるの本旨を忘れ、教祖折角の苦行の首途を擁して、非違の裁断を請はむとするは、実に時を誤りたる非礼の行為なり、教祖多年の艱苦は実に汝等の如き会員を覚醒し正道に導かむが為めのみ、今又六十有五歳の教祖が梅ケ枝の一杖に身を托し、凛烈肌を劈かむとする寒天をめがけ何地を当ともなく神命の随々、孤雁声悲しく、暮雲に彷徨するが如く将に遠く出修されむとす、宜しく本然の私に還り教祖のお心を推察せば、斯くの如く見苦しき事をお耳に入れ申すべき場合に非ざるべし、と事を釈け、理を解きて諭せども、元来彼等は金光教の教師にして、自ら企て自ら為すの勇なく、徒に他の覆轍に做ひ、其糟粕を舐りて以て得たりと為し、信者の争奪にのみ余念なかりし癖は容易に改まらず教祖の諭示も海潮の説得も寸効なく、中田、辻村の両人は梟の夜食を取り外せし如く頬を膨らせ席を蹴立てて帰り、四方、福林もこれに従いて行つた。 教祖は上村氏等に慇懃なる謝詞を述べ、海潮、澄子を具して立ち出でられし故、上村氏も大橋までお見送りの為めとて従ひ来つた。さて四方春三は中田方に至り頻りに何事か善からぬ事のみ囁きつつ不興の顔色物凄く、口を極めて海潮を罵り是非排斥せずむば止まずと息捲く。福林氏は草臥たりとて中田が家に入るや、直に昇り口に打倒れ、熟睡を装ひつつ狸の空寝入り、素知らぬ振にて彼等の密談を残らず聞き取つた。少時ありて欠伸と共に起き上り、態と空惚けたる面を擦り乍ら教祖は何処にありやと問へば、 中田『あの気違ひ婆か、否狂長殿か、只今然も偉相に上村氏を随行させて出て行つたから大方大橋の詰辺りに今頃は迂路ついて御座らう』 と会員にあるまじき言葉を弄するも、一味の四方は咎めもせず厭さうに福林を伴ひて教祖の跡を追つかけた。夕陽は已に西山に没し、黄昏の霧は一行を包まむとする。四方春三は、 四方『夜の旅は危険ですし、さりとて旅費も豊ならず、むしろ中田氏に一泊しませう』 と云へば教祖は少しく怒つて、 教祖『仮令野宿をしても彼等の家に泊るのは厭ぢや』 とて気色悪ければ、一行は不承々々に従ひ行く。小山、松原乗り越えて一里半行けば鳥羽の里、広瀬も後に八木の町、月は照れども深更に入りて漸く八木の会合所福島氏方へ着いた。 (大正一一・一〇・一八旧八・二八北村隆光録)
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霊界物語 39_寅_大黒主調伏相談会/言霊隊の出発 附録 大祓祝詞解 附録大祓祝詞解 (一) 大祓祝詞は中臣の祓とも称へ、毎年六月と十二月の晦日を以て大祓執行に際し、中臣が奏上する祭文で延喜式に載録されてある。 従来此祝詞の解説は無数に出て居るが、全部文章辞義の解釈のみに拘泥し、其中に籠れる深奥の真意義には殆ど一端にさへ触れて居ない。甚だしきは本文の中から『己が母犯せる罪、己が子犯せる罪、母と子と犯せる罪、子と母と犯せる罪、畜犯せる罪』の件を削除するなどの愚劣を演じて居る。自己の浅薄卑近なる頭脳を標準としての軽挙妄動であるから、神界でも笑つて黙許に附せられて居るのであらうが、実は言語道断の所為と云はねばならぬ。大祓祝詞の真意義は古事記と同様に、大本言霊学の鍵で開かねば開き得られない。さもなければ古事記が一の幼稚なる神話としか見えぬと同様に、大祓祝詞も下らぬ罪悪の列挙、形容詞沢山の長文句位にしか見えない。所が一旦言霊の活用を以て其秘奥を開いて見ると、偉大と云はうか、深遠といはうか、ただただ驚嘆の外はないのである。我国体の精華が之によりて発揮せらるるは勿論のこと、天地の経綸、宇宙の神秘は精しきが上にも精しく説かれ、明かなる上にも明かに教へられて居る。之を要するに皇道の真髄は大祓祝詞一篇の裡に結晶して居るので、長短粗密の差異こそあれ、古事記、及び大本神諭と其内容は全然符節を合するものである。 言霊の活用が殆ど無尽蔵である如く、大祓祝詞の解釈法も無尽蔵に近く、主要なる解釈法丈でも十二通りあるが、成るべく平易簡単に、現時に適切と感ぜらるる解釈の一個をこれから試みやうと思ふ。時運は益々進展し、人としての資格の有無を問はるべき大審判の日は目前に迫つて居るから、心ある読者諸子は、これを読んで、真の理解と覚醒の途に就いて戴きたい。 (二) 『高天原に神つまります、皇親神漏岐、神漏美の命もちて、八百万の神等を神集へに集へ賜ひ神議りに議り玉ひて、我皇孫命は豊葦原の水穂の国を、安国と平けく所知食と事依し奉りき』 △高天原に『タカアマハラ』と読むべし、従来『タカマガハラ』又は『タカマノハラ』と読めるは誤りである。古事記巻頭の註に『訓高下天云阿麻』[※高(たか)の下の天(てん)の訓(くん)は「あま」と云う]と明白に指示されて居り乍ら従来何れの学者も之を無視して居たのは、殆ど不思議な程である。一音づつの意義を調ぶれば、タは対照力也、進む左也、火也、東北より鳴る声也、父也。又カは輝く也、退く右也、水也、西南より鳴る声也、母也。父を『タタ』といひ、母を『カカ』と唱ふるのもこれから出るのである。又アは現はれ出る言霊、マは球の言霊、ハは開く言霊、ラは螺旋の言霊。即ち『タカアマハラ』の全意義は全大宇宙の事である。尤も場合によりては全大宇宙の大中心地点をも高天原と云ふ。所謂宇宙に向つて号令する神界の中府所在地の意義で『地の高天原』と称するなどがそれである。この義を拡張して小高天原は沢山ある訳である。一家の小高天原は神床であり、一身の小高天原は、臍下丹田であらねばならぬ。ここでは後の意義ではなく、全大宇宙其物の意義である。之を従来は、地名であるかの如く想像して、地理的穿鑿を試みて居たのである。 △神つまりますかみは日月、陰陽、水火、霊体等の義也。陰陽、水火の二元相合して神となる。皇典に所謂産霊とは此正反対の二元の結合を指す。日月地星辰、神人其他宇宙万有一切の発生顕現は悉くこの神秘なる産霊の結果でないものはない。又つまりとは充実の義で、鎮坐の義ではない。ますはましますと同じ。 △皇親皇(スメラ)は澄すの義、全世界、全宇宙を清澄することを指す。親(ムツ)は『ムスビツラナル』の義で、即ち連綿として継承さるべき万世一系の御先祖の事である。 △神漏岐、神漏美神漏岐は霊系の祖神にして天に属し、神漏美は体系の祖神にして地に属す。即ち天地、陰陽二系の神々の義である。 △命もちて命(ミコト)は神言也、神命也。即ち水火の結合より成る所の五十音を指す。元来声音は「心の柄」の義にて、心の活用の生ずる限り、之を運用する声音が無ければならぬ。心(即ち霊魂)の活用を分類すれば、奇魂、荒魂、和魂、幸魂の四魂と之を統括する所の全霊に分ち得る。所謂一霊四魂であるが、此根源の一霊四魂を代表する声音はアオウエイの五大父音[※『神霊界』大正7年9月1日号(名義は「浅野和邇三郎」)では「アイウエオの五大母音」。初版では「アイウエオの五大父音」。校定版・愛世版では「アオウエイの五大父音」。霊界物語ネットでも「アオウエイの五大父音」に直した。次の箇所も同じ。]である。宇宙根本の造化作用は要するに至祖神の一霊四魂の運用の結果であるから、至祖神の御活動につれて必然的にアオウエイの五大父音が先づ全大宇宙間に発生し、そして其声音は今日といへども依然として虚空に充ち満ちて居るのだが、余りに大なる声音なので、余りに微細なる声音と同様に、普通人間の肉耳には感じないまでである。併し余り大ならざる中間音は間断なく吾人の耳朶に触れ、天音地籟一として五大父音に帰着せぬは無い。鎮魂して吾人の霊耳を開けば、聴こゆる範囲は更に更に拡大する。扨前にも述ぶるが如く、声音は心の柄、心の運用機関であるから天神の一霊四魂の活用が複雑に赴けば赴く丈け、声音の数も複雑に赴き停止する所はない。其中に在りて宇宙間に発生した清音のみを拾ひ集むれば四十五音(父母音を合せて)濁音、半濁音を合すれば七十五音である。これは声音研究者の熟知する所である。拗音、促音、鼻音等を合併すれば更に多数に上るが、要するに皆七十五音の変形で、あらゆる音声、あらゆる言語は根本の七十五声音の運用と結合との結果に外ならぬ。されば宇宙の森羅万象一切は是等無量無辺の音声即ち言霊の活用の結果と見て差支ない。これは人間の上に照して見ても其通りである事がよく分る。人間の心の活用のある限り、之を表現する言霊がある。『進め』と思ふ瞬間には其言霊は吾人の身体の中府から湧き、『退け』と思ふ瞬間にも、『寝よう』と思ふ瞬間にも、『行らう』と思ふ瞬間にも、其他如何なる場合にも、常に其言霊は吾人の中心から湧出する。即ち人間の一挙一動悉く言霊の力で左右されるというても宜しい。従つて言霊の活用の清純で、豊富な人程其の使命天職も高潔偉大でなければならぬ。 △八百万の神等八百のヤは人、ホは選良の義、万は沢山、多数の義である。 △神集へに云々神の集会で神廷会議を催すことである。 △我皇御孫之命五十音の中でアは天系に属し、ワは地系に属す。故に至上人に冠する時に我はワガと言はずしてアガといふ也。皇(スメ)は澄し治め、一切を見通す事、御(ミ)は充つる、円満具足の義、孫(マ)はマコトの子、直系を受けたる至貴の玉体。命は体異体別の義、即ち独立せる人格の義にして、前に出でたる命(神言)から発足せる第二義である。全体は単に『御子』といふ事である。元来霊も体も其根本に溯れば、皆祖神の賜、天地の賜である。故に皇典では常に敬称を附するを以て礼となし、人間に自他の区別は設けられてないのである。 △豊葦原の水穂国全世界即ち五大洲の事である。之を極東の或国の事とせるが従来の学者の謬見であつた。日本を指す時には、豊葦原の中津国、又は根別国などと立派に古事記にも区別して書いてある。 △所知食は衣食住の業を安全に示し教ふる事を云ふ。地球は祖神の御体であるから、人間としては土地の領有権は絶対に無い。例へば人体の表面に寄生する極微生物に人体占領の権能がないのと同様である。人間は神様から土地を預り、神様に代りて之を公平無私に使用する迄である。うしはぐ(領有)ものは天地の神で主治者は飽迄知ろしめすであらねばならぬ。国土の占領地所の独占等は、根本から天則違反行為である。神政成就の暁には独占は無くなつて了ふ。 (大意)全大宇宙間には陰陽二系の御神霊が実相充塞しそれは即ち一切万有の父であり又母である。陰陽二神の神秘的産霊の結果は先づ一切の原動力とも云ふべき言霊の発生となつた。所謂八百万の天津神の御出現であり、御完成である。天界主宰の大神は云ふまでもなく天照皇大神様であらせらるるが、其次ぎに起る問題は地の世界の統治権の確定である。是に於て神廷会議の開催となり其結果は天照大神様の御霊統を受けさせられた御方が全世界の救治に当らるる事に確定し、治国平天下の大道を執行監督さるべき天の使命を帯びさせらるる事になつたのである。無論人間の肉体は世に生死往来するを免れないが、其霊魂は昔も今も変ることなく千万世に亘りて無限の寿を保ちて活動さるるのである。 (三) かく依さし奉りし国中に荒振神等をば、神問はしに問はし玉ひ、神掃ひに掃ひ給ひて、語問ひし磐根樹根立草の片葉をも語止めて、天之磐座放ち、天之八重雲を伊頭の千別に千別て、天降し依さし奉りき。 △荒振神天界の御命令にまつろはぬ神、反抗神の意である。 △神問はしに云々神の御会議。罪あるものは神に向ひて百万遍祝詞を奏上すればとて、叩頭を続くればとてそれで何の効能があるのではない。況ンや身欲信心に至つては、言語道断である。神様に御厄介を懸けるばかり、碌な仕事もせぬ癖に、いざ大審判の開始されむとする今日、綾部を避難地でもあるが如くに考ふるやうな穿き違ひの偽信仰は、それ自身に於て大罪悪である。神は先づ其様な手合から問はせらるるに相違ない。 △神掃ひに云々掃ひ清むること、神諭の所謂大掃除大洗濯である。 △語問し諸々の罪の糾弾である。 △磐根樹立草の枕詞、即ち磐の根に立てる樹木の、その又根に立てる草の義。 △草の片葉草は青人草、人のこと、又片葉は下賤の人草の意である。 △語止めて議論なしに改悟せしむるの意である。 △天之磐座放ち磐座は高御座也、いはもくらも共に巌石の義。放ちは離ち也。古事記には、『離天之石位』とあり。 △八重雲弥が上にも重なりたる雲。 △伊頭の千別に云々伊頭は稜威也。即ち鋭き勢を以て道を別けに別けの義。 △天降し依さし奉りき『天降し……の件を依さし奉りき』の義にて中間に神秘あり。天降しは天孫をして降臨せしむる事、換言すれば天祖の御分霊を地に降し、八百万の国津神達の主宰として神胤が御発生ある事である。 (大意)既に地の神界の統治者は確定したが、何しろ宇宙の間は尚未製品時代に属するので、自由行動を執り、割拠争奪を事とする兇徒界が多い。これは最も露骨に大本開祖の御神諭に示されて居る所で、決して過去の事のみではない。小規模の救世主降臨は過去にあつたが、大規模の真の救世主降臨は現在である。『七王も八王も王が世界にあれば、此世に口舌が絶えぬから、神の王で治める経綸が致してあるぞよ』とあるなどは即ち之を喝破されたものである。其結果是等悪鬼邪神の大審判、大掃除、大洗濯が開始され所謂世の大立替の大渦中に突入する。さうなると批評も議論も疑義も反抗も全部中止となり稜威赫々として宇内を統治し玉ふ神の御子の世となるのである。 (四) 如此依さし奉りし四方の国中と大日本日高見之国を安国と定め奉りて、下津磐根に宮柱太敷立、高天原に千木多加知りて、皇御孫命の美頭の御舎仕へ奉りて、天の御蔭日の御蔭と隠り坐して、安国と平けく所知食む国中に成出でむ天の益人等が過ち犯しけむ雑々の罪事は。 △四方の国中宇宙の大中心。 △大日本日高見之国四方真秀、天津日の隈なく照り亘る国土を称へていふ。但宇宙の大修祓が済んでから初めて理想的になるのである。 △下津磐根地質が一大磐石の地で即ち神明の降臨ある霊域を指す。 『福知山、舞鶴は外囲ひ、十里四方は宮の内』とあるも亦下津磐根である。 △宮柱太敷立宮居の柱を立派に建てる事。 △千木多加知屋根の千木を虚空(高天原)に高く敷きの義。千木は垂木也。タリを約めてチといふ。 △美頭麗しき瑞々しき意。 △仕へ奉り御造営の義。 △天の御蔭云々天津神の御蔭、日の大神様の御蔭と自分の徳を隠したまふ義。神政成就、神人合一の時代に於ては人は悉く神の容器である。世界統一を実行すとて、其功績は之は天地の御恩に帰し奉るが道の真随で、忠孝仁義の大道は根源をここから発する。坐ながらにして其御威徳は宇内に光被し、世は自然と平けく安らけく治まるのである。 △天の益人天は敬称である。益人は世界の全人類を指す。マスラヲといふ時は男子のみを指す。マは完全、スは統治の義。又ヒは霊、トは留まる義。 △罪事ツミは積み也、又包み也。金銭、財宝、糧食等を山積私有するは個人本位、利己本位の行為で、天則に背反して居る。又物品を包み隠したり、邪心を包蔵したり、利用厚生の道の開発を怠つたりする事も堕落腐敗の源泉である。かく罪の語源から調べてかかれば罪の一語に含まるる範囲のいかに広いかが分る。法律臭い思想では其真意義はとても解し難い。 (大意)天祖の御依託によりて救世主が御降臨遊ばさるるに就きては、宇宙の中心、世界の中心たる国土を以て宇内経綸、世界統一の中府と定め給ひ、天地創造の際から特別製に造り上げてある神定の霊域に、崇厳無比の神殿を御造営遊ばされ、惟神の大道によりて天下を知ろしめされる事になる。神諭の所謂『神国の行ひを世界へ手本に出して万古末代動かぬ神の世で三千世界の陸地の上を守護』さるるのである。それに就きては直接天津神の手足となり、股肱となりて活動せねばならぬ責任が重い。いかなる事を為ねばならぬか、又如何なる事を為てはならぬか、明確なる観念を所有せねばならぬ。次節に列挙せらるる雑々の罪事といふのは悉く人として日夕服膺せねばならぬ重要事項のみである。 (五) 天津罪とは、畔放ち溝埋め、樋放ち頻蒔き串差し、生剥逆剥尿戸許々太久の罪を、天津罪と詔別けて、国津罪とは、生膚断、死膚断、白人胡久美、己が母犯せる罪、己が子犯せる罪、母と子と犯せる罪、子と母と犯せる罪、畜犯せる罪、昆虫の災、高津神の災、高津鳥の災、畜殪し蠱物せる罪、許々太久の罪出む。 △天津罪天然自然に賦与せられたる水力、火力、電磁力、地物、砿物、山物、動植物等の利用開発を怠る罪をいふ。前にも言へる如く、所謂積んで置く罪、包んで置く罪也。宝の持腐れをやる罪也。従来は文明だの進歩だのと云つた所が、全然穿き違の文明進歩で一ツ調子が狂へば忽ち饑餓に苦しむやうなやり方、現在世界各国の四苦八苦の有様を見ても、人間が如何に天津罪を犯して居るかが解る。神諭に『結構な田地に木苗を植たり、色々の花の苗を作りたり、大切な土地を要らぬ事に使ふたり致し人民の肝腎の生命の親の米、豆、粟を何とも思はず、米や豆や麦は何程でも外国から買へると申して居るが、何時までもさう行かぬ事があるから猫の居る場にも五穀を植付けねばならぬやうになりて来るぞよ。皆物質本位の教であるから、神の国には神国の世の行方に致さして、モーぼつぼつと木苗も掘り起させるぞよ』とあるなどは実に痛切骨に徹する御訓戒である。現在の神国人とても欧米人と同じく決して天津罪人の数には漏れぬ人間ばかりである。採鉱事業などになると今の人間は余程進歩して居る所存で居るが、試掘と分析位で地底に埋没せる金銀宝玉等が出るものではない。之に比べると、幾分霊覚を加味した佐藤信淵[※佐藤信淵は江戸後期の思想家、医師。]の金気観測法などの方が何れ丈か進歩して居る。神霊の御命令と御指示がなくんば、金銀其他は決して出ない。大本神諭に『五六七大神の御出ましにお成なさるるにつき、国常立尊が現はれるなり、国常立尊が現はれると、乙姫殿は次ぎに結構な大望な御用が出来て乙姫殿の御宝を上げて新規の金銀を綾部の大本に………。二度目の立替を致して、何も新規に成るのであるから、乙姫殿の御財宝を綾部の大本へ持運びて、新規の金銀を吹く準備を致さな成らぬから云々』とあるなどは時節到来と共に実現して、物質万能機械一点張りの連中を瞠若たらしむ事柄なのである。又現在人士は電力、火力、水力、其他の利用にかけて余程発達進歩を遂げた心算で居るが、一歩高所から達観すると、利用どころか悪用ばかり間接又は直接に人類の破滅、天然の破壊に使用されぬものが幾何かある。是等の点にかけて現在の人士は、所謂知識階級、学者階級ほど血迷ひ切つて居る、天津罪の犯罪者である。 △畔放ち天然力、自然力の開発利用の事。畔(ア)は当字にてアメを約めたもの也。田の畔を開つなどは単に表面の字義に囚はれたる卑近の解釈である。 △溝埋め水力の利用を指す。埋めには補足の義と生育の義とを包む。湯に水をうめる、根を土中にうめる、種子を地にうめる、孔をうめる、鶏が卵をうむなど参考すべし。 △樋放ち樋は火也。電気、磁気、蒸気、光力等天然の火力の開発利用を指す。 △頻蒔き山の奥までも耕作し不毛の地所などを作らぬ事。頻(シキ)は、敷地のシキ也、地所也。蒔きは捲き也、捲き収める也、席巻也、遊ばせて置かぬ也、遊猟地や、クリケツト、グラウンドなどに広大なる地所を遊ばせて、貴族風を吹かせて、傲然たりし某国の現状は果して如何。彼等が世界の土地を横領せる事の大なりし丈、彼等が頻蒔の天則を無視せる罪悪も蓋し世界随一であらう。併し其覚醒の時もモー接近した、これではならぬと衷心から覚る時はモー目前にある。イヤ半分はモー其時期が到着して居る。併しこれは程度の差違丈で、其罪は各国とも皆犯して居る。 △串差しカクシサガシの約にて、前人未発の秘奥を発見する事。 △生剥ぎ一般の生物の天職を開発利用する事。生物といふ生物は悉く相当の本務のあるもので、軽重大小の差異こそあれそれぞれ役目がある。鼠でも天井に棲みて人間に害を与ふる恙虫などを殺すので、絶対的有害無効の動物ではない。剥ぎは開く義、発揮せしむる義也。蚕をはぐなどの語を参考すべし。 △逆剥逆(サカ)は、栄えのサカ也。酒なども此栄えの意義から発生した語である。剥(ハギ)は生剥の剥と同じく開発の義。即ち全体の義は栄え開く事で、廃物をも利用し荒蕪の地を開墾し、豊満美麗の楽天地を現出せしむる事を指す。 △尿戸宇宙一切を整頓し、開発する義。クは組織経綸、ソは揃へる事、整頓する事、へは開発する事。 △許々太久其他種々雑多の義。 △天津罪と詔別て以上列挙せる天然力、自然物の利用開発を怠る事を、天津罪と教へ給ふ義也。 △国津罪天賦の国の徳、人の徳を傷つくる罪を指す。 △生膚断天賦の徳性を保ち居る活物の皮膚を切ること也。必要も無きに動物を害傷し、竹木を濫伐する事等は矢張罪悪である。霊気充満せる肉体に外科手術を施さずとも、立派に治癒する天賦の性能を有して居る。人工的に切断したり切開したりするのは天則違反で、徒に人体毀損の罪を積ぬる訳になる。 △死膚断刃物を以て生物一切を殺す罪。 △白人胡久美白昼姦淫の事。白日床組といふ醜穢文字を避け、態と当字を用ひたのである。淫欲は獣肉嗜好人種に随伴せる特徴で、支那、欧米の人士は概して此方面の弊害が多い。日本人も明治に入つてから大分其影響を受けて居るが、元来は此点に於ては世界中で最も淡白な人種である。淫欲の結果は肺病となり、又癩病となる故に白人胡久美を第二義に解釈すれば白人は肺病患者、又は白癩疾者を指し、胡久美は黒癩疾者を指す。 △己が母犯せる罪母の一字は、父、祖先、祖神等をも包含し、極めて広義を有するのである。大体に於て親といふ如し。犯すとは其本来の権能を無視する義也。換言すれば親、祖先、祖神に対して不孝の罪を重ぬる事である。 △己が子犯せる罪自己の子孫の権能を無視し、非道の虐待酷使を敢てする事。元来自分の子も、実は神からの預かり物で、人間が勝手に之を取扱ふ事は出来ない。それに矢鱈に親風を吹かせ、娘や伜などを自己の食ひ物にして顧みぬなどは甚だしき罪悪といふべきである。 △母と子と犯せる罪、子と母と云々上の二句『己が母犯せる罪、己が子犯せる罪』を更に畳句として繰返せる迄で別に意義はない。 △畜犯せる罪獣類の天賦の徳性を無視し、酷待したり、殺生したりする事。 △昆虫の災天則違反の罪をいふ。蝮、ムカデなどに刺されるのは皆偶然にあらず、犯せる罪があるにより天罰として刺されるのである。故にかかる場合には直に反省し、悔悟し、謹慎して、神様にお詫を申し上ぐべきである。 △高津神の災天災、地変、気候、風力等の不順は皆これ高津神の業にして罪過の甚い所に起るのである。災は業はひ也、所為也。鬼神から主観的に観れば一の所為であるが、人間から客観的に観れば災難である。今度の国祖の大立替に、雨の神、風の神、岩の神、荒の神、地震の神、其他八百万の眷属を使はるるのも祝詞の所謂高津神の災である。皆世界の守護神、人民の堕落が招ける神罰である。 △高津鳥の災鳥が穀物を荒す事などを指すので矢張り神罰である。 △畜殪し他家の牛馬鶏豚等を斃死せしむる事。一種のマジナヒ也。 △蠱物呪咀也、マジナヒ物也。丑の時参りだの、生木に釘を打つだのは皆罪悪である。 (大意)人間は神の容器として宇内経綸の天職がある。殊に日本人の使命は重大を極め世界の安否、時運の興廃、悉く其責任は日本人に係るのである。神諭に『日本は神の初発に修理へた国、元の祖国であるから、世界中を守護する役目であるぞよ。日本神国の人民なら、チトは神の心も推量致して、身魂を磨いて世界の御用に立ちて下されよ』とある通り、天賦の霊魂を磨き、天下独特の霊智霊覚によりて、天然造化力の利用開発に努めると同時に、他方に於ては天賦の国の徳、人の徳を発揮することに努め、そして立派な模範を世界中に示さねばならぬのである。然るに実際は大に之に反し、徒に物質文明の糟粕を嘗め、罪の上に罪を重ねて現在見るが如き世界の大擾乱となつて来た。無論日本人は此責任を免るる事は出来ない。併しこれは天地創造の際からの約束で、進化の道程として、蓋し免れ難き事柄には相違ない。されば此祝詞の中に『許々太久の罪出む』とあり、又国祖の神諭にも『斯うなるのは世の元から分つて居る』と仰せられて居る。要するに過去の事は今更悔むには及ばぬ。吾々は現在及び将来に向つて、いかなる態度を執り、いかなる処置を講ずれば宜いかを考究すべきである。次節に其要道を示されて居る。 (六) 如此出でば、天津宮言以て、天津金木を本打切末打断て、千座の置座に置足はして、天津菅曾を本苅絶末苅切て、八針に取裂きて天津祝詞の太祝詞言を宣れ、如此宣らば、天津神は天の磐戸を推披来て、天の八重雲を伊頭の千別に千別て所聞召む。国津神は高山の末短山の末に登り坐て、高山の伊保理短山の伊保理を掻分けて所聞召む。 △天津宮言宮言は『ミヤビノコトバ』の義也。正しき言霊也。宇宙の経綸は言霊の力によりて行はるる事は、前にも述べた。我天孫民族は世界の経綸を行ひ、天下を太平に治むべき、重大なる使命を帯びて居る。然るに現在は肝腎の日本人が、霊主体従の天則を誤り天津罪、国津罪、数々の罪を重ねて、其結果世界の大擾乱を来して居る。之を修祓し、整理するの途は、言霊を正し、大宇宙と同化するが根本である。換言すれば、肚の内部から芥塵を一掃し、心身共に浄化して、常に善言美詞のみを発するやうにせねばならぬ。悪声を放ち蔭口をきき又は追従軽薄を並べるやうな人間はそれ丈で其人格の下劣邪悪な事が分る。世界の経綸どころか人として次ぎの新理想時代に生存すべき資格の有無さへ疑問である。日夕祝詞を奏上しても、斯んな肝要至極の点が、さつぱり実行が出来ぬでは仕方がない。お互に反省の上にも反省を加へねばならぬ事と思ふ。 △天津金木則神算木也。周易の算木に相当するものであるが、より以上に神聖で正確である。本来は長さ二尺の四寸角の檜材なのであるが、運用の便宜上、長さ二寸の四分角に縮製さる。其数三十二本を並べて、十六結を作製し、其象を観て、天地の経綸、人道政事一切の得失興廃等を察するのである。それは宇内統治の主が大事に際して運用すべきもので、普通人民が矢鱈に吉凶禍福などを卜するに使用すべきものではない。無意無心の器物を用ゐて神勅を受くるのであるから、ややもすれば肉体心の加味し勝ちな普通の神憑りよりも、一倍正確な事は云ふ迄もない。 △本打切末打断神算木を直方形に作製する仕方を述べたまでである。 △千座の置座云々無数の神算木台に後からズンズン置き並べる事。 △天津菅曾周易の筮竹に相当するが其数は七十五本である。これは七十五声を代表するのである。長さは一尺乃至一尺二寸、菅曾は俗称『ミソハギ』と称する灌木、茎細長にして三四尺に達す。之を本と末とを切り揃へて使用する也。 △八針に取裂て天津菅曾の運用法は先づ総数七十五本を二分し、それから八本づつ取り減らし其残数によりて神算木を配列するのである。 △天津祝詞の太祝詞即ち御禊祓の祝詞の事で、正式に奏上する場合には爰で天津祝詞を奏上するのである。大体に於て述べると、あの祝詞は天地間一切の大修祓を、天神地祇に向つて命ぜらるる重大な祝詞である。太(フト)は美称で、繰返して、天津祝詞を称へた迄である。 △宣れ神に向つて願事を奏上するの義也。 △天の磐戸天津神のまします宮門から御出動の義にて、人格的に写し出せるのである。 △伊頭の千別き云々前に出たから略す。 △国津神地の神界に属する神々、及び霊魂の神を以て成立し、各自の霊的階級に応じて大小高下、それぞれの分担権限を有す。 △高山の末云々末は頂上の義。 △伊保理隠棲也、隠れたる也。伊保理の伊保も、いぶかしのいぶも、烟などのいぶるも、皆通音で同意義である。 (大意)天津罪、国津罪の続発は悲しむべき不祥事ではあるが、出来た上は致方がない。よく治乱興廃、得失存亡の理を明かにし、そして整理修祓の法を講ぜねばならぬ。世界主宰の大君としては、天津金木を運用して宇内の現勢を察知し、そして正しき言霊を活用して天津祝詞を天津神と国津神とに宣り伝へて、其活動を促すべきである。これが根本の祭事であると同時に、又根本の政事であつて、祭と政とは決して別途に出るものではない。さうすると、天津神も国津神もよく之に応じて威力を発揮せられる。神諭の所謂『罪穢の甚い所には、それぞれの懲罰がある』又は『地震、雷、火の雨降らして体主霊従をつぶす』といふやうな神力の発動ともなるのである。 (七) 如此所聞食ては、罪といふ罪は不在と、科戸の風の天の八重雲を吹放つ事の如く、朝の御霧夕の御霧を、朝風夕風の吹掃ふ事の如く、大津辺に居大船を、舳解放ち艫解放ちて大海原に押放つ事の如く、彼方の繁木が本を、焼鎌の敏鎌以て打掃ふ事の如く、遺る罪は不在と、祓賜ひ清め玉ふ事を。 △かく所食てはきこしめすの意義は、単に耳に聴くといふよりも遥に広く深い。きくは利く也。腕が利く、鼻がきく、眼がきく、酒をきく、(酒の品位を飲み分けること)などのきくにて一般に活用を発揮し、威力を利用する義である。天津神、国津神達が整理修祓の命に応じて活動を開始する事を指していふ。 △罪といふ罪は不在と罪といふ限りの罪は一つも残さずの意。 △科戸の風の云々以下四聯句は修祓の形容で、要するに『遺る罪は不在と祓賜ひ清め賜ふ』事を麗しき文字で比喩的に描いたものである。科戸は風の枕詞、古事記に此神の名は志那都比古と出て居る。シは暴風(アラシ)のシと同じく風の事である。ナはノに同じく、トは処の義。 △朝の御霧云々御霧は深き霧の義。 △朝風夕風云々朝風は前の『朝の御霧』に掛り、夕風は『夕の御霧』に掛る。 △大津辺に居る云々地球に於て、肉体を具備されたる神の御出生ありしは、琵琶湖の竹生島からは、多紀理毘売命、市寸島比売命、狭依毘売命の三姫神、又蒲生からは天之菩卑能命、天津彦根命、天之忍穂耳命、活津日子根命、熊野久須毘命の五彦神が御出生に成つた。これが世界に於ける人類の始祖である。かく琵琶湖は神代史と密接の関係あるが故に、沿岸附近の地名が大祓祝詞中に数箇所出て居る。大津の地名も斯くして読み込まれたものである。 △舳解放云々泊居る時に舳艪を繋いで置くが、それを解き放つ意。 △大海原海洋也。 △繁木が下繁茂せる木の下。 △焼鎌の敏鎌焼鎌とは、鎌で焼きて造る故にいふ。敏鎌は利き鎌の義。 △遺る罪は不在と前に『罪といふ罪は不在』とあるのに、更に重ねてかく述ぶるは、徹底的に大修祓を行ふ事を力強く言ひなしたのであらう。 (大意)八百万の天津神と国津神との御活動開始となると、罪といふ罪、穢といふ穢は一つも残らず根本から一掃されて仕舞ふ。大は宇宙の修祓、国土の修祓から、小は一身一家の修祓に至るまで、神力の御発動が無ければ、到底出来るものではない。殊に現代の如く堕落し切つた世の中が、何うしても姑息的人為的の処分位で埒が附くものでない。清潔法執行の声は高くても、益々疾病は流行蔓延し、社会改良の工夫は種々に凝らされても、動揺不穏の空気はいよいよ瀰蔓するではないか。艮之金神国常立尊が御出動に相成り、世の立替立直しを断行さるるのも誠に万止むを得ざる話である。されば大祓祝詞は、無論何れの時代を通じても必要で、神人一致、罪と穢の累積を祓清むる様に努力せねばならぬのだが、殊に現在に於ては、それが痛切に必要である。自己の身体からも、家庭からも、国土からも、更に進んで全地球、全宇宙から一時も迅速に邪気妖気を掃蕩してうれしうれしの神代に為ねば、神に対して実に相済まぬ儀ではないか。 大修祓に際して、神の御活動は大別して四方面に分れる。所謂祓戸四柱の神々の御働きである。祓戸の神といふ修祓専門の神様が別に存在するのではない、正神界の神々が修祓を行ふ時には、此四方面に分れて御活動ある事を指すのである。以下末段迄は各方面の御分担を明記してある。 (八) 高山の末短山の末より、作久那太理に落、多岐つ速川の瀬に坐す瀬織津比売と云ふ神、大海原に持出なむ、如此持出往ば、荒塩の塩の八百道の八塩道の塩の八百会に坐す速秋津比売といふ神、持可々呑てむ。如此可々呑ては、気吹戸に坐す気吹戸主といふ神、根の国底の国に気吹放ちてむ。如此気吹放ちては、根の国底の国に坐す速佐須良比売といふ神、持佐須良比失ひてむ。如此失ひては、現身の身にも心にも罪と云ふ罪は不在と、祓給へ、清め給へと申す事を所聞食と恐み恐みも白す。 △高山の末云々高き山の頂、低き山の頂からの義。 △作久那太理に佐久は谷也、峡也。那太理はなだれ落つる義、山から水が急転直下し来る事の形容。 △落多岐つ逆巻き、湧き上りつつ落つる事。滝(タキ)、沸(タギル)等皆同一語源から出づ。 △速川急流也。 △瀬織津比売云々古事記の伊邪那岐命御禊の段に、『於是詔之上瀬者瀬速。下瀬者瀬弱而。初於中瀬降迦豆伎而。滌時。所成坐神名八十禍津日神、次大禍津日神。此二神者所到其穢繁国之時因汚垢而。所成之神者也』[※この漢文は御校正本ではフリガナはなく、返り点が付いている。霊界物語ネットでは戦後の版を参考にしてフリガナをつけた。また返り点は削除した。]と出て居るが、瀬織津の織は借字にて瀬下津の義、即ち於中瀬降迦豆伎たまふとある意の御名である。此神は即ち禍津日神である。世人は大概禍津日神と禍津神とを混同して居るが、実は大変な間違である。禍津神は邪神であるが、禍津日神は正神界の刑罰係である。現界で言へば判検事、警察官、又は軍人なぞの部類に属す。罪穢が発生した場合には、常に此修祓係、刑罰係たる禍津日神の活動を必要とする。修祓には大中小の区別がある。大は天上地上の潔斎、中は人道政事の潔斎、小は一身一家の潔斎である。若し地球に瀬織津比売の働きが無くんば、万の汚穢は地上に堆積して新陳代謝の働きが閉塞する。所が地の水分が間断なく蒸発して、それが雲となり、雨となり、其結果谷々の小川の水が流れ出て末は一つに成りて大海原に持出して呉れるから、天然自然に地の清潔が保たれるのである。現在は地の表面が極度に腐敗し切り、汚染し切り、邪霊小人時を得顔に跋扈して居る。神諭に『今の世界は服装ばかり立派に飾りて上から見れば結構な人民で、神も叶はぬやうに見えるなれど誠の神の眼から見れば、全部四つ足の守護に成りて居るから、頭に角が生えたり、尻に尾が出来たり、無暗に鼻計り高い化物の覇張る、闇雲の世に成りて居るぞよ』『余り穢うて眼を開けて見られぬぞよ』『能うも爰まで汚したものぢや。足片足踏み込む所もない』等と戒められて居る通りである。此際是非とも必要なるは、世界の大洗濯、大清潔法の施行であらねばならぬ。爰に於てか先づ瀬織津姫の大活動と成りて現はれる。七十五日も降りつづく大猛雨なぞは此神の分担に属する。到底お手柔な事では現世界の大汚穢の洗濯は出来さうも無いやうだ。神諭にも『罪穢の甚大い所には何があるやら知れぬぞよ』と繰返し繰返し警告されて居る。世界の表面を見れば、そろそろ瀬織津比売の御活動は始まりつつあるやうだ。足下に始まらなくては気が附かぬやうでは困つたものだ。 △荒塩の塩の八百道の云々全体は荒き潮の弥が上に数多寄り合ふ所の義。八は弥の意、八百道は多くの潮道の事、八塩道は上の塩の八百道を受け重ねていへる丈である。八百会は沢山の塩道の集まり合ふ所。 △速秋津比売古事記に『水戸神、名速秋津日子神。次妹秋津比売命』とあるが如く河海の要所を受持ちて働く神也。 △持可々呑てむ声立ててガブガブ呑むの義也。汚れたる世界の表面を洗滌する為には既に瀬織津比売の働きが起りて大雨などが降りしきるが、河海の水門々々に本拠を有する秋津比売が、次ぎに相呼応して活動を開始する。大洪水、大海嘯、大怒濤、此神にガブ呑みされては田園も山野も、町村も耐つたものではない。所謂桑田変じて碧海と成るのである。 △気吹戸近江の伊吹山は気象学上極めて重要な場所である。伊吹は息を吹く所の義で、地球上に伊吹戸は無数あるが、伊吹戸中の伊吹戸とも云ふべきは近江の伊吹山である。最近伊吹山に気象観測所が公設されたのは、新聞紙の伝ふる所であるが、大本では十年も二十年も以前から予知の事実である。 △気吹戸主大雨、洪水、海嘯等の活動に続いては、気象上の大活動が伴うて妖気邪気の掃蕩を行はねばならぬ。元寇の役に吹き起つた神風の如きも、無論この伊吹戸主の神の御活動の一端である。 △根の国底の国地球表面に於ては北極である。神諭に『今迄は世の元の神を、北へ北へ押籠めて置いて、北を悪いと世界の人民が申て居りたが、北は根の根、元の国であるから、北が一番善く成るぞよ………。人民は北が光ると申して不思議がりて、いろいろと学や智慧で考へて居りたが、誠の神が一処に集りて、神力の光を現はして居る事を知らなんだぞよ』とあるが、真に人間の智慧や学問では解釈の出来ない神秘は北に隠されて居る。北光、磁力は申すに及ばず、気流や、気象なども北極とは密接の関係がある。即ち地球の罪穢邪気は、悉く一旦北極に吹き放たれ、爰で遠大なる神力により処分されるのである。序に一言して置くが、罪を犯した者が根の国、底の国に落ちるのは、詰まり神罰で、これも一つの修祓法執行の意義である。別に根の国底の国といふ地獄めきたる国土が存在するのではない。何処に居ても神罰執行中は其処が根の国底の国である。 △速佐須良比売佐須良は摩擦(サスル)也、揉むこと也、空にありては雷、地にありては地震、皆これ佐須良比売の活動である。要するに全世界の大修祓法は、大雨で流し、洪水海嘯等で掃ひ、大風で吹き飛ばし、最後に地震雷で揺つて揺つて揺り滅すのである。それが即ち神諭の世界の大洗濯、大掃除、第二次の大立替である。『天の大神様がいよいよ諸国の神に、命令を降しなされたら、艮金神国常立尊が総大将となりて雨の神、風の神、岩の神、荒の神、地震の神、八百万の眷族を使ふと一旦は激しい』とあるのは、祓戸四柱の神々の活動を指すのである。詳しく言へば雨、荒、風、地震の神々がそれぞれ瀬織津比売、秋津比売、気吹戸主、佐須良比売の神々の働きをされるので、岩の神が統治の位置に立つのである。学問の末に囚はれた現代人士は、是等の自然力を科学の領分内に入れて解釈しようと試みて居るがそれは駄目だ。実は皆一定の規律と方針の下に行はるる所の神力の大発動である。その事は、今年よりは来年、来年よりは来々年といふ具合に、段々世界の人士が承服する事に成るであらう。 △所聞食と八百万の神達に宣り上ぐる言葉である。神々に向つて活動開始、威力発揮を祈願する言葉である。即ち天地の神々様も、此宣詞をしつかり腹に入れ、四方面に分れて、大修祓の為に活力を発揮し玉へと云ふ事である。我惟神の大道がいかに拝み信心、縋り信心と天地の相違あるかは、此辺の呼吸を観ても分るであらう。末段祓戸四柱神の解釈説明を下すに当り、自分は全体の統一を慮り、又大本神諭との一致を失はぬやう、主として地球全体世界全体経綸の見地から筆を下した。併しこれは、より大きくも、又より小さくも解釈が出来る事は前にも述べた通りである。宇宙の神人、万有一切の事は皆同一理法に支配せられ、宇宙に真なる事は地球にも真、地球に真なる事は一身一家にも又真である。参考の為めに爰に簡単に他の一二の解釈法を附記して置かう。個人潔斎の上から述べると瀬織津比売の働きは行水、沐浴等の事、秋津比売は合嗽の事、伊吹戸主は深呼吸などの事、佐須良比売は冷水摩擦、按摩等の事である。人身生理の上から述べると、瀬織津比売は口中にて食物咀嚼の機能、秋津比売は食道から胃腸に食物を運ぶ機能、気吹戸主は咀嚼して出た乳汁を肺臓に持ち出す機能、佐須良比売は肺臓にて空気に触れ、それから心臓に帰り、そして全身へ脈管で分布せらるる機能を指すのである。かくの如く大祓祝詞は大小に拘はらず、ありとあらゆる有機組織全部に必要なる新陳代謝の自然法を述べたものである。 (大意)さて地球の表面の清潔法施行のためには、先づ大小の河川を司どる瀬織津姫が御出動になり、いよいよとなれば、大雨を降らして苛くも汚れたものは家庫たると、人畜たるの区別なく大海へ一掃して了ふ。之に応じて速秋津姫の活動が起り、必要あれば逆に陸地までも押し寄せ、あらゆる物を鵜呑みにする。邪気妖気掃除の目的には気吹戸主神が控へて居り、最後の大仕上げには佐須良姫が待ち構へて、揉みに揉み砕き、揺りに揺り潰す。これでは如何に山積せる罪穢も此の世から一掃されて品切れになる。従来は大祓の祝詞は世に存在しても其意義すら分らず、従つて其実行が少しも出来て居なかつた。其大実行着手が国祖国常立尊の御出動である。神国人の責務は重いが上にも重い。天地の神々の御奮発と御加勢とを以て首尾克く此大経綸の衝に当り神業に奉仕するといふのが、これが大祓奏上者の覚悟であらねばならぬ。(完)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 08 使者 第八章使者〔一〇九二〕 ケーリス、タークス両人は照国別の命令を 喜び勇み守りつつ栗毛の駒に跨りて クルスの森を駆け出し一目散に大野原 吹き来る風に頭髪を梳りつつ驀地 谷を飛び越え山渉り秋野にすだく虫の声 いと悲しげに聞ゆなる荒野ケ原を辿りつつ 勢ひ込んで村肝の心も勇み魂も 清春山の岩窟に進み行くこそ健気なれ 清春山の麓にて駒を乗りすて両人は 崎嶇たる坂を登りつつ三五教の宣伝歌 歌ひ歌ひて進み行く。 ケーリス、タークス両人は清春山の山麓に駒をつなぎ、烈しき山颪に当りながらエイヤエイヤと一歩々々力をこめて登るのであつた。ケーリスは道々歌ふ。 ケーリス『神が表に現はれて善神邪神を立分ける 人は神の子神の宮とはいひながら人の身の いかでか神を審きえむ三五教の神司 神素盞嗚大神は仁慈無限の御聖徳 五六七の神と現れましぬバラモン教を統べ給ふ 大黒主の神司尊き神と聞ゆれど 其源をたづぬれば常世の国に生れませる 常世神王自在天大国彦の御裔なる 大国別の神司開き給ひし御教 此正統は貴の御子国別彦が現はれて バラモン教を守りまし統べさせ給ふ道なるに 鬼雲彦が現はれて国別彦を放逐し 自ら教主となりすまし大黒主と名を変へて 月の都に威勢よく現はれ来りし曲津神 善と悪とは明かにこれにて思ひ知られけり ウラルの教を奉じたるウラルの彦も源を 詳しくたづね調ぶれば此世を開き給ひたる 塩長彦の神柱盤古神王の正系を 疎外しながら傲然と八王大神の御裔なる ウラルの彦やウラル姫その正系と詐りて 枉の教を遠近に拓いて此世を乱し行く 其やり方の物凄さあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして三五教やウラル教 バラモン教の障壁を一時も早く撤回し 天地を造り固めたる国治立大神の 一つの教に服ひて神の御為め世の為めに 世界揃うて一日も早く誠を尽すべく 守らせ玉へ三五の尊き神の御前に ケーリス、タークス両人が慎み敬ひ願ぎまつる 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも誠一つの三五の 教を守る事ならば如何なる事か成らざらむ 如何なる枉も恐れむや神は吾等と倶にあり 人は神の子、神の宮これの尊き御諭は 三五教の御教バラモン教に比ぶれば 天地霄壌の違ひあり月日は空に明かに 輝き渡り吾々が頭を照らし給ひつつ 心にかかる村雲を神の息吹に払ひ除け 清く照らさせ給ひけり此世を造りし神直日 心も広き大直日只何事も人の世は 直日に見直せ聞き直せ身の過ちは宣り直せ かく明けき御教を守り給へる神司 照国別は吾々の百の罪をば赦しまし 生命を助け労りてまだホヤホヤの信徒をば 少しも疑ひ給はずにかくも尊き御使を 任さし給ひし有難さ心は海の如くなり 魂は空の如くなりあゝ惟神々々 神の守りの深くして今まで迷ひしバラモンの 胸は全く覚め来り至仁至愛の大神の 教に仕ふる嬉しさよあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひながら清春山の峻坂を登りつつあつた。最早山の三合目迄登りついた。これより坂は益々険しく道悪しく容易に登る事は出来ない難路である。タークスは一歩々々指先に力を入れながら、息を喘ませ登りつつ拍子をとつて歌ひ出した。 タークス『ウントコドツコイ、ハアハアハアフウフウフウフウ息苦し 断崕絶壁きつい道こんな処で倒けたなら 体は忽ち千仭の谷間にドツコイ転落し 頭はめしやげ腕は折れ手足も五体もグタグタに なつて猛獣のウントコシヨうまい餌食になるだらう ウントコドツコイ、ハアハアハアコリヤコリヤケーリス気をつけよ これから先が難関だ照国別の御命令 首尾よく御用をウントコシヨ済まして目出度く復り言 申し上げねば命をば助けて貰うたウントコシヨ 御恩報じが出来まいぞ又もや烈しい風が吹く そこらの樹木をしつかりと掴まへながら指先に 力をこめて登らうかこんな烈しいドツコイシヨ 凩風に吹かれては俺の体は散りさうだ ポーロやシヤムの連中は嘸今頃はドツコイシヨ 目玉の光つたウントコシヨ大足別の司等が カルマタ国へ出陣し主人の留守の間鍋焚き 奥の一間に胡坐かきウントコドツコイ、ドツコイシヨ 味よい酒を取り出して鱈腹飲んで管を巻き ウントコドツコイ、ヘベレケになつて頭を右左 張子の虎のウントコシヨ様にプリプリふりながら 駄法螺を吹いて居るだらう照国別の御手紙に 如何なる事がドツコイシヨ書いてあるかは知らねども ポーロの奴はドツコイシヨ定めて驚く事だらう ウントコドツコイ其顔が今目のあたり見るやうに 思ひなされて仕様がない雨か霰か又風か 地震雷火の雨か何れはドツコイ悶錯が 起つて来るに違ひない其時ケーリス、ドツコイシヨ シツカリ致して曲神にちよろまかされてはならないぞ 一旦誠の御教を悟つた上はウントコシヨ ハアハアハアハア後返りしてはならない神の道 登り難きは坂道だ誠の道を進むのは 此坂道をのぼるやうなウントコドツコイものだらう チツとの油断があつたならガラガラガラガラ後戻り 鋭く尖つたガラ石の車に乗つて谷底へ 落ちてはならぬドツコイシヨ神が表に現はれて 善悪邪正を立分ける其功績はドツコイシヨ 天地に広く鳴り渡る雷の如ドツコイシヨ 眠れる人の目を覚まし心の枉を追ひやりて 水晶玉の神の宮救はせ給ふ有難さ あゝ惟神々々ドツコイドツコイ御霊 幸はひ給ひて吾々が堅き心を弥固に 練らせ給へよ三五の神の司の太柱 神素盞嗚大神の御前に願ひ奉る 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも ウントコドツコイ山は裂け海はあせなむ世はありとも 一旦悟つた三五の神の教は忘れなよ あゝ惟神々々ケーリスしつかり肝玉を 据ゑてかかれよ今暫し登つて行けば岩窟だ ポーロやシヤムの顔を見てもとの如くに撥返り バラモン教に堕落して神の怒りに触れざらめ 俺はお前の親友だお前を思ふ心から くどい事とは知りながら一寸此処にて気をつける ウントコドツコイ、ドツコイシヨアイタタタツタ、アイタツタ あんまり喋つて足許に眼を配るを忘れたか 尖つた石のウントコシヨ坂の車に乗せられて したたか打つた膝頭赤い血潮がドツコイシヨ タラタラタラと流れ出す此血の色を眺むれば 余程俺の魂は清められたに違ひない 鮮血淋漓と迸り東の空に茜さす 日の大神の如くなり誠の道に服ひて 朝な夕なに肉体を活動させて居るならば 筋肉次第に活動し血液流通よくなつて ウントコドツコイ、ドツコイシヨ鬱血するよな憂ひない 体をヂツと遊ばせて体主霊従の事ばかり 考へ暮す枉神の血潮の色は真黒気 ヤツトコドツコイ小人は閑居しながらウントコシヨ 不善を為すと聞くからは人と生れし此上は 月日の如く朝夕にタイムを惜んで活動し ウントコドツコイ光陰を空しく費やすウントコシヨ 不道理至極の事をせず朝から晩まで道のため 誠のために働けばこんな美しい血が循る あゝ惟神々々三五教の神様の 貴の御前に真心を捧げて感謝し奉る』 漸くにしてポーロ、シヤム等が守つて居る岩窟の前に両人は辿りついた。岩窟の口に二人はソツと佇み、中の様子を密に窺へば、奥には何となく騒々しい阿鼻叫喚の声が聞えて居る。ケーリス、ターリス両人は腕を組み頭を傾けながら、 『はてな』 (大正一一・一一・二旧九・一四北村隆光録)
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霊界物語 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) 04 玉眼開 第四章玉眼開〔一一五五〕 伊太公『思ひきやきやきやきやと泣く猿に キヤツといふ目に会はされるとは』 道公『コリヤコリヤ伊太公、気楽相に狂歌所かい。宣伝使様が今日か明日か知らぬよな目に会はされて苦んで厶るのに、何を呆けてゐるのだ。サ、早く谷川へでも下りて清水を汲んで来い。俺は御介抱を申上げるから……』 伊太公『そんならお前達両人に、先生の御介抱を頼む事にしよう。俺はこれから谷水を汲んで来るワ』 といひ乍ら、水筒をブラブラブラ下げ、谷川さしておりて行く。 伊太公『ヤア此所に綺麗な水が流れてゐる。之を汲んで洗つて上げたらキツと癒るだろ。 山猿に掻きむしられて何もかも 水の御霊の救ひ求むる。 この水は神の恵の露なれば 今日は見えると言ひたくぞある。 谷川に落ち込み水を汲みに来た 深き心を汲ませ玉へよ。 此みづは眼ばかりか命まで 救ひ助くる恵の露ぞ。 惟神神の光の現はれて 玉国別の眼照らせよ。 みず知らず懐谷の山猿に 掻きむしられし事の悔しさ。 さり乍ら神の使命をおろそかに いたせし罪の報い来しにや。 時置師神の命が現はれて 心の眼開き玉へり。 待てしばしぐづぐづしてるとこぢやない 早く眼をあらはにやならぬ。 伊太公の目は大丈夫さり乍ら 師の君見る目いたいたしく思ふ』 と口ずさみ乍ら、清冽なる秋の谷水を水筒に盛り、一刻も早く玉国別を助けむと、小柴や茨を掻きわけ、息をはづませ登り行く。玉国別は両眼より血を垂らし乍ら、布にて血糊を拭き取り、手の掌を両眼にあてて痛さをこらへて俯いてゐる。道公、純公は、 道公、純公『サア大変々々』 と慌てふためき、うろたへ廻つて、チツとも間しやくに合はない。 玉国別『道公、水はまだか。伊太公はまだ帰らぬか』 道公『ハイ山路をタツタツタと下つて行たきり、今に至り姿を見せませぬ。先生が是程傷で困つて厶るのに……エヽ気の利かぬ奴ですワイ。オイ純公、貴様何をウロウロしてゐるのだ。早く伊太公の水の催促に伊太々々』 純公『エヽ洒落どころかい。大変な目に会うて吾々は進路に迷うてゐるのだ。一寸先は真暗やみだ。そんな気楽なことどこかいやい』 かかる所へ伊太公はフースーフースーと鼻息荒く登り来り、 伊太公『アヽ大変遅くなつてすみませぬ。一刻の間も早く帰りたいと思ひ、気をあせればあせる程、キツい坂で足がずり、漸くここ迄到着致しました』 道公『オイ早く水筒を出さぬかい。根つから持つてゐないぢやないか』 伊太公は腰のあたりを探り乍ら、『アツ』と一声打驚き、 伊太公『ヤア大変だ。余り慌てて、谷底へ水を汲んだなり忘れて来たのだ。オイ道公、貴様早く取つて来てくれぬかい。先生の痛みが気の毒だから、早く目を冷さぬと段々腫れて来ちや大変だ』 道公『エヽ慌者だなア、どこらに置いておいたのだ。それをスツカリ言はぬかい』 伊太公『谷川と云つたら、山の谷を流れる川だ。其水を汲んでチヤンと砂の上においてあるのだ。サア早く行かぬかい。一分間でも先生の苦痛を助けにやなるまいぞ』 純公『オイ伊太公、貴様が置いといたのだから、貴様が行かなグヅグヅ捜してゐる間がないぢやないか。本当に困つた奴だな。丸で雉子の直使だ。水を汲みに行つたつて、持つて帰らにや何になるものか』 伊太公『貴様、水を汲んで来いとぬかしたぢやないか。別に持つて帰れと迄は言はぬものだから忘れたつて仕方がないワイ。オイ純公、貴様も来てくれぬかい。実の所はどこで落したか分らぬのだ。二人よつて鵜の目鷹の目で、小柴の中や枯草の間を捜し求めて見つけて来うぢやないか、……モシモシ先生様、モウ暫くの御苦痛、どうぞ御辛抱下さいませ。誠に気の利かぬ男で厶いまして、御心中お察し申します。コラ、道公、何を呆けてゐるのだ、早く御介抱を申さぬかい』 道公『介抱せいと云つたつて、仕方がないぢやないか。俺やここで猿の再襲来を防禦してゐるから、貴様等両人、水筒捜しに行つて来い』 伊太公、純公両人はブツブツ呟き乍ら、小柴を分けて水筒の落ちた場所を探しに行く。漸くにして一丁ばかり下つた所に、水筒は落ちて居た。併し乍ら入口を下に尻を上に落したのだから、一滴も残らず吐き出して了ひ、空水筒となつて、天下太平気分で横はつてゐる。 伊太公『エヽ気の利かない水筒だな、落ちるのなら何故上向けに落ちないのだ。折角俺が呑ましてやつた水を、皆吐き出して……何と都合の悪い時にや、都合の悪いものだなア。オイ純公、仕方がない。マ一度谷底まで一走り行つて来うかい』 純公『さうだなア。水筒が見つかつた以上は貴様一人でいいのぢやけれど、元来が慌者だから、又道で落しよると何にもならぬ。俺が監視役として従いて行てやらう』 純公は水筒を懐にねぢ込み、急坂を小柴を分け、草に辷り乍ら、伊太公と共に深き谷底に下り立ち、清泉をドブドブドブと丸い泡を立てさせ、口まで満たした。 純公『すみ切りし此谷水を水筒に 呑ませて帰る身こそ嬉しき。 伊太公が折角汲んだ谷水は 水泡となりて消え失せにける』 伊太公『俺だとて落す心はなけれ共 目に見ぬ智慧を落したるらむ。 落したる瓶を拾うて音彦の 眼を洗ふわれおとましき』 純公『さア早う伊太公の奴よついて来い 眼伊太公と待つて厶るぞ』 と云ひ乍ら、又もや急坂を攀ぢ登り、漸くにして玉国別の傍に着き、水筒の水を手にすくひ、玉国別の両眼を念入りに洗滌した。 玉国別『アヽ有難い、これでスツカリ目の痛みが止まつたやうだ』 伊太公『先生、痛みが止まりましたか、それは何より嬉しい事で厶います。併し明りは見えますかな』 玉国別『イヤ痛みは余程軽減したやうだが、チツとも見えないワ』 道公『エヽ何と仰有います、お目が見えませぬか、コリヤ大変だ。大西洋の真中で蒸気船の機関が破裂したよなものだ、これから俺達は如何したら良からうかなア』 玉国別『心配してくれな。物のあいろは分らぬが、ボンヤリとそこら中が明く見えるやうだ。何れ熱が下つたら、元の通りになるだらう。これといふのも吾身の安全を第一として烈風に恐れ、肝腎の神様に祈願することや言霊を以て風神を駆逐することを忘れてゐた其罪が報うて来たのだ。実によい教訓を受けたものだ。せめて北光神様のやうに一眼なりと開かして下されば、結構だがなア』 道公はつくづくと玉国別の両眼を打ち眺め、 道公『ヨウこれは思つたよりも大疵だ。モシ先生、右の目はサツパリ潰れて了つてゐますよ。まだも見込のあるのは左の目ですよ』 玉国別『左の目は日の大神様、右の目は月の大神様だ。月の国へ魔神の征服に出陣の途中、月の大神に配すべき右の目を猿に取られたのは、全く神罰に違ない。まさしく坤の大神様が、吾目をお取上げになつたのだらう、あゝ惟神霊幸倍坐世』 道公『オイ伊太公、純公、コリヤ斯うしては居られまい、これから三人は谷底へ下つて一生懸命に水垢離を取り、先生の目の祈願をさして頂かうぢやないか』 斯く話す折しも、下の谷道を宣伝歌を歌ひつつ東北指して登り行く一隊があつた。これはケーリス、タークス、ポーロの一行が照国別の信書を携へ、斎苑館に修行に向ふのであつた。 道公『ヤアあの声は三五教の宣伝歌ぢやないか。モシ先生、キツとあれは吾々の味方に違ありませぬ。一つ後追つかけて、貴方の眼病を鎮魂して貰ひませうか』 玉国別『苟くも宣伝使の身を以て、山猿に眼を掻きむしられ、どうしてそんな事が、恥しうて頼めるものか。何事も神様にお任せするより道はないのだから、御親切は有難いが、それ丈はどうぞ止めてくれ』 道公『それだと申して、危急存亡の場合、そんな事が言うてゐられますか。今となつては恥も外聞もいつたものぢや厶いませぬ。何程神徳高き宣伝使でも、怪我は廻りものですからそれが恥になると云ふ事はありますまい。オイ伊太公、純公、何をグヅグヅしてるのだ。千危一機の此場合に泣く奴があるかい。早く宣伝歌の声を尋ねて頼んで来ぬか』 伊太公『それもさうだ。オイ純公、お前も御苦労だが、俺に従いて来てくれ』 純公『ヨーシ、合点だ。急かねばならぬ、急いては事を仕損ずる。気をおちつけて、ゆるゆる急いで行かう』 道公『何卒さうしてくれ。サアサア早う早う、手を合はして、今日は俺が頼むから』 玉国別『コリヤ三人、どうしても俺のいふ事を聞かぬのか、俺に恥をかかす積りか』 道公は頭を掻き乍ら、 道公『ダツて貴方、これが如何して安閑として居られませうか』 玉国別『神様の教に、人を杖につくな、身内を力にするな……といふ事がある。俺の目は俺が神様に祈つて何とかして貰ふから、どうぞそれ丈はやめてくれ、頼みだから』 道公『オイ伊太、純、どうも仕方がないぢやないか』 伊太公『俺達の先生だもの、俺達三人が神様に祈つて直して貰へばいいのだ。外の宣伝使に先生の恥を曝すのも済まないからなア』 玉国別は天に向つて合掌し、天津祝詞を奏上し、……国治立大神の神名を称へて、罪を謝した。其詞、 玉国別『高天原の主宰にして、一霊四魂三元八力の大元霊にまします大国治立大神様、私は貴神の尊き霊力体を賦与せられ、此地上に生れ来て、幼少の頃よりいろいろ雑多の善からぬ事のみ致しまして、世を汚し、道を損ひ、人を苦め、親を泣かせ、他人に迷惑をかけ、しまひの果にはウラル教の宣伝使となり、日の出別神様に救はれて一人前の宣伝使として頂きました。かかる罪深き吾々をも捨て玉はず、きため玉はず、広き厚き大御心に見直し聞直し詔直し下さいまして、尊き宣伝使にお使ひ下さいました事は、罪深き吾々に取つては、無上の光栄で厶います。かかる広大無辺なる御恩寵に浴し乍ら、知らず知らずの間に慢心を致し天下の宣伝使気分になつて、世の中の盲聾唖躄などを癒やし助けむと、勇み進んで此処迄参りました事を、誠に恥かしく存じます。今日只今山猿の手を借つて、吾々の両眼を刔出し、汚れたる心を清め、曇りたる心の眼を開かせ、身霊を明きに救ひ玉ひし其御恩徳を有難く感謝致します。人間の体は神様の生宮とある以上は何処迄も大切に此肉体を守らねばならないので厶いますが、自分の心の愚昧より大切なる肉の宮を損ひ破り、吾々の霊肉を与へ下さいました貴神様に対してお詫の申上げやうも厶いませぬ。誠にすまない無調法を致しました。仮令玉国別両眼の明を失する共、せめては心の眼を照らさせ下さいますれば神素盞嗚大神様より依さし玉ひし吾使命を飽迄も果たし、斎苑の館に復命をさして頂く考へで厶います。此上は御無理な願は決して致しませぬ。何卒々々惟神の御摂理に依りて、御心の儘にお取成し下さいます様に謹んで御願を申上げます』 と願ひ終り、両眼より雨の如く涙を流してゐる。三人も此有様を見て、思はず落涙にむせび、大地にかぶり付いて感謝の祈願を凝らしてゐる。玉国別は尚も一生懸命に、天地の大神に対し、懺悔の告白をなしつつあつた。不思議や左の目は俄に明くなり、四辺の状況は手に取る如く見えて来た。玉国別は嬉し涙に咽び乍ら、又もや拍手再拝して神恩を感謝する。 玉国別『イヤ道公、伊太公、純公、喜んでくれ。どうやら片眼が見え出したやうだ。神様は罪深き玉国別を助けて下さつた。あゝ有難し有難し』 と又もや合掌。三人は此言葉に驚喜し、 三人『あゝ有難し勿体なし』 と一斉に合掌し、勢込んで再び天津祝詞を奏上し始めた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一一・二六旧一〇・八松村真澄録)
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霊界物語 44_未_玉国別と治国別2 21 小北山 第二一章小北山〔一一九〇〕 松彦一行は暫く休憩の後、一町計り峻坂を登り、細い階段を二百計り刻み乍ら漸く小北山神館の門口に着きける。そこには白髪の老人が机を前に据ゑ、白衣に白袴で置物の様にキチンと坐つてゐる。奥の方にはザワザワと祈念の声が聞えて居る。松彦は、 松彦『お爺イさま、私は旅の者ですが、結構な神様がお祀りになつてあると承はり参拝をさして頂きました、ここの教は何と申しますか』 老人(文助)『お前さまはどこの方か知らぬが、ようマア、御参詣になりました。私は目が見えぬので、かうして受付けをやつてゐるのだが、それでも有難いもので、人の声を聞けば、男か女か年寄か若い者か心のよい人か悪い人か、よく分るのだから有難いものだ。そしてチヨコチヨコ人に頼まれて、此通り絵を書いてるのだ』 松彦『何と妙ですなア、一寸見せて御覧』 老人『ハイハイ見て下さい、これでも信者の人が喜ンで額にしたり、掛地にしたりするのだから……』 松彦『なる程、目の見えぬ人の書いた絵にしては感心なものだ。ヤア松に竜神さまが巻きついたり、蕪に大根、円山応挙でも跣で逃げ相だ。オイ万公さま、お前蕪に大根は好物だないか、一つ頂いたら何うだ』 万公『松彦さま、あなたも余程身魂が悪いと見えて、此絵を御覧なさい、お前さまの名の松に一本の角の生えた黒蛇が巻いてるぢやありませぬか』 老人『何処の方か知らぬが、これは竜宮の乙姫さまの御神体だ。黒蛇なぞと勿体ない事をいひなさるな』 万公『それでも大きな口があつて黒い縄が引ついとるぢやないか。それで私は黒い口縄だといつたのだ』 老人『アハヽヽヽ、お前さまは絵を見る目が無いから困つたものだナア』 万公『此方に目の無いのは当然だ。目の無いお爺イさまの書いたのだもの、こら大方冥土の竜神さまかも知れぬぞ』 老人『お前さまは此お館へ冷かしに来たのだな、そンな人は帰ンで下さい、アタ万の悪い』 松彦『お爺イさま、此奴ア、チと気が触れてますから、何卒了見してやつて下さい。実の所は此気違ひを直して頂かうと思つて連れて来ましたのぢや、田圃の中へ這入つて、大根や蕪の生を噛つたり、薩摩芋を土のついたなり、ほほばるのですから、困つた癲狂院代物ですわい。何とか直して頂く工夫はありますまいかな』 老人『成る程さう聞けばチツと此方は気が触れてると見えますわい、どうも私の霊に其様に始めから感じました。気の毒で厶いますなア。この気違ひは容易に直りますまいから、暫く気の鎮まる迄、石の牢がして厶いますから、お預かり申して三週間計り暗い所へ突つ込ンでおきませうよ』 万公『イヤもうお爺イさま結構です。貴方のお顔を拝ンでから、次第々々に気分がよくなり何うやらモウ正気になりました。モウ結構で厶います』 老人『それでも再発したりすると困るから、二三日入れて見ませうかな。松彦さまとやらお考へは何うですか』 万公は松彦の袖を頻りに引ぱつてゐる。 松彦『ヤア之位なら大した事はありますまい。マア暫く容子を見た上でお願する事に致しませう』 老人『そンなら貴方の御意見に任しませう。何時でも御預かり致しますから』 松彦『ハイ有難う厶います。何卒宜しう頼みます』 五三公は小声で万公の袖をチヨイチヨイと引ぱり、 五三公『オーイ松に黒蛇、大根に蕪計り書いてるぢやないか、丸で二十世紀の三五教の五六七殿に居る四方文蔵さまの様なお爺イさまだねえ』 万公『ウフヽヽオイあこに髭の生えた人が居るぢやないか。あの人こそ本当の神さまみた様だなア。あの先生に拝ンで貰うたら、有難いに違ひないぞ』 五三公『ナアにあれは謡の先生だ。大分に酒が好きだと見えて、あの顔の色みい、ホテつてるぢやないか』 万公『コリヤ大きな声で言ふな。聞えるぞ』 松彦は、 松彦『此教会の縁起が聞たいものですなア』 と云へば、老爺は心よく、 老人『ハイ此小北山のお広間は元はフサの国の北山村にあつたのだ。高姫黒姫といふ立派な宣伝使があり、高姫さまが教祖で、黒姫さまが副教祖であつた。たうとうあの人も惜い事になつたものだ。アブナイ教とかへ首を突込ンで了ひ、今はどうならしやつたか、便りもなし、実にアブナイ事をしたものだ。そこで総務をして厶つた蠑螈別さまが魔我彦といふ弟子を連れてここへお出になり、小北山の神殿というて、高姫の遺鉢を受け、ここで教を開かれたのだ。随分沢山の神様が集まつて厶る地の高天原ぢやぞえ。お前さまも神様の因縁があればこそ引寄せられなさつたのだよ』 松彦は、 松彦『有難う厶います。其蠑螈別さまはゐられますかなア』 老人『ハイ大奥にゐられますが、余りいろいろの神様が御出入り遊ばすので、お忙しうてお酒の接待計りしてゐられます』 松彦『蠑螈別様の一つの体にさう大勢お集まりになるのですかなア。ソリヤ大抵ぢやありませぬなア』 老人『今はかむづまり彦命と仰有いましてな、ウラナイ教の教祖で厶いますぞ。それだから随分沢山の神様が御出入り遊ばし、お神酒をあがるので、朝から晩まで本性はチツとも厶いませぬ、本当に妙ですワ。今仰有つた事と、少し後で仰有つた事とは、クレリツと違ふのですから、そこが所謂八百万の神様のお集まりなさる証拠です。何と偉いお方もあつたものですワイ』 松彦『さうするとお憑りになる神様は何と申しますかな』 老人『余り沢山で早速には数へる事も出来ませぬが、何を言つても、八百万の神さまですからな。先づ第一神集ひ彦の神、神議姫命様、葦原の瑞穂彦命様、八洲国平姫命様、言依さしまつりの命様、荒ぶる神様、言問し姫命様、神払彦命様、岩根木根立彦命様、片葉言止め姫命様、天の岩座放ちの命様、天の八重雲姫命様、厳の千別彦命様、四方の国中彦命様、下つ岩根彦命様、宮柱太しき立ての命様、天の御影彦、日のみかげ姫、益人姫、過ち犯し彦、くさぐさの罪の姫、畔放ち彦、みぞうめ姫、ひ放ちしきまき姫、串さし様……といふ様な立派な神様が沢山に祀つて厶います』 万公はあきれ顔で、 万公『丸で三五教の祝詞そつくりぢやないか。妙な名のついた神さまもあつたものぢやなア』 爺イは真面目な顔して、 老人『神様は其お働きに依つてお名が現はれて居るのだから、お名さへ聞けば何を御守護下さるといふ事がよく分るやうに、蠑螈別の教祖がおつけ遊ばしたのだ。元より神様に御名はない、人間が皆お名を差上げて称へまつるのだからなア』 松彦『成る程、如何にも御尤も。流石は蠑螈別の教祖様ですなア、お爺さま、一つ松彦に神様の因縁を聞かして下さいな、今仰有つた神様はどこに祀られて厶いますか』 老人『其神様は神言殿といふ御殿を立てて祀らねばならぬのだが、まだ準備中だ。かうして山のどてつ辺まで沢山の宮が建つてゐるが、一番下の大きな御殿が大門神社と云つて、世界根本の生えぬきの神様が祀つてあるのだ』 松彦『そして其神様の名は御存じですか』 老人『アハヽヽヽ、肝腎の御仕へしてる神様の名が分らいで何うなりますか、お前さまも余程分らずやだなア』 松彦『分らないからお尋ねしとるのぢやありませぬか』 老人『一番此世の御先祖さまが、国治立命様、それから左のお脇立がゆらり彦命、右のお脇立が、上義姫命様だ。そしてゆらり彦命様の又の御名末代日の王天の大神様と申しますのだ。それから日照す大神さまといふのが祀つてある、其神様の御分霊が羊姫様、羊姫の妹様が常世姫命様だよ。そして稚姫君命様は艮の金神様坤の金神様の御娘子だ』 松彦『一寸待つて下さい。ソリヤ少し配列が違はしませぬか』 老人『お黙りなさい。神様の戸籍調べをしてゐるのに、勿体ない何をグヅグヅ云ひなさる。気にいらな聞いて下さるな。モウいひませぬぞや』 松彦『イヤこれはこれは不調法申しました。どうぞ御教訓を願ひます』 老人『それなら聞かして上げやう。確り聞きなされ。此大門神社にはそれ丈の神様と、まだ外に沢山の神様がお祀りしてあるのだ。稚姫君命様が天地から御預かり遊ばした八人の結構な神様がある。第一に義理天上日出神様、第二に青森白木上の命様、次に天地尋常様、これ丈が男の神様、次に常世姫様、次が金竜姫様、次が大足姫様、次が琴上姫様、其次が金山姫様此三男五女が変性男子の系統で厶いますぞや。それから又常世姫様が天地の神様から始めてお預かりになり育て上げられた神様が八柱、これは五男三女だ、第一に地上大臣様、次がたがやし大臣様、次が地上丸様、次がきつく姫様、次が旭子姫様、次が花依姫様、此神様の霊が猿彦姫と変化、又変化遊ばしてみのり姫とやがてお成り遊ばすさうだ。それから早里姫、地上姫、以上十六柱が魂の根本の元の誠の生粋の大和魂の因縁の神様で厶います。これを合して四々十六の菊の神様と申します。それから又、義理天上さまが預つて育てた神様が七人厶る。第一に天照彦、天若彦、次が八王大神、大野大臣、それから道城よしのり、大広木正宗、柔道行成、都合二十三柱の神様が天地根本、生粋の霊の元の神様だ。これ位結構な神様の教を聞き乍ら、第一の教祖の高姫さまはアブナイ教へ沈没して了つたのだから惜いものですわい』 万公『もし松彦さま、サツパリ支離滅裂ぢやありませぬか。親かと思へば子になつたり、子かと思へば親になつたり、なンと訳の分らぬ神さまですな。マンマンマンマー』 老人『コレ、支離滅裂とは何を云ふのだ。ヤツパリお前は気違ひだな、黙つて聞かつしやらぬかいな』 万公『ハイ万々聞かして貰ひませぬワイ』 松彦『此奴あキ印ですから、どうぞ気にさえずに居つて下さい。松彦はお詫します』 老人『ヨシヨシ、今言うた二十三柱の神様が天地をお造り遊ばし、人間の姿を現はして、現界の政治を遊ばしたが大将軍様、常世姫様の夫婦で厶います。それが又、大将軍御夫婦が余り我が強いので、折角の神政が破れ、御退隠なされ、第二の政治をなされたのが、地上大臣様、耕し大臣様、そこへ地上丸様が御手伝遊ばして、三人世の元結構な世が開きかけてをつたが、又もや慢心が出て現界の政治が潰れ、止むを得ず又大将軍様が変化てサダ彦王となり、常世姫様が変化てサダ子姫となり、きつく姫、旭子姫、花依姫といふ三人の子をお生み遊ばしたが、又其政治が潰れ高天原は大騒動が始まりました。それから今度は四代目の天下の政治を遊ばしたのが、八王大神様と王竜姫様、王竜姫は後に大鶴姫とおなり遊ばした。又其政治がつぶれ、五代目の政治をなさつたのが大野大臣様、大野姫のお二方、此時は非常に盛であつて、世界中が一つに治まり、後にも先にもないやうな世の中の政治が行はれた。そして青森行成さまや、義理天上さま、天地尋常さまがお手伝ひをなさつたので、非常な勢になつて来た。そした所が余り世が上りつめて又大野大臣さまの政治がメチヤメチヤに破れ、第六番目には道場美成様と事足姫の御夫婦が御政治を遊ばし、大広木正宗、柔道行成といふ二人のお子さまが出来、いよいよ神政成就が成上がつたと思へば少しの間に又もや、慢心を遊ばし、八岐大蛇や金毛九尾曲鬼の悪霊に蹂躙されて、世の中がサーパリわやになつて了ひ、そこへ変性女子の素盞嗚尊が現はれて、悪の鏡を出したものだから、今日のやうな強い者勝の世界が出来たのだ。此ウラナイ教は御覧の通り天下太平上下一致だが三五教にバラモン教、ウラル教などは戦ばかりしてゐるぢやないか。神様が喧嘩なさるといふ事はある可からざる事だ、お前さまもそンな喧嘩好の神様を信仰せずにウラナイ教の神様を信仰をなされ、昔の昔のさる昔の因縁から、根本の根本から、大先祖の因縁、霊魂の性来、手に取る如くに分りますぞや。あゝ惟神霊幸倍坐世』 万公『アハヽヽヽ万公は満口が閉さがらぬワ、イヒヽヽヽ』 松彦『又気が違ひ出した、困つた奴だなア、ウツフヽヽ、松彦も困りますよ』 老人『これで此大門神社の神様の因縁はあらまし分つたでせう』 松彦『ハイ、よく分りました。有難う厶いました。貴方は随分詳しいお爺さまだが、お名は何と申しますかな』 老人『私はおちたきつ彦と申しますよ』 松彦『ヘー、長いお名ですな』 老人『蠑螈別様に頂いた神名だから、長くても仕方がありませぬ。名が長い者は長生をするとかいひますから、モ少し長くてもいいのですが、まだ修行が足らぬので、ここらで止められて居るので厶います。私の修行が積みた上は、おちたきつ速川の瀬にます彦命といふ名をやらうと仰有いました』 一同『ウツフヽヽ、エツヘヽヽ』 と一同は笑ふ。 老人『サア是から、種物神社へ案内致しませう』 松彦『老爺さま、目のお悪いのにすみませぬなア』 老人『目が悪いと云つても、神様の御用ならば何でも出来るのだ。サアついて来なさい。きつい山だぞえ、辷りこけて向脛を打つたり、腰をぬかさぬやうになさいませや』 と云ひ乍ら、種物神社の前へエチエチと登りつめた。 松彦『ここには石造りの宮と木造の拝殿が建つて居りますなア。何とマア偉い断岩絶壁を開いて建てられたものですなア』 老人『ハイ之は大将軍様の生宮と地上丸さまの生宮が鶴嘴の先が擂粉木になる所迄岩をこついてお造り遊ばしたのだ。何と感心なもので厶いませうがなア。此神様に地の世界の大神様と日の丸姫の大神様が祀つてある。そして右の方に義理天上さまと玉乗姫様と祀る事になつて居ります。左の方には大将軍様と常世姫様のお宮が建つのです。これは世界の万物の種物をお始め遊ばした結構な結構な根本の神様ですから、よく拝みておきなさい。お前さまも若いからどうせ種まきをせにやならぬのだろ。神の生宮をポイポイと拵へるのが神の役目だから、今こそ男と女が暗がりで、かが安う生宮を拵へるやうになつたが、昔は人間一人仲々並や大抵で作れたものでありませぬぞや。其お徳にあやかる為に種物神社に祭つてあるのだ』 松彦『ハイ有難う』 と松彦はうつむく。 老人『サア之から、おちたきつ彦がモ一つの上のお宮様を御案内致しませう』 万公は、 万公『モシモシお爺イさま、そンなきつい岩石を目の悪いのに登つて、何卒谷底へ落ちたきつ彦にならぬ様に願ひますで。サア五三公、アク、タク、テク、お爺イさまのお伴だ。何とマアきつい坂だなア』 老人『あゝあ、人に改心さそうと思へば仲々の苦労だ。ソレ御覧なさい、ここに木造りの宮が三社建つてをるだろ。中央が生場神社の大神様、岩照姫の大神様、此御夫婦が祀つてある。右のお社はりんとう美天大臣様、木曽義姫の大神様の御夫婦が祀つてあるのだ。そして左の方の宮には五六七上十の大神様、旭の豊栄昇りの大神様御夫婦が祀つてあるのだ。モ一つ上に三社あるけれど、これから上は道がないから、ここからお話しておかう。石の宮が三社あつて、正中が月の大神様、日の大神様御夫婦が祀つてある。右の石の宮は末代日の王天の大神様上義姫大神様御夫婦がお祀りになつてゐる。左の方が日照らす大神様、大照皇大神宮様御夫婦が御祀りだ。何と結構な地の高天原が開けたものでせうがな』 松彦『モウ此外に神様の祀つてある所はありませぬかナ』 老人『まだない事はないが、さう一遍にお話しすると、話の種が切れるから、又今度にのけておきませうかい。お前さまも一遍に食滞しては困るからなア』 万公『アツハヽヽヽお爺イさま、御苦労でした。実の所は私は三五教の宣伝使、治国別命の片腕の万公さまだ。気違でも何でもないのだから、さう思うて下さい。随分怪体な神さまばかり、能う拝まして下さつた。これも話の種になりますわい。『霊界物語』にのせたら、キツと大喝采を得ませう。お前さまの方では種物神社だが、此万公さまは種取り神社だ。義理かき天上の神様となつて、これからウラナイ教を一生懸命に信神しませぬワ。オツホヽヽ』 老人『この年寄を此処迄連れて来て、何と云ふ愛想づかしを云ふのだい。それだから三五教は悪の教といふのだよ。大方お前も変性女子の廻し者だろ、油断のならぬ代物だなア』 松彦『此奴ア、お爺イさま気が違うてるのですから、どうぞ気に触へて下さいますな』 老人『あゝさうださうだ、気の触れた方だつたなア。何ぼ気違でも余りな事云ふと気の宜うないものだ。併し気違ひとあれば咎める訳にもゆかぬ、見直し聞直しておかう』 松彦『ハイ有難う厶いました。お年寄に高い所迄御苦労になりまして申訳が厶いませぬ』 老人『お前さま達、下の大広間で今晩はお泊りなされ、女ばかり百人あまりも鮨詰になつて寝て居ります』 五三公はにやりとしながら、 五三公『オイ、アク、タク、テク、泊めて貰はうかなア』 アク『なンだ、女ばかり鮨詰になつてると、爺さまが言つたら、顔の紐迄解きよつて、アタ見つともない、女の側は険呑だ。サア松彦さま、遅れちやなりませぬ、折角のお爺さまの御親切だが、今日はマア御免被つて、又改めてお世話になりませうか』 松彦『あゝそれがよからう、お爺イさま、どうぞ蠑螈別さまに宜しう言つて下さい。今日は急ぎますから、これで御免を蒙ります』 老人『万さまとやらを気を付けて上げて下さいや、危ない一本橋がありますから、川の中へでも、気の触れた人は飛込むかも知れませぬからな』 松彦『ハイ御親切に有難う厶います。サア一同の者、お暇乞ひして急がう。発車時間に遅れちや今夜中に万寿山へ帰れぬからなア。お爺さま左様なら』 万公『おちたきつ速川の瀬にます彦の神さま、万々々公有難う厶いました』 老人『アハヽヽヽ、気を付けてお帰りなさい、万公さまとやら』 (大正一一・一二・九旧一〇・二一松村真澄録) (昭和九・一二・二九於湯ケ嶋王仁校正)
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霊界物語 45_申_小北山の宗教改革1 02 神木 第二章神木〔一一九二〕 お寅婆アさまは松彦に向ひ河鹿川の川岸に枝振りのよい老松が蜒々として枝を四方に広げ川の上にヌツと突き出て居るのを指し、 お寅『もし、末代日の王天の大神の生宮様、あの松を御覧なさいませ。立派なものぢや厶りませぬか』 松彦『成る程、川の景色と云ひ、あの枝振りと云ひ青々とした艶と云ひ、実に云ひ分のない眺めですな。随分鶴が巣籠りをするでせうな』 お寅『ハイハイ、鶴どころか、あの松には日の大神様、月の大神様を初め八百万の大神様がお休み遊ばす世界一の生松で厶ります。末代日の王天の大神様の、あれが御神体で厶ります』 松彦『さうすると、あの松は私の御霊の変化ではあるまいかな』 お寅『滅相な、変化どころか、あれが貴方の本守護神ですよ。時節と云ふものは恐いものですな。たうとう生神様の貴方様がお越しなさる様になつたのだから、ウラナイ教は朝日の豊栄昇り彦命になります。蠑螈別の教祖が仰有つた事は一分一厘違ひませぬがな』 万公『アハヽヽヽ松彦さま、貴方は不自由な体ですな、いつもあの川辺に水鏡ばつかり見て鳶鷹鷲等に頭から糞を引つかけられ泰然自若として川端柳を気取つて厶るのですな。道理で足が重いと思うて居た。本守護神があの松の大木だと分つての上は、松彦さまの無精なのも、あながち責る訳にも行きますまい。エヘヽヽヽ』 お寅『これこれブラリ彦、又口八釜しい。左兵衛治をするものぢやない』 万公『これ婆さま、わしは左兵衛治なんて、そんな老爺めいた名ぢやありませぬぞ。万古末代生通しと云ふ生々した万公さまだ。余り見損ひをして貰ひますまいかい』 お寅『オホヽヽヽ何と頭の悪い男だな。左兵衛治と云つたら差出物と云ふ事だ。何でもかンでもよく差出て邪魔ばつかり致すから、左兵衛治と云つたのだよ。大松のお前が差出る処ぢやない、芋掘奴めが』 万公『俺や、あんな大松とはチツと違ふのだ。なんぼ大松だつて松の寿命は千年だ。此方は万年の寿命を保つ万公さまだ。あんまり安う買うて貰ひますまいかい』 お寅『エーエ、何から何まで教育してやらねば訳の分らぬ困つた男だな。大松と云ふ事は大喰人足と云ふ事の代名詞だ。野良へやれば蕪をぬいて食ふ、大根をかじる、人参を喰ふ、薩摩芋から南瓜の生まで、噛じる喰ひぬけだから、それで大松と云ふのだ』 万公『大喰ひするものを大松と云ふのは可笑しいぢやないか。其言葉の起源を説明して貰ひたいものだな』 お寅『エーエ、合点の悪い代物だ、ライオン川の杭は、みんな長い大きな奴が要るので、それで大杭の長杭と云ふのだ。その大杭の長杭は大松ぢやなければ出来ぬのだから大松と云つたのだよ』 万公は妙な手付をして、 万公『あゝさうでおまつか、ヘーン、松彦さまもさうすると松に因縁があるから大松でせうね』 お寅『お前の松は杭になつた松だ。此お方の松は、あの通り生々した生命のある松だよ。万古末代生通しの松と、幹を切られ枝を払はれ、年が年中頭を削られて逆トンボリにされ尻を叩かれて、突つ込まれて居る大松とは、松が違ふのだ。善悪混淆して貰うては大変困りますわい。然し松彦さま、あの松の木の根元に結構な御守護がしてあるのだから大門神社に行く迄に一寸そこの神様に参拝して貰ひたいのです』 松彦『あの松の根元に神様が祀つてあるのですかな』 お寅『ハイハイ、あそこが肝腎な御仕組場だ。あの因縁が分らねば小北山の因縁が分りませぬ。是非共来て貰ひ度いものです』 万公『さうすると、まだ外に神さまが祀つてあるのか。一遍に見せると食滞すると受付の爺さまが云ふた神さまだな。一つ見るも二つ見るも同じ事だ。序に観覧して来ようかな。おい、五三公、アク、タク、テク、何うだ、貴様も一つ見物する気はないか』 一同『ウン、面白からうな。参考の為にお寅さまの、亡者案内で見物して来ようかい。お寅さま、亡者案内賃は安うして置いてくれや、見掛どりをやられると此頃吾々はチツとばかり手許不如意なのだから困りますぞえ』 お寅『観覧だの、見物だのと、何と云ふ勿体ない事を仰有るのだ。見に行くのだない、参拝に行くのだ。何故参拝さして頂きますと云はぬのだ』 万公『三杯どころか、もう之丈け沢山に誤託宣を聞かして頂いた上は腹一杯胸一杯だ、アハヽヽヽ』 お寅『サア、末代様、御案内致しませう。何卒此婆について来て下さいませ』 松彦はいやいや乍ら婆アの後に一行と共に枝振りのよい大松の麓まで進んで行つた。 見れば途方途徹もない大きな岩が玉垣を囲らし切口の石を畳んで置物の様にチヨンと高い処に立派に祀つてある。さうして傍に案内石が立ち蠑螈別の筆跡で、 「さかえの神政松の御神木」 と記してある。 五三『もしお婆さま、此大きな岩は一体何だい。さうして御神木と記してあるが、こりや木ぢやない、岩ぢやないか』 お寅『そんな事は気にかけいでも、理屈いはいでも、いいぢやないか。お前達が神木する様に「さかえの神政松の御神木」と書いてあるのだよ。ここは善と悪との境だから小北山の地の高天原へ悪神の這入つて来ぬ様に千引岩が斯うして置いてあるのだ。表向きは弥勒様の御神体だと云つて居るのだ。さうして十六柱の神様がお祀りしてある標だと云つて十六本の小松が此通り植ゑてあるのだ。然し乍ら之は表向き、実の処は素盞嗚尊の生魂をここへ封じ込んで動きのとれぬ様に周囲八方石畳を囲らし、上から千引の岩を載せて、万古末代上れぬ様に封じ込めておいたのだ。そのために瑞の魂の素盞嗚尊は八方塞がり同様で、二ツ進も三ツ進もならぬ様になり困つてゐやがるのだ。此石をここへ運ぶ時にも随分苦労をしたのだよ。第一蠑螈別さま、魔我彦さま、大将軍さま、此お寅等の奮励努力と云つたら大したものだつた。夜も昼も二十日ばかり寝ずに活動して到頭素盞嗚尊の悪神を封じ込めてやつたのだ。三五教の奴は何にも知らずに馬鹿だからヤツパリ素盞嗚尊が此世に現はれて居る様に思うてゐるのだよ。斯うしておけば三五教の信者を鼠が餅ひく様に皆小北山に引張込むと云ふ蠑螈別さまの御神策だ。何と偉いものだらうがな』 万公、五三公の両人はクワツと腹を立て両方から婆の手をグツとひん握り、 万公『こりや糞婆、もう量見ならねえ。此川へ水葬してやるから、さう思へ。怪しからぬ事を吐す』 五三『こりや、お寅、蛙は口から、吾と吾手に白状致した上からは、もはや量見ならぬぞ。サア覚悟せい。おい万公、其方の足をとれ、俺も此足を持つて川の深淵へ担いで行つて放り込んでやるのだ』 お寅『オホヽヽヽ、地から生えた木の様なものだ。此婆がお前達三人や五人に動かされる様なヘドロい婆か。竜宮の乙姫さまの御神力を頂いた上に艮金神様の分け魂のお憑り遊ばした丑の年生れの寅さまだ。丑寅婆アさまを何と心得てるのだ』 万公『おい、五三公、随分重い婆だな。本当にビクともしやがらぬわ』 アク『アハヽヽヽ、ビクともせぬ筈だよ。婆アさまは其処に居るぢやないか。お前達は、岩を一生懸命動かさうとしたつて動くものかい。それが婆アさまに見えたのか』 五三『いや、ほんにほんに岩だつたな。おけおけ馬鹿らしい。お寅婆は彼処にけつかるぢやないか』 お寅『オホヽヽヽ三五教の信者の眼力は偉いものだな。お寅さまとお岩さまと取違へするのだから』 万公『エー』 アク、タク、テク三人『アハヽヽヽ、又いかれやがつたな』 お寅『あまり疑うて居ると真逆の時に眩惑がくるぞよ、足許の深溜が目に見えぬ様になるぞよ。ウフヽヽヽ』 松彦『お婆さま、いや如何も感心致しました。これから一つ大門神社へ参りませう』 お寅『あ、お前さまは末代様だ。身霊が綺麗だと見える。あんなガラクタは後廻しで宜しい。お寅さまの後から跟いて来なさい。竜宮の乙姫さまが末代さまを御案内致しませう』 松彦『ありがたう。然し乍ら此連中を捨てて置く訳にも行かぬから連れて行かう』 お寅『それは貴方、末代さまの御都合にして下さい。サア斯うおいで成さいませや』 と頭をペコペコさせ頻りに媚を呈し乍ら、もと来し道に引返し急坂を一行の先に立つて上り行く。 急坂を二三丁ばかり登つた処にロハ台が並んでゐる。 万公『もし松彦さま、一寸ここで休息して行きませうか』 松彦『ウン、よからう』 と腰をかけ息を休める。お寅は怪嫌な顔をし乍ら後ふり返り、 お寅『逆理屈ばかり囀る万公が 坂の中央で屁古垂れにけり。 偉相に腮をたたいて居た万公 此弱り様は何の事だい。 鼈に蓼食はした様な息づかひ 万々々公も休むがよからう』 万公『迷信の淵に沈んだお寅さま 底知れぬ淵へバサンとはまつて。 之程にきつい坂をばスタスタと 登るは狐狸なるらむ。 登り坂上手な奴は馬兎 丑寅婆さまの十八番なるらむ』 お寅『糞垂れて婆さまの登る山道を 屁古垂れよつた万公の尻。 芋蕪大根人参あつたなら 万の野郎に喰はせ度きもの。 大根や蕪がきれて息つまり 何と茄子の溝漬け男』 万公『臭い奴吾一行の先に立つ 腋臭とべらの婆の尻糞』 お寅『こりや万公、臭い奴とは何を云ふ 貴様は臭い穴探しぞや。 彼岸過ぎになつても穴の無い蛇は そこら辺りをのたくり廻る。 穴ばかり探して歩く万公を 岩窟の穴へ入れてやり度い』 万公『何吐す丑寅婆の尻糞奴 尻が呆れて雪隠が踊る』 松彦『ロハ台に腰打ち掛て万公が 尻のつぼめの合はぬ事言ふ』 五三公『ロハ台に尻を下した万公さま 糞落ちつきのないも道理よ』 アク『アクアクと互に誹り妬み合ひ 無性矢鱈に口をアクかな』 タク『いろいろとタクみし証拠は千引岩 松の根元に沢山にある』 テク『山坂をテクる吾身は何となく 足腰だるくなりにけるかな。 面白もない婆さまに導かれ 登るも辛し針の山坂』 お寅『万公よアク、テク、タクの御一同 此坂道は神の坂だよ。 神になり鬼になるのも此坂を 越えぬ事には分るまいぞや』 アク『登りつめアクになつたら何とせう 丑寅婆さまに欺かれつつ』 お寅『疑を晴らして竜宮の乙姫が 後に来る身は大丈夫だよ』 松彦『サア一同、もう行つてもよからう。乙姫さま、宜しう頼みます』 お寅『ホヽヽヽヽ末代様、サア参りませう』 万公『ヘン、馬鹿にして居やがる。婆の乙姫さまも見初めだ。なア五三公』 五三『きまつた事だ。逆様の世の中だもの、乙姫さまだつて世界のために御心配遊ばして厶るのだもの、チツたあ年も寄らうかい。アハヽヽヽ』 一同『ウフヽヽヽ』 (大正一一・一二・一一旧一〇・二三北村隆光録)
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霊界物語 47_戌_治国別の天国巡覧1 総説 総説 最上天界即ち高天原には、宇宙の造物主なる大国常立大神が天地万有一切の総統権を具足して神臨し給ふのであります。そして大国常立大神の一の御名を天之御中主大神と称へ奉り、無限絶対の神格を持し、霊力体の大原霊と現はれ給ふのであります。この大神の御神徳の完全に発揮されたのを天照皇大御神と称へ奉るのであります。そして霊の元祖たる高皇産霊大神は、一名神伊邪那岐大神又の名は日の大神と称へ奉り、体の元祖神皇産霊大神は一名神伊邪那美大神又の名は月の大神と称へ奉るのは、此物語にて屡述べられてある通りであります。又高皇産霊大神は霊系にして厳の御霊国常立大神と現はれ給ひ、体系の祖神なる神皇産霊大神は、瑞の御魂豊雲野大神又の名は豊国主大神と現はれ給うたのであります。この厳の御魂は再び天照大神と顕現し給ひて天界の主宰神とならせ給ひました。因に天照皇大御神様と天照大神様とは、その位置に於て神格に於て所主の御神業に於て大変な差等のある事を考へねばなりませぬ。又瑞の御魂は、神素盞嗚大神と顕はれ給ひ、大海原の国を統御遊ばす神代からの御神誓である事は神典古事記、日本書紀等に由つて明白なる事実であります。然るに神界にては一切を挙げて一神の御管掌に帰し給ひ宇宙の祖神大六合常立大神に絶対的神権を御集めになつたのであります。故に大六合常立大神は独一真神にして宇宙一切を主管し給ひ厳の御魂の大神と顕現し給ひました。扨て厳の御魂に属する一切の物は悉皆瑞の御魂に属せしめ給うたのでありますから、瑞の御魂は即ち厳の御魂同体神と云ふ事になるのであります。故に厳の御魂を太元神と称へ奉り、瑞の御魂を救世神又は救神と称へ又は主の神と単称するのであります。故に此物語に於て主の神とあるは、神素盞嗚大神様の事であります。主の神は宇宙一切の事物を済度すべく天地間を昇降遊ばして其御魂を分け、或は釈迦と現はれ、或は基督となり、マホメツトと化り、其他種々雑多に神身を変じ給ひて天地神人の救済に尽させ給ふ仁慈無限の大神であります。而して前に述べた通り宇宙一切の大権は厳の御魂の大神即ち太元神に属し、この太元神に属せる一切は瑞の御魂に悉皆属されたる以上は神を三分して考へることは出来ませぬ。約り心に三を念じて口に一をいふことはならないのであります。故に神素盞嗚大神は救世神とも云ひ、仁愛大神とも申上げ、撞の大神とも申し上げるのであります。この霊界物語には産土山の高原伊祖の神館に於て神素盞嗚尊が三五教を開き給ひ数多の宣伝使を四方に派遣し給ふ御神業は、決して現界ばかりの物語ではありませぬ。霊界即ち天国や精霊界(中有界)や根底の国まで救ひの道を布衍し給うた事実であります。ウラル教やバラモン教、或はウラナイ教なぞの物語は、大抵顕界に関した事実が述べてあるのです。故に三五教は内分的の教を主とし其他の教は外分的の教を以て地上を開いたのであります。故に顕幽神三界を超越した物語と云ふのは右の理由から出た言葉であります。主の神たる神素盞嗚大神は愛善の徳を以て天界地上を統一し給ひ、又天界地上を一個人として即ち単元として之を統御したまふのであります。譬へば人体は其全分に在つても、其個体にあつても千態万様の事物より成れる如く天地も亦同様であります。人間の身体を全分の方面より見れば肢節あり機関あり臓腑あり、個体より見れば繊維あり神経あり血管あり、斯くて肢体の中にも肢体あり部分の中に部分あれども個人の活動する時は単元として活動する如く、主神は天地を一個人の如くにして統御し給ふのであります。故に数多の宣伝使も亦主神一個神格の個体即ち一部分として神経なり繊維なり血管なりの活動を為しつつあるのであります。天人や宣伝使のかく部分的活動も皆主神の一体となりて神業に奉仕するのは恰も一個の人体中に斯の如く数多の異様あれども、一物としてその用を遂ぐるに当り、全般の福祉を計らむとせざるはなきに由る如きものであります。即ち全局は部分の為に、部分は全局の為に何事か用を遂げずと云ふ事はありませぬ。蓋し全局は部分より成り部分は全局を作るが故に、相互に給養し相互に揖譲するを忘れない。而して其相和合するや部分と全局とに論なく何れの方面から見ても統一的全体の形式を保持し且つ其福祉を進めむとせないものはない。是を以て一体となりて活動し得るのである。主神の天地両界に於ける統合も亦之に類似したまふのである。凡て物の和合するは各其為す所の用が相似の形式を踏襲する時であるから、全社会のために用を為さないものは天界神界の外に放逐さるるのは当然である。そは他と相容れないからであります。用を遂ぐると云ふ事は総局の福祉を全うせむために他の順利を願ふの義であり、そして用を遂げずと云ふは、総局の福祉如何を顧みず、只自家の為の故に他の順利を願ふの義である。此はすべてを捨てて只自己のみを愛し、彼はすべてを捨てて只主神のみを愛すと云ふべきである。天界にあるもの悉く一体となりて活動するは之が為である。而して斯の如くなるは主神よりするのであります。諸天人や諸宣伝使自らの故ではない。何となれば、彼等天人や宣伝使は主神を以て唯一となし、万物の由りて来る大根源となし、主神の国土を保全するを以て総局の福祉と為すからであります。福祉といふは正義の意味である。現世に在つて、国家社会の福祉(正義)を喜ぶこと私利を喜ぶより甚しく、隣人の福祉を以て自己の福祉の如くに喜ぶものは、他生に於ては主神の国土を愛して之を求むるものである。そは天界に於ける主神の国土なるものは、此世に於ける国家と相対比すべきものだからである。自己の為でなく、只徳の故に徳を他人に施すものは隣人を愛することに成るのである。天界にては隣人と称するは徳である。すべて此の如きものは偉人であつて、即ち高天原の中に住するものである。三五教の宣伝使は皆、善の徳を身に備へ、且つ愛の善と信の真とを体現して智慧と証覚とを本具現成してゐる神人計りである。何れも主の神の全体または個体として舎身的大活動を不断に励みつつある神使のみで、実に神明の徳の広大無辺なるに驚かざるを得ない次第であります。願はくは大本の宣伝使たる人は神代に於ける三五教の宣伝使の神業に神習ひ、一人たりとも主の神の御意志を諒解し、国家社会の為に大々的活動を励み、天国へ永住すべき各自の運命を開拓し、且つ一切の人類をして天国の楽園に上らしむべく、善徳を積まれむことを希望する次第であります。太元神を主神と云つたり、救世神瑞の御魂の大神を主神と云つたりしてあるのは前に述べた通り太元神の一切の所属と神格そのものは一体なるが故であります。読者幸に諒せられむことを。 附けて言ふ 主の神なる神素盞嗚大神は神典古事記に載せられたる如く大海原を知食すべき御天職が在らせらるるは明白なる事実であります。主の神は天界をも地の世界をも治め統べ守り給ふと言へば、大変に驚かるる国学者も出現するでせう。然し乍ら天界と言つても天国と云つても矢張り山川草木其他一切の地上と同一の万類があり土地も儼然として存在して居るのであるから、天界地球両方面の守宰神と言つても余り錯誤ではありますまい。天界又は天国と云へば蒼空にある理想国、所謂主観的霊の国だと思つてゐる人には容易に承認されないでせう。天国とは決して冲虚の世界ではありませぬ。天人と雖も亦決して羽衣を着て空中を自由自在に飛翔するものとのみ思つてゐるのは大なる誤解であります。天国にも大海原即ち国土があるのです。只善と真との智慧と証覚を得たる個体的天人の住居する楽土なのであることを思考する時は、主の神の天地を統御按配し給ふといふも決して不可思議な議論ではありませぬ。故に大海原の主宰たる主の神は天界の国土たると地上の国土たるとを問はず守護し給ふは寧ろ当然であります。 大正十二年一月八日 王仁識
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霊界物語 47_戌_治国別の天国巡覧1 09 愛と信 第九章愛と信〔一二四二〕 大本開祖の聖言には愛の善と信の真とを骨子として説かれてある事は神諭を拝読した人のよく知る所なれば、今更口述者が改めて述ぶる迄もないから、其聖言は略する事とする。 善とは即ち此世の造り主なる大神の御神格より流入し来る神善である。此神善は即ち愛其ものである。真とは同じく大神の御神格より流入し来る所の神真である。此神真は即ち信である。さうして其愛にも善があり悪がある。愛の善とは即ち霊主体従、神より出でたる愛であり、愛悪とは体主霊従と云つて自然界に於ける自愛又は世間愛を云ふのである。今口述者が述ぶる世間愛とは決して世の中の所謂博愛や慈善的救済を云ふのではない。己が種族を愛し、或は郷里を愛し、国土を愛する為に他を虐げ、或は亡ぼして自己団体の安全を守る偏狭的愛を指したのである。それから又信仰には真と偽とがある。真の信仰とは心の底から神を理解し、神を愛し、神を信じ、且つ死後の生涯を固く信じて神の御子たる本分を尽し、何事も神第一とする所の信仰である。又偽りの信仰とは所謂偽善者共の其善行を飾る武器として内心に悪を包蔵しながら、表面宗教を信じ神を礼拝し、或は宮寺などに寄附金をなし、其金額を石又は立札に記さしめて、自分の器量を誇る所の信仰である。或は商業上の便利のために、或はわが処世上の都合のために表面信仰を装ふ横着者の所為を称して偽りの信仰と云ふのである。要するに神仏を松魚節として自愛の道を遂行せむとする悪魔の所為を云ふのである。斯くの如き信仰は神に罪を重ね自ら地獄の門扉を開く醜行である。真の神は愛善と信真の中にこそましませ自愛や偽信の中にまします筈はない、斯る自愛や偽信の中に潜入する神は所謂八岐大蛇、悪狐悪鬼餓鬼畜生の部類である。高天原の天国及び霊国にあつては人の言葉皆其心より出づるものであるから、其云ふ所は思ふ所であり、思ふ処は即ち云ふ所である。心の中に三を念じて口に一つを云ふ事は出来ない。是が高天原の規則である、今天国と云つたのは日の国の事であり、霊国と云つたのは月の国の事である。 真の神は月の国に於ては瑞の御霊の大神と現はれ給ひ、日の国に於ては厳の御霊の大神と現はれ給ふ。さうして厳の御霊の大神のみを認めて瑞の御霊の大神を否むが如き信条の上に安心立命を得むとするものは、残らず高天原の圏外に放り出されるものである。斯くの如き人間は高天原より嘗て何等の内流なき故に次第に思索力を失ひ、何事につけても正当なる思念を有し得ざるに立ち至り、遂には精神衰弱して唖の如くなり、或は其云ふ所は痴呆の如くになつて歩々進まず、其手は垂れて頻りに慄ひ戦き、四肢関節は全く力を失ひ、餓鬼幽霊の如くなつて仕舞ふものである。又瑞の御霊の神格を無視し、其人格のみを認むるものも同様である。天地の統御神たる日の国にまします厳の御霊に属する一切の事物は残らず瑞の御霊の大神の支配権に属して居るのである。故に瑞の御霊の大神は大国常立大神を初め日の大神、月の大神其外一切の神権を一身にあつめて宇宙に神臨したまふのである。此大神は天上を統御したまふと共に、中有界、現界、地獄をも統御したまふは当然の理である事を思はねばならぬ。さうして厳の御霊の大神は万物の父であり、瑞の御霊の大神は万物の母である。総て高天原は此神々の神格によつて形成せられて居るものである。故に瑞の御霊の聖言にも『我を信ずるものは無窮の生命を得、信ぜざるものは其生命を見ず』と示されて居る。又『我は復活なり、生命なり、愛なり、信なり、道なり』と示されてある。然るに不信仰の輩は高天原に於ける幸福とは、只自己の幸福と威力にありとのみ思ふものである。瑞の御霊の大神は、総ての神々の御神格を一身に集注したまふが故に、其の神より起り来る所の御神格によつて高天原の全体は成就し、又個々の分体が成就して居るのである。人間の霊体、肉体も此神の神格によつて成就して居るのは無論のことである。さうして瑞の御霊の大神より起り来る所の神格とは即ち愛の善と信の真とである。高天原に住める天人は、総て此神の善と真とを完全に摂受して生命を永遠に保存して居るのである。さうして高天原はこの神々によつて完全に円満に構成せらるるのである。 現界の人間自身の志す所、為す所の善なるもの又思ふ所、信ずる所の真なるものは、神の御目より御覧したまふ時は、其善も決して善でなく、其真も決して真でない、瑞の御霊の大神の御神格によりてのみ、善たり真たるを得るものである。人間自身より生ずる善又は真は、御神格より来る所の活力を欠いで居るからである。御神格の内流を見得し、感得し、摂受して茲に立派なる高天原の天人となる事を得るのである。さうして人間には一霊四魂と云ふものがある。一霊とは即ち真霊であり、神直日、大直日と称するのである。さうして神直日とは神様特有の直霊であり、大直日とは人間が神格の流入を摂受したる直霊を云ふのである。さうして四魂とは和魂、幸魂、奇魂、荒魂を云ふのである。この四魂は人間は云ふに及ばず、高天原にも現実の地球の上にも夫々の守護神として儼存しあるのである。そして荒魂は勇を司り、和魂は親を司り、奇魂は智を司り、幸魂は愛を司る。さうして信の真は四魂の本体となり愛の善は四魂の用となつて居る。さうして直霊は瑞の御霊の大神の御神格の御内流即ち直流入された神力である。故に瑞の御霊の御神格は総ての生命の原頭とならせたまふものである。此大神より人間に起来するものは神善と神真である。故に吾々人間の運命は此神より来る神善と神真を、如何に摂受するかによつて定まるものである。そこで信仰と生命とにあつて是を受くるものは其中に高天原を顕現し、又之を否むものは已むを得ずして地獄界を現出するのである。神善を悪となし、神真を偽りとなし、生を死となすものは又地獄を現出しなくては已まない。現代の学者は何れも自然界の法則や統計的の頭脳をもつて不可測、不可説なる霊界の事象をおほけなくも測量せむとなし、瑞の御霊の神示を否むものは暗愚迷妄の徒にして所謂盲目学者と云ふべき厄介ものである。到底霊界の事は現実界の規則をもつて窺知し得べからざる事を悟らないためである。神は斯の如き人間を見て癲狂者となし、或は痴呆となして救済の道なきを悲しみ給ふものである。斯かる人間は総て其精霊を地獄の団体に所属せしめて居るのである。斯かる盲学者は神の内流を受けて伝達したる霊界物語のある個所を摘発して吾知識の足らざるを顧みず、種々雑多と批評を加へ、甚だしきは不徹底なる自己の考察力をもつて之を葬り去らむとする罪悪者である。高天原の団体に其籍を置き、現代に於て既に天人の列に列したる人間の精霊は吾人の生命及び一切の生命は瑞の御霊の御神格より起来せる道理を証覚し、世にある一切のものは善と真とに相関する事を知覚して居るものである、斯かる人格者の精霊を称して地上の天人と云ふのである。 人間の意思的生涯は愛の生涯であつて善と相関し、知性的生涯は信仰の生涯にして真と相関するものである、さうして一切の善と真とは皆高天原より来るものであり、生命一切の事又高天原より来る事を悟り得るのが天人である。故に霊界の天人も、地上の天人も右の道理を堅く信ずるが故に、其善行に対して他人の感謝を受ける事を悦ばないものである、もし人あつて是等の諸善行を彼の天人等の所有に帰せむとする時は天人は大に怒つて引退するものである。人の知識や人の善行は皆其人自してしかるものと信ずる如きは悪霊の考へにして到底天人共の解し得ざる所である。故に自己のためになす所の善は決して善ではない、何となれば夫れは自己の所為なるが故である。されど自己のためにせず善のためになせる善は所謂神格の内流より来る所の善である。高天原は斯の如き善即ち神格によつて成立して居るものである。 人間在世の時に於て自らなせる善、自ら信ずる真をもつて、実に自らの胸中より来るものとなし、又は当然自分の所属と信じて居るものはどうしても高天原に上る事は出来ない、彼の善行の功徳を求めたり、又自ら義とするものは斯の如き信仰を有して居るものである。高天原及び地上の天人は斯の如きものをもつて痴呆となし、俗人となして、大に忌避的態度を取るものである。斯の如き人間は不断に自分にのみ求めて、大神の神格を観ないが故に、真理に暗き痴呆者と云ふのである。又彼等は元より大神の所属となすべきものを己に奪はむとするが故に神より天の賊と称へらるるのである。所謂人間は大神の御神格を天人が摂受するとの信仰に逆らうて居るものである。瑞の御霊の大神は高天原の天人と共に自家存在の中に住みたまふ、故に大神は高天原に於ける一切中の一切である事は云ふ迄もない事である。 (大正一二・一・八旧一一・一一・二二加藤明子録)
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霊界物語 47_戌_治国別の天国巡覧1 16 霊丹 第一六章霊丹〔一二四九〕 天教山にあれませる木花姫の御化身に 案内されて第三の天国界を後にして 五色の雲を踏み分けつ東をさして上り行く 治国別や竜公は如何はしけむ目は眩み 頭は痛み足はなえ胸は轟き両の手は 力も落ちてブルブルと慄ひ出すぞ是非なけれ 木花姫の御化身は順風に真帆をかかげたる 磯の小舟の進むごと何の故障もあら不思議 とんとんとんと上ります治国別や竜公は 吹く息さへも絶え絶えに命限りの声しぼり (治国別、竜公)『これこれもうし木花の姫の命の神司 暫く待たせ給へかし如何なる訳か知らねども 何とはなしに目は眩み意識は衰へ力落ち 進退茲に極まりて最早一歩も進めない 何卒お慈悲に両人をも一度後に引返し お助けなさつて下されや偏に願ひ奉る 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも尊き神の御恵は いつの世にかは忘れませう抑天国の存在は 神の慈愛を善真の其高徳に構成され 愛と善とに満ち満ちし神の国土で御座いませう 貴神も尊き神なれば吾等二人の苦みを 決して見捨て給ふまじかへさせたまへ惟神 木花姫の御前に命限りに願ぎまつる 嗚呼惟神々々御霊幸はへましませよ』 と歌ふ声も切れ切れに第二天国の入口迄来てバタリと平太り込んで了つた。竜公は唯一言も発し得ず、痴呆の如く口をポカンと開いたまま僅かに指先を間歇的に動かして居る。木花姫は後ふり向きもせず巨大なる光と化して、天の一方に姿を隠させ給うた。治国別は後打ち眺め、 治国別『あゝ、過つたりな過つたりな。自愛の欲に制せられ、吾身の苦しさに木花姫様の救助を求めた愚かしさよ。「師匠を杖につくな、人を頼りにするな」と云ふ御教を、正勝の時になつて忘れて居たか。あゝ人間と云ふものは、何と云ふ浅ましいものであらう。竜公はもはや虫の息、かかる天国に於て、精霊の命までも捨てねばならぬのか、あゝ何うしたらよからうな。国治立大神様、豊国主大神様、神素盞嗚大神様、何卒々々此窮状を、も一度お救ひ下さいませ』 と色蒼ざめ、殆ど死人の如くなつて、合す両の手もピリピリ慄ひ戦き、実に憐れ至極の有様となつて来た。願へど、祈れど、呼べど、叫べど唯一柱の天人も目に入らず、神の御声も聞えず、四辺寂然として物淋しく、立つても居ても居られなくなつて来た。竜公はと顧みれば、哀れにも大地に蛙をぶつつけた如く手足をのばし、殆ど死人同様になつて居る。されど治国別は何処迄も神に従ひ神に頼り、神の神格を信じ、斯かる場合にも微塵も神に対し不平又は怨恨の念を持たなかつた。治国別は決心の臍を固め、 治国別『あゝどうなり行くも神の御心、吾々人間の如何ともすべき限りでない。神様、御心の儘に遊ばして下さい。罪悪を重ねたる治国別、過分も此清き尊き天国に上り来り、身の程をわきまへざる無礼の罪、順序を乱した吾等の罪悪を、何卒神直日、大直日に見直し下さいまして、相当の御処分を願ひます』 と祈る声も細り行き、最早絶体絶命となつて来た。此時俄に天の戸開けて天上より金色の衣を纏ひたる目も眩きばかりの神人、二人の脇立を従へ、雲に乗つて二人の前に悠々と下らせ給ひ、懐より霊丹と云ふ天国の薬を取り出し、二人の口に含ませたまへば、不思議なるかな二人は正気に返り、勇気頓に加はり、痩衰へた体は元の如く肥太り、顔色は鮮花色と変じ、得も云はれぬ爽快の気分に充されて来た。二人は恐る恐る面を上ぐれば、威容儼然たる男とも女とも判別し難き優しき天人、その前に莞爾として立たせたまふのであつた。治国別は思はず手を拍ち、 治国別『あゝ有難し有難し、大神の御仁慈、罪深い吾々をよくもお助け下さいました。有難う存じます』 とよくよくお顔を見れば、以前に別れた木花姫命が、二人の侍女を連れ立たせ給ふのであつた。 治国別『ヤア、貴神は木花姫命様で厶いましたか。誠に誠に御仁慈の段感謝の至りに堪へませぬ』 竜公『神様、能くまアお助け下さいました。竜公は既に既に天国に於て野垂れ死をする所で厶いました。天国と云ふ所は、真に苦しい所で厶いますなア』 木花姫『総て天国には善と真とに相応する順序が儼然として立つて居りますから、此順序に逆らへば大変に苦しいものですよ。身霊相応の生涯をさへ送れば、世の中は実に安楽なものです。水に棲む魚は、陸に上れば直に生命がなくなるやうなもので厶ります』 治国別『成程御尤もで厶います。八衢に籍を置いて居る分際をも顧みず、神様のお言葉に甘え、慢心を起し、天国の巡覧などを思ひ立つたのは、吾々の不覚不調法の罪、何卒々々大神様にお詫を願ひ上げます』 木花姫『治国別殿、其方は媒介者によつて天国の巡覧に来られたのだから、決して身分不相応だとは申されますまい。貴方は宣伝使としての肝腎要の如意宝珠を道で落しましたから、それで苦しかつたのですよ。殆ど息が絶えさうに見えましたので、妾は急ぎ月の大神様の御殿に上り、霊丹を頂いて再び此処に現はれ、貴方等の御生命をつなぎ留める事を得たので厶りますよ。まア結構で厶いましたなア』 治国別『ハイ、吾々が命の親の木花姫様、此御恩は決して忘れは致しませぬ』 木花姫『妾は貴方の命の親ではありませぬ。貴方の命の親は月の大神様ですよ。妾は唯お取次をさして頂いたのみですよ。左様にお礼を申されては、何だか大神様の御神徳を妾が横領するやうに思はれて、何となく心苦しう厶います。宇宙一切は月の大神様の御神格に包まれて居るので厶います。吾々には御神徳を伝達する事は出来ても、命をつないだり御神徳を授ける事は出来ませぬ。此後は何事がありても、仮令少しの善を行ひましても、愛を注ぎましても、決して礼を云うて貰つては迷惑に存じます。何卒神様に直接にお礼を仰有つて下さい』 治国別『ハイ、理義明白なる御教、頑迷なる治国別も貴神の御伝教によつて、豁然と眠りより醒めたるやうで厶います。あゝ国治立大神様、月の大神様、最高天国にまします天照大御神様、唯今は木花姫様の御身を通して吾等に命と栄えと喜びを授け給ひし事を、有難く、ここに感謝致します』 木花姫『貴方は途中でお落しになつたものを未だ御記憶に浮かびませぬか、如意宝珠の玉ですよ』 治国別『ハイ、私は高姫さまのやうに如意宝珠の玉などは一度も拝んだ事もない、手に触れさせて頂いた事も厶いませぬから、従つて落す理由も厶いませぬ。何かの謎では厶いますまいかな。心愚なる治国別には、どうしても此謎が解けませぬ』 木花姫『高姫さまの執着心を起された如意宝珠は、あれは自然界の形態を具へた宝玉です。天界の事象事物は総て霊的事物より構成されて居りますれば、想念上より作り出す如意宝珠で厶いますよ。先づ御悠りとお考へなさいませ。妾が申上げるのはお易い事で厶いますけれど、これ位の事がお分りにならない位では、到底中間天国の天人に出会つて、一言も交へる事が出来ませぬ。神の愛と神の信に照され、神格の内流をお受け遊ばし、智慧と証覚を得れば、何でもない事で厶います』 治国別は、 治国別『ハイ』 と答へた儘双手を組み、眼を閉ぢ暫く考へ込んで居る。遉鋭敏の頭脳の持主と聞えて居る治国別も、霊界へ来ては殆ど痴呆の如く、何程思索を廻らしても容易に此謎が解けなかつた。竜公は傍より手を打ち嬉しさうな元気のよい声を出して、 竜公『もし先生、霊界の如意宝珠と云ふのは善言美詞の言霊ですよ。中間天国へ上る途中に於て天津祝詞や神言の奏上を忘れたので、姫命様が、お気をつけて下さつたのですよ』 治国別『成程、ヤ、ウツカリして居つた。木花姫様、有難う厶います。ほんに竜公さま、お前は私の先生だ、ヤア実に感心々々』 竜公『先生、そんな事云つて貰ふと大に迷惑を致します。決して竜公の智慧で言つたのではありませぬ。御神格の内流によつて、斯様に思ひ浮べて頂かせられたのです』 木花姫『現界に於きましては、竜公さまは治国別さまのお弟子でありませう。併しこの天国に於ては愛善と信真より来る智慧証覚の勝れたものが最も高き位置につくので厶います。神を信ずる事が厚ければ厚い程、神格の内流が厚いので厶いますから』 治国別『いや実に恐れ入りました。天国に参りましても、やはり現界の虚偽的階級を固持して居つたのが重々の誤りで厶います。あゝ月の大神様、日の大神様、木花姫様の肉の御宮を通し、又竜公さまの肉の宮を通して、愚鈍なる治国別に尊き智慧を与へて下さつた事を有難く感謝致します』 木花姫『サア皆さま、是より天津祝詞の言霊を奏上しながら、第二天国をお廻りなさいませ。左様ならば、是にてお別れ致します』 治国別、竜公両人は、 治国別、竜公『ハイ有難う』 と首を垂れ感謝を表する一刹那、嚠喨たる音楽につれて木花姫の御姿は、雲上高く消えさせ給ふのであつた。 あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・一・九旧一一・一一・二三加藤明子録)
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霊界物語 48_亥_治国別の天国巡覧2 12 西王母 第一二章西王母〔一二六六〕 高天原の総統神即ち大主宰神は大国常立尊である。又の御名は天之御中主大神と称へ奉り、其霊徳の完全に発揮し給ふ御状態を称して天照皇大神と称へ奉るのである。そして此大神様は厳霊と申し奉る。厳と云ふ意義は至厳至貴至尊にして過去、現在、未来に一貫し、無限絶対無始無終に坐ます神の意義である。さうして愛と信との源泉と現れます至聖至高の御神格である。さうして或時には瑞霊と現はれ現界、幽界、神界の三方面に出没して一切万有に永遠の生命を与へ歓喜悦楽を下し給ふ神様である。瑞と云ふ意義は水々しと云ふ事であつて至善至美至愛至真に坐まし且円満具足の大光明と云ふ事になる。又霊力体の三大元に関聯して守護し給ふ故に三の御魂と称へ奉り、或は現界、幽界(地獄界)、神界の三界を守り給ふが故に三の御魂とも称へ奉るのである。要するに神は宇宙に只一柱坐ますのみなれども、其御神格の情動によつて万神と化現し給ふものである。さうして厳霊は経の御霊と申し上げ神格の本体とならせ給ひ、瑞霊は実地の活動力に在しまして御神格の目的即ち用を為し給ふべく現はれ給うたのである。故に言霊学上之を豊国主尊と申し奉り又神素盞嗚尊とも称へ奉るのである。さうして厳霊は高天原の太陽と現はれ給ひ、瑞霊は高天原の月と現はれ給ふ。故にミロクの大神を月の大神と申上ぐるのである。ミロクと云ふ意味は至仁至愛の意である。さうして其仁愛と信真によつて、宇宙の改造に直接当らせ給ふ故に、弥勒と漢字に書いて弥々革むる力とあるのを見ても、此神の御神業の如何なるかを知る事を得らるるのである。善悪不二、正邪一如と云ふ如きも、自然界の法則を基礎としては到底其真相は分るものでない。善悪不二、正邪一如の言葉は自然界の人間が云ふべき資格はない、只神の大慈大悲の御目より見給ひて仰せられる言葉であつて、神は善悪正邪の区別に依つて其大愛に厚き薄きの区別なき意味を善悪不二、正邪一如と仰せらるるのである。併しながら自然界の事物に就ても亦善悪混淆し美醜互に交はつて一切の万物が成育し、一切の順序が成立つのである。故に人は霊主体従と云つて自然界に身を置くとも、凡て何事も神を先にし、愛の善と信の智を主として世に立たねばならないのである。然るに霊的事物の何たるを見る事の出来ない様になつた現代人は、如何しても不可見の霊界を徹底的に信じ得ず、稍霊的観念を有するものと雖も、要するに暗中模索の域を脱する事が出来ない。それ故に人は何うしても体を重んじ、霊を軽んじ物質的欲念に駆られ易く地獄に落ち易きものである。かかる現界の不備欠点を補はむが為に大神は自ら地に降り其神格に依つて精霊を充し、予言者に向つて地上の蒼生に天界の福音を宣伝し給ふに至つたのである。凡て人間が現実界に生れて来たのは、云はば天人の胞衣の如きものである。さうして又天人の養成器となり苗代となり又霊子の温鳥となり、天人の苗を育つる農夫ともなり得ると共に、人間は天人其ものであり又在天国の天人は人間が善徳の発達したものである。さうして天人は愛善と信真に依つて永遠の生命を保持し得るものである。故に人間は現界の生を終へ天国に復活し、現界人と相似せる生涯を永遠に送り、天国の円満をして益々円満ならしむべく活動せしむる為に、大神の目的に依つて造りなされたものである。故に高天原に於ける天国及び霊国の天人は一人として人間より来らないものはない。大神様を除く外、一個の天人たりとも天国に於て生れたものはないのである。必ず神格の内流は終極点たる人間の肉体に来り、此処に留まつて其霊性を発達せしめ、而して後天国へ復活し、茲に初めて天国各団体を構成するに至るものである。故に人は天地経綸の司宰者と云ひ、又天地の花と云ひ、神の生宮と称ふる所以である。愚昧なる古今の宗教家や伝教者は概ね此理を弁へず、天人と云へば、元より天国に在つて特別の神の恩恵に依つて天国に生れたるものの如く考へ、又地獄にある悪鬼どもは元より地獄に発生せしものの如く考へ、其地獄の邪鬼が人間の堕落したる霊魂を制御し或は苦しむるものとのみ考へてゐたのである。之は大なる誤解であつて、数多の人間を迷はす事、実に大なりと云ふべしである。茲に於て神は時機を考へ、弥勒を世に降し、全天界の一切を其腹中に胎蔵せしめ、之を地上の万民に諭し、天国の福音を完全に詳細に示させ給ふ仁慈の御代が到来したのである。されど大神は予言者の想念中に入り給ひ、其記憶を基礎として伝へ給ふが故に、日本人の肉体に降り給ふ時は即ち日本の言葉を以て現はし給ふものである。科学的頭脳に魅せられたる現代の学者又は小賢しき人間は「神は全智全能なるべきものだ。然るに何故に各国の民に分り易く、地上到る所の言語を用ひて示し給はざるや」と云つて批判を試み、神の遣はしたる予言者の言を以て怪乱狂妄と罵り、或は無学者の言とか或は不徹底の言説とか何とかケチをつけたがる盲が多いのは、神の予言者も大に迷惑を感ずる所である。 高天原と天界は至大なる一形式を備へたる一個人である。さうして高天原に構成されたる天国の各団体は之に次げる所の大なる形式を備へたる一個人の様なものである。さうして天人は又其至小なる一個人である。人間も亦天界の模型であり、小天地である事は屡述べた所である。神は此一個人なる高天原の頭脳となつて其中に住し給ひ、万有一切を統御し給ふ故に、又地獄界も統御し給ふは自然の道理である。人間も亦其形体中に天国の小団体たる諸官能を備へ種々の機関を蔵し、而して天国地獄を包含してゐるものである。 扨て高天原の如き極めて円満具足せる形式を有するものには、各分体に全般の面影があり又全般に各分体の面影がある。其理由は高天原は一個の結社の様なものであつて、其一切の所有を衆と共に相分ち、衆は又一切の其所有を結社より受領して生涯を送る故である。かくの如く天界の天人は一切の天的事物の受領者なるによつて、彼は又一個の天界の極めて小なるものとなすのである。現界の人間と雖も、其身の中に高天原の善を摂受する限り、天人の如き受領者ともなり、一個の天界ともなり、又一個の天人ともなるのである。 治国別、竜公両人は言霊別命の案内によつて第一天国の或個所に漸く着いた。此処には得も云はれぬ荘厳を極めた宮殿が立つてゐる。これは日の大神の永久に鎮まります都率天の天国紫微宮であつて、神道家の所謂日の若宮である。智慧と証覚と愛の善と信の真に充されたる数多の天人は此宮殿の前の広庭に列をなし、言霊別一行の上り来るを歓喜の情を以て迎へて居たのである。言霊別命は遥か此方より此光景を指さし、 言霊別『治国別様、あの前に金色燦然として輝いてゐるのは、エルサレムで厶ります。さうしてあの通り巨大なる石垣を以て造り固められ、数百キユーピツトの城壁を囲らしてあるのを御覧なさいませ』 治国別『ハイ、有難う厶ります、如何したものか吾々は円満の度が欠けて居りまするために、エルサレムは何処だか、石垣は何処にあるか、城壁の高さも分りませぬ。只私の目に映ずるのは赫灼たる光と天人の姿が幽かに見ゆるばかりです。さうしてエルサレムとか仰有りましたが、それは小亜細亜の土耳古にある聖地では厶りませぬか』 言霊別『エルサレムの宮とは大神様の御教を伝ふる聖場の意味であります。又高き処の意味であつて即ち最高天界の中心を云ふのです。石垣と申すのは即ち虚偽と罪悪との襲来を防ぐ為の神真其ものであります。度と申すのは性相其ものであつて、聖言に云ふ、人とは凡ての真と善徳とを悉く具有するものの謂であります。即ち人間の内分に天界を有するものを人と云ひ、天界を有せないものを人獣と云ふのです。ここには決して人なる天人はあつても現界の如き人獣は居りませぬ。然し私が今人獣と云つたのは霊的方面から云つたのです。凡て神の坐します聖場及び其御教を伝ふる聖場を指して貴の都と云ひ、或はエルサレムの宮と云ふのです』 治国別『さう致しますと、現界に於けるウブスナ山の斎苑館を始め、黄金山、霊鷲山、綾の聖地及び天教山、地教山、万寿山其他の聖地は凡て天国であり、エルサレムの宮と云ふのですか』 言霊別『さうです、実に神格によつて円満なる団体の作られたものは凡てエルサレムとも云ひ、地上に於ては地の高天原と称ふべきものです。地上の世界は要するに高天原の移写ですから、地上にある中に高天原の団体に籍をおいておかなくては、霊相応の道理順序に背いては、死後天国の生涯を送る事は出来ませぬ。サア之より最奥天国の中心点、大神の御舎に御案内致しませう』 と先に立つて歩み出した。二人は足の裏がこそばゆい様な気分に打たれ、いと恥かし気に従ひ行く。路傍に堵列せる数多の天人は『ウオーウオー』と手を拍つて叫び、愛善の意の表示をなしてゐる。二人は言霊別命の背後に従ひ、被面布を冠りながら心落ち着き、静々と日の若宮の表門を潜り入る。 言霊別命は二人を門内に待たせ置き悠々として奥深く入り給うた。二人は門内に佇み園内に繁茂せる果樹の美しきを眺めやり、舌うちしながら頭を傾け『アーア』と驚きに打たれ吐息を洩らしてゐる。暫くすると庭園の一方より目も眩むばかりの光を放ち悠々と入り来り給ふ妙齢の天女があつた。二人は思はずハツと大地に踞み敬礼を表した。此女神は西王母と云つて伊邪那美尊の御分身、坤の金神であつた。西王母と云ふも同身異名である。女神は二人の手をとりながら言霊別命の奥殿より帰り来る間、庭園を巡覧させむと桃畑に導き給うた。二人は恐る恐る手を曳かれながら芳しき桃樹の園に導かれ行く。此処には三千株の桃の樹が行儀よく繁茂してゐる。さうして前園、中園、後園と区劃され、前園には一千株の桃樹があつて美はしき花が咲き且一方には美はしき実を結んだのも尠なくはない。此前園の桃園は花も小さく又其実も小さい。さうして三千年に一度花咲き熟して、之を食ふものは最高天国の天人の列に加へらるるものである。さうして此桃の実は余程神の御心に叶つたものでなければ与へられないものである。西王母は二人に一々此桃の実の説明をしながら中園に足を踏み入れた。ここにも亦一千株の桃の樹があり、美はしき八重の花が咲き充ち又甘さうな実がなつて居る。之は六千年に一度花咲き実り、之を食ふものは天地と共に長生し、如何なる場合にも不老不死の生命を続けると云ふ美はしき果物である。西王母は又もや詳細に桃畑の因縁を説き諭し、終つて後園に足を入れ給うた。此処にも亦一千株の桃樹が行儀よく立ち並び、大いなる花が咲き匂ひ、実も非常に大きなのが枝も折れむばかりに実つてゐる。此桃の樹は九千年に一度花咲き実り、之を食ふものは天地日月と共に生命を等しうすると云ふ重宝至極な神果である。西王母は此因縁を最も詳細に治国別に諭し給うた。然し此桃の密意については容易に発表を許されない、然しながら桃は三月三日に地上に於ては花咲き、五月五日に完全に熟するものなる事は、此物語に於て示されたる所である。之によつて此桃に如何なる御経綸のあるかは略推知し得らるるであらう。西王母は一度地上に降臨して黄錦の御衣を着し、数多のエンゼルと共に之を地上の神権者に献げ給ふ時機ある事は、現在流行する謡曲によつても略推知さるるであらう。 却説、西王母は桃園の案内を終り、二人の手を引きながら元の門口に送り来り、 西王母『治国別殿、竜公殿、之にてお別れ申す』 と云ふより早く桃園内に神姿を隠し給うた。二人は其後姿を伏し拝み、王母が説明によつて神界経綸の深遠微妙なる密意を悟り、思はず合掌して感涙に咽びつつあつた。 かかる所へ紫微宮の黄金の中門を開いて現はれ来る美はしき天女、五色の光輝に充ちた羽衣を着しながら出で来る其荘厳さ、天国の天人は何れも美はしく円満の相を具備すれども、未だ嘗て斯の如き円満なる妙相を備へたる神人を見るのは二人とも天国巡覧以来初めてであつた。 因に羽衣とは決して謡曲にある如き中空を翔ける空想的のものでない。最も美はしき袖は手より数尺長く、裾は一二丈も後に垂れてゐる神衣の事である。 扨て十二人の天女は、無言の儘二人を指し招き、前に六人、後に六人、二人を守りながら黄金の中門を潜つて迎へ入れるのであつた。此時今まで聞いた事もない様な微妙な音楽四方より起り、芳香馥郁として薫じ、二人は吾身の何処にあるやも忘るるばかり歓喜に充されながら、微の声にて天津祝詞を奏上しつつ欣々として進み入る。 (大正一二・一・一三旧一一・一一・二七北村隆光録)
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霊界物語 48_亥_治国別の天国巡覧2 14 至愛 第一四章至愛〔一二六八〕 治国別、玉依別は最高の霊国を後にして、帰途中間霊国を横断し、最下層の天国に降つて来た。往がけは其証覚、両人共今の如くならざりし故、非常にまばゆく感じたりしが、日の若宮に於て神徳を摂受したる二人は、最早第三天国の旅行は何の苦痛もなかつた。併しながら第一、第二、第三と下降し来るにつれて、吾ながら其神力の減退する如く思はれ、また明確なる想念も甚しく劣りし如く思はるるのは、実に不思議であつた。漸くにして二人は、八衢の関所に着いた。伊吹戸主の神は数多の守衛を率ゐて二人を歓迎した。二人は館の奥の間に導かれ、茶菓の饗応を受け、霊界に関する種々の談話を交換した。 伊吹『治国別様、首尾克く最奥天国、霊国がきはめられましてお目出度う厶います。さぞ面白きお話が厶いませうねえ』 治国別『何分徳が足らないものですから、何れの天国に於ても荷が重すぎて、非常に屁古たれました。併しながら諸エンゼルの導きによつて、辛うじて最奥天国まで導かれ、其団体の一部を巡拝し、漸く此処まで帰つて参りました。併しながら不思議な事には、下層天国より順を追うて最奥天国へ上る時の苦さは譬へられませぬ。丁度三才の童子に重き黄金の棒を負はせたやうなもので、余り結構過ぎて、それに相応する神力なき為、到る所で恥を掻いて参りました』 伊吹戸主神『お下りの時はお楽で厶いましたらうなア』 治国別『ハイ、帰りは帰りで又苦しう厶いました。何だかダンダンと神徳が脱ける様で厶いましたよ』 伊吹戸主神『すべて霊界は想念の世界で厶います、それ故情動の変移によつて、国土相応の証覚に住するのですから、先づそれで順序をお踏みになつたのです。高天原の規則は大変厳格なもので、互に其範囲を犯す事は出来ない様になつて居ります。最高天国、中間天国、下層天国及び三層の霊国は、厳粛な区別を立てられ、各天界の諸天人は互に往来する事さへも出来ないのです。下層天国の天人は中間天国へ上る事は出来ず、又上天国の者は以下の天国に下る事も出来ないのが規則です。もしも下の天国より上の天国に上り行く天人があれば必ず痛く其心を悩ませ、苦み悶え、自分の身辺に在る物さへ見えない様に、眼が眩むものです。ましてや上天国の天人と言語を交ゆる事などは到底出来ませぬ。又上天国から下天国へ下り来る天人は忽ち其証覚を失ひますから、言語を交へむとすれば、弁舌渋りて重く、其意気は全く沮喪するものです。故に下層天国の天人が中間天国に至るとも、亦中間天国の天人が最奥天国に至るとも、決して其身に対して幸福を味はふ事は出来ませぬ。吾居住の天国以上の天人は、其光明輝き、其威勢に打たるるが故に、目もくらみ、只一人の天人をも見る事が出来ませぬ。つまり内分なるもの、上天国天人の如く開けないが為であります。故に目の視覚力も明かならず、心中に非常な苦痛を覚え、自分の生命の有無さへも覚えない様な苦しみに遇ふものです。併しながら貴方等は大神様の特別のお許しを受け、媒介天人即ち霊国の宣伝使に伴はれて、お上りになりましたから、各段及び各団体に交通の道が開かれ、其為巡覧が首尾よく出来たのです。而して大神様は上天と下天の連絡を通じ給ふに、二種の内流によつて之を成就し給ふのです。而して二種の内流とは、一は直接内流、一は間接内流であります』 玉依『直接内流、間接内流とは如何なる方法を言ふので厶いますか』 伊吹戸主神『大神様は上中下三段の天界をして、打つて一丸となし、一切の事物をして、其元始より終局点に至るまで悉く連絡あらしめ、一物と雖も洩らさせ給ふ事はありませぬ。而して直接内流とは大神様から直に天界全般に御神格の流入するものであり、間接内流とは各天界と天界との間に、神格の流れ通ずるのを言ふのです』 治国『如何にも、それにて一切の疑問が氷解致しました。私は之よりお暇を申し、現界へ帰らねばなりませぬ。併しながらどちらへ帰つてよいか、サツパリ分らなくなりました。最高天国から下るに就いて、折角戴いた吾証覚が鈍り、今では元の杢阿弥、サツパリ現界の方角さへも見えなくなつて了ひました。之でも現界へ帰りましたら、神様に賜はつた神力が依然として保たれるでせうか』 伊吹戸主神『現界に於て最奥天国に於けるが如き智慧証覚は必要がありませぬ。只必要なるは愛と信のみです。其故は最高天国の天人の証覚は第二天国人の知覚に入らず、第二天国人の証覚は第三天国人の能く受け入るる所とならない様に、中有界なる現界に於て、余り最高至上の真理を説いた所で有害無益ですから、只貴方が大神様に授かりなさつた其神徳を、腹の中に納めておけば可いのです。大神様でさへも地上に降り、世界の万民を導かむとなし給ふ時は、或精霊に其神格を充し、化相の法によつて予言者に現はれ、予言者を通じて現界に伝へ給ふのであります。それ故神様は和光同塵の相を現じ、人見て法説け、郷に入つては郷に従へとの、国土相応の活動を遊ばすのです。貴方が今最高天国より、段々お下りになるにつけ、証覚が衰へたやうに感じられたのは、之は自然の摂理です。之から現界へ出て、訳の分らぬ人間へ最高天国の消息をお伝へになつた所で、恰も猫に小判を与ふると同様です。先づ貴方が現界へ御帰りになれば、中有界の消息を程度として万民を導きなさるが宜しい。其中に於て少しく身魂の研けた人間に対しては、第三天国の門口位の程度でお諭しになるが宜しい。それ以上御説きになれば、却て人を慢心させ害毒を流すやうなものです。人三化七の社会の人民に対して、余り高遠なる道理を聞かすのは、却て疑惑の種を蒔き、遂には霊界の存在を否認する様な不心得者が現はれるものです。故に現界に於て数多の学者共が首を集め頭を悩ませ、霊界の消息を探らむとして霊的研究会などを設立して居りますが、之も霊相応の道理により、中有界の一部分より外は一歩も踏み入るる事を霊界に於て許してありませぬ。それ故貴方は現界へ帰り学者にお会ひになつた時は、其説をよく聴き取り、対者の証覚の程度の上をホンの針の先程説けば可いのです。それ以上お説きになれば彼等は忽ち吾癲狂痴呆たるを忘れ、却て高遠なる真理を反対的に癲狂者の言となし、痴呆の語となし、精神病者扱をするのみで少しも受入れませぬ。故に現界の博士、学士連には、霊相応の理によつて肉体のある野天狗や狐狸、蛇などの動物霊に関する現象を説示し、卓子傾斜運動、空中拍手音、自動書記、幽霊写真、空中浮上り、物品引寄せ、超物質化、天眼通、天言通、精神印象鑑識、読心術、霊的療法等の地獄界及び精霊界の劣等なる霊的現象を示し、霊界の何ものたるをお説きになれば、それが現代人に対する身魂相応です。それでも神界と連絡の切れた人獣合一的人間は非常に頭を悩ませ、学界の大問題として騒ぎ立てますよ。アツハヽヽヽ』 玉依『モウシ、伊吹戸主神様、私は日の若宮に於て、王母様より玉依別といふ名を賜はりましたが、これは最高天国で名乗る名で厶いませうか、現界に於ても用ひて差支ありますまいか』 伊吹戸主神『現界へお帰りになれば、現界の法則があります。貴方は治国別様の徒弟たる以上は、現界へ帰ればヤハリ竜公さまでお働きなされ。治国別様がお許しになれば、如何なる名をおつけになつても宜しいが、貴方が現界の業務を了へ、霊界へ来られた時始めて名乗る称号です。霊界で賜はつた事は霊界にのみ用ふるものです。併しマア復活後は、結構な玉依別様と云ふ称号が既に既に頂けたのですから、お目出度う厶います。決して霊界の称号を用ひてはなりませぬぞや』 玉依別『ハイ、畏まりました、然らば只今より竜公と呼んで下さいませ』 伊吹戸主神『モウ暫く玉依別さまと申上げねばなりませぬ』 玉依別『アーア、玉依別さまもモウ少時の間かなア、折角最高天国まで上つて、結構な神力を頂いたが、現界へ帰れば又元の杢阿弥かなア。お蔭をサツパリ落して帰るのかと思へば、何だか心細くなりました』 伊吹戸主神『決してさうではありませぬ。貴方の精霊が頂いた神徳は、火にも焼けず、水にも溺れず、人も盗みませぬ。三五教の神諭にも……御魂に貰うた神徳は、何者も盗む事は能う致さぬぞよ……と現はれてありませう。貴方の天国に於て戴かれた神徳は、潜在意識となつて否潜在神格となつて、どこ迄も廃りませぬ。此神徳を内包しあれば、マサカの時にはそれ相当の神徳が現はれます。併しながら油断をしたり慢心をなさると、其神徳は何時の間にやら脱出し元の神の御手に帰りますから、御注意なさるが宜しい。而して仮りにも現界の人間に対し、最奥天国の神秘を洩らしてはなりませぬぞ。却て神の御神格を冒涜するやうになります。霊界の秘密は妄りに語るものではありませぬ。愚昧なる人間に向つて分不相応なる教を説くは、所謂豚に真珠を与ふるやうなものです。忽ち貴重なる真珠をかみ砕かれ、一旦其汚穢なる腹中を潜り、糞尿の中へおとされて了ふやうなものですよ』 玉依別『治国別さま、駄目ですよ、私は天国の消息を実見さして戴き、之から現界へ帰つて、先生と共に現界に於ける霊感者の双璧となり、大に敏腕を揮つてみようと、今の今まで楽しんで居りましたが、最早伊吹戸主様のお説を聞いてガツカリ致しました。さうするとヤツパリ身魂の因縁だけの事より出来ぬのですかなア。宝の持腐れになるやうな気がして聊か惜しう厶いますワ』 治国別『アツハヽヽヽヽ』 伊吹戸主神『私は伊邪那岐尊の御禊によつて生れました四人の兄弟です。されど其身魂の因縁性来によつて祓戸の神となり、最高天国より此八衢に下り、斯様なつまらぬ役を勤めて居りますが、之も神様の御心の儘によりならないのですから、喜んで日々此役目を感謝し忠実に勤めて居るのです。まだまだ私所か妹の瀬織津姫、速佐須良姫、速秋津姫などは実にみじめな役を勤めて居ります。言はば霊界の掃除番です。蛆のわいた塵芥や痰唾や膿、糞小便など所在汚き物を取除き浄める職掌ですから、貴方の神聖なる宣伝使の職掌に比ぶれば、実に吾々兄弟は日の大神の貴の子でありながら、つまらぬ役をさして頂いて居ります。併し之は決して吾々兄弟が此役目を不足だと思つて申したのではありませぬ、貴方等の御心得の為一例を挙げたまでで厶います』 玉依『ハイ、大神様の御仁慈、実に感じ入りました』 と感涙にむせぶ。治国別は憮然として、 治国別『アヽ実に大神様の御恵、感謝に堪へませぬ。厳の御霊の神諭にも……我子にはつまらぬ御用がさしてあるぞよ。人の子には傷はつけられぬから……とお示しになつてゐますが、実に大神様の御心は測り知られぬ有難きもので厶いますなア』 と云つたきり、吐息を洩らして差俯いてゐる。 伊吹戸主神『私ばかりぢやありませぬ、月照彦神様、弘子彦神様、少彦名神様、純世姫様、真澄姫様、竜世姫様、其他結構な神々様は皆、厳の御霊や瑞の御霊の大神の直々の御子でありながら、何れも他の神々の忌み嫌ふ地底の国へお廻りになつて、辛い御守護をしてゐられます。之を思へば貴方等は実に結構なものですよ。厳の御霊の御神諭にも……人民位結構な者はないぞよ……と示されてありませうがなア』 治国『成程、実に大神様の御心の程は、吾々人間の測り知る所ではありませぬ。あゝ惟神霊幸はへませ、五六七の大神様……』 と涙を滝の如く流し、神恩の甚深なるに感じ、竜公と共に合掌して其場に打伏した。伊吹戸主神は目をしばたたきながら、 伊吹戸主神『御両人様、其心で、どうぞ現界に於て神の為、道の為、世人の為に御活動を願ひます。左様ならば之にてお別れ致しませう』 と云ふより早く忙しげに奥の間に姿を隠した。二人は後姿を見送り、恭しく拝礼しながら館を立出で、赤門をくぐり、白赤の守衛に厚く礼を述べ、八衢街道を想念の向ふ所に任せて歩み出した。アヽ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・一・一四旧一一・一一・二八松村真澄録)
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霊界物語 48_亥_治国別の天国巡覧2 17 甦生 第一七章甦生〔一二七一〕 ランチ将軍、片彦、ガリヤ、ケースの四人は罪人橋の傍に佇み、肌を断る許りの寒風に曝されながら、幽かに聞ゆる宣伝歌の声をせめてもの力として、慄ひながら待つて居た。四方を見れば、今まで吾身辺を包みたる冥官は一人も居らず、又我利我利亡者の姿は残らず消え失せたれども、再び潜り来りし小孔は塞がりて分らず、此橋を向ふへ渡らむか、実に危険にして百中の百まで顛落しさうな光景である。宣伝歌の声は追々高くなつた。それに次いで、ワイワイと喚く数百人の声、前後左右より響き来る。四人は心も心ならず、如何なり往くならむと、絶望の淵に沈んで居た。かかる所へ忽然として現はれ給うたのは容貌端麗なる一人の女神、二人の侍女を伴ひながら、四人の前に鳩の如く下り給ひ、女神は優しき声にて、 女神『貴方は大自在天様の教を奉ずるランチ将軍の一行ぢや厶いませぬか』 四人は蘇生の思ひをしながら、俄に嬉し気に声まで元気よく、 四人『ハイ、仰せの如く、ランチ将軍主従で厶います。誠に罪悪のため斯様な所へ落され、二進も三進もなりませぬ。今日迄の罪悪はすつかり悔い改めまして、生れ赤児の心に立ち帰りますれば、どうぞ此の急場をお救ひ下さいませ』 女神『それは嘸お困りでせう。貴方が誓つて体主霊従の行ひを改むるとならばお助け申しませう。妾は都率天に坐ます日の大神のお傍に仕ふるもの、妾が申す事御合点が参りましたらキツと救うて上げませう、実の所は貴方等の危難を大神様が御照覧遊ばし「一時も早く彼が前に往き、誠を説き明し救ひやれ、時後れなば一大事」との仰せに、取るものも取り敢ず、都率天を下り此処に来ました。あれお聞きなさいませ。あの宣伝歌は、貴方等を救ふための宣伝歌の声で厶います』 片彦『ハイ、有難う厶います。歌は聞えますが、其歌がボンヤリとして少しも意味が分りませぬ』 女神『あの歌は、三五教の宣伝使が、貴方等を救ふべく神への祈り歌で厶います、サア篤りとお聞きなされ』 と懐中より大幣を取り出し左右左に打ち振れば、不思議や四人の耳はパツと開けて、歌の意味は益々明瞭になつて来た。四人は両手を合せ、大地に跪いて其歌を一語も洩らさじと聞き入つた。其歌、 (紫姫)『高天原の最奥の日の若宮に現れませる 至仁至愛の大神は八岐大蛇や醜狐 曲鬼共に取りつかれ善の道をば取り違へ 智慧証覚をくらまして体主霊従の小欲に 浮身を窶すバラモンの大黒主の部下となり ミロクの神の化身たる神素盞嗚の大神の 常磐堅磐に現れませる産土山の霊国の 貴の館を屠らむと大黒主の命をうけ ランチ将軍、片彦が数多の部下を引率れて 浮木の森に陣営を構へて作戦計画の 真最中に入り来る治国別の宣伝使 忽ち悪心勃発し神の尊き御使を 千尋の暗き穴の底落し入れたる曲業は 忽ち其身に報い来て眼はくらみ変化神 此上なき美人と過りて互に修羅を燃やしつつ 反間苦肉の策を立て互に命を奪ひ合ひ 忽ち精霊肉体を離れて地獄に踏み迷ひ 進退茲に谷まれる其窮状を臠はし 妾に向つて詔らすやう汝紫姫の神 二人の天女と諸共に根底の国に降臨し 彼等四人が心底を調べたる上真心の 聊かなりと照るあらば誠の道を説き聞かせ 再び娑婆に追ひかへし遷善改過の其実を あげさせよやと厳かに詔らせたまひし神勅を 慎み畏み今茲に降り来りしものなるぞ 軍の君よ汝は今吾言霊を聞き分けて 尊き神の愛に触れ再び現世に立ち帰り 大神業に奉仕する赤心あらば吾は今 汝を安きに救ふべしあゝ惟神々々 尊き神の勅もて汝等四人に詔り伝ふ』 と言葉淑かに聞え来る。よくよく見れば宣伝歌の声は外には非ず、女神の口から歌はれて居たのである。されど神格に満ちたる天人は、現代人の如く口を用ひたまはず、一種の語字を用ひ四辺より語を発し、其意を述べ給ふにより、四人の亡者の気づかなかつたのも道理である。 ランチ将軍は漸くにして力を得、歌をもつてエンゼルに答へた。 ランチ『高天原の最奥の日の若宮に現れませる 尊き神の勅もて天降りましたる紫の 姫の命の御前に慎み敬ひ願ぎ申す 吾はバラモン大御神大国彦を祭りたる 大雲山の聖場に朝な夕なに身を清め 難行苦行の功をへて漸く道の奥処をば 悟りて茲に神柱大黒主に選まれて 教司となり居たり時しもあれやウラル教 三五教の神柱数多の軍を引率れて 空照り渡る月の国ハルナの都に攻め来る 噂は強く聞えけり茲に大黒主の神 大に怒らせ給ひつつ善か悪かは知らねども 軍を起し産土の館を指して進むべく 鬼春別に依さしまし数多の兵士任けたまふ 鬼春別の部下なりし吾等は命に従ひて 浮木の森に来る折怪しき女に村肝の 心を汚し同僚を恋の敵と恨みつつ 悪逆無道の行動を敢てなしたる悔しさよ 斯くなる上は吾とても如何でか悪を尽さむや 唯今限り悪を悔い誠の道に立ち帰り 皇大神の御教に厚く服ひ仕ふべし 尊き神の御使よ此有様を憫れみて 何卒救はせたまへかしもし許されて現界に 再び帰り得るなれば神素盞嗚の大神に 刃向ひまつりし罪咎を償ふ為に一身を 捧げて誠の大道に進み奉らむ吾心 尊き神の御使の御前に心固めつつ 委曲に願ひ奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 一旦誓ひし吾魂は皇大神の御為に 仮令命は捨つるとものどには捨てじ一歩も 顧みせざる誠心を清くみすかし給ひつつ 愍み給へ紫の姫の命の御前に 慎み敬ひ願ぎ申す』 と細き声にて詔り上げた。片彦も亦歌をもつて罪を謝した。 片彦『ここたくの罪や汚れになづみたる わが身魂をば清めて救へ。 惟神誠の道に踏み迷ひ 根底の国に落ちにけるかな。 何事も神の御為世のためと 知らず知らずに曲になりぬる。 ここたくの罪を許して現世に 救はせ給へと乞ひのみ奉る』 ガリヤ『吾も亦汚き欲に包まれて 黒白も分ぬ暗に落ちぬる。 いと深き神の恵に包まれて 根底の国を去るぞ嬉しき。 皇神の此御恵を如何にして 報はぬものと危ぶまれぬる。 さりながら元は尊き大神の 身魂なりせば清く帰らむ』 ケース『身の欲に心曇りて根の国の 川辺に迷ふ吾ぞ果敢なき。 如何にして此苦しみを逃れむと 千々に心を痛めたりしよ。 有難き神の恵の霑ひて 紫姫は降りましけり』 ランチ『有難し勿体なしと申すより 外に言の葉なかりけるかも。 大神の恵の露は根の国や 底の国まで霑ひにけり』 紫姫『村肝の心の闇の晴れし身は 安く帰らむ顕御国へ。 さりながら再び現世に帰りなば 曲の仕業は夢にな思ひそ。 皆さま、結構で厶いました。どうやら現世へお帰り遊ばす道が開けたやうです。妾も大慶に存じます。併しながら此国の守護神様は金勝要大神様、一度お許しを蒙らねばなりませぬ。お願ひを致して参ります』 と云ふより早く、麗しき雲を起し、罪人橋の上を北へ北へと其神姿を隠し給うた。四人は互に顔を見合せ、ホツと息をつきながら、 ランチ『あゝ片彦殿、真に済まない事を致しました。悪魔に取りつかれ、俄にあのやうな悪心を起し、こんな所へ閉ぢ込まれるとは、どうも恥かしい事で厶る。どうか現界へ帰るとも、今迄の恨は川へ流し、層一層御親交を願ひます』 と心の底より片彦に詫びた。片彦は之に答へて、さも嬉し気に云ふやう、 片彦『将軍様、勿体ない事を仰せられますな。皆私が悪いので厶います。数多の軍勢を指揮する身分で居ながら、陣中の規律を紊し、女に心を奪はれ、遂には思はぬ葛藤を起しました其罪は、私が大部分負担すべきものです。何卒今までの罪をお許し下さいまして、従前よりも層一層の御親交を願ひます』 と心の底より打ち解けて云つた。 ガリヤ、ケースの両人は両将軍の物語を聞き、身を縮め、感歎の息を洩らして居る。斯かる所へ治国別、松彦、竜公、万公、アク、タク、テクの一行、宙を飛んで走り来り、四人の前に整列し、 治国『片彦さま、貴方の改心が国魂の神、金勝要大神様に通じました。拙者は要の神の命により、貴方を現界に救ふべくお迎へに参りました』 片彦『ハイ、有難う厶います』 と落涙に及ぶ。松彦はランチ将軍に向ひ、 松彦『将軍殿、貴方の悔悟のお願が大地の金神金勝要神様の御前に達しました。拙者は神命に依り、貴方を現界へお送り申しませう、次にガリヤ、ケースの両人も同様現界へお帰りなさい』 三人は、 三人『ハイ有難う』 と頭を下げる途端、ザワザワと聞ゆる人声に目を醒ませば、浮木の森の物見櫓の下座敷に四人は横たはり、数多の人々に介抱されて居た。さうしてお民はお寅に救はれて居た。ランチ将軍、片彦は枕許をよく見れば、豈図らむや、今夢ともなしに罪人橋の麓にて救はれたる治国別、松彦を初め、竜公、万公、アク、タク、テクの面々であつた。彼等四人は治国別、松彦の一隊に死体を河中より救ひ上げられ、宣伝歌を聞かされ、且つ天津祝詞と天の数歌の功力に救はれ蘇へつたのであつた。又お民は蠑螈別の声にハツと気がつき四辺を見れば、其枕許には蠑螈別、エキス、アーク、タール、お寅婆アさまの面々が親切に介抱をして居た。是よりランチ将軍を初め幽冥旅行の面々は心の底より前非を悔い、初めて神素盞嗚大神の御前に両手を合せ、反逆の罪を陳謝し、遂に三五の道に帰順する事となつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・一・一四旧一一・一一・二八加藤明子録)
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霊界物語 49_子_祠の森の物語1(高姫と妖幻坊) 05 復命 第五章復命〔一二七九〕 漸くにして石搗も済み、道公、晴公、伊太公、純公、其外一同は、前後百余日を費して立派なる宮を建て上げた。而して其遷宮式は節分の夜に行はるることとなつた。四方八方より信者が密集し来り、祠の森のふくらんだ広い谷も、立錐の地なき迄に信者が集まつて来て、此遷宮式に列することとなつた。沢山の供物が山の如く集まつてゐる。道公始めバラモン組のイル、イク、サール、ヨル、テル、ハルの連中も祭官の中に加はり、イソの館より下附された立派な新調の祭服を身にまとひ、神饌所に入つて、何百台とも知れぬ神饌の調理にかかつてゐる。 ヨル『オイ、今日の祭りは俺のお蔭だぞ。神様を拝むよりも先づさきに俺を拝むのだな』 とお神酒の盗み呑みに、顔を真赤にしてクダを巻いてゐる。 イル『コラ、ヨルの奴、貴様は何だ、エヽン、祭服をつけやがつて、神様にお供へもせぬ内からお神酒を戴くといふ事があるか、チツと心得ぬかい』 ヨル『コラ、イル、何を吐しやがるのだ。今夜は玉国別さまがヨルの祭だと仰有つただないか、イルの祭だないぞ。それだから俺が先づ毒味をして喉の神様に供へ、其上でヨルの神様をお祭りするのだ。ヤツパリ身魂がよいとみえて、こんな立派なお宮様にヨルの霊を祭つて頂くのだからなア、本当に偉いものだらう』 イク『併しこれ丈沢山の金銭物品を供へても、神様はお受取になるだらうかなア。却て御迷惑だらうも知れぬぞ、神様はすべて無形にましますのだから、この様な人間の食ふ有形的供物はおあがりになる筈はないだないか。その証拠にやいくら永く供へておいても果物一つ減つてゐないぢやないか、こんな沢山の物供へるよりも、代表的にお三方に二台か三台か供へておいて差支なささうだがな。丸で八百屋の店みたやうだ。エヽー、ヨル、貴様何う思ふ?』 ヨル『貴様はヤツパリまだ神の事が分らぬと見えるワイ。神様は地上に降り玉ふ時はヤツパリ人間の肉の宮を機関と遊ばすのだから、自然界の法則を基として、何事もお仕へせなくちやならぬぢやないか。信者の供物を受取り玉ふ神様は無形にましますが故に、物質的食物は不必要だと云つて、此結構な御祭典に金額物品を備へない奴は神様の愛に居らず又神の恵に浴する事も出来ない偽信者のなすべき事だ。祭典といふ事は祭る法式といふ事だ。祭るといふ事は、人を待つ事だ、所謂お客様を招待するも同じ事だ。善と真とを衡にかけ、人間の愛と神の愛とを和合する神事だ。それだから真釣りにまつるといふのだ。何程神様に供へたお供へものがへらないと云つても、肝腎要のお供物の霊は皆おあがりになつてゐるのだ。大根は大根の味、山葵は山葵の味、魚は魚の味と、各自に其味が変つてゐるのは皆神様から造られたものであつて、人間の所為でもなければ、大根山葵夫れ自身のなし得たる所でもない。同じ土地に同じ肥料をやつて作つても、唐辛を蒔けば辛くなる、水瓜を作れば甘くなる、山椒を作れば又辛くなる、そして其甘さにも辛さにも各特色がある。これ皆神徳の内流によつて出来るものだ。それだから地上の人間は神様に結構なものを与へられて、之を感謝せずには居られない。夫れ故神の御恵みを謝する為に心を尽してお供物をするのだ。此通り沢山なお供物の集まつたのも、仮令少しづつでも、これ丈の人間が各自に何なりと持つて来たのだから、塵つんで山をなしたのだ。神は人間の真心を受けさせ玉ふものだから、菜の葉一枚でも供へてくれと云つて持つて来た者は、皆お供へせなくちやすまないぞ。それが祭の祭たる所以だから、……』 テル『それでも賽銭一文持たず、菜の葉一枚お供へせずして、有難がつて喜んでゐるのもあるだないか。それは何うなるのだ』 ヨル『其奴は夢を見て喜んでる様なものだ。此ヨルさまはヨルの祭だから、供へてくれた人間は皆覚えてゐるが、空参りする奴は空霊だからお蔭はやらないよ。ヨルの守護の世の中だからなア。何なつと手形を持つて来ないとヨルの神様も信仰が分らないからな』 テル『お前の神様はヨルの神様でなうて、欲の神様だろ』 ヨル『馬鹿云ふな。神を愛し、神に従ひ、仮令菜の葉一枚でも、神様に上げたいといふ真心の人間をヨルの神様だ。即ちより分ける神様だ。選まれたる者は天国にゆくといふぢやないか。選むといふ事はヨル事だ。併しチツとは其時の都合にヨル神だから、マアなるべく酒でも何でも構はぬ、供へ玉へ運び玉へだ、アハヽヽヽ』 ハル『丸でバラモン教みたいな事を言ふぢやないか、神様に物をお供へすればお蔭がある、お供へせない奴ア神様が愛せないといふのは、チツと神としての神格に抵触するではないか』 ヨル『バラモン教だつて、三五教だつて、祭に二つはないだないか、別に神様は人間の乞食でもあるまいから、醵出したものを以て生命を保ち玉ふ様なお方ではないが、すべて愛の心が起れば、人間は神様に何なりと上げたくなるものだ。又神様は人間を愛し玉ふ時は田もやらう、畔もやらうといふお心にならせ玉ふものだ。年よりの親が息子や娘に土産を買ふて来て貰つたり、又孫が仮令少しの物でも、これをお爺さまお婆アさまに上げたいと思つて買つて来たと聞いた時は、其爺さま婆アさまは、仮令僅少なものでも、どれ丈喜ぶか知れぬだないか。せうもないものでも、息子が買ふて来てくれたものだとか、孫が遥々買ふて来てくれたとか、送つてくれたとか、会ふ人毎に話して喜ぶだろう。そして僅二三十銭の物を孫がくれると爺さま婆アさまは臍繰金の十円も出して、孫にソツとやるだないか。愛は愛と相応し、善は善と相応するものだ。それだから、祭を真釣合といふのだ。決して爺さま婆アさまは吾子や孫に、土産を買ふて来て貰はうと望まない……と同様に神様は決してお供へを望み遊ばさない。けれど其子や孫が土産をくれた時の心と、くれない時の心とは、其時の愛の情動の上に於て、非常な差等のあるものだ。それだから神の愛に触れむと思ふ者は神を愛さなくてはならぬのだ。人間として何程心を尽しても、神様に対する御恩報じは金額物品を以て、其真心を神に捧ぐるより、外に手段も方法もないだないか』 テル『それでも人間は精神を以て神の為に尽し、神を愛すれば可いのだよ。なア、イク、サール、貴様、そう思はせぬか』 サール『それも一理あるやうだが、ヤツパリ、ヨルの神様の、云ふやうに、愛の心が起つたならば、キツト中途に止まるものだない、終局点迄達するものだ。其終局点は所謂人間の実地の行ひだ。霊から始まつて体に落ち着くのが真理とすれば、ヤツパリ神様に山野河海の珍しき物や幣帛料を献納するのは所謂愛と誠の表はれだと思ふ』 ハル『成程夫れに間違ない。さうでなければ何うして玉国別さまや、五十子姫様が、こんな大層な祭を遊ばすものか』 と神饌所が賑つてゐる。そこへ伊太公、純公の二人現はれ来り、 伊太『サア、是から祓戸が初まる、お前たちも準備をしてゐなくちやならないぞ。併し大変な参詣者だないか』 ヨル『本当に立錐の余地なき迄、参拝者が集まりましたなア』 伊太『ヤア、今太鼓がなつた。サア、神饌の用意は出来たかなア』 イル『余り沢山な供へ物で、実は目をまはす許りの多忙を極めて居ります。併し大方準備が出来たやうです』 伊太『純公さま、私は之から祓戸を勤めねばなりませぬ。貴方はどうか神饌長になつて下さい』 純公『ハイ承知しました』 伊太公は『皆さま宜しく、抜目のないやうに頼みます』と云ひすて、祓戸の館を指して急いで行く。 祓戸式、神饌伝供もすみ、玉国別の遷宮祝詞の奏上も了り、それより餅撒きの行事に移つた。祓戸主の祝詞や遷宮式の祝詞は略しておく。 昼夜を分たずポンポンと搗いた小餅は五石六斗七升と称へられた。而して其大部分は五十子姫今子姫の手に固められたものであつた。神饌係のイル、イク、サール、ヨル、テル、ハルを始め、神饌長の純公は高台の上に登り、一生懸命に四方八方へ餅を撒きつけた。数多の老若男女は波打つ様に餅の落ちる方へ雪崩を打つて、人を踏み越え、つき倒しなどして、一個でも多く拾はむ事を努めた。平素は神の教を聴き、人間は人に譲り、謙らねばならぬと云ふ事を心に承知し且人にも偉相に宣伝し乍ら、かかる場合にはスツカリ獣性を遺憾なく発揮するものである。丁度犬の子がさも親密相にじやれあふたり、ねぶり合ふて遊んでゐる所へ、腐つた肉を放りこんだやうな物である。之を思へば人間は肉体を有する限り、どうしても我慢と欲には離れ得ないものと見える。一つでも此餅を戴き家に帰つて家族や近所の者に分け与へて神徳を分たむとすれば、おとなしくして、後の方へ控へて居つても、半分の餅も拾ふ事は出来ない。始めの間はさういふ態度を取つて居つた信者も沢山あつたがグヅグヅしてると、押し倒され、踏み躙られ、餅は拾ふ事が出来ないので、群集心理とやらに襲はれて、さしも謙遜にして従順なりし男も、ソロソロ鉢巻をしめ出し、手に唾をつけ、邪魔になる奴を押し倒し、そして一つでも余計に拾ふて懐に捻ぢ込まねば損だといふ気になり、一時にあばれ出したからたまらない。彼方の端にもキヤアキヤア、此方の隅にもアンアンと子供の泣く声、俄に修羅道の浅ましき場面と変じて了つた。餅撒きも漸くすみ、餅の争奪戦も休戦のラツパが鳴つた。それより各信徒は立派に建て上つた新しき宮を伏拝み、欣々として河鹿峠を下り、各家路に日を暮し乍ら、帰つて行く。あとには宣伝使や祭典係の連中と熱心なる信者が十数人残つて居た。 因に神殿は三社建てられ、中央には国治立尊、日の大神、月の大神が斎られ、左の脇には大自在天大国彦命、並に盤古大神塩長彦神を鎮祭し、右側には山口の神を始め、八百万の神々を鎮祭された。此祭典がすむと同時に玉国別の眼病は全快し、顔の少しく、形まで変つて居たのが、以前にまして益々円満の相となり、俄に神格が備はつて来た様に思はれた。茲に玉国別は直会の宴を、社務所の広間に於て開く事となつた。而してこの席に並んだ者は、此祭典に与つた役員全部と十数名の熱心な信者とであつた。玉国別は鎮祭無事終了を祝する為、神酒を頂き乍ら、歌ひ出した。 玉国別『神が表に現はれて善と悪とを立て分ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直し聞直し 身の過ちは宣り直す三五教の大御神 聖き教を四方の国開き伝ふる身を以て 少しの心の油断より天津御空の日月に 譬ふべらなる両眼を獣の為に破られて 痛さに悩み皇神が依さし玉ひし神業を いかにかなして果さむと思ひ悩める折もあれ 皇大神の御心に深き仕組のゐましてや 祠の森に止められ皇大神の御舎を 大宮柱太しりて仕へまつらせ玉ひたる 其御心は今となり初めて思ひ知られける これを思へば吾々が二つの眼を山猿に 掻きむしられし経緯は全く神の御心に 出でさせ玉ふものなりと悟るも嬉し今日の宵 今迄痛みし吾眼拭ふが如く癒えわたり 眼の霞もよく冴えて今は全く元の如 清き光を放ちけりあゝ惟神々々 神の守らす神の世は一切万事神界の 御教に服ひ奉り卑しき人の心もて 何くれとなく一々に争論うべきものならず 天地の間は一切を只神様の御心に 任せまつりて従順に吾天職を守るより 道なきものと悟りけり五十子の姫よ今子姫 最早吾身は斯くの如眼の悩み癒えぬれば 汝が命と何時迄も一つとなりて神の前 仕ふる事は叶ふまじわれは是より珍彦に これの館を守らせて神の依さしの神業に 立ち出で行かむ汝は又イソの館へ立ち帰り 今子の姫と諸共に皇大神の御前に 心を浄め身を清め朝な夕なに仕へかし 珍彦静子晴公よ汝は吾れに成り変り 祠の森の神殿に朝な夕なに仕へつつ 神の教を受けむとて参来集へる信徒を 完全に詳細に説き諭し神の御国の福音を 普く附近にかがやかし曲津身魂の往来を いよいよ茲にせきとめてイソの館に一歩も 進入させじと村肝の心を尽して守るべし 夜が明けぬれば吾々はこれの館を立出でて ハルナの都に蟠まる八岐大蛇の征服に 神の恵を浴び乍ら進みて行かむ惟神 神の守りを願ぎまつる』 と歌ひ了り、神殿に向つて合掌する。 五十子姫は長袖淑かに舞ひ乍ら、静に歌ひ出したり。 五十子姫『神素盞嗚大神の神言畏み背の君は 玉国別と名乗りまし獅子狼の吠えたける 荒野を別けて河鹿山風の悩みや山猿の 為に眼を失ひつ漸く茲に来りまし 悩みし眼を癒やす内如何なる神の御恵か 尊き神業を任けられて百日百夜を事もなく 過ごさせ玉ひ皇神の瑞の御舎仕へまし 祭も無事に相済みて神の恵も灼然に 眼の悩みなをりまし感謝の涙諸共に 今直会の宴席に列なり玉ひ珍彦や 其他の司に御社の守りの役を任けさせつ 只の一日も休まずに又もや猛き荒野原 雪踏み分けてフサの野を渡らせ玉ひ月の国 遠き都に出で玉ふ其功績は皇神の 御稜威に比べまつるべしさはさり乍ら五十子姫 漸く茲に尋ね来て夫の命の笑顔をば 拝む間もなくイソ館神の御前に帰るべく 宣らせ玉ひし言の葉は実にも雄々しき限りぞと 勇みに勇む胸の内今子の姫もさぞやさぞ 嬉しみ玉ふ事ならむ伊太公さまよ純公よ 其外百の司たち吾背の君に従ひて 一日も早く月の国ハルナの都に蟠まる 八岐大蛇や醜神を言向和し大神の 依さし玉ひし神業を完全に委曲に尽し了へ 一日も早く復命申させ玉へ惟神 神の御前に祈ぎまつる旭は照る共曇るとも 月は盈つ共虧くるとも仮令大地は沈むとも 誠の力は世を救ふ誠一つは神界の 唯一の宝生命ぞ皇大神を能く愛し 其神格を理解して神の御前に善徳を 積む傍に世の人を普く愛し導きて 神の司の本分を遂げさせ玉へ五十子姫 イソの館に勤めつつ吾背の君や汝が命 其一行の成功を身もたなしらに祈るべし いざいざさらばいざさらば勇み進んで出でませよ 妾はこれより河鹿山雪踏み分けてやうやうに イソの館に立ち帰り皇大神に此さまを 完全に委曲に奏上し百の司の真心を 洩らさず落さず大前に申し上げなむいざさらば 明日はお別れ申します何れも無事でお達者で 神の恵の幸あれや偏に祈り奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 今子姫は又歌ふ。 今子姫『旭は照る共曇るとも月は盈つ共虧くる共 仮令大地は沈む共神の恵は永久に 変らせ玉ふ事あらじ抑も神が世の中を 造り玉ひし目的は地上に住める蒼生を 一人も残さず天国に救はむ為の御仕組 天国浄土の団体をますます浄く円満に 開かせ玉ひ神国を永遠無窮に建設し 百の神人喜びて常世の春の栄えをば 来さむ為の御経綸吾等は人と生れ来て 深甚美妙の神徳にひたり乍らも体欲に いつとはなしに晦され至粋至純の神霊を 汚しゐるこそはかなけれ皇大神は吾々の 曇れる霊を憐れみて高天原より降りまし ウブスナ山や其外の聖地を選りて神柱 立てさせ玉ひ現そ身の暗黒無明の世界をば 照らさせ玉ふ有難さ皇大神の神言もて 五十子の姫の侍女となりメソポタミヤの天恩郷 其外百の国々を経めぐり神の福音を 余り大した過ちも来さず漸く使命をへ イソの館に相召され尊き神の大前に 仕ふる身とはなりにけりハルナの都の曲津身を 征服せむと出でましし玉国別の遭難を 介抱せむと神勅を辱なみて五十子姫 みあとに従ひ来て見れば思ひ掛けなき御負傷に 一時は胸も轟きて憂へ悩みゐたりしが 神の仕組のいや深くかかる案じもあら涙 流せし事の恥かしさ百日百夜を無事に経て 茲に尊き皇神の瑞の御舎建て了り 国治立の大神や月の大神日の御神 大国彦の神様や其外百の神々を 斎きまつりて三五の教の道の御光を 照らさせ玉ふ今日の宵あくれば立春初春の 天津光をうけ乍ら玉国別は道の為 南を指して鹿島立ち妾は君と諸共に 雪踏み分けて河鹿山風に吹かれつ春の日を 頭にいただきいそいそと勇みて帰るイソ館 皇大神の御前に此有様をまつぶさに 復命する楽しさよ旭は照るとも曇る共 月は盈つとも虧くる共皇大神の御恵は 千代も八千代も永久に変らせ玉ふ事あらじ 玉国別よ百人よ勇み進んで月の国 ハルナの都は云ふも更七千余国の国々に 蟠まりたる曲神を厳の言霊打出だし 言向和し神国を此地の上に永久に 建てさせ玉へ惟神神の御前に今子姫 謹み敬ひ願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 道公は又歌ふ。 道公『祠の森に宮柱太しく建てて永久に 鎮まりいます皇神の御前に謹み願ぎ奉る 皇大神の御道を四方に伝ふる道公は 玉国別の師の君に従ひまつり月の国 其外百の国々に威猛り狂ふ曲神を 神の力を蒙りて言向和し神国の 聖き教を世に布きて神の御前に復命 仕へ奉らむ吾心諾ひ玉ひ惟神 神の御前に道公が真心こめて願ぎまつる 五十子の姫よ今子姫汝が命はイソ館 いと安々と帰りまし皇大神の御前に 此有様を詳細に宣らせ給ひて師の君や 吾等が一行の身の上を深く守らせ玉ふべく 祈らせ玉へ道公は吾師の君に従ひて 吾身を砕き吾骨を粉にするとも厭ひなく 守り奉らむ心安く帰らせ玉へ惟神 神の御前に願ぎまつる』 と歌つて五十子姫に別れを告げた。五十子姫は忽ち神懸状態となつた。かからせ玉ふ神は国照姫命なりけり。 国照姫『皇神の神言畏み御舎を 仕へ奉りし人ぞ尊き。 玉国別神の命の悩みたる 目のはれたるも神の恵ぞ。 大神に尽す誠の顕はれて 再元の眼とぞなれる。 道公は名を道彦と改めて 玉国別に従ひて行け。 伊太公は伊太彦司と名を賜ひ 曲きたへむと月に出でませ。 純公は真純の彦と改めて 神の教を四方に伝へよ。 晴公は道晴別と名を替へて 治国別の後を追ひ行け』 玉国別『有難し、国照姫の詔 項にうけて進み行かなむ』 道彦『身も魂も曇りはてたる道公に 名を賜ひたる事の嬉しさ。 大神の恵はいつか忘るべき 心も身をも捧げ尽さむ』 伊太彦『暗の世にいたけり狂ふ曲神を 言向和さむ伊太彦司は』 道晴別『治国別神の命に従ひて 帰りて見れば道晴別となりぬ』 今子姫『国照姫、かからせ玉ふ五十子姫 汝は誠の神にいませし。 美はしき尊き神の生宮に 仕へ奉りしわれぞ嬉しき』 珍彦『皇神の瑞の御舎側近く 仕ふる吾れを守らせ玉へ』 静子『背の君は宮の司となりましぬ 守らせ玉へ国照姫の神』 楓『父は今、神の司となりましぬ 母と吾等を守らせ玉へ。 国照姫神の命の御教を 固く守りて仕へまつらむ』 国照姫『いざさらば、神の宮居も恙なく 成りたる上は天に帰らむ』 と歌ひ玉ひ、神上がり玉へば、五十子姫は元の肉体に復りける。 五十子姫『いざさらば吾背の君よ恙なく 神の仰せをとげさせ玉へ。 五十子姫イソの館にあるとても 霊は清き君が御側に』 玉国別『玉国別神の命の真心を 力となして神に仕へよ』 かく互に歌をよみかはし乍ら、大神の御前に恭しく拝礼し、前途の光明を祈り乍ら珍彦、静子、楓其外バラモン組の六人の役員や熱心な信者に後事を托し、玉国別は道晴別、真純彦、伊太彦、道彦と共に宣伝歌を歌ひ乍ら、潔く河鹿峠を、初春の日の光を浴びて下り行く。 (大正一二・一・一六旧一一・一一・三〇松村真澄録)
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霊界物語 49_子_祠の森の物語1(高姫と妖幻坊) 14 大妨言 第一四章大妨言〔一二八八〕 高姫の居間には高姫、お寅、魔我彦の三人が三角形に座を占め、高姫の説教を耳をかたげて聞いて居る。 高姫『魔我彦さま、お前はイソの館へ詣るのも結構だ。決してとめは致さぬが、まだお前の様な事で到底イソの館へ行つても赤恥をかく様なものだから、此高姫が此から行つても差支ないと云ふ処迄義理天上日出神の御説教を聞いて其上にしなさい』 魔我『それは有難う厶りますが、さうグヅグヅして居れませぬ。何程貴女が偉くてもヤツパリ元は元ですからな。私は祠の森へ参拝するつもりで来たのぢやありませぬ。松姫さまに許されてイソの館に直接に教を聞く事に致して来ましたから、今夜は御世話になるとしても是非明日はイソの館へ百日ばかり修業に行つて参ります』 高姫『これ魔我彦、お前チツと慢心してはゐないかな。何程松姫さまがイソの館へ行けと仰有つても神力のない者が何うして行けますかね。お前は元は高姫の弟子だつた事は誰知らぬ者はありませぬよ。お前の様に修業の足らぬ人がイソの館に行つて御覧、高姫もあんな分らぬものを弟子にして居つたかと思はれちやお前ばかりの恥ぢやありませぬぞえ。忽ちこの高姫の恥になります。それで此処で充分修業して義理天上日出神からお許しを受けたらイソの館へ行つても宜しい』 魔我『それなら、何日ばかり此処にお世話になつたら宜しいでせうかな』 高姫『さうだな、まア早くて百日、おそくて二百日だらうかいな』 魔我『さう長らく居る訳にや行きませぬ。往復の日数を加へて百日の間お暇を戴いて来たのですから、こんな所に百日も居らうものならイソ館へ詣る事が出来ぬぢやありませぬか。それでは松姫さまに嘘をついた事になりますから、兎も角明日はお寅さまと参拝して来ます』 高姫『仮令百日かからうと二百日かからうと聖地に上る丈の徳がつかねば如何して行けるものか。私もお前を大切に思へばこそ斯うして気をつけるのだよ。よう考へて御覧なさい。中有界に迷ふてゐる八衢人足の身魂が何程天国を覗かうと思つてもまばゆいばつかりで却て苦しいものだ、面曝されて逃げて帰つて来ねばなりませぬぞや。チツと此処で義理天上日出神の筆先を戴いて身魂の因縁をよく調べて詣れる資格があればお詣りなさい。何は兎もあれ身魂研きが肝腎だからな』 魔我『高姫さま、義理天上日出神は私ぢやなかつたのですか』 高姫『さうぢや、暫くお前に表向き、さう云はしてあつたのだが、何時迄も世は持ちきりには致させませぬぞや。誠の日出神は此高姫ですよ。ヘン……済みませぬな』 魔我『身魂の因縁だとか、義理天上だとか、日出神だとか、私はもうこりこりしました。小北山で松彦さまが見えて、何もかもサツパリ化けが露はれて了つただもの、義理天上日出神と云つてるのは金毛九尾の家来の大きな黒狐ですよ。お前もヤツパリ其黒狐を喜んで奉つてゐるのですか』 高姫『これ魔我、そりや何と云ふ大それた事を云ふのだい。勿体なくも日出神様を狐だ等と馬鹿にしなさるな。お前の腹の中に曲津が棲んでゐるのだらう。それがそんな事見せたのだ。それでマガ彦と神様が名をおつけ遊ばしたのだよ。左様の事申すなら何と云つてもイソの館へはやりませぬぞや』 魔我『お寅さま、如何しませうかな。高姫さまがあんな事云ひますがなア』 お寅『高姫さまが何と仰有つても私は治国別様から手紙を戴いて来たのだから非が邪でもイソ館へ参り八島主様に此手紙を手渡しし嫌でも応でも立派な宣伝使となつて帰らねばなりませぬ。お前は此処に修行に来たのではない。此お寅の付添だから如何しても来て貰はねばなりませぬ。高姫さま、私が魔我彦を連れて行きますから又御世話になります。今度は如何しても連れて行かねばなりませぬ』 高姫『これお寅さまとやら、お前さまは治国別とやらに添書を貰つてイソの館へおいでるのかい。そりや措いたが宜しからうぞや。云ふとすまぬがお前はまだそれ丈けの資格が備はつて居らぬ。治国別なんて偉相に云つてるが、彼奴は元はウラル教の亀公ぢやないか。そんな奴が手紙を書いた処が……ヘン何、八島主様がお受取り遊ばすものか。悪い事は決して申しませぬ、此日出神の申す様になさつたが宜しからうぞや』 お寅『治国別様は立派な宣伝使ぢや厶りませぬか。さうして第一天国迄お調べになつた結構なお方ですよ。其お方から手紙を下さつたのだから八島主様がお受取りなさらぬ道理がありますか。私は何と仰有つても参ります』 高姫『ヘン、偉相に、亀の野郎、第一天国に行つて来た等と、そんな事が如何してあるものか。彼奴は醜の岩窟の井戸に這入つてドン亀の様に苦しんでゐた男だ。そして自転倒島に渡り英子姫、悦子姫等の女達の家来になつた男ですよ。お寅さま、そんな男の手紙を貰つて何になりますか。それよりも義理天上日出神様の教を受けて其上でイソの館へおいでなさい。さうしたら屹度八島主が面会してくれるでせう』 お寅『はい、御親切は有難う厶りますが何と仰有つて下さつても、私は思ひ立つたのだから参ります。そして貴女様の弟子ぢやあ厶いませぬ。治国別の直々のお弟子になつたので厶ります。おとめ下さるのは嬉しう厶りますが、仮令イソの館で赤恥をかいても是非行つて参ります。いかいお世話になりました。さア魔我彦、行きませうぞや』 魔我『高姫さま、折角御親切に仰有つて下さいましたけど、今度はお寅さまの付添ですから是非参つて来ます』 高姫『何と云つてもやらさぬと云つたら、やらしやせぬぞや。此祠の森にお宮さまを建てて高姫に番をさして厶るのは何とお考へで厶る。大神様が高姫の御神力を御信認遊ばし、お前は一方口の祠の森に居つてよく身魂を調べ、よく研けぬ者は一年でも聖地へよこすでないぞよ。汚れた者が聖地に参つたら天変地異が勃発し聖地が汚れるから、よく調べよと大神様の御言葉、それで遥々此処迄参つて身魂調べをしてをるのだ。何程お寅さまが治国別の手紙を持つて行つても此関所の認めがなくては、駄目ですよ。お前一人の為めに三千世界の大難儀になつたら如何しますか。よい年をして居つてチツとは考へてもよさそうなものぢやありませぬかい。魔我彦だつてそれ位の道理は分つてゐさうなものぢやないか。之が分らぬ様な低脳児なら、体よう目なつと噛んで死んだがよいぞや。もう高姫も、如何しても云ふ事聞かぬなら魔我彦と師弟の縁をきるが如何だい』 魔我『お前さまに、師弟の縁をきられたつてチツとも痛痒は感じませぬ。私は松彦さまの弟子にして貰つたのだから忠臣二君に仕へずと云つてお前さまにお世話にならうとは思ひませぬ。何卒放つといて下さい』 高姫『エーエ、相変らずの没分暁漢だな。お前もここ迄になつたのは誰のお蔭だと思つてるのだい。皆この高姫のウラナイ教で鍛へ上げられたのぢやないか。諺にも師の影は三尺隔てて踏まずと云ふぢやないか。たとへ一年でも教をうけたら師匠に違ひない。師匠の恩を忘れるのは畜生同然だぞえ』 魔我『畜生と云はれてもチツとも構ひませぬわ。貴方だつて偉相に義理天上日出神とすまし込んで厶るが、ヤツパリ守護神は劫経た黒狐ぢやありませぬか。何程偉相に云つても小北山の御神殿でチヤンと審神がしてあるから……お気の毒さまだ……そんな事仰有るとお前の守護神はこれこれだと今ここでスツパぬきませうか』 高姫『エーエ分らぬ男だな。どうなつと勝手にしたがよい。あとで吠面かはかぬ様にしたがよいわ。後になつて高姫の云ふ事を聞いておいたらよかつたのに……と云つてヂリヂリ舞ひしても後の後悔間に合はぬぞや。神が気をつける間に気づかぬと何事があるや知らぬぞよ。何事も神に不足申して下さるな。大橋越えてまだ先へ行衛分らぬ後戻り、慢心すると其通りと変性男子のお筆に出てゐませうがな。此祠の森は世界の大門とも大橋とも云ふべき処だ。大門開きも出来ぬ身魂を以て十里四方の宮の内、イソの館へ行かうとは……オホヽヽヽヽ向ふ見ずにも程がある。盲蛇に怖ずとは、よくも云つたものだ。魔我彦さま、之でも行くなら行つて見よれ。目まひが来るぞや。神罰が当つて大地に蛙をぶつつけた様にフン伸びん様にしなさいや。是丈け高姫が気をつけるのに、如何しても意地の悪い東助の居る……ウヽヽウンとドツコイ……意地の悪い、……どうしても行くのかい。後は知りませぬぞや。アーア高姫さまが親切に仰有つて下さつたのに、あの時、我を張らなけれや、こんな事はなかつたらうにと豆の様な涙を零して嘆いても後の祭、波に取られた沖の舟、とりつく島が無くなつてから、「高姫さま、何卒助けて下さい」と縋りて来ても義理天上日の出神は聞き済みはありませぬぞや。行くなら行くでよいからトツクリと心に相談をして、うせるがよからう、エツヘヽヽヽヽ』 魔我彦『何とマア相変らず達者な口ですこと。そんな事云はれると何だか幸先を折られた様で、気分が悪くなつて来た。なアお寅さま、どうしませう』 お寅『御勝手になさいませ。此お寅は一旦云ひかけたら後へは引かぬ女丈夫だ。初めから一人詣る積りだつたが、お前がお伴さして呉れえと云つたから、連れて来たのだよ。高姫さまの舌にちよろまかされてお神徳を落さうと勝手になさいませ。私は何と云つても行くと云つたら行きますぞや。女の一心岩でも突き貫くと云つて、つき貫いて見せてやりますぞや』 高姫『これお寅さま、決して高姫は悪い事は申しませぬ。何卒マアお腹が立ちませうが、トツクリと胸に手をあてて考へて御覧なさいませ。祠の森の許しがなくちや折角遥々遠方へ行つても、恥をかかねばならぬから私が親切に忠告するのですよ』 お寅『何と云つて下さつても私は参ります。治国別様から祠の森の高姫さまに許しを得て行けとは聞いて居りませぬ。もしもイソの館へ行つて高姫さまの許しがないから受付けぬと云はれたら、帰つて来ます。其時は又宜しうお願ひします』 高姫『神の申す時に聞かねば神は後になりてから、何程ジタバタ致してもお詫申しても、そんな事、取上げて居りたらきりがないからあかぬぞよ……とお筆に出て居りますぞや。高姫の承諾なしに行くなら行つて御覧、夜食に外れた梟鳥、アフンと致して六つかしいお顔をなさるのが日の出神は気の毒なから気をつけますのだ。ヘン、どうなつとお前さまの御神徳は……えらいものだからなさいませ。此日の出神は帳を切りますぞや。帳を切られたら何程地団太踏んでも助かりませぬぞや』 お寅『お前さまに帳を切られたつて、私は大神様から帳を切られなければ一寸も構ひませぬワ』 高姫『何処迄も分らぬ人だな。アーア一人の人民を改心させようと思へば神も骨が折れる事だわい。大国常立尊の片腕とおなり遊ばす日の出神の云ふ事を聞かずに如何して思惑が立ちませうぞ。阿呆につける薬がないとはよく云つたものだ。縁なき衆生は度し難しかな。本当に度し難い代物ばつかりだ』 お寅はムツとして高姫をグツと睨みつけ少しく声を尖らして、 お寅『これ高姫さま、度し難き人物だとは何と云ふ口巾の平たい事を仰有る、此お寅は斯う見えても若い時から浮木の里の女侠客丑寅婆と云ふ女ですよ。鬼でも取挫ぐ婆だ。それが大神様の御意に叶ふて今や宣伝使の修行に参る途中、お前は私の修業の妨害を致す考へだな、お前は義理天上日の出神と云つて居られるが、日の出神がそんな訳の分らぬ事を仰有いますか。何程お前が偉くともイソの館の八島主さまには叶ひますまい。私は仮令神罰が当つても貴方の様な無理云ふ方には教は受けませぬ。放つといて下さい。さア魔我ヤン、行きませう、こんな気違じみた方に構ふて居つちや堪りませぬわ』 高姫『これお寅さま、強つてお止めはしませぬが、神様は順序ですよ。順序を乱したら誠の道が潰れますから、それを御承知ならおいでなさい。何事も順序と手続きが必要で厶りますから……』 お寅『ハイ、御親切に有難う厶ります。私は治国別様に手続きをして頂き順序を踏んでイソの館へ参るのです。お前さまはイソの館から命令を受けて来たのぢやありますまいがな。珍彦様が此処の神司となつて治めなさらなならぬ処だのに、お前さまから順序を破つて勝手に義理天上日の出神だと仰有つて此新しいお館を占領して厶るのだらう。今私の耳許に守護神が囁きましたよ。お前さまは此お寅がイソの館へ参ると化けが露はれるものだから、何とか云つてお止めなさるのだらうが、私も苦労人だから、人の悪い事は申しませぬから御安心なさいませ。守護神の囁く処を聞くと、お前さまは大山子を張つてイソの館に参る宣伝使や信者を皆お前さまのものにする考へだ。云はば天の賊も同様だ。チツと改心なされ。悪は長く続きませぬぞや。さあさあ魔我ヤン、こんな処に長く居つても駄目ですよ。さあさあ早く行きませう』 高姫『こんな処とは、……何と云ふ事を云ひなさる。勿体なくも国治立の大神様、日の大神様、月の大神様、大自在天大国彦命様其外御神力のある尊い神様の祀つてある此聖場をこんな処とは……何を云ひなさる。滅多に許しませぬぞや』 お寅『高姫さま、私は此森の神様を決して悪くは申しませぬ。こんな処と云つたのは貴方の様な没分暁漢の厶る居間をさして云つたのですよ。エーエ耳が汚れる、さあ魔我彦さま、行かう行かう』 と早くも立つて表へ走り行く。高姫はイソの館へ行かれちや大変だと気を苛ち『ヨル……ハル……テル』と呼ばはつてゐる。ヨル、ハル、テルの三人は『ハイ』と答へて此処に集まり来り、 ヨル『高姫様、イヤ日の出神様、お呼びになつたのは何の御用で厶りますか』 高姫『お前達、何をグヅグヅしてゐるのだい。あの二人の連中をトツ掴まへて来なさい』 ヨル『何ぞあの人は悪い事を致しましたかな。別に罪のない者をトツ掴まへる必要はないぢやありませぬか。イソの館へ参らうと仰有るのを止めると云ふ事がありますか。お一人でも本山へお詣りする様にお奨めするのが道でせう。それにお前さまは何とか、かんとか云つて参らせぬ様にするのが不思議ですな。私だつて一度詣りたいと云へば何とか、かとか云つて、お止めになる。どうも貴方の仰有る事は腑におちませぬわい』 高姫『勝手にしなさい。もう此処には居つて貰へませぬ。さあトツトと去んで下さい。日の出神の云ふ事に一々反対する人は受付に居ても邪魔になるからな』 ヨル『大きに憚り様、私は玉国別様と五十子姫様とのお許しを受けて此処の受付をしてゐるのですよ。決して貴方から任命されたのぢやありませぬ。此処の館は珍彦さまの御監督、お前さまのグヅグヅ云ふ処ではありませぬ。そんな事云ふとお寅さまと魔我彦さまに随いてイソの館の八島主さまの処へ行つて一伍一什を報告しますよ。おいテル、ハル、イク、サール、お前達気をつけて珍彦御夫婦さまや楓姫さまをよく気をつけてお宮さまを注意して下さい。私は是から一足本山に行つて来ますから……』 と出て行かうとするを、高姫は飛びかかつて首筋をグツと捕らへ、 高姫『こりやヨル、日の出神の許しもなく何処へ出て行くのだ』 ヨル『ヘー、放つといて下さい。お尋ね迄もなくイソの館へ注進に参りますわ。さアお寅さま、魔我彦さま、参りませう』 高姫は仁王立ちになり真赤な顔を膨らして、握り拳で乳の辺りを、反身になつて交る交る打ち乍ら、ヤツコスが六方を踏む様なスタイルで玄関に立ちはだかり、ドンドン云はせ乍ら、 高姫『ヤアヤアヤア三人の四足共、日の出神の命令を聞かずに行くなら、サア行つて見よ。あとで吠面かはくなよ。気もない中から義理天上日の出神が噛んでくくめる様に気をつけておくぞや』 お寅、魔我彦、ヨルは少しも頓着なく尻に帆かけて急坂を上り行く。 (大正一二・一・一八旧一一・一二・二北村隆光録)
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霊界物語 49_子_祠の森の物語1(高姫と妖幻坊) 16 魔法使 第一六章魔法使〔一二九〇〕 高姫はお寅、魔我彦、ヨルの三人が数千言を尽しての、高姫の勧告を一蹴して、強行的に出立したので、コリヤ大変だと、心も心ならず、吾れと吾手に胸をかきむしり乍ら、 高姫『エーエ、義理天上さまも、何をして厶る、こんな時にこそ、なぜ不動の金縛りをかけてとめて下さらぬのだい。コレコレ、イル、イク、サール、ハル、テル、何をしてゐるのだ、なぜ早く後を追つかけて行かぬのかいな。エーエもどかしい、荒男が五人も居つて、これ程気の揉めるのに、なぜ捉まへて来ぬのだい。日出神の命令を聞きなさらぬか』 イル『高姫さま、それより義理天上さまに直接にお聞になつたら何うです、貴女は何時も三千世界を自由に致すと仰有つたぢやありませぬか。それ丈神力のある義理天上の生宮が、引戻せぬといふ事がありますか、かふいふ時にこそ貴女の御神力を見せて頂かねば、吾々は心の底から心服するこた出来ませぬワ』 高姫『コレ、イルや、お前は何といふ分らぬ事をいふのだい。日出神様といへば天の大神様だ、大取締りをして厶るのだよ。つまりいへば総理大臣のやうなものだ、人間を捉へに行くのはポリスの役だぞえ、大臣の位地に在る神様がポリスの役をなさるといふやうな、そんな、道に外れた事がどこにあるものか。それだからお前等五人が、ポリスやスパイになつて、掴まへて来いといふのだよ』 イル『貴女の神様が総理大臣ならば、吾々は知事位なものです。知事がスパイやポリスの役は出来ませぬからな』 高姫『エーエ、気の利かぬ男だな。神様は変幻出没自由自在なるべきものだ。大にしては宇宙一切を統轄し、小にしては微塵の内にも隠れ玉ふが神様の働きだよ。そんな事が出来ぬやうな事で、何うして祠の森の御用が出来ますか』 イル『それ程大神様は大小いろいろに変幻出没なさるのなら、ポリスやスパイになつて掴まへに行つたつて可いぢやありませぬか』 高姫『それは日出神の生宮、一人の時の働きだよ。かうして五人も荒男があるのに、私許りに苦労をかけようといふ、お前は不了見な人だ。そんな事で神さまの道と云へますか。何もかも日出神が一人でするならば、お前達の様な分らずやを五人も置いとく筈がないぢやないか』 イク『コレ高姫さま、お前達のやうな分らずやをおいとくと仰有つたが、ヘン、すみませぬが、私はお前さまに命令を受けてるのぢやありませぬぞや。お前さまこそ勝手に居候に来たのぢやないか、それ程ゴテゴテ云ふのなら帰んで貰ひませう』 高姫はクワツと怒り、目をつり上げて、矢庭にイクの胸倉をグツと取り、 高姫『コリヤ、イク、女と思ひ侮つての雑言無礼、用捨は致さぬぞや。勿体なくも義理天上日出神の生宮、三五教の立派な立派な宣伝使、生田の森の神司、琉の玉の守護神、夫れさへあるに、三五教の三羽烏、イソ館の総務時置師の神杢助が妻、マ一度無礼な事を言ふなら、言つてみやれ、腮も何も捻ぢ切つて了ふぞや』 と力に任せて、頬をグツとねぢる。イクは、 イク『アイタヽヽヽ、カヽ堪忍々々』 高姫『余り貴様は頬桁がいいから、此頬桁も下駄の歯も一本もない所迄抜いてやるのだ』 と益々抓る。サールは見るに見かねて、高姫の後から、両足をグツと攫へた、拍子に高姫は筋斗うつて玄関へ飛出し、饅頭迄天覧に供して、慌ただしく起上り、 高姫『サ、イクを此処へ出せ、高姫の足をさらへた奴は何奴ぢや』 と金切声を出して喚き立てる。そこへ飛んで来たのは杢助であつた。 高姫『ヤ、お前はこちの人、女房がこんな目に会ふてるのに、何して厶つたのだえ』 杢助『つい、そこら中を散歩してをつたのだ。何だか義理天上さまの声カ……ギ……リ天上の喚声が聞えたので、スワ一大事と、慌てて来て見れば、何の事はない、斯様な男を掴まへての、ホテテンゴ、イヤハヤ呆れて物が言はれぬ哩、ワツハヽヽヽヽ』 高姫『コレ、こちの人、女房がこんな目に会ふてゐるのに、お前は何ともないのかえ』 杢助『イヤ、何ともない事はない。併し乍ら元を糺せばお前が悪いのだ、イクの頬辺を女だてら、一生懸命に抓つただないか。そんな事をするに仍つて、自然の成行として、サールが足をさらへたのだ。実の所は椿の木の下から様子を見て居つた。これは公平な判断から見れば、どちらが悪いとも言へぬ。高姫、お前もチツと上気してゐるから、気の落着く迄、杢助と一所に奥へ行つて、酒でも呑んだら何うだい』 高姫『お前は一体何処へ行つてゐらしたの。お寅といふ婆アや、魔我彦、それに受付のヨル迄が、義理天上の言葉に反対して、無理無体にイソの館へ参拝しよつたのですよ。お前さまが居つてさへくれたら、食ひ止めるのだつたに、あゝあ残念な事をしたわいな。お前さまと私と此処に腰を卸し、イソの館へ行く奴を一人も残らず食止めて、本山をアフンとさしてやらうと思つてゐたのに、困つた事をしたものだ。五人も荒男が居つても、酒を食ふのと理窟を垂れるのが芸当で、チツとも間しやくに合やせぬワ。あゝあ人を使へば苦を使ふとは能う言ふたものだ。私は何程奥へ行つて一杯やらうと仰有つても気が気ぢやありませぬ哩ナ、コリヤ、イク、イル、サール、お前は今日限り、誰が何と云つても、放逐する、サ、何処なつと行かつしやれ。其代り、ハルを受付にして、テルを内事の取締に任命します』 ハル『エツヘヽヽヽ、これはこれは実に有難う厶ります。いつ迄もヨルが頑張つて居ると、拙者の登竜門を閉塞してゐるやうなものだ、あゝ人の禍は自分の幸ひ、有難くお受け致します。オイ、テル、貴様もイルが失敗つたお蔭で、内事の司になつたのだ。早く御礼申さぬかえ』 テル『これはこれは高姫様、特別の御恩命を蒙りまして、有難う存じます。サ、どうぞ、シツポりと奥へ這入つて、エヘヽヽヽ、一杯あがつて御機嫌を直して下さい。ハル、テル両人扣へある以上は大丈夫で厶います』 高姫『コレ、ハル、テルや、お前はバラモン教でも随分羽振を利かして居つた男と言ふぢやないか。お前には何か見所があると思ふて居つたのだ。どうだい一つ出世をさして貰つた恩返しに、三人の奴を引戻して来て下さるまいかな。まだ十丁許りより行つて居らうまいから、チツと許り急いだら追着けない事もなからうから、……』 ハル『実の所はバラモン教にて習ひ覚えた、引掛戻しの法が厶います。此ハル、テル両人が重い役に御任命下さつた御恩返しとして、今三人を引戻して見せます。これから暫く大自在天様にお祈りをかけねばなりませぬから、引戻す術が整ひましたら、お知らせ致します。どうぞ夫れ迄奥へ行つて御休息下さいませ。仮令一日が二日、十里向ふへ行つてゐましても、引掛戻の法に仍つて、三人共此処へ引寄せて御覧に入れます。それは御安心下さいませ、確にやつて見せますから……』 高姫はニコニコし乍ら、 高姫『オツホヽヽヽ、お前はどこともなしに気の利いた男だと思つて居つた。神様がチヤンと、それ相応のお役をあてがうて下さるのだ。これだから義理天上様の御神力は偉いといふのだ。コリヤ、イク、イル、サール、何をグヅグヅしてゐるのだい。アタ汚らはしい。トツトと帰んで下さい』 イル『それ程喧しう仰有るのなら帰にますワ。又元のバラモン教へ這入つて大活動をなし、今に祠の森を占領して、アフンとさして上げるから楽んで待つてゐるがいいワ。オイ、イク、サール、ゲンタクソの悪いサア帰なうぢやないか。序にハルとテルのドタマをかち割つて帰らうかい』 ハル『コリヤコリヤ俺の引掛戻しの法を知つてるかい。指一本でもさへやうものなら、忽ちふん伸ばして了ふぞ』 イル『ヤ、恐れ入つた。バラモン教の中でも魔術使の名人だと言ふ事は、予て聞いてゐた。ヤ、もうお前には降参だ。そんなら三人はこれから帰ります』 ハル『ゴテゴテ吐さずに直に帰つたがよからう。四の五の吐すと為にならないぞ』 イル『エツ、仕方がないなア、イク、サール、そんなら浮木の森へ逆転せうかい』 高姫『オホヽヽヽ、小気味のよい事だわい。イヒヽヽヽ』 と腮をしやくり、貧乏町の家並のやうな、脱けさがした歯をむき出し、袖の羽ばたきし乍ら杢助の居間を指して、欣々と進み入る。 イルはハル、テル両人の前にヌツと首をつき出し、耳に口よせ、 イル『オイ両人、甘くやつたねえ。サ、これから蓑笠を出してくれんかい。丁度、お寅に魔我彦、ヨルの、俺達三人がなつて此処を通るから、其時高姫に見せてやるのだなア、ウツフヽヽヽ』 ハル『大きな声で笑ふない。サヽ、早う早う、受付の溜りに蓑笠が沢山あるから、女のなつと男のなつと、一着づつ持つて、俺が合図するから、ドーン、と太鼓が鳴つたら五分許りしてから、此坂を下つて来るのだ。それ迄あの谷の曲りで、酒でも呑んで待つとつてくれ』 と忽ち協議一決し、イク、イル、サールの三人は旅装束をなし、僅に一丁許りの上手の山の裾の曲角に姿を隠し、酒をグイグイ呑み乍ら太鼓の鳴るのを待つてゐた。 ハルは三人に用意を命じおき、テルに受付を構はせ乍ら、高姫の居間へ足音高く進んで行つた。受付は沢山の参拝者で、中々雑踏してゐる。テルは今日は神界の都合だと云つて、全部の参拝者を八尋殿に籠るべく命令した。ハルはソツと襖を押あけ、 ハル『エヘヽヽヽ、これはこれは高姫様、お二人、お楽みの所を、御面倒致しました。殆ど準備が整ひましたから、一寸来て下さいませ』 高姫『準備が整つたら、夫れで可いぢやないか』 ハル『貴女に一つ、引掛戻しの芸当を、実地目撃して頂きたいのですから……其代り少し眷族に酒を呑まさななりませんから其積りで居つて下さいや、何と云つてもバラモン教切つての魔法使ですから、……一度私の隠し芸を御覧に入れますから……』 高姫『杢助さま、貴方も御覧になつたら何うですか』 杢助『アハヽヽヽ、それ位なこた、此杢助だつて何でもないワ。併し乍ら少し許り骨が折れるから、ハル、テルにやらしておくがよからう。俺もお前にいぢめられたので眠たいなり、チツと許り、腰が変だから、……アツハヽヽヽ』 高姫『コレ杢助さま、みつともない。ハルが聞いてるぢやありませぬか』 杢助『最早ハルが来てるのだから、鶯も鳴くだらう。お前の声も鼠のやうにもあり、鶯のやうにもあるからな、アハヽヽヽ』 高姫『エー、千騎一騎の場合に、気楽な男だな……女房の心も知らずに……』 と呟き乍らハル公の後に従ひ、受付迄やつて来た。 テル『これはこれは日出神様、今スパイが一つ魔法を使つてお目にかけます。それに付いては沢山の眷族を使つて、三人の奴を引戻して来ねばなりませぬ。沢山の魔神を使ふには、何うしても酒を呑ましてやらねば可けませぬから、ドツサリ酒を此処へ出して下さい』 高姫『勝手にお出しなさい。御馳走が要るなら、まだ夜前の杢助様のお祝のが残つてゐるから、それを取つて来て、肴にして眷族共に呑まして下さい』 『ヤ有難い』といひ乍ら、ハル、テルは酒肴を中におき、向ひ合ひになつて、グイグイと呑み出した、喉の中から妙な声が出て来る、丁度笛を吹くやうに聞えて来た。ハルは尖つた口を前へつき出し、 ハル(腹の中)『おれは大雲山の狼だ、一杯呑ましてくれ』 と作り声し、又今度は真面目な声で、 ハル『ウン、ヨシヨシ、ハル公の肉体へ這入つて来よつたかな、サ、一杯呑め』 と自分の口へ自分がついで、グーツと呑んだ。腹の中から、 ハル(腹の中)『ウマイウマイ、俺は大雲山の狐だ、俺にも一杯呑ましてくれ』 ハル『ウン、よしよし、貴様も一杯呑んで、お寅婆や外二人を喰へて来るのだぞ』 腹の中『ハイ、承知致しました、酒許りでははづみませぬ、肴も一口入れて下さいな』 ハル『ウン、よしよし尤もだ、遠慮はいらぬ、御苦労にならねばならぬのだから、ドツサリ食つたがよからう』 テルは又作り声、喉から声の出るやうな振をして、 テル(腹の中)『高姫さま、私は北山村に居つた古狐で厶います、お久しうお目にかかりませぬ、今日は御恩報じに、お寅、魔我彦、ヨルの三人を喰へてイソの館へ行かないやうに致します、どうぞ一杯よんで下さいな』 高姫『御苦労様だ、ドツサリ呑んで働いて下さいや、千騎一騎の場合だからな。お前さまも首尾よく御用が勤まつたら、又ヘグレ神社を建てて祀つて上げるぞや』 テル公の腹の中から、 テル(腹の中)『ハイ有難う厶んす、早く一杯呑まして頂戴ね、序に甘い肴もねえ』 テル『ヨシヨシ、貴様も仕合せ者だ、俺の肉体へ宿をかりよつて、……充分活動するんだぞ、サ一杯呑ましてやらう』 と又自分が注いでグツと呑み、鯛の刺身をムシヤムシヤと頬張り、 テル『あゝあ、何ぼ口を使はれても、皆副守先生が食ふのだから、口のだるいこつちや、甘くも何ともありやせぬワ』 テルの腹の中から『それでも喉三寸越える間は、チツとは甘からうがな』 テル『コリヤ、守護人、偉相に云ふな、喉通る間位甘かつたつて、たまるかい。チツと静にせぬかい、腹の中で騒ぎやがつて……』 テルの腹の中より『臍下丹田で吾々の同志が集まつて、散財をして居るのだ、モツとドツサリ注入してくれないと、根つからお座が持てぬワイ』 テル『高姫さま、困つたものですな、何うしませう』 高姫『コレ、テル、余り酔はすと、又間に合はぬやうになつちや可けないから天晴御用がすんでから呑ますからと云つて下さいな。御用さへすんだらば何ぼなつと呑まして上げるから……と』 テル『コリヤ腹の中の連中、御用がすんだら幾らでも呑ましてやるから、今それ位で辛抱したら何うだ』 テルの腹の中から『それだと云つて、まだ一杯づつも渡つてゐないぢやないか、せめて、盃についだのは邪魔臭いから、徳利グチ、一升許り注入してくれ』 テル『エ……チエツ厄介な奴だな、嫌でもない酒を呑ましやがつて……チエツ、コラ守護神、御苦労と申せ』 と云ひ乍ら、徳利の口からラツパ呑みを始めた。ハル公も肴を二膳かたしでつかみては頬張り頬張り、又一升徳利の口からテル公同様にガブガブと呑みほした。 ハルは額をピシヤツと叩き、 ハル『ゲーエー、あゝ酔ふた酔ふた、オイ、テル、貴様も随分もう酔ふただらう、否貴様の眷族も酔ふただらう、何だか俺の守護神も腹の中でクダまいてけつかるワイ、……コリヤ高姫、昨夜は何うだい、……コレ高姫さま、あんな事いひますワ、仕方のないヤンチヤがをりますわい、併し乍らかういふヤンチヤでないと、お寅婆引戻しの芸当は出来ませぬからな』 高姫『サ早くお寅外三人を引戻して見せて下さい』 ハルは何だか口の中で文言を称へ、座太鼓をポンポンポンと打つた。さうするとお寅婆に扮したイルが、首をプリンプリン振り、怪しい腰付をし乍ら、何物にか引張られる様な素振をして、受付の前を横切り、坂の下へトツトツトツと去て了つた。 ハル『サア、何うでげす、高姫さま、引掛戻しの魔法はズイ分エライものでげせうがな。お寅の奴、眷族に袖をくわへられて、折角河鹿峠を半分程上つたら、たうとう引ぱりよせられよつた、何うだす、エーエ』 高姫『いかにもアリヤお寅に違ひない、偉いものだな。併しお寅丈ではつまらぬぢやないかい、ヨルと魔我彦が戻つて来なくちや、一人でも向方へやつたら大変だから……』 ハル『エー、今度はテルの番です、オイ、テル公、魔我彦を引張り出すのだよ』 テルは『ウーン、ヨシツ』と云ひ乍ら、鞭を取り、座太鼓をポンポンポンと三つ打つた。魔我彦に似た蓑笠を被つた男、金剛杖をつき、以前の如く、首や身体を前後左右に振り乍ら、又前を通り過ぎた。 テル『高姫さま、何うです、妙でせうがなア』 高姫『成程、ヤツパリ神様は水も洩らさぬ仕組をして厶るワイ、日出神様の筆先にチヤンと出てますぞよ、キチリキチリと箱さしたやうにゆくぞよと現はれてるのは此事だな。何を云つても日出神さまは偉いわい、夫れ相当の守護神をお使ひ遊ばすのだから……時にテルや、ヨルの奴、まだ後へ帰つて来ぬぢやないか』 テル『其奴ア、ハルが今やる番になつて居ります、守護神もかつために休ましてやらんなりませぬからな』 高姫『成程、サ、ハルや、頼んますぞや』 ハルは『エヘン』と咳払し乍ら、太鼓の鞭をグツと握り、座太鼓の面を仔細ありげに暫く睨みつめ、空中を鞭で七八へんもかくやうな真似をして、鞭の先を高姫の口へ一寸当てた。 高姫『コレコレ、ハルや、何をテンゴーして厶る、早く引掛戻しをなさらぬかいな』 ハル『高姫さま、之が三べん、蛇の子と申しまして、業の終局ですから一寸六かしいのですよ、之が甘く行けばヨルが後へ戻つて来ます。此奴を失敗つたら大変ですから……日出神様が、要するに、吾々をお使ひなさつてるのです。鞭に仕掛がしてあるのですから、日出神様のお口へ一寸持つて行きまして、此次は一寸お鼻へさわるかも知れませぬ……』 高姫『ヤ、業の作法とあれば、何うも仕方ありませぬ、どうなりと御好きなやうにして下さい』 ハルは鞭を前後左右に、静に振り、 ハル『東方日出神様、西方夕日の大神様、南方星の大神様、北方月の大神様、北極明星、北斗七星大菩薩守り玉へ幸へ玉へ』 と鞭を、益々急速度に働かせ、自分の股倉へつつ込み、高姫の鼻へピタリと当てた。高姫は之れがバラモン教の魔法使の法だ、臭くても辛抱せなくてはヨルが帰つて来ないと思ひつめ、尻に当てた鞭の先を鼻に当てられ、顔をしかめて、待つてゐる。 高姫『コレ、ハルや、そないキツク当てると息が出来ぬぢやないか、何と臭い鞭だなア』 ハル『ソリヤ、チツと臭うごんせうとも、何せよあなた、向ふへ行く奴を引戻すといふ魔法ですもの、つまり、尻の匂ひを高い所の鼻迄持運ばなくちや、相応の道理に叶ひますまい、尻の所謂外臭を、又鼻から引込んで内臭に充さなくちや業は利きませぬからねえ、エヘヽヽヽ。サ、之から本芸に取りかかりまーす』 と鞭を放しがけに、グツと手を伸ばし、高姫の鼻をついた。高姫は鼻柱をつかれて、ウンと仰向けに倒れて了つた。 高姫は目がクラクラとして、そこらが廻るやうになつて来た。耳のはたで無暗矢鱈に太鼓を叩き出した。高姫は益々逆上て、目がまひ、遂には家も身体も山もグレリグレリと舞ひ出した。サールはヨルに扮して通つて行く、其姿が上になり、下になりし乍らどつかに隠れて了つた。少時すると、高姫は起上り、 高姫『あゝあ御苦労だつた、お前達は大変な魔法を覚えてるものだな。家を逆様にしたり、山を自由に動かしたり、何と偉いものだよ。ヤツパリお前は、受付丈の値打はあるわい、テルも内司の司丈の値打は十分あるわい。これからお前等二人を魔法使の大将とし、イソの館に行く奴を喰ひとめ、きかぬ奴は今のやうに山まで動かして、往生させるのだ。これから祠の森を大門神社と改名いたすぞや。サ、お前達御苦労だつた、悠くり休んで下さい。私は杢助さまに、お前達の手柄を按配よう報告しておくから……キツと御褒美が出るだらうからなア』 ハル『どうぞ、お酒をドツサリ戴くように願ひますよ』 高姫『アレ、マアあれ丈沢山呑んでおいて、まだ呑みたいのかい、余程よい樽だなア』 ハル『高姫さま、ありや皆魔法使の為に守護神が呑んだのですよ。ハルやテルが呑んだと思はれちやたまりませぬワ』 高姫『あゝさうだつたな、まア一寸待つてゐて下さい、御馳走をして上げるから……』 といそいそと奥に入る。 ハル『アハヽヽ、オイ、テル、甘くやつたぢやないか』 テル『貴様ア、ヒドいぢやないか、エヽン、自分の尻を高姫にかがしたり、鼻をついて高姫の目をまかしたり、怪しからぬことをするね』 ハル『それだつて、一番しまひに回天動地の実況を見せておかなくちや、疑の深い女だから、ああいふ具合にしたんだよ、俺の智慧は偉いものだらうがな』 テル『ウン、感心だ、併し、イル、イク、サールに一杯、改めて呑ましてやらなくちやなるまい、ソツと宿舎へ酒肴を持運び、慰労会でもやつてやらうかな』 ハル『楓さまを、酒注ぎ役として、静に宿舎で呑むやうにしておいてくれ、余り大きな声で歌つたり何かすると分るから大きな声をしない様に注意をしてくれよ』 かく両人は相談の結果宿舎に三人を忍ばせ、楓姫の酌にてクビリクビリと小酒宴を開いてゐる。高姫は居間へ帰り、ニコニコし乍ら、 高姫『コレ杢助さま、喜んで下さい。腐り縄にも取柄とかいひましてな、日出神の義理天上の目鏡に叶ふた、テル、ハルの両人は、バラモン教で魔法使と名を取つた丈あつて、偉い事をしましたよ。お寅婆を引戻すやら、魔我彦、ヨルまでが引つけられて惨めな様で坂を返つて行く可笑しさ、そしてまた不思議な芸当を持つてゐますよ。家をまいまいこんこをさしたり、山をグラグラ動かしたりするのですもの、義理天上日出神もあんな弟子を持つて居れば、正勝の時にや山も何も引くりかへしますワ、あゝあ有難う厶います日出神様、よい家来を御授け下さいまして、……あゝ惟神霊幸はへませ惟神霊幸はへませ』 杢助『アハヽヽヽ、其奴ア偉い事をやつたね、ウン、感心感心。併し乍ら其三人は今どこに居るのか』 高姫『サ、今頃にやモウ山口の森あたり迄逃げて行つたでせうよ』 杢助『其奴ア、何にもならぬぢやないか、イソの館へ行かうと思へば、ここ許りが道ぢやない、遠廻りをしてゆけば行けるのだから、彼奴等三人を此処へ引つけて十分に説き聞かすか、但はどうしても聞かねば、穴でも掘つて、末代上れぬ事にしておかぬ事にや、お前の謀反は成就しないだないか、賢いやうでも女だなア』 高姫『いかにもそうで厶いましたなア、何う致しませう』 杢助『それ位な事は朝飯前だ、俺が一つここへ呼んで見ようかな』 高姫『杢助さま、貴方にそんな事が出来ますかい』 杢助『アハヽヽヽ、出来えでかい、それ位な事が出来いで、今迄イソの館の総務が勤まらうかい、今此杢助が一つ文言を称へたが最後、望み通の人間をここへよせてみせう、其代り高姫、お前もチツと痛い辛抱をせなくちやならぬぞ』 高姫『お前さまの為なら、少々痛い事しましても辛抱しますワ』 杢助『ヨシヨシ一寸高ちやん、ここへお出で、お前は木魚の代りになるのだよ』 と言ひ乍ら、高姫の長煙管を取り、 杢助『ブビヨウ、マフス、ベナ、マカ、お寅婆サンよ、杢助如来が、魔法の功徳に仍つて、此場へ来れ、早来れ』 「クワン、グリングリングリングリン」と続け打に、高姫の前頭部を五つ打つた。高姫は又もや少しく逆上たと見え、そこらがクルクル見え出して来た。パツと現はれたのは、お寅ソツクリの姿である。 高姫『ヤ、お前はお寅ぢやないか、どうだ、義理天上の神力には往生致したか』 お寅『ハイ、サツパリ往生致し……ま……せぬワイ』 高姫『アハヽヽ何と負惜みの強い婆だなア、サ、もう斯うなる上はビク共動かさぬのだ。義理天上には、ハル、テルといふ立派な魔法使がついて居りますぞや。お寅さま、もう駄目だから、スツカリ我を折つて、日出神の申すやうになさるが、おのしのお得だぞえ』 お寅『ハイ有難う厶いませぬ。何分宜しく御願ひ致しませぬ』 高姫『それ見なさい、早く改心すればいいものを、いつ迄も我を張つてゐると、此通りだぞえ、ドンあとで首尾悪うすがりて来ねばならぬぞよ……とお筆に現はれて居るぞえ』 お寅『ハイ何分宜しく御願申します。モウこれきり我は出しまする。どうぞ高姫さまの御弟子にして下さいますな』 高姫は握拳を固め、両腕を力一杯伸し、立あがり、六方をふみ乍ら、雄健びして云ふ。 高姫『三五教に名も高き、高姫さまとは此方の事、若い時から男女と呼ばれたる、変性男子の生宮の腹をかつて、生れ出でたる剛の女、今は祠の森の杢助が妻となり、山のほでらの茅屋住ひ、先を見てゐて下されよ……と○をまくつて、大音声』 と自ら呶鳴り、芝居気取りになつて、伊猛り狂ふた、其勢の凄じさ。杢助は思はず『ワツハツハヽヽ』と吹出し、又もや高姫に向ひ、 杢助『オイ高ちやん、まだ勇む所へはいかぬ。魔我彦ヨルの両人を此処へ引付けなくちや駄目だよ』 高姫はハツと気がつき、 高姫『なる程杢助さま、魔我彦、ヨルは何うしたらいいでせうかな、モウ頭を叩かれるのはたまりませぬがな』 杢助『さうだらう、モウ頭を叩く必要はない。一寸お前が私の云ふ通り、目をつぶつて舌を出してくれさへすりや、それで呪禁が利くのだ、さうすりやキツと二人は此処へ引付けてみせるよ』 高姫『そんな事なら、頭を叩かれるよりもおやすいことです。サア早く呪禁をして下さい』 と云ひ乍ら、目をシツカと塞ぎ、馬鹿正直に舌をニユツと出した。杢助は火鉢の灰を掴んで、高姫の舌へ、口があかぬ程突込んだ。高姫は灰が喉に引かつたとみえて『クワツクワツ』と咳をしあたりに灰を飛ばした。そして両眼から涙をポロポロと流してゐる。それでもまだ杢助がよいといはぬので、辛い業だと思ひ乍ら気張つてゐる。杢助は、 杢助『オイ高姫、モウ目をあけたら良いよ』 高姫はパツと目を開けば、豈計らむや魔我彦、ヨルが自分の前にキチンと坐つてゐる。高姫は、 高姫『ヤ、魔我彦か、ヨルか』 と言はむとして、口につまつた灰に又むせ返り、クワツクワツと、咳し乍ら、苦んでゐる。其間に杢助は金盥に水を汲んで口をそそがした。鼻も舌も灰だらけになつた高姫は、ヤツとの事で灰を洗ひおとし、口を清め、魔我彦を睨つけて、ソロソロと憎まれ口を叩き出したり。 高姫『コレ魔我彦、お前は一体どこへいつとつたのだ、エヽー。此御神徳には叶ふまいがな。それだから、日出神の申す事を聞なさいと、あれ程言ふのに、何の事だいな、大本の大橋越えてまだ先へ行方分らぬ後もどり、慢心すると其通り……と日出神の真似の筆先に出て居りませうがな』 魔我『アハヽヽヽ、実の所はお前さまにお土産を持つて来たのだよ。余り何だか食ひた相に舌を出してゐらつしやるものだから、地獄の釜の下から死人の灰を持つて来て、口にねぢ込んであげました、イヒヽヽヽ』 高姫『コレ魔我ツ、何といふ失礼な事を致すのだ。サ、もう了見ならぬ。穴でも掘つて放り込んでやりませう。コレ杢助さま、もう斯うなる上は了見なりませぬぞや、魔我とヨルと、穴でも掘つて岩でも被せて末代上れぬやうにして下さいナ』 魔我彦の口は俄かに尖り出した。そして大きな耳が生えて来た。ヨルはと見れば、これも耳を生やし、牙を出し、キツキツキツト猿のやうに鳴き出した、お寅は獅子神楽のやうな口を開けて、体中斑の虎となり、高姫に向ひ、『ウーウー』と唸り出した。三人一度に怪獣となり、山も砕けむ許りに唸り初めた。高姫はアツと叫んで其場に正気を失つて了つた。怪獣はのそりのそりと四つ足に還元し、玄関口めがけて飛出した。ハル、テルの両人は両手で頭を抱へ、息をこらして縮こまり、怪獣の帰り去るを待つて居た。俄に山は唸り出し、岩石も飛ぶ様な風が吹いて来た。 (大正一二・一・一九旧一一・一二・三松村真澄録)
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霊界物語 51_寅_浮木の森の曲輪城 06 舞踏怪 第六章舞踏怪〔一三二一〕 松姫の館には、お千代、お菊と女三人首を鳩め、ひそびそと何事か囁いて居る。勇敢なスマートが、松姫の危難を助けて呉れた事などが無論話頭に上つた。スマートは俄に魔の如く姿を消して仕舞つた。 千代『あれまア、可愛いスマートが何処へやら行つて仕舞つたわ、私どうしませう』 松姫『スマートは神様のお使で吾々の危難を助けに来て下さつたのだから、もうお帰りになつたかも知れないよ』 お千代『それだつて私、あのスマートが好きで耐らないのよ。お母さまの危難を谷の向ふからよく探知して助けに来て呉れたのだもの。そして賢い犬で私とお友達にならうと云うて約束して置いたのだもの』 松姫『茲暫くスマートさまの事は云うてはいけませぬよ、どんなお仕組があるか知れないからねえ』 お千代『だつてスマートは恋しい犬だわ。なア、お菊さま、ほんたうに貴女だつて好きでせう』 お菊『私、貴女の次にスマートが好きのよ』 と斯んな話をして居ると、表にどやどやと人の足音が聞えて来た。 妖幻『こりや初、徳、エエ貴様は不届きの奴だ。サア尻を捲れ、なぜ松姫様に御無礼を働いたか。是から此杢助が其方の尻引つ叩いて懲しめて呉れる。悪の報いだと思うて観念せい』 初『ハイ誠に誠に済まぬ事で厶いました。貴方のお名を借りまして、松姫さまを嚇かしましたのは重々悪う厶いました。決して殺さうなぞと思うては居ませぬ。つい酒の興に乗つて狂言をかいたのですから、何卒耐へて下さいませ』 妖幻坊の杢助『馬鹿申せ、そんな事申しても松姫様に御無礼を加へ、此方の名を騙つたのだから了簡はならぬ、尻を捲れ』 高姫『これ初、徳両人、お前は杢助さまや私の名を騙つて松姫さまに御無礼をしたぢやないか、何と云つても松姫さまに済まないから、お前の尻を、千切れても構はぬから三百ばかり叩いて上げよう、徳公さまは私の名を騙つたのだから私が叩いてあげる。初公は杢助さまの名を騙つたのだから杢助さまに叩いて貰ひなさい。サア早く尻をまくりなされ』 徳『ハイ仕方が厶いませぬ。どうぞソツと叩いて下さい。三百もそんな太い杖でやられては命がなくなりますから』 高姫『命がなくなつたつて仕方がないぢやないか、お前は松姫様の命を取らうとしたのだから。サア杢助さま、貴方は初公をお叩きなさい、オイ徳、もうかうなつては駄目だ、早く尻を出さぬか』 と館の中に聞えるやうな声で四人は八百長芝居を始めかけた。 両人は笞を振り上げながら、二人の尻を叩くやうな顔をして大地を叩く。 妖幻『一つ、二つ』 初、徳『キヤツ、キヤツ』 高姫『一つ、二つ』 初、徳『アイタタタ、アイタタタ』 高姫『四ツ、五ツ、六ツ、七ツ、八ツ、九ツ、十』 初、徳『キヤツ、キヤツ、キヤツ、アイタタタタ、アンアンアン』 手許が狂うて、妖幻坊が力一ぱい打ち下した棒が初公の尻にビウと当つた。初公はキヤツと云つて其場に倒れた。妖幻坊、高姫の両人は、持場を定めて、尚も続け打ちに数をかぞへながら打つて居る。 初『これ杢助さま、約束が違ふぢやありませぬか、本当に叩かれるのなら、もう止めですわ、アア痛いワ』 高姫『これ初さま、黙つて居なさらぬか、あいさには二つや三つ手が狂うたつて仕方がないぢやないか』 初『それだと云つて痛いわな』 高姫『二十、二十一、二十二、二十三、二十四』 初、徳『アイタタタアイタ、キヤア、キヤツキヤツ』 高姫『痛かろ痛かろ、痛いやうに撲るのだ。かうせねばお前の罪も亡びず、私の疑も晴れぬから、弁慶でさへも御主人の頭を撲つた事を思へば辛抱をしなさい』 徳『本当に高姫さま、撲つちや耐りませぬわ、約束が違ふぢやありませぬか。何ぼお前さまの弁慶の(弁解の)ためだと云つてもやりきれませぬわ』 何だか屋外にザワザワ音がするので、お菊、お千代の両人は立ち出でて見れば右の体裁である。両人は一度に手を叩いて、 お菊、お千代『ああ面白い面白い、芝居ぢや芝居ぢや、痛くもないのに猿のやうに初公と徳公が泣いて居るわ。ありや八百長だよ。お母さま、一寸来て御覧、面白い芝居が始まつて居ますよ』 松姫も気掛りでならぬので、お千代の言葉に引かれて外に出て見た。杢助、高姫の両人は八百長と見られちや大変だと思ひ、真剣に力をこめてビウビウと撲り出したから耐らない、忽ち臀部は紫色に腫上り血が滲み出した。二人は動きもならず、目を眩かして仕舞つた。松姫は驚いて其場に走り寄り両手を拡げて、 松姫『ヤア高姫様、杢助様、如何なる事か存じませぬが、どうぞ暫くお待ち下さいませ』 高姫『イヤ、お前さまは松姫さま、長らくお目に掛りませぬ、此両人が吾々の名を騙つてお前さまを苦しめたさうですから、今折檻を加へて居る所です。何卒お止め下さいますな。これ杢助さま、もつと打つてやりなさい。こんな奴は死んだつて構ふものか』 松姫『杢助さま、高姫さま、お腹が立ちませうが、これら両人は小北山の役員、如何なる事が厶いませうとも、私に云つて下されば何とか致しますから、まアまア待つて下さいませ』 妖幻『イヤ初めてお目に掛ります。貴女が松姫さまで厶いましたか、えらいお気を揉ませまして恐れ入ります。許し難い奴なれども、貴女のお言葉に免じ許してやりませう。これ高姫、お前も許してやりなさい』 高姫『エエ私はどうしても許しませぬ。三百の笞を加へなくてはなりませぬ。私や貴方の名を騙つて悪事をなした代物だから、以後のみせしめ、息の止まる所まで撲つてやりませう』 とピシヤピシヤと撲りつけた。徳公は息が切れむばかりになつてヒーヒーとひしつて居る。漸くにして松姫の仲裁によつて鞭を加へることだけはやめて了つた。松姫は、お千代、お菊に命じ水を運ばせ、両人に呑ませ且つ尻に水をかけてやつた。二人は無我夢中になつて起き上り、尻の痛さに肱をついて庭に横たはつて居る。 松姫『まア可愛さうに、酷いことなされますなア、貴方等の気の強いのには私も感心致しました』 高姫『私だつて斯様な事はしたくはありませぬが、杢助さまと私が貴女を殺して来いといつたやうに申して乱暴を働いた悪者ですから、以後のみせしめに笞を加へたのです。松姫さま、何卒疑はないやうにして下さい、こんな獣は何を申すか知れませぬからなア』 松姫『ハイ何卒お気遣ひ下さいますな。善悪は神様が御存じですから、私等は善悪を審く力はありませぬ。サア何卒此処は門先……中へ入つて下さいませ。これお千代や、お菊さまと二人、初公、徳公の側に筵をもつて行つて其上に寝かせ、お前等が世話をして上げて下さい。お母さまは一寸お二人さまとお話があるから』 と二人の介抱を二人の少女に命じ置き、高姫、杢助を居間に引き入れた。 松姫『高姫様、お久しう厶います。貴女は生田の森の神司として、琉の玉を御守護遊ばすとか承はり、お羨ましい事だと存じて居りました。此頃は又斎苑の館へお越しになつて居たさうで厶いますねえ』 高姫『ハイ、一寸都合があつて斎苑の館へ参りましたが、神様の命令に依つて、此小北山は高姫の系統蠑螈別が開いたのだから、其方が行つて教主となり、松姫さまは生田の森へ行つて貰へとの事で厶います。つまり云へば更迭ですな、自転倒島は又景色のよい所ですな、高城山からは僅か三十里許りの所で厶いますからな』 松姫『それは神界の御都合とあれば是非に及びませぬが、併し貴女は斎苑の館の八島主の命様から御命令を受けてお出でになりましたか、神様の命令と云つても、現界の仕事は矢張現界の法則を守らねばなりませぬ。ついては御辞令が厶いませう。一寸拝見さして頂きませう』 高姫『馬鹿な事を仰有るな、松姫さまにも似合はぬ愚問を発するぢやありませぬか。三五教は人民の教を立てる所ぢやありますまい。神様の御命令で働く所でせう。私も誠の義理天上様の御命令で忙しくして仕方がない身を、小北山の神司となつて来たのですよ。お前さまは神様の御命令を聞いて生田の森へ行つて貰ひたい、元はお前さまの師匠ですから、私の云ふ事を聞くでせうね、そして杢助さまは生田の森に厶つたけれど、今は斎苑の館の総務、此お方が厶つた以上は辞令も何も要りますまい。つまり八島主さまの意見は杢助さまの意見、杢助さまの意見は八島主さまの意見、又八島主さまの意見は義理天上の意見、義理天上の意見は高姫の意見ぢやぞえ』 松姫『いや分りました、それなら仰に従ひ貴女に事務の引継を致しませう。それについては私は解職の奉告祭、貴方等は新任の奉告祭をなさらなくてはなりますまい。それでなくては神様の御用の引継ぎは出来ませぬからなア』 高姫『イヤ尤もで厶います。お前さま立派に引渡して下さるか、偉いものだなア。其代り生田の森へ行つて下さい、又生田の森へ転任の辞令がないと仰有るだらうが、現在此処に杢助さまが厶るから、生証文だ。どうか安心して行つて下さいや』 松姫『左様ならば事務の引継ぎを致しませう、善は急げと申しますから、一時も早くお空の大神様へ参拝致し、奉告祭を行はうぢやありませぬか』 高姫『それは真に結構で厶います。杢助さま、お前さまも、何程霊界の天人だからといつて、今日は新任の奉告祭だから参らねばなりませぬぞや』 妖幻坊の杢助『ウン仕方が……ウンない、イヤ結構だ、私も奉告祭に参列させて貰ひませう』 松姫『それでは貴方等にお装束をつけて頂きたう厶ります。又それ迄に神饌の用意や祓戸の式をせなくてはなりませぬから、役員にその準備を致させませう。肝腎の初や徳は貴方等に笞を当てられ、八百長芝居が利き過ぎて、あの通り平太つて居ますから、他の役員に命じませう。これ、お千代や、お前はお菊さまに二人の介抱を頼み、文助さまに祭典の用意を命じて下さい』 お千代は、 お千代『ハイ』 と一言後に残して、文助に松姫の命令を下すべく階段を下り行く。文助は早速四五の役員に命じ、祭典の準備を整へしめた。彌祓戸も済み神饌も済んだ。松姫、高姫、杢助は新しき衣装を着替へ、悠然として上段の石の宮の前に現はれた。 忽ち神饌は踊り出し、供へた木の果などは空中に蚋の舞ふ如く舞ひ狂うて居る、さうして人参も大根も山の薯も蜜柑も川魚もピンピン跳ね出し踊り出した。高姫は首を傾けて非常に感心をして居る。 高姫『何とまア神徳の高い者が御用をする事になると偉いものだなア、神様が大変にお勇みだと見えて、お供へ物が中天に舞ひ上り、皆踊つて居る。これ松姫さま、偉いもので厶いませうがな。あれ御覧なさいませ。神様が四辺の木の上に鈴なりになつて居られませうがな、エエ見えませぬか、修業の足らぬものは仕方が厶いませぬな。義理天上さまが、松姫をおつぽり出せ……いや生田の森に遣はせと仰有つたのも、斯んな仕組があつたからだらう。ああ宙空に八百万の神様が勇んでお出でになることわいなア。ネーブルなどは、あの通り目の届かぬ所まで上つて舞踏をやつて居ます。何と神徳と云ふものは争はれぬものだなア』 杢助は何とも云へぬ渋い顔をして頭の痛いのを耐へて居る。高姫は益々調子に乗つて法螺を吹いて居る。 松姫『これ高姫さま、これ程神様がお勇みになつて居るのですから、一遍、ユラリ彦や月の大神、日の大神様のお扉を開けさせて頂きませうか』 高姫『ああそれが肝腎だ。お前さま、開けて下さい、私が神様に直接にお話し致しますから。嘸神様も高姫にお給仕をして貰ひ、杢助さまに構うて貰へば御満足なさるだらう。大神様、斎苑の館の杢助と義理天上日の出神が、今日から御世話をさして頂きますぞや』 松姫はスツと神前に進み、中の社の扉をパツと開いた。杢助、高姫の二人はアツと叫んで其霊光に打たれ、ヨロヨロヨロと七歩八歩後すざりをした途端に、断岩絶壁から逆とんぼりに、キザキザの岩の上に顛落し「ウン、キヤツ」と怪しき声を立てながら、痛さを耐へ、 妖幻坊の杢助『高姫来れ』 と一生懸命坂道を逃げ出した。初公、徳公両人は之を見るより尻の痛さも忘れ、トントントンと二人の後に従ひ一生懸命に逃げ出す。折からヨボヨボと階段を上つて来る文助に突きあたり、妖幻坊は文助の顔を引つかき坂の下に投げつけながら、飛ぶが如くに雲を霞と駆け出す。高姫は金切声を振り立てながら髪振り乱し、でつかい尻を振りながら可愛い男を逃がしちや大変だと、一町許り間隔を保ち、一本橋を渡り怪志の森を指して逃げて行く。又一町許り後れて、初、徳の両人が、 初、徳『オイオイ』 と叫びながら、青草の芽含んだ野路を追つ駆けて行く。小北山の頂から、 スマート『ウーウーワウワウワウ』 とスマートの声、雷の如くに杢助の妖幻坊の耳に入る。 是より、スマートは松姫の返書を首に括りつけられ、初稚姫に報告すべく祠の森をさして帰り往く。 (大正一二・一・二五旧一一・一二・九加藤明子録)
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霊界物語 51_寅_浮木の森の曲輪城 10 女異呆醜 第一〇章女異呆醜〔一三二五〕 妖幻坊の曲神が曲輪の玉を使用して 夢幻の楼閣映出し名利と恋に心魂を 蘯かし狂ふ高姫をうまく誤魔化し萱草の 茫々茂る森林に誘ひ来りいろいろと 塵や芥や糞尿を至善至美なる宮殿や 其他百の珍品と眼くらませ狸穴に 引き入れ茲に曲神は天地を救ふ生神の 誠の道を攪乱し天の下をば悉く 暗と泥との魔界とし暴威を振ひ永久に 楽しまむとて心力のあらむ限りを尽すこそ 実にも忌々しき次第なり高宮姫に仕へたる 高子の素性は幻相坊宮子の素性は幻魔坊 妖幻坊の両腕と頼みきつたる妖怪ぞ 高姫心の誇りより曲の手管に乗せられて 浮び方なき魔の中に陥りながら欣然と 天下に無比の出世をなせしものぞと勇み立ち 日の出神の義理天上金毛九尾醜神も 亦高姫と同様に妖幻坊に欺かれ 悪魔の機関と使はれて喜び居るこそ憐れなれ 寒と熱とに冒されて一度は失神したれども 暫くありて甦り四辺を見れば高、宮の 二人の侍女はイソイソと高姫司の介抱して 薬を煎じ湯を沸し一心不乱に真心を 尽して仕へ居たりけり之を眺めて高姫は 怒りもならず顔色を和らげ二人に打向ひ 高姫『ほんにお前は如意宝珠潮満玉や潮干の 尊き玉の御化身か真に畏れ入りました 貴女の様なお身魂を何程日の出神ぢやとて お使ひ申すは何となく勿体ない様な気が致す 何卒貴女は高姫に構はず宝座に現はれて 金剛不壊の神力を完全に委曲に現はして 尊き神の御教を世に輝かしウラナイの 道を照らさせ給へかしお願ひ申す』と手を合し 頼めば二人は首を振り(高子、宮子)『いえいえ私は本城の 高宮彦の御命令天にも地にも代へ難き 高宮姫の側近く仕へ侍れと厳かな 命令受けて居りまする不束なれど吾々を 何卒お使ひ下されて日の出神の神業の 万分一に御使ひ遊ばし給へ』と手を合し 願ふ姿ぞ殊勝なれ高姫ますます図に乗つて 高姫『高子よ、宮子よ、汝は又如何した身魂の因縁か 変性男子の御系統常世の姫の御再来 日の出神の義理天上かからせ給ふ生宮の 高宮姫の側近く仕へ奉ると云ふ事は 之に越したる幸福は又と世界にあるまいぞ 之から先は神妙に高宮姫の云ふ事を 一つも背かず聞くがよい高宮彦は如意宝珠 持たせ給へば神力が斯くも立派に現はれて 清く輝きましませどあの宝玉を手放せば 人民界に籍を置き普通の人より勝れたる 智勇兼備の勇将ださはさりながら人間は 到底神には叶ふまい此高姫は人間と 姿を現じ居るなれど高天原の最奥の も一つ奥のまだ奥の天極紫微宮の其奥の 御殿にまします月の神日の大神の御子とます 日の出神の義理天上もう此上はないと云ふ 尊き身魂の肉の宮神人感合した上は 高宮姫は義理天上日の出神は私ぢやぞえ 曇り果てたる暗の世を日の出の守護にしよと思や ヤツパリ日の出神様が御用を致さにやなるまいぞ 五六七の神世と云ふ事は日の出の御代と云ふ事だ 厳の御霊や瑞御霊ミロクの神と云つたとて 日の出神の又の名だお前は年が若い故 こんな事をば云つたとて分らないのは無理はない さはさりながら如意宝珠金剛不壊の身魂なら 一旦私の腹中に這入つて生れた生魂よ さすればお前は吾娘変化の法で世に出でて ここに母子の廻り会ひほんに嬉しい事だなア ほんにお前も嬉しかろ之から三人村肝の 心を協せ手を曳いて瑞の御霊の三女神 高宮彦の神業を助けまつりて芳名を 幾万劫の末までも輝き渡す吾心 諾ひませよ高、宮の二人の御子よ惟神 神に誓ひて常世姫日の出神の生宮が 完全に委曲に教へおくああ惟神々々 御霊幸はひましませよ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 高宮彦や高宮の姫の命のある限り 金剛不壊の如意宝珠握つた上は天地を 一つに丸めて義理天上日の出の御代と立直し 五六七神政の太柱常磐堅磐に立並べ 世の大本の生神と称へらるるは目のあたり ああ有難し有難しこの世を造り給ひたる 厳の霊の大御神梵天帝釈自在天 大国彦の大御神盤古神王塩長の 彦の命や常世彦ウラルの彦の御前に 畏み畏み願ぎ奉るああ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と一生懸命に狸穴の中に寝言の様に歌つてゐる。高子は高宮姫の歌に答へて、綾の袖を胡蝶の如く、しなやかに振りながら、自ら歌ひ自ら舞うて高姫の心を慰めた。 高子『金剛不壊の如意宝珠其半分の分霊 世界の火熱を守護する高皇産霊の大神の 其分身が現はれてここに高子の姫となり 三千世界を救う為心を尽し身を尽し 獅子奮迅の活動を遊ばし給ふ常世姫 其肉宮の御為に近く仕へて神業を 完成せむと勇み立ち高宮彦の父神と 御身を守護し奉る日の出神の義理天上 かからせ給ふ生宮よ何卒々々吾々を 生みの御子とみそなはし弥永久に何時までも 御目をかけさせ給へかし朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 三五教の神司勢猛く攻め来とも 吾身の汝に従ひて守らむ限り百千の 猛き獣も曲津見も又三五の強敵も 何か恐れむ敷島の大和魂の如意宝珠 心平に安らかに思召されよ母の君 勇み喜び御前に真心こめて永久の 誓ひを結び奉るああ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ舞ひ終る。高姫は笑壺に入り、顔の紐をほどいて前途の光明を夢みつつあつた。宮子は又歌ふ。 宮子『日の出神の生宮と現はれませる神司 愈一陽来復の花咲く春の廻り来て 高宮城の司神高宮彦の妃となりて 三千世界の万霊を救はせ給ふ母となり 現はれますぞ尊けれ吾は水をば守護する 如意の宝珠の片割れぞ宮子の姫と現はれて 高宮姫の側近く仕へまつりし嬉しさよ 瑞の御霊の元の霊神皇産霊の大神の 玉の雫になり出でし此世を洗ふ瑞霊 厳と瑞とが相並び高宮城に現はれて 二人の御身を守護せば三千世界は永久に 無事泰平に治まりて枝もならさぬ神の御代 五六七の神世は忽ちに此地の上に顕現し 日の出神の神徳が輝き渡るは目のあたり 喜び仰ぎ奉るああ惟神々々 水の霊の宮子姫真心こめて母君の 御前に誓ひ奉る』 と歌ひ終り、淑かに座に着いた。高姫は、 高姫『何とまア結構な事が重なれば重なるものだな。もしや夢ではあるまいか』 と頬を抓つて見たり、眉毛に唾をつけて見たり、臍の辺りを突いたり押したりしながら、腹中のお客さまに向ひ、 高姫『おい、義理天上殿、金毛九尾殿、其他の眷属共、此高姫の出世を知つて居るか。お前達は如何考へる。もしも高姫が夢を見てゐるのなら、夢とハツキリと云うて呉れ。あまり結構過ぎて本当にならないから』 腹の中から大声で、 (義理天上と称する霊)『義理天上日の出神、今日のお喜び謹んでお祝ひ申す。高宮姫の肉体、御苦労で厶る。オツホホホホ、先づは目出度い、お目出度い。のう金毛九尾、結構ではないか』 (金毛九尾と称する霊)『成程々々、之にて願望成就致すであらう。いや大蛇殿、蟇殿、其他の連中、お喜び召され、アツハハハハ』 腹中より、 (その他の霊)『アツハハハハ、イツヒヒヒヒ、クツハハハハ、クツハハハハ、チツヒヒヒヒ』 とガラクタ霊が勝手に喜び笑ふ声が一つになつて井堰を切つた様な勢で高姫の口へ流れ出づるのであつた。 高子『お母さま、何、心配してゐられますの。何だか、云つて居らつしやつたぢやありませぬか』 高姫『あ、お前は子供だからまだ分るまいが、私は今義理天上さまや上義姫様、旭の豊栄昇姫さま、リントウビテン大臣さま等と御相談を申して居たのだよ』 高子『何とまア、お母さまは八人芸の様な重宝なお方ですね。なア宮子さま、私も貴女も、こんなお母さまを持ち、高宮彦のお父さまを持つて居るのだから、三千世界に恐いものはありませぬわネ』 宮子『さうですとも、それに違ひありませぬわ』 高姫『オツホホホホ、何とまア優しい子だな、肉体の人間から生れた子だと、私もチツとばかり悋気が起ろまいものでもないが、何といつても、私の腹にあつた如意宝珠から化けて出た子だから安心なものだ。なア高さま、宮さま、お前二人の名をよせるとお父さまの名にもなり、お母さまの名にもなるね』 高子『ホホホホホ、嬉しいわ』 宮子『エヘヘヘヘヘ、本当に有難いね』 斯く三人は打解けて立派な居間の中で、歌つたり舞うたり、美はしき果実を味はひながら一日を暮した。其実、萱野原の狸穴である事は前述の通りである。 (大正一二・一・二六旧一一・一二・一〇北村隆光録)
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霊界物語 52_卯_小北山の文助の改心物語 08 巡拝 第八章巡拝〔一三四四〕 イク、サールの二人は、大広前の神殿を拝礼しをはり、蠑螈別が籠りしと云ふ館の前に立つて、 サール『蠑螈別お寅婆さまの古戦場 見るにつけても可笑しくなりぬ』 イク『この館土瓶が踊り徳利舞ひ 盃われし古戦場なり』 サール『魔我彦やお寅婆さまが改心を なしたる場所も此館なり』 イク『酔ひドレの熊公さまが飛込んで 脅し文句で金を千両(占領)。 一段と高く築ける段梯子 登りて行くも姫を訪ねて』 二人は木花姫を祀りたる小さき祠に参拝し拝礼を了り、 イク『木花姫神の恵は目のあたり 開き初めにき木々の梢に』 サール『木の花の姫の命の御前に その鼻高をさらすイクなり。 天教の山より下りし皇神は わが馬鹿面を笑ひますらむ。 イクの奴狸の曲に魅まれて 恥も知らずに大前に来つ』 斯く歌ひ、今度は金勝要神の祠の前に進み拝礼を了り、 イク『縁結ぶ畏き神と聞きしより ゐたたまらずして詣で来にけり』 サール『其面で何程神を拝むとも 妻となるべき人のあるべき』 イク『吾輩の顔を眺めて笑ふより 一寸見て来い水鏡をば』 サール『顔容姿で妻が出来ようか 魂麗しき人でなくては。 此様に見えても俺はをちこちの 女にチヤホヤされる曲者』 イク『其様に慢心ばかりするでないよ 乙女に馬鹿にされた身ながら。 要の神貴の御前にこんな事 囀る奴は鰥鳥かも。 さア行かう大神様に恥かしい 女なんぞと言ふ面でなし アハハハハハ』 と笑ひながら玉依姫(竜宮の乙女)様を祭つたる祠の前に進みよつた。 イク『いろいろの宝をためて海の底に 隠し給ひし欲な神様』 サール『馬鹿言ふな乙姫様は今は早 物質欲に離れた神よ』 イク『これはしたり失礼な事を言ひました 聞直しませ乙姫の神』 サール『神様は宝を以て人々に 与へ給へどお前には列外』 イク『列外か又案外か知らねども 宝なくては世に立つを得ず』 サール『物質の宝求めて何になる 朽ちぬ宝を霊につめよ』 イク『馬鹿云ふな水晶玉も物質よ されど暗夜を照らしましける。 金なくて何のおのれが人間かと 世の人々は相手にもせず。 それ故に俺は金銀財宝を むげには捨てぬ冥加者ぞや』 サール『イクの奴イク地の足らぬ証拠には 宝々と憧れゐるも。 神様は何程宝あるとても 貧乏面にくれるものかは。 サア行かう目の正月をするよりも 宝忘れて宝拾ひに。 俺の云ふ宝といふは金銀や 水晶でない教の宝よ』 かく歌ひ終つて、今度は中段の宮の前に進んだ。此処には日の大神の祠が建つてゐる。 イク『伊弉諾の皇大神を斎りたる この御舎は殊に麗し』 サール『其筈だつくしの日向の立花で 禊ぎ給ひし神に坐しませば』 イク『許々多久の罪や汚れに溺れたる 霊を洗へ神の御前に』 サール『曲神に騙られたる愚さを 許し給へと詫びよイク公』 イク『かもてなや頭打たりよが打たりよまいが お前の知つた事でなければ』 サール『道伴れの一人が狸に叩かれて 吠面かわくを見るつらさかな。 天教の山に天降りし日の神の 宮は殊更高くおはせり』 又此処を去つて、今度は月の大神を斎りたる祠の前に進んだ。 イク『素盞嗚の神の御霊を祀りたる 社の前に月の大神』 サール『古狸梟の奴に馬鹿にされ 乙女にまでも笑はれにけり。 さながらに愛想も月の大神が 貴様の面を笑ひ給はむ』 イク『馬鹿云ふな善言美詞の神様だ 必ずよきに見直しまさむを』 サール『此男世界に稀な馬鹿なれば 守らせ給へ月の大神』 イク『サールこそ馬鹿の証拠にや水晶の 玉をばイクにせしめられける』 サール『イクの奴イク地がないと知つた故 玉を持たせておいたばかりよ』 イク『サア行かう月の光に照らされて 何とはなしに恥かしき宵』 今度は最上段の国常立尊の祠の前に参拝した。 イク『掛巻も畏き神の御前に 詣で来りし吾は罪人。 さりながら悔い改めて大神の 道に仕へしイク身魂なり』 サール『われこそは皇大神の御恵に 与りました未サールの神』 イク『罰当りサールのやうな面をして 坤とはよくもいはれた。 お前こそ世人がサールの人真似と 嘲るとても仕方あるまい』 サール『三五の道にサール者ありと云ふ 此神司知らぬ馬鹿者』 イク『国所立のき彦の狼と 人に言はれた馬鹿者は誰』 斯く二人は拝礼を終り、次いで互に揶揄ひ合ひながら、枝振りのよい松の七八本かたまつた下に、余り広からず狭からざる瀟洒たる一棟が建つてゐる。それが所謂松姫の館であつた。 イク『常磐木の松の木蔭に建てられし 松姫館をなつかしみ思ふ』 サール『吾慕ふ初稚姫のいます上は 一しほ恋しき館なりけり』 イク『小北山要となりし此館は 扇の如くに建てられにける』 サール『常磐木の松の緑は青々と とめどもなしに伸び立てるかも』 イク『初稚姫神の司がますと聞けば 胸轟きて進みかねつつ』 サール『臆病風又吹き荒みイクの奴 イク地のなきを暴露せりけり』 イク『そんな事言ふなら俺が先に立ち 一つ肝をば見せてやらうかい』 サール『面白い初稚姫の前に出て 叱り飛ばされベソをかくだろ』 イク『水晶の玉を抱きしわれなれば 初稚姫も褒め給ふべし。 その時は指をくはへてサールの奴は 恨めしさうに見てゐるがよい』 サール『姫様に会うたら皆素破ぬき 一伍一什を申し上ぐべし。 その時は赤い顔をばせぬがよい 梟鳥にもなぶられる奴よ』 イク『イクらでも人の悪口言ふがよい 首吊りそこねし死損ね奴が』 サール『貴様とて矢張首吊り仲間ぞや 何うして姫に顔があはせよう』 二人は流石に恥かしさに堪へかね、松姫の館の四五間ばかり側までやつて来て、互に「お前から先へ行け」「イヤ貴様から先へ」と、押合ひをやつてゐる。スマートは二人の影を見るより、喜んで走り来り、胸に飛びついたり、背中に抱きついたり、頬をなめたり、勇み出した。 イク『ヤア、スーちやんか、先づ先づ御無事でお目出度う。漸く此処までお後を慕つて参りました。何卒姫様に宜しうお取りなしを願ひますよ』 サール『ハハハハハ馬鹿だなア。此頃の衆議院の候補者のやうに、犬にまで追従してゐやがる、犬がもの言ふかい』 イク『主人に威勢があると、何だか犬に迄頭が下がるやうな気になるものだ。そこが人情の然らしむる所だよ。娘を嫁にやつてある在所へ入ると、其親は野良犬にでも辞儀をするといふぢやないか。貴様も訳の分らぬ奴だなア。そんな事で今日の虚偽万能の世の中に、どうして生存が続けられると思うてるか、時代遅れの骨董品だなア』 サール『ほつといてくれ、何程偉さうに云つても、姫様に叱られるかと思つて、ビリビリしとるやうな腰抜の言葉に、何うして権威があるものか、マア、俺のすることを見てをれ、エヘン』 と云ひながら、思ひ切つて門口に立寄り、怖さうに中を眺めた。初稚姫と松姫は何事か一生懸命に、ニコニコしながら話の最中であつた。サールがガラリと戸を開け、 サール『へーご免なさいませ。松姫様、始めてお目にかかります。私は祠の森のサールと申す者、モ一人の従者はイクと申します。イヤもう意気地のない野郎で厶いますから、何卒可愛がつてやつて下さいませ』 松姫『それはそれはよくマアいらせられました。サ、どうぞお上り下さいませ』 サール『スマートさまも御壮健で、大慶至極に存じます』 と初稚姫に御機嫌を取らうといふ考へか、切りに犬に追従してゐる。イクは不在の家へ盗人が這入るやうな調子で、ビリビリもので、足音もさせず這入つて来た。 初稚姫は二人を見て、言葉静に、 初稚姫『貴方はイクさま、サールさま、神様へお参りで厶いますか』 二人は、 イク、サール『へー、あの、何です』 と頭をかき、モヂモヂとして土間に踞んで了つた。 初稚『妾に何ぞ御用が厶いましたのか、何卒早く仰有つて下さいな』 イクは思ひ切つて、 イク『イヤ実の所は姫様の、何処までもお供をさして頂かうと思ひまして、お後を慕ひ参つたので厶います。吾々両人の真心をお汲み取り下さいまして、是非にお供をさして頂きたう厶います』 初稚姫『貴方、山口の森で何か変つたことは厶いませぬでしたか』 イク『ハイ、イヤもう面白いこつて厶いましたよ。結構な御神力を戴いて鬼の奴、二匹迄遁走させました。それはそれは随分愉快なもので厶いましたよ』 初稚姫『それはお手柄で厶いましたな。そして貴方、何だか神様から頂いたでせう』 イク『ハイ、頂きました』 初稚姫『無事に此処まで、貴方は守護して来ましたか。途中に他の者の手に入るやうなことはありませなんだかな』 イク『へ、此通り、此処に所持して居ります。実に立派な水晶玉で厶います』 初稚姫『それは夜光の玉と云つて、水晶ではありませぬ。筑紫の島から現はれた結構なダイヤモンドですよ』 イク『へーエ、さうで厶いましたか、誠に有難いこつて厶いました』 初稚姫『貴方、途中で妖怪につままれ、一旦ふんだくられるやうな、不都合な事はなさいますまいな』 サール『イヤもう恐れ入りました。実の所は、古狸に騙かされ、取られて了つたのですが、お千代さまのお蔭で再び元へ返つたのです』 初稚姫『其玉は一旦曲神の手に入つた上は、大変に汚れて居りますよ。これは今のうちに禊をなさらぬと、役に立たなくなりますからねえ』 イク『塩水を貰つて清めませうかなア』 初稚姫『貴方の無形の魂をお清めになれば自然に玉は浄まります。そしてお前さまは其玉に執着心を持つてゐるでせう。なぜサールさまに渡さなかつたのですか。一旦貴方の手に入り、妖魅に取られたのだから、貴方は玉に対して、監督権を自然に放棄したやうなものです。今度はサールさまに持たせておくが宜しい。実の所は妾より日の出神様にお願ひ申し、貴方等の熱心に感じて、お二人様の中へ一個をお与へ申したのですから、此玉は二人の身魂が一つになつた証拠です。決して一人が独占すべき物ではありませぬ。即ちイクさまの心はサールさまの心、サールさまの心はイクさまの心、二人一体となり、神界の為に活動なさるやうに仕組まれてあるのです』 サール『オイ、イク州、どうだ。ヤツパリ宝の独占は許されまいがな。貴様が自分の物のやうにして、俺にも碌に見せず、懐へ捻ぢ込んで来よつたものだから、神罰が当つて、狸の野郎に一旦取られて了つたのだよ』 イク『モシ姫様、さうすると此玉は、これからサールに渡すべき物で厶いますか』 初稚姫『誰の物といふ訳には参りませぬ。お二人さまが交代に保護なさるれば宜しい。そして此宝は世界救済の為の御神宝で、人間の私すべき物ではありませぬ。暫く拝借してゐる考へになつて、大切に保存なさいませ。そして其玉が手に入つた以上は、妾について来る必要はありませぬ。一時も早く祠の森に帰つて下さい。貴方の御親切は有難う厶いますが、妾は神様が沢山に守つて下さいますから、決して淋しい事は厶いませぬからな』 サール『それなら、此玉を貴方に御返し致します。何卒、どんな御用でも致しますから、そんな事仰有らずに、サール一人でも、ハルナの都までお供を許して下さいませ。モシ此通りで厶います』 と熱誠を面にあらはして、涙を流しながら頼み込むのであつた。 初稚姫『夜光る宝を神に得し君は 祠の森に帰り行きませ。 この玉は日の出神の賜ひてし 暗夜を照らす珍の御宝。 曲神のたけり狂へる月の国へ かかる宝を持ち行くべしやは。 汝こそは此御宝を守るべく 計り給ひし神の御心 ハルナへは供を連れ行く事ならず 神の厳しき仰せなりせば』 イク『姫様のその御言葉には背かれず さりとて此儘帰るべきやは』 サール『いかならむ仰せ受けさせ給ふとも 許させ給へ見直しまして』 初稚姫『益良夫の心の花は匂へども 手折らむ由もなきぞうたてき』 イク『さりとても此儘これが帰らりよか 仮令死すとも姫に仕へむ』 サール『どうしても許し給はぬ事ならば われは此処にて腹を切るなり』 松姫『姫君の厳の言葉を聞かずして 迷へる人ぞ憐れなりけり。 赤心の溢れ出でたる益良夫が 心はかりて涙こぼるる。 さりながら皇大神の御心に 背くべしやは宣伝使のわれ』 初稚姫『イク、サール二人の司よ村肝の 心鎮めてかへりみませよ』 イク『今暫し思案定めていらへせむ 何は兎もあれ頼み参らす』 サール『姫君の言葉を背くにあらねども 弥猛心を抑ゆるすべなし さりながら暫し彼方に休らひて 身の振方を胸に問ひみむ』 斯く歌を以て姫に答へ、蠑螈別、お寅の住居せし元の教主館に退きて、二人は茶を啜りながら、腕を組み、吐息をもらし、進退谷まつて、涙に暮れてゐた。これより初稚姫は松姫に別れを告げ、二人の隙を窺ひ、スマートを伴ひ、逸早く聖場を立ち出で、征途に上ることとなつた。イク、サールの両人は、依然として初稚姫は松姫館にいます事と確信し、お菊に酒を勧められ一夜を明かした。そして文助の危篤を聞いて、夜中頃館を飛出し、河鹿川に降つて水垢離を取り、一生懸命に其恢復を祈つた。 (大正一二・一・二九旧一一・一二・一三松村真澄録)
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霊界物語 54_巳_ビクの国の物語2(後継者問題) 10 万亀柱 第一〇章万亀柱〔一三九六〕 カルナ姫は又歌ふ。 カルナ『朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも誠一つは世を救ふ 誠の神の御教を四方に伝ふる宣伝使 治国別の神司産土山の聖地より 珍の御伴を従へて下らせ給ひ天地の 清き教を宣らせつつ若君様の御結婚 とりなし給ひし有難さ天と地との息合せ 生れ出でたる人々は所謂神の子神の宮 生きては此世の神となり死しては護国の神となり 豊葦原の瑞穂国生ひ立ち栄ゆる人草を あつく守りて皇神の依さしのままに赤心を 尽すは人の務めぞと教へ給ひし有難さ 妾夫婦は謹みて神の御為国の為め 蒼生を守るため尊き神の御前に 朝な夕なに身を清め天の下をば平けく いと安らけく守りませ偏に願ひ奉ると 宣る言霊も空しからず若君様の御結婚 いよいよ無事に調ひて御国の栄えを松の花 緑の色もいや濃ゆく栄え栄えていつ迄も 果しも知らぬ喜びは全く神の御恵み 謹み感謝し奉るああ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 松彦は又歌ふ。 松彦『此処は名に負ふビクの国堅城鉄壁を繞らし 四方を見晴らす宮城百の国民見おろして 御空に高く輝ける月日の如く光をなげ 恵の雨を降らし国人を厚く守らせたまふ 音に名高き刹帝利万代不易のビクトリヤ王が家 いや益々も天地とむた永久に長からむ事を 神の御前に祈り奉る一度は黒雲に包まれて 音に名高き名城も遂に危く見えけるが 尊き神の御守りに醜の曲津は滅び失せ 今は全く風塵も留めぬ御代の目出度さよ 其目出度さにまた一つ喜びを重ね給ひたる アールの君の御結婚いとさやさやに運びまし 玉の緒琴の音も清く響き渡れる勇ましさ 此極みなき喜びは外へはやらじと心をこめて 松彦司が惟神神に祈りをかけまくも 畏き君の御前に祝ぎ仕へ奉る ビクトリヤの神殿が築き上りし暁は アールの君よハンナ姫手に手を取つて朝夕に かかさず詣で天が下四方の国民恙なく 君が政治を喜びて仕へまつるべく 祈らせたまへ治国別の師の君に 吾は従ひ近き中恋しき都を後にして 神の御為道のため聖地をさして進むべし ああ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 と歌ひ終り座についた。竜彦は又歌ふ。 竜彦『吾師の君に従ひて祠の森を離れつつ 曲神の猛ぶ山口の昼さへ暗き森を越え 野中の森や小北山後に眺めてすたすたと 浮木の森に来て見れば思ひも寄らぬ曲神の 深く企みし陥穽師の君様と諸共に 千尋の底へ転落し霊は忽ち身を脱けて 精霊界に彷徨ひつ尊き神の御指図に 霊国天国巡覧し又もや下りて八衢の 司の神とあれませる伊吹戸主にいろいろと 尊き道を教へられ再び此世に生き還り バラモン教のゼネラルと現はれ給ふ片彦や ランチの君を言向けて三五教の神力を 現はせまつり吾々は吾師の君と諸共に 荒野ケ原を打ち渡りライオン河を横ぎりて ビクトル山の麓まで進みて来る折もあれ 俄に聞ゆる鬨の声只事ならじと進みより よくよく見ればバラモンの鬼春別や久米彦が 一斉射撃の真最中見逃し往くも三五の 神の司の吾として如何ならむと思ひつつ 吾師の君と諸共に厳の言霊打ち出せば 豈図らむやバラモンの率ゆる軍に非ずして 右守の司の反逆と覚りし時の憎らしさ 吾等師弟は一斉に心を揃へ口揃へ 一目散に太祝詞涼しく宣りて言霊を 連続的に打ち出せば雲霞の如き大軍も 雲を霞と逃げ去りぬ斯かる所へヒルナ姫 カルナの姫の女武者神に守られかつかつと 栗毛の駒に跨りて反逆人の右守をば 縛して帰り給ひたる忠勇義烈の働きは 末代迄の鑑ぞと褒めそやさぬは無かりけり 刹帝利様の御前に吾等師弟は導かれ いろいろ雑多の待遇しに厚意を感謝し奉り 三五教の御教を完全に委曲に相伝へ 皇大神の御舎をビクトル山の頂上に 岩切り砕き土を掘り上つ岩根に搗きこらし 底つ岩根に搗き固め大宮柱太知りて 今は漸く九分通り竣工したるぞ嬉しけれ これに先立ち刹帝利ビクトリヤ王の御子とます 五男一女の行衛をば神の御告を蒙りて 照国岳の谷間に進みて迎へ奉り 長子の君と生れませる心やさしきアールさま 今日は目出たき結婚の式を挙げさせ給ひつつ 百の司は云ふも更吾々師弟も招かれて 目出度き席に列ねられ神の恵の大神酒を 与へられたる嬉しさよ元より酒豪の竜彦は 何より彼より酒が好きとは云ふものの三五の 教の道に仕ふ身は先づ第一に大酒を 謹まなくてはなりませぬ然るに今日は何となく 嬉し嬉しが重なりて廻る盃数重ね 思はず知らず酔ひつぶれいかい失礼したでせう 唯何事も神直日大直日にと見直して 許させたまへ刹帝利其外百の司達 御前に慎み詫びまつるああ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 万公は其尾についてヘベレケに酔うた儘、足もよろよろ謡ひ舞ふ。 万公(謡曲調)『ああ目出度し目出度しお目出たし、朝日は照るとも曇るとも、此結婚が恙なく、千秋万歳楽と、祝ひ納むる其上は、仮令天地は変るとも、何か恐れむ神の御恵み、ビクの国主の御威勢、空飛つ鳥も羽翼をゆるめて地に墜ち、草木も感じて自然の音楽を奏し、河の流れは鼓を打ち、君が幾世を祝すらむ。又三五の皇大神に仕へたる、吾師の君を初めとし、三人の伴人の中に於て、さる者ありと聞えたる、万世祝ふ亀の齢の万公が、此喜びを万世に、伝へむものと勇み立ち、手足も儘ならぬ程、酔ひつぶれたる重たき身を起し、命限りに祝ぎ奉る。鶴は千年の齢を保ち、亀は万年の寿命をつづく、鶴と亀との命は愚か、幾億万年の末迄も、ビクの御国は永久に、ビクトリヤ王家は、天地の続かむ限り、限りも知らず栄えませ。それにつけてもアールの君、新に迎へ給ひし后の宮のハンナ姫、いと睦まじくどこ迄も、陰と陽との息を合せ、天が下に妹と背の、清き鑑を示させ給へ。日は照る日は照る月は輝く、星は御空に永久に、光も褪せず月の国の大海原の底深く、契らせ給へ惟神、神の御前に謹みて、亀の齢の万公が、今日の寿末長ふ、幾千代迄も、祝ひ奉る』 と泥酔者に似ず、いと真面目に祝ひ納め元の座に着きぬ。此外、数多の司人の祝の歌はあれど、あまり管々しければ省略するなり。 アールの王子は理想の妻、ハンナを娶りしより、国の政治日に月に開けて国民悦服し、ビクトル山の神殿に祭りたる国治立尊、日の大神、月の大神、神素盞嗚大神を朝な夕なに国民一般が信仰をなし、各其業を楽しみ、ミロクの聖代を地上に現出する事となりぬ。ああ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・二・二一旧一・六於竜宮館加藤明子録)