🏠 トップページへ

📖 キーワード検索

番号
(No.)
書籍 内容
221

(2648)
霊界物語 55_午_ビクの国の物語3(玉木の里) 19 清滝 第一九章清滝〔一四二七〕 火熱烈しき太陽は天津御空に晃々と 照国岳の谷間に高くかかれる大瀑布 清めの滝の片辺小さき庵を結びつつ 二人の男が朝夕に裸となりて何事か 声を限りに祈り居る。 此両人はベルツ、シエールの主従である。左守の司並にタルマンの為に右守の職を剥奪され、百日の閉門を申付けられ、恨み骨髄に徹し、妖幻坊の魔法を習つて、ビクトリヤ城を転覆し、再び勢力を盛り返し、自分は刹帝利となり、シエールを左守司に任じ、一国の主権を握らむと、一心不乱に水垢離をとつてゐたのである。七日目の夜、二人が一生懸命に水垢離をとつてゐると、山岳も崩るる許りの大音響と共に、白馬に跨り、宙空より蹄の音戞々と降つて来たのは緋衣を着た坊主姿なりける。これは妖幻坊の兄弟分と聞えたる妖沢坊といふ魔神なり。妖沢坊は二人に向ひ、 妖沢『汝はビクの国の右守司を勤めたるベルツ並に家令のシエールであらう。汝の願は速に聞届け得させむ。付いては百日百夜の水行をなし、食物は此谷川に棲息する蟹、蠑螈、蛙を餌食となし、其他の物は一切食ふ可からず。若し誤つて他の食を取る時は、汝の行は全く水泡に帰すべし。又百日の修業中、人に発見されたる時は折角の修業も無効となるべし、必ず用心怠る勿れ。此荒行が済めば、汝に空中飛行の術を授け、且千変万化の化身の法を教ゆべし、ゆめゆめ疑ふ勿れ』 と厳かに伝へ、山岳を揺がし乍ら、再び駒の首を立直し、空中高く姿を消した。二人は有難涙にくれて妖沢坊の後姿を合掌し、呪文を唱へてゐた。三十日許り修業をした時、ベルツは蛙、蠑螈の毒が中つたのか、俄に腹痛を起し、手足を藻掻き、泡を吹き出しける。シエールは一生懸命に、 シエール『ウラル彦命妖沢坊様、何卒主人の病気をお癒し下さいませ』 と滝壺に打たれて、又もや一心不乱に荒行にかかつてゐる。ベルツは虚空を掴んで苦み悶える。此体を見てシエールは命限りに滝壺に飛び込み、祈念を凝らしてゐた。そこへ十一二才の美はしき女、木の茂みを分けてスタスタと登り来り、忽ち赤裸となつて滝壺に飛込んだ。シエールはエンゼルが自分の祈りを聞いて、助けに来て呉れたものと思ひ、一生懸命に乙女の姿を伏拝み、感謝の涙にくれてゐる。乙女は二人の男に目もかけず、滝壺に飛込み一心不乱に、 乙女『大国常立の大神、何卒々々、父の病気を救はせ玉へ、仮令吾身の命は取られませう共、少しも苦しうは存じませぬ。今父が亡くなつては、又もや右守司ベルツ主従が、如何なる事を致すか知れませぬ。ビクの国の一大事で厶います』 と神言を奏上し、祈り始めた。されど瀑布の轟々たる水音に遮られて、乙女の何事を願ひ居るやは、両人の耳に入らなかつた。シエールはベルツの側に進み寄り、頭を撫で乍ら、 シエール『モシ旦那様、御安心なされませ。今私が妖沢坊をお願ひ致しましたら、アレあの通り、天女が天降られて、貴方の病気平癒の為に滝壺にかかつて祈念をして下さいます。キツと御病気の直る瑞祥で厶いませう。必ず必ず御心配下さいますな。南無妖沢坊大明神守り玉へ幸へ玉へ』 と涙交りに願ひゐる。ベルツは不思議にも此言葉を聞くより、神経作用か知らね共、俄に気分がよくなり、頭をあげて滝壺を見れば、花を欺く美はしき乙女が滝壺に打たれて、白い体を曝し乍ら、一心不乱に念じて居る。ベルツは吾身の苦痛も忘れ立上り、 ベルツ『掛巻も畏き天津御国より下らせ玉うた天津乙女様、何卒々々拙者の願望を御聞届け下さいますやうに、之に付いては体が資本で厶いますから、此病気の一時も早く全快致し、百日百夜の修業が無事に了ります様、御願ひ申します』 と両手を合せて頼み入る。乙女は一生懸命に、 乙女『父の病を癒させ玉へ』 と祈願するのみであつた。稍あつて乙女は滝壺を上り、身体の水を拭き取り、キチンと衣服を着替へた。四辺を見れば二人の男が褌一つになつて、一生懸命に滝壺を拝んでゐる。乙女はスタスタと帰り行かうとするを、二人は慌てて行手に跪づき、 ベルツ『天津乙女様、如何で厶いませうか、妖沢坊様の命令に仍つて、百日百夜の荒行を致し、大望を達せむと願つて居りますが、神様のお蔭で成就するものとは存じますが、かやうに病気になつては、如何ともする事が出来ませぬ。何卒御指図をお願ひ致します』 乙女『其方の願望とは如何なる事か、詳しく陳述せよ』 ベルツ『ハイ、私はビクの国の右守司ベルツと申す者、之なる男は家令のシエールと申す者で厶います。ビクトリヤ城内には悪人はびこり、左守司一味の者、三五教の悪宣伝使を城内に引ずり込み、拙者の軍職を解き、専横の限りを尽し居りますれば、国家の害賊を除く為に、両人が此処にて荒行を致して居る所で厶います』 乙女『汝の敵と見なすは左守一人であるか』 ベルツ『左守は申すに及ばず、刹帝利の老耄、其外アール、ハルナ等の悪人を征伐致さねば到底天下は無事に治まりませぬ』 乙女『ホホホホホ、其方が噂に聞いた悪虐無道のベルツ主従であつたか。左様な悪企みを致す共、到底成功の望みはあるまい。どうぢや今の内に悔い改めて真人間になる気はないか』 ベルツ『ヘー、それは何で厶います、決して私欲の為に致すのでは厶いませぬ。天下公共の為に、民の苦しみを助くる慈愛心より、身を犠牲にして、かかる荒行を致して居るので厶います』 シエール『天津乙女様、何卒々々、吾々の霊をよくよくお査べ下さいまして、正邪の御裁判を願ひます』 と悪人は自分のやつた事を少しも悪と思うて居ない。天下国家の為に最善の努力を尽してゐると考へてゐるらしい。 乙女『妾は汝の言ふ如き天津乙女ではない。ビクの国の刹帝利ビクトリヤ王の娘ダイヤ姫であるぞよ。左様な悪虐無道な企みを致すよりも惟神の本心に立返り、忠良なる臣民として、国家に尽したら何うだ』 ベルツ『ナニ、其方が敵と付狙ふビクトリヤ王の娘であつたか。エー、天津乙女と見誤り、尊い頭をメツタ矢鱈に下げたのが残念だ。妖沢坊のお示しには、此行中に人間に見付けられては、折角の荒行が水泡に帰するとの事であつた。エー、モウ破れかぶれだ。吾願望の届かぬとあれば、仇の片割れ、嬲殺に致して怨みを晴らしてくれむ。オイ、シエール、荒縄を以て此女を縛り上げよ』 と厳しく命ずれば、シエールは、 シエール『ハイ畏まりました』 と棕櫚縄を取つて、後手に括り、樫の枝に引かけて、宙空に吊り上げる。乙女は腕もむしれむ許りの痛さを、歯をくひしばり目を塞いで一言も発せず、堪えて居る。 ベルツは之を眺めて心地よげに打笑ひ、 ベルツ『アハハハハ、小ちつぺ奴が、こんな所へ俺等の行方を嗅付けてやつて来やがつたのだな、此奴ア大変だ。此奴を帰なせば、キツと後から左守のハルナ奴、軍隊を率ゐて俺達を召捕に来る算段であらう。王女の身として、かやうな所へ出て来るとは大胆至極、之には何か仔細があるであらう。一度吊り下し、拷問にかけて云はしてみよう、サア下せ』 と厳命すれば、シエールは又もや綱を緩めて地上に下した。ダイヤは既に目を眩かし歯をくひしばつてゐる。 シエール『ヤア、チヨロ臭い、モウうたひあがつたとみえる。モシ旦那様、此奴ア駄目ですよ、物を言ひませぬがなー』 ベルツ『ナアニ、今目を眩かした所だから、滝壺へ一遍つつ込め。蛇の叩き殺した奴でさへも、水へ漬ければすぐに蘇生るものだ。サ、早く放り込んでみよ』 『ハイ』と答へてシエールはダイヤ姫の身体を引抱へ、綱を解いて、滝壺へザンブと許り投込んだ。ダイヤはハツと気がつき、滝壺を這ひ上り、其処辺をキヨロキヨロ見廻し、赤裸のまま逃げむとするを、シエールはグツと細腕を握り、以前の樫の根本に引摺り来り、 シエール『コリヤ、ダイヤ姫、幼き女の分際として、斯様な所へ只一人修業に来るとは大胆至極、之には何か仔細があるであらう。吾々両人が照国山に、王家転覆の祈願を凝らし居る事を嗅ぎつけ、やつてうせたのであらう。サ、逐一白状致せ。包み隠すに於ては、其方を水責、火責、剣責に致すが、それでも可いか』 ダイヤ『無礼千万な、主人の娘を捉へて左様な脅迫を致すといふ事があるか。チツと天地の道理を考へて見よ』 ベルツ『エー、喧しい、天地の道理を考へるやうな者が、ビクトリヤ城転覆の修業を致すものかい。サ、早く事実を白状致せ。何を願ひに来たのだ。其願の筋から第一に聞いてやらう』 ダイヤ『此照国山は妾兄妹六人が永らく住居してゐた馴染のある所だ。父の御病気を平癒させむが為に、清めの滝へ水垢離をとりに来たのだよ。臣下の身分として主人のする事をゴテゴテいふ権利があるか、控えて居れ。年は若く共、ビクの国刹帝利の娘だ。エエ汚らはしい、一時も早くどつかへ姿を隠せ。執拗帰らぬに於ては線香を立てて燻べてやらうか』 シエール『丸切り青大将が座敷へ這上つた時のやうに言つてゐやがる。こんな女つちよに脅迫されて、此荒男の顔が立つものか、地異天変もここ迄行けば極端だ。地震ゴロゴロ雷ビリビリとやつて来たやうだ。併し乍らどう考へても、こんな美しい女をムザムザ殺すのは勿体ない様だ。オイ、ダイヤさま、物も一つ相談だが、何程お前が王女だといつても、位の高いのは実地の時の間に合ふものでない。荒男二人と格闘すれば、到底お前は殺されねばなるまい。蛇と蛙のやうなものだから、茲は一つ思案をし直して、旦那様の奥方となり、ビクの国の女王となつて暮す考へはないか』 ダイヤ『悪逆無道の謀叛人奴、エエ汚らはしい、下りおらう』 ベルツ『何と云つても美しい者だ。そしてこれ丈の胆力があれば、此女を女房にすればどんな事でも出来るだらう。イヤ、ダイヤ姫様、茲は一つお考へ直しを願ひます。左守といふ奴は表面忠義らしく見せて居りますが、彼こそ心中深く野心を包蔵する曲者で厶いますぞ。刹帝利様は左守に誤られ、ビクの国家を棒に振らうとして厶る。危険至極な今日の場合。真の忠臣が現はれて支へなくては、万代不易の王家は続きますまい……大忠は不忠に似たり、大孝は不孝に似たり、大信は偽りに似たり、大善は大悪に似たり……といふ事がありませう。表面大悪人と見做されたる此ベルツ位、王家や国家を憂ひて居る者は厶いませぬぞ。チツと冷静に胸に手を当てて、王家と国家の為にお考へを願ひ度いものです。よく考へて御覧なさい。貴女の父上は左右の奸臣に誤られ、大切な五人の王子迄悉皆殺さうとなさつたぢやありませぬか。何処の国に親が子を愛せない者がありませう。何が宝だと云つても、吾子位宝はない。其宝を殺さうとなさるのだから、決して之はお父上の心から出たのでは厶いませぬ、皆左守やタルマンの入れ知恵で厶りまするぞ。かやうな悪人を重用するは実に危険千万で厶りまする。貴方はお若いので、城内の様子を御存じ厶いますまいが、それはそれはタルマン、キユービツトの両人は天地容れざる大悪人で厶いますよ。何卒此急場を救ふ為に、幸貴方は王家のお血筋、此右守と夫婦になり、国家の大難を未然に防ぐお考へはありませぬか』 ダイヤ『エエつべこべと、汝の邪智侫弁聞く耳は持たぬ、汚らはしい。王家がどうならうが、国家が何うならうが、構つてくれな。何事も天の時節だ。汝等如き有苗輩の関知する所でない。大きにお世話だ、さがり居らう』 と厳然として言ひ放つた。ベルツ、シエールは、 ベルツ、シエール『最早駄目だ、両人左右より寄つてかかつて、可哀相乍ら、殺害しくれむ』 と大剣を引抜き、左右より切つてかかるを、ダイヤは身をかはし、飛鳥の如く刃を潜り、樫の大木を木楯に取つて防ぎ戦ひゐる。 斯かる所へブウブウブウと法螺貝を吹き乍ら、四人の山伏、 四人の山伏『衆生被困厄、無量苦逼身、観音妙智力、能救世間苦、具足神通力、広修智方便、十方諸国土、無刹不現身、種々諸悪趣、地獄鬼畜生、生老病死苦、以漸悉令滅』 と観音経を唱へ乍ら登つて来る。ベルツ、シエールの両人は四人の姿に驚いて、ダイヤを捨て、着物をかかへ、山上目がけて、荊棘茂る中を雲を霞と逃げて行く。此山伏は治道、道貫、素道、求道、四人の修験者なりけり。 (大正一二・三・五旧一・一八於竜宮館松村真澄録)
222

(2655)
霊界物語 56_未_テルモン山の神館1 01 神慮 第一章神慮〔一四三一〕 ○ 現代人はおもえらく根底の国には最初より 一個の魔王厳在し諸多の地獄を統轄し 堕ち来る精霊の罪悪を制配なすと恐れられ 魔王は嘗て光明の天人なりしも叛逆の 罪に問はれて衆族と共に地獄に堕されし ものとの信仰昔より深く心に刻まれて 真相覚れるものも無し魔王もサタンもルシファーも 約言すれば地獄なり殊に魔王と称ふるは 背後に位置せる地獄にて此処に住めるを兇鬼と云ひ 兇悪最も甚だし又前面に位せる 地獄をサタンと称ふなりサタンは魔王に比ぶれば さまで兇悪ならざればこれをば兇霊と称ふなり 又ルシファーと云ふ意味はバベルに属する曲にして 彼等の領土は久方の天界までも拡がれり 故に一個の魔王ありて地獄を統治し坐さざるは 地獄天界両界に住める精霊に別ち無く 皆これ人の精霊よりするものなるや明けし 天地創造の始めより現代社会に至るまで 幾億万の人霊が現実界に在る時に 皇大神の神格に反抗したる度に比して 各自に一己の悪魔なる業を積み積み邪鬼となり 地獄を造り出せし由悟りて常に霊魂を 浄めて神の坐す国へ昇り行く可く努むべし ああ惟神々々御霊幸はへ坐しませよ。 ○ 愛と善との徳に充ち信と真とに住みたまふ 真の神は罪悪と虚偽に充ちたる人々に 仁慈と光栄の御面を背けて之を排斥し 地獄に墜落させたまひ邪悪に対して怒りまし 之をば罰し害なふと各宗各派の教役者が 伝へ来りしものぞかしこの言説は大神の 大御心を誤解せし痴呆学者の言葉なり 神は如何なる罪人にも面を背け排斥し 怒りて精霊を地獄界へ決して堕すものならず その故如何と尋ぬれば善と愛とは主の神の 珍の身体なればなり善の自体は害悪を 決して加ふるものならず愛と仁とは何人も 排斥すべき理由なし万一神が罪人に 背き斥け怒りまさば仁慈と愛に背反し その本性に戻りまし神格自体に反く可し それ故神は何処までも人の精霊に接しますや 善と仁慈と愛により臨ませ玉はぬことは無し 五六七の神は人のため善を思念し克く愛し 仁慈を施し玉ふのみああ惟神々々 御霊幸はへましませよ。 ○ 神より人に流れ来る凡てのものは愛の善 信と真との光のみ根底の国より来るものは 悪逆無道ばかりなりまことの神は人間を 悪より離れて善道に立帰らせむと為し玉ふ 之に反して地獄界は人をば悪に誘はむと 一心不乱に焦慮せりさは去りながら人間は 天界地獄両界の間に介在なさざれば 人は何等の想念も意義も自由も撰択も あらず身魂も亡ぶべし人に善悪二方面 あるは正邪を平衡する神の賜なればなり 神若し人の精霊に面を背けたまひなば 悪事を心の儘になし人たる所以は滅ぶべし 神より人に向ひまし流れ来れる光明は 唯々善の徳のみぞ然るに悪しき人間も 善良無比の身魂にも皆その神徳に浴すなり 少しく相違の点あるは真の神は悪人に 対して悪を離れしめ救ひやらむと為したまひ 善良無比の身魂には益々円満具足なる 善をば積ませたまふなり以上の如き差異あるは 人間自身の心より之をば敢て為すものぞ 凡ての人は天界や地獄の所受の器にて 中有界に居ればなり。 ○ 世界の人は天界の流れを受けて善を為し 地獄によりて悪を為す故に大本神諭には 凡ての事物は霊界の皆精霊の為す業と 示させ玉ふ所以なりされども人はその行為を 残らず己れの身よりすと信ずる故にその為せる 悪は皆その自有となし心中深く膠着せり それ故人は自身より悪と虚偽との因となる 神の関する由来なし人の身魂に包有せる 悪と虚偽とはその人の心の中の地獄なり 地獄と云ふも悪と云ふも皆同一の事ぞかし 人は自ら包有せる諸悪の原因なる故に 地獄に墜ちて苦しむも自ら赴く次第なり 決して真の大神は地獄に堕し苦しめて 処罰し給ふものならじ如何となれば人間が 悪を欲せず愛せずば主の大神は地獄より 脱離せしめて天界へ導き玉ひ人をして 地獄に投げやり給ふこと決してなきを悟るべし ああ惟神々々御霊幸へましませよ。 (大正一二・三・一四旧一・二七於竜宮館口述者識)
223

(2658)
霊界物語 56_未_テルモン山の神館1 04 盗歌 第四章盗歌〔一四三四〕 高天原と根の国を中断したる中有界 百のエンゼル下り来て伊吹戸主の御館に 集まりたまひ愛善の徳をば教へ信真の 光を照して精霊を皆悉く天界に 救はむものと大神の大御心を畏みて 言葉を尽し気を配り諭したまへど現世に ありたる時に諸々の悪と虚偽との罪悪に 御魂を汚し破りたる精霊は清きエンゼルの 宣る言霊に堪へきれず頭は痛み胸はやけ 耳には針をさす如くいと苦しげに自ら 自由自在に根の国や底の国へと駆り行く ああ惟神々々宇宙の主宰と現れませる 仁慈無限の大神は人の精霊は云ふも更 禽獣虫魚に至るまで霊あるものは悉く 皆天国へ救ひ上げ各団体の円満を はからせ給へど如何にせむ悪に慣れたる精霊は 善と真とを忌み嫌ひ悪と虚偽との悪魔道へ 自ら勇んで降りゆく醜の御魂ぞあはれなり 皇大神は此様を憐みたまひ現世に 厳の御魂や瑞御魂神の依さしのエンゼルを 下したまひて霊界の奇き有様悉く 完全に委曲に説き諭し示させたまへど現世の 自愛の欲に囚はれて眼をふさぎ耳を閉ぢ 神の光を背にして皆散り散りに逃げて行く 醜の御魂ぞ憐れなり神が表に現はれて 善と悪との報ひをばいと審に説き諭し 罪をば宥し救けむと心を千々に砕きつつ 血を吐く思ひの杜鵑八千八度の声枯れて 竜宮館の渡船場に立たせたまふぞ畏けれ ああ惟神々々御霊幸倍ましませよ。 白赤の守衛は、ヘル、シャル、ケリナ姫の生死簿を調べ、未だ何れも数十年現界に寿命の残つて居ることを三人に宣り聞かせ、一時も早く此処を立ち去り東に向つて進めよと命じた。三人は夢か現か、現界か、幽界か、少しも合点ゆかず暗中摸索の体にて、守衛が云ふままに踵をかへし、東を指してトボトボと進み行く。 ケリナ『細き煙も絶え絶えの光の影を後にして 恋しき夫を尋ねむと草の枢を引き立てて エルシナ河の辺まで進み来れる折もあれ 傾く峰の月影は妾が姿を見下して 諸行無常と慄ひ居るああ懐しや懐しや 恋しき人の後追ふて荒野ケ原を打ち渡り 露に体を霑して涙を絞る悲しさよ 濡るるも花の下影に宿らむものと立ち寄れば 傾く月は夜を残し仰げば高し天の河 空には雁の声すれど尋ぬる人の便りをば 聞知るよしもないぢやくりああ如何にせむ千秋の 恨を呑んで遠近と彷徨ひ来りエルシナの 谷川目蒐けて身を投じ寂滅為楽となりしよと 思ふまもなくヘル、シヤール二人の男に助けられ 又も浮世の荒風に当りて心を砕く折 泥坊頭のベルさまが無体の恋慕を吹きかける ヘルとシヤールの両人を向ふにまはしケリナをば 互に妻に娶らむと鎬を削る果敢なさよ 妾は驚き森林のパインの梢にかけ登り 難を避け居る時もあれ闇をつらぬく水の音 忽ち三人の黒影はエルシナ河の深淵に 落ちたるものか憐れやと窺ふ途端に踏み外し ケリナも共に深淵に落ち込みたりと思ひきや いつの間にかは知らねども草花茂る田圃道 彷徨ひ来りし訝しさ思ふに此地は霊界か 探ねあぐみし背の君の鎌彦さまに廻り会ひ 過し昔の物語聞いて驚く吾心 恋しき人は兄の仇如何なる因果の廻り来て 斯も不思議な運命の綱に繋がれ居たりしぞ これも現世の宿業が廻り廻りて吾の身に 来りしものか情けなや兄のベルジーを殺したる 夫と恃みし鎌彦は又もやベルに殺されて ライオン河の泡となり消えて後なく霊界の 巷に迷ふ憐さよああ惟神々々 御魂の恩頼を賜りて中有界に迷ひたる 吾等の御魂を速に神の御国へ救へかし 朝日も照らず月もなく星さへ見えぬこの道に 咲き誇りたる百の花香りはあまりなけれども 艶を競ふて並び居る草木の花に至るまで 常世の春を楽しみて歓ぎ遊べる世の中に 吾等三人は何として花も実もなき霊界の 心淋しき此旅路憐みたまへ天津神 国津神達八百万神の使の御前に 謹み敬ひ願ぎまつる謹み畏み願ぎまつる』 と歌ひ乍ら進み行く。一人の泥酔男頬被りを深く被り乍ら、淋しさうな筒袖で、労働姿の儘やつて来た。三人は道の傍の木影に立ち留り其男を目送して居る。余り広からぬ道を、右によろよろ左によろよろと足許危く、 男(六造)『晴れを待つ宵、曇るも憎や 曇りまつよに、晴れる月 恋は誰が(五位、鷹) 教(鴛鴦)へつるかも仮初に(鶴、鴨、雁) ほのみし影の身にしみて憂き(家鶏、鵜) やつこらしよ、やつこらしよ……ぢや』 と唄ひ乍ら三人にドンと突き当り、 男(六造)『ドド誰奴だい、往来の妨げをしやがつて些済まぬぢやないか。見れば男が二人に女が一匹、ヘン馬鹿にしてけつかるわい。一寸見た所では綺麗な女だが、その衣類は何だい。まるきり古家の障子見たやうに窓が明きさらして肌が見えて居るぢやないか。えらい、虱だ。何だ美人かと思へば虱太夫さまか、ペツペツペツ、ああ汚い、臭い臭い』 と鼻を撮む。 ヘル『こりや、どこの誰奴か知らないが、俺の奥さまを捉へて何といふ暴言を吐くのだ、もう承知はしないぞ』 男(六造)『アハハハハ。乞食女を奥さまだなんて好いデレ助だなア、ハハー、こんな虱太夫でも後を慕つて来る男が〆て二人もあるかと思へば世の中は不思議のものだなア。オイ阿魔女お前の名は何と云ふのだ。虱のお宿さま、名を云ふのが恥かしいのか、ペツペツペツ』 ヘル『こりや、何所の奴か知らぬが一寸待て、貴様は一体此処を何処と心得て居るか』 男(六造)『ヘン、何処も彼所もあるものかい、此処はフサの国テルモン山の麓の高野ケ原だ。俺の女房がこの先の村に待つて居るのだ。これから帰るのだよ。夫は夫は別嬪だぞ』 ヘル『これや、惚けやがるない、貴様は此処を高野ケ原と思つて居るか知らぬが此処は冥土の八衢だ。些確りせぬかい、そして此処に現はれた女の方は俺の女房とは佯り、実の所は三十三相に身を変じ遊ばす観自在天様だぞ』 男(六造)『ハハハハハ、何を吐しやがるのだい。観自在天とはよく洒落たものだ。このナイスの体には、胡麻を撒りかけた如く観音様が御出現だからな、ウフフフフ 噛みつかば許しはするなよただ捻れ 布子の裏にわたがみはなし 梅桜摺縫箔の古小袖 花見虱の飛び散りにけり 汗水になりて世渡る人の身の 夏の虱は浮つ沈みつ か、ウントコシヨ、ウントコシヨ、か。 引きかつぎ帷布ごしに空見れば 雲井を走る月の夜虱 冬籠布子の綿に住む虱 雪の如くに白けてぞ臥す』 ヘル『アハハハハ。こりや虱太夫、ソロリソロリと新左衛門坊主の云ふやうな事を吐くぢやないか、貴様は余つ程虱博士と見えるな』 男(六造)『定つた事だ。俺こそ虱のお庄屋さまだ。これ見ろ、こんな浅黄の筒袖を着て居るから貴様の目には分るまいが、俺の着物は六道の辻だ。沢山の虱がウヨウヨと右往左往に活動して居るのぢや。俺の名も六造なり合ふたり叶ふたりだ。一層の事その虱ナイスと此処で一つ観音較べをして夫婦になる訳にはゆくまいかなア』 ヘル『こりや、貴様は今この先に美しい女房が待つて居ると言つたぢやないか、夫にも関らず、このナイスと結婚すれば重婚の罪で八衢の関所で厳罰に処せられるのを知らぬのか。貴様は気の多い、箸豆人足と見えるわい』 六造『実の所はまだ女房が無いのだ。俺の方から女房と定めて居るだけで、先方の意志はテンと分らぬのだ。今日で三年計り顔を見に通つて居るのだが、まだ一口も心の思ひを先方に響かした事はないのだ。つまり予定の女房だからなア』 ヘル『アハハハハ。大方其辺のことだと思ふて居たのだ。貴様のスタイルで猫だつて女房になる奴があるかい、虱に体を舐らして置く位が性に合つて居るわい。も少し先に行くと六道の辻だから、虱でも提出して地獄行の冥罰を助かつたらよからう、虱は観世音菩薩だからのう』 六『碌でもない事を云ふない。八衢だとか六道の辻だとか、何を呆て居るのだ。此処は現界だ。貴様は大方夢でも見て居るのだらう。虱のやうなものは俺も実は好かないのだけれど、何分洗濯して呉れる女房もなし、噛んだり捻つたり縁側に拡げて徳利を転がしたりして征伐しても仲々絶え切らぬものだ。六道の辻と云へば地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上、と云ふ事だが夫れについて面白い虱の歌がある、一つ聞かしてやらうか』 ヘル『ウン、承はらう、どうで碌な歌ぢやあるまいが、併し乞食の門付けを聞くと思つてお耳を借してやらう、古汚い虱のわくやうな歌なら御免だぞ』 六『どうせ虱のわく着物は古いに定つて居るわ、黴の生へた頭から捻り出した歌でなくては虱に対する名歌が出来るものでない、野暮の事を云ふな。サアこれから地獄の虱だ。 地獄 捻る楽潰す極楽火は浄土 水に入るこそ地獄なりけり 餓鬼 脱ぎ捨てて竿にかけたる古布子 餓鬼の如くに痩虱かな 畜生 人を喰ふ事より外はいざ虱 生畜生の果と云ふべき 修羅 血交りに殺し捨てたる虱こそ さながら修羅の衢なりけり 人間 帷布の縫目に宿る虱こそ 人と同じく立ちてゆくなり 天上 五月雨や竜の鱗にわく虱 つれてもろ共天に登れり かくれ住む肌の守の虱こそ 生きた観音菩薩なりけり』[※虱に関する一連の狂歌についてはオニペディアの「虱の歌」参照] シャル『アハハハハ。十八世紀のお茶坊主が吐いた歌ぢやないか、貴様の作つたのぢやあるまい』 六造『誰が作つても同じ事ぢや、現在俺の口から出たのぢやないか、他人のものなら他人の口から出る、俺の作つた証拠には俺の声をもつて俺の口から貴様に伝へてやつたぢやないか、ゴテゴテ云ふない』 シャル『他人の歌を盗む奴は、八衢の関所で調べられたら矢張咎られて咎人になるぞよ、歌を盗む奴を盗歌人といふのだぞ、ウフフフフ』 斯かる所へ蓑笠を被つた五十余の一人の婆アが、金剛杖をつき、何か小声に歌ひながら、トボトボと進み来る。四人は其姿の何処ともなく変つて居るのに不審を抱き、つくづくと眺めて居た。婆は何か急用でもあるやうに頻りに足許を急いで居る。四人は何と思ふたか道端の背丈の延びた雑草の中に身を隠した。 (大正一二・三・一四旧一・二七於竜宮館二階加藤明子録)
224

(2660)
霊界物語 56_未_テルモン山の神館1 06 高圧 第六章高圧〔一四三六〕 高姫に導かれて四人の男女は、細谷川の一本橋を渡り、二間造りの小さき家に導かれた。高姫の精霊は既に地獄に籍を置き、直ちに地獄に下るべき自然の資格が備はつてゐる。併し乍ら仁慈無限の大神は如何にもして其精霊を救ひやらむと三年の間、ブルガリオの修行を命じ給ふたのである。総て精霊の内分は忽ち外分に現はれるものである。外分とは概して言へば身体、動作、面貌、言語等を指すのである。内分とは善愛の想念や情動である。 地獄界に籍を有する精霊は最も尊大自我の心強く、他に対して軽侮の念を持し之を外部に不知不識の間に現はすものである。自分を尊敬せざるものに対しては忽ち威喝を現はし、又は憎悪の相好や復讐的の相好を現はすものである。 故に一言たりとも其意に合はざる事を言ふ者は、忽ち慢心だとか悪だとか虚偽だとか、いろいろの名称を附して、之を叩きつけむとするのが地獄界に籍を置くものの情態である。 現界に於ける人間も亦、顕幽一致の道理に依つて同様である。現界、霊界を問はず地獄にあるものは、全て世間愛と自己よりする、諸の悪と諸の虚偽に浸つてゐるが故に、其心と自己の心と相似たるものとでなければ、心の相応せないものと一緒に居る事は実に苦しく、呼吸も自由に出来ない位である。併し乍ら悪即ち地獄に於ける者は悪心を以て悪を行ひ、又悪を以て総ての真理を表明したり、説明せむとするものである。故に其説明には矛盾撞着支離滅裂の箇所ばかりで、正しき人間や精霊の眼から見れば、実に不都合極まるものである。斯かる悪霊が地獄界に自ら進んで堕ちゆく時は、其処に居る数多の悪霊は、彼等の上に集まり来り、峻酷獰猛なる責罰を加へむとするものである。其有様は現界に於ける法律組織と略類似して居る。総て悪を罰するものは悪人でなければならぬ。虚偽、譎詐、獰猛、峻酷等の悪徳無きものは到底悪人を罰することは出来得ないのである。併し乍ら現界と幽界と異なる点は現界にては大悪が発見されなかつたり、又善人が悪と誤解されて責罰を受くる事が沢山にあるに反し、地獄界に於ては、悪其物が自ら進んで堕ち行くのであるから、恰も衡にかけた如く、少しの不平衡も無いものである。 而して獰猛と峻酷の内分も亦外分即ち相好の上に現はるるものである。故に地獄に墜ちて居る邪鬼及邪霊は何れも其内分相応の面貌を保ち生気無き死屍の相を現じ、疣や痣、大なる腫物等一見して実に不快な感じを与ふる者である。然し之は天国に到るべき天人の目より其内分を透して見たる形相であつて、地獄の邪霊相互の間にては決して余り醜しく見えない者である。何故なれば彼等は皆虚偽を以て真と信じ、悪を以て善と感じて居るからである。時あつて天上より大神の光明、地獄界を照す時は、彼等は忽ち珍姿怪態を曝露し、恰も妖怪の如き相好を現はし、自ら其姿の恐ろしきに驚くものである。併し乍ら天界より光明下り来る時は、朦朧たる地獄は層一層暗黒の度を増すものである。愛善の徳と信真の光明は悪と虚偽とに充されたる地獄では益々暗黒となるものである。故に如何なる神の稜威も善徳も、信真の光明も、地獄に籍を置きたる人間より見たる時は、自分の住する世界よりは暗黒に見え、真理は虚偽と感じ、愛善の徳は憎悪と感ずるに至るものである。故に大部分地獄界に堕落せる現代人が、大本の光明を見て却て之を暗黒となし、至善至美の教を以て至醜至悪の教理となし、或は邪教と誹るに至るは、其人の内分相応の理に依つて寧ろ当然と謂ふ可きものである。 高姫は中有界に放たれ精霊の修養を積むべき期間を与へられたるにも拘らず、容易に地獄の境涯を脱する事を得ず、虚偽を以て真理と為し、悪を以て善と信じ、一心不乱に善の道を拡充せむと車輪の活動を続けて居るのである。類を以て集まるとか云つて、自分の内分に相似たるものでなければ、到底相和する事は霊界に於ては出来ない。現界ならばいろいろと巧言令色、或は虚偽なぞに由つて内分の幾分かを包み得るが故に高姫の教を聞くものも多少はあつたけれども、最早霊界に来つては自分と相似たるものでなければ、共に共に生涯を送る事が出来なくなつてゐた。併し乍ら高姫は依然として現界に居るものとのみ考へ、八衢の守衛が言葉も半信半疑の体に取扱ふてゐた。霊界へ来てから殆ど一ケ年、月日を経るに従つて守衛の言葉は少しも意に止めなくなり、益々悪化し乍らも自分の教は至善である、自分の動作は神に叶ひしものである、而して自分は義理天上日出神の生宮で、天地を総轄したる底津岩根の大弥勒の神の神柱と固く信じてゐるのだから堪らない。さて高姫は四人の男女を吾居間に導き、自分は正座に傲然としてかまへ、諄々として支離滅裂なる教を説き初めた。 高姫『皆さま、よくまア日出神の教に従つて此処へ跟いて厶つた。お前は余程因縁の深いお方だぞえ。こんな結構な教は鉄の草鞋が減る所迄世界中を探し廻つても外にはありませぬぞや。そして喜びなされ、此高姫は高天原の第一霊国のエンゼルの身魂で、根本の根本の大神の生宮だから、天も構へば地も構ひ、何処も彼処も一つに握つた太柱、扇で譬へたら要だぞえ。時計で喩たら竜頭の様な者だ。扇に要が無ければバラバラと潰れて了ふ。時計に竜頭が無ければ捻をかける事も出来ますまい。夫だから此高姫は根本の根本の世界に又と無い如意宝珠の玉ぢやから、よく聞きなされや。お前達は泥坊をしたり、バラモンの軍人になつたり所在悪をやつて来たのだから、直様地獄へ堕すべき代物だけれども、此の高姫の生宮の申す事をよく聞いて行ひを致したなれば結構な結構な第一天国へでも助けて上げますぞや』 と止め度もなく大法螺を吹き立てる。併し乍ら高姫自身は決して自分の言葉は大法螺だとは思つて居ない。正真正銘一分一厘間違ひのない神の慈言だと固く信じて居るのだ。 ヘル『モシ高姫様、貴女が夫れ程偉い御方なら何故天へ上つて下界を御守護遊ばさぬのですか。此様な山のほでらに御殿を建てて吾々の様な人間を一人や二人捉まへて説教をなさるとは、神としては余り迂濶ぢやないですか。世界中には幾億万とも知れぬ精霊があるにも拘らず、根本の大神様の生宮さまが左様な事をなさるとは、些と合点が参りませぬワ。要するに高姫さまの法螺では厶いますまいかなア』 高姫は忽ち地獄的精神になり、軽侮と威喝と憎悪の面相を表はし、且プンプンとふくれ出し言葉迄地獄の相を現はして来た。 高姫『コレお前は何といふ途方もない事を言ふのだ。ホンに虫けら同然のつまらぬ代物だな。勿体なくも神の生宮を軽蔑するとは以ての外ぢや。そんな不量見な事では此生宮は許しませぬぞや。直ちに地獄へ堕してやるから其積りでゐなされよ』 と獰猛なる形相に憤怒の色を現はし、歯をキリキリと噛みしめて、眼を怒らし睨めつけて居る。 ヘルは高姫の面貌を見てギヨツとしながら、屹度胸をすゑ、肱を張りわざとに体を前の方へ突き出し、胸の動悸をかくし、 ヘル『アハハハハハ吐したりな高姫、其鬼面は何の事、仁慈無限の神様は些と許り気に入らぬ事を云つたからとて、そんな六ケ敷い相好はなさりませぬぞや。神は愛と善と信とでは厶らぬか。仮にも人を威喝、軽侮、憎悪するやうな事で、何うして正しい神と云へますか。御控へ召され』 と呶鳴りつけた。 高姫は烈火の如く憤り、相好益々獰猛となり、さも憎々しげに睨めつけ乍ら、 高姫『コリヤ、バラモンの小盗人奴、何を云ふのだ。誠の生神は貴様のやうな盲聾に分つて堪らうか。お前は心の中に悪と云ふ地獄を築き上げてゐるから、此日出神の円満なる美貌が怖く見えたり、善言美詞が悪言暴語の如く聞ゆるのだ。身魂の階級が違ふと悪が善に見え、善が悪に見えたりするものだ』 と自分の悪と虚偽とにより地獄に堕ち居る事を知らず、無性矢鱈に他に対して悪呼はりをしてゐる。人間も精霊も此処迄暗愚になつては如何なる神の力も之を救ふ事は出来ないものである。 ヘルは高姫の前に首をヌツと突き出し、背水の陣を張つたつもりで、握り拳を固め、 ヘル『今一言、何なと言つて見よ。この鉄拳が貴様の脳天に障るや否や木端微塵にして呉れるぞよ』 との勢を示してゐる。流石の高姫も其権幕に辟易したか、ヘルに向つては夫れ切り相手にしなかつた。ヘルは振り上げた拳のやり所がなくなつて、首尾悪げに元へ直した。 高姫はニヤリと笑ひ乍らさも横柄な面付して後の三人を見下し、 高姫『コレ六公にシャル、ケリナ、何と云つても身魂の因縁性来の事より出来ぬのだから、妾の云ふ事が耳に入らぬ人は、如何しても地獄行きぢやぞえ。皆々、どうだい、一つ此生宮の云ふ事を聞いて天国へ上る気はないか』 ケリナ『ハイ有難う厶います。到底妾のやうな罪深き人間は自分の造つた罪業に依つて相応の地獄へ行かねばなりますまい。何程貴女様が天国へ救ひ上げてやらうと仰有つて下さつても、身魂不相応の所へ行くのは苦しくて堪えられませぬ。妾は現在の儘何時迄も此世に暮したいと存じます』 高姫『ハテ、さて解らぬ方だなア。神が御蔭をやらうと思ふてつき出して居るのに受取らぬと云ふ事があるものか。諺にも……天の与ふるものを取らざれば却つて災其身に及ぶ……といふ事があるぢやないか。何故此生宮がつき出した神徳を辞退するのだい』 ケリナ『ハイ、御親切は有難う厶いますが、神様から頂いた神徳なれば自分がお返し申さぬ限り決して取上げらるる事は厶いませぬ。併し乍ら人間さまから頂いた神徳は、何時取返されるか知れませぬから、初めから頂かない方が、双方の利益で厶いませう』 高姫『コレ、ケリナ、何と云ふ解らぬ事をお前は云ふのだい。最前からも云つた通り、底津岩根の大弥勒さまの生宮ぢやないか。此生宮を人間ぢやと思ふて居るのが、テンカラ間違ひぢやぞえ。それだからお前は改心が足らぬといふのだ。お前が妾の館へ来たのも昔の昔の根本の古き神代から、身魂の因縁があつて引寄せられたのだ。お前の大先祖は大将軍様を苦しめた十悪道の身魂ぢやから、其罪が子孫に伝はり今度は世の立替立直しにつれて、大掃除が始まるのだから、悪の系統の身魂は焼き亡ぼし、天地の間に置かぬやうにするのだから、此生宮の申す間に柔順に聞く方が、お主の徳ぢやぞえ』 ケリナ『ハイ、御親切は有難う厶いますが、妾には大先祖がどんな事をして居つたか、中先祖が何うだつたか、そんな事はテンと解りませぬ。私は私で信ずる神様が厶いますから、折角乍ら御辞退を致します』 高姫『ドークズの身魂といふものは上げも下しもならぬものだなア。人間の分際として根本の因縁が解るものかいなア。それだから此高姫が身魂調べをして各自に因縁性来を表はし、因縁だけの御用を仰せつけるのだ。先祖からの因縁性来が解らぬやうな事で、何うして底津岩根の大神様の生宮の御用が勤まりますか。神の申す間に柔順に聞いて置きなさらぬと後で後悔を致しても、其処になりたらモウ神は知りませぬぞや。マア悠りと胸に手を当てて雪隠へでも入つて考へて来なさい。アーア一人の氏子を誠の道に導かうと思へば、並や大抵の事ぢやない。乃木大将が旅順口を十万の兵士を以て落したよりも難いものだ。針の穴へ駱駝を通すよりも難い。これでは神も骨が折れるワイ。盲聾に何程結構な事を噛んで含めるやうに言ひ聞かしてやつても、豚に真珠、猫に小判のやうなものだ。憐れみ玉へ助け玉へ、底津岩根の大弥勒様』 と掌を合し一生懸命にケリナ姫の改心を祈つてゐる。シャル、六造の二人は此問答をポカンと口を開けた儘延び上つて立膝し乍ら聞いてゐる。暫くは土佐犬の噛み合ひのやうな光景で沈黙の幕が下りた。其処へ銅羅声を張り上げて門の戸をブチ割れる程叩くものがある。 高姫はツと立上り四人を尻目にかけ乍ら、門の戸を開く可く表を指して進み行く。 (大正一二・三・一四旧一・二七於竜宮館二階外山豊二録)
225

(2661)
霊界物語 56_未_テルモン山の神館1 07 高鳴 第七章高鳴〔一四三七〕 七重八重言葉の花は咲きぬれど実の一つさへなき山吹の 花にも擬ふ教へ草インフエルノのどん底に 霊魂の籍をおきながら底津岩根の大神の 誠一つの太柱此世を救ふ義理天上 日の出神の生宮と信じ切つたる高姫は 如何なる尊き御教も吾魂に添はざれば 一々これを排斥し変性男子の生御霊 書かせ給へる御教を所まんだら撰り出し 自が曇りし心より勝手次第に解釈し 其身に憑る曲霊に身も魂も曇らされ 唯一心に神の為め世人のためと村肝の 心を尽すぞ果敢けれ妖幻坊の杢助に 魂を抜かれて中空より印度の国のカルマタの 草茫々と生え茂る原野に危く墜落し 其精霊は身体を首尾よく脱離しブルガリオ 八衢関所に到着し赤白二人の門番が 情によりて解放され天の八衢遠近と 彷徨ひ廻りて岩山の麓に庵を結びつつ 冥土へ来る精霊を三途の川の脱衣婆の 気取になつて点検し一々館へ連れ帰り 支離滅裂の教理をば口角泡を飛ばせつつ 一心不乱に説き立てる其熱心は天を焼き 地を焦がさむず勢に遉慈愛の大神も 救はむよしもなきままに三年の間高姫が 心のままに放任し眼を閉ぢて自ら 眼醒むる時を待ち給ふかくも畏き大神の 大御心を覚り得ず吾身に憑る精霊は 至粋至純の神霊日の出神の義理天上 底津岩根の大神と曲の霊に騙られ 信じ居るこそ憐れなり八衢街道の真中で ふと出会した四人連れ言葉巧に誘ひて 己が館へ連れ帰り心をこめて天国へ 救ひやらむと気を焦ち力を尽す高姫が 心を無にしてバラモンのヘルやケリナが反抗し 互に顔を睨み鯛小さき部屋に燻つて 白黒眼をつり居たる時しもあれや表戸を 叩くは水鶏か泥坊か但は嵐の行く音か 何は兎もあれ門口に現はれ実否を探らむと 四人の男女を睨みつつ庭に下り立ち表戸を ガラリと開ればこは如何に髯茫々と生え茂る バラモン教の落武者が泥坊仲間の親分と 聞くより高姫目を瞠り神の教の言霊に 誠をさとし助けむと心を定めて誘ひ入れ 四人の前に引き来るああ惟神々々 神の御霊の幸倍ひて一時も早く高姫や 其外五人の精霊を一日も早く大神の 誠の教に服はせ救はせ給へと願ぎまつる 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも誠の力は世を救ふ 誠の道を誤りし虚偽に満ちたる高姫が 教を如何に布くとても正しき神の在す限り 如何でか目的達すべきさはさりながら善人は 愛と善との徳に居り真と信との光明に 浴し仕ふるものなれば善悪正邪は忽ちに 心の空の日月に映ろひ行けど曲津見に 心を曇らす精霊は却て悪を善となし 虚偽をば真理と誤解して益々狂ふ憐れさよ 三五教のピユリタンと救はれきつた精霊は 如何でか曲の醜言に尊き耳を傾けむや 眼は眩み耳ふさぎ霊の汚れし精霊は 霊と霊との相似より蟻の甘きに集ふごと 喜び勇み集まりて虚偽と不善の教をば こよなきものと確信し随喜渇仰するものぞ ああ惟神々々神の大悲の御心を 量りまつりて万斛の涙は河と流れゆく 此河下は三途川脱衣婆々と現はれて 現幽二界の精霊が心を洗ふヨルダンの 流れを渡るぞ憐れなる此惨状を逸早く 救はせ給へと瑞月王仁が謹み敬ひ三五の 神の御前に赤心を捧げて祈り奉る。 高姫は今来た男に向ひ、穴のあく程其顔を打ち見守りながら、 高姫『ヤアお前の面体には殺気が溢れて居る。大方泥坊でもやつて居るのぢやないかな』 男(ベル)『是はしたり、此処へ這入るや否や泥坊とは恐れ入ります。成程貴女の仰有る通り、吾々は元からの泥坊では厶いませぬ。月の国ハルナの都に現はれたまふ大黒主の御家来、鬼春別のゼネラルのお伴を致し、斎苑の館へ進軍の真最中、将軍の部下片彦、久米彦が三五教の宣伝使治国別の言霊に脆くも打ち破られ、浮木の森に引き返し来りたれば、此処に軍隊を二つに分ち、一方は鬼春別、一方はランチ、各三千騎を引き率れ、ビクの国を蹂躙し、次で猪倉山に陣営を構へ、武威を八方に輝かす折しも、又もや治国別の神軍に踏み破られ、鬼春別、久米彦の両将軍は三五教に帰順致され、吾々は解散の厄に遇ひ、心にも無き剥ぎ取り泥坊を彼方此方でやつて居るもので厶る。併し私が泥坊だと云つてお前さまに咎めらるる道理はありますまい。泥坊は泥坊としての最善を尽し、其商売の繁昌を計つて居るのだから泥坊呼ばはりはやめて貰ひませうかい。此方が泥坊なら此処に居る四人も泥坊だ。其外世界の奴は直接間接の違ひこそあれ泥坊根性の無いものはない。いや泥坊根性の無いものは無いのみならず、藁すべ一本なりと泥坊せないものは何奴も此奴もありますまい』 高姫『オホホホホ。泥坊にも三分の理窟があるとか云つて、どうでも理窟の付くものだなア、併し乍らお前のやうに泥坊を自慢らしく云ふものは聞いたことがない。些と恥を知りなさい。それだから神様が「今の人間は天の賊だ、泥坊の世の中だ」と仰有るのだ。遠慮してコソコソやつて居るのなら可愛らしい所もあるが、大きな声で泥坊だと威張り散らすやうになつてはもう世も末だぞへ。そこで底津岩根の大神様が今度立替を遊ばし、鬼も大蛇も賊もないやうになさるのだよ。お前も好い加減に改心なさらぬと未来の程が怖ろしいぞへ』 ベル『アハハハハ。諺にも「猿の尻笑ひ」と云ふ事がありますぞや、吾々は泥坊といつても、唯金銭物品を泥坊する許りだ。それよりも大泥坊、否天の賊が此処に一人あるやうだ。鬼の念仏はこのベル、根つから聞きたうは厶いませぬわい』 高姫『天の賊が此処に一人居るとはそれや誰の事だい。お前は私の顔を睨めつけながら天の賊と云ふた以上は、誠生粋のこの生宮を取り違ひして天の賊と云つたのだらうがな』 ベル『勿論お前の事だよ、よく考へて御覧なさい。変性男子厳の御霊の生宮が、大国常立尊の伝達遊ばした神示を、そつと腹に締め込み、それを自分の物として横領して居るぢやないか。そして自分は義理天上だとか、底津岩根の大神の生宮だとか云つて得意になつて居るのは実に天地容れざる大罪悪、大虚偽もこれに越したるものはあるまい。それだからこのベルが大泥坊天の賊と云つたのが、どこに間違ひが厶るかな、不服とあらばベルの前で説明をして貰ひませう』 と胡床をかき言葉鋭く詰よつた。 高姫『ホホホホホ。ても扨ても分らぬ男だな、善一つの誠生粋の日本魂の、根本の根本の此世の御先祖様の憑らせたまふ生宮に対し泥坊呼ばはりをするとは無智にも程がある、お前のやうな盲聾が娑婆を塞いで居る以上は何時になつても神政成就は出来ませぬわい。何と云ふても霊が地獄に堕ちて居るのだから、人の眼についている塵は目についても己の眼にある梁は目に入らぬと見える、これシャル、六造、この二人の男を見て改心なされや。今が肝腎の時で厶いますぞえ。人民の分際として善ぢやの悪ぢやのとそれや何を云ふのぢや。三五教の教にも「神が表に現はれて、善と悪とを立て分ける」とお示しになつて居るぢやないか。神様の外に善と悪とを立て分けるものは無い。それも根本の弥勒様より外に立分ける者は無い、枝の神では出来ない、それだから根本の神様の御用をする此高姫の言ふことは大神様の御心だから、お前の心に合はなくてもこの高姫の云ふ通り素直になして行ひを改めさへすれば、現界、神界、幽界、ともに結構な御用が出来ますぞや』 六造『高姫さま、何と仰有つても私にはテンと信用が出来ませぬがな、お前の御面相を最前から考へて居るが、ちつとも神様らしい所が現はれて居りませぬ。表向にはニコニコとして厶るが、その底の方に何とも云へぬ険悪な相や、憎悪の相が現はれて居りますぞや。「人間の面貌は心の索引」とか云ひまして、何うしても内分は包む事は出来ませぬ、きつと外分に現はれて来るものですからなア』 高姫『アーアー、何れもこれも分る霊は一人も無いわい。神様も仰有つた筈だ「誠の人が三人あつたら三千世界の立替立直が出来る」との事、今更其お言葉を思ひ出せば実に感歎の外はない。私も長らくこれ程一生懸命に神様の為め、世人の為め、粉骨砕身の活動をして来たが未だ一人の知己を得る事が出来ないのか、情なや情なやほんに浮世が嫌になつて来たわい』 シャル『もし高姫様、私はどこ迄も貴女のお言葉を信じます。貴女は本当の根本の大神様の生宮様に間違ひはありませぬ。何卒私を貴女のお弟子にして下さいますまいか』 高姫『オホホホホ。成程お前は何処ともなしに気の利いた男だと初から見込んで置いた。矢張り日の出の神の目は違はぬわい。これ皆の泥坊共、高姫の申す事でも誠さへ心にありたら、このシャルの通り一遍に腹へ入りますぞや。分らぬのはお前の心が曇つて居るからであるぞや。ちと御改心なされ、足許から鳥が立つぞや』 斯る所へ何処ともなく、ブーウブーウと山彦を轟かす法螺貝の声近づき来る、ああ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・三・一四旧一・二七於竜宮館二階加藤明子録)
226

(2662)
霊界物語 56_未_テルモン山の神館1 08 愛米 第八章愛米〔一四三八〕 『死んでから語呂つき出した法螺の貝 声高姫の賤が伏家に』 『内外にうなり出したる法螺の貝 おどろきケリナ、ベル、シャル、ヘル』 『法螺の音を聞いて高姫立上り 胸轟かす茅屋の戸口』 『法螺の音は近くに聞え又遠く 聞えぬわいなと神を恨めつ』 『あの声は矢張り夢か幻か 高姫司の法螺吹の音か』 と口々に歌ひ乍ら、四人は顔見合はして、不審の雲に包まれてゐる。高姫は法螺の声が再止まつたので、又元の座に引返し来り、 高姫『あああ皆々、待たしました。併し乍らシャルは妾の知己だ。之から大事にして妾の片腕に使うて上げますぞや。四人の方はモウ、トツトと帰つて貰ひませう。結構な日出神の御託宣を、ツベコベと小理窟許りひねるやうなお方は、到底助けやうが有りませぬ。第一霊魂の位置に天地の相違があるのだから、此高姫の愛が徹底しないと見えます、誠に気の毒なものだ。之も自業自得と諦めて帰つて貰ひませう。エーエ汚らはしい、今聞えた法螺貝の様に腹の中は空洞のクセに、大きな法螺を吹く許りで、仕方のないカラ霊魂だ。サアサア、此館は斯う見えても矢張り高姫の御殿だ。お前は小さい燻ぼつた茅屋と思つてゐるだらうが、之でも活眼を開いて能く見れば、金殿玉楼、精霊の曇が除れぬと、こんな立派な御殿が、お前には茅屋に見えませうがな、心次第に何事も映るのだから気の毒なものだよ。イツヒヒヒヒヒ』 ベル『何とマア、自我心の強い婆アだなア。妙なインクリネーションを持つてゐるスフヰンクスだ。どつか精神上に大変なラシャナリストがあると見えるワイ。オイ、ヘル、ケリナ、モウ帰らうぢやないか。何時迄居つた所で面白くも何ともない、諄々と口角泡を飛ばし、仰有つて下さつても、心に誠がないのだから、サツパリ無味乾燥で、ドライアスダストの様だ。サア、シャルの馬鹿者丈跡に残して出立々々、一、二、三』 高姫『エー、ツベコベとベルの如うに囀る男だなア。併し乍らここへ来た以上は帰ねと云つたものの、中々、実の所帰なす気はないぞや。帰にたけりや帰なしてやるが、お前の肝玉を抉り出し、結構な結構な霊と入れ替へた上で解放してやる。此処に出刃も用意してあるから、暫時待つたがよからう、動かうと云つたつて、ビクとも出来ぬやうに、曲輪の法が使うてあるから動いてみなさい。お前たちは余程よい野呂作だから、知らぬ間に霊縛をかけておいたのだよ。イツヒヒヒヒ』 ベル『ナアニッ、チヨン猪口才な、汝等に肝を渡してたまるかい。取るなら取つてみよ』 高姫『取らいでかい。何でも彼でもスツカリ取上げ婆アさまだよ』 ヘル『コレ、もし、高姫さま、私は堪へて呉れるでせうな。実の所はベルよりもお前さまの方がどこともなしに神さまらしい所がある様に思ひます、同じ物を取るにも肝玉を取るとは振つてゐる。私は其一言にサツパリ共鳴して了ひました』 高姫『ウン、お前は此ベルからみれば、チツと許りホロましな人足だ。併し乍ら底津岩根の大神様の生宮に対し、共鳴するなんて、何と云ふ傲慢不遜の言ひ方だい、チツとは言霊を謹みなさい』 ヘル『何分バラモン軍に居つて少し許り青表紙をかぢつたものだから、比較的スピリットが発達してゐるものだから、お前さまのメデヲカチックなお話が直接ハートに納まりませぬ。それが為に煩悶苦悩してゐるのですよ』 高姫『スピリットだの、ハートだの、メデヲカチックだのと、そんな怪ツ体な四足語を使つたつて分りませぬぞや。此高姫は神さまだから、鳥獣の様な声は耳に通りませぬ哩。なぜハツキリとしたスパルタ語で申上げぬのかい』 ヘル『何分霊魂の性来が悪いものだから、満足な言霊が出ませぬワ。マア堪えて貰ひませうかい』 ベル『コリヤ、ヘルの大将、汝は俺に反対的態度を取る積か。ヨーシ、それならそれで俺にも考へがある』 ヘル『考へがあるとは何うすると言ふのだい』 ベル『当家の主人高姫を第一着手として、バラモン教とやり、其次に高姫のパラドックスに共鳴する汝をバラモンとやり、ケリナをうまく懐柔して、ヘヘヘ、あとは推量せい。それ以上云ふのも野暮だし、聞くのも野暮だから……』 ヘル『アハハハハ、ケリナが嘸喜んで跟いて行く事だらう、本当に馬鹿だなア』 高姫『エー、喧しい、サア是からこつちの計画通り実行だ。オイ、ヘル、シャル、お前は表口と裏口に立番をしてゐなさい。そしてケリナは女の事でもあり、反対すると云つた所で、余り大きな事は能うせうまいから、ここに見て居るがよい、サア、ベル、覚悟はよいか』 と云ひ乍ら、懐中から赤錆になつた出刃をニユツと突き出した。 ベルはビク共騒がず、 ベル『アハハハハハ、そら何だ。蟷螂が斧をふり上げたやうな格好しやがつて、そんな威喝を喰ふベルぢやないぞ。之でも元はバラモン軍のサアジャント様だ。斬合殺し合はお手の物だ。自ら綯うた縄に自ら縛られるやうなものだぞ』 高姫は何と思つたか、出刃をパタリと投付けた。ベルは魔法にかかつて腰から下がビク共動かなくなつてゐた。併し乍ら手や口は自由自在に動くので、自分の前に落ちた出刃を手早く拾ひ、逆手に握り、最早大丈夫と高姫を睨め付け乍ら、 ベル『アハハハハ、面白い面白い、ベルの言霊に辟易して慄ひ戦き、出刃を落しよつたな。エヘヘヘヘ、最早大丈夫だ。サア槍でも鉄砲でも持つて来い、之から高姫館の道場破りだ。コリヤ、ヘル、シャル、汝も序にバラしてやらう、有難う思へ』 高姫『イヒヒヒヒ、何程出刃を振り上げて、山蟹のやうなスタイルで目玉を飛出し、頑張つて居つても駄目だ。こつちには二間の大身槍がある。遠い所からグサリと突いて肝をぬいてやるのだ。オホホホホ。テモさてもいぢらしいものだな。神に反いた天罰と云ふものはこんなものだ。今にみせしめの為に此高姫が成敗を致すから、ヘル、シャル、ケリナも之を見て改心なされや』 ヘル『ハイ、改心は致します、何卒命許りは助けて下さいませ。どんな事でも致しますから』 高姫『ウン、よしよし、それに間違ひなくば、命丈は許してやる。其代り高姫が尻を拭けと云つても拭くのだよ』 ヘル『ヘーエ、宜しあす。……何とか云つて、此場を遁れなくちや仕方がないからな』 と小声で呟く。ベルは依然として出刃を振上げたまま、高姫の兇手を防がむと身構へしてゐる。高姫はツと立つて、何処からか大身槍をひつさげ来り、ベルの胸を目蒐けて只一突につき殺さうと構へてゐる。ベルは出刃をふりかざし、息をこらして待つてゐる。忽ちブーブーと法螺の貝が間近に聞えて来た。高姫は此声に身体動揺し、自ら槍を其場にパタリと落した。そして見る見る真青の顔になつて了つた。シャルは高姫の槍を拾ひ、手早く裏口へ持出し、草の中へ隠して了つた。ベルは依然として出刃をふりかざした儘、固まつてゐる。此時門口をがらりと開け、 (求道居士)『御免下さい、拙者は求道居士と云ふ修験者で厶る。四人の男女がお世話になつてゐると承はり、迎ひに参りました』 高姫は轟く胸を抑へ、ワザと素知らぬ顔をして手を膝の上に揉み、 高姫『これはこれは、どこの修験者か知りませぬが、マアよい所へ来て下さつた。併し乍ら四人の者が世話になつてると、今仰有つたが、能く査べて下さいませ。どうにもかうにもならない悪党が一人交つてゐます。彼奴は泥坊とみえまして、此婆一人の館へ出刃をふり翳して踊り込み、金を出せ、衣類を出せと申して、此婆アの命を取らうと致しました。それ故、あの通り魔法……オツトドツコイ霊法に依つて封じておきました。お前もチツと、修験者なれば言うて聞かしてやつて下さい。神は人民を一人だつて苦めたい事は厶いませぬからな。日出神の義理天上も、こんな没分暁漢に係つては誠に迷惑を致します、オホホホホホ』 と自分の事を棚に上げ、且ベルを脅喝した其非事をあばかれない先に、うまく予防線を張つてゐる。求道居士は「何は兎もあれ御免を蒙りませう」と一間に通り、見れば四人とも腰部以下はビクとも動かないやうに霊縛されてゐた。求道居士は忽ち、呪文を称へ、天の数歌を奏上し、四人の霊縛を解いた。高姫は目を丸くし舌を巻いて、家の小隅につツ立つた儘、慄ふてゐる。 求道『お前はベル、ヘル、シャルの三人ぢやないか。北の森でゼネラル様から沢山のお金を戴き、一時も早く国許へ帰つて正業に就くと言つたクセに、まだ斯様な所にうろついて泥坊をやつてゐたのか、困つた代物だなア』 ベル『ハイ、申訳が厶いませぬ、キツト今後は慎みます、何卒今日は見逃して下さいませ』 ヘル『カーネル様、此通りで厶います』 と掌を合す。シャルは黙つて頭を下げたなり、稍微笑を帯び、高姫の片腕になつたと云ふ誇りを鼻の先にブラつかしてゐる。 求道『お前達三人は此処を何処だと思ふてゐるのだ』 ベル『ハイ、どことも思ふてをりませぬ、此処だと思ふて居ります』 求道『此処は分つてゐる。現界か幽界かどちらと考へて居るか』 ベル『そんな事が分る位なら、こんな所へ踏ん迷うては参りませぬ、実際は何処で厶いますか』 求道『困つた奴だなア、ここは冥土の八衢だ。此高姫といふ婆アさまは、精霊界の兇鬼になつてゐるのだ。サア帰らう、何時迄もこんな所に居つては約まらないぢやないか』 三人は何うしても幽界と思ふ事が出来なかつた。 ヘル『モシ、カーネル様、ここが幽界なれば、貴方もヤツパリ肉体は亡くなり、冥土の旅をしてゐるのですか』 求道『イヤ俺は現界にゐるのだ。お前こそ幾ど幽界へ来てゐるのだよ。マ一度現界へ出て心を取直し、誠の人間になつて、更めて霊界へ来るのだ。此儘霊界へ行かうものなら、どうで地獄へ行かねばならぬから助けに来たのだ』 『ヘーエ』と云つたきり、三人は求道の顔を訝かし気に見守つてゐる。高姫はソロソロと恐怖心が除かれたと見え、求道の前にドツカと坐り、 高姫『ホツホホホホ、お前もヤツパリ気違だな、最前から聞いて居れば此処は幽界ぢやと云つたが、それがテンで間違つて居るぢやないか』 求道『現界なれば太陽も上り、月も輝き、夜になれば星もきらめく筈だが、昼夜の区別もなく、こんなうす暗い世の中を、お前さまは現界と思ふてゐるのか、よく考へて御覧なさい』 高姫『ホホホホ、何とマア分らぬ盲だこと、余り人民の精神が曇り切つて居るので、邪気濛々と立上り、日月星辰の影も見えない所まで曇つてゐるのだよ。それだから系統の霊、義理天上の生宮が底津岩根の大ミロクさまの神柱として、此世を光明世界に致さうと苦労を致して居るのぢやぞえ。お前も修験者と見えるが、何を修行してゐるのだい。一時も早く此生宮の申す事を聞いて、神様の御用を勤め上げ、天晴功名手柄を現はして、死しては神に斎られ、生きては世界の太柱となり、名を末代に残す御用を致したら何うだい。斯う見えても此高姫は天地一切の事は心の鑑に映つてゐるのだから、申す事にチツとも間違ひはありませぬぞや』 求道『ああ困つた女だなア、自分が冥土へ来て八衢に彷徨ひ乍ら、まだ目が醒めぬと見えるワイ。自愛心の強い女だなア、どうかして救ふてやる工夫はあるまいか、惟神霊幸はひませ惟神霊幸はひませ』 高姫『ホホホホ、何とまア没分暁漢許りが揃ふたものだこと、これでは神さまの御心がおいとしいワイの。人間は神の分霊だ。それにも関らず現界か幽界か見当のつかぬ所迄、霊を曇らし、どうして之が元に返るであらうか、何程結構な神様が目の前に現はれて居つても、心の眼の晦んだ者は仕方がないワイ。ああ何処の修験者か知らぬが、此奴も助けてやらねばなるまい。又一つ苦労が増えて来た。コレ、シャル、お前も私の弟子になつたのだから、チツと加勢をしておくれ、何程結構な教をしても器が小さいと這入らぬとみえる、お前位な程度で丁度可い所だ。サア、高姫の代理権を、此修験者に対して委任する、確りやりなされや』 シャル『モシ、カーネルさま、ウラナイ教の高姫先生の仰有る事を、よツく気を落付けて聞いて下さいませ。神様の信仰は理窟があつては駄目です。総て無条件でなくては信仰は出来るものぢや厶いませぬ』 求道『泥坊の改心が出来た上、真人間になつてから何なと教を聞かしてくれ、それ迄は何うも聞く訳には行かぬからなア。……コレ高姫さま、お前さまは此求道居士に旗を巻いたとみえるなア。それでは生宮とは申されますまい』 高姫は此言葉を聞くや否や、非常な侮辱を与へられたやうに感じ、眉を逆立て、又もや求道が前に詰めよつて鼻息荒く、 高姫『コレ修チヤン、お前は物の分らぬ人だな。人間は天地の花、ミクロコスモスノぢやぞえ。何事も宇宙一切腹に呑み込んで居らなくてはならぬ筈の人間が、サツパリ精霊を曇らして、癲狂痴呆となり、日月の光も見られぬ所迄堕落し、憐な状態に陥つて居るのだから、せめて神の道に目醒めた者が、此惨状を救はねばなりますまい。お前も修験者だと云つて法螺を吹き廻つて厶るが、底津岩根の大ミロク様の一厘の仕組が分つて居りますかい。人間は何うしても神に次いでの者だから天晴功名手柄を現はして、天下国家の為、お道の為に千騎一騎の大活動をなし、芳名を天下に輝かし、名を末代に伝へるべき者だ。それが出来ぬやうな事では人間とは申しませぬぞや。チツと胸に手を当てて考へてみなさい』 求道『人間は只神様の御道具になれば可いのだ。世間愛や自愛の心を払拭し、何事も惟神のまにまに活動するのが、人間と生れた所以だ。お前さまの云ふ事は何処とはなしに、ファラシーがあるやうだ』 高姫『お前は義理天上の生宮に対し、自愛心だの、世間愛だのと訳の分らぬ屁理窟をツベコベ仰有るが、よく考へて御覧なさい。人間は此世に神様の御余光を戴いて生存する限りは自愛心がなくては、一日だつて生存する事が出来ますまい。人には肉体維持の責任がありますよ。一日でも結構な月日を送らして戴き、神様の生宮として、千騎一騎の活動をせなくては、済まぬぢやありませぬか。どうしても人間は天地経綸の司宰者ですよ。何故自愛心や世間愛が、それ程お前は、怪悪なものの様に、又兇鬼の所作の様に云ふのですか。本当にお前の言ふ事は人間界には通用せない。屁理窟だ』 求道『人間が世に在る時は自愛に就ては毫も顧慮する所がない。只其外分に現はれた矜高の情、所謂自愛なる者が、何人と雖も、之を外面から明瞭と伺ひ得らるるが故に、只之を以て、自愛の念としてゐるものだ。そして又自愛の念が右の如く判然と表に現はれる事がなければ、世間の人間は之を生命の火と信じ、此念に駆られて種々の職業を求め、又諸多の用を成就するものと信じてゐる者だ。併し乍ら人間が若し其中に於て、名誉と光栄とを求める事が出来なければ、忽ち心が萎靡し了るものと思つてゐる。故にかかる自愛心の深い人間は他人に仍つて、又は他人の心の中にて尊重せられ、賞讃される事がなければ、誰人か能く値あり用ある行為をなし、自ら衆に秀れむとするものがあらうか。そして人間をして斯の如く働かしむるのは其光栄と尊貴とを熱望する心、所謂自愛に仍るものではないかと云つてゐる者許りだ。かくて世間には専ら地獄に行はれる愛と、人をして地獄を作らしむる者は愛我の自体なる事を知らない者が多いのだ。お前さまの仰有る事は要するに、今言つた様な考へより一歩も外へ出づる事が出来ないのだから、ヤツパリお前さまの仰有る事は何うしても神の言葉とは聞えませぬよ。第一神の教を奉ずる者は申すに及ばず、人間と生れた以上はどうしても愛我の心を放擲しなくては天下救済の神業は勤まりますまい。自愛心のある間は、如何に善事を行ふとも、それはヤツパリ偽善ですよ。此求道も名利の巷に奔走し、バラモン教のカーネルとして尊貴と名誉を夢みて居つた者ですが、三五教の教を悟ると共に、自愛や世間愛に離れ、斯うして神の為に働かして頂いて居ります。高姫さまも神の為に尽して、出世をせうとか、或は出世をさしてやらうとか、思つたり仰有る間は真正の信仰とは申せますまい。又真の愛と云ふ事も出来ますまい。能く胸に手を当てて貴女の心の鏡をマ一度覗いて御覧なさい』 高姫『ホホホホ、何とまア、ツベコベと理窟は甘いものですな。何程国の為、世の為だと云つても、自分を棄てて国家のため世人の為に尽す者は、実際の所はありますまい、又有り得可らざる事でせう。此高姫の明かな心の鏡には嘘偽りは一つも映りませぬぞや。愛我心がいけないと、お前さんは今言つたが、自分の体は決して自分の物でない、皆神様の御体ぢやありませぬか。三五教の教にも神を愛する如く人を愛し、吾身を敬愛すべしと出て居るでせう。吾身を愛するのは所謂神様を愛するのだ。此心が神愛ともなり、自愛ともなり愛我心ともなるのだ。それをお前は只一口に愛我心が悪いと仰有るが、今日の世の中を能く考へて御覧なさい。日々の往復文書にも……気候不順だから随分御自愛専一に祈ります……と書くぢやありませぬか、天下国家のために最善を尽し、社会の為に努力して芳ばしき名を万世に伝ふるのは、人間としては最上至善の行ひで厶いませう。お前だつて、修験者に歩いてゐるのはヤハリ愛我の為だらう。口では立派な事を言つても、言心行一致は中々出来ませぬぞや。体が資本だと言ふ事がある。如何なる善事をなすにも、肉体がなくては出来ますまい、さすれば其肉体をどこ迄も可愛がらねばなりますまい』 求道『私の愛我と言ふのは自分のみよからむ事を希求する意思を指すのである。愛我心の強い人間は、他人のよくなる事を願ふのは只自分に利益をもたらす時にのみ限つてゐる。故に自愛を以て主としてゐる者は或はチヤーチ或は国家、又は如何なる人類の団体に対しても、之が為に利福を願ふ事もなく、又自分の名誉、尊貴、光栄の為に非ざれば、他に向つて決して仁恵を施す事をせない。若し之等愛我的人間が他の為に用を遂ぐるに当つて、其中に以上述べた如き自利と相反するものがあつた時は直ちに失望し、自暴自棄して……ああ吾々は之丈努力しても、果して何の益があるだらうか、何が故に吾々は此様な事をなす可き義務があるか。又果して吾が為に何等の利得を生ずるであらうか……と云つて、放棄し、自己利益以外には何事もなさない。夫れ故に愛我の念を深く持する者は神様のチヤーチを愛せず、国家社会を真に愛せず、又御用を愛する事なく、只自己のみを愛するものである。例ば自分の主張する教を無条件に聴従する者の多からむことを願ひ、自分を尊敬する人間のみを集め、少しにても反抗的態度を執る者に対し、目をつり上げ、顔色を変じて憤怒の情を現はす如きは、自愛の最甚だしいもので厶いませう。斯の如き態度を執る人は、何れも生き乍ら地獄に籍を置いてゐる妖怪的人物です。高姫さまは生宮と仰有る以上は、決して自分を尊貴しない者を威喝したり、自分の頤使に盲従しない者を憎悪したり嘲罵するやうな地獄的行為はなさいますまいと信じて居ります。愛我心の強い人間は其所主の愛より起来する歓喜悦楽は、即ち其人間の生涯をなす所以のものだから、斯の如き者の生涯は所謂自愛の生涯です。自愛の生涯とは即ち其人間の我執の念から発生てくる生涯である。故に其自体から見る時は、我執、愛我の念慮は決して善と云ふ事は出来ぬものだ。自分に盲従し、隷属する者のみを愛する者を、又特に自分の子孫や朋友知己に限り愛せむとする者は、結局自愛の心です。自分と行動を一にする朋友知己や意中の人のみを偏愛し、自分と行動を共にせざる者及自分の意志に合はざる者を愛せないのも自愛であつて、真の神愛ではありますまい。自分の党派を愛し、自分の部下のみを愛する事、殆ど自己の如くなし、歓喜するのは、自分をその中に包有してゐるが故である。自愛心の人間が所有と称する物の中には、総て彼等を賞揚し尊敬し阿諛する者をも含んで居るのだ。之が所謂地獄愛だ。高天原に於ける真の愛に比ぶれば、実に天地霄壌の差異がある、自愛と世間愛とは所謂地獄の愛であつて、高天原の愛は天国の愛である。天国に於ては用の為に用を愛し、善の為に善を愛して聖団の為、国家の為、同胞の為に其身を空しうして、実践躬行するものです。之を称して神を愛し、隣人を愛すると云ふのである。貴女は決してさう云ふ様な自愛心をお持ちになつて居らうとは的確には信じませぬが、世の中に沢山現はれてゐる神柱とか、生宮とか、予言者とか称へらるる人間の中には、随分自愛心の強い偽善家が多いものです。真の神の生宮、五六七の太柱たるプロパガンデストならば、一切の御用も一切の善も皆神より来り、そして其中に自分が所愛の対象たるべき隣人あるが故である。され共自分が為の故に、此等の事を愛するは、之をして己に服従せしめむが為、即ち之を僕婢とし、或は部下として愛するものである。故に世間に沢山ある贋神柱は何れも愛我のみに住するが故に、自分のエビスコーバルしてゐるチヤーチの為とか、国家同胞の為に服事せむ事を願ひ、そして自分は傲然として尊貴を誇り、之に服事することを願はないものです。神の生宮、太柱などを真向に振かざし、教会、国家、同胞等の上に卓立し、之をして己が脚下に居らしめむと焦慮するものです。それ故人間は愛我心の除れない限りは、自ら高天原の天国に遠離するものだ。何故ならば高天原の愛から遠ざかるからである』 高姫『そら、そうです共、世の末になりますと、贋予言者、贋救ひ主、種々雑多のスフヰンクスが現はれて、世界の愚な人間を魔道に引入れようと致すものです。盲聾に等しき人間は至粋至純なる五六七神政の太柱、義理天上日出神の生宮を認識する明なく、玉石混淆して正邪の判別を、ようつけないのだから、実に此生宮も迷惑致します。誠の者は目薬程もないと、神さまが仰有いますが能うしたものです。此高姫はお前の眼力で御覧になれば分るでせうが、自我のやうに見えても決して自愛や地獄愛を喜ぶ者ぢや厶いませぬ。余り宏遠な教理を初めから没分暁漢に諭すと、却つて取違ひを致すに仍つて、最前もあの様に自我心を主張したのだが、お前さまの様に比較的分つた人なら、先づ上根の部だ、今迄言うたのは小乗部だ。之からお前の人格を認め、紳士的態度で大乗部で説いて上げませう。コレ、其処に居る四人の連中、之から第一霊国の教を説くのだから、下根の精霊には頭が痛み胸が苦しうなるかも知れないが、そこを辛抱して聞くのだよ。そすりや結構な御神徳が戴けますぞや。底津岩根の大弥勒様の御用を致してゐる此高姫は、言ふ迄もなく高天原の愛善の徳に居るのだから、用の為に用を愛し、善の為に善を愛して、心の底から之を行ふ事を唯一の楽みとなし、聖団のため、国家社会同胞の為に日夜これを実践躬行してゐるのだ。それだから五六七大神が自分の至粋至純の行ひを御覧遊ばし、神様の方から、生宮としてお降り遊ばしたのだ。併し乍ら余り霊の光明が烈しいので、下根の人間にはチツと懸隔が遠すぎて、正体を現さうものなら、忽ち栃麺棒を振り、逃げて帰るに仍つて、精霊相応に変化て、説法をしてゐるのだよ。神様は霊相応と仰有るのだから、豚に真珠を与へるやうな馬鹿な事は出来ませぬからなア。高姫が所主の愛は即ち弥勒大神の所主の愛だ。お前等の様に吾れよしの精神で、用を行ひ、善をした所が、ヤツパリ駄目だ。それは或一方に何か条件を求めてゐるのだから、真の愛は無条件でなくては駄目ですよ。之を自愛心と申しますぞや。自愛心の者は自ら大神の御神格より遠く離れ、従つて高天原の神国から離れて了ふものだ。自分の方から求める所の愛は我執の念に導かれて居るのだ。其我執の念といふのが、所謂悪といふのだ。悪は又一名地獄といひますぞや。三五教の変性女子の霊は世間悪の映像だと、同教幹部のお歴々が主張してゐるだらうがな、つまり悪といふのは自愛と世間愛に失する者を言ふのだよ。お前も之から此修験者の仰有る事を門口として霊を研き、奥の奥のドン奥を究めて天晴御用の為の御用をしなさい。及ばず乍ら、此高姫が力一杯、教へて上げるから……、併し乍ら教へて貰うてからの改心は駄目だぞえ、心の底から此高姫を生宮と尊敬し、且深く信じ、大神に接する態度を以て仕へなくてはお神徳を取外しますよ』 と舌鋒を甘く四人の方へ向け、俄に求道の深遠なる教理を自分の物となし、得々として受売をやつてゐる。実に当意即妙、酢でも蒟蒻でも行かぬ妖婆である。 ベル『オイ高姫さま、求道居士の……俺の先生がお出でになつてから、俄に心気一転したぢやないか、随分模倣に妙を得てゐる婆アさまだなア』 高姫『そら何を言ふのだ、頑愚度し難き代物だな。人見て法を説けと云つて、お前の様なガラクタには又それ相応の教をするのだ、耳が痛からう。此高姫は求道さまに教へてゐるのだ。お前達が彼此云ふ資格はない、スツ込んでゐなさい』 ベル『ヘン、馬鹿にしてるわい、イヒヒヒヒ』 高姫『コレ求道さま、お前は法螺貝を吹く丈、どこ共なしに気の利いてる所がある。高姫の云ふ事も耳へ入るだらう。サ、之から底津岩根の大弥勒様のお言葉を取次いで上げるから、疑はずに聞きなされや。第一世の中に何が悪いと云つても、自愛心即ち愛我の念慮位卑しいものは厶いませぬぞや。己を愛すること、神を愛するに勝り、世間を愛する事高天原を愛するに優る様な行り方は駄目ですよ。何事も神第一と致さねば、人間は神の生宮と申す事は出来ませぬぞや。人間が善を為すに当つて、其中に仮令毛筋の横巾でも、自愛の心を混じてゐたならば、忽ち我執の念に陥り、諸悪の地獄に突入致しますぞや。何故なれば斯様な人間は、此時善を離れて自分に向うて居れ共、自分を離れて善に向ふ事がないからだ。さういふ人間が如何なる善をする共、其善の中には自我愛の面影のみを止め、神格の面影をチツとも止めてゐないものだ。それだから此高姫が天の命令を受けて、苦集滅道を説き、道法礼節を開示してゐるのだから、耳の穴を宜く掃除して真面目に聞きなさいや。天地の間は皆不思議なものだ。到底人間の細工や知恵で解決がつくものでない。只神を能く信じ能く愛しさへすれば、それで結構だよ。求道さま、どうです、高姫の霊の因縁は之でチツと分りましたかな』 求道は『アハハハハハ』と笑つたきり、矢庭に法螺を口に当て、ブウブウと吹立てた。それと同時に高姫の館は次第に影うすくなり、遂に陽炎の如く消滅したりける。 ベル、ヘル、ケリナの三人はフツと気がつき四辺を見れば、エルシナ川の川縁に一人の山伏に救ひ上げられてゐた。そしてシャルは何程人工呼吸を施したり、種々と魂返しをやつてみたが駄目であつた。流石悪党のベルも此時現界に甦つたのは、兇党界の高姫に籠絡されず精神を取られなかつたからである。シャルはベルに比ぶれば稍善人であるが、現界に未だ数十年の生命が残つてゐるにも拘らず、蘇生せなかつたのは、彼れの精霊が既に高姫の教に信従し、固着して了つたからである。又求道居士は只一人法螺貝を吹き乍ら、宣伝の為此川辺にふと現はれ来り、朝早くから四人の死体を認めて身を跳らし淵に飛び込み、救ひ上げ、魂返しの神業を修したのである。之より求道居士はベル、ヘルを従へ、ケリナを送つてテルモン山の小国別が館に進み行く事となつた。ベルは中途にヘルと争論を起し、一時姿を山林に隠したのである。 (大正一二・三・一六旧一・二九於竜宮館松村真澄録)
227

(2664)
霊界物語 56_未_テルモン山の神館1 10 十字 第一〇章十字〔一四四〇〕 エルシナ川の堤に引上げられ、ビクトル山の修験者求道居士に救はれたベル、ヘル、ケリナの三人はエルシナ川の谷川を遡りパインの木蔭を縫ひ乍ら、やや広き青野ケ原に出た。ここには色々の美しき花が咲き充ちてゐる。一同は路傍の平岩に腰打掛け息を休めてゐる。求道居士は数珠を爪繰り乍ら、 求道『天竜虎、王命、勝㍻、大水日。天竜虎、王命、勝㍻、大水日』 と繰返し繰返し呪文を唱へた。 ヘル『モシ、修験者様、吾々は貴方のお蔭で命のない所を助けて頂きましたが、今のお経は何だか知りませぬが、頭に浸み渡つて有難い様な気分が致します。何卒その呪文の御解釈をして頂けますまいか』 求道『あ、よしよし、この呪文はバラモン教の神秘となつてゐるのだ。お前等が水に溺れて絶命れて居つたのを呼び戻したのも此十字の秘法のお蔭だよ。何時もこれさへ唱へて居つたならば、あの様な災難に罹る様な事はチツともない。起死回生諸災除攘の神秘的呪文だ。一つ解釈をするから聞きなさい。 天竜虎、王命、勝㍻、大水日。天竜虎、王命、勝㍻、大水日 この十字の秘伝は神変不可思議の神徳が顕れ、如何なる願望も成就し、又如何なる災禍も除却することが出来るのだ』 ヘル『どうか其の字の功徳に就て御教示を願ひたいものですなア』 求道『ヨシヨシ由縁を聞けば有難い。重ねて言へば猶有難いと云ふ神伝秘法の呪文だから、能く胸に畳み込んでおくが好い。 抑々、 天は高貴大官の前に出る時之を書くのだ。又航海渡船の時に之を書いても可い、さすれば高官には自分の意志が完全に通じ且つ難破船の災ひを免れる。 竜は海河又は船橋を渡る時に書いて持つものだ。又大風雨に向つて出達する時に之を書けば凡ての海河風雨の難を免れる。 虎は広野原野深山に行かむと欲する時に書くのだ。又山猟の時とか賊に出遭つた時に書けばその難を免れる。 王は悪人等に対する時之を書きて持つものだ。又不時に応ずる時、裁判の時に之を書くのも可い。屹度神の御守護がある。 命は人の家にて怪しき茶、酒、飲食を与へられた時に之を書くのも可い、又敵に向つた時之を書いて持つも可い。屹度災難を免れる。 勝は軍陣並に万の勝負の時に書く、又売買の時に書くのもよい。 ㍻は疾病のある家に行かむとする時、又は諸々の悪人の集まつて居る所に行かむとする時に書くのだ。屹度神徳が顕はれる。 大は怪しと思ふ場所や又淋しき所に出行く時とか、悪病、伝染病の人を見舞ふ時に之を書くものだ。 水は案内を知らぬ家に行く時又は酒席に出る時、身構へ、清浄の時、又水論のある時に之を書くと可い。 日は万の祝言や慶事喜悦に関する時、又は病人を訪れる時に書いて持つて居れば相方共に御神徳を頂く事が出来るのだ。是は婆羅門教の秘事中の秘術だから、妄りに人に伝へると濫用する恐れがあるから、固く人に伝ふることを厳禁されてあるのだ。以上の十字を以て婆羅門十字の大法と称えるのだ。之を行ふには男は左の手、女は右の手にて刀印にて空書するのだ。又刀印を硯に施して白紙に書して懐中して居るのも結構だ。然し、これより尚尊い事があるのだ。併し乍ら、余り勿体なくて口にすることが出来ないから、身魂相応に十字の呪文を空書したり、唱へたりして修行に歩いてゐるのだ』 ヘル『これよりも有難い尊い事とはどんな事で厶いますか。何卒序に聞かして下さいませな。私も貴方に助けられて此御恩を返すためには、世界の人間も助けさして貰ひ度う厶いますから』 求道『お前が御神徳を私せず、世界の人間を助けさして貰ひ度いと云ふ誠心があるならば伝授してやらう。一番尊い事と云ふのは天の数歌といつて「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、百千万」と唱へるのだ。之は天地開闢の初から今日に至る迄、無限絶対力の神様が此天地を創造し、神徳を世界に充たし愛善の徳と信真の光明を吾々人間にお授け下さる神文だ。そして「惟神霊幸倍坐世」と後で唱へるのだ。之に越したる尊い言葉は三千世界にないのだから、よく聞いておきなさい』 ヘル『いや、如何も有難う厶りました。お蔭で結構な御神徳を頂戴しました。サンキューサンキュー』 求道『無駄口を云ふ間があつたら此神文をお唱へするのだ。さうすればどんな事でも忍耐びがついて、天晴神様の御用に使ふて貰ふ事が出来るのだ。併し乍ら歌を歌ふ様な気持になつて唱へては駄目だから、よく慎んで唱へたが宜しいぞ』 ヘル『サンキューサンキュー』 ベル『アハハハハナーンだ。竜だの、虎だの、貂だの、鼬だのと勿体らしく仰有いまして、その又後に商人か大工の様に数字を並べたり、鉋だとか、鑿だとか、笑はしやがるわい。アハハハハ、これ丈け人文の発達した世の中に、そんな寝言の余り言の様な事を云つて廻る修験者の気が知れないわ。ウフフフフ』 ヘル『こりやベル、修験者求道居士様は、もとは吾々のカーネル、エミシ様だが、結構な呪文を唱へて俺等を助けて下さつたのに、何と云ふ畏れ多い事を云ふのだ。勿体ないぢやないか』 ベル『ハハハハ貴様も亦軟化しやがつたな。何と云つても寿命のある者は死ぬものかい。八衢で「まだお前は生命があるから帰れ」と云つたぢやないか。別に修験者の力でも何でも無い。此世にまだ生存の力を持つてゐるから生還つたのだよ。そんな馬鹿な事云ふものぢやない。それよりも商売に勉強した方が何程利益だか分らないわ。これからワールドを股にかけワールドウ(悪胴)を据ゑて泥坊商売を勉強した方が忽ちお蔭がある。何程十字の秘法を唱へても、一、二、三、四と云つて数へて居つても、一文の金も降つて来はせぬぢやないか。そんな事ア世捨人のする仕事だ。俺等は日々の生活難を凌いで行かんならぬから、そんな陽気な事は云つて居れないわ。肉体のある限り食物も摂らねばならず、人間の体は実在物だからヤツパリ実在的物質が何よりも肝腎だ。空々漠々たる無形の呪文が何になるか。馬鹿だなア』 求道『ハハハハ、ベルはどうしても分らぬと見えるな。そしてお前はゼネラル様から、あれ丈けのお金を頂いた時に、正業に就きますと云つたぢやないか。それにも拘はらずまだ泥坊をこれからやらうと云ふのか』 ベル『何分人間はパンが肝腎ですから、私のやうな無資産者は、泥坊なつとやらなくちや仕方がありませぬわい。何程神を祈つて居つても一片のパンも湧いては来ませぬからな。神様だつて有るとも無いとも、そんな事アあてになりませぬわい』 求道『お前は、さうすると何処迄もアーセーズムを主張するのかな。困つたものだな。人間の力で木の葉一枚だつて出来るものでないと云ふ事を知つてるだらう。さうすれば山川草木を拵へた原動力がなければならぬ筈だ。人間以外の物がなければ此天地は造れるものでない。よく考へて見るが宜からうぞ』 ベル『それは人間が出来ない事は分つてゐます。自然の力で一切万物が出来て居るのです。その自然を貴方等は神と云ふのですか。貴方等はフテキズムだ。もしも違うたらナチュラル・ワーシップだ。私は神なぞが決して此世に存在するとは思はれませぬわい』 求道『どうも仕方のない男だなア。まアまア緩りと胸に手を当てて考へて見るが宜からう』 ヘル『オイ、ベル、人間は神を離れて一日も此世の中に生きて居る事は出来ないぞ。皆神様のお蔭だ。そんな勿体ない事を云はずに神様を礼拝する気はないか。お前もこれから天国に救はれるか、地獄に堕するかと云ふ境目だから、トツクリ求道様のお話を聞いて考へて見たら如何だ』 ベル『ウン、そんなら一つ求道さまにお尋ねしますが、一体神様は此天地の間にどれ丈け厶るのですか』 求道『天津神八百万、国津神八百万と云つて億兆無数の神様が厶るのだ。それぞれお役目を分掌遊ばして此世の中を守つて下さるのだから、人間は神様を信仰せなくてはなりませぬぞ』 ベル『それ丈け沢山の神様があつたら却つて世界が治まらぬぢやありませぬか。貴方のお説はどうも私の腑に落ちない。その筆法で云へば一切神ばかりで此世の中は埋もつて了ひ、人間の住居する場所はないぢやありませぬか。そんなボリセズムは新教育を受けた吾々の耳には、余り古臭くて這入りませぬがな』 求道『神様は元は只お一柱だ。その神様は大国治立尊と云つて宇宙一切をお構ひ遊ばす太元神様だから此神の水火から生れた色々の天人が、八百万の神となつて御守護遊ばして厶るのだ。それだから之を巻けば一神となり、之を開けば多神となる。所謂神様は一神にして多神、多神にして一神だ。吾々と雖もヤツパリ神様の御神体の一部分だ』 ベル『益々分らなくなつて来た。お前さまの言ふ事はモノゼーズムかと思へばボリセーズムになつて了ふ。ボリセーズムかと思へば一転してバンエンテーリズムになるぢやないか。そんな拠りない神様を礼拝するのは真平御免だ。エーエーこんな話を聞いて居ると気分が悪くなる。それよりも現実的にお蔭を頂く事をやり度いものだ。さア之から俺の幕だ』 と云ひ乍ら捻鉢巻をグツと締め、瘤だらけの腕をニユツと前につき出し、 ベル『おい、修験者、ここを何処と心得てる。勿体なくも天下の大泥坊ベルさまの縄張り区域だぞ。さアさア、キリキリチヤツと持物一切投げ出して行かつせい。猪倉山で随分分配金を貰つただらうから、まだ持つて居るだらう。それを此方へスツパリ渡して行け。お慈悲に着物丈は助けてやるから』 求道『アハハハハ、困つた奴だな。金は此処にまだ一万両ばかり持つて居るが、之は世界の困つた人間を助けるための物質的の宝だ。お前の様な泥坊にやる金は一文も持たない。将軍様から大金を頂いて改心するかと思へば益々悪党になるやうな代物だから、お前を助けようと思へば一厘だつて渡す事は出来ぬ。それよりも無形の宝を頂いて誠の人間になつたら如何だ』 ベル『アハハハハ、何と仰有つてもパンを与へられねば信仰は出来ない。俺を信仰の道に入れ度いと思ふなら先づパンを与へよだ。早くその金を此方へ……皆迄とは云はぬから、五千両ばかり渡して呉んねえ。さすれば此金のある間は信者になつても可い』 ヘル『到頭本音を吹きやがつたな。もし先生、こんな奴に与る金があつたら乞食におやりなさい。ますます此奴を地獄の底へ堕す様なものですからな』 求道『如何にもお前の云ふ通りだ。こんな者に金を持たしたら狂人に松明を持たすも同然だ。まア止めて置かうかい』 ベル『こりやヘル、貴様の懐がヘルのでもないのに横合から何をしやベルのだ。人の商売の妨害をさらしやがつて、もう量見ならぬ。これから貴様と命の奪合ひをして、勝つた方がケリナを女房にするのだ。さア来い、勝負だ』 と手に唾をつけ挑戦する。 ヘル『ハハハハハ、そりや何さらしてるのだ。そんな目を剥いて芝居をしたつて恐がる奴は一人もありやせないぞ。なあケリナ、本当に下劣な男ぢやないか。下劣ばかりならまだしもだが、無智暗愚極悪無道、所在罪悪を具備して居るモンスターだから困つた者ですわい。併しケリナ、お怪我があつてはならぬから、先生のお側を離れないやうにして下さい。之から此悪人と奮闘して懲しめてやるから』 ケリナ『ホホホホホ何程ベルが凄い文句を並べて威張つた所で誰も驚くものはないわ。そして妾の夫鎌彦さまを殺したのも此奴だから、謂はば夫の敵、見逃しは致さぬ。お前、そこに待つて居なさい。妾が美事ベルを平げてお目にかけませう。そしてお前も矢張り夫を殺した仲間だから此次ぎはヘルだから楽しんで待つて居なさい』 ヘル『いや、此奴あチツと都合が悪いわい』 ベル『ワツハハハハ、態ア見ろ。ケリナに現を抜かしやがつて既に亭主になつた気取りで居つたが、今の態は何だい。大馬鹿者奴、先見の明が無いと云つても余りぢやないか、ウツフフフフ』 ヘルは捻鉢巻をし乍ら、 ヘル『何、猪口才な、俺も今迄悪人だつたが最早神様の光に照らされた善人だ。貴様のやうな悪事はせない。一つ目に物見せてやるから覚悟をせい』 と矢庭にベルに跳びついて行く。 ベルは『何、猪口才な』 と側に落ちて居た棒片を手に取るより早く真向に振り翳し、木端微塵になれよとばかり打下ろした途端に、ヘルの肩を強か打つた。ヘルは怒り心頭に達し、矢庭にベルの髻を引掴み引摺り初めた。ベルは痛さに堪へ兼ね、悲鳴をあげて泣き出した。ヘルは此声に憐れさを催し、手を放した。求道居士は一生懸命に呪文を唱へて居る。隙を狙つてベルは一生懸命に草野ケ原に四這となり、飛び込んだまま姿を見せなかつた。 ヘル『アハハハハ、口程にも無い奴だ。到頭遁走しやがつたな。併し乍ら陰険な奴だから何処に隠れて何をしよるか分つたものではない。ケリナさまには大変な怨みを受けて居るけれども、私の罪亡ぼしのために先生と前後になつて、ケリナさまを親許まで届けさして貰ひませう。なア先生、許して下さるでせうな』 求道『お前の改心は確だから成るべくは親許まで届けて、両親にお詫をしたが宜からう。然し乍らケリナさまの御意見は何と仰有るか分らない。ケリナさま、如何しますか』 ケリナ『ハイ、実の所を申せば妾の兄を殺した鎌彦を殺して呉れた方だから、別に怨んでは居りませぬ。送つて下さらば結構で厶います』 ヘル『サンキューサンキュー、何処までも送らして頂きます。もし、思召に叶ひましたら、どんな御用でも致しますから』 求道『アハハハハ、要らぬ事は云はないでも宜い。それよりも十字の秘法を唱へて、さア行かう。テルモン山迄はまだ十里位もあるからグヅグヅして居れば日が暮れる。途中で日が暮れると又悪者が飛び出すと面倒だからな』 ヘル『先生、その時には一、二、三、四……と唱へるのですな。それでいかなければ惟神霊幸倍坐世ですわい』 求道『うん、さうださうだ。それさへ覚えて居れば大丈夫だ。おい、ヘル、お前は先に行くのだ。そしてケリナさまを真中にして俺が殿を勤めてやる』 ヘル『はい、先へ行かぬ事あ厶いませぬが、そこが何だか一寸……で厶いますな。先生が先へお出になるが順当でせう。お伴が先へ行くと云ふ道理が厶いませぬから』 求道『ハハハハハ矢張り恐いのだな。よしそんなら思召に従ひ先陣を勤めやう。さあケリナさま、続いておいでなさい』 と云ひ乍ら声も涼しく宣伝歌を歌ひ、夏草茂る青野ケ原をスタスタと進み行く。 (大正一二・三・一六旧一・二九於竜宮館二階北村隆光録)
228

(2677)
霊界物語 57_申_テルモン山の神館2 総説歌 総説歌 神が表に現はれて善と悪とを立別ける 善の中にも悪があり悪の中にも善がある 善悪正邪はオーニーの知識の程度で判らない 唯何事も惟神神の御旨に任すのみ 此の世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直し聞き直し 世の過ちは宣り直せ人は神の子神の宮 天津使のエンゼルのその精霊に神格を 充され肉体人に容り天地経綸の神業に 奉仕せむため生れ来ぬアヽ惟神々々 御霊幸はへましまして此の世の終りに日地月 誠の神が降りまし瑞の御霊に神業を 任さし玉ひし尊さよ世は常暗となり果てて 黒白も判かぬ時なれど光の神は御空より 鳩の如くに降りまし空前絶後の神業を 経綸さるるぞ有難き国の御祖の大御神 厳の精霊に神格を充たし予言者の体に依り 出口の守と現れてこの世を照し玉ふ世は 漸く近づき来りけり仰ぎ敬へ四方の国 青人草の末までも三五教の御教は 最後の光明艮めなり眼を醒ませ耳開き 神の生宮予言者の貴の言霊守るべし アヽ惟神々々御霊幸はへましませよ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 地震り海は浅するとも誠一つは世を救ふ エスペラントやバハイ教紅卍字教や普化教も 残らず元津大神の仕組み給ひし御経綸 その外諸々の神教は此の世の末に現はれて 世を立直す為ぞかし国会開きが始まりて 十二の流れ一時に清く流るる和田の原 底井も知れぬ海潮の深き思ひぞ計れかし いよいよ五六七の世となれば山河草木言ふも更 禽獣虫魚も押並べて神の仁慈の露にぬれ 一入清き霊光を照らし栄ふる世とならむ 仰ぎ敬へ神の徳慶び奉れ神の愛。 大正十二年旧二月十日 皆生温泉にて
229

(2678)
霊界物語 57_申_テルモン山の神館2 01 大山 第一章大山〔一四五一〕 金輪奈落の地底から風輪、水輪、地輪をば 貫き出でたる大高峰伯耆の国の大山は 日本大地の要なり白扇空に逆様に 懸りて沈む日本海八岐大蛇の憑依せる 大黒主の曲津見が簸の川上に割拠して 風雨を起し洪水おこし狭田や長田に生ひ立ちし 稲田の姫を年々に悩ませ人の命をば 取らむとせしぞ歎てけれ大正十二癸の 亥年の春や如月の日光輝く夜見ケ浜 小松林の中央に堅磐常磐に築きたる 神の恵みの温泉場浜屋旅館の二階の間 いつもの通り横に臥し真善美愛第九巻 波斯と月の国境朝日もきらきらテルモンの 山の館に住まひたる小国別が物語 三千年の末迄もその功を残したる 三五教の三千彦が難行苦行の経緯を いよいよカータルブラバーサマハーダルマ・タダアガタ 唯一言も漏らさじと東の窓に向ひつつ 万年筆を走らせる夜見の浜風颯々と 吹き来る度にカーテンがバタリバタリと拍子取り 言霊車押し来るアヽ惟神々々 御霊幸倍ましまして五十と七つの物語 完全に委曲に述べ終へて綾の聖地の家苞に なさしめ給へと大神の御前に謹み願ぎまつる 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも誠一つの三五の 教の主意を一通り写さにやならぬ神の法 湯にあてられて瑞月が腹をガラガラ下らせつ 下らぬ理窟を交ぜて浜辺で取れた法螺貝の 止度もなしに吹き立てる ○ 三五教は大神の直接内流を受け、愛の善と、信の真をもつて唯一の教理となし、智愛勇親の四魂を活用させ、善の為に善を行ひ、用の為に用を勤め、真の為に真を励む。故に其言行心は常に神に向ひ、神と共にあり、所謂神の生宮にして天地経綸の主宰者たるの実を挙げ、生き乍ら天国に籍を置き、恰も黄金時代の天人の如く、神の意志其儘を地上の蒼生に宣伝し実行し、以て衆生一切を済度するをもつて唯一の務めとして居たのである。故にバラモン教ウラル教其他数多の教派の如く、自愛又は世間愛に堕して知らず識らずに神に背き、虚偽を真理と信じ、悪を善と誤解するが如き行動は取らなかつたのである。神より来れる愛及び善並に信真の光に浴し、惟神の儘に其実を示すが故に、麻柱の教と神から称へられたのである。自愛及び世間愛に堕落せる教は所謂外道である。外道とは天地惟神の大道に外れたる教を云ふ。これ皆邪神界に精霊を蹂躙され、知らず知らずに地獄界及び兇党界に堕落したものである。外道には九十五の種類があつて、其重なるものは、カビラ・マハールシといふ。このカビラ・マハールシは、即ち大黒主の事であり、三五教の真善美の言霊に追ひ捲られて自転倒島の要と湧出したる伯耆の国のマハールシ(大山)に八岐大蛇の霊と共に割拠し、六師外道と云つて外道の中にても最も勝れたる悪魔を引き率れ天下を攪乱し、遂に素盞嗚尊のために言向け和されたのである。六師外道とは、ブランナーカーシャバ、マスカリー・ガーシャリーブトラ、サンジャイーヴィ・ラチャーブトラ、アザタケー・シャカムバラ、カクダカー・トヤーヤナ、ニルケラントー・ヂニヤー・ヂブトラの六大外道である。此外道は古今東西の区別なく今日と雖も尚天下を横行濶歩し、暴威を逞しうして居るのである。 ブランナーカーシャバとは君臣、父子、夫婦、兄弟、朋友等の道を軽んじ、現界の一切を無視し、生存競争、優勝劣敗をもつて人生の本義となし、軽死重生の主義を盛に主張し、宇宙一切は総て空なり、無なり、人間の肉体は死滅するや否や煙の如く消え果て、死後の霊魂等は決して残るものでない。果して死後に霊魂ありとすれば、例へば唐辛子を焼いて灰となし、尚ほ其後にも唐辛子の辛味存するや、決して存在せざるべし。是を思へば人間死後の生活を論ずるは迂愚の骨頂なり、迷妄の極みなりと断案を下す唯物論者の如きものである。次に、 マスカリー・ガーシャリーブトラは、一切衆生の苦悩も歓楽も決して人間の行因に依るものではない。何れも自然に苦楽が来るものである。例へば茲に一つの種子を蒔くに、其種子は肥えた土の日当りよき所に蒔かれたのは、他に勝れて発達し、枚葉繁茂し、麗しき花を咲かせ、麗しき実を結び、人に愛せらるるに引き替へ、同じ種子でありながら、痩せた土地に蒔かれ、或は陰裏に蒔かれた時は十分の光線を受くる事能はず其発育も悪しく花も小さく、満足な実も結ばないやうなものである。然るに其種子に善悪は決してない。同じ木から取つた同じ種である。又其種には決して善の行ひも悪の行ひもない。唯蒔かれた所の場所即ち境遇によつて、或は歓喜に浴し、或は苦悩に浸るのである。故に人間は、蒔かれた所が悪ければ、何程気張つてもよき場所に蒔かれた種に勝つ事は出来ない。故に人間の苦楽には決して行因はないものだ、と主張する無因外道である。又是を自然外道とも云ふ。次に、 サンジャイーヴィ・ラチャーブトラと云ふのは、人間は決して修業なんかする必要がない。天地の草木を見ても春が来れば自然に花が咲き、秋が来れば自然に実が生り、冬が来れば自然に葉が散る如く、八万劫が来れば自然に人間の苦は尽きて道を得るとなすものである。要するに自暴自棄、惟神中毒の外道であつて、是を無因外道の一種となすのである。二十世紀の三五教には此の種の人が随分混入して居るやうである。次に、 アザタケー・シャカムバラ、此外道は現世に於て、何でも構はぬ、苦しみさへして置けば、きつと他生に於て、天国に生れ、無限の歓楽に浴し、百味の飲食を与へられ、栄耀栄華に平和の生活を永遠無限に送られるものとなし、人間として営むべき事業も為さず深山幽谷に身を潜め、火物断をしたり、穀食を避け、松葉を噛み、芋などを掘り、空気を吸ひ、寒中真裸、真裸足となりて寒さを耐へ、夏は蚊に刺されて所有苦しみをなし、其苦の報いを来世に得むとする所謂苦行外道である。此外道も亦今日は随分彼方此方に現はれて居る。さうして真理に暗き現在の人間はかかる苦行外道を指して真人となし、聖人と尊び神仏の如く尊敬するものである。斯かる苦行外道を尊敬する人間も亦、同気相求むるの理によつて知らず識らずに地獄道に籍を置いて居る小外道である。次に、 カクダカー・トヤーヤナ、この外道はバンロギズム(汎理論)、スピリチュアリスチック・バンセイズム(唯心的汎神論)だとか、バンフシギズム(汎心論)だとか、アーセイズム(無神論)だとか、ブルラリズム(多元論)だとか、モニズム(一元論)だとか或はソシアリズム(社会主義)アナーキズム(無政府主義)だとか、ニヒリズム(虚無主義)だとか、コンミュニズム(共産主義)だとか、種々雑多の利己的、形体的、自然的、世界的愛に対して意見を盛に主張し、無形の霊界に対して一瞥も呉れず、且霊界や神仏を無視しながらも、現界に於ても徹底する能はず、霊界に於ては等閑ながらも、或時は些しく霊界の存在を認めて見たり、或時は現界計りに執着したり、精神の帰着点を失ふたり、二途不摂の異見外道である。次に、 ニルケラントー・ヂニヤー・ヂブトラ、此外道は、人間の苦楽と云ふものは素から因縁が定つて居るものだ。例へば三碧の星はどうだとか、九紫の星はどうだとか、子の年に生れたからどうの、丑の年に生れたからどうだとか、身魂の因縁が好いとか悪いとか、宿命説に堕落した宿命外道である。斯る宿命外道は如何程神仏を信仰するとも、自分の定まつた運命を転換する事は出来ない。何事も運命と諦めて其道に殉ずるより外はない。オタマ杓子は鯰に似てゐるが、少し大きくなると手足が生へて蛙になつて了ふ。どうしても鯰になる事は出来ない。それ故因縁の悪いものが神を信じた所で誠を尽した所で決して立派なものになれさうな事はない。何も前世の因縁性来だと断定をくだす無明暗黒なる常見外道であるが、斯の如き外道は、何れも神或は仏以外の所見にして、各一派の学説を立て、科学に立脚したる霊魂研究でなければ駄目だとか、或は神仏の名を標榜する事を忌み嫌ひ、太霊道だとか、二灯園だとか、或は何々会だとか、勝手な名を附して霊界を研究せむとする所謂常見外道である。現代は此外道最も蔓延し神仏の名を称ふるよりも霊智学とか、神霊研究だとか、霊学研究会だとか云ふ科学的名称に隠るるを以て文明人の態度らしく装ひ、蟻の甘きに集ふが如く集まり来つて、雲の彼方の星を探らふとする如き外道である。斯の如きニルケラントー・ヂニヤー・ヂブトラは三五教の中からも折々発生したものである。何れも自尊主義の慢心から、斯る外道に知らず識らず堕落するのである。 序に十二因縁を略解して置く、人間には、 一、無明、アヸドヤー 二、行、サンスカーラ 三、識、ボヂニヤーナ 四、名色、ナーマルーバ 五、六入、サダーヤタナ 六、触、スバルシャ 七、愛、エータナー 八、愛、ツルシューナー 九、取、ウバーダーナ 十、有、バヷ 十一、生、ヂャーチ 十二、老死、ヂャラー・マラナ の十二因縁がある。 無明とは、過去一切の煩悩を云ひ、行とは過去煩悩の造作を云ひ、識とは現世母の体中に托する陰妄の意識を云ふ。名色の名とは心の四蘊であり、色とは形質の一蘊である。六入とは、母の体中にある中に於て六根を成ずるを云ふ。触とは三四才迄に外的の塵埃の根元に触るるを覚ゆる状態を云ふ。愛とは生れて五六才より十二三才迄の間に強く外部の塵埃を受けて、好悪の識別を起すを云ふ。愛とは十四五才より十八九才までの間に外塵を貪り愛する念慮を起すを云ふ。取とは二十才以後一層強く、外塵に執着の念を生ずるを云ふ。有とは、未来三有の果を招くべき種々の業因を造作し、積集するを云ふ。生とは未来六道又は八衢の中に生ずるを云ふ。老死とは未来愛生の身体、又遂に朽壊するを云ふ。この十二因縁はどうしても人間として避くべからざる事である。併し乍ら、此十二因縁の関門を通過して初めて人間は神の生涯に入り、永遠無窮の真の生命に入つて、天人的生活を送るべきものである。然るに総ての多くの人間は九十五種外道のために身心を曇らされ忽ち地獄道に進み入り、宇宙の大元霊たる神に背き、無限の苦を嘗むるに至るものが多い。故に神は、厳瑞二霊を地上に下し天国の福音を普く宣伝せしめ、一人も残らず天国の住民たらしめむと、聖霊を充して予言者に来らせ給ふたのである。如何に現世に於て聖人賢人、有徳者と称へらるる共、霊界の消息に通ぜず、神の恩恵を無みするものは、其心既に神に背けるが故に、到底天国の生涯を送る事は出来難いものである。約束なき救ひは決して求められないものである。故に神は前にシャキャームニ・タダーガタを下して霊界の消息を世人に示し給ひ、又ハリストスやマホメット其他の真人を予言者として地上に下し、万民を天国に救ふ約束を垂れさせられた。されど九十五種外道の跋扈甚だしく、神の約束を信ずるもの殆ど無きに至つた。それ故世は益々暗黒となり、餓鬼、畜生、修羅の巷となつて仕舞つた。茲に至仁至愛なる皇大神は、この惨状を救はむが為に、厳瑞二霊を地上に下し、万民に神約を垂れ給ふたのである。ああされど無明暗黒の中に沈める一切の衆生は救世の慈音に耳を傾くる者は少い。実に思うて見れば悲惨の極みである。ああ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・三・二四旧二・八於伯耆国皆生温泉浜屋加藤明子録)
230

(2681)
霊界物語 57_申_テルモン山の神館2 04 妖子 第四章妖子〔一四五四〕 館の家令オールスチンは、老齢衰弱の身を大勢の荒男に所構はず踏み倒され、ワックスの介抱に依りて再び息は吹き返したものの、苦しみに堪えず、吾館に舁つぎ込まれ、発熱甚だしく、日夜苦悶を続けて居た。 一方館に於ては小国別は仮死状態に陥り、囈言計り云うて居る。さうしてデビス、ケリナの両女は行衛は容易に分らず、又力と頼む三千彦の行衛も分らなくなり、小国姫は悲痛の淵に沈み、身をワナワナと慄はせ乍ら、世を果敢なみ、生たる心地はせなかつた。されど如何にもして一時なりとも夫の病を長引せ二人の娘に会はせたきものと、夫のみ力に日を送つて居た。館の中はオークス、ビルマの両人が万事切り廻して居る。受付のエルは牛に睾丸を潰されたきり、綿屋の奥の間で高枕をして苦しんで居る。小国姫はオークス、ビルマを居間に招き、種々と相談をかけた。二人は時節到来、ワックスの思惑を成就させ、甘い汁を吸はむものと胸を躍らせながら、素知らぬ顔して心配気に俯向いて居る。 小国姫『オークス、お前に折り入つて相談したい事がある。旦那様はあの通り何時お帰幽なさるか知れぬ御容態、又家令のオールスチンは重病で苦しんで居るなり、ワックスは旦那様や、オールスチンの病気平癒のために荒行に行くと云つて出たきり顔を見せないし、二人の娘は未だ帰つて来ず、若もの事があつたら、如何したら好からうか、お前も一つ考へて貰ひ度いものだがなア』 オークス『実にお気の毒な事が出来したもので厶いますワイ。お館計の難儀ではなく宮町一統の難儀で厶います。貴女はバラモン教の館を守護する役であり乍ら、素性の分らぬ三五教の魔法使を町民に内証で引き入れなさつたものですから、此様な惨い目に会はされたのです。これからは些と吾々の云ふ事も聞いて貰はなくてはなりませぬ。町中の噂によれば、あの三千彦と云ふ奴は、三五教きつての魔法使で、お館に最も大切な如意宝珠の玉を忍術をもつて奪ひ取り、お館に有るにあられぬ心配をかけて置き、進退維谷まる場合を考へ澄まし、バラモン教の宣伝使に化けて這入つて来よつたので厶います。夫故今迄家に厶つたデビス姫様迄お行方は分らぬ様になり、此町中は大切な御神具を残らず盗まれ、大変な大騒動で厶います。こんな事が町民に分らうものなら、夫こそ貴女の御身の大事、大きな顔して此お館には居られますまい。そつと早馬でハルナの都に報告でもしようものなら、旦那様は病気で亡くなられたとした所で、お前さまは逆磔刑にあはされるでせう。大変な事をして下さつた。私は貴女の境遇に御同情をすると共に、貴女の御処置を恨んで居ます。もし斯んな事が大黒主様のお耳に入らうものなら、吾々もどんな刑罰に会はされるかも知れませぬ。今後はちつとオークスの云ふ事も聞いて貰ひ度いものです』 小国姫『あの三千彦さまに限つてそんな悪党な方では有りませぬぞや、夫は何かの間違ひでせう。金剛不壊の如意宝珠を隠したのは決して三千彦さまぢやない、家令の悴のワックスに間違ひないのだ。あれが吾娘デビス姫を無理往生に娶らむとして種々とエキス、ヘルマンなどを使ひ企んだと云ふ事は明瞭り分つて居るのだよ。勿体ない、誠の宣伝使にそんな罪を被せるものぢやありませぬ』 オークス『奥様、夫が第一貴女のお考へ違ひです。ワックスさまは何を云うても家令の悴、このお館が立ち行かねば自分の家も立ち行かないのですから、よう考へて御覧なさい、そんな不利益の事をなさいますか。そこが三五教の魔法使の甘い所で……ワックスさまは人がよいから、塗りつけられたのですよ。奥の奥を考へて貰はねば実にワックスさまに気の毒で厶いますワ。よく考へて御覧なさいませ。三千彦と云ふ魔法使は、町民の鬨の声に驚かされて雲を霞と逃げ失せ、旦那様はどう贔屓目に見ても御養生は叶ひますまい。そして家令のオールスチンさまも御本復は難いこの場合、此お館のお力になる者は誰だと思召す。ワックスさまより外無いぢやありませぬか。貴女はワックスさまをお疑ひなさると、これ程人気の有るワックスさまの為に町民が承知致しませぬぞや。よく胸に手を当ててお考へにならないと、お館の一大事で厶います』 小国姫『ハテ合点のゆかぬ事だなア、ビルマ其方は何と思ふか』 ビルマ『ハイ私は町内の噂を調べて見ましたが、ワックスさまは本当に偉い人ですよ。三五教の魔法使が隠して置いた如意宝珠をも、甘く自分が罪を負ふと云うて吐き出させなさつたので厶います。真実の忠臣義士と云ふのは、あのワックスさまで厶います。あの宝が無かつたらお館は勿論、宮町一同が大黒主様から所刑に遇はねばならぬ所を助けて下さつたのだから、テルモン国の救世主だと云つて居ます。どうしてもデビス姫様の御養子になさつて此国を治めねば町民が承知しませぬ。私は別にワックスさまがお世継にならうとなるまいと利害関係はないのですから、ワックスさまの為に弁護は致しませぬ。中立地帯に身を置いて、自分の所信を包まず隠さず申上げます』 小国姫『町民迄がさう信じて居る以上は、どうも仕方がない。兎も角今日の場合、養子にするせぬは後の事として、一度ワックスさまに来て貰ひ度いものだなア』 オークス『それは結構で厶いますが、ワックスさまは神様の為め、お館の為、町民の為め、命がけの業をすると云うて出かけられましたから、お行衛が分らず、何時帰らるるとも見当が付きませぬ。就ては家事万端を処理する役員が無ければ不都合で厶いませう。家令はあの通り胸板を踏まれ、恢復の見込みは立ちませぬ、二人の姫様は行方が分らず、旦那様は御重病、誰か家令を新にお命じなさらなくては、一日も館の事務が執れますまい。私も門番位勤めて居つては大奥の御用は出来ませぬしなア』 小国姫『アアそんなら、順々に抜擢してお世話にならう。受付のエルを臨時家令となし、お前は受付になつて貰はう、さうすれば万事万端都合よく運ぶであらう』 オークス『成程それは順当で至極結構でせう。併し乍ら、エルさまの慌者、旦那様が、まだ命のある中から御帰幽になつたと云うて町中を触れ歩き、大勢を騒がし、お負に牛の尻に突き当り睾丸を踏み潰され、綿屋の離室に有らむ限りの苦しみをして居ります。さうして道端に繋いであるあれ程大きな牛が目に付かないやうな事では門番も出来ないと云うて、町中の笑はれ者になつて居りますよ。あんな慌者が家令にでもならうものなら、お館の威勢は申すに及ばず、神様の御威勢迄も落ちると云つて、町中の大反対で厶います。夫はおよしになつた方がお為で厶いませう』 小国姫『ハテ困つた事だなア。そんならワックスが帰つて来たら、暫し親父の代理を勤めさす事に致しませう。夫迄お前は臨時家令の役をやつて貰ひ度い』 オークス『私のやうな不都合な者は、到底臨時家令のやうな事は出来ませぬ。平にお断り申します、却てお館の不都合な事を仕出かすといけませぬから。総て臨時と云ふものは水臭い文字で、本気にお館の為に尽すと云ふ気が出て来ませぬワ』 ビルマ『一層の事、ドツと張り込んで、オークスさまを家令に任命なさつたらどうでせう、屹度それ丈の腕前は厶いますよ。貴女は奥にばかり厶るから外の事情は分りますまいが、私が証明致します。町民一同の希望はワックス様を御養子となし、オークスさまを家令と遊ばし、さうして○○を家扶にお命じになれば、お嬢様も帰られ、お妹御のケリナさまも無事帰られると云ふ噂で厶います。世間の噂と云ふものは余り馬鹿にはならぬもので厶いますよ。神様の為め、お館の為め、それが最善の方法と私は考へます』 小国姫『○○を家扶にせいとは誰の事だい、もつと明瞭りと云うて貰はなくては分らぬぢやないか』 ビルマ『ヘイ、到底申し上げた所で門番位が家扶には成れますまい。云はぬが花で厶いませう』 小国姫『ホホホホホ、ビルマ、自分を推薦して居るのだらう。お前も抜目の無い男だなア』 ビルマ『此頃の世の中は盲人計りで厶いますから、自分から自分の技能を発表しなくては、何時になつても金槌の川流れ、栄達の道はつきませぬ。正真正銘のネットプライスの技量を放り出して、それをお認めになる御器量があればよし、無ければ時節到らぬと覚悟するより外は厶いませぬ。私を御採用なければオークスだつて決して家令の職に置きませぬ。此男も今度の事件については、チと弱点……いや弱点は無いのです。貴女がそつと魔法使を引き入れなさつたのが弱点ですから、吾々二人が揉み消し運動をやつたので、町内の騒ぎがやつと治まつたので厶いますからなア』 小国姫『そんなら仕方がありませぬ。お前を臨時家扶に命じませう』 ビルマ『モシ奥様、臨時家扶と云ふのは釜焚きとは違ひますよ。家令の次の職、重職で厶いますよ。念の為め一寸申上げて置きます』 小国姫『門番が家扶に出世したら結構ぢやないか。此館は大黒主様の命令で家令一人と定つて居るが、家扶を置く事は出来ないのだから、気の毒乍らお前は門番頭で辛抱して下さい』 かかる所へ一人の看護婦が慌しく入り来り、 『奥様早く来て下さいませ、旦那様は御臨終と見えまして、大変御様子が変つて参りました』 と心配さうに云ふ。小国姫は胸を撫でながら慌しく主人の病室に駆けり行く。オークスはビルマと共に小国姫の後に従ひ病室に入る。小国別は俄にムクムクと起き上り、痩こけた顔の窪んだ目を光らせ乍ら、 小国別『女房お前は何処に行つて居た。最前から大変待ち兼ねて居たぞよ、さうして二人の娘はまだ帰つて来ぬかノウ』 小国姫『ハイもう軈て帰るで厶いませう。まだ何とも便りが厶いませぬ』 小国別『ハテ困つた事だなア、此世ではもう娘に遇ふ事が出来んのかなア。エエ残念ぢや』 小国姫『旦那様、何卒気を落さないやうにして下さい、屹度神様のお蔭で会はして下さるでせう』 小国別『三千彦の宣伝使様や家令は何処へ行つたかなア、早く会ひたいものだ』 小国姫『三千彦様は俄にお行衛が分らぬやうになりました。屹度娘二人を迎ひに行つて下さつたのでせう』 小国別『ウン夫れは御苦労だなア。屹度会はして下さるだらう。家令のオールスチンはまだ来ぬか、何をして居るのだらう』 小国姫『ハイ、一寸用が厶いますので、つひ遅れて居ます、やがて参るで厶いませう』 オークス『モシ旦那様、家令のオールスチンは町民に胸板を踏み折られ、九死一生の苦しみを受け自館に帰つて居られます。そして町中は三五教の魔法使をお館へお入れなさつたと云うて、鼎の沸くやうな騒ぎで厶います。そこを私等二人が鎮定致し、今奥様と御相談の上、私がたつた今家令となりましたから、何分宜敷くお願ひ申します。今後は粉骨砕身、十二分の成績を挙げてお目にかけますから御安心下さいませ』 小国別『お前は門番のオークスぢやないか。何程人望があると云つても、さう一足飛びに門番が家令になると云ふ訳にはゆくまい。奥、お前はそんな事を許したのか』 小国姫『ハイ、……イイエ』 とモジモジして居る。 小国別『家令を任命するには何うしてもオールスチンの承諾を得、彼が辞表を出した上でハルナの都に伺ひを立て、其上でなくてはならぬ。さう勝手に定める訳にはいけぬ。この館は特別だから何事も大黒主様に伺はねばならぬ。よもや真実ではあるまい。奥、お前は当座の冗談を云ふたのであらう』 小国姫はモジモジしながら幽かな声で『ハイ』と一言、俯向いて居る。 オークス『苟くも館の主人の奥様とも在らう方が、冗談を仰有らう筈はありますまい。奥様のお言葉は金鉄よりも重いものと信じて居ります。何と仰有つてもオークスは当家の家令で厶います。万事万端館の事務を取調べ、ハルナの都に報告を致さねばなりませぬ。何処迄も此オークスを排斥なさるならば、三五教の魔法使をお館へお入れなさつた事を大黒主様に注進致しませうか、それでも苦しうは厶いませぬか』 と命旦夕に迫つて居るのにつけ込んで無理やりに頑張つて居る極悪無道の曲者である。 小国別『これ奥、私はお前の見る通り、今度はどうも本復せないやうだ。何うか一時も早く三千彦さまを尋ね出し、此館のお力となつて頂け。あの御神力をもつて守つて頂けば、如何に大黒主の神、数万の軍勢をもつて攻め寄せ来るとも恐るる事は要らぬ、かやうな悪人を決して吾死後用ひてはならぬ。今日から門番を免職して呉れ。エエ穢らはしい』 と衰弱の身心に怒気を含み、呶鳴り立てた。それつきり又もやグタリと弱り、忽ち昏睡状態に陥つた。 小国姫は、身も世もあらぬ悲しみに浸されながら、故意とに涙を隠し容を改め、両人に向ひ、 『オークス、ビルマの両人、其方は御主人様の命令だから、気の毒乍ら只今限り此館を帰つて下さい。仮令どうならうとも其方のやうな傲慢無礼な僕に厄介にならうとは思はないから、……モシ旦那様何卒御安心下さいませ』 と耳に口を寄せて声を限りに涙交りに述べ立てた。小国別は幽かにこの声が耳に入つたと見え、力無げにニタリと笑ふ。オークスは横柄面を曝し乍ら威猛高になり、 『モシ奥様、旦那様は大病に悩み耄けて居らつしやいます。決して仰有る事は真ぢやありませぬ。熱に浮されたお言葉、左様な事を本当になさるやうでは此お館は大騒動が起りますよ。今日此お館を双肩に担うて立つものは、ワックスや吾々二人の外に誰がありませうか。克くお考へなされませ。門番は家令になれないと仰有いましたが、何と云ふ階級的の考へに捉はれて居らつしやるのですか。昔常世城の門番は、直に抜擢されて右守の司になつたぢやありませぬか。それも失敗の結果でせう。吾々はお館の危急を救つた殊勲者です。若しお気に入らねば仕方はありませぬ、吾々は吾々としての一つの考へが厶います、後で後悔なさいますなよ。町民一般が大切な宝を盗まれたのも、みんな三千彦の魔法使によつて大勢の者が難儀をして居るので厶います。云はば三千彦は町民の敵で厶います。其敵を何時迄もお構ひなさるのならば、矢張貴方方御夫婦は国敵と認めます。大黒主のお開きなされた此霊場を、みすみす三五教の奴に蹂躙せられるとは、町民一般の忍び難い所でせう。私を家令にお使ひなさらぬなら、たつては頼みませぬ。此始末を町民に報告致します。さうすれば町民は、貴方方をバラモン教の仇、神様の敵として押し寄せて参ります。お覚悟なさいませ』 と云ひ放ち、勢鋭く表へ駆け出す。睾丸を牛に踏み潰され、綿屋の離室に養生して居たエルは漸う二三人の子供に送られて玄関に帰つて来た。オークス、ビルマの二人は玄関にてふと出会うた。エルは二人の相好の唯事ならぬに不審を起し、 エル『オイ、両人、血相変へて何処へ行くのだ。是には何か様子があるであらう、まづ俺に聞かして呉れ。何とか仲裁してやるから』 オークス、ビルマの両人は脅迫的に此処迄来たのだが、うつかり町民に妙な事を喋つて、後の取纒めに困つてはならぬと思つて居た矢先、エルに止められたので、これ幸と二人は受付にドツカと坐し、密々話に耽つて居る。 (大正一二・三・二四旧二・八於皆生温泉浜屋加藤明子録)
231

(2689)
霊界物語 57_申_テルモン山の神館2 12 三狂 第一二章三狂〔一四六二〕 三千彦はシャルと共に小声にて宣伝歌を歌ひ乍ら、八衢街道とは知らず現界の道路を通過する気分にて進み行く。八衢の関所には例の如く赤面、白面の二人の守衛が儼然と控へて居る。見れば一人の男が赤面の守衛に何事か調べられて居た。 赤『その方の姓名は何と申すか』 男『ハイ、私は鰐口曲冬と申します』 赤『其方は何か信仰を有つてゐるか』 曲冬『ハイ、別にこれと云ふ信仰も厶いませぬが、神儒仏三教を少し許り噛つて居ります』 赤『其中で何教が一番お前の心に適したか、否徹底して居たと考へたか』 曲冬『ハイ、初めは一生懸命に仏教を研究致しました。さうした処が何処に一つ拠る所がないので止めまして厶います。要するに仏教は百合根の様なもので、一枚々々皮を剥いて奥深く進みますと、何にも無くなつて了ひます、所謂仏教は無だと思ひます。能書計り沢山並べ立て、まるで薬屋の広告見た様なものですからな。売薬の広告ならば「此薬は腹痛とか、疝気とか、肺病に用ゆべし。又日に何回服用とか、湯で飲めとか、水にて飲めとか、食前がよいとか、食後がよいとか、大人ならば何粒、小人ならば何粒、何才以下は何粒」と御叮嚀に服用書が附いて居ますが、仏教の経典は只観音を念じたら悪事災難を逃れるとか、阿弥陀を念じたら極楽にやると書いてあるのみで、八万四千の経巻も何処にも其用法が示してないので駄目だと思ひました』 赤『お前は霊界の消息を洩らしたる仏教に対し尊敬帰依の心を捨て、なまじひに研究等と申してかかるから、何にも掴めないのだ。霊界の幽遠微妙なる真理が物質界の法則を基礎として幾万年研究するとも解決のつく道理がない。暫らく理智を捨て、意志を専らとして研究すれば神の愛、仏の善、及び信と真との光明がさして来るのだ。仏教がつまらない等と感ずるのは、所謂お前の精神がつまらないからだ。仏の清きお姿がお前の曇つた鏡に映らないからだ』 曲冬『さう承はれば、さうかも知れませぬが、如何も分り難う厶います』 赤『人間の分際として仏の御精神を理解しようとするのが間違ひだ。仏は慈悲其ものだ、至仁至愛の意味が分れば一切の経文が分つたのだ』 曲冬『ア、さうで厶いましたか。それは、偉い考へ違ひをして居りました。之から一つ研究をやつて見ませう』 赤『駄目だ。二つ目には研究々々と口癖の様に申すが、お前の云ふ研究は犬に炙だ。ワンワン吠猛るばかりが能だ。止めたら宜からう。左様な心理状態では到底仏の御心を悟る事は出来ない。それから次は何を信仰したのだ』 曲冬『ハイ、別に信仰は致しませぬが、ヤハリ聖書を研究致しました』 赤『旧約か、新約か』 曲冬『勿論旧約で厶います』 赤『何か得る処があつたか』 曲冬『ハイ、売る処も買う所も厶いませぬ。これもヤツパリ私の性に合ひませぬので五里霧中に逍遙ふ所に、或人の勧めによつて三五教に入つて、可なり真面目に研究して見た所、どうも変性女子の言行が気に喰はないので、弊履を棄つる如く脱会し、今は懺悔生活に入つて居ります』 赤『その方は霊界物語の筆写迄やつたぢやないか。直接に教示を受け乍ら、分らぬとは扨ても困つた盲だな。矢張研究的態度を以てかかつて居るからだ。結構な神の教を筆写し乍ら、ホンの機械に使はれたやうなものだ。さうして幾分か信ずる処があつたのか』 曲冬『ハイ、女子の方は幾分か信じて居りましたが、然しこれは宜い加減なペテンだと考へて居りました。それよりも変性男子の神諭に重きを置いて居つた所、其原書を見て余り文章の拙劣なのに愛想をつかし、信仰が次第に剥げて了ひました』 赤『馬鹿だな。神の教は文章の巧拙によるものでないぞ。文章なんかは枝葉の問題だ、その言葉の中に包含する密意を味ふのだ。目はあれども節穴同然、耳はあれども木耳同然、舌はあれども数の子同然、鼻はあれども節瘤同然、そんな事で三五教が善いの、悪いの、男子がどうの、女子がどうのと云ふ資格があるか。よくも慢心したものだのう』 曲冬『別に慢心はして居りませぬ。世界の人間に宣伝しようと思へば信仰も信仰ですが充分研究を遂げ、これなら社会に施して差支ないと云ふ所まで調べ上げねば社会に害毒を流しますからな。云はば社会の為に忠実なる研究ですよ』 赤『お前は未だ我執我見がとれぬからいけない。異見外道、自然外道、断見外道と云ふものだ。そんな態度では何処迄も神様は真理を悟らして下さらぬぞ。神様は愚なるもの、弱きもの、小さきものをして誠の道を諭させ玉ふのだ。決して研究的態度を採る様な慢心者には、密意はお示しなさらぬ。お前は大学を卒業して一廉学者の積りで居るが、其学問は八衢や地獄では一文の価値もない。いや却て妨げとなり苦悩の因となるものだ。お前の両親も困つた事をしたものだな』 曲冬『お前は門番の癖に文士に向つて偉さうに云ひますが、日進月歩文明の世の中に学を排斥するとは以ての外ぢやありませぬか。国民が残らず無学者であつたなら皆外の文明国に奪られて了ふぢやありませぬか。人文の発達を図り、国威の宣揚を企図する為には、どうしても大学程度の学問がなければ駄目ですよ。お前等は僅か小学を卒業した位だから世間の事に徹底して居ない。それだからポリス代用の門衛をして居るのだ。到底拙者の論説に楯突く事は出来ますまい。何科あつて調べらるるか知らぬが、もつと確りした分る方を呼んで来て下さい。知識の階段が違うてるからお前さまには分りますまい』 赤『馬鹿を云ふな、此処は霊界の八衢だ。博士も学士も皆出て来る所だ。無学でどうして此門番が勤まるか。お前等は自然界の下らぬ学説に心身を蕩かし、虚偽を以て真理となし優勝劣敗弱肉強食の制度を以て最善の方法と考へてる亡者だから到底真理の蘊奥は分らないのだ。お前のやうなものが霊界へ来ると訳の分らぬ理窟を云つて精霊を汚すから、ここで現界で研究して来た下らぬ学術を皆剥奪してやらう』 曲冬『コレ赤さま、お前は発狂してるのか、但は酒に酔うて居るのかい。ここを霊界の八衢だ等と、それは何を云ふのかい。霊界や八衢や地獄があつて堪りますかい、人間は子孫を残して死ねば、それ迄のものだ。チツト哲学的知識を養うて置きなさい。社会の落伍者となつて遂に門番も勤まらなくなりますよ』 赤『門番が、それ程、其方は賤しいと思ふのか。便所の掃除や塵捨場の掃除は如何だ。それの方が矢張尊いのか』 曲冬『さうですとも、大慈大悲の心を以て人の嫌がる事を喜んでするのが、人間の人格を向上する所以です。便所の掃除する者や塵の掃除する者が無ければ、世の中は尿糞塵の泥濘混濁世界となるぢやありませぬか。それで私等は伊吹戸主の神様の御用をして居るのだ。汚いものを美しうする位神聖な仕事はありますまい。私は賤しい仕事とも汚い商売とも思つて居りませぬ』 赤『ア、さうか、それではお前の最も愛する処へやつてやらう。地獄には塵捨場もあれば堆糞の塚も沢山にある。娑婆の亡者がやつて来て腐肉に蠅が集る様に喜んで嗅いで居る。現世にある時の所主の愛によつて身魂相応の処に行つたが宜からう。夜もなく冬もなき天国に於て、総ての神の御用に仕へまつり無限の歓喜に浴するよりも、其方は臭気紛々たる地獄道へ行くのが得心だらう。サア遠慮は要らぬ、トツトと行つたが宜からうぞ』 曲冬『はてな、さうすると此処は矢張霊界ですかな』 赤『定つた事だ。霊界か現界か分らぬ様な亡者が如何なるものか。それだから心の盲と云ふのだ』 曲冬『然らばどうか天国へやつて頂き度いものです』 赤『マアここで或一定の時間を経なくては、お前の様な汚れた魂は直に天国にやる事は出来ない。先づ外部的要素をスツカリ取らなくてはならぬ。現世に於て心にもない事を云つたり、阿諛を使つたり、体を窶したり、種々とやつて来た其外念をスツカリ取り外し、第二の内部状態に入り、内的生涯の関門を越えるのだ。内的とは意志想念だ。果してその意志が善であり真であらば天国へ上る事が出来るであらう。併し乍ら内的状態になつてからエンゼルの教を聞き、其教が耳に這入る様ならば天国へ行く資格が具備してるなり、如何しても耳に這入らねば地獄行きだ。之を第三状態と云つて精霊の去就を決する時だ』 曲冬『ヘー、随分難いものですな。矢張天国も地獄もあるものですかな』 斯く話す所へ高姫は皺嗄声を張り上げ乍ら、 高姫『オーイ、三千彦、シャル、待つた待つた。云ひ度い事がある』 と天塩昆布の様になつた帯を引摺り乍ら走り来り、 高姫『こら、シャル、恩知らず奴、妾が此三千彦の極道に引倒され、苦しんでゐる間に悪口をついて逃げて来たぢやないか。コレコレお役人さま、此奴は悪党者で厶います。義理天上が直接成敗する処なれど神界の御用が忙しいから、お前さまに任すから厳しく膏をとつてやつて下さいや』 赤『ヤ、お前は高姫ぢやないか。霊界へ来て迄噪やいで居るのか。モウいい加減に外部的状態から離れたら如何だ。一年にもなるのに何と渋太い奴だな』 高姫『ヘン、よう仰有りますワイ。一年にならうと二年にならうとお構ひ御免だ。いつやらも杢助さまを隠しやがつて、量見せぬのだが何を云つても大慈大悲の大弥勒さまの生宮だから、大目に見て居るのだ。グヅグヅ申すと此生宮が承知致さんぞや』 赤『白さま、此婆アさまは、邪魔になつて仕方がないから何処かへ突き出して下さい』 高姫『ヘン、お邪魔になりますかな。そりや、さうでせう。誠の神の言葉は悪人の耳には、きつう応へませう。お気の毒様乍ら此生宮は世界万民救済の為、チツトお耳が痛うても云ふ丈け云はして貰ひませう。弥勒様の因縁を知つて居ますか、一厘の仕組が分りますか、エー、よもや解りますまい。ヘン、一厘の仕組も分らぬ癖に偉さうに云ふものぢやないわ』 赤『白さま、早く何処かへやつて下さい』 白『コレコレ高姫さま、ここは八衢だからお前は早く何処かへ行つて下さい。職務の邪魔になりますからな』 高姫『コウリヤ白狐、お前は赤狐の云ふ事を聞いて此日の出神を放出さうとするのか。ハテ悪い量見だぞえ。よう考へて御覧なさい。天地の間は何一つ弥勒様のお構ひなさらぬ処はないぞえ。お土とお水とお火の御恩を知つてますか。その本を掴んだ底津岩根の大弥勒さまを何と心得て厶る。扨ても扨ても盲程困つた者は無いワイ。ヤ最前から怪体な男が立つて居ると思つたが、お前はアブナイ教の菊石彦だな。先程は大きに憚りさま、ヨー突き倒して下さつた。コレコレ赤に白、日の出神が吩咐ける。此菊石彦は此生宮を引倒した悪人だから一つきつい制敗に遭はしなさい。屹度申付けて置きますぞや』 白の守衛は止むを得ず、棕櫚箒を以てシャル、高姫の両人に向つて掃出した。二人は驚いて雲を霞と南を指して逃げて行く。 三千彦『モシ、門番様、ここは実際の霊界で厶いますか』 赤『ハイ、さうです。貴方はアンブラック川へ悪者に縛られ投げ込まれなさつた一刹那、気絶なさつた為、精霊が此処へ遊行して来たのですよ。神の化身のスマートと云ふ義犬が矢場に川に跳び込み、貴方の死骸を啣へて堤へ引上げ、縛を解いて今一生懸命に貴方の肉体に対し介抱をして居ります。軈てスマートが迎へに来るでせうから一緒にお帰りなさい。まだ此処に来る時ではありませぬ。そしてテルモン山に悪者が跳梁つて居ますから充分注意して臨まねばなりますまい』 三千彦『さう承らば幽かに記憶に浮んで来ます。矢張私は溺死したのですかいな。霊界と云ふ所は現界と少しも違はない所ですな。一つ不思議なのは、あの高姫さまは命がなくなつたと聞いて居りましたのに随分えらい脱線振り、あの方も矢張霊界に居られるのですかな』 赤『まだ現界に三十年許り生命が残つて居りますが余り現界で邪魔をするので、時置師神様がお出になり、伊吹戸主の大神にお願ひ遊ばして、三年が間中有界に放つてあるので厶います。三年すれば屹度外の肉体に憑つて再び現界で活動するでせう。今の精神で現界に行かれちや、やりきれませぬから、あと二年の間に充分の修業をさして現界に還す積りです』 三千彦『成程、何から何まで、神様のなさる事はよく行き渡つたものですな。併し乍ら三年の後には高姫の肉体は最早駄目でせう』 赤『三年の後に生命尽きて霊界に来る肉体がありますから、其肉体に高姫の精霊を宿らせ、残り三十年を現界で活動させる手筈となつて居ります』 三千彦『ア、さうですか。三年先になれば誰かの肉体に憑つて脱線的布教をやるのですな、困つたものですな』 赤『もう已に一年を経過したのだから、後二年ですよ。あの我執我見を此二年の間に何とか改良せねばならぬのですから、霊界に於ても大変手古摺つて居ます。今は岩山の麓に小さき家を建てて一人暮しをして居ますが、マア一人で暮して居れば余り害がないから大神様も大目に見て厶るのですよ。エンゼルが行つても減らず口計りたたいて、受付けぬから困つたものです。人間の精霊も、あれ丈け我執に固まつて了つては仕方の無いものですワイ』 斯く話す時しも南の方より宙を跳んで走り来る一頭の猛犬、『ウーウー、ウワツウワツ』と二声三声高く叫んだ。此声にハツと気がつき四辺を見れば今迄の八衢の光景は影もなく消え失せ、アンブラック川の堤の青芝の上に横たはつて居た。側には猛犬スマートが行儀よく坐つて嬉しげに三千彦の顔を眺め尾を掉つて居る。テルモン山の方を眺むれば黒煙濛々として立ち上り黒雲の如く空を封じて居る。月は黒煙の間に隠顕出没しつつ足早に走る如く見えて居る。 (大正一二・三・二五旧二・九於皆生温泉浜屋北村隆光録)
232

(2696)
霊界物語 57_申_テルモン山の神館2 19 抱月 第一九章抱月〔一四六九〕 求道居士は月夜の庭園をブラリブラリとケリナ姫に導かれ逍遥した。ケリナ姫は遥に西南方を指し、 ケリナ姫『求道さま遥向ふの方に霞の如く、鏡の如く白く光つて居る物が見えませう。あれはテルモン湖水と申してアンブラック川の水の落ち込む東西百里、南北二百里と称へらるる大湖水で厶います。深さは竜宮城迄届いて居ると昔から申しますが、どうかあの湖水の様に広く、深く、清き者となり度いもので厶いますなア。それに月の影が水面に浮んだ時には、得も云はれぬ絶景で厶います。常磐堅磐のパインの老木は湖水の周囲に環の如く取り巻き、白砂青松の得も云はれぬ風景で厶います。一度貴方が御全快遊ばしたら御案内申上たいもので厶いますわ』 求道居士『ハイ有難う厶います。嘸景色のよい事で厶いませうなア』 ケリナ姫『求道様、貴方は妾を永遠に愛して下さるでせうなア』 求道居士『これは又不思議な事を承はります。貴女に限らず、天下万民は申すに及ばず、草の片葉に至る迄神様の愛を取りつぐ私は比丘で厶いますから、力限り愛善の徳を施したいと願つて居ります』 ケリナ姫『貴方は広い世界の中で特別に愛を注ぐものが一人厶いませう』 求道居士『神の愛は平等愛です、つまり博愛ですから愛に依怙贔屓は厶いませぬ。老若男女禽獣虫魚に至る迄力一杯愛する考へで厶います。愛に偏頗があれば愛自体は既に不完全のもので厶いますからなア』 ケリナ姫『ハイ、それは分つて居ります。併し乍ら貴方は、ラブイズベストを何とお心得で厶いますか』 求道居士『今迄のバラモン軍のカーネルならば盛んにラブイズベストを唱へました。併し御覧の通り円頂緇衣の修験者となり、忍辱の衣を身につけた上からは、ラブなどは夢にも思つた事は厶いませぬ』 ケリナ姫『思ひきやラブせし人は隼の 羽ばたき強しパインの林に。 常磐木の松の心のさきくあれと 祈りし君を恨めしくぞ思ふ』 求道居士『皇神の道を畏み進む身は 如何で女に心うつさむ』 ケリナ姫『求道様、どうしても妾の願は聞いて下さいませぬか。貴方は三千彦様とは違つて宣伝使では厶いますまい。又大切な使命を帯びて征途に上らるる御身でもありますまいに、この憐な女を見殺しに遊ばす御所存で厶いますか。貴方のお考へ一つで妾は天国に遊び、又は地獄の底に陥るので厶います。可憐な乙女を地獄に堕しても比丘のお役目が勤まりますか、それから承はりたう厶います。妾のラブは九寸五分式、岩をも射貫く大決心で厶います』 求道居士『アハハハハハ姫様冗談云つてはいけませぬよ。好い加減に揶揄つて置いて下さいませ』 ケリナ姫『動くこそ人の赤心動かずと 云ひて誇らふ人は石木か と云ふ歌が厶いませう、夫を何と考へなさいますか。人間の身体はよもや石木では厶いますまい。愛情の炎が心中に燃えて居らねば衆生済度も出来ますまい。理論のみに走つて冷やかな態度のみを保つのが決して貴方の御本心では厶いますまい』 求道居士『アア、迷惑な事が出来たものだなア。又一つ煩悶の種が殖へて来たワイ』 ケリナ姫『卑ない愚な女にラブされて嘸御迷惑で厶いませう。貴方に愛の無いのを妾はたつてとは申しませぬ』 求道居士『姫様さう悪取をして貰つては求道も本当に困ります。貴方のやうな才媛をどうして嫌ひませうか。私だつて未だ年若い有情の男子で厶いますよ。併し乍ら一旦神様にお任せした身で厶いますから、さう勝手に恋愛味を吸収する訳には参りますまい』 ケリナ姫『モシ求道様、貴方はまだ或物に捉はれて居られますなア。それでは解脱なされたとは申されますまい。況て比丘は宣伝使ではなく、半俗半聖の御身の上で厶いませぬか。神様のお道は総て解放的では厶いませぬか。何物にも捉へらるる事なく、坦々たる大道を自由自在に進み得るのが仁慈無限の神様のお道でせう。情を知らぬは決して男子とは申されますまい』 求道居士『さう短兵急に大手搦手から追撃されてはこの円坊主も逃げ道が厶いませぬワイ、今日は何卒大目に見て許して下さいませ』 ケリナ姫『ホホホホ、貴方は比較的卑怯なお方で厶いますなア。そんな事でどうして衆生済度が出来ますか。貴方は平和の女神を一人堕落さす考へですか。比丘と云ふ雅号を取り除けば普通の人間ぢや厶いませぬか。大神様は変化の術を用ひて衆生を済度遊ばすでせう、貴方も暫く観自在天の境地になつて憐れな女を救ふお考へは厶いませぬか。女に関係して行力が落ちるなぞと頑迷固陋の思想に、失礼ながら囚はれてお出なさるのでは厶いますまいか』 求道居士『何分私の両親が一夜の間に粗製濫造してくれた代物で厶いますから、今時の新しい婦人方のお考へは、容易に頭に滲みませぬ。実に時代後れの骨董品で厶います。何れ徴古館に陳列される代物ですからなア、アハハハハ』 ケリナ姫『エエ辛気臭い、ジレツたい、何と仰有つても妾は初心を貫徹せなくては現代婦人に対しても妾の顔が立ちませぬ。婦人の面貌に泥を塗つては済みませぬ。妾が貴方に擯斥せられたのは決して妾一人ではございませぬ、現代婦人の代表的侮辱を受けたやうなもので厶いますから、そのお覚悟で居て下さい』 と自棄気味になり、猛烈な気焔を吐きかけた。 求道居士『アア夢では無からうかなア。バラモン軍に居つた時には、干瓢に目鼻をつけたやうな女にさへ嫌はれたものだが、修験者の身になつて女を断念したと思へば、生れてから無いやうな、婦人の方からラブされるとは、世の中も変つたものだ、否私の境遇も地異天変が起つたやうなものだ。エエ仕方がない、仮令神罰を蒙つて根の国底の国へ堕ちるとも貴方の熱愛に酬いませう』 ケリナ姫『求道様、決して根底の国へは妾が堕しませぬ。夜なく冬なき天国の楽しみを此世乍らに楽しみ、大神の御用に夫婦和合して仕へませう、御安心下さいませ。夫について男の心と秋の空とか云ひますから、此処で一つ誓つて下さいませ』 求道居士『然らば大空に澄み渡る麗しき月に向つて誓ひませう』 ケリナ姫『月には盈つると虧くるの変化が厶います。途中に変られては困りますから、何卒この庭先の千引岩に誓つて下さいませ』 求道居士『千代八千代千引の岩の動きなく 君を愛でむと誓ふ今日かな』 ケリナ姫『千引岩押せども引けども動きなき 吾背の君と千代を契らむ』 と歌ひ終り、求道の手を固く握り二つ三つ上下左右に強く揺つた。求道も亦姫の手を取り、頬と頬とをピタリと合し、千代の固めとした。暫く両人はパインの蔭に直立し手を握り合つて無言の儘ハートに浪を打たせて居る。ヘルは退屈紛れに月を眺めながらブラリブラリと此場に現はれ来り、 ヘル『イヤ、御両所様、お祝ひ申します』 ケリナ姫『ヤア貴方はヘルさまで厶いましたか。月の景色がよいので求道様とブラついて居ましたのですよ』 ヘル『何卒毎晩月夜で厶いますからお楽しみ遊ばしませ。私は気を利かして控へて居ましたのですよ、アハハハハ』 求道居士『…………』 ケリナ姫『ホホホホ、お月様が可笑しさうにニコニコと笑つてゐらつしやいますわ』 ヘル『貴女も嬉しさうに笑つてゐらつしやいましたね』 (大正一二・三・二六旧二・一〇於皆生温泉浜屋加藤明子録)
233

(2699)
霊界物語 57_申_テルモン山の神館2 22 天葬 第二二章天葬〔一四七二〕 エルは先頭に立ちワックスの家に駆けつけた。オールスチンのコルブスはソファーの上に静かに眠つて居る。其傍にワックスは田螺のやうな目を剥き口あんぐりさせ乍ら、天井の棧を睨みつけたやうなスタイルで、手を畳につき、足を投げ出して中腰に倒れて居る。そして目玉ばかりクリクリと回転さして居た。其の嫌らしさ、到底化物とより見えなかつた。日はソロソロ暮れかかる。何ともなしに嫌らしさが四辺から襲うて来る。数多の欲惚けの連中は直ちに奥の間にドカドカと先を争うて押入り、ソファーの下を見れば一文も残つて居ない……こりや大方倉の中だらう……と鍵を探し出し倉の中に押入つて、其処辺の什器を引繰覆し、金の所在を探して居る。 エルはワックスの前に丁寧に両手をつき、 エル『もし、ワックス様、存じもよらぬ、お父様にはお気の毒な事が出来まして、嘸御心配で厶いませう。併し乍ら斯うして置く訳にも行きませぬので、此エルは直様町内へ報告致し、此通り大勢の者を連れて参りました。何卒安心下さいませ。それに就いてお父上様が生前に貯へ置かれた金銀のお宝、町民一般に遺物の為、競争的に取らせるのが此町内の習慣で厶いますから、それは御異存厶いますまいな。当家の財産は全部オールスチンの物、其所有主が帰幽された以上は、これは公有物で厶いますから、町民の自由に任せ什器一切を持ち去る事にするでせうから、そのお考へをして居なさるが宜しからう。其代り葬式の費用は諸道具を売払つて其一部で当てませう。お前も一つ働いて財産を残して置くが宜からう。何故お前は生前財産の一部分を譲つて貰つて置かないのです。本当に智慧のない事でしたね』 ワックスは漸く口を開き、残念さうに白眼勝の目玉から涙を垂らし乍ら、 ワックス『アーア、おい、エル、残念な事をしたワイ。一歩帰るが遅かつたので到頭財産を譲り受ける事が出来なかつた。そこへ化物が出て来やがつたので腰を抜かし身動きのならぬ処に、オークス、ビルマの奴、大トランクに金銀を詰め込みエチエチと逃げ出しよつた。まだ遠くは行くまいから誰か行つて彼奴を取ツ捉まへて分配をし、其中から三千両ばかり俺に返して呉れまいかな』 エル『ソリヤ、もう仕方が無いぢやないか。先取権があるのだからな』 ワックス『エー残念な事をした。此怨みを如何しても晴らさにやおかぬのだ』 エル『男らしくもない。そんな執着心を持つな。それよりも早く腰を上げて神館に参り親の帰幽を報告し、厚く葬る手続きをした上、御養子になつたら如何だ』 ワックス『三五教の魔法使が滅びぬ間は駄目だ。何とかして彼奴を平げる工夫はあるまいかな』 エル『あらいでかい。何も彼も俺がスツカリ呑み込んで居るのだ』 と利口らしく云つて居る。そこへ沢山の爺、婆が水鼻汁を垂らし乍らやつて来て、目を擦り手鼻汁をかみつつ、 一同(泣声)『ワーンワーンワーンワーン、オーンオーンオーンオーン、これワックスさま。確りしなされや。悲しい事ぢやないかいな。ワーンワーンワーン、オーンオーンオーン』 と義理一遍の作り泣きを始め出した。家の外にも内にも目に唾をつけて義理泣きが始まつた。此処の習慣として何程憎らしい敵が死んでも、義理泣きをせなくば町外れをされる規則がある。倉の中の財産に目をつけた連中も各自に自分の名札を記け終り、ヤツト安心してワックスの前に来り、 一同(泣声)『ワーンワーンワーンワーンオーンオーンオーンオーンワーンワーンワーンウーンウーンウーンウーン、ワックスさま、誠にお気の毒でござます。もう諦めなさいませ、私も諦めます。沢山な遺物を頂戴して有難涙が出ます。ワーンワーンワーンワーンオーンオーンオーンオーン』 暫らくすると町内の葬式係がやつて来た。さうして比丘が鈴を恭しく左手に持ち右の手に数珠を巻き乍ら、コルブスの前に端坐し、怪しき経文を唱へ初めた。 比丘『チーン、チンチンチン、諸行無常、是生滅法、生滅々已、寂滅為楽、南無波羅門尊天子、大自在天子、大国彦命、帰妙頂来、霊宝加持。惟るに現世に生存する事、八十有余年、その間に於てテルモン山の神館に仕へ、家令の職となり上り、館の会計は云ふに及ばず、一切の事務を処理し、其功空しからずと雖、元来貪、瞋、痴の罪悪深きを以つて、バラモン天より賜りし一子ワックスは無頼の悪漢となり、且痴愚迷妄の徒と蔑まれ、糟糠の妻には早く別れ、淋しき浮世を送りたるは全く天命の然らしむる所、然り乍ら神は至仁至愛に在ますが故に、今回の帰幽と共に、外部的状態を除去して、八衢に於て凡ての罪悪を削除し清浄無垢の精霊となし、天国に救ひ玉ふ事必定なり。汝オールスチンの精霊、現世に執着心を残さず、速に幽冥界の法則に従つて不老不死の霊界へ旅立ちせよ。必ず迷ふ事勿れ。迷ひは地獄の種なるぞ。帰妙頂礼、南無波羅門尊天、守り玉へ恵ませ玉へ、チーン、チンチンチンチンチン』 比丘『サアサ、これでスツカリ引導を渡して置いた。皆さま土葬に致しますか、水葬にしますか、但は天葬に致すか、どちらが宜しいか。それは御勝手、定めて下さいませ』 ワックス『私は喪主だから私の望み通りにして貰ひませう。何卒天葬に願ひませう。さすれば天国へ参るでせうから』 比丘『皆様、ワックス様の意見に従ひ、これから天葬に致しますから、御苦労乍ら其用意をして下さい』 一同は『承知致しました』と総ての準備を整へ、オールスチンのコルブスを戸板に載せて、テルモン山の墓地を指して送り行く。 天葬と云へばコルブス(死骸)を墓地に運び石刀や丸石を以て体を細々にきざみ、骨も残らず粉にして了ひ、麦の煎粉をまぶして団子をつくり、沢山な禿鷲に喰はして了ふ儀式である。又水葬と云へばコルブスを其の儘川へ投げ込んで了ふ儀式である。数多の老若男女は石刀や石片や種々の木刀を以てコルブスを一寸刻み五分試しとなし、潔き歌を唄ひながら汗をタラタラ出して天葬の準備に着手した。禿鷲は中空に羽ばたきしながら幾百ともなく翺翔して待つてゐる。比丘は歌を歌ふ。一同は拍子をとつてコルブスを挫く。 比丘の歌 『諸行無常、是生滅法生滅々已、寂滅為楽は世の習ひ 兎角此世は仮の世だ鷲の腹へと葬られ 翼なき身に中空を翔りて尊き天国に 難なく上る目出度さよチンチンチンチン、チンチンチン 皆さま確り頼みますオールスチンのコルブスは チツトは骨が折れるぞや皮と骨とが沢山で チツトも肉がない故に禿鷲どもの喜んで 喰つて呉れるか知らないがそこは、それそれ焦し麦 粉をドツサリ塗りつけてうまく味をば付けるのだ 只一片も地の上に残しちやならぬ天葬式 禿鷲どのも骨折つて一つも残らず喰つて呉れ チンチンチンチンチンチンチン諸行無常、是生滅法 生滅々已、寂滅為楽仮の浮世を後にして 執着心を脱却し身も魂も天国に 黄金の翼に乗つて行けこんな芽出度い事あろか ワックスさまも幸福だ土葬水葬火葬とて 賤しき民の葬式に比べて見れば最善の 此法式で天国へ救はれて行く父上は 誠に結構な身魂ぞや喜び祝へ皆さまよ チンチンチンチンチンチンチン天国浄土で永久に 百味の飲食与へられ華の台に坐を占めて 下界を遥かに見下ろしつテルモン山は云ふも更 神の館を始めとし此町内の人々の 悩みを払ひ身の幸を守りて誠の生神と ならせ玉へよ、チンチンチンチンチンチンチンチンチンチン 皆さま之で有難いバラモン教の読経が 目出度く終結致しましたさらばお先へ帰ります 第一番の天葬式営みなさつた事ならば お布施もドツサリ張り込んで後から持つて来てお呉れ 遺産が沢山ある故に何程お金を使うたとて 皆さま腹が痛むでも頭が悩むでもない程に 同じ風呂屋の湯の水を汲んで隣のお客さまに 与へてやるも同じ事比丘を大切になさいませ 帰依仏帰依法帰依比丘だ此大法を謬らば 皆さま死んで地獄道へ忽ち堕ちると覚悟して お布施を惜しまず出しなされアア左様なれば左様なれば これからお先へ帰りますチンチンチンチンチンチンチン』 と鈴を打ち乍ら二人の従者を引率れ自分の庵に帰り行く。 一同は漸く天葬式を済ませ、再びワックスの館に帰り、種々の馳走を惜気もなく拵へて暴飲暴食にうつつを抜かした。ここに又一場の大活劇が演ぜられた。それはスマートが酒宴の最中に跳び込んで来た事である。 (大正一二・三・二六旧二・一〇於皆生温泉浜屋北村隆光録)
234

(2727)
霊界物語 58_酉_イヅミの国1(猩々島) 22 獣婚 第二二章獣婚〔一四九七〕 玉国別を先頭にバーチルは三年振りに恋しき吾家の表門を潜つた。四辺の光景は自分の不在にも似合はず、極めて生々として居る。庭の手入れも殊更行届き、牡丹、芍薬、燕子花、日和草、その外鳳仙花、鶏頭等が、広庭の彼方此方に主人の不在を知らず顔に、艶を競ふて咲き誇つて居る。雀や燕は主人の帰りを祝するものの如く、殊更高い声をして囀り出した。バーチルは感慨無量の面持にて表玄関より玉国別に従ひ、奥の間深く進み入る。 自分が久し振りに帰つて来たのだから女房のサーベルは道の四五丁も喜んで迎へに来て居さうなものだのに、どうしたものか、玄関口迄も迎へに来ないのは、何か大病でも患つて居るのではあるまいかと案じ乍ら、吾居間に宣伝使と共に進み見れば、サーベル姫は床の間に儼然として胡座をかき、両手をキチンと合して、莞爾し乍ら控へて居る。 バーチルの姿を見るより床の間をヒラリと飛び下り、『キャッキャッ』と怪しき声を張り上げ乍ら、 サーベル『ホホホホホこれはこれはお旦那様、えらう遅い事で厶いましたね。妾は一歩お先へ参りまして僕に準備をさせ、待つてゐましたのよ。貴方も妾と三年が間、あの離れ島に御苦労なさいましたね。もう此処へお帰りになれば何かにつけて便利もよく、何卒幾久敷く偕老同穴の契を結んで下さいます様にお願ひ申します。宣伝使様も妾の肉体を連れて帰つてやらうかと親切に仰有つて下さいましたが、何と云つても畜生の肉体、到底立派な貴方様のお側に仕へる事は出来ぬと存じまして海中に身を投じ、性を変じて奥様の肉体に憑りました。妾は貴方の愛して下さつた猩々夫人で厶います。第二夫人として使つて下さいませ』 バーチル『はて、合点のゆかぬ事だな。もし先生様、奥は発狂したのではありますまいか。怪体な事を申すぢや厶いませぬか』 玉国『いや決して発狂でも何でもありませぬ。精神清浄潔白にして純朴無垢な猩々姫様が、貴方を慕つて精霊となり、奥様の肉体にお宿りなさつたのですよ。これも因縁で厶いますから仲良うお暮し下さいませ』 バーチル『何だか化物の様な感じが致します。嫌らしい者ですな。さうして奥の魂はどうなつたでせうか』 玉国『奥様とお二人ですよ。つまり一体二霊ですから之も因縁と諦めて仲良くお暮しなさるが宜しい。これには何か深い因縁が此家に絡つてあるに違ひありませぬ』 バーチル『へー………』 サーベル『妾の夫はアヅモス山の天王の森を守護して居る猩々で厶いましたが、バーチルさまの父上バークスさまが妾の夫を罠にかけ命を奪られました。それ故精霊の行く処がありませぬので、バークス様の御息子、即ち此夫バーチルさまの肉体に納まりましたので厶います。云はばバーチルさまの精霊は妾の夫で厶います。妾は眷族を引き連れ、アヅモス山の森を逃げ出し、磯辺に繋いであつた船に眷族を乗せ、漸く猩々の島に渡つて夫の来るのを待つて居りました。それ故妾の精霊が夫の精霊と通ひし為めバーチルさまは海を見るのが好きになり、漁を遊ばし到頭漁船は難破して妾の島へ漂着遊ばす様に夫の精霊が致したので厶います。決して三年前から夫婦になつたのでは厶いませぬ』 バーチル『はてな、さうすると私は矢張り二人暮しであつたのか。何とまア合点のいかぬものだな。いつの間にか猩々彦の生宮となつてゐたものと見える。扨ても扨ても合点のゆかぬ事だな』 玉国『霊魂の力と云ふものは恐ろしいもので厶いますよ。云はば貴方の肉体はバーチルさまと猩々彦の合体、奥様の肉体はサーベル姫と猩々姫の合体ですから一夫婦で二夫婦の生活を営んでゐる様なものです』 バーチル『思ひきや猩々彦の肉宮と 知らず知らずに世を過ごしける。 夜も昼も湖の上のみ憧憬れて 漁りせしも仇事でなし』 サーベル『心なき人の矛をば避け乍ら 猩々ケ島より魂通はせつ。 猩々の果敢なき身をば持ち乍ら 物云ふ人に宿る嬉しさ』 伊太彦『これはしたり思ひも寄らぬローマンスを 目のあたり見る訝かしさかな。 三千彦の神の司よ心せよ 汝も猩々の身霊ならずや』 三千彦『バーチルは宝に富める人なれば 二重生活苦しからまじ。 さり乍ら宝貧しき三千彦は 二重生活する術もなし』 デビス姫『吾とても矢張二重生活よ 神の任さしの正守護神在す』 伊太彦『それならば俺も矢張同じ事 本正副の三重生活』 真純彦『世の中の人は何れも同じ事 善と悪との魂の容物』 玉国別『天地の誠の道を悟りけり 心より来る人の生涯。 猩々も皆天地の生神の 尊き霊の分れなりけり。 猩々姫主人に尽す誠心を 見るにつけても涙こぼるる』 三千彦『人の皮着た獣の多き世に 獣の皮を着たる人あり。 毛衣を脱いで芽出たく猩々姫 今更めて人の皮着る。 つまを持つ二人の中に又二人 つま持つ人を獣婚(重婚)と謂ふ』 サーベル『有難し神の大路に目覚めたる 道の司の厳の言霊』 バーチル『斯うならば只何事も神様に 任せて世をば安く渡らむ。 猩々姫妻の体を宿として 吾に仕へよ千代に八千代に』 アンチー『これは又思ひもよらぬ出来事よ 呆れ果てたる吾心かな。 さり乍ら情の道は同じ事 殊更清き姫の御心』 アキス『奥様と只一心に思ひつめ 猩々の姫に仕へけるかな』 カール『肉体はよし猩々に在すとても 心の清き姫ぞ尊き』 玉国別『霊界のその消息を詳細に 教へ玉ひぬ厳の大神。 鳥獣虫族草木に至るまで 皇大神の珍の霊よ。 立ちて行くばかりが人の所作でなし 誠を立つる人ぞ人なれ。 人多き人の中にも人ぞなき あらぬ獣が人の皮着て。 表面こそ人と見ゆれど魂は 獣の多き今の世の中』 サーベル『猩々姫暫く控へ奉る サーベル姫に口を譲りて』 サーベル『背の君の帰りまししと聞きしより 心勇みぬ身もたなしらに。 背の君を庇ひ玉ひし猩々姫 吾身を宿と定めましける。 何となく身も健かになりにけり 腹に力の充ち満ちしより。 猩々の姫の命の生身霊 吾身を強く守りますらむ』 伊太彦『何事も神のまにまに人の身は 仕ふべき由今や悟りぬ』 サーベル姫『これはこれは旦那様、お懐しう厶います。ようまア無事でお帰り下さいました。貴方の行衛が分らなくなつてからと云ふものは朝夕アヅモス山の天王の森へ参拝致し、種々と御祈願を籠めましたが、どうしても御所在が分りませぬので、荒波に呑まれて魚腹に葬られた事と観念しまして、形許りの野辺の送りを済ませ、朝は天王の森に夫の冥福を祈り、夕はアヅモス山の山腹の墓に参詣し、悲しき光陰を今日迄送つて参りました。さうした所、二三日以前より俄に妾の体が重くなり、腹の中から種々の事を囁き出し、貴方が近い中に無事にお帰りになるとの知らせ、それ故二人の僕を浜辺に出し、お帰りを待たせて居りました。妾の肉体には猩々姫とやら云ふ精霊が宿つてる様で厶いますが、最前からの猩々姫の歌を聞きまして、最早覚悟は致しました。何卒仲良くして添ふて下さいませ。お願ひで厶います』 バーチル『ああ女房、どうやら本性になつたらしい。実の所はお前の本当の声が聞きたかつたのだ。今詠んだ歌はお前覚えて居るかな』 サーベル『はい、妾は貴方の御存じの通り歌なんか一つも出来ませぬ。猩々姫様が妾に代つて歌を詠んでやらうと腹の中で仰有いまして、あの通り珍らしい歌を詠めたので厶います』 バーチル『うん、さうに違ひない。到底お前の考へではあんな詩才があるとは思はなかつた。ほんに不思議なものだな』 伊太彦『さうすると奥様よりも猩々姫さまの方が余程詩才に富んでゐられると見えますな。いや恐れ入つた。之では人間も廃業し度くなつて来る』 玉国別『伊太彦さま、お前だつてチヨコチヨコ妙な歌を歌ふが決してお前の知識の産物ぢやないよ。皆副守先生がお前の口を借つて厶る丈けだよ。人は精霊のサツクの様な者だからな。アハハハハ』 伊太『精霊のサツク、ヘー、つまらぬものですな。さう考へて見ると別に歌を稽古したでもなし、直に当意即妙の名歌が浮んで来ると思つたら、矢張守護神さまが仰有つたのですかな。さうすると私の御本体は何処にあるのでせうかな』 玉国『人間は凡て精霊の宿泊所の様なものだ。そして其精霊は一方は愛善の徳を受けて天国に向ひ、一方は悪と虚偽との愛の為に地獄に向つて居る。善悪混淆の中間状態にゐるのが所謂人間だ。それだから八衢人足と神様が仰有るのも決して誣言ではないよ。どうしても人間は愛の善と信の真に依つて所在徳を積み天国天人の班に加はらなねばならないのだ。生き乍ら天人の列に加はつて厶るのは、あの初稚姫様だ。あの様な立派な御精神にならなくては到底人間として生れて来た功能がないのだ。それで私等も早くその域に達したいと思つて神様の御用を勤めて居るのだよ』 斯く話す所へ下女は沢山な馳走を拵へ、 下女『さア皆さま、御飯が出来ました。悠くりお食り下さいませ』 と云ひ乍ら膳部を運び来る。 (大正一二・三・三〇旧二・一四於皆生温泉浜屋北村隆光録)
235

(2729)
霊界物語 58_酉_イヅミの国1(猩々島) 24 礼祭 第二四章礼祭〔一四九九〕 愈祭典の準備にとりかかるべく三千彦、デビス姫、バーチル、サーベルの二夫婦は下男にも下女にも構はさず、せつせと神饌物の調理に熱中して居る。 三千『もし、バーチルさま、私はお察しの通り三五教のヘボ宣伝使ですが、バラモンの大神様の神饌を拵へるのは今が初めてで厶いますよ。何だか奥歯に物が、こまつた[※「つまつた」の誤字か?]様な気分が致しますわ。ハハハハハ』 バーチル『うつかりして居ましたが如何にも吾々は三五教の宣伝使に助けられ、又三五教の大神様の御神徳を感謝してる者で厶いますから、どうしても三五の神様の祭典を第一に致さねばなりませぬ。如何でせうか』 三千『さうですな。神様はもとは一株ですから、どちらにしても同じ様なものの神代からの歴史を考へて見ますと、三五教は国治立の大神様、其外諸々の神様から押籠められた方の神様で、大自在天様とは、人間同士なら敵同志の様な者ですが、然し神様のお心は人間の心と違つて寛大なもので、少しも左様な事に御頓着なく、大自在天様をお助け遊ばさうと思つて、バラモン教を言向和す為に吾々をお遣はしになるのですからね。然し私では到底決断がつきませぬから、一寸之からお師匠様に伺つて参ります』 バーチル『はい、それは有難う厶います。序に先祖様の霊も三五教で祭つて頂き度う厶いますが、之も差支がないか伺つて来て下さいませぬか』 三千彦は『承知致しました』と此場を立つて玉国別の居間に打通り、バーチルがバラモン教を脱退し、三五教に入信し、三五の大神を祭つて貰ひ度い事、並に祖霊祭を三五教にて営み度い事等の願を告げ、玉国別に対し先づ第一に祖霊祭に就いて教示を乞ふた。 三千『先生、人間は現世を去つて霊界へ行つた時は、極善者の霊身は直ちに天国に上りて天人と相伍し天国の生活を営み、現界との連絡が切れるとすれば、現界にある子孫は父祖の霊祭などをする必要は無いものの様に思はれますが、それでも祖霊祭を為なくてはならないのでせうか。吾々の考へでは真に無益な無意義なことの様に感じられますがなア』 玉国『何程天国へ往つて地上現人との連絡が断たれたと言つても、愛の善と信の真とは天地に貫通して少しも遅滞せないものである。子孫が孝のためにする愛善と信真の籠もつた正しき清き祭典が届かないと云ふ道理は決して無い。天国にあつても矢張り衣食住の必要がある。子孫の真心よりする供物や祭典は、霊界にあるものをして歓喜せしめ、且つその子孫の幸福を守らしむるものである』 三千『中有界にある精霊は何程遅くても三十年以上居ないといふ教を聞きましたが、その精霊が現世に再生して人間と生れた以上は、祖霊祭の必要は無いやうですが、斯ういふ場合でも矢張り祖霊祭の必要があるのですか』 玉国『顕幽一致の神律に由つて、例へその精霊が現界に再生して人間となり霊界に居らなくても、矢張り祭典は立派に執行するのが祖先に対する子孫の勤めである。祭祀を厚くされた人の霊は霊界現界の区別なく、その供物を歓喜して受けるものである。現世に生れて居ながら猶且つ依然として霊祭を厳重に行ふて貰ふて居る現人は日々の生活上においても、大変な幸福を味はふことになるのである。故に祖霊の祭祀は三十年どころか、相成るべくは千年も万年の祖霊も、子孫たるものは厳粛に勤むべきものである。地獄に落ちた祖霊などは子孫の祭祀の善徳に由つて、忽ち中有界に昇り進んで天国に上ることを得るものである。又子孫が祭祀を厚くして呉れる天人は、天国に於ても極めて安逸な生涯を送り得られ、その天人が歓喜の余波は必ず子孫に自然に伝はり子孫の繁栄を守るものである。何んとなれば愛の善と信の真は天人の神格と現人(子孫)の人格とに内流して何処迄も断絶せないからである』 三千『ウラル教や波羅門教の儀式に由つて祖霊を祭つたものは、各自その所主の天国へ行つて居るでせう。夫れを三五教に改式した時はその祖霊は何うなるものでせうか』 玉国『人の精霊や又は天人なるものは、霊界に在つて絶えず智慧と証覚と善真を了得して向上せむことをのみ望んで居るものです。故に現界に在る子孫が最も善と真とに透徹した宗教を信じて、その教に準拠して祭祀を行つて呉れることを非常に歓喜するものである。天人と雖も元は人間から向上したものだから人間の祖先たる以上は、仮令天国に安住するとも愛と真との情動は内流的に連絡して居るものだから、子孫が証覚の最も優れた宗教に入り、その宗の儀式に由つて、自分等の霊を祭り慰めて呉れることは、天人及び精霊又は地獄に落ちた霊身に取つても、最善の救ひと成り、歓喜となるものである。天国の天人にも善と真との向上を望んで居るのだから、現在地上人が最善と思惟する宗教を信じ、且つ又祖先の奉じて居た宗教を止めて三五教に入信した所で、別に祖霊に対して迷惑をかけるものでない。又祖霊が光明に向つて進むのだから決して迷ふやうな事は無いのだ。否却て祖霊は之を歓喜し、天国に在つて其地位を高め得るものである。故に吾々現身人は祖先に対して孝養のために最善と認めた宗教に信仰を進め、その教に由つて祖先の霊に満足を与へ、子孫たるの勤めを大切に遵守せなくてはならぬのである。アア惟神霊幸倍坐世』 三千『はい、有難う厶いました。当家の主人も、それで安心致しませう。それから、も一つお尋ねが厶いますが、バラモンの神様を如何いたしたら宜しいでせう』 玉国『祠の森の聖場でさへも御三体の大神様を初め大自在天様を祀つてあるのだから、別に排斥するに及ばぬぢやないか。今迄此家もバラモン神の神徳を享けて来たのだから、そんな薄情な事も出来まい』 三千『アヅモス山の聖地にはバラモン大自在天様のお宮が建つて居るさうですが、此際主人に吩咐けて祠の森の様にお宮を建てさせ、あの式に大自在天様を脇に祀つたら如何で厶いませうか』 玉国『一度主人を呼んで来て呉れ。宮を建てるとなると、さう軽々しくは行かぬから一応意見を聞いて見る積りだ』 三千『はい、承知致しました。直様呼んで参ります』 と、もとの神饌調理室に引返し、祖霊祭に関する玉国別の教示を伝へ、且……神霊奉斎に就いて師匠様がお尋ねし度いと仰有るから一寸来て下さい……とバーチルを誘ひ、玉国別等の居間に帰つて来た。 玉国『あ、バーチルさま、貴方はアヅモスの森の天王様のお宮を、如何なさるお考へで厶いますか』 バーチル『はい、先祖代々お祀りして来たお宮様なり、又私の精霊が眷族として仕へて居つたのですから、今俄に三五教に這入つたと云つて直に祀り変へる事は如何かと考へます。これに就いては貴方様にゆるゆるお尋ね致し度いと思つてゐました。先生のお考へは如何で厶いませうか』 玉国『私の考へとしてはアヅモス山の森林に新にお宮を二棟建造し、一方は三五の大神様、一方は今の天王様を奉斎し、さうして猩々ケ島に残つて居る小猿を、数十艘の船を用意して迎へ来り、序にバラモン組の三人も助けて帰る様にし度いもので厶います。それが神様に対しても、貴方の守護神に対しても最善の方法だと考へます』 バーチル『有難う厶います。実の所は最前から何卒さう願ひ度いものだと、家内とひそびそ話をして居りました。あの小猿共は皆猩々姫の子で厶いますから、如何しても自分の手近に引寄せ度いのは当然で厶います。私も何だか猩々の親になつた様な、妙な気分が致します。何卒さうして下さらば、これに越したる喜びは厶いませぬ』 玉国『貴方の決心が定れば直様、その準備にかかる事に致しませう。併し乍ら今日は只大神様へ感謝の祭典をする許りですから、三五の大神とバラモンの大神を並べて祭り、下男下女の端に至る迄参拝させておやりなさるが宜しう厶いませう』 バーチル『はい、何から何迄御親切なお気付け、有難う厶います。 人の親は猿より出でしと聞きつるに 猿の親とぞなりにけるかな。 さる昔遠き神代の古より きれぬ縁につながれし吾』 玉国別『天王の森に長らく仕へたる その神徳で人の宿かる。 肉体はよし猩々と生るとも 霊魂は清し神の御使』 バーチル『有難し宣り直したる師の君の 言葉に妻も嘸勇むらむ。 人猿と仮令世人は笑ふとも 罪をとりさる神となりなむ』 かく歌ひ慌ただしく神饌所に引返し、用意万端整へて茲に芽出度く感謝祭を執行する事となつた。玉国別は主人の乞に依つて祭主となり、天津祝詞を奏上し、終つて感謝の歌を奉つた。 玉国別『朝日刺す夕日の照らすアヅモスの、常磐堅磐の森の辺に、弥永久に鎮まり玉ふ、大国彦の大神の、珍の使と仕へたる、猩々彦の精霊の、懸り玉へる館の主人、バーチル司に代り玉国別の神司、三五教の大御神、バラモン教の大神の、珍の御前に慎みて、吾々一行は云ふも更、バーチル初めアンチーが、三年の憂きを凌ぎつつ、漸くここに帰りけるは、皇大神のお計らひと、喜び敬ひ大御恵みの、千重の一重にも報い奉らむとして、山海河野種々の珍味を、八足の机代に、所狭き迄置き並べ、神酒は甕の瓶甕の腹充て並べて、御水堅塩大御饌奉る事の由を、完全に委曲に聞召し、これの館の人々を初め、三五教の神司、スマの里の人々を、厚く守らせ玉へかしと、大御前に摺伏して、畏み畏み仕へ奉る惟神霊幸倍坐世』 と歌ひ終り、感謝祭も無事に終了した。玉国別一行は美はしき閑静な離れ座敷を与へられ、海上の疲労を癒やすべく、師弟五人は足を伸ばして休養する事となつた。 (大正一二・三・三〇旧二・一四於皆生温泉浜屋北村隆光録)
236

(2759)
霊界物語 59_戌_イヅミの国2(キヨの港) 余白歌 余白歌 もろこしの山野を幾つ踏みこえて神は忽ち降りたまはむ〈総説歌(初版)〉 天地の神の御業に仕へむとおもふの余り皆忘れけり〈総説歌(初版)〉 回天の大業立てて大陸を治め開くと勇む御子等〈総説歌(初版)〉 古も今も変はらぬ人心自愛に燃ゆる暗世なるかも〈第2章(初版)〉 地の上に善といふもの影もなし自己愛つよき人の世なれば〈第4章(初版)〉 愛といひ善と称ふも世の中に自己愛とぐる為の偽り〈第4章(初版)〉 数千年永き歴史をひもとけば自愛によゑる人の足あと〈第5章(初版)〉 小雲川並木松ケ枝魚躍るされど流れは静なりけり〈第5章(初版)〉 綾部不二清く涼しく新緑の衣をまとひて小雲川に沈む〈第5章(初版)〉 まだ惜しき躑躅の花を採り去りぬ来らむ夏の盛り見むとて〈第5章(初版)〉 丸山の樹々のみどりの色々に人のながむる浮世なりけり〈第7章(初版)〉 雲低ふ松ケ枝高し小雲川流るる風もいと静かにて〈第7章(初版)〉 久々に綾の聖地にかへり見ればまた亀岡の疎まるるかな〈第10章(初版)〉 いつまでもあやべに居よと子等はいふ心二つになりし今日かな〈第11章(初版)〉 こんもりと茂れる綾のその見ればかへりたくなし天恩郷に〈第11章(初版)〉 天国に昇りて御園をながむれば月照山も物の数かは〈第12章(初版)〉 五月雨に躑躅の花のばらばらと紅にそめたり庭の面を〈第12章(初版)〉 出放題 心に懸け時計 ほつ時計─捨て時計 柱時計─置い時計 大本も時の力で 自然に謎時計─雪が時計〈第14章(初版)〉 雲ひくし山も煙りてほととぎす 小雲川水濁りて鮎ふとる 祥雲閣山と川とのあいつづみ 瑞祥の雲たなびきていらか照り 雨後の松梢に露の月の玉〈第17章(初版)〉 来て見れば散りてあとなし藤の花 女院寺寂しく光る杜若花〈第19章(初版)〉 婆痴あたり夏の最中に 汗かいて高い炭たき 火ばちにあたり貧乏するのも あたりまへ〈第21章(初版)〉 天地の誠の道を悟りなば全大宇宙はわがものとなる〈第23章(初版)〉 天と地を丸めむとして大王仁が全大宇宙に大活入れるも〈第24章(初版)〉 日月の恵みをうけて委曲に説き明したる此の物語〈第25章(初版)〉 いそのかみ古き神代の出来事を今新しく説き明すなり〈第25章(初版)〉 千早振る神に習ひて愛善の道につとむる人は神なり〈第25章(初版)〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました]
237

(2768)
霊界物語 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 07 方便 第七章方便〔一五三二〕 新に建てられたアヅモス山の社の前には、アキス、カールにワードの役を命じおき、バーチルは玉国別一行其他と共に喜び勇んで、一先づ館へ帰る事となつた。スマの里人は老人少女を聖地に残し、玉国別一行を見送つて、バーチル館に従ひ行く。 元来スマの里は何れも山野田畠一切、バーチルの富豪に併呑され、里人は何れも小作人の境遇に甘んじてゐた。併し乍ら日歩み月進み星移るに従ひて、彼方此方に不平不満の声が起り出し、ソシァリストやコンミュニスト等が現はれて来た。中には極端なるマンモニストもあつて、僅かの財産を地底に埋匿し、吝嗇の限りを尽す小作人も現はれてゐた。然るに此度、アヅモス山の御造営完了と共に、一切の資産を開放して郷民に万遍なく分与する事となり、郷民は何れも歓喜して、リパブリックの建設者として、バーチル夫婦を、口を極めて賞揚する事となつた。俄にスマの里は憤嫉の声なく、各和煦の色を顔面に湛へて、オブチーミストの安住所となつた。 サーベル姫は村人の代表者を十数人膝元に集めて、一切の帳簿を取出し、快く之を手に渡し、自分は夫と共に永遠に、アヅモス山の大神に仕ふる事を約した。ここに又もや郷民の祝宴は盛大に開かれ、夫婦の万歳を祝し合うた。 さて玉国別一行はバーチルの居間に請ぜられ、各歓を尽して、尊き神の御教を互に語り合ひつつ、嬉しく其日を過ごした。 チルテル『玉国別様にお願ひが厶います。私も此通り菩提心を起し、一切の世染[※世塵(せじん)の誤字か?]を捨て、惟神の大道を遵奉し奉る嬉しき身の上となりましたのも、全く貴師の御余光で厶います。就ては宏遠微妙なる御教理も承はりたく、且又自分の歓びを衆生に分ち、神業の一端に奉仕したく存じて居りますから、三五教式の宣伝方法を御教示願ひたいもので厶います』 玉国別『それは誠に結構な思召、玉国別も歓喜の情に堪へませぬ。左様ならば吾々の大神様より直授された宣伝方法に就て、少し許り御伝へを致しませう。 神の恵を身に禀けて世人を救ひ助けむと 四方に教を開くなる至仁至愛の神司 たらむとすれば何時とても心を安く穏かに 歓喜の情を湛へつつ蒼生に打向ひ 幽玄微妙の道を説け清浄無垢の霊地にて 座床を造り身を浄め塵や芥を排除して 汚れに染まぬ衣をつけ心も身をも清くして 始めて宝座に着席し人の尋ねに従ひて 極めて平易に道を説け比丘や比丘尼や信徒や 王侯貴人さまざまの前をも怖ぢず赤心を 尽して微妙の意義を説き面貌声色和らげて 人の身魂をよく査べ因縁比喩を敷衍して 天地の道理を説きさとせ人は神の子神の宮 善言美詞の言霊を一人も嫌ふ者はない もし聴衆の其中に汝が説を攻撃し 或は非難するあれば吾身を深く省みよ 神にかなはぬ言霊を心の曲の汚れより 不知不識に発せるを必ず覚悟し得るならむ 百千万の敵とても只一言の善言に 感じて忽ち強力の神の味方となりぬべし 仮令数万の吾部下を味方となして誇るとも 只一言の悪言に感じて忽ち怨敵と 掌覆す如くなる此真諦を省みて 必ず過つ事勿れ只何事も世の中は すべて善事に宣り直し愛の善をば能く保ち 信の真をば能く悟り而して後に世の人に 真の道を説くならば如何なる外道の曲人も 決して反くものでない誠一つは世を救ふ 神の教は目のあたり現はれ来る摩訶不思議 すべて天地は言霊の御水火に仍りて創造され 又言霊の御水火にて規則正しく賑しく 治まり栄ゆるものぞかしあゝ惟神々々 真善美愛の神の道学ばせ玉へバラモンの 軍に仕へし諸人よ玉国別の神司 心の岩戸を押開き茲に一言宣り申す あゝ惟神々々神の授けし言霊の 厳の伊吹ぞ尊けれ旭は照る共曇る共 月は盈つ共虧くる共大三災の来る共 神に受けたる言霊を清く涼しく宣るならば すべての災忽ちに雲を霞と消え失せむ 守らせ玉へ言霊の善言美詞の太祝詞 心を清め身を浄め其行ひを清くして 厳の言霊宣るなれば雲井に高き天界の 皇大神もエンゼルも地上に現れます神々も 蒼生も草や木も其神徳を慕ひつつ これの教を守るべし偉大なる哉言霊の 皇大神の御活動仰ぎ敬まひ奉れ 仰ぎ敬ひ奉れ』 チルテル『バラモン教の神柱大黒主に従ひて 左手にコーラン捧げつつ右手に剣を握りしめ 折伏摂受の剣として外道の道を辿りつつ 今迄暮し来りしが玉国別の師の君に 誠の道を教へられ布教伝道の方便を いと明かに授けられ心の暗も晴れ渡り 旭の豊栄昇る如身も健かになりにけり いざ此上は真心の限りを尽して愛善の 徳を養ひ信真の覚りを開き詳細に 一切衆生を救済し天地の御子と生れたる 其本分を尽すべしあゝ惟神々々 三五教を守ります厳の御霊や瑞御霊 玉照彦や玉照姫の雄々しき聖き御柱に 従ひ奉り八十の国八十の島々隈もなく 神の教の司とし沐雨櫛風厭ひなく 神の御為世の為に所在ベストを尽すべし 守らせ玉へ惟神神の御前に赤心を 捧げて祈り奉るアヅモス山の宮司 バーチル夫婦も今よりは聖き尊き三五の 教を守り玉ひつつ東の宮と西の宮 心に隔つる事もなくいと忠実に朝夕に 仕へ玉はれ惟神神の光に照されて バラモン軍に仕へたるチルテル司が願ぎ奉る あゝ惟神々々御霊幸ひましませよ』 カンナ『キャプテンの司の君に従ひて 吾も進まむ神の大道へ』 ヘール『久方の天津御神の音信を 今目のあたり聞くぞ尊き』 チルナ姫『背の君は全く人となりましぬ 心に棲める曲のはなれて』 チルテル『わが魂はさまで悪しくは思はねど 寄りくる曲を防ぎかねつつ。 力なき吾魂も今は早や 千引の岩の動かずなりぬ』 チルナ姫『背の君の珍の言霊聞こしより 心の曲も消え失せにけり』 真純彦『師の君の初めて宣らす言霊を 聞きし吾こそ嬉しかりけり』 三千彦『斎苑館立出で月日数重ね 初めて聞きし吾師の言葉』 伊太彦『一と言へば十百千を悟るてふ 身魂ならでは詮すべもなし。 一聞いて直ちに島に打渡り 功績を立てし猩々舟哉』 三千彦『すぐに又鼻をば高め足許に 眼失ひ躓くなゆめ』 伊太彦『皇神の選りに選りたる吾魂は いかでか汝に比ぶべきやは』 真純彦『うぬぼれて深谷川に落ち込むな 慢心すればすぐに躓く』 伊太彦『吾とても誇る心はなけれ共 魂はいそいそ笑み栄え来て』 デビス姫『何事も人に先立つ伊太彦の 神の使のいとど畏き』 チルテル『伊太彦の得意や実にも思ふべし 獣の皮着し人を迎へて』 カンナ『獣とは云へど此世の人草に 優る霊を持てる尊さ』 ヘール『かく迄も人の心の曇りしかと 思へばいとど悲しくなりぬ』 アンチー『アヅモスの山に棲まへる鳥翼 人にあらねど人を見下す。 人々の頭の上を悠々と 舞ひて遊べる鷹ぞ恨めし』 バーチル『何事も天地の神の御心に 任すは人の務めなるらむ』 サーベル姫『天地の神も諾ひ玉ふらむ 心清けき此人々を』 テク『朝夕によからぬ事のみ漁りつつ 暮し来りし吾ぞうたてき。 さり乍ら恵も深き大神の 御手に救はれ勇む今日かな』 ワックス『テルモンの山を立出で今此処に 仇と思ひし人と並びぬ。 仇とのみ思ひし事は夢となり 今は救ひの神と見る哉』 エキス『相共に悪しき事のみ謀り合ひ 神を汚せし事の悔しさ。 町人の前に恥をば曝されて 尻叩かれし事ぞ恥かし。 今日よりは心の駒を立直し 進みて行かむ神の大道に』 ヘルマン『吾も亦善からぬ友に誘はれ ワックスを責めし事の愚かさ。 三五の神の司を殺さむと 大海原に待ちし愚かさ。 皇神の厳の力におぢ恐れ 今は全く猫となりけり』 エル『神館小国別の身失せしと 思ひて世人欺きし吾。 くさぐさの罪を重ねし吾なれど 救ひ玉ひぬ誠の神は。 スメールの御山に清く現れませる 神の御稜威を仰ぐ尊さ。 いかならむ魔神の襲ひ来るとも 今日の心は千代に変へなむ』 サーベル姫『吾こそは猩々姫の霊なり 玉国別に願言やせむ。 天王の宮の御跡の石蓋を 開けて竜王救ひ玉はれ』 玉国別『汝が願諾ひまつり之よりは アヅモス山の神を救はむ』 かく互に歌を取かはし、十二分の歓喜を尽し、玉国別は一同を従へ再び天王の古宮の床下を調査すべく、夜の明くるを待つて進み行く事となつた。 (大正一二・四・七旧二・二二於皆生温泉浜屋松村真澄録)
238

(2783)
霊界物語 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 22 三五神諭(その三) 第二二章三五神諭その三〔一五四七〕 明治三十四年旧六月三日 斯世の行く先の解るのは、綾部の大本の竜門館でないと、何んぼ知識で考へても何程学がありたとて、学があるほど利口が出て、解りは致さんぞよ。永くかかりて仕組んだ此の大望、解りかけたら速いから、改信が一等であるぞよ。変性男子の因縁の解る世が参りて来たから、世界にある事を先繰に、前途の事を知らせる御役であるぞよ。今度は世に落ちておいでる神々を皆世に上げねばならん御役であるから、順に御上りに成るぞよ。それに就いては世に出て御いでます万の神様に、明治二十五年から申付けてあるが、是迄のやうな世の持方では行けんから、岩戸を開くに就いては、高処から見物では可けませんぞえと申して置いたが、時節が参りたから、一旦は世界に言ふに言はれん事が出来いたすぞよ。 ○ 明治三十五年旧七月十一日 永らく筆先に出して知らしてやりても、今の人民は疑強き故に真に致さぬから、此中に実地を為て見せてあるから、能く見て置かんと肝腎の折に何も咄しが無いぞよ。霊魂の調査いたして、因縁ある身魂を引寄して御用に使ふと申して、筆先に出してあらうがな。今度の二度目の天の岩戸開と申すのは、天の岩戸を閉める役と、開く役とが出来るのであるが、神の差添の種は、自己が充分苦労をして人を助ける心でないと、天地の岩戸は却々開けんぞよ。差添の種に成るのは、二十五年からの筆先を腹へ締込みて置いたら宜いのであるぞよ。此中の結構な経綸が判りて来かける程、世界から鼻高が出て来るから、筆先で何麼弁解も出来るやうに書してあるから、調戯心で参りて赤恥かいて帰るものも出来るし、又誠で出て来るものもあるぞよ。目的を立てようと思ふて出て来るものもあるし、世間に解る程忙しくなるから、此寂しく致して誠を細かう判るやうに書してあるから、他の教会とは精神が違ふと申すのぢやぞよ。世界の鏡の出る所であるから、是迄に何程云ふて聞かしたとて、余り出口を世に墜して御用が為してありたから、疑ふ者計りで、此中の行ひがチツトも出来んゆゑ、誠の教も未だ今にさして無きやうな事であるから、此の闇の世に夜の明ける教を致しても、誰も真に致さねど、もう夜の明けるに近うなりたぞよ。夜が明けると神の教通りに世界から何事も出て来るから、世界は一旦は悪なるから、喜ぶものと悲しむものとが出来るから、大本さへ信神致して居りたら善き事が出来るやうに思ふて、薩張り嘘ぢやつたと申してゐるなれど、出口の日々の願で、大難を小難にまつり替へた所で、何なりと神国の中にも夫々の見せしめは在るぞよ。是から先になりたら、斯様な事が在るのに何故知らせなんだと小言を申すなり、知らせねば不足を申すであらうし、亦知らせて遣れば色々と疑うて悪く申すし、人民の心が薩張り覆つてゐるから、善き事は悪く見えるし、悪きこと致すものは却つて今の時節は善く見えるが、全然世が逆さまであるぞよ。今の世界に立つ人は、一つも誠の善の事は致して居らんぞよ。艮金神が表に現はれて世界の洗ひ替をいたすから、是からは何事も神から露見れて来るぞよ。今の世界の落ちてゐる人民は、高い処へ土持計り致して、年が年中苦しみてゐるなり。上に立ちてゐる神は悪の守護であるから、気儘放題好き寸法。強い者勝の世の中でありたなれど見て御座れよ、是から従来の行方を根本から改正さして了ふて、刷新の世の行方に致すから、今迄に上に立ちて居りた神は大分辛う成りて来るから、初発から出口直の手と口とを藉りて、色々と世界の霊魂に申聞したら、近所の者が驚いて、出口を警察へ連れ参りた折に、警察で三千世界の大気違ひであると申してあるぞよ。それでも気違ひが何を申す位により取りては居らんぞよ。何でもない手に合ふ者ほか能う吟味を致さんのか、モチト大きな者を吟味いたして世の潰れんやうに致さねば、此儘で置いたら、警察の云ふ事共聞く者が無きやうになるぞよ。艮金神が現はれて守護をしてやらねば、神の国は此状態で置いたら、全部悪神に略取れて了ふぞよ。斯様な時節が参りてゐるに、上に立ちておる守護神が先が解らんから、岩戸を開いて先の判る世に致すから、自己の心から発根と改信を為るやうに成るぞよ。艮金神が表になると物事速いぞよ。 ○ 明治三十六年旧七月十三日 悪神の国から始まりて、大戦争が在ると申してあるが、彼方には深い大きな計画をいたして居るなれど、表面からは一寸も見えん、艮金神は日の下に経綸が致して在るぞよ。日の下は神国で結構な国ぢやと云ふ事は、判りて居れど、何を申しても国が小さいので、一呑に為ておるから、今の精神では、戦争が始まりたら神国魂が些とも無いから、狼狽て了ふぞよ。是から段々と世が迫りて来て、世界中の大戦争となりて、窮極まで行くと、悪魔が一つになりて、皆攻めて来た折には、兎ても敵はんといふ人民が、神から見ると九分まであるが、日の下はモウ敵はんと申す所で、神国魂の生神の本の性来を、出して見せて遣ると、神国魂は胸に詰りて呑めぬから悪神の守護神が、元の霊魂の力はエライものぢや、誠ほど恐いものは無いと申して、往生する所まで神国の人民は堪忍な、今度悪神が強いと見たら、皆それへ属いて了ふから、ソコデ此の本に仕組てある事を、神国の人民が能く腹へ入れて、御用を致さす身魂が二三分出来たら、其処で昔からの経綸の神が現はれて、世界を誠一つの神力で往生致さして、世界中の安心が出来るやうに致して、昔の元の神代に復すぞよ。邪神の侵略主義はモウ世が終結ぞよ。何程人民に智慧学力が在りても、兵隊が何程沢山ありても今度は人民同志の戦争でありたら、到底敵はんなれど、三千年余りての経綸の時節が来たので在るから、世界中から攻めて来ても、誠には敵はん仕組が為てあるなれど、艮金神、竜宮乙姫どの、日出の神が表はれんと、其処までの神力は見せんから、此の大本には揃ふて神力を積ておかんと如何為様にも激烈うて、傍へは寄附かれん様な事が出来てくるから、身魂を能く磨いておけと申すのであるぞよ。身欲信仰して居る人民、そこへ成りてから助けて呉れと申ても其様な人民は醜しいから、傍へは寄せ附けんぞよ。能く神の心を汲取らんと、大本は天地の誠一つの先祖の神の経綸の尊い場所で在るから、迂濶に出て来ても、チト異う所であるから、其処にならんと眼が覚めんから、眼醒しの在るまでに、腹の中の埃を出して置かんと、地部下に成るから、執念言ふて気を附るぞよ。 ○ 明治三十七年旧正月十日 艮金神稚日女岐美命が、出口の守と現はれて、変性男子の身魂が全部現れて、斯世を構ふと余り速に見透いて、出口の傍へは寄れん様に成ると申して在るが、何彼の時節が参りたから気遣ひに成るぞよ。水晶の身魂でありたら、岩戸開きの折にも安心で何も無いなれど、一寸でも身魂に曇りがありたり、違うた遣方いたしたり、混りがありたり致したら、直ぐその場で陶汰られて、ザマを晒されるぞよ。人民からは左程にないが、神の眼からは見苦しきぞよ。変性男子は大望な御役であるから、今度の御用をさす為に、神代一代の苦労がさしてありての事であるから何程でも此筆先は湧いて来るぞよ。岩戸開きの筆先と立直しの筆先とを、世が治まる迄書かすなり、斯世一切の事を皆書かせるから、何麼事も皆解りて来るから、誰も恥かしうなるから、改信いたせ、身魂の洗濯いたせよと、出口直の手で知らしてあるのを、疑うて居りた人民気の毒が出来て来るぞよ。斯世が末に成りて、一寸も前へ行けんやうになりて、変性男子と女子とが現はれて、二度目の天の岩戸を開く大望な御役であるぞよ。今迄の教は魔法の遣方で金輪際の悪き世の終りであるぞよ。 ○ 明治三十七年旧七月十二日 今の役員信者は、今度の戦争で世が根本から立替るやうに信じて、周章てゐるなれど、世界中の修斎であるから、さう着々とは行かんぞよ。今度の戦争は門口であるから、其覚悟で居らんと、後で小言を申したり、神に不足を申して、折角の神徳を取外す事が出来いたすぞよ。変性女子の筆先は信用せぬと申して、肝腎の役員が反対いたして、書いたものを残らず一所へ寄せて灰に致したり、悪魔の守護神ぢやと申して京、伏見、丹波、丹後などを言触に廻りて神の邪魔を致したり、悪神ぢやと申して力一杯反対いたして、四方から苦しめてゐるが、全然自己の眼の玉が眩んでゐるのであるから、自己の事を人の事と思うて、恥とも知らずに、狂人の真似をしたり、馬鹿の真似を致して一廉改信が出来たと申してゐるが、気の毒であるから、何時も女子に気を附けさすと、悪神奴が大本の中へ来て何を吐すのぢや、吾々は悪魔を平げるのが第一の役ぢやと申して、女子を獣類扱ひに致して、箒で叩いたり、塩を振掛けたり、啖唾を吐きかけたり、種々として無礼を致しておるぞよ。是でも神は、何も知らぬ盲聾の人民を改信さして、助けたい一杯であるから、温順しく致して誠を説いて聞かしてやるのを逆様に聞いて居れど、信者の者に言ひ聞かして邪魔を致すので、何時までも神の思惑成就いたさんから、是から皆の役員の目の醒める様に、変性女子の御魂の肉体を、神から大本を出して経綸を致すから、其覚悟で居るがよいぞよ。女子が出たら後は火の消えた如く、一人も立寄る人民無くなるぞよ。さうして見せんと此の中は思ふ様に行かんぞよ。明治四十二年までは神が外へ連れ参りて、経綸の橋掛をいたすから、後に恥かしくないやうに、今一度気を附けて置くぞよ。この大本の中の者が残らず改信いたして、女子の身上が解りて来たら、物事は箱差したやうに進むなれど、今のやうな慢心や誤解ばかりいたしておるもの許りでは、片輪車であるから、一寸も動きが取れん、骨折損の草臥儲けに成るより仕様は無いから、皆の役員の往生いたすまでは神が連出して、外で経綸をいたして見せるから、其時には又出て御出で成されよ、手を引き合ふて神界の御用をいたさすぞよ。今度の戦争で何も彼も埒が付いて、二三年の後には天下泰平に世が治まる様に申して、エライ力味やうであるが、其麼心易い事で天の岩戸開は出来いたさんぞよ。今の大本の中に唯の一人でも、神世に成りた折に間に合ふものがあるか。誤解するも自惚にも程があるぞよ。まだまだ世界は是から段々と迫りて来て、一寸も動きの取れんやうな事が出来するのであるから、其覚悟で居らんと、後でアフンとする事が今から見透いて居るぞよ。今一度変性女子の身魂を連出す土産に、前の事を概略書き残さして置くから、大切にいたして保存して置くが宜いぞよ。一分一厘違ひは無いぞよ。明治五十年を真中として前後十年の間が岩戸開きの正念場であるぞよ。それまでに神の経綸が急けるから、何と申しても今度は止めては下さるなよ。明治五十五年の三月三日五月五日は誠に結構な日であるから、それ迄はこの大本の中は辛いぞよ。明治四十二年になりたら、変性女子がボツボツと因縁の身魂を大本へ引寄して、神の仕組を始めるから、気の小さい役員は吃驚いたして、逃出すものが出来て来るぞよ。さうなりたら世界の善悪の鏡が出る大本で在るから、色々の守護神が肉体を連れ参りて、目的を立てやうといたして、又女子の身魂に反対いたすものが現はれて来るなれど、悪の企謀は九分九厘で掌が覆りて、赤恥かいて帰るものも沢山あるぞよ。今の役員は皆抱込まれて了ふて、又女子に反対をいたすやうになるなれど、到底敵はんから往生いたして改信[※三五神諭には約70ヶ所で「改信」が使われているが、校定版・愛世版では第20章a343と第22章a311の2ヶ所だけ「改心」になっている。初版では全て「改信」であり「改心」は使われていない。したがって誤字と判断し、霊界物語ネットでは「改信」に修正した。]いたしますから、御庭の掃除になりと使うて下されと、泣いて頼むやうになるぞよ。腹の底に誠意が無いと欲に迷ふて大きな取違をいたして、ヂリヂリ悶えをいたさな成らんから、今の内に胸に手を当てて考へて見るが宜いぞよ。もう是限り何も申さんから、此筆先も今度は焼捨てぬやうに後の証拠にするが宜いぞよ。何方が取違であつたか判るやうに書かして置くぞよ。盲目聾が目が明いた積り、心の聾が耳が聞える積りで居るのであるから、薩張り始末が附かんぞよ。力一杯神界の御用をいたした積りで、力一杯邪魔をいたしておるのであるから、何うも彼うも手の出し様が無いから、止むを得ず、余所へ暫くは連参りて、経綸をいたすぞよ。今の役員チリヂリバラバラに成るぞよ。 ○ 明治三十七年旧八月十日 天も地も世界中一つに丸め、桝掛ひいた如く、誰一人つづぼには落さぬぞよ。種蒔きて苗が立ちたら出て行くぞよ。苅込になりたら、手柄をさして元へ戻すぞよ。元の種、吟味致すは今度の事ぞよ。種が宜ければ、何んな事でも出来るぞよ。 (大正一二・四・二六旧三・一一於竜宮館北村隆光再録)
239

(2784)
霊界物語 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 23 三五神諭(その四) 第二三章三五神諭その四〔一五四八〕 明治三十八年旧四月十六日 艮金神国常立尊出口の守と現れて、二度目の天の岩戸開きを致すに就いては、昔の世の本から拵へてある因縁の身魂を引寄して、夫々に御用を申付けるぞよ。今度の御用は因縁無くては勉まらんぞよ。先になりたら金銀は降る如くに寄りて来るから、さうなりたら吾も私もと申して、金持つて御用さして下されと申して出て来るなれど、因縁なき身魂には何程結構に申しても一文も使ふ事は出来んぞよ。是から先になると金銀を積んで神の御用を致さして欲しいと、頼みに来るもの計りであれど、一々神に伺ひ致してからでないと、受取る事は成らんぞよ。金銀に目を掛る事は相成らんから、何程辛くても今の内は木の葉なりと、草なりと食べてでも凌ぎて御用を致して居りて下さりたら、神が性念を見届けた上では何事も思ふやうに、金の心配も致さいでも善きやうに守護が致してあるぞよ。今が金輪際の叶はん辛いとこであるから、茲を一つ堪りて誠を立抜きて下さりたら、神が是で善いと云ふやうに成りたら、楽に御用が出来るやうにチヤンと仕組てあるから、罪穢のある金は神の御用には立てられんぞよ。 いつも筆先で気を附けてあるが、大本は艮金神の筆先で世を開くところであるから、余り霊学ばかりに凝ると筆先が粗略になりて、誠が却て解らんやうに成りて、神の神慮に叶はんから、筆先を七分にして霊学を三分で開いて下されよ。帰神ばかりに凝ると、最初は人が珍らしがりて集りて来るなれど、余り碌な神は出て来んから、終には山子師、飯綱使、悪魔使と言はれて、一代思はくは立たんぞよ。思はくが建たんばかりか、神の経綸を取違ひ致す人民が出来て来て、此の誠の正味の教をワヤに致すから、永らく気を附けて知らしたなれど、今に霊学が結構ぢや、筆先ども何に成ると申して一寸も聞入れぬが、どうしても諾かな諾くやうにして、改信さして見せるぞよ。神の申す事を反いて何なりと行りて見よれ、足元から鳥が飛つやうな吃驚が出て来るぞよ。世間からは悪く申され、神には気障と成るから、何も成就いたさずに大きな気の毒が出来るのが見透いておるから、其れを見るのが可哀相なから、毎度出口の手で神が知らせば、肉体で出口直が書くのぢやと申して御座るが、茲暫く見て居りたら解りて来て、頭を逆様にして歩かんならん事が出来するぞよ。誰も皆帰神で開きたいのが病癖であるから、一番にこの病癖を癒して遣るぞよ。心から発根と癒せば宜いなれど、如何しても肯かねば激しき事をして見せて眼を開けさしてやるぞよ。狐狸野天狗などの霊魂に嘲弄にしられて、夫で神国の御用が出来ると思ふのか。夫でも神国の人民ぢやと思ふて居るのか。畜生の容器にしられて夫を結構と思ふのか、神界の大罪人と成りても満足なのか。訳が解らんと申しても余りであるぞよ。斯うは言ふものの是の霊魂は何時も申す通り、世界一切の事が写るのであるから、此大本へ立寄る人民は是の遣方を見て、世界は斯んな事に成りておるのかと改信を為るやうに、神からの身魂が拵へて在るのであるから、誤解をいたさぬやうに御庇を取りて下されよ。他人が悪い悪いと思ふて居ると、全部自己の事が鏡に映りておるのであるから、他人が悪く見えるのは、自己に悪い所や霊魂に雲が掛りて居るからであるから、鏡を見て自己の身魂から改信いたすやうに、此世の本から御用の霊魂が拵へてありての、今度の二度目の天の岩戸開きであるから、一寸やソツトには解る様な浅い経綸でないから改信いたして身魂を研くが一等であるぞよ。世の本の誠の生神は今迄は物は言はなんだぞよ。世の替り目に神が憑りて、世界の事を知らせねば成らぬから、出口直は因縁ある霊魂であるから、憑りて何事も知らせるぞよ。世が治まりたら神は何も申さんぞよ。狐狸や天狗ぐらゐは何時でも誰にでも憑るが、この金神は禰宜や巫子には憑らんぞよ。何程神憑に骨を折りたとて、真の神は肝腎の時でないと憑らんぞよ。何も解らん神が憑りて参りて、知つた顔を致して種々と口走りて、肝腎の仕組も解らずに、天の岩戸開の邪魔をいたすから、一寸の油断も出来んから、不調法の無いやうに気を附けてやるのを、野蛮神が何を吐す位により解りて呉れんから、誠の神も苦労をいたすぞよ。神懸で何も彼も世界中の事が解るやうに思ふて居ると全然量見が違ふぞよ。神の申す中に聞いて置かんと、世間へ顔出しが出来んやうな、恥かしき事が出来いたすぞよ。この神一言申したら何時になりても、一分一厘間違はないぞよ。髪の毛一本程でも間違ふやうな事では、三千年かかりて仕組んだ事が水の泡になるから、そんな下手な経綸は世の元から、元の生神は致して無いから、素直に神の申す事を肯いて下されよ。世界の神、仏事、人民を助けたさの永らくの神は苦労であるぞよ。誰に因らず慢心と誤解が大怪我の元と成るぞよ。 ○ 大正元年旧八月十九日 大国常立尊が天晴表面になりて守護にかかると、一旦は神の経綸通りに致すから、改信致して神心に成りて居らんと、これから、人気の悪い所は何処でも飛火がいたすから、今度は是迄の見苦しき心を全然捨てて了ふて、産の精神に成りたらば、安全な道が造り替へてあるから、霊魂を研いて善い道へ乗り替へるやうに仕組んであれども、霊魂に曇りが在りては善い道へ乗替へたとて、辛うて御用が出来んから、発根の改信、腹の底からの改信でないと、誠の御用は出来んぞよ。竜宮様を見て皆改信をいたされよ。昔から誠に欲な見苦しき御心で在りたなれど、今度の天の岩戸開には欲を捨てて了はねば、神界の御用が勤まらんといふ事が、一番に早く御合点が参りたから、竜門のお宝を残らず艮金神に御渡し遊ばして、活溌な御働きを神界で一生懸命になりて、力量も充分に有るなり、此の方の片腕に成つて、今度の天の岩戸開の御用を遊ばすから、他の守護神も竜宮様の御改信を見て、一日も早く自己の心の中を考へて改信なされよ。大国常立尊が今表になりた所で、神界の役に立てる霊魂は一つも無いが、能くも是だけ曇りたものであるぞよ。もう神は構はんから、何彼の事を急速にいたして後の立直しに掛らんと、世界中の大事であるから、解らぬ守護神に何時までもかかりて居りたら、世界の人民が皆難渋をいたして、往きも戻りも成らんやうに成りて、戦争も済みたでも無し、止めも刺さん事になりて、世界中の大難渋と成るから、是迄耳に蛸が出来る程注意てあるが、何彼の時節が迫りて来て、動きもにじりも出来ん事に世界中が成るから、諄う守護神人民に気を附けるぞよ。 神国の人民に元の神国魂が些とありたら、茲までの難渋は無いなれど、誠一つの御魂により明されず、肝腎の事を任して為せる事も出来ず、テンで経綸が解りて居らんから、神が使ふ身魂が無いぞよ。此の方が世界中の事をいたさなならんから、何彼の事が一度になりて忙しうなると申すことが、毎度筆先で知らしてあらうがな。艮に成りたら神霊活機臨々発揮日月と現はれて、三千世界の艮を刺すぞよ。其折りに間に合ふやうに、早うから有難がりて、大本へ来て辛い修行をして居りても、肝腎の処が能く解りて居らんと、善い御用は出来んぞよ。何うなりとして引着いて居りたら、善い御用が出来ると思ふて居ると、大間違であるぞよ。艮金神が初発から一言申した事は一分一厘違はんぞよ。途中から変るのは矢張り霊魂に因縁が無いのぢやぞよ。因縁のある身魂は截りても断れん、如何な辛い目をいたしても左程苦しい事は無いぞよ。因縁性来と申すものは、エライものであるぞよ。それで今度は因縁の在る身魂が集りて来て、辛い辛抱をいたして、天地の光を出して呉れんならん。変性男子と変性女子との身魂を、茲まで化して神の御役に立てるぞよ。変性男子と女子の身魂が誰も能う為ぬ辛抱をいたして、此世には神は無きものと、学で神力をないやうに仕て居りたのを、此世に神が有るか無いかと云ふ事を、三千世界へ天晴と天地の神力を表はせて見せて、此の先は神力の世に致すから、是からは学力で、何麼事を致しても、世の本の根本の生神の神力には敵はんから、今の中に悪神のエライ企みを砕いて了ふから、一日も早く往生いたすが得であるぞよ。 今度の戦争は人民同志の戦争ではないぞよ。国と国、神と邪神との大戦争であるから、悪神の策戦計画は人民では誰も能う為ん仕組であれど、世の本の生神には敵はんぞよ。充分戦ふた所で金の要るのは程知れず、人の減るのも程は判らんぞよ。けれども出かけた船ぢや。何方の船も後方へは退けんから、トコトンまで行くぞよ。今迄の悪の守護神よ、神の国を茲までに自由にいたしたら、是に不足はもう在ろまいから、充分に敵対うて御座れよ。神力と学力との力較べの大戦争であるから、負たら従うて遣るし、勝つたら従はして、末代手は出しませぬと申すとこまで、往生をさせてやるぞよ。何程学力がエラウても、神力には勝てんぞよ。大きな見誤ひを為て居りたと云ふ事が後で気が附いて、死物狂を致さうよりも、脚下の明い中に降伏致す方が宜いぞよ。永引く程国土はチリヂリと無く為りて了ふぞよ。邪神の企謀は何麼計略も為てゐるなれど、悪では此世は立ては行かんぞよ。神の経綸は善一つの誠実地の御道に造り代へてあるから、気の附いた守護神は、善の道へ立帰りて安心なされよ。悪の身魂は平げて了ふから、早う覚悟を致さんと、もう一日の日の間にも代るから、是迄のやうに思ふておると、みな量見が違ふぞよ。毎度出口直に兵糧をとつて置かねば成らんといふ事が、諄う申して在らうがな。米が有ると申して油断をいたすで無いぞよ。人民は悧巧なもので在るなれど、先のチツトモ解らんもので在るから、筆先で何も知らすから、此筆先を大切にいたさんと、粗末にいたしたら、其場で変るやうに厳しくなるぞよ。この筆先は世界の事を、気もない中から知らしてあるから、疑うておると後で取返しの出来ん事になるぞよ。後の後悔は間に合はんぞよ。 ○ 大正三年旧七月十一日 大国常立尊が表に現はれて日出の守護となるから、人民が各自に力一杯気張りて為て来た事が、皆天地の神から為せられて居りたと申す事が、世界の人民に了解る時節が参りて来たぞよ。日出の守護になると変性男子の霊魂が、天晴世界へ現はれて次に変性女子が現はれて、女島男島へ落ちて居りた昔からの生神ばかりが揃うて天晴世に現はれて、この泥海同様の世界へ水晶の本の生神が揃うて、三千世界の岩戸開を致すから、天地の岩戸が開けて松の世、神世と相成るぞよ。綾部の神宮坪の内の本の宮は出口の入口、竜門館が高天原と相定まりて、天の御三体の大神が天地へ降り昇りを為されて、この世の御守護遊ばすぞよ。この大本は地からは変性男子と変性女子との二つの身魂を現はして、男子には経糸、女子には緯糸の意匠をさして、錦の旗を織らしてあるから、織上りたら立派な模様が出来ておるぞよ。神界の意匠を知らぬ世界の人民は色々と申して疑へども、今度の大事業は人民の知りた事では無いぞよ。神界へ出てお出ます神にも御存知の無いやうな、深い仕組であるから往生いたして神心になりて神の申すやうに致すが一番悧巧であるぞよ。まだ此先でもトコトンのギリギリ迄反対いたして、変性女子を悪く申して、神の仕組を潰さうと掛かる守護神が、京、大阪にも出て来るなれど、もう微躯とも動かぬ仕組が致して神が附添うて御用を為すから、別条は無いぞよ。変性女子の霊魂は月と水との守護であるから、汚いものが参りたら直に濁るから、訳の解らぬ身魂の曇りた守護神は傍へは寄せんやうに、役員が気を附けて下されよ。昔から今度の天の岩戸開の御用致さす為に、坤に落してありた霊魂であるぞよ。此者と出口直との霊魂が揃ふて御用を致さねば、今度の大望は、何程悧巧な人民の考へでも物事出来は致さんぞよ。此大本は世界に在る事が皆映るから、大本に在りた事は大きな事も小さい事も、善き事も悪しき事も、皆世界に現はれて来るから、変性女子をねらふものが是からまだまだ出来て来るから、確りと致して居らんと此中は治まらんぞよ。大事の仕組の身魂であるから、悪の霊がねらひ詰めて居るから、何処へ行くにも一人で出す事は成らんぞよ。変性女子は人民からは赤ン坊なれど、神が憑りたら誰の手にも合はん身魂であるぞよ。昔の元から見届けてありての、今度の大望な御用がさして在るぞよ。人民は表面だけより見えんから、何時も大きな取違ひを致すが、是も尤もの事であるぞよ。永らく大本へ来て日々御用に使はれておるものでも、女子の事は取違ひ致して、未だに反対致しておる位であるから、何にも聞かぬ世界の人民が取違ひをいたすのは、無理も無いぞよ。斯う申すと亦訳の解らぬ守護神の宿りてゐる肉体の人民が、肉体心を出して、出口は変性女子に抱込まれて居ると申すであらうが、其様な事の解らぬ艮金神出口直でありたら、三千年余りての永らくの苦労が水の泡に成るから、滅多に見違ひはいたさんぞよ。人民の智慧や学や考へで判るやうな浅い仕組は致してないぞよ。何方の身魂が一つ欠けても、今度の経綸は成就いたさんのであるから、世の本の根本から仕組て、色々と化かしてをれば、自己の霊魂が汚いから、竪からも横からも汚う見えるのであるぞよ。変性男子の身魂も変性女子の身魂も、三千世界の大化物であるから、霊魂に曇りの有る人民には見当が取れんぞよ。此大化物を世界へ現はして見せたら、如何に悪に強い守護神も人民も、アフンとして吃驚いたして、早速には物も能う言はん事が出来するぞよ。昔の根本の世の本から末代の世まで、一度あつて二度ないと言ふやうな、大望な神界と現界の岩戸開きであるから、アンナものがコンナものに成りたと申す経綸であるから、人民では見当は取れん筈であれども、改信いたして神心に立復りた人民には、明白に能く判る仕組であるぞよ。世の変り目には変な処へ変な人が現れて、変な手柄をいたすぞよと、明治三十一年の七月に筆先に書いて知らしてありたぞよ。時節が近寄りたぞよ。 (大正一二・四・二六旧三・一一於竜宮館北村隆光再録)
240

(2785)
霊界物語 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 24 三五神諭(その五) 第二四章三五神諭その五〔一五四九〕 大正四年旧十一月二十六日 大国常立尊が三千世界の、上中下と三段に分けてある霊魂を、それぞれに目鼻を付けて、皆を喜ぶやうに致すのは、根本の此世を創造へるよりも何程気骨の折れる事ぢや、人民では分らん事であるぞよ。初発の悪の霊魂は悪の事なら何んな事でも出来るから、茲まで世界中を悪で搦みて了ふて、善と云ふ道は通らぬやうに致して来た悪神の、頭を露はして、トコトン往生を為せて、又次に中の守護神を改信さして、下の守護神も続いて改信させねば神世には成らんぞよ。下の守護神が一番に何彼のことが解らんなれど、改信を致さねば、何うしても改信いたすやうに、喜ばして改信させねば、叱る計りでは改信の出来ぬ守護神も在るなり、何も解らん守護神の如何にも成らぬドウクヅは天地の規則通りに致して、埒宜く致さねば仕様はモウ無いぞよ。此の先で何時迄も改信の出来ぬ悪魔に永う掛りて居りて、岩戸開きの出来んやうな邪魔を致した守護神は、気の毒が今に出来致すぞよ。是丈け気を附けて知らして居るのに、改信の出来ん悪魔に成り切りて居る霊魂の宿りた肉体は、可哀想でも天地から定まりた規則通りの成敗に致すぞよ。もう何時までも解らんやうな守護神を助けて置いたら、世界が総損害に成りて、茲まで神が苦労いたした骨折が水の泡に成りて了ふぞよ。夫れでは永らく神が苦労いたした甲斐が無くなりて、天の大神様へ申訳が立たんなり、神は守護神人民を助けたいのは、胸に一杯であるから、もう一度気を附けて置くから、何事が出て来ても神に不足は申されまいぞよ。是からは悪神の守護神の好きな事も、悪き事も出来んやうに、天地から埒を附けるから、何処を恨む事も出来ず、自己の心を恨める事も出来んやうになるぞよ。天地の先祖の神は、善の守護神も悪の守護神も皆を喜ばしたいと思ふて、色々と永らく気を附けたなれど、ドウクヅの蛆虫同様の醜しき聞解の無いものは、一処へ集して固めて灰にして了ふから、悪いものに悩められて生命を取られるやうな肉体は、蛆虫同様、悪神の眷族と、も一つ下な豆狸といふやうな論にも杭にもかからんものに弄びに遇うて居るのは、肝腎の神の綱の切れて居る身魂であるぞよ。こんな守護神の宿りて居る肉体は取払ひに為て了ふて此世界の大掃除を初めるぞよ。 天地の先祖の苦労の解らん身魂は、蛆虫同様であるから、斯んな身魂は世の汚穢と成るから、神界の経綸通りに致して埒能く岩戸を開かな、後の立直しが中々大望であるから経綸通りにして見せるぞよ。さう致すと神は善一つなれど、何も解らん世界の人民が悪の守護神に引かされて、矢張り艮金神は悪神でありたと申すぞよ。細工は流々仕上が肝腎であるぞよ。天地の神の御恩も判らぬやうな、畜生より劣りた、名の附けやうの無いものは、末代の邪魔になるから、天地の規則通り規めるから、悪の守護神の中でも改信の出来たのは、今度の岩戸開きに焼払ひになる所を救けてやるぞよ。蛆虫の中からでも救かるべき身魂が在れば択出して善の方へ廻して遣るぞよ。 天の大神様が、いよいよ諸国の神に、命令を降しなされたら、艮金神国常立尊が総大将となりて、雨の神、風の神、岩の神、荒の神、地震の神、八百万の眷属を使ふと、一旦は激しいから、可成は鎮まりて世界の守護を為せるなれど、昔の生粋の神国魂の活神の守護と成りたら、此中へ来て居る身魂に申附けてある事を、皆覚えて居るであらうが、一度申した事は其様に致すから、神の申す事を一度で聞く身魂でないと、充分の事は無いぞよ。もう神からは此の上人民に知らせる事は無いから、大峠が出て来てから、如何様でも改信をしますで赦して下されと何程申しても、赦す事は出来んぞよ。是程大望な昔からの仕組を今になりて変へる様な事を致して居りたら、二度目の天の岩戸開きの大きな経綸が成就致さんぞよ。根本から大洗濯を致して、末代世界の口舌が無いやうに致して、神界の害をする霊魂が、学で此世を暗闇にして了ふて、正味のない教やら、やりかたは、世の大本からの教でないから、途中から出来たものは、末代の世の遣り方には用ゐんぞよ。 今の上に立ちて居る守護神は科学ほど結構なものは無いと申して、渡りて来られん霊魂が、神を抱込みて、好き寸法に致して、此先をモ一つ悪を強くして、悪で末代建てて行かうとのエライ目的でありたなれど、もう悪の霊や学の世の終りと成りたぞよ。本の神世へ戻りて、天と地との先祖が末代の世を持たねば、他の霊魂では此世は続かん、口舌の絶えると云ふ事は無いぞよ。 大国常立尊が変性男子の霊魂の宿りて居る肉体を借りて、末代の世を受取りて、世の本の生粋の誠の生神ばかりが表に現はれて、天地の先祖の御手伝ひで、数は尠いなれど神力は御一柱の生神の御手伝ひが在り出しても、霊魂の神が何程沢山でも、本の生神の力には敵はんから、同じ様な事を申して細々と今に続いて知らして居るなれど、途中に出来た枝の神やら、渡りて来て居る修業なしの利己主義の遣方の守護神では、肝腎の事は解りは致さんぞよ。誠の事の解る大本へ出て来て、いろはからの勉強を致さねば、学は金を入れた丈の力は出るなれど、天から貰うた霊魂に附いた生来の力でないから、物質の世の間は結構でありたなれど、もう物質の世の終りとなりたから、今迄の学では二度目の天の岩戸開きには些少も間に合はんぞよ。 ○ 大正四年旧十二月二日 大国常立尊変性男子の霊魂が現はれて、三千世界の三段に別けて在る御魂を、夫れ夫れに立替へ立別けて、目鼻を附けて、先づ是で楽ぢやと申すやうに成るのは、大事業であるぞよ。二度目の天の岩戸開は、戦争と天災とで済むやうに思ふて、今の人民はエライ取違ひを致して居るなれど、戦争と天災とで人の心が直るのなら、埒能う出来るなれど、今度の天の岩戸開は、其んな容易い事でないぞよ。昔からたてかへは在りたなれど、臭い物に蓋をした様な事ばかりが仕て有りたので、根本からの動きの取れんたてかへは、致して無いから、これ迄のやりかたは、身魂は尚悪くなりて、総曇りに成りて居るから、今度は一番に、霊魂界の岩戸開であるから、何に付けても大望であるぞよ。是程曇り切りて居る、三千世界の身魂を水晶の世に致して、モウ此の后は、曇りの懸らんやうに、万古末代、世を持ちて行かねば成らんから、中々骨の折れる事であるぞよ。 天地の大神の思ひと、人民の思ひとは、大きな違ひであるから、何に付けても、今度の仕組は、人民では汲み取れんぞよ。人民一人を改信させるのにも、中々に骨が折れようがな。今度の二度目の天の岩戸開は、昔の初まりから出来て居る、霊魂の立替立直しで在るから、悪い霊魂を絶滅して了ふてするなら、容易く出来るなれど、悪の霊魂を善へ立替へて、此世一切の事の行り方を替へて、神法をかへて、新つの世の純粋の元の水晶魂にして了ふのであるから、今の人民の思ふて居る事とは、天地の大違ひであるから、毎度筆先で気を附けてあるぞよ。 あやべの大本の中には、世界の人民の心の通りが、皆に仕て見せてあるぞよ。世界の鏡の出る所であるから、世界に在る実地正末が、皆にさして見せて在るから、色々と心配をいたして居るなれど、何んなかがみも仕て見せて在るから、世界が良くなる程、この大本は善くなるぞよ。今ではモチツト、何事も思ふやうに無いのであるぞよ。 世界の事が、皆大本に写るから、夫れで、此中から行状を善く致さんと、世界の大本となる、尊い所であるから、何事も筆先通りに為て行かねばならんぞよ。是までの世のやりかたは、神の国では用ゐられん、邪神の極悪のやり方に、変りて了ふて居るのを、盲者聾者のやうな世界の人民は、知らず知らずに、させられて居りたのであるから、分らんのは尤もの事であるぞよ。誠の神が抱込まれて、神の精神が狂ふて居るのであるから、人民が悪う成るのは当然であるぞよ。 モ一つ此の先を悪を強く致して、この現状で世を建てて行くどいらい仕組をして居るなれど、モウ悪の霊の利かん時節が循環てきて、悪神の降服いたす世になりて来たから、吾の口から吾が企みて居りた事を、全然白状いたす世になりたぞよ。 世界の御魂が、九分まで悪に化りて、今まで世を持ち荒して来た守護神に、改信の出来かけが、何の様にも出来んから、神も堪忍袋を切らして、一作に致せば八九分の霊魂が悪く成るし、改信致さす暇が、モウ無いし、是程この世に大望な事は、昔から未だ無い、困難な二度目の天の岩戸開であるのに、何も分らぬ厄雑神に使はれて居ると、何も判らんやうになるぞよ。 まことの行も致さずに、天地の先祖を無視して、悪のやりかたで世界の頭になりて、此先を悪をモ一つ強く致して、まぜこぜで行りて行ことの初発の目的通りに此所まではとんとん拍子に面白い程上り来たなれど、此神国には深い経綸が世の元から致して在りて、九分九厘まで来たぞよ。 悪神の仕組も、九分九厘までは来たなれど、モウ輪止りとなりて、前へ行く事も出来ず、後へ戻る事も出来んのが、現今の事であるぞよ。仕放題の利己主義の行方で、末代の世を悪で建てて行くことの目的が、今までは面白い程のぼれたなれど。 神の国には、チツト外の御魂には判らん経綸が為てあるから、人も善、吾も善、上下揃ふて行かねば、国の奪り合ひを為るやうな、見苦敷性来では、世は永久は続かんぞよと申して、筆先に出して、気を附けてあるぞよ。 斯世は善と悪とが有りて、何方でこの世が立つかと言ふことを末代続かせねば成らん世であるから、何事も天地から為してあるのであるぞよ。吾が為て居るのなら、何事も思ふたやうに行けんならんのに、何うしても行けんのが、神から皆為せられて居る証拠であるぞよ。善の道は、苦労が永いなれど、此の先は末代の世を続かすので中々念に念が入るぞよ。 善の行は永いなれど、善の方には、現界幽界に何一つ知らん事の無い様に、世の元から行が為してあるから、此先は、悪の仕放題に行無しに出て来た守護神が辛くなるぞよ。如何な事も為ておくと、何事も堪れるなれど、行無しの守護神に使はれて居ると、世の終ひの初まりの御用は勤まらんぞよ。 善と悪との変り目であるから、悪の守護神はヂリヂリ悶える様になるから、一日も早く改信致して、善の道に立帰らねば、モウこれからは貧乏動きも為さんぞよ。善の守護神は数は尠いなれど、何んな行も為してあるから、サア今と云ふ様に成りて来た折には、何程烈しきことの中でも、気楽に神界の御用が出来るから、一厘の御手伝で、神の本には、肝腎の時に間に合ふ守護神が拵へてありて、世界の止めを刺すのであるぞよ。神の国は小さうても、大きな国にも負は致さんぞよ。神国は世界から見れば、小さい国であれど、天と地との、神力の強い本の先祖の神が、三千世界へ天晴と現はれて、御加勢あるから、数は少うても、正味の御魂ばかりで、何んな事でも致すぞよ。何程人数が多くても、何の役にも立たぬ蛆虫計りで、善い事は一つも能う為ずに、邪魔計りを致すから、世界の物事が遅くなりて、世界中の困難であるが、未だ気の附く守護神が無い故に、何時までも筆先で知らすのであるぞよ。 天地の御恩も知らずに、利己主義で茲まで昇りつめて来た悪の守護神に、改信の為せかけが出来んので、何事も遅くなりて、総損害に、上から下までの難渋となるから、明治廿五年から、今ぢや早ぢやと申して、引掛戻しに致して、気附く様に知らしても、元からの思ひが大間違で在るから、世界の岩戸開の九分九厘と成りた所で、ジリジリ舞ふ事が見え透いて居るから、気を附けるぞよ。 天地の先祖の、思ひの判りて居る守護神と人民は、今に無いぞよ。是程暗がりの世の中へ、世の元の正真の水火神が揃ふて表はれても、恐い計りで、腰の抜けるものやら、顎が外れて早速に物も能う言はん様な守護神や、人民が沢山出来る許りで、神の目からは間に合ひさうに無いぞよ。 判りた御魂の宿りて居る肉体でありたら、何んな神徳でも授けるから、此神徳を受ける御魂に使はれて居りたら、一荷に持てん程、神徳を渡すから、其貰ふた神徳に光りを出して呉れる人民で無いと、持切りにしては天地へ申訳が無いぞよ。 ○ 大正五年旧十一月八日 あまり此世に大きな運否があるから、口舌が絶えんから、世界中を桝掛を引いて、世界の大本を創造た、天と地との先祖の誠で、万古末代善一つの道で世を治めて、口舌の無い様に致すぞよ。天は至仁至愛真神の神の王なり、地の世界は根本の国常立尊の守護で、神国の、万古末代動かぬ神の道で治めるぞよ。吾好しの行り方では、此世は何時までも立たんぞよ。この世界は一つの神で治めん事には、人民では治まりは致さんぞよ。悪神の仕組は世が段々と乱れる計りで、人民は日に増に、難渋を致すものが殖える許りで、誠の神からは目を明けて見て居られんから、天からは御三体の大神様なり、地は国常立尊の守護で、竜宮様の御加勢で、元の昔の神の経綸通りの松の世に立替致して、世界中を助けるのであるから、中々骨が折れるぞよ。モウ時節が近よりたぞよ。用意をなされよ。脚下から鳥が立つぞよ。天地の先祖の神々を粗略に致して、神は此世に無い同様にして東北へ押込めて置いて、世界の大将に成りて、悪の血統と眷属の何も知らぬ悪魔を使ふて末代世を立て様と思ふて、エライ経綸をして居れど、世の本からの天地を創らへた、其儘で肉体の続いてある、煮ても焼いても引裂いても、ビクともならん生神が、天からと地からと両鏡で、世界の事を帳面に附け止めてある同様に、判りて居るから、モウ神界には動かぬ仕組が致してあるから、世界の人民は一人なりと、一日も早く大本へ参りて、神の御用を致して、世界中を神国に致す差添へに成りて下されよ。上下揃ふて神国の世に世界中を平均すぞよ。 今の世界の人民は、現世に神は要らんものに致して、神を下に見降し、人民よりエライものは無き様に思ふて居るが見て御座れよ、岩戸開の真最中に成りて来ると、智慧でも学でも、金銀を何程積みて居りても、今度は神にすがりて、誠の神力でないと大峠が越せんぞよ。今度は神が此世に有るか無いかを、解けて見せて遣るから、悪に覆りて居る身魂でも善へ立ち返らな、神の造りた陸地の上には、居れん様になるから、改信を致して身魂を能く研いて居らんと、何彼の時節が迫りて来たから、万古末代取戻しの成らん事が出来致すから、今に続いてクドウ気を附けるのであるぞよ。是丈けに気を附けて居るのに聞かずして、吾と吾身を苦しめて最後で改信を致してもモウ遅いぞよ。厭な苦しい根の国底の国へ落されるから、さう成りてから地団太踏みてジリジリ悶えても、そんなら赦してやると云ふ事は出来んから、十分に落度の無いやうに、神がいやになりても、人民を助けたい一心であるから、何と云はれても今に気を附けるぞよ。 これからは筆先通りが、世界に現はれて来るから、心と口と行ひと三つ揃ふた誠でないと、今度神から持たす荷物は重いから、高天原から貰ふた荷が持てん様な事では、余所から人が沢山出て来だすから、其時に恥かしう無いやうに、腹帯を確り締めて居らんと、肝腎の宝を取外す事が出来るぞよ。今度は此大本に立寄る人民に、神からの重荷を持たすから、各々に身魂を十分に研いて置いて下されよ。ドンナ神徳でも渡して、世界の鑑に成る様に力を附けてやるぞよ。改信と申すのは何事に由らず、人間心を捨てて了ふて、知識や学を便りに致さず、神の申す事を一つも疑はずに生れ赤子の様になりて、神の教を守る事であるぞよ。霊魂を研くと申すのは、天から授けて貰ふた元の霊魂の命令に従ふて、肉体の心を捨て、本心に立返りて、神の申す事を何一つ背かん様に致すのであるぞよ。学や知識や金を力に致す内は、誠の霊魂は研けて居らんぞよ。 この天の岩戸開を致すには、学でも、悧巧でも、知識でも、金銀でも、法律でも、行かんぞよ。兵隊計りの力でも行かず、今の政治の行り方では、猶行かず、今迄の色々の宗教でも猶行かず、今の学校の教でも行かず、根本の天の岩戸開であるから、今の人民の思ふて居る事とは、天地の相違であるから、世界の人民が誠にいたさんから神は骨が折れるのであるぞよ。天地の間の只の一輪咲いた梅の花の経綸で、万古末代世を続かすのであるから、人民には判らんのも尤もの事であるぞよ。 九つ花が咲きかけたぞよ。九つ花が十曜に成りて咲く時は、万古末代しほれぬ神国の誠の花であるぞよ。心の善きもの、神の御役に立てて、末代神に祭りて此世の守護神といたすぞよ。此世初まりてから、前にも後にも末代に一度より無い、大謨な天の岩戸開であるから、一つなりとも神の御用を勤めたら、勤め徳であるぞよ。それも其人の心次第であるぞよ。神は無理に引張りは致さんぞよ。 是だけ蔓りた悪の世を治めて、善一つの神世に致すのであるから、此の変り目に辛い身魂が多人数あるから改信々々と一点張りに申して、知らしたのであるぞよ。早い改信は結構なれど、遅い改信は苦しみが永い許りで、何にも間に合はん事になるぞよ。艮金神で仕組致して、国常立尊と現はれて、善一つの道へ立替るのであるから、経綸通りが世界から出て来だすと、物事が早くなるから、身魂を磨いて居らんと、結構な事が出て来ても、錦の旗の模様が、判らんやうな事では成らんぞよ。今迄苦労いたした事が、水の泡になりてはつまらんから、大本の辛い行を勇んでいたす人民でありたら、神が何程でも神力を授けるから、ドウゾ取違ひをせぬやう慢心の出ぬ様に心得て居りて下されよ。世界の神、仏、耶、人民の為に、神が永らく苦労を致して居るぞよ。 (大正一二・四・二七旧三・一二於竜宮館北村隆光再録)