| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 22 言霊別命の奇策 | 第二二章言霊別命の奇策〔七二〕 言霊別命は何ゆゑかこの遭難を後にみて、一目散に左の大道を進み、美濃彦の住める紅館にいたり、元照彦とともに種々の計画をたて、万一に備へたのである。小島別以下の神司は竜世姫の急病に心をとられ、言霊別命の影を失ひしに心付かず、種々手をつくして看護した。されど容易に竜世姫の病は癒えずして、多くの時を費やした。 このとき小島別は狼狽のあまり、傍の深き谷間に転落して腰を打ち、谷底にて悲鳴を上げてゐた。一方竜世姫には松代姫看護の任にあたり、竹島彦は谷間に下りて、小島別の看護に尽してゐた。竜世姫はますます苦悶を訴へた。 竹島彦は小島別をやうやく背に負ひて谷を這ひのぼり、ここにふたりの病神に手を曳かれ栃麺棒をふつてゐた。そのとき竜世姫は掌を翻したごとくに病気全快し、大声を出して笑ひだした。 小島別は顔をしかめ、苦痛を訴へてゐたが、種々看護の末やうやく杖を力に歩行しうるやうになつた。ここにはじめて言霊別命の影を失ひしに驚き、竹島彦は大声を発して、「オーイ、オーイ」と呼ばはつた。その声は木精にひびき、山嶽も崩るるばかりであつた。されど言霊別命の声は梨の礫の何の音沙汰もなかつた。 小島別はよろめきつつ杖を力になめくじりの江戸行のごとく、遅々としてはかどらぬのである。にはかに従者に命じ、輿にかつがして行くことになつたが、やがて二股の岐路にさしかかつた。このとき、一行は、言霊別命はいづれの路をとりしやと、しばし思案にくれてゐた。 竜世姫は右の道をとれと勧めてやまなかつた。されど一行は途方にくれていた。 衆議の結果、竹島彦、松代姫は右の道をとつたが、小島別、竜世姫は左道をとつて美濃彦の館の前を何気なく通過した。 言霊別命は小島別の輿をやり過ごして、悠々として協議をとげ、元照彦、美濃彦に策を授け、やがて後より「オーイ、オーイ」と大声を上げて、小島別の輿を呼びとめた。 小島別は輿より這ひいで、 『命はいづれにありしぞ。竜世姫の重病を見捨て、吾らを捨てて自由行動をとられしは、実に不深切にして無道のきはみならずや』 と、腰を押さへながら詰問した。 言霊別命は打ち笑つて、 『竜世姫は平素慢心強し、重病に罹るごときは当然なり。望むらくは途上に倒れ死し、鳥獣の餌食となるべきものなり。しかるに憎まれ児世に羽張るとの譬のとほり、まだ頑強に生ながらへゐたるは不思議なり』 と口をきはめて罵つた。 小島別は言霊別命、竜世姫の心中を知らず、躍起となつて憤り、 『極悪無道の言霊別命、吾いま天に代つて誅伐せむ。泣面かはくな[※「かはく」(かわく)は「する」を罵って言う言葉。広辞苑によると『(「する」をののしっていう語) …しやがる。浄、丹波与作待夜の小室節「盗み―・くは何奴ぢやい」』。]』 と起き上つた。その一刹那に小島別の腰の痛みはたちまち癒え、言霊別命は路上にたふれて、絶息してしまうたのである。小島別は、 『神明恐るべし。罰は覿面なり』 と手を拍つて天に感謝した。 竜世姫はただちに言霊別命を看護した。このとき小島別怒つて曰く、 『彼は命の野倒れ死を希ひし悪逆無道の神なり。何の義務あつて、仇敵を介抱したまふや』 と詰つた。竜世姫は容をあらため、威儀を正し、 『至仁至愛の神慮は汝らのたうてい窺知すべきところに非ず。汝の言こそ実に悪魔の囁きなり。すみやかに悔改め、言霊別命に陳謝し奉れ。しからざれば妾はこれより竜宮城にたち帰り、汝が不信の罪を稚桜姫命に奏上し奉らむ』 と厳しく戒めた。 小島別は大地に平伏し、平蜘蛛のごとくなつて自分の過去を陳謝した。路上に倒れし言霊別命は決して病を発して倒れたのではなかつた。小島別をして自分を輿にのせて舁つぎ行かしめむための奇策であつた。 小島別は竜世姫の厳命により、あまたの輿舁の神あるにかかはらず自ら輿舁となり、不精々々に、あたかも屠所に曳かるる羊のごとく、足並もあまり面白からず進むのであつた。 行くことややしばしにして左右両岐路の出会路にさしかかつた。右の道をたどりし竹島彦、松代姫もここに来り、たがひに無事の会合を祝した。 このとき竜世姫は竹島彦にむかひ、 『吾が厳命なり。汝は後棒となり、この輿を舁ぎて命を常世姫のもとに送り奉れ』 と命令した。竹島彦は心中おだやかならず。されど竜世姫の命を拒むに由なく、つひに輿を舁ぐこととなつた。輿を舁ぎしふたりはとみれば、実に三宝荒神が、竈の上の不動を燃え杭でくらはしたやうな不足相な顔付であつた。 (大正一〇・一一・一旧一〇・二谷口正治録) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 36 唖者の叫び | 第三六章唖者の叫び〔一三六〕 道彦は南高山の城塞を脱出し、白狐の高倉に守られて何処ともなく、足にまかして漂泊の旅をつづけたりしが、高倉は道彦の先に立ちて導きゆきぬ。 八島姫は道彦の後を慕ひて、見えつ隠れつ従ひゆく。されど道彦は八島姫の後より呼びとどめる声を、聾者の真似をなして少しも聞えぬふりを装ひ、ドンドンと進みて行く。無論偽唖者となりし身は一言も発せざりける。八島姫はかよわき足にて、けはしき山坂を幾つともなく、昼夜を分たず跋渉せし疲労によりて、ほとんど息も絶えだえに苦しみけるが、やうやくにして長高山の麓を流るる深き谷川のほとりに着きぬ。道彦は白狐の跡を渡り、浅瀬を選びて向ふ岸にやつと到着し、後を振りかへり息を休めゐたりける。 このとき、八島姫は命からがら対岸まで追ひかけきたり、この谷川の絶壁に立ち、いかにして渡らむやと途方にくれながら、声をかぎりに道彦を呼びとめたり。道彦は表面素知らぬ顔はなしゐるものの、心の中には八島姫の心情を察知し、万斛の涙にむせびゐたるなりき。 されど神命もだしがたく、聾唖を装ひし身は一言の慰安も与ふるの自由を有せざりき。対岸の八島姫は、天を拝し地に伏し、慟哭やや久しうし、ここに決心の色を浮べてたちまち懐中より短刀を取り出し、天にむかつて合掌し、吾と吾が咽喉を突かむとする一刹那、道彦は思はず、 『しばらく待たれよ』 と呼ばはりぬ。姫は声をしぼつて、 『妾が一旦夫と定めたるは、天地の間に貴下を措きて他になし。生きて恋路の闇に苦しみ迷はむよりは、いつそ貴下の御目の前にて自殺を遂ぐるは、せめてもの心の慰めなり。かならず止めたまふな』 とまたも咽喉を突かむとする時、白狐はたちまち姿を現はし、八島姫の持てる短刀を力かぎりに打ち落したりしが、姫はその場にドツと倒れて失心の態なり。道彦はこの惨状を見るに忍びず、ふたたび谷川を渡りきたりて、谷水を口にふくませ種々介抱の結果、姫はやうやく蘇生するにいたりける。 姫はやうやう顔をあげ、涙をぬぐひながら道彦の手をかたく握りしめ、顔を赤らめ胸肩ともに波をうたせ、たださめざめと泣くばかりなり。道彦は親切にこれをいたはり、かつ我が身の大神より一大使命を拝し、偽つて聾唖となり痴呆となり、発狂者を装ひゐるその苦痛を逐一述べ立てたるに、八島姫ははじめて悟り、吾が身の不覚と無智を悔い、今までの怪しき心をあらため、何とぞ今後ともに神業に参加せしめよと、赤誠をこめて嘆願したりける。 道彦はただちに天にむかつて天津祝詞を奏上しけるに、たちまち天上より二柱の天使降りきたり、一柱は道彦にむかひ、一柱は八島姫にむかひ、各自に特種の使命を伝へ、固く口外することを禁じたまひぬ。この天使は天の高砂の宮にます国直姫命の使神なりき。ゆゑに道彦は八島姫の使命を知らず、八島姫はまた道彦の使命のいかなるかを知らざりける。しかし道彦には白狐高倉をしてこれを守護せしめ、八島姫には白狐旭をしてこれを守護せしめられたりける。 それより八島姫は、自己の美貌を楯に悪魔の巣窟に入りてすべての計略を探知し、道彦は力強の馬鹿となりすまして、悪神らの巣窟を探り、種々の陰謀を覚知して、これを国直姫命に詳細奏上することに努めたり。 道彦、八島姫は、個々別々に身を窶して長高山の城下に進みいりぬ。長高山は忠孝両全の誉高かりし清照彦、末世姫の二人が主将として守りゐたりけり。 しかるに、美しき花は風に散りやすく、良果は虫に侵されやすきがごとく、長高山は一時天国浄土の現出せしごとく天下泰平に治まり、風雨和順して神人鼓腹の楽しみに馴れ、あまたの神人は少しも治世の苦しみを知らざりける。常世姫の間者土熊別、鬼丸は善の仮面をかぶり長高山に現はれ、城内の神人らを絲竹管絃の楽みをもつて籠絡し、日夜茗醼にふけらしめたれば、長高山は天下泰平の波にただよひ、神人は下の苦しみを知らず、たがひに自己の逸楽栄達のみにふけり、難を避け安きにつき、天職責任を解せず、頤をもつて下民人を使役し、日をおふて驕慢心を増長せしめけり。上は日夜絲竹管絃のひびきに心魂をとろかし、酒池肉林の驕奢に魂を腐らし、宝を湯水のごとく濫費し、下級民人の惨苦を少しも思はざるにいたれり。これぞ常世姫の間者土熊別、鬼丸らの術中に陥らしめ、長高山を内部より崩潰せしめむとの奸策なりける。神人はつねに美女を座に侍らせ、長夜の遊楽に耽りゐたりけるが、あるとき土熊別は酒の酔をさますべく、城外にいでて散歩せるに、たちまち前方に容色ならぶものなき美人が現はれける。この美人は前述の八島姫なりける。 八島姫は、酔眼朦朧として唄を歌ひつつ進みくる土熊別の前にいたり、にはかに地上に俯伏して泣き苦しみはじめたり。土熊別はこれを見てただちに抱きおこし、 『貴女はいづれの女性にましますや。また何用ありてこの城下へ来たられしや』 と舌もまはらぬ言霊にて問ひかくれば、姫はただうつむきて泣くばかりなり。土熊別はもどかしがり、しきりに名を尋ねけるを、姫はただちに顔をあげ、涙をぬぐひながら、 『妾は天より降りたる旭姫といふ者なり。長高山には常に絲竹管絃の音絶えず、日夜面白き舞曲を演ぜらるると聞き、雲路を分けてひそかにその舞曲を見むと降りきたる折しも、烈風のために羽衣を破られて飛行自由ならず、突然地上に墜落して大腿骨を打ち、痛苦に堪へず苦しみをれるなり』 と真しやかに物語りければ、土熊別はやや右の肩をそばだて、首を左右に傾けながら、旭姫の顔を熟視ししばらくは無言のまま突つ立ちゐたり。このとき、旭姫はニタニタと笑ひはじめたり。しかして姫は、 『あゝありがたし、妾の苦痛は全く癒えたり』 と言ひながらすつくと立あがり数十歩円をゑがいて軽々しく歩行して見せたるに、土熊別は手を拍ちて喜び、ただちに姫の手をたづさへ城内の酒宴の場に導きける。あまたの美人は宴席にあれども、旭姫の容色端麗にしてその風采の優雅なるにおよぶ者なかりける。ほとンど姫は万緑叢中紅一点の観あるにぞ、神人らは手を拍つて喜びあいにける。 ここに旭姫は神司らの請ひをいれ、天女の舞ひを演ずることとなりぬ。拍手喝采の声は城の内外に轟きわたりける。 (大正一〇・一二・六旧一一・八桜井重雄録) (第三六章昭和一〇・一・一八於延岡市王仁校正) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 44 可賀天下 | 第四四章可賀天下〔一四四〕 大八洲彦命以下天使の聖地退去ののちは、国治立命の奏請により、天上より高照姫命を降したまひて、これを地の高天原の宰相神に任じ、天使長の聖職に就かしめ、真澄姫、言霊姫、竜世姫をして天使の聖職につかしめたまひぬ。ここに女神司四柱相並びて神務と神政に奉仕することとなり、神々の心気を新にすることを得たりけり。 一たん常世彦の威力に圧せられ、八王聯盟に加はりゐたる諸天使は、八頭神を引連れ八王大神に背きてふたたび高照姫命の幕下となり、前非を悔い、ここに目出度く帰順することとなり、聖地の神政はまつたく復活することを得たりき。天使長高照姫命は国治立命の神命を奉じ、八王八頭を率ゐて、天地の律法をあまねく地上の世界に宣伝し、一時は飛ぶ鳥もおとすばかりの大勢力にして、世界の各山各所には天津祝詞の声充満し、神人動植物はことごとくその堵に安んじ、実に天下は泰平に治まり、邪神はおのおの影をひそめ国土安穏にして、天日いよいよ照り輝き、月光澄みわたり蒼空一点の妖気なく、実に完全無欠の神世を現出せしめたれば、世界の神人こぞつて可賀天下と賞揚するの聖代とはなりける。 竜宮城に雲をしのぎて聳立せる、三重の金殿より顕国の御玉の神霊発動して、唸りを発し、ときどき不可思議なる光輝を発射して邪悪神の面を照らしたまへば、地の高天原の聖地も竜宮城の聖城も、日ましに神威霊徳くははり、金色の鴉、銀色の神鳩嬉々として中空に舞ひ遊び、天男天女はつねに四辺を囲繞して太平の音楽を奏し、五風十雨順をたがへず、禾穀豊穣して神人その業を楽しみ、神界理想の黄金世界を現出するにいたり、遠近の邪神も静謐帰順をよそほひ、野心を深く包みて現実的暴動を慎み、天下一点の妖雲を見ざる瑞祥の世とはなりにける。これは万寿山に退去されし前天使長以下の日夜の専念的祈念の力によりて、その精霊体に活動をおこし、聖地聖域の霊徳を発輝したまひしが故なり。されど天使長高照姫命以下の三天使をはじめ神将神卒にいたるまで、須佐之男大神の昼夜の御守護の賜たることを少しも覚らず、天運の循環と、新天使以下の神務と神政の完全無欠にして、天地神明の神慮にかなひ奉れる結果ならむと、心おごりて、顕国の御玉の守護と、大八洲彦命以下の専心祈念の賜たることを忘却し、つひには女神司のあさはかにも驕慢心増長し、その結果は天地の律法まで軽視するにいたり、神徳日々に衰へ各所に不平不満の声おこり、漸次日を追ひ月を重ぬるとともに、可賀天下の神政を呪ふ神々勃発するの形勢を馴致したりける。 ここに一旦鉾をおさめ帰順をよそほひゐたる八王大神常世彦は、常世姫と再挙をくはだて、大国彦と計り、世界各所の八王八頭に、八頭八尾の大蛇の霊魂を憑依せしめ、その女神司には金毛九尾の悪狐の霊を憑依せしめ、部下の神司には六面八臂の邪鬼や眷属を憑依せしめて、俄に反逆心を発せしめたり。世界の神人はまたもや一時に起つて、地の高天原の神政に反抗的態度をあらはし、あまたの神人魔軍と変じて、八王大神指揮のもとに、まづ諸山の神軍を降し、勝に乗じて聖地にむかひ、天の磐船を数百千とも限りなく建造して天空を翔り、群をなして攻めよせ来りぬ。天使長高照姫命は周章狼狽の結果、神勅を請ふのいとまなく、ただちに数百隻の天の鳥船を造り、橄欖山より敵にむかつて攻入り、蒼空高く一大激戦を開始し、一勝一敗たがひに雌雄を争ひ、ふたたび聖地は紛乱の巷と化し去りにける。空中の戦ひは夜を日につぎほとンど一年有余を費やしたり。国祖国治立命はまたもや神勅を降し、 『天地の律法を遵奉し決して暴力をもつて戦ふべからず。大慈大悲の親心をもつて敵を言向和はせ、善一つの大道に教へ導くべし』 と厳命されたれども、高照姫命、真澄姫、言霊姫、竜世姫は、 『今日の場合かかる緩漫なる方法をもつて敵を改心せしめむとするは、実に無謀迂遠の策にして到底寸効なかるべし。いたづらに宋襄の仁を施しかへつて敵に乗ぜられ、噬臍の悔を後日にのこさむよりは、強暴にたいするに強暴をもつてし、我らの実力を示して敵を全滅せしめ、後難を絶つに如かず。いかに国祖の神命なればとて、危急存亡の場合、実力なき天地の律法をふりかざして、なんの効をか為さむや。神勅は、われらは努めて遵奉せざるべからずといへども、それは時と位置とに関して行ふべきものなり。急場の用に立つべきものにあらず』 と四柱の天使はきはめて強硬なる態度を持し、神勅を鼻の先にてあしらひゐたりけり。 時しも敵はますます進ンで聖地の上空に雲霞のごとく飛びきたり、天の三柱宮の上に火弾を無数に投げつけたれば、たちまち黒煙濛々として立ちのぼり、さしも荘厳を極めたるエルサレムの大神殿もたちまち烏有に帰したり。時しも火焔の中より巨大なる神将あらはれ、味方の鳥船にうち乗り敵の神将醜原別にむかつて衝突を試みたりければ、醜原別はもろくも打ち落され、火焔の中につつまれ苦悶の結果つひに焼死したりける。味方の神将神卒は手を打ちてよろこび、快哉を叫びしが、その声天地も動ぐばかりなり。言霊姫は又もや破軍の剣を抜放ち、敵の魔軍にむかつて前後左右に空中目がけて打ち振りしにぞ、宝剣の威徳ただちに現はれたまひて、敵の将卒は雨のごとく地上に落下し、あるひは火焔の中に墜落して黒焦となり滅亡したり。敵軍の将卒は不意を打たれて一敗地にまみれ、命からがら西天をかすめて遠く姿を没しける。東北の強風突如として吹きおこり聖地聖城を倒潰し、動植物の被害は目もあてられぬ悲惨なる光景となりければ、真澄姫、竜世姫はおほいに驚き、 『妾ら神勅違反の行動を執りたるを大神の赫怒したまひて、かくのごとく災害の頻発するならむ』 と、天地に拝跪して謝罪し天津祝詞を一生懸命に奏上したれども、東北の風はますます強烈となり、洪水氾濫してつひには竜宮城も水中に没せむとするに到れり。聖地聖城の神将神卒は、今さらのごとく一斉に天地に拝跪して救助を祈り神言を奏上したれども、天地の怒りは容易に解けず、祝詞を奏上すればするほど風勢は刻々に猛烈の度をくはへ、雨はいよいよ繁く降りきたり、雷鳴は天柱くじけ、地維裂くるかと疑ふばかりの大音響すさまじく轟きわたり、電光ひらめきわたりて眼を開くあたはず、神人らの面色は土色と変じ、息をこらして地上に平伏するのみなりける。 (大正一〇・一二・八旧一一・一〇栗原七蔵録) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 45 猿猴と渋柿 | 第四五章猿猴と渋柿〔一四五〕 天使長高照姫命以下の女天使は、天地の激怒に狼狽し、ほとンど為すところを知らず、部下の神司らは残らず驚きのあまり右往左往に逃げまはり、或ひはつまづき或ひは失神し、とかげの欠伸したるごとき怪しき顔にて呆れ仰天するもあり、石亀の酒壺におちいりて溺れし時のごとき顔付にて、じつに見るも滑稽至極のいたりなりける。 雷鳴は容易にやまざるのみならず、ますます激烈に鳴りとどろき、東北の強風しきりに吹き荒み、暗雲天地に閉してすさまじく、常夜の暗のごとく神人戦慄し、禽獣虫族にいたるまで、いづれも地に俯伏して息をも発せざるの惨状を現出したるぞ畏こけれ。また四柱の女天使は自我心もつとも強くして、神命さへも抗拒し律法を破りたれば、天地の大神の怒りに触れ、かかる混乱状態に陥りたるぞ是非なき次第なりけり。 待ちまうけたる常世姫の部下、国照姫、杵築姫は、平素の願望を成就するはこの時を逸すべからずとし、国治立命の奥殿に参向し、高照姫命以下の女天使らの神勅を無視し、律法に違反せる罪科を詳細に陳述し、すみやかに四柱の女天使の職を免じ、聖地聖城を追放されたしと進言したり。神明に依怙なし、大神は天地の律法に対し、情に訴へて四天使を赦すわけにもゆかず、つひに涙をのンで四人の聖職を免じ、かつ四人に対し、改心のためとてエデンの園に籠居を厳命したまひける。 四天使は神命と律法にたいしては抗弁するの余地なく、唯々として厳命を拝受し、命のまにまにエデンの園に籠居の憂目を味はふの止むなきに立いたりけり。 四天使の追放とともに、さしも激烈なりし雷鳴も、凄じかりし電火も、烈風強雨も、たちまち鎮まりて清澄なる天地と化し、宇宙は夢の醒めたるごとき光景となりにける。 エデンの園は、東北西の三方青山をもつて囲まれ、南方のみ広く展開して一条の大川清く流れ、自然の城壁を造られあり。四人はこの一定の場所に押込められ、草木の実を食用に供しつつ楽からぬ光陰を送りけり。 エデンの園は、かつて邪神の棟梁竹熊の割拠せし所にして、鬼熊のために占領せられしが、鬼熊、鬼姫の没落後まつたく竜宮城の管下になりゐたりしところなり。 因に、高照姫命は金勝要の神の和魂であり、 真澄姫命は幸魂であり、 言霊姫命は荒魂であり、 竜世姫命は奇魂である。 今まで四魂合一して、神業に奉仕されつつありしが、自我心の強烈なりしために、聖地聖城を追放され、さびしき配所の月に心を慰め、時を待ちたまふの止むをえざるに立いたりしは実に残念のいたりなりける。これについても慎むべきは、自我心と驕慢心なれ。神諭の各所に、 『金勝要之神もあまり自我心が強かつたゆゑに、狭い処へ押込められなさつたぞよ』 とあるも、この消息を漏らされたるなり。 しかるに金勝要の神は、一旦大地神界の根神とまでなりたまひしに、自我心の頑強なりしため、エデンの園に押こめられ、なほも自我を頑強に張りしため、つひには地底の醜めき穢なき国に墜落し、三千年の辛苦をなめたまふに至りしなり。 美山彦、国照姫の一派は、時運の到来をよろこびつつ、かならずや後継の天使長は、常世彦に新任され、自分らの一派は天使の聖職を命ぜらるるものと期待し、肩を怒らし鼻をうごめかし、得意頂点に達し、その吉報を今か、いまかと指をり数へて楽しみ待ちゐたりける。 しかるに豈計らむや、後継の神司は常世彦一派に下らずして、天上より降りきたれる金神の首領なる沢田彦命の一派に降りける。沢田彦命は一名大将軍と諸神将より賞揚されつつありし英雄神におはせり。 常世彦の一派は、案に相違し、猿猴が渋柿を口一杯に含みしごとく、頬をふくらせ渋面を造りながら、悄然として引下がりたるその状、見るも気の毒なる次第なりける。 ここに国治立命は沢田彦命を天使長に任じ、妻沢田姫命を輔佐神司となし、真心彦を天使に任じ、妻の事足姫をして神務を輔佐せしめたまひける。 また沢田彦命の従臣に、八雲彦、八雲姫の夫婦ありしが抜擢されて用ひられ、また真心彦には国比古、国比女の夫婦および百照彦を従臣として奉仕せしめられたり。 百照彦は、真心彦のもつとも寵愛深かりし者にして、真心彦は霜の朝、月の夕に無聊を晴らすためと、百照彦を居室に招き、種々の面白き物語を聞きて心の労を慰めゐたり。百照彦は、いかにして主の心労を慰安せむかと常に焦慮しゐたれども、主の機嫌とるべき物語も、もはや種絶れとなりにける。 いかにせば良からむやと我が居間に端座し、双手を組みて吐息をもらし、思案に沈みてゐたるを、妻なる春子姫は夫の近ごろの様子をうかがひ、夫には何か一大事の出来し、それがために朝夕苦慮をめぐらしたまふならむかと、心も心ならず、思ひきりて夫にむかひ言ふやう、 『近ごろの夫の様子を伺ひまつるに、よほど御心痛のていに見受けたてまつる。天地の間にかけがへなき水ももらさぬ夫婦のあひだに、なにの遠慮懸念のあるべきぞ、苦楽を共にすべき偕老同穴の契を結びたる妻に、心の苦衷を隠したまふは、実に冷酷無慈悲の御仕打ち、妾はこれを恨みまつる』 と涙片手に口説き立つれば、百照彦はやうやく口を開き、 『吾は主の仁慈と恩徳の深きに昼夜感謝の念を断たず。しかるに主真心彦は神務の繁忙に心身を疲労し、日をおひて身体やつれ弱らせたまふを見るにつけ、従臣の身として、これを対岸の火災視するあたはず、いかにもして主の御心を慰め奉らむと日々御側に侍し、神務の閑暇には面白き四方山の物語を御聞に達し、御心を幾分か慰め奉りきたりしに、もはや吾はめづらしき物語もつきたれば、今後はいかにして御心を慰め奉らむと、とつおいつ思案にくるるなり』 と語りて太き吐息をつく。春子姫は何事か期するところあるもののごとく、夫にむかひ笑顔をたたへ見せゐたりけり。 (大正一〇・一二・九旧一一・一一加藤明子録) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 46 探湯の神事 | 第四六章探湯の神事〔一四六〕 百照彦は黙然として春子姫の面色を打見やりつつありしが、たちまち膝を前めて、 『汝の愉快にみちしその容貌、たしかに妙案あらむ、はやく吾がためにその妙案を物語れよ』 と顔色に光をあらはし勢よく問ひければ、春子姫はこたへていふ、 『妾は元来芸無し猿の不束者なれども、ここに一つの隠れたる芸能あり。そは天人の舞曲にして、天上において諸神の讃歎やまざりし、妾が独特の芸能なり。妾もし夫の許しを得ば、夫とともに真心彦の御前において一曲を演じまつらば、かならず歓ばせたまはむ』 と得意満面にあふれて勇ましげに言ふ。百照彦はおほいに驚きて、 『アヽ汝は何時のまにか、かかる芸能を覚えたるか』 と尋ぬれば、春子姫は、 『妾は貴下のもとに娶らるるまで、高天原の神殿に奉仕し、日夜舞曲を奏し、神歌をうたひ、大神の神慮を慰め奉る聖職に奉仕せしが、その技はつひに神に入り、妙に達して、天上における第一位の芸能者として、もてはやされしが、このたび地の高天原の改革につき、貴下は真心彦とともに赴任さるるに際し、大神の命によりて貴下の妻と定められたり。されど、貴下は大神の御心のあるところを毫も知りたまはず、ただ単に自ら選びて妾を妻に娶りしごとく思召したまへども、夫婦の縁は決して独自の意志のごとくになるべきものに非ず。いづれも大神の御許しありての上の神議りのことなれば、夫婦の道は決して軽忽に附すべきものにあらず。いづれも皆夫婦たるべき霊魂の因縁ありて、神界より授けらるるものなり』 と天地の因果を説き示し、夫婦の道は神聖にして犯すべからざる理由を諄々として説き立たり。 百照彦は初めて妻の素性を知り、かつ神律の重ンずべきを深く感得したりしが、百照彦はさらに妻にむかひ、 『汝はさほどの芸能を有しながら、現在夫たる吾に今日まで何故に告げざりしや』 と怪しみ問ふを、春子姫はこたへて、 『妾は貴下の妻となりし上は、妻たるの務めを全うせば足る。いたづらに芸能に驕り慢心に長じ、つひには夫を眼下に見下すごときことありては、天地の律法を破る大罪なれば、夢にも芸能を鼻にかけ不貞の妻と笑はるるなかれとの、父母の固き教訓なれば、今日まで何事もつつしみて、一度も口外せざりし次第なれども、今日夫の辛労を傍観するに忍びず、この時こそは妾が得意の芸能を輝かし、夫を輔佐し奉らむと決意したる次第なり。諺にも芸は身を助くるとかや、妾の身は何れになるも問ふところにあらざれども、現在の大切なる夫の神業を助け、なほ殊恩ある主の御神慮を慰め奉ることを得ば、妾が鍛錬したる芸能の功も、はじめて光を発するものなれば、女性の差出口、夫にたいして僣越至極の所為とは存じながら、夫を思ふ一念にかられて、はづかしながら妾の隠し芸を知れることをふと申上げたるなり』 と夫の前に両手をつき、敬虔の態度をあらはし物語りたり。 ここに百照彦は妻を伴なひ、主真心彦の館に参向し、春子姫の芸能のすぐれたることを進言したりけるに、命はたちまち顔色をやはらげ、さも愉快気に、 『天地神明の神慮を慰め、万物を歓ばしむるの道は歌舞音楽に如くものはなし。幸ひにも春子姫芸術に妙をえたるは何よりの重宝なり。一度吾がために一曲を演ぜよ』 と言葉もいそいそと所望したりける。 百照彦は主の愉快さうなる顔色を見て、やつと安堵せしものの如く胸をなでて笑声を作りける。 春子姫は、会心の笑みをもらしながら、舞衣に着替へ長袖しとやかに舞ひはじめしが、実に春子姫の言へるごとく、その技、妙に達し神に入り、天地神明の嘉賞したまふも当然なるべしと、真心彦をはじめ百照彦もただ感にうたれて恍惚たる有様なりける。その妙技の非凡なるを伝へ聞きて、大将軍沢田彦命まで臨席せられ、真心彦にむかひて、 『貴下は実に良き従臣を持たせらる。吾は羨望の念にたへず』 と言ひながら、その妙技に首を傾けて観覧したまひける。百照彦、春子姫はおほいに面目を施し、主の賞詞をうれしく拝受して厚く礼を述べ、吾が館に帰りただちに神前に神酒を奉献して、感謝の祝詞を奏上したりける。 それより天使真心彦は、春子姫の舞曲の優雅なると、その神格の高尚なるとに心をとろかし、一にも春子姫の舞曲、二にも姫の音調と、事あるごとに二人を招き酒宴をもよほし、つひには神務を捨てて絲竹管絃の道にのみ耽溺し、真心彦と春子姫の間に面白からぬ風評さへ立つにいたりける。 真心彦は元来仁慈の念ふかく、かつ多情多感の神司なりけり。それゆゑ外部の風評を耳にするや、春子姫にたいする同情の念は日をおうて昂まり、悪しき風評はますます油の浸潤するがごとき勢にて内外に拡まりにけり。 このことたちまち国治立命の耳に入りたるより、命はただちに真心彦を召しだして厳しく不義の行為の有無を詰問されたりしが、真心彦は首を左右にふり、 『吾いやしくも聖地の重神司として、天使の職を忝なうし、天地の律法を宣伝すべき聖職にあり。いかでか斯かる忌はしき行為を敢てせむや。天津神国津神も、吾が心身の潔白を照鑑ありて、わが着せられし濡衣を干させたまへ』 と一心不乱に祈願を凝らしたり。そのとき春子姫は突然身体激動して憑神状態となりぬ。これは稚桜姫命の降臨なりける。命は教へ諭していはく、 『よろしく探湯の神事をおこなひ、その虚実を試みよ。神界にてはこの正邪と虚実は判明せり。されど地上の諸神人は、疑惑の念深くして心魂濁りをれば、容易に疑ひを晴らすの道なし。ゆゑに探湯の神事を行なひ、もつて身の疑ひをはらすべし。正しきものは、神徳を与へてこれを保護すべければ、いかなる熱湯の中に手を投ずるとも、少しの火傷をもなさざるべし。これに反して、汚れたる行為ありし時は、たちまちにして手に大火傷をなし、汝の手はただちに破れただれて大苦痛を覚ゆべし』 と宣示されたり。 真心彦は、喜びて頓首したまひ、ただちに探湯の神事に取かかりけり。八百万の神人はその虚実を試すべく探湯の斎場に垣をつくり片唾をのンで見ゐたりしが、沸きかへる熱湯の中に、怖ぢず臆せず、真心彦は天津神国津神にむかつて祈願し、泰然自若として手を浸し入れたり。つづいて春子姫も同じく手を浸し、久しきにわたるといへども、二人ともに何の火傷もなく、ここに二人の疑ひはまつたく払拭されにける。二人は天地にむかいて神恩の有難きを謝し、慟哭やや久しうしぬ。八百万の神人は一斉に手をうつて、二人の潔白を賞讃したりける。国治立命は、二人の清浄無垢の心性を賞し、かつ種々のありがたき言葉を賜ひ、かつ今後は神祭のほか断じて舞曲に耽溺し、絲竹管絃にのみ心を奪はれ、神務を忘却するごとき不心得あるべからず、と厳しく教へ諭したまひ、悠然として奥殿に入らせたまひける。 真心彦は大いに愧ぢ、 『我は大いに過てり。我が悪しき風評の高まりたるは、わが不徳の致すところなり。聖地の重臣として、いかで他人に臨み得むや』 と直ちに国治立命の御前にいたり、天使の聖職を弊履を捨つるがごとく辞したりにけり。 (大正一〇・一二・九旧一一・一一外山豊二録) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 47 夫婦の大道 | 第四七章夫婦の大道〔一四七〕 真心彦は職を辞し、固く門戸を閉ざして他人との接見を断ち、謹慎の意を表しつつありしが、つひにはその精神に異状を呈し、一間に入りて、ひそかに短刀を抜きはなち、 『惟神霊幸倍坐世』 と神語を唱へ自刃して帰幽したりける。妻事足姫をはじめ、長子広宗彦、次子行成彦の悲歎と驚きはたとふるにものなく、七日七夜は蚊の泣くごとくなりけり。八百万の神人も涙の雨に袖をしぼらぬはなく、同情の念はことごとく清廉潔白なる真心彦の御魂に集まりぬ。八百万の神人は命の生前の勲功を賞揚し、長子広宗彦をして、父の後を襲ぐべく神司らは一致して、国治立命に願ひ出でたり。 ここに広宗彦は仁慈をもつて下万民に臨みければ、神界現界は実に無事泰平に治まり、したがつて国治立命の神世を謳歌する声は六合に轟きわたりたり。国治立命をはじめ、地の高天原の神人の威勢は旭日昇天のごとく隆々として四海を圧するにいたり、開闢以来かくのごとくよく治まりし神世は空前絶後の聖代と称せられける。要するに、清廉にして無欲、かつ仁慈深き真心彦の血を享け継ぎたる広宗彦の経綸よろしきを得たる結果なるべし。 ここに真心彦の未亡人なる事足姫は、夫の心を察せず、数年を経てつひに夫の恩徳を忘れ、春永彦といふ後の夫をもち、夫婦のあひだに桃上彦といふ一柱の男子を生みけり。桃上彦はまた仁慈ふかく下の神人をあはれみ、かつ上にたいして忠実至誠の実をあげ、衆の評判も非常に好かりけるより、兄の広宗彦はおほいに歓び、自分の副役として神務を輔佐せしめたり。 然るに星移り月を閲するにしたがひ、最初きはめて善良なる性質の桃上彦も、つひに常世国の魔神にその心魂を誑惑せられ、漸次悪化邪遷して体主霊従の行動をなし、上位の命を奉ぜず、他神人の迷惑も心頭におかず、自己本位を旨とし、驕慢心日々に増長して、つひには兄の地位を奪ひ、みづから天使の位置に昇り、神政の全権を掌握せむと計り、ひたすら下万民の望みを一身に集中することのみに砕心焦慮したりけり。それゆゑ下万民の桃上彦にたいする勢望は一時は非常なるものにてありき。つひに桃上彦は兄を排斥し、みづからその地位につき仁政を世界に布き、大いに神政のために心身を傾注しける。下々の神人も最初はその仁政を口をきはめて謳歌しつつありしが、つひにはその恩になれて余りに有りがたく思はざるにいたり、放縦安逸の生活をのみ企て、天地の律法をもつて無用の長物と貶するにいたり、聖地の重なる神司も侍者も漸次聖地を離れて四方に各自思ひおもひの方面に散乱したり。而して桃上彦にむかいて忠告を与ふる神人あらば怒つてこれを排除し、かつ罪におとしいれ、乱暴狼藉いたらざるなく、瞬くうちに聖地は冬の木草のごとき荒涼たる状況となり了りける。これぞ常世彦、常世姫があまたの邪神を使役して、神政を紊乱せしめ、国治立命を漸次排除する前提として、大樹を伐らむとせば先づその枝を伐るの戦法を用ゐたるゆゑなり。国治立命は枝葉をきられた大樹のごとく、手足をもぎとられし蟹のごとく、二進も三進もならざるやうに仕むけられたまひて、神の権威はまつたく地に落ちにける。これぞ体主霊従の大原因となり、天地の律法は根底より破壊さるるの状態を馴致したるなりき。 事足姫は、空閨の淋しさに忍びきれず、婦女のもつとも大切なる貞節を破り、後の夫をもちて夫の霊にたいし無礼を加へたるごとき、体主霊従の精神より生れいでたる桃上彦なりければ、最初の間はきはめて身、魂ともに円満清朗にして、申分なき至誠の神人なりしかども、母の天則を破りたる、不貞の水火の凝結したる胎内を借りて出生したる結果、つひにはその本性あらはれ、放縦驕慢の精神萠芽せむとする、その間隙に乗じて邪神の容器と不知不識のあひだに化りかはり、つひには分外の大野心をおこし、あたら大神の苦辛して修理固成されたる天地の大経綸を、根底より破滅顛覆せしむるにいたりける。神諭に、 『世の乱れる原因は、夫婦の道からであるぞよ』 と示されあるごとく、夫婦の道ほど大切なもの又と外になかるべし。国家を亡ぼすも、一家を破るも、一身を害ふも、みな天地の律法に定められたる夫婦の大道を踏みあやまるよりきたるところの災なり。神界の神々は申すもさらなり、地上の人類は神に次ぐところの結構なる身魂なるを知りて、第一に夫婦の関係に注意すべきものなり。 かくのごとく事足姫の脱線的不倫の行為より、ひいてはその児の精神に大なる影響をおよぼし、つひには神界も混乱紛糾の極に達し、現界の人類にいたるまで、この罪悪に感染し、現代のごとく邪悪無道の社会を現出するに立いたりたるなり。 これを思へば神人ともに、体主霊従の心行を改め、根本より身魂の立替立直しに全力をささげ、霊主体従の天授の大精神に立かへり、神の御子たるの天職を奉仕し、毫末といへども体主霊従に堕するがごときことなきやう、たがひに慎み、天地の律法を堅く守らざるべからざるを強く深く感ずる次第なり。 天地の律法を破りて、自由行動を取りたる二神人の子と生れたる桃上彦が、大なる野心を起しその目的を達せむため、下の神人にたいして人望を買はむとし、八方美人主義を発揮したるために、かへつて下々の神人より軽侮せられ、愚弄され、綱紀は弛緩し、上の命ずるところ下これを用ゐざる不規則きはまる社会を現出せしめたるなり。神界にては桃上彦を大曲津神と呼ばるるにいたりける。神諭に、 『慢神と誤解と夫婦の道と欲ほど恐いものは無い』 と示されたるとほり、桃上彦の失敗を処世上の手本として、神人ともに日々の行動を慎み、天授の精魂を汚さざるやう努力せざるべからず。また桃上彦は八十猛彦、百猛彦を殊のほか寵愛し、両人を頤使してますます野心をたくましうし、神政をもち荒したる結果は、現界にもその影響波及し、持ちも降しもならぬ澆季の世を招来したりしなり。 (大正一〇・一二・九旧一一・一一谷村真友録) (第四四章~第四七章昭和一〇・一・一八於宮崎市神田橋旅館王仁校正) |
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霊界物語 | 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 | 22 窮策の替玉 | 第二二章窮策の替玉〔一七二〕 いかなる美事善事といへども、天地根本の大神の御許容なきときは、完全に何の事業といへども、成功すること不可能なり。世界の一切はすべて神の意志のままにして、神は宇宙一切をして至美至善の境界に転回せしめむとするが第一の理想にして、かつ生命なり。ゆゑに如何なる善なる事業といへども、第一に神明を祭り、神明の許諾を得て着手せざれば、その善も神をして悦ばしむることを得ず。つまり神の眼よりは、自由行動の所為と見られ、かつ宇宙の大本たる神明の尊厳を犯すものとなるがゆゑなり。いはンや、心中大なる野心を包蔵し、天下の神人を籠絡したる八王大神、および、大自在天一派の今回の常世会議における、紛糾混乱怪事百出するなどは、国祖の神の大御心に叶はざりし確なる證拠なるべし。これを思へば人間はいかなる善事をなすも、まづ神の許しを受けて、至誠至実の心をもつて熱心にとりかからざるべからざるものなり。 ある信徒の中には、抜けがけの功名を夢み、神のため道のため、非常なる努力をはらひ九分九厘の域に達したるとき、その誠意は貫徹せずしてガラリとはづれることあり。その時にいふ、吾々は神のため、道のため、最善の努力をつくすにもかかはらず、神はこれを保護したまはず。神は果してこの世にありや。一歩をゆづつて神が果してありとせば、無力無能理義を解せざるものと嘲罵し、あるひは恨み、つひには信仰より離るる者多し。しかしそれこそ大なる誤解慢心と云ふべし。神が人間をこの世に下したまへる目的は、何事も神の命のまにまに、天地の経綸に当らしめむが為なり。もし、神にして善事ならば自由行動をなしても差支なしとする時は、ここに宇宙一切の秩序を破壊するの端を開くことを忌みたまふが故なり。ゆゑに、一旦神に祈願し着手したることは、たとへその事が万一失敗に終るとも、ふたたび芽を吹き出し、立派に花咲き実る時期あるものなり。これに反して自己の意志よりはじめて失敗したることは、決して回復の時期はなきのみならず、神の怒りに触れて、つひには身を亡ぼす結果をきたすものなり。 八王大神はじめ、常世姫らの連日の献身的大活動も、最初に神の認可を得ず、加ふるに胸中に大野心を包蔵しての開催なれば、成功せざるは当然の理なり。しかして八王大神の壇上にて病気突発したるは、大江山の鬼武彦が、国祖の神命によつて、邪神の陰謀を根本的に破壊せむとしたる結果なり。八王大神の急病によりて、常世城の大奥は非常なる混雑を極め、そのためせつかくの会議も、一週間停会するのやむなきに立ちいたりぬ。八王八頭をはじめ、今回会議に集ひたる神人は、代るがはる八王大神の病気を伺ふべく、夜を日についで訪問したりしが、常世姫は代りてこれに応接し、一柱の神人もその病床に入ることを許さざりける。八王大神は、日に夜に幾回となく激烈なる吐瀉をはじめ、胸部、腹部の疼痛はげしく、苦悶の声は室外に漏れ聞へたり。かかる苦悶のうちにも、今回の大会議の成功せむことを夢寐にも忘れぬ執着心を持ちゐたるなり。大神の病は時々刻々に重るばかりにして、肉は落ち骨は立ち、ちようど田舎の破家のごとく骨の壁下地現はれ、バツチヤウ笠のごとく、骨と皮とに痩きり仕舞ひけり。 常世姫は、重なる神人を八王大神の枕頭に集めて協議を凝らしたり。常世姫はいかに雄弁なりといへども、この大会議をして目的を達せしむるには、少しく物足りなく、不安の感あり。どうしても八王大神の顔が議場に現はれねば、たうてい進行しがたき議場の形勢なりける。 ここに謀議の結果、八王大神と容貌、骨格、身長、態度、分厘の差もなき道彦に、八王大神の冠を戴かせ、正服を着用せしめて、身代りとすることの苦策を企てける。道彦は招かれて八王大神の病室に入りければ、常世姫は前述の結果を手真似で道彦に伝へけるに、道彦は嬉々として、ウーと一声、首を二三度も縦に振りて応諾の意を表しければ、神人らは道彦に衣冠束帯を着用せしめて見たるに、妻の常世姫さへも、そのあまりによく酷似せるに驚きにける。 (大正一〇・一二・二三旧一一・二五加藤明子録) |
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霊界物語 | 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 | 41 悪盛勝天 | 第四一章悪盛勝天〔一九一〕 ここに高月彦は天使長に任ぜられ、神界の神司の総統者となり、父の名を襲うて常世彦と改名したり。改名したるその理由とするところは、さきに二人の高月彦あらはれ、不祥事の続出せるを忌みたるが故なり。 また初花姫は同じく母の名を襲ひ常世姫と改名したりける。これまた初花姫に酷似せる邪神によりて、聖地および竜宮城の攪乱せられしを忌みての故なりける。 改名したる常世彦は、初めの中は天地の律法をよく厳守し、仁愛をもつて天下に臨み至治太平の安泰国を現出したるに、八頭八尾の大蛇の悪霊憑依してより神格俄に一変し、ここに体主霊従の行為をつづけ、大神の神慮を煩はし、かつ聖地の空気を一変せしめける。次にまた改名したる常世姫は兄と同じく、最初のうちは霊主体従の大道を遵守し、至仁至愛にして城内はあたかも春の日のごとく安泰によく治まりゐたりしに、彼女に憑依したる金毛九尾白面の悪狐は、時を経るにしたがひ、常世姫の身体を駆使して、言行日々に悪化し、ために聖地ヱルサレムの神政を攪乱するの端を開きたりける。 天使長常世彦にして、その行動かくのごとしとせば、その部下に仕ふる八王八頭もまた河川の上流濁りて下流濁るがごとく、八王八頭には八岐の大蛇なる八頭八尾の邪神の悪霊、その霊魂を千々に分ちてこれに憑依し、その妻には金毛九尾白面の悪狐の邪霊、その霊魂を分ちてこれに憑依し、つひに天下の神人をして大蛇悪狐の容器たらしめたりき。同じ悪霊の分派を受けたる、八王八頭その他は、その本霊の憑依せる常世彦の頤使に従ふは自然の道理なり。また悪狐の邪霊の分派たる悪霊の容器となりし八王八頭の妻らの挙つて、その本霊の憑依せる常世姫の頤使に甘ンずるは、これまた自然の理なり。ここに常世彦は八王八頭の協力一致の推薦によりて天使長の職名を廃し、八王大神と改称することとなり、その認許を国祖大神に奏言したるに、大神は八王大神の職名を附することを甚く嫌はせたまひける。そのゆゑは国祖の大神さへもその表面は神名を用ゐたまはず、たんに国治立命と称し給へるに、その部下に仕ふる天使長として僣越にも八王大神の名を附するは、天の大神に対して畏多く、かつ下、上を犯すの端を開くものと見なされたるが故なりき。 されど常世彦は、八百万の神人の協力一致の推薦を堅く主張し、多数の同意をもつて強ひて八王大神の名を降下されむことを強要して已まざりにける。 ここに国祖は、大宮殿の奥深く諸神司を集めて、八王大神の職号につき各自の意見を聴取されたるが、ここに神務長大八洲彦命は、ただちに立ちて言ひけらく、 『天に二日なく地に二王なきは、宇宙の大真理なり。いはンや国祖さへも、常に謙譲の徳を堅持したまひ、天にせぐくまり地にぬきあしして、深く上は天津神を敬ひ、下神人を敬愛したまふ。しかるに何ぞや、大神に至誠身をつくして奉仕すべき天使長たる者、我が天職を忘れ、驕慢心を起し、天下の諸神人を籠絡してこれに甘んじ、その職名の強要を申請するその心事の悪逆無道なる察するにあまりあり。希はくは国祖におかせられても天地の秩序を整ふるため、断じて御許容なきことを願ひ奉る』 と奏上されたり。他の神司は何の辞もなく、黙然として国祖の御言葉いかにと固唾を呑ンで控へゐたり。 ここに高照姫命は国祖の大神にむかひ、 『かれ常世彦はさきの高月彦時代の精忠無比の真心なく、いまは邪神のためにその精魂を魅せられ、悪逆無道の心性と悪化しつくせり。また常世姫も初花姫時代の崇敬の心は全く消え失せ、いまは常世の悪狐の霊に憑依され、奸佞邪智の女性と化し去れり。この際、大神にして万一彼らが願ひを聴許したまはば、悪狐はますます増長し、一歩を譲れば一歩を進みきたり、二歩を譲れば二歩を進みきたりて、その要求際限無かるべし。このさい断然として彼ら悪人の奸策におちいり給ふことなかれ』 と理非をつくして言上したりしが、国祖大神は首肯かせたまひ、ただちに二神司の言を容れて、常世彦にたいし、八王大神の職名を附することを許されざりけり。 それより常世彦の、国祖大神をはじめ大八洲彦命、高照姫命以下にたいする反抗の念は、ますます昂まりにける。 (大正一〇・一二・二八旧一一・三〇桜井重雄録) |
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霊界物語 | 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 | 20 猿蟹合戦 | 第二〇章猿蟹合戦〔二二〇〕 顕恩郷の南方なるエデン河の南岸にあたつて橙園郷といふ一大部落がある。この国の長を橙園王といふ。この数年、何ゆゑか霜雪しきりに降り積り、時々寒風吹ききたつて橙樹実らず、この郷の住民いづれも饑餓に迫り、ほとんど共喰ひの惨状であつた。これに引換へ、北岸の顕恩郷は、北に高山を繞らし、東西に低き山を囲ひ、気候は中和を得、果実豊熟して、郷神の食事は常に足り余りつつあつた。 対岸の橙園王はこの河を渡り、顕恩郷を占領せむことを造次にも顛沛にも忘れなかつた。されど顕恩郷は天上より降下したりてふ威力絶倫なる生神の親臨して固くこれを守り、かつ棒岩の鬼武彦の神霊、時に敵に向つて無上の神力を発揮し敵を艱ますとの風説を固く信じ恐れ、これが占領を躊躇しつつあつた。されど数多の住民の饑餓に迫りて苦しむを坐視するに忍びず、背に腹はかへられぬ場合となり、いちか、ばちか、一度占領を試みむと、住民を集めて協議の結果、夜陰にまぎれ、顕恩郷を襲ひ、自分らの安住所と定めむとした。 顕恩郷の神人はすべて蟹面をなせるに引きかへ、この郷の住民はいづれも猿猴のごとき容貌の持主であつた。さうして全身荒き毛を生じ、ほとんど猩々のごとく、言葉は単にアオウエイの五音をもつてたがひに意思を表示してゐたのである。 雨激しく風強く、雷鳴なり轟く夜を見すまし、大挙してエデンの大河を各手をつなぎながら打ち渡り、各自に棍棒を携へ、あるひは石塊をもち、顕恩郷に襲来した。夜中のこととてこの郷の神人らは一柱として、敵の襲来を感知するものはなかつた。橙園郷の住民は餓虎のごとく果実をむしり取り、飢ゑたる腹を膨らせ、元気はますます旺盛となつた。住民らは一所に集まつて議していふ、 『もはや吾々はかくのごとく元気回復したれば、強きこと鬼に金棒のごとし。いかに南天王の威力も、鬼武彦の神力も、何の恐るるところかあらむ、この期に乗じて南天王の宮殿を襲へ』 と橙園王は先に立つて鬨をつくつて進み寄せた。塒を離れて驚きさわぐ鶏の羽音に南天王は目を醒まし、耳をすまして殿外の声を聞きいつた。つひに聞き慣れぬ声であつて、ただウウ、エエとのみ聞ゆるのである。ただちに殿内の神人らを呼びおこし偵察せしめむとする時しも、橙園王は岩をもつて作りたる鋭利なる大刀を引提げ、奥殿目がけて阿修羅王の暴れたるごとく突進しきたり、南天王目がけて物をもいはず斬りつけたり。南天王はひらりと体をかはし、わづかに身をもつて山奥に免れ、棒岩の麓にいたつて強敵退散の祈願を籠めてゐた。さうして南天王は背部に重傷を負ひ、苦痛に悶えつつ岩下に打倒れた。春日姫はその後を追ひ、泣く泣く南天王に谷水を掬ひ来りて飲ましめ介抱をつくした。ウアーウアーの声はますます近く聞えてきた。鬼武彦の石像よりはたちまち怪しき光を発し、敵軍の群にむかつて放射した。敵はその光と強熱に堪へかねて、両手をもつて面部を覆ひ隠した、頭髪および全身の毛は、ぢりぢりと音して焼けるばかりになつた。いづれの敵人も残らず谷川に頭を突込み、臀部を上方に向け、あたかも尻を花立のやうにして、ぶるぶると震うてゐた。このとき尻は強熱に焼かれて赤色に変じてしまつた。顕恩郷の神人らは、たちまち得意の通力をもつて巨大なる蟹と変じ、谷川に倒さまになつて震うてゐる敵住民らの頭を左右の鋭利なる鋏にてはさみ切らむとした。中には頭を削られ、首をちぎられ、悲鳴をあげて泣く者もたくさんできた。橙園王は恐れて退却を命じた。いづれの人民も橙園王の指揮にしたがひ、命からがらエデンの河を渡つて橙園に逃れ帰らむとして河中に足を投ずるや、巨大なる蟹は水中にあまた集まりゐて、足を切りちぎつた。オーオーと声を張り上げて泣きながら、辛うじてその過半は無事に南岸に着き、その他は残らず滅ぼされてしまつた。これより橙園郷の住民は容易に顕恩郷に襲撃するの念を断つた。されど何時またもや襲来せむも計りがたしと、顕恩郷の神人らは安き心もなかつた。そして天津神の降臨と信任しゐたる南天王は、敵の橙園王に斬り立てられ、卑怯にも少しの抵抗をもなさず、背部に大負傷をなして石神のもとに逃げゆき戦慄しゐたるを見て、神人らは各自に心もとなく思ひ、かつ天神の天降りを疑ふやうになつてきた。 鷹住別の南天王は、かくのごとく脆くも橙園王のために敗を取り、日ごろの神力を発揮し得ざりしは、衣食住の安全を得たる上に、神人らの尊敬畏拝するにいつしか心をゆるめ、やや慢心を兆し、天地の神恩を忘却し、祭祀の道を忽諸に附したるがゆゑであつた。これより南天王は部下の神人らの信任を失ひ、やむを得ず夜陰に紛れ、夫婦は手に手をとつて遠く、夜な夜なかはる草枕、旅の苦労を重ねて、つひに元のモスコーに辛うじて逃げ帰ることを得た。 (大正一一・一・九旧大正一〇・一二・一二加藤明子録) |
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霊界物語 | 06_巳_大洪水/国生み神生み/三五教の誕生 | 38 黄金の宮 | 第三八章黄金の宮〔二八八〕 高彦天使は、雲掴の改心の情現れしより、一同の霊縛を、一イ二ウ三ツと唱へながら解いた。一同は一時に身体の自由を得、涙を流して各々柄物を大地に投げ捨て、宣伝使の前に群がり来りて跪きその無礼を陳謝し、雲掴は涙片手に逐一その真相を語りける。 『当山は貴下の知らるる如く、古より国治立命の命によりて黄金の玉を祭り、玉守彦、玉守姫の二神が、宮司として之を保護し奉りて居りました。さうして神澄彦が八王神となりて、当山一帯の地を御守護遊ばされ、吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]は神政を管掌されつつあつたのでありましたが、八王神の神澄彦様は、大洪水の前に、宣伝使となつて、聖地ヱルサレムへ御出になり、それからは吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]の独舞台となつてをりました。然るにこの度、常世彦の御子なるウラル彦が、アーメニヤの聖地に神都を開かれ、宣伝使を諸方に派遣され、先年その宣伝使たる鬼掴と云ふ力の強き使が、当山にきたりて吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]と談判の末、つひに吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]は鬼掴に降伏し、アーメニヤの神都に帰順された。そこでいよいよアーメニヤの神都に、黄金の国魂を祭るべく、黄金の宮をアーメニヤに遷される事となり、やがてウラル彦は、数多の供人を引き伴れ、当山へその玉を受取りに御出になるので、吾々は吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]の厳命によりて、山道の開鑿に昼夜間断なく従事してをりました。しかるに尊き貴下の御出になり、有難き神様の教を聞かして頂きましてより、どうやら私らの心の中に潜める大蛇の悪霊も逃げ出したやうで実に天地開明の心持となり、今迄の吾々の慢心誤解を省みれば、実に耻かしくつて穴でもあらば這入りたいやうな気が致します』 と真心を面に現はして述べたてにける。宣伝使は打ち首肯き、 『汝の詐らざる告白によつて、総ての疑団は氷解した。それに就いても当山の守護神吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]は今何処に在るぞ』 との尋ねに、雲掴は、 『ハイ、この頃は黄金の宮の御神体をアーメニヤに遷す準備のために、昼夜断食の行を為して居られます。然るに肝腎の宮司なる玉守彦天使は、この御宮をアーメニヤに遷すことは、御神慮に適はないと云つて、大変に反対をされて居るさうであります。肝腎の御宮守が御承知なければ、如何に当山の守護職なる吾妻彦命[※校正本では「吾妻別命」]も、どうする事も出来ず、さりとて一旦ウラル彦に約束なされた以上は、これを履行せなくてはならず、万々一今となつて違背される様な事があるとすれば、当山はウラル彦のために焼き亡ぼされるは火を睹るより明かなりと云ふので、玉守彦天使様の御承知が行く様にと、一方に準備すると共に、一方は断食の行をせられて居るのであります。私は実は雲掴と申して、賤しき人夫の頭領を致してをりますが、実際は吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]の補佐の神司で、雲別と申す者であります。それゆえ当山の事ならば、何事も詳しく存じて居りますが、今日のところ吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]は実に板挟みとなりて、苦しみ悶えて居られます。誠に見るも御気の毒の至りであります』 と顔色を曇らせ、吐息を吐きつつ述べ立つる。 高彦天使は、雲別に向つて、 『御心配はいりませぬ、当山の禍を救ふは、唯天津祝詞と言霊の力と、宣伝歌の功徳のみであります。また黄金の宮は決してアーメニヤには遷りませぬ。これは黄金山に遷せば宜しい。黄金山には仁慈無限の神様が現はれて、立派な教を立てられて居りますから、一時もはやく之を黄金山に遷し奉り、高天原に坐します神伊邪那岐命の御神政御守護の御魂とすべきものであります。それゆゑ吾々は当山に宣伝使となつて参りしなり』 と、初めて自分の使命を物語りける。この高彦天使は、後に天照大御神様が岩戸隠れを遊ばした時、岩屋戸の前で天津祝詞を奏上し玉ひし天児屋根命の前身なり。 是より雲別の案内にて山頂に登り、吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]、玉守彦天使に面会し、三五教の教理や伊邪那岐の大神の御神徳を詳細に説き示し、つひに吾妻彦[※校正本では「吾妻別」]は、伊邪那岐命に帰順し忠誠を擢ンでたりける。而して黄金の宮は、玉と共にヱルサレムの聖地に遷座さるる事となりにける。 (大正一一・一・二三旧大正一〇・一二・二六藤原勇造録) |
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霊界物語 | 06_巳_大洪水/国生み神生み/三五教の誕生 | 48 鈿女命 | 第四八章鈿女命〔二九八〕 一旦逃げ散つたる群集は、再び十字街頭に潮のごとく集まつて来た。さうして互ひに争論をはじめ、つひには撲り合ひ、組打の修羅場となつた。敵味方の区別なく、手当り放題に、打つ、蹴る、撲る、たちまち阿鼻叫喚地獄の巷と化し去りにける。 例の仁王は依然として、十字街頭に硬くなり佇立しをる。 一方元照別の従者は、声をかぎりに制止した。されど争闘はますます激しくなりぬ。 このとき女の宣伝使は、群集の中に蓑笠を脱ぎ捨て、花顔柳腰あたりに眼を欹てながら、悠々として長袖を振り、みづから謡ひつつ舞ひはじめける。 『羅馬の都の十字街押し寄せきたる人の浪 心も暗く身も暗き常夜の暗のウラル彦 ウラルの姫の曲事に相交こりて村肝の 心も曇る元暗の別らぬ命の誕生日 飲めよ騒げの宣伝歌一寸先は真の暗 暗の夜には鬼が出る鬼より恐い仁王さま 十字街頭に待ち受けて元暗別の素首を 抜くか抜かぬかそりや知らぬ知らぬが仏の市人は 元暗別に欺されて眉毛を読まれて尻ぬかれ 尻の締りはこの通り渋紙さまが現はれて 渋い顔して拳骨を固めて御座る恐ろしさ 殿さま恐いと強飯をこはごは炊いて泣面で おん目出目出たい御目出たい目玉の出るよな苦面して 血を吐く思ひの時鳥ホツと一息する間もあらず 現はれ出たる荒男その振り上げた拳骨に 荒肝とられてあら恐い荒肝とられてあら恐い 恐い恐いと言ひながら何が恐いか知つてるか 何程威勢が強くとも心の暗い元暗別の 醜の霊や仁王さまそれより恐いは踵の皮 まだまだ恐いものがある天地を造り日月を 造つて此世を守られる神の律法は厳しいぞ 律法を破れば其日から根底の国へと落されて 焦熱地獄や水地獄地獄の釜の焦おこし それも知らずに今の奴盲目ばかりが寄り合うて 飲めよ騒げと何のざま一寸先は火の車 廻る因果の報いにて羅馬の都は眼の当り 焼けて亡びて真の暗栄華の後には月が出る 月は月ぢやが息尽きぢやきよろつきまごつき嘘つきの 嘘で固めた羅馬城天津神より賜ひたる 元の心を研き上げ元照別の神司となり 三五教の神の法耳を浚へて聴くがよい お前の耳は木耳か海月の如く漂うた この人浪を何うするぞ浪打ち噪ぐ胸の中 さぞや無念であろ程に慢心するにも程がある 羅馬の都を輿に乗り吾物顔に練り歩く 貴様は脚はどうしたか虎狼や豺の 様な心で世の中が治まる道理は荒浪の 浪に漂ふ民草をどうして救ふ元暗の 別の判らぬ盲目神か弱き女人の吾なれど 天津御空の雲別けて降り来れる出雲姫 出雲の烏が啼くやうにうかうか聞くなよ聾神 盲目聾の世の中はなにほど立派な神言も どれほど尊い神さまの声も聞けよまい御姿も 見えはしまいが神様に貰うた身魂を光らして 元照別の天使となり昔の心に立復り 撞の御柱大御神天の御柱大御神 国の御柱大神の御前に詫びよ伏し拝め 元は尊き大神の分けの御魂と生れたる 元照別にはあらざるか甲斐ない浮世に永らへて 吾物顔に世の中を振れ舞ふお方の気が知れぬ ヤツトコドツコイ、ドツコイシヨヨイトサー、ヨイトサ ヨイヨイヨイのヨイトサツサ』 と節面白く、手つき怪しく踊り狂うた。 木綿の洗濯物に固糊を付けた様に、街頭に鯱張つて居た岩彦も、大の男も、この歌にとろかされて、何時のまにか菎蒻のやうに、ぐにやぐにやになつて了つて居た。 広道別天使は女宣伝使にむかひ、 『貴方は噂に聞く、出雲姫におはせしか。存ぜぬこととて、無礼の段御許しくだされませ』 と慇懃に挨拶した。 出雲姫は丁寧に挨拶を返す折しも、礼服を着用したる四五の役人らしき者、前に現はれ丁寧に辞儀をしながら、 役人『私は羅馬の城に仕へまつる端下役であります。今城主の命令により参りました。どうかこの駕籠に乗つて羅馬城へ御出張を願ひたい』 と頼み入つた。 元照別天使の輿は何故か、後へ一目散に引返して了つた。 この群集の中から現はれ、十字街頭に拳を固め、口を開いたなり強直してゐた大の男は、いよいよ改心して宣伝使となり、天の岩戸の前において手力男命と相並び、岩戸を開いた岩戸別神の前身である。 手力男神の又の名を、豊岩窓神といひ、岩戸別神の又の名を、櫛岩窓神と云ふのである。さうして今現はれた出雲姫は、岩戸の前に俳優をなし、神々の顎を解いた滑稽洒落の天宇受売命の前身である。 (大正一一・一・二四旧大正一〇・一二・二七井上留五郎録) |
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霊界物語 | 07_午_日の出神のアフリカ物語 | 26 アオウエイ | 第二六章アオウエイ〔三二六〕 小島別は尚も進むで宣伝歌を歌ふ。数多の人々は息を凝し一言一句その歌に胸を刺さるる如く、苦しみ呻き冷汗淋漓として雨の如く、滝の如くに流し、焦暑さと宣伝歌に責められて、頭はますますガンガンと痛み出したり。小島別は大喝一声、 小島別『赦す』 と声をかくれば、諸人はその声を聞くと共に頭痛はぴたりと止まり、忽ち各自は大地に両手を突き、犬突這となりて謝罪の意を表したりける。 小島別は眼を擦りながら、諄々として三五教の教理を説きければ、いづれの人々も感に打たれて恐れ入り、宣伝使の顔を穴のあくほど眺め入りぬ。このとき巌窟の奥より何とも云へぬ呻き声聞こえきたる。人々は耳を聳立て眼を見張り、期せずして巌窟の方に向き直れば、奥深き暗き巌窟の中より茫然として白き怪しき影が、蚊帳を透して見るが如くぼんやりと現はれ、不思議な声にて、 声『アハヽヽハー。オホヽヽホー。ウフヽヽフー。エヘヽヽヘー。イヒヽヽヒー。腰ぬけ野郎、屁古垂野郎、ばばたれ野郎、ひよつとこ野郎、弱虫、糞虫、雪隠虫、吃驚虫ども、とつくりと聞け。ここは何と心得てゐるか。勿体なくも常世国に現はれ玉へる、国の御柱大御神伊弉冊命のその家来、常世神王の隠れ場所と造られし、一大秘密の天仙郷、この八つの巌窟は、八頭八尾の大蛇の隠れ場所ぞ。その眷属の貴様たちは、たつた一人の宣伝使小島別の盲どもの舌の先にちよろまかされ、木の葉に風の当りしごとく、びりびり致す腰抜け野郎、馬鹿ツ、馬鹿々々々々ツ』 と呶鳴り立てたれば、数多の黒坊はこの声に二度吃驚、 一同『ヒヤツ!こいつは耐らぬ』 と亦もや大地にべたりと倒れる。小島別は巌窟に向ひ両手を組み「惟神霊幸倍坐世」と唱へながら、 小島別『我々は、畏れ多くも天教山に現はれ給へる撞御柱大御神、天御柱大御神、木花姫の神教を開かせたまふ黄金山下の三五教の守神、埴安彦神の宣伝使小島別なるぞ。何者ならば断りもなく筑紫の島に打ち渡り、この巌窟に巣を構へ、悪逆無道の限りを尽し、天命つひに免れ難く、この巌窟に忍び入るこそ汝悪神の運の尽き。早く汝が素性を名乗り、悪を悔ひ善に立ちかへり、撞御柱大神に心の底より謝罪せよ。否むに於ては我に天授の宝剣あり。サア如何ぢや。抜いて見せうか抜かずに置かうか。醜の曲津見返答致せ』 巌窟の中より亦もや、 声『アハヽヽハー阿呆につける薬はないワイ、オホヽヽホー臆病者の空威張り奴、ウフヽヽフー迂濶者の世迷ひ言、エヘヽヽヘー得体の知れぬ宣伝使、イヒヽヽヒー行きつきばつたりの流浪人、吾は熊襲の大曲津神、曲つた事は大の好物、汝が頭のど天辺から塩でもつけて噛ぶつて喰はうか、股から引き裂いて炙つて喰はうか、八岐の大蛇の大棟梁、蛇々雲彦とは吾事なるぞ。返答聴かう、小島別の宣伝使』 と四辺に響く大音声に呶鳴りつけたれども、小島別は莞爾として、 小島別『アハヽヽアー熊襲の国の枉津神、味をやり居るワイ。正義に刃向ふ刃は無いぞ。善と悪とを立別る神の使の宣伝使だ。真澄の鏡に照されて、赤耻掻き頭を掻いて吠面かわくな。かく申す某は、天教山に名も高き神伊弉諾大神の遣はせ玉へる、心も膽も天下無雙の太柱、太い奴とは俺の事、喰ふなら見事喰つて見よ。古手な事をして泡を喰ふな』 巌窟の中より、 声『アハヽハー仇阿呆らしいワイ。オホヽホー脅喝文句のお目出度さ。ウフヽフー迂濶者の迂濶事、熱に浮かされてうさ事を吐くな。エヘヽヘー豪い元気だのう、閻魔も裸足で逃げやうかい。イヒヽヒー勢ばかり強うても心の弱味は見え透いた。イヒヽー憐愍いものだ。いま俺の手にかかつて寂滅為楽頓生菩提、一寸先の見えぬ盲ども、これを思へば憐愍うて涙が溢れる。アハヽハー悪の身魂の年の明きとは貴様の事、悪の栄える例はないぞ。イヒヽヒーいつまで身魂が磨けぬか。オホヽホー己の事は棚に上げ、人を悪い悪いと慢心いたして其権幕は何の事だい。ウフヽフー動きの取れぬ今日の首尾、迂濶出て来た偽宣伝使。エヘヽヘー枝の、末の、貧乏神、腰抜け野郎の分際で、常世の国に使ひして、言霊別に騙されて、竜宮城に帰つて何の態。イヒヽヒー何時まで経ても改心せぬか、心の岩戸は何時開く、一度に開く梅の花、善に見えても悪がある。悪に見えても善がある。善と慈悲との仮面を被り、吾物顔に天下を横行濶歩する小島別の偽宣伝使。この世の中の穀潰し、生て益なき娑婆塞ぎ、地獄の釜のどン底に落してやらうか小島別、常世姫に玉抜かれ、言霊別に力の限り根限り、邪魔をひろいだ盲者の張本、何の面提げて臆面もなく三五教の宣伝使。アハヽハー、ほンに世界は広いものだなあ、オホヽホー、ウフヽフー、エヘヽヘー、イヒヽヒー、』 と又も笑ひ出したり。 小島別は胸に鎹打たるる心地、ハツと胸を衝いて思案に暮れゐたりける。 (大正一一・二・一旧一・五加藤明子録) (第一九章~第二六章昭和一〇・二・二三於徳山市松政旅館王仁校正) |
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霊界物語 | 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 | 18 巴留の関守 | 第一八章巴留の関守〔三六八〕 激潭飛沫囂々と音騒がしき千仭の谷間に、身を躍らして飛び入り、重傷に悩む荒熊を助け起して吾背に負ひ、漸く此処に駆上つて来た淤縢山津見は、荒熊を大地に下して神言を奏上し鎮魂を施し、頭部の傷所に向つて息を吹きかけたるに、不思議や荒熊の負傷は拭ふが如く癒え、苦痛も全く止まりて元の身体に復したり。荒熊は大地に両手をつき高恩を涙と共に感謝し、且つ無礼を陳謝したりける。 蚊々虎『オイ荒さま、ドツコイ黒坊の熊さま、三五教の御神徳とはコンナものだい。耳の穴を浚つてとつくりと聞かう。エヘン、蚊々虎様の』 と云ひつつ指の先で鼻を押さへながら、 蚊々虎『この大きな鼻の穴からフンと伊吹をやつたが最後、貴様は蠑螈が泥に酔つたやうに大きな口を開けよつて、アヽアーと虚空を掴んで仰向けに顛覆返つたが最後、この深い深い谷底へスツテンドウと顛覆返つて頭を打ち割つて、「アイタツタツタ、コイタツタツタ、アーア今日は如何なる悪日かと、処もあらうにコンナ深い深い谷底へ取つて放られ、此処で死ぬのか、後で女房は嘸やさぞ、悔むであらう。死ぬるこの身は厭はねど、昨日に変る今日の空、定め無き世と云ひながら、さてもさてもあまりだわ、不運が重なれば重なるものか、と云つて女房が泣くであらう」などと下らぬ事を、河鹿のやうに、谷水に漬つて吐きよつた其処へ、天道は人を殺さず、三五教の俺らの先生様の醜国別オツトドツコイ淤縢山津見様が悠然として現はれたまひ、摂取不捨、大慈大悲の大御心をもつてお助け遊ばしたのだよ。何と有難いか、勿体ないか、エーン改心を致せ、慢心は大怪我の基だぞよ。慢心するとその通り、谷底に落ちて酷い目に遇つてアフンと致さねばならぬぞよと、三五教の神様は仰有るのだ。その実地正真を此方がして見せてやつたのだぞ。改心ほど結構なものは無いぞよ。エヘン』 淤縢山津見『コラ、コラ蚊々虎、黙らぬか。何といふ法螺を吹く、神様の教を聞きかじりよつて、仕方のない奴だ。黙つて俺の云ふ事を聴いて居れ』 蚊々虎『ヘン、大勢のところで耻を掻かさいでも、ちつとは俺に花を持たして呉れてもよささうなものだなあ』 と小声にて呟く。荒熊は宣伝使の顔をじつと見上げ、 荒熊『ヨウヨウ、貴下は醜国別様では無かつたか』 淤縢山津見『ヤヽさういふお前は高彦ではなかつたか。これはこれは妙な処で遇うたものだ。一体お前はコンナ処へどうして来たのだ。常世会議の時には随分偉い元気で弥次りよつたが、かうなつた訳を聞かして呉れないか』 荒熊(高彦)『ハイ、ハイ、委細包まず申上げますが、併しながら、貴下は大自在天様の宰相醜国別様、一旦幽界とやら遠い国へお出になつたと云ふ事だのに、どうしてまあ此処へお越しになつたのか、ユヽ幽霊ぢや無からうかナア』 淤縢山津見『幽霊でも何でもない』 実は斯様々々でと、有し来歴を詳細に物語り、高彦の経歴談を熱心に聴き入りぬ。高彦は両眼に涙を湛へながら、 高彦(荒熊)『私は貴下が宰相として大自在天にお仕へ遊ばした頃は、貴下のお加護で相当な立派な役を与へられ、肩で風を切つて歩いたものでございますが、貴下の御帰幽後は鷹取別の天下となり、悪者のために讒言されて常世神王様の勘気を蒙り、常世国を叩き払ひにされて妻子眷属は離散し、私は何処へ取つく島もなく、寄る辺渚の捨小舟、漸く巴留の国に押し流され、夜に紛れてこの国に上り、労働者となつて働人の仲間に紛れ込み、些し力のあるを幸に今は僅に五人頭となつて、この巴留の国の関守となり、面白からぬ月日を送つて居ります。この巴留の国には常世神王の勢力侮り難く今また伊弉冊命様が何処からかお出になつて、ロッキー山にお鎮まりなされ、常世神王の勢力ますます旺盛となり、この巴留の国は鷹取別の御領地で、それはそれは大変厳しい制度を布かれ、他国の者は一人もこの国へ這入れない事になつて居ます。万一これから先へ貴下がお越しなさるやうな事があれば、私は関守としての役が勤まらず、鷹取別の面前に引き出され、裁きを受けねばなりませぬ。その時私の顔を見知つてゐる鷹取別はヤア貴様は高彦ではないか、と睨まれやうものなら、又もやこの国を叩き払ひにされて辛い目に遇はねばならぬ。折角命を助けて貰つて、その御恩も返さず、これから元へ帰つて下さいと申上げるは恩を仇にかへす道理、ぢやと申して行つて貰へば今申す通りの破目に遇はねばならず、貴下がお出になるならば、この関守の荒熊の首を刎ねて行つて下さい』 と滝の如き涙を垂らして大地に泣き伏しける。蚊々虎は笑ひ出し、 蚊々虎『ウワハヽ弱い奴ぢや。何だい、高の知れた鷹取別、彼奴がそれほど恐ろしいのか。俺の鼻息で貴様を吹き飛ばしたやうに、鷹取別もまた吹き飛ばしてやるワイ。エヽ心配するな、蚊々虎に従いて来い、俺が貴様を巴留の国の王様に為てやるのだ。面白い面白い』 淤縢山津見『オイ蚊々虎、貴様は口が過ぎる。この国の守護神が、其辺一面に聞いてをるぞ』 折から吹き来る夏の風、この場の囁きを乗せて巴留の都へ送り行く。 (大正一一・二・八旧一・一二加藤明子録) |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 06 刹那信心 | 第六章刹那信心〔三九九〕 暴風は百千の虎狼の一度に嘯き呻るが如く、猛き声を響かせ、遠慮会釈もなく吹き捲る。何の容赦もあら浪の、立ち来る態、実に凄じき光景なりけり。 三笠丸は怪しき物音、ガラガラバチバチ、今や海底に沈まむとす。 数多の船客は、色を失ひ、起ちつ坐りつ、限りある船中を狂ひ廻る。 松、竹、梅のあだ娘、照彦の四人は、磐石の如く少しも騒がず、天に向つて合掌し、何事か頻りに奏上せり。 窈窕花の如く、新月の眉濃やかに描かれ、容姿端麗なる自然の天色、桃の花の如き竹野姫はスツクと起つて吹き来る風に打ち向ひ、声も淑やかに歌ひ始むる。 竹野姫『黒白もわかぬ暗の世の汚れを払ふ天津風 今や吹き来る時津風吹けよ吹けふけ科戸の風よ 常世の暗を吹き払ひ此の世の塵を清めかし 浪よ立て立て高砂の尾の上の松のかくるまで 隠れてまします高砂の父の御側へ連れて行け 常世の浪のしき浪の寄せ来る音は松風か 山の嵐かわが恋ふる恋しき父の御声か 心のたけのありたけを一度に開く白梅の 花の顔月の眉竜の都に鎮まりし 乙米姫の御姿木の花姫の顔は 天津御空を昇ります日の出神の如くなり 大空伝ふ月の影はやく晴らして月照彦の 神の守りを与へかし俄の暴風に大足彦の 神の命の足真彦倒けても起きよ沈みても 直様浮けよ惟神神の救ひの此船は 深き恵みを三笠丸空打ち仰ぎ眺むれば 春日の山や三笠山峰より昇る月影の はるる思ひも今しばし暫し止めよ時津風 風の便りにわが父のウヅの都に坐ますと 探ねて来る姫神の心の露を汲み取れよ 仮令御船はくつがへり海の藻屑となるとても 神より享けし此身体如何でか死なむや科戸彦 科戸の姫よおだやかに鎮まり給へ逸早く この世を渡すのりの船三五教を守る身の わが乗る船に穴はないあな有難や三笠丸 あな尊しの三笠丸神の恵を笠に着て 清き教を杖となしみろくの船に乗せられて 高砂島に進み行く吾らを守る大足彦の 神の命の御恵み木の花姫や乙米姫の 神の命や琴平別の貴の命よ朝日子の 日の出神よ村肝の吾らが心を照らせよや 心の空はてるの国秘露の都も近づきて 春は過ぐれど巴留の国進む妾を救ひませ 進む妾を救ひませ又此船の諸人も 千尋の海のいや深く底ひも知れぬ御恵みに 救ひ助けよ天津神国津御神や綿津神 今吹く風は世の人の心の塵を払ふ風 降り来る雨は世の人の汚れを洗ふ清の雨 今立つ浪は世の人の怪しき行ひ断つの浪 風よ吹けふけ雨も降れ浪よ立て立て勇み立て 心のたけの姫が胸一度に開く梅ケ香姫の 妹の命や神の世の来るをまつよの鶴の首 亀の齢の永遠に浪をさまれよ四つの海 天津御空は日の神の日の出神と照彦の 清き心を憐れみて船諸共に救ひませ 船諸共に救ひませ』 と花の唇を開いて歌ふ。 この言霊に、雨も風も浪もピタリと止んで、再び太平の大海原となり、煌々たる夏の太陽は、海面を照らして輝き渡りぬ。 暗礁に乗り上げ、殆ど海中に没せむとせし三笠丸は、不思議なるかな、何の故障もなく、凪ぎ渡る海面を、静かに滑めて西へ西へと進行してゐる。 船中には又四五人の囁き声一隅に聞ゆ。 甲『エライ事だつたなア。この船には三人の弁財天が乗つて御座つたお蔭で生命が救かつたのだよ。マアマア吾々もお蔭で地獄行きを助かつた。一寸下は水地獄だ、カウして一枚板の上は安楽な極楽だが、一寸違へば地獄でないか、これを思へば吾々はよく考へねばなるまい。日々に行つて居る事は恰度此船のやうなものだ。一寸間違うたら地獄だから、うかうかしては此世は渡れない、なんぼ陸ぢやと言つて、沈まぬとも言へぬ。陸に居ても悪い事をすれば、心も沈み身も沈み、一家親類中が皆沈んで、浮かぶ瀬がなくなつて了ふのだ。うかうかしては暮されぬわい』 乙『さうだネ、何は兎もあれ有難い事だつたネ。あの三人の女神さまは、アリヤ屹度吾々のやうな人間ぢやないぜ。あまり吾々は慢心が強いからナ、此世は人間の力で渡れるものなら渡つて見よ。力のない智慧の暗い、一寸先の分らぬ愚な人間が、豪さうに自然を征服するとか、神秘の扉を開いたとか、造化の妙用を奪ふとか、くだらぬ屁理屈を言つて威張つて居つた所で、今日のやうな浪に遭うたら、毎日日日船を操縦ることを商売にして居る船頭さまだつて、どうする事も出来やしない。人間は神様を離れて、何一つ此世に出来るものはないのだ。かう言つて吾々が物を言つてるのも、皆神様の尊い水火がこもつて居るからだ。ウラル教の宣伝使のやうに、呑めよ騒げよ一寸先は闇よ、暗のあとには月が出るなぞと、勝手な熱を吹いて、ドレだけ威張つて見た所で、人間たる以上はダメだ、ドウしても、神様の広き厚き御恵みに頼らねばならないのだ。アヽ惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 丙『オイお前は中々よい心得だ。ソンナ結構な事、何処の誰に聞いたのだい』 乙『吾は黄金山に現はれ給ひし埴安彦命さまのお始めになつた、三五教の教を聞いて、それからと言ふものは、あれ程好きな酒が自然に飲めなくなつて、此頃は少しの御神酒を頂いても、直に酔うて心持ちがよくなつたよ。今までは酒を飲めば飲むほど、梯子酒で飲みたくなり、腹は立つて来る。一寸したことにもムカついて、女房を殴る、徳利を投げる、盃は破れる、丼鉢は踊る、近所の人達に悪酒ぢや、酒狂ぢやと言はれて持て余された者だが、どうしたものか、三五教の飯依彦と言ふ竜宮島の宣伝使が熊襲の国へ出て来て、皆のものを集めて、鎮魂の洗礼を施してくれたが最後、気分はスツカリして酒は嫌ひになり、何とはなしに世の中が面白くなつて来たのだ。ホントによい教だよ。お前も一つ三五教に入信したらどうだい。大にしては治国平天下の教、小にしては修身斉家の基本たるべき結構な教の道だよ』 丙丁戊『成程結構だなア。吾々も無事安全な時には、ナーニ神が此世に在るものか、人間は神だ、人は万物の長だ、天地経綸の司宰者だと威張つて居たが、今日のやうな目に遇うては、吾輩のやうな無神論者でも、何だか腹の中の悪いコロコロが、喉から飛び出しよつて、本当に叶はぬ時の神頼み、手を合して縋る気になつて来るワ。アヽ人間と言ふものは弱いものだなア』 諸人の囁き声を満載した神の守護の三笠丸は、万里の浪を渡つて、其日の黄昏時、智利の港に近づきたり。 (大正一一・二・一二旧一・一六森良仁録) |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 15 団子理屈 | 第一五章団子理屈〔四〇八〕 三五の月は昇れども、山と山との谷間は、黒白も分かぬ真の暗、空せまく地狭き谷底に、三人の宣伝使は端坐し、首ばかり動かし居る折柄、何処ともなく虎狼の唸るやうな声、木霊を響かせ聞え来る。 声『ウーオー』 駒山彦『イヤー虎か狼か、どえらい声が聞えて来た。淤縢山津見さま、神言でも上げませうか』 淤縢山津見『ヤー、仕方がない、神言を奏上しませう』 照彦『カヽヽ神を松魚節に致す宣伝使、かなはぬ時の神頼み、「神言でも」とは何だ。それでも宣伝使か、でも宣伝使。稜威輝くてるの国、珍はてるてるはる山曇る、オツトドツコイ淤縢山くもる、駒山彦は雨降らす、雨は雨だが涙の雨だ。かなしさうな其面つき、仮令からだは八つ裂になつても、神のためなら、チツトもかまはないと言ふ覚悟がなくて、誠の道が開けるか、カラ魂のさかしら魂、神の心も推量して呉れても宜からう。少しの艱難辛苦に遭うても、尻を捲つて雲をかすみと逃げ行く宣伝使、からすのやうな黒い魂で誠の神をかついで、勝手なねつを吹き歩くがとう虫奴が。かてて加へて蟹が行く横さの道を歩みながら、吾程誠の者はない、誠一つが世の宝、誠をつくせ、真心になれと、かたる計りの宣伝使。 からすのやうに喧ましい蚊々虎さまの素性も知らず、軽い男と侮つて、汗かき、耻かき、頭かき、かばちの高い、カラ威張りの上手な神の使ひ、カラと日本の戦があるとは、汝らが御魂の立替へ立直し、今までのカラ魂を、オツ放り出して、水晶の生粋の日本魂に立替へいと申すことだ。喧しいばかりが宣伝使でないぞ。改心いたせばよし、どこまでも分らねば、神はモウ一限りに致すぞよ。何程気の長い神でも、愛想が尽きて、欠伸が出るぞよ』 駒山彦『カヽヽ叶はぬ叶はぬ、勘忍して下さいな。是から改心致しますから、モウ吾々の事に構ひ立てはして下さるなよ。かいて走るやうな掴まへ処のない意見を聞かされて、アヽ好い面の皮だ』 照彦『キヽヽ貴様は余程しぶとい奴、此方の申すことが気に入らぬか。奇怪千万な駄法螺を吹き廻つて、良い気になつて気楽さうに、宣伝歌を歌ひ、気まぐれ半分に、天下を廻る狼狽者、気抜け面して、気が利かぬも程がある。鬼門の金神現はれて善と悪とを立別る。鬼畜のやうな、気違ひ魂の宣伝使は、世の切り替にキツパリと取払ひ、根から葉から切つて了ふぞよ。貴様の気に入らぬは尤もだ。ひどい気強い鬼神のやうな言葉と思ふであらうが、よく気を付けて味はうて見よ。きくらげのやうな耳では神の誠の言葉は聞き取れまい。気が気でならぬ神の胸、いつまでも諾かねば諾くやうに致して諾かして見せうぞよ。汚ない心をさつぱり放かして、誠の神心になり、万事に対して機転を利かし、心配り、気配りの出来ぬやうな事では、気の利いた御用は到底勤まらぬぞよ。きなきな思はず気に入らいでも、歯に衣を着せぬ神の言葉、是から気張つて気分を改め、気不性な心を立直し、気随気儘をさらりと放かし、神と君とに誠を尽し、気六ツかしさうな面をやはらげ、心を決めて荒胆を練り、キヤキヤ思はずキユウキユウ苦しまず、心を清め身を浄め、誠の神に従へば気楽に道が拡まるぞよ。キチリキチリと箱さした様に行くぞよ。神を笠に着るなよ。抜刀や刃物の中に立つて居る様な心持になつて、油断を致すな。窮まりもなき神の恩、万の罪咎も神の光りに消え失せて、身魂は穏かに改まり、さうした上で始めて三五教の宣伝使だ。どうだ、分つたか』 駒山彦『キヽヽ気が付きました。気張つて気張つて是から早く改心を致します。此気味の悪い谷底で、奇妙奇天烈な目に逢うて気を揉まされて、何たるマア気の利かぬ事だらう。神の気勘に叶うた積で、気張つて気張つて心配り気配りして、此処まで勤めて来たのに、思ひがけなき気遣ひをさされた。サア、もうキリキリと決りをつけて、来た道へ帰らうかい。淤縢山津見さまも何だ、一体気の小さい、おどおどとして顫うて居るぢやないか。ナント膽玉の弱い男だな。こんな所に長居をすると、猿の小便ぢやないが、先のことが気にかかるワ』 淤縢山津見『きまりの悪い、不気味な態でキツウ膏を搾られました。際どいとこまで素破抜かれて、アー俺も気が気ぢやないワ。ドウデ吾々は神様の気に入るやうな宣伝はできては居らぬからなア』 照彦『クヽヽ苦労なしの、心の暗い暗雲の宣伝使』 駒山彦『モシモシ、クヽ暗がりにそんな下らぬ事を、モヽモウ是位で止めて下さい』 照彦『苦しいか、苦面が悪いか、臭い物に蓋をしたやうに隠し立てしても、何程クスネようと思うても、四十八癖のあらむ限りは改めてやるぞ。下らぬ理屈を口から出放題、グヅグヅグデグデとクドイ理屈を捏並べ、一つ違へばクナクナ腰になつて、一寸した事でも苦にするなり、委しき事も知らずに、喰ひ違つた御託を並べ立て、九分九厘で覆るの覆らぬの、一厘の仕組をくまなく悟つたの、汲み取つたのと、そりや何の囈語、汲めども尽きぬ神の教、大空の雲を掴むやうな掴まへ所のない、駄法螺を吹いたその酬い、悔し残念をコバリコバリ、今までの取違ひを悔ひ改め、クヨクヨ思はずに神の光を顕はし、闇黒の世を照し、また来る春の梅の花、開く時を呉々も待つがよいぞよ。クレンと返る神の仕組、苦労の花の開く神の道、委しいことが知りたくば、悔い改めて神心になれ。噛んでくくめるやうに知らして置くぞよ』 駒山彦『クヽヽクドクドしいお説教、モヽ分りました分りました、結構で御座います。決して決してモウ此上は取違ひは致しませぬ。何卒これで止めて下さいませ、さうして吾々三人の身体を自由になるやうにして下さい』 照彦『ケヽヽ結構々々とは何が結構だ。毛筋の横巾も違はぬ神の教だ。決心が第一だ。道を汚してはならぬから、神が気もない中から気を付けるのだ。怪体な心を取直し、ケチケチ致さず、神心になつて居らぬと、獣の身魂に欺されて、尻の毛まで一本もないやうにしられるぞよ。嶮しき山を上り下りしながら、毛を吹いて疵を求めるやうな其行り方、従者を連れたり、女を伴れたり、そんな事で神の教が拡まるか、毛虫よりも劣つた宣伝使』 駒山彦『ケヽヽ怪体なことを言ふ神だな。淤縢山さま、如何しよう。耳が痛くつて、面白くもない、コンナ目に遇はされやうと思うたら、宣伝に廻つて来るぢやなかつたに、アヽ何と宣伝使は辛いものぢやなア。毛色の変つた照彦のやうな男が来るものだから、コンな怪体な谷底で、眉毛を読れ、鼻毛を抜かれ、尻の毛まで抜かれるやうな、怪しからぬ目に遇うて、谷底へ蹴落されて、けがしたよりも余程つまらぬ目に遇ふのか。お前さまは頭が坊主だから、けがなくてよからうが、駒山彦は二進も三進もならぬ目に遇うて、困り切つてゐるワイ』 照彦『コヽヽ駒山彦、何を言ふか、乞食芝居のやうに、男女七人連にてゴテゴテと、此処彼処ゴロツキ廻る宣伝使、神は勘忍袋が破れるぞよ。此世の鬼を往生さして、神、仏事、人民を悦ばす神の心、耐へ忍びのない心の定まらぬ、破れ宣伝使が何になるか。梢に来て鳴く鶯でも、春夏秋冬はよく知つて居るに、応へたか、此方の云ふ事が分つたか。コツコツと角張つたもの言ひをしたり、ゴテゴテと小理屈を捏ねたり、事に触れ物に接し、下らぬ理屈を捏ね廻し、人の好まぬ事を無理に勧め、怖がられて強い物には媚び諂ひ、後先真暗の神を困らす駒山彦の宣伝使、米喰ふ虫の製糞器、菰を被つた乞食のやうに、一寸の苦労に弱音を吹き、泣き声をしぼり、モウこいつあ叶はぬ、宣伝はコリコリだと弱気を出したり、怖い顔して威張つて歩く狼狽者の得手勝手なねつを吹くお取次ぎとは、おどましいぞよ。鬼も大蛇も狼も恐れて、尾を振つて跣足で逃げる、イヤ逃げぬ、心の小こい腰の弱い困り者の駒山彦の宣伝使』 駒山彦『サヽヽ囀るない、サツパリ分らぬ事を喋り散らしよつて、態が悪いワイ。逆捻に俺の方からちつと囀つてやらうか、余り喋ると逆トンボリを打たねばならぬぞよ。先にある事を世界に知らす、三五教の悟りのよい流石は宣伝使だ』 照彦『サヽヽ騒がしいワイ』 駒山彦『アヽヽ五月蝿いなア、サツパリ油を搾つて了ひよつた。さてもさても残念なことぢや』 照彦『サアサアサア是からだ。賽の河原で石を積む、積んでは崩す積んでは崩す気の毒な尻の結べぬ宣伝使。月は御空に冴え渡れども、心は暗き谷の底、足許は真暗がりで谷底へ逆トンボリを打たねばならぬぞよ。神の申すことを逆様に取るとはソリヤ何の事、先へ先へと知らす神の教、先の知れぬ宣伝使が、神を審神するといふ探女のやうな、御魂の暗い奴、酒と女に魂を腐らし、やうやう改心致して俄宣伝使になつたとて、サヽそれが何豪い。差添の種ぢやと威張つて居るが、何も彼も差出の神か、イヤ狸だ。流石の其方も神の申す今の言葉、指一本指す事は出来まい。早速開いた口は閉まろまいぞよ、沙汰の限りぢや。サタン悪魔の虜となつても、サツチもない事を触れ歩き、偖も偖も悟りの悪い二人の宣伝使、蚕のサナギのやうに、一寸の事にもプリンプリン尾を振り頭を振り、盲目滅法の審神を致し、本守護神だ、正副守護神だと騒ぎ廻り、日本御魂の両刃の剣はサツパリ錆刀。探り審神者の向ふ見ず、様々の曲津に欺かれ、えらい目にあはされながら、まだ目が醒めぬか。之でも未だ未だ我を張るか。偖もさもしい心だのう。塞ります黄泉彦神の曲の使を信じ、よくもよくも呆けたものだ。今からさらりと我を折りて、慢心心を洗ひ去り、各自に吾身を省みて、猿の尻笑ひを致すでないぞ。耻を曝されて頭を掻くより、褌でもしつかりとかけ。騒ぐな、囀るな、冴えた心の望の月、サアサア淤縢山津見、駒山彦、神の申す事がチツトは腹に入つたか』 駒山彦『シヽヽヽしぶいワイ。うかうか聞いてをれば面白くもない、こんな谷底でアイウエオ、カキクケコの言霊の練習をしよつて、余り馬鹿にするない。言霊なら俺も天下の宣伝使ぢや、負けはせぬぞ。言ふ事はどんな立派な事を言つても、行ひは照彦ぢやで、さう註文通りには行くものぢやない。スカ屁を放つた様な事を吐しよつて、せんぐりせんぐりと、ソヽヽそろそろと棚おろしをしやがつて、チヽちつとも応へぬのぢや。ツヽ詰らぬ事を、テヽヽ手柄さうに、トヽヽ呆けやがつて、ナヽヽ何を吐しやがるのだ。ニヽヽ憎つたらしい、ヌヽヽ抜けたやうな声で、ネヽヽ根も葉もないやうな事を、ノヽヽ述べ立て、ハヽヽ腹が承知せぬワイ。ヒヽヽ昼ならよいがコンナ暗の夜に、フヽヽ悪戯た事を、ヘヽヽ屁のやうに、ホヽヽ吐きよつて、マヽヽ曲津神奴が、ミヽヽみみず奴が、ムヽヽ虫ケラ奴が、メヽヽ盲目奴が、モヽヽ百舌の親方奴が、ヤヽヽ八ケ間しい、ややこしい、イヽヽ嫌な事をユヽヽ云ひよつて、エヽヽ得体の知れぬ、ヨヽヽ黄泉神奴が、ラヽヽ埒もない、リヽヽ理屈を捏ねよつて、ルヽヽ類を以て曲津を集めよつて、レヽヽ連発する、ロヽヽ碌でなしの世迷言、ワヽヽ分りもせぬ、イヽヽいやらしい、イケ好かない事を、ウヽヽ呻り立て、エヽヽエー、モー恐ろしい処か、をかしいワイ。お化の大蛇の神憑奴が』 照彦『シヽヽ』 駒山彦『またシーやつてけつかる。縛つてやらうか、虱の守護神奴が』 照彦『シヽヽ思案して見よ、虱の親方、人の血を吸ふ毛虫の駒山彦、執念深い宣伝使、修羅の巷に踏み迷ひ、後先見ずの困つた駒山彦。叱られる事が苦しいか、叱る神も随分苦しいぞ。シカと正念を据ゑてシツカリ聞け。敷島の大和の国の神の教に、シヽヽ如くものはないぞ。醜の曲津に誑らかされ、汝が仕態は何事ぞ。獅子、狼の様な心をもつて、世界の人間が助けられるか、至粋至純の水晶の心になれ。下の者を大切に致せよ。しち難かしい説教を致すな。シツカリと胸に手をあて考へて見よ。一度は死なねばならぬ人の身、死んでも生き通しの霊魂を研けよ。屡々神は諭せども、あまり分らぬから神も痺をきらして居るぞよ。しぶといと言うてもあんまりだ。終ひには往生致さねばならぬぞよ。シミジミと神の教を考へて見よ。腹帯をシツカリ締めて掛れよ。霜を踏み雪を分けて世人を救ふ宣伝使、知らぬ事を知つた顔して、白々しい嘘言を吐くな。尻から剥げるやうな法螺を吹くな。知ると言ふ事は神より外にないぞよ。天地の事は如何な事でも説き明すとは、何のシレ言、困つた代物ぢや。嗄れ声を振り立てて神言を奏上したとて、天地の神は感動致さぬぞよ。身魂を研けよ、身魂さへ研けたなら、円満清朗な声音が湧いて来るぞよ。強ひて嫌なものに勧めるな。因縁なきものは時節が来ねば耳へ入らぬ。修身斉家、治国平天下の大道だと偉さうに申して居れど、吾身一つが治まらぬ、仕様もない宣伝使、何が苦しうてシホシホと憔悴れて居るか。荒魂の勇みを振り起して、モツト勇気を出さぬかい』 駒山彦『シヽヽシツカリ致します。奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の、声聞く時は哀れなりけり、だ。えらい鹿に出会してしかられたものだい』 淤縢山津見『ヤア、拙者は脚が起つた、身体が自由になつた、大分に魂が研けたと見えるワイ。いやもう何れの神様か存じませぬが、よくもまあ結構な教訓を垂れさせられました。屹度之から心を入れ替へて、御神慮のある処を謹しんで遵奉致します』 駒山彦『ヤア淤縢山さま、脚が起ちましたか、アヽそれは結構だ。吾々はまだビクとも致しませぬ、胴が据つたものですな』 淤縢山津見『貴方は最前から聞いて居れば一々神様に口答へをなさる、貴方は発根からまだ改心は出来て居ない。改心さへ出来たならば吾々の様に、神様は脚を起たして下さいませう。何卒早く屁理屈を止めて改心して下さい』 駒山彦『カヽヽ改心と言つたて、照彦の様な奴さまに憑つて来る様な守護神の言ふ事が、如何して聞かれるものか、神霊は正邪賢愚に応じて憑依されるものだ。大抵此肉体を標準としたら、神の高下は分るでせう』 照彦『スヽヽ直様、淤縢山津見は脚が起つたをきりとして、カルの国に進んで行け。道伴れは決してならぬ』 淤縢山津見『仰せに従ひ改心の上、直様参ります。今まではえらい考へ違ひを致して居りました』 照彦『一時も早く、片時も速に此場を立去れ』 駒山彦『アヽ淤縢山さま、それはあまり得手勝手だ。自分は脚が起つてよからうが、吾々の様な脚の起たぬ者を見捨てて行つても、神の道に叶ひませうか。朋友の難儀を見捨てて何処へ行くのです。神の道は、親切が一等だと聞きました。それでは道が違ひませう』 照彦『駒山彦の小理屈は聞くに及ばぬ、早く起つて行け。駒山彦の改心が出来るまで、此方が膏を搾つてやらうかい』 淤縢山津見は徐々と此場を立ち去らむとする時、三五の明月は山頂に昇り、細き谷間を皎々と照せり。淤縢山津見は此月光に力を得、宣伝歌を歌ひながら谷道を伝ひて、もと来し道を下り行く。 (大正一一・二・一四旧一・一八森良仁録) |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 16 蛸釣られ | 第一六章蛸釣られ〔四〇九〕 神の恵の弥深き、この谷底に残されし、駒山彦は淤縢山津見の帰りゆく姿を眺めて、 駒山彦『オーイ、オーイ』 と呼び止めるを、淤縢山津見はこの声を木耳の、耳を塞いて悠々と、宣伝歌を歌ひながら下り行く。月は漸々にして、山の端を出で、皎々と輝き渡り、二人の面はここに判然せり。見れば、照彦は、俄に容貌変り、珍山彦の姿に変化し居たるなり。 駒山彦『ヤア、貴様は照彦と思つてゐたら、何だ、蚊々虎の珍山彦か、あまり馬鹿にするな、洒落るにも程があるぞ』 照彦『スヽヽスツカリ腰を抜かした駒山彦の宣伝使。そんな腰抜の分際で、どうして道が広まるか。どうして大道が進めるか。雀や燕の親方のやうに口ばかり達者でも……』 駒山彦『スヽヽスリヤ何を言ふのだ。貴様も何時までも、そんな悪い悪戯をせずに、俺に鎮魂をして、脚を起たしてくれたら如何だ』 照彦『スヽヽスワ一大事と言ふやうにならねば、貴様の腰は起たぬ。酸いも甘いも皆知りぬいた蚊々虎を、その方は今まで何と心得て居たか。稲を作つて、米を搗いて、飯を炊いて、サアお食りといふ様に、据ゑ膳を食つた苦労の足らぬ宣伝使。スツカリ曲津に欺されて、隙だらけの汝の身魂、汝のやうな、馬鹿な身魂は尠からう。少彦名神の在します常世の国へ、直に行かうとはチト慢心が過ぎる。この細谷川の山奥で難行苦行の功を積み、神の助けを蒙つて身魂を洗ひ浄め、少しも疵のない、日月のやうな心に研き上げ、素盞嗚尊の雄々しき生れ変り、頭の上から身体の裾まで、気をつけて、スタスタと山路を進んで行くのが汝の天職。素直な心を以て、末永く神に仕へよ。スマから隅まで、澄みきる今宵の月の顔、これを心の鏡とし、皇大神に仕へ奉れ。誠の道をスラスラと脚も達者に起ち上れ』 駒山彦『セヽヽセングリセングリ、イヤモウ、おむつかしい御意見を承はつて、ウンザリした。世界は広しと雖も、心は急き立てども、急けば急くほど足腰は起たず、世間の奴にこんな所を見られたら、愛想をつかされ、捨てられて、宣伝使の面目玉は丸潰れだ』 照彦『ソヽヽさうだらうさうだらう、ソワソワしいその態は何だ。そこらに人はないと申すが、これだけ沢山の神々が眼につかぬか。それほど外の聞えが気にかかるなら、そなたの心を取り直し、心の底からその慢心を祓ひ出せ。空行く雲も自由自在に走るでないか。其方の脚はそりや何の醜態、それでもまだ気が付かぬか。もうそろそろと我を折つたらどうだ』 駒山彦『モウ、ソロソロと脚を起たして呉れてもよかりさうなものだな』 照彦『タヽヽヽタヽさぬ起たさぬ。他愛もないこと、大変に饒舌る宣伝使。息も絶え絶えになるとこまで、イヤサ、この場で倒れるとこまで戒めて、高い鼻を叩き折つて、煮いて喰てやらうか。野山の猛き獣の餌食になるか、蛸のやうな骨も何にもないたわけ者、たたきにしようか、それが嫌なら直に改心するか。改心出来たら足は起つぞよ。腹をたてな、腹を立てると足は立つまいぞよ。譬へて言へば高峰の花、大空の月、神の誠の奥は、よほど改心を致さねば、掴むことは出来ぬぞよ。何ほど言うても、訳の解らぬ情ない、なまくら身魂の鉛のやうな両刃の剣で何が出来るか。泣いて暮すも一生なら、笑つて暮すも一生だ。ない袖は振れぬ、ない智慧はしぼれまい。ホロが萎えたか、直霊のみたまに詔り直せ。中々難かしい神の道、気楽に思うて居ると、泣き面かわくやうなことが度々あるぞよ。罪もなく、穢もなく、心の玉に曇りなければ、どんな事でも為し遂げらる。誠の固まつたのは長う栄えるぞよ。名さへ目出度き高砂の、この神島に渡りながら、汝のなしたる修業は蚊々虎の蚊の涙にも及ばぬ、何を致すも耐へ忍びが肝腎だ。鈍刀で悪魔は斬れぬぞ。心の波を静かにをさめ、艱難辛苦を嘗め、奈落の底も恐れぬ魂にならねば、何事も成り遂げぬぞよ。ものの成るは、成るの日に成るにあらずして、成らぬ日に成るのである。早く神心に成れ成れ駒山彦。惟神の道に倣うて此世を渡れ。チヽヽ知慧や学を頼りに致すな。近欲に迷ふな。直取をすな。ヂグヂグと考へて進め。道に違うた事は遣り直せ。小さい心で知識を鼻にかけ、天狗面して笑はれな。チツトは物事を考へて地に落ちた人間を助け、千早振る神の教を世にかがやかせ。凡ての事に心を散らさず、心の塵を吹き払ひ、誠の知慧を働かせ。ツヽヽ月は山の端に隠れむとしてゐる。ヤア、照彦の奴さまも此場を去らねばなるまい。駒山彦ツ、これからトツクリと御修業なさるがよからう。左様なら』 と言ひつつ照彦はツと起ち上り、悠々としてこの場を去らむとする。 駒山彦『マヽヽ待つて下さい。折角月が出たと思へばこの細い谷間、また月が隠れて真闇がりになつてしまふ。こんな所に一人放置かれては耐つたものではない。ヤア照彦、お前の神懸も、どうやら鎮まつたと見える。俺を伴れて帰つてくれないか』 照彦『神の言葉に二言はない。左様なら』 と、またもや宣伝歌を歌ひ、闇にまぎれて何処ともなく立去りにける。 駒山彦『アヽ、つまらぬ目に遇はしよつた。まるで狐に抓まれたやうな目に遇はしよつて、二人の奴、俺を置去りにして行くとは、アヽ人間も当にならぬものだ。まさかの時に自分の杖となり力となり、何処までも随いて来るものは自分の影法師ばつかりだ。その影法師さへも、闇の夜には随いて来てくれぬ。斯うなつて来ると人間も詰まらぬものだ。神の教の司と言ひながら、こんな拙ない、辛い事が世にあらうか。頼みの綱も断れ果てて、終に会うた事もない、月さへ見えぬ谷底に突き落され、地の上に坐らされて、罪滅しか何か知らぬが、蛸を釣られて居る苦しさ。ツクヅク思ひ廻らせば、日に夜に積んだ罪の酬いか。露の命を存らへて、杖も、力も、伝手も、泣く泣く苦しみ悶える浅間しさ。信心は常にせよと、毎日日日、詰めかけるやうに教へられて、漸く宣伝使になるは成つたものの、実につれない浮世だナア。強いことを言つて居つても、斯う辛うては到底忍耐れたものぢやない。アヽ、行きつきばつたりに宣伝使になつたのが、吾身の病み月で運の月かい。つくづく思案をして見れば、月に村雲花に風、尽きぬ思ひの此谷底で、虎狼の餌食になるのであらうか、アーアー』 と独言を言つてほざいてゐる。 この時闇中よりまたもや大声が何処ともなく響き来る。 駒山彦は、この谷間に百日百夜、跪坐らされ、断食の行を積み、日夜神の教訓を受け、いよいよ立派な宣伝使となつて、名を羽山津見神と改め、黄泉比良坂の神業に参加したり。而して彼照彦は、或る尊き神の分霊にして、後には戸山津見神となりたり。 (大正一一・二・一四旧一・一八河津雄録) |
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霊界物語 | 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 | 24 玉川の滝 | 第二四章玉川の滝〔四一七〕 巌窟の唸りは刻々と烈しくなり、数多の人々は又もやピツタリと大地に頭を着け畏縮して居る。二人は互に顔見合せ、腕を組んで思案顔。 虎公(志芸山津見)『オイ、熊公ツ、この巌窟の神は善とも悪とも解らぬぢやないか、此奴ア一寸審神がむつかしいぞ。体主霊従の教を勧めるかと思へば、吾々に意見をするやうな事を言ふなり、どうも合点がゆかぬぢやないか』 熊公『そりやさうだよ。神様がお前に修業をさせなさるのだ。珍山彦の神さまが玉川の滝の前で修業をして来いと仰有つただらう。余程気をつけぬと、悪魔だと思つてゐると、どえらい目に遇ふかも知れぬぞ。さうだと云つて、悪魔でないと思つて油断する事も出来ぬ。ともかく腹帯を締める事だ』 虎公(志芸山津見)『さうかなア、ひとつ、八岐大蛇の神とやらに一遍詳しう温和しう出て聞いて見ようか』 と志芸山津見は巌窟に向ひ、拍手再拝敬意を表し、 虎公(志芸山津見)『モシモシ、巌窟の神様、どうぞ私に利益になる事を教へて下さいませぬか』 巌窟の中の音響はピタリ止んで、またもや声が聞え出し、 声『ナヽヽヽなる程と気が付いたならば、何なりと教へて遣らう。なかなかその方は改心したと申せども、まだまだ埃がとれては居らぬ。その様な鈍くら刀で、世界の悪魔が言向けられやうか。生知者の生兵法は大怪我の基。難儀苦労が足らぬ故、その心で宣伝をいたしたら、泣き面かわいて、情ない恥をさらさねばならぬぞよ。まだ理屈を列べよつて、何にも知らぬ夏の虫が、冬の雪を嘲ふやうに神を舐めてかかるふとどき者。ニヽヽヽ二進も三進もならぬ様にこの方に取つ締められて、遁げ腰になつたその醜態、苦い言葉が苦しいか。偽宣伝使のその方の慢心、日夜に心を改めて、この方の申す通りに致して世界を救ひ、烏羽玉の黒い心を月日の光に照し見て、吾身を省み、恥ぢ畏れ、悔い改め、世界の人民を懇に取扱ひ、咽から血を吐くやうな修業を致して、腹の塵芥を皆吐き出し、気を張詰て油断をするな。高慢ぶらず、驕らず、身を低うして謙譲れ。どんな辛いことがあつても、不服を云ふな、不足に思ふな、拙劣な長談義をするな、誉められたさに法螺を吹くな。小賢しい理屈を列べな。誠一つの正道を踏み締めて身を慎み、猥りに騒がず焦らず、無理をせず、無闇に人を審かず、侮らず、目上目下の区別なく、諸々の人々に向つて能く交はれ、八岐大蛇とこの方の申したのは偽りだ。まことは木の花姫の御心を以て、汝を済度せむために、この巌窟に待ち受けゐたる大蛇彦命ぢや。三笠丸の船中のことを覚えて居るか。イヤ何時までも不憫さうだから、これは、これ位にして止めて置かう。悠然とした心を以て数多の人に向へよ。依怙贔屓を致すでないぞ。よく人の正邪賢愚を推知して、その人の身魂相応の教をいたせ。楽な道へ行かうとするな。理窟は一切言ふな、吾身の心に照らし見て、人の難儀を思ひ遣れよ。威張り散らして、鼻を高くして、谷底へ落されな。ウカウカ致すな。よい気になるな。何事にも心を落付けて、神の神徳を現はせよ。我を去れよ、義理を知れよ、愚図々々いたすな。元気を出して、撓まず屈せず教の神徳を現はせ。まだまだ教へたき事あれど、今日はこれ位にして置かう。ウーオー』 と、またもや巌窟は虎狼の唸るが如く大音響を発して鎮まりかへり、志芸山津見の神はこれよりますます心を改め、カルの国一円を宣伝して、熊公と共に功を現はし、黄泉比良坂の神軍に参加し勇名を轟かしたり。 (大正一一・二・一五旧一・一九河津雄録) |
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霊界物語 | 10_酉_黄泉比良坂の戦い | 04 鬼鼻団子 | 第四章鬼鼻団子〔四三四〕 皮膚滑かにして雪の如く、肌柔かにして真綿の如く、眼の潤ひ露の滴る如く、優しみの中に何処となく威厳の備はる三人の娘、天津乙女の再来か、さては弥生の桜花、臥竜の松か雪の竹、鶯歌ふ梅ケ香の、春の衿を姉妹の、松、竹、梅の宣伝使、四辺眩き銀燭の、光に照りて一入の、その麗しさを添へにける。常世神王は御機嫌斜ならず、三人の娘を左右に座らせ、満面笑を湛へながら、 常世神王(広国別)『見れば見る程優しき女の姉妹連れ、ウラル教の最も盛んなる常世の国に、三五教を宣伝せむと、華々しく進み来るその勇気には感じ入つたり。さりながら、常世の国はウラル教の教を以て国是となす。万民これに悦服し、その神徳を讃美渇仰す。然るに、主義精神全く相反せる三五教を此地に布くことあらむか、忽ち民心離反して、挙国一致の精神を破り、天下の争乱を惹起せむは、火を睹るよりも明かなれば、常世の国は三五教の宣伝を厳禁せり。然るに繊弱き女の身を以て、雄々しくも我国に入り来り宣伝歌を歌ふは、天下擾乱の基を開く大罪人なれば、汝等姉妹を厳刑に処すべきは、法の定むる処、さりながら汝等姉妹三人は、吾等が危急を救ひたる其功に愛で、今迄の罪を赦し、殿内の一切を任せ、わが身辺に侍して、家事万端の業務に尽さしめむ』 と厳命するにぞ、松代姫は莞爾として、常世神王に向ひ、羞かしげに花の唇を開き、 松代姫『実に有難き御仰せ、世事に慣れざる不束者の妾姉妹を、畏れ多くも殿内に止めさせ給ふは、暗中に光明を得、盲亀の浮木に逢へるが如き身の光栄、慎んでお受け致します』 と、言葉淀みなく述べ立てたり。 竹山彦『ヤア、松、竹、梅の宣伝使様、貴女方は天地赦すべからざる大罪人なりしに、今日只今よりは、常世神王が掌中の玉、女御更衣にも、ずつと優れたお局様。吾々は今後は貴女様の御指揮を仰ぎ奉る。何分粗暴極まる竹山彦、御遠慮なく宜敷く御叱り下さいませ』 と敬意を表しける。鷹取別は鼻をフガフガ云はせながら、 鷹取別『ヤア、目出度いめでたい、お祝ひ申す、三人のお局様、如何に出世をしたと言つて、鼻を高くしてはなりませぬぞ。何と言つても、常世神王の宰相は此の鷹取別、如何に勢力を得ればとて、この鷹取別を除外する事はなりませぬ』 竹山彦『アハヽヽヽヽ、ヤア、今迄は鷹取別様の家来となつて居た竹山彦、今日より常世神王のお言葉に依りて、直々の家来、最早貴下の臣下では御座らぬ。貴下は吾々の同僚と心得られよ。斯く申す竹山彦の顔の真中なるこの鼻は、何時とはなしに、ムクムクと高くなつた心持が致す。それに引替へ、貴下は火の玉に鼻を突かれ、平素の鼻の鷹取別も、お気の毒千万、柿のへたのやうに潰挫げて終つて、両方の頬辺にひつ附き申した。これからは鼻の低取別となつて、今迄の傲慢不遜の態度を改められよ。さてもさても鼻持ならぬ御顔だなア、ワハヽヽヽヽ』 常世神王は打解け顔、 常世神王(広国別)『松代姫にお尋ね申したき事がござる。貴女方は孱弱き女の身を以て、この常世の国に宣伝すべく御出でになつたのは、何か深い様子が御座らう。包まず隠さず仰せられたし。斯くなる上は、何の隔てもなければ、心置きなく事実を述べられたし』 と問ひかくる。松代姫は言葉も軽々しく、 松代姫『ハイ、妾姉妹三人の者、艱難苦労を嘗めて常世の国に参りしは、余の儀では御座いませぬ。畏れ多くも三五教の守護神、神伊弉冊命様、日の出神様、ロッキー山に現れますと承はり、お跡慕ひて参りました。郷に入つては郷に従へとかや、妾はこれより三五教を棄て、常世神王の奉じ給ふウラル教に帰依いたします。然しながら、伊弉冊命様にも、日の出神様にも、矢張り三五教をお開きで御座いませう』 遠山別『イヤ、伊弉冊大神、日の出神は、ロッキー山に宮柱太敷き立てウラル教を開き給ふぞ』 と、したり顔に述べ立つる遠山別の抗弁いと怪し。この時門番の蟹彦は、畏る畏る此の場に現はれ、 蟹彦『鷹取別の司に申上げます。唯今ロッキー山より、美山別命、国玉姫と共に、御使者として御来城、別殿に御休息せられあり。如何致しませうや』 常世神王(広国別)『吾は是より寝殿に入つて休息せむ。鷹取別よ、ロッキー山の神使の御用の趣、しかと承はり、わが前に報告せよ。松、竹、梅の三人の局来れ』 と云ひつつ、常世神王は三女と倶に寝殿指して悠々と進み入る。鷹取別は蟹彦に向ひ、 鷹取別『汝は別殿に於て、美山別、国玉姫の御上使に向ひ、速かに此場に御出場あらむ事を申伝へよ』 蟹彦『委細承知致しました』 と顔を上げる途端に、鷹取別の顔を眺め、 蟹彦『ヤア、貴方様、その鼻は如何なさいました。ハナハナ以て合点の行かぬ御鼻、一割高い鷹取別の天狗鼻も、今は殆ど柿のへた同様でございますなア。余り慢心致して、鼻ばかり高う致すと、艮の金神が現はれて、鼻を捻折つて潰挫いで終ふぞよと、三五教とやらの教ふるとか聞きました。真実に貴方の鼻は、へしやばつて、穴も碌に見えませぬ。鼻の穴ない教ではございませぬか』 鷹取別『何馬鹿申す、速かに別殿に報告致せ』 蟹彦『これはこれは、失礼致しました。ハナハナ以て不都合千万、平た蟹になつて謝罪ります。何卒カニして下さいませ』 と蟹彦は馬鹿口を叩きながら、この場を立出で独言、 蟹彦『何だ、折角美人が来たから、このお使を幸に、美しいお顔を拝みたいと思つて居たのに、アタ面白うもない、鷹取別の潰れ面や、照山彦の禿頭を見せつけられて、エエ胸糞の悪い事だワイ。二つ目には竹山の火事のやうに、ポンポンと吐かしよつた鷹取別、何の醜態だい、甚だ以て人気の悪い面付だぞ』 斯かる処へ現はれ出でたる固虎は、 固虎『オイ、蟹彦、今貴様は何を言つて居つたか、天に口あり壁に耳だ。チヤンと此固虎さまのお耳に這入つたのだ。鷹取別様に言上するから、覚悟を致せ』 蟹彦『ヤアヤア、痩児に蓮根とは此事かい。固虎奴が何時の間にか聞きよつて……貴様は聞かねばならぬ事は一寸も聞かず、聞かいでもよい事はよく聞く奴だ。言はねばならぬ事は一寸も能う吐かさず、言はいでもよい事はベラベラと喋りたがるなり、困つた奴だ。が貴様が鷹取別様に言ふなら言つてもいい。その代りにこの蟹彦も堪忍ならぬ。貴様は最前、中門の傍で、三人の娘を魔性の女だと言つてゐたであらうがな。チヤンとこの蟹彦が聞いてゐるのだ』 固虎『オイ、もうこんな事は為替だ為替だ、互に言はぬ事にしようかい。又屑が出ると互の迷惑だからなア』 蟹彦『態見やがれ、固虎の野郎、ガタガタ慄ひしよつて、他人を呪へば穴二つだ。二つの穴さへ滅茶々々になつた。鷹取別の鼻の不態つたら、見られた醜態ぢやありやアしない。ヤア、ガタ虎、貴様も来い』 と肩肘怒らし、横に歩いて別殿に進み入つた。蟹彦、固虎の両人は恐る恐る別殿に進み入り、右の手を以て頭を幾度となく掻きながら、 蟹彦、固虎『これはこれは、御上使様、長らくお待たせ致しました。サア、案内致しませう、奥殿に……』 と云ひながら先に立つて手を振り、怪しき歩み恰好の可笑しさ。殊に蟹彦は腰を曲げ、尻を一歩々々、プリンプリンと振りつつ行く。美山別、国玉姫は悠々として奥殿に進み入り、正座に着き、 美山別『オー、常世城の宰相神、鷹取別とはその方なるや』 鷹取別『ハイ、仰せの如く、吾は鷹取別でございます』 美山別『ヤア、貴下の顔は如何なされた。少しく変ではござらぬか』 鷹取別『ハイ……』 竹山彦は恭しく、 竹山彦『これはこれは御上使様、よく入来せられました。今迄は鷹取別、今日よりは鼻の高きを取り、低取屁茶彦と改名致しました』 鷹取別は鼻をフガフガ言はせながら、何事か言はむとすれども、声調乱れて聞き取り得ざるぞ憐れなる。 美山別『何はともあれ、伊弉冊大神の御神勅、慥に承はれ。常世の国に渡り来る松、竹、梅の宣伝使は、間の酋長春山彦の家に隠匿はれ居ると聞く。汝は速かに捕手を遣はし、彼ら三人を生擒にして、一時も早くロッキー山に送り来れよとの厳命』 と厳かに言ひ渡す。美山別の言葉に蟹彦は、 蟹彦『モシモシ美山別の御上使様、その松、竹、梅の三人は既にすでに常世神王の御居間に……』 遠山別『シーツ、蟹彦、要らざる差出口……門番の分際として何が解るか。汝らの口出すべき場所でないぞ、退り居らう。……これはこれは御上使様、鷹取別は御覧の通り言語も明瞭を欠きますれば、次席なる遠山別が代つてお受け申さむ。御上使の趣、委細承知仕りました。一日も早く三人の娘を生擒にし、お届け申さむ』 美山別『早速の承知、満足々々、大神におかせられても、嘸御満足に思召すらむ。さらば某は、急ぎロッキー山に立帰らむ。常世神王に委細伝達あれよ』 と言ひ棄て、数多の家来を引連れ、馬上裕に揺られながら、国玉姫と諸共に門外さして帰り往く。蟹彦は美山別の後を追駆けながら、 蟹彦『モシモシ御上使様、遠山別のトツケもない言葉に欺されぬやうになされませや。慥にこの蟹彦が、何もカニも承知致して居ります』 と、皺枯声に叫べども、蹄の音に遮られ、美山別は耳にもかけず、足を早めて雲を霞と帰り行く。 (大正一一・二・一九旧一・二三河津雄録) |
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霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 07 覚醒 | 第七章覚醒〔五〇三〕 四人の宣伝使は初公を従へ、イホの都を後にして七十五声の言霊の、スエズの地峡を打渡り、神の教を四方の国、青人草に白瀬川、一の瀑布の間近き山に着きにけり。只さへ暗き春の日は愈暮れて咫尺を弁ぜぬ真の暗なり。虎、狼、獅子の咆哮する声は谿の木魂を響かして次第々々に近づき来る。 蚊取別『サア、かうなつては足許も真暗がりだ。明日は大決戦をやらねばならぬから、此木蔭で、ゆつくりと休息をして元気を養ふ事としようかな』 一同は首肯きながら暗の木蔭に腰を下し、蓑を敷きて横はつた。四人の宣伝使は昼の歩行に労疲れて、何れも雷の如き鼾をかいて寝て居る。猛獣の声はますます激しくなつた。初公は耐らず蚊取別を揺つて、 初公『モシ蚊取別さま、起きて下さらぬか。だんだん変な声が聞えて来るから』 蚊取別『アーア、やかましい、貴様恐いのだらう。強さうなことを云つても実地に臨むと正体が現はれるナア。斯ういふ時に大声で宣伝歌を歌へば好いのだよ。しかし大きな声だと俺達の安眠の妨害になるから、貴様一人口の中で宣伝歌を歌つて居れ。足下に何が来ても噛みはしない。八釜敷う言ふな、もう戌の刻だから』 初公『偉いお邪魔をしますなア。マアゆつくり休んで下さい。アーこれからこの初さまが宣伝歌で猛獣の千匹万匹は、ウンと吹き飛ばすのだ。しかし大きな声を出すなと云つても、猛獣の奴短兵急に襲撃した時には、力いつぱい大声を出すからそれ丈け承知して居つてもらひます』 蚊取別『ヨシヨシ、承知した。貴様もいい加減に寝まぬか』 初公『やすめと云つたつて、目がさえて寝まれはしない』 蚊取別『此の日の長い夜の短いのに、ぐづぐづして居ると夜が明ける。マア寝まして貰はうかい』 と又もやゴロンと横になり、雷の如き鼾をかく。猛獣の声は山岳も揺ぐ許りに猛烈になつて来た。初公は独言。 初公『アヽ何んと、宣伝使と云ふものは肝玉の太いものだなア。向ふの瀑には大蛇の悪魔が居る、猛獣が唸り立ててやつて来る。それにも拘らず、安閑として高鼾をかいて居るとは呆れたものだ。ヤー俺も一つ肝を放り出してやらう、恐いと思ふから恐いのだ。なーにチツト荒い風が吹いて居ると思へばいい。獅子でも虎でも、狼でもいくらなつと唸れ。サヽ俺も寝よう』 と肱を枕に横はる。又もや初公は起き上り、 初公『ヤー、どうしても寝られぬ。何んでも此奴は大蛇の奴が、魅入れて居やがるのかも知れぬぞ。決心した以上は恐くも何んともないから寝られぬ道理がないのだ。目もいい加減に疲労れて居る。アヽ惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世。どうぞ私に命が惜いと云ふ執着心から放さして下さいませ。惟神霊幸倍坐世』 蚊取別『アヽ折角寝たと思へば耳のそばで八釜敷う云ふものだから又目が開いた。早く寝ぬかい』 と又もやグレンと横になりて高鼾をかく。 初公『なんと妙な男だ、もう寝て了つた。エーこの闇の夜にアタ淋しい。チヨツ、ジツとして居れるかい。何ぞ其処らに落ちて居らぬかなア』 と言ひながら四つ這ひになりてそこらを掻き捜す。忽ち手に触れたのは、麻の縄である。 初公『ヤアこいつは麻の縄だ。誰がこんな所に落して置きよつたのか。而も新しい奴だ。オーこれで蚊取別の髪毛を縛り、八方に別けて木に繋いで置いてやらう。余り叱りよるから業腹だ』 とそつと蚊取別の鬢髪をさぐり、 初公『ヤーしまつた。ハアこいつは禿蛸土瓶天窓だ。 「禿頭前にとりゐはなけれども奥にしよんぼり髪がまします」 か、アヽこいつを繋いでやれ。しかしこんなに薄い毛は抜けると困るから、腰のまはりをグツトしめて、四方八方の木の株に繋いで置いてやらう。さうしてワイワイと云つて目を覚ましてやると面白からう。さうなとして夜を明かさな辛抱も出来たものぢやないワ』 と云ひながら蚊取別の腰の廻りに縄を持つて行く。 初公『イヨー、よう寝て居やがる。偉さうにほざいても寝た時は、仕様もないものだなア。科人か何ぞの様に縄付にせられよつて、白河夜船を漕いで居る。アヽさうだ夜船の綱だ』 と腰を今や縛らむとする時、蚊取別は 蚊取別『ウーン』 と寝返りを打つ。 初公『ヤア、びつくりした。起きたかと思つたら、なんだ寝返りを打ちよつたのだナつ』 又もや括らうとする。蚊取別は、見当さだめて横つ面を、ビシヤビシヤとなぐる。初公は驚いて、 初公『ナヽ何をするのだイ』 蚊取別『悪い事は出来ぬものだな』 初公『コイツは失敗つた。蚊取別さま、起きて居つたのか』 蚊取別『きまつた事だよ。一目も寝はしないよ、貴様の独語は皆聞いて居る。馬鹿な奴ぢやなア』 初公『アハヽヽヽヽ』 蚊取別『ワハヽヽヽヽ』 高光彦は目を覚まし、 高光彦『この真夜中に大きな声で何が可笑しいのですか』 蚊取別『イヤもう初公の奴つたら、吾々の寝とる間に何処からか縄を探して来よつて、四人の体躯を一々縛つて木の株に括りよつたのですよ。貴方がたも何処か括られて居ませう』 高光彦『たとへ体躯の二箇所三箇所括られても、自由の精神は括られて居ないから大丈夫ですよ。アハヽヽヽ』 と笑ふ折しも、頭上俄に赤く紅の如くに深林を照らすものがある。この光に対岸の白瀬川の一の瀑布は、白竜の幾十ともなく体を揃へて天に昇り行く如くに見えて来た。 蚊取別『ヤア瀑が見える、大変猛烈な光だ。妖怪変化の怪光であらうか、イヤイヤさうではなからう。日の出神の一つ火かも知れぬ』 と云うて居る其前に忽然と現はれた一柱の立派な神がある。蚊取別は一目見るより大地に平伏し、 蚊取別『ヤア、これは日の出神様、よくもお出下さいました。サアもうこれで大丈夫だ』 日の出神『お前達は此処を何処だと思うて居るか』 蚊取別『ハイ、白瀬川のほとり、一の瀑布の前だと思つて居ります』 日の出神『それは大間違ひだ。高山の如く見せて居るのは、世界第一の大蛇の背だ、大地を放れて中空に舞ひ上つて雲の中に這入つて居るのだぞ』 蚊取別『それでも、イホの都からトントンと歩いて此処までやつて来たのです。確に山だと思ひますが』 日の出神『サアそれが誑されて居るのだ。余り鎮魂が好くきくと思つて、知らず知らずの間に慢心するものだから、こんな目に逢ふのだ。お前が昨日訪問した夏山彦の家を何んと思つて居る、あれは大蛇の尾であつた。その尾の上に気楽に乗せられて歌を歌つたり色々のものを喰はされて御馳走だと思つて居たのだ』 蚊取別は頭を掻きながら、 蚊取別『ハテ、合点が行かぬ。何の事だ。確かに夏山彦の館だつたになア』 日の出神『それが違ふのだ。一寸袖を目にあてて覗いて見よ』 蚊取別その他の四人は袖を目に当て、四辺を見ればコハソモ如何に、幾十里とも知れぬ、大蛇の背に乗せられ遥かに高き空中に舞上り、其尾は今や地上を放れむとする時である。 蚊取別『ヤア、コリヤ大変だ。余り慢心して天まで上り詰めて、真つ逆様に落ちて木葉微塵になる所だつた。モシモシ日の出神様、我々は此大蛇の山を否背を伝うて地上に降ります。これより上に昇らない様に守つて下さい』 日の出神は黙つて俯むく。一同は一生懸命に大蛇の背を走りながら地上目がけて降つて行く。漸く尾の端に着いた。尾は既に地上を離れる事七八間、 蚊取別『ヤア皆さま大変だ。地上までは七八間も距離がある。どうしよう、もう少し尾を下げてくれぬものかいなア。ヤアヤア、滅茶矢鱈に尾を振り居る。ヤアヤア大蛇に振落されるわ振落されるわ』 高光彦『だんだん高くなる一方です。また天に上げられ、中途から放られては大変です。サアみな手をつないで飛下りませう。ヤア、もう十間です十間です。これぢや天にもつかず、地にもつかず、サアサア五人は手をつないだ手をつないだ』 と云つた儘、命からがら山の頂上目がけて飛び降りた。 途端に驚き霊より覚めて見れば、十四日の月は高熊山の中天に輝き、王仁の身は巌窟の前に仰向けに倒れ居たりける。 (大正一一・三・六旧二・八谷村真友録) |
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霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 09 正夢 | 第九章正夢〔五〇五〕 常夜ゆく暗を晴らして皇神の珍の御子たち助けむと 稜威も高き高光彦や神より受けし伊都能売の 玉光彦の玉も照り大海原に漂ひて 海月なす国光彦のみづの身魂の三柱は イホの都の町はづれ老樹茂れる森の下 露を厭ひて仮枕国魂神を祀りたる 祠の後に身を隠しまどろむ折しも何処よりか 集まり来る人の影神灯神酒を奉り 常夜の様を歎きたるイホの都の酋長が 世人助くる手段さへ夏山彦の神司 神の御前に太祝詞唱ふる声もいと清く 心の闇も春公の倉あけ渡し食物を 神に誓ひて夫れぞれに配り与へ饑渇き 救ふはいとど易けれど霊の餌と充つるべき 教の餌に苦みつ神の御前に諸人を 集めて諭す神の教食物着物住む家と 酒より外に心なき醜の身魂を如何にして 神を敬ひ長上に尊び仕へ真心の 本霊にことごとく立直さしめ天地の 神の御子たる務をば各も各もに尽させて 神の怒も淡雪の溶けて嬉しき春の日の 花咲き匂ひ百鳥の歌ふ嬉しき神の代の 日月空に輝きて鬼も探女もナイル河 滝に洗ひしその如く清めむものと酋長が 心筑紫の白瀬川世人を思ふ真心の 涙は滝の如くなり夢か現蚊取別けて 言霊清き宣伝歌暗を透して鳴り渡る 時しもあれや初公が醜の雄健び踏たけび 狂ふ折しも宣伝使双手を組みし言霊の 其一声に肝打たれ魂研かれて各が 恵みも深き皇神の心を悟り服従ひし その嬉しさに胸躍り心勇みて四柱の 神の命の宣伝使初めて会ひし初公を 伴ひ進む闇の路四方に塞がる村雲の 空も愈春公や青葉も茂る夏山彦の 館を指して出て行く途中睡気を催して ここに五人の一行は露をも置かぬ草の上 腰打掛けて憩ふうち何時か睡魔に襲はれて 脆くも此処に横はり夜の更け行くも白瀬川 ナイルの滝の森林に黎明を待ちて秋月の 滝の魔神を一々に六つの滝まで清めむと 暗の木下に憩ふ折一つ火忽ち現はれて 一行五人が心をば照させ給ふ夢の跡 大蛇の背より飛下りて腰を抜かせし束の間に つかつか来る夏山彦が率ゆる人数の足音は いと高々と聞え来る。 蚊取別『ヤア、エライ恐ろしい夢を見たものだナア。余り知らず識らずの間に慢心して、大蛇の背中に乗せられ、雲の上まで引張り上げられて了つて居た。盲蛇に怖ぢずと云ふ事があるが、本当に目明の積りで、我こそは天下の宣伝使、世界の盲聾の目をあけてやらうナンテ偉さうに言つて歩いて居つたが、エライ怖い夢を見たものだ。コリヤきつと霊夢であらう、アーア慢心はし易いものだナア。慢心は大怪我の本だと、何時も口癖の様に云ひながら、箕売り笠でひると云うたとへは自分等の事だ。人が悪いとか馬鹿だとか思うてゐると皆自分のことだ、これから一つ魂の焼直しをして掛らねばならぬワイ。吁神様有難う御座います。能く気をつけて下さいました』 高光彦『蚊取別さま、どんな夢を御覧になりました。我々も恐ろしい夢を見ました。四方八方真暗がりで、秋月の滝の前だと思へば、大蛇の背に乗せられて、エライ所へ鰻上りではなうて蛇上りに上つてきつい戒めに遭ひ、中天から飛びおりて、腰をぬかし本当に妙な夢を見ましたよ』 蚊取別『ハア、我々の夢と同一ですワ』 と声をかすませ、首を捻る。玉光彦、国光彦、初公も異口同音に、 玉光彦、国光彦、初公『私も其通りそのとおり』 と胸を轟かせ乍ら、小声になつて首を頻りに傾けて居る。折柄の物音に前方を見れば、提灯の光瞬き、数十人の人声此方に向つて進み来る。 初公『あの提灯の印は丸に十、たしかに夏山彦の酋長が手下の者共、愈初公さまを召捕に来よつたな。ヨーシ、今迄の初公さまと思つて居るか、あまり我は、偉い偉いと思うて居るとスコタン喰うぞよ。足許は真暗がり、闇に烏のまつ黒々助、夏山彦の家来の奴共、片つ端から「ウウーン、ウーン」と阿吽の言霊、開くや否や四方八方に、蜘蛛の子を散らすが如く、チリチリバツト、花に嵐の其如く、皆散り散りに逃げて行く………』 蚊取別『コラコラ、何寝呆けてるのだ。あまりウーンに慢心をすると、今の様な怖い夢を見せられて、お警告を受けるのだぞ。ウーンも好い加減に使つて………乱用するとまた夢を見せられるぞ』 初公『モシ蚊取別さま、あれは夢だが、今そこへ来るのは現実ですよ』 蚊取別『幻術でも、妖術でも、神術でも無暗に使ふものぢやないよ』 初公『それでも、短兵急に押しよせて来た、この敵にムザムザと虜にしられようものなら、それこそ最早ウーンの尽だ。運の尽きる迄一つ、ウンウンを行つて行つて行り倒し、運を一時に決せむだ。サア来い勝負………』 高光彦『アハヽヽヽ』 初公『笑う所か大変ですぜ。あの提灯を御覧、丸に十だ』 高光彦『丸に十なら結構ぢやありませぬか、三五教の裏紋だからな』 初公『裏紋教でも、表教でも、大本でも、かうなつては最早百年目、自由行動と出ますから、あなた方四人の御方はジツトして、この初公のハツ人芸を御覧なさい。一人でハツ人ぢや、初夢の初功名、神力ハツ展の初舞台だ』 蚊取別『コラコラ、さうハツやぐものぢや無い、ハツかしい事が後になりて出て来るぞよ。神の申す間に聞かぬと、我で致したら失敗るぞよ』 斯かる所へ早くも夏山彦の一隊は徐々と現はれ来たる。 初公『ヤア、寄せたり寄せやがつたりな。我れこそはイホの都に隠れなき初公さまだ。召捕るなら美事召捕つて見よ。小癪に構ふ汝等が振舞、儘になるなら、麦飯、稗飯、粟飯、五もく飯、米の飯、サア勝手にメシ取つて見よ』 蚊取別『アハヽヽヽ』 三人『ワツハヽヽヽ』 群衆中より立派な姿をした二人の男、蚊取別の前に悠々と現はれ、 夏山彦、春彦『ヤ、あなたは蚊取別の宣伝使様、………御一同様、私等は夏山彦、春彦でございます。どうか此駕籠に御召し下さいまして我々が矮屋に一夜御逗留を御願申したく、態々御迎へに参りました』 初公『ヤア、ナーンだ、天が地となり、地が天となる、変れば変る世の中だ。オイオイ其駕籠は大蛇の背中とは違ふか』 夏山彦『ヤア、お前は初公か、我々は蚊取別その他三人の宣伝使様に御挨拶申上げて居るのだ。横間から喧しう申さずに、暫く待つて居て呉れ』 初公『ヨーシ承知した。併し駕籠は四台よりないぢやないか、初公さまの駕籠は後から来るのかい』 春彦『生憎四台よりありませぬので一台………』 初公『オイオイ、四台よりない?………何と情なきシダイなりけりだ。一だいのテレ臭い恥曝しだワイウフヽヽヽ』 蚊取別『折角の思召無にするも何となく心許なく思ひますが、我々はさ様な贅沢な駕籠などに乗ることは出来ませぬ』 初公『ヤア今あまり調子に乗つて、ウンウン気張ると云つて、ウンが増長して高い高いコクウンの中までおつぽり上げられ、スツテンドウと地上に真逆様に墜ちて、腰を折つた夢を見よつたものだから………そんな俄に殊勝らしい事を仰せられるのだ。恰度それならそれで都合が良いわ。三人の宣伝使様と此初公さまと四人乗せて貰はう』 玉光彦『私は駕籠は平に御免蒙ります』 国光彦『我々もその通り』 初公『拙者も同様、駕籠は平にお断り申す』 群衆の中より、 群衆の一人『コラ初公、貴様がお断り所か、頼んだつてコチラからお断りだよ』 夏山彦『折角の志、どうぞお召し下さいませ』 蚊取別『イヤ又尾の先から振落ちねばならぬと困るから、乗物は平にお断り申します』 初公『モシモシ蚊取別さま、どうやら此処も大蛇の背ぢやあるまいか、足許がツルツルするぢやないか。夏山彦の宅で御馳走を戴いたと思へば、牛糞か馬糞か、訳の分らぬ物を食はされて、舌鼓を打つた夢を見た連中だから、この夏山彦も夢の中ぢやあるまいかナア』 蚊取別『夢でも何でもよいぢやないか。天は暗く月の光は無く、何れ悪魔の跋扈跳梁する世の中だ。斯う暗黒になつて来ると、誠の物は一つもないと思つたら落度はない。マア夢でも化物でも何でも構はぬ。刹那心だ、行く所迄行かうかい』 と一行五人は夏山彦以下群衆に迎へられて、今度は愈夢でもない、幻でもない、曲神の館でもない、正真正銘の夏山彦の館へ着いたのである。 正門は左右に開放され、門内は薄暗けれど、塵一本なき迄に清く箒目正しく、掃除が行届いて居る様子である。表門の入口より一間巾程の麗しき真砂は敷詰められ、一行を歓迎した酋長の真心は此砂路にも現はれ居たりける。 初公『ヤア是は一遍通つた。門と云ひ門番の貫公、徹公[※第5章では「鉄公」]の朧ながらも顔と言ひ、玄関の様子、一分一厘間違ひのない仕組だ。コラ又夢だらう、………オイオイ蚊取別さま、一寸私の頬べた捻つて見て呉れぬか、自分がひねつたのでは、夢か夢ぢやないか明瞭せない………アイタヽヽヽあまり酷い事すな、鼻を捻上げよつて………』 蚊取別『捻つて呉れと云ふから、註文通り捻つてやつたのだ。貴様の鼻はあまり低いのと横つチヨに着いとるものだから、頬辺だと思つて捻つたのだ。はなはなもつて見当の取れぬ面付だなア』 初公『本当にさうだ、ケントウがとれぬワイ。提灯は取れても、軒灯は高い所に吊つてあるから、俺の様な背の低い者では、一寸取り難いなア』 蚊取別『今度は夢ぢやない、本当だ』 初公『本当か嘘か、蚊取別さまのお言葉もあまり当にはなりませぬワイ。一つ此処で一か八かぢや、真偽を確めて見よう』 と言ひ乍ら、初公は腕を振り、ドシドシと奥の間に進み入り、 初公『ヤア、拙者は今日迄イホ村の侠客権太郎の初公と云つたは世を忍ぶ仮の名、元を糺せば聖地エルサレムに於て、行成彦の従神たりし行平別命、汝夏山彦八岐の大蛇の片腕となり、白瀬川の大蛇となり、此イホの都に尻尾を現はし、我々に立派な館と見せかけ、牛糞馬糞を馳走と見せかけて食はさうと致す其計略は、前以て承知の拙者、サア尋常に白状致せばよし、白状致さぬに於ては、十握の宝剣を以て寸断にするぞ』 と大音声に呼はつて居る。夏山彦は此声に驚きて此場に走り来り、 夏山彦『ヤア、誰かと思へば初公ぢやないか、何だ大きな声を出して………』 初公『大きな声は俺の地声だ。大蛇の化物ツ』 夏山彦『モシモシ宣伝使様、この男はどうかして居るのでせうな』 蚊取別『イヤどうもして居りませぬ。一寸副守護神が乗り憑つて、訳もない事を吐ざくのですよ』 初公『ナニ、副守護神だ!馬鹿にするない。フクはフクだが世界の福を守護する七福守護神だぞ』 蚊取別『雑巾持たしたらそこらをフク守護神、雪隠へ行つても、碌に尻丈は拭かぬ守護神、法螺ばつかり吹く守護神だ。蟹の様に泡を吹く守護神、熱も吹く守護神だ。アハヽヽ』 夏山彦『御一同様、お疲労で御座いませう。どうぞ緩り、日の出の頃まで未だ夜が御座います。此頃は日の出と言つても、日輪様のお姿は雲に包まれて拝めませぬが、ここに一つ灯を点して置きますから、ゆつくり御飯でも召上つて、今晩はお休み下さいませ。明日ゆつくりお目にかかりませう』 初公『それ見よ蚊取別さま、初公の目は黒いものだ、やつぱり大蛇の背だ。日の出神だとか日の出だとか、一つ火とか言うたぢやないか』 蚊取別『此奴まだ夢見てゐる、困つた奴だナア』 とまた鼻を力限りに捻ぢ上げる。 初公『イヽヽヽイツタイ、蚊取別、フニヤフニヤフニヤ、ヘタイヘタイヘタイヘタイ、ハヤセハヤセハヤセハヤセ』 蚊取別『アハヽヽヽ』 初公『あまり人を馬鹿にすな。此好い男つ振を鼻を引延ばしよつて……天狗の様になつたぢやないか』 蚊取別『ヤ、是でへつこむだ鼻が延びて調和が取れた。ハナの都の初花姫の様な、立派な顔になつたよ』 この時奥の間より、嚠喨たる一絃琴の音幽かに聞え、女神の歌ふ声、蚊取別の耳に特に浸み込む様であつた。蚊取別は首を傾け乍ら手を組み、 蚊取別『ハテなア』 (大正一一・三・九旧二・一一松村真澄録) |