| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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41 (1574) |
霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 28 三柱の貴子 | 第二八章三柱の貴子〔五二四〕 神代の太古、伊邪那岐命よりお産れ遊ばした天照大御神様、この神様は日の大神様と申上げて、本部綾部に御祀りしてあります所の神様であります。このへんから申上げます。 伊邪那岐命が 『筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐ケ原に於て禊身し玉ふ時、左の御目を洗ひ給ひて成りませる神の御名は天照大御神、次に右の御目を洗ひ給ひて成りませる神の御名は月読命』 といふことが書いて御座います。目といふものは吾々肉体から申しますると、右と左と両方に持ちて居りまして物を視るといふことの上に最も大切なものであります計りか、眼は心の窓と申します位重要なもので御座います。所が一歩進んで考へて見ますと、総てこの宇宙間に形を持つて居るものは森羅万象残らず目すなはち眼目といふものがなくてはならぬ。実際凡ゆるものに眼目があると云ふ事は吾人は常に之を認め得るのであります。姿こそ人間のやうな姿ではないけれど、他の動物に於てもこの眼をもつて居ります。禽獣虫魚草木の類に至るまで此眼のないものはありませぬ。また一つの文章を読みましても、この中にも必ず眼目といふものがあります。御勅語の中にも眼があります。 『皇祖皇宗国ヲ肇ムルコト宏遠ニ徳ヲ樹ツルコト深厚ナリ、汝臣民克ク忠ニ克ク孝ニ』 これが教育勅語の眼目であります。また戊申詔書には、 『淬礪ノ誠ヲ輸サバ国運発展ノ本近ク斯ニ在リ』 これが詰り眼になつて居る。その通り初め天地をお造りになるに当つても、この宇宙を治める為にはどうしても、眼といふものが必要であるといふので、そこで伊邪那岐命は天地の主をお創めになつたのであります。すなはち伊邪那岐命は、先づ天の主をこしらへたい、この霊界の主宰者をこしらへたいと思召しになりまして左の目を洗ひ給うた、この左の目といふのは日であります。太陽神であつて上である。右の目といふのが太陰神であつて下であります。言霊の天則から申しますと左は男、右は女と、これは既に神様の御代から定まつた掟である。然るにこの左の目を洗うてお生れになつたのが日の大神、天照大御神であつて、右の目を洗うてお生れになつたのが月読命、さうすると目からお生れになつたのは、変性男子女子でありました。左の目をお洗ひになつて直ぐお生れになつたのが変性男子の天照大御神でありました。これで詰り左を宇宙霊界とし、右を地球として、天上天下の君をお生みになつた訳であります。 『次に御鼻を洗ひ給ひしときに成りませる神の御名は建速須佐之男命』 はなは初めに成るの意義で即ち初めである。物質の元であります。花が咲いて而して後から実を結びます。人間の身体が出来るにつきましても、先づ胎内に於て人間の形の出来る初めは鼻である。それから眼が出来る。絵師が人間の絵を描きましても、その輪廓を描くのに何より先に鼻を描く、鼻は真中である。鼻を先へ描いて然る後に目を描き口を描いてそこで都合好く絵が出来るのである。この初めて出来た統治の位地にお立ちになるのが須佐之男命であります。俗に何でも物の完成したことを眼鼻がついたと申します。神様も此世界をお造りになつて、さうしてそこに初めて眼鼻をおつけになつたのであります。 『此時伊邪那岐命太く歓喜して詔り給はく』 愈天地が完全に出来たから、神様は非常にお喜びになつた。これまでに神様は随分沢山な御子達をお産みになつて居りますが衝立船戸の神様から十二柱ありました。その次に三柱お生れになつてをるので都合十五柱であります。男神様は我はかやうに沢山の子を産むだが、しかし今度の様な眼鼻になる所の子は初めてである。 『吾は御子生みて、生みの果に三柱の貴子得たり』 と仰せられまして、やがて、 『其御頸珠の玉の緒母由良に取りゆらかして』 即ちむかしの勾玉と申したやうな、高貴な人が飾りとしてかけて居つた頸珠であります。丁度今で申しますと大勲位章とか、大綬章とか、一等勲章とか云ふ意味の、曲玉のやうなのを掛けて居られたかと思はれます。 そこでこの玉を自分からお取り脱しになつて天照大御神にお渡しになつた。母由良にとりゆらかしてといふことは何でも非常に喜んで物を渡すときには、自然に手や身体が揺れる。一面から云へば揺つて渡す。頂くときにも亦揺つて頂く、今は然う云ふやうなことでは御座いませぬけれども、本当に嬉しいときには然うなつて来るのであります。さて之を揺りよい音鳴りをさせながら天照大御神に賜ひまして詔給はく、 『汝が命は高天の原を知らせ』 と高天原を主宰せよと仰せになつて珠をお授けになつたのであります。 『かれ其御頸珠の名を御倉板挙之神と申す』 此の御倉板挙之神といふことは、言霊学上から見ても、神様の方で申されまする暦――此世界には恒天暦、太陽暦、太陰暦の三つの暦が常に運行循環して居るのであります。で、此御頸珠をお授けになつたといふのは、所謂御倉板挙之神、即ち恒天暦、太陽暦、太陰暦をお授けになつたのであります。 『次に月読命に詔給はく「汝が命は夜の食国を知らせ」と事依さし給ひき』 右の眼よりお生れになつた月読命に夜の主宰をせよと仰せられた。知らせといふことは、大事に守護り能く治めよといふ意味で、太陰の世界を主宰せよと仰有つた。高天原は全大宇宙である。夜の食国は昼の従である。それで月読命はどこまでも天照大御神を扶けて宇宙の経綸に当れと、斯う云ふ詔であります。 『次に建速須佐之男命に詔給はく「汝が命は海原を知らせ」と事依さし給ひき』 須佐之男命は鼻からお生れになつた方であります。海原といふのは此地球上のことであります。地球は陸が三分の一しかありませぬ、三分の二といふものは海であります。で地球を総称して大海原と申すのであります。斯うして伊邪那岐命様は深いお考へから夫々其知ろしめす所を、各々にお分けになつて、汝は高天原を、汝は夜の食国を、汝は地球上即ち大海原を知ろしめせと、御神勅になつたのであります。今日は天照大御神の三代の日子番能邇々芸命が、どうも此お国が治まらぬといふので天から大神の神勅を奉じて御降臨になつて、地球上をお治め遊ばして、さうして我皇室の御先祖となり、其後万世一系に此国をお治めになつてあるのでありますが、それより以前に於きましては、古事記によりますと須佐之男神が此国を知召されたといふことは前の大神の神勅を見ても明白な事実であります。 『故各々依し給へる御言の随に、知らしめす中に、速須佐之男命、依さし給へる国を知らさずて、八拳髯胸前に至るまで啼いさちき』 須佐之男命は大神の仰に随つて地上に降臨遊ばされた。地上を治める為めに、お降りになりましたけれども、その時この地上は乱れて居つて、神代にも丁度今日のやうな世があつたものと見えます。で今日のやうに政治であらうが、宗教であらうが、教育であらうが、何から何まで一切のものが行き詰つて了うて、もう行きも戻りも上げも下しも出来ぬ様になつて居つた。それで須佐之男命様は、この世の中を安らけく平けく治めて大神を安堵させ奉る事が出来ないから非常にお歎きになつて、『八拳髯胸前に至るまで』長く長く髯が延びて胸前の所まで下つて来るまで御心配をなすつた。人といふものは髯を拵へたり髪を整へたり、いろいろのことをして、容貌を整へなくてはならぬけれども、此国を治めようといふ事に、余り御心配を遊ばしたのでありますから、知らぬ間にこの髯が八拳に長く伸びて居つたのであります。 『泣きいさちき』 といふのは、世の中の一切悉くのものが、もうどうしても、これから進むで行くとか、開けて行くとか、どうしたらよいかといふ方法がない、手のつけやうがないといふまでに非常に行き詰つて了つた状態を、お歎きになるさまに形容したのであります。 『其泣き給ふ状は』 どういふ工合であつたかといふと、 『青山を枯山なす泣き枯らし』 今まで山などの草木が青々と生ひ繁つて居たのに、世が行き詰つた為に枯れて了うた。枯らして了うた。山がすつかり一変して枯山となつてしまうた。これは今日の状態によつく似て居るではありませぬか。今まで十年計画、百年計画といふやうな風にいろいろな事業が企てられた。何会社が立つの、或は何事業が起されたと、無茶苦茶に四五年前から本年の春までは偉い勢で、好景気を謳歌して、青々とした山の如くに有頂天になつて居りましたが、青山がいつまでも天空につかへないが如くに、なんぼ木が伸びたつて天につかへる気遣ひのないやうに、一朝行きつまれば最早さう云ふ勢はすつくり枯れて了ふ。今年の春からこの方、元も子もなくなつて、青山は枯山になつた。どうしても伸びる方法もない、火の消えたるが如き有様になつて了つたのであります。 『河海は悉に泣き乾しき』 山が枯山となつたと同じく、河も海も悉く乾いて了うて、一滴の水もなくなつたといふのであります。今日の世の中に譬へて申しますれば、郵船会社とか、商船会社とか其他いろいろの海運業も追々と仕事がなくなつて二進も三進も行かなくなつた。すると此海河の労働仕事に従事して居るものは、稼殖の途のなくなるのは勿論、稼業に離れる、職に離れるといふことになつて来ると一家は子供に至るまで、悉く泣き乾しになる。最早や食ふ道がないやうになると、もう乾干になるより仕様がない。総て海に稼いで居る者も、河に従事して居る者も、其他一切のことに従事して居る者も、みんな泣き乾しになつて了うたのである。 『是を以て悪神の音なひ、狭蠅なす皆沸き、万の物の妖悉に発りき』 神代に於ても世が行き詰つて来れば、そこにいろいろの不祥なる事件が起つて来たものと見えます。 畏くも明治天皇陛下が、 『之ヲ古今ニ通ジテ謬ラズ之ヲ中外ニ施シテ悖ラズ』[※教育勅語の一節] と仰せられましたやうに、真理といふものは何れの時代にも適応するので御座います。既に古事記の明文にある所で御座います。今日の状態を考へて見れば、丁度此岩戸開き前の状態と克く似て居る。世がどん底に行き詰つて労働しようにも仕事がない、仕事がなければ妻子眷族を養ふことが出来ない。生活といふことが出来なくなるとそこで悪神の音なひとなり、いろいろの騒動が起つて来る、人間の心が荒んで来る。衣食足つて礼節を知る、今まで善い魂を持つて居つたものも、だんだん悪い魂の力に押へられて悪化して了ふ。食ふか食はぬか、死ぬか生きるか、喰うて死ぬか食はずに死ぬか、斯う云ふ苦しい立場になりますと、人心は日増しに悪化して善くないことが往々始まる。甚だしきは警察へ行つて御厄介になつた方が楽で、養なつて呉れて安全だといふものが出来る。監獄に入れば食はして呉れる、金銭はなくても可いといふ具合に自暴自棄的に悪神の音なひが始まる。此音なひといふのは、神様の御真意に背いた所の、いろいろの論説が出て来るといふので、あちらからも此方からも異端邪説が叢り起ることであります。然うした結果が、うるさい所の五月蠅のやうにブンブンブンといろいろの事が湧いて、 『万の物の妖悉に発りき』 一切のものに災禍が起つて来る。外交の上に於きましても、内治の上に於きましても、商工業の上にも、一切万事、何も彼にも、世の中のありと凡ゆるものに向つて、みな災禍が起つて来るのであります。そこで天から伊邪那岐大神が之を御覧になつて、 『速須佐之男命に詔給はく』 仰有るのには、 『何とかも、いましは、事依させる国を治さずて泣きいさちる』 そなたは、此大海原の国を治めよと言うてあるのに、何故それを治めぬのか、世の中を斯う云ふ難局に陥らせたのか、何うして騒がしい世の中として了うたのか、と大変にお責になつたのであります。すると須佐之男命は、誠に相済まぬ事であります。兎も角これは私に力が足らぬからであります。私が悪いのでありますとお答へになつた。併し斯うなつて来ては如何なる人が出て来ても、此時節には敵はない。治まるときには治めなくても治まるが、治まらぬときに之を治めるといふ事は難かしいものであります。人盛んなれば天に勝ち、天定まつて人を制す、悪運の強い時には如何なる神もこれを何うも斯うもする事が出来ない。艮の金神様も此時節の勢には敵はぬと仰せられて、それで三千年間あの世に隠れて、今日の神政成就の時節を待つて、現在に顕はれ天の大神様の御命令を奉じて、三千世界の立替立直しをなさらうといふのであります。大神様でさへもさう仰せに成るのでありますから、況して須佐之男命が大変に行き詰つた地上を治めようとなさつてもどうして治まらう筈がありませう。然らば何故須佐之男命御一人では治まらないのであるかと申せば、それは今日文武百官がありまして、亦た政党政派が互に相争ひ、一方が斯うすれば一方が苦情を持ち出して思ふやうにならぬ如く前に申しましたやうに既にいろいろの神様達が沢山あつて、其神々様が各自に天津神の御心を取り違へて、所謂体主霊従に陥つて居られたので、一人の須佐之男命がどれ程誠の途を開かうとなすつた所で、更に耳に入れるものがない、各自に勝手な真似をなさる。丁度強情な盲と聾との寄合のやうであります。そこに千仭の谷があつても盲は顛覆へるまでは知らぬ顔をしてをる。どれ程雷が鳴つても聾は足下に落ちるまでは平気である。それに強情を張つて誰が何と注意しても聴かない。神代の人もそのやうに体主霊従で、どうしても命の命令を聴かなかつた。それで須佐之男命は、これは取りも直さず自分の責任である、自分の不徳の致す所である、到底自分の力では及ばないのであると、自らをお責めになつて、 『あは妣の国、根の堅洲国に罷らんと思ふが故に泣く』 私はもうお暇を頂いて、母の国に帰らうと仰せられたのであります。根の堅洲国と申すのは母神の伊邪那美命がおいでになつてゐる所であります。尤もこれまでの或る国学者達は根の堅洲国といふのは地下の国であると云つて居りますが、併し一番に此伊邪那美命は月読命と同じく月界に御出でになつたのでありますから、月界を根の堅洲国と言つたのであります。で須佐之男命は自分の力が足らないのである、不徳の致す所であるからして自ら身を引いて、根の堅洲の国へ行かうと仰有つて、一言も部下の神々の不心得や、其悪い行状を仰せられなかつた。如何にも男らしい潔白なお方で御座います。所が伊邪那岐命は非常に御立腹になつた。 『然らばみまし此国にはな住みそ』 其方のやうな此海原を治める力量の無いものならば、二度と此国に住むではならぬ。勝手に根の堅洲国へ行つたがよからう。一時でも居つてはならぬぞとお叱りになつたけれども、伊邪那岐命は須佐之男命の心中は疾くに克く御存知である。自分の子がどうして此国を治める事が出来ないか、どうして自分の珍の児の言ふことを万の神々が聴かぬか、腹の底では充分に御存知でありますが、それを彼此仰有らない。心の中には千万無量のお悲しみを持つて居られまするけれども、他に多くの神々に傷をつけるといふことは考へ物である。それで須佐之男命に刑罰を与へて罪人としたならば、その他の八百万の神、これに随いて居る所の神等はそれを見て皆改心するであらう、その悪かつたことを悟るであらうと思召して大神様は自分の子を罰せられたのでありまして、普通の者の出来難いことで御座います。その広大なるお情深い御心は、誠に勿体ない次第でありませぬか。此須佐之男命を罪に問うたならば、あれこそ吾々の為めに罪せられたのである、誠に済まないことであるから、吾々は悔い改めて本当の政治をしなければならぬ、改心を早く致して命の罪を赦されむ事を八百万の神々が思ふであらうと思召して伊邪那岐命は此処置をお取り遊ばしたのであるが、矢張体主霊従に陥られた八百万の神達は容易にそれがお解りにならず、あれは当然である、政治の主権をあんな者が握つて居つては国の治まらう筈がない、あれが居なくなれば又善い神様が来るに違ひない、否吾々の力で充分に世を治めようといふやうな頗る冷淡な間違つた考へを有つて居つたのであります。寔にこんな世の中を治めようとするには並大抵の事ではないので御座います。 (大正九・一〇・一五講演筆録) (大正一一・三・五再録谷村真友録) |
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42 (1575) |
霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 29 子生の誓 | 第二九章子生の誓〔五二五〕 そこで須佐之男命がお父さんの伊邪那岐命に申上げられましたのには、然らば私は根の堅洲国に参ります。併しそれにつきましては、高天原に坐す姉君の天照大御神に一度お暇乞ひを致して参り度と存じます。高天原に上りますと申されて、 『乃ち天に参上りますときに、山川悉く動み、国土皆震りき』 天にお上りになるといふ此天は大本で言へば高天原で、今日に譬へて見たならば国の政治の中心で現代日本の高天原は東京であります。神界にも政治の中心が高天原にあつたのは当然で御座います。そこでいよいよ高天原に上り給はむとするとき山も川も悉く動いた。国土皆震ひ出しました。即ち物質界の上にも精神界の上にも、大地震があつたのであります。併しこれは形容であつて、社会万民総てのものが今更のやうに驚き、国土の神々が一度に震駭した。今日の言葉で言へば内乱が起つたといふやうな意味で非常な騒ぎであります。須佐之男命がこれから根の堅洲国においでになるに就ては、今度お暇乞ひの為に高天原にお上りになるといふので、国中非常な大騒ぎで、終に騒乱が起つたのであります。一方天照大御神様は、今度須佐之男命が天に上るに就て、国中大騒ぎであるといふことを聞し召されて、大いにお驚きになつて、 『あが汝兄の命の上り来ます由は、必ず美しき心ならじ、我が国を奪はむと欲すにこそ』 と詔り給うて弟の須佐之男命が海原を治さずして、高天原に上つて来るといふことであるが、これは必ず美しい心ではなからう。我此主宰する所の高天原を占領に来るのであらうと仰せになつて、 『御髪を解き御美髪に纏かして』 男の髪のやうに結ひ直して大丈夫の装束をして数多の部下を整列せしめ、戦ひの用意をなさつたのであります。元来変性男子の霊性はお疑が深いもので、わしの国を奪りに来る、或は自分の自由にする心算であらう、斯う御心配になつたのであります。丁度これに似たことが、明治二十五年以来のお筆先に非常に沢山書いてあります。変性女子が高天原へ来て潰して了うと云つて、変性女子の行動に対して非常に圧迫を加へられる。また女子が大本全体を破壊して了うといふやうなことが、お筆先に現れて居ります。それで教主初め役員一同、教祖の教の通りに此皇国の為め、霊主体従の神教を説いて日夜務めて居るので御座いますが、併し大本教祖も変性男子の霊魂であつて矢張疑が深いといふ点もあります。天照大御神様は、疑ひ深くも弟の美しい心を、これは悪い心を以て来たのではあるまいかとお疑になつたのであります。教祖もさう云ふ工合に変性男子の神界の型が出来て居るのであります。さうして、 『左右の御美髪にも御鬘にも、左右の御手にも、各八坂の勾玉の五百津の御統真琉の珠を纏き持たして、背には千入の靱を負ひ』 矢筒や弓をお持ちになりて、 『伊都の竹鞆を取り佩して弓腹を振り立てて』 弓を一生懸命に、ギユツト満月の如く引き絞つて、 『堅庭は向股に踏みなづみ、沫雪なす蹶散かして、伊都の男健び踏み健びて待ち問ひ給はく』 男健びといふのは、角力取りが土俵に上つてドンドンと四股を踏んで、全身の勇気を出す有様であつて、弟が軍勢を引き連れて来たならば一撃の下に討ち亡ぼして了うて遣らうと、高天原の軍勢を御呼び集めになつたのであります。 如何にも女神の勇ましさと、偉い勢を形容してあります。弟の須佐之男命が上つて来るのは、高天原を攻め落さうと思つて来るのではないかと、非常に御心配になつてそれに対する用意をしてお待ちになつたのであります。今日世人や新聞雑誌記者や既成宗教家や学者などが、大本が何か妙なことを考へて居るのではあるまいかと、変な所へ気を廻して居るのと同じことであります。そこで、 『何故上来ませると問ひ給ひき』 汝は海原を治めて居ればよいのである。然るに今頃何が為めに高天原へ出て来たかとお問ひになつた。すると須佐之男命が答へられた。私が今来て見れば、大変な防備がしてある。大変な軍備がして有りますが、これは私に対する備へでせうが、私は決して然う云ふ穢い考へは持つて居りませぬ。ただ父君伊邪那岐命が何故その方は泣くかとお尋ねになりましたから、実状を申上げるのはどうも辛う御座いますし、親様に心配をかけるのは畏れ多いと思つて、私は母の国に参らうと思ひますと申し上げました所が、父の大御神は以ての外のお怒りで、此国を治めるだけの力無きものなら、勝手に行けと仰有つて、手足の爪を抜き、鬚をぬき、髪の毛を一本もないやうに、こんな風にせられました。で私はこれから母の国に参りますといふことを姉上に申上げに参つたのであります。然うしますると天照大御神様は、果して然らば、汝は何によつてその心の綺麗なことを証明するか、証拠を見せて貰ひ度いと仰せられた。そこで須佐之男命は、 『各誓ひて御子生まな』 誓ひといふことは、誓約のことであります。若しも私が悪かつたならば斯々、善かつたならば斯々といふ誓ひであります。 『故爾に各天の安河を中に置きて誓ふときに』 天の安河といふのは、非常に清浄な所を意味するのであります。総て河の流れのやうに、少しも滞らない留まらない所は綺麗であります。物を溜るといふことは腐敗を意味します。この綺麗な清らかな、公平無私な所を、天の安河といふのであります。それを真中にして、本当の公平無私なる鏡を茲に立てて、さうして両方から誓約をせられました。どう云ふ誓約であるかといふに、須佐之男命は十拳の剣を持つて居られた。剣といふものは男の魂であります。昔から我国では刀を武士の魂又は大和魂と申して居ります。女の魂は鏡であります。乃ちお前の魂である所の剣を渡せと天照大御神が仰せられたから、それをお渡しになると、天照大御神は三つに折つて、 『天の真名井に振り滌ぎてさ嚼みに嚼みて吹き棄つる気吹の狭霧に成りませる神の御名は』 第一番にお生れになつた神は多紀理姫命、次に市寸嶋比売命、次に多気津姫命の三女神で現に竹生嶋に祀つてあります。安芸の宮嶋に祀つてありますのは市杵島姫命であります。次に多紀理姫命、多岐津比売命、この三人の女神がお生れになつた。今度は須佐之男命、この神様は非常に怖い、絵で見る鐘馗さんみたいな暴悪無類の神様のやうに見える、おまけに剣まで佩ひて居られる、その剣をお調べになると、三人の綺麗な姫様がお生れになつて居るのである。この三女神は竹生島その他の神社に祀つてあります。三女神の神名を言霊上より解釈すれば『多紀理姫命は尚武勇健の神』『市寸島姫は稜威直進、正義純直の神』『多気津姫命は突進的勢力迅速の神様』で是が真正の瑞の御魂の霊性であります。この竹生島とは竹生と書きまして昔から武器の神様としてあります。即ち武器といふのは、竹が初まりであつて、先づ竹槍を造つた。そして竹で箭を造り、弓を拵へることを発明したといふやうな工合に、今の武器の初めは竹であつた故に武の字をタケと読むのであります。そこで今建速須佐之男命の持つて居られました剣、つまり須佐之男命様の御霊である所の刀からは三人の姫神がお生れになつた。刀を持つて居るから建速と申すとも言ひます。多紀理比売は手切姫で斬る。多岐都比売は手で突くといふ意味にもなります。伊突姫も突刺す意味である。すると槍とか剣とかは伊突き、手切り、手断突の働きになつて居ります。兎に角立派な綺麗な極従順な鏡の如き姫神様でありました。それで之れを瑞の霊とも、三人の瑞の霊[※御校正本・愛世版では「三人の瑞の霊」だが、校定版・八幡版では「三人の霊」に直している。]とも申します。三月三日の節句を女の節句として祝ひますのも然う云ふ所から出て居ります。それから今度は須佐之男命が天照大御神の御用ゐになつて居ります珠、平和の象徴たる所の飾りの八坂の勾瓊を御受けになつて、天の真名井の綺麗な水にお滌ぎになつて、 『さがみにかみて吹き棄つる気吹の狭霧に成りませる神の御名は』 玉と云ふものは元来清く美しい光り輝く真善美のものであつて、刀の如くに斬つたり突いたりするものではありませぬ。実に平和に見えるものであります。これは左とか右りとか沢山ありますけれども長くなりますから委しく申上げませぬ。而して気吹の狭霧になりませるとありますのは、此処はつまり鎮魂であります。初め先づ鎮魂して各自の霊を調べるのであります。吾々の静坐瞑目して致して居ります所の鎮魂と同じ意味であります。如何なる守護神が現はれてゐるか、霊魂の集中を審めて見るので御座います。そこでお生れになりましたのが、正勝吾勝勝速日天の忍穂耳命、不撓不屈勝利光栄の神、次に鎮魂してお生れになつたのが天の菩卑能命、血染焼尽の神。次が天津日子根の命、破壊屠戮の神。次に活津彦根命、打撃攻撃電撃の神。次が熊野久須毘命、両刃長剣の神。都合五柱の男の命がお生れになつたのであります。天照大御神は姿は女である。女の肉体をお有ちであつたので御座いますが、その霊は以上述べた如く実に勇壮無比の男神でありました。鎮魂の結果お生れ遊ばしたのは五柱の男の神様の霊性が現はれた、それで姿は女であつて男の御霊を備へて居られますから、天照大御神を変性男子と申し、厳の御魂と申し、須佐之男命は姿は男であつても女の霊をおもちであつたから変性女子と謂ひ瑞の御魂といふので御座います。而して前の三女の霊に対して、この五柱の命を五男の霊とも申します。之を仏教では八大竜王と唱へまして、京都の祇園では八王子というて御祭りになつて在ります。 茲で初めて須佐之男命は表面怖い暴逆な神様であるけれども実は極く優美しい、善い心の神様であるといふことが解り、これに引きかへ天照大御神は極くお優しい、鏡からぬけ出たやうな玲瓏たるお方でありますけれども、前の言霊解の如き御霊があつたのであります。 ここで一つよく考へなければならぬ事は天照大御神のお言葉に、 『言向け和はせ』 と書いてありますが、言葉を以て世界を治めよといふことになります。さうしますと天照大御神は外交の難しい事について御子孫にお示しになつたのでありまして、どこまでも此珠を以て充分に平和を旨として治めて行かなくてはいかぬといふ御心でありました。然るに須佐之男命は根の堅洲国へ行くについても、武備を非常に盛んにして軍艦を沢山に拵へ、大砲を沢山造るといふ、所謂武装的平和のお心である。斯う考へますと、今の外国の主義が須佐之男命のと同じである。体主霊従である。天照大御神は日本国になつて居るといつてもよいと思ひます。日本人の心の中には武備がある。大和魂がある。けれども表面には武装がないのである。いざといふ場合には稜威の雄健び、踏健びをしなくてはならぬがその間には常に極く平和に落着いて居る。然るに外国は始終刀を有てゐる。外に向つて十拳の剣を握つてゐるけれども、愈戦ふとなれば、あちらは三人の女の神様であるのに反して、表面弱い如くに見えても五人の男の神様の霊性が出て来るのである。この霊および身魂のことに就てはお筆先にも出て居ります。身魂の善悪を改めると申されてあります。 『是に天照大御神、須佐之男命に告り給はく』 後から生れた所の五柱の神はわしの有つて居る珠から出て来たものであるから自分の子である。所謂自分の魂から出た男神はみな自分の子である。それから先刻生れた姫御児はその種が汝が魂十拳の剣から出たのだからこれは汝の子であると仰有つた。これで身魂の立て分けが出来た。須佐之男命は変性女子で、天照大御神は変性男子であるといふことが明かになつた。所が須佐之男命は、姉天照大御神は今迄は私の心を疑うて御座つたが、これで私の清明潔白な事は証拠立てられた。私の心の綺麗な事は私の魂から生れた手弱女によつて解りませう。あの弱々しい女子では戦をする事は出来ますまい。斯う考へたならば最前あなたは、私が高天原を奪りに来たらうと仰られたがあれは間違ひでせう。私の言ふことが本当でせう。 『これによりて言さば自ら我勝ぬと言ひて、勝さびに天照大御神の営田の畔離ち、溝埋め、亦其の大嘗聞し召す殿に屎まり散らしき』 この言葉は少いけれども、この意味は、当時須佐之男命様にも尚ほ沢山の臣下が在つた。茲に須佐之男命に反対するものと、味方するものとが出来て来たので迷ひが起つたのであります。須佐之男命がお勝になつて、増長なさつたといふよりも寧ろ、私の綺麗な心は解つた筈である。然るに尚悪いと仰せになるのは心地が悪い、不快であるといふので終に自暴自棄に陥つたのであります。やけくそを起した結果が、田の畦を壊したり、溝を埋めたり、御食事をなさる所へ糞をやり散らして、いろいろ乱暴のあらむ限りを、須佐之男命に味方する系統の者が行つたのであります。天照大御神は此状態を御覧になり、弟は決してあの多量の糞をまいたりする筈はない、酒に酔つて何か吐いたのであらう。畔を離ちたり、溝を埋めるのは、丁度今でいふ耕地整理のやうなもので、いらぬ畔や溝を潰して沢山米が出来るようにする為めだらうと、所謂直日に見直し詔り直して、一切のことを総て善意に御解釈されて所謂詔り直し給うたのであります。何でも善い方に解して行けば波瀾は少いもので御座います。天照大御神も善意に解して居られましたけれども、御神意を悟らぬ神等の乱暴は愈長じて遣り方が余りに酷くなる。八百万の神様方がどうしてもお鎮まりがない。世の中が大騒ぎになつた。彼方でも此方でも暴動が起る。無茶苦茶な有様になつた。そのうちに、 『天照大御神、忌服屋に坐まして、神御衣織らしめ給ふときに、其の服屋の頂を穿ちて、天の斑馬を逆剥ぎに剥ぎて堕し入るるときに、天の御衣織女、見驚きて梭に陰上を衝きて死せき』 斯う云ふ事件が起つたので御座います。ここで機を織るといふことは、世界の経綸といふことであります。経と緯との仕組をして頂いて居つたのであります。すると此経綸を妨げた。天の斑馬暴れ馬の皮を逆剥にして、上からどつと放したので、機を織つて居た稚比売の命は大変に驚いた。驚いた途端に梭に秀処を刺し亡くなつてお了ひになつたのであります。さあ大変な騒動になつて来た。 (大正九・一〇・一五講演筆録) (大正一一・三・六旧二・八谷村真友再録) |
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霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 30 天の岩戸 | 第三〇章天の岩戸〔五二六〕 今迄耐へに耐へておいでになつた天照大御神は、余りの事に驚き且お怒り遊ばして是ではもう堪らぬといふので、天の岩屋戸を建てて直様その中にお入りになり、戸を堅く閉してお籠りになつて了つた。是も亦形容でありまして、小さく譬て見ますれば、この東京市は市長が治めて居る。然るに到底私の力では東京は治まらない、仕方がないと言つて辞職して了ふ。市役所に出て来ない様になる。一国に就て言へば総理大臣が私の力でこの国は治まらないからと言つて辞職して了ふ。一国にしても一市にしても、主宰者が居らぬでは外の者にはどうする事も出来ないと云ふ其人に辞職されて了うたなら其国なり其市なりはどうでせう。詰り此只今でいふ辞職といふのが、天の岩屋戸へ天照大御神がお籠りになつたと同じ様なことであります。 『即ち高天原皆暗く葦原の中津国悉に闇し』 真暗闇では何うしようにも方針がつかない、葦原の中津国の大政府が仆れた為に其所在地たる高天原を初め全国が火の消えたる如くになつて了つた。下の方の者では施政の方針は分らない。どうもかうも手のつけ様がない。 『茲に万の神のおとなひは、五月蠅なす皆湧き、万の妖悉に発りき』 今度はもう昼も夜もない真暗がりぢや。斯うなつて来ると世の中はどうなり行くか、丁度今日に就て考へて見ると面白い。政治は勿論教育も経済も、内治も外交も滅茶苦茶である。一切万事真暗がりの世になつてゐる。どこにどうしようにも見当がつかない。斯うなつて来ると、此に発して来るのは各階級の風俗の紊乱であります。不良人民が殖ゑ窃盗が横行し、強盗が顔を出す、神代に於ても、万の妖が総ての事に、彼方にも此方にも五月の蠅の如くに発生して来たのである。之を天の岩屋戸隠れと申すのでありますけれども、今日の世態を考へますと、恰も神代に於ける岩屋戸の閉てられた時と同じやうに思はれます。 『是を以て八百万の神』 はどうする事も出来ないから、 『天の安河原に神集ひに集ひて』 相談をなされた。之を高天原即ち天上の議場に集まつたのだと云ふ人もあります。平等なる神々様が、物を洗ふ、流すと云ふ意味の公平無私なる土地に集まつたのであります。安ということは安全と云ふことで、この安らかなる地点即ち風水火なり饑病戦なりその他総ての禍災を防ぐことの出来る、然も何等圧迫を被ることのない場所であります。さうしてこの清らかな場所へは、上下貴賤の区別なく総ての人々が、国を憂ひ、国家を救はなくてはならぬと云ふ、潔らかな精神を以て集まつて来たのであります。 『高御産巣日の神の御子、思兼の神に思はしめて』 この思兼の神は今日でいうと枢密院の議長といふ様な役目であります。一番思慮の深い人、さうして神の教を受けた人、この人に天の岩屋戸を開き天下を救ふべき方法を尋ねまして、その結果、 『常夜の長鳴鳥を集へて鳴かしめて』 常夜といふのは常闇の世の事であります。即ち永遠無窮に日月と共に、国事に就て憂ひ活動をして居る神、此等の神等を集めて泣かせるといふのは各自に意見を吐かせると云ふ事である。その結果、 『天の安の河の河上の天の堅石を取り、天の金山の鉄を取りて、鍛人、天津麻羅を求ぎて、伊斯許理度売の命に科せて鏡を作らしめ』 この堅い石を取るといふことは、皇化万世動かぬ岩に松といふ、天から下つた所の教を取るといふことである。天の金山の鉄を取るといふことはどちらもカネである。鍛人、これは鍛冶屋といふ意味でありますけれども、総て世を治めるに必要なる道具、一切の武器などを拵へたのであります。次に鏡を造らしめる。鏡は人物の反映である。霊能の反映である。故に歴代の天皇は之を御祀りになつて居る。鏡は皇室の宝物になつて居るのであります。鏡は神であります。さうして言霊であります。言霊七十五音を真澄の鏡と申します。三種の神器の一を八咫の鏡と申すのは即ち七十五声の言霊であります。それから言霊が日本人のは非常に円満清朗であるといふのは、是は日本の国に金の徳があるからであります。地の中に金といふものが多い、外国と違うて黄金の精が多い。故に日本人の音声は清いのであります。鳴物でも金が入つて居ると善い音が出ます。金の多いと云ふ事の為に天の金山の鉄を取りてと出て居るのであります。それから伊斯許理度売命に鏡を作らしめるとは、伊斯許理度売命の伊は発音であつて、斯許理といふのは熱中することで、一生懸命に国の為に奔走する神、さういふ神を寄せて言霊の鏡を作らせたのであります。次に、 『珠を作らしめ』 又 『天の香山の真男鹿』 の角を取つて占なはしめることになつた。天の香山といふのは鼻成山と云ふ意義で、神人を生かす山の事であります。此 『天の香山の真男鹿の肩を打抜きに抜きて』 さうして何ういふことをしたらよいか神勅を乞はれたのであります。今の神占は殆どそんなことはありませぬが、昔は鹿の骨を火に焼いて、その割目で吉凶を占うた。実際八百万の神が集まつて、種々雑多なことをして国の為めにどうしたらよいかと考へた。其中には易を見る神もあつたので御座います。易を見て方針を決めたり、其他いろいろに考へ、四方八方から考へて行つた結果、そこで初めて、岩屋戸を開くに就ては祭典をして天神地祇を祭らなくてはいかぬといふことに決つた。先づ、 『真賢木を、根抜に掘て、上枝に八咫の勾珠の、五百津の御統麻琉の玉を取り著け、中枝には、八咫鏡を取りかけ、下枝に、白丹寸手、青丹寸手を取り垂でて』 つまりこれは今日で言ふ神楽であります。伊勢神宮では昔から十二組の大神楽がありますが、これは岩屋戸開きの事をお示しになつて居るのであります。 前にも申上げましたやうに現代の世態を考へますると今日は所謂世界の大神楽を奏しなくてはならぬときであります。あのお神楽のときに出て参りまする翁獅子、あれは既に大きなおそろしい面をした獅子を被つて、刀を口にくはへ毛を下らして居る。この形は何であるか。眼は金、鼻の孔も金、歯も金、而も其口を動かして、本当に恐ろしいやうであるけれど、真中には人が入つて操つて居るばかりか、頭の方こそ立派だが後の方には尾も何もない。だんだらの条のやうなものが入つてゐる布に過ぎない。そこにも人が隠れて居て前の者と調子を合せて操つて居る。これが獅子舞の真相であります。所で今日の世界の外交術は皆この獅子舞であります。表面は非常に大きないはゆる獅子口を開けて、今にも噛みつきさうにして、怖ろしいやうであるが、中に入つて見ると、人が獅子の口を開けて舞うてゐるのである。ちやうど今日は神楽をあげてゐるのである。それから大神楽のときに芸人が鞠を上げたり、下したりする。これは霊の上り下りを示して居るのである。また一尺位の両端に布切れの付いた妙な棒のやうなものを上げたり下したりする。これは世の中の柱が、上のものは下敷となり下のものは上になりて行く、即ち立替をするといふことを示してあるのである。それから盆の上や傘の背に一文銭を転がせて一生懸命きりきり廻して居る。これは何をして居るのであるかといふと、今日の世の中は金融が逼迫して、一文の金も一生懸命に走り廻つてゐる。千円の財産でもつて一万円も二万円もの仕事をしてゐる。だから一朝経済界の変調が起るとポツツリ運転が止つて了ふ。そう云ふ工合に金融が切迫してゐると云ふ事を表してゐる。次に剣の舞をやつて居る。頭を地につけて反り身になつて一生懸命にやつてゐる。これはいはゆる危険な相互傷き倒れると云ふ戦争をして居る意味である。それから茶碗に水をつぎ込み長い細い竹の先にのせて、下から芸人がキリキリ廻して居る。あの通り危い。茶碗が落ちたらポカンと割れる。無論水はこぼれる。所が落ちないのはこのキリキリ廻して居る竹の所が要であるからで、すなはち要を握つて居るからであります。要と云ふものは中心である。いはゆる神であるからして引つくり覆らぬ。又おやまの道中と云ふ事をやりますが神楽が出来て、獅子舞姿でおやまの道中をして居る真似をする。ちやうど今日の世の中の様に男の頭の上に女が上つて居るやうな工合になつて居る。それから獅子の後持といふのがある。さうしておやまの道中には傘をさして妙な獅子舞を致しますが、今日の世の中に於きましても男が下になり女が上になつて之を使つてるのと同じ事でありますが、またこの獅子舞は達磨大師の真似をして見せる。足を下にして大の字になつたり、逆様にひつくり返つたりして見せる。上になつたり下になつたりキリキリ舞をしてゐる。後持が大の字になつて見せたり逆様になつて見せたりする。上のも大の字、中のも大の字、あとのも大の字逆様ぢやと申して一生懸命やつてゐる。一方では大神楽の親父と云ふのがあつて、片方で芸人の真似をしては邪魔をしたり、いらぬ口を叩いたりして、頭をポンと敲かれたり、突かれたりしてお客さまを笑はせる。笑はせる丈ならよいが大変な邪魔をする。この親父は唖や聾の真似をして舞もせずに邪魔をする。今日の世の中にもかう云ふ獅子舞の親父がゐる。元老とか何とか言うて、若い屈強盛りの者が一生懸命に芸当をやつてゐる所へ口嘴を出したり、邪魔をしたりする、時には頭をポンとやられる。さうして一番しまひに弐円なり五円なりの金をせしめる、芸をすませて、親父はアバババと言うて帰つてしまふ。このアバババは言霊から申しますと、総ての物の終り、大船が海上で沈没をした時や、開いた口が閉がらぬ様な困つて失望したとき、どうもこうも出来ぬやうな苦境に陥つてしまつたと云ふ時の表示であります。兎に角、今日の世の中は大神楽を廻して居る時であります。神代の岩戸開きの神楽と、今日の世の神楽とは余程変つて居りますけれども、その大精神に於ては同一であります。 神楽舞の時に囃子が太鼓を打つのは大砲や小銃弾や爆裂弾の響き渡る形容であり笛を吹くのはラツパを吹き立てる形容であり、銅鉢を左右の手に持つてチヤンチヤン鳴らし立てるのは、世界が両方に別れて互に打合ふといふ事の暗示であります。 そこで、 『天の宇受売命、天の香山の天の蘿を、手次に繋けて、天の真析を鬘として、天の香山の小竹葉を手草に結ひて、天の岩屋戸に空槽伏せて』 いろいろの葉を頭につけたり、葛を襷にかけたりして、岩屋戸の前へ行つて、起きたり逆様になつたり、足拍子を取つてどんどんどんどんやつた。 『踏み動響し、神懸して、胸乳を掻き出で、裳紐を陰上に押し垂れき』 岩屋戸を開く為に、宇受売の命が起きたり、逆様になつたり、一生懸命に神懸りをやつた。神懸りに就いてはここには省略する。これはその人一人の事ではありませぬ。宇受売と云ふのは、女の事を申しますが、俗に男女と言はれる女であつて、男のやうな強い人をオスメまたはオスシと言ひます。これは宇受売から初まつたのである。女は女らしくしなければならないので御座いますけれども、然し乍ら、天の岩屋戸の閉つたと言ふ様な国の大事の際には、女だとて女らしくして居られない場合があります。男も女も神様がなされました様に一生懸命になつて国事に奔走せなければならぬ。総て女と云ふ者は人の心を柔げる所の天職を有つて居ります。今誰も彼も、皆の者が岩戸開きの為に心配をしてゐる。顔をしかめて考へ込んでゐるその際に、宇受売命、すなはち男勝りの女が出て来て、とんだり、跳ねたり、腹匐うたり、面白い事をして見せたり、いはゆる国家的大活動をした為に、 『かれ高天原、動りて八百万の神、共に咲ひき』 一度にどつと笑つた。非常に元気づいて国家の一大難局を談笑快楽の中に治めて了つたのであります。現代に於ても女の方も活動して下されまして岩屋戸の開く様にせなければならぬと存じます。昔もさうでありました。 『ここに、天照大御神、怪しと思ほして、天の岩屋戸を細目に開きて、内より告り給へるは』 岩屋戸に隠れてゐられました大神様は、今私は岩屋戸に隠れて了つた以上は、葦原の中つ国も、天地も共に真闇になつて、さぞ神々は困つてゐるであらう、と思ふに何故か岩屋戸の外で、太鼓を打つ、鐘を叩く、笛を吹く、どんどん足拍子がする、宇受売の命が嬉しさうに噪ぐ、八百万の神たちが一緒になつてどつと笑ひ楽ぶ。余り不思議に思はれて中から仰せになつた。 『吾が隠れますに因りて、天の原自ら闇く、葦原の中津国も皆闇けむと思ふを、何故天宇受売は楽びし、亦八百万の神、諸々笑ふぞ』 何故そんなにをかしいか。すると天宇受売命が、 『汝が命に益りて、貴き神坐すが故に、歓咲ぎ楽ぶと申しき』 何でもその国に大国難が出来たときは皆なの顔色は変るものである。お筆先にも『信仰がないと正勝のときには大方顔色が土のやうになるぞよ』とあります。信仰が出来て神諭の精神が解り神の御心に叶へばやれ来たそれ来たと、勇むで大国難を談笑遊楽の間に処理する事が出来るのである。私は永年間御神諭を拝し、かつ御神意を少し許り了解さして頂いただけでも、心中平素に安く楽しき思ひに充ち、如何なる難事に出会しても左迄難事とも思はず、何事も神の思召と信じて、人力のあらむ限りを安々と尽さして頂いて居ります。凡て事業は大事業だとか、大難事だとか思ふやうでは、回天の神業は勤まらない。三千世界の立替立直しに対しても夫れが完成は浄瑠璃一切り稽古する位により思つて居らないのですから、実に平気の平左で日夜神業に面白く楽しく奉仕して居ります。然う云ふ工合に、総ての神様が信仰の下に、喜び勇んで元気よく活動されたのであります。それで何故、諸々笑ふぞとお尋ねになつた。そこで、あなたに優つた偉い神様がおいでになつたから喜び勇んで居りますと答へられた。 すでにその前に天の児屋根命、これは祭祀のことを掌つた神様、後には中臣となつて国政を料理した藤原家の先祖であります。この神様がその時天神地祇にお供へをしたり、太玉命が太玉串を奉つて神勅を受け、一方占の道によつて、万事万端、ちやんと手筈が整つてあつたので御座います。所へ案の如く天照大御神様は、 『愈奇しと思ほして』 そつと細目に戸をお開けになつた。するとそれがパツと鏡に映つたので、 『天の手力男神、其手を取りて引き出しまつりき』 其間に布刀玉命が注連縄をその後に引き渡して、此処より中にはもうお入り下さいますなと申した。これで天地は照明になつた。この鏡に天照大御神の御姿が映つたとありますのは、つまりは言霊で御座います。八咫の鏡は今は器物にして祀られて天照大御神の御神体でありますが、太古は七十五声の言霊であります。各々に七十五声を揃へて来た。すなはち八百万の誠の神たちがよつて来て言霊を上げたから岩屋戸が開いたのであります。天津神の霊をこめたる言霊によつて再び天上天下が明かになつたのであります。決して鏡に映つたから自分でのこのこ御出ましになつたと言ふやうな訳ではありませぬ。つまり献饌し祝詞を上げて鎮魂帰神の霊法に合致して、一つの大きな言霊と為して天照大御神を、見事言霊にお寄せになつたのであります。それから注連縄、これは七五三と書きます。その通り、この言霊と云ふものは総て七五三の波を打つて行くものであります。さうして注連縄を引き渡してもう一辺岩屋戸が開いた以上は、再び此が閉がらぬやうにと申上げた。 『かれ、天照大御神、出で坐せる時に、高天原も葦原の中津国も自ら照り明りき』 言霊の鏡に天照大御神の御姿が映つて、総ての災禍はなくなり、愈本当のみろくの世に岩屋戸が開いたのであります。そこで岩屋戸開きが立派に終つて、天地照明、万神自ら楽しむやうになつたけれども、今度は岩屋戸を閉めさせた発頭人をどうかしなければならぬ。天は賞罰を明かにすとは此処で御座います。が岩屋戸を閉めたものは三人や五人ではない、殆ど世界全体の神々が閉めるやうにしたのである。で岩屋戸が開いたときに、之を罰しないでは神の法に逆らふのである。併し罪するとすれば総ての者を罪しなければならぬ。総てのものを罰するとすれば、世界は潰れて了ふ。そこで一つの贖罪者を立てねばならぬ。総てのものの発頭人である、贖主である。仏教でも基督教でも斯う云ふので御座いますが、とにかく他の総ての罪ある神は自分等の不善なりし行動を顧みず、勿体なくも大神の珍の御子なる建速須佐之男命御一柱に罪を負はして、鬚を斬り、手足の爪をも抜き取りて根の堅洲国へ追ひ退けたのであります。要するに大本の教は変性男子と変性女子との徳を説くのであります。変性男子の役目と云ふものは総て世の中が治まつたならば余り六ケ敷い用は無い、統治さへ遊ばしたら良いのであります。之に反して変性女子の役はこの世の続く限り罪人の為めに何処までも犠牲になる所の役をせねばならぬので御座います。岩屋戸開きに就てはこれからさきに申し上げますと尚いろいろのことがありますけれども、今日はまづ岩屋戸が開いて結末がついた所まで申上げておきます。 (大正九・一〇・一五講演筆録) (大正一一・三・七旧二・九再録高熊山御入山二十五年記念日松村真澄谷村真友録) (昭和九・一二・九王仁校正) |
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霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 余白歌 | 余白歌 いたづきの身を横たへて道のため御国の為に神書あみたり〈序文(再版)〉 血とあぶら搾るが如き心地してわれは霊界物語あみぬ〈序文(再版)〉 滝津瀬のわが涙にて濁世を洗ふと思へば楽しかりけり〈凡例(再版)〉 濁りたる世にも光は照り給ひ雲霧はらひてわれ世に出でぬ〈凡例(再版)〉 こはたれしわが大本の御教を神の力にたてなほしたる〈総説歌(再版)〉 曲神の逃げゆくあとにわれひとり神の御書をあらはしにけり〈総説歌(再版)〉 玉の緒の生命を的にあみし神書も神の御国を思へばなりけり〈総説歌(再版)〉 人草を大御宝と称ふるも天津御神の御子なればなり〈第1章〉 再度は生れ変らぬ現身の命あるうちまこと尽せよ〈第1章〉 身の垢は湯水に清く洗へども洗ひ難きは心なりけり〈第6章〉 人の身は神をはなれて一日だも世に栄ゆべき道なきを知れ〈第7章(再版)〉 生き生きて生きの限りを天地の道にいそしめ神の御子たち〈第7章(再版)〉 鬨の声挙げつつ迫る曲神をやらひつ霊界物語あみぬ〈第8章(再版)〉 八雲立つ出雲の国の国造は菩日の命の御裔なりけり〈第19章〉 草木さへ科戸の風に伏すものを人の真心動かざらめや〈第19章〉 道に迷ふ人の心は天津日の誠の光知らぬがゆゑなり〈第23章〉 この教は天照神の道なれば踏み行く人に光つき添ふ〈第23章〉 言霊のたすくる国と云ひながらその言霊を乱す人のみ〈第27章(再版)〉 かかる世にわが皇道のなかりせばこの神国は乱れはてなむ〈第27章(再版)〉 世の状を朝な夕なにながめつつわが皇道の尊さを知る〈第27章(再版)〉 たてよこの神のよさしの綾錦機のかがやく世とはなりけり〈第29章(再版)〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました] |
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霊界物語 | 13_子_フサの国・半ダース宣伝使 | 総説 | 総説 瑞祥東海の天に靉靆き、金烏皇国の神園に輝く。天孫降臨以来茲に幾万の星霜を数へ大希望と大光明とは、実に六千万同胞の身魂に充満せり。顧みれば天地初発の時、大地球の未だ凝固せざるに当り、天神まづ我国祖に世界肇国の大任を命じて曰く 『此ただよへる地球を修理固成せよ』 と。我祖先神勅を奉じて先づ世界の中心として、我神国を修理固成せられたり。茲に於て乎万国成る。由来日本民族は神勅を奉じ以て祖先の志を継ぎ、天の下四方の国を安国と平けく治めむと、静に神洲の仙園に修養年を重ぬること幾万歳、漸く其潜勢力を蓄積し、曩には東洋文化の精を吸収し尽し、今また泰西文明を集めたり。 吾等神洲の神民は、実に世界文化の精粋を一身に集めて、之を消化し之を精錬し、徐に天祖の遺訓及び父母祖先の志を発揮し、以て世界的文明建設の大業を為すべき一大天職を荷へり。見よ東太平洋を隔てて亜米利加に対し、北支露を通じて欧羅巴の諸列強に連なる。世界海陸交通の軌道は、日々我神洲に向つて万邦の之に朝宗するものの如し。嗚呼日本国民たる者、過去の歴史に稽へ、又現在の趨勢に微しなば、建国の一大精神が世界人類のために建設せられたるを知るに足らむ。されば現今の世は、正に国民が祖先の大理想を実行する第一歩のみ。斯る大意義を有する大正の聖代に当りては予め大に用意する所なかる可からず、吾人は大本開祖の神訓なる 『お照しは一体、七王も八王も王があれば、世界に苦説が絶えぬから、一つの王で治めるぞよ。日本は神国、神が出て働くぞよ。日本の人民用意をなされよ』 この活教を遵奉すると共に、天啓の益々現代民心に必要欠く可からざるを深く信ずる次第なり。 (一)神旗の由来 大本十曜神旗の義は、専ら日本の国体を晋く世に知らしめ、日本魂の根本を培養せむが為に、開祖開教の趣旨に則りて考案せしものにして、上古天照大御神が天の岩戸に隠れ給へる際、天之宇受売命が歌ひ給へる天の数歌に則りしものなり。則ち一より十に至る十球より組織して十曜の神旗と称するなり。 ●第一球は正上に位し宇宙の大本たる渾沌雞子の色となし、 ●第二球は白色とし、 ●第三球は黒色を以て、宇宙の実相たる真如を開発して、陰陽二元となれるに形造りしものなり。而して、二元感合して、森羅万象を生ずるの理由より、四より十までを七元色に分別して日月火水木金土の七曜に配し、なほ全球を神統に配し奉りて、我国体の真相を知らしめむとするものなり。 仮りに十球の配別を色別、数別、神統別にて記せば、 [#図十球の配別] ●色別 神旗十曜の色別は、光学上より色別したるものにして、正上の第一球を卵色と為したるは、天地未剖の前に於ける混沌たる鶏子の色を採り、以て宇宙開発前の一元真如を形造りしもの也。恰も光学上に於ける卵色が各色の光線一様に集まりて物体に吸収されたる時に生ずる色にして何色とも分明せざるは、なほ宇宙真象が万有の終始を為し、統一を保有せるを以て、如此定めたるなり。また第二球を白色第三球を黒色と為したるは、天地剖判の始期、大極動きて陰陽を生じたるに形造りしものにして、恰も光線が全く物体に吸収せられずして反射する時は白色を生じ、反対に全く吸収せらるる時は黒色を生じ二元相交はりて下の七元色より無数の色を生ずるに至るは、なほ陰陽其性全く相反して而も親しく交はる時は森羅万象を生ずるが如きものあるを以て之を執り斯く定めたり。以下の七元色は順序上の説明に依りたるものにして、光線の反射さるる事多ければ多きだけ則ち、白、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、黒となり、吸収さるること多ければ多きだけ即ち漸次、黒、紫、藍、青、緑、黄、橙、赤、白に還る、なほ万有の生滅変化息ざるに同じ。而して万色の本は黒白の二色にして、二色を統一するものは卵色なり。これ十曜色別の理由とする所なり。 ●数別 数別は天の数歌に則れるものなり。天の数歌は天之宇受売命に始まり、後世に到りては鎮魂祭の際に、猿女の君に擬したる巫女が受気槽を伏せて、其上に立ち鉾を槽に衝立て此歌を謡ひ、以て天皇の御寿命長久を祈りしものなり。国語にて霊妙なることを『ひ』と云ひ、『と』は敏捷なる活気鋭きを云ふ。宇宙の本体は霊妙にして活気の最たるもの、故に之れを『ひと』と云ひ一と数ふ。本体の霊妙活気を他より之を見れば『力』なり。力に依つて変化す『ふ』は浮出沸騰の義『た』は漂ひ動くの義あり、則ち『ふた』は宇宙の本体霊機の力に依りて始めて開発す、故に之を二となす。本体活動して霊機の凝固するもの之れ物体なり。物体は『み』なり、また実なり、充るの意あり、これを三となす。この霊力体なる三大要素ありて始めて爰に世(四)、出(五)と数ふ、動物植物蔚然として萌るを(六)と数へ、万有生成(七)弥(八)凝りて(九)人世の事足(十)と本歌の意義を以て十曜の神旗を作成したるもの也。 我国語に於ける基数は、天地開闢人世肇出の沿革を語るものなれば、大本が此十曜を組成して神旗と為し、この天の数歌に則りしも不知不識の間に宇宙進化の理法より肇国の精神立教の主旨を晋く世人に教へむが為なり。 ●神統別 神別に就て略解せむに、先づ宇宙の本体之を人格化して、天之御中主神と称し奉る。宇宙の活動力之を人格化して高皇産霊、神皇産霊の神と称し奉る。渾沌たる無始の始めに於て三神造化の首を為し、二神夫婦の道を開き給ひて、国土山川を生み、日月星辰を生み、風雨寒暑を生み草木、動物、人類を生み給へり。かくて我肇国の始めに当つて、天神長く統を垂れ給ひ、連綿として今日に及べるなり。然れば 明治天皇の大勅語に 『皇祖皇宗国を肇むる事宏遠に徳を樹つる事深厚なり』 と宣ひし所以なり。吾人日本国民は此深厚なる神徳に依つて、陛下の民と生れ、陛下は吾等が宗家の嫡子に坐し、今上に在して、下は吾等を治め給ふは、吾等の大祖先が無始際より延長して吾等を愛護し給ふものにして、吾等が報本反始の誠を尽すは、一に忠君愛国に在る事を信仰し、以て天賦の職責を全うし、人生本来の面目を達し、宇宙造化の功に資し奉るを得るは、実に無上無比の至大幸福と謂ふべし。吾人は悠々たる天地の間之を以て生き、之を以て死し、此に住して安心立命し、此境に入りて天国楽園の真楽を稟く。大本が十曜を組成して神旗と定めたるは、実にこの精神に基きしものなり。正上の第一球を一と為し正中の一大球を十と為したるも、大本の神旗なる故に大本皇大神を正中に配したる所以なり。 (二)霊力体 神徳の広大無辺なる、人心小智の能く窺知すべき所にあらず。然りと雖も、吾人静に天地万有の燦然として、次序あるを観察し、また活物の状態に付て仔細に視察するに於て明かに宇宙の霊力体の運用妙機を覚知し以て神の斯世に厳臨し玉ふこと、疑を容るの余地無きに至らしむ。 神の黙示は則ち吾俯仰観察する宇宙の霊、力、体の三大を以てす。 一、天地の真象を観察して真神の体を思考す可し。 一、万有の運化の亳差無きを視て真神の力を思考すべし。 一、活物の心性を覚悟して真神の霊魂を思考すべし。 以上の活経典あり。真神の真神たる故由を知る。何故人為の書巻を学習するを用ゐむや。唯不変不易たる真鑑実理ある而己。 天帝は唯一真神にして天の御中主神と称す。宇宙の神光を高皇産霊と曰ひ、神温を神皇産霊と曰ふ。古事記に曰く 『天地初発之時、於高天原成坐神名、天御中主神、次高皇産巣日神、次神皇産巣日神、此三柱神者並独神成坐而、隠身也』 天帝は宇宙万有の大元霊にして幽之幽に坐し、聖眼視る能はず賢口語る能はざる隠身たり。また神光はいはゆる天帝の色にして神温は即ち天帝の温なり。共に造化生成の妙機にして独立不倚の神徳なり。 神は宇宙万有の外に有り、万有の中に在り、故に之を宇宙の大精神と謂ふ。 大精神の体たるや至大無外、至小無内、若無所在、若無不所在なり。聖眼之を視る能はず、賢口之を語る能はず。故に皇典にいはゆる隠身也は即ち神の義なり。宜なるかなその霊々妙々の神機。天帝は無始無終なり、既に無始無終の力と無始無終の体とを以て無始無終の万物を造る。その功また無始無終なり。 天帝は勇、智、愛、親を以て魂となし、動、静、解、凝、引、弛、分、合を以て力となし、剛、柔、流を以て体を為す。 ●全霊 全霊は荒魂、和魂、奇魂、幸魂、の四魂也。而して荒魂は神勇、和魂は神親、奇魂は神智、幸魂は神愛なり。乃ち所謂霊魂にして、直霊なるもの之を主宰す。俗学不識荒和を以て心の体となし奇幸を以て心の用となし、直霊の何物たるを知らず、豈悲しまざる可けむ哉。 ●全体 剛、柔、流の三物是れ上帝の全体なり。而して流体を生魂と唱へ葦芽彦遅と称し、剛体を玉留魂と唱へ常立と称し、柔体を足魂と唱へ、豊雲野と称す。 剛体は鉱物の本質なり、柔体は植物の本質なり、流体は動物の本質なり。 スピノーザ曰く、本質とは独立して依倚する所なきものの謂なり。更に之を言へば本質とは吾人之を理会するに於て一も他の物と比照するを須ひざるもの是なりと、至言と謂ふべし。 全体の図解 [#図全体の図解] ●全力 動、静、解、凝、引、弛、分、合以上八力これを上帝の全力と称す。而して神典にては動力を大戸地と謂ひ、静力を大戸辺と謂ひ、解力を宇比地根と謂ひ、凝力を須比地根と謂ひ、引力を活久比と謂ひ、弛力を角久比と謂ひ、合力を面足と謂ひ、分力を惶根と謂ふ。皆日本各祖の所名なり。 全力の図解 [#図全力の図解] 霊、力、体合一したるを上帝と曰ふ。真神と謂ふも上帝と曰ふも皆天之御中主大神の別称なり、左図を見て知る可し。 全智全能乃真神 [#図全知全能乃真神] |
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霊界物語 | 13_子_フサの国・半ダース宣伝使 | 01 言霊開 | 第一章言霊開〔五二七〕 天の岩戸 故れ須佐之男の大神は清明無垢の吾御魂 現はれ出て手弱女を生みしは乃ち吾勝ちぬ 勝てり勝てりと勝ち荒びに神御営田の畔を放ち 溝埋め樋放ち頻蒔し大嘗殿に屎散りて 荒びに暴び給ひけり故れ然すれど皇神は 咎め給はず屎如すは那勢の命の酒の所為 屎には非で吐ける也田の畔を放ち溝埋は 地所惜らし思ふため那勢の命の罪ならじ 神心平に安らかに直日に見直し詔直し 言解き給へど荒び行未だ止まずに転てあり。 ○ 若日女機屋に坐して神御衣織らしめ給ふ時 機屋の棟を取り毀ち天の班駒逆剥て 墜し入れば神衣織女驚き秀処を梭に突て 終に敢なく身亡せけりここに皇神見畏み 天の岩屋戸閉立てて隠りたまへば天の原 とよあし原の中津国常夜となりて皆暗く 黒白も判ぬ世と成りぬ曲津の神の音なひは 五月の蝿の沸く如く万の妖害みな起る。 ○ 百千万のかみがみは安の河原に神集ひ ここに議会は開かれて議長に思兼の神 思ひ議りて常夜なる長鳴鶏を鳴かしめて 安の河原の石を採り天の香山の鉄を採り 鍛冶真浦を求き寄せて石凝姥のみことには 八咫の鏡を作らしめ玉の御祖の命には 八阪の曲玉造らしめ天の児屋根や太玉の 命を呼びて香具山の男鹿の肩を打抜きて 天の羽々迦を切採りて占へ真叶はしめ給ひ 天の真榊根掘して上枝に八阪の玉を懸け 八咫の鏡を中津枝に下枝に和帛を取垂て 祭祀の御式具備りぬ是れ顕斎の始めなり。 ○ 故太玉のみことには太幣帛を採り持たし 天の児屋根の命には太祝詞ごと詔曰し 天の手力男のかみは窟戸のわきに隠り立ち あめの宇受売命には天の日蔭を手襁とし 天の真拆をかづらとし竹葉を手草に結占て 窟戸の前に槽伏せて踏轟かしかしこくも 神人感合の神懸り至玄至妙の幽斎を 行ひ給ひし尊さよ胸乳掻出で裳緒をば 番登に忍垂れ笑ひ鳧命の俳優に天地も 動りて神等勇み立つ皇神怪しと思召して 窟戸を細目に開きまし御戸の内より詔賜はく 吾いま岩窟戸に篭りなば高天原も皆暗く あし原の国暗けむと思ひ居たるに何故に 宇受売の命は楽びしぞ百千よろづの神等も 歌舞音楽に耽るやと怪しみ給へば智慧深き 宇受売命の答けらく皇大神にいや勝り 尊き神ぞ現れ坐り夫れゆゑ歓ぎ遊ぶなり。 ○ 斯く宣る間に二柱八咫の鏡をさし出て 皇大神に奉るいよいよ怪しと思召て 御戸より出て臨み坐すその時戸わきに隠り立ち 天の手力男の神は御手持曳き出し奉り 斯れ太玉の命には尻久米縄を御後へに 引張渡し此処よりは内に勿還り入りましそ 言葉穏いに願ひけり大神御心平かに 御戸出でませば久方の高天原も葦原の 中津御国も自ら隈なく光り冴え渡り 万の神々いさみ立ち天晴れ地晴れ面白や あな尊しや佐夜計弘計目出度窟戸は開き鳧 是れ顕斎の御徳にてまた幽斎の賜ぞ。 ○ 仰ぎ敬まへ神国に生を享けたる民草よ 天津御神の神勅以て直霊の御魂現はれて 至粋至純の神の美智顕斎幽斎鎮魂の 尊き神業を説明し地上億兆蒼生に 向ふ所を覚すなり神の御恵み君の恩 神国を思ふ正人は固く守れや神の道。 鎮魂 豊葦原の千五百あきみづほの国の神の苑 栄え久しき常磐木の松の御国に生れたる 七せん余万の同胞は日出るくにの国体の 外に優れて比類無き奇すしく尊き理由を 究め覚らで有るべきや万世変らぬ一すぢの 天津御祖のさだめてし皇大君の知ろしめす 国は日の本ばかりなり神代の昔那岐那美の 二尊あらはれ坐々て修理固成の大御神勅 実践ありて国を産み青人草や山川や 木草の神まで生給ひつひに天照大御神 また月夜見の大神や速須佐之男の大御神 現出坐し目出度さよ皇神甚くよろこばし 今迄御子を生みつれど是に勝りし児はなし 吁尊しや貴の御子生み得てけりと勇み立ち ただちに天に参上り皇産霊の神の太占に 卜ヘ賜ひて詔賜はくあが御児天照大神は 高天原をしろしめせまた月夜見の大神は 夜の食国を守りませ速須佐之男の大神は 大海原を知らせよと天津御祖の御言もて 各自々々におす国を持別依さし給ひけり。 ○ 茲に大神おんくびにまかせる八阪曲玉の 五百津御魂美須麻琉の玉緒母由良に取揺し 高天原を知らさねと日の大神に賜ひけり 故その御頸珠の名を御倉棚のかみとなす これ其魂を取憑けて日の神国の主宰神 たらしめなむと神定め玉ひし畏き御術なり 是鎮魂のはじめにて治国の道の要なり。 ○ 天照し坐すおほみかみその神業を受け賜ひ 二二岐の命に天の下統治の権を譲らるる 其みしるしと畏くも三種の神器を賜はりし この方世々の天皇は大御心をこころとし 即位の御制と為し給ふこれ鎮魂の御徳なり かくも尊き縁由ある御国に生ひし国民は 台湾千島の果てまでも尊奉崇敬おこたらず あさな夕なに奉体し神の稜威を仰ぐべし。 ○ そも鎮魂の神わざは天津御祖の定めてし 顕幽不二の御法にてかみは一天万乗の 畏き日嗣の天皇の祭政一致の大道より 下万民にいたるまで修身斉家の基本なり 然のみならず斯の道は無形無声の霊界を 闡明するの基礎ぞかし神の御国に住む人は 異しき卑しき蟹が行く横邪の道をうち捨てて 束のあひだも神術に心を清め身をゆだね 天にむかひて一向に幽冥に心を通はせて おのが霊魂の活動を伊豆の魂に神ならひ 身も棚知らに鍛へかしこの正道を踏みしめて 国家多端のこの際に神洲男子のやまと魂 地球の上に輝かし天にもかはる功績を 千代万代にたてよ人勇み進めやいざ進め 直霊の魂を経となし厳の魂を緯として 八洲の国に蟠まる曲津の軍の亡ぶまで 進めや進めふるひ立て醜の悪魔の失せる迄。 富士山 富士山は古来不尽山または不二山と書き、芙蓉の峰、福知ケ嶺と称し、天教山、扶桑山とも謂ひ、木花咲耶姫命の御神体とも云ひ、鳴沢ケ岳、二十山、秀穂山、山君ケ嶽とも別称され、この山の名義については、色々と古来の解説があれども何れも皆謬りなり。日本は古来言霊の幸はふ国と云ひ、只一つの小山にも山の活用を名に現はし居るなり。 フジのフは力なり。地球の中心より、金剛力を以て、火煙を噴出すをフと云ふ。ジは火脈の辻であり浸み出る言霊なり。 またフジの霊返しはヒなり。ヒは火なり、霊なり、日なり。故に富士の火山とも云ひ、霊峰とも称へ、日本国の代表とも成り居るなり。今は木花冬篭りの状態で休火山なれども、何時発動して元の活火山に復するかも知れざる神山なり。猶ほ細かく調ぶればフの言霊は天中の常也、世界一切の活用を司る也、生の常也、忽ち往き忽ち来り、忽ち昇り忽ち降り、忽ち出で忽ち入り、進退兼持ち火熱の合結となり、機臨の府となる也、八咫に照る也の大活用あるなり。 ジの言霊は強く守る也、打ち固める也、辻立つ也、予誓也の大活動なり。 ヒの言霊は明かに通徹する也、日の結也[※「総説」及び「第一章」はもともと『神霊界』大正10年(1921年)1月号p71-81に「八面六峰」と題して掲載されたものである。「日(ひ)の結(むすび)也」の該当箇所は、「八面六峰」(p81)では「日(ふい)の結(むすび)也」になっている。「ヒ」の活用として「日(ひ)の結び」では意味がおかしい。「ふい」の結びが「日(ひ)」である、と解した方が意味が通る(水茎文字ではフとア行イの結合がヒになる)。]、無不所照也[※「総説」及び「第一章」はもともと『神霊界』大正10年(1921年)1月号p71-81に「八面六峰」と題して掲載されたものである。「無不所照(むふしよせう)也」の該当箇所は、「八面六峰」(p81)では「無所不照(てらさざるところなき)也」になっている。漢文としては「無所不照」の方が意味が通る。また古来より使われている熟語である(中国語だと「无所不照」)。「無不所照」の場合、漢文の「無不」は「~しないものはない」という二重否定であり、「所照」は「照らすところ」なので、「照らす所がないことはない」と解すれば、「無所不照」と同じ意味になるか?]、日也、昼也、顕幽皆貫徹する也、大慈大悲の極也、⦿の形を照り顕はす也、悉皆帰伏而一致一和の意也。尊厳也、⦿の朝也、⦿の寿也、三世照明也、等の活用あるなり。 以上の言霊活用を思考する時は、大日本国の[※元々は「天津日嗣天皇の統御し給ふ大日本国の」だが、御校正本で「天津日嗣天皇の統御し給ふ」が削除されている。]表徴にして、神国と神民との最優最秀なる天職を発揮し、世界万国を教へ救ふ神国天賦の本能を顕はせる、神霊の活用する神峯と云ふ事になるなり。彼の有名なる白扇倒懸東海天の句を始め、富士山に関する詩歌は随分沢山ありて、詩にも歌にも、句にも此富士山位詠まれたものは無かるべし。契冲の歌にも 富士がねは山の君にて高御座空にかけたる雪の経笠 実に上品な歌にして、天皇の高御座の上に釣るす経笠の如くにて然も天空高く、白皚々たる、純白の雪を戴き、群峰の上に屹として、一番高く峙え立ち居る富士山は実に山の中の君主なりといふ意味なり。 心あてに見し白雪はふもとにて思はぬかたに霽るる富士ケ嶺 あの辺が頂上かしら、雲に包まれて見えぬのかと、あせりあせり見る中に、雲が晴れると、ヤア何だアンナエライ高い雲表にニヨツキリと頂が現はれて居ると云つて茫然自失、今更にその高さに驚かされ、且つ崇高の感に撃たれて居る真境を写し出したる歌なり。 元朝に見るものにせむ富士の山 これは宗祇の作句なり。正月も近い目出度い元旦の見ものとして富士の山に越したものは無く、尊しと云ふの意味なり。万葉集にも随分富士を賞めたる和歌が沢山載せられあるが、凡て此の富士山は日本国の崇高なる意義を代顕したる神峰なり。 東洋独立玉芙蓉万古千秋不改容 清嶽鮮山朝揖処五刕高聳此仙峰 以上の数篇は大正十年一月号の神霊界に所載したるものなり。其中神旗の由来、霊力体、天岩戸、鎮魂等の章は孰れも明治三十三年の王仁の旧作なるも、今また都合に依りここに再録するものなり。 (大正一一・三・一七旧二・一九王仁) |
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霊界物語 | 13_子_フサの国・半ダース宣伝使 | 12 陥穽 | 第一二章陥穽〔五三八〕 日の出別神の出現に、形勢もつとも危かりし岩公は、俄に元気づき、 岩彦『サア妖怪変化の魔性の女、何と言つても、モウ駄目だ。三五教の宣伝使の大将が現はれた以上は、最早運の尽きだ。どうだ、神様の経綸と云ふものは、用意周到なものだぞ』 女『妾は、あなたの様な強いお方には尾を巻きます。モウ是で御免を蒙ります』 岩彦『態ア見やがれ、大蛇の化者奴が。尾を巻くと自白したぢやないか』 女『ヤア日の出別命様、能う迎へに来て下さいました。岩サンのやうな分らずやは、今後は決して、係り合はない様にして下さい。此方は優勝劣敗、弱肉強食、身勝手千万な、非人道的、デモ宣伝使ですから………』 岩彦『ヤイヤイ、馬鹿にするない、能いかと思つて…………、女に似合はぬ暴言を吐く奴だ』 女『さようなら、ゆつくりと御休息なさいませ』 と云ひ乍ら、岩壁の細い穴から、スツと烟の様に脱けて了つた。 岩彦『ヤア案に違はぬ妖怪変化の正体を顕はしよつて、アンナ首も這入らぬやうな穴から出て仕舞よつた。オイ鷹公、音公、梅公、亀、駒どうだ、俺の天眼通は偉いものだらう。鷹公の奴め、瞞されよつて、丁寧な言葉を使つて居たが斯うなる以上は貴様の眼力も底が見えた』 鷹彦『アハヽヽヽ、弥之助人形の空威張りはやめてくれ』 斯く云ふ中、ガクリと異様な音がした。 岩彦『ヤア変な音がしたぞ、一体コラどうだ』 女は外より白い顔を、岩壁の穴から、ニヨツと突出し、 女『岩サン、マアマア十日も二十日も百日も、緩りこの岩窟に御逗留遊ばして下さいませ入口はポンと戸を閉めてありますから、外から悪者の這入る気づかひもなければあなた方が脱けて出る気遣ひも有りませぬよ。ナンにも献げるものはありませぬから岩の油なつと舐つて、…………ネー……温順しく御修行をなさいませ。妾は日の出別命サンと、手に手を把つて…………オホヽヽヽヽ、ア嬉し、マアゆつくりお寛ぎ遊ばせ。アバヨ』 岩彦『ヤア大変だ、最前の音は、入口の戸を閉めよつたのだな。こりや斯うしては居られぬワイ』 女『居られなくつても、斯うして居らねば仕方がありませぬよ。イヤ出方がありませぬワ。お前サン等の出方に依りては、此方にも亦、何とか仕方が有りませう』 岩彦『イヤア、強圧的強談だ、人は見かけに依らぬ者、優しい顔をして、蚤一匹殺さぬやうな容子で、心の中は夜叉の様だ。オイ一統の者、入口があつたら、キツト出口が有るに違ひないぞ。この穴から一つ、手を掛て、引くなと、押すなとやつて見ようかい。六尺の男子が、繊弱き女の一人に監禁されて、どうぞ許して下さいなぞと、言はれた義理ぢやない。…………モシモシ日の出別命さま、貴神どうかして下さらないか』 日の出別『ヤア、岩サンマアゆつくり御休息なさいませ、……ヤア女のお方、是から天国へでも旅行致しませうか』 女『有難うございます、妾貴方と、たとへ半時でも、一緒に連つて歩かして貰へば、死んでも遺る事は有りませぬワ、ホヽヽヽ』 岩彦『ヤアまた吐かしたりな吐かしたりな、「妾アンタと半時でも一緒に歩く事が出来れば、死んでも得心だ」とかナンとか吐かしよつて、仕様もないローマンスを人の前に展開させよつて、馬鹿にしてけつかる。オヽもう何処やら往つて仕舞よつた。エー怪体の悪い』 鷹彦『ヤア折角俺の所有にしようと思つて居つたのに、外部から日の出別の宣伝使がやつて来て、サツパリ横領して了つた。エー自棄だ………と云つて、どうも仕方がないワ、俺も一つ、あの女ぢやないが、この穴から脱けてやらうかい』 と言ひ乍ら、鷹彦は、神変不思議の術を以て、身体を縮小し、小さい鷹となつてスツと脱け出した。 岩彦『ヤアまた出よつた、オイ鷹公、アヽ貴様は偉い奴だ。最前の石蓋を揚げて、吾々を旧の所へ歓迎するのだぞ』 鷹彦『コレコレ岩サン御一統様へ、妾は是より日の出別の宣伝使様と、手に手を執つて天国の旅行を致します。コンナローマンスをお目にかけて済まないが、是も因縁づくぢやと諦めて下しやンせ、オホヽヽヽヽ、アバヨ』 岩彦『ヤイヤイ鷹の奴、ナンだ、化女の真似をしよつて、ソンナ能い気な事かい。俺達の身にもなつて見よ』 鷹彦『(義太夫口調)「お前はお前、妾は妾、マアマアゆつくりと、十日も二十日も百日も、千年も万年も化石になる迄ゆつくり御逗留遊ばせや。千松ぢやないが、一年待つてもまだ見えぬ、二年待つてもまだ見えぬ、千年万年待つたとて、何の便りがあろかいな、と郷里に残つた、貴様たちの女房が嘸や嘆くであらう。思へば思へば気の毒やな、神や仏もなきものか、力に思ふ岩サンは、何処にどうして御座るやら、会ひたい見たいと明け暮に、こがれ慕ふて居るものを、何の便りも梨の礫、礫の様な涙こぼして、三千世界の世の中に妾ほど因果は世にあらうか、アーどうしようぞいなどうしようぞいなア……」と悲劇の幕が下りる、その種蒔だ。マア精出して、種でも蒔いて置くが能からう、千年ほど先へ行つた時に、この岩窟の中に岩公といふ岩固男が化石して…………と云つて、涎掛でも持つて参拝する奴があるかも知れやしないぞ。人は一代名は末代だ、是も良い話の種だ。種蒔いて苗が立ちたら出て行くぞよ、刈込みになりたら手柄をさして、元へ戻らすぞよ………と三五教の教にある通りだ。国治立の大神さまでさへ、永らく押込められて御座つた位だから、先づ神様にあやかつて、三千年の修行をなさるが、宣伝使各位の光栄だらう。アハヽヽヽ、オホヽヽヽ』 岩彦『ナアンダ、一人居つて男と女の笑ひ様をしよつて、化物みたよな奴だナ』 鷹彦『定つた事だ、肉体は男で霊は女だ、変性女子の守護神だ』 岩彦『エー、変性女子も男子もあつたものかい。遍照金剛吐さずに、早く開岩せぬか…………オイ門番奴が、愚図々々いたして居ると、免職をさそか』 鷹彦『ホヽヽヽヽ、岩さま、免職さすとはソラ誰に、………あなたは岩戸に押込められて既に既に面色なしだ、終身官だな、終身此処に、晏如として、就職なさるが宜しからう』 岩彦『複雑なる問題は、一切総括して、兎も角この岩窟を開いて呉れたがよからうぞ』 鷹彦『イヤー、先が急く、モウ是丈イチヤつかして遺れば充分だ、エー仕方がない、開けてやらうかい』 岩彦『何時までもこの方を岩戸に押込めておくと、咫尺暗澹昼夜を弁ぜずだ。化の女を呼んで来て鈿女命の俳優技を見せて呉れぬか。さうでないと、容易にお出ましにならぬぞ』 鷹彦『減らず口を叩くない。サア手力男の神さまが、岩戸を開くから、サツサと出て来い。天照大神様のやうな奇麗な「あな面白や、あなさやけおけ」と言つた様な、愛の女神なれば、開きごたへがあるが、この岩戸開きは、五百羅漢の陳列会を見るよなシヤツ面の渋紙さま計りだから、開きごたへがないワ。併し乍ら、旅は道づれ世は情だ。情を以て開扉してやらう』 岩彦『オツト待つた、海河山野、種々の美味物を八足の机代に置足らはして、献つる事を忘れなよ…………出いと云つたつて、鏡もなければ劔もなし、五百津美須麻琉の珠も無くして、さう易々とお出ましになると思ふか。香具の果物でも、木机にピラミツドの様に横山の如く置足らはし、御供物の建築法を能く心得て、粗相のない様に、天津祝詞を奏上し、太玉串を奉れ』 鷹彦『何を吐しよるのだ。千手観音の様に、俺一人でソンナ八人芸が出来るかい。愚図々々いふと、千代に八千代に永久に、岩戸の中の閉門だぞ』 岩彦『ヤア、もうお供物は免除してやらう。兎も角、開けば良いのだ。貴様もコンナ魔窟に単身置かれては、大に寂寥を感ずるだらう』 鷹彦『エー仕方がない』 と言ひ乍ら、力を籠めて、岩壁をウンと押した。思つたよりも岩の戸は軽く、勢余つて鷹彦は、岩戸の中へ又もや飛込み、膝頭を打つて『アイタヽ』と撫で擦つて居る。その間に五人は、逸早く表に脱け出し、外より石門をピシヤツと閉ぢた。 岩彦『サア入れ替はりだ、今度は、太玉命も、児屋根命も、何もかも、五伴男揃うたのだ。オイ鷹津神さま、どうだ』 鷹彦『代れば変る世の中だ。サア貴様、岩戸の前に天津祝詞を畏み畏み奏上するのだぞ、アハヽヽヽ』 音彦『オイ岩公、コンナ洒落ばつかりに、貴重な光陰を濫費しては詰まらぬぢやないか。一時も早く前進だ』 亀彦『オイオイ音公待つた、この岩窟の中の鷹彦は、どうするのだ』 音彦『ナニ構ふものか、人間一人位、どうなつたつて放つとけ』 岩彦『アハ、面白い面白い』 と言ひ乍ら、以前の岩穴から、黒い顔をちよつと出し、 岩彦『ホヽヽヽヽ、モシモシ鷹サンとやら、妾は是より五人連この岩窟を探険し、お前さまの様な瓢箪面の曲津神を、片つ端から言向和し、勝利光栄の神となつて帰つて来る迄、千年でも万年でも此処に晏如として、堅磐常磐に鎮座ましませや、ホヽヽヽ』 鷹彦『アハヽヽ、何を吐しよるのだ。鷹さまは、貴様も最前見て居ただらう、針の穴からでもお出ましになる、不思議な神様だよ』 と云ひ乍ら、再び鷹となつて穴より飛出し、見る見る身体膨張し、一丈余りの羽を拡げて、バタバタと羽ばたきした。 岩彦『ヤア偉い元気だナア。オイオイ斯うなれば、鷹さまも話せるワイ。今の美人の後を一つ、空中滑走を行つて、捕獲して来て呉れないか。所有権は岩さまにあるのだから、都合によれば、賃貸借ぐらゐは許可してやるワ』 鷹彦『貴様は仕様もない事を云ひ、永らく洒落るものだから、肝腎の日の出別命さまに放つとけぼりを喰つたのだ。サーサ是から全速力を出して、岩窟内の駆歩だ、落伍せない様に…………気を付けツ、右へ廻れオイ、一二三……』 と鷹公は駆出した。五人は是非なく追跡する、ピタツと行当つた第二の岩壁、 鷹彦『ヨー、コラ大変だ。如何に行詰りの世の中だと云つても、斯う岩と行詰つては仕方がない。ナンとか一つ善後策を講究せなくてはなるまい』 岩彦『サア臨時議会の開会だツ』 亀彦『議会無用論の持上つた今日は、チツト遅臭いぞ。ソンナ珍聞漢な発議をする奴が、何処にあるかい。五十万年の将来の二十世紀とやらの人間の吐く様な事を云ふものぢやないワ』 駒彦『ヤア窮すれば達すと云ふ事がある。オイオイ貴様、一寸横の方を見い。坦々たる大道が開鑿されて有るぢやないか』 一同『ヨー有る有る、サア是からこの階段を上らうかい』 亀彦『マア待て待て、あまり高い所へ上ると、又落ちるぞ』 鷹彦『落ちたつて良いぢやないか、滅多に天に墜落する虞はないワ、貴様の様に、井戸に着水するのとは天地の相違だ。ヨー此処にも道がある、何方の道を行つたら宜からうかナア』 岩彦『いはいでも定つて居る。一目瞭然、広い道の明るい道へ行けば良いぢやないか』 亀彦『新道と旧道と二路拵へてあるぞよ。新道へ行けば、初めは楽な様なが、往き行つた所で道が無くなりて又元の所へ後戻りを致さねばならぬぞよ』 音彦『何を吐しよるのだ。ソンナ道の事ぢやないワ。神様は教の道の事を仰有るのだぞ。頭脳の悪い奴だナ』 亀彦『俺は少し暗くつても、細路の下道を進んで行かうと思ふ』 岩彦『勝手にせい。心の暗い奴は、暗い所に行きたがるものだ………オイ皆の連中、どちらにするか』 音、駒、鷹、梅一度に、 音、駒、鷹、梅『広い道広い道』 と五人は、岩路の階段を上つて行く、亀公は唯一人、やや暗き、低き路を宣伝歌を歌ひ乍ら、四五丁許り進み行くと、忽ち頭上より、黒い影四つ五つ落下し来り、暗黒なる陥穽にゾボゾボゾボと音を立てて落込んだ。 亀彦『ヤア何だ、上から獅子でも落ちて来よつたのかナ、コンナ岩窟のトンネルの中に又しても又しても、陥穽を拵へよつて………鷹公、岩公が此処に居つたら、また「議会の開会だ」などと洒落よるのだけれど、俺一人では、議会を開く訳にも行かず、困つた事だ。彼奴、何処へ行きよつたのか知らぬ。何は兎も有れ、何者だか一つトツクリと正体を見届けてやらう』 と首を伸ばして、足許に気を付け乍ら、怖さうに覗き込んだ。井戸の中より、 岩彦『ヤア貴様は亀公ぢやないか、俺を助けて呉れぬかい』 亀彦『さういふ声は岩公だナ』 岩彦『オーさうだ、岩サンに鷹サン、音サン梅サン、駒サンだ』 亀彦『助けて呉と言つたつて、どうにも斯うにも、手の着け様が無いぢやないか。マアさう喧し云はずに待つて居れ。今臨時議会を開いて見るから、開会の上で助けるか助けぬかが決定るのだ。アハヽヽヽ』 岩彦『馬鹿にしよるナ、最前の敵討ちをしようと思つてけつかるナ』 亀彦『さうだから、あまり高上りすると、逆様に地獄の底へ落されるのだよ。どうだ、是で慢神心をスツパリと取り去つて改心を致すか』 岩彦『改心致すも致さぬも有つたものかい。改心のし切つた者に改心が有つてたまるかい。改心と云ふ事は、貴様のやうな不完全な人間に必要な言葉だ。吾等に対しては、辞典から改心の二字を除去すべきものだ………大きに憚りさま、エライご心配を掛けました。此処にもどうやら、立派な段梯子が懸つて居ります。アハ……』 と言ひ乍ら、五人はゲラゲラ笑ひ笑ひ上つて来た。 亀彦『ナンダ、一寸も濡れて居らぬぢやないか』 鷹彦『きまつた事だい、井戸の底へ転落した時に、この鷹サンが、両翼をパツと開いて、井戸一面を閉塞したのだ。そこへ四匹の小雀が下りて来て、ポンと止まつたものだから濡れさうな筈があるかい』 岩彦『小雀とは、チト残酷ぢやないか。ナア梅、音、駒の御連中………』 鷹彦『それでも生命の親だ。ナント云はれたつて、チツト位は隠忍するのだ。忍耐は成功の基礎だから、アハヽヽ』 岩彦『第二の………これは陥穽だ。是から前途に、ドンナ事を悪神の奴、企んで居るか分つたものぢやない。うつかりと歩けたものぢやないワ。幸ひ此処に、鷹サンを飛行船にして、吾々五人が操縦する事にしたら、都合が良いぢやないか』 鷹彦『この飛行船は、日の出別様とあの女神様との御用だ。お気の毒さま、お生憎さまだ、アハヽヽヽ』 この時前方の薄暗き隧道の中より、怪しき宣伝歌の声聞え来たる。 一同『ヤア、聞き覚えのある宣伝歌だ、ハテナ』 (大正一一・三・一八旧二・二〇松村真澄録) |
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48 (1607) |
霊界物語 | 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) | 序歌 | 序歌 五六七の殿に招集る清き心にかけまくも 畏き天の御中主皇大神を初めとし 高皇産霊の大御神神皇産霊の大御神 大地の遠津祖神の国常立の大御神 豊国主の大御神日の神国を知食す 天照皇大御神神素盞嗚の大御神 須世理之姫の大御神御空を伝ふ月読の 皇神始め奉り天津神たち八百万 国津神たち八百万神の稜威も大八洲 嶋の八十嶋八十の国所々の大社 小さき社に常永に鎮まり玉ふ千万の 神に従ひ仕えます御供の神や千早振 遠き神代の昔より世に落ち諸の苦みを 受させ玉ひし神々の一柱だに漏るる無く 遺なく殊に幽事知らし玉へる八百米や 杵築の宮に現れませる大国主や大物主 医薬の術と禁厭の道に幸はひ玉ふてふ 少名彦那の神御魂四ツ尾の御山本宮の 桶伏山に鎮まりし世の大本の大御神 枝葉の神は言ふも更天をば翔り国駆ける カラや大和の仙人等凡て世にある諸々の 正しき清き御霊たち只一柱も漏れませず 是の霊界物語守りたまひて人々の 正しき御霊に奇魂清く憑らせ玉ひつつ 身魂を洗ひ水晶の輝き渡るたまと為し 広けく深く神界の仕組を悟らせ玉へかし 天勝国勝奇魂千憑彦神曽富戸神 亦の名久延毘古神御魂この大本に参ひ集ふ 信徒はじめ世の中のあらゆる人に惟神 御霊幸はへましまして各自の御魂に優れたる 御魂かからせ玉ひつつ今日が日までも知らずして 神の依さしの神勅をいと疎略に扱ひし 罪咎穢過を直日に見直し聞直し 宥させ玉ひて神々の神慮を深く覚るべく 神幽現の御聖言守らせ玉へ神国の 御祖の神の御前に畏み敬ひ願ぎ奉る アヽ惟神々々御霊幸はへましまして 出口教祖の御教をうまらにつばらに説き明かす 如意宝珠の物語暇ある毎に嬉しみて 読み窺ひつ天地の神の尊き勲功を 知らさせ玉へと瑞月が国の御為世のために 心を籠めて祈りつつ国常立の大神の 御言かしこみ諾冊の二柱神漂流へる 地球をば修理固成むと天の沼矛をさし下ろし 塩コヲロコヲロに掻き鳴して淤能碁呂嶋を生み玉ひ 御国の胞衣と定めつつ天の御柱国柱 見立たまひて八尋殿作りたまひて二柱 妹兄の道を常永に婚姻たまひて大八嶋 国々嶋々数多生み青人草の始祖等や 万の物を生みたまひ普く諸の神人を 地上に安住させむため太陽大地太陰の 諸々の神たち生み玉ひ各自々々の神業を 依さし玉ひて万ごと始め開かせ絶間無く 勤しみ玉へる有難さ天照皇大御神 国の御祖の大神の大御心を心とし 青人草を悉く恵み幸はひ愛くしみ いや益々に蕃息栄えしめ功竟へ玉ふを初めとし 大御神業をば受持ちて天津国をば知食し 五穀の種を御覧しこれの尊き種物は 現しき青人草たちの食ひて活くべきものなりと 詔らせ玉ひて四方の国隈なく植付けたまひたる ごとく御霊の幸はひて如意の宝珠の物語 世人の霊魂の糧となし四方の国々嶋々へ 開かせ玉へ惟神尊とき神の御守りに 神の言霊幸はひて荒ぶる神を悉く 払ひに払ひ語問ひし岩根木根立醜草の その片葉をも語止めて是の教に一筋に 靡かせ玉へ天地の神の御前に願ぎ奉る。 |
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49 (1617) |
霊界物語 | 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) | 07 難風 | 第七章難風〔五五七〕 小鹿峠の急阪を、弥次彦、与太彦、勝彦、六公の一行は、岩根に躓き、木の根に足を掻き、右に倒れ左に転けどつくりの口から出任せ、野趣満々たる俄作りの宣伝歌を謳ひ乍ら、爪先上りの雨に曝され掘れたる路を、千鳥の足の覚束なくも、喘ぎに喘ぎ上り行く。塵も積れば山となる、一尺一尺跨げた足も、始終休まぬ四十八坂を、心ばかりの勝彦が、自慢お箱の十八番の阪の上に、やつと上つて、鼈に蓼を噛ました様な荒息を継ぎ乍ら親も居らぬにハア(母)ハアと息をはづませ辿り行く。 勝『皆サン、此見晴らしの佳い所で、暫くコンパスの停車をして、浩然の気を養つたらどうですか』 弥『サア誰に遠慮会釈もありませぬワ、公然と休養致しませう、天洪然を空しうする勿れだ。しかし休養序に一つ石炭の積込をやりませうかい、斯う云ふ適当な港口は、この先には滅多に有りますまい、どうやら機関の油が涸れさうになつて来ました』 勝『何分アンナ堅い所へ格納されて居たものだから、サツパリ倉庫は空虚になつて了つた、何をパクついて可いか、肝腎の原料はないのだから仕方がありませぬワ、腹の虫が咽喉部まで突喊して来て、切りに汽笛を吹きます、せめて給水なりとやつて、芥を濁したいが、生憎谷は深し、起臥進退維谷まると云ふ腹具合ですワイ、何とか良い腹案はありますまいかな』 弥『オー此処にお粗末な、火にも掛けぬのに焦げた様な色のした握飯が、〆て二個ありますワイ、三途川の鬼婆アサンから記念の為に貰つて来た、形而上の弁当だ、噛む世話も要らねば、五臓六腑にお世話になる面倒も無い。これなつと食つて、唾液でも呑み込んで、食つた気分になりませうかい』 与『オイオイ弥次彦、あた汚い、貴様はまだ娑婆の妄執………オツトドツコイ幽界の妄執が除れぬと見えて、婆アだの、ハナ飯だのと、不潔い事を囀る奴だ、可い加減に思ひ切つたらどうだい』 弥『山に伐る木は沢山あれど、思ひ切るきは更にない………あの婆アサンの、厭らしい顔をして、歯糞だらけのくすぼつた歯を、ニユーツと突出し「親譲りの着物をこつちやへ渡せ」と吐しよつた時の面付を、どうして思ひ切る事が出来るか、飯食ふたびに握り飯のことを思ひ出して、ムカムカして来るワイ』 与『どこまでも弥次式だな、夫れほど恐ろしい婆アに、なぜ貴様は一蓮托生だとか、半座を分けて待つて居るとか、ハンナリとせぬ、変則的なローマンスをやりよつたのだ、得体の知れぬ唐変木だなア』 弥『そこは、外交的手腕を揮つたのだよ。燕雀何ぞ大鵬の志を知らむやだ、至聖大賢の心事が、朦昧無智の人獣に分つてたまるものかい』 与『人獣とは何だ、俺が人獣なら貴様は人鬼だ』 弥『定つた事だよ、天下一品の人気男だもの、それだから、閻魔サンでさへも跣足で逃げる様な、あの鬼婆アが、俺にかけたら、蛸か、豆腐のやうに骨無しになつて仕舞ひよつて目まで細くして、ミヅバナの混つた涎を垂れよつた位だもの………貴様は俺の人気男を実地目撃した正確な保証人だ、勝彦や、六公にも吹聴せぬかい、俺の戦功を報告するのは貴様の使命だ、縁の下の舞と埋没されては、吾々が苦心惨憺の神妙鬼策も何時の日か天下に現はれむやだ』 与『アハヽヽヽ、貴様どこまでも弥次式だな』 弥『定つた事だ、シキだよ、天下一品の色魔だよ。老若男女、貴賎貧富の区別なく、猫も杓子も、鼬も鼈も、蝸牛もなめくぢりも、牛も馬も、この弥次サンに向つては皆駄目だ。アヽ人気男と言ふものは随分気の揉めるものだ。冥土へ行けば行くで、優しうもない脱衣婆アまでが、強烈なる電波を向けるのだから、人気男の色男といふ者は変つたものだよ、古今にその類例を絶つと云ふチーチヤーだ、チーチヤー貴様もこの弥次彦にあやかつたらどうだ』 勝『アハヽヽヽ、ナント面白い人足………オツトドツコイ人気男に出会したものだナア』 弥『ヤア勝サン、お前は私の知己だ、英雄の心事を知る者は、君たつた一人だよ。人気応変、活殺自在、神変不思議の、赤門出のチヤキチヤキのチーチヤアだからネ』 与『アハヽヽヽ、開いた口が塞がらぬワイ』 弥『開いた口が塞がるまい、牛糞が天下を取るぞよ、コンナお粗末な弥次の弥次馬でも、馬糞の天下を取る時節が来るのだから、あまり軽蔑して貰ふまいかい、アンナものがコンナものになつたと云ふ仕組であるぞよ』 与『イヤー吹いたりな吹いたりな、三百十日の大風のやうだのう』 弥『三百十日と云ふ事があるかい、二百十日だらう』 与『馬鹿言へ、貴様は三百代言をやつておつた男だ、十人十日口だと吐して、その日暮しの貧苦の生活に苦しみ、三つ違の兄サン………と云ふて暮して居るうちに』 弥『何を吐しよるのだ、そりや貴様の事だよ、俺ん所は人も知る如く、高取村の豪農だ、下女の一人も使ひ、僕の半人も使つた門閥家だぞ』 与『アハヽヽヽ、半人の僕とは、そらナンダイ』 弥『きまつたことよ、允請ポリスを置いた事だよ』 与『ポリスでも判任官か……判任官の目下ぢやないか』 弥『その点はしつかりと判任せぬワイ、マアどうでも好いワ、貴様も一人前の人間になるのだ。一人一党主義で、快活に誰憚る所もなく、無限の天地に活躍するのが人間の本分だ』 与『エーソンナ雑談は中止解散を命じます』 弥『聴衆一時に立ち、喧々囂々収拾す可らずと云ふ幕だな、アハヽヽヽ』 勝『何と云つても、吾々は米喰ふ虫だ、腹が減つては戦が出来ない、何とか兵糧を工面せなくてはなりますまい』 六『御心配なされますな、今日の兵站部は私が担任致しませう、お粗末な物であなた方等のお口には合ひますまいが、大事なければ、召あがつて下さいませ』 と背中の風呂敷から固パンを出した。 勝『アー有難い、腹がカツカツして殆ど渇命にも及ばむとする所だつたよ』 弥『コラコラ六でもない事を言ふない、六公、人様に物を上げるのに、粗末だとか、お口に合ひますまいとか、そら何んだ、チツト言霊を慎まないか。これは美味しいから献げませう、うまいから食つて見て下さいと言ふのが礼儀ぢやないか……、ナンダ失敬な、食はれぬ様な物や、粗末なものを人に進上するといふ事があるかい。神様に物を献げるのにも、蜜柑の五つ位のピラミツドを拵へて、蕪や大根人参位をあしらひ、千切や昆布、和布、果実、小鮎、ジヤコ位をチヨンビリ奉つて、海河山野種々の美味物を、八足の机代に横山の如く置足らはして奉る状を、平けく安らけく聞し召せ、ポンポン………とやるぢやないか』 六『ハイハイ、あなたの御趣意は徹底しました。併し乍ら私の本心は、この麺包は美味しい結構なものだと思つて居るのだが、一寸遠慮をして、お粗末だとか、お口に合ふまいと言つたのですワ』 弥『口と心の違ふ横道者だナア、虚偽虚飾パノラマ式の生活を続けて、得々然として居るとは、何と云ふ心得ちがひだ。ソンナ事を言ふ奴は、五十万年未来の十九世紀から二十世紀の初期にかけて生れた、人三化七の吐く巧妙な辞令だ、チツト確乎せぬかい』 六『益々以て不可解千万、合点の虫がどうしても検定済みにして呉れませぬワイ』 弥『まだ貴様は分らないのか』 六『日本や支那の道徳を混乱して言つたつて和漢乱は当然ぢやないか、神様は正直と誠実の行ひをお喜びなさるのに、ナンダ、お粗末の物を、ホンの後家婆アの世帯ほど八百万の神様に奉つて、相嘗めに聞し召せとか、海河山野の種々の美味物だとか、横山の如く置足らはしてとか、現幽一致に御透見遊ばす神様の前に、虚偽を垂れて、商売繁昌、家運長久、子孫繁栄、無病息災、願望成就、天下泰平、国土成就、五穀豊穣なぞと、斎官共が吐すぢやないか、一体全体この点が腑に落ちないのだよ』 弥『分らぬ奴だなア、この天地は言霊の幸はふ国だ、悪い物でも善く詔直すのだ。少い物でも沢山なやうに宣り直すのだ、貴様の様に、善い物を悪いと言ひ、美味い物をまづいと云ふのは、言霊の法則を破壊すると云ふものだ。世は禁厭と言つて、勇んで暮せば勇む事が、とつかけ引つかけ現はれて来る、悔めば悔むほど悔み事が続発するものだ、それだから人間は、言霊を清くせなくてはならないのだよ』 六『モシモシ弥次彦サン、チツトの物を沢山だと言ひ、味無い物を美味い物と云ふのは、いはゆる羊頭を掲げて狗肉を売るといふものぢやないか。ソンナ事をすると、現行刑法第何条に依つて詐欺取財の告発を為られますよ。訳の分らぬ盲ばつかりの人間が集つてたかつて拵へた法律でさへも、是丈に条理整然として居るのだ、况して尊厳無比なる神様の御前に、詐欺をやつて良い気で済まして居れると思ふのか、無感覚にも程が有るぢやないか』 弥『定つた事だい、人間は神様の水火から生れた神の子だ、少しでも間隔があつて堪らうかい、無かんかくが当然だよ』 六『ヤア妙な所へ脱線しよつたな、本当に脱線もない………』 弥『脱線は流行ものだい、工事請負人と○○と結托して○○をやるものだから、広軌鉄道であらうが、電鉄だらうが、直に脱線転覆する世の中だ、善人は悪人と見做され、悪人は脱線して善人になると云ふ暗がりの世の中だ、吁脱線なる哉脱線なる哉だ、アハヽヽ』 勝『広軌鉄道とか電鉄とか云ふものは、それや何処に敷設されてるものですか』 弥『ヤア此れから数十万年後の、餓鬼道の世の中の、文明の利器と云ふ名の付く化物のことだよ。アハヽヽヽ』 六『随分あなたの滑車は能く運転しますな、万丈の気焔を吐いて、我々を煙に巻き、雲煙糢糊として四辺を包む態の鼻息、イヤモウ恐縮軍縮の至りですよ』 与『随分巨大なクルツプ砲が装置されて有ると見えますワイ、ホー砲、砲、砲、ホー』 弥『定つた事だよ、与太公や六公の様な、与太六とはチツト原料が違ふのだ、特別大極上等の、豊富なる原料を以て、鍛錬に鍛錬を加へ、製造したる至貴至重なる身魂の持主だ、古今に類例を絶つと云ふ逸物だから、何と言つたつて、弥次彦の足型をも踏めさうな事はないのだ』 勝『モシモシ弥次彦サン、あなたは余程自尊心の旺盛強烈なる御人格者ですネー、自分を称して弥次彦サンと敬語を使ひ、友人に対しては、与太公だの、六公だのと、恰も君王が僕に対する様な傲慢不遜の御態度、三五教の信者にも似合はぬお振舞、どこで勘定が違つたのでせう。これもやつぱり脱線の世の中の感化をお受けになつたのぢやありますまいかな』 弥『ソンナラ是から与太彦サン、六公サンと詔り直しますが、しかしよく考へて見なさい、神を敬する如く人を敬し、我身を敬すべしと云ふ信条が三五教の何処に有つたやうに思ひます。我々は無限絶対力の至貴至尊の大神様の水火を以て生れ出で、天地経綸の司宰者たる特権を賦与されて居る者ではありませぬか、人は神なり、神は人なり、神人合一して茲に無限の権力を発揮するのでせう。吾々の霊肉共に決して私有物ではありませぬ、みな神様の預り物です、さうだから、弥次彦サンと云つたつて別に少しの矛盾も撞着もないぢやありませぬか。神素盞嗚尊様は、大蛇を退治て、串稲田姫と芽出度く偕老同穴の契を結び給ふた時に、自分の胸を抑へて「あが御心すがすがし」と、自分が自分の心を敬はせ給ひ、天照大神様は「われは天照大神なり」と自ら敬語をお使ひになつた。昔の帝様は葛城山に狩猟をなされた時にも、その御腕に虻が食ひ付いた、その時に「あが御腕虻かきつき」と詔らせ給ふたぢやありませぬか、これを見ても敬語と云ふものは、どこまでも使用せなくてはなりませぬよ、決して等閑に附すべき問題ではなからうと拝察するのです。今の奴は、君主でもない友人に対して、君とか、賢兄とか言ひ、僕でもないのに僕だとか拙者だとか云つて、虚偽の生活を送り得意がつて居る逆様の世の中だ、自分の父ほど賢い者は無い、母ほど偉い者は無いと心の中で褒めて居乍ら、愚父だとか、愚母だとか言ひ、自分の息子は悧巧だ、他家の息子は馬鹿だ、天保銭だと心に思ひ乍ら、自分の子を称して、愚息だとか、拙息だとか豚児だとか吐き、他人の馬鹿息子や、鼻垂小僧を御賢息だとか、御令息だとか言つて、嘘で固めてゐる世の中だ。本当に冠履転倒とはこの事だ。女郎の言ひ分ぢやないが、「口で悪う言ふて心で褒めて、蔭ののろけが聞かしたい」と云ふ様な、娼婦的奴根性の人間許りだから、世の中は逆様ばつかり出来るのだ。一日も早く三五教の教理を天下に宣明して、第一着手として、この言霊の詔直しを始めなくては、何時までも五六七の神政は樹立さるるものではありませぬワイ』 勝『イヤア是は是は結構な御託宣を承はりました、斯う云ふお話は度々教へて下さいませ。私も宣伝使となつて、この通り変幻出没、自由自在の活動を続けて来ましたが未だその点に気が付いて居なかつたのです…………吁、何処にドンナ人が隠れて居るやら、何時神様が口を藉つて、戒めて下さるやら、分つたものぢやない。アヽ有難い有難い、惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世』 与『コレコレ弥次彦サン、お前は又、日頃の言行にも似ず、今日に限つて何故ソンナ深遠な教理を説いたのだい』 弥『ナニ、ナンダカ口が辷つて、中から何者かが言ひよつたのだい、弥次彦の知つた事かい、アハヽヽヽ』 勝『ヤア六サン、結構なお弁当を沢山頂戴いたしました、これで元気も快復しました。サア徐々御一同様、テクル事に致しませうかな』 弥『コレコレ勝彦サン、表は表、裏は裏だ、この道中にソンナ几帳面な挨拶は免除して下さいな、互に無駄口の叩き合で、われ、俺で行きませうかい、何だか肩が凝つて疲労の度を増す様だから…………のう勝公、与太六』 与『与太六とはあまり酷いちやないか』 弥『面倒臭いから、与太公と六公とを併合したのだ、会社でもチツト左前になると併合するものだよ』 与『今俺はパンを鱈腹食つたのだ、空腹前所か、これ見い、この通りの太つ腹だ』 弥『ホンにホンに、全然鰒の横飛見たやうな土手つ腹だな、蟇の行列か、鰒の陳列会か、イヤモウ何んともかとも形容の出来ないお姿だ、コンナ所を三面記者にでも見つけられた位なら、直に新聞の材料だよ。アハヽヽヽ』 折から小鹿山の山颪、木も倒れ岩も飛べよと許りに吹き来る。 弥『ヨー風の神、一寸洒落てゐよるなア。吹くなら吹け、大砲の弥次彦がご通行だ、反対に吹飛ばしてやらうか』 与『アハヽヽヽ、偉い元気だのう、しかし何ほど弥次サンが黄糞をこいて、金の目を剥いて気張つた所で、的サンは洒々落々、風馬牛といふ御態度だから、如何ともする事は出来まいかい』 弥『ヨーヨーこれや意外の強風だぞ、二人づつ肩と肩とをから組んで進まうかい…………与太六、貴様は一組だ、弥次彦は勝公と手を組んで、単梯陣を張つて、驀地に進軍だ。小舟に乗つて大海を渡る時にも、暴風怒濤に出会つた時には、舟と舟と二艘一所に合はして連結んで置くと、容易に顛覆せないものだ。舟じやないけれど、吾々は風に対する風船玉の難を避ける為に、連結んで風の波を漕ぎ渡る事とせうかい。グヅグヅして居ると小鹿峠の渓谷へ顛覆沈没の厄に遭ふかも知れない。サアサア早く早く、連結んだ連結んだ』 四人は二人づつ肩と肩とを組み合せ、風に向つて強圧的に、前方三十五度の傾斜体で坂路を跋渉する。 与『イヨー此奴ア猛烈だ、今日に限つて風の神の奴、どう予算を狂はせよつたのか、勿体なくも、天地経綸の司宰者たる人間様が御通行遊ばすのに、恐れ気もなく前途を抗塞するとは、不都合千万だ。ヤア六公、しつかりせぬかい、吹き飛ばされるぞ』 六『これ位な風に吹飛ばされる気遣はないが、弥次彦サンの気焔には随分吹飛ばされさうだ。アハヽヽヽ』 弥『コラコラ、貴様何をグヅグヅ言つて居よるのだい、この烈風に確乎勇気を出して進まないと、内閣の乗取は不可能だぞ、グヅグヅしてると、九分九厘行つた所で流産内閣になつて了ふかも知れないぞ』 与『エー八釜しう言ふない、如何に神出鬼没の勇将でも、ハヤこの風に向つて、どうして突喊が出来るものかい、千引の岩でさへも中空に巻きあげると云ふ様な風の神の鼻息だ、チツト風の神も、聞直して呉れさうなものだな、この谷間へでも落ちて見よれ、又候幽界の旅行をやらねばならぬぞ』 弥『そら何を幽界、悲観するな、モツト愉快になつて、風を突いて突進するのだ』 与『何と云つても貴様のやうな無茶な事は、俺には到底不可能だ。如何に人間が賢いと云つてもコンナ記録破りの暴風に出会しては、人間としては到底不可抗力だ、………オイ一寸そこらで一服したらどうだい』 弥『三五教に退却の二字はないぞ、どこ迄も唯進むの一事あるのみだ。一度に開く梅の花、何時までも風の神だつて、さう資本が続くものぢやない。グヅグヅ吐かすと足手纏ひになるから、貴様と俺とは最早国交断絶だ、旅券を交附してやるから、サツサと本国へ引返したが宜からうぞ』 与『アーア仕方のない頓馬助だナア……オイ六公、マア見とれ、向意気ばつかり強いが、タツタ今風に煽られて、再幽冥界の探険と出かけるのが落だぞ』 この時山岳も崩れ、蒼天墜落するかと思はるる許りの音響と共に、最大強烈なる暴風吹き来るよと見る間に、弥次彦の羽織袴の袂に風を含んで、勝彦と手を組んだまま、中空に吹あげられ、空中飛行の曲芸を演じつつ、風に追はれて谷間の彼方に、悠々として姿を隠した。不思議や烈風は、嘘をついた様にケロリと歇んだ。 与『ヤア大変だ、意地の悪い風だないか、弥次彦を吹飛ばして置きよつて、それを合図にピタリと休戦の喇叭をふきよつた様なものだ』 六『あまり弥次公は大法螺をふくものだから、風の神の奴、一つ懲しめてやらうと思つて、何でも早うから作戦計画をやつて居つたのに違ないぞ、何だか夜前から雲行が悪いと思つて居つた。ヤア夫れにしても吾々はこの儘に放任して置く訳には行かず、滅多に天上した気遣はなからうから、吾々両人は此処で一つ捜索をせなければなるまいぞ』 与『ナアニ、彼奴ア風に乗つて、コーカス山へお先へ失礼とも何とも言はずに、参詣しよつたのだらうよ。アハヽヽヽ』 六『ソンナ気楽な事を言ふて居る場合じやあるまい、是から両人協心戮力して、両人が在処を探さうじやないか』 与『探すもよいが、拙劣に間誤つくと、冥土の道伴にならねばならないかも知れないぞ、俺はモウ冥土の旅は一度経験を積んだのだから、余り苦しいとも思はぬが、貴様は初旅だから勝手も分らず、随分困るだらうよ』 六『エーろくでもない事を言ふものじやないワ、言霊の幸はふ世の中だのに』 与『風玉の災する世の中だ、アハヽヽヽ』 二人は弥次彦、勝彦の散りて行つた方面を指して、顔の色を変へ乍ら、急いで元来し道に引返し、二人の所在を捜索することとなつた。吁、二人の行衛はどうなつたであらう。 (大正一一・三・二四旧二・二六松村真澄録) |
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霊界物語 | 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) | 跋文 | 跋文 神の御諭を蒙りて述べ始めたる霊界の 奇しき神代の物語神代許りか幽界も また現界も押並べて神の随に随に口車 現幽神の三界の峠に立ちて三ツ瀬川 三ツ尾峠や四ツ尾の峰の麓にそそり立つ 黄金閣の蔭清き教主館に横臥して 三途の流滔々と瑞の御魂の走り書き 十四の巻のいや終にその真相を示すべし 三途の河は神界と現界又は幽界へ 諸人等の霊魂の行衛の定まる裁断所 八洲の河原とヨルダンの河とも唱ふ神聖場 悪の霊魂が行く時はその川守は鬼婆と 忽ち変じ着衣剥ぎ裸体となりて根の国や 底つ幽世へ落し捨て善の御魂の来る時は 川守忽ち美女となり優しき言葉を使ひつつ 旧き衣服を脱却し錦の衣服と着替へさせ 高天原の楽園へ行くべき印綬を渡す也 善悪未定の霊魂が来たれば川守また婆と 忽ち変り竹箒振り上げ娑婆へ追返し 朝と夕の区別なく川の流れの変る如 千変万化の活動をいや永遠に開き行く 善悪正邪を立別ける是ぞ霊魂の分水河 千代に流れて果もなし抑もこれの川水は 清く流るることもあり濁り汚るることもあり 清濁不定の有様は集まり来たる人々の 霊魂々々に映り行く奇しき尊とき珍らしき 宇宙唯一の流れなり激しき上つ瀬渉るのは 現実界へ生れ行く霊魂や蘇生する人許り 弱き下津瀬渉り行く霊魂は根の国底の国 暗黒無明の世界へと落ち行く悲しき魂のみぞ 緩けく強く清らけく且つ温かく美はしき 中津瀬渉り行くものは至喜と至楽の花開く 天国浄土に登る魂それぞれ霊魂の因縁の 綱に曳かれて進み行く神の律法ぞ尊とけれ 三途の川の物語外に一途の川もあり 抑も一途の因縁は現世に一旦生れ来て 至善至真の神仏の教を守り道を行き 神の御子たる天職を尽し了はせし神魂 大聖美人の天国へ進みて登る八洲の川 清めし御魂も今一度浄めて進み渉り行く 善一途の生命川渡る人こそ稀らしき 一旦現世へ生れ来て体主霊従の悪業を 山と積みたる邪霊の裁断も受けず一筋に 渉りて根底の暗界へ堕ち行く亡者の濁水に 溺れ苦しみ渡り行く善と悪との一途川 実にも忌々しき流れ也アヽ惟神々々 御霊幸へましまして三途の川や一途川 滑稽交りに述べ立てしこの物語意を留めて 読み行く人の霊魂に反省改悟の信念を 発させ給ひて人生の行路を清く楽もしく 歩ませ玉へと天地の神の御前に澄み渡る 大空輝く瑞月が天照し坐す大神の 遍ねく照す光明に照され乍ら人々の 身魂の行衛を明かに説き示し行く嬉しさよ 朝日は照るとも曇る共月は盈つとも虧くるとも たとへ大地は沈む共誠の神の御諭しは 万劫末代いつ迄も天地の続くその限り 変りて朽ちて亡び行くためしは永遠にあらざらめ アヽ惟神々々御魂幸はへましませよ。 ○ 神諭に『松の代弥勒の代神世に致すぞよ云々』とあり、弥勒は至仁至愛の意にして、宇宙万有一切の親也師也主也と説きたまへり。読者の中には、仏教の教典に由りて釈迦の説と引き合せ、ミロクは七仏出生説の中にある一仏にして、大本の神諭にある如き尊き位置にある仏又は神にあらずと云ふ人あり。仏書のみを読みたる人の意見としては、最も至極なる見解と謂ふべしである。王仁は、序を以て本巻の末尾に於て仏典に現はれたる弥勒の位置を茲に掲載して、読者の参考に供して見ようと思ふ。 法華経の序品第一に 前略 菩薩摩訶薩八万人あり。皆阿耨多羅三藐三菩提に於て退転せず、皆陀羅尼を得、楽説弁才あつて不退転の法輪を転じ、無量百千の諸仏を供養し、諸仏の所に於て衆の徳本を植ゑ、常に諸仏に称嘆せらるることを為、慈を以て身を修め、善く仏慧に入り、大智に通達し、彼岸に到り名称普く無量の世界に聞えて、能く無数百千の衆生を度す。その名を、 一文珠師利菩薩 二観世音菩薩 三得大勢菩薩 四常精進菩薩 五不休息菩薩 六宝掌菩薩 七薬王菩薩 八勇施菩薩 九宝月菩薩 十月光菩薩 十一満月菩薩 十二大力菩薩 十三無量力菩薩 十四越三界菩薩 十五跋陀婆羅菩薩 十六弥勒菩薩 十七宝積菩薩 十八導師菩薩 右の如き菩薩摩訶薩八万人と倶也 と記してある。この菩薩も霊界物語を全部通読されなば、何菩薩は何神何命に当たるやといふことは自ら判明することと思ひます。 釈提桓因その眷属二万の天子と与に倶なり。復 一名月天子 二普香天子 三宝光天子四大天王あり、其眷属万の天子と与に倶なり。 四自在天子 五大自在天子 その眷属三万の天子と与に倶なり。 娑婆世界の主 六梵天王 七尸棄大梵 八光明大梵 等その眷属万二千の天子と与に倶なり。 八の竜王あり、 一難陀竜王 二跋難陀竜王 三娑伽羅竜王 四和修吉竜王 五徳叉迦竜王 六阿那婆達多竜王 七摩那斯竜王 八優鉢羅竜王なり。 各若干百千の眷属と与に倶なり。 四の緊那羅王あり 一法緊那羅王 二妙法緊那羅王 三大法緊那羅王 四持法緊那羅王なり。 各若干百千の眷属と与に倶なり。 四の乾闥婆王あり。 一楽乾闥婆王 二楽音乾闥婆王 三美乾闥婆王 四美音乾闥婆王なり。 各若干百千の眷属と与に倶なり。 四の阿修羅王あり 一婆稚阿修羅王 二佉羅騫駄阿修羅王 三毘摩質多羅阿修羅王 四羅睺阿修羅王なり。 各若干百千の眷属と与に倶なり。 四の迦楼羅王あり、 一大威徳迦楼羅王 二大身迦楼羅王 三大満迦楼羅王 四如意迦楼羅王なり。 各若干百千の眷属と与に倶なり。 韋提希の子阿闍世王若干百千の眷属と与に倶なり云々。 と、示されてある。之を以て之を見る時は、大本教祖の筆先なるものは神の道とは云ひながら、最初より仏神一体の神理により、現代人の耳に入り易きやうに仏教の用語をも用ゐられてあることを覚り得らるるのである。明治二十五年正月元日に初めて艮の金神様が出口教祖に神懸された時の大獅子吼は、 三千世界一度に開く梅の花艮の金神の世になりたぞよ。須弥仙山に腰を懸け艮の金神世界を守るぞよ云々。 三千世界も仏教中の用語であり、艮の金神も神道の語ではない。須弥仙山は仏教家の最も大切にして居る霊山である。またミロク菩薩とか竜宮とか竜神とか、天子とか、王とか現はれて居るのは、悉く仏教の語を籍りて説かれたものであります。故に筆先にある王とは、八大竜王及諸仏王の略称であり、天子と云へば明月天子、普香天子、宝光天子、四大天王その他諸天子、諸天王の略称であることは勿論であります。自在天子、大自在天子、梵天王、その他王の名の付いた仏は沢山にあり、仏も神も同一体、元は一株と説いてある。また大自在天子のその眷属三万の天子と与に倶なりとあるを見れば天子とは即ち神道にて云ふ神子又は神使であります。要するに、神の道、仏の道に優れたる信者の意味になるのであります。天子は、また天使エンゼルとキリスト教では謂つて居ます。大本の筆先は教祖入道の最初より仏教の用語で現はせられたのであるから凡て仏教の縁に由つて説明せなくては、大変な間違ひの起るものであります。王仁は弥勒菩薩に因める五百六十七節を口述し了るに際し、仏教に現はれたるミロク菩薩の位置を示すと同時に筆先は一切仏の用語が主となりて現はれて居ることを茲に説明しておきました。 アヽ惟神霊幸倍ませ。 大正十一年十一月四日 (昭和一〇・三・一七於嘉義公会堂王仁校正) |
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霊界物語 | 15_寅_顕恩郷/スサノオの経綸/高姫登場 | 02 途上の変 | 第二章途上の変〔五六九〕 太玉命、安彦、国彦、道彦は河向ふの騒々しき物音に頭を傾け暫らく思案に暮れけるが、 太玉命『田加彦、百舌彦、その方は顕恩郷の様子を熟知するものならむ、彼の騒々しき物音は何物なるか、逐一陳弁せよ』 百舌彦『あの物音は察する処、顕恩郷の大将鬼雲彦の部下の軍勢、此方に向つて攻め来り、貴下等を召捕らむとの計画なるべし。一時も早く吾等を助け、此場を立ち退き給へ。三五教の神司ともあるべき御身が名もなき邪神に亡ぼされむは心許なし、早く此場を』 と頻りに促す。 道彦『ナニ、敵を看て矛を収め、旗を捲いておめおめと遁走するは男子の本分に非ず。吾等には退却の二字なし、只進の一字あるのみ。如何なる強敵現はれ来るとも吾等は神の愛護により怯めず臆せず、ステツプを進めて敵の牙城に進撃せむ。生死勝敗は問ふ処に非ず』 と勇みの顔色物凄し。 安彦『ヤア敵の先鋒隊は蟻の如く黒山を築き向ふ岸に現はれたり。サア之からは吾々が神力を試す時節の到来、田加彦、百舌彦、船の用意をせよ』 百舌彦『船の用意は何時でも出来て居ますが御覧の通りの大敵、仮令鬼神を挫ぐ神勇ありとも多勢に無勢、殊更味方は身に寸鉄を帯びず、敵は凡有精鋭の武器を持つて押し寄せ来る、勝敗の数戦はずして明かなり。時を移さば彼等は此濁流を渡り吾等を生捕にせむは火を睹るよりも瞭なり。退いて徐に策を講じ、捲土重来の期を待たせ給へ』 太玉命は大口を開けて高笑ひ、 太玉命『アハヽヽヽ、運は天にあり、吾は善言美詞の言霊の力を以て、寄せ来る敵を片つ端から言向和し、昔の顕恩郷に回復せむ。先んずれば人を制するとかや、此期に及んで躊躇逡巡するは御神慮に反す』 と言ふより早く身を躍らして船に跳び込んだ。五人は止むを得ず太玉命に従いて船中の人となつた。さしもに広きエデンの河の殆ど中流に進みし時、向岸より雨と降り来る急箭に百舌彦は胸を射抜かれ忽ち水中に顛落した。田加彦は此態を見て大に驚き、ザンブと許り水中に身を躍らして飛び込んだ。残り四人の宣伝使は此河の水心を知らず、船は忽ち流れのまにまに下方に向つて濁流に押されて矢を射る如く流れ行く。敵の矢は雨の如く注ぎ来る。忽ち船は河中の岩石に衝突し木葉微塵に粉砕された。 太玉命は辛うじて向岸に着いた。安彦、国彦、道彦は濁流に呑まれた儘行衛不明となつて仕舞つた。嗚呼三人の運命は如何に? 太玉命は濡れたる衣を絞り日に乾かし、悠々として宣伝歌を歌ひ顕恩郷の敵の巣窟に向つて単騎進入するのであつた。日は西山に傾いて黄昏の空暗く一点の星さへ見えぬ闇夜は刻々と身辺を包んで来た。宣伝歌の声は暗を縫うて遠近に響き渡る。此時天地も割るる許りの音響聞ゆると見る間に眼前に落下した大火光がある。不図見れば眉目清秀容貌端麗なる一柱の神人、身体より電光の如き火気を放出し乍ら太玉命に向ひ、 神人『吾は天照大神の第四の御子、活津彦根神なり。汝大胆にも唯一人悪逆無道の婆羅門が根拠に進入し来る事、無謀の極みなり。岩石を抱いて海中に投ずるよりも危し。一時も早く、もと来し道へ引返せよ』 太玉命『汝は活津彦根神とは全くの詐りならむ。鬼雲彦に憑依する八岐大蛇の変化か金毛九尾の変身か、悪鬼の変化ならむ。吾は苟くも大神の神使、この顕恩郷をして昔の天国楽土に復帰せしむるは吾大神より委託されたる一大使命なり。不幸にして神軍利有らずとも、そは天命なり、要らざる構ひ立て聞く耳持たぬ』 と暗の道を一目散に前進する。活津彦根神は、 活津彦根神『然らば汝の勝手にせよ』 と云ふかと見れば姿は忽ち消えて、山の尾上を渡る嵐の音のザワザワと聞ゆるのみなり。太玉命は漸く暗に慣れ、朧気乍らも探り探り進む事を得た。 この時雲の扉を開いて十三夜の月は輝き初めた。太玉命は敵の城砦を指して又もや宣伝歌を歌ひつつ進み行く。向ふの方より数十の黒き影現はれ来り、前後左右より一柱の太玉命を取り囲み、 鳶彦『ヤア我こそは大国別の命の従者にして、鳶彦と言ふ顕恩郷きつてのヒーロー豪傑、汝無謀にも唯一柱顕恩郷に進み来るとは生命知らずの大馬鹿者、サア尋常に手を廻せ』 と言ふより早く槍の切突を月光に閃かし乍ら四方よりつめ掛来る。進退維谷りし太玉命は懐中より柄の短き太玉串を取り出し、左右左と打ち振れば豈図らむや鳶彦以下の黒影は拭ふが如く消え失せて塵だにも留めざりける。 太玉命『アハヽヽヽ、何事も悪神の計画は斯くの如く脆きものだ、吾が所持する太玉串の神力に依つて斯くも消え失せたるか。アヽ有難い有難い、三五教の大神!』 と大地に平伏してその神恩を感謝するのであつた。太玉命は不図頭を上ぐれば此はそも如何に、コーカス山に残し置きたる妻、松代姫を始めエデンの園を守る最愛の一人娘、照妙姫は高手小手に縛しめられ猿轡を箝まされ、鬼の如き番卒数多に引き立てられ命の前を萎々と稍伏し目勝ちに通り過ぎむとす。太玉命はハツと驚き、二人の顔を息を凝らし目を見張り眺めて居た。松代姫、照妙姫は猿轡を箝められたる為めにや、此方に向つて目を瞬き、何事か訴ふるものの如くであつた。この時黒頭巾を被りたる大の男、田蠑の如き目を剥き出し、 男『ヤア其方は三五教の神司太玉命に非ずや、汝速に此河を渡り再び顕恩郷を窺はざるに於ては汝の妻子を赦し遣はさむ。之にも屈せず益々顕恩郷に向つて進入するに於ては、汝が最愛の妻子を今此場に於て嬲殺しにして呉れむ、返答如何に』 太玉命『サアそれは……』 男『サア、サア如何じや、返答聞かせ』 太玉命『サア、それは……』 男『サア、サアサア』 と掛合ふ。この時如何しけむ、松代姫の猿轡はサラリと解けた。 松代姫『ヤア貴方は吾夫太玉命に在さずや、妾は今やバラモン教の兇徒に捕へられ、無限の苦を受け今又斯くの如き憂目に会ふ。如何に夫にして勇猛絶倫に在せばとて、顕恩郷には鬼雲彦を始め、無数の強神綺羅星の如く固く守り居れば到底衆寡敵せず一時も早く自我心を折り、当郷を退却し妾母子の命を救はせ給へ』 とワツと許りに泣き伏しにける。照妙姫の猿轡も如何しけむバラバラと解けたりける。 照妙姫『アヽ恋しき父上様、妾は敵の為めに無限の苦を嘗め、譬へ方なき侮辱を受け悲哀に沈む今の境遇、何卒妻子をお救ひ下さいませ』 と又もや其場に泣き倒るるにぞ、太玉命は合点行かずと双手を組み稍少時思案に暮れて居た。松代姫、照妙姫は頻りに両手を合せ、 松代姫、照妙姫『吾夫よ、吾父よ、一時も早く貴方は我を折り、バラモン教の命に従ひ妾を助けて此顕恩郷を退かせ給へ』 と前後より命に取り縋り泣き叫びける。 男『サア、太玉命、汝が所持する太玉串を吾等に渡し降参致せば、汝が妻子の生命を助けて遣はす。如何じや、妻子は殺され吾身を捨てても神の道を進まむとするか、返答聞かせ』 と詰め掛る。太玉命は心に思ふ様、 太玉命『焼野の雉子、夜の鶴、子を憐まざるはなしと聞く、况して最愛の妻諸共に非業の最後を遂ぐるをみすみす見捨てて敵城に進むは如何に神命なればとて忍び難し。さりながら松代姫は斯くの如き悪魔にオメオメと捕縛せらるるが如き卑怯者に非ず。又吾が娘の照妙姫はかかる女々しき言を吐く娘に非ず、まさしく之妖怪変化の所為ならむ』 と又もや神言を奏上し、太玉串を懐中より取り出して左右左と打ち振つた。忽ち雷鳴轟き電光石火、四辺眩き以前の神人此場に下り来るよと見る間に松代姫、照妙姫を始め数多の敵の影は煙の如く消え失せ、野路を吹き渡る風の音のみザワザワと聞ゆるのであつた。 太玉命『アハヽヽヽ、又欺しやがつたな』 (大正一一・四・一旧三・五北村隆光録) |
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霊界物語 | 15_寅_顕恩郷/スサノオの経綸/高姫登場 | 10 神楽舞 | 第一〇章神楽舞〔五七七〕 神素盞嗚尊の治食す大海原の国々島々は、国治立尊、野立彦の神と現はれて、埴安彦命に神言依さし、黄金山下に現はれて三五教を開き給ひ、豊国姫尊は野立姫神と現はれ、神素盞嗚尊の水火を合して、埴安姫命となり、三五教を経緯より天下に宣伝し、神人皆其徳に悦服し、天が下四方の国は一時は無事泰平の神国と治まりけるが、天足彦、胞場姫の霊の邪気より現はれ出でたる、八頭八尾の大蛇を始め、金狐、悪鬼諸々の醜女、探女は油の浸潤するが如く、忍び忍びに天下に拡がり、邪悪充ち、荒ぶる神の訪ふ声は、山岳も揺ぐ許り、河海殆ど涸れなむとす。 神素盞嗚大神は、大海原の国を治めかね、熱き涙に咽ばせ給ふ折しも、御父神なる神伊邪諾大神、尊の前に現はれ給ひ、 神伊邪諾大神『爾は何故に吾が依させる国を守らず、且女々しくも泣きつるか』 と言葉鋭く問はせ給ひければ、神素盞嗚大神は、 神素盞嗚大神『われ、大神の勅を奉じ、昼夜孜々として神政に心力を尽すと雖も、地上の悪魔盛にして、容易に帰順せしむ可らず。到底吾等の非力を以て、大海原の国を治むべきにあらず、吾は是より根の堅洲国に至らむ』 と答へ給ひぬ。此時父伊邪諾大神は、 伊邪諾大神『然らば汝が心の儘にせよ、この国には住む勿れ』 と言葉厳しく詔らせ給ひぬ。茲に素盞嗚尊は已むを得ず、母の坐します根の堅洲国に至らむと思はし、天教山の高天原に坐ます姉の大神に暇乞ひをなし、根の堅洲国に至らむと、雲霧押分けて、天教山に上らせ給ふ。その勢当るべくもあらざる如く見えければ、御姉の大神は、いたく驚かせ給ひ、 天照大御神『吾が弟神の此処に上り来ませるは、必ず美はしき心ならざらめ、此高天原を奪はむとの汚き心を持たせ給ふならむ』 と部下の神々に命じ、軍備を整へ、防戦の用意に掛らせ給ひける。 神素盞嗚尊は、姉大神の斯くも深き猜疑心に包まれ給うとは夢にも知らず、コーカス山を立出でて、天磐船に乗り、天空を翔りて、天教山に下らせ給ふ時、姉の大神は伊都の竹鞆を取佩ばして、弓腹振立て、堅庭に現はれ給ひ、淡雪の如く、土石を蹶散らし、勢猛く弟神に向ひ、高天原を占領するの野心ある事を厳しく詰問されたりける。 茲に神素盞嗚尊は、案に相違の顔色にて答へ給ふよう、 神素盞嗚尊『吾れは、貴神の思さるるが如き汚き心は露だにもなし、父大神の御言もちて、吾泣く有様を言問はせ給ふが故に、応へ難くて、吾れは母の坐します根の堅洲国に行かむと思ふ、恋しさの余り泣くなりと答ふれば、父大神は、然らば汝が心の儘にせよと仰せあり。母の国に行かむとするに先だち、姉大神に一目遭ひまつらむと思ひてこそ上り来つれ、決して怪しき心なし。願はくば姉の大神よ、吾が心の清き事を悟り給へ』 と涙と共に答へ給ひぬ。 茲に姉大神は、 天照大御神『然らば汝が心の清き事、何を以て証明せむ』 と詰り給へば、弟神は、 神素盞嗚尊『吾が持てる十握の剣を姉の命に奉らむ、姉の命は御身にまかせる八尺の曲玉を吾にわたさせ給へ』 と請ひ給へば、姉大神も諾かせ給ひて、玉と剣の交換の神業を始め給ひ、天の安河を中に置き各も各も天の真名井に振り滌ぎ、佐賀美にかみて吹き棄ち給へば、素盞嗚尊の神実なる十握の剣より三柱の女神現はれ給ひ、姉大神の纒せる八尺の曲玉より五柱の男神現はれ給へば、ここに神素盞嗚大神の清く、若く、優しき御心現はれ玉へり。姉大神は始めて覚り、 天照大御神『此三柱の女神は、汝が霊より現れませるやさしき瑞の霊なり。また五柱の男神は、あが霊より生れませる雄々しき男神なり』 と了解け給ひぬ。 ここに姉大神の疑は全く晴れたれども、未だ晴れやらぬは、神素盞嗚大神に仕へまつれる八十猛の神々の御心なりき。吁、八十猛の神の無謀なる振舞に依りて、天照大御神は、天の岩戸の奥深く隠れ給ひ、再び六合暗黒となり、昼夜咫尺を弁ぜず、万妖悉く起り、草の片葉に至る迄、言問ひさやぐ悪魔の世を現出したりける。茲に高天原に坐します、思慮分別最も深き神と聞えたる、金勝要の大神の分霊思兼神は、八百万神を天の安の河原辺に、神集へに集へ、神議りに議りて、再び日の大神の御出現を請ひ奉る其神業を行はせ玉ひける。 三五教の道を伝へたりし数多の宣伝使は、天の安の河原に集まり来り、尚も進んで天教山の天の岩戸の前に現はれ給ひ、五伴男の神、八十伴男の神を始め八百万の神達、天津神籬を立て、真榊を囲らし、鏡、玉、剣を飾り、出雲姫命は天の鈿女命と現はれて、岩戸の前に桶伏せて、一二三四五六七八九十との天の数歌うたひ上げ、舞ひ狂ひ給ひし其可笑しさに、八百万の神は思はず吹き出し、常暗の世の苦しさも忘れて、笑ひ興じ給へば、天照大神も岩戸を細目に押開き給ふ折しも、手力男神は岩戸を開き御手を取りて引出しまつり、六合の内、再び清明に輝きわたる事を得たり。ここに八百万の神は此度の事変を以て神素盞嗚尊の罪に帰し、手足の爪まで抜き取りて、高天原を神退ひに退ひ給ひしなり。是より神素盞嗚大神は、今迄海原の主宰神たる顕要の地位を棄て、心も細き一人旅、国の八十国、島の八十島にわだかまり、世人を損ふ八岐大蛇の悪神や、金狐、悪鬼の征服に向はせ給ひける。嗚呼、今後の素盞嗚大神の御身は如何になり行くならむか。 (大正一一・四・二旧三・六松村真澄録) |
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霊界物語 | 15_寅_顕恩郷/スサノオの経綸/高姫登場 | 11 大蛇退治の段 | 第一一章大蛇退治の段〔五七八〕 『故、退はれて、出雲の国の肥河上なる鳥髪の地に降りましき』(古事記の大蛇退治の段) 出雲国は何処諸の国と云ふ意義で、地球上一切の国土である。肥河上は、万世一系の皇統を保ちて、幽顕一致、神徳無窮にして皇朝の光り晴れ渡り、弘り、極まり、気形透明にして天体地体を霊的に保有し、支障なく神人充満し、以て協心戮力し、完全無欠の神政を樹立する至聖至厳至美至清の日本国といふ事なり。 鳥髪の地とは、十の神の顕現地と云ふ事にして、厳の御魂、瑞の御魂が経と緯との神業に従事し、天地を修斎し玉ふ神聖の経綸地といふことなり。要するに世界を大改良せむ為めに素盞嗚尊は普く天下を経歴し、終に地質学上の中心なる日本国の地の高天原なる至聖地に降臨し玉ひたるなり。明治三十一年の秋八月に、瑞の御魂の神代として高座山より神退ひに退はれて綾部の聖地に降りたるは、即ち素盞嗚尊が、一人の選まれたる神主に憑依し給ひて、神世開祖の出現地に参上りて神の経綸地たることを感知されたるも同様の意味なり。古事記の予言は古今一貫、毫末も変異なく、且つ謬りなき事を実証し得るなり。 『此時しも箸其の河より流れ下りき』 ハシの霊返しはヒなり。ヒは大慈大悲の極みなり。ハシの霊返しのヒなるもの、ヒノカハカミより流れ来たると云ふ明文は実に深遠なる意義の包含されあるものなり。又箸は凡てを一方に渡す活用あるものにして、川に架する橋も、食物を口内へ渡す箸もハシの意味に於ては同一なり。悪を去り善に遷らしむる神の教のハシなり。暗黒社会をして光明社会に改善せしむる神教もハシなり。故に御神諭にも、綾部の大本は世界の大橋であるから、此大橋を渡らねば、何も分りは致さむぞよ云々とあるも、改過遷善、立替立直しの神教の意味なり。その箸は肥の河より流れ下りきとは、斯る立派な蒼生救済の神教も、邪神の為に情無くも流し捨てられ、日に日に神威を降しゆく事の意味なり。是を大本の出来事に徴して見るに、去る明治三十一年に瑞の御魂の神代として十神の聖地に降りたる神柱を、某教会や信者が中を遮り、以て厳の御魂、瑞の御魂の合致的神業を妨害し、瑞霊の神代を追返し、彼等の徒党が教祖を看板として至厳至重なる神教を潜め隠し、某教会を開設したる如き状態を指して『ハシ其の河より流れ下りき』といふなり。 『於是須佐之男命其の河上に人有りけりとおもほして尋ね上りて往まししかば老夫と老女と二人在りて童女を中に置きて泣くなり』 茲に顕幽両界の救世主たる須佐之男命は、肥の河上なる日本国の中心、地の高天原に神人現はれ、世界経綸の本源地有りと御考へになり尋ねて御上りありしが、変性男子の身魂現はれて、国家の騒乱状態を治めむと血涙を吐き乍ら昼夜の区別なく、世人を教戒しつつありしなり。二人といふ事は、艮の金神様の男子の御魂と、教祖出口直子刀自の女子の身魂とが一つに合体して神業に従事し玉へると同じ意義なり。ヒトとは霊の帰宿する意義で人の肉体に宇宙の神霊憑宿して天地の経綸を遂行し玉ふ、神の生宮の意なり。老夫と老女と二人とあるは女姿男霊の神人、出口教祖の如き神人を意味するなり。 『童女を中に置きて泣なり』とはオトメは男と女の意味にして、世界中の老若男女を云ふ。又老と若ともなり、現在の世界の人民を称して老若男女と云ふ。霊界にては国常立大神、顕界にては神世開祖出口直子刀自の老夫と老女とが、世界の人民の身魂の、日に月に邪神の為に汚され亡ぼされむとするを見るに忍びず、手を尽して足を運びて救助せむと艱難辛苦を嘗めさせられ、天地の中に立ちて号泣し給ふことを、童女を中に置きて泣くなりと云ふなり。 亦神の御眼より御覧ある時は世界の凡ての人間は、神の童子なり女子なり。故に世界の人民は皆神の童女なる故、人民の親がその生みし子を思ふ如くに、神は人民の為に昼夜血を吐く思ひを致して心配を致して居るぞよ、と御神諭に示させ給へる所以なり。亦オトメの言霊を略解する時は、 オは親の位であり、親子一如にして、大地球を包む活用であり。 トは十全治平にして、終始一貫の活用であり。 メは世を透見し、内に勢力を蓄へて外面に露はさざる意義なり。 之を約むる時は、日本固有の日本魂の本能にして、花も実もある神人の意なり。 『汝等は誰ぞと問ひ賜へば、其の老夫僕は国津神大山津見神の子なり、僕が名は足名椎、妻が名は手名椎、女が名は櫛名田比売と謂すと答す』 明治三十一年の秋瑞の御魂の神代に須佐之男神神懸したまひて綾部の地の高天原に降りまし、老夫と老女の合体神なる出口教祖に対面して汝等は誰ぞと問ひたまひし時に、厳の御魂の神代なる教祖の口を藉りて僕は国津神の中心神にして大山住の神也。神の中の神にして天津神の足名椎となり手名椎となりて、天の下のオトメを平かに安らかに守り助けむとして、七年の昔より肥の河上に御禊の神事を仕へ奉れり。又この肉体の女の名は櫛名田姫と申し、本守護神は禁闕要の大神なりと謂し玉ひしは、以上の御本文の実現なり。クシナダの クシは神智赫々として万事に抜目なく一切の盤根錯節を料理し、快刀乱麻を断つの意義なり。 ナは、万物を兼ね統べ、能く行届きたる思ひ兼の神の活用なり。 ダは、麻柱の極府にして大造化の器であり、対偶力であり、主従師弟夫妻等の縁を結ぶ神なり。 要するに、櫛名田姫の守護厚き天壌無窮の神国、大日本国土の国魂神にして、神諭の所謂大地の金神なり。 『亦、汝の哭由は何ぞと問ひたまへば、吾が女は八稚女在りき。是に高志の八岐遠呂智なも、年毎に来て喫ふなる。今その来ぬべき時なるが故に泣くと答白す』 以上の御本文を言霊学の上より解約すると、吾が守護する大地球上に生息する、息女即ち男子や女子は、八男と女と云つて、種々の沢山な神の御子たる人種民族が有るが、年と共に人民の霊性は、鬼蛇の精神に悪化し来り至粋至醇の神の分霊を喫ひ破られて了つた。高志の八岐の遠呂智と云ふ悪神の口や舌の剣に懸つて歳月と共に天を畏れず地の恩恵を忘れ、不正無業の行動を為すものばかり、人民の八分迄は、皆悪神の容器に為れて、身体も霊魂も、酔生夢死体主霊従に落下し、猶も変じて八岐の遠呂智の尾となり盲従を続けて、天下の騒乱、国家の滅亡を来しつつ、最後に残る神国の人民の身魂までも、喫ひ破り亡ぼさむとする時機が迫つて来たので如何にしてか此の世界の惨状を救ひ助け、天津大神に申上げむと、心を千々に砕き天下国家の前途を思ひはかりて、泣き悲しむなりと答へ玉うたと曰ふことなり。 高志といふ意義は、遠き海を越した遠方の国であつて、日本からいへば支那や欧米各国のことなり。海外より種々雑多の悪思想が渡来する。手を替へ品を替へて、宗教なり、政治なり、教育なりが盛んに各時代を通じて、侵入して来り敬神尊皇報国の至誠を惟神的に具有する、日本魂を混乱し、滅絶せしめつつある状態を称して、高志の八岐の遠呂智の喫ふなると云ふなり。亦外国の天地は、数千年来此悪神の計画に誑らかされて、上下無限の混乱を来し、国家を亡ぼし来たりしが、彼今猶其計画を盛んに続行しつつ、遂に日本神国の土地まで侵入し、天津神の直裔なる日本オトメの身魂まで、全部喫ひ殺さむとする、それが最近に迫つて居る、只一つ神国固有の日本魂なるオトメが後に遺つた許りである。之を悪神の大邪霊に滅ぼされては、折角天祖国祖の開き玉へる大地球を救ふ事は出来ない。どうかして之を助けたいと思つて艱難辛苦を嘗めて居るのである。実に泣くにも泣かれぬ、天下の状態であると云つて、之を根本的に救ふ事は出来ない。どうして良いかと途方に暮れ、天地に向つて号泣して居りますとの、変性男子の身魂の御答へなりしなり。 『其の形は如何さまにかと問ひたまへば、彼が目は赤加賀知なして、身一つに頭八つ尾八つあり。亦其の身に苔、及び桧、すぎ生ひ、其の長さ渓八谷、峡八尾を渡りて、其の腹を見れば、悉に常血爛れたりと答白す。(此に赤加賀知といへるは、今のほほづきなり)』 そこで其形は如何さまにかと、問ひたまへばと云ふ意義は、八岐の遠呂智なす悪思想の影響は如何なる状態に形はれ居るやとの須佐之男命の御尋ねなり。 そこで変性男子の身魂なる老夫と老女は、彼悪神の経綸の事実上に顕現したる大眼目は、赤加賀知なして身一つに、頭八つ尾八つありと云つて、悪神の本体は一つであるが、その真意を汲んで、世界覆滅の陰謀に参加して居るものは、八人の頭株であつて、此の八つの頭株は、全地球の何処にも大々的に計画を進めてをるのである。政治に、経済に、教育に、宗教に、実業に、思想上に、其他の社会的事業に対して陰密の間に、一切の破壊を企てて居るのである。就ては、尾の位地にある、悪神の無数の配下等が、各方面に盲動して知らず識らずに、一人の頭目と、八つの頭の世界的大陰謀に参加し、終には既往五年に亘つた世界の大戦争などを惹起せしめ、清露其他の主権者を亡ぼし、労働者を煽動して、所在世界の各方面に、大惑乱を起しつつあるのである。赤加賀知とは砲煙弾雨、血河死山の惨状や、赤化運動の実現である。実に現代は八岐の大蛇が、いよいよ赤加賀知の大眼玉をムキ出した所であり、既に世界中の七オトメを喫ひ殺し、今や最後に肥の河なる、日本までも現界幽界一時に喫はむとしつつある処である。要するに八つ頭とは、英とか、米とか、露とか、仏とか、独とか、伊とかの強国に潜伏せる、現代的大勢力の有る、巨魁の意味であり、八つ尾とは、頭に盲従せる数多の部下の意である。頭も尾も寸断せなくては成らぬ時機となりつつあるなり。 『亦其身に苔及び桧すぎ生ひ、其長さ、渓八谷、峡八尾を渡りて其の腹を見れば、悉に常も血爛れりと答白す』といふ意味は地球上の各国は皆この悪神蛇神の為に、山の奥も水の末も暴され、不穏の状態に陥り、終には尼港事件の如く、暉春事件の如く、染血虐殺の憂目に人類が遇つて、苦悶して居ることの形容である。また苔と云ふ事は、世界各国の下層民の事であり桧と云ふ事は上流社会の人民であり、すぎと云ふ事は国家の中堅たる中流社会である。要するに上中下の三流の人民が常に不安の念に駆られて居る事であつて、実に六親眷属相争ひ、郷閭相鬩ぎ戦ふ、悲惨なる世界の現状を明答されたといふ事である。御神諭に、『今の人民は外国の、悪神の頭と眷属とに、神から貰うた結構な肉体と御魂を自由自在に汚されて了うて、畜生餓鬼の性来になりて居るから、欲に掛けたら、親とでも兄弟とでも、公事を致すやうな悪魔の世になりて居るが、是では世は続いては行かぬから、天からは御三体の大神様がお降り遊ばすなり、地からは、国常立尊が変性男子と現はれて、新つの世に立替立直して、松の五六七の世に致して、世界の人民を歓ばし、万劫末代勇んで暮す神国の世に替へて了はねばならぬから、艮の金神は、三千年の間長い経綸を致して、時節を待ちて居りたぞよ。八つ尾八つ頭の守護神を、今度はさつぱり往生いたさすぞよ』云々と明示されてあるのも、要はこの御本文の大精神に合致して居る一大事実である。 『爾、速須佐之男命、其の老夫に是汝の女ならば、吾に奉らむやと詔たまふに、恐けれど御名を覚らずと答白せば、吾は天照大御神の同母男なり。故今天より降り坐つと答へたまひき。爾に足名椎、手名椎、然坐さば恐し立奉らむと白しき』 右御本文の老夫にとあるは艮の金神国常立尊神霊に対しての御言である。また足名椎手名椎神と並び称せるは、肉体は出口直子であつて手名椎の神であり霊魂は国常立尊の足名椎の意である。 茲に天より降り給へる須佐之男命は、老夫なる国常立尊の神霊に対し玉ひて、是は汝の守護し愛育する所の、至粋至醇の神の御子たる優しき人民であるなれば、吾に是の女の如き可憐なる万民の救済を一任せずやと、御尋ねになつた事である。そこで国常立尊は実に恐縮の至りではありますが、貴方は如何なる地位と、御職掌の在す神で居らせらるるや。御地位と御職名とを覚らない以上は御一任する事は出来ませぬと白し給ひければ、大神は至極尤もなる御尋ねである。然らば吾が名を申し上げむ、吾は天津高御座に鎮まり坐ます、掛巻も畏き天照大御神の同母弟であつて、大海原を知食すべき職掌である。されば今世界の目下の惨状を黙視するに忍びず、万類救護の為に、地上に降り来たのである。故に国津神たる汝の治むる万類万民を救はむが為に、吾に其の職掌を一任されよ然らば汝と共に八岐の大蛇の害を除いて天下を安国と平けく進め開かむと仰せになつたのである。茲に変性男子の身魂は、大変に畏み歓び玉うて、左様に至尊の神様に坐ますならば吾女なる可憐なる人民を貴神に御預け申すと、仰せられたのである。是は去る明治三十一年の秋に変性男子と変性女子との身魂が二柱揃うて神懸りがあつた時の御言であつて、実に重大なる意義が含まれて在るのである。然し乍ら是は神と神との問答でありまして、人間の肉体上に関する問題ではないから、読者に誤解の無いやうに御注意願つておく次第である。 『爾速須佐之男命、乃ち、其の童女を湯津爪櫛に取成して、御角髪に刺して、其の足名椎、手名椎神に告りたまはく、汝等、八塩折の酒を醸み、且、垣を造り迴し、その垣に八つの門を造り、門毎に八つの棧敷を結ひ、その棧敷毎に酒船を置きて船毎にその八塩折の酒を盛りて、待ちてよと、のりたまひき』 湯津爪櫛の言霊を略解すれば、 ユは、天地、神人、顕幽、上下一切を真釣合せ、国家を安寧に、民心を正直に立直す大努力の意であり、 ツは、日の大神の御稜威を信じ、大金剛の至誠心を振り起し、言心行一致の貫徹を期し、以て神霊の極力を発揮するの意である。 ツは、生成化育の大本合致し、大決断力を発揮し、実相真如の神民たりとの意である。 マは、人種中の第一位たる資格を保ち、胸中常に明かにして無為円満なる意である。 グは、暗愚を去つて賢明に帰し、万事神助を得て意の如く物事成功するの意である。 シは、信仰堅く、敬神尊皇報国の忠良なる臣民の基台なりとの意である。 以上の六言霊を総合する時は、霊主体従の真の日本魂を発揮せる神の御子と立直し玉ふ、神の経綸を進むると謂ふことである。 御角髪の言霊を略解すれば、 ミは、形体具足成就して、日本神国の神民たる位を各自に顕はし定めて真実を極め、以て瑞の御魂に合一する意である。 ミは、⦿の御威徳を明かに覚知し、惟神の大道を遵奉し実行し、以て玲瓏たる玉の如き身魂と成るの意である。 ツは、神の分身分霊として天壌無窮に真の生命を保全し、肉体としては君国を守り、霊体としては神と人民とを助け守るの意である。 ラは、言心行の三事完全に実現し、本末一貫、霊主体従の臣民と成りて、自由自在に本能を発揮するの意である。 以上の四言霊を総合する時は、愈日本魂の実言実行者となりて、其の霊魂は神の御列に加はるべき真の御子と成りたる意である。 要するに、瑞の霊魂なる速須佐之男命は、二霊一体なる神政開祖の神人より、男と女の守護と化育とを一任され一大金剛力を発揮して、本来の日本魂に立替へ立直し、更に進んで其の実行者とし賜ふた事を『其のオトメをユツツマグシに取成して御角髪に刺して』と言ふのである。 斯の如く、天下の万民の身魂の改良を遊ばして、足名椎、手名椎の御魂に御渡しになるに就ては、相当の歳月を要したのである。或は神徳を以てし、或は物質力を以てし、或は自然力を以てし、或は教戒を以てし、慈愛を以てし、種々の御苦辛を嘗めさせ玉ふ其神恩を忘れては成らぬのである。そこで速須佐之男命は、足名椎手名椎なる変性男子の霊魂に対つて告り給ふた御言葉は左の通りである。幸ひ残れるオトメは斯の如く、湯津爪櫛に取成し、御角髪に刺て立派に日本魂を造り上げたと云ふ事は、全く天津神の御霊徳と、吾御魂の活動と、汝命の至誠の賜であるから、第一に天地八百万の神に、精選した立派な美味なる、所謂八塩折の神酒を醸造し、且つ汚穢を防ぐ為に清らかな瑞垣を四方に作り廻して、其の垣毎に祭壇を設け(八つ門)て、祭壇毎に祝詞座を拵へ、酒を甕の戸高知り甕の腹満て並べて神々に報恩謝徳の本義を尽すべく、詔りたまふたのである。凡て酒と云ふものは、大神に献る時は、第一に御神慮を和げ勇ませ歓ばせ奉る結構な供へ物であるが、体主霊従的の人間が之を飲むと決して碌な事は出来ないのである。同じ種類の酒でも、人間は御魂相応に、種々の反応を来すものであつて、悪霊の憑つた人間が呑めば直ちに言語や、動作や精神が悪の性来を現はし、且つ酔ひ且つ狂ひ乱れ暴れるものである。或は泣くもの、笑ふもの、怒るもの、妙な処へ行きたくなるものなぞ、種々雑多に変化して、身魂の本性は現はし、吐たり倒れたり苦しみ悶えたりするものである。常に至誠至実の人にして、心魂の下津岩根に安定したものは、仮令酒を常に得呑まぬ人でも、少々位時に臨んで戴いた所が、決して前後不覚になつたり、倒れたり苦しんだり、動作や言舌や精神の変乱するもので無く、心中益々壮快を覚え、笑み栄え勇気を増し、神智を発揮するものである。故に酒は神様に献る所の清浄なる美酒と雖も、心の醜悪なるものが呑む時は、忽ち身魂を毒し弱らしむるものである。同じ酒を甲は一合呑んで酔ひ潰れて了ふかと思へば、乙は一升呑んでも酔はず、丙は三升位呑まなくては少しも酔うた如うな心持がしないと、云ふ区別の附くのは、乃ち身魂の性質に依りて反応に差異ある事の証である。甲は呑んで笑ひ、乙は怒り、丙は泣くと云ふ如うに、同じ味のある同じ種類の酒でも、区別の附くと云ふのは、実に不思議なもので、是はどうしても身と魂との性来関係に依るものである。 『故、告りたまへる随にして、如此設け備へて待つ時に、其の八岐大蛇、信に言ひしが如来つ。乃ち、船毎に、己々頭を垂入て、その酒を飲みき、於是、飲み酔ひてみな伏寝たり。爾ち速須佐之男命、その御佩せる十拳剣を抜きて、その大蛇を切散りたまひしかば肥の河、血に変りて流れき』 そこで変性男子の身魂は命の随々芳醇なる神酒を造りて、天地の神明を招待し、以て歓喜を表し賜ひ、神恩を感謝し給うたのである。八岐の大蛇の霊に憑依された数多の悪神の頭目や眷族共が大神酒を飲んで了つた。丁度今日の世の中の人間は、酒の為に腸までも腐らせ、血液の循環を悪くし、頭は重くなり、フラフラとして行歩も自由ならぬ、地上に転倒して前後も弁知せず、醜婦に戯れ家を破り、知識を曇らせ、不治の病を起して悶え苦しんで居るのは、所謂「飲み酔ひて皆伏寝たり」と云ふことである。爾に於て瑞の御霊の大神は、世界人民の不行跡を見るに忍びず、神軍を起して、此の悪鬼蛇神の憑依せる、身魂を切り散らし、亡ぼし給うたのである。十拳剣を抜きてと云ふ事は遠津神の勅定を奉戴して破邪顕正の本能を発揮し給うたと云ふことである。そこで肥の河なる世界の祖国日の本の上下一般の人民は、心から改心をして、血の如き赤き真心となり、同じ血族の如く世界と共に、永遠無窮に平和に安穏に天下が治まつたと云ふ事を「肥の河血に変りて流れき」と云ふのである。流れると云ふ意義は幾万世に伝はる事である。古事記の序文に、後葉に流へんと欲すとあるも、同義である。 『故其の中の尾を切りたまふ時、御刀の刄毀けき。怪しと思ほして、御刀の端もて刺割きて見そなはししかば、都牟刈之太刀あり。故此太刀を取らして、怪異しき物ぞと思ほして天照大御神に白し上げたまひき。是は草薙太刀なり』 中の尾と云ふ事は、葦原の中津国の下層社会の臣民の事である。其臣民を裁断して、身魂を精細に解剖点検し玉ふ時に、実に立派な金剛力の神人を認められた状態を称して、御刀の刄毀けきと云ふのである。アヽ実に予想外の立派な救世主の身魂が、大蛇の中の尾なる社会の下層に隠れ居るわい。是は一つの掘り出しものだと謂つて、感激されたことを、怪しと思ほしてと云ふのである。御刀の端もてと云ふ事は、天祖の御遺訓の光に照し見てと云ふ事である。 『刺割きて見そなはししかば都牟刈之太刀あり』と云ふことは今迄の点検調査の方針を一変し、側面より仔細に御審査になると、四魂五情の活用全き大真人が、中の尾なる下層社会の一隅に、潜みつつあつたのを初めて発見されたと云ふことである。都牟刈之太刀とは言霊学上より解すれば三千世界の大救世主にして、伊都能売の身魂と云ふ事である。故、此太刀なる大救世主の霊魂を取り立て、異数の真人なりと驚歎され、直ちに天照大御神様、及びその表現神に大切なる御神器として、奉献されたのである。凡ての青人草を神風の吹きて靡かす如く、徳を以て万民を悦服せしむる一大真人、日本国の柱石にして世界治平の基たるべき、神器的真人を称して、草薙剣と云ふのである。八岐大蛇の暴狂ひて万民の身魂を絶滅せしめつつある今日、一日も早く草薙神剣の活用ある、真徳の大真人の出現せむことを、希望する次第である。 また草薙剣とは、我日本全国の別名である。この神国を背負つて立つ処の真人は、即ち草薙神剣の霊魂の活用者である。 (大正九・一・一六講演筆録谷村真友) |
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霊界物語 | 15_寅_顕恩郷/スサノオの経綸/高姫登場 | 12 一人旅 | 第一二章一人旅〔五七九〕 天津神達八百万国津神達八百万 百の罪咎身一つに負ひてしとしと濡れ鼠 猫に追はれし心地して凩荒ぶ冬の野を 母の命に遇はむとて出ます姿ぞ不愍しき 天の岩戸も明放れ一度清き神の代と 輝き渡るひまもなく天足の彦や胞場姫の 醜の霊魂の荒び来る山の尾上や河の瀬は 風腥く土腐り河は濁水満ち溢れ 雨は日に夜に降り続き流れ流れて進む身の 蓑もなければ笠もなくとある家路に立ち寄りて 一夜の宿を訪へばはつと答へて出で来る 荒くれ男の顔みればこは抑も如何にこは如何に 鬼雲彦の夫婦づれ地教の山の山の下 奇石怪巌立ち並ぶ谷の辺に細々と 立つる煙も幽かなる奥に聞ゆる唸り声 神素盞嗚の大神は物をも云はず戸を開き つかつか立ち寄り見給へば八岐大蛇の蜿蜒と 室一面に蟠まり赤き血潮は全身に 洫み渉りて凄じく命を見るより驚愕し 忽ち毒気を吹きかくる鬼雲彦と思ひしは 全く大蛇の化身にて鬼雲姫と思ひしは 大蛇に従ふ金毛の白面九尾の古狐 裏口あけてトントンと後振り返り振り返り 深山をさして逃げて往く神素盞嗚の大神は 天津祝詞の太祝詞声爽かに宣りあげて この曲津霊を言霊の御息に和め助けむと 心を籠めて数歌の一二三四五つ六つ 七八九十の数百千万の言霊に さしもに太き八つ岐の大蛇も煙と消えて行く あゝ訝かしと大神は眼を据ゑて見たまへば 家と見えしは草野原跡方もなき虫の声 不審の雲に蔽はれつ地教の山を目標とし 息もせきせき登ります折柄吹き来る山颪 八握の髯のぼうぼうと風に吹かれて散り果つる 木々の梢の紅葉も命が赤き誠心を 照らしあかすぞ殊勝なる。 素盞嗚尊は、地教山の中腹なる道の辺の巌に腰打ち掛け、高天原に於ける磐戸隠れの顛末を追懐し、無念の涙にくれ居たまふ時こそあれ、忽ち山上より岩石も割るるばかりの音響陸続として聞え来る。 怪しの物音は刻々に近づき来たる。素盞嗚尊は又もや大蛇の悪神襲来せるかと、ツト立ち上り、剣の握に手をかけて身構へしつつ待ち居たまへば、雲突く許りの大男四五十人の手下と共に、尊の前に大手を拡げて立ち塞がり、 男『ヤア、其方は天教山の高天原に於て、天の岩戸に、皇大神を閉ぢ込めまつりたる悪魔の張本、建速素盞嗚尊ならむ。一寸たりともこの山に登る事罷りならぬ』 と呶鳴りつくるを、尊は言葉優しく、 素盞嗚尊『吾は汝が言ふ如く、高天原を神退ひに退はれたる、素盞嗚尊なり。さりながらこの地教の山には、吾母の永久に鎮まり居ませば、一度拝顔を得て、身の進退を決せむと思ひ、遥々此処に来れるものぞ。汝物の哀れを知るならば、一度は此道を開きて、吾を母に会はせかし』 と下から出ればつけ上り、大の男は鼻息荒く仁王の如き腕をニウツと前に出し、 男『男子の言葉に二言は無いぞ、罷りならぬと云へば絶対に罷りならぬ。仮令天地は上下にかへるとも、ミロクの世が来るとも、いつかな、いつかな、吾々が守護する限りは、一分一寸たりとも当山に登る事は許さぬ。たつて登山せむと思はば此方の腕を捻ぢて登れ、此方は天教山に坐し在す大神の命を奉じ、素盞嗚尊万一此山に登り来らば都牟刈の太刀をもつて斬りはふれ、との厳しき御仰せ、万々一其方を此岩より一歩たりとも登すが最後、吾々一族は天地間に居る事は出来ないのだ。汝も元は葦原の国の主宰ならずや、物の道理も分つて居らう、下れ下れ、一時も早く此場を立ち去らぬか』 素盞嗚尊『アヽ是非に及ばぬ、然らば汝の勝手に邪魔ひろげ、吾は母に面会のため、たつて登山致す』 と群がる人々の中を悠然として登り往かむとしたまふを、大の男はぐつと猿臂を延ばし、 男『コラコラコラ、俺を誰方と思うて居るか、実の事を白状すれば、バラモン教の大棟梁、鬼雲彦のお脇立と聞えたる、鬼掴なるぞ』 と云ひながら尊の胸倉をぐつと取りぬ。尊はエヽ面倒と云ひながら、片足をあげてポンと蹴り玉ひし拍子に、鬼掴の体は四五間ばかり空中滑走をしながら片辺の林の中に、ドスンと倒れさまに着陸し、頭蓋骨を打つてウンウンと唸り居る。尊は委細構はず大手を振つて急坂をとぼとぼ登りたまへば、数多の家来は此勢に辟易し、蜘蛛の子を散らすが如く四辺の森林に姿を隠したりけり。 尊は猶も足を速めて急坂を登りたまふ時しもあれ、傍の木の茂みより、又ツト頭を出したる滅法界巨大なる大蛇の姿路上に横はり、尊の通路を妨げて動かず。 尊は大蛇に遮られ、稍当惑の体にて暫し思案に暮れたまふ時、山上より嚠喨たる音楽響き来り、数多の美はしき神人列を正し此場に現はれ給ひ、中に優れて高尚優美なる一柱の女神は、素盞嗚尊に向ひ、 女神『ヤヨ、愛らしき素盞嗚尊よ、妾は汝が母伊邪冊命なるぞ、汝が心の清き事は高天原に日月の如く照り輝けり。さりながら大八洲国になり出づる、数多の神人の罪汚れを救ふは汝の天賦の職責なれば、千座の置戸を負ひて洽く世界を遍歴し、所在艱難辛苦を嘗め、天地に蟠まる鬼、大蛇、悪狐、醜女、曲津見の心を清め、善を助け悪を和め、八岐の大蛇を十握の剣をもつて切りはふり、彼が所持せる叢雲の剣を得て天教山に坐し在す天照大神に奉るまでは、唯今限り妾は汝が母に非ず、汝又妾が子に非ず、片時も早く当山を去れよ、再び汝に会ふ事あらむ、曲津の猛び狂ふ葦原の国、随分心を配らせられよ』 と宣らせ給ふと見れば、姿は煙と消えて後には地教山の峰吹き渡る松風の音のみにして、道に障碍りたる大蛇の影も何時しか見えずなりぬ。 素盞嗚尊は止むを得ず此処より踵をかへし、急坂を下らせたまへば、以前の男、鬼掴は大地に平伏し尊に向つて帰順の意を表し、 鬼掴『私は実を申せば鬼雲彦の家来とは偽り、高天原の或尊き神様より内命を受け、貴神の当山に登らせたまふを道にて遮断せよとの厳命を頂きしもの、嗚呼併しながら此度の天の岩戸の変は貴神の罪に非ず、罪は却つて天津神の方にあり、何れの神も御心中御察し申上げ居る方々のみ。吾は之より心を改め貴神の境遇に満腔の同情を表し奉り労苦を共にせむと欲す、何卒々々世界万民の為に吾が願を許させ給へ』 と誠心表に現はれ涙を流して歎願したりける。尊は、 素盞嗚尊『其方は頭の傷は如何なせしや』 と尋ね玉ふに、鬼掴は畏みながら、 鬼掴『ハイ、お蔭様にて思はず知らず、神素盞嗚の大神様と御名を称へまつりし其刹那より、さしも激烈なる痛みも忘れたる如くに止まり、割れたる頭も元の如くに全快致したり。瑞霊の御神徳には恐れ入り奉る』 と両手を合して涙をホロホロ流し居る。素盞嗚尊は大に喜びたまひ、 素盞嗚尊『吾れ、高天原を退はれしより、時雨の中の一人旅、実に淋しい思ひを致したるが、世の中は妙なものかな、一人の同情者を得たり。いざ之より汝と吾とは生の兄弟となりて大八洲の国に蟠まる悪魔を滅し、万民を救ひ天下に吾等が至誠を現はさむ、鬼掴来れ』 と先に立ち、柴笛を吹きながら足を速めて何処ともなく天の数歌を歌ひつつ、西南指して進みたまふ。 (大正一一・四・二旧三・六加藤明子録) (昭和一〇・三・二〇於彰化神聖会支部王仁校正) |
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霊界物語 | 15_寅_顕恩郷/スサノオの経綸/高姫登場 | 16 水上の影 | 第一六章水上の影〔五八三〕 三男三女は神歌を謡ひ乍ら、潔く前進する。又もやトンと行当つた岩壁、 高国別『ヤア又しても岸壁だ、如何に一切万事行詰りの世の中だと云つても、此処まで行詰りの風が吹いて来て居るのか。吾々は誠の神力を以て此岩戸を開き、行詰りの世を開かねばなるまい。先づ先づ休息の上、ゆつくりと相談致しませう』 亀彦『臨時議会の開会はどうでせう』 梅彦『アハヽヽヽ、議会と聞けば、醜の岩窟を連想せずには居られない。歴史は繰返すとかや、一つゆるりと秘密会でも開催しませう』 と頃合の岩の上に腰打掛けた。三人の女性も同じく腰打かけ、 三女『アーア、有難い有難い、マア此処でゆつくりと休まして戴きませう』 高国別『エー、あなた方御一同はどうして此岩窟にお這入りになりましたか』 亀彦『吾々は神素盞嗚の大神が地教山を越え此西蔵の秘密郷にお出で遊ばしたと聞き、取る物も取り敢ず、お後を慕つて進み来る折しも、小さき雑草の丘の前に突当り、五人は息を休むる折しもあれ、何処よりともなく一人の女神現はれ来り、「此地底の岩窟には、活津彦根命御探険あれば、汝等は急ぎお跡を慕へ」との一言を残し、その儘姿は消えさせ給うた。傍を見れば暗き穴、ハテ訝かしやと覗き居る際、地盤はガタリと陥落し、七八間も地中に落込んだと思へば、此岩窟、……それより吾々一同はこの岩窟内を神歌を謡ひつつ、探り来る折しも、道に当つた古井戸、フト見れば何か怪しの物影、合点行かぬと思ふ折、井戸の底より貴下の声、……と云ふ様な来歴で御座いましたよ』 高国別『アヽそれは結構でございました。実は吾々が彼の井戸に陥りし刹那、失心致したと見え、広大なる原野を通過し、高山の頂きに登りつめ、五人の男女に巡り会ひしと思へば、ハツト気が付き、空を仰ぐ途端に、貴下ら一行のお姿………イヤもう実に不思議千万な事で御座います』 梅彦『吾々は昨夜の夢に、貴下にお目にかかりましたが、本日只今この岩窟内に斯うして休息して居る有様が、ありありと目に附きました。実に現幽一致、此世と云ふ所は不思議な所ですな』 俄に何処ともなく、阿鼻叫喚の声、響きわたる。高国別はツト立ち上り、 高国別『ヤア皆さま、何か此岩窟内には変事が起つて居ますよ。サアサア早く早く探険と出かけませうかい』 と云ひつつ、岩壁を力に任せてグツと押した。岩の戸はパツと開いた。見れば数十人の老若男女、何れも高手小手に縛しめられ、中央に朱の如き赤き面した鬼神四五人、鉄棒を提げ、足の先にてポンポンと男女を蹴り苦しめて居る。 高国別『ヤア各方、此処は冥土の地獄の様だ。ヤア何れも方、飛込んで救うてやりませう』 と身を躍らして先に立つた。五人はあとに引つ添ひ、声を揃へて言霊を奏上する。鬼の姿は追々に影うすく、遂には煙の如くなつて消え失せたり。数多の老若男女の姿を見れば、高手小手に縛められ居たりと見えしは、幻なりしか、各自に双手を合せ、岩窟の前に端坐して、 一同『神素盞嗚の大神、一時も早く地上に現はれ給ひて、吾等を救ひ給へ』 と一生懸命、側目もふらず拝んで居るのであつた。六人の姿を見るより、一同の老若男女は、此方に向き直り、合掌し乍ら、 一同『ヤア有難し有難し、勿体なし、あなた様は神素盞嗚の大神の御眷属様ならむ』 と嬉し涙に咽ぶ。 高国別『ヤア最前より様子を聞けば、汝等一同の者、神素盞嗚の大神の御出現を祈り居る有様、汝の至誠は天に通じ、只今カナンの家に尊は御逗留遊ばすぞ。一時も早く此岩窟を立出で、仁慈の大神の尊顔を拝せよ』 と宣示したれば、一同は此言葉を聞いて大に喜び、 一同『ヤア大神の御再臨、有難し辱なし』 と嬉し腰を脱かし、のたくり廻り、歓ぎ喜ぶ。高国別は一同に向ひ、天の数歌を称ふれば、今迄痩衰へたる数十人の老若男女は、俄に肉付き、顔色麗しく、元気恢復し、忽ちムクムクと立ち上り、手を拍つて、前後左右に踊り狂ひ、大神の再臨を心の底より感謝する。而て一同はイソイソとして、大麻を持てる男を先頭にゾロゾロと帰り行く。後見送つて高国別は、 高国別『アヽ可愛らしい者だ。これ丈の善男善女が心を一つにして、信仰を励むのを見れば、何とも彼とも知れぬ良い心持ちがする。尊に於かせられても、嘸御満足に思召すであらう。嗚呼、惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 高国別一行は、奥へ奥へと進み行く。日は西山に没せしと見え、岩窟の中は俄に暗くなつて来た。六人は探り探り進み行くにぞ、傍に怪しき呻声が聞えゐる。耳ざとくも、愛子姫は其声を聞き、 愛子姫『もしもし皆さま、何だか怪しき声が聞えるではありませぬか』 亀彦『ヤアそれは、あなたの神経でせう。岩窟の中は音響のこもるものですから、大方最前の祝詞の声が内耳深く潜伏し、反響運動を開始して居るのでせう』 愛子姫『イエイエ祝詞の声ではありませぬ、苦悶を訴ふる、しかも女の声、悪神の巣窟たる此岩窟、如何なる惨事の行はれ居るやも図られませぬ。皆さま一同に立止まり、耳を澄ませて聞いて下さい。世界を救ふ神の使の吾々、苦悶の声を聞き逃し、ムザムザと通過も出来かねます』 亀彦『ヤア如何にも苦しさうな声だ。もしもし高国別様、暗さは暗し、余り軽々しく進むよりも、一つ此声を探り当てませうか』 高国別『ホンに如何にも妙な声が致しますな』 と言ひつつ、傍の岩壁をグツと押した途端に、不思議や、岩の戸は案外に軽くパツと開いた。能く能く見れば、白き影、岩窟内に横たはり苦しさうに唸つて居る。 亀彦『ヤア怪しいぞ怪しいぞ、此暗がりに、何だか削りたての材木の様な者が唸つて居る。これは大方、白蛇であらう』 梅彦『白蛇にしては、太さの割に余りに丈が短いではありませぬか』 亀彦『白蛇の奴、どつかで半身切られて来て、九死一生苦悶の態と云ふ場面だらう。……オイオイ白蛇の先生、どうしたどうした』 白き影『アーア恨めしやなア、妾は姫君様の御後を慕ひ、此処まで来るは来たものの、ウラナイ教の曲津神、蠑螈別が計略にかかり、手足を縛られ、岩窟の中へ押込まれ、逃れ出づる方策もなし、アヽ何とせう、恨めしやなア』 亀彦『ヨウ大蛇だと思へば、何だか分らぬ事をほざいて居るワ。もしもし高国別様、一寸調べて下さいな』 高国別『イヤあなた御苦労乍ら一寸探つて見て下さい、どうやら人間らしう御座いますよ』 亀彦『滅相な、あた嫌らしい、此暗がりに、コンナ白い者が、どうしてなぶられませうか……オイ梅サン、お前は平素より大胆な男だ。一つ此処らで侠気を出して、幾代姫様に英雄振をお目にかけたらどうだ』 梅彦『イヤ吾々も吾々だが、亀彦サンも亀彦サンだ。菊子姫様に英雄振をお見せになつたらどうでせう、余り厚かましう致すのも御無礼で御座る。あなたには先取権が御座る、どうぞ御遠慮なく、とつくりと、頭から足の先までお調べなさいませ。菊子姫様の手前も御座いまするぞ』 亀彦『アーア、偉い所へ尻平を持つて来られたものだ。ナニ、材木が動いて居るのだと思へば良い、……コラコラ材木、その方は何者だ』 白き影『アヽ恨めしや』 亀彦『ナヽ何だ、ウラナイ教か、幽霊か、何だか知らぬが、材木の幽霊は昔から聞いた事はないワイ。素盞嗚の大神が御退隠遊ばしてより、山川草木に至る迄、言問うと云ふ事だが、やつぱりこの材木も其選に漏れないと見えて、何だか言問ひをやつてゐる、……コラ材木、起きぬか起きぬか』 梅彦は、白き影を目当に、スウツと撫でまわし、 梅彦『ヤアこれは人間だ、しかも肌の柔かき美人と見える、高手小手に縛められて居る。おほかた悪神の奴に虐げられて、此岩窟に幽閉されたのであらう』 と言ひ乍ら、スラスラと縛を解いた。白き影はスツクと立ちあがり、懐剣逆手に持つより早く、 白き影『ヤア、ウラナイ教の悪神、蠑螈別の手下の者共、モウ斯うなる上は、妾が死物狂ひ覚悟を致せ』 と六人のほのかな影を目当に短刀をピカつかせ乍ら、前後左右に暴れ狂ふ。 亀彦『ヤア待つた待つた、吾々は三五教の宣伝使だよ』 白き影『ナニツ、三五教の宣伝使とは、まつかな偽り、浅子姫が死物狂ひの車輪の働き、思ひ知れよ』 と飛鳥の如くに飛び廻る。 高国別『ヤア汝浅子姫とは、顕恩郷に現はれたる愛子姫の腰元ならずや。吾は愛子姫の夫高国別なるぞ』 浅子姫『執念深き悪魔の計略、其手に乗つて堪らうか、浅子姫が手練の早業、思ひ知れよ』 と又もや短刀を暗に閃かし暴狂ふ。愛子姫は、 愛子姫『そなたは浅子姫に非ずや、先づ先づ静まりなさい、愛子姫に間違御座らぬ』 浅子姫『ヤアさう仰有るお声は、正しく愛子姫様』 愛子姫『そなたは擬ふ方なき浅子姫の声、夜目にもそれと知らるる其方の姿、嬉しや嬉しや、思はぬ所で会ひました』 浅子姫は稍落着きたる声にてハアハアと息をはづませ乍ら、 浅子姫『そ、そ、そう仰有るあなたは擬ふ方なき愛子姫様、お懐しう御座います』 とワツと許りに其場に泣き伏しぬ。此時何処よりともなく、一道の光明サツと輝き渡り、一同の顔は昼の如く明かになり来たりぬ。 浅子姫『これはこれは何れも様、不思議な所でお目にかかりました、能うマア危き所をお助け下さいました。是れと云ふも、全く木花姫の御守護の厚き所』 と合掌し、後は一言も得言はず、嬉し涙に掻き曇るのみ。勇みを附けんと高国別は、浅子姫の背中を、平手に三つ四つ打ち乍ら、 高国別『浅子姫殿、しつかりなさいませ。是には深き様子有らむ。吾々も此先に於て、大に覚悟せなくてはなりませぬ。あなたを斯くの如く岩窟に押込めし以上は、当岩窟には数多の悪神の巣窟あらむ、此処に立到られし仔細を詳さに物語られよ』 と声を励まして問ひかくれば、浅子姫はハツと心を取直し、 浅子姫『是れには深き仔細が御座いまする、一先づ妾が物語お聞き下さいませ。天の太玉命、顕恩郷に現はれ給ひ、バラモン教の大棟梁鬼雲彦を神退ひにやらひ給ひ、妾は愛子姫様と共に、顕恩城を守護しまつる折しも、天照大神様、天の岩戸に隠れ給ひしより、太玉命は急遽、天教山に登らせ給ひ、その不在中、愛子姫様と妾は城内を守る折しも咫尺暗澹として昼夜を弁ぜず、荒振神は五月蝿の如く群がり起り、鬼雲彦は又もや現はれ来りて、暗に紛れて暴威を逞しうし、妾主従は生命も危き所、闇に紛れて城内を逃れ出で、エデンの河を生命からがら打渡り、何の目的も時の途、進み行く折しも、暗を照して現はれ来たる日の出神にめぐり会ひ、愛子姫様、菊子姫様、幾代姫様は、神素盞嗚尊の御後を慕ひ、西蔵に難を遁れさせ給ひしと聞くより、妾は岸子姫、岩子姫と共に、夜を日に継いで、山野を渉り、大河を越え、漸くラサフの都に来て見れば、姫君様に奇の岩窟にて面会を得させむと、木花姫の夢のお告げ、妾三人は勇み進んで、小高き丘の入口より、岩窟に進み来る折しも、ウラナイ教の曲神蠑螈別、幾十ともなく数多の邪神を引き連れ、妾三人を前後左右に取囲み、後手に縛り上げ、此岩窟に押込めたり。嗚呼、岸子姫、岩子姫は、如何なりしぞ、心許なや』 と又もや涙の袖を絞る。 高国別『これにて略様子は判然致しました。……ヤア一同の方々、岸子姫、岩子姫の身の上心許なく御座れば、急ぎ在処を尋ね、救ひ出さねばなりますまい』 一同『然らば進みませう』 と、一同は四辺に耳を欹て、目を配り乍ら、急ぎもせず、遅れもせずと云ふ足許にて、奥深く進み行く。隧道は俄に前方低く、板を立てたる如き急坂になつて来た。一行七人は、一足一足力を入れ乍ら、アブト式然と、坂路の隧道を下つて行く。行く事七八丁と覚しき所に、比較的広き水溜りがある。薄暗がりに透かし見れば、何だか水面に人の首の様なものが漂うて居る。亀彦は目ざとくもこれに目を注ぎ、 亀彦『ヤア此奴ア又、変挺だ。岩窟の中に池があると思へば、円い顔の様な物が浮いて居る、鴛鴦にしては少しく大きいやうだ。ヤア目鼻が付いて居る。悪神の奴、酒に喰ひ酔つて、瓢箪に目鼻をつけ、此池に放り込みよつたのではあるまいか。瓢箪ばかりが浮物か、俺の心も浮いて来た。サアサア浮いたり浮いたりだ、アハヽヽヽヽ』 梅彦『亀サン、あれを能く御覧なさい、女の首ですよ。ナンダか、つぶやいて居るぢやありませぬか』 幾代姫『ヤア彼の顔は、岩子姫、岸子姫ではなからうか』 亀彦『エー何を仰有います、鴨かナンゾの様に、女が首ばつかりになつて、池の中に浮いて居ると云ふ事がありませうか。あなたは視神経の作用が、どうか変調を来して居るのでせう。腐り縄を見て蛇と思つて驚いたり、木の欠杭を見て化物と思ふ事が往々有るものです。マアマア気を附けてください、変視、幻視、妄視の精神作用でせう、コンナ所に棲息する者は、キツト河童か、鰐か、まかり間違へば人魚ですよ。人魚と云ふ奴は、能く人間に似て居るものだ、それで、人の形をした翫弄具を人形サンと云ふのだ。アハヽヽヽヽ』 池の中より女の首、苦しき声を絞り乍ら、 岩子姫、岸子姫『ヤア、あなたは幾代姫様、菊子姫様、愛子姫様では御座いませぬか。夜目にはしかと分りませぬが、お姿が能く似て居ります。妾は悪神に捉へられ、手足を縛られ、重き石錨をつけられて苦んで居ります、岩子姫、岸子姫の両人で御座います。どうぞお助けくださいませ』 亀彦『ヤア金毛九尾の同類奴、馬鹿にするない、何程化たつて、モウ駄目だ。手を替へ品を換へ、結局の果には池の中に姿を現はし、吾等を水中に引込まむとの水も洩らさぬ………否水責めの汝の計略、其手に乗つて堪らうかい』 岩子姫『イエイエ、決して決して妖怪変化では御座いませぬ、どうぞお助け下さいませ』 亀彦『もしもし高国別様、どうでせう、彼奴は本物でせうか。偽物の能く流行する時節ですから、ウツカリと油断はなりませぬぜ、………コラコラ化の奴、新意匠をこらし、レツテルを替へて、厄雑物を突付けても其手には乗らぬぞ、意匠登録法違反で告発をしてやらうか』 高国別『アハヽヽヽ、何は兎もあれ、亀彦サン、高国別の厳命だ、あなた真裸となつて救うて来て下さい。高国別が神に代つて命令を致します』 亀彦『滅相な、どうしてどうして、是ばつかりは真つ平御免、アーメン素麺、トコロテン、ステテコテンのテンテコテン、テンデ話になりませぬワイ、テンと合点がゆきませぬ、是ればつかりは平に御断り申す。斯く申すは決して亀彦の肉体では御座らぬ。亀彦が守護神の申す事で御座る』 梅彦『アハヽヽヽ、巧い事を言ひよるワイ、融通の利く副守護神だ、斯うなると副守先生も重宝なものだなア』 亀彦『亀彦の守護神が、神素盞嗚の大神の命に依つて、梅彦に厳命する………梅彦、速かに真裸となり、水中にザンブと許り飛込んで、二人の妖怪を救ひ来れ。万々一、彼にして大蛇の変化なれば、汝は一呑みに蛇腹に葬られむ。然る時は、汝が霊を引抜き、至美至楽の天国に救ひ、百味の飲食を与へ遣はす、ゆめゆめ疑ふ事勿れ』 梅彦『ウンウンウン』 亀彦『コラコラ、偽神懸は厳禁するぞ、亀サンの審神を暗まさうと思つても、天眼通、天耳通、宿命通、自他心通、感通、漏尽通の六大神通力を具備せる、古今無双の審神者のティーチヤーに向つて、誤魔化しは利かぬぞ、速かに飛込め』 池中に浮かべる二つの首は、苦痛を忘れて、思はず、『ホヽヽヽヽ』と笑ひ出せば、 亀彦『それ見たか、俺の天眼通はコンナものだ。此寒いのに池の中に投り込まれ、人間なら、何気楽さうに笑ふものか、とうとう化物の正体を現はしよつた。アツハヽヽヽ』 幾代姫『亀彦様、梅彦様、あなたは分らぬお方ですな、………アーアコンナ方を二世の夫に持つたと思へば恥かしいワ』 亀彦『コレコレ嬶左衛門殿、何と御意召さる。親子は一世、夫婦は二世で御座るぞ』 二女『夫婦二世と云ふ掟を幸ひ、あなたの様な、臆病神との契を解き、第二の夫を持ちませう。ネー愛子姫様、決して天則違反では御座いますまい』 亀彦、梅彦、両手を拡げて、 亀彦、梅彦『アヽ待つた待つた、如何に女権拡張の世の中ぢやとて、姫御前の有られもない其暴言、これだから、新しい女を女房に持つのは困ると言ふのだ。エー仕方がない、俺も男だ………サア梅サン………ヤア亀サン………一イ二ウ三ツだ』 と云ふより早く、真裸となり、ザンブと飛込んだ。 亀彦、梅彦『ヤア比較的浅い池だワイ………オイオイ二つの生首、かぶりついちや不可よ、俺一人ではない、俺には彼の通り立派な奥方がお二人も随いて御座るのだ。一度死んだから二度とは死なないから、吾々は生命位は何ともないが、後に残つた菊子姫、幾代姫の悲歎の程が思い遣られる……コラコラ助けてやるから生命の恩人だと思つて、かぶり付いてはならぬぞ』 と言ひつつ、コワゴワ頭髪をグツと握り締めた。 岩子姫『アイタタ、痛う御座んす、どうぞ、妾の腰の辺を探つて見て下さい』 亀彦『女の分際としてあられもない事を言ふな、立派な奥様が大きな目を剥いて監督をして御座るぞ、腰のあたりを触つて堪るものかい』 岸子姫『イエイエ、腰の辺りに、可なり大きい紐で大きい石が縛りつけて御座います。三つも四つも、重い石に繋がれて居ます、どうぞ其綱を切つて助けて下さい』 亀彦『アーア、偉い事になつて来たワイ、神が綱を掛たら放さぬぞよ、アハヽヽヽ』 岩子姫『冗談仰有らずに、どうぞ真面目にほどいて下さい』 二人は水中に手を下し、腰のあたりを探つて見て、 亀彦、梅彦『ヤア甚い事を行つて居る……やつぱり鱗でもなければ、羽でもない、人間の肌だ』 と云ひ乍ら、ほどかむとすれど、綱は膨れてどうする事も出来ぬ。 亀彦、梅彦『アーア仕方がない』 と再び岸に這ひ上り、双刃の剣を口に啣へ、バサバサと飛込み、プツツと綱を切り、二人を肩にひつ担ぎ乍ら上つて来た。高国別および三人の女性は、 四人『アーア結構結構、好い所で助かつたものだ』 浅子姫『岩子さま、岸子さま、あなたは酷い目に会ひましたな、妾も御主人様に救はれました……アヽ結構結構、これと云ふも、大神様の全く御守護で御座いませう』 と浅子姫は、今更の如く嬉し涙に暮れて水面に向つて合掌しゐたりける。 (大正一一・四・三旧三・七松村真澄録) (昭和一〇・三・二三於花蓮港支部王仁校正) |
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霊界物語 | 16_卯_丹波物語1 大江山/冠島沓島/丹波村 | 15 谷間の祈 | 第一五章谷間の祈〔六〇五〕 亀彦、英子姫、悦子姫の三人は、由良の流れを遡り河守駅に辿り着き、路傍の石に腰打掛け息を休めゐる。右も左も鬱蒼たる老樹繁茂し、昼尚ほ暗き谷の底、蟻の甘きにつくが如く絡繹として数多の老若男女は山奥目蒐けて進み往く。 亀彦はその中の一人を捉へ、 亀彦『斯う沢山に人が北へ北へと行列を組みて往くのは、何か変はつたことがあるのか。様子を聞き度いものだナア』 男『ハイハイ何だか知りませぬが、二三日以前から大江山の麓の剣尖山の谷間に結構な神様が現はれたと云ふことで、何れも病気平癒や、商売繁昌などの御願で参拝を致すものでございます。私も別に願とては無いけれども、余り沢山の人が詣るなり、偉い評判だから、ドンナ者か一つ見がてらに参る所です』 亀彦『それは一体何と云ふ神様だ』 男『ナンデも裏とか、表とか云ふ名の附いた畳屋の様な神さまぢや相です。さうして青彦とか、青蛙とか、青畳とか、ナンデも青の附く名の御取次が居つて、樹の枝を以て参拝者を一々しばくと、それで病気が立所に癒つたり、願望が成就したりするとか云つて、それはそれは偉い人気でございます。流行神さまは、何でも早う参らねば御神徳が無いと、皆剣尖山の麓へ指して弁当持で参拝するのです。マアお前さまも妙な風をしてござるが、大方神さまの取次ではありますまいか』 亀彦『さうぢや、吾々も神の道の取次ぢや』 男『ヤア貴方は取次と云つても、生臭取次ぢやろ。此の奥の谷川に現はれた青い名の附く御取次は、精進潔斎、女などは傍にも寄せつけぬと云ふ、それはそれは偉い行者ぢやさうな。それにお前は鶏か何ぞの様に三羽番で、誰がお前の言ふことを聞くものか、笑ふに定つとるワ。アハヽヽヽ』 亀彦『決して決して女房でも何でもござらぬ。各自一個独立の教の道の宣伝使だ。お前達は男と女と歩いて居れば、直にそれだから困る。凡夫と云ふ者は浅猿しいものだ』 男『ヘエ、うまいこと仰有いますワイ。凡夫の中にも聖人があり、聖人らしう見せても凡夫がある世の中ぢや。余りボンボン言つて貰ふまいかい。ボンくら凡夫のボンボン宣伝使奴が。マア悠乎と路傍で三羽番、羽巻でもして狎戯いたがよからう。アーア、コンナ偽宣伝使に掛り合つて、伴の奴はモー何処か先へ往つて了ひやがつた』 と一目散に駆け出し、奥へ奥へと進み行く。 亀彦『英子姫さま、今の男の話に依つて考へて見ると、何うやらウラナイ教の青彦のことらしい様に思はれます。又もやウラナイ教を弘めて世人を迷はし、害毒を流す様なことがあつては神界へ対し、吾々宣伝使の役が済みませぬから、是から一つ実地調査に参りませうか』 英子姫『さうですなア、別に急ぐ旅でも無し、調べて見ませうか。これも何かの神様の御仕組かも知れませぬ』 悦子姫『それは面白うございませう。先日より余り沈黙を守つて居ましたので、口に虫が湧く様で不快で堪りませぬ。何卒今度は一つ妾に交渉をさせて下さい。言霊の有らむ限り奮闘してお目にかけます』 英子姫『アーそれも面白からう』 亀彦『サアサア参りませう。悦子姫さまの雄弁振り、奮戦振りを拝見さして貰ひませう』 と三人は群集に紛れて昼尚ほ暗き山道を、北へ北へと進み行く。 一行は群集に紛れ漸く剣尖山の麓を流るる谷川の畔に着きぬ。此の谷川の岩壁には産釜、産盥と云ふ美はしき水を湛へた天然の水壺あり。ウラナイ教の宣伝使青彦は厳き白装束の儘、此の滝壺の側に立ち、谷川の水を杓で汲み上げ柴の枝に吹きかけ、数多の老若男女に向つて病を癒し、或はいろいろの神占を為し、数多の男女を誑惑しつつありける。悦子姫は亀彦、英子姫に向ひ、 悦子姫『サア御約束の通り、是から妾が一人舞台、貴方等は日の暮れたを幸ひ、木蔭に潜み妾の活動振りを御覧下さい』 と云ひ棄て何処ともなく深林の中に姿を隠したり。青彦は儼然として水壺の側に立ち、数多の人々に対して教訓を施し居る。 甲は拍手し乍ら、恐る恐る青彦の前に蹲踞み、 甲『生神様に一つ御願ひがございます。私は疝の病に、年が年中苦しみてゐます。ナントか御神徳を以て御助け下さいませ。薬で治ることなら何薬がよいか。これも御指図願ひ度うございます』 青彦『疝でも何でも治らぬことは無い。それはお前の改心次第ぢや。一時も早く此頃流行る三五教を放して、ウラナイ教の神様の信者になれ。其日から疝の病気は嘘を吐いた様に全快間違ひなしぢや』 甲『ハイハイ有り難うございます。疝の治ることなら、何時でもウラナイ教になります』 後の方より疳高き女の声、 女(悦子姫)『ウラナイ教を見切つて三五教に誠に尽くせ、疝気の虫は三五教の神力に怖れて滅びて了ふぞ。此奴は金毛九尾の狐に使はれて居る曲津の容器だ。ホヽヽヽ』 甲『モシモシ生神様、男の声を出したり、女の声を出したりなさいまして、先に仰有つた事と後から仰有つた事とは全然裏表ぢやありませぬか』 青彦『此方は誠の道の宣伝使だ。決して決して二言は申さぬ』 甲『それでも今妙な声を出してござつたぢやありませぬか』 又もや暗黒より女の声、 女(悦子姫)『妾こそは天上より降り来れる天照大神の御使、瑞の御魂の教へ給へる三五教の生神なるぞ。青彦の如き体主霊従の教を耳に入れるな』 青彦『ヤアこれは怪しからぬ。何者とも知れず空中に声を出して、某が宣伝を妨害致す魔神現はれたりと覚ゆ。コラコラ悪神の奴、この青彦が言霊の威力を以て、汝が正体を現はし呉れむ』 と拍手し、言霊濁れる神言を奏上し始めたり。又もや暗黒の中より女の声、 女(悦子姫)『ホヽヽヽ、面白い面白い、彼の青彦の青い顔わいな』 青彦『エー又しても又しても曲津神が出て来よつて。コラコラ今に往生さしてやるぞ』 と汗みどろになり、一生懸命に天津祝詞を何回となく奏上する。後方の山の小高き暗中より、又もや女の声、 女(悦子姫)『オホヽヽヽ、青彦、汝は秋山彦の館に於て三五教の宣伝使亀彦に悩まされ、生命辛々此処まで遁げ延び、又もや悪逆無道の継続事業を開始してゐるのか。好い加減に改心致さぬと汝が霊魂を引抜き、根の国、底の国に落してやらうか』 青彦『ナンダ、誠の道の妨害致す悪魔ども、容赦は致さぬ。今青彦が神徳無限のウラナイ教の言霊を以て、汝が身魂を破滅せしめむ。速かに退散致さばよし、愚図々々致さば容赦はならぬぞ』 とぶるぶる慄ひ乍ら空元気を附けて呶鳴りゐる。暗中より、又もや女の声、 女(悦子姫)『オホヽヽヽ、可笑しい哩。汝が力と思ふ高姫は今フサの国に遁げ帰り、黒姫は行方不明となりし今日、何程汝、力味返るとも斯の如き誠の神の使現はれし上は最早汝が運の尽き、一刻も早く此の場を退却致せよ』 青彦『エーナント云つても一旦思ひ立つた拙者が宣伝、たとへ此の身は八裂に遭はうとも、いつかないつかな心を飜すやうな腰抜けではないぞ。何れの魔神か知らねども、人を見損ふにも程がある。サア正体を此処に現はせ。誠の道を説いて聞かして改心させてやらう程に』 暗中より『オホヽヽヽ』 乙は拍手を打ち、 乙『モシモシ生神様、ナンダか貴方が仰有いますと、後の中空の方に妙な声が聞えます、ナンデも貴方様に反対の神様らしうございます。此の暗いのに神様が喧嘩遊ばして吾々なにも知らぬものが側杖を喰ひまして誠に迷惑。何卒此の声を止めて下さいませぬか』 又もや女の声、 女(悦子姫)『オホヽヽヽ、止めて止まらぬ声の道、道は二筋善と悪、善に服らふか、悪に従ふか、何れも今ここでハツキリと返答を致せよ』 青彦『何れの神かは知らねども、拙者が宣伝を妨害致す曲者、了見致さぬぞ』 暗中より、又もや、 女(悦子姫)『オホヽヽヽ、彼のマア青彦の空威張り』 青彦『ヤア何とはなしに聞き覚えのある声だ。其方は三五教の女宣伝使であらう。後の山に潜み、拙者が宣伝を妨害致すと覚えたり。今に正体現はし呉れむ』 と火打を取出しカチカチと火を打ち四辺の枯柴を集めて盛ンに火を焚きつけたり。 一同の顔は昼の如く照らされたれど、木の茂みに隠れたる悦子姫の姿は見えざりける。悦子姫は尚も屈せず、 悦子姫『オホヽヽヽ、ウラナイ教の阿呆彦の宣伝使、畏れ多くも昔天照大御神様の御生まれ遊ばした時に、産湯を取らせ給うた産釜、産盥の側に立ち宣伝を致すとは、僣越至極の汝が振舞、今に数多の蜂現はれ来つて汝が眼を潰すであらう。オホヽヽヽ』 焚火の光に驚いて傍に巣を喰つてゐた雀蜂の群、火焔の舌に巣を嘗められ堪り兼ね、青彦の底光りのする目玉を目がけて、一生懸命幾百千ともなく襲撃し始めたるにぞ、青彦は、 青彦『アイター』 と其の場に倒れける。蜂の群は青彦の身体一面に空地もなく噛み付きける。 数多の参詣人は蜂に光つた目を刺され、苦しむもの彼方此方に現はれ、泣くもの、喚くもの、忽ち阿鼻叫喚の巷となりぬ。又もや暗中より、 悦子姫『ヤアヤア此処に集まる老若男女、穢らはしき肉体を持ち乍ら、此の聖場を汚すこと不届千万な、一時も早く神界に謝罪をせよ。三五教の宣伝歌を唱へ奉り、蜂の災禍を払ひ与へむ。惟神霊幸倍坐世』 と唱ふる声につれ、一同は一生懸命になりて、 一同『惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世』 と唱へ始めける。 此の声は四辺の山岳をも揺がす許りなり。暗中より、 悦子姫『ヤアヤ、汝等蜂に刺された目は、これで全快したであらう。聖場を汚してはならないから、一刻も早く此の場を立去り、綾の高天へ御礼のために時を移さず参詣致せよ。夢々疑ふな。惟神霊幸倍坐世』 一同は此の声に驚き、且つ歓び、声する方に向つて拍手し乍ら、長居は恐れと一目散に河伝ひに帰り往く。アヽ青彦の運命は如何。 (大正一一・四・一五旧三・一九外山豊二録) |
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57 (1676) |
霊界物語 | 16_卯_丹波物語1 大江山/冠島沓島/丹波村 | 16 神定の地 | 第一六章神定の地〔六〇六〕 青彦は身体一面に熊蜂に取つかれ痛みに堪えず、苦しみ悶えつつありき。此体を見るより亀彦、英子姫は常磐木の松の小枝を手折り、青彦が前に進み出で天津祝詞を奏上し、天の数歌を唱へながら左右左と打ち振れば、蜂は忽ち何処ともなく姿を隠し、青彦が身体の苦痛も俄に静まりける。 青彦は漸く頭を上げ篝火に照し見れば、豈図らむや亀彦、英子姫の二人、吾前に端坐し、一心不乱に吾がために祈願を凝らし居るにぞ、青彦は忽ち大地に両手をつき、 青彦『貴方は三五教の宣伝使、亀彦様、英子姫様で御座いましたか、危き所をお助け下さいまして、お礼の申しやうも御座いませぬ』 と嬉し泣に泣き入る。後の木の茂みより又もや女の声、 女(悦子姫)『ヤア青彦、汝は金毛九尾の悪狐に魅せられたる高姫の妖言に迷ひ、三五の教を捨ててウラナイ教に陥没したる心弱きデモ宣伝使、汝が心を立直さむと誠の神は今此処に現はれ、汝に誡めの鞭を与へたるぞ、尚改めざるに於ては、今後如何なる災禍汝の身に降らむも計り難し、ヤア亀彦、英子姫大儀々々。汝が至誠至実の言霊に依つて、青彦が危難を救ひたるは天晴功名手柄、此由大神に奏上致さむ』 亀彦『ヤア何れの神様か存じませぬが足はぬ吾々に向つて過分の賞詞、身に余る光栄と存じます、此上は益々粉骨砕身、神国成就の為に努力致しますれば、何卒厚き広き御保護を垂れさせ給はむ事を偏に願ひ奉る』 英子姫『アヽ有難き大神の神示、朝な夕なに慎みて、言心行一致を励み神界のために能ふ限りの活動を致しませう、何卒何卒仁慈の鞭を御加へ下さいまして、妾が弱き信仰を益々強く宇宙大に発揮せしめたまへ』 と合掌する。青彦は涙にくれながら唯何事も得云はず、あな有難し忝なしと又もや大地に平伏するのみ。暗中より又もや女の声、 女(悦子姫)『汝青彦、心の底より悔い改めて三五教の教を遵奉するや、返答聞かむ』 と呼ばはる声に青彦は起き直り、 青彦『何れの神様か存じませぬが、もう斯うなる上は綺麗薩張とウラナイ教を諦めます。何卒元の如く三五の道にお使ひ下さいますやうに』 暗中より又もや女神の声、 悦子姫に懸かった天照大御神『吾は天照皇大神なるぞ、其昔此御山に現はれ、産釜、産盥と俗に称する天の真名井に御禊して、神格を作り上げたる我旧蹟なり、汝等宜敷く此処に宮殿を造り、我御霊を祀れ、悦子姫の肉体を借りて此由宣示し置く、夢々疑ふなかれ』 亀彦『委細承知仕りました。之より此谷川に身を清め、大神の美頭の御舎仕へ奉り、神霊を奉斎し、天下太平国土安穏の祈願所と定めまつらむ』 と答ふれば天照大御神嬉しげに打ち笑はせ給ひ、 悦子姫に懸かった天照大御神『亀彦、英子姫、悦子姫三人の神柱に宮殿の造営を一任し置く、サラバ』 と云ふより早く元津御座に帰り給へば、悦子姫は元の肉体に復し三人が前に現はれ、大神の神勅を畏み、改めて谷川に禊し天津祝詞を奏上し、忌鋤、忌斧を造りて宮殿の造営に身心を傾注し、百日百夜を経て全く工を終へ、茲に天照大御神の神霊を招ぎ奉り、鄭重に祭神の鎮座式を奉仕したりける。これ伊勢神宮宮殿造営の嚆矢なり。今は丹後の元伊勢と云ふ、この谷川は是より宮川と称へられたり。 此因縁により、大本開祖は明治三十四年旧三月の八日、数多の教子を引き連れ、亀彦の名に因みたる上杉の木下亀吉を率ゐ、禊の神業を仰せつけられたるは、最も深き神界の御経綸の在します事と察せらるるなり。又此産盥、産釜の清水は竜宮館の金明水に注ぎ込まれ、次で開祖は数多の教子を率ゐ、明治三十四年旧六月八日、沓島の山上より大海原に向つて打注ぎ給ひたるも、天下修斎の大神業の一端と察し奉るなり。穴賢、穴賢。 (大正一一・四・一五旧三・一九加藤明子録) |
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58 (1678) |
霊界物語 | 16_卯_丹波物語1 大江山/冠島沓島/丹波村 | 18 遷宅婆 | 第一八章遷宅婆〔六〇八〕 百日百夜の一同が苦辛惨憺の結果、漸く建ち上りし白木の宮殿、鎮祭式も無事に済み一同直会の宴にうつる。今日は正月十五日、雪は鵞毛と降りしきり、見渡す限り一面の銀世界、天津日の影は地上に光を投げ、玲瓏として乾坤一点の塵埃も留めず、実に美はしき天国の御園も斯くやと思はるる許りなり。 英子姫は神霊鎮祭の斎主を奉仕し悠々として階段を降り来るや、忽ち神霊に感じ神々しき姿は弥が上に威厳備はり徐に口を開いて宣り給ふやう、 英子姫に懸かった天照御神『我は天照大神の和魂なり、抑も当所は綾の聖地に次げる神聖の霊場にして天神地祇の集まり給ふ神界火水の経綸場なり、神界に於ける天の霊の川の源泉にして宇宙の邪気を洗ひ清め百の身魂を神国に救ふ至厳至聖の神域なり。又この東北に当つて大江山あり、此処は神界の芥川と称し邪霊の集合湧出する源泉なれば霊の川の霊泉を以て世界に氾濫せむとする濁悪汚穢の泥水を清むべき使命の地なり。此濁流の彼方に天の真名井ケ岳あり、此処は清濁併せ呑む天地の経綸を司る瑞の御霊の神々の集まる源泉なり。豊国姫の分霊、真名井ケ岳に天降りミロク神政の経綸に任じ給ひつつあり、されども曲神の勢力旺盛にして千変万化の妖術を以て豊国姫が経綸を妨碍せむとしつつあり。汝悦子姫、之より大江山の濁流を渡り真名井ケ岳に打向ひ百の曲霊を言向和し追ひ払ひ吹き清めよ。又亀彦、英子姫には神界に於て特別の使命あれば之より聖地に向へ、其上改めて汝に特別使命を与ふべし』 と言葉厳かに言挙げし給ひ忽ち聞ゆる微妙の音楽と共に引きとらせ給ひぬ。アヽ尊き哉皇大神の御神勅よ。 茲に亀彦、英子姫は神勅を奉じ、熊鷹、石熊両人を始め数十人の供人と共に、聖地に向ふ事となりぬ。又悦子姫、青彦は、鬼彦、鬼虎の二人に、四五の従者を伴ひ谷川に禊を修し宣伝歌を唱へ乍ら大江山の魔窟ケ原を打越え真名井ケ岳に向つて進む事になりける。 悦子姫は宮川の渓流を溯り、険しき谷間を右に跳び、左に渉り漸くにして魔窟ケ原の中央に進み入り、衣懸松の傍に立ち止まり見れば、百日前に焼け失せたる高姫の隠家は又もや蔦葛を結び、新しく同じ場所に仮小屋が建てられありたり。 悦子姫『此間妾が高姫に招かれて此松の下へ来ると、間もなく火煙濛々と立昇り、小屋の四方八方より猛烈に紅蓮の舌を吐いて瞬く内に舐尽し、高姫さま始め此青彦さまも火鼠の様に、彼の丸木橋から青淵へ目蒐けて飛び込まれた時の光景は実にお気の毒なりし。その時妾は高姫さまの水に溺れて苦しみ藻掻き居られるのを、真裸になりて救ひ上げた時、高姫さまに非常に怒られた事あり、「妾が勝手に心地よく水泳をやつて居るのに、真裸で飛ンで来て妾の手を引ン握り、ひつ張り上げるとは怪しからぬ」と反対に生命を助けて怒られた事あり、あの一本橋を見ると其時の光景が今見る様な』 と述懐を漏したり。 青彦『さうでしたな、あの時に私も亀彦さまが居なかつたら土左衛門になる処でした。真実に生命の親だと思つて心の底から感謝して居ました。それに高姫さまは私がお礼を申さうとすれば目を縦にして睨むものですから、つひお礼を申し上げず心の裡に済まぬ事ぢやと思つて居ました、真実に負惜みの強い方ですな』 鬼彦『ウラナイ教の奴は皆アンナ者だよ、向ふ意気の強い、負ず嫌ひばかりが寄つて居るから負た事や弱つた事は知らぬ奴だ、悪と云ふ事も知らず本当に片意地な教だ、負た事を知らぬものに勝負も無ければ、恥を知らぬものに恥はない、人間もああなれば強いものだ、否気楽なものだ、自分のする事は何事も皆善ときめてかかつて居るのだから身魂の立て直し様がありませぬ哩』 青彦『ヤア私も高姫の強情なには呆れて物が言はれませぬ、沓島で岩蓋をせられた時にも私は消え入る様な思ひがして、泣くにも泣かれず慄うて居ましたが、高姫は豪気なものです、反対に窮鼠却て猫を咬む様な談判をやるのですから呆れざるを得ぬぢやありませぬか、漸く田辺に着いたと思へば暗に紛れてドロンと消え失せ、間もなく月の光に発見されて鬼武彦に素首を掴まれ、提げられて長い道中を秋山彦の館まで連れ行かれ、苦しいの、苦しうないのつて、息が切れさうでしたよ、それでも減らず口を叩いて太平楽を並べると云ふ意地の悪い女だから、何処迄押し尻が強いか分つたものぢやない。如意宝珠の玉を大勢の目の前で平気の平左で自分の腹の中に呑み込みて仕舞ひ、終には煙の様に天井窓から逃出すと云ふ放れ業をやるのだから、化物だか、神様だか、魔だか、素性の知れぬ痴者だ、そして随分口先の達者な事と言つたら燕か雀の親方の様だ、人には交際つてみねば分らぬが、あの剛腹の態度と弁ちやらとに掛つたら、大抵の男女は十人が九人迄やられて仕舞ふ、本当に巧な者だ、其処へ又、も一つ弁舌の上手な黒姫と言ふのが始終後について居つて応援をするものだから、口八丁手八丁悪八丁と言ふ豪の者に作りあげて仕舞つたのだ。然しチヤンと此焼け跡に又もや新しい小屋が建つて居る、大方黒姫の奴、後追つかけて来よつて焼け跡に小屋を建てて隠れて居るのではあるまいか、何処までも執念深いのはウラナイ教の宣伝使だからな』 鬼虎『一つ調べてやりませうかい』 鬼彦『若し黒姫が居つたら貴様何うする、又舌の先でチヨロチヨロと舐られてグニヤグニヤとなりやせぬかな』 鬼虎『何、大丈夫だよ、鬼虎には鬼虎の虎の巻がある、俺の十一七番を御目に懸けてやるから悠りと見物をせい』 一同は路傍の恰好の石に腰掛けて休息し乍ら雑談に耽つて居る。鬼虎は七八間許り稍傾斜の道を下り衣懸の松の麓の藁小屋を外からソツと覗き、 鬼虎『ヤア、居るぞ居るぞ、婆が一匹、男が二匹だ、オイ婆ア、貴様は何だ、バラモン教か、ウラナイ教か、ウラル教か、返答致せ』 小屋の中より、 婆(黒姫)『エー、八釜しい哩、何処の穀潰しか知らぬが新宅の成功祝で、グツスリ酒を飲みて暖い夢を見て居た処だ、大きな声で目を覚まさしよつてチツト人情を知らぬかい。安眠妨害で告発するぞ』 鬼虎『ヤア、一寸洒落て居やがる、よう牛の様にツベコベと寝乍らねちねちと口を動かす奴だ、丸で高姫か黒姫みたいな餓鬼だ、改心せぬと又それ紅蓮の舌に舐められて、藁小屋は祝融子に見舞はれ全部烏有に帰し、頭の毛や着衣に火が延焼して一本橋から身を投げて寂滅為楽、十万億土の旅立をせにやならぬ様になるぞ』 小屋の中より、 婆(黒姫)『何処の奴か知らぬが俺は貴様の今言うた黒姫だよ、名は黒姫でも顔の色はそれ今其処らに降つてる雪の様に白い雪ン婆の様な心の綺麗なウラナイ教の宣伝使ぢや、此沢山な雫を掻き別けて寒い寒い山道をうろつく奴は余程ゆきつまつたしろ物と見える哩。今日らの日に彷徨ふ奴は家の無いもののする事ぢや、田螺でも蝸牛虫でも一つは家を持つて居る、家無しのド乞食奴が、何とか、彼とか言ひよつて人の処の家へ泊めて貰はうと思つても……さうは往かぬぞ、然し魚心あれば水心ありぢや、俺の言ふ事を聞くのなら泊めてやらぬ事は無いわ、それ程寒相に歯の根も合はぬ程、カツカツ慄ふよりも如何ぢや、俺の結構な話を聞いて暖い火にあたつて、味の良い濁酒でも鱈腹飲みた方がましだらう、世の中は馬鹿者が多いので此雪の降つてピユウピユウと顔の皮が剥ける様な風が吹くのに、下らぬ宣伝歌を涙交りに謡ひよつても誰が集まつて聞くものかい、後から後から此雪の様に冷かされる一方だ、一つ冷静に酒の燗ドツコイ考へて見たが宜からうぞ』 鬼虎『アハヽヽヽ、オイ鬼彦、一寸来い、大分に能うツベコベ吐す奴ぢや、高姫の二代目が居りよる哩。白姫とか赤姫とか吐す中年増の婆ぢや、一つ此奴を、真名井ケ岳に行く途中の先登として言向け和したら面白からうぞ』 鬼彦『ヤ、さうか、何でも婆の潜みて居さうな藁小屋ぢやと思つた。ドレドレ之から鬼彦が応援に出掛け様かい』 雪の中をザクザクと音させ乍ら小屋の側に寄り添ひソツと中を覗き、 鬼彦『ヤア、居る居る、此奴は何時やら見た事のある奴ぢや。随分八釜しい婆ぢやぞ、鈴の化物見た様な奴ぢや』 鬼虎『鈴か煤か知らぬが何でも黒い名のつくババイババイ婆宣伝使だ。オイ、婆ア、一つ貴様の得意の雄弁を振つて天下分け目の舌鋒戦でも開始したら如何だ、面白いぞ』 婆(黒姫)『オイ、音、勘、酒に喰ひ酔うて何時迄寝て居るのだ、外には貴様に合うたり叶うたりの荷担うたら棒が折れる様なヒヨツトコ男が来よつて、百舌鳥の様に囀つて居る、貴様一つ出て舌戦をやらぬかいナ』 音、勘『ムヽヽヽ、ムニヤムニヤムニヤ、アヽア、アー』(寝惚け声で) 婆(黒姫)『エー、じれつたい、欠伸許りして夜中の夢でも見てるのかい、もう午時ぢや、早く起きぬか』 音公『午時か猫時か知らぬが二人がグツスリと猫を釣つて、甘い物をドツサリ喰つた夢を見てる時に、アヽ偉い損をした、十七八の頗るのナイスが現はれて、細い白い柔かい手で目を細うして「音さま、一杯」と盃をさして呉れた最中に起されて、エーエ怪つ体の悪い、一生取り返しのならぬ大損害だ、生れてから見た事もない様なナイスにお給仕をして貰ふ時の心持と言つたら天国浄土に行つても、夢でなくては有りさうもない、アヽア、嬉しかつた嬉しかつた』 婆(黒姫)『オイ、音、何をお前は惚けて居るのだい、チツト確りしなさらぬか、戸を開けて外を見なさい、沢山の耄碌がやつて来て今此黒姫の舌鋒に刺されて、ウラナイ教に帰順せむとする準備の最中だ、サアサア勘公も起きたり起きたり』 婆はノソリノソリと小屋を立ち出で、 婆(黒姫)『ヤア誰かと思へば青彦も其処に居るのか、コレヤ、マア如何したのだ、何時の間に三五教に這入りよつたのだ、宣伝使の服が変つて居るぢやないか、サア早く脱ぎ捨ててウラナイ教の教服と更へるのだよ』 青彦『これはこれは黒姫先生、憚り乍ら今日の青彦は最早百日前の青彦とは趣が違つて居ますから、その積りで物を言つて貰ひませぬと、某聊か迷惑の至りだよ』 婆(黒姫)『オホヽヽヽ、猫の眼の玉の様に、能う変る灰猫野郎だな、そこに居る女宣伝使は此間来た悦子姫と言ふ破れ宣伝使だらう、ソンナ者に従いて歩いて何になるか、チツトお前も物の道理を考へて利害得失を弁へたが宜からうぞ、オホヽヽヽ』 勘公『皆さま、ソンナ処へ腰掛けて居らずに、トツトとお這入りなさいませ、内はホラホラ外はスウスウぢや、随分広い間がありますよ』 婆(黒姫)『コレヤ、勘公よ、能う勘考してものを言はぬかい、主人の黒姫にも応へずに僕の分際として勝手にお這入り下さいとはソレヤ何を言ふのか、アンナ者を一緒に入れたら丸で爆弾を詰めた様なものぢや、何処から破裂致すやら分つたものぢやないぞ』 勘公『爆弾でも何でも宜いぢやありませぬか、先方の爆弾をソツと此方へ占領して使ふのが妙案奇策、敵の糧を以て敵を制する六韜三略の兵法で御座る、アハヽヽヽ』 婆(黒姫)『お前の兵法は矢張屁の様な物だ、匂ひも無ければ音もこたへず、音公と同じ様な掴まへ所の無い人三化七ぢや』 音公『これこれ、黒姫のチヤアチヤアさま、音公の様な者とは、ソレヤ何を証拠に言ふのだ、チヤアチヤア吐すと量見せぬぞ、世界一目に見え透く竜宮の乙姫ぢやぞと、明けても暮れても口癖の様に自慢して居るが、現在足許に居る此音さまを誰だと思つて居るのか、明き盲目だな、三五教の宣伝使音彦司とは此方の事だぞ』 婆(黒姫)『音に名高い音彦の宣伝使と言ふのはお前の事か、オツト、ドツコイ、音に聞いた程も無い見劣りした腰抜け野郎だ、水の中でおとした屁の様な男(音公)だな、斯ンなガラクタ男が三五教の宣伝使だなぞと本当におとましい哩、生るる時に母親の腹の中で肝腎な、目に見えぬものをおとして来た様な間抜けた顔付をしよつて、宣伝使の何のつて、雪隠虫が聞いて呆れますぞえ、宣伝使ぢや無うて雪隠虫ぢやらう、オホヽヽヽ』 音彦『エー、仕方のない剛情な婆ばかりウラナイ教には寄つて居やがるな』 婆(黒姫)『きまつた事ぢや、お前も余つ程の馬鹿人足だな、今頃に瘧が落ちた様な顔しよつて、「剛情な奴ばかりウラナイ教は寄つて居やがるな」なぞとソンナ迂い気の利かぬ事でウラナイ教の間者に這入つたつて何が成功するものか、此黒姫は此奴一癖ある間抜けだと思つて、知らぬ顔で居れば良い気になりよつて何を言ふのだ、貴様の面を見い、世界一の大馬鹿者、三五教の腰抜け野郎と貴様の寝てる間に此黒姫司が墨黒々と書いて置いた、それも知らずに偉相に言ふな、鍋の尻の様な面になりよつて、お前も余つ程くろう好きぢやと見える、「心からとて吾郷離れ、知らぬ他国で苦労する」とはお前の様な馬鹿者の境遇を剔抉して余蘊なしだ、ホヽヽヽ、それに付けても青彦の奴、何の態ぢや、日蔭に育つた瓢箪の様な面をして結構なウラナイ教の神様に屁をかがしたか、かかさぬか、…………ド拍子の抜けたシヤツ面を此寒空に曝し、瑞の霊と言ふ冷たい名の付いた奴の教を有難相に聞きよつて、蒟蒻の化物の様にビリビリ慄ひ歩く地震の化物奴、チツと胸に手を当てて自身の心を考へて見よ』 青彦『大きに憚り様、何うせ青彦と黒姫は名からして色彩が違ふから反が合ませぬ哩。黒い黒い顔に石灰釜の鼬見たように、ドツサリと白粉をコテコテ塗りたて、丸で此処にある焼杭木に雪が積つた様なものだ。五十の尻を作りよつて白髪を染めたり、顔を塗つたりしたつて皺は隠れはせぬぞ、若い者の真似をして若相に見せ様と思つても雪隠の洪水で糞浮きぢや、汚いばかりぢや、良い加減に改心せぬかい』 婆(黒姫)『俺が顔に白粉をつけて居るのが何が可笑しい、何事も隅から隅まで前にも気をつけおしろいにも手を廻して抜目の無い教と言ふ印に白粉をつけて居るのだ、貴様は尾白い狐に魅まれよつてウロウロとうろついてるのだな、娑婆幽霊の死損なひ奴が』 青彦『娑婆幽霊の死損なひとは貴様の事だよ、人生は僅か五十年、五十の坂を越えよつて白粉をつけて俏した処で地獄の鬼は惚れては呉れはせぬぞ、三途川の鬼婆の姉妹と取り違へられて、冥土に行つても又大々的排斥をせらるるのは判を捺した様なものだ、本当に困つた婆だな、執着心の強い粘着の深い、着いたら離れぬと言ふ牛蝨の様な代物だ、如何ぞして結構な三五教に救うてやり度いと思つて居るのだが、もう斯うなりては駄目かな、耳は蛸になり目は木の節穴の様に硬化して仕舞ひ、口ばつかり無病健全と言ふ代物だから、如何しても見込みがつかぬ哩』 婆(黒姫)『エー、ツベコベと世迷ひ言を能う囀る男だ、初めには三五教が結構だと言つて涙を零し、洟まで垂らして有難がり、次には三五教は薩張り駄目だ、瑞の霊の不可解な行動が腑に落ちぬ、もうもう愛想がつきた、三五教のあの字を聞いても胸が悪いと言ひよつて、此黒姫の紹介でウラナイ教にヤツと拾ひ上げ、もう何うなり斯うなり一人歩きが出来る様になつたと思へば又もや変心病を出しよつて、「矢張りウラナイ教は駄目だ、先の嬶は嘘はつかぬ哩、三五教の御神力が強い」と、萍の様な心になつて、風が東から吹けば西に漂ひ、西から吹けば東の岸に漂着すると言ふ漂着者だ、ソンナ事で神様の御蔭が貰へるか、終始一貫、不変不動、岩をも射抜く梓弓、行きて帰らぬ強き信仰を以て神に仕ふるのが万物の霊長たる人間の意気だよ、能うフラフラと変る瓢六玉だ、アヽ可憐相な者だ、ヤア哀なものだなア、オホヽヽヽ』 青彦『何を言ひよるのだ、コラ黒姫、貴様だつて三五教は結構だ、広い世界にコンナ誠の教があらうかと言ひよつて、今迄信じて居たバラモン教を弊履を捨つるが如く念頭より放棄し、今又ウラナイ教の高姫の参謀になりよつたと思つて、偉相な事を言ふない。お猿の尻笑ひと言ふのは貴様の事ぢや、オヽそれそれ猿で思ひ出した、猿と言ふ奴はかく事の上手な奴ぢや、貴様は高姫の筆先だとか、何とか折れ釘の行列の様な、柿のへたの様なものを毎日、日にち写しよつて、それを唯一の武器と恃み、鬼の首を篦でかき切つた様な心持になつて、世界中の誠の信者の信仰をかき廻すと言ふ、さるとはさるとは困つた代物だよ、猿が餅搗くお亀がまぜると言ふ事がある、コラ猿婆貴様の舌端に火を吐いて言向け和した信者の持ち場を、青彦の宣伝使が之からかき廻すのだから、マアマア精出して活動するが良い哩、貴様は三五教の先走りだ、イヤ、もう御苦労のお役だ、霊魂の因縁に依つて悪の御用に廻されたと思へば寧ろお気の毒に堪へぬワイ、アヽ惟神霊幸倍坐世、叶はぬから霊幸倍坐世、アハヽヽヽ』 (大正一一・四・一六旧三・二〇北村隆光録) |
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59 (1702) |
霊界物語 | 17_辰_丹波物語2 丹波村/鬼ケ城山 | 14 空谷の足音 | 第一四章空谷の足音〔六二五〕 頃しも二月十五日東の空を輝かし 山の端出づる月影に三五教の宣伝使 色青彦の神司は夏彦常彦ともなひて 鬼ケ城山に立て籠る八岐大蛇の分霊 鬼熊別の一類を言向け和し皇神の 恵みの露に救はむと比沼の真名井を後にして 谷間の雪をみたけ山川を飛び越え山の尾わたり 立出でたまふ悦子姫音彦、加米彦三人が あとを尋ねて走り来る見渡す限り山と山 日は黄昏に近づきて塒たづぬる群烏 熊鷹、鳶、百鳥の各すみかへ帰り行く 時しもあれや忽然と吹き来る烈風に身を煽られて 青彦、夏彦、常彦は深き谿間に転落し 足をいためつ腰を打ち苦しみ悶ゆる折からに 遠音に聞ゆる宣伝歌木霊にひびきて三人が 鼓膜をかすめ送り来る。 青彦『アヽ大変な事であつたワイ。レコード破りの烈風に吹き散らされ、千仭の谷間に陥落し少々腰を打ち、暫くは目を眩して居たが、宣伝歌の声が耳に微にひびき、これでどうやら此方のものらしい気分がして来た。夏彦、常彦、お前はどうだ。何処も怪我は無かつたか』 夏彦『其処ら一面真暗がりになつて、大蛇の奴、大空から大きな舌を出し、中天にぶら下つた時の恐ろしさ、それから後はどう成つたか、一向覚えて居りませぬが、どうやら足を挫いたらしい。踵がキクキクと痛み出した。一体此処は何処でせうな』 青彦『此処は矢張三嶽山の谷底ぢや。オイ常彦、お前はどうぢや』 常彦『いや何うも斯うも有りませぬ哩、痛いと云つても、苦しいと云つても、コンナ非道い目にあふのなら、矢張黒姫の御用をきくのだつたに、丹波村で別れた時、黒姫の奴大きな目をむきよつて、嫌らしい笑ひ顔をして行きよつたが、その笑ひには確かに貴様等俺に叛くと、谷底へ落ちてエライ目に会ふぞよといふ、言はず語りの色が見えて居つた、アーアー膝節が抜けた様だ。ウラナイ教の大神様、誠に心得違ひを致しました。どうぞお赦し下さいませ』 青彦『アハヽヽヽ、よう精神の動揺する奴ぢやなア、貴様の信仰は、砂上の楼閣、風前の灯火同様だ』 夏彦『こいつは風前の灯火では無うて風後の変心ですよ。アハヽヽヽ。モシモシ青彦さま、三五教の宣伝歌が益々近寄つて来るぢやありませぬか。此方から一つ大きな声を出して合図をしたらどうでせう』 青彦『あれは確かに悦子姫さまの御一行らしい。コンナ谷底へ吹き飛ばされ、名自に怪我をしてみつともない。自分の怪我は自分が処置せなくては成るまい。卑怯未練にも人の救ひを求めるとは、男子の恥づ可き処だ。それよりも此方から声を尋ねて出かけたらどうだ』 常彦『出かけると云つた処で、膝が脱けて了ひ、コンパスの使用不可能と成つて居るのにどうして歩けませうか』 夏彦『馬鹿云ふな、俺だつて足は痛い、青彦さまだつて腰の骨を挫いて御座るのだ。コンナ処で弱音を吹いて耐るものかい。何事も精神で勝つのだ。七尺の男子が、身体の一箇所や二箇所怪我したと云つて、屁古垂れるといふ事が有るものか。蛙や蜥蜴を見い、身体の半分位切られても、平気でピヨコピヨコ飛ンで居るではないか。兎角人間は精神が第一ぢや、サアサア行かう』 常彦『ソンナ事云つたつて、動かぬぢやないか』 夏彦『俺の様な腰の曲つた中年寄が、足を怪我してもこれ丈けの元気だ。それに何だ。若い屈強盛りの身を以て、モウ動かぬの動けぬのと、弱い事を言ふない』 常彦『ハヽヽヽ、俺は天下無双の豪傑だ、信仰心は磐石の如く、チツトも動かぬ。誠生粋の日本魂だ。如何なる難局にブツカツても動揺しないと云ふ代物だからな』 夏彦『ヘン、口許り黒姫仕込みだけあつて、仰有います哩。貴様の信仰はガタガタ震ひの動揺震ひだが、動かぬのは親譲りの交通機関許りだらう。グズグズ吐すと邪魔臭いから、谷底にホツトイてやるぞ。サアサア青彦さま、此奴は矢張黒姫党だ。見捨てて参りませうか』 青彦『常彦さまの足の起つやうに、鎮魂を願ひませうか』 夏彦『イヤもう結構、コンナ奴に鎮魂して、足でも起つたが最後、又もや黒姫の処へ信仰逆転旅行と早変り、膺懲の為めに、御筆先通り、改心致さぬと谷底へ落すぞよ。落して行きませう』 常彦『アハヽヽヽ、嘘だ嘘だ、ドツコも鵜の毛で突いた程も怪我は無いのだよ。完全無欠ネツトプライスの完全体だ。大きに色々と御心配をかけました。サアサア参りませう、お二人のお方、私の後に跟いてうせやがれ』 夏彦『ヤイ常彦、俺に何程汚い言葉を使うても、友達の仲だから構はないが、ソンナ事を言うと、青彦さまに御無礼ぢやぞ。速かに宣り直さぬかい』 常彦『初めのは青彦さまに対して御叮嚀に申上げたのだ。跟いてうせやがれと言うたのは御註文通り貴様に言つたのだ。アハヽヽヽ』 夏彦『俺もお蔭で蚤が喰た程も怪我は無い。大きに御心配をかけました』 青彦『アヽ私も大丈夫だ。サアサア行かう』 常彦『モシモシ青彦さま、貴方最前、腰が抜けたと仰有つたぢや有りませぬか。あれは嘘でしたか。宣伝使たるものが、仮りにも嘘を吐いて良いのですか』 青彦『腰が抜けかけたと言うたのは、常彦さまの信仰の腰が抜けさうだと言つたのだよ。まかり違へばまたもやウラナイ教に逆転する処でしたね』 常彦『三五教に入信つてから、三嶽山の吹き放しを歩いて居つた時、大変な大風、脚下はヨロヨロ、両方は千仭の谷間、これやテツキリ三五教ぢやない、アブナイ教ぢやと思つて、怖々歩いて居ると、忽ち一陣の烈風に吹き捲られ、空中を幾回となく逆転して遂にこの谷底へ無事着陸、これ丈け逆転の修行をすれば、モウ此上は逆転も懲り懲りです。御安心して下さいませ』 夏彦『常彦の安心して呉れも可い加減なものだ。常平常から心の定らぬ奴で、狐の様に嘘許り言ふから、同僚間から、彼奴は狐彦だと言つて居るのを知らぬのか』 常彦『狐彦でも狸彦でも、お構ひ御無用、サアサア狐彦は山中は勝手をよく知つて居ります。狐の後から馬が来るのだよ』 青彦『アハヽヽヽ』 三人は月夜を幸ひ、四ツ這ひに成つて嶮しき山腹を駆け登る。こちらには悦子姫の一行、皎々たる満月を眺め、山上の岩に各腰打ち掛け、雑談に耽り居る。 音彦『今日の暴風といつたら何うだらう、真黒けの雲の中より、大蛇の奴、乙な芸当を演じやがる。風は吹いて吹いて吹き捲くる。イヤもう落花狼藉、修羅道の旅行のやうだつたね。加米彦が二百十日だなぞと、大風呂敷を拡げるものだから、アンナ事が突発したのでせう。何事も言霊の幸ふ世の中、言霊は慎まねばなりませぬなア』 悦子姫『さうですとも、言霊の天照る国、言霊の助くる国、言霊の生る国ですもの』 加米彦『ヤア悦子姫さま有難う。只今限り、悪の言霊に停電を命じます。どうぞ今日のところ見直して下さいませ。それについても青彦はどうして居るのだらう。三嶽山の登り口まで跟いて来よつたが、林の中へ小便にでも行くやうな顔をして、それきり姿を見せぬぢやありませぬか。大方丹波村のお節さまの処へでも往つたのぢや有るまいかなア。青彦は此の間、真名井ケ原の珍の宝座の前で、お節の顔を穴のあく程眺めて居た。さうしてお節さまは良い女だ、良い女だと、口癖のやうに執着心を発揮して居たから、大方今頃は、お節の膝を枕に、夜中の夢でも見て居るのでせう』 音彦『ナニ、ソンナ事が有るものか。深山の事だから、吾々一行の姿を見失ひ、迷うて居るのかも知れない。都合に依れば、吾々よりも先に行つて居るかも分らない。さう断定的判断を下すものぢやないよ』 加米彦『貧乏人の材木屋だ。ワルぎを廻すのだ。アハヽヽヽ。青彦の青瓢箪彦、実際何をして居るのだ。何だか知らぬが、俺は胸騒ぎがして、猿の小便ぢや無いが、きにかかつて仕方がない』 青彦、木の茂みより、 青彦『加米彦さま、ご心配有難う』 加米彦『ヤア、何ぢや、姿も無いのに声許り聞えてゐるぞ。ハヽア判つた、途中に於て鬼熊別の部下の奴等に、岩窟へ投り込まれ、散々にさいなまれて生命を奪られ、幽霊に成つて化けて来よつたのだ。杜鵑ぢやないが、声は聞けども姿は見えずぢや、エーイ、ケツタイの悪い夜だ。音彦さま、確りせぬと青彦が青い青い顔をして、ヒユードロドロとやつて来ますぜ』 音彦『加米彦、お前は随分元気な男ぢやが、死んだ者が何故そのやうに怖いのか。怖いものは此の世の中に人間許りだ。人間位怖い者は無いぞ。仮令幽霊が出たつて、人間の死んだのぢや無いか。マア気を落ち着けたらどうだ、何をビクビク震うて居るのだ』 木の中より夏彦の声、 夏彦『夏、夏、夏、夏彦の幽霊ぢや。青彦は青い火を灯して、谷の底で幽霊に化つて居るわいのう。加米さまが恋しいから、今お目にかかる。夏彦一足先へ行つて偵察をして来いと仰有つた。ヒユードロドロドロドロ』 と腰の屈みた夏彦は加米彦の前に髪をサンバラにし、妙な手真似をして現れた。加米彦は、 加米彦『キヤツ』 と一声腰を抜かし、 加米彦『ヤイヤイ、貴様は幽霊の乾児か。アヽもう仕方が無い。青彦に能う言うて呉れ、お目にかかつたも同然ぢや。御親切は有難いが、今では無事に暮して居る。黄泉へ行つたらもう仕方が無い。俺に執着心を起さずに、トツトと神界へ行けと伝言をして呉れ、何だ、お前の腰はよう曲つて居るぢやないか、幽霊のお爺さまだらう、サアサア、トツトと去ンだり去ンだり』 悦子姫『ホヽヽヽヽ』 紫姫『ホヽヽヽヽ』 加米彦『エーエー、イヤらしい声を出して、コンナ山の上で、おいて下さいな』 青彦この場にヌツと現はれ、 青彦『アハヽヽヽ、これはこれは悦子姫様、お待たせ致しました。ヤア音彦さま、加米彦さま、済まなかつた。見なれぬ御女中や沢山のお伴が居られますが、何れの方ですか。これはこれは初めてお目に懸ります。どうか御昵懇に願ひます』 加米彦『アハヽヽ、オイ青彦、貴様谷底へ風に吹き飛ばされて、蟄居して居よつたのだな、お節は何と言つた。加米さまに宜しう、どうぞ一時も早く鬼ケ城の魔神を言向け和し、優しい加米さまのお顔を拝まして下さいと、伝言をして居つただらう』 音彦『オイ加米彦、何うだ、俄に元気づいたぢやないか』 加米彦『あまり退屈なから、一つ臆病者の演劇をして、悦子姫さまなり、紫姫さまのお慰みに供したのだ。アハヽヽヽ』 一同声を揃へて笑ひこける。 青彦『悦子姫さま、音彦様にお願ひが御座います。どうぞ御聴き届け下さいませぬか』 悦子姫『これは又改まつたお言葉、お願ひとは何事で御座います』 青彦『ハイ、犬の子を二匹拾つて来ました』 音彦『其の犬は何処に居るのだ』 青彦は、 青彦『ハイ』 と言ひ乍ら、夏彦、常彦を指さし、 青彦『これで御座います』 夏彦『エイ、殺生な』 常彦『青サン、余り馬鹿にして貰ふまいかい。ソンナ事を云うと、お節の事を素破抜かうか』 青彦『ハヽヽヽ、お前達両人に対し只今より嵌口令を施く。暫く沈黙するのだよ』 加米彦『ワハヽヽヽヽ、何だか意味ありげな此の場の光景だ。ナニ、加米彦が許す。二匹の犬とやら、充分吠て吠て吠立てるのだよ』 青彦『エヽ喧しい。俺が口切りする迄、黙つて聞いて居らう。エヽ悦子姫さま、実はこの男二人は、ウラナイ教の黒姫が四天王と呼ばれたる、其中の二人で、夏彦、常彦と云ふ豪の者で御座います。さうした処が黒姫の内幕をすつかり看破し、三五教の教理の優秀なる事を、心の底より悟りまして、どうぞ入信させて呉れいと、犬つく這いになつて、低頭平身嘆願致しますので、物の哀れを知る吾々、さう無情に見捨ても成らず、貴方がたにお目玉を頂戴するかも知れぬと、恐る恐る此処まで連れて参りました。然し乍ら何時今の固い信仰がグラツイて、元の古巣へ尾を振つて去ぬかも知れませぬ、その段は保証出来ないので、イヌものと覚悟し、二匹の犬と申上げました』 加米彦『オイ青彦さま、言霊が悪いぞ、宣り直せ宣り直せ』 悦子姫『オホヽヽヽ』 音彦『直に真似をしよるなア、アハヽヽヽ、夜は追ひ追ひと更けて来ました。今から行けば途中に夜が明けますまいから、一同此処で悠くりと休息し、明日の黎明を待つて、鬼ケ城へ立向ふ事に致しませうか』 悦子姫『アヽそれが宣しからう。紫姫さま、妾の側でお休み下さい』 紫姫『有難う御座います』 と、一同は肱を枕に、月の光を浴びて、蓑を敷きゴロリと横たはる。忽ち聞ゆる鼾の声、無心の月は、一行の頭上をにこにこ笑ひ乍ら射照らし居る。 (大正一一・四・二三旧三・二七東尾吉雄録) |
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霊界物語 | 17_辰_丹波物語2 丹波村/鬼ケ城山 | 霊の礎(三) | 霊の礎(三) 一、高天原の天国に上るものは、地上にある時其身内に愛と信との天国を開設し置かなければ、死後に於て身外の天国を摂受することは不可能である。 一、人間として、其身内に天国を有し無かつたならば身外に在る天国は決して其人に流れ来るものでは無い。又之を摂受することが出来ぬものである。要するに人は現実界にある間に、自ら心身内に天国を造りおく必要がある。而して天国を自ら造り且つ開くのは、神を愛し神を信じ無限絶対と合一しておかねば成らぬ。人は何うしても、この無限絶対の一断片である以上は、何処までも無限絶対、無始無終の真神を信愛せなくては霊肉共に安静を保つことは出来ぬものである。 一、真神たる天之御中主の大神その霊徳の完備具足せるを天照皇大御神と称へ奉り、又撞の大御神と称へ奉る。而して火の御祖神(霊)を高皇産霊大神と称へ厳の御魂と申し奉り、水の御祖神(体)を神皇産霊大神と称へ瑞の御魂と申し奉る。 一、霊系の主宰神は厳の御魂に坐します国常立神、体系の主宰神は瑞の御魂と坐します豊国主尊と申し奉る。 一、以上の三神は其御活動に由りて種々の名義あれども、三位一体にして天之御中主の大神(大国常立命)御一柱に帰着するのである。 一、故に独一真神と称へ奉り、一神即ち多神にして多神即ち一神である。之を短縮して主と曰ふ。又厳の御魂は霊界人の主である。又瑞の御魂は現界人の心身内を守り治むる主である。 一、現界人にして心身内に天国を建てておかねば死後身外の天国を摂受することは到底不可能である。死後天国の歓喜を摂受し且つ現実界の歓喜生活を送らむと思ふものは、瑞の御魂の守りを受けねばならぬ。要するに生命の清水を汲み取り飢渇ける心霊を霑しておかねば成らぬのである。瑞の御魂の手を通し、口を通して示されたる言霊が即ち生命の清水である。霊界物語によつて人は心身共に歓喜に咽び、永遠の生命を保ち、死後の歓楽境を築き得るものである。 一、天帝即ち主は水火の息を呼吸して無限にその生命を保ち又宇宙万有の生命の源泉と成り玉ふ。 一、太陽又水火の息を呼吸して光温を万有に与ふ。されど太陽神の呼吸する大気は、太陰神の呼吸する大気ではない。又人間の呼吸する大気は、主及び日月の呼吸する大気では無い。故に万物の呼吸する大気も亦、夫れ夫れに違つて居る。凡て神の呼吸する大気は現体の呼吸する大気では無い。現実界と精霊界と凡ての事象の相違あるは、是にても明かである。併しながら現実界も精霊界も、外面より見れば殆んど相似して居るものである。何ンとなれば現実界の一切は精霊界の移写なるを以てである。 一、高天原の天国は主の神格に由りて所成せられて居る。故に全徳の人間の往く天国と、三徳二徳一徳の人間の往く天国とは各高下の区別がある。又主を見る人々に由つて主の神格に相違があるのである。 一、そして何人の眼にも同一に見えざるは主神の身に変異があるのでは無い。主を見る所の塵身又は霊身に、その徳の不同があつて、自身の情動に由りて其標準を定むるからである。 一、天国には霊身の善徳の如何に由つて高下大小種々の団体が開かれて居る。主を愛し主を信じて徳全きものは、最高天国に上り最歓喜の境に遊び、主の御姿も亦至真至美至善に映ずるのである。茲に於てか天国に種々の区別が現出し、主神の神格を見る眼に高下勝劣の区別が出来るのである。 一、又天国外に在る罪悪不信の徒に致つては主神を見れば苦悶に堪へず、且つ悪相に見え恐怖措く能はざるに致るのである。 一、主神が天国の各団体の中にその神姿を現はし給ふ時は、其御相は一個の天人に似させ玉ふ。されど主は他の諸多の天人とは天地の相違がある。主自らの御神格が其神身より全徳に由つて赫き玉ふからである。 一、一霊四魂即ち直霊、荒魂、和魂、奇魂、幸魂、以上の四魂には各自直霊と云ふ一霊が之を主宰して居る。この四魂全く善と愛と信とに善動し活用するを全徳と曰ふ。全徳の霊身及び塵身は直に天国の最高位地に上り、又三魂の善の活用するを三徳と云ひ第二の天国に進み、又二魂の善の活用するを二徳と云ひ第三の天国へ進み、又一魂の善の活用するを一徳又は一善と云ひ、最下級の天国へ到り得るものである。一徳一善の記すべき無きものは、草莽間に漂浪し、又は天の八衢に彷徨するものである。 一、之に反して悪の強きもの、不信不愛不徳の徒は、其罪業の軽重に応じて夫れ夫れの地獄へ堕し、罪相当の苦悶を受くるのである。 大正十一年十二月 |