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霊界物語 07_午_日の出神のアフリカ物語 37 老利留油 第三七章老利留油〔三三七〕 神の光を輝かすこの四柱の宣伝使 日の出神を始めとし心も豊に治まれる 豊日の別の宣伝使醜の曲津も祝姫 面那芸彦と諸共に国の八十国八島別 神の命に立別れ漸くここを建日向 別に別れて進み行く豊葦原の豊の国 長閑な春日を負ひ乍ら脚に任せて山坂を 岩の根木の根踏みさくみ深き谷間を打渡り 豊けき豊の神国の名を負ひませる白日別 筑紫の国に渡らむと勇み行くこそ雄々しけれ。 霧立昇る霧島の山の尾の上に、四柱は腰うち下し草の上にどつかと臀を据ゑて、流るる汗を拭ひ乍ら、四方の景色を眺めて、無邪気な話に耽りける。 豊日別『あゝ実に高山から見た景色は雄大ですな。四方山に包まれ、一方には荒浪に時々襲はれる肥の国に鳥無郷の蝙蝠を気取つて、権利だ、義務だ、得だ損だと狭つこましきことを言つて争つたり、訳の解らぬ人間を相手に昼夜心を腐らし、心配をしながら虎転別の悪魔だとか、鬼だとか云はれて居るよりも、斯うして貴下等と一緒に元の心に生れ変つて、自由自在に山野を跋渉するのは、実に何とも云へぬ天恵ですワ。夫れに就て私は、豊の国の豊日別となつて守護を致さねばなりませぬが、豊の国は一体何の方面に当るのでせうか』 面那芸宣使は四方を見廻しながら、眼下に展開せる大沙漠を指さし、 面那芸『豊の国はこの西南に当る赤白く見える処ですよ』 豊日別『よを、何だ、草も木も一本も生えて居ないぢやありませぬか。彼れは沙漠ではありますまいか』 面那芸『大沙漠ですよ。そこに草木を植付け五穀を稔らせ、豊な豊の国とするのが貴下の役目ですよ』 豊日別『天恵どころか、非常な天刑です。何うしたら草木が繁茂し、人間が繁殖して立派な国土になりませうかな』 日出神『豊日別さまの頭の禿に毛が生えたら彼の沙漠にも草木が生えるだらう。夫れを生さうと思へば大変な辛い目をしなくちやならぬ』 豊日別『この禿た頭に毛が生えますか』 日出神『痛い目をすれば生える。生やして上げようか』 豊日別『少々痛い目をしたつて天下の為になることなら構ひませぬ』 日の出神はつと立上り傍の樹木の中に姿を隠したるが、暫らくありて青々とした樹の枝を握り帰り来たり、傍の岩の上にその樹の枝を積み、手頃の石を以ておさんが砧を打つやうに打ち始めたるに、追々と打たれて枝も葉も容量低になり、水気が滴り出しける。日の出神は黒き被面布にくるくると包み、一生懸命に力を籠めて搾り、出た汁は、岩の上の少しく凹みし所に油となつて充されける。 日出神『さあ、是から毛を生やして上げやう。些は痛いが、辛抱できますか』 と云ひながら、豊日別の頭を傍の荒き砂を掴みて、ゴシゴシと擦りけるに、豊日別は、 豊日別『イヽヽヽヽ』 日出神『宣伝使たる者が痛いなぞと弱音を吹いてはならぬ、そこが男だ、気張りなさい』 豊日別『イヽヽヽヽ好い気分ですワ』 日の出神は益々ガシガシと擦る。薄皮は剥ける、血は滲む。 豊日別『イヽヽヽヽ至つて好い気分ですワイ』 日出神『よし、これからもう一つ好い気分にして上げやう』 と今搾つた岩の上の油を掬うて、ビシヤビシヤと塗りつける。豊日別は顔を顰め、又もや、 豊日別『イヽヽヽヽイヽヽヽヽ』 と泣声になつて来てゐる。 日出神『また貴方は弱音を吹くな』 豊日別『イヽヽヽヽイヽヽヽ好い加減です。成ることなら、もう好い加減に止めて、ホヽヽヽ欲しいことない』 と涙をボロボロと零して気張りゐる。 日出神『さあ、これでよし』 と再び芝生の上に腰を下したりける。豊日別は頭を押へ、目を塞ぎ、息を詰めて蹲踞みゐる。暫時すると痛みが止まり、豊日別はやつと安心して顔の紐を解く。 日出神『如何でした。好い気分でせう。人間は一度は大峠を越さねばならぬ。大峠を越すのは随分苦しいものだ』 豊日別『いや、この大峠まで上つて来たが、さう苦しいとは思はなかつたのに、しかし大峠どころの騒ぎぢやありませぬよ。随分痛い、ドツコイ至つて結構な目に会ひました』 日出神『頭に手を上げて御覧なさい』 豊日別は、頭を撫で、 豊日別『やあ、生えた生えた。すつかり生えた。有り難う』 と俄に飛び上り喜ぶ。これは老利留といふ木の油なりける。 日の出神『さあさあ行かう』 と日の出神は先頭に立つ。豊日別は禿頭に毛の生えたのを大いに喜び、 豊日別『さあ、これで若くなりました』 と肩を怒らせながら、ドンドンと峠を下り行く。四人の歌ふ宣伝歌は谷々に響き渡りぬ。 (大正一一・二・二旧一・六外山豊二録)
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霊界物語 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 42 言霊解四 第四二章言霊解四〔三九二〕 『其妹伊弉冊命吾に辱見せたまひつと言したまひて、即ち黄泉醜女を遣はして追はしめき』と云ふ事は、以上の如くに乱れ果てたる醜状を、神の光なる一つ火に照らされ、面の皮を曳剥られて侮辱されたと言つて、大本であれば心に当る醜悪なる教信徒が一生懸命に大本や教主に反抗すると云ふことであり、世界で言へば、益々立腹して大本を圧迫し、窮地に陥れむとする人物の出現すると云ふ事で在るから、誠の教を開くと云ふ事は、随分六ケ敷事業であります。今日のやうな無明闇黒の社会に容れられる様な教なら別に苦労艱難は要らぬ、四方八方から持て囃されるで在らうが、その様な教なら現代を覚醒し、人心を改造する事は出来ない。国家を泰山の安きに置き奉らむとするの志士仁人は凡ての迫害と戦ひ、総ての悪魔に打ち克ち、身を以て天下に当るの勇猛心を要するのであります。黄泉醜女は決して悪い魔女の事では無い。今日の人間は上下共に男も女も、八九分通りまで醜女であります。何処にも一点の男子らしき、勇壮なる果断なる意気を認むる事は出来ぬ。斯ういふやうな黄泉醜女らが、大本の一つ火の明光に照されて、夏の虫の如くに消しに来ては却つて自分が大怪我をするのであります。今日の大本は四方八方から攻め立てられ、人民を保護す可き職に在る人々までが、時には逆様に攻撃妨害を加へむとして居るのであります。是が大本を四方突醜目で見てをると云ふのであります。 然し至誠思国の吾々大本人は、所在総ての圧迫と、妨害に打ち克つ為に、一つの力を貯へねば成らぬ如く、世界に対しても我国は、充分の準備を整へねばならぬ。即ち神典に所謂黒御鬘を投げ打つて掛らねば成らぬのであります。 『爾伊弉諾命黒御鬘を取りて投げ棄て玉ひしかば、乃ち蒲子生りき』 之を今日の大本に譬へると、幽玄美はしき神の御教を、天下に宣伝する事を『投げ棄て玉ひき』といふのであります。『蒲子生りき』と云ふ事は、美はしき誠の新信者が出来たと云ふ事であります。黄泉神醜女は、また之に向つて一人々々に種々の圧迫妨害を加へると云ふ事が、『是を拾ひ食む』と云ふのであります。何れの教子にも悉く四方突軍が御蔭を堕さしに廻つて居る。その間に又一つの戦闘準備に着手する事を『逃げ出でますを』と云ふのであります。 『猶追ひしかば、亦其の右の御角髪に刺せる、湯津津間櫛を引闕て、投げ棄てたまひしかば乃ち笋生りき』 蒲子とも言ふべき信仰の若い信者を、片端から追詰め引落しにかけ乍ら、なほもそれに飽き足らずして、大々的妨害を加へむとの乱暴には、神も終に堪忍袋の緒が断れたので、右の御角髪にまかせる湯津津間櫛を引闕て、乃ち神界の一輪咲いた梅の花の経綸を表顕して、所在四方突醜女に向つて宣伝した所が、終に箏と云ふ、上流貴紳[※身分の高い人という意]の了解を得、至誠天に通じて、いよいよ大本の使命の純忠純良なる事を、天下に知らるるやうに成るのを箏生りきと云ふのであります。是は全地球上の出来事に対する御神書であれども、総ての信徒に了解の出来易いやうに、現今の大本と将来の大本の使命を引用して、説明を下したのであります。 『是を抜き食む間に逃行でましき』 又々邪神の頭株が、大本の折角の経綸を破壊せむと、百方苦心しつつ在る内に、いよいよ神国の危急を救ふ可き、諸々の準備を整へ、何時にても身命を国家に捧げ奉つて、君国を守るべき用意を整へて行くと云ふ事が、『是を抜き食む間に逃行でましき』と云ふ意義であります。 『旦後には其の八種の雷神に千五百の黄泉軍を副へて追はしめき』 之を大本に譬へて見ると、八種の雷(前に詳述)に加ふるに社会主義者または仏教家、基督教徒などの、数限りなき露骨なる運動を起して、力限り攻撃の矢を向け来る事であります。之を世界に対照する時は、前述の八種の悪魔の潜在する上に、千五百軍即ち或る国から、日本の霊主体従なる神国を攻めて来ると云ふ事になるのであります。黄泉軍と云ふことは、占領とか、侵略とか、利権獲得とか、良からぬ目的の為に戦ひを開く国の賊軍隊の謂ひであります。 『爾御佩せる十拳剣を抜きて、後手に揮きつつ逃げ来ませるを』 霊主体従の神軍は戦備を整へながら即ち十拳剣を抜きながら、充分に隠忍し敢て戦はず、なるべく世界人類平和の為め、治国安民の為に言向平和さむとする意味を指して『後手に揮きつつ逃げ来ませる』と云ふのであります。 『其の坂本なる桃の子を三個取りて待撃ちたまひしかば悉く逃げ帰りき』 ヒラサカのヒの言霊は明徹也、尊厳也、顕幽皆貫徹する也、照智也、光明遍照十方世界也、日の朝也、大慈大悲五六七の神徳也。ラの言霊は、高皇産霊神也、霊系の大本也、無量寿の大基也、本末一貫也。 サの言霊は⦿に事ある也、栄ゆ也、水の音也、水の精也。 カの言霊は、蒙せ覆ふ也、光り輝く也、懸け出し助くる也。 以上ヒラサカ四言霊の活用を約むる時は、尊厳無比にして六合を照し、世界を統一し以て仁慈を施し、霊系の大本神たる日の大神の本末一貫の徳と、万世一系の皇徳を備へ、⦿に変ある時は、水の精なる月光世に出で、皇国の栄えを守り、隠忍したる公憤を発して、駆け出し向ひ戦ひ、神威皇徳を世界に輝かすてふ、神軍の謂ひであります。 又坂本は神国の栄え行く大元といふ事であります。大本といふも坂本の意義である。桃は百の意義で、諸々の武士といふ事であります。霊主体従日本魂の種子が乃ち桃の実であります。『三箇取りて待ち討ちたまひし』とは日本男子の桃太郎が、智仁勇に譬へたる、猿犬雉を以て、戦ふと云ふ事であります。猿は智に配し、雉は仁に配し、犬は勇に配するのであります。亦三ツと云ふ事は、変性女子なる三女神の瑞霊の御魂であります。そこで三ツの御魂即ち十拳剣の精なる神の教に依て悠然として、待ち討ちたまうた時に、黄泉軍は悉く敗軍遁走して了つたと云ふ意義であります。 『爾に伊弉諾命桃子に告り曰はく。汝吾を助けし如、葦原の中つ国に、有らゆる現在人民の苦瀬に落ちて苦患む時に、助けてよと告りたまひて、意富加牟豆美命といふ名を賜ひき』 茲に於て日の大神様から、聖なる至誠の団体や、三つの御魂に向つて、能く忠誠を尽し、国難を救うて呉れたと、御賞めになり、なほ重ねて世界人民が戦争の為に、塗炭の苦みを受けるやうな事が、今後において万一にも出来したら、今度のやうに至誠報国の大活躍をして、天下の万民を救うて遣つて呉れよ。汝にはその代りに意富加牟豆美命と名を賜うと仰せになつたのであります。このオホカムツミの言霊を奉釈すると次の如くであります。 オの言霊は、霊治大道の意である。 ホの言霊は、透逸卓出の意である。 カの言霊は、神霊活気凛々の意である。 ムの言霊は、組織親睦国家の意である。 ツの言霊は、永遠無窮に連続の意である。 ミの言霊は、瑞の身魂善美の意である。 之を一言に約むる時は、霊徳発揚神威活躍平和統一高照祥光瑞霊神剣発動の神と言ふ事であります。即ち惟神の大道を天下に宣伝する至誠至忠の聖団にして、忠良なる柱石神なりとの御賞詞であります。アヽ現代の世態に対し、神の大命を奉じて日本神国のために身心を捧げ、麻柱の大道を実行する大神津見命は、今何処に活躍するぞ。天下の濁流を清め妖雲を一掃し、災禍を滅し、世界万有を安息せしむる神人は、今や何処に出現せむとする乎。実に現代は黄泉比良坂の、善悪正邪治乱興廃の別るる大峠の上り口であります。 (大正九・一一・一於五六七殿外山豊二録) (大正一一・二・一一旧一・一五谷村真友再録)
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霊界物語 08_未_日の出神の弟子たちの南米物語 43 言霊解五 第四三章言霊解五〔三九三〕 『最後に其妹伊弉冊命、身自ら追来ましき』 今迄は、千五百の黄泉軍を以て攻撃に向つて来たのが、最後には世界全体が一致して日の神の御国へ攻め寄せて来たと云ふ事は、伊弉冊命身自ら追ひ来ましきといふ意義であります。是が最后の世界の大峠であります。すなはち神軍と魔軍との勝敗を決する、天下興亡の一大分水嶺であります。 『爾ち千引岩を、其の黄泉比良坂に引塞へて、一日に千頭絞り殺さむと申したまひき』 千引岩とは、非常に重量の在る千万人の力を以てせざれば、微躯とも動かぬ岩といふ意義であります。千引岩は血日国金剛数多といふ意義で、君国を思ふ赤誠の血の流れたる大金剛力の勇士の群隊と云ふことであつて、国家の干城たる忠勇無比の軍人のことであります。また国家鎮護の神霊の御威徳も、国防軍も皆千引岩であつて、侵入し来る魔軍を撃退し又は防止する兵力の意義であります。 『中に置き事戸を渡す』と云ふ事は、霊主体従の国家国民と、体主霊従の国家国民とは、到底融合親睦の望みは立たぬ。堂しても天賦的に、国魂が異つて居るから、神国の行り方、異国(黄泉国)はその国魂相応の行り方で、霊主体従国と体主霊従国とを立別ると云ふ神勅が事戸を渡すと云ふ事であります。 善一筋の政治や神軍の兵法は、体主霊従国の軍法とは根本的に相違して居るから、一切を茲に立別て、霊主体従国は霊主体従国の世の持方、体主霊従は体主霊従の世の治め方と、区別を付けられた事であります。要するに神国の土地へは、黄泉軍の不良分子は立入るべからずとの御神勅であります。人皇第十代崇神天皇様が、皇運発展の時機を待たせ玉ふ御神慮より、光を和げ塵に同はりて、海外の文物を我国に輸入せしめ玉ひし如く、何時までも和光同塵の制度を、墨守する事が出来ないので、断然として、事戸を渡さねば成らぬ現代に立到つた如き有様であります。事は言辞論説の意味で、戸は閉塞するの用であります。要するに日本は皇祖大神の御聖訓を以て、治国安民の要道と決定され、一切体主霊従国の不相応なる言論を輸入されないと云ふ意義が、乃ち事戸を渡し給うと云ふ事であり、之を夫婦の間に譬へますと離縁状を渡して、一切の関係を断つと云ふ事であります。何時までも和光同塵的方針を採るのは我々の今日の処世上に於ても一考せなくては成らぬ。悪思想や貧乏神には、一日も早く絶縁するが、家の為めにも一身上の為にも得策であります。今日の我国家も、一日も早く目覚めて我国土に不相応なる思想や、論説や哲学宗教なぞと絶縁して、所謂事戸を立て渡し度いもので在ります。 『伊弉冊命宣りたまはく愛くしき我那勢命如此為たまはば汝の国の人草、一日に千頭絞り殺さむとまをしたまひき』 黄泉大神の宣言には、我々の愛慕して止まない、神国兄の国の神宣示を以て、斯の如く黄泉国の宗教学説を排斥さるるならば、此方にも一つ考へがある。汝の国の人民の、上に立つて居る所の頭役人どもを黄泉軍の術策を以て、一日に千人即ち只一挙にして、上の方の役人どもを馘つて了つてやる、即ち免職をさせて見せようと云ふ事である。 惟神の大道即ち皇祖の御遺訓に依つて思想界を統一せむとする守護神があれば、直に時代に遅れた骨董品格にして、役人の頭に採用せないのみならず、直に首を馘られて了ふから、伊弉諾命即ち日本固有の大道を、宣伝実行する事を、避けむとする利己主義のみが発達するのであります。 是皆黄泉軍、体主霊従魂の頤使に甘んずる腐腸漢計りに成つて居る現代であります。我々は伊弉諾命の神教、即ち天神天祖の聖訓を天下に宣伝し実行せむとするに当つて、黄泉の軍の体主霊従国魂の守護神から圧迫され、日々千人即ち赤誠の信者を、大本より離れさせむとして、黄泉神の手先が、百方邪魔をひろぐのも同じ意味であります。 たとへ日本の神の教が結構と知り、又大本の出現が、現代を救ふには大必要である事を、充分了解し乍ら世間を憚り且つ又、旧思想家と云はれ、終には現今の位置より馘られ、社会的に殺され葬られて了ふ事を恐れて世間並に至誠貫天的の、社会奉仕の大本を悪評し、かつ圧迫するを以て、安全の策と心得て居る守護神許りで表面上大本の信者たる事を標榜するが最後、直に其の赤誠人は軍人と言はず、教育家と言はず会社員と言はず、馘られ職を免ぜられると云ふ事が『一日に千人絞り殺さむとまをしたまひき』と云ふ事になるので在ります。 『爾に伊弉諾命詔り玉はく、愛くしき我那邇妹命、汝然為たまはば吾はや、一日に千五百産屋立ててむと詔りたまひき。是を以て一日に必ず千人死に一日に必ず千五百人なも生るる』 茲に伊弉諾命は、我愛する那邇妹命よ、思想問題を以て日の御国を混乱せしめ猶ほ亦、今一致して武力を以て、我国を攻め給ふならば、我にも亦大決心がある。吾は惟神の大道を発揮して、以て一日に千五百の産屋を立てて見ませうと仰せられた。御神諭にある産の精神の人民、生れ赤子の心の人民を養成する霊地を、産屋と云ふのであります。 チは血なり赤誠也、霊主体従の意也、父の徳也、乳也、塩也。 イ[※ヤ行イ]は結び溜る也、身を定めて不動也。 ホは、上に顕はる也、太陽の明分也、照込也、天の心也。 ウ[※ア行ウ]は結び合ふ也、真実金剛力也、親の働き也。 ブは茂り栄ふ也、世の結び所也、父母を思ひ合ふ也。 ヤは固有の大父也、天に帰る也、経綸の形也。 以上のチイホウブヤの六言霊を納むる時は、神の血筋因縁の身魂が集り合ひて、赤誠の実行を修め、霊主体従の本領を発揮し、天の父たり、地の母たるの位を保ちて、仁恵の乳を万民に含ませ、大海の塩の如く、総ての汚れを浄め、総ての物に美はしき味を与へ腐敗を防ぎ、有為の人材一団と成りて、我身の方向進路を安定し、以て邪説貪欲に心を動かさず、俗界の上に超然として顕はれ、大神の大御心を宇内に照り込ませ、太陽の明分即ち日の神国の天職を明かに教へ覚し、至真至実の大金剛力を蓄へ、世界の親たるの活動を為し、上下の階級一つの真道に由りて結合し、日々に結びの力を加へ、終には世界を統一結合し、父母として万民慕ひ集まり固有の大父なる国祖大国常立神の御稜威を仰ぎ、天賦の霊性に帰りて世界を経綸し以て、三千世界を開発し、救済する聖場の意義であります。要するに、地の高天原なる綾部の大本の、神示の経綸は、乃ち千五百産屋に相当するのであります。大本の御神諭には『綾部は三千世界の世の立替立直しの地場であるから、日の大神様の御命令によりて、世界の人民を天の大神の誠一とつで此の世を治める結構な地の高天原であるぞよ』と示されてあるも、所謂千五百産屋の意義にして、生れ赤子の純良なる身魂を産み育て玉ふ神界の大経綸の中府であります。故に何程黄泉大神の精神より出でたる、過激的思想も侵略的の体主霊従国軍も、綾部に千五百産屋の儼存する限りは、如何ともする事が出来ないのであります。亦之を文章の侭に解する時は、一日に千人死して千五百人生れ出づる時は、結局人口は年を追うて増進する故に、之を天の益人と謂ふのであります。天の益人は天下国家の為に利益を計る、至誠の人の意味にも成るのであります。我大本の誠の信徒は、皆一同に天の益人とならねば成らぬ。亦日本全体を通じて天の益人たるの行動をとつて、国家を開発進展せしめ、黄泉国なる国々に其の範を垂れ示さねば、神国の神民たる天職を尽す事は出来ぬのであります。今日社会主義や過激派にかぶれた、不良国民が黄泉軍の眷属となり、大官連中に不穏なる脅迫状を送つたり、大本の幹部連中に向つて、同様の脅迫状が舞ひ込んで来るのも、千人を殺さむと白したまひきの意味であります。米国加州の排日案が通過したのも、西伯利亜満洲支那朝鮮の排日行動も、排貨運動の実現も、各地の小吏が大本に極力反対し、且つ我行動を妨害しつつあるのも、皆黄泉軍の一日に千人くびらむ、と白し玉ひきの実現であります。 太陽面に、地球の七八倍もある円形にして巨大なる黒点が出現し、約七万哩の直径を有し、吾人の肉眼を以て明視し得る如くに成つて居るのも、日の若宮に坐す伊弉諾命を、黄泉軍の犯しつつある表徴であります。亦この黒点が現はれると、其の年及び前後数年間は、従来の記録に依つて調べて見ると、第一気候が不順で、悪病天下に蔓延し、饑饉旱魃等は大抵その時に現はれ、人心の騒擾極点に達する時であります。天明の大饑饉も、太陽の黒点と時を同じうして現はれて居る。今日此頃の天候の不順も亦この黒点の影響である。況んや今度の如き、開闢以来未曾有の大黒点に於ておやであります。アヽ一天一日の太陽の黒点、果して何を意味するものぞ。伊弉諾命の持たせ玉へる一ツ火の光も、半ば消滅せむとするには非ざるか、我等は一日も早く千五百産屋は愚、八千五百産屋万産屋を建て、以て君国の為めに大活動を開始せざるべからざるを切に感ぜざるを得ないのであります。 『故其伊弉冊命を、黄泉津大神と謂す。亦其の追及しに由りて、道敷大神と称すとも云へり』 チシキの大神の言霊を解すれば、 チは血也、数の児を保つ也、外に乱れ散る也。 シは却て弛み撒る也、世の現在也。 キは打返す也、打ち砕く也。 之を一言に約する時は、数多の児即ち千五百軍を部下に有し、血脈を保ち外に向つて乱を興し終に自ら散乱し現在の世の一切を弛廃せしめ、以て正道を打返して、邪道に化し、至仁至愛の惟神の、生成化育の道を打砕く、大神と云ふ事であります。現代は国の内外を問はず、洋の東西を論ぜず道敷の大神の最も活動を続行し玉ふ時であります。 『亦其の黄泉の坂に塞れりし石は道反大神とも号し塞坐黄泉戸大神とも謂す』 チカヘシの大神はウチカヘシの大神と云ふ事で在り、又邪道を塞ぎて邪道を通過せしめずと云ふ意義であります。古来町の入口や出口には、塞の神と謂うて巨大なる石が祭つて在つたもので在ります。是も邪悪を町村内に侵入させぬ為の目的であります。吾人の家屋を建つるにしても、礎石を用ゐ、又その周囲に石を積み、又は延べ石を廻らすも、皆悪鬼邪神の侵入を防止するの意義より、起元したもので在ります。今日の思想界にも此の大石が沢山に欲しいものであります。 『故其の所謂黄泉津比良坂は、今出雲国の伊賦夜坂とも謂ふ』 伊賦夜坂の言霊を解すれば、 イ[※ア行イ]は強く思ひ合ふ也、同じく平等也、乱れ動く也、破れ動く也。 フは進み行く也、至極鋭敏也、忽ち昇り忽ち降る也、吹き出す也。 ヤは外を覆ふ也、固有の大父也、焼く也、失也[※「失」は「矢」の誤字の可能性がある。「言霊の大要」(『神霊界』大正7年3月1日号p20)では「矢」でフリガナが無いが、大石凝眞素美の『大日本言霊』では「矢」に「ヤ」とフリガナが付いている。黄泉比良坂の古事記言霊解は大正9年11月1日に綾部の五六七殿で講演した講演録であり、3つの文献に掲載されている。『神の国』大正9年12月1日号(皇典と現代2)p24では「失(うしなふ)」、『霊界物語』第8巻第43章「言霊解五」(大正11年2月9日再録、昭和10年3月4日校正)では「失(しつ)」、『出口王仁三郎全集第5巻』(昭和10年6月30日発行)p59は「失(しつ)」になっている。]、裏面の天地也。 ザ[※以下の活用は「ザ」ではなく「サ」の言霊の活用である。]は騒ぎ乱る也、⦿に事在る也、降り極る也、破壊也。 カは一切の発生也、光輝く也、懸け出し助くる也、鍵也。 イフヤザカの五言霊を約言する時は善悪正邪の分水嶺であります。男神の伊弉諾命と女神の伊弉冊命と、互ひに自分の住し、かつ占有する国土を発展せしめむと、強く思ひ合ひて争ひ賜ふ所は同じく平等にして何の差別もなく、只々施政の方針に大なる正反対の意見あるのみ。然れど女神黄泉神の御経綸は惟神の大道に背反せるが故に、終に海外の某々の如く悉く大動乱大破裂の惨状を露出したのは、近来事実の確証する所であります。 男神の神国は、日進月歩至極鋭敏にして、終に世界の大強国の仲間入りを為したり。されど忽ち昇り忽ち降るの虞れあり。黄泉国の二の舞を演ぜざる様、注意を要する次第であります。ヤは日本にして、何処までも徳を積み輝きを重ねつつ、外面を覆ひ、以て克く隠忍し、天下の大徳を保ちて天下に臨むと雖も黄泉国の八雷神や、千五百の妖軍は何の容赦も荒々しく、焼也、天也、の活動を成し、裏面の天地を生み成しつつあり。故に世界各国は殆ど騒乱の極みに達し正義仁道は地を払ひ、⦿に事の在りし暴国なり。茲に仁義の神の国の一切の善事瑞祥発生して、仁慈大神の神世に復し治め、暗黒界を光り輝かせ、妖軍に悩まされ滅亡せむとする、国土人民に対しては身命を投げだして救助し治国平天下の神鍵を握る可き、治乱興亡の大境界線を画せる、現代も亦これ出雲の国の伊賦夜坂と謂ふべきものであります。(完) (大正九・一一・一午前五六七殿講演外山豊二録) (大正一一・二・一一旧一・一五谷村真友再録) (第三七章~第四三章昭和一〇・三・四於綾部穹天閣王仁校正)
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霊界物語 09_申_松竹梅の宣伝使の南米・中米の旅 23 高照山 第二三章高照山〔四一六〕 ヒルとカルとの国境、高照山[※「ヒルとカルとの国境、高照山」はこれから二人が行く場所であって、これは「玉山」の間違いではないかと思われる。第22章a088では「玉山の麓」に居ると記されている。]の山口の、芝生に残されし熊公、虎公の二人は、松代姫一行の姿を影の隠るるまで見送りながら虎公は、 虎公『あゝ三五教の宣伝使一行は、吾々にお供を許されず、温かい言葉を残して、この場をいそいそと立つて行かれた。何うで、吾々のやうな罪の重い人間だから、お供は叶はぬのだらうが、あゝ残念な事をした。せめて三年前に、今のやうな心になつて居れば、立派にお伴を許して下さつたであらうに、思へば思へば、この身の罪が恨めしい』 と声を放つて泣き入る。 熊公『虎公よ。決して決してさうではないよ。俺たちをどうぞ立派な神の柱にしてやりたいと思つて、わざと捨ててお出で遊ばしたのだ。あの獅子といふ奴は、子を生んでから三日目に、谷底へ蹴り落して、上つて来る奴をまた蹴り落し蹴り落し、三遍以上あがつて来たものでないと、自分の子にせぬと云ふ事だよ。谷へ落されてくたばるやうな弱い事では、到底悪魔の世の中に生存する事は出来ない。まして悪魔の様な人間を教へ導く宣伝使だもの、お師匠さまを杖に突いたり頼りにするやうな事では、完全な御用は出来ないから、外へ出る涙を内へ流して、大慈大悲の神心から、吾々を置き去りにして往かれたのだ。人間は到底深い深い神様の御心は判るものでない。それだから三五教の宣伝歌にも、 「この世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ」 とあるのだ。見直しが肝腎だ。繊弱い吾々のやうな智慧の暗い人間は、無限絶対、無始無終の誠の神様に従つて、真心籠めて祈るより外はない。祈ればきつと神様の栄光が吾々の頭上に輝くであらう』 と涙まじりに語る折しも、弓矢を持つた四五人の荒くれ男、犬を引き連れながら坂路を下り来る。一人の男は、熊公、虎公の顔を見て、 男(鹿公)『オー、貴様はこの高砂島でも音に名高い熊公、虎公ぢやないか。貴様の名を聞くと泣く子も泣き止むと云ふ野郎だのに、今日はマアどうしたことか。貴様なんだい、ベソベソと吠面かわいて……』 虎公『ヨーこれは鹿公か。俺はな、すつかり改心したのだ。今まで悪人だと世間の者に言はれて来たが、これからはすつかりと善心に立返つて、自分の罪の懺悔をし、今までの罪亡ぼしに、神様の宣伝歌を歌つて、教へを説き廻り人を助けるのだ。あまり有難うて、今嬉し泣きに泣いて居たところだよ。お前も好い加減に殺生は止めて、三五教の教を聞いて、善人になつて呉れ。虎公が改心の門口、宣伝の初陣だ。貴様が改心して呉れたならば、この高砂島の人間は皆改心するのだ』 鹿公『フフン、何吐かしよるのだ。鬼の念仏見たよな事吐きよつて、何処を押へたらそんな音が出るのだ。この頃の暑さに、一寸心が変になりよつたな。ヘン、とろくさい、世の中は凡て優勝劣敗だ。大魚は小魚を呑み、小魚は虫を食つて互に生活する世の中だ。犬が猫を捕る、猫が鼠をとる、鼠が隠居の茶の子をとる、茶の子が隠居の機嫌とる、隠居が襦袢の虱とる、虱が頭のフケをとる、といつて世の中は廻りものだ。海猟師が魚を捕るのも山猟師が猪を獲るのも、皆社会の為だ。猟師がなければ皮を使ふ事も出来ず、魚を食ふ事も出来やしない。世の中は優勝劣敗、弱肉強食が自然の法則だよ。貴様もそんな女々しい事を言はずに、元の通り鬼虎となつて、売出したらどうだい。ここまで売り出した名を零にするのも惜しいぢやないか』 熊公『あゝ、善と悪とは違つたものだナア。善ほど辛いものはない、否結構なものはない。貴様もそんなことを言はずに、虎公のやうに改心して、神様を祈る気にならぬか』 鹿公『イヤ、俺は神様を祈つてるよ。俺の祈つてる神様はな、そんな腰の弱い、ヘナヘナした水の中で屁を放いた様な、頼りない教をする神さまとは訳が違ふのだ。いま俺はその神様に詣つて来たのだ』 虎公『お前が詣つて来た神様といふのは、そら何ういふ神様だい』 鹿公『貴様、あれ程名高いのに未だ聞かぬのか。随分遅耳だのう。ここをズツと三里ばかり奥へ這入ると、そこに高照山の深い谷がある。そこには長い滝が落ちて居つて、滝壺の右と左に大きな岩の洞穴があるのだ。さうして東の方の穴からは妙な声がするのだ。その岩に向つて、何事でも教へて貰ひに行くのだ。一ぺん貴様も行つて見よ、沢山の人が詣つて居るよ。一寸取り違ひ野郎が行くと、その岩の穴から大きな火焔の舌を出して、身体をチヤリチヤリと焼かれるのだ。貴様のやうな馬鹿な事云つて居る奴が行つたら、きつと岩の穴から出て来る火の舌に舐められて、黒焦になつて了ふだらうよ』 熊公『それは一体、何と云ふ神だい』 鹿公『何といふ神だか、エー、忘れたが、なんでも八岐の大蛇とか聞いたよ』 熊公『一体、何んな事を云ふのだい』 鹿公『委しい事は忘れて了つたが、とも角時代向きのする事を言ひ居る神さまだ。マアかい摘んで言へば、人間は一日でも立派に暮して、天から与へられた甘い物を喰つて、美しい着物を着て、酒でも飲んで元気をつけと云ふのだ。智利の国の鏡の池のやうな、水の中から屁をこいた様な、けち臭い御託宣とはわけが違ふのだ。まあ貴様ら、メソメソ泣いて居らずに一遍行つて来い。目が醒めてよからうぞ』 虎公『鹿公、お前はその教を信じて居るのか』 鹿公『信ずるも信じないもあつたものか。あんな結構な教が何処にあらうかい。さやうなら』 と五人の猟師は歩を速めて坂を下り行く。虎、熊の二人は足を速めてドンドンと谷道を伝ひ、玉川の瀑布に黄昏時に漸く辿り着き見れば、琴を立てたやうな大瀑布が、高く幾百丈ともなく懸つて微妙の音楽を奏でてゐる。東側の大巌窟の前には、沢山の参詣人が合掌して何事か口々に祈願してゐる。二人は素知らぬ顔にて諸人と共に、巌窟の前に端坐し合掌するや、巌窟は俄に大音響を立てて唸り始めたり。一同は大地に頭をピタリとつけ、畏まつてその音響を聴いてゐる。唸りは漸くにして止み、巌窟の薄暗き奥の方より、 声『アハヽヽヽ』 といやらしい笑ひ声が聞え来る。 虎、熊の二人は、顔見合して呆れゐる。巌窟の中より、 声『悪の栄える世の中に、善ぢや悪ぢやと争ふ奴輩。あくまで阿呆の恥曝し、悪をなさねば安楽に世は渡れぬぞ。飽くまで食へ、飽くまで飲め、飽くまで力を現はして、悪魔と言はれようが、力一杯わが身の為に飽くまで尽せ。イヽヽヽ生命あつての物種だ。要らざる教に従うて、善の、悪の、末が怖ろしいのと萎縮け散らしてゐるよりも、威勢よく酒でも飲んで、いつまでも生々として生命を延ばせ。ウヽヽヽ後指を指されようが後を向くな。見ぬ顔をいたして甘い物を鱈腹食ひ、美い酒は酒に浮くほど酔うて、甘い甘いと舌鼓、五月蝿い五月蝿いと肩の凝るやうな三五教の教を聴くな。この巌窟には穴がある。ウヽヽヽと唸る穴があるぞよ。あな面白き穴有り教ぢや。迂濶に聴くな。エヽヽヽ遠慮会釈もなく吾身のためには人は構うてをれぬぞ。得になることならば何処までも何処までも行け。閻魔が怖いやうな事ではこの世に居れぬぞ。地獄の閻魔を味噌漬にして食ふやうな偉い心になれ、笑ぎて暮せ酒飲んで。オヽヽヽ鬼か大蛇の心になつてこの世に居らねば、この世は優勝劣敗、弱肉強食の世の中ぢや。お互ひに気をつけて、吾身の得を図れよ。怖れな、後れな、面白くこの世を渡れ、大蛇の神を朝夕祈れ。オヽヽヽヽ面白い面白い』 虎公はこの声を聞いてむつくと立ち上り、 虎公『三五教の宣伝使、志芸山津見とは吾事なるぞ。悪魔の張本、天足の身魂、八岐の大蛇の再来、善を退け悪を勧むる無道の汝、今に正体現はして呉れむ。アハヽヽヽ、イヒヽヽヽ異端邪説を説き諭す、心の枉んだ大蛇の悪神、ま一度言ふなら言つて見よ、一寸刻みか五分試し、生命を取つて何時までも、禍の根を断つてくれむ。違背あらば返答いたせ。ウフヽヽヽ狼狽者のうつけ者、迂論な教を吐き立てて人心を動かす谷穴の土竜、浮世を乱す汝が悪計、志芸山津見の現はれし上からは容赦はならぬ。得体の知れぬ、奴拍手脱けした声をしぼり、優勝劣敗、弱肉強食の、エグイ心を嗾る奴。オホヽヽヽ大蛇の悪魔、往生いたすまで応対いたすぞ。尾をまいて降参いたせばよし、オメオメと言訳に及ばば、志芸山津見が両刃の剣を以て征伐いたす。奥山の谷底に身をひそめ、この世を乱す八岐の大蛇、返答はどうだツ』 巌窟の中より、 声『カヽヽヽ構ふな構ふな、蛙の行列、闇に烏の向ふ見ず、喧しいワイ。キヽヽヽ斬るの斬らぬのと広言吐くな。貴様のやうな腰抜けに、大蛇が斬れてたまらうか。気の利かぬ奴だなア。クヽヽヽ暗がり紛れに頭から食つてやらうか。くさい顔して苦しさうに俄宣伝使とは片腹痛い、ケヽヽヽ怪我のない間に早くこの場を去つたがよからう。見当の取れぬこの方の言葉、コヽヽヽここな腰抜け共、殺されぬ間にこの場を立去れ、こはい目に遇はぬ内に心を直して、この方の言ひ条につくか、執拗う聞かねばこの方も耐へ袋がきれるぞよ。米喰虫の製糞器奴。ワハヽヽヽ』 熊公『カヽヽ神の使の宣伝使に向つて無礼千万な、覚悟を致せ、体も骨も改心致さねば、グダグダにして遣らうか。キヽヽ気を取り直しキツパリと改心致せばよし、きかぬに於ては宣伝歌を歌はうか、クヽヽ暗い穴にすつ込んで、訳も判らぬ苦情を並べ、苦し紛れの捨てぜりふ、その手は食はぬ、熊公の身魂の光を知らざるか、ケヽヽ怪しからぬ悪逆無道の大蛇の再来、コヽヽここで会うたは優曇華の、花咲く春の熊公が手柄の現はれ口、最早かなはぬ、降参するか、返答は、コラ、どうぢや』 巌窟の中より、 声『サヽヽヽ騒がしいワイ、囀るな、酒を飲め飲め、飲んだら酔へよ、酔うたら踊れ。逆とんぶりになつて踊つて狂へ、扨も扨も酒ほど甘いものはない、酒の味を知らぬ猿智慧の熊公の世迷ごと、坂から車を下すやうに、この谷底へころげ落してやらうか。シヽヽヽ執拗い奴ぢや、しぶとい奴ぢや、しがんだ面して芝生の上に、ほつとけぼりを食はされて、吠面かわいた志芸山津見とは片腹痛い。スヽヽヽ速かに、この方の申す事を聞けばよし、すつた捩じつた理屈をこねると、簀巻に致して谷底へ投り込んでやらうか、セヽヽヽ雪隠虫奴が。宣伝使なんぞと下らぬ屁理屈を言つて廻る馬鹿人足。ソヽヽヽそれでも貴様は神の使か、底抜けの馬鹿とはその方の事だ。そのしやつ面でどうして宣伝使が勤まらうか、そこ退け、そこ退け、この方の邪魔になるワイ』 虎公『サヽヽ逆言ばかり囀る悪神、さあもう容赦はならぬ。シヽヽ志芸山津見が言霊の威力によつて、汝が身魂を縛つて呉れむ。死ぬるか生きるか、二つに一つの大峠、スヽヽヽ速かに返答いたせ。セヽヽ背中に腹は代へられよまい。宣伝使の吾々に兜を脱ぐか、降参するか、ソヽヽそれでもまだ往生いたさぬか、改心せぬか』 巌窟の中より、 声『タヽヽヽ誑け者、叩き潰して食うて了はうか、鼻高神の宣伝使、チヽヽヽちつとばかり改心が出来たと申して、この方様に意見がましい知識の足らぬ大馬鹿者、一寸は胸に手をあてて見よ。ツヽヽヽ捕へ処のない事を吐いて歩く、罪の深い両人共、掴み潰してやらうかい。強さうに言つても、貴様の胸はドキドキして居らうがな、テヽヽヽ天にも地にも俺一人が宣伝使だと言はぬばかりのその面つき、多勢の中で面を剥れてテレクサイことはないか。てるの国から遥々出て来て、扨もさても馬鹿な奴だ。トヽヽヽ虎公のトボケ面、熊公の心の暗い俄改心、迚も迚も衆生済度は六つかしからう』 熊公『ナヽヽ何を吐きよるのだ。タヽヽ他愛もないこと、立板に水を流すやうに、よくも囀る狸の親玉、誰にそんな事教へて貰ひよつたのだ。誑け者。チヽヽ一寸は貴様も考へて見よ。ツヽヽ詰らぬ理窟を並べよつて、テヽヽ手柄さうにトボケきつたことを吐しやがるな』 巌窟の中より、「ウヽヽヽワーワー」と大音響ひびき来る。 (大正一一・二・一五旧一・一九東尾吉雄録)
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霊界物語 10_酉_黄泉比良坂の戦い 総説歌 総説歌 世は常暗となり果てて再び天の岩屋戸を 開く由なき今の世は心も天の手力男 神の御出まし松虫の鳴く音も細き秋の空 世の憂事を菊月の十まり八つの朝より 述べ始めたる霊界の奇しき神代の物語 三つの御魂に因みたる三筋の糸に曳かれつつ 二度目の岩戸を開き行く一度に開く木の花の 色香目出たき神嘉言常世の国の自在天 高く輝く城頭の三ツ葉葵の紋所 科戸の風に吹きなびき思想の洪水氾濫し ヒマラヤ山頂浸せども明の烏はまだ啼かず 長鳴鳥も現はれず橄欖山の嫩葉をば 啣みし鳩の影もなし天地曇りて混沌と 妖邪の空気充ち充ちて人の心は腐りはて 高天原に現はれしノアの方舟尋ね佗び 百の神人泣きさけぶ阿鼻叫喚の惨状を 救ひ助くる手力男の神は何れにましますぞ 天の宇受売の俳優の歌舞音曲は開けども 五つ伴緒はいつの日か現はれ給ふことぞかし つらつら思ひめぐらせば天の手力男坐しませど 手を下すべき余地もなく鈿目舞曲を奏しつつ 独り狂へる悲惨さよ三五教の御諭しは 最後の光明艮めなりナザレの聖者キリストは 神を楯としパンを説きマルクス麺麭もて神を説く 月照彦の霊の裔印度の釈迦の方便は 其侭真如実相か般若心経を宗とする 竜樹菩薩の空々はこれまた真理か実相か 物理に根ざせる哲学者アインスタインの唱へたる 相対性の原理説は絶対真理の究明か 宗教学者の主張せる死神死仏を葬りて 最後の光は墓を蹴り蘇へらすは五六七神 胎蔵されし天地の根本改造の大光明 尽十方無碍光如来なり菩提樹の下聖者をば 起たしめたるは暁の天明閃く太白星 東の方の博士をば馬槽に導く怪星も 否定の闇を打破る大統一の太陽も 舎身供養の炎まで残らず五六七の顕現ぞ 精神上の迷信に根ざす宗教は云ふも更 物質的の迷信に根ざせる科学を焼き尽し 迷へる魂を神国に復し助くる導火線と 秘かに密かに唯一人二人の真の吾知己に 注がむ為の熱血か自暴自爆の懺悔火か 吾は知らずに惟神神のまにまに述べ伝ふ 心も十の物語はつはつ爰に口車 坂の麓にとどめおくあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ。 ○  三箇の桃と現はれし松、竹、梅の姉妹が 獅子奮迅の大活動智仁勇をば万世に 残す尊き言の葉のいや永久に茂りつつ 八洲の国の礎を造り固めしその如く 数多の人を大神の誠の道に誘ひて 雄々しき魂となさしめよ黄泉比良坂大峠 昔も今も同じこと三つの御魂に神習ひ 三月三日の桃の花五月五日の桃の実と なりて御国に尽せかし神は汝と倶にあり 御仁慈深き大神の御手に曳かれて黄泉国 うとび来らむ曲神を誠の教の剣もて 善言美辞に打払ひその身その侭神となり 皇御国の御為に力限りに尽せよや 神を離れて神に就き道に離れて道守る 誠一つの三五教の月の心を心とし 尽す真人ぞ頼母しきあゝ惟神々々 御霊の幸を賜へかし。 大正十一年二月廿七日旧二月一日 於竜宮館王仁識
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霊界物語 10_酉_黄泉比良坂の戦い 15 言霊別 第一五章言霊別〔四四五〕 国祖国治立命出現されし太初の世界は、風清く澄み、水清く、空青く、日月曇なく、星を満天に麗しく輝き、山青く、神人は何れも和楽と歓喜に満され、山野には諸々の木の実、蔓の実豊熟し、人草は之を自由自在に取りて食ひ、富めるもなく貧しきもなく、老もなく病もなく死を知らず、五風十雨の順序正しく、恰も黄金時代、天国楽園の天地なりき。然るに天足彦、胞場姫の体主霊従的邪念は、凝つて悪蛇となり、また悪鬼悪狐となり、その霊魂地上に横行濶歩して茲に妖邪の気満ち、貧富の懸隔を生じ、強者は弱者を虐げ、生存競争激烈となり、地上は遂に修羅の巷と化したるのみならず、神人多くその邪気に感染して利己主義を専らとし、遂には至仁至愛の大神の神政を壊滅せむとするに至りける。地上神人の邪気は、遂に世界の天変地妖を現出し、大洪水を起し、一旦地の世界は泥海と化し、数箇の高山の巓を残すのみ、惨状目も当てられぬ光景とはなりぬ。 この時、高皇産霊神、神皇産霊神、大国治立神は顕国玉の神力を活用し、天の浮橋を現はし給ひて地上の神人を戒め、且つ一柱も残さず神の綱に救ひ給ひ、諾冊二神を地の高天原なる天教山に降して、海月なす漂へる国を、天の沼矛を以て修理固成せしめ給ひ、国生み島生み神を生み、再び黄金世界を地上に樹立せむとし給ひぬ。然るに又もや幾多の年月を経て地の世界は悪鬼、悪蛇、悪狐その他の妖魅の跳梁跋扈する暗黒世界と化し、優勝劣敗、弱肉強食の社会を出現し、大山杙、野椎、萱野姫、天の狭土、国の狭土、天の狭霧、国の狭霧、天の闇戸、国の闇戸、大戸惑子、大戸惑女、鳥の石楠船(一名天の鳥船)、大宜都姫、火の焼速男(一名火の迦々彦、火の迦具土)、金山彦、金山姫等の諸神の荒び給ふ世を現出したりける。 一旦天地の大変動により新に建てられたる地上の世界は、又もや邪神の荒ぶる世となり、諸善神は天に帰り、或は地中に潜み、幽界に入りたまひて、陰の守護を遊ばさるる事となりしため、再び常世彦、常世姫の系統は、ウラル彦、ウラル姫と出現し、ウラル山を中心として割拠し、自ら盤古神王と偽称し、大国彦、大国姫の一派は邪神のためにその精魂を誑惑され、ロッキー山に立て籠り、自ら常世神王と称し、遂には伊弉冊命、日の出神と僣称し、天下の神政を私せむとする野望を懐くに至れり。 茲に伊弉冊命は、この惨状を見るに忍びず、自ら邪神の根源地たる黄泉の国に出でまして邪神を帰順せしめ、万一帰順せしむるを得ざるまでも、地上の世界に荒び疎び来らざるやう、牽制運動のために、黄泉国に出でまし、次で海中の竜宮城に現はれ、種々の神策を施し給ひしが、一切の幽政を国治立命、稚桜姫命に委任し、海中の竜宮を乙米姫命に委任し、自らロッキー山に至らむと言挙し給ひて、窃に天教山に帰らせ給ひ、又もや地教山に身を忍びて、修理固成の神業に就かせ給ひつつありたるなり。 天地の神人は、此周到なる御経綸を知らず、伊弉冊命は黄泉の国に下り給ひしものと固く信じ居たるに、伊弉冊命のロッキー山に現はれ給ふとの神勅を聞くや、得たり賢しとして元の大自在天にして後の常世神王となりし大国彦は、大国姫その他の部下と謀り、黄泉島を占領して、地上の権利を掌握せむとしたれば、大神は遂に前代未聞の黄泉比良坂の神戦鬼闘を開始さるるに致りたるなり。 この戦は、善悪正邪の諸神人の勝敗の分るる所にして、所謂世界の大峠是なり。 ○ この物語に就て附言して置きたい事は、諾冊二神が海月成す漂へる国を修理固成して、国生み、島生み、神生み、万の物に生命を与へ給ひし世界以前に於ける常世城と、以後の常世城の位置は非常に変つて居る。また鬼城山その他の神策地も多少の異動があり、国の形、島の形、河川湖水山容等にも余程の変化がある事を考へねばならぬ。一々詳説すれば際限がないから、この物語には煩を避けて省いた所が沢山ある。また第一巻、第二巻に現はれた天の浮橋以前の神が、第二の世界に現はれて、その時よりは若くなつたり、或は一旦帰幽した神人が神界に前の姿を現はして活動してをるのは、常識の上から判断すれば常に矛盾のやうである。また混乱無秩序、支離滅裂の物語と聞えるのは寧ろ当然である。しかし、この物語は総ての神人の霊を主とし、その肉体を閑却したる、いはゆる霊界物語であつて、霊主体従主義であるから、この神人は何時の世に帰幽し、また幾年後に肉体をもつて現はれ、何々の活動をなし、或は善を行ひしとか、悪を行ひしとか、何神の体に宿つて生れたりとか云ふやうな詳細の点は、際限がないから大部分省いてある。 総て地上の神人は、霊より肉へ、肉より霊へと、明暗生死、現幽を往来して神業に従事するものであるから、太古の神人が中古に現はれ、また現代に現はれ、未来に現はれ、若がへり若がへりして、永遠に霊即ち本守護神、即ち吾本体の生命を無限に持続するものなるが故に、その考へを頭脳に置いて此物語を読まねば、幾多の疑惑や矛盾が湧いて来るのは当然である。 数千里の山野河海を一ケ月或は二ケ月に跋渉したり、又は一日の間に跋渉する事がある。千変万化、明滅不測の物語も、総て霊界の時間空間を超越したる現幽一貫の霊的活動を物質化、具体化して述べたものである事をも承知して貰ひたい。また北極に夏の太陽が出たり、赤道直下に降雪を見たり、種々の奇怪な物語がある。口述者に於いても、今日の知識より考へて不可解である。されど永遠無窮に熱帯は熱帯、寒帯は寒帯の侭、何時までも一定不変たる事を得ない。此宇宙は死物ではない限り、気候に於て位置に於て変動するも、幾十億万年の間の事であるから、強ち否定する訳にも行くまいと思ふ。故に読者の本書を肯定するも、否定するも、口述者に於ては何の感じもしないのである。至大無外、至小無内、若無所在、若無不所在、無明暗、無大小、無広狭、無遠近、過去と現在、未来とを問はず時間空間を超越し、人界を脱出し、大宇宙の中心に立つて、神霊界の物語を口述したものである。されど口述者は、決して自己の臆測や推考力によつたものでない。幽斎修業の際、見聞したる其侭の物語であつて、要するに七日七夜の霊夢を並べたものである。併しながら私としては些しも疑うて居るのではない。また不確実の物語とも思うて居ない事を告白して置きます。 (大正一一・二・二三旧一・二七加藤明子録)
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霊界物語 10_酉_黄泉比良坂の戦い 24 言向和 第二四章言向和〔四五四〕 善と悪とを立別る遠き神代の大峠 黄泉の島の戦ひに弱りきつたる美山別 国玉姫の部下たちは朝日輝く日の出神の 味方の軍に艱まされ天地に轟く言霊の 貴の力に這々の体悶え苦しむ折からに 黒雲塞がる大空を轟かしつつ舞ひ降る 磐樟船の刻々に地上に向つて降り来る 大国姫を神伊邪那美大神と敵や味方を偽りて 日頃企みし枉業を遂げむとするぞ浅ましき。 神軍の言霊に魂を抜かし、胆を挫かれ、腰を抜かした醜女探女の悪神等は、泥に酔うたる鮒の如く、毒酒に酔うた猩々の如く、骨も筋も菎蒻然と悶え苦しむ其処へ、常世の国の総大将、神伊邪那美神の御出陣と聞いて、再び元気を盛り返し、八種の雷神を始めとし、百千万の魔軍は一度にどつと鬨をつくつて、黄泉比良坂指して破竹の如くに攻め登る。 「ウロー、ウロー」の叫び声、天地も震撼するばかりにて、天津御空は黒雲益々濃厚となり、雷霆鳴り轟き、大地は震動し、海嘯は山の中央までも襲ひ来り、黄泉の国か、根の国か、底の判らぬ無残の光景に、美山別、国玉姫は、 美山別、国玉姫『常世の国の興亡此一挙にあり』 と、部下の魔軍を励まして、 美山別、国玉姫『進め進め』 と下知すれば、命知らずの魔軍は、醜女探女を先頭に、心の闇に迷ひつつ、力限りに戦ひける。 爆弾の響き、砲の音、矢の通ふ音は、暴風の声と相和して益々凄じくなり来る。 此の時日の出神は比良坂の坂の上に立ちて、攻め登り来る数万の魔軍に向ひ、 日の出神『神伊邪那岐大神、神伊邪那美大神、守らせ給へ。常世の国より疎び荒び来る黄泉神、大国姫の伊邪那美命に一泡吹かせ、心の曲を払ひ去り、皇大神の神嘉言の声に邪の心を照させ給へ。一二三四五六七八九十百千万の神等よ、日の出神の一つ炬を、天地に照すは今この時ぞ。許させ給へ』 と云ふより早く、姿は消えて巨大なる大火球と変じ、魔軍の頭上に向つて唸りを立て、前後左右に飛び廻るにぞ、数多の魔軍は、神光に照されて眼眩み、炬の唸りに頭痛み、耳痺れ、身体忽ち強直して化石の如く、幾万の立像は大地の砂の数の如くに現はれける。 正鹿山津見は涼しき声を張りあげて、 正鹿山津見『神が表に現はれて善と悪とを立別る 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ 身の過失は宣り直せ黄泉の島は善悪の 道を隔つる大峠言問ひわたす神々の 誠の道を千代八千代定むる世界の大峠 鬼も大蛇も曲津見も言問ひ和す言問岩 此坂の上に塞りたる千引の岩は神の世と 邪曲世を隔つる八重の垣出雲八重垣妻ごみに 八重垣造る神の国ソモ伊邪那美の大神と 詐り来る曲神の大国姫よ国姫よ 汝が命は幽界の黄泉醜女を悉く 言向け和せ現世をあとに見捨てて帰り行く 百の霊魂を守れかし黄泉の国に出でまして 一日に千人八千人の落ち行く魂を和めつつ 現の国に来らじと黄泉の鉄門をよく守れ 神伊邪那岐の大神の生成化育の御徳に 日の出神と現はれて一日に千五百の人草や 万民草を大空の星の如くに生み殖やし 神の御国を開くべし那岐と那美との二柱 互に呼吸を合せまし国の八十国八十の嶋 青人草や諸々の活ける物らを生みなして 堅磐常磐に神の世を樹てさせ給へ常世国 ロッキー山をふり捨てて心をしづめ幽界の 黄泉の神と現れませよ黄泉の神と現れませよ』 大国姫はこの歌に感じてや、千引の岩の前に現はれて、 大国姫『吾は常世の神司神伊邪那美の大神と 百の神人詐りて日に夜に枉を行ひつ 心を曇らせ悩ませてあらぬ月日を送りしが 神の御稜威も明けき日の出神や諸神の 清き心に照されて胸に一つ炬輝きぬ 輝きわたる村肝の心の空は美はしき 誠の月日現れましぬ嗚呼天地を固めたる 神伊邪那美の大神の吾は黄泉に身をひそめ 醜の枉霊の醜みたま醜女探女を悉く 神の御教に導きて霊魂を洗ひ清めさせ 再び生きて現世の神の柱と生れしめむ 美し神世に住みながら曲業たくむ醜神を 一日に千人迎へ取り根底の国に連れ行きて 百の責苦を与へつつきたなき魂を清むべし あゝ皇神よ皇神よ常世の暗の黄泉国 暗を照して日月の底ひも知れぬ根の国や 底の国まで隅もなく照させ給へ朝日照る 夕日輝く一つ炬の日の出神よいざさらば 百の神等いざさらば』 と歌つて改心の誠を現はし、黄泉の大神となつて幽政を支配する事を誓ひ給ひたるぞ畏けれ。ここに伊邪那岐神の神言以ちて、日の出神その他の諸神将卒は、刃に衂らず、言霊の威力によつて、黄泉軍を言向け和し、神の守護の下に天教山に向つて凱旋されたり。 数多の曲津神は悔い改めて、生きながら善道に立帰るもあり、霊魂となりて悔い改むるもあり、或は根底の国に落ち行きて黄泉大神の戒めを受け、長年月の間苦しみて、その心を改め霊魂を清め、現界に向つて生れ来り、神業に参加する神々も少からずとの神言なりけり。 (大正一一・二・二五旧一・二九井上留五郎録)
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霊界物語 12_亥_天の岩戸開き 02 直会宴 第二章直会宴〔四九八〕 千歳の老松雲表に聳えて高き万寿山 堅磐常盤の松の世を知す磐樟彦の神 花は紅葉は緑花の都の緑の流れ フサの国をば後にして聖地を越えて茲に兄弟三人は 住江の国を跋渉しイホの都ものり越えて 愈筑紫の島に着く心つくしの益良男が 純世の姫の鎮まりし其国魂を清めむと 神の教を白瀬川一二三四五つ六つの滝 水音高き宣伝歌歌ひ歌ひて進み行く。 高光彦、玉光彦、国光彦の三人は、イホの都に宣伝歌を歌ひながら進み行くのであつた。 日は黄昏れて長き春日の旅に疲れたる三人は、とある森林に蓑を敷き、露を凌ぎ、一夜を明かしけり。 此処には小さき国魂神の祠あり。三人は祠の後に身を横たへ眠つて居ると、夜半と覚しき頃大勢の人声聞え来たり。三人はこの声に目を醒まし、耳を傾け、其話を私かに聞き居る。群集の中より一人の男が選ばれたるが、祠の前に立ち現はれ灯火を献じ、神酒を捧げ何事か祈願を籠め終つて直会の宴に移りしと見え、人々の声は刻々に高くなり、歌ふもの、飲むもの、踊るもの、泣く、笑ふ、怒る、種々様々の活劇が演ぜられつつありける。 三人は祠の蔭より床しげに人々の話を、耳を澄まし、息を殺して窺ひ居る。 甲(春公)『ヨウ、酋長さま、御苦労さまでしたが神様は何と御告げがありましたか』 酋長『有つたでもなし、無かつたでもなし。マアマア皆の者が心を一つにして善と悪とを弁へ、善の方へ進むより仕方がないなア』 乙『膳飽と云つたつて、此頃の様に百日許り日天様の御顔もろくに見えず、お月様は曇り勝ちで夜は殆ンど真の闇、昼と云つた処が今までの朧月夜の様なものだ。これでは五穀も実らず果物は皆虫が入つて食へる様になるまでにバタリと地に落ちる。病気は彼方此方に起る。大勢の人間の食べる米はなし、果物はなし、どうして膳に飽く事が出来るものか』 甲(春公)『オイ、貴様は間違つてゐるよ。善と云へば正直な心を持つて神様を敬ひ、我身を捨てても人の為めになる事をするのだ。悪といへばそれの反対だよ』 乙『そんな事は三歳児でも知つてるワイ。善い事をすれば其時から気分が良くなる。悪い事をすれば何となしに気分が悪い。何物かに叱られる様な心持ちになつて来る。然し乍ら肝腎の生命の親の食物がなくて、可愛い女房や子が、骨と皮とに痩衰へ渇命に及ばうとして居るのに、これを見乍ら何うして人の事処か。どうしてもかうしても利己主義になるのは止むを得ぬぢやないか』 甲(春公)『そこを辛抱して、人を助けるのだ。それでなければ善と云ふ事が出来ぬよ』 乙『さう偉さうに理窟を云ふのなら、貴様の家の倉をあけて町中の者に其米を施してやつたらどうだい。言ふべくして行ふべからざる善は偽善だ。貴様は飢ゑた味を知らぬからそんな気楽な理窟や大平楽を並べるのだ。どうだ善と悪とが解つたか』 一同『賛成々々。初公の云ふ通りだ。神様のお言葉通り善悪を立別けて困つた者を助ける様に、春公さまの倉を開けて町中の者に善の鑑を出して貰はうかい』 春公『イヤ、俺も皆の者を助けてやりたいと思うて、三杯食ふ処は二杯にして貯めてあるのだ。然し乍らこれはまさかの時に助ける為めだ。未だ俺の処の米を出して町中へ分配する時期ではない。今出してやると、誰も彼も宜い気になつて毎日日日飲み食ひに耽り、終ひには喧嘩計りする様になつて、お天道様に冥加が悪いから、反つて善が悪になると俺も困るから、マアマア働ける丈けは働いて、愈世界が真暗がりになる様な事が出て来た其時こそ、世の中は相身互ぢや。お前達が勝手に倉をあけて食ふ様にする』 丙『それも一つの理窟だが持つとる奴は穢いものだ。何の彼のと理窟を付けて出し惜みをするものだ。末の百より今の五十と云ふ事もある。先になつて善をするより善は急げだ。今の内に倉を開け放して町中を助けたら、どれ丈け春公さまの光が輝くか知れまい。ナア春さま、悪い事は云はぬ、人気の立つた時にホツ放り出すのだぜ。それがお前の身の為めだよ』 春公『皆の人達、よう考へて見てくれ。斯う百日余りも日は照らず、闇の夜は続く。山の木は枯れる、毎日々々地響きはする、病人は沢山出来る、先が案じられて仕方がないぢやないか。今の間は、木の葉でも根でも、草でも噛んで生命を繋いで置くのだ。木の葉は枯れ、地の上に何一つ食ふ物がなくなつた時に初めて倉をあけて、米や麦や、粟、黍、稗などを搗いて各自が粥にでもして、世界の大峠を凌ぐ様にしなくては心細いからな』 丁『木を食への、草を食へのと余り人間を莫迦にして呉れるな。虫か牛馬か何ンぞの様に人間が木や草を食はれるものなら誰も働きはしない。ヘン、余り莫迦にするな』 春公『お前達は、難儀だ!困る!と口々に悔んで居るけれど、毎日酒を飲み、米が美味い、味ないと小言云つてる間は駄目だよ』 初公『そンな理窟は止めにして不言実行が大切だ。有る者は無い様な顔をするし、無い者は有る様な顔をしたい世の中だ。兎も角酋長さまに明瞭と神様に伺つて貰つて、春公の倉を開けたが宜いか開けぬがよいか判断して貰はう。モシモシ酋長さま、もう一度神様に右の事を伺つて下さいな』 酋長『神の言葉に二言はない。善悪をよく弁へて正直にするが一番だ』 乙『酋長様は三五教ですか、よう善とか悪とか仰有いますな』 酋長『さうだ、俺は三五教だ。此のイホの人間は八分までウラル教だから秘して居つたが、もう斯うなつては神様に対して畏れ多いから、明瞭と三五教だと言明して置く。お前達が毎日日日ウラル教に呆けて仕事もせずに酒計り飲んで、利己主義を行つて世の中を曇らすものだから、地の上は一面に邪気が発生し、山は枯れる河は干る、五穀は実らず果物は熟さず、日月の光も黒雲につつまれて皆見えぬ様な世の中になつて了ふたのだ。それでもまだ改心が出来ねば、どんな事が出て来るか分つたものぢやない。ちつとは俺の云ふ事も聞いて貰ひたい。お前達の為だ。酋長は床の置物だとか云つて、何時も俺を莫迦扱ひして聞いて呉れぬものだから、天地の神様が吾々を戒める為めにこんな常闇の世界を現はしなさつたのだ。もう今日限り今までの悪い精神を立替へて善に立帰りますと此神前で誓つてくれ』 初公『ヨシ分つた。酋長と春公とは腹を合せて神様を楯に、自分計り安楽に暮して、俺達の苦しむのを高見から見物すると云ふ悪い量見だナ。オイ皆の奴、酋長と春公の首ツ玉を抜くのだ。ヤイヤイ酒に喰ひ酔うて、吠たり笑つたりして居る場合ぢやないぞ。俺達の一身上に関する大問題だぞ』 と呶鳴り付ける。一同は初公の号令の下に立ち上り、酋長と春公を目がけて各自に棍棒を打ち振り乍ら、四方八方より酒の機嫌で打つて掛る。嗚呼この結果は如何に治まらむとするか。 (大正一一・三・六旧二・八藤津久子録)
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霊界物語 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) 10 牡丹餅 第一〇章牡丹餅〔五六〇〕 弥次彦、勝彦、与太彦、六公の四人は谷間を這ひ上り、漸くにして小鹿山峠の坂道に着いた。 弥『ヤア此処が芝居の序幕を演じたところだ。随分風の神の奴、豪い目に遇はしよつたものだ』 六『貴方達は羽織を三枚着て、而も上に着るものを下に穿いたりするものだから、アンナ目に遇ふたのですよ』 弥『夫でも上下揃ふて世を治めるぞよと神様が仰有るのだ。而も六人の宣伝使から頂戴した結構なお召物を着て居るのに、神様が罰を当てると云ふ筈もあるまい』 六『それでも羽織を袴に穿くと云ふ事は、些と考へものですなア』 弥『さうだと云つて、裸体で道中もなるまいし、仕方がない哩』 六『此峠は、時々レコード破りの風が吹きますから、随分気をつけて往かずばなりますまい。この坂を下ると次は十九番目の大峠です、その峠までに二三里も展開した曠野があつて、其処には沢山の人家も立ち並んで居ます。そこまで往つて一服しませうか』 弥『さうしませうよ、併しながらコンナ風をして、沢山な人の居る処を通るのも変なものだ。何とか工夫はあるまいか』 六『ヤア私はお伴、貴方は宣伝使様だ、何うでせう、私の着物と取つ換へつこをして村落を通る事にしましたら』 弥『さう願へれば結構だ。アヽ六公、早裸体となつたのかい、何と気の早い男だなア』 六『鶴の一声言行一度に一致と云ふやり方です、愚図々々して居て水を注されると約りませぬからなア、アハヽヽヽ』 茲に弥次彦は六公の衣服と着換へ、六公は羽織三枚を袴並に前後に着ながら、蔓の帯を堅く瓢箪のやうに腰に縛り、 六『サアこれで千両役者の早替はりだ、しかし役者だと云ふても、もう芝居はやめですよ、サア往きませうかい』 と、ドンドンと下り坂を走つて往く。漸くにして麓の村落に着いた。 勝『大分に腹の虫が空虚を訴へて来だした、何処ぞ此辺に飲食店でもあれば這入つて腹を拵へたいものだなア』 弥、与『サアさうお誂へ向に出来て居れば、結構だが』 六『イヤ、御心配御無用、些し先に往きますと、松屋と云つて、一寸した飲食店があります、其処には別嬪も居りますぜ』 与『夫は豪気だ、ともかく其処迄もう一息だ。何だか俄に元気が付いた』 と云ひつつ四人は速度を速めて駆出した。 弥『ヤア此処が松屋だ。いよいよ目的地点に無事御到着か、アハヽヽヽ、久し振で弁才天の拝観も出来ると云ふものだ』 弥[※御校正本でも「弥」になっているが弥次彦のセリフが二つ続くのはおかしい。そもそも「弁才天の拝観も出来る」と言っておきながらすぐに「弁才天はどうでも好い」と否定するのはおかしい。このセリフは勝彦か与太彦の間違いであろう。以降のセリフを考えると、おそらく与太彦のセリフであろう。]『弁才天はどうでも好い、早く御飯に有りつきたい哩、もう斯うなれば色気より食気だ』 松屋の門口に一人の下女立ち現はれ、 下女『モシモシ、お客サン、コーカス詣りですか、随分強い坂でお草臥れでせう、何卒一つお茶でも飲んで一服してお出なされませ』 与『云ふにや及ぶ、吾々一行四人は松屋をさして休息の予定でお越し遊ばしたのだ。一服してやらう、ナンゾ、小美味ものは無いか』 下女お竹『ハイハイ、何でも御座います。お望み次第お金次第です』 与『チエツ、直に之だから嫌になつて仕舞ふ、お銭お銭と何だ。矢張ウラル教の空気が漂ふてゐるな、仕方が無い哩、腹が減つては戦が出来ないから』 と云つて与太彦は先にたち飛び込む。 下女『マア、マア、お二人のお方、ホヽヽヽヽ、妙な風をなさいまして』 与『妙な風でも何でもお前に惚れて呉れと云いやしないし、着物を貸して呉れとも云やしないから、いらぬ口を叩くな、早く小美味ものを出さぬかい』 奥の方から中年増の婆アサンが、ヒヨコヒヨコとやつて来て、 婆『アヽこれはこれはお客様、よう一服して下さいました。何なと御註文次第、仰有つて下さいませ』 六『牡丹餅は無いかなア』 婆『ヘエヘエ、御座います、お彼岸の牡丹餅を今拵へた処。ヌクヌクのホコホコの、手から漏るやうなのが、沢山に握つてあります』 弥『初に握つた奴は真黒けと違ふかね』 婆『滅相な、清めた上にも清めた、清潔な牡丹餅です。牡丹餅の嫌ひなお方は此処に握り飯がございます。貴方達は遠方の方と見えますが、随分お足の達者なお方らしい、恰で牡丹餅のやうな健脚家だ。毎日コーカス詣りの道者が通られますが、牡丹餅のお客は少い、握飯が随分多いやうですワ。オホヽヽヽ』 弥『婆アサン、牡丹餅のお客だとか、握飯のお客だとか、それや一体何の事だい。俺の顔が牡丹餅のやうな不恰好だと云ふて嘲弄するのだな』 婆『オホヽヽヽ、夫は譬で御座います。握飯は丸い、牡丹餅は一寸角が立つて居る。或時に握飯と牡丹餅とがマラソン競争をやりました。さうしたところが、丸い方の握飯が勝たねばならぬ筈だのに、中途で平太張つて仕舞つて、牡丹餅はとうとう決勝点まで安着されて名誉の優勝旗が手に入りました。そこで饅頭がやつて来て、牡丹餅よ、お前は一寸見てもぼたぼたして足が遅いと思つたに、勝利を得たのは何うした訳かと尋ねよりたら、牡丹餅が云ふには、私はあづきつけとるから道中は安心だと、オホヽヽヽ[※小豆の赤い色には魔除けの効果があるという言い伝えがあるので、それで「安心だ」と洒落ているのではないか?]』 弥『ナアーンダイ、この腹の空いとるのに落し話をしよつて、気楽な婆アサンだなア』 婆『コンナ話しでもして、お客サンを誑かし暇を入れて腹を空かし、その間に牡丹餅を炊いて進ぜると云ふ此方の考へ、もう一寸待つて下さい、今飯が噴いて居ります、直に小豆の衣を着せて、どつさり食つて貰ひます』 与『ヤアヤア牡丹餅と聞けば、俄に咽喉の虫がグウグウと催促をし出した。何でもよいから手早くやつて下さい』 弥『オイ与太公、此処には素敵な別嬪の娘があるぢやないか、貴様は何うだ。思召は無いか』 与『どうだ、女子を国有にして居る国さへもあるのだから、吾々四人が何とかして四国協調の結果彼奴を国有にしたらどうだ。毎晩交代にあの尤物をエンプレスして楽まうぢやないか』 勝『ソンナエンプレスと云ふやうな事をやると此処の人気娘を、此村の誇りとして居るのだから、貴様は村民の怨府となるかも知れないぞ。とは云ふものの縦から見ても横から見ても、三十三相具備したあななし姫だ。男と生れた甲斐には切めて一遍位はエンプレスをやつて見たいやうな気もせぬでは無いが、何を云ふても厳めしい三五教の宣伝使だから、どうする事も出来やしない、宝の山に入つて裸体で帰るやうな心持がする哩』 婆『サアサア皆サン、牡丹餅が出来た、お上りなさいませ』 与『これはこれは有難う御座います、マア悠くりと頂戴致しませう』 婆『サア私がついで上げませう』 与『ヘイ、ヘイ、ヘイ、アヽ、それは結構ですが、同じ事ならあのそれ、お梅[※お竹の誤字か?御校正本・校定版・愛世版いずれも「お梅」になっている。]サンによそつて貰へば一入、美味いやうな気が致します哩』 婆『ホヽヽヽヽ、貴方もよほど苦労人と見える哩、渋皮のやうなお手で、牡丹餅を盛つて上げても、お気に召しますまい、私が盛るのがお気に入らねば、もう牡丹餅は食べて貰ふ事は真平御免蒙ります』 弥『マア、マア、マア待つて下さい、これは冗談ですよ、さう真に受けて貰つては困ります』 婆『冗談から暇が出る。瓢箪から駒が出る。青瓢箪の黒焦のやうな顔をして年寄が気に入らないの、スツポンのと、それやお前何を云ふのだ。さう老人を見下げたものぢやない、人間は年をとつて苔がついて来る程値が出来るのだよ』 勝『左様左様、御尤もだ』 婆『ソンナら勝手に取つて食ひなさい』 と婆アサンはむつとした顔をして奥に入る。四人は熊手のやうな手を出して、餓虎のやうに、グイグイと呑み込み、 四人『ヨー美味い、コンナ美味い牡丹餅は、臍の緒切つてから食つた事がないワイ。コンナ奴なら、一遍に腹が弾けても構はぬ、百でも二百でも咽喉の虫が御苦労御苦労と云ふて辷り込んで仕舞ふやうだ』 と堆高く積んであつた沢山の牡丹餅を一息に平げてしまつた。 下女のお竹『お客サン、よういけましたなア、お米の相場が狂ひますぜ、お代りはどうです』 与『餅屋の喧嘩で、餅論だ。早く出したり出したり』 お竹『マアマアお客サン、貴方達は閂の向ふに居る、角の生えたお方のやうな方ですなア、モウモウモウ呆れましたよ』 弥『何うでもよい、早く出して貰はうかい、腹の虫は得心したやうだが、未だ舌と眼とが羨望の念に駆られて居るやうだ。同じ一つの体だ、腹ばかり可愛がつて、眼と舌とを埒外に放り出すと云ふのも、吾々宣伝使として情を弁へぬと云ふものだ。アハヽヽヽ』 お竹『サアサア、お代りが出来ました。悠くりお食りなさいませ』 四人は又もや一斉に二膳片箸の同盟軍を作つて、複縦陣の備へを取り、爆弾のやうな牡丹餅を又もやパクつき始めた。 与『オイお竹サン、馬鹿にするない、見本は美味い奴を出しよつて、これは大変味が悪いぢやないか、一番先に出したやうな奴を出して呉れないかい、上皮の方には甘い奴を並べよつて、下になる程不味い牡丹餅を並べといたつて、俺の舌がよく御存じだぞ』 お竹『それや何を云ふのぢや、美味いも不味もあつたものか、皆同じ味に造つてあるのですよ、お前サン腹の空つた時に食つたから美味かつたのだ。腹が膨れてから何を食つたからつて美味い事はありやしない。ソンナ小言を云ふのなら、食ふだけの権利がない、食物の味に対しては気の毒ながら神経麻痺だ。サアサア好い加減食つたらお銭をお払ひなさい』 六(懐中より)『それ、お剰金は要らないぞ、後はお前の小遣ひだ』 お竹『大きに有難う御座いました』 と顔を見上ぐる途端に、 お竹『ヤアお前は六サンだつたかい』 と転げるやうにして裏口をさして姿を隠して仕舞つた。 与『オイ六、貴様は罪の深い奴だ。何か之には秘密が籠つて居るだらう、それだから松屋に寄らう寄らうと云ひよつたのだなア、酢でも蒟蒻でも行かぬ奴だ。お目出度い処を見せつけよつて、余り馬鹿にするない』 六公『ヤア、何でもよい、退却々々』 と羽織の袴をバサバサと穿ちながら、一散に駆け出した。三人は止むを得ず、 三人(弥次彦、与太彦、勝彦)『オイ六公待つた』 六公は後振り向き乍ら、 六公『マツたも松屋もあつたものかい、マア、一所に出てこないかい』 と息せき切つて走り出す。三人は、 三人『あゝ合点の行かぬ突発事件だ。仕方がない、ソンナラそろそろ行かうかい』 と又もや牡丹餅腹を揺りながら、六公の後を追跡する。 (大正一一・三・二四旧二・二六加藤明子録) (昭和一〇・三・一五於高雄港口官舎王仁校正)
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霊界物語 16_卯_丹波物語1 大江山/冠島沓島/丹波村 19 文珠如来 第一九章文珠如来〔六〇九〕 ヤンチヤ婆アの黒姫は、性来の聞かぬ気を極度に発揮し、青彦、音彦其他に向つて舌端黒煙を吐き、一人も残さず紅蓮の焔に焼き尽さむと凄じき勢なり。 黒姫『コレコレ、最前から其処に、男とも、女とも、訳の分らぬ風をして居る三五教の宣伝使、良い加減に此世に暇乞ひをしても悦子姫の阿婆擦れ女、沢山の荒男を引きつれて、女王気取りで、傲然と構へて御座るが、チト此婆アが天地の根本の道理を噛みて啣める様に言ひ聞かしてやるから、ソンナ蓑笠をスツパリと脱いで、此処へ御座れ、滅多にウラナイ教の為に悪い様な事は申さぬ。問ふは当座の恥、知らぬは末代の恥だ、此山の中で結構な神徳を戴いて、又都会へ出たら、自分が発明した様に、宣伝使面を提げて歩かうと儘ぢや。何でも聴いて置けば損は往かぬ。サアサア婆アの渋茶でも呑みて、トツクリと身魂の洗濯をしなされ。チツト此頃はお前も顔色が悪い。此黒姫が脈を執つて上げよう。……どうやら浮中沈、七五三の脈膊が混乱して居る様ぢや、今の間に療養せぬと、丸気違になつて了ふぜ。今でさへも半気違ぢや。神霊注射を行つてあげようか。それが利かなくば、モルヒネ注射でもしてやらうかい。サアサアトツトと前へ来なさい』 悦子姫『それはそれは、何から何まで御心を附けられまして、御親切有難う御座います』 黒姫『有難いか、ウラナイ教は親切なものだらう。頭の先から足の爪先、神経系統から運動機関は申すに及ばず、食道、消化機関から生殖器、何から何迄、チヤンと気をつけて、根本から説き明かし、病の根を断る重宝な教ぢや。お前も神経中枢に多少異状があると見えて、三五教の木花姫の生宮の様に、女だてら、男の風采をして、男を同伴つて、そこら中を歩きまはすのは、普通ではない。此儘放つとくと、巣鴨行をせなければならぬかも知れやしない。………サアサア此黒姫は耆婆扁鵲も跣足で逃げると云ふ義理堅い義婆ぢや。世間の奴は訳も知らずに、黒姫を何の彼のと申すけれども、燕雀何ンぞ大鵬の志を知らむやだ。三千世界の立替立直しの根本を探ると云ふ、大望なウラナイ教を、三五教の宣伝使位に分つて堪るものか。お前が此処へ来たのも、みなウラナイ教を守護し給ふ、尊き大神様の御引合せぢや。躓く石も縁の端と言つて、世界には道を歩いて居ると、沢山な石が転がつて居る。其幾十万とも知れぬ石の中に、躓く石と云つたら、僅に一つか二つ位なものだよ。これも因縁が無ければ蹴躓く事も出来なければ、蹴躓かれる事も出来やしない。同じ時代に生れ、同じお土の上に居つても、コンナ結構なウラナイ教を知らずに、三五教にとぼけて一生を送る様な事は本当に詰らぬぢやないか。何事も神様のお引合せ、惟神の御摂理、縁あればこそ、斯うしてお前は此山の奥に踏み迷ひ……イヤイヤ神様に引つ張られて来たのだ。決して決して黒姫の我で云うと思つたら量見が違ひますデ、竜宮の乙姫さまが仰有るのだ。今迄永らく海の底のお住居で、沢山の宝を海の底に蓄へて居られたのぢやが、今度艮の金神様が世にお上りなさるに就て、物質的の宝よりも、誠の宝が良いと云つて、五六七神政成就の為に、惜しげも無く綺麗サツパリと、艮の金神さまに御渡しなされると云ふ段取りぢや。併し人間は誠の宝も結構ぢやが、肉体の有る限り、家も建てねばならず、着物も着ねばならず、美味いものも食はねばならず、あいさには酒もチヨツピリ飲みたいと云ふ代物だから、形のある宝も必要ぢや。三五教の奴は「この世の宝は、錆、腐り、焼け、溺れ、朽果つる宝だ、無形の宝を神の国に積め」なぞと、水の中で屁を放いた様な屁理屈を言つて、世界の奴を誤魔化して居るが、お前等も大方其部類だらう……イヤ其通り宣伝して歩くのだらう。……能う考へて見なされ。お前だつて食はず飲まずに、内的生活ばかり主張して居つて、堂して神の道の宣伝に歩行けるか。これ程分り切つた現実の道理を無視すると云ふ教はヤツパリ邪教ぢや。瑞霊の吐す事は、概して皆コンナものだ。言ふ可くして行ふ可らざる教が何になるものか。体主霊従と霊主体従の正中を言ふのが当世ぢや。当世に合ぬ様な教をしたつて誰が聴くものか。神の清き御心に合むとすれば、暗黒なる世の人の心に合ず、俗悪世界の人の心に合むとすれば、神の心に叶はず……なぞと訳の分り切つた小理屈を、素盞嗚尊の馬鹿神が囀りよつて、易きを棄て難きに就かむとする、迂遠極まる盲信教だから、根つから、葉つから、羽が生えぬのぢや。ウラナイ教は斯う見えても、今は雌伏時代ぢや。軍備を充実した上で、捲土重来、回天動地の大活動を演じ、それこそ開いた口が塞がらぬ、牛の糞が天下を取る、アンナ者がコンナ者になると云ふ仕組の奥の手を現はして、天の御三体の大神様にお目にかける、艮の金神の仕組ぢや。三五教は艮の金神の教を樹てとる様な顔して居るが、本当は素盞嗚尊の教が九分九厘ぢや。黒姫はそれがズンとモウ気に喰はぬので、変性男子の系統の肉体の、日の出神の生宮を力と頼み、竜宮の乙姫さまの生宮となつて、外国の行方を、隅から隅迄調べあげて、今度の天の岩戸開に、千騎一騎の大活動をするのぢや。お前も、三五教の宣伝使と云ふ事ぢやが、名はどうでもよい、お三体の大神様と艮の金神様の御用を聴きさへすれば宜いのだらう。サアサア今日限り化物の様な奴の吐す事を、弊履の如く打棄てて、最勝最妙、至貴至尊、無限絶対、無始無終の神徳輝く、ウラナイ教に兜を脱いで、迷夢を醒まし、綺麗サツパリと改心して、ウラナイ教を迷信なされ、悪い事は申しませぬ、ギヤツハヽヽヽ』 悦子姫『ホヽヽヽ、アハヽヽヽ、あのマア黒姫さまの黒い口、……妾の様な口の端に乳の附いてる様な者では、到底あなたの舌鋒に向つて太刀打は出来ませぬ。あなたは何時宣伝使にお成りになりましたか、随分円転滑脱、自由自在に布留那の弁、懸河の論説滔々として瀑布の落ちるが如くですナ』 黒姫『定つた事だよ。入信してからまだ十年にはならぬ。夫れでも此通りの雄弁家だ、是れには素養がある。若い時から諸国を遍歴して、言霊を練習し、唄であらうが、浄瑠璃であらうが、浪花節であらうが、音曲と云ふ音曲は残らず上達して鍛へたのぢや。千変万化、自由自在の口車、十万馬力を掛けた輪転機の様に、廻転自由自在ぢや、オホヽヽヽ』 加米彦『モシモシ悦子姫さま、コンナ婆アに、何時までも相手になつとると、日が暮れますで、一時も早く真名井ケ原に向ひませうか』 悦子姫『アヽさうだ、折角の尊いお説教を聞かして貰うて、お名残惜しいが、先が急きますから此処らで御免蒙りませうか』 鬼虎『アーア、最前から黙つて聴いて居れば、随分能く囀つたものだ。一寸謂はれを聞けば、根つから葉つから有難い様だが、執拗う聞けば、向つ腹が立つ……お婆アさま、ゆつくり、膝とも談合、膝坊主でも抱へて、自然に言霊の停電するまで、馬力をかけ、メートルを上げなさい。アリヨース』 黒姫『待つた待つた、大いにアリヨースだ、様子あつて此婆アは、此魔窟ケ原に仮小屋を拵へ、お前達の来るのを待つて居たのだ。往くと云つたつて、一寸だつて、此婆が、是れと睨みたら動かすものか』 鬼虎『まるで蛇の様な奴ぢやナア。執念深い……何時の間にか、俺達に魅入れよつたのぢやナ』 黒姫『さうぢや、魅を入れたのぢや、お前もチツト身入れて聞いたが宜からう、蛇に狙はれた蛙の様なものぢや、此処をかへると云つたつて、帰る事の出来ぬ様に、チヤーンと霊縛が加へてある。悪霊注射も知らず識らずの間に、チヤアンと行つて了うた。サア動くなら動いて見よれ』 鬼虎『アハヽヽ、何を吐すのだ。動けぬと云つたつて、俺の体を動かすのは、俺の自由権利だ。……ソレ……どうだ。これでも動かぬのか』 黒姫『それでも動かぬぞ。お前が今晩真名井ケ原に着いて、草臥れて、前後も知らず、寝ンだ時は、ビクとも体を動かぬ様にしてやるワイ』 鬼虎『アハヽヽヽ、大方ソンナ事ぢやろと思うた。……ヤイヤイ黒姫、三五教は起きとる人間を、目の前で霊縛して動けぬ様にするのぢやぞ。一つやつてやらうか、……一二三四五六七八九十百千万……』 黒姫『一二三四五六七八心地よろづウ……ソラ何を言ふのぢや、それぢやから三五教は体主霊従と云ふのぢや。朝から晩まで、算盤はぢく様に数を数へて、一から十まで千から万まで……取り込む事につけては抜目のない教ぢや。神の道は無形に視、無算に数へ、無声に聞くと云ふのぢやないか、…何ンぢや、小学校の生徒の様に、一つ二つ三つと勿体らしさうに、……ソンナことは、三つ児でも知つてるワイ。……大きな声を出しよつて、アオウエイぢやの、カコクケキぢやのアタ阿呆らしい、何を吐すのぢやい……白髪を蓬々と生やしよつた大の男が見つともない、桶伏山の上へあがつて、イロハからの勉強ぢやと云ひよつてな、……小学校の生徒が笑うて居るのも知らぬのか、…良い腰抜だなア、それよりも天地根本の大先祖の因縁を知らずに神の教が樹つものか、三五教の様な阿呆ばつかりなら宜いが、世の中には三人や五人、目の開いた人間も無いとは謂はれぬ。其時に、昔の昔のサル昔からの因縁を知らずに、どうして教が出来るか、馬鹿も良い加減にしといたが宜からう。鎮魂ぢや、暗魂ぢやとか云ひよつて、糞詰りが雪隠へでも行つた様に、ウンウンと汗をかきよつて、何のザマぢやい、尻の穴が詰つて穴無い教と云ふのか、阿呆らしい、進むばつかりの行方で、尻の締りの出来ぬ素盞嗚尊の紊れた教、何が夫程有難いのぢや、勿体ないのぢや、サア鎮魂とやらをかけるのなら、懸けて見い、……ソンナ糞垂腰で鎮魂が掛つてたまるかイ。グヅグヅすると、妾の方から、暗魂をかけてやらうか』 加米彦『ヤア時刻が移る、婆アさま、又ゆつくりと、後日お目にかかりませう』 黒姫『後日お目にかからうと云つたつて、一寸先は闇の夜ぢや。逢うた時に笠脱げと云ふぢやないか、此笠松の下でスツクリと改心して、宣伝使の笠を脱ぎ、蓑を除り、ウラナイ教に改悪しなさい。一時も早う慢心をせぬと、大峠が出て来た時に助けて貰へぬぞや』 加米彦『アハヽヽヽ、オイ婆アさま、お前さま本気で言つてるのかい、お前の言ふ事は支離滅裂、雲煙模糊、捕捉す可らずだがナア』 黒姫『定つた事だイ、広大無辺の大神の生宮、竜宮の乙姫さまのお宿ぢや、捕捉す可らざるは竜神の本体ぢや、お前達の様な凡夫が、竜宮の乙姫の尻尾でも捉へようと思ふのが誤りぢや、ギヤツハヽヽヽ』 音彦『アヽ是れは是れは、加米彦さま、久し振ぢやつたナア』 加米彦『ヤア聞覚えのある声だが、……その顔はナンダ、真黒けぢやないか、炭焼の爺かと思つて居た、……一体お前は誰だ』 音彦『音彦だよ、北山村より此婆アの後に従いて、ドンナ事をしよるかと思つて、ウラナイ教に化け込み伴いて来たのだ。イヤモウ言語道断、表は立派で、中へ這入ると、シヤツチもないものだ、伏見人形の様に、表ばつかり飾り立てよつて、裏へ這入ればサツパリぢや。腹の中はガラガラぢや。ウラナイ教は侮る可らざる強敵と思つて今日迄細心の注意を怠らなかつたが、噂の様にない微弱なものぢや、何程高姫や、黒姫が車輪になつても、最早前途は見えて居る。吾々もモウ安心だ。到底歯牙に掛くるに足らない教理だから、わしもお前の後に伴いて、今より三五教の宣伝使と公然名乗つて行く事にしよう。此婆アさまは、如何しても駄目だ。改心の望みが付かぬ、縁なき衆生は済度し難し、……エー可憐相乍ら、見殺しかいなア』 黒姫『アーア音彦も可憐相なものだナア。如何ぞして誠の事を聞かしてやらうと思ふのに、魂が痺れ切つて居るから、食塩注射位では効験がない哩、アーア気の毒ぢや、いぢらしい者ぢや……それに付けても青彦の奴、可憐相で堪らぬ。……コラコラ青彦モ一遍、直日に見直し聞直し、胸に手を当てて能う省みて、ウラナイ教に救はれると云ふ気はないか。此婆はお前の行先が案じられてならぬワイ』 青彦『アーア、黒姫婆アさま、お前の御親切は有難い、併し乍ら、個人としては其親切を力一杯感謝する、が、主義主張に於ては、全然反対ぢや、人情を以て真理を曲げる事は出来ぬ、真理は鉄の棒の如きもの、曲げたり、ゆがめたり、折つたりは出来ない、公私の区別は明かにせなくては、信仰の真諦を誤るからナア、……左様なら…御ゆるりと御休みなされませ、私は是れから、悦子姫様のお後を慕ひ、一行花々しく、悪魔の征討に向ひます。ウラナイ教が何程、シヤチになつても、釣鐘に蚊が襲撃する様なものだ。三五教は穴が無いから大丈夫だ。水も洩らさぬ神の教、御縁が有つたら又お目に掛りませう』 黒姫『アーア、縁なき衆生は度し難しか、……エー仕方がないワイ………ウラナイ教大明神、叶はぬから霊幸倍坐世、叶はぬから霊幸倍坐世、……ポンポン』 魔窟ケ原の黒姫が伏屋の軒に暇乞ひ 日は西山に傾いて附近を陰に包めども 四方の景色は悦子姫松吹く風の音彦や 秋山彦の門番と身をやつしたる加米彦が 顔の色さへ青彦を伴なひ進む九十九折 鬼の棲処と聞えたる大江の本城左手に眺め 鬼彦、鬼虎、岩、市、勘公引連れてさしも嶮しき坂路を 喘ぎ喘ぎて登り行く地は一面の銀世界 脛を没する雪路を転けつ転びつ汗水を 垂らして進む岩戸口折柄吹き来る雪しばき 面を向くべき由もなく笠を翳して下り行く 夜の帳はおろされて遠音に響く波の音 松の響も成相の空吹き渡る天の原 天の橋立下に見て雪路渉る一行は 勇気日頃に百倍し気焔万丈止め度なく 文珠の切戸に着きにけり。 青彦『アーア、日も暮れたし、前途遼遠、足も良い程疲労れました。アヽ文珠堂の中へ這入つて一夜を凌ぎ、団子でも噛つて休息致しませうか』 悦子姫『何れもさま方、随分御疲労でせう。青彦さまの仰有る通り、あのお堂の中で、兎も角休息致しませうか』 一同此言葉に『オウ』と答へて、急ぎ文珠堂に向つて駆けり行く。 鬼虎『ヤア此処へ来ると、何時やらの事を連想するワイ、恰度今夜の様な晩ぢやつた。此様に雪は積つて居らぬので、あたりは真暗がり、鬼雲彦の大将の命令に依つて、あの竜灯松の麓へ、悦子姫さま達を召捕に行つた時の事を思へば、全然夢のやうだ。昨日の敵は今日の味方、天が下に敵と云ふ者は無きものぞと、三五教の御教、つくづくと偲ばれます。其時に悦子姫さまに霊縛をかけられた時は、どうせうかと思つた。本当に貴女も随分悪戯好の方でしたなア』 悦子姫『ホヽヽヽヽ』 鬼彦『オイオイ鬼虎、貴様はお二人の中央にドツカリ坐りよつて、良い気になつて居たのだらう』 鬼虎『馬鹿言へ、何が何だか、柔かいものの上に、ぶつ倒れて、気分が悪いの、悪くないのつて、何分正体が分らぬものだから、ホーズの化物が出たかと思つて気が気ぢやなかつたよ、それに就けても、生者必滅会者定離、栄枯盛衰、有為転変の世の中無常迅速の感愈深しだ。飛ぶ鳥も落す勢の鬼雲彦の御大将は、鬼武彦の為に伊吹山に遁走し、吾々は四天王と呼ばれ、随分羽振を利かした者だが、変れば替はる世の中だ。あの時の事を思へば、長者と乞食程の懸隔がある。三五教の宣伝使の卵になつて悦子姫さまのお供と迄、成り下つたのか、成上がつたのか知らぬが、モ一度、あの時の四天王振が発揮したい様な気もせぬ事はない。アーア誠の道は結構なものの、辛いものだ。 あひ見ての後の心に比ぶれば昔は物を思はざりけり だ。善悪正邪の区別も知らず、天下を吾物顔に、利己主義の自由行動を採つた時の方が、何程愉快だつたか知れやしない、吁、併し乍ら人間は天地の神を畏れねばならぬ、今の苦労は末の為だ。アーアコンナ世迷言はヨウマイヨウマイ。神直日大直日に……神様、見直し聞直して下さい。私は今日限り、今迄の繰言を宣り直します。アヽ、惟神霊幸倍坐世』 青彦『因縁と云ふものは妙なものですな、同じ此竜灯の松の下蔭に於て、捉へようとした宣伝使を師匠と仰いで、お伴をなさるのは、反対に悦子姫様の擒となつた様なものだ。アハヽヽヽ、吾々も全く三五教の捕虜になつて了つた。それに就けても、執拗なのは黒姫ぢや、何故あれ程頑固なか知らぬ、どうしても彼奴ア改心が出来ぬと見えますなア』 音彦『到底駄目でせう。私もフサの国の北山のウラナイ教の本山へ、信者となり化け込みて、内の様子を探つて見れば、何れも此れも盲と聾ばつかり、桶屋さまぢやないが、輪変吾善と思つてる奴ばつかり、中にも蠑螈別だの、魔我彦だのと云ふ奴は、素的に頑固な分らぬ屋だ。高姫黒姫と来たら、酢でも蒟蒻でもいく奴ぢやない。どうかして帰順さしたいと思ひ、千辛万苦の結果、黒姫の荷持役とまで漕ぎつけ、遥々と自転倒島まで従いて来て、折に触れ物に接し、チヨイチヨイと注意を与へたが、元来が精神上の盲聾だから、如何ともする事が出来ない。私も加米彦さまに会うたのを限として、此処迄来たのだが、随分ウラナイ教は頑固者の寄合ですよ』 加米彦『フサの国で、あなたが宣伝をして居られた時、酒を飲むな酒を飲むなと厳しい御説教、私はムカついて、お前サンの横面を、七つ八つ擲つた。其時にお前サンは、痛さを堪へて、ニコニコと笑ひ、禁酒の宣伝歌を謡うて御座つた、その熱心に感じ、三五教を信じて、村中に弘めて居つた処、バラモン教の捕手の奴等に嗅付けられ、可愛い妻子を捨てて、夜昼なしに、トントントンと東を指して駆出し、月の国まで来て見れば、此処にもバラモン教の勢力盛ンにして、居る事が出来ず、西蔵を越え、蒙古に渡り、天の真名井を横断つて暴風に遭ひ、船は沈み、底の藻屑となつたと思ひきや、気が附けば由良の湊に真裸の儘横たはり、火を焚いて焙られて居た。「アーア世界に鬼は無い、何処の何方か知りませぬが、生命を御助け下さいまして有難う」と御礼を申し見れば秋山彦の御大将、生命を拾つて貰うた恩返しに、門番となり、馬鹿に成りすまし勤めて来たが、人間の身は変れば替はるものぢや、世界は広い様なものの狭いものぢや。フサの国で、あなたを虐待した私が、又あの様な破れ小屋でお目にかからうとは神ならぬ身の計り知られぬ人の運命だ…………アヽ惟神霊幸倍坐世、三五教の大神様有難う御座います、川の流れと人の行末、何事も皆貴神の御自由で御座います。どうぞ前途幸福に、無事神業に参加出来まする様、特別の御恩寵を垂れさせ給はむ事を偏に希ひ上げ奉ります』 悦子姫『サアサア皆さま、天津祝詞を奏上致しませう』 一同は『オウ』と答へ、声も涼しく奏上し終る。 悦子姫『サア皆さま、坊主は経が大事、吾々は又明日が大切だ。ゆつくりとお休みなされませ。妾は皆さまの安眠を守る為、今晩は不寝番を勤めませう』 鬼虎『ヤア滅相な、あなたは吾々一同の為には御大将だ。不寝番は此鬼虎が仕りませう。どうぞお休み下さいませ』 悦子姫『さうかナ、鬼虎さまに今晩は御苦労にならうか』 と蓑を纒うた儘、静かに横たはる。一同は思ひ思ひに横になり、忽ち鼾声雷の如く四辺の空気を動揺させつつ、華胥の国に入る。鬼虎は不寝番の退屈紛れに雪路をノソノソと歩き出し、何時の間にやら、竜灯の松の根元に着き、ふつと気が付き、 鬼虎『あゝ此処だ此処だ、悦子姫に霊縛をかけられた古戦場だ。折から火光天を焦して竜灯の松を目蒐けて、ブーンブーンと唸りを立てて遣つて来た時の凄じさ、今思つても竦然とするワイ。あれは一体何の火だらう。人の能く言ふ鬼火では有るまいか。鬼虎が居ると思つて、鬼火の奴、握手でもせうと思ひよつたのかナア。霊魂もお肉体もあの時はビリビリのブルブルぢやつた。どうやら空の様子が可笑しいぞ、真黒けの鬼が東北の天に渦巻き始めた。今度こそ遣つて来よつた位なら、一つ奮戦激闘、正体を見届けてやらねばなるまい。是れが宣伝使の肝試しだ。オーイ、オイ、鬼火の奴、鬼虎さまの御出張だ、三五教の俄宣伝使鬼虎の命此処に在り、得体の知れぬ火玉となつて現はれ来る鬼火の命に対面せむ』 とお山の大将俺一人気取になつて、雪の中に呶鳴つて居る。忽ち一道の火光、天の一方に閃き始めた。 鬼虎『ヤア天晴々々、噂をすれば影とやら、呼ぶより譏れとは此事だ。鬼虎の言霊は、マアざつと斯くの通りぢや。一声風雲を捲き起し、一音天火を喚起す。斯うなつては天晴れ一人前のネツトプライス、チヤキチヤキの宣伝使ぢや、イザ来い来れ、天火命、此鬼虎が獅子奮迅の活動振り……イヤサ厳の雄猛び踏み健び御覧に入れむ』 言下に東北の天に現はれたる火光は、巨大なる火団となりて、中空を掠め、四辺を照し、竜灯の松目蒐けて下り来る。 鬼虎『ヨウ大分に張込みよつたな、此間の奴の事思へば、余程ネオ的だとみえる。容積に於て、光沢に於て天下一品だ……否天上一品だ。サア是れから腹帯でもシツカリ締て、捻鉢巻でも致さうかい、腹の帯が緩むとまさかの時に忍耐れぬぞよと、三五教の神様が仰有つた。サアサア鬼虎さまの肝玉が大きいか、天火の命の火の玉が大きいか、大きさ比べぢや』 火団は竜灯の松を中心に、円を描き、地上五六尺の所まで下り来り、ブーンブーンと唸りを立て、ジヤイロコンパスの様に、急速度を以てクルクルと回転し居たり。 鬼虎『ヤイヤイ火の玉、何時までも宙にぶら下がつて居るのは、チツト、ノンセンスだないか、良い加減に正体を現はし、此方さまと握手をしたらどうだい。お前は天の鬼火命、俺は地の鬼虎命だ、天地合体和合一致して、神業に参加せうではないか。是れからは火の出の守護になるのだから、貴様のやうな奴は時代に匹敵した代物だ……イヤ無くて叶はぬ人物だ。サアサア早く、天と地との障壁を打破して、開放的にならぬかい。お前と俺と互にハーモニーすれば、ドンナ事でも天下に成らざるなしだ』 火団は忽ち掻き消す如く、姿を隠しけるが、鬼虎の前に忽然として現はれた白面白衣のうら若き美女、紅の唇を開き、 女『ホヽヽヽヽ、お前は鬼虎さまか、ようマア無事で居て下さつたナア』 鬼虎『何ぢやア、見た事も無い、雪ン婆アの様な真白けの美人に化けよつて、雪に白鷺が下りた様に、白い処へ白い者、一寸見当の取れぬ代物だナア。俺を知つて居るとは一体どうした訳だ、俺は生れてから、お前の様な美人に会つた事は一度も無い、何時見て居つたのだ』 女『ホヽヽヽヽ、モウ忘れなさつたのかいなア、覚えの悪い此方の人、お前は今から五十六億七千万年のツイ昔、妾が文珠菩薩と現はれて、此切戸に些やかな家を作り、一人住居をして居つた所へ、年も二八の優姿、在原の業平朝臣の様な、綺麗な顔をして烏帽子直垂で、此処を御通り遊ばしただらう。其時に妾は物書きをして居つたが、何だか香ばしき匂ひがすると思つて、窓から覗けば、絵にある様な殿御のお姿、ホヽヽヽヽおお恥し……其一刹那に互に見合す顔と顔、お前の涼しい……彼の時の眼、何百年経つても忘られようか、妾が目の電波は直射的にお前の目に送られた。お前も亦「オウ」とも何とも言はずに、電波を返した……。あの時のローマンスをモウお前は忘れたのかいなア。エーエ変はり易きは殿御の心、桜の花ぢやないが、最早お前の心の枝から、花は嵐に打たれて散つたのかい……、アーア残念や、口惜しや、男心と秋の空、妾は神や仏に心願掛けて、やつと思ひの叶うた時は、時ならぬ顔に紅葉を散らした哩なア、オホヽヽヽ、恥しやなア』 鬼虎『さう言へば、ソンナ気もせぬでも無いやうだ。何分色男に生れたものだから、お門が広いので、スツカリ心の中からお前の記憶を磨滅して居たのだ。必ず必ず気強い男と恨めて呉れな。是れでも血も有り、涙も有る。物の哀れは百も承知、千も合点だ。サア是れから互に手に手を取かはし、死なば諸共、三途の川や死出の山、蓮の台に一蓮托生、弥勒の代までも楽みませう』 女『ホヽヽヽ、好かぬたらしいお方、誰がオ前の様な山葵卸の様な剽男野郎に心中立するものかいナ。妾は今其処に、天から下りて御座つた日の出神様にお話をしとるのだよ。良い気になつて、お前が話の横取りをして、色男気取りになつて……可笑しいワ、ホヽヽヽ』 鬼虎『エーツ何の事だ。人を馬鹿にしよるな、まるで夢のやうな話だワイ』 女『ホヽヽヽ、夢になりとも会ひたいと云ふぢやないか。妾の様な女神を掴まへて、スヰートハートせうとは、身分不相応ですよ。馬は馬連れ、牛は牛連れ、烏の女房はヤツパリ烏ぢや。此雪の降つた白い世界に烏の下りたよな黒い男を、誰がラブする物好があるものか。自惚も程々になさいませ。オツホヽヽヽ、おかしいワ……』 鬼虎『エー馬鹿にするな、俺を何と思つて居る。大江山の鬼雲彦が四天王と呼ばれたる、剛力無双のジヤンヂヤチツクのジヤンジヤ馬、鬼虎さまとは俺の事だよ。繊弱き女の分際として、暴言を吐くにも程が有る。サアもう量見ならぬ。この蠑螺の壺焼を喰つて斃ばれ』 と力限りに、ウンと斗り擲り付けたり。 悦子姫『アイタタタ…誰だイ、人が休眠みてるのに、……力一杯頭を擲ぐるとはあまりぢやありませぬか』 鬼虎『ヤア、済みませぬ。悦子姫さまで御座いましたか。ツイ別嬪に翫弄にしられた夢を見まして、力一杯擲つたと思へば、貴女で御座いましたか。ヤア誠に済まぬ事を致しました。真平御免下さいませ。決して決して、悪気でやつたのぢや御座いませぬ』 悦子姫『ホヽヽヽ、三五教に這入つても、ヤツパリ美人の事は忘れられませぬなア』 鬼虎『ヤアもう申訳も御座いませぬ。世の中に女がなくては、人間の種が絶えまする。日の出神も素盞嗚尊も、世界の英雄豪傑は、みな女から生れたのです。 故郷の穴太の少し上小口ただぼうぼうと生えし叢 とか申しまして、女位、夢に見ても気分の良い者は有りませぬワ、アハヽヽヽ』 鬼彦『ナヽ何ンぢや、夜の夜中に大きな声で笑ひよつて、良い加減に寝ぬかイ。明日が大事ぢやぞ。貴様は、……今晩私が不寝番を致します……なぞと、怪体な事をぬかすと思つて居たが、悦子姫さまの綺麗な顔を、穴の開く程覗いて居よつただらう。デレ助だなア』 鬼虎『馬鹿を言ふない。俺は職務忠実に勤める積りで居つたのに、何時の間にか、ウトウト睡魔に襲はれ、竜灯松の下へ行つて別嬪に逢うた夢を見て居つたのぢや。聖人君子でなくてはアンナ愉快な夢は見られないぞ。貴様のやうな身魂の曇つた人間は、到底アンナ夢は末代に一度だつて見られるものかい』 鬼彦『アツハヽヽヽ、その後を聞かして貰はうかい。他人の恋女に岡惚しよつて、色男気取りになつて、肱鉄を喰つた夢を見よつたのだらう。大抵ソンナものだよ、アハヽヽヽ。早く寝ぬかい、夜が明けたら又、テクつかねばならぬぞ』 此の時天の一方より、今度は真正の火団閃くよと見る間に、竜灯松を目蒐けて、唸りを立て矢を射る如く降り来り、一同の前にズドンと大音響を発し、爆発したり。火光はたちまち、花火の如く四方に散乱し、数百千の小さき火球となつて、地上二三丈許りの所を、青、赤、白、紫、各種の色に変じ、蚋の餅搗する如くに浮動飛散し始めたる。其壮観に一同魂を抜かして見惚れ居る。吁、此火光は何神の変化なりしか。 (大正一一・四・一六旧三・二〇松村真澄録)
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(1698)
霊界物語 17_辰_丹波物語2 丹波村/鬼ケ城山 10 四百種病 第一〇章四百種病〔六二一〕 真名井ケ原の珍の宝座に参拝せむと、息せき切つて進み行きたるお楢は、ゆくりなくもウラナイ教の鍵鑰を握れる女豪傑黒姫に説き伏せられ、くれりと心機一変し、手の掌足の裏を覆して、スタスタと黒姫一行を伴ひ、漸く丹波村の伏屋に着きにける。 お楢『モシモシ、ウラナイ教の大将様、此処が私の荒屋で御座います。サアサアどうぞお這入り下さいませ。嘸お疲労でせう』 黒姫『ナニ、これしきの雪道で疲労るやうな事で、三千世界の神界の御用が出来ますものか、ウラナイ教にはソンナ弱虫は居りませぬ、オホヽヽヽ』 お楢『どうぞ気をつけてお這入り下さい、大江山の鬼落しが掘つて御座いますから、ウカウカ這入ると大変な事が出来致します。サアサア私の通る処を足をきめて通つて下され、一足でも外を歩くと、陥穽へ落ち込みますから』 黒姫『ナント用心の良い事だナア、アヽ感心々々、何と云うても比沼の真名井に瑞の霊の悪神が現はれる世の中ぢやから、この位の注意はして置かななりますまい。サアサア、照さま、清さま、私の後を踏みて来るのだよ』 お楢『モウ大丈夫で御座います。サアサアどうぞお上り下さいませ』 黒姫『ハヽア、平助どのはこの井戸の水を汲みて倒けたのだな。ホンニホンニ危なさうな井戸ぢや。お婆アさま、お前も随分年をとつて居るから気を付けなされよ』 お楢『有難う御座います。娘も嘸喜ぶことで御座いませう』 お節は夢中になつて、 お節『青彦さま、青彦さま』 と呼ンで居る。 黒姫『ドレドレ、これから神さまへ御祈念をして上げよう。それについても一つ妾の話を篤りと聞いた上の事だ。お婆アさま、聞きますかな』 お楢『有難い神さまのお話、どうぞ聞かして下さいませ』 黒姫『この娘の病気は、全体けつたいな病ぢや。病気には四百種病というて沢山な病がある。其中でも百種の病は放つて置いても癒る。あとの百種は薬と医者とで全快する。又あとの百種は、神さまぢや無いと癒らぬのぢや。そして、あとの百種は神さまでも医者でも薬でも癒りはせぬ。これを四百種病と云ふのだ。この娘は第三番目に言うた神信心で無ければ到底癒らぬ。お医者さまでも有馬の湯でもと云ふ怪体な粋な病気ぢや、青彦々々と云ふのは、大方妾の使つて居るウラナイ教の宣伝使、今は三五教に呆けて、この間も音彦とやらの後についてウロついて居た男ぢや。この娘が快くなつたら青彦を養子に貰ひ、娘から青彦を説きつけて、又旧のウラナイ教に逆戻りさせる神様のお仕組の病気に違ひない。お婆アさま、これを良く承知して居て貰はぬと癒す事は出来ぬぞい』 お楢『ハイハイ、ドンナ事でも生命さへ助けて下されば承はります』 黒姫『サア、これから日の出神様のお筆先を頂くから聞きなされ、このお節の守護神にも読みて聞かして改心致させねば、三五教の悪守護神が憑いて居るから、追ひ出す為に結構な御筆先を聞かして上げよう。謹みて聞きなされや』 筆先『変性男子の系統の御身魂、日の出の神の生宮、常世姫命と現はれて、高姫の肉体を藉りて、三千世界の世の初まりの、根本の根本の、身魂の因縁性来から、大先祖がどう成つて居ると云ふ事を明白に説いて聞かす筆先であるぞよ。変性男子は経の御役、誠生粋の正真の大和魂、一分一厘違へられぬ御役であるぞよ。毛筋の横巾も変性男子の系統の肉体に憑つて書いた事は間違ひは無いぞよ。三千世界の大立替大立直しの根本の結構な御筆先であるぞよ。変性女子の身魂は緯の御用であるぞよ。緯はサトクが落ちたり、糸が切れたり、色々と致すから当にならぬ悪のやり方であるから、変性女子の書いた筆先も、申す事も、行状も真実に致すでないぞよ。一つ一つ審神を致さねば、ドエライ目に会はされるぞよ。女子の御役は悪役で、気の毒な御用であるぞよ。身魂の因縁性来で、善と思うて致す事が皆悪になるぞよ。善にも強い悪にも強い常世姫の筆先、耳を浚へて確り聞いて下されよ。毛筋も違はぬ誠一つの、生粋の大和魂の、日の出神の生宮の常世姫命の性来、金毛九尾の悪神を、一旦キユウと腹に締め込みて改心させる御役であるぞよ。それに就いても黒姫の御用、誠に結構な御役であるぞよ。竜宮の乙姫さまがお鎮まり遊ばして御座るぞよ。魔我彦には日の出神の分霊、柔道正宗が守護致すぞよ。蠑螈別には大広木正宗の守護であるぞよ。此神一度筆先に出したら、何時になりても違ひは致さぬぞよ。違ふ様にあるのはその人の心が違うからだぞよ。唐と日本の戦ひが始まるぞよ。日の出神の教は日本の教であるぞよ。変性女子の教はカラの教であるぞよ。変性男子の筆先と、日の出神の筆先とをよつく調べて見て下されよ。さうしたら変性女子の因縁がすつくり判りて来て、ドンナ者でも愛想をつかして逃げて去ぬぞよ。アフンと致さなならぬぞよ。常世姫の御魂の憑るこの肉体は、昔の昔のさる昔、またも昔のその昔、モ一つ昔の大昔から、此世の御用さす為に、天の大神が地の底に八百万の神に判らぬ様に隠して置かれた誠一つの結構な生身魂であるから、世界の人民が疑ふのは無理なき事であるぞよ。神の奥には奥があり、その又奥には奥があるぞよ。三千年の深い仕組であるから、人民の智慧や学では、ソウ着々と判る筈は無いぞよ。今迄の腹の中の塵埃をすつくりと吐き出して誠正真の生粋の大和魂に成りて下さらぬと、誠のお蔭を取り外すぞよ。アフンと致して眩暈が来るぞよ。何程変性女子が鯱になりて耐りても、誠の神には叶はぬぞよ。此の肉体は元を査せば、変性男子の生粋の身魂から生れて来た女豪傑、若い時分から男子女と綽名を取つた、天狗の鼻の高姫であるぞよ。今はフサの国の北山村のウラナイ教の太元の、神の誠の柱であるぞよ。此世を水晶に立直す為に、永い間隠してありた結構な身魂であるぞよ。世界の人民よ、改心致されよ。誠程結構は無いぞよ。苦労の花が咲くのであるぞよ。苦労無しにお蔭を取らうと致して、変性男子の系統を抱き込みて、我身の我で遣らうと致したらスコタンを喰うぞよ。開いた口がすぼまらぬ、牛の糞が天下を取るとは、今度の譬であるぞよ。神の申す事をきかずに遣つて見よれ、十万億土の地獄の釜のドン底へ落して了ふぞよ、神界、幽界、現界の誠の救ひ主は、変性男子と日の出神の生宮とであるぞよ。女子の身魂は此世の紊れた遣り方を見せるお役、天の岩戸を閉める御苦労なかけ替への無い身魂であるぞよ。これも身魂の因縁性来で、昔の因縁が廻つて来たのであるから、神を恨めて下さるなよ。吾身の因縁を恨みて置こうより仕方が無いぞよ。天にも地にもかけ替への無い日の出神の生宮が、三千世界の神、仏事、守護神、人民に気をつけて置くぞよ。改心さへ出来て、この常世姫の申す事が判りたら、如何な事でも叶へてやるぞよ。病位は屁でも無いぞよ。魂を磨いて改心なされ。常世姫が気をつけた上にも気を付けるぞよ。俄信心間に合はん。信心は正勝の時の杖に成るぞよ。一時も早く身魂の洗濯いたして、神に縋りて下されよ。昔は神はものは言はなかつたぞよ。時節来りて艮の金神世に現はれて、三千世界の立替へ立直しを遊ばすについて、第一番に、御改心なされたのが竜宮の乙姫様であるぞよ。この竜宮の乙姫様は、黒姫の肉体にお鎮まり遊ばして、日夜に神界の御苦労に成りて居るから、粗末に思うたら、神の気ざわりに成るぞよ。高姫の肉体は元の性来が勿体なくも天の大神様の直々の分霊であるから、日の出神が引つ添うて、世の立替の地となつて、千騎一騎の御活動を遊ばす御役となりたぞよ。金勝要の大神、坤金神も、一寸我が強いぞよ。早く改心なさらぬと、神界の御用が遅れるぞよ。神界の御用が遅れると、それ丈、神も人民も難儀を致すから、早く改心致して、変性男子と常世姫の御魂の宿りて居る日の出神の生宮の申す事を聞いて下されよ。きかな聞くやうに致して改心させるぞよ。三五教は神の気障りがあるから、神は仕組を変へて此の肉体に御用をさして居るぞよ。神力と智慧学との力比べ、常世姫の神力が強いか、変性女子の智慧学が強いか、神と学との力比べであるぞよ。神の道には旧道と新道と道が二筋拵へてありて、何の道へ行きよるかと思うて、神がジツと見て居れば、新道へ喜びて行きよるが仕舞にはバツタリ行当りて了うて、又もとの旧道へ復つて来ねば成らぬ様に成つて了うぞよ。大橋越えて未だ先へ、行方判らぬ後戻り、慢神すると其通り、早く改心致さぬと、青い顔してシヨゲ返り白米に籾が混つた様にして居るのを見るのが、此の常世姫が辛いから、腹が立つ程気を付けてやるが、変性女子が我が強うて、慢神致して居るから、神ももう助けやうが無いぞよ。もう勘忍袋がきれたぞよ。それにつけては皆の者、変性女子の申すこと、一々審神を致してかからぬと、アフンと致す事が出来致すぞよ。常世姫の憑る肉体を侮りて居ると、スコタン喰う事が出来るから、クドウ申して気をつけて置くぞよ』 と厳の御魂の筆先の抜萃した高姫の書いた神諭を、声高々と読み聞かして居る。 お楢は畳に頭を擦りつけ、ブルブルと慄ひ泣きに泣いて居る。お節は発熱甚しく、益々『青彦青彦』と夢中になつて叫びはじめたり。黒姫は清子、照子の二人に向ひ、 黒姫『サアサア妾が今お筆先を拝読いたから、今度はお前さまがウラナイ教の宣伝歌を謡ふのぢや、サアサア早う、言ひ損ひの無いやうに謡ひなされ』 二人はハイと答へて座を起ち、病に苦しむお節の枕辺に廻り、声張上げて、 清子、照子『朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むともウラナイ教は世を救ふ 常世の国の常世姫昔の神代のそのままの 大和魂の生粋で日の出神の生宮と 現はれ出でたる高姫の身魂にかかりて筆をとり 三千世界の梅の花一度に開くことのよし 委曲に詳細に説き諭すたとへ大地は沈むとも 月日は西から昇るとも日の出神の生宮が 書いた筆先言うたこと毛筋の横巾ちがはぬぞ 違うと思ふは其人の心間違ひある故ぞ 昔の神代の折からに世界のために苦労した 高姫、黒姫、魔我彦や高山彦や蠑螈別 いづの身魂と現はれて竜宮さまの御守護で 此世の宝を掘り上げて北山村にウラナイの 神の教の射場を建て世界の人を教へ行く 実にも尊き神の代の其の根本の因縁を どこどこ迄も説き諭す常世の姫のお筆先 昔々の神代から隠しおいたる生身魂 日の出神の生魂で唐も日本も悉く 悪の仕組をとり調べ四方の国々島々に 漏れなく知らす神の道いづの身魂の御教 変性男子の御身魂善の身魂の生粋ぞ 変性女子の瑞身魂悪の鏡と定まりた 善は苦労が永けれど悪の苦労は短いぞ 悪の道行きや歩きよい善の道程険しいぞ 険しい道を喜びて歩いて行けば末遂に 誠も開く神の国広い道をば喜びて 進みて行けば末つひにハタと詰つて茨むら 針に身体をひつ掻いて逆転倒を皆うつて ヂリヂリ舞をしたとてもあとの祭ぢや十日菊 誠の神の申すうち聞かずに行るならやつて見よ 善と悪との立別けの千騎一騎の大峠 変性女子をふり捨てて常世の姫の生宮と 現はれ出でたる高姫の日の出神の御経綸 万劫末代芳ばしき名を残さうと思ふなら ウラナイ教の神の道一日も早く片時も 先を争ひ歩めかし畏き神のウラナイの 誠一つの根本の毛筋も違はぬこの教 神の奥には奥があるその又奥には奥がある 大国常立大神の三千年の御仕組 隅から隅まで悟つたるあの高姫の生宮は 三千世界の宝物広い世界の人民よ 今ぢや早ぢやと早鐘を撞いて知らする常世姫 暗に迷うた身魂をば日の出の守護に助けむと 朝な夕なに一筋に誠の教伝へ行く 常世の姫の真心は善の鑑ぢや世の鑑 誠の鑑はここにある身魂を清めて出て来たら 三千世界が見えすくぞ鎮魂帰神をせい出して 変性女子に倣ふより神から出したこの鏡 一つ覗いて見るがよい三千世界の有様は 一目に見えるこの教ウラナイ教は世を救ふ 誠の道の神ばしら日の出神の生宮が 三千世界の太柱グツと握つて居る程に 世界の事は何なりと常世でなけりや判りやせぬ 真名井の神が何偉い瑞の身魂が何怖い 怖いと云うたら吾心心一つのウラナイ教 心も身をも大神に捧げて祈れよく祈れ 祈る誠は神心あゝ惟神々々 身魂幸倍坐しませよ』 と謡ひ了れば、お節は益々苦しみ悶え、遂にはキヤアキヤアと怪しき声を振り絞り、冷汗は滝の如く流れ出で、容態は刻々に危険状態に入りける。 お楢『モシモシ皆さま、御親切に拝みて下さいまして有難う御座いますが、お前さまが此処へ御座つてから、お節の病気は楽になるかと思へば、一息々々、苦しさうに成つて来る、コラマア何うしたら宜しいのだ。オーンオーンオーン』 黒姫『コレコレお婆アさま、勿体ない事を言ひなさるな。これ程結構な日の出神の生宮の御筆先を読みて聞かし、結構な結構な宣伝歌まで唱へて、夫れで悪うなつて死ぬ様な事があつたら、神さまのお蔭やと思ひなされ。妾ぢやとて何うして一刻も早う楽に仕て上げたい、生命を助けて上げたいと思へばこそ、コンナ山路を雪踏み分けて遥々と来たのぢやないか。コンナ繊弱い妙齢の娘を二人まで連れて此処へ来たのも、神から言へば浅からぬ因縁ぢや。何うなるも斯うなるも神様の思召、仮令お節さまが国替なさつた処が、別に悔むにも及ばぬ、如才の無い神さまが、結構な処へ遣つて下さつて、神界の立派な御用をさして下さるのぢや。お前さまの達者を守り、この家を守護する守り神として下さるのぢや。勿体ない、何を不足さうに、吠面をかわくのぢやい、何うなつても諦めが肝腎ぢやぞへ』 お楢『ハイハイ、有難う御座います。然し乍ら妾の生命を取つて、どうぞお節を助けて下さいませ。それがお願ひで御座います』 黒姫『ハテサテ判らぬ方ぢやなア。何程偉い神さまぢやとて、お前の生命とお節さまの生命と交換が出来るものか。ソンナ無茶な事を言ひなさるな』 お節の容態は益々危篤に成つて来る。黒姫は何とは無しに落ち着かぬ様子にて、 黒姫『コレコレ照さま、清さま、今日は神界に大変な御用がある。サア帰りませう。コレコレお婆アさま心配なさるな。気を確り持つて居なさいよ。私は神界の御用が急くから、今日はこれでお暇致します』 お楢『モシモシお節は助かりませうか、助かりますまいか』 黒姫『いづれ楽になるわいナ。屹度癒る、安心なされ』 お楢『楽に成るとはあの世へ往く事ぢやありませぬか、癒ると仰有るのは、霊壇へ御魂に成つて直ると云ふ謎ではありますまいか』 黒姫『アヽ神界の御用が忙しい。照さま、清さま、サアサアお出で』 と雲を霞と比治山の彼方を指してバラバラと走せ帰り行く。あとにお楢はワツと許り泣き伏しぬ。 (大正一一・四・二二旧三・二六東尾吉雄録)
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霊界物語 18_巳_丹波物語3 玉照姫の誕生 11 相身互 第一一章相見互〔六三九〕 降りみ降らずみ空低う四辺は暗く黄昏れて 山時鳥遠近に本巣かけたか、かけたかと 八千八声の血を吐いて声も湿りし五月空 憂に悩める人々を教へて神の大道に 救はむものと常彦が鬼ケ城山後にして 足もゆらゆら由良の川蛇が鼻、長谷の郷を越え 生野を過ぎての檜山須知、蒲生野を乗り越えて 駒に鞭打つ一人旅観音峠の頂上に シトシト来る雨の空遠く彼方を見渡せば 天神山や小向山花の園部も目の下に 横田、木崎と開展し高城山は雲表に 姿現はす夜明け頃眼下の野辺を眺むれば 生命の苗を植つける早乙女達の田の面に 三々伍々と隊をなし御代の富貴を唄ふ声 さながら神代の姿なり。 常彦は峠の上の岩石に凭れ、夜の旅路の疲れを催し、昇る旭を遥拝しつつ、知らず識らずに睡魔に襲はれ居る。 観音峠の頂上さして、東より登り来る二人の乞食姿、 甲(滝公)『人間も、斯う落魄れては、どうも仕方がないぢやないか。何程男は裸百貫だと云つても、破れ襦袢を一枚身に着けて、斯うシヨボシヨボと、雨の降る五月雨の空、どこの家を尋ねても、戸をピツシヤリ閉めて、野良へ出て居る者ばつかり、茶一杯餐ばれる所も無し、谷川の水を掬つて飲めば、塩分はあるが、忽ち腹の加減を悪うして了ふ。裸で物は遺失さぬ代りに、何か有りつかうと思つても、せめて着物丈なつとなければ、相手になつて呉れる者もなし。純然たるお乞食さまと、誤解されて了ふ。実に残念だなア』 乙(板公)『天下を救済するの、誠の道ぢやのと、偉相に言つて居るウラナイ教の高城山の松姫も、今迄とは態度一変し、飯の上の蠅を払ふ様に虐待をしよつたぢやないか。これと云ふのも、ヤツパリ此方の智慧が足らぬからぢや。雨には嬲られ、風にはなぶられ、おまけに蚊にまで襲撃され、七尺の男子が、此広い天地に身を容るる所もなき様になつたのも要するに、智慧が廻らぬからだよ。あの梅公の奴を始め、松姫の如きは、随分陰険な代物だが、巧妙く黒姫に取入つて、今では豪勢なものだ。何とかして、モウ一度黒姫の部下になる訳にはいかうまいかなア』 甲(滝公)『一旦男子が広言を吐いて、此方から暇を呉れた以上、ノメノメと尾を掉つて帰ぬ事が出来ようか。鷹は飢ゑても穂を喙まぬ……と云ふ事がある。ソンナ弱音を吹くな、暗の後には月が出るぢやないか』 乙(板公)『人間の運命と云ふものは定まつて居ると見える。黒姫や高姫、松姫はどこともなしに、丸い豊な顔をして居るが、丸顔に憂ひなし、長顔に憂ひありと云つて、俺達は金さへ有れば、社会にウリザネ顔だと言つて、歓待る代物だけれど、今日の様な態になつては、ますます貧相に……自分乍ら見えて来る。自分から愛想をつかす様な物騒な肉体、何程馬鹿の多い世の中だと言つて、誰が目をかけて呉れる者が有らうか。アーア仕方がない。何とか一身上の処置を附ける事にしようかい。ヌースー式をやつては、神界へ対して罪を重ね、万劫末代苦しみの種を蒔かねばならず、実、さうだと言つて、自殺は罪悪であり、死ぬにも死なれず、困つた者だ。どうしたら此煩悶苦悩が解けるであらう。否スツパリと忘れられるだらう』 甲(滝公)『心一つの持ちやうだ。刹那心を楽むんだよ』 乙(板公)『貴様はまだ、ソンナ気楽な事を言つて居るが、衣食足りて礼節を知るだ。今日で三日も何も食はずに、胃の腑は身代限りを請求する。一歩も歩む事も出来なくなつて、どうして刹那心が楽めよう。刹那々々に苦痛を増ばつかりぢやないか。アーアこれを思へば、黒姫の御恩が今更の如く分つて来たワイ』 甲(滝公)『ヤア情ない事を言ふな。そら其処に三五教の宣伝使が立つて居るぞ』 乙(板公)『モウ斯うなつちやア、三五教もウラナイ教も有るものぢやない。食はぬが悲しさぢや。飢渇に迫つてから、恥しいも何も有つたものかい』 と常彦の佇む前に進み寄り、 乙(板公)『モシモシ、あなたは三五教の宣伝使ぢやありませぬか』 と力無き声に、常彦はフツと目を醒し、 常彦『アーア夜の旅で草臥れたと見えて、知らぬ間に寝込んで了うたワイ。……ヤアお前は乞食と見えるな。何ぞ御用で御座るか』 乙は何にも言はず、口と腹を指し、飢に迫れる事を示した。 常彦『ヤア一人かと思へば、二人連ぢやな。幸ひ、ここに握り飯が残つて居る。失礼だが之をお食りなさらぬか』 乙(板公)『ハイそれは有難う御座います。早速頂戴致しませう。……オイ滝公、助け船だ兵站部が出来たぞ。サア御礼を申せ』 滝公『アーそんなら頂戴しようかなア、恥しい事だ。旅人の弁当を貰つて食ふのは、生れてから始めてだ』 と四個の握り飯を分配し、二ツづつ、飛び付く様に平げて了ひ、 乙(板公)『アーアこれで少し人間らしい気がして来た。……イヤ宣伝使様、有難う御座います。……併し乍ら此先は又どうしたら宜からうかなア』 滝公『刹那心だよ。又神様がお助け下さる。心配するな。……何れの方か知りませぬが有難う御座いました。これでヤツと、こつちのものになりました』 と見上ぐる途端にハツと驚き顔を隠す。 常彦『ヤア失礼乍らあなたは、ウラナイ教の滝公さまぢやありませぬか。ヤアあなたは板公さま、どうしてそんな姿におなりなさつた。何か様子が御座いませう。差支なくばお聞かせ下さいませいなア』 板公『恥しい所、お目にかかりました。実は斯うなるも身から出た錆、何とも言ひ様がありませぬが、実の所は、あまり宣伝の効果が挙がらないので、一寸した事をやりました。それが此通り大零落の淵に沈む端緒となつたのです』 滝公『誠に赤面の至り、智慧も廻らぬ癖に、人真似をして、大変な失敗を演じ、闇の谷底へ転落し、生命カラガラな目に遭ひ、終には黒姫の御機嫌を損ねたのみならず、青彦、お節に踏み込まれ、一生懸命逃げて来ました。それから私等二人は高城山へ参り、松姫の前に尻を捲つて、ウラナイ教の内幕を暴露してやらうと、強圧的に出た所、中々の強者、吾々の智嚢を搾り出した狂言も、松姫に対しては兎の毛の露程も脅威を与へず、シツペイ返しを喰つて、生命からがら此処までやつて来ました。併し乍ら窮すれば乱すと云ふ諺もありますが、吾々は一旦誠の道を聞いた者、仮令餓死しても人の物を失敬する事は絶対に厭で堪らず、最早生命の瀬戸際、一生の大峠となつた所、あなたに巡り会ひ、一塊のパンを与へられて、漸く人間心地が致しました。これもアカの他人に恵まれるのであつたならば残念ですが、有難い事には、一旦御心易うして居たあなたに救はれたと云ふのも、まだ天道は吾々を棄て給はざる証と、何となく勇気が出て来ました』 常彦『今のお言葉に、青彦お節が黒姫の所へ往つたと仰有つたが、ソレヤ本当ですか』 滝公『ヘエヘエ本当も本当、一文生中の、掛値も御座いませぬ。今頃は黒姫も、青彦お節其他の二三人の男女に欺かれて、道場を破られ、フサの国へでも逃げて行つたかも知れますまい、高城山の松姫の様子が何だか変で御座いましたから……』 板公『ナーニ黒姫はそんな奴ぢやない。キツと青彦、お節は袋の鼠、舌の先で巧くチヨロまかされて居るに違ひない。それよりも惜しいと思うのは、紫姫さまに、馬公鹿公と云ふ若い男だ。キツと、ウラナイ教に沈没して居るに相違ない』 常彦『ハテナ、吾々も御両人の知らるる通り、ウラナイ教のカンカンであつたが、余り内容が充実せないのと、黒姫の言心行一致を欠いだ其点が腑に落ちず、又数多の信者に対して、吾々部下の宣伝使として弁解の辞がないので、アヽ最早ウラナイ教は前途が見えた。根底から崩れて了つた。斯う云ふ事で、どうして天下の修斎が出来ようぞ、信仰に酔払つた連中は今の所、稍命脈を保つて居るが、酔払つた酒は何時しか醒める如く、信仰も追々冷却するは当然の帰結と、前途を見越して、ヤツパリ天下を救ふは三五教だと、直に三五教に入信し、鬼ケ城の邪神退治と出掛け、それより諸方を宣伝し廻つて居るのだ。それにしても合点のゆかぬは、あれ程決心の堅かつた青彦、お節に紫姫さまぢや。これには何か深い様子が有る事であらう。コラ斯うしても居られない。一時も早く魔窟ケ原へ行つて、事の真偽を確め、其上で又作戦計画を定めねばなるまい。アーア困つた事が出来たワイ』 と手を組んで太い息をつく。 滝公『これに就て常彦さま、あなたは何かお考へがありますか。ならう事なら、私達も共々に三五教の為に尽さして頂きたいのですが、何を言うても零落れた此体、あなたの顔にかかはりますから……』 常彦『ソラ何を仰有る。衣服は何時でも替へられる。あなたの今迄の失敗の経験に会つて鍛へ上げられたる其身魂は、容易に得られるものでない。何は兎も角一緒に参りませう。また都合の好い所が有れば、衣服でも買つて上げませう。兎も角青彦以下の救援に向はねばならぬ。サア滝公、板公、参りませう』 二人は何にも言はず、嬉し涙に暮れ乍ら、常彦の後に従ひ、西北指して、今迄の衰耗敗残の気に充された態度は忽ち枯木に花の咲きし如く、イソイソとして従いて行く。 山頭寒巌に倚りて立てる古木も春の陽気に会ひて深緑の芽を吹き出したる如く、青ざめた顔は忽ち桜色と変り、常彦に絶対服従の至誠を捧げつつ、花咲き匂ふ枯木峠を打渡り、神の救ひをエノキ峠の急坂後に見て、握り拳をホドいて夏風に、そよぐ蕨の野辺を打渡り、とある茶店に立入りて、再び腹を拵へ忽ち太る大原の郷、テクテク来る須知山峠の絶頂に、青葉を渡る涼しき夏の風を受け乍ら、かたへの巌に腰打掛け、 常彦『アヽ早いものだ、モウ一息で聖地に到着する。世継王山の山麓には、悦子姫さまの経綸場が出来たと云ふ事だ。一つ立寄つて見ようかな。大抵青彦の様子も分らうから………イヤイヤ今度は素通をして、青彦に対面し、救はるるものならば、どこまでも誠を尽して忠告を与へ、其上にて悦子姫様の庵を御訪ねする事にしよう。幸に青彦以下が改心をして、三五教に復帰したとすれば、先へ妙な事をお耳に入れ置くのは却て青彦の為に面白くない。友人の道として絶対秘密にしてやるが本当だらう』 滝公『青彦さまはよもや、ウラナイ教になつて居る気遣ひは有りますまい』 板公『何とも、保証がでけぬ、突然の事で吾々も岩窟退治に来たのだと思つて驚いたが、後になつてよくよく考へて見れば、どうも黒姫と云ひ、青彦、紫姫さま其他の顔色に少しも変な色が浮かんで居らなかつた。黒姫の魔術に依りて剣尖山の滝の麓でうまくシテやられたのかも知れない、兎も角も常彦さまをお頼み申して、吾々も弟子となつた以上は、青彦さま一行を元の道へ救はねばなりますまい。これから首尾能く凱旋する迄、悦子姫様の庵を訪ねなさらぬ方が、万事の都合が良い様に思ひます。ナア常彦さま』 常彦『アヽ私はさう考へるのだ。何に付けても大事件が突発した様なものだ』 と話す折しも、坂を登り来る二人の男、 男(荒鷹、鬼鷹)『ヤアあなたは常彦さまぢやありませぬか。何処へお出でになつて居ました?吾々二人は丹州と共に弥仙山の麓に当つて、紫の雲、日々立昇るのを見て、コレヤ何か神界の経綸が有るのだらうと其雲を目当に参りました。所が近くへ寄つて見れば、恰度虹の様で、其雲は一寸向ふの方に靉靆いて居る。コレヤ大変だ、どこまで行つても雲を掴むとは此事だと、丹州さまにお別れをして、ここまでやつて来ました』 常彦『ヤアお前は鬼ケ城言霊戦の勇士、荒鷹、鬼鷹のお二人さま、どこへ行く積りだ』 荒鷹『丹州さまは吾々に向ひ仰有るには、一寸神界の御用があるから弥仙山を中心として暫く此辺を探険しようと思ふから、お前達はこれから聖地を指して進んで行け。併し乍ら聖地に立寄る事はならぬ。須知山峠を指して行けとの御言葉、どこを目的ともなくやつて来ました。其時々に神が懸つて知らしてやるから、安心して行けとの事、大方伊吹山の邪神退治に行くのではなからうかと思つて参りました。併しあなたのお顔を見るなり、何だか向ふへ行くのが張合が抜けた様な気がしてなりませぬワイ』 常彦『それは不思議な事を聞くものだ。何か外に聞いた事は有りませぬか』 鬼鷹『ヤア有ります有ります、大変な変つた事があるのですよ』 常彦『変つた事とは何ですか』 鬼鷹『弥仙山の麓の村に、お玉と云ふ娘があつて、夫も無いのに腹が膨れ、十八ケ月目に生み落したのが女の子、玉照姫とか云つて、生れてから百日にもならないのに、種々の事を説いて聞かせる、さうして室内を自由に立つて歩くと云ふ噂で……あの近在は持切りで御座います。それに就て、ウラナイ教の黒姫の奴、抜目のない……其子供を何んとか彼とか云つて、手に入れようとし、幾度も使を遣はし、骨を折つて居るさうですが、爺と婆アとが、中々頑固者で容易に渡さない。家の血統が断れると云つて居るさうです。なかなかウラナイ教も抜目がありませぬなア』 常彦『不思議な事が有るものだなア。兎も角吾々も一度其子が見たいものだが、それよりも先に定めた問題から解決せなくてはならぬ。其問題さへ解決がつかば、黒姫の様子も分り、子供の因縁も分るだらう。併し鬼鷹さま、荒鷹さま、あなたは何処へ行く積りか』 荒、鬼『まだ行先不明……私の行く所は何処で御座います……と実はあなたにお尋ねしたいと思つて居るのです』 常彦『兎も角丹州さまのお言葉通り、行く所までお出でなさいませ。神の綱に操られて居るのだから、今何を考へた所で仕方が有りますまい。併し丹州さまは……あなた方、何と思うて居ますか』 荒鷹『どうもあの方は、吾々としては、正とも邪とも、賢とも愚とも、見当が取れませぬ。つまり一種の……悪く言へば怪物ですなア。併し何とも言はれぬ崇高な所があつて、自然に吾々は頭が下がり、何程下目に見ようと思うても、知らぬ間に吾々の守護神は服従致します』 鬼鷹『私も同感です。何でも特別の神界の使命を受けた方に違ひありませぬワ、元吾々が使つて居つた其時分から、少し変だなアと思うて居た。今日の所では、兎も角不可解な人物だ。時々頭上より閃光を発射したり、眉間からダイヤモンドの様な光が放出して忽ち人を射る。到底凡人の品等すべき限りではありませぬワ』 常彦、手を組み、首をうな垂れ、思案に暮れて居る。荒鷹、鬼鷹は、 荒鷹、鬼鷹『左様なら常彦さま、又惟神に再会の時を楽みませう』 と一礼して、スタスタ坂を南へ下り行く。常彦は少しも気付かず、瞑目して俯むいて居る。 滝公『モシ常彦さま二人の方はモウ行かれました』 と背中を揺る。常彦は夢からさめた様な心地、 常彦『ナニ、二人はモウ行かれたと……エー何事も神様のお仕組だらう。とも角、弥仙山麓へ往つて見たいやうな気がするが、始めに思ひ立つた青彦の事件から解決するのが順序だ。サア皆さま、参りませう……』 (大正一一・四・二八旧四・二松村真澄録)
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霊界物語 21_申_高春山のアルプス教 06 小杉の森 第六章小杉の森〔六八〇〕 高春山の岩窟に巣を構へたる曲神の 鷹依姫を言向けて誠の神の御教に 靡かせ見むと三五の道の教の宣伝使 鼻も高姫黒姫が天の岩樟船に乗り 意気昇天の勢で高天原を後にして 天空高く飛んで行く三月経ちたる冬の空 何の便りも無き儘に言依別の神司 竜国別や国依別玉治別の三柱に 密かに旨を含ませつ高春山に向はしむ ここに三人の宣伝使草鞋脚袢に蓑笠や 軽き姿の扮装に万代寿ぐ亀山の 梅照彦が神館一夜を明かし高熊の 稜威の岩窟に参拝し神の御言を拝聴し 来勿止神に送られて善悪正邪の大峠 越えて漸う法貴谷戸隠岩の傍に 登りて見ればこは如何に行手に当りて四五人の 怪しき影は山賊の群と玉治別司 俄に変る三国岳蜈蚣の姫の片腕と 早速の頓智に山賊は一時は兜を脱ぎたれど 元来ねぢけた曲霊湯谷が峠の谷底の 木挽小屋なる杢助が家に立寄り金銀の 包みの光に目が眩み又もや元の曲津神 心の鬼に遮られ悪魔の道に逆転し 心秘かに六人は目と目を互に見合せつ 竜国別に従ひて津田の湖水の畔まで 素知らぬ顔を装ひつ三人の司と諸共に やうやう湖辺に着きにける。 三州『モシ玉治別さま、あなたは三五教の宣伝使と云つて居るが、実際は蜈蚣姫の乾児の玉公に間違ひはあるめい』 玉治別『馬鹿を言つては困るよ。汝はどうして、俺がそんな悪神に見えるのだ』 三州『論より証拠、泥棒の乾児を使つて、杢助の宅へ忍び入らせ、沢山の金銀を強奪しお前は赤児岩に待伏せして、乾児から受取つたのだらう。直接に盗らないと言つてもやはり人を使つて盗ませたのだから、要するに今回の強盗事件の張本人だよ』 玉治別『汝は今になつて、まだそんな事を言ふのか。俺の無実は既に杢助始め、大勢の者が氷解してゐるぢやないか』 三州『それでも戸隠岩の麓で、蜈蚣姫の片腕だと自白したぢやないか。ナア甲州、雲州汝が証拠人だ』 甲州『そらそうだ。蛙は口から、吾れと吾手に白状すると云ふ事がある。……オイ玉州モウ駄目だぞ。何と言つても自分の口から言つたのだから、竜州に国州、俺の観察は誤謬はあるまい。斯う大地に打おろす此杖は外れても、俺の言葉は外れよまいぞよ』 玉治別『アヽこれは聊か迷惑の至りだ。あの時は汝等を改心させる為に、三十三相の観自在天の真似をして方便を使つたのだ。これから高春山の曲神の征伐に向ふと云ふ真最中、内訌を起しては味方の不利益だから、そんな事は後に詳しく、合点の行く様に説明してやらう。今日は先づ沈黙を守るがよい』 三州『仮にも欺く勿れと云ふ宣伝使が、方便を使つたり、嘘を言つて良いものか。嘘から出た真でなくて、真から出た嘘を云ふお前は大泥棒だ』 遠州『コラ三州の野郎、尊き宣伝使に向つて、何と云ふ雑言無礼を吐くのだ。愚図々々吐すと此遠州が承知致さぬぞ』 三州『今迄は遠州の哥兄と尊敬して来たが、汝の様な泥棒心の俄に消滅する様な、腰抜は今日限り俺の方から縁を絶つてやらう。泥棒ならば徹底的になぜ泥棒で通さぬのだ、又改心するならば、本当の宣伝使に従つて誠の道へ這入るのなれば、俺だとてチツトも不服は称へないが、此玉に竜、国と云ふ代物は、どこまでもヅウヅウしく宣伝使だなぞと、仮面を被つて居やがるからムカツクのだよ』 遠州『オイ駿州、武州、汝はどう思ふ?俺はどうしても立派な宣伝使と観測して居るのだ』 駿州『俺もそうだ』 武州『定つた事だ。グヅグヅ吐すと、三甲雲の木端盗人、雁首を引抜いてやらうか』 三州『ナニ猪口才な』 と三州は俄作りの有合せの杖を以て、武州の向脛を擲りつけた。武州は『アイタヽ』と其場に顔を顰めて倒れた。続いて甲州、雲州の二人、遠州、駿州を目蒐け、向脛を厭と云ふ程擲りつける。脆くも三人は其場に踞んで顔を顰め、笑つたり、泣いたり、怒つたりして居る。 遠州『蟻も這はすなと云ふ大切な向脛を叩きやがつて、……覚えて居れ』 三州『杢助爺ぢやないが、肝腎のおアシをとられて苦しからう。おアシの沢山な蜈蚣姫さまの乾児共に修繕して貰へ。俺は最早汝等三人とは縁絶れだ。勿論玉、竜、国の奴盗人とも同様だ。こんな所に居るのは胸が悪い。これから先は善になるか悪になるか、我々三人の都合にする。汝等は鷹依姫に散々脂を搾られ、高姫、黒姫の様に岩窟の中へ閉ぢ込められて、木乃伊になるのが性に合うて居るワ……アバヨ』 と歯を剥き出し、腮をしやくり、尻を叩いて、あらゆる嘲笑を加へ、此場を棄て、湯谷ケ岳の方面指して駆けて行く。 三州、甲州、雲州の三人は津田の湖辺を後に、湯谷ケ岳の山麓に着いた。此処には少彦名神を祀りたる形ばかりの小さき祠がある。樫の大木は半ば枯れながら、皮ばかりになつて、若き枝より稠密な葉を出し、空を封じて居る。猿の声はキヤツキヤツと祠の背後の木の茂みに聞えて居る。 三州『オイ、ここまで漸く来るは来たが、玉治別以下の宣伝使はどうだらう。我々を此儘にして放任して置くだらうかな。彼奴は馬鹿正直者だから、「折角神の綱の懸つた三人、再び邪道へ逆転させては、大神様に申訳がない」とかなんとか云つて、俺達の後を追つかけて来はせまいかと、そればつかりが気にかかるよ』 甲州『向うにも現に三人の足を折られた連中が居るのだから、去る者は追はず、来る者は拒まずとか、何とか御都合の好い理屈を付けて、此アタ辛い山坂を、行方も知れぬ我々の後を追つかけて来さうな筈がない。マア安心したが宜からうぞ』 雲州『そんな心配は要らないよ。三人残してあるのだから、三人が三人の足にでも喰ひ付いて、何とか此方へ来ない様に工夫をするだらう。そんな取越苦労は止めたが良いワイ。彼奴等三人は足が痛いと云つて、キツと津田の湖を、玉治別と一緒に船に乗つて高春山の山麓に渡る手段をとり、湖水のまん中程で、俄に足痛が癒り、彼奴の懐の秘密書類を取り返し、ウマク目的を達するに定まつて居る。それよりも俺達は軍用金の調達が肝腎だから、自分の……これから作戦計画を進める事にしようぢやないか』 三州『何を言つても、百人力と云ふ豪傑の杢助だから、到底正面攻撃では目的を達する事は出来ない。幸ひに女房の葬式の手伝ひや、穴掘までしてやつたのだから、先方は気を許して俺達を歓迎するにきまつて居る。さうしてまだ女房の一七日は経たないのだから、彼奴も菩提心を出して、手荒い事はせないに定つて居るよ』 甲州『併し高春山に行くと云つて出たのだから、今更何と云つて、杢助をチヨロ魔化さうか、ウツカリ拙劣な事を云ふと、計略の裏をかかれて、取返しのならぬ大失敗に陥るかも知れない。爰は余程智慧袋を圧搾して、違算なき様に仕組んでいかねばなるまい。一つ此処で練習をやつて行かうではないか』 三州『オヽそれが宜からう』 甲州『三州、お前は杢助になるのだ。さうして俺と雲州がウマク化け込んで這入るのだ。其時の問答を、今から研究して置かねばならぬからのう』 三州『杢助の腹の中が分らぬぢやないか。それから観測せぬ事には此練習も駄目だぞ。……雲州、汝が一層の事、杢助になつたらどうだ。体も大きいなり、どこともなしにスタイルが似て居るからなア』 雲州『俺も俄に百人力の勇士になつたのかな。ヨシヨシ芝居をするにも、憎まれ役は引合はぬ。汝は小盗人役、此雲州が杢助だ。サア何なとウマく瞞して来い……雲州否杢助は智勇兼備の豪傑だから、借つて来た智慧や、一夜作りの考へではチヨロ魔化す事は到底駄目だぞ。此祠を杢助の館と仮定して、貴様等両人が金銀の小玉を、ウマく手に入れるべく言葉を尽して来るのだよ』 三州『定つた事だ。シツカリして肝腎の宝を、……杢助……どうして俺が盗るか、妙案奇策を出して来るから、今後の参考資料にするがよからう。泥棒学の及第点を貰ふか、貰へぬか、ここが成功不成功の分界線だ。サア甲州、二三丁出直して、改めて杢助館へ乗り込むとしようかい』 と二人は此場より姿を消した。 雲州『暫く此祠を拝借して、杢助館と仮定し、泥棒の襲来に備へねばなるまい。併し盗人は何時来るか分らないから、常に戸締りを厳重にして置くのだが、今度の盗人は予告して来るのだから、充分の用意が出来さうなものだが、さて差当つて防禦の方法が無い。本当の杢助なれば小盗人の五十や百は手玉に取つて振るのだが、此杢助はそう云ふ訳にも行かず、何とか工夫をせねばなるまい……オウさうだ。今持つて帰ると云ふ所へ、コラツと大喝一声腰を抜いてやるに限る。玉治別の宣伝使が何事も言霊で解決がつくと云ひよつた。一つ力一杯呶鳴つてやらう。併し此処に金銀の代りに砂利でも拾つて、褌に包んで、分らぬ様に置いとくのだなア』 と真黒の褌の包を祠の下にソツと隠した。 三州『オイ甲州、本当の杢助だないから、盗るのは容易だが、併しそれでは本当の練習にならぬ。何とか本真者と見做してゆかねば、本場になつてから当が外れ、首つ玉でも抜かれたら大変だからのう』 甲州『到底強盗は駄目だ。マア住込み泥棒の方法が安全第一だらう。彼奴は嬶アに死なれて困つて居る所、我々が親切に隠坊の役まで勤めてやつたのだから、巧妙く行つたら杢助も気を許して、俺達を泊めて呉れるに違ひはない……サア其覚悟で行くのだよ』 「ヨシヨシ」と三州は勢込んで行かうとする。甲州は袖をグツと握り、 甲州『オイオイそんな戦に行く様な調子で行つては駄目だ。涙でもドツサリと目に溜めて、如何にも同情に堪へないと云ふ態度を示して行かねば先方が気を許さぬぢやないか』 三州『まだ一二丁もあるから、ここで目に唾をつけても、到着までには風がスツカリ拭き取つて了ひよる。先方へ行つてから、ソツと唾を付けるのだ。忘れちや可かぬよ』 甲州『忘れるものかい』 とコソコソと足音を忍ばせ乍ら、 甲州『モシモシ杢助様、私は此間御宅で御世話になつたり、あんまり人の喜ばぬ隠坊までさして戴きました三州、甲州……モ一人は半鐘泥棒の雲州で御座います。併し雲州は其名の如く、どつかへウンでもやりに行つたと見えて遅れましたが、やがて後から来るでせう。あんな奴はどうでも良いのだ。折角盗つた宝を分配するのにも配当が少なくなるから、同じ事なら二人が成功すれば、それの方が余程結構だ』 三州『コラコラそんな腹の中を先へ言つて了ふとスツカリ落第だ。不成功疑なし。ここは杢助館ぢやないか』 甲州『杢助なれば又其考へも出るのだが、現在雲州が此処に居ると思へば、本気になつて泥棒の練習も出来ぬぢやないか』 三州『幸ひ、雲州の杢助がどつかへ行つて居ると見えて、不在だから良いものの、そんな事が聞えたら、サツパリ駄目だぞ』 甲州『さうだと云つて、我良心の詐らざる告白だもの』 三州『良心が聞いて呆れるワ。貴様の両親もエライ放蕩の子を持つたものぢや……と云つて泣きの涙で暮して居るだらう』 甲州『ヤア其涙で思ひ出した。早く唾を付けぬかい』 三州『そんな大きな声で言うと、発覚て了ふぞ。此方は何程目に唾を付けても、先方が音に聞えたツバ者だから、グヅグヅしてると、一も取らず二も取らず、アフンとせねばなるまいぞ。……モシモシ杢助さま、其後、よう御訪ねを致しませなんだが、御機嫌は宜しいかな、お嬢さまも御変りはありませぬか』 雲州『此真夜中にお前達は何しに来たのだ。折角改心し乍ら、俺の持つて居る金銀に眼が眩んで、魔道へ逆転して来たのだらう。モウ良い加減に改心をしたらどうだ。悪をする程世の中に馬鹿な奴はありませぬぞ。仮令人間は知らずとも、天知る地知る、自分の精霊たる本守護神も、副守護神も皆知つて居る。天網恢々疎にして漏らさず。良い加減に小盗人を廃めて、結構な無形の宝を手に入れる事を、何故心がけぬか。俺は女房がなくなつて非常に無情を感じて居るのだ。 白銀も黄金も玉も何かせん女房にます宝世にあらめやも 併し乍ら肉体のある限り、衣食住の必要がある。汝に慈善的に盗らしてやりたいのは山々であるが、さうウマくは問屋が卸さぬ。それよりも善心に立帰つたらどうだい』 三州『オイ雲州、しようも無い事を言ひよると、張合が抜けて泥棒が出来ないぢやないか。アーアーもう廃業したくなつた。併し乍ら遠州、駿州、武州に対しても、足まで叩き懲して仕組んだ狂言だから、不成功に終れば彼奴等に合はす顔がない。モウちつと変つた事を言つてくれ』 雲州『ヨシ、御註文通り変つた事を言つてやらう……其方はアルプス教の鬼婆の乾児であらうがな。改心したと見せかけ、目に唾を付け、俺の心に油断をさせ、金銀の小玉をウマくシテやらうと思つて来たのだらう。そんな事は俺の天眼通でチヤンと前に承知して居るのだ。此閾一足でも跨げるなら跨げて見よ。百人力の杢助だ。手足を引き千切つて、亡き女房の御供へにしてやらうか。狐鼠盗人奴』 三州『オイオイ雲州、さう出られては俺の施すべき手段がないぢやないか。女郎屋の二階で孔子の教を説く様な事を言ひよるものだから、拍子が抜けたワイ。強く出いと云へばそんな縁起の悪い事を言ひよつて、どうする積りだ。チツとは俺の立場になつて見よ』 雲州『サア勝手に持つて帰れ。貴様の執着心の懸つたこの金銀、長い浮世を短う太う暮さうと汝は思つて居るが、幽界へ行つて鬼に金の蔓で首を絞められ、逆様に吊られるのを覚悟して持つて帰れ』 甲州『コレヤ雲州の奴、しようも無い事を云ふない。そんな事を聞くと泥棒も出来ぬぢやないか』 雲州『さうだと云つて真理は依然真理だ。取りたい物は幾らでも取らしてやらう。其代りに俺も取つてやらう。汝の一つより無い生命を……金が大事か生命が大事か、事の大小軽重をよく考へて見い』 甲州『そんな事を考へて居つて、泥棒商売が出来るものかい』 雲州『泥棒商売が辛けれや働け。働くのが厭なら睾丸なつと銜へて死ぬるか、首でも吊つた方が良いワイ』 三州『ヤア此奴ア駄目だ。モウ練習も打切りにしようかい』 雲州『さうすると汝は最早断念したのか。腰抜野郎だなア。それだから天州の乾児になつて、ヘイヘイハイハイと箱根の坂を痩馬を追ふ様に言つて、いつ迄も頭が上がらないのだ。鉄槌の川流れとは汝の事だよ。何なつと持つて行かぬかい』 三州『持つて帰ねと言つた所で、何も無いぢやないか』 雲州『其処辺を探して見い。金銀の妄念が褌に包んであるかも知れぬ』 甲州『オイ三州、どうしよう。何でも好いから手に入れた摸擬をせぬ事には、練習にならぬぢやないか』 三州『さうだと云つて、プンプン臭気のする、斯んな褌が、どうして懐へ入れられるものか。屋根葺の褌を三年三月、鰯の糞壺の中へ突込んで置いた様な臭気がして居るワ……汝御苦労だが、懐へ入れてくれ。之でもヤツパリ金包だ、黄金色の新しい奴がそこらに付着して居るぞ。褌は古うても尻糞は新しい。早く処置を付けて、此奴の化物ぢやないが、カイた物がものを言ふ時節だ。併し書いた物と言へば、玉治別の懐にある一件書類を巧妙く遠州の奴、取返しよつたか知らぬて』 雲州『そんな外の話をする所ぢやない。一意専心、さしせまつた大問題を研究しなくてはなるまいが』 三州『杢助さま、私は真実改心致しました。玉治別の宣伝使の仰有るには……多寡が知れた高春山の鬼婆位に、お前達大勢をゴテゴテ連れて行くと見つともない。三人居れば大丈夫だ。それよりも早く杢助さまの宅へ行つて、亡くなられた奥さまの御霊前で祝詞を奏げて来い。何れ帰路には杢助さまのお宅へ寄るから、それまで毎日神妙にお前達三人は、故人の霊を慰めるのだ。又杢助さまも寂しいだらうから、話相手になつてあげるが良い。嬶アに死なれた時は何となく、世の中が寂寥になり、憂愁の涙に暮れるものだから、面白い話でもして、一呼吸の間でも、心を慰めてあげるが宜い。それが一番に亡者の精霊に対しても、杢助さまに対しても、最善の道だ……と斯う仰有つた。それで暫くの間お宅へ御厄介に参りました。決して金銀などを盗らうと思うて三人が相談して来たのぢやありませぬから、留守は私等三人が立派にしてあげます。サア暫く都会へでも出て遊んで来なさるか、友達の宅へでも行つて、酒でも飲んで来なさい。あなたの奥さまの霊が玉治別さまに姿を現はして、涙を零して頼まれたさうです。さうして金を見えぬ所へ隠して置くのは、金に対して殺生だ。妾の死骸を埋葬たも同然だから、よく分る所へ出し、さうして妾にも一遍見せる為に、霊前へ三四日供へて置いて下さい。さうすれば妾は天晴れ成仏致します…………と斯う仰有つたさうで、玉治別さまが……エー此亡者は執着心が強いと見えて、死んでからまでも金銀に目をくれるのか、身魂の因縁と云ふものは仕方のないものだ…………と仰有いました。どうぞ霊前へお供へになつても、我々三人が盗るのぢやありませぬ。万一無くなつたら、それはインヘルノの立派な旅館で宿泊る旅費に、奥さまが持つて行かれたのでせうから、惜気なく執着心を棄てて御出しなさる方が宜しからう……なア杢助さま』 雲州『此杢助は金なんかに執着はない。併し乍ら人間と云ふ者は宝を見るとつい悪心が起るものだから、折角改心したお前達に又罪を作らすは可哀相だによつて、マア金の在処は知らさぬがよい。強つて、それでも知りたければ知らしてやらぬ事は無い。嬶アの死骸の懐に持たして帰なしてあるのだから、玉治別の神さまの前へ現はれてそんな事を女房が言ふ筈がない。大方お前達が仕組んで来たのだらう。これから墓へいつて土を掘り起し、逆様に首を突込んで、懐の金を盗るなら取つて見い。女房は金に執着心の強い奴だから、キツト冷たい手で、お前達の素首にギユツと抱付き、頭を下にしられて、汝の尻の穴を花立に代用するかも知れやしないぞ。それでも承知なら墓へいつて掘つて行かつしやい』 三州『オイ雲州、モウ汝の杢助は駄目だ。臨機応変、兎も角杢助の住家へいつてから、当意即妙の知識を発揮する事にしよう。何事も俺の云ふ通りにするのだぞ。衆口金を溶かす……と云つて、大勢が喋舌ると、目的の金銀が溶けて無くなつて了うと困るから、総て俺に一任せいよ』 雲州『何だか雲でも無い様な気になつて了つた。杢助気分が漂うて、汝等が泥棒に見えて仕方が無いワ』 三州『汝も泥棒ぢやないかい』 雲州『モウ此計画は中止したらどうだ。何とはなしに大変な罪悪を犯す様な気がしてならないのだよ』 甲州『何れ善ではない。併し我々泥棒としては、巧妙く手に入れるのが最善の方法だ。善とか悪とか、そんな事に心を奪はれて、どうして此商売が発展するか。サア大分に夜も更けた、これからボツボツ行かう』 と十丁許り前方の杢助が館に、体を胴震ひさせ乍ら、萱の穂のそよぎにも胸を轟かせつつ心細々脚もワナワナガタガタ震ひで進んで行く。 (大正一一・五・一九旧四・二三松村真澄録)
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霊界物語 23_戌_木山の里/竜宮島へ出発 総説 総説 一身上に関する大峠を一週日の前に控へたる旧五月十八日、離為火の本卦、火天大有の枝卦を得たる瑞月王仁は、天佑の下に漸く二十三巻の霊界物語を口述し了り、進んで雷天大壮の神業に奉仕せむと、身心を清め、生田の森の訪客の、息のまにまに口ずさむ。罪も穢れも那智の滝、心の駒彦や、木枯気分の秋彦始め、虻蜂取らずの泥棒が、心の底より悔悟して、神の恵みの糸筋に、曳かれて親子の再会や、魂をぬかれし高姫が、執着心のいと深き、心の瀬戸の家島やま、小豆ケ島に聳え立つ、国城山の巌窟に、バラモン教の花形役者、蜈蚣姫と面会の珍物語、古今混同、不可解至極の頭脳の記憶を辿りつつ、蒲団の上に横たはり、日本一の吉備団子、ムシヤムシヤ喰ひ喰ひ述べ了る。 大正十一年旧五月十八日竜宮館にて
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(2000)
霊界物語 30_巳_南米物語2 末子姫と言依別命の旅 21 神王の祠 第二一章神王の祠〔八六三〕 国依別一行は足に任せて、旭を浴び乍ら、東南に向ひ前方に突当つたアラシカ山の大峠をソロソロと登り始めた。此地点は最早今年の旱魃にも遭ず、極めて安全にして、山々の草木は色美はしく、旭に照り輝き、活々として居る。一行は心も勇み、何となく愉快げに此急坂を知らず知らずの間に半日を費やして、峠の頂上に達した。 東北を眺むれば、ヒルの都は細く長く帯の如く人家が並んで居る。戸数に於て殆ど二三千計りの、此時代に取つては大都会である。又西南を瞰下すれば、ウラル教のブールが立籠りたる日暮シ山は手に取る如く、青々と緑の衣を被り、八合目以上は雲に包まれてゐる。 キジは国依別に向ひ、 キジ『モシ、宣伝使様、あの未申の方向に当つて白雲の帽子を着てゐる高山が、例の日暮シ山で御座いますよ。随分景勝の地点を選んだものですなア。三方山に囲まれ、一方に日暮シ河の清流を控え、四神相応の地点だと云つて、ウラル教の連中が非常に誇つて居る所で御座いますよ。ヒルの都はあの通り、茫々たる原野の中に築かれてありますから、大変に便利は宜しいが、要害の点に於ては、日暮シ山に比ぶれば、非常に劣つて居る様ですなア』 国依『成程ウラル教も恰好な地点を見付け出したものだなア。併し此頃の様に肝心の日暮シ河があの通り涸切つて了つては、交通の点に於て最も不便であらう。何事も一利あれば一害ある世の中だから、吾々なれば矢張ヒルの都の方が余程気に入るよ』 マチ『気に入ると云つたら、此涼風、暑い坂を汗タラダラと流して登り詰め、山上に息を休めて四方の景色を見晴らし、浩然の気を養ふ吾々は、実に天国へ登りつめた様な心持になつて来ました。何と云つても人は高山に登り下界を見下すに限りますなア。コセコセと狭い谷間に潜んで、日々何とかかとか云つて騒いで居るよりも、時々は山登りも又愉快なものです』 国依別は、 国依別『サア皆さま、参りませうか』 とスタスタと坂路を降り行く。二人は『モウ少し休みたいなア……』と小声に囁き乍ら、已むを得ず後に従ひ、急坂を下りて行く。 見れば坂路の傍に一つの祠が建つて居る。樟の大木は二三本天を封じ此祠に対し、雨傘の役を勤めて居る。ふと見れば、面やつれのした妙齢の女、社前に跪き何事か切りに祈願をこめてゐる。マチ、キジの両人は早くも之を認め、 マチ、キジ『ヤア宣伝使様、アレ御覧なさいませ。あすこには常世神王を祀つた祠が御座います。さうして何だか一人の女が荐りに祈願して居るやうですが、一つ立寄つて様子を聞いて見ませう。此淋しい山路、若い女の身として、此祠へ参つて来るのは何か深い曰く因縁が無けねばなりますまい』 国依『アヽ成程、古い社が立つてゐるなア。実に立派な楠が栄えて居る。これ位な大木にならうと思へば数千年の星霜を経て居るであらう。吾々の様に二百歳や三百歳で死んで了う弱い人間と違つて、数千年の寿命を保ち、尚青々として枝葉を繁茂させ、所在暴風雨に対し依然として少しも騒がず、此高山に生活を続けて居る楠は、実に偉いものだ。これを思へば植物位偉いものはない様な気がするネ。樟の木に霊あり、且言語を発するならば、遠き神代の有様を聞かして貰ふのだけれど、併しそれも仕方がない』 マチ『モシモシそれはさうと、あの女を御覧なさい。随分痩衰へて居るぢやありませぬか?兎に角祠の前へ立寄つて調べて見たら如何でせう』 国依『兎も角神様に参詣した序に尋ねて見るもよからうよ』 と云ひ乍らツカツカと祠の前に進みよる。三人は祠の前に跪き拍手再拝、天津祝詞を清く涼しく奏上し終り、傍の長き石に腰打掛息を休めた。 キジは祠前に跪き何事か切りに、落涙と共に祈つて居る女の側近く寄り、いたいたしげに脊を撫でさすり乍ら、 キジ『モシモシ、何処の御方か知りませぬが、大変な御信仰で御座いますな。此お社は、常世神王様の御神霊が御祀り申してあると云ふことで御座いますれば、貴女がここへ御参りになつてることを思へば、大方ウラル教の御方でせうネ。かよわき女の只一人、此高山の祠に詣でて御祈りをなさるのは、何か深き御様子のある事と御察し申します。吾々の力に及ぶ事なれば、何とかして御相談に乗つてあげたいと思ひますが、どうか御差支なくば、大略丈なりとお話下さいませ。及ばず乍ら御力になりませう』 此同情のこもつたキジの言葉に、女は漸く顔をあげ、 女(エリナ)『ハイ、私はアラシカ山の山麓に住居いたすエリナと申す者で御座います。私の父は、ウラル教の宣伝使でエスと申しますが、一ケ月以前に三五教の宣伝使様が御立寄りになり、いろいろと尊きお話を父と共に、夜中遊ばした結果、父も非常に喜びまして、四五日の間其宣伝使を吾家に止めおき、ウラル教の信者にも三五教の美点を説き聞かせ、神様の御神徳を受けて、大変に喜び勇んで居りました。所が此事忽ち日暮シ山の岩窟に聖場を立ててウラル教をお開き遊ばす、云はばヒルの国に於けるウラル教の総大将、ブールの教主の耳に入り、至急吾父のエスに参れとの御使、父は喜び勇んで、其霊地へ参りましたが、其後は何の音沙汰もなく非常に母と共に心配を致して居りましたが、四五日前にウラル教の宣伝使が尋ねて来られ、エスさまは三五教の宣伝使を自宅に宿泊させ其上ウラル教の信者に対して三五教を説き勧めたと云つて、日暮シ山の岩窟内の暗き水牢に投げ込まれ、大変な苦しみを受けて居られる、お前達も妻子たる廉を以て、何時召捕りに来るかも知れないから、気を付けよと、秘密に知らして呉れた親切な方がありました。母はそれを聞くより忽ち癪気を起し、重き病の床に臥し、日に日に体は弱り果て、見る影もなく痩衰へ、一滴の水も食物も喉を越さず、此まま死を待つより外に途なき悲運に陥つて居ります。それ故私はウラル教の教祖常世神王様の祠に日々詣でまして、父の危難を救ひ、母の病気を助け玉へと、祈つて居るので御座います』 と涙片手に包まずかくさず事情を物語る。 キジ『それはそれは、承はれば実にお気の毒です。私も今迄ウラル教の信者で日暮シ山の霊場へは、二度計り参拝した事もある位で御座いますが、実にウラル教は、今となつて考へて見れば残虐な教ですよ。人の死ぬ事を何とも思はず、天国へ救はれるのだから、無上の光栄だなんて、訳の分らぬ事を教へるのですからたまりませぬワ。併し乍らあなたの御父上が三五教の宣伝使を四五日も御泊めになつたと云ふのは、ウラル教に愛想をつかし、三五教の美しい所をお悟りになつた結果でせう。コリヤ、キツと因縁があるに違ひない。こんな所でこんな御話を聞くのも、神様のお引合せに違ない。必ず必ず御心配なさいますな。キツと吾々が御父上や御母アさまを助けて上げませう』 エリナ『どこの御方か知りませぬが、初て会うた此私に、御親切によく云つて下さいます。何分にも憐な私の今日の境遇、どうぞ御助け下さいませ』 と手を合せて、涙乍らに頼む憐れさ。 国依『モシ、エリナさまとやら、必ず御心配なさいますな。吾々一同がキツとお父さまを、如何な水牢の中からでも、日ならずお助け申して、あなたの宅へ送り届けませう』 エリナ『ハイハイ、有難う御座います。何分宜しう御願致します。……あなたは、さうしてウラル教の宣伝使様で御座いますか』 国依『イエイエ、吾々は三五教の宣伝使国依別と申す者、今此処に居る両人は、チルの国の方で、キジ、マチと云ふ非常な豪傑ですよ。キツと助けて上げますから、機嫌を直して早く家路に帰り、お母アさまにも安心させて上げなさい』 エリナ『ハイ、有難う御座います』 と嬉し涙にくれ、地に伏して泣いて居る。 国依『キジ、マチの両人、御苦労だが、モ一度ウラル教の霊場へ引返し、モウ一戦を始め、エスさまを救ひ出して来ようぢやないか?』 キジ『ハイ、それは大変に面白いでせう。併し乍ら、たかの知れたブールやユーズにアナンの如き木端武者が大将株をして居る様なウラル教へ、宣伝使にワザワザ往つて貰ふのは実に畏れ多いぢやありませぬか。あんな者は吾々一人にて余つて居ります。どうぞ私一人を日暮シ山に差向けて下さい。さうしてマチはエリナさまに従いて行き、お母アさまの病気を鎮魂して直して上げる役となり、宣伝使様は之よりヒルの都へお越しになり、吾々が芽出たく凱旋して帰る迄、待つてゐて下さいませぬか?』 国依『随分偉い元気だが、必ず油断は出来ないぞ。夜前大勝利を得たからと云つて、何時迄も勝つ計りにきまつたものぢやない。随分気を付けて、両人共一時も早くエスさまを救ひ出す様に御苦労にならうかな。エリナさまは私がヒルの都へ行く途中だから、お宅迄送り届け、お母アさまの大病を治しておいて、ヒルの都へ行くことと致しませう』 キジはニタリと笑ひ乍ら、 キジ『宣伝使様、中々抜目がありませぬなア』 と心ありげに笑ふ。 マチ『きまつた事だ。神様のお道に一分一厘、毛筋の横巾も抜目があつて堪るかい。お前こそ今度は抜目なく、気を付けて行かないと、思はぬ失敗を演ずるぞよ』 国依『マチさまも是非同道を願ひますよ。どうもキジさま一人では心許ないからなア』 キジ『宣伝使様、余りひどいですな。高が知れたウラル教の霊場、私一人にて喰ひ足らぬ様な気分が致して居ります。マチの様な男、連れて行くのは何だか足手纏ひの様な気が致しますけれど、あなたの御命令とあらば伴れて行きます。……コレ、マチ、貴様は余程果報者だ。征夷大将軍キジ公の副将となつて行くのだから、さぞ光栄に思つてゐるだらうなア』 マチ『アハヽヽヽ何を吐かすのだ。余り調子に乗つて失敗をせぬ様にせよ。……そんなら宣伝使様、キジ公の後に従ひ、これより日暮シ山に立向ひ、ウラル教の大将ブール其他の奴原を片つ端から言向け和し、エスの宣伝使を救ひ出し、日ならず凱旋の上、ヒルの都の楓別命が御館に於て御面会申しませう。……サア、キジ公の大将、早く出立遊ばせよ』 と、からかひ乍ら、早くも此場を後に、先に立つて元来し坂路を帰り行く。 キジ『オイオイ大将を後にして、先へ行くと云ふ事があるものか。待つた待つた』 と呼はり乍ら、 キジ『宣伝使様、エリナ様、左様なら、後日お目にかかりませう』 と言葉を残し、マチの後を追つかけ行く。 これより国依別はエリナと共にアラシカ山の山麓エスの宅に至り、エリナの母テールの病を癒やさむと祈願し、数日逗留の後ヒルの都を指して進み行く。 (大正一一・八・一六旧六・二四松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 23 老婆心切 第二三章老婆心切〔九一四〕 国依別、末子姫の結婚の噂は、忽ち館の内外に雷の如く駄賃取らずの飛脚の口から喧伝されて了つた。之を聞いた高姫はムツクと立上り、言依別命の居間を訪ねた。言依別命は結婚の準備に就いて、いろいろと独り心を働かせて居た所である。高姫は襖をソツと引開け、叮嚀に頭を下げ、 高姫『言依別様、御邪魔を致しますが、一寸貴方に御相談申したきこと、否御尋ね申したき事が御座いまして伺ひました。お差支は御座いますまいかなア』 言依別『ハイ、別に大した用も御座いませぬ。どうぞ御這入り下さいませ』 と気乗りのせぬ様な言葉附きである。高姫はツカツカと言依別の前に進み、行儀よく膝を折つてすわり、両手を膝の上に乗せ、極めて謹厳な態度で、 高姫『言依別様、承はりますれば、末子姫様に対し国依別の宣伝使が養子婿になられるにきまつたとか云ふ専らの噂ですが、それは実際の御話で御座いますか?』 言依別『ハイ、実際で御座います。私と松若彦両人の肝煎で漸く婚約が成立致しました』 高姫『それは又怪しからぬ事ぢや御座いませぬか。三千世界の救ひ主、水晶玉の神素盞嗚大神様の御娘子、生粋の大和魂の末子姫様に娶はすに、人もあらうに、国依別の様な悪戯者を御周旋なさるとは、余りぢや御座いませぬか。能う考へて御覧なさい、女だましの御家倒し、家潰しの天則違反者、瓢軽者、揶揄上手の、至極粗末に出来上つた男……丸で鷺と烏の夫婦ぢやありませぬか。其様な汚れた身魂を水晶の生の末子姫様に御世話をするなんて、折角の結構な身魂を又紊して了ふぢやありませぬか。さうすれば、折角ウヅの国が五六七の世になりかけてゐるのに、再び泥海となり、上げも下しもならぬやうなことが出来致します。私は此縁談ばかりは仮令大神様が何と仰せられようとも、神界の為御道の為御家の為に、どこ迄も反対せなくては置きませぬぞえ。まだ幸ひ結婚の式も挙げてゐらつしやらないのだから、今の間ならば如何でもなります。縁談と云ふものは、飯たく間にも冷ると云ふ事だ。此話を取消した所で、今ならば何のイサクサも起りますまい。国依別が若しもゴテゴテ云ふならば、及ばずながら高姫が物の道理を説き諭し、納得させて見せませう。又末子姫様が如何してもお聞きにならなければ、高姫の老婆心と言はれるか知りませぬが、此道にかけたら千軍万馬の功を経た高姫、三寸の舌鋒を以て、どちらも得心の行く様になだめすかし、此結婚問題を蛇尾にして見せませう。……言依別さま、此事はどうぞ私に一任して下さいませ。キツと成功させて見せますから……』 言依別『一旦男子と男子が契約した以上は、今となつて動かすことは出来ませぬ。私も男です。一旦言ひ出した事は後へは引きませぬ。第一大神様の御所望ですから』 高姫『仮令大神様の御所望であらうとも、なぜお前さまは御忠言申上げないのだ。お髭の塵を払つて自分の地位を安全に守らうと云ふ御考へだらう。良薬は口に苦し、諫言は耳に逆らふとやら、至誠を以て諫め奉り、もし聞かなければ、潔く死を以て決すると云ふ、お前さまに誠意がありさへすれば、こんな不都合な話は持上がらない筈だ。あんな者を末子姫様の夫にしようものなら、それこそ三五教の権威は忽ち地に落ち、末子姫様の御信用はサツパリ、ゼロとなつて了ひますよ』 言依別『あんな者が斯んな者になつたと云ふ仕組でせうかい、アハヽヽヽ』 高姫『コレ笑ひごつちやありませぬぜ。千騎一騎の国家興亡に関する此場合、気楽さうに面をあげてアハヽヽヽとはソリヤ何と云ふ心得違ひな事ですか。それだから年の若い者は困ると云ふのだ。何程憎まれても、此高姫が構はねば三五教はサツパリ駄目だ。アーア、気のもめる事だ。肩も腕もメキメキ云うて来たわいのう』 言依別『折角の御親切な御注意、実に有難う御座います。併し乍ら此問題に就いては、一分たりとて動かす事は出来ませぬ。……高姫様、どうぞ貴女もゆつくり御考へ下さいませ。私は少し取急ぐ用事が御座いますから、失礼を致します』 高姫『チト煙たうなつて来ましたかなア。ドレドレ若い方のお側へ、歯抜婆アが出て来て熱を吹き、煙たがられて居るよりも、是から国依別の居間へ行つて、一つドンナ意見だか叩いて来ませう。将を射むと欲する者は先づ其馬を射よだ。何と云つても言依別さまは、年が若いから、こんな事の談判は厭だらう。それも無理もない、憎まれ序に高姫が、お道の為に、国依別の改心する所まで、居すわり談判をやつて来ませう』 と呟きながら、イソイソと此場を立つて出でて行く。 国依別は高姫の意見に来るとは夢にも知らず、 国依別『あゝ是から俺も窮屈な生活に入らねばならぬか。今の間に気楽のしたんのうをしておかうかい』 と窓の戸をガラリとあけ、赤裸になつて、仰向けになり、手足をピンピンさせて、座敷運動に余念なかつた。そこへ高姫はあわただしくガラリと戸を開け入り来り、此態を見て目を丸くし、口を尖らせ、 高姫『マアマアマア国さまかいな。其態は一体何の事だい!誰も知らぬかと思つて其態は何ぢやいな。ヤツパリ人の居る所では鹿爪らしうしてゐても、鍍金が剥げて三つ児の癖は百迄とやら、お前は若い時から、そんな不規律な生活をして来たのだらう。エヽ困つたものだ。時々刻々に愛想がつきて来た。……コレ国依別どの、高姫ですよ、起きて貰ひませう』 国依別『高姫さま、一寸ここを写真にうつして、大神様や末子姫様の御前に御覧に入れて下さいな。国依別も実にトチ面棒をふつてゐますワイ』 高姫『エヽ又しても、四ツ足の正体をあらはし、其態は何の事だい。大神様や末子姫様に写真にとつて見せてくれなんて、ヘン、自惚にも程がある。誰だつてそんなとこを見ようものなら、三年の恋が一度に醒めますぞや。或処に若い娘が綺麗な若い男を恋慕ひ、よい仲になつて居つたが、其男が女の前で尻をまくり、庇を一つプンと放つたが最後、其女はそれきり、恋しい男が見るも厭になつて了うた例しがありますぞえ。それにそんな態を末子姫様に御覧に入れてくれとは余りぢやないか。色男気取で結構な結婚を申し込まれ、余り嬉しいので逆上して了ひ、赤裸になつて、一角よい姿と思ひ……此姿を恋女に見せ……とはよい加減に呆けておきなさい。エヽ見つともない、早く着物を着なさらぬか!』 国依別『何分お門が広いものだから、こんな風でもして撃退策でも構じなけりや、やり切れませぬワイ。ア、あちらからも此方からも、目ひき袖ひき連中が沢山で、国依別も実に迷惑致して居るぞよ。男は裸百貫と申して、飾りのないのが値打であるぞよ。元の生れ赤児になりて神の御用を致して下されよ。生れ赤児と申せば、みんな丸裸ばかりであるぞよ。アツハヽヽヽ』 高姫『コレ国どの、お前は一国の大将にでもならうと云ふ千騎一騎の大峠に差掛つて居り乍ら、チツと謹んだら如何だいなア。油断を致すと、坂に車を押すが如く後へ戻りますぞえ』 国依別『あとへ戻るやうに逆になつて、油断でなうて冗談をして逆様車を押してゐるのだ、アツハヽヽヽ。アーア、早う此処を誰か、一寸覗いて愛想をつかして呉れないかな。高姫さまに愛想つかされても、根つから目的が達しませぬワイ』 高姫『コレ国どの』 と声を高め、国依別の太腿を三つ四つ平手でピシヤピシヤと擲りつける。国依別は此機みに、ガバとはねおき、慌しく窓際にかけておいた単衣をひつ被り、三尺帯を無雑作にキリキリとまきつけ、ドスンと高姫の前にすわり込んだ。 国依別『高姫様、何の御用で御座いますかな。どうぞ実際の事を仰有つて下さい』 高姫『お楽みでせうな!此頃は半日の日も百日も経つやうな気がするでせう。イヤもう御心配御察し申しますワイ。併し乍ら、月にも盈つる虧くるがあり、村雲のかくすこともあり、綺麗な花には虫がつき、嵐が夜の間に吹いて来て、無残にも散らすことがありますぞや。モウ大丈夫此方の者だと、笑壺に入つて居ると、夜の間に天候忽ち激変し、女の方から秋の空、凩の冷たい風が吹いて来ぬとも限りませぬぞや。さうなつてから、梟鳥が夜食に外れたやうな、約らぬ顔を致しても、何程アフンと致しても、後の祭りで、取返しは出来ませぬぞや。それよりも男らしく今の間に、花の散らされぬ間に、お前さまの方から、キレイサツパリと縁談を御断りなさい。国依別どののやうな、……言ふとすまぬが……ガンガラと水晶の生粋のお姫様と夫婦になつても、末子姫が遂げられますまい。悪い事は云ひませぬぞえ。今の間に男らしう破談をなさい。さうしたら天晴れ国依別の男前が上りますぞや。此広いウヅの国の第一美人で、而も評判のよい御姫様を、国依別が一つポンと肱鉄をかましたと云ふことが世間に拡がつて見なさい。それこそどれ丈お前さまの威徳が上るか知れたものぢやない。さうして牛は牛づれ馬は馬連れと云つて、似合うた女房を貰ひ、誰憚らず天下を横行濶歩する方が、窮屈な籠の鳥の様な目に遇ひ、一人の姫様に忠勤振りを発揮するよりも何程徳か分りませぬぞえ。お前さまが姫様の夫になり、天下の権利を握るやうな事があつたら、それこそ天地がひつくりかへりますぞや、いかな高姫も神様の御用はやめねばなりませぬワイ。かうズケズケと私が云ふので、お前さまは御気に入らぬだらうが、チツとは私の言ふ事も、聞きなさつたがよからう。随分お前さまもいたづらぢやないか。野天狗か何か知らぬが、如意宝珠の玉や其他二つの玉は、近江の国の竹生島に隠してあるなどと、大それた嘘を言つて、はるばると年を老つた吾々をチヨロまかすと云ふ腕前だから、私の言葉がチツト位きつくても辛抱しなさい』 国依別『アツハヽヽヽ面白い面白い、私も実は今度の結婚は厭でたまらないのだけれど、余り大神様や言依別様、其外の方々の御熱心な御取りなしで断る訳にも行かず、義理にせめられ承諾したのだから、さうけなりさうに法界悋気をして下さるな。国依別も実に迷惑致しますワイ』 高姫『オツホヽヽヽ、厭で叶はぬなどと、よう言へたものだ。此縁談を蛇尾にされるのが、イヤでイヤで叶はぬのだらう。そんなテレ隠しを云つたつて、日の出神の生宮……オツトドツコイ、是は云ふのぢやなかつた……高姫の黒い目でチヤンと睨ンだら間違ひつこはありませぬぞや』 国依別『アーア、困つた事が出来て来たワイ。どうしたらよからうな、この国どのも』 高姫『何程困つても仕方がない。此縁談ばかりは言依別が何と言はうと、仮令天地がかへらうと、金輪際水をさして、グチヤグチヤにして了はなくちや、折角大神様が艱難苦労なされてお造り遊ばしたウヅの国が総崩れになつて了ひますワイ。お前一人さへ改心が出来たら、国中の者が喜ぶのだから、女の一人位は男らしう思ひ切つて数多の人民を助けた方が、何程立派か知れませぬぜ。又何程愉快か分りますまいがなア』 国依別『アーア、最早幽界も神界もいやになつて了つた。現界の悪い……高姫さま、私の腹の底が如何しても、神界(真解)出来ませぬのかい』 高姫『それは何をユーカイ……皆目お前さまの腹の底を諒解することが出来ぬぢやないかい』 国依別『アーア、仕方がない……私は一寸急用がありますので、そこ迄往つて来ます。どうぞ又四五日したら、ゆつくりと遊びにお出で下さりませ』 高姫『最早明日に迫つた此結婚、四五日してから来て下さい……なンて、ヘン、甘いことを仰有りますワイ。どうでも斯うでも、今夜の間にお前の所存をきめさせて、其上末子姫さまに御意見をして来ねばならぬのだから、さう逃腰にならずに、ジツクリと聞きなさい』 国依別『聞きなさいつても、危機一髪でも聞きませぬワイ……御免候へ、高姫さま、私は結婚の用意が急ぎますから、髪を梳いたり、髯をそつたり、チツクを一寸つけたり、頬紅もさしたり、口紅もチツとあしらはねばならず、鏡も一寸見て来ねばなりませぬ。そんな色の黒い顔のお婆アさまに相手になつてをると、ますます末子姫さまが恋しうなつて来る。左様なら……』 とあわてて飛び出さうとする。高姫は後よりグツと抱きとめ、 高姫『コレコレ国どの、何処へ行くのだい。マア待ちなされ、ジツクリとすわつて、天地の道理を聞いて下さい。決して悪いことは申しませぬぞや』 国依別『どうぞ離して下さい。そんな固い手で握られると痛くて仕方がない。一時も早う末子姫さまのお側へ行かねばならぬワイなア。岩に抱かれるか、真綿に抱かれるかと云ふ程懸隔があるのだから堪らない……高姫さま、どうぞ後生だから放して頂戴な』 高姫『エヽ是が放してなるものかい』 国依別『高姫さま、今これが放してなるものか、と云ひましたな。そんならヤツパリ二人の仲を離さぬといふ御意見ですか?』 高姫『そりや話が違ふ。離れさすと云ふ話だ。今がお前の運のきめ所、サアさつぱりここでツンと思ひ切りましたと立派に言挙げしなさい』 国依別『そんなら……スツカリ思ひ切りました』 高姫『ヤレヤレ嬉しや、お前は本当に見上げたものだよ』 国依別『スツカリ思ひ切つたのは、皺苦茶婆アの高姫さまとの交際だ、アハヽヽヽ』 高姫『エヽ国どの、覚えて居なさいや。明日の晩にはアフンとさして上げますぞや、女の一心岩でもつきぬく、これが通らいでなるものかい!』 と目をつり上げながら、あわただしく此場を立去る。 (大正一一・八・二四旧七・二松村真澄録)
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霊界物語 33_申_玉の御用の完了/高姫と黒姫の過去 21 峯の雲 第二一章峯の雲〔九三六〕 高姫『今承はれば、実に黒姫さまも奇妙な運命を辿られたものですな。随分貴女も若い時は引手数多の花菖蒲、若い男に随分チヤホヤされたでせう。何処ともなしに床しい花の香が未だに備はつて居ますよ。オホヽヽヽ……然し乍らこんなお目出度い事は御座いませぬ。私も自分の子に会うた様に嬉しうなつて来ました。……高山彦さま、貴方も若い時に子でも生みつけて置きなされば、今頃はさぞ神様のお蔭で親子の対面が出来御愉快で御座いませうがな』 黒姫『ハイ、誠に恥かしい事で御座います。畏れ多い……神様から頂いた吾子を捨てたり、こんな罰当りの私でも神様はお許し下さいまして、斯んな嬉しい親子の対面をさして下さいました。随分彼方此方と気儘の事をして廻り、両親の事は左程にも思はず、夫の事や吾子の事ばかり尋ねて居りました。私の両親も最早此世に居るか居らぬか知りませぬが、私が子に恋ひ焦れる様に私の両親も嘸や嘸私の事を気にかけて居られるでせう。本当に親の心と云ふものは何処まで慈愛の深いものか分りませぬ。斯うなつて来ると両親の身の上も案じられ、又伜の玉治別が折角母親に会うて喜んで居りますが、屹度父親の所在を知りたいと思うて居るに違ひ御座いませぬ。何事も皆私の不心得から、一人の伜までに切ない思ひをさせます。あゝ玉治別、何卒許して下さい。屹度私がお前のお父さまを草を分けても探し出し、お会はせしませうから……』 玉治別『勿体ない事を云つて下さいますな。此広い世の中、何時まで探しても分りさうな事は御座いませぬ。神様が会はして下さらうと思召したら屹度会はして下さいますから……そんな事に心を悩まさず、一心に母子が揃うて神様の御用を勤めさして頂きませうか』 黒姫『左様で御座いますな。母子手を引き合うて神様の御用を致しませう』 東助は両手を組み頭を項垂れ、時々太い息を吐き、物をも言はず此光景を打看守つて居る。 高山彦は歌ひ出した。 高山彦『コーカス山に現はれし大気津姫の八王と 仕へまつりし千代彦や万代姫の其中に 生れし吾は珍の御子隙間の風にも当てられず 蝶よ花よと育まれ栄耀栄華に育ちしが 松、竹、梅の宣伝使石凝姥や高彦や 其他数多の神司コーカス山に現はれて 言霊戦を開きてゆ老たる父母は大気津姫の 神の命に従ひて逃げ行く先はアーメニヤ 館の奥に隠れましウラルの神の御教を 朝な夕なに守りつつ世人を導き給ひけり 吾には三人の兄弟がいと健やかに生ひ育ち 父の家をば嗣ぎまして暮し玉へど弟と 生れ出でたる吾こそは自由自在の身なりとて 夜な夜な館を抜け出し若き女と手を曳いて 都を後にフサの国逃げ行く折しも両人は 新井の峠を越ゆる折谷に架けたる丸木橋 危く之を踏み外し二人は千尋の谷底に 落ちて果敢なくなりにけりかかる処へ杣人が 現はれ来りて吾身をば種々雑多と介抱し 吾は危き生命を助かりたれど吾恋ふる 女のお里は影見えず深谷川の激流に 流されたるは是非もなし最早此世に永らへて 一人暮すも詮なしと柏井川に架け渡す 橋の袂に来て見れば夜目には確と分らねど お里の顔によく似たり何れの人の情にて 危き生命を免れしか不思議なことと擦り寄つて よくよく姿を眺むれば女はお里に非ずして 色香勝れし真娘心の裡の曲者に 取り挫がれて懊悩の雲はいつしか晴れ渡り 再び陽気に立ち帰り擦れつ縺れつ顔と顔 眺めて忽ち恋の糸搦まるままに傍の 林の中に立ち入りて○○○の折柄に けたたましくも出で来る人の足音耳につき パツと驚き立ち別れ雲を霞と逃げ去りぬ 吾はそれよりフサの国彼方此方と逍遥ひつ 若やお里は現世に生永らへて居はせぬか 飽まで探し求めむと雲をば掴む頼りなき 詮議に月日を送りしが今黒姫の物語 聞いて驚く胸の裡柏井川の橋の上で 会うたる女は黒姫かさすれば玉治別神 全く吾の珍の御子あゝ惟神々々 神の恵は山よりも勝れて高く海よりも いやまし深く思はれて感謝の涙は雨となり 降り注ぐなる今日の宵玉治別よ黒姫よ 高山彦は汝が父ぞ汝が昔の夫ぞや 親子の縁斯くの如月日の如く明かに なりたる上は今よりは親子心を協せつつ 錦の宮の御前に誠を捧げて朝夕に 力限りに尽くすべし昔の罪が廻り来て 色々雑多と世の中の憂目を忍び迷ひたる 夫婦の仲も皇神の恵の鞭の戒めか 今は心も打ち解けて天津御空は殊更に 弥明けく地の上は弥清らけくなりにけり 吹き来る風も今までの悲哀の音は何処へやら 千代を祝する歓ぎ声小雲の流れもサヤサヤと 吾等親子の行末を祝ふが如く聞ゆなり あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 黒姫、玉治別は高山彦の物語に二度吃驚り、……あの時の青年は高山彦様であつたか……吾父であつたか……と双方より取縋り嬉し涙にかき暮れる様、実に割なく見えて居る。 高姫『黒姫さま、目出度い事が重なれば重なるものですな。お前さまも全く今迄の罪障がとれたと見えて、神様が親子の対面をさして下さつたのですよ。そして高山彦さまは露の契と云ひ乍ら、若い時の貴方のラバーしたお方、なんとまア夢に牡丹餅を喰つた様な甘い話で御座いますなア。それにつけても此高姫はまだ神様のお許しがないと見えまして、心の中に大変な悩みを持つて居ます。あゝ如何かして一時も早く、此悩みの雲が晴れ、青天白日、今日の空の様にサラリとなり度いものです。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と涙声になつて両手を合せ祈りゐる。 黒姫『貴女も何時かのお話の序に一寸承はりましたが、妾の様に捨児をなされたさうですが、貴方の様な気丈なお方でも矢張り気にかかりますか』 高姫『親子の情といふものは誰しも同じ事です。年が寄れば寄る程子が恋ひしくなるものです。アーア、黒姫様が元の親子夫婦の対面を遊ばしたに就いて、一入昔の事が思ひ出され、吾子に一度会ひ度くなつて堪りませぬ。其時の夫は今は何処に如何して居られますやら……今日となつては其夫と出会つた処が、夫婦となる訳には行きませぬなれども、せめて……お前はあの時の妻であつたか、夫であつたか、子であつたか……と名乗り合つて見たう御座います』 と云ひ放つて泣き沈む。黒姫は確信あるものの如くニツコリと笑ひ乍ら、 黒姫『高姫さま、あまり迂濶して居つて貴女のお話を十分に記憶して居りませぬが、何でも貴女のお捨てになつたお子さまには、守刀に真珠で十の字の印を入れ柄元に「東」と「高」との印をお入れになつたぢや御座いませぬでしたかな』 高姫『ナニ、黒姫さま、そんな詳しい事を私は申上げた様な記憶はありませぬが、左様の事を申上げた事が御座いますかな』 黒姫『そのお子さまの名は金太郎とは申しませなんだか、丁度今年で私と同じ様に三十五年になるのぢや御座いませぬか』 東助の顔の色が之を聞くよりサツと変つた。高姫の顔も亦俄に変り、目は円くなり口先が尖つて来出した。 高姫『何とまあ、詳しい事を御存じで御座いますな。私はそこ迄お話した覚えは御座いませぬが、如何してまアそんな詳しい事がお分りで御座いますか。これには何か御様子のある事でせう。何卒明らさまに仰有つて下さいませ』 黒姫は歌を以てこれに答へける。 黒姫『高山彦の後を追ひ筑紫の島に立ち向ひ 建日の港を後にして筑紫ケ岳の大峠 高山峠を登り行く其頂上となりし時 傍に五人の荒男玉公、虎公面々の 人の噂を聞きつれば熊襲の国の神司 建日別の御息女建能姫の夫として 誉も高き建国別の神の命は何人の 捨てたる児とも分らずに三十五才の今年まで 父母両親の所在をば尋ね居ますと聞きしより 遥々館に立ち寄つて夫婦の神に面会し もしや吾子にあらぬかと昔の来歴物語り 種々調べ見たりしに建国別の宣らす様 吾は如何なる人の子か未だに分らぬ悲しさに 朝な夕なに三五の神に仕へて父母の 行方を尋ね求めつつ其日を送る悲しさよ 汝の命は遠近と神の教を伝へつつ 出でます身なれば父母にもしもや会はせ給ひなば 一日も早く吾許に知らさせ給へ幼名は 聞くも目出たき金太郎吾身に添へたる綾錦 守袋に名を記し守刀に真珠にて 十字の印を描き出し鍔元篤と眺むれば 「東」と「高」の印あり人の情に哺まれ 漸く成人なせしもの誠の生みの父母が 此世に居ます事ならば一目なりとも会ひたやと 嘆かせ給ふを聞くにつけ此黒姫も胸迫り 名乗り上げむかと思へどもいや待て暫し待て暫し 高姫様に面会し詳しき事を更めて 承はらずは軽々に名乗りもならずと口許へ 出かけた言葉を呑み込んで素知らぬ顔を装ひつ 此処まで帰り来りけりまさかに汝の生みませし 御子にはあるまじさり乍ら合点の往かぬは三年前 高姫様の物語朧気ながら思ひ出し 半信半疑に包まれて名乗りも得ざりしもどかしさ あゝ惟神々々神の恵の幸はひて 高姫さまが愛し子に目出度会はせ給ふべき 時こそ来れるなるべしと何とはなしに勇ましく 心の空も晴れにけり高姫さまよ黒姫が 此物語諾ひてお心当りのあるならば 人を遥々遣はして今一度調め給へかし あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 玉治別『屹度建国別命は高姫様の御子息に間違ひありますまい。如何も私はその様な気が致します。さうであつたならば、実に此上ない目出たい事で御座いますがな。私は久し振りで両親に邂逅ひ、斯んな嬉しい事は御座いませぬ。高姫様も、一度遠方なれども私が御案内致しますから、熊襲の国までお調べにお出でになつたら如何でせう』 高姫『ハイ、御親切に有難う御座います』 と言つたきり稍少時頭を垂れ吐息を洩らし居る。東助も亦顔色を変へ高姫の顔を穴のあく程見詰め居たり。 (大正一一・九・一九旧七・二八北村隆光録)
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霊界物語 37_子_出口王仁三郎自叙伝1 25 妖魅来 第二五章妖魅来〔一〇三七〕 篠村から徒歩となつて、帰途を幸ひ八木の福島寅之助方へ立寄つて見た。所が主人の寅之助氏は綾部へ修業に行つた不在中で、妻君の久子サンと子供が居つたので、四方氏から綾部の様子や福島氏の神懸り[※校定版では「神憑り」]の次第まで逐一話して聞かした。されど久子は金光教の信者である所から、霊学の話などは半信半疑で、何を云ふても鼻の先であしらひ、腑におちぬやうな按配で面白くない。二人はソコソコにして、此家を立出で八木の大橋を渡つて、刑部といふ所に土田雄弘氏の寓居を訪ね、神の道の御話など互に語らふ所へ、京都から一本の急電が届いた。土田氏は何事ならむと早速開いて見れば、京都に居る従弟の南部孫三郎といふ人が、病気危篤であるからすぐ来てくれといふ電信であつた。土田氏は余り豊な生活でないから京都へ行く旅費もない。大に困つて喜楽に向ひ言ふよう、 土田『只今の電報は私の従弟の南部といふ者が、今まで金光教会の布教師をつとめて居ましたが、身の修まらぬ人物で、今迄京都から尾州、遠州、駿州あたり迄十三ケ所も金光教会所を開いては、婦女に関係をつけては失敗し、又土地をかへては教会を開き、同じく婦人に関係しては追出され、遂には金光教会の杉田政次郎氏から破門されて、今の所では妹の家に厄介になつて居りますが、二三年前より肺結核にかかりブラブラ致して居りました。とうとう神罰が当つたのでせうから、到底全快は覚束なからうと信じて居りますけれど、なる事なら今一度神様の御助けに預りたいものです。先生の御祈念で、ま一度助けてやつて下さる事は出来ますまいか』 と心配相に頼み込む。喜楽は気の毒がり、直に神界に伺うて見た。其神占によると、今後一週間目の日が此病人に取つて大峠である、九分九厘までは到底助かるまい……と云つた。そこで土田氏は…… 土田『モシ南部の命をお救ひ下さるなれば、私から彼を説いてあなたの弟子と致し、お道の為に誓つて尽力をさせませう』 と云ふ。喜楽は笑ひ乍ら、 喜楽『又金光教会の布教師時代の行方をくり返されますと困りますなア。併しここ三年の間、神様に願つて命を伸ばして貰ふやうに致します。神様は三年間の行状を見届けた上で、又々寿命をのばして下さりませう。此事を手紙に書いて南部サンへ知らしておやりなさい。さうすれば京都へ旅費を使うて行く必要はありませぬ』 土田氏は喜んでこまごまと手紙を書き京都行きも見合した。果して南部氏は七日目に一旦息が絶え、暫くして再び息を吹き返し、それから日に日に快方に向つた。土田氏は南部全快の砌に京都へ行つて会見した際、 土田『貴兄の今度の大病が全快したのは、全く綾部に現はれた艮の金神さまの御神徳と、上田といふ人の熱誠なる御祈念の賜物である』 と云つて喜楽に約束したこと及綾部に於ける神懸修行の実験談などを詳細に話して聞かせた。されど南部は、 南部『必しも綾部の艮の金神様の御神徳ではない。平素信ずる天地金の神さまと、金光教祖の御守護にて、吾大病を綾部の神や上田といふ男を使役してお助け下さつたのである。故に此御恩の九分九厘はヤツパリ金光さまにある』 と云つて、直に京都の島原の金光教会へ御礼参りをなし、綾部の方へは手もロクに合はさなんだのである。 それから後は『今まで金光教の布教師を拝命し乍らいろいろの醜行を敢てし、神様の御怒りにふれて一命すでに危ふき所を、お慈悲深き天地金の神や金光教祖の御威徳でおかげを被つた』とて、朝晩、母親や妹や自分が代る代る島原の教会所へ参拝して居つた。そした所が、一二ケ月たつと今度は又腹が烈しくいたみ出し、日を追うて重体に陥り、日参所か室内の運動も出来なくなつて了つた。それから母や妹が一生懸命に金光教会へお百度をふんでみたが少しも霊験が現はれぬ。大学病院へかつぎこんで診察して貰うと、非常に重い盲腸炎だから、切開手術を施さねばならぬが、病人の体の衰弱が甚しいから、生命は受合へぬとの医者の言であつた。そこで已むを得ず施術して貰ふのを見合せ、吾家へつれ帰り、成行に任せて、死期の至るを待つ外手段がなかつたのである。 益々重態に陥り、如何ともすることも出来なくなり命旦夕に迫つた。又もや従弟なる土田氏へ……病気危篤すぐ来れ……の電報をうつた。土田氏は例の刑部の寓居にありて、之を披見し「綾部に向つて手を合せ」の返電を打つておいて上京せなかつた。京都の南部氏の母と妹とは其電報を見て、叶はぬ時の神頼み、命さへ助けて下さらば何神様でもよい……と綾部の方に向つて「艮の金神様、今迄の取違と御無礼の段を御赦し下さいませ。孫三郎の一命を今一度お助け下さらば、彼の体も精神も差上げまして、艮の金神さまの御用をさして頂きます」 と一心不乱に祈願をこめた。ふしぎや忽ち感応あつて、南部氏の病床に一寸許りもあらうと思ふ大きな虻が、寒中にも抱はらずブンと音を立ててどこからともなく飛来り、病人の頭の上を三回舞ひ了るや、南部氏の腹部は岩でも砕けるやうな音がして、二三升許りも汚いものが肛門から排出すると共に、それより腹部の激痛も止まり、日を追うて快方に向つた。此れが南部氏が金光教を断念して綾部の大本へ入信した動機であつた。 それから二人は綾部へ帰つて見ると、上谷の修行場に邪神が襲来して、福島寅之助、村上房之助、野崎篤三郎其外一二名の神主は大乱脈となり、あらぬ事許り口走つて騒ぎまはつて居た。村上は近郷近在を昼夜の区別なくかけまはり、いろいろの事をふれまはつて、大本の名を悪くせむと一生懸命に妖魅がついて狂ひまはつて居る。福島寅之助は上谷の村中に響きわたるやうな大音声で、 福島『丑の年に生れた寅之助は、福島只一人であるぞよ。それぢやによつて此方が誠の艮の大金神であるぞよ。上田は未の年の生れ、出口直は申の年生れであるぞよ。漸く二人合はして坤の金神ぢやぞよ。二つ一つぢやぞよ。とても此福島寅之助には叶はぬぞよ。サア皆の者共、これから今までの取違をスツパリ改心致して、此方にお詫致せば今までの罪を許してやるぞよ。出口と上田は裏鬼門の金神ぢや、誠の丑寅の金神は出口直ではなかりたぞよ。これが分らぬ奴はきびしきいましめ致して、谷底へ放るぞよ。これからは福島寅之助を神が使うて、三千世界の立替立直しを致して、神も仏事も人民も餓鬼虫けらに至る迄勇んでくらさすぞよ。これが違うたら神は此世にをらぬぞよ。大の字逆様になりて居るぞよ。今に天地がでんぐり覆るぞよ。用意をなされよ。今に足許から鳥が立つぞよ。艮の金神は今まで悪神祟り神とけなされたが誠に結構な神でありたぞよ。神が表に現はれて善と悪とを立分けて世界の人民を改心さして松の神世にいたすぞよ。神は決してウソは申さぬぞよ。疑へば神の気障りになるぞよ。之から上田が帰つても相手になる事はならぬぞよ。誠の艮金神が気をつけるぞよ』 などと赤裸となり妖魅がうつつて、教祖の筆先の真似計りを、のべつ幕なしに呶鳴りちらして始末に了へない。喜楽は直に神界に祈願をこめ鎮魂を修した。其為一旦邪神の暴動が鎮定したが、又外の神懸にも沢山の妖魅の同類がうつつて福島の神に加勢をする。遂には神懸一同が口を揃へて、 一同『皆の者よ。シツカリ致さぬと、上田の曲津にごまかされて、ヒドイ目にあはされるぞよ。誠の艮の金神は福島大先生に違ひはないぞよ』 と叫ぶのを聞いた福島は、再び邪神におそはれて、黒い濃い眉毛を上げたり下げたり、目を剥いたり、腕をふり上げたり、飛んだりはねたり、尻をまくつてはねまはつたり、畳は穴があき床はおつる、ドンドンドンと響きわれるやうな音をさして、非常に大騒ぎを再演し出したので、田舎人が珍しがつて、四方八方から毎日々々弁当持で見物に来る。喜楽は一生懸命に鎮圧に力を尽しても、二十有余人の神憑の大部分に、不在の間に妖魅が憑つたのであるから、中々容易にしづまらない、こちらを押へばあちらが上る、丁度城の馬場で合羽屋が合羽を干してゐた所へ俄に天狗風が吹き合羽が舞ひ上り、一度に押へることが出来なくなつて、爺があわてて堀へはまつたやうな具合になつて来た。そして日一日と狂態が烈しくなつて来る。つひには修行者の親兄弟が怒つて来て、 『吾家の大事な伜を気違にしたから承知せない、吾妹を狐つきにしよつた……おれの子を巫子に仕立よとしよつた……狸をつけたのだろ、其筋に告訴してやる』 などと一斉にせめかくる。四方藤太郎は其中でも稍常識を持つてゐたから、陰に陽に気を配り、忠実に審神者の手伝ひをしてくれたので、喜楽も非常に力を得、千難万苦を排して一斉の反抗も妨害も頓着なく、あく迄審神者の職権をふりまはして漸く邪神を帰順せしむることを得た。 一方では金光教師たりし足立正信氏等は心機一転して、金明会を破滅せしむるは此好機を措いて他にある可らずとなし、数多の信徒をひそかに、以前の田中新之助といふ信者の内に集めて、鎮魂帰神の霊術の不成績なることを強調し、且つ喜楽を放逐すべく密議をこらしてゐた。折角固まりかけてゐた金明会の信徒は五里霧中に彷徨し、去就に迷ひ、四分五裂の状態になつて来た。えたり賢しと、中村竹造、四方春三の野心家等が、諸方へかけまはつて喜楽の神憑[※初版・愛世版では「神憑」、校定版では「神がかり」。]は有害にして無益だとか、狐使だとか、魔法師だとか力限り根限り下らぬことをふれ歩く。遂には教祖のことまで悪口するやうになつて来た。其時の有様は全く万妖悉く起るてふ古事記の天の岩戸がくれ式であつた。 幸にして四方平蔵、同藤太郎等の熱心と誠実なる調停で、一時は喜楽に対する猛烈な反抗も稍小康を得ることとなつた。そしてイの一番に叛旗をかかげたのは福島寅之助氏であつた。元来福島は正直の評判をとつてゐる、人間としては申分のない心掛のよい人である。妖魅といふ奴は中々食へぬ奴で、世界から…彼は悪人ぢや、不正直だと見なされてゐるやうな人間にはメツタに憑るものでない。たとへ憑つて見た所で其人物に信用がなければ、世人が信用せないことを知つてゐるからである。そこで悪魔は必ず善良なる人間を選んで憑りたがるものであるから、神憑[※初版・愛世版では「神憑」、校定版では「神がかり」。]の修行する者は余程胆力のある智慧の働く人でないと、とんだ失敗を招くものである。良き実を結ぶ木には害虫がわき易いものである。菊一本にても、大きい美しい花の咲くものには虫が却てよけいにわくやうなもので、正直だから善人だから、悪神がつく筈がないと思ふのは、大変な考へ違である。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一〇・一二旧八・二二松村真澄録) (昭和一〇・六・一〇王仁校正)
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霊界物語 38_丑_出口王仁三郎自叙伝2 22 難症 第二二章難症〔一〇五九〕 明治三十七八年頃は日露戦争の勃発で四方平蔵、中村竹造等十二人の所謂幹部役員は愈世の立替で、五六七の世になる、それまでに変性女子を改心をさしておかねばお仕組が遅れると、しやちになつて、信者の家を宣伝にまはり……会長が改心せず、又小松林の居る内は、門口の閾一つ跨げさす事はならぬ、大変な神罰が当ると一生懸命に一軒も残らず触れ歩いてゐる。そしてどんな立派な事を会長が言うても、一つも聞いてはならぬ、小松林が艮金神さまの御仕組を取りに来てるのだから……とふれまはした。信者は一人も残らず、熱心な十二人の活動で、彼等の云ふ事を固く信じて了ひ、且つ園部で狐の真似したのが大変に祟つて、信者一般から四ツ足の守護神と思ひこまれたからたまらぬ。此時喜楽の云ふ事を聞いて布教に従事してゐた者は西田元教と浅井はなといふ五十余りの婆アサン二人のみであつた。 西田と浅井とは代る代る園部を十二時頃に立つて三里計り日をくらして綾部へやつて来て、大槻鹿造の家で、夜中ソツと会長と会見し、教理を研究しては、又夜の間に園部へ帰り、園部を根拠として、細々と宣伝をやつて居た。喜楽は意を決して、園部迄夜の間に浅井に伴れられて、逃げのび、船井郡や北桑田郡の信者未開の地を宣伝して居た。 片山源之助といふ材木屋がふと園部の支部へ参拝して来て、教理を聞き、俄に信者となつて、幽斎の修行を始め、天眼通を修得し、旅順の要塞を透視したり、日露戦争の始末を予言したり、いろいろと不思議な事が実現したので、非常に沢山の信者が集まつて来た。さうすると又もや綾部の連中が嗅つけやつて来て、沢山の信者の前で、 『会長は小松林といふ四ツ足の守護神が憑いとるのだから、相手になつては可けませぬぞや、貧之神ですから』 と吹聴する。片山の天眼通が呼物となつて沢山の信者が集まつて来た。そこへ綾部から来て、会長の悪口雑言を並べ立てるので、訳も知らぬ信者は一も二もなく信じて了ひ、会長を軽蔑し、片山先生片山先生と尊敬して、遂には会長を邪魔者扱ひにするやうになつて了つた。西田は大変に憤慨していろいろと活動したけれ共、綾部の妨害が甚しいので、頽勢を挽回する事が出来なかつた。それから会長は再び綾部へ帰り、仮名計りの教典を作り、西田元教に持たせて宣伝に歩かすこととしてゐた。 再び綾部へ帰り、離れの六畳に蟄居して教典を書いてゐると、又もや四方中村の幹部がやつて来て、 中村『会長サン、行けば行く程茨室、神に反いて何なとして見よれ、一つも思惑は立ちは致さんぞよ、アフンとして青い顔をして、家のすまくらに引つ込んで、人に顔もよう会はせず、悄気てゐるのを見るがいやさに、神がくどう気をつけるぞよ……と現はしなさつた筆先を実地に御覧になつたでせうな。さうだからどつこへも行くでないと仰有るのに、小松林の四ツ足にチヨロまかされて、又しても又しても、綾部を飛出しなさるもんだから、こんなザマに会ふのです、モウこれからはどつこへも行かず、教祖さまの御命令を聞いて役員の言ふ通りになされ、世界の人民が苦みますから』 と中村がそれみたか……といふやうな冷笑を浮かべて喋り出した。会長は、 喜楽『ナニ、私は失敗したんでも何でもないワ、自分の心がお前に分るものか、細工は流々仕上げを見て貰はな分らぬワイ』 と言はせも果てず、中村は大きな声で、 中村『コラ小松林、まだ改心を致さぬか、ツツボにおとしてやろか、慢心は大怪我の元だぞよ』 と呶鳴りつける。四方平蔵は側から、 四方『会長サン、あんたの仰有る事も先になつたら又聞く時節が来ますから、今の所ではお気に入らいでも辛抱して御用聞いて下され、今年来年が世界の大峠、グヅグヅしてる時ぢや厶いませぬぞや、これ程御大望が差迫つて来て居るのに、大本の御用継ともある人が、そこらをウロウロとウロつきまはるとは何の事ですか、教祖さまが、又何時もの病が出て小松林がそこら中へつれて歩くから、役員気をつけよ……と厳しう仰有るのですから、こうして皆の者があなた一人の事に付いて心配して居るのに、お前サンは吾々役員が可哀相なとは思ひませぬか』 と詰りよる。会長は、 喜楽『お前らがトボけてるのが可哀相なから、早く目をさましてやろうと思うて、いろいろと気をつけるけれども、小松林の四ツ足が吐すのだなどといつて一口もきかず、目をさましてくれぬので、綾部に居つても用がないので、今の内に一つでも神界の御用をしておかうと思つて、そこら中を布教に歩くのだ。日露戦争が起つても、それ位で世界の立替が出来るものでない、まだまだ世界の大戦争があり、それから民族問題が起り、いろいろ雑多な事が世界に勃発して、最後にならねば立替は出て来るものぢやない、ここ十年や二十年で、そう着々と埒があくものか、今の内にチツと目をさましておかぬと、此戦争は済んで了ふなり、立替は出て来ぬなりすると、又虚言ぢやつたと言つて信者が一人も寄りつかなくなつて了ふ、つまりお前達は一生懸命になつて神さまのお道を潰さうとかかつてるやうなものだ』 といふのを皆まで聞かず、 『コレ会長サン、お前サン等が何程小賢しい理屈を並べても誰も聞く者はありませぬぞ、一分一厘違はぬお筆先だと仰有る神さまの御言が違うてたまりますか』 などと頑張つて、一言も聞入れぬのみか、益々四ツ足扱ひを始めて始末に了へぬので、澄子と相談の上、何事も沈黙を守り、一時の間も時間を惜んで、教典を書き現はすことに全力を尽して居た。 そうした所が西田が一ぺん北桑田へ来てくれと秘かに頼みに来たので、何とかして又もや綾部を脱け出さうと考へて居た。幸に八木の祭典に出張する事となり、前に述べた如く八木を夜ぬけして、園部へ走り、それから人尾峠を乗越へて、宇気といふ山里へ日の暮頃に落つき、安井清兵衛といふリウマチスで身体の自由を失ひ苦しんでゐる老爺サンの鎮魂をなし、其夜はそこで一泊する事となつた。西田が鎮魂をすると、爺イサンは其場で足が立ち、座敷中を歩いて見て、大変に喜び、それから熱心な信者となつたが元来が村中でも受けの悪い親類の財産を併合して、財産家になつたやうな爺だから、金銭の執着心が甚うてモ一つといふ改心が出来ぬので、僅に室内を歩くよにはして貰うたが、まだ外へ出て働くまでにはならなんだ。そこで爺イサンが西田に対して言ふには、 安井『どうぞ私が山へ行けるよにして下さつたら、内の林の杉や檜の屑をさがして切つて、それで神さまのお祭り場所を建て、教会を開き、私が隠居の代りにお守をさして貰ふ』 と虫のよい事を言ひ出した。そこで元教が大変に腹を立て、 西田『神さまの御祭り場所を建てるのに、屑をよつて建てるといふ様な事を云ふ爺イは嫌だ。一番よい木を上げるのが信神の道ぢやないか、そんな事言うとると、又元の通りいざりになつて、折角拵へた財産迄なくなつて了うぞ』 と云つたきり、サツサと安井の内を飛出し、それきり変屈人の西田は寄りつかぬやうになつて了うた。果して此爺は元の通りの難病になり、欲にためた財産も息子の縫之助が人にだまされて、一獲千金のボロ儲けをせうとして大失敗をなし、財産の九分通まで、三年ほどの間になくして了うた。 さて会長は西田と共に其時分これもリウマチで平太つて居た小西松元といふ男の内へ訪問して、暫く其家を根拠として布教に従事してゐた。此小西は園部の支部へ駕籠に乗つて出て来て、西田の鎮魂で即座に足が立ち、大変に喜んで、材木などを献納し、支部の拡張までやつた位な熱心家であつた。此小西は川漁が大変上手で寒中でも一寸出て来ると、三升や五升の川魚をとつて来る河童と仇名をつけられて居る酒飲み爺である。毎日三升位は平気で平げて、朝から晩まで女を相手に酒を呑んで居つた。西田が小西の病気を直した時今後は決して魚をとつてはいかぬ、そして酒を二三年呑まぬやうにせぬと今度はリウマチ所か中風になつて了ふと注意しておいたのも聞かずに、寒の内に網を持つて宇津の川原へ籠り魚を掬ひに行つて、柳のヌツと川へ出た、幹からふみ外し、川へドンブとおち込み、再び大熱を発し、元の通りにリウマチになり、昼夜間断なくウンウン唸つて苦んでゐた。そこで西田が再び鎮魂をして余程よくなつたが併し、足の痛みが止まつた丈で、行歩の自由が叶はぬ。そこで喜楽を綾部から引出し、小西の鎮魂をして貰ひ、病気を本復させて、神さまの御用に使はうとしたのであつた。喜楽は西田と二人で小西の内へ尋ねてゆくと、小西は宮村の内田官吉といふ弟の家に世話になり、薬風呂をわかして養生をし乍ら、神さまを念じてゐた。そこで会長が始めて小西に面会し、二日計り逗留の間に二三回鎮魂をしてやつた所、漸く全快し六里計りの道を徒歩で宇津へ帰り、一生懸命に神さまを念じてゐた。沢山の信者が諸方から集まつて来て毎日日日二三十円計りのお賽銭の収入があるので、小西がよい気になり、ソロソロ信者の女に手をかけたり、朝から晩まで酒を呑み始めた。其時喜楽は京都へ行つて皇典講究所へ通うてゐるので、西田に任して宇津の小西の広間の方は構う事が出来なんだ。さうすると小西がソロソロ慢心をし出して、西田のいふ事を聞かなくなつて来た。一人息子の増吉といふのが二十聯隊へ入営し、日露戦争に出征してゐた。そして朝から晩まで自分の息子の無事に帰る事計りを祈り乍ら、沢山の信者の鎮魂をやり、日に日に信者はふえて来る許りであつた。さうした所が俄に電報の間違で増吉が戦死したといふ知らせが、北桑田の郡役所から届いたので、松元とお末といふ夫婦が西田を前後より差挟んで、ソロソロ不足を言ひだした。其お末婆アサンの言はザツと左の通りである。 末『コレ元はん余りぢやないか、内の増吉は信心さへして居れば滅多に戦死する気遣ひはない、金鵄勲章を持つて帰らしてやるというたぢやないか、ソレに此電報は何のこつちや、奴狸奴が人をダマしやがつてサア早う出てゆけ、内の爺も爺ぢや、華を第一といふ法華経の信者が、綾部の狸にだまされて、仕様のない神をまつるもんだから、こんな目に会うたのだ。早う神さまを叩きつぶして川へ流しなされ、コラ元公早ういなんか』 と雪が二尺ほど積つてゐるのに無惨にも外へつき出した。西田は日の暮前に二尺程も積つてゐる雪の中へ放り出され、漸くにして半里許りの山路を登り、人尾峠の頂きまで登りつめると、風の吹きよせで雪が五六尺もつもり、身動きも出来ぬやうになり、其夜を泣きもつて明かした事もあつた。然るに小西増吉は幾回となく危険な場合を神さまに助けられ、同じ村から六人召集されて出征してゐた者が、五人まで負傷したり戦死したりしてゐるにも拘はらず、増吉丈は怪我一つせず、二十聯隊の全滅した時に僅か二人残つた其一人であつた。そして金鵄勲章を貰うて聯隊長の従卒となり楽に勤めて帰つて来たのである。それから小西がビツクリして西田に葉書をよこしあやまつて来て、 『どうぞ一ぺん遊びに来てくれ』 というので西田も再び小西の宅へ行き、一所に神の道を開いてゐたが、又もや衝突してそこを飛出して了うた。其時は会長はすでに別格官幣社建勲神社の主典をつとめてゐた。そこへ小西から手紙が来て、 『矢代といふ所に大変キツイ曲津が居るから、私の手にあはぬよつて、先生に助太刀に来て貰いたい』 といふので、公務を繰合はして宇津へはるばる行つて見ると、 『周山村の矢代といふ所に吉田竜次郎といふ人がありますが、其奥サンが此間から二度許り参つて来られますが、主人が如何しても博奕をやめぬから、やめるよに祈祷がして貰ひたいといふのですが、神さまに伺うてみると大変な曲津があこには巣くうてゐるから、お前の力ではどうせだめだから、会長サンに御願ひをせいと云はれましたから、一寸御手紙を上げました』 と云うてゐる。それから小西の信者に案内をして貰うて矢代へ行つた。丁度明治四十年の夏の始めで田植の最中であつた。それから吉田の宅へ行つて見ると、自分が行くのを知つて、曲津は早くも逃げ出し、何にも居らぬやうになつて居た。其家の主人の竜次郎氏はどつかへ行つて居つて不在であつたが、妻君のお鶴サンに面会し小西の言うたやうな事を聞かされ、そして曲津が居りますか……と尋ねるので、何も居りませぬと答へると、たよりない先生ぢやなアと言ふやうな顔をして、お礼だというて金二円包んでくれた。それから吉田家と懇意になり竜次郎氏は建勲神社へ二三回も尋ねて来て、いろいろと神勅を伺うたりし乍ら、妻君の熱心で何時とはなしに大本へ帰依するやうになつたのである。 (大正一一・一〇・一八旧八・二八松村真澄録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 15 氷嚢 第一五章氷嚢〔一〇九九〕 照国別の宣伝使仁慈無限の大神の 教を四方に伝へつつ月の都にバラモンの 教を開き世を乱す大黒主の神司を 三五教の御教に言向和し照国の 尊き御代と立直し一切衆生の身魂をば 救はむものと勇み立ち険しき山を打渉り 荒野ケ原を踏み越えて岩彦、照公、梅公の 三人と共にクルスの森進み来りて疲れをば 休むる折しも向ふよりイソの館に攻め上る 鬼春別の一部隊片彦、久米彦両将が 先頭に立ちて進み来る此は一大事と一行は 森の茂みに身をかくし敵の様子を窺へば 大胆不敵の命令を采配振つて号令する それの態度の忌々しさに照国別は木影より 声張りあげて宣伝歌涼しく清く宣りつれば 敵は驚き照国の別の命に四方より 攻めかけ来る猪口才さ無抵抗主義の三五の 教を伝ふる神司善言美詞の言霊に 成るべくならば言向けて悔悟させむと思へども 暴逆無道の敵軍は何の容赦も荒風の 吹きまくる如迫り来る正当防衛と云ひながら 清春山より現はれし岩彦司は杖を振り 縦横無尽に敵軍に阿修羅の如く打込めば 負傷者を残し馬を棄て皆散々に逃げて行く 照国別は敵軍の手傷を負ひて倒れたる 二人の男を介抱し信書を認め清春の 醜の岩窟を守り居るポーロ司を戒めつ イソの館に三五の教の道を学ぶべく 遣はしやりて照、梅の二人と共に駒に乗り 轡を並べてシトシトとテームス山にさしかかる 折から吹き来る凩の風に面を吹かれつつ これぞ尊き神風と勇気日頃に百倍し 蹄の音も戞々と険しき坂を登り行く あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ。 照国別は岩彦の所在を失ひ、彼が行衛を求めて、森の小蔭や薄原隈なく探り、一行は漸くにしてテームス山を登りつめ、頂上の関所に着いた。ここには大黒主の命を奉じて春公、雪公、紅葉他二人が小さな庵を構へて名ばかりの関守をやつてゐる。大酒を煽つては大地に倒れ、風に吹かれ酔醒めの風を引いては熱を出し、手拭で鉢巻をしながら狐の泣き声の様な百日咳に悩んで居る。何奴も此奴もコンコンカンカンの言霊の競争をやつて居た。風の神を追ひ出すのは、磐若湯に限ると云ふので捻鉢巻をしながら、酒の勢で昼夜風の神と競争をやり、薬鑵から熱を出し汗をタラタラと流しながら格闘してゐる真最中であつた。 春公『ウンウン、痛い痛い、風の神の奴、暴威を逞しうしやがつて、此春さまの頭蓋骨を鉄鎚でカンカンと殴りやがるやうな痛さだ。腹の中へは狐でも這入りやがつたと見えて、コンコンと吐すなり、テームス山の関守も中から斯う咳が出ては副守の奴、関守に早変りしやがつたと見える。本当に咳がチツとやソツとぢやない、痰と出やがつた。アハヽヽヽイヒヽヽヽ、痛い痛い、こりや雪公、一つ天眼通で風の神の正体を透視してくれないか』 雪公『あまり酒を喰つて寒風にあたると凍死するものだ。何卒凍死してくれと云つても、俺は凍死ばかりは御免だ。それよりも万劫末代生とほしになりたいからなア』 春公『こりや、貴様も余程訳の分らぬ唐変木だな。俺の云ふ透視と云ふのは、そんな怪体の悪い凍死ぢやないわい。腹の底まで何が憑いて居るか透視してくれと云ふのだ。アイタヽヽヽオイ早く透視せぬかい』 雪公『おれは雪さまだから、あまり雪さまばかりに溺れて居ると凍死する虞があるぞ。貴様の腹の中を一寸見ると大変な腹通しだ。上げる下す、まるで此テームス峠の頂上の関守には持つて来いだ。貴様も生命の大峠が来たのだから、これ迄の因縁と諦めて潔く成仏せい。風声鶴唳にもド肝を冷し微躯付いて居る様な関守では到底生存の価値がない。よい加減に娑婆塞ぎは冥土参りした方が社会の為だからなア』 春公『こりや雪、貴様は何と云ふ冷酷な事を云ふのだ。ド頭をポカンとハル公にしてやるぞ』 雪公『雪と云ふものは火のやうに温かいものでも、熱いものでもない。冷酷なのが当り前だ。冷然として人の病躯を冷笑するのが雪さまの特性だ。然しそれだけ熱があつては貴様も堪るまい。氷嚢の代りに此雪公さまの冷たい尻を貴様の薬鑵頭に載せてやらうか。さうすれば、少しは熱が減退するかも知れないぞ』 春公『斯う熱が高うては仕方がない。貴様の尻で俺の熱が下る事なら臭うても幸抱せうかい』 雪公『よし、時々風が吹くかも知れぬが、前以てお断りを云うておく』 と云ひながら冷たい尻をまくつて春公の頭の上にドツカと載せた。 雪公『おい、随分冷い尻だらう。血も涙もない冷ケツ動物だから……熱病の対症療法には持つて来いだ。実にケツ構な療治法だ、アハヽヽヽ』 春公『こりや、俺の鼻の上に何だか袋を載せたぢやないか。冷いやりするが、怪体な香がするぞ』 雪公『これは豚の氷嚢代理に睾嚢を張り込んでやつたのだ。イヒヽヽヽ』 春公『あゝ苦しい、重たいわい。チツと重量を軽減する様に中腰になつてくれないか』 雪公『雪隠のまたげ穴をふん張つたやうな調子で中心を保つて居るのだから重たい筈はない。熱病と云ふものは頭の重いものだ。おもひおもひにお神徳をとつたが宜からうぞ。(義太夫)あゝ思へば思へば前の世で如何なる事の罪悪を、やつて来たのか知らねども、そりや人間の知らぬ事、現在テームス山の関守を仰せ付けられながら、其職責を完うせず、肝腎要の蜈蚣姫、小糸姫を知つて見逃した其天罰が報い来つて、今ここに臆病風の神様に襲はれたるか、いぢらしやア……悪い事とはしりながら、しりのつぼめが合はぬよな、しり滅裂の報告が、如何してハルナの神館に、鎮まりゐます大黒主に、致されうか……許して下されバラモン天王様、お願ひ申すと計りにて、コンコンコンとせき上げて、苦し涙にくれにける。シヤシヤシヤンシヤンシヤン』 春公『ウンウンウン、こら雪公、そんな気楽な事どこかい。俺や、もう生命のゆきつまりだ。もちとシツカリ尻をあててくれぬかい』 雪公『(義太夫)「ゆきつ、戻りつ、とつおいつ、又もや咳の声すれば、これがお声の聞きをさめと……思へば弱る後が……み……寂滅為楽も近づきて、無情の風は非時に、吹き荒ぶこそ哀れなり、トテチントテチントツトツチン、テンテン」いやもう瀕死の病人に対し応急療法も最早駄目だ。お前の一生も最早けつ末がついた。けつして決して娑婆に執着心を残し、踏み迷うて来てはならぬぞ。大黒主様の御目が届かぬと思うて慢心を致し、神を尻敷きにした天罰で、此清明無垢の雪のやうな身魂の雪さまに尻敷きにしられるのだ。因果応報、罰は覿面、憐れなりける次第なり。エヘヽヽヽ』 紅葉『こりや雪、貴様は俺が最前から聞いて居れば、春公さまに対し親切にして居るのか、不親切にして居るのか、或は介抱するのか、虐待するのか、テンと訳が分らぬぢやないか』 雪公『かうゆきつまつた世の中、訳が分らぬのはあたり前だ。俺はゆきつまつた社会の反映だから、これで普通だよ。親切さうに見せて不親切の奴もあり、善の仮面を被つて悪を行ふ奴もあり、人を助けてやらうと云つて甘くチヨロまかし、其実人は死なうが倒れやうが吾不関焉だ。自分さへ甘い汁を鱈腹吸うて自分が助からうとする奴ばかりだ。こんな悪魔横行の世の中に如何して真面目な事が出来ようか。俺の天眼通だつてその通りだ。当る時もあれば外れる事もある。社会の利益になる事もあれば社会の害毒になる事もある。それだから善悪不二、正邪一如と云ふのだわい。オツホン』 紅葉『人の難儀を見て貴様は平気で居やがるが、本当に怪しからぬ奴ぢやないか』 雪公『貴様何だい、袖手傍観してるぢやないか。貴様こそ本当に友人に対し冷酷な代物だ。大方触らぬ神に祟なしと云ふ猾い考へを持つて俺ばつかりに介抱させ、さうして善だの悪だの親切だの不親切だのと小言を垂れやがるのだな。尻でも喰つたがよいわい。屁なつと吸へ』 紅葉『俺は貴様等の二人の手が塞がつてゐるなり、あと二匹の奴はズブ六に酔ひやがつて役に立たぬなり、仕方がないから貴様の代りに関守を勤めて居るのだ。もしも斯んな処へ三五教の宣伝使が堂々とやつて来よつたら如何するのだ』 雪公『そりや、その時のまた風が吹くわい。春公の風邪ぢやないがコンコンと懇談して関守としてのベストを尽すだけのものだ。これだけ熱が多いと此春公も黒死病になりやせぬか知らぬて、困つたものだ。俺の尻がソロソロ焼けて来だしたぞ。大変な熱だ』 紅葉『おい、あんまり貴様が大きな尻で志士仁人たる春公を圧迫するものだから、如何やら息が絶れたと見え、呼吸が止まつたぢやないか』 雪公『俺は智慧の文珠師利菩薩だ。今朝も文珠師利菩薩が獅子に乗つて、此処を大変な勢で通つたぢやないか。それだから俺も春公の頭に腰掛け、尻からプン珠利菩薩となつて、あらゆる最善の知識を傾けて治療に従事してるのだ。此辛い時節に薬礼も貰はず、これだけ親切に介抱するものが何処にあるかい』 かく話す処へ関所の押戸をポンポンと叩くものがある。紅葉は慌てて戸外に飛び出し仰ぎ見れば照国別一行であつた。 照国『此処はテームス山の大黒主の関所だと聞いて居るが、関守の頭に一寸お目にかかりたい』 紅葉『ハイ、関守の大将は、……実は……今年の今月の始めから……今日今夜に至るまで臆病風を引きましてコンコンとせきをやつて居ますので、生憎こん回はお目にかかる事は出来ますまい』 照国別『それは気の毒な事だ。斯様な峠の吹きはなしでは風も引きませう。吾々が一つ神様にお願ひ致して鎮魂をやつて上げませうかな』 紅葉『エー滅相もない。貴方は三五教の宣伝使、左様なお方に鎮魂とやらをやられましては、サツパリコンと駄目になつて了ひます。何卒こん度に限つてお断わりを申します。サアお通りなさい』 照国別『決して吾々は貴方等がバラモン教の関守だからと云つて、悪くするのではない。よくして上げたいと思ふからだ』 紅葉『何程御こん切に仰有つて下さつても、三五教のお方にお世話になるのは一寸こん難で厶います』 照国別『お前は同僚が九死一生の場合を助けたい事はないのか』 紅葉『晨の紅顔、夕べの白骨、どうで一度は死なねばならぬ人生の行路、夢の浮世で厶いますから、春公も一層の事ここで死んだ方が、彼の為めには好都合かも知れませぬ。親切が却つて無になりますから、何卒鎮魂ばかりは平に御容赦を願ひます』 照国別『何とバラモン教は友人に対してさへも随分冷淡なやり方ですなア。一切衆生に対しては尚更冷酷なと云ふ事は此一事にても看取される、かう云ふ事を聞くと如何してもバラモン教を改造してやらねばなるまい』 紅葉『実は此通り五人の関守が四人まで手抜きが出来ませぬので、困つて居る所で厶います。何卒御存じの通り取り込んで居りますから、御用があれば又明日来て下され』 照国別『アハヽヽヽ、まるで吾々を乞食扱ひにして居よるわい。然し乍ら仮令バラモン教にもせよ、人の困難を見て之を救はずに素通りする事は出来ない。照公さま、梅公さま、お前は奥へ這入つて此処に屁垂つてゐる病人を鎮魂してやつて下さい』 紅葉『メヽヽ滅相な、病人は春公一人で厶います。外の奴は風を引いたといつてもホンの鼻腔加答児をやつただけ、風の神をおつ払ふとてスヤスヤと寝んで居るのですから、何卒お構ひ下さるな』 照公、梅公は委細構はず奥に入り、両方より天の数歌を歌ひあげた。雪公は驚いて春公の頭の上にのせて居た尻をあげ、番小屋の小隅に蹲んで震うて居る。天の数歌を二三回唱へた時、春公はカツカツと大きな咳を二つした。その途端に小さい百足虫が二匹飛んで出た。見る間に五六尺の大百足虫となり一目散にテームス峠を矢の如くに逃げ下り行く。春公は初めて熱もさめ、身体元の如くなり汗を拭きながら、 春公『何れのお方か知りませぬが九死一生の場合、よくまあ助けて下さいまして、誠に有難う厶いました』 と感謝の声と共に不図見あぐれば、三五教の宣伝使照国別一行の三人であつた。春公は生命の親の宣伝使様と喜び勇み、これより四人を後に残し照国別に従つて心の底より悔い改め、案内役として月の御国へ従ひ行く事となつた。 (大正一一・一一・四旧九・一六北村隆光録)