| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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21 (985) |
ひふみ神示 | 39_月光の巻 | 第53帖 | これほどことわけて申しても得心出来ないのならば、得心の行くまで思ふままにやりて見なされよ。そなたは神の中にゐるのであるから、いくらあばれ廻っても神の外には出られん。死んでも神の中にゐるのであるぞ。思ふさまやりて見て、早う得心改心いたされよ。回心して仕事嘉言と仕へまつれよ。結構ぢゃなあ。そなたは自分は悪くないが周囲がよくないのだ、自分は正しい信仰をしてゐるのだから、家族も知友も反対する理由はない、自分は正しいが他が正しくないのだから、正しくない方が正しい方へ従って来るべきだと申しているが、内にあるから外から近よるのだと申してあろうが。そなたは無低坑主義が平和の基だと申して、右の頬を打たれたら左の頬をさし出して御座るなれど、それは真の無抵坑ではないぞ。よく聞きなされ、打たれるようなものをそなたがもってゐるからこそ、打たれる結果となるのぢゃ。まことに磨けたら、まことに相手を愛してゐたならば、打たれるような雰囲気は生れないのであるぞ。頬をうたれて下さるなよ。生れ赤児見よと知らしてあろうが。 |
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22 (1102) |
霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 50 鋼鉄の鉾 | 第五〇章鋼鉄の鉾〔一〇〇〕 神国別命、神国彦以下の神司は、八王大神の変心せしことは夢にも知らず、数多の神司に囲繞されながら、諄々として国治立命の教示を説き示しつつあつた。 折しもにはかに城内は騒々しく数多の足音は近く迫つてきた。室内の戸を開くやいなや、八王大神は以前にかはる暴悪なる顔色をなし、大刀の柄に手をかけ、神国別命の前に詰めより、 『汝はすみやかに盤古大神に帰順せよ。混乱紛糾をきはめたる現下の世界の情勢は、汝らの主神国治立命の唱ふるごとき、迂遠きはまる教をもつて、いかでか天下を至治太平ならしむることを得む。汝らの唱ふる経綸策は、天下泰平に治まれる世にたいしての遊戯的神策にして、言ふべくして行ふべからざる迂愚の策なり。汝すみやかにその非を悟り常世城の従臣となるか、ただしは兜をぬいで降伏するか、二つとも否認するにおいては、気の毒ながら汝らを門出の血祭り、一刀両断の処置を執らむ』 と打つて変つた狂態を演ずるのである。 神国別命は、じゆんじゆんとしてその非を説き、天下は圧力武力をもつて到底治むべからざるの神理を、言葉をつくして弁明した。されど貪、瞋、痴の三毒をふくめる悪神の主将八王大神には、あたかも馬耳東風のごとく、もはや毫末の効果もなかつた。 八王大神は立ちあがり、 『いらざる繰言耳を汚すも面倒なり』 と真向上段に斬つてかかつた。神国別命以下は身に寸鉄を帯びず、ただ一心に神明を祈るよりほかに道はなかつた。神国別命は天に向つて合掌し、神言を奏上せむとするや、八王大神は一刀を頭上高く振りかざしたるままどつと仰向に倒れた。この光景を目撃したる常世城の神司は、右往左往に周章ふためき、急ぎ常世姫にこの実状を報告した。常世姫は直ちに鉄棒の火に焼けて白熱化したるを提げ来り、あはや神国別命は、焼鉄に打たれてすでに焼き滅ぼされむとするをりしも、東北の空より俄然暴風吹ききたり、常世姫は暴風にあふられて、たちまち地上に転倒した。城内の神司もまた一度にどつと吹き倒された。神国別命は神国彦以下の神司とともに、からうじてその場を逃れ、やうやくにして竜宮城に帰還し、高尾別の変心し、かつ何時魔軍を引率してここに攻め来るやもはかられざることを、国直姫命に奏上した。 ここに地の高天原においては、国直姫命、大八洲彦命、言霊別命以下の神将竜宮城に会し、八王大神の反逆にたいし防戦の議をこらした。このとき国直姫命は、 『いかなる暴悪無道の強敵たりとも、神明の力を信じ、天地の律法を遵守し、悪にたいするに至善をもつてせよ』 との命令を発せられた。神司は神国別命の詳細なる報告に接し、切歯扼腕悲憤の涙を、顋辺にただよはしながら、天地の律法に違反すべからず、あくまで柔和と懇切と信義をもつてこれに対抗せむと、協議一決した。 時しも百雷の一時に轟くごとき音響とともに黒雲に乗じ、西南の天をかすめて入来る数多の鳥船がある。彼らは黄金橋のかたはらに落下し、獅子奮迅の勢をもつてヨルダン河を押しわたり、竜宮城に押しよせ門扉を打破り、暴虎馮河の勢をもつて城内に侵入し、国治立命に面会せむと、大音声に呼ばはつた。 鬼雲彦、清熊を先頭に八王大神その他の魔神が、雲霞のごとく押し寄せているため、城内はにはかに騒ぎたつた。大八洲彦命は周章ふためく神司を制しとどめ、みづから出でて八王大神に面会し、来意を厳かに訊問した。 八王大神は傍若無神の態度にて、諸神将を眼下に睨めつけ、 『汝らのごときやくざ神にいふべき言葉なし。すみやかに国治立命に見参せむ』 と仁王立になつて怒号した。国治立命はこの声を聞くより、たちまち悠然としてその場に出現したまうた。八王大神は声をふるはしながら、 『われは盤古大神大自在天の大命を伝へむために出場せり。汝はみづから国治立命と称すれども、まつたくの偽神なり。国治立命とは国土を永遠に立て守るべき神明なり。かかる天下混乱の際、下らぬ迂遠なる教をもつて、難きを避け安きにつかむとするは心得がたし。汝が唱ふる天地の律法とはそもそも何ぞ。陳腐固陋の世迷言にして唾棄すべき教理なり。すみやかにこの律法を破壊し、汝はこれより根の国底の国に、一時も早く退却せよ。真の国治立命は、大自在天の権威ある神策によつて、初めて顕現せむ。返答いかに』 と詰めよつた。 八王大神の従臣、鬼雲彦は尻馬に乗り、 『汝国治立命と称する偽神よ。八王大神の教示を遵奉せずして、万一違背に及ばば、われは竜宮城の諸竜神を寸断し、地の高天原の神司を、一柱も残らず、刀の錆となし、屍の山を築き、竜宮海を血の海と化せしめむ。返答いかに』 と詰めよつた。国治立命以下の諸神司は、天地の律法をみづから破るに忍びず、いかなる悪言暴語にも怒りをしづめ、博く万物を愛するの律法を遵守し、柔和の態度をもつてこれに向はせ給ふた。 されど八王大神は何の容赦もなく、つひに一刀を抜きはなち、今や狼藉におよばむとするとき、衆神の中より突然現はれたる花森彦は、 『われはただ今戒律を破らむ』 と言ひもはてず、一刀を抜きはなち鬼雲彦の背部に斬りつけた。なほも進んで八王大神に斬つてかかるを、大足彦は、「しばらく待て」とこれを制止した。 大足彦の一言に花森彦も刀ををさめ、元の座に復し、唇をふるはせ、心臓をはげしく鼓動させ、顔色蒼白となつてひかへてゐた。八王大神はこの勢にのまれて、やや躊躇の色が見えた。鬼雲彦は背部の負傷にその場に打倒れ、哀みを乞ふた。 ここに大足彦は、国の真澄の鏡を取出し、八王大神以下の魔軍を射照した。たちまち正体をあらはし、悪竜、悪鬼、悪狐の姿と変じ、自在の通力をうしなひ、身動きも自由ならず一斉に救ひを乞ふた。 この時ふたたび国治立命あらはれ給ひ、 『地の高天原は天地の律法を遵守する、正しき神の神集ひに集ふ聖地である。また広く万物を愛し、禽獣虫魚にいたるまで殺さざるをもつて主旨とす。ゆゑに今回にかぎり汝らの罪を赦し、生命を救ひ、常世城に帰城せしむべし。汝らは一時も早く帰城し、常世姫をはじめ他の神司にわが旨を伝へよ。暴に報いるに暴をもつてせば、何時の日か世界は治平ならむ。憎み憎まれ、恨み恨まれ、殺し殺され、誹り誹られ、世は永遠に暗黒の域を脱せざるべし。常世姫にして、わが教を拒まば是非なし。常世城をすみやかに明け渡し、根の国、底の国に、汝ら先づ退却せよ。しからざればやむを得ず、律法を破り、決死の神司をして、常世姫を屠らしめむ』 との厳格なる神示であつた。 ここに八王大神は、その意を諒し、厚く感謝して部下一同とともに、神国彦に送られ常世城に立帰り、国治立命の神示を常世姫に伝へた。常世姫は聞くより打笑ひ、鼻先に扱ひつつあくまで国治立命に対抗し、大八洲彦命以下の神司を滅ぼし、ふたたび竜宮城を占領せむと力みかへり、かつ八王大神の不甲斐なきを慨歎した。 八王大神は常世姫の大胆なる魔言に動かされ、ふたたび反抗の旗を挙げむとし、魔神を集めて決議をこらす折しも、天上より鋼鉄の鉾、棟をついて降り、八王大神の側に侍する鬼雲彦の頭上に落ち、即死をとげたのである。これは自在天より神国彦に向かつて投げたのが、あやまつて鬼雲彦に中つたのである。 八王大神は驚いて奥殿に逃げ入り、息をこらして鼠のごとく、一隅に身慄ひしつつ蹲踞んでゐた。 このとき、一天にはかに晴れ、天津日の光り輝き渡るよと見えしとたん、身は高熊山の巌窟に静坐してゐたのである。このとき巌上に坐せるわが足は、にはかに苦痛をうつたへ、寒気は身を切るばかりであつた。 (大正一〇・一一・九旧一〇・一〇外山豊二録) |
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23 (1141) |
霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 34 旭日昇天 | 第三四章旭日昇天〔一三四〕 ここに大道別は、大島別の奥殿に導かれ、山野海河の珍味の饗応をふたたび受け、終日終夜うるはしき女性の舞曲を見せられ、絲竹管絃の音に精神恍惚として、鼻唄気分になりゐたりしが、不思議や八島姫の巴形の斑紋は拭ふがごとく消え去り、大道別の斑紋はおひおひ濃厚となりきたりぬ。 ここに大島別は威儀を正し、大道別にむかひ、八島姫のこの度の大難より、大道別の渓間に顛倒しほとンど絶息しゐたるを助けゐたるに、あにはからむや、その面上に巴形の斑紋あらはれ、八島姫の額の斑紋はしだいに薄らぎ消え失せたる次第を物語り、 『汝は吾が娘八島姫の身代りとなりて、荒河の宮の犠牲たるべき運命のもとにおかれたるものなり』 と吐息をつきながら涙を流して物語りけるにぞ、大道別は少しも驚く色なく、涼風面を吹くごとき平気な態度にていふ。 『そは実に面白きことを承るものかな。我はかかる犠牲的行為を心底より喜ぶ。そもそも神たるもの犠牲をたてまつらざれば、怒りて神人を苦しますべき理由あるべからず。これまつたく邪神の所為ならむ。我かつて竜神の滝において悪魔を見届けたることあり、よき研究材料なり。謹ンで貴意に応ぜむ』 と、こともなげにいひ放ち平然として酒をのみゐたりけり。大島別以下の神司らは、おほいに喜び感謝の意を表し、ただちにその準備に着手したりぬ。 いよいよ期日は迫り来れり。神司らは種々の供へ物とともに、大道別を柩に入れ納め、山深く分けいりて、黄昏ごろやうやく荒河の宮に到着し、社前に柩ならびに供へ物を安置し、一目散に逃げ帰りける。 夜は森々と更けわたり、四辺しづかにして、水さへ音なく、静かにねむる深更の丑満時となりぬ。たちまち社殿は鳴動しはじめ、数万の虎狼が一度に咆哮するごとき、凄じき音響聞え来りぬ。 大道別は何の恐るる色もなく、柩の中に安坐して、天津祝詞を幾回ともなく繰返し奏上しゐたるに、たちまち神前の扉はぎいぎいぎいと響きわたりて、眼は鏡の如く、口は耳まで引裂け、不恰好に曲める鼻は菊目石を括りつけしごとく、牙は剣のごとく、白髪背後に垂れ薄蝋色の角、額の左右に突出たる異様の怪物、金棒をひつさげて柩の前に現はれ、どんと一突き地上を突けば、その響きに柩は二三尺も地上をはなれ飛び上りける。さすがの大道別も、すこしは案に相違の面持なりける。 大道別は天津祝詞を一生懸命に、汗みどろになり声をかぎりに奏上したるに、その言霊の響きによりて、柩は自然に四方に解体したれば、大道別はスツクと立ち上りたり。怪物はその勢に辟易して二三歩後方に退きし、その隙間を見すまし、怪物の胸部を目がけて長刀を突き刺しけるに、怪物はキヤツと一声、大地にだうと倒れ伏し、もろくも息は絶にける。大道別はそのままそこに端坐して、神前の神酒神饌その他の供へ物を仁王のごとき手をもつて之をつかみ、むしやむしやと片つ端から残らず平げにける。 しばらくあつて天上より微妙の音楽聞え来たりぬ。大道別はその音楽を酒の肴のごとく思ひつつ、神前の冷酒の残りをがぶがぶと呑みはじめたる時もあれ、たちまち容色端麗にして荘厳無比なる女神は数多の侍神とともに現はれたまひ、言葉しづかに、 『妾は天の高砂の宮に鎮まる国直姫命なり。汝はこれより吾が命を遵奉し、神界経綸の大業を完成するまで、地上の各地をめぐり悪神の陰謀をさぐり、逐一これを国治立命に奏上すべし。それまでは汝は仮に道彦と名乗り、かつ聾唖となり、痴呆と変じて神業に従事せよ。汝には、高倉、旭二柱の白狐をもつてこれを保護せしめむ。使命を遂行したる上は、汝は琴平別命と名を賜ひ、竜宮の乙米姫命を娶はし、神政成就の殊勲者として四魂の神の中に加へむ。夢疑ふなかれ』 と言葉終るとともに、国直姫命以下の神司らの姿は消え失せ、東方の山の谷間よりは紫の雲を分けて天津日の神豊栄昇りに昇りたまひぬ。かたはらを見れば象のごとき怪物、血にまみれて横たはりゐたり。これぞ六面八臂の邪鬼の眷族なる大狸なりける。 それ以後荒河の宮は焼きすてられ、南高山一帯の地方の禍は、跡を絶つに至りける。玉純彦以下の神司らは、大島別の命により数多の神司を引率し、荒河の宮にいたり見れば、大道別は平然として大狸の横に安坐し、天津祝詞を奏上しゐたるにぞ、神司らはかつ驚きかつ喜び、大道別とともに南高山の城内に意気揚々として帰り来りける。大道別は神司らより親のごとく尊敬され、優待されて若干の月日をここに過したりける。 (大正一〇・一二・六旧一一・八加藤明子録) |
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霊界物語 | 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 | 49 水魚の煩悶 | 第四九章水魚の煩悶〔二四九〕 盤古神王は、心身ともに解脱して玲瓏玉の如く、威風堂々あたりを払ひながら、聖地ヱルサレムを指して、最も謹厳なる態度を持しつつ、日の出神に導かれて、数百の従神と共に安着した。 ここに真道知彦命、青森彦、梅ケ香彦の三柱の兄弟神は、心の底より之を歓迎し、煎豆に花咲き出でたる如く、欣喜雀躍して、手の舞ひ足の踏むところを知らなかつた。然るに一方国彦、国姫は、その三柱の肉身の父母に坐ませども、放逸邪慳にして少しも天則を守らず、残虐の行動日に月に甚だしく、為に妖邪の気四辺に満ち、再び怪事百出、暗黒界とならむとしつつありし際とて、三柱は暗夜に光明を得たるごとく随喜渇仰したのも無理はない。梅ケ香彦は形ばかりの仮宮に、盤古神王を始め、日の出神を導き、酒肴を供へて遠来の労苦を慰め歌ふ。 『常世ゆく世は烏羽玉の暗くして万の禍の雄叫びは 五月蠅のごとく群れ起り天が下なる神人の 闇路を辿るあはれさを国治立の大神は 助けむものと現世を照らす日の出の神様や 万古不易に世を守る盤古神王を現はして 地の高天原に宮柱太しき立てて神の世の 聖き祭りををさめむと神の中よりヱルサレム 選みに選みし誠神現はれますか有難や 真の道を知る彦の嬉しき神代に青森や 梅ケ香清きこの園に三柱神の現はれて 神の律法を守りつつ堅磐常磐の本の世の 礎かたく搗き固め高天原に千木高く 仕へまつりて治めむと吾がたらちねの国彦や 国姫司に言問へど心荒びし両親の 吾らが諫め木耳の耳に等しきかなしさよ この世を照らし助けむと日の出神の計らひに 盤古大神あれまして治め給はば幾千代も 世は常久に安からむ浦安国の浦安く 治まる御代を松風や大木の枝の葉も茂り 千年の鶴の舞遊ぶ聞くも目出度き松の代の 聞くも目出度き松の代の名も高砂と響くらむ 名も高砂と響くらむ』 と謡ひて歓迎の意を表したり。国彦、国姫の二神司は、三柱の吾が子の心底より盤古神王の到着を歓び、神王を奉じて、ふたたび聖地を回復せむとするを見て、心中快からず、極力親の威光を笠に着て、妨害を加へむとした。されど三柱の神司は、神明に背反し、律法を攪乱する父母を奉じて、ますますこの上に父母に罪を重ねしめ、かつ天下万人の禍を坐視するに忍びず、涙を呑んで、大義親を滅するの態度に出で、盤古神王を奉じて総統神と仰ぎ、日の出神を補佐として、神務と神政とを復活したのである。されど天地は暗澹として前述のごとく曇り霽れず、日夜覆盆の雨は、ザアザアと滝の如く降りしきりける。 (大正一一・一・一四旧大正一〇・一二・一七藤原勇造録) |
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霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 21 立花島 | 第二一章立花島〔五一七〕 高光彦の宣伝使は石凝姥、時置師の二人に向ひ慇懃に挨拶を述べ、朝日に向つて宣伝歌を歌ひ始めたり。 高光彦『朝日は光る月は盈つ大海原に潮は満つ 潮満球や潮干の大御宝と現はれて 波押し分けて昇る日の光は清く赤玉の 緒さへ光りて白玉の厳と瑞との其神姿 愈高く美はしく豊栄昇る天の原 コーカス山も唯ならず大海原に漂へる 四方の国々島々は皆明けく成りにけり 日の出神の一つ火は天津御空や国土に 照り渡るなり隈もなく清き神代の守護神 三五教の御教を千代に八千代に橘の 島に在します姫神の齢も長き竹生島 橘島と名を変へて呉の海原照しつつ 憂瀬に落ちて苦しまむ百の罪人助け行く 神の尊き試錬に遭ひし牛、馬、鹿、虎の ウラルの神の目付役心の嵐も浪も凪ぎ 今は漸く静の海波風立たぬ歓喜に 枉の身魂を吹き払ふ旭日は空に高光彦の 貴の命の宣伝使天津神より賜ひてし 玉光彦の神身魂直日に照りて顕国 有らむ限りは光彦のこの三柱の宣伝使 国武丸に乗り合ひて名乗り合ひたる十柱の 珍の御子こそ尊けれ畏き神の御恵を 一日片時忘れなよ神の恵を忘れたる 時こそ曲の襲ふ時身に過ちの出る時 身に災の来る時天と地との神々の 深き恵を忘るるな神に次いでは父母の 山より高く海よりも深き恵も片時も 忘れてならぬ四柱の牛、馬、鹿、虎神の御子 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令曲津は荒ぶとも大地は泥に浸るとも 誠の力は世を救ふ現界、幽界、神界を 通して我身を常久に救ふは誠の道のみぞ 誠を尽せ何時迄も身魂を研け常久に 朝な夕なに省みて心を配れ珍の御子 アヽ惟神々々御霊幸ひましませよ 御霊幸ひましませよ』 と歌ひ終つて旧の席へ復り合掌する。 船は漸くにして橘の島に安着した。六人の宣伝使を初め船中の人々は一人も残らず島に上陸した。 牛公『ヤア有難い有難い、この橘島丸に乗つて居れば、どんな風が吹いた処で最早沈没する虞は無いわ。仮令天が地となり地が天となり、如何なる暴風吹き来るとも、岩より堅い此船は牛公の腕の様なものだ。オイ馬鹿虎、何だ青黒い面をしよつて鼻を拭かぬか、醜い』 馬公『チツト風を引いたものだからナア』 牛公『風を引かなくても貴様の鼻は年中だ、恰度下水鼻だ』 時置師『コラコラ、また噪ぎよるか。此島は無駄口を言ふ処で無いぞ。畏れ多くも須佐之男大神様の珍の三柱の御子、剣の威徳に現はれ給うた橘姫さまのお鎮まり遊ばす神島だ。チツト言霊を慎むだが宜からう。心得が悪いと又帰りがけに海が荒れるぞ』 牛、鹿、馬、虎の四人はハイハイと畏まり、力無げに俯向いて居る。 此島は世界一切の所有草木繁茂し、稲麦豆粟黍の類、果物、蔓物総て自然に出来て居る蓬莱の島である。地上の山川草木は涸れ干し、萎れて生気を失ひたるにも拘はらず、此島のみは水々しき草木の艶、殊更美はしく味良き果物枝も折れむ許りに実りつつあるのである。何処とも無く糸竹管絃の響幽かに聞え、百花千花の馥郁たる香気は人の心魂をして清鮮ならしめ、腸をも洗ひ去らるる如き爽快の念に充さる。 玉光彦は潮水に手を洗ひ口を漱ぎ声爽かに歌ふ。 玉光彦『天津御神や国津神選びに選びし此島は 花も非時薫るなり薫りゆかしき樹々の実は 味も殊更美はしく色鮮かに光るなり 神の造りしパラダイス永久の教の花咲きて 斯く美はしき珍の島高天の原と開けしか 荒び果てたる荒野原山川越えて今此処に 波を渡りて来て見れば思ひも寄らぬ清の島 大御恵は目のあたり四辺輝く島山の 橘姫の御神姿鏡に映る如くなり 高天原の神の国高天原のパラダイス 千代に八千代に此栄え変らざらまし橘姫の 神の命の御舎と常磐の松の永久に 色も褪せざれ葉も散るな神の守護の永久に 神の恩恵の常久に』 と歌つて神の御徳を讃美したりき。 国光彦は又もや涼しき声を張り上げて、 国光彦『雲井の空の限りなく海の底ひの極みなく 満ち足らひたる神の徳神の水火より生れたる 此神島に来て見れば百の草木は生茂り 青人草の非時に食ひて生くべき食物 百の木の実も豊やかに枝も撓わに実るなり 天津日影はいと清く波また清き呉の海 神の御子たる民草の心の色の清ければ 此島のみか四方の国何処の果ても天地の 神の恵に潤ひて楽み尽きぬパラダイス 神の心を慎みて深く悟りて三五の 誠の教に服へば御空は清く地清く 波平けく山や野は何時も青々松緑 松の神世の常久に栄えしものを現身の ねぢけ曲れる人心日に夜に天地を穢したる 醜言霊の醜の呼吸草木を枯らし山河の 水まで涸らす愚さよ嗚呼この島を鑑とし 心を清め身を清め四方の国々皇神の 誠の道を伝ふべし世は常久に橘の 姫の命の知食す橘島のいと清く 波も静まれ四つの海魔神の猛ぶ葦原の 醜の醜草薙払ひ天の岩戸を押し開き 天地四方の国々を日の出国と開くべし 嗚呼尊しや有難や神の恵みの限りなく 君の恵みの極みなく親子夫婦は睦び合ひ 人と人とは親みて歓ぎて暮す神の国 一度に開く白梅の花の薫を松竹の 清き操も変らざれ清き神世も変らざれ 堅磐常盤の松緑ミロクの神が現はれて 天津教を経緯の綾と錦の機織らす アヽ惟神々々御霊の幸を願ふなり 千代に八千代に常久に千代に八千代に常久に』 行平別は大口を開けて又もや歌ひ始めた。 行平別『山川どよみ国土揺り青垣山は枯れ果てて 何処も彼処も火を点す野辺の百草露も無く 萎れ返りて枯るる世に神も守つて呉の海 唐紅の如くなる枯野の原の地の上 露を帯びたる緑葉は一つも無しと思ふたに これやマア何とした事かこの島だけは青々と 五穀は稔り木は栄え果物熟して甘さうな 自然に唾が湍る一視同仁神様の 心に似合はぬ何として此島だけは幸多き 思ひまはせば廻す程腹がたちばな島の山 云ひたい理窟は山々あれど心穢き人間の 身の分際を省みて理窟を言ふのは止めにしよう 人さへ住まぬ此島に米が実つて何になる 果物熟して何とする余りに神は気が利かぬ サアこれからは此方の生言霊の力にて 四方の国々島々に緑の木草珍の稲 豊の果物一々に移して世人を救ふべし 橘島の姫神よ行平別の言霊を 𪫧怜に委曲に聞こしめせ若しも諾かれなそれでよい 行平別にも腹がある聞いた印にや一時も 早く姿を変へられよ此島山が枯れ果てて 枯れ野の如くなつたなら豊葦原の国々は 皆生々とするであらう橘姫は只一人 栄えの国に安々と其日を暮し四方国の 青人草の悩みをば他所に見るのか逸早く 印を見せよ片時も疾く速やけく我前に』 と大音声に呼つた。此時何処ともなく忽然として現はれたる高尚優美の橘姫は、右の手に稲穂を持ち、左の手に橙の木実を携へて来り、天の数歌淑かに歌ひ終つて右の手の稲を天空高く放り上げ給うた。稲穂は風のまにまに四方に散乱し豊葦原の瑞穂の国を実現する事とはなりぬ。左の手に持たせ給ふ木実を又もや中天に投げ上げ給へば、億兆無数の果物となつて四方に散乱しければ、豊葦原の瑞穂国の食物果物はこれより良く実り、万民安堵する神世の端緒を開かれにける。これ天の岩戸開きの一部の御神業なり。 『因に曰ふ』橘姫は三光の一人なる国光彦の宣伝使と共に夫婦となり、この嶋に永遠に鎮まりて国土鎮護の神となつた。天の真奈井に於ける日神との誓約の段に現はれたる三女神の中の多岐都比売命は橘姫命の後身なりと知るべし。 (大正一一・三・一〇旧二・一二北村隆光録) |
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霊界物語 | 15_寅_顕恩郷/スサノオの経綸/高姫登場 | 11 大蛇退治の段 | 第一一章大蛇退治の段〔五七八〕 『故、退はれて、出雲の国の肥河上なる鳥髪の地に降りましき』(古事記の大蛇退治の段) 出雲国は何処諸の国と云ふ意義で、地球上一切の国土である。肥河上は、万世一系の皇統を保ちて、幽顕一致、神徳無窮にして皇朝の光り晴れ渡り、弘り、極まり、気形透明にして天体地体を霊的に保有し、支障なく神人充満し、以て協心戮力し、完全無欠の神政を樹立する至聖至厳至美至清の日本国といふ事なり。 鳥髪の地とは、十の神の顕現地と云ふ事にして、厳の御魂、瑞の御魂が経と緯との神業に従事し、天地を修斎し玉ふ神聖の経綸地といふことなり。要するに世界を大改良せむ為めに素盞嗚尊は普く天下を経歴し、終に地質学上の中心なる日本国の地の高天原なる至聖地に降臨し玉ひたるなり。明治三十一年の秋八月に、瑞の御魂の神代として高座山より神退ひに退はれて綾部の聖地に降りたるは、即ち素盞嗚尊が、一人の選まれたる神主に憑依し給ひて、神世開祖の出現地に参上りて神の経綸地たることを感知されたるも同様の意味なり。古事記の予言は古今一貫、毫末も変異なく、且つ謬りなき事を実証し得るなり。 『此時しも箸其の河より流れ下りき』 ハシの霊返しはヒなり。ヒは大慈大悲の極みなり。ハシの霊返しのヒなるもの、ヒノカハカミより流れ来たると云ふ明文は実に深遠なる意義の包含されあるものなり。又箸は凡てを一方に渡す活用あるものにして、川に架する橋も、食物を口内へ渡す箸もハシの意味に於ては同一なり。悪を去り善に遷らしむる神の教のハシなり。暗黒社会をして光明社会に改善せしむる神教もハシなり。故に御神諭にも、綾部の大本は世界の大橋であるから、此大橋を渡らねば、何も分りは致さむぞよ云々とあるも、改過遷善、立替立直しの神教の意味なり。その箸は肥の河より流れ下りきとは、斯る立派な蒼生救済の神教も、邪神の為に情無くも流し捨てられ、日に日に神威を降しゆく事の意味なり。是を大本の出来事に徴して見るに、去る明治三十一年に瑞の御魂の神代として十神の聖地に降りたる神柱を、某教会や信者が中を遮り、以て厳の御魂、瑞の御魂の合致的神業を妨害し、瑞霊の神代を追返し、彼等の徒党が教祖を看板として至厳至重なる神教を潜め隠し、某教会を開設したる如き状態を指して『ハシ其の河より流れ下りき』といふなり。 『於是須佐之男命其の河上に人有りけりとおもほして尋ね上りて往まししかば老夫と老女と二人在りて童女を中に置きて泣くなり』 茲に顕幽両界の救世主たる須佐之男命は、肥の河上なる日本国の中心、地の高天原に神人現はれ、世界経綸の本源地有りと御考へになり尋ねて御上りありしが、変性男子の身魂現はれて、国家の騒乱状態を治めむと血涙を吐き乍ら昼夜の区別なく、世人を教戒しつつありしなり。二人といふ事は、艮の金神様の男子の御魂と、教祖出口直子刀自の女子の身魂とが一つに合体して神業に従事し玉へると同じ意義なり。ヒトとは霊の帰宿する意義で人の肉体に宇宙の神霊憑宿して天地の経綸を遂行し玉ふ、神の生宮の意なり。老夫と老女と二人とあるは女姿男霊の神人、出口教祖の如き神人を意味するなり。 『童女を中に置きて泣なり』とはオトメは男と女の意味にして、世界中の老若男女を云ふ。又老と若ともなり、現在の世界の人民を称して老若男女と云ふ。霊界にては国常立大神、顕界にては神世開祖出口直子刀自の老夫と老女とが、世界の人民の身魂の、日に月に邪神の為に汚され亡ぼされむとするを見るに忍びず、手を尽して足を運びて救助せむと艱難辛苦を嘗めさせられ、天地の中に立ちて号泣し給ふことを、童女を中に置きて泣くなりと云ふなり。 亦神の御眼より御覧ある時は世界の凡ての人間は、神の童子なり女子なり。故に世界の人民は皆神の童女なる故、人民の親がその生みし子を思ふ如くに、神は人民の為に昼夜血を吐く思ひを致して心配を致して居るぞよ、と御神諭に示させ給へる所以なり。亦オトメの言霊を略解する時は、 オは親の位であり、親子一如にして、大地球を包む活用であり。 トは十全治平にして、終始一貫の活用であり。 メは世を透見し、内に勢力を蓄へて外面に露はさざる意義なり。 之を約むる時は、日本固有の日本魂の本能にして、花も実もある神人の意なり。 『汝等は誰ぞと問ひ賜へば、其の老夫僕は国津神大山津見神の子なり、僕が名は足名椎、妻が名は手名椎、女が名は櫛名田比売と謂すと答す』 明治三十一年の秋瑞の御魂の神代に須佐之男神神懸したまひて綾部の地の高天原に降りまし、老夫と老女の合体神なる出口教祖に対面して汝等は誰ぞと問ひたまひし時に、厳の御魂の神代なる教祖の口を藉りて僕は国津神の中心神にして大山住の神也。神の中の神にして天津神の足名椎となり手名椎となりて、天の下のオトメを平かに安らかに守り助けむとして、七年の昔より肥の河上に御禊の神事を仕へ奉れり。又この肉体の女の名は櫛名田姫と申し、本守護神は禁闕要の大神なりと謂し玉ひしは、以上の御本文の実現なり。クシナダの クシは神智赫々として万事に抜目なく一切の盤根錯節を料理し、快刀乱麻を断つの意義なり。 ナは、万物を兼ね統べ、能く行届きたる思ひ兼の神の活用なり。 ダは、麻柱の極府にして大造化の器であり、対偶力であり、主従師弟夫妻等の縁を結ぶ神なり。 要するに、櫛名田姫の守護厚き天壌無窮の神国、大日本国土の国魂神にして、神諭の所謂大地の金神なり。 『亦、汝の哭由は何ぞと問ひたまへば、吾が女は八稚女在りき。是に高志の八岐遠呂智なも、年毎に来て喫ふなる。今その来ぬべき時なるが故に泣くと答白す』 以上の御本文を言霊学の上より解約すると、吾が守護する大地球上に生息する、息女即ち男子や女子は、八男と女と云つて、種々の沢山な神の御子たる人種民族が有るが、年と共に人民の霊性は、鬼蛇の精神に悪化し来り至粋至醇の神の分霊を喫ひ破られて了つた。高志の八岐の遠呂智と云ふ悪神の口や舌の剣に懸つて歳月と共に天を畏れず地の恩恵を忘れ、不正無業の行動を為すものばかり、人民の八分迄は、皆悪神の容器に為れて、身体も霊魂も、酔生夢死体主霊従に落下し、猶も変じて八岐の遠呂智の尾となり盲従を続けて、天下の騒乱、国家の滅亡を来しつつ、最後に残る神国の人民の身魂までも、喫ひ破り亡ぼさむとする時機が迫つて来たので如何にしてか此の世界の惨状を救ひ助け、天津大神に申上げむと、心を千々に砕き天下国家の前途を思ひはかりて、泣き悲しむなりと答へ玉うたと曰ふことなり。 高志といふ意義は、遠き海を越した遠方の国であつて、日本からいへば支那や欧米各国のことなり。海外より種々雑多の悪思想が渡来する。手を替へ品を替へて、宗教なり、政治なり、教育なりが盛んに各時代を通じて、侵入して来り敬神尊皇報国の至誠を惟神的に具有する、日本魂を混乱し、滅絶せしめつつある状態を称して、高志の八岐の遠呂智の喫ふなると云ふなり。亦外国の天地は、数千年来此悪神の計画に誑らかされて、上下無限の混乱を来し、国家を亡ぼし来たりしが、彼今猶其計画を盛んに続行しつつ、遂に日本神国の土地まで侵入し、天津神の直裔なる日本オトメの身魂まで、全部喫ひ殺さむとする、それが最近に迫つて居る、只一つ神国固有の日本魂なるオトメが後に遺つた許りである。之を悪神の大邪霊に滅ぼされては、折角天祖国祖の開き玉へる大地球を救ふ事は出来ない。どうかして之を助けたいと思つて艱難辛苦を嘗めて居るのである。実に泣くにも泣かれぬ、天下の状態であると云つて、之を根本的に救ふ事は出来ない。どうして良いかと途方に暮れ、天地に向つて号泣して居りますとの、変性男子の身魂の御答へなりしなり。 『其の形は如何さまにかと問ひたまへば、彼が目は赤加賀知なして、身一つに頭八つ尾八つあり。亦其の身に苔、及び桧、すぎ生ひ、其の長さ渓八谷、峡八尾を渡りて、其の腹を見れば、悉に常血爛れたりと答白す。(此に赤加賀知といへるは、今のほほづきなり)』 そこで其形は如何さまにかと、問ひたまへばと云ふ意義は、八岐の遠呂智なす悪思想の影響は如何なる状態に形はれ居るやとの須佐之男命の御尋ねなり。 そこで変性男子の身魂なる老夫と老女は、彼悪神の経綸の事実上に顕現したる大眼目は、赤加賀知なして身一つに、頭八つ尾八つありと云つて、悪神の本体は一つであるが、その真意を汲んで、世界覆滅の陰謀に参加して居るものは、八人の頭株であつて、此の八つの頭株は、全地球の何処にも大々的に計画を進めてをるのである。政治に、経済に、教育に、宗教に、実業に、思想上に、其他の社会的事業に対して陰密の間に、一切の破壊を企てて居るのである。就ては、尾の位地にある、悪神の無数の配下等が、各方面に盲動して知らず識らずに、一人の頭目と、八つの頭の世界的大陰謀に参加し、終には既往五年に亘つた世界の大戦争などを惹起せしめ、清露其他の主権者を亡ぼし、労働者を煽動して、所在世界の各方面に、大惑乱を起しつつあるのである。赤加賀知とは砲煙弾雨、血河死山の惨状や、赤化運動の実現である。実に現代は八岐の大蛇が、いよいよ赤加賀知の大眼玉をムキ出した所であり、既に世界中の七オトメを喫ひ殺し、今や最後に肥の河なる、日本までも現界幽界一時に喫はむとしつつある処である。要するに八つ頭とは、英とか、米とか、露とか、仏とか、独とか、伊とかの強国に潜伏せる、現代的大勢力の有る、巨魁の意味であり、八つ尾とは、頭に盲従せる数多の部下の意である。頭も尾も寸断せなくては成らぬ時機となりつつあるなり。 『亦其身に苔及び桧すぎ生ひ、其長さ、渓八谷、峡八尾を渡りて其の腹を見れば、悉に常も血爛れりと答白す』といふ意味は地球上の各国は皆この悪神蛇神の為に、山の奥も水の末も暴され、不穏の状態に陥り、終には尼港事件の如く、暉春事件の如く、染血虐殺の憂目に人類が遇つて、苦悶して居ることの形容である。また苔と云ふ事は、世界各国の下層民の事であり桧と云ふ事は上流社会の人民であり、すぎと云ふ事は国家の中堅たる中流社会である。要するに上中下の三流の人民が常に不安の念に駆られて居る事であつて、実に六親眷属相争ひ、郷閭相鬩ぎ戦ふ、悲惨なる世界の現状を明答されたといふ事である。御神諭に、『今の人民は外国の、悪神の頭と眷属とに、神から貰うた結構な肉体と御魂を自由自在に汚されて了うて、畜生餓鬼の性来になりて居るから、欲に掛けたら、親とでも兄弟とでも、公事を致すやうな悪魔の世になりて居るが、是では世は続いては行かぬから、天からは御三体の大神様がお降り遊ばすなり、地からは、国常立尊が変性男子と現はれて、新つの世に立替立直して、松の五六七の世に致して、世界の人民を歓ばし、万劫末代勇んで暮す神国の世に替へて了はねばならぬから、艮の金神は、三千年の間長い経綸を致して、時節を待ちて居りたぞよ。八つ尾八つ頭の守護神を、今度はさつぱり往生いたさすぞよ』云々と明示されてあるのも、要はこの御本文の大精神に合致して居る一大事実である。 『爾、速須佐之男命、其の老夫に是汝の女ならば、吾に奉らむやと詔たまふに、恐けれど御名を覚らずと答白せば、吾は天照大御神の同母男なり。故今天より降り坐つと答へたまひき。爾に足名椎、手名椎、然坐さば恐し立奉らむと白しき』 右御本文の老夫にとあるは艮の金神国常立尊神霊に対しての御言である。また足名椎手名椎神と並び称せるは、肉体は出口直子であつて手名椎の神であり霊魂は国常立尊の足名椎の意である。 茲に天より降り給へる須佐之男命は、老夫なる国常立尊の神霊に対し玉ひて、是は汝の守護し愛育する所の、至粋至醇の神の御子たる優しき人民であるなれば、吾に是の女の如き可憐なる万民の救済を一任せずやと、御尋ねになつた事である。そこで国常立尊は実に恐縮の至りではありますが、貴方は如何なる地位と、御職掌の在す神で居らせらるるや。御地位と御職名とを覚らない以上は御一任する事は出来ませぬと白し給ひければ、大神は至極尤もなる御尋ねである。然らば吾が名を申し上げむ、吾は天津高御座に鎮まり坐ます、掛巻も畏き天照大御神の同母弟であつて、大海原を知食すべき職掌である。されば今世界の目下の惨状を黙視するに忍びず、万類救護の為に、地上に降り来たのである。故に国津神たる汝の治むる万類万民を救はむが為に、吾に其の職掌を一任されよ然らば汝と共に八岐の大蛇の害を除いて天下を安国と平けく進め開かむと仰せになつたのである。茲に変性男子の身魂は、大変に畏み歓び玉うて、左様に至尊の神様に坐ますならば吾女なる可憐なる人民を貴神に御預け申すと、仰せられたのである。是は去る明治三十一年の秋に変性男子と変性女子との身魂が二柱揃うて神懸りがあつた時の御言であつて、実に重大なる意義が含まれて在るのである。然し乍ら是は神と神との問答でありまして、人間の肉体上に関する問題ではないから、読者に誤解の無いやうに御注意願つておく次第である。 『爾速須佐之男命、乃ち、其の童女を湯津爪櫛に取成して、御角髪に刺して、其の足名椎、手名椎神に告りたまはく、汝等、八塩折の酒を醸み、且、垣を造り迴し、その垣に八つの門を造り、門毎に八つの棧敷を結ひ、その棧敷毎に酒船を置きて船毎にその八塩折の酒を盛りて、待ちてよと、のりたまひき』 湯津爪櫛の言霊を略解すれば、 ユは、天地、神人、顕幽、上下一切を真釣合せ、国家を安寧に、民心を正直に立直す大努力の意であり、 ツは、日の大神の御稜威を信じ、大金剛の至誠心を振り起し、言心行一致の貫徹を期し、以て神霊の極力を発揮するの意である。 ツは、生成化育の大本合致し、大決断力を発揮し、実相真如の神民たりとの意である。 マは、人種中の第一位たる資格を保ち、胸中常に明かにして無為円満なる意である。 グは、暗愚を去つて賢明に帰し、万事神助を得て意の如く物事成功するの意である。 シは、信仰堅く、敬神尊皇報国の忠良なる臣民の基台なりとの意である。 以上の六言霊を総合する時は、霊主体従の真の日本魂を発揮せる神の御子と立直し玉ふ、神の経綸を進むると謂ふことである。 御角髪の言霊を略解すれば、 ミは、形体具足成就して、日本神国の神民たる位を各自に顕はし定めて真実を極め、以て瑞の御魂に合一する意である。 ミは、⦿の御威徳を明かに覚知し、惟神の大道を遵奉し実行し、以て玲瓏たる玉の如き身魂と成るの意である。 ツは、神の分身分霊として天壌無窮に真の生命を保全し、肉体としては君国を守り、霊体としては神と人民とを助け守るの意である。 ラは、言心行の三事完全に実現し、本末一貫、霊主体従の臣民と成りて、自由自在に本能を発揮するの意である。 以上の四言霊を総合する時は、愈日本魂の実言実行者となりて、其の霊魂は神の御列に加はるべき真の御子と成りたる意である。 要するに、瑞の霊魂なる速須佐之男命は、二霊一体なる神政開祖の神人より、男と女の守護と化育とを一任され一大金剛力を発揮して、本来の日本魂に立替へ立直し、更に進んで其の実行者とし賜ふた事を『其のオトメをユツツマグシに取成して御角髪に刺して』と言ふのである。 斯の如く、天下の万民の身魂の改良を遊ばして、足名椎、手名椎の御魂に御渡しになるに就ては、相当の歳月を要したのである。或は神徳を以てし、或は物質力を以てし、或は自然力を以てし、或は教戒を以てし、慈愛を以てし、種々の御苦辛を嘗めさせ玉ふ其神恩を忘れては成らぬのである。そこで速須佐之男命は、足名椎手名椎なる変性男子の霊魂に対つて告り給ふた御言葉は左の通りである。幸ひ残れるオトメは斯の如く、湯津爪櫛に取成し、御角髪に刺て立派に日本魂を造り上げたと云ふ事は、全く天津神の御霊徳と、吾御魂の活動と、汝命の至誠の賜であるから、第一に天地八百万の神に、精選した立派な美味なる、所謂八塩折の神酒を醸造し、且つ汚穢を防ぐ為に清らかな瑞垣を四方に作り廻して、其の垣毎に祭壇を設け(八つ門)て、祭壇毎に祝詞座を拵へ、酒を甕の戸高知り甕の腹満て並べて神々に報恩謝徳の本義を尽すべく、詔りたまふたのである。凡て酒と云ふものは、大神に献る時は、第一に御神慮を和げ勇ませ歓ばせ奉る結構な供へ物であるが、体主霊従的の人間が之を飲むと決して碌な事は出来ないのである。同じ種類の酒でも、人間は御魂相応に、種々の反応を来すものであつて、悪霊の憑つた人間が呑めば直ちに言語や、動作や精神が悪の性来を現はし、且つ酔ひ且つ狂ひ乱れ暴れるものである。或は泣くもの、笑ふもの、怒るもの、妙な処へ行きたくなるものなぞ、種々雑多に変化して、身魂の本性は現はし、吐たり倒れたり苦しみ悶えたりするものである。常に至誠至実の人にして、心魂の下津岩根に安定したものは、仮令酒を常に得呑まぬ人でも、少々位時に臨んで戴いた所が、決して前後不覚になつたり、倒れたり苦しんだり、動作や言舌や精神の変乱するもので無く、心中益々壮快を覚え、笑み栄え勇気を増し、神智を発揮するものである。故に酒は神様に献る所の清浄なる美酒と雖も、心の醜悪なるものが呑む時は、忽ち身魂を毒し弱らしむるものである。同じ酒を甲は一合呑んで酔ひ潰れて了ふかと思へば、乙は一升呑んでも酔はず、丙は三升位呑まなくては少しも酔うた如うな心持がしないと、云ふ区別の附くのは、乃ち身魂の性質に依りて反応に差異ある事の証である。甲は呑んで笑ひ、乙は怒り、丙は泣くと云ふ如うに、同じ味のある同じ種類の酒でも、区別の附くと云ふのは、実に不思議なもので、是はどうしても身と魂との性来関係に依るものである。 『故、告りたまへる随にして、如此設け備へて待つ時に、其の八岐大蛇、信に言ひしが如来つ。乃ち、船毎に、己々頭を垂入て、その酒を飲みき、於是、飲み酔ひてみな伏寝たり。爾ち速須佐之男命、その御佩せる十拳剣を抜きて、その大蛇を切散りたまひしかば肥の河、血に変りて流れき』 そこで変性男子の身魂は命の随々芳醇なる神酒を造りて、天地の神明を招待し、以て歓喜を表し賜ひ、神恩を感謝し給うたのである。八岐の大蛇の霊に憑依された数多の悪神の頭目や眷族共が大神酒を飲んで了つた。丁度今日の世の中の人間は、酒の為に腸までも腐らせ、血液の循環を悪くし、頭は重くなり、フラフラとして行歩も自由ならぬ、地上に転倒して前後も弁知せず、醜婦に戯れ家を破り、知識を曇らせ、不治の病を起して悶え苦しんで居るのは、所謂「飲み酔ひて皆伏寝たり」と云ふことである。爾に於て瑞の御霊の大神は、世界人民の不行跡を見るに忍びず、神軍を起して、此の悪鬼蛇神の憑依せる、身魂を切り散らし、亡ぼし給うたのである。十拳剣を抜きてと云ふ事は遠津神の勅定を奉戴して破邪顕正の本能を発揮し給うたと云ふことである。そこで肥の河なる世界の祖国日の本の上下一般の人民は、心から改心をして、血の如き赤き真心となり、同じ血族の如く世界と共に、永遠無窮に平和に安穏に天下が治まつたと云ふ事を「肥の河血に変りて流れき」と云ふのである。流れると云ふ意義は幾万世に伝はる事である。古事記の序文に、後葉に流へんと欲すとあるも、同義である。 『故其の中の尾を切りたまふ時、御刀の刄毀けき。怪しと思ほして、御刀の端もて刺割きて見そなはししかば、都牟刈之太刀あり。故此太刀を取らして、怪異しき物ぞと思ほして天照大御神に白し上げたまひき。是は草薙太刀なり』 中の尾と云ふ事は、葦原の中津国の下層社会の臣民の事である。其臣民を裁断して、身魂を精細に解剖点検し玉ふ時に、実に立派な金剛力の神人を認められた状態を称して、御刀の刄毀けきと云ふのである。アヽ実に予想外の立派な救世主の身魂が、大蛇の中の尾なる社会の下層に隠れ居るわい。是は一つの掘り出しものだと謂つて、感激されたことを、怪しと思ほしてと云ふのである。御刀の端もてと云ふ事は、天祖の御遺訓の光に照し見てと云ふ事である。 『刺割きて見そなはししかば都牟刈之太刀あり』と云ふことは今迄の点検調査の方針を一変し、側面より仔細に御審査になると、四魂五情の活用全き大真人が、中の尾なる下層社会の一隅に、潜みつつあつたのを初めて発見されたと云ふことである。都牟刈之太刀とは言霊学上より解すれば三千世界の大救世主にして、伊都能売の身魂と云ふ事である。故、此太刀なる大救世主の霊魂を取り立て、異数の真人なりと驚歎され、直ちに天照大御神様、及びその表現神に大切なる御神器として、奉献されたのである。凡ての青人草を神風の吹きて靡かす如く、徳を以て万民を悦服せしむる一大真人、日本国の柱石にして世界治平の基たるべき、神器的真人を称して、草薙剣と云ふのである。八岐大蛇の暴狂ひて万民の身魂を絶滅せしめつつある今日、一日も早く草薙神剣の活用ある、真徳の大真人の出現せむことを、希望する次第である。 また草薙剣とは、我日本全国の別名である。この神国を背負つて立つ処の真人は、即ち草薙神剣の霊魂の活用者である。 (大正九・一・一六講演筆録谷村真友) |
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霊界物語 | 18_巳_丹波物語3 玉照姫の誕生 | 05 赤鳥居 | 第五章赤鳥居〔六三三〕 天火水地と結びたる青赤白黄をこき交ぜて 緑滴る足曳の山と山とに包まれし 由良の流れに沿ひ乍ら彼方に立てる紫の 煙目あてに進み行く紫姫の宣伝使 草木も萠ゆる若彦や馬に鞭鞭つ膝栗毛 鹿と踏み締めテクテクと肩も斑鳩、飛ぶ空を 笠西坂の頂上に四人は漸く着きにけり。 若彦『紫姫様、此風景の佳い地点で四方の景色を観望して息を休めませうか』 紫姫『妾もさう思つて居ました、弥仙のお山は紫のお容姿を現はし給ひ、連峰を圧して高く雲表に頭を突出して、実に何とも云へぬ雄大さで御座いますね』 若彦『左様です、春の弥仙山は又格別ですな、彼方に見ゆる四尾の神山、コンモリした木の繁茂、桶伏山もちらりと見えて居ます、実に遠方から見た四尾山は一層の崇高味を増すやうですな、昨夜あの山麓の悦子姫様のお館を訪ねた時は、その様に立派な山ぢやと思ひませなンだが、矢張大きなものは近寄つて見るよりも、遠見の方が余程真相に触れる様ですな』 紫姫『アヽ佳い景色にうたれ、思はず時間を費やしました、そろそろ出掛ませうか』 馬公『もう些と休みていつたら如何です、之から奥へ行けば山と山と、双方から圧搾した様な殺風景な難路許りですよ、充分聖地を此処から憧憬して名残を惜しみ、四尾山に袂別の挨拶を終つて行かうではありませぬか、随分此先は急坂がありますから………』 紫姫『サア、も少し休みませうか』 鹿公『アヽ、さうなさいませ、充分英気を養つて参りませう、一歩々々大江山に接近するのですから、…此安全地帯で充分に浩然の気を養つて行く事に致しませう。然し乍ら最早大江山の鬼雲彦は遁走し、後には鬼武彦の御眷属が御守護して居られるなり、三嶽の岩窟は滅茶々々となり、鬼ケ城亦鬼熊別の敗走以来、敵の影を留めて居ないぢやありませぬか、それに又貴女は吾々を此方面へ用向も仰有らずに引き連れておいでになつたのは、少しく合点が参りませぬ、一体全体如何遊ばす積りですか。少し位お洩らし下さつても滅多に口外は致しませぬがな』 紫姫『いいえ、悦子姫様を通じて大神様の「一切秘密を守れ」との御神命なれば、仮令貴方と妾の仲でも之ばかりは発表する事は出来ませぬ、軈て真相が分るでせう』 鹿公『紫姫様は、吾々二人は元来貴女の従僕、さう叮嚀なお言葉をお使ひ下さつては実に恐れ入ります、何卒今後は鹿、馬と仰有つて下さいませ』 紫姫『いえいえ、今迄の妾なれば極端なる階級制度の習慣で主人気取りになるでせうが、三五教に救はれてより上下の隔壁を念頭よりすつかり散逸させて仕舞ひました。人間の作つた不合理的な階級制度を墨守するは、却て大神様の御神慮に違反する事となりませう。元は一株の同じ神様の分霊ですからな』 鹿公『ハイ、有難う御座います。左様ならば今後は主従の障壁を撤去し、私交上に於ては平等的交際を指して頂きませう。然し乍ら教理の上の事に就いては矢張師弟の関係を何処迄も維持して行き度う御座います、何卒之だけはお認め置きをお願ひ申します』 紫姫『何だか妾がお前さまの師匠なぞと云はれると、足の裏までくすぐつたい様な気がしてなりませぬ』 鹿公『今後は其積りでお願ひ致します、然し乍ら貴女は花の都へは帰り度うは御座いませぬか』 紫姫『それは人間ですもの、故郷に帰り度いは山々ですが、神様の御命令を完全に果さなくてはなりませぬ、それ迄は妾は故郷の事はすつかり念頭から分離して居ます、何卒今後は故郷の事は云つて下さいますな……、サア若彦さま、参りませう』 と潔く駆出す。 紫姫の一行は厳の霊や瑞霊 神の恵を河守駅ややすやす渉る船岡の 深山[※京都府福知山市大江町の豊受大神社が鎮座している船岡山のこと]を左手に眺めつつ人の心のあか鳥居 鬼武彦が眷属の旭明神祀りたる 祠の前に立ちどまり行く手の幸を祈りつつ 又もや北へ行かむとす頃しもあれや山林に 悲しき女の叫び声鳥の啼く音か猿の声か 合点ゆかぬと立ちとまり頭を傾け聞き居れば 助けて呉れいと手弱女の正しく叫びの声なりき。 若彦は此声に引きつけらるる如き面持にて前後を忘れ耳をすまし居る。 馬公『モシモシ若彦さま、何を茫然として居なさる、あの声は如何ですか、悲し相な乙女の救援を求むる声ぢやありませぬか』 若彦『何とも合点のゆかぬ声だ』 叫び声は益々烈しく聞え来る。 紫姫『皆さま、御苦労ですが妾は此祠の前で御祈念を致して待つて居ますから、道は暗う御座いますが気を注け乍ら、あの声を尋ねて実否を調べて来て下さいませぬか』 若彦『ハイ、畏まりました、貴女お一人此処にお待たせしても済みませぬから、鹿公を添へて置きませう』 紫姫『いえいえ、決して御心配下さいますな、妾は之より宣伝使となつて如何なる魔神の中にも単騎進撃をやらねばならない者で御座います、何卒お構ひなく一刻も早くあの声の方に向つてお進み下さいませ』 若彦『委細承知致しました、戦況は時々刻々に報告致させます、サアサア馬公、鹿公、サア出陣だ』 馬公『ここに馬が居ります、千里の名馬、御跨り下さいませ、敵に向つて天晴れ名将の武者振りを発揮するも一寸妙ですぜ』 鹿公『馬でお気に入らねば鹿も居ります、児屋根の命さまは鹿にお乗り遊ばしたぢやありませぬか、成る可くは私に恩命を下し給はらば結構ですが……』 若彦『馬公、鹿公、馬鹿口たたく猶予があるか、サア早く行きませう』 馬、鹿『エー、馬鹿々々しい、突貫々々、お一二お一二』 と暗がりの道を声をあげて進み行く。以前の声はピタリと止まりぬ。三人は暗夜に方向を失ひ当惑に暮るる折しも暗中に人の声、 甲(滝公)『サア、もう之で大丈夫だ、ああして松の下に猿轡を箝めて引括つて置けば逃げる気遣ひはない哩、マアゆつくりと暗がりを幸ひ休息でも遊ばさうぢやないか』 乙(板公)『休息しようと云つたつて俄に暗くなつて寸魔尺哭ぢや、まるで釜を被つた様ぢやないか』 甲(滝公)『釜を被れば空の星は見えない筈だ、あれ見よ、雲の綻びからチラホラと星の光が幽に瞬いて居るぢやないか』 乙(板公)『何、何処もかも天地暗澹、星一つだに見えぬ悲しさだ』 甲(滝公)『之程立派に星が見えて居るのに貴様は又何処を向いて居るのだ、アハヽヽヽ、やられ居つたな、八畳敷に』 乙(板公)『八畳敷て何だい』 甲(滝公)『大方狸に睾丸でも被されよつたのだらう』 乙(板公)『何、ソンナ気遣ひがあるものか、ヤア方角を間違つて居つた。下ばつかり見て居つたものだから、星が見えなかつたのだ、ホンに彼方此方に星の金米糖が光つて居る哩』 甲(滝公)『それこそ方角が天と地がつて居つたのだ』 乙(板公)『何、地と違つた丈だよ、アハヽヽヽ。然し貴様と俺と二人では彼の女を此暗がりに舁いで行く訳にもゆかず、道で又三五教の宣伝使にでも出会つたら大変だからなア』 甲(滝公)『ちつたア出世しようと思へば之位な苦労はせなくちや成らないよ。何時も黒姫さまが苦労は出世の基ぢやと仰しやるぢやないか、ソンナ弱い事を言はずに、サア之から棒片にでも括りつけて、貴様と俺とが舁いで魔窟ケ原の岩窟へ帰るとしよう。さうすれば富彦だつて虎若だつて、俺達に対し今迄の様に無暗に威張らなくなるよ。吾々は殊勲者として黒姫さまの信任益々厚く、鼻高々と高山彦の御大将以上に待遇されるかも知れないよ、アハヽヽヽ』 鹿は俄に女の作り声を出して、 鹿公『コレコレ、滝公、板公、俺は黒姫ぢや、その女を大切に踏縛つて早く舁いで、此黒姫の後に跟いて御座れ、愚図々々して居ると三五教に寝返りを打つた青彦が馬公や鹿公の古今無双の英雄豪傑を引率れ、お前達の首を捻切るかも知れぬ。サアサ早く用意をなされ、コンナ処で愚図々々して居ると云ふ事があるものかいのう』 甲(滝公)『ヤ、呼ぶより誹れとは此処の事か、今の今とて、…へ…一寸……貴女様のお噂を致して居りました。イヤもう骨の折れた事で御座いました。お節の阿魔女随分手が利いて居ましたよ』 鹿公『ア、さうぢやらうさうぢやらう、彼奴は仲々手の利いた奴ぢや、強情な女ぢや、サアサア早く月の出ぬ間に用意をなされ』 甲、乙(滝公、板公)『ハイ、畏まりました、暫時お待ち下さいませ』 鹿公『そのお節は何処に置いてあるのだい』 乙(板公)『ハイハイ、此処から十間許り先方の松の木の麓に猿轡を箝ませ、手足を縛つて根元に確り括つて置きました』 鹿公『それはお骨折ぢやつた、然し息の絶える様な事はして無からうな』 乙(板公)『何、貴女、何うせ連れて帰つて殺すか、此処で殺すか、手間は同じ事ですもの、あの通り猿轡を箝めた以上は、もう今頃はコロリといつて居るかも知れませぬ』 甲(滝公)『イエイエ、滅多に死ンでは居りますまい、此滝公が息の絶れない様に、声を出さない様に、そこは注意周到な者です、大丈夫ですよ』 鹿公『俺も一寸調べがてらにお前の後に跟いて行かうかな』 甲(滝公)『サアサ黒姫様、御実検下さいませ、貴女に実地を見て貰へばお馬の前の功名も同然、いやもう無上の光栄で御座います』 鹿公『それはお手柄お手柄、サア早く見せて下さい』 板公『随分険難な暗がり道で御座いますから、私がお手を把つて上げませう』 鹿公『イヤイヤ、滅相な、年は寄つても未だお前の様な若いお方に助けられる程、耄碌はして居りませぬ哩、手を握られると発覚の……どつこい……八角の糞をこめて気張つても……お節の手を握つて妙な事をするでないぞ』 板公『阿呆らしい、何を仰しやいます、ソンナラ私の後から足音をたよつて来て下さいませ、アヽ暗い暗い』 と探り足に歩き出す。三人は息を凝らし闇を幸ひ跟いて行く。 滝公『オイ、板公、何の辺だつたいな、あまり暗くつて鼻抓まれても分らぬ様だ、テント方向がとれぬぢやないか』 板公『ヤ、此処だ此処だ、オイお節、これから魔窟ケ原の結構な処へ送つてやるのだ、満足だらう。オイお節、返事をせぬか』 滝公『馬鹿云うない、声をたてぬ様に猿轡を箝めて置いた者が返事をするものかい、狼狽へた事を云ふな』 板公『オヽ、さうだつたな、サアサアお節、解いてやらう、ヤア偉い猿轡だ、息を絶らしては面白くない、ちつと緩めてやらう、ヤア暖いぞ暖いぞ、確に此耆婆扁鵲の診察に依れば極めて安心だ。恢復の見込たしかだ。予後良だ』 馬、妙な声を出して、 馬公『ヒユー、ドロドロドロ、怨めしやア、仮令生命はとらるるとも、魂魄此土に留まりて、滝公、板公の素首引き抜かいでやむべきか……』 滝、板は、 滝公、板公『ヤア、出やがつた、こいつア堪らぬ』 と無茶苦茶に駆け出す。過つて傍の谷川へザンブと二人は陥ち込みたり。 馬公は手早く綱を解き猿轡を外し、 馬公『ヤアお節さま、しつかり成さいませ、もう大丈夫です』 お節は初めて気が付いたと見え、 お節『何、汝悪神の家来共、もう斯うなる上はお節が死物狂、目に物見せて呉れむ』 馬公『ヤア、それは違ひます、私は三五教の馬と申すもの、貴女のお声を尋ねてお助けに来たのです、御安心なさいませ。今二人の悪者共は驚いて逃行く途端に、此谷川へ落ち込みました。あまり暗いので如何なつたか知りませぬが、吾々は決して悪者では御座いませぬ。サア鹿公、若彦さま、此お節さまの手を引いて広い道まで連れて行つてあげませうか』 お節は初めて安心の態、 お節『これはこれは危い処をようこそお助け下さいました。アヽ神様有難う御座います』 と天に向つて合掌し感謝する折しも、山を覗いて出る半円の月、忽ち道は判然と見え出しにける。 馬公『アヽ有難いものだ、これで安心だ、サア早く、紫姫さまがお待ちかね、参りませう』 とお節の手を把り、四人は紫姫の暗祈黙祷を凝らす祠の前にやつと帰り来たりぬ。 鹿公『紫姫様、鹿の野郎が功名手柄、お褒め下さいませよ。目的物は首尾よく手に入りました』 紫姫『ア、それはそれは、御苦労様、何処のお方だつたか知らぬが危い処で御座いましたな』 お節『ハイ、有難う御座います、力と頼むお爺さまには死に別れ、お婆アさまにも亦死別れ、今は頼りなき女の一人暮し、許婚の妾が夫の後を慕ひ、聖地に向つて進み来る折しも、道に踏み迷ひ魔窟ケ原を通りました。所が後より「オーイオーイ」と男の声、何は兎もあれ、怪しき奴と一生懸命に長い道を此処まで逃げて参りました、折あしく道中の岩石に躓きバタリと転けて倒れた所を、追ひかけて来た二人の男、折り重なつて妾を高手小手に縛り、松の木の麓に連れて行つて、打つ蹴る殴るの乱暴狼藉、妾は力の限り何れの方かお通りあらばお助け下さるであらうと、女々しくも声をたてました。さうすると二人の悪者は妾の口に箝ます猿轡、最早叶はぬと観念の目を睜り、気も鈍くなりまする際、思はぬお助けに預かりました。此御恩は死すとも忘れませぬ、皆様能くお助け下さいました』 と嬉し涙に泣き伏しける。 鹿公『モシ若彦さま、察する処貴方のれこぢやありませぬか』 若彦『ハイ……』 と云つたきり若彦は俯向き居る。 鹿公『アハヽヽヽ、これはこれは、お恥しう御座るか、久し振りの恋女房の対面、柔和しい言葉の一つも掛けておあげなさつては如何ですか、吾々が居ると思つて云ひ度い事も能う云はず、泣き度うても能う泣かず、吾と吾心を詐つて居らつしやるのでせう。吾々であつたなればソンナ虚偽な事は致しませぬワ、「ア、お前は女房か、能うマア無事に居て呉れた、これと云ふも神様のお蔭、会ひたかつた会ひたかつた」としつかと抱きしめ嬉し涙に暮れにけり……と云ふ場面だ。吾々は暫く退却を致さう、ナア若彦さま、お節さまとゆつくり程経し思ひ出の物語、しつぽりとなされませや、ずつしりとお泣き遊ばせ、紫姫さま、馬公、暫く気を利かせませう』 若彦『イヤ有難う御座います、皆様のお蔭、斯様な処でお節殿に会ふのも神様のお摂理で御座いませう。モシモシお節どの、私を覚えて居ますか、青彦ですよ』 お節『ア、貴方が青彦さま、お懐しう御座います。能うマア無事で居て下さいました』 と嬉しさに前後を忘れ、青彦の手に獅噛み付く様に身体をもだえ泣き叫ぶ。 鹿公『カチカチ、観客の皆さま、これで幕切と致します。今後の成行は又明晩続き物として演じまする、何卒不相変御贔屓を以て賑々しく御入来あらむ事を偏に希ひ上げ奉ります、アハヽヽヽ』 紫姫『オホヽヽヽ、鹿公、時と場合に依ります、洒落もいい加減にしなさいや』 馬公『オイ鹿、何を云ふのだ、サアサア皆さま、月も出ました、もう一息だ、天の岩戸まで急ぎませう』 (大正一一・四・二五旧三・二九北村隆光録) |
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霊界物語 | 45_申_小北山の宗教改革1 | 13 五三の月 | 第一三章五三の月〔一二〇三〕 お寅はお菊の後について皺枯声を張り上げながら四辺の空気が濁るやうな音調で歌ひ出した。其声は楯に罅が入つたやうにビイビイと一同の耳に不快に伝はり鼓膜を刺戟する事最も甚だし。 お寅『朝な夕なに神様のみまへを謹み敬ひて 山と川との種々の珍らし物を奉り 蓄めて置いたる一万両金迄スツパリ放り出して 此よに沢山宮を立て末代日の王天の神 月の大神大将軍朝日の豊栄昇り姫 義理天上やきつく姫耕し大神地上姫 天若彦や定子姫黄竜姫や金竜姫 金山姫は云ふも更種物神社大御神 へぐれのへぐれのへぐれ武者へぐれ神社迄立て並べ これ程信神して居るに何と思うてか神様は あの悪者がやつて来て千両の金をぼつたくり 肩を怒らしスタスタと帰つて往くのを眺めつつ そしらぬ顔で厶るとは聞えませぬぞ神様よ 私は心で思ふには千両やるのは惜けれど 尊き神の神罰でこの坂道の中程で 罰が当つて金縛り二進も三進もならぬよに なつて熊公が心から前非をくいて改心し 千両どころか一文も入らないこれは神様に お返し申す其かはり私をたすけて下されと 吠面かはいて来るだらうと思うた事も当はずれ みすみす千両の金取つた男を無事にいなすとは ミロク成就の神さまも常世の姫も此頃は 盲聾になつたのか呆れて物が言へませぬ 思へば思へば力の無いガラクタ神だと思うたら 俄に腹が立つて来たこんな事なら平常から 色々ざつたと気をつけてお給仕するのぢや無かつたに 愛想が尽きたユラリ彦末代日の王天の神 上義の姫の松姫もサツパリ宛にはなりませぬ 尊き神と思うたら思ひも寄らぬ狼だ 狼住まう此山に熊公の野郎がやつて来て 四つ足同様な行ひを致してお寅を苦しめた 虎狼や熊のやつ三つ巴になり果てて 何ぢやかンぢやと争ひつ早暮れかかる冬の空 腹が立つのか寒いのか体がブルブル慄て来た 叶はぬから叶はぬから本当に誠に耐らない 力も徳もない神だこれこれ蠑螈別さまよ ものも言はない神さまを何程お給仕した所で カラキシ駄目ぢやありませぬか即座に云ふ事聞いて呉れる 金の神さま奪ひ取られどうして後にぬつけりと 平気な顔で居られよかお寅の腕には骨がある これから熊公の後追うて獅子奮迅の勢で 彼奴の胸倉グツと取り一たんとつた金の神 引き戻さいで置くものかまさかの時に助かろと 思ふが故に朝晩に神のお給仕して居るのだ 盲聾の神さまに何程頼んで見たとこで 聞いて呉れそな事はない何程偉い神ぢやとて ビタ一文も持つて居ぬ貧乏な神様計りだ 朝から晩迄俺達の汗や膏で拵へた お神酒を喰ひ飯を食ひ海河山野くさぐさの 百味の飲食居ながらに頂きながら一言も 何とも彼とも云はぬ奴拝んだところで何になる 吾はこれからスツパリとガラクタ神を思ひ切り 誠の誠の根本の神の教を探ね出し 人に勝れた神徳を貰うて見せにやおきませぬ 思へば思へば馬鹿らしい怪体の悪い事だつた 思へば思ふ程腹が立つ皆さま御苦労で厶いました 此神さまを拝もうと捨てよとほかそと御勝手だ 信仰自由と聞くからは決して邪魔はせぬけれど 肝腎要の此わしが愛想尽かしたよな神を 祭つた所で仕様がない屁のつつぱりにもなりはせぬ 屁なら音なとするけれどブツともスツとも云はぬ奴 今迄迷うて来たものと吾身がボツボツいやになり 馬鹿であつたと気がついて大地に穴を掘穿ち かくれて見たいよな気がしだすあゝ惟神々々 神も仏もあるものか神は吾等と倶にあり 人は神の子神の宮こんな明白な道理をば 悟つて居ながら何として高姫さまの私造した ガラクタ神に現をば抜かして居たのか口惜い サアサアこれから自暴自棄糞だ堤防を切らして酒をのみ 白浪女の意地を出しドンチヤン騒いでやりませう のめよ騒げよ一寸先や暗夜よ暗の後には月が出る 月の光は明かに吾身の上を照らします ここに祭つた神さまは照らす所か暗の夜は 灯明をつけたり蝋燭をつけてやらねば目が見えぬ 困つた盲の神ばかりアイタヽヽタツタアイタヽツタ 余り口が辷り過ぎ奥歯で舌を噛み切つた やつぱり性根のある神かそンならこれから拝みませう あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 五三公はそろそろ歌ひ出したり。 五三公『神が表に現はれて善と悪とを立て分ける 神の中にも善がありまた悪神のあるものぞ 善を表に標榜し此世を救ふ生神と 信仰計り強くして理解し得ざる信徒の 体を宿とし巣をくんだ狐狸や曲鬼が 尊き神の名をかたり世人を欺く事もある 小北の山に祭りたる此神様の素性をば 包まづ隠さず云うたなら生命も魂も捧げたる 信者の方は驚かう私はそれをば知つて居る そんな悪魔に欺されて現を抜かし根の国や 底の国やら畜生道落ち行く人の身の上を 見るにつけても可憐らしく忙しき身をも顧みず 貴重なタイムを空費して此処に滞在して居るも 汝等一同の身魂をば正しき神の大道に 救ひ助けむ其ためぞ思へよ思へよ顧みよ 此神名は高姫が脱線だらけの神憑り みたまが地獄に落ちた時天の八衢に彷徨へる 醜の魔神に取りつかれ肉の宮をば宿にされ 変性男子の系統だ日の出の神の生宮と 吾と吾手に盲信し教を立てて居りたのだ 肝腎要の高姫や黒姫司が自分から 愛想尽かして打ち捨たウラナイ教の神様に どうして誠があるものか茲の道理を考へて 社を残らず潔斎し払ひ清めて天地の 真の神を祭るべくさうでなければ蠑螈別 司の体は曲の巣となつて忽ち身を砕き 魂は曇りて地獄道根底の国へ落ち行かむ 魔我彦さまやお寅さま貴方も確りするがよい 名もなき神に名をつけて拝んだ所で何にする 狐狸の弄びになるより外に道はない 天地の神の御息より生れ出でたる生宮と 名乗りながらも曲神に霊を汚され朝夕に 濁つた言霊奏上し世を乱すとは何の事 これ五三公が天地の神に誓ひて赤心を 汝が命の御前に怯ず臆せず並べ立て 忠告致す次第なり果してこれの神様に 誠の霊があるならば今眼前五三公が 無礼の事を囀つた舌の根とめて命をば とつて呉れても恨みないこれが出来ねばこの神は 霊も力も無い曲津茲で眼を醒まさねば 真の神の御怒りにふれてその身は云ふも更 霊魂までもメチヤメチヤにこはされ無限の苦しみを 万古末代受けますぞ顧みたまへ蠑螈別 百の司の御前に神に誓ひて述べておく あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 (大正一一・一二・一二旧一〇・二四加藤明子録) |
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霊界物語 | 46_酉_小北山の宗教改革2 | 18 エンゼル | 第一八章エンゼル〔一二二八〕 お寅、魔我彦両人が、犬と猫とが互に隙を窺ひ、虚々実々論戦に火花を散らし、仁義の争ひ、最も酣なる所へ、エンゼルの如き美人が降つて来た。これは言ふまでもなくお千代であつた。お千代は足早に二人の前にかけ上り、双手を組み、ウンと一声、三尺ばかり空中に飛上り、キチンと二人の前に端坐した。お寅も魔我彦も、威厳備はり何となく優美なる乙女の姿に、思はず知らず頭を下げ、両手をついて畏まつた。 千代『われこそはユラリ彦命なり。汝等両人、小北山の祭神の善悪正邪に就いて論戦稍久しきを知り、天極紫微宮より降臨し、汝両人が迷夢を醒まさむとす、謹聴あれよ』 とおごそかに宣示した。お寅は意外の感に打たれ、実否如何と、神勅の裁断を待つてゐる。魔我彦は心の中にて……それお寅さま、御覧なさい、ヤツパリ私の信仰するユラリ彦命さまは誠の神だろ、此エンゼルの降臨に依つて、一切の迷夢を醒ましなされ……と口には言はねど、心の中に期待してゐる。 魔我『これはこれはユラリ彦様、よくマア御降臨下さいました。実の所はお寅さまと、神様の御事や信仰上の点に就て衝突を来し、互に論戦をしてゐた所で厶います。どうぞ明晰なる御宣示を願ひたう厶います』 天使『魔我彦、汝の苦悶をはらすべく降臨せしものなれば、遠慮会釈はいらぬ、何事でも質問をなされよ』 魔我彦『然らばお言葉に甘へてお尋ね致しますが、此小北山にお祀りしてある神様は有名無実だとお寅さまが申しますが、実際は如何で厶いませうか。ある神ならばあると仰有つて頂きたい。なき神ならば、ないと仰有つて下さらば、それにて私は去就を決します』 天使『此小北山に祀られたる大小無数の神霊は、宇宙に存在せるは確なる事実である。生羽神社の大神、リンドウビテンの大神、五六七成就の神、木曽義姫の大神、旭の豊栄昇り姫の大神、地の世界の大神、日の丸姫の大神、義理天上日の出神、玉則姫、大将軍、常世姫、ヘグレ神社の大神、末代日の王天の大神、上義姫の大神、其他いろいろ雑多の祭神は、確に存在する神なることは証明しておくぞよ』 魔我彦は狂喜しながら、お寅の方を打見やり、したり顔にて、 魔我彦『コレお寅さま、如何でげす、ヤツパリ私の考へは違ひますかな』 と稍得意の面をさらしてみせる。 お寅『そりや祀つてある以上は神霊はなけねばなりませぬ』 魔我『それ御覧なさい、それなら朝夕御給仕をしても差支はないぢやありませぬか』 天使『神といへば皆斉しくや思ふらむ 鳥なるもあり虫なるもあり。 よき神も曲れる神もおしなべて 神と言ふなり天地の間は』 お寅『どうも有難う厶いました。コレ魔我彦さま、神様には違ひないが、神の中にも百八十一の階段があるのだから、そこを考へねばなりますまいぞや』 魔我『エンゼル様に重ねてお尋ね致します。小北山に祀られたる神々様は、上は第一天国より、地の世界を御守護遊ばす主なる神様と聞きましたが、それに間違ひ御座りますまいなア』 天使『小北山宮居は数多建ちぬれど まつれる神は八衢にます。 八衢にさまよふ神はまだおろか 根底の国の醜神にます。 さりながら人は天地の司なれば 汚れし神を救ふも宜べよ。 世を守り人の身魂を守るてふ 誠の神は此神ならず。 此神は罪や汚れを犯したる 曲の霊をいつきしものぞ。 拝むより救うてやれよ小北山 まつれる神の身を憐れみて。 われこそはユラリの彦と宣りつれど 只魔我彦を救はむがため。 ユラリ彦神とふ神は常世国 ロツキー山に蟠まる曲。 松彦をユラリの彦と尊みて 敬ひ仕ふる人の愚かさ。 松彦も其真相は悟れども 汝救はむとしばし忍びつ。 松姫も上義の姫は曲神と 云ふ事知らぬ生宮でなし。 さりながら迷へる人を救ふべく あらぬ御名をば忍びゐる哉』 魔我『これはしたり世人を救ふ神々と 思ひし事の仇となりしか。 訳もなき神を山々いつかひて 世を迷はせし事の悔しさ。 今よりは心の駒を立て直し 皇大神の道に仕へむ』 お寅『エンゼルの厳の言霊輝きて 魔我彦の暗を照らし給ひぬ。 有難し心にかかる村雲を 払ひ給ひし神ぞ嬉しき。 魔我彦もさぞ今よりは村肝の 心の空に月を仰がむ』 魔我『久方の心の空も晴れにけり 神の使ひのエンゼルの声に』 お寅『吾言葉聞き入れざりし魔我彦も 神の使ひにまつろふ嬉しさ。 身に魂に光の足らぬ吾なれば 魔我彦司を救ひかねつつ。 有難き神の使の下りまし 照らし給ひぬ二人の胸を』 天使『相生の松より生れし愛娘 千代の固めを茲に築きぬ。 これよりは小北の山の神々を 祀り直せよ神の詞に』 お寅『いかにして神の御言を反くべき 勇み進むで仕へまつらむ』 魔我『今は只神の御旨に任すのみ 力も知慧も足らぬ吾身は。 掛巻くも畏き神の御恵に うるほひにけりかわきし魂も。 うゑかわき悩み苦む吾魂も 瑞の御魂に甦りける。 瑞御霊、厳の御霊の神柱 おろそかにせしわれぞ悔しき。 今迄の深き罪科許せかし 心の曲の仕業なりせば』 お寅『魔我彦よ心の鬼に罪科を きせてはならぬ汝が身の錆。 迷ひたる汝が身魂に鬼住みて あらぬ御業に仕へせしかな』 天使『二柱迷ひの雲は春の水 氷となりて解けし嬉しさ。 主の神の永遠にまします神国は 常世の春の花咲き匂ふ。 人の身は天つ御空の神国の 真人とならむ苗代にこそ。 地の上は汚れ果てたるものなりと 思ふは心の迷ひなりけり。 村肝の心に神の国あらば 此地の上も神国となる。 地の上に神の御国を立ておほせ おかねば死して神国はなし。 地の上に住みて地獄に身をおかば まかれる後は鬼となるらむ。 鬼大蛇醜の曲霊の猛ぶ世も 心清くば神の花園。 うつし世を地獄や修羅と称へつつ さげすみ暮す人ぞゆゆしき。 人は皆天津御国に昇るべく 生みなされたる神の御子ぞや。 主の神は青人草の霊体を もらさず落さず天国へ救ふ。 救はむと御心いらち給へども 人は自ら暗におちゆく。 根の国や底の国なる暗の世へ おちゆく魂を救ふ大神。 此神は瑞の御霊とあれまして 三五の道開き給へり。 三五の道の誠を守る身は いかでおとさむ根底の国へ。 神の愛神の智慧をば理解して 住めば地上も天国の春。 秋冬も夜をも知らぬ天国は 人の住むべきパラダイスなり。 永久の花咲き匂ひ木の実まで 豊な神の国ぞ楽しき。 主の神は数多のエンゼル地に降し 世を救ふべく守らせ給ふ。 三五の教司はエンゼルよ ゆめ疑ふな神の詞を』 魔我『ウラナイの神の司も皇神の 珍の使ひにおはしまさずや』 天使『ウラナイの神の司は鳥獣 虫族なぞを救ふ正人』 魔我『虫族も神の御水火に生れたる ものとし聞けば救はむとぞ思ふ』 天使『大神の心用ひて救ふべし 人の愛する神ならざるを知れ』 お寅『此山にまつれる神は虫族の 救ひ求むる神にますらむ』 天使『さに非ず虫族までも取りて食ふ 曲の神ぞや心許すな』 魔我彦は始めて、エンゼルの訓戒に依り、心の闇をはらし、俄に顔色清く、元気百倍して無限の歓喜を感得する事を得た。魔我彦はエンゼルに向ひ、涙と共に其神恩を感謝した。 魔我『尊き清きエンゼルの御降臨、御蔭に依りまして、今までの私の迷ひも春の雪が太陽にとけるが如く氷解する事を得ました。実に無限の努力と生命とを賦与されたやうな思ひに漂ひます、歓喜の涙にうるほひました。此上は今迄の愚なる心を立直し、只一心に誠の神様の為に全力を注ぐ考へで厶います』 天使『魔我彦、汝は今神様の為世の為に尽すと云つたが、神の力は広大無辺、汝の力を加ふべき余地は少しもないぞよ。只汝は天の良民として汝の身につける一切の物を完全に照り輝かし、万一余裕あらば之を人に施すべきものだ。併し乍ら人間として、どうして世を救ひ、人を救ふ事が出来ようぞ。汝自らの目を以て、汝の顔及び背を見る事を得るならば、始めて人を幾分なりとも救ふべき力が備はつたものだ。之を思へば、人の身として、如何でか余人を救ふ事を得む。斯の如き考へを有する間は、未だ慢心の雲晴れきらぬものなるぞ』 魔我彦『ハイ、いろいろの御教訓、誠に以て有難う厶います。併し乍ら吾々は自分の身を救うて、それで決して満足は出来ませぬ。憐れな同胞の身魂を救つてやりたいので厶います。宣伝使の必要も吾身を救ふ為では厶いますまい。ここをハツキリと御教示願ひたいもので厶います』 天使『宣伝使は読んで字の如く、神の有難き事、尊き事を体得して、之を世人に宣べ伝ふる使者である。決して一人なりとも救ふべき権利はない。世を救ひ、人を救ふは即ち救世主の神業である。只宣伝使たるものは、神の国に至る亡者引である。此亡者引は、ややもすれば眼くらみ、八衢にさまよひ、或は根底の国に客を導き、自らも落ち行くものである。それ故何事も惟神に任すが一等だ。何程人間が知識ありとて、力ありとて、木の葉一枚生み出す事も出来ないではないか。一塊の土たりとも産出する事の出来ない身を以て、いかでか世人を救ふ力あらむ。只宣伝使及び信者たるものは、神を理解し神の国の方向を知り、迷へる亡者をして天国の門に導く事を努むれば、これで人間としての職務は勤まつたのだ。それ以上の救ひは神の御手にあることを忘れてはなりませぬ』 魔我彦『ハイ、何から何まで親切なる御教訓有難う存じます』 天使『最前お寅どのの口をかつて、惟神の説明を致しておいたが、其方はお寅の肉体を軽蔑して居るから、誠の事を云つて聞かしても其方は分らなかつた。そこで今度は清浄無垢の少女が体をかつて、神は魔我彦の為に訓戒を与へたのである、決して慢心致すでないぞや』 魔我彦は歓喜の涙をしやくり上げ、畳を潤はし蹲まる。お寅は有難涙にくれ、顔もえ上げず、合掌して伏拝む。四辺に芳香薫じ微妙の音楽耳に入るよと見る間に、エンゼルは元つ御座に帰り給ひ、可憐なるお千代の優しき姿は、依然として十二才のあどけなき少女と変つて了つた。 魔我彦は初めて前非を悔ひ、神の光に照らされ、松彦の指揮に従つて小北山の祭神を一所に集め、厳粛なる修祓式を行ひ、誠の神を鎮祭する事を心より承認したのである。いよいよこれより松彦を斎主とし、五三公を祓戸主となし、厳粛なる遷座式に着手することとなつた。 あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一二・一六旧一〇・二八松村真澄録) |
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霊界物語 | 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 | 24 三五神諭(その五) | 第二四章三五神諭その五〔一五四九〕 大正四年旧十一月二十六日 大国常立尊が三千世界の、上中下と三段に分けてある霊魂を、それぞれに目鼻を付けて、皆を喜ぶやうに致すのは、根本の此世を創造へるよりも何程気骨の折れる事ぢや、人民では分らん事であるぞよ。初発の悪の霊魂は悪の事なら何んな事でも出来るから、茲まで世界中を悪で搦みて了ふて、善と云ふ道は通らぬやうに致して来た悪神の、頭を露はして、トコトン往生を為せて、又次に中の守護神を改信さして、下の守護神も続いて改信させねば神世には成らんぞよ。下の守護神が一番に何彼のことが解らんなれど、改信を致さねば、何うしても改信いたすやうに、喜ばして改信させねば、叱る計りでは改信の出来ぬ守護神も在るなり、何も解らん守護神の如何にも成らぬドウクヅは天地の規則通りに致して、埒宜く致さねば仕様はモウ無いぞよ。此の先で何時迄も改信の出来ぬ悪魔に永う掛りて居りて、岩戸開きの出来んやうな邪魔を致した守護神は、気の毒が今に出来致すぞよ。是丈け気を附けて知らして居るのに、改信の出来ん悪魔に成り切りて居る霊魂の宿りた肉体は、可哀想でも天地から定まりた規則通りの成敗に致すぞよ。もう何時までも解らんやうな守護神を助けて置いたら、世界が総損害に成りて、茲まで神が苦労いたした骨折が水の泡に成りて了ふぞよ。夫れでは永らく神が苦労いたした甲斐が無くなりて、天の大神様へ申訳が立たんなり、神は守護神人民を助けたいのは、胸に一杯であるから、もう一度気を附けて置くから、何事が出て来ても神に不足は申されまいぞよ。是からは悪神の守護神の好きな事も、悪き事も出来んやうに、天地から埒を附けるから、何処を恨む事も出来ず、自己の心を恨める事も出来んやうになるぞよ。天地の先祖の神は、善の守護神も悪の守護神も皆を喜ばしたいと思ふて、色々と永らく気を附けたなれど、ドウクヅの蛆虫同様の醜しき聞解の無いものは、一処へ集して固めて灰にして了ふから、悪いものに悩められて生命を取られるやうな肉体は、蛆虫同様、悪神の眷族と、も一つ下な豆狸といふやうな論にも杭にもかからんものに弄びに遇うて居るのは、肝腎の神の綱の切れて居る身魂であるぞよ。こんな守護神の宿りて居る肉体は取払ひに為て了ふて此世界の大掃除を初めるぞよ。 天地の先祖の苦労の解らん身魂は、蛆虫同様であるから、斯んな身魂は世の汚穢と成るから、神界の経綸通りに致して埒能く岩戸を開かな、後の立直しが中々大望であるから経綸通りにして見せるぞよ。さう致すと神は善一つなれど、何も解らん世界の人民が悪の守護神に引かされて、矢張り艮金神は悪神でありたと申すぞよ。細工は流々仕上が肝腎であるぞよ。天地の神の御恩も判らぬやうな、畜生より劣りた、名の附けやうの無いものは、末代の邪魔になるから、天地の規則通り規めるから、悪の守護神の中でも改信の出来たのは、今度の岩戸開きに焼払ひになる所を救けてやるぞよ。蛆虫の中からでも救かるべき身魂が在れば択出して善の方へ廻して遣るぞよ。 天の大神様が、いよいよ諸国の神に、命令を降しなされたら、艮金神国常立尊が総大将となりて、雨の神、風の神、岩の神、荒の神、地震の神、八百万の眷属を使ふと、一旦は激しいから、可成は鎮まりて世界の守護を為せるなれど、昔の生粋の神国魂の活神の守護と成りたら、此中へ来て居る身魂に申附けてある事を、皆覚えて居るであらうが、一度申した事は其様に致すから、神の申す事を一度で聞く身魂でないと、充分の事は無いぞよ。もう神からは此の上人民に知らせる事は無いから、大峠が出て来てから、如何様でも改信をしますで赦して下されと何程申しても、赦す事は出来んぞよ。是程大望な昔からの仕組を今になりて変へる様な事を致して居りたら、二度目の天の岩戸開きの大きな経綸が成就致さんぞよ。根本から大洗濯を致して、末代世界の口舌が無いやうに致して、神界の害をする霊魂が、学で此世を暗闇にして了ふて、正味のない教やら、やりかたは、世の大本からの教でないから、途中から出来たものは、末代の世の遣り方には用ゐんぞよ。 今の上に立ちて居る守護神は科学ほど結構なものは無いと申して、渡りて来られん霊魂が、神を抱込みて、好き寸法に致して、此先をモ一つ悪を強くして、悪で末代建てて行かうとのエライ目的でありたなれど、もう悪の霊や学の世の終りと成りたぞよ。本の神世へ戻りて、天と地との先祖が末代の世を持たねば、他の霊魂では此世は続かん、口舌の絶えると云ふ事は無いぞよ。 大国常立尊が変性男子の霊魂の宿りて居る肉体を借りて、末代の世を受取りて、世の本の生粋の誠の生神ばかりが表に現はれて、天地の先祖の御手伝ひで、数は尠いなれど神力は御一柱の生神の御手伝ひが在り出しても、霊魂の神が何程沢山でも、本の生神の力には敵はんから、同じ様な事を申して細々と今に続いて知らして居るなれど、途中に出来た枝の神やら、渡りて来て居る修業なしの利己主義の遣方の守護神では、肝腎の事は解りは致さんぞよ。誠の事の解る大本へ出て来て、いろはからの勉強を致さねば、学は金を入れた丈の力は出るなれど、天から貰うた霊魂に附いた生来の力でないから、物質の世の間は結構でありたなれど、もう物質の世の終りとなりたから、今迄の学では二度目の天の岩戸開きには些少も間に合はんぞよ。 ○ 大正四年旧十二月二日 大国常立尊変性男子の霊魂が現はれて、三千世界の三段に別けて在る御魂を、夫れ夫れに立替へ立別けて、目鼻を附けて、先づ是で楽ぢやと申すやうに成るのは、大事業であるぞよ。二度目の天の岩戸開は、戦争と天災とで済むやうに思ふて、今の人民はエライ取違ひを致して居るなれど、戦争と天災とで人の心が直るのなら、埒能う出来るなれど、今度の天の岩戸開は、其んな容易い事でないぞよ。昔からたてかへは在りたなれど、臭い物に蓋をした様な事ばかりが仕て有りたので、根本からの動きの取れんたてかへは、致して無いから、これ迄のやりかたは、身魂は尚悪くなりて、総曇りに成りて居るから、今度は一番に、霊魂界の岩戸開であるから、何に付けても大望であるぞよ。是程曇り切りて居る、三千世界の身魂を水晶の世に致して、モウ此の后は、曇りの懸らんやうに、万古末代、世を持ちて行かねば成らんから、中々骨の折れる事であるぞよ。 天地の大神の思ひと、人民の思ひとは、大きな違ひであるから、何に付けても、今度の仕組は、人民では汲み取れんぞよ。人民一人を改信させるのにも、中々に骨が折れようがな。今度の二度目の天の岩戸開は、昔の初まりから出来て居る、霊魂の立替立直しで在るから、悪い霊魂を絶滅して了ふてするなら、容易く出来るなれど、悪の霊魂を善へ立替へて、此世一切の事の行り方を替へて、神法をかへて、新つの世の純粋の元の水晶魂にして了ふのであるから、今の人民の思ふて居る事とは、天地の大違ひであるから、毎度筆先で気を附けてあるぞよ。 あやべの大本の中には、世界の人民の心の通りが、皆に仕て見せてあるぞよ。世界の鏡の出る所であるから、世界に在る実地正末が、皆にさして見せて在るから、色々と心配をいたして居るなれど、何んなかがみも仕て見せて在るから、世界が良くなる程、この大本は善くなるぞよ。今ではモチツト、何事も思ふやうに無いのであるぞよ。 世界の事が、皆大本に写るから、夫れで、此中から行状を善く致さんと、世界の大本となる、尊い所であるから、何事も筆先通りに為て行かねばならんぞよ。是までの世のやりかたは、神の国では用ゐられん、邪神の極悪のやり方に、変りて了ふて居るのを、盲者聾者のやうな世界の人民は、知らず知らずに、させられて居りたのであるから、分らんのは尤もの事であるぞよ。誠の神が抱込まれて、神の精神が狂ふて居るのであるから、人民が悪う成るのは当然であるぞよ。 モ一つ此の先を悪を強く致して、この現状で世を建てて行くどいらい仕組をして居るなれど、モウ悪の霊の利かん時節が循環てきて、悪神の降服いたす世になりて来たから、吾の口から吾が企みて居りた事を、全然白状いたす世になりたぞよ。 世界の御魂が、九分まで悪に化りて、今まで世を持ち荒して来た守護神に、改信の出来かけが、何の様にも出来んから、神も堪忍袋を切らして、一作に致せば八九分の霊魂が悪く成るし、改信致さす暇が、モウ無いし、是程この世に大望な事は、昔から未だ無い、困難な二度目の天の岩戸開であるのに、何も分らぬ厄雑神に使はれて居ると、何も判らんやうになるぞよ。 まことの行も致さずに、天地の先祖を無視して、悪のやりかたで世界の頭になりて、此先を悪をモ一つ強く致して、まぜこぜで行りて行ことの初発の目的通りに此所まではとんとん拍子に面白い程上り来たなれど、此神国には深い経綸が世の元から致して在りて、九分九厘まで来たぞよ。 悪神の仕組も、九分九厘までは来たなれど、モウ輪止りとなりて、前へ行く事も出来ず、後へ戻る事も出来んのが、現今の事であるぞよ。仕放題の利己主義の行方で、末代の世を悪で建てて行くことの目的が、今までは面白い程のぼれたなれど。 神の国には、チツト外の御魂には判らん経綸が為てあるから、人も善、吾も善、上下揃ふて行かねば、国の奪り合ひを為るやうな、見苦敷性来では、世は永久は続かんぞよと申して、筆先に出して、気を附けてあるぞよ。 斯世は善と悪とが有りて、何方でこの世が立つかと言ふことを末代続かせねば成らん世であるから、何事も天地から為してあるのであるぞよ。吾が為て居るのなら、何事も思ふたやうに行けんならんのに、何うしても行けんのが、神から皆為せられて居る証拠であるぞよ。善の道は、苦労が永いなれど、此の先は末代の世を続かすので中々念に念が入るぞよ。 善の行は永いなれど、善の方には、現界幽界に何一つ知らん事の無い様に、世の元から行が為してあるから、此先は、悪の仕放題に行無しに出て来た守護神が辛くなるぞよ。如何な事も為ておくと、何事も堪れるなれど、行無しの守護神に使はれて居ると、世の終ひの初まりの御用は勤まらんぞよ。 善と悪との変り目であるから、悪の守護神はヂリヂリ悶える様になるから、一日も早く改信致して、善の道に立帰らねば、モウこれからは貧乏動きも為さんぞよ。善の守護神は数は尠いなれど、何んな行も為してあるから、サア今と云ふ様に成りて来た折には、何程烈しきことの中でも、気楽に神界の御用が出来るから、一厘の御手伝で、神の本には、肝腎の時に間に合ふ守護神が拵へてありて、世界の止めを刺すのであるぞよ。神の国は小さうても、大きな国にも負は致さんぞよ。神国は世界から見れば、小さい国であれど、天と地との、神力の強い本の先祖の神が、三千世界へ天晴と現はれて、御加勢あるから、数は少うても、正味の御魂ばかりで、何んな事でも致すぞよ。何程人数が多くても、何の役にも立たぬ蛆虫計りで、善い事は一つも能う為ずに、邪魔計りを致すから、世界の物事が遅くなりて、世界中の困難であるが、未だ気の附く守護神が無い故に、何時までも筆先で知らすのであるぞよ。 天地の御恩も知らずに、利己主義で茲まで昇りつめて来た悪の守護神に、改信の為せかけが出来んので、何事も遅くなりて、総損害に、上から下までの難渋となるから、明治廿五年から、今ぢや早ぢやと申して、引掛戻しに致して、気附く様に知らしても、元からの思ひが大間違で在るから、世界の岩戸開の九分九厘と成りた所で、ジリジリ舞ふ事が見え透いて居るから、気を附けるぞよ。 天地の先祖の、思ひの判りて居る守護神と人民は、今に無いぞよ。是程暗がりの世の中へ、世の元の正真の水火神が揃ふて表はれても、恐い計りで、腰の抜けるものやら、顎が外れて早速に物も能う言はん様な守護神や、人民が沢山出来る許りで、神の目からは間に合ひさうに無いぞよ。 判りた御魂の宿りて居る肉体でありたら、何んな神徳でも授けるから、此神徳を受ける御魂に使はれて居りたら、一荷に持てん程、神徳を渡すから、其貰ふた神徳に光りを出して呉れる人民で無いと、持切りにしては天地へ申訳が無いぞよ。 ○ 大正五年旧十一月八日 あまり此世に大きな運否があるから、口舌が絶えんから、世界中を桝掛を引いて、世界の大本を創造た、天と地との先祖の誠で、万古末代善一つの道で世を治めて、口舌の無い様に致すぞよ。天は至仁至愛真神の神の王なり、地の世界は根本の国常立尊の守護で、神国の、万古末代動かぬ神の道で治めるぞよ。吾好しの行り方では、此世は何時までも立たんぞよ。この世界は一つの神で治めん事には、人民では治まりは致さんぞよ。悪神の仕組は世が段々と乱れる計りで、人民は日に増に、難渋を致すものが殖える許りで、誠の神からは目を明けて見て居られんから、天からは御三体の大神様なり、地は国常立尊の守護で、竜宮様の御加勢で、元の昔の神の経綸通りの松の世に立替致して、世界中を助けるのであるから、中々骨が折れるぞよ。モウ時節が近よりたぞよ。用意をなされよ。脚下から鳥が立つぞよ。天地の先祖の神々を粗略に致して、神は此世に無い同様にして東北へ押込めて置いて、世界の大将に成りて、悪の血統と眷属の何も知らぬ悪魔を使ふて末代世を立て様と思ふて、エライ経綸をして居れど、世の本からの天地を創らへた、其儘で肉体の続いてある、煮ても焼いても引裂いても、ビクともならん生神が、天からと地からと両鏡で、世界の事を帳面に附け止めてある同様に、判りて居るから、モウ神界には動かぬ仕組が致してあるから、世界の人民は一人なりと、一日も早く大本へ参りて、神の御用を致して、世界中を神国に致す差添へに成りて下されよ。上下揃ふて神国の世に世界中を平均すぞよ。 今の世界の人民は、現世に神は要らんものに致して、神を下に見降し、人民よりエライものは無き様に思ふて居るが見て御座れよ、岩戸開の真最中に成りて来ると、智慧でも学でも、金銀を何程積みて居りても、今度は神にすがりて、誠の神力でないと大峠が越せんぞよ。今度は神が此世に有るか無いかを、解けて見せて遣るから、悪に覆りて居る身魂でも善へ立ち返らな、神の造りた陸地の上には、居れん様になるから、改信を致して身魂を能く研いて居らんと、何彼の時節が迫りて来たから、万古末代取戻しの成らん事が出来致すから、今に続いてクドウ気を附けるのであるぞよ。是丈けに気を附けて居るのに聞かずして、吾と吾身を苦しめて最後で改信を致してもモウ遅いぞよ。厭な苦しい根の国底の国へ落されるから、さう成りてから地団太踏みてジリジリ悶えても、そんなら赦してやると云ふ事は出来んから、十分に落度の無いやうに、神がいやになりても、人民を助けたい一心であるから、何と云はれても今に気を附けるぞよ。 これからは筆先通りが、世界に現はれて来るから、心と口と行ひと三つ揃ふた誠でないと、今度神から持たす荷物は重いから、高天原から貰ふた荷が持てん様な事では、余所から人が沢山出て来だすから、其時に恥かしう無いやうに、腹帯を確り締めて居らんと、肝腎の宝を取外す事が出来るぞよ。今度は此大本に立寄る人民に、神からの重荷を持たすから、各々に身魂を十分に研いて置いて下されよ。ドンナ神徳でも渡して、世界の鑑に成る様に力を附けてやるぞよ。改信と申すのは何事に由らず、人間心を捨てて了ふて、知識や学を便りに致さず、神の申す事を一つも疑はずに生れ赤子の様になりて、神の教を守る事であるぞよ。霊魂を研くと申すのは、天から授けて貰ふた元の霊魂の命令に従ふて、肉体の心を捨て、本心に立返りて、神の申す事を何一つ背かん様に致すのであるぞよ。学や知識や金を力に致す内は、誠の霊魂は研けて居らんぞよ。 この天の岩戸開を致すには、学でも、悧巧でも、知識でも、金銀でも、法律でも、行かんぞよ。兵隊計りの力でも行かず、今の政治の行り方では、猶行かず、今迄の色々の宗教でも猶行かず、今の学校の教でも行かず、根本の天の岩戸開であるから、今の人民の思ふて居る事とは、天地の相違であるから、世界の人民が誠にいたさんから神は骨が折れるのであるぞよ。天地の間の只の一輪咲いた梅の花の経綸で、万古末代世を続かすのであるから、人民には判らんのも尤もの事であるぞよ。 九つ花が咲きかけたぞよ。九つ花が十曜に成りて咲く時は、万古末代しほれぬ神国の誠の花であるぞよ。心の善きもの、神の御役に立てて、末代神に祭りて此世の守護神といたすぞよ。此世初まりてから、前にも後にも末代に一度より無い、大謨な天の岩戸開であるから、一つなりとも神の御用を勤めたら、勤め徳であるぞよ。それも其人の心次第であるぞよ。神は無理に引張りは致さんぞよ。 是だけ蔓りた悪の世を治めて、善一つの神世に致すのであるから、此の変り目に辛い身魂が多人数あるから改信々々と一点張りに申して、知らしたのであるぞよ。早い改信は結構なれど、遅い改信は苦しみが永い許りで、何にも間に合はん事になるぞよ。艮金神で仕組致して、国常立尊と現はれて、善一つの道へ立替るのであるから、経綸通りが世界から出て来だすと、物事が早くなるから、身魂を磨いて居らんと、結構な事が出て来ても、錦の旗の模様が、判らんやうな事では成らんぞよ。今迄苦労いたした事が、水の泡になりてはつまらんから、大本の辛い行を勇んでいたす人民でありたら、神が何程でも神力を授けるから、ドウゾ取違ひをせぬやう慢心の出ぬ様に心得て居りて下されよ。世界の神、仏、耶、人民の為に、神が永らく苦労を致して居るぞよ。 (大正一二・四・二七旧三・一二於竜宮館北村隆光再録) |
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霊界物語 | 65_辰_虎熊山と仙聖郷の物語/七福神 | 26 七福神 | 第二六章七福神〔一六八二〕 日の出別命の左右には道彦、安彦の両人が従ひ、初稚姫一行を導いて数百旒の五色の旗を風に翻し乍ら、百花爛漫たるゲッセマネの園にと進み入つた。玉国別一行が竜王の三個の玉を捧持して来りし其功績を賞する為め、特に埴安彦尊の命により歓迎宴が開かれた。ゲッセマネの園には種々の作物や、音楽や演劇が盛んに催されて居た。さうしてコウカス山よりは、言依別命が数多の神司を引き連れ、二三日前に早くも聖地に到着されて居た。 玉国別、真純彦は途中に於て初稚姫に『聖地は結構な所の恐ろしい所だ』と誡められ、筋肉迄緊張させ居たにも拘はらず、この大袈裟の歓迎に肝をつぶし、夢かと許り呆れてゐる。只見るもの、聞くもの意外の事許りで語る事も知らず、無言の儘初稚姫の後について進んで往く。日出別の神は俄作りの建物をさし示し、 日の出別『サア皆様、貴方方の御苦労を慰める為め、神様の思召によつて、種々の余興が催されて居ます。これから此建造物に於て、七福神宝の入船と云ふお芝居が初まりますから、悠悠気をゆるして御覧下さいませ』 玉国別は案に相違しながら、 玉国『いや、どうしてどうして、そんな気楽な事が出来ませうか。真純彦に持たせた此宝玉を、無事神様にお渡しする迄は、芝居所では厶いませぬ。是ばかりは平にお恕し下さいませ。うつかりして九分九厘で顛覆しては大変ですからなア』 と何処迄も警戒し体を固くして居る。 日の出別『決して決して御心配なさいますな。此通り貴方方の御到着を祝ふために宝の入船と云ふ神劇が催されて居るのです。貴方も宝を抱いてヨルダン河を船にて渡り、この聖地へお這りになつたのですから、宝の入船の主人公は貴方方ですよ』 玉国『ハイ。真純彦、お前はどう考へるか。どうも大教主のお言葉が私には些と許り解し兼ねるのだがなア』 真純『先生、これや神様から気を引かれて居るのかも知れませぬよ。兎も角お断りを申て、早く此玉を埴安彦の神様にお渡しして来うではありませぬか。さうでなくてはお芝居を見る気がしませぬわ』 初稚『決して御心配は要りませぬ。這入つて御覧なさいませ。いやいや貴方方が役者にならねばならぬのですよ。やがて治道居士、伊太彦、三千彦、デビス姫、ブラヷーダさまが見えることですから、七福神になつて貰ふ積りです。治道居士さまは布袋、玉国別さまが寿老人、真純彦さまが毘沙門天、伊太彦さまが大黒さま、三千彦さまが恵比寿さま、それから、デビス姫さまが弁財天、と云ふやうに、各自にちやんとお役が定つて居るのです。サアどうぞ楽屋へお這入り下さい。私等は見せて貰ふのです。実の所は貴方方に役者になつて貰ふのですから、是も御神業だと思つてお勤め下さいませ』 玉国『ハテナ、些とも合点が往きませぬわ。御命令とあれば俄俳優になつてもよろしいが、てんで台詞が分りませぬからねえ』 日の出別『台詞なんか要りませぬよ。其時神様が憑つて口を借りて仰有いますから、承諾なさればよいのです』 真純『モシ先生、イヤ寿老人さま、神様の命令だ、千両役者になりませうか』 玉国『何と云つても神様の御命令とあれば背く訳には行きますまい。勤めさして頂きませう。そして三千彦、伊太彦はもはや此方へ見えて居りますか。どうしても吾々とは二三日後れるやうに思ひますがなア』 言依別『時間空間を超越したる神の道、そんな御心配は要りませぬ。直に今此処へお出になりますよ。総て神様の御国は想念の世界ですから、想念の儘になるのです。此処が外の地点とは違つて尊い所以です。さうでなくてはエルサレムと云つて神様がお集まり遊ばす道理がありませぬから』 玉国『左様ならばお受け致します』 真純『私も先生と同様お受を致します』 と云ふや否や、二人の姿は忽ち七福神の中の一人となつて居た。いつの間にやら、治道居士、三千彦、伊太彦、デビス姫、ブラヷーダ姫其外の人々は集まり来りて、何れも七福神の姿となつて居る。愈茲に七福神宝の入船の奉祝神劇は演ぜられた。数多の神司や信者は、此広き建物の中に、立錐の余地なき迄に集まつて、愉快げに観覧し、其妙技を口を極めて賞揚した。神劇の次第は左記の通りであつた。 抑我日の下は神の御国なり天地ひらけ陰陽分れ 青人草を始めとし万物爰に発生して 天地人の三体備はりぬ天津御国の太元は 大国常立の大御神又の御名は天照皇大御神なり 地津神の太元は豊国主の大御神又の御名は神素盞嗚尊 豊葦原の瑞穂の国産土山の底津岩根に宮柱太敷立て 三五の神の都を奠め賜ひしより千代万代に動ぎなく 天下泰平国土安穏五穀成就万民鼓腹撃壤の楽みを享く 実に有難き神の国の草木も靡く君が御代 かくも目出度国の中に四海波風豊にて 雲井の空に寿ぎ舞ふ鶴や千年の松の緑の色深く 万歳の亀も楽しむ天教の山の高く澄みきる月のあたり たなびく霞の中よりも真帆をば風に孕ませつ 浮かれ入り来る宝の御船七五三の静波かきわけて 積み込む宝の数々やまばゆきばかりあたりを照らす うるはしさ 丁子や分銅の玉の袋に黄金の鍵もかくれ蓑 七宝壮厳の雨に濡れし小笠の露や玉の光と 打出の小槌七福神の銘々が 乗合舟の話こそ面白き。 中にも口まめな福禄寿長い天窓を振り立てて、 福禄『天下無双のナイスお弁さま、イナ弁財天女どの、貴女は新しい女と見えて、こんな変痴奇珍な男子計りの船の中へ、案内もせないのに、何と思つて同席の栄を賜はつたのかな』 弁天女は面恥ゆげに莞爾と笑み乍ら、 弁天『ホヽヽヽ、アノまあ福禄寿さまの御言葉とも覚えませぬ。好く考へて御覧、何程新しい女だとて、ナイスだとて、五百羅漢堂を覗いたやうなスタイルして居らつしやる醜男子の側に来られないと云ふ法律は発布されては居りますまい。五六七の御代が開ける魁として、今度エルサレムの宮に於て、玉照彦命、玉照姫命二柱の神様のお目出度い御婚礼があるので、御祝のため貴神等は、この宝舟に乗つて聖地エルサレムの竜宮城へ昇られるのでせう。何程福の神だと云つて、男子許りでは花も実もありますまい。昔から七福神は聞いて居るが、六福神は聞いた事が無い。夫れで妾が天津神様の御命令で、俄に貴神等の仲間に加はつたのですよ』 福禄『コレお弁さま、御心配下さるな。この福禄寿一神あつても下から読み上げて見ると十六福の神だよ。ヘン済みませぬナア。そこへ寿老人(十六神)を加へて三十二神ですよアハヽヽヽヽ。それよりも身の上話でも聞かして貰つた上、都合によつて加へて上げようかい』 弁天『三十二神の処へ妾が一神加はれば、三十三相の瑞の御魂ですよ。一神欠けても三十三魂にはなりますまい。女は社交上の花ですからねー。妾の素性を一通り聞かして上げますから、十六神さま謹聴なさいませホヽヽヽヽ』 六福『謹聴々々ヒヤヒヤ』 弁天『妾は神代の昔の或る歳、頃は弥生の己の巳日、二本竹の根節を揃へて、動ぎ出でたる嶋だと云ふので、竹生島と称へられる、裏の国の琵琶の湖に浮べる一つの嶋に、天降りました天女の中でも、最も勝れたナイスの乙女ですよ。自分から申しますと何んだか自慢するやうですが、神徳があまりあらたかなと言ふので、世人より妙音弁財天女と崇められ、妾の身体は引張り凧の様に日の下の国の四方に分霊を祭られて居ります。先づ東の国では江の島、西の国では宮嶋に、今一体は勿体なくも古、伊邪那岐尊、伊邪那美尊の二柱の神様が天の浮橋に渡らせたまひ、大海原に天降り、始めて開かれたる淤能碁呂嶋、その時、鶺鴒と云ふ小鳥に夫婦の道を教へられ、天照大神を生み給ふてより、又一名を日の出嶋と名付けられ、この国人に帰依せられ、福徳を授けしによつて、美人賢婦の標本として七福神の列に加はつた事は、十六福神さまも遠うの昔に御存知の筈。アナタも何時の間にやら福禄寿でなくて、モウロク(最う六)十三になりましたねー、ホヽヽヽヽ』 福禄『ヒドイなア』 六福『アハヽヽ。オホヽヽヽヽヽ』 顔色の黒いのを自慢の大黒天は、槌を持つた儘座に直り、 大黒『弁天ナイスの今の話を聞いた以上は拙者も男だ。一つ身の上話を初めて見よう。一同御迷惑ながら御聴聞なさいませ。 抑も拙者は、神素盞嗚大神の御子にて、八百米杵築の宮に鎮まりし、大国主命でござる。生れつきの慈悲心包むに由なく、貧しき者を見るに付け、不便さ忍び難く、一切の衆生に福徳を与へむとして心を砕き、チンチンチン一に米俵を踏まへて、二に賑はしう治めて、三に栄えの基となり、四ツ世の中悦んで、五ツいつも機嫌よく、六ツ無病息災で、七ツ難事もないやうに、八ツ屋敷を開ひて、九ツ花の倉を建て、十分満ればこぼるるぞ。コレ此槌は福を打出す槌ぢやない、お土を大切にして生命の種のお米を作れと知らすためぢや。モ一つには奢れる奴等の天窓をば打砕く槌ぢやわい。アハヽヽヽヽ』 福禄『アハヽヽヽヽ、コリヤ御尤もだ。オイ戎、コレサ聾どの、エベスどのエベスどのエベスどの貴神は、マア舳に出て釣許りして厶るは一体、こなたは何う云ふ福の神ぢやい。福の神にも色々あつて、雑巾を持つて縁板などをフクの神もあれば、尻をフクの紙もある。きつぱりと素性を明かして呉れないか』 戎『俺かい。おれはナ、何事も聞かざる、見ざる、言はざると云つて、庚申の眷属を気取り、三猿主義を固守し、只堪忍をのみ守つて居るのだ。徳は堪忍五万歳だ。抑も拙者は、蛭子の命と云つて、正月三日寅の一天に誕生した若蛭子だ。商売繁昌を祈るが故に欲の深い連中から商売の神と崇められて居るのだ。誠に目出度う候ひけるだ、アハヽヽヽヽ。十日戎の売物は、はぜ袋に、取鉢、銭がます、小判に金箱、立烏帽子、桝に財槌、束熨斗、お笹をかたげて千鳥足』 大黒『アヽコレコレさう踊り廻すと船の上は危険だ。モウ良いモウ良い御中止を願ひます』 大黒『エヽ時に寿老人殿、貴神は何時も何時も渋い面をして落付払つて厶るが、こんな芽出度い時には、チツと笑つて見せても可いぢやないか』 寿老『イヤ是は又迷惑千万、物価謄貴生活難の声喧しき、この辛い時節に、あまい顔をせよとは、粋にして且つ賢明なる方々にも似合ぬお言葉では厶らぬか。拙者は何時も苦い顔をして倹約を第一と守り、郵便貯金を沢山にして、他人に損をかけず、自分も損を致さねば、心労なき故、長命を仕るのぢや。長命に過ぎたる宝は厶らぬ。兎角、拙者の行り方を見習へば、たとへ福は授からなくとも、自然に福徳が保てますぞや』 福禄『ヘン、何程長命したとて、ソンナ苦い顔をして一生送るのなら、余り福徳でも在るまい。笑つて暮すのが、何より人生の幸福だ。高利貸の親父でも、たまには笑ふぢやないか。ナア、皆の福神連中さま』 寿老『イヤ恐れ入る。併し自分は是でも人の知らぬ心のよろこびに充ちて、楽しく日を送つて居るのだ。サテ、愚老許りお喋舌いたして皆様の交際を忘れて居た。余りの楽しさと、面白さと、今度の御婚礼の目出度さとに気を取られて、アハヽヽヽヽ。サア是からお交際申さう』 と傍にあり合ふ妻琴を引寄せ掻きならし、 (歌)『忍ぶ身や夜な夜なもゆる沢の螢火に夜更渡りぬる』 寿老『余り長いのは皆様のさはりになる。長い者を俗に長者と言ふさうぢや。ヤ、是はしたり、長い者とは福禄寿様へ差合ました。失礼々々』 布袋和尚は吹出して、 布袋『アハヽヽヽアハヽヽヽ、オホヽヽヽ、ハテ、コリヤ面白い面白い面白いハヽヽヽヽヽ奇妙々々』 毘沙門天は、むつとした顔しながら、 毘沙『ヤイ、そこな土仏坊主奴。何がそれ程可笑しいのだい。袋と腹とで乗合船の居所を狭めて居る癖に、チツと位遠慮召さつても可いだらう』 布袋『アヽ、コレコレ毘沙殿。さう腹立まいぞや、腹立まいぞや、立腹まいぞや。少々は乗合の邪魔にも成るだらうが、ソコは仲間の事だから、神直日大直日に見直し聞直してマアマア曰く因縁を聞き玉へ。夫れ一家一門附合、朋友、得意先、丸う無くては治まらないと云ふ道理は、拙者のこの天窓で判るだらう。眼まで丸い布袋和尚だ、ハヽヽヽヽ。まつた腹は大きくなければ、心がさもしいものだ。そこで愚僧が此大きい腹を突き出し、腹鼓を打つて一通りお話致すで厶らう。 「ソレ、この袋といつぱ」見たる事聞きたる事、よしあし共に忘れぬ様、中へ納めて斯の通り、もたれて居申すなり。又世に子宝と云へるが、稚き者ほど可愛者はあり申さぬ。その稚き者を団扇を持つて行司仕り居り候也。アヽ宜き楽みかな宜き楽みかな』 福禄『イヤ布袋どの、尤も尤も、尤も次手に笑はしやるのも尤も尤も。「笑ふ門へは福禄寿」サレバお咄し申しませう。夫れ天窓が長ければ背はズント低う厶る。低うなければ愛嬌を失ひます。先づ入口を這入るにも長いによつて余ります。天窓を下げて這入ります。それで愛嬌が厶るだらうがの、愛嬌ついでに皆さま、おはやし頼みます。 「越後の国の角兵衛獅子、国を出る時や、親子連れ、獅子をかぶりて、くるりと廻つて、首をふりまする、親父や、まじめで笛を吹く」 ヨー、ハヽヽヽヽ福禄寿さま、大当りだ大当りだ。アハヽヽヽヽ』 六福『併し獅子の頭が少々高過ぎるぢやないか。ハヽヽヽヽ』 福禄『ハテ、頭が高うもなければ納まらぬ事もある物だ。是もやつぱり世界の道具だからのう。ハヽヽヽヽ』 毘沙門天は居直りて、 毘沙『ムヽヽヽヽ、ハヽヽヽヽ面白し面白し、吾は異形の姿にて鉾携へし身乍らも、七福神の列に加はる其由来を物語らむ。そも不身持山の皆身(南)に当りて難渋ケ嶽の峰に住む、貧乏困神とて悪神あり、彼に徒党の奴原を悉く誠罰し諸人の患を救はむと、この日の国に天降り、日出る国信貴山に根城を構へ、追付悪神討亡ぼし、困窮の根をたやさむこと、此多聞天が方寸の内にあり、ハヽヽハヽヽハヽヽヽヽ、悦ばしや嬉しや』 と勇める顔色、威あつて尊く、実に有難き霊験なり。 皆一同にあふぎ立て、中に取分け弁財天。 弁天『何れに、おろかは無けれども、多聞天のおん物語、勇ましや。イザヤ発船、又の御げん』 とのたまふにぞ、さらばさらばと漕ぎよせて、竜宮館の水の面に、清き宝の入船や、七福神の霊験も、仁義釈教、恋無常、勧善懲悪聞明し、改過を作るその主は、近松ならで松の元、一とふし込し、竹本ならぬ国武彦の御助け、梅の香床しき一輪の、花の流れや汲み取る綾の、聖地の玉の井に、映る言霊影きよく、照り輝きし玉照姫や、暗をも照らす玉照彦二柱、九月八日の慶びを、筆にうつして末広く、伝へ栄ゆる神祝ぎの、尽きせぬ神代こそ芽出度けれ。 (大正一二・七・一八旧六・五北村隆光・加藤明子共録) (昭和一〇・六・一六王仁校正) |
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霊界物語 | 71_戌_玄真坊と千種の高姫 | 01 追劇 | 第一章追劇〔一七九〇〕 神の恵の豊かなる言霊開く天恩郷 其頂上に聳え立つ銀杏の大木は天を摩し 黄金の扇子をかざしつつこれの聖場は万寿苑 五六七の御代の果迄も変る事なき瑞祥閣 四方は錦の山屏風引立てまはし綾の機 経と緯とに織なして我日の本は云ふも更 大地のあらむ果までも神光照らす光照殿 いよいよ茲に落成を告げし菊月上八日 南桑田の平原を一目に瞰下す要害地 天正二年の其昔織田の右府に仕へたる 土岐の一族光秀が偉業の跡を偲びつつ 祥明館の奥の間で千年を因む松村氏 三五の光の瑞月が暗き此世を照さむと 神の御言を蒙りて何時もの通り横に臥し 褥の船に身を任せ畳の波に浮びつつ 太平洋を横断し印度の海を乗越えて 往古文明と聞えたる七千余国の月の国 タラハン城に仕へたる左守の司の隠れ処に スガの港のダリヤ姫言葉巧にそそのかし をびき出したる天真坊悪鬼羅刹に憑依され タニグク谷の山奥に其醜態をさらしたる 滑稽悲惨の物語千山万水(山河草木)子(戌)の巻の 初頭にこまごま記しゆくあゝ惟神々々 御霊幸ひましませよ。 稀代の売僧坊主奸侫邪智の曲者乍ら、どこともなく間のぬけた面構、頭は仔細らしく丸めてゐるが、元来毛のうすい性で、別にかみそりの御節介に預らなくとも済む筈のピカピカ光つた調法な頭の持主、鼻の先が妙に尖り、目は少し許り釣上り、前歯が二本厚い唇からニユツとはみ出し、何程オチヨボ口をしようとしても、此二枚の前歯丈は雰囲気外に突出して、治外法権の状態である。川瀬の乱杭宜しくといふ歯並に、茹損ひの田螺の如うな歯くそだらけの歯をむき出し、ダリヤ姫の捜索に両眼を血走らせ、谷間の坂道を息使ひ荒く、泡を吹き飛ばし乍ら、数多の小盗児連を四方八方に間配り、自分はダリヤ姫が逃げたらしいと思はるる山路を選んで、泥棒の中でもチツと許り気の利いたらしいコブライを引き具し、猪の通つた跡を洋犬が嗅ぎつけるやうな調子で、此山中に名高い立岩の麓迄やつて来た。時々毒虫に驚かされ、猛獣に肝をひしがれつつ、夕陽のおつる頃、足が棒になつたと呟き乍ら、根気尽きて路傍の草の上に、座骨の突出した貧弱な尻をドスンと卸した。 天真坊『オイ、コブライ、どうだ、一寸一服やらうぢやないか、交通機関にチツト許り油をささなくちや運転不能となりさうだ。どうも此急坂を夜昼なしに踏破したものだから、膝坊主がチツと許り抗議を申出でて、止むを得ず休養を命ずる事にしたのだ。エヽ汝は此間にそこら中を、一寸、偵察して来てくれないか、あのダリヤだつて、何程足が速いと云つても女だ、余り遠くは行くまいからのう』 コブライ『成程、そりやさうかも知れませぬな、併し乍ら吾々はもう暮六つ下つてをりますから、目の角膜院が就寝の喇叭を吹きかけました。夜分迄日当は貰つて居りませぬから、コブライも化身さまと一所に休養さして貰ひませうかい、何と云つてもタカが人間です、天帝の化身ともあらう聖者が、根気尽きて行倒れを遊ばすといふ此場合、どうしてコンパスが働きませう。そんな事いはずに休む時にや気良う休まして下はいな、こん丈広い山野を一人の女を何時迄捜したつて、さう易々と見付かるものぢやありませぬワ。斯うして一服して居ると、ダリヤさまが後からバルギーと一緒に意茶つきもつて通るかも知れませぬ。さうすりや、居乍らにして、目的の瑞宝を手に入れるも同然ですからなア』 天『エー、泥棒の癖に弱音をふく奴だな。エ、併し乍ら人間万事塞翁の牛の尻といふから、何が都合になるとも分らない。今日は特別の恩典を以て黙許しておかうかい、ウツフヽヽヽ』 コブ『天真坊さま、笑ひごつちやありませぬよ。僕は、私は真剣に弱つてるのですからな。エ、併し人間万事塞翁の牛の尻と仰有いましたね、塞翁の馬の糞とは違ひますか』 天『馬でも牛でも可いぢやないか、俺が牛の尻といふたのは、物識といふ意味だ』 コ『成程、天帝の化身さま丈あつて、何でも能く物を知つて御座るといふ謎ですな』 天『きまつた事だ、三千世界の事なら、宇宙開闢の初めから、小は微塵に至る迄、漏れなく落なく、鏡にかけたる如く知りぬいてゐる名僧知識だ、オツホン』 コ『エツヘヽヽ、それ程何もかも能く分る牛のケツ先生が、あれ程大きいダリヤ姫の行方を捜すのに、シヤカンナ頭目の部下二百人迄借用して、捜索せにやならぬとはチツと矛盾ぢやありませぬか』 天『馬鹿をいふな、恋は異なもの乙なもの、オツとどつこい、恋は曲者といふぢやないか、久米の仙人でさへも、女の白い脛をみて空中から墜落したといふ話がある。何程天帝の化身でも、女に迷ふた以上は咫尺暗澹、全く常暗となるのは当然の理だ』 コ『ヘーン、さうですかいな、妙ですな、怪体な事をいひますな、不可思議千万、奇妙頂礼、古今独歩、珍々無類、石が流れて木の葉が沈んで、天が地となり、地が天となりさうな塩梅式だ。女といふ奴ア、之を聞くと実に恐ろしい代物だワイ。さうすると天真坊さま、お前さまを盲にする丈の器量を持つてゐるダリヤ姫は、余つ程偉い者ですなア。婦人は孱弱き男子なりといふ熟語は聞いてをりますが、婦人は最強き男子なりと云ひたくなるぢやありませぬか』 天『そこらにゴロゴロしてゐる、コンマ以下の女と違ひ、何といつても天の河原に玉の舟を浮べ、天降り遊ばした棚機姫の化身だもの、そりや当然だよ』 コ『成程、それぢや一つ七夕さまをお祈りしてダリヤ姫の在処を判然と知らして頂かうぢやありませぬか。お前さまも天帝の化身で、七夕姫と夫婦ぢやと仰有つた事を覚えてゐますが、なんぼ何でも天帝の化身様が女帝の行方が分らないとは、チツと理窟に合はないやうに思ひますがな』 天『きまつた事だい、七夕姫と彦星の俺とは昔から年に一度より会はれない規則だから、分らぬのも無理はない。それを毎日日日会ふて楽まふといふのだから、チツとはこちにも無理があると云ふものだ。併し乍ら一旦思ひ込んだ事はやり通さなくちや、男子の意地が立たない、否天真坊の威厳に関する問題だ』 コ『成程、いかにも、御尤も千万、エ、万々一、ダリヤ姫が肱鉄をかました時は貴方如何するお考へですか』 天『ヘン、馬鹿いふな、そんな事があつて堪らうかい、ダリヤはぞつこん俺にラブしてゐるよ』 コ『ウツフヽヽ、それ程ラブしてゐる者が、なぜお前さまの寝てゐる間を考へ、顔に落書までして遁亡したのですか』 天『そりやお前の解釈が違ふ。ダリヤも余り長い山道を歩いて来たものだから大変にくたぶれてゐよつた。そこへメツタ矢鱈に酒を呑ましたものだから、グツタリと寝込んで了ひ、目がくらんで人間違をしよつたのだ。バルギーの奴、酢でも菎蒻でもゆかぬ悪党だから、ダリヤや俺達の寝た間に、そつと面に落書を致し、一見俺の面とみえないやうにしておき、其間にダリヤをゆすり起し、俺の声色を使ひ、甘く夜陰に紛れ、をびき出しよつたものと察する。ダリヤは今朝あたり、ハツキリ人の面がみえるやうになつてから、バルギーのしやつ面を眺めて、さぞ案に相違しびつくり仰天した事だらうよ。ダリヤに限つて、俺を見すてるやうな心は、微塵毛頭も持つてゐやう筈がない、屹度バルギーが俺に化けて、寝とぼけ眼を幸、ゴマかしよつたのだ。何と云つても、世界の女は、一度俺の面を拝んだが最後、決して忘れるものぢやない。況や甘つたるい言を一口でもかけて貰つた女は、何程蜂を払ふやうにしたつて、俺にや能う放れないのだ、エヘヽヽヽ』 と口角よりツーツーとさがる糸のやうな、ねんばりしたものを、手の甲で手繰つてゐる。 コ『イツヒヽヽヽ、此奴ア面白い、奇妙奇天烈、珍々無類だ』 日は西山に沈んで天から暗が砕けた如うにおちて来た。闇がりはゴムをふくらしたやうに四方八方へ拡がつてゆく。時鳥の声は彼方此方より競争的に聞えて来る。二人は止むを得ず、立岩の凹みに体をもたせかけ早くも鼾の幕がおりた。 シヤカンナの部下と仕へてゐた四五人の小盗児連は、之もヤツパリ、ダリヤ姫の捜索を頼まれて、彼方此方の密林をかきわけ、蜘蛛の巣だらけになつてやつて来たが、背丈にのびた道傍の草や、深い木かげに星一つ見えず、進退谷まつて、一同茲に枕を並べようと横になつた。何だか暗がりで分らないがグヅグヅグヅと雑炊でもたいてゐる如うな声がする。 甲『オイ何だか妙な音がするぢやないか。ここは立岩といつて、昔から化州の出る所だ、チツと用心せななるまいよ』 乙『成程、此奴ア厭らしい。併し時鳥があれ丈ないてゐるから、マア一寸其方へ耳を傾けてグツグツを聞かないやうにすりや可いぢやないか、俺やモウ、そこらが寒くなつて、体が細かく活動し出した。寝ても立つても居られない様だ、エーエーモツと時鳥が啼いてくれると可いのだけれどなア』 甲『ヒヨツとしたら、天真坊さまが此辺に鼾をかいて寝てゐるのぢやあるまいかな。さうでなけりや、時鳥の爺イが歯がぬけて、あんな啼様をしてゐやがるのだらう』 乙『エー、かふいふ時にや歌を唄ふに限る。一つ肝をほり出して、土手切り唄つてみようぢやないか』 甲『よからう、それが一番だ、オイ皆の奴、汝も唄はないかい』 丙『こんな所で歌でも唄ふてみよ、立岩の前に人間ありと化物が悟り、四方八方から一つ目小僧や三つ目小僧が押よせ来らば、汝どうする積だ。黙つて寝ろよ、のう丁、戊、さうぢやないか』 丁と戊とはウンともスンとも言はず、小さくなつて慄うてゐる。乙は憐れつぽいふるい声を出し乍ら、カラ元気をおつぽり出し唄ひ出した。 『夕日はおちて御空から暗はくだけておつるとも 虎狼や獅子熊や如何なる悪魔が襲ふ共 いかでか恐れむ泥棒の大頭目のシヤカンナが 乾児と現れし哥兄さまだ幽霊なりと何なりと 居るなら出て来い天真坊天帝の化身の命令で 御用に出て来た俺だぞよ何程偉い悪魔でも 此世をお造り遊ばした天帝さまには叶ふまい 一の乾児の俺達は取も直さず八百万 神の中なる一柱もしも曲津が居るならば 十里四方へ飛のけよマゴマゴ致してゐよつたら 手足をもぎ取り骨くだき肉をだんごにつき丸め 禿わし共に喰はすぞや天下無双の豪傑が 五人の中に一人をる恐れよおそれ曲津共 あゝ惟神々々神の真の太柱 天真坊の御家来に楯つく悪魔は世にあらじ さがれよさがれトツトとさがれ暗よ去れ去れ、一時も早く 月は出て来い星も出よ此世は神のゐます国 悪魔の住むべき場所でないあゝ惟神々々 御霊幸ひましませよ』 と蚊のなくやうな声で囀つてゐる。甲はドラ声を張上げ乍ら、焼糞になり唄ひ出した。 『どつこいしようどつこいしよう天帝さまの御化身は 今や何処にましますかここは名に負ふ立岩の 山中一の化物場化物退治にやつて来た 俺は英雄スカンナだ俺の云ふ事スカンなら 早く何処なと逃げなされ天真坊の生神が やがて此処をば通るだろそしたら悪魔の一族は 旭に露の消ゆる如浅ましザマをさらすだろ 何だか知らぬが此場所は自然に体が慄ひ出し 小気味の悪い暗の路あゝ惟神々々 御霊幸ひましまして天帝様の御化身が 一時も早く御光来遊ばす様に願ひます あゝ惟神々々叶はぬ時の神頼み』 天真坊は此声にふつと目をさまし、 『ハハア小泥棒の奴、ここ迄やつて来てヘコ垂れよつたとみえるワイ。何奴も此奴も仕方のない奴だな、併し乍らダリヤを甘く掴へてくれよつたかな』 と息をこらして考へてゐる。コブライも亦目をさまし、天真坊が身を起して何事か考へてゐる様子なので、暗を幸ひ、自分は三間許り立岩のうしろへ廻り、優しい女の声色を使ひ、 『天真坊さま、待兼ねました。バルギーの悪人にたばかられ、貴方と間違ひ、夜の路、来てみれば、案に相違の蛙面、こら如何せうかと思案の余り、バルギーの睾丸をしめつけ、途中に倒し、此立岩のうしろに隠れて一夜を明さむと待つて居りました。恋しい師の君様、どうぞ此処までお出で遊ばし、妾の手を引張つて下さいな。ジヤツケツいばらに体を取りまかれ、身動きが出来ませぬワ』 天真坊は此声を聞いて小躍りし乍ら、稍少時考へ込んでゐる。スカンナ外四人も亦息をこらして様子を考へてゐたが、此連中はテツキリ化物と早合点し、面をグツスリとタオルで包んで了ひ、俯いて慄ふてゐる。 コブライ『モシ天真坊さま、ダリヤで御座います、どうぞ早く来て下さいな。エー好かぬたらしい、お前さまはコブライさまぢやないか、貴方に用はありませぬよ、お前さまに助けてくれとはいひませぬ、天真坊さまに助けて欲しいのだもの』 コブライは今度は自分の地声を出し、 『コレ、ダリヤ姫様、私は決してお前さまに野心を有つては居りませぬ。天帝の化身さまは、勿体ない、自ら、かやうな茨室へお越しになる訳に行きませぬから、私がチツとは茨掻をしても構はぬ、犠牲となつてお救ひに来たのだ。エーエーさうすつ込んでは、余計に茨が引かかるぢやありませぬか……、(女声で)イエイエ何と仰有つても私は天真坊さまに来てほしいのですワ、チツと許り、怪我をなさつたつて何ですか。真に妾を愛して下さるなら、仮令火の中水の底、茨室、どこだつてかまはないと、仰有つた事があるのですもの、今こそ誠意のためし時、此茨室へ暗がりに飛込んで救ふてくれないやうな誠意のない天真坊様なら、妾の方からキツパリとお断り申しますわ。ねえ天真坊さま、キツと妾を愛して下さるでせう。アイタヽヽ、面も手も足も茨がきだらけよ、早く助けて欲しいものだワ、ねえ……。(今度はコブライの地声で)さてさて合点の悪い姫さまだ。では僕は貴方のお世話は能う致しませぬ。モシモシ天真坊さま、お手づから親切を尽して上げて下さいな』 天『いかにもダリヤ姫の声には似てゐるが、どこともなしに怪しい点がある。コリヤ化物ではあるまいかのう』 コ(女声で)『エーエー辛気臭い、天真坊さまとした事が、妾は遠い山坂をかけ巡りお腹がすき、声はかれ、疲れはててをりますから、本当のダリヤの声は出ませぬよ。どうか御推量して下さいませ、決して化物ぢや御座いませぬから』 天真坊は声のする方に向つて、二足三足進む折しも岩をふみ外し、三間許りの草茫々と生え茂る真黒の穴へ、キヤツと云つたぎり落ち込んで了つた。スカンナ外四人はいよいよ化物と早合点し、四這となつて坂路をのたりのたりと命からがらころげゆく。コブライも天真坊の声に驚いて声する方を目当に歩み出す途端、又もや踏み外し、天真坊の落ち込んだ穴へと一蓮托生、辷りこんだ途端に柔らかいぬくい物が体にさはつたので、ギヨツとし乍ら、 『イヤア助けてくれ助けてくれ』 と大声に叫ぶ。天真坊は落ちた途端に気絶してゐたので、コブライの落ち込んだのは少しも知らなかつた。少時あつて天真坊は息ふき返した。 天真坊『誰だ誰だ、俺をこんな所へつきはめやがつて』 コブライ『モシ天真坊さま、しつかりして下さい。暗の陥穽へ、貴方も私も落ち込んだのですよ、モウ斯うなりや夜の明ける迄、ここに逗留するより途がありませぬワ』 天『いかにも、さう聞けば確にそんな感じもする、併しあの時、確にダリヤ姫の声がしてゐたやうだが、惜い事をしたでないか』 コ『本当に惜い事をしましたね、確にダリヤさまに間違ありませなんだ。大変にあの方は貞操の固い方ですなア、私が助けようとしても、指一本さえさせないんですもの』 天『エヘヽヽ、そらさうだらうよ、併しダリヤは心配してゐるだらうよ。先づ先づ夜が明ける迄仕方がないな、あれ位親切な女だから、夜が明ける迄、俺達の安否を考へ乍ら、立岩のはたに待つてるに違ひないワ、あゝ惟神霊幸ひませ』 (大正一四・一一・七旧九・二一於祥明館松村真澄録) |
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霊界物語 | 73_子_太元顕津男の神の物語1 | 13 神の述懐歌(一) | 第一三章神の述懐歌(一)〔一八四四〕 太元顕津男の神は太陰を機関として、御霊を月界に止めて其肉体は高地秀の宮に朝な夕なに仕へまし、神の経綸を行はむとして、彼方此方に教司を分配りて天界の経綸に仕へ奉れども、厳の御霊の御教を誤信せる凡神は個神的小乗教に傾く神のみ多くして、国生み神生みなる天界経綸の御神業を悟らず、種々のあらぬことのみ言ひ触らして力限りに妨ぐるぞ是非もなき。太元顕津男の神は高地秀の峰に登らせ給ひ、天を拝し地を拝し述懐を謡ひ給ふ。 『主の神の依さしはおろそかならねども 手を下すべき余地もなきかな 国を生み神生み万のものを生む 我神業は果し得ざるか 主の神の神宣畏し国魂の 神生まばやと思ふ朝夕 我にして怪しき心持たねども 百神達はわが道なみする ゆとりなき心を持てる凡神の 醜のささやき由々しかりけり 凡神の心に従ふ我なれば 妨げらるることもあるまじ 凡神の心に叶へば主の神の 神慮に合はず我如何にせむ 主の神の大経綸を知らずして 我を悪しさまに言ふぞうたてき 主の神の心は深く又広し 小さき神の如何で悟らむ 凡神は浜の真砂の数の如 多く居坐せば詮術もなし 主の神の御心覚る敏き神 少き神世の経綸は苦し 遠近に御樋代神は配りあれど 相見むよしも無き身なりけり いすくはし神を生まむと朝な夕な 願ひしこともあだとなりぬる 主の神の造り給ひし天界の 清明真悟の神ぞすくなき 主の神の依さしを如何に果さむと 我は久しく艱みけるかな 皇神の依さし給ひしくはし女も 又さかし女もあはむすべなし 御依さしに反くと思へど天界の 乱れ思ひてためらふ我なり』 主の神が顕津男の神に天界経綸の為め授け給ひし八十の比女神は、徒らに神命を待ちつつ長き年月を経給ひにける。とりわけ側近く仕へ奉れる八柱の比女神も、凡神の囁き余り強きに怖ぢ給ひて空しく神業を放棄し、只時の到るを待ち給ふのみ。終には老い去り給ひて神業を果し得ず、世は益々曇らひ荒びて、さしもの天界も日に月に邪神蔓延し、収拾すべからざるに至れるこそ是非なけれ。 顕津男の神は大勇猛心を発揮し、其神業を敢行せむと、村肝の心の駒を立直し給ひしこと幾度なりしか、されど終には百神の雄猛びに妨げられて、遂行し給はざりしこそ永劫の遺憾なりける。八柱の御側近く仕へ奉る比女神は、顕津男の神に対し述懐を述べ給ふ。其の御歌、 『主の神の御霊を受けし寿々子比女の 心しらずやあが主の岐美は 結ぼれし心を解かむ術もなし 神業に仕ふる暇にしなければ 天界の穢れを水に寿々子比女 深き流れに落ち入りにける 天界はさやけく広し曇りたる 心いだきて縮まるべきやは 玉の緒の生命の限り仕へむと 思ふ誠を岐美は汲まずや 吾心淋しくなりぬ朝夕を 御側に仕へて詮術なければ 朝夕を岐美に仕ふる身ながらも 夢うつつなる御霊の吾なり 夢かあらず顕かあらず幻か まぼろしならぬ岐美が神姿 高地秀の宮に朝夕祈りつつ まだ吾時は到らざりけり 大神の依さし給ひし此月日 あだに過さむ身こそうたてき 主の神の大御心を汲み奉り 岐美の御旨を悟りては泣く 泣くさへも自由にならぬ吾身なり 神にある身は殊更つらし』 顕津男の神は、之に答へて謡ひ給はく、 『比女神の心汲まぬにあらねども 時到るまで忍びて待ちませ 吾とても木石ならぬ身にしあれば 汝の悲しき心は知れり』 寿々子比女の神は謡ひ給ふ。 『斯くならば束の間さへも忍び得じ 岐美が心の弱きをかなしむ 天地に憚る事のあるべきや 主の大神の依さしなりせば』 顕津男の神『兎も角も暫しの間待たれたし 我にも春の備へありせば』 斯く互に歌を取交し時の到るを待ち給ひぬ。朝香比女の神も亦御歌詠まし給はく、 『岐美思ふ心は暗にあらねども 思ひにもゆる朝香比女吾は あさからぬ朝香の比女の胸の火を 消し止め給へ瑞の大神 朝夕を岐美に侍らふ朝香比女の 深き心を汲ませ給はれ 心弱き岐美と思ひて朝香比女 朝な夕なのいきどうろしもよ 曇りたる神の心を迎へます 岐美の心の弱きをかなしむ 燃えさかる炎を消さむ術もなし 幾度死なまく思ひたりしよ 顕津男の神にいませば明けく 此世に晴れて見合ひましませ 一度のみとのまぐはひあらずして 忍ばるべしやは若き女の身に 厳の御霊神の教は重けれど あまりの堅きをうらみつつ生く 主の神の許し玉ひし道なれば 如何でためらふことのあるべき』 顕津男の神は、之に答へて御歌詠ませる。 『あさからぬ真心清き朝香比女 汝の艱みは吾も知るなり 心弱き我にあらねど今暫し 真の神の出づるまで待て 我とても依さしの神業遂げざるを 朝な夕なに悲しみて居り』 朝香比女の神は再び謡ひ給ふ。 『朝夕をこめて恨みし吾心 朝香の比女のあさましきかな 燃ゆる火の火中に立ちし心地して 朝な夕なを岐美思ひ泣く 村肝の心の誠を岐美の前に 打明けしこそせめてもと慰む』 宇都子比女の神は、顕津男の神の前に御歌詠まし給ふ。 『村肝の心は炎に包まれて つれなき岐美を恨むのみなる よしやよし百神如何にはかゆとも 神の神業をばはかるべしやは 岐美こそは比古遅にませば神の為め 経綸のために憚り給ふな 朝夕に御側を近く仕へつつ 岐美にまみゆることの苦しき 宇都比女が貴の心を明さむと 岐美の御前に言挙げするも 岐美思ふ心の糸は百千々に 乱れ乱れて解くよしもなし 御側近く仕へ奉らふ身ながらも 言問ふさへも儘ならぬ身よ 蟹が行く横さの神の言の葉を 拾ひ給はず吹き捨てませよ 言霊の伊吹きの狭霧に醜草の 醜の言の葉吹き払ひませ 御側に侍るはつらし御側を 離るるも憂き吾なりにけり 神業の何時果つるとも知らずして 月日を送る吾身をぞ悲しき 此上は心の駒を立て直し 吾にゆるせよ一夜の契りを』 顕津男の神、答へて謡ひ給はく、 『手枕の夢は夜な夜な見ながらも 逢ひ見ることのあたはぬ苦しさ 主の神に言訳け立たず側の女に 男の甲斐もなきわが身は苦しき 今暫し神々の心明くるまで 時を待たせよいとほしの汝』 宇都子比女の神は再び謡ひ給ふ。 『はしたなき女の繰り言繰り返し 岐美なやませしことの悲しき 恥かしさ苦しさ面はほてれども 得堪へ兼ねつつ真心のべしよ 此上は岐美をなやます力なし 神に任せて時を待たむか 惟神神の依さしのなかりせば かほどに吾は悩まじものを』 梅咲比女の神も亦述懐の歌を述べ給ふ。 『如月の梅咲く春に逢ひながら かをるすべなき現身の花 大方の春の陽気の漂へる 此天界を淋しむ吾なり 春立ちて梅咲く比女のあだ花を 岐美はあはれと思召さずや 天地も一度に梅咲く比女のわれ 小さきことを如何で思はむ 背の君の苦しき心を諾ひて 吾はもださむ春の身なれど 開くべきよしなき花と知りながら 岐美の恋しくなりまさりつつ 春立ちて梅咲く比女の初花は 開かむとして霜に打たれつ 雪も降れ霜も霰も降りて来よ 春をかかへし梅咲比女よ 惟神時の到るを待たむかと 幾度か心を立直しつつ 曇りたる此の世の中を照します 岐美の神業の苦しさに泣く』 顕津男の神謡ひ給ふ。 『真心の君の真言にあひてわれ 安くなりつつなほもかなしき 百神の醜のたけびは恐れねど 乱れ行く世を思ひてためらふ 今の世に厳の御霊の道なくば わが神業はやすしと思へり さりながら厳の御霊の光なくば 瑞の力は備はらざるべし 汝こそは我の心をよく知れり 我また汝が心をあはれむ ぬゑ草の女にしあれども汝が心の 雄々しさ赤さに感謝の念湧く 今暫し待たせ給へよ汝が心に 添はむ月日も無きにあらねば 朝夕に神業を思ふわが胸を 覚らす公の心嬉しも』 梅咲比女の神は又謡ひ給ふ。 『愛恋やの岐美の言霊耳にして 梅咲く春に逢ふ心地せし 惟神岐美の心に任せつつ 忍び奉らむ幾年までも 村肝の心のたけを岐美の前に 今あかしたることの嬉しき 天界はよし破るとも愛恋やの 岐美の真言は忘れざるべき 主の神の造り玉ひし天界にも 朝夕かかる悩みを持つも 真清水に昆虫のわく例あり 天界なりとてかはりあるべき』 花子比女の神の歌。 『天界に非時匂ふ花子比女の 花は香もなく艶だにもなし 天界の花と咲くべき吾身なり 岐美は何故手折りまさずや 花も実も無き岐美かもと朝夕に 涙の雨に潤ふ吾なり よしやよし百神如何に譏るとも 躇ふことなく手折り給はれ 天国の春に逢ひたる花子比女の 心に時じく降る時雨かな 玉の緒の命までもと思ひつつ 吾は野に咲く紫雲英の花かも 神業はただに畏しためらひて ただ徒らに過すべきやは 朝夕につれ無き岐美に侍りつつ 神業の日を待つ身はうたてき 玉の緒の命死せむと思ふまで 胸の炎は燃え盛りつつ 炎々と御空をこがす火炎にも 似て苦しもよあつき心は 厳の御霊の神の教は聞きながら 瑞の御霊をあはれと思へり 大局に目をつけずして百神は 小さきことに言さやぐかも 神界の大経綸を妨ぐる 醜の曲神打払ひませよ』 顕津男の神、答へて謡ひ給ふ。 『愛善の神の教を説く身には 如何ではふらむ醜の曲霊を わが力及ばむ限り説き諭し 愛と善とに照さむとぞ思ふ 愛善の心しなくば我とても 経綸の神業ためらひはせじ 瑞々し瑞の御霊の神業は 一神も捨てぬ誓ひなりけり 花も実もある言の葉にほだされて 悲しくなりぬ汝が真言に』 花子比女の神は又謡ひ給ふ。 『花も実もある身魂ぞと宣らすこそ 命にかへて嬉しかりけり よしやよし岐美に逢ふ日のあらぬとも 吾はうらまじ歎かじと思ふ 曲神の中に交こり雄々しくも 忍ばす岐美の心をいとしむ 女の子吾岐美の真心知る故に 只一度の言挙げせざりき 神業を誰はばからず勤むべき 時を待ちつつ楽しみ暮さむ』 (昭和八・一〇・一一旧八・二二於水明閣森良仁謹録) |
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霊界物語 | 73_子_太元顕津男の神の物語1 | 36 荒野の駿馬 | 第三六章荒野の駿馬〔一八六七〕 高地秀山の大宮と高日の宮にましまして 数多の神にかしづかれ輝き給ひし神司 主の大神の神言もて貴の神業仕へむと 百の悩みをなめ給ひ美玉の姫の命をば 後に残していそいそと命に名残惜しみつつ 五柱の神従へてさしもに広き日向河 激流渡り漸くに東雲国に着きにけり 玉泉郷に身をよせて日向の姫の命をば 厳のみいきに生ませつつ今日は淋しき独旅 神馬に跨りカツカツと蹄の音も勇ましく 南をさして出で給ふ如衣の比女には先だたれ 世司比女には生き別れいとしき御子をあづけおき 主の大神のみよさしの神業に仕へまつらむと 昼と夜とのけぢめなく嵐に面を吹かれつつ 出でます姿ぞ勇ましき右も左も荒野原 目路の限りは萱草の風にさゆるるばかりなり 瑞の御霊は馬上よりこの光景をみそなはし かくまで荒れし国原を開きて神を生まむこと 安き神業にあらざるをつくづくなげき給ひつつ 千里の野路を渡り終へ此処に横ふ広河の 堤に駒を降りまししばらく息を休めけり ああ惟神々々遠き神代の天界の 国生み神生みの神業は現代人の想像の 迚も及ばぬ難事なり。 先に渡り給ひし日向河に比ぶれば、約二十分の一の流ながら、相当に広く、水瀬深く、やや薄濁りて西方に流れゐたり。顕津男の神は堤上に立たせ給ひて、 『国造り神を生まむとわれは今 此の横河に行き当りける 河守比女神の出でましあるならば これの水瀬をとどめ給ふを 村肝の心淋しも黄昏れて この河土手にわが独り立つ 如何にしてこれの流を渡らむや 駒はあれども水瀬はげしき 雷の轟く如き滝津瀬の 音にわが駒驚き騒ぐも 黄昏の河の岸辺に佇めば 河風そよぐ篠の笹原 さらさらと小笹揺りて吹きまくる 風は強しも物騒がしも 河の辺にわれ黄昏れて是非もなし 東雲の空待ちわびむかな ひた濁るこれの流は物凄し 醜の大蛇の潜むがに見ゆ 主の神の教を守る神生みの わがゆく旅は苦しかりけり 世司の比女神今や高殿に 上りてわが名呼びたつるらむ 大物主神の心をおしはかり 今や淋しくなりにけらしな 折々に水瀬の音の変るこそ あやしきろかもこれの流は』 かく御歌詠ます折しもあれ、近見男の神は数多の神々を従へ、白馬に跨がり此処に現れ来り、瑞の御霊をうやうやしく迎へながら、御歌詠まし給ふ。 『天晴々々瑞の御霊は出でましぬと われさとらひてい迎へまつるも 小夜更けの河辺に独ゐますこそ 畏れ多しもこの駒に召せ 瑞御霊乗らせる駒は疲れ居り この早河を渡るにふさはじ』 この御歌に、顕津男の神は勇みたち、直に御歌もて応へ給ふ。 『小夜更けの此の河辺になづみてし われ迎へむと来りし公はや 横河の流れはひたに濁らひて 大蛇の神の潜むがに思ふ 只独り荒風そよぐ河の辺に 心淋しく夜を更かしぬる』 近見男の神はうたひ給ふ。 『玉泉貴の館を立ち出でで 吾は荒ぶる神を和めつ 今此処に従ひ来る神達は 何れも荒ぶる神なりしなり 言霊の厳の力にまつろひて 神業に仕ふる神とならせる われも亦ただ一柱白駒の 背に跨りて此処に来りし この河は未だ渡らず大蛇棲むと 思へば今日までためらひにける 海原をさぐり求めて水走る 雄々しき駒を引きて来りぬ いや先に嘶く駒に岐美召せよ 主の御水火より生れし駒なる』 顕津男の神は応へて謡ひ給ふ。 『主の神の御水火に生れし駒なれば 凡駒ならず神にいまさむ 主の神の御霊の水火の凝り凝りて 駒となりけむわれ渡すべく 横河の流は如何に高くとも これの神馬は安く渡らむ』 近見男の神は、 『いざさらば瑞の御霊よ百神よ われに続かひ渡らせ給へよ』 と、謡ひもあへず、ザンブとばかり激流めがけて駒を追ひやり給へば、顕津男の神も百神も、われ後れじと手綱ひきしめ鞭をあて、大竜の激流を渡るがごとく、驀地に南の岸にのぼらせ給へり。 顕津男の神は渡り来りし流を振り返りながら、 『近見男の神の神言と主の神の 守りに安く渡りけるかも この駒や主の大神の言霊の 凝りしと思へば尊かりけり 言霊の力に物は成り出づと 深く悟りぬ今の河越に 百神は一柱もおちず速河を 渡り給へり勇ましきかも』 近見男の神は答へて謡ひ給ふ。 『瑞御霊神の神言の言挙げに われ恥かしくなりにけらしな 主の神の神言かしこみ駿馬を 岐美の御為に招き来しのみ 今日よりはわれも御側に侍りつつ 貴の神業あななひまつらむ』 顕津男の神はうたひ給ふ。 『大野原独淋しく来しものを 今賑しく汝に会ひぬる 今よりは十一柱神伴ひて 南の国原拓かむとぞ思ふ 行く先に如何なる山河横ふも この駒なれば安く渡らむ』 ここに、十一柱の神の中より勝れて御背の高き神、御側近く駒を進め、左手を天にさしかざし右手を馬の背に向けながら、御前に御歌うたひ給ふ。 『われこそはアの言霊になり出でし 圓屋比古の神御供に仕へむ この国を造らむとして朝夕に 悩みけるかも魔神のために 近見男の神の出でましありしより わが神業はひらけ初めたり 瑞御霊神のみあとに仕へむと われは幾年幾日待ちしよ 願はくば御供に使ひ給へかし 真心清く光る神はや』 顕津男の神は御歌うたひ給ふ。 『かねて聞く圓屋比古の神は公なるか 雄々し勇ましうづの御姿 国造り神生む業を助けむと 汝圓屋比古現れましにけむ 主の神の御心なりと喜びて われは許さむ旅の御供を』 圓屋比古の神は、儼然として謡ひ給ふ。 『有難し岐美の言霊聞くにつけ わが魂はをどり出でつつ 赤き清き正しき心を楯として 仕へまつらむ岐美の御側に』 いや先には近見男の神、草をふみしだきつつ進ませ給ひ、次に太元顕津男の神、次に、圓屋比古の神は九柱の神々を従へ、駒の轡を並べて、未だ神跡なき大曠原を、言霊歌を宣りながら進み給ふ。近見男の神は馬上ゆたかに、 『果てしも知らぬ薄原 この曠原の真中を 瑞の御霊と諸共に 国魂神を生まむとて 進み行くこそ勇ましき 圓屋比古神百神よ 瑞の御霊をよく守り 心を注ぎて出でませよ 嵐は如何に強くとも 醜草如何に繁るとも 大蛇は処々に潜むとも 如何で恐れむ主の神の 厳の言霊幸ひて 道の隈手も恙なく 千里万里もすくすくと 安く進ませ給ふべし 行く手に如何なる難関の あるか知らねど言霊の 水火を照して取りのぞき 神の依さしの神業を 𪫧怜に委曲に為し遂げて 天津御祖の御前に 復命言葉白すまで 撓まず屈せず進むべし 天津祝詞の太祝詞 天に響きて月となり 星ともなりてきらきらと わがゆく先を照すべし われらは神なり言霊の 稜威によりて生りしもの 如何でか曲をおそれむや ああ惟神々々 厳の言霊尊けれ』 圓屋比古の神は謡ひ給ふ。その歌、 『主の大神の神霊より 生れ出でませしアの声の 水火固まりてなり出でし 圓屋比古神ここにあり 瑞の御霊の神生みの 神業を助けまつらむと 大峡小峡に身を潜め 生言霊を宣りゐたる 折しもあれや醜神は 山の尾上や河の瀬に さやりて百の災を 起しゐるよと聞くよりも 如何に言向け和さむと 心を砕く折もあれ 高日の宮より降ります 近見男の神現れまして 互に真言を語りつつ 心を合せ神力を 一つになして国生みの 神業に仕へまつらむと 案じわづらふ折もあれ 瑞の御霊の出でましを 風の便りに聞きしより 近見男の神諸共に 九つ神を引連れて 御供に仕へまつらむと 喜び勇み来りけり いづくの荒野にさまよふも 瑞の御霊のます限り 何れの神も恐れじと はかりはからひ神業の 御供に仕へまつりけり ああ惟神々々 厳の御霊の幸ひて 吾等十柱神達を いや永久に変りなく 神業に使ひ給へかし 偏に願ひ奉る 偏に願ひ奉る』 ここに、瑞の御霊顕津男の神一行十二柱は、白馬の轡を並べ、南へ南へと進ませ給ふ。 (昭和八・一〇・一八旧八・二九於水明閣林弥生謹録) |
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霊界物語 | 74_丑_太元顕津男の神の物語2 | 08 黒雲晴明 | 第八章黒雲晴明〔一八七六〕 ここに真鶴山を深く包みし生代比女の神の、恨みの炎は黒煙となりて、一行の神々を悩めたりしが、瑞の御霊の厚き情の言葉に、稍心安んじたるか、さしもに深き黒雲は、拭ふが如く晴れ渡り、梅ケ香四方に薫じ、紫微天界の真相を表はしければ、遠見男の神も喜びの余り、御歌うたひ給ふ。 『いたましき生代の比女神の心かな 燃ゆる胸の火黒雲となりしか 恐しきものは恋かも言葉かも 闇は忽ち晴れ渡りける 天の世に恋の黒雲ふさぐとは われは夢にも思はざりしよ 愛善の天界なれば恋ふるてふ 心のおこるも是非なかるべし 愛されて愛し返すは天界の 道に叶へるものとし思ふ 瑞御霊神のやさしき言霊に 晴れ渡りける恋の黒雲 愛すてふ心はめぐしわれもまた 愛し愛され住ままく思ふ』 美波志比古の神はうたひ給ふ。 『二柱神の心をみたすべく われ言霊の神橋かけばや はしかけのわれ神となりこの恋を 𪫧怜に委曲に遂げさせ度きもの さりながら主の大神の御依さしに そむかせまつるは心苦しも ことわりにあはねど恋は恋として 聞くべき心の理ぞある 理の外を流るる恋雲は 神の力も及ばざりけり ウの声の生言霊に生れたる われには恋のかげだにもなし ただ恋ふるわれの心は瑞御霊 神業の光のみなりにける』 国中比古の神は御歌うたひ給ふ。 『玉の湖の汀の森にとこしへに います比女神の心いぢらし 玉野比女神もこの事聞かすならば またもや炎をもやし給はむ 神の代にかかる例はあらせじと 万代のためわれは祈るも 祈りても何の甲斐なき恋衣 破らむ術のなきぞ悲しき 栄えゆく豊葦原の国中に 恋なかりせば神代は栄えじ よき事に曲事いつき曲事に よき事いつく神代なるかも 鬼となり魔神となりて胸の火は 真鶴山を雲に包みし 恐しくまた優しきは恋すてふ 心の炎の燃ゆるなりけり』 産玉の神は御歌うたひ給ふ。 『瑞御霊神の心の苦しさを 思へばわれは悲しかりけり 玉野比女生代比女神の中にたち 心なやます岐美ぞ偲ばゆ ままならば岐美の悩みを救はむと 思へど及ばじ醜面われは』 圓屋比古の神は再び御歌詠ませ給ふ。 『国土造り神を生まさむ神業の 難きをつくづく今日悟りけり 顕津男の悲しき心今ぞ知る 国の柱と立たすが故に 凡神の身にしおはさば大らかに 恋を楽しみ給はむものを 主の神の言葉は重し生代比女 神の心は炎とわき立つ 燃ゆる火の中に立たせる思ひして なやみ給へる瑞御霊あはれ 真鶴の国津柱と立ち給ひ 間もなく雲に包まれ給ひぬ 村肝の心をつつむ恋雲を 生代の比女は晴らしまさずや 如何にしてこの難関を瑞御霊 のがれ給ふと煩ふわれは 生代比女燃ゆる胸の火消す術も なかりけらしな瑞御霊神も』 宇礼志穂の神は御歌詠ませ給ふ。 『如何にして恋の縺毛とかばやと 思ふも瑞の御霊の御為め 生代比女神に叶へば玉野比女の 神の心をなやまし給はむ 上下のへだてを知らぬ恋なれば 心のつよき霊止の勝つらし 真鶴山黒雲ただに晴れぬれど まだ晴れやらぬ岐美の心よ われは今瑞の御霊の御胸を 思ひて涙止めあへずも 恋すてふ道は神代を限りとし 末の世までも残さじと祈る 祈るとも恋は詮術なかるらむ 心の糸の縺れし女神に』 魂機張の神は歌ひ給ふ。 『たまきはる生命をかけし恋衣 破らむ術もあらじと思ふ たまきはる生命惜しまぬ比女神の 恋の炎は鬼となりしか 恋ゆゑに生命捨てむと思ふこそ 心のいろのまことなるらし 瑞御霊雄々しき優しきものごしに 比女神の心いつきたりけむ 理の道をなみしてひた進む 恋の闇には木戸なかりけり ともかくも百神たちよ真鶴の 山の聖所に神言宣らばや』 この御歌に百神等は、心を清め身を浄め、恭しく神言を、天津高宮の方に向つて奏上し、七十五声の言霊を、繰り返し繰り返し、祈り給ふぞ久しけれ。 (昭和八・一〇・二一旧九・三於水明閣白石恵子謹録) |
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霊界物語 | 76_卯_世界の神話/朝香比女の神の物語 | 希臘の天地開闢説 | 希臘の天地開闢説 ギリシヤの天地開闢説は古来種々の伝承があつて、人々によつて区々である。併し大体から言へばユダヤの神話にある如き世界創造説ではなく、支那の神話に見ゆる如き天地開闢説である。即ち此の世界は造られたものでなく、幾万年の世代の変化を経て、次第に現在の状態になつたものである。従つて神々も世界よりさきに存在したのではなくて、神々自身も亦此の世界と言ふ一家族のうちに生れて来たものである。 天地開闢の神話は、それを語り伝へた詩人によつて区々である。ホメロスによれば、口で尾をくはへた蛇のやうに海と陸とを取りまいてゐる広大無辺の大河オケアノスが万物の本源で、また総ての神々の父であつた。また他の伝説によると、「夜」と「闇」が世界の根源で、そのうちから光が生れたといつてゐる。更に詩人オルフェウスが伝へたと言はれてゐる説によると、世界の始めには無始無終の「時」があつて、これから「カオス」と言ふ底なしの淵が生れ、其の深淵の中で「夜」と「霧」と「精気」が育くまれた。その中に「時」は「霧」を動かして中心なる「精気」のまはりを、独楽のやうに廻転させたので、世界は大きな卵のやうな塊団になり、それがまた廻転の速力でまづ二つに割れて、一つは昇つて天となり、一つは降つて地と成つた。そして其卵の中からは「愛」をはじめ、いろいろな不思議なものが生れたと言ふのである。 併し世界と神々の起源を述べたものの中で、一番纒まつてゐるのはヘシオドスの「テオゴニヤ」(神統記)であつた。「テオゴニヤ」によると、万物の始めには「カオス」があつた。次に広い胸を持つた「ガイヤ」(地)と地の底なる暗黒の「タルタロス」と不死の神々の中で一番美しいエロス(愛)が出来た。「カオス」は(口をあいた場所)といふ意味で、其内部は真黒な霧で満されてゐた。「カオス」の次には地が出来て、雪をいただくオリムポスの絶頂に住むべき神々の安全な座位となつた。けれどもまだ空も海も山々もなければ、昼や夜もなかつた。堅い地の外には何物もなかつた。その次に現はれたのが「エロス」であつた。エロスは男性と女性とを結びつけて新らしい世代を生み出ださせる愛の力であつた。 次に「カオス」からは、地下の闇なる「エレボス」と遠い日没の国に住んでゐる地上の闇なる「夜」が生れた。「エロス」は「夜」と「エレボス」とを結び付けて其間に二人の子を生ませた。天の光なる「精気」と地の光なる「昼」である。次に「ガイヤ」即ち母なる地は「エロス」と接触して「ウラノス」(星の多い天)と広大な山々と「ボントス」(荒い海)を生む。「ウラノス」と「ガイヤ」(天と地)はこの世界の最初の主宰者として、次の世代の神々の父母となつた。 ヘシオドスの記事は斯くの如き幼稚なものであるが、併しギリシヤの開闢神話の中では、これらが代表的なものである。勿論この開闢説の中に、どれほど深い哲学的思想の芽が包まれてゐるかは、問題ではないのである。 神々の世代 ギリシヤの神話は、この世界を支配する神々の世代をほぼ三つに分つてゐる。天地万物が生じて、第一に此の世界の主宰者となつた神は「ウラノス」と「ガイヤ」であつたが、それに就て「クロノス」と「レア」の治世が永い間続いた後、最後に「ゼウス」と「ヘラ」が此の天地の主宰者となつた。「ウラノス」と「ガイヤ」の系統には「チタン」と「キクローベ」と「ケンチマネ」と言ふ三つの神族があつた。このうち「チタン」族は後の神族の敵となつて、この世界に大動乱を起したもので、ギリシヤの神代史の中で、いつも争闘の渦中に飛び込んで、増悪と争闘とを煽るものはこの一族であつた。神話学者の間には、火山の爆発とか、地震とか言ふ地球上の大変動を人格化したものと解釈されてゐる。「ホメロス」の詩に現はれる「チタン」族は「イアベトス」と「クロノス」の二つだけであるが、ヘシオドスは十三の「チタン」族の名を挙げてゐる。即ち「オケアノス」と「テチス」「ヒペリオス」と「テイヤ」「コイオス」と「フオイベ」「クレイオス」と「エウリビヤ」と「イヤベトス」「テミス」と「ムネモシネ」「クロノス」と「レア」である。 次に「キクローベ」族は雙眼の大怪物で、その名を「プロンテス」「ステロペス」「アルゲス」と言ひ、雷鳴と電光と落雷の人格化であつた。 最後に「ケンチマネ」族は、百本の手を持つた怪物で、「プリアレオス」「ギエス」「コツトス」と言ひ、大地を震はす海の激動や怒号や、山のやうな波濤の恐怖を人格化したものである。 「ウラノス」は此の三神族のうち、後の二族を怖ろしいものに思つて、生れると直ぐ母なる大地の底の「タルタロス」へ投げ込んで、そこへ封じ込めて了つた。母の「ガイヤ」は、この無情な行動を深く憤つて、「ウラノス」に対して復讐を企て、「チタン」族の助けを求めたが、「クロノス」の外は、たれも母に味方をするものはなかつた。「ガイヤ」はそこで、「クロノス」に一つの鋭利な鎌を与へて、「ウラノス」を待ち伏せに襲つて深傷を負はせた。そのとき「ウラノス」の体から流れた血は化生して、蛇の髪をもつた復讐の三女神「エリニエス」や新しい大怪物巨人族となり、また海に落ちたものは、美の女神「アフロヂテ」となつた。「ウラノス」に就ては、これ以上に何事も伝はつてゐない。ギリシヤ人は「ウラノス」を神に祓らなかつた、従つてギリシヤ神話に於ける「ウラノス」の地位は、只自然界の基本的な力を代表する神々の父と言ふだけに過ぎなかつた。 かうして「ウラノス」の時代は過ぎて新しい「クロノス」の世となつたが、「クロノス」は父に取つて代つたといふ事情があるので、父の祟りだけでも永続しないやうな運命を帯びてゐた。 一方ではまた「ウラノス」の系統を引いた神々から、自然と「クロノス」とは異系の多くの神々が生れた。「オケアノス」と「テチス」の間には無数の河神や泉と森の少女「ニムフェ」が生れ、続いて海の「ニムフェ」だの海や陸の色々な怪物が出来た。「ヒベリオン」と「テイヤ」とは「日」と「月」と「暁」の両親となり、暁の女神は色々な「風」と「暁の明星」の母となつた。また「イヤベトス」の子には広大無辺の天を支へてゐる「アトラス」と人間の創造に力を尽した「プロメテウス」「エピメテウス」の兄弟があつた。「クロノス」は妹の「レア」と共に天地を支配して、その間に「ヘスチヤ」「デメテル」「ヘラ」の三女神と「ハデス」「ポサイドン」「ゼウス」の三男神を生んだ。 「クロノス」の治世は此の天地が未だ罪と汚れを知らなかつた、いはゆる黄金時代で、疾病も知らず、老いると言ふ事もなく、野山には種々の果実が、一面に実つてゐるから、働いて食ふと言ふ心配もなく、天地間の万物が無限の幸福と快楽とを味はつて居た時代だと伝へられる。この黄金時代は久しい間続いたが、その間に「クロノス」は自分が生んだ子が、いつか自分に代つてこの天地の主宰者になると言ふことを知つてゐたので、子供が生れるや否や、みんな呑んで了つたが、併し最後に「ゼウス」の生れる時は、母の「レア」は「クレテ」の嶋へ行つて生れた赤子を一つの洞窟の中へ隠し、大きな石を産衣の中へ包んで「クロノス」へ渡したので、「クロノス」は気がつかずに一口にそれを呑み込んで了つた。 かうして危い命を助けられた「ゼウス」は、クレテ島に「ニムフェ」らに保護されて、「アマルテイヤ」と言ふ山羊の乳でそだてられたが、「ニムフェ」らは赤児が泣く度に鐘や太鼓を鳴らし、軍のまねごとをして泣き声を「クロノス」の耳に入れないやうにしたと伝へられる。そのうちに「ゼウス」は生長すると、先づ祖母の「ガイヤ」の助けをかりて「クロノス」の口から呑み込んだ同胞らを吐き出させた。その時第一に出たのは「ゼウス」の身代りになつた大石で、これは後に神託で有名になつた「デルフォイ」の神殿に保存された。それから、順々にほかの五人の同胞らが吐き出されて、母の「レア」の手へ戻された。そこで天上界に第二の革命が起つた。 「ゼウス」はその同胞の神々と倶に「オリムポス」の山上へ立籠ると、多くの「チタン」族は「クロノス」を助けて「オトリス」の山に拠つて十年の間戦争を続けた。この戦争は自然力の全部を闘争の渦中に捲き込んで、この世界の存在をも脅かしたほどに猛烈なものであつた。同時に他の一方では、神と悪魔、正義と暴力との戦ひであつた。此間に「チタン」族のうちでも「テミス」と「ムネモシネ」(公正と記憶)とは、暴力の味方になることを避けて、智力と秩序の代表たる「ゼウス」の味方につき、また「プロメテウス」(先見)も終局の勝利が「ゼウス」にあることを予知して「オリムポス」に走つた。 戦争は殆んど果しが付かなかつた。「ゼウス」は終に「チタン」族の暴力を征服するには、他の暴力を借るほかはないと悟つた。そこで「ゼウス」は再び祖母「ガイヤ」の力を借りて、「ウラノス」が地底の「タルタロス」へ封じ込めて置いた「キクローベ」や「ケンチマネ」の一族を解放して味方につけ、「キクローベ」の手から雷電を譲り受けて、先頭に立つて敵に向ふと、三箇の「ケンチマネ」は三百本の手で岩をつかんでは敵に向つて雨霰と投げつけた。その時「オリムポス」の山上から投げかける雷電のために、周囲の地は焼けただれ、河海の水は沸騰して、火の如き霧は「オトリス」の山を包み、「チタン」族は絶えず閃めく電光のために悉くその視力を失つた。 同時に「ケンチマネ」は地と海を震はして突進したので、さすがに勇猛な「チタン」族も、電光に焼かれ岩の下に埋められて、たうとう「ゼウス」の軍に降服して了つた。そこで「ゼウス」は「ケンチマネ」に命じて、「クロノス」を始め自分に刃向つた「チタン」族を、「タルタロス」の底へ幽閉し、「ケンチマネ」をして監視させた。 神々と「チタン」族との戦闘の神話は、世界の起原に関するギリシヤの神話の中でも、恐らく最古の伝説に関するものである。この戦闘の舞台となつた「テツサリヤ」の地勢を見れば何人にも想像されることではあるが、そこには自然の激変の跡が著しく残つてゐる。「テツサリヤ」の平原そのものが、あの山壁を裂いて「テンペ」の大谿谷を作り出した大地震の産物であつた。そして「オリムポス」山と「オトリス」山とは丁度この大谿谷を挟んで相対峙する大城壁のやうな形勢をして、その間の谿谷には処々に巨大な漂石が「ゼウス」族と「チタン」族の間に投げかはされた巌石のやうに捲き散らされて居るのである。 「クロノス」の黄金時代は、かうして永久に過ぎ去つた。「クロノス」の神話については、互に矛盾した二つの性質が賦与されてゐる。一方では、この時代を地上には永久の春が続いて人間が無限の幸福を享楽した黄金時代だと説くとともに、他の一方では、その治世が既に父の「ウラノス」に対する反逆に始まつたやうに、この治世を通じて権謀術数によつて支配された時代のやうにも説いてゐる。この第二の伝説によると、「クロノス」は結局正義の代表者たる「ゼウス」に対して、邪曲の代表者と見られるのである。併しさう言ふ道徳的の矛盾を除外して見れば、この時代は、後の天地万物の秩序が次第に整つて来た時代であつた。 「ゼウス」は終にその強敵「チタン」族を征服したけれども、「ゼウス」の主権はまだ本当に安定する所までは行かなかつた。「ガイヤ」は一旦は孫の「ゼウス」を助けて「クロノス」と「チタン」族を征服させたけれども、いよいよ「ゼウス」が勝つて見ると、さすがに自分の生んだ「チタン」族の没落を憐むやうな心持も出て、「ゼウス」に対してまたまた陰謀を企てるやうになつた。 「ガイヤ」には、「チタン」族のほかに「チフオイオス」といふ子があつた。「チフオイオス」は同胞の「チタン」族よりは一層恐ろしい怪物で、どうしても全能の「ゼウス」に反抗すべき運命を持つて居た。この「チフオイオス」は一百の蛇の頭と火の如く暉く目と真黒な舌を持ち、其一百の口からは同時に蛇、牡牛や獅子や犬や其他あらゆるものの声を立てて咆吼するのであつた。この怪物が母の「ガイヤ」の命を受けて「ゼウス」に向つて戦ひを挑んで来たが、「ゼウス」は直ぐにその雷電をあびせかけて打ち倒し、「チタン」らと一緒に「タルタロス」の底へ投げ込んで了つた。 併しこの戦争で天も地もその為震撼して「タルタロス」の底までも響き渡つた。そして「ゼウス」の雷光に包まれながらも、その怪物の吐き出す息がかかつた地は、まるで白蝋かなにかのやうに、どろどろに鎔けたと伝へられてゐる。この怪物は今もなほ「タルタロス」の底で、折々恐ろしい唸り声や泣き声を立てる、その度に噴火山の口から怖ろしい火の舌を吐き、或は恐ろしい熱風を起して、地上の草木を焼き払ふのである。「チフオイオス」は猛烈な旋風の人格化であつた。 「チフオイオス」の反乱に続いて巨人族の反乱があつた。巨人族と言ふのは、「ウラノス」の血から生れた巨大な怪物である。伝説によると、キラキラした鎧を着て手に長槍を持つた魁偉な巨人であつた。巨人族の中でも、特に雄強なものは「アルキオネス」「パラス」「エンケラドス」及び火の王「ボルフィリオン」であつた。この巨人族との戦ひでは、「オリムポス」諸神の中でも、「ヘラ」と「アテーネ」の二女神が首功を立て、また「ゼウス」の血を受けた英雄「ヘラクレス」がその強弓をひいて敵をなやましたと言ふことになつてゐる。 この巨人族は自然界の勢力の人格化であつた。「チタン」族とは違つて、俗間の信仰に根拠を持つた妖魔であつた。従つて巨人族は「チタン」族や「キクローベ」や「チフォイオス」よりは一層人間に近く、古い彫刻では獣の皮を着て岩や根棒を武器とする蛮族の姿であらはされてゐるが、後には胴から下は人間の形体を失つて、脚のかはりに頭をもつた二匹の蛇をつけるやうになつた。巨人族は恐らくある地方に特有な俗間信仰から出て一般の神話の領域に侵入して行つたものらしく、その性質には、有史前の獰猛な蛮族を暗示するところがある。人間と同様に土から生れたといふ形容詞をつけられてゐるのも、その一つの証拠である。とにかくこの巨人族も、他の二族と同様に「ゼウス」の為に全く征服されて「タルタロス」の底へ全く葬られて了つた。 そこで天地の秩序が始めて定まり、「ゼウス」は「クロノス」に代つて天地の主宰者となつた。 この時「ゼウス」は神々の会議を開いて、それぞれにその支配を定めた。「ポサイドン」「オケアノス」に代つて海を支配し、「ハデス」は暗黒な地下の世界と「タルタロス」の王となり、「ヘラ」は「ゼウス」の妃として「オリムポス」の女王となつた。 |
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霊界物語 | 76_卯_世界の神話/朝香比女の神の物語 | 04 怪しの巌山 | 第四章怪しの巌山〔一九二一〕 八十曲津見の神は、鋭敏鳴出の神の生言霊にうたれて、雲霧となり、西吹く風にあふられて、一度は東の御空遥かに逃げ失せたれども、ここに再び陣容を立て直し、飽くまでも神の神業にさやらむと、古綿をちぎりたる如く、雲を次々吐き出だし、幾千丈とも限りなく重り合せて、遂には天を貫く大巨巌となり、蜿蜒数百里にまたがる巌骨の山を築き上げ、その前面に千尋の深き溪川をつくりて、一歩も進ましめざらむとし、力を尽すこそ忌々しけれ。 ここに、高野比女の神一行は、駒の轡を並べて、夜を日についで進ませ給ふ折しもあれ、前途に横はる思ひがけなき巌山に、行手を遮られ、暫し思案にくれ給ひけるが、ここに鋭敏鳴出の神は、曲津見の醜の雄猛びものものしやと宣りつつ、かたへの千引巌を、頭上高くさし上げながら、「うん」と一声、深溪川の巌ケ根に向つて打ちつけ給へば、巌と巌とは相摩して、迸り出でたる火の光に、曲津神は驚きて、さしもに堅き巌山も、どよめきそめつ梢後方に退きにける。 紫微天界に於ける、火の生れ出でしは、鋭敏鳴出の神の巌投げによりて始まれるなり。曲津見の神は激しく飛び出でし火の光に、驚きて肝を冷し、今までの勇気はどこへやら、数百里にまたがる巌山も、次第々々に影うすらぎ、遂には白雲となりて、御空遠く消え失せたるぞ不思議なれ。 高野比女の神はこの態を見て、感嘆のあまり御歌詠ませ給ふ。 『鋭敏鳴出の神の功に生れ出でし 火は曲神を追ひ散らしける 巌骨の山と変じて曲神は わが行先をさへぎりしはや 千引巌の摩擦によりて現はれし 炎はすべてを焼きつくすらむ 天界に始めて見たる火の光 四方を照らして曲をやらへり 巌ケ根ゆ火の出づること悟りけり 鋭敏鳴出の神の神業によりて』 鋭敏鳴出の神は御歌詠ませ給ふ。 『曲神は巌骨の山と変じつつ 行手にさやれど何か恐れむ 巌と巌の軋りて生れし火の神の 功たふとくわれをろがみぬ 谷底に散りたる火花に怖ぢ恐れ ときはの巌山も崩れ初めたり 堅磐常磐の巌の山と見ゆれども 雲と雲とのかたまりなるも アオウエイ生言霊を宣りあげて この巌山を雲と散らさむ』 かく歌ひつつ、鋭敏鳴出の神は、声も朗かに御歌詠ませ給ふ。 『アオウエイ天津真言の言霊に 巌骨山は跡なく消えむ カコクケキ輝き渡る大空の 天津日光に亡びよ曲津見 サソスセシ さやりたる醜の曲津見の曲業も 生言霊の水火に消えなむ タトツテチ たつくもの重り合ひて巌となりし 曲津の山をば崩してや見む ナノヌネニ ながながと広野の中に尾をひきし この巌山もいまに消えなむ ハホフヘヒ空吹く風の功績に 雲と散るべしこの巌山も マモムメミ 曲津見の醜の猛びの深くとも われには言霊剣ありけり ヤヨユエイ 八十曲津見力の限りさやるとも 如何で悩まむ神なるわれは ワヲウヱヰ わくらはに力あつめて生り出でし 曲の巌山いまに砕かむ 一二三四五六七八九十 百千万の神守らせたまへ』 斯く歌ひ給ふや、蜿蜒として幾百里にわたりたる巌骨の山も、次第々々に煙となりて砕けつつ、風のまにまに散り行くぞ愉快なれ。 天津女雄の神はこの態を見て、御歌詠ませ給ふ。 『天晴れ天晴れ鋭敏鳴出の神の功績に 醜の巌山早や崩れたり 曲神の奸計の深溪川さへも 底あせにつつかくろひにけり 天地の中に生れて主の神の 恵みを知らぬ曲津神はも 火の神の在処を始めて悟りけり 巌と巌との中にいますを 曲神の醜のとりでを亡ぼさむ ためには強き力の火なるよ あらがねの地にも火にも神ますと われは始めて悟らひしはや 曲神は火の御光に怖ぢ恐れ 雲の彼方に影をかくせり かくのごと力の限りを集めたる 曲の仕組の山は崩れぬ 言霊の水火に生れし天界に 尊きものは言霊なるかも 何一つ武器は持たねど言霊の 水火の剣に守られ行かむ 真心をつくしの宮居より降り来し われ面白きことを見たりき 駿馬は勇みすすみて天界の この清しさに嘶き止まずも』 梅咲比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『面白き旅に立つかも行先に 曲の構へし砦を破りつ 主の神の御稜威は高しわが岐美の 功は広しと思へば楽し 曲神の心つくしの巌山も 生言霊に跡なく亡びぬ 曲神は偽りごとをたくみつつ さやらむとする心浅ましも 天津真言の生言霊の幸はひに 生りし森羅万象は永久に亡びじ』 香具比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代神とわれは選まれ東の 宮居に仕へておもふ事なし 今までの心の雲り晴れにつつ わが背の岐美を尊くぞ思ふ 恋しさの心は消えて背の岐美を 敬ふわれとなりにけらしな 鋭敏鳴出の神の功の尊さを 悟りてわれは心はづかし 力なき女神の身もて神業に 仕ふる日々の重さを思ふ さりながら辞まむ術もなかりけり 神の依さしの尊かりせば わが心曇らひにつつ背の岐美の 神業にさやりし事を悔ゆるも 言霊の水火も清めずひたすらに 岐美を慕ひし愚かさを恥づ』 寿々子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『ここに来て神の奇しき神業を 近く眺めつおどろきしはや 何事も生言霊の幸はひに 生り出づるよしを悟らひにけり やすやすと神に仕へて朝夕を 過せしわれは愚かなりける 朝夕の禊の神事をおこたりし われは御子生み叶はざりしよ 今日よりは瀬見の小川に禊して 生言霊を清め澄まさむ 鋭敏鳴出の神の言霊清ければ 流石の曲津見も逃げ失せにけり』 朝香比女の神は御歌うたひ給ふ。 『御樋代の神とはいへど言霊の 濁りにそひます神はあらまじ わが岐美を恨みし事の今更に はづかしきかも水火の曇れば 曇りたる水火もて少しも曇りなき 水火にあはすと思ひし愚かさ 吾のみか八柱比女神も悉く 生言霊は濁らひますらむ 御子生みの神業に離れし過も みな言霊の濁ればなりけり 今日よりは心の奥より清め澄まし 神の依さしの神業につくさむ 御樋代の神と任けられいたづらに この年月を暮すべきやは 言霊の清くありせば曲神の 千引の巌も崩れこそすれ 朝な夕な瀬見の小川に禊して 慎しみ敬ひ神業に仕へむ 曲神の強き猛びも恐れずに 進み行かむか言霊剣もて』 宇都子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『宇都子比女われは御樋代神として 今日が日までも待ちあぐみたり 真心をつくしの宮居に詣でつつ 主の大神の光りにうたれつ 主の神の依さしの神業成らずして あだに月日を過す苦しさ 鋭敏鳴出の神の言霊清ければ 御空の月日も澄み渡りつつ 曲神は雲霧となり雨となりて わが行先にさやりこそすれ 万世の末の末まで生き生きて 神業に仕へむ若返りつつ 若返り若返りつつ神業に 仕へむとして言霊磨くも』 狭別比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『いざさらば進み行かなむ曲津見は 影だにもなく逃げ失せにけり うづ高く積みて造りし巌山も 跡なく消えて春風わたる 言霊の旅を重ねてをりをりに 曲津の奸計をめづらしみ見つ 言霊に消えて跡なき巌山の あとに匂へる百花千花よ 言霊の水火の濁れば雲となり 曲津見となりて世を塞ぐなり 百神の曇れる水火の固まりて 八十曲津見は生れ出でにけむ 斯の如悟りしわれは今日の日を さかひとなして言霊みがかむ わが神魂清まりぬれば自ら 生言霊も澄みきらふらむ 天界の旅をつづけて今更に 生言霊のたふとさを知る 洗へども磨けどおちぬ魂線の 曇りを如何に払はむかと思ふ 神を愛し神を信じつ朝夕に 魂洗ふよりほかに道なし』 花子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『われもまた御樋代神と仕へつつ 高地秀の宮居に年をふりけり 高地秀の宮居の聖所に朝夕を 曇りし心に仕へ来しはも 愛善の真言の光におはす神は われをきためず許しましぬる 今日よりは心の駒を立て直し 小さき事にかかはらざるべし 大らかにいます岐美ゆゑ大らかに 仕へて神業に勉むべきなり 村肝の心の闇は晴れにけり 主の大神の御旨さとりて 何事も神の御心と知りながら をりをり小さき心のわくも 妬み嫉み今まで続けし八柱の 御樋代神を愚かしみおもふ 御樋代の神の中にもすぐれたる きたなき心持ちしわれなり 花のごと清くあれよと主の神は 花子と名づけ給ひしものを 花も実もなき言霊を宣りにつつ わが背の岐美を悩ませしはや わが罪の深さ重さを悟りつつ 神の御前に詫びつつ泣くなり』 小夜子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『夜も昼も神の恵みに抱かれて 天界に住むわれはたのしも 楽しかるこの天界に生れあひて かこち過せしことを今悔ゆ 言霊の幸はひたすくる天界に われは亡びの道を歩みし 知らず識らず亡びの道を辿りけり 妬ましき心いやかさなりて 御樋代神かたみに妬み嫉みつつ 高地秀の宮居を曇らせしはや 清らけき心の玉をかがやかし かたみに仕へむ神の御前に 主の神の七十五声の言霊に 国津神たち数多生れにき 国津神の上に立てよと主の神の 依さし給ひしわれ等なりける 国津神の心におとる魂線を もちて仕へむことの難きも 真心のあらむ限りを照らしつつ 世のため神のためにつくさむ いざさらば百神駒に召しませよ 東の宮居は遥かなりせば』 高野比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『鋭敏鳴出の神はわが行く先に立ちて 進ませたまへこの広原を 天津女雄の神は後方を守りつつ 進ませたまへ東の宮居へ』 斯く歌ひ給へば、鋭敏鳴出の神は、高野比女の神其他一同に黙礼しながら、ひらりと駒に跨り、いざや道案内せむと、馬背に鞭うち蹄の音も勇ましく、鈴の音を四辺に響かせながら、春風わたる青野ケ原を進ませ給へば、一行は轡を並べてしづしづと御心も朗かに進み出で給ふ。 (昭和八・一二・五旧一〇・一八於水明閣白石恵子謹録) |
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霊界物語 | 76_卯_世界の神話/朝香比女の神の物語 | 08 善言美霊 | 第八章善言美霊〔一九二五〕 ここに朝香比女の神は、顕津男の神を慕はせ給ふ心の駒の狂ひたちて足掻き止まねば、御樋代神等、宮司神等の心を籠め力を尽しての諫めも、空吹く風と聞き流し、白馬に鞭うち、黄昏の空を東南指して駆け出で給ふぞ雄々しけれ。後に残れる御樋代神等は慨然として歎かせ給ひつつ、高地秀の宮居の聖殿に心静かに帰らせ給ひて、朝香比女の神の旅の無事を祈らむと、種々の美味物を奉り、大御前に祈りの祝詞を奏上し給ひぬ。 先づ例の如く祭典の用意整ひたれば、鋭敏鳴出の神は宮居の司の務として、御自ら高御座の大前にひれ伏し、御声爽かに太祝詞白し給ふ。 『掛巻くも綾に畏き高地秀山の下津岩根に大宮柱太しき建て、高天原に千木高知りて、堅磐常磐に此の聖所を領有ぎ鎮まりいます主の大神の大御前に、斎主鋭敏鳴出の神、謹み敬ひ畏み畏みも白さく。如何なる神の経綸なるかも、如何なる神の計らひなるかも、御樋代比女神と神の依さしに朝な夕なを仕へましし、其が中の一柱とます朝香の比女神は、百神等の諫め止むる言霊をも聞かせ給はず、駿馬に鞭うち給ひて常闇の夕の空を、太元顕津男の神の御許に詣で仕へむと、心雄々しく出でましぬ。かれかくなりし上は、吾等が真心もちて止めまつらむ由もなければ、惟神神に任せて、比女神の旅路を安らけく平けく渡らせ給へと祈るより外に詮術無かりければ、ここに神々相議りて、今日の御祭仕へまつると、海河山野種々の美味物を、八足の机代に横山なす置き足らはして、奉る状を、平けく安らけく穏に聞し召しまして、朝香比女の神が伊行き給ふ道の隈手も恙なく聖所に進ませ給へかし。過ち犯さむ事しあらば、神直日大直日に見直し聞直し宣り直しまして、比女の神言の出立に恙あらせじと、夜の守り日の守りに守り幸へ給へと、鹿児自物膝折り伏せ宇自物頸根突貫きて畏み畏みも祈願奉らくと白す。一二三四五六七八九十百千万、惟神霊幸倍坐世、惟神御霊幸はへましませよ』 高野比女の神は御祭の庭に立たせ給ひて、御歌詠ませ給ふ。 『高地秀の貴の宮居に永久に ます大神に願ぎごと白さむ 朝香比女神は夕べを立ち出でぬ つつがあらすな道の隈手も 朝香比女は面勝神よ射向ふ神 わが言霊も聞かず出でましぬ 思ひ立ちし事を貫く朝香比女の こころの駒は止め得ざりき かくならば詮術もなし主の神の あつき恵みにすがらむと思ふ 曲津神の伊猛り狂ふ荒野原を 進ます比女の身をあやぶみぬ 危ふかる旅の枕を重ねむと 朝香の比女は雄々しく出でませり かくまでも其の心ばせを立て通す 朝香の比女は面勝神なり 御樋代神われは司と任けられて 詫びごと宣らむ言の葉も出ず わが心おろそかにして朝香比女の こころを今まで悟らざりしよ 悟らざりしわが過ちを神直日 大直日神宣り直しませ』 鋭敏鳴出の神は御歌詠ませ給ふ。 『朝香比女神の雄々しき心ばせを われは気付かず眠らひにけり 予てよりかくと定めし朝香比女の こころの駒は止め得ざりき 朝香比女神の神言はまさしくや 射向ふ神なり面勝神なる 果てしなき荒野を一人出で立たす 雄々しき比女をまもらせたまへ 曲津神は姿をいろいろ変へにつつ 比女の行方にさやらむとすも 曲津見の猛びは如何に強くとも 喪なく事なくすすませたまへ 八百万神ましませど朝香比女の 雄々しき心は誰も持たなくに』 梅咲比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『東南の荒野は山も高くして 初夏ながら春の気漂はむ 白梅の花はあちこちに匂ひつつ 比女神の旅を慰むなるらむ 白梅の匂へる山路を踏みわけて 白毛の駒に鞭うたすらむ 主の神の厚き恵みに朝香比女の 神はやすやす進ませ給はむ 言霊の幸はひたすくる天界に さやらむ曲津は必ず亡びむ さりながら朝香の比女の草枕 旅の苦しさわれにせまるも 朝夕を神の御前に祈らばや 朝香の比女に恙なかれと 四方八方に白梅薫る春の野を 心豊に立ち出でますらむ』 香具比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『非時に香具の木の実の香りたる 紫微天界はにぎはしきかも 桜花散り敷く庭の夕ぐれを 朝香の比女は一人立たせる 神々の誠をこめての言霊も 聞かさず立ちし比女神天晴れ 比女神の後姿見送りてわれはただ 故知らぬ涙ほとばしりぬる 今日を限り長の別れにならむかと おもへば悲しくなみだぐまるも 大野原駒に鞭うち一人ゆかす 雄々しき比女の心いたまし 背の岐美をおもふあまりの旅立ちと おもへばわれも悲しくなりぬ 神思ひ岐美を慕ひて胸の火の 炎消さむと出でませしはや 燃ゆる火も溢るる水もいとひなく 恋路のためには命惜しまさず 玉の緒の命捧げし岐美ゆゑに かくもありけむ朝香比女神は よしやよし曲津見のさやり繁くとも つらぬき通せ公の真心を』 寿々子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『朝香比女道の隈手も恙なかれと こころ清めて祈りけらしな 駿馬に鞭をうたせて出で立ちし 比女の姿は雄々しかりける 岐美おもふ心の征矢を通さむと 駒にまたがり駆け出で給ひぬ 春さりて夏来りける大野原を 進ます公のすがた偲ばゆ 昆虫の災もなく高津神の さまたげもなく進み給はれ 一度は止めまつれど如何にせむ かくなるうへはただに祈らむ 比女神の進ます道は安くあれ 高津鳥等のわざはひもなく 山を越え野を越え溪川渡りつつ 出で行く公の雄々しきろかも かくならば後に残りしわれわれも 比女神の旅を祈るのみなる』 宇都子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『高地秀の宮居の聖所を後にして 山河わたり比女神出でましぬ 数千里の旅の枕をかさねつつ 一人出でます比女神天晴れ 百神の神言の止めも聞かずして 雄々しも比女は出でましにける』 狭別比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『幾十日筑紫の宮居の旅をへて 間もなく比女神又旅に立てり 気魂も神魂も強き比女神の こころの駒を止むる術なし 幾千里荒野をわたり旅立たす 朝香の比女は雄々しき神なり 徒に月日送らむ苦しさに 朝香の比女は立ち出でにけむ 主の神の御許しもなくただ一人 立たせる朝香比女の神はも 朝香比女神の神言のとりしわざは かへりて神に叶ふなるらむ 主の神の御旨に叶はぬわざなれば 朝香の比女の駒は走らじ 黄昏の闇を駆け出しし雄々しかる すがたに神旨をわれはうたがふ 村肝の心照らして言霊の 水火清まらばすべてはならむも 朝香比女神はかならず顕津男の 神と御水火を合はせますらむ 西方の国土稚ければ御樋代の 神まさぬ世を悟らしにけむ 西方の国土の御樋代神となり 国魂神を生ます旅かも 西方の国土は黒雲立ちこめて 大曲津見の棲めるとぞ聞く 曲津見のほしいままなる振舞を たださむとして出でましにけむ 朝香比女神は面勝神なれば 大曲津見もただになびかむ かくの如雄々しき神はあらざりき 御樋代神は数多ませども』 花子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『高地秀の峰の桜は早や散りて 青葉の園となりにけらしな 野に山に若葉若草萌え立ちて 夏の御空は来むかひにけり 青葉萌ゆる山河渡り駒の背に 乗りて出でます朝香比女はも 朝香比女神はかならず曲津見の 猛びにくるしみ給ふなるらむ 朝香比女旅の悩みをおもひつつ 腮辺につたふわがなみだかな 西方の国土は黒雲立ちこめて スウヤトゴルの曲津は火を吐く 非時に黒雲むらむら立ち上り 御空をつつむ西方小暗き 月も日も星もかげなき西方の 国土造るべく出でましにけむ 朝香比女神の雄々しき心ばせを われは朝夕悟り居しはや かくの如思ひきりたる草枕 旅にたたすをうべよと思へり 今とならば止めむよしもなきままに 恙なかれと祈るのみなる 朝香比女功を太しく建てまさば 御樋代神のほまれなるかも 八柱の御樋代比女神の中にして 雄々しき神の出でますは嬉し』 小夜子比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『丹牡丹の花はくづれて庭池の 菖蒲の紫匂ひ初めたり 大庭の瀬見の小川にかげうつす 菖蒲の花のつやつやしかも 菖蒲咲くころの聖所を後にして 朝香の比女は旅立たしける 朝香比女は燃ゆる心の苦しさに 菖蒲も目にはうつらざりけむ 庭の面に咲ける菖蒲や燕子花 何れをそれと別ち兼ねつつ 朝香比女の今日の旅立ちよしあしの あやめもわかずわれは黙さむ 何事も主の大神の御心に 任すは真のつとめなるらむ 如何ならむ太しき功たつるとも 御神の御許しなきは仇なり 主の神の生言霊に依らずして われは進まむ雄心起らず 徒に長き月日を送りしと 思ふは心のひがみなりしよ 朝夕に神に仕へて祝詞宣るは 御樋代神のつとめなりける 地稚きこの天界を固めむと 御樋代神を生ましし神はや 御子生みの神業はさておき言霊の 御樋代として生れ出でしならむ かくならば朝な夕なに世の為に 御樋代神は言霊宣らばや 一日だも生言霊をおこたらば 乱るる世なりと悟らひにけり』 天津女雄の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代の比女神等に従ひて 珍しき事を見聞きするかも 真心を筑紫の宮居あとにして 高地秀の宮居に仕へつるかも 朝香比女神の旅立ち送りつつ 雄々しき姿に見とれけるかな かくの如雄々しき神にいますとは 愚かしきわれは悟らざりしよ この上は朝な夕なを大宮居に 祈りて比女の幸を守らむ 西方の国魂神を生ますべく 雄々しく一人出でましにけむ 今となりて悔むも詮なし真心を 持ちて祈らむ神の御前に』 かくの如く、神々は大宮居の前に比女神の無事を祈りつつ各自述懐歌をうたひて、静かに定めの居間に就かせ給ひける。 (昭和八・一二・六旧一〇・一九於水明閣林弥生謹録) |
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霊界物語 | 77_辰_田族比女の神の物語(万里の島) | 04 狭野の島生み | 第四章狭野の島生み〔一九三六〕 神々は朝香比女の神の生言霊の功に、いたく感じ給ひつつ讃美の御歌詠ませ給ふ。 初頭比古の神の御歌。 『掛巻くも綾に畏き朝香比女の 神の言霊に曲津は亡びぬ 曲津神の災せむと待ち居たる 島は忽ち天国となりける 善き事に曲事いつき曲事に 善き事いつく神世なりける 御樋代の神と現れます朝香比女の 神の功に戦きにけり 曲津見は力の限りを搾り出して 魔の島ケ根となり居たりける 朝香比女神は曲津の奸計を 悟りて言霊宣らせ給ひぬ 魔の島も比女の神言に敵し得ず 宣らすがままに固まりにけり 八柱の御樋代神の中にして 朝香の比女は勝れましけむ かくの如生言霊の光りある 比女神こそは御樋代なるよ 御樋代と御名負ひませる功績は 生言霊に現れにけり アの声の生言霊に生れ出でし われ驚きぬ比女の光に 海原を包みし雲霧晴れにつつ 目路の限りは波かがやけり 魔の島は次第々々に拡ごりて 天界の光となりにけらしな 曲津神の潜みし島も比女神の 御水火に生きて光り充つるも 今日よりは樹々の木の実も穀物も いや茂らひて神を生かさむ 国津神の永久の楽土と今日よりは 生れ出でにけり狭野の島ケ根 魔の島の名を改めて狭野の島と 朝香の比女は名を賜ひけり 朝香比女神の功に包まれて わが神魂さへかがやきにけり』 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『狭野の島の真中に立てる山脈は 今日より朝日の山となりけり 朝日照り夕日輝く朝日山に 生ふる草木は永久に栄えむ 駿馬の丈より高き黒き蟻の 姿はいづく跡かたもなし 曲津神の頭の虱の姿ぞと 聞きてゆわれは驚きにけり 魔の化身蟻の棲みたる浮島も 生言霊に天界となりけり 国土を生み国魂神を生まさむと 旅に立たせる比女の功よ 比女神の功は今や目の前り 狭野の島根に拝みにけり 天中比古神永久に鎮まりて 狭野彦の神と世を拓きませ 国土を生み八十嶋を生み国魂を 生みます旅を尊しと思ふ 御樋代は八十柱ませど比女の如 雄々しき神はなしと思ふも 眉目容姿美しき朝香比女神の 貴の言霊澄みきらへるも 立世比女神の神言の側近く 侍らしまして光りますらむ 久方の御空は清く澄みきらひ 朝日は照れり生言霊に かくの如天津日のかげ照り渡る 天界に曲津は影を止めじ 今日よりは国津神等悉く 世を楽しみて立ち働かむ 山も海も生言霊の幸ひに 栄え果てなき神の食国よ 波の秀を右や左に飛びかひて 百鳥千鳥も世をうたふなり 大空の晴れ渡りしゆ真鶴は 翼揃へて舞ひ遊ぶなり 鳳凰は翼を朝日にかがやかせ わが頭辺を静かに舞へるも 大いなる鷲の一群雲の如 伊渡り来りて御空に勇めり 昼月の光さへ白く冴えにつつ 狭野の天界の栄えを照らせり 朝香比女神の御水火に生れたる この神島は栄え果て無けむ』 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『わが公は四方の天地を包みたる 醜の雲霧払はせ給へり 栄城山神の御水火に生れたる われはエ声の愛の神なり わが公の御身の廻りを朝夕に 守りて其の美を保たせまつらむ 何時までも花の粧ひ顔を 保たせ給へと朝夕守らむ 顕津男の御前に進ますわが公の 若き姿を照らし守らな 幾万年の末の末までやさ姿 このまま若く居ませと祈るも 朝夕に生言霊を宣りあげて 公の若さを永久に守らむ 立世比女神の神言は神々の よき面ざしを守る神なり』 天中比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代神生言霊に定まりし 狭野の島根は清く生れし 狭野の島の柱とわれは任けられて 永久に世をひらく楽しさ 比女神の生言霊に生れたる この狭野島を清く守らむ 国津神狭野彦あれば百千々の 種を隈なく蒔きて育てむ 朝香比女神の神言の御供せむと 思へど詮無きわれとなりけり 永久の命保ちてこの島の 主と仕へ光りとならむ 曲津見の頭に生ひし大蟻も 今は残らず土となりける この島の土はことごと黒けれど やがて拓かば真土とならむ 幾万の蟻はことごと土となりて 狭野の島根の肥料とならむか 地稚く国土稚けれど言霊の 水火を凝らして固めひらかむ』 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『主の神のパ声になりしわれ故に 天晴比女の神といふなり 大空はパツと明るくなりにけり 四方を包みし雲霧はれにつ 朝香比女御樋代神に従ひて われは御空をはらしゆくべし 地稚き稚国原は霧たちて 八十の曲津の棲処にはよき 霧こむる稚国原をことごとく パの言霊にはらし進まむ 限りなき尊き神の御恵みに 天晴比女と生れしわれなり 天も地も清くはらして御尾前に 仕へまつらむ神業たすくと 勇ましくやさしくいます御樋代神の 生言霊は光りなりけり 六合を照らし清むる比女神の 水火の力にさやるものなし 心清く神魂の清き比女神の 御水火は光りとなりて出づるも かくの如尊き神は天地の 中にあらじとかしこみ敬ふ 天地を晴らし清むるわれながら 御樋代神の光りに劣れり 主の神ゆ御樋代神と選まれしは 実に実に宜べよと悟らひにけり 大いなる国土生みの神業をあちこちに ひらかせ給ふ比女神かしこし』 狭野彦は歌ふ。 『天津神の中に交はり国津神われは よき言霊を聞きにつるかも 狭野の島をひらけと宣らす言霊を われ嬉しみて勤しみ仕へむ 狭野の島は未だ稚ければ天津神 朝な夕なに力添へ給へ 朝香比女神の神言を畏みて 束の間さへも忘れず勤めむ この島に国津神々移し植ゑて 清き天界をひらかむと思ふ』 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『諸神の称へ言葉を聞ながら 小さき功をわれは恥づるも 御樋代の神と名を負ふ身ながらも 力の足らはぬわれなりにけり 今日よりは諸神等にたすけられて 神業に仕ふと楽しみおもふ 天中比古神は狭野彦を守りつつ ひらかせ給へ狭野ケ島根を』 朝香比女の神は、かく御歌を詠ませ給ひつつ、天中比古の神及び国津神狭野彦をこの島に残し置き、四柱の神等とともに、晴れ渡る霧の海原を順風に送られ、心朗らかに南へ南へと進ませ給ひける。 (昭和八・一二・一二旧一〇・二五於大阪分院蒼雲閣林弥生謹録) |
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霊界物語 | 77_辰_田族比女の神の物語(万里の島) | 07 万里平定 | 第七章万里平定〔一九三九〕 天津高宮に鎮まりいます主の大神は、七十五声の言霊を間断なく鳴り出で給ひて、泥海の世界を固むべく、先づ初めに当りて、筑紫ケ岳、高地秀の峰、高照山の三大高山を生み給ひて後万里の海に無数の島々をなり出で給ひて、総ての生物を生ませ養ひ給ふべく経綸されたり。 其の最初に当りて万里の海の中心なる万里の島を生り出で給ひぬ。此島は面積約八千方里にして、西に白馬ケ岳あり、東に牛頭ケ峰あり、其の中心を流るる清川を万里の河と言ふ。 大神は先づ此島にツの言霊を鳴り出でて鼠を生みたまひ、クの言霊を鳴り出でたまひて蛙を生み出でたまひける。鼠と雖も未だ地稚く、国土調はざりし時代なれば、今日の牛よりも大きく、蛙と雖も現代の人間よりは体躯長大なりしなり。其他神人をはじめ、総ての動物は之に準じて知るべきなり。蛙は此島に幾百千万とも限りなく発生し、鼠又日に日に其数を増しつつ土地最も肥えたる此島の全部に棲みて、総ての穀物の耕作に従事し生活を続け居たり。鼠は田を鋤き、蛙は鋤鍬をもちて田畑を拓き、穀物を作りて生活を楽しみ居たりける。 此の島の司として主の大神は、頭に太陽の形を印したる赤き紋を頂ける丹頂の鶴を一番下し給ひける。此の鶴は天津高宮より御空を翔りて万里の島ケ根に飛び来り、万里河の傍なる小高き丘の上に、鬱蒼として聳え立ちたる一本の常磐の松に巣籠り、数多の子を生み育て此島の主として臨む事とはなりぬ。 さりながら、朝夕の区別なく此の島ケ根は雲霧塞がり、殆ど咫尺を弁ぜざるに至り、天に日月輝きわたると雖も、中空の雲と地上に燃え立つ深霧の為めに陽気寒く、万物の発育も亦充分ならざりにける。陰鬱の気は次第々々に凝結して、種々の曲津見発生し、白馬ケ岳の谷間には太刀膚の悪竜数多棲み、大蛇又彼方此方の谷間に潜みて非時毒煙を吐きければ、其の毒煙は雲となり霧となりて、万里ケ島に住める蛙の一族は生活を脅かされ遂には其の数を減ずるに至りたり。邪気は次第に凝りて、数限りなき鷲となり山猫となりて狂ひ廻り、鷲は蛙を餌食とし、山猫は鼠を餌食となして猛り狂ふ惨状は、目も当てられぬばかりなりける。然れども、蛙と鼠の一族の中にて、朝夕を主の大神に祈り真心の限りを尽して仕へまつれる種族のみは、神の恵によりて、僅に其の種族の存在を保ち、戦々兢々としながらも春夏秋冬の耕作に従事し居たりける。 主の大神は此の惨状を遥かに覧はして、竜蛇、鷲等の獰猛なる動物を制御すべく、牛、馬、鷹、虎、狼、獅子等を此島に産み生はせたまひ、悪竜、大蛇、鷲の暴虐を懲らしめたまひけるが、年を経るに従ひて、虎、狼、獅子、熊などの猛獣は遂に竜蛇の種族を亡ぼし、鷲の種族をも殲滅せむとしたりけるが、鷲は大なる翼の持主なれば、地上の動物の如何ともなし難く、鷹をもつて空中よりの害を防ぐより方法なかりける。然りながら如何に勇猛なる鷹と雖も、十数倍の翼を保ち大力を有する鷲に対しては如何とも制裁の道なかりける。 虎、狼、獅子、熊、鷲等は肉食動物なれば、遂には猫、牛、馬、羊、猿等の動物を餌食となさむとし、昼夜間断なく争闘の惨劇を続け、収拾すべからざるに至りたれば、主の大神は茲に大なる猪の群と犬の群とを下して、これ等の猛獣を制すべく当らせ給ひたるにぞ、牛、馬の族は稍小康を得て牛は牛頭ケ峰に難をさけ、馬は白馬ケ岳に難を避けて両山の周囲は馬と牛とにて充満するに至りける。遠方より之を眺むれば、白馬の集ひたる白馬ケ岳は雪に包まれたるが如く、黒き牛の集まれる牛頭ケ峰は恰も墨の山の如く見えにける。 茲に主の大神は、如何にもして此の美しき万里の島を永久の楽園に定めむと思召し、八十柱の御樋代神の中にて最も神力強き田族比女の神に、ウの言霊より生れ出でし若春比古の神、ヱ声の言霊より生り出でし保宗比古の神、ヰ声の言霊より生り出でし直道比古の神、ヤ声の言霊より生り出でし山跡比女の神、ヨ声の言霊より生り出でし千貝比女の神、ユ声の言霊より生り出でし湯結比女の神、マ声の言霊より生り出でし正道比古の神、ワ声の言霊より生り出でし輪守比古の神、プ声の言霊より生り出でし雲川比古の神、ヲ声の言霊より生り出でし霊山比古の神の十柱神を従へて、万里の島を守るべく下したまひける。 此の神々の御降臨によりて、万里の島の天地を掻き廻し、乱し尽したる虎、狼、獅子、熊、鷲の輩は、命辛々島より島に渡りて逃げ失せたれば、暫時の間は小康を得て、蛙と鼠は元の如く耕作に従事し、其の生活を楽しむに至りぬ。犬は蛙の家居を守り、猪は鼠の安全を守り、夕ざれば山に入りて木の葉を喰ひ、各も各もの業を楽しみ居たりける。 茲に弥々丹頂の鶴は常磐樹に平安の生を保ち、猿をつかひて万里ケ島の平安を守り居たりける。さりながら主の大神より天降し給へる田族比女の神其の他十柱の従神等の恩徳を知らず、却つて我国土を掠奪すべく来りしものとなし、昼夜嫉視の眼を放たざりける。 鳥はスの霊にして猿はズの霊なり。猿は鶴の幕下として常に其勢力を増大し、驕慢の気起り遂には鶴の如く樹の上に棲み、其の座席迄も汚さむと勤むるにいたりたり。又蛙に対して暴虐限りなく擅に虐げければ、やうやく小康を得たる万里の島は忽擾乱の巷と化し、数万の蛙の鳴き叫ぶ声は天地に響き、其の惨状譬ふるに物なかりける。 茲に於て蛙の保護に任じたる犬と猪は山より野より群がり来りて、蛙等の味方となり、猿の群に向つて戦ひを挑み、遂に其大猿の群は殆ど噛み殺さるるに至りける。此の惨状を窺ひ知りたる鷲、獅子、熊等の悪鳥、猛獣は此の期逸すべからずとなし、空より地より海より一斉に迫り来りて、此島に於ける一切の動物を殲滅せしめたり。然れども主の大神の神言をかしこみて田族比女の神其他の神々は、万里の島の主と定まれる鶴の一族と牛馬羊の一族を守り給ひければ、これ等の動物は幸に悪鳥猛獣の残虐の手を免るるに至りたるぞ畏けれ。 主の神の神言畏み田族比女の 神天降らせし万里の島かも 十柱の神を従へ田族比女 神は光となりて天降れり 四方八方の雲霧払ひ悪しき鳥 猛き獣も滅び失せぬる 埴安の神と現はれし田族比女の 御樋代神は救ひ主はも 田族比女神の御樋代天降りしゆ 万里の島根はよみがへりたり 田族比女この万里島に天降りまして 朝な夕なに神言宣らせり 十柱の神も御後に従ひて 禊を修め神言宣らせり 馬と牛犬と猪とを世に残し 此生島を守らせ給ひぬ 丹頂の鶴は常磐の松ケ枝に 千代ことほぎて神世あれましぬ 鷲熊も虎狼も獅子王も この生島は近よらざりけり (昭和八・一二・一三旧一〇・二六於大阪分院蒼雲閣加藤明子謹録) |