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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 10 衝突 第一〇章衝突〔一〇九四〕 レーブ『初秋の風はザワザワと峰の尾上を吹きまくる 玉山峠の坂道を黄金姫を初めとし 清照姫の母娘連れ神素盞嗚大神の 御言畏み月の国ハルナの都に蟠まる 八岐の大蛇に憑かれたる大黒主の枉神を 言向和し天地の尊き神の御光に 救はむものと両人は険しき山川打渡り 雨にはそぼち荒風に吹かれながらもやうやうに 此処迄進み来りけり険しき坂の傍に スツクと立てる千引岩これ幸ひと立寄つて 母娘二人は腰をかけ息を休むる折もあれ 矢を射る如く峻坂を地響きさせつトントンと 下り来れる男ありよくよくすかし眺むれば 玉山峠の登り口思はず出会うた神司 レーブの姿と見るよりも母娘は声をはり上げて 手招きすれば立止まり行き過したる坂道を 再び登りて両人が側に近寄りシトシトと 流るる汗を押拭ひ貴方は母娘の神司 私はレーブで厶ります尊き神の引合はせ 思はぬ処で会ひました貴方に別れた其時は 酷いお方と心にてきつく怨んで居りました 一人の男は森林へ姿を隠し行衛をば 尋ぬる折しも河渡り向ふへ越えた釘彦の 手下の武士二騎三騎再び河を打渡り レーブの前に現はれて今居た母娘の巡礼は 蜈蚣の姫に小糸姫テツキリそれに違ひない 後追つかけて引捕へ大黒主の御前に 引連れ行かむと呶鳴る故ハツと当惑しながらも 早速の頓智此レーブそしらぬ顔の惚け面 馬の轡を引掴みこりやこりや待つた、こりや待つた 鬼熊別に仕へたる私はレーブの司ぞや 吾も汝等と同様に母娘二人の巡礼は 蜈蚣の姫の母娘ぞと疑ひながら近寄つて よくよく顔を調ぶれば似ても似つかぬ雪と墨 片目婆さまの皺苦茶に痘痕をあしらふ御面相 娘は如何にと眺むればこれ亦偉いドテ南瓜 下賤の姿の母娘づれ決して探ぬる人でない くだらぬことに骨を折り貴重な光陰潰すより 一時も早くカルマタの都に進み抜群の 功名手柄をしたがよい何ぢやかんぢやと口極め 罵り散らせば釘彦の手下の騎士は首肯いて 再び河を打渡り帰り行くこそ嬉しけれ つらつら思ひ廻らせば貴女が私を捨てたのは 深い仕組のありしこと前知の明なき此レーブ 今更の如感嘆し勢込んでスタスタと お後を慕ひ玉山の峠を越えて後を追ひ 此処に目出度く面会しこれほど嬉しい事はない あゝ願はくば両人よレーブの司を月の国 ハルナの都に伴ひて鬼熊別の館まで 進ませ給へ惟神神に誓ひて願ぎまつる 途中に如何なる枉神の現はれ来りて騒やるとも 神に任せし此レーブ命を的に投げ出して 無事に貴女の目的を達成せしめにやおきませぬ 何卒お供を許されよあゝ惟神々々 神の御前に祈ぎまつる』 と歌に代へて所感を述べ、ハルナの都まで随行を許されむ事を懇願した。黄金姫は言葉厳かに、 黄金姫『折角の其方の親切な願なれど吾々母娘は日の出別の神様の特命を受け、もとより供を許されなかつたのだから、今になつて何程お前が頼んでも連れて行く事は出来ない、さうだと云つて貴方を排斥するのではない程に、何卒悪くとらぬ様にしてお呉れ』 レーブ『さう仰せらるれば、たつてお頼み申すわけには参りませぬ。それなら私も是非が御座いませぬから単独行動をとり、貴女方母娘の前後を守つて参りませう』 清照『何卒吾々母娘の目に見えない範囲内で行つて下さいや。もしもお供をつれて行つたと云はれては吾々母娘の申訳が立ちませぬからな』 レーブ『左様なれば、たつて無理にはお願を申しませぬ。私は之より不離不即の態度を保ち、兎も角もハルナの都へ参ります、どうぞハルナの都へおいでになつたら私を一度御引見下さる様に御願を致しておきます。私も貴女様お二人の所在を尋ぬべく御主人様に命令を受けたもので厶いますから、貴方等の所在さへ分れば、それで宜いので厶います。それなら之から見え隠れにお供をしますから、こればかりはお含みを願ひます』 黄金『あゝ仕方がない。お前の勝手にしたが宜からう』 レーブ『はい、有難う』 と落涙に咽んでゐる。此時谷底より聞え来る法螺貝、陣太鼓、鐘の音、矢叫びの声、木谺を驚かして響き来る。 黄金姫、清照姫『素破こそ一大事、バラモン教の大黒主が部下の者ならむ。彼に捕まつては大変』 と母娘は岩の後に身を隠し、一隊の通過を待たむとした。レーブは勇み立ち、 レーブ『やあ、愈忠義の現はし時、もしもし御両人様、貴女は此岩影に身を忍びお待ち下さいませ。此軍隊をイソの館へ進ませてはなりませぬ。これより私が力限り戦つて敵を退却させて見ませう』 黄金『決して敵を傷つけてはなりませぬよ。善言美詞の言霊を以てお防ぎなさい。此細谷道、而も急坂、何程数多の敵が攻め上り来るとも、一度にドツとかかる事は出来まい。片端から言向和すが神慮に叶うたやり方、先づ其方が第一戦を試みたが宜からう。とても叶はぬと見てとつた時は此黄金姫が立ち代つて言霊戦を開いて見ようから』 レーブ『承知致しました。一卒これに拠れば万卒進むべからずと云ふ此難所、私一人で大丈夫です』 と武者振ひして勇み立つた。 かかる処へブウブウと先登に立つた武士は法螺貝を吹き陣容を整へ登り来る。旗指物、幾十となく風に翻り単縦陣を作りて進む其光景、恰も絵巻物を見る如くであつた。レーブは千引の岩の上に直立し、此光景を眺め敵軍の近づくのを今や遅しと待つてゐる。 先頭に立つた武士は急坂を上りつつ勇ましく軍歌を歌つてゐる。 『東西南の三方に青海ケ原を巡らせる 世界で一の月の国神の御稜威も明かに 照り輝きしバラモンの教の柱は畏くも 大黒主と現れましぬ此度イソの神館 神素盞嗚の枉神が手下の者共集まりて 朝な夕なに武を練りつ一挙に月へ攻め寄せて バラモン教の本城を覆へさむと企み居る 其曲業を前知して吾等が奉ずる神柱 大黒主は畏くも鬼春別を将となし ランチ将軍片彦の大武士を任け給ひ 悪魔の征途に上ります其神業に仕へ行く 吾等の身こそ楽しけれ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 三五教の本城を覆へさずにおくべきか 常世の国の自在天大国彦の御守り 愈深くましませば如何なる枉の猛ぶとも 鬼神を挫ぐ勇あるもなどか恐れむバラモンの 教に鍛へし此体刃向ふ敵はあらざらめ 進めよ進めいざ進め神素盞嗚の曲神の 手下の残らず亡ぶまで枉津の軍の失するまで』 と歌ひながら旗鼓堂々と進み来る物々しさ。 ランチ将軍の部下は早くもレーブの立てる岩の麓まで進んで来た。レーブは大音声を張り上げながら、 レーブ『ヤアヤア、吾こそはバラモン教の神司、鬼熊別が身内の者、只今大自在天のお告げにより汝等一行此処に来る事を前知し、今や遅しと待ち構へ居たり。汝も亦バラモンの部下に相違はない。云はば味方同士だ。案内するは本意なれども、汝等は今の軍歌によつて聞けば仁慈無限の神素盞嗚大神の館に押寄するものと聞えたり。かう聞く上は少しも猶予はならぬ。片端から神変不思議の言霊を発射して一人も残らず言向和し呉れむ。暫く待て』 と呼ばはつた。先頭に立つた武士はカルと云ふ一寸気の利いた小頭である。カルはレーブの此声を聞くより立ち止まり、 カル『ハテ、心得ぬ汝の言葉、汝バラモン教の神司でありながら、何を血迷うて左様な事を申すか。大方発狂致したのであらう。そこ退け、邪魔になるわい』 と進まむとするをレーブは早くも尖つた石を何時の間にか岩の上に幾十となく積み重ね、一歩たりとも前進せば、此岩を以て脳天より打挫かむと右手に岩をささげて睨めつけてゐる。カルは目を瞋らし、 カル『こりや、こりやレーブ、左様な石を捧げて如何致す心算だ。チツと危険ではないか』 レーブ『ハヽヽヽチツとも、やつとも危険だ。何程汝の味方は沢山押寄せ来るとも此一条の難路、一人も残らず討滅すに何の手間暇要るものか。一時も早くここを引き返せよ』 カルはレーブの顔を睨めつけ、互に無言のまま睨みあつて居ると、後の方より、 『進め進め』 と登り来る其勢にカルもやむなく後より押されて前進せむとする時、レーブは無法にも其岩をとつて一つ嚇かし呉れむと、敵に中らぬ様にと狙ひを定めて投げつくれば、岩はカツカツと音をたてて谷底へ転落して了つた。 カル『こりやこりや危ないわい。何を致すか』 レーブ『何も致さない。其方等を片端から殲殺しに致さねば俺の心が得心せぬのだ』 と云ひながら今度は両手に二つの石を引掴み、又もや登り来る敵に向つて投げつけむとする気色を示した。ランチ将軍は稍後の方より、 『進め進め』 と下知をする。已むを得ずしてカルは前進せむとするを、レーブは道の真中に立ちはだかり、第一着にカルの首筋を掴んで谷底目がけて投げつけた。又来る奴を引掴み十人ばかりも谷川目蒐けて投げつくる。かかる処へ遥か下の方より数多の軍卒を押し分けて登り来る大の男、忽ちレーブの前に現はれ、 若芽の春造『何者ならばわが行軍を妨害致すか。吾こそはランチ将軍の懐刀と聞えたる若芽の春造だ』 と云ひながらレーブの素首引掴み、谷川目がけてドスンとばかり投げ込んで了つた。此態を窺ひ見たる黄金姫、清照姫は、 黄金姫、清照姫『今は最早是までなり、天則違反かは知らね共、何とかして敵を追ひちらし、只一人も此峠を越えさせじ』 と腕に撚をかけ金剛杖を前後左右に打振り打振り、単縦陣を張つて登り来る敵に向つて打込めば、素破一大事とランチ将軍は弓に矢をつがえ、二人を目がけて発矢と射かけた。続いて数多の軍勢は弓を背より下し雨の如く二人に向つて射かける。其間を杖を以て避けながら獅子奮迅の勢を以て前後左右に母娘が荒れまはる。二人は遂に坂道より足踏み外し、谷底にヅデンドウと母娘一時に転落した。流石の黄金姫、清照姫は武術の心得あれば少しも体に負傷をなさず、谷底の真砂の上にヒラリと体を下し敵軍来れと手に唾して待つてゐる。ランチ将軍は母娘両人を逃すなと下知すれば、数多の軍卒は都合よき谷川の下り口を探し求めて、雲霞の如く二人を取囲み弓を頻りに射かけ出した。二人は進退惟谷まつて最早運命尽きたりと覚悟の臍をかたむる折しもあれ、谷底よりウーウーと狼の呻声聞ゆると共に、幾百とも知れぬ狼軍はランチ将軍に向つて牙を剥き目を瞋らして暴れ入る。其勢に辟易し、ランチ将軍を始め一同は玉山峠を雪崩の如くバラバラバツと逃げて行く。 黄金姫、清照姫は前後に心を配りながら、数十の狼に送られて玉山峠を宣伝歌を歌ひながら悠々として下り行く。谷口に到り見れば、ランチ将軍の部下は如何なりしか、影だにも見えずなつて居た。これは玉山峠を登れば余程の近道なれども、危険を恐れて道を東に向ひて進軍したものと見える。黄金姫、清照姫は無人の野を行く心地して悠々と進み行くのであつた。 (大正一一・一一・二旧九・一四北村隆光録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 11 三途館 第一一章三途館〔一〇九五〕 四面寂寥として虫の声もなく際限もなき枯野原を 形容し難き魔の風に吹かれながらに進み行く。 道の片方の真赤な血の流れたやうな方形の岩に腰打掛け、息を休めてゐる一人の男がある。そこへ『ホーイホーイ』と怪しき声を張上げながら、杖を力にトボトボと足許覚束なげにやつて来る七八人の男、何れの顔を見ても、皆土の如く青白く、頭に三角の霊衣を戴いてゐる。之は言はずと知れた幽界の旅をしてゐる亡者の一団であつた。先に腰打掛けて休んでゐたのは、玉山峠の谷底から、春造に投込まれて気絶したレーブである。後から来るのが、カルを始め七八人のバラモン教の家来であつた。カルは黄金姫に投込まれて気絶し[※第10章でカルは黄金姫ではなくレーブに投げ飛ばされたと記されている。]、其他の亡者は残らずレーブの為にやられた連中ばかりである。 カルはレーブの姿を見て、 カル『ヨー、お早う、お前も矢張こんな所へやつて来たのかなア、附合のいい男だな。死なば諸共死出三途、血の池地獄、針の山、八寒地獄も手を曳いて、十万億土へ参りませう。モウ斯うなつちや現界と違つて、幽界では名誉心も要らねば、財産の必要もない。従つて争ひも怨恨も不必要だ。只恨むらくは、生前にバラモン神様を信じてゐたお神徳で、至幸至楽の天国へやつて貰へるだらうと期待してゐたのが、ガラリと外れて、こんな淋しい枯野ケ原を渉つて行くだけが残念だが、これも仕方がない。サア、レーブさま、一緒に参りませう』 レーブ『ヤア皆さま、お揃ひだなア。カルさまは根つから俺に覚えがないが、はたの御連中は残らず俺が冥途の旅をさしてやつたやうなものだ。併し俺はまだ死んではゐないのだから、亡者扱ひは御免だ。千引の岩の上に於て激戦苦闘をつづけた英雄豪傑のレーブさまが、年の若いのに今頃死んで堪るかい。此レーブさまには生きたる神の御守護があるから、メツタに死んでる気遣はないのだ。お前達は甘いことをいつて、俺を冥途へ引張りに来よつたのだな。扨ても扨ても肚の悪い男だ、モウいいかげんに娑婆の妄執を晴らさないか。斯様な所へふみ迷うて来ると結構な天国へ行かれないぞ。南無カル頓生菩提、願はくば天国へ救はせ給へ。惟神霊幸倍坐世』 と手を合す。 カル『オイ、レーブ、貴様何呆けてゐるのだ。ここは娑婆ぢやないぞ。幽冥界の門口、枯野ケ原の真中だ。サア之から前進しよう。何れいろいろの鬼が出て来て、何とか彼とか難題を吹つかけるかも知れないが、それも自業自得だ、各自に心に覚えがあることだから何が出ても仕方がない。皆俺たちが心の中に造つた御親類筋の鬼に責められるのだから、諦めるより道はなからうぞ』 レーブ『ハヽヽヽヽ亡者の癖に、何を吐すのだ。気楽さうに、青、赤、黒の鬼が鉄棒を持つてやつて来たら、貴様それこそ肝玉を潰して、目を眩かし、二度目の幽界旅行をやらねばならなくなるぞ。此レーブさまは何と云つても死んだ覚えはない』 カル『マアどうでも可いワ。行くとこ迄行つてみれば、死んでゐるか生きてるか、能く分るのだからなア』 斯く話す折しも、枯草の中から忽然として現はれた、仁王の荒削りみたやうな、真赤の角を生した裸鬼、虎の皮の褌をグツと締め、蒼白い牡牛のやうな角、額から二本突き出しながら、 鬼『オイ亡者共』 と大喝一声した。レーブは初めて、自分が冥途へ来てゐるのだなア……と合点した。されど自分は誠の神様のお道を伝ふる真最中に死んだのだから、決して斯様な鬼に迫害されたり虐げらるるものではない。善言美詞の言霊さへ使へば即座に消滅するものだと固く信じて、外の亡者のやうに左程に驚きもせず、平然として鬼共の顔を打眺めてゐた。鬼はレーブ、カルの二人に一寸会釈して、比較的優しい顔で、 鬼『エー御両人様、貴方等は之から私が御案内しますから、三途の川の岸まで来て下さい。外の奴等は……オイ黒赤両鬼に従つて、此処を右に取つて行くがよからう。サア行けツ』 と疣々だらけの鉄棒を持つて追つかける様にする、八人の亡者はシホシホと赤黒の鬼に引かれて茫々たる枯野ケ原の彼方に消え去つた。 青鬼はレーブ、カルを送つて、漸くに水音淙々と鳴り響いてゐる広き川辺に到着した。川辺には何とも知れぬ綺麗な黄金造りの小ざつぱりとした一軒家が立つてゐる。青鬼は鉄門をガラリとあけ、中に這入つて、 青鬼『只今、娑婆の亡者を二人送つて来ました。どうぞ受取り下さいませ』 と叮嚀に挨拶してゐる。レーブ、カルは互に顔を見合せ、小声で、 レーブ『オイ、コリヤ怪体な事になつて来たぢやないか。此大川を渡れといはれたら、それこそ大変だぞ。今鬼が……二人の亡者を送つて来ました、受取つて下さい………なんて言つてるぢやないか。一寸見ても強さうな小面憎い鬼が、あれ丈叮嚀に挨拶してるのだから、余程強い大鬼が此処に居るに違ひないぞ。今の間に元の道へ逃げ出さうかなア』 カル『逃げ出すと云つたつて、地理も分らず、何一つ障碍物がない此枯野原、直に見つかつて了ふワ。それよりも神妙にして甘く交渉を遂げ、よい所へやつて貰ふ方が何程得かも知れないぞ』 かく話す時しも、青鬼は二人に向ひ、叮嚀に頭をピヨコピヨコ下げて、 青鬼『私は之からお暇を申します。館の主人さまに何も彼も一伍一什申上げておきましたから、どうぞ御勝手に入つて、悠くりお話をなさいませ』 と云ひながら大股にまたげて、鉄棒を軽さうに打振り打振り元来た道へ引返すのであつた。 後に二人は怪訝な顔しながら、 レーブ『オイ、如何やら此処は三途の川らしいぞ、何と妙な川ぢやないか。三段に波が別れて流れてゐる。まるで縦に流れてゐるのか、横に流れてゐるのか見当が取れぬやうな川だのう』 カル『オイ、そんな川所かい、此館はキツと三途川原の鬼婆の番所かも分らぬぞ。ここで俺達はサツパリ着物を剥がれて了ふのだ。さうすればこれから前途は追々冬空に向くのに赤裸になつて、八寒地獄に旅立といふ悲劇の幕がおりるかも知れぬぞ。困つたことが出来たものだなア』 かく話す所へ館の戸を押開いて現はれて来たのは十二三才の美しい娘であつた。 レーブ『ヤア偉い見当違をしてゐたワイ。三途の川の脱衣婆アといへば、エグつたらしい顔をした、人でも喰ひさうな餓鬼が控へてゐるかと思へば、まだ十二三才の肩揚の取れぬ少女が而も二人、優しい顔して出て来るぢやないか。矢張現界とは凡てのことが逆様だといふから、現界の所謂小娘が幽界の婆アかも知れぬぞ。娘と云つたら幽界では婆アのことだらう。婆アと云つたら幽界では少女のことだらう。娘と云つたら……』 カル『コリヤコリヤ同んなじことばかり、何をグヅグヅ言つてるのだい。娘が聞いたら態が悪いぞ』 レーブ『余りの不思議で、ツイあんな事が言へたのだ』 二人の少女は叮嚀に手をつかへ、 少女『あなたはレーブさまにカルさまで厶いますか。サアどうぞお姫さまが最前からお待兼で厶います。お弁当の用意もして厶いますから、どうぞトツクリとお休みの上お食り下さいませ』 レーブ『イヤア、洒落てけつかるワイ、さうすると矢張ここは現界だな。此風景のよい川端でどこの奴か知らねども沢山のおチヨボをおきやがつて、茶代をねだつたり御馳走を拵へて高く代価を請求し、剥取りをしやがるのだな。オイ気を付けぬと着物位ならいいが、魂まで女に抜取られて了ふかも知れぬぞ。鬼婆よりも何よりも恐ろしいのは美しい女だからなア』 少女『モシモシお客さま、そんな心配は要りませぬ、どうぞ早くお入り下さいませ』 カル『ヤツパリ夢だつたかいな。ネツからとんと合点がゆかぬやうになつて来たワイ。どこともなしに娑婆臭くなつて来たぞ』 レーブ『それだから、貴様が亡者気分になつてゐやがつた時から、俺はキツト死んでゐるのぢやないと言つただらう。兎も角警戒して女に魂を抜かれぬやうに入つて見ようかい。併し此家を見るだけでも大変値打があるぞ。屋根も瓦も壁もどこも黄金造りぢやないか。こんな所に居るナイスはキツト世間離れのした高尚な優美な頗る……に違ひない』 といひながら少女に引かれて二人は閾を跨げた。外から見れば金光燦爛たる此館、中へ入つてみれば、荒壁が落ちて骨を剥きだし、まるで乞食小屋のやうである。そして其むさ苦しいこと、異様の臭気がすること、お話にならぬ。二人は案に相違し、思はず知らず、 カル、レーブ『ヤア此奴ア堪らぬ、エライ化家だなア。こんな所にゐやがる奴ア、どうで碌なものぢやあるまいぞ。オイ気を付けぬと虱が足へ這上るぞ、エーエ気分の悪いことだ』 と口々に咳いてゐる。破れた襖障子をパツとあけて奥からやつて来たのは、こはそもいかに、汚い座敷に似合はぬ、立派な衣裳を着した妙齢の美人、襠姿の儘、破れた畳の上を惜気もなく引きずりながら、現はれ来り、 女『あゝ、これはこれはお二人様、待つて居りました。大変早うお越しで厶いましたなア。奥に御馳走が拵へてありますから、一つ召上つて下さい』 と打解けた言ひぶりである。レーブは合点ゆかず、家の中をキヨロキヨロ見上げ見下し、隅々迄も見廻しながら、 レーブ『何と隅から隅迄完全無欠なムサ苦しい家だなア、何程山海の珍味でも、此光景を眺めては、喉へは通りませぬワイ。コレコレお女中、一体此処は何といふ所ですか』 女『ここは冥途の三途の川といふ所で厶いますよ』 レーブ『さうすると矢張私は亡者になつたのかいなア』 女『ホヽヽヽヽ亡者といへば亡者、生きてゐるといへば少し息が通うてゐる。三十万年後の二十世紀の人間の様な者だ。半死半せう泥棒とはお前さまのことですよ。私は三途川の有名な鬼婆で、辞職の出来ぬ終身官だよ。ホツホヽヽ』 レーブ『オイオイ馬鹿にすない、そんな鬼婆があつてたまるかい、年は二八か二九からぬ、花の顔容月の眉、珂雪の白歯、玲瓏玉の如き其肌の具合、如何して之が鬼婆と思へるものか、あんまり揶揄ふものではありませぬぞ、お前さまは丁度二十一世紀のハイカラ女の様なことを言ふぢやないか。こんな娘が婆アとはどこで算用が違うたのだらうなア』 女『ホヽヽ訳の分らぬ男だこと、百年目に二三年づつ人の寿命が縮まつてゆくのだから、二十一世紀の末になると、十七八才になれば大変な古婆だよ。モ三歳になると夫婦の道を悟るやうになるのだから……お前さまも余程頭が古いね』 カル『さうすると、ここは二十一世紀の幽界の三途の川だな』 女『三途の川は何万年経つても、決して変るものではない。此婆アだつて、何時迄も年も老らず、いはば三途の川のコゲつきだ。サア早く奥へ来て、饂飩でも喰べたがよからうぞや。大分に玉山峠で活動して腹がすいてゐるだらう』 レーブ『それなら兎も角も奥へ通して貰はう。オイ、カル、俺一人では何だか気分が悪い、貴様もついて来い』 カル『ヨシヨシ従いて行かう、此女はバの字とケの字に違ひないから油断をすな。そして一歩々々探り探りにゆかぬと、陥穽でも拵へてあつたら大変だぞ。亡者でも矢張命が惜しいからなア』 と云ひながら美人の後に従いて行く。奥の間かと思へば草莽々と生えきつた川の堤であつた。其向方を三途の川が滔々とウネリを立てて白い泡を所々に吐きながら悠々と流れてゐる。 レーブ『コレコレ婆アさまとやら、お前の所の奥の間といふのは、こんな野つ原か。矢張冥途といふ所は娑婆とは趣が違ふものだなア。娘を婆と云つたり、野原を奥と言つたり、サツパリ裏表だ。なア、カル公、ますます怪しくなつたぢやないか』 女『ここはお前さまの仰有る通り野ツ原だ、奥の間といふのは次の家だ。此向方に立派な奥の間が建つてゐるから、そこへ案内を致しませう』 レーブ『又外から見れば、金殿玉楼、中へ入つて見れば乞食小屋といふやうなお館へ御案内下さるのですかなア。イヤもうこれで結構で厶います』 カル『何で又これ丈外に金をかけて、立派な家を建てながら、中はこんなにムサ苦しいのだらう。なアお婆アさま、コラ一体何か意味があるだらうな』 女『ここは三途の川の現界部だから、こんな家が建ててあるのだ。現界の奴は表面計り立派にして、人の目に見えぬ所は皆こんなものだ。口先は立派なことを言ふが、心の中は丁度此家の中見るやうなものですよ。私だつて斯んなナイスに粉飾してるが、此家と同様で肝腎要の腹の中は本当に汚いものだよ。お前さまもバラモン教だとか、三五教だとかのレツテルを被つて、宣伝だとか万伝だとか言つて歩いてゐただらう、腐つた肉に宣伝使服を着けて糞や小便をそこら中持ち歩いて、神様をだしに、物の分らぬ婆嬶に随喜渇仰の涙をこぼさしてゐたのだらう。私も此着物を一つ剥いたら、二目と見られぬ鬼婆アだよ。白粉を塗り口紅をさし白髪に黒ンボを塗り、身体中に蝋の油をすり込んで、こんなよい肉付にみせてゐるが、一遍少し熱い湯の中へでも這入らうものなら見られた態ぢやない。サア是から本当の家の中へ伴れて行つてあげよう。イヤ奥の間へつれて行きませう』 レーブ『何と合点のいかぬことをいふ娘婆アさまぢやなア。何だか気味が悪くなつて来た。斯う言はれると自分等の腹の中を浄玻璃の鏡で照らされたやうな気分になつて来たワイ。のうカル公』 カル『さうだな、丸切り現代の貴勝族の生活の様だなア。外から見れば刹帝利か浄行か何か貴い方が住んでゐるお館のやうだが、中へ這入つてみると、毘舎よりも首陀よりも幾層倍劣つた旃陀羅の住家の様だのう』 女『せんだら万だら言はずと早く此方アへ来なされよ。サア此処が神界の人の住む館だ、かういふ家に住居をするやうにならぬとあきませぬぞや』 レーブ『どこに家があるのだい、野原計りぢやないか。向ふには川が滔々と流れてる計りで、家らしいものは一つもないぢやないか』 カル『オイ、レーブ、貴様余程悟りの悪い奴ぢやなア。神界の家といつたら娑婆のやうな木や石や竹で畳んだ家ぢやない、際限もなき此宇宙間を称して神界の家と云ふのだ』 レーブ『こんな家に住んで居つたら、それでも雨露を凌ぐ事が出来ぬぢやないか。神界の家といふのは所謂乞食の家だな。何がそんな家が結構だい。貴様こそ訳の分らぬことを言ふぢやないか』 女『コレコレお二人さま、何をグヅグヅいつてらつしやるのだ、此家が見えませぬか。水晶の屋根、水晶の柱、何もかも一切万事、器具の端に至る迄水晶で拵へてあるのだから、お前さまの曇つた眼力では見えませうまい。私の体だつて神界へ這入れば、これ此通り、見えますまいがな』 と俄に透き通つて了つた。 レーブ『目は開いてゐるが家の所在が一寸も分らぬ、これでは盲も同然だ。何程結構でも家の分らぬやうな所へやつて来て、水晶の柱へでもブツカツたら、大変だから、ヤツパリ俺は、最前の現界の家の方が何程よいか分らぬわ。コレコレ娘婆アさま、どこへ行つたのだい。お前の姿丈なつと見せてくれないか』 耳のはたに女の声、 女『ホヽヽ何とまア不自由な明盲だこと、モ少し霊を水晶に研きなさい。そしたら此立派な水晶の館が明瞭と見えます』 レーブ『どうしても見えないから、一つ手を引いて案内して下さいな』 女『それなら案内して上げませう』 と言ひながら、水晶の表戸をガラガラガラと音をさせて開けた。 カル、レーブ『ヤア顔は見えぬが、確に戸のあいた音だ』 といひながら二人は手をつなぎ、レーブは女に手を引かれて、水晶の館に這入つて了つた。 レーブ『何だ家の内か家の外か、ヤツパリ見当が取れぬぢやないか。アイタタ、とうとう頭をうつた、ヤツパリ家の内と見えるワイ、コレコレ娘婆アさま、こんな所に居るのはモウ嫌だ。モ一遍手を引張つて出して下さいな』 女『お前さま等二人勝手に出なさい。這入つたものが出られぬといふ筈がない』 カル『何とマア意地の悪い女だなア。そんなことを言はずに一寸の手間ぢやないか、出口を教へて下さいな』 女『お前さまの身魂さへ研けたら、出口は明瞭分りますよ。自然に霊の研ける迄、千年でも万年でもここに坐つてゐなさい、こんな綺麗な所はありませぬからなア』 レーブ『余り汚い霊が水晶の館へ入つたものだから、とうとう神徳敗けをしてしまつて、出口が分らなくなつて了つた。エヽ構ふこたない、盲でさへ一人道中をする世の中だ。頭を打たぬ様に手で空をかきながら、出られる所へ出ようぢやないか』 カル『さうだな、なんぼ広い家だつて、さう大きうはあるまい。小口から撫で廻したら出口はあるだらう。本当に盲よりひどいぢやないか。外が見えて居りながら出られぬとは、何うした因果なことだらう。コラ大方あの娘婆アの計略にかかつてこんな所へ入れられたのかも知れぬぞ……ヤア同じ女が沢山に映り出した。ハハア此奴ア鏡で作つた家だ、一つの影が彼方へ反射し、此方へ反射し、沢山に見え出しよつたのだ。ヨーヨー俺達の姿も四方八方に映つてるぢやないか、此奴ア閉口だ。コレ娘婆アさま、そんな意地の悪いことを言はずに出して下さいな』 女『ホヽヽ娑婆亡者とはお前のことだ。それならモウ好い加減に出して上げませう、折角の水晶の館が汚れて曇つて了ふと、あとの掃除に此婆アも困るから』 と云ひながら、二人の手をつないで、外へ出した手を引張つてくれた感覚はするが、声が聞えるばかりで、少しも姿は見えなかつた。 女『サア此処が外だ。モウ安心しなさい』 レーブ『ヤア有難う、おかげで助かりました。ヤアお婆アさま、そこに居つたのか』 女『サア之から幽界の館を案内しませう、私について来るのだよ』 レーブ『神界現界の立派なお家を拝見したのだから、幽界も矢張序に見せて貰はうか。のうカル公』 カル『定つた事だ。ここ迄やつて来て幽界丈見なくては帰んで嬶アに土産がないワイ』 女『ホヽヽお前さま達、帰なうと云つても、モウ斯う冥途へ来た上は、メツタに帰ることが出来ませぬぞや、ここは三途の川の渡場だ。それ、ここに汚い藁小屋がある、これが幽界のお館だ』 と言ひながら俄に白髪の婆アになつて了つた。 レーブ『ヤア、カル公、あの娘は本当の婆アになりよつたぞ。いやらしい顔をしてゐるぢやねえか』 婆『いやらしいのは当然だ。亡者の皮を剥ぐ脱衣婆アだから、サアこれからお前さまの衣をはがすのだ』 カル『エヽ洒落ない、なんだ此小つぽけな雪隠小屋のやうな家を見つけやがつて、モウ俺は止めた。矢張現界の家の方へ行つて休まう』 と踵を返さうとすれば、婆アはグツと両の手で二人の首筋を掴んだ。二人はゾツとして、 カル、レーブ『オイ婆アさま、離した離した、こらへてくれ、こらへてくれ』 婆『何と云つても離さない。ここは幽界の関所だから、お前を赤裸にして、地獄へ追ひやらねばならぬのだ。此三途の川には神界へ行く途と、現界へ行く途と、幽界へ行く途と三筋あるから、それで三途の川といふのだよ。伊弉諾尊様が黄泉国からお帰りなさつた時御禊をなさつたのも此川だよ。上つ瀬は瀬強し、下つ瀬は瀬弱し、中つ瀬に下り立ちて、水底に打ちかづきて御禊し給ひし時に生りませる神の名は大事忍男神といふことがある。それあの通り、川の瀬が三段になつてるだろ。真中を渡る霊は神界へ行くなり、あの下の緩い瀬を渡る代物は幽界へ行くなり、上の烈しい瀬を渡る者は現界に行くのだ。三途の川とも天の安河とも称へるのだから、お前の霊の善悪を検める関所だ。サアお前はどこを通る心算だ。真中の瀬はあゝ見えてゐても余程深いぞ。グヅグヅしてると、沈没して了ふなり、下の瀬の緩い瀬を渡れば渡りよいが其代りに幽界へ行かねばならず、どちらへ行くかな。モ一度娑婆へ行きたくば上つ瀬を渡つたがよからうぞや』 レーブ『何程瀬が緩いと云つても幽界の地獄へ行くのは御免だ。折角ここまでやつて来て現界へ後戻りするのも気が利かない。三五教に退却の二字はないのだから……併しカルの奴、マ一度現界へ帰りたくば婆アさまの言ふ通り、あの瀬をバサンバサンと渡つてみい。俺はどうしても神界行だ、虎穴に入らずんば虎児を得ずといふから、一つ運を天に任し、俺は神界旅行に決めた。時に途中で別れた連中はどこへ行つたのだらうか、婆アさま、お前知つてるだらうな』 婆『あいつかい、あいつは一途の川を渡つて、八万地獄へ真逆様に落ちよつたのだよ』 カル『一途の川とは今聞き始めだ。どうしてマア彼奴等はそんな所へ連れて行かれよつたのだらう』 婆『一途の川といふのは、善一途を立てたものか、悪一途を立てた者の通る川だ。善一途の者はすぐに都率天まで上るなり、悪一途の奴は渡しを渡るが最後八万地獄に落ちる代物だ、本当に可哀相なものだよ。カルの部下となつてゐたあの八人は今頃はエライ制敗を受けてるだらう。それを思へば此婆アも可哀相でも気の毒でも何でもないわい。オホヽヽヽ』 カル『コリヤ鬼婆、俺の部下がそんな所へ行つているのに、何だ気味がよささうに、其笑ひ態は…貴様こそよい悪垂婆だ。何故一途の川をこんな婆が渡らぬのだらうかな、のうレーブ』 婆『何れ幽界の関所を守るやうな婆に慈悲ぢやの情ぢやの同情などあつて堪るかい、悪人だから三途の川の渡守をしてゐるのだ。善人が来れば直に最前のやうな娘になり、現界の奴が来れば上皮だけ綺麗な中面の汚い娘に化ける。悪人が来ればこんな恐ろしい婆になるのだ。約りここへ来る奴の心次第に化ける婆アだよ』 レーブ『それなら俺はまだ一途の川へ鬼が引張つて行きよらなんだ丈、どつかに見込があるのだな。ヨシヨシそれなら一つ奮発して神界旅行と出かけよう。オイ、カル、貴様も俺について中つ瀬を渡れ』 カル『ヨシ、どこ迄もお前とならば道伴れにならう』 両人『イヤお婆アさま、大変なお邪魔を致しました。御縁があつたら又お目にかかりませう、左様なら、まめで、御無事で、御達者で……ないやうに、早くくたばりなされ、オホヽヽヽ』 婆『コリヤ貴様は霊界へ来てまで不心得な、悪垂口を叩くか、神界へ行くと云つても、やらしはせぬぞ』 と茨の杖を振り上げて追つかけ来る其凄じさ。二人はザンブと計り中つ瀬に飛込み、一生懸命抜手を切つて、あなたの岸に漸く泳ぎついた。 (大正一一・一一・二旧九・一四松村真澄録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 12 心の反映 第一二章心の反映〔一〇九六〕 秋風切りに吹きすさぶ玉山峠の谷間で バラモン教の大棟梁イソの館の征討に 上りしランチ将軍の部下に仕へしカル司 鬼熊別の家の子と仕へて名高きレーブ等と 衡突したる其結果互に谷間に墜落し 人事不省に陥りていつとはなしに幽界の 枯野ケ原を歩みつつ野中の巌に休む折 カルの部下なる八人は赤黒二人の鬼共に 引つ立てられて枯草の莽々茂る野原をば 一途の川を指して行くレーブとカルの両人は 青き鬼奴に誘はれ三途の川の渡場に 漸く辿り来て見れば果しも知らぬ広い川 清き流れは滔々と白き泡をば吐きながら 大蛇のうねる如くなり川の畔の一つ家は 金光きらめく玉楼の眼まばゆきばかりなり 金門をあけて青鬼は館の中に身を隠し 二人の男をやうやうとここ迄誘ひ参りしぞ 受取りめされと云ふ声の聞えて暫し経つ間に 以前の鬼は会釈して何処ともなしに消えにける 二人は川辺に佇みて思はぬ美しき此家は 土地に似合はぬ不思議さと囁く折しも金鈴を 振るよな清き女声早く来れと呼びかくる 不思議の眼をみはりつつ近づき見れば鬼婆と 思うた事は間違か花も恥らふ優姿 年は二八か二九からぬ神妙無比の光美人 いとニコニコと笑ひ居る二人は驚き川端の 女と暫し掛合ひつ一間を奥へと入りみれば 奥の一間は草野原三途の川の滔々と 以前の如く鳴りゐたり水晶館に導かれ 鏡の如く透きとほる館の中で出口をば 失ひ互に辟易し千言万語を並べつつ 救ひを乞へば川端の美人は二人の手を取つて 醜けき小屋の其前に立ちあらはれて言ひけらく 今迄汝の立入りし家屋は娑婆と神界の 住居の姿の模型ぞや此茅屋は鬼婆の 弥永久に鎮まりて娑婆にて重き罪かさね 十万億土の旅立を致す亡者の皮を剥ぐ 脱衣婆さまの関所ぞといふより早く忽ちに 娘は醜き婆となり痩せからびたる手を伸べて 二人の素ツ首引つ掴む其いやらしさ冷たさに 三途の川の中つ瀬に身を躍らして両人は ザンブとばかり飛び込んで抜手を切つて向ふ岸 やうやう渡り着きにけり。 二人は着衣の儘、際限もなき広い川を、意外にも易々と無事に渡つたのを、非常な大手柄をしたよな気分になり、爽快の念に堪へられず、川の面を眺めて、紺青の波を見入つてゐた。 レーブ『鬼婆アさまに首筋を掴まれ、生命カラガラ此川へ飛込んだものの、これだけ広い川、到底無事には渡れまいと真中程で思うたが、此激流にも似合はず、弓の矢が通つたやうに、一直線に易々と、而も匆急に渡られたのは何とも知れぬ不思議ぢやないか』 カル『そこが現界と神界との異る点だ。ヤアあれを見よ。何時の間にか川はどつかへ沈没して了ひ、美はしい花が百花爛漫と咲き匂うてるぢやないか。アヽ何とも知れぬ芳香が鼻をついて来る。あれ見よ。川ぢやないぞ。エデンの花園みたいだ』 レーブ『ヤアほんにほんに、何とマア不思議な事ぢやないか。ようよう白梅の花が大きな木の枝に所々に咲いてゐる。バラの花に牡丹の花、紫雲英に白連華其外いろいろの草花が所せき迄咲いて来た。ヤツパリ天国の様子は違つたものだ。モウこんな所へ来た以上は虚偽ばかりの生活をつづけてゐる現界へは、万劫末代帰りたくないワイ。なあカル公、お前と俺とは、少しばかりの意地から、忠義だとか義務だとかいつて主人の為に互に鎬を削り、名誉を誇らうと思つて、猟師にケシをかけられた尨犬の様にいがみ合ひ、恨も何もない者同士が、命の取りやりをやつてゐたが、竜虎互に勢全からず、とうとう玉山峠の谷底で寂滅為楽急転直下、神界の旅立となつたのだ。が之を思へば現界の奴位可哀相な者はないのう』 カル『併し乍ら、お前と俺と偽善の行り比べをやつたおかげに、互に娑婆の苦を逃れ、こんな天国浄土へ来られるやうになつたのだから、何が御都合になるとも分らぬぢやないか。昨日の敵は今日の味方、虎狼の唸り声も極楽の花園を渡る花の薫風となりにけりだ。モウ斯うして神界へ来た以上は、名位寿福の必要もなければ互に争ふ余地もない。勝手に広大無辺な花園を逍遥し、自由自在に木の実を取つて食ひ、一切の系累を捨てて単身天国の旅をするのだから、これ位愉快な事はないぢやないか。併し乍ら善因善果、悪因悪果といふからは、斯様な所へ来られる様になるのは余程現界に於て善を尽したものでなければならぬ筈だ。俺達の過去を追懐すれば、決してかやうな所へやつて来られる道理はない。ヒヨツとしたら、神様が人違を遊ばしたか、感違をなさつたかも知れぬぞ。モシそんな事であつたなら、俺達は大変だ。此美はしき楽しき境遇が忽ち一変して、至醜至苦の地獄道へ落されるかも知れない。之を思へばヤツパリ執着心が起つて来る。何程執着心をとれと云つても、此天国に執着が残らいでたまらうか。あゝ惟神霊幸倍坐世。どうぞ神様、夢でも構ひませぬから、どこ迄も此境地において下さいますやうに』 と手を合して一生懸命に天地を拝んでゐる。何時の間にか、二人の立つてゐた地面は二十間ばかり持上り、左右の低い所に坦々たる大道が通じて、種々雑多の人物や禽獣が右往左往に往来してゐるのが見えて来た。 レーブ『ヤア俄に又様子が変つて来たぞ。オイ、カル、気をつけないと、どんな事になるか知れぬぞ、チツとも油断は出来ないからな』 かく話す折しも、二三丁前方に当つて猿をしめる様な悲鳴が聞えて来た。二人は物をも言はず、其声を尋ねて何人か悪魔に迫害され居るならむ、救うてやらねばなるまいと、無言のまま駆出した。近よつて見れば、白衣をダラリと着流した丸ポチヤの青白い顔をした男が、右手に血刀を持ち、左手に四五才ばかりの美はしき童子の首筋を引掴み、今や胸先へ短刀を突き刺さむとする間際であつた。 レーブ、カルの二人は吾を忘れて、其男に飛びかかり、血刀を引つたくり、童子を助けむと、力限りにもがけども、白衣の男は地から生えた岩のやうに、押せども突けどもビクとも動かぬ。みるみる間に其童子を無残にも突き殺して了つた。 レーブ『コリヤ悪魔奴、此処は何処と心得てゐる、勿体なくもかかる尊き天国に於て、左様な兇行を演ずるといふ事があるか』 男『アハヽヽヽ阿呆らしいワイ。悪魔の容物の分際として、此方を悪魔呼ばはりするとは何の事だ。糞虫は糞の臭気を知らぬとは貴様の事だ。サアこれから其方の番だ、そこ動くな。イヒヽヽヽ、なんとマアいぢらしいものだなア、いかさま野郎のインチキ亡者奴、身魂の因縁に依つて、此天来菩薩が之から汝を制敗致すから、喜んで此方の刃を受けたがよからうぞ』 レーブ『アハヽヽヽ天来菩薩とはソラ何を吐かす、苟くも菩薩たる者が凶器をふりまはし、天国の街道に於て殺生をするといふ事があるか。況して罪のない童子を殺害するとは、以ての外の代物だ。コリヤ悪魔、イヤ天来、よつく聞け、此方こそはバラモン教にて英雄豪傑と世に謳はれた武術の達人、カル、レーブの両人だ。汝の如き小童共、仮令幾百万人一団となつて武者ぶりつくとも、千引の岩に蚊軍の襲撃した様なものだ。サア今に此方の武勇を現はし、汝が剣をボツたくり、寸断にしてくれむ、覚悟を致したがよからうぞ。神界の名残に神文でも称へたがよからう』 男『ウツフヽヽヽうろたへ者奴が、神界の法則に依つて、此方が使命を全くする為、此童子を制敗してゐるのだ。汝はいつも現界でホザいて居るだらう、神が表に現はれて、善と悪とを立別ける、神でなくて、身魂の善悪が分るものか。貴様達の容喙すべき限でない、人間は人間らしく黙つて自分の行くべき所へ行けばいいのだ。訳も知らずに安つぽい慈悲心だとか、義侠心を発揮しようと思つても、そんな事は、鏡の如き明かな神界に於ては通用致さぬぞ』 レーブ『仮令此童子に如何なる罪があらうとも、神界に於ては何事も善意に解し、神直日大直日に見直し聞き直し宣直し給ふのが大慈大悲の神様の御恵だ。其方は使命だと申すが、娑婆地獄ならば知らぬこと、天地の神の分霊たる人間を自ら手を下して制敗するといふ道理があるか』 男『エヘヽヽヽぬかしたりなぬかしたりな、それ程よく理屈の分つた其方なれば、此方を神直日大直日に見直し聞き直し宣直さぬか。娑婆で少しく覚えた武勇を鼻にかけ、吾々を悪魔呼ばはりになし、此方の刀を掠奪して盗賊の罪を重ね、又此方を寸断せむとは自家撞着も甚だしいではないか。そんな事で如何して神界の旅が出来るか。テもさても分らぬ奴だな。オツホヽヽヽ鬼の上前を貴様ははねようと致すのか、何と恐ろしい我の強い代物だなア』 カル『コリヤ悪魔、ここは神界だぞ、貴様の居る世界は幽界だらう。かやうな所へやつて来るといふ事があるか、早く立去れ。グヅグヅ致して居ると、神界幽界の国際談判が始まり、遂には談判破裂して、地獄征伐の宣示が渙発されるやうになるかも知れぬぞ』 男『イツヒヽヽヽ其方は現界に於て一つの善事もなさず、まぐれ当りに神界へふみ迷うて来よつて、一角善人面をさらして、ツベコベと理屈を囀つてゐやがるが、此悪魔も此血刀も、皆貴様の心の反映だ。貴様は八岐大蛇の悪魔の憑いた大黒主の部下に仕ふる鬼春別の乾児の乾児の其乾児たる小悪人で居ながら、三才の童子に等しき天の下の青人草の生血を吸ひ、少しの武勇を鼻にかけ、修羅の戦場に疾駆した其罪が今ここに顕現してゐるのだ。要するに此方は貴様の罪が生んだ悪魔だから、貴様が本当に神直日大直日に見直し宣直し、発ごんと改心を致したならば、かかる尊き神界の大道に如何して俺が現はれる事が出来ようか。俺が亡ぼしたくば、貴様の心から改心したがよからう。人が悪魔だと思うて居れば、みんな自分の事だぞ。コリヤ、レーブ、其方は今の先黄金姫に出会ひ、三五教の教理を聞いたであらう。人が悪いと思うてゐると皆われの事ぢやぞよ………と玉山峠の岩蔭で聞かされたぢやないか』 レーブ『成程さうすると、お前は俺の言はば副守護神だなア。何と悪い副守が居やがつたものだなア』 男『アハヽヽヽ都合のよい勝手な事をいふな。副守護神所か、貴様の本守護神の断片だ。トコトン改心致さぬと、まだまだ此先で貴様の生んだ鬼が貴様に肉迫して、どんな目に会はすか知れぬぞ。己が刀で己が首切るやうなことが出来致すから、早く改心致したがよからう。レーブばかりでない、カルも其通りだ、此童子はヤツパリ、カルの身魂の化身だ。どうだ判つたか』 レーブ『ヤア判つた、斯うして二人仲よくして神界の旅行をやつてゐるものの、本当のことを言へば、おれも淋しくて仕方がないから、道伴れにしようと思ひ、表面こそ親切に打解けたらしくしてゐるものの、行く所まで行つたならば斯様な悪人は此下に見ゆる地獄道へつき落してやらうと、心の端に思うてゐたのだ。ヤア悪かつた、オイ、カル公、俺は本当に済まなかつた。心の罪を赦してくれ』 カル『あゝさうか、おれも実はお前と打解けて歩いて居るものの、何時お前が俺の素首を引抜くか知れぬと思うて、戦々兢々と心の底でしてゐたのだ。さうするとあの童子は俺の恐怖心が塊つて現はれたのだな。お前がさう改心してくれる以上は、最早お前も恐れはせぬ。互に打解けて心の底から仲よくして、此天国を遊行しようぢやないか。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と両手を合せ、両人は目をとぢて天地に祈願をこめた。暫くあつて、目を開きあたりを見れば、男の影も童子の影もなく、大地に流れた血潮と見えしは紅の花、紛々と咲き匂ひ、白黄紫青などの美はしき羽の蝶翩翻と花を目がけて舞ひ遊んでゐる。両人は初めて心の迷ひを醒まし、天津祝詞を奏上しながら、北へ北へと手をつなぎつつ、いと睦じげに進み行く。 (大正一一・一一・三旧九・一五松村真澄録)
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霊界物語 41_辰_黄金姫&清照姫の入那の国の物語1 15 難問題 第一五章難問題〔一一一九〕 セーラン王は、テームス、レーブ、カルの三人を従へ蹄の音も勇ましく、漸くにして北光の神の岩窟の館に着いた。竜雲は岩窟の口まで出で迎へ、 竜雲『貴方はセーラン王様で厶いますか、お待ち受け致して居りました。一寸暫くお待ち下さいませ、主人に申上げて来ますから』 セーラン王『何分宜しく頼み入る、吾々は黄金姫、清照姫様の指揮に従ひ、暗夜を幸ひ、イルナの城より忍んで参つたもので厶る。どうぞ北光彦の神様に宜敷くお取りなしを願ひます』 竜雲『ハイ承知致しました。暫くお待ちを願ひます』 と其儘踵をかへし奥深く進み入り、北光の神の前に手を支へ、 竜雲『正しくセーラン王様のお出で御座いました。どちらへお通し申しませうか』 ヤスダラ姫の顔色は嬉しさと恥かしさと驚きとにサツと変つた。北光の神は欣然として、 北光神『只今御面会致すから、第三号室に御案内申して置け。さうしてお湯でも差上げて、暫くお待ちを願つて置いて呉れ。吾は是より神殿に参り、神様にお礼を申上げて来る。サア竹野姫、ヤスダラ姫殿、奥へ参りませう』 と先に立ち神前の間に進み行く。竜雲は表へさしてセーラン王を迎ふべく駆け出す。リーダーは後に両手を組んで独り言、 リーダー『何と怪つ体な事があるものだなア。狼の山へ怖々やつて来て見れば、沢山の狼は犬のやうに柔順しい。そこへ北光の神様のやうな、一つ目のお爺さまと、花を欺くやうな奥様、妙なコントラストだ。ヤスダラ姫様のお供をして此処へやつて来たと思へば、セーラン王様がお出でなさるとは何とした不思議の事だらう。定めし姫様も王様のお顔を御覧になつたら、ビツクリと喜びとで妙な顔をなさるだらう………(浄瑠璃口調)生者必滅会者定離、浮世の常とは云ひながら、親と親との許嫁、怪しき雲に隔てられ、国と都に引き分れ、朝な夕なに君の御身の上、案じ暮して居りました。今日は如何なる吉日ぞ。焦れ焦れた其人に、所もあらうに狼の住む高照山の岩窟でお目に懸らうとは、神ならぬ身の知るよしもなく、泣いてばかり居りました。思へば思へば有難や、尊き神の引き合せ、天の岩戸も開けたやうな、私や心になりました。嬉しいわいな、なつかしいわいな………と人目も恥ぢず縋りつき、互に手に手を取り交し、泣き叫ぶこそ可憐らしき。チヤン、チヤン、チヤン………と云ふ場合だ。俺も一度こんなローマンスを味はつて見たいものだ。青春の血に燃ゆる壮者と美人、どんなに嬉しからうぞ。互に焦れ慕うた男と女が思はぬ処で遇ふのだもの、これが嬉しうなうて何とせうぞいのう………。アハヽヽヽ、目出度い目出度い、お目出度い。北光の神様も苦労人丈あつて、中々粋が利いて居るわい。こんな事の分つた宣伝使にお仕へするのなら、俺だつてどんな苦労だつて厭ひはしない。岩より固い千代の固めを、千引の岩の岩窟の中で、北光の神様の目ぢやないが、確りカタメと云ふ洒落だな、ウフヽヽヽ』 斯かる所へセーラン王一行を三号室に導き置き、北光の神に報告すべく走つて来た竜雲は、リーダーの唯一人面白さうに笑うて居るのを見て、 竜雲『おいリーダー、何を笑つて居るのだ。お客さまが見えたのだよ。此館は御夫婦二人きりでお手が足らぬのだから、早くお客さまのお湯でも汲んでお世話をしないか、気の利かぬ男だなア』 リーダー『私だつて今来たばつかし、お客さまぢやありませぬか。客の分際として、そんな勝手な事が出来ますか。北光の神様のお許しさへあれば、お湯も汲みませう、どんな御用も致します』 竜雲『エヽ何と気の利かぬ男だなア』 リーダー『余り気が利いたり融通が利くと、シロの島の神地の都で失敗なさつたやうな事が出来ますからなア。まあヂツクリと落着きなさい。「大鳥は翼を急がぬ」と云ひまして、度量の大きいものは、さう小さい事にコセつきませぬからなア。エヘヽヽヽ』 竜雲『大男総身に智慧が廻り兼ねとか云つて、胴柄ばかり大きくつて、間に合はぬ男だなア。お前のやうなものは仁王さまにでもなつて門の入口にシヤチコ張つて居るのが適当だ』 リーダー『モシ竜雲さま、貴方に誠があるなら、不言実行ですよ。師匠を杖にするな、人を力にするな、とは三五教の教理だと、道々お説教をなさいましたなア。私はよく覚えて居りますよ』 竜雲『エヽ仕方がない、それなら是から不言実行だ』 と第三号室に向つて走り行かうとするのを、リーダーは裾をグツと握り、 リーダー『モシモシ竜雲さま、不言実行だと今仰有つたが、それがもはや不言実行の原則を破つて居られるでは厶いませぬか』 竜雲『エヽ八釜しい、俺のは特別製の准不言実行だ』 と云ひながら袖振りきつてセーラン王の室に走り出で、恭しく両手を支へて、 竜雲『セーラン王様、折角のお越しえらうお待たせ申しまして不都合で厶いました。併し乍ら、私もたつた今初めて参つたもの、まだ席も温かくならない位で厶います。と云つても最早二三日は暮れましたが、此処の召使と云ふ訳でもなし、貴方に一足お先に参つた珍客で厶いますから、どうぞ悪しからず見直し聞直し下さいませ』 セーラン王『イヤ有難う、北光の神様はまだお越しになりませぬか』 竜雲『今お見えになるでせう。暫くお待ちを願ひます』 王『高照の嶮しき山を登り来て 岩窟の中に身をやすめぬる。 北光の神の命に会はむとて 神の随々訪ね来しはや』 竜雲『今しばし待たせたまはれ神司 やがては此処に北光の神。 生身魂清く直なる竹野姫 妻の命も共にいませり。 汝が命慕ひたまひし姫神に 会はせたまはむ時は迫れり。 ヤスダラ姫貴の命は君を慕ひ 朝な夕なに祈りたまへる』 王『摩訶不思議ヤスダラ姫が如何にして これの岩窟に潜み居るにや』 竜雲『何事も神のまにまに人の身は まもられて行く夢の世なるよ』 かく語り合ふ所へ、北光の神は衣服を着替へ威儀を正して入り来り、王に向ひ、 北光神『私は北光彦で厶る。能くまア此岩窟に入らせられました。黄金姫、清照姫殿は機嫌よくして居られますかなア』 セーラン王『初めてお目にかかりました。貴方は三五教にて御名も高き北光の神様、一目其お姿を拝しまして、誠の生神様にお目にかかつたやうな心に力づきました。何卒今後の御教導をお願ひ致します。御存じの通りイルナの城は危急存亡の場合で厶りますれば、黄金姫様の御指図に従ひ、卑怯未練とは承知しながら神命を奉じて微行致して参りました』 とやや涙ぐみける。 北光神『アハヽヽヽ、決して御心配遊ばすな。何事も神様の御経綸に任すより道はありませぬ。これから吾々は神策を施しますから、気を落着けてゆつくりとなさつたがよろしからう。此処は御存じの通り狼の巣窟、如何なる英雄豪傑も、此岩窟ばかりは窺ふ事は出来ませぬ。御安心なさいませ。併し乍ら、貴方に一つお尋ねして置かなければならぬ事が厶ります。それは余の儀では厶らぬ、貴方にはサマリー姫と云ふお妃があるでせう、其妃は今後どうなさるお積りですか』 王は此言葉にハタとつまり、如何答へむと心を悩ませ、黙然として暫しが間さし俯むいて居る。 北光神『一旦妻と定つたサマリー姫を何処迄も連れて、共々に苦労をなさるお考へでせうなア。万一貴方の恋ひ慕ふ立派な女が此処に現はれたとすれば、貴方は自分の意志に従つて其女を妻に致しますか。但は気に入らぬサマリー姫をどこ迄も愛して行きますか。それを聞かして頂きたい。北光の神にも少し考へが厶るから』 王は如何は答へむかと、とつおいつ思案に暮れながら、漸くにして、 セーラン王『ハイ何事も惟神に任しませう。心の曇つた吾々、どうしてよいか判断がつきませぬ。どうぞ貴方のお考へを承はりたう御座います』 と甘く言葉をそらし、北光の神に其解決をおつつけてしまつた。 北光神『オツホヽヽヽ、隅にもおけぬ王様だなア、かう北光が申せば御返答にお困りだらうと思つたが、反対にこちらへ大問題をおつかぶせられ、北光彦も聊か迷惑を致しました』 セーラン王『何も彼も御存じの貴方の前で包み隠すも無駄で厶います。又私も心にもなき事を申上げたくはありませぬ。お叱りかは存じませぬが、実はサマリー姫はどう考へても厭で厭で仕方がありませぬ。何かの策略があつて、右守の司が私の許嫁を追ひ出し、娘を無理に押しつけたので厶いますから、要するに愛のなき縁談で厶います。かかる虚偽的愛の夫婦は却て神様に対し済まないやうな気も致します。又一方より考へて見れば、今日の処サマリー姫は心の底から私に対して愛慕の念を起して居るやうで厶います。それ故に日夜心を痛め、どうしたらよいかと迷うて居る次第で厶います。サマリー姫一人のためにイルナの城の興亡に関する問題ですから、私も決し兼ねて居ります』 北光神『何と気の弱いお方だなア。なぜ男らしく、初めにポンと断りを云はなかつたのですか。貴方はセーラン王の位地に恋々として、心にもなき結婚を承諾したのでせう。貴方には親の許した許嫁があつた筈、なぜ先約を履行なさらなかつたか。それから第一間違つて居る。両親の許した許嫁を無視して途中から変更するといふ事は第一孝の道に欠けて居る。仮令如何なる事情があらうとも父王様の命令を遵守し、一身を賭してなぜ争はなかつたのですか』 セーラン王『そのお言葉を聞いて今更の如く自分の薄志弱行を悔みます。私も何とかして天則違反か知らねどもヤスダラ姫と夫婦となる事を得ば、たとへ王位を捨てても悔ゆる処は厶いませぬ』 北光神『ウフヽヽヽ、とうとう本音を吹きましたな。それが偽りのなき貴方の真心だ。併しながら、其ヤスダラ姫様が、夫に一回なりとも交はりを結んで居られたならどうなされますか。それでも貴方は喜んで夫婦になるお考へですか。もしヤスダラ姫に対し貞節を守り、一回の交はりもして居なかつたとすれば兎も角、どうでもかまはぬ、添ひさへすればよいと云ふお考へなれば、貴方はもはや人間ではない、恋の奴隷と云ふものですよ』 セーラン王『ハイ、仰せの如くヤスダラ姫にして左様な事がありとすれば私は断念致します。併し彼に限つて左様な事はあるまいと思ひます』 北光神『今貴方に会はせたいものがある。驚かないやうにして下さい』 セーラン王『それはヤスダラ姫で厶いますか。何とはなしにそのやうな気分が浮んで参りました』 北光神『アハヽヽヽ、矢張り蛇の道は蛇だなア』 (大正一一・一一・一二旧九・二四加藤明子録)
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霊界物語 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) 10 夜の昼 第一〇章夜の昼〔一一六一〕 斎苑の館に現れませる瑞の御魂の救主 神素盞嗚大神の神言畏み亀彦は 治国別と改めて万公晴公五三公の 三人の御供を従へつ神の教を菊子姫 妻の命に相別れ凩荒ぶ秋の野を 足に任せてテクテクと河鹿峠の山麓に 進み来れる折もあれ千引の岩も飛び散れと いはぬ計りに吹きつける科戸の風に面をば さらして漸く頂上に息をはづませ登りつき あたりの厳に腰をかけ四方の原野を見はらして 吾身のこし方行末を思ひまはすぞ床しけれ。 万公『先生様、何と佳い風景ぢやありませぬか。河鹿峠の頂上から四方を見はらす光景は何時も素的ですが、あれを御覧なさいませ。広大なる原野の果に、白雲の衣を被つて、頭をチヨツクリと出してる彼の高山は、何とも云へぬ正しい姿ぢやありませぬか。八合目以下は綿の衣に包まれ、頭の上は常磐木が鬱蒼と生え茂り、腰あたりに白雲の帯を引締めてゐる光景と言つたら、何とも云へない床しさ否、眺めですなア。斯う四方を見はらした山の上に立つてゐると、何だか第一天国へでも登りつめたやうな気分が漂ふぢやありませぬか。願はくはいつ迄も斯様な崇高な景色を眺めて、ここに千年も万年も粘着して居りたいものですなア』 治国別『さうだ、お前の言ふ通り、雄大な景色だなア。佐保姫もこれ丈の錦を、広大無辺の原野に一時に織なすといふのは、余程骨の折れる事だらう。これを思へば天然力否神の力は偉大なものだ。造化の妙機活動に比ぶれば、実に吾々の活動は九牛の一毛にも足らないやうな感じがして、実に神様へ対しお恥かしいやうだ。アヽかかる美はしき地上の天国に晏如として生を送らして頂く吾々神の子は何たる幸福なことであらう。神の造られし山河原野は俺達のやうに別に朝から晩まで喧しく言問ひせなくても、花の咲く時分には一切平等に花を咲かし、実を結ぶ時には統一的に実を結ぶ。実に神の力は絶大なものだ』 晴公『実に晴々とした光景ですなア。天か地か地か天か、殆ど判別がつかないやうな極楽の光景ぢやありませぬか。此無限絶大なる世界に生を禀け、自然の天恵を十二分に楽み、自由自在に一切万物を左右し得る権能を与へられ乍ら、小さい欲に捉はれて屋敷の堺を争うたり、田畑の畦を取合ひしたりしてゐる人間の心が分らぬぢやありませぬか。私は今となつて此景色を見るに付け、神様のお力の偉大なるに驚きました。ヤツパリ人間は低い所に齷齪して世間を見ずに暮してると、自然気が小さくなり、小利小欲に捉はれて、自ら苦悩の種を蒔くやうになるものですなア。あゝ惟神霊幸倍坐世』 治国別『併し乍ら大神様に承はれば、バラモン教の大黒主の軍勢が此峠を渉りて斎苑の館へ攻め来るとの事だ。吾々宣伝使を四組も五組も月の国へ御派遣遊ばしたのも、深き思召のあることだらう。ハルナの都などは黄金姫様の御一行がお出でになれば十分だ。要するに吾々は大黒主の軍隊に向つて言霊戦を開始すべく派遣されたのであらう。さうでなくては、何程勢力無限の大黒主だとて斎苑の館の宣伝使、殆ど総出といふやうな大袈裟なことは神様が遊ばす筈がない。お前達も其考へで居らなくてはならないぞ。月の国は名に負ふ大国五天竺といつて五州に大別され、七千余ケ国の刹帝利族が国王となつて、互に鎬を削り、此美はしき地上の天国に修羅道を現出してゐるのだから、仁慈無限の大神の心を奉戴し、吾々一行は如何しても五六七神政出現の為めに粉骨砕身的の活動を励まねばなるまい、実に重大なる使命を与へられたものだ。天地の大神様に十分に感謝をせなくてはならない。あゝ有難し有難し、惟神霊幸倍坐世』 と合掌し瞑目傾首してゐる。 五三公『モシ先生様、お話の通りならば、大黒主の軍隊はキツと途中で吾々と遭遇すでせうなア』 治国別『ウン、最早間もあるまい。各自に腹帯を確り締めておかねばなるまいぞ』 五三公『ハイ、それは斎苑館出立の時から、腹が瓢箪になる程細帯でしめて来ました。赤い筋がついて痛い位ですもの、大丈夫ですワ。併し少しく腹が減りましたから、ここでパンでも頂きますか。さうでなくては、マ一度締め直さなくちやズリさうになつて来ました』 治国別『アハヽヽヽ』 万公『オイ五三、分らぬ男だなア。そんな腹帯ぢやないワイ。心の腹帯をしめ……と仰有るのだ』 五三公『心の腹帯て、どんなものだい。無形の腹帯を如何して締めるのだ。そんな荒唐無稽のことをいふと、人心惑乱の罪で、バラモン署へ拘引されるぞ』 万公『アツハヽヽヽ徹底的に没分暁漢だなア。天の配剤宜しきを得たりといふべしだ。至聖大賢計りが斯う揃つてゐると、道中は固苦しくて根つから興味がないと思つてゐたが、五三公のやうなゴサゴサ人足が混入してゐるとは、面白いものだ。悪く言へば天の悪戯、よく言へば天の配剤だ。チツとばかり貴様がゐると虫の薬になるかも知れない。アハヽヽヽ』 五三公『コリヤ余り口が過ぎるぢやないか。何だ、結構な神の生宮さまを掴まへて竹の子医者か何ぞのやうに、天の配剤だとは、余りバカにするぢやないか』 万公『クスクスクス』 五三公『コリヤ、狸を青松葉で燻べた時のやうに、何をクスクス吐すのだ。チツと俺のいふことも能くせんやく(煎薬)して聞け、こうやく(膏薬)の為になるから、ヤクザ人足奴、そんな事でマサカの時のおやくに立つかい、エヽー』 万公『そんなこた、如何でもいゝワ。早くパンでも頂いて腹をドツシリと拵へ、敵の襲来に備へるのだ。グヅグヅしてはゐられないぞ』 五三公『敵に供へてやる丈のパンがあるかい。自分の生宮に鎮座まします喉の神様や仏様に供へる丈より持つてゐないのだから、余計な敵の世話迄やく必要があるか。敵に兵糧を与へる奴ア、馬鹿の骨頂だ』 万公『神様の道からいへば、敵も味方も決してあるものでない。三十万年未来に、自転倒島に謙信、信玄といふ大名があつて、戦争をやつた時に、一方の敵へ向けて塩を贈つたといふ美談があるさうだから、敵を仁慈を以て言向和すのには、恩威並び行はねば到底駄目だ。貴様の筆法で言へば丸切りウラル教式だ。自分さへよければ人はどうでもいいといふ邪神的主義精神だから、そんなことでは大任を双肩に担ひ玉ふ治国別先生のお供は叶はぬぞ。アーン』 治国別『オイ万公、五三公、いらざる兄弟喧嘩はやめたがよからうぞ。サア是からがお前達の活動舞台だ』 万公『敵の片影を見ず、今から捻鉢巻をして気張つた所で、マサカの時になつたら待ち草臥れて力が脱けて了ふぢやありませぬか』 治国別『イヤイヤ半時許り経てばキツと敵軍に出会するにきまつてゐる。玉国別と吾々とが坂の上下から言霊を打出して、誠の道に帰順せしむべき段取がチヤンとついてゐるのだ。能く心を落着けて、騒がない様にせなくちやならぬぞ。千載一遇の好機だ、之を逸しては、神の大前に勲功を現はす時期はないぞ』 万公『それ程敵は間近に押寄せて居りますか。さう承はらば吾々もウカウカしては居られませぬ。併し乍ら黄金姫様や照国別様の一行は大衝突をやられたでせうなア』 治国別『多少の衝突はあつたであらう。併し何れも御無事だ。あの方々と吾々とは使命が違ふのだから……丁度此下り坂を楯にとつて、言霊戦を開始すれば屈竟の地点だ』 五三公は、 五三公『ヤアそれは大変、時こそ到れり、敵は間近に押よせたり。吾こそは三五教の宣伝使治国別の幕下五三公命だ。バラモン教の奴原、サア来い来れ。一人二人は邪魔臭いイヤ面倒だ。百人千人束に結うて束ねて一度にかかれ。ウンウンウン』 と左右の拳を固め、稍反り気味になつて、胸の辺りをトントントンとなぐつてゐる。 治国別『アツハヽヽ五三公の武者振りは今始めて拝見した。何時迄も其勢を続けて貰ひたいものだなア』 万公『コリヤ五三の蔭弁慶、何だ今からさうはしやぐと、肝腎要の時になつて、精力消耗し、弱腰を抜かし、泣面を天日に曝さねばならぬやうになるぞ。モウ少し沈着に構へぬかい。狼狽者だなア』 五三公『敵の間近き襲来と聞いて、如何してこれが騒がずに居られようか。弓腹ふり立て堅庭に向股ふみなづみ、淡雪なせる蹴えちらし、厳の雄健びふみ健び、厳の嘖譲を起して、海往かば水潜屍、山往かば草生屍大神の辺にこそ死なめ、閑には死なじ、額に矢は立つ共背中に矢は立てじ、顧みは為じと、弥進みに進み、弥逼りに逼り、山の尾毎に追ひ伏せ、河の瀬毎に追ひ散らし、服へ和し言向和す五三公さまの獅子奮迅の武者振だ。此位の勢がなくて、如何して大敵に当られるものかい』 万公『貴様は頻りに愚問を発するから、此奴ア、チト低能児だと思つてゐたが、比較的悧巧なことを並べ立てるぢやないか』 五三公『きまつたことだい。三五教の祝詞仕込だ。祝詞其ままだ。群りよせ来る敵を払ひ玉へ清め玉へと申すことの由を、平らけく安らけく聞し召せと申す。惟神霊幸倍坐世』 万公『アツハヽヽヽ此奴ア又偉い空威張りだなア、のう晴公、余程いゝ掘出し物ぢやないか。マサカの時になつたら、尻に帆かけてスタコラヨイサと逃げ出す代物だぜ』 晴公『ウツフヽヽヽ』 万公『一つ此処で風流気分を養つて参りませうか。大敵を前に控へ悠々として余裕綽々たりといふ益良男の一団ですからなア』 治国別『ウン、一つやつて見よ』 万公『見わたせば四方の山野は錦着て 吾一行を迎へゐる哉』 五三公『なあんだ、そんな怪体な歌があるかい、かう歌ふのだ、エヽー…… 見わたせば、山野の木々は枯れはてて 錦のやうに見えにける哉』 万公『ハツハヽヽヽ何と名歌だなア、柿本人麿が運上取りに来るぞ』 五三公『柿の本ぢやないワ、山上赤人だ。一つ足曳の山鳥の尾をやつてみようかな、エヽー』 万公『そりや面白からう。サアサア詠んだり詠んだり三十一文字を……』 五三公『山の上にあかん人こそ立ちにけり 万更馬鹿とは見えぬ万公』 万公『コリヤ五三、チツと御無礼ぢやないか。礼儀といふことを弁へてゐるか』 五三公『礼儀を知らぬ奴がどこにあるかい。擂鉢の中へ味噌を入れてする奴ぢやないか、エヽー。それが違うたら、売僧坊主が失敗の言訳に腹を切る真似する道具だ。エヽー』 万公『アハヽヽヽ此奴アいよいよ馬鹿だ。レンギと礼儀と間違へてゐやがる』 五三公『其位な間違は当然だよ、間違だらけの世の中だ。石屋と医者と間違へたり、役者と学者と混同したり、大鼓と大根とを一つにしたりする世の中だもの、当然だ。エヽー』 万公『ウツフヽヽヽだ、イツヒヽヽヽだ、アツハヽヽヽ阿呆らしいワイ。そんな馬鹿なことをいつてゐると、それ見ろ、鳶の奴、大きな口をあけて笑つてゐやがるワ』 五三公『きまつたことだよ。飛び放れた脱線振りを発揮してるのだもの。鳶だつて、笑つたり呆れたり舌を巻いたりするだらうかい』 治国別『三人ともパンを食つたかなア、まだなら早く食つておかないと、時期が切迫したやうだ』 五三公『ハイ時機切迫と仰有いましたが、畏まりました。ジキに切迫とパクついて腹でも拵へませう。ハラヒ玉へ清め玉へだ』 と無駄口を叩き乍ら、パンを取出し、パクつき始めた。 風がもて来る人馬の物音騒々しく手に取る如く耳に入る。 万公『ヤアお出たなア。コリヤア面白い。先生、一つ万公の活躍ぶりを御覧下さい、花々しき大飛躍を演じて見ませう』 治国別『心を落つけて三五教の精神を落さない様に一番槍の功名をやつて見たがよからう。サア行かう』 と蓑笠をつけ、杖を左手に握り、登り来る敵に向つて悠々迫らざる態度を持し、宣伝歌を歌ひ乍ら降つて行く。 治国別『神が表に現はれて善と悪とを立別ける 此世を造りし国の祖国治立の大神の 守り玉へる神の道朝な夕なに身を尽し 心を尽す三五の神の柱と現れませる 神素盞嗚大神の吾れこそ珍の神司 治国別の宣伝使万世祝ふ亀彦が 名さへ目出たき万公や暗夜を晴す晴公さま 三五の月の御教にゆかりの深き五三公の 三人の司と諸共に七千余国の月の国 天地を塞ぐ曲神を神の賜ひし言霊に 服ひ和し天国を地上に立てむ御神策 岩石崎嶇たる河鹿山烈しき風に吹かれつつ 苦もなく越えて来りけりあゝ惟神々々 御霊幸はひましましてハルナの都に蟠まる 八岐大蛇の化身なる大黒主の軍隊を これの難所に待ち受けて一人も残さず言霊に 打平げて斎苑館珍の御前に復り言 申さむ時こそ来りけりあゝ勇ましし勇ましし 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 嵐は如何に強くとも敵は幾万攻め来とも いかでか恐れむ生神の教を守る吾一行 朝日に露か春の雪脆くも消ゆる曲津日の 魂の行方ぞ憐れ也此世を造り玉ひたる 国治立大神は吾等一行の信徒に 広大無辺の神徳を下し玉ひて此度の 吾等が征途を照らしまし紅葉あやなす秋の野の 木々の梢に吹き当る醜の嵐に会ひし如 曲を千里に追ひ散らし敵を誠に言向けて 救ひやらむは目のあたり玉国別の一行は 神の御言を畏みて祠の森の木下蔭 月の光を浴び乍ら吾等の一行を待つならむ 上と下より挟み打神算鬼謀の此仕組 暗黒無明の魂持つ片彦久米彦将軍は 飛んで火に入る夏の虫袋の鼠も同じこと 思へば思へば気の毒や直日に見直し聞直し 詔直しつつ天地の教の道に救ひ行く 吾身の上ぞ楽しけれあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 万公は足の爪先に力を入れ、再び吹き来る夜嵐に面を向け乍ら、月照る道を歌ひつつ下りゆく。 万公『今宵の月は望の月昼の白昼の如くなり 河鹿の山の頂上に立ちて四方を見はらせば 大野ケ原は綾錦紅葉の園となり果てぬ 吾等一行四人連昼と夜とを間違へて 峠の上に佇立して四方を見はらす時もあれ 目下に聞ゆる鬨の声風がもて来る足音に つつ立ち上りウントコシヨバラモン教の魔軍の 攻め来りしと覚えたりいざいざさらばいざさらば 千変万化の言霊を打出し敵を悉く 天と地との正道に服ひ和し天国の 其楽しみを地の上に常磐堅磐に立てむとて さしもに嶮しき坂路を勢込んで下りゆく あゝ面白し面白し神に任せし吾々は 仮令数万の敵軍も如何でか恐れひるまむや あゝ惟神々々神の守りを蒙りて 晴公五三公二人ともシツカリ致せよ今や時 敵は間近に押よせたあれあれあの声聞いたかい 半死半生の叫び声兵児垂れよつた塩梅だ 駒に跨りハイハイと登つて来る声がする 俺等は坂のてつぺから生言霊を打出せば 不意を打たれし敵軍は面を喰つて忽ちに 潰走するは目のあたり面白うなつてお出でたな 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも三五教はやめられぬ お道を守つてゐたおかげこんな勇壮活溌な 実地の戦が出来るのだ向ふは兇器数多く 槍の切先揃へ立て林の如く抜き翳し 迫り来るに引きかへて此方は神変不可思議の 無形の言霊潔くドンドンドンと打ち出し 上を下への大戦力を試す時は来ぬ ウントコドツコイドツコイシヨ今こそ大事の体ぞや 一人を以て幾百の魔神に当る貴重の身 指一つでも怪我したら大神様に済まないぞ あゝ惟神々々神の光を目のあたり 輝かし照らす時は来ぬ進めよ進めいざ進め 神は吾等と共にありアイタヽタツタ夜の道 目玉が狂うてしくじつたこれこれモウシ宣伝使 ここが適当の場所でせう敵の登るを待ち伏せて 不意に打出す言霊の大接戦をやりませうか』 治国別『余り慌てて下るにも及ぶまい。ここが屈竟の場所だ。先づ歌でも歌つて、敵の近付くのを待つ事にしよう。名に負ふ急坂だから、近くに見えてゐても容易に登つては来られまい』 万公『ハアさうですなア。先づ先づ敵の行列を拝見して徐に不意打を喰はしてやりませうかい。アハヽヽヽ』 (大正一一・一一・二七旧一〇・九松村真澄録)
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霊界物語 45_申_小北山の宗教改革1 02 神木 第二章神木〔一一九二〕 お寅婆アさまは松彦に向ひ河鹿川の川岸に枝振りのよい老松が蜒々として枝を四方に広げ川の上にヌツと突き出て居るのを指し、 お寅『もし、末代日の王天の大神の生宮様、あの松を御覧なさいませ。立派なものぢや厶りませぬか』 松彦『成る程、川の景色と云ひ、あの枝振りと云ひ青々とした艶と云ひ、実に云ひ分のない眺めですな。随分鶴が巣籠りをするでせうな』 お寅『ハイハイ、鶴どころか、あの松には日の大神様、月の大神様を初め八百万の大神様がお休み遊ばす世界一の生松で厶ります。末代日の王天の大神様の、あれが御神体で厶ります』 松彦『さうすると、あの松は私の御霊の変化ではあるまいかな』 お寅『滅相な、変化どころか、あれが貴方の本守護神ですよ。時節と云ふものは恐いものですな。たうとう生神様の貴方様がお越しなさる様になつたのだから、ウラナイ教は朝日の豊栄昇り彦命になります。蠑螈別の教祖が仰有つた事は一分一厘違ひませぬがな』 万公『アハヽヽヽ松彦さま、貴方は不自由な体ですな、いつもあの川辺に水鏡ばつかり見て鳶鷹鷲等に頭から糞を引つかけられ泰然自若として川端柳を気取つて厶るのですな。道理で足が重いと思うて居た。本守護神があの松の大木だと分つての上は、松彦さまの無精なのも、あながち責る訳にも行きますまい。エヘヽヽヽ』 お寅『これこれブラリ彦、又口八釜しい。左兵衛治をするものぢやない』 万公『これ婆さま、わしは左兵衛治なんて、そんな老爺めいた名ぢやありませぬぞ。万古末代生通しと云ふ生々した万公さまだ。余り見損ひをして貰ひますまいかい』 お寅『オホヽヽヽ何と頭の悪い男だな。左兵衛治と云つたら差出物と云ふ事だ。何でもかンでもよく差出て邪魔ばつかり致すから、左兵衛治と云つたのだよ。大松のお前が差出る処ぢやない、芋掘奴めが』 万公『俺や、あんな大松とはチツと違ふのだ。なんぼ大松だつて松の寿命は千年だ。此方は万年の寿命を保つ万公さまだ。あんまり安う買うて貰ひますまいかい』 お寅『エーエ、何から何まで教育してやらねば訳の分らぬ困つた男だな。大松と云ふ事は大喰人足と云ふ事の代名詞だ。野良へやれば蕪をぬいて食ふ、大根をかじる、人参を喰ふ、薩摩芋から南瓜の生まで、噛じる喰ひぬけだから、それで大松と云ふのだ』 万公『大喰ひするものを大松と云ふのは可笑しいぢやないか。其言葉の起源を説明して貰ひたいものだな』 お寅『エーエ、合点の悪い代物だ、ライオン川の杭は、みんな長い大きな奴が要るので、それで大杭の長杭と云ふのだ。その大杭の長杭は大松ぢやなければ出来ぬのだから大松と云つたのだよ』 万公は妙な手付をして、 万公『あゝさうでおまつか、ヘーン、松彦さまもさうすると松に因縁があるから大松でせうね』 お寅『お前の松は杭になつた松だ。此お方の松は、あの通り生々した生命のある松だよ。万古末代生通しの松と、幹を切られ枝を払はれ、年が年中頭を削られて逆トンボリにされ尻を叩かれて、突つ込まれて居る大松とは、松が違ふのだ。善悪混淆して貰うては大変困りますわい。然し松彦さま、あの松の木の根元に結構な御守護がしてあるのだから大門神社に行く迄に一寸そこの神様に参拝して貰ひたいのです』 松彦『あの松の根元に神様が祀つてあるのですかな』 お寅『ハイハイ、あそこが肝腎な御仕組場だ。あの因縁が分らねば小北山の因縁が分りませぬ。是非共来て貰ひ度いものです』 万公『さうすると、まだ外に神さまが祀つてあるのか。一遍に見せると食滞すると受付の爺さまが云ふた神さまだな。一つ見るも二つ見るも同じ事だ。序に観覧して来ようかな。おい、五三公、アク、タク、テク、何うだ、貴様も一つ見物する気はないか』 一同『ウン、面白からうな。参考の為にお寅さまの、亡者案内で見物して来ようかい。お寅さま、亡者案内賃は安うして置いてくれや、見掛どりをやられると此頃吾々はチツとばかり手許不如意なのだから困りますぞえ』 お寅『観覧だの、見物だのと、何と云ふ勿体ない事を仰有るのだ。見に行くのだない、参拝に行くのだ。何故参拝さして頂きますと云はぬのだ』 万公『三杯どころか、もう之丈け沢山に誤託宣を聞かして頂いた上は腹一杯胸一杯だ、アハヽヽヽ』 お寅『サア、末代様、御案内致しませう。何卒此婆について来て下さいませ』 松彦はいやいや乍ら婆アの後に一行と共に枝振りのよい大松の麓まで進んで行つた。 見れば途方途徹もない大きな岩が玉垣を囲らし切口の石を畳んで置物の様にチヨンと高い処に立派に祀つてある。さうして傍に案内石が立ち蠑螈別の筆跡で、 「さかえの神政松の御神木」 と記してある。 五三『もしお婆さま、此大きな岩は一体何だい。さうして御神木と記してあるが、こりや木ぢやない、岩ぢやないか』 お寅『そんな事は気にかけいでも、理屈いはいでも、いいぢやないか。お前達が神木する様に「さかえの神政松の御神木」と書いてあるのだよ。ここは善と悪との境だから小北山の地の高天原へ悪神の這入つて来ぬ様に千引岩が斯うして置いてあるのだ。表向きは弥勒様の御神体だと云つて居るのだ。さうして十六柱の神様がお祀りしてある標だと云つて十六本の小松が此通り植ゑてあるのだ。然し乍ら之は表向き、実の処は素盞嗚尊の生魂をここへ封じ込んで動きのとれぬ様に周囲八方石畳を囲らし、上から千引の岩を載せて、万古末代上れぬ様に封じ込めておいたのだ。そのために瑞の魂の素盞嗚尊は八方塞がり同様で、二ツ進も三ツ進もならぬ様になり困つてゐやがるのだ。此石をここへ運ぶ時にも随分苦労をしたのだよ。第一蠑螈別さま、魔我彦さま、大将軍さま、此お寅等の奮励努力と云つたら大したものだつた。夜も昼も二十日ばかり寝ずに活動して到頭素盞嗚尊の悪神を封じ込めてやつたのだ。三五教の奴は何にも知らずに馬鹿だからヤツパリ素盞嗚尊が此世に現はれて居る様に思うてゐるのだよ。斯うしておけば三五教の信者を鼠が餅ひく様に皆小北山に引張込むと云ふ蠑螈別さまの御神策だ。何と偉いものだらうがな』 万公、五三公の両人はクワツと腹を立て両方から婆の手をグツとひん握り、 万公『こりや糞婆、もう量見ならねえ。此川へ水葬してやるから、さう思へ。怪しからぬ事を吐す』 五三『こりや、お寅、蛙は口から、吾と吾手に白状致した上からは、もはや量見ならぬぞ。サア覚悟せい。おい万公、其方の足をとれ、俺も此足を持つて川の深淵へ担いで行つて放り込んでやるのだ』 お寅『オホヽヽヽ、地から生えた木の様なものだ。此婆がお前達三人や五人に動かされる様なヘドロい婆か。竜宮の乙姫さまの御神力を頂いた上に艮金神様の分け魂のお憑り遊ばした丑の年生れの寅さまだ。丑寅婆アさまを何と心得てるのだ』 万公『おい、五三公、随分重い婆だな。本当にビクともしやがらぬわ』 アク『アハヽヽヽ、ビクともせぬ筈だよ。婆アさまは其処に居るぢやないか。お前達は、岩を一生懸命動かさうとしたつて動くものかい。それが婆アさまに見えたのか』 五三『いや、ほんにほんに岩だつたな。おけおけ馬鹿らしい。お寅婆は彼処にけつかるぢやないか』 お寅『オホヽヽヽ三五教の信者の眼力は偉いものだな。お寅さまとお岩さまと取違へするのだから』 万公『エー』 アク、タク、テク三人『アハヽヽヽ、又いかれやがつたな』 お寅『あまり疑うて居ると真逆の時に眩惑がくるぞよ、足許の深溜が目に見えぬ様になるぞよ。ウフヽヽヽ』 松彦『お婆さま、いや如何も感心致しました。これから一つ大門神社へ参りませう』 お寅『あ、お前さまは末代様だ。身霊が綺麗だと見える。あんなガラクタは後廻しで宜しい。お寅さまの後から跟いて来なさい。竜宮の乙姫さまが末代さまを御案内致しませう』 松彦『ありがたう。然し乍ら此連中を捨てて置く訳にも行かぬから連れて行かう』 お寅『それは貴方、末代さまの御都合にして下さい。サア斯うおいで成さいませや』 と頭をペコペコさせ頻りに媚を呈し乍ら、もと来し道に引返し急坂を一行の先に立つて上り行く。 急坂を二三丁ばかり登つた処にロハ台が並んでゐる。 万公『もし松彦さま、一寸ここで休息して行きませうか』 松彦『ウン、よからう』 と腰をかけ息を休める。お寅は怪嫌な顔をし乍ら後ふり返り、 お寅『逆理屈ばかり囀る万公が 坂の中央で屁古垂れにけり。 偉相に腮をたたいて居た万公 此弱り様は何の事だい。 鼈に蓼食はした様な息づかひ 万々々公も休むがよからう』 万公『迷信の淵に沈んだお寅さま 底知れぬ淵へバサンとはまつて。 之程にきつい坂をばスタスタと 登るは狐狸なるらむ。 登り坂上手な奴は馬兎 丑寅婆さまの十八番なるらむ』 お寅『糞垂れて婆さまの登る山道を 屁古垂れよつた万公の尻。 芋蕪大根人参あつたなら 万の野郎に喰はせ度きもの。 大根や蕪がきれて息つまり 何と茄子の溝漬け男』 万公『臭い奴吾一行の先に立つ 腋臭とべらの婆の尻糞』 お寅『こりや万公、臭い奴とは何を云ふ 貴様は臭い穴探しぞや。 彼岸過ぎになつても穴の無い蛇は そこら辺りをのたくり廻る。 穴ばかり探して歩く万公を 岩窟の穴へ入れてやり度い』 万公『何吐す丑寅婆の尻糞奴 尻が呆れて雪隠が踊る』 松彦『ロハ台に腰打ち掛て万公が 尻のつぼめの合はぬ事言ふ』 五三公『ロハ台に尻を下した万公さま 糞落ちつきのないも道理よ』 アク『アクアクと互に誹り妬み合ひ 無性矢鱈に口をアクかな』 タク『いろいろとタクみし証拠は千引岩 松の根元に沢山にある』 テク『山坂をテクる吾身は何となく 足腰だるくなりにけるかな。 面白もない婆さまに導かれ 登るも辛し針の山坂』 お寅『万公よアク、テク、タクの御一同 此坂道は神の坂だよ。 神になり鬼になるのも此坂を 越えぬ事には分るまいぞや』 アク『登りつめアクになつたら何とせう 丑寅婆さまに欺かれつつ』 お寅『疑を晴らして竜宮の乙姫が 後に来る身は大丈夫だよ』 松彦『サア一同、もう行つてもよからう。乙姫さま、宜しう頼みます』 お寅『ホヽヽヽヽ末代様、サア参りませう』 万公『ヘン、馬鹿にして居やがる。婆の乙姫さまも見初めだ。なア五三公』 五三『きまつた事だ。逆様の世の中だもの、乙姫さまだつて世界のために御心配遊ばして厶るのだもの、チツたあ年も寄らうかい。アハヽヽヽ』 一同『ウフヽヽヽ』 (大正一一・一二・一一旧一〇・二三北村隆光録)
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霊界物語 45_申_小北山の宗教改革1 03 大根蕪 第三章大根蕪〔一一九三〕 艮婆さまに誘はれて末代さまの松彦は 万公五三公其外の三人と共に急坂を 心ならずも登りゆく川辺の松の根本なる 千引の岩に包まれし秘密の鍵を握りつつ 油断ならじと村肝の心を固め腹を据ゑ さあらぬ体を装ひつ細い階段スタスタと 刻んで上る門の前お寅婆さまは立ち止まり これこれ申し受付の文助さまよ末代の 神の生宮初めとし五人のガラクタ神さまが いよいよ此処へお出ましだ一時も早く奥へいて 蠑螈別の教祖さまに早く取次なされませ 神の恵も大広木正宗さまや義理天上 日の出神の生宮も嘸や満足なされましよ 竜宮海の乙姫が懸りたまうた肉の宮 艮婆さまの挨拶でここまで喰へて来た程に グヅグヅしてると帰られちや又もや元の杢阿弥だ 早く早くと小声にて耳に口寄せ囁けば 文助爺さまは頭をば縦に三つ四つ振りながら 川の流れを遡るやうな足つきトボトボと 襖押開け奥の間へ白き姿をかくしける 暫くあつて魔我彦は満面笑を湛へつつ 気もいそいそといで迎へ貴方は末代日の王の 天の大神生宮だ能くまアお出下さつた 正宗さまが奥の間で山野河海の珍肴に ポートワインの瓶並べにこにこ顔で待ちたまふ 遠慮は決して入りませぬ貴方は神の生宮だ かうなる上はお互に敵と味方の隔てなく 腹を合して神業に力の限り尽しませう 小さき隔てを拵へてゴテゴテ争ふ時でない 神政成就の御時節がいよいよ切迫した上は 末代様の肉の宮どうしてもかうしても此山に 居つて貰はにやなりませぬ神素盞嗚の悪神が 立てた教に沈溺し下らぬ熱を吹き乍ら 広い世界を遠近と宣伝して居る馬鹿者が 沢山あると聞きました承はれば貴方様 三五教にお入りと聞いて一寸は驚いた さはさり乍ら能く聞けば河鹿峠で兄様に 廻り会うたが嬉しさにほんの当座の出来心 三五教に御入信なさつた事が知れた故 いよいよこいつは脈があるこんな結構な肉宮を ムザムザ帰してはならないと正宗さまの肉宮が 焦れ遊ばしお寅さまをもつて態々貴方をば 引き留めなさつた御無礼をよきに見直し聞直し 宣り直しませ魔我彦が蠑螈別の代理とし 茲に挨拶仕るサアサア早う遠慮なく 奥へ通つて下さんせ神政成就の糸口が 開けて来る小北山これ程目出度い事あらうか あゝ惟神々々神の御前に願ぎ奉る。 松彦『朝日は照るとも曇るとも 万公『悪魔は如何に叫ぶとも 松彦『月は盈つとも虧くるとも 万公『つまらぬ教を聞くとても 松彦『仮令大地は沈むとも 万公『足らはぬ吾等の魂で 松彦『誠の力は世を救ふ 万公『誠の事は分らない 松彦『此世を造りし神直日 万公『此世の罪を神直日 松彦『心も広き大直日 万公『困つた事と知り乍ら 松彦『唯何事も人の世は 万公『唯何となく調べむと 松彦『直日に見直し聞直し 万公『何は兎もあれ上り来て 松彦『身の過は宣直す 万公『皆山坂を乗り越えて 松彦『三五教の宣伝使 万公『危ない教を宣伝し 松彦『治国別の後追うて 万公『蠑螈の別に招かれて 松彦『漸く此処に上り来ぬ 万公『如何なる事か知らねども 松彦『末代日の王天の神 万公『なぞと云はれて松彦は 松彦『怪しき雲に覆はれつ 万公『様子探らむものをとて 松彦『忙しき身をば顧みず 万公『お寅婆さまの後につき 松彦『来りて見れば文助が 万公『置物然と坐り居る 松彦『お寅婆さまは声をかけ 万公『教主の宮に逸早く 松彦『報告なされと急き立てる 万公『合点往かぬと待つうちに 松彦『やつて来たのはお前さま 万公『義理天上の肉宮と 松彦『名乗るお前は魔我彦か 万公『道理で腰が曲つてる 松彦『丑寅婆さまの云うたよに 万公『この松彦が天の神 松彦『一番偉い身魂なら 万公『蠑螈の別は逸早く 松彦『迎ひに来なくちやならうまい 万公『何か秘密が此家に 松彦『潜んで居るに違ひない 万公『これや浮か浮かと奥の間に 松彦『進む訳には行きませぬ 万公『誠の心があるならば 松彦『肝腎要の教祖さま 万公『蠑螈別が吾前に 松彦『お越しになつて御挨拶 万公『叮嚀になさらにやならうまい 松彦『これが第一不思議ぞや 万公『魔我彦さまよ今一度 松彦『奥の一間に駆け入つて 万公『確な返答を聞いた上 松彦『又改めて御挨拶 万公『得心するよに云うて呉れ 松彦『さうでなければ何処迄も 万公『面会する事お断り 松彦『これからぼつぼつ帰ります 万公『これこれ丑寅お婆さま 松彦『いかいお世話になりました 万公『いざいざさらばいざさらば』 お寅婆は両手を拡げて、 『これこれもうし肉の宮末代日の王天の神 気が短いも程がある悪気を廻して貰つては 大に迷惑致します正宗さまの肉宮は 貴方を決して袖にせぬ一時も早く現はれて 飛びつきたいよに心では思うて厶るは知れた事 さはさり乍ら八百万尊き神が出入して お神酒を飲つて厶る故どしてもこしても暇が無い 短気を出さずに気を静め暫く待つて下さんせ 貴方の顔を潰すよな下手なる事はさせませぬ これこれ日の出の義理天上何をグヅグヅして厶る 一時も早く奥へいて何とか彼とかそこはそれ お前の智慧のありたけを縦横無尽に振り廻し 蠑螈別の神様に○○○○してお出で それが出来ぬよな事ならば義理天上も怪しいぞ 日の出の神も駄目ぢやぞえ』 魔我彦『お寅婆さまの云ふ通りこれから奥へ踏み込んで 羽織の紐ぢやないけれど私の胸にちやんとある 一伍一什を打ち明けて蠑螈別に申しませう 末代日の王天の神暫く待つて下しやんせ 失礼します』と云ひながら一間をさして入りにける。 ○ 待つ間久しき鶴の首万公さまは気を焦ち 脱線だらけの言霊を無性矢鱈に打ち出す。 万公『松彦さまよ五三公よアク、テク、タクの三人よ 蠑螈別と云ふ奴は尊き俺等の一行を 本当に馬鹿にするぢやないか木枯し強い寒空に 火の気一つなき受付に待たして置いてグヅグヅと 神のお給仕か知らねども鱈腹酒に喰ひ酔ひ ズブロクさんになりよつて無我と夢中の為体 夜中の夢を安々と見て居やがるに違ひない これこれ申し松彦さま私は腹が立つて来た 松の根下の岩と云ひ艮婆さまの云ひ草が どうしたものか腑に落ちぬこんな所へ迷ひ込み 眉毛をよまれ尻の毛を一つも無いよに抜かれては 世間へ対して恥晒治国別の先生に どうして云ひ訳立つものか俺をば失敬な婆の奴 ブラリ彦だと云ひ居つた松彦さまはユラリ彦 国治立の神さまのお脇立だと崇め置き 口の先にてチヨロまかし謀叛を起すつもりだらう 挺にも棒にも合はぬ奴したたかものが此の山に 潜んで居るに違ひない聖人君子は危きに 近づかないと云ふ事だ貴方は知つて居る筈ぢや サアサア松彦帰りませうこんな処で馬鹿にされ どうして男が立つものかアク、テク、タクよ五三公よ お前は何と思うて居る意見があれば今ここで 遠慮は入らぬ薩張と俺にぶちあけて呉れぬかい 腹の虫奴がグウグウと怒つて怒つて仕様が無い』 五三公『五三公司が思ふ事遠慮会釈もなきままに 陳列すれば左の通り耳を浚へて聞くがよい 小北の山の神さまは常世の姫の憑りたる 高姫黒姫両人が迷ひの雲に包まれて 開いて置いた醜道だ肝腎要の高姫や 黒姫さまが改悟して三五教に降伏し 今は立派な神司見向きもやらぬウラナイの 教を信じて何になる肝腎要の教祖さま 高姫さまや黒姫が自ら愛想を尽かしたる ウラナイ教に信実がありそな事は無いぢやないか これだけ聞いても分るだらう思へば研究の価値はない これこれ申し松彦さま私はもはや嫌になつた 深くはまらぬ其中にここをば立ち去りスタスタと 悪魔の征途に上りませう取るにも足らぬ奴原を 相手に致して暇潰し肝腎要の神業に 後れた時は何としよう斎苑の館の神様に 云ひ訳立たぬ事になる万公、アク、タク、テクさまよ お前等は何と思うてるか一応意見を五三公に 聞かして呉れよ頼むぞや』 アク『天地の神の御名を笠にきて 世を乱しゆく曲ぞ忌々しき。 義理天上日の出の神と魔我彦が 何を目あてにそんなデマ云ふか。 松彦を末代様よ日の王よ 天の神ぢやと旨く釣りやがる。 善く云はれ気持の悪う無いものと 松彦さまが迷ひかけたる』 松彦『今暫し吾なすままに任しおけ 善しと悪しとは神がさばかむ』 タク『沢山に怪体な宮を建て並べ 怪体な託宣するぞをかしき。 タクは今思ひ浮かぶる事はなし 此場を早くぬけたいばかりぞ』 テク『テクテクと強い山をば登らされ きつい狐につままれてける。 きつく姫名から狐の守護神 義理も天上もあつたものかい』 文助『最前から黙言つて此処で聞いて居れば、お前さま達は大変にこのウラナイ教の本山を疑ひ、ゴテゴテと小言を仰有るやうだが、そんな事を仰有ると神罰が当りますぞや。唯何事も神様にお任せなされ、自分の着物の襟裏についた虱さへ捻り尽されない身で居ながら、広大無辺の御神力を彼是云ふといふ事がありますか。障子一枚外は見えぬと云ふ人間の分際で居ながら、大広木正宗様のお樹てなされた教を何ゴテゴテと云ひなさる、ちと嗜なされたら好からう、ほんに憐れな人達だなア』 万公『芋蕪大根蛇松を書く 文助さまにかきまはされにけり。 芋南瓜茄子のやうな面をして 蕪大根書くぞをかしき。 文助が屁理屈計り並べ立て ばば垂れ腰で睨みけるかな』 文助『これこれ若い衆、蕪大根描いたとて蛇を描いたとて大きなお世話さまだ。放つといて下され、お前達のやうな糸瓜のかすに分つたものかい。瓢箪から駒が出る、徳利から酒が出る。早く改心をなさらぬと、往きも戻りもならぬやうな大根なんが迫つて来ますぞや。嘘計りツグネ芋して、山の芋ばかりして居るのだらう。本当に、芋もよい芋助だなア。屁のつつぱりにもならぬやうな小理屈計り囀つて、何の事だいな』 万公『お爺さま、誠に失礼な事を申ました』 文助『失礼だと云ふ事が分つたかな、分ればよい、神様は何でも見直し聞直し宣直し遊ばすのだから、これからは心得なされよ。吾が目が見えぬと思うて馬鹿にして居なさるが、目の見えぬ目あきもあり、目の見える盲もある世の中だから、余り左兵衛治をなさると、取り返しのならぬ事が出来ますぞえ』 万公『こんな魔窟へやつて来て、身魂も曇らされては取り返しがつきませぬわい。ウフヽヽヽ』 文助『エヽ仕方が無い男だ。こんな没分暁漢に相手になつて居つたら竜神さまが一枚も描けぬやうになつてしまふ。お蛸さまに頼まれた蕪がもちつと仕上らぬから、どれ、奥へ往つて静かな所で一筆揮つて来ませう、これこれ末代日の王天の大神様、暫く待つて居て下さいませ。これから教祖様へ御催促して来ますから』 万公『蕪の先生、左様なら』 文助『エヽ仕方が無いわい、仕方の無いケレマタだなア』 と呟きながら奥の間へ姿を隠した。 (大正一一・一二・一一旧一〇・二三加藤明子録)
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霊界物語 46_酉_小北山の宗教改革2 07 妻難 第七章妻難〔一二一七〕 お覚は歌ふ。 お覚『高姫司の開きたる北山村の本山を 蠑螈別や魔我彦の司に従ひ喜久さまと これの聖地に来て見れば思ひもよらぬ神憑 思ひがけなや吾魂は古き昔の因縁で 木曽義姫の守護神尊き神の御裔と 聞いたる時の驚きは何に譬へむものもなく 其驚きと嬉しさの雲に包まれゐたりけり 尊き神の命令は反くに由なく喜久さまと 三年を越えし今日迄も身を慎みて褥さへ 別にいく夜の淋しさを涙と共にしのびつつ これも昔の神代から世を持ちあらした天罰が 酬うて来たのに違ひないかうして身魂の借銭を つぐなひ下さる事ならばこんな結構な事はない 限りもしれぬ罪悪を直日に見直し聞き直し 百目の質に編笠を一介出してすますよな ボロイ尊い話ぢやとここまで教をよく守り 神に仕へて参りました其おかげやら今日は又 結構な事が分り出し半信半疑の雲はれて げに爽快な魂とスツパリ生れ変りました これもヤツパリ小北山鎮まりいます曲神の 一つはおかげに違ひない吾身に憑つた神様は 木曽義姫といふ事ぢやどこの狐か知らねども ようマア人の肉体をうまく使うたものだなア これぢやに依つて人間は注意をせなくちやならないと 三五教の神様が赤子の口にそら豆を かみくくめるやう親切に諭して下さる御仁愛 其お言葉をいつとなく忘れて了ひウラナイの 教司の高姫が水も漏らさぬ弁舌に 迷うた為に肝腎の尊き親を袖にして 訳の分らぬ神様に迷うて来たのが情ない 大きな顔して家の外どうしてこれが歩けよか とは云ふもののこれも亦仁慈無限の神様の お試しならむと見直せば見直されない事もない あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 此神山に天地の誠の神の降りまし 世人を普く善道に教へ導き吾身魂 救ひ給ひて天国の栄えを与へ給へかし 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも星は天より下るとも 山さけ海はあするとも三五教の神徳に 眼を覚した上からは如何なる事の来るとも 決して邪教にや迷はない曇つた眼は今あけて 真如の光明ありありと心の海に照り出した 仁慈無限の神様よ天の誠の五六七様 何卒々々吾々が汚い心を憐れみて 誠一つの三五の教を完全に委曲かに さとらせ給へ惟神珍の御前に願ぎまつる』 お福はまた歌ふ。 お福『さだ子の姫の肉宮と鈴野の姫をかね給ふ 内事司のお寅さま吾家に現はれ来りまし ウラナイ教の信仰をお勧めなさつた時もあれ 不思議や妾の身体は地震の如く震動し 胸苦しくもなつて来た此奴ア不思議とわれながら 怪しみ疑ふ時もあれ腹の底からウンウンと 唸り出したる玉ゴロが漸く喉へ上りつめ 口を切らうとした時は後にも先にもないやうな 苦しい思ひを致しましたお寅さまが吾家へ来るや否 不思議な事が出来たのは偉い神徳ある人だ 只のお方ぢやあらうまい尊き神の御化身と 信じて拝む折もあれ息は追々楽になり 旭の豊栄昇り姫これからお前は因縁で 俺が肉体かる程に小北の山へ罷り出で 信仰せよとおごそかに自分の口から宣り伝ふ かうなる上は夫婦とも疑ふ余地もあらざれば お寅婆さまの云ふままに屋財家財を抛つて これの館に転住し吾身に持てる財産は 櫛笄に至るまで売代なして神様の お宮の御用に立てましたそれから私は何となく 心驕りて知らぬ間に旭の豊栄昇り姫 霊肉一致の神柱何たる結構な体よと 夫婦が朝夕会ふ毎に一人笑壺に入つてゐた 然るに何ぞ計らむや皆さまのお話聞くにつけ 愛想もコソもつきました何程神の仕組でも 私をこんな目に会はすとは余りヒドイ神様ぢや 私はこれからスツパリと思ひ切ります神いぢり 御幣をかついで笑はれてどうして此世が渡れませう コレコレもうし竹さまえお前は五六七成就の 神のお宮ぢやなかつたかまるで狐につままれた やうな思ひがすぢやないか思ふ所か正真正銘の 坂照山のド狐が騙してゐたのに違ひない コレコレもうし竹さまえ思ひ切るのは今だらう グヅグヅしてると松姫や松彦さまに又しても 眉毛をよまれ尻の毛を一本もないまで抜かれますぞや あゝ怖ろしや怖ろしや神を表に標榜し 正しき此世の人間を騙して食はうとする奴は 虎狼の眷属だ長居は恐れ逸早く ここをば立つて帰りませう竹さまそれが不承知なら 私は勝手に帰にますよコレコレもうし春さまえ お前と私と平常から互に心が解け合うて しつぽり話をしたぢやないか私が信仰やめたなら お前もやめると云ふただろサアサア早く帰りませう トチ呆け爺の竹さまはまだまだお目がさめませぬ サアサア早う』と言ひながら春公さまの手を取つて 太い女がひんにぎりトントントンと広前を 夜叉の如くに駆け出し坂道さして帰りゆく 竹公驚き立上りお福の後を追駆けて 竹公『旭の豊栄昇り姫暫く待つた一寸待つた お前に言ひたい事がある短気は損気ぢや待てしばし 待てと申さば待つがよい之には深いわけがある』 声を限りに叫びつつ坂道指して追うてゆく。 お福は半狂乱の如くになり、河鹿川の川べりにある笠松の麓の堺の神政松の神木としるしてある千引岩の傍に走りより、 お福『コリヤ、神政松の神木、よう今迄おれを騙したなア。此普請は俺が蠑螈別に騙されて拵へたのだ。モウ今日から信仰をやめた上は、叩き潰さうと何うしようと私の勝手だ、エヽ怪体の悪い』 と力一杯押せども引けども、数十人を以て引張つた此巨岩、ビクとも致さばこそ、泰然自若、平気な顔でお福の繰言を冷笑してゐる。お福は十六柱の神になぞらへて植ゑておいた十六本の小松をグイグイと引抜きながら、 お福『エヽ神政松もへつたくれもあつたものか、アタいまいましい、奴狐め、騙しやがつた』 と言ひながら、握つては川へ流し、握つては川へ流し猛り狂ひ、 お福『コリヤ神政木、元の金にならぬか、性念があるなら、せめて一寸なと動いて見せよ。コラよう動かぬか、ド甲斐性なし奴、貴様は神だと申すが、まるで躄のやうな奴だ』 と云ひながら、あたりの石を拾つて、千引の岩にバラバラと打ちかけてゐる。そこへ春公、竹公は走り来り、 竹公『コリヤコリヤお福、マア気をしづめたら何うだ。サウお前のやうに一徹に怒つてくれると話が出来ぬぢやないか』 お福『エヽエ腰抜男が何を言つてるのだい、笑ふ門には福来る、お前の名はお福さまだから、三年先になれば一粒万倍にして福を返して下さると、蠑螈別や魔我彦が言ひやがつて、人の金を残らず巻上げよつた。丸三年になつた時、今日は万倍にしてくれるかと思つて待つてゐたら、一文も、どこからもくれやせぬ。それでも神政成就に近付いたら、百万倍にして返してくれるだろと待つてゐたのだ。最前から聞いてみれば、坂照山のド狐に騙されて居つたと云ふぢやないか、阿呆らしい、どうしてあんな処に居れるものか、今まで大勢の信者に旭の豊栄昇り姫様といつて崇められてゐたのに、大勢の前でスツパぬかれて、どうして此お福の顔が立ちますか。お前さまは気のきかぬ頓馬だから、私が人に顔が会はされないやうにして了つたのだ。此儘泣寝入りをしては世間へ会はす顔がないから、仮令何時までかかつても、此岩をひつくり返し潰さねば承知をせないのだよ。竹さま、春さま、何だ、ヒヨツトコ面して、何青い顔してるのだい、さうだから意気地なしと言はれるのだ』 竹公『貴様がせうもない神憑をするものだから俺までが巻き込まれたのだ。罪は貴様にあるのだ、俺に不足をいふ筋は一つもあるまい』 お福『それだから頓馬といふのよ。何程嬶が勧めても、夫は夫の権利があるぢやないか、なぜ其時に一言気をつけてくれないのだ。お前も一緒に賛成をするものだから、此お福も怪しいとは思うては居つたが、竹さまが男の身で居ながら一番に賛成したものだから、ヤツパリ私の守護神は結構な神様だと思うて賛成したのだ。それがサツパリ当が外れて、世間へ顔出しが出来ぬ事になつて了つたぢやないか。本当にいまいましい、アンアンアン、返せ戻せ、私の出した金を』 竹公『俺だつて、怪しいとは思つて居つたが、お前が一寸も怪しまないものだから、ヤツパリ本真かと思つたのだ。つまりどちらの魂も間が抜けとつたのだから、責任は両方にある。マア俺の云ふ事を聞いて、マ一遍大広間まで出て来てくれ、結構な話を聞かして貰つてやるから……』 お福『ヘン、責任は二人にあるなんて、何とマア卑怯な男だ事、女は蔭者、表には立ちませぬぞや。家長権の執行者はお前ぢやないか、何と云つてもお前が悪いのだよ。馬鹿野郎の頓痴気野郎だよ』 竹公はムツとして、つかみつく、茲に夫婦は組んづ組まれつ、互に髪をつかみ合ひ、キヤアキヤア犬の噛み合ひのやうに云ひ出した。春公は中に割つて入り、 春公『マアマア待つて下さい、五六七成就の大神様、旭の豊栄昇り姫の大神様、神様の生宮が人間なみに喧嘩するといふ事がありますか、みつともないぢや厶いませぬか。これから五六七神政成就して旭の豊栄昇りに栄える松の神代が出て来うとしてゐるのに、肝腎の神柱がそんな事で如何なりますか。どうぞ三千世界を助けると思うて、春公に免じてお鎮まりを願ひます』 お福『何、春さま、お前はヤツパリわたしを旭の豊栄昇り姫と思つてゐるのかい』 春公『ヘーヘー、誰が何と云つても私は飽くまで信じます。そして竹さまは何処迄も五六七成就の大神様です、こんな事が違うてなりますものか。私はお寅婆アさまにタク、テク、お菊さまの云ふ事が気に喰はないのです。ドタマをカチ割つてやろと、腕が鳴り肉が躍つて仕方がなかつたのに、神様の前だと思つて涙を呑み辛抱してゐたのだ。誰が何と云つても、五六七成就の大神様、旭の豊栄昇り姫の大神様に間違はありませぬ』 春公の言に二人はケロリと喧嘩を忘れ、ニコニコしながら、 お福『ソラさうでせうねえ、そんな事があつてたまりますものか。コレ竹さま、春公さまが証明してくれるのだから安心しなさい。これから二人が小北山を背負つて立たねばなりませぬで、三千世界の為ですからね』 竹公『ウーン、さうだな、大変だな、これから』 お福は腹立紛れに引きむしつて川へ流した松の事を思ひ出し、忽ち大地に平伏し、拍手をうつて涙声、 お福『栄えの神政松、ミロク神代の御神木様、十六本の柱神様、真にすまない事を致しました。どうぞ許して下さいませ、其代りにすぐ十六本の松を植ゑてお返し申します、あゝ惟神霊幸倍坐世』 春公『竹さまの胸の村雲晴るさまは 松の根元でキン言をふく』 竹公『アハヽヽヽお目出度う』 お福『神様、真にすみませぬ、有難う厶います、それなら之から、マ一度大広間へやらして頂きませう』 (大正一一・一二・一五旧一〇・二七松村真澄録)
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霊界物語 52_卯_小北山の文助の改心物語 09 黄泉帰 第九章黄泉帰〔一三四五〕 侠客育ちのお菊は年にも似合はず人馴れがして、二人の男をよくもてなし、夜中頃まで酒を勧め互に歌などを詠み交してゐた。イク、サールは初稚姫にお供を願つた処、あの様子では到底許されさうにもない。夜光の玉は戴いて嬉しいが、其為に自分の目的を遮られるのは、又格別に苦しい。初稚姫さまも宝を与へて、吾々の進路を壅塞せむとし給ふ、其やり口、随分お人が悪い……と時々愚痴りながら、お菊の酌でチビリチビリと飲んでゐた。されど神経興奮して、或は悲しく或は淋しくなり、ま一度夜が明けたら、所在方法を以て姫に願ひ出で、どうしても聞かれなければ、自分等二人は自由行動をとり、後になり先になりしてハルナの都まで行かねばおかぬ。神様が吾々の決心を試して厶るのかも知れぬなどと、積んだり崩したり、ひそびそ話に時を移した。お菊は既に既に初稚姫が此聖場を出立された事はよく知つてゐた。併し二人に余り気の毒と思つて、其実を明さなかつたのである。 イク『黙然と手を組みし儘寝もやらず 息の白きに見入りけるかも』 サール『悲しみは冥想となり歌となり 涙となりて吾をめぐるも』 お菊『益良夫が固き心をひるがへし 帰り行きます事のあはれさ』 イク『何事の都合のますか知らねども 強ひて行かましハルナの都へ』 サール『益良夫が若き女に弾かれて 恥の上塗するぞ悲しき』 お菊『皇神は何処の地にも坐ませば いまし二人は此処に居たまへ』 イク『イク度か思ひ返してみたれども 思ひ切られぬ初一念なり』 サール『玉の緒の命惜しまず道の為に 進む吾身を許させ給へ。 神国に生れあひたる吾々は 神より外に仕ふるものなし』 イク『いかにして此難関を切抜けむ ああ只心々なりけり』 お菊『汝が心深くも思ひやるにつけ われも涙に濡れ果てにける。 魔我彦の司なりともましまさば かくも心を痛めざるらむ』 イク『兎も角も初稚姫に今一度 命を的に願ひみむかな』 サール『千引岩押せども引けども動きなき 固き心をいかにとやせむ』 お菊『夜の間にもしも嵐の吹くならば 汝等二人はいかに散るらむ』 イク『イク度か嵐に吹かれ叩かれて 実を結ぶなり白梅の花は』 サール『敷島の大和心は白梅の 旭に匂ふ如くなりけり。 大和魂振ひ起して進み行かむ 千里万里の荒野わたりて』 イク『岩根木根ふみさくみつつ月の国に 進まにやおかぬ大和魂』 斯く三人は夜更けまで眠もやらず、淋しげに歌を詠んで、初稚姫の拒否の如何を気遣ひつつあつた。俄に騒がしき人の声、足駄の音、何事ならむと耳をすます処へ、お千代は慌しく入り来り、 お千代『お菊さま、文助さまの様子が変になりました。何卒来て下さいな』 お菊『そら大変です、もしお二人さま、此処に待つてゐて下さい。一寸文助さまの居間まで行つて来ます』 と早くも立出でむとする。二人は驚いて、 イク、サール『私もお供しませう』 とお菊の後に従ひ、文助の病室へ駆け込んだ。見れば松姫が一生懸命に魂返しの祝詞を奏上してゐる最中であつた。数多の役員信徒は室の内外に狼狽へ騒いで、殆どなす所を知らざる有様である。イク公は、 イク『御免』 と云ひながら、文助の側に寄り、松姫に向ひ、 イク『御苦労さまで厶います』 と軽く挨拶し、懐中から夜光の玉を取出して、文助の前額部に当て、赤心を捧げて十分間ばかり祈願を凝らした。此時既に文助は冷たくなつてゐた。只心臓部の鼓動が幽かにあるのみ。 イク『ヤア此奴ア駄目かも知れませぬな、実に困つた事です。松姫様、此玉を貴女にお預け致します。何卒之を前額部に離さぬやうに当てておいて下さい。私はこれから河鹿川で禊をして参ります』 とイクはサール、お菊を伴ひ、河辺に向つた。そして神政松の根元に衣類を脱ぎすて、ザンブとばかり飛込んで、鼻から上を出し、三人声を揃へて、文助の再び蘇生せむ事を祈つた。 お菊『赤心を神に捧げて仕へたる 司の命救ひ給へよ。 惟神神のまにまに行く人を 止めむとするわれは悲しも』 イク『何事も速川の瀬に流しすてて 清き身魂を甦らせよ』 サール『死して行く人の命をとどめむと 願ふも人の誠なりけり。 今一度息吹返し道の為に 尽す真人とならしめ給へ』 お菊『日頃より誠一つの此翁を 神も憐れみ救ひますらむ。 道のために世のため尽す此翁を 救はせ給へ神の力に。 無理ばかり神の御前に宣る心を あはれと思へ天地の神』 と心急くまま、口から出任せの歌を歌ひ、激流に浮きつ沈みつ、危険を冒して祈り出した。大神もこの三人が赤心を必ず許し給ふであらう。平素は悪戯好の茶目男、余り親切らしく見えぬイク、サールの口の悪い連中も、お転婆娘のお菊も、人の危難に際しては其赤心現はれ、吾身の危険を忘れて神に祈る。これぞ全く美はしき人情の発露にして、常に神に従ひ、神を信じ、誠の道を悟り得るものでなくては出来ぬ所為である。 三人は文助の身を気遣ひながら帰つて来た。忽ちお菊は神懸状態となつて病床に駆け入り、松姫が手より夜光の玉を取り、左右の耳の穴に代る代る当て、何事か小声に称へながら、汗を流して祈つてゐる。イク、サールの両人は赤裸のまま文助の足を揉んだり、息を吹いたり、あらゆる手段を尽した。「ウン」と一声叫んで目をパチリとあけ、起上つた文助、四辺をキヨロキヨロ見廻しながら、大勢の集まりゐるを知つて、 文助『皆さま、何ぞ変つた事が出来ましたか、大勢さまがお集まりになつて居りますが』 お菊『気がつきましたか、それはマア嬉しいこつて厶います。本当にお菊も心配いたしましたよ』 文助『私は或美はしき山へ遊びに行つて居りました。何だか急に目が見え出して、そこら中の青々とした景色や咲き匂ふ花の色香、久し振りで自分の目が見え、世の中の明りに接した時の愉快さ、口で云ふ様な事ぢやありませぬ。ああ又目が見えなくなつた』 と力なげに云ふ。 松姫『文助さま、貴方は此間から人事不省で、皆の者が大変に心配をして居りました。初、徳の両人が貴方を打擲したきり姿を晦まし、貴方はその時からチツとも性念がなかつたのですよ。毎日日日囈言ばかり云うてゐられました。マアマア正気になられて結構で厶いますワ。松姫も蘇生の思ひが致します』 文助『成程、さう聞けば、そんな事もあつたやうに仄に覚えて居ります。つひ最前も小さい村の四辻で二人に会ひましたが、大変親切にしてくれました』 お菊『文助さま、貴方は此処に寝たきり、そんな男は来ませぬよ。大方夢でも見たのでせう。チツと確りなさいませ。一旦貴方は死んで居たのですからなア』 文助『イエイエ、私は決して死んだ覚はありませぬ。どこの方か知らぬが、美しい娘さまが私の手を曳いて、いろいろの所へ連れて行つて下さいました。そして目を直して下さつたお蔭で、永らく見なんだ現界の風光に接し、本当に楽しい旅を続けました。そした処に、自分の顔の二三間ばかり前に、大変な光物が現はれ、眩しくてたまらず、暫く目を塞いで居つた所、今度は祝詞の声が聞え出したので、よくよく耳をすませて考へてゐると、松姫さまやお菊さま其他の方々の声であつた。ハツと思うたら又目が見えなくなりました』 と惜しさうにいふ。 文助は初、徳の二人の若者と格闘した際、頭蓋骨を打たれて昏倒し、一旦仮死状態になつてゐたのである。此時若しもイク、サールの両人が夜光の玉を持つて居らなかつたなれば、或は蘇生しなかつたかも知れぬ。文助が幽冥界に入つて彷徨うたのは、第三天国の広大なる原野であつた。そして或村の十字街頭で初、徳の両人に出会つたのは、何れも其精霊であつた。初、徳の両人は元より文助を尊敬してゐた。併しながら一時の欲に駆られて、高姫や妖幻坊に誤られ、文助の拾うておいた妖幻坊の玉を受取つて帰らうとしたのを文助が拒んだので、止むを得ず、こんな騒動が突発したのである。併しながら二人の精霊は肉体の意思と反対で、文助を虐待したことを非常に怒り、暫く両人の体を脱出して、文助を現界に今一度呼戻さむと此処までやつて来たのである。そこへ熱心なるイク、サール、お菊、松姫等の祈祷の力に依つて、再び現世の残務を果すべく蘇生せしめられたのである。文助は肉体の眼は既に盲し、非常な不愍な者であつたが、霊界に到るや、忽ち外部的状態を脱出し、第二の中間状態を越えて、第三の内分的状態にまで急速度を以て進んだ。其為、神に親しみ神に仕へたる赤心のみ残存し、心の眼開け居りし為に、天界を見ることを得たのである。 すべて現界に在つて耳の遠き者、或は手足の自由の利かぬ者、其他種々の難病に苦んでゐた者も、霊肉脱離の関門を経て霊界に入る時は、肉体の時の如き不具者ではない。すべての官能は益々正確に明瞭に活動するものである。併しながら仮令円満具足せる肉体人と雖も、其心に欠陥ありし者は、霊肉脱離の後に聾者となり盲目となり、或は痴呆者となり不具者となり、其容貌は忽ち変化して妖怪の如くなるものである。総て人間の面貌は心の索引ともいふべきものなるが故に、其心性の如何は直に霊界に於ては暴露さるるものである。現界に於ても悪の最も濃厚なる者は、何程立派な容貌と雖も、之を熟視する時は、どこかに其妖怪的面相を認め得るものである。形体は申分なき美人にして、凄く或は厭らしく見える者もあり、又どことなくお化の様な気持のする人間は、其精霊の悪に向ふ事最も甚だしきを証するものである。 文助は先づ天の八衢の関所に突然着いてゐた。されど本人は自分の嘗て死去した事や、如何なる手続きによつて、こんな見ず知らずの所へ来たかなどと云ふ事は一向考へなかつた。そして現界に残してある妻子のことや、知己朋友の事などもスツカリ忘れてゐた。只神に関する知識のみ益々明瞭になつてゐた。彼は八衢の関所の門を何の気もなく潜つて行つた。後振り返つて見れば、白面赤面の守衛が二人、門の左右に立つてゐる。 文助『ハテ不思議な所だ、地名は何といふだらうか、あの守衛に尋ねて見たいものだ』 と再び踵を返して側に寄り、文助は、 文助『此処は何と云ふ所ですか』 と尋ねてみた。二人の守衛は、 白、赤の守衛『何れ後になつたら分るでせう。お尋ねには及びませぬ。又吾々も申し上げる事は出来ない』 とキツパリ答へた。これはまだ現界へ帰るべき因縁がある事を守衛が知つてゐたからである。もし此処は霊界の八衢であるといふ事を知らしたならば、或は文助が吃驚して、現界に於ける妻子のことを思ひ浮かべ、美はしき天国の関門を覗く事も出来ず、又其魂が中有界に彷徨うて、容易に肉体に還り得ない事を知つたからである。文助は何とはなしに愉快な気分に充たされ、小北山の事も念頭になく、只自分の行先に結構な処、美はしき所があるやうな思ひで、足も軽々と進むのであつた。そして俄に目の開いたのに心勇み、フラフラフラと花に憧憬れた蝶の如く、次へ次へと進んだのである。途中に現界に在る友人や知己並に自分等の知己にして、既に帰幽せし人間にも屡出会うた。されど其時の彼の心は帰幽せし者と帰幽せざる者とを判別する考へもなく、何れも自分と同様に肉身を以て生きて働いてゐることとのみ思うてゐたのである。 斯の如く、人間は仮死状態の時も、又全く死の状態に入つた後も、決して自分は霊肉脱離して、霊界に来てゐるといふ事を知らないものである。何故ならば、意思想念其他の総ての情動に何等の変移なく、且現界に於けるが如き種々煩雑なる羈絆なく、恰も小児の如き情態に身を置くが故である。之を思へば人間は現世に於て神に背き、真理を無視し、社会に大害を与へざる限り、死後は肉体上に於ける欲望や感念即ち自愛の悪念は払拭され、其内分に属する善のみ自由に活躍することを得るが故に、死後の安逸なる生涯を楽しむ事が出来るのである。 天国は上り難く地獄は落ち易しと或聖人が云つた。併しながら人間は肉体のある限り、どうしても外的生涯と内的生涯との中間的境域に居らねばならぬ。故に肉体のある中には、どうしても天国に在る天人の如き円満なる善を行ふ事は出来ない。どうしても善悪混淆、美醜相交はる底の中有的生涯に甘んぜねばならぬ。人の死後に於けるや、神は直に生前の悪と善とを調べ、悪の分子を取り去つて、可成く天国へ救はむとなし給ふものである。故に吾々は天国は上り易く、地獄は落ち難しと言ひたくなるのである。併しながら之は普通の人間としての見解であつて、今日の如く虚偽と罪悪に充ちたる地獄界に籍をおける人間は、既に已に地獄の住民であるから、生前に於て此地獄を脱却し、せめて中有界なりと救はれておかねば、死後の生涯を安楽ならしむることは不可能である。されど神は至仁至愛にましますが故に、如何なる者と雖も、あらゆる方法手段を尽して、之を天国に導き、天国の住民として霊界の為に働かしめ且楽しき生涯を送らしめむと念じ給ふのである。 前にも述べたる如く、神は宇宙を一個の人格者と看做して之を統制し給ふが故に、如何なる悪人と雖も、一個人の身体の一部である。何程汚穢しい所でも、そこに痛みを生じ或は腫物などが出来た時は、其一個人たる人間は種々の方法を尽して之を癒さむ事を願ふやうに、神は地獄界に落ち行く……即ち吾肉体の一部分に発生する腫物や痛み所を治さむと焦慮し給ふは当然である。之を以ても神が如何に人間を始め宇宙一切を吾身の如くにして愛し給ふかが判明するであらう。惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・一・三〇旧一一・一二・一四松村真澄録)
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霊界物語 52_卯_小北山の文助の改心物語 15 千引岩 第一五章千引岩〔一三五一〕 文助は重た相な石が、土鼠が持つ様に、ムクムクと動くので、此奴ア不思議と立止り神言を奏上してゐると、一人は二十歳位な娘、一人は十八歳位な男が岩の下から現はれて来た。文助は何者ならむと身構へしてゐると、男女二人は文助の側へ馴々しくよつて来て、 二人『お父さま、能う来て下さいました。私は年子で厶います……私は平吉で厶います』 文助『私には、成程お年、平吉といふ二人の子はあつた。併しながら其子は、姉は三つの年に、弟は二つの年に死んだ筈だ。お前のやうな大きな子を持つた筈はない、ソラ大方人違だらう』 年子『私は三つの年に現界を去つて、あなたの側を離れ、霊界へ出て来ました。さうすると沢山な、お父さまに騙された人がやつて来て、彼奴は文助の娘だと睨みますので、居るにも居られず、行く所へも行けず、今日で十六年の間、此萱野ケ原で暮して来ました。そして毎日ここに隠れて、姉弟が住居をして居ります。霊界へ来てから、ここまで成人したのです』 文助『成程、さう聞けばどこともなしに女房に似た所もあり、私の記憶に残つてゐるやうだ。そしてお前等二人は永い間此処ばかりに居つたのか』 平吉『ハイ、姉さまと二人が木の実を取つたり、芋を掘つたり、いろいろとして、今日迄暮して来ました。人に見つけられようものなら、すぐに、お前の親は俺をチヨロまかして、こんな所へ落しよつたと云つて責めますから、それが苦しさに、永い間穴住居をして居ました』 と涙を滝の如くに流し、其場で姉弟は泣き伏して了つた。文助は手を組み、涙を流しながら思案にくれてゐると、後から文助の背を叩いて、 (竜助)『オイ文助』 といふ者がある。よくよく見れば、生前に見覚のある竜助であつた。文助は驚いて、 文助『イヤ、お前は竜助か、根つから年がよらぬぢやないか』 竜助『折角お前が生前に於ていろいろと結構な話をしてくれたが、併しながら其話はスツカリ霊界へ来て見ると、間違ひだらけで、サツパリ方角が分らぬやうになり、今日で十年の間、此原野に彷徨うてゐるのだ、これから先へ行くと、八衢の関所があるが、そこから追ひかへされて、かやうな所で面白からぬ生活をやつてゐるのだ。お前の為にどれだけ苦しんでゐる者があるか分つたものでないワ』 文助『誰もかれも、会ふ人毎に不足を聞かされ、たまつたものぢやない。ヤツパリ私の言ふ事は違うて居つたのかなア』 竜助『お前はウラナイ教を俺に教へてくれた先生だが、あの教は皆兇党界の神の言葉だつた。それ故妙な所へ落される所だつたが、産土の神様の御かげによつて、霊界の方へやつて貰うたのだ。併しながら生前に於て誠の神様に反き、兇党界ばかりを拝んだ罪が酬うて来て、智慧は眩み、力はおち、かやうな所に修業を致して居るのだ。お前の娘、息子だつてヤツパリお前の脱線した教を聞いてゐたものだから、俺達と同じやうに、こんな荒野ケ原に惨めな生活をしてゐるのだ。そして大勢の者にお前の子だからと云つて、憎まれてゐるのだ、俺はいつも二人が可愛相なので、大勢に隠れて、チヨコチヨコ喰物を持つて来たり、又淋しからうと思つて訪問してやるのだよ』 文助『あ、困つた事が出来たものだなア、今は改心して三五教に入つてゐるのだ。マ、其時は悪気でしたのでないから、マ、許して貰はな仕方がない、どうぞ皆さまに会つてお詫をしたいものだ』 竜助『三五教だつて、お前の慢心が強いから、肝腎の神様の教は伝はらず、ヤツパリお前の我ばかりで、人を導いて来たのだから、地獄道へ堕ちたのもあり、ここに迷うて居るのも沢山ある。なにほど尊い神の教でも、取次が間違つたならば、信者は迷はざるを得ないのだよ』 文助『何と難かしいものだなア。吾々宣伝使は一体何うしたらいいのだらうか、訳が分らぬやうになつて了つた』 竜助『何でもない事だよ、何事も皆神様の御蔭、神様の御神徳に仍つて人が助かり、自分も生き働き、人の上に立つて教へる事が出来るのだ。自分の力は一つも之に加はるのでないといふ事が合点が行けば、それでお前は立派な宣伝使だ。余り自分の力を頼つて慢心を致すと、助かるべき者も助からぬやうな事が出来するのだよ。是から先には沢山のお前に導かれた連中が苦しんでゐるから、其積りで行つたがよい。二人の娘、息子だつてお前の為に可愛相なものだ。筆先に「子に毒をのます」と書いてあるのは此事だ。合点がいつたか』 と、どこともなしに竜助の言葉は荘重になつて来た。文助は思はず神の言葉のやうに思はれてハツと首を下げ、感謝の涙にくれてゐる。忽ちあたりがクワツと明るくなつたと思へば、竜助は大火団となつて中空に舞ひのぼり、東の方面指して帰つて行く。之は文助の産土の神であつた。 産土の神はお年、平吉の二人を憐れみ、神務の余暇に此処へ現はれて、二人を助け給ひつつあつたのである。文助は始めて産土の神の御仁慈を悟り、地にひれ伏して涕泣感謝を稍久しうした。 文助は二人に向い、 文助『お前たち二人は、子供でもあり、まだ罪も作つてゐないから、ウラナイ教の御神徳で天国へ行つて居る者だとのみ思つてゐたのに、斯様な所で苦労してゐたとは気がつかなかつた。之も全く私の罪だ。どうぞ許してくれ、さぞさぞ苦労をしたであらうな』 お年『お父さま、あなたの吾々を思うて下さる御志は本当に有難う厶いますが、何と云つても、誠の神様の道に反き、兇党界の神に媚び諂ひ、日々罪を重ねてゐられるものですから、私たちの耳にも、現界の消息がチヨコチヨコ聞えて、其度毎に剣を呑むやうな心持で厶いました。今日も亦文助の導きで兇党界行があつたが、産土様のお蔭で霊界へ救はれたといふ噂を幾ら聞いたか分りませぬ。弟も余り恥かしいと云つて外へ出ず、又外へ出ても大勢の者に睨まれるのが辛さに狐のやうに、穴を掘つて、此岩の下に生活を続けて来ました。これだけ広い野原で、石なとなければ印がないので、産土様のお蔭で、此石を一つ運んで貰ひ、これを目当に暮してゐます。石といふものは、さやります黄泉大神と云つて、これさへあれば敵は襲来しませぬ。此岩のお蔭で、姉弟がやうやうとここまで成人したので厶います。お父さまも、一時も早く御改心を遊ばして、吾々を天国へ行くやうにして下さい』 文助『今までは、吾々が祝詞の力に仍つて天国へ救へるもの、又は導けるものと思うてゐたが大変な間違だつた。これは神様の御力に仍つて救はれるのだつた、今迄は自分の力で人を救うと思ひ、又人の病を自分の力で直すと思うたのが慢心だつたのだ。もう此上は神様に何事も任して、御指図を受ける外はない。ああ惟神霊幸倍坐世』 と親子三人は荒野ケ原に端坐して、一生懸命に祈願を凝らした。 因に石といふものは、真を現はすものである。そして、所在虚偽と罪悪と醜穢を裁断する所の神力の備はつたものである。神典古事記にも、黄泉平坂の上に千引の岩をおかれたのは、黄泉国の曲を裁断する為であつた。人間の屋敷の入口に大きな岩を立てて、門に代用するのも外来の悪魔を防ぐ為である。又家屋の周囲に延石を引きまはすのも、千引の岩の古事にならひ悪魔の襲来を防ぐ為である。築山を石を以て飾るのも神の真を現はす為であり、又悪魔の襲来を防ぐ為である。そして所在植物を庭園に栽培するのは愛を表徴したのである。人間の庭園は愛善の徳と信真の光を惟神的に現はした至聖所である。故に之を坪の内とも花園とも称するのである。天国の諸団体の有様は、すべて美はしき石を配置し、所在植物を植ゑつけられた庭園に類似したものである。それから石は砿物であり玉留魂である。故に神様の御霊を斎るのは所謂霊国の真相を現はすもので、月の大神の御神徳に相応するが故に、石の玉を以て御神体とするのである。これ故に霊国の神の御舎は皆石を以て造られ、天国は木を以て、其宮を造られてある。木は愛に相応し、太陽の熱に和合するが故である。大本の御神体が石であつたから、何でも無い神だと嘲笑してゐるそこらあたりの新聞記事などは、実に霊界の真理に到達せざる癲狂痴呆であつて、新聞記者自らの不明を表白してゐるものである。 ああ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・二・九旧一一・一二・二四松村真澄録)
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霊界物語 55_午_ビクの国の物語3(玉木の里) 17 万巌 第一七章万巌〔一四二五〕 玉置の村のテームスは治国別の教を聞いて今迄の貪欲心や執着心を弊履を捨つるが如くに脱却し、広き邸を開放し村人の共有とし、且つ山林田畑を村内に提供して共有となし、茲に一団となつて新しき村を経営する事となつた。先づ大神の神殿を造営すべく村人は今迄テームスの持ち山たりし遠近の山に分け入つて木を切り板を挽き、日夜赤心を尽し、漸くにして一ケ月を経たる後仮宮を造営し、大神を鎮座する事となつた。治国別は村人に教を伝ふべく、又この神館の完成する迄神勅に依つて待つ事とした。数百人の老若男女は悦び勇みて社前に集まり、この盛大なる盛典に列した。治国別は祭主となり、神殿に向つて祝詞くづしの宣伝歌を奏上した。 治国別『久方の天津御空の高天原に、鎮まり居ます大国常立の大神、神伊邪那岐の大神伊邪那美の大神、厳の御霊の大神瑞の御霊の大神を初め奉り、天津神国津神八百万の神達の御前に、三五教の神司治国別の命、清き尊き珍の御前に慎み敬ひ、畏み畏みも申さく、高天原の月の御国を知し召す、瑞の御霊の大御神、日の神国を知し召す、厳の御霊の大神は、現身の世の曇り汚れ罪過を、科戸の風に吹き払ひ、速川の瀬に流し捨て、清き麗しきミロクの御代に立直さむと、神素盞嗚の大御神に、千座の置戸を負はせたまひ、産土山の聖場に、斎苑の館を立て給ひ、千代の住所と定めつつ、神の御言を畏みて、遠近の国々に珍の教を完全に、開かせ給ふ有難さ、百の司を初めとし、四方の国人達は、皇大御神の大御恵を、喜び仰ぎ奉り、早風の如く潮の打寄する事の如く、神の御前に伊寄り集ひて、神の賜ひし村肝の心を錬り鍛へ、百の罪汚れ過を、払ひ清めて天地の、神の柱と生れ出でたる人の身の務めを、完全に委曲に尽し終へむと、励しみ仕ふる勇ましさ、掛巻も畏き皇大神の領有ぎ給ふ、豊葦原の千五百秋の瑞穂の国は、生言霊の幸はふ御国、生言霊の助くる御国、生言霊の生ける御国にましませば、天の下に生きとし生ける民草は、日に夜に心を研き身を謹み、神の賜ひし珍の言霊を祝り上げ奉り、仮にも人を罵らず、譏らず嫉まず憎みなく、睦び親しみ兄弟の如く、現世に生永らへて、日々の生業を楽しみ仕へ奉り、神の依さしの大御業に、仕へ奉るべき者にしあれば、三五教の御教を、夢にも忘るる事なく、朝な夕なに省みて、神の御国の幸ひを、完全に委曲に受けさせ給へと、皇大神の大前に、謹み敬ひ願ぎ奉る、下つ岩根に千木高く、仕へまつりし此宮の、いとも広くいとも清けきが如く、いや永久に、いづの玉置の村人は、テームスの村司を親と崇め、各自の生業を、いそしみ勤めて大神の、御前に勲功を奉り、家内は睦び親しみて、恵良々々に歓ぎ賑ひ、茂り栄えしめ給へ、ああ惟神々々、御霊幸倍ましませよ』 斯かる所へ村の若い衆と見えて赤鉢巻を締め乍ら、鐘や太鼓を叩きつつ、千引の岩を車に載せ、神の御前に奉らむと、大綱を老若男女が握り乍ら汗をタラタラ流しつつ、歌を唄つて進み来る其勇ましさ。(以下()内はワキ) 『(エンヤラヤー、エンヤラヤア)三五教の神司 治国別の宣伝使(ヨーイヨーイ、エンヤラヤア) 天津御空の雲別けて玉置の村に下りまし (ヨーイトセー、ヨーイトセー)(エンヤラヤーのエンヤラヤー) 欲に抜目のない爺テームスさまを説きつけて (ヨーイヨーイエンヤラヤ)も一つそこらで(エンヤラヤア) (ヨーイヨーイヨーイトナ)皆さま揃うてモ一つぢや 昔の昔の先祖から欲をかはいて溜めおいた 山も田地もすつかりと(ヨーイヨーイ、エンヤラヤ) 玉置の村へ放り出して上下なしに安楽な 生活をせよと云はしやつた時節は待たねばならぬもの (ヨーイヨーイ、エンヤラヤア)皆さま揃うてモ一つぢや (ヨーイヨーイ、ヨーイトセ)広き邸を開放して 尊き神の宮を建て老若男女が睦び合ひ 今日は目出度い宮遷し(ヨーイヨーイエンヤラヤ) (ヨーイトセ、ヨーイトセ)皆さまそこらで一気張り (ヨーイヨーイヨーイヤナ)これから玉置の村人は 今度新にお出ました万公さまの若主人に 心の底から服従し上下揃うて神様の 御用を励み日々の野良の仕事や山仕事 喜び勇んで務めませう(ヨーイヨーイエンヤラヤ) (エンヤラヤーのエンヤラヤー)皆さまここらで一気張り 千引の岩は重くとも大勢が心を一つにし 力限りに曳くならば何程甚い阪だとて 神の守りに安々と苧殻を曳くよに上るだらう (ヨーイヨーイエンヤラヤ)(エンヤラヤーのエンヤラヤー) 抑々玉置の村人は昔の昔の神世から この神村を住所としウラルの神の御教を 守り来りし人ばかり(ヨーイヨーイエンヤラヤ) (エンヤラヤーのエンヤラヤー)ウラルの神さまどうしてか 幾何信心したとても些ともお蔭を下さらぬ テームスさまが唯一人お蔭を横取許りして 吾等一同の汗膏絞つて楽に日を暮し 栄耀栄華にやつて居た(ヨーイヨーイエンヤラヤ) (エンヤラヤーのエンヤラヤー)それをば黙つて見て厶る ウラルの彦の神さまは此頃盲になつたのか 但は聾になつたのか村の難儀を知らぬ顔 (ヨーイヨーイエンヤラヤ)(エンヤラヤーのエンヤラヤー) 皆さま揃うて一気張り(ヨーイヨーイエンヤラヤア) 此度救ひの神様が天の河原に棹さして 治国別と名を変へて玉置の村に下りまし 吾等一同を救はむと仁慈無限の御教を 宣らせ給ひし嬉しさよ(ヨーイヨーイエンヤラヤ) (エンヤラヤーのエンヤラヤア)これから玉置の村人は 飢に苦しむ人も無く凍えて死ぬる人もなし 上下運否のないやうにミロクの御代が築かれて 喜び勇んで暮すだらう(ヨーイヨーイエンヤラヤ) (エンヤラヤーのエンヤラヤー)此神殿に祭りたる 救ひの神は厳御霊瑞の御霊の神柱 柱も清く棟高く御殿も宏く風景は 勝れて絶佳の御場所よ(ヨーイヨーイエンヤラヤ) (エンヤラヤーのエンヤラヤー)捻鉢巻の若い衆よ 早階段に近付いたもう一気張り一気張り お声を揃へてヨーイヤナ(ヨーイヨーイエンヤラヤ) (エンヤラヤーのエンヤラヤー)』 と唄ひ乍ら方形の大岩石を社の傍に据ゑたり。これは村人が……此岩石の腐る迄は心を堅く変へませぬ、何処迄も御神の為に尽します……と云ふ赤心の供へ物である。 万公は村人と同じく捻鉢巻をし、運んで来た石を適当の場所に据ゑむとして二三人の部下と共に槌を振り上げ、大地をドンドンと固め、杭を打つて石のにえ込まないやうと勤めて居る。相方が交互に歌を唄ひ乍ら拍子をとつて居る。 万公『神と神との引き合せ(ドーン、ドーン、ドンドンドン) 玉置の村の里庄なるテームスさまの若主人 万公司も現はれて今日の目出度いお祭りを 力限りに祝ひませう(ドーンドーン、ドンドンドン) 打てよ打て打て確り打てよ地獄の釜の割れる迄 今打つ槌は神の槌槌が土うつ面白さ (ドーンドーン、ドンドンドン)玉置の村の皆さまが キールの谷から千引岩毛綱に括つて引き来り 尊きお宮の御前に信と真との光をば 現はし給うた目出度さよ(ドーンドーン、ドンドンドン) 大神様の御利益でテームス館は云ふも更 此村人は永久に尊き此世を楽しんで 堅磐常磐に玉の緒の命を保ち心安く 家も豊に栄えませう(ドーンドーン、ドンドンドン) これから村中心をば一つに合して田を作り 山には木苗を植付けて(ドーンドーン、ドンドンドン) 共有財産沢山と造つて子孫の末迄も (ドーンドーン、ドンドンドン)宝を残し身を治め 心を清めて神様の尊き教に心従し 此世を安く頼もしく(ドーンドーン、ドンドンドン) 千引の岩の御霊もて悪魔を払ひいつ迄も ビクとも動かぬ鉄石の信仰励もぢやないかいな (ドーンドーン、ドンドンドン)どうやら準備が出来たよだ 皆さまモ一つ頼むぞや(ヨーイヨーイエンヤラヤ) (エンヤラヤーのエンヤラヤア)力の強い若い衆は 挺をば四五本持つて来て千引の岩を此上に 何卒据ゑて下されよ万公別が頼みます (ヨーイヨーイエンヤラヤ)(エンヤラヤーのエンヤラヤア) 朝日は照るとも曇るとも轟き渡る滝の水 洗ひ晒した此身体神の御前に奉り 舎身供養を励みませうああ惟神々々 (ヨーイヨーイエンヤラヤ)(エンヤラヤーのエンヤラヤー) 神の御心畏みて村人心を一つにし 今日の祭を恙なく済ませた事の嬉しさよ 玉置の村は万世に玉置の宮と諸共に 栄え尽きせぬ事だらう喜び祝へ諸人よ (ヨーイヨーイエンヤラヤ)(エンヤラヤーのエンヤラヤア)』 (大正一二・三・四旧一・一七於竜宮館加藤明子録)
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霊界物語 57_申_テルモン山の神館2 19 抱月 第一九章抱月〔一四六九〕 求道居士は月夜の庭園をブラリブラリとケリナ姫に導かれ逍遥した。ケリナ姫は遥に西南方を指し、 ケリナ姫『求道さま遥向ふの方に霞の如く、鏡の如く白く光つて居る物が見えませう。あれはテルモン湖水と申してアンブラック川の水の落ち込む東西百里、南北二百里と称へらるる大湖水で厶います。深さは竜宮城迄届いて居ると昔から申しますが、どうかあの湖水の様に広く、深く、清き者となり度いもので厶いますなア。それに月の影が水面に浮んだ時には、得も云はれぬ絶景で厶います。常磐堅磐のパインの老木は湖水の周囲に環の如く取り巻き、白砂青松の得も云はれぬ風景で厶います。一度貴方が御全快遊ばしたら御案内申上たいもので厶いますわ』 求道居士『ハイ有難う厶います。嘸景色のよい事で厶いませうなア』 ケリナ姫『求道様、貴方は妾を永遠に愛して下さるでせうなア』 求道居士『これは又不思議な事を承はります。貴女に限らず、天下万民は申すに及ばず、草の片葉に至る迄神様の愛を取りつぐ私は比丘で厶いますから、力限り愛善の徳を施したいと願つて居ります』 ケリナ姫『貴方は広い世界の中で特別に愛を注ぐものが一人厶いませう』 求道居士『神の愛は平等愛です、つまり博愛ですから愛に依怙贔屓は厶いませぬ。老若男女禽獣虫魚に至る迄力一杯愛する考へで厶います。愛に偏頗があれば愛自体は既に不完全のもので厶いますからなア』 ケリナ姫『ハイ、それは分つて居ります。併し乍ら貴方は、ラブイズベストを何とお心得で厶いますか』 求道居士『今迄のバラモン軍のカーネルならば盛んにラブイズベストを唱へました。併し御覧の通り円頂緇衣の修験者となり、忍辱の衣を身につけた上からは、ラブなどは夢にも思つた事は厶いませぬ』 ケリナ姫『思ひきやラブせし人は隼の 羽ばたき強しパインの林に。 常磐木の松の心のさきくあれと 祈りし君を恨めしくぞ思ふ』 求道居士『皇神の道を畏み進む身は 如何で女に心うつさむ』 ケリナ姫『求道様、どうしても妾の願は聞いて下さいませぬか。貴方は三千彦様とは違つて宣伝使では厶いますまい。又大切な使命を帯びて征途に上らるる御身でもありますまいに、この憐な女を見殺しに遊ばす御所存で厶いますか。貴方のお考へ一つで妾は天国に遊び、又は地獄の底に陥るので厶います。可憐な乙女を地獄に堕しても比丘のお役目が勤まりますか、それから承はりたう厶います。妾のラブは九寸五分式、岩をも射貫く大決心で厶います』 求道居士『アハハハハハ姫様冗談云つてはいけませぬよ。好い加減に揶揄つて置いて下さいませ』 ケリナ姫『動くこそ人の赤心動かずと 云ひて誇らふ人は石木か と云ふ歌が厶いませう、夫を何と考へなさいますか。人間の身体はよもや石木では厶いますまい。愛情の炎が心中に燃えて居らねば衆生済度も出来ますまい。理論のみに走つて冷やかな態度のみを保つのが決して貴方の御本心では厶いますまい』 求道居士『アア、迷惑な事が出来たものだなア。又一つ煩悶の種が殖へて来たワイ』 ケリナ姫『卑ない愚な女にラブされて嘸御迷惑で厶いませう。貴方に愛の無いのを妾はたつてとは申しませぬ』 求道居士『姫様さう悪取をして貰つては求道も本当に困ります。貴方のやうな才媛をどうして嫌ひませうか。私だつて未だ年若い有情の男子で厶いますよ。併し乍ら一旦神様にお任せした身で厶いますから、さう勝手に恋愛味を吸収する訳には参りますまい』 ケリナ姫『モシ求道様、貴方はまだ或物に捉はれて居られますなア。それでは解脱なされたとは申されますまい。況て比丘は宣伝使ではなく、半俗半聖の御身の上で厶いませぬか。神様のお道は総て解放的では厶いませぬか。何物にも捉へらるる事なく、坦々たる大道を自由自在に進み得るのが仁慈無限の神様のお道でせう。情を知らぬは決して男子とは申されますまい』 求道居士『さう短兵急に大手搦手から追撃されてはこの円坊主も逃げ道が厶いませぬワイ、今日は何卒大目に見て許して下さいませ』 ケリナ姫『ホホホホ、貴方は比較的卑怯なお方で厶いますなア。そんな事でどうして衆生済度が出来ますか。貴方は平和の女神を一人堕落さす考へですか。比丘と云ふ雅号を取り除けば普通の人間ぢや厶いませぬか。大神様は変化の術を用ひて衆生を済度遊ばすでせう、貴方も暫く観自在天の境地になつて憐れな女を救ふお考へは厶いませぬか。女に関係して行力が落ちるなぞと頑迷固陋の思想に、失礼ながら囚はれてお出なさるのでは厶いますまいか』 求道居士『何分私の両親が一夜の間に粗製濫造してくれた代物で厶いますから、今時の新しい婦人方のお考へは、容易に頭に滲みませぬ。実に時代後れの骨董品で厶います。何れ徴古館に陳列される代物ですからなア、アハハハハ』 ケリナ姫『エエ辛気臭い、ジレツたい、何と仰有つても妾は初心を貫徹せなくては現代婦人に対しても妾の顔が立ちませぬ。婦人の面貌に泥を塗つては済みませぬ。妾が貴方に擯斥せられたのは決して妾一人ではございませぬ、現代婦人の代表的侮辱を受けたやうなもので厶いますから、そのお覚悟で居て下さい』 と自棄気味になり、猛烈な気焔を吐きかけた。 求道居士『アア夢では無からうかなア。バラモン軍に居つた時には、干瓢に目鼻をつけたやうな女にさへ嫌はれたものだが、修験者の身になつて女を断念したと思へば、生れてから無いやうな、婦人の方からラブされるとは、世の中も変つたものだ、否私の境遇も地異天変が起つたやうなものだ。エエ仕方がない、仮令神罰を蒙つて根の国底の国へ堕ちるとも貴方の熱愛に酬いませう』 ケリナ姫『求道様、決して根底の国へは妾が堕しませぬ。夜なく冬なき天国の楽しみを此世乍らに楽しみ、大神の御用に夫婦和合して仕へませう、御安心下さいませ。夫について男の心と秋の空とか云ひますから、此処で一つ誓つて下さいませ』 求道居士『然らば大空に澄み渡る麗しき月に向つて誓ひませう』 ケリナ姫『月には盈つると虧くるの変化が厶います。途中に変られては困りますから、何卒この庭先の千引岩に誓つて下さいませ』 求道居士『千代八千代千引の岩の動きなく 君を愛でむと誓ふ今日かな』 ケリナ姫『千引岩押せども引けども動きなき 吾背の君と千代を契らむ』 と歌ひ終り、求道の手を固く握り二つ三つ上下左右に強く揺つた。求道も亦姫の手を取り、頬と頬とをピタリと合し、千代の固めとした。暫く両人はパインの蔭に直立し手を握り合つて無言の儘ハートに浪を打たせて居る。ヘルは退屈紛れに月を眺めながらブラリブラリと此場に現はれ来り、 ヘル『イヤ、御両所様、お祝ひ申します』 ケリナ姫『ヤア貴方はヘルさまで厶いましたか。月の景色がよいので求道様とブラついて居ましたのですよ』 ヘル『何卒毎晩月夜で厶いますからお楽しみ遊ばしませ。私は気を利かして控へて居ましたのですよ、アハハハハ』 求道居士『…………』 ケリナ姫『ホホホホ、お月様が可笑しさうにニコニコと笑つてゐらつしやいますわ』 ヘル『貴女も嬉しさうに笑つてゐらつしやいましたね』 (大正一二・三・二六旧二・一〇於皆生温泉浜屋加藤明子録)
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霊界物語 59_戌_イヅミの国2(キヨの港) 03 蜜議 第三章蜜議〔一五〇三〕 三五教の生神と其名も高き宣伝使 初稚姫の神司玉国別の一行が 危難を救ひ守らむと猛犬スマート引連れて キヨの湖打ち渡りバラモン軍の関守の チルテル館に立ちよりていと麗しき離れ家に 一絃琴を弾じつつ神の依さしの神業に 心を尽し身を砕き仕へ給ふぞ畏けれ これの関所を預かりしチルテル司は初稚姫の 貴の容姿に魂抜かれ妻ある身をも省ず 家敷の中に留め置き時を伺ひ此姫の 吾身を慕ふ時を待ち恋の野望を達せむと 一絃琴を与へおき静に一室に隠しけり 初稚姫の宣伝使チルテル司の乞ふがまま 離れの一間に立て籠り心密に神言を 称へ上げつつコードをば弾じて憂を慰めつ 時の至るを待ち給ふチルナの姫は吾夫の 心の底をはかり兼ね悋気の焔を燃やしつつ カンナ、ヘールの両人を私かに近く呼びつけて 心の丈を打ち明し二人の男に謀計 授けて姫を館より放逐せむと企らみつ 心を配るぞいぢらしきカンナ、ヘールの両人は 恋の奴となり果てて姫の館の傍近く 進みて怪しき歌歌ひ踊りつ舞ひつ恋衣を 青葉の風に翻し茲を先途と荒れ狂ふ 初稚姫は窓の戸をサツと開きて庭の面 眺め給へば訝かしやチュウリック姿の両人が 恋に狂うた破れ歌面白可笑しく歌ひつつ 顔赤らめて眺め入る初稚姫は声をかけ 二人の男を呼び入れて手づから茶菓を取り出し いと懇にあしらへば案に相違の両人は 眦をさげて涎繰り願望成就の時来ぬと 胸轟かす可笑しさよ初稚姫の神司 心の玉もピカピカと輝き給へば両人は 云ひ寄る術も荒男ビリビリ体を慄はせて 他人の家から借つて来た狆か猫かと云ふやうな 塩梅式で畏まり顔を赤らめ控へ居る。 初稚『貴方のチュウリックを伺ひますればリュウチナントさまにユゥンケル様のやうで厶いますが、何と凛々しい、男らしいお姿で厶いますなア。男子はどうしても軍人に限ります。花も実もある武士は、文学にも通達して居るもので厶いますが、唯今承はれば、貴方方は文武両道の達人、誠に感心致しました』 カンナ『ヘエ、滅相な。さうお褒めを頂きましては恐れ入ります。私は一介の武弁、文学趣味は一向持ちませぬ。無味乾燥な代物で厶いますよ』 初稚『イヤどうしてどうして、あれだけのお歌を即席にお詠めになるのは、余程文学の素養がなくては出来る業ぢや厶いませぬ。貴方は今は軍人になつていらつしやいますが、文科大学でも優等で卒業なさつたお方で厶いませうねえ』 カンナ『イヤ畏れ入ります。実は赤門出で厶いますが、お蔭で銀時計を頂戴致しま……せなんだ。アハヽヽヽ』 ヘール『拙者こそ、文科大学出身のチヤキチヤキで厶います。随分私の経歴は波瀾重畳、実に惨澹たる歴史に富むで居ります。到底カンナ君如きは傍へも寄れないでせう』 初稚『どうか一つ貴方の面白き来歴や、又今後の御方針を篤り聞かして頂き度いもので厶いますな』 ヘールは茲ぞと云はぬ計り、一歩二歩蹂寄り、自分は文科大学出身だと此ナイスの前で云つたのだから、茲でこそ文学者振りを発揮し、流暢な詩によりて自分の来歴を述べ、姫の心を感動させ、自分の文才を敬慕せしむるが第一の上手段と心得、目を白黒させ乍ら歌を以て吾が来歴を述べ初めた。 ヘール『太陽は天地開闢の昔より 東天を掠めて登り 日々西天に入る 日西天に没して 忽ち暗黒の闇は来る 月は忽ち西天に姿を現はし 照々として天に沖す 月落ち烏啼いて又太陽東天に現はる 満天の星光一時に影を隠し 銀河東西に現はれ或は南北に流る 天は蒼々として際限なく 地は浩々として窮極する所なし 吾は天地の精気を受けて 満目湘々たる世界に生を稟く 嗚呼人は万物の霊長天地の花 忽ち長じて人となり ハルナの都に笈を負ひて登り 文明開化の空気を呼吸し 文科大学の門を出入し 優秀の誉を担ふて郷関に錦を飾る 時しもあれバラモン軍の大元帥 大黒主の神の神意によつて 人生最勝最貴の軍人となり 晨に月を踏み夕に星を頂きて軍務に鞅掌す 或は河海を渡り浩然の気を養ふて神軍に従ふ 長駆千里イヅミの国 漸くつきしキヨの港 云ふ勿れ下級武官の端と 前途洋々として極まりなく 登竜の望みあり 吾今茲に蹕を留めて生霊を愛護す 窈窕嬋妍たる美人天より下つて此館に在り 何んぞ知らむ意中の人 吾眼前に顕現す 人間万事塞翁の馬 小官豈軽んずべけむや 願はくは吾肚裡に包める 雄図を看取したまひて 鴛鴦の契を結ばせたまはむ事を バラモン神明の前に拝跪して 帰命頂礼祈願し奉る』 初稚『オホヽヽヽ。遉文科大学出身丈あつて、どこともなしに余韻嫋々たる詩歌で厶います。妾も文学が大変好きで厶います。本当に春陽の気が漂ひますなア』 ヘール『エヘヽヽヽ。イヤもうお恥かしう厶います。イヤ、カンナ君、リュウチナント殿、君も一つ脳髄の底をたたいて、茲で一つ姫様の御清聴を煩はしたらどうだ』 カンナ『姫様、これから私が、些し計り詩吟をやります。何卒審判は貴女にお願ひ致します』 初稚『ハイ、左様ならば、私が臨時審判長となつて伺ひませう。定めて優秀な詩歌が聞かれる事だと、今から期待して居ります』 カンナ『然らば御免を蒙つて一首吟じて見ませう。オイ、ヘールさま、確り聞いて呉れたまへ』 カンナ『日は照る曇る雨は降る月は盈ち照り虧け光る 大空渡る日の影も月の姿も今此処に 現れます姫に比ぶれば比例にならぬ心地する 此姫様の顔色は日の出の神の御姿 心の底は瑞御霊三五の月と照り渡る 御頭見ればキラキラと星の如くに宝玉が 輝き渡る鮮かさ人は天地の御霊物 宇宙の縮図と聞きつれど今迄名実相叶ふ 縮図を眺めた事はない初稚姫の御姿 天津御国の天人か但しは竜宮の乙姫か 体一面ピカピカと内部外部の隔てなく 輝きたまふ水晶玉金銀瑪瑙玻璃珊瑚 瑠璃の色なす御頭硨磲の笄かざしつつ イヅミの国に現はれてこれの館に下りまし 衆生済度の御誓ひ三十三相備はりし 観音勢至妙音菩薩今目の当り伏し拝み 心の闇もスクスクと晴れ渡りたる尊さよ 恋路に迷ふヘールさま得意の文学捻り出し 七難き歌をよみアツと云はせて姫様の 御心動かし奉り望みを遂げむと焦てども 如何で動かむ千引岩押せども引けども吾々が 弱き力の及ぶべきあゝ惟神々々 神の御霊の幸はいてもしも縁のあるなれば これのナイスと永久に鴛鴦の契を結ばせて 神の御為世の為に誠の教を四方の国 開かせ給へ自在天大国彦の御前に リュウチナントと仕へたるカンナの司が村肝の 心を清めて願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ此処は名に負ふバラモンの キヨの関守神司いや永久に鎮まりて 三五教やウラル教其外百の醜道を 世に布き伝へ人々の心を曇らす曲神を 捉へて懲す大聖場夫の司と任けられし チルテル大尉の副官と仕へまつりし此カンナ 一日も早く吾思ひ遂げさせ給へと願ぎまつる。 朝日子の笑み栄えます姫の姿 天津乙女に優りぬるかな。 如何にして心の丈を語らむと 思へどひとり口籠るかも』 ヘール『何事も神のまにまに進むべし 此道のみは詮術もなければ』 初稚『情けある武士達に物申す 吾身は実にも楽しかりけり。 願はくば神の御為世の為に 心あはせて仕へむとぞ思ふ』 カンナ『何となくまだもの足らぬ心地すれ 姫の御心量りかぬれば』 ヘール『恋衣着むと思はば現身の 垢を洗ひて清くなれなれ。 村肝の心を神に研きなば 天津乙女も如何で嫌はむ』 初稚姫『陸奥の蓬ケ原をかきわけて 萎れぬ花を手折りませ君』 カンナ『手折らむと思ふ心の切なさを 汲み取りたまへ珍の淑人』 かく互に歌をもつて心を探り合ひつつ、夏の長き日を知らぬ間に暮してしまつた。チルナ姫は二人の成功を案じ煩ひつつ、足音を忍ばせ窓の外に立ちよつて、息を潜めて聞き居たり。 (大正一二・四・一旧二・一六於皆生温泉浜屋加藤明子録)
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霊界物語 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 07 方便 第七章方便〔一五三二〕 新に建てられたアヅモス山の社の前には、アキス、カールにワードの役を命じおき、バーチルは玉国別一行其他と共に喜び勇んで、一先づ館へ帰る事となつた。スマの里人は老人少女を聖地に残し、玉国別一行を見送つて、バーチル館に従ひ行く。 元来スマの里は何れも山野田畠一切、バーチルの富豪に併呑され、里人は何れも小作人の境遇に甘んじてゐた。併し乍ら日歩み月進み星移るに従ひて、彼方此方に不平不満の声が起り出し、ソシァリストやコンミュニスト等が現はれて来た。中には極端なるマンモニストもあつて、僅かの財産を地底に埋匿し、吝嗇の限りを尽す小作人も現はれてゐた。然るに此度、アヅモス山の御造営完了と共に、一切の資産を開放して郷民に万遍なく分与する事となり、郷民は何れも歓喜して、リパブリックの建設者として、バーチル夫婦を、口を極めて賞揚する事となつた。俄にスマの里は憤嫉の声なく、各和煦の色を顔面に湛へて、オブチーミストの安住所となつた。 サーベル姫は村人の代表者を十数人膝元に集めて、一切の帳簿を取出し、快く之を手に渡し、自分は夫と共に永遠に、アヅモス山の大神に仕ふる事を約した。ここに又もや郷民の祝宴は盛大に開かれ、夫婦の万歳を祝し合うた。 さて玉国別一行はバーチルの居間に請ぜられ、各歓を尽して、尊き神の御教を互に語り合ひつつ、嬉しく其日を過ごした。 チルテル『玉国別様にお願ひが厶います。私も此通り菩提心を起し、一切の世染[※世塵(せじん)の誤字か?]を捨て、惟神の大道を遵奉し奉る嬉しき身の上となりましたのも、全く貴師の御余光で厶います。就ては宏遠微妙なる御教理も承はりたく、且又自分の歓びを衆生に分ち、神業の一端に奉仕したく存じて居りますから、三五教式の宣伝方法を御教示願ひたいもので厶います』 玉国別『それは誠に結構な思召、玉国別も歓喜の情に堪へませぬ。左様ならば吾々の大神様より直授された宣伝方法に就て、少し許り御伝へを致しませう。 神の恵を身に禀けて世人を救ひ助けむと 四方に教を開くなる至仁至愛の神司 たらむとすれば何時とても心を安く穏かに 歓喜の情を湛へつつ蒼生に打向ひ 幽玄微妙の道を説け清浄無垢の霊地にて 座床を造り身を浄め塵や芥を排除して 汚れに染まぬ衣をつけ心も身をも清くして 始めて宝座に着席し人の尋ねに従ひて 極めて平易に道を説け比丘や比丘尼や信徒や 王侯貴人さまざまの前をも怖ぢず赤心を 尽して微妙の意義を説き面貌声色和らげて 人の身魂をよく査べ因縁比喩を敷衍して 天地の道理を説きさとせ人は神の子神の宮 善言美詞の言霊を一人も嫌ふ者はない もし聴衆の其中に汝が説を攻撃し 或は非難するあれば吾身を深く省みよ 神にかなはぬ言霊を心の曲の汚れより 不知不識に発せるを必ず覚悟し得るならむ 百千万の敵とても只一言の善言に 感じて忽ち強力の神の味方となりぬべし 仮令数万の吾部下を味方となして誇るとも 只一言の悪言に感じて忽ち怨敵と 掌覆す如くなる此真諦を省みて 必ず過つ事勿れ只何事も世の中は すべて善事に宣り直し愛の善をば能く保ち 信の真をば能く悟り而して後に世の人に 真の道を説くならば如何なる外道の曲人も 決して反くものでない誠一つは世を救ふ 神の教は目のあたり現はれ来る摩訶不思議 すべて天地は言霊の御水火に仍りて創造され 又言霊の御水火にて規則正しく賑しく 治まり栄ゆるものぞかしあゝ惟神々々 真善美愛の神の道学ばせ玉へバラモンの 軍に仕へし諸人よ玉国別の神司 心の岩戸を押開き茲に一言宣り申す あゝ惟神々々神の授けし言霊の 厳の伊吹ぞ尊けれ旭は照る共曇る共 月は盈つ共虧くる共大三災の来る共 神に受けたる言霊を清く涼しく宣るならば すべての災忽ちに雲を霞と消え失せむ 守らせ玉へ言霊の善言美詞の太祝詞 心を清め身を浄め其行ひを清くして 厳の言霊宣るなれば雲井に高き天界の 皇大神もエンゼルも地上に現れます神々も 蒼生も草や木も其神徳を慕ひつつ これの教を守るべし偉大なる哉言霊の 皇大神の御活動仰ぎ敬まひ奉れ 仰ぎ敬ひ奉れ』 チルテル『バラモン教の神柱大黒主に従ひて 左手にコーラン捧げつつ右手に剣を握りしめ 折伏摂受の剣として外道の道を辿りつつ 今迄暮し来りしが玉国別の師の君に 誠の道を教へられ布教伝道の方便を いと明かに授けられ心の暗も晴れ渡り 旭の豊栄昇る如身も健かになりにけり いざ此上は真心の限りを尽して愛善の 徳を養ひ信真の覚りを開き詳細に 一切衆生を救済し天地の御子と生れたる 其本分を尽すべしあゝ惟神々々 三五教を守ります厳の御霊や瑞御霊 玉照彦や玉照姫の雄々しき聖き御柱に 従ひ奉り八十の国八十の島々隈もなく 神の教の司とし沐雨櫛風厭ひなく 神の御為世の為に所在ベストを尽すべし 守らせ玉へ惟神神の御前に赤心を 捧げて祈り奉るアヅモス山の宮司 バーチル夫婦も今よりは聖き尊き三五の 教を守り玉ひつつ東の宮と西の宮 心に隔つる事もなくいと忠実に朝夕に 仕へ玉はれ惟神神の光に照されて バラモン軍に仕へたるチルテル司が願ぎ奉る あゝ惟神々々御霊幸ひましませよ』 カンナ『キャプテンの司の君に従ひて 吾も進まむ神の大道へ』 ヘール『久方の天津御神の音信を 今目のあたり聞くぞ尊き』 チルナ姫『背の君は全く人となりましぬ 心に棲める曲のはなれて』 チルテル『わが魂はさまで悪しくは思はねど 寄りくる曲を防ぎかねつつ。 力なき吾魂も今は早や 千引の岩の動かずなりぬ』 チルナ姫『背の君の珍の言霊聞こしより 心の曲も消え失せにけり』 真純彦『師の君の初めて宣らす言霊を 聞きし吾こそ嬉しかりけり』 三千彦『斎苑館立出で月日数重ね 初めて聞きし吾師の言葉』 伊太彦『一と言へば十百千を悟るてふ 身魂ならでは詮すべもなし。 一聞いて直ちに島に打渡り 功績を立てし猩々舟哉』 三千彦『すぐに又鼻をば高め足許に 眼失ひ躓くなゆめ』 伊太彦『皇神の選りに選りたる吾魂は いかでか汝に比ぶべきやは』 真純彦『うぬぼれて深谷川に落ち込むな 慢心すればすぐに躓く』 伊太彦『吾とても誇る心はなけれ共 魂はいそいそ笑み栄え来て』 デビス姫『何事も人に先立つ伊太彦の 神の使のいとど畏き』 チルテル『伊太彦の得意や実にも思ふべし 獣の皮着し人を迎へて』 カンナ『獣とは云へど此世の人草に 優る霊を持てる尊さ』 ヘール『かく迄も人の心の曇りしかと 思へばいとど悲しくなりぬ』 アンチー『アヅモスの山に棲まへる鳥翼 人にあらねど人を見下す。 人々の頭の上を悠々と 舞ひて遊べる鷹ぞ恨めし』 バーチル『何事も天地の神の御心に 任すは人の務めなるらむ』 サーベル姫『天地の神も諾ひ玉ふらむ 心清けき此人々を』 テク『朝夕によからぬ事のみ漁りつつ 暮し来りし吾ぞうたてき。 さり乍ら恵も深き大神の 御手に救はれ勇む今日かな』 ワックス『テルモンの山を立出で今此処に 仇と思ひし人と並びぬ。 仇とのみ思ひし事は夢となり 今は救ひの神と見る哉』 エキス『相共に悪しき事のみ謀り合ひ 神を汚せし事の悔しさ。 町人の前に恥をば曝されて 尻叩かれし事ぞ恥かし。 今日よりは心の駒を立直し 進みて行かむ神の大道に』 ヘルマン『吾も亦善からぬ友に誘はれ ワックスを責めし事の愚かさ。 三五の神の司を殺さむと 大海原に待ちし愚かさ。 皇神の厳の力におぢ恐れ 今は全く猫となりけり』 エル『神館小国別の身失せしと 思ひて世人欺きし吾。 くさぐさの罪を重ねし吾なれど 救ひ玉ひぬ誠の神は。 スメールの御山に清く現れませる 神の御稜威を仰ぐ尊さ。 いかならむ魔神の襲ひ来るとも 今日の心は千代に変へなむ』 サーベル姫『吾こそは猩々姫の霊なり 玉国別に願言やせむ。 天王の宮の御跡の石蓋を 開けて竜王救ひ玉はれ』 玉国別『汝が願諾ひまつり之よりは アヅモス山の神を救はむ』 かく互に歌を取かはし、十二分の歓喜を尽し、玉国別は一同を従へ再び天王の古宮の床下を調査すべく、夜の明くるを待つて進み行く事となつた。 (大正一二・四・七旧二・二二於皆生温泉浜屋松村真澄録)
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霊界物語 61_子_讃美歌1 05 神山 第五章神山〔一五五五〕 第四二 一 天津御国の神人も大空にかがやく日のかげも 夜の守りの月かげもきらめき渡る星さへも 元津御祖の大神をたたへまつりて仕ふなり この地の上に住むものは上なき権力を初めとし 青人草に至るまで神の御稜威をほめたたへ 御前にひれ伏し畏みて愛の善徳身にひたし 信と真との光明にかがやき渡りて天津神に あななひ仕へたてまつれ人はこの世にあるかぎり 神より外に力とし柱となして頼るべき ものは一つだにあらじかしほめよたたへよ神のいづ したへよ愛せよ伊都の神。 二 世界の太初に言葉あり言葉は道なり神に坐す すべてのものは言霊の清き御水火にもとづきて 造られ出でしものぞかし現しき此の世は言霊の 幸ひ助け生ける国天照り渡る貴の国 すべての法規も更生も言葉をはなれて外になし あゝ惟神言霊の幸ひ助くる神の国に 生れ出でたる嬉しさよ。 三 瑞の御魂に身も魂も捧げて仕ふる信徒は ほろびと罪のまが神に苦も無く勝ちて世に栄ゆ 神のめぐみをいつまでもまご子の末まで語りつぎ かならず忘るる事なかれ神にしたがひあるうちは つねに歓びと楽しみの花も絶間なく匂ふなり よろこび祝へ神の徳慕ひまつれよ神の愛。 四 伊都の御魂の教をひらき世人を導き許々多久の 罪をあがなひ清めます瑞の御魂のいさをしを 諸人声を一つにし謳へよ称へよ心のかぎり 三五の月のいときよく日に夜に神をたたへかし。 第四三 限り知られぬ天のはら伊照りかがやく日の神の 清けく明き霊光は元津御祖のはてしなき 貴の神力を顕はせりすべてのものの祖とます 真の神の神業は日々に新たに天地に かがやき渡るぞ畏けれ。 第四四 一 海の内外の隔てなく万の国の人の子よ 天地万有の主宰なる元津御祖の大神の 広き尊き大稜威言霊きよく唱へつつ よろこび歌ひたてまつれ清き言霊善き祈りは 神に捧ぐる御饌津ものぞ。 二 神はわれ等を育てたる真誠の御祖にましませば 現世の事悉く捨てて御仕へたてまつれ 人は神の子神の民神より外に頼るべき 力も柱も世にあらじほめよたたへよ神の恩。 三 花咲き匂ふ弥生空蝶舞ひ遊ぶ天津国の 善言美辞の歌をうたひつつ神の御門にすすみゆく 人は神の子神の民。 四 伊都の大神瑞の御魂恵みは豊かに愛は絶えず 八洲の河原に溢れたり汲めよ信徒まごころ籠めて 生命の清水を飽くまでも人は神の子神の民。 第四五 一 あやにかしこき伊都の神教御祖とあれまして 万の国の人草に恵みの光投げたまふ 仰ぎ敬へ御祖の徳を人は神の子神の民。 二 凡てのものは皇神の厳言霊に生出でぬ 人は神の子神の宮伊都の言霊さづけられ この世に生きて道のため尽す身魂と造られぬ 心を清めて朝夕に生神言を宣り奉り 生成化育の神業に身も棚知らに仕ふべし。 三 この世の栄ゆも言霊ぞ滅び失するも言霊ぞ 舌の剣の矛先に神も現れまし鬼も来る あゝ惟神々々謹むべきは言霊の 水火の一つにありといふ真の教をかしこみて かならず罵ることなかれ人は神の子神の宮。 四 神は吾等を生み成せし誠の御祖にましませば 朝な夕なに大前にぬかづきひれ伏し神恩を 感謝なさずにあるべきや御徳を仰がであるべきや 吾等は神の子神の宮。 五 天津御空より恵みは広く稜威は須弥より猶高し 仰ぎ奉れよ父の徳慕ひ奉れよ母の恩 堅磐に常磐に皇神の定めたまひし大神律は 月日の輝き渡るかぎり亡びず失せじ惟神 神のいさをぞ畏けれ。 六 百千万の生言霊の変れる国々もいとひなく 誠一つを楯となし神の御ため世のために 厳の教を伝へ行く誠の人こそ神の御子 神は汝等と倶にあり勇みて立てよ道のため 振ひ立て立て御代のため権力の主とあれませる 神は守らせ玉ふべしあゝ惟神々々 神の御子達奮ひ起てもはや神代は近づけり。 第四六 一 愛の善徳天地にかがやき渡りて現世の 雲きり四方に吹き払ふ後にきらめく日月は 信の真なる力なり。 二 皇大神の言の葉はスメール山の動きなき 高き姿にさも似たり八千万劫の末までも 堅磐常磐にゆるがまじ仰ぎ敬へ神の教。 三 天地万有遺ちもなく神の御手以て造られし ものにしあれば限りなき恵みの泉は湧き充てり 汲めよまめ人心をきよめ神に習ひて生命の水を。 四 月の御神の恵みの露は天地四方に限りなく 雨のごとくに降りそそぐ清き身魂の盃持ちて 尽きぬいつくしみ汲めよかし生命を維ぐ真清水を。 五 生命は深山の谷水の如くいや永久に湧き出づる 瑞の御魂の清ければ汚れを洗ひ世をめぐみ 清水となりて人を生かす神のいさをを称へかし 人は神の子神の民。 六 瑞の御魂の誓約によりて青人草は日に月に 八桑枝如して栄えゆく罪に汚れし人の子よ 来りてすすげ八洲の河集ひて飲めよ由良川の 清き生命の真清水を。 第四七 一 厳の御魂の御ひかりは至らぬ隈なく世を照らす 罪に曇りてさまよへる人よ来りて御光あびよ。 二 瑞の御魂は月にしあれば寝れる夜の間も守らせ玉ふ 東雲近く朝日の空も蔭に坐まして恵ませ玉ふ。 三 瑞の御教を心にかけて日々の業務いそしみ励み 神の栄光を世に広くあらはし奉らむ道のため。 第四八 一 神のめぐみは天地のはてしも知らぬ御国まで 広けく高くましましてその神業は日に月に いや新しく現れませり。 二 天と地とを抱きつつ霊の御国には月と化り 天津御国には日と化りて天津使や信徒の 霊魂をいともねもごろに恵まひたまふぞ有難き 海とあらはれ山と成り河野となりて物皆に 生命を授くる伊都の神瑞の御魂ぞいと尊し。 三 八束の生髭抜き取られ手足の爪まで除かれて 血潮に染りし瑞御霊天津国人地の上の 青人草になりかはり千座の置戸を負ひませし 更生主ぞ誠の母に坐すわれらの死せるたましひに 生命の清水そそがせて呼び生け浄め大神の 貴の御柱となさしめ玉へあゝ惟神々々 瑞の御魂ぞ慕はしき。 四 瑞の御霊のおんめぐみわれらに降らせ玉ふ上は 厳の御楯を前におき戦ふ如き思ひして 身もたなしらに道のため御神のために仕ふべし 守らせたまへ瑞みたま。 第四九 一 真誠一つは荒磯に並べる千引の巌のごと 逆捲きかみ付き襲ひ来る浪にも動がぬ神国魂よ。 二 神のめぐみは由良河の真砂のごとくいつまでも 数へつくすべき時もなし大海なせるみづの御魂。 三 世は紫陽花の七変りさだめなき身の果敢なさを 命の神にまつろひて永久の栄光を楽しまむ。 四 山と積みてし身の罪やふかき心のけがれをば みづの御魂の真清水に洗はれ清く世に生きむ。 第五〇 一 遠き神代の昔より末の末まで吾魂を 守り玉ひし伊都の神瑞の御魂ぞ御祖神。 二 天と地との別れざる前より坐ます皇神は 斯世を造りし御祖なる大国常立の大神ぞ。 三 千年八千年万の年も神の御眼より見たまへば 川の水泡か草の露短き夏の夢の如し。 四 空蝉の世の人の身は消えて跡なき草の露 水泡となりて亡ぶとも永久に滅びず栄えます まことの神の御ひかりを身魂に浴びて限りなく 天津御国に栄えかし人は神の子神の民。 五 天と地とは変るとも永久に動かぬ神の国 伊都の御座ぞ尊けれわれらが御魂の住む家は 高天原の貴の国夜と冬なき神のその。 第五一 一 伊都の大神瑞の神深き恵みをうかがへば 人の言葉に尽し得ぬ尊きひろき限りなき 計り知られぬ姿なり。 二 暗き浮世にふみ迷ひ道を忘れし人の身に 聖き光をあたへつつ安きにすくふ神の稜威 こころおごりし時にまた慈悲の鞭を加へつつ 眼を覚まし生魂の力を振り立て給ふこそ 実にも尊き神の恩。 三 いやしき吾等の身にあまる厚きめぐみを限りなく 幼き時よりたまひつつ山より高く海よりも 深き仁愛の御守りうれしみ畏み仰ぎまつる。 四 月と現れます瑞御魂あつき恵の露あびて うつし世かくり世隔て無く神の功績を称ふべし。
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霊界物語 61_子_讃美歌1 14 神服 第一四章神服〔一五六四〕 第一三二 一 皇大神の御教に服従ひまつる人の身は 千引の巌と動きなくスメール山と聳え立つ。 二 神の教に清まりし選みの民を子の如く 抱かせたまふ愛の御手いと柔かに穏かに 抱きたまひて珍の国神の都に導き玉ふ。 三 貴の御国の花園に導きたまふ瑞御魂 限りも知らぬ御栄光の中に安けく吾が霊を 住まはせたまふぞ尊けれ。 第一三三 一 興りては直に倒るる国々は 皆かげろふの姿なりけり。 二 永久に動かず立てる神国は 乱れも知らず嵐だもなし。 三 立ち騒ぐ浪にも似たる世の中に 心やすくて住む人はなし。 四 山のごと動かぬ国は伊都能売の 神のまします松の神国。 五 皇神の広き心は和田の原 目にも留まらぬ如くなりけり。 六 神国の清き力は潮なす 海の底ひもはかり知られじ。 第一三四 一 あな尊千座を負ひて罪人を 生かせたまひし岐美の御姿。 二 吾魂の礎固し瑞御霊 その御懐に抱かれし上は。 三 赤心の清き涙を濺ぎつつ 清めの貴美の艱みをぞ思ふ。 四 皇神の御座の前に近づきて 友に交はる事の楽しき。 五 曲神の深き企みに勝たせかし きみのきみなる厳の大神。 六 皇神の誠の道の栄ゆれば 天地の幸は神都にぞ降る。 第一三五 一 現世はよしや悪魔と変るとも 吾は変らじ神のまにまに。 二 天地は砕け壊るる事あるも やすくあるべし神の都は。 三 父母の情も友の親しみも 変る御代にも神は変らじ。 四 皇神の恵の露は永久に かわきし霊に降り濺ぐなり。 五 火に焼かれ水に溺るる苦しさも 心はやすし神の御民は。 第一三六 一 友となり又仇となる国々も 同じ御神の露に霑ふ。 二 御恵の露を降らして世を洗ふ 瑞の大神いとぞ尊し。 三 皇神の珍の御舎仕へてし 清き心を神は愛でなむ。 四 喜びの御歌うたひて御舎を 仕へまつりし人を愛でます。 五 赤心の清き祈りにこたへつつ たまふ恵のいや広きかな。 六 世の民を瑞の御霊に清めつつ 幸ひたまふ珍の言霊。 七 又も世に現はれまして天の下 知らすよき日にあはせたまはれ。 八 愛善のつくる事なき父の神 瑞の御霊を与へたまへり。 九 此上もなき御栄の永久に あれよと祈る信徒天晴。 第一三七 一 元津御祖の皇神の恵の露の弥広く 瑞の御霊を世に下し罪に死したる人草を 甦らして神国へ導きたまひ今日よりは 御民の数に入らしめよ。 二 元津御神は瑞御霊下津御国に下しまし 千座の置戸を負はせつつ世人の罪の贖ひの 清めの主となしたまふ仰ぎ敬へ神の恩 慕ひまつれよ瑞御霊。 三 暗き司の魔の手より諸の罪をば贖はれ 世人の為めに千万の艱みをうけし瑞御霊 諸の悪魔は争ひて亡ぼし呉れむと攻め来る 其光景の物凄さ神の御子たる瑞御霊 仁慈の鞭をふり上げて言向和し神の代の 栄光を清く現はして眠をさまし玉ひけり。 四 厳の御霊や瑞御霊清めのきみの御もとに 生きては頼り死りては御側に近く縋りつき 恵に離るる事もなく清く正しく永久に つかはせたまへ惟神謹みゐやまひ願ぎまつる。 第一三八 一 暗き世の光となりて天降ります 厳の御霊の御稜威かしこし。 二 今よりは命の主の御手のままに うちまかせつつ神国に進まむ。 三 素盞嗚の神の血潮に洗はれし 人は御国に直に進まむ。 四 罪に死し恵に生きて皇神の 御もとに栄ゆる身こそ嬉しき。 五 皇神の教の御子の数に入る 其御しるしの守神祭かな。 六 許々多久の罪を清むる身の幸は 世に比ぶべきものこそあらめ。 七 吾霊も身体も捧げて皇神の 御名を称へつ月日を送らむ。 第一三九 一 三千年の月日重ねて今もなほ 変りたまはぬ神の御瑞兆。 二 奥深くはかり知られぬ秘事を やすく覚りぬ神の御文に。 三 蓮華台清き御庭に集まりし 身魂を永久に照させたまへ。 四 永久の誠のみのり結ぶべく すすがせたまへおのが身魂を。 第一四〇 一 八束髯手足の爪を剥がれつつ 血をもて世をば清めたまひぬ。 二 許々多久の罪も汚れも皇神の 血潮によりて洗はれにける。 三 御恵の教の文を謹みて 味はふ霊魂とならしめたまへ。 四 安河に誓約の業を始めたる 厳と瑞との神ぞ尊き。 五 八衢の醜の大蛇の帯ばせたる 厳の剣を奉りたる君。 第一四一 一 選まれし神の御民よ声高く 瑞の御霊を称へ唱へよ。 二 言霊のあらむ限りを尽すとも 如何でうつし得む瑞の御勲。 三 現世におどろき難儀多けれど 神としあれば撓むことなし。 四 千座なす置戸を負ひて神人の 生命守りしきみぞ尊き。 五 風流なる御歌うたひて瑞御霊 ほめ称へなむ高き勲を。 六 飢ゑ渇く心に生命の糧と水 豊にたまひし瑞の大神。 七 御恵ののどかなりける筵には 掟の影も消えてゆくなり。 八 玉の緒の生命と誠の御光と 輝きたまふ厳の大神。 九 夜は更けて曲の軍の狂ひ立つ 折にも神は安きを賜へり。 (大正一二・五・五旧三・二〇於教主殿加藤明子録)
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霊界物語 62_丑_讃美歌2 22 神樹 第二二章神樹〔一五九七〕 第四六二 一 葦原の瑞穂の国のことごとは 天津御神の御許に仕ふ。 二 天地のすべてを造り玉ひたる 神の御前に山河寄り来む。 三 山河も皇大神の大前に より来仕ふる御代ぞ尊き。 四 言の葉も胸の思ひもよろこびも みな皇神のめぐみし賜もの。 五 大前に地のことごと集まりて みいづ称へむ日は近づきぬ。 六 石の上ふるき神代の初めより 神の御国とえらまれし大和。 七 神の民とえりぬかれたる国人の さすらひの夢も今は醒めけり。 八 葦原の中津御国に降ります 教への主を仰ぎつつ待つ。 九 よろこびを胸にたたへて皇神の いづの救ひをまつの代のたみ。 一〇 わが魂よ貴の教によみがへり 雲より来る神にならへよ。 第四六三 一 限りなき教の神の御恵みを 心にとめて夢な忘れそ。 二 いたづきの身もやすかれと朝夕に わが皇神はわづらひたまふ。 三 ほろびゆく生命を救ひ愛の雨を そそがせ玉ふ瑞の大神。 四 ゆたかなる恵の雨の降りそそぎて 怒のちりを清めさせたまひぬ。 五 とこしへに怒らせたまふ事もなく せむることなき瑞の大神。 六 人の罪を数へたまはず憎みまさず 只愛のみを御身となしたまふ。 七 天津空の高きがごとく皇神の みいづはスメール山も及ばじ。 八 東西分るるごとくわが罪を 遠ざけたまふ仁愛の大神。 九 始めなく終りも知らに栄えませ すべてを造り守る大神。 第四六四 一 千引岩動かぬ主の御恵を 力となして進む嬉しさ。 二 喜びの声を揃へて皇神の あれます都を讃め称へかし。 三 天地の総ての神を統べ玉ふ 誠の神は厳の大神。 四 足曳の山の頂き海の底も 皆皇神の御手にありけり。 五 海陸を造り玉ひし皇神の 御子と生れし人は神なり。 六 跪きてわが身生ましし元津祖を 綾の高天原に伏し拝むかな。 七 村肝の心の清き供物 受けさせ玉へ元津大神。 八 地の限りその大前に畏みて いと美しく称へまつれよ。 九 正しきと誠をもちて諸々の 民を審かせ玉ふ時来ぬ。 一〇 元津御祖厳と瑞との二柱の 御稜威常磐にあれと祈りつ。 第四六五 一 神国には御栄光あれや地の上は 平穏あれよ恵みあれかし。 二 皇神を讃めつ称へつ拝みつ 御栄光仰ぎて御稜威を崇む。 三 天にます大国常立大神は 総てのものの誠の祖なり。 四 祖神は瑞の御霊の瑞の子を 下して世をば救はせ玉ふ。 五 世の罪をわが身一つに引受けし 瑞の御霊の恵み畏し。 六 穢れたるわが魂を洗へかし 瑞の御霊の教の主よ。 七 皇神の右にまします瑞御霊 わが祈りをも受けさせ玉へ。 八 いと清く尊き瑞の神霊 厳の御霊は世を生かしますも。 九 厳御霊瑞の御霊は祖神の 栄光の中にいや栄え玉ふ。 第四六六 一 神路山五十鈴の川の水上に 世を照します神はましけり。 二 暗き世を照さむ為に厳御霊 教祖の宮に下りましけり。 三 更生主の魂に宿りて天地の 奇き誠を諭し玉へり。 四 攻め来る醜の仇さへ憎まずに 言向和す瑞の大神。 五 遠津祖世々の祖等に仕へよと 教へ玉ひぬ瑞の御霊は。 六 世を照す油の教主はあれましぬ 古き誓ひを証しせむため。 七 御教の聖き義しき言の葉に 仕ふる身こそ楽しかりけり。 八 精霊を充たし玉ひて更生主に 天降りし国の常立の神。 九 老の身を賤が伏屋に横たへて 明き尊き道を宣べけり。 一〇 皇神の深き恵に罪人を 救はむとして下りましけり。 一一 御恵の珍の光は死の影と 暗き身魂を照しましけり。 一二 わが足を安き大道に導かむと 輝き玉ふ厳の大神。 第四六七 一 わが心厳の御霊を崇つつ 喜び祝ふ更生の神を。 二 元津神厳の御霊の御教を 伝へ玉へる更生の御神。 三 瑞御霊万代までもわが魂を 真幸くあれと守りますかも。 四 御力に富ませ玉へる厳の神は わが身を尊きものとなしませり。 五 名は清く恵の深き皇神を 畏るるものは世々恵まれむ。 六 村肝の心驕れる枉人の 曲を散らして救はせ玉ふ。 七 高山の伊保里[※「伊保里」の「里」は他の箇所では「理」だがここでは「里」になっている。]を分けて谷に下し いやしきものを上らせ玉ふ。 八 飢渇く人をば飽かせ富めるものも 許させ玉ふ日は近づけり。 九 神孫と其御裔をば限りなく 憐れみ玉ふ元津大神。 一〇 遠津祖に誓ひ玉ひし言の葉を 現し玉ふ時は来にけり。 一一 古の神の誓ひを詳細に 証させ玉ふ瑞の大神。 第四六八 一 新しき御歌を神の大前に 向ひて歌へ声も涼しく。 二 神津代の奇き尊き物語 中に交はる厳の御歌を。 三 御救ひを知らせ正しき理を 世の悉に示させ玉ふ。 四 瑞御霊現れまして五十鈴の 家を堅磐に守らせ玉ふ。 五 地のはても神の救ひを得たりけり 聞けよ諸人神の言葉を。 六 琴の音と歌の声もて皇神を 崇めまつれよ上にある人。 七 海も山も皆諸共に鳴り動み やがては神の御代となるべし。 八 瑞御霊神の御前に手を拍てば 山川共に声挙げて答へむ。 九 地の上の総てのものは大前に 戦き畏み仕ふる御代かな。 一〇 地の上の総ての民を審かむと 下り玉ひぬ神の言葉に。 第四六九 一 節分の夜に退はれし我神の 再び現れます時は来にけり。 二 邪心と悪徳を捨てて愛善の 誠の種子を地の上に蒔け。 三 瑞御霊東の空に甦り 雲に乗りつつ来る日近し。 四 罪に死し神に生きたる瑞御霊 今は此世の柱なりけり。 五 至聖なる旧の都に雲の如 降らせ玉ふ時は来にけり。 六 時満ちて救ひの神は元津国に 甦りましぬ来りて崇めよ。 七 瑞御霊五六七のもとに寄り集ふ 誠の人に生命賜はむ。 第四七〇 一 三柱の御前に向ひて喜びの 声を上げつつ謡ひ舞へかし。 二 わが身魂生ませ玉ひて懇に 哺育みたまふ元津祖神。 三 身体も霊魂も神のものならば 只御心に任すのみなり。 四 綾錦厳の御門に寄り来り 讃めよ称へよ厳の御前に。 五 千早振る神代は愚か万代の 末も守らす元津大神。 第四七一 一 惟神御霊幸ひましませと 三柱神の御前に祈る。 二 スメールの山は何処と打仰ぐ わが目に映る紫の雲。 三 わが魂を助け守らす皇神は 三柱神の外なかりけり。 四 わが持てる五官の機関あるうちに 祈れよ称へよ勤しみ仕へよ。 五 葦原の地の悉を守ります 神は夜昼眠り玉はず。 六 人は只神の守りを受くるより 外に栄光の道こそ無けれ。 七 夜の守り日の守りと月日の神は 光り恵みを与へ玉ひぬ。 八 諸々の醜の災打払ひ わが魂を守らせ玉ふ。 九 皇神は永久までも汝が身の 出づると入るとを守り玉はむ。 (大正一二・五・一四旧三・二九隆光録)
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霊界物語 63_寅_伊太彦の物語 17 峠の涙 第一七章峠の涙〔一六二四〕 ハルセイ山の峠の頂上に古き木株に腰打掛け、疲れを休むる一人の男、過ぎ来し方の空を眺めて独語、 男『春過ぎ夏も去り、漸く初秋の風は吹いて来た。名に負ふ夏の印度の国も、此高山の峠に登つて見れば、ヤハリ秋の気分が漂ふて居る。玉国別の師の君に従ひ凩荒ぶ冬の頃、斎苑の館を立出でて難行苦行の結果、漸くここ迄来るは来たものの、吾身に積る罪悪の重荷に苦しみ、もはや一歩も歩けなくなつて来た。あゝ如何にせば吾罪を赦され、神の任さしの使命をば果すことが出来ようか。スダルマ山の山麓にて吾師の君に別れ、スーラヤ山の岩窟にナーガラシャーの宝玉を得むと勃々たる野心に駆られ、カークス、ベースの両人を道案内にして、漸くにしてスダルマの湖水の一角に辿りつき、ルーブヤが家に一夜の雨宿り、ゆくりなくもブラヷーダ姫に見そめられ、ハルナの都に上る途中とは知り乍らも、同僚の三千彦が嬪に做らひ、師の君の許しをも得ずして神勅を楯に自由の結婚談を定め、それより夫婦気取りになつて兄に送られ、スーラヤ山に登り五大力とか何とか称する神に途中に出会し、いろいろの教訓を受け乍ら、妖怪変化とのみ思ひつめ、死線を越へて、岩窟に忍び込み霊界現界の境迄一行五人は進み入り、高姫の精霊の試しに会はされ、神の化身に助けられ、漸く蘇生し、又もや竜王に辱られ、初稚姫様のおとりなしによつて此通り夜光の玉を頂き、一先づエルサレムを指して上る此伊太彦が体の痛み、死線の毒にあてられし其艱苦は今に残れるか、頭は痛み胸は苦しく、足はかくの如く腫れ上り、もはや一足さへ進まれぬ。吾は如何なる因果ぞや。許させ玉へ天津神、国津神、玉国別の吾師の君よ。惟神霊幸倍坐世。それにつけてもブラヷーダ姫は孱弱き女の一人旅、何処の野辺にさまようであらうか。山野河海を跋渉したる此伊太彦の健足でさへ、斯の如く痛むものを、歩みもなれぬ孱弱き女の身の、その苦しみは如何許りぞや。思へば思へば初めて知つた恋のなやみ、皇大神の御言葉と師の言葉には背かれず、さりとて此儘、思ひ切られぬ胸の苦しさ、最早かくなる上は吾はハルセイ山の頂にて朝の露と消ゆるのではあるまいか。仮令仮にもせよ、千代を契つたブラヷーダ姫に夢になりとも一目会ふて、此世の別離が告げ度いものだ。あゝ如何にせむ千秋の怨み、万斛の涙、何れに向つて吐却せむや』 と、胸を躍らせ、息もたえだえに涙は雨と降りしきる。 かかる処へ二人の杣人に担がれて色青ざめ半死半生の態にて登つて来たのは夢寐にも忘れぬ恋妻のブラヷーダ姫であつた。伊太彦は一目見るより、嬉しさ、悲しさ胸に迫り、涙の声を絞り、僅かに、 『あゝ、其女はブラヷーダ姫であつたか。お前の其様子、嘸苦しいであらう、此伊太彦も死線を越えた時のなやみが、まだ体内に残つて居ると見え、今は九死一生の場合、せめては一目なりと、お前に会うて天国の旅がしたいものだと思つてゐたのだ。あゝ斯様の処で会はうとは夢にも知らなかつた。之も神様の大慈大悲のおとりなし。あゝ有難し有難し、惟神霊幸倍坐世』 と合掌する。ブラヷーダ姫は糸の如き細き声を張り上げて息も苦しげに、 『あゝ嬉しや、貴方は吾背の君伊太彦様で厶いましたか。妾はまだ年端も行かぬ女の身、旅に慣れない孱弱き足許にて貴方に会うた嬉しさ。スーラヤ山の険を越え、生死の境に出入し、神の仰を畏みて、神力高き御一行様に立別れ、踏みも習はぬ山道をトボトボ来る折もあれ、俄に体は疲れ果て、魂は宙に飛び、最早臨終と見えし時、此杣人の情によりて、漸くここに救ひ上げられ参りました。何卒伊太彦様、妾の命は最早断末魔と覚悟を致して居ります。此世の名残に今一度、貴方のお手をお貸し下さいませ。さすれば仮令此儘死するとも少しも此世に残りは厶いませぬ。あゝ生みの父様、母様、兄様が、妾夫婦の事をお聞きなされば如何にお歎き遊ばす事であらう。そればつかりが黄泉路の障り、あゝ如何にせむか』 と伊太彦の側らに身を投げ出して泣き叫ぶ。其痛はしさ。流石豪気の伊太彦も女の情にひかされて恩愛の涙に袖を絞り乍ら、 『あゝ其方の云ふ事も尤もだが、大切なる神の使命を受けて、此夜光の玉をエルサレムの宮に献じ、ハルナの都に進まねばならぬ身の上、仮令肉体は亡ぶとも精霊となつてでも此使命を果さねば、どうして神界に申訳が立たう。初稚姫を通しての大神様のお言葉、吾師の君の御教訓、順序も守らねばならぬ神の使が、如何に恋しき妻の身なればとて、どうして妻の手を握る事が出来よう。もしも此玉の神霊が吾懐より逃ぐる事あれば、それこそ末代の不覚、ここの道理を聞分けて、ブラヷーダ姫、そればつかりは許して呉れ。仮令此世の運命尽きて霊界に至るとも、互に相慕ふ愛善の思ひは弥永久に失するものではあるまい。仮令此世で長命をするとも日数に積れば二三万日の日数、此短き瞬間に恋の魔の手に囚はれて幾億万年の命の障害になるやうな事があつては、吾も汝も、とり返しのならぬ罪悪を重ねねばなるまい。真に、其方を愛する伊太彦は、其女に無限の生命を与へ無窮の歓楽に浴せしめ度いからだ。必ず悪く思ふては呉れなよ』 と息もちぎれちぎれに苦しげに説き諭す。ブラヷーダ姫は首を左右に振り、 『いえいえ、何と仰せられましても臨終の際に只一回の握手位許されない事がありませうか。恋に燃え立つ妾の胸、焦熱地獄の苦しみを救はせ給ふは吾背の君の御手にあり、仮令未来に於て如何なる責苦に会ふとても夫婦が臨終の際に互に介抱をし相助け相救ふ事の出来ない道理がありませうか。物固いにも程が厶います。妾の心も少しは推量して下さいませ』 と云ひつつ伊太彦に縋り付かむとする。伊太彦は儼然として、たかつた蜂を払うやうな態度にて金剛杖の先にてブラヷーダ姫を突き除け、刎ね除け、 『これブラヷーダ姫、慮外な事をなさるな。大神様のお言葉、吾師の君の御教訓を何とする考へであるか。今の苦みは未来の楽み、左様の事に弁別のない其方とは思はなかつた。とは云ふものの、同じ思ひの恋しい夫婦、あゝ如何にせば煩悶苦悩を慰する事が出来ようか』 と胸に焼鉄あてし心地、差俯向いて涙に暮れて居る。二人の杣人は声高らかに打笑ひ、 杣人の一『アハヽヽヽヽ、扨ても扨ても固苦しい旧弊な男だな。最前からの二人の話を聞いて居れば随分お目出度い恋仲と見えるが、永い月日に短い命だ。未来がどうの、こうのと云つても、一旦死んだものが又生きる道理もなし、人間の命は水の泡と消えて行くのだ。長い浮世に短い命を持ち乍ら、何開けぬ事を云ふのだ。これこれ夫婦の方、未来があるの、神様が恐ろしいのと、そんな馬鹿な事云ふものではない。況して、二人の此断末魔の様子、死際になつて思ひ合つた夫婦が手を握つてはならぬ事があるものか。それだから宣伝使と云ふものは時代遅れと云ふのだ。誰に憚つてそんな遠慮するのだ。これ伊太彦さまとやら、こんなナイスに思はれて据膳喰はぬ男があるものか。可愛がつてやらつせい』 伊太『あなたは此辺りの杣人、よくまア、ブラヷーダを御親切に助けて下さつた。又只今のお言葉、実に御親切は有難う厶いますが、未来を信ずる吾々には、どうして、左様な天則違反が出来ませうか』 杣の一『山の奥まで自由恋愛だとか、ラブ・イズ・ベストだとか、言ふ新しい空気が吹いて居るのに、之は又古い事を仰有る。三五教と云ふ宗教は実に古臭いものだな。此広い天地に自在に横行濶歩し、天地経綸の司宰をする人間が些々たる女一人に愛を注いだと云つて、それを罰すると云ふやうな開けぬ神があらうか。もし神ありとせば、そんな事云ふ神は野蛮神の、盲神だよ。いや宣伝使様、悪い事は申しませぬ。この可愛らしい、まだ年の行かぬナイスが之丈け、命の瀬戸際になつて、云ふ事を聞かぬとは無情にも程がある。お前さまも、よもや木石でもあるまい。暖かい血も通つてゐるだらう。人情も悟つて居るだらう。吾々両人がここに居つては、恰好が悪いと思ひ、躊躇してるのではあるまいか。さうすれば吾々両人はここを立退くから、泣くなり、笑ふなり、意茶つくなり、好きの通りにしなさい。おい兄弟、行かう。斯うして夫に渡して置けば、俺等も安心と云ふものだ』 杣の二『さうだな兄貴の云ふ通り両人が居つては恰好が悪くて意茶つく事も出来まい。此世の中は偽りの世の中だから、人の前では思ふ所を言葉に出し、赤裸々に自分の信念を吐く事は誰だつて出来まい。さうだ俺等が此処に居るので断末魔の夫婦の別れを惜む事も出来ぬのだらう。そんなら兄貴、行かうぢやないか』 伊太『もしもし杣人様、決して御心配下さいますな。世間の人間のやうに吾々は決して裏表はありませぬ。思ふ処を云ひ、思ふ所を行ふのみです。吾々は痩ても倒けても三五教の宣伝使、決して外面的の辞令は用ひませぬ。それ故に天地の神に恥づる事なき二人の行動、貴方がお聞き下さらうが、少しも差支は厶いませぬ。何卒誠に済みませぬが、左様な事を仰有らずに、もう暫らく私の最後を見届けて下さい。おひおひ体は重くなり、足は一歩も歩けませぬ。もし吾々夫婦が此儘死んだならばウバナンダ竜王が持つて居た此夜光の玉をエルサレムへ持つて行く事が出来ませぬ。何卒御面倒でせうが乗掛けた舟だと思つて息のある中に此玉を貴方に渡して置きますから、貴方代つて何卒これをエルサレム迄行つて大神様へ奉つて下さいませぬか。沢山はなけれども此懐の金を旅費として、神様の為めと思つて行つて下さいませぬか』 杣の一『ハヽヽヽ気の弱い男だな。お前も神の道の宣伝使ならば、何故も少し男らしくならないのか。醜い弱音を吹いて人に泣顔を見せると云ふのは不心得では厶らぬか、喜怒哀楽を色に現はさずと云ふのが男の中の男で厶らうぞ』 伊太『成程、貴方のお説も尤もだが、人間は悲しい時に泣き、腹の立つた時に怒り、嬉しい時に笑ふのが本当の神心、喜怒哀楽を色に現はさぬ人間は偽り者か化物ですよ。今日の世の中は、それだから虚偽虚飾、世の中が真暗になるのです。吾々宣伝使は之を匡正する為、道々宣伝し乍らハルナの都に進むのです』 杣の二『成程一応御尤もだ。然し乍ら一枚の紙にも裏表がある。最愛の妻が臨終の願ひ、それを聞かない道理が厶いませうか。貴方は余り理智に走り過ぎる、情がなければ人間ではありませぬよ。広い心に考へて世の中は、さう狭く考へるものではありませぬ。変幻出没窮まりなく、時に臨み変に応じ、うまく此世を渡つて行くのが、神の御子たる人間ではありますまいか。ナアお姫さま、さうで厶いませう』 ブラヷ『はい、伊太彦さまのお言葉も御尤もなり、貴方のお言葉も御尤もで厶います』 杣の二『伊太彦さまのお言葉も御尤も、俺の言葉も御尤も、とはチツト可怪しいぢやありませぬか。どちらか、尤もと不尤もの区別がありさうなものだ。さアお姫様、貴女の思惑通りなされませ。斯うして様子を考へて見れば、最早此世の別れと見える。伊太彦さまも体に毒が廻り何れは死なねばならぬ命、生命のある間に互に手を握つて天国とかへ行く準備をなさいませ。決して悪い事は申しませぬ』 伊太『ブラヷーダ姫初めお二人のお言葉、その御親切は骨身に浸み渡つて、何とも云へぬ有難さを感じますが、どうあつても私は神様が恐ろしう厶います。神様の教の為には如何なる愛も、如何なる宝も総てを犠牲にする考へですから、もう之きり何とも仰有らずに下さいませ。あゝ惟神霊幸倍坐世』 杣の一『扨ても扨ても固苦しい男だな。成程之では世に容れられないのも尤もだ。矢張バラモン教が時勢に適当してるわい。俺も実はバラモン教の信者だが、まだ一度も斯んな固苦しい宣伝使に会ふた事はない。押せども引けども少しも動かぬ千引岩のやうな宣伝使だな。斯様な無情な男に恋をなさる姫様こそ実に不幸なお方だな。あゝどうしたら宜からうかな』 (大正一二・五・二九旧四・一四於天声社北村隆光録)
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霊界物語 67_午_ハルの湖/タラハン国の国政改革1 06 浮島の怪猫 第六章浮島の怪猫〔一七〇八〕 波切丸は万波洋々たる湖面を、西南を指して、船舷に皷を打ち乍ら、いともゆるやかに進んでゐる。天気清朗にして春の陽気漂ひ、或は白く或は黒く或は赤き翼を拡げた海鳥が、或は百羽、千羽と群をなし、怪しげな声を絞つて中空を翔めぐり、或は波間に悠然として、浮きつ沈みつ、魚を漁つてゐる。アンボイナは七八尺の大翼を拡げて一文字に空中滑走をやつてゐる。其長閑さは天国の楽園に遊ぶの思ひがあつた。前方につき当つたハルの湖水第一の、岩のみを以て築かれた高山がある。国人は此島山を称して浮島の峰と称へてゐる。一名夜光の岩山ともいふ。船は容赦もなく此岩山の一浬許り手前迄進んで来た。船客は何れも此岩島に向つて、一斉に視線を投げ、此島に関する古来の伝説や由緒について、口々に批評を試みてゐる。 甲『皆さま、御覧なさい。前方に雲を凌いで屹立してゐる、あの岩島は、ハルの湖第一の高山で、いろいろの神秘を蔵してゐる霊山ですよ。昔は夜光の岩山と云つて、岩の頂辺に日月の如き光が輝き、月のない夜の航海には燈明台として尊重されたものです。あのスツクと雲を抜出た山容の具合といひ、全山岩を以て固められた金剛不壊の容姿といひ、万古不動の霊山です。此湖水を渡る者は此山を見なくつちや、湖水を渡つたといふ事は出来ないのです』 乙『成程、見れば見る程立派な山ですな。併し乍ら、今でも夜になると、昔と同じやうに光明を放つてゐるのですか』 甲『此湖水をハルの湖といふ位ですもの、暗がなかつたのです。併し乍らだんだん世の中が曇つた勢か、年と共に光がうすらぎ、今では殆んど光らなくなつたのです。そして湖水の中心に聳え立つてゐたのですが、いつの間にやら、其中心から東へ移つて了つたといふ事です。万古不動の岩山も根がないと見えて浮島らしく、余り西風が烈しかつたと見えて、チクチクと中心から東へ寄つたといふ事です』 乙『成程文化は東漸するとかいひますから、文化風が吹いたのでせう。併し日月星辰何れも皆西へ西へと移つて行くのに、あの岩山に限つて、東へ移るとは少し天地の道理に反してゐるぢやありませぬか。浮草のやうに風に従つて浮動する様な島ならば、何程岩で固めてあつても、何時沈没するか知れませぬから、うつかり近寄るこた出来ますまい』 甲『あの山の頂きを御覧なさい。殆んど枯死せむとする様なひねくれた、ちつぽけな樹木が岩の空隙に僅かに命脈を保つてゐるでせう。山高きが故に尊からず、樹木あるを以て尊しとす……とかいつて、何程高い山でも役に立たぬガラクタ岩で固められ、肝心の樹木がなくては、山の山たる資格はありますまい。せめて燈明台にでもなりや、山としての価値も保てるでせうが、大きな面積を占領して、何一つ芸能のない岩山ではサツパリ話になりますまい。それも昔の様に暗夜を照し往来の船を守つて安全に彼岸に達せしむる働きがあるのなれば、岩山も結構ですが、今日となつては最早無用の長物ですな。昔はあの山の頂きに特に目立つて、仁王の如く直立してゐる大岩石を、アケハルの岩と称へ、国の守り神様として、国民が尊敬してゐたのです。それが今日となつては、少しも光がなく、おまけに其岩に、縦に大きなヒビが入つて、何時破壊するか分らないやうになり、今は大黒岩と人が呼んで居ります。世の中は之を見ても、此ままでは続くものではありますまい。天の神様は地に不思議を現はして世の推移をお示しになると云ひますから、之から推考すれば、大黒主の天下も余り長くはありますまいな』 乙『あの岩山には何か猛獣でも棲んでゐるでせうか』 甲『妙な怪物が沢山棲息してゐるといふ事です。そして其動物は足に水かきがあり、水上を自由自在に游泳したり、山を駆け登る事の速さといつたら、丸切り、風船を飛翔したやうなものだ……との事です。昔は日の神月の神二柱が、天上より御降臨になり八百万神を集ひて、日月の如き光明を放ち、此湖水は素より、印度の国一体を照臨し、妖邪の気を払ひ、天下万民を安息せしめ、神様の御神体として、国人があの岩山を尊敬してゐたのですが、追々と世は澆季末法となり、何時しか其光明も光を失ひ、今や全く虎とも狼とも金毛九尾とも大蛇とも形容し難い怪獣が棲息所となつてゐるさうです。それだから吾々人間が、其島に一歩でも踏み入れやうものなら、忽ち狂悪なる怪獣の爪牙にかかつて、血は吸はれ、肉は喰はれ骨は焼かれて亡びると云つて恐がり、誰も寄りつかないのです。風波が悪くつて、もしも船があの岩島にブツかからうものなら、それこそ寂滅為楽、再び生きて還る事は出来ないので、此頃では、秘々とあの島を悪魔島と云つてゐます。併し大きな声でそんな事言はうものなら、怪物が其声を聞付けて、どんなわざをするか分らぬといふ事ですから、誰も彼も憚つて、大黒岩に関する話を口を閉じて安全無事を祈つてゐるのです。あの島がある為に、少し暴風の時は大変な大波を起し、小さい舟は何時も覆没の難に会ふのですからなア。何とかして、天の大きな工匠がやつて来て大鉄槌を振ひ、打砕いて、吾々の安全を守つてくれる、大神将が現はれ相なものですな』 乙『何と、権威のある岩山ぢやありませぬか。つまり此湖面に傲然と突つ立つて、所在島々を睥睨し、こわ持てに持ててゐるのですな』 甲『あの岩山は時々大鳴動を起し、噴煙を吐き散らし、湖面を暗に包んで了ふ事があるのですよ。其噴煙には一種の毒瓦斯が含有してゐますから、其煙に襲はれた者は忽ち禿頭病になり、或は眼病を煩ひ、耳は聞えなくなり、舌は動かなくなるといふ事です。そして肚のすく事、咽喉の渇く事、一通りぢやないさうです。そんな魔風に、折あしく出会した者は可い災難ですよ』 乙『丸つ切り蚰蜒か、蛇蝎の様な恐ろしい厭らしい岩山ですな。なぜ天地の神さまは人民を愛する心より、湖上の大害物を除けて下さらぬのでせうか。あつて益なく、なければ大変、自由自在の航海が出来て便利だのに、世の中は、神様と雖、或程度迄は自由にならないと見えますな』 甲『何事も時節の力ですよ。金輪奈落の地底からつき出てをつたといふ、あの大高の岩山が、僅かの風位に動揺して、東へ東へと流れ移る様になつたのですから、最早其根底はグラついてゐるのでせう。一つレコード破りの大地震でも勃発したら、手もなく、湖底に沈んで了ふでせう。オ、アレアレ御覧なさい。頂上の夫婦岩が、何だか怪しく動き出したぢやありませぬか』 乙『風も吹かないのに、千引の岩が自動するといふ道理もありますまい。舟が動くので岩が動くやうに見えるのでせう』 甲『ナニ、さうではありますまい。舟が動いて岩が動くやうに見えるのなれば、浮島全部が動かねばなりますまい。他に散在してゐる大小無数の島々も、同じ様に動かねばなりますまい。岩山の頂上に限つて動き出すのは、ヤツパリ船の動揺の作用でもなければ、変視幻視の作用でもありますまい。キツと之は何かの前兆でせうよ』 乙『そう承はれば、いかにも動いて居ります。あれあれ、そろそろ夫婦岩が頂きの方から下の方へ向つて歩き初めたぢやありませぬか』 甲『成程妙だ。段々下つて来るぢやありませぬか。岩かと思へば虎が這うてゐる様に見え出して来たぢやありませぬか』 乙『いかにも大虎です哩。アレアレ全山が動揺し出しました。此奴ア沈没でもせうものなら、それ丈水量がまさり、大波が起つて、吾々の船も大変な影響をうけるでせう。危ない事になつて来たものですワイ』 かく話す内、波切丸は浮島の岩山の間近に進んだ。島の周囲は何となく波が高い。虎と見えた岩の変化は磯端に下つて来た。よくよく見れば牛の様な虎猫である。虎猫は波切丸を目をいからして、睨み乍ら、逃げるが如く湖面を渡つて夫婦連れ、西方指して浮きつ沈みつ逃げて行く。俄に浮島は鳴動を始め、前後左右に、全山は揺れて来た。チクリチクリと山の量は小さくなり低くなり、半時許りの内に水面に其影を没して了つた。余り沈没の仕方が漸進的であつたので、恐ろしき荒波も立たず、波切丸を前後左右に動揺する位ですんだ。一同の船客は此光景を眺めて、何れも顔色青ざめ、不思議々々と連呼するのみであつた。此時船底に横臥してゐた梅公宣伝使は船の少しく動揺せしに目を醒まし、ヒヨロリヒヨロリと甲板に上つて来た。さしもに有名な大高の岩山は跡形もなく水泡と消えてゐた。そして船客が口々に陥没の記念所を話してゐる。梅公は船客の一人に向つて、 『風もないのに、大変な波ですな。どつかの島が沈没したのぢやありませぬか』 甲『ハイ、貴方、あの大変事を御覧にならなかつたのですか。随分見物でしたよ。昔から日月の如く光つてゐた頂上の夫婦岩は俄に揺るぎ出し、終いの果には大きな虎となり、磯端へ下つて来た時分には猫となり、波の間を浮きつ沈みつ、西の方へ逃げて行つたと思へば、チクリチクリと島が沈み出し、たうとう無くなつて了ひました。こんな事は昔から見た事はありませぬ。コリヤ何かの天のお知らせでせうかな』 梅『どうも不思議ですな。併し乍ら人間から見れば大変な事のやうですが、宇宙万有を創造し玉うた神様の御目から見れば、吾々が頬に吸ひついた蚊を一匹叩き殺す様なものでせう。併し乍ら吾々は之を見て、自ら戒め、悟らねばなりませぬ』 乙『貴方は何教かの宣伝使様のやうですが、一体全体此世の中は何うなるでせうか。吾々は不安で堪らないのです。つい一時前迄泰然として湖中に聳えてゐた、あの岩山が脆くも湖底に沈没するといふよな不祥な世の中ですからなア』 梅『今日は妖邪の気、国の上下に充ちあふれ、仁義だの、道徳だのと云ふ美風は地を払ひ、悪と虚偽との悪風吹き荒び、世は益々暗黒の淵に沈淪し、聖者は野に隠れ、愚者は高きに上つて国政を私し、善は虐げられ悪は栄えるといふ無道の社会ですから、天地も之に感応して、色々の不思議が勃発するのでせう。今日の人間は何れも堕落の淵に沈み、卑劣心のみ頭を擡げ、有為の人材は生れ来らず、末法常暗の世となり果てゐるのですから、吾々は斎苑の館の神柱、主の神の救世的御神業に奉仕し、天下の暗雲を払ひ、悲哀の淵に沈める蒼生を平安無事なる楽郷に救はむが為に所在艱難辛苦をなめ、天下を遍歴して、神教を伝達してゐるのです。未だ未だ世の中は、之れ位な不思議では治まりませぬよ。茲十年以内には、世界的、又々大戦争が勃発するでせう。今日ウラル教とバラモン教との戦争が始まらむとして居りますが、斯んなことはホンの児戯に等しきもので、世界の将来は、実に戦慄すべき大禍が横たはつて居ります。夫故、吾々は愛善の徳と信真の光に満ち玉ふ大神様の御神諭を拝し、普く天下の万民を救はむが為に、草のしとね、星の夜具、木の根を枕として、天下公共の為に塵身を捧げてゐるのです』 甲『成程承はれば承はる程、今日の世の中は不安の空気が漂うてゐるやうです。今の人間は神仏の洪大無辺なる御威徳を無視し、暴力と圧制とを以つて唯一の武器とする大黒主の前に拝跪渇仰し、世の中に尊き者はハルナの都の大黒主より外にないものだと誤解してゐるのだから、天地の怒に触れて、世の中は一旦破壊さるるのは当然でせう。私はウラル教の信者で厶いますが、第一、教主様からして、……神を信ずるのは科学的でなくては可かない。神秘だとか奇蹟だとかを以て信仰を維持してゐたのは、太古未開の時代の事だ。日進月歩、開明の今日は、そんなゴマカシは世人が受入れない……と言つてゐらつしやるのですもの、丸切り神様を科学扱ひにし、御神体を分析解剖して、色々の批評を下すといふ極悪世界ですもの。斯んな世の中が出て来るのは寧ろ当然でせう。貴方は何教の宣伝使で厶いますか。神様に対する御感想を承はりたいもので厶いますな』 梅『最前も申上げた通り、斎苑の館の大神様は三五教を御開きになつたのです。そして私は同教の宣伝使照国別様といふ御方の従者となつて、宣伝の旅に立つたもので厶います。それ故貴方等のお尋ねに対し、立派な答は到底出来ませぬ。併し乍ら神様は昔の人のいつた様に、超然として人間を離れた者ではありませぬ。神人合一の境に入つて始めて、神の神たり、人の人たる働きが出来得るのです。故に三五教にては、人は神の子神の宮と称へ、舎身的大活動を、天下万民の為にやつてゐるのです』 甲『何か御教示について、極簡単明瞭に、神と人との関係を解らして頂く事は出来ますまいか』 梅『ハイ、私にもまだ修業が未熟なので、判然した事は申上げ兼ますが、吾宣伝使の君から教はつた一つの格言が厶いますから、之を貴方にお聞かせ致しませう。 神力と人力 一、宇宙の本源は活動力にして即ち神なり。 一、万物は活動力の発現にして神の断片なり。 一、人は活動力の主体、天地経綸の司宰者なり。活動力は洪大無辺にして宗教、政治、哲学、倫理、教育、科学、法律等の源泉なり。 一、人は神の子神の生宮なり。而して又神と成り得るものなり。 一、人は神にしあれば神に習ひて能く活動し、自己を信じ、他人を信じ、依頼心を起す可らず。 一、世界人類の平和と幸福の為に苦難を意とせず、真理の為に活躍し実行するものは神なり。 一、神は万物普遍の活霊にして、人は神業経綸の主体なり。霊体一致して茲に無限無極の権威を発揮し、万世の基本を樹立す』 甲『イヤ有難う。御教示を聞いて地獄から極楽浄土へ転住したやうな法悦に咽びました。成程人間は神様の分派で、いはば小なる神で厶いますなア。今迄ウラル教で称へてをりました教理に比ぶれば、其内容に於て、其尊さに於て、真理の徹底したる点に於て、天地霄壌の差が厶います。私はスガの港の小さい商人で厶いますが、宅にはウラル彦の神様を奉斎してをります。併し乍ら之は祖先以来伝統的に祀つてゐるので、言はば葬式などの便利上、ウラル教徒となつてゐるのに過ぎませぬ。既成宗教は已に命脈を失ひ、只其残骸を止むるのみ。吾々人民は信仰に飢渇き、精神の道に放浪し、一日として、此世を安心に送る事が出来なかつたのです。旧道徳は既に已に世にすたれて、新道徳も起らず、又偉大なる新宗教も勃起せないと云つて、日夜悔んで居りましたが、かやうな崇高な偉大な真宗教が起つてゐるとは、夢にも知らなかつたのです。計らずも波切丸の船中に於て、かかる尊き神様のお使に巡り会ひ、起死回生の御神教を聞かして頂くとは、何たる、私は幸福で厶いませう。私の宅は、誠に手狭で厶いますが、スガの港のイルクと云つて、多少遠近に名を知られた小商人で厶います。どうか、私の宅へも蓮歩を枉げ下さいまして、家族一同に、尊き教をお授け下さいます様にお願ひ致します。そして私は此結構な御神徳を独占せず、力のあらむ限り、万民に神徳を宣伝さして頂く考へで厶いますから、何卒宜しくお願ひ申上げます』 梅公『実に結構なる貴方の御心掛、之も大慈大悲の大神様の御引合せで厶いませう。之を御縁に、私もスガの港へ船がつきましたら、貴方のお宅へ立よらして頂きませう。 思ひきや神の仕組の真人は 御船の中にもくばりあるとは。 此船は神の救ひの船ぞかし 世の荒波を分けつつ進めり』 (大正一三・一二・二新一二・二七於祥雲閣松村真澄録)
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霊界物語 72_亥_スガの港(宗教問答所) 01 老の高砂 第一章老の高砂〔一八一〇〕 神の力のこもりたる如意の宝珠に村肝の 心の綱を奪はれて自転倒島を初めとし 世界隈なく駆けめぐり揚句のはては外国魂の よるべ渚の捨小舟琵琶の湖水に浮びたる 弁天さまの床下の三角石を暗の夜の 目標となして爪先の血のにじむ迄掻きまはし 断念したる玉探し産みおとしたる一人子の 所在をさがす折もあれ淡路の洲本の東助は 昔なじみの恋人と知るや忽ち恋雲に 全身くまなく包まれて又も狂態演出し 綾の聖地を追放されおためごかしに再度の 山の麓に建てられし生田の森の神館 司となりて暫くはいとまめやかに大神に 仕へ侍りし折もあれ夜寒の冬も早やあけて 若葉のめぐむ春となり再び起る婆勇み 恋の焔を消しかねて大海原を打渡り 見なれぬ山野を数越えて五月六月草枕 旅の疲れも漸くに甦生りたる斎苑館 ウブスナ山にかけ上り総務を勤むる東別 司に面会せむものと富楼那の弁の舌の先 泣きつ口説きつ詰寄れどビクとも動かぬ千引岩 鉄石心の東助を生捕る由もないじやくり 恥を忍びてテクテクと阿修羅の姿凄じく にらみつけたる斎苑館後足あげて砂をけり 肩肱怒らせ尻を振り己見てゐよ東助よ 思ひこんだる女丈夫の矢竹の心は此通り 岩に矢の立つ例あり千引の岩にも松茂る 挺子でも棒でも動かない恋の意地をば立てぬいて 居並ぶ数多の役員に泡を吹かせにやおかないと 風吹き荒ぶ阪道を徳利コブラをぶらつかせ 尻切れ草履を足にかけ鼻息荒く口ゆがめ 眼を怒らせ空中を二つの肩にしやくりつつ 地団駄踏んで上り行くあゝ惟神々々 御霊幸ひましまして思ひつめたる恋の意地 遂げさせ玉へと祈りつつ祠の森に来て見れば 思ひがけなき神の宮千木高知りて聳り立つ 荘厳無比の神徳に呆れて高姫言葉なく しばし佇み居たりしがヤンチヤ婆の高姫は 金毛九尾と還元し図々しくも受付に 大手をふりつつ進みより声厳かに掛合へば 祠の森に仕へてゆまだ日も経たぬ神司 斎苑の館の御使と信じて奥へ通しける 高姫ここに尻を据ゑ斎苑の館へ往来する 信徒等を引止めて虱殺しに吾道へ 堕落とさせむと企みつ教主の席にすましこみ 奥殿深く鎮まりぬ少時あつて受付に 訪ふ真人のメモアルはトの字のついた司ぞと 聞いて高姫膝を打ちウブスナ山の聖場に 於いてトの字のつく人は東助さまに違ひない 人目の関を恥らいて吾身を素気なく扱ひつ 心はさうぢやない(内)証の妻に会はむと河鹿山 けはしき阪を昇降し昔馴染みの高姫を 慕うて厶つたに違ひないあゝ有難い有難い 女の髪の毛一筋で大象さへも引くと云ふ 諺さへも有るものを年はとつても肉付の 人に勝れた此体吾肉体の曲線美 全身つつむ芳香を忘られ難く捨て難く 慕うて来るやもめ鳥東助さまも恋の道 少しは話せる人だなアこりや面白い面白い 人目少なき此館思ふ存分口説き立て 昔の欠点をさらけ出し顔を紅葉に染めてやらう とは云ふものの妾だとて年はとつても恋衣 着せられや顔が赤くなる赤き誠の心もて 互に親切尽し合ひ老木の枝も花盛り 小鳥は歌ひ蝶は舞ふ喜楽蜻蛉の悠々と 羽を拡げて翔つ如く天下に羽翼を伸ばしつつ 斎苑の館に鼻あかし若しあはよくばウラナイの 道を再開せむものと雄猛びするぞ凄じき 受付イルの案内で入り来る男はあら不思議 東助ならぬ時置師いつも吾身の邪魔ひろぐ 杢助総務の姿には流石の高姫ギヨツとして 倒れむばかりに驚けど副守の加勢に励まされ 膝立て直し襟正し太いお尻をチント据ゑ 団栗眼を細くしてあらむ限りの媚呈し 前歯の抜けた口許を無理にすぼめたスタイルは 棚の鼠の餅かじるその口許にさも似たり 高姫心に思ふやう吾目の敵杢助も 木石ならぬ肉の宮少しは情を知るであらう 一程二金三器量恋の規則と聞くからは 天下に比類なき程のよき高姫がこの笑凹 鬼でも蛇でも吸ひ込んで捕虜にせられぬ筈はない さうぢやさうぢやと胸の裡合点々々と首肯いて 『これこれまうし時置師杢助司の総務さま ようマアお出まし下さつた三羽烏の一人と 名を轟かすお前こそ東別に比ぶれば 幾層倍の英傑ぞ何しに御座つたその訳を つぶさに知らして下され』としなだれかかる嫌らしさ 杢助総務に変装した大雲山の大妖魅 妖幻坊は面を上げ鼻動めかし鷹揚に 赤き口をば開きつつダミ声絞りケラケラと 館も揺ぐ高笑ひ 『これこれ高チヤン生宮さま日出神の肉の宮 お前の強い恋の意地側に見る目も羨ましと 後を慕うて来たわいな東助さまには済まないが 人の前とは云ひ乍ら一旦捨てた恋の花 拾うて見るも人助け恋の奥の手と勇み立ち 一つ相談せむものときつい山阪乗り越えて 出て来た可愛い男ぞや』と祠の森の聖場で 交渉談判開始して 『二世や三世はまだ愚か五百生迄契をば ここで確り結び昆布寝てはするめの老夫婦 二人の誉も高砂やお前の持つた浦舟に 真帆や片帆をかかげつつ浪の淡路の島影に 漂ひ舟を割りし如玉の御舟を漕ぎ出して 心も安く住の江の月と花との夫婦仲 面白可笑しく暮さうか』云へば高姫喉鳴らし 好い鴨鳥を捉へたチンチンカモカモ酒祝ひ 杢助さまの銚子からさす玉の露ドツサリと 玉の盃に満たしつつ夜舟遊びをせむものと 契りも深き秋茄子種なし話に夜を明かす かかる処へ宣伝使初稚姫が現はれて 高姫さまの醜態を見て見ぬふりをなし乍ら 駒を停めて稍暫し祠の森の曲津見を 払はむものとスマートに旨を含ませ床下に 忍ばせおきて妖幻坊高姫司を神の在す 高天の原に救はむと心も千々に砕かせつ とどまり玉ふ折もあれ妖幻坊は逸早く 高姫引連れ雲霞何処ともなく逃げ失せぬ あゝ惟神々々神の恵みに照されて 醜の高姫行衛をば完全に委曲に明し行く 神の出口の瑞月が日本三景の一と聞く 風光明媚老松の白砂の浜にそそり建つ 天の橋立背に負ひなかや旅宿の別館に 口述台の舟に乗り心も清くいさぎよく 妖幻坊や高姫の恋と欲とに迷ひたる その経緯を詳細に伝へ行くこそ床しけれ あゝ惟神々々御霊幸へましませよ。 (大正一五・六・二九旧五・二〇於天之橋立掬翠荘北村隆光録)